Fate/EXTRA CCC FoxWolves (たたこ)
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Fate/EXTRA CCC FoxWolves

ヤマトタケルをFate/EXTRA CCC Foxtail序盤にいれた(完了)


 濃紺に烟る空に、月が煌煌と照っている。石畳の上に転がった豊満な尼僧と、青髪の子供がぴくりとも動かず転がって――データとして散っていった。それ以外にも破壊された敵性プログラムの残骸が散らばっており、立ち並ぶ鳥居が地下へと誘う迷宮の中は、殺伐とした光景が広がっていた。

 その中で息があり、かつ立っているのは一組の男女のみ。

 

「……セイバー、全部殺した?」

 

 無表情に物騒な台詞を吐いたのは、全身黒に身を包んだ男性だった。日本の大正時代風の学生帽を目深にかぶり、膝まである長い外套を纏い、その下に学ランを着ている。男性にしてはやや小柄であるが、白皙の美青年の趣である。

 

「……校舎に逃げ込んだ以外のは殺したよ!」

 

 背中の中程まである艶のある黒髪ストレートの少女は、白ワイシャツに赤ネクタイ、紺色のカーディガンに同色のミニスカート、ニーハイブーツという清楚系女子高生の恰好だった。

 男の声に応えて、少女は手にした黒いナイフの血を払った。まとわりついた血液が床に飛び散る。

 

「っていうか、今はセイバーじゃなくてアサシンって呼んで!」

「……そうだった。ごめん」

 

 とその時、少女のスカートポケットに収まっている携帯電話が震えていた。彼女は空いた左手でそれを取り出した。

 

「何の用?」

『やっほー。タケルちゃんそっちの首尾は?』

 

 明るく快活な声が端末(デバイス)から響いてくる。これ自体も電話先の彼女から押し付けられたものであるが、結果的になにかと重宝していた。まあ、中身はBBも聞いていようが……。

 そして受け手の少女は、今までの鈴を転がすような声音から一転、妙に低い少年の声に変わった。

 

「この姿の時はおぐ奈ちゃんと呼べと言ったろう天魔。切る」

『ちょっ待ち! この姿も何も見えないっつーの! あと天魔言うなし! ……ってか、当面同じ目的で戦ってる同士じゃん? 私はカレシのために、アンタはカノジョのために。情報共有くらいした方がいいっしょ』

「プレイ中の今は俺と(あきら)はカップルだが、それはあくまでプレイであって明は俺の彼女ではない」

 頭を抱えた少年が、諦め顔で少女につっこんだ。「プレイ言わないで」

「明、仮装(コスプレ)するなら心まで飾れ!そういう意味では天魔は見上げた奴だ」

『……で、岸波は見つけた?』

 

 最早突っ込むのを辞めた電話先のセイバーは、先に用件だけを聞いた。他人のカップルトークに興味ない、という体だがその意志はこちらのアサシンには伝わってない。

 アサシンにとって電話先のセイバーは、仲間というには殺伐としすぎているが、マスターのためにあれこれ画策しているという立場は同じ相手。今敢えて敵にする意味は、確かにない。

 

『今アンタ、宝具の『斎宮衣装(みつえしろのかご)』が外せなくて本来の半分の力もないっしょ? 自分の宝具が裏目に出て弱体化してるってマジウケる』

「黙れ第二宝具賢者時間(タイム)

『次それ言ったらマジコロスから。……互いに岸波殺せとしかいわれてないし、カズくんも共闘には賛成って言ってるし、仲良くした方が良くない?』

 

 彼女は彼女で頭が回る方で油断はならないが、いうことは間違ってない。なによりアサシンのマスターも反対していない。少女は溜息をつきつつ、現状を伝えようと言葉を続けようとした。

 

「……いや見つけては」

 その時、アサシンははっと顔を上げた。サーヴァントの気配が近くにある。

 そしてその気配は電話先のセイバー(鈴鹿御前)のそれではない。

 

「悪いが切る。敵が出た」

「――目当てかな?」

「わからない。だが、誰であってもマスターとサーヴァントは排除する……ちょうどいい敵性プログラムがいるな」

 

 アサシンの言葉に応じて明と呼ばれた少年も振り返る。

 アサシンの言葉通り、球形の敵性プログラムが浮遊している。まだこちらには気づいていないようだが。

 

「それでは明、手筈通りにプログラムを追い立ててくれ」

 

 最早少女らしい言葉づかいが完全に吹き飛んでいるアサシンだが、また敵に相対したら先ほどまでの美少女ボイスに戻るだろう。明もこの姿のアサシンを見ると、今の男口調より美少女声の方が似合うと感じるから不思議である。

 

「アサシン、正面からいってもいいような気がするんだけど」

「今の俺は輪をかけて奇襲向きだ。これでいきたい」

「……反対するほどでもないか。わかった」

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 サクラ迷宮、六階――。

聖杯(ムーンセル・オートマトン)』とは、自らの意思を持たぬ巨大演算装置だ。全長三千キロメートルのフォトニック結晶を利用して造られた、光を媒介とした演算・記憶回路、地球全ての資源を使っても釣り合わない規格外のスパコン。

 ――地球から三十八万キロの位置にある衛星、月が聖杯そのものである。

 (ムーンセル)はただ地球を見続け、観測していた。だが、人の精神だけは観測できない。

 そのため、ムーンセルは自ら人間を内部に招き教えを乞うことを選んだ。月へのコンタクトが可能な魔術師(ウィザード)との接触用に、月側が用意した電子虚構世界SERIAL FHANTASM――通称『SERAPH(セラフ)』。そこにおいて月の運営で行われる聖杯使用権の争奪戦が、聖杯戦争だ。

 

 岸波白野たちはその聖杯戦争の参加者だった。だがその途中、彼らは月の裏側・聖杯戦争の外側、謎の旧校舎へと落された上に、聖杯戦争中の記憶も喪失してしまっていた。

 

 月の裏側はセラフであるものの、ムーンセルの眼の届かない、いわば法の死角。

 時間の計量方式さえ異なり、ここで何時間を過ごそうと表換算ではゼロ時間――つまり、まだ表はこの事態を観測してすらいない。月は異常事態(バグ)の存在を許さないため、観測さえされればこの事態は即時修復されロールバックされるはずなのだ。

 

 さて、それでは月の表側に戻るためにどうするか。AIの桜によれば、ひとつアリーナらしきものがこの旧校舎にあるという。それは、比較的正常な状態で表側に向かっている構造体らしい。

 つまり、そのアリーナを踏破できれば月の表側に戻れる可能性が高い。

 

 そして実際に足でアリーナを調べる役割を担ったのが岸波白野とそのサーヴァント・キャスターだった。

 凜とラニ、ユリウス、シンジはサーヴァントを喪失、ジナコは良くわからない理由で引きこもり続行、レオにはガヴェインがいるものの優れた魔術師のスキル的にバックアップ側に回っている。

 

 困ったことに白野は他のマスターより昏睡が長かったためか、聖杯戦争中の記憶が多く失われており、その中にはキャスターとの戦闘の記憶も含まれる。最初はいわばリハビリの体でキャスターに能力を教えてもらい、探索しながらカンを取り戻す流れとなった。

 戦いつつ探索を続け、未確認アリーナ――命名:サクラ迷宮も六階を終わろうとしていた。

 

 キャスターのレベルならどうにかなると思ったが、階層が深まるにつれ徐々に敵も強くなってきている。少々疲労気味のキャスターを見て、白野は申し訳なくなる。

 

「悪かった、何度も相手の手を読み間違えた」

「出過ぎた真似をしてしまいました! ご主人様は頑張っておいでです!」

 

 キャスターは大分取り戻せているとフォローしてくれたが、おそらく月の表の頃に比べればまだまだなのだろうと白野は思った。頑張っているキャスターのためにも、表に戻るためにも早くブランクを取り戻さなければ……と、白野が思っていると、さらに下へと向かう階段が見えた。

 

 ここは虚数で構成された「本来はない世界」ゆえにレオたちのサポートで観測されることで、岸波白野の存在を保ち続けている。これまでも階段を降りるたびに圧が強くなってきているのは感じていたが、さらに重い。

 それにキャスターも連戦続きで、残りのMP(魔力)が大分心もとなくなってきていることが気になる。

 

『OK。一回で踏破する必要もないし、七階を探索したら一度帰還しましょう』

 

 凛たちもそれを察しているようで、白野はその通信に頷いた。

 そして足を踏み入れたサクラ迷宮七階は、またも奇妙な風景を見せてきた。

 

「こんどは打って変わって和風です……? いや、エセ和風と申しましょうか……」

 

 一階から三階は白亜の城が迷路になったような空間で、今は使われこそしていないがおぞましい拷問部屋もあった西洋風。四階から六階は海の底に沈んだ古代高度文明の遺跡風。とくれば七階から九階もまた異なる風景だろうと予測されるが、案の定である。

 

 階下はキャスターの言う通り、石畳の階段と連なる鳥居は和風としても、鳥居の先に噴水があったり古びた西洋風の屋敷が立っていたりと統一感がない。和洋折衷にしては雑然としすぎている。

 

「とにかく気をつけていこう……ん?」

 

 白野とキャスターが階段を下りきったその時、向かいから走ってくる少女の姿が見えた。こんなところにいる少女がただの少女のはずがない――白野もなにかと目を凝らしたが、どうやら少女は何者かに追われているように見える。

 

「た、助けてくださーーい!」

 

 背中の中ごろまで届く長い黒髪に、紺色セーターにチェックのミニスカートに紺色のハイソックスにローファー。透き通るような白い肌、黒曜石の瞳。今時の女子高生の制服を着た、キャスターにも負けない美少女だった。

 そして彼女は、どうやら敵性プログラムから逃げているようだった。丸い大きなボールに光を放つ目がついたような、白野たちには見慣れたエネミーだ。

 

 凛やラニも最初から拠点の旧校舎に落とされたのではなく、このサクラ迷宮に落とされて自力で逃げてきたと言っていた。つまり、彼女も凛たちと同様で、まだサクラ迷宮内で彷徨っているマスターがいたということか。

 それならば今はこのエネミーを排除することが先だ。幸い、ここに至るまでに類似のモノ戦ってきた。白野はスキルを使わなくてもいける、と踏んでキャスターに命じた。

 

「キャスター!」

「……はい、参ります!」

 

 武器である鏡を出現させて、キャスターはエネミーめがけて走る。白野はわずか、すぐさま返される彼女の返事がやや遅かったことに気づいたが、気にするほどでもないと流した。

 

 そしてキャスターと逃げる少女がすれ違うのとほぼ同時に、

 

「とおっ!」

 

 見事なブレイクがエネミーに炸裂、宝具の鏡、ぶっちゃけ鈍器の一撃でエネミーは粉砕されてプログラムは消失した。

 必死で走ってきた少女はもう体力の限界なのか、息を切らしてよろよろと白野に近寄り、

 

「君、大丈――」

 

 黒いナイフを、抜いていた。

 

 

「――!氷天よ、砕け!」

 

 走るキャスターの呪術と同時に、ややくぐもった低い声が響く。

 

「アサシン、GUARD!」

 

 刹那に白野に接近していた少女アサシンは、呪術に対して腰を落とし身を守る態勢をとってやり過ごした。そして凶刃を向けようとした相手に何の未練もなく離れ、大きく跳躍してキャスターの頭上を通過し、これまで走ってきた方向へと距離をとった。

 そして立ち並ぶ鳥居の陰から姿を見せたのは、大正時代のような外套を身に纏った学ラン姿の少年だった。

 学生帽を目深に被っているため、表情は伺えない。

 

 

「――あなた、今私ではなくご主人様を殺しにきましたね?」

 

 キャスターは鏡を振り回しつつ、白野を守るように前に立ち向かうアサシンとそのマスターを睨み見据えた。

 

「しかも、ご主人様のイケ魂、もとい親切心に漬け込む形で」

 

 キャスターは白野ほど逃げてきた少女を真面目に助けようとは思っていなかった。だがマスターならば助けるだろうと思うから、その命には是非もなく従った。

 しかし、逃げてきた少女が本当に凛やラニのようにサーヴァントを奪われたマスターなのかは怪しかった。これまでずっとこのアリーナの深くで、一人で、殺されることなく、そして旧校舎に辿り着くこともなく生き残っていたモノなど、どうあれ只者ではないからだ。

 だが怪しんではいても、彼女からは殺意もサーヴァントの気配も感じ取れなかった。通信先の凜たちからも、通信はなかった。ゆえに客観的にみてキャスターの落ち度では、ない。

 

 幸いギリギリのところで間に合った氷天だが、アサシンと白野の距離が近く、彼を巻き込んでもおかしくはなかった。白野が殺されるよりも、多少怪我を負ってもいいから生きてほしい。

 それでも、自分の主人を自分の呪術で傷つけるなどあってはならぬこと。

 

 ゆえに白野を害そうとした敵に向けて、そして危険に晒した己への怒りを込めて――

 

「楽には殺しませんよ?」――呪術師の言の葉は紡がれた。

 

『岸波くん大丈夫!?』

『今サーヴァントの映像きました! ミスター白野、この反応の薄さは』

 

 遅れて通信が入ったあたり、レオたちも本当にサーヴァントとしての気配は察知できなかったのだ。白野は大丈夫だ、と無事を伝えるとキャスターと同じく、目の前の敵へと目を向けた。だがしかし、当の敵マスターとサーヴァントはなぜかくっついてじゃれていた。

 

「もーアッくん、あそこでガードなんてしなくてもよかったよ! あのまま殺せたよ!」

「殺せたかもしれないけど、距離が問題だった。あのキャスター、目敏いよ。君が呪術を受けてスタンでもしたら、距離的に僕、キャスター、君、岸波の順になる。だから僕がキャスターに殺されるかもしれないし。っていうかアッくんって何?」

「あ・だ・な! 明、って本名もいいけどアッくんって親しみあっていいでしょ?」

「こ、こらっ、あんまりくっつくな」

「だって最初の襲撃失敗しちゃったし、もう隠れる意味ないし」

 

『……』

「……」

 

 通信先も白野とキャスターも沈黙。一体何を見せつけられているのだろうか。謎である。

 まごつく少年とそれにやたらとからむ黒髪美少女。だがついにしびれを切らした少年が少女を引き剥がした。

 

「こらっ、いい加減戦え!」

「ちぇっ、は~~い。というわけで、岸波ナントカとそのサーヴァント。大人しく殺されて……ほう」

 

 黒髪JKは、ちらりとキャスターに、否キャスターの頭と尻に目をやっていた。

 

「天魔は何も言ってなかったけど、ああいうのもあり?」

 問いかけられたアッくんと呼ばれた少年は首を傾げた。「は?」

 

「えい!」

 

 ポンっ、と軽い音を立てて黒髪JKの頭と尻に生えたのは、灰色の獣耳と尻尾。キャスターのそれは狐だが、こちらは狼か。

 

「どう? 黒髪JKスタイルにクール狼獣耳とか? カワイイ?? ギャップ?」

「態度は全くクールJKじゃないけど……」

「け、ケモミミだと……!? 人のアイデンティティぱくりやがってあのJK! もうコロコロします地獄めぐりフルコースでコロコロします!!」

「キャスター、ステイ、ステイ」

 

 敵も敵だがキャスターもキャスター。シリアスな場面だったはずだが、いまいち緊張感が出ない。

 ただあまりに話が進まないため、白野から相手のマスターへと水を向けた。

 

「えっと、きみ……アッくん? なんで俺たちを向けて狙うんだ」

「アッくん言わないでくれ。僕は碓氷明(うすいあきら)……あんたを殺す者だ。こっちにも色々理由がある」

 

 アッくんこと碓氷明はボソボソとした声で、小さく言った。

 

 

「とりあえず殺しまくるのが私たちの仕事だよ? あんたたちも私の殺害記録(キルスコア)に追加してあげる」

「キルスコア……まさか、自分以外にも他のマスターを!?」

 

 通信先の凛たちも、その言葉の意味をすぐに察した。おそらく、旧校舎にたどり着けなかった他のマスターたちは、目の前のアサシンに殺されてきたのだろうと。

 

「聖杯戦争以外で人を殺したのか……!? ルールの外で殺したらそれはもうただの殺人だ。それは超えちゃいけない部分のはずだ」

 

 変な汗をかきつつ、キャスターも白野の言葉に頷いた。

 碓氷明は帽子を僅かに上げた。「つまらないことを言うね岸波。どんな高尚な目的があろうとルールがあろうとなかろうと、人殺しは人殺しだよ。……アサシン、僕のナイフは捨てて。流石にサーヴァントには通じないし」

「えーマスターからもらったものだからとっとく。愛の証?」

 

 アサシンはナイフを消すと、代わりに宙空から何かを抜いた。

 何か、というのはキャスターと白野にはアサシンが手にしているものが何か見えなかったからだ。

 剣か、槍か、はたまたナイフか。長さも形状も透明で全く見えないが、確かに何かを持っている。

 

「……ともあれ相手はアサシン。遅れをとるクラスではありません」

 

 アサシンはその名の通り暗殺者のクラス。基本サーヴァント同士の戦闘には向かないがクラススキルで気配遮断を持つため、マスター殺しや奇襲を得意とする。

 白野たちは最初の襲撃を辛くも逃れた今、最大の危機は脱したと言える。

 

「見たところ、近接戦闘型のようなので私の距離を取りつつ様子見です。ご主人様(マスター)、もっと後ろへ。妻としてお守りいたします!」

「へえ、夫婦ねぇ。サーヴァントとマスターに夫婦も何もないと思うけど……じゃ、さしずめこれはラブラブカップル対決ってことで!」

「はい? カップルなんですか、そちら」

 

 キャスターの疑問とほぼ同時に、見えない獲物を手に、アサシンは一直線に走り出した。その上、彼女のマスターは当然魔術師(ウィザード)

 

「……カップルはさておき、さっさと殺してくれ。agi_speed(32)!」

「……早っ…!」

 

 速度強化の補助を受けたアサシンは、あっという間に距離を詰める。だが鏡によるガードを間に合わせたキャスターにダメージは少ない。はずだった。

 横薙ぎに振るわれた見えない獲物は、矮躯から繰り出されるとは思えぬほど痛烈な一撃だった。

 キャスターは鏡を構えた体勢のまま耐え切れたが、手を見誤って一撃でもくらうとまずい。そもそもキャスターは耐久E、お世辞にも打たれ強くないのだ。

 

「っ……! 水……?」

 

 振るわれた武器から飛び散り、キャスターの着物の一部を切り裂いたものはぴちゃりと床に付着した。液体によって光の屈折率を空気と同じに曲げているのか、その液体で得物を覆っているのか。

 

「距離は取らせないよ」

 

 少女は笑みを浮かべ、見えぬ獲物を振るう。アサシンだけあって素早さは相当のもので、キャスターは防戦一方を強いられている――上に、鈍器の鏡がキンキンと鳴り響いている。まさか宝具を叩き割られるとは思わないが、アサシンの得物も相当な硬度を持っている。

 その得物まだ明確なリーチはつかめないものの、ナイフや短刀よりは長いはず。

 

『……なにそいつ! バリバリの白兵戦サーヴァントじゃない! 岸波くん、早く間合いを取りなさい!』

「言われずとも……炎天よ、奔れ!」

 

 キャスターの呪術によって巻き上がる炎が、迫る少女に直撃する。攻めの一手(BREAK)の相手に直撃すれは動きを止められるはずだ。だがしかし、碓氷明は指示もコードキャストも使用をせず見ているだけ。アサシンは艶やかな唇を歪めた。「ごめんね♪」

 

 黒髪の少女は至近距離で炎天を受けながらそれでも止まらない。燃え盛る業火が直撃、否、まるで炎の方が彼女を避けていく――!

 そして上段に振り上げられようとする、見えぬ刃。

 

「キャスター、下だ! GUARD!」

「!」

 

 白野に命じられるまま、キャスターは鏡を上ではなく下に合わせた。そして次の瞬間、鏡ごと上空に跳ねあげられた。右腕はブラフ、本命は槍のごとく衝き上げられた左足の蹴り。

 

 的確な指示によりダメージを避けた空中のキャスターだが、空中で身動きがとれない――こともない。自在に操れる鏡を足場に蹴り飛ばし、大きく跳躍し距離を稼いだ。

 キャスターは大きく息を吐きだし、一度俯いた。

 

「その鏡、便利だね」

 

 アサシンは薄く笑いながら、ダメージも少なく笑っていた。MPも体力も減っており明らかに不利なこの状況で、キャスターはなぜかぷるぷると震えていた。

 

「――きったねーもん見せんじゃねーですよこの野郎ー!!」

「は?」

「くっ……ずいぶんな性癖をを人前で見せつけてきやがりますね! 私だってご主人様の性癖をアリーナ最深部まで探索中ですとも、しかしそれは秘めるものであり私だけが知っていればいい「キャスター、どうどう。なんの話をしてるんだ?」

 

 多分、通信先のレオたちもキャスターの発言の意味を理解していない。キャスターは白野の声掛けで鼻息を収め、アサシンとそのマスターを睨みつけた。

 

「碓氷さん、とおっしゃいました? あなた女性でしょう? そしてアサシン。あなた、男でしょう!」

「えっ!?」

 

 白野、それに通信先の三人も同様の反応を見せた。正確に言えば碓氷明が女であることより、アサシンが男であることに驚いている。キャスターはびしっと碓氷明を指さした。

 

「マスターの方は大きな声で喋らないことと声質と体つきから想像はつきます。女の勘を舐めないでくださいまし!」

 

 それは純粋に勘ではなくキャスターの観察眼ではないのか?というツッコミはさておく。

 白野は改めて遠くの碓氷明を見直したが、確かに男にしては小柄で細身であり納得はいく。しかしアサシンは――?

 

『なるほど、バッチリ写ってますね!』

 

 妙にご機嫌なレオの声。その奥でうわぁ、と顔を覆っていそうな凛の声。この感じの声はしょーもない話の時のノリではと白野が思うまもなく、少年王は続けて言った。

 

『気づかなかったとは僕の失態です。さっきキャスターを蹴り上げた時に股間が!』

『ぱんつ はいて ない』

「……」

 

 マジか。キャスターレベルの美少女だと思っていたのに。そしてラニ、通信先からでも同士を見つけたみたいな声を出さないでほしい。白野は今だに信じきれていないが、これだけ全会一致では疑うことも難しい。

 その時、やたらと大きなため息をついたのは碓氷明だった。

 

「ねーだからやめようって言ったじゃん。私の低い変装スキルからしてモロバレだったみたいだし、逆に恥ずかしいよ」

「恥ずかしくない! バレた今こそ胸を張るべきだ。というよりこんな美少女なのに男とか、こんな美少年なのに実は乳が大きいとか……興奮するだろう!」

 

 さっきまでの鈴を転がすような声音は何処へやら、少年にしても低めの声が迷宮に響き渡っていた。

 

「私は今アサシンの存在が恥ずかしいし、正直キモい」

「何――!! 俺のどこが恥ずかしくてキモいのだ!? 至らないところがあるなら言え!」

「……存在が……」

「存在が至らない!?」

 

 あきらめ顔の碓氷明と、岸波白野の目があった。性別も何もかもが違うが、困ったサーヴァントを持ったな、という一瞬だけ通い合った感覚であった。

 一方勝手に打ちひしがれていたアサシンは顔を上げると、怪気炎を上げながらキャスターを睨んだ。

 

「ええい、よくわからんがマスターからの評価が下がっているらしい。……おいそこの太陽狐、お前に恨みはないが、いや全くないと言ったらウソか、ともかくマスター好感度アップのために殺されろ」

「ヘソで沸かす茶が沸騰しちゃいますんで、バカも大概にしてくださいまし? あなたの場合、そのコミュ障を治す方が先でしょうに」

 

 キャスターはこれまで目の前のアサシンをアサシンだと思ってきたが、違うクラスの可能性を考えていた。

 女装も可能なアサシンじみた力は宝具の一つ。火のダメージを無効化する火除けのスキル。

 水で覆い光の屈折率を変えた結果の不可視の剣だとすれば。

 

 勿論、まだ推測の域を出ない。しかし三種の神器の一つでもあるこの鏡と、あの不可視の剣が触れた時の(共鳴)は。

 

 ――人代に産み落とされた、人の形をした神の剣。己が人ではないと知らぬまま、ただ故郷を追われた英雄の話。

 ――気まぐれと興味で、己を忘れて人世に転生した神霊。己が何者かわからぬまま、都を追われた化生の話。

 

 過去を思うのはここまでだ。

 今のキャスターは岸波白野盾であり剣である。その命を狙うものは何人たりとも許しはしない。

 

(しっかし、サーヴァントとしての相性的にやりにくいですねえ……)

 

 本当のクラスはどうあれ、あれをアサシンというよりセイバーとみなした方がいいことに間違いはないだろう。しかも炎天は効かないと来た。

 

『岸波くん! サーヴァント反応があるわ!』

「えっ!?」

 

 通信と同時に、キャスターもその気配を察知した。アサシン、碓氷明のさらに向こうから、再び男女ペアの、またしても学ラン少年とミニスカの女子高生。こ

 ちらの女子高生は金に近い茶髪に烏帽子をのせた格好だ。そして三振りの太刀を周囲に閃かせて不敵に笑っていた。

 

「見つけたし。何?遊んでんの?」




あらすじに載せたとおりにヤマタケとキャス狐を会わせたかっただけなのでつづきはない!
抵抗ない方は明とアサシン(セイバー)の絵 http://mochiduki1018.tumblr.com/

元々このハーメルンでオリキャラだらけfate二次小説を書いてて(というか現在進行形)そこでヤマタケを出していたのですが、オリキャラだらけゆえに永久にキャス狐としゃべらねーぞこいつ!と思ってFOXTAILを拝借しました。そのくせ本当に会ってるだけだな!大本のヤマタケの設定はこっち(https://syosetu.org/novel/25268/102.html)。

※日本史fate→このSSを見た方向け
CCCの爛れた雰囲気にあてられている&日本史fateは冬木式世界線のため、ヤマタケと明の設定は微妙に違うのはご愛嬌。


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