もう1人のボーカル (海賊列車)
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1.ボク、アイドルになります。
僭越?ながら匿名で始めさせていただきます!
書きたい!と思ったから書き始めます。途中で止まるかもしれません……。
東京都某所。
とある芸能事務所にアニソン歌手がいる。彼女の容姿は可愛らしく、歌も世界レベルで上手だ。
そんな彼女は多忙で、今日も仕事が入っていた。
その日の仕事は新曲の収録だった。
彼女は自分で歌詞を書く。なので、考えてる最中に歌詞は頭に入るので、いちいち覚える手間が省ける。その結果、収録はスムースに終わった。
彼女・
「次の仕事は事務所でミーティングです」
彼女はそのミーティングの内容を知らされていない。よって、クビということもありえる。だが、彼女は事務所の出世頭の1人でもあるので、切り捨てることは無いはずだ。
「わかりました!じゃあ早速行きましょうよ」
彼女はレコーディング会社を後にし、車に乗る。とは言っても、彼女は高校2年生なので運転はできないし、そもそも運転手付きが普通だ。
その頃、事務所ではミーティングに参加するメンバーが着々と集まっていた。
1番最初会議室にいたのは丸山 彩だった。
(緊急ミーティングって言われたけど……何かあったのかな?)
すると、扉が開く。
「おはようございます。すみません、前の仕事が押しちゃって……」
その声の主は元子役であり、現役女優の白鷺 千聖だった。
次に、モデルの若宮 イヴや氷川 日菜も集まった。
その4人が集まったところで、ミーティングは始まった。あと1人、葵は遅れているが。
スタッフは慌ただしい雰囲気から改め直して言う。
「1人渋滞に捕まったようなので、先に始めておきますね。丸山 彩さん、白鷺 千聖さん、氷川 日菜さん、若宮 イヴさん。今日は皆さんに話があって集まってもらいました。皆さんには新人アイドル『Pastel*Palettes』としてデビューしていただきます」
「アイドルデビュー⁉︎それって、ホントですか⁉︎」
「ええ、本当ですよ!それでは、今日がPastel*Palettes、初めての顔合わせの日になりますので自己紹介から始めましょうか。まずは、彩さんから」
「は、はいっ!丸山 彩です!今までは事務所の研究生として、やってて……それで、えっと……そう、夢!昔からアイドルになることが夢だったので、凄く嬉しいです!精一杯頑張るので、よろしくお願いしますっ!」
それに続いてイヴ、千聖、日菜の順に自己紹介をする。自己紹介の際日菜がバンドのオーディションに受かってここにいると言う。
そのことについてメンバーが不思議に思っているのを見てスタッフは、
「ああ、言うのを忘れていましたが、皆さんには『アイドルバンド』としてデビューしていただきます」
しかし、それでも未だに納得の出来ないメンバー達。
さらにスタッフが付け足そうとしたのこ、口を開いた瞬間だった。
会議室のドアが勢いよく開かれる。どあの向こう側にいたのは少女だった。
(うわ〜。綺麗な子だなぁ。もしかして、あの子が遅れて来た子かな……?)
すると、ドアを開けた少女は何事もなかったように入ってきて、ドアを閉めた。
「遅れてすみません。ちょっと渋滞に引っかかっちゃって」
「いえ、大丈夫ですよ。それより自己紹介をお願いできますか?」
「はあ、いいですよ」
彼女はイマイチ状況が理解できてなく、自己紹介をする理由もわかってないようだ。
「どうも!夜空木 葵!高校2年生で、アニソン歌手です!ところで、なんでボクはここに呼ばれたんですか?」
「葵さんには彼女達とアイドルバンド『Pastel*Palettes』としてデビューしてもらいます」
「ブブーーッ‼︎あ、アイドル⁉︎ボクがですか?無理無理無理無理!スタッフさんもボクの
葵は自分がアイドルデビューをさせられると知って、驚いた。それは当然だと思うが、不思議なフレーズを聞こえた。
(正体?)
彩達4人はおそらく脳内でこう思っただろう。
「ええ、もちろん知ってますよ。それを承知の上で上層部からデビューさせろと決まったんです」
「そ、そんな……」
どうやら、上の決定により覆りそうになかった。
「わ、わかりました。それで、ボクは何をするんですか?」
「はい。葵さんはそこにいる彩さんとダブルボーカルをしていただきます」
「わかりました!」
葵は歩いて彩の前まで行った。
「よろしくね!彩!」
芸歴の差やプロとしての色々があるのに、葵はそんな事は気にせず、彩に握手を求めた。
「よ、よろしくお願いしますっ!」
これが彼女達のプロローグだった。
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2.ベース担当といきなり喧嘩してみた
事務所の会議室では、葵が入って来たことによって会議が中断されてしまったが、しばらくして再開していた。
「えーっと、それでなんなんですか『アイドルバンド』っ?」
遅刻者の割に全く反省の色が伺えない葵だった。日菜も同様の表情をしていたのは説明するまでもないが。
「名前の通り楽器を演奏するアイドルです。お披露目は2週間後のステージを予定しています。楽器の演奏に関してはバックにプロの演奏を流すので皆さんはそれに合わせて弾いてるフリをしていただければ大丈夫ですよ」
簡単に言えば黙って踊っていろ、ということだ。
「弾いてる、フリ……」
彩は意図したのか、それとも口から自然に溢れたのかはわからないが小さくそう言った。しかしその声は誰にも聴こえてなかっただろう。仮に聴こえていたとしてもすぐに忘れるはずだ。
なぜなら声を上げて激怒した者がいたから。
「ちょっと!弾いてるフリってどーゆーことですかっ!ボクはこれでもプロとしてのプライドがあるんですけど!」
その声は葵のものだった。彼女がキレるのも当然だ。なぜなら彼女はプロのアニソン歌手で、人気も高い。そんな彼女が今更事務所のヤラセで口パクなどするはずがない。
「それでは、お客さんに嘘をうくことになってしまいませんか?それは、ブシドーに反します!」
イヴも動機は違えど、葵と同じ意見のようだ。
「私は楽器の経験はありませんけど……私も葵ちゃんとイヴちゃんの意見には賛成です。ちゃんと練習して、本当の演奏をお客さんに聴いてもらったほうが……」
彩も自分の夢見てたアイドルはそんな歪んだものではないと言わんばかりに必死だった。
しかし、
「でもアイドルとしての魅力はバンドとして上手に演奏できるってことじゃないですよね。楽器の練習をするよりも、もっと自分自身を魅力的に見せることに時間を割いた方がいい……。って、私は思います。なので、私はこの方針に賛成です」
千聖は事務所のやり方を肯定した。彼女にはプライドがないようにも見えた。もしくはプライドを捨ててでも……というような顔付きだ。
「そんな……」
彩は再び小さく声を漏らす。
「いや〜、流石千聖さんはわかってますね。話が早くて助かります。バンドの方針についてはこの方向でいかせてもらいます」
スタッフがそう言いはなった。まるで異論反論は受け付けないと言う様に。
彩は何か言いたそうだが、それを言い出す勇気が持てないようだった。
「ちょっと待ってくださいよ!」
そんな中、再び葵は声を上げた。
今度もスタッフに何か言うのかと思いきや、先程とは違い、千聖の方を見た。
「ねえ、君はなんでそんな風に言えるの?ボク達にお客さんを騙せって言われてるんだよ?なんで君はそんな考えを肯定できるの?それとも自分には楽器なんて無理だ、って諦めてるの?」
葵の言い分は言い方に問題があったが、内容は正しかった。
千聖は葵の言葉は自分を馬鹿にするものだと解釈していた。
「あなた、少し歌手として有名だからって調子に乗らないでもらえる?私、これでもこの業界には幼い頃からいたのよ」
「それはあくまで女優として、でしょ。君が今まで生き抜いて来た世界とボクがいる世界は全くの別物なんだよ。それなのに知ったような口をきかれるのはなんだかなぁ」
「気に触るような事を言ってしまったのなら謝るわ。でも私は芸能界で生き方はわかっているつもりよ。あなたにそれを否定される筋合いはないわ」
葵と千聖の口論はだんだん過激になっていく。
「だから〜、君が今までいた業界と歌の世界は違うって言ったよね?なんで同じこと2回言わなきゃわかんないなぁ」
あからさまに場の空気が悪くなった。誰も仲裁に入ろうとしなかった。それに千聖もこのまま話していてもラチがあかないと思ったようで、口をつくんだ。表情は不機嫌だが。
ナチュラルに言い合いは終わったので、スタッフがさも何事もなかったかの様にヌルッと会議の続きをする。
その結果、方針としては取り敢えずお披露目ライブは口パクでやる事に決定した。それぞれが何の楽器をやるかも伝えられて資料も配られる。資料の中身をざっと説明されてこの会議は終わった。
それぞれのタイミングで会議室を出て行くメンバー達。
彩とイヴは日菜になにか言われて納得していたようだった。しかし、唯一葵は納得できていなかった。そもそも彼女はアイドルのことはあまりわかっていなかった。
なので、会議室から出ようとする彩を引き止める。
「ねえ彩。ちょっと時間いいかな?」
「えっ?いいよ、葵ちゃん」
どうやら彩は葵の方から話しかけられるなんて思ってなかったようだ。
「彩はさ、子供の頃からアイドルに憧れて、ようやくここまで来たって言ってたじゃん?」
「う、うん」
「それならさ、口パクなんて絶対イヤなんでしょ?」
「……うん!」
彩は少し間があったが、返事は力強かった。
「じゃあさ、歌おうよ!」
「………………………………え?」
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