ハゲ「かみは死んだ」 (トマトルテ)
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ハゲ『全人類の(かみ)を滅ぼし、真の平等を実現する』

 男はハゲだった。

 別に悪事を働いたわけでもなく、不摂生な生活を送っていたわけもない。

 だというのに男はハゲだった。

 

 『ねえ、ハゲ。どうしてあなたはハゲなの?』と問われても知るかとしか答えられない。

 ハゲに罪はないというのに『このハゲー!』と罵倒される毎日。

 何故自分がこのような目に遭わねばならぬのだとハゲは世界を呪った。

 

 そもそも人の遺伝子は必ず禿げるように作られているのだ。

 ハゲでない人間は所詮、禿げる前に寿命が訪れているに過ぎない。

 そうだ。本来ハゲとハゲでない人間に違いなどないのだ。

 

 だというのに、人間は愚かにも自らの優位性を示すために持たざる者を見下す。

 いずれは皆同じ存在(ハゲ)になるというにも関わらずにだ。

 おかしい。これは絶対に許されるべきことではない。

 

 故に男は激怒した。

 天は人の上に人を作らず。神は全てを平等に作ったはずだ。

 ハゲが差別されることなど本来ならばあってはならない。

 差別は排除しなければならない。世界は平等であるべきだ。

 

 だが、いつの世も平等を叫ぶ者は力によって弾圧されてきた。

 それに抗うには力が必要だ。しかし、たった1人の髪すら失った男に何ができると言うのか。

 己の力の無さと髪の無さに打ちひしがれる男。天へと慟哭の声を上げるが意味などない。

 男はただのハゲとして人々に蔑まれたまま、無念を抱きながら人生に終わりを告げた。

 

 はずだった。

 

 

 ―――力が欲しいか?

 

 

 男の前へと神を名乗る者が現れた。

 神は混乱する男に自身の依頼を受けてくれるならば、力を与えて異世界へと転生させてやると伝えた。もちろん男は不思議に思い理由を尋ねる。何故自分なのかと?

 

 神はその質問に答えることはせず、ただ頭に被る帽子を取ってみせた。

 それだけで男は全てを理解する。何故ならばそこに在るはずの頭髪が。

 

 ―――1本たりとも生えていなかったからである。

 

 そう、神もまたハゲだったのだ。始めはその事実に驚いていた男であったがすぐに納得を見せる。何故ならば聖書にも記されていたある話を思い出したからである。

 

 ある所に1人のハゲが居た。それを見かけた子ども達は口々に『このハゲー!』と罵った。

 普通であればハゲが泣き寝入りして話は終わりだっただろう。

 しかし、神はこの悪逆を見逃さなかった。子ども達をクマに食らわせハゲを守ったのである。

 

 この話は普通の人から見ればやり過ぎのようにも見えるが、ハゲからすれば妥当な行為だ。そして何より、神がこうも怒りを露わにしたのも、神もまたハゲだったからだとすれば辻褄が合う。神はハゲ故に同じハゲが罵倒されるのが許せぬのだ。

 

 皮肉なものである。(かみ)(かみ)を持つ人間に微笑むことはせず、(かみ)を失った人間に微笑むのだ。

 

 全てを察した男は感涙の涙を流しながら神託を受けると告げた。

 神もまた今までの同類の苦しみを理解するように涙を流した。

 2人の頭皮よりもなお輝く涙が地面に流れ落ちる。

 それは全世界、全宇宙のハゲの痛みと苦しみを流すための雨となるだろう。

 神が髪を失ったハゲに使命を与える時、全人類は生まれ変わる。

 その輝かしい未来を掴むための神託が今、下される。

 

 

 

 ―――神は言っている。全人類の髪を滅ぼし、真の平等を実現しろと。

 

 

 

 

 

全知全能の神(デウス・エクス・マキナ)を狙う男が現れたって本当か、カリン?」

「マジよ、マジも大マジ。流石にこんな情報でボケはかまさないわよ。そもそも私の八百万(やおよろず)の索敵が間違っていると思うの、カエデ?」

「いや、オモイカネが敵を見違えるわけがないもんな」

 

 高校生程度の見た目の少年と少女が真剣な顔つきで話し合っている。

 男の名前はカエデ。端正な顔つきに頭に巻いた赤のバンダナが特徴の少年だ。

 女の名前はカリン。スレンダーな体つきにシルバーブロンドの髪を腰まで伸ばした少女だ。

 

 そんな彼女の隣にはオモイカネと呼ばれた八百万(やおよろず)が宙を漂っている。

 八百万(やおよろず)とは正式名称が『八百万(やおよろず)(かみ)』というこの世界の住民の大半が持つ守護霊のようなものである。強さや能力などは個人によって異なるが、人々の生活と切っては離せないものであることに違いはない。

 

「……よし、すぐに俺が迎撃しよう」

「頼むわよ。デウス・エクス・マキナは手に入れればどんな願いも叶えられる存在。まともな人間ならともかく、ヤバい人間の手に渡ったらホントしゃれになんないわよ」

 

 真剣な声で告げるカリンの言う通りに、デウス・エクス・マキナは誰にも渡してはならない。デウス・エクス・マキナは突然変異の八百万(やおよろず)であり、現在は特定の人間についておらず人の欲望を叶えるためだけの装置と化している。

 

 今は聖地の奥に封印されているデウス・エクス・マキナであるが、かつて悪用された時は冗談抜きで世界を滅ぼしかけたのである。その世界の滅亡を食い止めたのがカエデとカリンであるのだが、デウス・エクス・マキナそのものを抑えられたわけではない。

 

 あくまでも使用者を倒しただけだ。つまり、彼らの力を持っても扱いきれるものではないのだ。

 

「任せてくれ。これでも英雄なんて言われているんだ。守り切ってみせるさ」

「信じてるわ。じゃあ私は封印の強化に向かうから、負けるんじゃないわよ!」

「ああ、俺とカグツチのコンビは最強だからな!」

 

 そう言ってカエデは、自らの八百万(やおよろず)であるカグツチを出現させる。

 カグツチは炎を司る八百万(やおよろず)であり、圧倒的な戦闘力を主であるカエデに与える。

 

「行くぞ、カグツチ」

 

 カリンと別れ、炎の噴出する推進力を利用して敵の下に向かうカエデ。

 彼はこれまでも幾度となくその炎で世界を救ってきた紅蓮の英雄だ。

 しかし、その顔には幾ばくかの不安が見て取れた。

 

「……正体不明の力を使いデウス・エクス・マキナを狙う男か。いやな予感がするな」

 

 件の男は能力、素性、素顔全てが不明であった。

 分かるのはデウス・エクス・マキナを求めているということだけ。

 その正体不明の不気味さが彼に言いようのない不安を抱かせているのである。

 

「考えてもしょうがないな。会ってみればわかる」

 

 戦闘前に考え過ぎるのは良くない。

 そう頭を切り替え、カエデは男がいるという場所に向かうのだった。

 

 

 

 

 

「あんたか、デウス・エクス・マキナを狙う男は?」

 

 カエデが男の前に立ちふさがり、その容姿を観察する。

 頭まで覆う黒いローブに身を包み、なおかつ頭部全てを覆う仮面を被った姿。

 明らかに男は顔を見られることを嫌がっている。

 

 もしかすると、それがデウス・エクス・マキナを求める理由かもしれないとカエデは思う。

 だが、実際の所はハゲを隠すためにつけているだけだ。

 

『……お前は紅蓮の英雄か』

「まずはこっちの質問に答えてもらおうか」

『私がそうだと言ったら、どうするつもりだ?』

「止めさせてもらう。あれは人間の手に負えるものじゃないんだ」

 

 体中から高熱の炎を噴出し、脅しをかけるカエデ。

 だが、男は微動だにすることなくその威圧を受け止める。

 やはり引かないかと、内心で呟きながらもできるだけ対話で解決できるように話を続ける。

 

「なぁ、あんたはデウス・エクス・マキナで何を願うつもりなんだ?」

 

 その問いかけに男はこの世全ての憎悪が混じったような声で返す。

 

『知れたこと。全人類の(かみ)を滅ぼし、真の平等を実現するのだ』

 

(かみ)を滅ぼす…だって?」

 

 余りの衝撃にカエデの脳は一瞬硬直してしまう。

 彼にとっての(かみ)とは八百万(やおよろず)のことである。

 八百万(やおよろず)とは人間にとっての家族であり、盟友であり、信仰対象である、

 それを滅ぼすと言われたのだから混乱もひとしおであろう。

 

 だが、悲しいかな。男の言う(かみ)とはそのままの意味で頭髪である。

 いや、誤解なく理解したとしても混乱は免れないであろうが。

 

「な、なんでそんなことを考えるんだ…?」

『全ての人間を平等にするためだ。そのために髪は邪魔なのだよ』

「なぜ、平等にすることと神を滅ぼすことがつながるんだ?」

 

 食い違ったままに進む会話。しかし、どちらも気づかない。気づけない。

 何故ならどちらも大真面目なのだから。

 

『……髪の有無。本来であればただの個性であるはずのそれを人は容易く差別へと変える。

 髪を持つ者は髪を持たぬものを下に見る。己がそのものよりも優れていると錯覚する。

 例え髪を持っていても(毛根が)強い者が弱い者を差別することに変わりはない。

 持つ者が持たざる者を虐げるなど愚かにもほどがある。

 髪がこのような悲しき現実を生み出すのならば―――皆が髪を失えばいい!!』

 

 絶望と憎悪の籠った声に思わず気圧されてしまうカエデ。

 それに彼にも心当たりがあったのだ。

 この世界にも八百万の神を持たぬ者は少なからずいるし、持っていても力の弱い者も居る。

 

 実際に彼自身は幼少の頃はカグツチの力を引き出せずに、雑魚と呼ばれていた。それでも自分は神を持っているが故に乗り越えることが出来た。だが、最初から神を持たぬ人間がこのような目に遭っていたとすれば乗り越えられるだろうか?

 

 いや、そもそも乗り越えるという言葉自体がおかしい。

 何も悪くないのだ。神を持っていないだけで何も悪いことはしていないのだ。

 だというのに人々に虐げられる。それは一体どれほどの絶望なのだろうか。

 

『紅蓮の英雄よ。お前には分かるか? 髪を待たぬ者が背負わされる痛みが、苦しみが!?

 ただ髪を持たぬというだけで虐げられてきた憎悪が貴様に理解できるか!?』

「あんた…! やっぱり神を持っていないのか…」

 

 神を持っていないにもかかわらず謎の強さを誇る男に、カエデは驚くがすぐに納得する。

 先程の怨嗟の声は神を持つ者が出せるものではない。全てを奪われた者だけが出せる感情だ。

 

『そうだ。私は欠片たりとも髪を持っていない。だが、別の力を得てここに来た。

 私が望むものは破壊ではない。真の平等だ。

 誰もが髪を持たざる者になれば、差別は無くなる。誰もが笑い合える世界になる。

 紅蓮の英雄よ。私の意見に賛同してはくれまいか?』

 

 男がカエデに手を差し出す。

 カエデはその手をじっと見つめていたが、やがてポツリと言葉をこぼす。

 

「俺も以前は神が弱かったんだ…」

『……そうか、お前も』

 

 男はバンダナの下にあるカエデの髪を想像し、寂しげに笑う。

 きっとあのバンダナは後退し始めた前髪を隠すためのものだろうと誤解しながら。

 

『ならば私達は手を取り合えるはずだ。共にデウス・エクス・マキナに祈るのだ。髪をこの世から消し去り、誰もがハゲ(平等)になるようにとな』

 

 一歩、男が踏み出す。だが、しかし。カエデはカグツチの炎を強めることでそれを拒絶する。

 

『……何故だ。何故理解できない!? お前もまた(薄毛に)苦しんだ者なのだろう!』

「確かにみんな平等ってのは魅力だと思うよ」

『ならば、なぜだ? 髪を消しさえすればそれが達成されるのだぞ』

 

 何とか説得しようと男の声に力がこもる。

 しかし、カエデはゆっくりと首を横に振るだけだ。

 

「俺はさ…平等ってのは心の在り方だと思うんだ。確かに持つ者と持たざる者は不平等で酷いと思うよ。でもさ、仮に神を消してみんなが持たざる者になっても、また別の何かで差別しないって言いきれるか?」

『それは……』

 

 カエデの言葉に男は黙り込む。確かに同じハゲであっても、スキンヘッドが似合う連中には世間の風当たりは弱かった。仮に髪の消滅に成功したとしても平等にはならないのではないかと言われれば、違うとは言えなかった。だが。

 

『……だとしても私は髪を滅ぼす。そうせねばこの胸の内に宿る怒りの炎が消えてはくれんのだ』

 

 ハゲと罵られて来た悲しみと怒りを無くすことは出来ない。

 この手でこの世全ての髪を滅ぼすその時まで男の足は止まりはしない。

 

「そうか……なら俺が受け止めてやるよ! それが神を持つ俺達の責任だ!!」

『貴様の髪もまた消してやる。それこそが真の平等なのだからな!!』

 

 カエデと男が向かい合い、拳を握り締め―――ぶつかり合う。

 

『髪よ、滅びよ! お前のようなものがあるから差別が生まれるのだッ!!』

「違う! 神はそれだけじゃない。希望を与えてくれる存在にもなるんだッ!!」

『ならば、それを示してみるがいい! 髪を持たぬ俺にも示せるというのならばなぁ!!』

「見せてやるさ、行くぞカグツチィイイッ!!」

 

 髪を持たぬ男と、神を持つ少年の戦いがどちらの勝利で終わるかは誰にもわからない。

 ただ1つ分かることがあるのならば、それはこの戦いが。

 

 

 ―――かみを賭けた戦いであるということだけだ。

 

 




勘違いって難しいですね。
感想・評価のほどよろしくお願いいたします!


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ハゲ『10万人の命を生贄にし(かみ)を目覚めさせる』

 

 (かみ)を欲した。

 

 狂信者が神の声を望む様に髪が再び生えることを望んだ。

 だが、悲しいかな。現実は常に非常であり、髪は元に戻らない。

 一毛の希望に手を伸ばせど、髪は伸びず不毛なる努力だけが積み重なっていく。

 

 それでも男は諦めなかった。家を売り、家族を捨ててでも育毛に挑み続けた。植毛という悪魔の誘惑に屈しそうになったこともあったが、男はあくまでも自らの自然なる頭髪を戻そうとした。そこにあったのは自らの生えなくなった髪への異常なる執着。

 

 そう。彼は(かみ)の狂信者であった。

 髪の復活を求め、髪の創造を望んだイカれた育毛者(きゅうどうしゃ)である。

 初めからハゲであればこれ程までに狂うことはなかっただろう。

 

 しかし、頭髪の温かさと重みを知っている男は喪失に耐えられなかった。

 いや、髪の喪失を認められなかったというのが正しいだろう。

 だからこそ、男は植毛やカツラを否定し、育毛を求道し続けたのだから。

 自らの髪は命を失ったのではなく、ただ休んでいるだけだと自らを騙し続けた。

 

 ああ、なんと誇り高く物悲しい姿だろうか。

 

 男の心は決して折れぬ強さを持っていながらも、事実から逃げ続けていた。

 例え、勝負がすでに決まっていたとしても、自らは負け(ハゲ)ていないと吠え続ける。

 男を強き育毛戦士と呼ぶか、滑稽なハゲピエロと呼ぶかは人によるだろう。

 

 しかし、男が生きている間は誰もが男をハゲと言って罵っていた。

 同じハゲですら、ハゲを認めろと植毛の道を進めていたほどだ。

 それでも男はハゲの否定を止めず、己の毛根を信じて育毛を行い続けた。

 自らの命が尽きる最後の瞬間まで、ずっと……。

 

 

 ―――髪を欲するか?

 

 

 その姿勢に神は感動し、男にチャンスを与えることにした。

 まさに捨てる(かみ)あれば拾う(かみ)ありということだろう。

 いや、男からすれば自らは髪に捨てられたのではなく、試練を与えられているだけだと言うだろうが。

 

 何はともあれ、神は男を呼び出し2つの選択肢を提示した。

 

 このまま全ての記憶を失って転生し、何もごともなく新たな()を得るか。

 それとも今のハゲ(頭皮)のままに異世界へと転移し、育毛を続けるかと。

 

 神の問いかけに男は即答した。当然、育毛の道を突き進むと。

 

 神は男の瞳を見つめた。その瞳は狂ったような情熱を宿し怪しく光り輝いている。

 まるで禿げあがった頭に反射した太陽のようだと神は思わず総毛立った。

 まあ、神にも髪は一本もないのだが。

 

 ともかく、神は異世界へと転移させる前に最後の覚悟を問うこととした。

 自らの髪と世界を天秤にかけるならばどちらを取るかと。

 男は考えるまでもなく言い放った。

 

 

 ―――育毛に邪魔な世界など滅んでしまえ、と。

 

 

 

 

 

「魔王だ! 魔王が現れたぞッ!?」

「全員逃げろぉおおおッ!!」

 

 剣と鎧を身につけた兵士達が、恥も外聞もなく背を向けて逃げていく。

 そして、そんな兵士達が背を向ける先には1人の男が立っていた。

 竜を模した兜を被り、憎悪を溶かしたような黒の鎧で身を包んだその男は魔王と呼ばれている。

 

『……虫けら如きが逃げられると思うな』

 

 男が逃げまどう兵士達の方に手をかざすと地面一帯が影に包まれる。

 

「な、なんだこれ…?」

『喰らえ』

「か、体が影の中に飲み込まれてい――ギャァアアッ!?」

 

 影から亡者の手が伸びていき兵士達を奈落の底へと引きずり込んでいく。

 その姿は見る者が見れば男が欲してやまない髪の毛に見えるだろう。

 それほどに男の髪を欲する渇望は強いものなのだ。

 

『……今回の(にえ)は少ないが、仕方ない』

 

 男は断末魔の悲鳴を上げて消えていった兵士達など、初めからいなかったかのような無関心さでその場から去っていこうとする。だが、そこに待ったをかけるように1人の少年が斬りかかってくる。

 

「待ちな、魔王!」

『……また貴様か、勇者』

 

 勇者の剣を魔力の波動で楽々と跳ね返しながらも、男は兜の下で顔を歪める。

 男はそもそも育毛以外のことには興味を示さない。

 故に、誰であれ育毛の邪魔をされると不機嫌になるのだ。

 

「兵士達を皆殺しにして一体何をするつもりだ!?」

『フン、奴らには(かみ)へと奉げる供物となってもらったに過ぎん』

(かみ)への供物だと…?」

 

 男の言葉に勇者は盛大に勘違いをする。いや、勘違いをするなと言うのは余りにも酷だろう。

 この世界には古くから邪神(かみ)の伝承が伝わっており、しかも勇者はその邪神を打倒し封印した勇者の子孫なのだ。どう考えても勘違いする。

 そもそも一体どこの誰が髪の毛のために、人間を供物に奉げるなどと言うと思うかという話だ。

 

「おい、まさかそいつは眠りについている(かみ)を呼び覚ますためじゃねえだろうな!?」

『ほう…ガキにしては中々に見る目があるようではないか』

 

 自分の髪はまだ死んでおらず、眠っているだけだと信じている男は勇者の言葉に満足()に笑う。

 勇者の目から見ても自身の髪は眠っているだけに見えるのだと勘違いして。

 もちろん、勇者が言っているのは神であり、間違っても髪ではない。

 そもそも男は自分が兜で頭皮を隠していることを完全に忘れている。

 

『そう。私の目的は髪を眠りから覚まし、育毛(目的)を果たすことだ』

「神を目覚めさせることと、兵士達の命…いや、今まで殺してきた人達に何の関係があんだ?」

『フ、ここまで語っておきながら説明しないと分からないか? まあ、いいだろう。今の私は機嫌がいい。光栄に思うが良い』

 

 自らの毛根の生存が肯定されたと思い込んでいる男は上機嫌に笑う。

 逆に勇者は急に上機嫌になった男の姿に不気味さを抱く。

 だというのに、お互いに勘違いに気づかないのだからおかしなものだ。

 

『まず、(かみ)を眠りから覚ます術は(髪の毛の数だけ)生贄を捧げることだ』

(かみ)への生贄を…それで戦士達を殺したのか!」

『その通り。因みに生贄に必要な数は10万人。残りは4万6794人だな』

「10万…人…だと?」

 

 余りの数の多さに愕然とする勇者。その姿に男はかつて自身が再生させねばならない髪の毛が、10万本であると言われた時の絶望を思い出す。1本すら眠りから目覚めぬというのに10万だ。流石の男も心が折れそうになったものだ。だが、今は違う。男の心は不毛の大地を相手にしても折れることはない。

 

「てめえ、この国を滅ぼす気か!?」

『それがどうした。私は育毛(目的)のためならば国が、いや世界がどうなろうと一向に構わん。むしろ我が(かみ)の供物となれるのなら世界も本望であろうよ』

「イカれてやがるぜ、てめえは…! (かみ)がそんなに大切かよ!!」

『今更気づいたか? そうだ。私は髪の復活のためならばなんだってする。仲間も、家族も、国も、世界も、みな等しく育毛(目的)のための踏み台でしかない。それ以外の何に価値を見出せと?』

 

 男の目には世界の全ては髪の養分としか映っていない。

 それ程までの執着を頭髪に寄せる男の姿を見て、勇者は男が同じ人間だとは思えなかった。

 いや、事実として同じ人間ではないのだ。

 ハゲとフサフサには天地以上の隔たりがあるのだから。

 

「何でそこまで神の復活にこだわんだ!?」

『何で…だと? 笑わせる。髪の眠りを覚まし、私の頭髪(全て)を取り戻すために決まっている!!』

「全てを取り戻す…?」

 

 男の鬼気迫った叫び声に思わず気圧されてしまう勇者。

 そしてその狂気に一体どれだけ大切なものを失えば、これ程の執着を出せるのかと戦慄する。

 もし、頭髪を取り戻すためだと知っていれば、思わずズッコケてしまっていただろうが。

 

『話してやろう。私も昔はお前のようにフサフサ(普通の人間)だった。だが、ある日を境にハゲ(地獄)に落ちた。貴様には分からんだろう。失った頭髪(もの)の重さに苦しみ続ける日々が、同じ境遇の者達ですら育毛する(取り戻す)ことを諦めろと告げる苛立ちが、失ったことが無い者には分からないだろうよ』

 

 先程の荒々しさとは一転して静かな口調で語っていく男。その強い悲愴感を漂わせる姿に勇者は同情してしまいそうになる。同時に、伝承で邪神(かみ)は死者の蘇生すら可能としたという一説があったことを思い出し、男の目的は大切な人の蘇生だと盛大に勘違いする。男が失ったのは単なる髪の毛だというにも関わらずに。

 

「……神を目覚めさせれば全部返って来るっていうのかよ?」

『その通りだ。髪が目覚めれば、私の髪の毛が伸びる(当たり前の)日々が帰ってくるのだ。ただ髪をセットする(平穏なる)毎日が、美容室に通う(生きる喜びのある)時が、髪の目覚め、それさえあれば返って来るのだ!』

 

 男は思い出す。泡を立てて頭を洗う爽快感を。ドライヤーで髪を乾かす温もりを。

 タオルで髪を豪快に拭く充足感を。ワックスでガチガチに髪を固めてキメる優越感を。

 失ってしまった遠き日々を思い起こす。

 

 10万人の人間を生贄に奉げさえすればその日々が帰ってくるのだ。

 なるほど、確かに男は自己中心的で最低のクズ野郎だろう。

 だが、彼は誰よりも自身の欲望と真剣に向き合い続けている男だ。

 

 その一途さだけは目の前に居る勇者をも超えるだろう。

 

『そのために(にえ)が必要なのだ。髪へと奉げる贄がな』

「……失った者を取り戻すためにか。やっぱてめえとは相容れそうにねえわ」

『ハ、もとより誰かに理解されるつもりなど毛頭ないわ』

「ああ、俺も大切な(もの)を失ったことはあるけど、てめえは理解できねえ」

『…お前も大切な頭髪(もの)を?』

 

 馬鹿な。目の前の勇者には立派な頭髪があるではないか。

 そう思って男は勇者の頭部を見つめていたが、あることに気づきハッとする。

 勇者は戦闘に携わる者かつ男だというのに長い髪を蓄えていた。

 それが意味することはつまり。

 

(あの長髪は禿げている部分を隠すためのもの。つまり勇者は―――円形脱毛…!?)

 

 違う。ただのオシャレだ。

 

『なるほど、貴様も少しは絶望の底を覗いたことがあるようだな。だが、所詮は半脱毛(半端者)全脱毛()の絶望には到底及ばん』

 

 こちらも盛大な勘違いをして、変な親近感を覚える男だったが、やはり2人は相容れない。

 ちょっとの脱毛で不幸を気取るなど半端者のすることだ。

 頭皮を不毛の大地に変えた者以外に真の絶望を語る資格はない。

 そんな無茶苦茶な理論から男は再び余裕を取り戻す。

 だが、その余裕も勇者の次の言葉で一瞬のうちに崩されることになる。

 

「なぁ…てめえも本当は分かってるんじゃねえのか? もう大切な(もの)は帰ってこないってよ」

『大切な頭髪(もの)は帰ってこないだと…?』

 

 勇者の真っすぐな瞳が男の禿げあがった頭皮を捉える。

 もちろん完全なる被害妄想だ。兜を被っているのだから勇者は男の目を見ているだけだ。

 しかし、そんなことは男には関係が無い。煽られたと勘違いし激高する。

 

『ふざけたことを言うなッ! 髪が目覚めさえすれば必ず戻ってくるのだ!!

 そのような戯言で、この私が歩みを止めると思うなッ!!』

「ふざけてねえよ。幾ら大切でも一度死んだ(もの)は蘇らねえ、いや…蘇っちゃなんねえんだ」

『…ッ! 違う、死んでなどいない。私の大切な頭髪(もの)はまだ生きている!!』

 

 狂ったように叫び出す男に、勇者は憐憫(れんびん)の眼差しを向ける。勇者は思う。きっとこの男は大切な者の喪失に耐えられず、失っていない、死んでいないと自分を騙し続けている哀れな男なのだと理解する。

 

 その考察に間違いはないのだが、最も大切な部分を誤解しているのだから救えない。

 

「いいか。姿あるものはいつかは必ず滅びる。それは絶対だ。

 でもよ、滅んだとしても思い出は残るだろう」

『思い出…だと?』

「ああ、てめえにもあるだろ。大切な(もの)と過ごした楽しい思い出がよ」

『大切な頭髪(もの)との思い出…?』

 

 男の頭に髪の在りし日の記憶が思い出されていく。

 初めてワックスをつけておしゃれをした日。大学デビューし様々な色に染め上げた日。

 明らかに似合っていない髪型に挑んでしまった日。全てが良い思いではない。

 だとしても、髪と過ごした日々は確かに―――楽しかった。

 

『そ、それと滅びることの何が関係があるというのだ?』

「滅びを、死を認めねえってことは、大切な(もの)と過ごした日々の否定に繋がるんだよ」

『大切な頭髪(もの)の否定…だと…?』

 

 男の心に初めて動揺が走る。

 

「そうだ。生きている以上必ず死ぬ。生まれた瞬間から滅びの運命は決まってる。

 大切な者の死を認めないことはそいつの生きてきた日々の否定になる。

 だからよ、神を目覚めさせて全てを取り戻すなんてことはダメなんだよ」

 

 髪の死の否定。決して死んだのではないと認めなかった日々。

 それ自体が、自らが髪と過ごしてきた日々の否定へとつながる。

 そう言われた男の心に迷いが生まれる。

 

 だが、今更、自らの髪は二度と生えてこぬと、毛根は死に絶えたと認められるか?

 

 ―――否だ。

 

『黙れ黙れ黙れ黙れ黙れぇえええッ!! 死んでなどいない! 必ず元に戻るのだ!!

 (かみ)を…! 髪を眠りから覚ませば! 頭髪(全て)が元に戻ってくるのだぁッ!!』

 

 その程度のことで諦めがつくのならば、世界を越えてまで育毛を続けはしない。

 何があっても男は育毛を諦めることだけは出来ないのだ。

 例え、不毛な努力だとしても。希望が毛ほども無くとも。

 

 ―――男は髪を欲することを止めない。

 

「……哀れな野郎だ。だが、いいぜ。俺がてめえに認めさせてやるよ。

 失った(もの)は決して返って来ないってな! そのためにも(かみ)は目覚めさせねえぞッ!!」

『邪魔をするのならば貴様も(かみ)への供物としてくれるわぁッ!

 私は例え世界を滅ぼすことになったとしても、失った頭髪(もの)を取り戻してみせるッ!!』

 

 激突する勇者と魔王。その先にあるのは希望か絶望か。

 

 はたまた、無慈悲なる―――かみの裁きか。

 

 それは誰にも分からないのだった。

 




次書くとしたら

ハゲ『(カツラ)を出せ』
攘夷志士「(かつら)(小五郎)を出せだと?(こやつ新選組の者か!?)」

になります。


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ハゲ『カツラを出せ』

この話はギャグです。
歴史がメチャクチャで苛立っても作者に「このハゲー!」と言うだけに治めてください(懇願)


 ハゲは開き直った。

 

 もう諦めてハゲであることを受け入れよう。

 というか、ハゲであることの何が悪いのだろうか?

 

 考えてもみて欲しい。

 高級なアイスの代名詞と名高いハーゲンダッツ。それを略せばハゲとなる。

 つまり、ハゲ=ハーゲンダッツ=高級品が成り立つわけだ。

 

 さらに世界の終末における最終的な決戦の地を表すハルマゲドン。これも略せばハゲである。

 つまり、ハゲ=ハルマゲドン=決戦の地が成り立つ。

 そう、ハゲとは宗教においても重要な役割を果たすものなのだ。

 

 さらに、さらにだ。農民から天下人まで昇りつめた豊臣秀吉。

 彼は主君である信長から、ハゲネズミと名指しで呼ばれていた記録が残っている。

 要するにだ。ハゲ=ハゲネズミ=豊臣秀吉=天下人が成り立つ。

 

 

 そう、今まで黙っていたがハゲとは天下人のことだったのである!

 

 

 ……いや、現実逃避はここで止めておこう。悲しくなってくるだけだ。

 如何にポジティブな思考を持ったとしても、髪の毛が生えてくるわけでもない。

 ハゲは所詮ハゲでしかない。現実逃避は不毛なる努力だ。

 

 子どもには笑われ、女子高生からは『なにあれ超ウケるんですけどww』と笑われる。

 ハゲになれば基本的に絶望しかない。だが、ハゲにも希望は残されている。

 それは人類の英知が生み出した最も素晴らしい発明。そう―――(カツラ)だ。

 

 これさえあれば大抵の人からはハゲとは思われず、日の当たる道を堂々と歩ける。

 ハゲにとっては地獄に現れた仏と言っても過言ではない。

 だが、忘れることなかれ。カツラとは常に諸刃の剣だ。

 

 ズレ(・・)てしまえば、ハゲに対する嘲笑以上の罵りが襲い掛かってくる。

 明らかに残った自毛と合っていない色艶から、陰で噂をされる危険性もある。

 

 このように恐るべき事態を引き起こしかねないカツラであるが、フィットしてしまえばこれ以上頼りになる存在もない。カツラは人々の罵倒を無くし、ハゲに人並みの人権を与える。

 

 故にハゲとなったある男はカツラを求めることにした。

 

 しかし、不幸なことに世は江戸末期。

 黒船の来航に引き続き、次々と襲い来る西洋列強達。

 荒れた世間では幕府派と攘夷派が火花を散らす毎日。

 

 おまけに現代と違いインターネットでお手軽に検索ということもできない。

 そもそも地元に住み続ける限りはカツラを手に入れても、カツラだともろバレである。

 どうしたものかと男が思い悩んでいると、男は不思議な夢を見た。

 

 

 ―――カツラが欲しいか?

 

 

 夢にハゲの神を名乗る者が現れ、男に何をすべきかをお告げしたのである。

 ハゲの神曰く、江戸のある場所に超一流のカツラ職人が居るらしい。

 長旅になることは間違いないだろう。しかし、それでもハゲを隠せるのならば行くしかない。

 

 だが、ハゲを晒しながら旅をするのは辛い。その思いが男の足を重くさせた。

 しかしながら、神はアフターフォローも完璧であった。

 ハゲが差別される根本的な理由は、皆と違うという異質さ故。

 

 そのためにハゲは謂れの無い悪意を受けねばならない。

 だが、日本にはハゲであることが普通(・・)とされる人間がいる。

 そう、僧侶だ。神は男に僧に(ふん)して旅をすれば差別されないと入れ知恵をした。

 かくして男の不安は一掃された。

 

 目を覚ました男は夢のお告げを信じ、江戸へと旅に出ることにしたのだった。

 

 

 

 

 

『ここか……』

 

 長き旅の末に男はハゲの神のお告げに見た場所まで辿り着いた。

 ここに至るまでの道のりは、野党を返り討ちにしたり、狼に襲われたりと苦難の連続であった。

 しかし、その結果として男は妖怪すら容易く斬り伏せる力を得るに至った。

 もちろん、男からすれば力などいらず、毛を寄こせという話なのだが。

 

『何はともあれ、これで長きに渡る旅が終わりを迎えることになるのだな』

 

 男は感慨深げに呟きながら建物の中に入っていく。

 カツラ屋の、隣の無関係な店の中に。

 

「何者だ?」

 

 男がカツラ屋の隣の建物に入ると、武士らしき男が警戒した様子で話しかけてくる。

 

(警戒? ふむ、つまりこの武士もお忍びでカツラを求めに来たのだな。バレたくない気持ちはよく分かる)

 

 男はそんな失礼な勘違いをしながら、自分も同類だと説明するために口を開く。

 

(カツラ)はどこだ?』

(かつら)(小五郎)…だと?」

 

 武士の中での男に対する警戒心が跳ね上がる。

 何故ならば武士は攘夷志士の1人であり、桂小五郎の仲間兼部下であったのだ。

 さらに言えば、現在はこの建物で桂をかくまっている。

 そのため武士は(カツラ)(かつら)と誤解してしまった。

 

「知らんな。勘違いではないか?」

 

 だが、常に新選組から狙われる攘夷志士のすっとぼけ力を舐めてもらっては困る。

 全く知らないという顔をして(しら)を切るなど朝飯前だ。

 

『いいや、間違いなくここだ』

 

 しかし、男を相手にするには分が悪かった。

 男は神からのお告げを信じ切っている。そのためここにカツラがあると信じて疑わない。

 さらに言えば、目的地に着いた喜びで少々冷静な判断力を失ってしまっているのだ。

 

(しら)を切っても無駄だ。カツラの場所を教えろと言っているのだ』

(こやつ…! なぜ桂がここに居ることを――ッ! まさか新選組の者か!?)

 

 待ちに待ったご馳走の前で足止めをされている男は、苛立った表情で武士に問いかける。

 その威圧感を敵のものだと判断した武士は、男が新選組の者だと誤解してしまう。

 

「……ここには1人で来たのか?」

『無論だ。カツラの下に来るのを他の者に気づかれるわけにはいかんからな』

(嘘ではないようだな。ならば……今ここでこの男を始末すれば桂を逃がせる!)

 

 男の言葉に嘘は見受けられない。

 つまり、新選組の最強戦術である『囲んでリンチ』はない。

 そのことを理解した武士はおもむろに刀を抜き放つ。

 

『……何故刀を抜く?』

「知れたこと。桂を渡すわけにはいかん!」

『なるほど、カツラのためか』

 

 突如として刀を突きつけられたことに僅かに動揺する男。

 しかし、桂のためと聞きすぐに納得をみせる。

 

(カツラを渡したくない。つまりはここのカツラは常に品薄の超人気商品で取り合いになることが必須なのだな。それ故に競争者となる俺を消したいということだろう)

 

 頭の中で如何なる思考の化学反応を起こしたのか、盛大に勘違いする男。

 しかし、戦う必要があることだけは理解しているので性質(たち)が悪い。

 

『ならば俺も本気でカツラを取りに行かせてもらおう』

「そう簡単にカツラ(の首)を取れぬと思うことだな。我が剣の錆としてくれる」

『フ、あまり強い言葉を使うのは感心せんな。その守りに入った型では戦いづらかろう』

「なに…?」

 

 男の余裕を持った言葉に武士は内心が見抜かれたのかと動揺する。

 だが、真実はヅラがあると戦いヅラいだろうという男の心遣いだ。

 

『その上段の構えは一見すれば防御を捨てた構えにも見える。だが、お主のそれはカツラ()を守るためのものなのだろう?』

(攻め気を見せることで、()が逃げる時間を稼ごうとしているのがバレているだと…?)

 

 頭のことを、上司を意味する(かしら)と誤解する武士。

 しかし、男が言ったのはカツラが戦闘によりズレないようにするための構えなのだろうという見当違いな考察だ。

 

『お主相手に時間を使うつもりはない。一瞬で終わらせる』

「舐めたことを! (しかし、この男の威圧感…言うだけのことはある!)」

 

 腰にかけた刀に手を添え居合の構えを見せる男。普通に考えれば、既に剣を抜いている武士の方が有利だ。だが、男の僧侶の服に刀という強キャラぽい見た目が、武士に必要以上のプレッシャーを与える。

 

 斬るか斬られるか。

 そのお互いの命を懸けた緊張感が渦を巻き、今まさに爆発しようとした瞬間。

 

「そこまでだッ!」

 

 1人の男の声が響いてきた。

 

「なッ!? 何故逃げていないのだ! 桂…いや、木戸!」

「私への客なのだろう。ならば私が相手をするのが当然だ。それに……その者は強いぞ。私と同等にな」

「剣豪の名を天下に轟かせるお前程の腕だと…!?」

『カツラ…木戸…なるほど、お主が…(カツラ職人か)』

 

 思わず桂と叫んでしまった武士であったが、不幸なことに男はカツラ職人の木戸さんだと勘違いする。因みに木戸とは桂小五郎のもう一つの名前である。

 

『……お主は』

(かつら)(の首)を取りに来たというのはお前だな?」

『ああ、話が早い。ならば―――』

 

 早いところカツラを売ってくれと続けようとする男。

 しかし、その言葉は桂の言葉によって遮られる。

 

「その前に私の話を聞いてはくれぬか?」

『話だと?』

「そうだ。お前だけではない。この日本の全ての者が関わる話だ」

『日本の全てのハゲ()が関わる話だと? ……良いだろう話せ』

 

 この男はカツラのためにライバルは蹴落とすのを躊躇うことはしない。

 しかし、だからといって同じハゲ(境遇)の人間に同情しない人間でもない。

 そのため、日本の全てのハゲのため(誤解)という言葉に興味を持ったのだ。

 

「お前も知っての通り、今この国は西洋列強の侵攻を受けている」

『……それと(カツラが)何の関係がある』

「分からんか? このままでは我が国は清のように植民地となり、ありとあらゆるものが搾取されてしまうのだ」

『ありとあらゆるもの…それは――』

 

 ――カツラやそれを作る材料もなのか?

 そう問おうとした男だったが、想像をするだけでも恐ろしい事態に言葉を飲み込んでしまう。

 逆に桂の方は男の様子ならば説得が可能だと踏み、弁舌に熱を込める。

 

「そうだ。このまま、西洋諸国に言いなりなっていれば、お前にとってかけがえの無いものも全て奪われる」

『かけがえの無いカツラ(もの)を……』

 

 男は桂に言われて話の本質に気づく。本来ならば多くの者が必要とするカツラが何故奪い合いをせねば手に入らないのか。それは西洋列強による搾取が始まりを向かえているからに他ならない。

 

 勿論、勘違いである。

 

『では、どうすればいいのだ? 異国の者を打ち払うか?』

「西洋列強は確かに恐ろしい。だが、今の日本にそれらを打ち払える力はない。下手に挑めば返り討ちだ」

『それでは手詰まりではないか』

「いや、手はある―――西洋の技術を吸収するのだ」

『西洋の技術を…(カツラに)吸収するだと?』

 

 桂の言葉に男はハッとする。そう、逆立ちしたところで西洋列強には勝てない。

 だが、勝てないまでも追いつくことは出来るはずだ。

 そうすれば、今以上にカツラを安易に作る事が可能になり、日本の全てのハゲが報われる。

 さらに言えば、より精度が高く、バレにくいものも生み出せるようになるはずだ。

 

(そうだ。神は超一流カツラ職人が居るとだけ告げていた。つまり、これは神からの神託であったのだ。この者と協力しカツラを発展させ―――新たなる日本の夜明けを迎えるのだ!!)

 

 違う。神はそんなことを言ってない。

 

「そのためにまず必要なのは幕府を倒し、天皇を中心とした新たなる政権を打ち立てることだ!

 お前の剣は新しきこの国の希望を切り開くためにあるはず!

 それこそがお前の求める未来を手に入れる最善の道だ!!」

 

『俺の…カツラ(未来)……』

 

 男は考える。ここで無理にでもカツラを奪い、僅かな安寧を得るか。

 それとも、目の前の男達と共にこの国に新たなカツラ技術を取り入れる道を進むか。

 しばし考えた後に、男は静かに刀を地面に下ろす。

 

「おお…では!」

『ああ、お主の言葉を信じよう。俺の、いや、日本の全てのハゲ()に明るいカツラ(未来)を示そう』

「ああ、必ずや!」

『その手は…?』

 

 嬉しそうに笑い、手を差し出してきた桂に男は首を傾げる。

 

「ああ、これは西洋での信頼の証を示すもの。握手だ」

『なるほど……このようにして西洋を(カツラに)取り入れていくのか』

 

 納得し、硬く桂の手を握りしめる男。

 その掌から伝わる肉体と意志の強さに、桂は男を迎え入れてよかったと心の底から安堵する。

 そして、今一度自らの意志を固めるように桂は宣言するのだった。

 

 

「共に日本の新たなる夜明けを迎えようではないか!」

 

『ああ、カツラのためならば協力は惜しまぬつもりだ』

 

 

 これが後の世に語り継がれることになる“人斬り僧侶”と桂小五郎の出会いなのであった。

 




作者の(ネタ)が禿げたので多分これで終わりです。

バターコ「ハゲパンマン! 新しいカツラよぉー!」
ハゲパンマン「頭髪100倍! ハゲパンマン!」

勇者「いつまで不毛な争いを続けるつもりだ!」
ハゲ「無論(毛根が)死ぬまで」ドンッ!

もう勘違いネタが思いつかなくて、こんなのしか出てこないんで許してください。
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