"軍団最強”の男 (いまげ)
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ルーキー編 1.カテゴリーエラー

□霊都アムニール 【従魔師】フィルル・ルルル・ルルレット

 

 

「はあ、デンドロやめよっかな」

 

 このとき、俺は確かにデンドロをやめようかと思い悩んでいた。

 

 別にリアルすぎるモンスターにやられたわけでも、ほかの悪質なプレイヤーに何かされたわけでも、NPCが俺に冷たいというわけでもない。むしろ、NPCはかなり良くしてくれたし、最初はプレイヤーと勘違いしていたくらいなのだが(閑話休題)

 

「いきなりこれは挫けるなあ」

 

 俺は自分の左手の甲を見つめる。そこには孵化したばかりのエンブリオ、彼だけの可能性(オンリーワン)が存在した。

 

 <エンブリオ>はプレイヤーの行動パターンや得られた経験値、バイオリズム、人格に応じ孵化し、無限のパターンに進化するもの。

 

 色違いでもパーツ違いでもなく、固有スキルも含めて真の意味で無限のパターンに進化する。プレイヤーによって真の意味で千差万別化するオンリーワン。アイテムや装備という枠を超えた相棒だと管理AIのチェシャは言っていた。

 

 そして、チェシャは俺にとって大事となるエンブリオの種類についてこうも言っていた。 

 

「プレイヤーが装備する武器や防具、道具型のTYPE:アームズ

 プレイヤーを護衛するモンスター型のTYPE:ガードナー

 プレイヤーが搭乗する乗り物型のTYPE:チャリオッツ

 プレイヤーが居住できる建物型のTYPE:キャッスル

 プレイヤーが展開する結界型のTYPE:テリトリー

 あとほかにもレアカテゴリーがいくつかあるよー」

 

 そう確率は五分の一。

 

 確率で言えば外れる可能性のほうが大きいが、エンブリオの性質上、望むTYPEのエンブリオが生まれると思っていたし、逆にそうではないTYPEが生まれる可能性を失念していた。

 

 ちなみにチェシャが言うようにレアカテゴリーが生まれる可能性もあったため、厳密には確率は五分の一ではないが、自分からレアカテゴリーが生まれるとは思っていなかったし、望んでいたTYPEも、実際に孵化したエンブリオもレアカテゴリーなどではなく通常カテゴリーに含まれるものだった(閑話休題)

 

 望むTYPEに合わせて転職をしていた俺にとってこれは由々しき問題だった。なんならエンブリオが孵化する前に【従魔師】のジョブを選んだのも、孵化するエンブリオのTYPEを誘導しようとしたものだ。

 

 

 しかし、現実とは非常なものだ。

 

 

 そもそも、俺がデンドロを始めたのは現実にはいない怪物を見たかったから。さらに言うなら自分から生まれた怪物(相棒)と過ごしたかったからなのだ。

 

 そう、俺はガードナー(・・・・・)型のエンブリオのためにデンドロをやっていた。

 

 それが違うTYPEのエンブリオが生まれようものなら少しは挫けるというものだ。しかも自分から生まれたエンブリオの姿を確認できないというのも大きい。

 

 自分というものからどんな怪物(ガードナー)が生まれるかを楽しみにしていた俺にとって、あるいは刃物(アームズ)戦闘機(チャリオット)城塞(キャッスル)といったものであればここまで挫けなかっただろう。

 

「まあ、大金も懸けたわけで、ゲームとしても文句のつけようもないし、いつまでもグジグジ言ってもしょうがないしな」

 

 <Infinite Dendrogram>は売りとなる四つの要素がある。

 

 一つは完全なるリアリティ。

 五感を完璧に再現する可能。

 

 二つ、単一サーバー。

 仮に億人単位でも全プレイヤーが同じ世界で接続可能。

 

 三つ、個別選択可能なグラフィック。

 現実視、3DCG、2Dアニメーションの中から選択可能。

 

 四つ、ゲーム内時間の加速。

 ゲーム内では現実の三倍の速度で時が進む。

 

 

 このような破格のゲームの機器の価格が日本円にして1万円前後という値段設定だったのは一顧客としてうれしいことだが、残念ながら俺は初日には買えなかった。

 

 そもそも買おうとすら(・・・・・・)しなかった。

 

 ひとつ前の<NEXT WORLD>は俺もやったが、あんなもの(・・・・・)をやった後にダイブ型VRMMOに期待するという方が無理だろう。

 

 正直、<Infinite Dendrogram>の発売日当日に行われた全世界のメディアでの発表は顧客を馬鹿にしているとさえ思ったものだ。 

 

 …次の日にそれは大きく裏切られ、その日のうちに<Infinite Dendrogram>を手に入れゲームを行うために、学生の分際で定価の三倍のお金をつぎ込んだアカウントがこちらになります(閑話休題)

 

「まあ、頑張りますかね。しかし、このスキルはどうやって戦えばいいのかねえ?」

 

 俺は困惑したように姿の見えない結界(テリトリー)として生まれた自分のエンブリオを見つめた。

 

 




勢いで書きました。気になるところがあればいってください。

原作0話を参考に作りました。ちょくちょく引用がありますがご自愛を。


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2.最初の従魔

□霊都アムニール 【従魔師】フィルル・ルルル・ルルレット

 

「この際、エンブリオのことは置いといて従魔を選ぶとするか」

 

 孵化したばかりのエンブリオを前にして言うことではないが、正直使い道が分からない。ハマれば強そうではあるが…いやそうでもないか。

 

「そもそもアンフィテアトルムっていったい何なんですかね?」

 

 エンブリオのモチーフとなるのはいずれも地球の神話、伝説、童話、偉人などである。

 

 わかりやすい例で言えば、桃太郎などがあがる。

 桃太郎が果たしてどんなエンブリオになるのかは不明だが、キビダンゴみたいな能力だと面白い。敵のモンスターがキビダンゴを食べれば、そのモンスターをテイム可能になるとか。

 なにそれ超ほしい。俺のエンブリオと交換を()

 

 しかし、日本人の俺にとってはアンフィテアトルムという言葉に聞き覚えはなかった。なんなら何語かもわからん。それでなんでこんな能力になるかもわからん。だれか助けてくれ。なんなら交換してくれ()

 

「いや、ほんとガードナーだったらわざわざ従魔をテイムしなくて済んだのに…」

 

 エンブリオがガードナーとして生まれた場合、【従魔師】はそのガードナーを従魔としてすぐにでも戦える。

 

 しかし、そうではない【従魔師】はモンスターをテイムすることから始めなければならない。

 

 【剣士】は剣がなければ戦えない。それと同様に【従魔師】は従魔がいなければ戦えないのだ。

 しかし、最初のジョブに【剣士】を選んでもチュートリアルで模擬剣がもらえるので【剣士】は剣を買わなくてもよい。

 【従魔師】?チュートリアルで従魔はもらえないのでテイムしてください(無慈悲)

 

 ◇

 

 文句を垂れながらやってきたのは、≪鳥獣商店≫という店だ。

 

 散々、テイムしなければならないといってきたが、俺はそのつもりはない。

 

 そもそも、モンスターを自身の力として使う方法は三つある。

 一つ目は召喚。

 眼に見えず触れられない“形の無い生物”や精霊に、仮初めの肉体を与えて使役する術法。

 

 二つ目は創造。

 ゴーレムやホムンクルスなど人造の魔法生物を作成する術法。

 

 三つ目が従属。

 モンスターとの間に契約印を結び隷属させる術法。

 

 通常、モンスターをテイムするには【従魔師】など専門職のスキルに頼る。しかし、まだ【従魔師】に就いたばかりの俺にはそんなことはできない。

 

 

 だからこそ俺はこの店にやってきたのだ。モンスターを購入するために。

 

 実はモンスターをテイムした後に他者へ譲り渡すことに関してはこれといって制限が無い。

 

 つまり強力なモンスターを最初から扱うことも可能なのだ。

 それこそ、一体で下級職パーティーと同等の力をもつ亜竜クラスと呼ばれる存在でさえもルーキーが持つこともできる。

 

 <Infinite Dendrogram>では装備品にレベル制限が課せられているため、前衛職のルーキーが亜竜クラスの戦力を持つことは仕様上不可能とされる。

 ルーキーの【従魔師】が亜竜クラスの戦力を持つことが可能である点は【従魔師】の利点としてあげられる。

 

 まあ、今の話は有力なNPCのご子息に限るって話で俺たちプレイヤーには関係ないんだけどね。亜竜クラスなんて購入に何百万リルいるって話だよ。

  

 ちなみに俺たちプレイヤーはチュートリアルで管理AIから路銀として五千リルもらっている。日本円で一リル十円くらいの価値だ。つまり、亜竜クラスは日本円でウン千万するということである。

 

 …もし、そんなのをルーキーが持っていたら暴動もんだな。(彼はのちに亜竜クラスを複数体テイムするルーキーや下級職どころかレベル0で亜竜クラスを倒したものがあらわれることをまだ知らない)

 

 ◇ 

 

「てなわけで親父、モンスターの購入費用をまけてくれ」

「散々、人に【従魔師】やテイムの話を聞きまくった第一声がお礼の言葉じゃなくて値切りの話とはふてえ野郎だな」

 

 ……その通りです。

 

 かっこつけて、『モンスターを購入するために』

 

 とかいいましたが、ほんとは従魔を手に入れるにはどうしていいかわからずに、いろんなNPCに聞きまくりました。

 

 ようやく教えてもらった店で店主さんに【従魔師】とテイム、モンスターの購入の話を教えてもらいました。それはもう懇切丁寧に。

 このゲームのNPCは神かと思いました。

 

 しかし、だからこそなのです。

 

「ああ、いろいろ教えてもらったお礼にこの店で従魔を購入したいんだ。でも、俺の全財産じゃまともなモンスターは買えないだろう。だからまけてほしんだ」

 

 そういって俺は左手に乗せた銀貨5枚を見せる。

 

「いや、五千リルじゃまけても何も…うん?おまえさんもしかしてマスターってやつか?」  

 

 店主は俺の左手を見てそういった。

 

 マスター。たしか管理AIが言ってたな。このゲームの中でのプレイヤーの総称。たしか、そうでないNPCの総称は…ティアンだったか?

 店主は試すような目つきで俺を見る。

 そして話を続けた。

 

「三日前くらいから急激にマスターが増加し始めた。ほかの店じゃマスター相手に儲かっただのなんだのと言ってたが、この店に来たのはお前が初めてだなあ」

 

 …そりゃこないだろう。

 そもそもこの国のマスターの絶対数が少ない。

 初日にこのゲームがどれだけの数売れたかは知らんが、その数は七等分される。最初に所属できる国は七つあるからだ。

 

 一つ

 白亜の城を中心に、城壁に囲まれた正に西洋ファンタジーの街並み

 騎士の国『アルター王国』

 

 二つ

 桜舞う中で木造の町並み、そして市井を見下ろす和風の城郭

 刃の国『天地』

 

 三つ

 幽玄な空気を漂わせる山々と、悠久の時を流れる大河の狭間

 武仙の国『黄河帝国』

 

 四つ

 無数の工場から立ち上る黒煙が雲となって空を塞ぎ、地には鋼鉄の都市

 機械の国『ドライフ皇国』

 

 五つ

 見渡す限りの砂漠に囲まれた巨大なオアシスに寄り添うようにバザールが並ぶ

 商業都市郡『カルディナ』

 

 六つ

 大海原の真ん中で無数の巨大船が連結されて出来上がった人造の大地

 海上国家『グランバロア』

 

 七つ

 深き森の中、世界樹の麓に作られたエルフと妖精、亜人達の住まう秘境の花園

 妖精郷『レジェンダリア』

 

 

 俺と同じレジェンダリアを選んだやつで最初のジョブに【従魔師】を選ぶ奴はそう多くはないだろう。

 このゲームのジョブ数ははっきりいって多すぎる。最初に就けるジョブだけで百を超えるなんて話もある。

 

 多くの奴は花形である前衛戦闘職か魔法職に就く。

 ほとんど情報のない中で最初に【従魔師】を選ぶ奴なんてのはそれこそエンブリオがガードナーとして孵化した奴だけだろう。

 

 そして、そんな奴はそもそもモンスターを購入できる(・・・・・)ことを知らない。モンスターが売っている店があるということも知らないだろう。

 彼らにはすでに自身のかけがえのない相棒(ガードナー)がいるのだから。

 

「おいおい。急に涙を流してどうした!?マスターってのはみんなそうなのか!?」

「おいおいおっさん。誰が涙なんか流すかよ。あれ?これは涙?おっさんに突きつけられた現実がつらくて流した涙なの?」

「よし分かった。お前がおかしいんだな!?そうなんだな!?」

 

 ◇

 

「…落ち着いたかよ?」

「ああ、落ち着いた。ところでおっさん。いま俺のことかわいそうって思ったよな?思ったよな!?だったらモンスターをまけてくれ」

「…はあ」

 

 ため息をついた店主のおっさんは店の奥に戻っていく。

 

 …あれ?おかしいな。ここでスルー?おっさんとは十分に親交を深めたはずなのに。

 

「おっさん、カムバック!おっさーーーーん、カンムバーーーーー」

「うるせえよ」

 

 そういって店の奥からおっさんは何かを投げつけてきた。

 キャッチしたものを見てみると…それは宝石だった。

 

「おっさん、これなに?」 

「【ジュエル】と言って、中にテイムしたモンスターが入っている。いろいろ言ってやりたいことはあるが…ソイツをくれてやる」

「おっさんはもしかして神なのか?」

「馬鹿か。この世界に神なんていねえよ。勘違いするなよ。これはお前らマスターに対する先行投資だ。だから…」

「ツンデレ神様ありがとうございます」

「話を最後まで聞け!?」

 

 俺は両手を合わせてつるつるのおっさんの頭に後光を感じ祈りをささげるのだった。

 

「アーメン」

「アーメンじゃねえ、《喚起(コール)》だ!」

「え?コール?」

 

 そうすると手の中の【ジュエル】が発光し、中から虎模様の子猫が出てきたのであった。

 

 




この話ではプレイヤーからマスターへ、NPCからティアンへの意識変化を書いてみたつもりです。なかなかむずかしいですね。

彼のエンブリオの能力は明かすのはまだまだ先になりそうです。よければ想像してみてください。少なくとも軍団最強と呼ばれるものにはなると思います。ただし、モチーフは適当です。


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3.従魔との初戦闘

 □霊都アムニール 【従魔師】フィルル・ルルル・ルルレット

 

 【ジュエル】から現れた虎模様の子猫は俺の周りを歩きながらあくびをしている。

 

「おっさん、こいつは?」

「そいつは【リトルタイガーキャット】といってな。この店で【従魔師】を始める奴に何体か勧めてるモンスターの一体だ」

「そうか、神じゃなくてオ◯キド博士だったのか」

「誰だ、そいつは!?」

 

 おっさんと談笑していると【リトルタイガーキャット】がいつの間にか俺の頭の上にのぼっていた。

 

「おーい、どうした子猫ちゃん。俺の頭がそんなに気にいったのか?」

「そいつはテイムモンスターの中でも人懐っこいから初心者にお勧めなんだ。本来なら【ジュエル】込みでもそれなりの値段はするんだが…ま、さっきも言ったがマスターに対する先行投資だ。おまえのためじゃねぞ」

「おっさん、…素直じゃないんだから」

「うるせえよ。投資した分はしっかり返してくれよ。【従魔師】としてな」

 

 【従魔師】にはモンスターを隷属させた後に売却して生計を立てる者も多い。

 この店はそういったティアンの【従魔師】との協力で成り立っている店らしい。

 だからこそ、初心者の【従魔師】に対しても手厚いし、ましてそれがマスターならば殊更だろう。 

 

 なぜなら、マスターは死なないのだから。

 たとえ殺されたとしても、こちらの時間で三日後には復活する。顧客相手としてこれほどよい存在はいないだろう。

 …まあ、おっさんにどれだけの思惑があるかは知らんが、おっさんの厚意であることには間違いない。素直にお礼を言っておくか。

 

「おっさん、ありがとうな」

「急にしおらしくなるんじゃねえよ、ったく。それよりそいつに名前をつけてやれよ」

 

 そういっておっさんは照れたように俺の頭の上を指さした。

 俺の頭の上にいる【リトルタイガーキャット】を。

 

 やはりきたか、名づけイベント。だが、安心してくれお前にふさわしい名前はもう決めてある。

 

「お前の名前は虎丸だ。【リトルタイガーキャット】の、虎丸」

 

 …おっさんが残念そうな顔を向けてくるが、気のせいだろう。

 

「…はあ、ま、お前さんのセンスだから何も言わんが。これからは【従魔師】のレベル上げをしていくんだろう?【リトルタイガーキャット】は霊都の周辺にいるモンスターと比べてそこまで強くないから気をつけろよ」

「ああ、ほんとにいろいろありがとうなおっさん」

 

 そういって俺はお礼を言って店を、そして街の外へと出て初めて戦闘を行う。

 

 

【クエスト【施す者―アンドリュー・ダールトン】を達成しました】

 

 ◇

 

「じゃあ、レベル上げを始めるとしますか」

「ニャー」

 

 目の前にはいるのは【リトルゴブリン】というモンスター。一目見ただけで雑魚モンスターとわかる。ただし、そのリアル感はほかでは味わえないものだ。

 

 俺はチュートリアルでチェシャからもらった模擬剣を構え、虎丸は俺の頭から飛び降りて爪を伸ばしている。

 

「いくぞ」

 

 先制攻撃とばかりに模擬剣をゴブリンにたたきつける。

 ゴブリンは避ける様子もなく模擬剣の殴打を喰らいふらつく。それに追い打ちをかけるように虎丸が伸びた爪でゴブリンを切り裂く。

 そうするとゴブリンは死体を残すことなく消えていった。

 

「随分とあっさり終わったな」

「ニャー」

 

 手ごたえのなさを感じていたが、この辺には初心者でも倒せるようなモンスターしかいないだろうし、二体一じゃこんなもんか。

 

 そう思っていると今度は【パシラビット】というモンスターがあらわれた。

 

「逃がすかよ」

「ニャー」 

 

 ◇

 

 雑魚モンスターを狩ること数時間。【従魔師】のレベルが上昇して二つのスキルを覚えた。  

 

《従属拡張》

 

 自身の従属キャパシティを増やす。

 

 パッシブスキル

 

《魔物強化》

 

 配下のモンスターの能力を上昇させる。

 

 パッシブスキル

 

 ≪従属拡張≫で従属キャパシティを増やすのはありがたい。

 

 <Infinite Dendrogram>におけるパーティ人数は六人。これには<マスター>やティアンだけではなくテイムモンスターやガードナーの<エンブリオ>を入れることも出来る。もちろん俺にはそんな人もエンブリオもいないが()

 テイムモンスターをパーティに入れて戦闘した場合のデメリットはパーティの枠を圧迫することだが俺の場合はそこまでではない。俺にはそんな人が()

 逆にパーティメンバーにカウントせず、所有者の戦力の一部としてパーティにカウントしないことも出来る。ここで必要になるのが従属キャパシティだ。

 

 メリットは当然ながらパーティの枠を圧迫しないこと。さらにモンスターの得るはずだった経験値の半分がモンスターではなく【従魔師】に入ることだ。

 そしてデメリットは従属キャパシティが必要になること。

 

 俺の現在の従属キャパシティは300くらいで、虎丸もこの枠に収まっている。

 

 キャパシティまでなら戦闘中にモンスターを使役することが出来るが、掛かるキャパシティは個体によって異なり、モンスターの『種族の強さ×レベル』で算出される。

 

 つまり、今はキャパシティ内に収まっている虎丸も、レベルの上昇に従ってキャパシティ内から外れる可能性もあるのだ。

 

 さらにこれから使役するモンスターを増やしていくことや万に一つパーティープレイをすることになれば従属キャパシティは多いに越したことはない。

 

 参考意見:鳥獣商店の店主のおっさん

 

 《魔物強化》は言うまでもなく強力だ。

 

 今はまだスキルレベル1だが、それでも虎丸のステータスを10%もアップしている。よりレベル上げもはかどるというものだ。

 

 そうして俺はさらなるレベル上昇のため、雑魚モンスター狩りを再開する。

 

 ◇

 

 レベル上げの狩りを終えて俺は霊都に戻る。その道すがら狩りをしている他のマスターの姿を眺める。

 

 チュートリアルで見た衣装のものばかりだが、よく見れば細部が違う。

 

 あるものは王冠。

 

 頭に黄金に輝く王冠を携え、戦っている。

    

 あるものはサーフボード。

 

 そのサーフボードに乗り空中を飛んでいる。

 

 あるものはドリル。

 

 両手に持ったドリルでモンスターを追い回している。

 

 あるものは象。

 

 大きな象に乗り、雑魚モンスターを礫殺している(羨ましい)

 

「いいよなー。ガードナーのエンブリオ。それに比べて俺のエンブリオはどう使えばいいか…ん?待てよ。あのスキルとの組み合わせなら使えるんじゃないか?」

 

  




後半はほとんど原作1章の焼き直し(劣化コピーともいう)になりました。


勘のいい人なら彼のエンブリオについて予測がついているはず。
ちなみにステータス補正はMPのみD、それ以外はGとなっております。

最初の戦闘を【従魔師】の彼が楽に勝てたのも実は虎丸のおかげです。ポ◯モンでいえば、虎丸はレベル5。野生のモンスターは2から3といった有様ですから。

え?店主のおっさんといってることがちがう?彼のことが心配で油断するなといいたかったんですよ。


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4.パーティー

□霊都アムニール 【従魔師】フィルル・ルルル・ルルレット

 

 今日も俺は街の外でレベル上げに励み、落ち着いたら霊都に戻るを繰り返していた。

 

 やはり<Infinite Dendrogram>でもレベルが上がるにつれて必要経験値が増えてきている。

 かといって低レベル帯の時と比べてレベルアップのペースが落ちているかと言われればそれはNOだ。

 

 理由は狩り場所の変更。

 

 初めの頃狩りを行っていた場所よりも遠くに来ている。やはり霊都から離れれば離れるほど出現モンスターは強力になっていく。よい強いモンスターを倒せばより多くの経験値をもらえるのでリターンも大きいというわけだ。

 

 ただ、強力なモンスターの一体、【ブラッドウルフ】というモンスターを初めて見たときは苦戦をするのではないかと思った。

 

 しかし、苦戦という苦戦もないままウルフを倒すことができた。

 

 【従魔師】のレベルで言えば、下級職の折り返し、25にも到達している。そのレベルであれば苦戦する相手ではないということだろう。

 

 また、虎丸も経験値を得ているためかどんどん大きくなっている。おっさんが言うにはそろそろ進化するのではないかということだった。虎丸の場合【リトルタイガーキャット】から【タイガーキャット】というモンスターに進化するらしい。

 

 何より大きいのは俺のエンブリオ、【喝采劇場 アンフィテアトルム】と【従魔師】のシナジーのおかげでもある。このシナジーのおかげでより戦いやすくなっており、俺も積極的に攻撃に回れる。

 

 唯一の難点がアンフィテアトルムを使うにはMPが必要ということだ。今もこうしてMP回復ポーションでMPを回復している。

 

 エンブリオにはステータス補正というものがあり、アンフィテアトルムはMPの補正のみ高いのだが、【従魔師】自体のMPがそこまで多いわけではないのでMP管理が大事なのである。

 

  狩りで得たモンスターのドロップ品の多くは換金し、多くはHPとMPの回復ポーションに消えて、残りは装備品の新調のため貯めこんでいる。

 

「これじゃあ、いつおっさんに借りを返せるかわかったもんじゃないな」

 

 今朝も狩りに行く前におっさんと虎丸の話をしてからきたが、世話になりっぱなしだしな。

 今こうして飲んでいるポーションの安い仕入れ方も教えてくれたのはおっさんだった。

 

「そろそろ俺もパーティを組んでみるか?」

 

 一人でここまで狩りを続けてきたが、やはりソロの狩りは効率が悪い。

 倒したモンスターからドロップする素材と戦闘に使う消耗品、さらに装備のためのお金。一応まだ黒字だが、これからもそれが維持できるかはわからんしな。何より、ひとりだけだと初見殺しが怖すぎる。

 

 この前なんかマスターの【剣士】っぽい奴がゴリラみたいなモンスターに挑んで殺されてたもんな。

 あのゴリラ、おっさんが言ってた亜竜クラスってやつだろうが…今の俺でもおそらく勝てない。それこそパーティーを組んでようやくといったところだろう。

 

 何より俺は【従魔師】だから虎丸が死んだら一気におしまいとなる。

 マスターと違いテイムモンスターは死んでしまう。そして、テイムモンスターを失った【従魔師】なぞ簡単に殺されてしまうだろう。 

 

 この場所であのゴリラと同じようなモンスターは早々見ないが用心に越したことはない。見つけたらすぐに逃げる、これ大事。

 

「しかし、パーティーを組むといってもどうしたもんかな」

「ニャー?」

 

 俺みたいなやつをパーティーに入れてくれる奴なんているかな?こっちにはリアルの知り合いはひとりもいない。パーティーを組めるか一抹の不安を感じる。そう思いながら多くのマスターが集まるという冒険者ギルドに向かった。

 

 ◇

 

 結論からいえばパーティーが組めるかどうかなんてのは杞憂だった。

 

 

 冒険者ギルドではクエストために臨時パーティを組むことはめずらしくなく、マスターがルーキーばかりということもあり、多くのマスターが手と手を組みクエストに挑んでいた。

 

 俺もその臨時パーティーに運よく入ることができた。メンバーのうち何人かは街中で見たことがあるメンツもいる。今は集まったパーティーで自己紹介とクエストのおさらいをしていた。

 

「俺はフルメタル。【拳士】をやっている。今回のクエストは俺が仕切らせてもらうが異論はないか?」

「「「「「・・・・・」」」」」

「…ないようだな。今回のクエストは霊都の東部周辺に出現した亜竜級モンスター【ブラック・ドルイド】の討伐だ。相手は亜竜クラス。全員が下級職のこのパーティーなら倒せるだろう。何より我々にはエンブリオがある。初心者同士で手探りだろうが頑張ろう」

 

「オー」

「ニャー」

 

 とりあえず返事をしておく俺と虎丸。

 そうするとフルメタルさんは苦笑したように俺を見つめる。

 

「掛け声ありがとう。君の名前は?」

「フィルル・ルルル・ルルレット。【従魔師】をやっている。でこっちの猫が虎丸。よろしくな」

「なにその猫かわいいー」

 

 自己紹介を終えるとさっそく俺の虎丸に食いついてくる女の子。

 

「あっと。わたしの名前はゆるり。【司祭】やってまーす」

「ああよろしく。回復役がいてくれるのはうれしいよ」

「はーい、がんばりまーす」

 

 なんかゆるそうな子だなー。正直タイプかも。

 ま、こっちじゃ女の子でもリアルじゃどうかはわからないしな。むしろあーゆうタイプはネカマに多い(独断と偏見)

 そういやどっかで見たことあるとおもったら、そういやあの子のエンブリオって…

 

「次は自分であるな。自分の名前はドリルマン。【蛮戦士】をしているのである。よろしく頼むのである」

「ああ頼まれた。【蛮戦士】ってのはなにができるんだ」

「【蛮戦士】自体はオールラウンダーであるが、自分は防御を得意としているのである」

「タンクか。いいメンツだ」

 

 …その語尾はキャラ設定なんですかね?

 てかドリルマンで思いだしたがこいつのエンブリオって確かドリル…

 

「私はロゼ・オクリエ。【狩人】をやっている」

「【狩人】か。討伐クエストには欠かせないな」

「ちょっとタンマ。あんたは【狩人】なのか?【従魔師】ではなく?」

 

 俺はつい聞いてしまった。

 

 俺はこの女を知っている。この女のエンブリオを知っている。

 この女のエンブリオは”象”。そうガードナーである。

 

 このパーティーのメンツはフルメンバーの6人。

 【従魔師】ではない【狩人】では従属キャパシティは満たせないだろう。つまり、ガ-ドナーである彼女のエンブリオは機能しなくなる。

 

 そう思い、疑問を呈したのだが、

 

「…君は【従魔師】だったね。それもガードナーではなく野生のモンスターを扱う【従魔師】。君が何を思ってその疑問を抱いたか予測がついたよ」

「…?」

「君は知らないだろうが…ガードナーの従属コストは0だよ」

「…なん…だと」

「考えてもみたまえ。もし、コストが0でなければ、ガードナーに孵化したものは従魔師系統にならなければ自分の<エンブリオ>さえまともに扱えなくなってしまうだろう」

 

 …たしかに。くそ、ガードナーにそんな隠された特典があるなんて。こいつ羨ましすぎるぞ。

 

「急に泣き出して一体君はどうしたんだ?」

「おーい、フィルル君。最後の一人の紹介がまだ終わっていないんだ。落ち着いてくれるかな?」

「フィルルさんハンカチでーす」

「心を強く持つのである、少年」

 

 みんなにドン引きされつつ、心配される情けない男の姿がそこにはあった。

 

「すいません、俺ガードナー恐怖症なんです。俺に構わず紹介を続けてください」

「ガードナー恐怖症って…」

「やれやれ、最後は君だ」

 

 フルメタルさんが促すと最後のイケメン王子は随分と間を置いて自己紹介を行った。

 

「…僕はフィガロ。【闘士】の、フィガロ」

 

 




言いたいとことはわかります。

なぜ、エンブリオの詳細を言わないのか。
なぜフィガロを出してしまったのか。

理由はそっちの方が面白そうだからです。
フィガロファンの人申し訳ない。


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5.VSドルイド

□霊都アムニール 【従魔師】フィルル・ルルル・ルルレット

 

「それじゃあ陣形の確認だ」

 

 そういいながらフルメタルさんは紙にペンを走らせていく。

 

 ドリルマンは前衛タンク。

 タンクが得意と言っていたし、異論はなさそうだ。

 

 フルメタルさんは中衛アタッカー。

 【拳士】なのに前衛ではなく中衛なのかと思ったが、パーティーの指揮と戦闘を同時に行うためらしい。

 

 ゆるりは後衛でヒーラー。

 基本はゆるりの生存を第一に考えて動き、ゆるりはパーティーメンバーを俯瞰し、回復を行う。

 

 ロゼはデバッファー兼前衛アタッカー兼タンク…らしい。

 デバッファーは【狩人】由来らしいが、さらに前衛アタッカーとタンクをこなすと豪語した。これだからガードナーのマスターは(偏見) …フルメタルさんも承認したからしょうがない。

 

 フィガロはオールラウンダー。

 なんでも【闘士】はほぼ全ての武器種を使用できるため、剣や斧で前衛に出ることも、弓で後衛に回ることも出来るらしい。戦局に合わせて必要な行動をとってもらうのは負担が大きいと思ったが、彼は嫌な顔をせず引き受けてくれた。

 

 そして俺は中衛アタッカー兼サブリーダーらしい。

 虎丸で攻撃を行い、俺自身は周りのフォローをする。サブリーダーといってもなんでも屋の側面が強い。

 

 陣形の確認を終えるとフルメタルさんは咳払いをした。

 自然と視線が彼に集まる。

  

「繰り返すようで悪いが、所詮俺たちは初めて一週間もたってないルーキーたちだ。負けることは不思議ではない。ギルドの人たちにはまだ早いといわれた。だが俺たちは死なない。多少の無茶ができる。何よりエンブリオがある!俺たちなら勝てる!!いくぞ!!!」

 

「「「「「応」」」」」

 

 ◇ 

 

 活き込んでいつもの東の狩り場に来たのはいいが…

 

 多くの敵は一人によって蹂躙されていた。いや正確には一人と一匹か。

 象がぶつかるだけで大抵のモンスターは吹っ飛び、死体も残さず消えていく。生き残ったモンスターも象の上から放たれた矢によって確実に命を奪われていく。

 

 その蹂躙を俺はあきれたように見ていた。

 おい、これ俺たちいらないんじゃないのか?あいつ一人で亜竜クラスも倒せるんじゃ?

 

 確かにここいらにいるモンスターは俺と虎丸のコンビなら苦戦することなく倒せるだろう。

 しかし、それもエンブリオのスキルを使ったうえでだ。あんな昔の無双ゲーの雑魚キャラみたいにぶつかれば吹っ飛ぶというものでない。

 

「不思議そうですねー、フィルルさん」

「いや、そりゃそうでしょ。ここいらにいるのは雑魚モンスターといっても…」

「あんな一方的な蹂躙になるはずがない。ですかー?」

 

 ゆるりは俺の疑問に答えるように

 

「だって彼女のガネーシャは既に第三形態に進化したエンブリオですから」

「第三形態だって?第二ではなく?」

「この目で見たからまちがいありませーん」

 

 なんでもゆるりとロゼはこのパーティーを組む前からコンビで狩りを行っていたらしい。

 ロゼとガネーシャが攻撃、ゆるりが回復。そのコンビで既にこの狩場より強いモンスターがいる狩場で戦っていたそうだ。

 

 ただし、その狩場で何度か危ない場面もあり、生きのこってきたものの、装備や回復アイテムの出費でお金が怪しくなってきた。そのため、実入りのいい冒険者クエストを受けたというのだ。

 

「その危ないっていってたときはまだお互いに第二形態でしたし。第三形態になったいまならいけそうですけどねー」

 

 どうやら第三形態に進化したのは冒険者クエストを受けると決めた後らしい。

 

「それでも、亜竜クラス?のモンスターを一人では厳しいだろうってーロゼちゃんはいってましたけどねー」

 

 進化かー。俺のエンブリオはまだ第二形態にさえなっていないんだよなー。てか第二段階になったらどうなるのか予想がつかない。MPの消費が減るくらいでいいんだけど…

 

「片付いたぞ」

 

 そういってロゼはこちらに戻ってくる。

 周りを見渡すと確かにモンスターはいないようだった。

 

「…別にここまで蹂躙する必要はなかったんじゃねーの?」

「そうはいっても、いざ例のモンスターと戦うときにほかのモンスターが襲っていたら迷惑だろう」

「そりゃ、まあ確かに」

「しかし、【ブラック・ドルイド】なるモンスターはどこにいるのであるか?」

 

 周りのモンスターはロゼが蹂躙し大変見晴らしがよくなっている。しかし、件のモンスターはどこにも見つからない。

 

「これではドルイドを見つけることが自体が大変そうだな」

「そもそもドルイドってどんなモンスターなんだい?」

 

 フィガロがフルメタルさんに疑問を呈する。そういや、俺も詳しくは知らないな。いったいどんな姿のモンスターなんだ?

 ドルイドっていうくらいだから案外人型だったり?

 

「どうやらゴリラ型のモンスターらしい」

「ぶっ」

 

 俺は思わず吹き出してしまう。

 俺そいつ見たことあるわー。超見たことあるわー。

 

 ◇

 

 俺の案内で以前ゴリラ型のモンスターを見た場所に案内する。

 しかし、以前見たといってもここにいまもいるとは限らないし、そもそも別のモンスターということもある。

 

 …ビンゴだった。

 

 黒いゴリラが地面に座ってバナナを喰っていた。もうゴリラ型のモンスターではなくゴリラだった。

 

「どうするリーダー?」

 

 ロゼはフルメタルさんに確認を求める。

 

「…陣形を。相手が油断しているとはいえ亜竜クラスのモンスターに変わりはない」

「「「「「了解」」」」」

 

 ドルイドに気づかれないように予定通りの陣形を組み、あらかじめ決めてあった戦術の準備をする。

 

「かかれ!!」

 

 フルメタルさんの掛け声とともにガネーシャに乗ったロゼが突撃する。

 同時にフィガロが弓を構えて矢を放ち、相手の注意を引く。しかし、その矢はあらぬ方向に飛び

 

「ご、ごめん」

「気にするな、結果オーライだ」

 

 ドルイドは飛んでいった矢の方に注意を引かれ隙だらけだった。

 そこにガネーシャの突撃が当たる。雑魚モンスターを蹂躙するほどの一撃は…たしかにドルイドにダメージを与えていた。 

 

 すかさず、ロゼはガネーシャの上からボウガンで矢を放つ。それはただの矢でなく【毒】状態を付与する矢だった。

 それをまともにくらったドルイドは明らかにたじろく。

 

 その間に俺たちもドルイドとの距離を詰める。ガネーシャの突撃攻撃は確かに強力だが、再び使うには距離をとらなければならない。

 その隙をカバーするのが、俺たちの仕事だ。

 

 ドリルマンが自身のエンブリオであるドリルを構えながら突撃する。鈍足ながら回転しながら迫るそれは恐怖心を煽る。

 

 それはモンスターであるドルイドも同じらしい。ドルイドはドリルを避けるために身体を動かすが、

 

「ニャー」

 

 ドルイドの死角から虎丸の<スラッシュ・クロ―>が炸裂する。

 最初のガネーシャの突撃のときにロゼと一緒にその背に乗っていたのだ。

 

 完全に動きの止まったドルイドにドリルが迫る。ドルイドは躱すことはあきらめてドリルマンに向かって殴りかかる。マスターの【剣士】を一撃で屠る拳。それがドリルマンに襲い掛かる。

 

 …その一撃をドリルマンは受けきった。

 

 その理由はドリルマンのエンブリオの能力。ドリルが回転している間マスターのENDをあげるというもの。ドリルの回転にはSPを消費し、その能力は亜竜クラスの一撃を耐えるほどの耐久力を与える。

 

 回転するドリルとその防御力による攻防一体攻撃。それがドリルマンのエンブリオ【回転鉄馬 ユニコーン】の能力である。

 

 しかし、亜竜クラスの一撃を耐えたとはいえ、下級職のHPではそう何度も同じ攻撃を受けらえるものではない。

 

 ドルイドがさらに攻撃を加える寸前、白い光がドリルマンを包んだ。

 

 たちまちドリルマンのHPを全回復し、ドルイドの攻撃を再び耐えた。同時に白い光がまたもや包む。 

 

 それを為したのはゆるりのサーフボード型エンブリオ【飛翔歌唱翼 セイレーン】

 セイレーンが有する能力は2つ。

 

 一つは《飛翔の片翼》

 エンブリオに乗ると文字通り飛翔が可能となる。これによって三次元の動きが可能となり、自身は安全圏から確実に回復魔法を与えることができる。 

 

 もう一つは《歌唱の片翼》

 エンブリオに乗っている際に歌を歌うことで自らの回復魔法の性能をあげるというもの。

 

 この二つの能力によって回復職として最善の行動を繰り返す。それがゆるりの戦術。

 

 激昂したドルイドがさらにドリルマンに攻撃を加えようとしたときに、ドルイドに二度目の衝撃が襲う。即ちガネーシャの突撃である。

 

 さらにガネーシャの鼻が地面に向けて、空気を大噴出しガネーシャの巨体ごと空中に浮かした。さらに巨体を浮かした推力をそのまま落下エネルギーに変えて、ドルイドに墜突した。

 

 【噴推空象 ガネーシャ】の能力は空気噴出能力。

 ほかのガードナーと比較しても高い物理ステータスを持つガネーシャの攻撃を空気噴出能力により、さらに強力なものに変える。

 

 その一撃を数回当てれば亜竜クラスでさえ打倒できる。

 

 ドルイドがガネーシャの攻撃にたじろく隙に各々が回復アイテムでMP、SPを回復する。

 

「よし、作戦はうまくいっているぞ!今の攻撃パターンを繰り返していけ!イレギュラーが起これば俺とフィガロで対応する」

「「「「応」」」」

 

 そうしてガネーシャを中心とした攻撃が続いていく。

 危なげもなく、そう時間がたたないうちにドルイドを倒せるだろうとパーティーメンバーは考えていた。

 

 ただ一人、俺だけは別のことを考えていた。

 

 …おかしい。最初の接触時に【毒】状態をドルイドに付与したはず…

 

 それが今は見られない。状態異常回復能力を持っている?いやそんなことをしている素振りはなかった。

 

 それにいくらなんでもHPが多すぎる。今のでガネーシャの攻撃は5度目。普通に撃破していてもおかしくない。

 

 しかし、ドルイドは今も戦い続けている。優勢なのはこちらだが、それも回復アイテムがある状態でだ。このままじゃ回復アイテムが底をつき、いずれ形勢が逆転するかもしれん。

 

 …考えられる理由は一つか。

 

「フルメタルさん、フィガロ。イレギュラーの発生だ。おそらく奴には回復役の仲間がいる」

 

 




【回転鉄馬 ユニコーン】 
TYPE:アームズ
到達形態:第一形態

【飛翔歌唱翼 セイレーン】
TYPE:チャリオット
到達形態:第二形態

【噴推空象 ガネーシャ】
TYPE:ガードナー
到達形態:第三形態


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6.アクシデント

□霊都アムニール 東の草原 【従魔師】フィルル・ルルル・ルルレット

 

「相手にもヒーラーがいるとはどういことだ?」

「あくまで俺の予想ですけど…」

 

 そして俺はフルメタルさんに自分の推測を伝える。

 

 第三形態に到達したガネーシャの攻撃を幾度も受けてなお戦い続けるドルイドの耐久力は異常であること。

 ロゼが付与した【毒】状態がいつの間にか消えていること。

 

 その間もロゼとガネーシャのコンビがダメージを与え、ドリルマンがタンクとして攻撃をひきつける。今までと同じ攻撃パターンだ。そして、攻撃の隙をついてゆるりがドリルマンを回復する。

 

 彼らの動きが完璧にかみあっているからこそ戦いを優勢に進められている。

 

 それに対し、ドルイドは劣勢だ。しかも、劣勢だというのに拳を振るう以外に特殊な行動はしていない。

 

 ただ拳をふるっているだけ。自らのダメージを顧みずに殴るだけだ。

 その一撃はまともに受ければエンブリオの補正を受けたマスターといえども、一撃でデスぺナルティになるほどのもの。

 

 だが、その攻撃はドリルマンとゆるりのコンビネーションの壁が防ぐ。もはや三人だけでクエストクリアは見えたといってもいいほどである。 

 

 …しかしドルイドは倒れない。

  

 俺にはわかる。

 【従魔師】としてモンスターの考えが直感的にわかる。

 

 あいつはこれほどの劣勢になっても自分の勝ちを微塵も疑っていない。

 

 それはただ自分の力に自惚れているわけでもない。

 背中を任せられる仲間がいるからこその、信頼による確信だ。

 

 そこまでピースがそろえば、こっちのパーティーにゆるりという回復役がいるように、相手にも同様な存在がいるという想像は難しくない。

 

「「…」」

 

 二人は俺の憶測交じりの推論を聞いて黙っていた。

 

「…仮にフィルルと言う通りだったとして、そのヒーラーはどこにいる?」

「見たところ近くにほかのモンスターはいないようだけど…」

「だからそれを手分けして探す」

 

 俺はこれしかないというように自分の作戦を述べる。

 

「正気か?ここに来てパーティーを割るなんて」

「だがこのままじゃジリ貧だ。アイツのHPを削りきる前にこっちのアイテムが底をつく。そうなったらこの戦況は一瞬でひっくり返る」

 

 そもそも、俺たちが今回の討伐クエストを受けた理由は金のためだ。

 

 お金を稼ぐためにパーティーを組んで強いモンスターを倒す。

 ゆえに、お金を使い強敵に備えるという考えもなく、せいぜいアイテムを多く持って行こうという程度のものだ。備えは万全でなくアイテムも心もとない。

 

 【ブラック・ドルイド】単体が相手であればそれで勝てたかもしれない。

 

 しかし、いまは願望や過ぎたことをいってもしょうがない。

 

「…よし、フィガロとフィルルで手分けしてそのヒーラーを見つけ出し撃破しろ。俺はここに残り全体の指揮を続ける」

「「わかった」」

 

 そう言い、俺とフィガロはそれぞれヒーラーモンスターの探索に切り替えた。 

 

 ◇【闘士】フィガロ

 

 フルメタルからヒーラーモンスターの捜索と撃破を命じられ、モンスターを探していたフィガロは困惑していた。

 

 それはヒーラーモンスターの捜索というどうしたらいいかわからない命令をされたからではない(・・・・)

 

 フィガロはその命令に対し、目についたモンスターを片っ端からすべて撃破していけばいずれ正解にたどり着くだろうという脳筋というしかない思考をしていた。

 

 彼が困惑していた全く別のこと。

 

 自分の動きが先ほどまでとはまるで違っている(・・・・・・・・・)ことに困惑していた。

 より詳しく言うなら、いつもの自分の動き(・・・・・・)を取り戻したことに困惑していたのだ。

 

 先刻、ドルイドに対して放った一矢。普段の彼ならば容易くドルイドの眉間を射貫くことも、いやその眼球を破壊することさえ容易かっただろう。それを証明するように、今も走りながら放った矢で遠く離れたモンスターを射貫き絶命させた。

 

 それは彼のエンブリオの能力によるもの。

 彼のエンブリオの能力は装備品強化。未だ下級職の身なれどそのスキルを使えば、亜竜クラスにも大ダメージを与えることができる。

 

 無論エンブリオの能力だけではない。エンブリオの能力はあくまで装備品の強化。フィルルのエンブリオと違い、フィガロ本人のステータスを強化するわけではない。

 

 いくら威力が上がった矢を持とうが、命中精度が高い弓を持とうが扱うものがその弓矢を扱うに足りえなければ宝の持ち腐れとなる。

 しかし、フィガロには強化された武具を扱うにふさわしいポテンシャルを持っている。

 

 ではなぜ、先ほどの一射を外したのか?なぜ今は力を万全に振るえるのか?

 その答えを未だフィガロは得ていない。

 

 だが、先ほどのミスを忘れたわけでもない。

 先ほどのミスを取り戻すために、パーティーのメンバーに迷惑をかけないために、何よりパーティーのみんなのためにも独り(・・)で周りの敵を殲滅する。

 

 そうして、彼はついに見つける。

 

「君があの子の仲間かな?」

 

 白いゴリラ型の亜竜級モンスター、【ホワイト・ドルイド】を。

 

 ◇

 

 【ブラック・ドルイド】と【ホワイト・ドルイド】

 二体の亜竜級モンスターはコンビを組んで狩りをしてこのエリアのボスとなっている。

 しかし、コンビといっても多くのものは【ブラック・ドルイド】の存在しか知らない。

 

 それは二体の特性と役割分担にある。

 

 【ブラック・ドルイド】は特殊な能力を持たない代わりにステータスに、特にSTR、ENDに秀でたモンスター。

 【ホワイト・ドルイド】は優れたステータスは一つを除き持たないが、特殊能力に秀でている。

 【ホワイト・ドルイド】の有する特殊能力は2つ。

 

 一つは回復能力。少ないMPで、即座に【ブラック・ドルイド】のHP、状態異常を回復させるもの。

 もうひとつは無線能力。【ブラック・ドルイド】を距離に関係なく認識し、回復能力を行使できるというもの。

 

 【ホワイト・ドルイド】が身を隠しながら回復を行い、【ブラック・ドルイド】が攻撃を行うことでドルイドコンビは無敵の存在としてこのエリアに君臨している。

 

 だが、無敵のコンビを倒す方法がないわけではない。身を隠している【ホワイト・ドルイド】を見つけ出し、先に撃破すればいいのだ。

 

 この攻略法に初見で気づけたフィルルは称賛に値するだろう。

 

 …あとの問題はそれを実行できるかどうかだけ。

 

 ◇

 

 フィガロに見つかった【ホワイト・ドルイド】の行動は迅速だった。

 その場からの逃走である。

 

 回復能力さえも少ないMPで行える【ホワイト・ドルイド】にとって唯一高いステータスはAGIである。

 今まで使うことのなかった、万が一敵に見つかった場合に敵から逃亡するための(AGI)がいま解き放たれたのだ。

 

 その速度にさすがのフィガロも面喰う。

 

 フィガロのエンブリオは装備品の性能を上昇させるものだが、それはつまり装備品を持っていなければ効果がないということである。

 <Infinite Dendrogram>を始めたばかりのフィガロは未だAGIを上昇させる装備を持っていない。

 

 

 結果として、【ホワイト・ドルイド】は容易にその場から消え失せ、左腕を射貫かれていた(・・・・・・・・)

 

 あまりの出来事に【ホワイト・ドルイド】は驚愕する。

 だが、それは不思議なことではない。

 

 【ホワイト・ドルイド】のAGIがフィガロのAGIを大いに上回るとしても、それはイコール攻撃を当てられないというわけではない。

 

 ただ、逃げるだけの相手をフィガロが逃がす道理はなかった。

 

  相手(フィガロ)は自分を殺しうる。

 

 生まれて初めての死の恐怖に【ホワイト・ドルイド】は錯乱したかのように走り出す。

 

 AGIの差で距離は確実に開いている。

 

 なのにフィガロから放たれる矢は確実に自分を捉えている。

 それどころか距離が離れれば離れるほど威力が上がっている。自分に回復能力を使っていなければ既に絶命していただろう。

 

 フィガロという強者から逃れるために【ホワイト・ドルイド】は懸命に走る。

 その行きつく先に何が待っているかもしれぬまま…

 

 ◇

 

 【ブラック・ドルイド】と戦っていたロゼは困惑した。いや戦っている相手の【ブラック・ドルイド】も驚愕していた。

 

 なぜなら、いきなり手負いの白いゴリラが現れたのだ。

 そう、【ホワイト・ドルイド】はフィガロから必死に逃げるあまり、【ブラック・ドルイド】のいる戦場まできてしまったのだ。

 

 その後ろには【ホワイト・ドルイド】をここまで追い詰めたであろうフィガロの姿もある。

  

 悪手(アクシデント)

 

 そういわざるを得ない状況だった。

 

 だが結果としてそれは妙手(・・)となった。

 

 …なぜならあれほど【ホワイト・ドルイド】の命を狙っていた矢が、そのプレッシャーが消え失せたからだ。

 

 だとすれば、やることは簡単だ。

 【ホワイト・ドルイド】は【ブラック・ドルイド】の回復を再開した。

 

「あいつは…フィルルの言っていたヒーラーか!」

 

 そう言ってフルメタルが【ホワイト・ドルイド】に攻撃を仕掛ける。

 

 しかし、その拳は空を切る。それもそのはず、【ホワイト・ドルイド】のAGIはフルメタルの三倍以上。

 

「くそ!フィガロっ!援護を頼む!!」

「…う、うん」

 

 だが、フィガロから放たれる矢は先ほどまでとは雲泥の差だった。

 そのような矢に当たるほど【ホワイト・ドルイド】は落ちぶれていない。

 

 今のパーティーで【ホワイト・ドルイド】に攻撃を当てられるのはフィガロか≪魔物強化≫を受けた虎丸くらいだろう。

 しかし、虎丸はフィルルと共にあり、フィガロがある事情(・・・・)でまともに戦いに加われない現状、【ホワイト・ドルイド】を、そして【ブラック・ドルイド】を倒す術はなかった。

 

 何度かの攻撃を仕掛け、静かに戦況を把握したフルメタルの執った指揮もまた迅速だった。

 

「全員、撤退する」

 

 ◇

 

「…ごめん、僕があそこでもっとうまく動いていれば…」

「いや、フィガロが独りであいつをあそこまで追い詰めたんだろう?かなりの労力を使ったはずだ。そんな敵を倒し切れない俺の実力不足だ」

 

 撤退した後、リーダーのフルメタルは重い表情をしたフィガロを慰める。

 

「そーですよー。あいつらコンビを組んでいるなんてずっちーですー」

「ずっちーであるな」

「あんたたちだけのせいじゃない。モンスターが徒党を組むなんて考えれば想像できたことなのに…」

 

 それぞれのメンバーが思い思いに今回のクエストを振り返る。

 

「今回のクエストは俺の見通しが甘かった。だが、ひとりもデスぺナルティにならなったのは僥倖だ。今回のクエストを通して、それぞれの問題点が見つかったと思う。次回はそれを反省してまたパーティーを組もう」

 

「いや、一人行方不明だけどね」

「フィルルさんはどこにいったんですかー?」

「…まだモンスターを探しているのかも?」

「モンスターに殺されたのであるか?」

 

 そう、この場にフィルルの姿はなかった。

 

 【ホワイト・ドルイド】を探しにいったあと、戻ってこなかったのだ。同じパーティーメンバーだからクエストを破棄したことはわかっているはずだ。

 それでも、このギルドにすら戻ってきていないというのは不思議だった。理由があるとすれば、モンスターにやられたか…

 

「リアルの事情でログアウトしたのかもしれないな」

 

 フルメタルがなんでもないように言った。

 

 大事なクエストの途中とはいえ、リアルで何かあればそちらを優先して当然だ。<Infinite Dendrogram>はあくまでもゲームなのだから。

 

 フルメタル自身、他のゲームでクエストの途中にリアルの事情でログアウトすることは何度もあったため、特に不思議に思うことはなかった。

 

 そのような経験からリアルの事情には触れないのがゲームのルールだとさえ考えていた。

 

 フルメタルの言葉にそれもそうかと皆それぞれに納得し、また自分たちもそろそろログアウトの時間だということもあり、今回はこれで解散ということになった。

 

 だが、フィルルはモンスターにやられたわけでも、ログアウトしたわけでもない。

 

 ◇

 

「…ここは、どこだ?」

「にゃー?」

 

 もうひとつのアクシデント(・・・・・・・)に見舞われていたのだ。 

 

 




ということで、フィガロの苦いクエスト失敗話でした(妄想)
一応、原作再現だよ(Episode Superior Dance of Anima)

私の表現力不足やら展開が雑やら矛盾点やらで大変ですが,
そこは大目に見てください(Orz)

えっ?主人公?知らん、そんな事は俺の管轄外だ。




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7.【獣戦士】の部族

お待たせしました(待ってないとか言われたら傷つく)




□レジェンダリア・<???> 【従魔師】フィルル・ルルル・ルルレット

 

「どこなんだよー、ほんとによー」

「にゃー、にゃー」

 

 俺と虎丸は【ブラック・ドルイド】との戦いの中で、奴に回復役の仲間がいると考え、そいつを探していたわけなんだが…探している途中に光の霞が視界に入ったのだ。

 

 これはあやしい、この近くに敵が隠れているに違いない、とその周辺をくまなく探しているとその光の霞が別の輝き――俺は意識を失った。 

 

 目を覚ますと見知らぬ森の中。俺たちがさっきまでいたのが霊都の東の草原だったことを思えば、今森の中にいることはおかしい。

 

 そもそもクエストはどうなったのか?そう思い確認してみると、クエストは破棄されていた。

 俺がどれほどの間気を失っていたかはわからないが、その間にフルメタルさんがクエストの続行は不可能と判断したのだろう。

 

 俺が気を失っていたせいで初めてのパーティークエストが失敗に終わったのはショックが大きい。

 だが、いつまでもクヨクヨしていても仕方がない。

 

 

 とりあえずはこの状況の確認だが…もしかしなくても転移したのか?

 転移はほかのゲームではよくあるギミックだが、魔法陣や特殊なパネルを踏むと全く別の場所にとばされるというものだ。

 

 それがこの<Infinite Dendrogram>でも存在するということなんだろう。

 

「しかし、どうすっかなー」

「にゃー?」 

 

 おそらく一度ログアウトしてレジェンダリアのセーブポイントに戻ればすぐにでも霊都には戻れるだろう。しかし…

 

 転移して別の場所にとばされるなんて中々レアな”イベント”だ。ゲーマーとしてこの状況からただ霊都に戻るという選択肢をとることはできなかった。

 

 そうしてとりあえず周りを探索してみるかと始めたのが一日前。

 

 ログアウトとログインを繰り返しながら探索を続けているが…特に何か特別なことがあったわけでもない。

 

 特段、徘徊モンスターが霊都の周りと比べて強いということもなく、いつも通りレベル上げはできる。だがこれでは霊都に戻ってしまっても問題ないのではないかという思いが出てきてしまう。

 

「村の一つでもあればなー」

「にゃー」

 

 俺のバトルスタイルはMPを喰うからなー。今は大丈夫でも後々回復アイテムが不足するかもしれない。どこかのショップで回復アイテムの補充をしなければならない。

 そもそも、クエストに申しこんだのだって金の工面のはずだったのに…うまくはいかないものだ。

 

 だが、この探索そのものに収穫がなかったわけではない。この探索の最大の収穫といえば、”進化”だろう。

 

 まず、虎丸が進化し【タイガーキャット】になった。リトルからの進化ということで、虎丸は体つきが二回りは大きくなり、ステータスが強化され戦力の大幅な上昇につながった。

 

 さらに俺のエンブリオ【喝采劇場 アンフィテアトルム】がついに第二段階へと進化した。

 進化することで形が変わったり、新しいスキルを習得したりするものがいるらしいが、アンフィテアトルムはスキルの性能向上のみだった。

 

 新しいスキルを楽しみにしていなかったといえば、嘘になるが、スキル性能の向上でより【従魔師】とのシナジーがあがったのでそこまで文句はない。

 

 そうそう【従魔師】といえば、とうとうレベルが40を越え、カンスト目前になっていた。

 ほかの奴よりも随分速いスピードだと思うが、もしかして狩場の問題かもしれない。ここいらのモンスターは霊都の周りと強さは変わらないが、経験値が豊富なのだろう。

 

 しかし、問題がないわけでもない。カンスト目前ということはそろそろ次のジョブを考えなければならないということ。

 

 正直、次のジョブはモンスター屋のおっさんの意見を参考に決めようと思っていたが、ここまでおいしい狩場だと離れたくないし、このままではできそうにない。

 

 そもそも<Infinite Dendrogram>ではジョブクリスタルがなければ転職はできない。そのためにもこのおいしい狩場の近くにジョブクリスタルがある村があれば、すべて解決なのだが…

 

 そう思いながら狩りを続けていると…

 

「一人…いや一人と一匹か」

「にゃー?」

「ちょうどいい。会話にも飢えていたところだ。勝負と行こうぜ!」

 

 その瞬間、目の前にいきなり、獣に騎乗した人間が現れ

 

(…あれ、速くね?)

 

 意識がトンだ。

 

 ◇

 

「俺たちが探していたのは仲間を殺した奴らだよな」

「そう」

「じゃあこいつは何だ?」

「徘徊。怪しい」

「こいつのレベルいくつか見たか?」

「41」

「そんな奴にアイツらがやられねーよ」

「可能性は…」

「ねーよ!」

 

 俺が目を覚ますと二人の男女の話し合いをしていた。男はいかにもといった屈強で強面の戦士といった中年。女はまだ年若い少女だ。

 

「ん?目を覚ましたようだな。俺の名はダッツァー。お前を襲ったのはそっちにいるコルだ。すまんかったな」

 

 どうやら男の名はダッツァー。襲ってきた少女の名前はコルというらしい。

 

「お前さんの名前は?あとどこから来たかも頼む。ちょっと事件があってな。若い奴が皆殺気立ってるんだ。お前さんの身の潔白のためにもな」

「俺の名前はフィルル・ルルル・ルルレット。こいつは虎丸。霊都の周りで戦闘していたら光る霞があってね。いつの間にかさっきの森にとばされていたんだ」

「にゃー」

「…アクシデントサークルか」

「アクシデントサークル?」

 

 <アクシデントサークル>。

レジェンダリアの国土を漂う自然魔力が、一定の濃度を上回ったときに時折発生するレジェンダリア固有の自然魔法現象。

 自然そのものがランダムに魔法を発動させてしまう現象。

レジェンダリアの街や村々には自然魔力を吸収、あるいは拡散する設備があるため発生しないけれど、街の外では起こり得る。

俺の身におこったのは転移魔法。<アクシデントサークル>で発生する魔法の中ではそれなりによく見られるものらしい。

 

「で、俺はどこにとばされたんだ?」

「セプータ。俺たちカングゥ族の村だ」

「カングゥ族?」

「カングゥ族ってのは代々【獣戦士】を就く慣習ってので有名な部族だな」

「【獣戦士】?」

 

 【獣戦士】

 獣戦士系統は、ステータスの伸びも低く、スキルは固有スキル一つしかないジョブ。

 

 【獣戦士】の唯一の固有スキルの名は、《獣心憑依》。

 それは、『従属キャパシティ内のモンスターの元々のステータスの何割かを自身のステータスに足す』というスキル。

 しかし、獣戦士系統はその固有スキルに反して、従属キャパシティは異常に小さいらしい。

 

「しかし、【獣戦士】か。俺の次のジョブにふさわしいんじゃないか?」

「にゃー」

 

 アンフィテアトルムとも【獣戦士】ともシナジーが抜群だ。

 

「珍しいな。【獣戦士】に興味を持つなんて。俺らの部族の中にも慣習とはいえ、別のジョブに就きたいというも多いのに」

「軟弱。だからやられる」

 

 やられる?そういやさっき事件って…

 

「事件ってなにかあったのか?」

「…俺はこの部族の戦闘隊長をしているんだが、ここいらのモンスターは特段強いってわけではない。ゆえに若い奴らに訓練もかねて戦闘をさせていたんだが…」

「やられた」

「若いといっても今のお前さんよりもレベルは高かった。本来ならやられるはずがねえ」

 

 俺がアンフィテアトルムを使いながらとはいえ、倒せるモンスターたちだ。俺よりレベルの高いティアンが負けるわけがないか…

 

「だから、フィルルにやられるってこともありえないってことだ。わかったか、コル?」

「可能性は」

「だからないっての」

 

 どうやらコルが俺を襲ってきたのは仲間の敵討ちの相手探しのためらしい。

 

 自分以外の部族の人間をみたら怪しいと思っても不思議ではない…か。

 

「ったく。まあ可能性があるとしたらレベルの高いほかの人間か、それとも流れのボスモンスターあるいはUBMか」

「UBM?どんどん知らない言葉がでてくるな」

「UBMも知らないのか」

 

 <UBM>

 唯一の言葉が示すように、この世界に一体しか存在しないボスモンスターの通称。

 ボスモンスターは通常、同種で生態系を築いている。ボスモンスターであっても通常は【ドルイド】のように同種が複数体存在する。

  

 しかし、<UBM>は違う。この世界に一体しか存在しないし、その前にも後にも同種はいない。

 そして例外なく、特異の固有能力や高い戦闘力を有している。例外なく特殊な力を持ち、上級のパーティでも容易く壊滅させる力を持つものも珍しくないらしい。

 

「しかし、お前さん常識知らずにもほどがあるぞ」

「怪しい」

「マスターだからな。来てばっかでわからないことばかりなんだ」

「マスターってのは、あの”マスター”か。不死身でエンブリオを持っているっていう」

「ああ。証明のためにみせてやりたいところだが、俺のエンブリオはテリトリーで見せることはできないんだ。これで勘弁してくれ」

 

 そういって、俺は左手を突きだす。そこには”円形劇場”の紋章…<マスター>であることが示す紋章がある。

 

「しかし、残念だ。俺のエンブリオがガードナーだったら、あんたたちも喜んでくれただろうに」

 

 【獣戦士】に就くのが慣習の部族。おそらく部族全員がケモナーに違いない。

 

 あれ?ガードナー?【獣戦士】?

 

 ふとロゼの言葉を思い出す。

 

「君は知らないだろうが…ガードナーの従属コストは0だよ」

 

 そして【獣戦士】の《獣心憑依》。

 

 もしかして、ガードナーのマスターが【獣戦士】に就いたら最強なんじゃ?

 

 またしてもガードナーの利点に気づいてしまい、人知れず涙を流す俺。

 

 このことは隠しておこう。特にロゼには。

 

 そして急に泣き出した俺を怪訝そうにみる男女二人がそこにはいた。

 

 




ガードナー獣戦士理論に行きつき、そして実践できない男のアカウントがこちらになりますー。

感想、ご指摘などお持ちしております。


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8.仇討ち

年末年始のごたごたで更新が遅れました。すいません。


□セプータ 近郊の森 【獣戦士】フィルル・ルルル・ルルレット

 

「コル、右から攻めろ。フィルルは後ろから隙を見てとどめを」

「「了解」」

 

 俺はいま、ダッツァーとコルとパーティーを組み、セプータ近郊の森でレベル上げを兼ねてモンスター狩りをしている。

 

 この森でのモンスター狩りは経験値効率が高いため、レベル上げもはかどるが一番の目的はカングゥ族の若者を殺したモンスターを探すことだった。

 

 カングゥ族の若者を殺したモンスターとやらに興味もあったため(イベント脳)ダッツァーに協力を申し出、パーティーに参加した。

 

 ダッツァーは快諾してくれて今も一緒に狩りをしている。コルは少し不満そうだったが…

 

 ◇

 

「今日の狩りも進展なし、か」

「無念」

「そう、はやるなよ。今はフィルルとコルのレベル上げが第一目的だ。それに関しては順調だ」

 

 不服そうにしている俺とコルをダッツァーが窘める。狩りの終わった後のよく見る光景だ。

 

 どうやらコルは仲間の敵討ちをのぞんでいるが、ダッツァーはそうでもないらしい。復讐よりも後輩たちの育成に力を入れている。

 

 そのおかげで【従魔師】をカンストし、無事【獣戦士】にも転職できたからそのことには不満はないが…

 

 コルと別れた後、俺はダッツァーに話しかける。

 

「ダッツァーは仇討ちに興味はないのか?」

「興味がないわけではない。だからこそレベル上げのついでに情報収集もしている」

 

 …どうやらダッツァーは仇討ちはレベル上げのついでらしい。

 

「だが、相手を見つけてどうする?そいつを殺したところで死んでいった戦士は戻ってこない。戻ってこない以上、仇討ちなど俺たちの自己満足でしかない」

「それは…そうだけどもよ」

「今は失った戦力を補充する方が大事だ。だからこそ、コルの成長が大事なのだ」

「コルが?」

 

 コルの合計レベルは既に400を超えている。レベルで言えば、俺の5倍以上。そのコルの成長が大事とはどういうことだ?

 

「ダッツァー、あんたのようにカンスト、合計レベル500にしたいのか?」

「あいつは天才だ。俺みたいに上限で満足させてはいけない」

「上限?まるでそれ以上があるみたいじゃないか」

「そうか…お前は超級職も知らないんだったな」

「超級職?」

 

 <Infinite Dendrogram>には2種類のジョブがある。

 

 一つは下級職。俺が就いている【獣戦士】や【従魔師】がその例だ。

 

 就職条件は簡単なものがほとんどで、レベルの上限は50で、ステータス上昇値は少なく、取得可能ジョブスキルも基本的なものばかりである。1人当たり6つまで就くことのできる初心者ジョブだ。

 

 もうひとつは上級職。ダッツァーやコルが就いている【獣戦士】の派生【獣戦鬼】や【従魔師】の派生【高位従魔師】がある。

 

 下級職よりも就職条件が厳しいものがほとんどであるが、レベルの上限は100で、ステータス上昇値は下級職よりも高く、取得可能ジョブスキルも玄人向けのものが多く、1人当たり2つまで就くことができる上級者ジョブ。

 

「文字通り、カンストが上限じゃないのか?」

「多くの者にとってはな。極一握りの者しか成れぬ頂点。人の身の限界すらも“超えた”力。それが超級職だ」

 

 超級職。

 各超級職に就ける者は先着1名だけで、1つの超級職に複数の人が同時に就くことはできない。レベルの上限がなく、ステータス上昇値も高く、さらには反則じみた強力な固有スキルや奥義を持つ。

 就くためには複数ある難解な条件を制覇し、試練を達成する必要がある。その条件ゆえに多くの超級職がロストジョブになっているらしい。

 

「カングゥ族が代々就いている【獣戦士】。その超級職は【獣王】なんだが、今はロストジョブになっている」

「まじかよ」

 

 【獣戦士】になるのが慣習で有名なカングゥ族。そいつらでさえ、【獣王】にはなれていないのかよ。

 

「情けないことだ。昔は族長や戦闘隊長が【獣王】に就いていたというのに…だが、コルはちがう。あいつの才能は段違いだ。あいつなら確実に【獣王】になれる」

「だから、コルを育てるのが何より大事なのか?」

 

 仲間の仇討ちよりも…

 

「…何も感じていないわけではない。だがな、モンスターが徘徊し、危険なアクシデントサークルが多発する。ここいらじゃ死が珍しくない。それにいちいち憤っているよりも次を考えていきる方が必要なのだ」

「…そういうもんか」

「だから、おまえも鍛えているんだ。マスターの存在がコルに発破をかけると思ってな。明日からは強いモンスターが生息するところに行く。覚悟しとけよ」

 

 そういってダッツァーは家に帰って行った。俺も自分の宿に戻りながら、この世界のティアンという存在に改めて思考を走らせていた。

 

 ◇

 

「ここは昨日までの狩場とはちがい、出てくるモンスターが段違いだ。気を引き締めていけ」

 

 ダッツァーが狩りの前に注意事項を述べる。

 

 ここは上級職、つまりダッツァーやコルにとっての適正狩場である。そんなところで下級職のレベル上げを行えば、レベル上げ効率はさらに上がるだろうが、一歩間違えればパワーレベリングである。

 

 パワーレベリングとは、自分より強いプレイヤーに手伝ってもらって楽をしてレベルを上げることだ。

 

 例えば強いモンスターの攻撃を強いプレイヤーに受けてもらい、その間に自分がペチペチ殴って倒して一気にレベルを上げるなどの行為がある。ただし、パワーレベリングするとステータスとプレイスキルに隔たりができる。 レベルとステータスだけが高い雑魚の出来上がりというわけだ。

 

 さらに<Infinite Dendrogram>ではエンブリオというシステムがある。そのようなプレイスタイルではエンブリオの成長にどのような影響を与えるかわかったものではない。

 

 あるいはレベル上げもできずに俺だけがやられる可能性もある。

 

 上級職にとっての適正狩場とはいえ、昨日ダッツァーがいったようにこの世界では何がおこるかわからない。一歩間違えれば、全員が全滅してもおかしくはない。

 

 そんなところでパワーレベリングなど奨励される行為ではない。

 

 …まあ俺が【喝采劇場 アンフィテアトルム】をもっていなければの話なんだけど。

 

 俺と虎丸。ダッツァーとその従魔・キトー。コルとその従魔・エル。

 

 俺たちはこの三人と三体のパーティーでいままで狩りを行っていたがこの中で一番強いのは…。

 

 ◇

 

「いやー、無事終わったな」

「不服。敵討ちがまだ」

 

 危なげなくレベル上げも終わり帰路につく俺たち。いつもの狩り場あたりで一息つき談笑している。

 

 この狩りで【獣戦士】もレベルがあがり、エンブリオも第三形態に進化しスキル性能が向上した。さらに虎丸もタイガー・キャットに進化した。

 

 結果だけ見れば今回の狩りは大成功なのだが、やはりコルは不服のようだ。

 

「レベル上げはいつでもできる。犯人捜しのほうが重要」

「といっても手掛かりもない。アイツらも敵討ちよりお前が強くなって【獣王】になるほうが喜ぶ」

 

 コルの意見をダッツァーが押さえていく。

 

 あまりこういう状況が続くのってコルの成長に良くないのではないかと思うのだが…

 

「伏せろ」

 

 急にダッツァーが声を荒げ俺たちの動きを制する。

 

「あれを見ろ」

 

 そういうダッツァーの視線にはこの狩り場で今まで見たことないような赤いモンスターがうろついていた。

  

「あれは…」

「エレメンタルだ。ここいらじゃ見かけないモンスターだ。それにあの色…あいつはフレイムエレメンタルだ」

「死体、燃やされていた。もしかしたら…」

「…こっちに気づいたぞ」

 

 フレイムエレメンタルがこちらに近づいてくる。その速度は亜音速を超える。

 

「戦闘態勢!!」

 

 散開しジュエルからモンスターを喚起し、《獣心憑依》を発動させる。

 

「この速度…通常のものではない。強化種か!」

 

 ダッツァーがエレメンタルの突撃を防ぎながら、声を荒げる。

 

「こいつ!」

 

 コルが従魔のエルと一緒にフレイムエレメンタルに背後から攻撃を仕掛ける。だが、フレイムエレメンタルはその攻撃をたやすく回避する。

 

 コルの従魔エルは豹型の純竜級モンスター【ドラグ・パンサー】でAGIは6千を超える。スキルレベル9の《魔物強化》スキルでそのステータスは超音速に手をかける。

 さらに、スキルレベル10の《獣心憑依》によってコル自身のステータスも上がり、カンストしたAGI型上級職に匹敵するステータスを得ている。

 

 そのコンビの攻撃を避けるフレイムエレメンタルはAGIだけなら1万を超え超音速機動をしていることになる。

 

「超音速機動。フレイムエレメンタルがそんな速度を持つなどありえない。何かしらの強化スキルを得ているのか…」

 

 超音速機動はAGI型の超級職や純竜でようやく到達できる速度。通常の徘徊モンスターがしていい速度ではない。

 こいつが初心者狩り場にいれば、あっという間にティアンなど消し炭にされるだろう。

 

 …消し炭?そうかこいつまだ、

 

「気をつけろ。火の攻撃が来るぞ!」

 

 俺が叫ぶと同時にフレイムエレメンタルが炎を放出する。

 

「キトー!」

 

 ダッツァーがそう叫ぶとその従魔のキトーがコルを狙っていた炎から身を挺してかばう。

 

 キトーはパイソン型のモンスターでSTR、AGI、ENDがバランスよく高い純竜級モンスター【ドラグ・パイソン】。その数値はどれも5千を超え、カンストしているダッツァーのスキルにより純竜を超えた能力を持っている。

 

 本来ならフレイムエレメンタルの炎攻撃などもろともしないが…

 

「Gyuuu…」

「炎攻撃も以前見たフレイムエレメンタルとは段違いだ…」

「助かった。キトー」

「気を抜くな。次はこちらから仕掛けるぞ!」

 

 戦力で言えば、こちらは従魔師系統のスキルによって強化された純竜級モンスターが二体。獣戦士系統のスキルによってカンスト前衛上級職と同じステータスを得たティアンが二人。

 未だ亜竜級でさえない虎丸と下級職の俺を差し引いても、純竜級モンスターを相手にだって十分に戦えるメンツだ。実際先ほどの狩りでも純竜級のモンスターを協力して何体かを倒している。

 

 そのパーティーが苦戦しているということは相手は純竜を超えた力をもっているということになる。いくら先ほどの狩りのあとで疲労やHP、MPの消耗があるとはいえ相手の強さは異常だ。

 

 以前聞いた話では純竜を超えるモンスターは伝説級モンスターと言われ、多くがUBMに匹敵するかUBMそのものであるらしい。

 

こいつはどうやらUBMではなく、通常のフレイムエレメンタルのようだが何かしらの強化スキルによって伝説級に匹敵する強さを手に入れているようだ。

 

「フィルルはMPの回復を急げ!その隙を俺らが稼ぐ!」

「了解」

 

 俺は急いでMP回復ポーションを飲む。くそ、こんなことならさっきの狩りのあと回復しておけば良かった。

 

 ◇

 

 俺が回復している間にコルとエルの二組のコンビがフレイムエレメンタルとの戦闘を続ける。

 

 獣戦士と従魔師、純竜級モンスターの組み合わせはスキルレベルが最大であればステータスは前衛上級職と純竜級を超えるものとなる。

 

 合計レベル500カンストしたティアンの中でも強力なステータスを誇るがそれでも弱点はある。

 

 一つは従魔がやられれば一気に戦闘力が落ちること。

 

 もう一つは自身より高いステータスを誇る相手には何もできないということだ。

 

 ジョブ構成の問題で獣戦士系統以外をすべて従魔師系統等で埋める必要がある。そうした場合、戦闘で有用なスキルを取れる幅が狭くなる。

 そのため、キャパシティを目一杯使って純竜クラスを従え、高いステータスを得ることでジョブが完結してしまう。

 

 ほかの上級職であれば仮に自分よりステータスが高い相手であっても多くのアクティブスキルによってそれをフォローし相手を降すこともある。

 

 だが、獣戦士ではそれはできない。ゆえに今回のように自分よりAGIの高い相手などには攻撃を当てられず、従魔モンスターに攻撃を集中されると一気に不利となる。

 ゆえにカングゥ族以外では獣戦士に就いているものが極端に少ないのだ。

 

 だが、それでもコルは相手の攻撃を防ぎ、隙を見て相手に攻撃を加えている。それがコルがダッツァーに天才といわれる所以。

 生まれ持ったセンスで自身よりも二倍以上速く動く相手の動きを見切り攻撃を加えていく。攻撃はSTRとENDの関係で有効打にはなりえないがそれでも確実に相手HPを削り、相手の動きを牽制していく。

 

 これが自分であればこうはならなかっただろうとダッツァーは考える。自身とて多くのティアンが到達できないカンスト勢。ほかのティアンよりも遥かに才能にあふれている。

 

 そんな彼でさえ超音速機動をする相手には分が悪く、勝てないだろう。

 だが、そんな自分よりも合計レベルもスキルレベルもステータスでさえ低いコルがフレイムエレメンタルを相手に戦えていることが、コルの才能を示していた。

 

 さらに、コルの隙をかばうように従魔のエルも攻撃を加えていく。伝え聞いた【獣王】の奥義は《獣心一体》。自らと《獣心憑依》しているモンスターとの、距離や障害が意味を成さない意思疎通。

 パートナーであるモンスターとの連帯こそを主とするジョブ系統ならではの奥義だが、コルには()()()()()()だ。

 

 そう、獣王の奥義がなくとも距離を無視した従魔との、エルとの意思疎通が可能なのだ。従魔でなくともモンスターであれば敵対していてもその意思をある程度読み取ることができる。

 

 生まれ持った戦闘センスと超級職の奥義に匹敵するセンススキルを持つ少女。

 

 それがコルである。

 

 会話などなくともコルとエルのコンビはお互いの穴を埋めあうように戦いを進めていく。

 

 ダッツァーでなくともその才能に期待したくなるのは無理もない。

 

 だが、その才覚もここで死んでしまっては意味がない。いくら相手と渡りあえているといってもこのままいけばジリ貧である。

 

 当初ダッツァーも攻撃に参加することも考えたが、フィルルが回復している間、もしものための壁役にならねばならない。

 

 さらに下手にダッツァーとキトーが攻撃に加わって、コルとエルのコンビネ―ションを乱すこともある。あのコンビネーション状態では下手な援軍はかえって邪魔となる。

 

 それに下手な援軍(・・・・・)でない存在が今から向かう。

 

「準備はできたかフィルル」

「応!」

 

 MPの回復を終えたフィルルが【喝采劇場 アンフィテアトルム】の唯一のスキルを発動する。

 

「《輝く劇場の(シャイニング)主役(スター)》」

 

 エンブリオの固有スキルを使い、超音速機動でフレイムエレメンタルに近づくフィルル。接触と同時に相手に数発の拳打を与える。

 

 その威力はたやすくフレイムエレメンタルのENDを超え、HPを大幅に削る。

 

 フィルルは合計レベル100にも満たないルーキーの下級職。獣戦士のスキルによってステータスが強化されていたとしても元が前衛職でもない獣戦士。

 

 今の段階ではスキルと合わせても前衛下級職と同じステータスしか持ち合わせない。ただし、エンブリオのスキルが発動すればこれは変わる。

 

 《輝く劇場の主役》:

 パーティーメンバーのスキルによるステータス上昇数値を自身のステータスに加える。

 アクティブスキル。

 ※最大『6名』まで

 ※発動時は自動で秒間1ポイントのMP消費が生じる

 ※消費可能MPがない場合、《輝く劇場の主役》は解除される

 

 第一形態の時は2名までだったが第三形態になったことで6名までのパーティーメンバーが対象となっている。

 

 今はダッツァーとキトー、コルとエル、虎丸と俺自身を対象としている。

 

 《獣心憑依》によるキトーのステータスの60%分のダッツァーのステータス上昇。

 《魔物強化》によるキトーのステータス60%分のキトーのステータス上昇。

 

 つまりキトーのステータスの120%分のステータスがフィルルに加わる。同様にエルのステータスの110%分のステータス、虎丸の50%分のステータスがフィルルに加わっている。

 

 このスキルによりフィルルはHP、MPが10万オーバー、STR、AGI、ENDが1万オーバーの伝説級と同等のステータスを発揮している。 パーティーを組んでいるフィルルはまさにパーティー最強の存在となっている。

 

 対してフレイムエレメンタルはAGIこそ一万は超えているが、STR、ENDはその半分もなく、HPもフィルルの半分以下。

 

 スキルは炎属性攻撃で今の状況を覆せるほどのものはない。さらに先ほどまでとは違い、ダッツァーのコンビも攻撃に参加し、フィルルコンビ、ダッツァーコンビ、コルコンビがフレイムエレメンタルを責め立てる。

 

 つまり、フィルルがスキルをエンブリオの固有スキルを使った時点でフレイムエレメンタルの勝ちの目はなくなっていた。

 

 ◇

 

 幾度かの交錯を経て決着の時が来る。

 

「とどめだ!!」

 

 そしてダッツァーがフレイムエレメンタルにとどめを刺し、フレイムエレメンタルは光の塵となって消えていった。

 

「敵はとれた」

「いやあいつが敵かどうかは…」

「私にはわかる」

「……」

 

 コルの発言に俺は異を唱えたが、コルはそれを否定した。まるでアイツが(かたき)だと知っていたようだ。その発言をダッツァーは黙って聞いていた。

 

「アイツに…間違いはないんだな、コル」

「うん」

「そうか」

 

 そういってダッツァーは空を見上げた。その頬には一筋の涙があった。

 

「ダッツァー、息子の敵討てた」

「…なんだよ、敵討ちには興味ないみたいな態度してやがった癖に。そういうことかよ。素直じゃねーな」

 

 そうした俺たちパーティーは村に戻り、死んでいった戦士たちに黙祷を捧げ、敵討ちの報告をした。

 

 ◆

 

「我ガ子死亡。火ノ四番目ノ大子。敵、伝説級ヲ想定。勝率99%。敵討チヲ実効」

 

 巨大なクリスタルがセプータに向けて動きだした。

 




ようやくフィルルくんのエンブリオのスキルが判明。
パワーレベリングと大差なくねと言ってはいけない。


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死闘編 9.帰還と再会と出会い

□セプータ 【獣戦鬼】フィルル・ルルル・ルルレット

 

「ふぅー、今日も疲れたなー」

「にゃー」

 

 今日もひと狩り終えてセプータへの帰路につく俺と虎丸。

 

 セプータに<アクシデントサークル>に飛ばされてから一か月、こちらの時間では三か月の月日が経った。今はセプータを本拠地として活動している。

 

 なにかしらのイベントを期待して霊都に戻らない道を選んだが、セプータで活動していることは正解だったといえるだろう。

 

 多くのティアンに出会い、この世界の情報を知り、強くなることができた。

 

 まず、虎丸が進化し、【タイガーキャット】から【亜竜(デミドラグ)獅虎(ライガー)】となった。ついに虎丸も亜竜級モンスターに進化したのだ。

 

 【亜竜(デミドラグ)獅虎(ライガー)】はステータスが高く、亜竜クラスでもトップクラスのステータスを誇るモンスター。さらに強力な物理攻撃スキルを習得する非常に優れたモンスターである。

 

 俺のバトルスタイルはパーティーメンバーへの強化スキルを基に俺自身のステータスをあげるというもの。

 

 俺の修得している強化スキルはいまのところ《魔物強化》と《獣心憑依》のみ。《魔物強化》は【従魔師】、《獣心憑依》は【獣戦士】のスキル。

 

 どちらのジョブも上級職に就き、スキルレベルが上がったことで上昇数値が大幅に増え、今はどちらも50%のステータス上昇が行える。ただし、上昇数値があがっても基になるのは従属モンスターのステータスのため、虎丸の進化は戦力向上に最も寄与している。

 

 さらに【喝采劇場 アンフィテアトルム】も進化し、上級エンブリオの仲間入りを果たした。進化によりMPのステータス補正がさらにあがり、新たなスキルを獲得した。

 

 新しく得たスキルは《光る(シャイン)劇場の脇役(バイプレイヤーズ)》。《輝く劇場の(シャイニング)主役(スター)》のアレンジ版である。

 

 俺はエンブリオの新たな固有スキルの性能から新たな従魔モンスターを増やそうと考えていた。元々のスキルからしてパーティーメンバーは多い方がいい。しかし、コルの合計レベルが500に到達したため、いまはレベル上げより、失われた【獣王】の転職条件を見つけることを優先するということもあり、ここ最近は俺と虎丸のコンビで戦っている。

 

 そのため、ステータス1万オーバー状態にもなれず、効率の良いレベル上げもできなくなったため、レベル上げのスピードも落ちている。しかし、コルとダッツァーにも事情はあるため仕方がない。

 

 今の状態ではステータス一千オーバーが限度で亜竜級のステータスだが、それでもセプータから霊都に帰る位のステータスはあるとダッツァーに言われている。

 

 一度、霊都に戻ってモンスター屋のおっさんのところで新しいモンスターを購入するか、あるいは道中で出会ったモンスターを直接テイムするいうのもいいかもしれない。おっさんにはとても世話になったし、虎丸のことも報告したい。

 

 …アイツらにも久々にあってみたいな。初めてパーティークエストを組んだメンバー。俺のせいでクエストが失敗したのだが、今となってはいい思い出だ。強くなった俺の姿を見せてやる。

  

 そう決意し、俺はセプータを発つことを決めた。

 

 ◇

 

「おい、見ろよ虎丸。あいつ…」

「にゃー」

 

 ダッツァーからもらった地図を用いて、セプータを発ち霊都に戻る俺と虎丸。その道すがらモンスターを狩りながら、あるいはテイムを試しながら進む。…残念ながら一件も成功しなかったが。

 

 そのため、想定していたよりも帰還に時間がかかり、セプータを発ってから既に数日が経っている。しかし、霊都はもうすぐそばだ。今は夜だが朝日が出る前には霊都にたどり着くだろう。

 

 このまま、道中のモンスターを無視して霊都に突っ走ってもよかったのだが、遠くに見えるモンスターを目にした瞬間、その考えを改めた。

 

 その黒いゴリラ型のモンスターを見たときに…

 

「虎丸。お前はもうひとりの方を頼む。お前の鼻ならアイツと似た匂いのドルイドを見つけられるだろう」

「にゃー」

 

 俺たちパーティーが前回、クエスト失敗したのが三か月前。三か月もあれば、多くのマスターはルーキーから上級エンブリオに進化あるいは上級職に就く。

 そうなれば、亜竜級モンスターであるドルイドたちは既に狩られている可能性がある。目の前のドルイドはあの時のドルイドとは違うかもしれないが、【ブラック・ドルイド】と【ホワイト・ドルイド】の戦術は既にわかっている。

 

 あの時とは違い、今の俺たちのステータスは奴ら同じ亜竜級だ。タネが割れていれば負ける相手ではない。

 

「いくぞ!」

 

 ◇

 

 フィルルはすぐに《輝く劇場の(シャイニング)主役(スター)》を発動し、【ブラック・ドルイド】に接近する。それと同時に虎丸は【ホワイト・ドルイド】の捜索を開始する。

 

 【ブラック・ドルイド】は物理攻撃に秀でた亜竜級モンスター。だが、その攻撃は単調で力に任せたところが大きい。ならばAGIで勝るフィルルに攻撃が当たることはない。

 

 今もドルイドの左拳を躱しながら、腹にリバーブローをくらわす。さらに相手の顎が浮いたところにアッパーを打ち込み、ダメージを稼いでいく。

 

 だが、そのダメージはすぐに回復してしまう。それは【ホワイト・ドルイド】の遠距離回復能力によるもの。つまり【ホワイト・ドルイド】を先に倒さなければ【ブラック・ドルイド】を倒すことはできない。

 

 【ブラック・ドルイド】はそのため、安心して戦い続けることができる。今受けた蹴りのダメージもすぐに回復…しない。なぜなら回復を担当する【ホワイト・ドルイド】はいま回復をできる状態ではないからだ。

 

 【ホワイト・ドルイド】は回復と逃げ足に特化したモンスター。しかし、《魔物強化》スキルを受けた虎丸のAGIは【ホワイト・ドルイド】のAGIを容易に上回る。いまも攻撃で【ホワイト・ドルイド】を追い詰めていく。

 

 その強力なステータスを持って行われる物理攻撃と純竜級モンスターとの戦闘経験からくる行動予知。虎丸は亜竜級モンスターでありながら、純竜級モンスターの領域に足を踏み込んでいた。 

 

 程無くして、【ブラック・ドルイド】とフィルルの戦闘の場に【ホワイト・ドルイド】と虎丸が現れる。それは虎丸が【ホワイト・ドルイド】を誘導したからである。ただ【ホワイト・ドルイド】を殺すのではなく、虎丸は主人の要望、つまり、モンスターをテイムするという目的を叶えるためだ。

 

 ドルイドコンビは絶望した。相棒(ブラック)が既に敵の攻撃で死に体であることを。相棒(ホワイト)が敵の手で弄ばれていたことを。

 

 唯一命の危険を覚えたあのとき(・・・・)でさえ、ここまでの絶望はなかった。謎の力を持った人間集団から運あって生き延び、闇夜に潜むことで生き残ることに特化し今日まで生き続けてきたというのに。

 

 …そういえば、こいつはあのときにいた人間ではないか?この獅虎もあの時の猫の面影が…

 

 その思考を切り裂くように絶望の発生源は口を開く。

 

「白と黒か。おもしろい。ここで死ぬか、俺の従属になるか、選ぶがいい」

 

 二匹の賢人は双頭を垂れた。

 

 ◇

 

「いやー、いいキメ台詞だったわー。『ここで死ぬか、俺の従属になるか、選ぶがいい』」

「にゃー」

「しかし、今にして思うとちょっと寒いか?」

「にゃー」

 

 そういいながら、俺は二匹のゴリラの体に手を触れながら魔力が通い合わせ、テイムは完了する。初めて自分の力のみでテイムに成功したということで変なテンションになっている俺。そしてそれに合わせる虎丸。

 

「よし、お前の名前はオセロ。【ブラック・ドルイド】のオセロ。そしてお前は【ホワイト・ドルイド】のリバーシだ」

「にゃー」

「「Guu」」

 

 名前を命名し、俺は新たに従属になったオセロとリバーシをジュエルに仕舞う。しかし、虎丸とオセロの反応からわかったことだが、こいつらまさかあの時のモンスターがそのまま生き延びていたとは…

 

「三か月もあってほかのマスターはこいつらを倒せなかったのか?」

「こいつらは狡猾だったからネェ」

「狡猾?こいつらが嘘だろ?」

「本当です。闇夜にのみ出没し、単独の敵のみと戦う不死身のモンスターとして有名でした」

「ほー。じゃあそいつらをテイムした俺ってすごくね」

「おめでトゥ」

「ハイ。見事なお手前でした」

「…いやお前ら誰だよ!」

 

 いつの間にか俺との会話を繰り広げていた二人に俺は突っ込みながら振り向く。

 そこには白髪の14歳くらいの男性と真っ白い骸骨がいた。…えっ骸骨?

 

「私は平坂四方都です」

「ワタシはノスフェラ・トゥだヨォ。ノスフェラと呼んでくれたまえヨォ」

 

 白髪の少年が四方都。白い骸骨がノスフェラね。それにしても…

 

「ノスフェラってアンデット型のガードナーなのか?」

「どーしてそう思うんだイィ?」

「ノスフェラトゥって名前。エンブリオは各地の逸話や神話を元に名前が決められるからな」

 

 ノスフェラトゥは「永遠の命を得ようとして失敗し、アンデッドになってしまった魔導師」の総称、もしくは「悠久の時を得るために自身をアンデッドへと変えた死人使い」の事を指す。昔やったゲームで出てきたぜ。

 

「だとしたらどうしますか?」

「…うらやましい」

「はい?」

 

 骸骨から甲高い声が聞こえた。驚いているようだが、だってそうだろ?

 

「ガードナーのエンブリオなんて羨ましい。しかもアンデットだと。レア度がかなり高いじゃないか!」

「…そうだね」

 

 今度は骸骨から困惑した様子で低い声の相槌が帰ってきた。

 それに対して四方都はこの状況が微笑ましいのか笑顔を浮かべていた。

 そして、虎丸はまた主人の「ガードナー病」が発症したとため息をついていた。

 

 ◆ 

 

 …逃げねば。

 あれから逃げねば。

 なぜあれがこちらに向かってくるかはわからぬ。

 あれにそもそも意思があるかどうかも。

 しかし、逃げねばやられる。

 あれは自分よりも二つ上の存在。

 戦えば、間違いなく餌にされる。

 自分の存在を持っていかれる。

 生き延びねば…

 

 




従魔GET&新キャラ登場

ドルイドたちは五話の時から成長しています。
ブラックは《筋力弾丸》というスキル、ホワイトは《闇夜隠形》というスキルを獲得しています。ブラックはSTRを利用した移動兼攻撃。ホワイトは夜に視認できなくなるというものです。
あとは作中の作戦で三か月の間生き延びました。

感想や評価をもらえるとうれしいです。


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10.ノスフェラ・トゥ

□アトゥ森林 【獣戦鬼】フィルル・ルルル・ルルレット

 

「そういやこいつらなんでこんなところにいたんだ?前はもうちょっと霊都に近い場所に生息していたような…」

「生息分布が変わったのです。ルーキーや上級者の増加により霊都周辺のモンスターが一度絶滅しかけたことがありました。」

「一か月くらい前かネェ?その影響でモンスターの大移動があったんだヨォ」

「それでこいつらがこんなところで生き延びていたのか」

 

 ふつうのゲームであればプレイヤーがモンスターを狩りをしていても、狩りつくされることもなければ、それが原因で生息分布が変わることもない。運営側がモンスターを補填したり、自動リポップさせたりするからだ。

 

 しかし、モンスターを殺しすぎて絶滅の危機か。当たり前といえば当たり前だが、そんなことが起こりえる<Infinite Dendrogram>にのリアルさには敬服する。

 

「ちなみに二人はどうしてここに?」

「この周辺は亜竜級モンスターの溜まり場なので得るものが多いのです」

「実は君がテイムしたモンスターも狙って(・・・)いたんダァ。珍しいモンスターは大歓迎だからネェ」

「そいつは悪かったな」

 

 経験値稼ぎやドロップアイテム狙いだったんだろうが、いまやその二匹は俺の従魔モンスターである。

 

「気にすることはありませんよ。早い者勝ちですから」

「代わりにと言っては何だが、参考までにドルイドたちの戦闘を見せてくれないかネェ」

「構わないぜ」

 

 仲間にしたオセロとリバーシのことを詳しく把握しておきたいし、何より速くアンフィテアトルムの第二スキルを試したい。俺と虎丸だけでは条件を満たしておらず、いまだ発動をできていないのだ。

 

「《喚起》――オセロ、リバーシ」

 

 二体の賢人がジュエルから飛び出した。二体は亜竜級の中でも上位の個体らしく、今の俺の従属キャパシティでは虎丸に加えてこの二体まで使役することは不可能だ。

 

 しかし、パーティー枠なら5つも空いている。充分従属モンスターとして戦わせてやれる。こいつらのステータスを確認しておくか。

 

 オセロ:【ブラック・ドルイド】

 HP:31005

 MP:124

 SP:244

 STR:3432

 AGI:112

 END:2477

 DEX:150

 LUC:56

 

 リバーシ:【ホワイト・ドルイド】

 HP:3023

 MP:13533

 SP:423

 STR:121

 AGI:3233

 END:194

 DEX:103

 LUC:45

 

 虎丸:【亜竜獅虎】

 HP:24673

 MP:313

 SP:1902

 STR:2454

 AGI:2765

 END:2333

 DEX:432

 LUC:45

 

 オセロは鈍足アタッカー、リバーシは走りヒーラーだな。ちなみに虎丸がバランスのいい前衛タイプだ。三体とも一般的な亜竜級モンスターよりも優れたステータスやスキルを持っている。《魔物強化》が乗ればステータスがさらに五十%上昇する。亜竜級のモンスター群れでも充分に戦える戦力だ。

 

 腕試しにちょうどいいモンスターの群れが現れた。【バイオレンス・バタフライ】の群れだ。一体一体は亜竜級には届かないものの、その数が厄介なモンスターとされる。

 

「ドルイドとスキル性能の確認だ。今回俺は戦闘に参加しないから頑張れよ」

「にゃー」

「「Guuu」」

「いけ!!《光る(シャイン)劇場の脇役(バイプレイヤーズ)》」

 

 スキルを発動した瞬間、虎丸が亜音速で敵の群れに向かう。さらに鈍足アタッカーであるはずのオセロもAGI特化型上級職と同等の速度で敵に迫る。

 また、物理攻撃性能が低いリバーシも拳による攻撃を行いを敵を倒す。その拳の威力もまた、前衛上級職の攻撃に匹敵する。

 

「…驚いた。おそらく《魔物強化》を発動しているんだろうけど、それにしてもステータス上昇が異常だネェ」

「ハイ。本来の数値が三桁前半だったものが四桁を超えた数値になっています。驚異的な上昇率です」

「先ほど言っていたエンブリオの固有スキルかネェ」

「正解。俺のエンブリオの能力だ」

 

 二人の疑問に俺は自身のエンブリオのスキルを説明する。

 

 《光る(シャイン)劇場の脇役(バイプレイヤーズ)》:

 パーティー内モンスターのスキルによるステータス上昇数値の五十%を他のモンスターのステータスに加える。

 アクティブスキル

 ※発動時は自動で秒間1ポイントのMP消費が生じる

 ※消費可能MPがない場合、《光る劇場の脇役》は解除される

 

 《魔物強化》スキルによるステータスの50%分の強化、その半分の数値、25%がほかの二体に加わりフィルルの従属モンスターのステータスが大幅上昇している。

オセロ:【ブラック・ドルイド】

 HP:31005(+22426)

 MP:124(+3523)

 SP:244(+333)

 STR:3432(+2221)

 AGI:112(+1555)

 END:2477(+1870)

 DEX:150(+208)

 LUC:56(+50)

 

 リバーシ:【ホワイト・ドルイド】

 HP:3023(+15431)

 MP:13533(+6875)

 SP:423(+748)

 STR:121(+1532)

 AGI:3233(+2335)

 END:194(+1299)

 DEX:103(+197)

 LUC:45(+47)

 

 虎丸:【亜竜獅虎】

 HP:24673(+20843)

 MP:313(+3570)

 SP:1902(+1117)

 STR:2454(+2115)

 AGI:2765(+2218)

 END:2333(+1834)

 DEX:432(+279)

 LUC:45(+47)

 

 三体とも合計値で言えば、純竜級にすら匹敵しうるステータスを獲得している。何より、鈍足アタッカーがAGI四桁、ヒーラーがSTR四桁になるほどの強化は超級職のバフスキルでもありえないだろう。

 

 破格の強化スキルを受けた三体のモンスターは【バイオレンス・バタフライ】の群れを蹂躙し尽くし、辺りには大量のドロップアイテムが散乱していた。

 

 ◇

 

 俺たちはドロップアイテムを拾いながら、今の戦闘について振り返っていた。

 

「通常のバフスキルとは違い、発動中、常にMPを消費するからこその破格のスキルかネェ?」

「まあ、その分MPの消費が激しくて長期戦はできないけどなー」

 

 今の俺のMPはエンブリオのステータス補正を加えてギリギリ四桁といったところだ。MP回復を行わなければ1時間の戦闘も行えない。今もこうして、戦闘後にはMP回復ポーションを飲むのがルーチンとなっている。

 

「MPのことがネックなら、面白いジョブがあるヨォ。【生贄】っていうんだけどネェ」

「【生贄】?それって何かのアイテムとかじゃなくてジョブなのか?」

「はい。【生贄】は実際に存在するジョブです。少々、いえかなり、特殊なジョブですが…」

 

 【生贄(サクリファイス)

 一切の戦闘行動が取れない上に、メインジョブにしている限りMP以外のステータスが低くなるデメリットがある。その代わりMP上昇補正が高く、その高いMPを活かして文字通り儀式の生贄に使われる人間に就かせるジョブ。

 

「いやそれどうやってレベル上げすんだよ!?」

「君には立派な従魔達がいるじゃあないカァ」

「戦闘行動をとれないのは、あくまでそのジョブに就いている人だけですから。テイムモンスターにレベル上げを手伝ってもらえばいいんですよ」

「…なるほど」

「ほら、善は急げサァ」

 

 そう言ってノスフェラはどこから出したのか、いつの間にか持っていたクリスタルを手渡してきた。

 

「いや、なにこれ?」

「【ジョブ・クリスタル】だヨォ。それを使えば転職できるんダァ」

「ほーん」

 

 物は試しだ。いっちょやってみるか。

 使用すると【ジョブ・クリスタル】が砕かれ、それと同時にメインジョブが強制的に【生贄】に変わった。…なんか呪いのアイテムっぽい挙動だったんだが大丈夫なのか?

 

「【クリスタル】壊れたけど…いいんだよな?」

「はい、【ジョブ・クリスタル】は使い捨てのメインジョブ変更アイテムですから。使用することでクリスタルは砕かれ、既に就いたジョブを切り替えることができます」

「そうか、良かった。壊したのかと思ったぜ。ん?既に就いているって…俺【生贄】なんか一回も就いたことないよ?」

 

 新たなジョブを獲得する場合は、ジョブごとの条件を達成した上で、各国にある対応した大型クリスタルに触れなければならない。

 そもそも西方や東方等、土地柄によって就けるジョブが違う理由が大型クリスタルなのだ。使い捨てのアイテムで新たなジョブを獲得できるなど聞いたことがない。

 

「こいつは特別製でネェ。【生贄】のジョブに限ってのみ、大型クリスタルと同様にジョブ変更ができるんだヨォ」

「別名【サクリファイス・クリスタル】。大昔の戦争で使われていたらしいです」

 

 ◇

 

【サクリファイス・クリスタル】 

<Infinite Dendrogram>内の時間で約600年前、東西を分けた超大国での戦争があった。その戦争ではどの戦場も苛烈を極めていたが、ある戦場での惨状は筆舌に尽くしがたいものであった。

 

 東の軍は十万単位の兵士が挙兵していた。対して西の軍は千の兵士のみ。否、一人の超級職と九九九の【生贄】、それが西軍の内訳だ。まともに戦えるのは一人のみ。

 本来であれば、超級職がいるとはいえ西軍は塵芥のように東軍に蹂躙される未来しかないだろう。だが、西軍のただ一人の兵士は悠然と構え、東軍の兵士の顔は悲壮にあるいは、焦燥しきった顔をしていた。

 

 戦端の火蓋が開くと同時、東軍が突撃する。西軍に、西軍の一人の男に向けて十万の兵士が突撃する。それに対して、その男がとった行動は手を振るうことだけ。それと同時に、一人の【生贄】が消え、東軍の百の(・・)兵士が消えた。

 

 それは超級職のスキルによるもの。その男は生贄攻撃の頂点である【贄喰(サクリファイス・イーター)】である。

 【贄喰】はいずれのスキルの発動にも【生贄】を必要とする変わりに、絶大な威力を持つジョブである。今回、男が使ったものは、一の【生贄】をもって大隊を消す(・・)スキル。彼が得意としているスキルだ。このスキルとともに男の情報は広く知れ渡っている。

 

 この戦場での戦いはつまり、【贄喰】が【生贄】を捧げ攻撃スキルを発動する前に【贄喰】を倒せるかどうかただそれだけのものである。

 

 そして、この戦場での決着は九九九の【生贄】と十万の兵士の消失。西軍の、いや【贄喰】の勝利であった。

 

 そんな彼にも悩みがあった。

 生贄攻撃といってもただ人間を捧げればいいものではない。【生贄】のジョブに就いた人間を生贄に捧げなければスキルは発動しない。全力で戦うためには多くの【生贄】が必要であり、【生贄】の補充は彼にとって頭の痛い問題であった。

 

 生贄を補充するために村を襲い、村人を【生贄】に変える手もあるが、そのためには村人を一々大型クリスタルまで運び、転職させなければならない。それでは迅速な補充とは言い難い。

 

 その手間を省くために、彼自ら【ジョブ・クリスタル】を改造し生みだしたものが【サクリファイス・クリスタル】だ。これで調達した人間をすぐに【生贄】に変えることができると男は喜んだ。

 

 そんな【サクリファイス・クリスタル】だが、実戦に使われることはほとんどなかった。【贄喰】があるマスター(・・・・)との戦いで殺されたからである。

 こうして、唯一【サクリファイス・クリスタル】を作れる者の死によってこの発明は闇に消え、それと同時に【贄喰】自体も消失(ロストジョブ)した。

 これ以降、《サクリファイス・クリスタル》が作られることは無くなり、それ自体も歴史の闇に呑まれた…

 

 ◇

 

「いやいやいやいや、なんちゅうもん渡してくれてんだよ!?」

「そういう設定だヨォ。考えても見ればわかるだロォ?六百年前の大戦争とか、【贄喰】とかいう超級職とか、それを倒したマスターとか、どれ一つとっても眉唾物サァ」

 

 たしかに、この<Infinite Dendrogram>の世界が六百年前からあるなんて考えられないし、【生贄】を前提としたジョブとか、その時代にマスターがいるとか俄には信じられないことばかりだ。

 

「…って、そんな設定のアイテムをどうしてお前が持っているんだよ!?」

 

 どう考えても超重要アイテムだろ、それ!?

 

「企業秘密です」

「突っ込みがワンパターンだネェ」

「うるせえよ!?」

 

 あと変な語尾のお前には言われたくない。

 

「君がうるさいから、厄介そうな奴が来たじゃないカァ」

「…え?」

 

 ノスフェラが振り向いた先には、身から黒いオーラを漲らせ、茶色く硬質化した兜の頭部と赤い

血で染まった逞しい腕を武器にするティラノザウルスが如き恐竜がいた。

 

「亜竜級の溜まり場だからネェ。ボスが純竜でも不思議はないかナァ」

「ただの純竜ではありませんね。純竜の中でも上位クラス、【ハイ・ドレット・ドラゴン】です」

「なんだと!?」

 

 今の俺は【生贄】のジョブのせいでまともに戦闘行動を取れないし、《魔物強化》を発動できないから、虎丸たちも本来の亜竜級の力しかだせない。これではとても純竜とは勝負にならない。

 

 どうする…

 

「大丈夫ですよ」

「君たちにはエンブリオの力を見せてもらったからネェ。今度は私の力の一端をお見せするヨォ」

「四方都、ノスフェラ。いけるのか。相手は…」

 

 ノスフェラは俺の言葉を遮るように懐から黒色の【クリスタル】を取り出した。それを先程の【サクリファイス・クリスタル】のように砕き、

 

「デッドリーミキサー」

 

 ノスフェラのスキル発動後、【ハイ・ドレッド・ドラゴン】は即座に抹殺された。

 

「ほら、大丈夫だったでしょう?」

「鈍間な奴で良かったネェ」

「…嘘だろ」

 

 ◆

 

 ここはどこだ。

 いや、どこであろうと関係ない。

 新たな住処を見つけねば。 

 幸い、奴自身は鈍足。

 ここまで離れれば当分襲われることはない。

 ここで反撃の牙を研ぐのだ。

 

 

 




600年前の【贄喰】を倒したマスター、いったい何者なんだ?


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11.平坂四方都

やっぱり感想があるとうれしいですね。これからも感想などがあると執筆の励みになるのでお願いします。


□アトゥ森林 【生贄】フィルル・ルルル・ルルレット

 

「おヤァ、いいアイテムがおちたネェ」

「【全身骨格】。日頃の行いの賜物ですね」

 

 そう言いながら、今しがた倒したばかりの【ハイ・ドレット・ドラゴン】のドロップアイテムを回収していた。

 

「今のスキル、純竜を一撃で倒した…ありえない」

 

 純竜級はティアン換算で上級職六人のパーティに相当する。HPが5万を超え、6桁に到達する個体も珍しくない。

 さらに、今倒したのはただの純竜ではなく、【ハイ・ドレッド・ドラゴン】。【ドレッド・ドラゴン】の上位種だ。

 【ドレッド・ドラゴン】はセプータでパーティーを組んでいた時に何度か倒したが、耐久力に秀でたステータスと強力なスキルを持っている個体だった。

 それの上位種となれば、より高いHPとENDをもっているということになる。俺たちでも苦労した純竜の上位種。それを一撃で倒すスキルとは…

 

「おやおヤァ、鳩が豆鉄砲をくらったような顔をしているネェ」

「今のはノスフェラのスキルか?エンブリオの固有スキルなら今の威力も…」

 

 エンブリオの固有スキルは俺のアンフィテアトルムのように強力なものが多い。一撃攻撃に特化したものなら、純竜を倒しうる…か?

 

「違いますよ。《デッドリーミキサー》はジョブスキル。【大死霊】の奥義です」

「ジョブスキル?【大死霊】?えっ、でもノスフェラって…」

「勘違いしたままのようだから、訂正しておくとネェ。私はガードナーじゃなくてマスターなんだヨォ」

 

 …ほわっつ?

 

「ノスフェラって…、ノスフェラトゥってエンブリオじゃないのか?スケルトン型のガードナーの。だってその躰…」

「マスターだからネェ。ほらキャラクターメイキングがあるだろう?あれで骸骨にしたんだヨォ。自分のリアルの体を白骨化していくメイキング、あれは疲れたなー」

「…いや、気合入りすぎだろ」

 

 自分の体を白骨化していくキャラメイキングって、いろいろ歪んでんな…

 

「まあ、その話は置いといてだネェ。ヨモの言っていた通り《デットリーミキサー》は【大死霊】の奥義で」

「それでも、上級職の奥義だろ。【ハイ・ドレッド・ドラゴン】を一撃で倒すなんて…」

「ただの奥義ではありません。特殊なアイテムを使って威力を格段にあげています」

「特殊なアイテム?」

 

 スキル使用の前に砕いていた黒いクリスタルのことか?

 

「あれは私お手製のアイテムでネェ。ほかの奴らが作ったものよりも遥かに純度(・・)が高い。だからこその威力だネェ」

「他の【大死霊】ではあそこまでの威力は出せませんからね」

「ヨモに感謝だネェ」

 

 …?四方都に感謝?製作に協力しているのかな?

 

「しかし、【大死霊】ってどんなジョブなんだ?ジョブっていうより、モンスターぽいけど」

「それは言い得て妙だネェ。【大死霊】に就くとねアンデットになるんだヨォ」

「アンデットになる?」

「《死霊術》を駆使する【死霊術師】。その《死霊術》を極めて自身のアンデッド化に至ったのが【大死霊】。そのため、種族が人間からアンデットになるんですよ」

「厄介だよホント。日中には満足な力を発揮できなくなるし…」

 

 そりゃ、アンデットだからな。今みたいな夜中ならまだしも日中とか出歩くだけでダメージ受けるんじゃないか。

 

「その分、アンデットになるメリットもあります。大抵の傷ならば即座に修復が始ります。腕を切り飛ばされようが身を斬られようが致命傷にならないんですから」

「…メリットでかすぎない?」

「そうでもないサァ。その分炎や聖属性攻撃に弱いんだから」

「結構バランスよくできてんだな」

 

 極端に強いジョブってのは<Infinite Dendrogram>には無いのかもしれないな。結局はジョブとエンブリオの組み合わせ次第…

 ん?そう言えば、ノスフェラがマスターだとしたら…

 

「ノスフェラのエンブリオってどんなんなんだ?」

「?そこにいるじゃないカァ?」

「そこに?」

 

 そう言ってノスフェラは四方都を指さす。

 

「いや四方都はどう見ても人間だろ。まさか人間型のガードナーとでもいうのか?」

 

 ありえないだろ、さすがに。

 

「人間型のガードナーじゃなくて人間そのもののエンブリオなんだよ。TYPE:アポストルの特徴だネェ」

「アポストル?もしかして、レアカテゴリーなのか?」 

 

 エンブリオの基本カテゴリーはアームズ、ガードナー、キャッスル、テリトリー、チャリオットの5つ。しかし、それ以外のカテゴリー、レアカテゴリーがあると管理AIのチェシャも言っていた。

 

「そうだネェ。私も私以外のアポストルのマスターは見たことないネェ。似たような(・・・・・)のは見たことあるけど」

 

 似たようなのはいるのか。そこまでレアじゃないのか?

 

「しかし、どんな能力を持っているんだ?人間型のエンブリオなんだろ?」

「基本形態が人間ってだけだからネェ。他のカテゴリーを併せ持つハイブリッド。ヨモはキャッスルとのハイブリット、アポストルwithキャッスルサァ」

 

 そうノスフェラがいったと同時、四方都が解ける。人型を失い黒く輝く光の群れとなった少年は、ノスフェラの両足に纏わりつき、その姿を変貌させる。

 それは黒い玉座。有機的で禍々しく、それでいてどこか美しい漆黒の玉座。いつの間にかノスフェラはその玉座に腰掛けている。

 

「…かっけーな」

「そうだロォ。私の至高のエンブリオさ」

「しかし、平坂四方都って名前はなんだ?完璧日本人の名前なんだけど?」

 

 そんなモチーフは聞いたことがない。

 

『ヒラサカヨモツって、連続で言ってみてください』

 

 玉座の方から四方都の声が聞こえた。…その状態でもしゃべれんのかよ。

 

「えと、ヒラサカヨモツ、ヒラサカヨモツヒラサカヨモツヒラサカ…あっ、ヨモツヒラサカ」

 

 黄泉比良坂(ヨモツヒラサカ)

 日本神話において、生者の住む現世と死者の住む他界(黄泉)との境目にあるとされる場所。イザナギとイザナミの話で有名な所だ。

 

「なんで、平坂四方都って名乗っていたんだ?」

『そちらのほうが何かと都合がよかったもので…』

「そういうもんか」

「さっきのでひとつ使っちゃったしネェ。折角、玉座になったんだから回収(・・)も兼ねて、スキルも紹介しておこうかネェ」

 

 そう言いながら、ノスフェラは今度は青いクリスタルを取り出し、

 

『――――《転念怨遷(てんねんおんせん)》』

 

 そう、スキルを発動した。

 発動したけど…何も起こらないんだけど、スキル名も天然温泉(・・・・)なんて、まったく強そうに感じない。

 

「今のでスキルは発動したんだよな?」

「…やっぱり君じゃわからないよネェ。わかる人にはとんでもない光景なんだけどネェ」

「そんなすごいことしていたのか?」

 

 何も感じなかったが…いや、ちょっとぞわっとしたかも?

 

「なにはともあれ、クリスタルの完成ダァ」

「えっ?」

 

 ホントだ。ノスフェラが持っていた青いクリスタルが先程みた黒いクリスタルへと変化している。そんな簡単に作れるものなのかよ!

 

「コイツは【死霊術師】系統の術師にとっては最高峰の魔術媒体。使うもよし、売るもよし。まったく最高の能力だよネェ。今回は使わせてもらうけど」

「使う?」

 

 ノスフェラは先ほど倒した【ハイ・ドレッド・ドラゴン】の【全身骨格】を取り出す。いったい何をするつもりなんだ?

 

「ヨモが言った通り、【大死霊】は《死霊術》を極めたジョブ。だから【全身骨格】をベースに【ハイ・ドレッド・ドラゴン】を《死霊術》で黄泉返らせるネェ」

「そんなことができんのか!?」

 

 死んだモンスターを蘇らせるとか、【大死霊】ってチートじゃないか。

 

「ただ、蘇らせるんじゃあないけどネェ。今のスキルレベルじゃあ蘇らせても生前より退化するだけ。…だからこそ、こいつをつかうのサァ」

 

 ノスフェラは作業をしながら、説明を続ける。

 

「このクリスタルを核にしながら《死霊術》を行う。さっきも言ったようにこのクリスタルは最高の魔術媒体。蘇らせたスケルトンにこいつを打ち込み、核にすることで能力を向上させる。ほかの奴が作ったクリスタルじゃこうはいかない。ヨモが生みだしたモノ(・・)を素材にしているからこそ、実現可能なアンデット作成術。…まあ、暴走する可能性があるがネェ」

「暴走って…」

 

 あと、すっごい早口。語尾も忘れてましたよ。

 

「よし、これで完成ダァ」

「おお!」

 

 それは【ハイ・ドレッド・ドラゴン】から全身の肉が落ちた姿をしていた。躯幹部に埋め込まれた黒いクリスタルを剥き出しにした骨だけの体になっている。

 

「かっけーなオイ!名前は?名前は決めたのか?」

「【ハイ・ドレッド・スケルトンドラゴン】を核のクリスタルで暴走させ…もとい強化しているからネェ。…名付けるなら、恐骸かナァ」

「えー、骨吉だろー」

「『…やっぱりセンスないネェ(ですね)』」 

 

 ◇

 

 そのあと、霊都に帰るまでの間、ノスフェラとパーティーを組んで【生贄】のレベル上げを兼ねて、恐骸の性能を試している。

 

 まあ、恐骸の性能調査はこのあたりの一番強いモンスター本人がアンデットになっているし、まともに性能が試せる相手がいなかったんだが…。そのため、早々にジュエルに仕舞い、実質虎丸一人で帰還の旅を続ける。

 

 霊都に戻る道のため、どんどん出現するモンスターは弱くなるので、俺たちは大変ではなかったが、最後の方の虎丸は結構しんどそうにしていた。

 

 だが、そのおかげで【生贄】のレベルもかなり上がったし、無事霊都にも戻ってこれた。…すっかり日は上りきっていたが。

 

 とりあえず、一回ログアウトしておくか?と考えていると…

 

「おい、フィルルじゃないか?」

「おひさー」

「久しぶりなのである」

「懐かしい顔だね」

 

 懐かしのメンバーと再会した。

 

 ◆

 

 住処の確保はできた。

 しかし、奇妙な人間が目立つな。

 俺に対して恐れというものがない。

 殺しても、恐れるどころか笑っているものさえいた。

 それに奇妙な術を使う。

 どうなっているのだ?

 




ヨモツ君の能力の詳細後日改めて
(大抵の人は想像つくだろうし、【冥王】にすごい嫌われそうである)

しかし、会話ばかりでいつまともな敵と戦うのか?

ちなみに恐骸のモチーフはスカルグレイ○ンです。


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12.世間話

ノスフェラとヨモへの感想がたくさんあってうれしかったです。さすがはこの作品の…
これからも感想お願いします。


 □霊都アムニール 【生贄】フィルル・ルルル・ルルレット

 

「おまえら…、久しぶりだなーオイ!」

 

 思わぬ再会に声を荒げてしまう俺。でもしょうがない。こいつらは俺の初めてのパーティーで…

 

「しかし、デンドロまた始めたんだな」

「?」

 

 フルメタルの言葉に疑問を受かべる俺。始めるのも何もデンドロを買った初日からログインを欠かさないデンドロガチ勢ですが?

 

「ここ三か月以上、霊都で見かけないどころか、噂の一つも聞かなかったからな」

「あんたみたいな変態ガードナーの噂が聞こえないなんておかしいでしょう?」

「もうやめちゃったのかなーってみんなで言ってましたよ」

「仕方のないことではあると話していたのであるが…」

 

 そうか、確かに三か月以上も霊都にいなければ、引退したと思われてもおかしくないか…あと、ロゼ、俺を変態ガードナーとよぶな!!

 

「デンドロをやめる人は正直、少なくはないからな」

「えっそうなのか」

 

 こんな最高のゲームほかにはないだろうに。

 

「ここを第二のリアル (人生)と考える奴もいる。それはそうだ。こんなリアルなゲームほかにはない。ティアンと接していれば、心のどこかでホントに生きている人間なのでは?という思いは当然生まれる」

「それゆえにやめる者も多いのである。第二の人生と言えば聞こえはいいであるが、悪く言えば人生のストレスをもう一つ分ためるということである」

「ストレスといってもいろいろありますからねー。ティアンやマスターとの人間関係、リアルな敵との戦闘行為。精神に悪影響があるとメディアにいわれても仕方ないですかねー」

「まあ、変態ガードナーはそんなタマじゃないとは思っていたけど…」

 

 だから変態ガードナーと呼ぶな。…しかし、そうか。考えても見なかったが、マスターがデンドロをやめる要因っていろいろあるんだな。じゃあ、ここにいないあいつ(・・・)はもしかしたら…

 

「しかし、やめるにしてもクエストの最中から見かけなかったからな。よほど大変なリアルの出来事でもあったのかと思ったよ」

「いや、実は…」

 

 そうして俺はクエスト途中に<アクシデント・サークル>の転移魔法に巻き込まれた旨を伝える。

 

「しかし、<アクシデント・サークル>による転移であるか…」

「それってログアウトすれば、霊都に戻れるんじゃなかったでしたっけー?」

「戻れるよ。だけど、そんなレアイベント俺が見逃すはずないだろう?」

「言えてる。俺もその立場だったらそうしてるかも…」

 

 俺の意見にフルメタルさんは同意を示してくれる。やはりゲーマーはこういうとき考えることは一緒だな。

 

「しかし、まだ国内で良かったね、アンタ」

「?どういうことだ」

 

 ロゼの言葉に疑問を浮かべる俺。まさか国外にとばされる奴もいんのか?

 

「うちらの元パーティーのフィガロ。覚えてるだろ?」

「…ああ。」

 

 フィガロ。【闘士】のジョブに就いているマスターで、俺たちの記念すべき初パーティークエストのメンバーだ。ここにいないから、引退したのかと思っていたが… 

 

「あのあと、俺たちはパーティーを継続したかったんだがな。フィガロは迷惑をかけたくないといってパーティーを抜けた。まあ、そのあとも交流は続けていたんだが…」

「フィルルさんみたいに急に見なくなったんですよねー」

「そうして、幾分か時間が経ったあと、アルターの決闘ランキングにフィガロがいるという情報を手に入れてな…」

「…十中八九<アクシデント・サークル>でアルター王国に飛ばされたんだろうな。戻ってこない理由はわからないが…」

「アルターにはレジェンダリアよりも大きな闘技場がある。【闘士】のあいつにはレジェンダリアよりもアルターの方が居心地がよかったんだろう」

 

 なんだ、デンドロをやめたわけじゃなかったのか。それに【闘士】として頑張っているみたいだし、良かった。

 

「案外フィルルも飛ばされた先が居心地よかったんじゃないか」

「そりゃ言えてる。俺が飛ばされたのはセプータって村で、そこに住んでいるカングゥ族には変な慣習があってな…」

 

 俺が出会ったダッツァーとコル、ガングゥ族のの話を続けていく。

 

「【獣戦士】ってジョブに就くのがしきたりらしくてな」

「【獣戦士】?」

「ああ、【獣戦士】には《獣心憑依》ってスキルがあってな。キャパシティ内の従魔モンスターのステータスを自分のステータスに加えることができるんだ」

「何だと!」

 

 ロゼが俺の話にめっちゃ驚く。なんでそんな驚いてんだ?俺は《獣心憑依》の話しか…、あっ。

 

「いいことを聞いた。ガードナーは従属キャパシティは0。そのジョブに就けば、大きな戦力アップにつながる」

「くっ、さすがロゼ。話を聞いただけで【獣戦士】とガードナーのシナジーに気づくとは…やはり天才か」

「クエストの前に転職していいかしら?」

「構わないさ」

「クエスト?」

 

 俺のボケをスルーして自分の都合を優先させるロゼ。さすがだぜ。…せっかく【獣戦士】のことは内緒にしておくつもりだったのに。特にロゼには。しかし、クエストってのは…

 

「ああ、なんでもUBMの出現情報が出てな。それと同時に討伐クエストが出された。ティアンにとってはUBMは災害と変わらない。クエストを出してでも討伐してもらいたいんだろうな」

「UBMってマジかよ…」

 

 UBMはどれも純竜を遥かにしのぐステータスと特異な能力を持っている。そんなもの、ティアンにとっては災害と変わりないか。しかし、討伐クエストか…

 

「参加したいけど、さすがに疲れたしな」

 

 セプータの村から遠路はるばる霊都に戻ってきた。途中、ノスフェラたちとの出会いもあったりして…

 

「俺の分も頑張ってくれ」

「ああ」

 

 そう言って俺たちは別れる。フルメタルたちはクエストに向かい、俺は一度ログアウトする。

 

 ◇

 

 現実世界で休んでから、再びデンドロの世界にログインする俺。向かう先は既に決まっている。

 

「よう、おっさん。久しぶりだな!」

「ん?おめえ、フィルルじゃねーか、生きてたのか?」

「マスターに『生きてた』なんておかしなこと言うねー」

「フッ。でどうしてたんだいままで。死ぬことは無いだろうがそれでも俺は…」

「心配してくれていたのか?」

「そんなんじゃねえよ!」

 

 相変わらずツンデレのおっさんだ。そうだ。

 

「《喚起》―――虎丸」

 

 そうすると俺の右手の甲から虎模様の獅子が飛び出す。

 

「…おお。虎丸か。ずいぶん立派になったじゃねえか」

 

 おっさんが最後に見た虎丸は【リトルタイガーキャット】だったからな。それが今や【亜竜虎獅】。その成長に驚くのも無理はない。

 

「この分だとすぐに純竜級の【純竜虎獅】になりそうだな」

「まじか。しかしだとするとレベル上げを頑張らないとな」

 

 【獣戦士】系統のジョブをとっているため俺の従属キャパシティは結構カツカツだ。虎丸が【純竜虎獅】になったことで《獣心憑依》が使えなくなりましたはさすがに勘弁したい。

 

「しかし、お前さんなんでそんなジョブに就いてるんだ?」

 

 さすが商人。相手のことをよく見ているねぇ。

 

「ちょっといろいろあってな。今は【生贄】のレベル上げをしてるんだ」

「【生贄】のレベル上げって、やっぱりマスターは、いやお前は変わってるな」

「おいおい。俺のどこが孤高の天才だって?」

「誰もそんなこと言ってねぇよ。しかし、この店に来たんだ。初期投資分は返してもらわないとな。買うもよし、売るもよし。商売の話といこうじゃないか」

 

 さすが商人。目先の利益に敏感だ。

 

「手持ちが薄いからまだおっさんにモンスターは売れねえな」

「となると購入か。要望は?」

「ステータスが高い奴がいいな」

 

 俺の戦術は従魔モンスターを《魔物強化》スキルで強化して、その数値分俺のステータスを上げて戦うというもの。モンスターが増えればステータスの上昇は大きくなるし、それがステータスが高いものならなおさらだ。

 

「じゃあいいモンスターがいるぞ。【純竜猛狼(ドラグウルフ)】っていってな。つい最近仕入れたんだ」

「それって純竜級のモンスターじゃないか!」

 

 純竜級のモンスターがパーティーに入れば戦力は大幅に上昇する。是非ともほしい逸品だ。いやー最初の純竜級モンスターは虎丸かと思っていたけど、おっさんの店で手に入れるっていうのもいいかもしれない。

 …しかし、最近仕入れたということは純竜をテイムしてかつこの店に売った奴がいるってことになる。

 

「ちなみに仕入れ先は?」

「お得意様の情報をしゃべる訳ねえだろ」

 

 そいつは確かに。

 

「でどうする?買うのか、買わねえのか」

「買うよ。買う買う、もちろん買う」

 

 おいくら万リルなのかしら?

 

「5千万リルだ」

 

 …ほわっつ?

 

「5千万リルだ」

「おっさん、後生だ。まけてくれ」

「いやだ。純竜を仕入れるのにいくらしたと思っている!それにこいつはお前に売らなくとも引く手数多の優良品なんだよ」

「そこをなんとかー」

 

 店先で土下座する男の図がそこにはあった。

 

「頼む」

「いやだ」

「そんなー」

「でしたら私が買ってもよろしいでしょうか?」

 

 そこには白髪の少年が立っていた。

 

「四方都じゃねえか」

「はい。先ほどぶりですねフィルルさん」

 

 俺たちが霊都に着くや否や、ノスフェラはログアウトしてしまった。いったいどうしてしまったんだろうと考えていたものだったが…四方都が腰を下ろしてが耳打ちしてくれる。

 

「先ほどは失礼しました。ノスフェラ様はアンデットのアバターのため、日光が刺している間は休憩を兼ねてログアウトしているんですよ」

「あー、なるほど」

 

 マスターだし、アバターだしでそこまで行動に制限はないはずだが、それもロールプレイの一種だろう。

 

「ん?でも四方都ひとりか?ノスフェラはどうした?」

「ノスフェラ様は別の店で取引中です。本当はこの店にもきたかったんですが、あの見た目ですから…」

「あーあ、そりゃ納得」

 

 あんな骸骨がこんなところうろついていたらいろいろ言われるわな。…いやあの見た目でも取引してくれる店ってなんだよ?

 

「おー。平坂さんじぇねえか。どんどん買っててくれ」

「知ってるのか?」

「お得意様だからな。モンスター購入の」

「ええ。ご贔屓にさせてもらってます」

 

 なるほど、平坂四方都って名前はマスター(骸骨)が立ち寄れない店で取引するための名前か。そりゃ名前なかったり、エンブリオ丸出しの名前だといろいろ怪しいしな。

 

「てか、5千万リルだぞ。お前に払えるのか?」

「大丈夫ですよ。これでもノスフェラ様の実入りはいいですから」

「まじか…」

 

 上級マスターの稼ぎなんてそう変わらないもんだと思うんだが…

 

「取引成立だな」

「ありがとうございます」

 

 そうしている間に四方都とおっさんの取引が終わる。四方都が店を後にするので、おっさんに挨拶して俺も退出する。

 

「いやーわるいねー四方都君、僕のためにお金を出してもらってー」

「何を言っているんですか?」

 

 四方都は訳が分からないというように首を傾げる。

 

「えっ、だから俺の代わりにお金を払ってくれたんじゃ?」

「そんなわけないじゃないですか。これはノスフェラ様のもの(・・)ですよ」

 

 飽きれたようにいう四方都君。

 

 嘘だろ。

 

 【純竜猛狼】、ノスフェラに取られちまったー!

 

 ◆

 

 襲ってくる人間を殺す日々。

 奇妙だ。

 モンスターたちは俺を恐れて近づきすらしないというのに

 今日も人間たちが襲ってくる。

 まるで俺が至高の宝物のように。

 多くは個人だったが…

 今度は違うらしい。

 四人の人間が襲ってきた。




ノスフェラの格好でいける店(【死霊術師】専門店)
ノスフェラの実入り(怨念のクリスタルを【死霊術師】専門店で売りさばく)
ノスフェラ様のもの(アンデットの素材)

これは酷い。自分のエンブリオフル活用ですね。

【純竜猛狼】はノスフェラに取られました。まあフィルル君はノスフェラの狙っていた【ドルイド】コンビをゲットしたから多少はね。


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13.VS<UBM>

主人公が戦うとは言っていない。


□コルトス草原 【拳聖】フルメタル

 

「しかし、よかったよ。フィルルがデンドロを続けていてくれて」

「であるな」

 

 俺とドリルマンはドリルマンのエンブリオの上に乗り、目的地を目指しながら会話を続けている。

 その横には、ロゼのエンブリオに乗ったゆるりとロゼが走行している。

 

「あのクエストを原因にやめたとなってはリーダーを務めた俺の責任だからな。頑張っているようで良かったよ」

「なかなかの冒険を繰り広げていたのである」

 

 一人で全く知らない場所に飛ばされて、霊都に戻ってくる。確かになかなかの冒険だ。…だが、

 

「俺たちがこれから行うのはそれを超える大冒険だ。なにせ<UBM>に挑むんだからな」

 

 俺たちパーティーは何度か純竜級のモンスターと戦い、勝利している。純竜級は上級職6人パーティーに匹敵する。

 しかし、俺たちはマスター。<エンブリオ>の力がある。パーティーメンバー4人で純竜二体を同時に戦い、勝利したこともある。

 

 それほど、<エンブリオ>の力は凄まじいものだ。<エンブリオ>の有無の差は大きく、<エンブリオ>の固有スキルやステータス、“成長”の補正につながっている。

 

 何より<上級エンブリオ>に進化したエンブリオの多くは“必殺スキル”を持つ。

 必殺スキルは<エンブリオ>自身の名を冠した、<エンブリオ>最大最強のスキル。例外なくその<エンブリオ>の特性を発露した強力な効果となっている。

 

 俺たちのパーティーは全員<上級エンブリオ>に進化している。もちろん全員が必殺スキルを会得している。必殺スキルは<上級エンブリオ>になっても覚えるとは限らない。そんななか、パーティーメンバー全員が必殺スキルを覚えているのは幸運といえるだろう。

 

 …問題はその必殺スキルでも件の<UBM>を倒せるかどうかだ。

 

 伝説級UBM【甲竜王 ドラグアーマー】

 

 …俺たちの他にも何人かの上級マスターが挑み、敗れている。多くのマスターは個人で挑んたといわれているが、それも仕方のないことだろう。

 

 特典武具。

 

 <UBM>討伐MVPに贈られる本人にアジャストした譲渡・売却不可能アイテム。貴重で強力なアイテムであり、持っているだけで切り札ともなりうる。

 しかし、元々<UBM>は希少で、遭遇することは滅多になく、特典武具を得るにはMVPにならなければならない。そのためにソロで挑むものが大半だ。

 

 しかし、実力があるといってもソロで伝説級UBMを倒せるマスターなんて早々いないだろう。それこそ、この時点で超級職にでも就いていなければ不可能だろう。でなければ俺たちのようにパーティーを組むのが定石だ。

 

「フルメタル、見えたのである」

 

 思考を巡らせているとドリルマンが声をかけてくる。…よし

 

「全員、かかれー!!」

「「「応!!!」」」

 

 ◇

 

 【甲竜王 ドラグアーマー】は目を見張る。自分に向かってくる人間を見つけたからだ。それだけなら、それはありふれた光景だっただろう。多くの人間が、特殊な能力を持った人間が自分に向かってくるのはここ最近、当たり前になっていた。

 

 しかし、さすがに今回は戸惑った。人間は歩いてくるのではなく、乗り物に乗っている。女達が乗っているのは【エレファント】系統のモンスターに似ていたが、問題は男たちが乗っている方。

 

 それは鋼鉄の地竜という他ない外見をしていた。金属の輝きと、角ばったフォルム。先端には相手を貫くであろう巨大な角がついている。

 

 彼が知る由もないがそれはドリルマンの<上級エンブリオ>【回転戦馬 ユニコーン】である。それは【回転鉄馬 ユニコーン】が上級進化したことでTYPE:アームズ・ギアとなったもの。

 

 ドリルによる攻撃力、スキルによる防御力、そして下級の頃に足りなかった速度をギアへの進化によって得た攻守走、バランスのいいエンブリオ。

 

 見た目には戦車の先端にドリルを付けた、SFに登場する地底戦車といった有様だ。その速度は亜音速を超えて【甲竜王】に迫る。

 

 だが、所詮その速度は亜音速程度。伝説級UBMである【甲竜王】にとって対して驚異的な速度ではない。それこそ、今まで挑んできた奇妙な人間たちの中には超音速機動で迫ってきたものがいたくらいだ。それを返り討ちにできる時点で、その速度以下の相手に後れをとることはない。

 

 自らの巨爪で地竜が如き鋼鉄の戦車を破壊しようとしたとき、見えぬ衝撃が身体を貫いた。

 

 それこそは【噴推空象 ガネーシャ】の攻撃。【ガネーシャ】はSTR、ENDに特化したガードナー。既に第六段階に達しており、ステータスだけなら伝説級にも匹敵する。

 

 ただし、AGIに関しては【ユニコーン】と同等程度。しかし、【ガネーシャ】自身が保有する空気噴出能力を用いて、音の数倍の速度を出すことができる。

 

 如何に伝説級UBMとはいえ、音の数倍の速度には対応できない。元より速度ではなく、耐久性に重きを置いた彼では速すぎる攻撃には対応できない。何より、【ユニコーン】を迎撃しようとしていた彼にとっては不可避の一撃だった。 

 

 ゆえに【甲竜王】はその攻撃を受けきり、【ユニコーン】を迎撃するための巨爪を【ガネーシャ】にぶつける。その一撃は伝説級の耐久力を持っているはずの【ガネーシャ】の体を容易く切り裂く。

 

 【ガネーシャ】の伝説級のSTRとその巨体に見合った重量、そして音の数倍の速度を持って、その一撃は純竜程度であれば一撃で死を与えるもの。

 

 【甲竜王】の身が強固な防御力を持っているとしてもありえない結果だ。それを成し得たのが攻防一体の黄色いオーラ、《竜王気》である。 

 

 《竜王気》とは【竜王】が保有するスキル。<UBM>には【竜王】という者達が存在する。純竜の中の一種族の王であると共に、当代唯一無二の強大な存在であるためにいずれもUBMとも認定される。

 そのオーラは物理攻撃も魔法も大幅に減衰する。

 

 故に《竜王気》と自身の耐久力を持って【ガネーシャ】の一撃を耐えきった。

 

 そして、次に迫ってきた【ユニコーン】のドリル攻撃も《竜王気》は突破できても、【甲竜王】の装甲を貫くことはできなかった。

 

 だが、彼らの攻撃はこれで終わりではない。【ユニコ―ン】にはドリルマンの他にフルメタルが騎乗している。フルメタルが飛び降り、【甲竜王】に攻撃を仕掛けていく。

 

 【拳聖】は拳士系統上級職。ゆえにどれだけ速くともその速度は亜音速にも届かない。本来ならば、攻撃を当てることすらかなわないだろう、このタイミングでなければ…

 

 二段階の攻撃で気をとられていた【甲竜王】に攻撃を加えるのは容易い。何より、【甲竜王】自身が上級職の人間よりも【ユニコーン】と【ガネーシャ】を警戒していたが故に生まれた隙である。

 

 そこに叩き込むは【拳聖】の奥義《ストーム・フィスト》。自身の拳を十に分身させ連続で放つ、正に嵐が如く一撃である。その拳全てが【甲竜王】に叩き込まれる。

 

 …だが、【甲竜王】にダメージはない。

 

 それもそのはず、《ストーム・フィスト》は脅威的な連続拳ではあるが、一撃一撃の威力は通常時の攻撃よりも低くなってしまう。威力の下がった拳では【甲竜王】の装甲を貫くことはおろか《竜王気》に威力を減衰されてしまい、一ダメージを与えることすらできない。

 

 結果として、フルメタルの攻撃は【甲竜王】に三十回触れただけだ。…無論、フルメタルの予想通りだったが。

 

 そのフルメタルに対して【甲竜王】の尾が振るわれる。その一撃は本来であれば、容易くフルメタルを捉え、死を与えただろう。

 

 しかし、その一撃は【甲竜王】が想定したものよりも鈍重だった。フルメタルはその一撃を微かにくらいながらもバックステップで避ける。そのバックステップの先にはいつの間にかサーフボード(・・・・・・)があった。

 

 そのサーフボードはゆるりのエンブリオ【飛翔歌唱対翼 セイレーン】である。【飛翔歌唱翼 セイレーン】が上級進化することでTYPE:レギオン・チャリオッツとなり、【セイレーン】の数を増やしている。

 

 今現在の数は四。パーティメンバー全員を【セイレーン】に乗せることができる。これによってパーティメンバー全員が《飛翔の片翼》による三次元的亜音速機動が可能となる。

 

 【甲竜王】の攻撃の隙にゆるりは《歌唱の片翼》によって強化された回復スキルを行う。【司教】であるゆるりの《フォース・ヒール》は【ガネーシャ】とフルメタルを回復する。

 

 そんなゆるりに対して【甲竜王】がさらにその尾を器用に使い一撃を加えようとする。その一撃はまたしても相手を捉えきれず、空を切る。

 

「…?」

 

 【甲竜王】はさすがに疑問を覚える。自分の攻撃はこれほど鈍重であったか…?亜音速の者を捉えきれぬほどに。

 

 その答えはフルメタルの籠手型のエンブリオ【毒纏拳牙 ナーガ】の能力、《毒牙減衰》にある。

 触れた相手のステータス、STR、AGI、ENDの数値をランダムに一つずつ削るというもの。相手の強さによって能力は増減するが伝説級の相手でも三百近く削ることができる。

 

 フルメタルが【甲竜王】に触れた回数は三十。【甲竜王】のステータスはSTRが1800、AGIが4200、ENDが3000減衰している。

 

「俺の《毒牙減衰》は長く持たん。短期決戦で攻めるぞ」

「「「応!!」」」

 

 フルメタルの掛け声共に、各々が自らの全力の一撃を撃ち放つ。

 

「《絶唱の協奏曲(セイレーン)》」

「《狂乱の一角獣砲(ユニコーン)》!!」

「《象蝕の化身(ガネーシャ)》……《バースト・サジタリア》!」

「《蠱毒の牙突(ナーガ)》!!!」

 

 全体バフによって強化された、巨大なドリル砲が、そして伝説級の筋力によって引かれ、空気噴出能力でさらに威力を増した矢が、毒の全てを込めた拳が【甲竜王】に放たれる。

 

 その攻撃を喰らい【甲竜王】は吹き飛ばされる。ステータスのデバフを喰らっていたとしても、さすがは耐久力に秀でた竜王。これでも命を保っている。

 

 だが、次の攻撃には耐えられないと考えたのか【甲竜王】は白旗をあげるように両手を掲げ…必殺の一撃(・・・・・)を繰り出した。

 

 

 …【拳聖】フルメタル率いるパーティーが全滅した。

 

 

 




【回転戦馬 ユニコーン】第四形態 TYPE:アームズ・ギア
狂乱の一角獣砲(ユニコーン)
 自身及び【ユニコーン】の防御力を十倍化してそれを合算。それを攻撃力に変化したドリル砲を放つ。

【噴推空象 ガネーシャ】第六形態 TYPE:ガーディアン
象蝕の化身(ガネーシャ)
 自身と【ガネーシャ】を融合させるスキル。伝説級UBMに匹敵するステータスと強化された空気噴出能力を持つ。

【飛翔歌唱対翼 セイレーン】第五形態 TYPE:レギオン・チャリオッツ
絶唱の協奏曲(セイレーン)
 【セイレーン】に騎乗している者に強力なバフを与える。代償にゆるりは命を削る歌を歌い続けなければならない。

【毒纏拳牙 ナーガ】第五形態 TYPE:エルダーアームズ
蠱毒の牙突(ナーガ)
 《毒牙減衰》によって減少させた数値の合算値を十倍化した一撃を放つ。

 ちなみに【甲竜王 ドラグアーマー】はウォーグレイ○ンをイメージしていただければ幸いです。


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14.VS【甲竜王 ドラグアーマー】

主人公が戦います。


14.VS【甲竜王 ドラグアーマー】

 

 

□霊都アムニール 【生贄】フィルル・ルルル・ルルレット

 

「四方都、四方都君、四方都様。その【純竜猛狼】私目に戴けないでしょうか?」

「駄目ですよ」

 

 …彼此一時間同じやり取りを続けている気がする。これもノスフェラって奴のせいなんだ!

 アイツが俺の【純竜猛狼】を横から掻っ攫うような真似をして…

 

「そんなに言うなら、私ではなく、直接ノスフェラ様に交渉してはいかがですか?」

「え?」

 

 そう言って四方都は走っていく。その先には真っ黒なローブを身に纏った白い骸骨がいた。…いや、ほんとその格好で出歩くなよ、怖いから。

 

 ◇

 

「ヨモ。いいモンスターは手に入ったかイィ?」

「はい。【純竜猛狼】というモンスターを購入しました」

「…ホウゥ。純竜級のモンスターが手に入ったのカァ。意外だネェ」

 

 ノスフェラは何度か自身に代わって、ヨモをモンスターショップに行かせている。大抵、純竜級のモンスターは売っておらず、亜竜級のモンスターしか購入したことがない。純竜級のモンスターは人気が高いため、入荷してもすぐに売り切れるという理由もある。

 

「これでまた強力なアンデットが作れるネェ」

「ノスフェラ様。一つ問題が…」

「問題?」

 

 ノスフェラが疑問に思っていると一人の男が突っ込んでくる。…どこかで見た顔だった。

 

「ノスフェラ様。私目に【純竜猛狼】を戴けないでしょうか?」

「…始めて見た。スライディング土下座」

 

 ノスフェラはその光景にあきれるようにため息をついた。

 

 ◇

 

「…で、何だったかネェ?」

「だから、【純竜猛狼】を、俺に、くれよ!」

「却下」

「ホワッツ!?」

 

 クソー、こんなに頼んでいるのに。どうしてノスフェラは俺にくれないんだ!…当たり前か。

 

「ヨモ。こいついくらしたのかネェ?」

「五千万リルです」

「…やっぱり結構な額だネェ。わかっていたことだけど」

 

 イヤイヤ、その結構な額を出せるアンタは何者なんだ?って話なんだが…

 

「まあ、コッチはコッチで稼ぎはあったからいいけどネェ。…それで君はどうするんだい?」

「えっ?」

 

 ノスフェラはこちらに話を振ってくる。何やら思惑がありそうだが…

 

「君は五千万リルの物をただでほしいって言うんだろウゥ?さすがにそれはできないネェ。ただ、交渉には乗るよ」

「交渉?」

「ああ、私の欲しいものと交換ならするよ?例えば、モンスターのドロップアイテム。亜竜級や純竜級の【完全遺骸】とか【全身骨格】とかだネェ。正直、【純竜猛狼】を何に使うかといえばアンデットモンスターの作成サァ。正直【純竜猛狼】から取れる素材以上の物を貰えるなら、十分交渉材料になるネェ」

「…ん?」

 

 …ノスフェラは一撃で上位純竜を倒すスキルを持っていたはずだ。コストが伴うものだったが、それでも強力なスキルを持っていることに間違いはない。

 

「ノスフェラは純竜を倒すなんて訳ないはずだ。それなのにドロップアイテムが交渉になるのか?」

「…私のアバターや主力モンスターはアンデットだからネェ。まともに戦闘しようと思ったら、夜間でないとダメなんだよ」

「…なるほど」

 

 日中だからってログアウトするくらいだ。アンデットのアバターでは日中、ロクに戦闘も行えないんだろうな。そうなるとまともに戦闘できるのは一日九時間前後。それでは純竜を倒せる実力はあっても、純竜のドロップアイテムを複数集めるなんてことは難しいはずだ。

 

「君も純竜級のモンスターなら問題なく狩れるだろウゥ?」

「ああ、ノスフェラみたいに一撃ってのは無理だが、今の俺の戦力なら純竜級なら問題なくやれる」

 

 今は虎丸だけでなく、オセロとリバーシもいる。メインジョブを【生贄】から【獣戦鬼】に戻せば、上位の純竜ですら倒せるだろう。

 

「では、交渉の続きといくかネェ」

 

 そう言って、ノスフェラは四方都を連れて歩き出す。えっ?

 

「交渉の続きをすんだろ?どこいくんだよ!」

「どこって、ギルドだヨォ」

 

 ◇

 

 道中、ノスフェラから貰った【ジョブクリスタル】でメインジョブを【生贄】から【獣戦鬼】に戻しながら冒険者ギルドにやってきた。相変わらず活気に溢れてる。むしろやかましい。

 

 ギルドはアホだの、俺ならソロでもやれただの、ひどい罵詈雑言で溢れていた。

 

「で、どうしてこんな(・・・)冒険者ギルドに来たんだ?」

「君は何の情報もなしに純竜を見つけて、ドロップアイテムを狙うなんてことを考えていたのかイィ?そんな長時間待つつもりはないネェ」

 

 …確かに。純竜を霊都周辺で見つけるのは至難の技だろう。しかし、冒険者ギルドでは討伐クエストとしてモンスターの詳細を知ることができる。その住処も含めてだ。

 

「討伐クエストを通してやった方がドロップアイテム集めは効率がいいってことか」

「その通りだネェ」

「じゃあ、さっそく、純竜級モンスターの討伐クエストを…」

 

「フルメタル達がやられたぞ!!」

 

 不意の大声が俺の意識を貫いた。その瞬間、ギルドは歓喜の怒号に包まれた。

 

 ◇

 

「…あいつが伝説級UBM【甲竜王 ドラグアーマー】か」

「だネェ。こちらに気づいているだろうに攻めて来ないのは弱っているからかネェ?…君のオトモダチのお陰かナァ?」

「…」

 

 俺達は今、【甲竜王 ドラグアーマー】を前にして作戦会議をしている。…本来の予定とは違うが仕方のないことだろう。

 

 ギルドクエストで純竜級の討伐クエストを探していた俺たちに届いたのは【UBM】の討伐クエストに挑んでいたフルメタルたちが敗れ去ったという凶報だった。それに対してギルドにいたマスターの反応は最低のモノだった。

 

 …事の顛末はこうだ。

 

 元々、UBMの出現の情報とその被害からギルドからUBMの討伐クエストが出された。多くのマスターたちが特典武具目当てにソロでその討伐クエストを受けた。

 なかにはクエストを無視して直接UBMと戦う者。妨害やルール違反を重ねてまで特典武具を得ようとする輩までいた。

 

 結果、討伐クエストの失敗が続き、UBMによる被害が広がっていったという。

 

 そこでギルドは討伐クエストにパーティーという制限を加え、クエストを無視してUBMに敗れたもの、またこのクエストの妨害をしたものに罰則を与えると発表した。

 勿論その決定にはマスターたちから不満が噴出したらしいがギルドが断固として決定を変えなかった。

 

 そして、その制限が出てから初めてクエストに取り掛かるのがフルメタル達。そんな状況の中、ギルドやフルメタル達に対してマスターから文句や罵詈雑言が噴出した。

 

 その渦中でフルメタル達が失敗したことで、ソロのマスターたちは活気づき、ここぞとばかりにギルドとフルメタル達を叩き、パーティー制限、罰則をなくさせようとしていたのだ。

 

 そんな状況にプッツンした俺はノスフェラとパーティー組んでクエストを受けるとその場で宣言。

 

 俺たち二人のパーティーを、ギルドは承認してクエストの許可を与えてくれた。それに対してソロマスターたちは逆恨みが発生し、その場で俺たちに襲い掛かる奴まで出る始末。そんな奴をぶっ飛ばして、俺がその討伐クエストを引き継ぐことになった。

 

 元パーティーメンバーのクエストを俺が引き継ぐ。前回のパーティークエストは俺が途中離脱してしまったせいで、失敗に終わった。その罪滅ぼしって訳じゃないが、この討伐クエストはあいつらのためにもクリアしてやろうと思った。

 

 フルメタルたちが徒党を組んでまで負けたという悪評を、フルメタルたちの奮闘のおかげで勝てたという称賛に変えるために…

 

「しかし、ノスフェラまで付き合せて悪かったな」

「いやいや、【UBM】の討伐クエストなんて参加しないわけないだろウゥ?」

「だが…」

「それにさっきの交渉もまだいきているネェ。伝説級の特典武具、それを私が入手できるなら【純竜猛狼】だけでなく、純竜級を購入できるほどのリルもくれてやるサァ」

「…まじか」

 

 【純竜猛狼】だけでなく、大金も?そこまでの価値があいつにはあるのか。

 

「俄然、やる気が出てきたな」

「でも、戦い方は考えた方がいいネェ。いくら君のスキルで強化されても精々純竜級が限度。それじゃあ、伝説級UBMには通用しない。運が悪ければそのままサヨナラっこともありえるネェ」

「分ーってってるよ」

 

 セプータでダッツァーに聞いたことがある。伝説級UBMは超級職のティアンでも勝つことは厳しいらしい。

 

 マスターにはエンブリオの力があるとはいえ、未だ合計レベル五百(カンスト)にすら至っていない俺では相手にならない。それは純竜を複数従えていても変わらないだろう。

 

「だから、虎丸たちを散開させつつ、周りに誰も近づけないようにさせている。モンスターも…マスターもだ」

「…それが賢明かネェ」

 

 先ほどのことを考えれば、漁夫の利を得ようとするマスターが邪魔をしにくることもありえる。介入される前に倒すのが理想か…

 

「よし、そろそろ仕掛ける」

「了解ィ」

 

 今度のクエストこそ必ず成功させる!!!

 

 ◇

 

「さてと、じゃあこいつの出番ダァ。…こいつを運用することを考えても近くに味方モンスターはいなくてよかったネェ」

 

 そういってノスフェラは右手のジュエルから【ハイ・ドレッド・スケルトンドラゴン】の恐骸を出現させる。

 

 恐骸は姿を現すや否や【甲竜王】に向かって走り出し、右腕を衝突されるように一撃を放つ。しかし、その一撃は【甲竜王】の左の巨爪に迎撃され、あえなく腕ごと切り裂かれる。

 

「元は上位の純竜といっても、アンデッド化でステータスは低下している。力勝負じゃ相手にならないネェ。…他の純竜級もたいして変わらないだろうけど。まあ、問題はないけどネェ」

 

 そのノスフェラの言葉通り、恐骸の切り裂かれた右腕は既に元の形に戻ろうとしていた。それこそがアンデッドの利点。火や光に弱くなるといったデメリットを抱える一方、純粋な物理攻撃では即座に再生が始まり、決定打になりえない。…しかし。

 

「恐骸の耐久性が高いのはわかった。だが、これじゃ時間の無駄だぞ」

 

 フィルルの指摘も最もである。今も恐骸が【甲竜王】に攻撃を加えるが、逆に攻撃を加えられダメージを負っている。そのダメージはアンデットの耐久性ゆえにすぐに再生するが…これでは千日手。

 恐骸は【甲竜王】に攻撃を与えることができず、【甲竜王】は恐骸を倒すことができない。

 

「確かに千日手だネェ。…恐骸がただのアンデットなら」

「?」

「《デッドリーエンハンス》」

 

 ノスフェラの言にフィルルが疑問を浮かべていると、ノスフェラは新たなスキルを発動した。その瞬間、恐骸の核となっている黒いクリスタルが紫色の輝きを放つ。それは瞬く間に恐骸の体中に広がり、全身を包んだ。そして、恐骸は理性を失ったかのように暴れだし、【甲竜王】の身体に傷をつけた。

 

「…【甲竜王】を傷つけるほどのステータスは恐骸にはないはず。名前からして特殊なバフスキルか?」

「正解ィ。あれは私のオリジナルスキル《デッドリーエンハンス》。詳細は省くけど、恐骸のステータスはさっきの二倍近くに上昇しているヨォ」

「純竜級モンスターを一撃で屠るほどのエネルギー。それを放出せずステータス向上に回した、ってところか」

「…目ざといネェ」

 

 【大死霊】の奥義に《デッドリーミキサー》というスキルがある。《デッドリーミキサー》は蓄積された怨念を破壊エネルギーに変換し、相手に叩きつけるというもの。

 ノスフェラが作った《デッドリーエンハンス》は【大死霊】の奥義を改良し、怨念を物理エネルギーに変換して相手にたたきつけるのではなく、そのまま動力源とするスキル。

 

 ノスフェラが作成するアンデットモンスターが怨念のクリスタルを核にしている理由のひとつがこのオリジナルスキルにある。このスキルによってノスフェラは自作したアンデットモンスターのHP、STR、AGI、ENDを倍化させる。

 

 《デッドリーエンハンス》によって、本来は純竜級のステータスである恐骸に伝説級UBMに匹敵するほどのステータスに変える。

 しかし、本来このスキルはそううまくいくものではない。他の【死霊術師】が作った怨念のクリスタルでは怨念を純粋な物理エネルギーに変換し動力源にするなど決してできないだろう。【ヨモツヒラサカ】によって作られた怨念のクリスタルだからこそ可能の御業。

 

「だけど元が怨念だから暴走する可能性はいくらでもある。いや、今もこうして【甲竜王】に攻撃こそしているが、バーサク系統のスキルを使っているときの挙動と変わらない。…あれじゃあ味方がいても平然と巻き込んでしまうネェ」

 

 《デッドリーエンハンス》のスキルによってステータスは上昇しているが、攻撃自体は大振りで単調、あれではすぐに【甲竜王】に攻略されてしまうだろう。…ここにフィルルがいなければ。

 

「《光る劇場の脇役》!」

 

 そのスキルの発動と共に恐骸のステータスがさらに上昇し、伝説級UBMを超えるステータスを手に入れ、更なる猛攻で【甲竜王】を責め立てる。

 

 この討伐クエストに取り掛かる前、フィルルとノスフェラはパーティーを組んでいる。当然といえば当然だが、これが意味することは大きい。なぜならノスフェラの持つアンデットモンスター、恐骸もフィルルのパーティーメンバーになる、つまり【アンフィテアトルム】のスキル適用内になるということだ。

 

 《光る劇場の脇役》によって、《デッドリーエンハンス》でのステータス上昇は恐骸にとどまらず、周りに散開している虎丸達へのステータス上昇につながり、虎丸達への《魔物強化》は恐骸へのステータス上昇につながる。

 

「《輝く劇場の主役》!!」

 

 スキルの発動と同時、フィルルは音をも超える速度で【甲竜王】に迫り、《竜王気》ごと【甲竜王】の装甲を拳で貫いた。まさに竜すら貫く一撃である。それをフィルルは連続で繰り出していく。まさしくそれは【拳聖】の奥義《ストーム・フィスト》の如く。しかし、フルメタルの拳とは違い、威力は雲泥の差、【甲竜王】のHPを容易く削る。

 

 【甲竜王】は驚愕する。今の敵の動きは自分の動きを圧倒している。それは超級職でも相当の研鑽を積んだ者でないと不可能。これもまた、奇妙な人間が持つ力の奥義かと【甲竜王】は推察する。

 

 【甲竜王】は奇妙な人間には必殺と呼べる(・・・・・・)奥義を持っていることを知っている。一撃に特化したものと自身を強化するものがあり、どれも下級の逸話級UBMならば倒し得るもの。それを使ったのだと【甲竜王】は考えた。

 

 しかし、それは間違いだ。そもそもフィルルは上級エンブリオを有しているが、必殺スキルは未だ会得していない。それもそのはず、必殺スキルは上級エンブリオになっても覚えるとは限らず、未だ存在しない超級の頂になって初めて会得する可能性すらあるという。

 

 フィルルの超ステータスの答えは《輝く劇場の主役》と《光る劇場の脇役》の併用である。

 

 ◇

 

 フィルル・ルルル・ルルレット

 職業:【獣戦鬼】

 レベル:76(合計レベル:301)

 HP:5421(+236500)

 MP:3331(+26781)

 SP:491(+17700)

 STR:355(+21690)

 AGI:225(+21005)

 END:287(+21836)

 DEX:153(+2366)

 LUC:75(+264)

 

 ◇

 

 従魔モンスターへの《魔物強化》、虎丸への《獣心憑依》、恐骸への《デッドリーエンハンス》、パーティー内モンスターへの《光る劇場の主役》、そのパーティーメンバーの全てのステータス上昇を自身のステータスに加える。それは上級エンブリオの必殺スキルを凌駕し、伝説級のUBMを超え、古代伝説級UBMにすら匹敵するもの。

 

 怨念のクリスタルによって暴れまわる恐骸とその隙間を縫って攻撃を仕掛けるフィルル、その連撃は【甲竜王】にとって対応できぬものであった。

 

 最もそんな連撃はフィルルにしかできないだろう。敵味方関係なく襲う伝説級に匹敵する暴走竜、その攻撃を掻い潜りながら【甲竜王】に攻撃をするには、恐骸よりも高いステータスが必要。だが、今のフィルルはその条件を容易く満たす。

 

 コンビネーションとは決して言えない、二体の連撃によって【甲竜王】は確実に追い詰められる。

 

 そして怒涛の連撃の締めに遠方より放たれるのは…

 

「《デッドリーミキサー》!」

 

 上位の純竜すら一撃で仕留める必殺スキルが如き破壊の怨念である。その破壊エネルギーは《竜王気》ごと【甲竜王】を貫き、大幅に生命力(HP)を削った。

 

 生存こそしていたが、最早【甲竜王】に勝つ手段はない。そう思われたとき、【甲竜王】は祈るように両の巨爪を合わせ、必殺の一撃を繰り出した。

 

「《アーマーリリース》…《クリムゾンフォース》!!!」

 

 【甲竜王】の両爪の間に生まれた紅蓮の光球は、音を置き去りにするほどの速さで放たれ、即座に巨大化してフィルルと恐骸を捉え爆発する。

 

 そこから生まれる炎熱は距離をとっていたはずのノスフェラの身すら焦がす。そして、爆発で吹き飛ばされたのか、フィルルがノスフェラの近くに吹っ飛んできた。

 

 【甲竜王】が使った《クリムゾンフォース》は炎球の息吹を放つスキル。

 

 本来、口腔から放たれる竜の咆哮ブレス。しかし、二足歩行の竜人である彼らはブレスを両の手からも放つことができる。しかし、手から放つ場合、奇襲や虚をつく目的で使われるため、威力はそこまで高くなく、純竜の咆哮よりも威力は低い。

 

 それをここまで爆発的な威力に変えたのは直前に使った《アーマーリリース》である。それは装甲へのダメージを蓄積し、そのダメージをスキルの威力に上乗せするというもの。

 

 《竜王気》と強固な装甲、そして【甲竜王】自身の耐久力(END)。【甲竜王】を倒すには何重もの壁を突破せねばならず、突破した壁がそのまま【甲竜王】の逆転の糧となる。【甲竜王 ドラグアーマー】とはそういうコンセプトを持ったUBMであった。現に先刻の自身を殺し得る集団フルメタルパーティーとの戦いでもこの一撃で勝利を納めている。

 

 ◇

 

「この状況はさすがにまずいネェ、スキルの多重強化があったフィルルは意識はあるみたいだけど、恐骸は…消えてしまったネェ?」

 

 元より、炎熱には弱いアンデッド。ただの光球ならまだしもあの威力では生存は期待できない。

 

「くそ、なんだ今のは?」

「おそらくアイツの必殺技だろうネェ。あの時の君のステータスは奴の数倍以上。それでもこの惨状だから、自身よりも格上のモノすら屠りうる一撃。まさにジャイアントキリングだ」

 

 伝説級UBMによるジャイアントキリング。自分で言いながら笑えない。

 

「しかし、奴も満身創痍なのは確かだ。このまま攻めれば…」

「その足で?」

 

 私はフィルルの足を見ながら問いを投げる。…いや足は見ていない。足があったはずの場所を見ながら問いを投げたのだ。

 

「竜人型は賢いからネェ。仮に殺しきれなくても、反撃の芽を摘むために(AGI)を真っ先に奪ったんだろう」

「ひどい真似しやがる。…だがまだやれるさ」

 

 私たちマスターはアバターを失っても痛みを感じることはないとはいえ、戦意を削ぐには十分すぎるダメージ。それでもなお戦うという意思は称賛されるべきものだ。

 

 しかし、この状況下で奴に勝つ方法は…

 

「たとえ()がなくたって、どんな()を使ってでもこのクエストはやり遂げる。そう誓ったんだ…だから絶対に勝つ!」

 

 一つしかない。

 

「フィルル。死んでもらえるかな?」

 

 




【甲竜王】さんネメシス並みの復讐スキル持ちだった模様。


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15.【浄穢境界 ヨモツヒラサカ】

決着です!


□コルトス草原 【獣戦鬼】フィルル・ルルル・ルルレット

 

「死んでくれるか…だと?」

「そうだ」

 

ノスフェラは俺の目を見据え、肯定した。ノスフェラのそんな態度に腹をたて、掴み掛かろうとし、断念した。

 

いまの俺には足がない。ノスフェラに掴み掛かることはできず、最早死を待つしかない身。どうやっても勝つとは言ったものの俺自身には勝つ手段がない。

 

俺の【アンフィテアトルム】は破格のステータス上昇を生み出すことができる。しかし、そこには明確な弱点が存在する。

 

 それはパーティーメンバーの存在。スキルがパーティーメンバーに依存しているため、戦力がメンバーに極端に左右される。現にパーティーから恐骸が失われたことで、俺のステータスは半減している。

 

 さらに虎丸達のステータスも減少しているだろう。衰弱しているとはいえ、相手は伝説級UBM。虎丸達で攻撃させても返り討ちになるだけか。…なら。

 

「…それで奴に勝てるのか?このクエストをクリアできるのか?」

「確率は半々…かな。ただこのまま続けるよりも勝ち目はある。一度見せた《デッドリーミキサー》も二度は通用しないだろうしね。」

 

 …だったら、仕方ないか…

 

「この命もらってくれ!」

「…ありがとう」

 

 ◇

 

 深手を負いすぎたか

 全くやってくれる

 人間どもめ

 ここまでの大傷を負ったのはいつ以来か

 能力上、傷を負えば負うほどスキルを強くできるとはいえだ

 連戦が効いているか

 最初の集団戦で生命力(HP)を半分まで削られ、途中で幾分か回復したが、それでも今の戦闘で残り十万もない

 しかし、あれ(・・)から逃げるためにここまで来たというのに、これでは…

 だが、このままやられることはない

 やつらの手は知り尽くした

 男の方は強力な身体能力(ステータス)を持っているが、今は足を破壊し、まともに動くことすらできないだろう

 骸骨の方は強力なアンデットを有していたが、そいつも既に破壊している

 あとは破壊エネルギーの放出にのみ気をつけていればよい

 乱戦の中ならいざ知らず、距離のある今の段階でそんなものは通用しない

 この距離なら口腔からの必殺の咆哮(ブレス)で破壊エネルギーごと破壊(・・)できる

 手掌からのモノとは違い威力が桁違いのため、あの骸骨を骨ごと消しつくすだろう

 もはや焦る必要は…

 なんだあの人型の怨念は!?

 

 ◇

  

 【浄穢境界 ヨモツヒラサカ】。TYPE:アポストルwithキャッスルの第六形態に到達したノスフェラ・トゥのエンブリオ。

 

 アポストルの特性は 部分的に“世界”を掌握し、己を利する“世界”へと作り変える支配者の力。強力な能力のの代償に、アポストルは共通してステータス補正が皆無となるが、“世界”を箱庭のように切り取り支配して改変する世界掌握能力の前には些細な問題といえる。

 

 キャッスルの特性は一概には言えないが、生産能力を持つものが大半で、耐久性が高く防衛線に向きのものが多い

 

 その二つのハイブリットである【ヨモツヒラサカ】の能力特性は何かと言えば、怨念の生成である。

 【浄穢境界 ヨモツヒラサカ】が第一形態のころから覚えている固有スキル《転念怨遷》は怨念を生みだすスキル。

 しかし、怨念を生産するとはどういう原理か。どのようなものであれ、生産するのであれば材料がいる。ではその材料とは…

 

 肉体の死と共に消える無垢の魂。残滓がなければ無垢の魂としてただ穏やかに消えるだけのモノ。

 

 そう、それ(無垢の魂)こそが怨念の材料である。アポストルの特性を利用し、箱庭のように区切った世界の中の無垢の魂を支配、改変して、怨念を生みだすスキル。

 

 第六形態となった今では一の無垢の魂から百の怨念を生みだすことができる。まさに湧き出す温泉かの如く怨念を生みだし、【清浄のクリスタル】を一瞬で【怨念のクリスタル】に変えるほど。

 同様にその場に漂うただの怨念(・・)さえも怨念を生みだす糧とできる。それもまた同様に、一の怨念から百の怨念を生みだす。

 

 そしてこのスキルで生みだす怨念はすべて《ヨモツヒラサカの怨念》となる。これの意味するところは大きい。なぜなら、ただ一人の怨念、しかもエンブリオの怨念であるならば、容易にコントロール可能。周りにある他の怨念もヨモツの怨念となるため、暴走する可能性も少ない。

 

 まさに怨念を生みだし、それを使役するに当たっては最高峰のエンブリオである。

 

 

 …では【浄穢境界 ヨモツヒラサカ】の必殺スキルとは何か?

 

 怨念を生みだすことに特化したエンブリオの必殺スキル。単純に考えれば、より高効率で莫大な怨念を生みだすことだが、それは違う。

 

 その答えはより強い(・・)怨念を生みだすことである。

 

 怨念は本来であれば、魂にのみ影響を及ぼすもの。だが、古来より強すぎる怨念は魂だけでなく肉体にも影響をもたらす。死者の強すぎる怨念が生者を殺し、死者を増やす。そのような話は枚挙にいとまがない。

 

 強い怨念を生みだすスキル。だが、エンブリオの必殺スキルを持って行われるそれは通常の強い怨念とは次元が異なる。文字通り、物理的()干渉が()可能な()怨念を生みだす。

 

「ヨモ、始めるよ」

「ハイ、ノスフェラ様」

 

 宣言と同時、ノスフェラの紋章からヨモツが飛び出し、そのままノスフェラの玉座となる。ノスフェラは玉座に座り、アイテムボックスから四つの【怨念のクリスタル】と薄黒いクリスタルを取り出す。

 

「これで足りるかい?」

『十分です』

「良かった。今はこれだけしかないからね」

 

 能力上、【怨念のクリスタル】を作成するのは容易いノスフェラだが、純竜の討伐やアンデットの作成、ギルドへの売却で、もはや手持ちは四つだけ。必殺スキルを使うための虎の子だったが、UBMを倒すのに四つで足りるかは疑問であった。

 

「じゃあいくよ。フィルルは死ぬ準備(・・・・)はできたかい?」

「ああ、虎丸達も説得してジュエルに戻した。いつでも来い!」

 

 最早、地に臥すだけのフィルルであったが、やるべきことはしっかりやっていた。

 ただの身辺整理ではあるが、虎丸達がノスフェラを恨まないためのフォローは必要だ。特に虎丸はこの場に駆けつけUBMと戦おうとしたくらいだ。討伐のためとは言え、無断でフィルルを殺せば遺恨が残る。

 

「…良かった。では…《穢土の浄魂、浄土の穢魂(ヨモツ)反転するは我が境界にて(ヒラサカ)》」

 

 瞬間、ノスフェラの持っていた四つの【怨念のクリスタル】が黒く輝き砕け散る。黒紫の莫大な怨念がその場に漂い、最後のクリスタルからは赤黒い魂が飛び出し、混ざり合うように渦を巻き、カタチを変えていく。

 渦から黒紫色の腕が伸び、順に胴が、両足が、顔が形成される。まさに人型の怨念というべきそれは莫大な殺気と怨念を振りまく男の姿だった。

 

 生きた怨念。それは生者を恨み、生者に対して死を与える行動のみを行う。故に生みだされたこの怨念もまた、自分の最も得意な(スキル)を放ち、死を拡げる。

 

『《Sacrificeeeee……Vaniiishinggg!!!》』

 

 スキルの発動と同時、【生贄】(フィルル)は即座に消え失せ、敵であった【甲竜王 ドラグアーマー】も消え失せた。決着というには、あまりにもあっけなく二つの魂がこの場から消え失せた。

 

 この現象は【生贄】を生け贄に捧げることで発動する彼の、【贄喰】の最も特意なスキルによるもの。

 

 《サクリファイスバニッシング》

 一つの【生贄】を犠牲に合計HP十万以下のモノ達を即座に消滅させるスキル。

 雑兵に対して使えば百以上のものを容易く殺し、一体に絞れば上位の純竜すらも即座に消す。

 

 連戦でダメージを負っていた【甲竜王】のHPは十万以下となっており、このスキルの対象内となっている。故に《竜王気》や堅牢な装甲、強固な耐久力(END)といった【甲竜王】の【甲竜王】の所以となる防御力を無視して即座に【甲竜王】は消え失せたのだ。

 

 ◇

 

【<UBM>【甲竜王 ドラグアーマー】が討伐されました】

【MVPを選出します】

【【ノスフェラ・トゥ】がMVPに選出されました】

【【ノスフェラ・トゥ】にMVP特典【甲竜王完全遺骸 ドラグアーマー】を贈与します】

 

 そして、それを行った【贄喰】もまた消え失せる。もとより、十秒しか維持できないものとは言え、殺すべき生者(・・)がいなくなったこの戦場では消え失せるのも道理だろう。…ここには既に骸骨(アンデット)しかいないのだから。怨念の消失と今のメッセージが私に戦闘の終了を告げている。

 

「…よかった、本当によかったよ。フィルルにはああいったけど、この顛末は相当な幸運だ」

 

 ヨモの必殺スキルで生みだす生きた怨念。それは生前保有していたスキルも使用可能である。定義によっても異なるが、端から見れば魂の蘇生ともいうべき御業。だが、あまりにも扱いが難しい。

 

 まず、制限時間。生きた怨念は十秒しか存在できず、それを過ぎれば即座に霧散してしまうこと。

 

 次に発動条件。【怨念のクリスタル】を複数使うこと。

超級職への転職条件の一つでもある【怨念のクリスタル】を複数使う。大量生産できる私でも、その怨念が強力なスキルを使えるようにするためにより多くの【怨念のクリスタル】が必要であること。

 

 さらに、核となる怨念は自身で確保している必要がある。私自身は怨念を見るとこができないため、その収集にはヨモの目が必要となる。【贄喰】の怨念も【サクリファイス・クリスタル】と共にヨモが見つけ、怨念の詳細を教えてくれた。

 

 そして最後の一つ。これが最もデカいのだが、生きた怨念は制御不能であること。

 

 怨念そのものであるため、生者を殺す行動をとるといわれているが、それでも行動を固定することはできない。アンデットの種族とアバターである私は死者とされ、狙われることはないはずが、それでもあのスキルが私目がけて放たれてもおかしくない。  

 

 それに怨念は生前得意としたスキルや死の直前に使ったスキルを使う傾向にあるが、それが相手に通用するスキルかは限らない。

 

 さらに暴走状態のため、そもそもスキルを発動しない可能性も高い。元より理性のない怨念、スキルを使うことなく、暴れるだけで消え失せることもありうる。

 

「問題点は山積みだネェ。〈超級〉になったらこの問題は解決できるかな?」

「頑張りましょう。ノスフェラ様」

「そうだネェ。…約束通りフィルルには【純竜猛狼】と大金を渡すか。私には特典素材が手に入ったことだし」

 

 【甲竜王完全遺骸 ドラグアーマー】

 <伝説級素材>

 爪甲と逆転の甲竜人の概念を具現化した伝説の素材。

 素材に使えば、生前に近い能力を再現できる。

 ※譲渡・売却不可アイテム

 

「これを他の【完全遺骸】のように使えば、ドラグアーマーを再現できるのかネェ?…ん?もうひとつアナウンスが届いて…」

 

【制作したアンデットが伝説級モンスターを撃破しました】

【条件解放により、【屍骸王(キング・オブ・アナトミー)】への転職クエストが解放されました】

【詳細は屍屋系統への転職可能なクリスタルでご確認ください】

 

「制作したアンデットって…あの怨念も分類上はアンデットになるんだネェ。しかし、屍屋系統の超級職か…」

 

 屍屋(アナトミスト)はアンデット、それも死体型モンスターの作成に特化した生産職。【死霊術師】のように《死霊術》や戦闘スキルは一切使えないが、作成した死体にはボーナスが加わり、より強いアンデットにすることができる。【刀鍛冶】が作った剣を【剣士】が扱うように、【屍屋】が作った死体を【死霊術師】を扱う関係だ。

 

「しかし、生産職とは言え、超級職への転職可能になるとは大変だネェ。…フィルルに何言われるかな」

 

 後日、フィルルがデスぺナスティー明けにログインすると【屍骸王】となったノスフェラに出会い、大バッシングを受けるのだが、それはまた別の話。

 

 ◆ 

 

 「制圧完了。敵対勢力ヲ討伐スルモ、該当者ヲ確認デキズ。ココヲ拠点ニ捜索ヲ継続」

 

 その瞬間、巨大なクリスタルから幾千ものエレメンタルが生み出され、その嵐はセプータを飛び出し、森全体に拡がった。

 

  




一応第一部完なのかな?

ほとんどフィルルが何もしていないのは内緒だぞ。

…これじゃ軍団最強じゃなくて、怨念最強じゃ?

とりあえず、将軍職に就こうか、フィルル君。

というわけで感想、評価、どしどしお寄せください。正直突っ込みどころありすぎるし、駄文の拙作ですが、評価してもらえるとうれしいです。


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16.【屍骸王】

接続話みたいな?


□コルトス草原 【大死霊】ノスフェラ・トゥ

 

「しかし【屍骸王】へ転職できるのなら、この素材は今すぐには使わない方がいいかもだネェ」

 

 屍屋系統は死体型モンスターの作成に特化した生産職。その超級職である【屍骸王】であるならば、より多くのボーナスを期待できる。

 

 今の合計レベル五百にも満たない状態ではなく、【屍骸王】のレベルをあげてから、超級職のスキルを得てからの方が伝説級の特典素材を生かせるだろう。

 

「問題は転職クエストですね」

「そうだネェ。屍屋系統の超級職なんだから、まず間違いなくその条件は死体型モンスターの作成。しかも、性能を重視したタイプ。最低でも純竜級のアンデットは作れないといけないかも…」

 

 純竜級は一体で上級職パーティーと同等の戦力を持つ。それくらいの戦力を作れなければ、超級職になる資格すらないということだろう。まして転職条件に伝説級モンスターの撃破が入っているくらいだ。それ以上の難易度も十分考えられる。

 

「なんにせよだ。ヨモ」

「はい。ノスフェラ様」

 

 瞬間、ヨモは黒い粒子に解け、漆黒の玉座をかたどる。そこに腰掛け、アイテムボックスから【清浄のクリスタル】を複数取り出し、スキルの発動を行う。

 

「《転念怨遷》」

 

 手に持った青の輝きのクリスタルたちは即座に色を黒に変え、漆黒の輝きを放つようになる。

 

 この結果は《転念怨遷》によるもの。ここ(戦場)には数多くの材料がある。

 

 例えば、それは【甲竜王】に殺されたティアンの無辜の魂であったり、縄張りを奪われたモンスターの怨念だったり、この世界を訪れるマスターたちの嫉妬や強欲といった醜い感情だったりだ。

 そこから膨大な怨念を生みだし、【清浄のクリスタル】を【怨念のクリスタル】へと変える。

 

「これだけあれば、条件は満たせるかネェ?」

 

 先ほどの【甲竜王】との戦闘で、すべての【怨念のクリスタル】を使い切ってしまったわけだが、強力なアンデットを作成するには、これが欠かせない。【怨念のクリスタル】があれば純竜級を超えるアンデットの作成もたやすく行える。

 

 さらに、【怨念のクリスタル】をあの店(【死霊術師】専門店)で交換材料に使えば、アンデット用の素材も問題なく手に入る。純竜級以上のアンデットの素材になり得るものは持ち合わせてはいるが

 

「…さすがに【純竜猛狼】を素材に使ったら、まずいだろうしネェ」

 

 フィルルとの約束の品だ。それを反故にして、超級職になりましたといったら、文句を言われるのが目に見えてる。さすがにそこで【純竜猛狼】を素材に使うほどの恥知らずではない。

 

 【屍骸王】への転職クエストのために純竜級の【完全遺骸】や【全身骨格】が必要となるが、その問題も【怨念のクリスタル】を売却することで解決する。

 

 ゆえに【怨念のクリスタル】を複数作ったのだが…

 

「そのクリスタルが【甲竜王】を倒したカギかな?」

「…」

 

 …厄介な奴が来たネェ。

 

「そのクリスタルは強力なエネルギーを秘めている。それを使えば、あのUBMも倒すのは不可能ではないかな」

「…」

「これは失礼をした。私としたことが礼儀を欠いてしまうとは…私の名前は鳳城院秀臣だ。以後お見知りおきを」

「…知ってるネェ、有名人」

 

 何度か霊都でエンブリオと一緒に見かけている。”美食家”の鳳城院といえば、彼の連れているエンブリオ(・・・・)も合わせて霊都じゃ有名だ。

 

「それを言えば私も君の噂を聞いたことがある。骸骨の風体をした【大死霊】のマスターがいると…初めて聞いた時はそんなバカな真似をするものがいるのとは思わなかったものだが…」

「馬鹿な真似で悪かったネェ」

「そうとも!そんな身体(骸骨)ではこの世界の美食を味わうことはできない!!!それが!!どれだけの!!大罪か!!君は理解しているのかね!!!」

「…」

「失礼。取り乱してしまった」

 

 なぜなら”美食”の変態としてその名を轟かせているからだ。

 

 ◇

 

 【食戦鬼(フードオーク)】鳳城院秀臣。【食戦士(フードファイター)】 の上級職である【食戦鬼】に就いているマスターだ。

 

 【食戦士】はHPの上昇が大きい前衛職。これだけならば普通のジョブだが、【食戦士】は一風変わったスキルを持っている。

 それは《威食同源》。食事を行うことで各種バフ、特に最大HPを大幅に上昇させるスキル。

 

 ちなみになぜそのジョブを選んだかを聞けば、名前に“食”がついていたからという筋金入りである。

「そのアイテムを用いて特別の召喚を行ったというところかな?」

「…見ていたのかい?」

 

 近くにモンスターやマスターはいなかったはず。そもそも近くにいたのなら、【贄喰】の怨念が反応してもおかしくはない。そうした反応はなかったため、考えづらいことだが…

 

「黄金のテールスープ!!至高の一品だが、【食戦鬼】たるわたしが食べれば、それは食べた者の視力に補正を与える極上の一品となるのだ!!!」

「へぇ 」

 

 うるさい。超うるさい。

 

 しかし、なるほど【食戦鬼】のバフには視力補正のものもあるのか。それがあれば、遠くから戦況を観ていたというわけか。

 

「私としては一度土をつけられた相手だ。どうにかして倒す算段を考えていたのだが、パーティー制限が掛かってね。まあ、倒せるのなら誰でもいいと思っていたが」

「君もクエストを失敗した身か。しかし、君はそんなことに興味はなさそうだがネェ」

 

 “美食家”は食事のためにしか戦わない。呆れる発言だが、それが彼の口癖らしい。

 

「それはあいつが!私に振る舞われるはずの食材を!!配達者ごと殺してしまったからだ!!!」

「…そうか」

 

 食の恨みは恐ろしいというが、“美食家”の彼の怒りは相当なものだったのだろう。たぶん。

 

「この手で敵を討ちたかったが、クエストを受けた君たちを邪魔するわけにもいかない。だから君たちを邪魔しようとしていた奴らを邪魔していたのさ」

 

 漁夫の利を得ようとしたマスターたちか。確かに虎丸達だけで押さえられるとは妙だと思ったが、こいつの奮闘のおかげか。

 

「感謝するべきかネェ?」

「必要ないさ。元より食材の恨みは君が晴らしてくれた。それよりさっきのスキルについて…」

「そう、感謝はいらないか」

 

 ポチポチっと。

 

 ◇

 

「…逃げられた(ログアウト)か」

「ふん、所詮、美食のなんたるかも理解できん俗物だ。我等と話が合うわけもない」

「ライブラ」

 

 ノスフェラが話の喧しさに堪えかねてログアウトした直後、秀臣の左手から少女が現れる。黒と白が混ざりあった髪色をしている美しい少女。

 

 それこそが彼のエンブリオ【天秤乙女 ライブラ】である。 “美食家”鳳城院秀臣とそのエンブリオ、ライブラは霊都で有名なコンビだ。主にマスターの変態性とエンブリオの美しさでだか…

 

「して、次はどうする。また新たな食材を求め、旅をするのか?」

「そうだな。今回の件で気づいたのだが…UBMは特典武具だけでなく、素材も落とすようだ」

 

 ノスフェラが【甲竜王】を倒した際の特典を見たのだろう。確かに多くの場合、UBMを倒した際の特典は武具の形となることが多い。

 それはアジャスト機能によるもの。強いUBMを倒せるのは多くの場合、戦闘職。つまり、彼らにとって必要なものとなる。故に、生産職にアジャストする例は少ないのだ。例外として身近に加工できる人間がいる場合も素材となることがあるらしい。

 

 今さらといえば今更なことだが、秀臣はそれに興味を引かれたらしい。

 

「それで?」

「UBMの素材を使った料理。どれ程の美食となるか興奮が止まらん!!」

「…我がマスターながら筋金の入った美食家ぶりだな。さすがの私でもあきれたぞ」

「よし、UBMを目指して北に向かう。ついて来い、ラーイブラ!!」

 

 そうして鳳城院秀臣は走り出す。彼がフィルルとどう交わり、どのような物語を残すのかは先の話。

 

 ◇

 

 あの場からログアウトし、霊都のセーブポイントにログインしなおす。しかし、厄介な奴に絡まれたものだ。

 

 ”食人鬼”

 

 それが鳳城院秀臣の二つ名だ。ちなみに”美食家”というのは自称である。もちろん人を食べるという意味ではなく、食が関わると人が変わり、鬼の如く存在になるが故。

 デンドロが始まって、まだ二か月近くしか経っていないのに、二つ名を得ていることがその存在感のすごさを表している。ちなみにノスフェラの二つ名は”骸拾い”である。

 

「あれでも、上級マスターの中でも上から数えた方が早いくらいに強いってのが、また苛立つネェ」

 

 それこそ、複数の上級マスターを相手に立ちまわり、あの【甲竜王】に対して倒す手段が立てられる位には強い。

 

「まあ、いつまでも変態の話をしていてもしょうがない。まずはギルドに報告だネェ」

 

 ギルドに【甲竜王】討伐の報告をして報奨金をもらう。その額なんと2億リル。二人で割っても1億リルもらえる。

 このうちのさらに半分は【純竜猛狼】と共にフィルルに渡すが、それでも5千万リルは残る。この金を何に使うかと言えば、素材購入である。

 

 通いなれた【死霊術師】専門店に訪れるやいなや、店主が顔を出し、挨拶をかわす。

 

「おや、これは半日ぶりですね。ノスフェラ様。また【怨念のクリスタル】を売ってもらえるので?」

「いや、アンデットの素材を買いに来たんだヨォ。できるだけ強いモンスターの素材がほしいネェ」

「というと?」

「最低でも純竜級モンスターの素材がほしいネェ」

「…ホウ。無理難題をおっしゃる。そんなものがあれば即座に売り切れてしまいますよ。と半日前なら言っていたんですがね。いまはちょうど一体【完全遺骸】としてあります。3千万リルいただきますがよろしいですかね?」

「購入するヨォ」

 

 元より金は多くあるし、報奨金も出ている。3千万リルくらいならすぐに出せる。

 

「しかし、さっき店に来たときはなかったはずだけどネェ」

「マスターが増えてから、もっと言うなら上級と呼ばれるマスターが増えてからこちらの流通事情は大きく変わっております。ノスフェラ様の【怨念のクリスタル】もそうですが、価値が大きく変動しているのです」

「というと?」

「我々には不可能に近い、純竜級のモンスターを単騎で倒すという行為もマスターには珍しくはありません。そうして純竜の討伐件数が増えれば、当然そのドロップアイテムも増えます。その中には【完全遺骸】や【全身骨格】といった素材ももちろんあります。多くのマスターはそれを換金アイテムだと考えて、私目の店に売りに来るのです。それこそ昼夜問わずに」

「それじゃ、この店は赤字じゃないのかい?」

「マスターは正しい相場というものを知りません。売り上げに比べれば、二束三文程度の出費ですよ」

「…あくどいネェ」

「もちろん【死霊術師】の皆様には還元をしておりますとも。だからこうしてノスフェラ様もほしい素材が手に入る。WinWinでしょう」

「確かにネェ」

 

 しかし、【死霊術師】専門店のオーナーだけあって狡猾だ。これじゃあ、私の【怨念のクリスタル】も裏じゃどうなっているかわかったもんじゃない。

 

「それでは【ドラグ・マッド・ワイバーン】の【完全遺骸】。お受け取りください」

「…ああ」

「これからも当店をご贔屓に」

 

 …気が変わらなければね

 

 

 店を出て一時間後、ノスフェラは奇妙な空間にいた。

 

 白一色の空間。果ては見えずどこまでも続く地平線。

 

 そして、目の前には白い屍骸が鎮座していた。

 

『なるほどネェ』

 

 屍屋系統への転職が可能なクリスタルに触れ、【屍骸王】の選択肢を選ぶと

 

【転職の試練に挑みますか?】

 

 という表示がされた。

 

 『はい』と答えたところ、即座にこの奇妙な空間にとばされた。

 

 この空間に唯一存在する屍骸には、こう書かれている。

 

【試練の骸を用い、至高の一品を作り上げよ】

【成功すれば、次代の【屍骸王】の座を与える】

【失敗すれば、次に試練を受けられるのは一か月後である】

 

 なるほど。死体型モンスターの制作に特化した屍屋系統の超級職の試練は用意された屍骸を用いて最高の一品を作り上げろといったところか。

 

「………」

 

 仕入れた素材が無駄になったがまあいい。普通に作って、半々といったところだろう。だが、それはティアンであればの話だ。 

 私はマスターで強いアンデットを作成する()は我が手の中にある。

 

 【怨念のクリスタル】を白い屍骸に埋め込み、それを核にアンデットの再構築を行う。作り上げた屍骸の色は白から黒へと変貌し、溢れんばかりの威圧と怨念を放っていた。

 

『【屍骸王】。いただくネェ』

 

 ここに試練は達成され、ノスフェラ・トゥは【屍骸王】の座についた。

 <Infinite Dendrogram>のサービス開始から二か月足らずのスピード出世である。

 

 

 ◇

 【屍骸王】へとなった後ノスフェラはこれでもかというほどレベル上げに勤しんだ。多くの経験値はアンデットの制作で稼いだり、モンスターを討伐したりした。

 

 【屍骸王】のうれしい誤算として《死霊術》や《デッドリーミキサー》といった【大死霊】由来のスキルも問題なく扱えたことだ。

 本来それらのスキルは使えないはずの屍屋系統だが、超級職である【屍骸王】は死者の使役に特化している【大死霊】の要素も少なからず含むため、サブジョブにおいていれば問題なくつかえるようだ。

 

 これでモンスターを倒してのレベル上げもはかどるというもの。ステータスの伸びは生産職というだけあって、大きい数値ではないが、覚えるスキルが破格の性能のモノばかり。

 

 試しに試練のために購入していた【ドラグ・マッド・ワイバーン】のアンデットを制作したが、素晴らしい出来だった。

 

 これで【甲竜王】のアンデットを作ったらどうなるのかとワクワクしていると… 

 

「すまない。君がノスフェラだろうか?」

 

 見慣れないパーティーに出くわした。

 

 ◇

 

 その半日あと、フィルルもデスぺナ明けでログインし、ノスフェラと落ち合った。

 

「え?なんで超級職になってるの?」

「君の尊い犠牲のおかげだよ」

「え?俺損しかしてないよ?おかしくない?」

「君の犠牲は私にさらなる力をもたらしたのダァ」

 

 そういってノスフェラは特典素材を見せつける。それは雄弁にクエストの成功も物語っていた。

 

「まあ、クエストが成功して良かった。しかし、あの人型の黒いオーラは何だったんだ?あれが叫んだ瞬間、俺は死んだんだが…」

「前に話した【贄喰】。その怨念の具現化だヨォ。君という【生贄】を使って敵を討ったんだネェ」

「あの話って本当だったのか!?」

「驚くところはそこかい。まあいい、これを受け取ってくれ」

 

 そうしてノスフェラはフィルルにアイテムボックスを渡す。

 

「中に今回のクエストの報酬の半分、1億リルと、約束していた【純竜猛狼】と5千万リルが入っている。納めてくれたまえ」

「へぇ、約束忘れてなかったんだな」

 

 そうして中身を確認すると見慣れないアイテムが入っていた。

 

「これは?」

「メッセージを残せるマジックアイテムらしい。ある人から預かっていてネェ」

「ほーん。再生は…これか」

 

 マジックアイテムを起動すると

 

『フィルル。フルメタルだ』

 

 フルメタルからのメッセージだった。

 

『俺たちのクエストを代わりにクリアしてくれたそうだな。お前も死んでしまったようだが…ありがとう。まずは礼を言わせてくれ。俺たちのせいでいろいろ面倒ごとにも巻き込まれたそうじゃないか。言いたいことはほかにもいろいろあるが、感謝の気持ちだけは真っ先に伝えようと思ってな。

 …俺たちは旅に出る。今回のクエストを通して自分たちを鍛え直し、見つめ直そうと思ってな。とりあえずは北のアルター王国を目指そうと思う。次に会うときはお前に助けられるのではなく、お前を助けられる、そんな強さを手に入れる。

 だから、次会うときはまた一緒にクエストを受けよう。今度こそクエストを成功させよう。一緒にUBMを倒そう。これからも…お互いに頑張ろう。自分たちの力を誇れるように』

 

 そうして音声は切れた。…俺も言いたいことはたくさんあった。伝えたいことはたくさんあったのだ。

 

 【甲竜王】との戦いのこと

 最初のクエストのドルイドコンビをテイムしたこと

 ゼプータでの出来事

 そして、初めてパーティーを組んでくれてうれしかったこと…

 

「ノスフェラ」

「なんだい?」

「俺も旅に出ようと思う。とりあえずはレジェンダリアをめぐる。それでたくさん強くなる」

「いいネェ。私も素材集めの旅に出ようと思っていたんだ。一緒にどうだい?」

「ああ。一緒にいこう」

 

 そうして、二人は旅立つ。多くの出会いと経験を求めて。

 

 




接続章といいながらエピローグっぽくなってしまった(しかも内容が拙い)

とりあえず、多くの伏線?を残しつつ次のお話しへ

もちっとだけ続くんじゃ

感想お待ちしております。


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セプータ帰還編 17.力試し

ちょっと変わった書き方をしています。


□???

 

―あれがこの辺りのモンスターを倒している奴らか。

 

 彼の視線の先には一人の人間と五体のモンスターがいた。より正確に言うならば一人の人間と四体のモンスター、そして骸骨のアンデットである。

 

 —獅虎に賢人に狼に骸骨か。骸骨はアンデットモンスター。日中である今は無視して構わん。残りはどれも純竜級の実力があるが…問題はない。力試しにはちょうどいい。

 

 彼は敵に飢えていた。それはより強い力を得たが故、自分の力を試してみたくなっていた。そんな彼の前に現れた人間たちはお手頃の獲物といえた。 

 

 彼には敵の能力値(ステータス)を見切る術がある。彼の目算からすれば敵のモンスターはすべて純竜級、あるいはそれ以上のモンスター。

 事実、それは正しく、モンスターはすべて純竜級。上級職パーティーに匹敵する純竜級が四体。そして、それを敵にしても問題なしといえる実力が彼にはあった。

 

 —まずは足が速い(AGI型)賢人を殺る。

 

 彼は敵の能力値だけでなく、役割(ロール)技能(スキル)をも正しく把握し、最初に倒すべき相手を決定した。

 AGI型ヒーラーである敵を倒す。敵の回復役を真っ先に潰すのは戦いの定石。彼はそれを実践する。

 

 —《氷狼贋(ひょうろんがん)

 

 彼がスキルを発動する。それは彼だけ(・・・)の氷から狼を模った銃火器を作る能力。作る銃火器によって連射、速射、精密、火力を自由に配分できる。

 今回作ったのは多重式回転式機関砲(ガトリング)。連射性能と速射性能に優れたもので。音を遥かに超える速度で放たれる弾丸は、白き賢人を狙い撃つ。

 

 —チッ。精密性と隠密性は成長なしか。

 

 多重式回転式機関砲から放たれる弾丸は大きな存在感()を放つ。これでは容易に敵に攻撃方向と居場所を教えてしまう。また、その弾丸も一分間に千発放たれるが、その全てが敵に当たることはなく敵に着弾する前に何百発も無駄にしている。

 しかし、精密性に難ありではあるがその連射と速射は脅威であり、例え弾丸の半分を無駄にしても亜竜以下の耐久力(END)しかないAGI型なら間違いなく秒殺できる。…しかし。

 

 —…?おかしい。まだ賢人を殺せていない。…能力値を見誤ったか?

 

 多重式回転式機関砲にはもう一つ難点がある。連射性と速射聖に主眼を置いているため、弾丸一発一発の威力は純竜級の耐久力があればダメージがほとんど入らないことだ。

 それでも亜竜級の耐久力であれば間違いなく殺しきれるもの威力はあるはずだが、白き賢人は問題なく弾丸の猛攻を耐えている。

 

 そして、砲撃手の元へと二つの影が迫る。それは獅虎と狼である。多重式回転式機関砲の音は容易く砲撃手の居場所を教えてしまう。それでも彼我の距離がかなりあるため、最速でも亜音速の相手では本来なら問題はないはずだった。

 

 しかし、迫りくる二体の獣は超音速機動で迫りくる。音を超えた速度があれば、この距離を容易く詰めることも可能。

 またも彼の予想を反する能力値を持った超音速機動の襲撃者に対して彼の取った行動は単純であった。回避と迎撃である。

 

 彼自身のAGIも音の二倍、数値にして2万を超える。それは襲撃者よりも速く、多重式回転式機関砲を牽制に使い、迫りくる獅虎と狼の鋭い牙と爪を躱し、新たに形成した貫弾式散弾射撃銃(ショットガン)で敵を撃つ。

 

 多重式回転式機関砲が牽制にしかならない敵の耐久力を無にするほどの威力。それが貫弾式散弾射撃銃の特徴である。威力に全振りしているため、近距離の敵にしか使えないが、それでも伝説級のモンスターの装甲すら容易く貫き、ヘッドショットを決めれば、一撃で殺し得るほど。

 

 放たれた二つの弾丸は獅虎と狼の胴体と足を貫き、動きを止める。

 

 ―フン。敵は倒せるときに倒す。止めを刺して、次の敵を…チッ。

 

 迫りくるのは黒き賢人。鈍足アタッカーであったはずだが、今は亜音速で迫りくる。…だが彼には既に驚きはない。おそらくモンスターを率いているあの男がモンスターを大幅に強化しているのだろうと推測し、それは正解であった。

 

 故に、貫弾式散弾射撃銃を頭部に放つ。超音速機動の敵ならまだしも亜音速の敵ならば確実に頭部を狙い、抹殺できる。

 

 —あの男から殺すべきか?

 

 意識を黒き賢人から外し、男に意識を向ける。その間も銃口は黒き賢人に向けられ、そこから放たれる弾丸は黒き賢人の頭に直撃し、それだけ(・・・・)だった。頭を貫くこともなく、ひるませることもない。

 

 そして意識を他に向けていたが故に彼の反応が少し遅れる。黒き賢人の拳が彼の眼前を掠める。

 

 だが、彼は熟練者。攻撃をもらうことはない。しかし、その攻撃を躱さざるえない状況になったことに彼はいらだった。他でもない自分自身にだ。

 

 —…クソッ。こいつの耐久力は伝説級モンスターを超えるのか!!

 

 二丁の貫弾式散弾射撃銃を連射するほどには彼はいらだっていた。自分のミスが許せないが故の短絡的攻撃。しかし、そこまで間違いではない。

 貫弾式散弾射撃銃を耐えたとはいえダメージは確実にある。それを連続でぶつければ黒き賢人は確実に殺せる。そうした考えが彼にはあったし、合理的ではあった。…黒き賢人だけであれば。

 

 —殺し切れない。なぜ?…俺は馬鹿か!最初になぜ白い賢人を狙ったかを忘れたのか!!!

 

 黒き賢人は止まらない。白い賢人の加護(回復)がある限り。ダメージを即座に回復し、迫り、拳を振るう。その一撃はAGI型の彼には致命となりえる。故に彼は焦りを強め、彼の奥の手(・・・)を形成した。

 

 彼の手から投げられた球体。それは黒き賢人に当たると炸裂した。だが、威力に全振りした貫弾式散弾射撃銃でも貫けなかった黒き賢人には大したダメージは与えられなかった。…そうダメージ(・・・・)は。

 

 冷気放出凍結手榴弾(ガンルゥ)

 

 それは相手にダメージを与えるのではなく、【凍結】という状態異常を与えるもの。彼の奥の手と呼べるだけあって、その【凍結】はレジストすら難しく、白き賢人でも回復させることはできなかった。

 

 そして【凍結】した相手の耐久値は大幅に減少する。まさしく氷を砕くように貫弾式散弾射撃銃を撃とうとし、それごと腕を砕かれた。

 

 —氷を砕こうとした俺の腕が砕かれるだとォ!!!

 

 その一撃は先ほど殺そうと思案した人間によるもの。その拳の一撃の威力は3万を優に超え、音の三倍以上の速さで放たれる。それは容易く武器ごと彼の腕を砕く。

 

 そこから始まったのは怒涛の拳の嵐。熟練者の彼にとっても自分より速い相手に攻撃されることは滅多に無い。しかし、彼にも意地がある。すべてに対応できるわけではないが、致命となりえる攻撃を確実に躱す。それでも確実に彼のHPを削られている。だが、勝利の手がない訳はない。

 

 耐久力には優れていない彼には耐えきれず、彼より早く迫る敵。そんな男を倒し得る、HPを大幅に削られる中で彼が生成したのは彼に残された最後の切り札。

 

 冷気放出誘導追尾飛翔凍結弾群(ルゥガンルゥ)

 

 彼の背部で生成されたそれ(ミサイル)は音の5倍の速さで男に放たれる。男はそれを紙一重で躱すが、無意味である。ミサイルは一度ロックオンした敵に着弾するまでその動きは止めることなく、敵を追い続ける。

 

 自身より早く迫るミサイルをどうにかする手段は男には無く、数十秒の鬼ごっこのあとに男は凍結した。

 

 —フフフ、ハハハッ!所詮能力値(ステータス)に頼るだけの雑魚。特殊能力こそ我ら(UBM)が華。凍結能力を持った俺には勝てん!!!

 

 そんな彼の前に同類(UBM)のなれの果てが現れた。

 

 巨爪が迫る。

 

 彼からすれば容易に躱せるはずの速度であったが、反応が遅れ攻撃を掠める。頭の中を疑問が埋め尽していたからだ。

 

 —これは…【竜王】?しかし、既に死んでいる。アンデットか?一体誰が…。いやそれよりもアンデットがなぜ日中に動ける!?

 

 それは当然の疑問。【竜王】といえどやられることはある。それを用いてアンデットを作られることもあり得る。だが、それが日の光があるこの時間帯に動いていることはありえない。

 

 多くの知識があり、敵を測る目を持つ彼故の疑問だった。

 

 しかし、その答えは単純。UBMにとって特殊能力が華であるならば、超級職の特殊能力(スキル)は華を狩りとる鎌になる。

 

 —もういい!!奴らが特殊なのは分かった。ならばこちらの能力で上回るだけだ!!!

 

 彼は再び、二丁貫弾式散弾射撃銃を創り出し、竜の骸に放つ。だがそれはダメージを与えることはない。

 

 元になった竜王は耐久力に秀でた個体で、強固な装甲も持つ。そして、【竜王】が保有する《竜王気》。三重の壁は貫弾式散弾射撃銃を完全に無力化していた。

 

 数十発の弾丸を撃ち、それがダメージを与えていないことに彼はさらに苛立ちを強め、銃を投げ捨て、今度は冷気放出凍結手榴弾(ガンルゥ)を作り出し、投げつける。

 

 竜骸は手榴弾に対し、手掌から炎球を放ち迎撃する。それは凍結を無効化するのほどの火力はない。しかし、炎球が当たった時点で冷気は放出される。至近距離の冷気でなければ《竜王気》を持つ竜の骸を【凍結】させることができない。

 

 —奴はアンデットだぞォッ!なぜ自身の弱点となる火炎を扱えるゥ!!クソがあああァァァ!!!

 

 もはや、彼の思考は正常とは言い難かった。しかし、思考を放棄した彼は《氷狼贋》によって生涯最高傑作を作り上げる。

 

 対強装甲貫通巨杭射出機構(パイルバンカー)

 

 彼は一瞬で懐に潜りこみ、それ(パイルバンカー)を発動する。放たれる巨杭は竜の骸の三重の防御を容易く貫く。竜の骸は両手を重ねた形で動きを停止した。

 

 —勝負あった。

 

 彼の思考が徐々にクリアとなり、残った敵を撃つ敵を倒す算段と再びつけ始める。

 

 -獅虎と狼は胴体と足にダメージを負っている。この攻防の中でも動きはなく既に沈黙している。白き賢人が回復させているが黒き賢人とは違い即座の回復ができていない。そして黒き賢人と男は【凍結】したまま。迷う必要すらない。白き賢人を殺す。

 

 彼は竜の骸から視線を外し、回復を行っている白き賢人を撃つべく多重式回転式機関砲を作成して…

 

 竜の骸から放たれた巨大な火炎球(・・・・・・)に焼き尽くされた。その威力は今までの比ではなく、耐久力に難がある彼の命を燃やし尽くす。

 

 死の間際、彼の思考は一つの答えを出していた。

 

 敵はアンデット。

 

 たとえ、身体に大穴を開けても奴らには…

 

 

 【<UBM>【兵装氷狼 ルゥガンルゥ】が討伐されました】

 【MVPを選出します】

 【【ノスフェラ・トゥ】がMVPに選出されました】

 【【ノスフェラ・トゥ】にMVP特典【兵装氷狼完全遺骸 ルゥガンルゥ】を贈与します】

 




【兵装氷狼 ルゥガンルゥ】。彼。二足歩行する氷狼人。古代伝説級になり、力を試せる敵を求めていたが…南無。モデルはメタルガルル○ンX抗体。

力を得たからといって、それに過信して迂闊になったらダメだぞという話。

フィルル。男。一応主人公。敵にステータスに頼った雑魚といわれてしまう(残当)

ノスフェラ。骸骨。三つ目の特典素材を得る(なお、フィルルはゼロ)

甲骸。竜の骸。【甲竜王 ドラグアーマー】の特典素材を基にノスフェラによって作られた【ハイエンド・キングアーマー・アンデットドラゴン】。詳細は次回(しかし、アンデットと《アーマーリリース》の組み合わせはチートじゃね?)


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18.帰還

前話の解説回


□ヴェリス森林 【獣戦鬼】フィルル・ルルル・ルルレット

 

「まーたーまーけーたー」

「おや、凍結が解けたネェ。UBMが死ぬと状態異常もなくなるタイプだったんだネェ」

 

 俺が凍結から回復後の第一声がそれですか。そうですか。

 

「これで特典武具はまたお前のかよ」

「相性がいいやつばかりだからネェ」

 

 最初に出会った【甲竜王 ドラグアーマー】、今倒したものを含めて三体目。つまり、俺も三体UBMに出会っているのだが…すべてMVPはノスフェラに取られている。

 

「最初は圧倒できるんだけどなー。気づいたら相手のスキルを食らって死にかけている気がする」

 

 俺のステータスはアンフィテアトルムのスキルもあって、ティアンの超級職もびっくりのステータスになっている。なっているのだが…UBMのスキルにはいいようにやられてしまっている。

 

 UBMのスキルは独自性が強く、たとえステ―タスで勝っていてもそれを吹き飛ばす。

 ステータスよりもいかに強力なスキルを持っているかどうかがこの<Infinite Dendrogram>では重要なのだと今回の旅で気づいた。

 

「まあ、悲嘆することはないヨォ。アンフィテアトルムは言うまでもなく強力なエンブリオだし、今回は巡りが悪かったというしかないネェ」

 

 前回、前々回のUBM戦とは違い、今回は相手から奇襲をかけられた形である。故に対応が後手に回ってしまった。それ以上に俺たちは狩りをした後で、俺は装備が不足しており、虎丸達は疲労で精細を欠いてしまっていた。

 

「アイツは耐久に優れたタイプじゃなかったからネェ。剣があればそのまま一刀両断、だったんだけどネェ」

「剣はすぐ壊れてしまうからな」

 

 確かに剣があれば、拳の嵐ではなく斬撃の嵐でそのままあのUBMを倒せただろう。しかし、

剣はその前の狩りで壊れてしまい、そのままやられてしまったわけだ。

 

 剣が壊れやすいのに理由がいくつかある。 

 

 まず、剣そのものの耐久力がそこまで高くない。そもそも俺が手に入れられる剣はそこまでの一品ではないのだ。合計レベル五百(カンスト)しているため、超級職ならざる者が装備できる中では最高級の代物が装備できるのだが…金をケチっているせいで購入できない。

 

 仮に装備できる中で至高の一品を手に入れたとしてもそれもすぐに壊れてしまうだろう。それが二つ目の理由、俺はレベルとステータスの乖離が大きすぎるのだ。

 

 カンストしたティアンのステータスは特化したステータスで三千が限度。マスターにしても、エンブリオの補正があるとはいえ、一万が限界だろう。

 そんななか、俺は音の三倍以上の速さと常人の三千倍以上の筋力で剣を振ることができる。それは強力な一撃になるだろう。それこそ古代伝説級UBMを両断できる位には。

 

 しかし、その威力に剣が耐えきれない。全力での斬りこみの場合、すぐに剣が刃こぼれし、しまいには折れて砕けてしまうのだ。

 

 あるいは剣士系統のジョブスキルがあれば、そのような心配はないだろう。ただ振るよりも、スキルを使った方が剣を上手く使いこなせるは道理。

 だが、俺は【獣戦鬼】の《獣心憑依》を虎丸に適用するために、従属キャパシティの大きいジョブしか取れず、結果として剣士系統のジョブはおろか戦闘系のジョブを一つもとれていないのだ。それが三つ目の理由。

 

「一本でも剣が残っていればなー。アイツを殺して剣の特典武具が得られたかもしれん」

 

 特典武具は壊れても再生するうえに、レベル制限がない。剣の特典武具を得られれば、俺の戦力は大幅に増強しただろう。さらに今回のUBMは氷で武器を生成するタイプだった。仮に剣にならなくとも、その能力で剣や槍といった武器を生みだせたのは想像に難くない。

 

「まあ終わったことだ。しかし、どうやったら強くなれる?」

 

 今でも多くのカンスト勢の中でも上位の存在ではあることは重々承知しているのだが、すぐそばに超級職(【屍骸王】)がいるせいでより強い力を望んでしまう。

 

 ジョブもカンストし、エンブリオも第六形態へと至っているが、四方都のような必殺スキルを覚えることはなかった。

 

 となれば、第七形態、つまり<超級>にならなければならないのだが…

 

「私でも未だ<超級>になっていないからネェ。手っ取り早く強くなるには超級職を得るしかないんじゃないかネェ?」

 

 そうなのだ。俺たちが出会った時には既に第六形態だった四方都。それがこっちの時間で一年半近く経っているのに進化していないのだ。

 これは四方都が特別遅いのではなく、ほとんどのマスターが第六形態で停滞しているのだという。このことから、俺のアンフィテアトルムが第七形態になるのは当分先になりそうなのだ。

 

 となると…

 

「やっぱり超級職しかねえよなー」 

「フィルルの上級職は【獣戦鬼】と【高位従魔師】。その二つのどちらかの超級職が近道だろうけどネェ」

「どっちも脈なし。それに【獣戦鬼】はコルが就いていそうだしな」

「ああ。今向かっているセプータの例の子か」

 

 才能という限界があるティアンの身でありながら、獣戦士の才に愛された少女。俺と別れたときには既にカンストしていた彼女は既に【獣王】になっているんだろうか?なっているとしたら…

 

「俺はどうやって強くなればいいんだー!!!」

 

 ◇

 

 夜を迎え、休息をとる俺たち。夜は本来、ノスフェラの得意な時間帯なのだが、俺に合わせて休息をとっている。というより作業に没頭している。

 

「そろそろ、セプータにつくネェ。それまでに完成させたいところだけど」

 

 彼女の手には特典素材と3つの【怨念のクリスタル】。先ほど得たUBMの特典素材から【屍骸王】のスキルを用いてアンデットを作成しているのだ。

 

 【屍骸王】のスキルには破格ともいえるアンデット制作用のスキルが複数存在する。

 

 《技能還元》:制作したアンデットが生前有していたスキルを使用可能。

 

 《生前回帰》:アンデットにとって弱点となる日光や光といったものを軽減できる。

 

 《怨念回路》:怨念によるアンデット駆動のリスクを低減できる。

 

 これらのスキルによって、【甲竜王完全遺骸 ドラグアーマー】から生みだされた【ハイエンド・キングアーマー・アンデットドラゴン】は《クリムゾンフォース》といった火炎も問題なく使用できる。

 

 さらに、アンデットの不死に近い耐久力があるため《アーマーリリース》の性能も限りなく向上している。

 装甲へのダメージを自身に還元する《アーマーリリース》だが、アンデットである甲骸(【ハイエンド・キングアーマー・アンデットドラゴン】の名前)は装甲を再生できるからだ。

 

 三つ埋め込まれた【怨念のクリスタル】のブーストも合わせて、生前の伝説級を超えて、古代伝説級にも匹敵する性能を誇るノスフェラ最強のアンデット。

 

 今回の素体は古代伝説級であるため、それ以上の一品ができると大変喜んでいらっしゃる。ずるい。

 

「やっぱり、日中も活動できるのはいいネェ。もし、ログアウトしていたら、MVPを逃していたかもしれないし。このローブさまさまだネェ」

 

 そうアンデットがいくら日中活動できるといっても、ノスフェラ自身はアンデットのままであるため、本来なら活動に制限がかかる。

 しかし、俺との旅の最中に、【日除けのローブ】を手に入れた。これはアンデットでも日中活動できるほどの加護を与える。合計レベル五百でも装備できない逸品であるが、【屍骸王】であるノスフェラには関係ない。ホントずるい。

 

「完成だネェ。【ハイエンド・アイスクラフト・アンデットウルフ】。名前は兵骸かナァ」

 

 どうやらアンデットの作成に成功したようだ。…しかし、兵骸って。全部○骸に統一するのかな?正直センスないんですけど、プークスクス。

 

「あとは甲骸の怨念を補充しておくかネェ」

 

 ノスフェラの使うアンデットはすべて【怨念のクリスタル】を核にしている。UBMにはさらに複数の【怨念のクリスタル】を使用している。

 それにより、生前よりも強力なアンデットを制作することができているのだが、怨念の補充が必要不可欠となる。稼働させるたびに、核の怨念を使用しているためだ。

 

 そう言いながら、ノスフェラは甲骸と四方都を呼び出し、《転念怨遷》によって甲骸の怨念を補充していく。

 

「そうだ。俺も虎丸達にメシをあげないと…」

「その子たちも随分大きくなったよネェ」

 

 ノスフェラが作業の合間にこちらに目を向けてくる。

 

 そうなのだ。虎丸達は今回の旅を通して全員が純竜級のモンスターになっている。それに伴い、虎丸たちは身体が二回りは大きくなっている。戦力の増強になってそれはいいのだが…

 

「メシに金がかかりすぎてるんだよなー」

 

 それこそ、俺がまともに装備を更新できない理由。金欠だ。

 

 【甲竜王】の討伐で得たお金など、既に食費で吹き飛んだ。食費を工面しようと狩りを続けるがそれでは余計に虎丸達の腹が減る。そして食費が増えるという悪循環だった。

 

 これがホームタウンがあったりするのであれば、ある程度は改善できるのだろうが今は旅をしている身。今の一番の敵は金だった。だが、それもすぐに解決する。

 

「今回の旅はセプータで終わりにするんだろう?」

「ああ、レジェンダリアを巡る旅。それの締めは最初に訪れたセプータだって決めてあったんだ」

「今回の旅は有意義だったよ。お目当てのモノ(怨念)もたくさんあったしネェ。最後の締めは劇的に飾ろうじゃないか」

「そうだな。旅を終えて霊都に戻ったら、強くなったフルメタル達と決闘するのも悪くない。それとも約束通りパーティーでも組んでクエストにでも挑むか」

「君のジョブだとまともにパーティー組めないじゃないか。パーティー枠三つも従魔に使っているんだから」

 

 …それもそうである。悲しい事実だった。

 

 ◇

 

 夜が明け、セプータにたどり着く俺たち。そこには昨夜の喧騒を無にするような光景が待ち受けているのだった。

 

 

 

  




セプータ帰還編、開始。


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19.セプータ

□セプータ 【獣戦鬼】フィルル・ルルル・ルルレット

 

 俺が初めてセプータを訪れたのは<Infinite Dendrogram>がサービス開始されて間もないころだった。フルメタル達とパーティークエストを受けていた途中、<アクシデントサークル>によってこの周辺にとばされた。

 

 そこでモンスターの狩りを続けていると、いきなり襲われてセプータに気づいたらいた。その犯人はコルという少女。仲間の敵討ちを目論んで少し暴走気味だった子。

 

 その暴走を窘めながら、俺にこの世界の情報をいろいろ教えてくれたダッツァー。その二人と共に、狩りを行い、遂にはダッツァーの息子たちの敵であるフレイムエレメンタルを見つけ、討伐した。

 

 そこからこちらの時間で三か月間、セプータに滞在し、村人達との交流を深めていった。セプータを発って一年半以上経っていたが、それでもセプータでの思い出は消えていない。

 

 ◇

 

「こんなこというのはあれだけど…随分と寂れた村だネェ」

「…」

 

 ノスフェラのいうとおり、セプータはかなり寂れていた。俺たちはレジェンダリアを巡る旅でいろんな村を訪れたが、ここまで寂れた村はなかった。どんなに貧しい村でもそれでも活気があった。

 

 そう、セプータは寂れたというより、死んで(・・・)いた。

 

 しかし、俺がいたころはこんな様子ではなかった。村の若い【獣戦士】がやられたということもあり、ピリピリしていたが、それでも活気はあった。敵討ちが終わった後はささやかながら祭りが開かれるほどだった。

 

「俺がいたころはこうではなかったんだが…」

「一年半前何だろう、君がいたのは。そんなにあれば多少は変化はあるんだろうけど…」

 

 さすがにおかしい。何よりもおかしいのは一人も人が出歩いているのを見ていないことだ。そう、村には人が一人もいなかった。

 

「誰かいないか探してくる。ノスフェラも情報を集めてくれ」

 

 そう言って走りながら、住居に声をかけていく。それでも返事はない。俺が散々世話になったダッツァーの家にも行ってみたがやはり返事はない。

 

 …そうだ。村長の家なら、村長の家ならだれかいるはずだ。

 

 村長は村の代表ということもあり、他の村との交流を積極的に行っていた人物だ。他の【獣戦士】の部族の村とも太いパイプがあり、他の村からも多くの人が村長に会いにやってきていた。

 

 仮に村長がいなくても、他の村の人がいるかもしれない。あるいは人がいなくてもここまで寂れた理由が分かるかもしれない。

 

 そこには確かに人はいた。

 

 ただし、そこにいたのは村長宅を襲う盗賊たちであった。

 

 ◇

 

「ノスフェラ様」

「…ヨモか。お前がわざわざ出てくるっていうことは…まあそう言うことなんだろうネェ」

 

 フィルルとの旅の途中、自分からヨモが出てくることはなかった。いろいろな理由があるが、一番大きいのは彼の能力に起因する。

 

 彼はその能力の特性上、死者の魂が、もっと言えば怨念が見えてしまう。何気ない道、村、街至るところに怨念がある。そんな自分がノスフェラとフィルルの楽しい旅に常に控えているのはためらわれたのだ。

 

 マスターであるノスフェラはそんなヨモの気持ちを薄々と感じていたし、だからこそ、いまこの場に出てくるヨモの意図とそれの理由が察せられてしまう。

 

「そんなに酷いかネェ。ここの怨念は」

「村人全員分ともなればその量は測り知ることができません」

「…そうか。私には見えないがそんなにひどいか、ここは」

 

 怨念を扱うノスフェラといえど、そのジョブ構成から霊や怨念といったものを見ることはできない。ジョブ自身は死体型アンデットに特化しているため霊といったアンデットは専門外だった。

 

 ヨモの存在からノスフェラがそれで困ることはなかったが、今この時だけは霊視の能力を欲してしまう。…あるいは持っていないことに感謝すべきだろう。

 

 ヨモ(怨念)を生みだすというパーソナルを持っているとは言えリアルではただの少女であるノスフェラには目の前の光景はあまりに影響が大きすぎる。

 

「情報を取れそうな奴はいないかい?村人全員分の怨念となれば、対話可能の奴だっているだろう」

「探してみます」

 

 怨念といってもその中にも種類がある。自我を忘れ、理性さえも失う怨念もあれば、比較的会話が可能な怨念もある。しかし、その怨念もより強い怨念に飲まれていつかは自我を失う。

 

 さらに怨念の中には自分に何が起こったのかを理解していないものが多い。中には自分が死んでいることを知らないまま怨念になっているものもいる。

 

 ヨモであれば、最悪【贄喰】のように理性が吹き飛んでいてもある程度の情報が知ることはできるが、それでは情報の精度が落ちる。

 

 そのため、ほんとに事情を知る怨念が必要であり、…そんな霊がいるかは確率の低い賭けだった。

 

「ノスフェラ様、見つかりました。…コルという少女の怨念が」

 

 それはノスフェラにとって情報を引き出せる霊がいたという嬉しい知らせであり、同時にコルが既に死んでいるという悲しい知らせに他ならなかった。

 

 ◇

 

「お前をここで殺さない理由が分かるか?分かるよな?だったら持っている情報をすべて吐き出せ!!」

「ひいい」

 

 俺は村長宅で悪さをしている盗賊たちを発見。即刻、全員を血祭りにあげた。かろうじてまだ賢そうな奴を一人残しそのまま尋問を開始している。

 

「この村はどうなっている?どうしてここまで変わった」

「あっし達盗賊にも情報網ってものがあります。ここいらでモンスターが大量発生しているだとか、誰それが死んだとか。情報があるのとないのでは盗みの成果が変わりますから」

 

 ゲスどもの情報網か、唾棄すべきものだが今はその情報がほしい。

 

「…それで」

「なんでもこの村は一年半前にUBMに襲われて壊滅したらしいんです。この村には【獣戦士】の戦闘部隊があるんでUBMにもそうやすやすとは不覚をとらないはずなんですけど」

 

 UBMに村を壊滅させられたってことなのか。

 

「それでもやられてしまったみたいで、できればそのあとすぐに盗みをしてかったんですが、未だUBMがうろついてるって話で…」

 

「今でもうろついているんだろそいつは。なぜお前らは今になって盗みに入った?」

「そいつが場所を移したっていう情報が上がったんです。はじめはセプータにいたらしいんですけど、最近は頻繁に動いてるって話で」

「今はどこにいるんだ?」

「セプータ近郊の森、レインセルにいるって話です」

 

 …俺たちがフレイムエレメンタルを倒した森か。

 

 ◇

 

 フィルルが村を出てすぐのことだった。

 

 アイツいや、アイツらがやってきたのは。

 

 いつものようにダッツァーと【獣王】への転職条件を解明、解放するために情報収集や狩りを続けていた。

 

 変化は突然だった。

 

 モンスターが出てこなくなったのだ。

 

 疑問に思っていると答えはすぐに来た。

 

 エレメンタル。

 

 ここいらじゃそう見ないモンスター。

 

 仲間を殺したモンスターの種族。

 

 でも、フィルルと一緒に戦った時の奴よりは弱かったし、問題なく倒せた。

 

 それが罠だった。

 

 そいつを倒したあと、セプータに千を容易く超えるエレメンタルが来襲した。

 

 どうやら最初に殺したエレメンタルは斥候兼マーキングの役目を持っていたらしい。

 

 村の人間総出で戦ったけど、相手の数が数、そう長くはもたない。

 

 私はそいつらを率いている存在を感じ取った。

 

 昔からモンスターのことは感覚的にわかる。

 

 こいつらのボスを倒すしかないと思った。

 

 私は駆けずり回った。

 

 そして見つけた。

 

 たくさんのエレメンタルを生みだすクリスタルを。

 

 神話級UBM【三源元素 クリスタリヴ】を。

 

 …その瞬間私は殺されてしまったけれど。

 

 ◇

 

 俺がノスフェラのところに戻ってくるとノスフェラの沈痛な顔をしていた。…どうやらこいつらもこの村で何が起こったのかを察したらしい

 

「火事場泥棒をしている盗賊がいたから話を聞きだした」

「こっちも怨念から得た情報を出すネェ」

「…ああ」

 

 怨念という言葉に感じることがあったが、いまはノスフェラの得た情報とのすり合わせが必要だ。

 

「この村が壊滅したのはUBMの来襲があったからだ」

「神話級UBM【三源元素 クリスタリヴ】というらしいヨォ。察するに能力はエレメンタルを生みだす能力だネェ」

 

 …そこまで分かっているのか。確かに、死因は死者に聞くのが一番か。

 

「そして、今そいつはこの先の森、レインセルにいるらしい」

「居場所を突き止めているのかい」

「ああ、盗賊どもの話だからどこまで当てになるかは知らんが、まあ違っていたらもっと詳しく聞きだす(拷問する)さ。今も縛り付けてあるからな」

「…そうか」

 

 俺とノスフェラの情報を基にすればいける。

 

「良かったな、ノスフェラ。また特典素材が増えるぞ」

「…というと?」

「ソイツをぶっ潰す」

 

 俺たちが挑むはセプータの敵、そして神話への挑戦だ。

 

「そういうと思ったよ。…ところでいいものを見つけてネェ。【獣断大剣(スラッシュウォー)】。カンストした人間しか装備できない逸品だ。今の君には必要なものだろう」

「ああ。神話級UBMだからな。兵骸よりも上の存在だっていうなら、生半可な攻撃は通用しない。この武器は敵を討つ光明になる」

「…託したからね」

 

 ◇

 

 【三源元素 クリスタリヴ】は浮遊してした。

 

 それは敵を討つため。

 

 今も多くのエレメンタルを飛ばして探しているが見つからない。

 

 【クリスタリヴ】が探しているのは自らの子、フレイムエレメンタルを殺したものだ。

 

 今とばしている雑兵と違い、自らの魔力を注いだ、まさしく自らの半身。

 

 それがこの森の近くで殺されたと知覚し、この場にきて復讐を果たそうとしたのだ。

  

 しかし、この森にいた人間たちは弱小ばかりであった。

 

 フレイムエレメンタルを倒せるということは伝説級の実力を持っているはずだが、殺した人間の中にそんな奴はいなかった。

 

 故に、フレイムエレメンタルを殺した奴が別にいると判断し、この周辺を巡回している。

 

 しかし、そのような相手はいなかった。

 

 今もエレメンタルと戦闘をおこなっているモンスターがいるが、敵は人間だという情報を得ているため、こいつらではない。

 

 …ここ一年近く人間を見ていない。

 

 フレイムエレメンタルを殺した人間はもう来ないのではないかと思い、また場所を移そうかと考えていた。

 

 その矢先、復讐の相手が眼前に迫り、大剣を振り下ろしてきた。

 



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20.【三源元素 クリスタリヴ】

いろいろあったので連続更新。


□レインセル 【獣戦鬼】フィルル・ルルル・ルルレット

 

 夜を迎え、俺たちは戦闘を仕掛ける。…本当はすぐにでも奴を倒したかったが、ノスフェラの戦力を考えれば、夜に戦闘を仕掛けた方が利口だろう。

 

「まずは虎丸達を陽動に使う」

「その心は?」

「奴はエレメンタルを生みだす能力なんだろ。となれば本体は姿を隠している可能性が高い。そうした方が戦いは有利だからな」

 

 敵を見つけ出すのに夜というのは少しハンデに感じるが敵は巨大なクリスタルらしい。夜というのは全く持って不利にはならんだろう。

 

「虎丸達を暴れさせることで、敵のエレメンタルを生みだす能力を利用して敵の居場所を探る」

「なるほどネェ。私も陽動に参加した方がいいかい?」

「いや、相手は神話級UBMだ。お前は緊急事態に備えて待機だ」

「了解」

「それじゃあいくぞ」

 

 ◇

 

 虎丸達、フィルルの従魔が暴れている。どれも純竜級の実力を持つ。さらにフィルルの《魔物強化》と《光る劇場の脇役》によって、そのステータスは伝説級に匹敵、いや上回るステータスを獲得する。

 

 敵であるエレメンタルは数こそ多いもののそれぞれの実力は亜竜級かそれに毛が生えた程度。虎丸達の敵ではない。

 

 敵ではないが…さすがに数が多い。百体の亜竜級エレメンタルを相手にするのはさすがに気が滅入る。何より、倒したエレメンタルの数が減らないのが問題だ。

 

 倒したモンスターを補填するように即座にモンスターが生産され、襲い掛かってくる。数は減るどころか増す一方。…だがそれこそが彼らの目的である。

 

「補充されるモンスターの強さは一定。敵の生成能力では亜竜級が限度、ということか?いや、思い込みは敵だな。そして補充される方向も一定。ある程度の目途はついた」

 

 そうして、フィルルは【獣断大剣】を構え、大地を駆ける。その速度は音を置きざりにし、一瞬で【クリスタリヴ】の前に迫る。

 

 神話級UBMとはいえ、速度に特化した個体ではない【クリスタリヴ】はその一撃を避けることができなかった。…いや、目の前に敵が来たことを認識することが限界だった。

 

 音の三倍以上の速さで動くフィルルに対して、【クリスタリヴ】は亜音速はおろか、AGIが四桁にも届いていない。【クリスタリヴ】ではフィルルの動きに対応できなかった。

 

 フィルルの大剣による渾身の一撃が【クリスタリヴ】に振るわれる。フィルルが持つ武器、【獣断大剣】は代々、カングゥ族の戦闘部隊長が継承してきたものである。

 

 これを持っていることが隊長の証であり、大事な戦いの時以外は厳重に保管されている。歴代の部隊長からダッツァーへ、そしてダッツァーからコルへ引き継がれていくはずだった大剣。

 

 今それがコルの遺志(願い)によって、フィルルへと受け継がれた。

 

 【獣断大剣】は合計レベル500以上のものにしか装備できない逸品だが、それゆえに高い性能を誇る。

 

 それは極めて高い装備攻撃力と《破損耐性》を持つ。さらに従属キャパシティ内のモンスター一体のステータスの五十パーセントを加算するというスキルを持つ。

 

 元よりSTR三万オーバーを誇るフィルルの大剣の一撃は攻撃力は四万を超えて五万に迫る。この一撃は古代伝説級UBM【兵装氷狼 ルゥガンルゥ】の首であれば一撃で両断できるほど。

 

 そして、この一撃は神話級UBM【三源元素 クリスタリヴ】に傷を負わせることができなかった。

 

 ◇

 

 UBMにはランクが存在する。

 

 超級、神話級、古代伝説級、伝説級、逸話級の五段階等級がある。

 

 最低の逸話級でも上級マスターと同等かそれ以上といわれている。

 

 伝説級は準<超級>のマスター(超級職&<上級エンブリオ>)と同格、古代伝説級は超級職パーティーと同格とされている。

 

 もちろん、UBMにも相性というものが存在し、遥かに格下の存在でも条件次第ではMVPになることができる。逆にどれほど強くともUBMに敗れる可能性があるということでもある。

 

 そして今相手をしている【三源元素 クリスタリヴ】は神話級UBM。神話級は未だ到達したものは二桁にも届かないという<超級>と同格とされる。

 

 <超級>と準<超級>には天と地ほどの差があり、その超級をして同格とされる神話級を相手に今のフィルルでは立つ術はない。

 

 まず、持っている基本ステータスが違いすぎるのだ。

 

 【クリスタリヴ】は速度に特化した個体ではないため、AGIは三桁程度だが、その分耐久力に秀でている。

 ENDの数値は優に六万を超える。フィルルの全力の一撃をもってしても、それは数値の上で一万以上の差がある。それほどの数値の差、まともに攻撃をしても【クリスタリヴ】には一ダメージも入っているか疑わしいものだ。

 

 このENDを突破できる攻撃をフィルルは持ち合わせておらず、可能なのはノスフェラの《デッドリーミキサー》くらいだろう。

 

 しかし、それも現実的ではない。HP六百万オーバーの【クリスタリヴ】に対して最低でも《デッドリーミキサー》百発分は用意しなければならないからだ。

 

 しかし、そんなことをする暇は与えられないだろう。

 

 【三源元素 クリスタリヴ】のスキルが発動するからだ。

 

 《トライフォース》:【クリスタリヴ】の生みだしたエレメンタルの全ステータスを三倍にする。

 

 これによって虎丸達が戦っている亜竜級のエレメンタルはどれも純竜級に近いステータスを手に入れる。純竜級のモンスターの百の群れ。たとえ伝説級のステータスであろうとも勝ち残れるものではない。

 

 いや、そもそも既に数は百ではない。【クリスタリヴ】が生みだしたエレメンタルの数は千を優に超えているからだ。

 

 《エレメンタルプロダクション》:エレメンタルを生みだす能力。それは百単位で亜竜級のエレメンタルを生みだす。《トライフォース》で強化されたエレメンタルは純竜級に匹敵する存在となり、またその数も徐々に増やしていき、千の数を超えたのだ。

 

 純竜級に匹敵するモンスターが千体。さすがの虎丸達でも背筋が凍る光景だった。このまま戦闘を続けていれば、疲弊してやられる。簡単に想像つく結末だった。

 

「《デッドリーミキサー》」

 

 襲い掛かっていたエレメンタルが怨念の破壊エネルギーにのみ込まれて、十数体が死に絶えた。その破壊エネルギーの砲元を見れば、黒いローブを身に纏った白い骸骨が存在していた。

 

「甲骸」

 

 そして、ノスフェラは自身のアンデットを呼び出す。甲骸はその巨爪の一振りでエレメンタルたちを斬殺していく。頼もしい援軍である。

 

 虎丸達には疲労が存在するが、アンデットである甲骸にはそれがない。それどころかアンデットであるため、身体をいくら壊されても再生することもできる。耐久戦においてアンデットは力強い味方であった。

 

 ◇

 

「クソッタレー!」

 

 相手は鈍間だ。相手がどれだけのエレメンタルを生みだそうが、超音速機動できるフィルルを補足できない。今もこうして敵の生みだしたエレメンタルを掻い潜りながら、【クリスタリヴ】を斬りつけていく。

 

 だがそれは微かなダメージを与えることしかできなかった。 敵に大きなダメージを与えられないフィルルに残された手段はただ一つ。

 

 一千万回を超える斬撃を喰らわせることしかない。

 

 既に千を超える斬撃を敵に与えているがそれでも敵のHPの一パーセントも削れていない。 それしかない地道な道のりだった。

 

 …そして、その道を塞ぐものの登場もした。

 

 三体のエレメンタルの登場である。

 

 【アトモス・エレメンタル】。【アース・エレメンタル】。【オーシャン・エレメンタル】の三体である。

 

 【クリスタリヴ】の最後のスキル、《エレメンタルバース》は自身の魔力を使ってエレメンタルを誕生させる応力である。

 

 その能力で生みだされたエレメンタルは通常生みだされるエレメンタルとは違い、高いステータスを持って生まれてくる。

  フィルルたちが討伐した【フレイムエレメンタル】もまた、《エレメンタルバース》によって生みだせれたモンスター。この三体のエレメンタルも元より純竜級を超え、伝説級モンスターに近い戦力を有している。

 

 …そしてさらにこの三体にも《トライフォース》の効果は適用される。すなわち、伝説級を超え、古代伝説級すら凌駕するステータスをもったモンスターが三体出現したのだ。

 

 ステータスでは未だフィルルの方が三体のエレメンタルより高いとはいえ、【クリスタリヴ】に攻撃を加えるのが難しくなったことには変わりない。

 

 【クリスタリヴ】の前に構え、フィルルへのカウンター攻撃を狙う。全く持って邪魔な連中だった。その球体の身体を器用に動かし、フィルルの連撃は止めてしまった。

 

 (【クリスタリヴ】よりも先にこいつらを始末するか?だが、どうせこいつらを殺してもすぐに第二第三のエレメンタルが…)

 

 フィルルの迷いは一瞬だった。戦術目標を変えるための一瞬の思考停止。だがその迷いは敵に致命的な隙を与えてしまう。

 

 三体の球体が輝いたのだ。それそれが青、緑、黄の純度の高い輝きを放つ。それは魔法の発動準備に他ならなかった。

 古代伝説級のモンスター三体の魔法。それぞれが名前の通り、(アトモス)属性、(アース)属性、(オーシャン)属性の魔法を放つ。

 

 それはオーラをぶつけるだけの単純の魔法であったが、規模、速度が尋常ではなく、容易くフィルルを捉え吹き飛ばしてしまった。

 

 ◇

 

「グハッ!!」

「フィルル!」

 

 フィルルが吹き飛ばされた先はノスフェラたちが戦っている場所だった。《身代わり竜鱗》といったダメージ軽減アイテムのおかげで致命傷ではないが、それでも大ダメージには変わりない。

 

「大丈夫か、フィルル?」

「大丈夫だ、自分で回復できる」

 

 そう言いながら自分のアイテムボックスからHP回復ポーションを取り出し口にしていく。しかし、それもまた敵にとっては狙うべき隙だった。

 

 エレメンタルの猛襲の矛先がフィルルに代わり突撃していく名もなきエレメンタルたち。その攻撃を防ぐべく、フィルルの従魔達も奮闘する。

 

 フィルルへの攻撃を防ぎ切り、回復の時間をつないだ従魔達。ただし、次の攻撃はもう始まっていた。

 

 小さな球体の名もなきエレメンタルたちが各々の色で輝き始めたのだ。それは三体の古代伝説級エレメンタルが行った魔法と同じもの。魔力を破壊力を持ったオーラに変換して敵に放つというもの。

 

 威力は先ほどとは比べられるものではないが、数が数、全てを喰らえば今度こそフィルルは絶命していただろう。

 

 だが、その一撃を【純竜猛狼】のカミオウが受けきった。主人であるフィルルの命を救ったのだ。それと引き換えにカミオウは砕け散る。

 

 四方都に買われ、ノスフェラの手から報酬としてフィルルの手に渡ったモンスター。ノスフェラとの絆の証とも言えるカミオウが消失した。

 

「…カミ、…オウ?」

 

 横たわるフィルルはその光景に対し呆然とした様子で見送っていた。対してカミオウの元の所有者、ノスフェラの判断は速かった。

 

 懐から複数の【怨念のクリスタル】を取り出し、それを順次《デッドリーミキサー》の材料としてカミオウを殺したエレメンタルに放出していく。まさしくそれはガトリングの連射のように【怨念のクリスタル】使い捨てていった。

 

 さらには古代伝説級UBM【兵装氷狼 ルゥガンルゥ】を基にした兵骸を呼び出し、冷気放出誘導追尾飛翔凍結弾群を発動させる。これにより周囲に存在していたエレメンタル三十三体は凍結する。さらに《氷狼贋》で貫弾式散弾射撃銃を作り上げ、敵を銃殺していく。

 

 甲骸もまた手掌から《クリムゾンフォース》を放ちつつ、口腔からの必殺のブレス《クリムゾン・トルネード》を放ち、多くのエレメンタルを殲滅していく。

 

 普段ではありえないようなノスフェラの怒涛の猛攻はカミオウを殺されたことへの大きな怒りを感じられる。だが、そのような猛攻でこの戦局を変えられるほど神話級UBMは甘くない。

 

 そこにアトモス・アース・オーシャンの三体のエレメンタルが襲撃した。

 

 古代伝説級エレメンタルの三体の猛襲はノスフェラと甲骸、兵骸で防ぐしかなく、そうなると必然フィルルへの守りが薄くなる。

 

 ましてカミオウは死んだことで《光る劇場の脇役》の対象が削られ、虎丸たちのステータスが減少している。千を超えるエレメンタルのオーラ攻撃を防ぐ方法は一つしかない。

 

 それは先ほどカミオウが実践した通り、身を挺してかばうことである。二人のドルイドコンビは奇跡的にその攻撃を耐えきりフィルルを守り切った。カミオウと同じように命を散らしながら…

 

「オセロ、リバーシ…」

 

 フィルルは立ち上がりながら、その光景に絶望した。立ちあがったその足を今すぐ折ってしまいたくなるほどに。

 フィルルにとってドルイドコンビは初めてパーティーを組んで立ち向かった敵であり、初めて黒星をつけられた相手であり、初めて自分でテイムしたモンスターだった。それらを失ったフィルルの沈痛はいかほどのモノか。

 

 残る従魔は虎丸一匹。

 しかし、純竜級のモンスターとは言え、アンフィテアトルムの効果を最大限に受けられない今の現状ではその戦力はあまりに小さい。

 

 そして、さらにエレメンタル達の怒涛の攻撃が続いていく。三体のエレメンタル(アトモス・アース・オーシャン)はそのオーラを爆発させて、名もなきエレメンタルはその身を破壊するほどのオーラを放出する。

 

 すべてのエレメンタルの同時オーラ爆発攻撃はノスフェラ、甲骸、兵骸の身体を破壊しながら進み、容易くその身体を半壊させる。

 

 勿論その破壊はフィルルを捉えている。…故に虎丸もまたその身を挺してフィルルをかばい、微笑みながら死んでいった。

 

 フィルルにとって虎丸は<Infinite Dendrogram>サービス開始初日からの付き合いである。

 エンブリオが彼の望むガードナーとして生まれず、テリトリーとして生まれた結果、従魔がどうしても欲しいフィルルが奔走して手にいれた初めての従魔。それはティアンの優しさや多くの縁により手に入れたもの。

 

 それはフィルルの相棒(ガードナー)ともいえる存在。その死は彼のパーソナルにどれだけの影響を与えただろう。

 

 今、フィルルの胸にあるのは深い悲しみ。そして敵を討ちたいという今までにないほどの強い怒り。

 

 それに真の相棒(アンフィテアトルム)が答えぬはずがない。

 

 【――超級進化シークエンスを開始します】

 

 




書いてて思うことがある。

超級と神話級が同格って絶対嘘だよね。

神話級と同格とされる三倍強化ゼロオーバーですら正面から倒せる奴なんて最強以外の超級にいるのかな?


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21.アンフィテアトルム

たくさんの感想ありがとうございました。

反響がすごかったです。

これからも感想・応援をお願いします。


□レインセル 【獣戦鬼】フィルル・ルルル・ルルレット

 

 ふと…ダッツァーの言葉を思い出す

 

「だが、相手を見つけてどうする?そいつを殺したところで死んでいった戦士は戻ってこない。戻ってこない以上、仇討ちなど俺たちの自己満足でしかない」

 

 今の俺に彼の言葉は重く突き刺さる

 

 村人たちの復讐だといって、戦いに挑む

 

 死んでしまった人は戻ってこないというのに

 

 俺の復讐心を満たす

 

 まさしく自己満足でしかない戦い

 

 そんな戦いのせいで虎丸達を失ってしまった

 

 不死であるはずのマスターの俺をかばってだ

 

 まさしく無駄な戦いであった

 

 犠牲を増やしただけの無意味なものだった

 

 …それでも俺は、あの時のダッツァーの涙を忘れない

 

 息子の敵討ちを果たして流したあの涙を

 

 だから俺は…

 

 【――超級進化シークエンスを開始します】

 

 俺は自身のエンブリオ、【喝采劇場 アンフィテアトルム】の変化を、進化を感じた

 

 そしてそれによって獲得した新たな力、必殺スキルの存在を

 

 俺はその名を叫ぶ

 

 このふざけた状況をぶっ壊すための力を

 

「《終劇は万雷の喝采と共に(アンフィテアトルム)》」

 

 その直後、一条の流星が巨大なクリスタルに向かう

 

 三十三の連星を伴って

 

 衝突は星屑を生み出し

 

 その星を見ることは誰にも叶わない

 

 ◇

 

 《終劇は万雷の喝采と共に(アンフィテアトルム)

 

 それはフィルルのエンブリオ、【喝采劇場 アンフィテアトルム】の必殺スキル。

 

 必殺スキルはエンブリオの集大成ともいうべき能力。

 

 アンフィテアトルムの能力は端的にいえば、スキルによるステータス上昇数値を自軍に加えるというもの。

 

 パーティー内という限界はあるもののジョブスキルと組み合わせることで神話級にも匹敵する破格のステータスを手に入れることが可能である。

 

 では、その集大成たる必殺スキルはどのような効果を持つのか?

 

 答えは単純である。

 

 アンフィテアトルムは元よりテリトリー系統のエンブリオ。つまりアンフィテアトルムの領域内すべてのスキルによるステータス上昇数値をフィルルに加えるというもの。

 

 対象はパーティー外という縛りは有るものの、敵味方の区別は存在しない。故に【クリスタリヴ】のエレメンタルのステータスを三倍強化する《トライフォース》もアンフィテアトルムの対象内となる。

 

 既に千を越え、今や万の軍勢となったエレメンタル達。そいつらへの破格ともいえる強力なバフ、それがそのままフィルルの糧となるのだ。

 

 フィルル・ルルル・ルルレット

 職業:【獣戦鬼】

 レベル:100(合計レベル:500)

 HP:6526(+2480000)

 MP:6631(+2480000)

 SP:642(+2480000)

 STR:545(+248000)

 AGI:395(+248000)

 END:496(+248000)

 DEX:288(+248000)

 LUC:79(+248000)

 

 《終劇は万雷の喝采と共に(アンフィテアトルム)》の最大補足数は五十。

 

 一番ステータスの高い三体のエレメンタル(アトモス・アース・オーシャン)モンスター。そして残りの四十七の名もなきエレメンタル。

 

 その全てのステータス上昇数値の合計がフィルルのステータスに加算されることによって、フィルルは今地上最強の人間となった。

 

 フィルルは【獣断大剣】を構え、【クリスタリヴ】との距離を詰め、三十三連斬を放つ。

 

 それは多くの人間にとって目にもとまらぬ速さ、否、目にも映らぬ速さであった。音の二十五倍近い速さで行われれば無理もないことである。

 そして、せいぜい六万程度のENDしか持たぬ【クリスタリヴ】にとって防げるはずもない二十五万を超える威力の斬撃。

 

 その三十三連斬は六百万という【クリスタリヴ】のHPを即座に削り切り、その巨大なクリスタルを消失させた。それはコルから託された【獣断大剣】の崩壊と共に。

 

 それは必殺スキルが発動されてから刹那にも満たない間に起きた出来事。それを正しく観測できたのはただ一つのアナウンスのみだった。

 

 【<UBM>【三源元素 クリスタリヴ】が討伐されました】

 【MVPを選出します】

 【【フィルル・ルルル・ルルレット】がMVPに選出されました】

 【【フィルル・ルルル・ルルレット】にMVP特典【三源輝套 クリスタリヴ】を贈与します】

 

 ◇

 

 エレメンタル達にあったのは空白だった。

 

 目の前の男が消え失せ、親からの強化が失われた。彼らが理解出来たのはそこまで。

 

 なぜ、男が消えたのか?なぜ、親からのバフが消えたのか?その疑問は彼らの動きを停止させる。

 

 対して、フィルルは止まらない。

 

 エレメンタル達を生み出す【クリスタリブ】を倒したとはいえ、生み出されたエレメンタル達が消えるわけではない。

 

 何より、復讐の大本は【クリスタリブ】とはいえ、実際にセプータの住人、そして虎丸達を殺したのは生み出されたエレメンタル達。

 

 フィルルが【クリスタリブ】を倒しただけで止まる道理はなかった。

 

 しかし、既に従魔を失い、必殺スキルも敵のバフが消失したことで無用の長物と化した今、フィルルに戦闘を行う手段はないはずだった。

 

 だが、ここに新たに戦う力は与えられた。因果な物とはいえ、使用を躊躇うフィルルではない。

 

「《瞬間装着》」

 

 それはアイテムボックス内の防具を瞬時に装備するもの。フィルルのアイテムボックスの中にはほとんどまともな装備がなかったが、今この瞬間だけは違う。

 

 【クリスタリブ】を倒した証左たる外套が存在する。【三源輝套 クリスタリブ】が。

 

 それは蒼白い外套であった。だが、その輝きは見るものよって色を変える。あるものにとっては黒く輝き、あるものには赤く輝くように見えた。それは見る者の心象によって輝きを変える。

 

 フィルルは神話級特典武具【三源輝套 クリスタリブ】のスキルを発動させる。

 

「《エレメンタル・プロダクション》」

 

 生前【クリスタリブ】が使っていた百体の亜竜級エレメンタルを生み出すスキル。特典武具となったことでフィルルにアジャストされたこのスキルは瞬時に千体のエレメンタルを生み出した。

 

 その能力はノーコストで瞬時に千体のエレメンタルを生み出すというもの。神話級特典武具とはいえ、破格のスキルである。破格であるがゆえにリソースが不足しており、重大な欠点を抱えている。

 それは生み出されるエレメンタルのステータスの低さである。

 

 【スポアエレメンタル】

 HP:100

 MP:100

 SP:100

 STR:10

 AGI:10

 END:10

 DEX:10

 LUC:10

 

 そのステータスは下級職はおろかレベル0の人間にも負けうるほど。あまりにも弱いため、従属キャパシティが低いことは唯一の利点か。ある理由により、同程度の強さの【リトルゴブリン】よりもキャパシティは高いが、純竜級を従えるほどのキャパシティがあれば、問題なく千体のエレメンタルを使役できる。

 

 しかしこれでは千体の数も意味がない。リソースの都合とはいえ、生み出すエレメンタルがあまりにも貧弱すぎる。【クリスタリヴ】が生みだした名もなき亜竜級エレメンタル一体に殲滅される可能性があるほどだ。

 

 ただし、これを指揮するのがフィルルでなければの話だが…

 

「《魔物強化》」 

 

 それは配下の魔物のステータスを六十パーセント上昇させるもの。しかし、【スポアエレメンタル】のステータスがあまりにも貧弱のためHPでも60、STRといった三値は6しか上昇しない。あまりにも小さい強化、まさしく雀の涙といったところだろう。

 

 しかし、フィルルには【アンフィテアトルム】がある。

 

「《光る劇場の脇役》」

 

 それはパーティー内のスキルによるステータス上昇数値の半分を他のモンスターに加算するというもの。

 一体のエレメンタルを強化する数値の半分が他の九九九のエレメンタルに加算される。そしてそれは千体分行われる。

 

 【スポアエレメンタル】

 HP:100(+30030)

 MP:100(+30030)

 SP:100(+30030)

 STR:10(+3003)

 AGI:10(+3003)

 END:10(+3003)

 DEX:10(+3003)

 LUC:10(+3003)

 

 それは亜竜級を超えるステータス。ノーコストで亜竜級を超えるエレメンタルを千体を生みだしたことになる。胞子の群れは即座に散らばり、敵であるエレメンタルを滅ぼしていく。

 

 【三源元素 クリスタリヴ】が生みだした一万の亜竜級エレメンタルと【三源輝套 クリスタリヴ】が生みだした千体の亜竜級を超えるエレメンタル。

 元を辿れば同じ親から生まれたエレメンタルの戦いは指揮者の有無によって勝敗の傾きをフィルル側に傾かせる。

 

 その天秤を破壊すべく三体のエレメンタルが現れる。【アトモス】、【アース】、【オーシャン】の三体である。元より伝説級に近いステータスを誇っている。それは強化された胞子のエレメンタル達でも相手にならない。

 

 三体のエレメンタルが攻撃を仕掛けようとしたその瞬間、鉄拳による制裁が行われた。その攻撃の主はほかならぬフィルルである。

 

 《輝く劇場の主役》はパーティー内のスキルによるステータス上昇数値をフィルルのステータスに加算するもの。超級になった今、最大補足数は十四。

 

 故に現在のフィルルのステータスは…

 

 フィルル・ルルル・ルルレット

 職業:【獣戦鬼】

 レベル:100(合計レベル:500)

 HP:6526(+420420)

 MP:6631(+420420)

 SP:642(+420420)

 STR:545(+42042)

 AGI:395(+42042)

 END:496(+42042)

 DEX:288(+42042)

 LUC:79(+42042)

 

 《終劇は万雷の喝采と共に》を使った時とは天と地ほどのステータス差があるが、それでもなお神話級のステータスを誇る。このステータスを相手に三体のエレメンタルが勝てる道理はなく、程無くして三体ともがフィルルの拳でその躯幹を砕かれた。そして、フィルルは胞子達と共に残りの雑兵を殲滅する。

 

 ◇

 

 フィルルが【クリスタリヴ】を討伐し、残されたエレメンタル達を殲滅している最中、ノスフェラは砕かれた半身を起こし、同様に砕かれた甲骸と兵骸を回収する。アンデットとは言え、再生が起こっていない所を見ると相当なダメージを負っているらしい。再度の使用は厳しいかもしれない。

 

 ただし、躰が…いや骸が残っているだけ、マシかもしれない。フィルルの従魔である虎丸達はその身でフィルルをかばったためか、骸すら残らず砕け散ってしまった。

 

 …《終劇は万雷の喝采と共に》か。皮肉なスキル名だ。

 

 このままいけば確かに戦いは終わるだろう

 

 フィルルの勝利によって

 

 まさしくそれは終劇といえる

 

 だが、万雷の喝采はどこにある?

 

 親しい村人を皆殺しにされ

 

 その復讐に立ち

 

 今度は従魔を殺される

 

 今、フィルルを駆り立てているのはその復讐心

 

 このスキルによって復讐は無事成し遂げるだろう

 

 だが、死んだものたちは戻ってこない

 

 この戦いを終えてフィルルを迎える喝采などどこにある?

 

 万雷の喝采はいったいどこに?

 

 なら私にできることは…

 

「…【屍骸王】をナメルなよ!」

 

 それは断固たる決意。

 

 男が復讐心によって進化を果たしたというのなら、その決意もまた彼女を新たな次元へと誘う。  

 

 ◇

 

【…への転職クエストが解放されました】

 

 戦いが終わり、何かのアナウンスが聞こえたが、今の俺にはどうでも良かった。

 

 復讐は果たせた。ダッツァーやコル、そして虎丸達の復讐はできたのだ。

 

 しかし、そこには一切の満足心はなく。

 

 ただ、虚しさだけが残った…

 

 重くなった身体を引きずりながら、ノスフェラたちがいる…虎丸達が死んだ場所へ向かう。

 

 だが、その足は思うように進まない。

 

 気が滅入っているせいかもしれない。

 

 虎丸が死んでしまったのが一番心に大きいダメージを残している。

 

 悲痛な気持ちのまま、向かった先で待っていたのは…

 

「にゃー」

 

 虎丸だった。 

 

 姿形、種族は変わっていたがそこには確かに虎丸がいた。

 

 俺は虎丸と抱擁を交わし、涙を流す。

 

 きっとその涙は、ダッツァーの流した涙とは違う意味を持っていた。 

 

 




セプータ帰還編 終劇



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幻獣旅団編 22.超級職

たくさんの評価ありがとうございます。

こんな作品をみてくださって重ねて感謝です。

これからも原作へのリスペクトを忘れず頑張っていきます。


□霊都アムニール 【獣戦鬼】フィルル・ルルル・ルルレット

 

 セプータでの一件が落ち着いたあと、霊都アムニールに戻ってきた俺たち。ある理由によって戻ってきたのだが、それよりも気になるのは…

 

「しかし、やっぱり超級職のスキルってのはチートだな」

「またその話かい」

「だってそうだろ?虎丸を復活させてしまうなんて」

「復活じゃなくて、アンデット化。そこをはき違えてもらっては困るネェ」

「それだって十分チートだろ」

 

 アンデットの制作には素材が必要となる。それが【完全遺骸】や【全身骨格】となれば、アンデット化するのが楽だし、各部位のドロップアイテムを繋ぎ合わせて作ったりする。ほかにも、生者をそのままアンデットに変える方法もある。

 

 つまり、どの方法も実際に存在する素材が必要であるが、虎丸達の場合は一片の肉片もドロップアイテムを残さず死んでしまった。本来ならアンデットの制作は不可能である。

 

 ただし、数多ある方法の中で素材無しでもアンデットを制作する方法がある。それは魂や怨念といった情報を基にゼロから肉体を再構築する方法である。無論難易度は極めて高く、できるものはティアンとマスター合わせてもできるものはまずいない。

 

 しかし、その難易度を下げ、魂からの再構成を可能とするのが【屍骸王】のスキル。それが《リ・コントラスト・デットマン》である。アンデットの制作に特化した屍屋系統の超級職だからこそ使用可能なスキル。

 

 しかし、魂からの再構築を可能とするスキルとはいえ、完全ではない。より強い魂もしくは怨念でなければそもそも使用が難しい。

 さらに仮に強い情報を持っていたとしても、それでも完全な肉体の再構成は難しい。現に虎丸は【純竜獅虎】ではなく、その進化前【タイガーキャット】のアンデット、【アンデットタイガーキャット】としてしか、アンデット化はできなかった。

 

「《観魂眼》でもあれば良かったんだけどネェ。ヨモの目を頼るしかなかったから他の従魔達はアンデット化させられなかったし、虎丸だって…」

「にゃー」

「なー。それでも、十分だよなー」

「…まあ、君も今からはその超級職のスキルを振るう側になるんだ」

「まだ、確定したわけじゃないけどな」

 

 そう俺たちが霊都に戻ってきた理由。それは俺の超級職の転職クエストのためだ。

 

 ◇

 

 【転職の試練に挑みますか?】

 

「YESっと。…うおぉぅおぉ!?」

 

 いきなり、奇妙な空間に飛ばされた。もうちょっとどうにかならなかったですかね?てか、ノスフェラもどうなるか教えてくれれば良かったのに…

 

 なお、ノスフェラの弁は、教えない方が面白そうだったからである。

 

 【試練の軍団を集団戦で撃破せよ】

 【成功すれば、次代の【軍神(ザ・レギオン)】の座を与える】

 【失敗すれば、次に試練を受けられるのは一か月後である】

 

 で、これが転職クエストか。正直、転職条件の焼き直しだな。…しかし、俺がスキル特化超級職【(ザ・ワン)】シリーズの転職クエストに挑むとはなー。色々いわれそうである。

 

 【神】はスキル特化職。他の超級職とは違い、類まれなる才覚が要求される。多くの【神】にティアンが就いていることがそれを示している。ティアンは<マスター>よりも技巧という一点で優れているとされているからだ。

 

 しかし、中には<マスター>の身で【神】に就く者たちがいる。そこには二種類のタイプがある。

 

 一つは純粋な才能。ティアンすら上回る圧倒的才覚によってその【神】の座に至る者。

 

 もう一つがエンブリオである。一定以上の才覚があることはもちろんだが、それをさらに自身のエンブリオによってブーストさせ【神】の座に喰らいつく者。

 

 俺は明らかに後者だけど…それでも軍団スキル特化超級職の【軍神】を就くことができるのなら、

 

「挑んでやるさ!《エレメンタル・プロダクション》!!」

 

 【三源輝套 クリスタリヴ】のスキルによって即座に千の胞子の軍勢を生みだす。すると、試練の軍勢が召喚される。その数、胞子の十倍。おそらくステータスも胞子の十倍以上は確実。

 

 ならばと、俺はさらに【アンフィテアトルム】のスキルを発動し、胞子達のステータスを亜竜級の三倍以上のステータス上昇させる。さらに俺自身も神話級に匹敵するステータスを手に入れて、試練の軍勢に戦いを挑む。

 

 ◇ 

 

 それは確かに転職条件の焼き直しといえるだろう。

 

 しかし、【神】は才覚によって初めて認められるもの。一度、転職条件を満たしたということは才覚を認められたということ。転職できないということ自体がまずありえないため、転職クエストが転職条件の焼き直しとなっている面がある。

 

 では、そもそも軍団スキルの、いや軍団を率いる上での才覚、才能とはいったい何か?

 

 数多の事例が挙げられるが、この世界では転職条件に明確に表れている。

 

 一つ目が千以上の配下を所有していること。軍団スキル特化職であるため、最低でも千以上の配下を所有していなければお話にならないということだ。

 

 そして二つ目が、戦力比、千倍以上の相手に集団戦で勝利すること。神懸かかった采配によってその戦力差を覆すことが軍団を率いる才能を示している。

 

 戦力比は彼我の数、元々のステータスの合計の数値によって決定する。千倍以上の戦力比をひっくり返し勝利する。それは地形や天候、数多の算術、技能、武具、そして天運によって初めて生みだされる奇蹟。それを為した者はまさしく、【軍神】と呼ぶにふさわしいだろう。

 

 ただし、フィルルはエンブリオと神話級特典武具によってそれを成し遂げてしまった。

 

 【クリスタリヴ】の生みだしたエレメンタルの残党と【スポアエレメンタル】との戦い。数は自軍は千、敵軍は一万。ステータスは自軍が十としたら、敵軍は千以上。その戦いはまさしく戦力比千倍以上の集団戦と言え、【軍神】となるための戦いに十分であった。

 

 故にそれをクリアしているフィルルは既に【軍神】に就いているといっても過言ではなかったし、事実、試練の軍勢を容易く打ち負かした。

 

「【軍神】、GETだぜ!」

 

 ここに試練は達成され、フィルル・ルルル・ルルレットは【軍神】の座に就いた。

 

 試練が終わり、元いた場所に戻るとそこでノスフェラが待っていた。

 

「やっぱり、超級職には就けたようだネェ」

「おう、意外と余裕だったぜ」

「転職クエスト自体がティアンを想定しているからネェ。エンブリオやそれによって得やすい特典武具の存在はそれだけ転職を楽にするから」

「そういうもんか、【神】だから身構えていたんだが。よし次はあそこか」

「…ほんとに行くのかい?」

「一応の礼儀ってやつさ」

 

 そういって俺が向かったのはモンスターショップ。俺と虎丸が初めて出会った場所だ。

 

 ◇

 

「久しぶりだな、おっさん」

「ああん?…なんだ、一年以上姿を見せなかった薄情モンのフィルルじゃねえか」

「悪かったな」

「どうした?頼りのないのは元気な証拠。そんなお前が今日は随分潮らしいじゃねえか」

「…ふう。悪いおっさん、アンタからもらった虎丸死なせちまった」

 

 俺は頭を大きく下げる。

 

「………」

「せっかく、おっさんにもらったってのに俺が情けないばっかりに虎丸を死なせちまった」

「…いやそこにいるのは虎丸じゃねーのか?」

「にゃー」

 

 そう、そこには今死んでしまったと報告した虎丸が呑気な顔をして足を舐めていた。…虎丸さん、主人が真剣な話してるんだから、君もさあ。いや死なせてしまった俺が悪いんだけどね?

 

「いや、これはアンデットとして蘇らせてもらったんだ、知り合いのマスターに」

「確かに前見たときよりも姿が縮んでいるし、種族はアンデットになってる。しかしマスターってのはすげえな。じっくり見なきゃわかんなったぞ」

「…まあ優秀な奴だから」

 

 なんつったって【屍骸王】だし。

 

「まあなんだ。初めての従魔で最後まで戦い続ける奴の方が少ないんだ」

「?どうしてだ?」

「お前みたいに従魔を殺しちまう奴。あるいは自分の従魔を見限っちまう奴。色々さ。ここで購入した従魔を大事にしないやつなんて珍しくないからな、マスターにしろ俺たちティアンにしろ」

「それは…そうなのかもな」

 

 否定しようとしたが、実際に虎丸を殺してしまった俺が言える立場ではないし、ノスフェラのように素材として従魔を求める奴もいる。弱い従魔だからと捨てる奴もいる。

 

「買った従魔をどうしようがそいつの自由だからな。だがな、謝りにきただけてめえは上等だ。その気持ちだけで十分だ。それでも謝りたいっていうなら、これからもうちの店をご贔屓にってことだな」

「…おっさん」

 

 おっさんの言葉にジーンと感動していると

 

「ん?いやまてよ。…さっきのは無し。どうしても謝りたいって言うならあるクエストを受けてもらう」

「…え?」

 

 おっさん、感動してた俺の気持ち返して…

 

「”幻獣旅団”ってしってるか?」

「いや知らんけど」

 

 なにその漫画で出てきそうな名前。

 

「マスターだけで構成された盗賊集団だ。一年前から各国で猛威を振るっているらしい」

「そんなやばい奴らがいるのか」

 

 マスターだけで構成された盗賊団って。エンブリオとかログアウトとか不死とか、犯罪に使えばいろいろできそうなくらいやばいんだけど…

 

「なんでも慈善活動をしながら、金を貯めこんでいる小悪党の住居を見定める。そして予告状を出してから盗んで、貧しい奴らにばらまくっていう奴らだ。世間じゃ義賊だなんだと言われているらしいがな」

「ん?義賊ってことはいい奴らなのか?」

 

 なんだ、幻獣旅団っていい奴らじゃん。

 

「わからん。だがな俺のお得意様の家にそいつらから予告状が届いてな。それをどうにかしたいってことでマスターを雇っているって話なんだが…」

「俺にそれに参加してほしいってことか」

「…お得意様の頼みだからな。商売人のつらいところだ」

 

 おっさんも顔をしかめていた。…なるほど、義賊に狙われる程度の家ではあるってことなのね。そしてそれを警護しろってことね。まあ、おっさんの頼みなら断れないな。

 

「いいよ。そのクエスト引き受けた」

「済まねえな。フィルル」

「謝るなよ。それよりなんでそんな名前なんだ。”幻獣旅団”って」

「ああ、なんでも構成員のエンブリオすべてが幻獣をモチーフにしているかららしい」

 




正直、超級職はめっちゃ迷ったし、批判は出るだろうけど、一応これで確定します。
いやどこが【神】やねんって話ですが。


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23.幻獣旅団

気づかれないもんだなーと思いましたまる


□霊都アムニール 【軍神】フィルル・ルルル・ルルレット

 

「…というわけで”幻獣旅団”と戦うことになりました」

「いや、説明する気ゼロだねそれ」

 

 いやだって俺も正直よく分かってないし。

 

「まあやるならフィルル一人でやりなよ。こっちは試したいことがいろいろあるからネェ」

「えー、ノスフェラさん手伝ってくれないのー」

「…”幻獣旅団”はいろいろとキナ臭いんだ。それになによりめんどくさそうだからネェ」

 

 ズルいぞ!俺もホントはめんどくさいのに!

 

「まあ、相手はマスターの盗賊集団なんだろ?正直、君だけで十分制圧可能だろうからネェ。私までいたら過剰戦力だよ」

「いや、相手は素性不明な世界を股に駆ける盗賊集団なんだろ?絶対すごい奴じゃん。絶対強い奴じゃん」

 

 ル○ン三世みたいな。絶対やばいだろ。

 

「…ハア、色々麻痺してるネェ。いいかい、君の生みだす【スポアエレメンタル】。あいつらは一体一体が亜竜級の三倍に匹敵する。それの千の軍勢だ。チンケな盗賊集団どころか小国だって落とせてもおかしくないんだ。それを所有している君が、<超級>になった君が、今更”幻獣旅団”なんかにやられるわけがないんだよ」

 

「………」

 

 そう言われるとなんとかなりそうな気がする。

 

 そうだよな。

 <超級>だもんな俺。

 未だ到達した奴は二桁いるかどうかといわれている<超級>。

 まして今の俺は【軍神】という超級職まで得た。

 <Infinite Dendrogram>のトッププレイヤーといっても差し支えないレベルだもんな。

 

「よっしゃ、いっちょやってみっか」

 

 そうして俺はおっさんが言っていた、クエストの集合場所へと向かう。おっさんの頼みだ。サクッと終わらせてくるか。

 

 ◇

 

「貴様らは儂の財宝を守る番犬。わかったか、主人の声に尻尾を振っていればいいのだ!」

 

 …前言撤回。すごいやる気が出ない。

 

「マスターを莫大な金で雇ってやったのは他でもないこの儂だ。いいか!貴様らは金のためなら何でもする下賤な犬だ。儂に逆らおうなんて考えるんじゃないぞ!!」

 

 …何言ってるかわかんねーけど、とりあえずぶん殴っていいかな?

 

「クソ!!”幻獣旅団”め。なぜ儂のモノを奪おうなどと…」

 

 …この人、情緒不安定すぎない?

 

「とにかく、貴様らは旅団を倒すことだけ考えろ!どんな手を使ってもな!」

 

 そう言って屋敷に戻っていく肥えたおっさん。

 

 ちなみに彼の演説は寒空の下、屋敷の外で行われました。すんごい寒いです。

 

 …どうやら今の態度に機嫌を悪くしたのは俺だけではないらしい。他にいるマスターたちも口々に文句を言っていた。

 

 俺の他にこのクエストを受けるマスターは…五人か。

 ”幻獣旅団”を迎え撃つのに果たして多いのか少ないのか。

 少なくともここからさらに数が減りそうだな、そう思っているとその中の一人が俺に声をかけてくる。

 

「俺はマルコ、よろしく。君は?」

 

 身長は190cmくらいだろうか。黒髪の青年が自己紹介をし、握手を求めてくる。

 

「俺はフィルル・ルルル・ルルレット、よろしくな。しかし、なんなんだあいつ。相当やばい奴だろ」

 

 さっきの態度にいかんせんムカついている。なんでおっさんの頼みとは言え、あんな奴の護衛なんかしなくてはならないのか。

 

「Mr.ドン・コルガッツォ。霊都西部の物流を支配している男だよ。そのせいか金銭やマジックアイテムもたくさん所有しているという話だ。霊都の商人はまず彼に逆らえないって話だよ」

 

 ああー。だから、おっさんもあんな顔してたのか。

 ホントは引き受けたくなかったんだろうけど、マスターを紹介しなければ商売に支障をきたすってことか。

 あるいはこの件で覚えを良くしておこうという魂胆があるのかもしれない。おっさんも商人、抜け目はないはずだ。

 

「しかし、君はどうしてこの護衛クエストを受けたんだい?ドン・コルガッツォのことも知らないで受けるなんて…」

「知り合いの店主からこのクエストを受けるように頼まれてな。お得意様だからご機嫌伺いだって言ってな」

「…なるほどね。僕らは正直金目当てだよ。さっきコルガッツォが言っていた通り、このクエストには莫大な報酬が出ている。前払いでもかなりの額がね。その報奨金目当てでみんな集まったのさ」

 

 …俺その前金もらってないんだけど。

 

 ハッ!

 さてはおっさん俺の前金を!

 どんだけ抜け目ないんだよ!!

 それでも信用第一の商人か!!!

 

「まあ、お金目当ての僕らで”幻獣旅団”を止められるかは正直微妙な所だけどね」

「”幻獣旅団”かー。やっぱり旅団ていうくらいだから千人単位の盗賊集団なのか?」

 

 旅団って確か結構大きめの部隊のことを表していた気がする。マスターが千人いたらそりゃどんな盗みでもうまくいくだろう。エンブリオもあるし。

 

「いや、聞いた話によるとメンバーは十人前後らしいよ」

「え?全然数少ないじゃん。なんで旅団なんて名乗ってるの?算数できないの?」

 

 百倍だぞ百倍。そんな人数でよく旅団が名乗れたな。”幻獣小隊”か”幻獣分隊”のほうがあってるんじゃねーの。

 

「…盗賊団のネーミングセンスに文句を言ってもね。それにマスターは過剰な名前を付けたがる傾向にあるし」

「そういうもんか」

 

 まあ、確かにネーミングセンス酷い奴っているよな。ノスフェラとか。

 

「それにメンバー全員がカンストした上級マスターって言われているからね。戦力的には旅団といっても差し支えないはずだよ。才能という限界があるティアンからすれば一般に言われている旅団以上の戦力であることに間違いはない」

「だけどこっちもマスターが六人もいるんだぜ、余裕だろ」

 

 数の上では”幻獣旅団”のほうが上だが、俺一人で十分吹き飛ばせる戦力差だろう。

 

「確かに余裕だろうね。君は僕たちと違って随分強いみたいだし」

「え?」

「その外套、特典武具だろう。UBMをMVP討伐できるなんて相当な実力者だ」

「…いや、相性が良かっただけだ」

 

 ノスフェラなんて三体もMVP討伐してますし。

 

「相性が良いくらいじゃMVPにはなれないよ。旅団じゃないけど、盗めるものなら盗んでみたいものだよ、特典武具は」

「…残念だけど、特典武具は盗めないからなー」

 

 特典武具は譲渡・売却不可アイテム。いくら旅団でも特典武具は盗めない。それこそ【強盗】や【盗賊】の超級職でも特典武具は盗めないだろう。

 

「そう、特典武具(・・・・)は盗めない。いくら”幻獣旅団”でも特典武具はね。…まあ彼らの狙いはコルガッツォの私財だろうから、君の特典武具を盗まれるなんてことはまずないだろうけど」

 

 そりゃそうだ。…決死の思いで手に入れたものなんだこれは。誰かに奪われてたまるか。

 

「…私財ねぇ。やっぱり義賊ってのはホントなのか?小悪党から金を巻き上げて、それを貧しい奴らに配るなんて」

「マスターだからね。そういうロールプレイ(・・・・・・)をしているという可能性は十分ある。でも眉唾なんだよね。彼らはそもそも盗みなんてしていないという声もあれば、真逆の命すら平気で奪う強盗だって声もある。予告状を出すのは怪盗の領分だし…」

 

 情報が錯綜している。…もしかしたら”幻獣旅団”が自身の尻尾をつかませないためにいろいろな情報を流しているというのも考えられるか。

 

「予告状と言えば、盗みは今日の夜十二時に行われるらしい。まさかその時間にログインできないってことはないよね」

「ログインできないってことはないけど、その時間帯に尿意や空腹アナウンスが出ないようにしておかないとな。一回抜けるわ」

「分かった。夜十時にはログインしておいてくれ」

「分かっているよ」

 

 夜のクエストに備えてログアウトをし、リアルの支度を済ませる俺。…そしてその間も暗躍する影達。

 

 ◇

 

 きっかり夜十時にログインをする俺。そこにはマルコを含め、コルガッツォに雇われた五人のマスターが顔を合わせていた。

 

「戻ってきたね。フィルル」

「おう。マルコ達も休めたのか」

「ああ。それと作戦会議も少しね」

 

 作戦会議?俺抜きで?

 

「彼らのエンブリオの能力確認とそれをプランに入れた作戦をね」

 

 なるほど。確かにエンブリオの能力は千差万別。それを使えば”幻獣旅団”の盗みを防げるかもしれない。

 

「そう言えば、君のエンブリオは…」

 

 キュイーン、キュイーン、キュイーン…

 

「なんだこの音?」

「…彼のエンブリオの能力だよ。範囲内に入った侵入者を知らせてくれる」

「ってことは”幻獣旅団”がもう来たのか?」

「決めつけは禁物だよ。仮に旅団だとしても陽動ということも考えられる」

 

 旅団は神出鬼没の盗賊集団。エンブリオとはいえ、センサーに簡単に引っかかるような連中じゃないはず。マルコの言う通りわざとセンサーに捕まることで注意を集め、陽動に使うというのは十分に考えられる。

 

「申し訳ないがここで多くの人員を割くことはできない」

「だからといってこの警報を無視するわけにもいかないだろ。裏の裏を読まれているということもある」

 

 俺たちが陽動だと思い込んでいたものが本隊だったなんてことになりかねない。

 

「…確かにフィルルと言う通りだ。すまないが君一人で反応があった場所に向かってくれないか?仮に本物の”幻獣旅団”でも君ひとりなら十分対処できるはずだ」

「…分かった。まかせろ!!」

 

 そして俺は反応があったポイントに向かう。そこで誰と出会うかを知らないまま。

 

「フィルル。任せたよ。…さあ俺たちの仕事を続けるぞ」

 

 ◇

 

 俺が警報がなったポイントに近づくと、そこには四人の人影があった。そいつらは全員同じような乗り物に乗っているようだった。まるで空を飛ぶサーフボード(・・・・・・)のような乗り物に。

 

 目立つような動きだ。罠の可能性も十分ある。だが…ここで見過ごすわけにもいかない。

 

「止まれ。ここはドン・コルガッツォの屋敷だ。それ以上近づけば、”幻獣旅団”とみなして迎撃する」

 

 俺の警告に立ち止まる人影達。…いや今のは警告よりも俺の声そのものに立ち止まったようではなかったか?

 

「…その声まさか、フィルルなのか」

 

 俺はその声を聞く。

 

 約束の声を。

 

 旅を勇気づけたこの世界の友の声を。

 

「フルメタル…なのか」

 

 俺はその瞬間ある情報を思い出していた。

 

 ”幻獣旅団”

 

 その名の由来はメンバー全員が幻獣をモチーフとしたエンブリオだということ。

 

 そして、フルメタルの、ゆるり、ドリルマン、ロゼのエンブリオは幻獣をモチーフとしていることを。

 

「お前らが”幻獣旅団”なのか?」

 




ガネーシャ?象の幻獣だろ(すっとぼけ)


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24.VS”幻獣旅団”

最近とても多くの方に見られてすごいうれしいです。より多くの感想をお待ちしています。


□コルガッツォ邸 【軍神】フィルル・ルルル・ルルレット

 

 お前らが”幻獣旅団”なのか?

 

 その問いに対する答えはすぐには返ってこなかった。いくらかの時間が経った後に帰ってきた答えは…

 

「そうだ。俺たちこそが”幻獣旅団”だ。コルガッツォ邸に要件がある。だから…」

「《エレメンタル・プロダクション》!」

 

 フルメタルの答えに対する俺の行動は迅速だった。【スポアエレメンタル】の軍勢の召喚である。

 

「お前たちが…”幻獣旅団”だというのなら…ここでお前らを食い止めるのが俺の仕事だ」

「フィルル…」

「私たちを止めるっていうけど、そんなモンスターの群れで私たちを止められるの?」

「ロゼちゃん!」

 

 俺の宣言にフルメタルは困惑したように、そしてロゼは俺を煽るように彼女のエンブリオ、【噴推空象 ガネーシャ】を呼び出す。それに驚いたようにゆるりは叫ぶ。

 

 其れは戦闘の意思に他ならなかった。

 

 【従魔師】でもある俺には感覚的に分かる。

 あれはステータスだけならば伝説級に匹敵する。

 さらに【ガネーシャ】には最大の特徴でもある空気噴出能力がある。その2つの組み合わせはまさしく伝説級UBMに匹敵するもの。

 

 それと【スポアエレメンタル】を比較すれば、ロゼの発言も頷ける。

 元よりこちらは数だけが取り得の精霊召喚。呼び出す精霊は職に就いていないレベル0の人間にも劣る。戦いになれば一瞬で塵芥の如く消え失せるだろう。

 

 …だが、それで俺と戦おうというのならそれは浅慮ってもんだぜ、ロゼ!

 

「…!」

 

 ロゼが驚愕の表情を浮かべる。それは当然だろう。

 雑魚だと思っていた【スポアエレメンタル】の威圧感を増したのだ。

 それこそは俺の【喝采劇場 アンフィテアトルム】の第二スキル、《光る劇場の脇役》の能力。

 

 【スポアエレメンタル】はこれで千体すべてが亜竜級を遥かに上回るステータスを獲得した。一体一体がカンストしたティアンと同等の戦力を誇る千体の群れ。

 

 その光景は、ロゼの戦意を折れかけさせる。…だがこの戦いに挑んでいるロゼの決意は決して折れはしない。

 

 【ガネーシャ】の空気噴出能力とそのステータスから繰り出される突撃は【アンフィテアトルム】の強化を受けたはずの【スポアエレメンタル】をまとめて数十体葬った。

 

「…チッ!」

 

 【ガネーシャ】が強いのはわかっていたが…まさかここまでの威力があるとは。だが、戦力の数パーセントも失っていない。それに【ガネーシャ】の空気噴出能力は連発はできない。攻めるなら今。

 

 【スポアエレメンタル】の群れは容易く、フルメタル達を包囲する。…だがその包囲網は容易く突破される。それはゆるりのエンブリオ【飛翔歌唱対翼 セイレーン】の能力による。

 

 第六形態に到達したことで亜音速を超え、超音速に匹敵する。三次元機動高速起動が可能となっている四対の(サーフボート)は、パーティメンバー全員をその死地から救った。

 

「待って、ロゼちゃんも、フィルルさんも」

「聞く耳持たん!」

 

 ”幻獣旅団”を名乗り、コルガッツォ邸に用があり、護衛を務める俺に反抗の意思がある。そんな奴らの言うことは聞く必要はない。

 

 …俺としても義賊だという”幻獣旅団”の犯行を防ぐ動機も、コルガッツォに対する思い入れもない。

 だが、これでもおっさんからの依頼だ。報酬をちょろまかす様な人だが、失敗するわけにはいかない。

 

 ”幻獣旅団”の犯行を防ぐ。それがたとえ、約束を交わしたフルメタルであろうともだ。

 

「そんな!」

「…フィルルも護衛クエストというのなら我々の話を聞くべきである!」

 

 珍しくドリルマンが声を荒げる。”幻獣旅団”の話など…

 

『フィルル。聞こえるかい?』

 

 それを遮るように脳内に声が響いた。

 

「…マルコか?いったいどうやって」

『エンブリオによる脳内無線通信だよ。状況はどうなっているかな?”幻獣旅団”は?』

「…”幻獣旅団”を補足した。四人組の男女のマスター達。いま戦闘になっている」

『…了解。想定した通りだな。彼らは手段を選ばないと聞く。彼らの言葉に、行動に惑わされていけないよ』

「…わ―ってるよ」

 

 そこで通信が切れる。

 

 【スポアエレメンタル】の群れと【セイレーン】の追想劇。速度で勝る【セイレーン】に対して、数で勝る【スポアエレメンタル】。胞子達ではサーフボードに追いつくことはできないものの、彼らをこの場所に踏みとどめることには成功していた。

 

「…振り切れない」

「あれを操っているフィルルを叩く」

「ロゼ!」

「どのみちアイツをどうにかしないといけないでしょ」

 

 フルメタルの静止を振り切り【セイレーン】から飛び降りて、フィルルに接近するロゼ。その一連の動きはカンストした上級職を超えた動きであった。

 

 …ガードナー獣戦士理論か。

 

 ◇

 

 それはコルガッツォの部屋の音。

 

「クッソ!なぜ儂が大金を叩いてマスターなどを雇わねばならん」

「商人どももつけあがりよって。だれのおかげで仕事ができると思っている」

「これもすべて”幻獣旅団”のせいだ。何が悪人のみを狙う正義の義賊だ」

「貴様らが正義の集団ではないことを私は知っているぞ」

「大方儂の持つあれ(・・)を狙って…」

「ん?なんだ貴様か。いったい何のようだ」

「…………」

 

 そしてその部屋からはもう音は聞こえない。  

 

 ◇

 

 ガードナー獣戦士理論。

 

 フィルルが気づき、ロゼが実践した理論。それは現在、この<Infinite Dendrogram>を席巻し、『最強』とされた理論である。

 

 従属キャパシティ0というガードナーの副次的効果、あるいは最強の効果とフィルルも多用していた【獣戦士】の《獣心憑依》による組みあわせ。

 

 《獣心憑依》は従属キャパシティ内のモンスター一体のステータスを最大で六十パーセント、自身のステータスに加えるというもの。

 【獣戦士】は最大でも純竜級を従えるのがやっとでそうしてもまともに他の戦闘スキルを使えないという欠点があるが、それでもフィルルのようにエンブリオのスキルによっては十二分に戦える。

 

 その極致がガードナー。

 従属キャパシティ0かつ純竜を超えるモンスター。

 それに《獣心憑依》をガードナーに使えば、ステータスが他のジョブよりも高く、汎用の戦闘スキルや武器に由来するアクティブスキルを使用できる最強の前衛の完成である。

 

 故にロゼもまた、ガードナー獣戦士理論を実践し、超級職に匹敵するステータスを手に入れた。

 亜音速でフィルルに迫り、人を遥かに超えた力で弓を引き、矢を放つ。

 それはフィルルの額を容易く捉え…貫くことはできなかった。

 

「…!?」

 

 ロゼの驚きも当然。だが、ロゼは失念していた。フィルルには味方もステータス上昇を自身に加える力があることを。

 

 《輝く劇場の主役》

 それはフィルルのステータスを神話級と呼ばれる領域まで引き上げる。

 故に精々一万の威力しかない矢ではフィルルを貫くことはない。 

 そう『最強』の理論など真の強者には一切通用しないのだ。

 

 ならばとすぐにロゼは切り替える。

 通常のそれではなく奥義ならばと彼女が放ったのは《バースト・サジタリア》

 【弓聖】の奥義で、貫通力に優れた一撃である。それならば、フィルルの身体を貫きえたかもしれない。

 

 だが、もうロゼの矢はフィルルに当たることはない。

 音の四倍の速さで動くフィルルには音をようやく超えた矢では捉えることはできない。

 あるいは最初に放った矢が奥義であれば違ったかもしれないが、()のロゼにフィルルをどうにかできる術はなかった。

 

 フィルルは逆にロゼとの距離を詰める。

 握られた拳は迷わずロゼの腹部へ向かって放たれる。

 それはフィルルなりの温情だったかもしれない。

 彼が本気で殴り続ければロゼは即座に死んで(デスぺナルティ)いただろうからだ。

 さらに言うならこの二人の攻防の最中も胞子達はフィルルの指揮により、フルメタル達を追い立てていた。つまり、ロゼは指揮の片手間に攻撃されたのだ。

 

 それは二人の絶対的な差を表していた。そのことは余計にロゼをいらつかせる。使うと決めていた相手を間違えるほどに。

 

「《象蝕の化身(ガネーシャ)》!!」

 

 今のロゼはまさしく異形の姿。顔の造形は美しいままだが、色はガネーシャと同じ鈍色となっている。さらに体中からガネーシャの鼻のような器官が何本も生えていた。

 

 それは【噴推空象 ガネーシャ】の必殺スキルにして融合スキル。合体直前のステータスを合算し、さらに空気噴出能力をも強化する。

 それでもフィルルのステータスには届かないが、それでも空気噴出能力のブーストを加味すれば、フィルルに追いつき、傷つけることも可能。

 

 その異形の姿を見たフィルルは笑う。

 

「いいよな、ガードナーとの融合スキルはよ。俺も自分のエンブリオがガードナーだったらとよく妄想してたぜ。いったいどんな姿になったんだろうってな!」

「抜かせ!このガードナー偏愛野郎が!!」

 

 その言葉もまた、ロゼをいらつかせる。

 フィルルの言葉はガードナーへの心からの憧れから発せられた言葉だが、それを今このタイミングで言うということが言外にロゼを侮っているということを示していた。

 

 笑えない話だ。

 ガードナーを求むフィルルが生みだした、ガードナーではないそのエンブリオに追い詰められている、ガードナーのマスターであるロゼ。

 複雑に絡みあった思いはその戦闘を爆発させる。そこには既に最初の思いはなく、相手を打ち負かすことのみを考えていた。

 

 象の化身から放たれる矢の嵐。フィルルには一発とてまともに当たらない。

 だが、それでもロゼは矢を射続けることをやめない。

 フィルルも攻撃を仕掛けるが、空気噴出能力によって移動するロゼとの距離の差を縮めきれなかった。

 

 互いに千日手。だがその硬直を破るようにロゼは最大の一撃を放つ。

 必殺スキル状態での【弓聖】の奥義、《バースト・サジタリア》である。

 強化されたステータスに加え、空気噴出能力で威力をブーストされたその矢は超々音速で放たれる。

 それはフィルルの身体を捉え、その躰に大穴を空ける。

 

 その姿を幻視した。だが、実際にはそうはならなかった。代わりに身体を砕かれたのは、虎丸である。

 

 《ライフリンク》

 それは従属キャパシティ内のモンスターとHPを共有するスキルである。モンスターと深い絆で結ばれ、モンスターが自分よりも所有者を優先する精神状態であることが前提とはいえ、全滅まで数を減らさずに戦闘を行うことができる有力なスキルだ。

 

 しかし、虎丸とフィルルはこのスキルを使ったのは初めてである。随分前からスキル使用可能だったとはいえ、一歩間違えれば、虎丸を失ってしまうからだ。

 

 故に使用することは避けていたのだが、それを変えたのは皮肉にも虎丸の死であった。

 死からの黄泉返りの際、【屍骸王】が行った《リ・コントラスト・デットマン》は虎丸を不死のアンデットに変えていた。

 

 耐久力に優れたアンデット故にダメージを肩代わりしても即座に死ぬことはなく、ましてその傷の修復が即座に始まるようにノスフェラに調整されている。

 今も身体をフィルルの身代わりに砕かれた虎丸はその躰を即座に修復していた。

 

 それはもう一度同じことが起きてもフィルルにダメージがいかないことを表していた。つまり、生半可なダメージではフィルルを討つことはできない。

 

 その事実はロゼの動きを止め、フィルルもまた、殺されかけたという事実から行動を改める。そして…

 

「そこまでだ二人とも!」

 

 フルメタル、ゆるり、ドリルマンの三人はその硬直を見越していたのか、【セイレーン】から飛び降りる。

 

「俺たちに攻撃の意思はない。だから…頼むから話を聞いてくれ」

 

 両手を上にあげて。それは白旗をあげているようだった。

 

 




《ライフリンク》の仕様が少し違うかもしれませんがご了承ください。


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25.旅団の始まり

原作最新話での情報により、このまま【軍神】という名でいいのかという疑問が生まれ、葛藤中です。


 ◇

 

 お前との約束のあと、俺たちはアルター王国に向かった。

 

 王都にはレジェンダリアにはないジョブや”墓標迷宮”と呼ばれる神造ダンジョンがあったし、ギデオンって街には巨大なコロシアムがあったんだ。

 

 そこでフィガロとも再会してな。元気そうにやっていたよ。決闘ランキング一位になるんだって張り切ってたなあ。フィガロやその知り合いとかいう着ぐるみの奴とも闘技場でのスパーリングした。白熱した戦いだった。今でも思い出すよ、あの時の決闘は…

 

 そう、アルター王国での日々はとても充実していた。ここでなら俺たちはさらに強くなれる。そういう思いでいっぱいだった。

 

 だが、俺たちは強くなれなかった。

 

 レベルもカンストし、エンブリオも第六形態に到達して順風満帆だった。…だけどそれだけだったんだ。そこから先にいけなくなった。

 

 多くのマスターにとっての限界値。限界を超えた力、超級エンブリオや超級職といったより強い力を得ることができなかった。

 

 だけどそれは多くのマスターにとって同じこと。

 そんなことでであきらめる俺たちじゃない。いつかは高みへ到達する日が来ると夢に見て多くのクエストに挑み、…失敗を繰り返した。

 

 単なる実力不足。

 身の丈にあっていないクエストを受けた当然の結果。仕方ないとあきらめ、今度はクリアできるクエストを選び、下位のクエストを消化していく日々。

 

 そしてその穴を埋めるように他のマスターやパーティー、クランが当たり前のように上位のクエストをクリアしていく。

 

 俺たち四人で競り合うにはアルター王国のマスターは強すぎたのだ。

 

 <Infinite Dendrogram>を現実と考え、邁進する宗教集団<月世の会>

 墓標迷宮の最深記録を更新し、いずれは決闘ランキングの頂点に輝くであろうフィガロ

 数多くの戦闘員を抱え、オーナーは決闘ランキングにおいてフィガロと競うほどの<バビロニア戦闘団>

 そして、数多くの犯罪に手を染める闇社会、犯罪界の王。

 

 …俺たちが決して弱いわけではないことはわかっている。…それでも頂点には届かないのは明白だったんだ。

 

 だけど、約束があった。

 

 フィルル、お前と交わした約束。強くあろうとする約束だ。

 

 俺はそのためにより多くの努力を重ね、限界を超えた力を手にしようとした。

 

 頂点に届こうとして…疲れてしまったんだ。

 

 昔、話したろ。多くのマスターがデンドロの世界が嫌になってやめていくって話。

 

 俺たちはそう(・・)なりかけてていた。

 

 ゲームの世界で無理をしてまで頂点を目指そうとする。それはただのストレス(・・・・)だった。娯楽のはずのゲームが、ただのストレスになっていたんだ。

 

 そのストレスのせいで犯罪に手を出したのかって?

 

 違うよ。ただ俺たちは強くなるのをあきらめてしまっただけなんだ。…強くなろうと約束したお前に言うのは憚られるけどな。

 

 だから強くなるのではなく、人助けをしようということになった。

 

 モンスターが跋扈する世界。犯罪者も平気で大規模破壊を行う。マスターによる犯罪の上昇は歯止めが効かない。この世界では多くのティアンが困っている。それの助けとなろうとした。

 

 それはうまくいったさ。俺たちは戦闘パーティーではなく、人助けパーティーとなった。無償で慈善活動を行うパーティーなんて王都にもそうはいなかったからな。

 

 ティアンたちの感謝の言葉。あれはうれしかったなあ。俺たちでも感謝される。喜ばれることがあるんだって。

 

 フィガロも手伝ったりしてくれてな。知ってるか?アイツすんごい常識ないんだぜ。孤児院で料理を振る舞うときなんか大変だったんだ。

 

 それでも楽しかったんだ。慈善活動はティアンたちだけじゃない。俺たちの心も、デンドロでのストレスを緩やかに癒していった。

 

 …そうして有名になれば人が集まる。

 

 ”俺たちも参加させてくれ”、”困っている人を見過ごせないんだ”、”面白そうだ”

 

 そんな奴らが集まってできたのが、”幻獣旅団”

 

 総勢九名の小さなクランだった。

 

 名前の由来はメンバー全員が幻獣に由来したエンブリオを持っていたからだな。

 

 それでも数が多くなれば、やれることも増えてくる。アルター王国だけでなく、他の国の困っている奴らを見過ごせないってな。

 

 リアルでのネットや、ティアンたちの草の根の声を通して、ドライフ皇国で飢餓が広まっていると聞けば、食料を持って行ったし、カルディナのある街で水不足が発生したと聞いたら、水を運んだりした。海上国家のグランバロアに海では取れない薬を運んだこともあった。

 

 …だけどな、その頃からおかしな話が出始めたんだ。

 

 ”幻獣旅団”が立ちよった場所で数多くの盗みが起きている。それも権力者のみを狙った盗みがだ。

 

 無論俺たちには心辺りがなかった。

 確かに無償でやって採算が取れているのかと外野から言われることは多かったが、それは俺たちが狩りをして集めたお金だ。

 

 決して、盗みをしてそのお金で慈善活動をしているわけじゃない。

 そんな誤解をしてほしくない。

 俺たちはそう叫んだ。

 

 だが、ティアンの反応は違ったんだ。

 悪い奴らから金を盗んで、私たちを助けてくれる、”幻獣旅団”こそ『正義』の集団だと。

 

 俺たちは否定したさ。だけど、民衆の熱狂とその『正義』という言葉の魔力には逆らえなかった。

 

 俺たちは”義賊”ということになっていた。犯罪なぞ犯していないが、犯罪を犯したとして褒め称えられる。明らかにおかしな状況だったが、その歓声に酔っていたんだな。

 

 …すぐに気づくべきだった。そんなものはまやかしだと。偽りなんだと。

 

 そこから、被害にあった権力者の家から”幻獣旅団”から予告状が贈られることになった。無論、俺たちには心辺りがなかった。

 

 だけど放置してしまったんだ。

 俺たちには関係ないと。

 盗まれたのは金持ちの財産だ。

 所有者は傷一つ負っていない。

 心配してやる必要も否定してやることもないと。

 

 …そうして事件は起きた。

 

 ギデオンの権力者宅に何者かが侵入し、住人を皆殺しに金品をすべて盗む強盗事件。その家にも”幻獣旅団”の予告状が送られていた。

 

 熱は一気に冷めた。   

 

 あれほど、熱狂していた民衆は掌を返し、”幻獣旅団”を『悪』の集団と断罪した。俺たちは否定したが、誰も信じてくれるものはいなかった。

 

 このままではまずいと思い、俺たちは犯人捜しを始めた。本当は強盗殺人事件を誰がやったのかを。

 

 犯人はすぐに分かった。

 

 ”幻獣旅団”の初期メンバーだった。俺たちの活動に賛同し、困っている人を助けたいと集まった最初の五人全員が犯人だった。

 

 ”幻獣旅団”は紛れもない『悪』の集団だった。

 

 俺たちは彼らを糾弾し、彼らに罪を償うように言った。クランの運営のためにやったのだとしてもそれは許される行為ではない。目先の欲にかられてはいけないんだと。ティアンを皆殺しにするなんてあってはならないと。

 

 だが、彼らの答えは非情だった。

 

「雇い主からの言葉を代弁しましょう。あなたたちも悪いんですよ。マスターに無償で慈善活動なんてされたらこっちも商売あがったりだ」

 

 …その言葉の意味を理解できなかった。脳が理解を拒んでいた。

 

 その瞬間を彼らは見逃さなかった。彼らはエンブリオの能力によって即座にその場から消え失せた。

 

 そうして残ったのは俺たち『悪』の犯罪クラン”幻獣旅団”だった。

 

 俺たちはすぐに彼らを追った。

 だけど、指名手配されている身では限界があった。”監獄”送りにされないように身を潜めることで精いっぱいだった。

 

 …またも引退の影がちらついた。今度は紛れもなく心からの思いだった。

 

 強くなるという目標を捻じ曲げ、慈善活動なんかに手を出し、挙句の果てに犯罪者集団だ。

 

 もはや、約束を反故にした俺を引き留めるものはなかった。

 

 …だが、ある噂を聞いた。”幻獣旅団”がレジェンダリアの権力者に予告状を送ったと。

 

 間違いない彼らの仕業だ。レジェンダリアはアルターとは違い、まだ”幻獣旅団”の悪評が広まっていない。どういう目的があるかはわからないが、彼らはレジェンダリアにいる。

 

 そして、俺たちはレジェンダリアに戻ってきた。

 

 …だけど、まさかここにお前がいるとは思わなかったぞ。フィルル。

 

 ◇

 

「待ってくれ、つまりそれはお前たちがはめられたってことなのか」

「そうだ」

 

 俺の要約にフルメタルが大きく頷く。

 

「そして殺人を厭わない本当の”幻獣旅団”がコルガッツォ邸を狙っているってのか」

「そうだ。だからここで戦闘なんてしてる場合じゃなかったんだ」

「クソ。俺の判断ミスかよ。昔の仲間を信じられないなんて!」

「それはこっちも同じです。フィルルさんと戦闘行為を行うなんて…」

「…」

 

 ロゼはバツが悪そうにしている。…ま、俺も人のこと言えないからいいけど。

 

「…とりあえず、それをアイツらにも伝えておくか」

「アイツら?」

「ああ、マルコっていう俺と一緒に護衛クエストを受けている…」

「なんだと!」

 

 フルメタルが大きな声をあげる。それは今まで見たことがないフルメタルの表情だった。そしてそれはほかのメンバーも同様。ロゼなど俺に先ほど見せた気迫が嘘だったかのような気迫、いや鬼迫だった。

 

「いったいどうしたっていうんだ?」

「マルコ。そいつは”幻獣旅団”のメンバーだった男の名だ!」

「…え?それって、まさか…」

 

 瞬間、俺たちの周りに幾千幾多の糸が張り巡らされた。その糸はかなりの粘着力を持っており、触れた体は何一つ身動きを取れなくなっていた。 

 

「言ったはずですよ、フィルル。”幻獣旅団”の言葉に惑わされてはいけないと」

「…マルコ」

「…じゃないと、君も始末しなくちゃいけなくなりますからね」

 

 そこには如何なる手段を使ったのか。マルコが、いや一緒に護衛クエストを受けたメンバー五人全員がいた。

 

「まあ、俺たちもその”幻獣旅団”なんですけどね」

 

 マルコは何が可笑しいのかその言葉を満面の笑みを浮かべて発する。…それは俺に向けられた言葉ではなく、かつての仲間に向けた嘲りの言葉であった。 

 

「マルコォォォッォ!!!」

 

 フルメタルの絶叫が木霊する。それは怒りの発狂だった。

 




マルコ達が”幻獣旅団”だったんだよ!(知ってた)


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26.マルコ・ポーロ

マルコはそんな悪い奴じゃないよ


 ◇

 

 マルコの嘲りの言葉に対して、フルメタルが、ロゼが、ドリルマンが、ゆるりが絶叫し襲いかかろうとする。だがしかし、フルメタル達は身動きひとつとることはできなかった。

 

 周りに張り巡らされたされた幾千幾多の糸が原因である。上級エンブリオの必殺スキルによって生み出されたその糸は粘着性や強度が異常に発達していた。

 

 しかし、それで動きを止めるフィルルではない。【三源輝套 クリスタリブ】のスキル、《エレメンタルプロダクション》を発動し、【スポアエレメンタル】を大量展開する。しかし、生み出された胞子たちもまた、その糸に体を絡まれてしまい、身動きをとることができない。

 

 だが、それはフィルルの想定通り。彼には【喝采劇場 アンフィテアトルム】がある。自身と【スポアエレメンタル】のステータスを強化すれば糸を無力化できると考え…動くことができなかった。

 

 【輝く劇場の主役】により、ステータスだけでいえば神話級に匹敵するフィルル。その膂力をもってしてもその糸から逃れることはできず、動きを封じられてしまっていた。

 

「神話級特典武具をもっているから、不安だったんだがな。無力化できたみたいで良かったぜ」

 

 恐らくはこの糸を展開しているマスターがフィルルに対して、言葉を放つ。フィルルはそれをあえて無視し、彼らのリーダーであろうマルコに声をかける。

 

「マルコ。説明をしろ」

「説明とは一体何を?」

「全てだ!!」

 

 フィルルの威圧にどこ吹く風のマルコ。だが、フィルルの問いに対して、いやその表情に対して満面の笑みを浮かべ全てを語りだした。

 

「全てと言われましてもね。そうですね、まずはなぜ俺たちが慈善事業に興味がある振りをしてフルメタルたちに近づいたかですが、既にフルメタルに答えたとおり雇い主の命令です。その方はアルター王国の有力者なのですが、マスターが無償の奉仕活動をしているのがお気に召さなかったようです。マスターにそんなことをやられては搾取している側の彼の利益が減ってしまうと考えたわけですね。まして、アルター王国に所属している訳でもないフリーのマスターなど潰す理由しかありませんでした。だから、以前から彼の手足となっていた私たちにフルメタル達を潰せと言われました。方法を考えたのも彼です。”幻獣旅団”の一員として慈善活動を支える傍ら、犯罪行為を繰り返すようにね。誤算があったとすれば、民衆の反応でしょうか。あろうことか、”幻獣旅団”を『正義』の義賊として持て囃したのですから。自分のことながら笑いが止まりませんでしたよ。ああ、なんと民衆は愚かなのだろうと。そこから、雇い主の指示で犯罪行為はエスカレートさせていきました。 予告状を送り”幻獣旅団”の存在を誇示させたりもしました。それでも民衆の熱狂は止まりませんでした。しかし、何より笑えたのはその状況に悦に入ったいたフルメタルたちでしたよ。フフフ。まあ、そんな状況を雇い主が許すわけもなく次は強盗殺人をすることになりました。ターゲットは雇い主の商売敵。ちなみに今まで盗んだものは全て、雇い主の元にあります。金品財宝、マジックアイテム、機密書類などをね。まったく、”幻獣旅団”の悪名を広げるだけにあきたらず、自身の私腹を肥やすとは素晴らしい悪党でしたよ、彼は。…ですが、やはり面白かったですね、あのときは。”幻獣旅団”が『正義』から『悪』に変わる瞬間、そのときのフルメタルたちと民衆の顔といったら。あれだけでもこのゲームをやっていた甲斐があったというもの。そして、いままで気にもしていなかった盗賊の行方を必死に探しだす様。そして、犯人が俺たちだと知ったときの様。そして、理由を告げたときの様。ア、アア、いま思い出しただけでも絶頂しそうです。…そういえば一番大事なことを伝えるのを忘れてました。私たちの雇い主、その名前は…いえ、やめておきましょう。語っても意味のないことです。既に私たちに殺された(・・・・)男のことなど語ってもね。ええ、本当に大した悪党でしたよ。強盗殺人事件の際、フルメタルたちだけでなく、俺達も広域指名手配されてしまいましてね。事を起こしてもフルメタル達だけが指名手配されるって話だったんですが…まあ、裏切られましたね。あるいは俺達への締め付けを強めて、より手綱を握ろうとしたんでしょうが、逆効果でしたね。しかし、雇い主を殺すときも興奮しましたね。自分が殺されるとは微塵も思っていない人間を真正面からいたぶって殺すのは。あの瞬間を味わえたのなら、指名手配になった甲斐があったというもの。そもそも、指名手配になっても殺されなければ問題はないですからね。しかし、そのためには戦力がいります。だから今回の盗みを考えました。ええ、今回のお宝は至高の一品。これがあれば監獄なぞ怖くはない。お宝は雇い主の裏ルートから手に入れた情報です。まったく、殺してからも役に立つなんて見上げた雇い主ですよ。盗みのためのマジックアイテムもたくさん仕入れることができましたしね。それに今回の事件で”幻獣旅団”の名前を出せば未だ監獄に送られていないフルメタル達を”監獄”に送るという最高の光景を目にできそうでしたしね。しかし、フィルル、あなたの存在は想定外でしたよ。今回の護衛クエストの関係者は全て”幻獣旅団”のもので固めていたというのに。しかも、神話級の特典武具を持っているとなれば警戒します。だから、予定を変更してフィルルとフルメタルをぶつけることにしました。しかし、また誤算が…まさか、フィルルとフルメタルが知己だったとは。まあ、仲間達が殺し合うという光景を見させていただいただけで幸運でしたよ。あれは最高のご馳走でした。だからデザートにあなた方を”監獄”に送ろうと思います。それはそれは最高の一瞬でしょう。ああ、安心してくださいフィルル。あなたも監獄送りです。盗みを犯したあとも、あの男を生かしている理由はただひとつ。証言してもらうためですよ、護衛クエストにかかわっている全員が”幻獣旅団”だと。そうすればフィルル、あなたも無事に”監獄”に行けます。否定すればすぐに間違いだとわかるでしょうが、いまここで殺されてしまえば、三日間はこのゲームに関われない。それだけの時間があれば、君のつぎのログイン先は”監獄”。掃き溜めのなかで自らの無実を叫ぶしかないのです」

 

「そうか…なら死ね」

 

 瞬間、張り巡らされた数多の糸に絡まれていたはずの千の胞子が一斉に発光し、大爆発を引き起こした。それは糸を燃やし尽くし、マルコ達を包み込んで彼らを死へと、”監獄”へと誘う。

 

 ◇

 

 

 【三源元素 クリスタリヴ】の生みだすエレメンタルたち。彼らの攻撃の中で最も強力なのは自身のMPを破壊エネルギーに変換して放出するオーラ攻撃である。実際にその攻撃でフィルルは従魔のすべてを失い、ノスフェラは甲骸と兵骸と自身の半身を砕かれている。

 故に【三源元素 クリスタリヴ】が神話級特典武具【三源輝套 クリスタリヴ】となったあとでも変わらない。《エレメンタルプロダクション》で生みだした【スポアエレメンタル】もまたオーラ攻撃が可能なのである。

 

 しかし、本来のMPで行われるオーラ攻撃は【リトルゴブリン】を殺すことすらできないだろう。しかし、【光る劇場の脇役】によって、【スポアエレメンタル】はカンストした魔法職と同等なMPを得ている。それが千体。その同時オーラ攻撃は上級マスター五人など容易く消し去る…はずだった。

 

「中々の威力です。六枚は砕かれましたね。他の皆さんは…今ので”監獄”送りですか。非常に残念です」 

 

 一番殺したかった男は平然とその場に立っていた。

 

「どういう理屈だ!あの攻撃を喰らって」

「考えられるとすれば、エンブリオの防御スキルか」

 

 フルメタル達がマルコがどうやってフィルルの攻撃を防いだのか推測している最中もマルコはその語りを止めることはない。

 

「ええ、非常に残念です。…私が彼らを”監獄”に送りたかったのに。共に悪事を働き、雇い主に裏切られ殺し、喜びも悲しみも共にした彼ら。そんな彼らを俺がこの手で殺し、”監獄”送りにする。その日をどれだけ待ちわびていたことか。ゆっくりとゆっくりと熟すその禁断の果実を口にする日を、今か今かと待ち焦がれていたというのに…まったく殺しますよ」

 

 その日、初めてマルコは怒りを見せた。仲間を殺されたことではない。それは飛びきりおいしい食事を目の前で取られてしまったことに癇癪を起こす子供のような怒りであった。

 

 だが、今やフィルルたちを縛る糸はない。故にフィルルは超音速機動でマルコに攻撃を仕掛ける。だが、その攻撃をマルコは容易くいなす。

 

 カンの良さで防いだのかと、フィルルは拳による猛攻を止めることはない。しかし、拳は一度もマルコを捉えることはない。まして、マルコはフィルルの拳に合わせてカウンターを仕掛ける。それは見事成功し、フィルルの身体を吹き飛ばす。

 

 吹き飛ばされながら、フィルルは疑問を覚える。

 

 おかしい。奴はカンストした上級マスター。そのジョブは【剛闘士】。いくら持ち前の戦闘センスがあっても十倍以上のステ―タス差をひっくり返すことはできないはず。

 

「やはりエンブリオの能力か」

 

 体勢を戻しながら、そう結論付けるフィルル。

 

 その間にフルメタルとロゼがマルコに攻撃を仕掛ける。フルメタルは拳に【ナーガ】を纏い、ロゼは再び必殺スキルを発動する。さらに、ドリルマンも自身のエンブリオ【ユニコーン】を展開する。

 

 第六形態に到達したドリルマンのエンブリオ、【回転列馬 ユニコーン】は巨大なドリルが付いた砲塔列車である。小回りが利かないとはいえ、その最高速度は超音速。その速度と回転するドリルにより起こる衝突は伝説モンスターすら容易く礫殺する。

 

 しかし、その一撃をマルコは容易く回避する。マルコの回避速度もまた超音速。同じ超音速機動同士ではどうしても小回りが利く方が有利となる。

 

 ロゼの超々音速の矢や砲塔列車の突撃、フルメタルの拳のラッシュ、そしてフィルルの音の四倍の速さの怒涛の攻撃。それらすべてを相手にマルコは生き残っていた。

 

 【スポアエレメンタル】のオーラ攻撃を防ぐ防御力、超音速起動が可能な速度、そしてカウンターとはいえ、フィルルにダメージを与える攻撃力。

 

「奴のエンブリオの能力は一体なんなんだ?」

 

 




マルコはかなりヤバイ奴だよ。

果たして、マルコのエンブリオの能力は一体なんなのか。次回までに考えておこう(作者が)


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27.【黄金無装 ファフニール】

ファフニールって幻獣だっけ?幻獣だな。よし、幻獣。君も幻獣旅団の一員だ!!!


 ◇

 

 マルコのエンブリオの能力は一体なんなのか。

 

 フィルルは戦いの最中もその推測を加速させていく。

 

 現状考えられるのはステータス上昇能力。

 

 神話級のステータスを誇るフィルル相手に格闘戦をして殴り勝つことは最低でもその半分のステータス、つまり伝説級以上のステータスが必要であろう。現にマルコの今の動きやパワーは古代伝説級にも匹敵している。

 

 しかし、フィルルは真っ先にその可能性を否定していた。

 

 フィルルのエンブリオ【喝采劇場 アンフィテアトルム】の必殺スキル、《終劇は万雷の喝采と共に》は他者のスキルによるステータス上昇を自身に加えるというもの。

 

 その性質上、フィルルは【アンフィテアトルム】の領域内のスキルによるステータス上昇を感覚的に知ることができる。

 

 そして、マルコにはその反応がない。つまり、破格のステータスを獲得していながら、マルコはステータス強化スキルを全く使っていないのだ。

 

 考えられるとすれば…スキルではないステータス上昇。しかし、そんなことがありえるのか?

 

 <Infinite Dendrogram>の世界でステータスをあげる方法は大きく分けて三つ。ジョブレベルを上昇させることによるステータスアップ。装備品によるステータスアップ。そしてスキルによるステータスアップだ。

 

 しかし、スキル以外の方法ではどれも大きなステータス上昇を見込めない。まして、マルコのジョブは【剛闘士】、ステータス上昇に優れているジョブではない。

 

 では消去法で装備品か?マルコは雇い主の遺産により強力な装備品を得ることは容易いだろう。しかし、強力な装備品にはレベル制限が付きまとう。それこそ、合計レベル五百の人間が超級職を圧倒するほどのステータスを得ることは難しいだろう。

 

 レベル制限のない特典武具による可能性も考えたが、それによる装備補正の限度もしれてる。ステータスを十倍近く強化するなんてことはできないはずだ。

 

 …そこでフィルルはマルコの言葉を反芻する。

 

「まさか…だがレベル制限によらない装備品ならもう一つ存在する…か」

 

 そしてそこから導き出される奴のエンブリオの正体は…

 

 ◇

 

 フルメタル達とマルコの激突は白熱していた。

 

 四対一という不利な状況ながらもフルメタル達の猛攻を凌いでいるマルコ。その顔には笑みを浮かべ、どこか余裕すら感じさせるようだった。

 

 対して数の上で有利なはずのフルメタルたちは攻めきれない様子にいらだっているようだった。

 

 …だが、それもここまでだ。フィルルが再び戦線に参加し、【スポアエレメンタル】を放ちマルコを取り囲むようにする。

 

 

 この包囲網を突破するのは簡単ではない。簡単ではないが…マルコのステータスからすれば、小さな穴を見つけ抜け出すことは十分可能だった。

 

 しかし、その穴はフィルルの作った罠。あえて、包囲網に穴を作りマルコの進行方向を限定させた上で脱出させる。そしてマルコが脱出した瞬間に猛攻撃を仕掛ける。

 

 それは不可避のオーラ攻撃。しかし、それを喰らってもマルコは立ち止まらない。その攻撃の中を掻い潜り、否、その身に攻撃を受けながらも生き残った。

 

 その一部始終を見届け、フィルルは結論付けた。今の欠片(・・)は間違いない。

 

「奴のエンブリオはアクセサリーの装備数を上昇させる能力を持っている」

 

 それはマルコのエンブリオの正体の半分を看破していた。

 

 ◇

 

 マルコのエンブリオの名は【黄金無装 ファフニール】。第六形態に到達している黄金の指輪の形をしたエンブリオである。

 

 その能力は単純明快。アイテムボックス内のアクセサリーを『装備状態』にできるというもの。即ち、装備せずともアイテムボックスに入れておくだけでその能力を得られるということだ。

 

 そして【黄金無装 ファフニール】の常時発動型必殺スキル《黄金は人を醜悪に着飾る(ファフニール)》によってマルコが『装備状態』にできるアイテムの数はいまや百に到達している。それは百のアクセサリーを装備できるのと同義であった。

 

 アイテムボックスが故に外的攻撃でアクセサリーが破壊される可能性は低く、さらに能力を他人に知られる可能性は限りなく小さい。現に元パーティメンバーのフルメタルや”監獄”送りとなったマルコの仲間はそのことを全く知らなかった。

 

 能力発動中にアイテムボックス内で壊れたアクセサリーはその場に放出されるという奇妙なデメリットを抱えていたが、その能力は凄まじい。

 

 何より【ファフニール】の能力で最もシナジーが大きいアクセサリーは【救命のブローチ】である。

 

 【ブローチ】は《九死に一生》という致命ダメージを受けた際に一度だけ無効化するという効果を持っている。破格の性能故に【救命のブローチ】は破損した場合、24時間は【救命のブローチ】を装備できないという制約がある。

 

 しかし、【ファフニール】はその制約を無力化できる。実際に装備するのではなく、『装備状態』にするという特殊な能力が生みだした奇蹟、あるいはエラー。超常の力をもつエンブリオだからこそ、マルコは【救命のブローチ】を24時間という制限なく使うことができる。

 

 百の内、七十をSTR、AGIの上昇させるアクセサリーを、残り三十を【救命のブローチ】に設定している。三十はマルコの持っている【救命のブローチ】の数そのものだったが、いまやその残りは二十四枚。

 

 マルコとしてもこれ以上の【救命のブローチ】の破壊は避けたいところだった。

 

 しかし、慎重に動こうとした瞬間、フィルルに自身のエンブリオの能力を半ば当てられたマルコはその状況に歓喜(・・)する。

 

「素晴らしい、素晴らしいです。フィルル。半分だけとはいえ、私の【ファフニール】の能力を当てるだなんて。せっかくの殺意も吹き飛んでしまいました!ヨロコビのあまりにね。ご褒美に素晴らしいことをお教えしましょう。あなたはもう気づいているかもしれませんが私は後二十四枚の【救命のブローチ】を使えます。どうです?絶望しましたか?しないでしょうね!ええ!最初私が持っていた【救命のブローチ】の数は三十。その二割をあなた一人に砕かれている。このまま戦闘が長引けば、あなた一人にすべての【ブローチ】と私の命が奪われることになる。ですが、この俺に何度も同じ手が通用すると思いますか?断言しましょう。これから先あなたの攻撃は私を傷つけることは…」

 

「長くなりそうだし、勘違いしているようだから言っとくぜ。お前を殺すのは俺じゃない。フルメタル達だ」

 

 その言葉の意味を図ろうとしたマルコの一瞬の隙、その隙をフルメタルの拳は見逃さない。

 

「《ストームゥゥ・フィストォォォッォ!!!》」

 

 それは五十を超える鉄拳の嵐。その全てをマルコは避けることができず、その拳を全身に叩き込まれた。 

 

 本来ならば、隙をついたところで精々亜音速のフルメタルの攻撃など避けることは容易い。だが、この時のフルメタルはサーフボードに乗っていた。そうゆるりのエンブリオである【飛翔歌唱対翼 セイレーン】にだ。 

 

 そしてゆるりは必殺スキルである《絶唱の協奏曲(セイレーン)》を発動していた。命を削る歌と引き換えに【セイレーン】に騎乗しているものに対して、絶大なバフを行うスキル。これにより、フルメタルは伝説級を超えるステータスを獲得していた。

 

 しかし、いくらステータスを強化していようと相手はあのマルコ。一瞬の隙をつき拳を叩き込むのは難しい。それを為したのは紛れもなくフルメタルの実力と彼らのチームワークによるもの。

 

 王国のランカーとの決闘や、討伐クエストで培った戦闘技術は彼らを決して裏切ったりはしなかったのだ。

 

「で、す、が、それになんの意味があるのです?あなたの拳で砕かれた【救命のブローチ】の数を教えてあげましょうか!ゼロですよ、ゼロ!フルメタル!あなたの貧弱な拳ではいくら攻撃をしたところで無意味!さあ、絶望を教えて…」

 

「気づいていないのか?お前はもう終わっている」

 

 フルメタルが告げたその言葉にマルコは激昂する。

 

「人が、まだ、しゃべってる、途中でしょうがぁぁああ!」

 

 マルコがフルメタルに殴りかかろうとしたその瞬間、地面を踏み込んだ足が砕け散った。いや、もはや足と呼べるものは存在していなかった。

 

 それもそのはず、フルメタルの籠手型のエンブリオ【毒纏拳牙 ナーガ】の能力、《毒牙減衰》によってマルコのステータスは大幅に削られていた。

 

 【救命のブローチ】を頼りにしていたためか、マルコはアクセサリーでENDを強化することはなく、その数値は三千にも届かない。そして、ステータスが高いといっても相手は同じレベルのマスター。減衰されることなく、放たれた五十の毒牙はマルコのENDをマイナス二千近くにまで下げていた。

 

 よってマルコは自ら踏み込んだ反動で骨が折れ、肉が崩れる。その足では自慢の超音速機動もできない。いくら【救命のブローチ】があろうともただ砕かれるだけ…フルメタルが告げていたとおり、マルコはフルメタルの拳を受けた時点で敗北が、”監獄”送りが決定していた。

 

「さてと、お前にあといくつ【救命のブローチ】があるかは知らないし、どうでもいい。だけどな。列車に轢かれ続けて一体いつまで持つかは興味あるな」

 

 足が砕かれ地面に平伏し身動き一つ取れないマルコ。そんな彼に近づいてくるのは巨大なドリルを回転させる巨大な鉄列車。 

 

 これから起こるのは圧倒的な殺戮。最早豆腐以下の強度となったマルコの全身を轢き潰していく【回転列馬 ユニコーン】。【救命のブローチ】によって即死はしないだろうが…それはただの生き地獄。二十四の【救命のブローチ】が砕かれるまでの間、マルコは自身の体を永遠と礫殺されるのであった。

 

 

「終わったか…」

「ああ、これでマルコを”監獄”に…」

 

 その瞬間、【回転列馬 ユニコーン】が切り刻まれ破壊される。それを為したのはまさか今”監獄”に送ったはずのマルコなのかと疑問に思う一同。

 

 …だがマルコの方がましだっただろう。

 

 その斬撃は【回転列馬 ユニコーン】によってマルコの全身が砕かれる過程で、コルガッツォから盗みだした()が砕かれ、その中身が溢れ出てしまったことによるもの。

 

 そこから溢れ出たのは異形の悪魔。細長い腕とそれに持つ双刀、非常に発達した逆関節の脚、そして肉を極限まで削ぎ落としたその体躯からは刃の如き鋭い殺気を放っていた。

 

 それこそは古代伝説級UBM【錬鉄武双 シノギタチ】である。

 

 




【悲報】マルコは前座



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28.【錬鉄武双 シノギタチ】

珠の詳細は原作を読んでいただいた方がわかりやすいです。


 ◇

 

 …ああ、やられてしまいましたね。フルメタルのエンブリオはステータスを減少させるもの。初めての体験ですが、おそらくENDがマイナスになると肉体が自身の力によって砕けてしまうのでしょう。私としたことが迂闊でした。肉体が動かなければAGI三万も無駄。そして身動きが取れなければ幾ら【救命のブローチ】があっても意味はない。列車に轢かれ続けてジエンドですね。”監獄”に送られてしまうとは…楽しみですね。”監獄”は悪党たちの巣窟。その中でどれほど素晴らしい光景が見られるかと思うと胸が躍ります。フルメタルにやられたことは腹立たしいですが…どうせ彼らもすぐに”監獄”送りです。俺を殺すのに列車で殺したのはいいですが、それではあれが壊れて中のモノが出てきてしまう。神話級UBMを倒したフィルルがいるとはいえ、フルメタル達はまず助かりませんね。”監獄”送り決定です。ええ、”監獄”に堕ちた彼らとまた遊びに興じるとしましょう。

 

 ◇

 

 古代伝説級UBM【錬鉄武双 シノギタチ】は珠に封じられていた存在である。それ故にその球が砕かれればそこからはその中身が溢れ出る。

 

 ではUBMが封じられている珠とはそもそも何か。

 

 UBMを封じるなどという行為はだれにとっても不可能のはず。だが、ここに例外が存在する。

 

 それは六〇〇年前の【龍帝】黄龍人外の手によるもの。歴代の【龍帝】の中でも最強と謳われた黄河の、いや東方の頂点。

 

 その強さ故に彼は多くのUBMを討伐し、そして考えていた。

 

 彼一人が多くのUBMを倒してもそれは彼ひとりだけの力。それでは黄河は発展しない。

 

 彼だけでなく、多くの者に強大な力を使わせる必要がある。

 

 もちろん歴代最強の【龍帝】とは言え尋常な道のりではなかった。

 

 だが、彼のその執念はその術を生みだした。強大なモンスターを封じ込めて使役する術、宝物獣の珠である。

 

 それは内部に<UBM>を生きたまま閉じ込める物質化した結界である。そして、球はその内部に封じ込められた<UBM>の力の一端を引き出し、行使することが可能である。

 

 実際にマルコは【錬鉄武双 シノギタチ】の能力の一部を使っている。

 

 フルメタル達との戦いでマルコはアイテムボックス内のアクセサリーの内、三十を【救命のブローチ】、残り七十をSTR、AGIを上昇させるアクセサリーにそれぞれ三十五ずつ設定していた。

 

 ただそのアクセサリーは【救命のブローチ】に比べれれば価値は些か以上に劣るもの。

 

 レジェンダリアではステータスを固定値で100上昇させるマジックアイテムが多く流通している。マルコの用いていたアクセサリーはそれの上位版でステータスを固定値で300上昇させるもの。

 

 これを【黄金無装 ファフニール】で装備すれば確かにSTRとAGIは一万以上上昇する。伝説級に匹敵するステータスを獲得できることになる。だが、それでは神話級のステータスを誇るフィルルには通用しない。

 

 しかし、それを覆したのが宝物獣の珠である。

 

 それは【錬鉄武双 シノギタチ】が持つスキルの一つ、《武双強化》によるもの。それは武具を強化することができるスキル。武具の性能を三倍にするというモノ。

 

 それにより、ステータスの上昇は三万を超えて、彼の戦闘センスとジョブスキルを掛け合わせれば十分フィルルに対応できるものとなる。さらには【救命のブローチ】にも強化が加わり、その継戦能力に磨きがかかる。

 

 故にマルコのエンブリオ【黄金無装 ファフニール】と【錬鉄武双 シノギタチ】のシナジーは最高峰。マルコがコルガッツォからそれを盗みだしたのも納得がいくというもの。

 

 だが、そもそもなぜコルガッツォは宝物獣の珠を持っていたのか。

 

 歴代最強と謳われた【龍帝】黄龍人外は数多くの宝物獣の珠を生みだしたが、自らの寿命には勝てなかった。そして【龍帝】が死んだ後にあったのは、次期皇帝の座を争う醜い内乱であった。

 

 それ自体はあまりにもあっけなく解決するのだが、その長い戦いのなかでも一度も宝物獣の珠は使われなかった。

 

 多くの理由があるが、一番大きいものは宝物庫の存在であろう。宝物獣の珠が収められた最奥宝物庫は、皇帝か【龍帝】にしかカギを開けることが許されない。

 

 正規の手順を踏まねば、宝物庫ごと世界から消滅するという機能もあったため、後継者争いをしている黄河には宝物庫を開けられるものは存在しない。

 

 そして、皇帝が決定した内戦終結後も宝物庫から宝物獣の珠から出されることはなかった。

 

 …ただ一度の例外を除いて。

 

 それは皇帝が、西方へ旅立つ民に”虎”の珠を与えたとき。そのとき、確かに宝物庫は開かれた。

 

 一度開けられてしまえば、そこに付け入る隙ができる。

 

 当時の【盗賊王】にして【強奪王】、そして【大怪盗】の三つの超級職に就いたモノの手口。宝物庫を開けた皇帝にも気づかれることなく、いくつかの宝物獣の珠を盗みだした。

 

 【龍帝】黄龍人外が遺した魔術式トラップを満載した宝物庫はそのモノにしても盗みは容易ではなかったが、それでも片手で数えられるほどの数は盗みだして、自らの一生の宝とした。

 

 その後600年の月日が流れ、そのうちの一つである【錬鉄武双 シノギタチ】を封じた宝物獣の珠を霊都西方の流通を支配していたコルガッツォが手に入れた。

 

 そしてその情報を裏社会で暗躍するマルコの雇い主、いやマルコに知られてしまったが故に今回の事件は起こったのだ。

 

 ◇

 

 600年の長い月日、結界からようやく解放された【シノギタチ】が真っ先に考えたのは如何に自らの腕を取り戻すかということ。

 

『600年。UBMの我が身とはいえ、余りにも長い月日。瞑想する時間はあれど、鍛錬する自由はなし。この身が解き放たれた今日という日に感謝を。そしてそれを為した貴殿らにも同等の感謝を』

 

 言葉を発し、フィルルたちに自らの現状とそこから解放したことに対する感謝の言葉を伝えてくる【シノギタチ】。

 だが、フィルルたちはその言葉を額面通りに受け取ることはできなかった。なぜなら【シノギタチ】が発する刃の如き鋭い殺気は今この瞬間も鈍ることはなく、より研ぎ澄まされているからだ。

 

『戦いを見ていた。貴殿らと賊との戦いだ。珠に封じられた身ではあったが、あれは素晴らしき仕合であったよ』

 

 その刃はこの瞬間も標的を探していた。

 

『貴殿らに最大の賛辞を。あるいは貴殿らと戦えば、この身の錆も取れるやもしれん』

 

 そしてその刃はフィルルの首元に突きつけられる。

 

『嫌とは言ってくれるなよ、素晴らしき好敵手たちよ。では…死合おうぞ』

 

 その瞬間、フィルルは首を斬られる自分の姿を幻視した。

 

『【錬鉄武双 シノギタチ】、推して参る!!!』

 

 その言葉と同時、双刃が超音速で迫る。

 

 フィルルは【シノギタチ】の気迫に押されつつも戦闘体勢をとる。今見たのは自らの恐怖心が生みだした幻想と信じて。

 

「そうだ。奴は所詮、古代伝説級UBM。そのステータスは俺よりも低い」

 

 その言葉は真実。神話級のステータスを誇るフィルルの速度はステータスに秀でる純粋性能型ではない【シノギタチ】に劣るものではない。

 

 その速度には四倍近い差があった。…だが【シノギタチ】の動きをフィルルは捉えることができない。逆関節の脚が生みだす独特な歩法が故に、【シノギタチ】は容易くその距離を詰めた。

 

 そして、その双刃もまた人では成し得ぬ軌道によって、フィルルの首を容易く切り裂く。それはフィルルが見た幻視、その再現である。

 

 しかし、それもまさしく幻。《ライフリンク》によってダメージを虎丸に肩代わりさせているが故に、フィルルにダメージはなく、首も胴体から離れてはいない。

 

 だが、その光景に一切の疑問を持つことなく、双刃を振るい続ける【シノギタチ】。それは敵を殺すまでは敵を斬り刻み続けるという意思があるが故に。

 

 逆に疑問を覚えるべきは【シノギタチ】の攻撃である。

 

 今の攻撃は《ライフリンク》がなければ、フィルルの首が飛んでいたことを意味している。それは神話級の耐久力を誇るフィルルの体表を古代伝説級UBMであるはずの【シノギタチ】が切り裂いたということをだ。

 

 それは《武双強化》だけでなく、もう一つのスキル《武双投影》によるもの。自らに利する武具を生みだすスキル。これに《武双強化》が適用されることで、【シノギタチ】の振るう双刃は神話級金属(ヒヒイロカネ)すら両断できる鋭さと硬度を手に入れている。

 

 故に【シノギタチ】の猛攻が続けば、不死の虎丸といえどその許容量を超え、《ライフリンク》が機能せず、フィルルに死を齎すことになる。

 

 その瞬間、双刃の悪魔に超々音速で迫る一筋の矢。それを躱し、矢を放った相手を一瞥する【シノギタチ】。

 

 それは【シノギタチ】に隙を作り、フィルルの窮地を救う起死回生の矢。

 

 さらに第二の矢がロゼによって放たれる。それは必殺スキル状態で放たれる《バーストサジタリア》。古代伝説級UBMであろうとも当たれば大ダメージを与えうるもの。

 

 しかし、あろうことは【シノギタチ】は二度目の矢を、AGIでいえば自身の十倍に匹敵する速度で迫るその矢を切り捨てた。

 

 その光景に驚きつつも、矢を番えることを止めぬ、ロゼ。

 

 そして、第三の矢を放つと同時に、自らの側腹部を一条の閃光がかすめ、血を吹き出すロゼ。

 

 ゆるりはそれを見てすぐさまロゼに回復魔法をかける。ゆるりの迅速かつ適切な処理によってその傷は塞がる。元より致命傷ではないため、ロゼの戦闘続行も可能だろう。

 

 しかし…それよりも今見た光景に絶句するフィルル。

 

 AGIで勝るフィルルには今の光景(・・)が見えてしまっていた。

 

 自身に迫る矢を、貫通力に秀でたはずの【弓聖】の奥義たる一射を【シノギタチ】はその刃で受け止め、一切の威力を殺すことなく、跳ね返したのだ(・・・・・・)

 

 あるいはそれがUBMの持つ特異なスキル、例えば反射やカウンターといったものによって引き起こされたのであればまだわかる。古代伝説級UBMではそれくらいの芸当もありえるだろう。

 

 だが今のは違う。スキルではない、純粋な技術。圧倒的な技巧によって引き起こされた御業。

 

 そして、それを為した【シノギタチ】は…

 

『やはり鈍っておる(・・・・・)。600年前ならば、初矢を敵の脳天に打ち返し風穴を開けることもできたであろうに。まったく老いとは、衰えとは恐ろしい』

 

 フィルルからすれば何よりも恐ろしいのはその衰えているはずの技巧である。超々音速で迫る矢を敵に向けて剣で打ち返すなど見たことも聞いたこともなかった。

 

 ◇

 

 【錬鉄武双 シノギタチ】はステータスはそこまで高くなく純粋性能型とは言えない。

 武具を生みだし、強化するスキルはほかの古代伝説級UBMに比べ別段優れているわけではなく、決して多重技巧型とも言えない。

 まして、ある一つのシチュエーションで無敵を誇るための固有能力をもつ条件特化型とも言えない。

 

 だがここにヒントがある。

 

 仮に、【シノギタチ】が人間範疇生物であれば、剣スキル特化超級職【剣神】の座に就いたであろうほどの才覚を有しているということ。

 

 そう、【錬鉄武双 シノギタチ】は世にも珍しい純粋技巧型(・・・・・)のUBMだった。

 




いつにもまして、ツッコミ所多目だったな(反省)

でもこれがこの二次の魅力だから(真顔)

勢いだけしか取り得ないから(泣き)


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29.約束の果て

 ◇

 

 超絶技巧を持つ悪魔、【錬鉄武双 シノギタチ】はあらゆる場面に対応した剣と技を持っている。故に、自らに迫る矢を相手に跳ね返すといったものもUBMの固有スキルといえるものも剣技において行える。

 

 《剣鏡》は相手の遠距離物理攻撃を一切のエネルギーの減衰無しに相手に否、望む方向へ流せる柔の剣。そしてそれが【シノギタチ】の剣技のすべてではなく、極一部。そう、まさしく【シノギタチ】は”剣”の悪魔であった。

 

 ◇

 

「奴に遠距離物理攻撃が通用しないのは分かった。…だが、これならどうだ!!」

 

 ロゼの矢に対応している間に、虎丸をジュエルに戻し自らの体勢を立て直していたフィルル。さらに【シノギタチ】の周囲に【スポアエレメンタル】を展開する。

 

「剣で矢を跳ね返せても、魔法のオーラは跳ね返せないだろうが!!!」

 

 瞬間、【スポアエレメンタル】達が発光する。それは胞子達のオーラ攻撃の合図。

 

 【シノギタチ】は何か(・・)を察したかのように両手の双剣を捨てる。剣の悪魔にはそこから起こる圧倒的破壊に推測ができたのか。

 

 今の【スポアエレメンタル】のオーラ攻撃の威力は【紅蓮術師】の最大魔法、《クリムゾン・スフィア》を超える。そしてそれが千体分行われる。

 

 伝説級UBMですら瞬殺できるほどの物量爆破魔法攻撃。

 

 そして、それはステータスや耐久値は伝説級程度の【シノギタチ】も同じ。もし、直撃すればそれだけで決着が着くほどだ。

 

 そう、もし直撃すれば(・・・・・・・)

 

 爆発が止み、砂埃が掻き消え、姿を現した【シノギタチ】は全くの無傷であった。その両手には捨てたはずの双剣がいや、先ほどの業物とは似ても似つかぬ双刃を構えていた。

 

『ぬかったな、好敵手よ。今の技なら我が身を降せるとおもうたか。未知の技であればそれもありえたかもしれん。が、それは既に二度見ておる。珠の中でな。既知の技、ならば通じる通りなし』

 

「…ありえねえ。千の魔法攻撃だぞ!その全てを斬ったとでも言うつもりか!!」

 

『奇妙なことをいう。千の魔法を防ぐのに千の斬撃はいらぬ。ただ、空を割く斬撃(・・・・・・)をいくつか用意すればよいだけのこと』

 

「何を…何を言ってやがる」

 

 その言葉の意味をフィルルは理解できなかった。いやそこにいるものは誰も理解できなかった。それを為した【シノギタチ】以外は。

 

『空を割く剣を投影し、強化し、振るう。すればそこには空の壁ができるは道理。それを突破できる魔法は数少なく、貴殿の胞子の魔法ではそれが成せなかったというだけだ』

 

「…ハ、ハハ、半分も理解できねーぞ、クソが!!」

 

 それは”剣”の天才たる悪魔の言葉。常人に理解できるはずはなかった。ただ、分かったのは剣の悪魔に魔法攻撃は通用しないということだけ。

 

 【シノギタチ】の言葉を補足するならば、《武双投影》によってを空間を斬ることができる剣を生みだし、《武双強化》によって空間切断能力を強化。剣技によって自身の周りに空間の切れ目を生みだし、その空間の瑕疵が修復されることによってできる歪みをもって魔法を防ぐ盾としたのだ。

 

 名を《征空剣》、【シノギタチ】が持つ攻性防御結界である。

 無論欠点もある。空間を斬る剣とは何よりも鋭い剣。そして何よりも鋭い剣というのは何よりも脆い剣である。故にその剣は空間以外を斬ることはできない。

 物質を斬ろうすれば、その剣はすぐさま砕けてしまう。そのため、その剣を使うタイミングは極端に限られる。が、【シノギタチ】にとってすれば、そのタイミングを間違えるはずもなく、彼を守る最強の剣になり得るのだ。

 

 ◇

 

「魔法が通用しないのなら物理攻撃。より圧倒的なステータスで攻めるしかない…か」

 

 しかし、相手は剣の技巧が頭がおかしなことになっている悪魔だ。神話級のステータスでも相手になっていない現状を踏まえれば、今の倍以上のステータスが必要である。

 

 そのための方法は【アンフィテアトルム】の必殺スキル、《終劇は万雷の喝采と共に》をほかにない。

しかし、《終劇》はスキルによるステータス上昇にしか効果がない。

 

 そして、【シノギタチ】は武具を投影し強化するだけ。そこには一切のステータスの強化はない。故に今、この状況で《終劇》の対象となるものはない。

 

 だが、それも終わる。逆転の協奏曲が奏でられるからだ。

 

「《絶唱の協奏曲!》」

 

 その歌声はゆるりのエンブリオ【飛翔歌唱対翼 セイレーン】の必殺スキル。自身のHPを代償【セイレーン】に騎乗しているもののステータスを大幅上昇させるもの。自身の回復とクールタイムから再び歌われたその歌はまさしく反旗の狼煙である。

 

 必殺スキルのバフによって、フルメタルとドリルマンのステータスは伝説級に匹敵するものとなる。そして、ロゼは神話級に匹敵するステータスに。 ステータスだけならば、【シノギタチ】に並ぶほどになったことで、一転攻勢に出る。

 

 しかし、相手はあの剣の天才、【シノギタチ】である。

 ステータスが並び、越しただけではその剣筋は曇ることなく、後手に回ることもない。空を斬った剣を投げ捨て、最も親しみなれた双剣を生み出し、切り結んでいく。

 

 これが圧倒的技巧が為せる技だというのなら、それを圧倒できるのは圧倒的膂力のみ。

 

 だとすれば…

 

「《終劇は万雷の喝采と共に!》」

 

 そう、フィルルとフルメタルたちは仲間で、今同じ相手を敵にしている。しかし、パーティーを組んでいるわけではない。

 

 故にフルメタル達も《終劇》の対象となる。【アンフィテアトルム】のスキル《主役》、《脇役》、《終劇》の三重使用によってフィルルのステータスは更なる大幅上昇をみせ、STR、AGI、ENDの数値は10万オーバーになる。

 

 速さは音の十倍を超え、一撃の威力は【シノギタチ】にとって一撃一撃が致命的なものとなり、防御力は神話級金属を両断できる【シノギタチ】でも断ち切れぬものとなる。

 

 それを、フィルルから発する威圧感を感じた【シノギタチ】は、ただただ感謝(・・)した。これほどの強敵と見会える機会などそうありはしない。そんな存在が自身が珠から解放された日に出会える、神というものがいるのなら感謝を捧げたいほどであった。

 

 フィルルが動く。音の壁を容易く破り、剣の悪魔に接近する。悪魔は自身に射たれた矢と同じように切り捨てる。速度であれば、同等以上の矢を切り捨て、跳ね返す悪魔にとってその速度は十分対応可能。

 

 しかし、その一振りは空を切る。

 

 ただ直進する矢と違い、その男は自由自在に地を駆け、野を走る。それに対応することは【シノギタチ】にとっても至難の技であった。

 そんな状態にあってもフィルルの攻撃を全て防ぎきるその才覚は驚嘆に値する。さらに、切り結ぶこと数度、【シノギタチ】の剣がフィルルを捉え始める。

 

 直進する矢ではないとしても、その動きには癖や好み、法則性が生まれる。それを完璧に読みきり、フィルルの首元に刃を突き立てる。しかし、元より【シノギタチ】では今のフィルルを斬れぬことは、何よりその【シノギタチ】が知っていた。その斬擊はフィルルの動きを一瞬止めるだけに留まる。

 

 だが、【シノギタチ】は此れで良いとフィルルに対して同じようなやり取りを繰り返す。首筋への攻撃は頚部に起こる状態異常を引き起こしやすい。今も度重なる首への攻撃でフィルルは軽い【窒息】状態になり動きを止めていた。。

 

 それは致命的な隙。しかし、そこにいるのはフィルルだけではない。フルメタル達がいる。

 

 フルメタルの拳は当たればステータスを減らし、列車を斬られても展開可能なドリルマンの第一形態のドリルは【シノギタチ】の身体を容易く貫き、ロゼの矢は更に速度と貫通力を増し【シノギタチ】の死角を狙う。

 

 だが、【シノギタチ】にとってそれらは雑音でしかなかった。

 

 真なる好敵手は眼前の男ただ一人。他の者はそれを盛り上げる舞台装置(・・・・)でしかない。ならば相応に相応しい態度がある。

 

『邪魔をするな!』

 

 剣の悪魔は依然宣言した通り、飛んできた矢を脳天に跳ね返した。

 

 そう、ゆるり(・・・)の脳天へと。

 

 【シノギタチ】は知っていた。彼らがステータスを自分に匹敵するほどに引き上げられたのはサーフボードを操る女のスキルであると。ならば、女を殺せばそのバフは無くなるは道理。

 

 唯一、誤算があるとすれば、ゆるりを殺せば今のフィルルの超ステータスも消失すること。だが、さすがの【シノギタチ】もそこまでは承知していない。

 

 命のやり取りの果ての成長を望むのなら、それは悪手とえる。だが、フィルルの超ステータスは途切れることはない。

 

 脳天を貫かれたゆるりは、今もなおその命を燃やす絶唱をしているからだ。

 

《ラスト・コマンド》

 

 【死兵】が持つ唯一のスキル。これによって死して後も動き続ける事ができる。ゆるりの必殺スキルはパーティーの要。ステータスを上げるために命を削り続ける故に、死とは隣り合わせ。だからこそ、死んでも歌い続けることを選んだ。

 

 ゆるりは脳天を貫かれた今でも歌い続ける。だがそれは、《ラスト・コマンド》が切れた後に、逆転の協奏曲が終わった後にゆるりが“監獄”に送られることを意味していた。そして、そのバフが持つのもあと数十秒。決着をつけるなら短時間で勝利を得るしかない。

 

「うぉおおぉぉお!」

 

 そのスキルの発動に気付いたロゼが、ドリルマンが特攻を仕掛ける。たが、それに対する【シノギタチ】の対応は冷酷だった。

 

『よく見れば、面白い武器を持っているな。…うむ、使ってみるか(・・・・・・)

 

 そして、【シノギタチ】は新たな(ドリル)を作り出した。それは魔力を喰らい、回転する凶悪な牙。それはドリルマンのエンブリオを参考に作った剣。戦いの最中に敵の武器を真似て作るなど、まさにフィルル以外を相手にしていないという意思表示に他ならない。

 

 回転によって生み出される渦はそれ全てが斬擊。よってその渦に巻き込まれたドリルマンとロゼは両腕と胴体を切り裂かれる。二人は最早戦いをできる状態ではなく、【出血】といった状態異常で遠くない未来、死が確定していた。

 

『ふむ。威力は申し分なし。が、大味が過ぎるな。魔力の消費も多い。なにより、もはやこれは()ではない』

 

 そういって今、生み出した剣を、二人の人間に終止符を打った武器を投げ捨てた。作った武器にも殺した敵にも既に興味は失っていた。

 

 だが、それは剣を捨てたことに変わり無く、その隙を見逃す者はいない。

 

「《ストーム・フィストォォオ!》」

『既知の技は効かんといった!』

 

 【シノギタチ】は一瞬でカタナを投影する。五十の拳の嵐、それに対応するのはそれを超える剣の嵐。《剛華剣嵐》は剣を振る速度を上げ、相手の物理攻撃に対応する、【シノギタチ】の第二の盾。

 

 そして、その剣は相手の攻撃を防ぐだけではなく、フルメタルの身体も切り裂いていた。この剣撃で他のメンバーと同様にフルメタルも“監獄”に送られることが確定していた。

 

『もうひとつの試作品は申し分なし。なにより、六百年の瞑想の故に生み出した対【龍帝】特化の剣。劣るほうが可笑しいか』

 

 それは一本のカタナ。それは“竜”ならざる“龍”を殺す剣。“龍”特攻を持った唯一の剣。【龍帝】黄龍人外を殺すためだけの剣。名を”鏖龍刃劾”。ただの人間を殺すには過ぎた剣。

 

「……」

 

 フィルルは無言で突撃をする。先ほどまでの動きが嘘のような一直線。己の全体重を乗せた拳をぶつける。

 

 対して、【シノギタチ】はそのカタナを構える。【シノギタチ】には既に勝ち筋が見えていた。度重なる頸部への斬撃。それは全て同じ個所(・・・・)への攻撃。

 

 水滴岩を穿つという言葉がある。軒下から落ちるわずかな雨垂れでも、長い間同じ所に落ち続ければ、ついには硬い石に穴をあける意味だ。

 

 今、【シノギタチ】が為そうとしているのはまさしくそれ。【シノギタチ】の斬撃ではフィルルの首を断つことはできない。だが寸分違わず、同じ個所に斬撃を続ければいつかはその首を断てるということだ。

 

 そして、その時は今。

 

 既に十度、同じ首を、箇所を狙っている。そもそもこちらは水滴などではなく、衝撃で相手の動きを止めることができる威力。ならばここが決死のタイミング。

 

 この斬撃でその首を断つ。故に、【シノギタチ】もその一撃に全力を込める。最早相手に回避はなく、全力な攻撃のぶつかり合い。速度で圧倒的に劣る【シノギタチ】ではあったが、その技巧では圧倒的に勝っている。相手の動きを完全に読み切り、フィルルの拳が当たるよりもわずか先に”鏖龍刃劾”がその首に当たる。

 

 故に勝敗は決した。フィルルの首を断つ…ことなく、”鏖龍刃劾”は砕け散った。

 

 【シノギタチ】に生じたのは疑問。だが、その疑問が解消することなく、フィルルの拳が【シノギタチ】の顔面にめり込む。思考が封じられた【シノギタチ】に襲うのは二の拳。それは【シノギタチ】の身体を抉り、コアを剥き出しにし、三の拳でそのコアを破壊した。

 

 【<UBM>【錬鉄武双 シノギタチ】が討伐されました】

 

 【MVPを選出します】

 

 【【フィルル・ルルル・ルルレット】がMVPに選出されました】

 

 【【フィルル・ルルル・ルルレット】にMVP特典【武双勲章 シノギタチ】を贈与します】

 

 決着が着いたアナウンスが鳴る。フィルルの拳が【シノギタチ】を制したのだ。フィルルの拳の威力と【シノギタチ】の耐久力の低さからすれば、当たりさえすれば決着は一瞬。

 

 しかし、”龍”殺しの特攻を持ち、対【龍帝】を想定して作られた”鏖龍刃劾”はなぜ砕かれたのか。それを為したのは他でもない、フルメタルのエンブリオ、【毒纏拳牙 ナーガ】の第二スキル《毒牙減弱》によるもの。

 

 《毒牙減弱》は装備品やマテリアルに接触する度に耐久値を減少させるスキル。故に五十の拳をその剣で全て防いだ”鏖龍刃劾”の耐久値は風前の灯。フィルルの首へ攻撃した衝撃で砕け散ったのだ。まさしく、フィルルとフルメタルと、そのパーティーで勝ち取ったその勝利だった。

 

 だが、勝利の余韻に浸っている場合ではない。UBMとの死闘のあと待っているのは…彼らとの別れだった。

 

「フルメタル!!」

「約束は…果たしたぞ、フィルル」

 

 そう言って、フルメタルはデスぺナルティとなった。ロゼもドリルマンもゆるりも既に消え失せた。残ったのは、フィルルただ一人だった。

 

 交わしたい言葉はたくさんあったのに、伝えたい言葉はたくさんあったのに、それを伝えることはもうできない。彼らはもう”監獄”へ行ってしまった。

 

 そう、今ここに”幻獣旅団”は壊滅した。

 

「…」

 

 その瞬間のフィルルの思いは誰にも推し量ることはできない。

 

 ◇

 

 ”幻獣旅団”の事件から数か月。

 

 今”幻獣旅団”という言葉を聞いて『正義』の義賊、あるいは『悪』の犯罪集団を思い浮かべるものはいない。

 

 それは一人の男の、いや一人の<超級>の二つ名。

 

 不死の獣を従え、幾千幾多の幻霊を操る男の二つ名。

 

 後に”軍団最強”と呼ばれる<超級>の、フィルル・ルルル・ルルレットのもう一つの二つ名である。

 



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30.外れた道

揺れるマインド
フィルル君ダークサイド
またの名をフィルル・オルタ(違います)


 ◇とある山脈

 

 男は歩く。

 その山中を。

 彼自身に理由はない。

 連れがそれを望んだためだ。

 ならばそれについていこうとここまで来た。

 連れは目当てモノを見つけたのか途中で立ち止まってしまった。

 彼はそれに気づかず、奥へ奥へと進んでしまった。

 その結果、二人は別れ離れ。

 有り体に言えば迷子だった。

 しかし、彼は気にした風もなく歩き続ける。

 元より、目的などないからだ。

 ただ、歩きながら物思いに耽ることが多くなった。

 どうすればいいのかと。

 

 ◇

 

 フィルルが”幻獣旅団”のマルコ達を倒し、彼らが盗んだ珠から現れた古代伝説級UBM【錬鉄武双 シノギタチ】をも下した後、その現場に駆け付けたのは他でもない宝を盗まれたコルガッツォ本人だった。

 

「貴様、よくも儂のお宝を!!あれで儂がいくら稼いできたと思っている」

「…勘違いするな。俺は盗んでいない」

 

 フィルルのただならぬ感情を察したのか、一瞬コルガッツォが言いよどむ。

 

 不機嫌。

 

 簡単に言ってしまえば、それだけだが、言葉を間違えれば自分の命が危ないのではないかとさえ思わせるほどの圧だった。

 

 しかし、コルガッツォはそこで止まるような人間ではなかった。

 

「何を言っている!貴様のそのイヤリング。それは珠に封じられていた【シノギタチ】の特典武具だろうが!!こともあろうか盗むだけに飽き足らず、それを特典武具に変えるとは不届き千万。どう落とし前をつけてくれようか」

「…どうするってんだ」

 

 フィルルから放たれた殺気は、コルガッツォをたじろかせる。今までは本当に不機嫌なだけだったのだ。今、それが本物の殺意に変わったら誰も止めることはできない。

 

 コルガッツォは今になって自身の過ちを察した。

 

 そもそも、ここに来て何がしたかったのか。自由になってすぐ追いかけてきたが相手はあの”幻獣旅団”。自分一人ではどうにもできないことは分かり切っていた。まして相手は珠に封じられていたUBMを倒せるほどの猛者。

 

 自分を誰にも気取られることなく殺し、そして逃げおおせることなど容易いことだろう。

 

 事態を把握したコルガッツォはこれ以上ないほど冷や汗を流す。あまりの恐怖に今にも失禁しそうになっていた。だが、その空気を払う者が現れた。

 

「父さま。その方、嘘は言ってないようですよ」

 

 そこにいたのは美しい容姿と長い金髪をもった一人の少女。コルガッツォの娘、コルキスである。

 

「コルキス!なぜここに!!」

「外の方から爆発が幾度となくなれば嫌でも気になります。それで様子を見に来たのですが…なにやら父さまが誤解で彼を傷つけてしまったご様子」

「ご、誤解だと!何を馬鹿な…」

「《真偽判定》。私が持っていることはご存知ですわよね。そして彼は盗んでいないという答えは嘘偽りはない。それが答えですわ父さま」

「だが、奴は”幻獣旅団”の…」

「それを含めて聞きましょう、父さま。問題…ないですわね?」

 

「ああ」

 

 そしてフィルルはすべてを話す。彼がフルメタルから聞いたことすべてを。そしてフルメタルが無実だという事も。

 すべての話を聞いたコルキスはゆっくりと口を開いた。

 

「なるほど。あなたが無実だと、巻き込まれただけだということは分かりました。…しかし、件のフルメタルさんたちの無実は別です」

「何だと!」

 

 今の話を聞いてどうしてそんなことが言えるのか?フルメタルこそ巻き込まれただけの被害者だというのに。

 

「直接彼らに《真偽判定》をしていないからですよ。確かに今のあなたの話に嘘はありませんでした。しかし、あなたが真実だと思っていることが嘘の可能性もあります」

 

 フィルルはフルメタル達が盗みや殺人はしていないというが、それをフルメタル達に《真偽判定》で確認をしたわけではない。

 

 彼らが本当に無実かどうかは彼らに直接《真偽判定》をしてみないことには分からない。そして、そんな機会はもう既に…

 

「ふざっけんな!!!じゃあアイツらはもう…」

「…残念ですが」

 

 ◇

 

 男は歩く。

 その山道を。

 自分に何ができるかを考えて。

 復讐や報復はすぐに浮かんだ。

 だが誰に?

 既に下手人は始末し、その黒幕も死んでいるという。

 あるいは彼らを指名手配にした官権か?

 あるいは事件の遠因となった王国の民衆か?

 それとも、俺自身か?

 答えは見つからない 

 

 ◇

 

 珠の護衛クエストは、犯人を”監獄”に送ることに成功したものの、その珠は破壊され、巡りめぐってフィルルの所有物となっているため、失敗となった。

 

 違約金などが発生するなどとコルガッツォは訴えていたが、今の彼にはどうでも良い内容だった。すぐに金を支払い、自由となる。そのまま、フィルルはノスフェラと落ち合う。

 

「どうだったい”幻獣旅団”は?楽勝だったろう?それより聞いてくれ、新しい…」

「…」

「…何があった?」

 

 そしてノスフェラに今まであったことを話す。フルメタル達との別れを。

 

「…そうか、あの彼らが」

 

 ノスフェラはフルメタル達に直接会っている。フィルルにマジックアイテムを届ける際に。

 

(…もしかしたらだけど。彼らは初めから引退するつもりだったんじゃないか?)

 

 そもそも、フルメタル達は”幻獣旅団”となる前から限界を感じ、引退を考えていたこと。

 それでも彼らは<Infinite Dendrogram>をやり続けた。

 何のために?フィルルとの約束のためだ。

 強くなろうとした約束だ。

 だが、それが一番彼らを傷つけていた。

 その傷を癒そうとしてマルコ達にも目をつけられた。

 フルメタル達は嫌気がさしていた。この世界に。

 それでもやり続けたのはマルコへの復讐と、約束があったから。

 だから最後に、”幻獣旅団”を倒すというクエストを成功させ、UBMを一緒に倒すことで、フィルルとの約束を果たした。そう果たしてしまった。

 最早彼らにこのゲームを続ける理由はない。ここから去ってしまったのだ。 

 フィルルもフルメタルが最後に言った言葉の意味を考え、薄々と察しがついていた。

 彼らはもう、この世界に帰ってくることはないだろうと。

 

 その一番の原因は他でもないフィルルとの…

 

 ◇

 

 男は歩く。

 その雪山を。

 国を捨て、流浪に旅するその道中。

 レジェンダリアに留まる理由はない。だから捨てた。 

 訪れたのはアルター王国。

 “幻獣旅団”が生まれた国。

 もしかしたら、この気持ちに答えが出るかもしれないと訪れた。

 しかし、答えはでない。

 無論、怨みはある。だがそれは…

 

「おや珍しいですね。この山にマスターがいるとは」

 

 声をかけてきたのは黒縁の眼鏡をかけた冴えない青年だった。

 

 

「アルターに行くって?」

「…ああ」

 

 理由は“幻獣旅団”関係のことに間違いはない。そして、今のフィルルがアルターにいったら、何か問題を起こすことも間違いないだろう。

 

 万に一つ、だが、それでフィルルまで指名手配になってしまうことも考えられる。あり得ないというには、今のフィルルは危険すぎる。フィルルが暴走しないように、首輪をつけて見張っておかなければならない。

 

「私も行こう」

「いいのか、多分レジェンダリアには戻らないぞ」

「なぜ?」

「いろいろと面倒だからな。コルガッツォにも、睨まれたままだしな」

 

 違約金は払ったが、それで珠を奪われたことを水に流すような男ではない。あれでも相当な権力者、レジェンダリアに留まるのは良くないだろう。

 

「…まあいいさ。レジェンダリアで取れる怨念はあらかたとりつくしたからネェ」

「そうか、すまないな」

 

「ところで…フィルルは王国に何をしにいくのかな?まさか復讐とかかな?」

 

 釘を刺された。

 

「セプータであんな事になって、まさかまだ復讐とかって言わないよネェ」

「…」

 

 フィルルはそれに答えられなかった。

 

 ”俺は一体何をしにアルターに行くのだろう”

 

 その疑問はアルターにたどり着いた後も解消されることはなく。  

 結局、何もしないまま、一週間が経った。

 

 

「アンタ…すごいな」

「…?」

「いやすまん。どうやら…迷っちまったようだ。いつの間にか連れもいねぇ」

「それは大変ですね。ここは立ち入るだけで極刑とされる<天蓋山>、速く立ち去った方がいいでしょう」

 

 立ち入るだけで極刑?すごい山があったもんだ。しかし…

 

「アンタはいいのか?極刑になるんだろ」

「ええ、極刑になります。だからこの私はここにいます。問題はありません」

「…うん?」

 

 正直よく分からなかった。

 

「…じゃあ、戻るとするか。しかし、これで俺も一応犯罪者ってことか。奇妙な気分だな」

「犯罪に関心があるのですか?」

「…ああ、そうだな。犯罪者の心理とか、犯罪の原因とかな」

 

 ”幻獣旅団”の事件のことも考えながら疑問を口にする。

 

 それはずっと考えてきたこと。

 

 なぜあんなことが起こったのか。

 

 それに対する男の答えは…

 

「難しいですね。人それぞれではないですか?この私の場合は『悪人になる』という目的以外ないのですが…」

 

 後半はまた、よく分からない答えだった。ただ…

 

「そうだよな、人それぞれだ。深く考えてもしょうがない」

 

 マルコ達が面白半分でやっていたこと。

 

 この<Infinite Dendrogram>というゲーム(・・・)の中で。なら、それは誰にも止められるものでも咎められるものでもないのかもしれない。

 

 私刑は既に済んだ。そしてそれ以上は望めない。

 黒幕は死んだ。知らない所であっさりと。

 フルメタル達は返らない。それは既に終わったこと。

 

 セプータで俺は過去に、復讐に囚われるのは良くないと学んだはずだ。

 

 そうだ、約束は約束。 

 それ自体は純粋な向上心から生まれたもの。攻めるようなものでは決してない。むしろ、フルメタル達との思い出として大事にとっておくべきもの。

 

 そして、王国に何かをする必要も…ないのだろう。

 民衆はただ、喜び、落胆し、嫌悪しただけ。普通の感情だ。攻める謂れは何もない。

 官憲もまた、自らの職務に乗っ取っただけ。冤罪は許されることではないが…マルコ達が巧みだっただけ。彼らもまた被害者。

 

 これ以上俺が何かする必要は…ない。

 

 奇妙な男の返事ですぐに答えは出た。あるいはそれは最初から出ていた答え。俺が意固地になって決して認められなかった答えにようやくたどり着けた。

 

「ありがとうな」

「何がでしょう?」

「いや、いいんだ。アンタを見てると変なことにこだわっていたのが馬鹿らしくなった。感謝ついでにゴミ拾いでもしていくかな」

「気づいていましたか」

 

 ◇

 

 それは天を翔ける獅子。天の名をもつ獅子である。

 彼には打倒すべき存在がいる。

 天の名を持つ竜。その名は【天竜王 ドラグヘイヴン】

 彼の伝説を倒そうと天翔ける。

 しかし、その夢は適わない。

 そもそも、戦力が違いすぎる。【天竜王】の子、【輝竜王】や【雷竜王】にすら大きく劣る。それもそのはず、その身は未だ古代伝説級、いやつい先日その位に至ったもの。

 自らの力を過信し、挑んでくるUBM。そのようなものを何体もこの山は屠ってきた。

 まず、<境界山脈>に入った時点でいずれの竜王か、或いは純竜の群れに殺される。仮に<天蓋山>にたどり着いても【輝竜王】に消される。

 それがこの山の常だった。

 そんなことを知らぬ獅子は自らの勝利を確信し天を翔け、二千の胞子に囲まれ、絶命した。

 それはこの山ではありふれた、そして少しだけ違った光景だった。

 

 ◇

 

 【<UBM>【天獅子 クィスヤッコ】が討伐されました】

 

 【MVPを選出します】 

 

 【【フィルル・ルルル・ルルレット】がMVPに選出されました】 

 

 【【フィルル・ルルル・ルルレット】にMVP特典【天翔駆甲 クィスヤッコ】を贈与します】

 

「はえー。随分弱いUBMがいたもんだな」

「――“ブリゲイド”」

「は?」

「”旅団”という意味です。あなたの戦いを見て浮かびました。あなたに相応しい二つ名だと思いますが」

「…”旅団(ブリゲイト)”か。そうだな…だったら、”幻獣旅団”。そう呼んでくれ」

 

 そう言ってフィルルは<天蓋山>を後にする。その表情は出会った時とは違う、活気で満ち溢れていた。

 

「…」

 

 その男は知っていた。王国ではそれが何を意味するかを。

 

「”幻獣旅団”。世間を騒がせた義賊と同じ名前ですね。この私が望むのものとは違いますが、興味深かったですよ。犯罪者でも『正義』と呼ばれることがあると感心してました。しかし結局は…だとすると彼は…困難な道を選びましたね」

 

 男はフィルルの決意に敬意を表し、その場を立ち去っていく。フィルルの、”幻獣旅団”という二つ名を広めるために。

 

 ◇

 

 男は歩く。

 その山中を。

 理由はある。

 それは新たな決意。

 過去に囚われた復讐ではなく、未来に向けた決意。

 忌まわしい名前を誇らしい名前に変える決意。

 それは男の新たな戦いだった。

 長い戦いだ。多くの国を巡らなければならない。

 しかし、男は止まらない。 

 目標ができた。ならばあとは走るだけ。

 彼は走り出す。

 そしてその名は…

  




眼鏡をかけた冴えない青年。一体誰なんだ?

性格が違うかもだけど、ご容赦ください。


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三神激突編 31.嵐の前の

一応最終章。
敵も味方も出てくる奴等全員チート。
そしてこれまで以上に独自色が強いものとなります。
それでも良ければご覧ください。


 ◆◆◆

 

 ■???・四号保管庫

 

「…やはり数が足りんか」

 

 そこは不思議な質感の空間だった。そこにいるのは<UBM>を担当している管理AI四号ジャバウォック。そう、ここは<UBM>の保管庫である。

 

 その部屋の主人が今思案するのは自身の持ち駒(・・・)のことである。ジャバウォックにとって、自身の最高傑作【三極竜 グローリア】が敗れ去ったことは記憶に新しい。

 

 【グローリア】はSUBMと呼ばれる存在。それは神話級を超えた超級の<UBM>である。SUBMの目的はただ一つ、<超級>を生み出すことだ。尋常な手段では倒せない強敵を用意することで、燻っている<マスター>の進化を促す。

 

 三つ首を持つ超魔竜【グローリア】はその目的に見合った規格外の能力を複数有していた。

 第一に神話級金属さえも容易く誘拐させる極光のブレス。

 第二にレベル499以下の人間と99以下のモンスターを絶死させる結界。

 第三にHPの低下に比例したステータス、スキルの強化。

 …そして脅威的な再生能力。

 

 そう、【グローリア】は最悪の業禍と厄災を撒き散らしながら、数多の<超級>を生みだす予定だった。

 

 だが、結果は災禍を撒き散らし、多くのティアン、マスターに爪痕を残し、…そしてついに一人も新たな<超級>を生み出すことなく、四人の<超級>の手で葬られた。

 

 そしてそれは【グローリア】に限った話ではない。

 

 最初に投入されたSUBM【一騎当千 グレイテスト・ワン】もまた、投入直後に二人の超級によって人知れず討伐された。

 二番目のSUBM【双胴白鯨 モビーディック・ツイン】は<超級>に進化した者によって討たれるという理想的な働きこそしたが、生みだす<超級>の数は想定を下回る数だった。

 

 三体のSUBMを投入して片手で数えられるほどの<超級>すら生み出せていないのは問題であった。

 生じたのは仮に残り四体のSUBMを投入しても、<超級>を満足に増やすことはできないのではないかという疑問。

 多くの<超級>を生みだすには、より多くのSUBMを投入すればいいだけなのだがそれも難しい。SUBMを作るのは<超級>を生みだす以上に難しいからだ。

 

 モンスターにはレベル100に大きな壁がある。だが、その壁をぶち抜いた者すべてがSUBMとなるわけではない。多くの場合、制御不能のイレギュラーとなり、管理AIによって秘密裏に処理される。だが…

 

「…<超級>の数を増やすだけならば、SUBMにこだわる必要はない、か」

 

 尋常ならざる敵というのであれば、イレギュラーでも同じこと。<Infinite Dendrogram>のサービスが開始してからは管理AIは大それた行動はとりづらい。突如発生したイレギュラーの対処は以前とは違い穏便なものに限られる。うまく立ち回ればイレギュラーによって<超級>の発生条件を十分満たせる。

 

 制御するのではなく、解き放つことでSUBMの代わりとする。

 

 それは彼のもう一つの目的からは離れるが…それは本来の目的の付録のようなもの。大事なのはあくまで<超級>の数を増やすこと。であれば、制御可能の是非は管理AI側の都合であり、マスターにとってはどちらも災禍に変わりはなく、それは<超級>になり得る糧となる。

 

 ここに他の管理AIがいれば、まず間違いなく止めたであろう愚行だが、今この場に彼を止められるものはいなかった。なにより…

 

「他も随分好き勝手にやっている。…そういえば以前二号が面白いことをしていたな」

 

 他の管理AIのことを思い浮かべながら、彼は以前の出来事を思い出していた。そう…あれはまだ<Infinite Debdrogram>のサービスが間もない頃、未だUBMを討伐したマスターがいない頃のことだ。

 

 あれを参考にすればイレギュラーを、そして<超級>を増やすという難儀な目的を叶えられるかもしれない。そして、その計画に相応しいUBMは手持ちの中にいる。そして万が一でもそのイレギュラーが制御可能の個体であれば…

 

「うむ、名付けるならばそれは…<三神激突>」

 

 そしてジャバウォックに<三神激突>と名付けられた計画はSUBMの襲来に匹敵する戦いへと発展する。そしてその事件の中心にいる人物は他でもない…フィルル・ルルル・ルルレットである。

 

 ◇

 

「うぅ、キモチわりい」 

 

 嘔吐。間違えた、王都を出てからアルター王国の方某に出かけ、最終的に皇国へと周り、その最北部に来ているのだが、

 

「グランバロアに行こうとした途端これじゃあネェ。あきらめた方がいいネェ」

「…もう、…船には乗らん」

 

 船酔いだった。皇国も一通り周り終えたし、次の国に行こうという算段になって、じゃあグランバロアに行こうとなったのだが…船に乗った瞬間これであった。

 

 すぐに船を飛び出し、元の港町に戻ってしまった。そうだね、よく考えたら俺リアルで船乗ったことなかったわ。しかし、まさかゲームの世界で船酔いになるとは…

 

「目的地変更。次の国はカルディナだネェ」

「船に乗らなくてもグランバロアには行けるんだ、あきらめる必要は…」

「グランバロアは船が集まってできた国だ。多分、船酔いで死ぬネェ、キミ」

「…」

 

 想像しただけでヤバかった。オエッ。

 

「よし、カルディナに行こう」

「簡単だネェ。まあそっちの方が好都合だけどネェ。しかし…」

 

 ふと、ノスフェラは南の方を見る。

 

「どうかしたのか?」

「…ああ、王国に襲来したっていう【グローリア】に思うところがあってネェ」

「ああ…いくつかの都市や街が落とされたっていう」

「私たちが以前訪れたところもね」

 

 それは…まあそうだろう。俺たちがアルター王国で訪れていないところなどないのだから。

 

「俺たちがいたら悲劇を防げたとでも思っているのか?」

「それは…」

「無理だよな。噂に聞いた【グローリア】はモンスターを即死させる能力を持っているんだろ。なら俺たちはまず土俵に立てない」

 

 俺たちは精霊とアンデットという違いはあるものの分類としてはモンスターを主軸に戦う。そのモンスターの展開を封じられたら、残っているのは人間と骸骨だけ。あとは極光にやられて死ぬだけだな。お話にならない、相性が最悪だ。

 

「しかし、その【グローリア】を倒したっていう<アルター王国三巨頭>ってのはすごいよな。うち一人は知り合いだけど…」

「【超闘士】フィガロかい?」

「あいつまじですごいよな、一番強い状態のグローリアと戦って、首を一つ落とすなんて。王国最強は間違いなくフィガロだな」

「仲間の話となると饒舌となるのは君の長所であり、欠点だネェ」

 

 うるせえな、昔の仲間を誇りに思って何が悪いってんだよ。

 

 でもそんなフィガロと戦ったら俺とあいつどっちが勝つかな。結局アルターにいた頃は戦わなかったし。うーんあいつ【グローリア】の特典武具の持ってるからなあ。神話級特典武具だけでもやばいっていうのにその上位となれば…うん、俺負けるわ。

 

「<超級>といえば、この国の<超級>はどうなんだい?」

「ん?ああ、一人しか知らないな。決闘ランキング一位、【魔将軍】ローガン・ゴットバルト」

 

 ”矛盾数式”と呼ばれる広域制圧型の超級だ。

 

「【魔将軍】か?君はそっちの方に関心があるのかな、【軍神】さん?」

「そこまでじゃねえよ。ジョブに関連があるってだけだからな」

 

 【魔将軍】も【軍神】も《軍団》スキルを持つ超級職だし、スキル(・・・)のこともあるがそれだけだ。それよりも気になるのは…

 

「一回試合を見たが…ありゃ強いな。神話級の悪魔を三体召喚してステータス三倍強化とか、ここいらのマスターじゃまず勝てない」

「君でもかい?」

「わかってて聞いてるだろ。俺は必殺スキルで相性勝ちできるけど、他の超級は厳しいんじゃないか?」

 

 超々音速で迫る三体の神話級悪魔。STR、ENDも規格外。それを相手にできるのは純粋にステータスに特化した超級。そうでなければ勝負にすらならないだろう。俺は《終劇》でその悪魔を圧倒できるけど…、うんやっぱりデンドロは相性ゲーだわ。

 

「【魔将軍】を直接倒せば誰でもいけるんじゃないかネェ」

「三体の三倍強化神話級悪魔を掻い潜ってか?」

「…やっぱり<超級>はみんなぶっ壊れだネェ」

「多分、みんなお前には言われたくないと思う」

「それをいうなら”矛盾数式”はどう考えても君の方だよネェ?”幻獣旅団”さん」

 

 …否定できない自分がいる。ローガンは亜竜級を一体生贄に捧げることで二千体の亜竜級を生みだすことができるから”矛盾数式”の二つ名が与えられている。しかし、それで言えば俺はほぼノーコストで亜竜級を千体、いやそれ以上も…

 

「しかし、皇国の超級は二人だけかネェ?もし【グローリア】みたいなSUBMが来たら滅ぶんじゃないかいこの国。実際、アルターは超級が三人いてようやくだ。そのうちの一人でも欠けていたら、まず間違いなくアルターは滅んでいただろうし」

「…それはどうだろうな」

 

 皇国所属の超級は現在二人。先ほどの決闘ランキング一位の【魔将軍】ローガン・ゴットバルトと討伐ランキング一位の【獣王】。そして【獣王】は詳細不明なので何とも言えない。【獣王】が単騎でSUBMを討伐できるっていうぶっ壊れた性能しているならともかく普通の超級だと厳しいだろう。

 

「まあ、仮に今来ても<超級>が二人いるからちょうどいいんじゃないか?」

「絶対にこれまで以上にめんどくさいことになるから却下だネェ。この国にはなぜか消されたように怨念が少ないし長居する理由があまりないんだよネェ。面倒ごとになる前に退散だ」

 

 まあ、【グローリア】がアルターで猛威を振るって月日はそんなに経っていない。そんななか、隣国のドライフにSUBMが現れるなんてことはまずないだろう。

 

 グランバロアに行くのは船酔い的な意味でヤバいから、やっぱりカルディナかな、次に行くとしたら。

 

「よし、じゃあカルディナに向かって…」

「これはこれは…いつか見た顔だ。こんなところで会えるとは神に感謝するべきかな?」

 

 カルディナに行く算段をしている最中、変な男に話しかけられた。

 




フラグをたてるのに忙しい。

そして、随分前に登場した彼の登場です。


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32.鳳城院秀臣

誰やねんって方は16話をお読みください。


 ◇

 

「誰やねん」

「…あー、変態だよ」

「変態ではない。”美食家”だ!」

「いや、そこは我等の名前を名乗るべきではないか?」

 

 黒と白が混ざりあった髪色をしている美しい少女が、”美食家”と名乗った変態へ突っ込む。しかし、こいつ、まさか…

 

「それもそうだ。私としたことがまたも礼儀を。私の名前は鳳城院秀臣」

「我はライブラ。秀臣のエンブリオだ」

「よろしく頼むよ、”幻獣旅団”君」

 

 やっぱりメイデンか。

 ノスフェラのエンブリオ、【浄穢境界 ヨモツヒラサカ】の女性版。男性のアポストルに対して、女性のメイデン。始めて見るがそれよりも気になるのは…

 

「…俺のこと知ってんのか?」

「知っているとも。西方三国を飛び回っているフリーの<超級>ともなればね」

「そりゃどうも」

 

 俺も有名になったもんだ。まあ、あえて目立つ行為をしてきたせいもあるのだが…

 

「ここにいるのは、やはり人助けというわけかな?」

「見りゃわかんだろ。ちげーよ(・・・・)。そう言うアンタは何しに来たんだ?”美食家”様が来るようなところじゃねーぞ、ここは」

 

 そう、ここはドライフ皇国最北端の地域。不凍港ゆえに海洋国家グランバロアとの交易で隆盛を誇っていた港町。先ほどフィルルが乗り込もうとした船がいくつも備えてある。故に、船には困ることはない。

 

 そう、船には困ることはない。

 しかし、無くて困るモノがある。

 それは食料。

 この港町には既に食料と呼べるものはない。

 されど、この街には食料が無くて困る人など一人もいない。

 既に住民は皆、餓死して死んでしまっているからだ。

 

 最早死の街とも言えるその街に訪れたのは、食料が無くて困っていると聞いたためだ。しかし、その訪問は見ての通り手遅れだった。

 

 そして、その光景は見慣れた(・・・・)ものだった。このほかにもドライフ北部の地域を訪れたことがあったが、何処も食料不足で悲惨な有様だった。

 言い方は悪いが、この街の光景にも見慣れてしまっていたし、これ以上ここにいても、俺たちにできることはないと考え、他国に渡り、別の問題の解決を考えていたくらいだ。

 

 そうだからこそ…

 

「”美食家”様の舌にあう食べ物なんてねーぞ、ここには」

「知っているとも。”食”の事情には通じている。ここが今、どういう有様なのかもね」

「だったらどうして…」

「ここに来たのはUBMの情報を得たからだ」

「UBMだと」

 

 確かに街に人がいないとなりゃUBMやモンスターが蔓延りそうなもんだが、そんな情報一度も聞いてねーぞ。

 

「ああ、<DIN>が手にした極秘情報。お得意様にしか教えないと言っていたよ」

「あそこの情報かい。じゃあ、間違いはないだろうネェ」

「つまり、UBMの特典武具狙いってことか」

「UBMがどれ程の極上食材になるか興味は尽きないからな」

「あ?食材?武具じゃなくてか?」

 

 俺が疑問を呈した瞬間、

 

「鳳城院秀臣だよね?」

 

 またも聞き覚えのない声を後ろからかけられた。

 そこにいたのは小柄の少年。少年は両手をポケットに隠し、頭から兎の耳を生やしていた。

 気合の入ったアバターだ。

 女だったらバニーガールだったのに。

 まあ変なアバターといえば、隣にもっとやばい奴がいるけど。

 

「そっちは、フィルル・ルルル・ルルレットとノスフェラ・トゥか。君たちには用はないから」

「?」

 

 瞬間、その少年は姿を消し、鳳城院の眼前に現れた。そして、その時には既に攻撃を終えていた。

 

「【救命のブローチ】は砕いたよ。次はどうする?」

 

 そういって、兎男はまたも姿を消す。そして、【ブローチ】を砕かれた鳳城院もまた姿を消す。いつの間にかメイデンの少女がいなくなっている。

 

 エンブリオを使用したのか。その疑問に答えるように兎男は驚きを口にする。

 

「へえ、君も超々音速できるのかい?それが君のメイデンの能力か」

「だとしたら、どうだというのだ!」

「でも僕より遅いから意味ないね」

 

 その瞬間、鳳城院の目の前にまたもや、兎男が出現する。だが、踵のギロチン攻撃は鳳城院に当たることはなく、空を切る。

 

「速いのはトップスピードだけ。攻撃時の速度は私より遅い」

「…」

 

 鳳城院の言うとおりだ。兎男の動きは俺でも見切ることができない。しかし、攻撃の際は必ずと言っていいほど停止している。その隙は僅かなものだろう。しかし、超々音速移動ができる鳳城院には致命的な隙だ。

 

 しかし、鳳城院はどうやって超々音速機動を?

 

 アンフィテアトルムによってあいつがスキルによるステータス上昇をしていないことはわかる。だというのに、アイツは超々音速機動している。

 仮にアイツが超級職だったとしても、素のステータスだけでAGIが10万を超えるなんてことはありえないだろうし、まさか、ジョブスキルにAGIの成長補正があるということもあるまい。

 

「ふーん、その速度でノンストップに動き回れるってことはENDも随分高いのかな?さすがは【食王】といったところだね」

「ふむ、私は兎肉にも目がないよ。なにせ【食王】だからね。その五体を捌いていただこうかな?【兎神】くん!!」

 

 その言葉を皮切りに超々音速同士の二人の戦いは更に加速していく。

 

 ◇

 

(…さすがに面倒になってきたな)

 

 今この瞬間も鳳城院の体に爆弾やジェム、金属のブーツでの攻撃を試みる。

 しかし、攻撃の際、自らの攻撃の衝撃をなくすために減速しなければならない彼にとって、鳳城院の速度は自身よりも劣るといえ、簡単に対処されてしまう。

 

 逆に鳳城院の攻撃は彼が回避を選べば容易に躱せるほどであり、このままでいけば決着が付かず千日手になってしまう。  

 

(おそらく、この速度はスキルの効果によるもの。ってことは時間切れを狙うのが定石かな?…でもね、ここいらにいた第六形態の奴等は全てPKできたんだ。あとは君だけ。僕は忙しいんだ。君みたいな奴にいつまでも時間をかけていられない。さて…必殺スキルを使うか)

 

「《世界は右に、主観は左に…」

 

 彼が必殺スキルを使おうとした瞬間、謎の感覚が彼を襲う。

 

(…え?僕のAGIが半減した?…鳳城院の能力?いや、アイツのAGIも半減している。じゃあ一体誰の?…まさかアレか!)

 

 ◇

 

 戦いを仕掛けてきた兎男が、姿を急に消した。何だったんだ一体?

 

「私のステータスが半減している!何故だ!」

「私もだネェ」

「え?」

 

 鳳城院とノスフェラの声に自身の簡易ステータスを確認しようとした瞬間、地響きのような叫び声が轟いた。

 

「DooOoooOOOO!!!」

 

 それは全長20メートルを超えた、悪鬼。緑色の肢体の上に強固な白色の外骨格を纏う羅刹。

 

「【殺陸兵鬼 ネトラプレシス】?まさか、これが<DIN>の言っていたUBMなのか?」

 

 鳳城院が言葉を発した瞬間、【ネトラプレシス】なる悪鬼目がけて、何かが放出された。

 それは…水。超高水圧で放出された水の一閃。

 その切れ味たるや、神話級金属すらも両断可能と思われるほど。

 そして、その水の一閃を受けて【ネトラプレシス】は無傷であった。

 

「なんなんだ一体?」

 

 俺はその水の一閃の放出元を見る。

 そこは海上。

 そしてそこより、姿を現すは巨大な水。半径50メートルはあろうかという巨大な水の球体だった。

 

「海上にもUBM。あっちは…【海玉唯在 メテロ】か。どうなっているんだ。UBMが二体も…」

「どうやら二体じゃないみたいだぜ」

「?」

 

 俺の言葉に疑問を浮かべるノスフェラ。しかし、すぐにその言葉の意味を知ることとなる。

 

 【ネトラプレシス】と【メテロ】に斬撃が走る。その斬撃を【ネトラプレシス】は自身の肉体の強度で受けきり、【メテロ】は《液状生命体》ゆえに肉体は切り裂かれてもその傷がすぐに塞がる。

 

 そして、それを為した者は…

 

「”陸”、”海”ときて最後は”空”か。【一切皆空 アヴァシンハ】さんよ!」

 

 大空より来るその形状不明な物体。全長100メートルは超える、黒紫色の結晶の如き輝きを放つ災厄である。

 

 そう、その場には奇しくも(・・・・)三体のUBMが集合していた。

 

 ◇

 

「…こんなことがあり得るのか?こんな場所に最上位の神話級UBM三体が鉢合わせるなんて」

 

 いち早く、異変に気づきその場から立ち去った兎男こと、【兎神】クロノ・クラウンはその光景に絶句していた。彼自身は【ネトラプレシス】の存在に気づきその場を去ったのだ。なぜなら彼は【殺陸兵鬼 ネトラプレシス】がレベル100に到達した最上位の神話級UBMだと知っていたからだ。

 

 彼はドライフ皇国最強のPKにして、ドライフ皇国最強の準<超級>、そして管理AI12号ラビットでもある。そして、そんな彼は誰よりもその光景の異常さに気づいていた。

 

「【ネトラプレシス】だけならまだわかる。<厳冬山脈>から降りてくるはずはないと思っていたけど…。しかし、他の二体もだなんて」

 

 一応はドライフに籍を置く、クロノは周辺に存在する強力なUBMを知っていた。彼は最大で音の百倍以上の速さで動くことができるが、そんな彼すらも容易く仕留めるUBMの存在をあらかじめ知っておくことで、デスペナルティを防ぐためだ。

 

 彼にとって、世界を回る身体であるアバターを失うことは何よりも避けなければならないことだからだ。

 

 彼は【ネトラプレシス】のことを勿論知っていた。<厳冬山脈>に住まう最強の鬼。そこを住処にしている地竜や怪鳥であっても触れることすら許されない存在。【地竜王 マザードラグランド】や【彗星神鳥 ツングースカ】と同様に恐れられる存在。

 数百年前から<厳冬山脈>の山奥に籠っていたはずだが、気まぐれで降りてきたという可能性は否定できない。

 

 そして、そのクロノをして他の二体のUBMの存在は知らなかった。唯一分かるのはあれらの名前とそのレベル。【ネトラプレシス】と同様にレベル100に到達した最上級の神話級UBMであること。

 

「しかし、あの二体はなぜここに?僕が知らないってことは黄河か天地産のUBMってことだろうけど」

 

 あるいは【メテロ】のほうは四海のどこかで生まれたUBMかと、クロノが推察したその時、度肝を抜く光景が見られた。

 

「アイツらまさか、たった三人であの三体をどうにかするつもりか!」

 



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33.【食王】VS【殺陸兵鬼】

テンポよくいきます


 ◇

 

「誘導はうまくいったようだな」

 

 三体の最上級神話級UBMを戦わせ<イレギュラー>、ないしSUBMを誕生させる計画。そして、その場に多くの準<超級>を配置することで願わくば<超級>の誕生を狙う。以前、ある管理AIがUBM同士を戦わせる事件を発生させ、ルーキーがその二体のUBM討伐を果たせるか見るというものを参考にしたもの。

 

 <DIN>の社長をしている管理AIを通して準<超級>達にUBMの情報を流し、あの場に鉢合わせるという予定だったが…

 

「十二号がほとんどをPKしてしまったか」

 

 予定外にラビットが集まった準<超級>を倒してしまっていた。それ自体は予測できた事案だ。彼は準<超級>と戦い、その進化を促す役割だ。彼を責めることはできない。

 

 むしろ、非があるのはこちら側。彼の活動範囲で連絡もせずに準<超級>が集まればこうなるのは予想できたはずだ。

 

「ふむ。【グレイテストワン】が戦果を残せなかった代わりにドライフでと思ったのが裏目に出たか」

 

 始まりのSUBM、【一騎当千 グレイテストワン】は【獣王】と【冥王】に人知れず討伐された。その補填にドライフに新たな<超級>進化促進剤として行いたかったのだが…

 

「本来の目的は<イレギュラー>の誕生だ。<マスター>がおらずとも問題はない。先ずはその成功を祈るか。しかし、【食王】か。願わくば、彼が<超級>に至ってくれれば良いが」

 

 

「ふむ、UBMが三体か。ならば、私はあの鬼を倒そう。肉があるものでないと食材にならんのは経験済みだからね」

 

 そういうと、鳳城院は返事を聞かずに【殺陸兵鬼】の元に走っていった。

 

「アイツに倒せると思うか?」

「さあ?だけど、手を貸すというわけにはいかないネェ。他に二体も似たようなのがいる。私はあの海上の奴を討つよ」

「ってことは俺が上空の奴か。俺は空を飛べるからいいけど、お前どうやって戦う気だ?」

「やり方はいくらでもあるさ」

 

 そういってノスフェラはアンデットを呼び出し、戦闘態勢をとる。

 

 …俺も往くか。

 

◇ 

 

「勢いよく出てきたのはいいが、厳しいのではないか?あの小童に【ブローチ】を砕かれているし、まして相手は神話級UBM。以前戦ったものとは偉い違いだ」

「だが、勝つ。それが私だよ、ライブラ」

 

 その大物過ぎる発言に溜め息をつく、ライブラ。しかし、こうなっては仕方ない。こうなった秀臣が止まらないことは誰よりも知っていた。ならば、戦いは不可避だろう。ただ…

 

「ステータスが半減しているのはどういうわけだ?」

「十中八九、あいつの能力。恐らく領域内に存在する者のステータスを半減するもの」

「【衰弱】と似たようなものか」

 

 【衰弱】はステータスが半減する強力な病毒系状態異常。熟練者でも忌避する物であるため、大抵は対応する耐性装備をつける。無論、鳳城院も耐性装備を身に付けているが…

 

「【衰弱】とは似て非なる状態異常だろう。或いはその強化番だが…どちらにしても私のステータスが半減していることに変わりはない。ライブラ、量れるか?」

「ああ、だがとんでもない数値だぞ奴は」

 

【殺陸兵鬼 ネトラプレシス】

 HP:12345678

 MP:98765

 SP:98765

 STR:86643

 AGI:88093

 END:82334

 DEX:85344

 LUC:877

 

「……」

「正に神話の怪物。神話級モンスターのステータスが四万前後と考えれば、その倍近くあるあいつは純粋性能型の極みだな。それに奴のステータス半減能力を考えれば…この国の<超級>、【魔将軍】の強化済み神話級悪魔でも勝てないだろうな」

 

 ステータスだけでも脅威だというのに、さらに倍の数値が必要。超級職でも決して容易ではない数値だ。それでも…

 

倒せそうだな(・・・・・・)

「綱渡りではあるがな」

 

 そう、そんな化け物を相手にして鳳城院はあろうことか勝てるといった。その要因はいくつかある。

 

「あれほどのステータスとステータス半減能力。まず他の能力はない。そしてこちらには、ライブラ。君がいる。ならば負ける道理がない」

「…であるな」

 

 そう言って【天秤星女 ライブラ】は再びその姿を変える、夜の如き暗き宝石に黄金の如く輝く星が彩られたネックレスへと。

 

 だが、そのアクセサリーには大した装備補正はなく、【ネトラプレシス】を倒すには遠く足りない。事実、鳳城院のステータスは【殺陸兵鬼】に比べて貧弱なものだ。

 

 鳳城院秀臣

 職業:【食王】

 レベル:278(合計レベル:778)

 HP:235588

 MP:6632

 SP:6432

 STR:7462

 AGI:5664

 END:21456

 DEX:2848

 LUC:74

 

 さらにこのステータスが【ネトラプレシス】の能力によって半減する。このままでは【ネトラプレシス】の間合いに入った瞬間に邪魔だとばかりに消されてしまうだろう。今この時に狙われていないのは悪鬼の目的が他のUBMであって<マスター>ではないためだ。だが、もし歯向かえば、その瞬間にアウトだ。

 

 だがそれは鳳城院に与えることになる。【殺陸兵鬼】という(ジャイアント)強大な敵に勝つ(キリングの)可能性を。

 

「《秤は重さのみを測る(ノットイコール)》」

 

 その瞬間、鳳城院は超々音速機動で悪鬼に迫る。そして特典武具の剣によって【ネトラプレシス】の躰体を切り裂いた。

 

 その特典武具は伝説級UBM【断捨離 ククルマ】を倒した時に手に入れたもの。鳳城院は特典食材が手に入らなかったと残念がったが、ライブラは安堵していた。自らの能力にこれほど都合のいいものはないと。

 

 【捨離剣 ククルマ】の有する能力は単純、自身のAGI以下の防御力を無視する刀身を形成するというもの。それによって超々音速機動できる鳳城院は【ネトラプレシス】を両断できる攻撃能力を手に入れた。

 

 それ自体は納得がいく結果であるが、なぜ鳳城院は超々音速機動できるのか。その答えは《秤は重さのみを測る(ノットイコール)》にある。

 

 鳳城院秀臣

 職業:【食王】

 レベル:278(合計レベル:778)

 HP:2832

 MP:3316

 SP:3216

 STR:3731

 AGI:117794

 END:10728

 DEX:1424

 LUC:37

 

 そう、【天秤星女 ライブラ】の能力はステータスを入れ替えるというもの。ステータスの各数値はどれも同価値、故にそれを入れ替えるといったスキル。他のスキルであれば、ステータスはHP、MP、SPは十分の一にして判定すること多いが、【ライブラ】のスキルにはそれがなくその数値のままで行うことができる。

 

 今、鳳城院は半減したステータスの中からHPとAGIを入れ替えた。半減したといってもその速度は破格であり、そしてその生命力は下級職並となった。

 

 生命力を入れ替えれば強大な敵にも勝てるというジャイアントキリング。現に皇国最強にして最速のPKに立ち向かえるほど。さらに【食王】のスキルレベルEXの《威食同源》によってさらにHPやENDを強化することも可能な彼には最高に適したスキルだ。

 

 【殺陸兵鬼】を圧倒できる速度と切断力を手にした鳳城院はその力をもって悪鬼に傷を負わせていく。だが、それはギリギリの攻撃。今の鳳城院のHPからすれば【ネトラプレシス】の攻撃をかすりでもしたら、或いは紙一重で躱しても、その風圧でやられかねない。

 

 鳳城院は細心の注意を払い、【殺陸兵鬼】の脚や拳の攻撃を掻い潜り、斬撃を加えていく。一撃でも喰らえば即死を意味する戦いは、それでも戦況は鳳城院に有利に傾きつつある。しかし…

 

『このままでは…負けるな』

 

 偽りない戦況分析を【ライブラ】は口にした。

 

 戦況は一撃もらえば死が確定するとはいえ、鳳城院は確実に押しつつある。だがそれでも…

 

「スキルの維持時間か…」

『《秤は重さのみを測る(ノットイコール)》はまだ幾分か維持できそうだが…それでも相手のHPが破格すぎる』

 

 そう、【殺陸兵鬼 ネトラプレシス】のHPは八桁に到達している。それは尋常な手段では削り切れるものではない。

 この状態が永遠に維持できれば削り切ることも可能だろうが…《秤は重さのみを測る(ノットイコール)》の継続時間を考えれば、机上の空論である。

 

 ならば…

 

「必殺スキルを使う」

『…それしかないか。しかし、どれを選ぶ?』

「ENDだ」

『だが、それでは【捨離剣】でも太刀打ちできんぞ』

「問題ないさ」

 

 そう言って鳳城院は【捨離剣】をしまい、アイテムボックスからあるアイテム群を取り出す。

 

『そうか、それなら…』

「ああ、ではいくぞ!《天秤は万物を正しく秤る(ライブラ)》!!」

 

 その瞬間、【ネトラプレシス】は違和感を感じた。同格のUBMの戦いの前に邪魔をする目の前の敵を始末しようとしたが、相手が思いのほか素早かったため手間取ったが殺せる自信は十分あった。そう感じていた時に襲った急な違和感。その正体は一体何か。

 

 それを知ることなく、ともすれば振り払うようにより過激に目の前の男に攻撃を加えていく。剣をしまった男は新たに手にしたジュエルから魔法を飛ばしていく。それ自体は大した威力がないことはすぐにわかった。故に躱すことはないと判断し、【殺陸兵鬼】は攻撃を受けて大ダメージ(・・・・・)を受けた。

 

『?』

 

 それこそが必殺スキル《天秤は万物を正しく秤る(ライブラ)》の能力。ライブラの能力を他者にも適用するというもの。それ故に…

 

 【殺陸兵鬼 ネトラプレシス】

 HP:82334

 MP:98765

 SP:98765

 STR:86643

 AGI:88093

 END:12334678

 DEX:85344

 LUC:877

 

 【殺陸兵鬼】はこの瞬間、地上で最高の、いや最硬の耐久力を手に入れ、HPは純竜程度のモノとなった。そう、生命力を入れ替えれば強大な敵にも勝てるというジャイアントキリングは何も自分だけを意味するのではなく、相手も含まれる。自身と相手、HPを都合のいい数値に入れ替えれば強敵にも勝てるというモノ。

 

 だが、本来なら八桁に到達したENDを相手に攻撃を加えてもダメージは与えられないだろう。ただ、そのジュエルに入っていた魔法は相手の防御に左右されない固定ダメージのモノ。

 

 一撃八〇〇ダメージというトップクラスの戦いでは価値が低いものだが、想像を絶する防御力となり、それに反して極端にHPが低く、ダメージ減算を持っていない【ネトラプレシス】相手にはこれ以上ない特攻アイテム。

 

 百以上あれば容易に【殺陸兵鬼】を討伐できる。彼はそのジュエルを三百以上持ち合わせている。その半分を使えば、十分に勝ち得る。そして、【ネトラプレシス】は脅威的なステータスと強力なステータス半減スキル以外にはスキルを持ち合わせていない。

 

 故に、そのまま問題なく鳳城院は【殺陸兵鬼 ネトラプレシス】のHPを削り半分にした。その瞬間、鳳城院の眼前に拳が迫った。その攻撃を認識できなかった鳳城院はその躰体を撃ち抜かれた。【救命のブローチ】を【兎神】に砕かれていた鳳城院は【身代わり竜鱗】といったアイテムの甲斐むなしく、身体を砕かれデスぺナルティとなった。

 

 




テンポよくとは言ったが、まさか死ぬとは…
準<超級>が最上位の神話級UBMに勝てるわけなかったやんや。


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34.【屍骸王】VS【海玉唯在】

正直、この話を投稿するのが一番怖い(主にバッシング)



 ◇

 

 ノスフェラが生みだしたアンデット、それはかつて神話級UBM【三源元素 クリスタリヴ】とそれが生みだしたエレメンタルの群れに打ち砕かれたアンデットモンスターを融合させてできている。

 

 【屍骸王】の奥義である【屍魂混合】は異なるモンスターのパーツを組みあわせてアンデットにできるというもの。

 

 故に、ノスフェラは伝説級UBM【甲竜王 ドラグアーマー】を基にした甲骸、古代伝説級UBMを基にした兵骸の残骸を掛け合わせ、さらに怨念のクリスタルによる強化を盛り込んでいる。

 

 その名は髄骸。兵骸の脚と凍結能力と武具生成能力、甲骸の装甲と竜王気、火炎とカウンター能力とを掛け合わせている。そのポテンシャルは神話級UBMにも匹敵するものである。

 

「海上に位置するUBMを降せないとでも思うかい?」

 

 髄骸はそのまま海上を超音速機動で駆ける。その理屈は単純、海水を凍結させて足場へと変えているのである。しかし、彼我の距離が縮まるなか、【メテロ】が見過ごすはずがない。

 

 【メテロ】より放たれるのは超水圧カッターである。名を《水閃》といい、それは神話級金属すら容易に両断する。例え髄骸であろうとも、喰らえば肉体をバラバラにされるだろう。だが、髄骸はそれを掻い潜っていく。

 

「いくら威力と速度を兼ね備えた超水圧カッターでも、発射地点が分かっていれば対応するのは難しくないネェ」

 

 そう言いながら、ノスフェラは髄骸を《死霊術》にて巧みに操りさらに距離を詰めていく。その最中、ノスフェラは独りあることを思う。随分アンデットの操作がうまくなったものだと。

 

 始めた頃は、自身の身体(・・・・・)すら動かせなかったというのに。

 

 ◇

 

 牧島希海には不満があった。

 両親が仕事で忙しいことである。

 両親とも働いており、共に出張などが多い身だ。

 仕方ないといえばそれまでだが、まだ幼い彼女には親の温もりが欲しかった。

 

 それでも彼女は年の割りには物分かりがいい子であった。

 親ではなく、別の家族から温もりを得ようとしたのである。

 それが飼い猫のトラである。

 それは彼女が五歳のころからの親友にして家族だ。

 彼女はトラがいることで心があったまるのを感じていた。

 

 それから誕生日毎に彼女は動物をねだった。

 両親は迷うことなく、それを買い与えた。

 彼女は飼い猫たちと幸せに暮らしていた。

 

 事件が起こったのは七歳の彼女を置いて両親共に海外出張に行くことになった時だ。

 無論、子供一人を置いて家を空けるなど無謀である。

 今までは忙しいとはいえ、両親のどちらかが家にいた。

 しかし、今回は両親とも三か月以上いなくなるのだ。

 両親は勿論心配した。

 だが、彼女は親が想像した以上に聡い子だった。

 教えたことは忠実に守り、家事代行システムといったロボットの力を借りて、問題なく過ごして見せた。

 それを見た両親は安堵した。

 

 ああ、これなら安心したと。

 

 そうして、短い彼女の一人暮らしは始まった。

 親と離れ離れになるのは寂しいが、それでもトラたちがいる。

 彼女は寂しくはなかった。

 

 毎日、欠かさず両親とのTV通話を行い、近況報告も怠らない。

 そうとも、両親とも忙しいだけで彼女のことが嫌いなわけではない。

 こうして心配をして毎日電話をくれる。

 彼女にはそれがうれしく、少しだけ寂しかった。

 

 だが、彼女は最も大切なことを教わっておらず、両親も教えていなかった。

 

 三か月の海外出張が終わった後、両親が見た光景は死臭漂う部屋の中で骨を剥き出しにしたトラと遊ぶ自分たちの娘であった。

 

 そう、彼女は生物の死というものを分かっていなかったのだ。

 いつしか動かなくなったトラを死んだと理解できず、いやそういう状態があることも知らず、遊び続けた。

 故にトラの死体は損壊した。

 そして、子供の無邪気さ故に、それを気持ち悪く思うこともなく過ごしてしまった。

 何より、死んでいるはずのトラに両親よりも温もり(・・・)を感じていたからだ。

 

 両親の行動は速かった。すぐさま、虎の屍骸を処分し、娘に再教育を行った。

 生き物には死があること。

 死体を弄んではいけないこと。

 骸はすぐに供養すること。

 …そして、金輪際、生き物に触れないこと。

 

 両親にも罪悪感があったのだろう。だが、それよりも娘がこれ以上過ちを起こさないように原因を根本から断った。

 それは彼女が14歳になっても続いていた。

 

 彼女は既に死も尊厳も十二分に学んでいた。

 元より聡い彼女はそれ以降問題を起こすこともなく成長した。

 だが、両親は彼女に動物と触れ合うことを赦さなかった。

 

 そして、14歳の彼女は歪んだ反抗期を迎えていた。

 元より、自身に温もりを与えてくれた存在である動物たちとのかかわりを断たれてしまってはそうもなろう。

 

 彼女は直訴した。

 動物と触れ合う権利を返してくれと。

 両親は沈黙し、幾らかの時間が経った後、あるゲーム機を渡した。

 このゲームはリアルと変わらないとまで言われるリアリティがある。

 この中で生き物たちと触れあって問題がなければ、赦すといった。

 

 或いは彼女がもう少し若ければ、或いはもう少し成熟していれば、その提案は素晴らしいものであっただろう。

 だが彼女は今、反抗期であった。

 そのゲームを強引に受け取り、自室に籠ってしまった。

 

 ”私は動物たちの温もりを感じたいだけなのに、ゲームの中で我慢しろって?そこまで言うなら、とことんやってやる!”

 

 彼女は反抗期故の行き場のない怒りを胸に両親の望む真逆の道を突き進んだ。

 アバターネームを不死者を意味する”ノスフェラトゥ”へと変えた。

 アバターも自身の身体をベースに全身白骨の骸骨少女となった。

 その歪んだ熱情はさらに突き進む…はずだった。

 

 降り立ったレジェンダリアの地で彼女は身動きひとつ取れなかった。

 それもそのはず、全身白骨のアバターなど動けるはずもない。

 

 親の命令で<Infinite Dendrogram>をやらされ、自らの好きな動物たちと触れあえない。このゲームをまともにプレイしなければ、それは一生適わない。

 

 そうして動けない身体のまま、屈折した感情が渦巻き、そして…

 

「大丈夫ですか、ノスフェラ様?」

 

 一人の男の子が現れた。

 

 彼は彼女をおぶってジョブクリスタルの前まで連れていってくれた。

 彼女よりもこの世界に詳しい彼は、彼女が付くべきジョブを教えてくれた。

 《死霊術》を使い、自身の身体を動かす術を教えてくれた。

 そして、彼が生みだした怨念の使い方を。

 

 それは両親の望んだ道ではなかっただろう。

 だが、それでも彼女は今、両親に感謝している。

 この世界に連れてきてくれたことを。

 

 そう、この世界は彼女に素晴らしい宝物と温もりをくれた。

 

 ◇

 

「人が感慨に浸っているというのに容赦ないネェ」

 

 ノスフェラはそう言いながら、周りを見渡した。そこには幾千幾多の水でできた人形がいた。そいつらのステータスは下級職程度といったところだが、塵も積もれば山となる。

 

「まるで【クリスタリヴ】だ。水を超高圧カッターにして打ち出す能力と、海水を基に数多の人形を生みだす能力。さらに人形も奴自身も《液状生命体》と来たか、多重技巧型の極みだネェ、これは」

 

 今、この瞬間も髄骸がその剣や銃で敵を討ち飛ばしていくが、すぐに再生していく。

 

 《液状生命体》は水そのものの肉体を意味し、分裂したり、体積を増やしたり、物理攻撃を無効にしたりなどといった強力な防御能力を有している。

 

 故に有効打は髄骸の火炎、凍結能力といったもの。だが、それで数を減らしていくが、それは【海玉唯在】が生みだす《水人連隊》からすれば微々たる量。なにより、それだけが脅威ではない。

 

 【メテロ】から放たれる《水閃》が髄骸を切り裂いた。一瞬の隙、それをあの水の球体は見逃さなかった。髄骸はアンデット故に、聖水ではないただの水では大したダメージにならず、即座に肉体の縫合が始まる。

 

 今回も攻撃などなかったかのように立ちあがり、攻撃を再開していく。しかし…

 

「…やばいネェ」

 

 《水人連隊》がノスフェラのいる陸地に迫ってきていた。これはまさしく、個人戦闘型と広域制圧型の戦闘の縮図。髄骸という個人戦闘型は戦いで死ぬことはないが、その防衛目標であるノスフェラが落とされる。超級職といっても生産職であるノスフェラは例えサブに【大死霊】を持っていても戦闘力は微々たるもの。相手が《液状生命体》となれば尚のこと。

 

「…」

 

 迷いは一瞬。考えたのは周りへの影響だけだった。

 

「良かったよ、ここいらがゴーストタウンで。海上やほかの生態系に影響はあるかもしれないけど、まああんなのがいる時点で今更だしネェ」

 

 そう言いながらノスフェラは髄骸の《死霊術》を解き、アイテムボックスより20の【怨念のクリスタル】を取り出す。

 

「ヨモ。必殺スキルを使う」

『了解です。ノスフェラ様』

 

 その瞬間、彼女のエンブリオ【浄穢境界 ヨモツヒラサカ】はその身をノスフェラが座る玉座へと変える。その玉座に腰掛け、ノスフェラはさらに二つのクリスタルを取り出す。白と黒、対称な色のクリスタルを。

 

「さてと。王国を襲った超魔竜【グローリア】、その片鱗を味わってみるかい」

『《穢土の浄魂、浄土の穢魂(ヨモツ)反転するは我が境界にて(ヒラサカ)》』

 

 瞬間、ノスフェラの持っていた十つの【怨念のクリスタル】が黒く輝き砕け散る。黒紫の莫大な怨念がその場に漂い、黒のクリスタルからは黒い魂が飛び出し、混ざり合うように渦を巻き、カタチを変えていく。

 

 それは竜。子を狙われ、番を殺された悲劇の竜。UBMであったが、人間に殺されるのではなく、別のUBMに殺されたためにその魂は、その怨念は変換されることなく、<境界山脈>を漂い続けた。

 

 故に、その能力をノスフェラは生前以上の力(・・・・・・)で扱うことができる。

 

『《怨・絶死結界》』

 

 その瞬間、《水人連隊》は消え去った。それもそのはず、《怨・絶死結界》は合計レベル499以下の人間と99以下のモンスターを絶死させる能力を持つ。

 

 その破格のスキルは【死竜王 ドラグデス】本来の絶死結界を怨念によって強化したことによる。

 【死竜王】の絶死結界はレベル250以下まで、モンスターならば50以下までの相手しか抹殺できなかった。それを強化したのは<超級>に到達した【浄穢境界 ヨモツヒラサカ】の必殺スキルによるもの。

 より強い怨念を生み出すことに特化した【ヨモツヒラサカ】は<超級エンブリオ>となったことで、怨念が生前保有していたスキルをさらに強化した状態で放つことが可能である。

 

「まあでも、生き残っているよネェ。【海玉唯在】のレベルは100かそれ以上といったところか」

 

 だが、このままでは【死竜王】の力も無意味なものになってしまう。必殺スキルの維持時間は10秒。それを過ぎれば再び、《水人連隊》が猛威を振るうことは想像に難くない。

 

 ならば…

 

「番を呼び出すだけだネェ」

 

 先ほどと同じように十つの【怨念のクリスタル】が黒く輝き砕け散る。違うのは白いクリスタルから白い魂が飛び出したこと。それらは混ざり合い、竜のカタチを模っていく。

 

「いくら《液状生命体》でも身体を蒸発させられたら無意味だよネェ」

『《(デッドリー)終極(オーバードライブ)》』

 

 すべてを飲み込む暗黒の極光。

 それもまた、【光竜王 ドラグシャイン】の光のブレス《終極》を怨念で強化したモノ。その輝きは【海玉唯在 メテロ】の全てを飲みこみ、跡形もなく消し去った。

 




自分としては伏線を巻いていたつもりだけど、ノスフェラが【光竜王】と【死竜王】を使うことに気づけた人は何人いたのか。
唐突と感じていなければ良いのですが…
え?矛盾?肩の力抜けよ(露骨な話題変換)


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35.【軍神】VS【一切皆空】

え?ノスフェラがチートだって?大丈夫、フィルルが一番チートです。


 ◇

 

「相手は空を飛ぶ飛行物体。まず、空を飛べないと相手にすらならないか」

 

 大空を飛ぶその形状不明な物体、【一切皆空 アヴァシンハ】はその飛行能力により、大抵の者は傷を与えることすらできない。

 【アヴァシンハ】が位置するのは上空三千メートル。尋常な手段ではまず、到達しえない高さである。

 

「狩ってて良かった、UBMと」

 

 【天翔駆甲 クィスヤッコ】を装備したフィルルは何気ない仕草でそのまま空を歩く。それもそのはず、【天翔駆甲】の有する能力《天駆》は単純明快、空を歩行できる能力である。

 今、フィルルは地面を駆けるように、いや地面を駆けるよりも速く空を駆けることができる。

 

 そして、フィルルは【三源輝套 クリスタリブ】のスキル、《エレメンタル・プロダクション》を使い、瞬時に三千(・・)の【スポアエレメンタル】を生みだした。

 【軍神】のスキルに《軍団》というものがある。その能力は自身のパーティー枠を拡張するというもので、最低でも千の拡張を可能とする。

 今のフィルルの《軍団》のスキルレベルは2。故に二千体のパーティー枠の拡張が可能。結果、フィルルは従属キャパシティとパーティー枠によって三千体の【スポアエレメンタル】を操れることになる。

 

 本来は、レベル0の子供にも劣る胞子の群れ。だが、フィルルという【軍神】の手によって、爆発的強化を受ける。【高位従魔師】の《魔物強化》と【喝采劇場 アンフィテアトルム】の《光る劇場の脇役》のコンボによって胞子達は伝説級に匹敵するステータスを手に入れた。

 

 そしてさらに《輝く劇場の主役》の効果によってフィルルのSTRやAGIといったステータスは六桁に到達した。故に、超々音速で空を駆けることが可能。そのまま【アヴァシンハ】との距離三千メートルを一秒で詰めた。

 

 フィルルはそのままアイテムボックスから双剣を取り出す。それはかつての強敵、【錬鉄武双 シノギタチ】が遺した双剣である。【シノギタチ】が《武双投影》によって生みだした数々の名剣は、彼が死した後も残り続けた。その名剣はティアンやマスターが作った業物を遥かに凌ぐ。フィルルはそれを手に取り、【アヴァシンハ】に斬りつける。

 

 それは【双剣聖】の奥義、《クロスホライゾン》。それは天地を分かつ斬撃を掛け合わせて行うもの。威力だけなら彼が持ちうる中で最強を誇る。

 フィルルは自身の戦闘能力を高めるために、今や効果の薄くなった【獣戦士】や【獣戦鬼】といったジョブをリセットし、【双剣聖】というジョブを手に入れた。

 それはステータスはあっても戦闘スキルや技術が足りなかった彼には最適のジョブ。双剣という武器スキル故に【軍神】でもそのスキルや奥義が発動可能。故にその斬撃は【アヴァシンハ】を容易く切り裂き…フィルル自身も斬り裂かれた。

 

 その威力はフィルルの与えた斬撃の10倍の威力を持っていた。尋常であれば、そのままフィルルは死んでいただろう。しかし、《ライフリンク》状態にあった虎丸がそのダメージを肩代わりしたため、ダメージは軽微。だが、今ので虎丸は限界、ジュエルに戻しながらフィルルは考察する。

 

(…斬撃、いやカマイタチか。最初に他のUBMに使っていたスキルと同種、だが威力が違いすぎる。最初の威力を考えれば、ENDが五千もあれば問題なく防げる程度の威力しかないはず。だが今のは…)

 

 その考察は正しい。【一切皆空 アヴァシンハ】のスキル、《帝刻》はカマイタチを生みだす。ただしリソースの関係か威力は大幅に抑えられている。フィルルの言うとおり、超級職や伝説級UBMであれば攻撃を喰らっても問題ない。また仮に耐久力が足りずとも、そのカマイタチはAGIが一万もあれば、容易に躱せる。

 

 故に、カマイタチの威力が百万近くになり、フィルルに気取られることもなく攻撃をできるはずもない。今も追撃とばかりにカマイタチを作り攻撃してくるが問題なく躱せている。

 

「タネがあるとしたら、まあ間違いなくUBMのスキル。…今与えた傷が塞がっているのも含めてな」

 

 UBMにはUBMたる所以がある。今、【アヴァシンハ】の傷を癒したのは《天命置換》というスキル。一定時間毎に自身の周囲の空気を糧としてHPを回復するスキル。

 しかし、回復能力とただカマイタチを作るだけのモンスターが神話級UBMとなれるはずもない。

 

「…考えられるとしたら、俺の行動を利用したモノ、カウンターか」

 

 フィルルの冴えは留まることを知らない。そもそものカマイタチの威力がフィルルの与えた威力の丁度10倍の威力を持っているというのが、それを補強した。

 

(恐らくは…与えられたダメージの十倍の威力を持ったカマイタチを作るスキル。いや発生速度を考えれば…)

 

 その考察もまた正しい。

 

 【一切皆空 アヴァシンハ】のスキル、《絶対反逆空滅帝刻》は自動で与えられたダメージの10倍の威力のカマイタチをその威力と同等の速度、飛距離で放つ。

 それはまさしく、最強のスキル。攻撃をすればその十倍返しが返ってくる。それは例え、【アヴァシンハ】を殺せる力を持っていたとしても、その力が自身を殺す鎌となるということ。

 

 故に、最強と目される神話級UBMや<超級>であっても、【アヴァシンハ】を害することはできない。【アヴァシンハ】はそうして長い生を生きてきた。

 外敵を煽る攻撃を続け、反撃してきた相手を更なるカウンターで殺す。【アヴァシンハ】自体も巨体に見合った莫大なHPを持ち、さらに受けた傷は自身の超高速回復能力で無為とする。戦闘においてこれほど厄介なUBMはいない。

 

「攻撃してきた相手に対して、カウンターを行う、か…試してみるか」

 

 そう言ってフィルルは【スポアエレメンタル】の一体を飛ばして攻撃を行わせる。そして、胞子は輝きオーラ攻撃を放つ。それは超級職の攻撃魔法にも匹敵する威力。

 それが【アヴァシンハ】に直撃した瞬間、攻撃をした【スポアエレメンタル】はカマイタチに切り裂かれた。そして、その胞子を生みだしたフィルルは切り裂かれていない。

 

 その瞬間、フィルルの顔は凶悪に歪む。

 

「カウンター攻撃に特化したUBM。そのカウンターを生かすための回復能力と莫大なHP。…なるほど条件特化型の極みだな。攻撃をしない限り、大した脅威にはならないが、相手へのカウンターという状況に関して言えば、それは神話級をも遥かに越えうる。…だが、それ故に俺には勝てない」

 

 それと呼応するように【スポアエレメンタル】達が一斉に牙をむく。それは【一切皆空 アヴァシンハ】のHPを削り、その十倍の威力を持ったカマイタチのカウンターで死に失せた。

 

 だが、殺したはずの【スポアエレメンタル】の群れがそこにはいた。そして先ほどと同様にオーラ攻撃を行い、死んでいく。驚異的なHPを持っている【アヴァシンハ】からしても、その威力は脅威的なもの。

 

 しかし、本来ならばその攻撃をしたものは死んでいるはず。それでも胞子達は死に失せることはなく、攻撃を続けている。いや、厳密には死んでいる。だが、胞子達が死ぬ以上の速度で補充されていくのだ。

 

 神話級特典武具【三源輝套 クリスタリヴ】はノーコストで瞬時に千体の【スポアエレメンタル】を生みだす能力。強力なスキルではあるが、短いながらもクールタイムが存在する。本来であれば、一度に三千体の胞子を産み出し、殺されたそばからクールタイムを無視して更に召喚などはできない。

 

 だが、フィルルにはもう一つ特典武具がある。耳に輝くイヤリングのアクセサリー、【武双勲章 シノギタチ】である。【武双勲章】は装備補正を持たず、ただ一つのスキルしか持たない。そのスキルとは《武双極化》。その能力は装備品を、いや特典武具のみを強化するスキル。

 【シノギタチ】を討伐した際、フィルルにとって最強の武器は紛れもなく【三源輝套 クリスタリヴ】である。故に、その特典武具は【クリスタリヴ】をより強化する形でアジャストした。

 よって、今の【三源輝套】の《エレメンタルプロダクション》は三千の胞子をノーコストで瞬時に生み出し、クールタイムも極端に短いため、連続使用ができる。

 

 故に三千の胞子が殺されても瞬時にその補充ができる。だが、その無限に匹敵する胞子の群れによるオーラ攻撃は、【アヴァシンハ】を殺しきれない。

 

 それは《天命置換》のよるもの。

 過去、グランバロアに襲来したSUBM【双胴白鯨 モビーディック・ツイン】が有する周囲の水を肉体や武装に置換するスキル、《蒼海置換》に酷似した力。

 回復能力に特化して尚、《蒼海置換》には届き得ないが、それでもその回復能力は強力である。いまも、こうして胞子達のオーラ攻撃を受けてなお、そのHPは微減程度である。

 

「全く厄介な手合いだな。他のUBMの動向も気になる。いつまでもこいつ一人にかかりっきりというわけにもいかない。…仕方ない、火種を増やして一気に片をつける」

 

 そうして新たに生み出された【スポアエレメンタル】の群れは【アヴァシンハ】へ密着するように展開される。そして、零距離からのオーラ攻撃を放ち、【アヴァシンハ】のHPを削る。そして、《絶対反逆空滅帝刻》によってその肉体を切り裂かれ、胞子たちは…爆発した。

 

 その爆発によって【アヴァシンハ】は更にダメージを受け、《絶対反逆空滅帝刻》は発動しなかった。それもそのはず、攻撃を加えたモノに自動で行われるため、既に死んでしまったモノに対しては発動しない。

 そして、フィルルがHPを削る速度と【アヴァシンハ】のHPを回復する速度の天秤は崩れ、瞬く間に【アヴァシンハ】のHPは削られていく。

 

 そして、【一切皆空 アヴァシンハ】の最後のHPが削られ、“空”の神話の怪物は消え失せた。

 

 【<UBM>【一切皆空 アヴァシンハ】が討伐されました】

 

 【MVPを選出します】  

 

 【【フィルル・ルルル・ルルレット】がMVPに選出されました】  

 

 【【フィルル・ルルル・ルルレット】にMVP特典【絶空甲刻 アヴァシンハ】を贈与します】

 

 【一切皆空 アヴァシンハ】の討伐アナウンスが聞こえた直後、

 

「我の馳走を奪うか、雑魚如きが」

 

 フィルルの肉体を何かが貫いた。



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36.誕生

ラスボス降臨


 ◇

 

「いやいや、うまくいって良かったネェ…暴走もなくと」

 

 <超級>に進化して怨念が生前有していたスキルをより強く使用できるようになったといえば聞こえはいいが、実際はその分、暴走のリスクも必然的に高まっている。

 

 ノスフェラが当初、【死竜王 ドラグデス】だけで決着をつけようとしたのは、【怨念のクリスタル】の消費のほかに、暴走時のリスク管理の面もある。

 【死竜王 ドラグデス】のスキル《怨・絶死結界》はレベル499以下まで、モンスターならば99以下までの相手を抹殺する能力。そして、ノスフェラの合計レベルは既に700以上。【死竜王】が暴走しても《絶死結界》はノスフェラを害することはない。

 

 対して【光竜王 ドラグシャイン】の《怨・終極》は口腔から放たれる極太の極光レーザー。今回のように相手にまっすぐ攻撃をしてくれればいいが、暴れまわって、主であるノスフェラを消し飛ばす可能性もあった。

 いや、実際に以前一度、【光竜王】を召喚したときはそうなった。アンデットの弱点である極光にノスフェラは為すすべなく消し飛んだ。故に、ノスフェラにとって【光竜王】は最後の切り札。自身の命をも犠牲にしてでも勝たなければならない相手にのみ使われる。

 

 今回、暴走もなく神話級UBMを撃破できたことは大きいだろう。

 

「しかし、討伐アナウンスがかからないのはどういう…」

 

 その瞬間、先ほどとは比べ物にならない超々高水圧カッターが大海より放たれ、ノスフェラの身を切り裂いた。

 

 ◇

 

 【殺陸兵鬼 ネトラプレシス】は暗黒の極光を見る。自身が更なる高みへと至るための糧となるべき存在がその極光に呑み込まれて消えていく。その光景を見て【ネトラプレシス】は安心した。

 

「あの極光は我が身を消し得るものだ。放たれたのが【海玉唯在】で良かったか」

 

 あの光は神話級UBMであろうともその身を消し去るモノ。すべての生物にとって全身の融解や蒸発はそれだけで死を意味する。それは【ネトラプレシス】にとっても例外ではない。そうなれば待っているのは自身の消滅。そうなったら最終奥義を使わされていたかもしれない。その竜も今や消え去ってしまったため、身の危険はすでにない。

 

「今世の人間は奇妙な能力を持っている。あれほどの二天竜を生みだす、いや蘇らせるとは…」

 

 厳密には死者の蘇生ではない。だが、傍目からみればそれと似たような奇跡。そのような能力をただの人間が持ち合わせることに驚嘆していた。

 

「先ほどの人間も奇妙な力を持っていた。相性はよかったが…それでもこの身を大分削られてしまった」

 

 鳳城院秀臣はHPを入れ替える力を持っていた。それをうまく使われていいように追い詰められてしまった。【ネトラプレシス】の能力、《頽廃領地》は領域内のすべてのモノのステータスを半減させる。だが、ステータスを半減させた上で自らのステータスを上回り、この身を傷つける術をもつのであればそれは脅威となり得る。

 

 現にHPを半分も削られてしまっている。そう、HPを半減されてしまった。だからこそ、勝ち得たともいえる。《頽廃領地》は自身のHP減少をトリガーとしてその半減の力を強める。

 HPが半分になればその半減能力が強化され相手のステータスを4分の1に、HPがさらに半分になれば8分の1に、それを永遠と繰り返していく。

 強者であれば、最初の半減能力をレジストできるかもしれない。だが、強まった半減の力は何者もレジストできない。故に何者も【殺陸兵鬼】を前にステータスで上回ることはできない。

 

「この身も負傷しているが、それでも更なる高みへの道をあきらめたわけではない。でなければ《厳冬山脈》を出た意味がない」

 

 そもそも彼がこの地に現れたのは自身に力を与えた存在、ジャバウォックに更なる力の獲得の仕方を聞いたからだ。この身では未だ【地竜王】は倒せない。ならばその境地へと至らなければならない。レベル100の限界を超えた存在へと。そのために同格の神話級UBMを倒すのだ。

 

 ならば残っている【一切皆空】を速く倒さなければならない。

 

 そして彼が天空に位置する【一切皆空 アヴァシンハ】を倒すため手段を画策していると、大海より超々高水圧カッターが放たれた。それは神話級金属をも凌駕する硬度を持った彼の体表を容易く切り裂き、彼のコアごとその身を八つ裂きにした。

 

 そう、【殺陸兵鬼 ネトラプレシス】には無敵に近い半減能力を持つが無論欠点もある。それは領域外からの攻撃。《頽廃領地》の外から攻撃されれば相手の全力をそのまま受けることになる。故に暗黒の極光にも最大の警戒を持っていた。

 

 だが、彼は《頽廃領地》を抜きにしても絶大なステータスを兼ね備えている。そのため彼を捉え、遠距離攻撃で倒すのは神話級UBMでも至難の業。そう、【殺陸兵鬼 ネトラプレシス】を倒した者はそれ以上のステータスを有しているということだ。

 

 ◇

 

「【食王】は死んでしまったか。メイデンのマスターでもあるあの男なら<超級>になり得るかと思ったが仕方ない。だが、当初の目的は果たされた。イレギュラーの誕生だ」

「どういうことだジャバウォック!!」

 

 その場に【兎神】クロノ・クラウンが現れた。

 

「十二号か」

「僕をその名で呼ぶな。今の僕は【兎神】クロノ・クラウンだ。いやそれよりも今回の件、君の差し金だろう」

「今回の件とは?」

「しらばっくれるな!あの場に最上位の神話級UBMが三体も集まるわけないだろう!」

「その件か。安心しろ計画はうまくいった。イレギュラーの誕生だ」

 

 それは話が噛みあっているようで噛みあっていなかった。

 

「イレギュラーの誕生だって!また僕たちの仕事が増えるじゃないか!」

「安心しろ。今、我々が表立って世界に干渉することはできない。逆に言えば、仕事は増えないということだ」

 

 クロノとしては言いたいことが山ほどあったがジャバウォックに言ってもあまり意味がないのは長年の経験から察していた。彼はUBMに関することになると何を考えているかわからないことが多すぎる。

 

「…それで、イレギュラーに至ったのはどの個体かな?SUBMとして使えそうなのか?」

「至ったのは【海玉唯在 メテロ】、予想通りな。SUBMとしては…分からないな、生まれたばかりで未知数すぎる」

「…生まれたばかり?」

 

 クロノは【海玉唯在】の詳細は知らない。それでもレベル100に到達しているUBMが生まれたばかりというのは矛盾が過ぎる。

 

「あれの完全体はあの水球が蓄積した戦闘経験を元に“産まれてくるもの”がそれに当たる」

「どういうことだい?」

「簡単に言えば、あの球体は卵なのだ。よってその卵から孵化するのが真の【メテロ】ともいえる」

 

 ジャバウォックは<UBM>をデザインし、■■■■■を用いて素体となるモンスターを<UBM>へと改造する。しかし通常は一度に一つの使用である■■■■■を、複数用いることもある。

 ■■■■■を複数用いればそれだけ<UBM>の性能は跳ね上がるが、無論デメリットもある。

 通常は二つ以上の■■■■■を使えば、才能あるUBMでも体が崩壊して死に至る。

 一つに適合して耐え切れるレベルでようやくデザイン型の<UBM>になり得るものを二つに適合する難易度は遥かに高まる。

 

 だが、ジャバウォックは『母体と胎児に一つずつ使う』という手法を開発し、崩壊のリスクを抑えた。故に【メテロ】は通常のUBMよりも遥か高みに到達しえると考えていたのだ。

 

 そして、それは誕生した。誕生と同時に【殺陸兵鬼】を殺し、そのリソースを得て、イレギュラーという最高の形で。

 

「どうするんだい?このままいけば…」

「皇国は消えるかもしれんな」

 

 皇国は政変の真っ只中。イレギュラーの対応に遅れが出ても仕方ない。

 

「だが、問題はない。あの国にはSUBMは投下されていないとされている。ならば、あれをSUBMとして皇国で暴れさせる」

「制御もできないイレギュラーをか!」

「SUBMだのイレギュラーなどにこだわる必要はない。要は<超級>が生まれればいいのだ」

 

 その発言は彼の真意を存分に表していた。つまり、あのイレギュラーを止めることは誰にもできない。そう。<マスター>以外では。

 

 ◇

 

「…全くどうなっているのかネェ」

 

 ノスフェラはその身を切り裂かれながらも生きていた。【大死霊】でもあるノスフェラは、その身を例え八つ裂きにされようともデスぺナルティにはなりえない。だが…それでもその身の縫合には時間がかかる。

 

 その身で考えるのは自身を襲った超々高水圧カッター。あれは間違いなく敵だった【海玉唯在 メテロ】が有していたスキル、いやその強化版。

 だとすればそれを放ったのは【海玉唯在】ということになる。そうであれば、討伐アナウンスが流れていないのも納得できる。なにせ相手はまだ討伐されていなかったのだから。

 

 しかし、疑問もある。あの極光もどうやって生き延びたのかという疑問だ。

 

 あの暗黒の極光、《怨・終極》は確実に【海玉唯在】の全身を飲み込み蒸発させたはずだ。すべての存在を蒸発させる極光は紛れもなく【メテロ】を焼き尽くしたのだ。無敵の防御能力を持つ《液状生命体》といえど全身を蒸発させれば死しかないはず。

 

 だとすれば…

 

「まさか、蒸発させても死なないUBMとは言わないよネェ」

 

 だとすればそれは《液状生命体》を超えた防御能力である。ノスフェラはそんなことはありえないと今過った考えを否定した。しかし、それは正解であった。なぜならそいつは…

 

 ◇

 

「ほう、我が一撃を持って死なんとはな。褒美をとらす、好きな物を望むがよい」

 

 大海より放たれた超々高水圧カッターを喰らってもフィルルは生きていた。それは【軍神】のスキルによるもの。

 そうして生き残ったフィルルは疑問を持っていた。今の攻撃は大海から放たれたもの。その能力に酷似したものをフィルルは既に一度見ている。【海玉唯在 メテロ】によるもの。だが、今あの水の球体はおらず、代わりに俺の目の前に忽然と姿を現したコイツは?人のカタチをしていながら、所々、鱗や触手を持ち合わせた肉体をしているコイツはいったい何者なのか。

 

「…お前、何者だ?」

「褒美は我への問いか、面白い。ならば我が名を聞く栄誉を与えよう。我が名は【メテロ】、【天地海闢 メテロ】である!」

 

 それは後に”軍団最強”と呼ばれるフィルルにとって”最強”の敵の名であった。

 




今作”最強”の敵。
今なお、攻略法が思いついていない作者であった。


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37.【軍神】VS【天地海闢】

お待たせしました。

展開に迷ってました。あと設定。


 破滅へのカウントダウンは始まった。

 

 ◇

 

「【天地海闢】だと?お前は【海玉唯在】じゃなかったのか!」

 

 フィルルの当然の問いに【メテロ】は嗤う。

 

「更なる問いを投げるか。まあいい、褒美を躊躇う我ではない。【海玉唯在】は卵、この我を生み出すためのな」

「卵…だと?」

 

 それはフィルルの理解の範疇を越えていた。UBMは常識を吹き飛ばした奴が多いが、それでも、今回のはイレギュラー過ぎる。UBMから生まれるUBMなどそれほど規格外な存在だ。

 

「問いには答えた。さてと…此方も疑問はある。《水閃》を如何に防いだかだが…ふむ、我は問いを投げるなどというつまらん真似はせん」

 

 その瞬間、大海より超々高水圧カッターが放たれる。【殺陸兵鬼】と【屍骸王】を屠り、一度はフィルルをも貫いた脅威の一撃がその身を襲う。

 

「ツッ!」

「よく避けた。だが我が見たいのはそれではない!」

 

 更なる《水閃》がフィルル目掛けて放たれる。その連射はフィルルを以てしても躱しきれるものではない。

 

「その身が貫かれるのも時間の問題だ。さあ、どう出る!」

 

 その言葉の直後、【メテロ】の周囲に胞子が舞う。そして、その胞子は煌めき、魔力の波状攻撃が繰り出される。オーラは【メテロ】を確実に捉えた。…だが、【メテロ】は傷一つ負っていなかった。

 

「古代伝説級でも喰らえば即死だっていうのに…無傷かよ」

「この我を相手にしているというのに、秤が古代伝説級(それ)では見誤るだろうな」

 

 フィルルの言葉は正しい。古代伝説級UBM【天獅子 クィスヤッコ】はそのオーラの波状攻撃に為す術なく消え去った。ただそのオーラの波状攻撃を以ってしても【メテロ】の膨大なステータスの前では大したダメージを与えられないというだけのこと。

 

「驚くのはいいが…隙だらけだぞ」

 

 その瞬間フィルルを襲ったのは十二の《水閃》。連射される《水閃》は辛うじて躱せても、同時に多数放たれる《水閃》は躱せない。なにより、今までは一切そんなことはしていなかった。

 

 そこに隙が生まれた。

 

 それもそのはず【メテロ】は生まれたばかりのUBM。今が一番フラットな状態であり、ここから成長する余地が無限にある。今の同時《水閃》も【海玉唯在】の時にはなく、【天地海闢】が新たに生み出した技。故にフィルルは全身に《水閃》をくらい…【メテロ】の周囲を漂っていた胞子達が爆発した。

 

 その爆発の威力は先ほどのオーラ攻撃を上回り、【メテロ】の五体を捉え吹き飛ばした。それもそのはず、今の爆発は最終奥義に匹敵するものだからだ。

 

 【蟲将軍】の最終奥義に《イーブン・ア・ワーム・ウィル・バーン》というものがある。それは最終奥義の中でも数少ない配下に代償を払わせるスキル。パーティ内の魔蟲が死亡した際、ステータスの合計に応じて大爆発させるというもの。

 しかし、それは魔蟲を対象としたもので、エレメンタルでそのスキルを使うことはできない。まして、フィルルは【蟲将軍】ではない。であるならば、今の光景は不可解である。

 

 その答えを解くのが【軍神】の能力だ。

 

 【軍神】は軍団スキル特化職。このジョブには多くの特徴がある。

 

 第一にレベルアップによるステータス上昇が全くと言っていいほどないこと。ステータス上昇が他の超級職と比べて少ないと言われている【神】シリーズのなかでもこれほどステータス上昇がないジョブは珍しい。

 

 第二に《軍団》、自身のパーティー枠を千単位で拡張するもの。ただし、《軍団》のスキルはスキルレベルが上がりづらく、全マスターのなかで最も《軍団》スキルを扱っているフィルルですら未だレベル2である。

 

 第三に軍団スキル特化職でありながら、配下のステータスを強化するスキルは一切覚えないこと。それ故にステータス強化は下級職や上級職のものを使わなければならない。現にフィルルは【高位従魔師】の《魔物強化》スキルを利用している。

 

 第四に《机上の空略》というスキル。それは軍団スキルを自在に生み出すことができるというもの。これぞまさしく【軍神】の【軍神】足るスキル。自身が望んだ軍団スキルを生みだすということは、扱いさえ間違えなければ最強と言えるスキル。

 

 しかし、初めてそのスキルを覚えたフィルルは困惑した。軍団スキルを生み出すといっても彼には何が軍団スキルと見なされるかわからなかったからだ。

 

 まずフィルルが考えたのは配下のステータスを強化するスキル。しかし、【軍神】の《机上の空略》では一切のステータス強化スキルを生み出すことはできなかった。

 

 次に考えたのは他の将軍職を参考にするというもの。レジェンダリアに所属していたフィルルにとって、一番分かりやすい将軍は【蟲将軍】だった。そして、有名であるが故にそのスキルの内容もある程度知っていた。

 

 それは《魔蟲強化》、《イーブン・ア・ワーム・ウィル・バーン》、《コロニー・フォー・ワン》の三つである。

 

 《魔蟲強化》は【蟲将軍】の場合、スキルレベルEXの100%上昇となる。

 《イーブン・ア・ワーム・ウィル・バーン》は先だって説明した通り、死亡した配下の魔蟲を爆発させるスキル。

 《コロニー・フォー・ワン》は【蟲将軍】のパッシブスキルであり、自らのダメージを効果範囲内にいる配下魔蟲に肩代わりさせ《ライフリンク》より対象が遥かに広く、数も多い。

 

 その中で《机上の空略》ではステータス強化スキルを生みだせないことは既に実証済みのため、《魔蟲強化》の方は歯牙にもかけなかった。

 だが、残りの二つは違う。自身の保有するスキルや特典武具と組み合わせればそれは最強の武器となり得る。そのために、フィルルはそのスキルに強い関心を寄せた。

 

 そして生みだされたのが《屍爆の陣》と《円環の陣》である。

 

 《屍爆の陣》は自身の配下のエレメンタル(・・・・・・)モンスターが死亡したとき、そのモンスターを爆発させる。その威力は《イーブン・ア・ワーム・ウィル・バーン》と同様にそのモンスターのステータス合計に応じた爆発を起こす。伝説級のステータスを持っている【スポアエレメンタル】が起こす大爆発は六桁に到達したENDを持つ【メテロ】の防御を突破する。

 そして《円環の陣》はフィルルが《机上の空略》で生みだした最強のスキル。その能力は自らのダメージと状態異常を効果範囲内にいる配下のエレメンタルに肩代わりさせることだ。

 

 この二つのスキルとフィルルの持つ神話級特典武具【三源輝套 クリスタリヴ】と古代伝説級特典武具【武双勲章 シノギタチ】、そして【喝采劇場 アンフィテアトルム】のスキルの組み合わせはフィルルを最強足らしめる。

 それは千を超える伝説級の胞子をほぼ無限に生みだし、それら全てを倒さない限りフィルルは傷つくことはなく、身代わりとなった胞子が死ぬたびに大爆発を起こす。

 

 この最強コンボを突破できる術はほとんどない。”最強”のUBMである【天地海闢 メテロ】もそのコンボを喰らい、身体を吹き飛ばされた。莫大なステータスを持つ【メテロ】だが、そのサイズ故にHPは他の神話級UBMに比べて多くはなく、容易くHPを全損させていただろう。

 

 だが…その瞬間、吹き飛ばされたはずの【メテロ】の五体が動きだす。吹き飛ばされた肉体は意思をもったかのように蠢き、重なり、カタチを成す。吹き飛ばされたはずの【天地海闢 メテロ】の姿に。

 

「驚いたぞ。今の爆発、我が《液状生命体》でなければ終わっていたかもしれんな」

「…」

 

 そう、フィルルは失念していた。【海玉唯在 メテロ】は《液状生命体》だった。であるならばその子である【天地海闢 メテロ】も《液状生命体》である可能性は高く、それは事実だった。

 《液状生命体》である【メテロ】を害する術は今のフィルルには無い。故にほぼ無敵の生存能力を持ち合わせているフィルルであっても【メテロ】を倒すことはできない。

 

「…今その術がない?だったらその術を生みだすだけだ!」

「強い意思だ。だが、それが間に合うかな?我は既に答えを出している」

「!」

 

 その言葉はフィルルを酷く動揺させる。

 

「貴様は自身へのダメージを芥共に肩代わりさせているのであろう。こんな風に」

 

 その言葉と同時に大海より二十四の《水閃》が放たれ、フィルルの身体を幾重にも貫く。そしてフィルルにはダメージがなく、その周囲の【スポアエレメンタル】が爆発する。

 

「そして、ダメージを肩代わりし死んだ芥は我を脅かすほどの爆発を生む。なるほど確かに強力な技だ」

「…」

 

 自身の持つスキルを完全に看破されてしまったことに驚愕するフィルル。それは相手はただ強いだけでなく、賢さすら持ち合わせているということだからだ。

 

「だがな。同時に吹き飛ばしたらどうなるかな?」

「!!!」

 

 その瞬間、【メテロ】の身体が爆発した。その爆音と閃光は瞬く間に広がり、フィルルの周囲に展開されていた【スポアエレメンタル】の群れを焼き尽くし、フィルルをも巻き込んだ。

 

 この爆発は《屍爆の陣》を参考に【メテロ】が新たに生みだしたスキル。彼は自身の肉体と魔力(MP)を用いて疑似的な水蒸気爆発を引き起こしたのだ。

 この水蒸気爆発は神話級UBMを複数体でも破壊できるほどのエネルギーを有している。それをまともにくらったフィルルはその胞子を全て失い、自身も大ダメージを負った。

 そうフィルルは生きていた。《円環の陣》と【救命のブローチ】によってギリギリのところで一命を取り留めたのだ。

 

「…ありえねえ。いきなり自爆しやがった」

 

 それは当然の思いだった。自らの肉体を基に水蒸気爆発を起こせばそれは強力だろう。だが、それは自身の死と同義だ。確かに無限に近い残機を持っているフィルルを倒すには超広域殲滅火力を用いるしかない。

 

 だが結果はこれだ。フィルルは生き残り、【メテロ】はその身を無駄に犠牲にした。結末だけを見れば、功を焦った【メテロ】が自爆しただけだが…

 

「フム、今のでも殺し切れんか」

 

 次の瞬間、フィルルの目の前に【天地海闢 メテロ】は姿を現した。一切の前触れもなく現れた【メテロ】は出現と同時に、指先から超々高水圧レーザー《水窮閃》を放ち、フィルルの額を貫いた。

 



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38.技と技、力と力

 破滅の時は近い

 

 ◇

 

 【天地海闢 メテロ】は恐ろしい能力を幾つか持っているが、最も恐ろしいのは《三態自在》のスキルである。

 

 三態とは、固体、液体、気体の物質の状態を指し、《三態自在》の力によって【メテロ】は自由に行き来できる。

 

 それが意味することは大きい。

 

 全ての生物にとって死に等しい肉体の蒸発も【メテロ】にとっては通常の状態の一つでしかない。故に【メテロ】は自身の肉体を灼ききる暗黒の極光を喰らっても、肉体が蒸発して、それだけである。容易に固体の状態に戻ることができる【メテロ】にとって肉体の蒸発はダメージになり得ない。 

 

 純粋性能型の神話級UBMを越えるステータスを持つ固体状態。《液状生命体》を備え、圧倒的防御能力と対応力を持つ液体状態。そして、ありとあらゆる攻撃を食らうことがなく、移動能力と隠密性に優れた気体状態。

 

 この三態を行き来できる【メテロ】は今、《三態自在》をさらに有効に使う新たなる技を生み出した。自身の肉体を核に水蒸気爆発を起こす、《髄液爆覇》である。

 

 その威力は想像を絶するほどであり、神話級UBMを容易く一撃で葬り、フィルル相手でもあと一歩というところまで追い詰めるほど。本来ならその威力は自らの肉体を犠牲に行う最終奥義とも言える技。だが【メテロ】にとっては水蒸気爆発で自らの肉体を木っ端微塵にし、水蒸気に変わったとしてもすぐに一番ステータスの高い固体状態に移れる。

 

 相手からすれば自爆した相手が眼前に現れるという悪夢以外の何物でもない光景。さらに液体状態から固体状態に移ることは瞬時に行われるため、気体という膨大な体積から小さな固体への転身を利用し千の距離すらも容易く詰める。

 

 そう、《髄液爆覇》からの攻撃は不可避のコンボである。まして、使われた技はただの《水閃》ではなく《水窮閃》。大海を介して放つ《水閃》と違い、《水窮閃》は【メテロ】自身が自らの肉体から放つ技。《水閃》とは技の威力も何もかもが桁違いのモノ。

 

 それを額にぶち込まれたフィルルは…生きていた。そして、いつの間にか周りを浮遊していた胞子は爆発し【メテロ】を飲み込んだ。

 

「…なるほどな。我はお前の一瞬の隙をついた。だが、お前は刹那の時があれば胞子を生みだし、ダメージを無効化できるということか」

 

 そう、【メテロ】の失敗はフィルルの目の前に姿を現したこと。虚を突かれたとはいえ、僅かな時で【スポアエレメンタル】を生みだせるフィルルにとってそれは死線に繋がるモノ。もしこれが背部に出現し、脳天を撃ち抜いていればそのまま勝てたかもしれない。だが、生まれたばかりの【メテロ】の詰めの甘さがそこで出てしまった。

 

「貴様の無限に胞子を生みだし、肩代わりさせる能力。我はこの身を活かした圧倒的な不死身の能力。互いに生存力と継戦能力に特化しており、決着はつかぬ。千日手ということだな」

「…」

「…ではもう一度だ!」

「!?」

 

 その瞬間、【メテロ】は再び、《髄液爆覇》を使った。そう、無限に胞子を生むフィルルを止めるには超広域殲滅攻撃しかない。それはさきほど、【メテロ】自身が証明して見せたこと。先ほどは【救命のブローチ】によって命をつないだフィルルだったが、それで【ブローチ】が砕かれてしまっている。故に次の《髄液爆覇》を防ぎ切る術はフィルルにはなく死を覚悟したフィルル。

 

 だが、爆発は確かに起きたものの、その威力は先刻の半分程度しかなかった。故にフィルルは【スポアエレメンタル】の過半数を失う程度で済んだ。勿論、ダメージは一切受けていない。

 

「…威力が下がっている。連続使用には制限がかかっているのか?…ッ!」

 

 フィルルは大海から放たれる《水閃》の群れを躱しながら、考えを改める。

 

(そもそも、この《水閃》の連続攻撃や同時攻撃を躱せていることがおかしい。先ほどまでの威力であれば俺は身動き一つ取れず、やられていたはずだ。だが、どの技のキレも落ちている。これもあの爆発の副作用か?)

 

 色々な考えが過るが、チャンスであることに変わりはない。自身の勝ちに繋げるための計略をフィルルは考える。その手に先ほど得た新たな力を纏いながら。

 

 【メテロ】は考えていた。自身の肉体を気体状態から固体状態に移すこともなく、水蒸気のまま周囲を浮遊していた。気体状態であっても《水閃》の連続攻撃や同時照射は問題なく使える。だが、威力が明らかに下がっている。これは気体状態だからというわけではなく、そもそも三態の違いで《水閃》の威力は左右されない。

 仮に固体状態に戻って《水閃》を使っても威力は低いままだろうという予感がある。だからこそ、【メテロ】は固体状態に戻ることなく、様子をうかがっているのだ。

 

(考えられるとすれば、やはり《髄液爆覇》か?発動することでステータスが低下するデメリットが存在したか?…あり得ん。我が作った技にそのような欠陥があるはずもない。まして、使うたびにステータスが低下するのであれば、二度目の使用でこの身は更に弱っていたはずだが、それもない。だとしたら全く別のトリガーか)

 

 【メテロ】はその瞬間、自らの肉体を固体状態に戻した。迷っていても仕方がない。行動を起こすことでトリガーのカギを探る。そう考え、《水閃》を超える威力を持つ《水窮閃》を放つ。だが、高い威力を持っているはずの《水窮閃》は先ほどの《水閃》程度の威力しか持ち合わせていなかった。

 

 その事実に苛立ちながらも、【メテロ】はフィルルを、いやフィルルの纏っている外套を狙う。幾度の戦闘の中で胞子を生みだしているのが外套であることに確信を持っていた。フィルルではなく、その最強コンボの源である外套を狙う、実に合理的な作戦であった。

 

 フィルルは瞬間的に現れた【メテロ】に驚きつつも、その狙いに正しく気付き、ギリギリのところでその攻撃を躱す。いや、外套への攻撃を自身の肉体で庇ったのだ。

 

その瞬間、周囲に漂う胞子は爆発し、フィルルからはカマイタチ(・・・・・)が放たれた。そのカマイタチに面喰う【メテロ】であったが、所詮はただのカマイタチ。固体状態では破格のステータスを、液体状態でも《液状生命体》という破格の防御スキルを持つ自身の肉体を傷つけることができるモノなどないと、若さ故の傲慢さが出た。

 

 そして、そのカマイタチをその身に喰らい、【メテロ】は生まれて始めてダメージを負った。それは《水窮閃》がフィルルに与えるはずだったダメージの二倍の固定ダメージ(・・・・・・)を与えたのだ。

 

「…よし!」

 

 その光景を見たフィルルは確信する。やはり【天地海闢 メテロ】には固定ダメージが通用すると。

 

 彼が先刻倒した神話級UBM【一切皆空 アヴァシンハ】の特典武具、【絶空甲刻 アヴァシンハ】は籠手型の装備品。そしてそれの有する能力は《絶空帝刻》、【アヴァシンハ】が有していた《絶対反逆空滅帝刻》をマスターであるフィルルに向けてアジャストしたモノ。

 

 発動中、自身に与えられたダメージを倍化した固定ダメージ・防御能力無視のカマイタチをその威力と同等の速度、飛距離で自動で放つ。神話級特典武具の持つリソースを装備補正に回さず、スキル一つに特化したが故の強力無比の性能である。そしてこれは【メテロ】を倒し得る切り札になり得る。

 

 だが、これはある意味当たり前のこと。三神激突を計画したジャバウォックは、三体の神話級UBMが戦いを経てレベル100の壁を超える事を期待していた。つまり、誰もが誰かを倒せる手はずだった。故に【メテロ】の切り札になり得るのは他でもない【アヴァシンハ】と【ネトラプレシス】に他ならないのだ。

 

 それは【メテロ】がレベル100の壁を超えイレギュラーとなり、【天地海闢 メテロ】になった後でも変わらない。【メテロ】の《液状生命体》に対抗できる【アヴァシンハ】の《絶空帝刻》はこの場において強力なキラーアイテムだ。

 

 【メテロ】は生まれて初めてダメージを与えたフィルルを愛おしそうに眺め、そして激昂したように《水窮閃》を乱射した。それは激昂した彼が新たに生みだしたスキル、《海無水窮連閃》である。

 

 【メテロ】自身の肉体から放たれる《水窮閃》を一瞬で千発以上連射し、叩き込む最強の技。或いは初めにそれを使えていれば、それだけで勝ちは【メテロ】のモノだったとさえ思わせるほどの連射撃。

 

 だが、どういう訳かステータスが半減している【メテロ】の《海無水窮連閃》は、今のフィルルにとって死を確定させるほどのモノではない。むしろその連射を利用し、《絶空帝刻》を多重発動させる。

 《海無水窮連閃》に対応するように放たれる《絶空帝刻》、その全ては【メテロ】に直撃し、半減している【メテロ】のHPをさらに減少させる。

 

 このまま、【メテロ】の怒り狂った攻撃が続けばフィルルの勝利が確定する。そうフィルルが思った瞬間に巨大な拳が迫った。フィルルは寸前のところでその攻撃を躱す。そして、空中で行われているはずの二人の戦いに加勢した()を見やる。その拳の威力や速度は、それが模しているモノのステータスを完全に再現していた。そう【殺陸兵鬼 ネトラプレシス】を。

 

 【海玉唯在 メテロ】は《水人連隊》というスキルを有していた。それは海水から数多の水兵を生みだすというモノ。一体一体は下級職程度だが、《液状生命体》でできたその幾千の大群は強力無比である。

 

 そして【天地海闢 メテロ】はそれをさらに昇華させた。【海玉唯在】が数や量に重点を置いていたのに対して、【天地海闢】は質と強さと技に重点を置いた。幾多の水兵を生みだすのではなく、最強の個を模り、生み出す。それに相応しい相手は彼をイレギュラーへと誘う糧となった【殺陸兵鬼】をおいて他にない。 

 

 【メテロ】は気づいていた。数多の攻撃は攻略の糸口を探していたため。そして今、答えは得た。敵のカウンターは攻撃者に対して行われるもの。ならば、攻撃者に別のモノを仕立て上げればいい。そこで《殺海兵鬼》で生みだされた水鬼を介して攻撃を行うことに決めたのだ。

 

 だが、水鬼が一体増えたところでフィルルの優勢は傾くことはない。フィルルが無尽蔵に生みだす胞子とそれが生みだす継戦能力を覆すことはできないと。そうフィルルが思った瞬間、水鬼は水蒸気爆発(・・・・・)を起こした。その威力は【メテロ】が二度目に放った《髄液爆覇》に匹敵する。

 

「海水でできた水鬼だ。《髄液爆覇》を使えない訳がないだろう」

 




ホンマ、チートとチートのぶつかり合いやわ(反省)


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39.最期の力

 破滅の時は来た

 

 ◇

 

 《殺海兵鬼》で生みだされた水鬼はそれを基にした【殺陸兵鬼 ネトラプレシス】のステータスを完全に再現している。また、純粋性能型神話級UBMのステータスに加えて《液状生命体》といったスキルを持ち合わせている。

 それだけでも十分に脅威すぎる存在。だが、水鬼はさらに自らの海水の肉体を基に、《水閃》や《髄液爆覇》といったスキルも問題なく使うことができる。そのままUBMに認定されるほどのスペックを有している。純粋性能型の神話級のステータスで引き起こす《髄液爆覇》の威力は強烈の一言。

 

 しかし…

 

「ステータスに比例した水蒸気爆発を起こす《髄液爆覇》。それを水鬼で起こしてみたが…お前を倒し切るには足りんか」

 

 それでもフィルルと胞子の大軍を殺し切るには足りなかった。神話級の水鬼の水蒸気爆発を以ってしてもだ。

 爆発の中から無傷で現れるフィルル、だが装備している【絶空甲刻】の《絶空帝刻》は発動しなかった。それもそのはず、フィルルにダメージを与えた水鬼は既に消失している。

 攻撃したものがいないのであれば、カウンターが発生しないのは道理、それは奇しくも【アヴァシンハ】を倒したフィルルと同じやり方だった。

 

 

 しかし、フィルルにダメージがないのでは意味がない。

 最早、フィルルを倒すには【メテロ】自身の本来のステータスで引き起こす《髄液爆覇》でしか仕留めきれない。だが、今の【メテロ】のステータスは半減しておりそれは叶わない。

 

 そして、フィルルに直接攻撃を加える愚を【メテロ】は行わない。また、この戦いが千日手に至るかと思われた。

 

 だが…

 

「ならば、数を増やすだけだ」

 

 その瞬間、大海より三体の水鬼が生みだされた。そして、三体の水鬼による連鎖《髄液爆覇》、それは最初に【メテロ】が引き起こした水蒸気爆発に匹敵する。

 その直撃を受ければ、【救命のブローチ】を既に失っているフィルルは死ぬ。そして、その三体の水鬼はフィルルを囲むように展開していた。

 それ故にフィルルがその位置に存在している限り、その爆発を逃れる術はない。水蒸気爆発はフィルルを飲み込むように炸裂し、消し飛ばした。

 

「フム、生みだせる水鬼は三体が限度か。まあいい、三体の水鬼の猛攻から逃れる術はない。アイツは死んだな」

 

 UBMになり得るほどのスペックを有している水鬼だが、決してUBMとなることはない。第一に、【メテロ】が生みだした眷属であること。第二に…【メテロ】は同一のモノを何体でも生みだせるからだ。

 同時に生みだし、使役できるのは三体が限度だが、それの意味することは大きい。減ってもさらに次を呼び出せるということだからだ。

 

 この戦いの勝敗は決した。強敵であったが打倒した。

 その過程で【メテロ】は数多の力を開花させた。ならば【メテロ】が望むのは新たなる強敵との戦い。それは自らに更なる成長と飛躍を齎すと認識したが故に。

 

 しかしその瞬間、数多の火炎が【メテロ】の身に突き刺さる。本来であれば、ただの火炎攻撃など《液状生命体》である【メテロ】には一切のダメージを与えないはずだった。だが、それは微量ながら、【メテロ】のHPを削り、ダメージを与えていた。

 

 そしてどういう理屈かは分からない。だがそんなことができるのは…

 

「生きていたか…」

「何度その爆発を受けてきたと思ってる。対処法は、いや軍略は既に出来てるさ!」

 

 そう、フィルルは【メテロ】に勝つために新たに二つの軍団スキル、すなわち軍略を生みだしていた。強敵との戦いで数多の力を開花させたのは何も【メテロ】だけではない。その相手であるフィルルもまた同様だ。

 

 フィルルが《机上の空略》で新たに生みだしたスキルは《転置の陣》と《犠焔の陣》の二つ。

 

 《転置の陣》はフィルルも習得している【高位従魔師】のスキル、《キャスリング》を軍団用にカスタマイズしたもの。《キャスリング》は手持ちのモンスターと自分の位置を入れ替えるスキルだが、有効射程が然程長くない。フィルルはその有効距離とクールタイム減少という最適のカスタマイズを加えた。

 

 三体の水鬼による連鎖《髄液爆覇》も一番離れていた【スポアエレメンタル】と自身の位置を入れ替えて直撃を避けたのだ。そして、今度は【メテロ】に最も近い【スポアエレメンタル】と自身の位置を入れ替えて奇襲をかけた。

 

 放ったのは《犠焔の陣》で生みだされた蒼い焔。それは噂に聞いたこの国の超級、【魔将軍】が有するスキル、《コンバージョン・デモン・フレア》をカスタマイズしたモノ。

 《コンバージョン・デモン・フレア》は呼び出した配下の悪魔を消し去り、消去した悪魔1体につき、100のダメージを与える攻撃魔法に変換する。フィルルはこのスキルを基に、配下のモンスターを消し去り、消去したモンスター一体につき、接触した相手に100の固定ダメージを与える蒼い焔へと変換した。さらにこの蒼い焔への変換速度も焔の速度も《コンバージョン・デモン・フレア》の炎よりも格段に速い。

 

 この二つのスキルはフィルルが【メテロ】を倒すために生みだしたキラースキル。絶死の威力を持つ《髄液爆覇》から逃れる術と固定ダメージしか通らない【メテロ】へダメージを通す術、この二つの組み合わせはフィルルを勝利に導く。

 

 再び《犠焔の陣》を展開するフィルル。与えるダメージは微量だが、無限に近い生存能力を持っているフィルルには些細なこと。固定ダメージを永遠と与え続け、どのような耐久力、防御能力持つものを死に至らしめる、それこそが《犠焔の陣》。その危険性に気づいた【メテロ】は即座に回避行動をとる。

 

 不意を突かれた奇襲攻撃ならまだしも、認識している今の状態でその蒼い焔は十分に回避できる。例えステータスが半減した今の状態でも…

 

 そう【メテロ】が思考した瞬間、そのステータスが更に半減した。本来のステータスから四分の一となった【メテロ】の回避行動もむなしく、蒼い焔が直撃した。《液状生命体》の効果も無効にする蒼い焔は【メテロ】の生命を灼き、その命は風前の灯となった。

 

 ではそもそも、今まで【天地海闢 メテロ】のステータスを半減させていたのは誰だったのか。それは他でもない【メテロ】が倒した【殺陸兵鬼 ネトラプレシス】である。

 【ネトラプレシス】の能力、《頽廃領地》は領域内に存在するモノのステータスを半減させる。そしてHPが減少する度にその半減能力を強めていく。

 

 ではそのHPが0になればどうなるのか。それこそが【ネトラプレシス】の最終奥義、《頽廃怨地》の発動トリガー。ジャバウォックですら知りえない彼の最後の切り札。

 自身のHPがゼロになった時、自身のHPをゼロにしたもののステータスを永続的に半減し続けるというモノ。そして、それは一定時間ごとに半減の力を強めていく。

 

 それ故に、【ネトラプレシス】を倒した者のステータスは長い時間をかけて、最終的にステータスが下級職以下の存在となる。それはイレギュラーとなった【メテロ】でも例外ではない。【ネトラプレシス】を倒したことでイレギュラーとなった【メテロ】もその時点では神話級、耐性もそれに準じている。それ故に死をトリガーとする《頽廃怨地》はレジストされることもなく、万全に発揮している。

 

 【メテロ】は既にステータスを二度半減されており、本来のステータスの四分の一になっている。最早、そのステータスは神話級以下のモノになっており、さらに時間を経れば、そのステータスは伝説級以下となり、最終的にレベル0の人間にすら劣るものとなる。如何に《液状生命体》であるとはいえ、死の危険性は極限まで高まる。

 

 そう、【ネトラプレシス】を倒してイレギュラーになった【メテロ】は、【ネトラプレシス】を倒したが故にそう遠くない未来、死が確定していた。

 

 ◇

 

 【ネトラプレシス】の能力から自身の今の状態に対する答えを得た【メテロ】、彼が取った行動は決死の逃走であった。せっかく新たに生まれた命だ。そして目の前にいるのは自身を殺す術を持つ不死身の人間。死から逃げるのは当然であった。

 

 【メテロ】は自身の肉体を《髄液爆覇》によって水蒸気にして拡散させた。フィルルの持つ攻め札は《絶空帝刻》によるカマイタチと《犠焔の陣》の蒼い焔。その内、カマイタチは攻撃を加えなければ発動せず、蒼い焔は接触しなければ効果を発揮しない。そう、気体状態の【メテロ】を傷つける術はフィルルには無い。いや、《液状生命体》を超える防御能力を持つ気体状態の【メテロ】を倒せるモノなどいない。

 

「逃げ切れると思うかネェ、キミはワタシの獲物だよ」

 

 そう彼女以外には。【屍骸王】である彼女を除いては。

 

 【メテロ】に五体を切り裂かれたノスフェラは今、その肉体の復活を果たした。その眼前に移るのは無様にも逃走を図ろうとする敵対者であった。そんなモノ彼女が許すわけがない。そしてノスフェラには気体状態となった【メテロ】を倒す術が、怨念が存在する。

 

「本日三度目の必殺スキルだ。問題はないかいヨモ?」

『問題なく』

「それは上々。じゃあ、あのいけ好かないUBMを倒すとするかネェ」

 

 その言葉のあと、ノスフェラはアイテムボックスから四つの【怨念のクリスタル】と薄黒いクリスタルを取り出す。そして、ヨモはノスフェラの座る玉座となり、

 

「《穢土の浄魂、浄土の穢魂(ヨモツ)反転するは我が境界にて(ヒラサカ)》」

 

 その瞬間、ノスフェラの持っていた四つの【怨念のクリスタル】が黒く輝き砕け散る。黒紫の莫大な怨念がその場に漂い、最後のクリスタルからは赤黒い魂が飛び出し、混ざり合うように渦を巻き、カタチを変えていく。

 渦から黒紫色の腕が伸び、順に胴が、両足が、顔が形成される。まさに人型の怨念というべきそれは莫大な殺気と怨念を振りまく男の姿だった。

 

「さあ、【生贄】は他でもないこの私だ。思う存分暴れるがいい」

 

【《DeddddddddryyyyyyyyyyySacrificeeeeeeeeVaniiishinggg》!!!】

 

 スキルの発動と同時、【生贄(ノスフェラ)】は即座に消え失せ、敵であった【天地海闢 メテロ】もこの世から存在ごと消え失せた。あの【メテロ】を消し去ったスキルは領域内に存在するHP三十万以下のモノを即座に消失させるスキル。

 例え気体状態であってもそこに存在する以上、このスキルの対象となる。そしてあの場にHP三十万以下の者は【メテロ】しか存在しなかった。気体状態という無敵を以ってしても、その技を避ける術はなく【天地海闢 メテロ】は消え失せたのだ。

 

 【<UBM>【天地海闢 メテロ】が討伐されました】

 【MVPを選出します】

 【【フィルル・ルルル・ルルレット】がMVPに選出されました】

 【【フィルル・ルルル・ルルレット】にMVP特典【天地海誕 メテロ】を贈与します】

 




簡単にまとめた【天地海闢 メテロ】

①六桁を誇るステータス
②《液状生命体》
③《水閃》や《髄液爆覇》、《殺海兵鬼》といった強力スキルを生みだし繰り出す
④負けそうになったら無敵の気体状態で逃亡する

正直、フィルル一人では勝てなかった。

一番のMVPは【ネトラプレシス】。ステータスが半減されたことで《水閃》や《髄液爆覇》の威力が減少したため。本来のステータスであれば、フィルルは早々にやられていた。


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40.嵐の後の

エピローグ


 <三神激突>の行く末を見ていた二人の管理AIはその結末を見届けた。結末は首謀者の望んだ結果では決してなかったが。

 

「…」

「【グローリア】に続いて、またも君の策は失敗したってところだね」

 

 そう言いながら、管理AI十二号であるラピッドはその場から立ち去る。

 

「これに懲りたら、真面目に自分の仕事をこなすんだね」

 

 部屋を立ち去る寸前に部屋の主に放った言葉に対して、管理AI四号であるジャバウォックは言葉を返す。

 

「…そうだな。次は黄河へ【四霊万象 スーリン】を投下する予定だ。そのための調整をしていかなければならないからな」

「まあ、頑張ることだね、僕には関係のないことだけど」

「だが、お前もすぐに忙しくなる。ドライフの政変は終わり、王国との戦争となる。お前の出番だ十二号」

「…」

 

 その言葉に対してラピッドは苦々しい表情を向ける。それは彼にとって逆鱗に触れるものだったからだ。吐き出したい思いはあっただろうが、何も言わずそのまま立ち去っていくラピッド。そしてそれに興味を示さず今の戦いのデータの分析をするジャバウォック。

 

【霞纏鬼 カイゼルデモン】

 最終到達レベル:46

 討伐MVP:【超弓武者】シュバルツ・ゲッヘ Lv580(合計レベル1080)

 <エンブリオ>:【窮弓射 イージス】

 MVP特典:伝説級【霞纏矢 カイゼルデモン】

 

【鋼鉄血 ヴェキナ】

 最終到達レベル:73

 討伐MVP:【死商王】マルス Lv666(合計レベル 1166)

 <エンブリオ>:【弩級工廠 アレス】

 MVP特典:古代伝説級【鋼鉄液 ヴェキナ】

 

【塞天去死 モンショウ】

 最終到達レベル:51

 討伐MVP:【鎌神】華刈姫 Lv235(合計レベル735)

 <エンブリオ>:なし

 MVP特典:伝説級【塞天眼 モンショウ】

 

【一切皆空 アヴァシンハ】

 最終到達レベル:100

 討伐MVP:【軍神】フィルル・ルルル・ルルレット Lv187(合計レベル687)

 <エンブリオ>:【喝采劇場 アンフィテアトルム】

 MVP特典:神話級【絶空甲刻 アヴァシンハ】

 

【天地海闢 メテロ】

 最終到達レベル:101

 討伐MVP:【軍神】フィルル・ルルル・ルルレット Lv187(合計レベル687)

 <エンブリオ>:【喝采劇場 アンフィテアトルム】

 MVP特典:神話級【天地海誕 メテロ】

 

「人選を誤ったか。【殺陸兵鬼】があんな隠し玉を持っていようとは…」

 

 ジャバウォックの脳裏に過るのは【殺陸兵鬼】の最終奥義《頽廃怨地》についてだ。あれがなければ、新たに生まれたイレギュラー【天地海闢 メテロ】はドライフを蹂躙し、新たな<超級>を生みだしていただろうことは想像に難くない。

 

 しかし結果を見れば、【ネトラプレシス】の最終奥義があったとはいえ、【軍神】と【屍骸王】の二人によって討伐されている。管理AI一三号であるチェシャに匹敵する生存能力を持つ<超級>とあの【グローリア】の両親の怨念を使役する<超級>の二人によってだ。

 

 SUBMに匹敵するとはいえ、イレギュラーはあくまで神話級UBM、故に特典武具は超級武具と違い複数ではなく、単一のモノしか落とさない。

 つまり、【天地海闢 メテロ】の特典武具は一つ。それはイレギュラーの持つリソースが一つに集約されるということ。神話級武具であるため、装備補正はそれに準ずるが、スキルはイレギュラーのものに準じる。さらにステータス補正のないスキル特化の特典武具となればそのスキルは計り知れない。

 

 そして【天地海闢 メテロ】の特性から考えられる神話級特典武具【天地海誕 メテロ】の能力は…

 

「【軍神】フィルル・ルルル・ルルレットか。さて、彼は…【メテロ】を扱い切れるかな?」

 

 ◇

 

「いやー、恐ろしい戦いだったねぇ。まさかあんな最北端の場所であんなモンスターが現れるなんてねぇ」

 

 彼、いや彼女は【大教授】Mr.フランクリン。彼女がいるのはドライフ皇国のトップクランである<叡智の三角>の本拠地、その中心部にあるオーナーの私室。【グローリア】事件と同様に彼女はドライフ最北端の街で起こった三体の神話級UBMの衝突、それを発端とする<マスター>とUBMの争い、そして誕生したイレギュラーとの大戦闘を映像としてみていた。

 

 彼女が最北端で神話級UBMが出現することを知っていたのは他でもない、<DIN>からの情報だ。準<超級>のマスターにのみ広布されたUBMの出現情報。彼女はその情報の真偽を確かめるべく偵察用モンスターを送り観察をしていたのだが、情報が正しいとわかった時には既に戦闘は始まっており、彼女が手を出せる状況ではなくなっていた。

 

「そもそも、手を出せたところで私に倒せたかといえば、疑問だねぇ。…どれもレベル100に到達した神話級モンスター。例え対策を立てて、アンチモンスターを作れたとしても、リソースが足らず勝負にならないでしょうね」

 

 彼女は完璧すぎる見立てを立てた。それは自身の能力のなさを認めるようなものだが、気にすることは欠片もなかった。それよりも気になることが多すぎたからだ。

 

「最後のUBM、あれは神話級の領域を逸脱していた。【グローリア】には劣るでしょうけど、それと同格の存在。つまりSUBMもしくはイレギュラーってこと。そしてそんな奴相手に真正面から戦って生き残り、特典武具まで得た【軍神】か」

 

 【軍神】の名ならば彼女も知っていた。”幻獣旅団”の二つ名で呼ばれる【軍神】フィルル・ルルル・ルルレット。西方三国で慈善活動を行っている無所属のマスターだ。

 彼の能力について詳細は分かっていないが、《軍団》スキルを持ち、千を超えるエレメンタルと不死の獣を操るとされている。そして、今回の映像から考えられるのは…

 

「随分と配下のモンスターと《軍団》スキルを使いこなすものだ。全くうちの【魔将軍】閣下にも見習ってほしいもんだねぇ」

 

 彼女は映像に映る【軍神】とドライフの決闘ランキング一位【魔将軍】との戦いの差に嘆息した。彼のエンブリオは言うまでもなく強力なのだが、それを活かすジョブ構成も戦術プランもない【魔将軍】には正に宝の持ち腐れと彼女は鼻で笑った。

 

「まあそうは言っても皇国の最大戦力の一人であることには変わりはないんだけどねぇ」 

 

 ドライフの<超級>は【獣王】と【魔将軍】のみ。この数は他国と比較してもやはり少ないと言わざるを得ないだろう。それに何より…

 

「次期皇王はラインハルト殿下に決まった。まあ”物理最強”の【獣王】が彼の陣営についたんだ。特務兵がどれほどのモノであってもこの結果は見えていたさ」

 

 ”物理最強”の【獣王】とティアン最多戦力保持者の【無将軍】、この二人を抱えるラインハルト陣営が政変で負けることなどありえなかった。特務兵が雇った<超級>すらも退け皇王の座を射止めたのだ。

 

「しかしそうなると王国との戦争は決定的だねぇ。…西方三国で慈善活動を行うフリーの<超級>か。新しい皇王へ早速プレゼントと行こうじゃないか」

 

 新しい皇王の目的を知っていたフランクリンは情報という手土産を持って皇王宮へと向かうのだった。

 

 ◇

 

 

【<UBM>【天地海闢 メテロ】が討伐されました】

 

【MVPを選出します】

 

【【フィルル・ルルル・ルルレット】がMVPに選出されました】

 

【【フィルル・ルルル・ルルレット】にMVP特典【天地海誕 メテロ】を贈与します】

 

「…」

 

 そのアナウンスは今まで生死を賭けた戦いをしていた相手が死に絶えたことを意味していた。

 《髄液爆覇》によって自身の身体を水蒸気に変え、気体状態で逃亡を図ったはずだったが、ノスフェラの必殺スキルによって、そのまま殺されてしまった。

 

「今回は自分を【生贄】にしたのか…」

 

 フィルルの脳裏によぎったのは彼女と初めてUBMと戦ったときのことだった。【甲竜王 ドラグアーマー】を倒すためにフィルルを【生贄】にして攻撃を放ったあのときとのことを。

 

「【贄喰】のあのスキルなら確かに気体状態だろうが関係ない。一定以下のHPの存在を消すってシロモノだからな。しかし、俺がMVPに選ばれるとは…」

 

 フィルルは獲得した神話級特典武具【天地海誕 メテロ】の詳細を確認する。

 

【天地海誕 メテロ】

<神話級特典武具>

海玉から生まれし、固体、液体、気体の三態を自在に行き来する亜人の概念を具現化した神滅具。

数多の生命を喰らい糧として、解き放つ力を持つ。

※譲渡売却不可アイテム・装備レベル制限なし

 

・装備補正

 なし

 

・装備スキル

 《天地海闢》

 

「…」

 

 あまりの性能に絶句した。【天地海誕】の持つ唯一のスキル、《天地海闢》はそれほどとんでもないものだった。フィルルにアジャストしたとはいえここまで破格のスキルになるとは…

 

 しかし、申し訳なくも思っていた。最初に【海玉唯在 メテロ】と戦っていたのはノスフェラだ。そして、【天地海闢 メテロ】の言葉を信じるならば、【海玉唯在】が追い詰められたことで【天地海闢】が生まれた。ならば、貢献度は同じではないかとフィルルは考えていた。

 

 実際は《怨・終極》で身体を蒸発させただけで【メテロ】自身にはダメージを与えておらず、止めを差しただけのため、フィルルがMVPに選ばれることに不思議はないのだが、彼はそれを知る余地もない。

 

「ノスフェラに謝んないとだな、獲物横取りしてゴメンって。…しかし、アイツはデスペナになったわけだしカルディナへ行くのは当分お預けか」

 

 ノスフェラのデスペナルティを明けるのを待たなければならないため、最低でも三日間はカルディナへは向かえない。

 

「そういや、復活するセーブポイントは何処に設定していたっけか?」

 

 《超級》になってからデスペナの危険に晒されたことなどそう多くは無かったため、セーブポイントのことが疎かになっていた。

 

「ああ、皇都ヴァンデルヘイムか。しょうがねえ、とりあえず、ノスフェラが復活するまでに皇都に戻るか。ちょっと遠いが、三日もあれば十分だな」

 

 そして、フィルルは皇都に戻る。だが、皇都でフィルルを待ち受けるのはノスフェラだけでなく、戦争を前にした皇国の陰謀と策略だった。

 

 

 




最終章とは何だったのか。

もう少しだけ続けてみます。

ただこれまで以上に批判が多くなりそうで怖い


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幕間 キャラクター&エンブリオ紹介

紹介ページ(ちょくちょく更新するかも)


名前(アバター):フィルル・ルルル・ルルレット

名前(リアル):???

年齢:15

メインジョブ:【軍神】(軍団スキル特化職)

エンブリオ:【喝采劇場 アンフィテアトルム】

キャラ紹介:

本作の主人公。ほぼ初日勢(厳密には発売日の一日後)

最初はルーキーらしく、ソロやパーティーで狩りをしていたが、何の因果かセプータの村へ飛ばされてしまう。そこから彼のデンドロ生活は劇的に変わっていった。

セプータでの戦い、霊都近郊でのUBMとの戦い、セプータへの帰還、霊都での”幻獣旅団”との激突、そして<三神激突>。

本人はあくまでゲーマーなので、ゲーム的な面白さを追い求める一方で、時折ドライな面をみせる。が、年相応に思い悩むことが多々ある様子。

 

ちなみに、今もってガードナーへの愛は消えていない。

 

名称:【喝采劇場 アンフィテアトルム】

<マスター>:フィルル・ルルル・ルルレット

TYPE:プレイングワールド

能力特性:ステータス上昇スキルの活用

到達形態:第七形態

紹介:フィルルのエンブリオ。

フィルルが”軍団最強”足り得るマスターピース。

《輝く劇場の主役》:パーティー内最大十四体までのスキルによるステータス上昇数値を自身に加える。

《光る劇場の脇役》:パーティー内のモンスターのスキルによるステータス上昇数値の半分を他のモンスターに加える。

《終劇は万雷の喝采と共に》:必殺スキル。領域内のパーティーメンバー以外のスキルによるステータス上昇数値を自身に加える。最大補足数は五十。

 

どれも破格のスキルのように思われるが、実際はそこまでではない。発動には常にMPを消費し、パーティー枠もそこまで多いものではないからだ。

しかし、《軍団》スキルとある特典武具によっていろいろぶっ壊れてしまった。消費するMPも自身のスキルによって上昇したMPで賄えることから、ほぼデメリットなしとなっている。

 

ちなみにステータス補正は第一形態のころからあまり変わっていない。

 

装備品:

《武双刀剣》:古代伝説級UBM【錬鉄武双 シノギタチ】との戦いで【シノギタチ】が投げ捨てた刀剣を回収したもの。《武双強化》が発動していないとはいえ、【シノギタチ】が《武双投影》によって生みだした良業物。それでもフィルルのステータスで振るえば壊れる可能性はあるが【双剣聖】のスキルにより、刃こぼれや破損を起こしにくい。

 

【三源輝套 クリスタリヴ】:神話級特典武具。外套。問題児①。一度に千体の【スポアエレメンタル】を生みだす。通称、胞子。胞子のステータスはレベル0以下であるため、本来は神話級の割に糞雑魚特典武具である(なお)

 

【武双勲章 シノギタチ】:古代伝説級特典武具。イヤリング。問題児②。特典武具の性能をあげる。ただし、一度に一個まで。また、強化具合も特典武具のリソースによって変化する。(例えば、【クリスタリブ】を胞子の生みだす数やクールタイムを改良することはできるが、胞子のステータスをあげることはできない)

 

【天翔駆甲 クィスヤッコ】:古代伝説級特典武具。靴。空を歩行し、さらに空中移動時の高いAGI補正を持つ。他の特典武具と比べると真っ当な物。普通の人であれば、【クリスタリヴ】よりこっちを欲しがるかもしれない。

 

【絶空甲刻 アヴァシンハ】:神話級特典武具。手甲。問題児③。喰らったダメージを倍の威力、同等の速度、射程にして飛ばす。なお誰かさんと同じでダメージを無効にしても発動する。本来は【救命のブローチ】で致命傷を無効にしつつ、カウンターを仕掛けるといった使い方が想定されていた(なお)

 

【天地海誕 メテロ】:神話級特典武具。ネックレス。詳細不明。

 

名称:虎丸【ハイアンデットタイガーキャット】

種族:アンデット

紹介:

記念すべきフィルルの一体目の従魔。そしておそらく最後の従魔。フィルルがもう二度と従魔を失いたくないという後ろ向きな思いのためである。(なお、胞子は別らしい)

一度【純竜獅虎】のまで上り詰めたが、死に絶えた。その後、【屍骸王】の手によって【アンデットタイガーキャット】として復活。魂はともかく、モンスターとしては根本的に変わってしまっている。進化してもサイズは変わらず、HP以外のステータスが伸びず、スキル特化モンスターとなっている。

 

 ◇

 

名前(アバター):ノスフェラ・トゥ

名前(リアル):牧島希海

年齢:15

メインジョブ:【屍骸王】(屍屋系統超級職)

エンブリオ:【浄穢境界 ヨモツヒラサカ】

キャラ紹介:

本作のヒロイン?全身白骨アバター。最初のころはヨモが生みだした怨念をエネルギーとして動いていた。

始めた頃は親への反抗心で行っていたが、ヨモやフィルルとの出会いを通して、デンドロの世界が好きになった模様。そのせいか、親との仲もそれなりに良くなっている。(なお、親はノスフェラのアバターやプレイスタイルのことを知らない)最近また、強力な怨念を手に入れた。

 

名称:【浄穢境界 ヨモツヒラサカ】

TYPE:アポストルwithキャッスル・ワールド

能力特性:怨念

到達形態:第七形態

紹介:ノスフェラのエンブリオ

怨念を生みだし、怨念を強化するエンブリオ。

《転念怨遷》:領域内の消えゆく魂や怨念をより強い怨念へと改変するスキル。ちなみに<超級>となった今だと生みだした怨念を相手にぶつけるだけで呪怨系統状態異常を引き起こす。

《穢土の浄魂、浄土の穢魂、反転するは我が境界にて》:必殺スキル。長い。改名したい。

怨念となって漂っている魂を生前よりも強化(あるいは狂化)した状態で具現化する、死者の蘇生とは似て非なる御業。超級職やモンスターに殺されたUBMなどを具現化可能。具現化する存在のリソースによって【怨念のクリスタル】の消費量が増える。

 

名称:髄骸【ハイエンド・アンデット・キメラ】

種族:アンデット

【屍骸王】の奥義によって【甲竜王 ドラグアーマー】と【兵装氷狼 ルゥガンルゥ】の屍骸を掛け合わせて作ったアンデットモンスター。両方のステータスとスキルを併せ持ち、【怨念のクリスタル】の強化を含めて神話級UBMにも匹敵し得る。素材が増えればさらに掛け合わせて強くしていけるというある意味無限に強くなる存在。モチーフはオメガ○ン

 



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戦争編 41.皇都

戦争が始まる。
正直どう着地するかわからん。
変な感じになるかもですがご容赦を。


 【天地海闢 メテロ】との戦いの疲れもあったため、一度ログアウトしてから戻ってきたフィルル。デスぺナ明けのノスフェラと落ち合うためにも皇都ヴァンデルヘイムに戻らなくてはならないが…

 

「しかし、皇都に戻るっていってもどうするかな」

 

 歩きながら、皇都への道を思い返す。

 しかし、思いだせなかった。

 なにせ今フィルルがいるのはドライフ最北端の街。より詳しく言うなら、飢餓で滅んだ街だ。その問題の解決のために駆け付けたためか、道をよく覚えていなかった。

 

 皇都に戻る道はあるにはあったが、この辺の道は入り組んでおり、まっすぐ進めば皇都に着くというものでもなかった。

 

「こういうのはいつもノスフェラにまかせっきりだったからなー」

 

 大抵の場合は、同行しているノスフェラか、そのエンブリオである四方都が道案内をしてくれていた。そのためか、フィルル自身が道を覚えるということはあまりしなかった。

 

「まあ、最北端の街っていうくらいだし、南に進んでいればいずれ着くだろ」

 

 そう言って南に歩きだすフィルルであったが…

 

「南に進みたいんだがなー。どうしてこんなところに森があるのか。突っ切ればいいんだろうけど、そもそも来た時に森を抜けた記憶がねえ」

 

 フィルルは道に迷っていた。現実世界では彼を助けてくれる地図アプリがこのデンドロの世界には存在しない。(実際には同様なものは存在するが、フィルルは持っていない)

 だが、今回は地図アプリがなくて正解だっただろう。もし持っていれば、余計に混乱しただろうからだ。

 

 なんとか森を抜けようとしたフィルルであったが、それは叶わない。

 森を無事に抜けたと思ったら、元いた場所に戻ってしまう。何度か同じことを繰り返し、それでも結局元いた場所に戻ってしまった。

 

 それもそのはず、本来そこには森は存在しない。

 そもそも、ドライフの最北端に近いこの場所にフィルルが迷うほどの森林があるはずがないのだ。

 そう、ここにいるのは【幻壺首魁 ポラノーシス】、逸話級のUBMだ。

 

 【ポラノーシス】は壺型モンスター。

 その能力は構築。

 自身の周りの空間を自身の望むように構築することができる。

 そして、構築したモノをさらに再構築する能力を持っている。

 その能力で森林を構築し、その森に人間やモンスターを誘い込み、森林の再構築を繰り返すことで相手を脱出させず、弱り果てたところを喰らうUBM。

 

 本来であれば、フィルルは森林を抜けることすらできなかった。

 それが今回、フィルルが森を脱出できたのは運が良いからではない。

 【ポラノーシス】がフィルルの力量を正しく測り、フィルルを相手にしては勝ちきれないと踏んだためだ。

 そのため、閉じ込めるのではなく、元の位置に戻らせることでフィルルとの接触という身の危険から身を守ろうとした。

 フィルルを素通りさせるという選択肢もあったが、自身を発見されてしまう可能性を考えてその選択肢は捨てた。 

 

 そして、それは正解だった。

 

「あー、もうめんどくせー。南に直進すりゃ皇都には着くんだ。だったら道を辿る必要も、森を抜ける必要もねぇ」

 

 そう言ってフィルルは空を駆ける。眼前の森林がUBMが生みだした偽りの景色だということに気づかぬまま。

 

 そして、それは【天翔駆甲 クィスヤッコ】の能力、《天駆》によるモノ。空中歩行能力を持ち、さらに、空中移動時に高いAGI補正がかかる。その補正値は50%、つまり空中移動時はAGIが1.5倍になる。

 そして空中にはフィルルの動きを阻害するものはない。彼を惑わせる街道や獣道、そして【ポラノーシス】が構築した森林もなく、まっすぐ南を目指す。

 

 これで皇都にたどり着けると安堵するフィルル。だが、何より安堵したのは森林を生みだしていた【ポラノーシス】に他ならない。

 

 ◇

 

 空中を歩行しながらフィルルはふと思いを走らす。 

 

「…そういや【シノギタチ】をこれに使ったことはなかったな。試してみるか」

 

 フィルルは【武双勲章 シノギタチ】の能力、《武双極化》は特典武具の性能を強化するスキル。普段は自身の最大の武装、【三源輝套 クリスタリヴ】にのみ効果を発動している。そうした方が、自身の戦闘力や継戦能力、生存能力が格段に上がるからだ。

 

 何より、そんなことを考えるまでもなく、【クリスタリヴ】を強化して戦えばどんな相手にも勝てていた。だが、【天地海闢 メテロ】との戦いで自身の考えを改めた。持ち札は多いほうが良く、試せるならあらゆる手を追及する必要があった。

 

 幸い今は移動時、さらに言えば空中であるためフィルルを害する敵もそうは存在しない。実験するにはちょうどいい。《武双極化》の対象を【クリスタリヴ】から【クィスヤッコ】に変更する。

 

 その瞬間、フィルルの移動速度はさらに上昇する。それもそのはず、先ほどまでの50%のAGI補正が今は100%のAGI補正となっているからだ。空中移動時に限って言えば、AGIは2倍という破格の数値となる。

 

「AGI補正の2倍強化か。うん、なかなかいい結果だ」

 

 《武双極化》が強化できる能力には相性がある。

 例えば、【三源輝套 クリスタリヴ】を対象にすれば、保有するスキル《エレメンタルプロダクション》が強化される。だが、生みだす【スポアエレメンタル】のステータスを上昇させるのではなく、生みだす数やクールタイムを減少させるといった強化となる。

 これは特典武具の特徴をより強化するためだ。限られたリソースの中で強化するのであれば、その特徴を伸ばしたほうがいいという当然の帰結である。

 それが【天翔駆甲 クィスヤッコ】の場合は空中移動時のAGI補正が強化されるというわけだ。

 

「うーん。使い勝手は一番いいんだろうが、結局足が早くなるだけ。発展性はないなー」

 

 AGIが上昇するのはいいが、【軍神】のスキルの起点となる【クリスタリヴ】の方が優先度は高い。最大でAGIが20万オーバーとなるのはいい。【双剣聖】のスキルとの組み合わせも考えればAGIが高いに越したことはない。

 

 だが、フィルルの主な戦い方は、【スポアエレメンタル】を数多の陣と【アンフィテアトルム】で強化していくスタイル。【スポアエレメンタル】の供給に直結する、生産数やクールタイムは強敵との戦いになればなるほど重要となる。

 

 胞子が尽きてしまえば、残るのはステータスが糞雑魚となったフィルルと虎丸だけになってしまうからだ。そうなってしまえば、フィルルは上級マスターにすら劣るだろう。【スポアエレメンタル】の生産が滞るのは死活問題と言えた。

 

「いや待てよ?…試してみるか」

 

 ◇

 

「うーん、できるはできるけど、実践ではって感じだな」

 

 皇都に降り立ち、新しい試みについてまとめる。結論としては…できるはできるが、実践では使えるかはまだ不明といったところだ。そもそも、使う機会も早々来ないだろうなと見切りをつける。

 

「実験を兼ねていたからか、随分早く着いちまったな。しかし、なんか空気が悪いな」

 

 見渡す限り活気がない。つい先日まではこんな風ではなったはずだが…

 

「まあ、北方に飢餓で滅んだ街があるくらいだからな。皇都でもそのあおりを喰っているってところか。全く皇族は何をやって…ああそういうことか」

 

 この国の皇王はかの【グローリア】より来襲の一か月前にすでに亡くなっている。王政が滞るのも仕方ないといえるだろう。だとしても、今は喪も明け新たな皇王が決定したはずだ。それが誰かまでは分からないが…まだうまく内政を行えていないのか。

 

 いやだとしてもこの空気は…

 

「あ、おい。アンタ、皇王がどうなったか知ってるか?」

 

 フィルルは道を歩いていた白衣の男に声をかける。この世界で白衣を着ている男だなんて奇妙な男だが、十中八九マスターだろう。ドライフに所属しているマスターなら皇王が誰か、そしてこの淀んだ空気の理由を何か知っているだろうと問いを投げた。

 

「…歩きながらでもいいかい?」

「ああ」

「皇王はラインハルト殿下に決まったよ」

「ラインハルト?聞いたことないな」

「そうだねぇ。ラインハルト殿下は第三皇子の子。影も薄かったし、順当であれば皇王にはなれなかっただろうしねぇ」

 

 意味深な言い方だ。

 

「でも皇王は誕生したんだろう。だって言うのに…うまくいってないんじゃないのか?閉塞感漂う空気が漂っているぜ」

「ああ、それは仕方ないねぇ。いままでまともに国の運営はできなかったから」

 

 皇王なのに国の運営ができない?

 

「フィルル君は存外、世間知らずだねぇ。ラインハルト殿下は確かに皇王になった。前皇王の遺言通りにね。でも、それに反対する貴族が多かったからねぇ」

「…それはまあ、何というか。しかし、他の貴族ももっと気を利かせればいいのにな」

 

 前皇王の遺言通りに皇王になったものを疎んじたのか、気に食わなかったのかは知らないが、それで国民を不安にさせては意味がないだろうに。

 

「いや、他の貴族の考えることももっともだよ。自分たちの支持する皇子たちを皆殺しにされたとあってはね」

「…は?遺言通りに皇王になったんだよな。なんでそんなことに」

「遺言通りにやったからだろうねぇ。『身内で殺しあえ、勝者が皇王だ』なーんて遺言通りに」

 

 それ、そんな遺言残した前皇王が悪いんじゃ…

 

「で、皇族を皆殺しにして皇王になったのはいいけど、まあ、そりゃ遺恨は残るよねぇ。新しい皇王を倒すために皇国最大戦力である特務兵を差し向けるほどだから」

 

 特務兵。たしかドライフ特殊任務兵士団。カンストした人間や超級職を多く抱えるドライフ最強の戦闘集団だ。そんな奴らが新皇王を襲い掛かったのか。…よく生き残ったな。

 

「特務兵の奴らは<超級>も雇って皇王を潰そうとしたんだけどねぇ、皇王にも囲いの<超級>がいるから意味はなかったけど…」

「…」

「まあ、そんなこんなで皇王として正式に認められたのがつい昨日。やっと政治を行えるってわけさ」

「じゃあ、皇都はもう落ち着くんだな」

 

 内乱が終わり、ドライフは漸く新しい皇王の元で進んでいくだろう。

 

「それは…どうだろうねぇ。戦争が始まるからね」

「…え?」

「アルターとの戦争だ。まあ詳しい話は本人から聞いてくれよ」

 

 それってどういう?ここは…

 

「ようこそ、皇王宮へ。ドライフは君を歓迎するよ、”幻獣旅団”のフィルル・ルルル・ルルレット」

 

 




祝・フィルルに出会って殺されなかったUBMの登場(なお)


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42.皇王

お待たせしました。
会話大目です。


 皇王宮。

 

 皇都の中心に位置するその外観のほとんどは近代都市に似た街並みの延長線である。今フィルルが白衣の男に連れられて歩いている場所もその近代都市の一部でしかなかった。

 

「なあ、戦争だの皇王に会うだのどーなってるんだ?」

「さっきも言った通りだよ」

「いや、俺なんがが皇王にあっていいのか?」

「いいんじゃない?この国はラインハルト様の元で生まれ変わるからね」

「生まれ変わる?」

「そう、他の国に例を見ない、マスターを軍事力とした国にね」

 

 それは…

 

「知っての通り、マスターはエンブリオがある分ティアンより強いからねぇ。なにより、死んでも三日で甦る。軍に兵隊にしない理由がないねぇ」

「…」

「まあ、その辺の話はこの先でだ」

 

 そこにあったのは機械仕掛けの巨大要塞。常にどこかの部品が動き続ける、歯車の城。その城こそが【皇玉座 ドライフ・エンペルスタンド】。

 そして、その深奥部、ドライフ皇国の皇王執務室であった。

 

「あなたが【軍神】フィルル・ルルル・ルルレットですね。私はラインハルト・C・ドライフ。この国の皇王です」

 

 そこにいたのは隻腕の、そして傷だらけの王様であった。

 

 ◇

 

「えーと、お初に?お目にかかります。フィルルです、ハイ」

「えらいかしこまりようだねぇ」

「そりゃ、皇王なんだろ?王族なんだろう?へりくだるってそりゃ」

「随分と小市民なのね」

「ほっとけ」

 

 しかし、皇王はなぜこんなにボロボロなんだ?…あ、そうか今まで内乱してたんだっけ。

 

「あまり堅苦しく話さなくて結構ですよ。私自身、皇王になったのはつい昨日のことです。特にマスターの皆さんには王族などは関係のないことですから」

「そ、そうかな?」

 

 そう言われても、態度を中々変えられない自分に、自分でもびっくりする小市民ぶりであった。

 

「そもそもなんで俺、皇王様と謁見してんだ?」

「戦争のためだよ、フィルル君」

「フランクリン、話を盛るの良くないですよ。戦争は万が一の可能性です」

 

 おん?

 

「アルターと戦争するって話を聞いたんですけど、本当なんですか?」

「可能性としては低いです」

「おや、だったら頼まれてる私の”大量生産”も止めようかねぇ、戦争がないのなら必要のないものだし」

「戦にならずとも備えは必要です。それに…敵はアルターだけではありません」

「?」

 

 色々疑問は尽きないが、やはり気になるのは…

 

「なんでアルターとの戦争を前提としているんです?アルターとドライフは友好国じゃなかったでしたっけ?」

「そうですね…どこから説明したものか」

「そういやフィルル君は西方三国で慈善活動をしていたんだよねぇ。北部の街を見てて気づかなかったかい?」

 

 慈善活動、北部の街、そうか…

 

「飢餓…か」

「そう、ドライフでは近年、耕作地の減少が続いています。これはマスターが増加する前から顕在化している問題です。そしてそれは今も悪化の一途を辿っている」

「原因不明の飢餓。私たちのクランも何度か調査や研究の手伝いをさせてもらっているけど、改善の見込みもない。芋すら栽培できない不毛の地が今や皇国全土の三割を占めている」

「そして、その範囲は今も増え続け、最早我が国の食料自給率は自国民を生かすのに足りなくなっています」

 

 …まさかゲームの世界で飢餓問題をがっつり説明されるとは思わなかったぜ。しかし、やっぱりそうか。北部の街があれほど荒んでいたのは、皇国では解決できない問題だから。じゃあ他国を頼ろうと俺たちもしていたわけだが…

 

「本来であれば、隣国のアルターやカルディナから輸入すれば問題はなかったはずでした。しかし…」

「カルディナが何を思ったのか食料の輸出量を絞り出したんだよねぇ」

 

 食料の輸出を?カルディナは交易で利益を上げる国のはず。そんな国がなぜ輸出を控える?

 

「国家規模の食糧輸送。封じられてしまえばドライフがカルディナからの食料獲得をあきらめるしかありません」

「そうなると…残りは王国だけだねぇ」

「そうだ。グランバロアはどうなんだ?」

 

 あの国は海洋大国。海の資源が豊富で海産物だって…

 

「グランバロアも食料で言えばうちと大差ないねぇ。なんせ海しかない国だから農作物がほとんどない。それを他国から融通してもらっている。最もグランバロアはカルディナからの食料供給が続いているフシがあるけど」

「海洋国家が有する航路はそれだけで価値があります。カルディナもグランバロアはまだ敵とするべきではないと判断しているのでしょう」

「逆に言えばドライフは…ってことだねぇ」

 

 なるほど。要は他国に頼れる状況でもないってことね。だけど…

 

「アルター王国は友好国のままだ。それで何とかならないのか」

「王国からの輸入は今も続いています。そのおかげで少数の餓死者を出しながらも国としては存続できています」

「…アルターからの輸入があっても餓死者はなくならないのか」

「だけど光明もあるねぇ。新皇王決定後の王国との国家間交渉。それの内容次第ではより多くの食料輸入を勝ち取ることができるかもしれない」

「以前から王国と皇国には連合王国化する計画がありました。新体制となったことでそれを強く推していけば飢餓問題は解決できる見込みが大きいでしょう」

「だったら…」

 

 だったらドライフを苦しめている飢餓問題は解決できる。これしかない、絶妙な一手だ。

 

「ですが…交渉はうまくいかないでしょう」

「え?」

「理由は数多ありますが…第一に王国がこちらの要求を呑む可能性が極めて低い。そして交渉が決裂し、同盟関係を解消される可能性すらある。そうなれば、今あるアルターからの食料輸出さえもなくなるかもしれません」

「待ってくれ。どうしてそうなる?連合国化は元からあった計画なんだろ。それの履行を求めただけでどうしてそこまで拗れるんだ」

 

 両国にとってメリットの大きい連合国化だ。アルターでさえ断る理由はないだろう。仮に連合国化までたどり着けなかったとしてもだ。それで同盟が解消されるなんてことは在り得ない。

 

「詳しくは話せませんが…皇国と世界(・・)に必要なものを要求するだけです。そしてその要求はそれほどの軋轢を生むということです」

 

 皇国と…世界に必要なもの?食料と…なんだ?

 

「ではフィルル君問題です。国家間交渉の結果、王国との同盟関係は破棄され食料輸出はなくなりました。カルディナでは奇妙な行動が続いています。明らかな戦争の準備をしているといえるねぇ。そんななか、君はドライフの食糧問題解決のためにどうするかな?」

 

 どうするって…どうする?交渉は決裂し、他国はどの国も食料を輸出せず、不毛の地は広がるばかり。そんな中でドライフが取るべき行動は…

 

「奪うしかないねぇ、他の国から」

「…!」

 

 それは俺の中で最初に浮かんだ答えと同じだった。そしてその略奪の対象となる国は他でもない…アルター王国だ。

 

「だからこそ私たちは今の段階から備えている戦争に向けてねぇ。仮に交渉が成功して王国との連合国化がなったとしても次はカルディナが動いてくる可能性がある。連合国対カルディナの戦争になるかもしれないからねぇ」

「どのみち戦争は避けられないでしょう。ドライフであれ、アルターであれ、カルディナであれ。<戦争結界>の仕様からして戦争にマスターを参加させたいという意思を今の管理者から感じます」

「マスターでいうところの一大イベントだからねぇ、戦争は」

 

 戦争イベント。

 それは解説書に書いてあった、国家間の大規模戦闘であり、所属国同士の命運を賭けたビッグクエスト。

 <マスター>とティアンが入り乱れての大決戦で中々起きないイベントだあり目玉の一つでもある。

 

 だがそれは…

 

「ここで最初の話に戻るねぇ。ドライフでは今この時から戦争に備え準備をしている。既にドライフに所属しているマスターに頼んでねぇ。うちのクランも既に兵器の生産に取り掛かっている」

「そして、それ以上に進めているのが、無所属のマスターを雇い入れることです。王国とドライフとの間でマスターの差はそこまで大きくありません。であるならばより多くのマスターを外部から雇い入れ、逆に王国側で雇われる可能性を潰しておかなければなりません」

 

 無所属のマスターをドライフ側の戦力として戦争に参加させる。それはつまり…

 

「【軍神】フィルル・ルルル・ルルレット並びに【屍骸王】ノスフェラ・トゥ。以上二名の無所属の<超級>にドライフ皇国への所属を求めます」

「結局は戦争の備えってやつかよ。何が戦争は万が一ですだ。戦争にならないための努力をしろよ!」

「あなたのおっしゃることは最もです。ですが、戦争はしなかった。しかし、国は飢餓で滅んだではそれこそ為政者失格です」

「だったら!…だったら王国との交渉で最低限、食料だけでも…」

「善処はします。ですがこちらにも譲れないものはあります。例え戦争になってでもね」

「…」

 

 ただの王様であるはずの皇王が発したその言葉はあまりにも力強くこの身に突き刺さった。それは断固たる決意の表明にして圧倒的な圧をもっていた。

 

「…どうして俺たちなんだ?」

「私はこの身で<超級>の恐ろしさを体感していますからね。協力を仰げるなら仰ぎたいのですよ」

 

 そう言って皇王はその右腕を見せた。肘から先になにも存在しない右腕をだ。

 

「…意外だねぇ。君みたいなタイプはあっさり戦争に参加するものだと思っていたよ。それとも<世界派>だったのかな?」

「<世界派>だの<遊戯派>だのは関係ねえ。命の重さなんて下らねえこと言うつもりもない。…要は納得できるかどうかだ」

「なるほどね。それは単純で…ひどくわかりづらいものだ」

「それに俺はともかくノスフェラはどう出るかわかんねよ」

 

 アイツは今デスぺナの最中だ。俺がノスフェラのことまで決めることはできない。

 

「ですからまずはあなたと交渉したいと思っています。あの街で起きた神話級UBM同士の戦いに勝利したあなたとね」

「交渉?」

「ええ。あなたがドライフ所属になれば…ドライフ内での”幻獣旅団”の指名手配を取り消します」

 

 



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43.<超級激突>

「なん…だと…」

 

 皇王から放たれた言葉を、その意味をフィルルは受け止める。それは衝撃と戸惑いをフィルルにもたらした。

 

「どうして…アンタが…そのことを…」

「”幻獣旅団”。そんな二つ名で西方三国を歩きまわり、慈善行動などすればおおよそ察せられますよ。あなたと壊滅した”幻獣旅団”との関係とその目的もね」

 

 皇王はまるで何もかも分かったかのようにその言葉を述べた。

 

「過去に西方三国で慈善活動を行うパーティー、”幻獣旅団”が存在しました。ですがそのパーティーには黒い噂が付き纏っていました。慈善活動の傍らで犯罪行為に手を染めていると。そうした中、とうとう彼らは殺人を犯してしまします。マスターが行う犯罪の中でも最も重い殺人をね。その結果、”幻獣旅団”は全員指名手配となった。その後、レジェンダリアでの窃盗行為で全員が”監獄”へと送られました。そして、その後、”幻獣旅団”と呼ばれる一人のマスターが西方三国で活躍し始めました。ここに関係を見出せない者はいないでしょう」

「…」

 

 皇王の言葉は正しくフィルルの全てを見透かしていた。

 

「あなたも”幻獣旅団”の一味だったか、あるいは親しい関係だったか。あなたを見るに後者なのでしょう。そも”幻獣旅団”が犯罪者集団というのに明確な証拠はありませんでしたから。”幻獣旅団”のために行動しているといったところでしょうか。…あなたの表情を見るに”幻獣旅団”そのものに強い拘りがあるのでしょう」

 

 それは正しくフィルルの心情を読み取っていた。

 

「特に今回の戦争は…アルター王国を相手にするもの。あなたにとっても意義が深いものではないですか?”幻獣旅団”を内部から潰したのはアルター王国なのですから」

「…アンタ…本当にどこまで…」

「”幻獣旅団”のうち実際に犯罪を犯していたのは五人。あなたが親しくしていた四人は犯罪には手を染めていなかった。そう、彼ら四人はアルター王国の貴族に目を付けられ滅ぼされた。理由はただ一つ目障りだったから。そんなあなたの王国への憎しみは強いものでしょう」

 

 フィルルへ投げかけられる言葉はフィルルの中に突き刺さった憎しみの種を再び萌芽させようとする。それに抗うために別の言葉を投げかける。

 

「どうやって、そこまでの情報を…」

「皇王となった私に皇国中のマスターが協力してくれています。その中には過去の観測に特化したマスターもいます。たった1日で他国の事情をここまで調べ上げるほどのマスターがね。その人にあなたと”幻獣旅団”の関係を探ってもらいました」

 

 過去観測に特化したマスター。エンブリオの能力は多種多様。過去観測に特化したエンブリオであれば、そのような芸当も可能。そして、そのようなマスターが王国にも皇国にも五万といる。皇国が戦力の拡大を図るのは当然ともいえる。

 

「皇王権限で指名手配を解除すること、特赦は容易いことです。君の友達であるフルメタル、ゆるり、ロゼ、ドリルマンの四名を皇国所属のマスターとしてね」

 

 それはあまりにもフィルルにとって甘い毒であった。フルメタル達が今どうしているかはフィルルは知らない。監獄でこのゲームを楽しんでいるのか、それとも引退してしまったのか。それでも、帰れる場所があるというのは大きいなことだ。 

 フィルルはそんな皇王に屁理屈を返すので精いっぱいであった。

 

「同じことは王国でもできる。今の情報を持って王国に戦争の危機を知らせて、王国の戦力として戦争に参加する。その見返りとして”幻獣旅団”を…」

「”幻獣旅団”の発端となった王国で、ですか」

「…」

「試してみるのはいいでしょう。しかし、果たしてあなたの心はそれを許すでしょうか。そもそもあの王がそんなことを認めるとは思いませんが」

 

 皇王はフィルルがそんなことを言いだすのすら分かっていたように返答した。そして、それはフィルルの逃げ道を塞いでいった。

 

「まだ決めきれないようですね」

「…」

「なるほど…納得の問題ですか」

 

 今のフィルルは皇王の言うように宙ぶらりんのままであった。それは言葉次第でどちらにも転ぶということ。そんなフィルルを皇王はさらに動かそうとする。

 

「あなたには是非皇国の戦力となってもらいたい。しかし、あなたには王国の戦力となる選択肢ももちろんあります。おそらく皇国ほどの見返りは得られないでしょうがね」

「…」

「しかし、あなたたちは自由です。そんなマスターたちに私ができるのは譲歩と…提案です」

 

 それは…悪魔の囁き。

 

「この提案に乗っていただければ、その時点で”幻獣旅団”を特赦としましょう」

 

 或いは…天使の誘惑。

 

「条件は単純明快、決闘です。あなたが勝てばあなたの自由、こちらが勝てば皇国所属のマスターとなってもらいます」

「それは…」

「あなたたちマスターにとってわかりやすい全てを賭けたゲームですよ」

 

 ◇

 

「ここは…」

 

 フィルルが連れてこられた場所は皇王宮のさらに地下に存在する場所。そこは地下にあるはずなのに途上の皇王宮よりよほど広く、そして、その地下室を区切っている隔壁は神話級金属と複数の遮断魔法を組みあわせて作られた、構造だけをみれば現存する限り最硬の防御を誇る要塞ともいえる。

 

「フィルル君は先々期文明って知ってるかな?」

「先々期文明か。聞いたことがあるようなないような」

 

 フランクリンの言葉にフィルルは言葉をかえす。

 

 先々期文明とは現在の<Infinite Dendrogram>から約二千年前に存在した高度文明。名工フラグマンに代表されるように、現在よりも魔法技術や科学技術などが優れていた時代。

 ”煌玉馬”や”煌玉竜”、”煌玉人”といった遥かに卓越した兵器が幾つも存在した文明。

 

「先々期文明は機械文明、魔法技術が発展していてねぇ。それこそ、今の<超級>や神話級UBMに匹敵する兵器が幾つも存在するほどに」

「そいつは…すごいな」

 

 <超級>や神話級UBMは現在のこの世界で最上位の力を振るう者たちのこと。

 フィルルが知っている中でも桁違いの力を有している者たち。

 

 <超級>に限っても、怨念を生みだし、さらに死者蘇生に近い御業をも起こす者。

 時間経過と共に無限に装備品の性能を向上させる者。

 ジョブスキルを書き換え、神話級悪魔を複数召喚する者。

 

 また、神話級UBMではさらに吹っ飛んだものが多くなる。

 無尽蔵に配下を生みだし、強化する存在。

 驚異の回復能力と脅威のカウンター能力を持つ存在。

 そして…最強のステータスと数多のスキル、更に無敵の肉体を持った存在。

 

 誰もかれも最強クラスの実力を兼ね備えている。そんな者たちに匹敵する兵器が数多存在した時代。それは凄まじいものだろう。

 

「ここはねぇ…そんな最強クラスの兵器の地下実験場だよ」

「実験場?」

「元々ドライフはそんな先々期文明の信奉者が集まってできた国。その場所は先々期文明の痕跡が最も多く残っている所が選ばれた」

「ここもそんな場所の一つなのか?」

「ああ。現実世界で言えば核ミサイルの数倍の威力を持つ兵器を生みだしていたんだ。そんな兵器の実証、実験のためにはそれ専用の実験場が必要になるだろう?ここはまさしくそれだよ」

 

 神話級UBMの最強の一撃は核ミサイルの数倍にも匹敵する。それと同等かそれ以上の威力を持つ兵器。そんな兵器を開発し、試すにはそれ相応の実験場が必要というのは道理。ここのような幾多の神話級金属と魔法遮断機構が組み込まれたようなものがだ。

 

「なるほどな。…でもなんでそんなところに連れてきたんだ?決闘とか言っていたからてっきり闘技場に行くものだと思っていたんだが…」

 

 フィルルは皇王の提案を快諾した。

 決闘の結果に限らず、フルメタル達の指名手配は解かれる。それでフルメタル達がどう動くかはわからないが…それでもフィルルにとっては希望とはなる。またフルメタル達とこのゲームを楽しめるかもしれないという希望がだ。

 

 その上で決闘に勝利すれば、フィルルにとってはデメリットは存在せず、仮に負けたとしても皇国所属となるだけ。戦争に参加するかどうかもまたこちらの自由となり、そこまで大きなデメリットも存在しない。

 

 そのため、フィルルは皇王と【契約書】を交わし決闘の準備を進めていた。しかし、連れてこられた決闘場ではなく、地下の兵器実験場。これではフィルルでなくとも疑問が生まれるというものだ。

 

「ああそれは、人目を避ける為だよ。決闘場で超級同士が戦ったりしたら大変な騒ぎになるだろう?それを避ける為にね。それに君も下手に注目を集めたりはしたくないでしょ」

「そりゃまあ、確かに。だけど闘技場なら不透過にできるんじゃなかったか?」

「できるさ。だけども噂は流れる。そうなれば君のことをつけ回す連中も出るかもしれないだろう?」

 

 <超級>同士の決闘だなんてやっていたら誰でも見たがる。見れないとなればより過激な手段に出るものもいるかもしれない。そしてそんなことになれば、いずれフィルルの手の内がばれてしまう。

 それは危険な事と言える。対策を立てられてしまえば、フィルルの攻略は容易になるだろうからだ。

 

「闘技場でもなくともここでなら、人目を気にせず死闘ができるってわけだねぇ」

「なるほどな。確かにここの設備ならビクともしなさそうだな。しかし、闘技場でないとするなら相手は【魔将軍】ってわけじゃなさそうだな」

 

 ドライフにいる<超級>の一人、【魔将軍】ローガン・ゴットバルトは生贄を用いた召喚術を得意とするマスター。

 闘技場には結界が存在し、戦いのあとに受けたダメージや消費したアイテムが元に戻る。いつでも安全に全力の勝負をできるというわけだ。

 そして、そんな闘技場と【魔将軍】の組み合わせは最高峰。デメリットを気にせず、神話級悪魔を複数体率いるのはそれだけで脅威である。しかし…

 

「【魔将軍】相手なら楽勝だったのになー」

「そう思うかい?」

 

 フィルルと【魔将軍】の相性は最高だ。どうあがいても【魔将軍】ではフィルルには勝てない。フィルルの望む通り、手の内を隠したままでも勝利することは容易い。

 

 だがそうでないのであれば相手は… 

 

「ほら。君の戦い相手だよ」

 

 そこにはヤマアラシのような小動物を抱えた女性が佇んでいた。



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44.VS【怪獣女王】

どうあがいても批判が出そうな話、始まります。


 目の前の相手を自分の戦いの相手だとフランクリンは言った。目の前のヤマアラシを抱えた女性をフィルルが戦うべき<超級>だと。

 

 ドライフ皇国の<超級>は二人。

 

 ”矛盾数式”と”物理最強”の二人。

 

 皇国最多の【魔将軍】と皇国最強の【獣王】の二人。

 

 だが、【魔将軍】ではない。だとするなら、目の前の相手は間違いなく…

 

「こいつが…”物理最強”か」

「”こいつ”呼ばわりとは…踏み潰されたいのですか」

 

 その瞬間、目の前の女から圧倒的な殺意が放たれる。いやそれは殺気ではないだろう。人間が蟻を踏み潰すときに何も感じないように、彼女は一滴の殺意も持っていない。ただ踏み潰すという意思だけがある。

 

 なら、俺が感じたのは…”危機感”。究極生物を前に死を意識させられたのだ。

 

 ”物理最強”

 

 皇国の討伐ランキングトップの【獣王】名称不明。

 

 そう、【獣王】の詳細はその名を含めてほとんどが不明である。

 

 数少ない情報として、先の皇王継承の内乱で現皇王の最強戦力として猛威を振るい、ラインハルトを皇王に導いたこと。

 

 さらに、そのジョブが獣戦士系統の超級職であるということ。…改めて確認するまでもない。【獣王】のメインウェポンは《獣心憑依》。【獣戦鬼】では最大60%であったそれを100%まで引き上げる。

 

 そう、従属キャパシティ内のモンスターのステータスを自身に加えるという破格のスキルをだ。

 

 そして、エンブリオはガードナー系列であること。それこそ語るまでもない。【獣戦士】のジョブに相応しいエンブリオは何かと聞かれれば百人が百人ともガードナーであると答えるだろう。…中には俺のような例外もいるだろうが。

 

 なにせガードナー獣戦士理論と呼ばれるくらいだ。ガードナーの従属キャパシティは0。その特性と《獣心憑依》のシナジーは最高峰。なにせノーコストで戦力が二倍になるようなものだからだ。

 

 さらに、【獣王】のエンブリオは、本来持ち合わせているスキルやマスターへのステータス補正を持ち合わせていないという。そう、ガードナーとしてのリソースを全てステータスに全振りした怪物なのだ。

 

 まさしく、ガードナー獣戦士理論の極致の体現者。

 

 俺としては複雑な思いでいっぱいだが…仕方のないことだろう。【獣王】を目指していたコルは既に死に、その【獣王】の座に就いたマスターには罪はない。俺個人の感傷というやつだ。

 

「…あー、すまなかった。アンタ名前は?」

「…」

『これから我が国の戦力となり得る存在です。丁重に扱ってくださいね』

「見ないと思ったらそんなところにいたのか…皇王様は」

 

 地下実験場の奥にガラス張りの壁があり、その奥に皇王は座していた。おそらく、起動した兵器の性能を観測する部屋なのだろう。

 

 その瞬間、隣にいたはずのフランクリンが皇王の横に出現した。転移スキルの一種…《キャスリング》だな。

 

『君たちの戦闘に巻き込まれると私たちはすぐに死んでしまうだろうからねぇ。一番安全なここから見物させてもらうよ』

 

 どうやらあのガラスは更に強固な防御術式を張り巡らしているらしい。

 

「…」

 

 俺が無言のまま目の前の女を見つめていると手に抱えたヤマアラシを下しつつ、口を開いた。

 

「レヴィアタン。それが私の名前です」

「レヴィアタンか。まるでエンブリオみたいな名前だな」

「…」

 

 そんな会話を遮るように皇王は再び観測室から魔法で拡張した声を届かせる。

 

『それでは決闘を始めてもらいます。ルールは先に【救命のブローチ】を破壊した者の勝ち。それ以外は本国の決闘ルールに準拠します』

「漸くか」

「ええ、そしてすぐに決着はつきます」

「…なるほど」

 

 そのまま両者が決闘の合図を待つ。そして…

 

『試合開始』

 

 皇王の言葉が三度響くと同時、レヴィアタンはそのまま俺に接近する。

 そして、右手の貫手を俺の鳩尾に目掛けて放つ。

 それは音の二倍以上の速さで行われた。

 おそらく、上級カンストのAGI型でも何が起こったかわからない速度で放たれたその大砲は、ステータスで言えば、AGIがギリギリで四桁に到達した俺では対応できなかっただろう。

 

「驚きました。ここまでの耐久力を持っているとは」

「そりゃどうも」

 

 レヴィアタンが放った貫手は俺の肉体に直撃し、それだけだった。

 その爪先さえも俺の皮膚を貫くことはなかった。

 だが、それもそうだろう。

 今の攻撃は精々攻撃力で三万にも満たないものだ。それに対して俺のENDは六桁に到達している。その数値差は近接戦闘において致命的だった。

 

 そのステータス差は俺の特典武具とエンブリオによるシナジー、ガードナー獣戦士理論を容易く上回るシナジーによって生みだされた。

 

 試合の開始と同時、【武双勲章 シノギタチ】の《武双極化》によって強化された【三源輝套 クリスタリヴ】のスキルを発動した。

 強化された《エレメンタル・プロダクション》によって生みだされた三千体の【スポアエレメンタル】、その全てに【高位従魔師】の《魔物強化》と【喝采劇場 アンフィテアトルム】の《光る劇場の脇役》、《輝く劇場の主役》を使うことで俺自身のステータスは急上昇を見せ、全てのステータスが六桁に到達する。

 

 それはごく短い時間の出来事。

 それこそ、迫るレヴィアタンの貫手に間に合うほどにだ。

 レヴィアタンが俺を殺すチャンスがあったとすれば、それは試合開始の瞬間だけ。

 最も無防備で危ない状態。

 だが、そこさえ乗り越えてしまえば、莫大なステータスと【軍神】のスキルによって得られる無限の残機を獲得できる。

 

 この状態になれば俺に負けはない。

 

「次はこっちの番だな」

 

 【錬鉄武双 シノギタチ】が残した双剣、《武双刀剣》を構え【双剣聖】の奥義《クロスホライゾン》を抜き放つ。それは音の10倍以上の速さでレヴィアタンに放たれる。四肢と首元を切断する軌道で放たれるその剣技をレヴィアタンは真正面から受けた。

 

 だが、その狙いは外れた。

 理由は単純。

 レヴィアタンの肉体が膨張し初めていたからだ。

 その膨張によって剣閃が歪められた。

 

 膨張を続け、人間の形を捨てながらレヴィアタンは言葉を紡ぐ。

 

丁重に(・・・)、ということでしたので、まずはメイデン体でと思いましたが…そこそこはやるようです』

 

 背にヤマアラシの如き棘を生やしていきながら、太古に滅びし恐竜が如き姿に変えていく。

 

『少しは楽しめそうです。殴り合い、とまではいかないでしょうが』

 

 四肢は如何なる怪物よりも隆々とした、暴力の化身となり果て、その身を揺らす。

 

『まずは、この一撃をどうします?』

 

 それは一〇〇メテルを超すほどの巨大な……怪獣、その右手が俺に向かってくる。それは音の20倍以上の速度を誇っていた。

 

 直撃。

 

 そして、その威力は上級エンブリオの必殺スキル、あるいは超級職の奥義に匹敵するほどだ。ただの右手の一振りがこの有様だ。

 

 死ぬかと思った。

 

 勿論、【救命のブローチ】が発動したというわけではない。【軍神】のスキル、《円環の陣》によって自らのダメージを配下のエレメンタルモンスターに肩代わりさせただけ。

 

 そして、肩代わりし、死んだ【スポアエレメンタル】はその屍体を核に爆発を起こす。《屍爆の陣》は自身の配下のエレメンタルモンスターが死亡したとき、そのモンスターを爆発させる。

 

 その威力はあの絶対なステータスを誇る【天地海闢 メテロ】にすら届きえた。なにせ伝説級のステータスを誇るモンスターの自爆攻撃に類するものと考えれば、それも当然だろう。

 

 だが、その威力を持ってしてもレヴィアタンを傷つけることはできなかった。

 考えられる理由はただ一つ。

 レヴィアタンはあの【メテロ】すら上回るステータスを有しているということになる。

 

『…やはり生き残っていますか。まったくゴキブリ並みの生存能力ですね』

 

 爆発を喰らったことを全く気にせずレヴィアタンは言葉を続ける。

 

(…やはり、ね。俺の情報が漏れているんだろうなあ)

 

 俺のステータスが高いことも、生存能力に特化していることも。

 

 …ふー。

 

「レヴィアタン、アンタマスターじゃなくてメイデンだったんだな」

 

 とりあえずの小休止。

 俺は気さくに話しかけてみる。

 決闘といいつつ、まあ死闘ではない訳で、これくらいの小話は許されるだろう。

 それになにより…

 

「しかしこれほど巨大なガードナーとはな」

 

 まさに神代の怪物。

 出鱈目な存在だ。

 ステータスは…大体俺の二倍近くか。

 まったく、俺でさえ全マスターの中でも最高クラスのステータスを誇っているっていうのに、正に桁違いのモンスターだ。

 

『【怪獣女王 レヴィアタン】、それが私の名です』

「なるほど、お似合いだ」

 

 怪獣の女王とはな。全く…興奮するぜ。

 

『…今、なぜか生命の危機を感じました。嫌悪感と言い換えてもいいものですが』

「失敬な。人をまるで変態を見るような目で見るな!」

 

 …なんか罵声が聞こえた気がする。ガードナー偏愛野郎的な。

 

「…アンタがガードナーとすると、そこのヤマアラシがマスターってことか」

『yup』

『あまり驚いているようには見えませんね』

「ああアバターが可笑しなことになってるマスターなんざ見飽きてるからな」

 

 全身白骨の奴とかな。

 

「で?ヤマアラシの嬢ちゃんは俺とは戦わないのか?【獣王】なんだろ?」

 

 言うまでもなく【獣王】とそのモンスターのコンビネーションは厄介だ。単純にステータス20万オーバーの奴が二体に増えるというだけで身の毛もよだつというものだ。

 

『ベヘモットが戦うまでもありません。私だけで十分です』

 

 レヴィアタンは再び身体を震わせ、その凶器とも言える五体を振りかざす。そして、俺はそれを避けることはできず、吹き飛ばされる。

 

 それはもう、サッカーボールといったくらいに吹き飛んだ。

 

(…マスターの名前はベヘモットっていうのか、なるほど)

 

 吹き飛ばされながらも俺は冷静に思考を走らせる。

 なにせ吹き飛ばされているといっても、見た目以上のことはない。

 ただ吹き飛ばされているだけ。

 俺自身には少しのダメージもない。

 周りを浮遊していた胞子が巻き添えで千体近く、俺の身代わりとして何体かが爆発して消え失せたくらいだ。

 その程度の損壊なら強化された【クリスタリヴ】によって瞬時に補充できる。

 実質、損失ゼロだ。

 

 逆に【怪獣女王 レヴィアタン】はその肉体を切り裂かれていた。

 そう、まるでカマイタチに切り裂かれたように。

  



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45.VS【獣王】

 レヴィアタンに蹴り飛ばされること幾星霜、俺はもう自分はサッカーボールなのでは?という気持ちになっていた。

 

「全く無駄なことを続けるもんだ」

『…』

 

 蹴り飛ばされても俺自身には微塵のダメージもない。そして、攻撃を続けているはずのレヴィアタンは着実にダメージを負い続けていた。

 

 複数の裂傷を与えられてもなおレヴィアタンは攻撃を加える。そして、俺は吹き飛び、レヴィアタンはカマイタチに切り裂かれる。

 

 正直、これを繰り返しているだけでも勝てそうだな。

 

『神話級特典武具【絶空甲刻 アヴァシンハ】の能力だねぇ』

『あれがあの<三神激突>のなれの果てですか』

『元となった【一切皆空 アヴァシンハ】は回復能力とカウンター能力を持っていた。あれはカウンター能力に特化した特典武具のようだ』

 

 解説どうも、観客席さん。

 

 【アヴァシンハ】が持つ《絶空帝刻》は喰らったダメージを倍の威力、同等の速度、射程にして飛ばすスキル。そして、これは実際に俺がダメージを負っている必要はない。

 

 【救命のブローチ】や【身代わり竜鱗】などでダメージを無効化や軽減しても元々のダメージでスキルは発動する。つまり、《円環の陣》でダメージを【スポアエレメンタル】に肩代わりさせても、《絶空帝国》は問題なく発動する。

 そう、無限の残機を利用した《円環の陣》とカウンターに特化した《絶空帝刻》の前では最強の怪物すら倒し得る。

 

 レヴィアタンの攻撃で俺が受けるダメージは約10万。その二倍のダメージである約20万ダメージがその数字と同じ速度と射程を持って襲い掛かる。

 攻撃した直後のレヴィアタンは俺から放たれるそのカマイタチを避ける術はない。現に既に十を超えるカマイタチを受けている。

 

 …こいつどんだけHPあんだよ。すでに200万以上削ってるぞ。神話級UBMでもそれで死ぬ奴もいるっていうのに。

 

『ベヘモット、もういいですよ』

『OK』

 

 皇王のその言葉と同時、【獣王】が動きだした。

 

 …当然といえば当然だが、レヴィアタンより速いか!

 

 【獣王】はおそらく《瞬間装備》で身につけたであろう爪を振るう。その瞬間、その爪から衝撃波が放たれ、俺に直撃する。

 

『ベヘモットのサブジョブである【爪拳士】のアクティブスキル、《ウィングド・リッパ-》。【獣王】が持つ数少ない遠距離攻撃スキルだねぇ』

 

 解説サンクス、フランクリン。でもまあ、意味はない。胞子が生きている限り、俺にダメージはなく、それに見合ったカマイタチが今度は【獣王】、てめえを襲う。

 

 そのカマイタチが【獣王】に到達する直前、レヴィアタンが突如としてその間に現れ、そのカマイタチを自らの肉体で庇い喰らう。そしてレヴィアタンにダメージは…ない。

 …カマイタチは攻撃をした相手に当たらなければ少しのダメージもない。まして、レヴィアタンはその強固な体表で身を守っている。1ダメージも与えたか怪しいもんだ。

 

 だけど問題ない。カウンターが機能しなくても俺がダメージを負うことはない。何の問題も…

 

 次の瞬間、レヴィアタンは暴風の如き攻撃を再開した。その標的は勿論俺…ではなくその周囲を漂う【スポアエレメンタル】だった。

 その巨体を生かした、防ぐことはできない暴風雨が如き攻撃に胞子達は全滅した。

 

 【三源輝套 クリスタリヴ】の補充も間に合わない。この瞬間、俺のステータスは元々の値に戻る。そして、そのまま【獣王】が眼前に迫り、三連撃を振るう。

 

 ◇

 

(やっぱり。クラウディアの言う通り、必殺スキルは相手をも含めたモノってことだね)

 

 自身の攻撃を躱したフィルルを見ながら【獣王】は思考する。

 

 フランクリンから獲得した映像からフィルルのエンブリオがパーティー内のステータス上昇を自身にも加えることを、クラウディアは予測していた。そして、必殺スキルはその範囲を敵にも適用したものだろうと。

 

 それは正解だった。

 

 配下の胞子を失ったフィルルの素のステータスは上級職程度のものしかない。胞子の補充も間に合わないあの状態で肉薄した状態のベヘモットの攻撃を避けることは不可能。

 

 それを可能にしたのは間違いなくフィルルの必殺スキル。クラウディアの予想が正しいとすれば…フィルルもまた、レヴィアタンを上回るステータスを手に入れていることになる。

 なぜなら【獣王】がその圧倒的ステータスを手に入れているのもレヴィアタンを対象とした《獣心憑依》によるものだからだ。

 

「あぶねえ、あぶねえ。あとちょっとで死ぬところだったぜ」

 

 この決闘のルールが【救命のブローチ】の破壊が目的だったとしても、フィルルの元のステータスと【獣王】の今のステータスを比較すれば、そのままデスぺナルティになっていてもおかしくはない。

 

 フィルルのいうことは正しかった。

 

「まあ、無事だったことだし、再開といこうぜ!」

 

 フィルルがそう言い、外套から胞子を再展開する。そうフィルルの必殺スキル【終劇は万雷の喝采と共に】と【輝く劇場の主役】、【光る劇場の脇役】が組み合わされば、そのステータスは”物理最強”といわれるベヘモットすら上回るものとなる。

 

 その状態のフィルルを止める術はベヘモットですらないだろう。

 

 だが、ここにいるのはベヘモットだけではない。

 

 その瞬間、【怪獣女王】がその牙を、その爪を胞子達に振る。その暴風に呑まれて呼び出した胞子はすぐに全滅した。

 フィルルを狙った攻撃の巻き添えでさえ、千体近くの胞子が死に絶えた。直接、【スポアエレメンタル】を狙われてしまってはこの結果は当然といえるだろう。

 

「チッ」

 

 胞子を再々展開しようとするフィルル。だが、今しがた攻撃を終えたレヴィアタンの肉体からベヘモットが飛び出してきた。

 

 虚を突かれた奇襲。

 

 それは【獣王】のスキル《獣心同調》によるもの。《獣心憑依》をしているモンスターの動きに干渉しなくなるスキル。それによって【獣王】の動きはレヴィアタンを無視して行うことができ、レヴィアタンの攻撃は【獣王】に当たることはない。

 

 これによってレヴィアタンをブラインドとした奇襲を可能とする。

  

 フィルルはその身を双剣で守ろうとするが、その双剣ごと肉体を切り裂かれる。それは【爪拳士】の奥義、《タイガー・スクラッチ》によるものである。それは自身の攻撃の後に、同じ威力を有した二枚の光刃による追撃を発生させるもの。

 

 ダメージを肩代わりさせる胞子がいないフィルルは三連刃によって双剣と肉体を切り裂かれる。大きなダメージではない。だが、それはダメージを受けていることに変わりはない。

 

 そう、必殺スキルでコピーしているのはあくまでもステータス上昇数値だけである。ステータスそのものではない。故に素のステータスで大幅に負けているフィルルでは【獣王】の攻撃を喰らってしまう。

 【軍神】と【獣王】ではそもそも基礎ステータスが違うのだ。ましてベヘモットはサブジョブで更にステータスをあげているのに対して、フィルルは【従魔師】などのジョブでステータスの上昇はないに等しい。

 

 まして、【獣王】は装備品でその攻撃力を上げている。純粋の近接戦闘ではフィルルが【獣王】に勝てる道理はない。

 

 だが、ダメージを負っているということは《絶空帝刻》の発動条件を満たす。そのカマイタチは【獣王】に目掛けて飛び、【獣王】はそれを無視した。

 

 受けたダメージの倍のダメージのカマイタチ。これを繰り返せば先に死ぬのは【獣王】になる。それでも【獣王】がカマイタチを問題なしとした理由は2つ。

 

 フィルルにダメージを与えたとはいえ、そのダメージ量は千にも満たない。その二倍といっても二千万を超えるステータスを持つ【獣王】には大したダメージソースにはならない。

 

 第二に、フィルルの必殺スキルの継続時間を考慮に入れた結果である。

 

 フィルルは通常、エンブリオのスキルのMP消費を配下のステータス上昇によって獲得したMPで賄っている。その配下を殲滅されてしまってはフィルルの必殺スキルの継続時間は極僅かなものとなる。

 

 そう、フィルルの必殺スキルを予測したクラウディアは、必殺スキルに伴うMP消費とそれを賄う手段にさえ的確に予測していた。

 そして、フィルルに対応する戦術を【獣王】に授けていた。

 

 レヴィアタンの巨体とステータスを活かした胞子の殲滅、ベヘモットのステータスとスキルを活かしたフィルルの行動制限。

 

 そう、その戦術とは圧倒的な攻撃力を用いた持久戦である。

 

 ◇

 

(…まずいな、これ)

 

 【獣王】との交戦を続けながら俺は戦況を確認する。

 

 【クリスタリヴ】によって生みだした胞子は【アンフィテアトルム】のスキルを適用する前に、すぐさまレヴィアタンによって殲滅される。

 俺自身は【獣王】とのクロスレンジのバトルのため、まともに動くことすらできない。

 

 このままじゃジリ貧だ。MPが切れてしまう。

 

 俺のMPはそこまで多くなく、【獣王】が獲得しているレヴィアタンのMPは0、つまり俺も【獣王】から獲得しているMPも0。このままじゃ、あと数分もしないうちにMPが切れる。

 

 戦況を打開するための新たな札が必要となる。

 

「やっぱりよ。二対一は卑怯だと思うんだよな、俺」

『ほざけ、何が二対一だ!』

 

 レヴィアタンは生みだされた三千の胞子を瞬時に殲滅しながら返答する。それによって俺はまた窮地に陥る。だが、レヴィアタンもまた気が気でないだろう。千体でも討ち洩らせば、そのまま俺の逆転劇が始まるからだ。…俺としては是非そうしてもらいたいんだけどな。

 

「まあまあ。だから俺も強力な助っ人を呼ばせてもらうぜ」

 

 その瞬間、俺は【獣王】の前から消え失せる。

 

 今この瞬間だけは俺は【獣王】の速度を上回る。【武双勲章 シノギタチ】の《武双極化》の対象を【天翔駆甲 クィスヤッコ】に切り替えたからだ。

 

 俺は【獣王】からもレヴィアタンからも見えない位置に移動する。強化された《天駆》は空中を駆け、【獣王】すら上回る速度でそれを可能とする。

 

 そして俺は瞬時に《武双極化》の対象を【クリスタリヴ】に切り替える。散々練習した戦闘中の《武双極化》の瞬時切り替え。今この時にミスるわけにはいかない。

 俺は三千体の【スポアエレメンタル】を生みだす。だがこのままではレヴィアタンに見つかり、胞子を殲滅される今までと同じ流れとなるだろう。

 

 だが、そうはならない。

 この胞子達はすぐに消滅するからだ。

 俺はあるアクセサリーを取り出し、《武双極化》の対象をそのアクセサリーに切り替え、

 

「《天地海闢(メテロ)》」

 

 そのスキル名を発する。 

 

 その言葉と同時、周囲に漂っていた三千の胞子は消え失せ、代わりに海洋生物を彷彿とさせる一人の亜人が立っていた。

 

 



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46.決着

三(千)体のモンスターを生贄に神召喚とかどこの遊戯王だよ。


 神話級特典武具【天地海誕 メテロ】の有するスキル《天地海闢》は【天地海闢 メテロ】を召喚する。神話級どころかイレギュラーに相当する【メテロ】を召喚する破格のスキルである。

 

 だが、これは【メテロ】の性質とフィルルにアジャストした結果である。【天地海闢 メテロ】の性質とは【海玉唯在 メテロ】から生まれる海洋生物型亜人であるということ。

 

 つまり、【メテロ】の有する特性は”誕生”。

 

 【天地海闢 メテロ】を誕生させ、召喚することこそが【天地海誕】の持つ唯一のスキルとなった。

 それは言うまでもなく破格のスキル。イレギュラーという強大な力を生前よりも劣った状態とはいえ呼び出す。超級武具の力には一歩譲るが、あまりにも強すぎる力。

 

 そのため、制限も大きいものであった。

 

 第一の制限はフィルルが既に解禁しているスキル解放条件。

 【聖騎士】の《グランドクロス》のように、強力なスキルには解禁するために条件が設定される。

 《天地海闢》の条件は、神話級<UBM>三体のMVP討伐。

 <UBM>のMVP討伐は同じ<超級>のノスフェラですら三体しか成し遂げておらず、神話級ともなれば、多くの<超級>でもなし遂げられない大きな壁である。

 それを三体倒すというのは<Infinite Dendrogram>の中でも最上級の難易度を誇る。

 だが、フィルルは【三源元素 クリスタリヴ】、【一切皆空 アヴァシンハ】そして【天地海闢 メテロ】を討伐したことでその条件を満たしていた。

 

 そう、フィルルは【天地海誕 メテロ】を獲得したときにその条件を満たしていたのだ。

 

 第二の制限は、生贄。

 

 【天地海闢 メテロ】の顕現にはモンスターの生贄が必要となる。

 【魔将軍】のスキルに代表されるように強力なモンスターの召喚にはそれ相応の生贄が必要となる。その数、実に三千体。

 これはアジャストだけではなく、それだけの力を行使するために誰が使おうとも必要な制約である。仮に生贄でない方法を取るとすれば、一分につき20万のMP消費を求められただろう。

 だが、フィルルはそれを容易くクリアした。

 【三源輝套 クリスタリヴ】と【武双勲章 シノギタチ】の組み合わせである。それによって即座に三千体の【スポアエレメンタル】を生みだせるフィルルにとって数のみを要求する条件など無いに等しい。

 

 そして、第三の制限は、劣化。

 

 ここまでの条件を達成してなお、召喚される【天地海闢 メテロ】は生前の三分の一のステータスしか持ち合わせておらず、十分という制限時間を持つ。

 

 本来呼び出されるのは精々、神話級悪魔ゼロオーバーと同格といったところだっただろう。

 だが、フィルルの持つ【武双勲章 シノギタチ】の能力によって《天地開闢》のスキルが強化され、生前のステータスを誇る【天地海闢 メテロ】を三十分顕現させることができる。

 

 そう、今ここにドライフを襲おうとしたイレギュラーがフィルルの手によって再び顕現したのだ。

 

 ◇

 

『あれは…』

『フィルルが倒したはずのUBM。となるとあの特典武具は召喚スキルを持ったものだったというわけか』

 

 召喚スキルを持った特典武具は数少ない。皇王もフランクリンも実物を見るのは初めてだった。まして、それをフィルルが持っているなど、皇王をしても予測しきれなかった。

 

(やはり…誰もこいつの存在を知りえなかったようだな)

 

 フィルルは【獣王】や皇王の様子を見て思考する。

 

(あのまま、胞子を基に超ステータスで戦ってもよかったが、あの皇王のことだ。十中八九その状態でも戦える対応策を考えていただろう)

 

 フィルルは【獣王】とその後ろにいる皇王への警戒心を強めていた。【獣王】とレヴィアタンの動きは確実にフィルルの必殺スキルを知ってのモノだった。

 自分の手の内は全て知られており、対応策を立てられている。そうフィルルは考えていた。

 

 その状況をひっくり返す、切り札。

 それはフィルルですら一度も使ったことのない【天地海誕】を使うこと。だが、これはまさしく切り札でありジョーカーでもある。

 なぜならば【メテロ】がどう動くか、それはフィルルですらあずかり知らぬことだからだ。

 

 フィルルは【獣王】を警戒しつつ、自分が召喚した【メテロ】を見た。

 

(色々思うところはあるが、でもやっぱり見てみたかったってのが大きいかな。”物理最強”にあの【メテロ】がどう戦うのかを)

 

 そうフィルルが考えていると【メテロ】が口を開く。

 

「誰かと思えば、我を降した人間ではないか。よもや貴様に召喚されるとはな」

 

 【メテロ】の言葉にフィルルは警戒を強める。今の【メテロ】は主人であるフィルルにすら牙をむける気迫がある。

 

「案ずるな。召喚者である貴様を攻撃しようとは思わん」

 

 そう言うと、【メテロ】は【獣王】達に向けて移動する。どうやら、【メテロ】は自身が置かれている状況を正しく理解しているようだった。だが、それがフィルルを攻撃しない理由にはならないだろう。

 

「だが…巻き込まない自信はないぞ」

 

 そして、その予測が正しいものであることを証明するように、【メテロ】は爆発した(・・・・)

 

「クソ、このタイミングで自爆かよ」

 

 そして、その《髄液爆覇》の威力は生前のモノを遥かに凌駕していた。なぜなら【天地海闢 メテロ】もまたフィルルのパーティー内のモンスターであるからだ。つまり、フィルルの持つ《魔物強化》がメテロにも適用され、そのステータスを60パーセント上昇させていた。

 

 《髄液爆覇》は【メテロ】のステータスを基に威力が決定する。単純な威力はあの時の1.6倍になっているということになる。その威力は【獣王】やレヴィアタンの防御を超えてダメージを与える。遠く離れた俺自身にもダメージを与えるほどだった。

 

 【獣王】の《獣心憑依》をトレースしているとはいえ、この威力はヤバい。まして、直撃した【獣王】達は…いやこの瞬間ですらフィルルのステータスは変化していない。それはつまり、【獣王】も【怪獣女王】も生きているということ。

 

『ふざけたモンスターです。現れて即座に自爆するなど…』

 

 爆風が止んだ中から現れたのは傷を負ったレヴィアタンだった。

 

「ああ、それには俺も同意する。…とっさに獣王を庇ったか」

 

 その巨体を持って自ら【獣王】の盾となった。あの一瞬で良い判断だ。

 

『ええ。ですがもう終わりです。虎の子のモンスターも今の自爆で消え失せた。あとは先ほどと同じように消し飛ばしてあげます』

 

 確かにこのままフィルルと【獣王】の戦闘が続けば、レヴィアタンの言う通りになるだろう。あくまでこのまま戦闘が続けば…だが。

 

「ここで残念なお知らせだ。俺の召喚したアイツだけどな。まだ死んでねえぞ」

 

 そう、《獣心憑依》が途切れていないことから【獣王】達の安否が分かったように、《魔物強化》の適用から【メテロ】が未だ生き残っていることは分かっている。そもそも【軍神】であるフィルルには配下の【メテロ】がどこにいるかなどすぐに分かる。

 

 いや、それ以前にフィルル自身は何度もあの爆発を見ている。そもそも、あれは自爆ではなく…だとすれば…。

 

 未だ姿を見せない理由はただ一つ。

 

「レヴィアタン」

『?』

「アンタのその巨体は紛れもない武器だがよ、それ故に弱点にもなるんだぜ」

『なにをッ…』

 

 その瞬間、レヴィアタンは吐血した。まるで体内で爆弾(・・・・・)が爆発した(・・・・・)かのように(・・・・・)

  

 答えはただ一つ。

 《髄液爆覇》によって肉体を気体に変えた【メテロ】はそのまま巨大なレヴィアタンの体内に入りこみ、その肉体を《三態自在》によって再構成し、爆発した。

 

 こんな手は普通の人間にもモンスターにも使えないだろう。だが、規格外のサイズを持つレヴィアタンであれば体内に入りこみ、肉体を再構成できる。

 そして、その爆発はいくら強固な体表を持っているとはいえ、その内側はそこまでの防御力ではないレヴィアタンの致命傷となり得る。むしろ、体内で爆発を喰らって尚、生きているレヴィアタンの生命力こそ驚嘆すべきだろう。

 

 だが、それもこれでおしまい。

 

 一度目は耐えれても二度目は無理だろう。

 

 そして体内に潜りこんだ生体爆弾を取り除く術などありはしない。レヴィアタンはここで死に絶え、そして【獣王】のステータスも貧弱なモノに戻る。

 そうなれば、【メテロ】にあっけなく殺されるだろう。

 

 戦いの結末を想起していると目の前のレヴィアタンは消え失せ、【獣王】の真横に再び現れた。

 

「…紋章に一度戻して、再び呼び出したのか」

 

 確かにそれなら、【メテロ】の体内爆弾からレヴィアタンを守ることはできる。だが…

 

「一歩間違えれば無防備な自分を晒していただろうに」

 

 【メテロ】の性質を読み切った上で、いつ爆発するか知れない爆弾を前に自身の最強の獣を手札に戻し、隙を見せるなど【獣王】は中々剛胆な性格らしい。おそらく仕切り直しのタイミングもフィルルの動きを見越した上で行ったのだろうが…

 

「だが、【メテロ】は消えたわけじゃない。呼び出したレヴィアタンの体内に再び入りこめば…」

『残念だけど、それはないよ』

 

 今まで一切言葉を発してこなかった【獣王】が、ベヘモットが言葉を発した。それは俺を認めたということなのか、それとも…最後の手向けなのか。

 

『――《■■■■■(レヴィアタン)》』

 

 そこにいたのは一体の…終末の獣であった。

 

 この瞬間、開闢と終焉、二体のイレギュラーがぶつかり合う。 

 

 ◇

 

「それで…君はあの”物理最強”に勝てたのかい?」

 

 デスぺナルティから復帰したノスフェラの疑問に俺は答える。

 

「…引き分け?」

「おや、【ブローチ】を壊したほうが勝ちっていうルールでどうやったら引き分けになるんだい?」

「皇王に止められたんだよ。俺…というより【メテロ】と【獣王】がガチでやりあったら、絶対安全って話だった地下実験場がぶっ壊れかけたらしくてな。観客席だった皇王にも被害が及びかねないってことで途中終了だよ」

 

 なるほどねー、といいながらノスフェラは虎丸の調整を行う。

 アンデットモンスターでもある虎丸はこうして製作者であるノスフェラに定期的に身体を見てもらわなけれならない。俺が【死霊術師】であればノスフェラに手間を取らせなくて済むんだが…まあ【屍骸王】のノスフェラにしてもらえる以上その必要もないだろう。ノスフェラもノリノリだし。

 

「それで、君は戦争には参加するのかネェ?」

「いや、正直よく分からん。皇王からは追って連絡がくるって話なんだが…」

「その前に出国すればいいんじゃないかい?」

「一応、”幻獣旅団”の件で便宜を図ってもらったしなー。あまり不義理ってのも…」

 

 決闘に参加すればその時点でフルメタル達の指名手配を解除する。皇王はその約束は確かに果たしてくれていた。この時点で俺の目標は達成できているんだが、それでサヨナラっていうのはどうも…。

 

「君も変なところで律儀というかこだわるというか…」

「うるせーよ」

「…ああ。”幻獣旅団”で思いだした。君の二つ名なんだけどネェ」

「俺の二つ名がどうした?」

「変わったよ。”幻獣旅団”から”軍団最強”に」

 

「…へっ?」

 

 それは<Infinite Dendrogram>の世界に”最強”と呼ばれる四人目の存在が生まれた瞬間だった。




ちなみに【メテロ】さんは水が近くにあると更に戦闘力が増します。

無くても二代目火影みたいにはなりますが。


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最終話.”軍団最強”

「それでは…あなたは皇国側として戦争に参加して頂けるということでよろしいですね」

「【食王】鳳城院秀臣の名において誓う。我が剣は皇国と共にある」

 

 【軍神】フィルル・ルルル・ルルレットと【獣王】ベヘモットの私闘より幾らかの時が過ぎた後、皇王であるラインハルトはマスターの囲い込みに力を入れていた。

 

 彼が欲しているのは優れた力を持つマスター。欲を言えば、準<超級>以上のマスター達である。そのためであれば、彼自身が直接マスターたちとの交渉を行うことも多々あった。

 

 アルター王国との戦争は既に秒読み状態。後は王国との<戦争結界>の設定の交渉を残すのみ。それが成せば、戦争は始まる。それまでに無所属のマスターの戦力の拡充を急ぎ、逆にアルター王国側で雇われることを無くさねばならない。

 

 なにせ、相手はあの超魔竜【グローリア】をも退けるほどの力を持ったマスター達、”アルター王国三巨頭”が所属している国だからだ。

 仮に【グローリア】が王国ではなく、皇国に投下されていればこの国は滅んでいただろうことを予感させるSUBM。そしてそれを降した王国の<超級>。彼らが戦争に出てくれば如何に”物理最強”を擁するドライフ皇国であろうと、負ける目が大きくなるだろう。

 

 …そして、【犯罪王】ゼクス・ヴュルフェル。

 主要七か国全てで指名手配となっている<超級>。

 

 単純に考えれば、彼が戦争に参加することはない。なぜなら、<戦争結界>の仕様上、どの国にも所属していない【犯罪王】は戦争には参加できない。

 

 …と断ずることはラインハルトには出来なかった。

 なにせ相手は、ラインハルトをしてその行動を計りきれぬ人物。犯罪をしたいから犯罪をするなどというフザケタ思想の持ち主であるゼクスが今、この盤面でどう動くかなど知りようもなかった。

 

 …むしろ、今この瞬間、自身の命を奪いに来ることすらあり得ると考えていた。

 

 戦争が皇国の思う通りに進んだ場合、アルター王国はこの世界からなくなる。

 そうなればアルター王国での彼の罪は事実上消滅する。【犯罪王】である彼にはそれは何としてでも阻止しなければならないはずだ。ラインハルトは知る由はないが、事実同様の理由で【犯罪王】は【グローリア】の討伐に加担している。ラインハルトが【犯罪王】をただの犯罪者と断ずることができない理由もそこにある。

 

 そして、ラインハルトが知る限り、彼は犯罪者の王でありながら、未だ国王の殺害という大罪を犯していないはずだ。王族の誘拐等、それに準ずる犯罪は幾つも犯しているはずだが、その頂点たる大罪を行えていない。

 

 その二つから考えられるに…【犯罪王】は騎鋼戦争が始まる前にドライフ皇王であるラインハルトの殺害を企てていても不思議ではないということだ。国王暗殺という大罪を犯し、自身の犯罪歴の消失を防ぐ最高の一手である。

 

 そのために、ラインハルトは自身の警備にも最大限の注意を払っている。

 

「それで報酬の方は?」

「他のマスターと同等でいい」

 

 思考を【食王】との交渉に戻し、詳しい報酬の話に取り掛かる。だが、【食王】から返ってきた言葉は皇王の読みから外れていた。

 ”美食家”を自称する【食王】への報酬として、皇国で残された数少ない”美食”を用意したラインハルトからすれば、それは些か拍子抜けであった。

 

「超級職を擁するマスターには更に特別報酬を擁していたのですがね」

「賢い貴方のことだ。報酬というのは大方この国の”美食”だろう?…この国からそんなことをするのは気が引ける」

 

 ラインハルトはその言葉に幾つかの思考を走らせ、

 

「そう言えば…あなたもメイデンのマスターでしたね」

 

 その意味を理解した。

 メイデンのマスターである彼はこの世界を、”世界”として捉えている。そして、”美食家”を自称し、【食王】でもある彼が、”美食”を求めず、この戦争に参加する理由など一つしかない。

 

「御協力、感謝します」

「”食べられない”。それは何よりつらいことだ」

 

 そう言って【食王】鳳城院秀臣は皇室を去った。

 

 それと入れ違えるように【獣王】ベヘモットが皇室に入ってきた。どうやらベヘモットは少し機嫌が悪いようである。

 

『【犯罪王】の暗殺を警戒しているのなら、無闇に人に会うべきではないと思うんだけど』

「【犯罪王】は姿形は変えれても、その名までは変えることはできない。大丈夫ですよ、ベヘモット。最大限の警戒は続いています。彼もいますしね」

 

 そこでベヘモットは不機嫌の度合いをあげた。ラインハルトの言う彼とは、他ならない先日彼女が引き分けた相手だからだ。だが、それも全ては勝ち切れなかった自身の不覚とベヘモットは受け入れた。

 

『ルルレットは上手くやっているみたいだね』

「ええ。最高の結果とまではいきませんでしたが、それでも十分ですよ」

 

 本来の計画では、ベヘモットが決闘でフィルルを降し、【軍神】をドライフ側の戦力として騎鋼戦争で使うつもりであった。ラインハルトとしてもフィルルの必殺スキルさえも読み切り、必勝の策をベヘモットに授けていた。

 だが、フィルルの持つ真の奥の手によって、勝敗はつかず、引き分けという不本意な形となった。

 

 フィルルを雇い入れることに失敗したラインハルトであったが、フィルルはラインハルトが提示した引き分け時の条件にはあっさり同意した。

 それには、さすがのラインハルトも呆気にとられた。フィルルは案外お人好しなのか、それとも彼にとって”幻獣旅団”というのはそこまで大きい存在なのか…

 

 何はともあれ、ラインハルトはフィルルを雇うことには成功した。その内容は”終戦時まで外部戦力の侵入を防ぐ”というものだった。

 

『ところでさ、ルルレットが”軍団最強”って呼ばれているのってラインハルトの差し金でしょ』

「ええ。実際にやったのはフランクリンですが…指示したのは私です」

『…ごめんね。苦労かけて』

 

 ベヘモットはなぜラインハルトがフィルルに”軍団最強”の二つ名を与えたかの理由を察していた。それが自分に起因することも。

 

 皇国にとって大事な戦争を控えたこの場面で、皇国最大の戦力である”物理最強”がただの<超級>と引き分けたとあっては士気の低下につながると考えたためだ。

 無論、あの決闘は極秘裏に行われ、その詳細を知っているのは戦った当人たちを除けば、ラインハルトとフランクリンくらいのモノだ。しかし、口に戸は立てられない。まして、<マスター>や<DIN>が存在するこの世界では完全な秘め事などあり得ない。

 

 それを防ぐために、フィルルをベヘモットと同格の”最強”として知らしめ、更にその<超級>が形は違えど、皇国のために働いていると喧伝することで更なる国威発揚を狙ったのだ。

 

『でも”軍団最強”かー。他にいいのなかったの?』

「”物理最強”や”魔法最強”に並ぶ出来は早々ないですよ」

 

 その言葉をきっかけにアルターには前”魔法最強”もいたなとラインハルトは改めて敵の大きさを再認識した。あの広域殲滅魔法を前にすれば、【魔将軍】も【大教授】も敗れるのは必定。【大賢者】にはベヘモットをぶつける他ない。

 

 ラインハルトが思考を戦争のシュミレートに費やしていると、ベヘモットからさらに言葉を投げられる。

 

『”あれ”を使っていたら、勝敗は変わっていたかな?』

「…」

 

 それはラインハルトの思考を打ち切るに十分の言葉であった。

 ”あれ”とはラインハルトとベヘモットとある<超級>しか知り得ぬ秘事。それが知れれば、皇国の戦力が半減してもおかしくないもの。彼女が持つ最強の武具。確かにそれを用いれば勝敗は変わっていたかもしれないと予感させるモノ。

 

 だが、その言葉に対して、ラインハルトは冷静な分析を口にする。

 

「結果は変わらないでしょう。あの実験場での決闘である以上、勝敗は”実験場の負け”以外ありえません」

『そうだね。ごめん変なこと聞いて』

 

 ベヘモットはその小さな体を動かし、がおーと威嚇するような体勢をとる。

 

『戦争では頑張るから、期待してて』

 

 そう言ってベヘモットも皇室から去っていった。

 

 一人になったラインハルトが、否、クラウディアが思うのは自身に課せられた使命。そのために彼女がやらなければならないこと。彼女の小さな親友に迷惑をかけると知りつつ、彼女はその歩みを止めることはできなかった。

 

 ◇

 

 時は流れ、今は騎鋼戦争の真っ最中。

 

 クラウディアの予測とは異なり、戦争はドライフの圧倒的優勢であった。理由は幾つか挙げられるが、一番大きいのはアルター側の<マスター>の参加率の低さであろう。

 王国に所属している有力な<マスター>のほとんどがこの戦争に参加していない。かの”アルター王国三巨頭”さえも参加していない。

 

 <超級>を止められるのは<超級>だけ。

 <超級>の参加していないアルターが勝利することはその時点で不可能となっていた。

 そして、唯一の懸念事項であった【犯罪王】も戦争が始まってしまえば<戦争結界>によって干渉はできない。それ以前に、【犯罪王】は戦争前に誰かに敗れ、”監獄”送りになったらしい。誰がやったかはわからないが、その人物に感謝すべきだろう。

 

「【獣王】が【大賢者】を降したようです」

 

 情報収集に特化したエンブリオを持つマスターからうれしい知らせが寄せられる。宣言通り、ベヘモットは”頑張っている”ようだ。 

 アルター側の残す大戦力は【天騎士】のみ。もはや勝敗は決した。

 

 あとはベヘモットかフランクリンが王都を制圧すれば、完全勝利が確定する。勝利を確信し、全軍を更に南下させ、王都制圧のオーダーを発する。

 

 だが、そのオーダーの後、完全勝利を瓦解させる一報が入る。

 

「カルディナが…カルディナ軍がドライフに進攻してきましたッ!!」

 

 全軍を指揮する作戦司令本部は大混乱に包まれる。

 

「カルディナ?」

「どうして…」

「防衛線はどうなっている!」

 

 怒号飛び交う中、その情報を聞いたクラウディアは静かに声を発する。

 

「全軍北上。最低限の目的は達した。王都制圧は諦める。今はカルディナへの対抗を急げ!」

 

 そのオーダーは苦渋の選択であった。しかし、これしかなかった。むしろ、クラウディアはこうなることを半ば予想していた。

 あのカルディナがドライフの一人勝ちを許すわけがないと。つまりこれは電撃戦であったのだ。そして、それは失敗に終わったということだ。

 

「しかし、今から全軍を戻しても…」

「更に情報!!カルディナ軍に最低でも四人の<超級>を確認!!」

「…<超級>まで投入してくるとは」

「【獣王】は?【魔将軍】は?」

「【魔将軍】、【天騎士】を降したようです」

「それどころではない!!!」

「【獣王】は【獣王】は戻ってこれんのか!」

「【獣王】は最前線で戦っておられるため、最低でも…」

「ええいっ!!」

 

 だが、電撃戦が失敗に終わったとはいえ、カルディナへの対策を怠っていたわけではない。

 

「契約はまだ生きています。私が授けたその名に恥じない働きを見せなさい。フィルル・ルルル・ルルレット」

 

 それはドライフが擁する文字通りの”軍神”への祈りであり、信頼であった。

 

「カルディナ軍、一時侵攻を停止、何者かと交戦状態に入ったようです」

「これならば、【獣王】は間に合うやもしれん」

 

 そして、【軍神】はそれに応えた。

 

「しかし、カルディナ軍が動きを止めるとは…」

「神話級UBMにでも出くわしたか」

 

 作戦司令本部は一転して安堵の空気に包まれ、それを為した者への想像を膨らませる。なにせ、<超級>四人を含めたカルディナ軍を食い止めるなど神話級UBMでも至難の業だろう。

 

「いえ、神話級UBMより恐ろしい、”軍団最強”の男ですわ」

 

 唯一、答えを知るクラウディアはその名に感謝を示す。

 

 フィルルが作りしその時間は、【獣王】達を前線から引き上がらせ、カルディナ軍と相対する契機を与えた。

 この働きにより、”軍団最強”の名は加速度的に広がっていく。フィルルがこれより旅をする東方にまで。 

 




最終話なのに、主人公登場せず。

これが最終話でほんとにいいのか?

しかし、フィルルで書きたいことは書ききったので、”軍団最強”の男の話はこれでおしまいです。


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After Story After Story ”竜頭蛇尾”

久々なので変な所があるかもしれませんが、それでも良ければどうぞ。


 現在、<Infinite Dendrogram>ではアルター王国とドライフ皇国との戦争、後に第一次騎鋼戦争と呼ばれる戦争イベント(・・・・・・)においてドライフ側が勝利したという熱が広がっていた。

 

 サービス開始から一年を超えて、漸く行われた超大型イベントである、戦争。

 

 その当事国となったアルター王国とドライフ王国は戦争を経てその形を大きく変えようとしていた。あるいは変わらざるを得なかったのかもしれない。

 

 アルター王国の変化は文字通り、敗戦国としての変化。戦争において国王が死に、ティアンの最強戦力である【天騎士】と【大賢者】が失われた。何より大きいのはアルター王国中で広がるマスターへの不信である。

 戦争に参加しなかった王国のマスター、何より<アルター王国三巨頭>の評判は地に落ちたといっていいだろう。グローリア事件において、国の窮地を救った<超級>とはいえそれは仕方のないことかもしれない。むしろ、<超級>だからこその失望もあるだろう。

 

 敵国の<超級>が王国の大地を踏み鳴らし、多くの兵を殲滅し、国王を惨殺したというのに…

 

 この国の<超級>は戦おうとすらしなかった…

 

 そんな絶望と怨嗟が広がれば、国から民が流れるというものだろう。特にカルディナへの人材流出は凄まじかった。戦争でのカルディナの介入はこの国をギリギリのところで救った。この国の<超級>がしてくれなかったことをカルディナはしてくれた。そんな国へ行く人が増えるのは当然といえた。

 

 無論、<超級>にも事情はあり、また、数は少ないが王国のマスターも戦争には参加しているという事実もある。そのことを理解しているものは無闇にマスターへの不信となったりはしない。

 

 だが、そうではないものが多数いるのもまた事実。そしてその者たちは決して少数派ではないのだ。

 

 そう、今、王国は絶望の底にいた。

 

 では、王国を絶望の底に落とした皇国は?

 

 決まっている。

 

 戦勝国もまた絶望の底(・・・・)だった。

 

 国王を殺したとはいえ、勝利条件である王都制圧は叶わなかった。この戦争で決着をつけるとマスターを大判振る舞いで雇い入れた戦争費用。その戦果が『旧ルニングス領』の獲得だけではとても皇国の飢餓は解決できない。 何より、カルディナの介入が問題である。戦争の勝利目前での介入、皇王が手を打ち、あのフリーの<超級>を動かしてくれていなければ、この国が更なる窮地に陥っていたことは想像に難くない。

 

 その<超級>もまた、次はどう動くかはわからない。こちらの敵に回る可能性もゼロではないのだ。そうなれば、もう片方もこちらに牙を剥く可能性が高い。

 

 また、アルター王国もまだ死んだわけではない。次は<超級>がそろって牙を剥くかもしれない。或いは…アルターとカルディナが手を組み、戦争を仕掛けてくる可能性もある。

 そうなれば待っているのは本当の地獄だ。

 

 そうならないために、今は勝利の熱に酔うのではなく、次の戦争に備えなくてはならない。

 だが、皇国が備えるべきは戦争ではなく…

 

 ◇

 

「最近、フィルル君を見ないけどどうしたんだい?」

「試験勉強があるそうだよ。日頃、勉強をしていないからヤバイっていってたネェ」

「へえ、学生だったんだねぇ、彼」

 

 ここは皇国最大のクラン<叡智の三角>の本拠地である。そして、その中心部、つまりクランオーナーであるMrフランクリンの部屋である。

 そこには白衣の男と白骨の女が談笑していた。皇国執行部にある諦観と焦燥はこの部屋には、このクランには存在しない。

 

 この二人はフィルルを通して知り合った。一人はモンスターと機械<マジンギア>を生産する者、一人は怨念とアンデットを生産する者。同じ生産者ということで気があったのだろう。リアルでの鬱憤をこの世界に歪んだカタチで持ち込んでいるというのも理由の一つであろう。

 

 それにしてもこの二人口調が良く似ている。

 

「しかし、キミのエンブリオには興味がつきないねぇ」

 

 フランクリンがふと口にする。

 

「それはアポストルがってことかい?」

 

 ノスフェラの思考も当然である。なにせヨモツヒラサカのカテゴリーはアポストルというレアカテゴリーである。ノスフェラ自身自分以外でアポストルのカテゴリーは一人しか知らない。他のレアカテゴリーであるメイデンは意外と見かけるというのにだ。

 

 だが、フランクリンの興味はそこには無かった。

 

「それもないわけじゃないけどねぇ。一番はやっぱりその能力かな」

「能力?」

 

 【浄穢境界 ヨモツヒラサカ】の能力は怨念の生成と操作である。確かに特異な能力ではあるし、それが<超級エンブリオ>の出力で行われるのは驚嘆の一言だろう。

 だが、それは他の<超級エンブリオ>も、否、<超級>でなくても<上級エンブリオ>であれば皆特異な能力を持つ。目の前にいるフランクリンのエンブリオ【パンデモニウム】も<超級エンブリオ>ではないとはいえ、そのモンスターの生産能力は破格である。なにせ、戦争で猛威を振るい、敵の首級を討つくらいなのだ。

 

「私が着眼したのはね、怨念を使役するという点だよ」

「怨念の使役?」

「怨念を生みだし、怨念を強化し、怨念を転生させる。優れた能力だねぇ」

 

 確かに優れた能力ではある。だが、ここまでフランクリンが食いつくほどなのか?

 その疑問に答えるようにフランクリンは口を開く。

 

「その技術があれば、<マジンギア>のMP問題は解決するかもしれない」

「…なるほどネェ」

 

 フランクリンが、否<叡智の三角>の最高傑作は何かと問われれば、百人が百人が<マジンギア>と答えるだろう。人型機動兵器【マーシャルⅡ】は亜竜クラスの戦闘力を持ち、量産可能な兵器。機械甲冑であった【マーシャル】の先に存在する、初の人型機動兵器としての<マジンギア>。それを開発したのが他ならぬ、フランクリンと<叡智の三角>なのだ。だが、その<マジンギア>にも弱点は存在する。

 

「<マジンギア>に限らずドライフの機械技術はMPの消費を前提にしている。これを怨念で代用できれば長時間の戦闘行動や強力な兵装の使用も簡単になる。それが怨念動力構想だねぇ」

「ああなるほど。《デッドリーミキサー》に着想を得たのか」

「あれは怨念を破壊力、つまりは物理的なエネルギーに変換して叩きつける荒業だけどねぇ。怨念を動力にするにはこれをもっと小規模に、かつ繊細にやれなければならない。そして、それを君ならできるんじゃないかい?」

「…」

 

 ノスフェラはフランクリンの仮設に思考を巡らせ、その考えを否定する。

 

「無理だろうネェ。私自身は【屍骸王】、屍骸の制作に特化しすぎてて怨念は管轄外。ヨモにしたってスキルで怨念を使役しているわけだから、スキルにないことはできない。動力に、なんてことはネェ」

「怨念に特化している君たちならいけると思ったけど、厳しいか」

「それならば、【冥王】か【死霊王】なんかに頼んだ方がいいネェ。そっちは私と違って怨念にも精通した超級職だし」

「なるほど、考えてお…ン?」

 

 その瞬間、フランクリンが目線を宙に向ける。その視線の先にはパネルが写っていた。それはフランクリンが国中にばらまいている監視映像だ。UBMを即座に見つけ対応するための備えである。そしてそのモニターには山が写っていた。

 

「この山がどうかしたのかい?」

「ああ君にはこれが山に見えるんだねぇ」

「?山じゃないのかい」

「山だったら…どうして動いている(・・・・・)んだろうねぇ」

 

 それはある国の一部の人間には見慣れた光景かもしれない。山が動くなどという光景は。

 なぜならばそれを為せる<超級>がいるからだ。自身の魔力によって山を使役する《山岳人形》。”魔法最強”と呼ばれる【地神】のオリジナル魔法スキル。

 

 だが、今回の光景はそれとは違う。なぜならその山はだれかに使役されているわけではなく、自分の意思で動くれっきとしたモンスターなのだから。

 

 ◇

 

 二人はフランクリンの用意した亜音速飛行型モンスターにて現場に直行する。もし、モンスターでこちらに敵意があるのであればすぐに対応しなければならないからだ。

 

「しかし、あなたまでくる必要はなかったんじゃないかネェ?【大教授】が前線に行くのってナンセンスだと思うけど」

「そんなことはないさ。この()で見ることに意味はある」

「…なるほど。しかし、あの山がホントにモンスターなのかい?」

 

 ノスフェラは未だにあれがモンスターだとは信じられなかった。なぜならあれをモンスターと仮定した場合、そのサイズは富士山に匹敵する。そんな巨体なモンスターいるわけがないし、いたとしてもなぜ誰も知らないのかという話になる。

 

「モンスターに間違いないさ。しかし、あんなものが今この瞬間に動き出したというのは作為的なものを感じるねぇ」

「戦争で勝利した皇国に対して<SUBM>を投下したのネェ。仕事をしないことで有名なここの運営が」

 

 現在、<SUBM>が投下済みの国はノスフェラが知る限り、グランバロアとアルターだけ。今この瞬間に、ドライフに<SUBM>が投下されたとしても不思議はない。

 

「あれは<SUBM>ではない。それに近しい存在ではあるんだろうけど、神話級のUBMだ。君たちが戦った、【アヴァシンハ】や【ネトラプレシス】と同格な存在だろうねぇ」

「…レベル100に到達した神話級UBMか」

 

 それの脅威をノスフェラは身を持って体感している。それならばあのサイズも考えられないことは無い。さらに言えば…

 

「あれはそれほど驚異的な存在ではない可能性もある」

「へえ。その心は?」

「神話級UBMとはいえリソースには限界がある。あれほどの体格とそれを動かす筋力。それだけでリソースを使い果たしていてもおかしくはない」

「確かに迫りくる速度も鈍重だしねぇ。その可能性は高そう」

 

 山の動く速度はAGIで言えば100にも満たない速度。それならば本来脅威にはなりえない。

 

「でも、どう見てもあれ、皇都に向かっているんだよねぇ」

「どれだけ鈍間だろうと山に踏み潰されたら、皇都は終わりだネェ」

「何としても食い止めないとねぇ」

 

 フランクリンとノスフェラはモンスターの打倒を決意する。しかし、それと同時に疑問も覚えていた。

 

 まっすぐ、皇都に向かうUBM。それは他でもない<SUBM>の特徴である。だが、あの存在が<SUBM>ではないことは他でもないフランクリンが知っている。

 同時にフィルルが倒した【メテロ】のことを想起する。あれも<SUBM>でこそなかったが、それに類する存在だった。そんな存在が北海に現れたのだ。

 

 <SUBM>が如きモンスターが二体、何者かの作為によって皇国に現れている。だというのに未だ、皇国には<SUBM>は投下されていない。

 

 そこから考えられることは…

 

(<SUBM>は既に皇国に投下されていて、それは秘密裏に対処されている?おあつらえ向きに”一”は欠番だしねぇ。<SUBM>の投下目的はおそらく<超級>への進化の促進。それができなかった皇国にはそれに準ずる存在が次々投入されている、ということなのかしら)

 

 その読みは正しく、ある管理AIの心中を言い当てていた。

 

「ホントにこれがモンスターなの?」

 

 ノスフェラは思わず口から言葉を発していた。それほどまでに圧巻な光景であった。目の前に存在する山がUBMなどということは。

 

「だけど、やるしかないねぇ。《叡智の解析眼》を使っているけど、どうにも読み込みが遅い。敵が神話級UBMだから?それとも単純にデカすぎるから?」

「先手必勝だネェ。私の読み通りならあれは大した防御機構も持ちわせていないはず。私の最高火力で吹き飛ばせば部位欠損かコア破壊でそのまま討伐できる可能性はある」

「こんな巨大な存在をどうやって?」

「勿論必殺スキルで」

 

 その瞬間、ノスフェラの左手から玉座が現れた。彼女がスキルを使う体勢に入ったのだ。

 

「君の最高火力っていうと、あれを蘇らせるわけだねぇ」

「暴走の可能性もあるけど…あれだけ的が大きいんだもの、当たるでしょ」

「こっちに来ないことを祈るばかりだ」

「少しでも離れておくことをおすすめするよ」

 

 その言葉に従うようにフランクリンはノスフェラから距離をとる。そしてノスフェラはアイテムボックスから10の【怨念のクリスタル】と白色のクリスタルを取り出し、

 

「《穢土の浄魂、浄土の穢魂(ヨモツ)反転するは我が境界にて(ヒラサカ)》」

 

 【怨念のクリスタル】は砕け散り、白色のクリスタルからは白き魂が抜け出る。怨念と白き魂が混ざり合い一つのカタチを成していく。竜のカタチを。

 

『《怨・終極!!!》』

 

 怨念で作られた竜から放たれるのは暗黒の極光。【光竜王 ドラグシャイン】のスキルを怨念で強化した一撃。例え、神話級UBMであろうとその肉体を灼き切るだろう。

 

 怨念の竜が制限時間を迎え、霧散する。そしてその極光を喰らったはずの山は変わらずそこにあり続けた。表面は幾何か削れたかもしれない。しかし、それだけ莫大な肉体を持つソイツからすればまさしく薄皮一枚斬られた程度であろう。

 

「馬鹿な!どうして…」

 

 ノスフェラの慟哭も当然である。あの極光を受けてその程度のダメージで済むはずがないのだ。あるとすれば、特殊な防御機構を持っていたか、だがそれもリソースの問題が…

 

「引くよ、ノスフェラ。相手が悪い」

「読み切れたの?」

「ああ。あのUBMの名前は【山竜王 ドラグマウンテン】、レベル100の神話級UBMさ」

「…【山竜王】。そう言うことか。何も特殊な防御機構ってわけじゃない。他の【竜王】達も持っているスキル、《竜王気》」

「あの巨体が生みだす《竜王気》は他の奴より減衰効果が強いみたいだけどねぇ。特に他のスキルは持っていなかったし」

 

 踵を返しながら、戦況を確認する二人。

 

「でもここで引いてどうする?あれを倒せなければ…」

「倒せるよ。あれが【竜王】だと知れたのはよかった。私のエンブリオなら竜特攻を持った自爆魔法モンスターや《竜王気》を貫通できる魔法を持ったモンスターを創り出せる」

「そうか、《改胎神所》なら…」

「アイツが鈍足で助かったよ。被害が出るまでまだだいぶ掛かる。そしてその時間があれば、十分モンスターの製造は間に合う。何より、的は大きいからねぇ、絨毯爆撃で終わりだよ」

「お金がかかりそうな話だネェ」

「宰相に出させるから無問題だねぇ」

 

 それは既に勝利を確信した者たちの会話であった。だが、それは油断に他ならない。敵というのはどこに潜んでいるかわからないからだ。

 

 ◇

 

「私は一応、リアルでフィルルに連絡しておくよ」 

「そうかい。まあ出番はないと思うけど、いたらいたで困るモノではないしねぇ」

「すぐ戻るよ」

 

 そう言ってノスフェラはログアウトした。フランクリンはノスフェラを待ちながら、先ほど見た【山竜王】のデータを読み返す。

 

【山竜王 ドラグマウンテン】

 レベル100

 HP:3776240000

 MP:7624

 SP:7624

 STR:37762

 AGI:77

 END:77624

 DEX:762

 LUC:37

 

「数値も十分化け物だねぇ。HPに至っては37億か。更にこれに《竜王気》もあるからねぇ。相当性能を尖らせないとダメージが与えられないか?…【パンデモニウム】が<超級エンブリオ>だったなら容易いんだろうけど。ああは言ったけど、フィルルか【獣王】はいた方がいいかねぇ」

 

 その思考は本拠地に戻ってからするべきだったかもしれない。フランクリンにしては珍しく、外敵に対する備えを一切せずに出歩いているのだから…

 

「…ん?」

 

 気づいた時には遅かった。装備していた【救命のブローチ】は砕かれ、自身の首からは大量の血液が噴水のごとく飛び出していた。

 

 フランクリンが後ろを振り向くとそこには首切りを為したと思われる凶刃を持った人間が立っていた。

 

「戦争ではよくもやってくれたな。これはその仕返しだ」

 

 フランクリンはその男の顔に見覚えはなかったが、おそらく自身が作ったモンスターに喰われて死んだマスターの一人だろうと考えた。その左手にはマスターを示す紋章があったからだ。だが、フランクリンはもうその顔を忘れない。

 

(【大教授】である私を暗殺しようっていうのに顔もステータスも隠さないだなんて、馬鹿な子…。ゼッタイニユルサナイ)

 

 《叡智の観察眼》で凶行を為したマスターのステータスを確認しながら、フランクリンは光の粒となって消えていった。

 

「駄目だネェ。やっぱり、フィルルは試験勉強で忙しいって…」

 

「…」

 

「フランクリン?」

 

 ◇

 

 ノスフェラがフランクリンが何者かの手によってデスぺナルティに陥っていると知ったのはそのあとのことだった。

 デスぺナルティとなったフランクリンは三日はこっちに戻ってこられない。戻ってきてそのあと、【山竜王】に特化したモンスター軍団を作る、それでは皇都襲来には間に合わない。

 

「フィルルがダメとなると…噂の【獣王】に対処をお願いするかネェ。…大惨事になりそうだ」

 

 ノスフェラの推測は正しい。【獣王】と【山竜王】がやりあえば、例え【山竜王】を討伐できたとしてもその戦禍で皇都襲来と変わらない大惨事になる可能性が高い。それでも、一応、【獣王】の窓口である皇王には連絡しておかなければならないだろう。

 

「試してはいないけど…あれを使えれば穏便に解決できる、か?」

 

 ノスフェラが考えたのは最近得た怨念のことである。何しろコストが重すぎて試運転すらできていない。だが、うまくいけば、これ以上皇国の地を荒らすことなく仕留めることが可能かもしれない。

 

「試すなら速いほうがいい…か」

 

 ノスフェラはフランクリンの使っていた飛行型モンスターに乗り、再び【山竜王】の元へと向かう。

 

「ヨモ。【怨念のクリスタル】の貯蔵は十分?」

『丁度使い切る予定です』

「良かった。【怨念のクリスタル】が足りませんでした、ではお話にならないからネェ」

 

 ノスフェラは玉座に腰掛け、その必殺スキルを使う時を刻一刻と待っている。自分の想像通りに事が進むことを。

 

「いた」

 

 【山竜王】を眼前に捉え、ノスフェラはアイテムボックスを握り砕く。その瞬間、ノスフェラの周囲から莫大な怨念が溢れ出す。当然だ。なぜならそのアイテムボックスの中には百の【怨念のクリスタル】が入っていたからだ。

 

 それほどの怨念が、ノスフェラの出した茶色のクリスタルから飛び出した魂と混ざりあい、異形のカタチを作り上げる。

 そしてその異形は拳を振るうでも、声をあげるでもなく、ただ立ち尽くして…10秒という長すぎる時間のあとに霧散していった。

 

「失敗…したのかな」

『……』

 

 【山竜王】は変わらず、歩みを続けるその巨体で鈍重に進むだけだが、その歩みを止めることは誰にもできはしない。だが、不意に【山竜王】の動きが鈍る。まるで自身の身体を動かす力が半減したような、自身の速度が半減したような、生命力が半減したような感覚があった。

 

『いいえ、ノスフェラ様。成功です!!!』

「…よしっ!!!」

 

 ノスフェラが呼び出した怨念は【殺陸兵鬼 ネトラプレシス】である。特典武具にならず、【天地海闢 メテロ】に討伐されたことでその怨念は北海を漂い、ノスフェラに回収された。

 そして、それを基に発動させたスキルは【ネトラプレシス】の最終奥義とも言うべきスキル、《頽廃怨地》をヨモの怨念によって狂化したモノ。

 

 自身の死をトリガーとして発動し、自身に死を与えたモノを永久に呪う最恐のスキル。元より、怨念は生前多用していたスキルや死の間際に使ったスキルを再現する傾向があり、怨念となっていることで、自身の死というトリガーは満たしている。後はその対象がランダム対象になっているのだ。

 

 つまり、ノスフェラの賭けとは【ネトラプレシス】を呼び出せるかどうか、《頽廃怨地》を使うかどうか、それが【山竜王】に適用されるかどうかというところにあった。

 だが、今ノスフェラはその賭けに勝ち、【山竜王】を永久に呪うことに成功したのだ。

 

 あとは【山竜王】を倒せるステータスになるまで待つだけだが、それは厳しいだろう。いくら【髄骸】でも【山竜王】相手に時間稼ぎはできない。このまま【山竜王】が歩みを止めるまで皇国の大地は踏み潰されて消えていく…

 

「なんだよ、時間稼ぎと足止めなら任せとけ!」

 

 そこにはすべてを理解したかのような顔で胞子を展開する一人の男がいた。”軍団最強”の男がだ。

 

 その男の言葉通り、幾何の時が流れて、

 

「時間は稼いでやったぜ。止めは…お前が決めろノスフェラ」

 

 右の親指を挙げながら、止めの合図を出す。

 

『《転念怨遷》』

 

 それは怨念を生みだすスキル。ヨモが行うそれは最高品質で純度の高い【怨念のクリスタル】を生みだす。そしてそこから放たれるスキルは…

 

「《デッドリー・ミキサー》」

 

 純黒の螺旋。

 

 それは伝説級のモンスターですら一撃で屠る破壊のエネルギー。

 

 まして神話級の”竜”ならいざ知らず、純竜級以下の”蛇”にまで堕ちた【山竜王】に耐えられる道理はなく、そのHPを全損させて消えていった。

 

 ◇

 

【<UBM>【山竜王 ドラグマウンテン】が討伐されました】

 

【MVPを選出します】

 

【【ノスフェラ・トゥ】がMVPに選出されました】

 

【【ノスフェラ・トゥ】にMVP特典【山竜王完全遺骸 ドラグマウンテン】を贈与します】

 

「…まったく、試験勉強はどうしたんだい?フィルル」

「ああ。飽きたからフケてきた」

「…まったく、いやホント全く」

「だって難しいだもん」

「…今度、教えてあげるよ、勉強」

「ああ、よろしく頼むぜ、先生!」

 

 そして、彼らはまた動きだす。現実と虚構の世界を行き来しながら。

 

「そう言えば…特典素材を得たけど、山みたいなデカイモンスターをどうやってアンデットにすればいいのかネェ」

 

 そして、極々、当たり前の疑問に行きついた。 

 




やっぱり、ノスフェラはヒロイン。はっきり分かんだね。

一人不穏な人がいたけど(フラなんとか)


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After Story ”弱肉強食”

短編です

ちなみに作者は喫煙者ではないよ


□??? 【■■■】メビウス・セブンスター

 

「…ふう」

 

 煙草を弄ぶ。

 

 白煙が生まれる。

 

 空中に消える。

 

 料理と酒を肴に俺は一服していた。

 これは昔からの俺のルーチンみたいなもんだ。大きな仕事の前にはいつもこうして気持ちを整える。現実世界の癖だったはずだが、このゲームの中でも同じことをしている。

 

 いや、現実世界ではもう長いことできていないか…

 

 それが急に可笑しくなってしまって、咳き込んでしまった。

 

 周りの視線が俺に集まる。

 だが、その視線も心地いい。

 

 煙草を吸って咳き込んだ俺を、”若い”と笑う視線であって、煙草を忌避してる視線ではないからだ。

 

 現実世界じゃ煙草を吸うことすらままならない。年々、俺たち喫煙者の居場所はなくなっていく。

 街中で煙草を吸おうものなら殺人者と断じられる。自宅でも、色々な規約やら契約条件やらで煙草を吸うことはできない。

 

 喫煙者という弱者は非喫煙者という圧倒的強者にとって喰われたのだ。

 

 今俺が煙草を吸える空間はこの<Infinite Dendrogram>しかない。そう、俺は真に”自由”に喫煙できる世界を求めて、このゲームを始めた。

 

 チュートリアルで俺が最初に発した言葉は”この世界で喫煙は自由か?”だったか…

 

 まあ、そんな俺から生まれるエンブリオはやはりというか煙草型だった。能力に関しては疑問が付き纏うが、だからこそ今俺はここにいる。

 

 そう、今から行うのは…”最強殺し”

 

 ”軍団最強”と呼ばれるフィルル・ルルル・ルルレットへのPKだ。

 

 ◇

 

 今回の仕事は俺の所属クランから回ってきたものじゃない。そもそも、俺のクランはそういう仕事は請け負っていないし、縛りが強いわけじゃない。たまにあるオーナーの頼みごとを聞くだけだ。

 

 それであれ(・・)だけの見返りがもらえる。国家に所属していないクランでこれほど規模が大きいのは、そんな理由もあるんだろう。

 だから【死商王】のような裏切り者が出るんだろうが…、まあオーナーは特に気にしてなかったな。

 

 …思考が揺れている。

 

 やはり最強を相手にすることに緊張しているのか。

 

 今回の依頼は俺個人に回ってきたもの。依頼主は…隠していたがカルディナの手のモノだろうな。そういうのは見たらわかる。

 なぜ、カルディナが”軍団最強”を突け狙うかまではわからない。そもそも、カルディナには子飼いの<超級>がいるはず。なんで俺に仕事が周ってくるかね。<超級>を動かすことに問題があるのか…、それとも<超級>でも倒せないと見たか…どちらにしても、議会が直接絡んでいるわけではなさそうだ。奴らならもっと上手く(・・・)やる。

 

 さらに言えば、俺がPKに成功したとしてなんの意味もないはずだ。”軍団最強”は指名手配されているわけじゃないから”監獄”には…いや、カルディナでは指名手配を喰らっていたな。それ関係の仇か?…面倒ごとに巻き込まれている気しかしないな。

 

 だが、一度仕事を受けた以上はやりきるしかない。こちらにも事情がある。それに、どうやら俺と【軍神】との相性はいいみたいだからな。

 

 ◇

 

「なあ、アンタ、フィルル・ルルル・ルルレットだろ?」

 

 俺は同じ店内で食事をしていた【軍神】に声をかけた。周りにはいつもの連れ(【屍骸王】)はいない。チャンスは今しかない。

 

「そうだけど、どうした?」

 

 【軍神】は特に気にした様子もなく、俺と応対する。俺は煙を吐きながら会話を続ける。この煙がこの空間に充満するように。

 

「実は俺、アンタをPKするよう依頼を受けたんだけどよ、なんか心当たりあるか?」

 

 いきなりの俺の質問に【軍神】は驚愕の表情を浮かべた後、すぐに返答を返した。

 

「ヒトチガイデス」

 

 …嘘付け。さっき、認めてだろうがよ。それにこっちは分かってるんだよ。

 

「そうか、まあ人違いでもいいや。別にマスターを殺しても犯罪じゃない。”軍団最強”じゃないアンタを殺しても問題はないよなあ」

 

 俺のあからさまな煽りを前に【軍神】は困惑したような表情を見せた。

 

「…はあ、アンタ何がしたいの?俺をPKしたいなら闇討ちでもなんでも方法はあるだろうに、目の前でそんなことやられたらあきれて勝負する気も失せるってもんだよ」

 

 どうやらさっきの驚愕の表情はまさか、目の前で自分の実情をバラす馬鹿がいるとはという驚きだったんだろう。まあ、俺も同じことされたら、そう思うな。

 

「なんだよ、つれねえな。俺はもう殺る気満々だっていうのに」

 

 そう言いながら、俺は右手に長剣を握る。

 

「…そこだよ。だったら最初から刺せばいい。だっていうのにアンタは格好ばかりで欠片も殺気がない。それで俺を倒せる気か」

「殺せるさ」

 

 俺は長剣を【軍神】の心臓に突きたてる。周りの客は漸く俺たちのやり取りに気が付いたのか、クモの子を散らすように逃げ去っていった。

 

「…どうやら、頭だけじゃなく情報も足りていないようだな」

 

 心臓を一突きされたはずの【軍神】は何もなかったようにこちらを見てくる。そして、奴の足元からは何かが転がってきた。それは身体を両断されたかのような無残な虎の死体だった。

 

「虎丸が死んだ。罪を償え」

 

 その言葉と共に、奴の外套が輝き、そして、…何も起こらなかった。

 

「…あ?」

 

 今度こそ、【軍神】からは驚愕の声が漏れる。

 そして、俺は長剣に仕掛けれたトラップを発動する。スキルによって刀身は爆発し、【軍神】の肉体を内部から破壊する。

 

「うらァァァ!」

 

 【軍神】は身を守るかのように両手に双剣を装備した。やはり生きていたか。だが、これで【ブローチ】は砕けたはずだ。畳みかけるように、俺は【煙芸王】のスキルによって周囲に漂う煙を亜竜級の獣へと変換する。

 

「《鳥獣戯煙》」

 

 それは見た目の派手さはないが、空中に漂う煙を生物に変化させる技芸。煙芸を極めた【煙芸師】の頂点、【煙芸王】のスキルである。

 

「てめえ、超級職だったのか…」

 

 【軍神】が今頃気づいたかのような表情をする。まあ当然だな。俺は道化を演じていたし、俺の煙は情報認識阻害を持たせることすらできる。【軍神】には俺が下級職のルーキーにしか見えなかったはずだ。

 あえて、道化を演じることで相手の警戒を逆に下げ、PKの難易度を下げたのだ。

 

「気づいたところでもう遅い。貴様がいくら”軍団最強”と嘯いたところで殺す手段は無数にある」

 

 ◇

 

 フィルル・ルルル・ルルレットを”軍団最強”足らしめているのは、神話級特典武具【三源輝套 クリスタリヴ】である。<超級エンブリオに>よる莫大なステータス強化も、強力無比な【軍神】のスキルも、最強のイレギュラーの召喚も【クリスタリヴ】を基点に行われる。

 逆に言えば、【クリスタリヴ】の《エレメンタル・プロダクション》さえ防げればフィルルの戦闘力は著しく落ちる。無論、神話級特典武具故に、破壊やスキル無効といった手段は難しい。

 

 だが、メビウス・セブンスターはそれを可能にするエンブリオを持っていた。その銘は【薄命煙 タマテバコ】という。その能力は対生物に特化した煙を生みだすアームズ型のエンブリオである。

 そのスキル、《エンド・スモーク》は煙を吸ったものの元々のHPを減少させ、HPが0となったものを即座に抹殺する呪煙。第六形態となった今では元々のHPを600削ることができる。

 

 対して、【クリスタリヴ】によって生みだされる【スポアエレメンタル】の元々のHPは100。故に《エンド・スモーク》が充満するこの空間では、生みだされた【スポアエレメンタル】は他のスキルの効果を受ける暇すらなく消え失せるのだ。

 

 そう、【薄命煙 タマテバコ】は奇しくも対”軍団最強”に特化したエンブリオだった。

 

 ◇

 

「…良く持つな」

 

 俺から出た言葉は素直な驚嘆だった。”軍団最強”は【スポアエレメンタル】さえ封じてしまえば後は《鳥獣戯煙》で殺せると踏んでいたが…今もギリギリで命をつないでいた。

 

 《鳥獣戯煙》によって生みだされたモンスターは亜竜級のスタータスを得る。また、その躰は煙でできているため、物理攻撃では煙を散らすことしかできない。更にただの煙ではなく《エンド・スモーク》を圧縮して生みだされているため、その爪牙は相手を傷つければ、即座にその元々のHPを3000は削るだろう。

 

 【タマテバコ】と【煙芸王】のシナジーは凄まじく、戦う術を失った【軍神】では即座に死に失せるしかないと思っていた。しかし、現実はこうして生き延びている。

 

 本来であれば、勝ち目のない持久戦など意味はなさない。もしかしたら奴にはこの状況をひっくり返せる秘策があるのかもしれない。

 …いやない。

 アイツが他に取り得る手段が他にないことはこの双眼が()っている。 

 

「厄介な能力だなー」

 

 ターゲットが口を開いた。…時間稼ぎのつもりか?

 

「対生物に特化した煙とそれを自由自在に操るジョブスキル全く厄介な組み合わせだ。まさか、【スポアエレメンタル】を生みだした瞬間に消されるとは思ってなかったぜ。似た経験がない訳じゃないが…」

 

 能力を見破られている。これは…警戒を強めるべきか?今この瞬間、口を開いたということは状況の一転を狙っているはず…

 

「ちなみにその似た状況っていうのは生みだした胞子たちが即座に殴り殺されるっていう地獄絵図でな」

「そん時は俺は巧みな話術で隙を作ったわけだが…」

「あんたには厳しいかなー」

「そういや、あん時やられた胞子の数っていくらくらいかなー」

 

 …先ほどの俺のように道化でも演じているのか?

 

「ちなみに今、アンタが殺した胞子の数はいくつかわかる?」

 

「…」

 

 俺が殺した胞子の数…だと?そんなもの奴の生みだした胞子の数の三千に決まって…いや、奴が召喚しても無駄だとわかった上で召喚を続けていればその数は…

 

「答えは自分で確かめるといいぜ」

「にゃー」

 

 声の主は…奴の《ライフリンク》用のアンデット。この目ではあれの情報は()れない。まさか、あのアンデットにこの状況を打開できるだけのスキルが…

 

【致死ダメージ】

【パーティ全滅】

【蘇生可能時間経過】

【デスペナルティ:ログイン制限24h】

 

 ◇

 

「…ッ!」

 

 現実世界に戻ってきた。

 まともに煙草も吸えない窮屈な現実に。

 

「失敗…したか」

 

 ”最強殺し”

 そう易々と成功するものではないとわかっていたが、心残りもある。綱渡りのような作戦はすべてうまくいっていた。だというのに最後の最後でしてやられた訳だ。やはりあのアンデットは特殊なスキルを持ち合わせていたのだろう。

 

 奴の発言を信じるならば…こちらの殺害数によってダメージを引き上げる闇属性攻撃の一種か?

 

 相手のジョブや装備の詳細と違って、モンスターの詳細を()る術の無い俺にとっては確信の持てない推測交じりとなってしまう。

 ああそう言えば、デスぺナになってしまったから、またオーナーの厄介にならないと…

 それにしても今回の依頼主はいったい…

 

 …ふと目をやるとそこには煙草の箱があった。

 勿論、この部屋は禁煙である。吸うとなれば、また数を減らしている喫煙エリアに出向かなければならない。いつもはその面倒を嫌って、デンドロの世界で煙草を吸うのだが、デスぺナとなってしまっているから、そうもいかない。

 

 …まあいい。たまには現実世界で思うままに煙草を吸おう。例え失敗だったとしても、仕事のあとの一服は至福のひとときなのだから…

 




弱肉叫蝕(じゃくにくきょうしょく)

 虎丸の保有するスキル。闇属性超音波攻撃。相手の自身のパーティメンバーの殺害数によって威力が上昇する。アンデット故に、呪怨系統と闇属性との相性がよかったために生みだせたスキル。フィルルを思って生みだしたスキルであるため、フィルルとのシナジーは強力。


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After Story ”将軍■■”

久々です。捏造設定&読みづらいかもしれませんがそれでも良ければどうぞ


□??? 【煙芸王】メビウス・セブンスター

 

 俺がデスぺナルティから明け、クラン本部へと顔を出す。今回の一件について説明するためだ。

 オーナーは大して気にはしないだろうが…必要なことだ。どちらにしても一度リセットされている。オーナーには一度会わなければならない。

 

「おやおや。メビウス君、デスぺナから明けたのかい?…それでどうだった久々の現実での煙草の味は」

「…」

 

 オーナーは俺を一瞥し、まるで現実の私を見透かしたような言動をする。流石のオーナーも現実世界の私まで見透かすことはできないと思うが…

 

「それでどうしてデスぺナしてたの?」

 

 かと思えば、全てを視っていてもおかしくないこの世界の出来事について無頓着だったりもする。要は…彼の気分次第なのだろう。

 

「フィルル・ルルル・ルルレットと対決し、敗れました」

「へー。あの【幻獣旅団】、いや【軍団最強】とか」

 

 少なくとも、オーナーは【軍団最強】のことは知っているらしい。話が早くて助かる。するとオーナーはどこか遠くを見るような素振りを見せる。

 

「それで、次はどうする?前のと同じ奴でいいかい?」

 

 オーナーは話を進めてくる。…本当に話が早くて助かる。

 

「いえ…」

 

 俺は自分の希望をオーナーに伝える。今度こそ、【軍団最強】に勝てるように。

 

 ◇

 

「しかし、【軍団最強】かー。どうしてまたそんな奴と戦おうとしたの?」

 

 オーナーが作業を進めながら話を振ってくる。どうやら彼の興味を引くような話ではあったらしい。それと同じくらい【死商王】にも興味をもって対応してくれたらいいのだが…

 

「俺のエンブリオと奴とは相性が良かったからですよ。まあ負けてしまったのですが…」

「いやそうじゃなくてさ…。報酬は何だったのか聞いているんだよ、メビウス君」

「…」

 

 オーナーとの会話はいつもこうだ。話している内にいつの間にか話が飛ぶ。けれど、それは恐らく俺の理解が追い付いておらず、彼は既に少ない情報から既に核心を見透かしているのだろう。

 

「カルディナが保有する情報です。【器神】と【死商王】の情報を。我々クランの商売敵と裏切り者の情報です」

「なるほどねー。情報に金の糸目はつけるなっていうことだねー」

 

 ホントにオーナーが言うと洒落にならない。その言葉に相応しいエンブリオを持っているからだ。

 

「メビウス君。君って【将軍最強】は誰だと思う?」

「…」

 

 また話が飛んだか。まあオーナーも暇なのだろう。その話題に付き合うとしよう。真っ先に浮かんだのは俺を倒したフィルル・ルルル・ルルレットだが…

 

「ああ。【軍団最強】とかいわないでくれよ。あれは【軍団最強】であって【将軍最強】ではない。【将軍】ではないからね」

「つまり、【将軍】を冠するジョブでなければならないということでしょうか」

「うん」

 

 そもそも、俺は他の【将軍】に明るいわけではないのだが…

 

「そうですね。俺の知っている限りだと【無将軍】ですかね」

「ふーん、その心は」

「俺自身詳しくは知らないですが【将軍】として皇国最強のティアンとして名を知られています。なんでも特典武具で千を超える兵を生みだし、圧倒的な指揮能力を持っているとか…」

 

 俺は知り得る情報の中でこれだと思う名をあげる。

 

「なるほどねー。兵の即時性と指揮能力かー」

「…」

「兵の強さはどう考える?」

「兵の…強さ…ですか?」

「ちなみに【無将軍】の兵は下級職程度。一番強くても精々伝説級の兵だよ。即時性という観点でも甚だ疑問は残るね」

 

 やはり見透かしているように言う。この分だと【無将軍】のことは視り尽くしているらしい。

 

「いつの間にそんな情報を…」

「商売上だよ、メビウス君。ちなみに皇国に属する【魔将軍】は神話級UBMに匹敵する存在を複数体呼び出せるそうだよ」

「…。それでも【将軍最強】は【無将軍】だと考えます。兵の強さなど戦略次第では覆せます」

「それはどうだろうね。戦略で覆せるのは数の利だけだよ。圧倒的な兵の強さは戦略なんかじゃ覆せない」

 

 オーナーのその言葉は多くのことを視っているからこそ出る言葉なのだろうか。自分などでは違う、この世界で<超級>として生きるオーナーには…。

 

「…ではオーナーは【将軍最強】は【魔将軍】だと?」

「いやそれはないよ。あんな闘技場だけの強さ、【最強】には程遠い」

「…」

「即時性に指揮能力、兵の強さ。他にもあるかもしれないねー。【将軍最強】を決める指標は。だからこそ…【軍団最強】と呼ばれている彼は一体どれほどの強さなんだろうね?」

「…」

 

「ああでも」

「?」

「【将軍最速】の二つ名はあの子のものだろうねー」

 

 ◇

 

□??? 【屍骸王】ノスフェラ・トゥ

 

「男の子ってのはよくわかんないもんだネェ」

 

 私はある作業を続けながら、今もドンパチやっているであろう相方に思いを馳せる。

 意思を持つ特典武具。神話級特典武具とは言え、その実情はイレギュラー。フィルルの言葉を信じるならば性能自体は神話級特典武具に準ずるものらしいけど、それも未知数な所があるらしい。

 

 神話級武具と超級武具、そしてイレギュラーの特典武具。この辺の明確な違いはヘルプを読んでみても詳しくは知れない。

 ただし、例え同じランクであっても、特典武具の性能が著しく違うことがあるというのは確度の高い情報だ。区分の違いなど大した問題ではないのかもしれない。実際に私の手に入れた【山竜王】の神話級特典武具とフィルルの手に入れた神話級特典武具とを比べてみてもその情報は正しいと感じてしまう。

 

「…まあ素材と武器という違いがあるから仕方ないんだろうけどネェ」

 

 それが【屍骸王】ノスフェラ・トゥにアジャストした結果だと言われてしまえば、そう納得するしかない。実際、私以外があの特典武具を手にしたところで文字通り山にしかならないだろう。

 

「ふう…」

 

 …作業の7割型は既に終わっている。

 といってもこれだけでも十二分に使える性能はしている。後は細かい武装などを追加するだけだ。だからこそ、作業の合間に考えごとをする余裕もある。しかし、私が何度かこういった作業をしているがやはりあれを感じたことはない。

 

 特典武具それ自体が宿した意思というものを。

 

 ◇

 

「特典武具が意思を持つなんて聞いたことがない」

 

 私のエンブリオである【浄穢境界 ヨモツヒラサカ】は怨念の作成に特化してる。それ故にヨモは魂を見ることができる。だが、ヨモに聞いてみても特典武具となったUBMはその魂さえもまとめて特典武具になるらしい。

 その過程で魂も意思さえも特典武具のリソースとなるため特典武具が意思を持つことは滅多に無いとのことだ。

 

「無論、例外はあります。私たちのように怨念駆動のアンデットではなく、魔力を用いるタイプのアンデット作成では、その魂の意思を宿すことはあります」

 

 ほう、それは初耳だ。私がいままで作ってきたアンデットももしかしたら意思を持っている可能性があったかもしれない。

 

「お勧めはしません。ノスフェラ様自身がさほど魔力をお持ちでないことに加えて、そのアンデットは自由意志を持ちます。丹精込めて作ったアンデットが自分の言うことを聞かない可能性がありますから」

 

 なるほどねー。

 本来であれば、怨念駆動のアンデットも暴走のリスクはあるんだろうけど、うちのはヨモの怨念を使った特別製だし、よほどのことがない限りその心配はないし、今のままがベストか。

 

「自由意志を持ったUBMの召喚。まして、相手があのメテロだからネェ」

 

 今、フィルルが何をしているかといえば、調教だか屈服だかもしれない殴りあいだ。

 

 メテロは召喚されてもまともにフィルルの指揮を受けず、自爆攻撃を繰り返す困った存在である。生前のスキルを全て使えるはずなので、私を損壊させたウォーターカッターや水を使った兵隊の作製なども使用可能なはずなのである。

 だというのに、メテロは自爆しかしない。むしろ自爆にフィルルを巻き込んで殺そうとする意思すら感じられる。

 

 そのせいでフィルル本来のバトルスタイルとメテロの召喚は非常に噛み合わないものとなっている。フィルルの戦いの起点である胞子すらも巻き込んで広域殲滅自爆をするからである。

 

 そのメテロをフィルルは制御下に置くべく今日も殴りあいをしているのだが…

 

「殴りあいではメテロは屈服しないと思うけど…」

 

 そして私は極当たり前のことを思うのだった。

 

 ◇

 

 作業もひと段落し、一息つく私。殴りあいの喧嘩はまだ続いているらしい。最も私の作業のせいでここ最近は身動き取れなかったから、フィルルからしてもちょっとした暇つぶしなのかもしれない。

 

 私は久方ぶりに街の方に出向き、散策でもしようかと思ったら、

 

「ノスフェラ様!」

「髄骸」

 

 ヨモの声に反応して、即座に遺骸を起動する。怨念によって動くアンデットは迫りくる敵を右手に生まれた剣で切り裂いた。

 

「これは…天使か」

 

 髄骸が切り裂いた相手を認識する。だとしたらヨモが予知できたのも理解できる。天使はその性質上、【聖騎士】が持つ《聖別の銀光》と似た能力を持つ個体がいる。そこに存在するだけで、弱い怨念ならば浄化されるほどの光を持っているのだ。

  

 逆に言えば、その天使の周りでは怨念が浄化されて弱まるということ。怨念を扱うエンブリオであるヨモは怨念の増減に敏感である。怨念が減ったことで天使の存在を知覚できたのだ。

 

 だとしてもヨモが反応できてよかった。なぜなら今の天使の速度は…超音速だったのだから。その速度で接近されていれば私は為すすべなくデスぺナになっていただろう。なんせ、【大死霊】が持つ不死身に近い耐久力も天使の持つ光の前では意味を成さない。

 

「天使自体が珍しいというのに、超音速起動する個体がこんなところに…」

「ノスフェラ様!」

 

 再度、ヨモが叫ぶ。

 天使がさらに四体、私目がけて飛翔する。AGIにして2万近くの数値を誇る四重の閃光を本来であれば、為す術なくやられていただろう。

 

 だが、髄骸は古代伝説級UBMを超える性能を持つ。AGIのみに特化した天使など少し数が増えた程度ではやられはしない。事実、天使のAGI以外の数値は亜竜級モンスターにすら劣る。

 攻撃力など、私がアンデット種族になる【大死霊】ではなく、また天使が《聖別の銀光》にも似た光を持たねば生産職の私ですら耐えきれる程度。

 相手の耐久力にしても同じで、髄骸の剣が当たるだけで天使の肉体は即座に砕け散っていった。

 

 数が少し増えた程度では負けることは決してない。

 

 最も…敵の数が五体だけであればの話だが…

 

「ノスフェラ様!天使が最低でも90。こちらに目掛けて…」

「…レギオン?いや将軍職か!」

 

 ◇

 

 【天将軍(ヘイヴンジェネラル)】。それは【魔将軍】と同じく自身で配下モンスターの召喚を行えるジョブである。

 最も召喚されるモンスターは悪魔などではなく天使である。それ故に【天将軍】と【魔将軍】では大きな違いいくつか存在する。

 一つは召喚されるモンスターのステータスである。【魔将軍】のスキルで召喚される悪魔のステータスは固定されている。インスタントな悪魔召喚であるが故のステータス固定だ。

 そして、【天将軍】の天使召喚もまたインスタントな天使召喚である。だが、そのステータスは悪魔とは違い、固定値ではなく変動値である。では、そのステータスが何で変動するかといえば、召喚者のステータスである。

 

 例えば、【天将軍】のスキルの一つ、《コール・エンジェル・レジメンツ》は【ソルジャー・エンジェル】を100体召喚し、30分使役するものだが、その【ソルジャー・エンジェル】のステータスは【天将軍】のステータスの10分の1としたものである。

 このように【天将軍】が召喚する天使のステータスは自身のステータスを参照とするものが多い。それは【天将軍】の天使召喚のコストにも密接する話である。

 

 【天将軍】の天使召喚のコスト。それは【魔将軍】のような生贄ではなく、純粋な祈りである。

 

 祈りそのものが天使の肉体を作り、スキルを与え、動かすのである。皮肉なことに在り方としては怨念駆動と似たようなものである。

 あちらが人のマイナスの感情、恐怖や妬み、恨みなどをリソースに変換してスキルを行使するのに対して、こちらは人のプラスの感情、賛美や感謝、慈愛などをリソースに変換してスキルを行使する。

 

 だが、祈りをコストにスキルを使うには相応の時間を必要とする。怨念と比べて祈りのリソース効率は悪い。【天将軍】の初歩的なスキル《コール・エンジェル・レジメンツ》でさえ、常人であれば三日三晩の祈りを必要とする。

 

 だが今の【天将軍】セイヴァ―にはエンブリオがある。TYPE:ワールド・ルール【祈主宣誓 ミサ】の能力である。

 ミサは同系列のスキルの上位互換を重ね、必殺スキルもそれに準じたモノ。ミサが有する唯一の能力《洗礼祈祷(ミサ)》は祈りの間のみ、AGIを100倍にし、その上で体感時間を10倍にするというもの。

 その能力を以って、本来なら三日三晩かかる祈りも他の者からすれば1分にも満たない時間でスキルの発動を行うことができる。

 

 超音速で動く天使を即座に展開し、弾丸のように射出し続ける戦法をもって、【天将軍】セイヴァーは【将軍最速】の異名をとっている。

 

 ◇

 

「百、いや二百を超えたかネェ」

 

 突撃してくる天使を髄骸で蹴散らしつつ、殺した天使の数を目算する。

 

 全くもって厄介。一匹でも討ち漏らせば、その一体が怪物()を倒すシルバーブレット(超音速天使)となる。先ほども髄骸のミサイル攻撃などの広範囲攻撃を仕掛けて延命している。だが、これもそう長くはもたないだろう。

 

 救いがあるとしたら、天使のAGIと他のステータスとの解離が大きすぎて、突撃する際に一度ストップをかけていることか。おそらく超音速のまま突撃すると、その衝撃に攻撃した天使そのものが砕けてしまうのだろう。今の内に何か打開策を…

 

 …言ってる側からストップをかけなくなった。相手が将軍職であの【魔将軍】と同じ、配下のモンスターを自在に補充できるとしたら、天使が自壊しようが関係ない。天使は替えのきく存在であれば、突貫突撃で天使が砕けても問題ないと判断するだろう。

 

 少し、ヤバイかネェ。

 

 【海玉唯在 メテロ】のときと同じだ。いくら髄骸がステータスで天使達を上回っていようが私を落とされてしまっては意味がない。そのためのタンク役が欲しい常々思っていて、そのための対応策を講じていないわけではない。だがまだその対応策は完成していない。完成していないが…

 

「仕方ない。未だ完成度は7割程度だが…使うか」

 

 ◇

 

「…」

 

 天使の自壊を勘定にいれずに突撃させれば…あと1分もたたずに落とせる。思ったより粘るから少し計算がずれたが、このままいけば十分にやれる。

 

「ん?あれは…」

 

 【屍骸王】の周りに展開していた天使が一気に蹴散らされた。それと同時に【屍骸王】が消え、その代わりに戦艦の如き竜が鎮座していた。

 

「状況から考えたら…【屍骸王】の隠し玉。だとしてもアンデットには変わりない。ならば天使達の弾丸突貫で」

 

 言葉を言い切らないうちに、天使達を突撃させる。天使の命を考えずに速度を加速させたままぶつければ、あの髄骸と呼ばれたアンデットでさえ砕ける。その一撃が百も重なればあの戦艦すらも破壊できるだろう。

 

「…傷ひとつつかんとは」

 

 百の天使が突撃してもあの戦艦には1ダメージすら与えることすらできなかった。このまま並みの天使を追加しても結果は同じ。だが、相手は相手であの図体じゃ身動きはどうせ取れない。加えて相手はまだこちらの位置すら把握できていない。…仕方ない、ここは神話級天使を召喚し一気にケリをつける。心を磨り減らすことになるが問題はない。

 

「えっ…?」

 

 神話級天使の召喚のための祈りを捧げた直後、目の前に戦艦の巨爪が迫る。スキル発動中であったため、相手の攻撃はスローモーションで迫る。しかし、その攻撃を私はどうすることもできずに屠られる。

 

「なぜ、私の場所が…」

 

【致死ダメージ】

【パーティ全滅】

【蘇生可能時間経過】

【デスペナルティ:ログイン制限24h】

 

 ◇

 

「完成度は7割だけど、仕事は充分だネェ」

 

 天使を率いていた〈マスター〉をデスペナルティに追い込んでから、一息つく。

 全く相性としては最悪の部類だったけど、やっぱり地力の差って出るからネェ。しかし、あの銀の弾丸ともいうべき天使の突貫攻撃でさえ、傷ひとつつかないとは…クオリティは十二分。

 私は鎮座している戦艦を見下ろしてながら更なる改修に思いを馳せる。

 

 【屍山竜骸】

 

 【山竜王完全遺骸 ドラグマウンテン】を【屍骸王】の奥義、《圧縮義骸》を用いて作った戦艦の如き竜である。《圧縮義骸》は遺骸を圧縮して別物の遺骸に作り替えることができる。魚から鳥の遺骸を作ることも、竜から蝿の遺骸を作ることも可能。そして、元の性質を残しながら、新たな遺骸の性質を宿す。

 

 今回は山のサイズをもった【山竜王完全遺骸】をまずサイズを極限まで圧縮させて、そこからさらに戦艦という遺骸に作り替えた。

 

 その上で戦艦でありながら、【山竜王】の耐久力と《竜王気》を兼ね備えている。さらにその戦艦に乗り込むことで、私自身の安全も確保される。

 

「誤算だったのは、【山竜王】の頃よりよほどスピードが出せることだネェ」

 

 【山竜王】の巨体を圧縮したことで、結果としてAGIの大幅上昇を獲得できた。それこそ、超音速機動か可能なほどに。

 

相性の良し悪しは考えものだネェ。相手は隠れていたつもりだろうが、召喚された天使はそれだけで周りの怨念を減らしてしまう。逆にいえば、怨念が極端に減っているところが天使達の召喚点、つまりは相手の居場所ということになる。しかし…

 

「いったいどうしていきなり攻撃されたんだろうネェ?」

 

 ◇

 

□??? 【煙芸王】メビウス・セブンスター

 

 オーナーはまた遠くを見るような顔をしている。俺はオーナーのスキルで調整をしてもらい、ようやくデスペナ以前に…デスペナ以前よりも強い状態になった。

 

「まあでも…」

 

 一作業を終えて、オーナーはまた口を開く。

 

「最速では最強には程遠いよねー。やっぱり最強って称号には興味がつきないよー」

「…」

 

 先ほどの話の続きのようでいて、それはまるで今この瞬間にどこかで繰り広げられた戦いを見た感想のような口ぶりだった。

 

「まあ、今は損失を取り戻すとしますかー。マルス君には見つけた先々期文明の工場を横領されたし、ラスカル君には折角見つけた遺跡を破壊されたしねー」

 

 そういってクラン《ゴルゴネイオン》のオーナー、【発掘王(キング・オブ・エクスカーヴェ―タ―)】ユテンはまだ見ぬ彼方へとその足を向けた。

 未知への発見を求めて…

 

 




【屍山竜骸】…翼のないインペリアルドラ○ン


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