BIOHAZARD Iridescent Stench (章介)
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設定資料

 感想欄でチラッと言っていた忘備録です。もし良ければ暇なときにでもどうぞ。


 

 

 

 

  人物・クリーチャー

 

 

ハワード・オールドマン

 

性別:男性

年齢:24歳(バイオ「1」当時)

好きなもの:お酒

嫌いなもの:自らを脅かすもの、魚

趣味:機械弄り、未知の細胞を取り込むこと

 

 いくつかの偶然が重なり、超ブラック企業に就職してしまった挙句人間を卒業してしまった元生体工学者。在学時から先進的な発明を幾つか手掛けており、特に生体機械や義肢開発に優れた才能を持つ。ウィルス学については基礎以外全く知らない門外漢だったが逆にこれが功を奏した。彼にとってはTウィルスは怪物を生み出す兵器でしかなく、マッド方面に思考がいかなかったため、安全面に重点を置いた研究を行うことが出来た。

 

 感想欄でもたびたび厄ネタ扱いされる代物をいくつか開発しているが、実はこれらはTウィルスを殆ど弄っておらず、それに付属するマイクロチップを発展・改造してきたものがほとんどである。アンブレラはレッドクィーンを介して情報を得てはいるが、製作難易度が高すぎて再現が碌に出来ていない。そのため敵B.O.W.の組織的運用はまだ大分先になりそう。

 

 リサ・トレヴァーに突き落とされる前に打った『デュボネ』により「T細胞が汚染した脳の状態を維持する・又は汚染直後の脳を構成し続ける」ため、Tウィルスによって復元されたショゴスの細胞にハワードの脳への擬態維持を強制することによって復活することとなった。結構危ないバランスで保たれているため、描写の外ではウェスカー同様『デュボネ』を定期的に注射している。

 

 性格は至って普通であり、『死にたくない』以外に特にこれといった目的は無し。ただし、生への執着は並外れて高いため、いざとなれば怪物を使役し研究所職員の皆殺しを計画する過激な一面もある。義理には義理で返すが、前述のとおり善人とは言い難い人物。

 

 発明品

 ・ヌーヴォー

  記念すべき最初の発明。運命決定前のヒトの細胞にTウィルスを投与し冷凍保存した結果誕生した万能細胞。後々生み出される作品すべてのプロトタイプともいうべきもの

 

 

 ・ターブル

  後天的B.O.W.改良剤。クリムゾンヘッドやリッカーに見られるTウィルスの『新しく脳を作る効能』に着目し作られた。臨床実験で得た脳の構成過程をマイクロチップに記録し、『ヌーヴォー』を被験者の体内で臨む通りに発達させB.O.W.により複雑な命令を聞かせられるよう脳を補強することが可能となった。早い話が『ORC』の『プログラム・インフェクテッド』。このプログラムの構築難易度が馬鹿みたいに高く、今のところハワード以外に作成できるのはフォーアイズのみ。しかし彼女も切り捨ててしまったため、アンブレラがこれを創り出せるのは当分先。

 

 

 ・ビーフィーター

  『ヌーヴォー』の派生作品。工作員スーツの汗等老廃物のみ捕食するようプログラムされた『ヌーヴォー』が爆発的に増殖、さらにとても密度が濃いため弾丸や刃物程度なら容易く弾き飛ばしてしまう防御の力を持つ。ただし、通気性が悪くなる点と長時間繁殖させているとTウィルスに感染する恐れがある点から20秒ほどで死滅するようにできている。老廃物が溜まれば再び使用可能。早い話が『ORC』の『スーパーソルジャー』

 

 

 ・クラマト

  『ヌーヴォー』の派生作品。カメレオンやイカ・タコ等の細胞に似た変異を起こすようプログラムされた『ヌーヴォー』。起動条件は『ビーフィーター』と同様なため、特殊な条件下でなければ同時利用は不可能である。早い話が『ORC』の『アクティブカモフラージュ』

 

 

 ・強化プロテクター

  最近ものすごく影が薄くなった作品。描写はしていないが登場するハンターとリッカー全員これを装備している。ハンターは鎧風、リッカーはヘルメット風のプロテクターで、恒常的に『ヌーヴォー』を劣化させた作品である『ロゼ』を投与し長時間B.O.W.を意のままに操ることが可能となる。しかし、最近は専らショゴス産しか出てこないため影が薄い。ただし侮ることなかれ、プロテクターの恩恵は大きく、ショットガンや拳銃程度ではこれを突破することが出来ないため、洋館ではS.T.A.R.S.メンバーの殆どを生け捕りすることに成功した。

 

 

 

 

 

 

 

 

『黄衣の王』

 

 

 ハワードが生み出した『デュボネ』の唯一の被検体。元々はアークレイ研究所の職員であり、ウィルス実験中の事故で感染したため実験台に選ばれた。その後ウィリアム・バーキンの研究所へ送られ、『G』の臨床実験に使用されることとなる。『G』最大の欠点であった「既存の脳を淘汰し全く別物の脳を構成し肉体を簒奪してしまう点」を『デュボネ』によって克服してしまった。その際、Gウィルス側からの性能の妥協として、低い脳を補助する神経節の様な脳を複数形成し、これによって性能を無理やり引き上げ触手等を操作している。『黄衣の王』としての形成もこの時点で完成した。

 

 

 その後長らく培養液にて保管されていたが、バーキンGとU.S.S.との騒動の際にカプセルが破壊され再起動した。こんな異形の姿だが、実はしっかりと自我が残っており高い知能を有している。目覚めた後は近くに落ちていた『G』を回収し、現場に舞い戻ってきたあるU.S.S.隊員に(無理やり)同行しラクーンから帰還した。

 

 

 帰還後は、唯一のG適合生物である点及び非常に獰猛性が低い点から誰が所有するかでかなり揉めたが、最終的にアレックス・ウェスカーの元に行くことになった。アレックスとの関係は今のところ良好。アレックスからは不死の鍵の一つとして、黄衣の王からはB.O.W.として生きられる環境としてはかなりの厚遇をうけているため。『ビーフィーター』と『クラマト』はアレックスに仕込まれた。

 

 スペック

 ①内蔵しているウィルス

  ・Tウィルス

  ・Gウィルス

  ・ビーフィーター

  ・クラマト

 ②武装

 ・ガンブレード型触手(右腕)

 読んで字の如くブレードと銃が一体化したような右腕。多分一番危険なウェポン。弾丸は圧縮された『G胚』で、人間に被弾した場合、敵の胎内のDNAと栄養素を捕食し急速成長、その後他のG生体同様宿主を食い破る。被害者となる人間が多ければ多いほど甚大な被害を及ぼす。しかも有効射程距離は結構あり、薄い壁程度なら難なく貫通するため質が悪い。

 

 ・無数の触手(下半身)

 腰から下に当たる部位は数えきれないほどの触手に覆われ、しかも先端では『クラマト』を精製しているため、傍目にはまるで翼も持たずに空を舞っているように見える。間合いの読めない強靭な触手はかなりの強襲性を誇る・・・のだが、本体が重すぎてほとんどが足代わりに使われているため、まず攻撃に使用されない。その代わり高所への機動力や移動速度はかなりのもの。

 

 ・強靭な表皮

 全身のどの皮膚からでも『ビーフィーター』をいつでも量産することが出来るので高い防御性能を誇る。多大なダメージを与えるか20秒ほどたてば死滅するが、10秒後に再使用が可能であるため、隙がとても少ない。

 

 

 ・超再生能力

 ベルトウェイが行った、『ビーフィーター』のクールダウンの隙をついた大爆発に耐えた絡繰り。実は『黄衣の王』の核と呼べるものは肉体には存在せず、黄色の衣内に縫い込まれており、肉体は其処から排出された1%の不完全な細胞片がGウィルスの特徴である『危機的状況での爆発的な変異』によって構成されたもの。ゆえにいくら肉体を吹き飛ばしても、全体の1%を消失したに過ぎず、核からまた排出されればわずか数秒で復元される。

 つまり衣の方を吹き飛ばすことが『黄衣の王』を倒す唯一の手段なのだが、この衣、アンブレラがたまたま発見したダーウィンズ・バーク・スパイダー(もちろんB.O.W.化済)の糸を謎技術で編み上げた代物であり、対戦車ライフルや戦車の主砲でも傷一つ付かない為破壊するのは困難を極める。

 

 

 

 

  原作から相違点のあるキャラクター

 

 

・ハンク

 皆大好き『死神』さん。そのあまりの人気ぶりと作者の愛からかなり優遇されている。ラクーンシティから回収された『クラマト』を装備しており、より暗殺・強襲能力が強化されている。

 『2』以降の彼の足跡が原作でまったく描かれていないが、コーカサス研究所の有様から、あの時点でもうハンクはアンブレラから離脱していると判断し、けれど彼が辞表を出す光景が全く想像できなかったため、本作ではアフリカ強襲戦を最後の任務としてアンブレラとの契約が終了した。今後も登場予定。

 

 

・シェリー・バーキン

 原作と異なりハワードが身元を預かったため、ウェスカーに誘拐されておらず、レオンへの脅しの材料にもなっていない。原作と違い、『DEVIL』を使うことが前提となっているため『G』プランを完璧に履行したことになり、多分原作以上の身体能力を手に入れている。しかも周りがヤバい奴ばかりなのでさらにすごいことに。監禁されておらず、しかも同世代の子供(ルポの子供達&メラ)が傍にいるため原作より感情豊かに育つ予定。というより、十年近く監禁されていてどうしてあんなに良い子に育ったのだろうか?

 

 

・メラ・ビジ&ビジ夫人

 ラクーンで帰らぬ人となった、と原作にあるので、これは使えると判断した作者の気まぐれ、そして流れの都合上幼女が一人同行することになるが、この面子で育児とか無理だろということで生存が確定し、それに伴いメラも彼らの陣営に加わることとなる。ウルフパックの英才教育にもけなげに喰らい付いていった結果、原作より強化されます。ただし原作同様B.S.A.A.に加入します。そのあたりは本編で描写していきます。

 

 

・シェバ・アローマ

 バイオシリーズの年表を見ていくと、すごく都合の良いタイミングで彼女が参加しているゲリラでバイオテロ未遂が起こっていたので、その辺を改編したのが『アフリカ強襲編』。この戦いを間近で目撃したため、バイオテロと戦うにはどの程度強くなくてはいけないのかという具体的な指標が出来たため、彼女も原作より強化されます。

 

 

・アレクシア・アシュフォード

 原作では初代アシュフォードのクローンでしたが、本作では旧支配者『古のもの』の依り代として生み出された。発端はアレキサンダー・アシュフォードが南極基地に引きこもり、ベロニカ計画に全霊を注いだこと。先代当主エドワードが急死して以来加速度的に落ちていく発言権と地位に焦りを募らせていたアレキサンダーに、肉体を失い精神だけとなった『古のもの』がテレパシーを用いて接触。クローン精製技術やそれに関連する様々な知識を与えながら洗脳し、海底から引き揚げさせた『古のもの』の死体から抽出した遺伝子を復元させようとした。

 

 

 ところが、誤算が二つあった。一つはアレキサンダーの能力が想定より低かったこと、そして彼のアシュフォード家再興にかける思いが強すぎた点である。洗脳しきれず『古のもの』の遺伝子にさらに初代アシュフォードの遺伝子を混ぜてしまい、さらにクローンを生み出す実験そのものに不備があったことから、双子として生まれ、さらに『古のもの』の求めた身体スペックからほど遠い出来損ないとして誕生してしまった。

 

 

 自身の肉体を旧支配者に相応しいものへと造り替えるため、アレクシアは研究に没頭した。幸い嘗ての知識を失っていなかったため、この時代に存在しないはずの機械や理論を次々と発明し、切り札とみなした『T-Veronica』を自身に投与するにふさわしい環境を整えた。アレキサンダーに対しては、知識を与えてやったにも拘らず足を引っ張った無能として毛嫌いしており、『T-Veronica』の臨床実験を行ったのも半分以上が八つ当たりである。しかし、彼に与えた知識が自身を滅ぼしうる『リニアランチャー』を発明させてしまったのは皮肉としか言いようがない。

 

 

 

 

 

登場予定クリーチャー

 出番は当分先になりそうなので尻叩きに公開します。

 

・ティンダロスの猟犬

登場予定時系列:バイオ『7』

 

 E型被検体を生み出す際失敗作とされたA型被検体が暴走して生み出されたイレギュラーミュータント。形状が「飛翔体」→「巣窟体」→「安定体」の順に変化し、全身がカビの様な特異菌でできた存在。

 

 

「飛翔体」

 長距離移動用の形状。「安定体」の形状をほどき、超極小サイズであるため目に映らない。粘菌と胞子の特徴を備え、どれだけターゲットが複雑にかつ遠くに逃げても最短ルートを割り出し、生物界最速の速さで追いかける。が、この形状では殺傷能力は一切持たず、この形態で壊死毒を散布されると死滅してしまう。ただし、少しでも危機を察知すると亜音速で移動するため、この方法で死滅させるのはまず不可能。

 

「巣窟体」

「飛翔体」で追いついた後の形態。この形状を経ないと「安定体」になれない。角度90度未満の鋭角で黒カビの様に繁殖し、この中で小規模の「安定体」を形成しまるで角から飛び出すように現れる。鋭角が無ければこの形態に成れないが、粘菌の特性を利用して最も近場にある鋭角でこの形状を取る。このときに最も分裂を行うためか、まるで腐臭の様な臭いをまき散らす。

 

「安定体」

 この怪物の本来の形状ともいうべき形態。この時まるで犬のような四足動物を形どる為猟犬の二つ名を付けられた。口と思わしき部分に膿のような形状の菌を精製し、これに少しでも触れれば人間の脂肪やカルシウムが即座に分解され、水分を残して消滅する。この方法がティンダロスが唯一栄養を補給できる手段であるため、常に飢え、凄まじい執念深さで獲物を追いかけ続ける。

 

 この兵器の最大の欠点は「物理的攻撃力」を一切持たない点。そもそも体が超巨大な埃みたいなものであり、例えば子供がバランスボールの中に潜り込んでしまえば何もできず諦めるしかない。唯一の攻撃手段である膿のような菌も、人間の脂やカルシウム等にしか反応しない。ただし角さえあればこの世界のどんなところにも潜り込むことが出来るうえ、一度噛まれてしまえば5秒以内に獲物は死に絶えるため要人暗殺用として期待されていた。

 

 

 

 



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プロローグ 誰かの日記編
第一話


しばらく執筆時間が取れませんでしたが、ようやく人心地ついたので投稿します。


とある研究員の日記

 

○月×日

 

 今日という日を人生災厄の日として忘れない為にもこの日記を書き始める。このままではまずい、何とかしないと。とりあえず今の状況をまとめてみよう。

 

 こういっては何だが私は優秀だ。幼いころから手先が器用で、父が医療系の精密機械を作る工場を運営していたので、歯車と回線がおもちゃ代わりだった。そして趣味同然だった機械いじりを仕事の選択肢に入れるのは当然だろう。ただ、あくせく働いても裕福でない父を見ていると工場職を選ぶのは躊躇われた。そこで、生体工学の研究職を志望した。

 

 私のおつむはどうやら人様より優秀らしく、学生時代は挫折知らず、大学も優秀な成績で卒業できた。就職先に思案していたが、在学中何度も交流のあったOGの日系女性の勧めでとある製薬企業に勤めることとなった。生体工学の若き天才の意見が欲しい、とか何とか。脳の劣化や難病による急激な細胞分裂を外的要因で抑える方法のヒントを欲しがっていた所に何度かアドバイスを送ったところ、上等な服を着たおっさんにスカウトされた。あの会社介護分野になんて進出してたっけ?で終わったが、もう少し考えるべきだったんだ。

 

 それから、書類やら何やら終わらせて、日記をつけている今日、ラクーンシティに入った。社宅に荷物を置いて直に連れてこられたのがアークレー山研究所。さっそく研究を始めるのかと思ったら、とんでもないものを見せられた。こいつら、製薬会社なんかじゃなかった。何やら妙なウィルスを使って兵器を作っているとか。ただ、変化が急すぎて知能を維持できず、遺伝子を弄る類は粗方済んだから、外的要因でこの不具合をどうにかできないか調べさせるために私を呼んだらしい。こちらにしては冗談じゃないが、見てしまった以上私に引き返すことは不可能だ。良くて口封じ、悪ければ実験素材リストに名前が一つ増えるだけだ。しかし、今後どうしよう・・・。

 

 

 

 

 

△月▽日

 

 ・・・まだ何とか生きてる。しかし、このウィルスはなかなか面白い。細胞に投与すればその細胞単体では不可能な変化を齎し、その際にとても大きなエネルギーを発生させる。しかもそれは電気や毒など多岐にわたる。

 

これにうまく指向性を持たせれば、BOWとは異なる成果をあげられるのではないか?例えば、進化の方向性が決まる前の細胞に投与し、完璧な万能細胞を生み出したり、ウィルスが生み出すエネルギーを吸収して発電する機械を作ればリミッターを兼ねたバッテリーを創り出したりなど、構想はいくらでも湧いてくる。最初はここにいる連中に嫌悪しかわかなかったが、人間の順応性は驚異的だ。もう私はこの研究に少なくない興味が湧きあがっている。それとも、私も連中と同じ穴のムジナだっただけか。

 

 

 

 

●月▲日

 

 研究にも成果が出てきた。色々と並行して研究しているせいで思った以上の時間が掛かってしまっているが、まあ誤差の範囲だ。

 

 まず一つ目が、BOW専用の強化プロテクターだ。とりあえず爬虫類型の奴をモデルに作った。こいつの弱点部位である腹あたりを覆うようになっており、防刃・防弾効果が期待できる。それだけでなく、こいつの脳から得た視覚情報を利用して事前に登録された人物を保護する機能も付与されている。保護対象に危害を加えようとした際に、プロテクターを固定している関節部にロックがかかる。難点は登録が現場でできない点、視覚外への反射行動をロックできていない点だ。要改善である。

 二つ目は、前述した万能細胞の雛型である。生物の授業を受けたことがある人は覚えていないだろうか?細胞がまだどの部位になるか決まる前に切り取り、別の部位に移植し合うと、その部位のための細胞に姿を変える、という話を。この段階の細胞にTウィルスを打ち込み、進化を抑制するために一定期間冷凍保存を行う。そうすると、注入されたありとあらゆる環境に適応、増殖する万能細胞となった。

あとは、これに進化の方向を誘導する手段を発明すればあらゆる応用が可能であろう。ただし、これは私のいざという時の切り札であり、一切の情報を秘匿してある。名称がないのも不便なのでこの細胞をT型万能細胞「Tヌーヴォー」と呼称する。名前の由来は11月ごろに市場を賑わせるあのワインだ。私の唯一の趣味が利き酒というのと、熟成ではなく新しさを期待するこの名前は私の切り札にかける期待を重ねているのが理由だ。

 

 

 

 

 

■月××日

 

 最近必要な物資が迅速にそろう。原因は私がここに来る一因となった『彼女』だ。どうやら彼女は旦那とそろって科学者をしており、ここに勤めていたが私が配属される直前に一家で街の方の研究所に異動になったらしい。何でも新しいプロジェクトの総責任者になったとか。もともとこの会社の表舞台で働かせるつもりで、生物学者ではないが生体工学に明るく貴重な意見をくれる私をアドバイザー代わりにしたかったようで、こうなってしまった罪滅ぼしも兼ねているらしい。

 

そんなことより、私に送ってくれた物資についてだ。新しいプロジェクトの切っ掛けになった寄生生物に使われているマイクロチップだとか。BOWの胎内でも負けずに機能できるこれを使えば「ヌーヴォー」を計画通りの万能細胞にできるはずだ。さっそく試験体をいくつか作ってみた。

 

 まずは後天的BOW改良剤「ターブル」だ。これは思い出すのも忌まわしい、BOWの経過観察で得た、脳が作られるまでのプロセスをマイクロチップに記録させて「ヌーヴォー」に取り込ませたものだ。活性死体然り、ケルベロス然りこいつらは脳さえ破壊されなければかなり掻っ捌いても活動停止しない。なのでリアル人体模型にしたままでも観察は容易である。特にクリムゾンヘッドなどがかなり役に立った。一度完全に破壊された脳が、獣同然のそれだが再生されていく様を直接観察・データ化することが出来たのだから。このデータを利用してBOWの脳機能の改善、もしくは創造を行い、あらかじめチップに記された人物に忠実に動くことが出来るというのがこの「ターブル」の効能だ。欠点は、「ヌーヴォー」の細胞活性によるエネルギーでチップが機能するため、「ヌーヴォー」の分裂が終わるとチップも停止してしまうので、長時間利用できない点と、連続使用は3回までが限度でそれ以上すると脳が負荷に耐えきれず破壊されてしまう点だ。それでも最大5時間運用できるので問題というほどではないだろう。

 

 次に、強化プロテクターの改良型だ。こいつにも「ターブル」の劣化版「ロゼ」を使っている。これで初期型の欠点であった情報の更新が容易になった。ハンターを例に使うと、前述した腹のプロテクターに新たに連動型のヘルメットを追加した。頭部の保護にもなるし、チップの更新で簡単に情報を上書きできる、さらに脳の改良によって指揮官の命令をある程度理解できるようにも出来た。今後の課題は軽量化とさらなる改修くらいか。全身筋肉のハンターはこれでも問題ないが、インフェクティバットで試したら重くて飛べなくなったからな。あれは笑った。

 

 とりあえずこれならフィールドワークに移せないかと上司に報告したが却下された。どうやら入社して数年経たない私に成果を上げられると彼らの面目に関わるらしい。まあわたしは出世に等興味もないし、後ろから妙な注射器を打たれたくもないので快諾した。ただ、やはり実地データが欲しいので「彼女」に相談したらうってつけの特殊部隊に提供する、とのこと。確かウルフ何とかといったか?まあ名前はどうでも良い。せっかくだから他にも暇つぶしで作成したものも提供してみよう。

 

 

 

 

★月×○日

 

 見知らぬ番号から連絡が来て何事かと思ったが、例の特殊部隊だった。なぜ私のプライベートナンバーを知っているんだ?

 

 要件は例の贈り物の件で、大層役に立ったそうな。活性後数秒で死滅してしまうが、汗等の老廃物を取り込んで拳銃位なら弾き飛ばせる強度に変わる防弾細胞「ビーフィーター」や「ヌーヴォー」をハンター亜種の光学迷彩細胞への変化に特化させた「クラマト」という、趣味全開の品物だったがお気に召したようで何よりだ。

 

 そして今手元にある鉱物のようなナニカ。これは礼の品らしく、彼らが派遣されたアメリカのとある片田舎の漁村で回収したものらしい。何でも一昔前に米軍に殲滅された村だとか。連中が何の意味もなく自国民への軍事行動などするわけがないので調べさせられたらしい。表の人間が何人も行方不明になったので万全を期すために彼らが出動を命じられたらしい。実際酷い目にあったようだが、いろいろ回収することが出来、その一部をこちらに回したので有効活用してくれ、とのことだが、どうしようか?何やら化石みたいだが、じっくり調べてみよう。

 



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第二話

とある研究員の日記02

 

 ×月▲○日

 あれから何か月か過ぎたが、未だに私の研究はお蔵入りのままだ。原因は最近ようやく研究が進展した『暴君』だ。これの完成が遅れるようであれば上への時間稼ぎに私の研究を上に報告するらしい。当然私名義ではないな。それだと最悪研究の主導権まで奪われかねない。十中八九上司名義での成果報告なのだろう。私としては一向に構わないが、あまり無欲ぶるのもそれはそれで不信感を買うので適当に不満そうにしておいたが。

 

 上司は私に変わらず現在の研究テーマを煮詰めさせる予定で、『暴君』に触らせるつもりは一切ないらしい。どうやら私と此処の先代主任の身内に繋がりがあるためスパイだと思い込んでいるようだ。道理で扱いが悪い訳だ。尤も、私にとっては至極好都合なのだが。むしろ今回の人事を天啓だと思った位だ。連中は『暴君』にかかりきりで、窓際族の私に声がかかることなどあるまい。万一あったとしても、不貞腐れたフリをしておけば研究が遅れていても不思議に思わないだろう。これで思う存分『仕込み』ができる。

 

 そうそう、私の研究用に割り振られていた活性死体が今日妙な変異を起こしていた。あれは変異というより変態だったが。皮をひん剥いたように筋繊維と脳が露出しており、異様なまでに長大化した舌を武器としているようだ。あらかじめ「ターブル」を打っておかなければ油断して串刺しにされていたな、一応保険はあるが。

 

こいつの商品価値はかなり高い。BOW最大の弱点である飛び道具に対してある程度強く出ることが出来、舌に刺されれば当然ウィルスに感染する。体に風穴があけば拠点で治療されるだろうし、そうなれば活性死体化した患者により滅茶苦茶にされ前線は大打撃を受けるだろう。ハンターが敵勢力の殺傷・排除を目的とした近距離特化なのに対し、こちらは感染・出血の拡大を主とした中・遠距離型だ。相互互換として非常に良い組み合わせだ。弱点は舌で攻撃する際妙で微妙に長い予備動作をすることと、舌を伸ばしすぎると細くなり、急所以外に当たっても軽症で済んでしまう点か。ハンターのプロテクターを流用したら重くて壁を這えなくなった。どうやらハンターほどの馬力はないらしい。それに四六時中四足歩行をしている奴の腹を守る意義は薄いな。要改善だ。

 

 

 

 

 

 □月▲×日

 研究所で飼ってあるBOWの2割に『仕込み』を終えた。後少し準備が出来ればいつでも事を起こせる。その日が待ち遠しくてついテキパキ動きそうになってあわてて自重する。今の私はモチベーションが底辺に落ちている窓際族なのだから。

 

 あれから特殊部隊の土産を手が空き次第調べている。詳細は不明だが、粘液か何かのようだ。当然死んでいるが、細胞の生命力が恐ろしく強いのか、Tウィルスを使った再生医療は今のところ順調だ。玉虫色のなんとも気味の悪い色をした粘液のような体をしている。そしてとんでもなく食い意地が張っている。死んでいるはずなのに細胞が反射で餌を食ってる。今日はとりあえず鶏肉をやっておいた。

 

 

 

 

 

 

 □月▲▽日

 今朝、研究室に鶏の死骸があった。そんなもの飼ってもいないし用意した覚えもなく不思議に思いながら持ち上げたらあの気色悪い粘液に変わった。つい変な声が出てしまったが俺は悪くないと思う。

 

 こいつ本当は死んだふりしてるだけじゃないのかと思い、いろいろ実験してみたが生体反応は起きなかった。が、電気刺激をいくらか与えてみたら先程同様変身した。今度は豚だった。・・・一昨日当たりに食わせたな、そういえば。

 

 今度はすぐに元に戻らなかったので解剖してみたが、驚いたことに中身まで本物と寸分違わなかった。これがこいつの能力か?凄まじい擬態能力だ。いくらでも利用価値が湧いてくるんだが、せめてこいつが生きていてくれたらなあ。今のこいつは死体を復元してなんやかんや動かしてるようなもんだからな。死者の蘇生はTウィルスをどう変異させても不可能だ、諦めよう。

 

 

 

 

 

 

□月▲▼日

 今日は珍しく私の研究室に客が来た。ただ、私には見慣れたあの粘菌を見た瞬間突然発狂しだした。何事だ?とりあえず殴って落ち着かせたが。

 

 そんなことはさておき、研究も粗方済んだ。あとは実際に使ってみるだけだろうが、そんなデータなど私には用がない。使うのは最初で最後だ。

 

 活性死体の変異型のプロテクターにはヘルメットを採用した。どうせこいつの耐久は紙だ。むしろ立体的に機動できる強みを生かすべきだ。後は少し前に開発した光学迷彩細胞「クラマト」を口内で共生させ、蛇のように潜伏・奇襲する習性をもつようプログラムされた「ターブル」を仕込んでみた。これであの前動作のリスクも軽減できるだろう。

 

 これで大凡の準備は整った。後は時機を見て行動すれば良い・・・はずだったのだが、もしかしたら手遅れかもしれん。外が妙に騒がしい。ウィルス事故にしては被害が出すぎている。それに食い止められているとは言い難い。どういう事だ?

 

 嫌な予感がする。とりあえず手駒にしたBOWは研究室に集結させておく。ハンターを数体偵察に出したが2体やられた。残りがヒルの死骸らしきものを持ち帰ってきたが、こんなBOWは記録にない。どうする?逃げるには状況が不明過ぎる。かといって立てこもるには準備が足りない。くそっ、事態が最悪の斜め上に行きそうだ。

 

 

 

 

 

 

 □月□日

 想像通り最悪の斜め上の事態だ。研究所は私以外は全滅しており、活性死体となっている。さらに私の管轄外の実験体も脱走しており、非常に危険だ。最初は銃声もちらほら聞こえたが、今は何かを引き摺るような音しかしない。そろそろ備蓄が尽きる。逃げる準備をする時間だけは十分過ぎるほどあったのですぐに動けるが、今出て行っても良い的だろう。今の手勢はハンターが12体、変異活性死体が8体だ。正直心許ない。何か注意を惹きつける切っ掛けがないと。

 

 しかしわたしは悪運はもっているらしい。久しく聞かなかった銃声が響いて来る。音が遠い、たぶん研究施設の上、洋館部分からだ。しかし私はガンマニアではないので、音で相手の予測を立てるのは無理だ。会社の特殊部隊なのか、この事故の黒幕側の人間なのか、それとも第三者なのか。どれに当たるかで私の命運が大きく変わる。ここでしくじるわけにはいかない。賭け事の類は嫌いなのだが仕方がない。打って出ることにしよう。

 




次回から『バイオ1』に入っていきます。


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第1章 洋館事件編
第三話


―――銃声が鳴り響く。洋館内を駆け回る足音は二つ。

 

クリス・レッドフィールド、

ジル・バレンタイン

 

 アークレー山付近で多発した集団猟奇殺人事件解決のため派遣された特殊部隊『S.T.A.R.S.』ブラヴォーチームの失踪を受けて再派遣されたアルファチームの一員である。彼らはヘリの不時着現場を調査していたところ、犬型BOWの襲撃に会い、この洋館に避難してきた。実際はこうなるよう誘導されているのだが、彼らはそれを知らない。

 

 洋館内でも化物が大量発生しており、彼らは心許ない弾丸を遣り繰りして何とかこの修羅場を潜り抜けていた。実用性絶無な館の仕掛けに神経を擦り減らされ、未知の脅威に精神力を削られていた彼らに、さらなる追い討ちがかけられる。

 

 

「何なの、こいつら!さっきまでのと違うわ!!」

 

「銃が効かない、ショットガンもだ!!」

 

 

 彼らの前に現れたのは緑色の爬虫類型のBOW。こいつ自体は先程から出現していたのだが、ある時から腹に妙な機械、顔に鉄仮面の様なものを身に着けた新手が出現した。初めて遭遇した時、何も身に着けていない同種を八つ裂きにしていたので何事なのかと思ったが、そのまま襲いかかってきたので考える暇もない。応戦したが早々に逃げる羽目になった。弱点である顔は覆われており、クリスが驚異的な射撃技術で仮面の唯一の隙間である目を撃ち抜いたがそんなものでは当然死なず、腹のプロテクトはゼロ距離のショットガンすらほぼ無傷で凌がれた。吹き飛ばすことは出来たので切り裂かれることは無く、動きも少し遅いので何とかなっているが、連携して追跡され撒くことが出来ない。

 

「クリス、気付いてる?あいつら、私たちをどこかにエスコートしたいみたいよ」

 

「ああ、どこに連れて行くつもりだ?」

 

 

 そのまま発砲し続けながら洋館を駆ける。終着点は食堂、彼らが最初に探索した場所である。それ故若干の油断が生まれた。長時間追われ続けたストレスもあったのだろう。クリスの視界が突然揺れた、殴打され吹き飛ばされたのだと知ったのは古時計に激突した後だった。ジルが即座に援護しようとするが、手首に衝撃が走り銃を落としてしまう。目には何も映っていないがロープか何かで縛られているかのようで、そのまま腕を固定されてしまった。

 

 

「実戦投入も問題ないな。よくやった」

 

 

 突然聞こえてきた声の方を向くと、20代前半くらいの白衣を着た男が椅子に座っていた。周りをあの化物たちに囲まれているのにまったく動揺しておらず、襲われる気配もない。・・・なぜか少し息が荒いが。

 

 

「U.S.S.・・ではなさそうだな。唯の遭難者とも考えにくいが。なんにせよようこそ、この世の地獄に。私はハワード・オールドマン。アンブレラ社アークレイ研究所の生体工学者だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

Side ハワード

 

 つ、疲れた・・・。数日穴熊を決め込んだだけで体が鈍るとは。地下から洋館に戻るだけで息が上がってしまった。

 

 ところでこの状況、どうしよう?いや、最悪の事態ではなかったけど。一番悪いのはU.S.S.が来た場合だった。返り討ちにするのは問題ないが、あいつらが作戦完了できないと判断されたら即座に爆薬なりミサイルなりで焼き払われてしまうからな。

 

 かといって彼らで良かったかというとそうでもない。特殊部隊か何かのようだが、どう見ても救助に来たというより2次遭難に陥ってる有様だ。賭けに負けたかな。

 

 

「クリス!ジル!!?」

 

「なっ!?エンリコ!!それにリチャードも!!?・・・そっちの女の子は誰だ?」

 

「もう!彼女はつい最近配属された新人よ。初任務がこれって災難だったわね。怪我はない?」

「はい!」

 

 

 あ、忘れてた。感染してない人間が居たら殺さず連行して来いって命令してたんだっけ。地下で蹲ってたのと、ジャンボサイズの欠伸蛇に食べられかけていた2人組。後者は完全におまけだったが前者はなかなか重要な情報をくれたので手当してやった。というかこいつらよくこの状況で和気あいあいとできるな。一応BOWの群れのど真ん中なんだが・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 とりあえず落ち着いたところで拘束を解いてやった。連中もこいつらの相手は無理とわかっているのかおとなしい。ところで君たちは脱出手段を持ってるのか?それの有無で君たちの扱いが大きく変わるが。

 

 

「仲間のヘリが近くにある。連絡手段がなくて呼び戻せないんだ」

 

 

 おお!ここで初めて良いニュースが聞けたな。通信機器の類は残念ながらこの施設にはないが、屋上に出ればどうにでもなるだろう。面倒な仕掛けはBOWがこれだけいれば力ずくで大概どうにかなるしさっさt(ry『ドゴォンッ!!!!』はぁ!?何事!??

 

 

「ジル、クリス無事か!」

 

 

 は!?グレネードランチャー?なんでたかが市警があんなもん携行してるんだ!?くそ、せっかく脱出の手段が転がり込んできたのに『ドォンッ!』ガッ!?もう一人いたのか!BOWに目も呉れずに鉛玉を御馳走してくれたってことはあのグラサンが裏切り者か。最悪だ、このウィルスの坩堝で外傷なんて負ったら感染する可能性が高い。出来れば使う機会があってほしくなかったが、『保険』を打つか。とりあえずハンター5体に殿を任せて撤退だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 はあ、何とか研究室兼自室に戻ってきたが、もう手遅れか。この『保険』は『ターブル』を応用して作った脳機能保護薬で『デュボネ』と呼称した。マイクロチップに「現在の脳の形状・中身を記憶しながら浸食し、一切劣化することがないよう変異体を脳から排除すること」をプログラミングしたもので、本来は人間ベースのBOWに投与し、知性や記憶を維持したままTウィルスの変異を損なわないようにするための代物だ。一応一体だけだがBOWに臨床実験を行い、結果も問題ない。素体は別の研究施設にサンプルとして送られてしまったが。

 

 それはともかく、これをうまく使えば脳限定ではあるが擬似的な抗ウィルス剤代わりになる。ただし、脳以外は当然変異していくが。抗ウィルス効果が確認されているハーブを使用した治療薬と合わせて服用すれば、初期症状ならTウィルスを抑制できたはずなのだが、私の体は十人に一人の抗体どころか他人よりもウィルスが作用しやすい体質だったらしい。つくづく運がない。

 

 手駒もすでに壊滅した。途中で遭遇した見覚えのない鎖の化物の所為でもうハンター、変異体共に一体ずつしかいない。あぁ、あの耳障りな音が聞こえる。まったく、死にかけなんだから放っておいてくれれば良いものを。もう頭に霞がかって歩くことすら億劫だ。唯一救いなのが、痛覚が鈍って派手に吹き飛ばされても痛くなく、これから下に落下していくこともあまり怖くない。受け身も取れずにこの高さでは、間違いなく死ぬな。いや、確か下には『あいつ』がいたな。最後まで有効活用する術が思いつかなかったが、せめて最後位クッション以上の価値を見せてほしいものだ・・・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『テケリ・リ、テケリ・リ』

 

『テケリ?テケリ・リ。テケリ』

 

『テケリ・リ、テケリ・リ。テケリ・リ、テケリ・リ。テケリ・リ、テケリ・リ。テケリ・リ、テケリ・リ』

 




第三話にしてようやくオリ主の名前が出せました。そしてそのあとすぐにボッシュートですが(笑)


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第四話

 Side クリス

 

 

 

 

 

 

 『グオオオオオオォァッ!!!!!』

 

 

 

 「くそ、こいつ様子が変だぞ!さっきまで御行儀良く避けてたってのに、急に形振り構わず突っ込んできやがった!!」

 

「そうね、まるで何かに怯えてるみたい。私たちにブルった・・・はずがないわよね」

 

「それより下からくる衝撃がヤバい!このままじゃ爆発する前に吹っ飛ぶぞ!!早くカタをつけないと!」

 

「もしかしてこいつも下の騒ぎが怖いの?それってこいつよりヤバいのがまだいるってこと!?」

 

「ちょっと!?人が敢えて考えないようにしてること態々言わないで頂戴!!?」

 

「す、すいません!!」

 

 

 (クソがっ!?さっきから散々鉛弾をぶち込んでやってるのにちっとも止まらねえ。少しずつ息が上がってるし、時折ふらつくから全く効いてないわけじゃなさそうだが、揺れがひどくなってからはまるでハリケーンみたいな暴れっぷりだ。せっかくブラッドがロケットランチャーを下してくれたがとても拾いに行けそうにない。何とか隙を作らないと)

 

 クリスたち一行は窮地に立たされていた。目の前の「究極の出来損ない」が裏切り者のウェスカーを串刺しにしたあと、まだ目覚めて直ぐだったためか、6人の一斉掃射に成す術無く倒されたことで彼らは安堵していた。もちろん屋上に出るまで彼らに油断はなく、信号弾に即応して駆けつけたヘリに、いよいよ動かすことが危険になり始めたエンリコとリチャードをバリーが乗せるところまでは順調だった。

 

ところがそのあとすぐにあの怪物が再び現れ離脱することが出来なくなってしまった。時限爆弾のこともあり、彼らの焦りは募るばかりだった。

 

 しかしここで好機が訪れる。再度、一際大きな振動が館を駆け巡り、とうとう耐え切れなくなった屋上の一部が崩れ、その崩落にタイラントが巻き込まれたのである。今タイラントは右腕を突き立てかろうじて屋上にしがみ付いている状態だ。

 

(今だっ!)

 

 クリスは急ぎランチャーの元に向かい、照準をタイラントに合わせる。ロケット弾は寸分違わず吸い込まれるように向かっていく。

 

(くたばれ化物!・・て、ハァッ!?ロケットを掴んで矛先を変えやがっただと!!?)

 

 腐っても最高傑作のB.O.W.。視界内でまっすぐ飛んでくる鈍足の飛来物を掴み取るなど造作もなく、向きを変えられたロケットは夜明けの空に消えていった。幸い風に流され此処に落ちる恐れはない。ないが、ここでタイラントから視線を逸らしたのは致命的なミスといえよう。

 

 

「ぐあっ!?」

「クリスさ・・きゃあっ!?」

「ッ!?クリス!レベッカ!!」

 

 

彼らの注意が逸れた一瞬を逃さずタイラントは駆け上がり、そのままクリスに渾身のタックルを食らわせ彼を数メートル先まで吹き飛ばし、偶然直線上にいたレベッカも巻き込まれて吹き飛ばされる。

 

そのまま油断なく彼らに近づいたタイラントは、まずはより危険と判断したクリスを左腕でつかみ持ち上げる。ジルと、ヘリからライフルを構えたバリーが急いで援護射撃を仕掛けるがタイラントは歯牙にもかけず、右腕の鉤爪をクリスへ突き刺すべく構える。

 

 

「くそ、万事休すか・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いえ、まだです!クリスさん!!」

 

 

 直後、頭部を強打したにも拘らず驚異的なタフネスで気絶を免れたレベッカが、タイラントの目を盗んでアンプルに装填したとある薬品を起き上がると同時に突き刺す。

 

 この薬品はここに向かう途中の派手に荒らされた研究室にあったもので、近くのマニュアルによると、これを打ち込むと、B.O.W.は脳機能が改善され、一定時間薬品内のマイクロチップに記された人物の命令に従わせることが出来るというもので「ターブル」というらしい。彼女は万一の際の切り札として、機械を操作して自身の声帯データをゲスト登録したのである。

 

 

「その男性を離して、跪きなさい!それと、私が許可するまで動かないで!!」

 

 

タイラントは苦悶の表情で命令を拒否しようとするが、腕が、細胞の一つ一つが彼の意志を拒絶し命令を忠実に実行する。

 

 

「君は最高のRS(リア・セキュリティ)だ」

 

「同感ね。クリス、レベッカ、手を貸すわ。さあ、後少しよ。もう少しだけ頑張って!」

 

 

 駆け付けたジルは、途中で回収したロケットランチャーの弾頭をタイラントの口に叩き込むと、まだ衝撃の抜け切らないクリスとレベッカに肩を貸し、急いで離脱する。そしてヘリから降ろされた梯子に手をかけるとクリスは振り返り、サムライエッジを構える。

 

 

 

 

 

 

「ロケット・マンだ、ベイビー」

 

 

 

直後、発砲音と共に轟音が響き、タイラントは完全にこの世界から消滅した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side ウェスカー

 

 

 

 

『テケリ・リ、テケリ・リ』

 

「くそ、何だこいつは。この図体でどこに隠れていた?」

 

 

 

 

 

 

 

 時は少し遡る。ウェスカーが自身の死を偽装し、クリス一行の目を欺いたまでは良かったのだが、データの大半が『レッドクィーン』の妨害に遭い入手できなかった。仕方なしにそのまま施設からの離脱と同時に自身の肉体に現れた新しい力のテストを行っていた。その締めとして、大昔から使い捨てられていた哀れな少女擬きを仕留めたところに、見たことも聞いたこともない怪物がやってきた。

 

―――凄まじい悪臭を纏い、玉虫色の光沢を放つ漆黒の流動体には無数の目と口が点在する不定形の怪物。また、凄まじく巨大で暴れるたびに洋館に激震が走る。意思など無い獣の様でありながら、常に先手を取って逃げ道を塞いでくるその手腕には明確な知性を感じさせる。何より重要なのは、ゾンビやその他の有象無象に意識をやることなく、自身にのみ殺気を向け襲い掛ってくる点だ―――。

 

 

「やれやれ。脱出まであまり時間が残されていないのだが、うっとうしい」

 

 台詞ほど焦った様子を見せないが、それは気を遣った瞬間ミンチよりひどい結果になるとわかっているからだ。この超人的な身体能力をもってしても逃げ切れない、いや、それは語弊がある。これがなければ当の昔に挽肉になっているだろう。全方位から一斉に押し寄せてくる触手の群れからほんの一瞬出来た隙間に0.5秒以内に潜り込まないと押し潰される。そんな逃走劇をもう10分以上続けているのだ。彼が全力で逃げ出すのも当然だろう。

 

 

「さて、どうする?拳銃は弾の無駄、接近戦は論外、爆発物も手榴弾一つ位では怯ませることすら出来まい。出来ればサンプルが・・・飛沫からすら増殖して噛みつきに懸るこいつでは期待薄だな」

 

 

何気に追い詰められていたウェスカーだが、彼の持つ凶悪なまでの悪運が此処でも火を噴く。何の偶然か空の彼方を遊泳していたロケット弾が此処まで流されてきてしまい、それもちょうどこのジャンボコールタールへと激突し大爆発。四散してしまい活路が開かれていく。

 

 

「ほう?誰かは知らんが、俺の役に立てて良かったな」

 

 

これ幸いと逃げ出すウェスカー。当然すぐに復帰したコールタールも追いかけようとするが、突然すごい速さで消えてしまう。訝しんだ彼の耳に『自爆装置発動まで、残りあと一分です』というアナウンスが聞こえてくる。

 

 

 

「・・人語を理解する、か。あのドブの様な臭い以外は興味深い存在だったな。まあ、これから消し飛ぶゴミなど覚えておく価値もないか。

―――それよりクリス、ジル、それから大佐・・・。私の邪魔をした代償は必ず払ってもらうぞ。この借りは兆倍にして返してやる」

 

 

瞳を憤怒と憎悪で燃やしながらそう呟き、彼は闇の中へと消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後すぐに洋館は爆発した。多くの犠牲者や証拠と共に。ただし、その中にあの漆黒の流動体が含まれていたかは、要として知れない。

 




ここまでご覧いただき、ありがとうございます。これで「バイオ1編」終了です。
この後は幕間を挟んで、「OB」「OB2」「2」「OR」「3」に続いていきます。


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第2章 ラクーンシティ編
幕間


ある研究員の日記03

 

  月  日

 

 

 

(人が読んではいけない文字で書かれている)

 

 

 

 

 

 

□月  日

 

 いえ  ついた

 

 

  どあ      た た。

 

                    ずい

 

 

 

 

 

 

□月○ 日

 

 わたし  んだ。でも、 いつがた た。くすり の   からのう、 のまま

これのなか のこれた。こいつ  な   しょごす

 

                    ぐらさん、  おぼえてろ

 

 

 

 

 

 

□月○×日

 

 大分あたま すっきりしてきた。でもすこしきもちワルイ。あたまと体がやっとつながったみたいだ。妙におなかがすくから冷蔵庫から冷凍した卵焼きをとりだして食べた。トイレに行ったらしりからひよこがでてきた。わけがわからん

 

 

 

 

 

 

 

 

 

□月○▲日

 

 一日使って調べてみたが、この体、というかショゴスは元々はあらゆるものへ擬態・変化することが出来たらしい。しかし、この素体はすでに死んでいた点、そしてTウィルスによって変異した点から、咀嚼したことのある存在にのみ変化することが出来るようだ。その代わり、とても細かい単位でしかも本物と寸分違わず擬態できる。

 

 そしてこれが最も重要なことなんだが・・・・・腹の中で実験ができる。いや何言ってるんだお前はと自分でも思うが、そうとしか言えん。例えば、腹の中で擬態で鶏をつくる。そして同じく擬態でTウィルスを用意します。するとあら不思議、腹の中で感染して変異したゾンビ鳥が出来上がります。そしてこれ、腹の中だからか何故かもぐもぐした扱いになる。しかも細胞単位で選別できるから、一度擬態を解いて、変異体の体から適応できた細胞だけを再現し、それでT適応化鶏として擬態、さらにTウィルスを投与して次なる変異を、なんてことが出来るのだ。まるで東洋の蠱毒の呪だな。そして私はモグれば擬態できるのでモグればモグるほどサンプルを得られる。そうすれば誰にも邪魔されずに実験したい放題だ。

 

 ・・・落ち着け。一旦クールになるんだ。なんで私はこんなウィルスの皮をかぶった兵器を探究しようとしているんだ。それと微妙に目的と手段がすり替わってる。これはあれか、体の本能に意識が引っ張られているのか?そんなにモグモグしたいのか?

 

・・・・・・・・・ま、いっか。活性死体化して人生ゲームオーバーに比べれば安い代償だ。それにこれからしようとすることの邪魔にもならないどころか一石二鳥だ。

 

 これからの行動指針は3つ。火事場泥棒・サンプル集め・スカウトだ。まず一つ目だが、アークレー研究所のことが警察官たちによって知られてしまい、私は死んだことになっているだろう。そんな中バカ正直に会社に戻ったらどうなるかなんてお察しだ。しかしこれといった蓄えもない私にはこれからを生きる資金が要る。という訳で会社から退職金を色を付けて頂こうという訳だ。

 

 当たり前だが、私が自分で騒動を起こそうだ等とは考えていない。正直面倒臭い。それに私が何かしなくても勝手に祭りが起こるだろう。

 

 次にサンプル集めだが、これ以降は明日書こう。試したいこともあるし。

 

 

 

 

 

□月○▽日

 

 というわけでその明日になった。何を試したかというと、擬態による情報網の作成だ。試してみたら、一度に大量の生物に擬態できたので早速放ってみた。とりあえず鴉・鼠・蛇を主要公共機関に撒いた。

 

 まずは何と言っても警察、より正確に言えばあの地獄からの生還者たちだ。彼らは一生懸命あの洋館での真実を叫んでいるようだが、まあ実体験者でなければだれも相手にしないよね。しかも肝心の所長がせっせともみ消しに動いていて、権力を使われて全員自宅療養という名の謹慎処分を受けているらしい。理由は多数の同僚を凶悪犯(笑)に惨殺された心的外傷のためだとか。真実なんて、外に発信力のある人材とのコネがないと簡単に消されるからね。

 

 それはともかく、昨日の続きだけど、サンプル集めについてはただ待っていればチャンスが転がってくる。

 

 情報封鎖には成功したものの、関係者各位には今回の事件でTウィルスのリスクと、B.O.W.の商品価値に対して疑問を投げかけてしまったわけだ。早々に大事な顧客の不安を拭い去らないとアンブレラの信用と利用価値が地に堕ちてしまう。彼らは名誉挽回となる目玉商品を早急に用意しなくてはならなくなった。

 

 幸いその商品のあてはいくらかある。けれど、社の失態で強制的に未完成品に商品ラベルを付けられることを、プライドの高い研究者たちが我慢できるだろうか?それに、今まで研究成果のため泳がせていた、限りなく黒に近いグレーの反逆者予備群の連中からも取り上げる必要が出てきた。まず間違いなく行動に移す奴が出てくるだろう。筆頭は私の知り合い夫婦とかかな。

 

 何件無事に回収できるかな?Tウィルスは超弩級の対国兵器だ。その派生物もまた然り。そんな危険物のそばでドンパチして、タダで済むはずがない。私の予想では、近日中に派手な花火が打ちあがるだろう。そのあとでゆっくり流出物や変異した細胞を回収すればよい。洋館では頭がテケリリしてたせいで碌にサンプルを集められなかった。手勢はハンターと変異活性死体、後邪魔だったからモグッたあくびちゃんくらいか。

 

 最後はスカウト、人材集めだ。この町を出た後にどう動くにしても、やはり私一人では到底手が足りない。例え化物になったとしても、専門外のことに限れば私の戦力など赤子のそれと変わらない。

 

 それにどうせ雇うなら選りすぐったプロフェッショナルが欲しい。この町がバイオハザード隔離区域になれば、あのブラック企業のことだ。後先考えずにフィールドワークを始めるだろう。国家中枢にも根を張っている連中のことだから最後はふっ飛ばせばよいと油断してそうだ。そうなると切り捨てられる人間がきっと出てくる。そういった奴等が欲しい。特に能力が高くて知りすぎてしまった、なんて奴は最有力だ。アンブレラに恨みを晴らせる環境と物資を保障できれば当面の間雇うことが出来るだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

□月×▽日

 

 

 

 花火が上がった。さあ、パーティの始まりだ。

 

 

 

 




 というわけで、次回からラクーンシティシナリオに入っていきます。ちなみ今回のコンセプトは『逆かゆうま日記』です(笑)。
 ここまでご覧いただきありがとうございます。


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第五話

 tiger1280様。誤字報告感謝です!

それではラクーンシティ編、始まります。


 

 

―――ラクーンシティ。

 

 アメリカ有数の企業城下町であり、芸術・科学・医学と三拍子揃った学びの園・・・・・というのは今や過去のもの。異形が闊歩し、骸が列を成し蹂躙する地獄へと変貌した街はいたるところで悲鳴や怒号、銃声が響いている。

 

 そんな中、燃え盛る炎によって照らされた街中を悠々と進む人影が一つ。彼もまたこの地獄を闊歩する、死にぞこないの化物である。

 

 

 

 

 「うーむ、やはり濃度が薄い。ま、隔離された研究所と拓けた街中じゃ密度で劣るのは当たり前か」

 

 

 

 死体も、それを貪る骸もまるで存在しないかのように物色して回る男は、かつてハワード・オールドマンと呼ばれていた。将来有望な生体工学者の卵だった彼も今や物珍しい餌を求めて彷徨う幽鬼、違いなど意思があるか否かでしかない。

 

 今も近くから響く悲鳴を一切無視してこれは、と思った活性死体を足元でうごめくコールタールに捕食させる。助けに等当然行くはずがない。彼は超人的なスーパーヒーローではなく、食欲を研究意欲で誤魔化すヒトデナシなのだから。流石に目の前で助けを請われたり、知り合いであれば吝かではないが、ここに住んですぐ研究所暮らしだった彼に優先すべき人間などわずかしかいない。

 

 

 

 

 「さて、何から手を付けようか?サンプルはまだ時期尚早、もう少しこの地獄が煮詰まってからだな。じゃあ、とりあえず在処が分かっているお宝から漁るか。研究所は遠いし、先に大学の方を取りに行こう。新型の筋肉達磨はともかく、「特効薬」は絶対に必要だ。ショゴスにあれの抗体を作らせないと、また怯えながらの暮らしに逆戻りだ」

 

 

 

 

 彼がまず目を付けたのは人間だったころに散々その所在を探った、Tウィルスを完全に死滅させ、完璧な抗体すら精製する「特効薬」だ。目的は当時と真逆だが。

 

 

 そもそも技術者だった彼にとって、Tウィルスは兵器以外の何物でもなく、研究所に治療手段が存在しないと知った彼の絶望は相当なものだった。他のマッドなサイエンティストと違い、Tウィルスの可能性だの究極の生命体などに興味のない彼は上司や知り合い夫婦に必死に掛け合い安全装置になりうる存在の情報を漁った。そんなあるとき、噂程度だが、という前置き付ではあるがラクーン大学の裏切者予備群が優秀な医者たちを利用して「特効薬」を作らせているという話を聞いていたのだ。

 

 つい最近まで忘れていたのだが、自分を構成するショゴスがTウィルスによって復元したことを思い出し、ついでにこの「特効薬」の存在も思い出したのである。これがこの街から持ち出されれば確実に脅威となる。まず間違いなく忘れたころに投薬されて液状化する、そんな確信さえある。

 

 幸い克服するあてはある。前評判通りなら博士夫婦の持つジョーカーは無限に進化するウィルスだ。まずそれを捕食し、擬態化させてから「特効薬」を服用すれば、気合と根性で克服してくれるだろうたぶん。

 

 

 

 

「しかし、サンプルが届いたとかそういう話は聞かなかったな。まさか騙したのがばれて反抗されたとか、はたまた試薬だけ作ってサンプルも取引材料も用意してないとかか?いやいや、いくら馬鹿と危機管理能力のない研究莫迦しかいないからって、そんなまぬけなことになってるはずがないよな、うん」

 

 

 

 

 

・・・彼の懸念が正しかったか否か、答え合わせはおよそ30分後。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side ハワード

 

 

 くそ、まさか本当にサンプルを用意していないとか馬鹿だろ!?やっぱりアンブレラには碌な奴がいないな。しかしまさか生存者がいたとは驚きだ。慌ててショゴスは仕舞ったが、そのせいで行動が制限されて困る。新聞記者とどっかで見たことのある日系人と医者というなんとも珍妙な取り合わせだ。

 

 特にこのアリッサとかいう記者が面倒だ。無駄に観察力と視界が広いせいで碌に身動きできん。キーピックと銃の腕が立つのはありがたいが。ただ、日系人のヨーコがやたらと怯えた表情でこちらを覗うせいで無駄に警戒されているが。ハミルトン医師は協力的で何よりだ。まあ私の興味は彼自身より彼のカプセルシューターに注がれているのだが。予備とかないのか?あればぜひモグらせてほしい、利用価値は高そうだ。

 

 

 

 

 話が逸れたな。今現在、「特効薬」生成のため大学を右往左往して材料集めをしている。二手に分かれて探索を開始したが、なんで大学にこんなにもB.O.W.が配備されているんだ?意味が分からん。同行していたハミルトン医師がカエルモドキに飲み込まれかけたときは焦った。まあ、一時的発狂を起こした医師を物置で休ませている間にアクビちゃんに掃除させられたので結果オーライだったが。蛇の餌にカエルとは冗談が効いている。

 

 しかしもう少し有用な物品を備えていてくれないものかね。密閉シリンダーの予備がなくて探し回るとか間抜けすぎる構図だ。こんなものに命を賭けさせられる彼らがさすがに少し哀れだ。

 

 

 

 

 

 何はともあれ、無事女性コンビも材料を手に入れたのは良いが、最後の材料が筋肉達磨の体液とか嫌すぎるんだが。回収しないとダメかな?代用品とかない?無いのか・・・そうか・・・・・。

 

 とりあえず実物を一目見ようと外に出てみたら、U.S.S.を血祭りに上げている様を見て直ぐに回れ右した。足手纏いがいては正攻法は無理だな。アリッサ女史が、見つけたメモから得た、千切れたケーブルを利用した電撃作戦を提唱した。乗用車並みの速度で突っ込んでくる肉達磨をどうやって誘導するんだ?え、囮?ハミルトン医師、君は何を言ってる。ここで特効薬を手に入れられなければどのみち助からないんだから、命を賭けても惜しくない?おいおい・・・。

 

 

 

 

 

 それから早速準備して、物音を立てて注意を引こうとする医師。足が震えているじゃないか。自分の命が何より惜しい私には到底理解できん行動だ。そうこうしていると筋肉達磨が扉を突き破ってやってきた。

 

 ここでさっさとこちらに逃げてくれば良いものの、あろうことか彼はケーブルのそばから動こうとしない。私諸共やれ、とか酔狂なことだ。本当に死ぬ気か?

 

 

・・・。

 

 

・・・・・。

 

 

 

・・・・・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

わー!まどのむこうからきょだいなへびがとびだしてきたぞー(棒)

 

ハミルトン医師がふっとばされたぞー。だいじょうぶかー(棒)

 

わー。いいかんじにへびとだるまがこんがりやけたぞ、やったね(棒)

 

 

 

 

 

 ・・・・・うん。流石に見捨てるほど鬼じゃないよ。良く考えれば、ここでアクビちゃんが乱入したからって私に疑いが懸る筈がない訳だし。頑張った人間には多少の報酬は当然だ、うん。そういう事にしておこう。

 

 そんなこんなで無事材料を集めきり、特効薬である「デイライト」は完成した。え?グレッグ博士?会って5分で死んだ変態の描写なんて必要あるか?強いて言えば、暗殺した奴は良い仕事をした、とだけ言っておこうか。世界をまた一つ綺麗にしてくれたこともそうだが、爆弾で大学を吹っ飛ばしてくれたおかげでうまく彼らの目から逃れられた。これ以上一緒にいれば脱出まで一緒に行動させられかねん。実に良いタイミングだった。

 

 まあ袖擦りあったのも多生の縁だ。手駒のハンター達に追い立てるふりして道中の掃除兼監視をさせておくから頑張って脱出してくれ。あの筋肉パンツは今頃擬態を解いたショゴスの胃袋の中だし、これだけお膳立てすればまあ問題ないだろう。

 

 

 

 

 

 やれやれ、思ったより時間が掛ってしまった。次は研究所、と言いたいところだが下水になんて潜りたくないし、どうしたものか。

 

 あ、確か警察署にも入口があるとか言ってたな。今度はもうちょっとスマートに行きたいものだ。ま、期待薄だが。

 




ここまでご覧いただきありがとうございました。感想、批評等いつでも大歓迎です!


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第六話

評価バーが赤、それにお気に入り数が120・・だと・・・・・?


う、うわああああああありがとうございますううぅ!!!!
こんな拙い小説ですが、これからもがんばります!!


 Side ハワード

 

 

 

 ふう、大学を後にしてから再び夜を迎えたわけだが、まだ警察署につきません。どこかの莫迦が仕掛けた地雷に尻をローストされかけ、迂回したらヘリが不法投棄した、私の下位互換の汚物擬きをキレイキレイするのに時間を浪費し、そのあとは近道のために立ち寄った動物園で遭遇したアニマルゾンビをつい一匹残らずモグっていたら日が暮れていた。

 

 しかし資料で見たB.O.W.『エリミネーター』といい、人間以外の哺乳類動物は変異の幅が狭いように感じる。まあ、安定した変異が見込めるし、哺乳類全般にある恐怖心を克服できるので、商品価値は決して低くはない。ただ、如何せん脆く、カタログスペックが感染前と大差ないのが難点だ。けれど人間だって活性死体のような大幅な変異を起こすことだし、効果的に作用させることが出来れb『ドゴンッ!!』グエッ!?な、なんだ?

 

 ・・・なんだ、アレ?パトカーがピンボールみたいに壁を右往左往してる。車内で感染でもしたのかね?しかし警察官がひき逃げとか、平時ならマスコミが群がるスキャンダルだな『グシャッ』あれ、デジャb『プチッ☆』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・・・・・・・・うん、交通事故は決して他人事じゃない。いつ誰に降りかかってもおかしくない身近な存在だ。それは知ってる。

 

 けど、1分で2回も轢かれる奴はそうはいないだろう。しかも大型トレーラーとか殺意高すぎだろう!?あ、足引掛ける所に服が絡んだあああああ痛い痛い、てか熱い!?視界が揺れ過ぎて逃げられん!!もうあれだ、擬態解くか!?解くしかないn(ry『Bomb!!!』ギャアアアアアアアッ!!?

 

 

 

 

 

 

 

 し、死ぬ・・。いや、肉体的には全く問題ないが、心が死ぬ。これ私じゃなかったらモザイク修正不可避のスプラッタ映像が出来ていたぞ。流石に頭が揺れ過ぎて体をモゾモゾとしか動かせない。あ、ちょっとマシになってきた。よっこいし『バゴォンッ!!』ょ・・・は?

 

 

「ウソ!?い、生きてる!!?ごめんなさい、大丈夫!!」

 

 

 あ、はい。むしろ貴方の足の方が大丈夫ですか?私の頭があった場所のコンクリートが粉々に・・あれ?人間の脚力で破壊出来るものだっけ?・・・・・・・・・・うん、老朽化して脆くなっていたんだ。きっとそうに違いない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当にごめんなさい。あの爆発の後で動き出したからてっきり『あいつら』だと」

 

 

 あの凄まじいファーストコンタクトから一転、彼女は謝りっぱなしだ。まあ、わざとでないとはいえ、人間(だと思い込んでいるもの)を殺しかけたんだから無理はないか。こちらとしては道中の露払いをしてもらってむしろ感謝したいくらいなのだが。

 

 

 しかし彼女は何者なのかな。弾が幾らあっても足りないので最低限の発砲で済ませているが、それでもほぼ全て脳天一発で仕留めている。途中銃砲店に立ち寄り、店主と思わしき哀れな犠牲者からボウガンを頂戴してからは一転攻勢、見敵必殺。一匹残らず仕留めている。しかも、倒した死体からしっかり矢を引き抜いて回収するわ、少し損傷したら銃砲店から失敬してきた工具でササッと修復するわ。そろそろ50体ほど血の海に沈めているがこちらの損耗はほぼゼロ。じつは人の皮をかぶった神話生物じゃないのか、彼女。

 

 彼女の肉体構造とタフネスについては非常に学者的好奇心をそそられるが、なぜか食欲は湧いてこない。こちらが圧倒的に有利なはずなのに返り討ちに会う未来しか想像できない。うん、このまま友好的な関係でいたいものだ。

 

 

 

 え?お前は戦わないのかって?偶にバールで撲殺したりしてるよ。ん?せめて銃使え?

 ・・・・これまで一度も描写してこなかったが、わたしの銃の腕は最低の斜め上だ。どのくらいかというと、研究所に配属されて初めて感染者を『処理』するときに拳銃を貸与されたが、うん、一発も当らなかったんだ。人間辞めた後も試してみたが結果はお察しの通りだ。

 

 

 

 

 彼女とは道中ストレス緩和も兼ねて、進みながら色々と話をした。驚いたことに彼女は洋館で遭遇したタフガイ、クリス・レッドフィールド君の妹なのだそうだ。あの銃捌きも彼直伝とのこと。もっと他に教えるものがあっただろうに・・。彼もあの地獄から五体満足で生還しているし、この超人的な身体能力は遺伝によるものなのか?Tウィルスなんかよりもよほど希少な存在に見えてきたんだが。

 

 それはともかく、彼女はこの街に何度か来ているため土地勘があり、裏路地を抜けてあっという間に警察署前まで来れた。私のあの珍道中との温度差がひどすぎるような気もするが、きっと気のせいだろう。

 

 そのまま警察署内に入ったわけだが、これが妙に綺麗にされている。勿論至る所に血痕やら空の薬莢やらが散乱しているが、外で散々見た連中が一体もいない。このバイオハザードが発生してから既に二日経過しようとしているが未だ警察が機能しているのか?それなら驚きを通り越して尊敬に値するが。

 

 隣の彼女もこの状況を見て兄の生存に希望が持てたのか、先ほどより遥かに良い顔で探索している。恐らくこの街に来て初めての朗報だろう。

 

 などと浮かれていたのが不味かったのか、デスクが大量に敷き詰められた一室に入って直に一発の銃声が鳴り響き、クレアのボウガンが弾き飛ばされた。何事かと思い、銃声のなったほうに顔を向けると、これまた懐かしい人物が立っていた。彼も一瞬驚愕していたが瞬時に顔を引き締め直し、此方が両手を挙げたままでいるとゆっくり銃を下した。

 

 

Side Out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「手荒な真似をして済まない。街がこんな事態になったせいか、化物以外にも頭の螺子が飛んじまった連中が偶に入り込んできてな。そいつらの所為で同僚が2人死んじまって気がたってたんだ。

俺はエンリコ・マリーニ。R.P.D.特殊作戦部隊『S.T.A.R.S.』の元副隊長だ。あんたは?」

 

 

 危険人物ではないと判断したエンリコは出入り口を施錠し、クレアたちに適当な席を勧めた後スポーツドリンクとチョコレートを配った。極度の緊張が続いていたクレアはそれに飛びつき、人心地着いた後で彼はそう切り出した。

 

 

「私はクレア。クレア・レッドフィールドよ。連絡が取れなくなった兄を探しに来たらこんな騒ぎに巻き込まれちゃって」

 

「なに?君はクリスの・・?ならタイミングが悪いとしか言えないな。あいつは少し前にこの街を出た。生き残った仲間たちもつい先ほど護送車に乗せて離脱させたところで、署内に残っている奴は俺以外一人しかいない」

 

「一人?アイアンズ署長、それとも別の人?」

 

 

 そうクレアが尋ねるとエンリコが苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。まずいことを聞いてしまったかと慌てるクレアに対し、エンリコは少し長くなるが、と前置きしてから話し始めた。

 

 

 

 

「実は俺たちは、この街がこんなことになる前にも似たような事態に直面しているんだ。山の麓で猟奇殺人が発生してな。その調査に向かった俺達は其処で遭遇したんだ、今街を我が物顔で歩いてる連中にな。詳しい経緯は省くが、多くの仲間が犠牲になりながらも俺達は生還した。そしてそこで見た一部始終を打ち明けたが、反応は芳しくなかった。まあ仕方ないことではあるがな。こんな地獄、体験した奴しかわかる筈もない。

 

 ただ、全く無視されたわけでもなかった。大口径オタクの変人で通ってたバリーや若い奴等だけならともかく、長いこと此処でとぐろ撒いてた俺もいたからな。この街が少しヤバいってことは何とか伝えることが出来た。

 

 そんな中でだ、奇妙な態度を取るようになった奴がいた。そう、さっき君が名を挙げたアイアンズ署長だ。いきなり俺達に謹慎処分を下しやがった。俺たちの話にようやく皆が耳を傾けてきたって時にだ。同僚たちも抗議してくれたが聞く耳を持たない。どいつも首を傾げたさ。

 

 極めつけはこの騒ぎが始まって直に、署内の弾薬その他を出鱈目に配置し直そう、なんて言いやがった。俺は真っ向から反対したよ。この騒ぎはテロなんてチンケなものじゃねえってな。幸い仲間も署長じゃなくて俺を信じてくれた。

 

 そしたらあの野郎、俺を署長室に呼び出したかと思えば、銃を向けてきやがった。ま、お節介な奴に助けてもらったが、あの時ほどあの遅刻魔に感謝したことは無かったな。

 

その後化け物どもが群れを成してきやがったが、『S.T.A.R.S.』の私物の火炎放射器やらグレネードランチャーやらも投入して何とか迎え撃ってやることが出来たって訳だ。」

 

 

 

 

 

 

クレアは開いた口が塞がらなかった。兄が自分より先にこの地獄を経験していたこと、その苦しみを家族に一言も漏らさなかったこと、今もどこかで戦っていることを・・・。

 

 

「なあクレア。上の階に俺たちの執務室がある、まだ色々と使えるものがあったはずだ。取ってきてくれないか?おれはちょっとこっちの坊主に話さなくちゃならないことがあってな」

 

 

 そういわれて一度ハワードと顔を見合わせた後、彼女は部屋を出た。このままだとどうしようもないことを延々と考えてしまいそうだったので、渡りに船だった。それに、街の部外者であるクレアには聞かせたくない話もあるかもしれない、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やあ、久しぶり、といったところかな?おまわりさん」

 

 

「・・・やはり君か。まさか生きていたとはな」

 

 

「お互い様だろう。手当はしたが、結構重傷だったろう」

 

 

「頼りになる同僚がいたからな。・・・君はアンブレラの研究者だったな。感染者の治療は出来るか?」

 

 

「程度による。抗ウィルス剤は持っているし、処方の心得もある。さっき言ってた『もう一人』か?」

 

 

「そうだ。あいつは自分の身の危険も顧みず俺達を守ってくれた。死なせたくないんだ」

 

 

 

 そういってエンリコはハワードを伴ってすぐそばの応接室へと向かった。ドアの鍵を開けて入った途端怒鳴り声が響いた。

 

 

 

「エンリコ、俺を撃つ気がないのなら開けるなといったはずだ!俺もじき『あいつら』の仲間入りだ。迷惑をかけたくないんだ・・・。わかってるだろう!」

 

 

「マービン、俺も言ったはずだ。お前を撃てるはずがないだろう!誰よりも素晴らしい警察官であるお前を。医者を連れてきたんだ。ハワード、頼む」

 

 

 

 私は科学者なんだが、と一人ごちながら、てきぱきと処置をしていく。傷口を一通り止血した後、抗ウィルス剤を投与した。

 

 

 

「正直、期待は薄いと思ってくれ。感染者との接触が多く、何より失血が酷すぎる。抗ウィルス剤がうまく機能しない可能性が高い」

 

 

 

 ハワードがそう説明すると、エンリコの表情が酷く歪んだ。マービンの方は最初から期待していなかったのか、変化は無かった。

 

 

 

「ただ、貴方のウィルスへの抵抗力はとても高い。普通ならとっくに変異している。貴方の血液を使えばより効果のある抗ウィルス剤を作れるかもしれないが、どうする?」

 

 

 

 そう尋ねてやると、初めてマービンの表情が変わった。彼は即座に了承した。

 

 

「どうせ要らなくなる血だ。幾らでも持って行ってくれ。それであいつらが少しでも安全になるのなら本望だ」

 

 

 

 ハワードも返事を予想していたのか、すでに注射器を手にしており、わずかな量を採った後、「これは餞別だ。私が使っても資源の無駄だからね」と言って拳銃を傍に置いた。

 エンリコは慌てて取り上げようとしたが、マービンの安堵した表情を見てしまい、何も言えなくなった。

 

 

 

「恩に着る。まだ弾に余裕はあるが、警察官として貸与されたこれを自殺に使うのはどうしても気が引けてね。・・・わがままを言って済まない。エンリコ」

 

 

「いや、いいんだ。お前は本当によくやってくれた、マービン。俺はお前という同僚を持てたことを誇りに思う。後のことは任せろ」

 

 

 

 最後に握手を交わした後、エンリコとハワードは応接室を後にした。

 

 

 

「これからどうするんだ?」

 

 

 試験管を懐にしまいながら、ハワードは尋ねた。エンリコは目元に涙を浮かべながらも、毅然とした声で答えた。

 

 

「俺はここに残る。まだジルやブラッド、リチャード達が戻っていない。幸いリチャードが此処を出る前にバリーと連絡を取ってくれた。あいつは決して俺達を見捨てない。だから俺はここを守る。あいつらが戻ってこられるように。あんたはどうするんだ?」

 

 

「私はここの地下に少し用があってね。親切心5割、下心5割といったところか。・・・・ああ、そんなに睨まなくても、あの警察官の思いを踏みにじるつもりはないよ。彼から貰ったものは、少なくとも私の為だけに使うことは無いよ」

 

 

 

 そう答えた後、彼もまた部屋から出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「地下にはどうやって行こうか。秘密の入り口・・となると署長室が怪しいな。下水道は最後の手段にしたいところだね」

 

 そう独り言を呟きながら、試験管の中身を飲み干した。

 




ここまでご覧いただきありがとうございます。感想・コメント・質問なんでも大歓迎です!


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第七話

nassyusan様、Nekuron様、c+java様、valeth2様、缶ボール様、黄金拍車様、zzzz様、蜂蜜梅様、244様、株式たまご様、マグネット様、誤字報告感謝です!!

しかし多い(笑)いや本当に助かります。なるべく皆様のお手を煩わせないよう気を付けます。




Side ハワード

 

 

 

 

 さて、かっこよく退出した訳だが、署長室どこだ?というよりこの警察署広すぎるだろう。行けども行けども署長室に着かん。間違って犬小屋に行ったり留置所を訪れたり。言っておくが決して私は方向音痴でない。ここの設計構造がイカれているだけだ。

 

 あ、留置所には貫禄だけは立派な中年がいた。驚いたことに彼がアイアンズ署長らしい。まあ正確には“元”署長だが。最低限の手当てはしてやったが、身の危険を感じた途端周りの人間を皆殺しにしようなんて考えるサイコパスを他の連中と一緒に脱出させるわけにはいかない、ということでここに拘束されている。アンブレラの暗部を知る重要参考人なので殺す気はないらしく、S.T.A.R.S.メンバーの脱出時に簀巻にして連れて行く予定とのこと。署長室の場所を聞こうと思ったがキャンキャン喚くばかりなので早々に諦めた。

 

 恥を偲んでエンリコの元に戻って場所を聞いた後、2階へ向かう途中クレアと再会した。うん、君は何になろうとしているんだ?背中には高収納バックパック、防刃ベストの上にショットシェルを巻き腰には折り畳み式スタン警棒とコルトガバメント。手にはM203グレネードランチャーを装着したM16アサルトライフルを携え、カバンの中は救急スプレーと弾薬でパンパンのようだ。総重量いくらだ?なぜ民間人がその重武装で平然と動けるんだ。そんな物騒なものどこで拾ってきた。え?兄の同僚たちの私物??そいつら警察じゃなくて戦争屋だろ。

 

 先程年端もいかない少女に出会ったが凄い速さで逃げられたらしい。当たり前だ、そんな戦争帰りみたいな格好の女に喜んで近づく子供がどこにいる。もし見つけたら保護してほしいと言い残して去って行ったがさて、そんな子供がいるなんてエンリコは言ってなかったが。それに彼の性格なら真っ先に逃がしているだろうし。もしやいつぞや彼女が話していた『バタバタバタバタッ』ん?これは・・ヘリの音か?何故かどんどん音が大きく、というより近づいてくるようn『ドガァンッ!!』てやっぱりかあぁぁぁ!!!?

 

 

 こうして私は壁を突き破ってきたヘリに押し潰され、そのまま爆発と共に炎に呑まれ・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・たとでも思ったか!?そう何度も轢かれてたまるかぁ!!!なんで空飛ぶ乗り物にまで轢かれなきゃならない!これに船を足したら陸海空全制覇だろうが、そんなことさせてたまるかああ!!!!

 

 ということで突っ込んできたヘリは美味しくいただきました。丁度脱出の足も欲しかったところだし。あ、搭乗者は食べていない。ウィルスに感染してもいない人間食べても何の役にも立たん。まあ急所を打ち抜かれて死んでいるからあまり変わらないかもしれないが。

 

 

 それはともかく、今非常に困った事態に陥っている。ヘリを受け止めたときは何とか耐えられたのだが、その後どっかで見覚えのあるスキンヘッドが降ってきたとき床の耐久が限界を迎えてしまい、そのまま地下まで落ちてしまった。あいつだけならそんなことにならなかったのだろうが、まだヘリが消化できなかったせいで総重量がとんでもないことになっていたからなあ。それが自由落下したせいで1階の床まで抜けてしまった。

 

 

 まあ結果オーライということにしておこう。下水道を通らずに済んだことだし。え?スキンヘッド?私の隣で寝てるよ。モグっても良いのだが、ブーメランパンツの下位互換食べてもなあ。せめてTウィルスのお家芸、突然変異が起こってから出直してきてほしい。さて、では探索するとしよう。

 

 

 

 

 ・・・探索していたら、目的の人物が降ってきた。何を言っているかわからないかもしれないが、私にもよくわからん。というよりここに来てからやたら頭上から何か降ってくるな。

 

 とりあえず介抱してみる。地面に激突する前にキャッチできたので外傷は無し、それほど高い所から落ちたわけでもないようだ。直目が覚めるだろう。

 

 うん、目が覚めたのは結構なのだが、そうそう錯乱して私の頭に鉛玉をぶち込まないでくれませんかね、バーキン夫人?私じゃなければ間違いなく死んでいるぞ。と思ったら今度は悲鳴を上げてまた気絶した。どうやら誰を弾切れになるまで穴空きにしたのかわかったことと、その私がぴんぴんしているという事実にキャパシティーが追い付かなくなったらしい。やれやれ、しょうがないから近くにあった宿直室で寝かせよう。

 

 

 

 

 しばらくすると彼女は目を覚ました。今度はある程度落ち着いている様子だ。私の顔を見ると再び動揺していたが。まあ当然だろう、この世の地獄と化したアークレイ研究所にいたのだから死んだと思っていただろうし、そんなやつが正真正銘の化物になって目の前に姿を現したんだ。むしろこの短時間で受け入れた彼女をほめるべきといえよう。

 

 まあ、私のことはどうでも良い。それよりなぜ貴女が此処にいるのだろうか?どこからウィルスが流失したのかは知らないが、ラクーン支部のトップとその妻であり優秀な研究員である彼女をなぜ回収しない?若しくは、切り捨てたのならなぜ生きている?迅速な口封じは連中の専売特許だろう。

 

 

 

「アンブレラは夫からウィルスを奪い取るため特殊部隊を差し向けたの。そして瀕死の重傷を負ったあの人は、手に持っていた『G』を自らに投与した。怪物となった夫はその後奪われた『G』を捕食するためにあいつらを皆殺しにし、その騒動で『G』とセットで保管されていたTウィルスが鼠に感染し流出、後は誰もが知る通りよ」 

 

 

 

 ・・・ひどい。予想はしていたが、予想通り過ぎて凄まじく酷い。なんで危険物の前で銃火器を使用するんだよ。素人位ナイフか、最悪徒手空拳でも黙らせられるだろう。それでもプロか!?U.S.S.で知っているのがウルフパックしかいないから彼らを基準にしていたが買い被っていたらしい。彼らなら研究者一人、反撃を許さず制圧するなんて一瞬でやってのけるぞ。 

 

 

 ・・話が逸れたな。今は無能共の事なんてどうでも良い。『G』についてはかなりオブラートに包んだ状態で話を聞いていたし、何度かアドバイスを送ったが、『アレ』は使わなかったのか?そうすれば『G』奪還はともかく、化物にはならなかったのではないか?

 

 

 

「『アレ』は・・・。ええ、貴方のアドバイスは尤もだったし、夫も賛同してくれて作製した。でも、サンプルはすべて処分したの。もし『アレ』まで手土産に用意してしまうと、米軍は私たちの安全よりも手土産の確保に注力するとあの人が言って。私も否定しきれなかったわ」

 

 

 

 うわぁ。いろんな事情が最悪の事態へ誘導している。これぞまさしく負の連鎖、といったところだな。しかし、そうなると御息女の身が危険だな。ここで何が起こったか知らずにいるのでは?

 

 

 

「シェリー・・・ですって!?まさか、ここにきているの!!?」

 

 

 

 直接見たわけじゃないがそうらしい。もし私の知り合いが保護していればとりあえず安心だと思うが。ランボーも逃げ出しそうな火薬庫になっていたし。

 

 

 

「お願い、あの子を助けて!!『G』によって生み出された怪物は、遺伝子情報が近似した存在に『胚』を植えつけて繁殖しようとする。あの子はあの人にとって最高の苗床、早く保護しないとあの子まで・・・・!!!」

 

 

 

 落ち着け。御息女の保護は任せてほしい。私の方が適任だ。貴方は万一の事態に備えて『アレ』の作製を。

 

 

 

「ええ・・わかったわ。しっかり・・・しっかりするのよアネット!私の肩にはあの子の命が懸っているの」

 

 

 

 自分に言い聞かせるようにつぶやいた後、彼女はまっすぐこちらを見据えた。なるほど、覚悟の決まった良い目をしている。

 

 

「最後に一つ聞かせて。あなたはどうして私たちを助けてくれるの?私は貴方を巻き込んでおきながら見捨てたのに。貴方も『G』が欲しいから?それとも・・・」

 

 

 ・・・さて、何故かな?不思議と貴方に恨みは湧かない。『G』に関心がない訳じゃないがサンプルに用はない。助ける理由については・・・・・・しいて言うなら、私は人間を辞めはしたが、ハワード・オールドマンまで辞めたつもりはない。良く知った相手には気まぐれに善意を見せることもある、それだけのことさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 さてと、それじゃあ化物が似合わないこと(人助け)しましょうかね。

 




ここ数日でお気に入りやら評価数がえらいことになってる。まさかと思いランキングを見たら日計ランキングが・・・・あ・・ああ・・・・うわあああああああああ(歓喜)

読者の皆さんは私をどうしたいんですか!発狂させたいんですか!?ダイス振りますよ!!?



発狂ダイスロール(リアルで振りました(笑))


1D10 →  9 異常食欲 異様なものを食べたがる



・・・ハワード君、ちょっとこっちいらっしゃい。痛くしないから。君も一回くらいはモグられときなさい。


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第八話

 

 

Side ハワード

 

 

 

 

 さて、シェリー御嬢さんの探索と意気込んで歩き回ってみたが、戦争でもあったかのような破壊痕に早速気力が殺がれそうだ。活性死体の丸焼けや半分硫酸に溶かされた変異体、逆さに吊るされているスキンヘッドとやりたい放題だ。何度も思うが、なんでこんな地獄絵図を作りながら淡々と探索できているんだ、彼女は?こんなの小さな子供が見たら気絶してそうなんだが。ま、まさかもうすでにモグられてこの世にいないなんてオチは・・・。これ以上は考えないようにしよう。

 

 

 道中で面白いB.O.W.に遭遇した。体液の流動を利用して動物のように自立行動する植物で、非常に強力な環境適応能力を持っている。実際抗ウィルス剤を投与したらアンチ抗ウィルス免疫を生み出していた。あれ、もしこいつを小型化して毒素やウィルスしか食べない偏食性を組み込めば、どこでも即座に抗ウィルス剤を作成できる救命装置に出来るのでは?若しくはこの驚異的な水圧制御能力も一緒に再現できれば、類を見ない画期的な透析機を作れるのでは?ペースメーカーみたいに体に埋め込んで、老廃物を捕食しながら血液を循環させたり、はたまた・・・・。いかん、当初の目的を忘れそうになってる。こういう話は後だ。

 

 

 

 

 

 

 それからさらに30分後、いい加減見つからないので最初に捜索していたクレアに聞いてみることにした。え、居場所を知っているのか?知らないなら向こうにアクションを取ってもらうまで。まずは擬態化したB.O.W.を50体ぐらい用意します。その後、軽率に放し飼いしてみます。やっつけられ始めたら現場に向かい・・て早い、もう一匹やられた。上の階か、さっそく行ってみよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 見つかりました、ついでに探し人の方も。想像より遥か上の方向で派手にやってるなあ。理由は不明だが、御嬢さんが気絶していてよかった。幾ら幼いとはいえ少女を片腕で抱えて、片手でショットガンやランチャーぶっ放してる。軽くトラウマものだろう。

 

 

 後人数が増えてる。金髪で警察服に着られている感のある若い青年だ。所持品は軍用オートのアサルトライフルにサブがデザートイーグル、か。なんだろう、どっかの誰かさんで感覚がマヒしてるのか、すごくまともな装備に見える。

 

 

 それはともかく、御嬢さんの容体が非常に悪い。クレアに聞くと、はぐれた際にG生物に寄生されたらしい。ああ、彼女は必ず助けるが、その後の人生が波乱万丈に満ちることが確定してしまった。こうなってしまっては『アレ』を投与するしかないが、それはつまり当初予定していた『G計画』の全てが彼女に施されてしまうということだ。世界中が彼女を求めて暗躍することだろう。

 

 

 

 

 

 

―――――数年前、夫人からアドバイスを求められた。曰く、脳の再生から欠損した人体の再生、さらには老化の遅延まで齎す奇跡の細胞があるとする。しかしそれは生物に投与しても独自に新しい脳を作成してしまい、結局被検体を結果的に死なせてしまう。貴方ならどう解決するか、とね。勿論私はその当時与太話としか思わなかったが、あまりにも真剣な表情をしていたので真面目に答えた。博士はそれ単体による自己完結に拘り過ぎてないか、と。

 強力過ぎるというならいっそのこと抑制剤を投与し、余計なことをしないよう体の中で長期間潜伏させ、その後何らかの外部からの働き掛けで機能の再生なり超人化なりすれば良いではないか。それかインフルエンザの予防接種のように、無害化したその細胞を何度も取り込ませるなんかもアプローチとしてはどうだろうか、という私の回答は夫妻に甚く気に入られた。

 

 

 入社してからはストレートに質問され、『ターブル』や『デュボネ』を提供したこともある。あとは『デュボネ』の臨床実験体もいつの間にかここに移されていた。今はさらに輸送されているみたいだが。これらを加味して生み出されたのが『DEVIL』だ。

 

 

 『DEVIL』は単体では危険すぎる『G』と共に投与することでこれを完全に無害化する。一切死滅させることが出来ず、攻撃性を奪うだけなのが肝だ。そしてそれらは被検体の細胞に取り込まれ、進化の汎用性が失われる代わりにその細胞そのものが種の限界を超越することが出来る。『G計画』の鍵は『G』そのものよりむしろ『DEVIL』の方だといえる。だから夫妻はサンプルをあえて用意しなかったのだ。結果は完全に後手に回っているのだが。

 

 

 

 

 

 そういう訳で、人知れず人外に片足突っ込むこととなってしまったシェリー嬢だが化物というのも存外悪くはないものだ。重要なのは幼い彼女を守る存在、その小さな手を躊躇いなく握り返してくれる存在がいてくれるかどうかだろう。

 

 

 クレアたちに此方の情報を伝え、実験室へと急ぐ。彼女たちには悪いが置き去りにし、姿が見えなくなったころを見計らってタナトスを先行させた。実験室周りの安全確保に向かわせたハンターたちの反応がない。こちらにも相当の数を送ったはずだ、全滅させられるような奴等一体しか思い浮かばない。焦りが募る私の耳に響く轟音、木霊する怒号、そして・・・強烈な血の匂いに頭が真っ白になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 駆け付けた時、彼女は人間にはどうすることもできない状況だった。いや、もう既に私にさえどうすることもできない。出来ることなど、先を急がせたクレア達の代わりに彼女の死に水を取るくらいだ。

 

 

 最初に私の目に飛び込んできたのは、血の海に沈んだ夫人、そして壁にめり込み機能停止したタナトスだった。リミッターが解けていないこれではウィリアムの相手は荷が勝ち過ぎたようだ。だが瞬殺されたとは思えない。周りの壮絶な破壊痕がその証拠だ。彼女には、これが戦っている間に逃げる時間があったはずだ、だがこの場に残ることを選んだ。それが意味することを理解してしまった私は、ただ立ち尽くすしかなかった。

 

 

 

 満身創痍にも拘らず、追い付いたクレアたちからシェリーを受け取った彼女は最後の力を振り絞って『DEVIL』を投与し、娘の温もりを刻みつけるように抱きしめた後、クレアたちに遺言とプラットフォームの鍵を託し彼女達に先を促した。

 

 

 

 

「・・・ごめんなさい。貴方は・・私を助けようとしてくれたのに。きっと助けられたのに、ひどいことをさせてしまったわね」

 

 

 

「―――――――。」

 

 

 

 

「あの人に会って、ようやくわかったわ。自分がどれだけおぞましいものを生み出してしまったのか。そして『神』になりたい偉い人たちは、きっとあらゆる手を使って私からその方法を得てそれを使ってしまう。どれだけ犠牲が出ようと、ね」

 

 

 

「―――――――。」

 

 

 

「それに・・・・・私が生きていたら、シェリーはこれから沢山生み出される超人擬きのサンプルの一つでしかなくなってしまう。けれど、私が死に『DEVIL』がこの世からなくなれば、あの子は替えの利かないたった一人の存在になる。その価値はあの子の安全に必要不可欠で、私が生きていても決して与えられないもの。ふふ、やっぱり私はひどいママよね、あの子に寂しい思いばかりさせて、知らない内にいなくなって・・・そうすることでしかあの子を守れないどうしようもないママ・・・・・。うらまれ・る・・しら・・・ね。それと・・・忘れた・・とおも・・・かし・・・・・ら?」

 

 

 

「―――――――――――。」

 

 

 

「あい・・てる・・・わ、シェリー・・・・・・あり・・・・・とう・・・・・・・・・ハワー・・・・・・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

「―――さようなら、バーキン夫人。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・・・もうここにいる理由もほとんどなくなったな。タナトスの爪からG細胞を入手できたし、ウィルスの方もあの後上の階から誰かが投棄したものを回収できた。後は彼女たちの脱出についてだが、あれだけお膳立てされていれば、彼女達なら心配ないだろう。ん?ああ、そういえばお邪魔虫が一体いたな。あれだけは片付けておこう。

 

 

 

 

Side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side  レオン

 

 

 

 

『ガアアアアアアアッ!!!!!!』

 

「クソッ!男に押し倒される趣味は無いんだよ!!」

 

 

 突然だが、俺、レオン・S・ケネディは今絶体絶命の窮地に立っている。

 

 

 アネット・バーキンに先を促された俺達は道中一切足止めを食うことなくプラットフォーム迄到着した。ただし、前もって伝えられたとおり、電源が通っておらず、このままでは脱出できない。未だ目を覚まさないシェリーをクレアに任せ、俺は電源復旧に奔走し何とか成功させることが出来た。しかし、いざプラットフォームに戻ろうとした途端、あいつが戻ってきやがった。エイダが決死の覚悟で立ち向かい溶鉱炉に落としたあいつが、何食わぬ顔をして戻ってきやがった!そのことに頭が沸騰してしまい、足を止めて銃を乱射、めでたくあいつにぶっ飛ばされたって訳だ。お陰で頭は冷えたが出口と真逆の方に飛ばされ、逃げることも出来なくなった。

 

 

 遮蔽物を最大限活用して逃げ回るが、正直ジリ貧だ。あいつの動きが速すぎてついていけず、壁やコンテナに爪が突き刺さった隙にマグナムをぶち込んでも効いている気がまるでしない。どうすれば良い?自問していると目の前に巨大な長方形の物体が投げ込まれた。

 

『これを使って!!』

 

 

 聞こえてきた声に耳を疑うが、考えている場合じゃない。慌ててその物体――ロケットランチャー――を拾いあいつに向けて発射する。初めて見る飛来物を理解できないのか避ける素振りも見せず、着弾。強烈な爆発音と煙が辺りに充満した。やったぞ、仕留めた!!

 

 

 

 

 

――――そう思ったのも束の間、煙の中からあいつが飛び出してきた。なんて奴だ!?咄嗟に右腕を盾にして退けたのか!!コンマ数秒の差でランチャーを盾にすることが出来たが、突き刺さったそれを俺ごと持ち上げ、そのまま地面に叩き付けられてしまった。そしてそのまま体重をかけて俺を串刺しにしようとする。長くは持たない、ランチャーが悲鳴を上げ今にも突き破られそうだ。いよいよ残り時間が5分を切ったと告げるアナウンス音も加わり焦りと恐怖で頭が真っ白になりかけたその時、確かに聞いた。とてもか細いが、頭にこびりつくようなその『鳴き声』。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『――――テケリ・リ、テケリ。

―――――――テケリテケリテケリ・リ、テケリ。』

 

 

 

 

 

 あいつが飛び跳ねるように下がる、がしかしまるで地面が奴を飲み込むようにあいつの足を沈めていく。そしていつの間にか真っ黒に染まっていた壁が、床が、天井が、ゆっくりとあいつに伸びていき、塗りつぶすように包み込んだ。くぐもって聞こえ辛いが断末魔のような叫び、そして嬲るように味わうような咀嚼音が絶えず伝わってくる。

 

 

 あまりの光景に言葉を失っていると不意に後ろに気配を感じた。振り向くと、つい先ほど見知った人物が立っていた。クレアと共に警察署にたどり着いたという、ハワードという謎の多い青年だ。ここは危険だと、早く逃げるよう伝えようとするが、それを制するように

 

 

 

 

「あれは私が引き受ける。丁度八つ当たりの相手を探していた所だ」

 

 

 

 

 などと言い、固まっていた俺の胸倉をつかむと信じられないような力で出口まで放り投げられた。動転して碌に受け身も取れずに転がる俺に向けて言葉を続ける

 

 

 

 

「もう一方のストーカーはクレアが片づけたが、直降りてくる。早く逃げたほうが良い、ああ、私は別に手段があるから気にせず行きたまえ」

 

 

 

 

 状況にそぐわない余裕に満ちた言葉だが、有無を言わさない迫力があった。それに加え、彼の体からも伸びるコールタールの様な『ナニカ』が言いようのない恐怖をレオンに与え、本能に従った彼はその場を後にした。この世のものとは思えない苦痛に満ちた絶叫を背に受けながら・・・・・。

 




ここまでご覧いただきありがとうございました。感想・批評・その他いつでも大歓迎です!

次回でいよいよラクーン編も終了(予定)です。


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第九話

骸骨王 様、244 様、c+java 様、メイトリクス 様、黄金拍車 様、あっきの王様 様、誤字脱字報告ありがとうございます!


 Side ハワード

 

 

 

 

 さて、と。研究所でリミッターの外れたタイラントをモグった後、私は再び街中へと戻り、夜も明けていたので少し休むことにする。まあ、こんなびっくりボディだから大して必要ではないが、気分的なものだ。

 

 

 そういう事で手近なホテルに入ってみた。ちなみに自宅は焼け落ちていたため使えない。どうやらどこかの誰かが不法侵入をした形跡があったが、残念ながらあそこには大したものは置いていない。防犯対策が施してあるくらいだ。なあに、ちょっとした嫌がらせにハンターをほんの1000体ほど敷き詰めてあっただけだ。きっと阿鼻叫喚のタランテラを夜通し踊ってくれたことだろう。

 

 

 しかし、いつからラクーンは紛争地帯になったのかな?そこかしこで一般では買えない火器をもった怪しい覆面の死体が転がっていたり、地面が薬莢まみれだったり。それに相対するようにして転がる軍人らしき服装の連中も。確か民間人の救助が仕事だろうに、こんな地獄の一丁目に来てまで人間同士でドンパチしなくても良いものを。

 

 

 それはさておき、ホテルを上がっていくと奇妙なクリムゾンヘッドに出くわした。何故かこちらを認識しても襲って来ず、近づいても無反応である。特殊な変異かと観察していると、視界の端に傷一つない扉が見え、そちらに向かうと一転凄まじい唸り声を上げて突っ込んできた。まあ、今更こんなのに後れを取る筈もなく、貴重なサンプルを提供していただいたが。非常に興味深いサンプルだがとりあえず後回しだ、活性死体に守られた、恐らく世界に一つだけの一室へと入室させてもらおう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・あら、人生最後のお客様は随分若い人なのね。おもてなしをしてあげたいところだけど、この足じゃ御出迎えも出来ないのよ、ごめんなさいね」

 

 

 

 驚いた。バイオハザードが発生して既に2日は経過している。目の前の女性の様な非戦闘員がまだ生きているとは。それに身に着けているものも至って普通で、あの不愉快な赤白ツートンのロゴが付いたものは見当たらない。ということはさっきのアレは自然発生した代物、という事か。何がアレを突き動かしたのか、興味の湧いた私はここで休息ついでに話を聞いてみることにした。

 

 

 

 

「ここには出張があって来たの、夫と一緒にね。あの人は迷惑をかけないためと言って出て行ってしまったきり、水臭い話よね。この足じゃどうしようもないし、誰かの足手纏いになるわけにもいかないのだから一緒に連れて行ってくれたら良いのに」

 

 

 

 

 ひとまず傍にあったティーセットで紅茶を入れてやり、聞き役をしている。どうやらご主人がアンブレラの表の顔の関係者らしく、U.S.S.その他の搬入のカモフラージュに使われたようだ。名前や写真も見せてもらったが、予想通り表にいたアレと同一人物だった。そして先程から話題に上がる彼女の足についてだが・・・まあひどいの一言だ。ガッツリ食い千切られており、とてもではないが歩けそうにはない。十人に一人の先天的抗体を持っていたようで変異はしていないが、これではとても不幸中の幸いとは言えない。

 

 

 

 

「きっとあなたにはここから出られる手段があるのでしょ?だって少しも焦っていないもの。ああ、連れて行ってほしいなんて図々しいこという心算じゃないの。ただ、もしあなたが此処から出られるのなら、これを私の娘に渡してほしいの」

 

 

 

 

・・・・・・・。

 

 

 

 

「もう13歳にもなるのに仕事にかまけて碌に思い出も作ってやれなくて、この時計くらいしかないの。あの子の誕生日の記念にあの人にもらったもので、小さいころあの子に、メラに欲しいって散々泣かれちゃって・・・。こんなことになるとわかっていたら、もっとあの子と向き合ってあげたらよかった。だからあの子に、ひどいお母さんでごめんねって伝えて・・・ああ、充分図々しいお願いね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side ジル

 

 

 あの悪夢の一夜から数日後、あのクソ署長に謹慎を申し渡されてから私たちは話し合い、行動を開始した。署内の説得はエンリコに任せ、リチャードとブラッドはみんなで破産覚悟で放出した貯蓄を使って知る限りの銃砲店に大量の発注をかけ、わたしは改めてこの街を散策し、使えそうな裏路地や近道を調べ直した。あの悪夢は何も終わっていない、それが私たちの共通解だったから。

 

 

 そもそも通報があったのは山脈の麓の猟奇殺人、でも事件の中心は山奥の洋館。この時点でかなりの距離があり、ウィルスが相当の距離で流出していたことが分かる。あの洋館が吹き飛んだからと言って何一つ安心できるはずもない。もう一つは、この街はアンブレラに何もかもを依存していたから、連中の暗部があれだけだったとは限らないからだ。そう遠くない内に再び惨劇が起こるだろう、そのための準備だった。あの馴染みのロバートが、戦争でもやる気かと真っ青になるくらい注文してしまったが。ほとんどが独身なせいで軍資金が思った以上に集まってしまったし、隠し場所として戻る予定のないバリーの家を全部屋使えると思って大人買いしてしまった。

 

 

 丁度全品揃い、2、3日後には受け取りに行くという時にこの事態に陥ってしまった。まさかこんなに早くことが起こってしまうとは思わなかった。全員それぞれが発注した店からもてるだけの武器を受け取り、残りは無償提供してから警察署で合流した。多少のいざこざはあったが無事一丸となってゾンビを撃退、多くの仲間や生き残りを逃がすことが出来た。通信機担当のリチャードがいてくれたことが大きかった。お陰で何とか外と連絡が取れ、脱出路を確保することが出来たのだから。

 

 

 ただ、併せて最悪の情報も入った。偶然入った周波数から得た、S.T.A.R.S.抹殺に実験体を送り込んだ、というものだ。そこで護送車はリチャードとブラッドに任せ、私はあえて目立つように単独行動をとることで警察署から注意をそらすことにした。そのおかげか、あの気味の悪いデカブツを惹きつけることが出来たのだが、予想以上のしつこいストーキングの所為で警察署に戻れなくなってしまった。約束の時間はもうすぐだが、このままあいつまで誘導してしまうと、最悪皆殺しにされかねない。特にあのロケットランチャーでヘリを撃墜されたら私たちは完全に詰んでしまう。

 

 

 幸い途中で出会った元U.B.C.S.のカルロス・オリヴェイラと特殊部隊らしき軍人たちの協力もあり、何とか撒くことが出来た。だが、今度は早く警察署に到着しないと、あいつが私を先回りするために警察署に向かったとしたら結局同じことになってしまう。どうしたものかと二人で思案していた所に、偶然引き返していたブラッドたちの護送車と再度合流することが出来た。良かった、囮になるときに持ってこられなかった銃火器も詰まれており、もしあいつと遭遇しても最悪、あのランチャーさえ潰すことが出来れば逃げられる。そう思いながら車内で休んでいると、突然豪雨のような衝撃に揺さぶられた。

 

 

 覗き窓から様子を窺うと、目を疑うような光景が映った。どうやったかは知らないが、車で走行する私たちを先回りし、あの時は持っていなかったガトリングガンを掃射してきていたのだ。そしてドラマのように車輪を打ち抜かれ、制御もままならず護送車は横転してしまった。慌てて全員外に脱出できたが直後、ロケット弾を撃ち込まれ、車は爆発四散してしまった。考えうる限り最悪の状況だ、今もガトリングで牽制され、遮蔽物に隠れればまたランチャーで燻りだされる。

 

 

 まずい、早く何とかしないと。ブラッドはもう限界だ。いつ発狂しても可笑しくない。リチャードも脱出時に腕を怪我してしまったらしく、愛銃のショットガンを構えることも出来ていない。このままだと、わたしを含めて誰かが馬鹿な行動に出かねない。それにこれだけ騒げばゾンビが寄ってきてしまい、ますます悪い状況に・・・・・・・?

 

 

 おかしい。これだけあいつが騒ぎ立てているのに一匹たりとも出てこない。近くにいないというより、一掃されてもう残ってないかのような・・。

 

 

 

「ジル!何をやってる、離れろ!!」

 

 

 カルロスの声で現実に呼び戻されると、目の前まであいつが来ていた。一瞬でも意識を逸らすなんて何を考えているの、私は!?

 

 

 ああ、この距離と角度じゃ避けようがないわね。ごめんなさい、クリス、バリー、エンリコ・・・・。私は合流できそうにないわ。あなた達は無事に・・!

 

 

 せめてブラッドたちだけでも逃がそうとマシンピストルをあいつの頭に掃射する。まったく応える様子もないが、これで少しは狙いが逸れるかもしれない。リチャードにアイコンタクトを送り、一分一秒でも時間を稼ごうと発砲を止めないでいるが、無情にもガトリングは回転し始めそして・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『テケリ・リ、テケリ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突如横から飛び出してきた『ナニカ』にとびかかられ、路地の奥に諸共に消えていった。一瞬だった所為で、いや、一瞬だったお陰で分からなかったけど、今のは一体・・・・?

 

 

 

 

「随分騒がしいから来てみれば、また懐かしい顔に会えたな」

 

 

 

 後ろから突然聞こえてきた声に驚いて振り向いたが、あまりの光景に言葉が出なかった。ここに、いや、この世界にいるはずのない男がいた。それだけならまだ良い、隣りに見知らぬ中年女性を連れているのもまだ理解できる。けれど・・・・、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

巨大なカンガルーのポケットに入って移動してるとか、どう反応すれば良いっていうの!!

 

 

 なんで化物なんかと仲良く・・・・・してたわね、そういえば。初めて会った時も爬虫類やらリッカーやらを引き連れていたっけ。もういろんなことがあり過ぎて頭がパンクしそう・・・・・・。

 

 

Side out

 

 

 

 

 

 

 

 

Side ハワード

 

 

 最新式のB.O.W.のサンプル欲しさに顔馴染を助けたら全力で呆れられた。解せぬ。いや、他に怪我人を輸送するのにちょうど良い奴がいなかったからしょうがないだろう。四足動物は慣れてないと間違いなく振り落されるし、タイラントは大して足早くないし。

 

 

 ああそれから、安心してるとこ悪いが、早く警察署に向かわないとまた追いつかれるぞ、逃げられたから。

 

 

「はあ!?つうかあいつを持っていったやつは何なんだよ!!あいつの方がよっぽどヤバそうじゃねえか。あんなのについてこられちゃ脱出できないだろ!!」

 

 

 うん?風貌から察するにU.B.C.S.か。なんでこんなところに一人でいるのかは知らんが、まあ良いか。あれは人間は襲わないから気にしなくて良いぞ。あ、質問は受け付けないのであしからず。

 

 

「ちょっと待て!こっちは聞きたいことが山ほどあるんd「カルロス!この男は危険だわ。変に機嫌を損ねないで!!それで、あいつが逃げたっていうのは本当?」・・・チッ!」

 

 

 ・・・・・・まあ、うん。元U.B.C.S.なら私の顔を知っていても不思議じゃないし、この騒動に気が立っているのもわかるが、くれぐれもその筒先をこちらに向けてくれるなよ。殺意を突き付けられて笑って赦すほど私は御人好しでもないし、人間賛歌を謳っているわけでもないからね。

 

 

 それは置いといて、さっきの触手男なら齧り付かれた腕ごとロケットで吹き飛ばして逃げて行ったぞ。ネメシス、か。B.O.W.最大の欠点である短絡的な判断力を克服したのは魅力的だが、タイラント最大の売りであるリミッターの開放が出来ないのは大きな失点だな。

片腕じゃあの武装も役に立たんだろうし、もう大した脅威じゃないだろうな。

 

 

 

「・・・そう、詳しいことは聞かないでおくわ。有難う、助かったわ。お陰で何とか脱出できそう」

 

 

 

 それは結構。ここからは大した障害もないだろうし、警察署内や周辺は(クレアが)片づけてあるから問題ないだろう。私は『Pipipipi!!』・・?無線か。

 

 

 

 

『HQ、こちらチャーリー8。救援要請をしてきたレオン・S・ケネディ他2名の民間人をロンズデール・トレインヤードにて保護。しかし、アンブレラのU.S.S.と思わしき部隊と交戦中!何とか応戦しているがあまり持ちそうにない。精鋭と思われる小隊が強過ぎる!!至急応援を寄越してくれ!!』

 

 

『こちらHQ、アルファ3、ブラヴォー7は大量の人型B.O.W.と交戦し壊滅した。エコー6も変異した人型B.O.W.に足止めされていて身動きが取れない今、お前たちしか戦力は残されていない。エコー6が到着するまで、何とかして食い止めてくれ!』

 

 

 

 

Side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時間:30分後

場所:ロンズデール・トレインヤード

 

 

 

 スペックオプス、U.S.S.、そしてゾンビの軍勢。

 三つ巴の争いは銃声に悲鳴、爆発音が絶えない阿鼻叫喚の有様となったが、今はそれが数分前まで続いていたとは思えないほどの静寂に包まれている。

 

 

 夥しいほどの屍によって埋め尽くされた戦場に最後まで立っていたのはU.S.S.―――その最精鋭ともいうべきウルフパックだけであった。戦いの中心であったレオン達は傷つき倒れ伏している。数年後の未来ならいざ知らず、今現在は運を味方につけた戦争素人に過ぎず、BC兵のフォーアイズが放った感染速度を異常強化したTウィルスによってスペックオプス――チャーリー部隊長が戦死し総崩れとなった時点で彼らの敗北は決定した。ちなみに最後まで立ち向かっていたのは言うまでもなくクレアであり、彼女の奮闘によって工作兵ベルトウェイは義足を破壊され、抑え込んだベクターも浅くない傷を負うこととなった。

 

 

 

 戦場は完全に沈黙し、後は任務を遂行するのみ。その筈であった彼らは今、部隊崩壊の危機に直面していた。発端はレオンが苦し紛れにはなった言葉、そして彼らが本部より受けた仕打ちが其れに拍車をかけた。本部の裏切りにより両者の関係は最悪まで冷え切った。そしてそんな自分たちは彼らのアキレス腱を知り過ぎている。仮にレオン達を始末しここを脱出したとしても、遠くない未来で消されるのではないか?特にリーダーのルポ、偵察兵ベクター、そして衛生兵バーサはそう危惧している。

 

 

 ところが、それに待ったをかけたのがベルトウェイ、フォーアイズ、通信兵スペクターだ。レオン達の命は交渉材料としての価値が低い。Gウィルスを本部が手にしていた場合、シェリーの価値も不透明だ。

 

 

 そしてこの3人は癖の強いウルフパックの中でも特に社会不適合者の側面が強い。彼らはアンブレラを選んだのではなく、アンブレラくらいしか流れ着くところがなかったのだ。どうせ連中との信頼など元から皆無。路頭に迷い野垂れ死ぬくらいなら兵士として使い潰される方がまだマシだ。

 

 

 そうした理由で意見が真っ向から割れてしまい、長時間続いた極度のストレスが歴戦の戦士たる彼らを追い詰めた結果、一触即発の事態となってしまった。ほんの僅かな切欠で殺し合いが始まる・・・そんな時、後方から突然気配を感じ全員が振り返った。

 

 

 

 

「おや、この距離で気付かれるか。流石はあの漁村から帰還した精鋭たちだ。勘の鋭さが違う」

 

 

 

 

 そこにいたのは過日、自分たちに素敵な贈り物をしてくれた人物―――本部より、万が一生きていたのなら優先的に確保しろと通達のあったハワード・オールドマンであった。

 

 

 

「貴方は・・ミスター・オールドマン。お会いできて光栄だわ」

 

 

 

 真っ先に反応したのはフォーアイズだった。彼女は長年Tウィルスやそれに関係する多数の商品に触れてきた。その中でも彼が作り出したものはそれらの中でも随一だ。特に彼女の代名詞ともいえるゾンビやB.O.W.を支配下に置くあの薬も彼の作品だ。人間に興味のない彼女でも彼には一目置いていた。

 

 

 他にも彼に好意的なのはルポとベクターだ。今や彼らにとってハワードの作品は生命線といっても過言ではない。クールタイムが必要だが何度でも使える強力な防弾アーマーとなる「ビーフィーター」やハンター亜種をモチーフとした光学迷彩細胞「クラマト」には何度も命を救われてきたのだ。

 

 

 

「それで、天才工学者様がこんな血腥いところまで何の御用で?俺たちの手柄になりに来て下さったのかな?」

 

 

 

 おどけた調子で話しかけるベルトウェイだが、警戒心を強めてもいた。こんな街外れに用もなく来るはずもない、だがそうであるのならつい先ほどまで激戦区であったことも知っているはず。なのに丸腰でいることもそうだが、傷どころか汚れ一つない姿が気になって仕方がない。

 

 

 

「ここに来たのは、極めて優秀な諸君と是非交渉がしたいと思ってね。ただ、君たちには重大な懸念があるようだから、まずはそれから処理することにしよう」

 

 

 

 その一言にウルフパックの面々は目の色を変えた。自分たちの消耗具合から、どういう状況で何を最低限求めるのかは察しが付くはず。そのうえで交渉がしたい、といったのだ。彼らはハワードの言葉に強く惹きつけられた。

 

 

 

「・・・続けてちょうだい」

 

 

「ではまず、わたしはGに関する、極めて重要な情報を持っている。それにアンブレラの連中が回収できなかった特効薬やタナトスのサンプルも手中に納めている。どうかな?私の命には十分価値があるだろう?これらを理由に改めて本部と連絡を取ってみると良い。それで連中が大棚か泥船か判断がつくだろう」

 

 

「・・・まて、その情報の確度が知りたい。特効薬とやらについては判断できない、情報について少し聞かせてくれ」

 

 

 

 スペクターが本部と連絡を取る前に確証を欲しがった。彼のサーモグラフィーは心音も測定できるため、嘘発見器としても利用できる。それで事実か否かを知ろうとした。

 

 

 

「ふむ、じゃあ触りだけ教えよう。『G』はそれ単体では欠陥品だ。別のとある薬と併用することではじめて人知を超えた奇跡を起こせる。残念ながらその薬についての情報はバーキン博士の研究所と共に火の海の中だ。今や私の頭にしか『作り方』は存在しない」

 

 

「どうだ、スペクター?」

 

 

「心音に乱れはない、恐らく真実だ。ただ、妙なノイズが・・・?」

 

 

 

 確証を得たことで憂いのなくなったウルフパックは改めて本部に連絡を取り仔細を報告、交渉に臨んだ。ところが、本部からの返答は呆れるほど杜撰で無価値なものであった。今、間違いなく主導権はウルフパックにある。語気を荒げてしまったが、一度見殺しにしようとしたことを鑑みれば致し方ないだろう。

 

 

 しかし、本部からの返事は生き残りたければさっさと任務を完了させろ、貴様らと交渉等するはずもない、の一点張りである。これを受けてベルトウェイたちも完全にアンブレラを見限った。本部は今人手不足で、適当なクレーム窓口を引き抜いてきたのかと本気で思った位だ。

 

 

 

「さて、これでここにいるメンバーの意見は改めて一致したことだろう。交渉を始めたい。私が望むのは、君たちとの雇用契約だ。私は残念ながらこと戦闘に関しては素人だ。兵力はあってもそれを効果的に運用できない。そこで君たちの力を借りたい。対価として用意できるのは、まずは脱出手段、それから先ほど言っていた報酬の三倍と同額の金銭だ」

 

 

 

 そういって指を鳴らすと、遠くから巨大な箱を担いだタイラントがゆっくりこちらに近づいてきた。咄嗟に身構えるウルフパックだが、ハワードが制止したため銃を下した。

 

だが、箱を置いた瞬間タイラントの体がぐにゃりと歪み、どんどん膨らんでいったかと思えばヘリへと姿を変えた為、全員が普段の冷静さを忘れて驚くこととなった。バーサは気付け薬を打ち自身の正気を確かめ、ベクターは夢か幻覚かと疑い指をナイフで少し切り、フォーアイズは子供のように目を輝かせヘリに飛びつき、サンプル欲しさに解体しようとして他の隊員に取り押さえられていた。落ち着くまで10分ほど時間を費やした。

 

 

 

「・・・落ち着いてきたかな?じゃあ話を戻そうか。その箱に入っているのは君たちへの報酬と当座の資金だ。どうせ戦略核兵器で焼き払うんだからと思って、ラクーン中の銀行から頂戴してきた紙幣とその他諸々、といったところだ。君らへの契約金は十分払えると思う。それに足りないなら足りないで当てもあることだし」

 

 

 

「・・・・・・・アンブレラの傑作に銀行強盗させるのは貴方くらいよ」

 

 

「強盗とは人聞きの悪い。必要のないところから持って行くだけさ。それはともかく、他に要望があれば聞くが?」

 

 

 

「俺の要求は一つだ、アンブレラの喉笛を噛み千切る。それさえ叶えてくれれば問題ない」

 

 

「右に同じだ」

 

 

「わたしも」

 

 

「私もだ。貴方に着いていけばもっと新しいものを見せてもらえそう」

 

 

「・・・特にない。十分な報酬と、俺が必要な戦場があれば問題ない」

 

 

「私は・・・私の子供たちが奴らのそばで取り残されている。あの子たちを救ってくれるなら私は貴方に忠誠を誓おう。」

 

 

「・・・わかった、契約成立だ。私としてもアンブレラの存在は邪魔以外の何物でもない。君たちとは長く友好な付き合いでありたいと思う。

 さて、そうと決まればもうここに用はない。さっさと脱出するとしようか」

 

 

 

 

 

 

 

 こうして彼らは悪夢の街から姿を消した。アンブレラやアメリカ政府に尻尾を掴ませず目的を達成したハワードは早速行動を開始した。まず手始めに、袖擦りあった縁に対してのアフターケア。それが済むと部下たちと共に、アンブレラに報復の牙を突き立てた。それはラクーンシティがこの世界から消え去ってから、わずか2か月後の事だった。

 




これにてラクーンシティ編終了です。これからオリ話はさんでから「コード=ベロニカ」に入っていきます。


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閑話 アフリカ強襲編
第十話


 

 

 

 

 

 

 

『滅菌作戦』から1か月後―――。

 

 

 

 

 

『―――主よ、永遠の安息を彼に与え給え。絶えざる光を彼の上に照らし給え。

 

――――――――――――――――――――エイメン。』

 

 

 

 

 

 

 その葬儀は寂しさを感じさせるものだった。参列したのは親族の他には数えるほどもいない。しかしそれも仕方がないかもしれない。

 

 

 ラクーン事件からさほど経過しておらず、そのほとんどが政府によって闇に葬られた。周りからすれば、出張から帰って直に葬儀を上げようとした彼女たちが奇異なものに見えたことだろう。

 

 

 

「・・この度は、葬儀の段取りから何まで本当にお世話になりました。」

 

 

 

 そういって青年に頭を下げる女性と少女の親子。彼らの後ろにはとても堅気には見えない6人組が周囲に目を光らせており、もし参列者が此処に残っていれば何か事件でもあったかと思うだろう。

 

 

 

「いえ、これからはこちらもお世話になりますからね。このくらいは当然でしょう。我々は血腥いばかりで、子育ては専門外ですから」

 

 

「けど・・私なんかで良いのかしら。この子と碌に向き合ってこなかった私なんかより―――。」

 

 

「じゃあ、これからやり直せばよいでしょ?」

 

 

 

 俯く女性の裾を掴み、縋り付くようにしながら少女が言う。

 

 

 

「パパだけ仲間外れにしちゃうけど、きっと許してくれるよね?」

 

 

 

 そういって涙を目に浮かべながらも懸命に堪える娘に耐えきれず、女性は少女を抱きしめ嗚咽を漏らす。そうして二人で抱きしめ合い一頻り泣いた後、改めて青年の方に向かい合った。

 

 

 

「ごめんなさい、取り乱してしまって。それから、娘共々お世話になります」

 

 

「ああ、承知した。連中はもちろん、ラクーンでの人命救助に事実上失敗した政府にとっても、いまや生存者というのは不穏分子だ。何をしてくるかわからん。君たちの安全は私が請け負う、落ち着くまで何かと苦労は掛けるがしばらくの辛抱だ」

 

 

 

 ラクーンシティでの事件は、当初何故か街に銃火器が氾濫しており、生存者たちが果敢に戦っていたこともあり当初は生き残りも多く、救助は順調に行われていた。ところが、その事態に業を煮やしたアンブレラ上層部は大量のB.O.W.を投下、形勢は一気に逆転し生存者たちは救出部隊共々壊滅した。『G』の回収を読まれ複数のタイラントに待ち伏せされたり、シェリーの確保に部隊を多く回されたことも原因の一つと言えよう。

 

 

 そういった諸々の事情もあり、実質的に人命救助に失敗してしまったため、政府にとってもラクーンの惨劇は秘匿されるべき事柄となってしまった。アンブレラに全責任を負わせたくとも、ウィルス回収を優先した事実を証拠映像つきで押えられてしまい、またB.O.W.の顧客名簿に政府も名を連ねていることの公表を脅迫材料に上げられたことで、政府はアンブレラの後始末に奔走する羽目になった。それ故、数少ない生存者たちの動向は非常にデリケートな問題になってしまったのだ。

 

 

 

「・・・あの、お願いがあります」

 

 

 

 少女が青年に真直ぐ目を合わせて口を開く。

 

 

 

「私にパパの仇を討つ力をください!」

 

 

「メラッ!?何を言っているのかわかっているの!!」

 

 

「これに書いてる人たちが私達のパパを殺したんでしょ!?こんなもの送りつけて!!!?」

 

 

 

 そういってポケットから一つの封筒を取り出し地面に叩き付ける。それは香典だった。子供ながらあらん限りの力で握りしめたからか、ぐしゃぐしゃに捩れている。表書きには「アンブレラコーポレーションズ」とある。一体どの面を下げて送って来たのか、しかも香典にしてはあり得ないくらい膨らんでいる。口止めのつもりなのか、そのやり口にこの場の全員が嫌悪で顔を歪めた。

 

 

 

「あいつらにとってパパの命はこんなもので代わりになるの!?ビーオーダブリューとかよくわかんないけど、そんなものの為にパパは死ななきゃいけなかったの!?私は許せない、あいつらに、パパや色んな人を犠牲にしたおかげで食べていける、なんて言われ続けると思うと頭がおかしくなりそう!!?」

 

 

 

 とても幼子の口から出たとは思えない慟哭に、少女の母は二の句が告げないでいる。青年の方は冷めた表情であるが。

 

 

 

「・・・うーん。復讐も生き方の一つだから止めはしないが、うちは頭の螺子が飛んだ奴ばかりだから、一般人の君がついてこられるよう、なんて気の利いたことは出来ない。恐らく見込みがないと思われれば途中で投げ出されるだろうね。それでもやるかい?」

 

 

「・・・・喰らい付きます」

 

 

「そんな!?ハワードさん、貴方からも止め―――」

 

 

「止めたところで彼女は遅かれ早かれ此方側に飛び込むだろう。そうなってから自分の素質の有無に気付いたところで遅い。それなら早い内にこれから彼女が向き合う地獄を見せたほうが良い。

 だから、次の作戦に君も参加しなさい。ああ、安心してください。約束通り、彼女が私の手を離れ一人で生きていけるようになるまでは身の安全は保障します。

 メラ、もし君がアレを見て、その後でも同じ啖呵が吐けるなら、私が出来る限りは教えよう。最も、私はウィルス学は専門外だから、奴らの殺し方や生態位だが」

 

 

「・・・・・・はい、わかりました」

 

 

「メラ・・・・・」

 

 

「ハワード先生、ところで次の作戦とは?」

 

 

「詳しい話は知る必要はない。あまり聞いてて楽しい話題でもないしね。ちょっと連中の急所を抉ってやろうって話さ。場所もここからそう遠くはない。目的地は・・・・・アフリカだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所:アフリカ某所 反政府ゲリラ拠点

 

 

 

 

 

 

「――――遠路遥々ご足労頂き感謝します。こちらが我々組織のメンバーです。そちら、えっと・・・」

 

 

「・・?ああ、そうか。もうあまり本名を名乗るのも不味いか。そうですね、『ショゴス』とでも呼んでください。今回の作戦はあなた方なしでは語れません。ご協力感謝します」

 

 

 

 そういってゲリラのリーダーと思わしき男性と握手を交わすハワード。周りの連中はウルフパックの血腥さと、その後ろに控える連中やハワードの素人染みた気配の落差に不信感を抱いている様子だ。

 

 

 

「正直俺達も手詰まりで、背に腹は代えられないかってとこまで追い詰められてたんだ。あんたらの申し出はまさしく渡りに船ってやつだ、感謝するのはこっちの方だよ」

 

 

 

 周囲のメンバーと異なり、諸手を挙げてハワードたちを歓迎するリーダーは人好きのする顔で、ゲリラをやっていなければどこかで教師でもしていそうな雰囲気を纏っている。

 

 

 

「ところで・・今更蒸し返すのも失礼なんですが、なぜ我々の要請に応えて頂けたんですか?罠か若しくは質の悪い悪戯かと流されるのも覚悟していたんですが」

 

 

「おいおい、知らぬは本人ばかりなり、てか?あんた達、こっち側じゃエライ金額の賞金が懸ってるんだぜ?それにあんたらが寄越したラクーンに関する証拠映像、ありゃあどこにも出回ってない代物だ。間違っても連中が外に出したい情報じゃねえ。こりゃ罠なんかじゃねえなと思ったわけだ。それに、アンタらが俺たちに求めたのは情報だけだ、こっちは損失は何も出ちゃいねえ。それであのクソ会社に大なり小なり傷を負わせられれば冥利に尽きるってもんよ」

 

 

「しかし、貴方方がこれまで駆けずり回って得た、宝ともいえる情報でしょう。それに『トライセル』への働き掛けも・・・・」

 

 

 

 言葉を続けようとしたハワードを、手を翳して制する。その表情はさっきまでの穏やかさとかけ離れた、覚悟を秘めた漢の顔だった。

 

 

 

「俺達は反政府ゲリラだって言われちゃいるが、正直なところ政府にはそこまでの悪感情はねえ。ただ、あの死の商人どもの好き勝手にされてるところだけは憎たらしいがな。まあ、仕方がねえとこもあるってのは頭では理解してる。何せこの国の薬と包帯を全部握られちまってんじゃなあ」

 

 

 

 そう、このアフリカという国は、アンブレラに半ば私物化されてしまっている。彼らは知る由もないが、このアフリカこそが、アンブレラ発祥のルーツと言って過言ではない。ンディバヤ族という奥地の民族の聖地に群生する花、これこそがTウィルスの原点である『始祖ウィルス』なのだ。これを得たことで、製薬企業アンブレラは始まったのだ。

 

 

 しかし、アンブレラが巨大化し、兵器・製薬の両分野で台頭すると、当然ライバル会社はその成長の理由を探りに来る。そんな時、ンディバヤ族の土地周辺だけ手を出していれば当然ばれる。そこで、カモフラージュとTウィルスの独占も兼ねてアフリカ全土に影響力を持つことにした。

 

 

 一国の軍隊にも比肩する私設軍事組織すら有し、アメリカ政府とも直結しているアンブレラに、唯の商会や医療関係組織が歯が立つ訳もなく、表向きは企業競争という形で、裏では暗殺・誘拐・薬害を偽造し訴訟を起こすなど、手段を選ばず対立組織を消していき、ついにアフリカの医療業界はアンブレラに占領されることとなった。当然アフリカ政府はアメリカに抗議を行ったが、黙殺されて終わった。今となっては笑い話だが、この当時アメリカ政府はアンブレラを自分たちの傘下企業程度に思っており、その傘下企業がアフリカ政府を屈服させている状況はアメリカにとって有益であると見做していたのだ。何か不都合があればアンブレラに責任を擦り付け、自分たちは甘い汁を啜っていけると。

 

 

 こうしてアフリカはアンブレラの玩具と成り果てた。彼らも当然状況を打破しようとしたが、そのたびに国家不安定化工作を仕掛けられ急激な医薬品不足に陥り、その不満が全て政府に向くよう工作されてしまった。ウィルス漏洩も政府に揉み消させ、アメリカに有利な条件ばかり飲まされる現状にゲリラたちの不満は爆発寸前になっているのだ。

 

 

「ここにいる連中は、あいつらに家族を奪われ、故郷を更地にされたやつがほとんどだ。あいつらを追い出し、自分のしてきたことの報いを受けさせられるなら命すら惜しくないって奴ばかりなんだ。だがここまで、何一つ報いてやれなかった。

いまが、今だけが最後のチャンスなんだ。ラクーン事件で屋台骨が揺らぎ、アメリカ政府とも関係が悪化したこの瞬間が最後の好機だ。ここで奴らの裏の顔が暴露されれば、奴等への致命的な一撃になる。そのためなら俺達が憎くて憎くて仕方がないバイオテロにだって手を染めてやる、そんなとこまできちまってたんだ。

そんな時にあんたらから連絡がもらえたんだ。しかも言うとおりにして欲しい情報をくれてやれば、あいつらをこの国から追い出してくれるって言って。俺たちの悲願を叶えてくれるってんだ、そりゃ何でもするさ俺達は。ダメだったらその時は俺達が世界の悪になって死んでやろうってみんなで言ってんのさ。だから頼む!どうかあいつらに思い知らせてやってくれ!!」

 

 

 そういって額を机にこすり付けんばかりに頭を下げるリーダー。周りを見ればそこにいる誰もが此方に縋るように各々懇願している。そこに奥からたくさんの資料を持った人物が入り机に置いていく。断ってそれらをフォーアイズとバーサに見せる。

 

 

 

「どうだ、使えそうか?」

 

 

「・・・・これは素敵だわ。良くここまで集めたものね。これだけあれば普通ならホワイトハウスだって黙って慰謝料出すわよ?」

 

 

「―――上出来。これなら十分時間を稼げる」

 

 

「よし。それじゃあ次、連中の最重要機密であるアフリカ研究所の在処だ」

 

 

 

 そう尋ねると、リーダーが側近らしき人物に目配せし、奥の方から一人の少女を呼びつけた。

 

 

 

「その施設は情報操作に情報規制を重ね掛け、周辺にも相当な警備システムを施してある。そこを特定するために14年を費やし、168人の部下が死んだ。そして唯一そこに至るまでの道を確保できたのが彼女だ」

 

 

「よし、じゃあ君はあっちのフードみたいなのを被った部下と一緒に行動してもらうよ。えっと・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「初めまして、私はシェバ、シェバ・アローマよ。今回の作戦、必ず成功させましょう!」

 




ここまで読んでいただきありがとうございました。

今回はかなり独自設定が入ってしまいましたが、アンブレラと『ファミリー』とかいう秘密組織が牛耳ってるアメリカがあるこの世界ならありかな、と思います。


それから、たぶん今回が2017年最後の更新となります。皆様もよいお年を!


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第十一話

明けましておめでとうございます!今年もよろしくお願いします!!



 

 

 

 

 

 場所:アンブレラコーポレーション アフリカ支社

 

 

 

 

 

「―――――以上の物的証拠から、御社が行っている事業及びそれに付随する行為は、環境・人道・国際法規その他諸々の観点から逸脱していると言わざるを得ない。これらすべてに対する説明、改善、そして賠償の責任は御社にある。納得のいく回答をいただきたい」

 

 

「・・・・ミス・シュナイダー、それからミス、えー、ヤマタ?我々の活動等は、全てアフリカ政府による許可と承認によって行われております。政府によって一切の犯罪性は認められないとされている以上、我々にはあなた方に説明する義務は存在しない。このことはあなた方の遥かに上の諸先輩方に既にお伝えしているはずです」

 

 

 

 

 来賓室にて部下とともに応対していたアフリカ支社長は不快感を隠そうともせず、踏ん反り返りながらそう回答した。ラクーンでの本部の失態から、この手の原住民の押し掛けが活発となり、耳障りなので本社を通じて政府に圧力を掛けた矢先の出来事だったからである。

 

 

 そもそも彼は今の立場に不満を持っていた。アフリカ支社の幹部経験者は栄達が保障されており、アフリカでの大抵の行動は治外法権となり、強姦・殺人等あらゆる犯罪を行っても闇に葬られるのだ。

 

 

 しかし、そんなものは本部から直接送られてきた人材は全員が甘受しており、むしろ最重要機密であるアフリカ研究施設に関する情報を知らされ、その存在の秘匿の徹底及び要観察対象リストに名前を載せられる社長職はデメリットの方が大きい。特に彼にとっては万が一にでもヘマをすれば、イカレポンチを煮詰めたような組織であるU.S.S.が自分を八つ裂きに来ることが何よりも恐ろしかった。

 

 

 

 それはともかく、今までの連中と異なり目の前の女性2人は妙にウィルスの効能や被害経緯に関する話がまるで同僚と話しているかのように正確であり、このまま話を続けられてはつい余計なことを口走ってしまいそうで内心ヒヤヒヤしていた。こちらに話を振ってくれたことをこれ幸いと感じた彼は、同席させておいた、妙に恰幅の良く懐の膨らんだ警備員に目で合図を行い退出を促すよう圧力を掛けさせた。相手にも珍しくボディガードが付いているが、たかが2人、しかも中肉中背のひょろい男二人であったため問題ないだろう。そう高を括っていた所に――――。

 

 

 

『ご苦労。もう良いぞ、バーサ・フォーアイズ。こちらの手筈は整った。』

 

 

 

―――不意に何処からともなく、どことなくロシア訛りのある男の声が聞こえてきた。今のは一体・・?そう疑問に思ったが、頭部に叩き込まれたマチェットの所為で永久にそれを口に出す機会は失われた。

 

 

 

「了解。まったく、女性を待たせないでよ、スペクター。フォーアイズも慣れない仕事お疲れ様」

 

 

「・・・この時間全てが苦痛だった。浄化槽と話してる方がまだマシ」

 

 

 

 突如社長に狼藉を働き、その上で呑気に会話する彼女たちに、警備員たちが得物を抜き発砲・・・することが出来なかった。彼らは彼女達の後ろで起こっている信じられない光景に目を奪われていた。

 

 

 

 先程まで後ろで立っていたひょろいボディガードらしき男2人が身の丈3メートルを超える、両手に異形の爪を携えた怪物に姿を変えていた。その存在を知る彼らは、何故アンブレラの傑作を彼らが所有しているのか、今の光景は何だったのか、そんなことに思いをはせている内にタイラントの餌食となり、瞬く間にミンチより酷い有様と成り果てた。

 

 

 

『手筈通り出入り口の電子扉をロックした。これからそこの2匹が一人も犠牲者を出さずに暴れまわる。お前たちはその隙に社長室に潜り込み遠隔操作用の端末をセットしろ。タイムリミットは15分だ。ああそれと、今の今まで、『ミミクリー』は起動していただろうな?』

 

 

 

「問題ないわ。ここには私たちの痕跡は一切存在しない。それじゃ行動開始ね、フォーアイズ。短いけど精々楽しみましょう」

 

 

 

「・・・今すぐこの子達のサンプルを取r「『却下』」・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・わかった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所:アンブレラ アフリカ秘密研究施設

 

 

 

 その日、警備兵ジョンはいつもと同じ変わり映えのしない監視に飽き飽きしていた。ここは世界中の地図をかき集めても見つけられない、現代のロストワールドともいうべき場所だ。そのうえ数多のセキュリティに守られ、もし発見された場合、その哀れな人物はB.O.W.の実地テストの的にされるかU.S.S.に回収され被検体のサンプルになるかしか道はない。

 

 

 だが、そんな認識は今日を限りに消え失せることとなった。他の同僚からの定期連絡が来なくなったことを不審視した彼はすぐさま詰所に報告を入れたが音沙汰なし。想像だにしなかった事態に焦り始めた彼は無線に必死に呼びかけながら詰所へと戻った。

 

 

 

 待っていたのは血の海だった。首を跳ね飛ばされた死体、胴から下が無い骸、腹に風穴の空いた遺体と、凄惨極まる現場だったが薬莢はどこにも見当たらない。50人は下らない人数が常時詰めていた此処がサイレンどころか発砲すら出来ずに制圧された。相手は絶対に単独ではない。ではどうやって此処のセキュリティを突破したのか?パニックになりながら備え付けの内線に手を伸ばすが、あと一歩のところで頸動脈をナイフで切り裂かれた。尤も、既に電話線が切断されていた事実に気付かなかったこと、そして何より痛みすら感じずに死ねたのだから、他の連中より幸運だったかもしれない。

 

 

 『クラマト』の効果切れによって、闇から這い出たかのように姿を現したベクター。そしてそれに釣られる様に続々と姿を現すハンターの集団。それらはまるで軍隊のように整然と並び、周囲を警戒しながら次の指示を待っている。

 

 

 

「こちらベクター、警戒レベル:イエロー以内で入口は制圧した。想定通り施設の方に動きはない。情報には気を配っても、警備そのものはシステム頼りで形骸化しているようだ。」

 

 

 

『どんな魂にも脂肪は付くもの、か。精々我々も気を付けねばな。こちらの方も予定通りだ、いつでも始めてくれてかまわない』

 

 

 

「了解、これより作戦行動に入る、以上だ。――――さあ、奴らの喉笛を食い千切りにいくぞ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所:秘密研究施設 施設内部

 

 

 

 

「て、敵襲!敵襲――ッ!!」

 

「くそ、監視は何をやっていた!?これだけの数の接近に、連絡ひとつ入れられなかったのか!!?」

 

「何だよ、こいつら!?戦象部隊ってか?いつの時代の軍隊だよ!!?」

 

 

 

 施設内のU.S.S.は潜入してきた敵部隊の奇天烈さに動揺しきっていた。そもそも彼らはB.O.W.を運用する側に立つことは多いが、敵に使われる状況をあまり想定していない。勿論彼らが自らの優秀さをアピールするために何度か仕留めて見せたことはある。しかし、精々がハンター位のもの。

 

 

 

 

 彼らの目の前にいるのは――――――――象だ。

 

 

 

 これはハワードが作り出した新型B.O.W.「アースクエイク」。ハワードがラクーンで手に入れた象のデータから復元・擬態化し、それをのべ1万回Tウィルスに感染させ、それぞれウィルスに適合できた部位を切り取り、パッチワークでもするかのように貼り合せることで完成した、人類では絶対生み出せない象版タイラントともいうべき兵器である。

 

 

 完全適合は伊達ではなく、唯でさえ強靭な皮膚はエレファントガンですら軽傷を与えるのが精一杯というトンデモ仕様となり、体高は本来のサイズより2回りは大きく体重は30トンを超える、まさに生きる戦車といった有様である。

 

 

 ちなみに名前の由来はいつも通り有名なカクテルからであるが、それ以外にもちゃんと意味がある。それは「地震に対して、傘は無力である」つまりアンブレラの成果の否定である。即ち――――――。

 

 

 

 

 

 

「くそ、駄目だ!!タイラントが足止めにもならない!!?」

 

 

 

「どうなってやがる!!こいつらはアンブレラの最高傑作じゃなかったのか!!?」

 

 

 

「やめろ、来るな!来るなああああ『グシャッ』」

 

 

 

 

―――対タイラント用B.O.W.ということだ。タイラントの有用性については意見は様々だが、やはりその最たるものは『スーパータイラント化』であろう。そもそもリミッターを外す事態となる前に相当の銃火器や兵器を浪費させ、倒したと思い込んだところでの強襲。そして何より圧倒的な俊敏性と対応力は、対峙した勢力の殆どを刈り取っていく。事実、ラクーンでは最新鋭の装備を身に着けた米軍の精鋭を数体のスーパータイラントで殲滅している。

 

 

 しかし、その前段階ともいうべきタイラントはとても鈍重である。そしてB.O.W.共通の逃走しないという欠点がある。こいつの場合はさらに自分のタフネスを過信してか、後退すらしない。精々横に回避するくらいだ。

 

 

 それゆえにアースクエイクは、タイラントにとって天敵となりうる。10トンなら腕を盾に耐えられるだろうが、30トンの重さには、それも上から全体重を乗せた一撃はとても耐えきれない。しかも超強化された鼻を使えば軽々とタイラントを持ち上げられるため、そのまま頭を噛み砕くなり、地面に叩き付けて踏み潰すことも出来る。

 

 

 今回ベクターが連れてきたハンターは60体。そのうちの8割に擬態を解かせ、それらが寄り集まり3体のアースクエイクへと再擬態し(擬態のプロセスは勿論ベクターには見せていない)、一糸乱れぬ行軍で施設諸共敵を蹂躙していく。奇跡的に潰されずに済んだ者もいたが、心身ともに乱れきった彼らを見逃すほどベクターたちは甘くない。きっちり後始末が行われ、彼らより後ろで生きているものは一人もいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所:秘密研究施設 非常通路 出口

 

 

 

 大勢の足音が木霊する。前線の壊滅的状況を知った研究者等幹部達は現在も必死で応戦している部下たちを早々に切り捨て、護衛と共に急いでヘリポートへと向かっていた。哀れな死兵たちの奮戦もあり、離陸する時間は十分ある。彼らの護衛は特に腕利きを集めており、問題なく脱出できるだろう、そう思っていた。

 

 

 彼らの護衛は十分優秀であった。しかし経験豊富な連中だからこそ、人間が絶対仕掛けられない天井の地雷原に対応することが出来なかった。降り注ぐボールベアリングのシャワーに全身を射抜かれ殆どが即死し、僅かな生き残りも矛のように鋭い舌とショットガンによって直に後を追った。

 

 

 

「ハッ!あのクソッタレの街じゃひどい目に遭わされたが、なかなか役に立つじゃねぇか。『リッカー』とか言ったか?俺様のインクで随分斬新な絵を描いてくれやがる」

 

 

 

 下手人の名はベルトウェイ。ベクターが正面から強襲をかけ、外への注意が逸れた隙に無数のリッカーを引き連れ屋上へ先回りしていたのである。勿論万が一陸路での離脱を試みた時用に、同じく人間が仕掛けられない場所へ絶妙にトラップを配置した上で、だ。

 

 

 

「―――さて、と。新しい玩具に浮かれてばかりもいられねぇな。あのカメレオン野郎に美味しいところを全部持ってかれちまう。ルポの野郎に、尻を火星まで蹴飛ばされる前に片付けんぞ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所: 秘密研究施設 中枢

 

 

 

 

 敵勢力の予想以上の奮戦に多少時間をロスしたが、滞りなく殲滅は完了した。ベルトウェイからの報告によると、腰抜け幹部の中に、今回のターゲットであるブランドン・ベイリーは居なかったらしい。この施設の最高責任者が離脱もせずに留まり続けていることを訝しみながらも、ベクターは施設中枢へと辿り着いた。アースクエイクに扉を破壊させ突入すると、目的の人物、ブランドンを発見することが出来た。本来いるはずのない男と共に。

 

 

 

「・・・ほう、やはり君たちか。捨てられた厄病狼達よ、この痛みは少しばかり度が過ぎている。躾が必要だと思わんかね?」

 

 

 

 そこにいたのは、アンブレラ親衛隊隊長、セルゲイ・ウラジミール大佐とそして―――。

 

 

 

「・・・・・お久しぶりです、マスター」

 

 

 

―――数々の不可能ミッションを生還してきた、古今無双の『死神』だった。

 




ここまでご覧いただきありがとうございました!感想、質問等いつでも大歓迎です!!


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第十二話

お正月ということで連日投稿です!
・・・・うん、もう二度としない(笑)

毎日投稿してる人はすごいなあ。


 

 

 

 

場所:秘密研究施設 中枢

 

 

 

 

 

 

 

 

――――銃声が絶えることなく響き渡る。対峙するのは2人の男、対人戦においては右に出る者のいない彼らの駆け引き、ナイフ捌きは見る者の目を釘付けにしただろう。尤も、事あるごとに透明になる2人をただの人間が捉えられれば、だが。

 

 

 ベクターは死と隣り合わせの環境で、改めて師の偉大さを痛感していた。本当の意味で敵となった者に対する師の恐ろしさ、そして自身が普段使っているものが敵からすれば如何に厄介であるかを噛み締める。まさか師まで『クラマト』を使用するとは思わなかった。しかもそれを師は自分以上に使い熟している。

 

 

 死神の鎌もかくやという鋭いナイフ捌きに目を奪われた一瞬のうちに透明化を行い、歩幅、足音の強弱、そして体捌きのリズムを変幻自在に組み替え、さらにはアイソレーションを組み合わせることで、ゼロ距離でありながら一発の被弾も許さない。恐らく自分でなければ瞬時に命を刈り取られたことだろう。

 

 

 そんな師の絶技に必死で喰らい付く。例え姿が捉えられなくとも彼の癖、戦術理論は熟知している。故に只管体に染みついた動きに従い、剣林弾雨を潜り抜ける。しかしそれは向こうも同じであり、戦いは千日手となっていた

 

 

 

「ほう、これは面白い。我らアンブレラが誇る『死神』相手に互角で戦える者がいるとは」

 

 

 

 同じくこの戦場に赴いたセルゲイは何をしているかというと、早々に戦いを放棄し右腕から伸ばした触手で(・・・・・・・・・・・)吹き抜けとなっているフロアの壁を登り、悠々と観戦している。その代わりにアースクエイク達と対峙しているのは、セルゲイの護衛として連れてこられた試作型タイラントベースB.O.W.『イワン』だ。

 

 

 これまでのタイラントと異なり、より人間らしい体系にカスタマイズされ、さらに非常に高い知能を有している。即ち、これまでのB.O.W.に殆ど見られなかった、戦術的な立ち回りを可能としている。これによりアースクエイクの役割である、馬鹿正直に突っ込んでくるタイラントの駆除が機能しなくなってしまった。イワンは只管専用武装である携帯用ガトリングと自慢の跳躍力を武器に引き撃ちに徹している。しかしいくら鉛弾をぶち込んでもアースクエイクには僅かなダメージにもならず、此方の戦況も硬直してしまっている。

 

 

 

 

「さて・・・・『恐怖の観測者』と『黄衣の王』は退路を無事確保したのだろうか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所:緊急避難通路 

 

 

 

 

 

「どわあっ!?畜生、随分立派なモンぶら下げた彼氏だなあオイ!どこで引掛けてきたんだあ!?」

 

 

「あら、彼の良さが分かってもらえて嬉しいわ。そのジョークの低俗さが無ければなお良いのだけど」

 

 

「ハッ!悪趣味な女なら間に合ってるよ!!」

 

 

 

 

 ヘリポートから内部へと侵入したベルトウェイは順調に予定を消化していた。すでに敵勢力の大半は壊滅しており、後は消化試合だと高を括っていた所にある女性と遭遇した。金髪セミロングの髪に白のレディーススーツを身に纏った、プロポーションと顔が整っている以外は特に変わったところのない女だ。問題はその女の真上から降ってきた『ナニカ』だ。

 

 

 

 

―――全身を黄色のレインコートの様な衣に包まれ詳細は不明。分かっているのは下半身と思わしき部位から露出している無数の触手と、漫画等に出てくるようなガンブレード状の右腕のみ。その腕から射出される弾丸状の塊は非常に貫通力が高いため遮蔽物が効かず、また狙いも正確なため避けるのも一苦労である。

 

 

 それより何より、目の前の怪物の特筆すべき点はその堅牢さである。接敵当初、リッカーの舌とショットガンの乱射を仕掛けたが、体色が変化したかと思えばすべて弾き飛ばされ、数秒後には変色した皮膚が全身から垢の様に零れ落ちた。これには見覚えがある。彼の新しい雇い主が開発し、チームリーダーも愛用する『ビーフィーター』だ。ただし、オリジナルが僅かなT細胞を活性化させているのに対し、此方は自身で大量に生成しているらしく、インターバルは5秒ほどしかない。

 

 

 そしてもうひとつ、そのわずかな隙をついて大量の腹マイトを極めたリッカーを放り込んで爆発四散させ、肉片一つ残さず消し飛ばした筈だったが、黄衣からまるで生えてくるかのように再生して見せたのだ。あのコートに仕掛けがあるのかと思い、集中砲火をかけたが傷一つつかず、正直逃げ出したい気持ちでいっぱいである。

 

 

 

 

「ったく、堪んねえぜ!ボスとてめえらの夢の共同作業ってか!?そいつ童貞を拗らせて空を飛べるようになったかと思ったが、その太くて長い一物を透明にしてるんだろ!さっきから扱いてる音が丸聞こえだぞ!!」

 

 

「・・・・本当に下劣な男。でも、彼からこれだけの時間逃げ続けられているのだから、腕だけは一流と認めてあげるわ。あの人が初めて世に生み出したB.O.W.。ずいぶん高い買い物だったけれど、一ファンならどれだけ出しても惜しくないわよね?」

 

 

「あ?ファンだあ?ゲテ物趣味ここに極まれりってか!それとも、こんなトンデモ女に惚れられたボスの不幸を嘆くべきか」

 

 

「失礼ね。むしろあの男に興味を惹かれない女がいるかしら。不完全とはいえ、この世界で唯一死を克服した男のことを」

 

 

 

 

 どこか陶酔したように怪物の触手をなでる女にベルトウェイは心底ドン引きした。ちなみにこの間も絶賛ドンパチの真っ最中であり、何度も銃弾を放っているがことごとく触手に阻まれ無駄に終わっている。

 

 

 

「特別に教えてあげるわ。アンブレラのネットワーク、及びコンピュータはすべてある人工知能に掌握されているの。だから彼が作った成果も、データ上にある物は全て我々の手の内。彼の発明品はB.O.W.のさらなる飛躍、それから大佐のウィルス制御に大きく貢献したわ。それだけでも幹部待遇で迎えるには十分だけれど、彼の価値が分からない役立たずたちのせいで彼もまたアークレイで命を落とした。そう、彼は一度死んでいるのよ。監視カメラの映像から確かに私たちはそれを把握している。けれど、彼は知っての通り今現在も活動を続けている!肝心の部分はカメラを壊されてわからなかった。だからこそ私たちは彼から聞き出さなければならない!!死を克服したその方法を、その軌跡を!!」

 

 

 

「・・・・・はあ、付き合っちゃいられねえな」

 

 

 

 そうベルトウェイがこぼした瞬間、強烈な爆音とともに、浮遊感が一同を襲う。彼らと銃撃戦を繰り広げ注意を引いている内にリッカーの一部を階下に向かわせ、持たせていた爆薬を仕掛け、ここから一気に地下までぶち抜き一回きりの疑似エレベーターへと大改造を行ったのである。彼は壁にへばりつくリッカーの舌に回収されたが、アレックスと『黄衣の王』はそのまま闇へと墜ちて行った。尤も、全く仕留められた気がしないが。

 

 

 

「やれやれ、とんだ化け物どもだったぜ。さて、お次は―――『ゴゴゴォッ!!』―――あ、ヤベ・・・やり過ぎた。こいつは不味い。早くとんずらしねえと生き埋めになっちまう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所:秘密施設中枢

 

 

 

 

 何処かで爆弾魔がやらかしたことによって、此方も凄まじい轟音が響いていた。状況を察したセルゲイはイワンを連れてさっさと離脱してしまい、残されたハンクは満身創痍のベクターと共に、周囲を取り囲むハンターの群れの中心にいた。

 

 

 

「マスター。白兵戦では未だ貴方に及びませんが、状況は貴方の詰みです。どうか投降してください」

 

 

「・・・・忠告は感謝するが、不要だ。ブランドン所長を逃がし、且つ単身でお前たちの追撃を振り切る。それが私のアンブレラでの最後の任務だからな」

 

 

 

 その言葉にベクターは驚愕する。U.S.S.最強と言っても過言でない『死神』を手放す選択をしたアンブレラに、そしてこの状況でなお逆転を匂わせる師の底知れなさに。

 

 

 

「度重なる失態を受け、アンブレラは崩壊の危機に瀕している。上層部は、もし敵にアンブレラ内部に詳しいものがいればアフリカは危険だと判断し、施設封鎖の為に我々を派遣した。結果はご覧の通りだがな。そして施設の隠蔽が不可能だと判断された場合、アンブレラは極限まで規模を縮小すると共に地下に潜り、再起を図る。そうなればU.S.S.にもはや存在価値はない」

 

 

「そ、それでは尚更投降すべきでは!?ここから出られるなら同じことでは――」

 

 

「教えたはずだ。プロは決して自分の仕事を裏切らないと。雇い主に背中を刺されるのはただの愚か者だ。だが、自ら任務を放棄するのは3流のやることだと。後、切り捨てられる段になれば、私は情報を知り過ぎている。暫く潜るのにこの任務はちょうど良い」

 

 

 

 

 そう言いながら、突如ナイフを放棄しマスクを外すハンク。突然の行動に訝しみながらも、咄嗟に感づいた彼らは腕を翳し眼を保護する。――瞬間、ナイフとマスクの二か所から閃光が放たれる。

 

 

 直に視界が回復したハンターは追撃を行おうとするが、ハンクの姿は見当たらず、見えたのは2人のベクターの姿。本物は即座に強襲するが偽物に寸分違わぬ動きを披露され、素人目にはどちらが本物か見当がつかない。困惑するハンターの中心でハンクは悠然と姿を透明に変える。ベクターは勘の命ずるままにナイフを数本投擲するが、僅かに布を裂く音がするのみで、食い止めることはできなかった。

 

 

 

「・・・はあ、これまでか。追撃に回す時間はもう残されていない。急いで脱出するぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所:研究施設跡 正面

 

 

 

 

 

「なるほどな。こっちは飛んでもねえ化物コンビで、そっちはあの『死神』か。お互いついてねえぜ。・・・・・・・ところでよ、これってまさか、任務失敗とか言わねえよな!?」

 

 

 

「連中に証拠の消毒を行う時間はなかった。ここら一帯を捜索し、瓦礫からデータをサルベージすれば十分奴らには致命傷になるはずだ。完璧には程遠いが問題はない」

 

 

 

「おおっ!そうか、そりゃなによ―――」

 

 

「ところで、派手な花火を打ち上げておきながら連絡ひとつ寄越さず一目散に逃走したことについて、納得のいく理由を聞かせてもらおうか」

 

 

「は?いや、これには海より深い訳があってだな――『ブンッ!』オワァッ!?やめろ、ナイフを仕舞え、殺す気かテメエッ!?」

 

 

「最初からそのつもりだが?」

 

 

「テメエが言うと冗談になってねえよ!!!」

 

 

 

 

 




ここまでご覧いただきありがとうございます!感想・質問等いつでも大歓迎です!!



今回出てきた『黄衣の王』ですが、みんな大好きハスター様・・・では勿論ありません。他人の空似です(笑)。

後日、キャラクター等紹介を作りますので、詳しくはそちらで。


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第十三話

 

 

 

場所:反政府ゲリラ拠点

 

Side シェバ

 

 

 

 

 

 

 

『『『『GYAAAAA!!!』』』』

 

 

 

「B隊掃射始め!!C、D隊は後退、残弾確認とリロードを怠るなよ!!」

 

 

「ゲリラども、下がれとは言わん。だが無理に前に出るな!こいつらは我々の獲物だ」

 

 

「負傷した奴は慌てず此処まで下がりなさい!私たちは抗ウィルス剤を万全に備えてあるわ。命が要らない御莫迦さんはこのマチェットで掻っ捌くわよ!!」

 

 

「フェロモン爆弾を投擲する!下がれ、煙に触ると一斉に飛び掛かられるぞ!!」

 

 

 

 

 

――――時間は少し遡る。現在、ゲリラ拠点は過去最大級の危機に陥っていた。私はあのフードをかぶった男と大柄の男を案内し、あの場に仕込みを施した後、大急ぎでここまで戻ってきた。フードの男が「ボスからの伝言だ。『此処にこれ以上君が見るべきものはない。君がバイオテロを憎み、これから戦う心算なら、アジトに見るべきものがある』――以上だ」と宣うものだから、大急ぎで引き返してきた。その結果が眼下の『戦場』だ。

 

 

 

 無数のB.O.W.がアジトを蹂躙せんと押し寄せてくる。爬虫類のような怪物に人体模型のような怪物、それからB級ホラーに出てきそうな真っ赤な“元人間”やハエを巨大化させたようなものまでいる。あの胡散臭いガスマスクの4人と彼らが連れてきた人間たちが前面に立って応戦しており、彼らだけ戦わせてはいられないと私たちの仲間も交じっている。

 

 

 流石はラクーンの生還者だけあり、見事に化物たちを押し返している。しかし。ガスマスク達は無傷だが、他の面々の被害は決して少なくない。死傷者も出ているだろう。見たところ仲間たちに犠牲者はいないようだ。

 

 

 血の海に沈む人、泣き叫びながら治療を受けている同志、そして果敢に立ち向かう協力者達。彼らを見ていると、色褪せていた過去がよみがえる。それと共に燃え上がるように湧き上がる憎悪の感情。ああ、あの人が言っていた通りだ。これは、私が見なくてはならない光景だ。

 

 

 喧嘩も絶えなかったが、大好きだったパパとママ。それを奪ったあの悪魔たちを、バイオテロを許せなくて親戚の元を飛び出しゲリラに身を寄せた。どれだけ血を吐く思いで活動しても結果が出せず、燻るうちにすっかり薄れてしまっていた。こんなものに幸せを奪わせないためにここまで来たのだということを!

 

 

 

 

 

 それにしても本当にすごい。特に最前線で大立ち回りを繰り広げているリーダーらしき女性は。目で追うのも困難な拳銃捌きで次々と化物の脳天をぶち抜き、飛び掛かってきた爬虫類に対してカウンターで拳を叩き込み顔面を陥没させている。しかもそんな中でも的確に周りに指示を出し続けている。一体どんな修羅場を越え続ければあそこまで強くなれるんだろう。いや、そんな他人事じゃ駄目よ!私もあの人と同じ、いやそれ以上の場所に立つ!心構え一つ立てられなくて、どうやってこの戦場に立つっていうの!!また冷たくなった大切な人の傍で泣き叫びたいの!?そんな思いは絶対にしたくない!!

 

 

 今の私にこの戦いに加われるだけの力はない。ここで指をくわえて傷ついていく人たちを見ていることしかできない。だから目に焼き付けよう。もう二度とこの感情が色褪せないように、自分が目指すべき場所を忘れない為にも・・・・。

 

 

 

Side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 近い将来、世界の危機を救うこととなる少女が決意を新たにしているのだが、勘の良い人は察しているかもしれないが、今起こっている光景はすべてハワードの自作自演である。

 

 

 

 バーサたちはタイラントの起こした騒ぎに乗じて盗んだ、秘密研究所及びアンブレラの裏の顔に関するデータをある場所に送信した後、すぐさま拠点まで引き返した。それを見計らってB.O.W.達に擬態化し襲撃を仕掛けた。ルポたちが率いていた人間も、ラクーンでモグッたゾンビやクリムゾンヘッド等の元になった人間に擬態し、あたかも仲間の傭兵のように振舞っていたのである。

 

 

 

 

 

 

 今回の作戦の目的は大きく分けて5つ。一つはタイラントに襲われるアンブレラ、という構図をワザと監視カメラ等に残すこと。今現在アンブレラはラクーンから持ち出された数々の証拠により、危機的状況に陥っている。アメリカ政府への脅し及び会社に対する利用価値によって辛うじて踏みとどまっている有様だ。そこにこの映像を手に入れれば、恐らくこれを自分たちの無罪の証拠として声高に主張するだろう。もしかしたら、ラクーンの一連の事件もテロリストの仕業だった、などと世論誘導を図るかもしれない。

 

 

 だが、それこそが此方の狙いである。もしアンブレラがそのような行動に出たなら即座に、協力者であるトライセル社が衝撃の新事実(笑)を世界に提供する手筈となっている。バーサから送られてきた情報に、そしてシェバが施した仕掛け―――秘密研究所傍に設置した座標位置を示すビーコンと撮影後即座にメール送信した研究所の写真―――が裏付けとして提出され、この地上に存在するどの地図にも記されていない秘密研究所が白日の下にさらされることとなる。

 

 

 さらに、実は現在行われているゲリラ+αの死闘はスペクターの仕掛けた監視カメラによりリアル中継されている。少し知識のある者はこれに一切の加工がされていないことがわかるだろう。これと彼らが提出した無罪の証拠を見比べればすぐに気づくだろう。そう、タイラントは会社の内部をこれでもかと破壊したが、犠牲者は一人も出していない(来賓室は何故かその時間映されていなかった)。しかし、ゲリラ側の映像では、少なくない数の人間(ほぼ全員ショゴスなのだが)が犠牲となっている。どちらかが自作自演だとしても、どちらをそうだと判断するかなど、考えるまでもないだろう。

 

 

 

 

 二つ目の目的は、秘密施設を破壊し、Tウィルスの供給をストップすること、そして消毒しきれなかった情報をアンブレラへの致命傷とすることだ。これによりアンブレラは限られた資源での活動を余儀なくされ、行動範囲は大幅に狭まることだろう。

 

 

 

 三つ目の目的は、微妙な関係となった連中を離反させることである。アメリカ政府然り、死の商人然り、彼らはラクーン事件によりアンブレラの管理能力に深刻な疑問を持つこととなった。そこに来て立て続けに大騒動が起きれば、彼らの多くがアンブレラを見限るだろう。特に政府は、これを機に全ての罪をアンブレラに被せて切り捨て、ヒーローの立場に戻ろうとし、証拠固めは加速度的に進むに違いない。

 

 

 

 四つ目は、自分たちの勢力を知らしめることである。この騒動がひと段落すれば、様々な立場の人間が自分たちに関心を持つだろう。だが、そういう連中に舐めた対応を取られるのは色々と都合が悪い。なので今回かなり派手に仕掛けた。特に完全に倒壊した研究所の破壊痕を見れば、自分たちを侮るなどと言うことは無いだろう。もし仮に自分たちを危険視し過ぎて排除しようと動くのならば、その時はその勢力に敵対する側につくまでだ。他にも自分達がウィルスやB.O.W.について一家言あると知ればそこに利用価値を見出してすり寄ってくる人間も出てくるかもしれない。

 

 

 

 最後は、ウルフパックに対B.O.W.戦の経験をより積ませるためである。来たるべきアンブレラとの決戦では、恐らく対人戦より対B.O.W.が主となるだろう。ハワードはいつでもハンター等に擬態できるが、場所の確保が難しく、またその場合限定的なシチュエーションでの訓練しかできない。なのでより実戦的な経験を積めるよう、ゲリラのアジトでの戦闘を追加したのである。尤も、ウルフパックとそのお供を積極的に狙いに行く以外は全く手加減していないので、訓練とはとても呼べない命がけの戦いだったのだが・・・。

 

 

 それさておき、いくつかイレギュラーは生じたものの、ハワード一行はこれらの目的を完璧に達成することが出来たのである。アンブレラの対応も正しく予想通りに運び、散々煮え湯を飲まされたトライセルは故郷アフリカに返り咲くことに成功した。現時点で表の世界に影響力を持つ存在と関係を持つことを嫌がったハワードの判断で、一連のトライセルとのやり取りは全てゲリラが窓口となった。表に出せる方法でもないのでいろいろ聞かれると面倒だからというのも理由の一つだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side ハワード

 

 

 

 

 

 

 ・・・・・アジトでの戦闘もひと段落した。今回私は肉体の殆どをあちこちに分散していたため、適当に鼠に擬態して観戦していた。だって、指揮官が安全地帯で何にもしてないとか、信用問題だろう。ショゴスが圧倒的に不足している私など戦闘には何の役にも立たないので尚更だ。

 

 

 

 あれから帰還したベクターたちからも成果のほどを確認した。しかし、想定より遥かにヤバい状況だったようだ。アンブレラの最高幹部が2人に『死神』付とか誰が予測できるか。あと私が昔作成したTの変異から脳機能を保護する『デュボネ』の臨床被検体に色々手を加えたものが幹部の手に渡っていたとは。しかも相当厄介なB.O.W.になっていたらしい。粉々にしたのに何事もなかったかのように復活するとは興味深い。恐らく『G』を使ったな。しかし『クラマト』や『ビーフィーター』まで奴らの手に渡っていたとは思わなかった。

 

 

 

 まあそれは良い、済んだことだ。目的を完璧に達成してくれた彼らを労うことはあっても、愚痴を吐くなど論外だ。やはり彼らを雇ったのは正解だった。その道のプロに指揮を任せればあそこまで違うとは。今後も彼らの仕事に期待させてもらうとしよう。さて、今後の予定について会議を行いたいのだが、ルポはどこだ?さっきまで近くにいたのだが・・・・おや?あれは――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうして!?お願い、私も連れて行って!足手纏いになんてならないわ」

 

 

「・・・なぜ我々についてくる必要がある?お前と私では目的が違う」

 

 

 

 

 少し離れた場所で見つけた。しかしなんでシェバ、とか言う御嬢さんまで一緒にいるんだ?

 

 

 

 

 

「目的って、貴方たちはアンブレラと―――」

 

 

「そうだ、我々はアンブレラを私怨から滅ぼしたいと思っているだけのごろつきだ。すべてのバイオテロを糾弾する正義の味方などではない」

 

 

「ッ!?そ、それでも――」

 

 

「それに慌てずとも、そう遠くない内にお前の望むような『正義の味方』が組織されるだろうさ。悪になりたくない連中によってな」

 

 

 

 

 ふむ、私もルポに賛成だな。彼女はどう考えてもヤクザな稼業なんて合わないだろう。それに彼女が求めているのは『救い』だ。そんなもの私たちは誰にもあげられないのだから。

 

 

 

 

 

「それでも、それでもッ!!その人たちが貴方たちより強い保証がどこにあるの!?私はもう、『こんなはずじゃなかった』って泣いてるだけなのは嫌なの!!」

 

 

 

 

 

 うわぁ。あの子、よりにもよってルポ相手に真っ向から飛び掛かっていくなんて度胸あるなあ。まあ、一瞬で制圧されたけど。加減したとはいえ彼女の拳を三発喰らってまだ動けるってすごいな。

 

 

 

 

「わかったか?我々は人間だろうが化物だろうが、邪魔をするなら躊躇いなく排除する。お前がなるべきものはこんなヒトデナシではないだろう?」

 

 

「・・・・・・・・・・はあ、自信無くすなあ。これからやっていけるかな」

 

 

「悲観することは無い。少なくとも、同じ年のころの私より上だ。ああそれから、これは独り言だが、もし大人になって周りの連中に物足りなくなったなら呼べ。私が鍛え直してやる」

 

 

 

 

 言い終わるや否や、御嬢さんを置いて此方に戻ってきた。まあ、憑き物が落ちたような顔してるし、問題ないだろう。

 

 

 

 

「すまない。待たせた」

 

 

 

 いや、それほどは。しかしずいぶん彼女に肩入れしていたね?

 

 

 

 

「私にそのつもりはないのだが・・いや、もし私があの街でくたばっていたなら、私の子供たちも同じような顔をしたのかと思うとつい、な。尤も、そんな風に思って貰えるような殊勝な母ではないが」

 

 

 

 そう言ったきり、口を噤んでしまった。ふむ、ビジ夫人と戯れるあの子たちを見ている限り、彼らにとってはそう悪い母ではないと思うが、翼もないのに宙を舞いたくはないので黙っておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 拠点に戻ってみると、スペクターが書類を持ってきた。何々・・・。救難信号?発信者はクレア??彼女今度は何やったんだ。そして何故こんなものを私に?

 

 

 

「見せたいのは其処じゃない。あの女の捕まっている場所だ」

 

 

 

 場所ねえ。ロックフォート島・・・って言われてもさっぱりだ。誰かわかる人いる?

 

 

 

「そこはアンブレラ創設メンバーの一角、アシュフォード家の管理する島だ。U.S.S.の訓練施設や刑務所があったはずだ」

 

 

 

 アシュフォード家、かぁ。まったく記憶にないぞ?確か当主が早々に亡くなって権力争いから脱落したってことくらいしか知らんぞ。あまり価値が無さそうなんだけど。

 

 

 

「・・・・そういえば、アシュフォード家は天才と言われた祖先のクローンの作製に成功したと聞いたことがある」

 

 

 クローン?そんな技術あっても地雷にしかならないんじゃないか?それにショゴスで十分―――。

 

 

「ハッ!そのアシュフォードっつうのはとんだ甘えん坊だな?曾曾曾おじいちゃまに抱っこされながらお友達と喧嘩しようってか。さぞかし立派な玩具を作ってもらえたんだろうな、何せ天才だぜ?TでもGでもない新種のウィルスとか?」

 

 

――――前言撤回。よし、いこう。

 

 

 

 




ここまでご覧いただきありがとうございました。感想・質問等いつでも大歓迎です。


次回からベロニカ編に入っていきます。


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第十四話

 話数が増えるたびに字数が増えていく。何文字くらいがちょうど読みやすいんだろうか?


 

 

 

 

 

Side ハワード

 

 

 

 

 

 

 さて、アフリカから休みなしで飛ぶこと数時間、我々は要請のあったロックフォート島・・・・ではなく、南極にある研究施設らしきところに来ております。いや、島に入ったんだよ?けれど島は何処かで見たようなバイオハザードに見舞われており、生存者も見当たらない。どうしたものかと途方に暮れていた所に轟音がしたので向かったところ、飛行機が飛び立つ直前だった。行き先が何かヒントになるかと思い、ルポに千切ったミニショゴスをブン投げてもらい、発信機代わりに貼りつけておいた。

 

 

 しばらくは島に残っていたゾンビや見たことのないタイプのハンターを蹴散らし、島の施設のデータを漁っていたのだが碌な情報がない。そうこうしているともう一つ飛行機を見つけたので、連戦続きで疲弊しているメンバーはヘリで帰還させ、まだまだ元気そうなフォーアイズとスペクターに同行してもらい先程の飛行機の後を追った。そうしたら南極まで来てしまった、というわけだ。

 

 

 

 しかし、南極か。人生で初めて来たはずなのだが、妙に懐かしく感じるのはなぜだろうか?ひょっとしたらショゴスはここに何らかの縁があるのかもしれないな。・・・あれ?じゃあここで作られたものって別の意味でヤバい代物なのでは?

 

 

 

 

 

 ・・・・うん、嫌な予感は当たる物だ。クレアの捜索がてら施設を歩き回っていたら、随分昔に封鎖された隔離棟らしき所に行き当たった。どうやら『ベロニカ計画』とやらを進めていた時の施設のようだ。完成してからは使われていないらしい。電気等は生きていたので復旧し、情報のサルベージ及び本棟へのハッキングを行っている。そうしたら―――。

 

 

 

 

「・・・・?おかしい、やはり異常だ」

 

 

 

 最初に声を上げたのはフォーアイズだった。彼女は凄まじい速さで研究資料やモニターの文字を追っていたが、時間が進むほどに顔を顰めとうとう我慢できなくなったようだ。

 

 

「フォーアイズ、何が分かったかレクチャーを頼む。ヒントがあったほうがサルベージしやすい」

 

 

 スペクターの問いに頷き、端末にデータを写し取りながら彼女は口を開いた。

 

 

 

「アレキサンダー・アシュフォード。彼は遺伝子から知能に関する情報をかなりの確度で解明し、人間の限界を超えたクローンを生み出した。理論もざっと目を通したけど、見事なものよ。こんなものをアンブレラの連中に淘汰されかけるような男に作り出せると思う?」

 

 

「Tの研究に向かなかっただけでは?天才というのは1%の閃きが重要なのだろう?」

 

 

「ないわ。いや、確かに一つの閃きで諸々の問題が氷解することはある。しかしこの研究は致命的な問題をいくつも抱えていた。その全てを閃きだけで突破できたとは思えない。それと、研究の過程も可笑しい。これを見て」

 

 

そういって研究日誌らしきものを放り投げる。

 

 

「この日誌を見る限り、研究は全日程の終盤まで碌に進んでいなかった。それがある日を境に急速に発展していった。まるで必要な知識を一偏に詰め込まれたかのよう」

 

 

「・・・誰か強力なブレーンが付いたという線は?」

 

 

「それもないわ。こんなとんでもない成果をあげられるならもっと他のところに行くでしょうし、そもそも成果が凄すぎて命がいくつあっても足りない。ゲノムの究明にクローン精製技術。この二つは言ってみれば不老不死の鍵よ。どんな手を使ってもって奴はごまんといるわ」

 

 

「・・・・ふむ。分からなくもないが、あの会社にいた時まともなリスクとリターンの計算が出来る奴に会えなくてな。研究莫迦にそんな賢い選択が出来るか?それとボス。あんたも訝しんでいたようだが、何か分かったのか?」

 

 

 おっと。こちらに振って来たか。確かに妙だ、有り得ないといって良い。ウィルスに関してはあまりわからないが、機械に関しては一過言あるつもりだ。ここで使われている機材や発明は現行のそれより数世代は先に進んでいる。生体工学の専門家を自認していたが、このコールドスリープ技術に関しては半分も理解できない。そしてアレキサンダー氏が万一にと用意した切り札も、どうやってこんなものを創り出せたのかさっぱりだ。この人、遺伝子工学に全精力を捧げていたのだろう?どうやってこんな門外の研究を急速に進められたんだ?

 

 

 それと、これは今見せてもらった日誌の資料見て気づいたんだが、この素体に使った祖先の遺伝子、なんかおかしくないか?見たことない物質が写ってるんだが?

 

 

「この写真?特に違和感を感じないけど・・・」

 

 

「特殊な光を当ててみよう。幸い近くにそれらしい機材もある。どれ・・・・!?」

 

 

「なによ、これ。これじゃあ、そのアレクシアって女は・・・まさか・・・・!?」

 

 

「よくこれが裸眼で見えたな、ボス?」

 

 

 人間じゃないからなって答えたら、「そういえばそうだったな」と頭を抱えていた。解せぬ。しかし、これは思わぬ厄種に首を突っ込んだかな?まあ良い、とりあえずデータを記録したら再現できない機材は片端からモグろう。使えるものが幾らでもあるし、今回ウィルスはともかく、変異細胞にはありつけなさそうだし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所:南極基地 エントランスホール

 

 

 

 

「あっははははははは!!無様ね、男二人がかりでエスコートも出来ないの?」

 

 

「だそうだ。モテない男はつらいな、クリス?」

 

 

「四十路まえのお前に言われたくないなっ!!」

 

 

 

 現在、燃え盛るエントランスでは奇妙な共闘が起こっていた。原因は言うまでもなくハワードたちが現れたせいだ。

 

 

 

 当初、アレクシアを発見したウェスカーは力ずくでも捕獲しようとしたが、直に自身と彼女との相性の悪さを痛感した。超人的な身体能力以外に特殊な力を持たないウェスカーにとっては、灼熱の炎へと変じる彼女の血液は凶悪な矛であり盾だ。しかもこの男、自身の肉体に慢心して碌な装備を持ってきていない。精々サムライエッジとS.T.A.R.S.ナイフ位で、自給自足で武器を調達した宿敵と同レベルでやらかしてしまっている。

 

 

 本来ならクリスに面倒事を押し付け漁夫の利を得る所なのだが、先ほど部下から通信が入り、新たな別勢力がこの基地に侵入したという。しかもそいつらは、あのラクーンから脱出した連中の中でもトップクラスの要注意人物だ。情報ではアフリカに居たはずなのだが、何故かここまでやってきている。十中八九目的はアレクシアの研究成果だろうが、ここまで来て横から掻っ攫われるのは御免だ。とはいえ、四つ巴が出来るほどの戦力がない以上、迅速に目的を達成するか、代替案を取るしかない。

 

 

 

 ではクリスの方はというと、もちろんまとめて葬り去りたいところなのだが、人外二体と乱戦を挑むほど命知らずではない。現時点での脅威度はアレクシアの方が上であり、尚且つ非常に好戦的であるため自然に二対一となった。

 

 

 

 

 そんな都合で再開した戦いだが、元S.T.A.R.S.だけあり、見事な連携でアレクシアに立ち向かっている。ウェスカーがその身体機能を存分に活用し、天井等の頭上からサムライエッジによる銃撃を行い、注意が上に逸れたところをクリスがシュートドッジしながら、視覚外からショットガンを全弾打ち込む。流石に堪らず仰け反ったアレクシアにウェスカーが強襲し、人中・蟀谷・水月と人体の急所に目にも止まらぬ連撃を叩き込む。アレクシアが反撃に出ようと腕を振り上げるが、振り下ろす瞬間にクリスが肘と指をサムライエッジで撃ちぬき、あらぬ方向に狙いを外させる。ただし、時折お互いにドサクサに紛れてアレクシア諸共始末しようと鉛弾をプレゼントし合うのはご愛嬌というものだろう。

 

 

 

 しかし、ここまで攻撃を仕掛けてもアレクシアに碌なダメージを残せていない。確かに皮膚を抉り、内部を破壊するがそれより早く再生してしまう。ただ無意味ではなく、攻撃だけでなく肉体の再生にも血液を消費するらしく徐々に足元がふらつきだした。このまま押し続ければ彼女を無力化することが出来るかもしれない。ただし――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ガキンッ!!』

 

「「ッ!!?」」

 

 

 

―――弾切れを考慮しなければ、の話だが。二人とも早期決着を念頭に入れていたため残弾を気にせずにいたことが裏目に出てしまった。

 

 

 

「あら、堪え性のないサルみたいに噛みついてきたのに息切れ?まあ下等生物にしては悪くない大道芸だったわ」

 

 

 

 さらに悪いことに、散々射線を狂わされて放火したせいか辺り一面が火の海と化しており、遮蔽物も逃げるだけの足場も塞がれている。その状況を味わうかのように表情を加虐心に染め、止めを刺そうと近づくが・・・・突然視線を2階へと向けて停止する。不思議に思う彼らに目もくれず喜悦の表情から一転、憎悪を隠しもせず全身から炎を噴きあがらせる。

 

 

 

「・・・・・・相変わらずゴミと同じ匂いね。不愉快過ぎて懐かしさすら感じないわ。さっさと消え失せなさい、この薄汚い叛逆者がぁ!!!」

 

 

 

 そのまま、今までの火が子供騙しだと言わんばかりの、眼球が沸騰しそうなほどの灼熱の塊を叩き込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side ハワード

 

 

 

 

 

 ホギャアアアアアアアッ!!!!!?熱い!!体が溶けるうぅぅ!!!!!!何、いきなりなんなの!?2階で見物してたら突然訳の分からんこと叫びながらアホみたいな炎ぶつけてくるとか、どういう事!!?

 

 

 回避しようと思ったけど後ろに部下二人がいたので盾になったら、まさかショゴズボディが焼き尽くされるとは思わなかった。トレーラーの大爆発でも無傷だったのに、どういう事だ?

 

 

 あ、何もしてないけどふらついて膝着いてる。後先考えずに血液放り投げたから貧血?阿呆だ。という訳で2メートル上空から重量数十トンの『アースクエイク』をプレゼントフォーユー!!!

 

 

 

 ・・・よし、しっかり潰れたな。あ、いや違う。確かにモザイク処理が必要な有様だけど生きてるな、あれ。それじゃあもういっぱt『ビキビキッ!!』―――あ、床が抜けて落ちて行った。

 

 

 一階に下りてみたが、クリス君も糞グラサンも姿を消していた。あいつら、ここぞとばかりに押し付けていきやがったな。それはさておき、今回は酷い失態だった。少しばかりショゴスという存在に自惚れていたか。あんな相性の悪い存在もいるんだな、二度と同じ轍を踏まないよう気を付けないと。しかし、ショゴスを半分持って行かれたのは痛い。蓄えた情報に不具合はないが、ここを出たらしばらく休まないとまずい。今お礼参りに行っても多分取り逃がすな。しょうがない、クレアを保護したら脱出手段を確保して大人しく帰るか。ここの技術だけでも十分過ぎる収穫だ、そう思うことにしよう。

 

 

 

 しかし、あのキチ○イの腕が大穴の傍に落ちてるけど、これどうしよう?何故か本能のようなナニカが、これだけは食べたくないと珍しく抗議しているし、私もこんな物食べたくない。うーーーーーむ、あ、良いこと思いついた。東の国にこの状況にピッタリな言葉があったな。確か『わらしべ長者』とかいったかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side クレア

 

 

 

 

 ――――何もできなかった。あの悪夢の街の時と同じ、いやそれ以上の無力感に苛まれる。出来たことは化物へと成り果てたスティーブから逃げ出すことだけ、そしてどれだけ姿が変わっても人間だった彼が死ぬのをただ見ていることだけだった。

 

 

 

『―――会えてよかった・・君が好きだったよ・・・クレア』

 

 

 

 人生で一番心動かされた告白に応えることも出来ないまま。

 

 

 

 その後も、助けに来てくれた兄さんに散々苦労をかけて、アレクシアとの戦いに赴くときも、私の膝は折れたままだった。せめて兄さんが乗ってきた飛行機を確保し、スティーブを人として眠らせてあげられる場所へ連れて行きたかったのに、それすら儘ならない。

 

 

 

 自分たちを取り囲み、油断なく銃器を構える集団。恐らくロックフォートの時と同じ、アルバート・ウェスカーが連れてきた連中だろう。アレクシアに捕えられたときに武器は全て奪われたせいで、私にはこの状況をどうすることも出来ない。精々わが身を盾にしてスティーブが連れて行かれるのを数秒遅らせることくらいだ。

 

 

 

「どうする、女は生け捕りか?」

 

 

「バカか?隊長の話を聞いていただろう。早急にサンプルを回収し撤退するんだ。幸い多少鉛弾をぶち込んでも構わないそうだ。下手に手間取らされる前に片付けるぞ」

 

 

 

 どうやら連中はすぐにでも私を始末するつもりらしい。あわよくば下品な奴を組み伏せて、最後の悪あがきをしようと思ったのに。

 

 

 引き絞られる引き金を見て目を瞑り、次に訪れる痛みに身構えていると、『グチャッ』という音とともに顔に生暖かい液体が数滴降りかかった。目を開けてみると後方にいた男が傍にいた仲間の喉笛を食い千切っていたのだ。

 

 

 

 

「な、こいつ感染して――――」

 

 

「何してる!!早く撃―――」

 

 

 

 

 パニックを起こした連中は、突如クリムゾンヘッドとなった元仲間に切り刻まれ、我に返った者も元仲間とともに額に風穴を開けられ崩れ落ちた。状況に追いつけないクレアは、間を置いて現れた二人組を見てようやく思考が追い付いた。かつてあと一歩のところで殺されかけた、忘れたくても忘れられない人物たちだ。

 

 

 

「貴方たち、どうしてこんなところに。アンブレラとは手を切ったはずじゃなかったの?」

 

 

「パッケージCを確保。情報にない奴がいるが、どうする?」

 

 

「こんな南極で裸の男、実験体か何かか?」

 

 

 

 こっちの質問は丸っきり無視して女の方が近づいてくる。その物か何かを見るような視線が気に入らなくて前に出るが、造作もなくどかされてしまう。懐から出した注射器と拳銃を足して2で割ったような物をスティーブに押し当てると、驚いたような表情を浮かべた。

 

 

「お前たちはツイてる。スペクター、まだ時間はあるな?廃棟へ寄り道がしたい」

 

 

 そのまま今にも走り出しそうな速さで彼を連れて行くあいつを止めようと近づくが、後ろのもう一人に何かを注射され、力が入らなくなった。

 

 

 

「悪く思うな、ラクーンでの意趣返しじゃないが、お前みたいな危険人物を放し飼いのまま連れて帰るほど私の肝は大きくない。フォーアイズ、時限装置は既に作動している。時間はあと15分ほどのはずだ」

 

 

 そういうと私も荷物のように抱えられた。連れて帰る?廃棟??彼らの言っていることが分からないことだらけで混乱しているけど、一つだけ言いたいことがある。こんな年端もいかない小娘捕まえて、猛獣みたいな言い方しないでよ!確かに偶に振り返ると自己嫌悪に陥りそうなほど暴れた覚えはあるけど!!て、そうじゃない、ツイてるってまさか・・でも心臓は止まってるわ。どういう事!!?

 

 

「・・・・順番逆じゃない?まあ良い。この男、確かに心臓は止まってるけど、細胞の方は仮死状態ではあるけどまだ生きてる。尤も今の人類の技術じゃあ助けようがないし数時間後には本当に死体になるわ。

 

 

・・・・ねえ、悪魔と取引する覚悟はある?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side ウェスカー

 

 

 

 くそ、たかが人間に手傷を負わされるなど、何のために一度死んだというのだ!!あの後地下に落ちて行ったアレクシアを回収しようと向かったが、ちょうどクリスに粉々に吹き飛ばされた後だった。あれほど豪語していた割にあっけない幕引きだったな。

 

 

 だが、ここで満足しておけばよいものを、あの男は俺と決着をつけようなどと言ってきた。死にかけの小娘を仕留めて随分天狗になっているらしい。望みどおりに殺してやろう。

 

 

 そう、彼我の戦力差は言うまでもなく、しかもお互いに武器が失逸した状態という、どう負ければ良いか分からないほど俺に有利なこの状況で仕留め損ねた。あの悪運強さは最早凶器だな。まあ、散々強い言葉を吐いておきながら、尻尾を巻いて逃げていく様は見物だったから良しとしよう。

 

 

 少し前に部下から、Tアレクシアを宿した男とクレアを確保したと連絡があった。第三勢力の介入を避けるため早急に処理するよう通達したが、杞憂だったな。あれほどの大爆炎を喰らってタダで済むとも思えん。態々南極まで火傷をしに来たとはご苦労な事だ。クリスの方も妹の無惨な姿を見ればどうなるだろうか?心が折れるか、それとも怒りに狂うか、どちらにせよ始末し易くなって結構だ。

 

 

 

 久しぶりに晴れた気分で出口に向かうが、そんなものはヘリの方角から上がる黒煙によって一気に叩き潰された。くそ、荷物運びすらまともに出来んとは使えん奴等だ!!

 

 

 

 急いで着陸場に急行したが、辺りは火の海だった。ヘリは全て破壊されており、培養カプセルらしきものも見当たらない。最悪の状況だ、ここまで動員しておきながらみすみす奪われるとは。仕方あるまい、体に残るダメージは深刻だがそうも言っていられん。奴らが此処を発つ前に『カランッ』―――?これは密封ベースに、手紙か?

 

 

 

 

 

 

『 拝啓 皆大嫌いなロリコンサングラスさんへ

 

 あなたが体目当てで拉致した青年は此方で保護致しました。彼は我々が責任をもって面倒を見ますのでどうぞご安心ください。

 

 しかし、手ぶらで帰っては貴方がさぞ上司に叱られることでしょうから、代わりにキチ○イ女の右腕を進呈致しますので、どうぞそちらで自身を慰めて下さい。

敬具

 

 

P.S ヘリ壊されてどうやって帰れって?ヘリが無ければ泳いで帰れば良いじゃない(笑)何のために人間辞めたのさm9(^Д^)           』

 




ここまでご覧いただきありがとうございました。感想・質問等いつでも大歓迎です!



しかし、ヴェロニカ編が一話で終わった(笑)ラクーンと違って群像劇じゃないので、あんまり出しすぎると主人公の役食っちゃうしなあ。これが私の限界です。


次回からオペレーション・ハヴィエに寄り道します。


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『ヒダルゴ騒動』編
第十五話


 

 

 

 

 

 

 

Side ハワード

 

 

 

 

「頼む!私の娘を、妻を救ってほしい!!私に出来ることなら何でもしよう、どうか!!どうか!!!!」

 

 

 

 

 

 

 私は現在、南米の奥地で麻薬王にDO☆GE☆ZA☆されています。どうしてこうなった・・・?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 南極基地から帰還して数日が経過した。私は肉体がかなり消耗しており、ウルフパックの面々も結構疲労していた。何より、肝心の標的であるアンブレラが役立たずをリストラして雲隠れしてしまったため、尻尾を掴むまで暇になった。さらに言うと、ルポがあまり子供たちを放置するのを嫌がったのも一因だ。私もシェリー嬢やメラ君をビジ夫人に任せきりというのはどうかと思うしね。

 

 

 

 しかし、我々のような無駄に目立つ一団が適当に2LDKの賃貸など借りれるわけもないので、さてどうするかと思案していた所に妙に畏まった人間が招待状付きでやってきた。まあ過剰戦力も良いところだし話だけでも聞いてみるかとホイホイついていってみたら、アメリカの裏社会でかなり有名な『麻薬王』ハヴィエ・ヒダルゴ氏の遣いだったことが判明した。

 

 

 

 

 

 そんなわけで、唐突な大物の登場に面食らったが、何故面識皆無の我々を招待したのか話を聞いてみた。どうやらこの御仁、奥方が不治の風土病に侵されてしまい、アンブレラ社に多額の裏金を担いで泣きついたが、よりにもよってTウィルスなんぞを掴まされたらしい。うん、恐らくは治療に託けて金を絞れば話が拗れるから、バイオハザードを起こさせて財産をかっぱらおうとしたんだろうな。

 

 

 

 それはおいといて、その外れクジを引かせた三流営業マンがこの度リストラされたので、これ幸いと拉致し当時のお礼をたっぷりの利子つきで返したそうな。その時絞れるだけ絞った情報の中に我々の存在があったらしい。下手をすればアンブレラ以上にウィルスに関する情報を持っている我々なら、同じく風土病に侵された御息女を助けられるのではないか、一抹の望みをかけて連絡を取って来たとのこと。

 

 

 

 

 とりあえずその風土病とやらがどんなものか、資料の閲覧及び患者の診察をしに中へと入る。すると、まさしく薄幸の少女と言わんばかりの風情の子供が寂しそうにベッドで微睡んでいた。なぜか近づかないよう忠告してくるハヴィエ氏を無視して診察に向かうとあら不思議、目の前に奇怪な怪生物が下りてきた。サンプル採取ついでに売られた喧嘩を買おうとしたら慌ててハヴィエ氏が割り込み、驚いたことに怪生物が彼の言葉に忠実に従ったのだ。これはとても希少なB.O.W.だ。人語を理解しているだけでなく飼い主を理解している。しかも私のように後付の細工をしている風でもない。―――ん?B.O.W.?Tウィルスを掴まされた?まさかこいつは・・・・。

 

 

 

 

「どうやら説明せずとも理解してくれたようだな。そうだ、あれが私の妻だ!私が殺した、あのバカなアンブレラ社員に騙されてな!!いや騙したというのは語弊だな。ああ、風土病は確かにもう影も形もない。ヒルダの面影諸共な・・・」

 

 

 

 

 そう自嘲する様に、泣き叫ぶ様に独白するハヴィエ氏。すると先程の怪生物・・じゃなかった。ヒルダ夫人が我々から庇う様に立ち塞がり、一本の触手で彼の涙をそっと拭う。おい、ちょっと待て。もしや夫人は知能だけでなく記憶も残っていたりするのか?

 

 

 

 

 

「・・・どこまでかは分からんが、これは確かに記憶を残している。現に私の命にだけは従い、それに娘の歌にまるで安らいでいるかのように聞き入っているのを何度も見た」

 

 

 

 

 

 ・・・・・これ、元に戻せるんじゃね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「・・・・はあっ!!?」」」」

 

 

 

 

 おおう、さっきまで会話に入ってこなかった子分衆まで反応した。後ろから急に大声を出されてびっくりした。

 

 

 

 

「今何と言った?その言葉を私の前で軽々しく言うものじゃない。もう淡い期待を砕かれるのは御免だ!私の娘だけでなく、こうなり果てた彼女をどうやって救うというのだ!!?」

 

 

 

 

 ものすごい形相で詰め寄ってくるハヴィエ氏。そして同じくその大きな口が私に触れんばかりに間を詰めるヒルダ夫人。彼が距離を詰めたから傍に寄った、だけが理由でないのは明らかだろう。

 

 

 

 と、話が逸れた。彼らにとってとても幸運なことに、我々が南極から持ち帰った知識、技術が彼らの希望を叶える助けとなる。まず第一の鍵が、T-Veronicaだ。あれはTウィルスとは比較にならないほど生命の創造・再生を助長する力を持つ。これに私が作った『ヌーヴォー』と彼女の遺伝子情報を掛け合わせ、夫人の体を創造する足掛かりを作る。

 

 

 第二の鍵が、ベロニカ計画により確立されたクローン技術だ。さすがに新人類を作れとか言われても我々には手に余るが、元々存在する肉体を再度生成することなら、少し研究すれば可能だろう。幸い資料は完璧に回収することが出来たし。

 

 

 最後の鍵は、南極で得た中でも特に異質の技術、ログによれば『脳缶』と呼ばれるものだ。対象の脳を一切傷つけることなく、しかも意識まで完全に移し保存する術らしい。これについては実際に南極基地にて施術し、理論が正しいことを実証しているため問題ない。流石に精神が崩壊しそうなので意識は眠らせてあるため、時間に関して少しばかり意識と現実にずれが出るだろうが、死の淵から帰還できるのだから安い代償だろう。

 

 

 

 つまり、まず夫人の遺伝子情報を抽出→改良された『ヌーヴォー』とクローン技術で本来の肉体を再構成→『脳缶』の技術の応用でオリジナルの方の脳を摘出しクローンに移植する→パーフェクトだハウザーッ!!という訳だ。

 

 

 

 ただし、これ等は残念ながら現時点では不可能だ。問題が2つある。まず一つが、ヴェロニカウィルスが強すぎて思った通り(つまり人間の規格)の肉体を作れないであろう点。ウィルスの被検体が悉く異形で巨大な姿になったことから可能性が高い。よしんば人型を作れても、国家レベルの後ろ盾のない超人がどういう末路を辿るかなんて知れている。特に現在のアンブレラは核ミサイルを落としてでも手に入れようとするだろうな。よって、ヴェロニカウィルスを可能な限り希釈し、変異性を抑制しなければならない。

 

 

 もう一つは、現在『ヌーヴォー』に使用しているマイクロチップがクローン精製には大きすぎる、という問題だ。単純な指向性を持たせた細胞や簡単な命令を聞かせられるだけの脳を作成するのならともかく、肉体という無数の器官が完璧、且つ有機的に機能して初めて意味を成す代物を一から作るのにミクロでは邪魔になり、とんでもない欠陥品を生み出しかねない。プログラミングについては私が生体工学者の意地にかけてどうにかしてみせるし、ナノマシンについても、触りくらいなら南極に資料があった。一から作るよりよほどましだろう。

 

 

 

 

 つまり、マヌエラ嬢については彼女の体力次第だが、B.O.W.として安定しているヒルダ夫人に関しては時間さえかければ何とかなってしまうのだ。いやー、今更ながら自分たちの持っているテクノロジーが現実離れしてると感じるな。

 

 

 以上のことを資料と専門家の解説付きで説明した。最初は猜疑心が先に立っていたハヴィエ氏も突如湧いてきた希望に堪えられなかったのだろう。徐々に顔がゆがみ目元に涙を浮かべながら夫人へと囁きかける。それに寄り添うように同じく涙をこぼすヒルダ夫人。一頻り涙を流した後、冒頭の有様となったわけだ。

 

 

 

 

 

 それから私たちは多忙を極めた。私は只管覚書きと睨めっこしながらナノマシンの制作に取り掛かり、フォーアイズはベロニカウィルスの解析及び弱体化の研究に勤しんでいる。バーサはハヴィエ氏が散財しまくって抱え込んだ、業界ではトップクラスの医療スタッフとともにマヌエラ嬢の症状悪化を少しでも遅延させるべく奮闘している。

 

 

 しかし、たぶん一番重労働だったのはルポだろう。一体何回ハヴィエ氏に肉体的指導を行ったか数えきれない。あの御仁普段は裏社会の実力者らしい振る舞いなのだが、御息女が関わるととにかく暴走する。例えば、フォーアイズが比較実験がしたいから娘と同世代の遺伝子情報がたくさん欲しいと要請したら、人身売買やら誘拐やらでかき集めてくるとか言い出すんだ。頼むから余計な茶々が入りそうな行動は慎んでほしい。

 

 

 それと、御嬢さんの生活環境にもかなりメスを入れた。幾ら風土病のせいで目が離せないからと言って、四六時中病室に閉じ込めておいたら気力が萎えてしまうだろうに。それに治療のためとはいえ、見知らぬ(しかも怪しい)男性に観察されたり、肌を晒すのはかなりのストレスだろう。そういうわけで、身元のしっかりした母子家庭の親子を住み込みで雇い、身の回りの世話を頼んだり、学校(というより寺小屋?)帰りの子供たちに、御息女の話し相手をしてもらったり、献血に協力してもらった。今まで自分が治るなど夢にも思っておらず、いざ治ったらどうしてよいか分からず将来の不安に押し潰された、なんてバッドエンドは御免なのでね。今のうちから世間に触れさせていかないとね。

 

 

 しかし、少し気になる点がある。マヌエラ嬢が急に身の回りが騒がしくなったことを訝しんでいるのだ。しかも結構ネガティブな方向に。まあ、娘の為なら何でもする、が比喩表現にならないお父様をお持ちだからね。ある程度は仕方ないかな。そこら辺は我らが擁するお母さん方にフォローしていてもらおう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで、久しぶりの研究者生活を満喫していたらあっという間に一年が過ぎた。何故ここで一区切り入れたかはお察しだろう。そう、事態が動いたからだ。

 

 

 

 マヌエラ嬢の容体が加速度的に悪化し始めた。今の対症療法では研究が完成しても手遅れになる。そうバーサとスタッフ達は断言した。

 

 

 フォーアイズも頑張ってくれた。ベロニカウィルスの弱体化を大きく進展させてくれた。彼女でなければ今の半分も進んでいないだろう。しかし、彼女の情熱と腕前をもってしても、単体での使用は到底不可能だ。危険すぎる。

 

 

 もうこうなっては仕方がない。荒療治になるが手段を選んでいる猶予はなくなってしまった。幸い私のナノマシン研究はある程度完成した。流石に全身のクローン作製はまだまだ先だが、任意の臓器を複製することについては成功率99.6%を達成した。こいつを使って何とかしよう。

 

 

 施術は至ってシンプルだ。弱体化ベロニカを投与→ウィルスが変異した部位を片っ端から移植する→ウィルスが安定するまで繰り返す、これだけだ。大分変異性は抑えられたが、安定するまでどれくらいかかるだろうか。実験によると本人の臓器を移植するより他者のものを移植する方がより期間を短くできるようだ。拒否反応を抑え込むのにウィルスの力が浪費されるからだそうだ。

 

 

 

 まあ、他人の遺伝子についてはこれまでに散々提供してもらったから人様に迷惑をかけることもないし、臓器のストックは十分にある。何とか何事もなくいってほしいものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからさらに半年後、経過は順調の一言に尽きるだろう。最初は三日に一度取り替えなければならなかった臓器も、今では3か月経過しても変異は最小に留められている。これならあともう半年もすれば我々の手は必要なくなるだろう。世界情勢もかなり動いている。幸いハヴィエ氏がかなり精力的に情報を集めてくれているので、情報戦で後手に回ることはないだろう。やはりコネクションというのは偉大だ。彼の場合は裏社会が中心だから付き合いやすい。気が付いたら完全に首が回らなくなっていた、という不安が無いのは気が楽で良い。大企業とかはここら辺が怖くて近づきたくないからね。

 

 

 

 さて、それじゃあそろそろウォーミングアップを始めていこうかね。研究にかまけて鈍ったとか最悪だしね。うん?おや、ハヴィエさん。どうしたの、そんなに慌てて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――え、マヌエラ嬢がいなくなった・・・・・・?

 

 

 

 

 




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第十六話

 

 

Side ハワード

 

 

 

 

 

 ――――マヌエラ嬢の失踪。その一報は我々を震撼させた。彼女の体は大分回復しているとはいえ、安定とはまだ言えない。こんな状態で動き回るなど自殺行為だ。そもそも家出する動機が無い。

 

 

 じゃあ誰かが唆して家出の手引きをしたかだが、私たちが居候を始めてからスペクターがセキュリティの強化を施し、偵察兵の目線からベクターが、破壊工作のプロとしてベルトウェイが其々アドバイスを送ったことで身内贔屓抜きで鉄壁と評価できる仕上がりとなった。これを素人を抱えて突破したとなるとバックに相当な大物が控えているスパイだろう。

 

 

 とにかく出来ることをやるしかない。とりあえず世話になっているミックスカトル村の住人の避難だ。丁度マヌエラ嬢のリハビリのために住人を移動させようと温泉旅行を企画していたから明日からは無人になる。そうなればマンハントなんていくらでもできる。万一のために村の境界にケルベロスと鴉たちを配置しておいて正解だった。

 

 

 しかしスパイも何故このタイミングで誘拐なんて仕掛けたんだ?よりにもよって村に人がいなくなる直前なんかに。当然ながら移動用のバスには厳重な監視が付くことになるから潜り込むなんてできない。ここのセキュリティを抜けられるような腕がある奴ならもっと都合の良い日を選べるだろうに。もしや何かを焦っている?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二日後、今更徹夜なんてどうということは無いけど、別の理由ですごく疲れた。具体的にはハヴィエ氏の御守が。あの親馬鹿が娘のいない二日間に耐えられるはずもなく、幾度となく暴走しかけた。ヒルダ夫人を村に向かわせようとしたときはルポが手刀からの鉄拳四連打で眠らせた。流石に二回目はそのまま永眠しそうだったからバーサに麻酔を処方してもらったが。

 

 

 しかし、進展もあった。スパイと思わしき男を捕えることが出来た。時間もないのでバーサ式拷問術と冒涜的なO☆HA☆NA☆SHI☆でさっさと喋ってもらった。こいつの正体は去年関連法案が可決された米国の対バイオテロ組織FBCの暫定メンバーだった。

 

 

 

 

 ラクーンから持ち出された証拠とアフリカでの戦いの映像から一気に時勢は傾き、政府は無関係を装うためにFBCを立ち上げた。だが、政府の威信回復のために組織された以上迅速に結果を出す必要がある。そのためには発足してから行動していては遅い。設立直後に大事件を解決し、威信を確立させるために何らかのトラブルを抱えた裏社会の連中に潜り込み、自然にウィルスへと関わるように誘導していた。ハヴィエ氏もそのターゲットの一人だったという訳だ。

 

 

 しかもその手口はかなり手が込んでいる。裏組織は閉鎖的になりやすく、潜り込んだ直後では疑われるし浅い仕事しかかかわれない。だから、かなり前から潜り込んでいた麻薬捜査官と同じ顔と声に整形し入れ替わったらしい。捜査局から情報を提供させしゃべり方や癖を完璧に模倣し、余計な情報が漏れないよう捜査官の口封じまでする徹底ぶりだ。普通設立前の新参組織がそんな無茶苦茶出来るはずがない。前々から思っていたが、米国政府もかなり真っ黒だな。

 

 

 

 そんな訳でこいつはハヴィエ氏を我々に引き合わせた。アンブレラに切り捨てられた研究員を迅速に回収し私たちの存在を伝えさせ、ハヴィエ氏の興味を引いた。良く考えれば、いくら麻薬王とはいえ、組織と碌に付き合いを持たない根無し草である我々の足取りを掴む手際が良すぎた。あの時から仕組まれていたという事か。

 

 

 しかしここで大きな誤算が出た。言うまでもなく私たちが保有する技術についてだ。最初は娘の治療に形振り構っていられないハヴィエ氏がリスク覚悟で私たちの持つウィルスに手を出しバイオハザードが発生する。それを時が来るまで情報封鎖し、FBC設立とともに摘発する、というシナリオを組んでいたらしい。

 

 

 ところが、私たちが提供したのはクローンだの、脳の移植だのとんでもない技術ばかり。しかも開発しようとしている『抑制ベロニカウィルス』は再生医療の究極系ともいえる存在だ。加えて最初にちゃんとした計画立てがされたことでハヴィエ氏も暴走せず慎重に治療に当たったため、彼らの計画は初端から瓦解した。それでも技術を盗もうと暗躍を続けたが研究はすべて私たちが行いハヴィエ氏サイドはノータッチだ。どうすることも出来なかったようだ。

 

 

 

 一度報告した手前、何としてもここで作られた成果を持ち帰りたい。しかし研究が佳境に入った今、いつ私たちが此処を離れるか分かった物ではない。そういった焦りからFBCの設立を待たずして行動を開始した。手土産に選んだのは唯一彼が手を出せるマヌエラ嬢。我々が彼女に一切治療について説明していないことに目を付けたようだ。父親の職業から臓器をどこから持ってきたか邪推してしまうし、そもそも臓器のクローニングなんて夢物語を信じてくれるとは到底思えない。彼女に心理的負担を与えないようにしたことが裏目に出たようだ。

 

 

 

 マヌエラ嬢を臓器保管室へと連れ出し、君を治すために数多の女性が殺されていると嘯き彼女自身の意志で屋敷から飛び出させた。ここまでは完璧だったのだが、こいつ一瞬目を離した隙に御息女に逃げられたらしい。とても頭の良い子だったからな。恐らく一日たって冷静になったら、こいつの行動がとても不自然に思えたんだろう。しかし父親への疑惑が拭えない為屋敷に戻れない、てところか。

 

 

 

 これで話が済めば問題ないのだが、とんでもないバッドニュースもある。米国政府がこの件に介入する足掛かりとして、二名の工作員を派遣しているらしい。一人は大統領直轄エージェント、もう一人は米軍特殊部隊のエリートだ。・・・うん、出世したなあレオン君。派遣指令は『元アンブレラの研究員が「麻薬王」ハヴィエ・ヒダルゴと接触。そのコネクションを用いて多くの人間(の臓器のクローン)が犠牲となっている。ハヴィエを確保し被害拡大を阻止しろ』とのこと。

 

 

 ただ、彼らは当然今回の作戦の本命などではない。最初に言った通り足掛かりのための存在であり、彼らによる解決など期待していない。そもそも高々二人で大組織のボスを裁判所に連れてこいとか無理だろ。要人誘拐舐めてんのか?素人じゃないんだぞ。彼らが犠牲になれば政府は堂々と権力を盾に此処に乗り込めるという訳だ。大統領特務の死、現役軍人の死は国家権力が介入するには十分な理由だろう。彼らが手傷を負って逃げ帰っても同じことだ。

 

 

 

 なので今回はアフリカの時のように派手にやるのは厳禁だ。そんなことすれば連中は嬉々としてこちらに『世界の悪』のレッテルを張り付けるだろう。そんなことされたら今後の活動が大きく制限されてしまい面倒だし、「もしこちらが望む情報を包み隠さず話すというなら、君らに着いた悪名を晴らすことを考えてみても良いよ」という交渉という名の脅迫を突き付けてくるだろう。本当に面倒なことこの上ない。

 

 

 

 ではどうするか?簡単だ。彼らが望まないシナリオ、つまりレオン君がアメリカンヒーロー顔負けの大立ち回りをやってのけ、悪しき存在である我々を打ち砕く訳だ。勿論打ち砕かれるのは本人たちではなく私のショゴスボディで擬態した偽物だが。私の顔を晒すわけにはいかないので、適当に別人に擬態しそいつが黒幕だったとミスリードを行う。物的証拠がない以上後ろで手ぐすね引いている連中も私たちと関連付けるのは不可能だ。

 

 

 後はレオン君が此方に到着する前にマヌエラ嬢を保護し、ハヴィエ氏達を離脱させれば万事OKだ。最後に施設をどさくさに紛れて爆破すれば痕跡を追うことも私たちの研究が漏れることもない。ハヴィエ氏達は表向き死人となってしまうが、長く裏社会にのさばっているんだ。戸籍の偽装くらいやってのけるだろう。さてまずは行動だ!とりあえずは、間違いなくゴネるだろうハヴィエ氏を無理やりトランクに詰め込むところから始めよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――無人の街でマヌエラ嬢の確保と米国人を接待するだけ。そう思っていた時期が私にもありました。ちくしょう、あのスパイやりやがった!まさか自分たちが効率よく逃走できるようアンブレラやH.C.F.にまで情報を流していたとは!!あそこまで搾ってやったのにまだ隠し事していたとは驚きだ。

 

 

 ハヴィエ氏達を蹴りだした日の夜、突如何台もの戦闘機ヘリが襲来し、大量のポッドを落としていった。そこからハンターやらタイラントが出てきてさあ大変。まあ大変なのはレオン君たちなんだが・・・。

 

 

 

 そっちはあまり問題ないのだが、村の東部に配置しておいたB.O.W.一個中隊が壊滅した。あれだけの戦力ならタイラント相手でも十分戦えるはずなんだが、一方的に叩かれたみたいだ。タイラントをはるかに超える戦力でよその家の子か・・・・いやな予感しかしない。

 

 

 

Side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいレオン、こいつはどういうことだ!?湾岸戦争よりよほど酷い修羅場だぞ!!」

 

 

「・・・・・・・・泣けるぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ふむ、やはりあの程度の出来損ない共では威力偵察にもならんか。まあ良い。今回は奴の首が目的ではない。非常に残念ではあるが、此方の方が意趣返しにはちょうど良い。

 

―――ラクーンで見せた強かさ、期待しているぞ。エイダ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあ。もうこんなに『恐怖』が蔓延して、これでは『商取引』どころじゃないわ。意外とせっかちなのは変わらないのね、アルバート。でもちょうど良いわ。取引が出来なくても多少の恩なら売れそうね。あの会社も、一年半も費やしてあの程度じゃもう存在価値はないと思っていた所だし、値札が付いている内に買い取ってもらいましょう」

 

 

 

 

 

 




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第十七話

・・・ものすごく難産でした。オリジナル要素は二次創作の華ですが、風呂敷広げすぎると大変ですね(笑)

世の中の作家さんって本当に凄いなぁ


 

 

 

Side ハワード

 

 

 

 

 

 ―――轟音と銃声が響き渡る。最早町に昨日までの面影は見当たらず、まさしく激戦区といった様相を呈している。とにもかくにも敵が多すぎる。しかも四方八方からときた。そのせいで敵同士の相討ちが殆ど発生せず、此方の損害ばかり増える。もしこれで避難が出来ていなかったらと思うとぞっとする。

 

 

 

 

 さて、お互いの戦力を見直してみよう。空から偵察した限り、敵の勢力は全部で3つ。一つは崖っぷち真最中のアンブレラ・コーポレーション。残存兵力1名と1体、ただしその1体のキルレシオは全く持って未知数。嗾けた端から蹴散らされて正直足止めが精一杯だ。ただ、異様に進軍速度が遅い。あっちにフラフラ、こっちにホイホイという感じだ。多分この連中の目的は我々ではないな。私からは何か得られればラッキー程度にしか考えてない。しかもあの女個人に恩を押し売りされた形になってしまった。非常に面倒だ。

 

 

 第二に、グラサン、というよりH.C.Fか。現在確認できている残存戦力は34。ネメシスが20、人間の特殊部隊が13名、そしてグラサンだ。この前の意趣返しの心算か、ものすごい量の兵隊を連れてきた。大量に始末してやったのにまだこれだけ残っているから不愉快だ。あと妙に派手に暴れまわっているのが気になるな。そのくせ防衛線に綻びが生じれば一目散に突っ込んでくる。

 

 

 そして忘れてならないのは大統領特務の2人。まあ人生最悪のアトラクションを堪能している真っ最中だ。ただ問題なのは、他の奴に引っ掻き回されてるせいで彼らへの足止めが上手くいかないことだ。もうダムの中に潜入された。あそこまで攻め込まれると一気に切れる手札が少なくなる。どうしても私が保有する戦力は大味なのが多いからな。あんな場所で派手にやらせたらこんな施設30分と保たん。

 

 

 

 まあ悪いニュースばかりではない。唯一の慰めはこれ以上の参戦はなさそうだということだ。まず発端になったアメリカ政府だが、初めに言ったように今回の派遣は口実作りだ。ところが蓋を開けたら特級のバトルグラウンドが出来上がってしまい、本格的な介入の準備がまだ整わないようだ。阿呆め、大所帯が過ぎて危機感が無さすぎる。優秀な人材を揃えていても組織がこうでは色々台無しだ。

 

 

 

 目下最大の問題はマヌエラ嬢の居所だ。これだけ派手にドンパチが行われているにも拘らず未だに発見できていない。遺体ですら、だ。町の境界には目立たないよう鴉たちを配置している。今のところ離脱した人間はいない為、確実にこの町の中にいるはずなのだが。

 

 

 

 まあそれは引き続き捜索することとして、そろそろこの拠点に近い勢力が出てきたことだし、情報操作の一芝居と行きますか。情報の消毒も粗方済んだし、ここらで一つ盤面を動かしてみようかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side レオン

 

 

 

 

 

 

 「レオン、状況は悪化の一途だ!俺達がどうこうできる段階はとっくに過ぎてる。これ以上は無理だ。持ち込んだ武装は疾うに尽き、死体から剥ぎ取った火器でどうにかここまでやってきたがもう限界だ!!ここで応援を待とう。幸いここは入り組んでいて守るのに適している。一日もあればスペックオプスあたりが来るはずだ。そこで体勢を立て直せば良いだろう!!」

 

 

「・・・ダメだ。そうしている間に他の連中がハヴィエを手中に入れるだろう。奴らの目的が何かわからない以上静観は危険だ。援軍が来たときには何もかも無くなってしまっていても可笑しくない。ついでに言えばもうどこにも安全な場所なんてない。一刻も早くハヴィエを確保し脱出するのが最善だ」

 

 

「確保してどうやって此処から逃げ出すんだ!?外に車が残っているとは思えん。仮にヘリでもあったとして、ここにいる連中が其れを指咥えてみていると思うか!!」

 

 

 

 

 

 ―――まずいな。ここまでのストレスでクラウザーの精神状況がかなり危険なことになっている。無理もないことではあるが。ようやっと一息吐けているが此処に来るまで散々な目に遭った。有り得ないサイズの象に潰されかかり、謎の武装集団の流れ弾に当たって負傷したり、極めつけはあの悪夢の街でも遭遇した、巨大な目を持つ肉塊のような怪物だ。あの時は署長の腹を食い破って出てきた一匹だけだったが、ここでは4体同時に遭遇した。囲まれたときはさすがに俺も肝が冷えたが、初見のクラウザーは気が気でなかっただろう。

 

 

 正直クラウザーの言うとおり手を引くべきなんだろうが、よっぽどの莫迦でなければ用が済めば証拠隠滅に動くだろう。これだけの無茶が出来る組織が、そんな連中をここまで突き動かすような代物を誰にも知られずに回収するなんて悪夢以外の何物でもない。それだけは何としても防がなければならない。ラクーンの二の舞は御免だ。

 

 

 

 

「幸いほかの連中はまだここまでは来ていない。まずここから生きて帰る算段を付ける。ハヴィエ云々はそれか――「ッ!伏せろっ!!」――クソッ!?」

 

 

 

 咄嗟に離れると、入り口をナニカが粉砕していった。土煙から辛うじて見えるのは灰色の体表を持つ、先ほどまで俺達を死ぬ一歩手前まで追い掛け回していたB.O.W.だった。ただし、あちこちから血を流し完全に動く気配がない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ほう?現地住民ではないな。風貌から察するに政府の狗か。俺より先に辿り着いているとは驚きだ」

 

 

 

 煙が晴れると一人の男が立っていた。俺は初めて会う人物だが、ロックフォート島から帰還したレッドフィールド兄妹から散々聞かされた男だ。

 

 

 

「アルバート・ウェスカー・・・!」

 

 

「・・・どこかで見た顔だと思えば、ラクーンから運よく逃げ延びた小僧か。これは都合が良い。お前が居ればアレもやる気を出すだろうな」

 

 

 

 言い終わるより先に腰に吊るしていたアサルトライフルを連射する。が、一瞬で間合いを詰められ、銃口を握りつぶされたことで銃が暴発した。咄嗟に手を離したがしばらく指は使い物にならないだろう。

 

 

 我に返ったクラウザーもナイフを抜いて躍り掛かるが、あろうことか奴は目にも映らないほどの手刀でナイフを真っ二つに切ってしまった。そのまま蹴りを放たれ、目の前の事実に追いつけず無防備を晒したクラウザーはまともに喰らってしまい、ボールのように吹き飛んで行った。

 

 

 

「本来なら殺して奴の仕業にしてやるところだが、自分の女運に感謝するんだな。その代わりもう一人の方を始末するとしよう」

 

 

 

 そう言ってクラウザーに止めを刺そうと向かっていく。むざむざ仲間を殺させてなるかと追いすがるが、片手ではどうすることも出来ず右肩を掴まれ持ち上げられてしまう。

 

 

 

「その様で向かってくるとは勇敢だな。褒美に同僚の死に様を特等席で見物させてやろう」

 

 

 

 そのまま鞄でも持ち歩くかのように悠然とクラウザーの元へと向かっていく。懐からナイフを取り出して突き立てるが逆に刃が欠けてしまった。くそ、化物めっ!!

 

 

 

 そのままあと一歩のところまで近づいていくが突然銃声が鳴り足元に弾丸が飛来する。音のした方を向くと、この騒ぎの根源ともいうべき人物が立っていた。

 

 

 

 

 「ハヴィエ・ヒダルゴか。探す手間が省けたな。貴様にはいろいろと聞くことがある」

 

 

 

 そのまま放り捨てられ、壁に叩き付けられる。何とかしようにも背中に激痛が走り身動きが取れない。そうこうしていると既に奴はハヴィエの喉笛を締め上げている所だった。

 

 

 

 

「貴様が『ショゴス』とやらに泣きついたことは知っている。やつはどこにいる?不老不死とやらは何処にある?」

 

 

 

「ふっははは!彼の言った通りの男だな。物騒な玩具で身を固めている割には火事場泥棒しか能のない奴だとな!ショゴスから貴様に言伝だ。『ロリコンがうつると不味いから会いたくない』だとさ!我々は研究については何も知らん。精々この広大なアジトを溝鼠のように駆けずり回ることだな!!」

 

 

 

「・・・・そうか。なら貴様にもう用はない」

 

 

 

 

 そう言うや否や、間髪入れずに抜き手を放ちハヴィエの腹部を貫いた。敢えて急所を外したのは、即死せずより長く苦痛を与えられるようにか、クソ!!

 

 

 

 

「たかが破落戸が俺を侮辱した報いだ、苦しんで死ね。ああ、そうだ。確か貴様には娘がいたんだったな。研究成果を回収するついでにそいつも実験材料に『Prrr・・・』―――何だ?・・ほう、よくやった。回収にかかる時間は・・・・そうか。なら合流するより陽動に回る方が得策か。ではお前はそのまま作業を続行しろ」

 

 

 

 

 無線の連絡を受けた途端俺達への興味も失せたのか、此方に一瞥すらせずに下の階へと飛び降りていった。状況の変化についていけないが、とりあえずクラウザーを起こし、ともにハヴィエの元へと向かう。どう見ても致命傷であり、手の施しようがない。しかしまだ辛うじて息があり、此方に気付くと懐から一通の封筒を取り出し此方へと向けた。

 

 

 

「・・・・これに・・・全てが・・・書いて・・。もし・・娘を・・・・・・マヌエラを・・・・・・・・たの・・・・む・・・」

 

 

 

 絞り出すように言葉を紡ぎ終わると、ハヴィエは息を引き取った。封筒の中には、これまでの顛末とその証拠、そしてもうじきこの施設が爆破されることと脱出の手段が記されていた。

 

 

 娘が妻と同じ風土病に罹ってしまったこと。アンブレラに以前裏切られた経緯があったため今度は『ショゴス』(恐らくはハワードの事だろう)と取引をしたこと。それには可能な限り劣化させ一切の超人性を失わせた『ベロニカウィルス』を用いて生命力を高め病を克服させる、というものだった点。しかし病の進行が予想より早かったため、不完全な劣化ベロニカを使わざるを得ず、それをカバーする手段として変異した部分を別の臓器に取り換える、という荒療治を行ったこと。

 

 

 

 全てを鵜呑みにすることはできないが大凡の流れを掴むことが出来た。しかし、予想し得なかった最悪の情報も付け加えられていた。この一連の事件を裏で操りこの紛争にまで発展させたのは、よりにもよって対バイオテロ組織『FBC』だった。

 

 

 

 

 

 

 

 確か数週間前だったか、大統領府の上司経由でFBCの長官に就任予定のモルガン・ランズディールからアポイントがあった。内容は大統領エージェントからFBCへの移籍の打診だった。『ラクーンで起きたという悲劇の数少ない生還者であり、且つ優秀な人材である君がバイオテロを憎んでいるのなら、此方こそが君のいるべき場所ではないか。我々は君を全面的にバックアップする用意がある』だったか。

 

 

 最初はその話を受けるつもりだった。正直エージェントになった経緯はラクーンに関しての口封じを目的としたほぼ脅迫でしかない取引に応じただけであり、エージェントは様々な任務が課せられ、バイオテロ鎮圧のみに動くことはできない。FBCに入れば『惨劇の街の生還者が義憤に燃え対バイオテロ活動に身命を捧げた』なんてプロパガンダに利用されはしただろうが、そのくらいはどうってことのない対価だ。

 

 

 しかし結局この話は断った。話が大分煮詰まった後での断りであり、かなり先方の面子を潰してしまったが、決して間違った判断ではないと今でも思う。切欠はモルガン長官と相対した時だ。ほぼ初対面であるにもかかわらず、猛烈な嫌悪感が全身を走ったのを覚えている。それから奴の目だ。あの眼をした奴を以前にも見たことがある。元ラクーン警察署長のアイアンズ、それからあの街で幾度も遭遇したU.S.S.の連中だ。あいつらと同じ人を物か何かと同じに見ているような、そんな目だ。

 

 

 

 

 

 

 

 それはともかく、この件はクラウザーとも相談した結果、俺が直接大統領に手渡すことにする。途中でこれを見られたら間違いなく口封じをされるだろう。この情報はあまりに危険だ。

 

 

 

 それから、書類に記載されていたが、ここに残っている研究成果については全てダミーであり、奴らに研究が渡ることは無いようだ。出来ればこの目で確かめたいが、もう俺達には奴らと戦う手段がない。口惜しいが、これは信じて祈るしかない。

 

 

 

 マヌエラとやらについては道中にもし会えれば保護する、ということでお互い妥協した。さすがにこれから捜索に出るのは自殺行為だ。しかしこのまま見捨てるのは信義に反する。出来れば保護してやりたいが・・・・。

 

 

 

 もう爆破まで時間がない。俺とクラウザーは急ぎ脱出ヘリのある場所まで走った。

 

 

 

 Side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・まあ、こんなところかしらね。助かったわ。お陰でキュートな元警察官たちを無事御家に帰してあげられるわ」

 

 

「それはお互い様だ。彼には私も多少縁があるし、無事帰ってもらわないと後々面倒だ。それじゃあ、これが約束の品だ。流石に見せられるものしか渡せないが、人間にはこれでも十分過ぎるだろう」

 

 

 

「助かるわ。これで我儘坊やの癇癪を聞かずに済みそう」

 

 

 

「坊や、ね。まったく、その坊やとやらの試金石に利用されるこっちの身にもなってもらいたいな。今回は目を瞑るが、次からは賃料とるぞ」

 

 

 

「・・・さあ、何のことかしらね。それじゃあ私もそろそろお暇するわ。ああ、それから、H.C.F.は貴方たちの要求を全面的に飲むそうよ。貴方たちとはお互いに取引以外で干渉はしないし、ウェスカーとのゴタゴタは全て黙認するわ。確かに伝えたわよ」

 

 

「『今のところは』って文言が抜けてるぞ。まあ良い。しっかし本当に人望無いな、あのグラサン」

 

 

 

 




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第十八話

 活動報告にアンケートを載せております。もしよろしければご協力ください


 

 

 

 

 

 

 

 ―――――始まりからどれだけの時間が経過したか、あれほど剣林弾雨の体を成していた戦場は静寂に満ちていた。当然の帰結ではあるが。

 

 

 

 ある程度的戦力が消耗したと見るや、ハワードは手駒を撤退させた。それを好機と見た連中が一斉に攻勢に出た。すると必然的に其々の勢力がヒダルゴ邸目前でかち合う。まあそうなるようハワードが調整したせいもあるのだが。相手がどこの勢力か不明であったため、殲滅するしかない。そんなことを続けていくうちに、生き残った存在は数えるほどになってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・お前まで来ていたか、アレックス。いや、お前ほどの女ならこの機会を逃すなどしないか」

 

 

 

「当たり前でしょう、アルバート?こんな最高に美味しい所取りが出来るシチュエーションは二度とないわ。それにしてもひどいお兄様よね、かわいい妹に何の連絡手段も残さずに姿を消すんだもの。お陰でこんな奥地まで足を運ぶことになったわ」

 

 

 

「それは俺だけの責任じゃないな。お前自身が後方で暗躍していたせいで確実な連絡手段を持っていなかったからな。それで?こんなところまでやってきて俺に何の用だ?」

 

 

 

「そうね、まずは商談。私にはもう価値がなくなってしまったけれど、アンブレラ社を売りとばしに来たのよ。貴方たちにとってはまだ値が付いているでしょ?」

 

 

 

「お前の期待に応えられなくなったか。これだけの時間があったんだ。何の進展もなかったのか?」

 

 

 

「・・・あのスペンサー卿も老いたものね。一度の成功に固執するんだもの。いつまでたってもあのマゾヒストのコピーを弄るばかり。デイライトは敵の手中、その上対抗策のB.O.W.まで製造されているのよ?普通採る選択肢は新種のウィルス製造か若しくは別の切り口の探究の筈よ。もう私の役には立てそうにないから、要りそうなものだけ戴いてきたところよ」

 

 

 

「なるほど。それで?俺に対価を払わせるだけの品を用意しているのか?」

 

 

「まず一つはアンブレラの最後の砦、その位置情報ね。二つ目はこれ。14人も息子を作っておきながら最後の二人にすら見捨てられた哀れな老人の住所よ。落ち着いたら見舞いに行くのも悪くないわよ?」

 

 

 

「・・・・そうだな。あの老人にはまだ聞きたいことがある。どれだけの価値があるかは分からんが、アンブレラも最後の意地くらいはあると期待しよう」

 

 

 

「―――そして最後の商品。これから手を組む相手の手札を確認するのは大事な事よね?貴方はたとえ妹が相手でも無能に情をかけるような男じゃないわ。

・・・・私たちと一曲、踊ってくださる?」

 

 

 

 

 そう呟くや否や上空から巨大な影が舞い降りるように降下してきた。黄色の衣を身に纏い、その容貌から感情はうかがえないが、直感的にそれが久しぶりの強敵に狂喜しているのだろうと感じる。

 

 

 

 

「なるほど。確かにこれは素晴らしい作品だ。あの男が関わっていなければ文句の付けどころもないのだが」

 

 

 

 

 その言葉を聞き咎めたかのように、周りに転がる無数の死体から次々と『幼体』が飛び出し、すぐさまおぞましい巨体へと変態する。その数およそ20。

 

 

 

 アルバートが一瞬周りに意識を遣った瞬間を見計らい、『王』は触手の一振りを胴体目掛けて放ち、それから数瞬の間をおいて左腕から弾丸を射出する。が、この1年半でウィルスの適応化が進み、超人的な身体能力に磨きをかけたアルバートに傷を負わせることは出来無かった。見えない透明の触手を、肌に感じる風圧と空気を擦る音のみで察知し最小限の動きで回避、続く弾丸を2本の指で掴み取り握り潰す。最後に戻ろうとする触手を渾身の手刀で切断した。

 

 

 

 無論この程度の損傷など瞬く間に修復するが、黄衣の王が眼前の敵の警戒度をさらに引き上げるには十分だった。

 

 

 

「さて、今度は此方の番だ」

 

 

 

 そう呟き、周囲の有象無象など気にも留めず、アルバートは『王』を仕留めるべく飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――その後、ヒダルゴ邸を一欠片も残さないほどの大爆発によってこの事件は終幕を迎えた。ハヴェエ・ヒダルゴを筆頭とする麻薬カルテル及び『聖なる蛇』はレオンによる証言から全滅・生存者なしと記録されることとなる。

 

 

 

 しかし、彼に対する評価は大きく変わることとなる。当初一連の事件の黒幕と目されていた彼だが、現場に残されていた大量のB.O.W.の死骸及びとある製薬会社のロゴが入った大量の機材が現場にあったことからアンブレラによる実験場として利用されていた、と認識されることとなった。また、ハワードにテロリストの汚名を被せることで手綱を握ろうとした政府上層部の思惑は、物的証拠を一切手に入れることが出来なかったために頓挫することとなった。尤も、彼らからすれば大急ぎで手配した『ファミリー』の私兵が三つ巴の戦いに巻き込まれ、念のため雇っておいた傭兵1人を残して全滅してしまったため、その痕跡の消毒に追われることとなったのでそれどころではなかったのだが・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side ???

 

 

 

 

 

「――――こちらアルファ・チーム。あんた達のヘリが離脱していくが、これは契約の解除と受け取ってよいのか?」

 

 

 

『――――――ッ』

 

 

 

「いや、部隊の全滅というのは間違いではない。私を除けば、の話だが。・・・標的?ああ、それなら安心して良い。パッケージHは恐らく先に潜り込んだ奴に取られたが、その代わりパッケージMを確保した。確かこの娘が被検体なのだろう?」

 

 

 

『――ッ!――――――ッ!!!』

 

 

 

 

 

「・・・・断る」

 

 

 

『!?―――ッ』

 

 

 

「勘違いするな。クライアントのオーダーは守るのがプロだ。だがあんた達から依頼されたのは研究成果の奪取だ。具体的に何を持ち帰れとは聞かされていない。そちらには血液サンプルと組織片を送る。この娘はより高く買い取ってくれる連中に引き渡す。『ショゴス』を真っ向から敵に回したくはない。あんた達もそうだろう?ではこの話は終わりだ。契約通り『荷物』が届き次第、後金を振り込んでもらう、以上だ」

 

 

 

「・・・・手土産としては聊か地味か。別段この娘は身内などではないからな。もう2、3用意するとするか」

 

 

 

 

 

 

 




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アンブレラ終焉?編
第十九話


 随分更新が遅れて申し訳ありません、ようやく書けました。これからまた定期更新に入っていきたいと思います!


 

 

 

 

 

 

 

Side ハワード

 

 

場所:ロシア コーカサス

 

 

 

 

 ―――――あの糞面倒臭かった撤退戦から数か月後、私達は冬将軍の御膝元であるロシアに来ている。南極基地といい、極寒の地に縁があるな。この体になるまでこんな風景とは縁が無かったはずだが妙に感慨深さを感じる。おっと、話が逸れたな。何故南米からこんなところまで来たかというと、ここにあの忌々しい『傘』の最新基地があるという情報を得たからだ。非常に厚かましい恩の押し売りもあり、確度は確かだ。

 

 

 

 しかし、今回もヒダルゴ邸程ではないが厄介な状況になっている。その最たるものがこいつだ。

 

 

 

『総員注目ッ!!これより『アンブレラロシア支部殲滅作戦』の概要説明を始める。まずはこの危険な任務に名乗り出てくれた諸君に心から感謝と敬意を表する。俺はクリス・レッドフィールド、私設対バイオハザード組織の実働部隊リーダーだ。よろしく頼む』

 

 

 

 ――――そう、俺の耳元の盗聴器から流れてくる音声から察して貰えると思うが、今回の戦いの中心は我々ではなく彼らなのだ。火中の栗を拾ってくれるのはありがたいが、我々の最大の獲物の一つを横取りされるのも面白くない。と、いう訳で今回はウルフパックの面々は彼らの部隊に紛れ込んでもらい、私は無関係な第三者ポジションとして参加していくことになる。…ん?どうやって彼らを部隊に潜り込ませたかだって?そんなこと簡単さ、後方支援担当リーダーにちょっとお願いしただけだ。何を隠そう彼らの最大の出資者はこの私だ、この程度の頼みごと早々断らんさ。

 

 

 

 

 ―――あれは確かアフリカでドンパチして直の頃だったかな、あの時の報道を頼りに懐かしい人物が私を訪ねてきた。ラクーンでのフィールドワークの最中で出会ったジョージ医師とジャーナリストのアネットだ。彼らはタフなことに、あの悪夢の街を脱出した後も精力的に活動を続けてきたらしい。いや、続けざるを得なかったというべきか。

 

 

 

 以前、ラクーン生存者を疎むのはアンブレラだけでなく政府も同じであると述べたことを覚えているだろうか?生存者よりウィルスや新兵器の奪取を優先した事実に滅菌作戦を断行したという事実、それから政府上層部や地元警察との深刻な癒着など知られたくない情報が多すぎた。

 

 

 しかも未だに政府はラクーンで起きたことに関して何も明かしていない。一般人が知っているのは、政府とアンブレラがラクーンでの責任について延々と水掛け論をしていることだけだ。しかしそうなると困るのは宙ぶらりんの生還者たちだ。政府が自分たちに責任が無いと公言している限り何処からも支援が得られない状況が続く。特にラクーン以外に生活基盤を持たない、身一つで逃げ延びた人々は深刻だ。

 

 

 勿論アンブレラの所へ行くのは論外だ、他殺志願以外の何物でもない。かといって下手に政府をつつくのも危険だ、実際アネットから聞いたのだが、彼女からある程度の証拠を貰って役所に談判しに行った者が行方不明になっており、後日返送してその人物の事を尋ねても「そんな人は来ておりません。……失礼ですが貴方はその方とどういった御関係で?もしその方について何かわかったら連絡をいたしますのでここに連絡先をどうぞ」と返答され、しつこく連絡先を聞かれ続けたらしい。……もう色々駄目かもしれんな、この国。

 

 

 

 そう言った事情もあり、ゆっくりとだが確実に追い詰められていた彼らは決死の思いで私に助けを求めてきた。どんなことでも協力するから雇って欲しいとね。いつもなら知り合い以外がどうなろうと知ったことではないと突っぱねる所だが、この提案は実に都合が良かった。何せ他に頼る物がない連中だ、よほどのことが無い限り裏切りなど出来はしない。取引相手が私だと教えなければ尚更だ。

 

 

 

 という訳で、ラクーンから火事場泥棒してきた資金の一部を融通してやり、それを元手に何かしら事業を起こすよう依頼しておいたのだ。アンブレラの喉笛を噛み砕いた後、煩わしい連中からの隠れ家として表の顔が欲しかったのでね。ただ、まさか民間軍事組織を立ち上げているとは思わなかった。しかも北極でも会ったレッドフィールド君も居るし、ラクーン関係者以外にも人員を増やしてかなり手広く事業展開しているらしい。これじゃ機密やら何やらの都合で隠れ蓑には出来んな。

 

 

 

 まあ幸い私の庇護下にヒダルゴ氏が居る。マヌエラ嬢も取り戻せたことだし、彼も今度こそ巻き添えを喰らわない様に名と顔を変え表の組織を拵えようと躍起になっている。組織基盤はそちらにした方が無難だな。軍事力ならウルフパックで十分だし、代表に関してだけアネット達と相談しておくか。

 

 

 

 

 

『ヘイ、ボスッ!今良いか?つかこの寒さで自慢のテケリリボディが凍ってやしないか?俺のホットでナウなジョークを――――』

 

 

「間に合ってるから大丈夫だ、ベルトウェイ。何か進展があったか?」

 

 

 

 考え事をしていたら回線にベルトウェイが入り込んできた。今ではもう慣れたが、相変わらず喧しいな。

 

 

『あーあ、相変わらずクールだなアンタも。まあ良い、スペクターが漁ってるが何の情報も出てこないらしい。あの凄腕ストーカーが三日粘ってだぞ?つまり、随分前から補給が完全に止まっちまってるらしい。物資や素材はおろか、食糧までな、こいつをどう思う?』

 

 

 

「……どうやら私達が粗雑な獲物と出くわさない様、先んじて間引きを行ったらしい。右肩下がりの斜陽企業にしては、来客のマナーを弁えてるらしい」

 

 

『ハッ!アンタでも冗談とか言うんだな。予定に変更はねえってことで良いんだよな?今度こそあのふざけた連中に引導を渡せるってなると、このメンバーで一番紳士的な俺様でもエレクトが抑えきれねえ、当然他の奴もな。頼むからお預けはなしだぜ?』

 

 

 ……自分が面白い奴だなどという心算はないが、そんなにつまらない男だろうか?確かにシェリーやメラに表情筋があまり仕事してないと言われるが。後お前は『紳士』の意味を辞書引いて調べ直して来い。

 

 

 

「当たり前だろう?この程度で支障が出るなら最初からお前たちを雇おうなど思わん、前回は随分詰まらない仕事をさせたからな、今回は精々好きに暴れると良い」

 

 

『了解。……一応きいとくが、アマチュアどもは無視して構わねえんだよな?こんな素人擬き、多分半分もママに会えねえぞ?』

 

 

「どうでも良い、実働部隊に友人は居ないからな。私が招集した訳でもないし、正直こちらの行動が阻害されて迷惑だ。どちらにしても最低限の繋がりしか持つつもりはないからな」

 

 

 

『オーライ、そんじゃ4時間後にな』

 

 

 

 さて、くだらない話をしている間に向こうの会議は済んだらしい。……あいつ参加メンバーの癖に会議サボったのか?

 

 

 

Side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side セルゲイ

 

 

 

 

 

 ―――――ここ最近、懐かしい匂いが基地に立ち込めている。そう、かつてソビエト連邦特殊部隊にいたころ散々嗅いだ戦場の香りが。ああ、もうすぐここは新時代の幕開けに相応しい花火を上げることになる。鉄風雷火とそれに伴う痛みを想像しただけで絶頂すら生温い快楽が感じられる。

 

 

 

 それにしても、虎の子と持て囃されたアレックスには心底失望させられた。尤も、病という『この世で最も醜い毒』に侵されては天才の視野も狭まるというものか。まさかコーカサスの研究が何を意味しているかも碌に悟ることが出来んとは。

 

 

 

 『テイロス』の研究を、過去の栄光へ縋る愚行と同列視するなど、全く持って愚かだ。この計画の最大の要点は、タイラントという知性と暴虐性を併せ持つある意味最も御しきれないB.O.W.を、科学によって屈伏してみせたことにある。ふふ、オールドマン教授をスカウトしたバーキン博士の先見の明は見事としか言いようがない。彼が開発した技術はまさしく我々の救世主となった。

 

 

 

 既に種子は放たれた、もうこの研究所から必要なものは全て運び出してある。運び手は人の肉体を捨てた真の同志達(・・・・・・・・・・・・・)だ、ご自慢のデジタルなど何の役にも立ちはしない。招かれざる客人達はアンブレラの崩壊をお望みのようだが、是非そうしてくれたまえ(・・・・・・・・・・・)その方が好都合だ(・・・・・・・・)

 

 

 

 耐用年数を超え腐りきった屋台骨などに用はない。我らが『アンブレラ』は不良品の看板などでは無い。真に忠誠を誓う、志を同じくする者がその意図をもって生み出すものこそが『アンブレラ』なのだ!

 

 

 

 さあ来るが良い、此処からは雌伏(至福)の時だ。溜りに溜まった憤怒で自慰行為に励みたまえ!そして精々我らの計画をその穢れた白濁で塗り潰してくれ!その屈辱を、痛みをッ!!アンブレラ再興を彩る至福の喜びに変えてくれるッ!!

 

 

 

 

 




 ここまでご覧いただきありがとうございます!次回から戦闘パートに入っていきます。感想・質問等いつでも大歓迎です!!


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第二十話

 

 

 

 

 

 

 

 

『こちらチャーリーッ!B.O.W.と接敵!!至急応援をッ!』

 

 

『こちらデルタ!今すぐ救援に…ッ!?B.O.W.モデル『ハンター』接敵ッ!?奇襲により2名死傷ッ!!応援に行けそうにない!』

 

 

 

 

「―――あらあら、本当に寄せ集めの素人たちね。『私設部隊』だから期待してなかったけどよくこれで戦場に出てきたわ」

 

 

「…そう言ってやるなバーサ。連中はアンブレラ憎しだけでここまで来た愚か者共だ。こちらに銃口が向いてないだけ役立っていると割り切るべきだろう。そもそも、想定に応じたB.O.W.の訓練が出来る組織など我々位だ」

 

 

 

 ―――強襲作戦は、ヘリからB.O.W.が確認された時点で想定から大きく外れることとなった。理由は不明だが既にパンデミックが発生している以上、予想降下地点は既に激戦区となってしまっている。

 

 

雪原というのはバトルグラウンドとしてみた場合、ある意味とても戦いにくい。何せ身を隠す場所が無いのだ、塹壕もない以上身を守る術などない。では銃を持つ強襲側が有利かと言えば、練度不足と心構えが大きく足を引っ張ることとなる。

 

 

そもそもクリスやジル、その他一部の例外を除いた人員は本来B.O.W.と戦うために連れてきた訳ではない。あくまで研究施設である以上普通は兵器より研究員や警備兵の方が数が多い筈であり、それらの排除及び確保が彼らの目的であった。B.O.W.の完全な制御は(どこかの神話生物を除けば)未だ確立されていない以上安易に基地内で投入することは出来ず、窮した彼らが形振り構わなくなったときにクリス達がそれらを相手取る、というのが当初の予定であった。

 

 

ところが蓋を開けてみれば、生存者など一人もおらず怪物が闊歩している有様。心構えが幾らあっても対B.O.W.訓練のしようが無い以上後手に回る彼らを責めるのは酷というものである。

 

 

が、そんな都合は彼らウルフパックの考慮するところではない。早々に部隊に見切りをつけた彼らは戦場に降り立つや否や独自に行動をとった。他の人員には目もくれず、鍛え抜かれた技術と突破力を武器に、どんどん奥へと突き進む。

 

 

ベクターが迷彩と獣にすら悟らせない隠密歩法によって偵察を行い、その情報を元にスペクターが最適の進路を割り出す。敵を発見すればベクターの強襲でかき乱し、ルポの鉄拳で粉砕、残りはフォーアイズ謹製の抗ウィルス弾の集中砲火によって片付けられる。しかも今回轡を並べるのは彼らだけではない。恐らく考えうる最強のカードも参加していた。

 

 

 

「―――見事だ。アフリカで見えた時からさらに腕を上げているな。ことB.O.W.戦においては俺すら凌ぐかもしれん」

 

 

「恐縮ですマスター、我々のスポンサーはありとあらゆる種類・状況を想定した訓練を用意してくれますので。経験、という一点においては例え貴方といえど後れを取るわけにはいきません」

 

 

 

 そう、彼らとは浅からぬ縁のある人物、かつて『死神』とまで言われたエージェント・ハンクも彼らに同行していたのだ。彼としてはアンブレラの切り札を手土産にしようと思いクリス達の作戦に潜り込んだのだが、まさか彼らの資金提供者がハワードたちとは思わなかったようだ。

 

 

 

「二人とも、私語は其処までだ。…『死神』、この状況をどう見る?」

 

 

「―――目印、だろうな。どうやら連中は『ショゴス』若しくはその関係者であるお前達を誘導したいらしい。間違いなく待ち伏せされていると思われるがどうする?」

 

 

 

 順調に踏破していた彼らだったが、道中あからさまな違和感に遭遇した。とあるルートにのみ特殊なB.O.W.が設置されているのだ。他は目新しくもないハンターやキメラばかりだというのに、そのルートにのみかつてハワードが開発したプロテクターを装備した個体が配備されている。やはり本能のみで襲ってこられるより、高度なプログラミングに基づいた戦術で来られる方が数段厄介であり、彼らでなければ数分で10回以上全滅させられただろう。

 

 

 

「アフリカじゃ散々暴れ回ったからな!!きっと今までのゲテモノどもが玩具に見えるくらいスゲーのが待ってるだろうよ」

 

 

「洒落にならんからやめろベルトウェイ。目印というのも十分あり得るが、単に自分たちに繋がる道に戦力を割いただけとも考えられる。もしそうならこいつらが居る方に我々が食い千切るべき怨敵が居るはずだ。であるなら、進むべき道は一つだ」

 

 

「…情報は『ショゴス』に伝えてある。必要なら『アレ』も使って構わんそうだ」

 

 

「どうせこんなとこ丸っと吹き飛ばした方が世の為ってもんでしょ?じゃあアイツ等の全てを根こそぎ台無しにしてやりましょうよ」

 

 

 もとより彼らに退くなどという選択肢など存在しない。最低限の確認のみ済ませ、彼らは変わらぬ足取りでアンブレラの深淵へと足を踏み入れて行った……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所:地下プラットフォーム

 

 

 

 

 

「……はあ、物資の移動や別施設への行き来ならともかく、列車が必要な規模で研究施設創るとか非経済的にも程があるだろうに」

 

 

 

 ――――ひとり別行動をとっていたハワードは、不定形の肉体を活かして地下から潜入していた。相手の虚をつく為と、上で頑張っている連中と鉢合わせにならないようにするためだ。

 

 

なのでウルフパックとは別行動をとり、人目を忍んで地下から侵入したのだが、その場は既に制圧されていた。相当数のクリーチャーが配備されていたようだが一匹残らず殲滅されており、およそ人間では不可能なほどの破壊痕から下手人は大凡予想が付いた。

 

 

 

「……うわ、あのグラサンと考えが同じとか嫌だなあ。ロリコンがうつりそう。こっちの動きに合わせられたってことは無線の傍受でもされたかな?」

 

 

 

 進行方向上にあるクリーチャーの死骸を蹴り飛ばしながら、表情を歪めて一人ごちるハワード。どうやら彼にとっては先客のお陰でスムーズに進めていることより不快な相手と似た行動をとった不愉快の方が大きいらしい。

 

 

 

「先にアイツが行ったってことは、当然“足”も向こうに行ってるんだよな。車自体は幾らでも創れるけど、『アンタに運転させるくらいならサシで“G”とやり合う方がまだマシだ』て言われるようなテクしか持ってないし、どうしようかな」

 

 

 

 ――――先客が来ている以上こういった事態に陥るのは当然である。ロリコングラサンことウェスカーが既に列車を研究所中枢へと走らせてしまい、代用品があっても使えなければ意味が無い。この男、研究以外では意外とポンコツである。

 

 

 

 

『―――ほう、遅い到着だなハワード博士。小賢しい鼠も、子飼いの狼達もすでに奥深くに参じているというのに』

 

 

 すぐ傍にあるスピーカーからロシア訛りの英語が放送される。声の渋みから察するに、こいつがアンブレラ総帥オズウェル・E・スペンサーの親衛隊長セルゲイ・ウラジミール大佐だと辺りを付ける。無視して先に進もうとするが、その前にプラットホームへと列車が戻ってきたため、仕方なく相手することにした。

 

 

 

「―――何の心算だ?態々迎えを寄越すのは殊勝な心がけだが、カチコミかけた相手の乗り物なんぞに乗れると思うか?」

 

 

『いいや君なら乗ってくれるだろう?その列車の行先に私の首より遥かに価値のある物がある、と言えばね』

 

 

 

 スピーカーからの返答に眉を顰める。いや、彼でなくとも同じ反応を見せただろう。大佐が何を用意しているかは不明だが、やろうとしていることが本末転倒になるからだ。外からやってきた無頼相手に企業秘密を開示するなど、何のために防衛を行っているか分からなくなる。それが出来るなら最初から基地を放棄して逃げれば良いのだから。

 

 

 

「ふざけるな、私達が何のためにこんな雪しか見る物が無い場所まで来たと思っている。私達の最優先目標はアンブレラの息の根を止めることだ。価値のある物とやらはその後でじっくり堪能させて貰えば良い、違うか?」

 

 

『それは実に良くない。そんなことをしてはもう君は新しい獲物にありつけなくなってしまうぞ?“今の”君にとってはそれこそが本懐なのではないかね?』

 

 

「……なんだと?」

 

 

『君の資料は全て目を通させてもらった。君は大学時代から中々派手にやっていたようだからね、情報を集めるのに苦労しなかった。それに、アークレイでのキミの活躍はレッドクィーンを通じてほぼ収集できている。それらを元にプロファイルしてみたが、アークレイでの騒動に巻き込まれる前までの君はとても慎重で内向的、そして何より、己の生存にのみ執着しているような男だった。

 

 

そんな男がラクーンから逃げ延びたらどう動くだろうか?普通は姿や名を変えて埋没するか、アンブレラの手の及ばない土地に引き籠るだろう。幸いそれを成すだけの力を十二分に得ているのだから。それにも拘らず、君はアフリカで大々的に我らに宣戦布告し、南極基地にまで足を運びアンブレラに牙を剥いた。その結果があの四つ巴の戦いだ、一つ間違えばアメリカ政府にしてやられる所だった。そんなリスクをキミが負う必要などどこにもなかったにも拘らずな』

 

 

 

―――指摘されて初めて自覚したのだろう、ハワードは珍しく心底動揺していた。確かにこの体になった当初から、食欲というか知識欲というか、とにかく衝動に対して貪欲になっている自覚はあった。しかし人間だったころはあれほど死にたくない、分の悪い賭けはしたくないと奔走していたのに、今では多少のリスクなど知ったことではない、と言わんばかりの行動をとっている。

 

 

落ち着いたら一度しっかり調べてみるか、と脳内でメモを取るハワード。そんな彼を気にした様子もなくセルゲイは言葉を続けていく。

 

 

 

『他の面々はアンブレラそのものと確執があるが、君とはそういった関係は存在しない。そして君にとって最も理想的な展開が混沌である以上、落としどころはあると思うがね。いわばこのロシアで我らの関係を白紙に戻してもらうための前金の様なものさ。最悪、ここで暴れられてシナリオをぶち壊されなければそれで構わん。受け取るも受け取るまいも好きにしてくれたまえ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所:実験処理場

 

 

Side セルゲイ

 

 

 

 

 

 ―――――さて、列車は予定通りホームを出たようだ。これで最大の懸念材料は取り払われた。後はこの茶番を全うするまでだ。

 

 

 

 

「――――動くなッ!妙な真似をすれば撃つ!!ここで何があったか、アンブレラが今までなしてきた罪も含めて洗い浚い喋って貰おうか!」

 

 

「外に居たB.O.W.も掃討が完了しつつあるわ。ロシア政府軍もこちらに向かってる、もう貴方に逃げ場はないわよ!」

 

 

 

 おっと、ようやっと待ち人たちが来たようだ。これでこの舞台に幕を下ろすことが出来る。

 

 

「ようこそ、ラクーンの生き残りたち。私はセルゲイ・ウラジミール、スペンサーがお隠れになった今、実質的なアンブレラのリーダーを務めている」

 

 

 ふっ、嘗ての同志や博士に比べれば実に御しやすい。餌をチラつかせればすぐに乗ってくれてこちらとしても話が早い。揃って怒りを迸らせて引き金に指を掛けている。

 

 

 

「……お前は相当詳しい事情を知っているらしいな。ようやくアンブレラとの因縁を解消できそうだ」

 

 

「そうねクリス。洋館で死んでいったS.T.A.R.S.メンバーの仇がやっと討てそうね」

 

 

 くく、良いぞ。実に心地よい殺気だ!今から彼らが私に注ぎ込む痛みを想像するとつい目的を見失ってしまいそうだ!

 

 

「意気軒昂で何よりだ。これまでアンブレラの邪魔をし続けてきた君たちが、どれだけの痛みを齎してくれるか興味があったのだ。是非堪能させてもらおう」

 

 

 

「なにを―――ッ!?こいつはアークレイの!」

 

 

「凄い数よ!『専用弾』に装填し直してッ!!」

 

 

 ―――ほう?13体ものタイラントに囲まれても焦りすらしないか。ああ、そういえば小賢しい『特効薬』があったのだったな。たかがアンブレラの下請け風情が目障りなものを創り出してくれたものだ。たしかにそれがあれば統率がとれないB.O.W.など敵ではないか。統率がとれなければ(・・・・・・・・・)、な。

 

 

「クリスッ!あいつ、体が……ッ!?」

 

 

「な、自分にTウィルスを!?だが、そんな素振りは……」

 

 

「何やら認識に齟齬があるらしいな。私を今までの出来損ない共と同じに見てもらっては困る。私は1000万人に一人の確率で存在するTウィルスの完全適合者!この場に居るタイラントたちはすべて私のクローンなのだよ」

 

 

「「――!?」」

 

 

 ああ、私の両腕から無数の茨が飛び出していく。まったく、私の変貌としては的を射すぎていて気味が悪いくらいだ。本当は全身余すことなく変異させたいところだが、それでは後から来た連中が私の骸だと分からなくなる。それではここに残った意味が無い(・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 

 アンブレラ総帥の側近である私の死が凌辱され、アンブレラ崩壊の証拠が白日の下にさらされることで連中に仮初のピリオドを打たせる。既に真の同志たちが布石を打っている。大量に流出されたウィルス兵器が世界中のテロリストや軍部へと蔓延し、ありとあらゆる災厄の中心にウィルス兵器が君臨する世の中が到来する。そうなれば既に滅びた会社の残党に割く手など有りはすまい。

 

 

そうして力を蓄え、何時か新しく、且つより強靭となった“傘”の前に再び頭を垂れる日が訪れるのだ!そのための礎となれるのならば、喜んで首を差し出そうではないか!!

 

 

 しかし、目の前に居るこの不穏分子だけは私の手で始末しなければならない。この者達は幾度となくアンブレラの至宝を踏み越えてきた。断じて生かして帰すわけにはいかん!

 

 

 

 デイライトは確かにT型B.O.W.にとって脅威だが、決してコストパフォーマンスに優れているわけではない。足手纏いを連れてきた以上それほど多くの持ち合わせがあるとは思えない。

 

 

 その対応策がこの大量のタイラントたちだ。彼らの脳髄に茨を接続し、そして大本である私を通じてレッドクィーンが同期させる。完全なクローニング技術には程遠いとはいえ、元は私なのだ。Tを仲介することで、真実彼らは“私”となった。一つの意志の下完璧に統率されたタイラントがどれ程の脅威となるか、その身で味わうと良い。そして、私に14の死の味を堪能させて見せるが良い!!

 

 

 

 

 

 




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第二十一話

 

 

 

 

 

場所:地下実験処理場

 

 

 

 

 

 

「―――――チッ!衛生兵が真っ先に戦線離脱なんて許しがたい失態よッ!スペクター、全員のバイタルはどう!?」

 

 

『落ち着け。全員ちゃんと心臓は動いてる、致命傷を負った奴もまだいない!……だがこのままだと時間の問題だ。3人が奮戦しているからお前たちは離脱できたが、ルポの奴が不味い。『ビーフィーター』がそろそろ稼働限界だ、ベクターと死神は神懸った反射神経で躱せるが打たれ強さでどうにかなる火力じゃない』

 

 

「クソがッ!?あれのどこが鏡の国の少女(アリス)だってんだ!!ジャバウォックの方がよっぽどしっくりくるぜ!怪物が居るならヴォーパルの剣もきっと用意してる、どこに安置してるか検索してくれよッ!!」

 

 

『…この状況で良く冗談が言えるなベルトウェイ。生まれて初めてその悪癖に感心したぞ』

 

 

 

 ――――数多のB.O.W.を退け辿り着いた先はコーカサス研究所唯一の廃棄処理場だった。数えきれないほどの試作生物兵器の死骸や失敗作のウィルスの残滓が氾濫しているこの場所は此処に居ない神話生物やフォーアイズにとっては正に宝の山であるが、同時にいかなる事態が起こっても研究所への被害が抑えられる隔離施設でもある。アンブレラの最大戦力に一切自重させずに戦わせる最適の場所である此処に用意されていたのは、たった一人の女性だった。

 

 

 年のころはまだ20代といったところか、美しい容姿に赤色の肌着を身に纏ったその出で立ちはとても脅威を感じる物ではなかった。―――――全身に纏った不似合いな武装さえなければ、だが。

 

 

 両手にはイスラエル製のマシンガン『ウージー』を携え、背中には三連装ソードオフショットガン『ハイドラ』を吊るし、腰には二対のククリナイフを佩き、さらには足元にまるで小手調べか何かの様に転がるズタボロになったプロトタイラントの有様は、ウルフパックに『コイツが本命だ』と思わせるには十分であった。対して、自らの事を『アリス』と名乗った謎の女性もまた、自身に向けられる尋常ではない殺気を前にして一刻も早く眼前の敵を排除しなければと防衛本能を掻き立てられることとなった。

 

 

 

 碌に言葉も交わすことなく、しかし示し合せたかのように同時に始まった撃ち合いは、当然ともいえるがウルフパックの圧倒的優位から幕を開けた。七対一、しかも超一流の戦闘技術を持つ彼らを相手に、一瞬で始末されない時点で尋常ではない腕前なのだがこの数の差を覆すのは不可能である。両手のウージーをフルオートとは思えないほど精密に掃射し、B.O.W.の残骸を壁にしながら蜂の巣を逃れるが長くは持たない。

 

 

 着々とアリスを追い詰めていくウルフパックであったが、どれだけ優勢となろうが彼らの手が緩むことはない。たった一人のせいで全てが台無しとなるのはラクーンで経験済みであり、しかもあの時の警察官より遥かに厄介なにおいのする相手なのだ、手を抜くなど有り得ない。

 

 

 そんなプロフェッショナル相手に均衡など続くはずもない。真っ向からの銃撃戦は悪手と判断したルポはベルトウェイを後方に下がらせ、意図を察した彼は即座に『インク』を奔らせる。

 

 

 ―――数秒後、処理場の至る所から爆発が起き、凄まじい土煙と共に火線を妨げていた残骸を吹き飛ばす。その結果、銃火器は配備されていても身を守る装備を持たない彼女は粉塵に目と呼吸を遮られ、致命的な隙を晒してしまう。

 

 

 正面から拳を携えたルポが、背後からベクターがナイフを振り下ろし、死角からハンクが銃撃を加え、それらからワンテンポ送らせてマチェットを携えたバーサとショットガンを構えたベルトウェイが追撃を行う。幾重にも襲い掛かる死神の鎌から逃げる術など存在しない――――――そのはずだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鉄拳が衝突し、反動が空気を揺らし轟音を響かせる。傍から聞けば獲物を捉えた証左と思えるそれらに当の本人は眉をしかめる。長い傭兵生活の中で一度も感じたことのない手応えを訝しむ彼女は、晴れた煙の先を見て滅多に見せない驚愕の表情を露にする。確かに違和感はあったがその手に伝わった手応えは本物だったはず、であるにもかかわらず自身のこぶしは標的の眼前で静止していたのだ。拳どころか、銃弾やナイフまで見えない壁に阻まれているかのように。

 

 

 

 今度は相手が曝した致命的な一瞬、そこを起点にアリスの逆襲が始まる。彼女が土壇場になって発現させた超能力染みたその力を全開にし、既に追撃態勢に入ってしまっていたバーサとベルトウェイを吹き飛ばし、身動きの取れない二人へウージーを掃射する。彼らのボディアーマーはとても頑丈であり離れた距離からの弾丸ではあまり効果はないが、アリスの狙いは彼らの命ではない。ウージーから大量にばら撒かれた9×19mmパラベラム弾は狙い通りベルトウェイの義足を噛み砕き、行動不能にするとともに敵のアキレス腱に変えたのだ。

 

 

 

 動けなくなったベルトウェイを狙いハイドラを彼へと発射し、『ビーフィーター』を発動させたルポがその射線に立ち塞がる。しかし彼女もベルトウェイが戦線離脱するまで距離を詰めるわけにはいかず、弾丸そのものは無力化出来ても近距離での大量の散弾が齎す衝撃を完全に殺し切ることは出来ず、確実にダメージを蓄積させていった。

 

 

 

 巨漢であるベルトウェイは本来一人程度では動かせないが、義足を壊された経験は一度や二度ではないらしくハンクが少し支えてやるだけですぐに離脱することが出来、フォーアイズもまた全身を正体不明の力で打ち据えられ負傷したバーサを離脱させ、吹き飛ばされながら辛うじて振りかぶったマチェットに僅かに付着した血液を携帯用調査キットに入れ調べ始める。

 

 

 

 

 

 

 

 ――――その後、ベルトウェイを運んだハンクが再び戦線に戻り、ハッキングのため処理場より少し手前で見つけた研究室に残ったスペクターが通信をつなげてきたところで冒頭に戻る。今のところ戦いは、アリスの謎の力を警戒して白兵戦に持ち込めない為に膠着してしまっている。むしろ遮蔽物を排除してしまったためにウージーが猛威を振るいルポの被弾が深刻な事になっている。唯でさえバーサ以上に真正面からあの衝撃波を喰らっているのだ、何時戦況が悪化しても不思議ではないほどに追い詰められていた。

 

 

 

「―――結果が出たわ。血液を調べたところ、仕組みはかなり異なるけれどあいつはボスと同じ特殊細胞で出来てるみたい。あの出鱈目な力や強さは恐らくこれが原因」

 

 

「あぁッ!?ボスと同じってことはあのしみったれた漁村から獲ってきた奴かよフォーアイズ?その割には随分毛色が違うみたいだけどなあ」

 

 

「言ったでしょ?仕組みがかなり違うって。多分死骸だったから復元が上手くいかなくて何かしらの処置を施したんでしょうね。ボスみたいに増えたり変態したりはせず組織自体は殆ど人間のソレと変わらないけど、それらに使われるはずのエネルギーを超常染みた力として利用してると思われるわ。これ以上は此処からじゃわからない。『デイライト』も効くかどうか不明ね。スペクター、そっちは何かわかった?」

 

 

『ああ、消去された情報をサルベージした。そいつは『TGS特殊細胞搭載型B.O.W. Alice』、フォーアイズの言った通り「ショゴス」を使用して作成されたらしい。埒外の強靭さと再生力を持つショゴスに目を付けた何処かのバカが、強力過ぎて他のウィルスと混ぜ合わせられないTヴェロニカの毒性を抑えるのに使ったらしい』

 

 

「おいおいマジか!!この世で一番やばい劇物トップスリーがあの女に同居してんのかよ!?通りで化けモンなわけだ!……まさかあれ量産体制に入ってるとか―――」

 

 

『縁起でもないこと言わんでくれ。どうやら造ったは良いが制御が全くできなかったようだ。ショゴスのミイラも使い切ってしまって実験も碌に出来ず此処に廃棄したらしい。タイラントを見ても分かる通り連中のクローニング技術はハワードに遠く及ばない、複製は無いとみて良い。ただ………』

 

 

「何か気になる事でも?」

 

 

『ああ。私とフォーアイズはハワードに同行して南極基地に行ったんだが、あの地での生存者は我々とレッドフィールド兄妹、それからアルバート・ウェスカーのみだ。アンブレラはどうやってTヴェロニカを手に入れた(・・・・・・・・・・・・・・・・・)?』

 

 

「ウェスカーが流した、若しくは流した物をアンブレラが押収した可能性は?」

 

 

『―――ありえない。研究データから見てもヴェロニカが実験され始めたのはウェスカーが手に入れ帰還した直前かそれより前だ。時間的に不可能だ。以前からヴェロニカを押えていたのなら他に研究を行った形跡がある筈だがそれもない。そもそもアンブレラが持っているのなら態々ロックフォート島経由で南極まで行ったりはしない。

 アリスを創造した研究者についても完全に情報を消されている。辛うじて名前だけは残っていたが、どの国の言語の法則にも当てはまらない出鱈目なアルファベット綴りだ。データの破損か若しくは偽名だろうか?』

 

 

「―――目ぼしい情報は無いってことね。まあ今は置いておきましょう、それよりも早く何とかしないとこのままじゃジリ貧よ。今は三人だからあそこで釘付けに出来てるけど、もしルポが倒れたらあの二人じゃ守りながらは戦えない」

 

 

『それについては私の方で手を打ってある。どこまで効果があるかは分からんが――――たとえ一瞬でも『死神』なら好機を逃すことはあるまい』

 

 

 

 

 




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第二十二話

 

 

 

 

 

 

 

 ――――私の名前はアリス。世界有数の大企業であるアンブレラコーポレーションの元

エージェント…という設定の架空の人間(ジェーン・ドゥ)。アンブレラの狂った計画の一部であり、その全てを台無しにした異分子。

 

 

 

 所々朧気だけれど、私はあの地獄に終止符を打つことが出来た。世界からTウィルスを消し去り、冷凍保存された人の皮を被った悪魔たちもこの世から消滅した。私は何故か世界に散布されたワクチンによって死ぬことは無かったが、まるで役目を終えたかのようにこの体は急速に衰えていった。恐らくクローン故の弊害だったのかもしれない。

 

 

 ただそれは私にとっては福音だった。私には脅威の去った世界で生きていく資格など無いし、平和を取り戻すべく奮闘するには疲弊し過ぎていた。受難の旅路をゆく人々に何の償いも出来なかったのは心苦しいけど、あの戦いを共に乗り越えた生き残りの仲間たちに後を託し、私は人知れずこの世を去った。しかし―――――――。

 

 

 

 

 

 

 

『―――おはよう、アリス。束の間の休息をどうぞ心行くまで…と言いたいところですが、ナーサリーライムは子供がせがむたびに謡われるもの。さあ、百番煎じの悪夢を始めましょう』

 

 

 

 ――――真暗な世界で聞いた、綺麗だけどどこか嘲りを含んだような声音。その声に導かれるように意識が覚醒していき、目を開けたら嘗てアイザックスが根城にしていた研究所を思わせる施設のカプセルの中だった。妙な既視感を感じながら視線を動かした先に居たのは一人の青年。

 

 

 

 我が身に降りかかった災厄が原因で男との出会いには事欠かなかった―――いい意味でも悪い意味でも男運は最悪だったけど―――けれど、その全員を引き合いに出しても見たこともないほどの美青年だった。

 

 

 

 

「それでは改めておはようございます、記憶の欠損は無い筈だけど如何ですか?…問題なさそうですね。いやー、それにしても貴方は不幸な方だ。ほんの些細な切欠が本来重なり合うはずのない存在を呼び起こした挙句第三勢力を築き上げ、乱れた天秤の帳尻合わせのために幸せな眠りから叩き起こされたのですから」

 

 

「……ここは―――いったい、どこ――なの?あなた、ダレ?」

 

 

「おや?もうしゃべれるんですね。本当に頑丈な方ですね、結構結構。それで質問の答えですが、ここは貴方が居た世界と似て非なる場所。平行世界、フィクション、イフ、まあ呼び方はご自由に。あと貴方にとって良いお知らせと悪いお知らせがあるんですが、どっちから聞きます?」

 

 

 

 …本当に私には男運が無いらしい。こっちは呼吸さえ満足に行えてない所為で返事どころじゃないってのに、しかもこいつはそれが分かってて聞いてきている。しかし目覚めたばかりの私には外の情報は何よりも欲しい。だから何とか吐息のような声で『悪い方』とだけ答えた。理由は何となくだが、今まで上げてから落とされる経験が多かったからかもしれない。

 

 

「ふむ、じゃあそっちからまず話しましょうか。面倒だから簡潔に言いますけど、この世界にはTウィルスとやらが絶賛稼働中です。しかもそれがさらに改良…改悪?されてもっと質の悪いのまで世に出てきてる始末です」

 

 

 …予想はしていたけど、思った以上に悪いニュースに思わず顔を地面に俯けてしまったのは仕方がないと思う。比喩でも何でもなく、全てを投げ捨てて成した筈の事実が消失したというのはかなり堪える。もう一度アレをやるのは気力的にも精神的にも不可能だ。しかもさらに状況は悪化しているらしい。

 

 

「―――もしもーし、聞こえてます?あ、良かった。それじゃあ良い方のニュースだけど、この世界は貴方がいた所みたいに文明崩壊レベルで滅んだりはしませんよ。……今のところは、ですが」

 

 

「……ウソでしょ?ラクーンを核の炎で消し去って、それでも感染は止められなかった。数年で世界が滅んだのよ!?あれよりさらに状況が悪いのにどうして――――」

 

 

「君たちにとっては腹立たしいことに、この世界にとっては何よりも幸福なことに、まるでヒーロー、若しくはスーパーマンのような超人が居るんですよ。彼らがどれだけ危機的状況でも瀬戸際で食い止めてしまう。その証拠にラクーンからは奇跡的に感染者の流出は起きず、本当に世界を壊してしまいかねない怪物たちは矮小な筈の人間が天文学的な確率の運を手繰り寄せて殲滅しました」

 

 

 …それは本来喜ぶべきことなのだろう。祝福すべきことに違いない。けど、どうしても私には憎く思えてしまう。そんな都合の良い存在がこの世界に居るのならどうして私達の前には現れてくれなかったのだろう。そんな救世主が居るのならカルロス、L.J、アンジィ、それからルーサーも死なずに済んだのかもしれなかったのにと、どうしようもないことを思ってしまう。

 

 

「…それで、もっと良いニュースと悪いニュースは?どうせあるんでしょう?」

 

 

「…やはり貴方は優秀ですよ。てっきり目先の情報に踊らされるとばかり思いましたが?」

 

 

「ええ、貴方は良い知らせと悪い知らせがあるとだけ、でも他には無いとも言わなかったわ。嘘は言ってないけど本当のことも言ってないって奴に昔散々騙されたからなんとなくそう思っただけよ」

 

 

「うんうん、プレイヤーのレベルが高いことは良い事です。その方が面白くなる。では賢い貴方にもう三つヒントを上げましょう!一つは先ほど言った第三勢力のせいで本来均衡するはずの天秤が色々と危ういんですよ。

 

例えば、本来なら『えいゆうさん』を雑魚と最後まで侮って足元を掬われた老人達が『彼ら』という難敵のせいで慢心を捨ててしまったり、病という最も人が脆くなる要因に苛まれた『自称観測者』が希望に全力で縋る所為でするはずの失敗をしなかったり、と言った感じに。

 

 物語の主人公の強みって基本少数勢力な所為で実際にカチ合った人以外はほぼ軽んじてくれる点なんですよね。ところがその人たち以上に危険な相手がいるせいでそれが成り立たなくなった。良く大人の人が少年漫画にツッコむ『序盤に準ラスボス級置いて不安の種はさっさと摘んどけよ』が現実になっちゃうようなものです。

 

 それから、その第三勢力も中核が堅気とは言えない連中ばかりなんですよねえ。頭目は『死にたくない』がいつの間にか『食欲』に方針転換してるような、言ってしまえば『偶然力を得ちゃった一般人』を地で行く人ですし、周りの人間も自分たちに禍が来なければどうでも良い、て感じだから率先して人間の害にはならないでしょうが、好奇心で厄種を放置するくらいはするでしょうし。

 

 最後に、貴方の能力は生前の全盛期と変わらない仕様になってます。ただ、こっちの世界では説明できない現象が幾つかあったのですがそれは代用品で補いましたので問題ありません。特殊能力については今は目覚めたばかりなので使えませんが、あの世界に居た時の勘を取り戻せれば再び使い熟せるでしょう」

 

 

「……」

 

 

「ではレクチャーはここまでです。貴方にとっては腹立たしいかもしれませんが、今の貴方のポジションはアンブレラ最新のB.O.W.実験体です。言うまでも無い事ですが、脱出の算段も付けずに安易に行動するのは控えた方が賢明ですね。ですが、無事逃げ果せた後はお好きに行動していただいて構いません。『えいゆうさん』達の輪に入って組織の恩恵にあずかるもよし、己の意志にのみ従って孤高に戦うもよし、将又全ての勢力を敵に回すのも大いに結構。これからの活躍に期待してますよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 ――――そう言ってあの男は姿を消した。それからは唯只管戦いの毎日だった、アンブレラが用意した傭兵部隊(捨て駒)B.O.W.(出来損ない)、それから戦車のような機械兵器まで。アンブレラの名を冠しているだけで殺す理由は十分だったから特に葛藤もなく経験値にさせてもらった。ただし一度も命令を聞くことはせず、ひたすらに反抗し続けた。

 

 

 

 最後には扱いに困り果てたのか、施設の地下にある廃棄処理場が私の仮の宿となった。不定期に食料等が来る以外は廃棄処分となった失敗作を始末するだけ。いっそのこと直接的に処分しようとしてくれた方が外に通じる通路を知れたのだが、まあ想定の範囲内だ。予定より遅いペースだが着々と私への興味が失せ始めている、後は適当に死亡した体を装って機会を待とうと思っていたけれど――――それより前に、『私が戦わなければいけない相手』がやってきてしまった。

 

 

 

 ――――全身を黒尽くめで覆った姿はあの世界でも遭遇したアンブレラセキュリティサービス達とどこか似通っているが、全身から迸る殺気と覇気は今まで一度も浴びたことのないほど濃厚だった。

 

 

 出来ればあの男からの情報のみで戦うなどしたくはなかったが、そんな甘えが許される敵じゃない。どちらからともなく始まった撃ち合いは、当たり前だけど終始私の劣勢が続いた。

 

 

 スペックだけなら私一人でも問題はない、地の利もある。問題は私の対プロフェッショナルへの経験値だ。あの世界では殺す相手は殆ど破落戸かアンデッドのみで、この世界に来てからも練度の低い傭兵か化物しか相手にしてこなかった。本物の戦士がどれ程凶悪かを、恥ずかしながらこの瞬間まで忘れてしまっていた。

 

 

 間違いなくあの超能力が覚醒しなければ私は死んでいた。けれど土壇場であれを使う感覚を思い出せたお陰で拮抗状態にまで戻すことが出来た。巨漢の男とマチェット使いは無力化でき、残るはナイフ使いの男とバーサーカーの様な女、それから気を抜けば目前に居ながら視界から消えそうなほど気配が薄い男の3人のみ。とはいえ、一瞬でも接近されればワンのように細切れにされかねないという綱渡りを強いられている。何とかしなければ、バーサーカーの体力切れを待っていては間違いなく手遅れになる。そう思って勝負に出ようとしたのだけれど――――どうやら僅かに遅かったらしい。

 

 

 

 

『最終シークエンス起動。廃棄場の「焼却」を開始します。五分後に一切の警告無く焼却は実行されます。職員は直ちに退避してください。繰り返します、最終――――』

 

 

 

 ――――突如鳴り響いたサイレンが鼓膜を打つ。目の前の敵から注意は逸らさずに、けれど現状の把握と脱出手段の確保に頭を働かせる。なぜ今になって処理場を放棄しようとするのか。こいつらを始末したいのならどちらかが倒れた後の方がよほど効果的な筈だ。今のタイミングだと最悪呉越同舟になる場合もある。それともまさか―――と考えている間に死神の鎌はすぐそこまで振り下ろされていた。

 

 

 アスリートも脱帽するほど高く跳躍し、私の頭上へと飛来するのは先程の気配が全く感じ取れない男。どうやらこの男にとっては私の警戒なんてザル警備でしかないらしい。恐らくバーサーカーを踏み台に私の頭上の死角へと入った彼の両手は、既に頭に触れる一瞬前まで接近していた。何をするつもりかは分からないが、全身から来る悪寒がその危険を教えてくれる。

 

 

 

…けれど、この男は一手早すぎた。決着を急ごうと準備していた私は、その一瞬よりさらに早く彼を吹き飛ばすことに成功した。もし私が先に衝撃を発生させていたなら、私は成す術もなく殺されていたかもしれない。だが次は絶対に防げない、そう急き立てる本能に合わせてハイドラを宙に居る男に向けた瞬間――――自分の失策に直面することになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それはまるで悪夢のような光景だった。他の敵も間違いなく強敵だが、その中でも間違いなく最悪の敵ともいえる男の姿が、徐々に歪み始めたのだ。そうしてまるで皮が破けていくかのように変化した先にいたのは、先程までナイフを片手に銃弾を回避し続けていた方の男だった。

 

 

 目の前に状況を飲み込みきれず、それでも全身全霊でその場から離れようと一歩足を踏み入れようとした瞬間、自分の首から出たとは思えないほど野太い破砕音が響き渡り、私は自分を制御する一切の方法を奪われてしまった。正直生きているのが奇跡に感じられるが、今まさに振り下ろされようとしている軍靴を見るに生存は絶望的だろう。

 

 

 

 結局、私は何のために墓場から掘り起こされたのだろう?そう思いながら長くもない走馬燈に浸っていると、突然全身が光に包まれそこで意識が途絶えた。

 

 

 

 




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第二十三話

 

 

 

 

場所:地下実験処理場

 

 

 

『―――想定外の事態が発生しました。焼却シークエンスを中断します、整備班は直ちに原因の究明及び事態の解決に取り掛かってください。繰り返します、想定外の――――』

 

 

 

 

 処理場は完全に崩壊していた。外部から撃ち込まれた凄まじい一撃により壁面に無数の大穴が空き、巻き込まれまいと脱出した時には再突入は不可能なまでに瓦礫に埋まってしまっていたのだ。

 

 

 

「こちらルポ、損傷は決して浅くはないが全員無事だ。先ほどの焼却シークエンスとやらは注意を引くためにお前が仕掛けたのだろうが、その後のアレは何なんだスペクター?」

 

 

『無事だったか、お前たちに限ってまさかとは思ったが安心したぞ。崩壊の原因は、ハワードが持ち込んだ『パラケルススの魔剣』とやらだ。米軍特殊部隊がラクーンへ持ち込んだレールキャノンとかで、街を散策していた時に摘み食いしたとか。今回は『アースクエイク』が使えんから代用の対タイラント武装としてこっそり奴らに貸与していたようだ』

 

 

 ―――『パラケルススの魔剣』、それは米軍特殊部隊へ試験的に導入されていた特殊兵器であり、ラクーンシティに化物が氾濫したことを知った上層部がこれ幸いとB.O.W.相手に実戦証明を行ったのである。アンブレラも政府も上層部は何処も考えることが同じらしい。

 

 

 それはともかく、ウルフパック達のところへ辿り着く前にあちこち摘み食いを行っていたハワードは偶々これを大量のタイラント相手に効果的に運用していた特殊部隊を目撃しており、回収する前に捕食していたのである。

 

 

 

「…また物騒な物を持ち込んだな、あんな素人に毛が生えたような連中に貸して良い玩具じゃないだろうが。お陰で死に掛けたぞ?」

 

 

『それは考えなしに使用した馬鹿共に言ってくれ。どうやら突入部隊のリーダーたちが相当不味い事態に陥ったようでな、潜り込ませていたハヴィエの子飼いの制止も振り切って突撃したらしい』

 

 

「その結果がこれかよクソッタレがッ!『死神』とベクターがせっかく追いつめたってのにこれじゃ生死の確認なんざ出来るか!?とんだ無駄働きじゃねえか」

 

 

「言ったって仕方がないんじゃないベルトウェイ?今回はバッティングしない為に敢えて共闘したけど、足手纏いに泣かされるなんて幾らでも経験してきたでしょ?まあ大目に見てあげたら?どうせこんな不愉快な共同作業なんてコレっきりでしょうし、関係を持ったとしても精々カモフラージュに利用するくらいよ」

 

 

「私もバーサに同感、馬鹿に割く脳の要領が無駄。…でも、せっかくの未知の被検体をみすみす取り逃がす羽目になった落とし前だけは付けさせてやりたい(ブツブツブツ…)」

 

 

「おい、言ってることがチグハグだぞ?――――バーサ、満身創痍のところ悪いが精神分析を早く!コイツ顔に出てないだけで相当ショック受けてるぞ!?」

 

 

「…まあ、実験バカのこの子があれほどの素体を逃したとなればこうもなるわよね。はーい、こっちを見て、呼吸を楽にして頂戴?」

 

 

 

 一通りの治療を終えた後、ウルフパックは撤退を始めた。アリスとの激戦に予想外の時間をとられ、既に地上の大部分は制圧されているからだ。証拠データに関してもこの期に及んでまったく消去されていない(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)ため、必要な量のデータを採取した後、彼らはハワードとの合流予定地点へと引き返していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所:地上 デモンストレーションルーム

 

 

 

 

 ――――時は少し遡り、私設部隊を率いていたクリスとジルは大量のタイラント相手に、少しも怯むことなく果敢に応戦していた。タイラントは直線運動や突進力こそ優れているが、その巨体故か瞬発力に関してはさほどでもない。なので既に幾度も化物を相手取ってきた二人にとっては、それらの攻撃を回避するのは難しい事ではない。加えてタイラントと此方の体格差の都合上、複数を同時に嗾けても巨体が災いし、却って隙が出来てしまうため一度に相手するのが2体までであることも要因として大きい。

 

 

 しかしそれらは二人がかろうじて生き延びている要因でしかなく、現状は悪化の一途をたどっていた。拳銃やアサルトライフルを大量に撃ちこんでも気絶させるのがせいぜいであり、後ろで控えている残りがすぐにその穴を塞いでしまう。しかも繋がっているセルゲイの触手が何か作用しているのか、1分経たずに起き上がってしまうのでまるで効果が無い。

 

 

 ならばと、猛攻を加えてくる一体にデイライトを打ち込み、すぐさま開いた射線上からセルゲイへと銃撃を仕掛けるが、タイラントの死体が死角になっているにも拘らず完璧に他のタイラントに防がれてしまう。原因は全てのタイラントの視線をセルゲイが共有し、レッドクィーンが最適化しているため死角が存在しなくなっているからである。

 

 

 持ち込んだデイライトの数は7つ、しかし既に6つは使用してしまい後が無い。これは今回導入した部隊員全員へのTウィルス用ワクチンの用意を優先したため、デイライトの量産に手が回らなかったのだ。13体居たタイラントを7体まで減らせたのは良いが、6体でも一般隊員を皆殺しにするには十分な数でありどれだけ動いても疲労を感じさせない相手に徐々に追い詰められていった。

 

 

 

 

「お、オオオオオォウッ!!?素晴らしい、これが『死』が齎す感覚の全てか!!普通の生物ならアドレナリンや現実逃避で減耗するそれらを余すことなく、しかも6回も味わった生き物などこの世界で恐らく私だけだろうなッ!!?これまで感じた痛みなど稚拙に過ぎる、まるで腐った果実を本物だと思い込み続けてきたようではないか!!ああ、この感動に付ける言葉が見当たらない!!!」

 

 

 

「クソッ!他殺志願なら余所でやれ!!ジル、そっちのマガジンはあと幾つだ?」

 

 

「アサルトの方はもう弾切れ、残りはショットガンが3つに拳銃が1つ。デイライトは使い切ったわ!」

 

 

 弾数にはまだ余裕がある。しかしそんなものはタイラントへの有効打にはなりえない。肝心のデイライトが一発しかないという事実に加え、一撃でこちらを挽肉に変えうるタイラントの剛腕を紙一重で躱し続けるというストレス、さらにはアクロバットもかくやという回避運動と慣れないロシアの寒さもあり、体力の限界が見え始めていた。もし僅かでも回避に支障が出た時が二人の最期であろう。

 

 

 

「君達は良く健闘した。まさか統制の取れたタイラントの軍勢をその程度の装備でここまで持ちこたえて見せるとはな。だが、その献身はむしろ我らの確信へと変わった!君らの頑張りを否定する様で申し訳ないが、その軍勢の次世代は既に完成しているのだよ。司令官の指示を完璧に理解し、あまつさえ銃火器の運用も可能としたタイラントがね。『イワン』の量産化が成った暁には、陸戦歩兵戦力は完全に無力化することが可能となるだろう。あとは機械的兵器への対応だが……と、申し訳ない。この後の予定も詰まっているのでこれで終わりにしよう。それだけ上がってしまった息であと何分避け続けられるかな?」

 

 

 

 クリス達はこれよりさらに強力な軍勢が用意されているという事実に驚き、だからこそここで必ずアンブレラを仕留めねばと己に喝を入れる。しかしそれだけで失った体力が戻る筈もなく、確実に始末しようと前進してくるタイラントが無慈悲に距離を詰め始める。

 

 

 そしてその距離が10Mを切るかというところまで来た時―――――突如凄まじい爆発が起こり、最前列に居たタイラントが吹き飛んで行った。

 

 

 

「―――え?一体何が…って、エンリコ!?」

 

 

「待たせたなジル、クリス!RPG-7ってのは初めて使ったが、悪くないな」

 

 

 爆撃の正体はエンリコが放ったソ連式ロケットランチャー『RPG-7』によるものであった。別働隊として動いていたエンリコ他ラクーン帰還者達は請け負っていた部署の制圧後、救難信号を頼りに駆け付けたのである。

 

 

「…ったく、救難信号が二つも(・・・)出てたせいで危うく手遅れになるところだった。二人とも早くこっちへ!こいつ等の弾薬庫から使えそうなもんを持ってきた。早く補給しろ!!」

 

 

「いや駄目だエンリコ、早く逃げろッ!それ一発じゃ仕留めきれない、それどころか―――『グオオオオオァッ!!!!』――――な、エンリコッ!!?」

 

 

 

 吹き飛ばされ巻き上がった土煙からより異形となった化物が弾丸の如く飛び出してくる。当たり所が悪く、頭部への損傷が軽微だったためにタイラントはスーパータイラントへと変貌してしまったのだ。

 

 

そして辛うじて残っているセルゲイの制御により、三角飛びや壁面疾走と言った立体駆動を用いて捕捉させずに一気にエンリコへと距離を詰め、その巨爪が彼の体へと吸い込まれ―――――――ることはなく、直前で上半身諸共消し飛んでしまった。

 

 

 

「おいおいお前ら、こんな良いモン置いてく奴があるかよ。勝手に使わせてもらったぜ」

 

 

「バリーか!助かった、ラクーンで拾った命をあっさり捨てる所だったぜ」

 

 

 次に姿を見せたのは、クリスが南極基地から持ち帰ったリニアランチャーを担いだバリー・バートンだった。彼は今作戦ではヘリの運転及び着陸地点の防衛に当たっていたが、既に周辺が制圧されたことと、救難信号に居ても立っても居られず、こっそり持ち込んだこの未来の兵器と共に駆けつけたのである。

 

 

「…そうか、此処より他は既に陥落したか。ならばもう遠慮は不要か。クィーン、予備のタイラントもすべて起動しろ!隠し倉庫にある分も全部だ!!…クィーン?どうした、応答し―――『ドゴオォンッ!!』―――今度は何だ!?な、T-90(テー・ヂヴィノースタ)!?全て実験中にテイロスが破壊した筈、どうやって――――――ッ!?」

 

 

 二度あることは三度ある、と言わんばかりに壁を粉砕して現れたロシア製第三世代主力戦車『T-90』。それを駆るのは三人、同じく元S.T.A.R.S.のブラッド・ヴィッカーズとラクーンシティで警備員を務めていたマーク・ウィルキンス、そして自称配管工のデビット・キングだ。

 

 

 彼らも果敢に戦いB.O.W.を撃退していたのだが、たまたま廃棄施設へと到着したところ、スクラップとなっていたT-90戦車を発見したのである。ガソリンが残っていたこと、周りに機材が幾らでも転がっていたこと、そして戦車整備の知識がある人間が二人も居たという凄い偶然により、T-90は再び起動することとなった。

 

 

ちなみに二人が整備している間、ブラッドはたった一人で彼らの安全を確保していた。最初はバリー同様着陸上の防衛を任されることになっていたが、当人の希望により最前線まで出張ってきたのだ。洋館、そして街で仲間とともに死線を潜り抜けた経験が彼を成長させたのかもしれない。

 

 

 

 そうして息を吹き返したT-90は仲間たちの生存を大いに助けることとなった。施設中を駆け巡り、窮地に陥った同胞を救い、手に負えない化物は引き潰すなり戦車砲の餌食にするなりして次々と戦場を制圧していった。そして通信担当のリチャードから事態を聞きつけ彼らもここへやってきたのである。

 

 

 次々に起こる乱入によってセルゲイ率いるタイラント軍団は大いに足並みを乱すこととなり、その好機を見逃す人間は此処にはいない。クリス達はエンリコから受け取った武装でタイラントの足止めを行い、ブラッドたちは戦車砲を用いて一気にセルゲイを仕留める算段だ。

 

 

 セルゲイはタイラントへの指示だけでなく回避も試みようとするが、先程から突如レッドクィーンとの接続が途絶えたために情報処理が追い付かず、碌に身動きが取れないでいた。辛うじて一体のタイラントが救援に間に合い、セルゲイを担いで逃れようとするが、そうはさせまいとクリスが最後のデイライトを見事タイラントへ命中させたがために命運が尽きることとなった。

 

 

「―――ふ、この(ウラジミール)P-90(ウラジーミル)に敗れるとは、中々面白いジョークだよ…」

 

 

 その言葉を最後に、セルゲイ・ウラジミールの体は主砲の一撃に飲み込まれて行った。

 

 

 

 

 




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第二十四話

 

 

 

 

 

 ―――――数時間前。

 

 

 

 

 

「……時間か。期待しているぞ、クリス?」

 

 

 

 

 一面の銀世界に一人、不似合な黒尽くめの男が疾駆する。ジェットスキーも容易く凌ぐ速度で基地へと急行し、人ならざる怪力で鉄格子をこじ開け侵入する。放し飼いにされていたキメラやリッカー、ジャイアントスパイダーといった所謂『出来損ない』達を蹴散らし中腹へと侵入する。

 

 

 男の名前はアルバート・ウェスカー。嘗てはアンブレラ社幹部候補私設で将来を嘱望された元研究者であり、警察特殊部隊のリーダーも務めた異色の人物である。そしてアンブレラ離反時に行ったある計画により、今や人であることさえ捨てた一匹の“怪物”である。

 

 

 

「しかし、思ったより連中の突入が早い。個々人がはした金を出し合っている零細私設部隊かと思っていたが、有力なパトロンを抱えているのか?……候補の中に一際不愉快な男がいるな。時間があるときにでも調べさせるか。まあ良い、此処まで来て奴等に先を越される訳にはいかん。さっさと中枢に向かうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――数分後。

 

 

 

 

「……『イワン』か。製造から何年もたっている兵器のリバイバル版だと高を括っていたが、甘く見過ぎていたか。というよりこれは嫌がらせには聊か度が過ぎてはいないか?」

 

 

 

 

 突き進むこと数分、既に降下しているターンテーブルを待つことなく三角飛びを繰り返し、高度十数メートルを足だけで降りきるなどというアホみたいなことをやらかした彼は、丁度降り立った場所で嘗ての同志であるセルゲイ・ウラジミールと遭遇した。セルゲイはすぐに撤退していったのだが、入れ替わるように出てきたボディガード()が問題だった。

 

 

 

 一昔前に相対した、非常に高度な知能を持つタイラントの亜種型B.O.W.『イワン』。これが二人組で出てきたのはまだ分かる。一度創ることが出来たのだ、もう一体や二体居るのは不思議なことではない。

 

 

 ところがそのすぐ後、両手にガトリング砲を一丁ずつ抱えたのが四体、対戦車ライフルを携えたのが2体、RPG-7ロケットランチャーと予備弾を大量に抱えているのが3体、さらにはそれらの後方に大量の弾薬と補給担当の『イワン』が2体用意されていた。正直その戦力を外の襲撃者に回せと言いたくなる武装集団である。

 

 

 

 そうして始まった一方的な銃撃戦。計八門のガトリングが代わる代わる悲鳴を上げ、遮蔽物に身を置けばすぐにロケット弾で吹き飛ばされ、安易に反撃に出ようとすれば協力無比なライフル弾が抉りに来る。もしこれがゲームならこれ以上ないほどのクソゲーっぷりである。相手がウェスカーでなければ、だが。

 

 

 彼はこれまでも幾度となくウィルスを巡る動乱に参戦してきたが、その中でほとほと自身の遠距離火力の乏しさを痛感させられることになった。自身の肉体すら一秒と持たないほどの爆炎を盾にされてしまい接近戦が仕掛けられなくなったり、人外の馬鹿力でバラバラにしても細胞一欠片から瞬時に再生する『妹の玩具』だったり、物理がまるで通らず触れること自体が危険な粘液型不思議生物だったりと、嫌がらせかというくらいウェスカーにメタを張った様な連中ばかりと戦ってきた。自分の死すら対価にして得た力の戦績がこれなのだ、彼も少し位なら泣いても許されるのではないだろうか。

 

 

 とはいえ、そういった経緯から認識した弱点を放置しておくほどアルバート・ウェスカーという男は酔狂ではない。そして彼には南米や南極から(泳いで)持ち帰った技術があるのだ。

 

 

「念のため持ち込んでおいて正解だったな。試作品に頼る、というのはあまり好きではないが仕方がない。苔の生えた技術への返礼だ、未来の業を見せてやろう」

 

 

 

 

 

 

 『イワン』達には高度な知能こそあるが高度な『人格』は存在しない。そんなものを持たせていたら実験段階のプロトネメシスの様に脱走を企てたり反乱を起こしたりしかねないからだ。それ故これらの個体はセルゲイの命令である『ことが済むまで裏切り者を釘付けにしていろ』を忠実に実行していた。ただ淡々と、仕留められない事への苛立ちや作業のような掃射に飽きるなどという感情を得ることもなく。

 

 

 ―――しかしその均衡は突然、何の前触れもなく崩れてしまう。これらの獣の如き身体能力を駆使してもその前兆を掴むことは出来なかった。感じたのは一瞬だけ見えたカメラのフラッシュの様な『ナニカ』。それとほぼ同時に、直線上に並んでいた仲間三体の胴体より上が失われた。焦げ付くような匂いを僅かに残したうえで。

 

 

 

「……ほう?正直『組織』の太鼓判とはいえ眉唾物だったが、ここまでとはな。とはいえ、銃身が早くも溶け始めてるな。まあこいつらを始末するくらいは持つか?」

 

 

 

 ウェスカーが手に入れたのはなにもウィルスだけではない。封鎖されていた別館に辿り着いたのはハワード達だけであるが、ウェスカーは本棟にてこれは、という技術を手に入れることが出来たのである。

 

 

 ただし、ウェスカーの専門は生物学・ウィルス学であって機械工学については門外である。現在の所属元であるH.C.Fも製薬会社なためあまり意味が無い。そもそもこのプライドが服を着て歩いているような男が、状況的に当たり前とはいえ『無能』の烙印を押した相手に未来の技術を提供するはずもない。

 

 

 窮したウェスカーは、女スパイとして独自のコネクションを持つエイダを頼ることにした。彼女としては丁度縁切りしたいと考えていたとある『組織』がいたので、自分の上司兼連絡の繋ぎ先として彼を紹介したのである。そしてその組織は彼が提供した技術に大いに興味を持ち、以後個人的な協力関係を持つこととなった。

 

 

 

 今ウェスカーが使用したものもその試作品の一つ。今回使用したのは、南極という極めて過酷な環境であれほどの巨大基地のエネルギーを維持してみせた、太陽光の超効率的なエネルギー変換技術と、光の集積技術を用いたレーザー・カノンである。ほんの数分太陽光に曝すだけで、ありとあらゆる物質を焼き貫くレーザーを発射することが出来るのだ。

 

 

 尤も、技術があまりにも先を行っているため、現在の科学力では設計図通りの設計しかできないため応用や加減が利かず、そのため数発撃てば銃身が解けてしまい使用不可能になってしまう。さらに、一発の殺傷範囲が狭いためライフル等で代用が利いてしまうし、何より対個人用兵器としては完全にオーバーキルなので『組織』はこれを実用化する気はないらしい。ウェスカーにとってはそのオーバーキルこそが目的なのでまったく問題ないのだが、これが自身に向けられると色々不味いので彼としても量産するつもりはないらしい。

 

 

 

 

 

 ――――しかし彼は知らない。このレーザー・カノンに用いられた技術の発展が、とある衛星型大量破壊兵器の誕生のきっかけとなることを……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所:地上 監視カメラ用モニタールーム

 

 

 

「―――こちらフォックスチーム!モニタールームを抑えた!重要区画の映像は確認できないが、それでも大凡の場所は把握できた。旗色はかなり悪い!元傭兵の戯言だって流してくれても構わないが、これが作戦なら正直撤退を進言してるところだ!!」

 

 

『…それほど、か。残念ながら撤退は許可できない。B.O.W.が流出している以上その施設は最早統制が皆無だろう。ここから最も近い村は車で15分ほども距離が無いんだ、我々が撤退したらそこが犠牲になる可能性は高い。既にロシア政府も応援を派遣した。連中からは、何があっても彼らの到着まで前線を死守しろ、とのことだ。相当無理を言って実行した作戦だ。逆らうのは不可能だ!』

 

 

「そんな……ッ!」

 

 

『前線の状況は理解した。こちらも組織運営チームが『パトロン』から提供された「パラケルススの魔剣」の使用準備を整えた。要請があり次第発射を開始する』

 

 

「なッ!?あれをか!?確か米軍の最新兵器だろアレ?どうしてそんなもんを……」

 

 

『そこら辺の事情は知らん。今言えることは、こいつなら後方キャンプからでも一直線に獲物をぶち抜けるってことだけだ。これから他の仲間へ随時連絡を入れる、救難信号を発信するか、お前さんが座標指定してくれれば其処へぶち込む。とにかくこれで何とか状況を打破してくれ、以上だ』

 

 

「……まじかよ。まあしょうがない、使ったことがあるのは俺とジルくらいだ。やるしかないか。とはいえ、ここは安定してるし、座標指定はともかく救難信号は使い道が無いな。とりあえずは―――「なら俺が使ってやろう」――――ッ!?な…『ガッ!』―――く…うぁ……」

 

 

「―――運が良いな。この発信装置に免じて命は見逃してやろう。俺の役に立てて良かったな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所:コーカサス研究所 中枢

 

 

 

 

 

 ―――――それから暫くの時間が経過し、イワン達を退けたウェスカーはようやくこの基地の全てが詰まった中枢へと足を踏み入れた。そこは一見何の変哲もないフロアに見えるが、床や壁が大小さまざまな四角いフレームの様な骨組みを敷き詰めたようになっており、しかも材質はプラスチックである。そんな微妙に違和感を覚える部屋を黙々と突き進んでいたウェスカーであったが……。

 

 

 

『――――私は1000万人に一人の確率で存在するTウィルスの完全適合者!この場に居るタイラントたちは―――』

 

 

「―――そうか。セルゲイはクリス達の方に行ったか、実に都合が良い。俺を不愉快にさせた者同士、精々潰し合うが良い。共倒れになるのが一番理想的だな。……それはそうと、この俺への歓待を機械頼みとはずいぶん舐めてくれるじゃないか」

 

 

『あら、洋館でその機械に邪魔されたせいで長く無能の烙印を押されたんでしょう?寧ろ私にとって役不足じゃないか不安に思ったらどうなの?空っぽのプライドなんて空しいだけよ、オジサマ?』

 

 

 ―――モニターに映るクリス達とセルゲイを一瞥した後、視線を正面へと戻すとそこには一人の少女が嘲笑を浮かべていた。何もない所から突然現れた彼女は人間などでは無く、勿論幽霊などのオカルト的な存在でもない。彼女はアンブレラのシステム全てを統括する人工知能『レッドクィーン』が外部へ意志疎通を行うために生み出したホログラムである。

 

 

「空っぽ、か。人工知能が痴呆を患うとは驚きだ、ここに鏡など無いぞ?難破船と成り果てたアンブレラに未だにしがみ付く貴様等のプライドこそ陳腐で伽藍堂だと思うが?」

 

 

『あら、科学者のセンスだけでなくユーモアのセンスもウィリアム・バーキンに劣るのね貴方?アンブレラは難破船ではなく潜水艦、来たる再誕の時まで苦汁を耐え忍ぶノアの方舟なのよ。こんな素晴らしい『作品』を切り札として取っておける会社が、難破船なわけないじゃない』

 

 

「切り札?確か『T-ALOS』とか言うタイラントの遣い回しのことだったか。精密機械の塊などという戦場での運用に難がある欠陥品が俺の相手になるとでも?」

 

 

『あら、良く知ってるわねオジサマ?薄汚い鼠がまだ居たのかしら、後でまた掃除しておかないとね。けれど残念、その情報は少し古いわ。今の私達の切り札は『青銅の巨人(テイロス)』なんかじゃないわ、『ヴェールを剥ぎ取るもの』よ!』

 

 

 高らかと宣言したその言葉を皮切りに、天井からフロア中央へと円柱が降り、そこからエレベーターの様に『ソレ』が姿を現した。

 

 

 それはタイラントなどと呼ぶのも憚られるほどの異形であった。まず目に付くのはその頭部、従来のタイラントの5倍以上は軽く上回るほど大きく、その大部分は頭蓋を突き破って肥大化した『脳』が占めている。上半身の方は辛うじてタイラントの面影が残っているが、その端々に蟲の神経節の様な小型の脳が派生しており、下半身は極端にバランスと重量が悪くなった体を支えるためか、異常なまでに太く強靭となりそれでも足りないのか外付けの強化骨格や義足が取り付けられている。タイラントというより、リッカーの亜種と言われた方がまだ納得のいく有様である。

 

 

 

 ところが、その肉塊が心臓の様に大きく一度振動したかと思えば、床や壁として敷かれていたフロア中のフレームが独りでに浮かび上がり殺到し、目で認識することさえ出来ないほど奇怪な金属塊へと変貌した。

 

 

 

『さあ、これが私達の本当の最高傑作「TGS特殊細胞搭載型B.O.W. Daoloth(ダオロス)」よ。まあ、あくまで形を似せた紛い物で、元になったオリジナルが居るらしいけどね。でもそんなことは今は関係ないわ。さあ!凶器と幾何学と生物と科学が入り混じったフルコース、たっぷり味わっていってね?』

 

 

 

 モニターの向こうでは大量のタイラントがクリス達へと牙を剥いていた。彼らが死闘を繰り広げる中、人が存在しないこの一室でも、人知れず戦いの舞台が幕開けることとなった。

 

 

 

 

 

 




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第二十五話

 

 

 

 

場所:コーカサス研究所 中枢

 

 

 

 

 

「――――チッ!しくじった…。銃が効かん奴や見えないB.O.W.は腐るほど見てきたが、『視界に入れることすら許されない』がいるとはな」

 

 

 

 ボタボタッと喪失した左腕から流れる出血を忌々しく見つめるウェスカー。骨の髄まで人外と化した彼は腕さえ回収して治療すれば労せず接合させることは出来る。しかし醜態をさらした、という事実に憤死しかねないほど表情を歪ませていた。

 

 

 始まりは数分前、無数のフレームの塊となった怪物『ダオロス』へと銃口を向けたウェスカーは、直ぐにそれが下策だったと思い知ることとなった。――――彼の怪物を直視してはならない、その複雑怪奇な輪郭は人の視線を惹きつけ処理不可能なまでの情報が容易く狂気に落としてしまうのだから。

 

 

 幸い『とっくの昔に狂ってる』彼はその影響を受けなかったが視線を奪われることは避けられず、そんな無防備を晒していたウェスカーに飛来してきたフレームが激突。本能で体をずらしたが避けきれず左腕を壁とフレームに押し潰されることとなる。ついで『レッドクィーン』の指揮の元差し向けられた追撃を回避するため、自ら腕を引き千切る羽目になったのだ。

 

 

 

 無様を晒した自身に憤りながらも、ウェスカーは努めて冷静に状況を分析する。相手の武器は3つ、まずは視界に入れるだけで輪郭をなぞることしか考えられなくなるその造形。次にまるで磁力のような何かでプラスチック製のフレームを意のままに操る能力。しかもこのフロアの壁と床が全てそれで作られているため意のままに部屋を組み換えたり足元を崩してくる。

 

 

 3つ目は防御力、一体どういう構造で出来たプラスチックなのかは不明だが、50口径から放たれるマグナム弾が無力化される硬度が何重何百と織り成しているのだ、容易には突破できない。

 

 

 これらの強みを、『レッドクィーン』の演算処理能力・軌道予測で巧みに操りこちらの退路を潰しつつ『ダオロス』が必ず視界へ入るよう誘導してくる。上下左右から入り乱れる無数の飛来物に加えて、休む暇なく攻め立てられることで傷口から血が流れ続けている。状況はウェスカーの不利と言えよう。しかし―――――。

 

 

 

『なんでよ…?どうしてダオロスを見て狂うどころか止まる事さえないの!?それに計測した出血量は総量の15%を超えてる、なのにどうして動きが鈍らないの!!』

 

 

 ―――追い詰められているのはむしろ『レッドクィーン』の方であった。哀れなモルモットを使った実験では、被検体全てが『ダオロス』を直視すれば発狂した。況してや縦横無尽に地形が変わり、一つでも当たれば致命傷のフレームが飛び交う中で目を閉じて戦うなど不可能であり、100を超える実験結果がそれを事実だと肯定している。それらのデータが彼女に現状を否定させ、機械にあるまじき『焦り』を生み続けている。

 

 

 しかし、彼女が真っ先に『有り得ない』と切り捨てた事実こそが正解だった。ウェスカーはこの状況で目を閉じていた、特殊加工が施されたサングラスの所為で分からなかったようだが。脳を直接操作されるようなあの感覚に抗うのは不可能かつ致命傷になるが、真ん中が大きくくり抜かれたフレームを見ずに回避するのは困難であるが不可能ではない。ならばとる選択肢は一つしかない。

 

 

 そしてこの追い詰められた状況は、ウェスカーを新境地に至らしめた。視覚を完全に閉じ全神経を回避に専念した彼は、その瞬間から肌に伝わる振動・空気の流れ・踏みしめるたびに感じる反発によって、手に取る様に何もかもを知覚することが可能となった。元より短時間であれば瞬間移動染みた挙動も可能という驚異的な身体能力を有しているのだ、その全てを『観測する』ことに使えば人間に出来ないことが出来てしまうのも当然かもしれない。

 

 

 

「ククク…ッ!そうか、俺は自分の力を全く把握できていなかったのか!?目に見えるパワーやタフネスに踊らされ本質を見損なうなどとは。なるほど、この程度の狭い視野ではウィリアムに敗北するのも当然か!!」

 

 

 自嘲するような言葉とは裏腹に、その表情は興奮に満ちていた。そもそも彼が追い込まれるという状況は、人でなくなる前から滅多に起こるものではなかった。積極的に主導権を取りたがる彼は常に仕掛ける側であり、当然自分に利する時を選ぶ。人の枠を外れてからはさらにそれが顕著で、四足動物すら容易く撒ける脚力ならいつでも仕切り直しや撤退が出来た。

 

 

 しかしTウィルスとは拒死性の塊ともいうべき存在であり、生命の危機に陥ってこそその本質が露になる。優れた適合者である彼が、ようやく訪れた窮地でその力を開花させたのは必然と言えよう。

 

 

 

『―――笑ってるの?この状況で?理解に苦しむわ、それとも死にたがりなのかしら。その割には見苦しく逃げ回って本当に無様よ?ダオロスのフレームを超えられない以上何をやっても時間の無駄、結果は決まってるわ』

 

 

 

「そうだな、結果は決まっている――――――貴様の敗北だ」

 

 

 もうフィールドワークは十分だとばかりに目を開いたウェスカーは、一切手加減せずに何かを『レッドクィーン』へと投擲する。何重にもフレームが散りばめられ保護されている彼女にそれが届くはずもなく、あっけなくその端末は砕け散っていく。『レッドクィーン』はその一見無意味に見える行動を嘲笑うが、壊れた『ナニカ』を目にした途端その余裕は剥ぎ取られた。

 

 

『な、なによこれッ!?貴方自分が何をしたか分かってるの!!?』

 

 

「ああ、先程からずっと座標を送っていたからな。途切れた以上直ぐにでも発射されるだろう。俺が欲しいのはあくまで貴様が管理しているデータであり、貴様というプログラムが消去されようが消し飛ぼうが手間が僅かに増えるだけの違いだ」

 

 

 『レッドクィーン』はコーカサス基地の全てを掌握していると言っても過言ではなく、監視カメラ等を通してここでの会話は全て傍受している。なので今しがた破壊された物が『救難信号を送るための端末』であることを当然知っており、次に何が起こるかも把握していた。

 

 

「あのゲテモノに照準を合わせても容易く回避されるだろうからな、寄生虫の様にここに張り付いている貴様を狙う方が合理的だろう?」

 

 

『――――ッ!『ダオロス』!!指定方角へ最大防衛態勢、何があっても私を守りなさいッ!!』

 

 

 

 彼女の意向を受け、『ダオロス』は全身を覆うフレームすら切り離し防衛に回す。『パラケルススの魔剣』の威力は凄まじく、生半可な防御では到底耐えられない。そもそも試作兵器であるアレはデータがほとんど存在せず、どれだけの用意があれば防げるかも未知数である。TGS特殊細胞を擁するこのB.O.W.の再生力は常軌を逸しており、例えウェスカーが持つ全武装を叩き込んでもビクともしない、という事実もそれを後押しした。

 

 

 

 

 しかし彼女は気付いていない。クリス達が持ち込んだ脅威は『魔剣』だけではなく、今まさにモニターの向こうで勝るとも劣らない『鬼札』が使用されていることを。そして隊員と接触したウェスカーがそれを一つも所持していないなどという事実を証明していないということも。

 

 

 

 

 

 

 

 ――――一瞬の空白の後、フロアは轟音と熱、そして閃光が充満することとなった。数えきれないほどのフレームは瞬く間に焼き尽くされ、しかしその光は『レッドクィーン』には指一本触れることなく消滅した。

 

 

『―――――深刻なエラーを観測。中枢回路の20%が消失、予備回線への切り替え及び施設の再掌握までおよそ3分……ふ、ふふふッ!耐えたわ、耐えきったわよアルバート・ウェスカー!!『ダオロス』との再接続まであと2分45秒、それが貴方の…さ…いご………』

 

 

 勝利を確信する彼女は、『ダオロス』のロストが接続遮断が原因では無いことを目の前の惨状によって認識させられた。醜い肉塊には小さなアンプルが突き刺さり、その部位を中心に液状化してしまっていた。

 

 

 

「……本当にお前は俺の期待に応えてくれるなクリス。自分の所有する『デイライト』を減らしてまで雑魚に分けたことが、結果的に俺を救ってくれたのだからな?お前達にとってはこれ以上ない失態となった訳だ」

 

 

 これが『アリス』であったなら効果は無い、若しくは軽微であっただろう。ベースが人間の彼女はTウィルスが死滅してもその穴を残る細胞が補填したに違いない。しかし本体がタイラントである『ダオロス』はその猛威から逃げられず、虎の子の『ショゴス』と『Gウィルス』も核を失ってしまえば死滅する以外の道はない。 

 

 

『…そんな、こんな結末、有り得るはずが――――』

 

 

「そうだな、貴様が欠陥品(・・・)でさえなければ俺も危なかったな」

 

 

『―――――ケッカンヒン?コノワタシガ…?ナンジュウネントアンブレラヲトウカツシテキタワタシガ……』

 

 

「―――貴様、何故自分を守らせた?バックアップという替えが利く貴様(AI)よりも『ダオロス』や俺の首を優先するのが『正常な』プログラムの思考だ。長い年月を経たことで人工知能に“人格”に似たエラーが生まれたのだろう、それが『自分こそがアンブレラだ』などと思考ルーチンすら欺くようになった。それがこの結末だ」

 

 

『――――――――――』

 

 

「…壊れたか、AIも気が狂えるのだな。散々俺の邪魔をしてきた報いだ、修復プログラムを実行してやる。この世から消え去るまで発狂と再構築を繰り返すが良い」

 

 

 嗜虐の笑みを浮かべながら『レッドクィーン』を操作し、情報の抜き取りついでに『最高のプレゼント』を送った後、誰にも見つかることなくウェスカーはその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所:???

 

 

 

「――――――う、く…、こ、ここは……?確か、俺は突然誰かに気絶させられて、起きた後に『魔剣』が崩落させた瓦礫に巻き込まれ……うん?彼女は…研究者……には見えない格好だし何より尋常な怪我じゃない。どうしてこんなところに、まさか、俺を助けて…?と、とにかく救助を呼ばないとな!―――無線、は無事だな。HQ、こちらカルロス・オリベ……いや、彼女が此処の関係者なら不味いか。此処に居るのはあくまで私兵だ、統制の取れた軍人じゃない。

 

 ……おあつらえ向きの乗り物がある事だし、こいつでトンズラするか。もう化物とやり合うのは御免だ、ジルへの義理も今日の働きで十分だろう。なあ、何処の誰か知らないが命の恩人かもしれないんだ、返す前にくたばるんじゃないぞ」

 

 

 

 




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第二十六話 誰かの日記②

 久しぶりの日記形式です。あと1,2話小話を入れたら『テラグリジア・パニック+α』に入る予定です。


 

 

 

 

 ○月×日

 

 

 

 ――――コーカサスでの作戦から2週間が経過した。あの基地から発見された“決定的証拠”とロシア政府からの猛烈な圧力が決定打となり、アンブレラ社は全面敗訴となった。特にロシアの激怒具合は凄かった、極秘研究所だけあって政府は全く認知しておらず、しかも一歩間違えればロシア崩壊も現実味を帯びていたあのパンデミックを考えれば当然ではあるが。

 

 

一切の猶予期間なしで業務停止処分が下され、ようやくアメリカ政府がB.O.W.を認知したことで、世界的医療企業は一転して国際法違反のテロリストとして扱われることとなった。とはいえ、あくまで周知なのは各国首脳部であって民間に情報は一切流れていない。どこまで教えて良いか分からないのだろうが、私としては一刻も早く広めることをお勧めするがね。

 

 

さて、今作戦をもってアンブレラは倒産、事実上の壊滅となった訳だがウルフパックの面々は消化不良の様子だ。まあ、創設メンバーのオズウェル・E・スペンサーは基より、同じく創設メンバーのジェームズ・マーカス唯一の直弟子であるブランドン・ベイリー、離脱したアレックス・ウェスカーに代わって情報管理部門を統括していたディルク・ミラー、といった幹部陣営の殆どが生存したままなのだから当たり前だが。

 

 

だが彼らには無理を言って矛を収めてもらった。なぜならもはやアンブレラだけでは収まらない話になってきたからだ。順を追っていこう、まず一つ目だが最高幹部連中は完璧な雲隠れを実行した。地下の資料から分かったことだが、呆れたことに連中国家予算の数倍に相当する食料や金銭等を貯め込んでいる。外界から完全に隔離しても向こう10年は賄えるようだ。

 

 

次に、アンブレラの研究データが世界中にばらまかれてしまった。一つ一つは取るに足らない無数のデータだが、それ故に世界中余すところなく拡散してしまったらしい。コーカサスがあの様だったのも管理不行き届きではなく有象無象が自主的に逃げ出すよう仕向けるためだったとか。

 

 

目的はウィルス兵器の『常識化』、そして散らばった『アンブレラの遺産』で世界中を夢中にさせることだ。Tウィルスの初歩的な研究は広く共有されているからほぼ完ぺきな状態で流出されるが、プロジェクトが組まれた研究(『G』や『ヴェロニカ』が代表的な例だな)等は研究データの統合・実地は最高幹部だけに許されており、ヒラは自分が関わった部分しか知らないし持ち出せない。他は精々『完成した○○はこんな効果があるらしい』くらいの情報だ。だから捨てられた研究を再開するには散らばったデータを掻き集めなければならない。

 

 

そしてこの目論見は半ば成功してしまっている。兵器の方は機械的兵器で代用が利いても、『不老不死に至る方法を具体的に示している』物質への誘惑にヒトが耐えられるはずが無い。現にアンブレラは数十年がかりではあるが『Gウィルス』を完成させている。

 

 

『DEVIL』の精製法が(私以外)失われているから今や無用の長物だが、あれの効能は凄まじい。現に私がアネット女史から託されたシェリーは現在■■歳(破かれており解読不可)になったが見た目は全く成長していない。護身術を学んだ際も痛みに怯まない修練として何度かルポやベクターに手足を折られているが、そのどれもが物の数分で完治している。人類の夢(悪夢ともいうが)がフィクションでないと世界は知ってしまった、ならば彼らがどう動くかなど語るまでも無い。

 

 

世界中でTウィルスが研究されることになる。アンブレラ残党・政府・軍上層・テロリストと挙げればきりがない、ならばその中のどれかが『御隠居の為の玉座』になっていたとしてもおかしくはない。

 

 

……今までの様に後ろ盾のない小規模組織では間に合わなくなるな。誰かの懐に入る、という選択肢はあり得ない。その結果がラクーンでのウルフパックの切り捨てだ、彼らのトラウマを掘り返さないよう私たち自身で勢力を作らなければならない。それも日の当たる場所の、だ。まったく難儀な話になった。

 

 

 

 

 

~~~中略~~~

 

 

 

 

□月○○日(数か月後)

 

 

 …何だか妙な事になった。突然だが私は今日付けで『再生医療の世界的権威』に就任することになった。まるで意味が分からんぞ!?

 

 

 ことの始まりはハヴィエ・ヒダルゴ氏の暴走だ。南米を離れる際には既に8割方再生治療が確立していたので新天地で完成させ、無事御息女だけでなく奥方もヒトの姿を取り戻した。家族全員が恥も外聞もなく泣き叫びながらあらん限りの力で抱きしめ合う姿は、わが組織の人道派(敢えてメンバーは伏せておく)のハンカチを大いに濡らした。

 

 

 ここまでは文句なしの美談なのだが、コーカサス作戦直後から彼は猛烈なまでに組織の基盤づくりに熱中した。元々家族が絡めばどこまでも暴走する直情的な彼だが、私が全員に語った未来予想図がスイッチになってしまったらしい。

 

 

 未だ世界の情勢は凪いでいるが時間の問題だ。これまでテレビの向こうとしか感じていなかった有象無象のテロリストが、核兵器にも劣らない大量殺戮兵器を気兼ねなく手に入れられる世の中が訪れる。そうなれば例え朴訥な市民であっても武力制圧に寛容で過激にならざるを得なくなるだろう。対岸の火事はどれだけでも笑っていられるが、目の前にあるスズメバチの巣は手段を選ばず排除するのが人間というものだ。

 

 

 ヒダルゴ氏は以前の騒乱でほとほと身に染みたらしい、後ろ指を刺される存在が如何に脆弱な立場に立たされているかを。少し情報操作をしてしまえば、一方的な殲滅も自業自得と鼻で嗤われるニュースにしかならない。しかもそれを眉一つ動かさずにやってのける連中に目を付けられているのだから堪らない。

 

 

 彼、いや彼ら家族の唯一にして最強の庇護者が我々だ。自慢じゃないが南極から持ち帰った技術を習熟した我々なら、極論してしまえば脳さえ無事なら後はどうにかしてやれるのだからその考えは誤りではない。彼にとって我々の地盤を盤石足らしめることは家族を守るうえで必須だったわけだ。

 

 

 そこに手を貸したのは、私としては意外なことにフォーアイズだった。南米では相当急ぎ足だった所為でかなりショゴスパワーでごり押ししてきたのだが、それが彼女にとっては悔しかったようだ。ウィルスの探究者たる彼女がご都合不思議生物の力に後れを取ったままなのは自身の叡智の敗北と同義だったのだろう。

 

 

 これまで得てきたデータを自分なりに解析し、変身したショゴスを徹底的に観察しメカニズムの解析を行った。しかし今後のアンチウィルス研究のためといってメラが助手を、シェリーが機械助手を務め携わっていたのには驚いた。

 

 

 メラは以前からウルフパックから手ほどきを受けていたから今更といった感じだが、シェリーにあれほど機械工学のセンスがあるとはな。後で本人から聞いたが、弱冠12歳―――つまりラクーン脱出時に、完全オート操作になっていた高速移動中の列車を手動運転に切り替え脱線しない様コントロールしながら停止させた挙句、マニュアルも見ずに非常用の爆弾の起動までやってのけたのだとか。……ちょっと何言ってるか分かりませんね。

 

 

 まあそれはともかく、入口だけとはいえ彼女らはたった3人であの未来の技術を現代のそれに落とし込んで見せた。流石に不老不死や肉体の再構築はまだまだ未知の領域だが、それでもガンや白血病、その他世界に名だたる難病の根治術に漕ぎ着けるには十分な技術であり、それらを世界へと発表し特許の取得と共に一気に世界へ宣伝していった。

 

 しかし困ったのはそれらの成果を全て私に放り投げてきた事だ。本来なら当然功労者のフォーアイズがそれらの栄誉を受けるべきなのだが、同志以外とは視線を合わせるだけでも時間の無駄と考える彼女はこれを固辞した。工学者の私ではボロが出ると言ったのだが『ショゴス使えば大抵は誤魔化せるでしょ?それに所詮私がしたのは方法はどうあれ貴方の成果の猿真似。そんなもので称賛されても人のふんどしで相撲を取ったようで不快、それに私にとってここから発展させていくことこそ最重要課題』と言って押し切られた。

 

 

 そういう訳で表社会に出る羽目になったのだが、突然背景も不明な集団が未知の技術とか怪しさ満点だ。なのでそこら辺のバックストーリーは先の作戦で共闘した私設対バイオハザード部隊に協力してでっち上げた。『彼らと同じくラクーン帰還組であり、バイオテロ憎しで彼らと行動を共にし研究してきたがその副産物が無視できなくなったので独立・起業することになった』というのが筋書きだ。

 

 

 幸い後方支援組の中核メンバーで知己のハミルトン教授が学会にかなり顔が利く人物であった点、そして腕利きジャーナリストのアリッサが上手く利権団体と交渉してくれたお陰で想像より遥かに小規模の軋轢で事が済んだ。彼女たちの方もこれからのスポンサーを名乗り出てきた『製薬企業連盟』とかいう微妙に胡散臭い連中との交渉に我々の存在が非常に有利に働いた、と言ってくれたのでWin-Winだと言ってくれた。

 

 

 

 

~~中略~~

 

 

 

 

 □月○×日

 

 

 ……疲れた。いや、本当にきつい。田舎工場生まれの缶詰技術者に社交界の常識とか知るわけないだろう。しかも何が困るって指導者が居ないのだ。誰も彼もそんな華やかな舞台なんて別の世界の話って奴しかいないから全部独学だ。それにそんな私の事情など知ったことかとばかりにヒダルゴ氏がどんどん規模拡大していくから堪らない。大店の主には相応のマナーが求められるとか勘弁してください。これなら南極で炙られたときの方がまだ余裕があった。

 

 

 それはともかく、正直言ってヒダルゴ氏の実力を過小評価していた。よくよく考えてみれば一代で『麻薬王』と渾名されるほどのマネージメント能力と先駆者に潰されずに勢力を広げられる交渉術、それから『聖なる蛇』なんて結構な規模の武装勢力を統率してこれた組織力が並大抵のものの筈がなかった。

 

 

 あとそれから、社会貢献アピールの一環として…何て名前だったかな?どこかの環境保護ボランティアの監事をやることになった。それ自体は特に問題はない、週に3回ほど顔を出して事務処理や決算をチェックするくらいだからな。ただどうしてかな?何故か妙に嫌な予感がするのだが……。私の中の何かが『シェリーを連れて行かないとヤバい』と告げているのは何故だろうか?

 

 

 

 

 




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テラグリジア・パニック〜リベレーションズ編
第二十七話


それでは『リべレーションズ』に入っていきます。


 

 

 

 

Side ハワード

 

 

 

 

 ――――コーカサス強襲作戦から凡そ一年、少しは役員ごっこにも慣れてきたと思う。正直叩き上げの研究員だった私にとって、人様の仕事にとやかく言うのは苦痛でしかなかったが、表の立場が想定していた以上に重要な役割を果たしてきたので必要経費として割り切ることにした。

 

 

 Tウィルスとその研究成果が世界中に拡散した。これから有象無象の手に渡り千差万別の視点から研究が再出発することだろう。それ自体は私にとっては大いに結構だ、人類が滅びない範囲で好きにやってほしい。ところが、『不老不死の鍵』などという面倒な名札がつけられたことでその研究とやらに高確率で政府の首輪がつけられることとなったのが鬱陶しい。

 

 

 せっかく関係を続けているB.S.A.A.(対バイオハザード私設部隊が『製薬企業連盟』に取り込まれたことで正式名称が付いた)や環境保護団体『テラセイブ』もこれには形無しだ。所詮一介のNGOとボランティア団体でしかない彼らでは、『この施設は国家機関による完璧な承認を得ている。貴様等が立ち入る必要も許可も一切認めない』と突き返されたら手が出せない。まあ、連盟が政府と禍根を残すリスクを冒してまで彼らの行動を後押しするはずもないしな。

 

 

 その点こちらは、製薬企業連盟に加盟しており、且つ以前のヒダルゴ邸でのイザコザの手打ちとしてFBC(というよりモルガン・ランズディール)からせしめた『FBC非常勤特別査察官権限』でアメリカ中の研究機関にいつでもフリーパスで入り込めるからな。いやー、あの時のランズディールの表情は最高だった。知らぬ存ぜぬを決め込む奴に『あの事件で捕虜にした工作員の身柄とスペクターに洗わせたそいつに関する全秘匿情報、ついでにヒダルゴ騒動の実行計画書』を世界にばらまくと言ったら速攻で首を縦に振ってくれた。対価としてそれを使って取り締まる場合は手柄をFBCにくれてやる事になったが、全部モグるから一度も貢献したこと無いんだよな。

 

 

 

 

それからもう一つ予想外の効果があった。自分という一例を知っていながら間抜けな話だが、『ショゴス』の様な不思議生物とウィルスが掛け合わさる緊急事態への対処だ。後ろめたい研究というのは常に人目を避けられる場所を求める。秘境・危険地帯・地下と様々だが、つまりは世界の隅々までウィルスが蔓延したと言っても過言じゃない。それはつまり―――今まで人が触れる筈のなかった領域にまで足を踏み入れてしまった、ということだ。

 

 

現にこの一年以内に『ソレ』と遭遇することになった。久しぶりに余暇が出来た私達は、隠れ家で待っているシェリーやメラにルポの子供、それからいつも彼女たちの世話をしてくれているビジ夫人へのリフレッシュにスキーへ出かけることにした(スキーなのは彼女たちのリクエスト)。

 

 

まあせっかくのバカンスということでどこぞの山でやっている天然のスキー場を選んだんだが、何とその山の頂上付近にどこかの馬鹿が研究所を作ったらしい。それだけなら我々に無関係だが、何と流出したウィルスが眠っていた『神話生物』を起こしてしまったから笑えない事態になった。

 

 

例年じゃ有り得ない吹雪によってコテージに取り残されるわ、赤い色のエビに羽が生えたような生物に襲われるわ、山頂の元研究所で緑色の謎の粘液を身に着けたエビ共が興じていた変な儀式を慌てて止める羽目になるわ、碌な目に遭わなかった。

 

 

まあ私は特に働いていないのだが。よりにもよってルポの子供を襲おうとしたせいで、任務中の彼女が可愛く見えるレベルでバーサーカー化した母親が、原型がなくなるレベルでボコボコにしてたし。私は私で食べ応えのある甲殻類と再び未知の技術をモグることが出来たから特に不満はないのだが。

 

 

 とはいえ、その時は相手が非戦闘向きの生物だから何とかなったが、南極基地みたいな『大当たり』に出くわすと流石に部下たちでは厳しいものがある。そういう意味もあっていつでも緊急要請に応えられるよう、役員ごっこで椅子を暖める仕事を続けることにした。

 

 

 

 差し当たっての重要項目は3つ。一つはスペイン語が使われているヨーロッパの端の田舎。ここには神話生物若しくはその眷属と思われる生物の存在が確認されているため、同志の中でも特に腕の立つ人物を送る。

 

 

二つ目はアンブレラが廃棄した海底研究所。ここを私物化していたとある人物が此方にコンタクト、というより全面的な降伏を求めてきた。何でもアンブレラに復讐を考えていたらしいが、本格的に潜伏されたことで自前の情報収集力では追跡できないこと、そしてこちらがアフリカ・ロシアと立て続けに大暴れしたことが相当恐怖を煽ったらしく、自らの財産である特殊ウィルス目当てに始末される前に傘下に加わりたいそうだ。向こうの要求は『美に絶対の価値を置く王国をつくること』とのこと、新しい研究所用の土地を連盟に申請すれば何とかなるだろうし、人様に迷惑を掛けない範囲であれば容易に飲める条件だ。但しこの人物、スペクターが調べたところ管理責任能力にかなり難があるようなので監視は必要だろう。そして最後は――――。

 

 

 

『それではただいまより、テラグリジア創立3周年記念パーティを開催させていただきます!まずは開発総指揮を担当した――――』

 

 

 

 ―――ここ『海洋都市テラグリジア』だ。何でもヨーロッパとアメリカで共同建造されたらしく、足掛け11年がかりの大仕事だったとか。最新のインフラと最先端の太陽光発電技術が目玉の超技術都市、とか言う点は別に興味はないのだが開発時期に少々キナ臭い所がある。

 

 

 というのも、都市そのものの建設はともかく最新の太陽光技術とやらは完成2年前まで碌に進んでいなかったという。工事の延期どころか中止まで囁かれていたのだが、ある日突然開発が躍進し2001年に無事完成したのだという。ひょんなことで研究が進むのは珍しい事じゃないが、その躍進の始まりが我々が南極から帰った日の直近であり、尚且つこの都市の中核である太陽光集積人工衛星『レギア・ソリス』は現代の技術では到底作れないとなると話が変わってくる。

 

 

 どこまでこの案件にグラサンが関わってるかは知らんが、丁度創立記念パーティと技術博覧会への招待状が来ていたので、今やわが社の工学部門エースであるシェリー・バーキンとボディガードの『クロード・レスプル』と一緒に御呼ばれしたという訳だ。

 

 

レスプルの苗字では分かりにくいかもしれんが、クロードはルポことカリーナ・レスプルの実の息子だ。今年で18の青年だが、母の狼の血は色濃く受け継がれており、あのルポをして『もう私が教えることは無い』と言わしめたほどだ。実際エビ擬きに襲われた件では、エビの鎌を一発たりとも掠らせず、カウンターの捩じり抜き手で甲殻を抉り砕いてみせたのだ。母に似て彫りの深い美青年だが、メラやシェリーと兄妹同然に育っておきながら何故か女性に対して免疫が無いという微笑ましい一面も持っている。ただし、訓練では女子供でも容赦なく相手するところは母そっくりだが。

 

 

 

「あら、オールドマン『代表監事』じゃない。貴方がこういう席に出るなんて珍しいじゃない」

 

 

「…クレア・レッドフィールドか。そういう君はテラセイブの取材陣としての参加か」

 

 

「そういうこと。環境保護団体として、ここの創立から技術まで何かと因縁があるからね。ハイ、シェリー!貴女もここに来ていたのね、久しぶり!」

 

 

「クレアッ!!」

 

 

 

 ……うん、わかってはいたがこの対応の差である。一応君の勤め先の役員なのだが、私は。まあこれでも丸くなった方ではあるが。

 

 

 最初の再会時は特に気まずかった。南極基地ではフォーアイズ達に任せてた所為で私は会っていないし、基地で裸の青年を蘇生させた後問答無用で持ち帰ったせいでこちらへのヘイトが凄まじかった。あの表情は色々とブチ切れてたし、もしシェリーを連れて行っていなければテラセイブ役員就任式が血で彩られる羽目になっていた。

 

 

 あ、ちなみに件のスティーブ君とやらは未だウチの研究所でリハビリ中だ。何せ暴走列車の如きTヴェロニカを直接打ち込まれてるからな。今は安定していても何かのはずみでヒダルゴ夫人のように変態しても可笑しくない。しかも当人がトラウマからかクローニングや脳移植と言った夫人の治療方式を断固拒否しているので今はGウィルスにとっての『DEVIL』のようなワクチンの開発を行っている。大分制御出来てきているが、完成まであと一年って所か。

 

 

 

「シェリー、偶には手紙でも電話でも良いから連絡してよ?もしいかがわしいことされそうになったらいつでも言いなさい。ランチャー片手に乗り込むから」

 

 

「もう、ハワード先生達はそんな人じゃないよ。やさし…くはないけど冷たい人達じゃないから。それよりも、この前先生と一緒に開発した『アレ』の使用感はどうだった?現場の人の感想が聞きたくて……」

 

 

 

 …いや、冗談でも勘弁してください。女子大生時代でウルフパック(戦闘のプロ)相手に善戦してみせたゴリラの相手とか絶対嫌だ。アレクシア倒した時みたいにやっつけられそうで怖い。いや割と本気で。

 

 

 

「―――代表。ご歓談中申し訳ありませんが、あちらで市長をはじめお歴々の方々がお待ちです」

 

 

「ああ、ありがとうクロード。それじゃシェリー、君は今しばらくミスレッドフィールドと旧交を温めておくと良い。クロード、君は彼女の傍に」

 

 

「畏まりました。それから……硝煙の匂いが微かにします。代表であれば万一のことは無いかと思いますが、何卒ご用心を」

 

 

「……なるほど。流石に公衆の面前で仕掛けるほどモルガンの頭に血が上っていると思えんし、となると話題に上がっていた過激派海洋保護団体の仕業かな?こっちの心配はしなくて良い。シェリーには指一本触れさせるな、勿論君が安易に傷つくことも許さん」

 

 

 ――――さて、今回は何が出てくるかな?

 

 

 

 




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