黒天伝~黒蝕竜転生~ (紫黒ステラ)
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プロローグ 終わり、後に始まり

どうも初めましての方は初めまして。
以前、神想紅紗の名前で小説を投稿していた者です。
訳あって以前のアカウントは削除したのですが、「やっぱり最後まで投稿したい」と思い戻ってきました。
最終章までのプロットは出来ているので失踪は……無い、と思いますが投稿は不定期になります。
それでも良いという方は本編へどうぞ。


 全身から鳴る本来鳴ってはいけないグシャりという何かが潰れた音。

 目を見開き凍りついたように、手を伸ばしたまま動きを止める後輩。

 鈍い衝撃の後のふわりとした浮遊感。

 薄れていく意識。

 

 これらが、私が最後に見て感じたものだ。

 ……まぁストレートに言ってしまうと、私はトラックに轢かれたのだ。

 信号はちゃんと青だった……筈だ。後輩と話をしながら歩いていたとはいえ、それは間違い無い……高確率で。

 確実に骨は折れているだろう。私に医療知識はほとんど無いが、それは確実だ。スプラッター映画で出るような音が全身から鳴ってた。

 といっても、私が痛みを感じたのはほんの一瞬だった。気絶したのかと思ったが、もしかして私は生死の境界を彷徨っているのではないか。

 そうでなければ『この状況』を説明できない。

 

 ……と、まぁ長々と説明してきたが、そろそろ今の私の状況を説明しよう。

 

 天井どころか壁まで見渡すことが出来ない程、ムダに広すぎる空間。そして、その全てが目が痛くなるシミ一つ無い白。

 しっかりと感覚はある筈なのに、何故か見えない自分の身体。

 

 ……うん、

 

 

 何が!

 

 

 どうして!

 

 

 こうなった!!??

 

 何?死後の世界なの?私未練めっちゃあるんだけど!モンハンクロス明日発売だし!それを、先輩と後輩誘ってプレイする予定だったのに!密林で買ったサ〇ホラのBluRayが来るの楽しみにしてたのに!コンビニでファ〇チキ買った帰りだったのに!

 ふっざけんなぁぁぁぁぁぁぁあああああ!!

 

 ……ふぅ、とりあえず落ち着いた。

 この通り何処からどう見ても病院には見えないし、そもそも私自身何でこうなったか分からない。

 

 だが、心当たりが全く無いかと言われれば答えはNoだ。

 私がついこの間まで読み漁っていた小説サイトに多くあった神様転生。何らかの原因で死んだ主人公が神によってゲームなどの世界に転生する……というものなのだが、私の今の状態はそれにあまりにも似ているのだ。パターンに種類はかなりあったが、その多くはこんな始まり方だったような気がする。テンプレ乙。

 

「おお、そこまで知っているとは、話が早い」

 

 突然聞こえた老人のような掠れた声に視線を向ける。

先程まで何も無かった空間には、まさにTHE神様な老人が立っていた。真っ白な髪と髭を生やして、枯木のような杖を持ったお爺さんだ。

 

 どちら様ですか?と言いたいが声が出ない。

 ……えっと、声が全く出ないのですが私に何かやりました?

 

「これ、質問を重なるでない。わしが誰かはお主は思っている通りじゃ。声が出ないのはお主が魂だけじゃからじゃ」

 

 律義にありがとうございます。

 

 とりあえずこの老人の出現によりわかったことは、私の身にオカルトじみた現象が起こっているということだ。

 そして、『魂だけだから声が出ない』というのは嘘ではないようだ。声を出そうとしても呼吸はおろか、手を握りしめる感覚も、しなければならない筈の瞬きも、止まることが許されない心臓の音すらも。何も感じられない。

 

 ……改めて確認すると、こんな狂気的な現象が自分の身に起こっているにも関わらず、冷静に物事を考えている自分がいることに驚いた。

 普通なら発狂しても可笑しくないのでは?

 

「ほっほっほ。人間、自分が理解できない出来事に遭遇すると返って冷静になるものじゃよ。そういうものなのじゃ」

 

 ……丸め込まれた感が否めないが、そういう事にしておこう。

とりあえずこの老人の話を聞こう。今の私には何の情報も無い為、今の状況を詳しく聞かなければならない。

 こちらの話を聞く姿勢が整ったのを察したのか、神様(仮)は髭に囲まれた口を開いた。

 

「さて、単刀直入に言わせてもらうが……お主はあそこで死ぬべきではなかった」

 

 神は言っている、ここで死ぬ運命ではないと……なんちゃって。

 

「…………」

 

 すみません、ちょっとふざけただけです。

 反省も後悔もしてます。だからそんな呆れた目をしないでください。地味にメンタルにクリティカルヒットしてるんです。

 

「……ゴホン、こちら側のミスにより本来より早く『死』が訪れてしまったのじゃ」

 

 咳払いの後、何事も無かったかのように話を続ける神様(仮)。まぁ、私としてもその方が良いんだけど。

 つまりここは死後の世界。転生なり何なりをする場所、ということだろう。

 

「じゃが、お主の魂はまだ生を謳歌仕切っておらん。簡単な話、不完全燃焼というやつじゃ。このまま普通に処理すれば問題が起こる可能性も無くはないからのぅ」

 

 それで、この状況という訳ですか。

 

「そうじゃ。……おおう、一応、三つだけじゃが転生特典もつくぞぅ」

 

 途中で思い出したのか、そう付け加える。

 いや、三つって十分じゃないですか。だけって何ですか、だけって。

 というか、ちょっと聞きたいのですが私は何処に転生するんですか?

 極々普通の世界で普通に学校行ったりするのも良いのだが、小説にあったように異世界で冒険するのにも憧れる。

 ……少し子供っぽいな、私。

 

「そうじゃのう……お主の知識にあったものから選び出したのじゃが、なんというかのう……パワーバランスの崩壊?自然崩壊?」

 

 グッバイ、普通の日常。ハロー、異世界生活。

 それにしても、パワーバランスと自然の崩壊か……。 Fate?それともモンハンか?私が知ってるものでそれに当てはまる筆頭といえばその辺なのだが……。

 

「正解じゃ。これからお主が転生するのはモンスターハンターの世界じゃ」

 

 お、当たってた。

 モンハンか、すぐに死ぬ未来が見えるぞ……。なんせ特典を貰えるとはいえ私は引きこもりの部類に入る人間だ。運動神経?そんなの知らん。

 

「何も、人間に転生するとはいっておらんぞ?種族はお主が決めても構わん」

 

 マジですか。やった。

 ……いきなりだが、私はモンハンのゴア・マガラというモンスターが大好きだ。

 モンスターハンター4のメインモンスターであり、ラスボスの幼体という重要な立ち位置を担うモンスターだ。いいか?幼 体 な ん だ ぜ !?飛竜種と同格、またはそれ以上の巨体であるにも関わらず幼体なんだぜ?

 さらに古龍の幼体だが分類は不明。この時点で良い。本気と書いてマジで良い。理由?何かカッコいいじゃん、どれにも加担せず自分の道を歩んでるって感じで。厨二だって?そうですが何か?ロマンがあるよね。

 そしてこのゴアさん、成長すると方向性を180度回転させる。なんと月を背負ったかのように白くなるのだ!!成長前は厨二心を擽られる影のような黒と紫の外見が特徴だったが、それが白くなるのだ。控えめに言って最高じゃね?かっけえええええええええ!!

 さらに戦闘中に姿を変える。何もなかった頭部に捻れた角を生やし、飛行中以外は地面に触れようがお構い無しの翼を翼脚へと変える。カッコよくない!?

 やっぱり戦闘中に姿を変えるのは最っ高のロマンだと思うんだよね!私!

 

「……そのゴア・マガラに転生したいという訳で良いのか?」

 

 ゴア・マガラについて思いつく点を思い浮かべていると、急に声が掛かった。そうだった。考えていることが分かるのだった、この神様。流石に恥ずかしいな……。

 まぁ、私がゴア・マガラになりたいというのは当たっているのだが。

 

「……と、とりあえず、さっき聞いたことは忘れよう。次は特典についてじゃが……」

 

 それは既に考えています。

 ゴア・マガラとして転生するなら、アレは外せないだろう。

 一つ目は……

 

 

~~~

 

「……ふむ、行ったか」

 

 『神様』を自称する老人は誰もいない空虚な空間で一人呟く。

 思考の中心にあるのは、先程転生した少女が望んだ三つの特典。

 

「ああ見えて中々に頭は回るようじゃな」

 

 彼女は転生する『器』の問題点を把握し、それを解決する為の特典を望んだ。自分の為ではなく他人への被害を防ぐ為に。

 

「お主の生が良きものであるように……」

 

 ()は微笑む。自分が起こしてしまった不幸が彼女の幸せとなるように。幸あれと。

 

「あ、転生した後は記憶が混濁することがあると伝えるのを忘れておったが……どうにかなるじゃろ」

 

 ……神とはいえ、万能とは限らないようだ。



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第一幕 天空山
1話 狂う黒、生まれた黒


本文が消えたりして遅れましたが、無事に第1話投稿です。

この間に色々とタグ追加しました。警告タグのガールズラブについてですが。見る人によってはそう見える、程度のものです。あと、この章だけの要素になります。

今回、会話文がほとんどありません。それでも良い方はどうぞ。


 不意に目が覚めた。

 爽やかな、しかし何処か重い風が吹いている。暗い視界で分かるのはそれだけだ。

 

 まさか目隠しでもされているのだろうか?しかし、首をいくら動かしても目隠しらしき何かは動く気配も無く、頭が何かにぶつかるということもない。風が吹いていることからして開けた屋外だと考えられる。少しでも周りの情報を、と目を開けようも瞼自体がないかのように動かない。まるで見る為の器官全てが消えたようだ、と他人事のように思った。

 そして目にかかって鬱陶しかった長い前髪も無い。後ろ髪もかなりの長さがあったはずだが見る影(目は見えないが)もない。あの長さに慣れていた私からしてみればいい迷惑だ。

 とりあえず首から上は視覚以外問題は無さそうだ。それならば体はどうか……うん、問題なく動かせる。感覚も寝起き直後と思えない程しっかりしているが、何なんだ?この感覚は。四つん這いになっているようだが何故か違和感は無い。むしろこれが正しい形なのだろう、と思う程この体勢は体に馴染む。

 手も目立った異常は無いが、何か硬いものに覆われているようだ。手袋やグローブのようなものかと思ったが、それにしてはかなりの厚みがある。

 腕を動かすと肩の辺りに違和感があった。今までは無かった何かが生えている。試しに力を込めてみると、まるでもう一対の腕が出来たかのように動かすいことが出来た。手に当たるであろう部分は軽く拳を握り込める程度で、細かい作業はとてもじゃないができそうにない。このもう一対の腕のような何か───試しに翼脚と呼ぶことにする───は折りたたんで手の部分で肩に固定するのが一番楽な姿勢のようだ。

 

 ここまで考えてふとおかしな事を考えてしまった。私は本当に人の姿をしているのか(・・・・・・・・・・・・・)

 

ガゥゥ?(あれ?)

 

 無意識に出た声は人間のものとは思えない唸り声だった。テレビの副音声のように聞き慣れた自分の声が聞こえたが、それも掻き消されてしまいそうなほど小さいものだ。大声で叫んだなら人の声より獣の咆哮が勝るだろう。

 

 ……あれ?そういえば『テレビ』とは何だ(・・)?自然に浮かんだ為流していたが、どのようなもので、どのように使うのか。そもそも物なのか地名なのか人の名前なのかすらわからない。そして、先程もう一対の腕に付けた『翼脚』という名称もどこで知ったのだろうか。

 そんなことを考えている内にも、一度思考が引っかかって疑問が一気に溢れ出す。

 そもそも自分は誰なのだろうか?ここがどこか分からなくても今まで何をしてきた誰なのかは分かる筈だ。

 親が誰なのか、友人は誰か、好きなもの、嫌いなもの、何処で育った、意識を失う前は何をしていたか。そんな事、少し考えればすぐ思いつく筈だ。それなのに、

 

グルゥウ……(分からない……)

 

 何も、分からない。

 ……変な話だがそもそも私は人間などではなく、最初からこうだったのかもしれない。最初から唸り声しか上げられない獣だったのでは?

 ……そう思うと何故か全身に冷水を浴びたような感覚になった。背筋がゾッとする。気温は変わっていないのに寒気がする。ああ、この感覚は何だったか。あまり良いものではないのはすぐ分かる。以前の私ならすぐに分かるのだろうが、今の私には無理だ。出来ない。出来る筈もない。

 いきなり暗い視界だけを与えられて、今までのことも、他でもない自分自身のことも分からない。そんな状況で数分足らずの時間しか過ごせていない。そんな私に、こんな感情が分かるか!分からないに決まってる!

 

 いっその事思い切り泣き叫んでしまいたいが、瞼無き瞳がそれを許さない。口から零れるのは人のものではない呻き声だけ。手で頭を掻き毟ることすらできない。

 何故だ、何でなんだ。私にはそんなこともできないのか。

 

 ……こわいなぁ。自分が分からなくて、周りにはだれもいなくて。

 

 そうか、そうだ、恐怖か。

 これは恐怖なのか。忘れていたが、これだけ印象的ならもう二度と忘れられない。

 ……疑問が解決して少し安心したのと同時に何故か意識が遠のいていく。

 頼む、待ってくれ。待ってよ。お願いだから、私はまだ何もしてない。

 何か、何でも良いからしないと、そうじゃないと私は。

 

 抵抗する理性と相反して暗い視界がさらに暗くなる。

 

『◼◼パ◼セン、◼なと◼◼何やっ◼んだ◼』

 

 消えていく意識の中で何か聞こえたような気がした。

 

 

~~~~

~~~~

 

「ん?おーい、パイセン起きてるか?」

 

「はぁ。どーせ、また寝ないでモンハンか何かやってたんだろ」

 

「は!?何でオレの話になるんだよ!まぁ、あの時はオレも一緒になって騒いでたけど」

 

「……あの時◼◼パイセンもいた事、◼◼パイセンにチクるぞ」

 

「痛い痛い痛い!何でヘッドロック!?どこで習得したんだよそれ!てか離せ!はーなーせって!」

 

「っつ、痛かった……。テレビで見たのを真似ただけって、こんな簡単にするなよ。マジで死ぬかと思った……」

 

「確かにパイセンに言うぞって言ったのはオレだけどなぁ。流石にあれは過剰防衛だろ、どっからどう見ても」

 

「……言ったな?いいかもう絶対するなよ。絶対にだからな!?主にオレの寿命の為に!」

 

「何だよ鳥頭って!パイセンの記憶力が異常なだけだからな!?」

 

「いや、だから!絶対に忘れねぇから(・・・・・・)な!?」

 

~~~~

~~~~

 

 遠のいていた意識が急浮上する。

 何か懐かしいものを見ていたような気がする。あまりにも当たり前過ぎて知らずの内に記憶から抜け落ちてしまいそうな、楽しくて平穏だった日々の夢を。

 

グォォォォウ、グルゥウ……(ヘッドロックはやり過ぎじゃないかな……)

 

 夢の中の私(仮)の行動は自分(?)でもその判定を押さざるを得ない。いくら親しい仲だとしても流石にアレはないだろ、かなり首が締まってたぞ。

 ……この話は長くなりそうだから置いておいて、だ。少し休んだからか頭がスッキリする。今ならばこの状況も理解出来る気がする。

 

 私はもう自分の口から出る唸り声には驚かないし、あのようなただの『もしかしたら』の考えに惑わされたりしない。絶対に、さっきのようにはならない。証拠は自分でも驚く程全く無いが、何故か確信があった。

 夢の中に出てきた『誰か』のお陰なのだろうか。自分を『パイセン(先輩)』と呼ぶ彼は一体何者なのだろうか。少なくとも今の私に彼についての情報は無い。やはり相当親しい仲だったのだろう。早く思い出せれば良いのだが。

 ……話が逸れてしまったがまずは今の状況を整理しよう。幸い、あの夢の影響か自分とこの状況に関することをいくつか思い出した。

 

 まず初めに今居る場所。全くの不明。試しに手で周りを探ってみたところ、屋外であり地面が所々に草の生えた地面だというのだけは分かった。そして、自分の腕が動物の脚近い形状になっている、というのも分かった。これについては思い出したからこそもう驚かない。むしろ、そうでなくては思い出した記憶までも疑わなければならない。一人で疑心暗鬼とか嫌だよ?私。

 

 ……ごほん、続いて私自身について。名前、年齢、その他含め不明。ただのゲームが好きな学生だったという事と、先程の夢から記憶力が良いらしい、というのは思い出した。

 

ガルルルゥ、シャアァァ!(少ないけど重要な情報だよね)

 

 そしてここに来た経緯。これに関しては大丈夫だ、全てとはいかないがほとんど思い出した。何処かからの帰り道交通事故に遭い死亡。その後、死後の世界のような場所で神様を名乗る老人と会話。私の死が予定されていたものではないと知らされ、三つの特典を貰ってモンスターハンターの世界へ。確かこうだった筈だ。

 その時私が転生先に選んだのが、私が初めてプレイしたモンスターハンターシリーズであるモンスターハンター4のパッケージモンスター、黒蝕竜ゴア・マガラだ。それならば発狂のきっかけとなったもう一対の腕のような何かは見当がつく。ゴア・マガラの特徴である古龍以外では珍しい脚とは別にある一対の翼、狂竜化時には強力な攻撃を生み出すあの発達した翼脚だろう。あの時は狂竜化はしていなかったが、元は翼として動かす部分だ。腕と同様に曲げたり握ったりは容易にできる筈だ。

 さて、話を戻そう。神様(断定)から受け取った特典は『狂竜ウィルスの制御』『捕食した動植物及び鉱石などの特性吸収』そして『竜形態と人型への切り替え』の3つだ。効果は名称そのままの効果だ。

 

 ……ん?なになに?『テメェ、一つ目とか三つ目とか何なんだよ。何でせっかくの特典をそんなのにしてるんだよ。ふざけてんのか?』だって?私は真面目に考えたし、理由はちゃんとありますとも。

 まぁ、ぶっちゃけるとゴア・マガラの様々な意味で傍迷惑な能力を抑える為のものだ。

 

 まずゴア・マガラ最大の特徴とも言える狂竜ウィルスは、周りの環境がリアルバ〇オハザードになる危険がある。ゴア・マガラには視覚器官、分かりやすく言えば目が無い。その為、翼から狂竜ウィルスを含む鱗粉を撒き散らしそれを感知して周囲の様子を感知する。

 だが、はっきり言うとこの場合狂竜ウィルスが非常に、軽く憎悪を感じるくらいには迷惑だ。狂竜ウィルスは吸い込んだ生物を狂竜症という症状に陥らせる。感染すると神経系や抵抗力、身体能力が低下する。また、深刻化すると生物の凶暴性が異常なまでに露見する狂竜化という状態になる。

 

 私はこれが本当に、どうしても許容出来ない。この先で何が起きようとも許容出来そうにない。

 ゴア・マガラは大好きだ。そうでなければ転生先になど選んでいない。しかし、これだけは嫌だ。ゴア・マガラの成体であるシャガルマガラは、シナト村に伝わる伝説の中で天空山の生物という生物を虐殺した。直接ではなく、それが本能からの行動だったとしても、ゲームの中の作り話ではなく自分が実際にそれを起こすのは耐えきれない。数多の命を無差別に狂わせ、正常でいられる自信が、私が私のままでいられる自信も、耐えられる自信も全くない。

 

グウウウウウ、シャァッ(木綿豆腐メンタル舐めるな)

 

 それを防ぐための『狂竜ウィルスの制御』だ。完璧に、とはいかないだろうがある程度は防げるだろう。

 

 そして、感染阻止をより完璧に近づけるのが『捕食した動植物及び鉱石の特性吸収』と『竜形態と人型の切り替え』だ。

 前者は、狂竜ウィルスを含む鱗粉を他の生物の特徴で上書き出来るのでは?そんな可能性からだ。例えば、ティガレックス希少種やテオ・テスカトルの操る爆破粉塵。これを鱗粉に負荷させれば、火属性に弱そうな狂竜ウィルスを打ち消せる確率は高いだろう。鱗粉も爆破粉塵と同じような攻撃手段として使用していた為、これは十分にいけるのではないか?……火属性を弱点とするゴア・マガラ()が爆破粉塵を操るモンスターを狩れるかどうかはさておき。

 後者は、人の姿になれば狂竜ウィルスも抑えられるのではないか?という淡い期待と私の趣味だ。別に良いじゃん、前は出来なかったことでセカンドライフを楽しんだって。

 それに、ハンターズギルドの目も欺けられる。今がどの時間軸かどうかは不明だが、ゴア・マガラと筆頭ハンター達が戦闘した後ならば発見された時点で警戒態勢に入られる。それは私としても全力で避けたい。だってハンターに勝てる自信無いし、狩られる自信しかないし。身体が幾ら強かろうが、それを扱う魂と精神が木綿豆腐じゃ勝てっこないんですー!

 

 ……まぁ、そういう訳だ。私は平穏に生きていく。何か色々大変だったような気がする前世はとりあえず何処かに投げておこう!

 現実逃避?言うな悲しくなる。

 

キュルルルルルル

 

 ううっ、お腹鳴った……。近くには誰も居いようだが流石に恥ずかしい。というか、まず此処は何処だ?




起床から気絶まで、数秒。
気絶、十数分。
再び起床から探索まで、数分。



次は探索編になりそうです。
誤字脱字など、ありましたら感想欄や誤字報告で。


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二話 思索、逃走、飛行?

あけましておめでとうございます!

正月とは全く関係ない話になりますが、それでも良いという方はどうぞ。


シャァガァァ(目が見えないって不便以外)ァァァアアァ(の何者でも無いじゃねぇか)(!!)ァァアアアッッ!!」

 

 開幕咆哮……うっ、指先と脳内3○Sが。

 まぁそれはとにかく、ホントに今更だよ!此処が何処なのか調べようとしたけど、改めて思い知らされた。視覚、マジ重要。

 周りに誰も居ないのは、このように吠えても何も反応が無い事から分かっている。しかし、此処が狩場……つまりモンスターが徘徊するフィールドだった場合は最悪としか言いようがない。詳しい環境が分からないせいで、何時、どんな奴が、何処から来るかすら分からない。

 まぁ、狂竜ウィルスは全力で抑えているため此処が何処だったとしても周りへの被害は無い筈だ。ゴア・マガラは狂竜ウィルスを何らかの方法で感知出来るようなので、周りにウイルスが流出していれば直ぐに分かる筈だ。……狂竜ウィルスの使用が出来ないから悩んでいるのだが。

 

 とりあえず、火山や雪山といった過酷な環境ではないのが幸いだ。特に火山系の狩場だと、ゴア・マガラの弱点である火属性を扱うモンスターがそこら中にいる為、そうでなくて良かったと心の底から安堵した。

 何せ私が初見でゴア・マガラ装備を作った時、あまりの火属性耐性の無さに声を上げてしまった程だ。火山になんて居たら大型モンスターに遭遇した時点でアウトだ。多分瞬殺だよ?

 

 まぁ、それはそうとして。此処はゴア・マガラと縁がある場所ではないか、と私は考えている。全くの無縁の場所には送られる、というのは流石に有り得ないだろう。

 そうなると最大候補は天空山及び、天空山に位置する禁足地だ。天空山はゴア・マガラの成体であるシャガルマガラの伝説の舞台になった場所であり、シャガルマガラが回帰する場所だ。

 禁足地はMH4でシャガルマガラと対決する地であり、伝説が原因で禁断の地として封鎖された場所だ。他にも候補はあるが、特に可能性が高いのはこの二箇所……というか天空山だ。

 とりあえず、天空山の何処かだと仮定して話を進めよう。

 

 此処が禁足地だった場合、確かめるのは簡単だ。ただ端から端まで歩けば良い。

 一部のクエストでは禁足地でゴア・マガラを狩猟するものがある。ゴア・マガラ()の体長がどれほどかは不明だが、ゴア・マガラが何歩歩けば端に辿り着くかくらい分かる。まぁ、多少のズレはあるだろうが、ある程度合っていれば此処は禁足地であると確定する。

 ん?普通ゴア・マガラの歩幅なんて分からねぇだろ?ゴア狂を舐めるなよ。ゴア・マガラが登場するクエストは全て何十回もクリアした。歩幅くらい余裕で覚える。ゴア狂を舐めるな!

 

 ……ゴホン、逆に天空山だった場合は不味い。色々な意味で不味い。狩場である『天空山』ならそこまで問題は無いが、狩場ではないのなら難易度は跳ね上がる。簡単な話、地形が全く分からないからだ。

 狩場の『天空山』ならば今居るエリアさえ分かれば後はどうにでもなる。しかし、そうではないのなら詰んだも同然だ。

 ゲーム内では天空山の中でマップとして歩けるのはシナト村と狩場、そして禁足地のみだ。それ以外の場所は少なくも私が知る限りでは描写されていない。こんなこと、目隠しをされて知らない土地を歩くようなものだ。というか、その状態だ。

 

 ……うーん、何かしら試さなくては日が暮れる。今が何時か分からないが早くした方がいいだろう。

 それに特典を使って狂竜ウィルスは抑えているものの、いつかは限界が来る。その対策も早急にやらなくては……ん?特典?

 

「……グ、ガルルルゥ(あ、人型になれば良いのか)

 

 さっきあれだけ語ってた自分の特典を忘れてたZE☆

 

~~~

~~~

 

 走る。ただひたすらに走る。

 少しでも足を止めてはならない。脅威はすぐ後ろを駆けている。

 

「ニャッ、ニャッ、ニャッ」

 

 天空山エリア6。

 此処では一方が命を賭ける鬼ごっこが起こっていた。

 追いかけられているのは、白と茶色の馴染みやすいふわふわした毛皮──今は汗で皮膚に張り付いているが──を持つ猫型の生物。この世界において『アイルー』と呼ばれる生物だ。

 普段は二足歩行の彼は背後の存在から逃げる為に四足歩行で、文字通り必死に走っていた。しかし、幾ら素早さが売りのアイルーと言えども、その距離は刻一刻と縮まっていく。 ただ、『相手が悪かった』としか言いようがない。

 

 何故なら相手は、大型モンスターの中でも身軽さでは上位に位置するモンスター。

 青白い雷を思わせる鱗は、引き締まった筋肉が動かされるたびに雷光虫の光を反射し輝く。

 

 そのモンスターの名は雷狼竜ジンオウガ。その身軽さと雷を纏う一撃は、例え訓練されたハンターすらも打ち砕く。

 

「ガァァァァァァァァアアアア!!」

「ウニャァァァァァ」

 

 雷を纏う狼竜が咆哮する。今、アイルーの心中は恐怖と家族への思いがいり混じっていた。

 

 彼はまだ若い。否、幼いと言っても過言ではないアイルーだ。今までの生涯を集落で過ごし、家族や仲間達と仲良く暮らしていた。その日の食料に悩むことは少なくなかったが、争いごとは滅多に起こらず楽しい暮らしをしていたと胸を張って言えるだろう。

 その日は彼の父が体調を崩してしまった。命に関わる程ではないが、苦しむ父の姿と心配する家族達を見て彼は『自分がどうにかしなくては』と考えた。家にある薬草類と自然に生えているアオキノコを調合すれば父の体調が良くする薬が出来る。彼はそれを思い出した。

 それからの行動は早かった。

 家族に隠れてアオキノコを採りに行く準備し、集落のアイルーから隠れて集落の外へ初めて踏み出した。生まれて初めて見る集落の外。確かに周りのアイルー達に言われた通り、恐ろしいモンスターがたくさん居た。しかし、背後から気配を消して忍び寄り、ピッケルを頭に向けて振り下ろせば目を回して倒れてしまった。

 だからこそ彼は調子に乗っていた。皆が言っていたのは話を盛っただけ、要らぬお節介なのだと。自分はこんなにも強いのだと。慢心していた。

 

 それが悪かった。

 

 最近居座るようになったらしいババコンガには遭遇しなかったが、それよりも危険なモンスターと遭遇してしまった。それだけなら直ぐに逃げれば良い。逃げ切るのは至難の業だが、ジンオウガもそこまで追跡することは無いだろう。

 しかし、本来ならば見かけた時点で逃げなくてはならない相手に、彼は無謀にも立ち向かってしまった。

 そこからは単純な話だ。立ち向かった彼はジンオウガの怒りを買ってしまい、自分がやってしまったことの重大さと目の前の恐怖に気付き全速力で逃げているのだ。

 

 不意に見えた岩と古い建造物の残骸の間の狭い隙間。アイルーである彼には簡単に入れるが、ジンオウガには前脚すら入れなれないだろう。

 アイルーに希望が見えた。

 

「(あそこに入れば……!)」

 

 一目散にその隙間に駆け込み、身体を滑らせる。

 これでジンオウガは入ってこない。あいつが自分を諦めて何処かに行けば……。身を隠そうとも伝わってくる気迫に思わず息を潜める。

 ジンオウガはアイルーが入った隙間を眺めていたが、暫くすると背を向けて歩き出していった。

 

「……ど、何処かに行ったのかニャ?」

 

 安堵して隙間から顔を覗かせようとするアイルー。しかし、ようやく見えた希望は直ぐに見えなくなる。

 

ダァン!ダン!ダン!

 

「フニャァ!?」

 

 建造物の残骸に何かが身体を打ち付ける音が響く。深く考えなくても分かった。ジンオウガが自分が隠れている場所を壊そうとしている、と。向こう側から何度も鈍い音が鳴り、それに合わせて壁と天井からパキパキという音が鳴る。

 逃げなくては。そう思うのに身体が動かない。近くにあるのは間違いなく『死』だ。

 

「ふぇ、にゃぁ……」

 

やがて、ひびは徐々に広がっていき……

 

~~~

~~~

 

「大きい岩」

 

一面に生えたススキっぽい植物。

 

「巨石で塞がれた出入口」

 

 全体的に神々しいようなおどろおどろしいような空気。

 

「はい、どこからどう見ても禁足地ですね。分かりやすい」

 

 ということで、人型になったところ此処は禁足地だということが分かった。まさか予想が当たっているとは思わなかった。まぁ、ここならばモンスターが入り込むことは無いだろうから、暫くは落ち着けるだろう。

 

「……それにしても」

 

 自分の姿を改めて確認する。

 黒を基調とした上品なゴシックロリータに、ゴア・マガラの翼を思わせる紫黒のマント。背中の中央程まである黒髪は結わずにそのまま流しているが、乱雑には見えずたなびくたびに光を照り返していた。足元は黒いタイツに、同じく黒い編み上げブーツ。

 そして何より特徴的なのは足首で鈍い光を放つ足枷だ。繋がれた鎖は途中で切れている。だが、流石にこれは……私でもちょっと、無いとは言わないがかなり衝撃的だ。なんでや。

 足枷はともかく、鏡や水辺が無い為全体を見ることは出来ないが我ながら似合っているのではないか?スカート部分にフリルが付いていて少し恥ずかしいものの、それ以上に身体に馴染む。ヒールの高さ五センチ程と少し高いが、地面に触れる面が広いお陰か案外動きやすい。

 

「動きやすいのは有難いかな、これから結構歩きそうだし」

 

 さて、現在位置は分かった。次は何をすれば良いのか……。

 順当にいくのならば天空山の探索だが、やはりこれにも問題がある。

 禁足地は文字通り、立ち入る事を禁じられた地だ。出入口は天空山のベースキャンプに続く道のみ。だが、通常は禁足地へ続く道は大岩で閉ざされている。『シャガルマガラの討伐』を含む一部のクエストでは開かれるがそれも稀な事だ。その為陸路では移動出来ない。

 つまり、飛べない人の姿では禁足地を出る事は出来ない。その為、移動手段は自然と空路になる。嵐の中でも変わらずに飛行出来ていたゴア・マガラならそのくらい簡単に出来るのだろうが、私には狂竜ウィルス使用禁止の縛りがある。何も見えない中で目的の場所に辿り着かなくてはならない。

 

「……どこの無理ゲーだ!」

 

 自分で決めた事だがこんな時に足を引っ張るとは……。

 だが、これを変えるつもりはない。狂竜ウィルスの被害と私の悩みを比べれば、どちらが大きいかは明らかだ。

 だからといって自己犠牲という訳ではない。これは私のけじめのようなものだ。というのも、前世の私はとんでもなく安定していないというか……大分いい加減というか、ふわふわした人物だったような気がするのだ。その償いということでも無いが、せめて今世では決めた事をやりきろうと思うのだ。

 

 そういう訳で!お先真っ暗空中ツアーin禁足地~天空山を開始したいと思います!はい拍手~!パチパチパチ~!

 ……うん、言いたいことは分かってるよ。でも、こうでもしてテンションを上げないとやってられないんだよ……。

 

 何しろ天空山には剣山が多く存在し、少しでも高度の調整を間違えればあっという間に黒蝕竜の串刺しが完成するだろう。私の甲殻が硬ければその限りではないが、翼膜などの柔らかい部位は損傷するのではないだろうか。

 私の死因が事故死のせいか、怪我をするのが少しだけ怖い。あの音をもう一度聞かなければならないのか、あの表情をもう一度見なければならないのか。そんなことで頭がいっぱいになる。後者にはまだそれの当てはまる人物が居ないが、あの時の映像が無意識に再生されてしまう。まぁ、分かるのは表情だけで顔は霧がかかったように見ることができないのだが。

 

 ……まぁ、とにかく失敗しなければ良いのだ。

 全身の震えが止まらないがこんな事を言っている場合ではない。

 日は丁度南を通り過ぎたばかり。そこまで距離は離れていないが、私には目が無いという縛りがある。行動は迅速に、だ。

 一度やる事を整理しよう。最大の難所は『狩場の天空山へ移動する、往復する』。天空山へ行く目的は、『空腹をどうにかする』『周りの探索』。そして、言っていなかったが『ゲームとの違いが無いか確かめる』だ。

 

「……行くか」

 

 一度深呼吸。震えを抑えたまま竜の姿を思い浮かべる。竜形態から人型になる際は人の姿を思い浮かべた為、その逆の方法を用いれば人型から竜の姿になれるというのは分かっていた。

 

 あっという間に人の面影は消え去り、代わりに黒い竜が現れる。それと同時に私の身体も人から、人ならざる竜の身体としての活動が始まる。

 

 翼の動かし方は本能からか何となく分かる。

 ならばやることはただ一つ。

 ……ふっふっふ。これ、一度言ってみたかったんだよね。

 

 

 

 

 

 アイキャンフラァァァイ!!




思索、一分。
逃走、一時間程戻って二分間。
飛行?、数分間。

今年もよろしくお願いします!


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三話 飛翔、食事、救出

遅くなって申し訳ありませんでした!
受験が終わるまで投稿が大幅に遅くなる、または完全にストップすると思います。ご理解お願いします。

それでは本編へどうぞ!

あ、今までの話を少し加筆修正しました。


 さて、そういう訳で始めようか。

 

 羽ばたくイメージはゴア・マガラのエリア移動。一瞬で飛び上がりそのまま風に乗る。

 ……よし、脳内のイメージは完璧だ。ゴア狂の私にゴア・マガラについての死角は無い。

 

 四つの脚に力を込め、蹴りあげるように飛び上がる。翼に意識を向け飛び上がる時と同じように、しかし風を捕えられるように翼膜の位置を僅かに微調整する。これがあるのと無いのでは、飛行難易度がかなり違うのではないだろうか。

 翼は意識せずとも繰り返し空気を捕らえる。これが本能なのだろう。……私にはよく分からないが。

 

 とりあえず、空を飛ぶことには成功した。いやぁ、ここでグダグダしなくて良かったよ。

 

 だが、安堵するのはまだ早い。天空山はその地形から気流が不安定だと予想される。コントロールは特に重要だ。身体のスペックの問題ではない、私の精神の問題だ。大袈裟だが少しでも焦ればその時点で『死』だと思うくらいの心構えで行かなければ。

 

 僅かな気流の違いを感知して岩などの障害物を避けながら飛ぶ。かなり神経を使うが、この程度なら奇襲されても対応出来そうだ。まぁ、空中で奇襲してくる奴などいな……いや、天空山に生息するモンスターは大半が飛行能力を持っている。例えばレウスとかレウスとか。警戒して損は無いだろう。

 そんな具合で普通に飛ぶよりはゆっくりと、しかし確実に安全に進んでいく。今の所は何かに当たることも無く順調だ。

 

 そういえば、自分自身で体験して思ったことがある。

 ゴア・マガラの飛行時の姿勢は身体が翼に持ち上げられたような一見アンバランスに見えるが、この姿勢は案外理にかなっているのかもしれない。

 ゴア・マガラはリオレウスなどの飛竜種とは違い、飛行能力自体は高いものの(私の推測だが)骨格のせいか空中での細かい動きは苦手としているようだ。しかし、それを補う為のこの体制なのではないだろうか。

 ゲーム内では、よく見るとゴア・マガラの飛行中の移動は翼ではなく体重移動が中心になっているのが分かる。そして、この姿勢は少しでも体重を前に傾ければ即座に前方に進むことが出来る。つまり、滞空から飛行速度の加速が瞬時に出来るのだ。これは過酷なこの世界では重要なのではないだろうか。

 ……生憎、これに気付いた所で事故の危険がある為私は使えないのだが。

 

 それにしても、自分の身体一つで空を飛ぶというのは中々良いものだ。地面に足が着かないのは少し不安を煽られるが、それ以上に『自分の力で此処に居る』と実感できるのが良い。

 それにしても身体は先程から空腹を訴えているものの特に疲れは感じない。なんと表現すれば良いか悩むが、何処までも行けるような気がするのだ。呆れるほどありふれた言葉だが私が知る言葉で今の状況に当てはまるのはこれだ。

 ……うん、堅苦しくせずに正直に言おう。飛ぶのめっちゃ楽しぃぃい!!

 

 後は景色が見られたらもう言うことは無いのだが、こればかりはどうにもならない。シャガルマガラになるのを待つしか……いや、成体になったら狂竜ウィルスが強力になりそうだからかなり後でも良いか。

 

 ……ところで今はどの辺りを飛んでいるのだろうか。目が見えないせいで僅かな気流の変化を読むことでしか周りの地形を把握できない。

 少し高度を落とすか?天空山と禁足地はベースキャンプを共有できる距離にある為、そこまで遠くは無いだろう。……もしかしたらフィールドを既に通り過ぎてしまったかもしれない。

 周りの気流からまだ山中だということは分かるが、やはり周囲の様子が分からないのは痛い。人の姿でも飛べれば良いのだが、それではもはや人ではないだろう。それではこんなことをする意味がなくなる。

 

 とりあえず高度を下げよう。いつまで経っても地面に脚が着かないなら飛行を続け、着くのなら気配を探った後人型になって探索だ。

 ……もしも脚に着いたのが地面ではない『別の何か』ならそれはその時考えよう。下手をすれば私の命が危うい。

 

 さて、ゴア・マガラが地面に降りる時、どのようにして降りるのか。実は私もあまり知らないのだ。

 サッと落ちるように着地しているのは何度も見たのだが、空中でどのような行動を取っているのか不明なのだ。ゴア・マガラのエリア移動の際急いで追いかけても、丁度着地した所で空中での様子は見ることができない。

 

 ……これは当たって砕けろ、もとい落ちて砕けろということなのだろうか。自分で確かめろということなのか。

 まぁ、ここで頭ばかり使っていても何も起こらない。考えるよりまず行動。落ちて砕けろ?上等じゃねぇか!(震え)

 

 

 翼の羽ばたきを減らし少しずつ高度を下げる。今は殆ど本能に従い身体を動かしているが、自分の意志だけで問題なく行動できるようにしなくては。

 

 そんなことを考えながら高度を下げること数分、垂れ下げている尻尾に何か当たった。

 もう少し高度を下げ、後脚がその『何か』に触れるほどの高さに調整する。そして脚を動かして探ってみると、どうやら人の腕程(私の詳しい大きさが分からない為推測だ)の太さの蔦が張り巡らされてるようだ。

 そっと着地してみると意外と頑丈なようで、大型モンスターの中でもかなりの巨体を誇るゴア・マガラ()が乗っても軋みもしない。前脚の爪で少し引っ掻いてみると、植物の繊維が少しずつ剥がれるのが伝わってくるがそれもほんの僅かだ。モンハンには色々とぶっ飛んだものが多いと知ってはいたが、まさかここまでとは……。

 

 周りからは何の音もしない。いや、虫の羽音らしき音は微かに聞こえるが、恐らく相当遠く場所から響くものだ。そこまで警戒せずとも問題は無いだろう。

 ……ところで、まさかとは思うが

 

 此処って天空山エリア2じゃね?

 

 天空山エリア2は、頭上に蔦が張り巡らされ二重床となっているのが特徴のエリアだ。そしてその蔦はとにかく非常に頑丈なのだ。

 例えば、甲虫類屈指の巨体も持ちその姿から『重甲虫』と呼ばれるゲネル・セルタスが尻尾を振り回そうが、飛竜種の代名詞とも言える火竜リオレウスの炎のブレスが燃え移ろうが、とにかく切れないし燃えないのだ。

 もう何だろうこの世界……。

 

 また、此処で採取できる素材は種類が多くお世話になった人も多いのではないだろうか。私はお世話になりました。

 それにしても……

 

「ニャーニャー」

「ニャァ?ニャ」

「ミャウミャーウ!」

「ニャァー!」

 

 何かニャーニャーうるさいんだけど……。アイルーかメラルーかは定かではないがそのどちらか(両方の可能性もある)が私の真下、つまり地面に群がっているようだ。

 

 というか、コイツらはいつ来た!?

 少なくとも数十秒前までは居なかっただろ!?あんたら!ス〇イクか!隠密行動的なスパイなのか!?もう訳わからん!

 

 ……ごほん、数はおそらく四匹程度だろうか。

 目が見えないせいか周りの音や空気の流れに敏感になっているようで、耳をすませば大まかな数は分かる。まぁ、傍から見れば何もせずボーッとしているようにしか見えないが。

 

 それよりも、此処がエリア2ならばアイルー(メラルー?)が居ることも説明がつく。まだ推測の域を出ないがエリア2である確率は高いのではn

 

グギュルルルルル

 

 あ、不味い。この音は本当に不味い。

 言っておくが(一応)私も女だ。女としてのそれなりのプライドはある(ハズ)だし、見た目や印象も(多少は)気にしている(と思う)。

 まぁ、つまりだ。

 

ガウゥゥゥ……!(凄く恥ずかしい……!)

 

 いくら聞いているのが猫型の生物だけとはいえ恥ずかしいに決まってんだろ!!このやろー!

 これは早急に何か食べなければ。このままでは私のプライド的な何かがお亡くなりになる。

 うん?アイルー(またはメラルー)はどうするんだ?って?しばらく放置です。ごめんね。何故か蔦の上には登ってこないようで、放置していても問題は無さそうだと判断したからだ。何かアクションした方が良いんだろうけど、本当にごめん。

 

 しかし、このエリアに私が食べられるものなんてあっただろうか。私の記憶が確かなら、ゴア・マガラの主食であろう草食獣はエリア1にしか姿を表さない筈だ。というか草食獣の肉をそのまま食べるのは私の精神が無理だ。

 え?理由はなんなんだよ。だって?

 

 ……それは

 

 私はスプラッター系が

 

 

 本当に、

 

 本当に、

 

 

 ほんっとうに!

 

 

 怖いんだよ!!!

 

 笑うなよ!?はいそこ!笑うなって言ったでしょ!こっちだってふざけてる訳じゃないんだよ!本当に無理なの!内臓とか、大出血とか!過去に一回吐きかけた気がするもん!

 幼い頃にただ転んで膝を擦りむいた時、痛みじゃなくて血を見て泣いちゃったもん!そんな気がするもん!

 前世の死に際を思い出した時、魂だけだったはずなのに吐き気したもん!

 

 スプラッター映画などに映るアレらは全て人の手で作られた偽物であるというのは百も承知だ。しかし、つい『自分がああなったら』を想像してしまう。

 ……何故だか記憶の片隅に、誰かが持ち込んだスプラッター映画を自分含めた何人かで見てそれを見た自分が誰かの背中を盾にしている、という風景が思い浮かんだのだが一体何なのだろうか。

 

 閑話休題(それはともかく)

 そもそも私の状態が状態だ。草食獣を狩ろうとした所で目が無いのなら結果は見えている。ある程度の位置は足音で察知できるだろうが、あちらに先に見つかれば直ぐに逃げ出すだろう。

 

 まぁ、狩ることができたとしても私には無理だ。無理だ。大事な事なのでもう一度言う、絶対に!本当に!グロいのは勘弁してください!本当にお願いします!

 

 ……とりあえず探索だ。下に降りて何か食べられるものを探そう。何も無ければ他のエリアに移ろう。木の実かなにかあればいいのだが……あ、下のアイルー(メラルー)どうしよう。

 

~~~

~~~

 

バリッガリッ!ガジッ!バリバリッ!ガギッ!

 

シャガァァァァ(ご馳走様でした)

 

 はい、ここで皆さんに問題です。私が今食べていたのは何でしょうか?ヒントはさっきの咀嚼音!

 

ピッピッピッピ-!………………

 

 正解は!何とぉ!エリアで採集できる鉱石でした!

 

 とりあえず、経緯を説明しよう。

 あの後私は降りられそうな場所はないかと周囲を探り、ちょうど私の頭が通るほどの隙間を発見した。そしてそこから体全体を駆使して下へ降りることが出来た。

 ちなみに、集まっていたアイルー(メラルー?)は潰されまいと距離を取っていたようだ。潰さなくて本当によかった……。

 

 地面に降りた後、私でも食べられる物がないかと探していたのだがある物を除いて見つけることができなかった。そう、その見つけたある物が先程食べていた鉱石だ。

 

 前世で幾度も見たモンスターハンターの転生小説では、主人公が鉱石を食べるというシーンが多く描写されていた(勿論人外限定で)。ならば『捕食した動植物及び鉱石などの特性吸収』という特典を持つ私なら良い効果が得られるのではないだろうか。

 という考えに至り、エリア中央付近にある岩の柱にある採取ポイントを手探りで探し当て、試しに一欠片だけ爪で剥がし口に入れてみた。

 流石に味は無いだろう。と思っていたがそんなことは無かった。むしろ、どちらかと聞かれれば『美味しい』の部類にはいるだろう。その味をどのように例えれば良いか分からないが、かすかな塩味のなかに何と表現したら良いか分からない旨味があった、ということは言える。

 食感もそこまで悪いものではなく、通常よりも少し固い氷砂糖のようなものだった。

 

 絶対に無味無臭だと思ってたのに……。まぁ、自分でも食べられるものが見つかったのは良い成果だ。

 

 さて、と。とりあえずお腹も満たしたところで、探索を再開しようか。

 ところで鳴き声も気配も無いのだがアイルー(メラルー?)はどこにいったのだろうか。それ関係か定かではないが、とても嫌な予感がするのだ。……何も起こらなければ良いのだが。

あ、これはフラグか。

 

 

 

~~~

~~~

 

 さぁ、早くこっちに来るニャァ

 

 で、でも

 

 お説教は帰ったあとニャー、今は生き延びることだけを考えるニャー

 

 そうだ、お前の家族も心配しているぞ、ミャ

 

 ニャァァ……

 

 早くオレの手を取るニャァー!

 

 ニャ、うん!

 

 

ウオオオオオォォォォォォォォン!!

 

 

 !?

 

 マズイ!今度こそ崩れるミャ!

 

 早く!手を!

 

 

ガァァァァッン!!!

 

 

 ヨウゥゥゥゥゥゥ!!!

 

 

……

 

 

 え?

 

 

……

 

 

 ……崩れてない、ミャ

 

 

ガウウウウゥゥ!?

 

 

 ニャー!?

 

 ……モンスター、なのかニャァ?

 

 

 

 

 黒い、竜?




飛翔~食事、数十分
救出、前話から進んで数分


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