闇の帝王の気まぐれ (ベルガシード)
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プロローグ

どうも皆さん初めまして。ベルガシードです。
ハーメルン(というか二次小説自体)初投稿です。
拙い文章ですが読んでいただけると幸いです。


 

(え…ここ…どこ…?)

 

それが、私が意識を取り戻して最初に思ったことだった。なぜか目を開けられないし、そもそも明るさを全く感じない。起き上がろうとしても、空をかくだけだった。もしかしたら…

 

(マジで死んだのかな…私…)

 

なんとなく思ってはいたけど、実際そうだとなるとあまり面白くはない。てか、死後の世界なら三途の川やら閻魔大王がうんたらかんたらやらあるんじゃないのか。

そんな馬鹿な私の思考は、外から聴こえてきた声に一瞬で打ち砕かれた。

 

「ねえフランク、またこの子暴れてるわ」

「おお本当か。もうそろそろかもしれないな、アリス」

「ふふっ、そうね。待ち遠しいわ」

 

え?

え?何?なんかこの子とか聞こえるんですけどどーゆーこと?しかももうそろそろって何?何があるの?

様々な考えが渦巻いて纏まらない。どうしよう。一回外に出てみようか。その方が…

うん?外?何でわかんの?何で…あ、これってもしや…

あることに思い至った私は腹のあたりに触れる。私の考えが正しければ…

 

あ、あった。マジであったわ。へその緒。

 

もうお分かりだろう。

そう、私川内澄春は、まだ生まれてもない赤ん坊に転生してしまったのである。しかも聞こえてくるのはネイティブ英語なので…

 

(イギリス人かぁ…)

 

この時ほど英語やってて良かったと思ったことはないと思う。やってなかったら確実に詰んでいた。ありがとう、ハリポタ原語版。

ん?ハリポタといえば…さっき、両親(おそらく)がフランクとアリスって言ってなかったか?もしかして…

いや、流石にそれはないだろう。例え生まれ変わったとしても、本の中に入るなんてありえない。きっと、さっきのも聞き間違いだろう。いや、でも確かに言ってたような…

あ〜、考えてもキリがないや。てか狭いな。

 

あれ?

これ、出たらいいんじゃね?

 

約1分後、私はこの選択を激しく後悔した。

 

* * * * *

 

前言撤回。

ここ、やっぱハリポタの世界でしたわ。

いやだって、滅茶苦茶きつい産道通り抜けて産まれたらロングボトムさんって聞こえるし、普通にはっきり「フランク」「アリス」って呼びあってるし、ラジオ(?)で今日は1981年7月31日って分かっちゃったし…

そして極めつけは、

 

「早く体を拭かないと。『アクシオ!』」

 

ハイ確定。私、ネビルの家に生まれ変わってきちゃいましたわ。マジか。しかも性別変わってるし。大丈夫なのかなこれ?

あ〜、でも考えてみたら性別が変わっただけで何が変わるとは思えないし、そもそも原作では来年になるまで何も起きない(はず)だから、あんま気にしなくていいか。まあ、なるようになるさ。

そう思った私は睡魔に身を任せ、暗闇を落ちていった。

 

これが、私の「ジル・アリス・ロングボトム」としての人生の始まりだった。



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ジルとして、ロングボトムとして

ベルガシードです。
大分キャラ崩壊してますのてご了承ください。


 

私の名前はジル・ロングボトム。

もうすぐ一歳になる、イギリス人の赤ちゃんだ。ただ、普通の赤ちゃんと違うのは、「日本人として生きてきた記憶」をもつこと。そして——

 

「ほらジル、シャボン玉だよ。綺麗だろう?」

「ちょっとフランク、いくらジルが好きだからって作りすぎですよ。今夕食作ってるんですから…」

「まあまあお義母さん、私達騎士団の仕事で余り遊んでやれないんだから、たまにはこうやって遊ばせてくださいよ」

「はあ全く…『エバネスコ!』」

 

シャボン玉のいくつかが消える。

 

「うえーーん、えーーん」

「ほらお義母さん、泣き出しちゃったじゃないですか」

「はぁ…ごめんなさいねジル。ほら、元気だして」

 

杖を振って新しいシャボン玉を作ってくれた。きゃっきゃと喜ぶ私。

そう、私が今いるのは、世界的に有名かつ私の大好きなシリーズ、ハリー・ポッターの世界なのである。それも作中でかなりの重要人物であるネビル・ロングボトムの立ち位置に。

初めて気づいた時は驚いたけど、さらに不思議なのは私がネビルではなく「ネビルの立ち位置にいる女の子」、つまり別人となっている事だった。そのせいで先にも書いたように名前は「ジル」となっている。

このことに気がついた時の私の心には驚き、恐怖、不安、そして少しの喜びと興奮があった。だって、死んだと思ったら一番好きな作品の登場人物に生まれ変われたんだよ?これだけでも有難いと思うべきな気がする。

まあ、魔法族の暮らしも楽な訳では無いんだけれど。

さっき両親が自分で言ってたように、両親たちは「不死鳥の騎士団」と呼ばれるレジスタンス組織に所属している。知らない人たちのために簡単に説明すると、闇の帝王・ヴォルデモートの一味に対抗するため、ホグワーツ現校長アルバス・ダンブルドアが作った組織だ。まあ闇の魔法使いに対抗する組織とは言っても公式の組織ではないため、できるだけ活動は隠密に行う必要がある。とくにうちの両親は優秀な魔法使いでかつ闇祓いなので、様々な任務に必要とされあちこちを飛び回っている。娘としてはそれが誇らしい(と思っていることを誰も知らないが)反面、しょっちゅうどちらか(或いは両方)いなくなる両親に少し寂しさも感じていた。

話を戻すと、そういう両親がいない時には、私は原作にもいたネビル——この私ジルの「ばあちゃん」、オーガスタ・ロングボトムに面倒を見てもらっている。そしてこのばあちゃんがまたしんどいのである。闇祓いとして優秀な息子に誇りを持ち、そしてその娘である私にも多大なる期待を寄せていた。てかまだ私一歳にもなってないし。期待する方がおかしくないか?この前風邪を引いた時なんか、耳元で

 

「ジル、貴方は誇るべき父をお持ちの将来立派に育つであろう、いや育つ娘なのです。気を確かにお持ちなさい」

「頑張りなさい。貴方はロングボトムの名を継ぐ者なのです」

 

とか何とか延々と囁かれてましたわ。はっきり言って怖いし不気味だ。交番とかあったら訴えていいレベルだと思う。てかそもそもそんな事言われるほど死にかけてないし。

そもそも、現代人の私にはこういう「家の誇り」みたいなのがいまいちピンとこない。特に私みたいな境遇なら尚更だ。

とにかく。こういうことがあるので私はばあちゃんが苦手だ。ネビル、若干馬鹿にしててすまん。

 

でも、その反面、嬉しいこともある。

 

「ジル、もう話せるようになったのか?早いな~」

「さっすが私たちのジル!」

「そりゃそうよ、ロングボトムの名を継ぐんですから」

 

数日後。

ちょっと喋っただけで、両親とばあちゃんは喜んでいた。特にばあちゃんなんかは、嬉しさのあまりか涙ぐんでいた。それ程かなあ?別にこれ魔法でも何でもないし、殆どの赤ちゃんがやってる事なのに。

でも…嬉しかった。始めて「親」に褒められて。

私には親がいない。

物心ついた時にはもう居なかった。今みたいに喋れるようになる頃に既に施設にいた。何で居なくなったのか、それは分からない。事故か何かで死んだのかもしれないし、育てる程の余裕が無かったのかも。或いは…捨てられたのかもしれない。

多分、その理由は永遠に分からないだろう。転生してしまったのでは尚更だ。だから私は、友達を何より大事にしてきた。友達が好きだった。友達といると、何より幸せだった。それは、両親の代わりに友達を心の拠り所にしていたからなのかも。前世で死んだのだって、トラックから友達を庇ったからだった。友達のために死ねて幸せ…みたいに思ってしまっていたのかもしれない。

けれど、始めて血の繋がった人たちに褒められると、何だか、友達に褒められるのとは違う喜びがあった。なんというか、嬉しいと誇らしいの中間のような…言葉で言い表すことは出来なかった。ああ、これが親に褒められるってことなんだと、何だか不思議な気持ちになった。そして、そう褒められるたびに思えるのだ。

 

「私も、ロングボトムの家の名に恥じない子になろう」

 

って。いきなりカッコつけてなんだと思うかもしれない。もしかしたら、褒められる自分に酔っているだけなのかもしれない。それでもそう思えるのだ。ばあちゃんの言葉がどうとか関係なく。そしてそう思える自分が、何だかこの世界に居場所を見つけたような気がしていた。例え、転生した存在だとしても。

頑張ろう。

胸を張って、

 

「私は、ジル。ジル・ロングボトムです!」

 

て言えるぐらい、強く。

 

* * * * *

 

「「Happy Birthday to you,Happy Birthday to you,Happy Birthday dear Jill…Happy Birthday to you!」」

「おめでとう!ジル!」

「おめでとー!!」

「しっかしジルも一歳かぁ。早いなあ」

 

アルジー大叔父さんが感慨深げに言う。

 

「でもまだまだ小さくて可愛いなあ」

「小さくてもちゃんと成長していますよ、叔父さん」

「そうですよ、もう喋れるようになったんですから」

「本当なのか?」

「まあまだちょっとですけどね」

「そりゃそうですよ、なんたってジルですからね」

 

母がクスクス笑い、ばあちゃんが誇らしげに笑った。

とうとう私も一歳になった。

嬉しい。

けど、怖い。

その日が来ることが。

一歳のハロウィーンの後が。

ネビルの子供時代に影を落としたあの出来事が。

堪らなく、怖かった。




UA1000件超&お気に入り登録20件、皆さん本当にありがとうございます。


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前夜

ベルガシードです。
投稿遅くなってすいません。
罰としてウィンキーをスカイツリーの上に置き去りにしてきたので今後も宜しくお願いします。


その日、尋ねてきたのは本来の私、いや正確には本来の世界の「私」が知っているはずのない、でも私はとても良く知っている人だった。もっとも、そこまで好きなキャラだった訳では無いけれど。スネイプ教授が大好きな私達にとっては、彼は好意的に見れる存在では無かった。長身に黒髪、やや腹立つレベルで整った顔立ちからは、やや高慢ちきな雰囲気が——あまり感じられない。流石にこの時期はヴォル全盛期だからだろうか。とにかく、その顔立ち、やや犬のような雰囲気、何もかも記述の通りの容姿をしていた。もうお分かりだろうが、シリウス・ブラックだ。

 

「久しぶりだな、フランク、アリス。所で確かめるためとはいえあそこまでする必要は…いてっ」

「いやごめんごめん、影だけじゃわからなくて」

「ついやりすぎちゃった。ごめんなさいね」

 

まあドアを開けた瞬間にヴォルも真っ青なレベル(言い過ぎ…でもないか。勿論許されざる呪文は使っていない)の拷問をくらい悲鳴をあげながらだが。てか突然入ってくるシリウスもシリウスだが、うちの両親は天然というかなんというか…ここら辺がネビルに受け継がれたんだろうか。私には受け継がれてないことを祈る。ん?ばあちゃん?なんか用事でいなかったんですはい。

 

「それで、どうしたんだい?こんな皆が疑心暗鬼になってる時期に突然尋ねてくるなんてさ」

「いや、あそこまでやられるとは思ってなかったんだが…

なに、こういう時こそ、お茶をしてゆっくり話したいじゃないか」

 

ん?

何かおかしくないか?

少なくとも私の知っているシリウスは、こんな突然お茶をしに来るような男じゃないはずだ。いやさっきも言ってたように、シリウスでなくともこんな時期こんな事をする方がおかしい。絶対にこれは何かある。

そう考えた時、「あれ」の事が頭に浮かんだが、急いで払い除けた。考えたくない。出来れば来ないで欲しい。

あ…

フラグ建てちまった。

 

* * * * *

 

入ってきた時こそ騒ぎになったものの、しばらくすると割と普通にお茶会になっていた。切り替え早えなおい。

 

「それでな、もうおもちゃの箒で楽しそうに飛び回ってるらしいんだよ」

「え?確かうちのジルと同い年のはずよね。凄いじゃない!」

「うん、流石ジェームズの息子だ」

 

あれ?これ、ハリーの話じゃね?

ハリー・ポッター。優秀な両親の間に生まれながらも、予言を知ったヴォルデモートによって両親を殺され、自らもヴォルデモートを倒すという運命を強いられながらも、それに立ち向かい打ち勝った、魔法界の英雄(今はまだ子供だが)。ネビルとも友達だったはず。てかそもそも原作の主人公は彼だし。

 

「本当に!髪の毛も真っ黒だし、将来ジェームズそっくりになる気がするよ。ただ目だけはリリーだな。ほら、写真だ」

「わあ可愛い!貴方の言った通りね」

「可愛いって誰がですか?…誰ですか貴方は!」

 

うわー、めんどくさいの帰ってきたわー。

 

「お、オーガスタか、久しいな」

「誰かと思えばシリウスかい、あまり脅かすもんじゃないよ」

 

あれ?面倒くさくない?面倒くさいのは私だけ?

 

「いやすまないね急に「『ステューピファイ!』」うわっ!」

「『インカーセラス!』、『ベトリフィカス・トタルス!』…偽者なら白状しなさい、後悔することになりますよ!」

「ち、ちょっとお義母さん、本物ですよ!」

「そうだよ母さん、さっき僕らが確かめたから!さっきの傷がまた開きそうだからやめて!」

「その傷を負わせたのは君たちっ!だがっ!そういう事だからやめ、うわぁあ!?」

 

訂正、やっぱ面倒くさかった。

 

* * * * *

 

帰ってきた時こそ一悶着あったものの、その後は再びお茶会モードに戻っていた。すげえな魔法界。

 

「ほら、これがハリーですよ」

「どれ…もう飛んでるのかえ。髪も父親にそっくり何ですか。確かに目はリリーだね」

 

女子(?)2人は即座に女子会に突入したし。早いわ。

 

「呪文学の得意な、ね、お義母さん?」

「うっ、その話は止めなさい」

「ああ、そういえば呪文学嫌いだったな、オーガスタ」

「O・W・L取れなかったらしいからね。てかそれだけなのに嫌うことも…」

「まあ、そういうこともあるさ。それよりフランク」

「ん?何だ?」

「少し…いいか?」

「…ああ」

 

ほら来た。

なんかあると思ってたよ。てか私のフラグビルダー力凄いな。褒められてもいいレベルでしょこれ。って、そんなこと言ってる場合じゃない。横の2人は話に夢中だし、そのままここで話し——

 

「来た理由はそれか。なら、こっちに僕の書斎があるよ。使うか?」

「ああ、助かる」

 

デスヨネー。

 

* * * * *

 

しばらくして2人が出てくると(2人は気付いてなかった。すげえな…というより、母の方が気付いてばあちゃんを足止めしてくれていたのだろう。流石夫婦)、2人とも暗い顔をしていた。そりゃそうか。

 

「ああ2人ともおかえりなさい」

「何処に行っていたんですか?」

「いや、ちょっと、な…。あ、僕はこの辺でお暇させてもらうよ」

「あら、もう少し居てもいいのに」

「あー…いやなに、用事を思い出してね、急用なんだ。すぐ帰らないと」

「あら、ならすぐ帰らないといけませんね」

 

大嘘じゃん。明らかに話したいこと話したから帰る感じじゃん。ばあちゃんは気付いてないけど。こんな気付かない人だったっけ?あーでも、原作でもネビルの気持ちに気付いてなかったな。

 

「なら仕方ないわね。ほらジル、ちゃんとバイバイしなさい?」

「ば…ばい」

「ははっ、やっぱり可愛いな。じゃあ3人とも、また今度」

「ああ、また今度…な」

 

おいどうしたパパ。暗いぞ。さっきの話そんなレベルなのか。

 

「バイバーイ…行っちゃったわね。全く突然なんだから」

「まあ、ああいう奴だしな、それに…」

「何かあったのよね?」

 

小声で母が聞く。やっぱ凄いな、闇祓い。

 

「ああ…母さん、ちょっといいか?」

「え?はい…何ですか?」

「うんちょっと…結構大事な話なんだ」

「いいですよ、時間は有り余ってますし」

 

* * * * *

 

話を聞いた。

母が息を呑んだ。

ばあちゃんがいつになく深刻な顔をした。

私は…恐怖で固まった。

忘れていた。予言には、ハリーの他にも対象者が居た。それは…この私。ヴォルデモートに3度抗った両親の元に、七月の末に生まれた子は、2人居た。

しかし、なんでこのタイミングで?

シリウスは言った。ダンブルドアが、ヴォルデモートの不可解な動きを察知したと。ポッター家だけを探していたはずなのに、様子がおかしいと。

シリウスはさらに言った。私達家族を隠すため、「忠誠の術」をする必要があると。けれど、もう既にポッター家の秘密の守り人となっている自分では、力になれないと。

ならどうする?父は聞いた。

シリウスは答えた。信頼出来る人を自分達で見付けるしかないと。まだ、住んでいる本人が「秘密の守り人」となる魔法は無いらしい。

 

「私がやります」

 

ばあちゃんが名乗りを上げた。

 

「だめだ。母さんをそんな危険な役にさせられない」

「でも出来るのは私しかいません。逆に、誰が『秘密の守り人』になるというのです?」

「いやでも、お義母さんには…」

「なんです、私では信用出来ないというのですか?」

「いや、そういう訳じゃ…」

「分かりました。もう一度考えて見なさい。私は1度この家を出ます」

「待ってよ母さん!」

 

父が駆け出すも、ばあちゃんはもう姿くらました後だった。

でもかっこよかったよ、ばあちゃん。正直見直した。

 

「はあ…あんなに怒るなんて」

「あんな怖い顔したお義母さん、初めて見た」

「だからといって母さんに任せる訳には…」

「分かってるけど…」

 

重たい沈黙が場を満たす。何か言いたかったけれど、私はまだ喋れない。堪らなくもどかしい。

沈黙は、またの来客に破られた。

 

「はあ、今日は来客が多いわね…」

「僕が行くよ」

 

父が肩をすくめ、けどしっかりと杖を持ってドアへと向かう。

 

「はい、どちら様…」

 

 

 

闇の帝王が、立っていた。




お気に入り30件超え、本当にありがとうございます。
追記
次回から一週間に一回投稿します。


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あなたは、誰?

ベルガシードです。
今回はいつもよりもさらに文が拙いです。すいません。
それでも良ければ、読んでいただけると嬉しさで自分にアバダケダブります。
…何言ってんだ自分。
それでは、どうぞ!


「え〜、すばってばルーナ推しなの?」

「うん、そうだけど」

「意外。すばだったらジニーとかだと思ってた」

「そう?」

 

帰り道。私はいつものメンバーでハリポタ論議をしながら歩いていた。ちなみに「すば」というのは私の渾名だ。

 

「男子キャラなら?」

「セブルス」

「それは皆知ってるし皆そうだから」

「じゃあ…うーん、リーマスかな」

「えー、あのにっくきシリウスの親友?」

「にっくきって…まあそうだけどさ。なんかリーマスってあの四人の中じゃセブルスに優しかったじゃん?」

「そうかなあ…」

 

うーむ。何故皆リーマスの良さを分かってくれないのか。セブルスは別格としてさ。

 

「うーん…私はセドかなあ」

「セドリック?」

「そうそう!the・イケメンって感じじゃん?」

「まあそうかもn「結以ちゃん!」…どうしたのすばちゃん?」

「まだ信号赤だよ!」

 

私は必死に叫んだ。ただの信号無視ならここまで叫ばない。でも今は…

 

「びっくりした…いーじゃん、もう半分超えて——!」

 

トラックが全速力で突進してくる。多分、運転手は気付いていない。ブレーキは望めないだろう。なら…やることは一つ。

 

「あっ!すばちゃん!」

「駄目っ!」

 

押さえつけようとするふたりを振り払って走る。

走る。

結以を突き飛ばす。ちゃんと道路の向こう側に。

そして———私の体が宙に浮く。

 

「っ!…いったぁ…」

 

肋骨が折れたのが分かった。しかもさらに悪いことに、もう内臓に突き刺さったみたいだ。喉から血が湧き出てくる。

あーあ、ここで死んじゃうんだ、私…。施設の人達なんて言うかな…。皆に、何か言っときたいな…。

そんなバラバラな思考を終わらせるかのように、体に衝撃が走った。

私が最後に見たのは、止まったトラックと車と、必死に駆け寄ってくる皆の顔だった。

 

 

 

その記憶を、私は再び繰り返そうとしている。

 

「貴方は、誰?」

 

分かっているだろうけど、敢えて聞く母。

 

「ロングボトムだな?」

 

そいつは、父に聞いた。

 

「違う」

 

父は否定したが、恐らくなんの気休めにもならないだろう。

 

「そうか、否定するか、この俺様を…」

 

その瞬間体に圧を感じた。冷たい何かを。勿論そこにいる奴は何もしていない。杖も降らなければ指も動かしていない。なのに、凄まじい力を感じて、私は動けなくなった。

 

「俺様を否定するとは愚かな者よ」

 

そいつが話す度、部屋の空気が凍りつくような感覚に襲われる。

 

「アリス、ジルを連れて逃げなさい」

「でも、貴方が…」

「いいから逃げろ!」

 

物凄い気迫で父が叫ぶ。こんな父を見たのは初めてだ。

 

「ほう…俺様と闘うつもりか、ロングボトム」

「ああ、勿論な…逃げろ、早く」

「簡単に逃がすと思ったか?」

 

そいつが嘲笑った途端、私を抱え上げた母の動きが止まる。私も一緒に。ハリーが言ってた感覚って、こういう事か。

 

「っ、貴様…」

「どうした、決闘をするのなら、介添人が必要だろう…俺様には必要ないがな。さあ、まずはお辞儀だ」

 

何故かしっかり作法に則って決闘を始めようとしているそいつを前にして、父は動かない。

 

「どうした。決闘の作法も知らないとは哀れなやつよ」

 

そいつが軽く杖を振ると、父がお辞儀し———いや、無理矢理身体を折り曲げさせられていると言った方が正しいか。

 

「さあ、準備は整った。お前も早く杖を構えろ」

「殺すつもりなら…何故、早く殺さない」

「貴様に名誉ある死を与えてやるのだ。この俺様がな」

 

そいつがニヤリと笑った瞬間、稲妻が走る。

 

「ほう…やはり作法も知らないか。勝手に始めるとはな」

 

父が放った魔法を、まるで埃を払うかのようにいなす。ほとんど杖も動かさずに。

勝てない。絶対に。

そう思うしかなかった。

私の絶望した顔を見たか見なかったのか、口元に笑みをたたえながらそいつは父の杖をもぎ取る。

 

「おお…お前には最早戦う道具すらない…となると道は一つしかないが…貴様に選択肢をやろう」

「何だ?そんな物は願い下げだね。どうせ、貴様の仲間にでもなれとか言うんだろ?」

「ふっ…流石察しが良いなロングボトム…純血の者よ。そうだ。俺様の仲間になれば、命の保証はしてやろう。勿論、そこにいるお前の妻もだ」

 

嘘だ。たとえ仲間にしても、母は絶対に助けない。恐らく、父も使い捨てのように扱うだろう。それに、当然私は殺さr———

 

「何言ってんだか。馬鹿かお前は」

「何だと?」

「たとえどんなオマケが付いてこようが、お前みたいな純血主義でマグル嫌いで魔法使いの面汚しの巣窟に入るのは、地獄の窯の火が凍ってからだ」

 

パパ…。

今凄く、格好良いよ。

 

「それに聞くところによると、お前も半純血らしいじゃないか。なんでそんな集団にいる?」

「貴様、何故それを…ああ、ダンブルドアか。つくづく余計なことをする奴だ」

 

その言葉を聞いた途端、そいつの顔付きが変わった。憎悪を含んだものへと。一時取り戻したかに見えた場の空気が、再びそいつに支配されていくのを感じた。

 

「まあいい…ロングボトム、貴様に最後のチャンスをやろう。俺様の側に付け。さもなくば、この場にいる全員を殺す」

 

そいつが杖を上げた。

父は、止めるのでもなく跪くのでもなく、ただ、私達の前で手を広げて。私達を護るように。

そして————緑の閃光が走った。

 

「愚かな奴よ。俺様に付けば、生かしてやることも出来たのだがな…さあ、次はお前の番だ。アリス・ロングボトム」

 

嘲笑いながら、母に杖を向ける。

 

「選択肢なんていらないわ。狙いはこの子なんでしょ?なら…殺させないわよ。私が」

 

私を包み込む様に抱え、杖から外そうとする母。

 

「ほう…なら二人共殺すまでだな。さらばだ、ロングボトムよ」

 

やめて…やめて…撃たないで…ママを、殺さないで…

 

「『アバダ——』」

 

やめて——

 

「『ケダブラ!』…うがぁぁッ!?」

 

そいつが杖を振り下ろした瞬間、目も眩むような閃光が走り、そいつが苦悶の叫びを上げた。と同時に、何かが吹き飛ばされる音がして、私は目を瞑った。

目を開けると、屋根の一部が吹き飛び、そいつの姿が消えていた。

え?

何が起こったの?

母が倒したわけではないだろう。杖は持っていないし、そもそもそんな力が有るなら最初から戦っているだろう。無論、父でもないはずだ。なら何故——!もしかして、これってあの——

 

「!」

 

固まったままだった母が突然辺りを見回し始めた。見ると、埃と砂が不吉な音と共に落ちてきていた。それに、吹き飛ばされなかった柱が不自然な方向に傾いている——これは、まずい。非常にやばい。絶対に、落ちてくる。

ああ、神様、あいつが居なくなったのに、どうして私達は死ななきゃならないの?どうして?どうして——

 

もうちょっと、生きたかったなあ。

 

それが、私の頭に浮かんだ最後の言葉だった。

 

* * * * *

 

あれ?ここ、何処?天国?それとも地獄?でも死んだなら感覚があるはずないよね。でも何かに包まれてる感覚はするし、死んでないのかな。目を開けてみるか。

目は簡単に開いた。死んではいないようだ。周りに瓦礫と破片、そして母の手が見える——

えっ?

 

「ママ!」

 

包まれた腕から抜け出し、母を呼ぶ。母の体の半分は瓦礫の下に埋まっていて、私の力では取り出すことが出来なかった。でも必死に呼び続ける。父を失ったのに、これ以上失うのは——嫌だ。

 

「ママ!おいて!ママ!」

 

まだまともな英語すら喋れない。前世で出来たからって、発声練習をしなかった事を後悔した。これじゃ、助けを呼ぶことだってできない。どうしよう…。

私のせいだ。

私が居たから、あいつが来た。私が居たから、両親は死んだ。みんなみんな、私のせいなんだ。こんな私なんか——

 

「う、ううん?」

「!ママ!ママ!」

 

さっきの言葉を訂正する。父はもう居ないけど、母はまだここに居る。

 

「え?」

「…え?」

「ここは何処?あの人は、誰?」

 

自分の夫のはずの人を指して言う。

 

「それより、」

 

 

「貴女は、誰?」

 

彼女——私の母は、もう居なかった。




UA2000件超え&お気に入り登録40件超え、皆様本当にありがとうございます。


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怒りの相手

ベルガシードです。
本当に投稿遅くなってすいません。
取り敢えず罰としてヴォルちゃんにクルーシオかけられてきます。
それでは、どうぞ!


最高の魔法使いって、誰だろう。

私は該当しそうな人物をまだ知らないが、もし選ぶなら、二人の人物を選ぶ。もっとも、もうここにはいないけれど。

 

* * * * *

 

あれから、どれほどの時間が経ったのだろう、

壊れなかった玄関から入ってきたその人は、中の様子を見て愕然としていた。

 

「…なんてことですの。何でこんなに滅茶苦茶に…フランク?フランク!起きなさい!貴方の家が…フラン…ク?…ああ…」

 

ばあちゃん…ごめんなさい。

 

「…フランク…もう…逝ってしまったのですね…アリス?アリス!ジル!」

 

やめて、ばあちゃん。私にはそんな——心配される価値はない。

 

「ああ、アリス!良かった…」

 

見つけてしまった。義理の娘——アリス・ロングボトムだった人を。

 

「アリス…誰?私の事ですか?それより…貴女は誰ですか?」

「え?何を言っているの?貴女はアリス・ロングボトム。私の息子、フラ…フランク・ロングボトムの妻ですよ?」

「…えっ、私が…結婚を?」

「…何も…覚えていないのですか?…何もかも…」

 

その事に気づいたばあちゃんは顔を覆った。覆ってはいたけれど、零れ落ちる涙は隠しきれていなかった。

 

「…ジルは?ジルは何処ですの?」

「じ…る…?」

「まあ、それすらも…ジル!ジル!何処ですか?」

 

泣いたらすぐに見つけてくれただろう。でも私は泣かない。此処で気づいてなんか欲しくない。わたしに、そんな価値はない。

私のせいだ。

みんなみんな、私のせいだ。私が生まれ直さなければ、こんな事には…

 

「ジル!…良かった…生きていましたか…」

 

その思考を断ち切るかのように、私は見つかり、抱えあげられた。

なんで。

何で私なんかを。

こんな奴、救う価値もないのに。

激しく自己嫌悪に陥っていたはずなのに、何でだろう。何で、ほっとしているんだろう。見つけて欲しくなんかなかったはずなのに。

気がつけば、私は泣いていた。

 

「あらあら…怖かったでしょう…本当に…もう、大丈夫よ」

 

何で落ち着きがあるんだろう。何で安心しているんだろう。何で…

 

「無事で何よりですよ…ジル」

 

その時気が付いた。

嬉しかったからだ。

この世界で、原作も何もなく、ただただ無事だと喜んでくれる事が、嬉しかったんだ。

結局、私はこの世界を原作というフィルターを通してしか見ていなかったのだろう。そうでないなら、父と母の犠牲で残ったこの命が要らないなんて思わない。見つけて欲しくないなんて思わない。

生きよう。

両親の命まで預かった以上、死ねる訳が無い。予言なんて関係ない。泥臭くてもいい。多少逃げたっていい。でもそこで、死ねはしない。あいつが襲ってきても、死ぬ覚悟で飛び込んだりはしない。臆病者だと、笑われるかもしれない。それでも私は、何としても、生きたい。

そう思った。同時に、こうも思った。

 

絶対に許さない。

 

私の両親を殺したあいつを。私から幸せを奪ったあいつを。私の平穏を消し去ったあいつを。

 

ヴォルデモート。

 

私は、絶対にお前を許さない。

 

* * * * *

 

それからばあちゃんは私と母家へと運び、すぐに出ていってしまった。

心配が顔に出たのだろう。出ていくばあちゃんを見送る私を見たアルジー大叔父さんが元気づけてくれた。

 

「心配するな。ちょっとあの方を呼んでくるだけだ。大丈夫。オーガスタならすぐ戻るさ」

 

それを聞いて少し安心した。何しろあのばあちゃんだ。簡単には死なないだろう。そう思うと同時に、新たな疑問も生まれた。

あの方って誰?

 

しばらくすると、玄関が上品にノックされた。エルド大叔母さんが慌てて出ていく。

 

「誰ですか?」

「私ですよエルド。それと…」

「わしじゃ。開けてくれんかの、エルド」

「…ダンブルドア先生?」

「そうじゃ。本物であるかは、証明できんがの」

「エルド、わしが代わろう。先生、僕の学生時代の得意教科は?」

「薬草学じゃ。キミがO・W・Lで優・Oをとったときは、とても誇らしかったのう」

「本物だな。お入りください、先生」

 

大叔父と大叔母が警戒をとくと?開いたドアからばあちゃんと、見知らぬ——いや、正確には「こっちに来てから見知らぬ」長身の男性が入ってきた。長い銀髪と髭をベルトに挟み込み、紫のローブを纏っている。透き通るようなブルーの目からは、X線で透視されているような感覚を覚える。何もかも見透かしてしまうような。

 

「入れてくれてありがとう。エルド」

「先生だと分かって、入れない訳が無いでしょう。先生、これは…」

「エルド、アルジー。貴方がたの思っている通りじゃろう。あの家に、ヴォルデモート卿が、訪れた」

 

その名を聞いた途端、「先生」以外の体が震えた。

ばあちゃんと大叔父、大叔母は恐怖に、そして私は——

怒りに。

 

「ヴォルデモート卿がやって来たのは他でもない、この子を殺す為じゃった」

 

私を指しつつ言う。

 

「だが、あやつはこの子を殺し損ねた。もちろん、犠牲者は出したが…」

 

その途端、静かに聞いていたばあちゃんが崩れ落ち、泣き出した。

 

「オ、オーガスタ、どうした」

「わたく…私のせいなのです。私があの場を離れなければ、私がつまらぬ意地を張って出ていかなければ、あんな事には——」

「いいや、君のせいではない」

 

「先生」がそれを遮った。

 

「それを言うなら、それはわしのせいでもあり、ヴォルデモートのせいでもある。こうなったことは、一人に責任があることではないのじゃ」

 

その言葉を聞いた瞬間、私の心にさっき——ヴォルデモートに対するものでない、新たな怒りが満ちるのを感じた。

 

知っていたのに。

誰が危険か、誰が襲われるかもしれないのか、知っていたのに。守れなかったどころか、最近まで護ろうとしなかったのはどこの誰だ。予言に当てはまる人物が二人いた時点で、知らせるべきじゃなかったのか。たとえ、襲う気配がなくとも。そのせいで私の両親が死んだのだと思うと、もはや怒りを抑えきれなかった。

 

「しかし、この子は生きておる。ここに居る。それが大事じゃ」

 

そう言いつつ伸ばしてきた手を、私は全力で払い除けた。こんな奴の手になど、触られたくない。

そう思って払い除けた時、微かにその顔に悲しみがよぎったが、私は気が付かなかった。だって、もう顔も見たくないから。

 

* * * * *

 

最高の魔法使いって、誰だろう。

私は該当しそうな人物をまだ知らないが、もし選ぶなら、決して選ばない人物が、二人いる。

ヴォルデモート卿。

そして——

アルバス・ダンブルドア。

 

この2人は決して許さないと、私は心に誓った。




誤字報告ありがとうございます。
遅れましたがUA3000件超え、お気に入り登録60件超え本当にありがとうございます。


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生き残った男の子

ベルガシードです。
投稿遅い上に短くてすいません…本当に。
それでは、どうぞ!


「ああおはよう、ジル。よく眠れましたか?」

「あー」

「そうですか、良かった」

 

うん、あれ絶対分かってない。

あれから色んな手続きの後、私はばあちゃんの家に住むことになった。これは護りを固めるためだと知っていたし、そもそも親戚がばあちゃんたちの他にはいなかったので何の問題もなかった。ただ、護りを残したのが母でなく父な点でハリーとは異なるが。

あの時、ヴォルデモートは父を殺し、母と私を殺そうとした時点で消滅していたが、それはどうやら父が護りを残したことによるものだったらしく、ばあちゃんに預けられたのもそのためだそうな。

ただそのせいで母にも護りが残ることになったが、母はすでに記憶を失っているし、予言の子でもないためばあちゃんの家に住むことにはならなかった。その代わり、聖マンゴの一番守りの硬い隔離病棟に入院することになった。ただ、それで記憶が戻る確率は少ないとの事だ。

そんなことを回想していると、ドアが大きな音を立てて開き、凄い形相をした大叔父さんが飛び出してきた。な何があったんだろう。

 

「どうしたんです、いきなり入ってきて。ノックしなさいと言ったでしょう?」

「そそ、それどころじゃない、大変なんだ」

「何があったのですか?アルジー」

 

冷静に問い質すばあちゃんに、大叔父さんは深く息を吸い込むと、一気に言った。

 

「殺された。あの2人が。ジェームズとリリーが、殺された」

 

ガタッと音がして、私は頭の痛みに悶絶した。が、それどころではない。

死んだ。

ジェームズとリリーが。

ハリーを残して。

ハリーは予言の子ではなかったというのに。

 

「…それは、本当なのですか?アルジー」

「あ、ああ…皆が言っていた…死んだ事も、どんな風に死んだのかも…」

 

ハリーが予言の子ではないにもかかわらずポッター家が襲われた理由…それは、本来の歴史での両親と同じような理由だった。ただ、肉体的に死んだか、精神的に死んだかという違いがあるだけで。主君の消滅に怒り狂ったベラトリックス以下信望者達は、襲われなかった方のポッター家が主君の居場所を知っていると決めつけ、ポッター家を襲撃した。忠誠の術がかかっていたはずだが…恐らく、ワームテールが既に漏らしていたのだろう。だが、襲った時、磔の呪文をすぐに使わなかったのが幸いしたのか、2人には反撃する余裕があった。だが流石にベラトリックスとその夫、クラウチjr.、ラバスタンなどに対し多勢に無勢。2人は適わず殺されてしまった。だが、それでもラバスタンを戦闘不能に追い込み、クラウチjr.を気絶させ、ロドルファスを負傷させたのは流石だと思う。だがベラトリックスは無傷のまま突き進み、そのままハリーまでも殺そうとしたがすんでの所で魔法警察舞台が駆けつけ、4人は逮捕された——そうだ。

それを聞いた私は——

遅い。

何をしてるんだよクソジジイが。

私が襲われた時点で、そっちの防護も強めるべきじゃなかったのか。それとも、ワームテールが裏切らないとでも——そうか、シリウスが目くらましをしたことを知らなかったのか。それでも、これではなんの言い訳にもならない。結局、ハリーは選ばれし者でも何でもないのに、たった1人——生き残った男の子になってしまったじゃないか。

そう怒りを煮えたぎらせていると…

 

「ジル…?」

「ジ、ジル、な、なんだ?その、目は?」

 

え?何、私、そんな怒り表に出してました?そんなマジなトーンでビビられるレベルなの?

そう思いつつ何気なく近くの鏡を見ると——

キャアッ!

え?え?何で?何これ?なんで——目が真っ赤に光ってんの?

そう狼狽していると——

あ、戻った。良かったあ…。でも、何で目があんな事に…

そうだ。

私は、あいつの分霊箱だった。魂が引っ付いてしまってるんだから、こうなるのも有り得ないことじゃない。でも…

傷痕の方が、マシだったな…

 

「あら?今の、見間違いだったのかしら?」

「あ、ああ、そうだな多分。きっとそうだ」

 

そこ、現実逃避しなさんな。特にばあちゃん。そんな怖いんですか?若干傷つくんだけど。

その時、窓のあたりがノックされた。

 

「あら?フクロウですか?誰から…ダンブルドア先生?」

「!本当か!今度は一体…」

 

お願い、頼むからあんなニュースではありませんように…

 

「『ポッター家の二人がハリーを残して亡くなったことは、お聞きのことであろうと思う。ついては、引き取り手が見つかるまで——』」

「…ハリー・ポッターを、預かってほしい?」

 

え?




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黒犬の家族

ベルガシードです。
本当に投稿遅くなってすいません。
いつの間にか木曜投稿になっちゃってるなあ…直さないと。
それでは、どうぞ!


「う、う〜」

「そう、そうですよジル、そのまま!」

「う〜っ、あっ…駄目だ…」

「…もうジル、何度も言ったでしょう?もっと意識を集中させないと…」

「うーん…」

「返事は?」

「…はい」

 

あれ?こんな難しかったんだ。変身術って。

あれから7年。私は8歳になっていた。赤ん坊の身体ではなくなったので普通に魔法の練習が出来るのはありがたい。

ただ、練習が出来るのはありがたいけれど、如何せんまだ8歳でホグワーツにも入学していない。そのせいで魔法力がまだまだ弱く、思うように呪文が使えずに練習に苦労している。

ん?まだ学校にも行っていないのに練習をしている理由?そりゃ、決まってる。

あいつを——ヴォルデモートを倒すため。

例え原作知識を持っていたとしても、あのクソジジイが言っていたようにあいつの力は強大だ。実際、原作であいつと一対一で戦えたのはクソジジイのみ。スネイプですら赤子のような扱いで、マクゴナガル、スラグホーン、キングズリーの3人ですら抑え込むのが精一杯。そんな相手に、学校内だけの魔法の練習で立ち向かえるとは思えない。そりゃ、必死に練習したとしても敵うとは思わない。だけど、立ち向かった時、安心して逃げられるくらいの力なら、つけていても損はない。

 

「さ、杖を構えて。良いですか、今度はしっかり集中するんですよ」

「はい…」

 

それで魔法力が発現してから、ばあちゃんに練習の教師を頼むと二つ返事で承諾してくれた。なんでも、友達(絶対マクゴナガル)が先生をやっていると知って、一度やってみたかったらしい。まあ、多分それだけじゃないけど。

 

「うーん…あっ!出来た!やった!」

「良くできましたジル!流石です!」

「うん、ありがと、ばあちゃん」

 

あー、やっと出来た、疲れた。

まさか、ただマッチ棒を針に変えるだけでこんな疲れることになろうとは。やっぱもうちょい練習しないとな。

 

「少し休みましょうか、ジル。あの人達も来ますし」

「うん…え?あの人達って…今日だったっけ?」

 

え?何それ?私全く聞いてないんだけど。

 

「今日もなにも、貴女が誘ったんでしょう?今日家に来ないかって」

 

あ、そうだった。

やばっ、すっかり忘れてたせいで部屋の片付けとか何もしてない。どうしよ……まあ、そんなすぐ来ることもn

バシッ!

姿現し特有の音がしたかと思うと、ドアが乱暴にロックされた。

 

「オーガスター!いるか?」

「もう来たんですか?早いですね、シリウス…それに、ハリー?」

「うん!久しぶり!おばさん!」

 

ドアから入ってきたのは、黒髪のハンサムな——やや老けているけどそれが余計に整った顔立ちを引き立てている——長身の男と、同じく黒髪だがまだ私と同じかより低いぐらいの背丈しかない男の子だった。見た目に関しては、私の中のイメージにある「彼」と、寸分違わない見た目だった。ただ、額にその傷痕がないことを除けば。

 

「あれ?おばさん、ジルは?」

「ああ、あの子なら部屋の片付けをすると言って部屋に篭ってしまいましたよ…全く、誘ったのはあの子ですのに」

 

言えない。片付け放棄して会話に耳傾けてるとか言えない。

 

「ははっ、本当に、そういう所は親にそっくりだよ、ジルは」

「そんな所まで似なくてもいいと思うのですけど…あら?レイローズとフローレンスは?」

「ああ、2人なら少し遅れてくるよ。レイローズの方がお土産が見つからないって聞かなくてね。フローレンスはしっかり物を持ってきてるのに…全く、どっちが子供なんだか」

「ふふ、レイローズらしいですわ」

 

いや、マジで子供かよ。

この世界に来て2番目ぐらいに驚いたのが、シリウスが結婚を果たしているという事実だった。原作だと絶対結婚出来そうになかったのに。しかも、あのスリザリン嫌いのシリウスが、スリザリン出身の純血の魔女と結婚したというのも驚きだ。何があったんだろう、その辺り。ただ、子供は2人とも自分達の子ではないのだが。そもそも、ハリーに至っては養子縁組すらしていない。何故かというt——

バシッ!

とことん邪魔するなこの姿現しが!

2度目のの音とともに、これまた2度目のノックがされた。

 

「ばあちゃーん!開けてくださーい!」

「全く、私は貴女のお祖母さんではありませんのに…はい、只今…久しぶりですね、レイローズ?」

「ほんっと!久し振りね!ばあちゃん!」

「だから、ママ、ばあちゃんじゃないって言ってるでしょ?」

「えー、そんなあ」

 

マジでどっちが子供だよ。

ドアから入ってきたのは、今度は女子2人組。片方は明るい、解いたら腰まで届きそうなブロンドを結い、肩の辺りで垂らしている。背も高く、顔立ちなんかは絶世の美女と言ってもいいだろう…性格さえ加味しなければ。そしてもう片方は——

 

「ジルー!ひっさしぶりー!…あれ?ジルは?」

 

うるさいな!

二度あることは三度ある。

 

「はあ、まだ片付け終わっていないのですか?ジルー!降りて来なさーい!」

 

うわやっべ、話ずっと聞いてて片付け全然してない、やばい。どうしよ…まあ、流石に部屋に押し入ってくるようなばあちゃんじゃないし、多分大丈夫だよね?ほら、上がってくる音しないし——

ガチャッ。

普通にドアが開けられ、中に私よりも早く生まれているのに背が低く、それでいて美少女なダークブロンドの女の子が入ってきた。

 

「三度あることは四度ある、これだね」

「貴女何言ってるのよ、ジル」

「いや、こっちの話、全然大丈夫、ね?」

 

何とか笑顔とピースで誤魔化す。

 

「ふーん、ならいいけど。それで…この惨状はどう説明するの?」

「あ…」

 

この子、怖い。

 

* * * * *

 

そしてたっぷり片付けしてない事への説教をされた後、手伝って貰った。流石だ。でもなんか悔しい私の方が精神年齢上のはずなのになー。背も高いのになー。

 

「…今、背が低いなーとか思ったでしょ」

「え?何で分かったの…しまった!」

「馬鹿?」

 

ため息をつかれながらも片付けをしてくれる。やっぱ優しい。流石、クリミアの天使と同じ名前だけあるよ。多分関係ないけどさ。

 

「てか、見てないで少しは手伝ってよ。ここ、あなたの部屋でしょ?」

「いやー、さっき呪文の練習してて疲れてさ、やる気起きなくなっちゃって」

「なら仕方ない…と言うとでも?」

「えー」

「さ、早く片付けよ?それから…呪文の練習は程々にね?」

「はーい」

 

この優しさ、二年前と変わらないな。そういえば、私が練習する理由話してるのって、彼女だけか。あの時は確か——

 

私の意識は、回想の彼方へと飛んでいった。




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迷子の私とあの子(1)

ベルガシードです。
本当に投稿遅くなってすいません。待ってくださった皆様、申し訳ありませんでした。
今回は、視点変更という形で二話に分けます。
まずはジル視点です。
それでは、どうぞ!


あれは、二年前の雨の日だった。

 

「フローレンスがいなくなったって?」

「ええ、そうみたいですよ」

「そうみたいですよ、じゃないだろ、というか、居なくなったってどういうことなんだ?」

「いや、普通に家に居たらしいのですけど、レイローズさんがふと気付くと居なくなっていたらしくて…」

 

出かけていたばあちゃんが突然青い顔をして帰ってきた。何があったのかアルジー大叔父さんが聞くと、シリウスの娘——フローレンスが居なくなったという。

シリウスの娘と聞くと驚かれるかもしれない。何しろ、原作では結婚相手すらいなかったのだから。だが、この世界ではシリウスはちゃんと結婚出来ているのだ。しかも、スリザリン寮出身の相手と。これにはほんとに驚いた。しかも子供までいるとは…この世界が変わってしまっているということを、改めて感じた。

違う違う。今の問題はそれじゃない。

フローレンスとは何度か遊んだ事があるが、少なくともいきなり理由もなく出て行ったりするような子ではなかった。いつもシリウスとレイローズさんに引っ付いていたから、迷子という線も無いだろう。

じゃあ、何故?

 

「しかし、わしらはそんなにあの子と関わりはないんだぞ?探すにしても…」

「そうですね、私達はフローレンスと接点はほとんどありません」

 

あ、この流れって。

 

「ジル?いつもはフローレンスとどこで遊んでいるのですか?」

 

遊んでるところなぁ…

ないこともないけど、私達はそんなに遊んだ事はなく、遊ぶにしてもお互いの家ばかりで、外に出たことはほとんどない。いつも遊んでいる場所といえば、それこそ私の家か、シリウスの家だ。

 

「私たち、そんなに外で遊ばないから…」

「そういえばそうでしたね…ああ、どうしたものでしょうか…」

 

うーん、だからといって思いつく場所も無いしなあ…

あ、なんかお腹すいてきたわ。何か買ってこようかな。近くにちょうどマグルの店があるし。

 

「ばあちゃん、お腹すいちゃったからチョコレート買ってきていい?」

「いいですけど…すぐ戻るんですよ?もしかしたら、フローレンスは誘拐されたのかもしれないのですから」

 

あ、その線もあったか…まあいいや、食べてから考えよう。

外に出た瞬間、私は自分の考えが甘かったことを悟った。

 

* * * * *

 

くっそ、なんで帰るまでに雨がやまないんだ。普通、こういうのって店出たあたりで雨が止んで、わー虹だーって言うところでしょうが。こんな雨だと、気分も落ち込むよ。最近の悩み、思い出すでしょうが。

どうしよ。魔法の勉強、教えてもらおうかな。

考え事をしていると、

あれ?

 

「…ひぐっ、うう…パパも…ママも…ちがう…」

 

あそこで泣いてるのって…もしかして、フローレンス?しかも、傘も持ってないし風邪ひくぞ。

 

「びしょびしょだよ、フローレンス?」

「ひっ、ううっ、ジ、ル?」

「ほら、シリウスもレイローズさんも心配してるよ?雨も降ってるし」

「…あ、あたし…かえりたくない…」

 

うん…まあ…そりゃそうだろうなあ。こんなずぶ濡れになってもずっと立ってんだから。

 

「ん…じゃあ、うちに行こ?」

「うちって?…ジルの?」

「そうだよ。ばあちゃんなら、何とか説得出来ると思うし」

「せっとく?」

「…分かってもらえるってこと。じゃ、行こっか」

「…え、でも…」

「ずっとここに居たら風邪ひいちゃうよ。それでもいいの?」

 

そう言うと、寒さで凍えていたこともあってか、割と素直に私に従ってくれた。かわいい。

——後から考えてみると、誰かに自分の気持ちを聞いて欲しかったのかもしれない。

 

* * * * *

 

「ただいま、ばあちゃん」

「おや、遅かったですね、ジル。何かあったのですか?」

「…うん、ちょっとね…」

 

ちょっと口篭りながらも、覚悟を決めて怖がって後ろに隠れる彼女を前に立たせる。ばあちゃんが驚いた顔をした。

 

「フローレンス?フローレンスなのですか?」

 

彼女は固まったまま動かない。まあ、家出中なのだから無理もないか。

最初は隠そうかとも考えたが、どう考えても怪しいし、どうせバレるくらいならちゃんと話してわかってもらおうと思った。ばあちゃんなら、きっと。

 

「まあジル、よく見つけ出してくれました。さあ、早く貴女の家に——」

「待って!」

「…どうしたのです?ジル。この子を帰らせてあげないのですか?」

「いや、そうじゃなくて…フローレンスは、帰りたくないって言ってるの。絶対、普通の理由なんかじゃない。だから、シリウス達に言わずにちょっとだけ、ここに居てもらうっていうのは…ダメかな?」

 

私のお願いを聞いたばあちゃんは、しばらく黙っていた。私は少し心配になった。もしかしたら、分かってもらえなかったのかな…そう思いふとフローレンスの方を見ると、私なんかよりよっぽど心配した顔をしていた。いけないいけない、ここで私が不安になってどうする。シャキッとするんだ、私。

 

「フローレンスが帰りたくなるまでだから。ちゃんと責任は取るよ、ばあちゃん。もう魔法は使えるんだよ?」

 

私がはっきり目を見て言うと、ばあちゃんの口に笑みが浮かんだ。

 

「貴女はまだ魔法の練習を始めたばかりでしょう…まあ、貴女がそこまで言うのなら、ここに置いてあげてもいいですよ…ただし、シリウスには知らせますよ。彼らは大事な家族が居なくなって、本当に心配しているんですから」

 

ばあちゃんの言葉にフローレンスが身震いをしたが、ばあちゃんは彼女のを見て笑った。

 

「大丈夫ですよ。ちゃんと彼には言っておきますから。貴女の気が済むまで、ここに居なさい」

 

やったぜ。

 

「ありがと、ばあちゃん!」

「ジルが本気じゃなきゃこんなことしないことぐらい知っていますよ」

 

ばあちゃんはそう言って笑った…この人、本当にばあちゃんか?性格イケメン過ぎでしょこれ。

ま、いっか。

 

「じゃあ、行こっか、部屋」

「…うん」

 

私が聞くと、頷いて、少しばあちゃんに会釈をしてから私の後に付いてきた。かわいい。

ドアを開けると、彼女が固まった。

 

「…なに?ここ」

「…私の部屋だけど?」

「ここが…へや?」

 

やめて。頼むから哀れみの目で見ないで。いやだって、仕方ないじゃん。今日誰か来る予定なんかなかったんだから。片付けてるわけないじゃん。

 

「部屋だよ?ここが…まあいいからさ、早く座ってよ、ね?」

 

慌ててお願いするとなんとか座ってくれた。よかったよかった。あ、先に言っとくと散らかっているけど足の踏み場はあるから、大丈夫。

 

「というか寒かったでしょ、お風呂入ってきたら?」

 

そう言って彼女を見て驚いた。さっきまであんなずぶ濡れだった服がもう乾いている。何で——そっか、魔法力の発現ってこんなだったっけ。私はもう一年ぐらい前になるからすっかり忘れていた。

 

「どうしたの?」

 

心配そうに聞かれた。ダメだダメだ。シャキッとしてないと。

 

「ううん、何でもないよ。ほら、早く座って」

「…うん」

 

頷いて座ったフローレンスは——そのまま倒れ込んで寝てしまった。

ええ!?

まあ、雨の中震えたままだったんだから体力なくしてて当然か。

取り敢えず、彼女が起きるまで待つことにした。

 

* * * * *

 

「う、うーん…?」

「あ、おはよー。結構寝てたね」

「あれ…ねちゃってたの?」

 

うん。日が暮れるくらいにはね。

 

「ごめんなさい…」

「いいよ、疲れてたんでしょ?まだ疲れてるんならもうちょい寝てても…」

「ううん、いいよ」

 

そう言って私を見た目には不安は浮かんでいるけれど、眠そうではなかった。そして、何かを決意したような目をしていた。おお、話してくれるんだ。

 

「ゴブストーンしてあそぼ?」

 

デスヨネー。

 

* * * * *

 

彼女がここに来てから三日がたった。相変わらず、話してくれる気配はない。まあ、そんなにすぐ話してくれるわけもないか。

 

「あー、それはここにしまってー」

「はーい」

 

あとあまりにも部屋が散らかっていたからか、片付けを手伝ってくれている。本当にありがたい。自分じゃ全然片付かないし、ばあちゃんにいつも手伝ってもらってる。そしてさらに自信を無くしてゆく。

こんな私が、今魔法を勉強して何になるのかって。

 

「ごめんね、片付け手伝ってもらって」

「いつもおてつだいしてるから」

「へー、ママの?」

 

言ってしまってから失言だと気付いた。やっべ。黙っちゃったよ。どうしよ。

慌てていると、彼女が私の方を見た。やべ、泣かれたらなだめられる自信ないよ。

 

「あたしのはなし…聞いてくれる?」

 

 

おお!

やっと話してくれるんだ。って感心してる場合じゃないってば。

 

「うん、いいよ」

「あたしが…パパのホントのこどもじゃないって、しってる?」

「え?」

 

え?え?何それ?一回も聞いたことないんですけど。

 

「それ、どういうこと?」

「きのう、パパとママがはなしてたの。このこをひきとってからもうなんねんだろうって」

 

ああ、そういうことか。

多分、彼女はまだ「引き取る」とか、そんな言葉の意味はまだ分かっていないんだろう。だけど、何となくの意味は想像出来たんだよね。子どもって、そういうことに敏感だしね。そりゃ、わけがわかんなくなって出ていって当たり前だ。

それに。

 

「あたしがほんとのこどもじゃないなら、あたしはパパとママといっしょにいちゃいけないくらしちゃだめなんだよね…きゃっ!」

 

いきなり抱きしめられて動揺しているようだ。そりゃそうだよね。でも、

私も、同じだった。

前世のことだけどね。

物心ついた頃から施設に居たけど、最初はそんなことは全く思わなかった。だって、それが——親がいないことが普通だったから。でも、しばらくして気付いた。親がいないということが「普通じゃない」ことに。

それから私は塞ぎ込んだ。親がいないことが普通じゃないなら、私は「普通の子」なんかじゃない。みんなとは違う。

そうやって孤独の中にいて。

でも、そんな時、手を差し伸べてくれたのは、その「普通」の子だった。

 

一緒に遊ぼ?

 

そう聞かれて、なんで私と遊んでくれるのか、聞いた。「普通」じゃない、私と。

 

何で?私たち、友達でしょ?

 

そう言われて、すごく驚くと同時に、すっきりした。「普通」かどうかなんて、関係ない。私はここにいるんだって。いていいんだって。

そしてそれは、転生しても変わらない。

 

「そんなこと関係ないよ。私だって、本当はこの家の子供じゃない。ばあちゃんに引き取られて、ここに一緒にくらしてる」

 

でも。

 

「本当の子供かどうかなんて、関係ないんだよ。私は確かに本当の子供じゃないけど、ばあちゃんに大切にしてもらってる。一緒に住んでもらってる。大事に、してもらってる」

 

「だいじに?」

 

「そう、大事にしてもらってるんだよ。それに、フローレンスだって、大事にしてもらってるよ」

 

「なんでわかるの?」

 

「大事にしてもらってないなら、あなたのことを探したりしないよ?」

 

「そう…なの?」

 

「そうだよ。だから、いちゃダメなんてこと、ないんだよ。一緒にいていいんだよ。」

 

「…ほんとに?」

 

「うん、本当に」

 

私が抱きしめていた手を離すと、ちょっぴり、安心した顔をしていた。

 

「私、帰るよ。おうちに」

「大丈夫?」

「うん、大丈夫。って、ジルが私にいったでしょ?」

「まあ、そうだけど…そういえば、『私』って…」

「ジルのまねしてみたんだー。いいでしょ?」

 

なにこれ。めちゃくちゃかわいいじゃないですかヤダー。

 

「いいよ!じゃ、一緒にばあちゃんに言いに行こっか」

「うん!」

 

* * * * *

 

しばらくして、レイローズさんが迎えに来た。見たことが無いくらい慌てた様子だった。こりゃ、あんな片付け上手になるわけだ。

フローレンスは帰る時笑っていた。これなら、大丈夫だよね。

二人が帰ってから、ばあちゃんがこっちを見て言った。

 

「しかし、流石ジルですわ。あの子を安心させてあげるなんて」

「ううん、私そんなに凄くないよ。むしろフローレンスの方が…」

「?どうしたのです?」

 

少し悩んだけど、言うことに決めた。

 

「ばあちゃん…魔法、教えて?」

「…何故急に魔法を習おうと思ったのですか?」

 

ずっと悩んでいた。魔法を教えてもらおうかどうか。部屋すら1人で片付けられない私に、習う資格があるのか。

でも、もう決めた。あんな小さい子が——まあ、歳では私と同じだけど。精神年齢が私よりもずっと下の子が、自分の意思で決断出来るんだ。私が決断できなくてどうする。

あいつを倒すためには、そんなことで悩んでられないんだ。

 

「もっと、魔法を知りたいの。もっとちゃんと、使えるようになりたい」

 

うん、嘘は言ってない。でも、認めてくれるかな…

 

「そう言うのなら、いいですよ?」

「ほんとに?やった!ありがとう、ばあちゃん!」

 

よし。ちゃんとやろう。ちゃんと、使えるようになろう。ホグワーツに行ってから、さらに磨くために。




誤字脱字報告、ありがとうございます。


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迷子の私とあの子(2)

ベルガシードです。
長い長い長い更新停止、誠に申し訳ありませんでした。
これからもマイペースな更新になってしまうと思いますが、それでも読んで下さると泣いて喜びます。
今回はフローレンス視点で、回想という形を取らせて頂いています。
それでは、どうぞ!


「ジルー、洗い物手伝ってくれるー?」

「えー、またぁ?」

 

洗い物の手伝いに呼ばれた。これで何度目だろう。

少し面倒くさそうな顔をすると、私の母であるその女性——レイローズ・ブラックは、泣きそうな顔をして私にすがった。

 

「もうそんな顔しないでよー。お願い!」

 

子供か。まあ、その時6歳の私が言えたことじゃなかったかと思うけど。でも、そんな風に言われると弱いよ。

 

「もー、しょーがないなー」

「わあっ!やったあ!ありがとねフローレンス!」

 

飛び跳ねて喜ぶ母。精神年齢は一体何歳なのか。

 

「ママもこれぐらい出来るようになってよー。あたしみたいに子供じゃないんだよ?」

「うぐっ、もー、そんな言葉どこで覚えたの?」

「ないしょ」

 

にっこり笑って流す。まあ言ってしまうと、これも日課になってしまって慣れている。逆に無くなったら生活リズムが崩れるかもしれない。

それから5分ほどすると、ドアが開いて声がした。

 

「ねえ、フローレンス。僕のおもちゃの箒知らない?」

「知らないよ」

 

いや、箒に触ったこともなかった私がどうして知っているというのか。

 

「えー、そんなあ…」

「あ、箒?それなら私が没収しましたよー」

「ええー!おばさん何で?」

「ハリーが所構わず飛ぼうとするからでしょー?」

 

こんな風に、この男の子——ハリーには、どこか抜けているところがある。もしかしたら、シリウス叔父さんの影響を受けたのかもしれない。

 

「まあまあ、それぐらいにしておいてやれよ。ハリーだってもっと遊びたいんだ。そうだよな、ハリー?」

 

噂をすればだ。長い黒髪に長身、自他ともに認めるイケメン。私の父、シリウス・ブラックだ。

 

「うん!もっと箒に乗って遊びたい!」

「うーん、じゃあ、仕方な——」

「ダメだよママ!この前かだんたおしたとこだったでしょ?」

「あ、そうだった!」

「あー!忘れてたと思ったのにー」

「流石フローレンスだな。ちゃんと覚えてるとは」

「あなたは忘れてたでしょ!シリウス!」

「な、何のことだか」

 

焦った顔で苦笑いする父。それに詰め寄る母。残念そうな顔で落ち込むハリー。そしてそれを慰めに向かう私。

 

この時、私は本当に幸せだった。

 

* * * * *

 

おかしいと思ったのは数日前からだった。

なんとなく、母に避けられている気がする。はっきりとした言動で伝わった訳では無いけど、言葉の端々からそんな空気が感じ取れる。それに、

 

「はー、皿洗いしんどい…ちょっとハリー、皿洗い手伝ってー」

 

いつもなら私に皿洗いを頼むはずだ。なのに、それがばったり無くなった。でも、考えても理由は見つからなくて。

混乱しながら過ごしていたある日。

夜に突然目が覚めた。何となくだったと思うが、眠れないうちにトイレに行きたくなった。

トイレを済ませて戻る途中だった。父と母の部屋から話し声が聞こえたのは。

 

「そんなことないさ。きっとあの子も分かるはずだ」

「で、でも…まだあの子は6歳なのよ?こんなこと突然言って、分かるはずないでしょ?私達が——」

 

「本当の親じゃないってこと」

 

思考が、止まった。

え?嘘?なんで?どうして?嘘だ。嘘だ——

 

家を飛び出していたことに気づいたのは、しばらくしてからだった。

 

* * * * *

 

あれからどれだけ経っただろう。

もう既に、父と母は気付いている頃だろう。でも、見つかったとしても私は戻らない。戻れない。だって、本当の子じゃないから。今なら、もっと冷静に判断できただろう。でも、こと時の私には、それは無理な相談だった。

気が付けば、私は泣いていた。でも、大声をあげて泣くことが出来ない。多分、受けた衝撃の大きさだろう。ずっと静かに。

泣いて。

泣いて。

不意に、目の前に影が差した。

 

「びしょびしょだよ、フローレンス?」

 

声をかけてもらうまで、自分がずぶ濡れだったことにすら気が付かなかった。

見上げると、傘の下に見知った女の子が立っていた。長い髪にやや大人びた顔立ち。私よりも高い所にある顔は、私を心配そうに見つめている。

 

「ジ、ル?」

「ほら、シリウスもレイローズさんも心配してるよ?雨も降ってるし」

「あ、あたし、かえりたくない…」

 

当然だ。帰れる訳ない。ただでさえ勝手に家を飛び出しているのに。ましてや本当の子じゃないのに。

私の言葉を聞いたジルは困ったような顔を——していなかった。逆に納得したように頷くと、

 

「ん…じゃあ、うちに行こ?」

 

と言ってくれた。

 

「うちって?…ジルの?」

 

なんて当たり前のことを聞いてるんだ私は。

 

「そうだよ。ばあちゃんなら、何とか説得出来ると思うし」

 

彼女の言葉からは、はっきりした決意と、自分の親代わりへの確かな信頼が感じ取れた。そして、私への心配も。

凍えていた私はすぐに頷いた。他に行くところも無かったけれど。

見上げると、ほっとした顔をした彼女がいた。

 

* * * * *

 

何度が来たことのある建物の門の前に来ると、やはり少し足が竦んだ。本当に入っても大丈夫なのか。追い出されたりしないか。

そんな私をを目敏く見つけたジルは、優しく言ってくれた。

 

「大丈夫だよ。絶対、分かってくれるから。それに、もし分かってもらえなかったら、一緒に家出してやる」

「え?でも…」

「だってこのまま帰れないんでしょ?」

「う、うん…」

「さ、行くよ」

 

半ば引っ張られるような形で家の中に入った。

 

「ただいま、ばあちゃん」

「おや、遅かったですね、ジル。何かあったのですか?」

 

何度か会ったことはあるけど、やっぱり厳格そうなこの人を見るとちょっと怖い。そそくさとジルの後ろに隠れる私。でも彼女は、隠れる私を引っ張って前に出した。

 

「大丈夫だから」

 

って囁いて。ばあちゃん——ミセス・ロングボトムは、驚いた顔をした。

 

「フローレンス?フローレンスなのですか?…まあジル、よく見つけ出してくれました。さあ、早く貴女の家に——」

「待って!」

 

固まったまま動けない私の横に立って、説得しようとしてくれるジル。

 

「…どうしたのです?ジル。この子を帰らせてあげないのですか?」

「いや、そうじゃなくて…フローレンスは、帰りたくないって言ってるの。絶対、普通の理由なんかじゃない。だから、シリウス達に言わずにちょっとだけ、ここに居てもらうっていうのは…ダメかな?」

 

しっかりとロングボトムさんの目を見て言うジル。そして、こう付け足した。

 

「フローレンスが帰りたくなるまでだから。ちゃんと責任は取るよ、ばあちゃん。もう魔法は使えるんだよ?」

 

最後の一言から、意志が伝わってくる。さっき、私に言ってくれたこと。

 

「家出する覚悟だって出来てる」

 

と。

すると、ずっと押し黙っていたロングボトムさんが、ふっと笑った。

 

「貴女はまだ魔法の練習を始めたばかりでしょう…まあ、貴女がそこまで言うのなら、ここに置いてあげてもいいですよ」

 

え?ほんとに?

 

「——ただし、シリウスには知らせますよ。彼らは大事な家族が居なくなって、本当に心配しているんですから」

 

え…知らせちゃったら…絶対迎えに来ようとするよ…

でも身震いしてしまっていたらしい私を見て、ロングボトムさんは優しく言ってくれた。

 

「大丈夫ですよ。ちゃんと彼には言っておきますから。貴女の気が済むまで、ここに居なさい」

「ありがと、ばあちゃん!」

「ジルが本気じゃなきゃこんなことしないことぐらい知っていますよ」

 

見ていて、安心すると同時に、少し羨ましく思った。この二人も本当の親子ではないけれど、確かに心が通じ合っている。お互いに信頼し合っている。そう思うと、なんだか悲しくなった。

 

* * * * *

 

何だこれは。

 

「私の部屋だけど?」

 

何だこれは。

何だ、この物が床を作っているような空間は。

 

「部屋だよ?ここが…まあいいからさ、早く座ってよ、ね?」

 

慌てた様子で言われたが、いや、座るスペースがあるようには見えないんですけど。一面が物に埋め尽くされている。

 

「というか寒かったでしょ、お風呂入ってきたら?」

 

聞かれて不思議に思った。私は身体が濡れてもすぐに乾いてしまう。だからすぐに入る必要はなかったのだが——

見上げると、聞いた彼女がこっちを見たまま固まっていた。

この時は分からなかったが、後から考えるとこれが魔法力の発現だったのだろう。

 

「どうしたの?」

「ううん、何でもないよ。ほら、早く座って」

 

聞くと我に返ったようで、再度座るよう促された。一応、座るスペース自体はあった。そこに座り込むと——

あ、あれ?

いきなりあたりが暗くなったように感じた。全身にどっと疲れが来る。

ああ、眠い。

私の意識はそこで途切れた。

 

* * * * *

 

目を開くと、部屋の片付けに奮闘している様子のジルがいた。

 

「あ、おはよー。結構寝てたね」

 

あー、寝ちゃってたか。そう理解し外を見ると、もう日が暮れていた。あ、やっちゃった…

 

「ごめんなさい…」

「いいよ、疲れてたんでしょ?まだ疲れてるんならもうちょい寝てても…」

「ううん、いいよ」

 

さっきとは比べ物にならないくらい元気になってるし大丈夫だ。それより、久しぶりに彼女と遊びたくなった。

 

「ゴブストーンしてあそぼ?」

「え…あ、うん、いいよ」

 

OKはしてくれたけど…期待を裏切られたような顔をしているのは何故だろう。

 

* * * * *

 

この家に来てから二日が経った。

最初は少し渋っていたロングボトムさんだけど、今では洗い物やらなんやらにめちゃくちゃ重宝されている。なんでも、ジルでは全くもって戦力にならない——というより無理に手伝おうとするので逆に足でまといになってしまうので、いつも苦労していたとのことだ。最初は少し酷い言い草だと思ったが、二日前を思い出して激しく同意することになった。

 

「洗い物終わりましたよー。ロングボトムさん」

「あら、早いですね。うちのジルとは比べ物にならないくらいに」

 

やめてあげてロングボトムさん!ジルのライフはもうゼロよ!…ここにいないけど。

 

「そうですか?ありがとうございます!」

「いや、感謝するのはこちらの方ですよ。いつもの半分くらいの時間で終わらせられますしね…どこで習ったのですか?」

「はい、あの、家でお母さ——」

 

そこまで言ってから、口の動きが止まった。動かせない。だって、本当の母親じゃないから。

俯いてしまった私に、ロングボトムさんは優しく声をかけてくれた。

 

「貴女が何で悩んでいるのかは分かりません。でも、あなたのお母様は、貴女が家にいてはいけないと言うような器の小さい人ではありませんよ」

 

私は驚いて顔を上げた。なんで、私が家を飛び出した理由がここまで分かるのか。

 

「どうして分かるのかですって?それは…貴女が注意してくれたからですよ」

 

どういうこと?

 

「皿洗いの手伝いをしてくれた時、洗い方に少し注意してくれたでしょう?あーいえ、謝らなくていいですよ。貴女の家のやり方なのですから。私が言いたいのはそこではありません」

「え?」

「そこまでやり方が染み付いているということは、ちゃんとお母様に教えて貰ったということです。教えたのは、貴女に手伝って欲しいからです。居て欲しくないなんて思っていたら、最初から教えていませんよ」

「でも、少し前までは手伝わせてくれたけど、最近それがなくなって——」

「だからといって、決めつけるのは早いと思いますよ。もう一度、しっかり考えてみなさい。自分がどう思っているのか。考えが纏まるまで、ここに居ていいんですから」

 

そう私に言ったロングボトムさんを見て、初めてジルが尊敬する理由が分かった気がした。

 

* * * * *

 

ロングボトムさんに言われて、凄く、なんと言うか…スッキリした。勿論悩みがなくなったわけではないけれど、色々混ざったような感じが無くなって、悩みが単純になった気がする。あの人には本当に感謝だ。

 

「あー、それはここにしまってー」

「はーい」

 

そして今何をしているのかというと、まあ見ての通りジルの部屋…と言っていいのかも分からないけど、そこの片付けだ。ジルはどうも物持ちがいい——と言えば聞こえはいいが、悪く言えば全然物が片付かず散らかったままということでもある。でもだからといって足の踏み場もないくらいにまでなるなんて…まるでうちの…ううん、あの人は本当の…今考えるのはやめにしよう。

 

「ごめんね、片付け手伝ってもらって」

「いつもお手伝いしてるから」

「へー、ママの?」

 

そこまで言って、ジルの話が止まった。私の手の動きと同時に。

——あの人は本当の母親じゃない、けれど私はあの人達に育てられて、でも——

色んな考えが頭の中を駆け巡ったけれど、同時にロングボトムさんに言われた言葉も思い出した。

ふと前を見ると、ジルがこっちをじっと見ている。聞いちゃいけないこと聞いちゃったかな、大丈夫かな、何て声をかけたらいいんだろう、なんて、言いたいことが丸分かりだ。…でも、凄く私を思ってくれていることも伝わってきた。ジルはいつも優しかった。ここに連れて来てくれたことだってそうだし、それより前だって——

 

「あの、」

 

彼女になら、話せるかもしれない。

 

「私の話、聞いてくれる?」

 

* * * * *

 

私は話した。ジルに、自分が知っている事を全部。

「あたしが本当の子供じゃないなら、」

 

でもそしたら、止まらなくなって。

 

「あたしはパパとママといっしょにいちゃいけない暮らしちゃだめなんだよね…きゃっ!」

 

——止められた。

 

「そんなこと関係ないよ。私だって、本当はこの家の子供じゃない。ばあちゃんに引き取られて、ここに一緒にくらしてる」

 

私をぎゅっと抱きしめながら、ジルは言う。

 

「本当の子供かどうかなんて、関係ないんだよ。私は確かに本当の子供じゃないけど、ばあちゃんに大切にしてもらってる。一緒に住んでもらってる。大事に、してもらってる」

 

こっちからは顔は見えなかったけど、声色から何を思っているかは伝わってきた。そうだ。ジルにだって、両親は居ない。ロングボトムさんに引きとられて、暮らしているんだ。大事に、されてるんだ。

 

「だいじに?」

「そう、大事にしてもらってるんだよ。それに、フローレンスだって、大事にしてもらってるよ」

「何で分かるの?」

 

心のどこかでは分かっているのに、聞いてしまう。聞かずにはいられない。

 

「大事だと思ってないなら、あなたのことを探したりしないよ?」

「そう…なの?」

「そうだよ。だから、いちゃダメなんてこと、ないんだよ。一緒にいていいんだよ?」

「…ほんとに?」

「うん、本当に。」

 

でも私に、ジルは嫌な顔一切せず、自信に満ちた顔で答えてくれる。

…なら、聞いてみよう。

抱きしめた手を話した彼女に、私は決意を伝えた。

 

「あたし、帰るよ、おうちに」

「大丈夫?」

「うん、大丈夫。って、ジルが私にいったでしょ?」

「まあ、そうだけど…そういえば、『私』って…」

「ジルのまねしてみたんだー。いいでしょ?」

 

ちょっと背伸びをしてみた私に、彼女は優しく笑った。

 

* * * * *

 

「フローレンス!?フローレンス!」

 

お母さんは私を迎えに来るなり、首が閉まるかと思う程抱きしめてきた。お母さん、死んじゃう、死んじゃうから!

 

「大丈夫!?怪我してない?凍えてない?」

「お母さん、雨降ってたのは何日も前だよ?」

 

今雨に打たれたことの心配をするお母さんを見て、何だか逆に安心して、おかしくなった。

 

「ふふっ。…ただいま、ママ!」

「っ!…おかえりーーー!!」

 

お母さんは叫びながら、また抱きしめてきた。

 



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