東方想伝録 (司馬懿 雄也)
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プロローグ『人間不信が幻想入り』
幻想郷入りした人間不信者


はじめまして。
司馬懿 雄也と申します。
呼びやすい名前で呼んでください。
本日から東方の新作を投稿していきます。
前回まで投稿していた作品とは全く違う物語なので、是非新しい東方作品をご覧くださると幸いです。
ではどうぞ


11月 秋の終盤。

気温も下がり、先月まであんなに色鮮やかに街を彩っていた紅葉も枯れ落ち、クリスマスという、来月のイベントにも関わらずそのイベントの象徴であるツリーが店や街の中央などに飾られていた。

 

「もうそんな時期か…」

 

俺、天雨 光(あまぞら ひかる)は食材を買った帰り道、そのツリーを眺めながら白くなった息を吐いていた。

辺りを見渡すと、そこには笑い声を出しながら肩を組み合って歩いている高校生のグループ、お互いにマフラーを巻いて手を繋いでいるカップルや子供と楽しそうに会話をしている親子、もう日も暮れるというのに未だスーツ姿で耳に携帯電話を当て、歩道を走るサラリーマンなど、人で溢れかえっていた。

その人達を見て俺は酷く『哀れだ』と思った。

友人?恋人?家族?全て『他人』だ。

中学時代に友人になっても、三年も経てば切り捨てて新しいモノに移り変わる。

『何があってもお前を助ける』という言葉に何人もの被害者が救われ、絶望を味わったのか。

実際に助ける場面に陥れば本人は知らないふりをして加害者側に加担したり、見捨てたりするだろ。

付き合って、『これからもずっと一緒だよ』と口で約束するのは簡単だ。

数ヶ月経ってしまえばその約束も忘れてお互いに別れを告げ、また新しいものに移り変わっていく。

血筋が同じでも考えは全く違う他人に過ぎない。

いつまでも一緒にいるわけでもないし、一緒に死ぬわけでもない、『親だから子供を守るのは当たり前』なら何故子供に対する親の虐待が無くならない?

結局は自分が大切なのだ、自分の都合で何もかもを切り捨てて都合良くする。

それがこの世の中だ。

自分がいつでも優勢に立てれるように作り上げられている。

俺はそんな世の中を憂鬱に思いながらまた足を動かした。

俺の家は古い三階建てのアパート、一人暮らしだ。

16歳からこの暮らしを始めていて、めでたく6周年でございます。

やはり独りは楽で良い、誰にも邪魔されず、臭い言葉を投げかけられる事もなく、誰かの顔を見る事も無い。

俺の唯一の楽園は独りである。

親は16の時に事故で亡くなっている。

そのためこの暮らしを始めたきっかけでもある。

22にもなって職業には属していない。

俺がこんな性格をしていたせいか、職場での印象は悪く、周りにも嫌われ、僅か半年で退職した。

幸い両親の遺産がとてつもなくあって一生暮らせていけるのでなんとかやっていけてる。

……まぁ何が言いたいかと言うと俺は『人間不信』という事だな。

かつて仲の良かった友人との連絡手段を削除したし、恋人もいるはずもない、家族も死んで、本格的に孤独になっている。

そんな何の面白みもないニート生活を俺は毎日送っているということさ。

 

「……とまだ7時だというのに眠気が襲ってきたな……」

 

まぁ粗方話はしたし、あとはお前らの理解力に任せるよ。

そうして俺は深い眠りについた。

何気ない眠りだったが、まさかこの後とんでもない事になっていたとは…俺すら知らなかった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・

 

ふと目が覚めた。

いつもは眠気が残っていて視界がぼやけていたが、そのぼやけている視界でさえ分かるほどで俺の眠気は一秒も掛からないうちに吹っ飛んだ。

()()()()()()()()()()()()

白くてカビが生えている屋根がガラッと変わって真紅の色をした屋根に変わっていた。

それにいつも背骨をやらかしている布団とは違って今すぐにでも眠ってしまいそうなフカフカの布団になっていて、この瞬間から俺の思考はそれだけになっていた。

少し経って周りを見回すと、これまた赤一色に染まった部屋だった。

本棚も机も椅子も変わっていて、ついに俺は孤独のあまりやってしまったんだなと思った。

 

「……ハハ……気が狂ったか…ついに人殺しなんて…」

 

「あら…目が覚めたようね」

 

俺が一言呟くと扉の向こうから女性の声が聞こえた。

『誰だ』と扉の方へ声をかけると、ゆっくりと扉が開き、その姿を見せた。

 

青みがかった銀髪に真紅の瞳。

身長は人間で言えば10歳にも満たないような背の高さだが、口元から鋭い牙が顔を出していて、背中に大きな翼を持っている。

見た目からして吸血鬼だろうか。

頭にはナイトキャップを被っていて白の強いピンクで、周囲を赤いリボンで締めている。結び目は右側で、白い線が一本入っている。

衣服は帽子に倣ったピンク色、袖口には赤いリボンを蝶々で結んである。

小さなボタンで、レースの服を真ん中でつなぎ止めている。

 

「おい…ここは何処だ、そしてお前は何者だ…何の目的で俺をここに置いた」

 

俺は目の前に非現実的な生命体がいるにも関わらずその幼女に質問した。

幼女は半分呆れた顔で答えた。

 

「ここは『幻想郷』という貴方の暮らしていた世界とは全く違う世界に建っている『紅魔館』所謂私の家ねそして私の名はレミリア・スカーレット、レミリアと呼んでちょうだい吸血鬼として500年以上生きていたわ、そして目的は無いわよ、貴方が紅魔館の道端で倒れ込んでぐっすり眠っていて正直驚いたわ、眠ったまま幻想入りしたのね」

 

「……すまない少し時間をくれないか?頭の中を整理する」

 

「構わないわよ」

 

俺はレミリアという吸血鬼を前に彼女の口から出る言葉に頭がついていかなかった。

少し時間を置いてなんとかまとまった。

 

「えーと…まずは自己紹介が遅れたな、俺は天雨 光 つまりここは俺の知っている世界じゃなくて、今ここで眠らせてもらってたのが紅魔館というレミリアのお家でレミリアみたいな吸血鬼が普通にいるということは…」

 

言いかけた瞬間俺のポカーンとしていた目付きが一変鋭くなった。

 

「…吸血鬼以外の生物…例えば妖怪や魔法使い…神々といった人間離れした奴らが住んでる世界ということか…?」

 

「めんどうな説明が省けて気が楽だわ、その通りよ」

 

レミリアは変わらず笑顔で答えた。

なるほど、この幻想郷はレミリアみたいな吸血鬼とかの人間離れした奴らがうじゃうじゃいるのか…またこりゃ大変な事になっちまったな…

 

「そうそう、寝起きなところ申し訳ないけれど今から向かって欲しい場所があるのよ」

 

「場所?」

 

「幻想郷でも数少ない神社なのだけれど貴方の世界でもあると思いから詳しい説明は不要よね」

 

神社…確か愚かな人間が何も努力せずに神頼みする場所だったか?普通に考えてみろ金使って神様にお願いしてんだぞ、だんだけ神様曲がってんだよ。

神様に頼むけど最終的には自分の実力次第ということなんだ。

神頼みなんて単なる自分を安心させるようなもの。

まぁ今からそこへ向かうらしいが道が分からないな…

 

「とりあえずこの世界については私の自慢のメイドが案内してくれるわ」

 

「……メイド?」

 

メイド…たしか喫茶にオタッキーな男が扉開けてご主人様呼ばれされて飯とか作って食べさせて男が満足してる奴のアレか…?

 

「今貴方が考えている事とは180度違ってるわよ、実際のメイドは召使いのようなもので私のメイドもその部類よ」

 

なるほど、ただ単に仕事として働いているのか…ん?メイド喫茶も立派な仕事だよな…?いや、もうこの話はやめようめんどくさくなってきた。

 

「今は朝食を作ってるから食事場を案内するわ」

 

レミリアの言葉に俺は一つ疑問が生じた。

 

「おいレミリア」

 

「何かしら?」

 

「……今何時だ?」

 

「んー…正確に分からないけれど朝の10時くらいかしら?」

 

おいおいおいおいおい俺いつの間に睡眠障害になった夜7時に寝たんだよな…?今朝の10時………15時間も寝てたのかよ待ってくれ俺そんなに寝たなんて初めてだぞ、ってかいつからここで寝てたんだ俺

 

「そうね…大体みんなが寝静まった頃だから…11時とか?」

 

ほぼお世話になっちまってるじゃねぇかよ、ドウシテコウナッタ、いやこれきっと夢だ、俺が孤独を愛しすぎて見えてしまった夢だ、今すぐ目を覚ますために…

 

「残念ながら夢じゃないわよ。頬をつねってみるわよ?」

 

「いででででで!タンマタンマ!ほっぺが千切れる!」

 

クソ痛かった…これが現実か…

 

「ほら、茶番はこれくらいにして早く朝食にするわよ」

 

「え、俺も朝食にすんの!?」

 

「当たり前じゃない、貴方何も食べてないでしょう?」

 

「まぁそうなんだが…」

 

「良いから行くわよ」

 

俺はレミリアに袖を引っ張られた。

なんかこの図妹みたいで可愛いなっと心の中で呟きながら俺は思うがままに食事場に連れていかれた。

 

食事場に着くと、広い部屋にその部屋と同じくらいの長さの机に沢山の椅子屋根にはシャンデリアがこの部屋全体を照らしていた。

この館何人住んでんだ…?

レミリアに指定された椅子に座るとレミリアはその反対の席に座った。

そこへさっきまで居なかったはずのメイドが2人分の食事を持って来た。

これがレミリアの言うメイドか…

 

っと俺はメイドの顔を見た瞬間、ほんの一瞬だった。

そのメイドの顔を無意識に見つめてしまった。

それは恐怖心や警戒心でもない何かである。

一体なんなのか、違和感を感じながら俺は近付いて来るメイドを目で追った。

 

「ありがとう咲夜、紹介するわ。彼は天雨 光 昨晩紅魔館の門前で倒れてた人よ」

 

「この方でしたか…初めまして十六夜咲夜(いざよいさくや)と申します」

 

咲夜という名の美しい女性はメイド服のスカートを両手で掴んで頭を下げた。

思わず俺はその美しい姿に魅入ってしまった。

髪型は銀髪のボブカットであり、もみあげ辺りから三つ編みを結っていて髪の先に緑色のリボンを付けている。

瞳の色は青、身長は、女性からして大きい方だろう。

服装は青と白の二つの色からなるメイド服であり、頭にはカチューシャ(ホワイトブリム)を装備している。裾の長さは膝上丈~膝丈程度。

凛々しい声に反応が遅れかけたが何とか自我を保ち、自己紹介をした。

 

「こちらこそ先程レミリアさんから紹介されましたが、改めて 天雨 光と申します」

 

「……よろしくお願いしますね、天雨さん」

 

なんだ今の間は?

俺何かまずい事言ったか…?

少し心の中で嫌な感じがした。

その後レミリアから「さ、食べましょう」と言われて目の前に置かれた、朝食に目をやった。

タマネギと肉汁のソースがかかった南蛮チキンだった。

一度食べてみたいと思っていたが、まさか本当に食べられるとは思っていなかった。

俺は内心歓喜に包まれたが、表上無表情で用意されたフォークとナイフを持った。

 

……いや待てよ?考えてみろ、相手は対面して数十分の生物、こんな見知らぬ人間に食事を提供するなんて馬鹿にもほどがある俺がこいつらを殺して紅魔館を支配する可能性だってあるのだぞ。

……本当はこいつら目的があるのではないか?…これ何か薬入ってるのではないか…?

俺は南蛮チキンをナイフで切る直前にそう思った。

 

「失礼ながら薬などの物騒なものは入れてませんが…?」

 

しかし横にいた咲夜さんが表情は変わらないが怒りがこもっている声を発した。

言葉ではいくらでも言えるだろう、俺はそう簡単に騙されないからな、どいつもこいつも簡単に口説けると思ったら大間違いだ。

しかし、一度は食べたかった食べ物に心とは裏腹に俺の体は既にその料理を口の中に運んでいた。

内心『しまった!何やってんだよ俺!』と思ったが、体は言うことを聞かず歯で肉をかみ、喉に通した。

そして次の瞬間…

 

「……美味しいです」

 

思わず思った事が口から漏れてしまった。

本当に美味いだけで特に何も起こる心配はなかった。

 

「これで私達が貴方に対してなんの目的もないと言う事を分かってもらえたかしら?」

 

「…………」

 

俺は黙り込んだ。

確かにこの料理は美味しくて、特に何も起こる訳でもなく、何より吸血鬼であるレミリアが俺を襲ってこない事に疑問を感じていたし、この11時間、眠っている俺を殺す事だっていくらでも出来たはずだ。

本格的に俺に対してなんの目的もないのだろうか……俺は……俺は……

 

「……分かりました」

 

考えるのがめんどくさくなったのでとりあえずこの言葉で返事をしておいた。

まだ出会ったばかりだし、まだその時が来る日ではないということだろう。

まずは様子を見て、危険だと思ったら逃げ出すとしようか。

 

こうして俺の人間不信幻想郷生活は始まったのだ。




如何でしょうか?
題名とは違ってとんでもない始まり方でしたが、そこから脳みそフル回転で制作していきます。
次回はいつになるか分かりませんので、気長にお待ちくださると幸いです。


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正義の味方

はいどうもこんにちは冬休みに入ってPS4の毎日です。
今年最後の投稿としてなんとか間に合いました…汗
結構自分の知識を絞ってこの話にぶち込みましたね…w
あまり期待はできないんですけどね
ではどうぞ!


朝食を終えて、紅魔館の中を案内したもらった後に玄関と思われる大きな扉を開いて外に出た。

幻想郷に入って一番最初に目にした光景が紅魔館の中だったし、外を見ていなかった。

そこには俺が元々いた世界とは裏腹に草木が生い茂っていた。(木の葉は冬のため全部下に枯れ落ちてた)

あまり自然とは無縁だったため、凄く新鮮な気分になった。

…とここで深呼吸をしてみた。

 

「……空気がおいしいですね」

 

「光さんにとっては初めてなのでしょうか?」

 

「まぁ…俺が住んでたところ自然が無かったですからね」

 

ふと咲夜さんに言われて俺はこんなに空気が良い世界があったことを実感した。

そして、咲夜さんと共に門前の檻を開けてレミリアから言われた例の神社へと足を運んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・

 

……何時間かかっただろう。

あまり気にしていなかったが、ものすごい距離を歩いた覚えがある。

そして咲夜さんに『この階段を登れば到着です』と言われた時には足が笑ったよ。

天まで続くかのような長さの階段を俺は目にしてしまった。

とりあえず泣きそうになりながらも階段を渡りきり、ようやく神社に着いた。

神社の大きな鳥居に『博麗神社(はくれいじんじゃ)』と書かれていたので、おそらくこの神社は博麗神社と言うのだろう。

左右に木が生えているにも関わらず枯葉が一つもなく綺麗に掃除されていることが分かる。

ここで一体何をするのだろうか。

すると咲夜さんが神社のお賽銭箱と共に建てられている寺に向かって特定の人物の名を呼んだ。

 

霊夢(れいむ)?起きているかしら?お客様よ」

 

俺をお客様と言う貴女もお客様だと思うけどな。

というか参拝客と言うべきか…細かいことを気にしないでおこう。

しかし、返事は一向に無かった。

咲夜さんはため息をつくと、メイド服のポケットから一つのお金だろうか、小銭に似たものをを取り出した。

…ていうかよく見たら江戸時代の貨幣じゃねえかよ、俺もしかしてタイムスリップしたのか!?

いやでも紅魔館みたいな建物は無かった…はずだし…まぁいいやとりあえず咲夜さんはその貨幣をお賽銭箱に入れた。

すると寺の中からドタドタと足音が聞こえたと思うと勢いよく障子が開かれた。

 

「お賽銭の音!参拝客かしら!?」

 

目をキラキラさせてこちらを見たのは黒髪に袖が無く肩・腋の露出した赤い服とスカートに後頭部に結ばれた模様と縫い目入りの大きな赤いリボンが着いた少女が現れた。

この人が霊夢なのか?

少し経つと咲夜さんだと認識したのか、キラキラした目は一瞬にして消えた。

 

「…何よ咲夜じゃない」

 

「感謝しなさい、ちゃんとお賽銭入れたのだから」

 

咲夜さんは呆れ顔で返事をした。

というか神頼みするためにお賽銭するんじゃないのか?

 

「分かってるわよ…それよりその横にいる男は…もしかして 天雨 光という人かしら?私は博麗 霊夢(はくれい れいむ)この博麗神社の巫女をしているわ、霊夢と呼んでちょうだい」

 

「なんで俺の名を知ってるんだ?」

 

俺は初対面の相手に自己紹介もしてないのにフルネームで呼ばれた俺は身構えた。

それもそうだろう初めて会社に勤めて自己紹介しようとしたら社長や身分の高い人はともかく、普通の社員に名前を特定されたら誰だって警戒する。

しかも博麗神社の巫女してるのかよ、露出度やばすぎだろ、俺が知ってる巫女は手以外一つも肌を見せていないと思うんだがな。

 

(ゆかり)から聞いたのよ、貴方を今日幻想郷入りさせたって」

 

「紫…?」

 

俺はまた新しい人物の名を聞いて困惑した。

すると霊夢の後ろの空間が開かれた。

そこから金髪の少女が姿を現した。

 

「はいはーいここまで来てくれてありがとう 天雨 光さん 私は八雲 紫(やくも ゆかり)この幻想郷を創り上げた人物よ。名前は紫と呼んで構わないわよ。ちなみにさっきの空間は『スキマ』と言って私の持っている能力によって発現されているのよ」

 

金髪に大きなリボン、特徴的な帽子を被り、 紫のドレスを着ていて初対面にも関わらず、凄いはっちゃけた口調で自己紹介した八雲 紫という女…しかもこの幻想郷を創り上げた人物…つまり国でいう王様みたいな立場の人だろうか…?そんな人がなんの目的で俺をここに連れ出したのだろうか?

そして先程の行い…普通の人間ではありえないものだ。

一体この人は何者なのだろうか?

 

「紫…お前は何が目的で俺をここに連れ出した、そしてこの幻想郷は一体何なんだ」

 

「幻想入りして最初の質問かしら?」

 

「当たり前だ。じゃなきゃどうして俺をここに連れ込んだんだ?」

 

「それもそうね、貴方をここに連れ込んだ理由はちゃんとあるわよ、とりあえず立ち話も疲れるし話しやすい場所で話しましょう」

 

紫は博麗神社の寺の縁側に座ると紫は俺の方を向いて口を開いた。

 

「貴方をここに連れ込んだ理由は…この幻想郷を救ってもらうためよ」

 

「……はい?」

 

俺は紫から聞いた理由に思わず素っ頓狂な声で返事をしてしまった。

 

「……すまんもっと細かく説明してくれ」

 

「そのつもりよ『救ってもらう』だけの言葉で頭を縦に振る馬鹿だったらここに呼んでないもの」

 

……なんか若干癪に触った気がする。

そんなことをともかく、紫は会話を続けた。

 

「まずこの幻想郷について話すとこの幻想郷は…貴方の世界…外の世界と繋がっているのだけれど、この世界は『忘れられた存在』の最後の楽園よ、もちろん人間離れした人種も集うのよ、そのため外の世界でその人種と共にしたら大騒動になるわよね?だから私は外の世界から入れないように強い結界を貼って守っているの」

 

「なるほどな…」

 

紫から幻想郷について説明を聞いて察しがついた。

俺が22年間お世話になった世界から捨てられたのだと。

ついに日常からも見捨てられる日が来るなんてな…

内心考えながら紫の話を聞いた。

 

「私は忘れ去られた人たちが平和に暮らせるようにこの幻想郷を作り上げた。だけど、現実はそうもいかない、先日幻想郷とは異なる力を確認したの、私も霊夢と一緒に長く調査を進めていたのだけれど一向に手掛かりがない、分かったことはこの幻想郷には存在しない力だけよ、これは幻想郷の者だけでは解決出来無いと判断した。そしてこの異なる力が滞在し続けるとどうなるか、それは幻想郷の者達に悪影響を及ぼす事になるわ、つまり確実に()()()()()()()()ということ、そこで私は外の世界からこの危機を救ってくれる英雄を探した。そして、貴方が選ばれたのよ」

 

「なるほど…その厄介事を俺にやらせて、幻想郷を救ってくれと?」

 

「ええそうよ…だからーーーー」

 

「断る」

 

「…そういう返事が来ることは分かっていたけれど一応理由を聞いておくわ」

 

「…まず何故俺が初対面であるお前らの住んでいる幻想郷を救うんだ?それをして俺になにか得するものがあるか?そしてその話にしては出来すぎている。既にお前ら自身攻撃されているというのなら話は別だが…まだその様子すら見当たらない、正直に言うと馬鹿馬鹿しい、まるで俺を馬鹿にしているドッキリのような感覚だ。紫や霊夢や咲夜さんが能力者なのは紫のスキマをみて信用せざる終えないさ、だが俺以外にも能力者は居るはずだろ?例えばレミリアとか、この幻想郷には少なからず俺より強い奴らが居るはずだ。幻想郷の奴らで手に負えるとはまったく考えられない。ましてや外の世界で俺が能力者なら今頃世界征服してるしそんな奴に幻想郷を救ってくれとか頭狂ってるんじゃないのか?」

 

俺の発した言葉に紫は表情一つ変わらなかったが、霊夢と咲夜さんは悲しそうな表情をしていた。

そんなことは知ったこっちゃない、信用出来ないからだ。なぜ俺がそんなめんどくさい事をしなければならないのか?それをして得するのか?得したとしてもどうせ俺だけ辛い思いをして救ったらさようならで火炙りにしたり幻想郷から追い出したりして切り捨てるのだろう。

結局はこいつらの自己満足だろう自分達が生き残れば良いと、そう思っているに決まっている。

 

「正義の味方ごっこなら他の奴に頼んでろ。俺は先に帰らせてもらう」

 

「光さん…」

 

咲夜さんから悲しそうな声で呼ばれたがそんなのどうでもいいと思いながら縁側から立ち上がり、鳥居に向かって足を進めた。

…しかし数歩進んだ瞬間紫から掛けられた言葉に足を止めた。

 

「なら少し話し方を変えましょう…それがもし、既に攻撃されていて()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と言ったら?」

 

「…なに?」

 

「確かに貴方が信用出来ないことは予想していました…ですが事は一刻を争っているんです。それは()()()()()()()も例外ではありません。」

 

「例外ではないとは…どういう事だ?」

 

「人里での連続殺人…全員血を吸われて干からびていて、最初はレミリアかと思ったのだけれどその当時、被害者が何者かに拐われて行くのを人里に足を運んでいたレミリアが住民と目撃しているから犯人ではないし、その妹も一緒にいたからこの幻想郷に住んでいる吸血鬼の仕業ではないことが明白、それに貴方なら知っていると思うけれど外の世界でも同じ事件が起こっているはずよ、そうなると犯人は幻想郷とは関係ないとは言いきれはいわよね?そしてそれを貴方が放棄すれば分かるわよね?貴方の世界もこの幻想郷も、最悪の場合2つの世界とは違う()()()()にも被害が及ぶ可能性が出てくるのよ?」

 

「……」

 

「決めるなら今よ、どうするのかしら?もっとも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだけれど?」

 

そう言われれば合点がつく所があるこの世界に来る数日前、俺が住んでいた世界で全身の血液が全て抜かれていて干からびている死体が住宅から発見された事件があった。

血液を吸う為に使われた道具も無ければその吸引口も発見されず、もちろん未だに犯人は見つかっておらず捜査は難航しているとテレビで流れていた。

…だがどうすればいいのだろうか、ここまでが演技で本当は俺を絶望に陥れる可能性だってまだなくなった訳では無い。

だが、俺の決断で全ての世界を滅ぼす事になると言われると正直その十字架を背負いたくても背負う事になるし、俺自身耐えられないだろう。

どうしてこうなってしまったんだろうか、何故俺なんだ?

憂鬱に思っていた生活がもっと最悪な形で迎えてしまうとは、もしかしたらこれが俺の人生の末路だったのかもしれないなぁ…

はぁ…もうどうでもいいか、それならいっそ世界救って潔くくたばれかいいか。

 

「……いいぜその話乗った。だが…無意味だと思ったら即座に撤回するからな、覚悟しとけよ」

 

 

こうして俺はまんまと幻想郷を救う物語を始めてしまったのだった。

 

 




今年もあと2日!
今年はみなさんどんな年でしたか?
私は受験の年でしたw見事に突破しましたがw
次回は来年の…いつになるんだろう
また不定期に更新しますが、気長にお待ちください。
それではみなさん
良いお年を!


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自信

あーはい…こんにちは
まずはじめに…
申し訳ございませんでした!
ほぼ半年ぶりの更新です!
言い訳をするとですね…色々とあってですね…
とりあえず半年かかった第3話
どうぞ…


「じゃあとりあえず…霊夢、光と戦ってちょうだい」

 

「「……は?」」

 

 

幻想郷を救うことを約束した直後、紫から放たれた言葉は「戦う」というなんとも物騒かつハードで何の得もない悲しい言葉が放たれた。

それを聞いた俺も霊夢も変な声で返事してしまった。

そしてハッとなった霊夢が声を荒らげて紫に近づいた。

 

 

「ちょっと紫!あんた何考えてんの!?幻想郷を救うって約束したのは良いけど、いきなり能力者でもない光を死なせる気!?」

 

「あら?光に死んで欲しくないなら霊夢が手加減すればいいのよ?簡単な話じゃない」

 

「そういう問題じゃねぇよ、霊夢だって能力者なんだろ?だったらそんな能力の一欠片もないただの人間な俺と戦ったところで俺が死ぬだけだろ」

 

「まぁまぁそんなこと言わずにほらほら、準備しなさい」

 

「お、おい!勝手に話を進めるな、誰がお前の言いなりになるんだよ」

 

「素直じゃないわねぇ…本当はこんなに可愛い女の子と対戦できて嬉しいくせに☆」

 

「誰が嬉しいだ」

 

「はいはい時間が無いから光は遠くで心の準備してね」

 

「ちょ…!お前やめ…」

 

 

紫はヘラヘラしながらスキマを使って光を霊夢から距離を置いた。

 

 

「本気なの?光が能力者とは思えないのだけれど」

 

 

そして紫と霊夢2人きりになり、霊夢の質問に紫の表情が一変、霊夢を睨みつけ、口元を扇子で隠すと答えた

そして紫が放った言葉に霊夢は耳を疑った。

 

 

「彼はあーいうことを言っていたけれど…実は()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「っ!?…それって…つまり…」

 

「でもそれはまだ彼自身人間不信になる前の話、そうなれば自分に能力がある事を知らないわ、だからこそ霊夢、あなたに彼の能力を目覚めさせるきっかけを作って欲しいの」

 

「きっかけって…」

 

 

どうすればいいのよ、と言いかけたが霊夢はその言葉を飲み込んだ。

確かにまだ光には能力らしきものは見せていない、それは能力があることを知らない、使い方を知らないということ、なんとか練習を積み重ねれば使いこなせるようになると思うが、それには多分随分と時間を有すると思うし、光自体人間不信で練習どころか人と関わらないと思う。

その間に例の幻想郷崩壊が始まれば元もこうもない。。

そこで紫が提案したのは『戦うことで自分の能力を使えるようになるきっかけを作る』という事だった。

下手すれば霊夢が相手だから、一撃を食らって死んでしまうこともあるかもしれないが、これが最善の手なのかもしれない、霊夢は大きなため息をした後に距離をとっていた光の方に視線を向けた。

 

 

「それじゃあ光…準備はいいかしら?」

 

「霊夢さん?何を根拠にその言葉を?」

 

「お手合わせするって言うことよ、貴方だって男でしょ?正々堂々勝負しなさい」

 

 

霊夢はそう言うとお祓い棒を光にビシッと向けた。

 

 

「いやいやいくら男でもこんな月とスッポンのような図を見て明らかにどちらが勝つか明白だろ?やったところで俺が無駄死にするだけだろ」

 

「仕方ないわね…話が進まないから勝手に始めるわよ!」

 

 

そう言った瞬間霊夢は体勢を低くして地を蹴った。

考える暇もなく光の脇腹に蹴りを入れた。

 

 

「っ!?」

 

 

もろに食らった光は足に力を入れて踏ん張る暇もなく吹き飛ばされた。

地面を転がり、砂埃が発生し、木に激突した。

それから数分砂埃の中から光が現れることは無かった。

霊夢はやっぱり手加減なんてそんな簡単にできない…そう思い、縁側の方へ向かおうとした瞬間、何かを察知したのか、霊夢は防御の構えをした。

その瞬間…

 

 

ガキンッ!

 

 

金属と金属がぶつかったような重い感覚に陥った霊夢は目を疑った。

そこには光がいたのだ。

 

 

「光!?大丈夫なの!?」

 

「_______________」

 

「光さん…?」

 

「_______________」

 

 

そして動き出したと思ったら、霊夢に拳の嵐、人間とは思えないほどの速さで動き、霊夢を圧倒していた。

さすがの霊夢も全ての攻撃を防ぐだけで精一杯だった。

 

「ちょ…ちょっと紫!一体何がどうなってるのよ!光の様子が明らかにおかしいわよ!」

 

「落ち着きなさい、これが()()()()()()()()()よ」

 

「ど、どういうことよ!」

 

 

光の今の姿が人間不信である理由を聞いた咲夜は紫に迫り寄った。

 

 

「彼は今()()()()()のよ」

 

「意識がない…?」

 

「えぇ…彼が能力に目覚めたのは幼少期の頃からなの、無意識のうちに自身の能力で周りの人に影響を及ぼしていたのよ、もちろん自分が能力者だと言う事は知るはずもない…だから」

 

 

一度言葉を止めた紫は目を細めた。

 

 

「そのせいで彼は人間不信になってしまった。そして心を閉ざした事で光の能力は大きく膨れ上がって、意識を手放した瞬間に暴走するようになってしまったの、それを阻止するために霊夢にはきっかけを作って欲しいと言ったの、彼には能力があると言ってもあの様子じゃ信じないだろうし、それなら意識がある状態で実感してもらい、少しずつ受け入れてもらうしか手がなかったのよ」

 

 

紫の話を聞いていた咲夜は意識が無い状態で霊夢と戦っている光を見た。

意識が無いから目に光がなく無表情で、分かっていても先程の話を聞いてしまったせいかその姿がこの世に絶望したように見えてしまった。

そして、全てを話したのか紫はスキマに手を突っ込むと、光の後ろにスキマが現れ、思いっきり光の頭を殴った。

その瞬間、光の動きが止まった。

 

 

「もうすぐ意識が戻るはずよ」

 

 

紫はそう言うと、光はハッとした表情になった。

 

 

「……俺は……」

 

「光さん!」

 

「光!?大丈夫なの!?」

 

「まぁ…死ななかったから何とかな」

 

 

霊夢はここでやめようと普通なら言うだろう。

しかし、紫の話を聞いて、光の過去を知った霊夢は

 

「そう…なら再戦するわよ」

 

「……は?何言ってんだお前!?俺を本格的に殺す気か!?」

 

「やり方を変えるのよ、貴方には弾幕(だんまく)という私から咲夜、紫も使える遠距離攻撃できるものよそれを使って貴方には死なない程度で使っていくわ」

 

「は、はぁ……」

 

 

光はまだ信じられないのか、警戒した表情で霊夢を見た。

 

 

「まだ信用出来ない気持ちはわかるわ、だけどこれしかないの、お願い」

 

「っ!……そもそもなんでそんな事をしてまで俺と戦おうとするんだよ…」

 

「それは……」

 

「俺はお前らみたいになんでも頼まれたことをこなすほどお人好しじゃない、それに戦って何かが変わる事や得るものでもあるのか?俺はそうは思えない、俺は見ての通りただの人間だ、能力者でもなければ紫の言う()()()()()()()()だって本当に起こるのかどうか知らない、そしてそんな俺が幻想郷を崩壊させるチートみたいな輩にに勝てるかどうか分からない」

 

「それなら今すぐ戦って強くなればーーー」

 

「ならばどうする?強くなる?当たり前のことだ、だが霊夢とは違って能力の欠けらも無い人間の俺と戦って強くなれるか?霊夢達が優しく指導すれば少しは強くなれるかもしれない、たが霊夢達に教えられて幻想郷崩壊の危機を救えるかと言われれば、答えは否だ。何故なら俺は()()からな、強くなった気になっても実際に見てみればまだまだ下の下だったという事だ、今ここで戦ったところで無駄な時間を有するだけだ。」

 

 

言いたい放題に語った光はその場から立ち去ろうとした瞬間、咲夜から予想外の言葉を投げかけられた。

 

 

「光さん…本当は()()()()()()()()んじゃないんですか?」

 

「……なに?」

 

「自分は弱いから霊夢と戦っても強くなれないというのはただの言い訳です。私も能力を持った人間ですけどそれでもまだ未熟者に過ぎませんだからこそ私は貴方と一緒に強くなりたいと思います。」

 

「……ハッ!何を綺麗事をーーー」

 

「綺麗事かどうかは()()()()()()霊夢と戦ってみれば分かります」

 

「自分を…信じる…?」

 

「今まで自分に自信がなかったのですよね?ならば一度騙されたと思って自分を信じてみてください。それでダメなら私達はもう何も言いません貴方の好きなようにしてください」

 

「…………」

 

 

咲夜に言われた光は少し考え込んだ。

霊夢は何も言い返せなかったが、代わりにうまく話を進めてくれた咲夜に感謝しながら光の返答を待った。

そして…

 

 

「……分かったその条件で試してみる」

 

 

その返答を聞いた2人はホッとしたのか優しく微笑み合い、それを外で見ていた紫は茶を飲みながらも安堵の表情を見せた。




まぁこんな感じで半年ぶりの新話でした。
最近仕事が忙しく、なかなかスマホに手がつけられない日々が続いていますが…なるべく作成していきます。
また期間が開くと思いますが、気長に待ってくださると幸いです。


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雨天 光の能力

半年ぶりです。
もはや書き方とかどこまで物語進んだか覚えていません。
とりあえず変な箇所が数十個はあるかと思うのでご了承ください。


咲夜の説得により再び霊夢と光はお手合わせすることとなった。

 

 

「とりあえず光、まずはあんたの能力を引き出すために弾幕を使うわ」

 

「弾幕…?なんだ…俺の居た元世界でも動画サイトでコメントが流れる際に弾幕と呼ばれてたのはあったが…?」

 

「今あんたが考えてるものとは全くもって違うしそもそもそのドウガサイトって言うのは幻想郷には存在しないわよ」

 

「え、そうなのか?」

 

「幻想郷は忘れ去られたものが行き着く世界よ?だから光が居た世界から忘れ去られたものがだけがここに行き着くのよだから貴方が博麗神社に来る前に幾つか貴方の居た世界では見たことないものとかあったでしょう?」

 

「あー…確かにそうだな…」

 

 

紅魔館から博麗神社までに行く距離は本当に理解し難い程遠かったけどその道筋に幾つかあっちの世界では見た事ない建物や人がいたのは覚えてる。

普段そういう時代の進歩とか偉業とか名前だけかっこよく見えるものにはまったく興味がなかったけど、実際見てみると確かに今の時代ではありえないほど古臭いというか…タイムスリップしたような気分だった。

 

…ん?待てよ?そもそも幻想郷に来たこと自体タイムスリップなのでは?

でも見た感じ能力者とか居るわけだし俺の世界ではそんな胡散臭い話は昔でも無かったし、おそらく普通に元の世界に捨てられたということで間違いないだろう。

納得した。

 

 

「……話が逸れたなそれで霊夢が使う弾幕というものはなんだ?」

 

「簡単に言えば、霊力を玉とか針とかの形に圧縮して具現化したもののことを言うわ、そしてその源になる霊力は人間の僅かだけれど体の中に宿ってたりするのよ基本的に少なすぎてあまり使えないけれど、私や咲夜みたいな能力者は弾幕を大量に出せる程の大きな霊力を持っている人も居たりするわそうなれば数に限らず少量から大量まで弾幕を作ることが可能になるわ」

 

「それで?その弾幕というやつは幻想郷崩壊の危機に追い込んでるヤツらに効果的なのか?」

 

「私達は『弾幕ごっこ』といってお互いに『スペルカード』所謂必殺技みたいなものね、それを使って互いの力を示し合ったり高め合ったりするのよ、実際これは人間妖怪関係なく効果はあるから威力には問題は無いはずよ」

 

「なるほどな…それでそんな弾幕も知らなかったド素人なこのただの人間にどうやってわかりやすく教えていただけるのでしょう?」

 

「問題ないわ、何故なら貴方が()()()()()()()()()()()()の話なのだから、ね?」

 

「…なんかお前に言われてイラッとしたわ」

 

「何よそれ…さてと、長話が過ぎたわね、早速始めましょう。まずは光、私の弾幕を避けてみなさい」

 

「またお前はそうやって生身の人間を痛めつけようとして…」

 

「つべこべ言わずに始めるわ…よ!」

 

 

霊夢が半強制的に言い放った瞬間3つの弾幕が放たれた。

見た目は丸型の白い弾幕だが、案外速度は早くなく、弾幕と弾幕の間には体一つ分入れるようになっていた。

光はこの程度なのか?と思いつつため息混じりにその間を通過しようとした時だった。

 

 

「なっ…!?」

 

 

パァン!という音と共に弾幕が光を襲った。

隙間に入ろうとしていた光はなす術なく弾幕を身体に受けてしまい、たまらずその場に膝をついてしまった。

 

 

「初っ端それは聞いてないっすよ霊夢さん…」

 

「これでもかなり手加減してるつもりなのだけれど、貴方ってそんなに脆かったかしら?」

 

「いや俺普通の人間な、霊夢や咲夜さんみたいに能力者ではないから」

 

「はぁ…」

 

「な、なんだよ」

 

「あんたってほんとに馬鹿よね…」

 

「出会って間もなく突然こんなに袋叩きにされる人が言う言葉かそれ」

 

「それで…光さんは先程の弾幕を受けた際に自分を信じてみましたか?」

 

 

それまで紫と縁側で見ていた咲夜が光に問いかけた。

 

 

「あぁ…自分を信じてやってはみたがこの様だよな…まぁ結局自分を信じるなんてただの迷信なんだよ」

 

「迷信ではありませんよ事実貴方は今()()()()()()()()()。」

 

「意識を保てている…?気を失っていないということか?」

 

「そういう事です光さんが霊夢に蹴り飛ばされた時貴方は何も考えずに受けましたよね?その時の貴方は元の世界に居た光さん、普通の人間のようでした。」

 

「普通の人間のようってまるで俺が人間じゃないみたいな言い方だな」

 

「事実貴方は能力者だからね」

 

 

そこへ隣にいた紫が口を開き初めて光に能力者だということを告げた。

 

 

「能力者?俺が?どうして?」

 

「実際貴方は気を失っていない、でも体に傷はついた。それは半信半疑で自分を信じてみた結果だからよ、まだその気持ちに迷いがあるという証拠、それとこのメイドが言った事が貴方の持っている能力が発揮できるきっかけなのかもしれない、まぁ実際その能力で貴方は人間不信になってるようなものだけれど」

 

 

紫はそう言うと扇子を開いて自分を扇いだ。

すると今度は咲夜が立ち上がり、光に歩み寄った。

 

 

「光さん…1度だけでいいんです。()()()()()()()()()お願いします。」

 

「っ!?」

 

 

咲夜は深く頭を下げた。

正直咲夜うんぬんよりも異性と話すのは幼少期時代からなかったからか凄く緊張してしまった。

…1度だけ私を信じてみてください…か…

 

 

「分かりました。もう一度やってみますので咲夜さんは戻ってください」

 

「…はい!」

 

 

再び咲夜は縁側に座ると光は霊夢と向き合いこう告げた。

 

 

「霊夢、まだ弾幕を撃つことは可能か?」

 

「え、えぇ…大丈夫よ?」

 

「なら今度は俺に直接ぶつけてくれ全力でな」

 

「あんたそれ本気で言ってんの?そうと決まれば私は手加減できないわよ?」

 

「構わない、全力出来てくれ」

 

「それじゃあ…行くわよ…」

 

 

霊夢は目を瞑り、左手を前に出すと周りから霊力らしき白い煙が出ていた。

霊力が溢れるほど集中かつ弾幕を一つの霊力で集めている証拠である。

そして周りの霊力が全て左手の弾幕に集まった瞬間それは一気に放たれた。

 

 

「はあああああぁっ!!」

 

 

先程とは比べ物にならないほど高速に放たれ、あっという間に光に命中した。

光はそのまま後ろへ吹き飛ばされ、木を数本薙ぎ倒してから地面に叩きつけられた。

 

 

「光!?」

 

「待ちなさい」

 

 

それを見た霊夢は思わず光の方へ向かおうとしたが一緒に見ていた紫が止めた。

 

 

「何してるのよ!このままだと光がーーーー」

 

「いいや大丈夫だ心配するな霊夢」

 

「っ!?」

 

 

その瞬間地面に叩きつけられた際に発生した砂埃が吹き飛び、そこには所々に土はついているが()()()()()()()()()()()()()()()()光が立っていた。

その姿を見た霊夢はもちろん咲夜も驚いていた。

 

 

「…あんた傷は?」

 

「ん?…あぁ…確かに土で汚れはしたが特に外傷はないな…これが能力という奴なのか?紫さんよぉ」

 

「ふふ…ようやくお出ましね」

 

 

光はそう言いながら少しニヤついた顔でゆかりを睨みつけた。

その姿を見て紫は扇子で口元を隠して密かに笑った。

 

 

「まさか未だに信じられなかったが…咲夜さん、あんたの言う通り()()()()()()()()よすると不思議と弾幕が俺に直撃する瞬間に胸から何かが溢れ出てきて力を貰ったような感覚になったんだ、それを思いっきり放ってみたらまさか無傷で耐えられるとはな、痛みもないしこれが能力というやつなのか」

 

 

まだ信じられてないのか手を開いたり握ったりして身体に影響は無いか確認していたが、特に異常がなく先程気絶して能力を暴走させた時とは変わって今はそんな自分に驚いて思わず笑ってしまっている光がいた。

 

 

「なるほど…つまり…は…霊夢、もう1度同じ弾幕を打ってくれ!」

 

「あ、あんた本当に大丈夫なの!?無理してるんじゃないのかしら!?」

 

「問題ない、それともビビっちまってもう弾幕は打てないのか!?」

 

「あーもう!どうなっても知らないわよ!」

 

 

そう言った霊夢は再び大きな弾幕を1発放った。

すると光はそこに立ち尽くすのではなく自分から向かって言ったのだ。

そして光は右手の拳を握りしめて向かってくる弾幕にめがけて放った。

 

 

「………はぁっ!!!!!」

 

 

弾幕と光の拳はぶつかり合い、地響きが発生した。

そして数秒後、霊夢の弾幕は跡形もなく()()()()()()()()()()()()()

 

 

「う、うそ…あの弾幕を…?」

 

「あの子…完全に自分の能力を…」

 

「なるほど…こういう事も出来るんだな…勉強になったよ」

 

「光さん…今のは?」

 

「今のもそうだ。同じように自分を信じてから胸から湧いてくる何かをこの腕に込めて思いっきり殴ったんだよ、その結果やっぱりこの様子じゃ完全に俺は能力者みたいだな」

 

「これで人間不信である貴方も認めざるおえないわね?」

 

「やっぱり元々俺に能力があった事は知ってたんだな、正直最初は自分に能力は無いとばかり思っていたけど、ここまでされちゃもう信じるしかねぇみたいだな」

 

「そうね、晴れて貴方は幻想郷崩壊の危機を救う英雄となり、そしてこの幻想郷の人として生きていくのよ」

 

「幻想郷崩壊の危機を救う英雄…」

 

「まだなにか信じられないことでも?」

 

「…いやないさ、さてと…俺は晴れて素晴らしい能力者の仲間入りになったわけだが、これからどうするんだ?」

 

「とりあえずこれで私の役目は終わった訳だけれども…そうね…貴方()()()()()とか聞きたくないかしら?」

 

「名前なんてあるのか」

 

「そうよ?私達も伊達に能力者やってる訳じゃないわちなみに私はスキマとかで外の世界や幻想郷の境界を越えたりするから『境界を操る程度の能力』よ」

 

「私は『空を飛ぶ程度の能力』よ、名前からして弱そうに見えるけどあまり舐めてもらうと困るわよ?」

 

「分かってるよそんなこと…あんたに何度も痛めつけられたことか…それで咲夜さんも能力者なんだよな?」

 

「そうですね私は『時間を操る程度の能力』ですね」

 

 

粗方聞いてみて一番強いのが咲夜さんだと言う事だった。

霊夢は本人も言ったように名前からして弱そうだが、あんだけ袋叩きにされたんだ。

強いということを認めざる負えないだろ、あれでも傷一つ無いと言ってもかなりの衝撃あったんだから。

紫に関しては移動とか凄い楽そうなのは分かった。

あ、でもこれ境界だから体を切断することだって可能かな?

だとしたらかなり強いんだが…

 

 

「なるほど…3人の能力は分かった。それで紫?俺の能力は一体なんて言うんだ?」

 

「『自分を信じる』…そうすることであらゆる攻撃を防いだり、逆に攻撃として使うことが出来る所謂力に変えることが出来るということ、そしてそれは強ければ強いほどまた貴方はもっと強い力を得ることが出来る。そうね…貴方の能力…」

 

 

紫は1度目を瞑り、少し経って再び光の目を見たあとこう告げた。

 

 

 

 

 

 

「『想いを力に変える程度の能力』と言ったところかしら?」

 

 

 




ここまで読んでくださりありがとうございます。
約一年経ってようやくブロローグ終わりというなんとも長いオープニングでしょう。
仕事とかの影響であまり書けてはいませんが出来るだけ早めに出せればいいなと思います。

それではまた、いずれ。


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人間不信にとって宴会とは苦痛である

大晦日ですねぇ〜!2018年はどんな年でしたか?私は仕事で一杯一杯でなかなか更新ができませんでした(笑)
さて今年最後の更新ですが年末らしく宴会の回想でございます。
今回はあのコンビが登場します!


「想いを力に変える程度の能力…」

 

 

俺は雨天 光 幻想郷という訳の分からない世界に転送されて、1日か2日くらいは経っただろうか、俺は見事この幻想郷特有の能力者の1員となった。

事の発展は霊夢と強制的な俺の能力開花に付き合わされた時、咲夜さんから自分に自信が無い、そう指摘された事からだった。

 

最初は半信半疑でやったものの成果は得られず、逆に半疑だった事が駄目だったらしく、この能力は相当めんどくさい代物だと感じた。

結果的に自分を信じきった結果霊夢の強烈な攻撃を受け切ることに成功し、更にその攻撃を跳ね返し、消滅させる事も出来た。

 

紫から幻想郷を救って欲しいと頼まれて仕方なく受け入れたが、しかしこの能力で幻想郷を本当に救えるのだろうか?能力は開花したとしてもまだまだ使いこなせるか分からない、それなら努力すればいい?甘いな、俺はそこまで強くないし、やったところで上達する保証もない、協力プレイなんざ尚更だ、まだ1日か2日しか経ってない奴らと自分の能力について手を取り合うなんて反吐が出る。

 

どうせ利用されて雑巾のように捨てられて死ぬ運命を辿るに決まっている。

今までずっと、信じれば裏切られ、手を差し伸べられ、応えれば騙され、何よりも…

 

 

「ちょっと光!ぼーっとしてないで手伝って!」

 

「…俺が主役の宴会なんだろ?なんでお客様である俺が手伝わなきゃいけないんだ」

 

「いいから手伝いなさい可愛い女の子が頼んでるんだから男らしいところ見せなさいよ」

 

 

それ本気で言ってるなら相当自分に酔っているんだな…霊夢が俺の能力持ってたら普通に幻想郷救えるんじゃねぇのか?

正直宴会は嫌いだ。

見知らぬ人達と酒を飲んで騒いで仲良くなるなんて何が良いのやら…酒の勢いに頼って話しかけにくいヤツらと仲良くなるだけであってもし酒なんてなかったら今頃沈黙と化した宴会になっているだろうな、そう考えると酒って1種の薬物みたいなものだよな、酒癖の悪い人とか相当めんどくさい人だし。

まぁあーだこーだ言っててもまた霊夢に怒鳴られてめんどくさい事になる前にここは霊夢様様の言う通り、お手伝いするとするか。

 

 

「光さんって細身なのに凄い力持ちですよね」

 

「まぁ…力仕事してたんでそれなりに」

 

 

とりあえずビール瓶10本入った籠を両腕で4つずつ合計8つ重ねて運んだのを咲夜さんが見かけて驚いた表情で話しかけてきた。

あーあ咲夜さんは礼儀正しくていいなぁーどっかのクソドケチ女の巫女とは違うなー

おっと博麗神社の台所からとてつもない殺気を感じるから黙って手伝うとするか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

とりあえず夜に行う宴会の準備は夕方に終わらせて、縁側で霊夢が用意してくれたお茶を飲んでいた。

霊夢、紫、咲夜、俺で同時にお茶を飲んで「ふぅ…」というのは読者の人達からすればなかなか和む光景であろう。

 

…とその前に

 

 

「そこにいる金髪魔法使いは誰だよ」

 

「ん?あぁ!私のことか!」

 

「当たり前だろお前以外に誰がいる、名を名乗れ名を」

 

「…なんか上から目線だけどいいぜ!私は霧雨魔理沙(きりさめまりさ)霊夢の親友でありただの魔法使いさ!」

 

 

霊夢の隣で何気ない顔でお茶を飲んで、男勝りな口調をしている彼女は霧雨魔理沙と名乗った。

髪型はウェーブのかかった金髪のロングヘアーであり、左の髪を結んでいる。

黒と白のシンプルなスカートの服装で、黒色で先がとがった帽子所謂魔法使いがよく被ってる帽子を着用していた。

自分で霊夢の親友と名乗っていたが、霊夢が本当にそう思ってるのか気になるところであるが、そこは敢えてスルーして話を続けた。

 

 

「お前も能力者だったりするのか?むしろ魔法使いなら能力とか関係なく戦えそうだけど」

 

「光、魔理沙は魔法使いと言っても能力で魔法が使えるだけであって彼女は人間よ」

 

「人間なのかよ」

 

「そうだぜ!私の能力は『魔法を使う程度の能力』で魔法使いになれたんだぜ!」

 

 

どこかで聞いた話だが、魔法使いになるには人間離れした事を行わなければならないと聞いている。

まぁ一般的にはアレやらコレやらの方を想像する人が多いけれど。

1度魔法使いになると言うことは人間という人種を辞めるという事で吸血鬼や妖怪のように長い寿命が持てると聞いている。

だがこの霧雨魔理沙という女は魔法を使う能力を得ることによって人間であり魔法使いとして戦うこともできるという事か。

世の中を器用に生きる人というのはこういう人を言うのだろうな。

 

 

「なるほど…人間だが職業は魔法使いのような感じなのか…俺は雨天 光だ」

 

「聞いたぜ!お前自分の能力で霊夢の渾身の一撃を耐えた上に拳で消し飛ばしたらしいな!」

 

「ちょっと魔理沙、何言ってるのよあれは渾身じゃなくて手加減した上で攻撃しただけよ」

 

「え!?霊夢さんあの時能力開花のために本気で来て欲しいって頼んで乗り気だったのに手加減したんですか!?あんなに俺に強制的なお手合わせしたのにそれはないよー」

 

「あんたその閉じない口閉じてあげましょうか…?」

 

 

俺の挑発に普通に乗るところやっぱり彼女は負けず嫌いだというのがよく分かる。

そんなメンタルが俺にも欲しいよ

 

「おいおい…武力行使は関心しないぞ?そんなんじゃ可愛い顔が台無しだ」

 

「余計なお世話よ!」

 

「でも手加減したとしても能力者になったばかりにしては大したもんだぜ?光と呼んでいいか?」

 

「…好きにしろ、そういえば紫さん、例の幻想郷崩壊の危機を企んでいる敵というのはどういう感じなんですか?」

 

「ごめんなさい感じることは出来るけれど、姿はまだはっきりと見てないのよ、でも一つだけ言えることは()()()()()()()()()()事は間違いわ、何故ならこの前幻想郷に不規則な結界の歪みが観測されたの、それ以降から奇妙な出来事が起きていて、恐らくその歪みが元凶で、それを利用して幻想郷に入り込んでいる事は間違いないわ、今もまだ不規則な結界の歪みは治っていないからもしかしたら幻想郷に潜んでいるかもしれないわね」

 

「なるほどな…でも紫本当に()()()()()()()()()

 

「話した時は乗り気だったのに自信が無くなっちゃたのかしら?」

 

「自信は元から無いですけど俺の能力は本当にその敵に勝てるのかどうかです。」

 

「そうねぇ…確実に勝てると言ったらそれは嘘になってしまうけれど少なくとも私は光さんの素質に賭けているのよ」

 

「素質…?」

 

「最初の不規則な結界の歪みを感じてから私は外の世界で様々な人の素質を見てきたわ、そして貴方を見つけた。内に秘めた宝石のような力を持っているはっきり言って貴方はまだまだ卵から孵化したヒヨコのような存在…だから貴方はその能力を使いこなせるよう努力すれば貴方は最強の能力者になれるわ人間不信だから信じてはくれないだろうけど貴方にはそんな素質があるのよ、幻想郷には無い奴らに匹敵するものを」

 

「……もう努力する他に方法は無いんですね?」

 

「そうよ?貴方は努力しないといけない、そして証明していくの()()()()()()()()()()

 

「自分自身…」

 

 

冒頭でも言ったが、努力して上達する保証があるのか。

そう言っていたが、紫さんの言う通りかもしれない、まだ信じた訳じゃないが…やってみる価値はあると思う。

 

……()()()()()()()()()()()()()()()()…か

 

 

「素朴な疑問に付き合わせてしまって申し訳ありません。とりあえず明日からやってみます」

 

「頑張って貴方1人じゃなく、霊夢や魔理沙、咲夜だって協力してくれるだろうから」

 

「……はい」

 

「…そろそろ時間ね堅苦しいお話は終わり!準備するわよ!」

 

「よっしゃああ!今日は盛り上がるぜ!」

 

「貴方はいつも盛り上がってるでしょう」

 

 

話が終わったと同時に合図のようにみんな動き始めた。

みんな仲良しなんだな。

……協力…ね

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

「えー…昨日か今日くらいに外来人として幻想郷入りしました。雨天 光と申します。今日は俺なんかのためにこのような宴会を開いていただき誠にありがとうございます。今日の夜は沢山飲んで盛り上がっていきましょう…それでは…乾杯」

 

 

光が宴に集まった幻想郷の人たちの前で挨拶をすると掛け声のように『かんぱーーーーい!』とみんな酒を飲み始めた。

 

俺は最初は色んな人と話をしていたが徐々にみんな一定のメンバーと飲み始めたのを好機にそっと障子を開いて外に出て、縁側で一人飲んでいた。

後ろでは俺以外女性なので気高い声でがやがや騒いでいた。

今まで女性より男性との飲みの付き合いが多かったから少し違和感を感じた。

少し経つと後ろから障子を開く音が聞こえた。

霊夢か魔理沙と思い後ろを振り向くと、

魔理沙と同じ金髪だが、 青のワンピースのようなノースリーブに、ロングスカートを着ていて、肩にはケープのようなものを羽織っており、頭にはヘアバンドのように赤いリボンが巻かれている。

名は『アリス・マーガトロイド』

魔理沙と同じ魔法使いだが、これぞ本物の魔法使いの方である

手に一冊の魔導書を持っていて、周りにアリスに似た人形が浮いているから印象的だった。

そんなアリスはぼっちで酒を嗜んでいる俺を初めて会話した時と同じ凛々しく美しい瞳で話しかけてきた。

 

 

「たしか…光君だったよね?」

 

「光でいいですよアリスさん」

 

「私もアリスで良いわよあと敬語も使わなくていいわそっちの方が気が楽でしょう?」

 

「…そうだなじゃあアリス、改めて俺に何か用か?」

 

「貴方ってあまり宴会は好きじゃない?魔理沙から聞いたけれど人間不信らしいからあまりこういうのには苦痛だったりするわよね」

 

「……まぁそうだな」

 

「幻想郷崩壊の危機を救うヒーローね…なんだか憧れちゃうわ」

 

「まぁ嫌々やってるようなもんだけど…というかまだ何もしてねぇし」

 

「確かあのスキマ妖怪から努力して上達しろって言われてるのよね?」

 

「…魔理沙幾ら何でも酒の勢いで喋りすぎじゃないか?」

 

「あ、いやこれはスキマ妖怪本人から聞いた話…」

 

 

あーんのクソ妖怪が…!これだから酒癖が悪い人は嫌いだ!

あまり公表にしたくない秘密も全部ペラペラと喋りやがって…もし敵に知られたらどうすんだよ…

 

 

「それで貴方はどうするつもり?」

 

「とりあえず明日から能力を使いこなせるように努力してみる感じだな」

 

「1人で?」

 

「……?まぁそうだが」

 

「もしかして貴方他人が信じられなくてあまり協力すると言っても乗り気じゃないでしょ?だから今まで貴方外でぼーっとしてたんでしょ?」

 

 

な、なんだこいつエスパーかマジで今その事について考えまくってたんだが…あ、怪しいなんだこいつはこれが能力なのか!?

 

 

「ちなみに私は『人形をあやつる程度の能力』よ」

 

「いや心の中の読んでるじゃねぇか!嘘つけ!」

 

「ふふっ…私もこうやって宴会には頻繁にくるけれどこう見えて私1人の方が好きなのよ?だから貴方の気持ちが何となく分かっちゃったりしちゃうのよ」

 

 

ま、マジかこの都会の美少女みたいな子が一人を好むのか…意外だった…

 

 

「あまり深く考えないでね、私も含めみんな個性的で面白い人たちだからその努力のお手伝いとか出来たらまた呼んでね」

 

「……考えておく」

 

「おーーーい!アリスゥーーー!どこだー!!」

 

「…っと魔理沙が呼んでるから行かなきゃそれじゃまた近いうちにね」

 

 

最後は輝かしい笑顔で再び騒がしい宴会の中へと消えていったアリスだった。

個性的で面白い人たち…あまり関わりたくないが、少しこの幻想郷に興味が湧いてきた。

また明日の朝考えることにするか…

 

自分の中で決めた光はタイミングが良いのか悪いのか魔理沙に呼ばれて再び騒がしい宴会へと俺も行くこととなった。

とりあえずアリスにバラしたツケは忘れねぇからな

 

 




魔理沙とアリスが初登場です。
魔理沙何だかんだで出してなかった(汗)
幻想郷に興味を持った光くんここからどんなストーリーが待ち受けているのか乞うご期待していて下さい(殴

それでは皆さん良いお年を!


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第1章『紅魔館御一行と人間不信』
新しい人生


皆様あけましておめでとうございます。
2019年もよろしくお願いします。
既に年が明けてから1ヶ月が経ちましたが相変わらず暇を持て余しております。
今回は光くんと咲夜さんの2人が中心です!


幻想入りし、初めての朝が来た。

この1日で色んな人と知り合い、自分の能力も知ることが出来た。

『想いを力に変える程度の能力』…この能力がどのくらい強くなるのか、能力開花したとはいえまだまだ俺は卵から孵化したヒヨコのような存在である、今の状態じゃ幻想郷を救うなんて夢のまた夢だろう。

そこで、紫さんに能力を完全に使いこなせるよう努力するように言われたのだが…さてこれからどうすればいいのやら、まぁスタートラインには立てただろうし目標も一応定めているわけだし、問題は無いはずなんだが…はずなんだが…

 

 

「進み方がわからねぇ…」

 

 

正直めんどくさい事は避けたかったが早速頭がパンクしそうな難問と向き合う事となった。

今まで1人でやりこなして来て、霊夢達と手合わせする時あんな事言ったけど、本当は割と自分有能なんじゃねとか思い始めたけど、幻想郷に来て自分がめちゃくちゃ能無しだと言うことを再度思い知らされたようでなんだかそんな事を考えた自分が情けなく哀れに思ってしまい大きな溜息を付いた。

 

 

「ちょっと…せっかく幻想入りしてしっかりと朝を迎えられたのに大きな溜息付いて幻想郷を救う英雄様が情けないわね…」

 

「二日酔いで死にそうな奴に言われたくねぇよ、寝てろ」

 

 

ちなみに言い忘れていたが、実は昨日というか日付が変わって今日の明け方まで騒ぎ放題で結局、アリスやレミリア達など、時間帯を見て帰った者もいれば魔理沙や紫さん、霊夢など酒大好き軍団が泥酔してそのまま博麗神社に寝泊まりした人達もいた。

俺か?俺は酒はそんなに飲まないから酔ってもなかったし、最後まで自我を保っていた。

では何故早朝に博麗神社の前で考え事をしていたのか?

察しろ。幻想入りして1日目だぞ、まだ知り合って24時間も経ってない奴らと寝泊まりするなんて自殺行為と同じだ。

(ちなみに博麗神社のそばにある木の裏で野宿したけど奇跡的に何も起きなかった。)

 

 

「うるさいわね…こんなの早く治るわよ…うぅ…頭が痛い…」

 

「ってかお前多分まだ未成年だろ?なんで酒なんて飲んでんだよ、捕まるぞ」

 

「余計なお世話よ…あんたの居た世界とは違って幻想郷は常識外れな事が当たり前なのよ、だから私みたいな若い女の子がお酒を飲んでもおかしくないって事よ…自由よ自由」

 

 

なるほど、確かにこの世界は人間ではなく吸血鬼や妖怪、魔法使いもいる訳だしその時点で常識外れだもんな、それなら霊夢みたいな未成年が飲酒しても問題ないのか…

ん?妖怪とか吸血鬼がいるならもはや人間不信じゃなくて生物不信になるのか?

…いや細かい事は気にしない方がいいな。

とりあえず昨日から決めてた事、幻想郷を回ってみようか何処から行こうかな…

 

 

「それなら私がご案内致します」

 

「うおぉ!?咲夜さんいつの間に!?」

 

 

咲夜さんの声が後ろから聞こえた瞬間俺は冷や汗をかきながら思わず距離を取った。

これが俗にいう咲夜さんの『時間を操る程度の能力』という奴なのか…無敵すぎる…!

それはさておき咲夜さんが唐突に案内すると言ってきたが、いきなり言われても困るんだが…

 

 

「お嬢様から『恐らく1番信頼度が高いのは咲夜だろうから光を案内してあげなさい』と言われましたので」

 

「あー…なるほど」

 

 

まぁ俺の能力開花とかのきっかけを作ってくれたのは咲夜さんであるし少しばかりは信頼出来るだろうな、っていうか信頼度って俺はゲームのペットかって話だわ。

 

 

「…分かりました咲夜さんにお任せします。」

 

「ありがとうございます。では早速行きましょう」

 

 

凛とした声の咲夜さんが前に出ると俺はその後ろに着くようにして博麗神社を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・

 

 

博麗神社から始まり、アリスや魔理沙が住んでいる魔法の森、妖怪の山や人里、その外れにある『命蓮寺』という寺など、時間はかかったが俺の世界では『病院』の部類に入る『永遠亭』も見て回った。

博麗神社以外にも守矢神社というもう一つの神社があるとは思わなかった。

まぁ宴会で守矢神社に住んでる人から教えて貰ってはいたから驚いたわけではなかった。

正直1番驚いたのはまさか冥界に行けるとは思わなかったんだ。

紫さんが途中乱入してきて、『私が案内したいとっておきの場所がある』と言われてなんだとは思ったがまさか冥界だったとは驚いた。

そこには宴会で見たが改めて美人な冥界の主とその従者とも会ってきた。

 

 

「如何でしたか?」

 

「正直幻想郷って結界で覆われていると聞かされていたからかなり領土が制限されているのかと思ったけど案外広くて驚く事ばかりでした。時間をかけて損はなかったです。」

 

「それは良かったです」

 

 

朝から案内されたのに帰ってみれば既に月が綺麗にこの世界を照らしていた。

視界の先には咲夜さん達が住む紅魔館が月の光でより1層不気味さを醸し出していた。

レミリアとかの吸血鬼にとって夜は活動時間だから紅魔館の屋根の上とかにいたら結構かっこいいよな(笑)

まぁそんな話はともかく咲夜さんもそろそろ夕飯を作る時間だろうしあまり時間を取らせるのも悪いだろうしここらで俺はご退場致しますか。

 

 

「それじゃあ今日はありがとうございました。咲夜さんもこの後お仕事もあるでしょうし俺はこれで」

 

「あっ、待ってください光さん」

 

 

その場を立ち去ろうとした俺に咲夜さんは即座に俺を呼び止めた。

 

 

「…どうかしたんですか?」

 

「実はもう一つ光さんにお伝えする事がありまして…もしよろしければこれからこちらの紅魔館に住むというのはいかがでしょうか?」

 

「……は?」

 

「あ、でも既に住んでいるのであれば無理はさせません、もしまだご就寝なされる場所がなければの話ですので」

 

 

こりゃ驚いた。

まさか出会って二日しか経っていない人から突然自分の住処である場所を俺と共同生活しようという提案か。

これもまたレミリアからの提案なのだろう。

まぁこの際だし気になっていたことでも聞いてみるか

 

 

「…1つ聞きたいことがあります…それは咲夜さんの意思なのか?」

 

「いえ…お嬢様からのご提案ですが…」

 

「はぁ…なるほど」

 

 

俺は思わず呆れて溜息をしてしまった。

どうやら咲夜さんはレミリアにかなり飼い慣らされているのだろう。

いや…言い方が悪いな、従者としてそれ相応の忠誠を誓っているのだろう。

自分の意思というのは無いのかこの人は…

もうめんどくさいし白黒はっきりさせてもらうか。

 

 

「いいですか?咲夜さん、俺はレミリアの意思を聞きに来たわけじゃないんです、今ここにいる貴女の意見が聞きたい、レミリアだからみんなも同じ意見という訳では無いですよね?誰かしら俺に不満はあるはずだ、例えばフランやパチュリー、美鈴だって、全員の意見を聞いたか?レミリアだけの判断で物事進めていたら何時かどこかでみんなの関係が崩れる事だってある、俺みたいな外の世界に捨てられたゴミのような存在を相手にするなら尚更だ。もし俺が咲夜さんの立場だったらまっぴらごめんだ、咲夜さんどうなんですか?」

 

「私は……」

 

 

俺のまた説教じみた言葉の嵐に咲夜さんは少し考えた。

そして出た答えは…

 

 

「分かりました私個人の意見を述べます。()()()()()()()何故なら私は貴方のような他人や自分すら信じず、孤独を好んでは弱音を吐くようなお方をお嬢様が主として立つ紅魔館に住まわせるなんて正気を疑うレベルです。」

 

「では何故俺の能力開花に関してあんなに必死になっていたのですか?」

 

「あれは貴方に早く幻想郷を救っていただくためにしただけの事です。お嬢様を守るため、私は何でもします。幻想郷を救ったあと貴方を殺せと命令されても」

 

 

これで本性が分かった。

正直咲夜さんを幻想郷の中で1番信頼していたつもりだったが、結果的にはこれだ。

やはり俺は幻想郷を救った後は使い捨てる雑巾のように切り捨てられるのだろう。

早期発見ってやつだな…

あーあ、楽しんで損した。

 

 

「そうですか、ありがとうございます。それではお望み通り俺はこの場から去ることにします。貴女様のお嬢様には謝罪のお言葉を伝えておいてください…それでは」

 

「ですが、そんな貴方が今この世界で変わろうとするのであれば私は大歓迎です。これは私個人の()()()()お嬢様の為ではありません」

 

 

俺は再び立ち去ろうとした瞬間だった。

咲夜さんの言葉に体が固まってしまった。

いや思考停止と言うべきか。

 

 

「あ、ちなみに紅魔館の皆様は私含め満場一致で賛成でしたので、もう紅魔館は光さんの家ですよ?それとお嬢様の為ならば何でもするというのはあくまでお嬢様にそれだけ忠誠を誓っている為であって、本当に何でもする訳ではありませんからね?」

 

「え、えぇ…」

 

 

左眉毛がピクピク動いてるのがわかるほど困惑してしまった…これってもう逃れようのない状況って事だよな…?

 

 

「ふふっ…光さんって意外と表情に出る人なんですね」

 

「いやいや、そりゃ咲夜さんにあんだけ言われたあとに手のひら返されたら誰だって困りますよ…」

 

「こうでもしないとまた貴方は拒否反応するじゃないですか」

 

「逆手に取ったのかよ…」

 

「それでどうなされますか?今度は光さんの意思を聞かせてください。」

 

「はぁ…」

 

 

正直まだ咲夜さんでも信じきった訳では無い、これからまた何をされるかたまったもんじゃない、さっきの言葉だって本当はレミリアを安心させたいだけの言葉のあやかもしれない…

だけど…俺は…

 

 

「…分かりましたこれからはこの幻想郷に住む人として新しい人生を送ることにします…今日からお世話になります。」

 

「よろしくお願いしますね光さん」

 

 

あぁ…折れてやったよ折れちまったよそしてこの笑顔だよ咲夜さんの作り笑顔じゃないって言うのが分かるほどの自然的な笑顔だよ…もはや外の世界に捨てられたようなもんだしここは正直に第2の人生を歩むことにするか…

その後俺は咲夜さんに連れられて、紅魔館入口の前で紅魔館御一行に出迎えられた。

努力するのであれば…か…

 

頑張るか

 

 

 




咲夜さんの計算高い部分を上手くまとめて光くんをある意味陥れましたねw
1度相手を落ち込ませてから折らせる戦法なかなか強いですよね
さて、また今年は忙しいシーズンとなってきますが、皆様も体調管理はしっかりしましょうそれではごきげんよう。


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紅魔館のメイドを怒らせると痛い目にあう

今回は日常編です。


紅魔館が俺の住む家となってからあっという間に1ヶ月が経った。

 

俺の元の世界では今頃クリスマスやら大晦日やらで大忙しであろう。

 

一方こちらも元の世界と同じ時間を刻んでいるのか、木々の葉が全て枯れ落ちて冬を迎えていた。

 

まだ雪は降っていないが、いつ降っても良い季節ではないだろうか。

 

そんなことを考えながら俺は今日も幻想郷を救うために努力する。

 

今の所、順調に努力しているつもりだ。

まだ実際にこの能力について使いこなせているのかどうか分からないのが現状だが、とりあえずこの1ヶ月で目立った成果と言ったら、武器を獲得した事くらいかな?

 

きっかけは、紅魔館に住み始めてすぐに紫さんが訪れて、俺の能力活性について協力してくれた事だ。

「まず戦うための武器が必要となる」と紫さんに言われた俺は能力で発現させろと言われた。

 

正直半信半疑ではあったが、まさか本当に出てくるとは思わなかった。

最初こそ小刀サイズのものだったが、1週間後には立派な日本刀を発現させる事に成功した。

 

白銀の美しい形をしていてまるで長年刀を作り続けた職人が作ったかのような程だった。

持ちの部分は黒い柄に紫の蝶が刻まれている。

 

俺はそんな刀を発現させてそれを使って今日も紅魔館にある大きな庭で戦いに備えて体を動かす。

戦いにおいてまず、身体の強化が必要不可欠になってくるからだ。

 

これでも実は身体能力に自信があったつもりだったが、紫さんに教えて貰った通りに動いたら、数分も経たずにあんなに立派だった日本刀がボロボロになっていた。

 

紫さんが言うには「その刀は光自身の能力を具現化したようなものであり、体の一部のような存在よ、だから光に何らかの変化があるとそれに応じてその刀も変化するのよ」と言っていた。

確かに最初はどんなに攻撃を受けても刀に傷一つ付いていなかったが、俺の体に限界が来ると同時に刀にもヒビが入ったりする事が多かった。

 

もしヒビが入ったりした状態で刀を振るえば、いつかは折れて使えなくなってしまうだろう。

そのためにはまず俺自身の強化が必要になるという訳だ。

 

まぁ簡単に言えば剣士などが朝から晩まで定期的に行う「稽古」のようなものだろう。

俺はその稽古で心体を鍛えて、紫さんの言う通り、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

…とまぁ前置きが長くなってしまったわけだが、今日も俺は朝早くから刀を発現し、それを持って素振りやら、能力を使って様々な技を出してみたりと毎日欠かさずやっている。

発現当初は数分でギブだったが、1ヶ月も経てば数時間と着々と体に変化が見えているのは間違いない。

 

長期戦が続けばそれほど身体に負担がかかるし、どんなに能力が強かろうが、体力に限りがあれば能力の使いすぎで倒れたり、能力自体に衰えが見えて形勢逆転されたりするケースが多くなるからな。

 

 

「……っとこんなものかな」

 

 

そうこう色々と話しているうちに既に日が沈み始めていた。

朝から始めていた稽古がここまで経過していた。

今までは昼になる前に限界だったが、ここまで急激に成長出来るとは思わなかった。

刀を見ると朝と変わらず綺麗な刃をしていた。

 

 

「お疲れ様です 光さん」

 

「ありがとうございます」

 

 

それと同時に咲夜さんがタオルを持ってきてくれた。

俺はそれを取ると鬱陶しい程に流れている額の汗を拭き取った。

 

 

「既に夕食の用意は出来ましたので行きましょう」

 

「りょーかい」

 

 

俺はそう答えると紅魔館の中へと入っていく、空を見ると朝から始めた時の晴天と太陽とは違って、星空と月が照らしていた。

 

食事を終えて、俺は自分の部屋へと戻った。

紅魔館に住むことになってすぐに咲夜さんやレミリアと俺の部屋決めについて話して決めた。

紅魔館は俺の見た館の中でもかなり広い方で、空き部屋がいくつかあって、かなり選ぶのに時間を費やした。

そんなこんなで1ヶ月が経ち、俺はベッドへ飛び込んだ。

毎日咲夜さんが掃除をしてくれるおかげでいつもフカフカですぐに寝れそうだ。

 

そうそう、ちなみに毎日咲夜さんが俺の部屋含めみんなの部屋を掃除から食事まで家事については色々とやってくれてなんか自分としては申し訳ない気持ちになるので何かお手伝い出来ないかと咲夜さんに聞いたんだけど、「これが私の仕事ですので光さんが気を負う必要は無いですよそれに私の能力を使えば1人でもこなせます」と言われてしまった。

 

レミリアにも「咲夜なら問題ないわよ」と言われてしまって正直折れそうにはなったが、なんとか…!なんとか…! と咲夜さんに聞いた結果、咲夜さんから折れてくれて食材の買い出しなど、様々な事に関して手伝える事になった。

 

……言っておくがまだ1ヶ月で完全に紅魔館の人達を信じた訳では無く、まだ疑いの想いはあるが、これでも住ませてもらっている身だ。

俺も鬼畜じゃない。

何か俺が出来る事があればやるさ。

 

掃除に関してはめちゃくちゃ紅魔館内が広いので、俺がやる余地がないここはいつも通り、咲夜さんが能力を使って(時を止めて)掃除するとして少しでも負担がかからないよう他の事で協力するようにしている。

とまぁ今日はこれくらいにして寝るとするか。

俺はそんなフカフカなベッドの中で眠ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・

 

朝が来た。

今日も朝早くから紅魔館の庭で昨日と同じような事をする、目標は…そうだなまた日が沈むまでぶっ通しで動いてみるか…?

でもこれ1ヶ月も同じ事やって飽きが見えてきたな…そろそろ実戦みたいな事してみたいなぁ…でも幻想郷で実戦するとなるとそこらへんの下級妖怪とかになるのかなまずは。

 

 

「…どうしたんですか?光さん、ボーッとして」

 

「あぁ…美鈴か…門番は?」

 

 

そういえばまだ紅魔館と言っても咲夜さんとレミリアくらいしかまともに出てなかったかな?

彼女は紅美鈴(ほん めいりん)紅魔館の門番をしている妖怪だ。

華人服なのかチャイナドレスなのか分からないがとりあえず中国とかでよく見る服装で、 髪は赤く腰まで伸ばしたストレートヘアーで、側頭部を編み上げてリボンを付けて垂らしている。

考え込んでいる俺を不思議に思ったのか声をかけてきた。

ちなみに美鈴は門番をよくやっているだけあって実力も充分兼ね備えている人だ…が…

 

 

「いやぁ…実は咲夜さんにまた怒られまして…」

 

「またかよ…お前いい加減学習したらどうだ…」

 

 

まぁ…門番してる最中に居眠りして毎回咲夜さんのナイフを頭に突き刺さした状態をよく見かけるが…朝から既に刺さってる時点で察した。

 

 

「だってしょうがないじゃないですか!この幻想郷が平和すぎて暇なんですよ!」

 

「…今お前の目の前でこれから幻想郷が崩壊するかもしれないのを阻止しようと強くなろうとしてる人がいるんだが…」

 

「でも…光さんが幻想郷入りしてから1ヶ月、やっぱり色んな所で事件がありましたよね」

 

 

確かに今の幻想郷は平和かもしれないが、実際この1ヶ月で事件は起きている。

 

人里の崖沿いでもなければ土砂崩れが起きた形跡もない家に巨大な岩が落ちてそこに住んでいた人が下敷きになって死亡していたり、妖怪の山では白狼天狗が数名謎の死を遂げていたりとどこかしらで悲惨な事が起こっている。

最小限の犠牲にしたい所だが…そうもいかないみたいだ。

 

 

「そうだな…だからこそ俺には時間が無いのかもな…そろそろ稽古を始めようかと思ったが…そろそろ飽きてきた部分があってあまり乗り気ではないんだよなぁ…」

 

 

さて、今日も稽古張り切っていきやしょーと言う感じだが…先程も言った通りやっぱり飽きてきた。

 

 

「そろそろ体力も付けてきたつもりだし、今の俺がどれくらいまで戦闘に立っていられるか確かめたいところだが、それをするための条件が揃ってないからな…」

 

 

っとなんとなく嘆いていたら美鈴が突然素っ頓狂な返事をしてしまうような事を言ってきた。

 

 

「なら私と戦ってみます?」

 

「……ふぇ?」

 

「私も暇ですし光さんも今どれくらい強くなったか確かめてみたいのですよね?ならお互いに得する条件じゃないですか!」

 

「いやいや待て待て俺人間!お前妖怪!天と地の差っていうのははっきり分かるだろ!?」

 

「でも私よりも咲夜さんの方が強いですよ?よっぽど」

 

「いやそういう問題じゃないでしょ!?俺と咲夜さんを一緒にするなよ!?」

 

「まぁ確かにそうですねー化け物みたいな人ですからね〜」

 

「誰が化け物だって…?」

 

「「あ」」

 

 

俺と美鈴が言い争っているのを嗅ぎつけたのか咲夜さんが途中から聞いていたのか、お互いに油断していた。

恐る恐る美鈴の後ろを見ると美しい笑顔だがそこから恐ろしい程の殺気を醸し出していて、思わず俺も青ざめてしまった。

 

 

「あー…咲夜さん!今丁度光さんに咲夜さんがどれだけお強い人なのか語っていたところなんですよ!」

 

「本当かしら?今貴女の口から私の事を化け物だと聞こえた気がするのだけれど?」

 

「えっ…えっと…きっと空耳ですよ!最近咲夜さん疲れてるんですよォ!」

 

「ふーん…私は別に疲れを感じたことは無いのだけれど、むしろ光さんが手伝ってくれてるから余計に疲れは感じなくなったはずなのだけれど…おかしいわねぇ確かに貴女の真後ろで化け物と聞いたはずなのに空耳かしら?」

 

「ま、真後ろ…そ、そうですよ!きっと空耳ですよ!咲夜さんったら最近耳が遠くなったんじゃないんですか?」

 

「おい美鈴…自爆してるぞそれ」

 

「へ…?」

 

「私の耳が遠くなった…それは私が年老いた老婆とでも言いたいのかしら?」

 

「あぁ…!いやそんな事は…」

 

「ど・う・な・の・か・し・ら・?」

 

「ひぃぃぃぃ!!」

 

 

笑顔だが美鈴の首元にナイフを当ててる咲夜さん…この人マジで鬼だよ…

そう思いながら俺は2人のやり取りを苦笑いして見ていた。

 

ちなみにこの後美鈴の頭にナイフが5本追加されていたのだった。

 

 




次回は戦闘回にしていこうかなと思います。
それではまた


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VS華人小娘

本日はタイトルを見れば誰が対戦相手かわかると思いますが戦闘回となっております

どうぞ


美鈴が咲夜さんにボッコボコにされて再び戻ってきてから結局俺は美鈴とお手合わせすることになった。

理由としては…

 

 

「まさかレミリアが俺達の修羅場に居合わせていたとはな…」

 

「なかなか面白かったわよ、それよりも美鈴から聞いたわよ貴方今までやってきた稽古に飽きて他のやり方を考えていたとかなんとか」

 

「まぁ…確かに言ったけどな」

 

「なら良い機会じゃない!美鈴も最近まともに戦闘してないし私も特等席で貴方の成長ぶりを見てみたいわ」

 

「…俺はお前の見せ物じゃねぇよ」

 

「そんな事言わないでよ退屈なのよ私は」

 

 

…っとニコニコしながらレミリアは館のバルコニーで紅茶を飲んでいた。

相当退屈だったのか今すぐ始めろと言わんばかりに目を輝かせていた。

まぁその横で咲夜さんが申し訳なさそうな顔をして立っているけど、咲夜さんは何も悪く思う事は無いよ、うんただレミリアが退屈で美鈴の提案を無理矢理押し付けてきてるだけだから。

はぁ…まぁただ刀を素振りしたり、能力を使って体動かすよりは実戦で試した方が効率はいいだろうな、仕方ない…レミリアはともかく咲夜さんが変に気を使わせちゃってるのには納得出来んしここは早々に折れて、美鈴とお手合わせするとするか…。

 

 

「はぁ…分かったよまったく…ただし本気の殺し合いはしねぇからな」

 

「そのつもりよ、ルールは私が直々に決めたわ。お互いに能力、スペルカードの使用は自由、普通の物理攻撃もありよ、どちらかが先に負けを認めたらその瞬間に戦闘終了とする…それじゃ、咲夜開始の合図お願いね」

 

「かしこまりましたお嬢様」

 

 

そう答えると咲夜さんは俺と美鈴の間に立って右手を挙げた。

 

 

「まさか光さんにとって初めての実戦が私でとても光栄ですが…私も紅魔館の門番として負けてられません!」

 

「言ってろ…その威勢どこまで持つか試させてもらうぞ」

 

「2人とも準備は良いですね、それでは…戦闘開始!」

 

 

咲夜さんが宣言をした瞬間、俺達は同時に地を蹴り、正面から激突した。

 

 

「では早速ここでやらせてもらいますよ!」

 

 

 

〜華符「芳華絢爛」〜

 

 

そう言うと美鈴は早速スペルカードを発動した。

黄色と赤の弾幕が花が咲く瞬間を描くように黄色が花びら、赤が花の真ん中の部分の役割をしていて、黄色の弾幕で攻撃し、赤の弾幕で防御壁を作るような形になっている。

まさかもう少しでお互いに衝突する所でいきなりスペルカード出してくるとは予想外だったが、それで俺があっさりやられる訳にも行かない、今までスペルカード含めて努力してきたこの成果を見せる時だ。

俺は瞬時に態勢を仰向け気味に変えて地を蹴った勢いに任せてスライディングするとそのままスペルカードを発動した。

 

 

〜想符「空想の守護神」〜

 

 

美鈴の飛び交う弾幕の中で光はそう宣言すると、光の周りに黒い蝶が3匹出現し、周りを飛び交った。

このスペルカードは黒い蝶を3匹出現させて俺の周りを飛び交う能力だ。

相手の弾幕に蝶が触れるたびに弾幕を弾く仕組みで相手からの攻撃を完全防御する優秀なスペルカードなのだが、蹴りや殴りなどの物理攻撃には無力な上に発動中の消耗が大きく、発動時間が短いのが欠点だ。

今はせいぜいスペルカード1つは完全に防御出来る程度だろう。

今美鈴の弾幕を弾いている間は完全に俺の独壇場、一気に攻めて決着をつける!

俺はスライディングから一気に走り抜けて、接近戦に持ち込むため美鈴の背後を取った。

 

 

「そう来ると思いましたよ!」

 

 

想定していたのか、美鈴はすかさず体を回転させながら回し蹴りを繰り出してきた。

俺は瞬時に刀を発現させて、それを防いだ。

蹴りと刀にも関わらず金属音が響いて火花が散るのを見ると、美鈴がどれだけ強い人なのかが分かる。

刀で美鈴の蹴りを振り払うと持ち手を右手から左手に変えて、左回転して美鈴の片足を狙ったが、美鈴は体を敢えて後ろに倒れることで軸足を浮かして回避した。

だか、攻撃は休めずにすぐに倒れた美鈴の体に刀で縦に斬ろうとするも、瞬時に体を転がして回避する。

 

 

「なかなかやりますね!光さん!やはり長時間稽古してきたからか動きがいいです!」

 

「美鈴も体が鈍ってるだろうと舐めていたが、まだまだ現役だな!」

 

 

一旦お互いに距離を取ると態勢を立て直した。

そして今度は拳と刀がぶつかり合う接近戦となった。

その様子を見てレミリアは感心していた。

 

 

「…美鈴はともかく…光はかなり力をつけたようね」

 

「毎日稽古に励んで頑張っておりましたし、美鈴も久しぶりに熱い戦闘で楽しんでいるようです」

 

「やっぱり光を紅魔館(ここ)に住ませて正解だったわね…ねぇ咲夜?」

 

「…そうですね」

 

「貴女も彼の意外な1面に驚いたのではないかしら?」

 

「…正直自分から『何か咲夜さんの仕事で手伝える事はないか』なんて言われた時は言葉が出ませんでした、初めて私の料理を召し上がった時は凄い警戒していた人とは思えませんでした。」

 

「普段は人間不信で孤独を好む子だけれど、本当は相手にそれ相応の返しをしたくなったりする性格なのかもしれないわね」

 

「…そうかもしれませんね」

 

 

レミリアの問いに咲夜は静かに微笑んで答えた。

そうこうしている間に2人の戦闘は終盤へと近づいていた。

お互いに所々に土で汚れていて、額には汗が流れていた。

 

 

「ここまで私と対等に戦えるとは思ってもいませんでしたよ、やっぱり実戦してみるれば人間とか妖怪とか関係ないんですよ!」

 

「まったくその通りかもな」

 

「ですが…この勝負私が勝たせてもらいます!」

 

「……!」

 

 

そう言った美鈴はまたスペルカードを発動した。

 

 

 

~虹符「彩虹の風鈴」〜

 

 

再び弾幕が放たれたが、今度は先程のスペルカードとは違って色とりどりのの弾幕が時計回りに放たれている。

俺は迫り来る弾幕を刀で弾きながら回避するも、それも時間の問題だった。

この弾幕の動きの構造はかなり複雑だから回避して、美鈴を叩くのは至難の技だろう。

だが、俺もそう簡単には負ける訳にはいかない、相手が最高級のスペルカードを発動したなら俺も最高級のスペルカードで勝たせてもらおうか。

そして俺はスペルカードを発動した。

 

 

〜蝶符「妖刀・千子村正」~

 

 

直後、光の周りに黒い蝶が無数に現れて、光の刀に集まっていった。

少し経つと刀1面が蝶でいっぱいになり、刀は黒く染まった。

そしてその次の瞬間、包まれていた刀は一気にその力を解き放ち、紫の霊力を帯びていてより一層輝きが増していた。

そして光はその刀を構え、弾幕に向けて斬撃を放った。

その斬撃は黒く、見ているだけで吸い込まれそうな程禍々しかった。

そして弾幕と斬撃が衝突し、霊力が混ざり合い、その衝撃で黒煙が舞い、視界が塞がる。

美鈴はこれを好機に弾幕の流れと共に態勢を低くして黒煙の中を突っ込むと一気に黒煙を走り抜き、光の目の前まで詰め寄った。

そして渾身の一撃を顔面に入れようとした瞬間、光はそれを予想していたのか、刀ではなく刀を持っていない左手で美鈴の拳を避けるように弾いて美鈴の拳を回避した。

美鈴は予想外の展開に対応出来ず、そのまま前に倒れてしまうが、なんとかもう片方の手で地面を叩いて体を前に転がして態勢を整え、振り向いた瞬間に光に回し蹴りを入れようとしたが…

 

 

 

 

 

 

既に時遅し、光が美鈴の喉元に刀を向けていた。

 

 

「…俺の勝ちのようだな」

 

「まさか私の会心の一撃を片手1本で返すとは予想外でしたよ」

 

「美鈴は絶対に視界が悪くなったのを好機に俺に突っ込んでくると思っていたからなそれに、態勢を崩した後にすぐに距離を置こうとするのも分かっていたよ、それもあってか、瞬時に距離を縮める事が出来た」

 

「もはや想定内でしたか…それと光さん私の拳を弾く際その左手に自分の能力を使いましたね?今少し右手から霊力が伝わるのを感じます。」

 

「当たり前だろいくら俺でも能力使わなきゃ弾くどころかそのまま左手持ってかれてるわ、今でも普通に左手ヒリヒリするし」

 

「まさか光さんに片手で簡単に弾かれるとは…私もここ数年で鈍くなりましたね、私の負けですお見事です光さん」

 

「どうも」

 

「おめでとう光、とても素晴らしい戦いだったわ」

 

「怪我も無さそうでよかったです」

 

 

その瞬間をバルコニーで見ていたレミリアはご満悦で、咲夜さんは大きな怪我もなく終わった事に安堵していた。

 

 

「ちゃんとルール通りにやったので当然です」

 

「それにしても久しぶりに良い戦いだったので疲れましたー」

 

「それは俺も同意見だ」

 

 

気づけば長かった戦いで、身体が疲れきっていた。

正直腹減ったし、汗だくだから風呂入りたい。

 

 

「そうね…日も落ちたことですしいい頃合ね…2人は先にお風呂に入って体をスッキリさせた方がいいわ、咲夜はその間に夕食の準備を」

 

「かしこまりました」

 

「了解です」

 

「うぃーす」

 

 

こうして俺の初めての実践は無事雨天 光が勝利を収めたのだった。

 




ようやく戦闘回が投稿できる…
久々に書いたもので色々とおかしな点があったと思います()
今後は戦闘回が多くなるとは思いますが、地道に頑張っていきます。
それではまた何処かで。


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人間不信は新聞記者が嫌い

新年度が始まり、新元号が発表されて新しい世界が開かれようとされている中いつも通り怠けています
今回は普通に日常編ですので戦闘回ではありません。
何か違和感があれば教えてください。
ではどうぞ


冷たい風が身体に触れるたびに暖かいものが恋しくなるこの季節、いよいよ幻想郷にも雪が降り始めた。

人里に買出しに通る道にも雪が積もり、雪の上を歩く足音が俺の耳を撫でていた。

今日はレミリアがいつも寝起きの際に飲んでいる紅茶の葉を切らしてしまったため、咲夜さんが俺に食事の材料のついでに買ってきて欲しいと頼んできた。

実は咲夜さんって意外と抜けてる部分があって凄いびっくりした。

紅茶の葉も今日の朝に切らしていた事に気づいていて、昨日の朝も使ってたのに気付かないのかよっと突っ込みたいレベル、俺が幻想郷に来る前もかなり凄かったらしく、アリスに自分の心配をするよう指摘された時、自分の持っている服が3着しか無いことを心配するなど『いや心配するのそこ!?』みたいな速攻ツッコミ入れるくらいのレベルだった。

疲れてるから思考が定まらないと言われれば咲夜さんも人間だからそれが理由ならば仕方ないだろうと思うが、咲夜さんに聞いてみると『今までこの館の家事全般をこなしていましたが、疲労とかそんなのは感じませんでしたよ?』と答えていた。

レミリアを心配させないための強がりかと思ったが、レミリアからも前々から咲夜さんに『働きすぎよ!』と何度も言っていたらしい、それでもなお平然と家事をこなしているところ本当に人間なのかと疑うレベルだった。

後に話を聞くと紅魔館のメイドになってから1度も疲労で倒れたり、顔色が悪くなったりする事が無かったらしい、実際今も目の下にクマが無いし、むしろ俺の方がクマがあるレベルでこの人本当にすげぇと正直思った。

その反面めちゃくちゃ抜けてる人なんだなと思った。

まぁそんなこんなで目的の人里まで到着した。

冬&雪というのもあって皆厚着をして商売をしていた。

俺自身も紺のコートを着てグレーのマフラーを首に巻いて来ている。

正直服とかどうするんだろうと幻想郷に来た時は思ったが、紫が住んでいた外の世界から引っ張り出してくれたお陰で今では快適に暮らせている。

 

 

「おや?光じゃないか、こんな真冬に買い出しか?」

 

「…慧音か、まぁな」

 

 

人里に足を運ぶと、青のメッシュが入った銀髪に頭には頂に赤いリボンをつけ、六面体と三角錐の間に板を挟んだような形の青い帽子を乗せていて、 衣服は胸元が大きく開き、上下が一体になっている青い服に袖は短く、襟は半円をいくつか組み合わせ、胸元に赤いリボンをつけ、下半身のスカート部分には幾重にも重なった白のレースがついている女性に声をかけられた。

名は上白沢慧音(かみしらさわ けいね)、人里で寺子屋という今で言う学校で教師を勤めていると同時にこの人里の守護者として人里の住民を守っているワーハクタクと呼ばれる半獣人である。

 

 

「これから幻想郷を救う英雄になろうとしている人が紅魔館の手伝いか…感心するな」

 

「まぁ…一応住ませてもらってる身だからな、これくらいの事しねぇと申し訳なくなる」

 

「お前は優しいんだな、初めて会った時は人間不信でなかなか心を開いてくれなかったが、ひと月過ぎれば慣れてくるものだろう?」

 

「…別に優しくなんかねぇよ、慣れてきたといえばそうかもしれないが、まだ俺は誰にも心を開いた覚えはねぇからな」

 

「はいはい、そういう事にしておくよ、じゃ私も宿題を忘れたチルノにお仕置きしないといけないし、光も寒い中長く立たせていたら凍え死んじゃうだろうし私はここら辺で」

 

「今日も先生はお忙しいようで何よりだ、頑張れよ」

 

「君もな」

 

 

そうして俺達は別れた。

俺はいつも通り紅茶の葉が売っている店に足を運び、一月分の紅茶の葉を購入した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

「ふぅ…それにしても今日は寒いなぁ…」

 

 

買い出しを終えて帰路を辿っていた俺はかなり冷え込んだ中俺は巻いているマフラーを更に鼻下まで上げた。

本当に寒い、紅魔館も暖炉を炊いて暖まっているだろう、考えるにパチュリー辺りは本を読みながら暖炉に当たっているだろうから柄になるレベルの光景が見れるだろうな。

早く俺も紅魔館に帰って暖炉に当たるとするか。

俺はそう思い歩く速度を上げようとしたその時。

 

 

「見つけましたよ!光さん!」

 

 

実に今、というか今後一生会いたくないと思っていた奴の声が聞こえてしまった。

しかも俺の名前をはっきりと言いやがって。

 

 

「…文…またお前かよ…」

 

「宴会の時は上手く避けられましたが今は1対1!今なら貴方の体の隅から隅まで取材できるという事です!」

 

 

こいつの名前は射命丸文(しゃめいまる あや)黒髪のセミロングに頭には赤い山伏風の帽子(頭襟)をかぶっている。

服装は黒いフリルの付いたミニスカートと白いフォーマルな半袖シャツ、赤い靴は底が天狗の下駄のように高くなっている。

鴉天狗でもあるため、背中には黒い翼が生えている。

宴会の時に遭遇してしまい、なんでも自分が出版している文々。新聞(ぶんぶんまるしんぶん)にどうしても俺を載せたいらしく、しつこく取材してきた。

あの時はほかの奴らもいて、うまく回避出来たが、まさかまた遭遇、しかも1対1で対面するとは最悪だ。

質問に答えるだけでいいとは言うが、本当にそれだけで済まされるのだろうか、俺はまだこいつがどんな新聞を出しているのか分からない、だからこそ俺はこいつにベラベラと自分の本性を話す気は無い、というか一生無い。

話して全部新聞に書かれて周りに悪い印象を持たれるくらいなら死んだ方がマシだ。

 

 

「悪いが俺はお前に教えるほどのネタは持ち合わせていないのでね」

 

「絶対嘘ですね!私の勘が言ってるんです!貴方には沢山のネタがあると!」

 

「しつこいなお前…何度ネタなんて無いと言えばいいんだ。」

 

「貴方の本性を言うまで何度も聞きますよ!」

 

「これだから鳥頭は…」

 

「誰が鳥頭ですって!?」

 

「その言っても学ばない頭の持ち主であるお前のことを言ってるんだよ、これで何回目だよ」

 

「学ぶも何も幻想郷入りした時点でネタがありまくりです!何も無ければこんな所に来るはずがありません!お願いです!たった一つの質問に答えるだけで良いんです!」

 

「はぁ…まったく…分かったよ質問に答えるよ」

 

「おぉ…!ついに幻想郷を救う英雄のお話が聞けるんですね!それじゃーーーー」

 

「その前に条件がある」

 

「?……条件ですか?」

 

「これから俺が話すことは決して、()()()()()()()()、以上だ」

 

「えぇ!?それじゃあ意味が無いじゃないですかぁ!」

 

「なら俺はお前の質問に答える必要は無いなとっとと帰った帰った。」

 

「うぅ…!どうしても話さないというなら…!」

 

 

そう言うと文は近づいてきて俺に抱きついた。

 

 

「ちょっ…!?お前何してんだ!?」

 

「何をするも何も、今から私のこの素晴らしいボディで貴方をメロメロにさせるんですよ!」

 

「だーれが鳥頭にメロメロするか!良いからさっさと離れろ!」

 

「嫌ですね!貴方が取材に答えるまで私はどんな手段を使ってでも諦めませんからね!」

 

 

俺はなんとか文を離そうと必死にもがくが、相手は妖怪だ。

力の差ではこっちが圧倒的に不利である。

しかも雪の中もがけばもがくほど疲労も溜まってくる。

俺が諦めるまでには時間の問題だろう。

これはもう、詰んだんじゃないのか?そう思った瞬間。

突然文に抱きつかれていた感覚がなくなり開放感に包まれた。

 

 

「光さんの帰りが遅いと思ったら…こういう事でしたか…」

 

「さ、咲夜さん」

 

 

そこには伸びた文を横に胸元を隠した冬用のメイド服に赤いマフラーを巻いている咲夜さんが呆れた表情で立っていた。

恐らく俺達が騒いでいるのを咲夜さんが嗅ぎつけたのだろう。

同じ人間なのに一瞬にして妖怪KOにしてる咲夜さんぱないっす…。

 

 

「またこの人に絡まれていたんですね…探しに行って正解でした。」

 

「すいません寒い中、手間をかけてしまって」

 

「大丈夫ですよ、それに…」

 

「それに?」

 

 

すると咲夜さんは頬を赤らめてこう言った。

 

 

「紅茶の葉が無くなっていたことに気付かなかった私の責任ですから…」

 

 

そう言い終えたあと咲夜さんは俯いてしまった。

なんだそれ、抜けてるのか真面目なのか本当に訳の分からない人だな、それに買い出しのついでだし別に気にする必要も無いし、あくまで俺は住ませてもらってる身だ、手伝いくらいしなければそれこそ常識がない人だ。

それなのにこの人は…ほんと…不思議な人だ。

そう思った俺は思わず笑ってしまった。

 

 

「……あっはははははは」

 

「ひ、光さん!?どうしたんですかいきなり笑い出して!?」

 

「いや…咲夜さんは本当に真面目なんだなーって思いまして」

 

「そ、そうでしょうか?」

 

「はい、本当に…でも大丈夫です。俺は咲夜さんのその気持ちだけで十分ですから」

 

「っ!?」

 

 

俺はそう答えたその時咲夜さんの顔が驚いた顔になりその後すぐに視線を逸らした。

 

 

「さ、咲夜さん?どうしましたか?」

 

「い、いえなんでもありません!そろそろ紅魔館に戻りませんか?」

 

「あ…そうですね…」

 

 

こうして俺と咲夜さんは紅魔館に戻った。

さっきの驚いた後に視線を逸らしたのは何だったのだろうか…

何かまた俺は咲夜さんを不快にさせるようなことをしたのだろうか…

理由がわかり次第謝ることにしよう。

 

 



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発熱と闇医者

平成最後の投稿ということで、なんとか間に合わせました。
所々におかしな箇所があると思います。
すいません。


 

「……38.9度です」

 

 

体温計の数字を見て少し眉をひそめ、その数字を告げる咲夜さん。

俺はそれを聞いてため息をついて、再びベッドに横になった。

そう、俺は今絶賛高熱でダウンしている。

先日、体のダルさを感じたが特に生活に支障はなかったので、放置していたのだがその3日後見事に熱を出してしまった。

咲夜さんや美鈴に看病してもらいながら回復を待ったが、1週間経っても一向に熱が下がらなかった。

こんなにも熱が下がらなかったのはインフルエンザにかかった時でも有り得なかったくらい重症である。

弱ったなぁ…今までこんなに体調崩した事無かったんだが…

 

 

「何時になったら治るんですかね…」

 

「仕方ないですよ、こんな真冬日にも関わらず外で稽古したり、私の手伝いを休まず毎日していたんです。無理をしすぎたんですよ」

 

「うーん…特に自分は無理をしたつもりはないんですが」

 

「そういうつもりでも、体は正直なんですよ」

 

「…そうですね今は素直に休めることにします」

 

 

そう答えると咲夜さんは微笑んで濡れタオルを取り替えた。

すると俺の部屋のドアからノックする音がこだました。

俺は「どうぞ」返事をするとドアが開き、そこへ1人の女性が入ってきた。

長い紫髪の先をリボンでまとめ、紫と薄紫の縦じまが入った寝巻きのような服を着ていて、ドアキャップに似た帽子を被っている。

名は「パチュリー・ノーレッジ」この紅魔館の住人であり、レミリアの親友でもある魔法使いである。普段は紅魔館にある大図書館で従者である小悪魔と本を読んで暮らしている。

時々会話の中で名前だけでは出ていたが、姿を見せるのは初めてだろう。

 

 

「パチュリーか…どうしたんだ?」

 

「どうしたもなにも…貴方が1週間も熱で寝込んでるって聞いたから様子を見に来たのよ」

 

「ありがとうな、だがあまり長居は良くないぞ、何せパチュリーはまだ病み上がりなんだから俺の熱が移ったらそれこそ大変だ」

 

「余計なお世話よ、それに…私の熱から移ったのでしょ?だからその…お詫びというか…」

 

「まぁパチュリーを看病した次の日に体がダルくなったのはそうなんだが、まだそうと決まったわけじゃないんだしパチュリーが気にする必要は無いと思うぞ?」

 

「たとえそうじゃなくても、貴方が心配なのは変わらないわ」

 

「…そうかい…だがまぁ…こうもダルい時期が続くと辛いものだな」

 

 

俺は視線を1面赤い天井に移して苦笑いした。

するとパチュリーが少し考え込み、何かを思い出したかのように光に言った。

 

 

「そう言えば貴方…永遠亭(えいえんてい)は知っているかしら?」

 

「永遠亭?あー確か宴会で知り合った永琳とかいう奴が住んでいる病院のような場所か」

 

「そうよ、おそこなら熱が直ぐに下がる薬とか処方してるだろうし、1度行ってみるといいんじゃないかしら?」

 

 

外の世界では病院の処方された薬はあまり信用してなかったから小学生以降行ったことがなかったかな、まぁ幻想郷は常識外れが当たり前みたいなものだし、普通に飲んだ瞬間に熱が下がるような薬は存在するかもなぁ…

 

 

「…そうだな、1度行ってみるか」

 

「なら私がお嬢様に伝えてお供いたします」

 

「すいません、助かります」

 

 

こうして俺は久しぶりに薬を貰うために永遠亭という幻想郷の病院みたいな場所へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・

 

「そういえば咲夜さん、以前話していたんですけど能力者って()()()()()()()()()

 

「そうですね私もそうですが、お嬢様や、霊夢も能力者の人達は皆空を飛べますよ」

 

「それってやっぱり霊力を使って飛んだりしてるんですか?」

 

「そうですね、私は自然と出来ていたんですが美鈴は最初は飛べなかったと聞いております。」

 

「やっぱり練習とか必要なんですか?」

 

「そうですね…こればかりは能力者だからといってすぐに飛べるような代物ではないと思いますので、ですが光さんも能力強化と共に練習すれば、いずれ飛べるようになりますよ」

 

「なるほど…頑張ってみます」

 

「それに空も飛べるようになれば戦闘の際も広範囲で戦えますし、損は無いはずですよ」

 

 

そんなこんなで咲夜さんと俺は迷いの竹林を歩いていた。

人里や妖怪の山の正反対に地位する所だがここに永遠亭があるらしい、正直話を聞くとめちゃくちゃ強運の人じゃないと脱出できないらしい、そんな場所になんであるんだよ…って話なんだが、まぁあっち側の事情もあるのだろう。

すると咲夜さんは足を止めた。

どうしたと思い向こうを見ると、そこには1人の女性が立っていた。

白髪のロングヘアーに深紅の瞳を持つ。髪には白地に赤の入った大きなリボンが一つ、上は白のカッターシャツで、下は赤いもんぺのようなズボンをサスペンダーで吊っている。

名は藤原妹紅(ふじわらのもこう)こいつも宴会で会ったことがある。

永琳とは知り合いで、この迷いの竹林の案内役をやっているとかなんとか…恐らく永遠亭に辿り着けないからこういう仕事をしているのだろう。

 

 

「妹紅ちょっといいかしら?今から永遠亭に行きたいのだけれど」

 

「ん?あぁその様子だと光に問題があるみたいだな、分かった着いてきてくれ」

 

 

そう言うと妹紅を先頭に俺達は歩いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

しばらくするとこんな静かな竹林の中に1つ大きな建物がぽつんと佇んでいた。

そして、妹紅が「ここだ」っと言って咲夜さんがお礼を言うとそのまま玄関へと入っていった。

俺は慌てて中に入っていったが、この時無断で入ってよかったのか?と思った。

少し経つとまたもや1人の女性が歩いてきた。

ピンク色のロングヘアに頭にうさ耳が生えていて(恐らくカチューシャのようなもの)目は赤い。

服装は外の世界では「制服」という学生服を着ている。

なんとも珍しいタイプだ。

名は鈴仙・優曇華院・イナバ(れいせん・うどんげいん・いなば)こいつとも宴会で自己紹介している。

永琳のことを師匠と呼んでいる。

 

 

「咲夜さん!本日はどうされたんですか?」

 

「ちょっと光さんの熱が下がらなくて、パチュリー様の勧めで永遠亭に来たのよ」

 

「なるほど…分かりました!それじゃあ師匠がいる部屋まで案内するので着いてきてください!」

 

 

俺達は永遠亭の廊下の奥へと向かっていったのだった。

少しすると病院でいう手術室のような部屋に来た。

そこには長い銀髪に左右で色の分かれる特殊な配色の服を着ている女性が座っていた。 

頭には、十字架のマークが彩っているナース帽を被っている。 

名は八意永琳(やごころ えいりん)、この人こそ医者と言う役割をしている人物である。

咲夜さんが今までの状態を話すと、永琳は俺の顔を見ると直ぐに立ち上がり近づいてきた。

 

 

「君は光だったわね?そこのベッドに横になりなさい、今から診断するから」

 

「は、はい…」

 

 

そう言うと俺は言われるがままに横になり、永琳に症状を見てもらったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「…疲れと睡眠不足から生じた発熱ね、普通の人間なのに1週間も苦しめられてよく死ななかったわね」

 

 

結果的に普通に発熱だった。

やっぱり咲夜さんの言う通り自分ではそんなつもりではなくても身体は悲鳴をあげていたという事だな。

そんな俺に呆れながらわざとヘラヘラと態度をとった。

 

 

「無駄にタフなメンタルなんですよ俺は」

 

「はぁ…早朝からの稽古もいいけれど、適度にやりなさいよね『練習は量じゃなく質だ』ともいうし」

 

 

はい、っと永琳は俺に薬を渡してきた。

 

 

「これは解熱薬だけど熱が下がってもこの薬が終わるまでは継続的に飲むこと、もしかしたら直ぐにぶり返す可能性があるから」

 

 

なんだよそれ熱が下がっても飲まないといけないのかよ外の世界よりもレベル低いんじゃねぇのか?この病院でもまぁもしぶり返してまた1週間も動けなくなるのはゴメンだしここは素直に承諾するか。

 

 

「…分かりましたありがとうございます…えっと…先生?」

 

「永琳で良いわよ、外の世界では先生とか言ってたと思うけれど、ここはそういうの気にしなくていいからあと敬語もね」

 

「…分かった永琳、継続的にだな、これだと1週間程度か?」

 

「そうね、無くなったらそれでおしまいよ、それじゃお大事にね」

 

 

最後に俺は咲夜さんと礼を言って永遠亭を出たのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何か良くないものを感じた。

光の身体から感じたもの、ただの発熱それは変わりないのだが、何か良くないものを、もしかするとあのスキマ妖怪が言っていた()()()()()()()()()()()()()()()かもしれないわね、うどんげを呼んで調査してみましょう。

 

 




今回はほとんど発熱を基本に4人のキャラクターと会わせました。
無理矢理感があって申し訳ないです。
令和も何卒よろしくお願いします!


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VS知識と日陰の少女

はいどうも仕事の飲み会が面白くなかったので二次会は嘘をついて抜け出してこうやって書き出していますw
今回は令和初の投稿ということで先頭となっております!


「パチュリー…この本返しに来たんだが……」

 

 

風邪が治って数日、永琳から貰った薬も全部終わったので、そろそろ動けるだろうと思い暇潰しにパチュリーから借りていた数冊の本を返しに大図書館まで来ていた。

いつも通りパチュリーは大図書館の真ん中辺りに位置する場所でテーブルに山積みになった本と小悪魔が用意した紅茶とクッキーを堪能しながら本を読んでいた。

 

 

「ありがとう光…体調の方は良いのかしら?」

 

「まぁな…まさか永琳の薬がこんなにも効くとは思わなかったがな」

 

 

あれから1週間程経ったがお陰様で体調が良くなりこの通りピンピンしている。

最初は永遠亭ってやっぱりあんまり医療技術発展してない病院か?…なんて思っていたが、いざ使ってみるとビックリした。

帰った後とりあえず1錠飲んで数十分後、突然熱が下がったかと思ったら更に身体のダルさも無くなっていた。

何日も熱で悩まされていたのが嘘みたいだった。

その後も永琳に言われた通りに薬が無くなるまで1日1錠を継続的に含み続けた。

結果的には永琳から貰った日の時点で完治したも同然だったので、それ以降は特に感じたものはなかったが心なしか身体が以前より軽くなった気がした。

経験上医者から処方された薬は経験上大体数日飲まないと治らなかったが、永遠亭に関してはそれを覆すかの如く、含んで治った。

正直俺は医者という者を甘く見ていたようだ。

幻想郷は常識外れな世界なのは分かっていたが、常識外れだからこそこういう事も可能なのだろうな。

 

 

「顔色も良くなったと思えば目の下のクマも大分改善されたんじゃないかしら?」

 

「あぁ…身体が軽くなった気がするよ」

 

「私も時々体調崩した時に咲夜に頼んで永遠亭から薬を処方してもらう事があるのよ、もしまた何かあったらあそこは色々と受け付けてくれると思うし今後も足を運んでみるといいわ」

 

「そうだな…一応考えておくよ……よしそれじゃあ本はここに置いておくからよろしくな」

 

「ちょっと待ちなさい」

 

 

俺はパチュリーから借りた本をテーブルの上に置いて大図書館を出ようとした時、パチュリーに呼び止められた。

 

 

「どうした?」

 

「光…貴方ここ数週間熱にやられてたし身体がなまってるんじゃないかしら?」

 

「……まぁ寝てばっかりだったしそろそろまた稽古でもやろうかなんて思ってたんだが」

 

「それならいい案があるわ」

 

「…案?」

 

()()()()()能力を身体に馴染ませるのはどうかしら?」

 

「いやいやちょっと待て俺はともかくパチュリーは大丈夫なのかよ」

 

「何がかしら?」

 

「いや…お前体弱いから余計な動きしたら酸欠とかで倒れかねないだろ」

 

「生憎と今日の私は体調が良い上に機嫌がいいの…だからこそこんな機会はないと思った方がいいわよ」

 

「え…えぇ…」

 

 

パチュリーはやる気満々でそう答えるが俺は速攻でダウンする未来しか見えていなかった。

すると、赤い長髪で頭と背中に悪魔然とした羽、白いシャツに黒のベスト、ベストと同色のロングスカートで、ネクタイかリボンを着用しているパチュリーの助手のような立ち位置である小悪魔が「もうこうなったパチュリー様は引き下がらないので光さんが折れるしかないですよ」っと横から言われてしまったので仕方なく俺はパチュリーとの勝負を受け入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・

 

 

前回美鈴とやり合った場所に移るとお互いに距離を置いて向かい合った。

相変わらずレミリアはどこから情報が漏れたのか(恐らく小悪魔辺り)既にバルコニーで紅茶とケーキをテーブルに並べてニコニコしていた。

他にも小悪魔はもちろんフランに、前回俺が激戦の末勝利した美鈴も居た。

 

 

「はぁ…レミリアまたお前はーーー」

 

「それじゃあ咲夜開始の宣言をして頂戴!」

 

「話すら聞かねぇなぁこの野郎!」

 

「光さん落ち着いてください、始めますよ」

 

 

咲夜さんも既にスタンバっていて仕方ないと刀を出現させて構えた。

見せ物じゃねぇって言ってんのによぉ…

まぁ当初の目的は能力強化だし、パチュリーとやり合えるならこれ以上の機会はないだろう…うだうだ言ってないでさっさとやるか。

でもまぁ…()()()()しておこうか。

そして俺は咲夜さんの「はじめ!」の合図と共にパチュリーに突っ込んだ。

 

 

「パチュリーにはたっぷりと楽しませてやるよ!」

 

 

〜蝶符「妖刀・千子村正」〜

 

 

俺はスペルカードを宣言すると刀を強化させ、パチュリーの出かたを見た。

するとパチュリーは静かにスペルカードを出すと宣言した。

 

 

〜金符「シルバードラゴン」〜

 

 

その瞬間、上から複数の弾幕が俺に向かって降って来た。

金色の弾幕で、この時シルバーって銀だよな…?と思ったが、そんなことを考えている暇はなかった。

俺は降り注ぐ雨のような弾幕を刀で弾き、時には地面を転がって上手く対応した。

これだけでもかなり身体に答えていた。

 

 

「いきなりなかなか答えるスペルカードだな…!」

 

 

しかし、パチュリーはそれだけで終わらなかった。

 

 

「まだまだこれからよ!」

 

 

〜土符&金符「エメラルドメガリス」〜

 

 

瞬間3方向から大きな弾幕、またランダムな方向から小さな弾幕が不規則な動きを描きながら俺に襲ってきた。

俺はパチュリーに近づくどころか弾幕から回避するのに精一杯だった。

先に俺が負けるのも時間の問題であろう。

 

……甘く見ていた。

パチュリーは病弱なのでスペルカードを連続して出すとかなり体力を消耗するであろう。

そう思っていたが、まさか調子がいいとこんなにも変わってしまうとは予想外だった。

美鈴とは違って物理攻撃は0に等しいがそれ以上に弾幕攻撃が尋常なく強い…!

不規則に動く弾幕に上から降り注ぐ弾幕…いきなりどデカいスペルカード持ってきやがったな…!

 

 

「ちっ…!ならばこれならどうだ!」

 

 

俺は弾幕を避けながら飛び跳ねるとそのままスペルカードを取り出した。

 

 

 

〜想符「空想の守護神」〜

 

 

「…!」

 

「こういうのが強者と強者の戦いで試される真の強さってやつだよなぁぁ!!」

 

 

俺の周りに蝶が3匹出現し、弾幕を弾きながら俺は一気に加速した。

そして十分接近すると俺は刀をパチュリーに振りかざした。

 

※ちなみにこの刀は殺傷能力もあるが、時と場合によっては弾幕として扱うことも出来るため、仮に刺さったとしても弾幕なので殺傷能力は無い。

 

このまま行けばパチュリーの体力も粗方削れるだろう。

そう思っていた。

突然パチュリーの周りに水の泡が現れると思うと、パチュリーの身体を包み込み宙に浮くと、俺の攻撃をかわした。

そして俺の体力上スペルカードが持続されず。

3匹の蝶が薄々と消えてしまい、そして完全に消えた瞬間、俺は全方向からくる弾幕に対応しきれず食らってしまった。

 

 

「ガフッ…!」

 

 

めちゃくちゃ痛かった。

特に腹に直撃した時は胃酸が逆流する勢いだった。

俺はそのまま膝をついてしまった。

あの時パチュリーはもう1枚のスペルカードを出していた。

 

 

〜水符「ジェリーフィッシュプリンセス」〜

 

 

パチュリーは既にこの短時間で3つのスペルカードを出し、更にそれを全て持続させている。

なんなんだこいつ…!無敵か…!?

息を荒くしながら立ち上がると斬撃を放った。

しかしそれも弾幕により相殺されてしまう。

 

 

「美鈴のように上手くいくと思ったら大間違いだわ、それに今日の私は調子が良いのよ?甘く見ていたかしら?」

 

「くそ…!だが、距離は縮めた…これなら!」

 

 

俺は弾幕を弾きながら空を飛ぶと、パチュリーに再び斬撃を放った。

今度はほぼ近距離だ。

しかし、パチュリーはあえてスペルカードを解除して、水の泡を消すと、その斬撃から距離をとり、更に弾幕を展開した。

美鈴とは比べ物にならねぇほどに強すぎる…!これが長年生き続けた魔法使いの本来の力か…!

その後も何度も斬撃を放つも全て弾幕によって塞がれ、時には小技を使って接近するもそれも上手く対応され、逆に攻撃をくらったりしてしまい、体力的にも戦力的には俺の方が下だった。

 

 

「どうしたのかしら?動きが段々遅くなっているように見えるのだけれど…身体の傷から見てそろそろ降参した方がいいんじゃないかしら?」

 

「…くそ…!」

 

 

弾幕を避ける俺を嘲笑うようにパチュリーはずっと弾幕を避け続ける俺を見ていた。

この状況からして皆がパチュリーの勝ちを確信したはずだ。

しかし俺は諦めていなかった。

何故ならばまだ実戦で使っていなかったスペルカードがまだ()()()()()からだ。

俺は弾幕の隙をついてそのスペルカードを宣言した。

 

 

「…お前が躊躇なく使ってくるなら…俺も出し惜しみ無く使わせてもらうぜ!とっておきのスペルカードをな!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜記符「アブソリュート・イメージ」〜

 

 

 

 




光くんの新たなスペルカード…!
ネーミングセンスについては触れないで()
今回もまたグダグダな戦闘回になりましたが、思ったことがあればご質問ください。
それでは


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VS知識と日陰の少女② そして動き出す「脅威」

はいどうもこんにちは6月に入っていよいよ夏日和になってきましたね
今回はパチュリーとの戦闘回を終わらせると同時にそろそろ「奴ら」動かしていこうかなと思います。
ではどうぞ


 

 

〜記符「アブソリュート・イメージ」〜

 

 

瞬間、霊力が光の体から溢れ出し、光の周りを包み込んだ。

 

 

「正直まだこのスペルカードは試作品だからまだ完全じゃない…だが、甘く見てると困るぜパチュリー」

 

 

そう言うと光は手をかざし、溢れ出た霊力を収束させ、戦闘態勢に入った。

 

 

「もちろんこのまま本気で行くわ…でも残念ながら私の魔術に対して試作品のスペルカードで負ける程私は弱くないわよ」

 

 

パチュリーはそのまま光に3つのスペルカードの弾幕を集中砲火させた。

光は血迷ったのかそのまま一直線に走り出した。

当然弾幕は全て光に着弾し、煙が立ち込めた。

煙が晴れると、光が地に伏せていたのでパチュリーは勝ちを確信した。

 

 

「やっぱり試作品なだけあって呆気なかったわね」

 

「咲夜2人のためにお風呂を用意しておきなさい」

 

「かしこまりました。」

 

「お兄ちゃん…」

 

 

そしてパチュリーはそのまま小悪魔に光を紅魔館の中まで運ぶよう頼もうとした。

しかし、途中で足を止めると直ぐに後ろへ下がった。

それを見たレミリアは咲夜を呼び止めた。

パチュリーはこの時思った。

 

 

「(おかしい…あれだけの弾幕を食らっていれば…体の一つや二つに弾幕が直撃した跡が残っているはず…なのに…それがない…?まさか…!?)」

 

 

パチュリーは瞬間再び戦闘態勢に入り、弾幕を放った。

煙が立ち込み、また晴れるとパチュリー、レミリアや咲夜、フランも目を疑った。

何故ならそこには()()で立っている光がいるからだ。

 

 

「…どうして…()()()()()()()()()()!?」

 

「…言っただろ?甘く見るなとそれに俺はまだ負けを宣言していないぞ?勝手に負け判定にされちゃ困るなぁ…パチュリィィィ!!!」

 

 

すると光は一気にパチュリーに接近した。

そして脇腹に蹴りを1発食らわせた。

パチュリーはたまらず後ろに飛ばされた。

 

 

「正直倒れたフリしてれば1番近いところで拳を叩き込めたんだが…やはり勘が鋭いなパチュリーは」

 

「…攻撃は受けてしまったけれど、これでまた距離は取れたわ!」

 

 

その瞬間、パチュリーは再び発動していたスペルカードで光に弾幕を放った。

 

 

「もはや同じことの繰り返しだぞ」

 

 

そういうと光は再び弾幕の中へと走っていった。

そしてパチュリーは目の当たりにした。

それは、複数かつ複雑な動きをしている弾幕の中を針に糸を通すかのような動きで全て回避している。

まるで誰かが光に弾幕の動きを教えているかのように。

 

 

「こ、これは…!?」

 

「これが俺のアブソリュート・イメージだ、相手の想いを読み取り、俺の能力として取り込む事で大幅強化が出来るスペルカードだ。パチュリーの想いを手に入れた事でお前の弾幕を避けれるようになった。お前の弾幕は俺には効かないんだよ」

 

 

そして、弾幕の間に大きな隙を見つけた光はパチュリーに斬撃を放ち、パチュリーはそれに対応できずまともに食らってしまった。

パチュリーは表情を歪ませて後ろに下がった。

 

 

「そういう事なのね…まったく本当に甘く見ていたわ、ここまで能力に馴染んていたなんて…でも」

 

 

パチュリーは再びスペルカードを取り出した。

 

 

「貴方が負けるという事実は変わらないわよ」

 

 

 

〜火水木金土符「賢者の石」〜

 

 

 

その瞬間、パチュリーの前に魔法陣が5つ展開されそこから赤、青、緑、黄、紫の弾幕が展開された。

 

 

「お前のその余裕一瞬で焦りに変えてやるよ」

 

 

アブソリュート・イメージの効果が切れた光は再び千子村正のスペルカードに攻撃態勢を切り替えると地を蹴った。

迫り来る弾幕を体を捻って回避して、刀で弾幕を弾いたり、してパチュリーに接近していった。

するとパチュリーは緑の弾幕を光の背後に忍ばせて放つと、流石の光も気づかなかったのか少し怯んだ。

その瞬間を待っていたのかパチュリーは一気に弾幕を加速させて光に集中砲火した。

光は術中にハマり弾幕を何とか刀で弾いて回避しようとするが、弾幕の多さに対応出来ず、数発食らってしまう。

たまらなく光は後ろに下がり呼吸を整えた。

 

 

「やはり簡単には終わらせてくれないみたいだな…」

 

「当たり前よ能力者として長年生きていたのだからまだなりたての貴方に簡単に負けられないわ」

 

「はは…そうこなくっちゃあな」

 

 

再び集中力を研ぎ澄ませると光の刀の霊力がまた大きく上昇した。

 

 

「…決着と行こうか…」

 

「えぇ…そうね」

 

 

佇む2人、晴天で風ひとつなかった紅魔館の庭で初めて風が吹き、大地を揺らした。

見ているレミリア達も息を呑んだ。

そして吹き荒れた風か止んだ瞬間。

 

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

「はあああああああああああああああああああ!!!」

 

 

2人は同時に動き出し、光は低い体勢で走り出し、パチュリーは弾幕を大量に放った。

そして光はパチュリーに向かって斬撃を放つと、パチュリーは弾幕で相殺した。

それが決着を着けた。

光はパチュリーが死角になったこの瞬間を逃さなかった。

一瞬弾幕が死角から放れたのを機にパチュリーの目の前に接近した。

パチュリーは目を見開いて、魔法陣を展開したが、光の斬撃の方が早かった。

振り下ろした刀は見事にパチュリーの体を貫いた。

 

 

「…私の負けよ…」

 

 

そう言うとパチュリーは倒れた…が体が地に着く前に光が腕で支えた。

 

 

「まったく…調子が良いとはいえ身体にムチを打ってはいけませんよ…パチュリーさん」

 

「ふふ…余計なお世話よ幻想郷を救う英雄さん」

 

「やめてくれ…それにまだ俺は何も救っちゃいない」

 

「…決まったようね、美鈴に続いてパチェまで撃破するなんて…腕を上げているわね、光?」

 

「まぁな、いつ敵が来るか分からないし、いつでも戦える準備は出来ている」

 

「お二人方お疲れ様です!どうぞ!タオルと水です!」

 

「悪いな小悪魔、パチュリーの事は頼んでいいか?」

 

「ええ!大丈夫です!」

 

「やっぱり光さんは強いですね〜今度またリベンジさせてください!」

 

「その前に門番してる時に居眠りするの何とかしなさい美鈴」

 

「うぅ…善処します」

 

「お兄様お疲れ様!かっこよかったよ!」

 

「ありがとうフラン」

 

 

そう言うと俺は金髪とナイトキャップを被ったレミリアの妹、フランドール・スカーレットの頭を撫でた。

半袖とミニスカートを着用。スカートは一枚の布を腰に巻いて二つのクリップで留めている。

またその背中からは、一対の枝に七色の結晶がぶら下ったような特殊な翼が生えている。さらに、手には先端にトランプのスペードのようなものが付いた、グネグネと折れ曲がった黒い棒のようなものを持っている。足元はソックスに赤のストラップシューズを履いている。 

この場面で紹介するのもなんか変だが、そこは許してくれ。

フランも撫でられて気持ちよさそうな表情をしていて、不思議と俺も微笑んだ。

みんな揃って笑顔が絶えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほう…あれが雨天 光という男か…幻想郷を救う英雄として育てられていると聞いているが、まだ経験が浅いようだな」

 

「どうするんだ?今ならまだあいつを叩くチャンスかもしれないぞ?」

 

「落ち着け、下手に戦って奴の能力を変に向上させたら我々の()()が台無しだ」

 

「ならばどうする?」

 

「今幻想郷に5()()()()()()を送り込んでいる…そいつらに連絡を取り、幻想郷の有能な奴らを潰してもらう」

 

「その5人は使えるのか?」

 

「…()()()()()()()()()()()()()()()だからな…正直不安な部分もあるが、あいつの()()だ…問題ないだろう」

 

「伊達に能力を持っている奴らだからな…雨天 光…一体どんなやつだろうか」

 

 

 

 

 




無理やり入れた感が否めないフランの紹介でした()
まだ終盤に出たやつらは本格的に出す予定はありませんがいずれ出しますので広い心で待っていただけると幸いです。


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第2章『新たな能力と迫り来る脅威』
想いと記憶


今回は光くんを少し強くしてみようと思います。
とあるゲームの能力を参考にしています。
では、どうぞ


「……おはようございます」

 

「おはようございます光さん…ってどうしたんですかその目の下のクマは!?」

 

 

「あはは…」と苦笑いするしかなかった俺は今日も眠気覚ましに顔を洗いに行った。

パチュリーとの対戦が終わったその夜から何故かずっと眠れない日々がここ数日続いている。

悪夢やストレスとかで眠りにつかなかったのは前の世界に居た時もこういう事があったし、いつも通り眠りにつきやすいように温かいミルクを飲んで、ストレッチをして体を解してから床に入っていたが、それでも解消されずにここまで引きづった。

稽古の合間に仮眠を取ってなんとかバレないようにしていたが、ついに目の下のクマの酷さを指摘されてしまうくらいにまで進展してしまった。

顔を洗ったあと鏡を見て何度も確認するが…酷いなこれ映画のホラーシーンで亡霊に取り憑かれた人の顔みたいになってるぞ…。

これが更に続いたら不眠症ということなんだが、どうするか早めに対応しておかなければならないんだが…永遠亭に行くか?その前にレミリア達に伝えておくべきか?でも変に心配されたくないし、隠れて1人で行くか。

 

 

「そんなコソコソやってても既にみんな気づいてるわよ」

 

「レミリア!?いつからそこに」

 

「貴方が鏡を見ながらため息をついてる辺りからよ…まったく貴方の事だしどうせ隠れて永遠亭に行こうとか思ってないかしら?」

 

「………思ってねぇよそもそも永遠亭に行く気なんてまったくねぇよ」

 

「はぁ…貴方が行く気なくても紅魔館(わたしたち)は無理矢理連れて行くわよ」

 

「……」

 

「どうするのかしら?何より()()()が一番心配してるわよ」

 

「あの子?」

 

「咲夜よ、稽古中妙に静かな貴方を見て自分の料理が当たったかとか寝床の掃除に誤りがあったか、なんて言ってたわよ」

 

 

咲夜さんがそんな事を思っていたのか、確かに咲夜さんの料理が当たった、寝床の掃除に俺の体が合わなくて眠れなくなったのもひとつの原因として取り上げても良いだろう。

だが、俺はそうだとは思わない、何故なら咲夜さんの料理はいつも美味しく頂いているし、体の変化に関しては1番気を使ってくれている。

何より手伝いをしている俺が咲夜さんがどんな食材や入れ物を使っているか1番間近で見ることが出来るし、変な入れ物を使った際、味の変化にはこれでも敏感な方だ。

寝床に関してもこれは無いに等しいだろう。

昔から俺はどんな場所でも寝ていたのでまず寝床が原因で不眠症になることはまずないし、そもそも原因として不眠症は食欲低下や心や体の病気、ストレスで発症するものだ、食欲は旺盛だし、なんなら咲夜さんの料理をおかわりしているくらいだ。

どちらも当てはまらない話だ、となるともっと他の問題になってくるのだが、まずは咲夜さんの不安を解消するためにここはレミリアの言う通り永遠亭に行くとするか。

 

 

「分かった、咲夜さんの不安も解消したいしな咲夜さんと2人で行ってくるよ」

 

「素直で良いわじゃあ朝食を食べた後に行ってきなさい」

 

 

そして朝食を食べた後咲夜さんと一緒に紅魔館を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・

 

永遠亭に向かう途中、というか紅魔館出る前からすごく気になっていた。

咲夜さん…()()なんですけど!?

白色のワンピースにエメラルドを付けたピアスに白の真珠のネックレス、灰色のバッグを腕にかけて一緒に歩いているが、これ完全にデートモードだよな…?いつもはメイド服なのにどういう風の吹き回しだ…?

 

 

「えっと…今更なんですが咲夜さん…どうしてそのような服装を?」

 

 

目のやり所に困ってついに根負けした俺は森の中という雰囲気台無しな場所で乙女にとってはめちゃくちゃ失礼な発言をした。

 

 

「これは…お嬢様が『せっかくだし今日は休養日にして羽を伸ばしてお出かけを楽しみなさい』と言われて私服を用意したのですが、やっぱり似合わないですよね」

 

 

咲夜さんは俯きながらそう答えた。

表情からして罪悪感にかられているように見えた。

やっぱり俺の不眠が自分のせいだと思っているのか…。

仕方ない無意味かもしれないが、ここはひとこと言ってやるか。

 

 

「すごく似合ってますよ咲夜さん!やっぱり美人な女性はなんでも似合うって言うのは本当なんですね!」

 

「そ、そうですか…?」

 

「はい!」

 

 

咲夜さんの表情にも少し緩みが出てきたな、いや正直言って俺にはもったいないくらい似合ってると思う。

これはお世辞でもなんでもない、マジでコンクールに出しても文句なしの1位だと言っても良いくらいだ。

心なしか眠気が無くなってきたように感じる…これが目の保養と言うやつか…!

…と意味の分からない思考をしながら歩いていると、咲夜さんから例のことについて切り出してきた。

 

 

「…光さんの不眠…やっぱり私のせいですよね…」

 

「レミリアから聞きましたよ、心配し過ぎですよ咲夜さんは」

 

「で、でも…!」

 

「咲夜さんの料理はいつも美味しく頂いています、なんならおかわりだってしてますよね?もし咲夜さんが料理に変な薬とか入れていれば1番最初に気づくのは俺です、これでも味の変化とかに気づくのには自信がありますし、俺は寝床の場所問わずぐっすり寝ることが出来ることで評判です。咲夜さんが毎日整えている綺麗な寝床で眠れるのが俺なんかに勿体なさすぎるくらいです」

 

「そんなこと…」

 

「あるんですよ、時を止める能力を使えるとはいえ咲夜さんは俺が紅魔館に住む前からこんな大変な仕事を1人でこなしていたんです本当に凄いですよ、お世辞でもなんでもありませんこれは俺個人の気持ちです。だからこそ貴女の手伝いをしたいと思うんです。人間不信な俺でもね」

 

「光さん…」

 

 

今までの気持ちを伝えた俺は「だから咲夜さんのせいではないですよ」と言うと咲夜さんはさっきの曇った表情とは変わっていつも通りの咲夜さんが微笑んで「ありがとうございます」と礼を言ってくれた。

やっぱ咲夜さんはこうでないといけないな

…とはいえそれと同時に俺自身焦りが生じた。

これでもし永遠亭で検査して咲夜さんが原因だとしたらなんて言おうか…と

あんな臭い事言い切ってこれでもし確証を得たら顔合わせられる気がしない…

俺は咲夜さんにバレないように溜息をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・

 

「……突然だけど光、眠ってる間とかに何か()()()()()()はしなかったかしら?」

 

「不思議な経験…?」

 

 

永遠亭に着いた俺達は早速永琳に検査をしてもらった。

いつから眠れなくなったか、どれくらいのペースで起きてしまったり、寝付けなくなったりするかと。

そして検査を終えて結果の資料を見て眉をひそめた永琳が突然変な質問をした。

 

 

「例えば現実のような夢だったり、トラウマがフラッシュバックしたり、()()()()()()()

 

「声が…聞こえたり…?」

 

 

もしかしたら一昨日感じた()()か?

話してみても良さそうだな

 

 

「一昨日声とかではないんですが、砂嵐のような雑音が頭の中で流れた事がありました」

 

「…もしかしたらそれが原因かしら」

 

「原因?」

 

「貴方不眠になる前に何か能力の中で相手を使っていないかしら?例えば…()()()()()()使()()()とか?」

 

「っ!?」

 

「光さん…?」

 

 

永琳から言われた俺はパチュリー戦で使った「アブソリュート・イメージ」の事を思い出した。

あれは相手の想いと自分の想いを使ってひとつの力にする効果なのだが、それが原因なのか?

 

 

「あぁ…新スペルを対戦の際に使ったんだ」

 

「それが原因ね、貴方が眠っている間、脳の中で何が起こっているのか検査したのよ、そしたらこのデータを見て、貴方が眠っている間に()()()()()()()()()()が確認出来たわ」

 

「俺以外の人物の脳波…?」

 

 

多重人格とかか?

 

 

「安心して多重人格とかではないわ、これを見て、これは貴方以外の人物から読み取れた言葉よこれが恐らく貴方の言っていた雑音かもしれないわ」

 

 

永琳に渡された資料を見て俺は目を丸くした。

そこにはまるで俺の頭の中でひとつの物語が描かれているかのような言葉の使い方だった。

口調からして男性、誰かと会話をしていたのだろうか。

着物の話をしているということはこの2人は着物の商売人なのか?

文字を読んでいて、終盤に差し掛かった時俺は違和感を感じた。

()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

これはどういうことだ?ここから先は文字が途切れていて全然読めなかったのだが、確信できるのはこの2人に問題が発生したという事だ。

読み終えた俺は永琳に資料を渡すと永琳が次に口にした言葉は俺を驚愕させるのには十分な理由だった。

 

 

「この2人の会話を特定して、調べてみたのだけれど先日人里であった()()()()()()()2()()()()()()()()あったわよね?あそこ着物屋だったのよ」

 

「着物屋…だと!?」

 

「着物屋はそこだけじゃなくまだ数店舗あるのだけれど2人で経営しているのはあそこだけだったのよ、まだあの事件は明け方だったし、みんな寝静まっているはず、恐らく開店前の仕込み中にやられたという事」

 

「つまり…俺はその死んだ2人の魂を頭の中で留めているということか?」

 

「いや…それは違うわ、もし2人の魂を留めているのだとしたらどちらかの魂が暴走して貴方の精神を乗っ取る…それこそ多重人格になるわ、新しいスペルカードを使ってから死んだ人の会話が頭の中で流れる…貴方そのスペルカードのきっかけで()()()()()を得たのかもしれないわね」

 

「新しい能力…?」

 

「『想いを力に変える程度の能力』の副作用と言ってもいいかもしれないわ恐らくこれは死んだ人にしか効果がないのかもしれないわ」

 

「その能力は…?」

 

 

永琳は少し考えると直ぐに結論を出すと光の目を見て答えた。

 

 

「そうね…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と言う所かしら」



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束の間の休息と襲いかかる脅威

今回はようやく敵キャラを投入出来そうです。
ここからうまく展開できるかなぁ〜
まぁあまり期待はしないでください。


永琳から睡眠薬を貰い永遠亭を後にした俺達は紅魔館へと帰っていた。

俺は新たな能力について考え込んでいた。

『死んだ人の想いや記憶を読み取る程度の能力』…名前からして戦闘向けではないからおそらく元の能力、『想いを力に変える程度の能力』の副産物のようなものだろう。

以前紫から能力には複数扱う人も居るから新しい能力に目覚めても不思議ではないと言われている。

霊夢やアリスも能力を複数持ってるらしい、さてこの能力名前通り死んだ人の想いや記憶を読み取るだけなんだろうな、死人に口なしというがそれを覆してきたな…

うーん、まだ本体の方の能力も使い切れてない中新しい能力に目覚めてしまうとは…しかもこれ死んだ人限定だから鍛錬しようにも出来ないんだよな…

まずはどれくらい死者の想いや記憶を読み取れるか試したいし…紫に頼んで冥界まで行くか…?

あー考えるだけで疲れてくるな、まともに睡眠取れてないしいつ倒れるか分かんねぇな…とりあえず永琳から処方された睡眠薬でなんとかするか。

 

 

「……さん……光さん!」

 

「うおぉ!…どうしたんですか咲夜さん」

 

 

能力について悩み苦しんでいると咲夜さんから突然名前を呼ばれて思わずおかしな声が出てしまった。

 

 

「いえ…凄く眉間にシワを寄せて悩んでいたので何度か声をかけたのですが…寝不足なのにそんなに考え込んでしまっては倒れてしまいます」

 

「あ、あぁ…すいませんまだ元の能力の方もまともに扱えてないのでまた厄介な事になったなと」

 

「確か…『死んだ人の想いや記憶を読み取る程度の能力』ですよね?」

 

「そうですね名前の通り死んだ人の想いや記憶を読み取ってそれを解析するような感じだと思いますよ」

 

「…なんだか不吉ですね」

 

「どうしてですか?」

 

「だって解析する反面その人が死ぬ寸前の言葉とかを明確に読み取れるって事ですよね…そんな事何度も繰り返してたらトラウマになりかねないですよ」

 

「あー…」

 

 

なるほどそういう事もあるのか…確かに頻繁にトラウマレベルの光景目の当たりにしてたらメンタル鋼でも耐えられんだろうな、まぁそういう事にならないためにも俺はこの能力を扱わないといけないんだけどな、咲夜さんはそういう事も考えて心配してくれたのか?それが嘘なのか真なのかまだ分からないが、真だとして咲夜さんの人柄が出てるな。

 

 

「そうならないためにも俺はこの能力を扱わないといけないんですよ、大丈夫です俺はそんな簡単に精神的にまいったりしませんよ」

 

 

とは言ったものの結局死んだ人の想いや記憶を実際に読み取らないと扱うにも扱えないし、力に変える方は物理だからまだ鍛錬出来たけど、これはどうしようもないんだよな…

 

 

「とりあえず人里で起きた着物屋の事件で試してみるかーーー」

 

「ダメです光さん」

 

 

能力の目覚めのきっかけでもある着物屋にでも言って試してみようかと思ったが、案の定速攻で咲夜さんに睨まれながら反対された。

 

 

「ど、どうしてですか?」

 

「先程言いましたよね?もしトラウマにでもなったら大変な事になりますし、それに今日あなたは不眠が原因で永遠亭に行ってるんです、急ぎたい気持ちは分かりますが身体を壊して倒れてしまっては意味がありません」

 

「うぐ…」

 

 

ぐうの音も出ねぇ…

 

 

「今日は安静にしてください、丁度お昼ですし能力の事は忘れてまずは人里でお昼でも食べてリフレッシュしましょう」

 

「…分かりましたではお言葉に甘えさせてもらいます」

 

「はい!」

 

 

そして俺達は人里にある一番人気の天ぷら屋さんへと足を運んだのだった。

 

 

「そういえば咲夜さん、紅魔館の方は大丈夫なんですか?」

 

「と言いますと?」

 

「ほら…料理とか」

 

「あー…それなら大丈夫ですよ、それに私は今休暇中なので仕事出来ません」

 

「咲夜さん以外に料理できる人いるんですか…」

 

「私が紅魔館に仕える前までは美鈴が担当していたので心配しないでください」

 

「あの居眠り娘が…」

 

「それに以前お嬢様から休暇を貰った時にお昼になったので食事の準備をしていたらお嬢様に凄く怒られたんですよ?お嬢様あれでも滅多に怒らない方なので驚きました」

 

 

確かにレミリアが怒るイメージあんまりないな、常に穏やか…なのか?あれは、常に冷静って言うべきかそんなレミリアから怒られて驚くって相当なんだろうな、それほどにレミリアにとって咲夜さんは大切な従者なんだな

 

 

「大切にしてるんですね咲夜さんの事」

 

「はい私にとってこれ以上の幸せはごさまいません」

 

「はは…そうですか」

 

 

そう返す咲夜さんは凄く幸せそうな顔をしていた。

それに釣られて俺も少し微笑んだ。

すると咲夜さんは

 

 

「光さんもそんな日が来ます」

 

「…え?」

 

「光さんも()()()()()()()()()()()が来ますよ」

 

「……」

 

 

そんな事言われるとは思わなかったな、()()()以来

だなそう言う奴と出会うなんて。

…俺には縁のない話だ、もう幸せになんてなれねぇよ

 

 

「あ…すいませんお気を悪くしましたか?」

 

「へ?あ!いやいやとんでもないですよ!ありがとうございます咲夜さん」

 

 

…っと俺はなんとか咲夜さんを不安にさせない為にも作り笑顔で返したが、咲夜さんにとっては痛々しい笑顔に見えただろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・

 

 

「これが今日の買い出しのリストですよろしくお願いします」

 

「了解」

 

 

1週間後、永琳から貰った睡眠薬のお陰で大分調子も戻ってきた俺は咲夜さんから買い出しを頼まれた。

今日は魚料理か、トッピング類はおまかせだし、大根おろしにでもするか

そう思った俺はすぐさま人里へと向かった。

すると…

 

 

「あれ?光?」

 

「ん…アリスか」

 

 

丁度裁縫関連のお店に立ち寄っていたアリスとばったり遭遇した。

 

 

「その紙と買い物袋からして買い出しかしら?」

 

「まぁな、今日は魚料理だしついでに大根でも買おうかなって」

 

「大根?」

 

「あぁ大根をすりおろしたのを焼いた魚と食べるとまぁー美味しいんだわ」

 

「へぇ〜…今度試してみようかしら」

 

「…それでアリスは何してんだ?」

 

「私は針の仕入れ、人形作る時の針が使い込みで折れちゃってね」

 

「そうか、相変わらず人形が好きなんだな」

 

「まぁね」

 

「それじゃ俺はパパッと買い出し終わらせてくるわ」

 

「あ、待って光」

 

「ん?」

 

「これ…」

 

 

するとアリスからひとつの紙袋を渡された。

 

 

「…これは?」

 

「なんだか嫌な予感がするの…買い出し終わっても帰りには気をつけていざとなったら使ってきっと助けてくれると思うから」

 

「…分かった貰っとくよ」

 

 

じゃよろしくね、と言ったアリスはそのまま立ち去った。

中身を見ると普通の人形だった。

アリスの手作りだ、いざとなったら使えと言われたが…まぁその時はその時だ。

とりあえず買い出し終わらせるか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・

 

買い出しを終えた俺は紅魔館へと帰路を進んでいた。

アリスから帰りには気をつけろと言われているが…特に何も起きる気配がない。

いったい嫌な予感とはなんだったのか。

 

 

「…まぁいいやさっさと帰って咲夜さんにこの秋刀魚の塩焼き大根おろしトッピングにしてもらおっと」

 

 

そう思った俺は走って帰ろうとしたその時だった。

真横から何かが迫ってくる気配を感じ、後ろに軽く飛ぶとそこへ綺麗にへし折られた木が飛んできた。

 

 

「…木!?」

 

「やはり簡単には倒せねぇか」

 

 

声のする方へ顔を向けると先程木が飛んできた場所からフードを被って黒いマントを着た男が歩いてきた。

 

 

「…お前誰だ?」

 

「俺は国山 威(くにやま たけし)()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「…てめぇが例の幻想郷を狙う奴らか」

 

「やはりあのスキマ妖怪から情報は漏れていたか…お前…名は雨天 光だったな?」

 

「それがどうした」

 

「英雄になり損ねたようだな、ここで殺させてもらう!」

 

「上等だやってみろ!」

 

 

そう叫んだ俺は刀を出現させ地を蹴った。

これが俺にとって最初の敵との対戦となったのだった。

 



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VS国山 威

8月も終わってしまいましたね、皆さんは夏休みどうでしたか?
私は夏休みというかお盆休みなのでずっと家で寝てました(笑)
今回は戦闘回です。


俺は刀を出現させると、国山に斬りつけた。

国山は体を反らして回避すると、その勢いに乗って俺の背中に蹴りを入れた。

食らった俺はそのまま地面に叩きつけられるが、すぐに体を横に転がして国山の追い討ちを回避した。

立ち上がった俺は刀を握り直して態勢を低くすると走り出した。

国山は俺の頭を地面に叩きつける構えをすると、そのまま振り下ろしたが、俺はそれをジャンプして体をひねらせて回避するとそのまま国山の項に刀を振り下ろした。

しかし。

 

 

ガキンッ

 

 

刀の距離からして項は確実に捉えていたが、手応えは鋼のようなものを鉄の棒で殴ったような硬い感触だった。

黒いマントを着ているため中がどうなっているのか分からないが、おそらく急所は鎧で包まれているのだろう。

俺はそのまま着地したと同時に国山の背中に更に3回、斬りつけた。

しかし、またしても同じ感触だ。

ならばと脇腹に突きを1発放つが、またもや金属同士がぶつかる音が聞こえる。

その分攻撃した威力が自分に返って響き、両手が痺れた。

このままだと俺が消耗するだけなので、一旦距離を取った。

 

 

「それがお前の全力か?幻想郷の英雄よ」

 

「んなわけねぇだろ…そのお前の余裕もすぐに消え失せるぞ」

 

「口だけは威勢がいいな、良いだろうお前の斬撃でこのマントも邪魔だ俺の姿を見せてやろう」

 

 

国山はそう言うとマントを勢いよく投棄てると俺の前にその真の姿を見せた。

その姿は丸刈りと大きく張った胸筋に片手で林檎を潰せそうなほど鍛え上げられた腕、パンパンに膨れ上がり血管が浮き出ている足。

まとめて言えば国山はマッチョだった。

シャツとズボンが今にでも張り裂けそうなほどキツくなっていてあれの拳をくらったらひとたまりもないだろう。

だか、俺は国山の姿を見て1つ疑問に思った。

()()()()()()()()()()()()()…?

確かに俺はこの刀でやつの体を斬りつけた。

いくら鍛えていたとしても元は肉の塊だ。

斬りつければ切り傷も残るし血も出るはずだ。

何より俺の持っている刀はそのら辺にある一般の刀とはひと味違う。

ならば奴はどうやって俺の斬撃を受け止めたのか。

おそらく能力か何かか、奴も能力者だということか。

どっちみち姿を見せたからにはもう一度やるしかないか…!

俺は再び態勢を低くして地を蹴ると、国山の背中に回り込んだ。

そして刀を振り下ろした…が国山の右腕により受け止められる。

そこで俺は目の当たりにした。

()()()()

それは国山の腕と俺の刀が接触した部分に()()()()()()()が張っていたのだ。

おそらく、奴は()()()()()()()()()()()()()()()()なのだろう。

俺は、ならばと更に脇腹を斬りつけるも、そこも硬化させられてしまった。

 

 

「残念だったな、2人相手ならともかくお前1人ならば俺を倒すどころか傷一つ付ける事は出来ない」

 

 

そう言った国山は硬化した片足で俺の脇腹を蹴り上げた。

段々と身体に衝撃が走り、顔をしかめる。

いくら能力者とは言え腐っても人間だ。

こんな攻撃食らえば骨が折れるどころか呼吸困難で死んでしまう。

俺は強く気を持ち距離を置くと木の後ろに隠れ、呼吸を整えた。

やつの攻撃を見るかぎり、俺の脇腹を蹴りあげる際、腕の硬化を解いていた。

おそらく奴は体の一部しか硬化出来ないのだろう。

全身を硬化させることも出来るが、それなりのデメリットがあるはずだ。

「2人相手ならともかく」というのはそういう事なのだろう。

とりあえず、誰か呼ばなければならないのだが、そう簡単には通り抜けられないだろう。

先程の受けた攻撃で肋骨が折れてしまったのだから。

運が良ければ自力で抜け出す事が出来るかもしれない、しかしそんな確率は1割に等しいだろう。

行動できる範囲も限られてくるし、絶体絶命というわけだ。

途方に暮れていた俺はポケットの違和感に気づいた。

 

 

「これは…!」

 

 

ポケットから取り出した俺はまるで砂漠で喉が渇いていて、諦めかけていた時にオアシスに出会った時のように、絶望から少しの希望が見えたのだ。

これからいけるかもしれない、あいつが脳筋なら良いが…。

試してみる価値はある…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・

 

 

「隠れても無駄だぞ、お前の隠れている場所なんざ、こうやればすぐに見つかる!」

 

 

木々を片腕でなぎ倒しながら歩く国山はそう叫んだ。

俺は考えているのも時間の問題だと思い、潔く姿を見せた。

 

 

「自分から姿を見せるとは…死を覚悟したか?」

 

「寝言は寝て言え、てめぇの首元掻っ切るぞ」

 

「ふん…喚け!」

 

 

そう言うと国山は地を蹴り距離を詰めるとそのまま硬化した足で蹴り飛ばした。

それを刀でいなすと今度は右腕を振り下ろしてきた。

俺は横に飛んで回避すると顔面に蹴りを入れた。

しかし、国山は能力を使って防御する。

なるほど、顔面も硬化できるのか。

蹴りを入れた片足を軸にもう片方の足で国山の腕を土台に飛ぶと後ろに下がった。

地面に着地する直前に国山が突っ込んできたが、体をひねらせて国山の顔面を回し蹴りで攻撃する、と見せかけて足の裏を国山の頭に付けると今度は横に飛んで避けた。

そして態勢を低くしてから地を滑るように突っ込むと国山の足を刀で払った。

すると国山の右足に手応えを感じた。

硬化が間に合わなかったな…!

よしと思った俺はそのまま切り傷に蹴りを入れた。

すると国山が痛みに耐えるような呻き声を上げるとバランスを崩した。

ついに勝ち筋が見えた俺は逃さぬとスペルカードを発動した。

 

 

 

〜蝶符「妖刀・千子村正」~

 

 

 

「これで一気に叩く…!」

 

 

俺はバランスを崩した国山が地に倒れる前に斬撃を放った。

…が、聞こえたのは肉が裂ける音ではなく嫌でも聞こえてしまう金属音だった。

 

 

「正直俺にダメージを与えた事は褒めてやる…だが」

 

 

視界に入ったのは全身白銀に包まれて、太陽の光で輝いている国山の姿だった。

 

 

「俺の能力は体の1部を硬化させることも出来るが…こうやって今お前と俺だけならば、全身を硬化させて完全防御しても問題ないだろ?」

 

「な…!?」

 

 

全身を鋼のように硬くした国山は地面に身体が着いた瞬間大きな岩が落ちた時と同じような着地音をしていた。

俺はこのままではまずいと後ろに下がろうとしたが。

 

 

「遅い、ようやくこれで大人しくできる」

 

 

国山がいつ折ったのか分からない木が俺目がけて倒れ、そのまま下敷きになってしまった。

俺はもがいて抜け出そうとするも、綺麗にハマってしまっているのか全く身体が前に進まなかった。

 

 

「もがいても無駄だ下半身を完全に押さえつけている、幸いお前の体が潰れないように工夫はしているが、同時に抜け出せないようにしている」

 

「ちっ…!」

 

 

そうしているうちに国山が全身の硬化を解いて俺の方へ歩いてきた。

なるほど、鋼となれば力加減をして木々を彫刻のように加工することも出来るわけか。

 

 

「さて…これでお前は俺に屈辱を与えられて殺される訳だが、最後に言う言葉はあるか?」

 

 

右足を硬化させた国山は俺の頭に向けるとそう言った。

これで俺は頭を潰されて死ぬんだな。

だがまぁこれだけ()()()()()()()()もうすぐ到着する頃だろう。

こいつは俺との戦いに夢中で他のことに気づかなかったんだな…策にはまったとでも言うべきか

そう考えると俺は笑いが止まらなかった。

 

 

「…っハハハハハハ!!」

 

「死の恐怖でついに気が狂ったか?」

 

「いや…あまりにもお前が脳筋バカ過ぎてな笑っちまったよ」

 

「どういう意味だ?」

 

「そのままの意味だよ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()能力の割には脳筋バカなんだなお前は」

 

「何を言うのかと思えば負け犬の遠吠えか…まぁいい、本当はもっといたぶってやりたいところだが、時間が惜しい。特別にお前は苦しまずに殺してやる」

 

 

国山は俺の頭に向けている右足に力を入れた。

 

 

「それじゃああの世で幻想郷の奴らと仲良くしろよ」

 

 

そう言った瞬間俺の視界は真っ暗になったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーー…と言うとでも思ったか?

 

 

「なっ…!?これは…!」

 

 

国山は思わず1歩引いた、それもそのはず国山が潰した頭から、綿()()()()()()()のだから。

これは人里ですれ違ったアリスからいざと言う時にと貰った俺の姿形に変身する()()()()だったのだ。

そう…国山が途中から戦っていた敵は人形だったのだ。

それに気づかず国山はずっと本物だと思い込み、殺そうとしていたのだ。

そして、少し時間が経ってから国山は人形を粉々にすると殺気に塗れた顔で走り出した。

 

 

「面白い…雨天 光…お前はこの俺が絶対に殺す!」

 

 

国山は両腕を硬化させ、周りの木を薙ぎ倒しながら進み始めたのだ。

 

 

 

 



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VS国山 威②

残暑も無くなり、涼しい時期になってきましたね
今回も主な戦闘回になっております。


国山がすり替え人形と対戦している間の光は森の中を走り回っていた。

 

 

「(アリスのすり替え人形でどうにか時間稼ぎが出来てるが…破られのも時間の問題か…とにかくこの森の中を抜け出さねぇと…!)」

 

 

光は態勢を低くして更に速度を上げる、冬特有の冷たい風が体を強く打ち付け、鬱陶しく思える。

無我夢中に走り続けていると、木々の隙間から見覚えのある建物がチラチラと見えていた。

それを目印に走り続けた。

ようやく森を抜けると見えた建物は…

 

 

「紅魔館じゃねぇか…!」

 

 

実 家 の よ う な 安 心 感

道は分からなかったんだが、身体は紅魔館の方を向いていたのかもしれないな、ついに協力してくれる人を見つけた俺は安堵の表情を見せたがそれも束の間だった。

()()()()()()それも背後から、迫ってくるような感覚振り向けばそのまま吸い込まれそうだ。

俺はその気配が何なのかすぐに分かった。

国山がすり替え人形を破ったんだなと、このまま紅魔館の中へ入って誰かを連れていく間時間がかかる事になる。

そうなればこの迫ってくる気配は一瞬にして紅魔館に辿り着いてしまうだろう。

普通ならば再び逃げ回って隙を見て博麗神社や魔法の森に行ったりとするだろう。

だが光は紅魔館でやると決めた。

何故ならまだここで()()()()()()()()()()()()()()()()()()

俺はその紅魔館の門前で居眠りしている妖怪の横に立つと大きく息を吸った。

 

 

「起きろ!!!美鈴!!!咲夜さんにチクるぞ!!!」

 

「それだけはやめてください光さん!」

 

 

鼻ちょうちんを出していた門番はその鼻ちょうちんを割って光に迫った。

 

 

「あ、でも光さん買い出しかなり時間かかってますよね?私も貴方の弱みを握ってる訳ですが…」

 

「起きたか美鈴、ちょっと手を貸して欲しいんだ、詳しい話は…」

 

 

良しと見た光はジト目で見つめてくる美鈴に国山について話した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・

 

 

「分かりました、咲夜さんには私を良いように立ててくれるというなら喜んで協力させてもらいます!」

 

「悪いな巻き込んじまって」

 

「良いんですよ幻想郷の英雄として立ちはだかる壁です。手を貸さないわけにはいきません」

 

 

光は「そうか」と返事をして微笑んだ。

よし、これで美鈴を助っ人として出迎えられた。

国山も格闘系だ、拳術専門の美鈴なのが心強い。

さて…そう言ってるうちに迫ってきた気配が2人の前に姿を見せた。

 

 

「……見つけたぞ…雨天 光」

 

「俺を追うなら少し気配を消してきたらどうだ?」

 

「俺はお前を殺すためにこの幻想郷に来ている、気配を消す事など意味が無い」

 

「やけに余裕だな、こちとら最高級の協力者が居るのに」

 

「一人増えたところで戦況が変わることはない、俺のやることはひとつだけだ」

 

「ならそのやる事とやらを一瞬で折ってやるよ」

 

 

そう言うと光は美鈴を見て頷くと美鈴と同時に地を蹴った。

国山は両腕を硬化させると向かってくる2人に拳を振り下ろした。

それを2人は二手に分かれるように回避する。

しかし、国山はそれを狙っていた。

叩きつけた拳にさらに力を入れると、石礫を飛ばした。

揺れる地面と飛び散る石礫、光と美鈴はそれを上手くいなして回避するが、国山は光に拳を振り下ろしていた。

 

 

「ちっ…!邪魔くせぇ!」

 

 

光は刀を出現させて、受け止めるとそのまま体を回転させて回避し、国山の顔に斬撃を放った。

しかし国山は顔を硬化させて斬撃を弾くと背後から美鈴が回し蹴りをするも、硬化した腕で塞がれる。

ならばと美鈴は弾幕を放つが、国山は背後に生えている木を掴むと投げ飛ばして相殺する。

その間に後ろに回った光はがら空きになった背中を切りつけるが、これも硬化されてしまう。

すると美鈴は体勢を低くしてがら空きになった国山の足を払った。

バランスを崩した国山を見た光は今だとスペルカードを発動した。

 

 

 

 

〜蝶符「妖刀・千子村正」~

 

 

 

強化された刀でバランスを崩した国山に複数回切りつけた。

しかし、バランスが崩れて地に倒れる間に全身を硬化していた国山には全て弾かれてしまった。

光は更に切りつけようとしたが、美鈴から声をかけられ1度体制を立て直すため、森の中へ入った。

 

 

「私達の攻撃全部塞がれてしまっています、このままじゃ私達だけ一方的な消耗戦になりかねません」

 

「分かっているが…どうにか隙を見せられないものか?」

 

「私が国山を引き付けます。そこを叩いてください」

 

「だが、上手くいくものなのか?」

 

「私にいい考えがあります」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・

 

 

「…別れの言葉は済んだか?」

 

「それはこっちのセリフだ国山」

 

「いつまでも余裕ぶってると痛い目見ますよ…っと!」

 

 

美鈴は国山に弾幕を放った。

 

 

「無駄だ」

 

 

国山はそれを硬化した腕で薙ぎ払う。

その瞬間、薙ぎ払われた弾幕が分裂し、木々に当たると国山に向かって倒れ始めた。

国山は硬化した腕を使って払うと、発生した煙の中から弾幕が飛んできた。

なんとか回避しながら発生した煙の中から抜け出すが、真上に足を上げた美鈴が待っていた。

振り下ろされた美鈴の足を掴んでそのまま地面に叩きつけた。

そしてそのまま拳を叩き込んだ。

「カハッ!」と美鈴は言うと国山はニヤリと笑った。

更に拳を叩き込もうとした瞬間。

 

 

「背中が…がら空きだぞ脳筋野郎…」

 

 

背後から怒りの篭もった声が聞こえた瞬間。

国山は背中に熱いものを感じた。

それは斬撃だった。

硬化されていなかった国山の背中に斬撃が当たったのだ。

少し経つと激痛が全身に走り、国山はそのまま転がるようにして距離を取った。

 

 

「っあああああああ!!!」

 

 

ついに国山に攻撃が当たったのだ。

美鈴に夢中になっていた国山は光の存在を忘れてしまっていたのだ。

国山の背中からは酷く出血していて、呼吸も荒くなっていた。

光はそんな国山よりも横たわっている美鈴に駆け寄った。

 

 

「美鈴大丈夫か?」

 

「えぇ…1発良いのくらいましたけど…光さんやりましたね…」

 

「お前は少し休んでろ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なんて無茶の極みだ腹に穴あいてたらどうするんだ」

 

「その時はその時ですよ少し経てば元に戻りますし」

 

「とにかくお前は安全なところで休め、ここからは俺だけだ」

 

 

美鈴は「はい」っと返事をするとそのまま大きな岩に寄りかかった。

光はそのまま睨みつけている国山を見るとゆっくりと歩み始めた。

 

 

「さっきまでの余裕の表情とは違って滑稽だな脳筋野郎」

 

「……」

 

「さて…今からお前は俺に切り刻まれながら死んでいく訳だが…その前にお前にはいくつか吐かせてもらうぞ()()の事を」

 

「……っ!」

 

 

 

すると国山はよろよろと立ち上がると泥だらけになったズボンのポケットから1()()()()()()を取り出した。

あれは幻想郷で言うスペルカード?と比べると少し特殊な絵柄をしている。

光はそう考えていると国山は。

 

 

「……フフフ仲間の事を吐くくらいなら死んだ方がマシだ…だから俺はこのカード…()()()()使()()!」

 

 

そう言うと国山のカードが光り始めた。

その光は国山を包むと、みるみるうちに背中の傷が無くなっていった。

そして包まれた光が吹き飛ぶと、そこには肉体がみずみずしい果実のような程光っていて、全身から湯気が出ていた。

この姿外の世界では「ギ○2」と呼ばれるやつだ。

これ完全にそうだ。

そして国山はそのまま顔をゆっくりとあげると光を狂気の目で睨みつけた。

 

 

「さぁ…俺とお前のタイマンだ…来い!」

 

 

そう言うと国山は地を蹴った。

地を蹴った部分は大きくえぐれていた。

マジかよ…ついにまともに攻撃が当たったと思ったら…隠し球かよ…。

光はため息をついた後地を蹴ったのだった。



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VS 国山 威 XI STRENGTH.

台風19号凄かったですね私の住んでるところも雨が降りまくりで川が決壊したりしましたよ
それはさておき今回で国山戦は終わりです。
終始幼稚な文章ですが、楽しんでいただけると幸いです。
では、どうぞ



謎のカードにより強化した国山に光は斬撃を放つ、国山は走りながら硬化させた腕で弾くと、そのままもう片方の腕で木を掴むと光に叩きつけた。

光は横飛びをして回避するとそのまま前に飛んで国山の頭に突きをしたが、国山は片手で刀を掴むとそのまま地面に振り落とすが、光は受け身をとり、国山の足元に蹴りを入れるとバランスを崩し、掴んでいた刀を離した。

光は刀を取り、そのまま刀を振り下ろしたが国山は倒れた状態で地面に手を着いてバク転すると硬化した足で光の刀をかち上げた。

国山はさらにがら空きになった光の脇腹に蹴りを入れた。

光は刀で地面を切り付けると砂埃を発生させて身を潜めた。

折れている肋骨の部分にダメージが入り光も後ろに下がざるおえなかった。

 

 

「(っ…!まだあいつの背中に切り傷さえ残っていれば五分五分だったが…恐らくあいつはあのかち上げからして、傷が治った上に身体能力も強化されている…ならば!)」

 

「隠れても無駄だ、俺の蹴りで既にお前の肋骨が折れている事は知っている。お前が死ぬのは時間の問題だ!」

 

 

国山はそう言うと両腕で木々を掴むとプロペラのように回転して砂埃を消し飛ばした。

砂埃が晴れると真後ろから気配を感じると、回転しながらそのまま木を振り回した。

直後、国山は木の先端から伝ってくる殴り飛ばした感覚を感じたが、それは国山がなぎ倒した木で、光ではなかった。

そして次の瞬間後ろから風を切る音が聞こえ国山は瞬間的に硬化させた足で受け止めた。

ガキンッという音と共に刀を振り下ろしていた光の姿だった。

 

 

「惜しかったなだが今のお前では俺には勝てないどんな手を使っても…な!」

 

 

国山はそのまま受け止めた足で払うと光は地を転がりながら飛ばされてしまった。

ヨロヨロと立ち上がると、再び砂埃を発生させて身を潜める。

国山も体を回転させて砂埃を消し飛ばし、背後から迫る光の斬撃を受け止め、そのまま蹴り飛ばす。

光は刀を使って速度を落とすと、体勢を低くして地を蹴り、国山の顔を切りつけるが硬化されて弾かれてしまう。

しかし、真後ろから自分が暴れたことにより倒れかけた木が悲鳴をあげ、国山の方目がけて倒れてきたが、国山は再び腕を硬化して破壊した。

次に光は木に登り、斬撃を放ちながら次の木へと乗り移りながら国山の隙を伺った。

若干のイラつきを見せた国山は倒れた木を光に投げると乗り移った木に直撃し、そのまま倒れ、光は地に足を付けたと同時に国山は地を蹴り、光に硬化させた拳で殴り飛ばした。

光は殴られた衝撃でそのまま吹き飛ばされ、木を何本も身体に打ち付けてそのまま動かず倒れてしまう。

その際木が倒れて砂埃がまた発生する。

国山は腕を振り回して砂埃を消し飛ばすと、光の姿はなく少し周りを見渡した瞬間、背後から気配を感じ体を回転させたまま硬化させた拳でその気配に食らわせた。

その気配はそのまま吹き飛ばされて、転がり落ちる音が聞こえた。

 

 

「俺の前では無駄な足掻きだったな雨天 光」

 

 

国山はビクともしない人影に向かって話しかけるとそのまま歩み寄った。

しかし国山は次に人影を見て驚く事になる何故ならこの時国山は()()()()()()()()()()()()()()

さらにそれがこの戦況を大きく変えるきっかけにもなるということも。

 

 

「いったぁ…やっぱり強化されてると効くところはありますねぇ…」

 

 

そこには雨天 光ではなく紅魔館の門番が服に着いた汚れを払いながら立っていたのだ。

 

 

「な…何故だ!何故お前が居る!確かにあの時腹部に拳を叩き込んだはずでは!」

 

「そりゃ…私だって妖怪なんですよ?時間も経てば動けるくらいにまで回復はできます」

 

 

そう、国山は光ではなく、先程倒したと思っていた美鈴を攻撃していたのだ。

 

 

「それよりも…私の事で考えてるとは思いますが…そんな暇無いのでは?」

 

「…っ!しまっーーーー」

 

「お前の倒したかった奴は…こいつかぁ!!!」

 

 

瞬間国山の脇腹に何かが横切る感覚が全身を伝って、それが痛みになったのだった。

 

 

「ぅぅぅぅぅぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

国山は痛みに耐えられず暴れるように両腕を振り回して2人と距離を置いた。

左脇腹には痛々しい切り傷があり、そこから血が出ていた。

 

 

「まさか…2度俺に傷を付けるとはな…」

 

「お前がバカなおかげで時間稼ぎが出来たぜ…傷だらけになったがな」

 

「だが…傷一つつけた所でお前のそのボロボロの身体じゃ消耗が激しいんじゃないか?」

 

「…言ってろこういう場面だからこそ俺の()()のお出ましという訳だ」

 

「…なに?」

 

「美鈴!お前の「想い」貰うぞ!」

 

「はい!」

 

 

 

 

〜記符「アブソリュート・イメージ」〜

 

 

 

スペルカードを発動した俺は美鈴の想いを取り込んだ。

国山も両腕を硬化させて構えると、お互いに地を蹴った。

俺はそのまま真正面から刀を振り下ろした。

 

 

「血迷ったか!?何度も弾かれているのに無様だな!」

 

 

嘲笑いながら走る国山は硬化させた腕で受け止めた。

 

 

「このままもう片方の腕で…お前の頭を………?」

 

 

しかしこの瞬間国山の余裕な表情は一瞬にして焦りの表情に変わるのだった。

ピキッと音が鳴ると国山の硬化させた部分にヒビが入った。

 

 

「なんだと!?」

 

「気づいていないのか?傷の痛み…それが能力の弱体化に繋がってんだよ…そこに美鈴の気を使う程度の能力が加われば…!」

 

 

光はそのまま刀に力を集中させるとみるみるうちにヒビが広がり最後は

 

 

 

バリンッ

 

 

生身を晒した国山の片腕は軽々と切断された。

 

 

「あ…っがあああああああああああああああああ!!!」

 

 

切断面から大量に血が吹き出し、汗が流れた。

叫び声は幻想郷に響いたであろう。

更に光は突きの構えを見せると思いっきり地を蹴った。

 

 

「これで終わりだ!」

 

「舐めるなあああああああああああああ!!!!」

 

 

そして国山は血走った目で硬化させたもう片方の腕を振り下ろした。

…がそれよりも早く光の刀が国山の胸を貫いたのだった。

 

 

「ガッ…!」

 

 

光はそのまま刀を抜くと国山の胸から血を吹き出し、国山はゆっくりと体を傾け、最後は身体が光だし粒となって散った。

そして後ろから美鈴の声が聞こえたが、まともに聞く気力もなく、俺はそのまま後ろに倒れたが、美鈴がなんとか受け止めた。

 

 

「光さん!大丈夫ですか!?」

 

「………俺の事はいい…とりあえず…早く紅魔館に…咲夜さんに頼まれた買い出し…届けないと…」

 

 

息を荒らげて言った光はそのまま意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()() ()()…まだ能力を得て日が浅いのによくやってくれたわね光」

 

 

次の日光と紫が国山について話していた。

 

 

「全く…散々な目にあった…」

 

「これでもっと強くならないといけない理由が出来たわね」

 

「まぁな…本当はこんな所で寝てる暇はないんだが…咲夜さんに怒られるからなぁ…」

 

 

意識を手放した俺はそのまま美鈴に担がれて紅魔館に運ばれたらしいその後永遠亭に直行、治療後意識が戻り、永遠亭のベッドで寝ているわけだ。

そこへ紫が現れ今に至る。

 

 

「当たり前よそんな傷だらけの身体で無理すれば完治が長引くだけよ」

 

 

そこへ薬を持ってきた永琳が注意してきた。

 

 

「分かってる永琳にはまた手間をかける」

 

 

「気にしないで」と微笑んだ永琳はそのまま病室を出た。

 

 

「それで紫、国山が持っていた()()()はなんだったんだ?」

 

「あの後藍に頼んで調べてもらったわ、あれは外の世界で流通している()()()()()()()というものよ」

 

 

タロットカード?確か昔から伝わる占いに使われるカードの事か?

それがなんでこんな幻想郷に

 

 

「おそらくその国山という男に何者かがタロットカードに能力を宿して渡したのだと思うわ」

 

「なるほど…じゃあ他にも敵がいるとするとそいつらもタロットカード所持者なのか?」

 

「まだ1人だから断言は出来ないけど可能性はあるわ既に古びた紙切れになってしまったから力はもうないけど」

 

「タロットカードって事は名称がある訳だよな?国山のタロットカードは何だったんだ?」

 

「11番のSTRENGTH.(ストレングス(力))よ」

 

 

これはまだまだ敵は沢山いるように感じるなぁ…

光はめんどくせぇ…と一言呟き、窓の外を見たのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・

 

 

「国山が敗れました。」

 

「雨天 光君なかなか良い戦いぶりだったねー♪」

 

「あまりにも呆気ない負け方だったな…あれが本当にSTRENGTH.の使い手なのか?」

 

「確かに呆気なかったけど国山君は頑張ったんだ!彼の死は無駄にはしないさ!」

 

「貴様はただ単に楽しみたいだけだろ」

 

「まぁ落ち着け、まだ切り札はいくらでもある。我々の計画はこれからだ」

 

 

 




次回は日常話になると思います。


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タロットカード

はいどうも肌荒れが気になるこの季節
2019年も残り2ヶ月を切りましたね、さて今回は前回予告した通り日常編となります。


数日後博麗神社で、国山とそのタロットカードについて霊夢と紫が話していた。

 

 

「身体の一部を硬化させる能力…それが例のSTRENGTH.()というタロットカードに宿っていた能力ね?」

 

「大体は合ってるわ人里で岩の下敷きになった着物屋の犯人も同じだと思ってもいいわ」

 

「なるほどね…腕とか強化して木々とか重いものを持ち上げれることが出来るのは美鈴から聞いたし、確証は得られるわ…これで1件略着かしら?」

 

「あとは…()()()()かしら霊夢?」

 

「………」

 

 

そう、国山を倒したからと言ってこの件は一段落とはいかない。

その事件と同時にもう1つ、妖怪の山でも天狗達が数名不審死を遂げている話だ。

特にその不審死を遂げた天狗達の状態が不気味だった。

それは、全員()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()からだ。

国山なら硬化させた腕などで背後から腹部を貫通させて殺していそうだからすぐにわかるが、その不審死した天狗全員が揃って同じ時間に食欲不振や睡眠不足を訴え始めたのだ。

国山の仕業とは思えない死に方をしていると言うわけだ。

結論からすれば、既に国山の他にもこの幻想郷に。

 

 

「…タロットカードを所持した能力者が複数人この幻想郷に居るという事かしら?」

 

「そういう事よ、とりあえず私は藍と一緒に幻想郷全体を監視するから何かあったら知らせるわ」

 

「…私は光の様子を見に行こうかしら」

 

「あら、普段他人に無関心の貴女が珍しいわね」

 

「うるさいわね退治されたいのかしら?」

 

「はいはい素直に体を張って頑張ってくれた英雄さんが心配だからって言えばいいのに♪」

 

「紫ぃぃぃぃぃ!!!」

 

 

霊夢は顔を真っ赤にしてお祓い棒を紫に振り下ろしたが一足先に紫はスキマの中へと消えていったのだった。

 

 

「…あの大妖怪覚えときなさいよ…」

 

 

霊夢はため息をついたあと永遠亭へと空を飛んだのだった。

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・

 

 

「……という事よ既にタロットカードの所持者がこの幻想郷に複数人いる可能性があるわ」

 

「なるほどねぇ…(モグモグ)」

 

「つまりSTRENGTH.の他にもタロットカードを持った者達がこの幻想郷でウロウロしていると言う事かしら?」

 

「…まぁそういう捉え方をしても良いわ…それで光?1つ聞きたい事があるんだけどーーー」

 

「あ、咲夜さんアップルパイ1つと紅茶お願い出来ますか?」

 

「はい、ご用意しますね」

 

「……1つ聞きたい事があるんだけれど光ーーー」

 

「そういえば美鈴はあの後大丈夫だったんですか?(モグモグ)」

 

「あの後永遠亭で応急処置だけしてその日のうちに紅魔館に戻ってきましたよ次の日にはすっかり元気になって門番をやってます」

 

「ちょっと!聞いてんーーー」

 

「流石妖怪様様だな」

 

「まぁ光さんのお見舞い行く際に早速寝てたのでかるーくお仕置きしておきましたけどね♪」

 

「おぉ…美鈴ご愁傷さまだな…」

 

「そろそろ私キレるわよ…アンタら私の話聞いてんのかしら!?」

 

 

シビレを切らした霊夢は咲夜と光にお祓い棒を向けた。

それに対して光は、なんだこいつめんどくせぇな という目線で答えた。

 

 

「…聞いてるようるせぇな…俺に話があるんだろ?さっさと話せよ」

 

「何よその態度……まぁいいわ話を戻すけど、このタロットカードって言うのは光の世界で流通していたのよね?」

 

「そうだな、俺が知ってる範囲ではタロットカードは流通していたぞ」

 

「それでアンタが知ってる範囲でこのタロットカードはどういう代物なのかしら?」

 

「まぁ基本的には占いや遊戯に使われるな、詳しく言えば78枚1組がもっとも一般的で、56枚の小アルカナと、寓意画が描かれた22枚の大アルカナに分けられるんだが、今回は寓意画が描かれたSTRENGTH.だから22枚の大アルカナに部類されるんだろうな」

 

「それで?その、小アルカナって言うのは何なのかしら?」

 

「…悪いが俺の住んでた世界では小アルカナは大アルカナより比較的認知度が低くてな一般後のタロットカードは大アルカナのみを指すことが多いんだ、だから小アルカナに関してはあまり知らないんだ」

 

「ふーん複雑なのね」

 

「つまりこの幻想郷に寓意画が描かれた大アルカナのタロットカードを所持した者がいるという訳ね」

 

「確証は無いけど、可能性としては十分よ」

 

「んで?その話が何に関連するんだ?」

 

「アンタ聞いてないの?妖怪の山の奇妙な異変」

 

「あー…確か腹を食い破られて死んだとかなんとか?」

 

「そうよ、国山にしては器用すぎるし何よりアイツは硬化が武器だから腹部を貫通させるとはいえあんな複数人相手に至難の業よ」

 

「まぁ…あいつの戦い方からして頭を潰す方が手っ取り早そうだったしな…そいつもタロットカードの力を借りてると言いたいのか?」

 

「流れからしてそう考えられるわ、何せ国山の出現と同時に起こった異変だし」

 

「そうだな…それで?その話をするってことは俺にその案件をやれってことか?」

 

「当たり前でしょ?なんの為に紫にお願いされてるのよ」

 

「あのな…こう見えて俺今肋骨折れてるわ咲夜さん永琳からストップかけられてるわお前から今すぐやれと言われて動けるわけねぇだろ」

 

「大丈夫よ、永琳に傷が治る薬でも投与されれば」

 

「それは私が許さないわよ霊夢、これでも光さんは人間なのよ?得体の知れない薬でも使われれば命に関わるかもしれないわ」

 

「そんなのやってみなきゃ分からないじゃない、保証はないけど」

 

 

えぇ…そんなに危険なのかよ…霊夢はよくもまぁ平気で言えたもんだ。

そもそも出会って間もない奴からの薬なんて頼むことも無ければ飲む気もないだろ。

本当に医者なのかまだ分からないし、毒物が入ってる薬飲まされた日にはたまったもんじゃねぇ。

 

 

「…悪いが俺はそんな薬に頼るつもりは無い。そもそも異変解決の専門家はお前だろ?だったらお前がやればいいだろ」

 

「アンタねぇ…私が解決出来てたらこんな話してないわよ、解決したいのは山々だけど、残念ながらこの広い広い幻想郷で目印もない状態で虱潰しに行って気づいた時には遅かったなんてなったら大問題なのよ」

 

「つっても俺だってそれに関しては全く知らないんだが」

 

「何もアンタ1人でやれとは言わないわ、私だけじゃない、紫もそれに関しては目付けてるし色々と協力してくれると思うわ」

 

「それが本当かどうかは知らねぇがとにかく今の俺は怪我人って言う事は覚えておけよ今は無理だ」

 

「私からもお願いするわ霊夢」

 

「……分かったわよ、紫も監視してるって言うし何か起これば何かしら対策はしてくれると思うけど…」

 

「…助かる」

 

「その代わり!治ったら直ぐに出るわよ、いいね!?」

 

「はいはい」

 

 

そう言うと霊夢は病室を後にした。

長話をしたせいで終えた後にとてつもない脱力感に襲われた。

 

 

「霊夢も頑固ですけどそれ以上に幻想郷を守りたい気持ちは大きいので大目に見てください」

 

「…そうですね紫と霊夢も協力するとは言ってましたし何かあればあの二人が何とかするとは思います」

 

「その件に関してなんですけど…私もご一緒してもよろしいでしょうか?」

 

 

咲夜さんがそんな事言うとはびっくり。

ちょっと動揺してしまった。

 

 

「……いや、咲夜さんはレミリアの方をよろしくお願いしますもしもレミリア達に何かあってしまえば大変なので」

 

「…分かりました」

 

 

少し不服そうに見えたが、その後表情を切り替えて了承してくれた。

ふと病室の窓を見ると既に日が落ち、月が幻想郷を照らしていた。

咲夜さんも夜になったことに気づいたのか立ち上がった。

 

 

「そろそろご夕飯の支度をしないといけませんね。」

 

「そうですね、わざわざお見舞いに来てくれてありがとうございましたアップルパイ美味しかったです」

 

「それは良かったです。改めて顔を出します。くれぐれも無理はなさらないでください。」

 

「分かってます。ちゃんと安静にしていますから」

 

 

咲夜さんは微笑むとそのまま病室を出たのだった。

そして入れ違うかのようにドアがノックされ、鈴仙が顔を出した。

 

 

「具合の方は大丈夫ですか?夕飯の用意が出来たので呼びに来ました」

 

「あぁ…悪いな鈴仙わざわざ来てもらって…今行く」

 

 

そう答えると俺は松葉杖を使ってベッドから立ち上がり、病室を後にした。

 

 

 

 




次回は再び戦闘回になると思います。
急展開ですいません、これしか考えつくストーリーが無いんです。


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原因が分からないほど嫌な予感は的中する

どうも、最近ポケモンにハマっていて気分転換で書きました。
前回戦闘回だとかなんとか言ってましたけど展開的に無理でした。
すいません。


2週間後、光は退院した。

迎えに行った咲夜と共に紅魔館に戻っては早速フランに抱きつかれて明らかに嫌そうな顔をしていた。

仕方なく、パチェに頼んで光からフランを引き剥がした。

そして紅魔館に戻ってきた光を盛大に祝った。

本人はあまり乗り気じゃなかったけど、それなりに楽しんだとは思うわ。

彼の態度とか見てみるとまだ私達の事を信じていないのかもしれないわね、まぁ過去に相当な事があって人間不信になった訳だし、長い目で見るとしよう。

とはいえ咲夜の負担を減らすために手伝いとかやってるし根は優しいのかもしれないわね。

…さてと寝間着から着替えて朝食の時間になったのだけれど、そろそろ咲夜が来るんじゃないかしら?

 

 

「お嬢様朝食のご用意ができました」

 

「今行くわ」

 

 

ノックをしてからドア越しに聞こえる咲夜の声、いつも通りの日常が始まる。

……と言いたかったのだけれどね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

「ん?咲夜さん今日も美鈴の朝食少なめにしてるんですか」

 

「そうですねここの所()()()()()()()言ってまして、私も脅しながら無理矢理食べさせてたんですけどなかなか改善されないんですよね彼女自身風邪を引かないですし困りました。」

 

 

今しれっと残酷な事言ったよなこの人。

とはいえ確かに今日の朝門番に行く前も特に何か変わった様子もなかったし、食欲がないと言われても疑うだろうな。

 

 

「…咲夜さん今日は俺が美鈴の朝食持っていきますよ」

 

 

美鈴について詳しく話を聞くために俺は咲夜さんから美鈴の朝食を受け取った。

というか重っ両手で持てるでかい皿に握り飯何個積んでんだよこれで食欲ないのかよ…咲夜さんめちゃくちゃ力持ちじゃねぇか同じ人間とは思えねぇ、これはもっと鍛えないとダメだな。

そう思った俺は何とか門の所まで持っていき、番をしている美鈴の所までたどり着いた。

紅魔館の扉開ける時に片手で皿持った時は腕持ってかれると思った。

 

 

「ありがとうございます光さんもう怪我の方は大丈夫なんですか?」

 

「闇医者でも手厚く治療してくれたお陰で何不自由無くやらせてもらってるよ」

 

「それは良かったです」

 

「…それより美鈴ひとつ聞きたいことがあるんだが」

 

「はい?」

 

「咲夜さんから聞いたんだが…お前最近食欲が無いらしいな」

 

「あー…」

 

「悪いこういうの女の人に聞くのは失礼だって言うのは知ってるんだが、気になっちまってな」

 

「大丈夫です、光さんの言う通り、最近私自身食欲が無いんです」

 

「何かあったのか?ストレスとか咲夜さんにいじめられたとか」

 

「いやいやもはや慣れてますから今更気に病んだら今頃私病んでますよ、この通り元気ですし、原因が分からないんです」

 

 

……逆に心配になる返答が来たんだが。

 

 

「ちなみにその食欲が無くなったのは何時からなんだ?」

 

「えっと…光さんを永遠亭に運んだ次の日なので2週間位は過ぎてますねそれともう一つあって、()()()()()()()()()()

 

「疲れが取れない…それは国山と戦った日からか?」

 

「はい、同じ日に」

 

「不眠症とかそんな感じなのか?」

 

「いや普通に睡眠は取れてます、毎日咲夜さんが綺麗にしてくれてるのですっきりした朝を迎えてます。でも1歩歩くと急にドッと体に疲労が溜まるんです」

 

「貧血とか立ちくらみとか…そんな感じか?」

 

「いえ、そういうのは無くて本当に昨日までの疲労が残っているような…」

 

「なんだそれ…俺がいた世界でも聞いたことない症状だな」

 

 

俺が永遠亭にお世話になってる間にそんな事になっているとは思わなかったな、何か原因が分かればそこを改善すれば治るはずなんだが…無いんじゃ手の付けようがないし、1歩歩いた瞬間に疲れが来るとかなかなか聞かねぇぞ…。

「さんきゅうな」と礼を言った後、再び紅魔館に戻った俺は真っ先に咲夜にその事を話した。

 

 

「変わらず食欲が無いって言うことですか、更に疲れが取れない…私のベッドの取り替えが下手だったのかしら…」

 

「あ、いやそれは無いです美鈴自身毎日すっきりした朝を迎えてるって言ってたので、1歩歩くと急に体に疲れが溜まるらしいんです」

 

「それは不思議な症状ですね…1度永遠亭に行って診てもらいましょうか」

 

「分かりました、じゃあ昼頃に行ってきます。」

 

 

光は門番をしている美鈴を連れて永遠亭に向かったのだった。

後に聞くがこの2週間美鈴が1()()()()()()()()()()()らしい1日に10回は居眠りする美鈴が急にピタッと居眠りしなくなるのはおかしい。

もしかしたら食欲が無いのと疲労が取れない事に関係しているのかもしれないな…。

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

「………」

 

「何が原因か分からないか?」

 

「確かに急に食欲が無くなり、疲れが溜まる事は他の人にもあり得るケースね…でもそれと同時に原因が分からないのよ、普通ならストレスから来たり、貧血、悩み事で来たりしてるのだけれど美鈴にはそれがまったく無い。つまりはお手上げ状態って事よ」

 

「そうか…」

 

 

永遠亭に着いた俺達は早速診てもらったが、残念ながら永琳でも分からないらしい。

 

 

「とりあえず何か原因が見つかるかもしれないし、疲れが取れるものや、食欲が無くても食べられるものをあのメイドに頼んでおきなさい」

 

「分かった、ありがとう永琳」

 

 

礼を言って俺達は再び紅魔館に戻った。

戻ってくる頃には日が傾いていて、夕飯の時間になっていた。

美鈴の食欲が突然無くなったのと眠れているのに疲れが取れなくなってしまった件俺の予感が当たらなければ例のタロットカード使いの可能性が出てきたな。

もしかしたら妖怪の山で起こった異変と関係しているかもしれない、とは言ったものの食欲と疲労だけで腹部に穴あくとは思えないんだよなぁ…

まぁ色々考えててもしょうがないか、とりあえず妖怪の山で死んだヤツらの想いが聞けるはずだし明日行ってみるか…さてと…細かい事は後にして、咲夜さんが作った料理食べましょうか。

そう思った俺はフォークを持った。

しかしその瞬間俺の手は言う事を聞かなかった。

あまり思いたくなかったし信じたくなかった。

目の前には美味しい料理、絶対に美味いに決まっている。

だが、考えれば考えるほど現実を見せられているようで、余計に腹が立つ。

 

 

「光?食べないの?」

 

 

なかなか料理に手をつけない俺を見て心配したのかフランが声をかけてきた。

 

 

「すまん…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…俺も食欲が無くなったみたいだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

「…XIV Temperance.(節制)が紅魔館の門番と例の男に能力をかけられたようです。」

 

「そうか、あいつにはそのまま継続するよう伝えておけ、この計画を進めるためには奴らを潰さなければならない、一刻も早く仕留めるように…とな」

 

「了解しました。」

 

 

そう言うと黒いフードを被った男は姿を消した。

 

 

「うまく潜伏出来たようだな」

 

「はい上手く紅魔館に忍び込めたようです。」

 

「正直私の()()を使えば簡単に幻想郷を潰せると思うが…まぁ()()()()にストップをかけられちまってるからここから()()()を見ている事しか出来ないがな、はぁ…久しぶりに暴れたい…」

 

「貴方様の能力は手を出すと後始末が大変になりますからね…安心してください。貴方のようなお方が手を出す程の事じゃないです。あの雨天 光は未熟だ…すぐにでも片付く」

 

「やはり…()()()()か?」

 

「………………私は貴方達に救われました。その恩をここで存分に返すだけです」

 

「………要らぬ質問をしたな、引き続き頑張れよ」

 

 

そう言うと暗闇の中へと歩いて行ったのだった。

 

 



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異変の犯人

今年最後の投稿ですが今回も戦闘回ではありません
すいません
では、どうぞ


「俺も食欲が無くなったみたいだ」

 

 

やはりおかしい、原因としてはストレスや疲れから食欲が無くなることが多いが、俺自身この世界に来て咲夜さんのお陰で不自由無く暮らせてもらっているし、ストレスや疲れも溜まらなくなった。

美鈴と同じ状況だ。

さぁ困った、俺が放った一言で現段階であんなに賑わっていた紅魔館の空気は一変しちまった、フランは心配そうにしていて、レミリアとパチュリーは目を丸くしていて、美鈴は青ざめていた。

おそらく自分と同じ状況になってしまったからだろう。

咲夜さんはずっと黙ったまま俺の方を見つめていたが、これが1番怖いんだよなぁ〜何言われるのやら…要らないなら食べなくていいとか言われるんかな…。

そう思っていると咲夜さんがため息をついて

 

 

「やっぱりですか…」

 

 

と言ってきた。

 

 

「…はい?」

 

「美鈴の件から怪しいとは思ってましたけど早めに対策しておいて良かったです」

 

「どういう事ですか?」

 

「私が本日作った料理を見れば分かりますが、今回食欲が無くても栄養が取れるように野菜スープを作りましたので、大丈夫だと思いますよ」

 

 

咲夜さんはそう言うと微笑んだ。

確かに俺の前にある料理の中には野菜スープがあった。

美鈴の方にもあり、パチュリーの所にもある。

パチュリーは黙々と食ってるから恐らく身体が弱いという咲夜さんの配慮だろうな。

フランとレミリアはいつも通り高そうな料理だけど、こう考えると咲夜さんって周りを見れてるというか流石メイド長というか、とにかくこういう事態にも対応出来る所はとても心強い。

そうこう考えている内に俺の身体は止まることを知らず、スープを掬い、そのまま俺の口に運ばれた。

なんかこのパターン見た事あるな…。

 

 

「あ…」

 

「お、お口に合いませんでしたか?」

 

「いや…むしろ助かりますこれなら今の状態でも全然大丈夫です!」

 

「…!良かったです!」

 

 

人参やじゃがいも、キャベツまで柔らかく、しっかり煮込まれている事が分かる。

すごく美味しい、食欲が無いと言ったが、これなら何杯でもイケるかもしれない。

咲夜さんは安堵の表情を見せ、にこやかに笑っていた。

静寂に包まれた一同も一気に明るくなり、いつも通りの食卓を囲めた。

 

 

「ほんと…咲夜さんは凄いなぁ…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

紅魔館に潜伏して数週間、1人目の美鈴(ターゲット)がもうすぐ死ぬ頃だろう。

俺の能力 XIV.Temperance(テンパランス)(節制)は一定範囲の相手の食欲、免疫、気力を低下させる能力。

幻想郷の住民はどれくらいで効き目が出るか実験するために数人殺したが…早くて2週間と言ったところか。

国山が英雄候補とその仲間を引き付けてくれたお陰で上手く紅魔館に忍び込み、まずは英雄候補とその仲間から始末しようとしたが、まさか英雄候補が不在だったのは予想外だったが…もう1人の方は予定通り能力をかけることが出来た。

結果は良好、食欲も低下し、疲れも取れない、気力もほぼ無いだろうし身体はボロボロだろうな、あとはこちら側からこっそりと一刺しすればこちらの勝ちは間違いない、俺の能力は無敵だ。

効果が発揮するのに時間はかかってしまうが、相手はまさに給油口が無いガソリンタンク。

ガソリンが無くなればエネルギーも無くなる。

それは能力者も同じだ、疲労が蓄積すれば思うように能力を出せなくなる訳だ。

さぁて…そろそろ時間だ。

明日にでも結果は出てくるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

 

 

次の日、妖怪の山で起きた異変についてパチュリーと現場まで来ていた。

そこで俺は殺された奴らの想いを読み取るため、集中した。

 

…読み取れた想いは「食欲が無い」「すぐに疲れる」「やる気が起きない」「身体が重い」だった。

やはり予想は当たっていた。

美鈴の症状、俺の昨日の事も含めると合点がつく、おそらく妖怪の山で殺された天狗達は、これが原因で殺されたのだろう。

 

 

「やっぱり美鈴の症状と同じ内容の想いが浮かんだな」

 

「となると敵はこれを使ってあらゆる手で殺した…でも肝心の『あらゆる手』はどうやってやったのかしら」

 

「うーん…」

 

 

確かに、殺された奴らの中には()()()()()()()()()()()があった。

食欲が無いとかで殺されるんだったら今頃俺も死んでるはずだし、美鈴なんかもっと早くに殺されてるかもしれない。

もしかすると何かを基準にしているのかもしれないな…。

俺はもっと想いを探ってみようと思ったが、残念ながらこの4つの単語だけしか読み取れなかった。

 

 

「仕方ない、とりあえず美鈴の症状の原因が分かったわけだし、一旦紅魔館に戻るか?」

 

「そうね、私も太陽の下では長く居られないから」

 

「あれ、光さん?」

 

 

紅魔館に戻ろうとした時後ろから声が聞こえ、そのまま振り向いた。

 

 

「…椛か」

 

 

そこには、白髪に 頭襟を頭に乗せていて、上半身は白色の明るい服装、下半身は裾に赤白の飾りのついた黒いスカートに剣と紅葉が描かれた盾を腰に付けて立っている白狼天狗犬走 椛(いぬばしり もみじ)がいた。

椛とは射命丸繋がりで知り合い、この妖怪の山で起こった異変の第1発見者でもある。

 

 

「光さんじゃないですか、やっぱりここで殺された仲間達の想いを読み取りに来たんですか?」

 

「まぁ…そうだな、結果的には今紅魔館側でも起こってる問題と繋がったってとこだ」

 

「そうですか…」

 

「それで、どうして椛はここに?」

 

「……光さんに話したい事がありまして」

 

「俺に?」

 

「妖怪の山で起こった異変に関係する話です」

 

「…パチュリー、キツいなら戻っててもいいぞ」

 

「大丈夫よ、その話私にも聞かせて欲しいわ」

 

「…分かりました今から話す事は()()()()()()()()()()()()()()()()()()…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・

 

 

決行日、目の前に門番をしているターゲット。

そろそろ後ろから奇襲をかけても大丈夫な頃合だ。

しかし、やはり様子が変だ。

彼女の身体は確実に疲れ切り、顔に出てもおかしくないはずだ…

だが、どうしてだ?

どうして()()()()()()()()?。

俺の能力にはデメリットがある、それは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことだ。

何か原因があるはずだ…。

早く見つけなければーーーーー

 

 

「あら今日も居眠りしていないのね美鈴」

 

「…!」

 

「あ!咲夜さん!そうなんです!お陰で疲れも取れてきましたし、順調に回復してます!」

 

「それは良かったわ、それじゃあ私は昼食を持ってきただけだから戻るわ」

 

 

……なるほど原因はあのメイドということか。

俺の能力が劣っている理由もそれか。

確認したところ英雄候補と紫の魔法使いは不在。

今この館にいるのは吸血鬼2人とあのメイドということか。

 

 

「なるほど…()()()()なら今しかないと。」

 

 

ニタァと笑った節制使いは徐ろに立ち上がると懐の短刀を手にし、一気に咲夜の後ろに付くと、そのまま短刀を咲夜に振り下ろした。

 

 

「死ね!メイドーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そこまでよ!」

 

「なっ…!?」

 

 

しかしそれはひとつの弾幕により弾かれてしまった。

節制使いは後ろを振り向くとそこには魔法陣を展開したパチュリーと刀を構えた光が立っていた。

 

 

「お、お前らは…!」

 

「椛から話は聞いたけど、まさかここまで来てたとは思わなかったわ」

 

 

 

 

ー時は遡ること妖怪の山にてー

 

 

「異変の犯人?」

 

「はい、殺された仲間達から以前、()()()()()()()()と言う話を聞きまして、それ以降仲間達は食欲が無くなったりしていたんです。」

 

「それは確証できるのか?」

 

「あの時私達白狼天狗で唯一怪しい人物を見たというのはその男だけで、ここ数日間は見かけてなかったんです」

 

「確かにそいつが犯人だとすれば合点がつくな」

 

「あと、その男()()()を手に歩いていたらしくて、幻想郷で見た事ない物でした」

 

「カード……!やっぱり関係していたか」

 

「その男も例のタロットカード使いなのかもしれないわね」

 

「そうだな、とりあえず紅魔館に戻って美鈴からも詳しく話を聞こう」

 

「分かったわ」

 

「お二人共気をつけてくださいね」

 

「あぁ、ありがとうな椛」

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「あの白狼天狗共……!!」

 

「さて、自ら姿を晒してくれて嬉しい限りだがここで洗いざらい吐かせてもらおうか!」

 

「ちっ…!」

 

 

すると男は紅魔館の庭を走り抜けるとそのまま逃走した。

 

 

「逃がすかぁ!」

 

 

光もあとを追うように走り出した。

 

 

「私も行くわ、咲夜紅魔館は任せたわよ」

 

「承知しましたパチュリー様もお気をつけて」

 

 

パチュリーは頷くと走り出した。

 

 

 

 

 




次回から戦闘回に入りますね、結構のこの能力長い期間考えた挙句ダサいという結論ですね、なんでこれになったんだろ…。
まぁ序盤の敵なので弱い方にしようと考えすぎた結果ですね。
次回も長い目でお待ちください。
皆さん良いお年を!!


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VS ニコラス

はいどうもあけましておめでとうございます!
今年も下手くそな私の作品を見ていただけると嬉しいです。
さて今回はようやく戦闘回ということで、新年1発から誤字脱字が多いと思います。
では、どうぞ


紅魔館から逃げ出した男を追っていた光とパチュリーは、森林を走り抜け、草原が広がる場所に辿り着いた。

そこに先程逃げ出した男が光達を見つめていた。

見た目は黒髪に白いレインコートと中心に紫のシャツが見えていて、黒いズボンを履いていた。

どういう体質なのか右目だけクマが濃いのが気になる。

 

 

「ようやく追い詰めたぞ、俺や美鈴の身体に細工したのはお前だな」

 

「黙っていたところで無理矢理吐かせてもらうわ」

 

「……今更シラを切ったところで無駄か」

 

 

男はそう呟くと周りに霧のようなものが発生した。

あれが俺と美鈴に

 

 

「自己紹介が遅れたな、俺の名前はニコラス

タロットカード XIV Temperance.(テンパランス)(節制)の能力を持つ者だ」

 

 

やはり国山と同じタロットカードの使いだったか、あの霧のようなものもあいつの能力で発現されているのだろう。

こちらとしても体力が落ちているから普段より戦闘は続かないと思うが、もしここて逃せば次はいつ殺られるか分からない、しんどいところはあるが、ここでやるしかない。

 

 

「自己紹介どうも、悪いがお前はここでくたばってもらうぞ!パチュリー!援護は任せた!」

 

「分かったわ」

 

 

パチュリーは魔法陣を展開し、光は刀を出現させるとニコラスの方へ駆け出した。

 

 

「俺がくたばる?何を言ってるんだ、それはこっちのセリフだ」

 

 

すると突然ニコラスの周りにあった霧がニコラスの身体へと吸収された。

そして全ての霧が吸収された瞬間。

とてつもない衝撃波が発生し、接近した光だけではなく遠距離から魔法陣を展開していたパチュリーも吹き飛ばされた。

 

 

「なんだ今のは?」

 

「これが俺の能力だ。あらゆる標的の体力を落とし、衰弱した所を仕留める、この霧がそうだ、相手からすると有害だが…俺の場合それは活力となり、大きく膨れ上がり強化される、普段はノミの大きさくらいだからお前らには特別に霧にして見せてやったってわけだ」

 

「…まさか咲夜を殺そうとしたのもその能力でか?」

 

「まさかあのメイドが原因だったとはな…もう少しで俺の夢も確実なものに出来たんだがな」

 

「随分と余裕だな、だったらその夢二度と叶わないようにしてやろうか?」

 

「やれるものならやってみろ俺を()()()()な」

 

「…パチュリーさっきの衝撃波で何処か痛めたなら休んでていいぞ」

 

「生憎…魔法で衝撃を抑えたから何ともないわ」

 

「そうか…なら背後からの援護を頼んだぞ」

 

 

そう言った瞬間光は地を蹴り、ニコラスに急接近し、刀を振り下ろした。

ニコラスも構えると短刀で光の刀を防いだ。

光は即座に引くと、ニコラスに刀を突いた。

更に光の背後からパチュリーの弾幕が押し寄せたが、ニコラスは体を反りながら弾幕を回避し、光の突きを短刀でいなすとそのまま光に蹴りを入れて距離を取り、斬撃を放った。

そこへパチュリーの弾幕が相殺した。

光は息を整えると走り出し、下から切り上げるとそのまま飛び上がり、斬撃を放った。

ニコラスはその斬撃を霧…ウイルスで防ぐと、身体を回転させて光の背後に回り、斬撃を放つ。

しかし、パチュリーがそれを弾幕で相殺した。

 

 

「(なるほど…あの英雄候補をサポートするような形で魔法使いが動いているのか…まずはあいつから潰しておいた方がいいな、あとはどうやって潰すかだが…)」

 

 

するとニコラスは突然パチュリーが居る方へ短刀で斬撃を複数放った。

パチュリーは魔法陣から弾幕を放ち、全て相殺した。

しかし、その際に発生した煙からニコラスが現れ、短刀を振り下ろされた。

…が、間一髪光が刀を出した事で弾かれた。

 

 

「パチュリー大丈夫か?」

 

「えぇ…問題ないわ」

 

「少し距離を取っておけ、また同じ事が起これば俺がまた入れるかどうなるか分からないからな」

 

「分かったわ」

 

 

パチュリーは光とニコラスから距離を取り、魔法陣を展開すると、再び光はニコラスの方を向き、地を蹴った。

 

 

「お前の相手は俺だろう…が!」

 

 

光は瞬く間にニコラスに接近するとまずは刀を振り下ろした。

ニコラスは短刀でいなすと背後に回り込み、突きをしたが、光は体を回転させて刃を土台に上に飛び、ニコラスの視界からパチュリーの弾幕が飛ばされ、更に上から光が斬撃を放ったが、斬撃は回避され、弾幕は相殺された。

ならばと光は着地した瞬間体勢を低くして回り込むと、刀を振り下ろした。

それを短刀で防がれると更に切りつけたがそれもいなす。

それでも怯まず刀を振り続ける。

ニコラスも防ぎ、いなし続ける。

隙を伺うために、パチュリーも遠距離から弾幕を放ち、奮闘するも、全て回避されてしまう。

刀と刀がぶつかり合い、金属音が響き、火花が散り、お互いに隙を見せないが、パチュリーは光の顔色が悪くなってきていることを知っていた。

 

 

「(あのタロットカード使い…強化された上に能力で弱体してる光に押されているように見えて押しているように見える…長期戦が続けば光の体力にも限界が来る、そうなる前に私がなんとかしないと…!)」

 

 

ついにパチュリーはスペルカードを取り出すとそれを発動した。

 

 

 

〜金符 「シルバードラゴン」〜

 

 

その瞬間複数の弾幕がニコラス目掛けて降ってきた。

パチュリーは横からダメなら上から大量の弾幕ならどうだと、ニコラスを消耗させようとした。

光も好機と見たのかニヤリと笑い、一気にニコラスに接近した。

そして刀を振り続け、横から光、空からパチュリーの弾幕が迫りニコラスは八方塞がりになった。

流石のニコラスも表情を歪ませて何とか弾幕や斬撃をいなしたり回避したりした。

そしてついに光の攻撃を防ぎきれず、胴体がガラ空きになった。

光はそれを逃さず、ニコラスも体を捻って回避しようとしたが、右肩に刀が刺さった。

怯んだニコラスに更に蹴りを入れて抑え込むと、首元に刀を向けた。

 

 

「お前のお得意な衰弱戦法も塞がれて虫の息だなニコラス」

 

「………っ」

 

「はぁ…上手くいったみたいね」

 

「サンキューなパチュリー」

 

「気にしなくていいわ…さてと、それで?このタロットカード使いはどうするつもり?」

 

「このまま生かしておけば、椛に顔向け出来なくなる、何よりこいつもタロットカード使いだ、正直俺自身もこいつに世話になってるしな」

 

 

そう言うと光は刀を両手で握り、上に構えた。

 

 

「対面早々悪いが…ここで終わらせてもらう」

 

 

そして、光は刀を振り下ろしたーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そろそろ()()()()()か」

 

「っ!?…体が…動かない…!」

 

「光!?どうしたの!?」

 

「どうしたもなにもそのままの言葉だ…よ!」

 

「ぐっ…!」

 

 

ニコラスは刀を振り上げたまま硬直した光に蹴りを入れると、光は力なく吹き飛ばされてしまった。

 

 

「光!」

 

「お前は少し眠っててもらうぞ」

 

 

バキッ

 

 

「う……光……」

 

「はぁ…はぁ…てめぇ…」

 

「どうだ?立場が逆転される気分は?」

 

 

ニコラスは見下すように光を見ると、這いつくばっている光を蹴り飛ばした。

光は力なく吹き飛ばされると木々にぶつかり、全身に痛みが走る。

 

 

「ガハッ…!」

 

「さっきまでの威勢はどこに行った英雄候補?」

 

 

そう言うと更にニコラスは光の腹部に蹴りを入れた。

 

 

「グッ…!」

 

「俺の能力 XIV Temperance. は食欲や睡眠、気力を低下させ、疲労を蓄積し、弱った所を仕留めるのが基本だが…それはあくまでも()()使い方によってはこうやって自分を強化させたり、長期戦に持ち込むことで疲労を蓄積させて、身体に負担をかけさせる事も出来る。こうやって優位な状況に立たせるためになぁ!」

 

 

更に光の顔面に蹴りを入れ、頭を掴んだ。

 

 

「良いか?俺は常に上を目指さなければならない…だからこそ今回抜擢されたこの機を逃してはならない…そう、ここで俺はお前を殺し、そこで寝ている魔法使いも、館の門番、吸血鬼そしてあのメイドも!幻想郷に居る能力者全員を殺せば()()()の傍で仕えることが出来る…!こんなに素晴らしい事は無い…!」

 

「……ゲスが」

 

「なんとでも言えばいいさ…上を目指せるのならば…ね?」

 

 

そう言うとニコラスは短刀を光の首元に向けた。

 

 

「時間が惜しいんだ…まずは1番厄介と言われているお前から始末してもらう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なら俺も手加減無しで行かせてもらおうか」

 

 

その瞬間、光からとてつもない霊力が放たれた。

 

 

「なっ…!?お前…まさか!?」

 

「上を目指さないといけないんだろ?なら俺はその想いを力に変えてやるよ!」

 

 

瞬間光の周りから衝撃波が発生し、ニコラスは下がるしかなかった。

そして、光は立ち上がると刀を構えた。

 

 

「…それがお前の能力という事か…!」

 

「さぁここからは1対1の戦いだ…()()()()()()()()のか勝負だ!」

 

「…面白い、その言葉後で後悔させてやる…行くぞ!」

 

 

そして同時に2人は地を蹴った。




今年もよろしくお願いします。


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VS ニコラス②

はいどうも、お久しぶりです。
とは言っても誰も覚えてないと思いますが一応
半年ぶりの投稿です。
まぁリアルの方で忙しかったんですよね....
この半年全く手つけてなかったので文章力が低下していますのでおかしい点があると思いますがお楽しみください。
では、どうぞ。


 

 

静けさが残る広い草原で金属音が響き渡り、肉眼でも分かる程大きな火花が飛んだ。

先に仕掛けたのはニコラスだ、お互いに刃を弾いた瞬間に一気に前に寄ると短刀を突き刺した。

しかし光はそれを予測していたため冷静にいなして対応する、そして勢いに流れるように光の背後に回ると今度は光が回転しながら刀を振る、それをニコラスは短刀で受け流すと、更に光は追い打ちをかける、ニコラスも負けずと短刀で受け続ける。

気高い音が何度も鳴り続き、その度に火花が飛ぶ。

そして痺れを切らしたのかニコラスは光の刀を受けた後、そのまま短刀を上に振り上げた。

そしてがら空きになった光の腹部に蹴りを入れた。

表情を少し歪ませた光は一旦体勢を整えるために後ろに退いた。

そしてニコラスは体勢を低くして走り出すと、飛び上がって斬撃を放った。

光は横に飛んで回避するとお返しと言わんばかりに斬撃を放った。

ニコラスは着地した後それを短刀で受け流して回避した。

 

 

「お得意のタロットカードの能力が使えないとこうも簡単になるとはなぁ…?ニコラスさんよぉ」

 

「フッ…威勢だけはいいな、お前が切り刻まれるのも時間の問題だというのに」

 

「…その言葉そっくりそのまま返してやるよ…」

 

 

そう言うと光は地を蹴り、ニコラスに接近する。

ニコラスは体を回転させて刀を振るうと同タイミングで光も刀を振るうと、再び金属音が鳴った。

そしてその勢いに任せて光は左足をニコラスの頭目がけて蹴るとそれが見事にヒット。

表情を歪ませたニコラスはそのまま地面に叩きつけられた。

 

 

「ぐっ…!」

 

「くたばれオラァ!」

 

 

光は刀をニコラスに突き刺すが、間一髪ニコラスは横に転がって回避した。

ニコラスは顔についた砂を払うと地を蹴り、再び金属音が鳴り響く、そして今度はニコラスが短刀で光を力押しで前に出ると、背後の岩に叩きつけた。

背中に走る痛みに光の体勢が一瞬だけ崩れた。

それを見逃さなかったニコラスは後ろの岩をも砕くかのように力強く蹴りつけた。

 

 

「うおおおおおおおおおおおお!!!」

 

 

光は勢いに押されたまま背後にあった岩を砕いてそのまま後ろに吹き飛ばされ、数回体を地面に叩きつけられながら転がった。

全身に痛みが走った光は刀を杖に使ってなんとか立ち上がると光はスペルカードを取り出した。

 

 

 

〜蝶符「妖刀・千子村正」~

 

 

 

より一層輝きを増した刀は光の闘志を奮い立たせた。

そして、風を切るようにして走り出すと、ニコラス目がけて切りつけた。

先程とは違いより重い金属音が鳴り響き、流石のニコラスも驚きの表情を見せた。

光は畳み掛けるように何度も切りつけてはニコラスを押した。

ニコラスも受けるのが精一杯で反撃の余地がなかった。

そして限界かニコラスが弾いた時に一瞬の隙が生まれた。

そこを逃さなかった光は先程のお返しとニコラスの顔面を思いっきり殴った。

 

 

「グハァ!!」

 

 

ニコラスはそのまま頭から地面に叩きつけられると空中で何とか体勢を立て直して、地に着地した。

既にお互い息が荒くなり、動けるのも限られていた。

再び地を蹴り合うと、また刃が交え、お互いに蹴りを入れた…が()()()()()()()()()()()()()()()

さっきの衝撃でかなり消耗してしまった光の身体は糸の切れたあやつり人形のように軽々と吹き飛ばされてしまった。

そして、なんとか刀を握ろうとしたが、それはニコラスに蹴り飛ばされてしまった。

 

 

「惨めだな…最初から結果は見えていたというのに」

 

「…クソが…!」

 

「忘れたわけじゃないよな?我が XIV Temperance.の能力にかかっているという事を」

 

 

そして消耗してしまった中にはもちろんニコラスの能力も入っていた。

相手に決定的な殺傷能力がないとはいえ通常より消耗が激しいのに変わりはない。

故にやりづらい。

上から嘲笑うかのように見ていたニコラスの顔は光の元へゆっくりと近づくと光の頭を掴んで喉元に短刀を突きつけた。

 

 

「本当ならこのまま切り刻んでぶっ殺すのが1番手っ取り早いんだが、せっかくならお前には苦しみながら死んで欲しいからな…この XIV Temperance.でじわじわと死んでいくほうが良いだろう」

 

 

ニコラスは掴んでいた光の頭を振り落とすと、そのまま後ろに下がった。

 

 

「さて、終わりにしようか…こうして幻想郷の英雄はまんまと殺されてしまいましたなんてな!!」

 

 

そしてニコラスはタロットカードを取り出して最後のトドメを刺そうとしたーーーーーー

 

 

 

 

 

瞬間だった。

 

 

「ゴフッ」

 

 

ニコラスは理解が出来なかった。

目の前には既に動けない光、その向こうには未だに気絶しているパチュリー状況的に考えて自分が有利だったのに…何故()()()()()()()()()()()()()()

ニコラスはそのまま膝をつくと後ろを向いた。

そこには…

 

 

「はぁ…こうも聞きたくもない金属音を何度も聞かれたら場所わかるっての」

 

「ば…馬鹿な…!?」

 

 

そこにはお祓い棒を持った博麗の巫女が立っていた。

 

 

「ハッ…おせぇよ…霊夢」

 

「あんな()()()してたら誰だって理解に苦しむわよ」

 

「頼み…だと…?」

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー遡ることパチュリーと光がニコラスを追う直前の紅魔館にてー

 

 

「そうだ咲夜さんひとつ頼みがあります」

 

「頼み…ですか?」

 

「はい、この後俺とパチュリーが行ったらすぐに霊夢に伝えてください()()()()()()()()()()()って」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・

 

 

「貴様ぁ…!」

 

「正直あんな言い分じゃ頼まねぇだろうなとは思ってたが…案の定ここに住んでる人達はお人好しが過ぎるみたいだな…」

 

「よく言うわ…もし頼まれてなかった今頃あんた死んでるのに」

 

 

霊夢は呆れた表情でため息をついた。

そして再び前を向くと真剣な顔つきで光にあるものを投げつけた。

 

 

「…なんだこれは?」

 

「念の為と思って永琳に貰ってきたわ()()()()()()()()()()()()()()()()()よこれで少しはマシになると思うわ」

 

 

なるほど…ニコラスの能力は体力を消耗させるのが基本…そこに疲れが取れやすい栄養が入ると能力を最低限遅延させることが出来る訳だ…!

 

 

「フッ…霊夢にしては気が利くな」

 

「うるさいわね…ほらさっさとこいつを倒すわよ」

 

「いや…いい…霊夢はパチュリーを連れてここを去れ」

 

「はぁ?あんた何言ってんのよそんなボロボロの体で勝てると思ってるの?」

 

「勝てるから言ってんだよ、助けは必要ねぇつってんだとっとと失せな」

 

「……わかったわよ」

 

 

そう言うと霊夢はパチュリーを担いでその場を去った。

それを背中で見送った光は霊夢から貰った栄養剤と痛み止めを口に含み再び刀を握った。

 

 

「さて…これで振り出しに戻ったな…見せてみろよ国山のように()()()()()をよぉ!」

 

「……っ!クソがああああああああああああ!!!」

 

 

瞬間ニコラスのタロットカードが光った。

国山と同じだ、ついに奴も本当の力を使うという事だ。

恐らくこれで決着がつく。

 

 

「殺す…!必ず殺して…俺は頂点に立つ…!行くぞおおおおおおおお!!!」

 

「……殺せるもんなら殺してみろやぁ!!!」

 

 

今、2人の決着が着こうとしていた。

 

 

 



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VS ニコラス XIV Temperance.

今回は早めに出せました。
言うて戦闘回なのでね笑


 

 

節制、欲望におぼれて度が過ぎないよう、適度につつしむこと。

ヒトはあらゆる欲望に溺れながら生きている。

「欲を捨てる」という言葉があるが、それは簡単に出来ることでは無い、自分の中では欲を捨てていると思っていても、頭の片隅、心の奥底には欲に溺れている。

今目の前で真の力を見せたニコラスの能力はそのあらゆる欲を強制的に低下させる能力。

それを行う事で対象は弱り、そこを叩いてくる。

厄介な能力だが、発動条件が厳しいので、かなり神経を使わないと不利になってしまう。

こちらも神経は使うが、間合いを取れば何も恐れることは無い、恐らく国山より弱いだろう。

そのニコラスは俺に真っ先に走り続け、握っている短刀を上から振り下ろした。

俺は身体を横に傾けて、回避した……が

 

 

「ッ!?」

 

 

その瞬間俺の全身が一気に重くなった。

重くなったというより重力を操られたとかではなく、一気にだるくなりすぎて重力に押し潰されそうな感覚だ…!

おかしい…確かにやつの攻撃は回避している、なのに何故この前の…いやそれ以上だ。

俺はこの気持ち悪い感覚を何とか押し殺して刀で短刀を弾くと、距離を取って霊夢から貰った栄養剤と痛み止めを口に含んだ。

ニコラスから肉眼でも分かるような禍々しい霊力…なるほどあれがXIV.Temperance(節制)か、あの霊力に触れるだけで倍増された奴の能力が俺自身にかかるという事か、ならばやり方は決まっている。

国山の時は木が沢山あったが今回は草原、また違うやり方だが、既に策は練ってある。

 

 

「どうした?もうおしまいか?」

 

 

霊力をばら撒きながらゆっくりと歩いてくるニコラスは表情ひとつ変えず短刀を構える。

 

 

「ハッ…それはこっちのセリフ…だ!」

 

 

ニコラスが距離を詰めたと同時に光は刀を使って地面を払うと、砂煙を起こした。

飛んでくる砂煙にニコラスは短刀で晴らすと、光の姿が無かった。

ニコラスは左右を見渡して、ため息をつくと躊躇う事無く回転しながら後ろを切りつけた。

同時に金属音が鳴った。

弾くと、光は足元を払ってバランスを崩させると、上に飛んで刀を振り下ろしたが、片手を軸に持ち直したニコラスはそのまま逆さになり、足で受け止めた。

光は少し驚いた顔をするが、直ぐに後ろに飛んで地を蹴ると、正面から切ると見せかけて下から振り上げるように切りつけた。

しかし、それを読んでいたのかニコラスは上手く受け流すとニコラスに見せた光の背中に短刀を振り下ろすが、光は何とか体を回転させて受け止めた。

 

 

「面白い小細工だな、恐らく国山も同様の手口で負けたんだろうな」

 

 

そう言いながらニコラスは霊力を強めると、明らかに光は顔をしかめた。

 

 

「くっ…!」

 

「だが、徐々に弱っているお前とこのXIV.Temperanceによって強くなった俺とでは比べるに値しない!」

 

 

ニコラスは更に霊力を強めると耐えられなくなった光を弾き飛ばした。

そのまま後ろに倒れた光を馬乗りにすると短刀を振り下ろすが刀で受け止める、しかしもう片方の腕で光の顔面を殴った。

 

 

「グハッ」

 

「お前を倒せば俺は上に立てる!無駄な足掻きはやめろ!」

 

 

何度も何度も、光の顔が傷だらけになっても殴りつづけた。

その時のニコラスの表情は節制とは程遠いものだった。

 

 

「お前を殺して、次は…そうだな…あのメイドから直々に始末してやろう…あいつのせいでここまで俺は追い込まれたそれ相応の罰は与えないとな…もちろんその周りにいる仲間もな!」

 

「………っ!」

 

 

光はニコラスの拳を頭を動かして避けると隙をついて横に転がって距離を取った。

 

 

「はぁ…はぁ…なかなかキツいの食らっちまったな…」

 

「もう一度言う、もうお前は終わりだ。疲れが溜まって思うような行動もできないどっちみちお前は死ぬ」

 

「それは…どうかな」

 

 

もう一度薬を口に含むと再び地を蹴った。

ニコラスは構えるとゆっくりと歩いてくる。

先に光が刀で地面を払い、砂煙を起こして身を隠す。

ニコラスは砂煙を晴らすと、光が目の前から切りつけた。

それを短刀で受け流し、切りつける、それを光は体を捻って回避すると、ニコラスの顔を片手で掴もうとするが、それを払われる。

ならばと一旦後ろに下がって構えると、走り出して刀を振ると見せかけて足でニコラスの短刀を土台に飛ぶと、そのまま落下するスピードに任せて刀を振った。

流石のニコラスもこれには無理があったのか受け止めるのではなく、その場から回避した。

落下した衝撃で砂煙が倍発生して、視界が悪くなった。

これには自力でも晴らすことは出来ず、自然に晴れるのを待つしか無かった。

しかし、それがニコラスにとって都合の悪い事だった。

 

 

「悪いが、こちとらお前みたいなやつに殺されるのも癪なんでな!」

 

「なにっ!?」

 

 

視界が悪くなった事を好機に光が背後から襲ってきた。

反応に遅れたニコラスは短刀で受け止めるも手から離してしまった。

 

 

「しまっーーー」

 

「おおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

 

光はガラ空きになったニコラスの腹部に拳をくい込ませた。

 

 

「ガハッ!」

 

 

胃液が逆流しそうになったが、なんとか抑えて後ろに下がった。

 

 

「……ようやく……1発お見舞い出来たぞ……」

 

「…どうやらお前を少し舐めていたようだ」

 

「ハッ…それはどうも」

 

「だが、もうお前は()()()()

 

 

ニコラスはニヤリと笑うと立ち上がり、右手を光に向けると、突然光が膝をついた。

 

 

「ぐぁ……?」

 

「俺の近くで能力を食らいすぎたようだな!お仲間から貰った薬すらも効かなくなってしまうくらいに!」

 

「く……!この野郎……!!」

 

「この能力は無敵だ!ノロノロと長期戦に持ち込まずに俺を殺せばよかったものを!はははは!!!やはり俺の勝利だ!死ねぇ!!!」

 

 

ニコラスは高らかに笑い、そのまま短刀を振り下ろしたーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……がそれは甲高い金属音と共にニコラスの攻撃は防がれてしまった。

 

 

「……は?」

 

「俺の勝ち…?()()()()()()()()()()()()()()()()()!!」

 

 

その瞬間先程のことが嘘のように光が立ち上がった。

ニコラスは短刀に力を入れて押し倒そうとしたが、光の力に押し負けて弾かれてしまう。

 

 

「馬鹿な!?お前にはそんな力は出せないはず!なぜ抗える!?」

 

「それができるんだよ()()()()でな」

 

「何…?」

 

 

光はそう言うと口の中ある薬を見せた。

 

 

「俺の能力は想いを力に変える、そしてこの薬はお前の能力を最低限抑える為に用意された物、その二つが合わされば何度でも俺は立ち上がる……だが生憎にも俺は人間だ、その行為にも限界はある今でも俺の身体は疲労が蓄積してもう立つだけでも精一杯…だがそれはお前を()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

 

 

光は口の中にある薬を飲み込むと、再び構えた。

 

 

「もしもどちらか片方が欠けてたら今頃俺は完全に負けてただろう……だが、この能力が俺を強くする!!……来いよ、あの方とやらに俺の首差し出すんだろ?だったらその能力で俺を殺してみろやぁ!!」

 

「……うわあああああああああぁぁぁ!!!!!!」

 

 

ニコラスは霊力を大幅に向上させると、地を蹴って走り出した。

 

 

「俺のこの一撃でお前を無惨な姿にしてやるぅ!!!!」

 

 

 

そして、短刀を振り下ろし、光に渾身の一撃を与える前に…

 

 

「そこだぁぁぁぁ!!!」

 

 

光の一太刀がニコラスの身体を切り裂いた。

 

 

「ば…か…なぁ……」

 

 

血まみれになったニコラスはそのまま光の粒となって消え、同時に光も体力に限界が来て膝を着くとゆっくりと地に伏せた。

 

 

 

 

 

広がる草原に静寂だけが残された。



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のんびりしていると次の敵が来るのはお約束

今回は短めです。
すいません。


 

 

翌日、俺は昨日までニコラスの能力に当たり続けていたが、何事も無かったかのように紅魔館でブラブラ歩いていた。

国山とニコラスの戦闘の連続で気づかなかったが、この世界は雪が降ると必ず一面が真っ白に積もる。

外の世界だと今は1月ぐらいだろうか、紅魔館は意外と暖かくて快適に過ごせている。

とは言ってもこの広さだ、相当な数の暖をつけているのだろうな、この世界では家電製品らしきものが見当たらないし、何せ暖炉があちらこちらにあったから時代を感じる。

まぁこれと言ってやることも無いしたまにはパチュリーの図書館で本を読むのもいいかもな。

そう思った俺は早速パチュリーの図書館へと足を運んだ。

 

 

「よぉパチュリー、本を借りに来たぞ……と居ないのか?」

 

 

ノックをして扉を開けパチュリーを呼んでみたが、返事がなかった。

いつもは図書館に引きこもっているんだが、どこかに出掛けているのだろうか…?

そう考えていると声を聞き付けたのか小悪魔が大量の本を持って歩いてきた。

 

 

「あれ?光さんどうしたんですか?」

 

「あぁ…小悪魔かパチュリーは居ないか?本を借りに来たんだが…」

 

「パチュリー様なら今朝魔理沙さんに連れられて出て行っちゃいましたよ」

 

「え、マジかよ全然気づかなかった。そうか…本人が居ないなら出直すとしようかな、悪い邪魔した」

 

 

俺は小悪魔にそう告げると図書館を出た。

途中レミリアと鉢合わせた。

 

 

「調子はどうかしら?光」

 

「レミリアか…昨日あんな事あったのにピンピンしてるよ、自分でも気持ち悪いくらいだ」

 

 

ニコラスを倒した後、俺と美鈴にかけられた能力は解除された。

本当に何も無かったかのようにピンピンしていて、美鈴も俺も戸惑いを隠せなかった。

 

 

「それは良かったわ、これからもっと強い敵が来るだろうし貴方にはこんな事で倒れて欲しくないからね」

 

「……言っとくが俺はお前の駒じゃねぇからな、敵が来ようと俺の勝手だ」

 

「私は別にそんな事言ってないけれど、まぁ貴方の事だし、どう捉えられても構わないわ、それじゃ私は行くわね」

 

「おう」

 

 

俺は軽く返事をすると別れた。

その直後目の前に咲夜さんが現れ、買い出しを頼まれた。

外は積もっているが、まだ浅い方だから今行けば大きな事故もなく帰って来れるだろう。

判断した俺は了承した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・

 

 

国山やニコラスの件で静かかと思っていたが人里は相も変わらず賑やかだった。

四方八方から店主の大きな声や、住人同士の話声、笑い声が聞こえた。

これだけ賑やかだと少し不気味に思えてくる。

だか、賑やかでも心は人間なのだろう。

国山によって殺された着物屋の跡地には墓が立てられていて、その周りには沢山の花が添えられていた。

外の世界では見ない光景だ。

とは言ってもこっちの世界は道路もなければ大きなビルもない、辺り一面が土で出来ている以上墓を立てられても違和感はない。

だが、外の世界では見なかった俺はこの光景を見て、心に違和感を感じた。

そうこうしているうちに、頼まれていた買い出しの品は揃え、後は紅魔館に戻るだけとなった。

俺はそのまま帰路に向かおうとした時、誰かが俺の名前を呼んだ。

 

 

「光さーん!」

 

「…妖夢か」

 

 

後ろを振り向くと大きな買い物袋を背負った冥界の庭師が立っていた。

名は魂魄妖夢(こんぱく ようむ)半人半霊で銀髪をボブカットにし、黒いリボンを付けている。

白いシャツに青緑色のベストを着て、下半身は短めの動きやすいスカートからドロワーズが覗いていて、白靴下に黒い靴か草履を着用。

胸元には黒い蝶ネクタイを付けている。

妖夢の周りに浮遊している白い玉のようなものは『半霊』である。

普段はこことは違う、冥界と言う場所で主である西行寺幽々子(さいぎょうじ ゆゆこ)の庭師兼お世話役をしている。

紅魔館で言う咲夜さんの立ち位置である。

半霊だから俺たち人間より顔色は白い方だが、とても真面目な子だ、ポンコツだけど。

以前の宴の時に来ていたからそこで顔見知りになった。

 

 

「偶然ですね、光さんも買い出しですか?」

 

「まぁそうだな、雪が降ってるとはいえまだ降り始めだから今のうちに済ましておこうと思ってな」

 

「私も同じです、それにしても光さん、またタロットカード使いと戦ったみたいですね」

 

「情報が早いな、今回はちょっとダルくてめんどくさい能力だった」

 

「…まだまだタロットカード使いは居るんですかね」

 

「さぁな、相手の数も、親玉も分かんねぇ状態だ、虱潰しにタロットカード使いを倒すしかねぇ」

 

「何が目的で幻想郷に来てるんでしょうか…」

 

幻想郷(ここ)を支配して何をするのか、そもそも紫自身何を企んでるのか全くわからんし、今深く考えても埒が明かねぇよ」

 

「そうですね…もし何かあれば頼ってください、私も光さんのお力になれれば」

 

「サンキュー、また声掛けとくわ」

 

「はい!」

 

 

2人で会話しているうちに雪の降りが強くなったので、俺達はその場で解散した。

妖夢はあー見えて剣術は折り紙付きの強さだ。

いずれ一緒に戦うのだろう。

まぁそうだな、妖夢の言葉が本当かどうかはこれからって事だな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

その夜、下級妖怪が住み着く森で何かを呟いている声が響いた。

 

 

「……これはあっち……あれは……こっちだな……ふむ……悪くない……」

 

 

何かを弾く音を鳴らしながらその人影はゆっくりと歩いていた。

そして、その声を嗅ぎ付けたのか、下級妖怪達がその人影を囲った。

 

 

「おいおい…ここが何処か分かって歩いてるのか?」

 

「ん?どういうことだ?」

 

「ここに立ち入ったヤツらは俺達の餌になるんだぜ?知らなかったのか?」

 

「へぇー怖いねー僕まだ食べられたくないよー」

 

「にしてもお前の身なりあまり見たことねぇな…どこの奴だ?」

 

「まぁいいじゃねぇか!久しぶりの生きた食料だ!捕まえちまえ!」

 

「シャアアアアアアアアアアア!!!!」

 

 

囲っていた下級妖怪数人は中心にいる人影に向かって飛びかかった。

 

 

「ふむ…どうやらここの妖怪は()()()()()()()

 

「あ……れ……?」

 

 

その瞬間飛びかかった下級妖怪達全員肉片となって飛び散っていた。

まだ生きている下級妖怪達も何が何だか理解が出来ていなかった。

 

 

「なにが起きたんだ!」

 

「うん、悪くない結果だ」

 

「お……お前……今何をした!?」

 

「ん?何って…僕の()()を見せただけだよ?」

 

「能力……!?まさかーーー」

 

「ぎゃああああああああ!!!!」

 

 

更に1人、肉片になると、また1人と人影と対面している下級妖怪以外全員が次々に肉片に変えられてしまった。

そして…

 

 

「ひ、ひぃぃぃぃぃぃゆ、許してくれ!」

 

「許してくれって…別に僕は怒ってないんだけど…」

 

 

少し困った顔をした後、腰を抜かした下級妖怪に近づくとしゃがんでニッコリと笑った。

 

 

「お前…なんなんだよ!!!」

 

「君だけ特別に冥土の土産に教えてあげるよ」

 

 

そして、最後の下級妖怪が肉片になる直前、人影は耳元で囁いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「僕は平田和也(ひらた かずや)Wheel of Fortune(ホイール オブ フォーチュン)(運命の輪)のタロットカードを持つ者、僕の能力で、君達の運命を占ってやろう」

 

 

 

 




夏ももう終わりですね、このご時世なのであまり外出は出来なかったと思いますが、とても暑い夏でした。
来年は海とか行きたいなとか、思ってます。

不定期に更新していますが、読んでくれるだけでモチベに繋がりますのでこれからもよろしくお願いします。


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人間不信にとって初対面は地獄である

今回も日常回です。


下級妖怪が大量に殺された情報を聞いたのは翌朝の事だった。

紫と霊夢を混じえて紅魔館で話し合いをして、確証はないがタロットカード使いの仕業で間違いないだろうという結論に至った。

それが現状1番有り得る話だからな。

とりあえず朝食を済ませた俺は鍛錬をするために、紅魔館の庭に出た。

しばらく経つと咲夜さんから買い出しを頼まれたので、休憩してから人里に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・

 

 

人里に着くと、まず入口に寺子屋の教師さんが仁王立ちしていた。

 

 

「光じゃないか!今日も買い出しとは精が出るな」

 

「慧音か…お前寺子屋はどうしたんだ?」

 

「今は自習にしているんだ、何せ今日は()()()()()を迎えるからな」

 

「新しい教師…?」

 

「最近幻想入りした奴らしくてな、ウチの方で引き取ることになったんだ」

 

「今まで教師やってる感じ1人で回せてるような気がするが…」

 

「人手が増えれば助かるに越したことはないさ、さて…そろそろ来るかな」

 

「……?」

 

 

すると人里の門前から青髪に白いシャツに紺色のジャケット、ズボンとこの世界では明らかに人里に住んでいる人とは異なる服装をしている男が歩いてきた。

そして、俺達の方を見ると微笑み駆け足で向かってきた。

 

 

「おはようございます慧音先生!」

 

「時間通りだな!ようこそ幻想郷へ!」

 

「はい!…それで、こちらは?」

 

「あぁ…この男は 雨天 光 君と同じく幻想郷入りした男だ」

 

「おい…あまり知らねぇ奴にベラベラ喋んじゃねぇよ」

 

「おっとすまない!自己紹介は自分でやるべきだったな」

 

「……それで、こいつが新しい教師か?」

 

「はじめまして!『カズヤ』と申します同じ幻想入りした者同士よろしくお願いします!」

 

「…………慧音から言われた通りだ。」

 

 

カズヤは俺に握手をするため右手を出したが、それを無視した。

当たり前だ、どこの者か知らねぇやつと仲良くするつもりは無いし馴れ馴れしく接するな。

 

 

「すまないカズヤ、こいつは訳あって人と関われないんだ」

 

「そうだったんですか、失礼しました。」

 

「……それで2人は寺子屋に行くんだろ?」

 

「そうだな、来たばかりで悪いが生徒達も待っている」

 

「心得ております、早速行きましょう」

 

「うむ、それじゃあ光また会おう」

 

「別に俺は会いたくないがな」

 

「連れないなぁ…暇だったら寺子屋に顔でも出すといいさ」

 

「はいはい」

 

 

そして俺と慧音達は別れた。

カズヤと言ったか、俺と同じ幻想入りした人間と言っていたが、信用出来ない。

どういうつもりかあのスキマ妖怪に問い詰めるとするか俺を英雄様にするって話だが、まさかアイツにチェンジした訳じゃねぇよな…?

 

 

「呼んだかしら?」

 

「手間が省けて助かるよ…クソ妖怪が」

 

 

俺の能力で想いが伝わったのか例のスキマ妖怪が現れた。

キレ気味の俺に対して紫はため息をついた。

 

 

「まだ一言も話してないでしょ…早とちりにも程があるわ…」

 

「お前が言うな、あのカズヤってやつもお前が連れてきたんだろ」

 

「……知りたいかしら?」

 

「当たり前だ、何の為に俺が幻想郷の英雄やらされてると思ってる」

 

「……分かったわとりあえず場所を変えましょう、ここで盗み聞きなんてされたらたまったもんじゃないわよ」

 

「おう」

 

 

俺と紫は人里を離れて、無人の森の中へと入って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

1週間後、俺は変わらず紅魔館の庭で刀を振っていた。

咲夜さんからタオルと水を貰って、休んでいる間紫の言葉を思い出していた。

正直乗り気じゃない…本当に、ただあのスキマ妖怪が()()()()()()()いうことはよーーーく知れた。

明日にでも出発する予定だ。

慧音にも伝えてあるし、咲夜さんも同行する形で了承は得た。

あの男が敵か味方か今に分かるはずだ。

昨日…あのクソ妖怪の事を思い出すと虫唾が走る。

本当にアイツは()()()()だ。

 

 

 

 

 

 

 

ー1週間前、紫と光の会話の続きー

 

 

 

「カズヤが()()()()()()()()()()()()()だと?」

 

「恐らく、ニコラス達が幻想郷に入った際に歪んだ空間からだと思うわ」

 

「なるほど…それで?そいつを始末すればいいのか?」

 

「まだ確証はないから様子を見て欲しいのよ、それこそ()()()()()をするようにね」

 

「……お前正気か?俺が人間不信だっていうのは1番理解してるだろ」

 

「分かっているつもりよ、だけど人間不信だからこそあなたには少しでも治して行ければいいと思っているわ」

 

「ふざけんな、俺は頼んでもなければ治すつもりもない」

 

「あら残念乗ってくれると思ったのだけれど」

 

「やらせるなら霊夢とかにしろ、俺は紅魔館に戻る」

 

 

そう言い捨てて俺は帰路を辿ろうとした時、紫の言葉に足を止めた。

 

 

「そう…なら()()()()1()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……あ?」

 

「あなたここに来てから紅魔館で良くされてるらしいわね?」

 

「…何が言いたい」

 

「あなたが嫌って言うのだから()()()()()()()()()()()()()()()()()という意味よ」

 

「……どうでもいいが聞いておこうその様子見というのはどれくらいだ?」

 

「簡単よ、寺子屋で授業参観のように振舞ってあの男を監視するだけよ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まぁ()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

その瞬間俺はスキマ妖怪の胸ぐらを掴んでいた。

 

 

「お前……知ってるんだろ?」

 

「……何がかしら?」

 

「とぼけんな、あの男が()()()()()()()使()()だってことだ」

 

「私は知らないわよ、そんなに知りたいのなら駄々こねないで確かめればいいのに」

 

「ふざけんな、お前紅魔館の奴らにやらせようとしてどこまで腐ってやがる」

 

「だって人間不信のあなたを預けたのにまったく変わらないのだから責任はあの吸血鬼達にあるでしょう?」

 

()()()()()()()()()変わる変わらないは俺自身の問題だ」

 

「あら意外ね?人と全く関わらないのに思入れがあるのかしら?」

 

「てめぇ……」

 

 

俺は思わず刀に手を掛けたが、ギリギリ理性を保って制止させた。

紫の目はギラギラと光っていて悪意のある眼差しをしていた。

これが妖怪と言うやつか、なるほど、美鈴がどんだけ良い奴なのか分かる。

そして俺は舌打ちをすると、乱暴に紫を離した。

 

 

「…………本当に様子見するだけだな?」

 

「話が早くて助かるわ、安心して、もしもの事があればサポートするから」

 

「うるせぇよ偽善者が、あんな事言っておいて今更信じろと?」

 

「まぁそれはどんな捉え方をしても構わないわ…それじゃあよろしくね☆」

 

 

そう言うと紫はスキマの中へと消えていった。

 

 

 

 



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人間不信が授業参観をするらしい

今回は光くんの授業参観です。
意味の分からない部分があると思いますが、広い心で見ていただけると嬉しいです。


 

 

 

「みんな席に着いたな!聞いて驚くなよ?今日は幻想郷の英雄様と紅魔館のメイド長さんがみんなの授業を見に来てくれたぞ!ちゃんと挨拶しろよ!」

 

「こんにちは、本日は皆様よろしくお願いします」

 

「俺は幻想郷の英雄になった覚えはないがな」

 

 

寺子屋で席に座っている子供達の前で慧音に紹介された2人。

咲夜は微笑みながら挨拶をしているに対して光は呆れた表情をしていた。

 

 

「何言ってるんだ、今は英雄じゃなくてもこれから英雄になるんだろ?それなら事前から知っておいた方がいいだろ!」

 

「頼んだ覚えはないし、そもそも俺は英雄と言われて良い気分にならん」

 

「まったく、その性格は誰譲りのものなんだか…まぁいいだろ!今日は1日この2人が君たちの授業の様子を見ているからちゃんと受けること!分かったかい?」

 

「「「「はーい!!!」」」」

 

 

寺子屋で鳴り響く子供たちの大きな返事。

咲夜さんは「元気な子達ですね」と我が子を見るような目で子供達を見ていた。

 

…俺は子供が嫌いだ。

うるさいし、言うことは聞かないし、年上に対して敬語どころか礼儀すら無い。

俺にとってはストレスの種でしかない。

どうしてこんな生物が存在するのか理解できない。

とはいえ今日はカズヤというタロットカード使いの監視をするために来ている。

我慢して授業を見るふりをするか。

俺達はよろしくと挨拶したあと生徒達の後ろに用意された椅子に座って授業参観という名のカズヤの監視を始めた。

慧音は歴史を教えているのか、俺が外の世界に居た時に通ってた学校の教師とそんなに変わらないな。

寺子屋と聞くと江戸時代の学校のような場所だったし、本当に学校みたいな感じなんだな。

興味はないが、周りは見てみると…

あぁ…寝てるやつも居れば真面目にやってるやつもいるし、ノートと思われるやつに落書きしてるやつもいる。

まぁそれが学校ってやつか。

俺自身周りと関わるつもりも無かったし授業で暇を潰すくらいしか学生時代はやることが無かったな。

咲夜さんはこの授業に興味があるのか真剣な眼差しで慧音が黒板に書いている文字を見つめていた。

咲夜さん、絶対頭良いだろうな、メイド長とかやってるししっかり者だし真面目だし、羨ましい限りだ。

俺自身もう授業とか興味無いしずっとカズヤの方が気になる。

咲夜さんは付き添いなだけだし、自由にやってもらっても俺は別に文句は言わない。

これは俺自身の仕事なわけだし…とそうこうしてるうちに慧音が早速動いたな。

 

 

「おい、チルノ…大妖精に揺さぶられても動じない眠の深さ…子供としてはとても良いことだろう…寝る子は育つからな」

 

 

慧音はチョークを持ったまま関心の眼差しで頷きながら語ったが、瞬間表情が変わり持っていたチョークを構えると…。

 

 

「だがな、私の授業で寝ていいという規則は無いぞおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

 

 

鬼のような表情でチョークをチルノという名の子に投げつけた。

見事に頭に突き刺さり、言葉にならない叫び声が寺子屋に響いた。

それを見ていた大妖精というチルノの隣で起こそうとしていた真面目そうな子は呆れた表情で見ていた。

 

 

「い、痛いぞ!先生!あたいは天才なんだから寝てても大丈夫なのだぞ!」

 

「『寝るな』と言ってるんだぞ……?」

 

「は、はいぃ……」

 

 

殺気を放った慧音に対して小さくなったチルノを見て思った。

こいつ…()鹿()だな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・

 

 

さてと、今度は問題のカズヤか、あいつは算数の授業か?まぁ年齢的に小学生くらいだしチルノはさておき大妖精辺りは普通に解けそうだな。

 

 

「良いかい?数の計算を出来るようになれば、1人でお使いする時に困らなくなるんだ……」

 

 

見た感じ優しそうな教師だ。

慧音の授業では寝てたチルノもめちゃくちゃ馬鹿そうな顔してるが、真面目にやってるのは分かる。

つまらない授業と楽しい授業って言うことか?

慧音はずっと黒板に書いて教えていたが、カズヤは生徒一人一人の所に行っては分からないところを聞いて、教えている場面が多く見える。

これなら生徒も退屈にならずに授業ができるのだろう。

……()()()()()()()()()()使()()()()()()()()

いや、相手は敵なんだ…バレないように演じているんだろう。

ただ…こう見てると…。

 

 

「……光さん、お気づきかと思いますが」

 

「……咲夜さんもですか?」

 

「えぇ…カズヤという男を見てますが…あの手際…()()()()()()()()()()()ように見えます」

 

「………………。」

 

 

ここは敵地なわけだし、事前に習ってやっていると言う線もあるが…あの優しそうな表情は偽りのようには見えない。

もしかしたら何かあるのかもしれない。

そう考えてるうちに授業も終わり、下校の時間となっていた。

 

 

「さあみんな!今日も一日頑張ったな!真っ直ぐ家に帰って私が出した課題をやって早寝早起きするんだぞ!以上!」

 

「「「「「先生!さようなら!」」」」」

 

 

子供達の大きな声と共に慧音とカズヤも微笑んで返した。

さて、そろそろ俺達も帰るとしようかな。

 

 

「咲夜さん、そろそろ俺達もーーーー」

 

「すまないちょっと話があるんだが良いか?」

 

「………なんだよ」

 

「カズヤの事についてだ、悪いが咲夜には先に戻っておくよう説得してくれないか?」

 

「……分かった。咲夜さん、先に紅魔館に戻っててください僕は少し残ります」

 

「分かりました。あまり遅くならないようにしてくださいね」

 

「お母さんみたいですね…大丈夫です、すぐ帰ります」

 

「ありがとう光」

 

「礼はいい…早く話せ」

 

「そうだな、カズヤについてなんだが、最近()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「夜に…?」

 

「あぁ…私も夜に寺子屋に入ることは滅多にないからどうも怪しく感じてな…そこで光、君に頼みたいんだ」

 

「俺があいつの後をつけろと?」

 

「いや、先に私が出る。その後でいい」

 

「分かった…寝静まった夜に寺子屋に集合な」

 

「…ありがとう」

 

 

そして俺達は解散した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・

 

 

その日の夜、静かな寺子屋にて1つ影が動いていた。

 

 

「1週間が経った…教師に成りすましてなんとか寺子屋に忍び込めたぞ…ここには幻想郷についての情報が沢山あるはずだ…確か…この部屋に…」

 

 

1つのライトを照らしながら、書類室と書いてある部屋を見つけるとドアノブに手をかけた瞬間…。

 

 

「何をやってるんだ?カズヤ」

 

「っ!?…慧音先生」

 

「こんな夜更けに珍しいじゃないか、どうしたんだ?」

 

「……忘れ物ですよ、明日用意するための書類を取りに来たんです、すいませんご迷惑をおかけして」

 

「そうか…ならばよし、君は本当に生徒との距離感が上手くて助かっているよ、明日もよろしく頼むぞ」

 

「はい……」

 

 

慧音が後ろを振り向いた瞬間感情を無くした殺人鬼のような表情になると隠していたナイフを取り出すと…そのままーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

光の刀によって塞がれた。

 

 

「不意打ちとは良い度胸してんじゃねぇかカズヤ先生ぇ…?」

 

「チッ……」

 

「カズヤ…私もこんな真似したくなったんだが、君の動きがどうも怪しくてね」

 

「……ハメられたか……」

 

「うるせぇよ、てめぇの目的は全部知ってんだ、今すぐタロットカードについて話す気になれば楽に殺してやるよ」

 

「ハッ…誰がお前みたいなガキに……お断りだね」

 

「あっそ…じゃあ…」

 

 

そして光はナイフを弾くと、そのまま脇腹に目がけて刀を振った。

 

…しかし、それは重い金属音によって塞がれた。

 

 

「……なっ!?」

 

「悪いな、腐ってもタロットカード使いやってるからね、簡単には死なないよ」

 

 

暗闇のせいで何に塞がれたか全くわからないが、やばい事は確かだ…!

俺はバク転して回避すると、そこに斬撃が飛んでいた。

 

 

「ほぉ…やはり幻想郷の英雄となればこの程度のやつは回避できると」

 

「予想外だったか?、なら好都合だ。その方が簡単にお前を倒せそうだからなぁ!!!」

 

 

光は刀を構えて突っ込むと、カズヤは資料室にある窓に飛んで回避した。

 

 

「幻想郷の英雄よ、明日の朝妖怪共が殺られた場所で落ち合おう。僕の名は 平田 和也 タロットカードはその場で見せてやろう!」

 

 

そう言うと平田 和也は窓の外へ飛んで暗闇の中へ消えていった。

 

 

 



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VS平田 和也

なんとか2020年末ですが、間に合いました。
今年は色々な事がありましたが来年は落ち着くといいですね。
今回は戦闘回です。


翌朝、俺は咲夜さんと一緒に下級妖怪達が殺された場所へ向かっていた。

 

 

「……すいません、まさか咲夜さんまで来る事になるなんて」

 

「気にしないでください。お嬢様の命令ですし、何よりも紅魔館の人達(わたしたち)が光さんを心配してましたので、私が同行するのは当然の事です」

 

「…ありがとうございます」

 

 

咲夜さんは微笑みながら答えてくれた。

昨日の夜紅魔館に戻った俺はレミリアにこの事を話した。

レミリアは以前フランから平田の事について聞いていたらしく少し驚いていたが、咲夜さんと同行するという事で話がついた。

紅魔館(わたしたち)…か…俺の事を家族だと思って接してるからこそ言える言葉なのだろうな。

 

 

「考え事ですか?光さん」

 

「いえ、大したことじゃないので」

 

「そうですか…」

 

「はい」

 

「……」

 

「……」

 

 

………何この重い空気?話題がないからお互いに黙って歩いてるけど例の場所に行くまでまだ距離があるぞ…その間までとか咲夜さんは分からないけど、流石の俺でも気まずいぞ。

な、なにか話題を…

 

 

「「あ…あの」」

 

「あ!すいません!咲夜さんから良いですよ!」

 

「えっと…例の平田さんという方…寺子屋で教師をしていたカズヤさんと同じ人なんですよね?」

 

「……そうですね、実は授業参観の後、慧音に頼まれて夜中に張ってたんですけどカズヤ……平田が資料室を漁っていたのを慧音が発見して隙をついて慧音を攻撃をしようとした所を僕が抑えたんですけど…」

 

「そうだったんですか…信じられませんね、あんなに優しそうな先生でしたのに」

 

「表向きは良い人ぶるなんてよくあるケースですよ、問題なのは裏でどれだけ情報が出回っているのかという事です…平田も国山やニコラスと同じその一人に過ぎないんですよ」

 

「どんな能力を持ってるのでしょうね」

 

「下級妖怪達が殺された事件によると全部原型をとどめてなかったくらいらしいです」

 

「…油断できませんね」

 

「油断する気なんてさらさらないですよ」

 

「光さんは真面目ですね」

 

「俺はただ他人を信じれないだけですよ」

 

「ふふ…そうですね」

 

「?」

 

 

何がおかしいのか?俺の発言に笑う所なんてなかっと思うが、あまり深くは考えない事にした。

でもまぁ重い空気が少しでも和らいだのなら結果オーライか。

 

 

「おーい!光!咲夜!」

 

 

しばらく歩いていたら空から聞き覚えのある声が聞こえた。

普通の魔法使いと霊夢と…

 

 

「アリスに妖夢…お前らなんでここに」

 

「魔理沙に引っ張られてここまで来たのよ、私達が来た事で迷惑だったりしないかしら?」

 

「まったく…光さんの許可なく連れてくるんですから人の気持ちも考えてくださいよ!」

 

「気にするなアリス、妖夢…助かるよ」

 

 

俺の真っ直ぐな返答に目を丸くしてたが、悪いかよたまには俺だって助かることはあるんだよ。

実際相手の人数は分からないが…平田1人だろう。

まだ能力が分からない中、大人数で向かうのは好都合だ。

 

 

「あんたでもそんな事言うのね」

 

「悪いかよ霊夢、俺だって人の心はある」

 

「賑やかになりましたね光さん」

 

「別に賑やかになることを望んでたわけじゃ……まぁいいか」

 

 

光は諦めのため息をつくと、前を向いて全員の足並みを揃えた。

しばらくすると約束の場所に到着した。

そこには昨日の夜中に見た服装と同じ男が立っていた。

 

 

「これはこれは博麗の巫女、紅魔館のメイド、魔法使い2人に冥界の庭師まで」

 

「正直お前の能力が分からないもんでね、ハンデを渡そうか?」

 

「ははは!その必要は無いよ!何せ…全員でかかっても()()()()()()()から」

 

「……なに寝ぼけたこと言ってんだ?寝言は寝てから言え」

 

「その言葉後で後悔するよ?」

 

「ハッ!それこそ寝言だな、そんなに眠いなら寝かせてやるよ…もっとも()()()()()につくけどなぁ!!」

 

 

光は刀を抜くと、地を蹴った。

それと同時に他の5人も各攻撃体勢に入った。

瞬く間に平田に接近すると光は刀を振り下ろした。

それに関わらず、平田はニヤリと笑いながら1歩も動こうとしなかった。

 

 

「(こいつ…1歩も動こうとするどころか避けようともしない、何か策があるのか?それとも、6人相手に絶望して動けないのか…まぁどっちでもいいか、このまま倒せれば好都合)」

 

 

そして、光の刀が平田の頭部に接触しようとした瞬間。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()

 

 

「なっ…!?」

 

「だから言っただろう?後悔するよと」

 

 

瞬間光の脇腹に強烈な蹴りが飛んできた。

為す術なく吹っ飛ばされた光は5人の元まで飛んだところで身体を回転させて上手く着地した。

 

 

「なんだ今のは…おい何か見てないのか!」

 

「………っ!」

 

「空から見てたが、何もわからなかったぞ…光が刀を振り下ろした時に突然止まったように見えたぜ」

 

「妖夢なにか見えたか?」

 

「…すいません私からも突然光さんの身体が止まったように…」

 

「っ…!これが奴の…」

 

「身体が止まったように見えるというのはちょっと違うかな?」

 

「なに…?」

 

「そこのメイドさんは何かわかったようだけど?」

 

「咲夜さんが…?」

 

 

さっきから隣で黙っていた咲夜さんの方を見ると手元にあったナイフが数本消えていた。

 

 

「時を止めたんですか咲夜さん」

 

「はい…光さんの背後に回られても大丈夫なようにナイフを設置しておいたのですが…」

 

「なにか見えたんですか?」

 

「いえ…私が時を止めた状態で光さんの背後に立った時までは何も起きませんでしたが、私が能力を解除した瞬間、何やら()()()()()()()()が聞こえたあと()()()()()()()()()()()()()()()、正確に投げたはずのナイフがそれに捕まって軌道を変えられてしまいあらぬ方向へ飛んでいきました…!」

 

「ワイヤー……まさか…!」

 

「ご名答!僕の能力は()()()()()()()()()()()()()()、小さいとはいえ君達の能力がまともに使えなくなるくらいの効果はある」

 

「あの気持ち悪い感覚になったのはお前の能力だったのか」

 

「そう…だからあの下級妖怪の雑魚達も簡単に殺せたわけだよ…そしてこれが…!」

 

 

その瞬間、瞬きする暇をも与えないうちに平田は光の背後に回っていた。

 

 

「僕のタロットカード!Wheel of Fortune(ホイール・オブ・フォーチュン)(運命の輪)だ!」

 

「させません!」

 

 

光が気付く前に、妖夢が刀で平田の攻撃を防いでいた。

 

 

「っ!?」

 

「凄い速さ…!」

 

「流石冥界の庭師…反応速度が良いじゃないか」

 

「あなたの好きにはさせませんよ」

 

 

妖夢の刀の先には…小さな輪刀(りんとう)が二つあった。

もしも妖夢が反応に遅れていたら光の首は吹っ飛ばされていただろう。

 

 

「なるほど…運命の輪だから…武器も輪型になっているのか…」

 

「もう少しで首を飛ばせたのだけれどね」

 

「もう同じ手は通用しねぇぞ平田ァ!!!」

 

 

妖夢が刀を弾いたと同時に光が刀で突き刺すが、またしても直前で身体が止まってしまい、避けられてしまった。

 

 

「一対一でやるのはあまりにも不利すぎるな」

 

「ここは2人1組で行動した方が良さそうね」

 

「妖夢、俺に合わせられるか?」

 

「問題ありません」

 

「咲夜さんは霊夢と、魔理沙はアリスと組んで行動しよう」

 

「分かりました」

 

「任せろ!」

 

「ちょっと!勝手に決めないでよ!」

 

「今は文句言ってる場合じゃねぇだろ、戦った後に言ってくれ」

 

「私と組むのは嫌かしら?霊夢」

 

「……分かったわ」

 

「……よし」

 

 

話がまとまったと同時に光は刀を再び構えた。

同じく平田も輪刀を構えた。

 

 

「覚悟しろ平田、お前がどこまで通用するか試してやるよ」

 

「フフ…やれるものならね」

 

 

そして平田に急接近した光を筆頭に他の5人も攻撃を開始した。

 

 




来年は出来るだけ更新出来るように頑張りたいです。

では!みなさん良いお年を!


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VS 平田 和也②

どうも、あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
今年はなるべく出せるように頑張ります。


 

 

 

「妖夢、俺が先に仕掛けるその間に隙をつけ」

 

「わかりました!」

 

 

妖夢は走る速度を緩めるとそのまま軌道を変えた。

それと同時に光は平田に刀を振り下ろした。

それを輪刀で防ぐと、後ろに下がった光との距離を瞬時に詰め寄ると、両手に持っている輪刀で光を斬りつけた。

ギリギリ反応して刀で防ぐと平田の足元を払ってバランスを崩そうとするが、再び咲夜さんが言っていた謎の警告音が聞こえ後ろに下がざるおえなくなり、平田に体勢を立て直されてしまう。

1度距離をとると平田は両手の輪刀を持ち直して今度は軽くジャンプをして光に詰め寄る。

光は上手く攻撃をいなしてやり過ごすと背後を見せた平田の背中を蹴り飛ばした。

少し距離が空いた瞬間に配置についていた妖夢が一気に近づくと刀を抜いた。

抜く瞬間は肉眼で捉えられたが、斬る瞬間までは見えなかった所、やはり冥界の庭師をやっているだけはある。

しかし平田はそれを読んでいたのか、輪刀を使って身体を捻ると妖夢の斬撃を防ぎ切った。

そして妖夢に輪刀の斬撃を放つとジリジリと妖夢に攻め寄る。

妖夢も軽々といなしながら相手の隙を探っていた。

そして平田が根負けして攻撃を緩めた瞬間、そこを妖夢が刀で弾いた。

そして腹部に隙が生まれると刀を持ち直して斬りつけたが、平田は弾かれた勢いを使って後ろに倒れた事で妖夢の斬撃は空を斬った。

そして体勢を立て直すと、妖夢の背後に回り首元めがけて輪刀を振るうが、妖夢はそれを見据えた上で身体を回転させて防ぎ、1度距離を取った。

平田は更に距離を詰めようとするが、そこに魔理沙とアリスの弾幕が襲い掛かったが、平田の能力によって弾幕の軌道を変えられしまう。

 

 

「無駄な足掻きだね、僕の能力にはまったく通用しなーーー」

 

「なら私の能力は避けられますでしょうか?」

 

「?」

 

 

指を鳴らす音が聞こえたと同時に大量のナイフと弾幕が四方八方から平田目掛けて放たれていた。

流石咲夜さん、やはり時を止めて逃げ道を塞げばいくら高速でも避けきれないだろうという考えか。

だが、平田はこの光景を目の当たりにしても表情一つ変えなかった。

 

 

「だから無駄な足掻きだと言っているだろう?」

 

 

平田は両腕をクロスさせて体勢を低くするとその場でじっと待った。

すると大量に放たれたナイフや弾幕が次々と軌道が外れ、気付けば平田は一歩も動かずにやり過ごしたのだ。

そして左右から光と妖夢が接近すると刀を振り下ろした。

平田は身体を回転させてクロスさせていた輪刀でいなし、妖夢に切り付けようとしたが…

 

 

「今です光さん!」

 

「おりゃああああああああああ!!!」

 

 

能力を使って強化した光が滑り込んで平田に斬りつけると能力で瞬時に反応して防ぐが、ここで初めて焦りの表情が見えた。

光の強化された斬撃が予想以上に強かったのか、思わず片方の輪刀を手から離してしまった。

 

 

「っ!?」

 

「くたばれ!!」

 

「まだだ!」

 

 

平田はすぐさま光を蹴り上げてから背後から攻撃してくる妖夢の斬撃をもう片方の輪刀で防いだ。

ならばと妖夢は白楼剣を抜くと平田に斬りつけた。

しかし楼観剣を弾いて後ろに下がり、白楼剣を避けると片方の輪刀で下から刈り上げるように妖夢に斬りつけた。

それを楼観剣でいなすが、そのせいで後ろに下がざる負えなくなった。

 

 

「すいません、仕留めきれませんでした」

 

「俺達6人でかかってもビクともしない。相手がタロットカード使いなだけある、簡単に負けるような相手じゃない」

 

 

奴の能力は対象をワイヤーで捉えて妨害する能力、国山やニコラスとは違う1つのミスが命取りになる。

平田は輪刀で急所を狙ってくるあたり、俺達が能力に掛かって隙を見せる所を伺っている。

厄介な野郎だ。

だがしかし、どこかしらに弱点はあるはずだ…。

俺の能力を使った時、奴は不意をつかれたような反応をしていた。

もしかすると…上手く攻撃を与えられれば…!

 

 

「私達の存在も忘れない事ね!」

 

「博麗の巫女か」

 

 

お祓い棒を持った霊夢は咲夜のナイスを背後に弾幕を放ちながら接近していた。

平田は変わらず弾幕を能力で避けると、こちらも接近した。

輪刀とお祓い棒が接触して火花が散ると背後からナイフが飛んできた。

霊夢はそれを避けながらお祓い棒を振り下ろし続けた。

負けじと平田は輪刀でいなしながらナイフの雨を避け続けていた。

そこへ、アリスと魔理沙の弾幕が接近すると平田は片方の輪刀を持ち直してバク転した。

霊夢のお祓い棒を足で弾くと、迫り来る弾幕を輪刀で弾き続けた。

 

 

「光さんもう一度仕掛けてみます!」

 

「分かった」

 

 

妖夢も戦闘の中へ入っていくと5対1になったが、平田にはそれでも十分な攻撃はさせてくれなかった。

平田に近づけば何処からか警告音が鳴り、その瞬間ワイヤーが尽く妨害し、弾幕の軌道を変えさせたりする。

これが『運命の輪』の能力。

対象を思うような動きにさせないだけでここまで戦えるのか、なんてやつだ…。

一瞬だけでも奴に焦りの表情をさせただけでも凄いと感じるくらいだ。

でもその程度で勝てないなんて言われなくても分かってる。

だからこそ弱点をーーーーー

 

 

 

「っ!?」

 

 

その瞬間、平田の動きに気が付いた。

さっきからあいつ…()()()()()()()()()()…?

距離を取ったりして回避する事はあるが、それを含めても()()1()5()m()()()()()()()()ように見える…。

もしかして奴の能力は()()()()()()()()()()()()()のか?

その瞬間、光は刀を持って魔理沙に告げた。

 

 

「魔理沙!スペルカードだ!」

 

「えぇ!?」

 

「いいから!平田に向けて撃て!」

 

「……何かわかったんだな?任せろ!」

 

 

そして魔理沙以外が距離を取ったと同時にスペルカードを発動した。

 

 

 

〜恋符「マスタースパーク」〜

 

 

 

瞬間、魔理沙の持っている八卦炉から強烈なレーザーガンが放たれた。

平田もこれは堪らなかったのか、大きく距離を取った。

するとマスタースパークの軌道が外れなかったのだ。

あれだけのレーザーガンだと流石に防ぎきれなかったという事か…!

光はこの瞬間を好機だと感じた。

これを逃さず訳には行かなかった。

 

 

「そこだぁ!!!!」

 

 

急接近した光は刀を振り下ろした。

平田は輪刀で防いだが…やはり()()()()

普通ならここで謎の警告音が聞こえるはずだが、それがない。

という事は…

 

 

「お前の能力には()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

 

 

そう言った光は平田の輪刀を刀で砕いた。

平田は片方の輪刀で弾いて後ろに下がると俯いた。

ついに見破られた能力、片方だが、自身の武器を破壊された事で頭が真っ白なのだろう。

 

 

「これで終わりだ…平田ァ!!!」

 

 

刀を構えた光は走り出すと平田を切り付けたーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーがそれは『運命の輪』の光によって防がれた。

 

 

 

「……まさか僕の能力を見破るとは…ならば僕も本気を出すとしよう…()()()()!!!」

 

 

 



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VS 平田 和也 X Wheel of Fortune.

今回は結構長めの戦闘回となっております。
大分詰め込んだからかな?
では、どうぞ。


 

 

 

大きな光に包まれ視界が悪くなった光達は後ろに下がった。

そして辺り一面に広がっていた光が消えるとそこには()()()()()()()()()平田が立っていた。

 

 

「ここからが本番だ、先程のような手口はもう通用しないよ」

 

 

余裕な表情をしながら左手でクイクイと挑発するような仕草をする平田だが、光はそんな事はどうでもいいと言うような表情になり、刀を構える。

 

 

「武器が変わったところでお前の弱点はわかったんだ、もう一度ぶちのめせばいいだけの話だ!」

 

 

地を蹴る光に合わせるように他の5人も各自攻撃態勢に入った。

四方八方から放たれた弾幕は平田の能力の制限距離である15m以上にも広がる程の規模だった。

例えこれを回避するとしても光や妖夢の斬撃によって能力の範囲外に押し出されてしまうだろうし片手で持っていた輪刀も両手で支えるのがやっとのようなくらいの大きさになり、防御は出来ても全てを防ぐにも限界があるだろう。

そして、光よりも先に平田に弾幕が接触しそうになった瞬間、光は目の当たりにした。

 

 

「なっ……!?」

 

 

何百にもなる弾幕は()()()()()()()()()()回軌道を外れた。

それは輪刀を盾にしたとかではなく、平田を避けるかのように弾幕があらぬ方向へ飛んでいた。

奴のタロットカードを光らせた効果は輪刀が大きくなっただけでは無い()()()()()()()()1()5()m()()()()()()()()()()()()という事だ。

そして少し遅れて光の刀が接触した時、ようやく背負っていた輪刀を出した。

やはり交えただけで分かるほどスピードも力も違う。

身体をしなやかに動かして1番輪刀に力が伝わるように対応している。

こいつは国山と違って技術的では圧倒的に上だ、一度後ろに飛んで距離を置き斬撃を放つと平田はそれを身体を回転させて輪形の斬撃を作り相殺させてみせた。

そして発生した煙によってお互い視界が悪くなると…

 

 

「妖夢!咲夜さん!」

 

 

光の背後からナイフと2刀を持った2人が煙を払った光に合わせるように平田に接近した。

少し驚いた表情を見せた平田は輪刀を持ち直すと…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()

 

 

「…っ!?」

 

「残念だったね、元々輪刀は2つあったんだ、それが合わさっただけであって1本化した訳じゃないんだよ!」

 

 

それで2人の斬撃を防いでみせると力任せに2人を弾き飛ばした。

すると正面から光、背後から霊夢が接近すると、身体を後ろに倒してその流れで先に攻撃してきた霊夢のお祓い棒を弾いて光の斬撃を回避した。

ならばと光が回り込み平田の胴に切りかかるが、もう片方の輪刀で塞がれる。

光は1度刀を弾くと再び刀を振るうも能力で体勢を戻した平田に簡単に弾かれる。

何度も火花が飛び散り、そして何かを悟ったのか大きく横に飛んだ瞬間。

 

 

「マスタースパーーーーーク!!!」

 

「操符『乙女文楽』!!!」

 

 

魔理沙とアリスの強力なレーザービームが2本放たれた。

しかし平田は()()()だった。

輪刀を元の形に戻し背負うと、そのまま一歩も動かなかった。

そしてレーザービームが平田に接触する手前、どこからか警告音が聞こえると再びワイヤーが出現したが、そのワイヤーは2人のレーザービームではなく()()()()()()()()()

 

 

「な…!?」

 

「僕の能力はねこうやって自分の為に扱うことも出来るのさ!」

 

 

そのワイヤーは平田を捕まえると勢いよく後ろへ引っ張り、その直後に大きな爆発音が響きわたり、地面にはクレーターが出来たと同時にその少し向こう側に()()()()()が立っていた。

 

 

「そ、そんな…」

 

「あまり僕を舐めない方がいいよ!」

 

 

2人にとっては渾身の一撃だったのだろうが、それでも平田の能力に封じ込まれてしまった。

 

 

「もう打つ手はないかな?それなら…!」

 

 

平田は一度輪刀を背負うと、瞬間、魔理沙達の方へ接近し輪刀を振り下ろした。

 

 

「うわああああ!!」

 

「魔理沙!!」

 

「おっと追撃はさせないよ」

 

「ぐっ……!」

 

 

魔理沙は斬られ、アリスは首元に蹴りを入れられて、力なく倒れてしまった。

ここで2人が脱落、そして…

 

 

「次は…」

 

「はあああああ!!!」

 

 

平田が振り向くと同時に妖夢と霊夢が互いに武器を持った手を振り下ろしていた。

しかし、ワイヤーで引っ張られることでスピードアップしている平田に軽々といなされ、妖夢は背中を見せてしまった。

 

 

「しまっーーーーー」

 

「させません」

 

 

平田に攻撃される前に咲夜が時を止めてナイフで応戦すると輪刀で弾いた。

そこへ光が接近し足元を払うが、ジャンプして輪刀を光に振り下ろす。

刀で防いだ光の後ろに妖夢が回ると弾いたと同時に妖夢の渾身の一撃を放つ。

 

 

 

 

 

〜人符「現世斬」〜

 

 

 

 

強力な斬撃が何本も放たれ、平田を襲う。

平田もこれには考えなければ行けなかったのか露骨に能力を発動させて回避して距離をとると、ニヤリと笑って再び斬撃に接近した。

そして平田はそれを輪刀で防ぐのではなく警告音が鳴ったのと同時に接近し平田の目の前で軌道を変えると、後ろの木々に当たり砕け散った。

最後に妖夢が楼観剣を振り下ろしたが、平田の輪刀であっけなく防がれてしまった。

平田は鼻で笑い妖夢を睨みつけると力を入れて、少しずつ前へと進んだ。

そして警告音が鳴ったと同時に妖夢が怯むと輪刀を振り上げ、大きく弾かれた反動で胴がガラ空きになった妖夢に即座に割った輪刀の片方で妖夢に斬りつけた。

防ぎ切れなかった妖夢はそのまま後ろへ吹っ飛ばされた挙句再び謎の警告音が鳴り、ワイヤーが妖夢を捉えると地面に強制的に叩きつけられトドメの一撃を食らい地に伏せた。

これで3人が脱落した。

しかし、平田にかなりの距離を移動させていた為、一か八か賭けるチャンスが訪れた。

 

 

「もう出し惜しみは無しよ!」

 

「分かってるわ」

 

「へいへい」

 

 

残った霊夢、咲夜、光の3人が同時にスペルカードを発動した。

 

 

 

 

〜霊符「夢想封印」〜

 

 

〜幻象「ルナクロック」〜

 

 

〜蝶符「妖刀・千子村正」~

 

 

3方向から様々な種類の強力な弾幕が放たれ、平田を襲う、魔理沙達のように対応するものなら必ず何処かでスキが生まれる。

以前真ん中で立っている平田は目を瞑ると2つの輪刀を元に戻して構えると……

 

 

「やはりこうじゃないと、それじゃあ僕も…本気を出させてもらう!」

 

 

瞬間、平田が大きく両手を広げて空を見上げるとそのままの姿勢で弾幕を迎え入れた。

普通ならここで全て食らい原型を留めないはずだが、平田の能力はあらゆる方向からまたしても警告音が鳴り、今までとは比べ物にならないほどの無数のワイヤーが弾幕に向かって、衝突すると()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「な……!?」

 

「うそ……」

 

「……これが僕の全力だよ、かなり消耗するけどこれくらいなら簡単に防げるのさ」

 

 

平田は額の汗を拭いながら続けてこう語る。

 

 

「僕の能力は対象をワイヤーで捉える能力、全力で使えばこうやって広い範囲で全ての敵を拘束させ、弾幕の軌道を変える、そして……」

 

 

深呼吸して再び前を向くと平田はニヤリと笑い。

 

 

「僕本体が戦うまでもなく…君達を()()()()()()()()()()!!!」

 

 

輪刀で輪形の斬撃を放ったと同時に、()()()()()()()()()()3人の周りから警告音が鳴り響きワイヤーで捉えられると身動きが取れず、あっという間に3人を地に伏せてみせた。

そして、輪刀を背負い直した平田は地面に刺さった咲夜のナイフと1本抜き、光に向けた。

 

 

「これが僕のタロットカード『運命の輪』さ、見ての通り大勢で戦っても僕には通用しないと言うことだ、それじゃあ…」

 

 

平田は向けていたナイフと振り上げると……

 

 

「楽しい戦いだったよ!雨天 光くーーーー」

 

「本当に勝った気で居るのか?平田 和也」

 

「?」

 

「まだ気づかないのか?お前が俺達の弾幕に意識が向けられていた間に、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「…………」

 

 

振り上げたまま平田は少し考えると何かを察したのか後ろを振り向くとそこにはーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()

 

 

「うそ…だ…何故君が立っていられるんだ!あの時確かにーーー」

 

「確かに私は貴方に気絶させられたわ、直ぐに起きられるはずもない…だけど」

 

 

アリスは一度言葉を止めてイタズラが成功した子供みたいな笑顔でこう告げた。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「活用……!?」

 

 

平田は再び魔理沙が倒れている場所に目をやるとその正体が分かった。

そこにはアリスの形をした()()が倒れていたのだ。

アリスは光に国山戦で渡したものと同様のやり方で平田から難を逃れていたのだ。

そして

 

 

「光のお陰であなたの弱点も調べさせてもらったわ!」

 

「まさか…お前!!!」

 

 

アリスは何も無い木々に攻撃を向けると思いっきり弾幕を放った。

平田も焦りを見せてアリスの周りから警告音を鳴らせたが、それと同時に木々から落ちた()()()()()をアリスが掴み、()()()それを破壊した瞬間、鳴り響いた警告音がばったりとおさまり、ワイヤーが出現しなかった。

それを見た平田は青ざめた。

 

 

「そう…お前は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ!!!」

 

「くっ……!!!」

 

光は立ち上がると刀を持って平田に急接近した。

もちろん能力を見破られた平田はコインで止めようとするも、警告音が鳴ったと同時に近くにあるコインをアリスに尽く破壊されてしまい拘束させることが出来なくなると平田も対処出来る訳もなく、一瞬にして形勢逆転した。

 

 

「な、何故だ……どうして僕の能力の仕組みが分かった!!!」

 

「それはな…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

遡ること咲夜が平田にナイフで応戦した際の話。

 

 

「何か分かりましたか?咲夜さん」

 

「やはり()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()コインのようなものを見つけました」

 

「コイン?」

 

「彼の能力の源となる品物だと思います。」

 

「平田は無意識のうちにコインが設置されている所に攻撃が行かないように上手く場所を移していたんですね」

 

「そういう事になります、そしてそのコインからは至近距離でないと見えないくらいの薄さですが確かにレーザーの様なものを放っており、それを辿ると反対側の木に同じようなコインが配置されておりました、その距離はおよそ30mはありました、それに触れる事で警告音が鳴った後にコインからワイヤーが出現し対象を拘束させるのだと考えられます」

 

「やはりタロットカードを発動したことで距離も伸びていたのか」

 

「私事ながら設置されたコインを破壊しようとしましたが、時を止めている状況でも警告音が鳴ってしまい破壊までとはいきませんでした」

 

「そうだったんですか、そうなると…やっぱり()()()()()()()()()()

 

「念の為にあの人形を持ってきておいてよかったわ」

 

 

アリスの名前を呟くと光の背後からアリスがやれやれと言う表情で現れた。

元から彼女は戦闘に参加しておらず、化け人形に全て任せていたのだ。

 

 

「どうだ…やれそうか?」

 

「分からないけれど、私の火力なら木の一本や二本は倒せると思うわ」

 

「わかった、俺達があいつに意識を向けさせるからその間に配置について置いてくれ」

 

「りょーかい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

「元からお前は彼女の藁人形と遊んでいたわけだ、まったく情けない寺子屋の元教師だな平田」

 

「………殺れよ」

 

「あ?」

 

「僕は君達の敵だ、敗北を認める」

 

「言われなくても…楽に殺してやるよ!!!」

 

「待ってくれ!」

 

 

刀を振り下ろそうとしていた光は誰か分からない声に手をとめられた。

光はため息をして後ろを振り向くとそこには…

 

 

()()()()…」

 

 

…と平田が呟いた。

 

 

「平田、ひとつ聞かせてくれ、どうして私を、生徒を()()()()()()()()?」

 

「それは…」

 

「君の能力ならあの寺子屋で授業をしている時に殺れるチャンスは沢山あったはずだそれなのに何故」

 

「あれはただの情報収集であって殺す時ではなかっただけです」

 

「ならどうして光と咲夜が来た時、寺子屋にコインを張り巡らさせていなかったんだ?」

 

「…………」

 

「何かほかに理由があるはずだそうだろ?」

 

 

平田は詰め寄られる慧音の前に沈黙した。

そしてもうダメだという表情になると、口を開いた。

 

 

「………楽しかったんです」

 

「楽しかった?」

 

「僕は最初皆を殺すつもりだった…でもこの1週間、慧音先生と、生徒達と授業をしていくに連れて楽しいと心の底から思えたんです、この子達を立派な大人にさせたい、皆に愛される教師になりたいと昔教師をしていた時に抱いた夢が…捨てたはずなのにこんな形でまた…」

 

「それが…君の本心かい?」

 

「……はい」

 

 

平田は返事をすると再び俯いてしまった、敵同士なのに敵地なのに相手に情けをかけてしまうという平田側の組織からしたら禁止行為をしてしまったのだから。

その時の表情は死を覚悟していた。

しかし、慧音は平田の話を聞いて微笑むとこう告げた。

 

 

「なら()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「………え?」

 

「君は私と、生徒達と一緒に授業をしたいと思ったのだろう?なら良いじゃないか!そうだろう?()()()

 

 

そう言いながら辺りを見渡すとそこには()()()()()()()4()()の姿があった。

 

 

「傷は大丈夫なのか?」

 

「全然大丈夫だぜ!平田が手加減してくれたからかすり傷で済んだ!」

 

「だったらあのまま気絶しないでよね」

 

「それはあの場の空気ってやつだぜ」

 

「……これが答えです」

 

 

何もかもをバラされた平田は再び口を開いた。

ため息と共に仰向けになると快晴の空を見ていた。

 

 

「……この世界は…空が綺麗ですね」

 

「そうだろう?これからもこの空を見られるわけだ!」

 

「……ふふ」

 

「……悪いが俺は帰らせてもらう、こんなことに付き合ってる程俺もお人好しじゃねぇからな」

 

「そうか、ありがとう光」

 

「……ハッ」

 

「では私もそろそろ失礼しますね」

 

「あぁ、ありがとう咲夜」

 

 

光は唾を吐き捨てて去るのに対して咲夜は慧音に一礼して去っていった。

場の空気を読んだのかアリスと妖夢は既に立ち去っていた。

残った霊夢と魔理沙はそのまま慧音の後ろで見守っていた。

 

 

「こんな僕でも、信頼してくれる人がいるんですね」

 

「勘違いしないで、しばらくは私があんたを監視するから何か変なことでもしたら直ぐにでも潰すから」

 

「はは…その方が安全ですね」

 

「これからよろしくな!私は霧雨 魔理沙!あんたは?」

 

 

仰向けになった平田に魔理沙は手を差し伸べると平田は笑ってその手を握り返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「平田 和也、タロットカード『運命の輪』を持つ、ただの寺子屋の教師だよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




というわけでこんな形ですが、平田君がこっち側につくことになりました。
いやぁ結構な数の敵を出そうかと考えてたので少しくらい仲間に入れても問題ないかなとは思いました(まる)
これからも何話か彼が出ると思うのでその時はよろしくお願いします。


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変わりゆく関係

どうも、最近ウマ娘にハマってます。
メジロマックイーン推しです。
今回は5000文字とかなり熱が入りました。
それ毎日やれよって話なんですけどね


平田との戦いが終わって数週間が経った。

相変わらず霊夢の監視下に居るが特に問題を起こさずに寺子屋で教師をやっているらしい。

人里に買い出しする際に少し覗いたが、生徒との関係は変わらず良好のように見えた。

本当だったらあいつを殺して安心するのが一番だが、慧音に止められているので今回は俺は関わらない形で事が進んでいる。

まぁ、あいつが何かすれば霊夢が問答無用で潰すだろうし俺の手を下すまでもない…か。

それにしても慧音の奴、お人好しが過ぎるのか平田に脅されているのか分からないが、元々敵同士である平田を受け入れるのには理解に苦しんだ。

俺は今でも平田は信用してないし、何なら慧音にも敵意を向けている。

以前とは変わらない態度を取っているから本人も気づいていないと思うが、何か起こせばあの二人諸共殺すつもりだ。

それは霊夢にも伝えているから何かあれば直ぐに俺に伝えるようにした。

 

そんな訳で外の世界では2月に差し掛かった頃合の時期に今日も俺は買い出しを終えて紅魔館に戻っていた。

 

 

「咲夜さん今日頼まれていた買い出しのやつです、確認お願いします」

 

「ありがとうございます。」

 

 

今日も居眠り門番をシバいていた咲夜を紅魔館の入口で捕まえて買い出しの報告をした。

買い物袋から品を取り出し、丁寧に1つずつ確認していた。

そして、咲夜さんの手が急に止まると。

 

 

「光さん、この紅茶の茶葉はリストに載っていなかったはずですが…」

 

「すいません、実は厨房でその茶葉の量が少ないのを見まして念の為と思い買っておきました、余計な事をしたとは思っています」

 

 

実は咲夜さんには頼まれていない品を買っていた。

以前食器を片付けている時に偶然目に入り量を確認したら明らかに少なかったから、先に買って追加で買いに行く事は無いようにした。

とはいえこれは明らかなルール違反だし余計な事をしているのは承知の上だ。

俺も怒られたところで逆ギレしたりはしないさ。

怒られる覚悟はしながらもどんな反応をするか気になっていた俺はじっと咲夜さんを見ていた。

 

光の話を聞いた咲夜は疑問に思っていた表情から一変、ぱあっと明るい表情になると

 

 

「そんな!余計な事だなんてとても助かります!これは私の確認不足でした、お嬢様の機嫌を損ねる前に気づいてくださってとても有難いです!」

 

 

少し興奮気味に感謝の気持ちを述べると全ての品の確認を終えて急いで厨房へ向かっていった。

その姿は大人の女性とは程遠く、初めて来たばかりのメイドの女の子のようだった。

そんな咲夜さんを見送った俺は少しほっとした表情で部屋に戻っt…

 

 

「貴方が他人に優しさを見せるなんて珍しいわね」

 

「うお…レミリアかよ…」

 

「あら?私が居て不服かしら?」

 

「別に、どうとも思ってねぇよ、それで?何か用か?」

 

 

少し嫌そうな表情でいる光に対してレミリアはフフ…っと笑って。

 

 

「そろそろ貴方にも()()()()()()()()()()を話しておかないといけないわね」

 

「……?」

 

 

彼女の返答に光は頭にハテナを付けざるおえなかった。

知っておいて欲しい事とは何だろうかと、レミリアに付いていきながら部屋に案内された。

そしてレミリアは自分の椅子に腰掛けると。

 

 

「話しておきたいってどういう事だレミリア」

 

「そうね、これから話す事は()()()()()()()()()よ1度しか言わないからちゃんと聞いて」

 

「咲夜さんの…過去…?」

 

 

あまりにも予想外の内容に思わず動揺してしまった。

 

 

「その話と俺に何が関係あるんだよ」

 

「…貴方にとってはどうでもいいことかもしれないでもあの娘と仲良くしたいのならば黙って私の話を聞いて欲しいの」

 

「仲良く……」

 

 

俺は少しの間考えると、再びレミリアに視線を向けた。

 

 

「わかった、それが俺に今後関係してくるのかは知らないが聞いてやる時間はある、話せ」

 

「その返事を聞けて満足よ、これは()()()()()()()()()()()()()()()……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・

 

 

最近、光さんが妙に丸い。

丸いというのは彼が太り始めているという訳じゃなくて、尖っていたのが丸くなっているという意味だ。

幻想郷(ここ)に来たばかりの時は人間不信で他人を全く信じようとしなかった彼が最近周りに気を配っているように感じる。

食器を片付ける時、厨房にある食材の在庫を確認したり、妹様の遊び相手に率先して受け入れたり、今日の買い出しだって不足していた材料を追加で買って来てくれていた。

買い出しの時に少し多めに金銭を渡しているが、まさかここで役に立つとは思わなかった。

来たばかりの彼ならば『それはお前の仕事だろ?俺には関係ない』と言って突き放していただろう。

紅魔館に住む前に私が放った言葉が効いているのだろうか。

今考えてみればすごく恥ずかしい言葉ね、光さんに言われて自分の気持ちをそのまま話してしまったけれど、それが逆にいい方向に進んでいるのかもしれないわね。

 

「ふふ…」と1人でに笑いながら厨房で食材の整理をしている咲夜を横に…。

 

 

「何やらご機嫌ですね咲夜さん!」

 

 

美鈴が立っていた。

 

 

「め、美鈴!?貴女門番はどうしたのよ!」

 

「いやー少しお腹が空いたので咲夜さん何か作ってくれないかなーと思ったんですけど…その様子じゃ私はお邪魔のようですね」

 

 

珍しいものを見たと言わんばかりの表情で立ち去ろうとしていた美鈴に咲夜が黙っている訳がなかった。

 

 

「美鈴♪」

 

「やめてくださいその呼び方恐怖でしかないです」

 

「このナイフが貴女の脳天に突き刺さる前に今見た事は綺麗さっぱり忘れなさい?いいわね?」

 

「はい!私 紅 美鈴は十六夜咲夜さんが一人で笑っている所なんて見ておりません!」

 

「貴女そんなに死にたいの?」

 

「あ!いや!そういう訳じゃ…」

 

「わ・す・れ・な・さ・い・?」

 

 

美鈴の肩を掴んでいる咲夜の手が更に強くなると同時に美鈴の顔面も段々蒼白になっていった。

そして数分後、紅魔館にひとつの断末魔が響き渡ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

「咲夜さんが()()()()…だと?」

 

「ええ、そうよ正確に言えば()()()()ね」

 

 

男性不信…全然聞かない言葉だが、すぐに分かった、人間不信と同様男性に対してだけ不信感を抱いているという意味だろう。

 

 

「…咲夜さんに何があったんだ」

 

「私達が幻想郷に来る前、咲夜は幼くして孤児だったのよ、両親を殺されてしまったから」

 

「両親が…」

 

「ボロボロになりながら道端で泣いていた彼女を見つけたのが私と当時メイドをしていた美鈴だったの」

 

 

咲夜さんから以前仕える前に担当してたって言うのは聞いてたが、やはりあの美鈴がメイドって全然想像つかない。

 

 

「最初は警戒心が強い子で手を焼いたけれど1年、2年と経ってようやく可愛げのある子に育ってね、美鈴がメイドの任を降ろすのもそう長くなかったわ」

 

「それで、咲夜さんが今のメイド長になったって訳か」

 

「…それでどうして咲夜が男性不信である事が分かったのかは、紅魔館に来てからすぐの話…」

 

 

レミリアは1度机に置いてあった紅茶を飲んで喉を潤すと、再び口を開いた。

 

 

「実は咲夜を拾った同時期にパチェが1人の()()()を引き取っていたのよ」

 

「引き取っていた…?」

 

「えぇ、その子の父親がパチェと面識があってね…私も何回か顔を合わせたことがあって顔見知りではあったのよ、だけどその子の父親も戦闘で死んでしまってね、死ぬ直前にパチェに託したらしく紅魔館で引き取ることになったのよ、そして初めて咲夜とその子が対面した時咲夜が酷く怯えながら暴れ出してねそこで知ったのよ男性不信というのを」

 

「それは咲夜さんが男達に何かされたという事か?」

 

「彼女は『時間を操る程度の能力』を持っていたことで元々住んでいた里では忌み嫌われていたのよ、特に男性が…彼女に暴力や罵声を浴びせては飽き足らず…咲夜を散々信頼させて最後は裏切りをはかり奴隷として売ろうとした者も…」

 

「なんだよそれ…咲夜さんは何もしてないんだろ!?」

 

「…確かに咲夜は何もしていなかった、ただ能力者という名だけで酷い扱いを受けていた」

 

「それが男性不信の始まりだったと言うことか」

 

「そういうことよ、だけど咲夜に拒絶された彼はその話を聞いて『自分がその子の拠り所になれるように頑張る』と言ってくれてね、しばらくは咲夜に嫌われ続けていたけど彼女がメイド長になった時に、ようやく既に執事長になっていた彼に心を開いたのよ」

 

「咲夜さんも変わろうとしていたのか」

 

「変わろうしたというより彼が変えてくれたのかもしれないわね」

 

「それで、この数ヶ月その執事長さんの姿はまだ見ていないが…どこで何をしてるんだ?」

 

「…………」

 

「レミリア?」

 

 

痛いところをつかれたと言わんばかりに黙り込むと、決心した表情で再び光の方を向いた。

 

 

「これも初めて話すわね…私達、幻想郷に来たばかりの時に異変を起こしたのよ」

 

「異変…!?お前ら霊夢に喧嘩売ったのかよ!?」

 

「ま、まぁ簡単に言えばそうなるわね…赤い霧を発生させて日光を遮ったのよ吸血鬼にとって日光は天敵だから」

 

「なるほど…それで結果的に霊夢にボコボコにされたと」

 

「そうね笑…フランと2人で霊夢と魔理沙に挑んだけど負けちゃったわ、その時彼もこの異変に参加していたわ」

 

「そいつは能力者だったのか?」

 

「いいえ、父親は能力者だったけど産まれて直ぐに死んだ母親に似たのでしょう元々能力は持ってなかったのだけど、この異変で能力が開花したのか私達が負けた後に霊夢達に1人で立ち向かったのよ」

 

「結果的にどうなったんだ?」

 

「奮起はしたけど負けは負けよ、でも彼は諦めなかったのよ、()()()()()()()()()()()()()()()はもう彼の行方は分からないままになったわ」

 

「謎の男…?」

 

「それは一体誰なのかは未だに分からない、恐らく彼が能力を開花させた原因だとは思うけれど」

 

「それで…咲夜さんはどうなったんだ?」

 

「彼が行方不明になってから大分変わったわね、それは良い意味でとても丸くなって今じゃ大人の女性よ」

 

「昔はもっと尖っていたのか」

 

「それは貴方に負けないくらいよ、本当に紅魔館の人達以外に敵意むき出しで信じようともしなかったわ」

 

 

あの咲夜さんにそんな過去があったなんて全く知らなかった…。

俺だけ望みもしない能力のせいで周りに嫌われ続けていたと思っていたけど、咲夜さんも同じ経験をしていたんだな。

レミリアの話を聞いて俺は少しこの世界の人達に対する感情が変わったような気がした。

 

 

「それで、私らしくないお願いかもしれないけど…」

 

 

紅茶を飲み干したレミリアは立ち上がって光に近寄ると。

 

 

「もしこの先貴方と咲夜がぶつかった時、この話を思い出して欲しいの、恐らくまだ彼女には男性に対する恐怖心が消えていないと思うの、だからその時はーーーー」

 

 

レミリアがそう言いかけた時俺は無意識のうちに手で制していた。

そして、俺から思いがけない言葉が飛び出した。

 

 

「分かったよ、その時は咲夜さんを救ってやる、俺が幻想郷の英雄になるにはこれくらいやらねぇと務まらねえって訳だろ?」

 

「光……」

 

 

レミリアは心底驚いた表情で俺を見ていたが、俺だってびっくりだよ、まさかこんなこと言うとは思わなかったわ。

話を終えて1人部屋の椅子に腰掛けていた光はレミリアの話を思い返していた。

正直まだ信じられない。

それは俺が人間不信だからかなのか、それとも()()()()()()()…と思っていて未だに信じたくないだけなのか、気持ちがぐちゃぐちゃになっていた。

考え込んでも事が進まないのでこの話はレミリアに言われた通りにする事にした。

明日も鍛錬をしよう、レミリアのあの言葉…恐らく運命を読んだのか、あいつの能力はまだどんなものなのか分からないが、近々咲夜さんとぶつかる時が来るのだろう。

その時が来た時、対応出来るように覚悟はしておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

「平田 和也が裏切りをはかったようです…()()()()()

 

 

暗闇の中で響く声に1人の名が挙げられた。

その声に反応するようにエゲリアと呼ばれた者はため息を漏らしながらゆっくりと歩み寄っていた。

 

 

「はぁ…あいつはまだ人間の心が残ってたのかもしれないな…少し出すのが早かったか」

 

「どうします?『教皇』の力を使えば始末は容易いかと」

 

「いや、今は博麗の巫女が平田の監視下に居る下手な真似をすればこちらの存在に警戒心を強めるだけだ」

 

「そうですか」

 

「それよりも()()()はもう幻想郷に?」

 

「はい、既に配置出来ているはずです」

 

「真っ向勝負で倒せないのなら()()()()()()()…お前が()()()()()()()()()()とは到底思えないな」

 

「……私はただ憎しみの為に生きています、それを果たすまでは死ねません」

 

「ハッ……お前らしいな…今後も期待しているぞ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()

 

 

 

 



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裏切者

すいません最近期間が開いていたことに気付きました。
完全にのんびりしていたので、めちゃくちゃな文章かもしれませんがどうぞお楽しみください。
※何気にPCからの投稿


冷たい風を全身に受けながら森の中を走っている。

単刀直入に言うと俺は今()()()()()()()()()()()()()()()

それは遊びや弾幕ごっことかではなく()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

理由としては遡ること数時間前・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・

 

二月に差し掛かり冷気が紅魔館の廊下を通る中俺はいつも通りブラブラと歩いていると咲夜さんと遭遇した。

 

 

「あれ咲夜さん掃除ですか?」

 

「はい、少し気になる箇所があったので」

 

「熱心ですねえ~俺だとめんどくさくなってそこまでやりませんよ」

 

「私からすれば少しの汚れでも見逃せばメイド長失格だと思っていますので毎日紅魔館の清潔さは保っておかなければなりません」

 

「流石ですね、俺も見習わないといけません」

 

「光さんはいつも手伝ってもらってるので十分しっかりしてますよ」

 

「お世辞が上手いですね誉め言葉として受け取っておきます」

 

「はいはい、そうしてください、では私は食材の在庫を確認してきます」

 

 

一度頭を下げた咲夜さんは一瞬にして姿を消した。

この光景も段々見慣れてきたな、最初は戸惑ったけれども、紅魔館に住み着けばもはやこれが日常みたいなもんだな。

さて、俺も鍛錬でもするかな、そう思い再び足を進めようとすると今度はレミリアが向こうからやってきたが・・・どこか様子がおかしい、急いでいるように見える。

そして俺を見つけるとこっちへ向かって走り始めた。

 

 

「光!よかったここにいたのね」

 

「どうしたんだ?そんなに急いで、俺に何か用か?」

 

「さっき能力で()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「はぁ?俺と咲夜さんが?咲夜さんならさっき向こうで会話したばかりだが」

 

「それも見えていたわ、おそらくこの後何かがあってそうなる運命になるのだからなるべく咲夜とは接触しないようにして頂戴」

 

「あぁ・・・分かった。前にお前が話してた昔の咲夜さんの事もあるしな」

 

 

昔の咲夜さん・・・男性に対する不信感がまだ拭い切れていないことだ。

多分俺が何か起こせば咲夜さんは確実に暴走する。

そのためにレミリアは急いででも俺に伝えに来たのだろう。

 

 

「そうね、でも間に合ってよかーーーーー」

 

「この程度で安堵とは弱者の極みだな()()()()()()()()()()()()

 

「っ!?」

 

 

その瞬間横にあった花瓶の水から()()()()()()()()

 

 

「なんだこいつは!」

 

「光よけて!」

 

「レミリア!」

 

 

花瓶から飛び出てきた男は俺を攻撃しようとしたが、レミリアが咄嗟に俺を突き飛ばした。

そして男の攻撃はレミリアに当たりレミリアは全身を壁に打ち付けた。

 

 

「うっ!・・・・」

 

「レミリア!しっかりしろ!」

 

「予定通り、言われたことはしましたよ」

 

「お前・・・・待ちやがれ!」

 

 

俺は刀を抜いてレミリアを攻撃した男を追おうとしたが視点を変えたときにはいなくなっていた。

予定通り・・・あいつは俺を攻撃するんじゃなくてかばうと予想したレミリアを攻撃したのか。

早くこのことを紅魔館のみんなに・・・・・。

 

 

「大きな音がしましたがどうかしました・・・お嬢様・・・?」

 

「咲夜さん・・・・」

 

 

俺はこの時嫌な予感がした。

レミリアが話してくれた咲夜さんの過去、そして近頃来る運命、花瓶から出てきた男に襲撃され負傷し気絶したレミリア、そして刀を抜いた俺・・・パズルのピースが見事にはまった感覚がした。

 

 

「光さん・・・貴方が・・・」

 

「咲夜さん違う…俺じゃないんです…!」

 

「お嬢様を・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

殺したのかあああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

 

 

その瞬間、視界には大量のナイフが出現していた。

早速時を止めたか、だがパチュリー達と手合わせしていたから対応はできた。

刀でナイフをはじきながら後ろに下がり、窓を開けた。

 

 

「咲夜さん話を聞いてください!俺がやったんじゃ・・・・・」

 

「黙れ!貴様以外に誰がお嬢様を傷つけるんだ!」

 

 

駄目だ・・・完全に我を失ってる、落ち着かせるには他の奴らを呼ぶしかねぇが、今そんな状況じゃない

とりあえずここで戦っても埒が明かない、窓を開けたのはいい判断だった。

俺はそのまま窓の外へ逃げ出すともちろん咲夜さんも飛び出した。

そしてそのまま森の中へ入ると咲夜さんのナイフをなるべく当てにくくするために木を使って移動した。

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

 

そして時が過ぎて今に至る、既に色んな所にナイフが飛んでいる。

考えろ考えろ、レミリアの事は既に美鈴辺りが気付いて永遠亭に運んでいるはずだ、問題はどうやって咲夜さんを落ち着かせるかだ。

あの人の能力はトップクラスで強い、いくら俺でも長期戦は望めない、何処かで真っ向勝負することになるな。

そう思った俺はすぐに行動に出た。

木の上に飛ぶと咲夜さんが空中に姿を現した。

本望ではないが、俺は動きを止めるために咲夜さんに斬撃を放った。

すると咲夜さんは時を止めて俺の後ろに回るとナイフを振り下ろした。

だが、何度も見せていた攻撃だったので簡単に刀で防いだ。

距離が近いとナイフの嵐に飲まれるのは確実なので、再び森の中へ入り、咲夜さんが下りた瞬間に斬撃を放った。

咲夜さんは弾幕で相殺すると、時を止めて一気に距離を詰めた。

俺は刀で咲夜さんの攻撃を防いで腹部に蹴りを入れようとしたが、時を止めて後ろに回った。

 

 

「・・・それ何回目ですか?」

 

「っ!?」

 

 

何度も後ろに回っては攻撃してくる咲夜さんになぜか俺は呆れてしまった。

やはり完璧なメイド長に相応しい立ち振る舞いだったので頭にきて冷静さを失った咲夜さんにある意味裏切られたのかもしれない。

そんな咲夜さんに俺は少しでも隙ができればと刀で防ぐのではなく、()()()()()()()()()()()()()()

もちろん俺は国山みたいに箇所を硬化させる事はできないので、めちゃくちゃ痛いし血も出ていた。

でもそのおかげか怒りに染まっていた咲夜さんの表情に少しだが恐怖が滲み出ていた。

 

 

「怒りに任せて俺を攻撃するのはいいですが、もっと冷静に考えたほうがいいですよ」

 

()()()が何を偉そうに!私は貴様を信じていた!なのに私の大切なお嬢様を傷つけた!私が貴様を殺すのには十分な理由だ!」

 

「・・・」

 

 

あぁ・・・そうかこの人は()()()()()()()()()()()()()()

自分がどうなっても良い、目の前にいる裏切り者を始末する。

たったレミリアの為だけに。

俺はレミリアの話を思い出す。

もしこの話を聞いていなかったら今頃俺は咲夜さんに何をしていたのか分からなかった。

咲夜さんがレミリアを大切に思うように、レミリアも咲夜さんが大切なんだ。

そして今、こうやって戦っている間にもこの状況の元凶である敵がどこかに潜んでいるはずだ。

もしもここで説得を試みたとしても不意打ちを食らって万事休すだ。

ならばどうするか?一役俺が悪人になってやろうじゃねぇか。

俺が始末されたと知ればそいつは他の仲間達に報告するために立ち去るはずだ、そこを突くために始末されたフリをして今この絶望的な状況で誰かが助けに来るという好機を待つしかない。

ただし、俺が死ななければの話だが…。

そして俺は目に言えるくらいの霊力を解き放つと掴んでいたナイフを片手一本でへし折って見せた。

 

 

「分かりました。だったら俺も容赦はしません、全力で向かい打ちます」

 

「その余裕一瞬で後悔させてやる」

 

 

すると咲夜は後ろに下がったと同時に大量のナイフを出現させると俺は能力を使って一振りですべてを薙ぎ払った。

そして、そのまま距離を詰めると咲夜に蹴りを入れると見せかけて背後に肘を振るうと時を止めて後ろに回っていた咲夜の顔に見事に直撃した。

怯んだ咲夜に俺は時を止める余裕も与えないと刀を振るいまくった。

何度も何度も、咲夜の身体が引き裂かれたとしても構わないくらいに。

 

 

「くっ!」

 

「どうですか?無我夢中に相手を殺そうとするだけしか脳がない事を今実感している気分は!」

 

「私を・・・なめるなぁ!」

 

「っ!」

 

 

咲夜は隙をついて時を止めると再び大量のナイフが出現した。

流石に近距離で放たれると対応も難しいので、回避経路だけ確保してその部分だけ刀で弾いた。

すると少し変えてきたのか、今度は上から奇襲を仕掛けてきたが、動きが丸見えなので俺は咲夜が振るおうとしていたナイフを刀で弾き飛ばした。

そして、俺は咲夜の腕をつかむとそのまま地面にたたきつけた。

 

 

「無様だな完璧と言われたメイド長がこんな醜態を晒して」

 

「くっ・・・外道が」

 

「元々自覚してますし、今更言われたところでダメージはありませんよ」

 

「お嬢様に手を出した時点で貴様は外道以下だがな」

 

「はっ・・・勝手に言ってろ、そういやお前さっき言っていたよな?『俺を信じていた』って」

 

「あぁそうだ、数か月とはいえ私は貴様が変わってくれると信じていたあの時話したように!」

 

「残念だけど俺は誰も信用してないし、変わる気はない、せいぜいお嬢様と偽善者ごっこでもしてろ」

 

「っ!・・・貴様はお嬢様を傷つけるだけでは飽き足らず私の気持ちも踏みにじるとは!」

 

「どうでもいいし、興味もない、ほら…さっさと立てよ、殺されたいのか?」

 

「・・・もういい、終わりにしましょう」

 

 

そういうと咲夜はスペルカードを発動した。

 

 

 

~幻符「殺人ドール」~

 

 

 

視界に捉えたナイフの数は今までとは数倍多く見えた。

これが咲夜のスペルカードね。

あまり見る機会はなったが、生きた心地はしない。

だからと言ってはいそうですかと簡単に殺られる俺ではない。

 

 

 

~想符「空想の守護神」~

 

 

 

俺の周りに蝶が出現すると、咲夜のナイフを相殺し始めた。

これなら刀で防げる程度まではいける。

咲夜のナイフを弾き飛ばしながら接近すると、咲夜は上に飛んで再び弾幕を放った。

これくらいの量なら大丈夫だろう・・・と、そう思ってしまった俺はまだ未熟だった。

出現した蝶の位置を把握していたのか死角からナイフを放っていたのだ。

そのナイフは見事に俺の左足を掠めた。

気づかなかった俺は視線を向けてしまった。

その瞬間を咲夜は見逃さなかった。

時を止めて急接近すると俺の左足に蹴りを入れた。

 

 

「うっ」

 

 

突然の痛みに俺はバランスを崩して背中を木にぶつけた。

すぐに体勢を整えようとしたが、既に咲夜にナイフを向けられていた。

 

 

「チェックメイト、貴様の負けだ雨天 光」

 

 

どうあがこうがもう成すすべはなかった。

いわゆる詰み、まさに咲夜が言っていた通りのチェックメイト。

 

 

「話を聞く気になったか?メイド」

 

 

「今更何を言う、お嬢様を傷つけた罪の重さ今ここで思い知れ」

 

 

俺に発言権はないまま目の前にいる十六夜 咲夜はナイフを振り下ろした。

 

 




思った以上に時間かけた。
話のどこかでこういう展開にしたかったなぁとは思っていました。
悔いはない。
また期間が開くとは思いますが、気長に待っていただけると幸いです。


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勘違いと後悔

梅雨真っ只中のこの季節、皆さんは休日何してますか?自分はボーッとしてます。
さて、今回は咲夜が光にキレた所からの話です。


「待ちなさい咲夜!」

 

 

咲夜のナイフが俺の首を跳ねる寸前、咲夜の背後から荒らげた声が聞こえた。

 

 

「……パチュリー様ですか、申し訳ございませんが御用があるのでしたらこの男を始末してからでもよろしいでしょうか?」

 

「ダメよそれは私が許さないわ」

 

「どうしてですか?この男はお嬢様を傷付けたのですよ!パチュリー様はそれを許せと!?」

 

「そうじゃないわ、私が()()()()()()()()って言う意味よ」

 

「パチュリー様が……?」

 

「ええそうよ、それに話があるのは私じゃなくてレミィの方よ」

 

「…!」

 

「さっき永遠亭で目覚めて咲夜に会いたいって言ってたわ、あとの事は私に任せて貴女は早く行ってあげなさい」

 

「……失礼します」

 

 

深々と頭を下げた咲夜はその場から消えた。

どこまでもレミリアが大好きなんだなあの人は、俺だったらその命令を無視してでも裏切り者を殺してから向かうって言うのに。

ため息を付いたパチュリーは俺に近づくと止血剤と包帯を取り出した。

 

 

「まったくレミィは…自分から打ち明けたのに、やられたら元もこうもないでしょ」

 

「って事はパチュリーは…」

 

「安心しなさい、レミィから全て聞いたわ…とんだ災難だったわね、咲夜の代わりに謝るわ」

 

「なんだよ、パチュリーからそんな事言われると雨が降りそうだ」

 

「うるさいわね、本当にぶっ殺すわよ」

 

「おー怖い怖い、あと数秒遅れてたら今頃俺の首は吹っ飛んでたってのに」

 

「貴方ねぇ…それは助けてくれた人に対する態度なのかしら?」

 

「別に俺は助けろと頼んだわけじゃない、ただ…助かったよ、サンキュー」

 

 

負傷した足の手当をしているパチュリーを見ながら光は言うと静かにパチュリーは

 

 

「どういたしまして」

 

 

…と何処か嬉しそうな表情をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・

 

 

「お嬢様!!」

 

 

永遠亭に到着した咲夜は早速声を荒らげながら永遠亭の中に入ってきた。

その声にびっくりした鈴仙が前に立つようにして注意した。

 

 

「ちょっとちょっと咲夜さん!ここは()()()病院なんですから落ち着いてください」

 

「す、すいません…か、仮は後で永琳に怒られそうですけど」

 

「レミリアさんなら今病室で安静にしてます。案内しますのでこちらへどうぞ」

 

 

咲夜は言われた通り鈴仙の後に着いていくとひとつのドアの前で止まり、鈴仙がノックして入るとそこには付き添いの美鈴と所々に包帯が巻かれているがいつもと変わらない様子のレミリアが居た。

 

 

「お嬢様……」

 

「咲夜、心配かけたわね」

 

「本当ですよ!お嬢様にもしもの事があったらと…」

 

「大丈夫よこれでも吸血鬼なのだから簡単に死なないわ」

 

 

涙目になりながら手を握った咲夜にレミリアは微笑みながら答えた。

隣にいた美鈴も咲夜の様子にやれやれとため息をついた。

そして微笑んでいたレミリアはあと一人足りないと周りをキョロキョロ見て再び咲夜の方を見た。

 

 

「……ところで()はどうしてるのかしら?庇ってから意識を失ったからその後どうなったのか分からないのだけれど」

 

「っ……お嬢様それは…!」

 

 

レミリアの質問に美鈴は何か言いたげだったがすぐに黙った。

そんな美鈴の事も知らず咲夜は口を開いた。

 

 

「ご安心ください、お嬢様を傷付けた裏切り者は今頃屍になってると思われます、小賢しい真似をして時間を費やしてしまいましたが、後はパチュリー様が始末してくれると言ってましたが、やはり心配です。あの男は1度パチュリー様に勝っている…パチュリー様の身に何かあれば大変です…ここは私がすぐにーーーー」

 

「へぇ………そうだったのね」

 

「お嬢様…?」

 

「っ……………」

 

 

普段聞かないレミリアの声に咲夜は戸惑いを隠せなかった。

美鈴は目を逸らしながら1歩後ろへ引いた。

 

 

「それで?彼はどんな状況なのかしら?」

 

「後に苦しみながら死ねるように足を負傷させておきました、すぐに死んでもらっては困りますので」

 

「咲夜が?」

 

「はい、私の手で」

 

「…………………」

 

「あー……」

 

 

レミリアの反応に美鈴は頭を抱えた。

久しぶりに冷静じゃないということだろう。

 

 

「これは私が光を庇ったことで変な誤解を生んだのね」

 

「お嬢様それはどういう…?」

 

「どうして咲夜は光を裏切り者だと思ったの?」

 

「あの時お嬢様とあの男以外他の者はいませんでした。裏切り者として断定するのは間違ってないかと」

 

「光の話は聞いたのかしら?」

 

「いいえ、聞く必要も無いかと」

 

「…………」

 

「ひぃ……!」

 

 

その瞬間、レミリアから強烈な霊力が放たれた。

美鈴は瞬時に距離をとると既にレミリアは咲夜の手を握っていた。

 

 

「お嬢様!?」

 

「私がどんな気持ちで光に頼んだのか…彼がどんな気持ちでそれを受け取ったのか!」

 

「え……?」

 

「不覚だった…分かっていたはずの運命を…私自身の手で導いてしまった…!」

 

「お嬢様!落ち着いてください!」

 

「落ち着いていられるものか!これも全て()()()()()()()()と思うと…」

 

「策略…?お嬢様それはどういう意味ですか」

 

 

レミリアは咲夜に今までの事を話した。

運命について、咲夜の過去、紅魔館に襲撃してきた何者かの攻撃をレミリアが庇って受けたこと全て。

それを聞いた咲夜は力なく膝を崩した。

 

 

「光さんが…お嬢様を傷付けた犯人ではなかった…?私は勘違いをしていた…?私が…私が…光さんを…!」

 

「しっかりしてください咲夜さん!今からでも遅くは…」

 

「ダメよ、行かせないわ」

 

「お嬢様…!どうして!」

 

「今この状況で咲夜が光と接触すれば何が起こるかわからないわ、私の責任だけれどこれ以上悪化させたくないわ、だから咲夜はここに居なさい」

 

 

レミリアは咲夜に永遠亭で待機することを命じた。

元はと言えば光は人間不信、咲夜の過去を話し、それを受け入れたとしても、もしもの事があれば、最悪な事態を招くのだと予想したのだろう。

しかし、そんなレミリアの命令に咲夜は立ち上がると。

 

 

「お嬢様…申し訳ありませんがその命には従えません」

 

「咲夜…貴女は…!」

 

「分かっています、お嬢様の責任だとしても、私が光さんを傷付けた事実は変わりません。ですからこの件は私が治める必要があります」

 

「咲夜!待ちなさい!」

 

 

レミリアの声に聞く耳も持たず咲夜は永遠亭を飛び出していった。

 

 

「光さん申し訳ございません、どうか…どうかこんな私を許してください…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・

 

 

「はい、とりあえず軽い応急処置はしておいたわ、あとは永遠亭に行ってちゃんと治してもらいましょう」

 

「分かった、俺は少し休んでから行くからパチュリーは先に行っててくれ」

 

「怪我人が何言ってるのよ肩くらい貸すわよ」

 

「いや、問題ねぇよこれくらいの手当なら1人でも歩ける、それよりも今頃レミリアが咲夜さんに全部話してくれてるだろ、きっと鳩が豆鉄砲を食らったような顔してるだろうし早く行ってやってくれ」

 

「……咲夜に裏切り者と言われて精神的に来てたでしょうに、ほんと貴方変わったわね」

 

「なんも変わっちゃねぇよ、結局レミリアとの約束を守れなかった」

 

「……それじゃあお言葉に甘えて私は先に行ってるわ、くれぐれも寄り道しないで」

 

「りょーかい」

 

 

そう言うとパチュリーは永遠亭へと向かった。

そして光は大きなため息をついて立ち上がると。

 

 

「居るのはわかってんだぞ()()()()()()()使()()

 

「流石は『想いを読み取れる能力』を持っているだけあるな」

 

 

すると目の前の木の裏からフードが無い黒マントを着た一人の男が姿を現した。

茶髪が森の中の風に揺れていて茶色の瞳がギラりと光っていた。

 

 

「『読み取れる』んじゃねぇ『想いを力に変える程度の能力』な?」

 

「どうでもいい」

 

「俺とパチュリーが会話してる間に分かりやすい殺意を放ちやがって、わざとやってたのか?」

 

「さぁな?どちらにしろ片方の女がいなくなって好都合だ、()()()()()()()()お前を早急に始末しろと言われてるからな」

 

「ほぉ…?凄い自信だな」

 

「本当はあのメイドに殺されてくれれば最高の結末だったが、お前が小賢しい真似をしたせいで死に損ないになっちまった」

 

「ということはお前がレミリアを攻撃した犯人か」

 

「あぁ…俺の名は リクイッド

タロットカードThe Hermit(ザ・ハーミット)(隠者)の能力を受けた者だ雨天 光…お前をここで殺す!!!」

 

 

そう言うとリクイッドは黒マントを投げ捨てる。

その姿は茶色と黒のダイバースーツのようなものを着ていた。

今まで戦ってきた奴らと全く異なる服装だったが、そんな事はどうでもよかった。

 

 

「自己紹介どうも、丁度いい…俺は今最高に苛立っててなぁ?レミリアを傷付けた犯人なら遠慮なくぶっ殺せるって訳だ!!!覚悟しろ!!!」

 

 

光は即座に刀を抜くと、リクイッドに突進した。

 

 




次回は戦闘回です。


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VS リクイッド

今回は早めに出せました。
戦闘回です、あまり数話かけて進めると鬱陶しいと思いましたので少し短めにしました。

では、どうぞ


 

 

「パチュリー様!」

 

「…咲夜?」

 

 

その頃レミリアの元へ先に向かっていたパチュリーは咲夜と遭遇した。

咲夜の表情を見るにレミリアから全て聞いたように見える。

 

 

「光さん…光さんは何処に…!」

 

「落ち着きなさい咲夜、レミィから聞いたのね」

 

「お嬢様が見た運命で私と光さんが接触してはいけないと言うのは承知しております、ですがこれは私が招いた事…私が治める必要がございます」

 

「…!だからといってもしこれで二人の間にまた何かあったらーーー」

 

「それも覚悟のうえです!」

 

「咲夜…」

 

 

咲夜の眼は本気だった。

こうなればたとえレミリアだろうが言う事を聞かない。

相変わらず頑固な子だ。

戻ったらレミリアがどんな反応をするのか楽しみだ。

 

 

「……わかったわその代わりどんな罰を下されても文句言わないでよね」

 

「何なりと受け入れるつもりです」

 

「…今頃彼は戦ってると思うわ」

 

「……!」

 

「彼なりの気遣いだとは思うけれど私を見くびって欲しくないわね……咲夜この件貴女が後始末するべきよ、必ず光を連れ戻して」

 

「はい…!では失礼します」

 

 

その瞬間咲夜は目の前から消えた。

パチュリーは冷たい風を受けながら曇りつつある空を見上げた。

懐かしく感じるわね、幻想郷(ここ)に来たばかりの事を…。

()は今何をしているのだろう、どこかの世界線で元気にしているのかしら。

…って今更過去の事を掘り返したところで何も変わらないわね身体を冷やす前にレミィの元へ行こう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

体勢を低くしてリクイッドに接近した光は抜刀したと同時にリクイッドに斬り掛かった。

リクイッドは後ろに仰け反り斬撃を交わした。

そのままバク転するように距離をとると再び光はリクイッドに接近した。

そして今度は身体を回転させて胴体に斬り掛かろうとするが、地面を蹴って身体を浮かせるとそのまま刀をいなすようにして回避された。

地面を蹴るにしては想像以上に飛躍したように見えた。

奴の『隠者』は一体何なのか、レミリアを攻撃した時は突然現れたように見えた、なんとかして奴の能力を特定しなければ。

すると光は能力を使い、強化を図ると、そのままリクイッドに近づいた。

 

 

「ほぉ…これがお前の能力か」

 

「余裕ぶっこいてると足元をすくわれるぞ…っと!」

 

 

正面から斬り付けるように見せかけて足元を払うとリクイッドは少しバランスを崩した。

そこへ刀を逆手に持ち、脇腹目掛けて刃を通した。

……が、斬った感触は無かった。

それと同時に光はリクイッドの姿に驚愕した、それは。

 

 

()()()()()()()()()()()…?」

 

 

リクイッドの身体が確かであるが、脇腹目掛けて斬りつけたはずが頭部の上を通していた。

そしてあっという間に地面の中へ溶け込んでいくと、光は危険を察知して後ろに飛んだ。

その瞬間、光のいた場所に獲物を狙っている海底動物のように地面から飛び出てきた。

これが奴の能力。

 

 

「普通の人間ならビビってその場に動けなくなるんだが…お前は違うようだな」

 

「馬鹿言え、俺だって人間だ」

 

「能力者が人間と言えるのか?」

 

「あぁ、この世界では常識は通用しねぇからな、人間だぜ」

 

「くだらない…さっさと終わらせよう」

 

 

そう言うとリクイッドは地面の中へ沈むと、今度は横から飛び出した。

光は反応して刀で応戦するが手前の地面にそのまま潜り込んだ。

真冬の寒さでカチカチに凍っているはずの地面がこうも簡単に水たまりのような状態になっていると考えると感覚が鈍りそうだ。

ならばと光はまだ水たまりのような状態になっている地面に刀を突き刺した。

しかし、返ってきたのは地面を刺すような感覚だけだった。

なるほど、こいつ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んだな。

となれば…これはその場の地面に溶け込んでいると見せかけて地中では自由自在に動いてると言う訳でこの水たまりは地中に潜る前に能力を発動した際に出来るという事か。

瞬間リクイッドが別の場所の地面から飛び出したかと思うと、周りの木が突然倒れ始めた。

よく見ると根元から地面が溶け出していて支える事が出来なくなっていた。

光は倒れてくる木を刀で一刀両断しながら距離を取っているリクイッドに接近し、刀を振るうが、リクイッドは地面を蹴って土を散乱させると、光は奴の能力を目の当たりにする。

()()だ、確かにリクイッドの蹴った部分だけ泥水になっていた。

泥水と例えるよりこれは()()()に近いのかもしれない。

光は目に入ると不利な状況になると思い、腕で泥水を祓った。

しかし、感触に違和感を覚えた。

()()()()のだ、まるで石ころをぶつけられたような感覚でそれは当然祓った腕に痛みが走った。

少し大きい石を祓ったか、光は頭の整理をするために1度後ろに下がって距離をとった。

なるほど、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「お前…()()()()()()()()()()()()()()()()()()だな?そしてその規模が大きいと潜ったりする事が出来る…そうだろ?」

 

「この短時間で導けるとはなかなか頭がキレるな。良いだろうならば俺も容赦はしない!」

 

 

そう言うとリクイッドは凍っているはずの地面に手を突っ込むと液状化した土を掴んでいた。

 

 

「知ってるか?速度が上がると、液状化した物って横長になるんだぜ?」

 

「それがどうした?」

 

「横長になったものがもしも硬いものだったとしたら…?」

 

「……っ!?」

 

 

何かに気付いた光は刀を構えるとリクイッドは両手に持っている液状化した土を投げつけた。

液状化した土は飛ばされた勢いで徐々に横長になっていくにつれて段々と液状化が解除され、硬い土の状態になると先が尖った槍のような形に変形していた。

それが1本、2本と形になっていくと最終的には数倍の数になっていた。

光は流石にこれには全て刀で弾き返せる訳もなく、横に飛んで全て回避した。

回避した先には1本の木があり、そこに全て刺さった。

これをまともに受けていたら今頃手脚のどこかを切断していたか、そのまま内蔵を貫通して死んでいたかもしれない…考えるだけでゾッとする。

殺られる前にこいつを始末するしかない…!

光は深呼吸して、再び構えると、前に飛んで身体を横に回転させてその勢いで刀を振るった。

リクイッドは液状化した土で盾を作るとそのまま掴んで、光の斬撃を防いだ。

更に光はガラ空きになった胴体に蹴りを入れ、リクイッドをぶっ飛ばすと、体勢を低くして一気に距離を詰めた。

 

 

「……なるほど」

 

「…ふっ!!!」

 

 

光は想いを力に変え、刀に伝えると大きく刀を振り巨大な斬撃を放った。

リクイッドは下半身だけ地面に沈めて土の槍で応戦した。

そしてそれが()()()()()()()()()()()()()であった。

先程のように土の槍を投げただけでは全て弾かれてしまっていただろう。

リクイッドは両手を深く地面の中へ突っ込むと大きく上へ振りかぶった。

すると液状化した地面が巨大な盾となり、それを何回も繰り返すことで厚みが増して光が放った巨大な斬撃をも防げる程になった。

斬撃と土の盾が相殺すると一気に光はリクイッドに詰め寄り、スペルカードを取り出した。

 

 

 

〜蝶符「妖刀・千子村正」〜

 

 

 

「くっ…!」

 

 

輝きを放った刀はリクイッドが投げた土の槍を切り刻みそのまま接近した。

堪らずリクイッドは液状化し、身を潜めて回避すると、先程より少し後ろの場所から顔を出した。

この時光はリクイッドの行動に疑問を抱えた。

 

 

「(()()()()()()()()()()()()()…?さっきの巨大な斬撃を交わせるなら直ぐに液状化して身を潜めれば良かったはず…何かそこに()()があるのか…?)」

 

 

光は構えたままゆっくりと歩き出すと、後ろから土の槍が飛んできた。

それに気付いた光は横に転がって回避すると再び斬撃を放った。

この斬撃はリクイッドを倒すための弱点を探るつもりで放った。

そして思惑通り液状化して身を潜めると再び静寂が訪れた。

光はふと1つの大きな石を広い思いっきり投げつけると、1つの木に当たった。

その瞬間当たった木に大量の土の槍が刺さった。

光は全てを理解した。

リクイッドが簡単に液状化しない理由、それは()()

光が届かない空間は真っ暗闇、つまり潜ったとしても視界が見えない為、場所が分からなくなる。

そこで音による振動で相手の場所を察知して攻撃する。

ということは…

 

 

「姿を見せたなリクイッド!!」

 

「っ!?馬鹿なーーーー」

 

 

リクイッドは慌てて土の盾を出したが、能力で更に強化していた光の斬撃に耐えられずそのまま吹き飛ばされてしまった。

突き止めた弱点、光は勝ちを確信したが、やはり簡単には行かないのがこの世界。

リクイッドはよろよろと立ち上がるとタロットカードを取り出した。

 

 

「面白い…久しぶりに本気を出させてもらう!雨天 光!!!!」

 

 

リクイッドのタロットカード『隠者』が光り出すとそのまま光に包まれた。

さて、ここからが本番だ気を引き締めるぞ。

 

 

 

 



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VS リクイッド IX The Hermit.

今回も戦闘回の続きです。


「行くぞ!!!」

 

 

タロットカードを使用したリクイッドはすぐさま地面の中へ潜って行った。

やはり、タロットカードを使う前とは違って躊躇いがない。

……となると先程のやり方では通用しないという事だな。

すると光は地面にある石を拾って近くの木に投げ飛ばした。

しかし、音がしてもリクイッドが出てこなかった。

恐らくリクイッドはタロットカードを使った事で地面に潜っても見えるようになっている。

となれば、今いる俺の場所もーーーー

その瞬間、光の足元が液状化し始め、リクイッドが飛び出してきた。

光は読んでいたかのようにタイミングを合わせて刀で斬りつけたが、リクイッドの土の盾で防がれた。

 

 

「お前……見えるようになってるな」

 

「もう小賢しい真似をしても無駄だ!確実に仕留める!」

 

 

そう言うとリクイッドは再び地面に潜った。

光は見えているのなら自由に動けると思い、液状化した場所を警戒するように遠回りをしながらリクイッドの攻撃を待った。

モグラ叩きのようにタイミングを合わせて叩けばいつかは攻撃が通るはずだ。

そう思い、刀を構えると、地面の中から笑い声が聞こえた。

 

 

「そんなに警戒しても何も出ないぞ雨天 光」

 

「あ?」

 

 

すると突然リクイッドが地面から飛び出したと思うと、光の足をがっしりと掴んでいた。

 

 

「俺のタロットカードはな…()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 

ニヤリと笑ったリクイッドはそのまま光を地面の中へ引きずり込んだ。

 

 

「なっ…?こいつ!」

 

 

光は完全に引きずり込まれる前に逃れようとしたが、あまりにも早く、為す術なく引きずり込まれてしまった。

中に入ると、そこは海の中にいるような感覚だった。

幸い呼吸はできるが、身体がいつもより重く感じる。

そして、リクイッドは土の槍を作り、接近してきた。

 

 

「俺のタロットカードはな…ただ俺自身を液状化した場所に潜れるわけじゃないんだよ、消耗が激しくなるが…こうやって俺の土俵に引きずり込めば、有利になるのは俺の方だろ?」

 

「くっ……!」

 

「さっきはいいように利用されたからな…今度は出し惜しみなくお前を痛めつけてやるよ!」

 

 

泳ぎながら土の槍を振り上げると光は重い腕を何とか動かして刀で防御すると、ずしりと大きな衝撃が全身に走った。

長らく潜っているリクイッドとは対象的にこの状況にとって光は圧倒的に不利だった。

リクイッドの攻撃を防ぐと反撃しようとリクイッドの腹部に蹴りを入れようとしたが、足が思うように動かず、そのままリクイッドに避けられてしまった。

隙だらけになった光の右足にリクイッドは槍で切り裂くと、そのまま蹴りを入れて距離を離し、更に接近するとその勢いで拳を振るい光の顔面にヒットさせた。

光はそのまま吹き飛ばされると、ひとつある事に気づいた。

それは()()()()()()()()()()()()()()()()事だ、リクイッドから一定の距離離れると能力の範囲外になり地面の中で地面に身体を叩きつけられるという意味の分からない現象を味わうかと思ったが、地面の中は何処まで吹き飛ばされても液状化した状態だった。

だからリクイッドは自由に地面の中を移動出来たというわけか、リクイッドが移動することで周りの地面も液状化していくと思っていたが、案外そうでもなかったみたいだ。

…となれば

光は上の硬い地面に手を出した。

するとその場の地面が一瞬にして液状化した。

これだ…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「かなりの距離を飛ばされたな雨天 光」

 

「生憎、かなりキツめの一発をくらったよ」

 

「それもそうだ、ここは俺の世界だ、これからお前は何も出来ずに死んでーーーー」

 

「それはどうかな?」

 

 

光はそう言うと、刀を構えて斬撃を放った。

だが、リクイッドのいる位置から見ると少し高めに見えた。

リクイッドは土の盾で防ぐことなく下に飛んで避けると、光はその瞬間を待っていた。

上の方から重い何かが倒れる音がし、リクイッドは見上げた。

するとそこに見えたのは……

 

 

「…!」

 

「そうだ…液状化した地面から少しでもはみ出ればその場所は液状化される、つまり周りの物もここへ引きずり込むことが出来る!木でも!石でも!」

 

「ちっ…!」

 

 

斬撃によって液状化された地面に根を支える物がなくなった木が次々と倒れ始めていた。

地面から手を出して液状化するのなら距離を作り長くさせ持続する事が出来る斬撃を放てば、近くの木や石などが液状化した地面の中へ入り込んで障害物となる。

これなら慣れていない光でも対等に戦えるようになってくる。

リクイッドは土の槍や盾で落ちてきた木々を破壊して進んでいくが、その間に光が斬撃を放つので、更に木や石が入り込んでリクイッドを妨害し、光の姿を眩ましてくる。

そして、ついに苛立ちを見せたリクイッドは1度地面の中から顔を出した。

 

 

「まさかこんなにも利用され続けるなんて…面白い、ならば俺にも()がある!」

 

 

リクイッドが地面から顔を出している一方光は変わらず斬撃を放ち続けていた。

正直全身に重りをつけながら斬撃を放っている気分でいつこの両腕が壊れてもおかしくなかった。

それでも、リクイッドを確実に仕留めるために、光は木や石などを地面の中へ引きずり込んでいた。

しばらくして、斬撃を放ち続けていた光が突然手を止めた。

何かがおかしい、地面の中なのでよく分かるが、石や木が入り込んだ時()()()()()()、それは水面に重いものが落ちたのと同じ音で分かりやすい。

しかし、()()()()()()()?雨のような音、まるで何かが大量に落ちてくるような…

その瞬間。

 

 

「あが…!?」

 

 

光の左腕に強烈な痛みが走った。

それは斬撃を放ち過ぎた代償ではなく、()()()()()()()()()()()()()()()

光は上を見上げると、一気に青ざめた。

そこには()()()()()が降り注いでいた。

 

 

「これは…」

 

「どうやら気づいたようだな雨天 光」

 

 

一方光の動きを察知したリクイッドは両手に液状化した土を持って空に投げ飛ばしていた。

土の槍の正体は木や石が落ちてきて、液状化している地面を利用して空に土の槍を生成していたのだ。

光が何処にいるか分からないが、それでも全体的に土の槍を生成する事で自ずと光に命中するという作戦だ。

お陰で光が何処にいるかよく分かる。

リクイッドは最後に液状化した土を持って空に投げ飛ばしだと同時に地面の中へ潜り込み、光の動きを観察した。

そして、見事に生成された土の槍が光を貫くと、ニヤリと笑って一気に接近した。

斬撃を放っていなかったお陰で光の元まで時間はかからなかった。

 

 

「そこだ!雨天 光!!!」

 

「っ!!!」

 

 

所々に貫かれた跡がある光は身体にムチを打ち、刀で土の槍をいなそうとしたが、衝撃に耐えられず、刀を手放してしまった。

それを確認したリクイッドは土の槍で光の肩を貫くとそのまま地面の外へ打ち上げた。

 

 

「があああああああ!!!」

 

「このままお前にはここで死んでもらうぞ!」

 

 

空中に浮いた光に向けてリクイッドは土の槍をなげつけ、そのまま光の腹部に突き刺さった。

 

 

「簡単に…終わると思うなよ…!」

 

 

光は最後の力をふりしぼり、地面に落ちる勢いを利用して体勢を整えた。

狙うは奴の急所、貫かずに腹部に残ったこの土の槍でリクイッドを仕留めようという考えだ。

 

 

「落ちる勢いを使ってその槍で俺を殺すつもりだな?最後の断末魔という訳か!だが残念だったな!俺はこのまま液状化した土の中へ逃げれば硬い地面!お前が無駄死にするだけだ!早速この場の地面を……」

 

 

その瞬間、倒れかけていた木がリクイッドに向かって倒れ始めた。

油断していたリクイッドは気付くのに遅れたものの間一髪それを液状化して防御する事に成功したが、それが命取りとなってしまった。

ほんの数秒、リクイッドの液状化した地面に逃げるのを遅らせたことが決定的となった。

そしてリクイッドが気づいた時には光の腹部に刺さった土の槍が視界に入り…。

 

 

「終わりだ…リクイッド!!!」

 

「ま、待て!話せば分かーーーー」

 

 

光の腹部に残った土の槍は硬い地面に突き刺さると同時に、リクイッドの頭部を貫通した。

リクイッドは勢いよく宙を舞い、地面に叩きつけられるとそのまま動かなくなり、次第に身体が光の粒となり消えていった。

光は先程の衝撃で吐血し、そのまま倒れると意識を手放した。

咲夜が駆けつけてきたのはその後の話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・

 

 

「失礼しますエゲリア様。先程リクイッドが雨天 光に敗れたようです」

 

 

暗闇の中、ひとつの声が響き渡り、エゲリアと呼ばれた者は鼻で笑った。

 

 

「問題ない、あの雨天 光に致命傷を与えただけでも手柄だと思おう、そろそろお前の出る幕だな」

 

「ようやくこの私の復讐が果たせるという訳ですね」

 

「あぁそうだ、支度をしろすぐに送り込む」

 

「かしこまりました」

 

 

そう言うと1人の男は一礼し、背を向けて歩いていった。

 

 

 




夏も終わりますね、急な気温の低下は体調不良になりやすいので、体調管理をしっかりしましょう。
ではまた


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謎の男

2ヶ月ぶりくらいですかね。
今回は日常回です。


「……ここは…どこだ…?」

 

 

ふと目を開くとそこは何も無い場所だった。

建物や人もいなければ、道もない…自分自身もフワフワとした感覚で生きているという実感は無かった。

周りを見ても歪んだ空間が辺り一面に広がっていて不気味だ。

そもそも…俺は何故ここに居るんだ?

確か…リクイッドと戦って…意識を…

 

 

「……!傷は?腹を貫通したはず…」

 

 

俺は慌ててその負傷した腹部を触ったが、貫通した跡もなければ傷一つなかった。

となると…導かれる答えはひとつ

 

俺は…死んーーーーーーー

 

 

「死んでないよ、雨天 光くん」

 

「っ!?」

 

 

何も無いと思っていた空間に突然声が聞こえた。

しかも遠距離からの発声ではなく、至近距離で…!

俺は再び周りを見渡したが、声の主は見つける事は出来なかった。

 

 

「誰だ!ここは一体どこなんだ!俺は死んでないってどういう事だ!」

 

「はぁ…質問するならひとつに搾って欲しいよ」

 

 

再び声が聞こえ、後ろを振り返るとさっきまで居なかったはずの()()が立っていた。

耳までかかった長さの黒髪に黒い長袖のシャツの上にフード付きのコートを着ているその男は、つり目ながらも曇りなき黒い瞳で俺を見ていた。

 

 

「お前…見た事ない顔だな、名を名乗れ」

 

「おいおい…初対面の人に対してその態度はないだろう?まず自分から自己紹介するのが礼儀ってものじゃーーー」

 

「そんな事はどうでもいい!お前は誰だ!そしてここは何処なんだ!答えろ!」

 

「だから質問するならひとつに搾ってーーーー」

 

 

やれやれと溜息を付いたその男にシビレを切らした俺はドス黒い殺意を向けてみせた。

これで何かが変わる訳じゃないが…それなりの態度は示さないとな。

そんな俺に男はニヤリと笑いコートのポケットに両手を突っ込んだ。

 

 

「僕は折神 誘八(おりがみ いざや)ちょっとした能力を使える一般人、そしてこの空間は君の意識外の世界なんだ」

 

「意識外の世界…?」

 

「君は致命傷を負って意識を失った後、病院に運ばれたんだ()()()()()()によって」

 

「メイド…咲夜さんが…?」

 

「…どうやら君達2人は知り合いと言う関係では無いようだね」

 

「…ただの知り合いだ、それ以上でもなければそれ以下でもない」

 

「またまたぁ〜?あんなに仲良くしてた上に激しい戦闘までしてたのに?」

 

「お前……一体何なんだ!」

 

 

俺は思わず、折神の胸ぐらを掴もうとした…が身体が動かなかった。

意識外…まだ向こうの俺が寝たきりの状態って事か

 

 

「まあまあそんな熱くならないで、僕から見たら2人は夫婦喧嘩のように見えるけどな〜」

 

「……お前に何が分かる」

 

「分かるわけないじゃ〜ん!だって僕は君じゃないからね♪」

 

「………」

 

「あれ?怒っちゃった?ねぇねぇ!急に黙っちゃってどうしたの?」

 

 

こいつ…本当に何なんだ?俺の名前や咲夜さんとの関係をベラベラと喋り…如何にも自分が優れているように見せてくる…話し方も腹立つし、そんな奴がちょっとした能力を使えるただの一般人?冗談じゃない、こいつからもっとドス黒い何かを感じる。

 

 

「今の日常を守りたいとは思わないかい?」

 

「……は?」

 

「だーかーらー僕が君の手助けをしてあげようか?って言ってるんだよ!」

 

 

俺は一瞬正気を疑った。

突然何を言い出すかと思ったら俺の手助け?こいつ訳が分からないぞ、何処の馬の骨なのか分からない奴に手を貸すなんてありえない。

ましてや助けて欲しいとも思っていない。

 

 

「何を企んでいる折神 誘八」

 

「企んでいるって…僕はただ単純に君を助けたいと思ってるんだよ」

 

「そうだとしてもお前が俺の手助けをして何の得がある?」

 

「得とかそんなの関係ないよ〜僕はただ()()()()()だけさ」

 

 

なるほど…こいつの本性が分かってきたぞ、こいつは自分が楽しければそれでいいんだ。

だから土足で人の事情に踏み込んではヘラヘラと人の反応を嘲笑う…それが折神 誘八

 

 

「だったら断る」

 

「えぇー!?ここまで来て断るのー!?それはないよ〜!」

 

「俺はお前に助けて欲しいと頼んだ訳でもなければ、そのつもりも無い、分かったらさっさとこの世界から出せ」

 

「…………」

 

 

その瞬間折神からとんでもない圧迫感を感じた。

今にでも押し潰されそうな、息が詰まるような感覚…!

ちょっとした能力だけでは済まされないレベルだ…やはりこいつ普通じゃない!

そして少し経つとその圧迫感が消え、折神は微笑むと

 

 

「分かった!それじゃあ僕はお暇させてもらうよ!君の決めた事だそれを否定するつもりは無いよ!」

 

「…………」

 

「それじゃあ…()()()()()()()()()()()()()()()

 

「お前…!それは一体どういう…っ!?」

 

 

折神はそう言い残し俺の視界はまた暗闇に染った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

再び視界に光が差し込むと今度は見覚えのある天井が見えた。

…永遠亭だ、きっと咲夜さんが俺をここまで運んでくれたんだな、まったく…悪夢を見た気がする。

病室の天井を見て安堵した俺はふと横を見ると、そこには…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パチュリーが座っていた。

 

 

「パチュリー…」

 

「……いい目覚めかしら?光」

 

 

パチュリーは目覚めた俺を見て、読んでいた本を閉じて微笑んでみせた。

 

 

「あぁ…最悪な目覚めだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

少し経ってパチュリーが優曇華に光のことを伝えると、一斉に紅魔館組が病院に集まった。

 

 

「ひがるざぁぁぁぁぁぁん!!!」

 

「ちょ!ぐしゃぐしゃな顔で俺に近づくな美鈴!気持ち悪いぞ!」

 

「だって咲夜さんに殺されちゃうんじゃないかど思っでぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

「あれは事故みたいなもんだ!俺はちゃんと生きてるから安心しろ!まったく…」

 

「その様子じゃ心配する必要はなかったかしら?」

 

「もう身体は大丈夫なのか?レミリア」

 

「貴方どれくらい眠ってると思ってるの?2週間よ2週間」

 

「に、2週間!?そんなに経ったのか!?」

 

「当たり前よ、致命傷を負ってすぐに回復する人間なんて見た事ないわ」

 

「それもそうか…」

 

「次からは私も同行して戦おうかしら♪」

 

「必要ねぇよ、俺は助太刀される程貧弱じゃない」

 

「いつも病院送りにされてるのに…」

 

「なんか言ったか?美鈴」

 

「い、いえ!なんでもありませんからその刀を仕舞ってください!」

 

 

焦る美鈴に俺は呆れながら刀を仕舞った。

まったく…疲れるこっちの身にもなれ、そしてレミリア、パチュリー、小悪魔、フラン、美鈴が揃ってあと一人…咲夜さんが居ない俺を運んだのは咲夜さんのはずだよな…?

 

 

「……咲夜が気になるかしら?」

 

「あぁ…運んだのはきっと咲夜さん…だよな?」

 

「そうね、レミィの命令も聞かずに永遠亭を飛び出して行ったわ」

 

「あの咲夜さんが…どうしてそこまで…」

 

「咲夜の事よきっと後悔と懺悔にいてもたってもいられなかったのよ」

 

「俺はそれくらいの価値に値しねぇよ、それにレミリアの運命で会わせちゃいけなかったはずだ」

 

「実は光を運んだ後その話の件で咲夜自ら接触を避けると言って来たのよ」

 

「咲夜さんが?」

 

「えぇ…きっと自分のせいで光を追い詰めてしまったんだと思ってるのよ」

 

「はぁ……そこまで考えなくてもいいのに……」

 

 

咲夜さんはとても真面目な人だ、少し抜けてる部分はあるし怒ると冷静じゃなくなる、それでもこんな俺に沢山接してくれた。

咲夜さんが居なければきっと俺は変わろうと思わなかっただろう。

俺と咲夜さんが接触してはいけない運命があるのなら俺はそんな運命ぶち壊してやると開き直るけどな。

 

 

「俺……咲夜さんに話し付けてくる」

 

「待ちなさい、まだ貴方は安静にしなきゃ行けないのよ、傷が開いたらどうするの?」

 

「だが…!」

 

「咲夜は今紅魔館にいるわ、今貴方が行っても戸惑ってしまうと思うから今は我慢して欲しいわ」

 

「……わかった、俺よりお前らの方が咲夜と一緒にいるしな…任せる」

 

「傷が治ったらまた話し合いましょう」

 

 

俺は頷くと、レミリアは「それじゃ」と言い他の奴らと共に病室を出た。

しばらくは咲夜さんと顔を合わせられないって事か…それよりもあの夢に出てきた折神とかいう男…去り際に言った言葉が気になる…。

 

 

『君のせいで死ななければいいね!!!』

 

 

それがどういう意味なのかこの時の俺はまだ知らなかった。

 

 




実はこういうウザイキャラクター作ってみたかったんですよね笑
実現出来て良かったです。
また不定期に投稿しますが、ごゆるりとお待ちしてくれれば幸いです。


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再会

「たっだいま〜♪」

 

 

静かな部屋に陽気な声と共に扉が勢いよく開かれた。

それに反応するように皆折神の方を向いた。

 

 

「何処ほっつき歩いてた折神!」

 

 

一人の男が椅子から立ち上がり机を強く叩いて問う。

 

 

「そんなに怒らないでよ〜ちょっとした暇つぶしをしてきただけさ」

 

「どうせまた私達の邪魔になるような事をしただけだろう…」

 

「あーっ!ひっどーい!僕の事そんな風に思ってるんだ!」

 

「貴様がいつもふらふらと消えれば余計な事をして帰ってきてるからだろ!」

 

 

声を荒らげた男は再び机を強く叩いた。

 

 

「ちょっとそんなに怒らないでよぉ…折神こわーい…」

 

「………」

 

 

折神は怖がるような反応を見せていたが、何もかもがわざとらしかった。

声を荒らげていた男はため息をついて静かに椅子に座った。

それを見た折神はスッと表情を元に戻す。

 

 

「まぁいいや、それで?あの執事君は幻想郷に?」

 

 

縦長の机に5つ用意されている椅子のうち、最後に空席だった椅子に座る折神は対面するように座っている男に問いた。

 

 

「あぁ…今さっき向かわせた、そろそろあの()()()と再会してるかもな」

 

「おぉ〜まさに感動の再会…!!!泣けますなぁ〜…」

 

「それで?貴様は雨天 光に何をした?」

 

「むむっ!見てたんだね!流石()()()()!」

 

 

折神はケラケラと笑いながら机にある紅茶を飲んだ。

そしてほっと一息つくと答えた。

 

 

「光くんにはちょっとした()()をさせてもらったよ」

 

「細工だと?」

 

「うん!確か今の時間は……夜の23時かー!()()()()()()()()()から丁度いいね〜♪」

 

「ふん…またどうせつまらない見せ物だろうが…まあいい、高みの見物と行こう」

 

 

机に座っている5人は机の真ん中に置かれている水晶で幻想郷を覗いた。

 

 

「さてと…僕をガッカリさせないでよね雨天 光君♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・

 

 

一方永遠亭の病室にて就寝時間となった光は、ベッドの上でぼーっとしていた。

結局咲夜さんは見舞いに来なかった。

既にレミリアが俺の事について話しているだろうな、咲夜さんがどんな反応をしたのかはその場に居なければ分からないが、きっと安心した表情をしているに違いない。

…不思議だな、幻想郷(ここ)に来たばかりならそんな事どうでもいいと言って眠ってるはずなのに…咲夜さんと出会ってからずっと俺は少しずつかもしれないが、変わっているのかもしれないな。

次第に睡魔が襲ってきた光はそのまま目を閉じた。

 

 

 

そして()()()()

再び目を開けるとそこは懐かしい高校時代に通った母校が建っていた。

俺は既に卒業しているので、夢だと言うのはすぐにわかった。

だが、どうして今更こんな夢を見ているのだろうか、俺はゆっくりと正門から入り、履いている靴をロッカーに入れて、学校用の上履きを履いて廊下を歩いた。

校内はとても静かで、昼間だと言うのに人も見当たらなかった。

とりあえず俺は卒業する年、3年棟へと足を運んだ。

階段を一段一段と登る度に懐かしく感じた。

高校時代はこの能力のせいでクラスメイトからは気味悪がられ、周囲から避けられていた。

俺自身仲良くするつもりもないし、両親も既に他界していてずっと一人だったし、慣れていたのもあって有難い限りだった。

俺が在校していた組の教室に入ると、そこには…()()()()()()()()()()()()

教室の窓から吹く風で滑らかにゆれる綺麗な茶髪のロングを見て、俺は誰だか分かった。

 

 

「久しぶりだね光くん」

 

「どうして……」

 

「ちょっとー久しぶりの()()なのにその反応は酷くない?」

 

 

俺の反応に彼女は頬を膨らませていた。

同じだ…()()()と。

 

 

「いや…まさかお前が居るとは思わなくてな、動揺してしまった」

 

「そっかーでも嬉しいなぁ光くんが来てくれるなんて」

 

「………」

 

 

これは夢だ、俺は今病室で眠っている。

夢のはずだ、なのに…何だこの本当に会話しているような感覚は…。

 

 

「光くんは今何してるの?」

 

「え、俺か?俺はー…」

 

 

夢の中とは言え幻想郷で英雄になる為に修行してるとか恥ずかしくて言えねぇ

 

 

「社会人やってるよ…」

 

「へぇー!意外だね!あの孤独を好む光くんが!」

 

「うるせぇよ…それより………お前は?」

 

「私?私は何もやってない」

 

「優等生だったお前が珍しいな…」

 

「あはは…私ったら大人になってダメになっちゃった」

 

「そんな…事ねぇよ…」

 

「…懐かしいねここ、よく一緒に話してたっけ」

 

「あぁ…そうだな」

 

「ねぇ光くん!さっきから反応鈍くない?私の事嫌いなの?」

 

 

今、俺はどんな顔をしているのだろう。

あいつだってわかった途端声が震えて視界もおぼついてる。

きっと俺は泣きそうな顔をしてるのかもしれねぇな…。

 

 

「そ、そんな訳ないだろ!俺だって嬉しいさ!」

 

「ふーん、それならいいんだけど!」

 

「……なぁ…あのさ…」

 

「ん?どうしたの光くん」

 

「俺は…」

 

 

言葉が出ない、怖いからだ、()()()()()()()()()()()()()()()()って後悔するから。

 

 

「俺は………!」

 

 

逃げたんだ、俺は弱い、結局またお前を救えなかったんだ。

ごめん、そう言いかけた瞬間、風が1層強くなり俺は目元を腕で覆った。

彼女がどこかへ行くような気がした。

嫌だ…俺はまたお前を……!!!

俺はすぐに立ち上がり彼女の背中を追った。

 

 

「待ってくれ!!!ーーーーーー」

 

 

彼女の名前を叫ぼうとした瞬間、俺の視界は真っ暗になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうか、お前のせいだったのか…いつまでも張り付いてくるダニが」

 

「っ!?」

 

 

再び目を開けるとそこは永遠亭の病室だった。

そして横には心配そうに見つめる鈴仙が居た。

 

 

「れい…せん…?」

 

「光さん!大丈夫ですか?何だかうなされていたように見えて…」

 

「あぁ…大丈夫だ、ちょっと悪夢を見ただけだ」

 

「そうでしたか…念の為師匠を呼んできますね」

 

 

そう言うと鈴仙はそそくさと病室を出た。

窓を見る限り既に日は昇っていた。

2日続けて最悪な目覚めだ…なんなんだこの数日嫌な事しかない。

とりあえず永琳に検査してもらってただの悪夢だと気が楽なんだがなぁ…

だが…一つだけ()()()()()()()()()()()?彼女の声では無いのは明白だった。

どちらかといえば男の声だった。

あの声の正体は一体なんなのだろう。

俺の記憶では聞き覚えがない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・

 

「検査結果は異常なし、今日で退院出来そうね」

 

「マジか、あんな怪我負っておいて2週間で帰れるのか」

 

「能力者故回復も早いと思うわ、ただし、すぐに戦闘に出ないことそれだけは約束して傷口が開くだろうし」

 

「分かってるよ、ただどうても戦闘に出ないといけない場合になったら?」

 

「その時はまた自分で考えなさい、場合によっては出禁にするけど」

 

「おー怖い怖い分かりましたよ先生」

 

 

そう言って俺は正式に退院する事になった。

眠っていた時間を除くとまだ2日くらい病室にいたつもりだったが、身体は覚えているようだ。

眩しい、まさに2週間ぶりの日差しといった所だ。

鬱陶しそうに太陽を睨みつけた後前を向くとそこには。

 

 

「迎えに来たわよ光」

 

「パチュリーに小悪魔、わざわざ来たのか」

 

「レミリアお嬢様に頼まれて来ました!」

 

「そうか、何がともあれ感謝はしておくよ」

 

「それじゃ行きましょうか」

 

「はいはい」

 

 

俺はそう返事すると、帰路へ向かった。

事があった後の咲夜さんと顔合わせるの気まずいなぁ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・

 

 

私は大きな罪を犯した。

お嬢様の予知をまともに聞かず、光さんを自らの手で傷つけた。

光さんはきっとこんな私を許すわけが無い、あの時私は彼に約束した。

『これから変わるというなら私は大歓迎です』と、結局変わってないのは私だ。

紅魔館に来てから私は1度も変わってなどいない。

私はため息をつくと、扉がノックされた。

どうぞと返事をすると失礼しますと言い扉を開けた。

そして私は次の瞬間、時が止まったような感覚に陥った。

それは能力を使われたのではなく、純粋に衝撃的すぎて放心状態になってしまったのだ。

 

 

「あ…あぁ…貴方は…!」

 

()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

「そういえばパチュリー」

 

「どうかしたのかしら?」

 

「レミリアから聞いたんだが…昔紅魔館にいた執事長、名前はなんて言うんだ?」

 

「あー…あの人ね…彼の名前は…」

 

 

 

「この丑満時 静夜(うしみつどき せいや)ただいま戻りました」

「丑満時 静夜…貴方と同じ人間よ」

 

 

 

 

 




今回はかつてボツにした作品の主人公を持って来ました。
丑満時 静夜君、分かる人には分かる
彼がどんな人物なのか今後の展開を楽しみにしていてください。
それでは。


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VS 憎悪の執事長

今年も終わりますね、皆様はどんな年でしたでしょうか?
来年はこのご時世が終息する事を願ってます。
それではどうぞ。


少し経ってパチュリー達は紅魔館の門前に着くとそこには()()()()()()()を見つけた。

 

 

「美鈴!」

 

「うっ……光さん……」

 

「どうした、誰にやられた?」

 

「あの……ひとです…」

 

「あの人?」

 

「パチュリー様…()()()()()()()()()()()

 

「帰ってきている…?まさか…!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

「今までどこに行ってたんですか静夜さん!」

 

 

突然紅魔館から姿を消したはずの丑満時 静夜に咲夜は声を荒らげて問いただした。

左手をお腹の前に当ててお辞儀をしていた静夜は直ると微笑みながら答えた。

 

 

「何も告げずに消えてしまい申し訳ございません、己を強くする為修行に励んでおりました」

 

「貴方が居なくなってから大変だったんですよ…!」

 

「咲夜さん…」

 

 

明らかに弱っている咲夜に静夜はそっと抱き締めた。

咲夜は突然の事で驚いたが、抵抗はしなかった。

 

 

「紅魔館の皆様に迷惑を掛けた事はお詫びします本当に辛い思いをさせてしまいました」

 

「静夜さん…」

 

「でももう大丈夫です、僕が戻ったからには()()()()は繰り返しませんからこの幻想郷(醜い世界)で侵食した皆様の為にも」

 

「静夜さん…?」

 

「咲夜さんすみません、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「え?」

 

 

その瞬間静夜の背後から気配を感じ、咄嗟に時を止めて下がるとそこには、光が静夜に刀を持って突進していた。

再び能力を解除すると間もなくして光の刀が静夜に突き刺さった。

 

 

「ほぉ…貴様が幻想郷の英雄と言われている雨天 光か」

 

 

しかし静夜は光の刀を手で掴んでいた。

何時着用したのか防刃手袋で防いでいた。

 

 

「どうも()()()()()()()さん」

 

「咲夜さんがここまで思い詰めているのは貴様の仕業か?」

 

「さあな?門前で美鈴を傷つけたお前に言う義理はない」

 

 

光は刀を上に振って静夜の手を振り払うと再び振り下ろそうとしたが、場所が悪いと判断したのか、後ろに下がって窓を開けると外へ飛び出した。

光も追うように飛び出した。

 

 

「咲夜!」

 

「パチュリー様…?」

 

「良かった無事だったのね」

 

「静夜さんは一体何を?」

 

「光を連れて帰ってたら門前で()()()()()()()のよそれで美鈴から彼が戻ってることを聞かされてね」

 

「まさか静夜さんが美鈴を?」

 

「ええそうよ、突然戻っているから驚いたけれども、まさかタロットカード使い(あの手先)達の仲間になってたなんてね」

 

「そんな…静夜さんが」

 

 

咲夜にとって静夜は閉じ込めてた自分を変えてくれた恩人だった。

そんな人がタロットカード使いの手先だと思うととても信じられなかった。

 

 

「咲夜にとってはあの子がきっかけを作ってくれた人だもの受け入れられないのは分かるわ」

 

「どうすれば良かったのでしょう」

 

()()()()が原因だもの防ぎようが無いわ、あれはレミィの為にやっただけだもの」

 

「……そうですねお嬢様の願いは私の願いでもあります」

 

「その通りよ、紅魔館(ここ)の主はレミィだもの、それより今は光の援護に向かわないといけないわね咲夜貴女も」

 

「ですが私は光さんと…」

 

「今はそんな事言ってる場合じゃないわ、貴女の力が必要なの光も同じ事を言うと思うわ」

 

「パチュリー様…」

 

「ほら、そんな顔しないで行くわよ!」

 

「…!はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・

 

 

 

静夜は紅魔館の真反対にある森の中を走り続け、光は静夜の流れてくる霊力を感じながら追跡していた。

そして森を抜けると、木々が囲むように広い更地に辿り着き、後から光も追いついた。

そして静夜は振り向くと同時に光に突進して殴りかかるも、刀で受け止められそのまま弾き飛ばされる。

静夜は地面に手をついて速度を落とすと、ニヤリと笑った。

 

 

「驚いたな、やはりタロットカード使いを4人倒しただけの実力はある」

 

「それはどうも、お前は紅魔館の執事やってた割には大したこと無いな」

 

「フッ」

 

 

静夜は防刃手袋に付いた砂埃を払うと、構えた。

光は再び接近して刀を振るうと片手で弾いてきたので、間髪入れずに刀を振り下ろすと今度はいなして地面に突き刺すと、光の顔面を殴った。

そのまま状態が起き上がった瞬間に静夜はがら空きになった脇腹にローキックをして追撃する。

イラッとした光は静夜の足を掴んでそのまま回転すると静夜はバランスを崩し転倒する。

その隙に地面に突き刺さった刀を抜いて斬撃を放った。

静夜はしゃがんだ状態で拳を突き上げて防いだ。

 

 

「貴様の剣術は私の防刃手袋を貫通する事はない、組織の職人が手懸けた数百万回の斬撃をも耐えうる特別製だ」

 

「へぇ〜?ならぶっ壊れるまで斬り続けるだけ…だ!」

 

 

光は斬撃を放ちながら近づくと、更に斬撃を連続で打つ。

静夜は防御体勢に入ると斬撃を弾いた後に光の一つ一つの攻撃を受け流すように回避した。

防刃手袋と刃が接触する度に火花が散る。

 

 

「はははっ!安直な考えだなぁ…それでも英雄なのか?」

 

「悪いがお前らに小細工する程俺も舐めてないからな」

 

「それは嬉しい言葉だね」

 

 

静夜は光の刀を弾くと鳩尾に拳を突き出すも、片方の手で腕を掴まれ固定した状態でもう片方の手で刀を振り下ろしたが光の足元を蹴ってバランスを崩した隙に蹴り飛ばして距離を取った。

そしてそのまま地を蹴るとスライディングして背後に回ると光の頭目掛けて蹴りを入れた。

一瞬の事だったので光も反応に遅れたが、何とか身体を反転させて回避した。

そして大きく足を上げていた為、しゃがみこむように背中を見せた瞬間を狙って刀を振り下ろすが光に背中を見せておきながら片手で刃を掴んで身体を反転させると同時に刃を引っ張って光を近付けると顔面を殴った。

更に逃げさせないと怯んだ光を、刀の持ち手まで引っ張り手首を叩いて刀を離させた後背負い投げした。

 

 

「ぐっ……」

 

「残念ながら貴様は私を倒すことは出来ない、何故なら私は過去に()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……知ってるさ」

 

 

以前レミリアが話してたように過去に紅魔館組が異変起こした際に最後の最後に戦っていたと、恐らくそれが原因で静夜の何かが歪んだのだろう。

 

 

「………その反応だとレミリアお嬢様に話を聞いたようだな」

 

「当たり前だ、咲夜さんを頼むよう言われてるからな」

 

「……堕ちたな、お嬢様も」

 

「堕ちたのはてめぇだろうが丑満時 静夜ァ!!!」

 

 

光は霊力を放つと静夜は驚いた表情でその場から離れた。

そして落ちた刀を持ち上げるとスペルカードを取り出した。

 

 

 

〜蝶符「妖刀・千子村正」~

 

 

 

刀に霊力を溜めた光は一気に解き放ち、静夜に斬りかかった。

静夜もこれには危険を察知したのか、上に飛んで回避すると光の背中に周り蹴りを入れようとしたが、既に光は静夜の方を向いていた。

 

 

「っ!?これが貴様の能力かぁ!!!」

 

 

足を上げたまま防御の構えをするが、光のスペルカードには通用せず勢いよく弾き飛ばされた。

そして地を転がり木々にぶつかると力無く状態を起こすと木にもたれかかった。

そして次の瞬間静夜は泡のような物体に包み込まれた。

その視線の先には魔法陣を出しているパチュリーと咲夜がいた。

 

 

「光!大丈夫?」

 

「パチュリーに、咲夜さん来てくれたんですか」

 

「こんな緊急時に意地張ってる訳にも行きませんから」

 

「パチュリー様…!どうして私を拘束するのですか!?」

 

「悪いわね静夜、貴方には退場してもらうわ」

 

「…………」

 

 

パチュリーの魔法に閉じ込められた静夜は1度絶望した表情になったあと、ニヤリと笑いヨロヨロと泡の中で立ち上がった。

 

 

「なるほど…もう貴女方とは理解し合えないようですね」

 

「何も告げずに美鈴を攻撃した貴方が言う言葉かしら?」

 

「それもそうですね…分かりました、では私も手加減しません」

 

 

そう言うと静夜は何の真似か右手の親指を突き立てた。

 

 

「……何の真似だそれは」

 

「いや?貴様も能力を使うなら私も能力を使おうと思いましてね、まぁもうすぐ死ぬので冥土の土産として教えてあげますよ」

 

「それはお前自身に言ってんのか?」

 

「はははっ、それは面白い冗談ですね…教えましょう私の能力…()()()()()()()()()()()()()()()()()()()をそれは…」

 

 

静夜はニヤリと笑うと。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()、生身の人間を除いて全ての物質を爆弾に変えます…それが例え()だろうと」

 

「刀……っ!?光!!今すぐその刀を捨てなさい!」

 

「は?」

 

 

 

 

 

カチッ

 

 

 

 

 

 

その瞬間光の持っている刀から爆風が吹き出しあっという間に黒煙が光達を包み込んだ。

 

 

 

 




いかがでしょうか?静夜君の能力、元々この能力にしてたので知ってる方は違和感は無いと思います。
前の4人より遥かに強い能力で笑うと思いますけど、そろそろまともな能力使いたかったです。
ではまた来年良いお年を!


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VS 憎悪の執事長②

あけましておめでとうございます!
2022年一発目の投稿です。
投稿ペースは以前と変わりませんが、なるべくいい作品に仕上がるように頑張ります。


 

 

突然持っていた刀が爆発した事で爆風に巻き込まれた光はそのまま吹き飛ばされて木に強くぶつかった。

肺の空気が全て口から出る感覚を味わいながらも何とか失いかけた意識を保ち、立ち上がると次に見た光景は…

 

 

「パチュリー様!パチュリー様!」

 

 

爆風を受けたが、能力を使って回避した咲夜とその手にはボロボロのパチュリーがいた。

俺の刀が爆発する直前に庇ったからだ。

 

 

「パチュリー様……何処までも悪に染るおつもりですか!」

 

「っ!……悪に染ったのは貴方です静夜さん!どうしてこんなことをするんですか!?」

 

「どうして…?僕は皆さんの迎えに来たんですよ?それなのにどうしてそちら側に肩を持つのですか!僕達の…あの幸せだった紅魔館はどこに行ってしまったのですか!?」

 

「私は…私達は幻想郷(この世界)で生きると決めたんです…!お嬢様もパチュリー様もみんな同じです!」

 

「………」

 

 

静夜は俯き、溜息をすると咲夜に冷たい目線を送った。

 

 

「これは…お仕置が必要ですね…」

 

 

その瞬間、静夜からおぞましい殺気を感じた。

まさにその姿は憎悪そのもの、近づくだけで吐き気を催そうだ。

 

 

「咲夜さんも、お嬢様も、皆…皆皆皆皆皆皆皆皆皆皆皆皆皆皆皆皆皆皆皆皆皆!!!!己がどれだけ愚かなのか理解させてやる!!!!!」

 

 

静夜は拳を握ると一気に咲夜に飛んでかかった。

しかしその拳を光が刀で防いだ。

 

 

「光さん!」

 

「大丈夫ですか咲夜さん」

 

「貴様ァ……!!!」

 

「まるで駄々をこねるガキだな丑満時 静夜、見苦しいぞ」

 

 

光は静夜の拳を弾き飛ばすと、静夜は距離を取った。

そして光は刀を触れられたので能力の警戒をしたが、静夜の表情を見て理解した。

 

 

「なるほど…お前の能力は1()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()使()()()()()()ようだな」

 

「チッ…!」

 

 

ならば好都合、思う存分刀を触れるわけだ。

しかし能力を使えないのはそれだけ、警戒する状況は変わらない。

光は後ろを見て咲夜さんと気を失ったパチュリーの状態を確認した。

幸い爆発で手足等が吹っ飛んだわけでは無さそうだが、重傷なのに変わりはない。

 

 

「咲夜さんパチュリーを連れて永遠亭に行ってください」

 

「それでは光さんが…」

 

「大丈夫、心配はいりません必ず勝ちますので」

 

「ですが…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なら()()()()()()()()()()()

 

「っ!?」

 

 

何か気配を感じた静夜は明後日の方向を構えた。

すると瞬間、鋭い斬撃が通った。

そして光の前に立つとそいつは光の方を見た、輪刀を持ったあの男が立っていた。

 

 

「平田 和也…」

 

「大丈夫かい?光くん、助けに来たよ」

 

「……俺は助けろと一度も頼んだ覚えはない」

 

「まだ僕の事は信頼出来てないって所かな?まぁ仕方ないね、だけどここで争うのは都合が悪いだろ?」

 

「……分かったそのかわり妙な動きしたらこのクソ執事長と一緒に死んでもらうぞ」

 

「交渉成立だね♪」

 

「平田 和也…!あの御方の御恩がありながら何故寝返る!?」

 

「すまないね静夜くん、あの人の恩を忘れた訳じゃないけどそれ以上にこの世界の人達には借りがあるから」

 

「借りだと?貴様は私達よりこんな腐った世界の方が大切だと言うのか!」

 

「もちろん」

 

「貴様ぁ……!」

 

 

すると静夜は更に殺気を放つと、獣のような表情で俺達を睨みつけた。

まだ信頼していないとはいえ、平田が来たのは都合がいい。

咲夜さんにはパチュリーを任せてもらおう

 

 

「そういう事です、咲夜さんお願いできますか?」

 

「……分かりました。どうかご無事で…光さんにはまだ伝えられていないことがありますから」

 

 

そう言うと咲夜はパチュリーを抱えて飛んだ。

まだ伝えられていないことがあるって告白みたいだなおい…まぁ俺には無縁の話だが。

さて…これで俺が気にかけるものは全て無くなった。

 

 

「さぁ来いよ元執事長、お前にこの世界を汚させねぇ!」

 

「雨天 光ゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!」

 

 

静夜は獲物を見つけた猛獣のように飛びかかると拳を振り下ろした。

先に反応したのは平田で、静夜の動きを予測して輪刀で弾いた。

その様子じゃ既に能力を発動するための準備はしていたのだろう。

次に静夜は弾かれた勢いに乗って後ろに下がると同時に足元にある石を拾ってそれを投げるとスイッチを押す構えに入った。

光達は左右別々に飛んでそれを回避すると光と共に大きな爆風が発生した。

予測して距離を取ったつもりだったが、黒煙が光達を包んだ。

幸い少し皮膚に触ったくらいで、大怪我とまでは行かなかったが油断すれば即死は免れない。

俺が最初に食らった爆発、おそらくパチュリーが魔法を使って防御してくれたのだろうが、その分パチュリーに…。

 

 

「光くん早く煙を払うんだ!次の攻撃が来る!」

 

「……!」

 

 

黒煙の外から静夜が現れると片手に包んでいた無数の小石を光に投げた。

そして、スイッチの構えに入る…が平田のコインが静夜に反応して静夜を後退させるが、その二人の横で小石が爆発し、今度は黒煙だけじゃなく爆風も二人を襲い、吹き飛ばされる。

刀を地面に引っ掛けて減速すると、斬撃を放って追撃を防ぐ。

あのくらいの石でさえこの爆発、やはり紅魔館の元執事長をやっていただけある。

霊夢と戦ったと言っていたが、これには霊夢も苦戦したのだろうな。

刀に付いた土を払って平田の方を見ると既に準備万端という表情で頷き、同時に地を蹴った。

平田が接近して二刀の輪刀を振るい、静夜の両手を塞ぐと、後ろに回り込んだ光がそのまま静夜に向かって刀を振るうが、静夜は平田の攻撃を弾いたあとそのまま後ろに下がって光の方を向くと刃を掴んで、平田の方へ投げ飛ばした。

平田と光が衝突しかけたが、光が直前に体勢を立て直して平田の輪刀を土台に空中へ飛び上がると斬撃を放った。

それを爆弾に変えた小石で相殺すると、再び二人との距離を詰めて平田に拳を振るった。

平田は身体を回転させて上から振り下ろすように静夜の拳を足で振り落とすと、そのまま前のめりになった静夜を蹴り飛ばした。

飛ばされる直前、爆弾に変えた石を投げてそれを点火すると、平田の目の前で爆発した。

黒煙が上がる中、輪刀を回転させて黒煙を払った平田は致命傷とは行かなかったが、かなりダメージを負ってしまった。

 

 

「これはなかなか効くね…」

 

「当たり前だ、貴様は私には勝てない」

 

「それはどうかな?」

 

「何処見てんだクソ執事長」

 

 

その間、隠密していた光が一気に後ろに回って刀を振るった。

後ろに振り返りながら拳を振るう静夜、しかしそれは空を切る。

光が刀を振るったのは地面であり、その勢いのまま静夜の頭上を超えて、再び刀を振るった。

反応に遅れた静夜は左腕に切り傷を負った。

痛みに表情を歪めながら、光に小石を投げて後ろに下がると再び点火した。

既に距離を取っていた光は爆風に乗るように後退した。

 

 

「……いい囮だったぞ平田」

 

「ははは、君なりの褒め言葉として貰っておくよ」

 

「そんなボロボロの身体でも口だけは達者だな」

 

「それが僕の取り柄だからね」

 

「……まだ戦えるか?」

 

「問題ないよいつでもカバーは出来るさ」

 

「なら、()()()()()使わせてもらうぞ!」

 

 

 

 

 

 

〜記符「アブソリュート・イメージ」〜

 

 

 

 

 

 

平田から想いを読み取り、そのまま静夜に近づいた。

静夜も対抗するように接近した瞬間、静夜の動きが鈍くなった。

平田のワイヤー能力だ、光は一瞬だが平田のワイヤーで敵を拘束する能力を得る事に成功した。

一瞬でも相手を怯ませることが出来れば、こちらに有利な状況になりやすくなる。

 

 

「っ!?身体が…!」

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

 

 

光は勢いのまま刀を振り続ける。

あらゆる方向からワイヤーが静夜を襲う上に斬撃の嵐、流石の静夜も手一杯だった。

そしてその間に後ろに回り込んだ平田は静夜の背中に向かって輪刀を振るった。

静夜は光の隙を狙って一度刀を弾くと負傷した左手で輪刀を止めたが、振動が負傷した左腕に響き、力が緩むのを感じた平田は一気にその輪刀を振り抜くと静夜がバランスを崩した。

そして光が静夜の頭目掛けて刀を振るった…が、足を踏み込んでいた静夜に間一髪刃を掴まれてしまう。

その隙に平田が輪刀を振るったが、もう片方の手で掴まれてしまう。

更にもう片方の輪刀でがら空きになった胴体に振り下ろしたが、その前に二人を地面に叩きつけた。

そこへ石を拾って投げつけるとスイッチを押した。

爆発し、爆風と黒煙に二人とはそのまま飲まれてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・

 

 

 

その頃永遠亭に到着した咲夜は鈴仙に案内されて永琳のもとへ運んだ。

 

 

「パチュリー様…」

 

「安心しなさい気絶してるだけよ、ただ損傷が激しいから治療に時間が掛かってしまうけれど」

 

「良かったです…」

 

 

パチュリーの無事に安堵した咲夜に永琳は言葉を続ける。

 

 

「安心するのはまだ早いわよ、貴女は光の所へ行きなさい」

 

「私が…ですか…」

 

「当たり前じゃない彼に一番寄り添ってきたのは貴女じゃない、貴女が行かなかったら誰が彼を助けられるの?」

 

「……!」

 

「この娘の事は私達に任せて、頼んだわよ」

 

「……分かりました」

 

 

不安そうだった咲夜の表情は引き締まった表情に変わり、そのまま姿を消した。

鈴仙に治療薬を頼み、パチュリーの傷の状態を見ながら永琳はため息を着いた。

 

 

「さて…()()()()()()()()()()()()()()()()()楽しみにしておきましょうか」

 

 

 

 



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VS 憎悪の執事長③

今回も戦闘回です。
なんか3回に分けて作る必要あるのかなと思い始めてます。
もう少し短めに作れるよう努力します


 

 

発生した黒煙を刀で払うと、静夜に急接近し刀を振った。

それを右手で抑えて左手で石を押し付けようとしたが、後ろに回っていた平田が同時に輪刀を横に斬りつけていた為、光の刀を弾いた後体勢を低くして回避すると持っていた石を平田の身体に押し付けた。

そして後ろに下がって点火するも、警告音が鳴りワイヤーが静夜の腕を掴み、点火が遅れてしまい平田を殺り損ねる。

すると静夜は自ら平田に接近し拳を振り下ろすと、合わせるように平田が輪刀で防ぐも、その輪刀を使って後ろに回り込み頭を掴もうとするも横から光に刀で塞がれてしまう。

 

 

「平田!今だ!」

 

「りょーかい」

 

 

平田は振り向きざまにタロットカードを光らせると輪刀が大きくなり、半分に割って二刀流へ変える。

そして光が刀を弾いて静夜との距離を取ると、斬撃を放った。

それを平田の能力で斬撃の軌道を変えさせると、四方八方から光の斬撃が静夜を襲ったが、静夜も冷静に一つまた一つと消し飛ばし、本体が急接近すると二刀を両手で防いだ。

背中がガラ空きになった所を光が仕留めに行こうとしたが、両手を大きく振り上げて平田の胴体をがら空きにさせると、蹴り飛ばした後身体を回転させて光の斬撃を軽やかにいなした。

そしてそこへ木の枝を投げ入れ点火を試みるも、平田のコインが反応して無理矢理軌道を変えると不発に終わった。

ならばと再び接近して拳を振り上げると平田は二刀をクロスする形で防いだ。

火花が飛び散りクロスさせた二刀が一瞬だけ平田の死角になり、それを静夜は見逃さなかった。

瞬間もう片方の手で平田の輪刀に触れると後ろに下がって距離をとった。

そして…

 

 

「平田!今すぐその武器から手を離せ!!」

 

「っ!?」

 

 

スイッチが押され点火すると平田に爆風と黒煙が襲いかかった。

大きく広がった黒煙が晴れると爆発を食らいボロボロになった平田が倒れていた。

静夜は小石を大量に握って構えに入ると、光の方へ投げた。

拡散した大量の小石の前に静夜は点火のボタンを押すと、為す術なく光は一段と大きな爆風に飲み込まれた。

静夜はトドメを刺そうと黒煙の方へ歩み寄り拳を大きく振りかぶって黒煙を晴らすと、そこには…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()

 

 

「……咲夜さん!?」

 

「あのメイド長…!永遠亭から戻ってきたのか!?」

 

「お待たせして申し訳ありません光さん加勢に参りました」

 

「あの爆発…どうやって!」

 

「爆発する直前に時を止めて光さんごと後ろに下がりました。少し服が焦げたかもしれませんが、まぁ美鈴にでも弁償させましょう」

 

「この状況でも余裕なんですね、ほんと」

 

「…やはりそう易々と見てるという訳には行きませんか貴女も」

 

「私にとって紅魔館はお嬢様がくれた居場所なんです、それを例え静夜さんでも手を出す事は断じて許しません」

 

「…いいでしょう私も元とはいえ紅魔館の執事長、あの戦いからずっと煮え滾るこの憎悪を貴女にも思い知らせてあげましょう!」

 

「来ます!光さん構えてください!」

 

「言われなくても…!」

 

 

咲夜は空へ飛ぶと時を止めてナイフの弾幕を展開した。

静夜は構えて石を中に投げ飛ばし、スイッチを押すと相殺した。

二人は接近して先に静夜が拳を振り下ろすと咲夜は時を止めて後ろに回り、弾幕を張る。

地面に刺さっているナイフを拾い上げて投げつけるとスイッチを押して点火、爆風が弾幕の軌道を変えそれに生じた隙間に身体をねじ込んで回避するとそのまま咲夜の方へ突っ込んだ。

そこへ光の斬撃が静夜を妨害し再び距離を取られると、今度は光が静夜に刀を振り下ろしたが、後ろに回避しながらそこへ木の枝を投げ込み、スイッチを入れる。

爆発する寸前に光は地面を蹴って後ろへ下がり、黒煙が広まる前に刀で振り払い、静夜に斬りかかる。

それを右手で掴み、後ろへ投げつけると光の身体は木々の方へ飛ばされた。

飛ばされる中体勢を整え木々にぶつかる直前、足でバウンドするように蹴り飛ばし再び静夜に接近すると、光の背後から咲夜のナイフも応戦した。

再び木の枝を掴んで、投げ入れようとした瞬間背後から咲夜の気配を感じ、回し蹴りをしたが空を切りそのまま身体を回転させた勢いで光の方へ木の枝を投げ点火したが、直撃したのは咲夜の弾幕だけだった。

そしてふと上を見上げると黒煙から刀を構えた光が現れ、強烈な斬撃を与える。

これには静夜も両手で押えたが、負傷した左腕が痛み表情を歪めると更に圧を掛けられ弾いて引くしかなかった。

 

 

「チッ…!」

 

「今です!咲夜さん!スペルカードを!」

 

「分かりました!」

 

 

静夜との距離が離れた瞬間光の頭上に咲夜が現れスペルカードを発動した。

 

 

 

 

〜幻符「殺人ドール」〜

 

 

 

 

赤と青のナイフを投げた直後時を止め、更にそこへ緑のナイフをばら撒き静夜を完全に囲む。

流石の静夜もこれには目を見開いた。

 

 

「これは…!やはり共に苦楽を共にしただけあります…ならば私も()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

すると静夜はポケットに手を突っ込むと、ひとつのカードを取り出した。

タロットカードを使うということか、奴は更に今の状態から強化されるというわけ……いや待て、奴はタロットカード使いではないはずだ…確か『触れた物を爆弾に変える程度の能力』だった…はず…?まさか…!

 

 

 

〜憎符「アウトバースト」〜

 

 

 

静夜はそのスペルカードを咲夜の弾幕に投げ入れ、スイッチを押すと瞬間、大きな爆発が起こった。

しかもそれは一度ではなく二度、三度とリズムをとるように爆発し咲夜の弾幕を相殺していき、爆発がおさまった時には咲夜の弾幕も木っ端微塵に消えていた。

更に静夜は間髪入れずにスペルカードを取り出した。

 

 

 

〜追符「ホーミングボム」〜

 

 

 

静夜の両手から球体のようなミニカーが生成され、それを転がすと自力でタイヤを回し始め、咲夜の方へ飛んで行った。

時を止めて回避すると、軌道を変えて後ろに回り込み、十分な距離感になるとスイッチを押す音が聞こえた。

 

 

「咲夜さん!」

 

「くっ!」

 

「私のスペルカードを味わってもらおうか!」

 

 

光は足を動かし咲夜の元へ向かおうとしたが、その前に爆発が先に起きてしまった。

一段と強烈な爆風と閃光に光も腕で顔を覆った。

大きく広がる黒煙を振り払うと、咲夜が倒れていた。

 

 

「大丈夫ですか咲夜さん!」

 

「………光さん…」

 

「後は俺に任せて安全な場所へ避難してください」

 

「……すみません」

 

「これで一対一になったな雨天 光」

 

 

再びホーミングボムを生成する静夜はこちらへ歩み寄ってきた。

光は咲夜を安全な場所へ避難させ、再び振り返ると霊力を放った。

 

 

「……決着をつけよう丑満時 静夜」

 

「……良いだろう、貴様の想いか私の憎悪かどちらが大きいか決めようじゃないか」

 

 

ピリついた空気の中静夜はホーミングボムの生成が終わり光の方へ転がした。

ホーミングボムは標的を定め接近すると一気に加速し、仕留めに入る。

光は静かに深呼吸するとスペルカードを取り出す。

 

 

 

「咲夜さん貴方の想い貰います…!」

 

 

 

〜記符「アブソリュート・イメージ」〜

 

 

 

光は咲夜から想いを貰ったが、それに少し違和感を感じた。

 

 

 

「(今まで貰った想いより、何か温もりを感じる…?なんなんだこの感覚は…?いや、今はそんな事を考えている暇はないこの想いを…刀に注ぎ込む!)」

 

 

そして光は刀に能力を注ぎ込むと段々白く光り始めると思いきや青く光り出し、自然と周りの草花が舞い始めた。

 

 

「(平田より一段と能力が活性化されている…?これなら!)」

 

「……!」

 

 

静夜は何かを察知し、すぐさま小石を大量に握り光の方へ投げ入れた。

そしてスイッチを入れようとした瞬間、目の前に刀を構えた光が現れた。

 

 

「なっ!?」

 

「これで……終わりだあああああああああ!!!」

 

 

静夜はすぐさま防御の構えに入ったが一振で体勢が上がり、胴体ががら空きになったところを光は更に斬りつけた。

斬りつけた部分には青白く光る切り傷が残り、ひとつまたひとつと六つまで増え最後は静夜の背後に周り、刀を鞘に納める体勢に入った。

この瞬間光に新たなスペルカードを発現させた。

 

 

「まさか…!貴様ーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「伝符『想集六連斬(そうしゅうむれんざん)』!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「がああああああああああああああ!!!!!!!」

 

 

刀を鞘に納めた瞬間静夜の身体に残っていた斬撃が一斉に弾け飛び、静夜はそのまま宙を舞った。

 

 

「認められない…こんな事で私の…憎悪は…復讐は…消えない…消させない…消えて…なるものかあああああああぁぁぁぁぁ……!!!」

 

 

そして静夜の身体は次第に光の粒となり散った。

光は急いで咲夜の元へ走り出した。

 

 

「咲夜さん早く永遠亭に向かいましょう、肩貸します」

 

「ありがとうございます、私は大丈夫ですそれより平田さんの肩を貸してください」

 

「わかりました」

 

「すまないね」

 

「……言っとくがこれはただのお礼だ……助かった」

 

「どういたしまして」

 

 

三人で永遠亭へ向かおうとしたところ空から魔理沙とアリスが駆け付けてくれた。

 

 

「光!無事か!」

 

「魔理沙…それにアリスも来てくれたのか」

 

「大きな爆発音が聞こえたから急いできたのだけれど…遅かったみたいね」

 

「いや、肩を貸してくれるだけでもありがたい…永遠亭まで連れて行ってくれないか?」

 

「まぁ…全員とまでは行かないが一人くらいなら乗せてやるぜ」

 

「じゃあ…平田を頼む」

 

「良いのか?光も消耗してるだろ?」

 

「俺よりこいつの方が重傷だ、永琳達には大勢で押し掛けて悪いがな」

 

「まっそこは英雄様に免じて許してくれるだろ!」

 

「おいおい…」

 

 

光は溜息をつきながら咲夜の肩を持って永遠亭へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

「クソが!!!!」

 

 

水晶から様子を見ていたエゲリアは荒々しく椅子を蹴り上げた。

それもそのはずエゲリアにとっては片腕的存在の男だからだ、それを失うとなると大きな損失になる。

 

 

「静夜君も頑張ったね〜お陰で新しい必殺技を練り出したみたいだけど♪」

 

「折神ぃ…!貴様!!!」

 

「エゲリア!これは静夜のミスだ!責任は奴と主であるお前にある!」

 

「くっ…!」

 

「それで?あの執事長が死んだことでエゲリア…君の配下は全滅と言ったところだが…次はどうするんだ?」

 

「まぁ…光くんも種から芽が生えたようだし更なる刺激が欲しいかもねぇ〜」

 

「刺激などどうでもいい…俺の配下を向かわせる」

 

「おぉ〜やる気だねぇ〜やっぱりーーーーーー

 

「…それ以上言ったらお前の首を跳ねる」

 

「へぇ〜?やれるものならやってみてよ?」

 

「待て……その前に俺があの世界に行ってくる」

 

「えぇ〜!?エゲリアくん自身が?大事な大事な執事長さんが死んで血迷っちゃったのかな?」

 

「そうじゃない、奴がいる世界の実力者と当たってみるだけだ、なに…ほんの少しの嫌がらせだお前が普段やってるような事を…な」

 

「嫌がらせって言い方悪いなぁ……まっ!そこは君に任せるよ!吉報を待ってるね♪」

 

 

折神に手を振りながら見送られると、エゲリアは闇の中へと消えていった。

 

 

 

 



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変わっていく者達

 

 

丑満時 静夜を下した俺達は永遠亭に向かった後、それぞれ帰宅した。

幸い腹部の傷は開いておらず、再入院とはならなかった。

ただし絶対安静と釘を刺されたので大人しくすることにした。

気になっていたパチュリーの様子だが、永遠亭に着いた時には完全回復していた。

やはり魔法使いなだけに回復力は伊達じゃないな、そして咲夜さんと平田はあれだけの爆風を受けただけあって骨折していた。

2人も入院とまでは行かなかったが、しばらくの間安静するよう命じられた。

紅魔館に戻り早速レミリアにそれを報告し即刻咲夜さんに休暇命令を出した。

そしてその夜、光の自室にノックが響いた。

扉を開けると、右腕にギブスを付けた咲夜が立っていた。

 

 

「こんな夜にすいません、少しお話がしたくて」

 

「奇遇ですね、俺も丁度話したいと思っていたところです」

 

 

光は咲夜を部屋に入れると、椅子を用意して咲夜が座るとそれに対面するように座った。

 

 

「あの…今更なんですが、先日は私が取り乱して光さんを傷つけてしまい申し訳ありませんでした」

 

「気にしないでください、あの状況なら疑われて当然です……それより丑満時 静夜は元々紅魔館の執事長をやっていたんですねレミリアから聞きました」

 

「はい、私と静夜さんは幼くしてお嬢様の従者になりました。光さんもそれはお嬢様から聞いていますよね?」

 

「そうですね、咲夜さんが過去に酷い扱いを受けていた事、それを聞いて丑満時 静夜が咲夜さんに寄り添っていた事も…あの時何があったんですか?」

 

「……まずは私の過去から話しましょう、私は当時自身の能力で里の者から忌み嫌われていました、1度も危害を加えた覚えもないのに、能力者だと知っただけで『化け物』『悪魔』…と」

 

「………」

 

「特に男の人達からは言葉だけではなく殴ったり石を投げてきたり、挙句の果てには弱った私に漬け込んで、奴隷として売ろうと…!悪魔はどちらだと心の底から思いました」

 

「……聞いてるだけで胸糞悪い奴らですね」

 

「以降私は二度と他人を信じないと決めました特に男性には、そんな時ですお嬢様に出会ったのは、最初は高貴な方ですが、まだ見た目が幼く一人で歩いていたので()()()()()()()としましたが…」

 

「いや、ちょっと待ってください咲夜さん貴女、レミリア殺そうとしてたんですか!?」

 

「お恥ずかしい話ですが…当時は一人で生きてましたし金品を盗もうと企んでました」

 

「レミリアの口からも聞いてないぞそれ…」

 

「そして光さんも知っての通りまだ幼くお嬢様が吸血鬼だということも知らなかった私は見事に敗れ、手を差し伸べられました」

 

「他の人にはすぐ打ち解けられたけど、丑満時 静夜とは最初犬猿の仲だったと聞きましたよ?」

 

「そうですね、この館に迎え入れられた直後同じく拾われた静夜さんを見て私は男達にされた事を頭に浮かべてしまい、静夜さんを殺しかけました」

 

「そこまでしたんですか!?レミリアといい丑満時 静夜といい…初っ端から派手にやらかしてますね〜…」

 

「う……返す言葉もないです」

 

「その後咲夜さんがメイド長に任命されたと同時に執事長になったんですよね」

 

「静夜さんはそんな私をずっと気にかけてくれました、私にとって暗闇に一筋の光を灯してくれた大切な人でした」

 

「でもそんな丑満時 静夜はどうしてあのように豹変してしまったんですか?レミリアからは謎の男に連れられて闇の中へ消えたと聞きましたが」

 

「当時静夜さんは能力者の子でありながら能力を持たない普通の人間でした、それを気にしていたのでしょうか静夜さんは誰よりも努力し、誰よりも苦労していました、時には敵に1人で立ち向かい、命を粗末に扱おうとしたり…」

 

「何とかしようという気持ちは奴にもあったんですね」

 

「その通りです、私もそんな静夜さんを見て大きな刺激を受けました、だけど静夜さんが変わってしまったのは恐らくお嬢様が異変を計画したあの赤い霧の異変……」

 

「やはり皆能力者だった中一人だけ違かったのを気にして?」

 

「そうですね私は安全な場所に避難してくださいと言いましたけど彼は戦おうとしていました…でも戦ったところで敗北するのは理解していました」

 

「そこに例の謎の男が現れたと」

 

「はい…私含め静夜さん以外の方々は誰もその男を見た訳ではありませんが、恐らくその人が静夜さんに能力を発現させたのだと思います」

 

「例え普通の人間でも能力者の子ですしね」

 

「それからお嬢様と妹様が霊夢と魔理沙に敗北した直後に静夜さんが立ちはだかりました、私も霊夢に敗北してその戦いを見る事しか出来ませんでしたが、その時の表情は何がなんでも守ってみせるという強い意志を感じました。でも相手は幻想郷の中でも最強クラスの能力者です負けるのは目に見えていました」

 

「その守りたいという()()が豹変するきっかけになった訳ですね」

 

「恐らく…敗北した事で過去に戦闘で亡くなった父親と照らし合わせた事で静夜さんの心が砕けたのだと思います」

 

「奴はよく『復讐』を口にしていましたね、相当幻想郷に恨みを持っていたんだな…」

 

「それから私達紅魔館は幻想郷で暮らすことになりました、食材の買い出し等は静夜さんに任せていて私はずっと館で引きこもってましたから今のままじゃいけないと人里に顔を出すようになって交友関係を広げました。皆さん良い人達で安心しました……なのに」

 

 

咲夜さんは俯くと身体を震わせて、頬からは涙が流れていた。

 

 

「咲夜さん!?」

 

「私は…それで変われたと思い込んでいました……っ……この数ヶ月光さんと共に過ごしていたはずなのに……無差別に光さんを殺そうと……本気で……っ……こんなの……私に酷い扱いをしてきた奴らと同じじゃないですか……!」

 

「そんな事ありません…!咲夜さんはちゃんと変われてます」

 

「え……?」

 

「みんな時を重ねれば変わるんです。それはいい意味でも悪い意味でも、咲夜さんは他人を信じなかったけどレミリアと出会ってメイド長として変われたんですよ、そしてそれを俺にくれたんです」

 

「私が……光さんに……?」

 

「覚えてますか?俺が紅魔館に住むことになった日、咲夜さんは俺に変われと言ったんです。最初はとりあえず努力するか程度にしか感じてませんでしたが今は違う、紅魔館の皆を守りたいとそう思えるんです。その証拠に丑満時 静夜を倒した時に発現した新しいスペルカード、あれは咲夜さんの想いを貰ったからなんです。それは紛れもない俺が咲夜さんを信じているから」

 

「………!」

 

「まぁ紅魔館のみんなってだけで小さな一歩なんですけどね」

 

「………ふふ」

 

 

大粒の涙を流していた咲夜は左腕で拭い、光の方を向くと。

 

 

「ありがとう……ございます……!」

 

 

……と満面の笑顔でそう言った。

 

 

「………!」

 

 

しかし、光は目を見開いた。

それはドキッとしたではなく、脳裏に焼き付いている()()()の笑顔に似ていたから…。

 

 

「……光さん?」

 

「俺は……俺は……!」

 

「どうしたんですか!?光さん!」

 

 

呼吸が荒くなり、汗が止まらなかった。

また、この笑顔を…守れなかったら…俺は……。

そんな中視界に心配そうに見つめている咲夜さんの顔が見えた。

このままだと、どうにかなりそうだ。

暴走する前に…咲夜さんから離れないと……。

 

 

「……すいません、今日はお開きにしませんか?」

 

「え、あ…はい……」

 

 

そう答えると咲夜は心配した表情で部屋を出た。

光は自分の両手を見て震えている事を知るとそれを強く握った。

 

 

「……俺は何も変わってなんかいない、一歩も進めてねぇよ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・

 

 

一方その頃妖怪の山にて、静まった夜風に当たっていた射命丸文ともう一人招かねざる影が立っていた

 

 

「……取材するには少々リスクが必要のようですね」

 

「ほぉ?気配を消したつもりだったがそう甘くはなかったか」

 

「貴方が幻想郷に入る時点からバレバレでしたよ?そんなドス黒い霊力を放っているのに」

 

「ハハハ!ならもっと早く教えてくれてもいいじゃないか」

 

「そこまで私はお人好しではないですからね……何が目的だ」

 

「目的?俺達は最初から変わってないさ()()()()()()()()それだけだ」

 

「なら…今ここでお前を始末する」

 

「やれるものならやってみろ」

 

 

その夜、妖怪の山から爆発音が聞こえた。

 

 

 



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もう一人の自分

翌日の早朝、俺は紅魔館の門前で刀を振っていた。

咲夜さんより早起きしたのは初めてかもしれない…というよりそもそも寝付けなかった。

結局昨日の咲夜さんの笑顔がフラッシュバックして汗が止まらなかった。

このままだと咲夜さんとの関係にヒビが入るどころか紅魔館の奴らに心配されちまう。

その為俺は身体を動かして忘れる事にした、というより一旦落ち着いて普段通りに接しられるようにしないといけないからな。

呼吸を整え、俺の能力で具現化された刀を振り続ける。

心做しかいつもより輝きがないように感じた。

まだ俺の心は弱いままという事だろうな…。

 

 

「……悲観的に考えてどうするんだよ……今は全部無かったことにして普段通りに過ごそう」

 

 

光は首を振った後、皆が起きる前に自室に戻ろうとした時。

 

 

「ほぉ…?あのメイドを気にかけているようだな?」

 

「っ!?」

 

 

この寝静まっている早朝に突然声が聞こえ、光は刀を抜いた。

しかし周りを見渡しても誰も居なかったが、一つだけ心当たりがあった。

そしてそれは確信に変わった。

 

 

「やっぱり悪夢…では片付けられるものでは無いか」

 

「そうだなぁ…お前がだらだらと病院で寝ていた時に話しかけていたからな…()()()()()

 

「姿形は見せないくせに口だけは達者なんだな」

 

「当たり前だろ?俺はお前の未練から産まれたんだから」

 

「お前が俺の未練…?何言ってんのかさっぱり分からねぇが、しょーもない能力で俺に嫌がらせしようとしてもそうはいかねぇぞ」

 

「そう簡単には信用しないだろう…まぁもうすぐ()()()()()、楽しみにしておけよ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「お前……それはどういうことだ!」

 

 

しかし返ってきたのは鳥の鳴き声だけだった。

光は溜息をつきながらも紅魔館の皆を起こさないよう自室に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

 

 

「おはようございます咲夜さん」

 

 

皆が起き始める時間帯、廊下で咲夜さんにすれ違った俺は変わらず挨拶した。

咲夜さんも昨日の事があって少し戸惑い気味だったが「おはようございます」と返してくれた。

いつもだったら二人ともそのまま通り過ぎるはずなんだが、咲夜さんが何か言いたそうにしていたので、待ってみると…

 

 

「あの…もし何かありましたら迷わず頼ってください、何かお力になれると思いますから」

 

「言われずともそのつもりですよ」

 

 

その言葉は心の底から思っている事だと感じた。

昨日の夜も咄嗟とは言えあんなにベラベラと喋ったけど、俺は少しずつ咲夜さんを信頼しているのだろうと思った。

俺がそう返事したのもその証拠だ、不安な表情をしていた咲夜さんは俺の言葉を聞くなりぱあと明るくなりその場を後にした。

ほんと、表情豊かな人というか…そこがギャップ萌えというか面白い人だ。

とりあえず俺と咲夜さんのいざこざはこれにて解決と言ったところかな?

さて、と今日も居眠りしているであろう美鈴に嫌がらせしながら幻想郷を見回ってみようか。

……と思い門前に行こうとしたら、そこには霊夢が立っていた。

 

 

「朝早くから血気盛んですなぁ霊夢さん、どうしたんだい?そんなに眉間にしわ寄せて」

 

「……そりゃ眉間にしわ寄せたくなるわよこんな朝早くから、あの鴉天狗……」

 

「鴉天狗……射命丸のことか」

 

「そう、妖怪の山の連中が言うに今朝から様子がおかしいみたいなの」

 

「様子がおかしい…?いつもの事だと思うがそんなに変なのか?」

 

「椛が声掛けても返事するのが遅いというか…なんか行動が鈍すぎるらしいのよね」

 

「……それは確かに変かもな、あー見えて記者でキビキビ動いてるしな」

 

「だから妖怪の山の連中に頼まれて今回は私と光の二人で調査して欲しいって」

 

「はぁ……まぁそれも俺達の仕事だし、付き合うよ」

 

 

そう言うと二人は早速妖怪の山へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

「すいません霊夢さんに光さんまで来てくださってしまい」

 

 

妖怪の山に到着した俺と霊夢は早速待ち合わせていた椛と合流した。

 

 

「気にするな、それより射命丸は今どこにいるんだ?」

 

「……案内します」

 

 

椛に言われるがまま二人はついて行くと、そこにはいつもと変わらない射命丸が居たので声をかけてみた。

 

 

「おい射命丸……射命丸!」

 

「うえぇ!?光さん!?どうしたんですかこんな所まで!」

 

「どうしたも何もお前の様子がおかしいって言うから来てやったんだよ」

 

「あやや…やっぱり私、おかしいですか?」

 

「自覚はあんのかよ…いやまぁ元々おかしい奴だけども」

 

「ちょっとそれは失礼すぎませんか!?」

 

「……それよりどうしたんだ?ボーッとして」

 

「いやぁ…ボーッとしてると言うか()()()()()()()()()

 

「待っていた…?誰を?」

 

 

すると射命丸はおもむろに立ち上がると光の方を見てニヤリと笑い、横にいた霊夢がハッとした表情になり、光の方を向いた。

 

 

「光!逃げて!!」

 

「は……?」

 

()()()()()()()()()()()()()

 

 

その瞬間射命丸からどす黒い霧が放出し、光を飲み込んだ。

光は刀を抜いて振り払おうとした瞬間とてつもない目眩を感じた。

力を入れようにも入れられず意識が遠のいて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

再び意識を取り戻すとそこは何も無い真っ黒世界だった。

足が地に付いている感覚が無く、浮いている気分だった。

射命丸から出てきた霧は一体なんだったのか、光はなんとかして動こうとすると、やはり奴の声が聞こえた。

 

 

「やはりお前では力不足だ」

 

「射命丸はお前が仕向けたのか?」

 

「そんな訳ないだろう?俺はお前の心の中に居るだけでそんな能力などない」

 

「どうだかな」

 

「ただ…()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だろうな」

 

「ハッ!それこそ馬鹿げてるな」

 

「その余裕も一瞬で無くなる…何せお前の弱さが()()を殺したんだから」

 

「彼女…?まさかーーーーー」

 

「やはり良い反応を見せてくれる、何度も助けを求められたのに、それでもお前は逃げ続けたーーーーー」

 

「黙れ!どうしてあいつを知っているんだ!?」

 

 

俺はもう一人の俺の声をかき消すように叫んだ。

俺の過去を知っている奴、こいつは一体何者なんだ?

しかし、そんなことは知ったこっちゃないと続ける。

 

 

「言っただろう?俺はお前の中に居る俺だと、あぁ…今頃あの世で恨んでいるだろうなぁ…どうして?っと」

 

「違う…あいつは俺を庇ってーーーーー」

 

「そう、彼女がお前を庇ったんだ、お前のせいで彼女は()()()()()

 

「黙れ、黙れ、黙れ!お前にあいつの何がわかる!?」

 

 

すると声は俺を見下すように笑うと続けた。

 

 

「なるほどぉ…やはりお前の弱さが()()()()()()()()()

 

「俺は…あいつが幸せになって欲しかっただけなんだ…!」

 

「じゃあお望み通り、()()()()()()()()()()()()

 

 

直後、再び光の意識が遠のいていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

「………うわああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」

 

 

光を包んでいた黒い霧が叫び声と共に弾け飛ぶと明らかに違う光の姿が立っていた。

 

 

「目的は果たした、こいつはお前らに返してやるよ」

 

 

そう言った射命丸は突然力なく倒れ、霊夢がそれを受け止めた。

 

 

「……意識がないわ、操られていたのね射命丸は」

 

「そんな…射命丸さんが…」

 

「椛、射命丸をお願い私は()()()()()()()()を退治するから」

 

「わかりました…!」

 

 

頼んだわよと霊夢が言うと椛は射命丸を抱えてその場を後にした。

そして二人が退避したのを確認したあと霊夢は再び前を向いて身体から()()()()を放出している光の方を見た。

 

 

「さて、アンタは誰かしら?人の身体を借りてこそこそとしている臆病者さん?」

 

「臆病者?面白い冗談だな、そうだな…お前らが普段馴れ合っているヤツが雨天 光という男なら俺は()()()()()()()()()()()と言うべきか?」

 

「心の中の闇……それで?アンタはタロットカード使い(あの連中)と関係してるのかしら?」

 

「答えてもいいが…お前はもうすぐ死ぬからな」

 

「へぇ〜?そこは光と変わらず随分とデカい口を叩くのね」

 

「俺はコイツと違って強い自信を持っているから……な!!!」

 

 

偽光は刀を出現させると一気に接近し、霊夢に振り下ろそうとしたが、ただならぬ殺気を感じその場を離れた。

するとさっきまで偽光が居た場所に無数のナイフが刺さっていた。

 

 

「このナイフ……予定より早いお出ましですね()()()()

 

「偽物の貴方に私の名前を言われる筋合いはありません」

 

「咲夜…どうしてここが分かったの?それにまだその腕の怪我も大丈夫なの?」

 

「問題ないわ、怪我した腕を使わなければいいだけの話だもの、妖怪の山からとてもとは思えないほどの瘴気を感じたから美鈴に聞いてみたら光さんと貴女が妖怪の山に向かったと言ってたからまさかと思ったのだけれど、こうなっていたとはね」

 

「せっかくの機会だ、特別に貴女には聞かせてあげますよ」

 

 

そう言うと、偽光は俯いた。

すると

 

 

「……咲夜……さん!」

 

「この声……光さん!?」

 

 

身体がピクリと跳ね上がったと同時に偽光の内側から声が響いた。

 

 

「俺……の事は気にしないでください……何としてでもこいつを……止めてくださ……ぃ」

 

「光さん!!!」

 

「……いずれお前は消える、それまで自分の過ちをじっくり思い出すんだな」

 

 

再び意識を偽光に戻されたあと、刀を下ろして空を見上げた。

 

 

「感謝します、名も無き能力者…お陰で私の願いが叶える事が出来ます、早速使わせてもらいますよ」

 

 

その瞬間今まで以上に強い黒い霊力を発し、刀を構えた。

 

 

「来るわよ!咲夜!」

 

「言われなくても!」

 

 

そして偽光はニヤリと笑い地を蹴った。

 

 



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変化する気持ち

 

 

 

 

 

 

一方その頃、別世界ではエゲリアが戻っていた。

薄暗い中レンガで出来た廊下を歩いていると、反対方向から折神が鼻歌を歌いながら歩いてきた。

お互いの顔が見える距離まで近づくと折神は笑顔で歩み寄ってきた。

 

 

「おぉ、エゲリア君じゃないか!首尾はどうだったの〜?」

 

「いい感じに取り込んだと思う、後はあの英雄モドキが好きなように暴れてくれる事を願うだけだ」

 

「まさか僕の企みに1枚噛むとは思わなかったよ〜」

 

「勘違いするなお前みたいなゲス野郎に手を貸した覚えはない、ただあの英雄モドキに俺の配下を殺られたその腹いせだ」

 

「素直じゃないね〜、まっ!君がどう思おうが僕には関係ないしどうでもいい事だから♪」

 

「相変わらず癪に障る言い方だ…話はそれだけか?俺は行くぞ」

 

「うん!お疲れ様〜」

 

 

エゲリアはそのまま暗闇の中へ消えていくのを折神は手を振りながら見送り、再び向き直って歩き出すとこう呟いた。

 

 

「さて…今頃幻想郷あっちはどうなってるかなぁ〜♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・

 

 

響き渡る爆発音と共に霊夢と咲夜が黒煙の中に弾幕を撃ち込む。

少し経つと黒煙が衝撃波と共に晴れると、黒い霊力を放つ偽光が立っていた。

 

 

「どうした!幻想郷の能力者にしては随分と逃げ腰だな!」

 

 

偽光は無数の斬撃を放つと、霊夢が弾幕で相殺させる。

回り込んだ咲夜はナイフを放ると、偽光は振り向きざまに斬撃を放って弾き飛ばす。

更に上から霊夢がお祓い棒を振り下ろすも、刀で防がれ、霊夢は更に力を入れて押し込むと偽光は刀で弾き飛ばすが更に霊夢は圧をかけて偽光を封じ込める。

すると偽光は霊力を更に放出させて、強引に霊夢を弾き飛ばすと後ろから接近している咲夜に斬撃を放つ。

それを弾幕で相殺すると同時に時を止めてナイフを放る。

そして再び時が動き出すと偽光はニヤリと笑い刀に力を込める。

すると普段なら白く光るはずの刀が黒く光り始めると更に刀身も伸び始めた。

 

 

「俺を甘く見ない方がいいぞ!」

 

「くっ…!」

 

 

偽光は一回り大きくなった刀を大振りし、巨大な斬撃を作るとそのまま咲夜の弾幕を弾き飛ばすと更に斬撃は勢いを知らず咲夜の方へ向かって飛んでくると、時を止めて後ろへ下がり、ナイフを配置して構える。

時を動かすと偽光が予想通り反応しナイフを弾き飛ばしたその瞬間を狙い急接近するとそのままナイフを振り下ろした。

咲夜の奇襲を難なく刀で防ぐと間髪入れず霊夢が背後から仕掛ける。

すると偽光は強引に刀を振り回すと今度は霊夢がお祓い棒で防ぐが、偽光は霊夢のお祓い棒を土台に弾き飛ばすと同時に空高く飛び上がった。

すかさず咲夜が追撃するためナイフを配置して時を動かす。

霊力を上げて更に飛び上がって回避すると、高速で刀を切りつけて斬撃の雨を降らせるが、時を止めて回避して背後に回ってナイフを配置する。

背後から気配を感じた偽光は刀身を伸ばしてそれを一掃すると今度は高速で刀を突き、槍型の斬撃を放つ。

それを霊夢が割り込んで弾幕で相殺すると、黒煙が発生し、霊夢はその中へ突っ込むと、それを確認した咲夜が横からナイフで応戦し、晴れたと同時に偽光の目の前に現れて不意打ちを仕掛ける。

反応に遅れた偽光はすかさず刀でガードするが即座に弾かれた事で胴体がガラ空きになり、そこへ弾幕を打ち込んだ。

もろに受けた偽光は空中を舞うと霊夢は更に顔面を蹴り落として地面に叩きつけた。

 

 

「うっ……くぁ……」

 

「咲夜!今よ!」

 

「分かってる!」

 

 

その場で膝を着いた偽光を仕留める為に咲夜が急接近してナイフを振り下ろそうとした瞬間ーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()

 

「っ!?」

 

「あのバカ……!」

 

 

本来の光の口調に咲夜は一瞬迷ってしまった。

その隙を逃さなかった偽光は咲夜に切りつこうとしたが、間を割って霊夢がなんとかお祓い棒で弾き飛ばすと蹴りを入れて距離を取った。

 

 

「……ごめんなさい霊夢私とした事が」

 

「アンタがどれだけ気に入ってるのか知らないけど、本来の光を取り戻したいなら次はないわよ!」

 

「……次は失敗しない、貴女に合わせるわよ」

 

「そう……なら出し惜しみ無しよ!」

 

 

そして霊夢はスペルカードを発動した。

 

 

 

〜霊符「夢想封印」〜

 

 

 

色とりどりの弾幕が放たれると、偽光もそれを見てスペルカードを発動した。

 

 

 

〜蝶符「妖刀・千子村正」~

 

 

 

「そう簡単に倒れるかよ!」

 

 

普段なら白く光る刀も偽光によって黒く光り、黒い斬撃を放つ。

弾幕同士がぶつかり合い大きな爆発音と黒煙が発生するとお互いに煙の中へと消えていく、そこへ咲夜がスペルカードを発動する。

 

 

 

〜奇術「ミスディレクション」〜

 

 

 

黒煙の中であらゆる方向から無数のクナイとナイフが偽光を襲う。

偽光は急いで黒煙から逃げ出すと、すぐさま斬撃で応戦する。

更に追い打ちをかけるように横から現れた咲夜は片手に握っているナイフを振り下ろした。

偽光はそれを間一髪身体を横に倒して回避した後、咲夜を蹴り飛ばす。

 

 

「惜しかったな!これで終わりにしてやる!」

 

 

偽光は咲夜を仕留める為スペルカードを発動しようとしたが、周りに四角形の結界が貼られている事に気づく。

 

 

「なっ…!?」

 

 

 

〜夢符「二重結界」〜

 

 

 

「咲夜!今よ!」

 

「今度こそ!」

 

 

 

〜幻象「ルナクロック」〜

 

 

 

結界の中に青ナイフと緑ナイフがばら撒かれ、偽光は為す術が無く、苦渋の表情をしながら叫んだ。

 

 

「いい気になるなよォ…!俺は何度でも現れてやる…!コイツが生きている限りなぁ……!!!」

 

 

大きな爆発音と共に宙を舞い、そのまま地面に叩きつけられた。

そして偽光から黒い霧が放出されると咲夜は光の元へ駆け寄った。

 

 

「光さん!大丈夫ですか!」

 

「……ありがとう……ございます……咲夜さんに霊夢……」

 

「はぁ……とりあえず咲夜はコイツを頼むわよ、私は今からあの文屋に色々と問いただしたいから」

 

「分かったわ、ごめんなさい色々迷惑かけてしまって」

 

「……あの時一瞬迷ったのはやっぱりコイツが大切だからかしら?」

 

「………」

 

 

咲夜は気を失った光の顔を見ると、目を細めて答えた。

 

 

「この人には沢山迷惑を掛けたから」

 

「そう……じゃあ私は行くわ、目が覚めたら私が迷惑そうにしてたわよって言っておいてちょうだい」

 

 

そう言うと霊夢は飛び去って行った。

咲夜は妖怪の山から離れ、静かな草原の所まで光を運んだ。

そして周りに気配を感じない事を確認した後、自身の膝に光の頭を乗せた。

春の風が吹く中、光のサラサラとした髪を触る。

普段から手入れしているのか、触り心地が良い。

霊夢の言う通り、私はこの人の事が大切なんだと思った。

偽物の光さんから言われたあの言葉、まるで本物の光さんに言われたような感じで思わず手が止まってしまった。

この人には本当に迷惑かけてばかりだ、幻想入りした時は人間不信だったから私はもう信頼に値しない存在だと思っていたのに、この人は私を信じて一緒に戦ってくれる…貴方は確かに変化している。誰かを信じようと努力してくれている、自分の事を大切にしてくれるみんなを、それなのに…あの時私が慰めてもらった時何故貴方は辛そうな顔をしたんですか…?

咲夜は眠っている光の頭を撫でながら呟く。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()……貴方の事……もっと知りたいです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

妖怪の山を通り過ぎた後、人気のない森の中で立ち止まると背後から気配を感じた。

 

 

「居るんでしょ紫」

 

 

すると霊夢の背後からスキマが出現し、紫が顔を出す。

 

 

「まさか彼が襲われるなんて思わなかったわ〜(棒)」

 

「分かりやすい棒読みね…まぁそんな事はどうでもいいわそれよりも見てたんでしょ?()()()()()()()()()()を」

 

「そうね〜、一応全部見ていたわ」

 

「ならどうして止めなかったの?ましてやその相手がタロットカード使いなら……」

 

「正確に言うなら()()()()()()()()の方が正しいわ」

 

「どういうこと?」

 

 

紫は扇子で口元を隠すと少し眉をひそめて話し始めた。

 

 

「寝静まった夜だったかしら…文屋が何か察知したのかいつもと違う雰囲気を漂わせていて、その後ろに()()が見えたわ、それが能力者だと気づくのには時間は掛からなかったし、幻想郷の住民では無いことも、そして後は文屋に手を出す瞬間に捕まえれば…なんて思ってたけど浅はかだった、最初はどんな能力を使うのか観察する為に文屋の近くにスキマを置いて近づいたのだけれど、それが()()()()()()()()()()()になったのよ」

 

「近づいたことで捕まえられなかったってこと?」

 

「恐らく人影の声からして男だったわ、そしてその男から霧のようなものが放出されたのよ」

 

「霧……射命丸が操られている時にも霧みたいなのが出てたわ」

 

「その霧が原因だと思うわ」

 

「それなら尚更、アンタの力で霧ぐらいかき消せたでしょう?」

 

「最初に言ったはずよ捕まれられなかった理由があるって私もそうするつもりだったわ、だけどその霧に近づいた瞬間……()()()()()()()()()()()()()()()()()に陥ったのよ」

 

「自分が自分じゃなくなる…?」

 

「所謂精神崩壊ってヤツかしら、その男から放出された霧には近づいた者を蝕む力が宿っていたのよ、私も思わず離れざるおえなかったわ」

 

「いくら大妖怪であるアンタでも長居は出来なかったのね」

 

「ええ、そしてその霧は攻撃を仕掛けた文屋をあっという間に包み込んだわ、それから文屋の様子がおかしくなって今に至る感じかしら」

 

「……その人影、顔は分からなかったの?」

 

「……真夜中だったし何より妖怪の山での出来事、顔は全く見えなかったわ」

 

「なるほどね、霧の能力を使い更にその霧に近づけば精神崩壊が起こる……また厄介な能力者に出くわしたものね、この事は後々光にも伝えておくわ」

 

「そうしてちょうだい、私が伝えに行っても信じてもらえないだろうし」

 

「アンタが光に何を消しかけたのか知らないけれど、あまりアイツをからかわないようにしてよね」

 

「あら、霊夢からそんな事を言われるなんて思わなかったわ」

 

「……どういう意味よ」

 

「いえ、仲が良いみたいで良かったわ、じゃあ私は帰るわね」

 

 

そう言うと紫は手を振りながらスキマの中へ入っていった。

再び静けさが戻り、霊夢は鬱陶しいくらいに眩しい太陽を見ながら大きなため息をついた。

 

 

「次のタロットカード使い(能力者)が来るのも時間の問題ね……」

 

 

 



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新たな敵

 

 

 

「うぅん……?」

 

 

光はぼやける視界の中で自分の顔を見下ろす咲夜の顔を見る。

自分がどういう状況に置かれているのか少しずつ理解し始めると、細めていた目が一瞬で見開き飛び起きた。

 

 

「さ、咲夜さん!?」

 

「おはようございます光さん」

 

「お、おはようございます…じゃなくて!怪我は大丈夫なんですか!?戦ったって事ですよね?それに…その今膝枕……」

 

「問題ありませんよ使わなければ良いだけなので……私だと力不足でしたか?」

 

「いやそういう訳にもいかないですよ!それに俺なんか地べたに放り投げとけばよかったのに…」

 

「どうしてですか?それこそ私が嫌です」

 

「………」

 

 

少しムスッとした咲夜に光はこれ以上何か言うのは野暮だなと思い、苦笑いして返した。

そんな光を見た咲夜は微笑んだ。

 

 

「本当に…無事で良かったです」

 

「まったく最悪な体験をしましたよ」

 

「光さん本当に申し訳ございません、実は私また貴方に謝らないといけないことがありまして」

 

「大袈裟ですね〜最初から咲夜さんは、そもそもあれは霊夢がいち早く気付いてたのに反応できなかった俺の不注意です」

 

「いやそうではなくて、実は私一度だけ光さんに攻撃する時迷ってしまったんです…」

 

「え!?そうだったんですか!?そんなの迷わず俺の事は切り裂いてくださいよ」

 

「……私が言うのもなんですが、光さんはもう少し自分を大切にしてください」

 

「そ、そんなに怖い目で見られるとは思いませんでした……善処します……そういえば霊夢は何か言ってましたか?アイツと同行してましたので」

 

「いきなり操られて良い迷惑だったと言ってましたよ」

 

「いつもは俺も何か言い返すんだが、今回ばかりは霊夢にも迷惑掛けたなぁ…」

 

「霊夢も光さんの事心配してるんですよ」

 

「余計なお世話ですよまったく……さて俺が目覚めるまでとなると長い間ここにいた訳ですよね?」

 

「確かにそうですね」

 

「本当にすいません、身体冷やしちゃいましたよね?風邪ひく前に紅魔館に帰りましょう」

 

「そうですね、戻りましょうか」

 

 

咲夜はそう言うと立ち上がり、2人並んで紅魔館へと帰った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

紅魔館に着くと美鈴が慌てた表情で扉を開けた。

その先にはレミリアが立っていた。

 

 

「おかえりなさい、霊夢から聞いたわよ光が乗っ取られたって」

 

「あいつ……すまん、心配かけた」

 

「いいのよ無事で良かったわ」

 

「おう」

 

 

素っ気なく返事をする光だが、何処か嬉しそうにも見えた。

咲夜は夕食の準備を始め、美鈴は再び門前へと戻る等、各々自分の仕事へと戻って行った。

光は大きく背伸びをした後咲夜の手伝いをするため台所へと向かっていった。

レミリアもやれやれと自室へ戻った。

 

 

「咲夜さん、手伝いますよ」

 

「え、大丈夫なんですか?あれだけの戦闘をした訳ですし…別人格とはいえ光さんの身体なんですから」

 

「どうですかね、意外とピンピンしてますし平気ですよ!またしんどくなったら言いますよ、それにその怪我があるのに一人でやらせる程俺も鬼畜じゃないですよ」

 

「…分かりました、ではお言葉に甘えさせてもらいますね」

 

「任してくださいよ!」

 

 

光は腕捲りをすると厨房に入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

その頃薄暗い空間に6人の人影が座っている1人の人影を囲むように立っていた。

そして座っていた人影が立ち上がると周りを見渡し、こう告げる。

 

 

「今回呼び出したのは言うまでもない、お前達を幻想郷に出す」

 

「ついにこの時が来ましたか!」

 

「早く暴れたくてうずうずしてたぜ」

 

「早速……と言いたいところだが」

 

 

人影は一度間を置く。

 

 

「お前達には準備を整えてもらう、エゲリアの配下のように勢いだけで幻想郷に乗り込んでも同じ事の繰り返しだろうからな」

 

「私は賛成だ、どのようにあの男を美しく殺せるか考える時間が欲しかったからな」

 

「この身体に宿る渇きを……奴は満たしてくれるのだろうか……」

 

「さぁな?それは自身の目で確かめろ、では各自数ヶ月の猶予を与えるその間に万全な状態で挑め」

 

「了解!」

 

6人の人影は散開した……と思いきや1人の人影を呼び止める。

 

 

「お前は最後に出す、()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……俺にとってあの世界に思入れなんてありません、ただ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「そうか……引き止めてすまなかったな、もう行っていいぞ」

 

「はい」

 

 

そして薄暗い空間に1人残った人影は椅子に腰かけるとニヤリと笑いこう呟いた。

 

 

「さてアイツらが出る前に俺が一足先に出てみるか…()()()()()()()()()()()()()()()()()()()雨天 光」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

あれからどれくらい経っただろうか。

丑満時 静夜を倒した時は桜が咲く時期だったのに、今じゃ蝉が鬱陶しく鳴き続ける季節になった。

俺や咲夜さんの怪我も癒えてすっかり元気になった。

……あんなにタロットカード使いが短期間で来ていたのにそんな期間が空いたのか?

思った以上に音沙汰が無くて困惑してしまう。

まぁ正直めんどくさい事はしたくなかったから、このまま平和が続いてくれればそれで構わないけどな。

そんな事を考えながら、虫のせせらぎを聴きながらパチュリーから借りた本を読みむ、そんな心地よい夜を過ごせると思っていた矢先、何故フラグというのは存在するのだろうか、吐き気がする程の霊力を感じた。

 

 

「人の霊力を吐き気がするとか言わないで欲しいわ」

 

「うるせぇよクソスキマ妖怪…それで?久しぶりに俺の前に現れたがなんか用か?」

 

「……タロットカード使いの新しい気配を察知したわ」

 

 

それを聞いた光は目を細め、本を閉じて向き直った。

 

 

「……何人確認出来たんだ?」

 

「……微かに確認出来たのも含めると6人よ」

 

「6人……か、これだけ間隔が空いた理由はまとめて相手になる為の準備だったということか」

 

「もしかしたら6人だけじゃ済まないかもしれないわ、油断は禁物よ」

 

「油断するとは一言も言ってないけどな、それにもし新しい能力者が出た時はまた俺のところにノコノコと報告しに来ればいいだろ」

 

「私は貴方のでんでん虫じゃないのよ」

 

「はー、そうだったのか?てっきりそうかと思ってた」

 

「……いくら私でもキレるわよ」

 

「さて、どうでもいい話はさておき明日にも仕掛けてくるのか?」

 

「それが分からないのよ、莫大なエネルギーを感じはしたけれど隠密しているのか場所までは特定出来なかったわ」

 

「おいおいそれじゃあ俺が不意打ち食らっちまうだろ」

 

「そこは貴方の勘で反応してちょうだい」

 

「はぁ〜めんどくせぇな」

 

「とりあえず今後も私は藍と一緒に目を光らせておくわ、相手側にはこちらの情報は漏れてないはずだからくれぐれもバレないようにして」

 

「りょーかい少なくとも俺は今まで通りやっておくつもりだ」

 

「それでいいわ、じゃあ私は失礼するわ遅くにごめんなさいね」

 

「へいへい」

 

 

手をブラブラさせて再び本を開いた光を見て紫は溜息をつきながらスキマの中へ消えた。

はぁ…つかの間の休息とはこう言う事なんだろうなぁ…。

そう思った光は大きな溜息をついたのだった。

 

 

 



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友との再会、そして…

どうも、9月も中旬に差し掛かりまだまだ猛暑が続くこの季節にだらだらとする日々が多くなりました。
今回はかなり長めです。


 

 

翌日早朝、光は紫に言われた通り霊力を感じる場所へ向かっていた。

普段は霊力を肌で感じる程度なので誰かと同行し、会話しながら向かう程の余裕があるのだが、今回はちょっとばかり例外だ。

今回の件一人で向かって正解だった、何だこの()()()()()()()()は…一歩一歩足を前に出す度に押し潰されるような感覚に襲われる。

これは…少しばかり警戒しながら向かうべきか。

光は刀を手に掛ける。

普段は敵の気配を感じてから構えているが、流石にこれは度が過ぎている。

霊力を感じる場所に近づくと段々と重みが増していく。

歩くだけで疲れそうだ。

そして目的地に到着し、目の前に立っている黒マントで覆われた明らかに怪しい後ろ姿を見つけた…というか、そいつからとんでもない霊力が溢れ出てるから丸分かりなんだけど…。

 

 

「おい、お前か?新しいタロットカード使いは、悪いが自己紹介する前にご退場してもらう………え?」

 

 

光は刀を抜いて戦闘態勢に入ろうとした瞬間、振り返るそいつの顔を見て目を疑った。

なんでだよ……なんで()()()()()()()()()()()()()

 

 

「久しぶりだね……光」

 

飛鳥(あすか)……どうして!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・

 

 

その頃紅魔館ではレミリア達が朝食を済ませていた。

 

 

「そういえば咲夜、光が見当たらないのだけれど?」

 

「光さんでしたら朝早くに用事があると仰って出掛けておりますが…」

 

「そう……何か光から聞いてないかしら?」

 

「光さんから…?いえ、特に何も聞いておりませんが」

 

「…………」

 

 

なにか引っかかる、この霊力…。

スキマ妖怪や花妖怪とは違った独特な霊力、光がそれを感じないとは思えない。

 

 

「……お嬢様もやはり感じますか?」

 

「これだけダダ漏れの霊力なら皆感じるわよね」

 

「そうですね、この重苦しい感覚…明らかにいつもと違います」

 

「……光が心配だわ、咲夜見に行ってくれないかしら?」

 

「かしこまりました」

 

 

咲夜は頭を下げて向かおうとした瞬間、扉が勢いよく開かれた。

そこには魔理沙と呆れ顔のパチュリーがいた。

 

 

「その話聞かせてもらった!この私を差し置いて抜け駆けは許さないぞ!」

 

「貴女の出る幕じゃないわよ魔理沙……」

 

「ふふ、元気な子は好きよ、いいわ一緒に行きなさい」

 

「ほ、本気ですか?お嬢様」

 

「人数が多いほど安心できるわ、この霊力だものただものでは無いわ」

 

「……その通りですね、かしこまりました。魔理沙くれぐれも足を引っ張らないで頂戴」

 

「任せろ!」

 

 

二人は紅魔館を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・

 

 

「昔と変わらないな、君は」

 

「嘘だ…どうしてお前が…!」

 

「すまない、()()()()()()()()()()()まさか別の世界で暮らしていたなんて」

 

「そんな事はどうでもいい!どうしてお前がここにいるんだよ!」

 

「俺は決めたんだよ()()()()()()()()()()()()()()って、その為に沢山努力してここまで来たんだよ」

 

「理想郷?何の為に」

 

「何の為…?忘れたのかい?君があんな仕打ちを受けて人間不信になったと言うのに、俺はもう同じ過ちを繰り返したくないだけなんだ」

 

「過ち…?まさかお前()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「………そうだ」

 

「馬鹿野郎!あれは俺のせいだと葬式の時に言ったはずだ!」

 

「違う!光は何も悪くないんだよ…俺はアイツを救える事が出来た…だけど…出来なかった、気付いてやれなかったんだ…!だから俺は自分が許せなかった、もう嫌なんだお前まで失いたくないんだ…だから俺は、俺の理想と思える世界を作りたいとここまで来たんだ光に会うために…!」

 

「飛鳥…」

 

「光、お前の力が必要だ」

 

 

そう言うと飛鳥は光に歩み寄り、手を差し出す。

 

 

「共に、俺達の理想郷を作らないか?」

 

「………」

 

 

光は飛鳥の差し伸べられた手を見つめる。

自分の手を伸ばし、差し出された飛鳥の手を……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

握らず、下がると刀に手を置き抜いた。

 

 

「断る」

 

「何故だ…?お前にとってこれ以上のない提案じゃないか!」

 

「確かに悪くないかもしれない、お前の言う理想郷と言う奴はきっと良い世界なのだろうな、だけどそんな事をしてアイツは戻ってくるのか?」

 

「っ……!」

 

「お前は明るくて、友達想いの奴だ、こんな俺を気にかけてくれて凄く嬉しかった…でもな」

 

 

光は霊力を増幅させる。

 

 

「いくらお前でも()()()()()()()使()()()()()になっちまったら元もこうもないだろ」

 

「…………」

 

「それに理想郷…?お前はそんな屁理屈は言わない奴だった!どうしちまったんだよ?アイツが死んだ事でお前の中で何かが崩れちまったのか?人間不信になっちまった俺みたいに!」

 

 

飛鳥は目を瞑り俯くと差し出した手を下ろした。

そして不気味な笑みを浮かべると右手から何かを発生させた。

それは()だった。

距離を取っていても熱気を感じる所あれは本物だろう。

重苦しい霊力の正体は飛鳥であり、受け入れたくないが飛鳥はタロットカード使いになっていた。

そしてその能力は炎を操る。

 

 

「……残念だ」

 

 

そう言い飛鳥は右手の炎から()を出現させた。

その見た目は鞘から柄まで黒と赤で統一されていた。

それを抜くと刀身まで赤と黒で出来ていた。

見た事ない刀の色に思わず目を見開いた。

そして飛鳥はそれを両手で握ると構え、光と同時期に地を蹴った。

 

刀と刀がぶつかり合い火花が散ると何度も刀を振るい続ける。

そして一瞬の隙を狙って飛鳥の首元を突くが、上手く刀で受け流された後その後の斬撃も全て弾かれる。

光は瞬時に体勢を低くして刀で足を払うが、飛鳥は上に飛び回転しながら後ろに下がると光は更に突っ込み刀を振るう。

再び火花が散り、今度は振り抜いて無理矢理弾くと身体を回転させて反対側から攻撃するが刀で弾かれる。

光はその反動に身を任せて下に潜り込むと背後に回り、左右にステップを踏みながら近づく。

そして飛鳥の左脇に刀を振るうと見せかけて瞬時に移動して右脇に刀を振るうが、読んでいたのか飛鳥は刀で防いで動きが止まった瞬間に振り向き更に刀を振り下ろした。

刀で防いだ光は顔をしかめた。

()()、重いのだ。

それは霊力のせいではない、光の攻撃全てを軽々といなされた彼自身の実力故に重いのだ。

そしてニヤリと笑った飛鳥は。

 

 

「軽いな」

 

 

そう言い弾き飛ばすと更に刀を振り下ろす。

対応出来なかった光は刀を手放してしまう。

そして刀を行先を見ていた光に、飛鳥は耳元でこう呟いた。

 

 

「この世界はもうすぐ終末を迎える……だがまだ間に合う……選択は君次第だ、光」

 

「……!」

 

 

光はハッとなり後ろを振り向くと少し焦げた野原だけが残っていた。

それと同時に魔理沙と咲夜が到着した。

 

 

「光!大丈夫か?」

 

「あ、あぁ…」

 

「……?先程まで感じていた霊力が…」

 

「そう言えばそうだな、光は何か知っているか?」

 

「……いや俺にも分からない」

 

「そっかー……ちぇ、どんな能力者なのか見たかったぜ」

 

「お前はただ戦いたかった為だけに来たのかよ…」

 

「当たり前だろ?これだけの霊力出してる奴なんて花の妖怪とか大妖怪くらいしかいないぜ!」

 

「……それ程までに……あいつは……」

 

「光さん…?」

 

 

何か思い詰めた光に咲夜は違和感を感じたが、とりあえず3人は特に留まる理由も無いため帰宅した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

その夜、光は自室で両手を見ながら朝の事を思い出していた。

外の世界で俺の事を気にかけてくれていた友との再会、だがそいつは幻想郷を攻撃してくるタロットカード使いの一員、そして奴には現時点で歯が立たない事が分かった。

今俺があいつと戦えば確実に殺される。

何よりも明るく友達想いだった飛鳥があんなにも豹変してしまった事が一番受け入れ難い。

 

 

「飛鳥……どうしちまったんだよ……なんであんな事に…」

 

 

光はため息を付くと扉がノックされる。

どうぞと言うと咲夜が入ってきた。

 

 

「すみません夜遅くに朝方にあった事でお話がありまして…」

 

「あぁ…霊力の奴ですね」

 

「もしかして光さん霊力を放っていた方と何かありましたか?私で良ければ話してくれませんか?」

 

「……特に何も無かったですよ」

 

「本当ですか?あの時の光さん何処か思い詰めている表情をしていました…私じゃ話し相手になりませんか…?」

 

「……咲夜さんには敵いませんね、分かりました今日あったこと全て話します」

 

 

光は椅子をもうひとつ用意するとそこに咲夜を座らせて語り出した。

 

 

「今日俺は信じられない出来事に遭いました、霊力を放っていた者の正体それは新たなタロットカード使いであり外の世界で俺と仲良くしてくれた友人だったんです」

 

「光さんのご友人が、タロットカード使い……」

 

「名は十神 飛鳥(とがみ あすか)、俺と仲良くしてくれた時はとても明るくて、友達想いで誰とでも仲良くできた男女問わずクラスの人気者だったんです…だけど今の彼はそんな面影もありませんでした。」

 

「………」

 

「その原因としてひとつだけ心当たりがあります、それは飛鳥の幼なじみの小山 凜音(こやま りんね)だと思います彼女は俺より付き合いが長く、飛鳥同様俺とずっと仲良くしてくれていました…だけど、当時化け物と言われて虐められていた俺と仲良くする事は周りから見て良いことでは無かったんです、飛鳥は人気者だったから許されていた所はありましたが、凜音は違いました主に女子から酷い虐めを受けてしまい、彼女は……最後……屋上から……」

 

 

光はそこで震え出した。

強く握っている両手には涙が落ちていた。

 

 

「……!」

 

「飛び降りたんです……自殺したんです!俺のせいで……俺が彼女を殺したんですだからあいつは…!」

 

「そんなことありません…光さんは何も悪くないですよ…!」

 

「でも…飛鳥はその事件のせいで…」

 

「その飛鳥さんという方も光さんと同じように苦しんだ後に堕ちてしまったんだと思います、光さんが人間不信になってしまったように、だけど光さんと飛鳥さんにはひとつだけ違う部分があります」

 

「違う…部分?」

 

「それは貴方には()が居るということです、幻想入りした時貴方はどんな事があろうと誰も信じないという方でした…だけど今はこうやって自身の辛い過去を私に話してくださいました。それは光さんが少なくとも私を信じて話してくれたということですよね」

 

「それは…」

 

「貴方は今籠っていた殻を破ろうとしています、だけど飛鳥さんは今殻に籠ったまま破ろうとしませんそのキッカケすらないんです。だから光さん」

 

 

咲夜は光の両手を優しく握ると光の目を見てこう言った。

 

 

「貴方が今度は飛鳥さんの殻を破ってあげてください、貴方にはその権利があります」

 

「……っ!」

 

「辛かったですよね、一人でずっと抱え込んでいたんですよね、だけどもう大丈夫です私が、幻想郷(ここにいるみんな)が貴方の味方です」

 

「咲夜……さん……」

 

 

光は内に溜めていた想いが溢れ出したのか涙が止まらなくなってしまった。

それを見た咲夜は優しく抱き締めた。

 

 

「ありがとうございます……話してくれて、ようやく貴方の事が知れてよかったです」

 

「あぁ……俺は……俺は……!」

 

 

その夜、光は泣き続けた。

涙が枯れてしまうほどに、咲夜はただ黙って光を優しく抱き締め続けた。

かつて心を閉ざした自分がレミリアにそうされたように。

そしてその扉の向こうではレミリアが背を向けて立ち、どこか誇らしげな表情で天を仰いでこう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「良かったわね、咲夜、光」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・

 

その日俺は夢を見た。

いつの日か見た学校の教室、そこにはやはり凜音が立っていた。

 

 

「元気?光」

 

「あぁ……この通り元気だよ凜音」

 

「そうなら良かった」

 

 

ニッコリと笑った凜音はふわりと歩き出した。

光はそんな凜音を見て優しく微笑んだ。

 

 

「なぁ凜音」

 

「ん?どうしたの?」

 

 

光はここで本音を言おうと思ったが、やはりまた止まってしまう怖いから。

……だが、いつもはここで終わっていた光は勇気を振り絞ってこう告げた。

 

 

「……すまん今はまだ言えないみたいだ、だからさ待っててくれないか?ここでいつかきっと言える日が来るから」

 

「……うん!分かった、待ってるよ」

 

 

そう答えた凜音はどこか嬉しそうだった。

そして風で靡くカーテンが彼女を覆い、それが無くなるとそこには()()()()()()が呆れ顔で立っていた。

 

 

「結局何も変わっていないじゃないか出来損ないが」

 

「どうかな?少しずつだが、変わってきているぜ?」

 

「ハッ…どうだかな?俺はお前を信じられん、もしもの事があればまた使わせてもらうからな」

 

「勝手にしろ…出来るもんならな」

 

 

そう言うともう一人の光は舌打ちをして立ち去る。

それと同時に光自身の意識も遠のいていく。

 

夢が覚める、さぁ物語はまだまだこれからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日光の中で何かが変わろうとしていた。

 

 

 

 

 




もういい加減光くんに大きな変化を与えないと飽きてしまうよなぁと思っていました。
はい、ここです。
新キャラ2人同時にドーンって感じでね
次回は多分戦闘回になると思います。
それではまた。


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第3章『花咲く恋と憤怒の炎』
少しずつ変わるから


今回から第3章に突入しますが、短めです。
ユルシテ…ユルシテ…



 

 

翌朝、咲夜は厨房で朝食の準備をしていた。

一見いつも通りの朝に見えるが、今日は少し違った。

隣には果物の皮を剥いている光が笑顔だからだ。

 

 

「いい匂いですねぇ…自分あまり朝は食べないんですけど咲夜さんの作る料理は何故か食欲がそそられるんですよね〜」

 

「そうなんですか?でしたら少し量を減らしても大丈夫ですよ」

 

「話聞いてました!?咲夜さんの料理は食欲がそそられるんですから減らされたら泣きますよ!?」

 

「冗談ですよ、いつも残さず食べてくださりありがとうございます」

 

 

咲夜は微笑むと、光はこちらこそと笑顔で返した。

昨日の夜をきっかけに光の笑顔をこんなに見れたのは初めてかもしれない、今までは人間不信の影響であまり表情を表に出さなかったが、彼の中で少しだけ余裕が生まれたのかもしれない。

それだけでも咲夜にとっては大きな変化だと思っている。

 

 

「……昨日はすいませんでした、あんなに泣きじゃくって…凄く子供みたいでしたよね」

 

「そんな事ありません、それくらい一人で抱え込んでいたという事なんですから」

 

「……俺少しずつですけど前を向こうと思います、まだ完全に克服した訳じゃないですけど、いつかきっと胸を張っていられるように……」

 

「大丈夫です、少しずつでいいんです。焦る必要なんてありませんよ、何かあれば私が相談に乗ります」

 

「咲夜さんにはいつも助けられてばかりですねぇ…」

 

「気にしないでください、お互い様ですよ」

 

「…ありがとうございます」

 

光は微笑むと、咲夜もふふっと笑った。

和やかな空気の中、厨房の扉が開かれる。

パチュリーが起きたようだ。

 

 

「なんだか楽しそうな会話が聞こえたから来てしまったわ」

 

「パチュリー様、もしかして私達の声が大きすぎて起きてしまいましたか?」

 

「そんな事ないわ、むしろ久しぶりに朝から良いものを見せられたわ」

 

 

そう言いながら目で光の方を見た。

 

 

「少し垢抜けしたかしら?良い表情してるわよ」

 

「……そう見えるのか?」

 

「そうね、もしかして咲夜と何かあったのかしら?」

 

「パ、パチュリー様!?」

 

「なんもねぇよ…そろそろ朝食が出来るから()()()は先に席座っとけ」

 

「はいはい、分かったわ」

 

 

厨房を出るパチュリーの姿はご機嫌だった。

少し間が空いて、ハッとした咲夜は光の方を向いた。

 

 

「光さん…今パチュリー様の事を…」

 

「……あいつには色々と迷惑掛けてますから、俺なりの恩返しです」

 

「ふふ…そうですか」

 

「……なんですか」

 

「いえ、なんでもないですよ、もうすぐ出来上がりますし運びましょう!」

 

「りょーかいです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・

 

 

朝食を終え、片付けが終わると光は紅魔館の外へ出た。

鍛錬だ、タロットカード使いはまだまだ数多くいる。

幻想郷を救う為にこの世界に来た俺はやはりヤツらと戦わなければならない。

何よりも血迷った飛鳥をぶん殴るという目標も新しく出来た。

間違った道へ足を踏み入れたのなら目を覚まさせるのが友人としての務めだ。

だが、残念ながら今の光は飛鳥に歯が立たない。

あの時飛鳥にこれでもかと攻撃をしたが、ビクともしない上に一撃で仕留められてしまった。

それが今鍛錬をする一番の理由だ。

光は刀を出現させると、想いを込める。

それに答えるように刀は白く光る……が違和感を覚えた。

 

 

「いつもより輝いている…?」

 

 

おもむろに刀を振ると、衝撃波が発生した。

庭にある茂みが激しく揺れ、大きな重低音が光の耳を刺激する。

幸いにも紅魔館を破壊するまでの威力は無いが、光は驚きを隠せなかった。

 

 

「なんだこれは…俺がいつも放つ斬撃とは違う…何か」

 

 

昨晩の事がキッカケで心に余裕が出来たのか、それが刀に伝わっていた。

ならばと光は紅魔館の壁を蹴って飛ぶと、空に斬撃を放った。

すると白く光り輝く斬撃が、高速で放たれ上空にある雲を真っ二つに斬り裂いた。

今までの何倍の速さで斬撃を放てたのだ。

光は自身の力に驚愕したが、これを使いこなせばいずれは飛鳥を倒せるかもしれないと柄を強く握り、ひたすらに刀を振るった。

今日は買い出しも無いので、鍛錬が終わった頃には日が沈んでいた。

大粒の汗を拭い、光はシャワーを浴びようと紅魔館に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・

 

 

夕食を済ませた光は特にやることも無いので廊下をブラブラ歩いていた。

すると反対方向からレミリアの姿が見えた。

 

 

「お疲れ様、今日は随分と鍛錬に力が入ってたわね」

 

「まぁな…このままじゃダメだと思ったからやってるだけだ」

 

「珍しいわね、今日の朝パチェから聞いたわよ、光からパチェって呼ばれたなんて」

 

「子供かよあいつは…」

 

「それくらい貴方の事を気にしてたのよ」

 

「……何度も言うがお前含む紅魔館のみんなには世話になってばかりだからな、俺なりのアイツへの恩返しだ」

 

「そんなの必要ないわよ()()()()()()()()()()私の事もレミィって呼んでいいわよ」

 

「気が向いたらな、これからも迷惑掛けるが…力を貸して欲しい」

 

「今更ねいつでも頼りなさい」

 

 

レミリアはそう言い微笑むと光ははいはいと返事したが、どこか嬉しそうだった。

そして会話を終えると眠気が襲ってきたので光は自室に戻ることにした。

家族……か……

悪くないかもな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

その日の夜、一人の男が紅魔館の門前でスマホを片手に誰かと話していた。

 

 

「予定通り紅魔館に到着したぞ飛鳥さん」

 

『……では手始め通りにやれ』

 

「あいよ……本当に()()()()()()()?」

 

『あぁ…構わない、私の友人であっても戦いに私情は捨てるべきだ』

 

「流石、『無情の剣聖』と言われたお方だ、わかった、それじゃああんたの指示通り奴を誘き出して仕掛ける」

 

『くれぐれも油断はするな』

 

「へい」

 

 

男が電話を切ると、再び男は紅魔館の方を見てから夜闇の中へ消えていった。

 

 




次回は戦闘回になると思うので、頑張ります


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VS河野辺 新太郎

 

翌朝、光は咲夜に頼まれて買い出しの為外に出る準備をしていた。

早朝にも関わらず窓から強烈な日差しが襲い掛かり、照らされた光の目を細める。

支度をして門前まで足を運ぶとそこには()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「美鈴!?どうしたんだお前がこんなボロボロに!」

 

「すいま……せん…どうやら相手を舐めていたみたいです…」

 

「誰にやられたんだ?」

 

 

すると美鈴は視線を門の反対側にある森林に向ける。

光はその視線を辿ると、木陰に『人影が見えた』。

人影は視線に気づくと更に奥へと歩いていった。

 

 

「っ!?アイツか…!」

 

「光さん…私の事はいいですから、ヤツを追ってください」

 

「……分かったお前はここでじっとしてろ」

 

 

光は刀を出現させるとそのまま森林の中へと消えていった。

人影を追って走り続けるが、見失ってしまい途中から辺りを見渡しながら歩き出した。

 

 

「よぉ…」

 

 

すると後ろから声が聞こえたので振り返ると、そこには黒マントを着た男が立っていた。

 

 

「……美鈴を攻撃したのはお前だな?」

 

「あぁそうだな、お前を殺す為の道具としてな!」

 

 

そう言うと男は黒マントを投げ捨てて刀を抜くと走り出した。

黒マントを投げ捨てて晒し出した姿は赤髪に上裸だった。

そして紺色の半ズボンを履いていて極限まで動きやすいようにしたような服装だった。

光は刀を構えると男が振り下ろしたと同時に刀を振り、弾き飛ばす。

その反動でガラ空きになった男の胴を斬り払う。

感触は良く、男は間もなく倒れた。

正直この男に美鈴が負けたとしたら相当あいつは訛ってることになる。

あいつを下に見ている訳じゃない、手合わせしてその実力はよく知っているから。

帰ったら少し鍛えさせようかと帰路に立とうとした瞬間。

『男が立ち上がる』気配を背後で感じた。

光は目を見開き振り返るとそこには、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()男が立っていた。

 

 

「流石幻想郷の守護者、洗礼されているな」

 

「………」

 

「その様子じゃ何故この傷を負っていて立っていられるんだと言いたそうだな」

 

「だからどうした?」

 

「残念だったな、生憎とそれが()()()()なもんで」

 

「能力…?」

 

「宣言しよう、()()()()()()()()()()()

 

 

そう言うと男は再び走り出した。

こいつ…胴体に深い切り傷が付いているんだぞ?何故動けるんだ?

こいつ無敵か?

光は刀を構え直し、弾くと切り傷に蹴りを入れた後、怯んだ隙に足で頭を払い落とす。

するとすぐさま起き上がると同時に下から刀を振り上げてくる。

光は身体を反って斬撃を回避するとそのまま回転させて首元に刀を振うと男は体勢を低くして回避し、足元に刀を振る。

それを飛んで回避して着地する勢いそのままに刀を振り下ろす、男は刀で防御すると光は更に刀を振り続けて押し込む。

所々に切り傷が出来るが、やはり男はそれでも力を緩めなかった。

 

 

「(やはりこいつ…攻撃を受けても力を緩めようとしない…ならもう一度同じ箇所に!)」

 

 

光は男を蹴り飛ばし、距離を作ると一気に接近し男の刀を弾く。

そしてガラ空きになった胴に再び切り込む。

感触的に効いたかと思いきやその表情は余裕そのものだった。

 

 

「言ったはずだ!効かないと!」

 

「ちっ!」

 

 

男は刀を振り下ろすと何度も繰り返した。

光は刀で防御するのが精一杯だった。

こいつ、これだけの攻撃を受けておいてまったく気にしないのは何故だ?出血も酷い…いや待てよ?

そう思えば、あれだけの深手を負わせておいて()()()()()()

光は隙を着いて男を突き飛ばし距離を取った。

男はすぐさま刀を構え、再び突っ込むと光は合わせるように刀を振り上げて弾き飛ばす。

男はその反動を利用して足で光を蹴り上げる。

光は身体を反って回避するが、その隙に距離を取られてしまう。

ならばと光は刀に想いを注ぎ、突っ込むと男の足元に潜り込んだ。

そして素早い動作で男の胴を斬りつける。

まともに食らえば致命傷になるはずだが、やはりこのタロットカード使いは簡単にはくたばらない。

それどころか最初に攻撃を受けた時よりも効いていないように見える。

こいつ…『戦いの中で耐性が付いているというのか?』

……耐性?なるほどそういう事か…!

 

 

「……お前の能力『攻撃を受ければ受けるほど耐性が付く能力』だな?」

 

 

距離を取った男はニヤリと笑い刃を向けた。

 

 

「やはり理解が早いな、この俺河野辺 新太郎(かわのべ しんたろう)が所有するタロットカードThe Chariot(ザ・チャリオット)(戦車)は全ての攻撃を受け止める」

 

 

河野辺は接近して力強く刀を振り下ろすと、光の刀と交えた。

光はそれわ払った後に河野辺の脇腹に回し蹴りするが、足で止められると同時に足を掴かまれ、そのまま振り飛ばされる。

体勢を整えて着地するとすぐさま目の前に接近する河野辺に斬撃を放つ。

斬撃は河野辺の身体を切り刻むが、最初の一撃だけ怯んだみで、その後は斬撃を受けても微動だにしなかった。

そして距離を詰めた河野辺は刀を振り上げると横に転がって回避する。

更に河野辺は光が立ち上がる暇も与えずと、複数の斬撃を放った。

それを斬撃で相殺すると距離を詰めて刀を振り下ろす。

河野辺が刀で防御した瞬間に刀を横に振り払い体勢を崩させると身体を回転させてその勢いで刀を振るうと河野辺の背中を斬りつけるが、体勢を崩された河野辺はその勢いで身体を回転させて刀を振り下ろしてくる。

光はそれを刀で防ぐ。

そして光は刀で防ぎながら考えた。

奴は斬れば斬るほど耐性がついて行く、時間をかければかけるほど不利な状況になっていく。

このまま消耗戦をしても相手の思う壷、ならば早い段階でスペルカードを出して急所を狙って早急に終わらせよう。

そう思った光はスペルカードを発動した。

 

 

 

〜蝶符「妖刀・千子村正」~

 

 

 

輝き始めた刀を握り直した光は河野辺を弾き飛ばすと首元目掛けて刀を振った。

これには河野辺も目を見開き咄嗟に刀で制すと、光の刀を無理矢理振り払い、蹴りを入れるとすぐさま刀を振り下ろす。

光は刀で弾くと、河野辺の腹部に突き刺す。

そのまま大きく振り飛ばし、木々に叩きつけると河野辺はすぐさま木を土台にして飛び、再び接近して刀を振り下ろし、そこへ更に切り込む。

河野辺の太刀筋を見ながら光は丁寧にいなすと、隙をついて弾き飛ばし、ガラ空きになった胴を再び突き刺すとそのまま押し込み、蹴り飛ばして無理矢理刀を引き抜いた。

先程とは打って変わってかなりの血が吹き出ていた。

やはりスペルカードが乗った斬撃には耐性が付くのに時間がかかるようだ。

ならばと更に追い打ちをかける為に立ち上がった河野辺にタックルして木に叩きつけると横から振ってくる斬撃を弾き返し、右腕を斬りつけた。

すると右腕は綺麗に切断され河野辺はようやく苦悶の表情を見せる。

左腕で光の首を掴み、木を土台に飛ぶとそのまま光を地面に叩きつける。

怯んでいる間に切り落とされた右腕から刀を拾い上げ、倒れている光に振り下ろす。

光は倒れた状態で刀を出して防ぎ、両足で河野辺の胴を蹴り上げる。

距離が取れた隙に立ち上がり、地面に叩きつけられた河野辺に斬撃を放つ。

河野辺は膝を付きながら刀で弾き飛ばすが、所々に斬撃が当たる。

全身が傷だらけの河野辺だったが、やはり出血の量が少なくなりつつあった。

流石にスペルカードでさえ耐性が付き始めている。

既にスペルカードの効果が切れかけているし、一気に仕留め切れなかった所はまだまだ未熟な所だ。

だが、早めにスペルカードを発動した事で河野辺の腕を切断した上にかなり消耗している様子だ。

このまま一気に仕留める…!

光は立ち上がろうとする河野辺の身体を蹴り飛ばす。

地面を転がった後背を向けながら不意を付いて斬りかかろうとする河野辺だが、光はそれを弾き飛ばして、河野辺の頭を掴むと地面に叩きつけて抑え込む。

そして首元に刀を向けた。

 

 

「さっきの言葉が嘘のようだな?河野辺」

 

「………」

 

「首を切り落とすことにさえ耐性を付かれてしまったら困るからなその前にここで死んでもらうぞ」

 

 

光はそう言うと刀をそのまま振り下ろし河野辺の首を切り落とした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

が、その直前河野辺の身体が光り出した。

光は思わず腕で目を覆った。

 

 

「くそが!!!」

 

「ならばこっちも容赦はしねぇ!『戦車』の真の力を使ってなぁ!」

 

 

光は視界不良の中、刀を振るうが感触はなかった。

既に脱出されていることを知ると光はその場から離れた。

そして段々と河野辺の姿が見えるようになるとそこには()()()河野辺が立っていた。

光は即座に斬撃を放つと、河野辺は刀を使わずに斬撃を全て受ける。

が、もはや傷ひとつ付かなかった。

更に光は刀で切り刻むが、刀すら使わずに全て受ける河野辺は余裕の表情だった。

光は青ざめると後ろに下がって思考を巡らせる。

さっきの光りは()()()、攻撃を受ければ受けるほど耐性が付く河野辺の能力にとっては大幅強化になるという訳だ。

願わくば耐性もリセットされて欲しいが…やはり現実は非道だった。

美鈴の言っていた()()()()()()()()というのはこういう事だ。

やはりあの時さっさと仕留めていればこんな事には…!

光は自分の慢心を大いに恥じながら目の前にいる完全回復した河野辺に斬りかかった。

 



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VS河野辺 新太郎 VII The Chariot.

 

光は河野辺の刀と交えると、片手で抑え込みもう片方の手で河野辺の肩を掴むとそのまま勢いよく木に叩きつける。

しかし河野辺は怯む様子もなく押し返すとその場で斬撃を放つ。

それを間一髪回避すると、光は河野辺を刀で突き刺し持ち上げるとそのまま振り飛ばす。

河野辺は飛んでいる間に体勢を整えて木を土台に足をつけると飛んで身体を回転させて刀を振り下す。

光は体勢を低くして躱し、下から刀を振り上げて河野辺の胴体を切りつけ、更に追い討ちをかけるように刀を振り下ろした。

河野辺は刀で弾くと、即座に光の首元を狙いに来た。

光は仰け反ってバク転しながら回避すると斬撃を放ちそれが複数回河野辺の身体に当たったのを確認すると刀に想いを注ぎ、走り出すと河野辺に近づいて刀を振り下ろす。

河野辺はそれを刀で防ぐが、先程と威力が違うので力負けして胴がガラ空きになる。

そこへ蹴りを入れて怯ませると首元目掛けて切りかかるが、河野辺は刀を強引に振って距離を取ると体勢を崩した光に斬撃を放った。

光は体勢を崩したことを利用して身体を回転させ、斬撃を放ち相殺すると黒煙が2人を覆い被せる。

河野辺はすぐにそこから離れると、黒煙の中から斬撃が切り裂くよう出てきた。

迫り来る斬撃に河野辺は上から叩く感じで刀を振るうと後退しながらもなんとか抑えると刀を構え直して突進する。

光は飛んでくる河野辺に合わせるようにしていなすと、前のめりになった河野辺の頭を掴んで地面に叩きつける。

そして倒れている間に刀を背中に突き刺してそのまま振り上げ宙に浮かせると、飛んで河野辺の身体を切り刻み最後は蹴りを入れて地面に叩きつけるが、そのまま倒れるどころかすぐさま立ち上がってくる。

光は着地すると少し息があがっていた。

 

 

「どうした?もう終わりか?」

 

「ちっ…!いくら痛めつけてもキリがねぇ…!」

 

「やはりあの時早く俺を殺しておくべきだったな!」

 

 

既に効果が持続するスペルカード「妖刀・千子村正」を使っているので、なるべく攻撃して河野辺を消耗させて、残りの一発にかけるスペルカードで仕留めたかったが、この様子じゃまだ時間が掛かるうえに攻撃すればするほど耐性が付く、このままだと手が付けられなくなる。

 

 

「(仕方ない…一か八か仕留めに行くしかねぇ…!)」

 

 

そう思った光は早速 丑満時 静夜戦で新たに発現したスペルカードを発動した。

 

 

 

〜伝符「想集六連斬」〜

 

 

 

しかしこの時光は違和感を覚えた。

あの時より()()()()()()()()……しかしスペルカードは発動出来たんだ…丑満時 静夜の時みたいに威力は十分なはずだ。

光は刀を握り直し、河野辺目掛けて刀を6度振るった。

斬撃は全て当たり最後は刀を鞘に収めた。

その瞬間河野辺に付いた6つの斬撃が弾け飛び、河野辺は宙を舞った。

そしてそのまま地に伏せると…河野辺は()()()()()()()()

やはりあの時よりも力が弱い。

 

 

「なんだ今のへなちょこな攻撃はぁ!!!」

 

「クソッ!!!」

 

 

河野辺は斬撃を放ち、光が弾き飛ばすと死角から回り込んで刀を振り上げた。

反応に遅れた光は左肩を斬られる。

一旦距離を取って傷の状態を見るが、深手では無かったのが幸いだった。

刀に想いを注ぎ構えると、突っ込んでくる河野辺の斬撃を防いだ後、即座に払って河野辺の体勢を崩すと回り込んで背中を切り込む。

縦に大きな傷が出来た河野辺は若干苦悶の表情を浮かべるが、後ろを振り向いて刀を振るい距離を取ると、突きの構えをしてそのまま飛んでくる。

それを光は刀で流しながら弾くとすぐに次の攻撃を仕掛けるが、即座に身体を回転させていた河野辺はこれを防ぐ。

ならばと更に二発三発と刀を振るい押し潰していく。

隙を見て横に転がった河野辺は追撃されて胴体を斬られるが刀を横に振って距離を取らせる。

刺されたり、斬られたりと何度も繰り返し河野辺の身体は満身創痍そのものだがやはり耐性が付いているだけあってそこまで消耗しているようには見えない。

一方光は左肩の傷が痛み始め、集中力が欠けてきていた。

次に河野辺は斬撃を放つとその後ろに付く形で接近すると、光が斬撃を弾き飛ばすと同時に上に飛んで刀を振り下ろした。

光はそれを刀で防いだ後すぐさま後ろに回り込んで刀を振るうがそれを読まれていたのか、回避されるとふ所に潜り込まれてしまう。

対応しようと後ろに飛んで距離を取ろうとするがそれよりも先に河野辺の斬撃の方が早かった。

それは見事に光の胴体を斬り裂き、鮮血が飛び散った。

更に河野辺は斬り裂いた胴体に蹴りを入れて追い打ちをかける。

これには深手を負った光は唸り声を上げて突き飛ばされる。

地を転がり立ち上がるとそこへ斬撃の嵐が襲いかかり、一発二発と光を蝕み、更にそこへ河野辺が刀を振り下ろしにかかり、なんとか刀で防御するが傷口が痛み力が思うように入らず身体ごと弾き飛ばされ木々に叩きつけられてしまった。

刀を杖によろよろと立ち上がる光を見て河野辺はニヤリと笑い、刀に付いた血を払った。

 

 

「どうやら為す術なしと言ったところか?雨天 光」

 

「………」

 

「さっきのへなちょこな攻撃からちらほらと攻撃が当たるようになってきたぜ?俺の身体はこの通りボロボロだが、能力のお陰で消耗は激しくない…さて、どこまで俺の攻撃を受け止められるか…見ものだな」

 

「なら……その言葉すぐに後悔させてやるよ」

 

 

光は再び刀に想いを注ぐと、走り出した。

河野辺は何度やっても同じ事の繰り返しだから、血迷ったのかと嘲笑いながらも刀で防ぎ傷口を蹴って怯ませようとしたが、それすら出来ない程に圧力がかかった。

光の傷口から出血しているにも関わらず、力を緩めようとしない。

 

 

「(こいつ…!深手を負っておきながら力を緩めようとしねぇ…!なら!)」

 

 

河野辺は刀を横にずらして光の体勢を崩させると後ろに回り込み、刀を振り下ろす。

しかし光はすぐさま振り向いて刀で防御すると立ち上がると同時に弾いで刀を振り続け、河野辺も応戦する。

幾度と刀が交わり合う音が響き、火花が散る。

そして先に仕掛けたのは河野辺の方だった。

刀を振るうと見せかけて下に潜り込み刀を突き刺そうとするが、潜り込まれた事で光は前のめりになり、河野辺の肩を掴んで飛び越えると後ろに着地する。

河野辺は振り向きざまに斬撃を放ち、突っ込むと死角から回り込んで刀を振り上げた。

ギリギリ避けて頬を掠めた程度で済んだ光は肘で河野辺の顔面を殴ると怯んだ隙に正面から刀を振り下ろした。

なんとか刀で防御するが、剣先が河野辺の頭を斬ると、そこから()()()()()()()、流れた血は河野辺の顔を伝り、顎から滴り落ちていた。

もしかしたらこいつ…今のうちに頭部を狙えば…!

更に斬撃を放ち河野辺の身体を傷つけると、そこに蹴りを入れてすぐさま身体を回転させて切り込むと、負けずと河野辺も刀を振るう。

弾いて光の首根っこを掴むとそのまま地面に叩きつけて馬乗りになると、刀を突き刺す。

しかし光は突き刺さる直前に刀で弾いた事で河野辺の刀は真横の地面に突き刺さり、拳で河野辺の顔を殴った後、突き飛ばして脱出する。

一旦距離を取ると河野辺の息があがっていることに気がついた。

 

 

「どうやら頭部はまだ耐性が付いてなかったみたいだなぁ!」

 

「てめぇ…!ぶっ殺す!!!」

 

 

河野辺は斬撃を放ち、接近すると飛んで刀を振り下ろす。

それを刀で防御して弾き飛ばすと迫ってくる斬撃を両断する。

その間に後ろへ回り込んだ河野辺が攻撃してくるが、その前に振り向きざまに足で負傷した顔面を蹴り飛ばす。

木に激突した河野辺は立ち上がると地を蹴り、刀を振り上げる。

光は身体を仰け反って回避すると横に移動して頭を切り付ける。

地に手を付きながらも立て直し、身体を反転させて刀を振るう。

それをいなした光は蹴りを入れて怯ませると、喉元に刀を刺し込む。

しかしそれを河野辺は素手で掴むと、喉元直前で止められてしまう。

光は刀身を掴んでいる河野辺の手を切断しようと刀を引き抜こうとしたが、それよりも早く河野辺が光の刀を振り回すと光は刀を手離したうえに刀を遠くへと投げ飛ばされ、光自身は地面に叩きつけられた。

 

 

「あがっ……!」

 

「やはり不屈たる戦車の前にお前は無力だ!死ねぇ!」

 

 

河野辺は勝ちを確信したのか声を荒げながら光に刀を突き刺そうとした瞬間、()()()()()()()()()()

 

 

「今ここで一歩引かなかったら()()()()()()()()()()?」

 

「何?」

 

「俺は今、お前に()()()()()()()…俺の言う通りにするなら今のうちだぜ?」

 

「……何言ってんだお前?たとえ銃を持っていたとしても、先に俺がお前を殺せば問題ないーーーーーーー」

 

 

次の瞬間()()()()()()()()()()()()()()

光の刀だった。

 

 

「ガ……ァ……」

 

「お前を()()()()させた時、ダメージを負った木が倒れるのを想定して()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()まさに刀を使った銃だな」

 

 

光は先程河野辺との戦いで頭部の耐性は無いと確信していた。

ならば頭部より下、つまり首元を狙って首から上を切断すれば勝てるのではないかと思っていた。

その結果河野辺の首には光の刀が深く突き刺さり、先程の威勢が嘘のようだった。

 

 

「そ……そん……な……偶然……が……?」

 

「言っただろ?一歩引けばお前は勝っていたんだ」

 

「……グゥワアアアァァァアア!!!」

 

 

河野辺は立ち上がった光に一矢報いてやろうと刀を振るったが、それよりも早く柄に手を置いた光が刀を思いっきり振り抜くと、河野辺の頭は身体から離れていった。

そして大量の血が吹き出ると間もなく河野辺の身体は光の粒となって消えていった。

光は決着が着いたことを知るとそのまま意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

目を覚ますと見覚えがありまくる天井だった。

横には咲夜さんがムスッとした表情で俺を睨んでいた。

 

 

「また一人で無茶をしましたね?光さん」

 

「あー…すいません…」

 

 

その夜咲夜さんにこっぴどく叱られた光は永琳達に笑われながら反省するのだった。

 

 



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手伝い、修羅場、トキメキ

今回は一応この作品はR15指定してるのですが、ちょっとエッチな場面がありますので苦手な方はお控えください。


 

 

 

 

翌日光は紅魔館に戻っていた。

所々に傷は残っているが、永琳達が最善を尽くしてくれたお陰で大方痛みも引いた。

タロットカードの連中と戦う度に永遠亭にお世話になってしまうから申し訳ない気持ちになるが、永琳達は「それが仕事だから」と笑って返してくる。

そう言ってくれればこちらも遠慮なく通わせてもらうが、それでも毎回は永琳達にも負担がかかるのでなるべく深手は受けないように心がけようと思った。

そのためにも光は更に強くならなければならない。

幻想郷を守るためにそして飛鳥を止めるために。

 

 

「あら?こんな朝から出掛けるのかしら?」

 

「あぁ…レミリアか、少し守矢神社(もりやじんじゃ)に手伝い行ってくるだけだ」

 

「くれぐれも無理はしないでちょうだい」

 

「力仕事では無いから傷口が開くとかいうのは無いと思うが気をつけるよ」

 

 

光は身支度を整えると紅魔館を出た。

今日は妖怪の山にある守矢神社から手伝いを頼まれているから朝方から出ることにした。

守矢神社の連中とは幻想入りした時にした宴会で面識があるから問題ないし、こう見えてアイツらとは仲が良い方である。

ニコラスを撃破した後被害を確認するために妖怪の山を行き来していたが、その度に顔を出してお茶を淹れてもらっていた。

どこぞの博麗神社よりかは良心的で話し相手にもなるからとても助かっている。

俺自身人間不信なのもあって普通は初対面の奴らには警戒心を強めていたが、何故か守矢神社の連中とは直ぐに打ち解けられた。

咲夜さんの次には仲良くなれているかもしれないな。

妖怪の山へ向けて、坂道を登っていると遠目から椛が坂道を下ってこちらに向かってきた。

 

 

「おはよう、椛」

 

「おはようございます光さん、先日の異変ではお世話になりました」

 

「良いって、あれから特に問題は無いのか?」

 

「そうですね今の所はそれらしき能力者には会っていません……それより光さんは守矢神社に用があるんですよね?」

 

「まあそうだな、あいつらから話を聞いたのか?」

 

「彼女達から光さんが来ると聞いたので事前に天狗達には言っておきましたから、このまま進んでも大丈夫ですよ」

 

「助かるよ」

 

「いえいえ、また何かあれば言ってくださいね」

 

「おうよ」

 

 

光は椛に手を振って別れるとそのまま坂道を登った。

妖怪の山に入り、所々に白狼天狗が居たが全員光だと分かると会釈だけして通り過ぎて行くのを見ると、これも椛が事前に連絡してくれたお陰だと改めて感謝した。

少し経つと守矢神社の前に到着し、階段を上ると寺の向こうから1人の少女が走ってきた。

 

 

「おはようございます!光さん今日はよろしくお願いします!」

 

「おはよう早苗、やるからにはぱぱっとやるぞ」

 

「はい!」

 

 

こいつは守矢神社の巫女東風谷早苗(こちや さなえ)

胸の位置ほどまである緑のロングヘアーに髪の左側を一房髪留めでまとめ、前に垂らして、白蛇と蛙の髪飾りを付けている。

衣装は白地に青の縁取りがされた上着と、水玉や御幣のような模様の書かれた青いスカートは共通。博麗霊夢とは違うデザインの巫女装束を着ているが、もっとも特徴的な腋の部分は同じ。

そしてお祓い棒は霊夢とは違ってバサバサする形のものではなく長方形のヘラ状のものを持っている。

 

 

「神奈子と諏訪子は?」

 

「私ならここにいるわよ」

 

 

ふと早苗の後ろを見てみると八坂神奈子(やさか かなこ)が早苗を追うようにして歩いてきた。

紫がかっている青髪とサイドが左右に広がったボリュームのあるセミロング。

頭に冠のようにした注連縄を付けていて、右側に赤い楓と銀杏の葉の飾りが付いている。

瞳は茶色寄りの赤眼、背中に複数の紙垂を取り付けた大きな注連縄を輪にしたものを装着している。

服装は、全体的に赤いシルエットで上着は赤色の半袖、袖口は金属の留め具で留めている。

上着の下には、白色のゆったりした長袖の服を着ている。

首元には小さな注連縄があり、白い長袖上着の袖、腰回り、足首とあちこちに巻かれている。

臙脂色のロングスカートで裾は赤色に分かれており、梅の花のような模様が描かれている。

 

 

「神奈子は元気そうだな、諏訪子は中か?」

 

「あぁ、今準備をしている。悪いね手伝ってもらって」

 

「気にするな、俺とお前らの仲だ」

 

「じゃあ早速中に入ってもらいますね」

 

「邪魔する」

 

 

そう言うと寺の中へと入っていくと、そこには少女が座っていた。

 

 

「光じゃないか!待ってたよ!」

 

「手伝いに来たぞー諏訪子」

 

 

こいつは洩矢諏訪子(もりや すわこ)、神奈子と同様守矢神社の神として祀られている。

髪型は金髪のショートボブ、青と白を基調とした壺装束と呼ばれる女性の外出時の格好をしている。

足には白のニーソックスをはき、頭には俗にケロ帽子と呼ばれる市女笠(いちめがさ)に目玉が二つ付いた特殊な帽子を被っている。

神奈子とは対照的に身長が小さいが、実力は神奈子に負けず劣らずだ。

見た目で判断してはいけないとはこういう事を言う。

 

 

「聞いたぞ大きな怪我を負ったって、力仕事では無いから傷に響かないと思うけど、無理はするなよ?」

 

「問題ないさ、永琳達のお陰で傷も癒えてる」

 

「そうか…ならいいんだが辛かったら遠慮なく言うんだぞ?」

 

「はいよ、そんじゃ始めますか」

 

 

そして光達は作業に取り掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

「ふぃーこれで良しと」

 

「光さん手伝って頂きありがとうございました」

 

「おう、思った以上に早く片付いたな」

 

「まだお昼前だし少しお茶でもしていくかしら?」

 

「そうだな今日は特に予定も無いし」

 

「わかった、早苗用意して頂戴」

 

「わかりました!」

 

 

そして光達は縁側で他愛のない世間話をして、あっという間に日が沈んでいった。

夜になる前に光は守矢神社を出て紅魔館に戻ると、あの猛暑の中動き回ったので風呂場へ向かい汗を流し夕食を済ませて自室に戻った。

さてとパチェから借りた本でも読もうかと眼鏡を探したが、俺とした事がズボンのポケットに入れたままだった。

時間的にまだ咲夜さんは洗い物をしているはずだから、まだ脱衣所の籠の中にあるはずだ。

 

 

「洗われる前に取り出しておかないと…」

 

 

光は部屋から出ると急いで風呂場へ向かい、脱衣場に到着する。

幸いな事に現時点で利用している人は居らず、すぐさま自分が使った籠から眼鏡が入ったケースを取り出した。

そして自室へ戻ろうとした瞬間…。

 

 

ガチャ

 

 

……と()()()から人影が現れた。

一瞬湯気で見づらかったが、それが晴れるとそこには()()()()()()()()()()が立っていた。

 

 

「えっあ……咲夜さん?」

 

「光……さん?」

 

 

雪のように白い肌が浴槽で温まった事で少し赤みを増していて水の雫が色気さを更に掻き立たせており、周りの男達を虜にしてしまいそうだ。

今まではメイド服を着ているのでバスタオル1枚だけの咲夜さんはいつもと違う感じがして今とてつもない修羅場だということは分かっているが、思わず言葉を失ってしまった。

そして咲夜は少し経って状況を理解すると顔を真っ赤にして…。

 

 

「きゃああああああああああああああ」

 

 

その夜一つの叫び声と同時に大きな破裂音が鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・

 

 

「それで咲夜にブたれたという訳ね笑」

 

「笑い事じゃねぇぞレミリア、俺にとっては謝っても謝り切れない事件だぞ」

 

 

その後レミリアの部屋にて今まで起こったことを話すとレミリアは堪え切れない笑みを見せていた。

光の頬には見事に綺麗な赤い手跡が残っていて、その隣にいる咲夜は寝巻きに着替えた後も顔を真っ赤にさせて俯いたままだった。

 

 

「うぅ…もう私お嫁に行けません……」

 

「あぁ…なんと言えばいいか…本当にすいません…」

 

「本当に災難だったわね咲夜、光には責任を取ってもらわないといけないわね笑」

 

「笑いながら言うセリフじゃないだろお前は、でもまぁ…そうだな…なんてお詫びすればいいか…」

 

「あうぅ……」

 

 

事故とはいえとんでもないことをしでかしてしまい、落ち込む光と一生赤面して俯く咲夜を見たレミリアも流石に何とかしてあげようと思い咳払いをした。

 

 

「大丈夫よ咲夜、光、私達は家族なのよ?裸の付き合いってヤツよだからお互いそんなに気にしなくていいわ、風呂場だけにこのことは水に流しましょう、ね?」

 

「……確かにお嬢様の言う通りですね…気を取り乱してしまい申し訳ありません…」

 

「あ、いや…わざとでは無いとはいえ俺の不注意なので謝るのは俺の方です、本当にすいません…」

 

「はいはい、お互いに謝った訳だしこれで終わりにしましょう、明日からは今まで通り!ね!」

 

 

レミリアが二度手を叩いてこの話を終わらせると二人は部屋から出た。

そして二人並んで歩く廊下、重苦しい空気になってしまった。

光はなんて声をかければいいか考えるが、本当に見出せず頭を抱えてしまう。

そんな時、咲夜さんが勇気を振り絞ってくれた。

 

 

「あの…先程はすみませんでした。叩いた箇所は…腫れてしまいましたか?」

 

「全然大丈夫です、むしろ叩かれただけで済んでラッキーだと思ってます。普通ならナイフで串刺しにされてましたよ」

 

「私をなんだと思ってるんですか!」

 

「すいません!美鈴とのやり取りを見てつい…」

 

「美鈴が特殊なだけであって光さんにまで同じ扱いはしません!」

 

「特殊って…あー…確かにあいつ毎日居眠りしてるもんな…」

 

「もしも今回の件が美鈴だったら今頃一ヶ月の逆さ吊りにしてますよ」

 

「咲夜さん美鈴の扱い酷すぎません!?仲悪いんですか!?」

 

 

寝静まる夜にも関わらず紅魔館の廊下で二人の話し声が響き渡る。

すると突然咲夜がふふっと笑いだした。

 

 

「なんだか光さんと会話すると自然と笑ってしまいますね」

 

「そうですか?」

 

「はい、お嬢様の言う通り先程の事が嘘のようにいつも通りに戻ってしまいます」

 

「確かにそうですね話し出す前はあんなに空気が重かったのに」

 

「今回の事はお互い無かったことにしましょう、とは言っても本当は恥ずかしかったんですけど」

 

「それは出来ませんねぇ…だってあの時の咲夜さんすごく綺麗で言葉を失いましたから」

 

「はぁ…私の事からかってますか?」

 

「いえ?俺は心の底から思った事を言ったまでです」

 

「あまり調子に乗らないでくださいっ」

 

「いでっ」

 

 

咲夜は呆れ顔で光にデコピンをすると微笑み、自室の前で足を止めた。

 

 

「それでは私はこれで、また明日」

 

「はい、また明日」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・

 

 

自室に戻った咲夜は枕に顔を埋めていた。

男である光に自分の裸を見せたこともそうだが、彼自身が放った言葉が頭から離れなかった。

 

 

『あの時の咲夜さんすごく綺麗で言葉を失いましたから』

 

 

「なんてこと言ってるんですか光さんは…」

 

 

光は本当に思ったことを言ったまでだが、だからこそドキドキしてしまうし、顔が熱くなってしまう。

 

 

「本当にずるいですよ光さんは……」

 

 

その夜咲夜は光の言葉が何度も頭の中を駆け巡ったせいでなかなか寝付けなかったのだった。

 

 




という訳で2022年最後の更新でした。
来年も何卒よろしくお願いします!


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VS暗上 秀人

あけましておめでとうございます
今年一発目の投稿です。


 

 

ある日、光と咲夜、そして平田が猛暑の日差しを浴びた森林の中を歩いていた。

パチュリーに用事があった平田は紅魔館の帰り光に監視として送り出されたが、何故か咲夜も駆り出されていた。

きっとレミリアの仕業だろうと光は直ぐに理解した。

そして平田を中心に歩くが、ここで平田が違和感を覚えた。

何故この二人は目を合わせようとしないのか…?

それにこの猛暑が原因なのか二人共顔が少し赤くなっているように見える。

 

 

「えーと…お二人方はどうしてそんなに挙動不審なのかな?」

 

「お前には関係ねぇよ」

 

「確かに僕には関係ないけどそんなにあからさまだと逆に気になってしまうよ」

 

「……すみませんが平田さん、今回ばかりは触れないでいただけないでしょうか」

 

「おっと…咲夜さんまでその様子だとお二人の間に何かあったということだね…分かった、あまり深追いはしないようにするよ」

 

「ありがとうございます」

 

「それはそうと咲夜さん」

 

「どうかしましたか?」

 

 

平田は咲夜に小声でこう告げた。

 

 

 

「貴女は感じませんか?この()()を」

 

「……やはり平田さんもお気づきでしたか、光さんも既に刀に手を置いていますので既に気付いていると思います」

 

「一応視線だけでは人影は確認出来ませんでした、恐らく背後……でしょうか?」

 

「その可能性はあまり無いかもしれません、念の為能力を使ったのですがここら一帯には人影ひとつありませんでした」

 

「なるほど…となると相手は透明人間でしょうか?僕も元は向こう側の人間でしたが、残念ながらお互いに能力をあまり見せ合わなかったのでこればかりは……」

 

「お気になさらないでください、とにかく今は勘づかれないようにしましょう」

 

「そうですね」

 

 

すると平田は次に光の方に顔を向けるとこちらも小声で告げる。

 

 

「光くん君は何時でも戦闘出来る状態にしておいてくれ、一番君が標的にされやすいからね」

 

「そんな事俺が一番理解してる」

 

「よろしく頼むよ」

 

 

そして再び三人の間に沈黙が生まれ、鳴り響く蝉の声と土を踏む足音だけが森林の中を奏でていた。

すると次の瞬間、感じていた視線が段々と気配へと変わり、咲夜は即座に時を止めた。

気配のする方へ視線を向けると、そこには光の背後を襲撃しようとしている男が居た。

咲夜はその間に入り、構えると能力を解除した。

それと同時に男の刀と咲夜のナイフがぶつかり合い、男を弾き飛ばす。

姿を現した男は黒髪と灰色のシャツに黒のジャケットを羽織っていて、黒ズボンと袖垂れロープが着いていた。

 

 

「惜しかったなぁ!俺を背後から奇襲したみたいだが」

 

「まさか時を操れるメイドまで居たとは想定外だったが…まぁ問題ない」

 

「ほぉ?随分と余裕だな」

 

「奇襲は俺の得意分野なんでね何人だろうと相手になってやる」

 

 

すると男は瞬く間に姿を消した。

そして先程のように気配が消え、視線のみを感じるようになった。

光は二人を集め、背中を合わせるようにして三方向から構えた。

あらゆる方向から感じる視線に三人は1秒たりとも油断しなかった。

しかしそれは突然起きた。

あらゆる方向から感じていた視線、()()から感じたのだ。

光は訳が分からなかったが、今すぐその場から離れなければならないと悟った。

 

 

「全員離れろ!」

 

「……!」

 

 

そして三人がそれぞれ散開すると、先程まで背中を合わせて居た場所で男が刀で一回転していた。

あと少し気づくのに遅れていたら全員無事では済まなかっただろう。

しかし、その光景を見て光含む全員が理解出来なかった。

確かにあの時背中を合わせていたはず、どうやって三人の背後の真ん中に割り込んできたのか、もしも上下から仕掛けてきたのなら気配を感じるはずだ。

 

 

「もう少しで俺達を切り刻めたのに惜しかったな」

 

「…やはり幻想郷の能力者達は簡単には倒せないか」

 

「お前の能力見せてもらうぞ」

 

 

そう言うと光は地を蹴り、男に接近する。

そしてそのまま刀を振り下ろすと男は刀を振り上げて防御に、()()()()()()()光の斬撃は相殺されるどころか空を切り、気づけば何処にもいなかった。

光は更に頭が混乱した。

 

 

「な、なんでだ…?咲夜さん!なにか分かりましたか?」

 

「い、いえ…私も突然消えたように見えました…」

 

 

突然消えた…?奴の能力は透明化なのか?だとしたら足音や風を切る音が聞こえるはずだ。

だが、そいつにはそれがない。

考えれば考えるほど分からなくなってくる。

すると今度は横から気配を感じ、とっさに後ろに下がるとそこに大きな斬撃が通過した。

反撃しようと斬撃が飛んできた方へ身体を向けるが、既に姿が無く、逆の方向から斬撃が飛んできた。

それを咲夜がナイフで相殺させて更に時を止めていた為、男の姿を捉えており、大量のナイフを放ったがこれも姿を消していて、今度は咲夜の方へ三つ斬撃が放たれていたが、平田と光が斬撃で相殺させた。

すると今度は光の背後に現れ首元を切り落とそうとしてきたが、間一髪刀で防いだ光はそのまま切り込もうとするが、その前に弾き飛ばされてしまい距離を取られ、前を見た時には既に姿はなかった。

認識するまでもなく姿を消す男に光はイラついていた。

すると平田がハッとした表情で光の方を見る。

 

 

「思い出した…!彼の名前は暗上 秀人(あんじょう ひでと)、奇襲を得意とするThe tower(ザ・タワー)(塔)のタロットカード使いだ!」

 

「…奴の能力は分かるのか?」

 

「いや…僕がいた組織は普段からお互い別々に行動していたから能力を見せる機会が無くてね、正直分からない…けどあまり真正面から戦おうとしない人だとは聞いているよ」

 

「なるほど、奇襲特化型なら……平田、お前のワイヤーで奴を妨害することは出来るか?」

 

「うーん…正確性に欠けるけど出来ないことはないよ」

 

「そうか…なら一瞬でも隙が作れると言うならお前は攻撃より妨害に徹してくれ」

 

「英雄様からの命令とあればお安い御用さ」

 

「咲夜さんは俺と一緒に奴の撃破に専念してください」

 

「分かりました」

 

 

光と咲夜は構えると、平田はコインを出してあらゆる場所に張り巡らせた。

そして視線から気配に変わった瞬間、一つ平田の仕掛けたコインが反応し、そのコインから放出されたワイヤーが飛んだ先は木の……()だった。

光は疑問から確信に変わった。

迷うことなくワイヤーが飛んだ影に斬撃を放つと、何も無いはずの影から暗上 秀人と呼ばれた男が現れ、斬撃を弾いた。

 

 

()()使()()()()ならその陰湿な戦い方も納得出来るな?暗上とか言う野郎」

 

「少しは頭がキレるようだな…なら俺も容赦はしない」

 

 

すると暗上は徐に影に触るとそれを()()()()()、暗上に向かって飛んでくるワイヤーに対して腕を大きく振り下ろすと、手に持っていた影が()()()()()()となりワイヤーを弾いた。

 

 

「俺の能力は影を自由自在に操る…お前らにこの能力を対応出来るか?」

 

 

すると暗上は影の中に溶け込み姿を消すと、気配は感じなくなったが、視線だけは感じ取れていた。

奴が影の中に隠れていたからあの不気味な視線ばかり感じ取っていたのだろう。

所々平田のコインが反応しているので影の中で動き回っているのが分かる。

光はならばと刀に想いを込めて、走り出すと木に足を付けて飛ぶと別の木の影から出現した暗上に刀を振り下ろし、胴体を斬り裂いた。

しかし感触はイマイチだった。

確かに暗上を斬り裂いたが、その斬り裂いた暗上の身体はみるみるうちに黒くなっていき、ドロドロに熔けてしまった。

 

 

「これは…影で出来た()()!?」

 

「光!後ろだ!」

 

「っ!」

 

 

すると背後から暗上が刀を振り下ろしてくるが、咲夜が割って入り防いだ。

 

 

「光さん走ってください!」

 

「は、はい!」

 

 

咲夜の言う通り光は走り出すと、直後に暗上の背後に大量のナイフが出現した。

光はそれを見て無我夢中に走った。

降り注ぐナイフの雨に暗上は冷静に影の中へ溶け込みそれを全て回避した。

あの咲夜の能力をもってしても回避されてしまうとなると、やはり不意を突いた奇襲なども簡単に回避されてしまうだろう。

しかも今居る場所は森林、影がそこら中にあって暗上にとっては好都合な環境だ。

そして斜め後ろの木の影から暗上が現れると、斬撃を放ち更に影の中へ潜っていくと今度は別の影から現れた。

光は斬撃を避けると地を蹴って刀を振るうと、胴体に命中した。

しかしそれは影で出来た偽物で、その間咲夜が本物の暗上の動きを見ていたので対応していた。

再び暗上は影の中へ潜り込むと、場所を移動して咲夜の背後へと回った。

そして刀を振り下ろした暗上が現れると、時を止めていた咲夜はナイフで胴を斬り裂いたが、偽物を斬り裂いただけで、更にそこから無数の暗上が現れた。

 

 

「そちらがそう出るのなら私も容赦はしません」

 

 

 

 

 

〜幻象「ルナクロック」〜

 

 

 

 

 

暗上の分身達の周りに大量のナイフが出現すると無数の暗上に突き刺さる。

次々とドロドロに溶けていく中、本物の暗上は飛びながらナイフの間を縫うように回避すると咲夜に接近した。

咲夜は咄嗟にナイフを取り出したが、刀で弾かれそのまま刀を振り下ろされる。

しかし間一髪で光が刀を突き出し防御すると、蹴りを入れて距離を取る。

暗上は光が着地する前に影の中に潜り込み、光の足元に生じた影から現れるとそのまま刀を振るった。

空中で身体を回転させて回避した光はその勢いのまま刀を振り下ろした。

暗上はそのまま影に潜り込もう…としたが。

 

 

「ようやく捕まえた…!」

 

「なに…!?」

 

 

常時反応していた平田のコインのワイヤーが、暗上の腕を掴み妨害していた。

その間に光の刀が暗上を捉えていて暗上は咄嗟に刀で防いだが、勢いに押されそのまま木に叩きつけられてしまう。

その際頬に切り傷が出来た。

 

 

「なるほど…流石に3人相手じゃ本気を出させざる負えないようだな!」

 

「出せよ、お前のタロットカードを」

 

「言わずとも!」

 

 

暗上はタロットカードを取り出すと空に掲げた。

そしてそのタロットカードは応えるように光り出すと辺り一面を包み込んだ。

 

 



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VS暗上 秀人 XVI The tower.

 

 

 

暗上を包み込んだ光が弾け飛ぶと、この森林の中ではあまりにも不自然な()()()()()がポツンと置かれていた。

そこから暗上が現れると刀を構えた。

見た感じ奴の能力強化は無さそうだが、何が起こるか分からないのがタロットカードの能力…警戒は怠らずに行こう。

そう思っている矢先暗上が早速攻撃を仕掛けてくると、光は防御して応戦した。

その隙に咲夜が回り込んでナイフを振り下ろし背後から攻撃を仕掛けたが、光を弾き飛ばした後に振り向きざまに刀で防御し弾き飛ばしたと同時に刀を振り下ろしたが、咲夜はナイフを使っていなした。

一度距離を取るために咲夜は後ろに下がると更に()()()()()()()()()()()()()が現れた。

咲夜は即座に時を止めると鼻先に刃がある状態でギリギリ回避できた。

あと少し判断が遅れていたら咲夜の顔は無事では済まなかっただろう。

暗上の周りにナイフを設置した後、能力を解除すると空を切った暗上にナイフが襲いかかる。

しかしナイフの嵐が暗上を滅多刺しにする直前、咲夜は()()()()()()()

 

 

「いったい…何が…?」

 

 

光、平田はおろか宙を舞っている咲夜でさえ理解が追いつかなかった。

確かにあの時大量のナイフが飛んだ先には暗上が立っていた。

それなのに何時どこで攻撃したのか、全く分からなかった。

常人離れした身体能力を手に入れたのか、それともあの()()()()()が関係しているのか…。

更にそこへ追い打ちをかけるように暗上が現れると刀を振り下ろし、咲夜を斬り裂いた。

咲夜はその勢いのまま落下すると、地面に身体を打ち付けてピクリとも動かなくなってしまった。

 

 

「これで厄介な時止めは仕留めた…後は…」

 

「てめぇ!」

 

 

光は地を蹴ると刀を振り下ろす。

暗上は防御して弾き飛ばすと、斬撃を放った。

すると暗上の背後から突然()()()()()が現れると同じような動作で斬撃を放ってきた。

そういう事か、奴はタロットカードを使った事で()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ようになったのか。

光は平田と共に斬撃を放って相殺すると一度距離を取った。

 

 

「平田!」

 

「分かってるさ!」

 

 

光は刀に想いを注ぎ、平田はタロットカードを光らせた。

本当ならば『想集六連斬』を使って一気に仕留めたい所だが、河野辺戦で使った時に思うような威力が見込めなかったのもあってかあまり使おうとは思えなかった。

二人の動きを見た暗上は地を蹴り走り出すと、刀を振り下ろす。

連れて後ろから暗上の分身が現れ、同じように刀を振り下ろしてきた。

それを光は本体を、平田は分身をそれぞれの武器で防いだ。

分身が消えたのを見て平田は後ろに回り込み背後から攻撃を仕掛けると、暗上は光を弾き飛ばした後に振り向きながら刀を振り抜き、平田の体勢を崩すとその平田に分身が向かってくる。

平田は体勢を崩した勢いを使って地面に手をつけて側転し、分身の攻撃を回避した。

更にコインが暗上に反応してワイヤーが飛び出し、暗上の刀に当たった。

その隙に光が急接近して刀を振るうと、暗上はワイヤーを切断するため刀を複数回振り続けた後そのまま後ろに下がった。

すると次の瞬間円形型の影から無数の暗上の分身が現れ、雨のように光へと向かっていくが、平田が割り込み反応しているコインを駆使してワイヤーで分身達の攻撃を巧みに妨害した。

そして光の足元に輪刀を置くとそれを足場にさせて振り上げると光を本物の暗上の方へ飛ばし、光はその勢いのままスペルカードを発動した。

 

 

 

〜蝶符「妖刀・千子村正」~

 

 

 

霊力を蝶に変え、刀に込めると暗上目掛けて振り下ろす。

暗上は防御すると見せかけて横に飛んで回避すると、影を固めて盾にすると光の追撃を受け止める。

そのまま力で弾き飛ばすと、今度はこちらがと言わんばかりに分身達を出現させ、光に襲いかかる。

それを全ていなして回避すると、大きな斬撃を放った後、回り込んで斬撃が暗上に接触する時と同じタイミングで切り込む。

その間に平田が上から丸型の斬撃を放ち援護する。

それを見た暗上は一歩後ろに下がり刀を振るうと、まずは斬撃を影で作った遮蔽物で一定時間抑え、その間に光の攻撃を受け流し、上空から飛んでくる平田の弾幕を分身で相殺させる。

そして再び迫ってくる斬撃を横に飛んで回避し、影の中へ潜り込むと光の背後に現れ奇襲を仕掛ける。

気配を感じた光は即座に体を横に傾けて斬撃を避けると、最速で刀を振り下ろすが、暗上の分身が受け止め、その後ろから本体の暗上が刀を振り下ろしてくる。

そこへ平田が割って入り、暗上の攻撃を防御すると、暗上は再び影の中へ潜り込み、少し離れた場所に現れると構え、飛んでくる平田のワイヤーを弾いて光の方へ突っ込む。

暗上がこちらへ近づく前に三度斬撃を放ち、待ち受けると、暗上は全ての斬撃を避けて刀を振り下ろし光の刀と交わる。

その隙に背後に回った平田はワイヤーの弾幕を背に輪刀で攻撃する…が

 

 

「やはり来ると思ったよ」

 

「……!」

 

 

光の刀を弾き飛ばしたと同時に背後から現れた分身が更に光に追撃し、その間に平田の方を振り向いた暗上はワイヤーを避けた後下に潜り込み平田の腹部を切りつけた。

平田はそのまま吹っ飛び木に身体を打ち付けると力無く倒れてしまった。

分身を駆除した光は間髪入れず斬撃を放つが、暗上は後ろを向いたまま回避し影の中へ消えると、光の目の前に現れ、刀を振り下ろす。

 

 

「どうやら時間のようだな」

 

「くそが……!」

 

 

光のスペルカードの有効時間が切れかけているのを悟った暗上は更に刀に力を入れて押し込むと横に振り抜いて体勢を崩させると光の脇腹に回し蹴りをする。

地を転がった光はすぐさま立ち上がり、刀に想いを込めると斬撃を放ち、地を蹴る。

分身に斬撃を対応させて真っ向から光の攻撃を受けると、そのまま受け流した後、光の身体に刀を突き刺して空に放り投げる。

光が地に着く前に刀を構えると飛び、光の身体を切り刻んだ。

更にそこへ円形型の影から無数の暗上が現れ、追い打ちをかけた。

全身が傷だらけになった光は息を荒くして地面で大の字になって倒れていると目の前に暗上が現れ、トドメの一撃を与えたーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はずだった。

 

 

「っ!?」

 

「こ、これは?」

 

 

暗上はおろか、光すら理解ができなかった。

何故なら()()()()()()()()()()()()が発動したからだ。

このスペルカードは相手の想いを取り込むことで発動するがそれは光の仲間のみであり、暗上のような完全に光と思惑が違う相手には発動しないはずだ。

まさか…この暗上という男……

 

 

「くっ…!これで終わりだ!」

 

 

暗上は再び刀を光に突き刺そうとしたが、身体を転がして回避すると立ち上がると同時に刀を振り上げた。

命中とまでは行かなかったが、わずかに暗上の肩を掠めた。

一度深呼吸した光は未だに光り続けているスペルカードを発動した。

 

 

 

〜記符「アブソリュート・イメージ」〜

 

 

 

全身から湧き出てくる活気を感じながら光は走り出した。

明らかに様子が違う暗上は分身を出現させ攻撃に備えると、光は暗上の分身をあっという間に消し飛ばすと空高く飛び刀を振り下ろしてきた。

暗上は刀で防御するが、重力を押し付けられたかのようにずっしりと身体が重くなるのを感じた。

あまりにも光の力に圧倒され、攻撃を防ぐだけでもやっとだった。

そして限界が来た暗上は刀を弾いて後ろに下がろうとしたが、間髪入れず光が接近し、顔面を思いっきり殴られた。

勢いよく吹き飛ばされた暗上は地を転がり、木に身体を叩きつける。

急いで立ち上がろうとしたが、既に光が刀を突きつけており、なすすべがなかった。

 

 

「どうやら俺もここまでのようだな…」

 

「………」

 

「やれよ、俺は既にお前の仲間を二人倒している、生かす理由も無い」

 

「ならひとつ聞かせろ、()()()()()を」

 

「俺の…想い?…何を言ってんだ?」

 

「その言葉のままだ、あの時俺は完全に負けていた…だがあの時俺は誰の想いも取り込めない状況でスペルカードを発動できた、それがどういう意味がわかるか?」

 

「……俺の想いを取り込んだってことか?」

 

「そうだ、それも少なからず俺と同じ想いだからという意味でな」

 

「……それで?そうだとして、お前はどうしたいんだ?」

 

「お前の返答次第なら…考えてやらんこともない」

 

「……何をだ?」

 

「俺達の仲間にだ」

 

「……はぁ!?」

 

 

暗上は目を丸くして思わず立ち上がった。

 

 

「お前自分が何言ってんのかわかってんのか!?」

 

「分かってるつもりだ、だからあの時俺は刀ではなく拳でお前を殴ったんだ、致命傷にしない為にな」

 

「ハッ……俺も舐められたものだな……今からでもお前を殺せるというのに」

 

「俺も()()()()()のせいで少しは馬鹿になっちまったみてぇだな、まぁお前がまだその気なら俺も容赦はしねぇよ」

 

「わかったわかった……乗るよ、良その話乗ったよ…正直タロットカード使いでありながらこの世界は居心地がいいと来た時に感じたんだ…この世界も乗っ取るのが少し勿体ないと思ってな、気持ちが揺らいだんだ」

 

「交渉成立だな、とりあえず二人を永遠亭に…」

 

「その必要はない、雨天 光」

 

「?」

 

 

すると暗上は徐に咲夜と平田に手を向けると、二人の周りにある影が動き出した。

そして二人の傷口に触れると黒い固形物のようになって固まった。

 

 

「俺の能力は治療にも役立ててな、基本的に影は日陰とかに出来るから比較的冷たく、薬草とかと組み合わせれば治るはずだ、とりあえずお前にも所々に影を引っ付かせておこう」

 

「うえぇ…感覚が気持ち悪いが、まあ幾分か動けるようにはなったな」

 

「う……うぅん……」

 

 

すると気を失っていた咲夜が目を覚ました。

 

 

「咲夜さん!大丈夫ですか?」

 

「は、はい……突然身体が楽になりましたので……」

 

「それは良かったです…暗上が能力で手当してくれたんです」

 

「あのタロットカード使いが…?本当に信じて大丈夫なのでしょうか?」

 

「まああれだけの仕打ちをしたからな…無理もない、とりあえず傷口は塞いであるから幾分か歩けると思うが、どうだ?」

 

「た、確かに…これも彼の能力なの…?」

 

「とりあえずパチェに治療してもうために平田を連れて紅魔館に戻りましょう」

 

「はい」

 

「それで…俺はどうすればいいんだ?」

 

「とりあえず俺についてこい、引き取るにはもってこいの場所がある」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

 

 

「なるほど、それで?光は何時から博麗神社(ここ)を宿屋だと思ってるのかしら?」

 

 

咲夜と平田をパチュリーに預けた光は暗上を連れて博麗神社まで来ていた。

そこではかくかくしかじか説明した後、ここに暗上を預けると提案した。

 

 

「良いだろ別に、お前一人なんだから寂しいだろ?」

 

「余計なお世話よ!それに一人の方が騒がしくなくて気が楽よ!」

 

「まあまあそう言わずに、暗上もここならすぐに気に入ると思うぜ」

 

「勝手に話を進めないで頂戴、そいつ平田と同じでタロットカード使いなのでしょう?そんなヤツを匿う程私も馬鹿じゃないわよ」

 

「そんな酷いこと言わずにさぁ〜頼むよ博麗の巫女さーん」

 

「やめろよ光、霊夢さん嫌がってるだろ」

 

「あーっと、居候者のお前に発言権は無いぜ?」

 

「だからといって見ず知らずの俺を無理矢理押し付けても迷惑なだけだろ…」

 

「はぁ…分かったわよ!引き受ければ良いんでしょう!?引き受ければぁ!?」

 

「お、流石博麗霊夢様!ありがたや〜」

 

「アンタいつか覚えてなさいよ……さて暗上とか言ったかしら?ここに住むからには私の言う事に従ってもらうわよ」

 

「分かってるさ」

 

「さて…問題は大妖怪様だが…」

 

「いいわよ」

 

 

声と共に背後からスキマが現れるとそこから紫が出てきた。

 

 

「彼、幻想郷を気に入ったみたいじゃない、私は幻想郷を愛してくれるなら大歓迎よ♪」

 

「決断早っアンタ大妖怪なんだからもう少し考えなさいよ」

 

「あらそう?何かあれば博麗の巫女が対応してくれるから問題ないと思ったのだけれど」

 

「どいつもこいつも…いい加減にしなさいよ…」

 

「はいはい、お喋りはそこまで、クソ妖怪、お前はもう用済みだ」

 

 

光のシッシッと手を払うと、紫は少し不服そうな表情をしながらもスキマの中へ消えていった。

 

 

「ふぅ…それじゃ、後は頼んだぞ霊夢」

 

「ちょっと!待ちなさいよあんた!……はぁ、今日のアイツはいつも以上に自分勝手ね」

 

「霊夢さんは苦労してるんだな」

 

「アンタという厄介者を預かることになったからね…それに霊夢でいいわ、とりあえずアンタの名前…改めて聞かせてくれないかしら?」

 

「俺は暗上 秀人、よろしくな!」

 

 




という訳でまさかの暗上くんが仲間入りとなりました。
しかも光自身の口から
これはいつかどこかで実現させようと思っていたので個人的には満足です。
ありがとうございました


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奇妙な殺人事件とその手下達

 

 

 

 

暗上と戦いを終えたその日の夜、大きな悲鳴が普段は静かなはずの森林の中で響いた。

 

 

「ぎゃああああああああああああ」

 

「ま……待て……!やめてくれ……やめ……」

 

 

ザシュッと斬り裂く音が聞こえたと同時に周囲に鮮血が飛び散った。

そして殺された複数の人間達の前に立つと男は徐ろにカメラを取り出すとその死体達を撮影し始めた。

 

 

「うーん……」

 

「『()()』様、報告です。先程『塔』の暗上秀人が寝返ったという情報がありました」

 

「そうか…やはり河野辺と暗上(無能の同僚達)はあの方の期待に添えられなかったようだね」

 

 

紅林と呼ばれた男はカメラの履歴を確認しながら振り返るとそう言った。

そして紅林の前には数人のフード付きのマントとそれぞれ違う仮面を被った男女が膝まづいていた。

 

 

「やはり君達()()()を配属させなかった()の判断は適切だったという事だね」

 

「悪魔様、実行日は…」

 

「んー…明日にしよう、ここの世界の住民達(素材達)はイマイチだし、早いうちにあの英雄さんを始末して作品にしたいかな」

 

「了解しました、それでは明日に向けて準備を進めてまいります」

 

「あぁ…そうしてくれ」

 

 

すると複数人居た構成員は全員夜闇の中へと消えていった。

紅林は再び変死体の方に向くとカメラで撮影し始めた。

 

 

「雨天 光……一体どんな死に様を見せてくれるのかな?そして、どんな作品になってくれるのか楽しみだよ……精々雑魚達に殺されないでくれよ?フフフ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・

 

 

翌朝、光はいつもの時間に起きて顔を洗い、廊下を歩いているとレミリアと遭遇する。

 

 

「おはよう光」

 

「あぁ…おはよう」

 

「聞いたわよ、暗上という男を仲間に迎え入れたって」

 

「…言葉だけならまだしもあいつ自身の想いを見たからな」

 

「良いんじゃないかしら?その人にも善意が残ってたってことだし、仲間が増えれば光の負担も軽くなるわ」

 

「まぁ仮にもタロットカード使いだしな、俺の仲間になったからその能力が消える訳じゃない、それに今は霊夢に任せたからもし何かあればあいつが片付けてくれるだろうしな」

 

「まあ、何がともあれ仲間が増えたことは喜ばしいことよ私達に何か出来る事があれば言ってちょうだい」

 

「おう」

 

 

2人は別れると、光は咲夜を探すため厨房の方へ向かった。

そして朝食を食べている時、美鈴から伝言を預かったので、食べ終えた後指定された現場へ向かう事にした。

そこには既に霊夢と暗上が居て、それぞれ違う表情をしていた。

ブルーベリーのように青ざめている霊夢の話を聞いた後その惨状を見てみると無意識のうちに俺も青ざめている事に気づいた。

それ程までに見るに堪えなかったうえに謎だらけの光景だからだ。

まず全員が共通しているのは()()()()()死んでいるのだ。

それだけじゃない、恐らく致命傷と思われる箇所から吹き出た血も吹き出たまま()()()()()()()のだ。

まるで殺された人達のみ時間を止められたかのような光景だ。

そしてこの時期にこんなことする連中はひとつしかないので、今では俺達の仲間になった暗上なら少なからず何か分かるかもしれない。

そして霊夢の横で険しい表情をしている暗上に話を聞いてみた。

 

 

「あぁ、こういうやり方は一人しか思い浮かばないな…」

 

「そいつの情報とかはあるのか?」

 

「名は紅林 陽真(くればやし ようま)所有しているタロットカードはThe devil(ザ・デビル)(悪魔)そのカードに司った能力を利用して悪趣味な事をする野郎だ」

 

「それがこの光景を生み出したって事か?」

 

「あぁ、アイツは死体をカメラで撮影してコレクションにするんだが…どれも気味の悪いものばかりだよ、目の前にあるこの変死体だって珍しくない」

 

「コレクションって…自身の欲求を満たすために今まで沢山の命を粗末にしてきたってこと?そんなの絶対に許せないわ!」

 

「霊夢さんの気持ちは十分に分かる、だがそれはアイツにとってはどうでもいい事なんだ、しかも変死体を撮影したから満足するだけじゃなくその()()()にもこだわりを持っていて気に入らなければ他の人を殺しては撮影してを繰り返す、根っからのクズ野郎なのさ」

 

「なるほど、今まで戦ってきたタロットカード使いとは違って単純に歪んでいる奴のお出ましって事か」

 

「あぁそういうことになるな…そういえば光、平田から()()()聞いてなかったのか?そのタロットカード使いってわざわざ言うのも長いだろ?」

 

「ん?まぁ聞いてないな」

 

「そうか、一応教えといてやる、奴らは()()()()()って組織名で行動している」

 

「ルフェール…覚えておく」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・

 

 

しばらくしてその変死体を調べた後、霊夢は先に暗上と共に現場を離れた。

そして光だけが残り、もう少しだけ調べていると、後ろから複数の足音がこちらに向かってくるのが聞こえた。

ゆっくりと立ち上がり後ろを振り返ると、それぞれ異なる服装をしているが、全員仮面を被った男女数人が立っていた。

そしてフードを被っている男が前に出てきた。

 

 

「お初お目にかかる、我々はとある異郷の手下、我が主様が幻想郷の英雄である貴方とお話をしたいそうだ、一緒に来てもらおうか」

 

 

それを聞いてすぐにこいつらが何者なのか察した。

この状況でなんの支障もなく異郷の手下を送り出すとしたらルフェールくらいしかないだろう。

それに例えこいつらがルフェールと関係ないとしたら必ず幻想郷が拒絶しているはずだ。

光は男の言葉に鼻で笑い、刀を出現させると構えた。

 

 

「ならひとつだけその主とやらに伝えておけ()()()()()()()()()だってことをな…まぁ、お前らが生きて帰れたらの話だがな!」

 

 

光は地を蹴ると、男達も武器を構えた。

男達は刀や、銃、魔法などそれぞれ違う武器を持っていた。

刀を持った手下が応戦すると後ろから銃を構えた手下が発砲した。

それを体勢を低くして回避すると刀を持った手下を蹴って怯ませると狙撃手の方へ走り出し、切り刻もうとするが、横から魔法使いの手下にバリアを張られ、防がれてしまう。

一度距離を取るとそこへ魔法使いの手下が氷のつららを大量に出現させ、放った。

光はそれを刀で破壊すると接近し、刀を振り下ろすが魔法使いの手下はバリアを自身に展開し防御した。

その隙に背後から狙撃手が発砲すると、光は振り返った勢いで弾丸を弾くと、突っ込み切りつけた。

そこへ刀を持った手下が回り込み、刀を振り下ろした。

しかしそれを読んでいた光は横に飛んでそのままそいつを土台にして飛び、魔法使いの手下との距離を一気に詰めると飛んだ勢いのまま魔法使いの手下を切りつけた。

 

 

「くそっ!舐めやがって!」

 

 

最後の一人になった刀を持った手下は走りながら、姿を消した。

これは俗に言う暗殺術と言うやつか、運が悪いなこいつは、幻想入りしたばかりの俺だったら簡単に殺せたのにな。

光は目を瞑ると、流れる霊力を感じ取り、刀を持った手下の位置を特定した。

そして再び姿を現し攻撃を仕掛けたと同時に、懐に潜り込み刀を振り抜いた。

最後の一人が倒れると、ルフェールの手下達は光の粒となって消えた。

ついに奴らも手下を送り出す手段に出たか…。

この事はみんなに伝えておかないと。

光は急いで紅魔館へ向かいこの事を話した後、博麗神社へ向かい霊夢達にも報告した。

 

 

「なるほど…私達が居なくなったあとそんな事が起きていたのね」

 

「所詮はタロットカード使いの下についてる奴らだからあまり強くはなかったが…これからは警戒しておいた方が良いだろ」

 

「そうね、数の暴力って言葉があるし…」

 

「とりあえず、あと二箇所にも変死体が発見されたって話だ、手分けして調査しよう。くれぐれも不意を突かれないようにな」

 

 

霊夢達は頷くと光は博麗神社を後にし、紅魔館で少し休憩してから再び調査に行った。

そして現場に着くと、やはり同じような光景が広がっていた。

どれも死体の格好は違うが、共通して言えるのは血液が吹き出たまま固定されていることだ。

恐らく霊夢達が調査している現場も同じ状況だろう。

光は隅々までその変死体を調べていると、気づけば日が暮れていた。

あまり暗い中調査しても埒が明かないし、それなりに調べたと判断した光は、帰る準備をした。

しかし、今、すぐそこに()()()()()事をまだ光は気付いていなかった。

 



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VS 紅林 陽真

 

 

 

紅魔館に帰ろうとした光は暗闇の中に一つ()()があることに気づいた。

そもそも今回の事件現場自体があまり行ったことがない場所だったから、建物がある事はもちろん知るはずもなかった。

だが、本来ならば日が落ちて家を明るくするはずだが、この建物は明かりをつけるどころか、人の気配すら感じなかった。

近づいてよく見てみると所々に苔や草が生い茂っており、既に人が離れてから長い年月が経っているように感じる。

普通ならば寄り道せずに帰るのだが、これも男の性なのか、中がどうなっているのかと言う好奇心に駆られて思わず入ってしまった。

長いこと手入れされていないので倒壊の危険があると思っていたが、案外広く綺麗な内装をしていた。

既に家主がこの家から引っ越したのか、それとも強盗によって荒らされたのかは分からないが、一つの机と椅子以外は何も無かった。

ただ壁には額縁がいくつか飾られていた。

よく見てみると机の上に何かがあり、近づいてそれを手に取った。

暗くてよく見えなかったが、月光に照らされて内容がくっきりと見えるようになった。

そしてそれを見た光は思わずその紙を手から離した。

何故ならそれは()()だったからだ、しかも今朝見た変死体の。

しまった…ここは紅林 陽真の拠点だったのか。

光は急いでこの家を出ようとしたが、既に時遅しだった。

 

 

「どうしたんだい?そんなに慌てて、()()()()に何か問題でもあったかい?」

 

「紅林 陽真…!」

 

「おっと…その反応を見るからに喑上君から話は聞いているみたいだね、僕も自己紹介とかよりもやりたい事をしたい主義でね、時間を無駄にしなくて丁度良いよ」

 

「やりたい事?まさかここの住民達を虐殺してあの悪趣味な作品とやらにする事か?」

 

「いや…もうそれはやらないよ、思った以上にここの素材達は豊富じゃない」

 

「お前…!」

 

「でもその代わり…とてもいい素材を見つけたよ、()() ()()()()()()()()()をね!!!」

 

 

すると紅林はナイフを取り出し躊躇無く光に突っ込んできた。

光は刀を出現させ、応戦すると蹴りを入れて後退させる。

その後走り出し、回り込んだ後に飛んで刀を振り下ろすと紅林のナイフとぶつかる。

刀とナイフなので、光が力で押し勝つと紅林は弾いて、後ろに下がる。

直後にナイフを投げてくると、光は頭を少し傾けて回避すると、手ぶらになった紅林に切りかかろうとすると、紅林は突然()()()を取り出した。

なるほど、これであの変死体を撮影していたわけか、ならこいつをぶっ殺すついでにこの悪趣味なカメラもぶっ壊してやるぜ!

光はそのまま紅林に刀を振り下ろした…が、しかし

 

 

「……甘いね、君は」

 

 

そう言うとニヤリと笑った紅林はカメラのシャッターを押した。

すると次の瞬間、金切り音と共に身体の動きが鈍くなったのを光は感じた。

その間に紅林は壁に刺さっているナイフを取りに行った。

光は能力を使って何とか身体を動かすと、刀を構えた。

ナイフを回収した紅林は再びカメラを向けると、シャッターを押した。

するとまた金切り音と共に身体が動かなくなった。

能力で抜け出した後迫ってくる紅林に刀を振るうと再びシャッターを押したと思ったら、フラッシュと共に目の前から消えていた。

気がつくと背後から紅林がナイフを振り下ろしていたが、間一髪刀で防ぎきれた。

こいつ…あの()()()で能力を発動しているようだな、あれで相手の身体を固定し、ナイフで切り裂いていたんだ。

俺は幸いにも能力者だからこちらも能力で何とか抜け出すことは出来るが、そうでない奴らは…考えるだけでゾッとする。

更にはあのフラッシュで目眩しと同時に瞬間移動もしている。

奴の隙を狙うのは恐らくあの瞬間移動している時だろう。

だがその為には目眩しされている間に奴の動きを読むしかない。

カメラのフラッシュを回避する程の反射神経は持て余していないのでね。

今回のタロットカード使いは厄介な相手だ、出来るだけ隙は作らないように徹底しないと一瞬で殺されてしまう。

光は体勢を低くして構えると、地を蹴り突っ込むと、紅林はカメラを構えた。

そしてシャッターを押す直前、光は横に飛んでフィルム外へ移動した。

やはり金切り音が聴こえたが身体には異常がなかった。

所詮はカメラだ、姿形を捉えていなければ能力も発動出来ないということか、その割には紅林の表情は何一つ変わっていない。

余裕と言ったところか、ならばその余裕一瞬で無くしてやる。

光は壁に足をつけ、そのまま蹴ると紅林へ急接近する。

紅林は回避する為、カメラのフラッシュで回避した。

今だ、これで紅林が何処にいるか特定することが出来れば…。

その瞬間、ギシッという木の床を踏む音が聴こえ光はその方向へ刀を振るった。

しかし当たったのは紅林のナイフで間一髪防御されてしまった。

視界が元に戻るとそこには口元は相変わらずニヤリと笑っているが、額からは冷や汗のようなものが伝っていた。

 

 

「この短時間で戦い方を理解するとは、流石は英雄といったところか」

 

「所詮はカメラだからな?弱点をつけばお前は何も出来ない」

 

「それはどうかな?」

 

 

紅林は弾いたと同時にカメラのフラッシュで再び消えると、今度は物音どころか何処を見渡しても紅林の姿はなかった。

刀を構え、出処を待っていると上からナイフが光目掛けて飛んでくるとそれを刀で弾いた直後、そこにはカメラを構えている紅林が立っていた。

身体を止められると思い横に飛ぶが、それが間違いだった。

紅林は再びフラッシュで姿を消すと、なんと光の飛んだ先に紅林が立っていた。

そして再びカメラを構えると…。

 

 

「しまっーーーーー」

 

 

金切り音と共に光は空中で固定されてしまう。

そして紅林は光の脇腹に思いっきり蹴りを入れた。

為す術なく光は勢いよく壁に叩きつけられ胃液が逆流しそうになった。

紅林はその様子を見て笑いながら転がっているナイフを拾い上げた。

光はゆっくりと立ち上がると、刀を持ち直す。

そして激突した衝撃で壁から落ちた古びた額縁を拾い上げるとそれを持ったまま紅林の方へ突っ込んだ。

紅林は再びカメラのフラッシュで移動しようとした瞬間、光は走りながらその額縁を前に立てて、防御しながら突っ込んだ。

そしてフラッシュ音が聴こえたが、額縁によって目眩しされず、更に紅林は目眩し出来なかった事で瞬間移動も無効化されていた。

 

 

「こいつ……!」

 

「うおおおおおおおおおおお!!!」

 

「がはっ!」

 

 

紅林は額縁に当たるとそのまま光によって押し飛ばされ、壁に激突する。

光は更に額縁で潰そうとしたが、古びていたのもあってか壁に当てた衝撃で壊れてしまった。

ならばと怯んでいる紅林に刀を突き刺そうとしたが、ナイフで弾かれ、一瞬だけ出来た隙に再びフラッシュで目眩しをして回避した。

 

 

「どうした?ご自慢の能力を対策されて流石に焦ったか?」

 

「そうでもないさ、良質の素材程手に入れにくい事は重々承知している」

 

「悪いが俺はその良質な素材には値しないと思うが?」

 

「それはありえない、君はこの世界の英雄であり、能力者…良質なわけが無い…!君はそう思ってなくとも僕はそう思っているから良質な素材なんだ!」

 

「どこまでも悪趣味な野郎だ」

 

 

光は地を蹴ると、横にある額縁を使って横に飛んで、更に壁に足を付けると別の方向へ飛んだりと紅林に的を絞らせないようにあらゆる方向へ飛びながら接近した。

ならばと紅林も机を蹴り倒して障害物を作ると、身を隠しながら光の動きを止められる瞬間を伺った。

そして光が壁を蹴った瞬間、着地したと同時に地を蹴り紅林の方へ向かうと、刀を振り上げた。

紅林はその振り上げたのを見て、カメラを向けてシャッターを押した。

そして金切り音と共に光を捉えると、ナイフを握り光の身体を引き裂こうとした瞬間…。

 

 

ギィ……

 

 

「なんだと!?」

 

「この距離ならお前を確実に攻撃出来る!」

 

 

先程蹴った壁に飾ってあった額縁が紅林の方へ落ち始め、紅林は思わず後退せざる負えなかった。

その隙に拘束を解いた光はそのまま刀を振り下ろした。

紅林はその斬撃を咄嗟にナイフで防ごうとするが、刀とナイフでは明らかに差がありすぎた。

しかし、勢いがあった為光の刀も木製の床にめり込んでしまい、引き抜く暇もないのでそのまま紅林に殴りかかった。

普段鍛えているので光のラッシュが紅林を遅い、胴がガラ空きになった所を右ストレートで吹き飛ばした。

吹き飛ばされた勢いは衰えずそのまま壁に激突すると、床に突っ伏した。

光は刀を引き抜いて歩き出すと、紅林が突然()()()()()

 

 

「ハハハハ……!!!いいねぇ!燃えてきたよ!僕も本気を出さないといけないみたいだ!!!」

 

「ようやく()()のお出ましか…来い!」

 

 

そしてその光は部屋中を覆い尽くした。

 



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VS 紅林 陽真 XV The devil.

こんばんは
最近多忙期に入りましてなかなか手を付けられない状況にいるので、少し投稿ペースが落ちます。
すみません。


 

 

 

 

 

部屋を覆っていた光が収まり、視界が良くなると紅林は光にカメラを向けてシャッターを押す。

光は捕えられる前に回避して回り込むと、刀を振り下ろす。

紅林は振り返ってそれをナイフで受け流すと、足を引っ掛けてヒカルを前のめりにさせると背中目掛けてナイフを突き刺した。

しかし前のめりになった状態を利用して床に両手を付いて押し出すと、両足で紅林を突き飛ばした。

壁に叩きつけられた紅林はその衝撃で落ちた額縁を手に取り投げると、光は刀で切り捨てる。

その間に紅林はカメラを構えると、光はまた回避する準備に入った。

しかし紅林が繰り出した攻撃は予想外のものだった。

なんと()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

そのナイトは大きな剣で光を攻撃すると光は刀で防いだとして無傷では済まないと悟り、横に飛んで回避した。

これが奴のタロットカードに秘められた力…。

カメラで拘束されたり、瞬間移動されたりとここまでかなり苦戦していたが、更にそこへカメラからナイトを召喚したりと…今まで戦ってきた中でも一番を争うくらい厄介な相手だ。

光は刀に想いを込めると、走り出しナイトに刀を振り下ろす。

ナイトは防御するように剣で応戦するが、光の能力が勝り剣をへし折ったうえにナイトの胴体を切り裂いた。

ナイトは無言のまま全身が光り出すと粒となり消えていった。

人と同じように致命傷となる攻撃を受ければ消えるという事か。

すると紅林は再びカメラのシャッターを押し、フラッシュと共に現れたのは、()()だった。

しかも幻想郷でよく見る下級妖怪だった。

こいつ…何を基準にカメラから出現させているんだ…?

 

 

「僕のカメラに相当興味があるみたいだね」

 

「そんな悪趣味な性能してれば興味も湧くわな」

 

「フフ…僕のカメラは人を固定したり、瞬間移動したり出来るが所詮カメラはカメラだ、撮影すればカメラにデータが残る…ただし、()()()()だがな!」

 

 

紅林はナイフを光の方へ向けると、それに応じるように妖怪は攻撃を仕掛けた。

光は妖怪の攻撃に合わせて下に潜り込むと刀を振り上げて、真っ二つにした。

妖怪はそのまま消えると、今度は紅林がナイフを振り下ろしてきた。

光はそれを刀で切り付けようとしたが、それを見た紅林はすぐさまカメラのシャッターを押し拘束しようとするが、直前に紅林の腹に蹴りを入れて体勢を崩させて回避した。

床に手を付いた紅林はカメラから再び妖怪を召喚し、光に攻撃を仕掛けた。

光は刀でいなし、ガラ空きになった背中を斬り裂き、振り返って紅林に斬撃を放った。

紅林はフラッシュで回避して後ろに回り込むと、ナイフを振り下ろしてきた。

気配を感じた光は身体を回転させて刀で応戦した…が、それは紅林ではなく()()()()()()()()()()()()だった。

光は急いで後ろを振り向くと、既に構えている紅林が現れ、すぐさま後ろに飛んで振り上げてくる紅林の斬撃を回避したが左腕を斬られてしまう。

 

 

「ちっ……!」

 

 

紅林は再び妖怪を召喚すると態勢を低くして走り出した。

上から妖怪、下から紅林といった形勢で光に襲いかかった。

光は一度後ろに下がって構えると、スペルカードを発動した。

 

 

 

〜蝶符「妖刀・千子村正」〜

 

 

 

紅林は白く輝いた光の刀を見るとすぐさまカメラのフラッシュで瞬間移動した。

それと同時に光は大きな斬撃を放ち、妖怪を消し飛ばした。

紅林は光の背後に現れると、ナイフを振り下ろす。

それを振り返りながら刀を振るうとあまりの威力に紅林のナイフが弾き飛ばされる。

そのまま光は紅林の胴体を切り裂こうとするが、直前にカメラで光を拘束するとナイトを召喚した後、ナイフを拾いに行った。

光はなんとか拘束から抜け出し、ナイトの斬撃を防ぎ、倒すとナイフを拾いに行く紅林に接近する。

背後を取った光はそのまま刀を振り下ろすが、間一髪フラッシュで回避され距離を離されると、今度はひとつのシャッターから妖怪、ナイト、ましてや今日死んだ人里までもが現れ、光を囲んだ。

 

 

「やはり君は僕の作品になるべき存在だ!ここで死ね!」

 

 

紅林はナイフを光に向けると、妖怪達は一斉に光に襲いかかった。

 

 

「てめぇの作品?なるわけねぇだろうが!」

 

 

すると光はより一層刀身を輝かせると、迫ってくる妖怪達を次々に切り倒していった。

紅林は間髪入れずにカメラから大量の妖怪達を召喚し、光に襲いかかるも、それも全てなぎ倒し、紅林に急接近する。

紅林はフラッシュで後ろに回り込み、再びカメラを構えると光を拘束する。

光は急いで拘束を解いて、迫ってくる紅林に応戦するも、右肩を斬られてしまう。

光は斬撃を放つと、紅林は再びフラッシュで瞬間移動する。

背後に気配を感じた光は振り返って刀を振るうが、それは空を切った。

光は顔を上げると紅林がナイフを振り下ろしてきたが、間一髪後ろに飛んで回避すると斬撃を放つ。

それをカメラから召喚した妖怪で肉壁にすると、ナイフを投げてカメラを構えた。

光は飛んできたナイフを弾いて拘束に備えたが、紅林がしたのは拘束ではなく、瞬間移動だった。

フラッシュで目眩しをされたうえに懐に潜り込まれた光はそのままタックルされて壁に叩きつけられる。

一瞬意識を失いかけたが、何とか持ち直して刀を構えると、接近してくる妖怪達を切り裂き、走り出すと紅林がカメラで拘束しようとしてきたので上に飛んで回避する。

紅林は光を打ち落とすためナイトを召喚すると、弓を放った。

その弓を刀で弾いた後、ナイトを脳天から縦に切り裂き着地した後すぐさまカメラを構えた紅林に光は下に潜り込み、画面から外れると刀を振り上げた。

紅林は急いでフラッシュで瞬間移動して、背後に回り込むとそこには…。

 

 

「そう来ると思ったぜ!」

 

 

既に構えている光が目の前に立っていた。

紅林はナイフで防御しながら拘束を試みるが、スペルカードを使っている光の斬撃を受け止めることは出来ず、胴体を切られる。

紅林は胴体の切り傷を確認すると、ニヤリと笑い再び姿を消した。

傷が浅かったようだ。

光は歩きながら相手の出処を待つと、左右からナイトが走ってきた。

それを後ろに飛んで回避したと同時に二人の首を跳ねると、上から紅林が降ってきて跳ねたナイトの首を光に蹴り飛ばした。

光は両腕で弾き飛ばしてその場を凌ぐが、紅林が歩きながらカメラを構えて、光を拘束する。

そしてナイフで光の腕、腹、足を順番に刺すとそのまま突き飛ばす。

光は激痛に耐えながらも立ち上がろうとするが、紅林に馬乗りにされる。

そして紅林は喉元にナイフを添えると狂ったような笑みを浮かべた。

 

 

「あぁ〜良いね良いよぉその表情!あんな必死に戦っていた君が諦めてしまうその表情がたまらなく良ィ!!!」

 

「ちっ……サイコパスが」

 

「はぁ〜……君ねぇ今の立場を理解しているのかァい?……だがそれが良い!!!だからこそすぐに殺すのは惜しい!少しずつ死に近づいていく絶望感を味わいながら…苦しみ、死ぬ、そうして僕の作品は完成する…!僕につけたこの傷なんかどうでもいいくらいにねぇ!!!」

 

「そんなに俺を作品にする為に入念に準備しないといけないのか?」

 

「うんうん…分かるよ苦しみながら死ぬくらいならいっその事一瞬で殺された方がいいよね〜、でも…それじゃあ僕の作品は完成しないのだよぉ…!まだまだ程遠いのだよ!!!」

 

 

紅林はそう言うと、光の左肩にナイフを突き刺した。

 

 

「っ……そうかい……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()

 

「ん〜?……っ!?」

 

 

その瞬間、紅林は頭部に激痛が走った。

それは紅林の後頭部から落ちると光の足元に転がり、消えていった。

それは先程紅林が光目掛けて蹴り飛ばしたナイトの頭部だった。

その後光が真上に弾き飛ばした事で一時的に天井にめり込んだ状態となり、少しの衝撃で落ちるように仕掛けた罠だったのだ。

それをもろに食らった紅林は激痛に耐え兼ね、地べたを転がった。

 

 

「ああああああぁ!!!!」

 

「っ……」

 

 

光は刀を杖にして何とか立ち上がると、刀を構えた。

紅林は頭を抑えながら立ち上がると、ナイフを突き出して歩き出し、カメラを取り出した。

 

 

「やっぱり君は僕の最高傑作に成りうる存在だ……見せてよ……!君の絶望した顔をさぁ!!!???」

 

 

紅林は口が裂けるくらいに口角を上げ、目を見開いて走り出した。

そして光と接触する寸前にフラッシュを使って背後に回ると、ナイフを振り下ろした。

光は意識を研ぎ澄まし、即座に紅林の斬撃を弾くと間髪入れず紅林の腹部を切りつけた。

ならばと紅林は再び瞬間移動すると妖怪達を召喚し、囲むと一斉に攻撃した。

光は一度刀を鞘に納めると、再び抜刀したと同時に身体を回転させて妖怪達を一掃する。

そこへ拘束にかかる紅林が現れるが、光は消滅する寸前の妖怪を掴み、それを投げると紅林に命中し、カメラを手から離させた。

紅林はすぐさまカメラを拾い上げ、瞬間移動して光の背後に現れてナイフを振り下ろす…が、光は既に体勢を低くして構えていた光はガラ空きになった紅林の胴体を斬り裂いた。

 

 

「地獄で閻魔様の作品になってるんだな!サイコパス野郎!」

 

「っ……ァ……」

 

 

紅林は数歩後ろに下がるとそのまま倒れ込み、間もなく全身が光り出し、粒となって散った。

光は霊夢達にこのことを報告するため、息を荒くしながらも紅林のカメラを拾い上げてその場を立ち去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・

 

 

その頃ルフェールの手下は十神の前で跪き口を開いた。

 

 

「報告です十神様」

 

「知っている、紅林が死んだのだろう?」

 

「見ていたのですか?」

 

()()()()()が私の部下とどれだけ戦い合えるのか見物するのは当然のことだと思うが?」

 

「……これで貴方様の配下は━━━━」

 

「これも想定内だ…正直()()()は最後まで取っておくつもりだったが…やむを得ない。呼んでこい」

 

「承知いたしました」

 

 

一礼したルフェールの手下は部屋を出た。

 



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笑顔

今回は色々な展開を考慮した結果かなり短くなりました。


 

 

 

紅林を倒した光はその後、紅林のカメラを持って博麗神社へ向かった。

霊夢は光の姿を見て驚きはしたが、事情を知ると暗上に頼んで光の傷を治療するよう頼んだ。

そして光はカメラを使って霊夢に紅林が撮影した写真を見せた。

 

 

「何よ…これ…これ全部紅林って奴がやったの?」

 

「あぁ…自身のコレクションだとか言ってな、これだけの人達を過去に殺してきたみたいだ」

 

幻想郷(この世界)の人達の写真もあれば、光が着ている服に似てる人の写真もあるわね…唯一同じなのはどれも胴体を裂かれていることかしら…見てるだけで吐き気がしてくるわ」

 

「紅林はルフェールの中でもトップクラスのサイコパスだった、撮影した写真にお気に入りの写真があれば部屋に飾って酒のつまみに眺めていたのを見たことがあるよ」

 

「俺にとってはルフェール自体がサイコパスだと思うがな」

 

「ははっ!言い返す言葉もないな」

 

「とにかく、今回の人里で起きた事件は解決したってことね、犯人も光が始末したことだし、この紅林のカメラ(特級呪物)は射命丸とかに押し付けておこうかしら」

 

「青ざめて翼の羽が全部抜け落ちそうだな」

 

「暗上、光の治療は終わったのかしら?」

 

「あぁ!ばっちりだ!」

 

「じゃあ光、今日のところは帰りなさい、後のことは私が引き継ぐわ」

 

「分かった」

 

 

光はある程度傷の痛みが無くなったのを確認すると博麗神社を後にした。

それを見送った霊夢は引き締まった表情をし、それを見た暗上は察して神社の中に入った。

 

 

「いるんでしょ?紫」

 

 

すると背後からスキマが現れ、薄気味悪い笑みを浮かべた紫が出てきた。

霊夢は振り返ると無言で紅林のカメラを渡した。

それを見た紫は時間が経つにつれて段々険しい表情へと変わっていった。

 

 

「これがさっき、光が倒したタロットカード使いの記録よ」

 

「………」

 

「ねぇ紫、光が全部倒しているとはいえ少なくともこういう形で傷跡を残されてるのよ?このまま行けば人里、妖怪たちが全滅して取り返しのつかないことになるわ」

 

「そうね…あちら側も本格的に動いてきてる訳だし……ふむ……」

 

「その反応を見るになにか策はあるのかしら?」

 

「一応あるのだけれどまだその時じゃないわ」

 

「はぁ?何よそれ、もしも光に万が一があれば━━━━」

 

「分かってる、だからこそまだ使うべきじゃないのよ、安心して、もしも使うとなれば必ず彼の役に立つはずよ」

 

「その言葉絶対に忘れないわよ、やっぱりあれは嘘でした―とか言い出したら許さないから」

 

「はいはい…それと霊夢一つ言い忘れていたことがあるわ」

 

「何?」

 

 

スキマを出現させながら後ろを振り向いた紫は珍しく真剣な表情で霊夢に告げた。

 

 

「昨日、光が倒したタロットカード使いとは違う()()()()()()()()()()()()()()()()を観測したわ、光はもちろん貴女達も警戒しておきなさい」

 

「…!」

 

「それじゃ頑張ってね♪」

 

 

そう言うと紫はスキマの中へと消えていった。

霊夢はため息をした後、神社へと戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

紅魔館へ戻った光はまずフランと遭遇した。

 

 

「お兄様!おかえりなさい!…ってその傷どうしたの?」

 

「あー…ちょっとドジしちまってな、大した怪我じゃないから安心してくれ」

 

「そうなの…?ちゃんと治してまた私と遊んでね!」

 

「フランお嬢様の仰せのままに」

 

 

光はフランの頭を撫でると、そのまま別れて紅林の事についてレミリアに報告するためにレミリアの部屋に向かった。

 

 

「レミリア、いるか?」

 

「いるわよ、入りなさい」

 

 

ノックをしてレミリアがいることを確認した光は部屋のドアを開けた。

そこには、レミリアと一緒に咲夜が立っていた。

咲夜に傷のことを心配されたが、今のところ痛みはないので話を進めた。

 

 

「なるほど、なかなか良い趣味した人と遭遇してしまったのね」

 

「俺は二度とあんな悪趣味な奴とは戦いたくないけどな」

 

「ふふっ…それもそうね、今日は色々と動いてくれたのでしょう?ゆっくり休みなさい、咲夜、光に付き添ってくれるかしら?」

 

「かしこまりました」

 

「じゃあお言葉に甘えて今日は休むことにするわ…」

 

「そうしなさい、今日はお疲れ様」

 

「おう」

 

 

光は咲夜と一緒に部屋を後にして廊下を歩いていると、咲夜がこちらを見つめながら口を開いた。

 

 

「怪我の具合はいかがですか?霊夢のことなのでかなり適当に処置されたのではないかと…」

 

「大丈夫ですよ、この通り包帯とかで止血できてますし、再度傷んだりしてませんから…それに霊夢じゃなくて暗上が手当してくれたので安心できると思いますよ」

 

「あのタロットカード使いにですか…?本当に大丈夫なのですか?私が確認いたしますよ?」

 

「咲夜さんはまだ信用ならないって感じですよね…無理もないです」

 

「当たり前です!今は大人しくしているとはいえ私達を攻撃した敵なんですから…むしろどうしてこういうのに一番敏感なはずの光さんはあの人にそこまでの信頼を寄せているのですか?」

 

「あー…そうですね…まぁこちら側の事情があるんですよ」

 

 

言えるはずもない、自分のスペルカードが暗上の想いを読み取ったのがきっかけなのだから。

普通はありえない様な展開だ。

 

 

「そうなのですか?…まぁ光さんが信頼しているというのであれば別にいいんですけど」

 

「気を使ってくれてありがとうございます、咲夜さんにはいつも迷惑かけてばかりで申し訳ないです」

 

「お嬢様も言ったはずですよ?、私達は家族なんですから支え合って当然です、それに…」

 

「それに?」

 

()()()()()…光さんのことが」

 

 

そういう咲夜は目を逸らしていた。

心なしか少し頬が赤いようにも見えた。

そんな咲夜を見て光は以前も似たような場面があったなぁと思わず笑ってしまった。

 

 

「な、何笑ってるんですか!」

 

「いえ……咲夜さんをからかってるわけじゃないですよ、ただすごく嬉しいだけです!だからこそまだまだ死ねないなぁなんて……」

 

「はぁ…でしたらその傷を早く治してくださいね」

 

「うっ……善処します」

 

「……ふふ」

 

 

微笑ましい雰囲気の中、光の部屋の前につくと二人は「おやすみなさい」と言葉を交わして解散した。

その後の二人がどうなったかは分かるはずもないが、二人とも()()()()()事は確かだろう。

 

 

 

 

 



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約束

もうこの作品出してから6.7年くらい経過してるので
ほとんど読まれてないと思うのですが一応言っておきます

お待たせいたしました。


 

 

 

 

 

 

蝉が騒がしく鳴き続けるこの季節、咲夜は大粒の汗をハンカチで拭きながら買い出しに出ていた。

昨日の光との会話を思い出しながら、今日は少し多めに料理を出そうかと考えていた。

最初は自分の料理にさえ疑いの目を向けていた人だったのに、今ではお互いに冗談を言いあったり、本音をぶつけたり、仕事を分担してこなしたりと何気ない日常だったが、咲夜にとってはそれをずっと大切にしていきたいと思っている。

かつて紅魔館で共に育ち、成長してきた丑満時 静夜のように。

だからこそ静夜が目の前で堕ちてしまったようにもう二度と失いたくないと固く決心した。

道中歩いていると向こうから霊夢が歩いてくるのが見えた。

 

 

「咲夜じゃない」

 

「霊夢?珍しいわね、こんな所で」

 

「昨日光が戦ったの知ってるでしょ?そいつらの手下達がそこら辺をウロウロしてるから潰しに回ってるのよ」

 

「なるほどね…手伝おうかしら?」

 

「いいわよ、所詮は能力が無い雑魚だし束になっても少し時間を使うだけ…それにーーーーー」

 

「私もいるからな!」

 

 

霊夢が何かを言いかけた瞬間、霊夢の後ろから魔理沙がひょこっと顔を出してきた。

 

 

「魔理沙…!居るなら言いなさいよ!」

 

「いや〜今来たところなんだぜ?ここはどっちがあの手下達を多く倒せるか勝負といこうじゃないか!霊夢だけ一人抜け駆けなんて許さないからな!」

 

「はぁ…またアンタはそうやって…」

 

「咲夜は?咲夜も勝負するか?」

 

「私は遠慮しておくわ、霊夢と魔理沙だけで事足りそうだし」

 

「ちょっと!私をこいつと一緒にしないでちょうだい!」

 

「おいおい霊夢、いいじゃねぇか!面倒事もこの私がいる事であっという間に終わるんだぜ?」

 

「まったく…分かったわよ」

 

 

霊夢は呆れながらも承諾すると魔理沙はニヒッと笑った。

咲夜は今日もこの2人は騒がしいわねと微笑んだ。

しかし、それは直後のドスグロい霊力によって雰囲気が一変する。

3人とも同時にそれを感知すると、武器を出して身構えた。

すると生い茂る森の中からより強い霊力がゆっくりこちらに近づいているのを感じた。

そしてその正体が太陽の光によって徐々に明らかになってくると3人は更に警戒を強めた。

黒髪に無地の黒ズボンと黒シャツに腰マントが付いた黒コートという服装が黒で統一されたその男は目の前に咲夜達が居ることに気づいたのか俯いていた顔を上げると、鮮血のような紅い瞳で見つめ、刀身がボロボロになっている刀を三人に向けてこう呟いた。

 

 

「貴様らは…()()()()を満たしてくれるのか…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・

 

 

おかしい…咲夜さんが朝食後買い出しに出てからしばらく経っている。

もうすぐお昼の時間になってしまうというのに。

この時間帯に帰ってきたとして、昼食の時間に間に合わない、普段の咲夜さんならたとえ遅刻しそうになっても時を止めて無理矢理間に合わせているのにこの時間になっても未だに咲夜さんの姿が見えないのは明らかに咲夜さんの身に何か起きたに違いない。

光はすぐさまレミリアの元へ向かい咲夜が帰っていない事を伝えた。

不審に思ったレミリアは門前にいる美鈴を呼び戻すために館の出入口の方へ向かおうとしたが、その扉が勢いよく開かれる音が聞こえたと同時に美鈴がレミリアの部屋に入ってきてこう告げた。

 

咲夜と霊夢、魔理沙が重傷を負ったと…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

ここは…どこ…?

確か私は…霊夢と魔理沙と……一緒に謎の男と戦って…。

負けたんだ……それで大きな怪我をして…。

朦朧とする意識の中、僅かだが永琳と光達の声が聞こえた。

 

 

「咲夜さんは!致命傷じゃないんですよね!?」

 

「落ち着いて美鈴、とりあえず三人とも今のところ安定しているわ…ただ傷が思った以上に酷いから危機的状況から脱したとは言えないわ…」

 

「咲夜…」

 

「……おい平田、犯人を見たって言うのはどこら辺だ…?」

 

「え?あぁ…人里から少し離れた道だけど…まさか君…」

 

「……悪いな平田、俺も大切な人を傷付けられたら許せねぇ性分でな」

 

「ま、待ってよ!その犯人を倒しに行くなら僕も同行するよ、()()は只者じゃないから」

 

「……勝手にしろ」

 

「光!気をつけてね…貴方まで咲夜みたいになったら私…」

 

「安心しろレミリア、軽く挨拶しに行くだけだから」

 

「光、くれぐれも気をつけなさい、その傷私に見せずに解決させたみたいだけど、傷口が開いても知らないわよ?」

 

「分かってる、毎回永琳に世話になってる訳にはいかねぇからな」

 

 

光はそう言うと少し後に永遠亭の扉を閉じる音が聞こえた。

それと同時に朦朧としていた咲夜の意識は再び暗闇へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・

 

 

咲夜は永琳達の声に再び意識を取り戻した。

どれくらい経過したのか分かるはずもないが、意識を失う前よりももっと騒がしくなっている事は理解出来た。

未だ朦朧とする意識の中、その声はぼんやりだが確かに聞こえた。

 

 

「永琳先生!早く光くんを治療室に!」

 

「分かってる!」

 

「……師匠…これは……」

 

「思った以上に出血が酷いわね…うどんげ、急いで輸血パックを持って来てちょうだい、私は出血の出どころを探すわ」

 

「お願い…お願いよ永琳…光が死んだら…あの娘に…なんて言えば…っ!」

 

「大丈夫よレミリア、光を死なせはしないわ、絶対によ」

 

 

永琳と…鈴仙…それにお嬢様の声…光さんは…?

光さんはどうなったの…?さっき私の仇討ちに行ったはず…!っ…!身体が思うように動かない…声も出せない…!一体どうなってるの!?…光さんは無事なの!?…この目で確かめさせて…!

咲夜は薄れゆく意識の中どうにかして動こうとするが、再び意識を失った。

 

 

「光……さ……ん…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……や……」

 

「さ………や………!」

 

「さく………や」

 

「咲夜!!!」

 

 

再び意識が戻ると今度ははっきりとしていた。

目の前には涙を流すレミリアとほっとした表情で見つめるパチュリー、心配そうに見つめる美鈴とフランが視界に映った。

 

 

「よかった…気がついたのね…」

 

「お嬢様…申し訳ございません…ご心配を…」

 

 

レミリアは首を横に振って「いいのよ」と笑顔で返した。

そしてレミリア達の声を聞き付けたのか、先に意識を取り戻していた霊夢と魔理沙が顔を出した。

二人とも安心したのか大きな溜め息を付いた。

その後ろには平田が立っており、良かったと胸をなで下ろしていた。

咲夜は皆の反応を見て微笑むが、やはり肝心の光の姿が見当たらなかった。

少し周りを見渡した後、光は何処にいるのかと問いた。

すると全員無言で俯き、少しの沈黙が続いたが、意を決してレミリアが口を開いた。

 

 

「……今から貴女には()()()()()()()()()()()事があるの…立てるかしら?」

 

 

咲夜は美鈴の肩を借りてベッドから起き上がった。

幸いにも歩ける程度には回復していたので、美鈴に付き添って貰いながらとある部屋に案内してもらった。

その部屋に近づくに連れて皆の表情もより一層暗くなった。

この時点で咲夜は一番最悪な結末を想像してしまったが、この目で確かめるまでは考えないようにした。

そしてとある部屋に付くとその前に立っていた鈴仙がゆっくりと扉を開けた。

咲夜はレミリアに導かれて中に入ると、そこには…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()がベッドで横になっていた。

 

 

「え…?」

 

 

ゆっくりと咲夜がそれに近づくと、反対側に立っていた永琳が顔の白い布を取った。

隠れていた顔があらわになるとそれが誰なのか、咲夜は痛いほど思い知らされてしまった。

 

 

「あ……あぁ……!」

 

 

今朝自分が買い出しに出る時に笑顔で送ってくれた、もう二度と失いたくないと決心した大切な人が傷だらけの状態で眠っていた。

咲夜は光の顔を触れば触るほど、涙が溢れ、言葉にならない叫び声をあげた。

 

 

「お願い…光さん…!…目を開けて…っ……嫌だ…お願い…っ」

 

「咲夜…」

 

「まだ…っ…貴方に()()()()()()()()があるのに…!」

 

「……」

 

「どうして貴方まで私の前から居なくなるんですかぁ!!!」

 

 

咲夜は涙を流しながら冷たくなった光の身体を必死に揺さぶった。

しかし返ってくるのは沈黙だけだった。

それを受け入れたくない咲夜は繰り返し光の名を呼び、顔を埋めた。

そこへレミリアが寄り添い、優しく背中をさすった。

咲夜はただただ涙を流し、嗚咽し、肩を震わせた。

死因は致命傷を負いすぎた事による失血死だった。

永琳達は光を助けられなかった自身の未熟さを恥じ、咲夜達に深く頭を下げた。

静かな空間に咲夜の泣く声が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……!」

 

 

咲夜は目を開けると、そこには霊夢と魔理沙が心配そうに見つめていた。

 

 

「霊夢…魔理沙…?」

 

「咲夜…?気がついたのね!良かった…」

 

「私は…」

 

「安心しろここは永遠亭だ、あの後平田が駆け付けたお陰でここに運ばれて治療を受けたみたいだ、幸いにも全員命に別状は無い」

 

「そう…」

 

 

咲夜はゆっくりと身体を起こすと辺りを見渡した。

そこには心配過ぎて俯いているレミリアとそれを慰めるパチュリー達、そして少し奥に平田と会話している()()姿()があった。

さっきのは夢だったってこと…?

 

 

「ん…?咲夜さん…!?目が覚めたんですね!」

 

「咲夜…!」

 

 

光の声を聞いて真っ先に反応したのはレミリアだった。

レミリアは大粒の涙を流しながら咲夜に抱きついた。

 

 

「よかった…本当によかったわ!」

 

「ご心配をおかけして申し訳ございませんお嬢様」

 

「いいのよ…貴女が無事でよかった」

 

「咲夜ざあ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”ん”」

 

「はいはい貴女は別に求めてないから」

 

 

右腕でレミリアを優しく抱きしめ、左腕で美鈴の頭を抑えている咲夜を見て霊夢と魔理沙は苦笑いした。

少し後にパチュリーとフラン、そして平田と光がやってきた。

咲夜は光の顔を見ると先程の光景が蘇ると同時に安堵した。

 

 

「咲夜さんどうかしましたか?、俺の顔に何か付いてますか?」

 

「え?あぁ…いえ!なんでもないですよ!」

 

「…?」

 

「おや、最後の負傷者も目を覚ましたみたいね、咲夜早速で悪いのだけれど改めて精密検査をさせてちょうだい、何も問題は無いと思うのだけれど一応ね」

 

「わかりました」

 

 

皆の話し声を聞き付けた永琳は病室に入ると咲夜を呼び出し、精密検査を行った。

結果は異常なし、現在確認されている負傷箇所の治療に専念すれば普通の生活に戻れると言われた。

部屋から出て病室に戻るために廊下を歩いていると、光が永遠亭の出入り口に立っていた。

 

 

「咲夜さん検査の結果はどうでしたか?」

 

「この傷の治療に専念すれば元の生活に戻れると言われました」

 

「そうですか…ふぅ…良かった…」

 

「…それより光さんは何故皆さんがいるところではなくここに?」

 

「俺ですか?今から()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()行ってくるんですよ」

 

「……それって仇討ちって事ですか?」

 

「当たり前じゃないですか!それにこの状況下でこんな事をするのはルフェールの奴らしか考えられません…見過ごす訳にはいきませんよ」

 

「………」

 

 

咲夜はその言葉を聞いて先程の悲劇を思い出してしまった。

あの時流した涙は嘘じゃなかった。

本気で悲しみ、絶望し、後悔した。

だからもしもこのまま行かせてしまったら…。

そう思った咲夜は思わず「それじゃあ行ってきますね」と言って背を向けた光の腕を掴んでいた。

 

 

「咲夜さん…?」

 

「………です」

 

「?」

 

「嫌です…!行かないでください…!」

 

「ど、どうしたんですか!?」

 

 

光は急に涙を流し始めた咲夜に驚いて再び振り返った。

咲夜を落ち着かせながらどうしたのかと理由を聞いた。

すると咲夜はゆっくりだが、目が覚める前に見た悲劇を話し始めた。

話を聞くにつれて光の表情は曇り始めた。

 

 

「そんな事があったんですね…だから仇討ちに行く俺を止めて…」

 

「迷惑だという事は重々承知しております…ですがそれでも…私はあなたを失いたくありません…」

 

「……」

 

 

咲夜にとって光は紅魔館の皆と同じように大切でかけがえのない存在だった。

冗談を言いあったり、二人で食事の献立を考えたり、一緒に掃除したりと。

そんな何気ない日常が咲夜にとって幸せだった。

何故なら…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()

 

「……!」

 

 

咲夜は涙を流しながらも笑顔で自身の内に秘めた想いを伝えた。

光は突然の告白に言葉を失った。

しかし光は首を横に振って正気に戻ると真剣な表情で咲夜の顔を見て告白の返事をした。

 

 

「すみません…今はあなたの想いに応えられません」

 

「……そうですか」

 

「……ですが、一つだけ言えることがあります」

 

 

光は咲夜の手を両手で優しく包み込むと微笑みながらこう告げた。

 

 

()()()()()()()と約束します、これは俺自身じゃなく、()()()()()()です」

 

 

光がそう言った次の瞬間━━━━━━━━

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()

光は突然の出来事に目を見開いたが、抵抗はしなかった。

咲夜は目を瞑り、初めての口付けを味わうと、ゆっくりと光の口から離した。

自身の顔がどうなっているのかは分からないが、トマトのように真っ赤なのは確かだろう。

咲夜は先程の悲しい表情から一変し、一度涙を拭うと笑って見せた。

 

 

「約束ですよ、()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

その後永遠亭を出ると光は唇に手を当てて、先程の出来事を思い出して顔を赤らめた。

咲夜にとってこれは光との約束の証なのだろうが、まさかこんな形でファーストキスを奪われるとは思ってもいなかった。

だからこそ死ぬ訳には行かない…()()()()()()()を倒して必ず帰る。

 

 

「女との送別は済んだか?雨天 光」

 

「誰が送別だって?ハッ!冗談は死んでから言ってな!」

 

「ははははっ!来い!身体の奥底から沸き立ってくるこの渇きを満たしてみせろ!」

 

 

光は刀を出現させると地を蹴った。

同時に男も刀を構えて一直線に突っ込んだ。

 

 



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VS金山 刃

 

 

 

 

光が金山と戦い始めた一方、咲夜はベッドの上から窓の外を見ていた。

その表情はどこか寂しそうで、まるで恋焦がれる乙女のようだった。

 

 

「光さん…」

 

 

彼の名前を呟くとそっと唇に手を置いた。

時間が経って冷静になったが、自分のした事を振り返れるようになり、ボンッという効果音と共に思わず両手で顔を覆った。

普通に考えて恥ずかしすぎる行為をしてしまった…。

穴があったら入りたいというのはこういうことだろう。

自分の為に必ず生きて帰ると約束してくれた事が嬉しくて衝動的にキスをしたが、それにしても相手の事を考えて無さすぎる…!

嫌われてしまった…せっかく自分の想いを伝えたのに台無しにしてしまったあああああああああ

咲夜は掛け布団を両手で掴んでジタバタするとその音を聞き付けたのかレミリアが心配した表情で病室に入ってきた。

 

 

「咲夜!?大丈夫!?」

 

「お、お嬢様!?だ、大丈夫ですよぉ?」

 

「顔が真っ赤じゃない!永琳!咲夜が大変よぉ!!!」

 

「え!?お嬢様!?私がなんともございませんからそんな大きな声を出さないでくださいぃぃぃぃぃ…」

 

 

その後駆けつけた永琳によって検査を受けたが、ちょっと意地悪な表情をした永琳に()()()()と診断され余計レミリアに心配をかけたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

それと同時刻、とある場所では二人の男が刃を交えていた。

金山は鮮血のような色の瞳で睨み付けるも口元は避けるほどに笑っていながらボロボロの刀を振り続けた。

今にでも折れそうなのに一向に折れる気配がなかった。

光は金山の斬撃を刀で弾きながら様子を伺ったが、なかなか隙が生まれない。

刀の振りが早いのだ、今まで戦ってきた三人の刀使いと比べて圧倒的に違う。

そしてその斬撃一つ一つに重みがあって、飛鳥と戦った時と同じような感覚だった。

やはり咲夜さん達を一斉に倒しただけの実力を持っているということか…。

笑いながらただ刀を振り回すその姿はまさに狂戦士のようだった。

 

 

「さぁ!見せてみろ!貴様の力を!」

 

「くっ!」

 

 

あらゆる方向から刀を振るう金山に光は防御するだけで精一杯だった。

このままでは体力を消耗し続けて一方的に攻撃を食らう未来しかない、何とかしてこいつの攻撃から逃れなければ。

金山の斬撃を受けながら打開策を考えていると、突然下から黒い物体が飛び出てきた。

光はその物体に見覚えがあった。

 

 

「遅くなったな、光」

 

「攻撃するなら事前に言えよ暗上…」

 

「ははっすまんすまん、助太刀に来たぜ」

 

「暗上秀人…貴様が来た事は好都合だ…!死んでもらう!」

 

 

金山は刀を持ち替えると暗上の方へ向かうと刀を振り下ろした。

それを暗上は足元にある影に潜り込んで回避すると、体勢を建て直した金山は振り返って光の方へ走り出した。

光は振り下ろされた金山の刀を受け止めると、弾いて後ろに下がると入れ替わるように暗上が斬撃を放った。

金山は斬撃を刀で破壊すると、地を蹴って走り出し、光に刀を振り下ろした。

光は刀で斬撃を防ぐと押し上げて体勢を上げさせると胴体に切り込もうとするが、一歩下がった時点で構えている金山は光が刀を振るうのと同じタイミングで突進し、今度は光が体勢を崩した。

即座に金山の攻撃を防ごうとするが、腕に切り傷が出来てしまう。

そこへ暗上が割り込んで刀を振り上げるが、身体を仰け反って回避すると刀を突き刺した。

しかし刺された暗上は分身で、黒くなって溶けると別の方向から本物の暗上が斬撃を放った。

即座に振り返って刀で一掃した金山は刀を逆手に持って背中に置くと、背後から突き刺してきた光の攻撃を防いでみせた。

予想外の防ぎ方に目を見開いた光はすぐさま次の攻撃を仕掛けるが、刀を持ち替えた金山にあっさりといなされてしまった。

その間背後に回った暗上は刀を大きく振り上げて斬撃を放った。

それを見た金山は腰を低くして大きく刀を横に振るうと、真っ二つにして消滅させた。

更に横から走ってきた光を目視すると、刀を持ち直して光の斬撃を次から次へといなした。

光も刀に想いを込めたのか振りが早くなっているのを感じたが、金山は驚くどころか光の斬撃を難なく合わせていた。

暗上から見て倍速にしたような光景が広がっていて二人の動きは全く見えなかったが、それでも光の方が劣勢だという事は理解出来た。

能力を使うだけでも勝てない事を知った光は一度下がって暗上を見た。

既に光の身体の至る所には傷が出来ていた。

 

 

「暗上、俺に合わせろよ」

 

「りょーかい…!」

 

 

暗上は影を使って分身を大量に作ると金山を囲むようにして一斉攻撃した。

金山はあらゆる方向から来る暗上の分身を一人ずつ破壊していくと、上から光がスペルカードを発動した。

 

 

 

〜蝶符「妖刀・千子村正」~

 

 

 

刀身が真っ白に光り出すと光はそのまま金山めがけて振り下ろした。

金山は目を見開き、ニヤリと笑うと刀で受け止めた。

大きな衝撃音とともに金山の立っている地面に大きな凹みが生じてクレーターのようになった。

それでも笑ったまま刀から手を離さない金山は一度刀を横に振って弾くと、光は弾かれた体勢を利用して顔面に蹴りを入れると、見事に命中した。

光はそのまま地面に着地したと同時に刀を振るうと、金山は顔を横に向けたまま刀で防いだ。

ゆっくりとこちら側を見た金山は変わらず口元が裂けるほど笑っていた。

そして金山は光を弾き飛ばして距離を離すと突然刀を納め、両手を広げた。

すると突然空中に()()()()()()()が出現した。

それを見た光と暗上は刀を構えて警戒した。

 

 

「なんだ?あの球体は…」

 

「これは()()()()()()()()()()()()()だ」

 

「血液…切り傷の事か」

 

「そうだ、そしてこの血の球体は俺の力を最大まで引き出してくれる源だ」

 

「……何が言いたい」

 

「はははははっ…この()を使うのはいつぶりだろうか…切っても切っても、蓄えても蓄えても…()()()()()くらいに蓄えても…この渇きは満たされることが無かった…」

 

「干からびる…まさか()()()()()()()はお前だったのか」

 

「そうだ」

 

 

俺がこの世界に来る前、外の世界で起きた血を吸われて干からびている変死体が発見された事件があった。

実は俺がまだ外の世界にいた時、幻想郷でも同様の事件が起きていた。

まさかその犯人がルフェールの奴だったとはな。

 

 

「俺はあらゆる世界で様々な実力者と相対してきた…しかしこの渇きはいつまで経っても満たされることは無かった、最早最後に満たされたのは何時だっただろうか…」

 

 

金山は広げていた両手をぐっと握りしめると、周りに浮遊していた血の球が金山に吸い寄せられ、それを取り込み始めた。

それを見た暗上は何かを察したのか影を掴んだ。

 

 

「暗上?どうした?」

 

「まずい…光俺の傍から離れるなよ!」

 

 

そして全ての血の球体を取り込んだ金山は狂気じみた笑顔で語り始めた。

 

 

「雨天 光…教えてやろう…俺の()()()()()()()は血の球体を一定数取り込む事で発動することが出来る、まさに渇きを求める俺にぴったりの能力だ」

 

「タロットカード…!」

 

「そして今、俺の渇きは力となって解放される!」

 

「光!捕まってろ!」

 

 

暗上は光を抱き抱えて影で壁を作ると防御態勢に入った。

そして次の瞬間金山の声と共に今までに経験したことのないような衝撃波が光達を襲った。

 

 

「俺のタロットカードはjustice(ジャスティス)(正義)だ!、貴様らが俺の渇きを満たすのに相応しい相手かどうか見定めてもらうぞ!」

 

 



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VS金山 刃 VIII justice.

10月中に間に合わせたかったのですが、ちょうどリアルが忙しくなってしまって結局間に合いませんでした。
すみません、許してください、何でもしますから(何でもするとは言ってない)


 

 

 

金山から放たれた衝撃波あまりにも強く暗上の防御壁を貫通して二人を吹き飛ばした。

光は刀を地面に突き刺して減速させ、暗上は影をフックのような形にして木に引っ掛けて衝撃から逃れた。

衝撃波はあっという間に周りの木々や岩をも砕き、金山を中心にクレーターが生成されていた。

金山からは今まで感じたことのないような殺気と黒いもやのようなものが湧き上がっていた。

光は突き刺した刀を抜くと、持ち直して体勢を整えた。

遅れて来た暗上も額の汗を拭った。

金山は狂気に満ちた笑みで1歩ずつ、ゆっくりと歩いてくる。

少しずつ近づいてくる度に金山から放たれる殺気も増していき、肌で感じ取れるくらいにまで達していた。

 

 

「行くぞぉ!!!」

 

 

金山は前に体重をかけると、その姿は一瞬で消えたと思えば光の前で刀を振り上げていた。

光は間一髪刀で防ぐと弾き飛ばし、追い打ちを試みるが直ぐさま金山に防がれると、お互いに刀を構え直して無我夢中に刀を振るいあった。

二人の間には無数の火花が飛び散り、甲高い金属音が何度も響き渡り、それを見ていた暗上はただ立ち尽くす事しか出来ず、まさに鍔迫り合いと化していた。

すると光が隙を狙って瞬時に潜り込み、刀を振り上げ金山の胴を斬り裂くと思いきやそれをいとも容易く刀で受け止めた金山は身体を回転させてその勢いで刀を振り下ろすと、光は防御の構えを取った。

金山の斬撃を受け止めたと同時に弾いて一度距離を取らせると一気に詰めて刀を振るう。

しかしそれも金山に簡単に対策され、更に胴体に蹴りを入れられ一瞬怯んでしまう。

それを見逃さなかった金山は思いっきり刀を振り上げると、受け止めようとした光を吹き飛ばした。

吹き飛ばされた光は地面を転がりやがて木に胴体を叩きつけ、肺の中の空気が全て抜けた感覚を味わった。

 

 

「はぁ………はぁ………」

 

「どうした!もうおしまいか!?」

 

 

こいつ……一度攻撃を食らっただけでここまでダメージを貰うとは思わなかった。

やはり今まで戦ってきたタロットカード達とは違う強さがある…。

息を整えるも未だ立つことが出来ない光にゆっくりと近づく金山はボロボロの刀を片手に、体勢を低くして地を蹴り、光にトドメを刺そうとした…が。

そこへ暗上が直前に影の防壁を作り、待ったをかけた。

 

 

「そう簡単に幻想郷の英雄様は殺させねぇよ」

 

「暗上…貴様が何故裏切ったのかなんて俺にとってはどうでもいい事…だが、俺と奴の戦いに割り込んできたこと…後悔しても遅いぞ!」

 

「……!」

 

 

金山は防壁を粉々にすると、暗上の方を向いて地を蹴り、刀を振るった。

暗上は影で壁を作ると、一旦下がって金山が壁を破壊したのを確認すると飛び上がって刀を振り下ろした。

金山は刀を逆手に持って暗上の斬撃を受け止めると軽々と刀を振り払い、暗上を吹き飛ばした。

暗上は地面に身体を打ち付ける前に影に潜り込み金山の動きを伺った。

金山は一度深呼吸をすると目を瞑り、その場で佇んだ。

そして少しの間が空いた瞬間、金山の背後にある岩の影から飛び出し、最速で接近すると刀を振り下ろした…が。

 

 

「この俺によくも小賢しい真似が出来たものだ」

 

 

瞬間、暗上が刀を振り下ろした時は身動きひとつ出来ていなかったはずの金山が、気づけば暗上を切り裂いていた。

傍から見れば暗上が圧倒的に有利な立ち位置だったはずなのに、一瞬の出来事だった。

程なくして暗上は振り上げていた刀を手から離し、そのまま倒れてしまった。

同じタロットカード使い同士でもこれだけの力の差があるのだと光は思い知らされ唾を飲み込んだ。

暗上が倒れるところを目で追った金山は再び光の方を見ると刀についた血を払い、こちらの方へ歩いてきた。

 

 

「これで邪魔はいなくなった…いつまで寝てるつもりだ?雨天 光」

 

「この野郎…!」

 

「長年使ってこなかったタロットカードを貴様は使わせたんだ、簡単に死んでがっかりさせるなよ!」

 

 

体勢を低くした金山は刀を地面に付けておもいっきり振り上げると、無数の斬撃を放った。

光は十分に呼吸を整えたので、すぐに立ち上がって木に足をつけると、力強く蹴った。

対面する斬撃を上手く回避して金山まで接近すると、その勢いで刀を振るった。

金山はいなすと背後に回り込んで刀を突き刺すが、光が振り向きざまに刀を振るった事で弾かれるが、すぐさま光の横へ移動すると刀を振り下ろし隙を与えなかった。

金山の斬撃を受け止めた光はならばと敢えて受け止めたまま潜り込む事で金山の体勢を前に押し出した。

一度転がり防御する事を予測した光は斬撃を放つと共に回り込んで挟み撃ちの形で攻撃した。

金山はその場で空高く飛び上がると光目掛けて大きな斬撃を放った。

流石に生身では受けられないと悟った光は後ろに下がって、空中に居る金山に斬撃を放とうとしたが、行動する直前に金山が一瞬で目の前に現れた。

金山が刀を振るうと光は直前まで反応することが出来なかったが、なんとか横に転がって回避してすぐさま防御の構えを取るとそこへ金山が追い打ちをかけてきた。

もしも構えていなかったら今頃光の胴体は切り裂かれていただろう。

ここまで光は辛うじて金山の動きに着いて行けているが、やはり光の攻撃が当たる気配が全く見えない。

このままだとただ体力を消耗するだけで金山に負けるのも時間の問題だ。

ならばと光は金山の腹を蹴り飛ばして後ろに下がると刀に想いを込めて強化し大きな斬撃を放った。

金山は刀を思いっ切り振って斬撃を真っ二つにすると目の前に光が現れ、刀を交えるかと思いきや光は背後へと回り込み、下がりながら斬撃を放ち背後にある木に足をつけた。

そして金山が斬撃を回避した瞬間を見計らって木を思いっきり蹴って、最速で接近して下に潜り込み刀を振り上げた。

その間金山は全く動けずにいた。

光は捉えたと確信していた。

 

 

 

 

 

しかし…。

 

 

「これが貴様の全力か?」

 

「!?」

 

 

刀を逆手に持ち、いとも容易く光の斬撃を受け止めている金山を見て光は目を見開いた。

金山はそのまま刀を後ろに引いて弾き、即座に刀を持ち替え振り上げると、刀ごと光を吹き飛ばした。

光は地を転がり、やがて減速して止まると膝を着いて金山の方を睨みつけた。

あの状況でも打開出来ないとなれば、これ以上の戦いは不可能と感じた光は()()()から使っていなかったスペルカードを取り出した。

正直発動したとして丑満時 静夜戦の時と同じ威力が出せるかどうかは不安だった。

だがそんな事はどうでもいい、何故なら光には勝たなければいけない理由が、()()があるのだから。

もう、迷いは無かった。

 

 

「さあ、見せてみろ!貴様の力を!」

 

「うおおおおおおおおおおおお!!!!」

 

 

光は刀を握りしめて走り出すと刀を振るった。

金山はそれを軽々といなしてはまた次の攻撃が来るがまたいなすを繰り返し、徐々に光の身体に大量の切り傷が出来始めていた。

そして一瞬の隙を見抜いた金山がついに光の腹に刀を突き刺すと、そのまま持ち上げて岩の方へと振り抜いた。

しかし光は空中で体勢を整えると岩を土台に再び金山に接近すると約束した、たった一人の女性を思い浮かばせこのスペルカードを発動させた。

咲夜さん、貴女の力を貸してください。

 

 

 

 

〜伝符「想集六連斬」〜

 

 

 

 

発動した瞬間、刀身が白く光り輝いた。

その輝きはあの時…丑満時 静夜との戦いの時に負けないくらい輝いていた。

今思えば、このスペルカードが発現した時も咲夜さんの想いを貰ったのがきっかけだっけ…なんだ、()()()()()()()()()()…。

光は決心した表情で光り輝く刀を構えこう叫んだ。

 

 

 

「来い…金山 刃、お前の渇き()()()()()()()()!」

 

「……ふふっははははっ…良いだろう!貴様だけは特別に苦しまずにあの世へ送ってやる!この俺の渇きを満たして見せろ!」

 

 

 

光は目一杯金山に刀を振り下ろすとそれを受け止めて見せた。

やはりこの男只者ではない。

しかしそれでも光は刀を振り続けた。

何度も何度も身体が悲鳴をあげても…。

 

 

「ぬううううううああああああああ!!!」

 

「あああああああああああああああ!!!」

 

 

それに対し金山も笑みを浮かべながら光の斬撃を全て弾き飛ばして応戦する。

そして…。

 

 

 

 

 

パキッ……。

 

 

 

 

何かが折れるような音と共にお互いに目を見開いた。

()()()()()()()()のだ。

金山が求めていた渇きが満たされたと言わんばかりにボロボロの刀身だった金山の刀は真っ二つに折れた。

 

 

「これで…終わりだああああああああああああ!!!!」

 

 

光は金山の身体に六つの斬撃を刻むと刀を鞘に収めた。

その瞬間金山に刻まれた六つの斬撃は弾き飛び、金山を宙へと浮かせた。

同時に金山の身体から大量の血が飛び散り、宙を舞った。

 

 

「……貴様の勝ちだ雨天 光……今、俺の渇きは……()()()()()

 

 

その言葉と共に金山の身体は光の粒となり、散った。

消える瞬間金山の表情は満足そうだった。

見事金山を倒した光は、息を切らしながら倒れている暗上の元へ向かうと、耳を摘んだ。

すると…。

 

 

「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!!」

 

「起きろ、終わったぞ」

 

「……え?お前、勝ったのか?」

 

「お前が気絶してる間に大変な思いをしたぞ」

 

 

あの時、暗上は金山に胴体を斬られたが、直前に影の鎧を纏っていた為ダメージが軽減されて致命傷には至らなかった。

しかしそれでも斬られた箇所は深く、それを理解した暗上はショックのあまり気絶してしまったのだ。

このポンコツが。

 

 

「分かったらさっさと俺の傷口を塞げ……ゴホッ」

 

 

光は暗上に応急処置を頼もうとした瞬間、突然吐血したと同時に倒れてしまった。

 

 

「光…?おい!光!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・

 

 

ここは…何処だ…?

光は気がつくと暗闇の空間で1人佇んでいた。

少し経つと聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

 

「よお()()()()()

 

「お前…まだ居たのかよ」

 

「お前が死なねぇ限り俺は消えねぇよ」

 

「それで?何の用だ?」

 

「あのメイドに告白されたみたいだなぁ?」

 

「……何の話だ」

 

「惚けるな、全部見ていたからな?凜音はきっと怒っているだろうなぁ?」

 

「……あいつは関係ない」

 

「関係無いわけないだろ?誰のせいであいつは死んだ?」

 

「……!」

 

「あいつの想いを踏みにじる程なのか?あのメイドの告白は」

 

「……あいつと咲夜さんは無関係だ」

 

「どーだろうなぁ?これでもしも付き合ったとしてお前はあのメイドを守れるのか?いぃや守れないね、何故ならお前は()()からだ」

 

「知ったような口をきくな、お前に何がわかる?」

 

「はぁ…親切にここまで言ってやってるのにまだ認めようとしないのか?…まあいい、今は認めなくてもいずれ思い知る事になる、精々それまで呑気に幸せごっこでもしていればいいさ」

 

 

もう一人の光はそう言うと暗闇の中へと消えていった。

それと同時に光は再び意識を手放した。

 

 

 

 



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約束の果てに

 

 

 

 

時は遡って、光が永遠亭を出た後にまで至る。

光を見送った咲夜は膝を崩したままボーッとしていた。

しかし少しづつ時間が経ち、冷静になってくるに連れて咲夜の顔が段々真っ赤になり、両手で顔を覆った。

 

 

「(やってしまったああああああああああああ!!!……死んで欲しくないって気持ちも好きっていう気持ちも本心なのだけれど…まだ付き合ったわけじゃないのに勢いあまって…キ……キスしちゃったぁ……)」

 

 

咲夜は先程起きた出来事を思い返し、更に顔を真っ赤にした。

負傷や悪夢によって心身ともに弱り切っていたとはいえ異性の人間に心の内を明かすのは相当な勇気が必要、それどころか口付けまでしたときた。

一歩間違えれば嫌われる行為だ、咲夜はそれを大きく恥じた。

 

 

「これからあの人とどう接すればいいのよぉ…」

 

「咲夜…!ついにやったのね!私嬉しいわ!」

 

「ひゃあぁ!お、おおおおおお嬢様!?いつからいらしたのですか!?」

 

 

すると背後からまるで成長した娘を見て感動したような表情をしているレミリアと呆れ顔の永琳が立っていた。

 

 

「普通あんな大声で泣かれたら何事かと思うわよ、慌てて見に来たと思ったら他人の病院で何してるのよ貴女達は…」

 

「うぅ…返す言葉もないです…」

 

「そんなことより咲夜!どうだったの!?光からなんて言われたの!?」

 

 

レミリアは目をキラキラ輝かせながら咲夜に迫った。

それに対して咲夜は少し悲しそうな表情をした。

 

 

「残念ですが今はその気持ちに答えられないって言われてしまいました…だけど、彼は言ってくれました「私の為に必ず生きて帰る」って…それが嬉しくてつい…口付けを……嫌われちゃいましたよね…流石に」

 

 

それを聞いたレミリアは鳩が豆鉄砲を食らったような顔をした。

一方その後ろにいた永琳はため息をついて頭を抱えた。

 

 

「それって……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もう結婚じゃない!!!!」

 

「…はい?」

 

「貴女の為に生きて帰るなんてカップルどころか夫婦の会話よ!!!……あなた達ねぇ…もう少し段取りを…」

 

「えっと…お嬢様…それは一体どういう…?」

 

「貴女達の会話が完全に戦いに行く夫と寂しくて引き止めてしまう妻の会話だってレミリアは言いたいのよ、貴女の為に生きて帰るだなんて…普通友達とかの関係じゃ発しない言葉よ?」

 

「それって…つまり…?」

 

「彼はその気持ちに答えられないとか言ってるけど、本当は光も貴女と同じ気持ちなのよ」

 

「そう……なのでしょうか……」

 

「とにかく、こんな廊下のど真ん中で腰抜かしてないで自分のベッドに行きなさいその後はいくらでも惚気話してもいいから」

 

「分かりました…すみません…」

 

 

咲夜はレミリアに付き添ってもらいながら病室のベッドへと戻った。

しかし咲夜の表情は未だ暗いままだった。

 

 

「……聞かせてちょうだい、何があったの?」

 

「お嬢様には本当に敵いません…実は…」

 

 

咲夜は気を失っている間に見た悪夢の事を話した。

光が自分達を傷つけた相手を倒すために戦いに行ったこと、そして最悪結末を迎えてしまったことも。

 

 

「そういう事だったのね」

 

「申し訳ございません…本当はお嬢様にも話すつもりだったのですが…程なくして光さんが出ようとしていたので…」

 

「大丈夫よ、分かってる、そんな夢を見た直後に同じような光景を見たら誰だって焦るわ、ましてや好きな人だったらね」

 

「あぅ……」

 

「咲夜も乙女ねぇ…私達が出会う前の事とか静夜の事があったからもうそんな感情なんてとっくに無いと思ってたけれど…余計な心配だったわね」

 

「私もです…もうこんな感情抱かないと思ってました…それほどまでに私にとって光さんはかけがえのない存在なんだと思います」

 

「やっぱりあの時、()()()()()()()()()()()()()()()わね」

 

 

レミリアは微笑みながらそう言うと、咲夜は「はい!」と満面の笑みで答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

 

あれからどれくらい時間が経ったのだろう。

明るかった空もオレンジ色に染まっており、日が暮れようとしていた。

咲夜は光の帰りを待つ為に、ただただ窓の外を眺め続けていた。

レミリアはその間、咲夜の傍で同じく光の帰りを待っていた。

そして…。

 

 

「永琳!永琳!!!早く来てくれ!」

 

「これは…」

 

「光さん……?」

 

 

永遠亭の玄関の扉が思いっきり開けられた音がしたと共に暗上の焦った声が聞こえた。

その声に急いで向かった永琳のなんとも言えない声が聞こえ、咲夜は光に何かあったのだと察するには時間は要さなかった。

ベッドから飛び出した咲夜は病室の扉を開けて玄関の方へ向かった。

そして咲夜が見た光景は焦った表情の暗上とその傍らには意識が無い血まみれの光が居た。

 

 

「あ……あぁ……」

 

 

咲夜はあの悪夢を思い出したのかその場で立ち尽くした。

永琳は暗上にそのまま治療室へ連れて行くよう指示し、鈴仙に医療器具の準備をさせた。

咲夜は光の元へ向かおうとしたが、あまりのショックに下半身に力が入らなかった。

どうしようもない状況にただ俯くしかなかった。

 

 

「嫌だ…嫌だよ…光さん…」

 

「まったく…ハエみたいな声出されてすごく不愉快よ」

 

 

そんな咲夜を見て呆れ返ったのか背後から霊夢が現れた。

 

 

「霊夢…」

 

「安心しなさい、永琳なら何がなんでも死なせないわ」

 

「でも…」

 

「約束したのでしょう?ならあいつが目覚めるのを信じなさい」

 

「……そうね、ごめんなさい早とちりしてしまったわ」

 

 

その意気よと霊夢は言うとようやく咲夜の表情が和らいだ。

程なくして治療室から永琳が出てきた。

 

 

「永琳、光の状態は?」

 

「強力な力を使った事による反動でかなりダメージを受けたみたいだけど…命に別状は無かったわ、少し経てば目覚めるはずよ」

 

「………」

 

 

咲夜はその言葉を聞いて膝から崩れ落ちた。

彼は約束通り()()()()()()()()のだ。

 

 

「よかった……本当によかった……」

 

「とりあえず処置は完了したから、傍に居てあげて」

 

「ほら!いつまでも座ってないでさっさと行きなさい!」

 

 

霊夢に背中を押された咲夜はすごい速さで治療室へと向かった。

そして、ベッドの上で治療を受けた光とその傍で包帯を巻かれた暗上が座っていた。

 

 

「咲夜さん来てくれたのか、安心してくれ!光ならもうすぐ目覚めるはずだ」

 

 

咲夜は安堵の表情で暗上の反対側の椅子に腰掛けると、光が目覚めるのを待った。

程なくして光が目を覚ました。

 

 

「咲夜…さん…?」

 

「……おかえりなさい、光さん」

 

「……ただいま」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

その後永琳に診察されて、結論から言うと()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()だった。

恐らくスペルカード『想集六連斬』が原因だろう。

金山との一騎打ちの時にかなりの時間を有したから、それがかえって身体に影響を及ぼした。

強力な技である程その分反動も大きいのは能力者としてよくある話だ、やはりこのスペルカードはここぞという時に使うべきだな。

光は右手にあるスペルカードを見ながら今後の使用方法について考えていた。

すると病室の扉をノックする音が聞こえた。

 

 

「咲夜です、光さん居ますか?」

 

「居ますよ、入ってください」

 

 

失礼しますと言って扉を開けた咲夜は目元が腫れていた。

あれだけ泣いたのだから当然と言えば当然か。

咲夜は黙ったままベッドのそばにある椅子に腰かけると深呼吸をして意を決して口を開いた。

 

 

「申し訳ございませんでした光さん、あの時の私は身勝手すぎました」

 

「ど、どうしたんですか突然!?」

 

「まだ光さんからちゃんとした返事も貰っていないにも関わらず…その…口付けを…したので!……不愉快な思いをしたはずなので…」

 

「あ、あぁ〜…」

 

 

光は咲夜に告白された時の事を思い出した。

正直咲夜からいきなりキスされたのは驚いたが、不愉快な思いはこれっぽっちも無かった。

そもそもこうなったのは光自身が曖昧な返事をした挙句変な約束をしたのが原因だ。

光が全部悪い、うん。

 

 

「だからその…本当に申し訳ございませんでした!」

 

「ちょ、ちょっと待ってください咲夜さん!俺は一ミリも不愉快な思いはしてませんよ!」

 

「え?」

 

「正直あのような形でファーストキスを奪われたのはビックリしましたが、それは俺が中途半端な返事をしたのが原因ですし、咲夜さんは謝る必要はありませんよ」

 

「ですが…」

 

「それに金山との戦いをしていく中で俺は気付いたんです」

 

 

光は徐にひとつのスペルカードを取り出すとそれを見せた。

 

 

「このスペルカードは丑満時 静夜との戦いで発現したスペルカードなのですが、実はその後別のタロットカード使いと戦った時に一度不発したんです、それがあって以降は二度と使うことはありませんでした…ですが」

 

 

光はスペルカードを持つ手とは逆に咲夜の手を握ると目を合わせて微笑んだ。

 

 

「咲夜さんのお陰で…咲夜さんという存在がこのスペルカードを再び発動することが出来ました、咲夜さんの想いが俺に力をくれたんです。正直俺は好きという感情が分かりませんでしたが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……!」

 

「だから…改めて俺から言わせてください…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()

 

「……っ……うぅ……」

 

 

その言葉に咲夜は大粒の涙を流した。

だが、光は戸惑う事も驚く事もしなかった。

何故なら彼女の涙は歓喜に満ち溢れていたから。

 

 

「こちらこそ……よろしくお願いします……光さん、約束を守ってくれてありがとう……私も……貴方が好き……大好きです…!」

 

「………へへ」

 

 

咲夜の言葉を聞いた光は優しく抱き締めた。

この日、星空が彼らを祝福していた。

これまでも、これからも光は武器を取り幻想郷に降り掛かる脅威と戦い続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()

 

 




という訳で初投稿してからちょうど6年が経過したこの日に、二人が付き合うという奇跡的な展開まで持ってこれました。
いや〜長かった。
出会ってすぐ付き合うのもどうかと思ったのでここら辺がいいタイミングかなーと思いました。
これからも駄文駄作の不定期更新ですが読んでいただけると幸いです。


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幸せとは

今年最後の投稿でございます。
気づけば年越しの季節になりましたね、皆さんはどんな一年だったでしょうか?
私は数年ぶりに県外へ外出できて元の生活に戻りつつある感じがして楽しかったです。
来年はもっと外出出来るといいなぁ


 

 

 

ある日、男は人里で買い物をしていた。

店主の男は活気ある声で買い物をしている男に特大の魚を渡した。

 

 

「ほらよ!兄ちゃん!今日の一番いいやつを持っていきな!」

 

「い、いいんですか?」

 

「いいっていいって!いつもうちの魚を買ってくれる常連さんだからこれくらいしないとバチが当たるってもんだ」

 

「……ありがとうございます、ではお言葉に甘えて」

 

 

毎度あり!と笑顔で見送った店主にお辞儀をして男は店を後にした。

男はいつも通りの買い物ならば、次の店へ向かうのだが…今回は違った。

なぜなら…。

 

 

「光さーん!こちらの買い出しは終わりましたよ!」

 

 

先日、彼女として付き合う事になった女性と共にしていたのだから。

 

 

「奇遇ですね咲夜さん、さっき僕も良い魚を仕入れてきましたよ」

 

「こんなにいい物を貰ったんですか!?…今日はもう一品追加しようかしら…」

 

 

その場で真剣に考える咲夜に対し、光は笑っていた。

二人で追加の一品について話し合うという和やかな空気の中、向こうから平田がやってきた。

 

 

「おや?光くんと咲夜さんじゃないか」

 

「平田か、この前は色々と咲夜さん共々世話になったな」

 

「気にしないでくれ、仲間なんだから」

 

「仲間……ね、もう幻想郷(ここ)には慣れたのか?」

 

 

すると平田の背後から沢山の子供達が走ってきた。

 

 

「平田先生!こんにちは!」

 

「先生…この前の授業…分からないところがあるから教えて欲しい…」

 

「先生!見てよこれ!この前綺麗な石を見つけたんだ!」

 

「おい!平田!あたいと勝負しろ!」

 

「あはは!みんな元気で良いね!……ただチルノ、僕と勝負するのは構わないけれど、呼び捨てじゃなくて先生と呼んで欲しいな」

 

「うぅ…分かったよ…先生」

 

「よろしい」

 

 

平田の周りに沢山の子供達が囲むようにして集まると様々な話題で溢れかえっていた。

平田は終始笑顔で対応し、子供達の目を輝やかさせていた。

それを見た光と咲夜はお互いに目を合わせて笑った。

しばらく経つと子供達は満足したのか次々と離れていった。

 

 

「聞くまでもなかったな」

 

「あぁ、お陰様でご覧の通り子供達には引っ張りだこさ」

 

「以前まで敵として対立しているなんて信じられないくらい、寺子屋でご活躍なさってるんですね」

 

「そう言っていただけるなんて、光栄です」

 

「お前みたいな教師が来て、慧音も暇してるんじゃねぇか?」

 

「そうでもないさ、教科によって変わるから相変わらず忙しいよ」

 

「その割には楽しそうだったぞ」

 

「当たり前さ、僕にとって守りたいものは()()()()()()だからね」

 

「教師の鑑ですね」

 

「あはは、守護者として当然の事です」

 

 

平田は恥ずかしそうに笑うと、光と咲夜は微笑んだ。

 

 

「それにしても、光くん彼女さんと二人で買い物なんてアツアツだねぇ〜」

 

「そりゃ好きな人だからな」

 

「おぉ…まさか直球で返されるとは思わなかったよ」

 

「…?、何か問題か?」

 

「はぁ〜、君は相手がどう思ってるか考えた方がいいよ」

 

「……あ!」

 

 

呆れる平田に対して光は咲夜の方を見ると、顔を両手で覆っていた。

両手で覆っても真っ赤なのが見て分かる。

 

 

「す、すいません咲夜さん!無神経な事を…」

 

「い、いえ怒ってる訳じゃないので気にしないでください!(好きな人って言われた!好きな人って言われた!!)」

 

「……でも好きな人というのは本当のことですからね?」

 

「〜〜〜ッ!分かってます!分かってますから!!」

 

「はいはい、イチャイチャするのは構わないけど人目が少ないところでやってね」

 

 

再度呆れ顔で注意する平田に二人は苦笑いで謝罪した。

その後そこへ一人の少年がこちらへ歩いてきた。

 

 

「平田先生!こんにちは!」

 

「おや?太郎くんじゃないか、こんにちは、先生に何か用事かな?」

 

「これ!先生に渡したくて作ったんだ!」

 

 

太郎と呼ばれた子供は無邪気な笑顔で平田に何かを渡した。

それは()()()だった。

どうやら太郎はお母さんと一緒に平田のために鈴を作ったようだ。

平田はそれを見て満面な笑顔で受け取り太郎の頭を撫でた。

 

 

「これを僕のために?…ありがとう!大切にするよ!」

 

「いつも僕達に勉強を教えてくれるからそのお礼だよ!」

 

「あはは!僕は当たり前のことをしてるだけだよ」

 

「でも平田先生が来てから凄く授業が楽しいんだ!慧音先生はなんか怖くて…」

 

「確かにあの人は怖いね…」

 

「だから先生!これからも僕達にたくさん勉強教えてね!」

 

「あぁ!約束だよ!」

 

 

平田は笑顔で太郎は頭をわしゃわしゃと撫でた後、お母さんの元へ帰らせた。

その後手元にあるお守りを見つめたあと大事そうに両手で包み込んだ。

 

 

「二人ともすまない、急用ができてしまった」

 

「お前は本当に子供が好きなんだな、俺達の事はいいからさっさと行け」

 

「またお会いしましょうね平田先生」

 

「ありがとう二人とも、それじゃ!」

 

 

平田は手を振りながらその場を後にした。

去り際に見えた横顔はとても逞しく子供達、人里を守る者としての志を持っているように感じた。

残った二人も買い出しを終えたので紅魔館へと帰路についた。

その道中二人は並んで歩いていると咲夜が持っている買い物袋を見てサッとその持ち手に手を置いた。

 

 

「咲夜さんその袋、持ちますよ」

 

「お気遣いありがとうございます、ですがこれくらい大丈夫です」

 

「いやいや…そういう訳にも行かないですよ」

 

「私が大丈夫だと言ってるんですから、そこまで気を使わなくて良いんですよ」

 

「それでもダメですよ、ほら持ちますから」

 

「大丈夫です!私も少しは運動しないといけませんから!」

 

「……咲夜さん、そこまで頑なに断るのはなにか理由があるんですか?」

 

「………」

 

 

なかなか承諾しない咲夜は光の言葉を聞くなり頬を赤らめながら俯くと観念したように答えた。

 

 

「……かん」

 

「?」

 

「鈍感ですよね…光さんは…」

 

「え?ど、鈍感という…のは?」

 

「もお!」

 

 

咲夜は頬を膨らませると空いている手で光の手を握ると、指を絡ませた。

それを見た光はトマトみたいに顔を赤くした。

 

 

「私が断るのは……こういう事です……それでもダメですか?」

 

「……いえ、すみません……察しが悪くて」

 

「分かればいいんですよ、では行きましょうか!」

 

 

咲夜は笑顔でそう言うと、光は「はい!」と笑顔で返事をして二人で手を繋ぎながら歩き出した。

 

 

「(咲夜さんって結構甘える人なんだな……可愛い)」

 

 

ウキウキで手を繋ぎながら歩く咲夜にやれやれと微笑む光なのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

幸せとはいったい何なのだろう。

好きな人と付き合うこと?自分の欲求を満たすこと?

最早…今になってはその意味が分からなくなってしまった。

なぁ…()ならなんて答えるんだい?

……なんてもう君の顔を見ることすら叶わないのに何を言ってるんだろうか…。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

雨天 光、幻想郷の英雄…。

果たして君はこの世界で大切な人を守り切れるのか?

 

 




この作品を投稿してから6年、ようやくふたりが付き合うところまで進めることが出来ましたし、よくここまで長続きしたなぁと思います
これも日頃応援してくださる皆さんのおかげです。
これからもよろしくお願いします。
それでは皆さん良いお年を!


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VS用心棒

新年あけましておめでとうございます
今年もよろしくお願いします
という挨拶から1ヶ月が経過したわけですが
すいません、普通にリアルの方で多忙期の襲撃に逢い今現在投稿ペースが下がっております
(そもそもそんなに投稿ペース早くなi)
合間を縫って続きを書きますが見守っていただけると幸いです


 

 

 

 

翌日、光は人里付近にルフェールの手下達が暴れているという報告を受け、対応していた。

 

 

「くたばれ!」

 

 

ガタイの大きいルフェールの手下はそう言うと光に向かって大きな拳を振るった。

光は手下の攻撃を回避すると横に回って脇腹に刀を突き刺して引き抜いた。

その際に大量の血が吹き出て光の顔を赤く染めるがお構い無しにそのまま首を切り落とした。

次に背後から銃声が聞こえたと同時に光は振り向きながら横に飛んで弾丸を避けると、体勢を低くして走り出した。

迫り来る光にルフェールの手下はライフル銃を構えて数発発砲するが、光は刀で一つ一つ弾丸を弾いていった。

そして射程圏に捉えると刀を突き刺してルフェールの手下を宙に浮かせると、飛んで手下の身体を切り刻んだ。

着地したと同時に正面から刀を持ったルフェールの手下が走ってくると刀を振り下ろしてきた。

光はそれを刀で簡単に防ぐと、蹴りを入れて相手の体勢を崩させると間髪入れず刀で相手を一撃で仕留めた。

一度血振るいをして辺りを見渡すと、光ともう一人、同行している者も難なくルフェールの手下達を倒していた。

 

 

「君達単調だから罠に掛かりやすくて助かるよ」

 

「う………」

 

 

そう呟く平田は影複数のルフェールの手下達の首をワイヤーで刺し殺していた。

傍から見るとかなり惨い光景なので光は直ぐさま視線を逸らした。

 

 

「裏切り者とはいえ元は部下にあたる奴らなんだろ?意外と容赦無いんだな」

 

「それでも相手は俺達を本気で殺しに来てるんだから、それとも君から見て僕は自分が裏切った組織にまだ情が残ってる未熟者だと思ってるのかい?」

 

「本気にすんな、からかってみただけだ」

 

「それは笑えない冗談……っだね!」

 

 

平田は背後から襲ってきたルフェールの手下をワイヤーで捕らえると輪刀で胴体を切り裂いた。

負けじと光も迫ってくるルフェールの手下を迎え撃った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・

 

しばらくして周辺に残党が居ないことを確認すると、二人は武器を下ろして呼吸を整えた。

 

 

「ふぅ…今回はかなり数が居たな」

 

「僕や暗上含めて、既にタロットカード使いが複数人敗北してるからね、上の連中もかなり殺気立ってるはずさ」

 

「そういえばお前らタロットカード使いにも上下関係はあるんだな」

 

「どのカードの暗示なのかは教えられなかったけどね」

 

「……飛鳥は……タロットカード使いなのか?」

 

「君…!もしかして十神様の知り合いなのかい!?」

 

「十神様って…あいつってその組織の中でも高い地位に付けてるのか?」

 

「高いも何もルフェールのボスに側近で仕える連中のひとりだけど?」

 

「ルフェールのボスに仕える…側近…」

 

 

そんな…あの飛鳥が…と言った光の顔は絶望に染っていた。

これだけの勢力を持つルフェールのボス、幻想郷でいう紫のような立ち位置であるヤツの側近に仕えているひとりがあの飛鳥なのだ。

光が外の世界で接していた飛鳥はそんな連中と仲間になるような奴ではなかった。

やはりあの時…凛音が原因であいつの中で何かが変わってしまったんだ…俺が……

 

 

「……くん」

 

 

俺が……俺のせいで……

 

 

「ひかる…くん」

 

「光くん!!!」

 

「っ!?」

 

 

気がつくと心配した表情をした平田が光の顔を覗いていた。

 

 

「大丈夫かい?顔色悪いよ?」

 

「あ、あぁ…すまん」

 

「……その様子じゃ十神様と何かあったみたいだね、この話はやめておこう、今は何処から敵が来るか分からない状況だからね」

 

「すまん……迷惑かけた」

 

「気にしないで、また機会があったら話そう」

 

「おう」

 

「やはり口が軽いヤツは真っ先に始末するべきだな」

 

「!」

 

 

二人は武器を構えて声のする方向を見ると、そこには先程戦ったルフェールの手下とは明らかに違う服装をした男が歩いてきた。

黒服の上に白のズボンと紫の筋が入った白ロングコートを身につけ、首元には細かくは見えないがネックレスを付けているのが分かる。

それを見た平田から信じられない言葉を聞くことになる。

 

 

「君……もしかして十神様の()()()か?」

 

「久しぶりだな、平田…いや裏切り者」

 

 

用心棒…こいつの名前と言うことか?同じ組織に所属していたとしても名乗らない奴が居るのか。

 

 

「随分とセンスのない呼び名だな?本当の名前を名乗ったらどうだ?」

 

「俺の名前は用心棒、それだけだ」

 

「ハッ…そうかい、まぁお前の名前なんざどうでもいい、ここで死ぬんだからな」

 

「あぁ…言われずともそのつもりで来ている」

 

「……光くん、この人の実力は金山に引けを取らない、油断しないように」

 

「………」

 

「その減らず口を今すぐ斬り裂いてやろうか?」

 

 

用心棒は平田に刀を向けると構えて、地を蹴った。

光が応戦しようとしたが、平田が手で制し同じく輪刀を構えて地を蹴った。

大きく刀を振り上げてきた用心棒は平田と接触した瞬間振り下ろし、片方の平田は輪刀で受け止めたと同時に横へいなすと背後に回ってもう片方の輪刀で用心棒の首を切り落とそうとするが、そこへ()()()()()()が平田の攻撃を防いだ。

それは用心棒の手にあった。

()()()だ、あの用心棒は二本の刀を使う戦闘スタイルなのだ。

もう片方の手で平田の輪刀を背面で受け止めた用心棒は、受け流された刀を地面に突き刺して飛ぶと空中で斬撃を放った。

それを輪刀で切り刻んで威力を殺すと、走り出して身体を捻って二つの輪刀に力が行くようにして用心棒に攻撃した。

それを二本の刀で受け止めた用心棒は平田の輪刀を力任せに弾いて、胴体に力強く蹴りを入れた。

吹き飛ばされた平田は地を転がり、木に激突すると息を切らしながら膝を着いた。

間髪入れずに用心棒は体勢を低くして走り出すと足に力を込めて飛び上がると、そのまま平田目掛けて刀を振り下ろした。

しかしそこへ光が割り込むように刀を出して防御した。

 

 

「おいおいおい、お前ら血気盛んでよろしいが、俺もいることを忘れるなよ?」

 

 

光は押し返すようにして刀を振るうと、用心棒は一旦距離を取り、刀を構えると光を迎え撃つ。

光は刀に想いを流し込み、振るうと用心棒の表情が少し歪んだ。

それを見逃さなかった光は斬撃のラッシュを繰り出し、用心棒を後退りさせていく。

このままではまずいと判断したのか攻撃を受けた瞬間に横へ転がって追撃を受けないように斬撃を放ち、光が斬撃を回避したと同時に身体を反転させて二本の刀で斬り付けようとしたが、そこへ平田のワイヤーが発動し、片腕を妨害されるが、それでもともう片方の刀で斬り付けようとしたが、光に難なく防がれてしまう。

このままではまずいと判断したのか光の刀を足場に飛び上がるとワイヤーを切断して距離を取った。

 

 

「そろそろ能力を使ったらどうだ?用心棒さん」

 

「………」

 

「確認するまでもないがお前は能力者二人を相手にしてる訳だ、どんな理由があって手を抜いてんのか知らねぇが、死にたくねぇなら能力を使ったらどうだ?」

 

「……やむを得ない」

 

 

 

そう呟いた用心棒は刀を持ち直すと、姿勢を低くして構えた。

そして地面が抉れるくらい踏み込むと、物凄い速さで光達に接近した。

そのまま用心棒は刀を振るうと、光はそれを受け止めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はずだった。

 

 

「っ!?」

 

 

瞬間、光は目を疑った。

何故なら目の前に()()()()()()()()()()()()()のだ。

そして再び同じような動作でこちらに向かってくると今度は正面ではなく、横から刀を振り下ろしてきた。

防御の構えをしていた光は慌てて対応するが、そのまま吹き飛ばされてしまった。

吹き飛ばされた光は刀を地面に突き刺して減速させて対応した。

 

 

「今…何が起きたんだ」

 

 

光はこの時、何が何だか分からなかった。

確かに今、用心棒の攻撃を刀で受け止めたはず、その感触すら覚えているくらいだ。

ラッシュで攻撃してくるのは、自分でもやるが、わざわざ攻撃前の動作まで戻るには一度下がるという行動が必要になる。

だが、あの用心棒にはそれが無かった。

瞬間移動したように見えた。

頭の中を整理していると再び用心棒が走り出してきた。

光は斬撃を放って相手の出方を待とうとしたが、なんと今度は()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

突然こんな事が起きるという事は奴が能力を使っている証…だがそれがどんな能力なのか全く分からない…!

光は腰を低くして用心棒の攻撃を正面から受けると、相手から追撃を受ける前に先に攻撃を仕掛けた。

光のラッシュに用心棒は二本の刀を駆使して受け流すと、後ろに飛んで斬撃を二発放った。

光はそれを横に飛んで回避した。

瞬間だった。

 

 

「なっ……!」

 

 

光は今確かに横に飛んだ。

横に飛んだ先には()()()()()()()が光に向かってきていたのだ。

いつ何処で追加の斬撃を放ったのか肉眼では確認できなかった。

しかも光が地に足をつけると同時に斬撃が当たるよう計算もされている。

 

 

「くそ!このままだと…!」

 

 

万事休すかと思ったその時。

一つの黒い壁が光の前に現れ、斬撃を防いだ。

この物体、使える奴としたらあいつしか思い浮かばなかった。

 

 

「大分苦戦してるみたいだな」

 

「暗上!」

 

「……少し遅いんじゃないかい?」

 

 

光の背後から現れた暗上と身体に影を纏った平田が現れた。

 

 

「とりあえず平田の怪我は和らぐ程度だが、動けるようにはなった」

 

「ごめん光くん、待たせたね」

 

「……助かる」

 

 

光は再び用心棒の方を向くと刀を構えた。

 

 

「暗上、あの用心棒とは関わりはあるのか?」

 

「まぁ一応な」

 

「あいつの能力……お前らなら分かるんじゃないか?教えてくれ」

 

「………」

 

「………」

 

「平田?暗上?」

 

 

光は口を閉じた二人の方を見ると二人は用心棒の方を見ながら眉間にシワを寄せて答えた。

 

 

「……ごめん光くん、なんて言えば……」

 

「俺が代わりに言う、その質問には俺達……いや()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「どういう事だ?」

 

 

暗上は影を手に持つとひとつ、ため息をついてから再び口を開いた。

 

 

「何故なら、この世にあいつの能力を見て生き延びた者は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()

 

 

 



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