―――1945年 ドイツ ブランデンブルク
男は、空を仰ぎ、嘆いていた。
空を埋め尽くさんばかりの銀の翼。降り注ぐ黒い粒。
我々に抵抗する術はもう無い。敗北は決していた。
男は、技術者であった。世界一と言われたこの国の技術に誇りを持っていた。
何処で間違ったのだろう。あの時、空を飛んでいたのは黒い十字だった。
手元の銃に目をやる。ワルサーPPK、我が国の名銃だ。これならば動作不良の心配はない。忠実にその役目を果たすだろう。恐れはない。数十秒後には同じ結末が待っている。
‥ただ、一つ思い残す事があるならば。あの黒い十字の飛ぶ姿をもう一度でいい、目にしたかった。
「ジーク・ハイル!!」
その建物に響いた一発の銃声のすぐ後、その街に轟いた数え切れない程の爆発が全てを掻き消した。
―――20XX年 北海
寒い。凍るようだ。
これが死んだという事か?いや、それにしては妙だ。確かに、冷たいぼんやりとした空間を漂っている今の状態はいかにも死んだようだが、どうにもそうは思えない。
手を動かしてみる。感覚があった。同時に少し体が動いた気がした。
生きている?もしやここは水の中か。私は感覚のあることを不思議に、しかし有り難く思いながら光の差す方へ進んだ。その途中、何か大きなモノが沈んでいくのが見えたが、それが何かまでは分からなかった。
「プハァッ!...ハァ..ハァ..」
水面へ出た。激しく息を吸う。周りには波以外なにも見えない。
やはり死んではいないのだ。そうなるとこの状況は‥遭難か?あの状況からどうやって?記憶には一切無いし、理由も思いつかない。
それはそうと、この状況は厄介だ。どういう訳か死んではいないのだが、このまま寒中水泳を続けていれば、じきに力尽きてしまう。
「何たることだ‥。」
私は驚いた。思わず口をついて出た声がまるで女、いやむしろ子供のように甲高かったのである。
顔に触る。体を見る。無駄に手足に何度も触る。
ひとしきりそうした後、私は一つの結論に達した。生前、というよりは前世というべきだろうか。その体とは全くもって違ったのである。
やけに大きな頭、細い手足、小さな体。まるで人形のようだ。身につけている服も、いつの間にかセイラー服になっている。
何なのだ、これは。少なくとも人間ではない。生まれ変わったにしても珍妙な姿だ。これならばヘルヘイムへ旅立っていた方がまだマシだったかも知れない。‥とりあえず寒中水泳をする必要は無かっただろう。
‥駄目だ。足がもう動かない。目が霞み始めた。さらに変な音まで聞こえてくる。低い連続した音。まるでエンジンの様な‥。
エンジン?そうだ、これはエンジンの音そのものだ。近くを飛行機が飛んでいるに違いない。朦朧としていた意識が急に鮮明になる。
私は空へ意識を向けた。私の耳がおかしくなったのでなければ、確かにこれはエンジンの音だ。飛行機はどこだ?‥見つけた。あれだ。
3発のパラソル機、おそらく飛行艇だ。この目がよく見える事に感謝しつつ、無我夢中で声をあげた。
「助けてくれ!!ここだ!おーい!!」
その声が届いたのか、それとも向こうが見つけてくれたのかは分からないが、飛行艇は翼を振った後、近くへ飛沫を散らしながら着水した。
紐の付いた浮き輪が投げられた。私は残る力を振り絞ってそれに掴まる。
「大丈夫か!?しっかりしろ!」
引き揚げられながらかけられた言葉はドイツ語では無かったが、何故か理解できた。
私を助けてくれたのは、よく分からない頭の大きな者達だった。
安堵からか、意識が薄れていく。しかしその時、私はしかと見たのだ。
翼に堂々と描かれた、黒い十字を―――。
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2話
――ドイツ ヴィルヘルムスハーフェン鎮守府 執務室
「提督、第708飛行中隊より入電です。『第3管区にて妖精1名を回収』とのこと。」
秘書艦の軽巡洋艦、ケルンがいつも通りの事務的な口調で伝えた。
「いつものようにしてくれ。」
こちらも慣れたように返すと、はい、とだけ言い部屋を出て行った。
第708中隊の第3管区‥机の上に積まれた戦闘報告書から1枚を探し出し、地図上で重ね合わせる。
「第8群狼艦隊 構成:U-VII型4隻。輸送ワ級2、駆逐ロ級1を撃沈、軽巡ト級1を大破、か。」
かなりの戦果である。撃沈があるので妖精がそこから出現しているのだろう。
妖精という存在についてはまだ多くの謎が存在するが、一般的には深海棲艦を浄化したものが艦娘であるように深海棲艦の周囲に見られる
そして、妖精にはそれぞれ得手不得手がある。艦娘の艤装に憑依し砲や魚雷の照準、装填を行う砲術妖精。彼ら専用の戦闘機や爆撃機を駆る航空機妖精。各種装備を生産、改造する工廠妖精などもいる。
人間よりずっと小さな彼らだが、この戦いにおいて最も重要な役割を担っているとも言えるのだ。
しばらくすると、ノックの音がした。入れ、というと静かにドアが開き、
「失礼します。」
とケルンが入ってきた。連絡のあった者だろうと思われる妖精を抱きかかえているが、すこしその妖精は疲れているように見えた。
「話すところによれば、北海を1時間近く漂流していたそうです。」
なんと。もし人間であったならば確実に死んでいるだろう。しかし、妖精は時折冗談のように頑丈な面を見せる時がある。乗っていた飛行機が墜落、地面に激突して炎上しても、その残骸からひょっこり出て来たという事もあった。その他にも――
「提督?どうしましたか?」
黙ってしまったのでケルンが心配したようだ。いやむしろ訝しんでいるといった口調だったが。
「いや、何でもない。」
考え事はどこかへ置いておき、その妖精に向き直る。
さて、この妖精はどのような妖精なのだろうか?
――北海上空 ブローム・ウント・フォスBV138 機内 数十分前
私は着陸する数分前に目を覚ました。地上を見ると、針葉樹の塊や点在する民家が見える。
「お、目が覚めたか。どこか異常はないか?」
乗組員の一人が声をかけてきた。首にヘッドホンを下げているところを見るに無線手のようだ。・・・体は奇妙だが、今の私もひょっとしてこのような体なのかもしれない。
「少し背中と尻が痛いくらいだ。」
と返答すると、相手はこれを冗談と受け取ったらしく笑いながら
「クッション性のない椅子ですまないな。」
と返した。本当にそれだけだったのでそう答えたのだが‥それはそれとして、聞きたい事を訪ねる。
「この機はどこへ向かっているんだ?」
「ヴェーザー=エムスだ。もうすぐ着くぞ。」
すぐに答えを得た。ヴェーザー=エムス!我らがライヒの北方、確かキールと並ぶ軍港があったはずだ。かの戦艦ビスマルクもそこで建造されていたはず‥。
などと考えていると、操縦席から声がした。
「もうすぐ着陸だ、備えてくれ。」
ほとんど登場人物がオリジナルですまぬ‥。
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3話
地面がゆっくりと近づいてくる。軽い衝撃を感じた後、機は少し飛行場を走り、やがて止まった。
ドアが開いたので降りる。すると、周りの景色に少し違和感がした。
大きいのである。木々も、建物も。よく考えると、今まで乗っていたこの飛行艇でさえ普通より倍ほど大きく感じる。
辺りをキョロキョロを見回しながらそんなことを思っていると、ふいに後ろから声がした。女性だ。
「そこにいるのが新しい妖精ですか?」
振り向くと、私の倍ほどもあるような大きな、若い女性がいた。いや、この女性を大きいと表現するのは間違いだろう。状況から察するに、私が死ぬ前の半分ほどに小さくなっているのだ。
その女性は、見る限り黒ずくめだった。将校のような黒い帽子、上質そうな黒い上着。赤いラインが目を引く黒の長手袋に、黒の‥おっと。
この、かなり身長差のある状況で上から順に服装を見ていたのでこうなるのは仕方が無い。というかスカートが短すぎるのが悪いのだ。
急いで起こった事故を自分の中で正当化し、頭から振り払う。すると、振り払った隙間を埋めるようにあることに気がついた。
この女は私の事を”妖精”と呼んだ。妖精。幼い頃に童話の中でくらいしか聞いた事はないが、もし今の私がそうだと言われたのなら妙に納得がいく。
確かに妖精とは小さくかわいらしいものだ。この人形のような私が動いていれば、そう呼ぶのが適しているだろう。
しかし、妖精である。ずいぶんとメルヘンチックな存在に生まれ変わったものだなあと思う。――同じ妖精であろう彼らが軍用機を飛ばしているところを見ると、少々ミスマッチに感じるが。
「――ではそこの妖精、私について来なさい。貴方たちは任務に戻ること。」
「「
彼らはピシリと敬礼をし、飛行艇へと戻っていった。女はそれを見てどこかへと歩き出したので、私も後に続いた。
女の向かった先には一台の乗用車があった。車種は見たことのない物だが、マークはフォルクスワーゲンのものである。余り詳しくない者から見てもなんだか高そうだと感じさせる造りだ。
などと考えていると、急に首元をひょい、と片手で掴まれ、放り込まれるように助手席に乗せられた。案外に力がある。
女が運転席に乗り込み、車は発進した。驚くほど静かで、乗り心地もよい。
しかし、先ほどは見上げるような形だったためよく見えなかったのだが、今になって見てみるとこの女、中々に美人である。
短く切りそろえた黒髪、整った顔立ちに大きな青い目。町を歩いていれば幾人もが振り返るだろう。表情が硬いというかツンとしていて人を寄せ付けないような雰囲気ではあるが。
だからこそ謎である。何故このような女性が軍属の服を着ている?兵士ではないだろうし、広報官あるいは諜報部?考えても分からないので彼女に直接聞くと、
「私はケルンです。ヴィルヘルムスハーフェン鎮守府提督付の秘書艦の任に着いています。」
と返ってきた。
なるほど、秘書官だったか。しかし、その答えは新たな疑問をいくつか生んだ。
”鎮守府”とは何だ?そのような組織は聞いたことがない。それに、彼女の名前も妙だ。ケルンとは、確かヴェストファーレンの都市の名前ではなかったか?
こちらが何も喋らなかったので生じた少しの沈黙の後、彼女は私にこう告げた。
「貴方は、これから鎮守府の所属となります。」
サブタイとか考えた方がいいのかな
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4話
私は少し戸惑った。そもそも”鎮守府”自体がよく分からない単語だった上、そこに所属せよとの言葉である。
思い返すと、このケルンという女は”提督”付の秘書であると言った。”提督”などという役職があるのは海軍ぐらいのものだろう。つまりは、海軍所属になれという訳か?
「ちょっと待ってくれ、どういう事なんだ!?」
「そのままの意味です。‥我らが国のため、尽くしてもらいます。」
国のために尽くす。前世で何度も聞いたこの言葉。ああ、生まれ変わっても変わらないのか。
「戦争中‥という事か。」
「そうです。丁度見えてきました、あれを見てください。」
走る車内からケルンの指さす方向を見て、私は愕然とした。
ねじ曲がり、所々吹き飛んでいるパイプの絡み合った建造物。まるで狂った金属細工師の作を炉に投げ込んだようだ。しかし細工というような大きさではない。私自身が前世の半分ほどの大きさになっているとはいえ、それが巨大という事は一目瞭然であった。その巨大な建造物が見るも無惨に破壊されているのである。
「な、何だ、あれは‥。」
余りの光景に、そう言うのが精一杯だった。そもあれが元々何だったかを予想できる情報は私の脳内には無かった上、何故あれが破壊されているかなど、想像も付かなかったのだ。
「旧
口をぽかんと開けたまま固まっていた私に、ケルンはそう言った。”深海棲艦”?また意味の分からない単語だ。
「深海棲艦とは、何だ‥?」
疑問を重ねる私に、ケルンが答える。
「深き海に棲まう艦。彼らは5年前突如出現し、人類へ牙をむきました。当時の人類の兵器では彼らに傷を負わせる事はできず、制海権、制空権を完全に喪失しました。さらに砲撃や強襲揚陸などにより沿岸部に集中していた工業地帯は占領、破壊され、復旧しようにも無差別爆撃によりインフラすらままならなかったと聞いています。」
・・・何という事だろう。そのような絶望的な敵を相手に戦争をしているとは。だが、分かる範囲の事からも、現状はそこまで酷くはなくなっていると分かる。
「ままならなかった、と言うことは、今は違うのだろう?」
半分確信していることを口に出す。
「はい。
そう答えるケルンの目には確固たる使命感が見えた。彼女は人類を脅かす深海棲艦に立ち向かう”艦娘”とやらの一人であるらしい。
「失礼、”艦娘”とは・・?」
ぼんやりと話の流れから分かりはするのだが、イメージが沸かないので尋ねる。
「乙女の姿をした軍艦。深海棲艦の裏返し。その中でも私はケーニヒスベルク級軽巡洋艦三番艦、ケルンです。」
答えはすぐに返ってきた。よもや、隣に座って車を運転しているこの女が軽巡洋艦だとは!何かの冗談だろうと思ってしまう反面、先ほどからの自分が人間でない様な口ぶりや、高等学校の生徒ほどに見えるが5年前の事を知らないかのような様子等、腑に落ちる箇所もあった。
さらに彼女は続ける。
「軍艦には乗組員が、航空機や戦車には搭乗員が必要です。それと同じように、深海棲艦に通用する兵器には貴方たち妖精の力が必要不可欠なのです。」
「なるほど‥。」
私が”鎮守府”とやらに勤めなければならない理由まで答えられた。おそらく、妖精は数が少ないのであろう。だから、私のような漂流者までを捕まえて戦いに投入されるに違いない。
「着きました、降りてください。」
いつの間にか、車は赤煉瓦の大きな建物の前に停まっていた。小さくなった体を伸ばしてドアを開け、地面に降りる。そして同じく短くなった足をめいっぱいに広げ目の前の階段を上ろうとすると。
ひょいっ。
車に乗せられた時と同じように、まるで猫のように掴まれた。やめろ、と言いたくなったものの階段をよじ登るのも大変そうだという結論に達し、そのまま連れて行かれる事にした。
IGファルベンは実在した企業(ナチス・ドイツ)だけど、解体されてるからいいよね・・?
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5話
――鎮守府 執務室
扉が開くと、そこには一人の男性がいた。見たところ30代近くではないだろうか。しかし肩には上級大将の肩章が、首には騎士鉄十字章が鈍く輝いている。髪は銀髪かとも思ったが、白いようだ。肌は少し青白く、目は蜂蜜の様な飴色である。
「お連れしました。」
ケルンが報告する。状況から見るに目の前の少し人間離れした風貌の男が”提督”なのだろう。ケルンが私を応接椅子に座らせると、その男は向かい側にゆっくりと腰掛けた。
「我が鎮守府へようこそ。私が提督のアルフレートだ。」
といいながら手を伸ばしてきたので、こちらもそれに応え握手をする。しかし、ようこそと言われても私からしてみれば無理矢理連れてこられたような物なのだが。
「おや、余り嬉しくはないようだね。でも、君がここにいなければならないのは規則なんだ。悪く思わないでくれ。それと、君には得意分野や、できそうな事はあるかな?あれば自由に言ってくれ。配慮はしよう。」
規則、か。この質問も、総動員体制でもある程度”志願した”部分を作るための茶番なのかも知れない。妖精は数少ない深海棲艦へ対する戦力。つまりはどこで戦うかを聞いているのだ。
「・・・飛行機を飛ばすことなら。」
前線には立ちたくないという気持ちを抑えながら、ゆっくりとそう答えた。ちなみにこれは嘘ではない。前世では航空機の技術者だったが、戦局の悪化によるパイロットの払底、研究所の極端な秘密主義などにより一度空軍に志願し落ちたという経歴を持った私がテストパイロットを務めていたのだ。
提督はじっとこちらを見た。
「分かった。エアハルト少将に連絡を頼む。」
提督がそう言うと、ケルンは執務机の上の電話をかけた。‥ダイヤルを回す様子が無かったが、内線電話だからだろうか?
「はい‥ええ。分かりました。提督、迎えを寄越すそうです。」
「そうか。ではそれまでコーヒーでもどうだね?ケルン、淹れてきてくれ。」
待っている間に飲んだコーヒーは、いつもより苦いように思えた。
――鎮守府
「初めまして。私がここ、鎮守府展開空軍司令部の指揮官です。エアハルトと呼ばれています。」
ぴったりと合った軍服を着た、私より少し大柄の妖精がそう自己紹介した。ちなみに妖精に名前は無いらしいが、指揮官等の位の高い妖精、エースなどには特別に名前を付けられることがあるらしい。要は”ネームド”である。
「よ、よろしくお願いします。」
前世ではほとんどやる機会の無かった軍式の敬礼をする。
「そう固くならなくていいですよ。妖精らしくないですね。すぐに任務がある訳ではないので、今日は各所を見回った後休んでください。案内と部屋は用意しました。」
そう言うと、エアハルト少将は机の上のベルをチリンチリンと鳴らした。
「よびましたか、しょうしょうかっか?」
すぐに部屋の扉が開き、少将の知的さを感じさせる声とは真逆の力の抜けるような声の妖精が入ってきた。飛行士の格好をしている。
「来ましたか。この方が先ほど伝えた新人です。一通り鎮守府を案内してあげてください。」
「りょうかいしました!さあ、ついてきて!」
その妖精は私の腕を掴み、ぐいと引っ張る。
「し、失礼します!」
引きずられるようにその部屋を出て行く私にはそう言うのが精一杯だった。
あんまりそういう要素ないけど一応設定は未来です
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6話
これからはできれば週2くらいで上げたいと思います
――空軍鎮守府内第1工廠
「ここで飛行機を整備したりするんだよ。ここは主に戦闘機を担当してて、私の”メッサーシュミット”もここで修理してもらったりするんだ。頼めば改造もやってくれるよ。」
「‥成る程。私もここに世話になるのだろうな。」
このとき私は平静を装っていたが、その実大変悩んでいた。何故かと言うと、この工廠で働いているのも妖精だったからである。ならば、ひょっとすると技術者も妖精では?私は技術者のままで良かったのでは?そのような考えが頭の中をぐるぐると回っている。
しかし、もう既に入隊する前提で話が進んでしまっているので今更後戻りは出来ないだろう。
「こういった工廠はこの鎮守府にいくつあるんだ?」
ひとまずその事で悩むのはやめ、見学に意識を向ける。
「えーっと、海軍が5つ、空軍が3つ、陸軍が2つあるよ。でも海軍以外はほとんど整備工場で、作るのはもっと内陸の方にあるんだって。」
「陸軍もあるんだな。」
「そうだけど。あ、後で見に行こうか。」
深海棲艦とやら、名前からして海上戦力かと思いきや、陸にも上がってくるらしい。言われてみれば、車から見えた景色に戦闘の痕らしきものがあったような気がする。
「次に行くよー!」
考え込んでいるうちに、私はいつの間にかまた引きずられていた。
――鎮守府第一飛行場
「ここが飛行場だよ!わたしの飛行機を見せてあげるね。」
まるで自動車化部隊の砲のように鎮守府内を移動させられ、私は飛行場、格納庫へ来ていた。
格納庫の中は薄暗く、所狭しと航空機が並んでいた。彼はその中から一つを指さす。
「これがわたしのだよ!」
示されたのはメッサーシュミットBf109 G型。大火力のマウザー20mm機関砲を持った、ダイムラー・ベンツDB605エンジンの高速を武器に戦う傑作戦闘機である。所々剥がれたペンキは、何度も死線を潜り抜けた証拠だろう。ふと胴体を見ると、並んだ12個の星の印が描き込まれていた。律儀に5つずつで列になっている。
「これは、もしかして‥。」
「あ、それはね、撃墜した数だけ星を描いてるの!」
やはり、話に聞く撃墜マークだったらしい。通常、エースと呼ばれるのは5機撃墜からである。気の抜けたしゃべり方をするが、とんでもない奴だったようだ。
「撃墜12なんて、凄いじゃないか。エースだったんだな。」
驚いた私がそう言うと、彼は首をかしげた。
「そうかな?エーリッヒ少佐とか、凄い人は普通に3桁くらい行ってるよ?」
「そ、そうなのか‥。」
そういえば前世でもそんな名前のトップ・エースが300を越えるスコアを持っていたような気がする。やはり空軍というのは俗に言う”人外”が発生する事がたまにあるのだろうか。‥人ではないが。
「?、何か言った?」
「い、いや。凄い人もいるもんだな、とな。」
声に出てしまっていたか。慌てて取り繕うと、彼はまるで自分が褒められた様にえへへ、と笑った。
やっぱりオールひらがなは読みづらいので一人称が「わたし」なだけに変更します
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7話
――波止場
私達が波止場に着いたときには、既に日はかなり傾いていた。
「そろそろ遠征に行ってた艦隊が戻ってくるよ。」
彼の言葉通り、ふいに海に泡が出たかと思うと、ざばあっ、と人間らしき顔がいくつか浮かび上がってきた。‥これが”艦娘”なのだろうか。
そして、どういう理屈なのかは分からないが、彼女らに付属している機械部品らしきものが光ったかと思うとそこからピョコン、ピョコンと妖精が飛び出してきた。
「Uボートさん、おかえりなさい!みんな、おかえり!」
大きく手を振る彼にならい、私も少し控えめに手を振った。‥そこの”艦娘”はUボートだったのか。確かに、頭だけを出して停泊しているという行動は潜水艦のようではある。
そして、先ほどUボートから飛び出した妖精達は、皆一斉にどこかへ向かっていた。
「皆、どこへ行ってるんだ?」
と気になったので聞くと、
「ご飯だよ、わたし達も行こうか!」
という答えが返ってきた。
ご飯。その単語を聞いた瞬間、私はこの体になってからそういえばまだ食事らしい食事をしていなかった事に気づいた。
グゥ。狙ったかのようなタイミングで腹が鳴る。彼はそれを聞いてニッと笑った。
――鎮守府妖精宿舎(ルフトヴァッフェ第9飛行団) 食堂
「乾杯!!」
陽気な声が妖精のサイズに合わせた専用の宿舎―通称ドールハウス、言い得て妙だ。―一杯に響き渡る。聞くところによれば、そこの彼が私を引っ張り回し‥案内している間に歓迎会の準備を隊の皆でしてくれていた様だ。私一人に大げさではないかと思ったのだが、長く戦争をやっていると何かにつけてこういった場を設ける事も必要なのだという言葉を頂いた。‥最もそう話してくれた妖精はどうも既に出来上がっているように見えたので、どこまで正しいのかは分からないが。
「第9飛行団へようこそ!‥といっても、ここは実験的な事をやったり訓練をやったりする所なんだ。つまりシステム上、新しく拾われたり集められたりした妖精の中で空軍に志願した者はとりあえずここに配属になる。だから、適性が見つかったり訓練が終わったりするとすぐに実戦部隊行きになるんだ。まあそうは言ってもその辺のくくりは結構適当な所もあるし、第9飛行団の所属でも実戦に出ることはあるんだがな。」
話している中で、かなり丁寧な説明を受けた。つまりはここで適性を見られ、その後それに合った部隊へ配備されるのだ。よく出来たシステムだなと思いながら、私は少しある期待を抱いた。
もし適性が出なければ、私は実戦部隊に配備されることはないだろう。あるいは、工廠の妖精に転属できるかも知れない。
そこまで考えたところで料理が運ばれてきたので、場の雰囲気もあり私は自然とそちらへ集中した。
シュニッツェル(注:オーストリアのトンカツのようなもの)を賞味し、パンとザワークラウトをビールで流し込んだ後、消灯の時間となり皆は部屋へ戻っていった。
そう言えば、私の部屋は何処だろう。そう思った私は昼間引っ張って回った彼に声をかけた。
「きみ~、の、部屋はぁ、わたしの、隣、だ、‥へけっ。」
が、見事に潰れていた。辛うじて彼の隣だという事は理解できたので、彼がフラフラしながら階段を上っていくのを支えながら一緒に行く。
「あ~‥ここ、ここ。じゃ、おやすみぃ~‥。」
そして、一つの部屋の前で止まるとそのまま滑り込むように入っていった。その隣を開けると、部屋には簡素なベッドと机、衣装棚があった。使用感がないので、ここがおそらく私の部屋だろう。
布団を被り、目を閉じる。‥今日はいろいろな事がありすぎた。明日もまたやることが沢山できるだろう。
そう考え、私は眠りについた。
「‥うぇっ。」
隣の辛そうな声は極力聞かないことにして。
週2とは何だったのか
HoIが面白すぎるのが悪いんや‥
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幕間 反撃の狼煙(前編)
ありがとうございます!
暗黒の年と呼ばれた一年から数ヶ月。
艦娘と呼ばれる少女達や、各地で出現した妖精達による軍隊。それら深海棲艦に対抗できる戦力が揃い始め、人類側はようやく深海棲艦の攻撃をくい止められるようになっていた。
ライン川東岸 リーメス要塞線:通称”
ライン川。ドイツの西を流れる大河である。ベネルクス諸国が相次いで陥落した一種の恐慌状態の中、ドイツ参謀本部はここを最終防衛ラインとして立案。総力を以て要塞線を構築した。人間の力で深海棲艦に対抗できる数少ない事、その一つが妖精兵の為の陣地構築であった。いくらこちらの攻撃が意味をなさない深海棲艦とはいえ、地面をすり抜けられる訳ではないのである。
幸か不幸か、深海棲艦はベネルクス諸国を制圧後南進を開始。フランスの抵抗をものともせずパリを陥落させ、フランスを降伏させた。しかしフランスは、残党軍の高官を元首とするレジスタンス政府”ナシオン・フランセーズ”を南部ヴィシーにて成立させ、妖精軍も加わっての抵抗を継続していた。
こうしてフランスの稼いだ時間により、要塞線は完成。深海棲艦の攻勢をどうにか止める事に成功したのである。
――20XY年 12月 ベルリン 対深海総司令部
「攻勢計画‥ラインにか?」
「はっ、私としましては、今こそが好機かと。」
紙束を差し出され少し困惑しているのは、アルフレート准将。対深海においての最大戦力、艦娘達をとりまとめる司令官である。
差し出した妖精は、ハインツ大佐。現在唯一と言える完全充足の戦車連隊の指揮官だ。
「現在我らがドイツは、ライン戦線、
「ドーバー海峡への打通、および戦略的余白の確保、そしてラインラントの奪還か。筋は通っている。‥しかしそれをなぜ私に?君達はもう私の指揮下にいる訳ではないんだぞ?」
妖精軍は初め、艦娘と一緒くたにされ、唯一だと思われていた”妖精と話せる人間”であったアルフレート中佐(当時)の下へ配属されていた。が、両方とも数が増えた事(それによる指揮官の昇進も起こっている)により、妖精陸軍は元々存在した人間の陸軍組織へ編入、ヴィルヘルム元帥の指揮下となっていた。
「本部の方にも一応打診はしたんですが、敵陣地を突き破るには戦力、とりわけ砲兵が足りない、と。空軍の精密爆撃機に頼れないかとも思いましたが、まだ生産が始まったばかりなので無理という事でした。」
「ライン戦線か‥確かこちらは要塞、あちらは陣地だったか。エルザスとは逆だな。そして大河を挟んでいる。防衛には向くが、攻勢となると本部が渋るのも分かるな‥。」
さらに敵はトーチカのようなものもいくつか作っているらしい。その上こちらの要塞は急造品であり拡張性が乏しく、大型の要塞砲等は配備できずにいた。もし配備したとしても弾薬の生産が追いつかないだろう。
「ウーン‥野戦砲レベルでもいいので、ある程度の制圧射撃支援が受けられれば‥。あと贅沢を言えば旅団規模の歩兵部隊。それだけあればアントワープまで突っ走るだけの軍の橋頭堡を確保できるはずなんです。‥はずなのに。」
悔しそうな顔をするハインツ大佐。もしかすると打診を却下されたその足でここまで来たのかもしれない。
「君、上は断る時に他に何か言っていなかったか?」
ふと、何かを思いついたような顔でアルフレート准将が質問する。
「ええと、橋頭堡さえ確保できればドーバーへの打通そのものはギリギリ可能だと言っていました。‥チェコ方面からの引き抜きや、例の民間徴用で新編中の自動車化師団の繰り上げ配備など、きわどい手を使う事になりますが。」
その表情を感じ取ったのか、端々から期待を感じさせる声でハインツ大佐が答える。すると、アルフレート准将はニヤリとした顔になる。
「歩兵については、私直轄の海兵隊1個連隊を貸そう。数は少ないが、強襲揚陸や渡河ならば通常の歩兵以上の働きはする。そして砲列だが、私にいい考えがある。」
そして、説明を始めるアルフレート准将。それを聞いて、ハインツ大佐の表情は次々と変わっていった。
「え、えぇ‥?確かにそれならば条件を満たす事は出来ますが・・・大丈夫なんですか‥?」
後編へ続く
もう週1更新(だいたい日曜日)っていう事で良いですかね
ちなみに今回の話は本編のだいたい3年くらい前です
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2.部隊に配属された
9話
――ヴィルヘルムスハーフェン鎮守府 妖精宿舎
「うぅん‥。」
私は窓から差し込む光で目を覚ました。起き上がろうとした時に、体の具合に違和感を覚える。
そうだ、私は”妖精”なるものに生まれ変わったのだった。そして今は故あって空軍に所属することになっている。
「おはよー!」
「へぁっ!?」
ガチャリ、とノックも何の前触れもなく扉が開き、昨日私を案内してくれた彼が入ってきた。それに驚き、私は変な声を出してしまう。
「さあ早く着替えて!ご飯をもらいに行こう!」
朝っぱらから元気な彼に少し圧倒されつつも、衣装箪笥を開き服を取り出す。白いシャツと黒いネクタイ、そしてブルーグレーのチュニック。これはフリーガーブルーゼというのだと、彼が聞いてもいないのに教えてくれた。
その後私がパンとコーヒーの朝食を済ませた所で、彼は適性テストの話を持ち出してきた。そして気がつくと私は、碌な返事もさせてもらえぬまままた引っ張られていたのである。
――鎮守府管轄内 第三飛行場
その飛行場は、一言で言えば簡素であった。元々が工廠の実験用のようなものらしく、土をただならしただけの路面に様々な航空機が並んでいる。ほとんどが記憶にあるもの、もしくはその派生形と思われる物だったが、一つ見覚えのない単発機があった。全体的にどことなく丸っこい形をした、空冷エンジンの戦闘機。よく見るとラウンデルの描かれている部分には、一度剥がした痕があった。‥別の国の機だろうか?
「おい、貴様、何しに来た?」
私がその機を見ながら考えごとをしていると声をかけられた。振り向くと、声をかけたのは無精髭を生やした妖精だった。
「あ、ディードリヒ大尉!ここに居たんですね!」
彼がそう言いつつ敬礼をする。私も一緒に敬礼した。まだ一日とたっていないが、これは思いの外すぐに敬礼の癖はつきそうである。
「ああ貴様か。覚えているよ。今はもう小隊長になっているんだったかね?‥で、今日は何をしに来た?あとそこの奴は誰だ?」
最初話しかけられた時は少し驚いたが、もしや口調が少し荒っぽいだけの普通の妖精のようだ。彼とも面識があるらしい。
「えーっと、この人はつい昨日海で拾われてきた人で、これからどんな適性があるかどうかのテストを受けるんです!」
「そ、そうです。」
少し勢いに流される感じで答えた。すると大尉は、何かに納得したような顔になる。
「成る程分かった。あと貴様、その様子じゃ知らないようだから言っておく。妖精には2種類いてな、深海棲艦を倒した時に出て来る”反転妖精”と、どこからか沸いてくる”通常妖精”だ。ふつう、反転妖精は兵器を扱うのに長けている。本能に近い物があるらしい。だから拾われたらすぐに軍に配属されるようになっている訳だな。もちろん訓練すれば通常妖精でも反転妖精と同じレベルで戦えるようにはなる。俺もその一人だ。」
妖精にそんな分類があったとは。私が半ば強引に軍に配属されたのもそうする理由があったからだと知ると少し腑に落ちる。
「ねえ、飛行機の用意ができたみたいだよ!」
彼が言った。見ると、飛行場には1機の複葉機が待機していた。確か‥ヘンシェルHs123という機体のはずだ。
私は様々な感情を胸中に渦巻かせながら、その機へ向かった。
主人公はテストでどんな結果を出すのでしょうか?
次回をお楽しみに!
‥こんな事書いてみたけど需要が1週間で消えてしまうな
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10話
イベントはただいまE3を攻略中です。決戦瑞鶴マジイケメン
――鎮守府管轄内 第三飛行場
「それでは行きますよ。」
整備員妖精がプロペラを回し、エンジンがかかった。
乗り込んだ機体は前世では乗ったことのない物だったが、操縦桿やメーターは記憶にある物と大差がなかった。これならある程度動かせるだろう。
「初飛行がんばれー!落ち着いてー!」
なにやら彼が私に応援をしてくれている。初飛行という訳ではないので、いささか微妙な気分になったがとりあえず手を振っておく。
一つ深呼吸して、ブレーキを外す。スロットル・レバーを倒すと、エンジンの響かせる爆音が一段と大きく鳴り始めた。
機体が進み始める。ビリビリと振動が伝わってくる操縦桿を握る手袋に、汗がにじんでいるのが分かった。目に映る周囲の物の速度がどんどん上がってゆく。
そして、突然ふわりとした感覚を覚えた。離陸だ。私はすかさず操縦桿を引き、上昇を開始した。
ああ、この感覚だ。前世と変わらない。私は、ピュウピュウと吹き付ける風を心地よく思いながら機を操っていた。複葉機には昔訓練していた頃に少し乗っただけだったが、まるで慣れ親しんだ機体であるかのように動かせている。これが”反転妖精”の恩恵であろうか?
そうして、機体はいつの間にか目標の高度1,000mへたどり着いた。上昇をやめ、ぐいっと旋回する。
『ザッ‥こちら地上管制。不備はないか?』
無線機からディードリヒ大尉の声が聞こえた。私は、テストパイロット式に答えた。空軍の正式を知らないのだ。
「こちら524番、感度良好。機体に異常は認められない。」
524番というのは、機体に書かれていた番号だ。元々所属していた部隊の番号か何かだろう。
『そうか、ならいい。燃料はざっと30分ぶん程入っている。弾と爆弾はないがな。まあ、あまり遠くには行くなよ。』
「了解。」
操縦席から頭を出し、地上を見る。鎮守府が模型のようによく見えた。‥あそこにあるのが
飛んでいて気分の良くなった私は、ふと高等飛行術を試してみようかという気になった。テストパイロットとはいえ、機体に負荷をかける術くらいは持っているのである。
かなり機体を上手く扱えているという事実も手伝って、私はかなり大胆になっていた。要は調子に乗ったのだ。
まずは急横転、操縦桿を思い切り横へ倒し、一度重力がひっくり返った。よし、全く腕は衰えていない。むしろ妖精になった事で上がっているようだ。
ここでふと思った。前の体はあまり強いとは言えず、強いGのかかる機動はできなかった。しかし、頑丈らしいこの体なのでは可能なのではないか、と。
行ったのは垂直旋回。機を横倒しにし、そのまま操縦桿を引く事で急旋回する機動だ。
「ッ‥!」
案の定、体に重いGがかかる。だが、私の今の体は「少し苦しい」程度で耐えてしまった。なんと。これは嬉しい。
そこからテンションが高くなった私は、ハンマーヘッドターン、シャンデル、
やがて燃料が減り、私は飛行場へ戻った。その後は機を返却し、宿舎へと帰った。
しかし、このときの私は浮かれてすっかり忘れてしまっていた。
これが”適性テスト”であった事に‥
524番というのは何かの伏線‥という訳ではないです
マトリョシカの歌詞の一部です‥
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11話
E4でジャーヴィスを掘っていたらリシュリューが2隻も出て来て笑いました
今までは1話投稿するごとに閲覧が100ちょい増える感じだったのがここに来てわさーっと増え始めたのでちょっと驚いております
―― 1週間後 鎮守府近海 上空
雲一つ無い空に、ユモ210エンジンの爆音が響く。
私が飛ばしているのはJu87D、スツーカ。少し旧式だが堅実な設計であり、我がドイツの快進撃を支えた名機だ。
『こちら中隊長機、触接機より入電。目標ははぐれ艦隊、軽巡ホ級が1、駆逐ハ級が2だ。10時方向へ針路を変更。』
「
隊長機に続き、編隊を崩さないように気をつけて変針する。少しくらいズレてもいいはずだとは思うが、初陣の私はそんなことにさえ緊張していた。
‥なぜこうなってしまったのか。いや、直接の原因は分かっている。適性テストではしゃぎ過ぎたのだ。
あの次の日。妖精宿舎にいた私へ1通の文書が寄越された。中身は‥「飛行士適性調査結果」だった。
運悪く、その時そのままロビーで開けてしまった。周囲にいた妖精達がのぞき込んでくる。
結果 戦闘機:C
攻撃機:B+
雷撃機:Bー
爆撃機:D
「‥これ、どういう評価なんだろう?」
そう言うのが先か、周りの妖精達がわっと湧いた。なんとなく、良い結果らしいことが分かった。
「やるじゃん!さすが反転妖精だね!」
中でも一番食いついてきたのは、飛行場へ一緒に行った彼だった。曰く、評価はSからFまであり、C以上からは適性ありという判定だそうだ。普通はどれかに飛び出た成績が出る事が多いらしく、彼の成績は戦闘機のみAでその他はD~Eだったと言われた。
「‥つまり私は、攻撃機と雷撃機に特に適性があるという事か。」
「そうだね!‥戦闘機にも乗れると思うけど。」
かくして、私が密かに思っていたこちらの世界でも技師となろうという計画は頓挫したのであった。
その後、私は第9飛行団団長より正式に配属命令が下され、第957実験中隊第2小隊の一員となったのである。
『こちら第4小隊。編隊から離れ、低空侵入の許可を求む。』
『ザッ‥そうか。今回は雷撃隊が混じっていたな。了解した。ただし攻撃のタイミングはこちらで指示する。』
隊長達が無線で連絡を取り合った後、私達の後ろを飛んでいた複葉の雷撃機、フィーゼラーFi167で構成された第4小隊がグォーンと音をたてて降下していく。
『このままでは少し待たせてしまうな。各員、増速せよ!』
私の配属された第957実験中隊は、航空機による対艦攻撃の新戦術を研究するための実戦部隊であった。
現在行っているのは、当たれば大きいが鈍重な雷撃機の欠点を補うため、急降下爆撃機による同時攻撃を行う、いわば”雷爆立体攻撃”の実験である。
「えーと、現在時速280キロで飛行中。方角は‥」
私と同時期に配属された、後部銃手兼航法士が現在の情報をたどたどしく伝えてくる。青い髪の四角い眼鏡をかけた彼は、もともと工廠にいたらしい。
『こちら第1小隊、目標を視認!突入準備せよ!』
私は脂汗で滑りそうになっていた操縦桿を握る手に力を込めなおした。
すいません空軍の編成については余り詳しくありません..ので勝手に設定を作らせてもらいました。
中隊は通し番号ではなく、コードのようなもの
中隊100番台ごとに、飛行団を形成し、ざっくりと担当が分かれている
作戦時には中隊を各飛行団から抽出し、フレキシブルな戦闘航空団を形成する
艦娘だって編成に関しては割と好き勝手してるのでこの世界ではそうって事で許して
次回、突入!
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12話
――鎮守府近海 上空
敵艦隊発見。その報に空気がピリリと引き締まった。そして向こうも私達に気がついた様で、ドン、ドンという対空砲火の炸裂する音が聞こえてくる。
「あわわわわ‥。」
「大丈夫だ、まだ遠くで爆発している。そう当たる物ではない!」
後ろの席から聞こえる泣きそうな声を叱咤する。人間、自分よりも怖がっている人を見ると不思議と恐怖が消えるものではあるのだが、後から思い返すとこのときの私は冷静すぎた気がする。こういうところが”反転妖精”の補正なのかも知れない。
『我々第2小隊は、中央の駆逐艦を狙う。ついて来い!』
そう言ってV陣形の先端の小隊長機が翼を振る。あちこちでパパッ、と撃ち上がる対空機銃の弾が光っていた。話に聞くところの
「ッ、ハアッ、ハアッ‥。」
ドン、ドンという音とともに現れる黒い煙のような対空砲弾の爆発跡。だんだんと振れ幅が小さくなってくる。相手の狙いが合ってきた証拠だ。それに混じる機関銃の光、そしてその中を突き進むエンジンの音――
『突入ッ!』
小隊長の号令で、私は一文字になり降下していく。エアブレーキ展開。
ウウウウウウウーーーッッ
あたりに唸るような音が響き始めた。Ju87”スツーカ”の代名詞、急降下時に風圧で鳴るサイレン、通称ジェリコの喇叭だ。
ガタッ、ガタガタガタッ
吹き付ける猛烈な風に、風防が振動する。速度が出すぎないようにエンジンを絞っているので際だって聞こえた。
黒い点でしかなかった目標の姿が徐々に現れてくる。海面に波の跡を残しながら回避運動をとっているそれは、まるで大きな黒いクジラのようであった。少なくとも私の知っている駆逐艦とはかけ離れている。
ビリビリと振動する操縦桿を固く握りしめ、自分に落ち着けと言い聞かせる。矢のように降りていく機体。目標が視界に占める割合が大きくなってゆく――
『投下!』
先頭の小隊長機が爆弾を投下し、離脱。それに続き、私達も爆弾投下のレバーを倒し、思い切り操縦桿を引いた。
「ぐうぅ‥。」
急降下から一気に機首を引き起こした為に発生した気絶しそうな程のGに体がきしむ。
「‥っハアッ!」
それが和らぐと、私は止めていた息を吐き出した。そして、次の瞬間。
ドゴォォォン!!
大きな爆発音が響いた。まさか、命中か!?
「副手、状況知らせ!」
「きゅう‥」
気絶していた。仕方が無いので自分で周りを見てみると、3隻とも朦々と炎や煙を噴き上げ、動きを止めていた。
『皆よくやった、全て撃沈だ!これより帰投する。被害を受けた者は知らせよ。』
「『了解!』」
この日の戦果は、敵艦隊、軽巡以下3隻を撃沈。此方の損害は雷撃機2機の撃墜と、多少の被弾のみであった。その雷撃機の搭乗員も、すぐに近海型U-ボートにより救助されたという。
‥しかし、たったの16機で巡洋艦を含む艦隊を壊滅させられるとは。やはり相手が艦である以上、一番効くのは雷撃であろう。しかし、今の我々には極東の同胞達が持つと聞くような軽快な雷撃機がない。時代遅れの複葉機か、鈍重な双発機ばかりだ。今回の結果からも分かるように、それでは敵の防空網をくぐり抜ける事は難しいだろう。
だが必要とはいえ、全く以て新しい物を開発するには長い時間がかかってしまう。今までにない分野となればなおさらだ。
‥いや、待てよ?同じような事例を私は見たことがあるような‥。
考え事をしながら少々雑な着陸をした後、すっかり疲れてしまっていた私は床に入るのだった。
次回はまた番外編です
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幕間 遠き同胞 1
あ、あと2000UA行きました。嬉しいです
極東の島国、日本。
何度もの大災禍からそのたびに立ち直り、発展を続けてきた小さな大国。
多数の国が意味を無くし、文明すら後退した
更に、独自の体系による対深海棲艦技術や精強な艦娘、妖精達の活躍により周辺諸国を開放し続けた。
未だ欧州との連絡は取れずとも、”大東亜生存圏”の旗頭として、その国は未だあり続けていたのである。
――2042年 南洋諸島 日本暫定統治領ボルネオ島 バリクパパン泊地
「ここも随分と静かになりましたね、龍驤さん。」
白い軍服を着た丸眼鏡をかけた青年は、湯飲みの緑茶を一口すすった後そう言った。
「せやなぁ‥今でもたまに空襲が来たりするけど、来たばっかりの頃は爆弾やなくて砲弾が降ってきた事もあったなあ‥。」
長椅子に青年と座っている特徴的な赤い服とサンバイザーが目立つ少女、軽空母龍驤も同じように茶をすすってそう答えた。
「そうですね‥。猫を連れたよく分からない妖精に話しかけられたと思ったら、あれよあれよという間に少佐相当官の肩章を付けられて、ここに飛ばされてましたね。一応前任がいてそのあとを継ぐという話でしたけど、その時はその人死んだのかと思いましたよ‥。だって建物が崩れかけの大きな家を補修しただけの代物でしたし。割と近くで陸軍の妖精さん達が戦ってましたし。」
ふう、と一息つき、昔の事を思い出す青年。
「まー、妖精と話せる人間は少ないからなぁ。上のお方達も血眼やったんやろ。」
「理屈は分かるんですけど、僕は元々ただの会社員ですよ。‥あれ以来、猫がちょっとしたトラウマになってるんですよ、ええ。」
「ネコなんかトラなんかウマなんか、はっきりせえや!アハハ。」
龍驤がケラケラと笑う。青年もそれにつられ、少し口元を緩ませた。
「ま、そう言うてもキミはこうして今までちゃーんと”提督”の役目を果たしてきたんや。もう相当官は外れてるやろ?自信持ちぃや!」
龍驤は青年の背中を軽く叩きながら言った。
「そう言えば、本土はどのくらい復興しているんでしょうね。‥しばらく戻ってないなぁ。」
「ホンマやなぁ。せや、休暇を申請すればええやんか!なあ、一緒に内地で”でぇと”と行こうや、な?」
背が低いから自然とそうなるのだが、まるで狙ってやっているかのような上目遣いである。そのキラキラした目線にあてられた青年は、すぐに諦めたような顔になった。
「分かりましたよ。‥でも、貴女は南洋方面の主力空母ですから難しいと思いますが、一応申請しておきますね。」
「ありがとう!いやーやっぱキミはええ奴やわ。あ、せや、鳳翔に何か土産でも用意せな。」
気の早い龍驤を見て、青年はクスリと笑みをこぼす。
「‥龍驤さん、まだ申請もしてないのに、もう行く気ですか?」
「あちゃー、せやったわ。アハハハ!」
真っ青な亜細亜の空に、二人の笑い声が吸い込まれていった。
「‥ところで龍驤さん、ずっと前から気になってたんですけど、私の前任って何者なんですか?私がここに配属されて、その人はどこに行ったんですか?」
「・・・それ聞くかぁ。実はな――――。」
時系列とかとっ散らかっててゴメンネ
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3.そうだ、雷撃機、乗ろう。
13話
――ヴィルヘルムスハーフェン鎮守府
「‥改造案、だと?」
「はい、先日の戦闘結果を鑑みた上での具申です。」
私が具申したのは、スツーカの雷撃機化であった。一晩考えているうちに、前世で聞いた計画を思い出したのだ。確か空母に搭載するために開発されていたが、肝心の空母が建造中止になったため使われなかった、という代物だったはずだ。
少し考えれば思いつきそうといえばそうだが、何故今まで作られていなかったのだろうか。理由の1つは、歪に発展した急降下爆撃の強力さだろう。もう1つは、雷撃機といえば進んでいるイギリスですら複葉のソードフィッシュが主力であるため、被害を受けやすいという風潮があるからだ。
「やはり艦船には、魚雷による攻撃が一番効果的だと考えます。よって――」
中隊長に説明する。前世の記憶を頼りにするのはどうなのだろうとは思ったが、自分のものであるのには変わりないので問題ない、と結論づけていた。
「――以上より、有益であると判断しました。」
どうだろうか?
「‥なるほど、君の意見は理にかなっている。いいだろう。」
中隊長は少し考え込んだ後、そう言った。
案外あっさり通ってしまった事に私は少し驚く。
「い、いいのですか?」
「構わないさ。そもそもここは実験部隊であるし、こういった意見は積極的に取り上げて行くべきだと考えている。・・・しかし、よくこんなすぐに意見を纏められたな。」
しまった、流石に不自然だったか。前日にヤマを張って詰め込んだ知識がたまたま学期試験に出た時のような心境で一気にやってしまった。前日ではなく前世だが。
「は、はっ。恐縮です。」
「うむ。‥ああ、そうだ。改装案は受理するが、君が言い出した事だし君も雷撃隊へ行きたまえ。適性も確かあるにはあったはずだろう?」
そうきたか。私が了解しすると、とたんに周りが騒がしくなった。いつの間にか集まってきていた隊の皆も、この案には乗り気のようだ。
「いいね、面白そうだ!」「あたしも賛成!」「わーい!」
妖精らしい、能天気で明るい反応であった。‥というか、この隊は女性がいたのか。妖精には生物学的な性別は無いようなのだが、精神には男性的、女性的とあるようでその辺りが非常にややこしい。
それはそれとして、事務的な事はほとんど中隊長が決めてくれた。私は第4小隊:雷撃隊の一人と入れ替わる事になった。機体については、1個小隊ぶんのスツーカとフィーゼラーを、ちょうど雷撃隊を増やしたいと考えていたという隣番号の中隊と交換する形となった。
「で、後は、この突飛な改造を請け負ってくれる技師がいるかどうかという事だが‥。」
隊の目が、一人の青髪に注がれた。工廠出身の彼なら何かあてがあるかもしれないという目線である。
「えーっとですね、あ、いや、うーん‥?」
彼は一人で悩んでいた。当然、皆はどうしたんだと尋ねる。
「知ってますよ。でも、少し問題があるんです。」
うp主の都合で来週は休みます
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14話
あ、2500UAありがとうございます
青髪によれば、その技師はとても変わり者だという事らしい。何でも、気に入った案件しかほとんど受けないらしいのだ。
しかし腕は保証できるらしく、特に改造にかけてはお手の物という。
「変わった物が大好きなので、多分嬉々として受けると思いますよ。変な事をさせるには1番向いているタイプじゃないでしょうか。」
「どことなく不安ではあるが‥その人に頼んでみるか。」
――次の日 ヴィルヘルムスハーフェン鎮守府内 空軍工廠
という訳で、私は青髪とその技師に頼みに行く事になった。
機械の音が響き、せわしなく動き回っている妖精の一人を青髪がつかまえて場所を聞く。
「すみませーん、ヘルミーナさんはどこにいますか?」
「あー‥あの人なら多分、裏で作業してると思いますよ。」
名前から分かるとおり、その技師は女性であった。最初に変わり者だが優秀な‥と聞いた時、なんとなく昔の作曲家のような気難しい男を想像していたので、少し意外だったが。
「あ、ここを曲がった所かな?」
青髪の言ったとおり、工廠の裏からガチャガチャと機械を弄る音が聞こえてきていた。きっと、その音をたてているのがヘルミーナさんだろう。そう考えて私が角を曲がろうとすると‥
「ッ!?」
急に、サッと背筋が冷たくなった。反射的に足を止めた瞬間。
ドゴオッ!!
すぐ目の前を鋭い風が吹き、同時に私が曲がろうとしていた方向と逆にあった、コンクリートブロックが爆ぜた。
「な、何だ!?」
私は思わず叫んだ。すると、軽い調子の声が返ってきた。
「あれ?‥あーゴメン。まさか人が来るとは思わなくて。」
見ると、そこには何やら馬鹿に大きな砲を翼に吊り下げた
「あ、君いたんだ!ひさしぶりぃ。」
そう言うと、彼女は青髪に歩み寄り、嫌がる彼は気にせずに肩を組んでいた。
「やめてくださいよ‥。」
「いいじゃん、つれない事言わないでよ。」
何やら、ただ単に知っている人という訳ではなさそうである。
「で、君は何しに来たのよ?ただ会いに来たってワケじゃないでしょ。ほら、もう一人の方もいるし。」
やっとこちらに話が向いた。そろそろ咳払いでもしようかと思っていたが、そうする必要は無かったらしい。
「えー、貴女がヘルミーナさん?今日は改造の話を持ってきたんだ。‥ところで、アレはなんだ?」
とりあえず本人確認をしたあと、私は先ほどから気になっていた大型砲付きスツーカを指さした。
「そうよ。私がヘルミーナ。で、アレはJu87 G型ね。元々Hs129に積んでた37mm機関砲を吊り下げた襲撃機型を作れないかって陸のなんか偉そうな人から頼まれたのよ。」
37mmとは‥。先ほど私のそばを掠め、コンクリートを粉砕していたのはこれか。運良く当たらなかったが、もし当たっていれば‥あまり考えたくない。
「まあ一応機体は耐えたし、飛行中でも撃てるだろうとは思うんだけど、こんなのを扱える人はいるのかどうか‥って、そうよ。改造の話を持ってきたって言ってたわね。」
「そうだ。これがその要求書だ。」
私は要求書、というか半分私の描いた設計図を手渡した。それを読んでいく内に、彼女はニヤリとした笑みを浮かべ始めた。
ちなみに私はキャラクターの名前を考えるのがものっすごい苦手なので、本作のキャラクターの名前は全て元ネタが存在します
暇だったら考えてみてね
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15話
ヘルミーナさんが、不意に資料をめくっていた手を止め、私の顔をじっと見る。
「‥設計図もあるじゃない。これ本当にあなたが描いたの?」
「そうだが。」
正直に答える。彼女は無言で私をしばらく見つめた後、紙面へ目線を戻した。
「随分とまあ細かく描いてあるけど、あなた本当にただのパイロット?‥まあいいわ。要はスツーカに魚雷引っかけられるようにすれば良いのよね?‥というか、なんで私の所には変な依頼ばっかり来るのかしら‥。あー、うん、分かったわ。」
途中で何かボヤキが聞こえたが、どうやら了承してくれたらしい。気分屋と聞いてはいたが、悪い妖精ではなかったようだ。
「ありがとう。機体は後で運び込んでおく。」
「お礼なんていーわよ別に。丁度この対地攻撃型が終わって暇だったしね。あ、じゃあ君、これを陸軍の所まで持ってってくれる?ハンス大佐って人だったはずよ。」
「僕ですか‥。」
流れるように青髪に仕事を押しつけるヘルミーナさん。嫌そうにしながらも断れない所を見ると、益々二人の関係が気になる。
「あ、そうだ。お礼はいらないとは言ったけどさ、改造終わったら酒保でビールでも買って持ってきてよ。4機も改造するんだから、その位は貰うわ。」
悪い妖精というより、多少図々しい妖精だったようだ。
――鎮守府近海 数日後
晴れた空の下、3隻の艦娘が飛沫を立てて海面を疾駆する。
先頭は、軽巡洋艦エムデン。艦隊の中では古参であり装備も旧式だが、長い間に渡って戦闘に貢献し続けた強者である。
「レーダーに感あり!10時の方向、距離11,000!」
彼女の艤装に憑依している乗組員養成より報が入る。
「針路そのまま。全艦、対空警戒態勢に入れ。」
「
その後に続くのは2隻の駆逐艦。Z2:ゲオルグ・ティーレと、Z4:リヒャルト・バイツェンである。
「ねえバイツェン、対空砲は今回禁止なんでしょ?つまんないなぁ。」
「そうよ、ティーレ。相手は試験機だと聞いているわ。壊しては困るのよ。」
「う~ん、ま、いっか!避けるのは得意だし。」
「そうね。でも、これはそもそも回避の演習よ?」
「あれ、そうだったっけ?」
よく分かっていない様子のティーレに、バイツェンは呆れた顔をした。
「貴様達!陣形が崩れそうになっているぞ。喋っている場合ではない!」
「「は、はい!」」
ずっと喋っていた2隻に、エムデンの叱責が飛んだ。彼女は今ではほとんど前線に立つことはないが、その経験を活かし練習巡洋艦となって役目を果たしている。
「!!」
そのとき、彼女の鋭い目が機影を捉えた。実験部隊の雷装型スツーカだ。編隊を組んで、左舷より低空で突入する気のようだ。
「ティーレ、バイツェン、遅れるな。両弦一杯ッ!」
彼女は立てる飛沫をより一層激しくし、空を睨んだ。
15話にして初のまともな艦娘シーンである
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16話
本当にありがとうございます
――数時間前
私達、新第4小隊は完成した機を受け取る為に、ヘルミーナさんのもとへ向かった。
「こっちよ-、こっちー!」
飛行場、ガレージの1つのそばでぴょんぴょんと跳ねながら手を振っている。その隣には、魚雷を腹に抱き、塗装も少し明るいグリーンになった4機のスツーカがいた。
「ふふん、ちゃんと出来上がってるでしょ?じゃあ、ほら。」
少し胸を張った後、そう言って右手を差し出してきた。私がついさっき酒保で買ったばかりのビール(缶)を渡すと、満足そうな笑みを浮かべた。
「さ、みんな揃ったわね。どーにか艦娘と訓練できるタイミングまでに改造したわよ。スツーカD型:雷撃仕様。要求だと爆弾投下用アームをF5航空魚雷に対応のフックに改装するだけだったけど、どうも1回始めちゃうと突き詰めちゃってさー、あはは。エンジンを最新型のユモ211Pに取り替えてみたり、翼内機関砲をMGFFにしたり色々弄っちゃったわ。たぶん性能低下はしてないはずだから、まあ許してね。」
後半は隊の皆のほとんどが頭の上に?マークを浮かべていたが、どうやら予想以上の改造を施されたというのは理解したらしい。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。エンジンまで換装したと聞こえたが、その予算はどこから‥?隊から渡した分ではとうてい足りないはずだ。」
私が一番気になった、というか驚いた点を聞いてみる。
「あー、そこは気にしなくていいわよ。私がやりたくてやっただけだし。追加料金の要求なんてしないわよ。」
いや、そういう訳ではなく知りたいのは金の出所なのだが‥。しかし、意図的に隠しているような雰囲気も見受けられたのでここは深く追求しないでおく。
「でも、そのような改造をよくこんな短期間で出来ましたね。」
小隊長がそう言った。確かに、言われてみれば作業量を大幅に増やしてなおかつ納期を遅らせないということはかなりの芸当である。
「まーね。私は好きでやってるから苦にならないのよ。・・・私は、ね。」
声のトーンを落とし、ふいっと横を向く。その先を見ると、疲れ果てた顔の技師妖精達が転がっていた。かなり酷使されたようである。
「まあ、それは、それとして。出来には自信あるし、訓練用の魚雷も積んであるから早速乗ってみたらいいんじゃないかな、うん。」
冷や汗を隠しつつそう言うヘルミーナさん。
「そ、そうですね。」
小隊長もそれに合わせ、死屍累々を強引に見なかったことにした。
機を受け取り飛行場に並べに行っている間、小隊の一人からこんな事を言われた。
「気分屋の女技師で、しかも酒好きってところで大体分かってはいたんだが、マジでヘルミーナ技師長に依頼してたなんてな。俺は驚いたぜ。」
「‥何だって?技師長?」
思わず聞き返す。
「え‥まさかマジで知らなかったのかよ!?あの人、鎮守府の空軍工廠における”裏の主任”みたいな人らしいぜ?Ju87本体の設計をしたのも彼女だっていう話もあるから、相当な古株でもあるな。しかも、軍の工廠だけじゃなく、いろんな所にコネがあると聞くぜ‥。なんで依頼できたんだか。」
それは本当かと私が皆の顔を見ると、皆して肯定の意を見せた。冗談ではないらしい。
「たぶん、気にしてたエンジンの案件も、そのコネでどこかから引っ張り出してきあんだと思うっスよ。」
「‥大丈夫なのか、それ?」
しかし、あそこで私の渡したビールを美味しそうに飲んでいるのがそんな大変な人物だったとは、妖精は本当に見た目によらないものである。‥というか、なに昼間から飲んでるんだ。それでいいのか技師長。
ブラック上司ヘルミーナ技師長
上司が超ノリノリでオーバーワークしてるので部下もやめるにやめられない
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17話
――鎮守府近海
「諸君、傾注!これより訓練飛行を開始する。本日は、軽巡洋艦エムデン以下3隻が対空回避演習を行うので、我々はそれに便乗し雷撃の訓練を行う。以上だ。」
『了解!』
小隊長の命令で、我々新編第4小隊は飛び立った。エンジンは快調。気持ち良い爆音を響き渡らせながらだんだんと高度を上げていく。
‥少し左右のロールに差があるな。トルクが強すぎる?しかも両翼内の20mm機銃のせいで機体がそもそも重い。する必要がある時はあるか分からないが、急旋回はほとんど無理そうだ。しかし、速度に関しては例の新型エンジンのおかげか、重量増加分があまり気にならない。ヘルミーナ技師長の調整の賜物だろうか。
つい、いつもの癖で機体をいろいろと評論していると、小隊長から通信が入った。
「4番、いいか?急降下爆撃は敵にどこまで近づけるかのいわば度胸勝負だが、雷撃は違う。むやみに近づきすぎてもかえって当たりづらいし、落とされる危険も増える。相手の針路を見極めて、最高の角度、場所、時間を狙うのが雷撃だ。分かったか?」
「は、はい。」
何やら深い事を言われたような気がする。流石は長い間雷撃機に乗っていたらしいベテラン妖精だ。と思っていると。
「あ、隊長のアレ、昔技術交流で来た外国のパイロットの受け売りっスからね。」
2番機があっという間に秘密をばらした。無線内にドッと笑いが起こる。
「ええい五月蠅い!それより前方を見ろ!目標発見だ。先頭の軽巡は‥あれは、エムデンさんか。その後ろに駆逐艦が2隻、単縦陣で航行中だな。」
「隊長さんよ、どうする?いつもの通りか?」
3番機がそう質問する。
「ああ、そうしよう。だが今日は新入りもいるし、一度確認するぞ。
まずは、横一列の陣形を作って、なるべく崩れないようにできるだけ速く飛ぶ。
次に、私が「用意」と言うから、フラップを開いて時速250キロ以下を目安に
減速。そうしないと上手く魚雷が動かないからだ。
そして、「今だ」といったら投下する。
解ったか?」
「りょ、了解!」
用意で減速、今だで投下。用意で減速、今だで投下‥。そう頭のなかで繰り返す。
そして、小隊の皆が高度を下げるのに合わせ、恐る恐る私も高度を下げ、エンジンを噴かす。
一段と高くなる爆音。波が目に追えない程速く過ぎていく。前に見える艦娘達が迫ってくる――
『用意!』
「ッ!」
フラップを展開すると、機体がガタガタと震え始めた。しかし、それほど速度は落ちてくれない。今や、目の前の3隻が飛沫を上げて急速に回避している姿がはっきりと見える。
バガンッ!!
エンジンの爆音に紛れて、近くでそんな音がした。
『い、今だ、今だッ!』
隊長が慌てふためいた声で叫ぶ。私はほぼ反射的に魚雷を落とした。艦娘はもう目と鼻の先・・・。
「!!」
私は思いきり操縦桿を引いた。機は急上昇し、すんでのところで激突は回避された。
『おい、どうした?何か不具合でも起こったか?』
通信に女性の声が入り込んできた。エムデンさんだろう。その直後に隊長が確認をとる。
『各機、状況知らせ!』
「3番、問題ないぜ。」「4番、問題なし。」
「えー、2番‥どうもフラップが吹き飛んだみたいっス‥サーセン。」
どうやら、先ほどの何かが壊れたような音は2番機の物だったようだ。
『了解した。2番機、飛行は可能か?』
「あ、ちょっと着陸は難しくなりそうっスけど、なんとか大丈夫っス。」
その帰りは、行きとは真逆にほとんど会話がなかった。
――その後 ガレージ
ヘルミーナ技師長に壊してしまった旨を伝えると、彼女は何やら微妙な顔をし、
「あーそっかー‥。貴方達今まで複葉機に乗ってたんだっけ。言うの忘れてた‥。」
と言った。
実は、彼女の設計ではフラップではなくエアブレーキを使って減速するようになっていたらしい。そんな重要な事は先に言えと小隊長達が抗議していたが、彼女は「高速域でフラップを全開にするような運用を、スツーカは考えていない」と反論した。
結局の所、機体はすぐに修理されたものの、隊の皆はどことなく気分が優れない様子だった。
ところで、一連の話の中でヘルミーナ技師長が言った一言が私は気になった。
「まー。別の所が研究してるタイプ91が完成すれば、そもそも減速しなくても良いかもしれないんだけどねー。」
タイプ91というのは、おそらくは新型の魚雷だろう。しかし、このドイツらしくないネーミングは何なのだろうか‥?
もう少し進んだら、纏めたものを別に出すかな‥?
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幕間 反撃の狼煙(後編)
――20XY年 ライン川
「諸君、これより”
そう叫び、軽巡洋艦エムデンは発進した。後に、駆逐艦Z1(レーベレヒト・マース)とZ3(マックス・シュルツ)が続く。
「‥この作戦、確かに計算上は問題ないのかも知れないけれど、とても正気の沙汰とは言えないわね。」
「上官を愚弄するような発言は慎め、シュルツ!」
Z3がため息とともにポツリと零した声をエムデンはすかさず拾う。
「正直言っちゃうと、ボクもあんまり乗り気じゃないかな‥。」
「お前もか、マース!貴様達は司令官の事を信用していないのか!?」
「もちろん信用してるよ!‥でも、さすがにこれはそういう気分になっちゃうかな。」
狂気の沙汰とまで言われてしまったこの作戦。その内容とは、艦娘3隻によりライン川を遡上、その艦砲にて渡河攻撃の支援を行うというものであった。
ガリガリガリ。
「エムデンさん、こすってる、こすってる!」
艦娘は概念的には艦である。詳しい事はよく解っていないのだが、艦娘として稼働している間は実際にそこに艦があるようにはたらくのだ。
よって、このように外洋航行用の艦に川を航行させる様な無茶をさせると、底を擦ってしまうこともあるのである。
ドン!ガキン!
当たり前だが、片側は敵である。対戦車砲が打ち抜いてくる事もあったが、幸い相手にとっても予想外の事態であり混乱していたのか、組織的な反撃は受けないまま予定の砲撃地点に辿り着くことができた。
「‥そろそろか。」
手にした時計を見ながらエムデンはそう言った。それを合図に、Z1が無線を開く。
「こちら艦隊。遡上は予定通り成功、現在射撃準備を行いつつあり。だよ。」
『こちら陸軍司令部、了解。渡河攻撃の準備に支障なし。射撃は任意のタイミングにて開始されたし。観測はこちらで行う。』
Z1はその内容を皆へ伝える。
「好きなタイミングで撃っていいって。観測もあっちがやってくれるみたい。」
「‥了解した。艦隊、砲撃用ー意ッ!」
エムデンが右手を前につき出すと、艤装上の主砲がそれに呼応して回転し、ピタリと一点を指して止まった。駆逐艦2隻もそれにならい、手に持った主砲を構える。
「射撃開始ッ!!」
ドン!ドドン!ドドン!
3隻の主砲が一斉に火を噴いた。支援に必要だとされた火力は100ミリ以上の榴弾砲による集中射撃。そう聞いてアルフレート准将はこれを思い至ったのだ。
「
8門の128㎜砲と、6門の152㎜砲による一斉射。これらの撃ち込む榴弾は、たちどころに敵陣を耕し、トーチカを粉砕していった。
『よし、渡河を開始する。射撃停止せよ』
砲撃で滅茶苦茶にされた敵陣地へ、海兵隊の妖精たちが渡っていく。その後ろには、人間も多く含まれる工兵隊が後続を送り込むべく架橋作業を開始していた。
「‥状況終了。艦隊はこれより帰投する。」
「どうしようかしら。この状態だと、私達はバックで帰るしかないのよね。」
「あっ。」
こうして、 ”
これにより、ドイツは低地諸国進撃のための橋頭堡を確保。そこから進撃を開始し、オランダの解放、およびドーバー海峡、つまりはイギリスとの打通を果たす。
後に”ライン攻勢”と呼ばれる事になるこの作戦こそ、欧州解放の楔であったのだ。
この回の発想の源は劇場版ストパンだったりする。
番外の過去編、これにて完結です。といっても短い話でしたし、また別の観点から過去編をもう一作出す予定ではありますが。
次回の本編では、少し話が大きく動き始めます。ご期待くださいね!
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4.決戦!オーロラを越えて ~E-1 ドーバー海峡迎撃戦~
18話
‥話が盛り上がるのに反比例して主人公の出番減っちゃうんですけど。
――ドーバー海峡 数週間後 深夜
―ココガ、奴ラノ‥。
静かに凪ぐ夜の海の上に、ソレはいた。
巨大な砲のような、しかし生物のようにも見えるモノを体から生やしたソレは、その赤く爛々と光る目で何処かを見つめている。
おもむろに、ソレはほぼ何も纏っていないその体の腹部をさすった。その部分は、その他のように白い肌ではなく、燃えたぎる石炭のようなモノが脈動していた。
ナンダ‥?
ふいに明るく照らされ、砲撃を受ける。胡乱な目でそちらを向くと、ユニオンジャックを掲げた巡洋艦が先頭に立ち、駆逐艦数隻を率いこちらに向かって砲を向けていた。
舐メラレタモノダナァ‥。
ソレは、憂鬱そうにため息を一つつくと、その赤い目をギョロリと艦隊に向けた。
ドドォン!ドドォン!ドドォン!ドドォン!!
ソレから生えた、15インチはあろうかという巨砲から、有り得ない速度で砲弾が飛ぶ。
直撃を受けた艦は簡単に吹き飛び、瞬く間に艦隊はその機能を失う。
再び静けさを取り戻した海を見て、ソレはもう一度、深いため息をついた。
憎ラシイ‥嗚呼‥
消エテ無クナレッ!!
「ア”ア”ア”ア”ア”ッ!!!」
ドォン!ドォン!ドォン!
狂ったようなソレの叫び声とともに、砲は火を吹き続ける‥。
――翌日 イギリス ポーツマス鎮守府
「何ですって!?」
提督、ジェーンは朝一番にもたらされた報告にモーニング・ティーを飲む事さえ忘れて、港へ走っていた。
「本当ですわよね!?ウェールズ。」
「ああ、本当さ。実際に被害を受けた艦がドックに入って緊急修理するんだって。」
しかしやはり信じがたい報告であったため、走りながらも隣を行く秘書艦、巡洋戦艦プリンス・オブ・ウェールズへ確認する。
「‥大変な事になりましたわ。」
彼女が深刻な顔をするのも無理はない。報告は以下の通りであった。
・昨日二三〇〇、レーダーに反応があったため、索敵撃破のためドーバー駐留中の警戒艦隊が出撃。
・二三三〇、轟沈は無し、なれど各艦甚大なる被害を受け撤退。修復のためポーツマス鎮守府へ帰投す。
・以上の損害は、通常種の深海棲艦によっては不可能と判断。之を以て新たなる”姫”級の来襲と判断す。
というものであった。
更に聞くところによれば、ノーフォークやケント、イーストサセックスの一部に沿岸砲撃を受け、対岸のオランダには強襲揚陸を受けているらしい。
彼女達がド港へ駆けつけると、そこには傷だらけになった艦娘、軽巡洋艦リアンダーとその指揮下の駆逐艦娘達がいた。
「貴女達っ!」
その姿に感極まり、ジェーンは叫んだ。
「あ、提督‥。すみません、心配かけて。」
「貴女が謝る必要はありませんわ‥。無事に帰って来れたんですもの‥。」
今にも泣きそうな表情でリアンダーに抱きつく。が、工廠の妖精に言われ、艦娘達は修復ドックへと向かった。
港には、提督と、その秘書艦が残された。ウェールズは問う。
「で、これからどうするつもりだい?提督。」
ジェーンは、泣きそうな顔から一転、不敵な笑みを浮かべこう告げた。
「決まっていますわ‥。私達に仇為す物は、決して許してはおきません。」
一大決戦の予感‥!
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19話
――数時間後 ルクセンブルグ 西欧方面司令部
そこには、険しい顔の二人がいた。
「まず状況の確認からだ。手短に頼む。」
先に口を開いたのは、ドイツ海軍最高司令官、アルフレート提督であった。先ほど連絡機で飛んできたばかりである。
「ああ分かった。昨夜、姫クラスと思われる艦が単騎でドーバーに侵入。イギリスの警戒艦隊をコテンパンにした後、沿岸に片っ端から砲撃したようで、当のイギリスだけじゃなくうちのカレーやダンケルクも少し被害を受けているらしい。」
報告したのはネイビーブルーの軍服を着た長身痩躯の青年、フランソワ提督。フランス本国艦隊の司令官である。
「で、その姫クラスは姿をくらましているが、それと入れ替わりに侵入してきた艦隊によってオランダ方面に強襲揚陸を受けてる。‥復興途中地域だから民間人に被害が出ていないのは不幸中の幸いだったか。だが、今はデン・ハーグに立て籠もって応戦中のオランダ軍はあまり長くは保ちそうにない。」
アルフレート提督は軽く頷く。
「成る程。では、反撃計画はどうなっている?敵の戦力は分かるか?」
「‥まだ情報がまとまっていないから断言は出来ないが、敵艦隊の規模は戦闘艦艇に限れば軽空母ヌ級が1、重巡リ級が3、軽巡へ級が2。その他、揚陸部隊を運んできたワ級が数隻と護衛の駆逐艦が数隻ってとこだな。揚陸部隊はこちらの基準でざっと2個連隊くらいらしい。まあちっと数は多いが、お前の所の艦隊なら撃破可能だろ?」
数年前に協議された防衛計画では、もし深海棲艦が侵入してきた場合、ドイツ艦隊が即応部隊となって敵を迎撃する事になっていた。それを踏まえてのフランソワ提督の発言だったのだが‥。
「駄目だ。」
アルフレート提督は首を横に振った。
「すまない、何だって?」
「今は無理なんだ。」
「何故!?おい、どういう事だ!」
思わず大声を上げるフランソワ提督。アルフレート提督は苦虫を噛み潰した様な顔で答えた。
「不覚にも、鎮守府近海に機雷を敷設されていた‥。飛行機からバラ撒くやつだ。現在除去作業中だが、すぐには艦隊を動かせそうにない。」
フランソワ提督はそれを聞くと、思わず額に手をあて唸った。
「‥待ってくれ。フランスの主力艦隊は今ダカールに展開中で、本国ブレスト鎮守府にいるのは軽巡1に駆逐艦4だけだぞ?イギリスにしても警戒艦隊はドック入り、本国の主力艦隊も今は作戦行動中らしいと聞く。」
がら空きである。
「それは何ともタイミングの悪い時に来られたものだな‥。」
「アテにしていたドイツ艦隊が動けないならばこうなるのは必至だろう!?‥いや、まあ、英仏が同じタイミングで主力を動かすなという話なのかもしれんが‥。」
二人同時にため息をつく。
最早どうすれば良いのか分からず、暗い雰囲気が部屋に漂い始めた。が、
バアンッ!
派手な音をたてて扉が開かれる。
なんでドイツ人とフランス人が普通に会話してんだよ、というツッコミに対しての先制攻撃ですが、
この世界には艦娘、妖精、そして提督(=妖精と話せる人間)のみが解する共通言語、仮称「妖精語」があります。
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20話
派手な音を立てて部屋に入ってきたのは一人の青年だった。
長身で切れ目、薄い金髪碧眼。勲章の多く付いた青い軍服を着ている。
「話は聞かせてもらったぞ。私にいい考えがある。」
突然の登場に、独仏二人は驚いて立ち上がっていた。
「お前は‥。」「ニコライか!」
ニコライ。若きロシア対深海局の重鎮であり、ペトログラード鎮守府の司令官でもある。
「‥こんな時に何をしに来た?」
艦隊が行動不能という大変な事態に大いに頭を悩ませていたアルフレート提督は、かなりイライラした様子で対応する。
「待て、考えがあると言うじゃないか。一応聞こう。」
フランソワ提督はまだある程度冷静であった。
「ああ、実は、襲来した艦隊に対し迎撃出動できる位置に戦艦が1隻いるのさ。具体的に言うと、セヴァストポリ鎮守府から改装のためにこちらへ回航中だった、戦艦パリジスカヤ・コミューナがボルドー沿岸にいる。彼女とフランス艦隊が組めば、ある程度は対抗できるんじゃないか?」
まあ俺がここに来た理由はその彼女が騒動に巻き込まれていないかを確かめる為だったんだけどな、とニコライ提督は続けたが、英仏の二人は既に作戦計画を練り始めていた。
「‥確かに、可能かもしれない。ただし懸案事項としては、相手の空母がいる事だな‥。」
「そこは、陸上の空軍を動かせばいいだろう。ただし、我々の戦闘機は海戦している間ずっと制空権を維持できるほど連続稼働時間が長くない。」
「ローテーションを組めばなんとかなる。イギリスにも協力を要請してみよう。」
ニコライはすっかり蚊帳の外である。
「な、なあ。確かに彼女の指揮権は一時的に渡すし、海の方を叩く算段をつけるに越した事は無いんだけどよ。上陸してきた部隊の相手はどうするんだ‥?」
その言葉に、アルフレート提督はこう答えた。
「我々海軍は今回少しばかりヘマをしたが、陸軍までもがそうだと思ったのか?」
――オランダ デン・ハーグ 防衛指揮所
高い階級章をつけた妖精達が険しい顔をして悲痛な無線を聞いていた。
『ついに戦車まで見え始めました!』
『こちらA面、撤退の許可を!』
『負傷者多数!メディーック、メディ--ック!!』
一人が口を開く。
「やむを得ない・・・。ここは一度撤退するべきだろう。」
「だが、デン・ハーグを捨てるとなると、次の防衛線はどうなる?薄く広がりすぎても不味いぞ。」
それにもう一人が反論する。しかしそれにまたもう一人が問題を指摘するなど、議論は堂々巡りとなっていた。
「失礼しますっ!」
そこに伝令が飛び込んできた。将校達が何事だと問うと、伝令兵はパッと顔を輝かせてこう叫んだ。
「援軍です、ドイツ軍の援軍であります!」
おお、と声が上がる。そこに、一つの通信が舞い込んできた。
「こちらドイツ第3戦闘団。内突撃砲大隊の展開が完了した。これより攻勢を開始する!」
ハーグの戦いは描写しません
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21話
――フランス ブルターニュ鎮守府沖
戦艦パリジスカヤ・コミューナの元に、1隻の巡洋艦と4隻の大型駆逐艦が合流した。
「貴女が例のロシアの戦艦ね?提督から話は聞いているわ。ワタシは軽巡洋艦エミール・ベルタン。一応本国艦隊の旗艦よ。で、こっちから駆逐艦のル・ファンタスク、ル・トリオンファン、ル・マラン、ローダシューよ。」
三連装砲塔を構えたエミールは、スカートの両端をつまみ上げた上品な挨拶をした。
「ふむ。私は弩級戦艦、セヴァストポリ改めパリジスカヤ・コミューナだ。よろしく頼むぞ。」
青いシャツに緩く白のネクタイを締め、灰色のコートを羽織った彼女はそう名乗ると、そのコートの中から取りだした缶を呷った。
「‥でも、よりにもよって
エミールがそう零すと、あちらも少し気になっていたのか「嫌ならば指揮権は返上するが‥。」と言うが、エミールは「必要ないわ。」と断った。
「‥ところで、さっき飲んでいたのは何かしら?」
そうエミールが聞くと、コミューナは悪びれもせず答えた。
「ん?
あげく駆逐艦達にすら勧めようとしていた。これには流石のエミールも堪忍袋の緒が切れたようで、
「飲んでる場合じゃないでしょう!?」
と、先ほどまでの上品さは何処へやら、声を荒げ缶にピンポイントで回し蹴りを放った。カコーン、という音とともにウォッカの缶は放物線を描いて飛び、海に落ちる。
「あぁ‥あれ、ウクライナで最近評判のちょっと高いやつだったのに‥。」
思い切り落ち込むコミューナであったが、フランス艦達が出航しつつあるのを見ると、渋々出撃した。
――オランダ アイントホーフェン仮設飛行場
「諸君、
中隊長の号令を受け、私達は整列する。
「これより作戦内容を説明する。まず現在の状況だが、これは先ほど伝えたとおりだ。フランス・ロシア連合艦隊の艦隊決戦を援護すべく、独仏英3国の航空隊による波状攻撃を行う。我々ドイツ空軍は第3波だ。決して遅れを取るなよ!」
「「
この通り、私達の隊はいつも以上に士気が高かった。理由を説明するがてら、これまでの経緯について少し話しておこう。
雷撃型スツーカの配備から、例の激突しかける事件にもめげず日々訓練に明け暮れていた。Ju87E-4と名付けられたその機も隊の半数を占めるまでになった。
そしてつい1週間前、私達の中隊は名称を「第957実験中隊」から「第541混成対艦攻撃中隊」へと変えていた。
これが何を意味するかというと、今回の出撃は本格的な実戦配備がされてから最初の作戦行動なのである。
主人公はこのシーンが終わったらしばらく出番がなくなります。
仕方ない。
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22話
「今回の作戦では、4中隊が出撃し航空大隊を形成する。まずは我々第541混成対艦攻撃中隊、He111爆撃機による第524中隊、さらに直掩、制空隊として第913中隊と第118中隊だ。」
最後に言われた中隊の名前に、周りがざわついた。
「第118中隊って、あの118か!」
「エース部隊を出してくるとは、上もなかなか本気だな。」
「有名なのか‥?」
私が零してしまった発言のにつられ、隊の女性パイロットが急に語り始めた。
「えぇ!?知らないの?‥あ、そういえば貴方は最近配属されたばっかりだったわね。じゃあ教えてあげる。118中隊っていうのは、ギュンター中尉っていう人が率いるエース部隊なの。中尉って結構古参らしいんだけど、被撃墜が1回も無いらしいの。それと、女性人気も高いから一緒に出撃できるなんて本当に嬉しいの!」
「そ、そうなのか‥。」
皆が118隊に沸く中、私はもう片方の中隊が気になっていた。第146中隊には、あの隣人が小隊長として所属しているのだ。
*
準備をひとまず終えた私はその戦闘機隊の場所へ向かった。するとその途中、あちらも同じ事を思ったのかその隣人と鉢合わせる。
「まさか一緒に出撃する事になるとはな。」
「そうだね。お互い頑張ろう!。」
私達は握手を交わし、機のもとへと戻った。
――ドーバー海峡 戦闘海域
「レーダーに反応多数!」
「方位と数、速度は分かるか!?」
ル・ファンタスクの発見に、すかさずコミューナが詳細を求める。
「えぇと‥12時方向から、数は30から40、速度約300キロで突っ込んで来ます!」
「敵機だ!くそっ、もう気づかれたか。総員戦闘配置につけ!対空見張りを厳とせよ、
艦隊の表情が引き締まる。擬似的な艦内が存在する艤装の中でラッパが吹き鳴らされ、乗組員妖精達がせわしなく走り回る。勢い余って酒瓶が割れたりもしたが、練度の高い妖精達は程なくして位置についた。
艦隊の対空砲が空を睨み、主砲に対空榴弾が装填された頃‥
「4時の方向より航空機多数接近!」
「不味い、挟撃かッ!」
ル・トリオンファンの報告に焦るコミューナ。しかしエミールは落ち着いたまま。
「いいえ‥遅いわよ、貴方達。」
彼女はそう言うと、艦隊全てに繋がるよう無線を開く。
『前方に敵機見ゆ!何とか間に合いましたね。姐さん達見えてますかー!』
そこから飛び込んで来たのは、陸上基地から発進したフランス空軍部隊の無線であった。
「えぇ、見えているわよ。貴方達、一番撃墜数の多い小隊には後で私の手料理を振る舞ってあげるわ。頑張って頂戴。」
『『よっしゃあああああ!!』』
『お前ら、行くぞ!全機突撃ッ、我に続け!!』
騒々しい掛け声とともに敵編隊に襲いかかるフランス戦闘機隊。フランス勢はいつもの事なのか気にしていない様子だったが、始めて見るコミューナは閉口していた。
「‥奴ら、いささか動機が不純に過ぎないか?確かに戦争において食事というものは平時以上に大切ではあるが‥。」
「あれが士気高揚に一番効果的なのよね‥。」
あまり知りたくなかった、とコミューナは話題をそらそうとするが、
「ところで、
「ラ・マルセイエーズね。合ってるけどなんだか褒められた気がしないわ。」
「「・・・。」」
一方、冷めた艦娘達とは逆に空では熱い戦いが繰り広げられていた。
お茶がドロップしてくれません..
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23話
モラーヌ・ソルニエ406 24機 深海艦上戦闘機Ⅱ 22機
『おら喰らえーっ!!』
ドドドッ、ドドドッ、キューン
『畜生、こいつらバゲット並みに固いぞ!チッ、20㎜はもう弾切れ‥ってうわぁ!!』
最初こそ急襲により優位に立ったものの、機体性能の差はいかんともしがたく一機、また一機と墜落していく。さらに――
「‥不味いな。戦闘機の数がほぼ互角なせいで攻撃隊にまで手が回っていない。各艦、個艦単位での回避運動を許可する。どうせこの艦隊で統制対空砲火は無理だ!」
「了解したわ。貴方達、聞こえる?後はこちらで対処するわ。両弦全速!」
エミールは航空隊に指示を出した後、自身も回避運動を開始。39ktの高速力で飛沫を大きく跳ねさせる。
「仰角調整‥全主砲、撃てッ!!」
コミューナが右手を掲げ叫ぶと、辺りを震わせる轟音とともに12門の305㎜主砲が火を噴いた。直後、中空に花火のように対空榴弾が炸裂し、数機をなぎ払った。
フランス艦5隻も主砲の対空榴弾や機関銃などを打ち上げる。しかし、こちらの全力の対空砲火を潜り抜けた2機が、コミューナに狙いを定め肉薄、魚雷を投下した。
「左舷後方に雷跡2,雷跡2!!」
「ふん、私が一番鈍重そうだとでも言うのか‥?舐めるな、両弦一杯、取舵ッ!!」
コミューナはそう言うと機関に過負荷をかける。その巨体が反動で傾くほどの急旋回の末、辛うじて回避することに成功した。
魚雷を追いかけていた目を上空に向けると、敵雷撃隊はみな撃墜されるか魚雷を落としている様子で、残存機は戦闘機と合流しようとしていた。攻撃が不発に終わったのを見てこれ以上の制空戦闘は無意味と考えたのか、撤退しつつある。
『別働隊からだ。敵艦隊への奇襲は成功したらしい。敵重巡に命中弾を1発、他至近弾を多数って言ってる。‥どうやらエミール姐さんの手料理はあいつらか。』
と、戦闘から離脱したフランス戦闘機隊から入電した。
「‥了解した。敵の位置はどこだ?」
『そこから‥ざっと東北東へ180キロくらいか。じゃあ、俺たちは帰投するよ。墜ちた連中の救出もできれば頼む。』
「分かった。駆逐艦達、作業を開始してくれ。」
そう命令したコミューナに、エミールが近づき、こう言う。
「‥良かったの?航空攻撃が来たって事は、私達の位置はバレてるわよ?あんなに派手に花火も打ち上げた事だし‥。」
「問題ないだろう。見ろ、この霧を。察するに、ちょうど我々と敵艦隊を分けるように広がっているようだな。」
エミールが頷く。
「‥どうするの?霧の中で戦闘をするつもり?探照灯の効かない夜戦みたいな物よ。空軍の援護も受けられないわ。貴女、レーダーは装備しているかしら?」
「ああ、一応な。旧型で大出力の電波を放射しなければロクに射撃管制に使えない代物だが。」
「そう。じゃあすぐに気づかれてしまう訳ね。ところで、今のレーダーに比べて何隻分くらいを照射する必要があるのかしら?」
少し皮肉めいたエミールの言葉に、コミューナは勘弁してくれといった様子だ。
「これもペテルブルクで取り替えてもらう予定だったんだ。しかしそんな、何隻分と言われてもな‥。いや、待てよ?」
何か閃いた様子であるが。
「皆、聞いてくれ。一つ思いついた事が――。」
「失礼、たった今空軍の第二波、第三波の攻撃が始まった様よ。」
その考えを伝えるのは図らずしも飛んできた無線に一度遮られてしまった。
コミューナの考えとは?
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24話
――ドーバー海峡上空 イギリス・ドイツ空軍
「こちらサセックス航空隊、敵艦隊見ゆ。ソードフィッシュ、アルバコア各隊は突入。ハリケーン隊はそれを援護せよ。我々スピットファイア隊は敵残存戦闘機と交戦する。」
『『Yes,Sir!』』
イギリス攻撃隊の指揮官が冷静に指示を下す。そこに、我らがドイツ攻撃隊長、ギュンター中尉が喰ってかかる。
「おいちょっと待て紅茶の野郎。それじゃあ俺たちの獲物は何処だ!」
『‥知ったことか。というか本来の役目は対艦攻撃だろう、ポテト?君たちはその護衛に過ぎない。』
「んん‥。だが、相手は同規模のフランス戦闘機隊を撃退してるんだぞ。増援はあっていいはずだ。」
『必要ない。我々はカエル野郎とは違うのだ。それに、我々とそちらでは戦い方が思い切り違う。我々が格闘しているところに突っ込んでくるなど、お互い御免だろう?‥おや、フランス爆撃隊からだ。ポイントC-6付近にて敵の艦爆を発見したらしい。君たちにはそちらを任せる。』
「‥ああ分かったよ。中隊、続け!」
――イギリス航空隊
「ソードフィッシュ隊、ついて来なさい!アルバコア隊、攻撃隊形よ!」
独特の見た目をした複葉機達が、女性のアルバコア隊隊長の号令で突入していく。が、敵の対空防御力はいぜん衰えていなかった。
『うお危ねえ!』『ひゃあ!』『翼があああ!?』『エンジンに被弾!あちち!』
早くも数機脱落しているようだ。先頭を飛ぶ彼女にも容赦なく高角砲が襲いかかる。
「なんの!」
急ロールで回避しようとするも――
スパンッ!
「当たった!?‥やっぱ重いわこれ。何が新型機よ。」
そう文句を言いつつも、低空にて接近を続ける。その時、
ガガガガガッ!スパン!バキン!
「
これ以上の接近は危険と判断し、投下命令を出す。しかし、敵へ向かい始めた魚雷はわずかに4本。
撃墜、被弾、不発、投下場所が遠いなどの理由でほとんどが攻撃不可か、明後日の方向に流れていったのであった。
「総員離脱!」
機を翻し、エンジン全開で離脱。振り返って見てみるも、やはり回避されているようだ。やはり駄目だったか‥と思った瞬間。
ドォン!!
「水柱一つっ!って、嘘だろおい、輪形陣の反対側に当たってんぞ!?」
「‥ひょっとして、変な方向に行ってたやつの1つかしら?こんな事もあるのね。」
と、驚く反面呆れたような顔で言った。しかし見たところ速力が落ちた様子はないので、バイタルパートは外しているだろう。
彼女はそれを確認すると、無線をドイツにも聞こえるオープンチャンネルに設定する。
「後は任せたわよ。輪形陣左の重巡リ級がウィーク。お手並み拝見と行こうかしら?――それにしてもこのアルバコアは酷いわね。後で空技廠に怒鳴り込んでやるわ。」
最後の愚痴までオープンチャンネルで言ってしまったため、ドイツ陣に「英空技廠さん、ドンマイ‥」という空気が流れる事となった。
アルバコアさんの今後の登場予定については未定です。
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25話
――ドイツ 航空隊
『全隊、攻撃準備。541隊は予定通り雷爆同時攻撃を行え。我々524中隊は敵艦隊左前方より中高度で侵入。913中隊、右前方より突入し攪乱を行え。敵の対空火力をできる限り分散させるのだ、以上。』
「「Ja!」」
『第1、第2
次々にかかる命令に、私は緊張のあまりエアブレーキに手をかけていた。息が荒い。私達雷撃隊は、海面すぐ上を滑るように敵艦隊へ接近する。腹に魚雷を抱えて。
ウウウゥゥーーッッ‥!
空を切り裂くような、独特の急降下爆撃音を響かせながら第1、第2小隊が突入する。
『‥あんまり対空砲がこっちに飛んで来ないな。やっこさん中爆に集中してやんの。』
『うわ、マジだ。あれじゃ攻撃は辛いッスかね?あちらには悪いッスけど、俺たちがいただくッスよ!』
僚機達の会話通り、524中隊が激しい対空放火に晒されながら意地でばらまいた爆弾は容易に回避されてしまった。しかし――
『陣形が乱れたぞ!全機、投下用意ーッッ!』
その隙に、我々はこれ以上ない程の良い位置へ接近できていた。
ドォン!ドドォン!!
『必殺、500キロ徹甲爆弾だ!コイツは効いたはずだぜ!』
急降下爆撃隊が数発の命中弾を与えたようだ。‥ならば、こちらも!
『今だっ!』
その言葉を待っていたとばかりに、私の指は投下ボタンを押す。ガコン!とアームが魚雷を投下し、機体が軽くなった。私達はぐっと機を捻り脱出する。
(‥どうだ?)
走る雷跡。私達が狙った一番手前にいた重巡はそれに気付き、回避運動を開始したようだ。なおも雷跡は伸びてゆく。
ドォン!!
くぐもった爆発音とともに、敵重巡の足下から水柱が立ちのぼる。命中がでたか!
『命中1確認!うーむ、ギリギリ一番端っこのが当たったみたいだな。と言うことは‥第4小隊の4番機じゃないか?」
第4小隊の4番‥つまり私!?何と言うことだろう、信じられない。
「‥やった!!」
思わず叫んでいた。重巡1隻を私が、私が撃沈したのだ!
『やったな!』『凄いじゃないか、重巡だぞ!?』
などと、隊の仲間から賞賛の声が聞こえる。
小隊長はそれを見て、
『よし、状況終了。我が隊はこれより基地に帰投――「あひゃあああ!!!?」
突然の悲鳴が無線を遮った。何事だ!?悲鳴の源は私の後部銃座だった。振り返ると、何と敵の戦闘機が私の機のすぐ後ろにくっついているではないか!
(馬鹿な、どこに隠れていた!?)
「あ、あぁ‥。」
こちらの打てる手は後部機銃で反撃するか、避けるのみ。しかし、そうは思っていても私も、後部銃手も手が動かなかった。敵機の機関砲が不気味に光る。
ダダダダダッ!!
そこに、突如機関銃弾が襲いかかり、たちまちに敵機は粉々になった。呆気にとられて横を見ると、何度か見た”彼”のBf109が飛んでいた。
『状況終了!』
”わたし”ちゃんは格好いい
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26話
――パリジスカヤ・コミューナ
「各砲塔、タイミングをずらして撃ち続けろ!副砲も全力投射を維持!メクラ射撃でいい。レーダー最大出力で照射を継続、煙幕はそのまま霧の中へ突っ込むぞ。
‥何としても、こちらが1隻だと悟らせるなッ!!」
パリジスカヤ・コミューナは艦隊から離れ、煙幕の中で全力で射撃を行っていた。
ガコォン!
「ぐッ!?」
英、独の航空攻撃が終わったのだろう。敵の砲弾が飛来する。中央部に命中し辛うじて弾いたものの、かなり霊力障壁が軋んだ。
(頼んだぞ‥エミール!)
――深海棲艦 上陸部隊護衛艦隊
‥妙ダ。
先頭を航行する重巡リ級は、言い様のない違和感を覚えていた。
先ほどから絶え間なく飛んでくる砲弾の雨霰。既に数発の至近または挟叉が出ているが、逆に言えばそれだけ。レーダーもおそらく数隻から照射されているし、普通このような状況下では霧があるにしてももう少し被害が出てもおかしくない。
・・・。
リ級は考える。こちらは軽巡が2隻とも中破、重巡1が轟沈、さらに艦載機は全滅という大損害を被った。しかし、こちらにはまだ自分を含めた無傷の重巡2がいる。
どうやら敵は水雷戦隊に旧型戦艦を加えたもののようであるから、戦艦を雷撃などで黙らせる事ができれば勝ち目はあるはずだ。
ソウダ。
違和感の正体にリ級は気づいた。いつもなら、艦娘達は霧を活かし練度がものを言う遭遇戦に持ち込んで来るはずなのだ。
しかしそれをして来ない事は、もしや練度が低いのか?ならばもう1つの不可解な点、命中精度の低さにも納得がいく。
コノ戦イ‥勝テル!
そう結論づけると、リ級は今まで隠密性を重視しパッシブでしか動かしていなかったレーダーを、こちらから攻撃に出るためアクティブに切り替える。
何ダトッ!?
リ級は愕然とした。砲撃が飛んできている方向に見えたのは、大きな艦影が1つのみ。先ほどからの弾幕はその1隻からのものでしかなかったのだ!
マサカ!
レーダーを急いで360度照射。そして、それに写ったのは
「全魚雷発射管、
バカ‥ナ‥
仲間達が、ついさっきまで横を航行していた僚艦が沈んでいく。自身も機関部に命中し、速力が出ない。
回り込まれていたのだ。――いつから?それは分からない。分かったところでどうなる?
本能のままにヨタヨタと進む目の前、霧の中に大きな影が見えた。戦艦だ。
ア‥アア‥
そのリ級は、無意識に膝をついていた。彼女はゆっくりと目の前に立ち、砲を向ける。
「
――露仏合同艦隊
「あぁ痛たたた‥やはり老体には堪えたな。」
「あれだけ長い間撃ち続けたらそうもなるわよ。オーバーホール前で良かったわね。」
腰に手を当てうめくコミューナを白い目で見るエミール。彼女が更に悪ノリし、駆逐艦達に単独でどのくらい頑張ったかを多少誇張し話し始めたのを尻目に司令部に連絡する。
「こちらエミール・ベルタン。敵艦隊の迎撃を完了しました。被害は、パリジスカヤ・コミューナの多少の被弾のみです。」
腰を駆逐艦達につつかれ悶絶するその戦艦をちらりと見た後そう報告した。
『それは素晴らしい、有難う。此方にはドイツからの敵上陸部隊の掃討が完了した事と、イギリスからの主力艦隊があと8時間以内に帰投する見込みであるとの報告が入っている。
君たちは鎮守府へ帰投し、補給、整備に入ってくれ。』
「了解しました。」
駆逐艦達にもうその位にして帰投するように指示を出そうとすると、無線がさらに続いた。
『あぁ忘れてた。ロシアからだが、そこの戦艦にダンケルクへ回航し、そこからはドイツのエスコートでキール運河を超えるように伝えてくれ。それとエミール、今夜勝利を祝って一つ、どうだい?』
エミールはため息をついた。命令と同列にしてこういった事を言ってくる、提督のお決まりの手口である。
「・・・了解。」
この後エミールとフランソワ提督が何をしたかは読者諸兄のご想像にお任せします。(江戸川乱歩風)
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幕間 ポルスカの憂鬱 1
こんにちは。
ポーランド海軍グダニスク鎮守府所属、駆逐艦
普段は姉にしてネームシップのグロムお姉ちゃんと二人で、船団護衛や対潜哨戒などの任務についているのです。
艦隊決戦はほとんど経験がないのですが、潜水艦相手なら自信があるのです。
私達のいるグダニスク鎮守府は、他の国と比べるととても小さいのです。深海棲艦によって破壊されたホテルを復興のついでに軍が買い上げたもので、まあまあの大きさの建物ではあるのです。けど、居るのは私とグロムお姉ちゃん、それと提督さん、数十人の妖精さんだけなのです。ドックも1本だけで、お風呂は交代で入らないといけないのです。直属の陸戦隊、航空隊なんてものはもちろんいないのです。
一応、ポーランドは「沿バルト同盟」という同盟の盟主ではあるのですが、艦娘はこのとおり少ないのです。ですから、私達が戦う時はフィンランドのイルマリネン級の二人や、スウェーデンのスヴェリエ級の皆さんのような、北欧の海防戦艦達がメインになるのです。
ちなみに、提督さんはスタニスワフと言って、車椅子に乗った若い男の人なのです。私達からするとお兄さんみたいな感じで、グロムお姉ちゃんは実際たまにお兄ちゃんと呼んだりしちゃってるのです。
「お兄ちゃん、手伝える事はあるかしら?」
「じゃあ、そこの棚に入っている左から2番目のファイルを取ってくれるかな。‥そう、それだ。うん、ありがとう。」
「ふふ、もっと頼っていいのよ!」
車椅子なだけあって、提督さんは色々とお手伝いを頼むことが多いのですが、それに世話好きのグロムお姉ちゃんが反応したせいで、最近は甘やかしの域に入ろうとしている事もあるのです。
あ、言ってませんでしたが提督さんは車椅子に乗っていると言っても足が悪くて歩けないという訳ではなく、生まれつき身体が弱いからだそうなのです。
でも、そんな人がどうやって軍人、提督になったのかは聞いても話してくれないので分からないのです。でも、この戦争においては最初の頃のごたごたでほぼ一般人だったのに指揮官になった人もたまにいるので、たぶんそれだと思うのです。
この前、執務のお手伝いをしていたときこんな事があったのです。
「はい、サインをお願いするのです。」
「ん?‥ああ、そこに置いておいて。」
ちょっと反応が鈍かったので私は疑問に思って手元を覗いてみたのです。すると、
「あれ?提督さん、何を読んでいるのですか?」
「あ、いや。何でもないよ。ただの手紙さ。」
「そうなのですか?」
提督さんは少し慌てたような雰囲気で、その手紙を机の中になおしてしまいました。
その時は気にならなかったのですが、ふとした拍子にこのことをグロムお姉ちゃんに話すと、何やら目をキラキラさせ始めたのです。
「それ、きっと女の人からの手紙よ!絶対にそうだわ。」
「はわわ!?」
あんまりにも唐突なことを言うので、変な声が出てしまったのです。
「で、でも、提督さんはずっとこの鎮守府にいるのですよ?まさかそんな‥。」
「じゃあ調べてみるわ!相手はどんな人なのかしら‥あ、挨拶にも行くべきよね?」
「グロムお姉ちゃんが行くのですか‥?」
私は呆れてしまったのですが、ふとこう思いました。
これ、息子に彼女が出来たと知った時のオカンなのです。
グロム→稲妻
ブウィスカヴィツァ→雷鳴
という意味なので、雷、電のそっくりさんという設定になりました。
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5.決戦!オーロラを越えて ~E-2 作戦会議~
27話
――グレーター・ロンドン
どうしてこうなった?
その一言が彼女、シェリルの薄い胸中のほぼ全てを表していた。
今、この会議室は老若男女、人間、妖精を問わずまさに侃々諤々といった様子で怒鳴り愛もとい論争を繰り広げていた。
「そんな意見は現実的じゃないッ!」「黙れ小僧!多少の無理を通してこその‥」「出来ない物はできないと言っているでしょう!?」
自分の発言が発端と言えば発端であるのだが、まさかここまで酷くなるとは。
ちらりと目を向けると、秘書艦プリンス・オブ・ウェールズは「やれやれ」のジェスチャーを返すだけ。他国から会議に参加した面々も、触らぬ神に祟りなしとばかりに押し黙っている。
シェリルは深いため息を吐くと、何故こうなってしまったのかをもう一度思い返す事にした。
先日、ドーバー海峡を終撃し多大なる被害を与えた新出の”姫”級深海棲艦―その外見、特性より「北海棲戦姫」と名付けられた―を、今後の事を考え、撃沈するための作戦会議。
最初は至極マトモだったその会議は、ドイツ、キール鎮守府提督のカロラの報告から始まった。
「‥まず、目標の所在地についてです。英独両潜水艦隊のデータ、大型飛行艇を用いた高高度偵察の結果、奴はここに居ることが分かりました。」
ここ、と言ったタイミングに合わせ、彼女は壁に映し出された地図の1点を指した。
「旧ノルウェー北方、ナルヴィク。そこより少し北のフィヨルド地帯の最深部です。」
さらに提示された荒い空撮写真に海上がざわつく。雪と氷の世界の中に、それは確かに佇んでいた。
続いてアルフレート提督が口を開く。
「我らがドイツ打撃艦隊、旗艦ビスマルク以下、装甲艦リュッツォウ、重巡プリンツ・オイゲン、軽巡ケーニヒスベルク、駆逐艦
機雷のせいで出撃出来なかったのがよほど悔しいのか、いつも以上に気合いの入った口調で報告する。
次は私の番だったが、実情報告といえ少し言いづらい。
「‥我々からは、戦艦レパルス、レナウン、ネルソン、ジブラルタルより回航中の重巡ドーセットシャー、空母イラストリアスが参加します。」
途中までは普通に聞いていたイギリスの高官達だが、私が言葉を進めるにつれ額にしわが寄り始めた。
そして私が言い終わって座った時、特にしわが深くなっていた海軍卿が荒々しく立ち上がる。
「ちょっと待ちたまえ!空母が1隻しかいないではないか!?帰還させた本国艦隊にはあと2隻の空母が居るはずだぞ。機動部隊を投入すると言った話はどこに行ったのだ!?」
まるで闘犬が吠えるように私に怒号を浴びせる海軍卿。私はうつむいて続けた。
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