クロスアンジュ 因果律の戦士達 (オービタル)
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序章

新たな小説!!ゼノシリーズとHALOとクロスアンジュのクロスオーバーになります!!


雪が降るマーメリア共和国……ある大富豪であるのロマノフ家は悩みを抱えていた。それは妻のマリア・ロマノフが不妊症であり、子が成さなかった。マリアは悲しみ、酒を一晩中飲み続けていたのであった。そんなマリアを心配するのは夫であるチャールズ・ロマノフが仕事から家へ帰っていた。

 

「全く…マーメリア書記長め、またノーマの警戒を強めてたか……(この世界は狂っている。マナを持つこそが人間、違う………)ん?」

 

その時、目の前が明るくなる。チャールズはマナの光で車を止め、窓を上けると、夜空の彼方、緑に眩く緑に発光する流星が山の方へ落ちる。

 

「何だ………あれは?」

 

チャールズは急いで落ちていった流星の所へ車を動かす。

 

 

焼き焦げた木々、チャールズは車を降り、マナの光で明かりを灯す。

 

「一体何が……」

 

チャールズがそう思っていると、奥の方から光が漏れていた。

 

「ん?」

 

チャールズはその場所へ向かうと、何かが瓦礫に埋もれており、その隙間から緑の光が漏れていた。

 

「マナの光を」

 

チャールズはマナを使い、瓦礫を別の場所へ捨てる。

 

「これは……?」

 

瓦礫の中から翠色に光る巨大なクリスタルであった。チャールズが恐る恐るそのクリスタルに触れた直後、クリスタルが光り輝き、瓦礫が灰のように原子分解していく。

 

「っ!!?」

 

瓦礫が消えると、その埋まっていた物にチャールズは驚く。それは大天使のように神々しさを思わせる巨大なロボットであり、両股間と背部のスラスターから翠に光り、目の模様を持った翼を広げており、天使の光輪を出していた。

 

「で、デカイ!!?パラメイルではないなぁ……」

 

チャールズがそのロボットを見ていると、ロボットのコックピットに付けられていた翠色のクリスタルが光りだす。するとクリスタルの中から揺り籠が出てきた。

 

「ん?」

 

揺り籠はそのままチャールズの所へ浮遊し、ゆっくりと地面に着く。チャールズは恐る恐る揺り籠を覗くと、揺り籠の中にいたのはあのロボットと同じだが小さな翠色のクリスタルを手に、すやすやと眠っている赤ん坊であった。

 

「え!?」

 

チャールズは驚き、ロボットを見たその時、

 

(ムノタクシロヨ……ヲコノコ……)

 

「っ!!?」

 

突然チャールズの頭の中から誰かの声が聞こえてきて、辺りを見渡す。しかし誰もいなかったが、一つ分かった事があった。

 

「まさか……」

 

チャールズはロボットを見上げると、また声が聞こえていた。

 

(ムノタクシロヨ……ヲコノコ)

 

「コノコヲ……ヨロシクタノム?……この子をよろしく頼む……」

 

ロボットが何を言っている事が分かったチャールズは赤ん坊を見る。するとロボットのツインアイが光り出し、立ち上がる。

 

「っ!?」

 

ロボットはゆっくりとチャールズを見る。

 

(スイバデノシイタウコ、ハレワ…ンーレイセ、ハナガワ…【我が名は…セイレーン……我は、皇太子の僕"デバイス"】……クシロヨヲシイタウコ……)

 

謎のロボット【セイレーン】はそう名乗ると、巨大な十字型のクリスタルへとなる。チャールズは赤ん坊を揺り籠ごと持つ。

 

「何が起ころうとしているのだ……この世界に……」

 

チャールズはそう思い込み、赤ん坊を車に乗せ、邸へ帰る。

 

 

邸へと戻ったチャールズはマリアにその事を話す。マリアはセイレーンと言うデバイスに託された赤ん坊を見て、育てる事を決意する。チャールズ・ロマノフは邸に仕えるメイド隊にセイレーンであった巨大なクリスタルを回収し、研究チームとマリアとともに解析する。そしてマリアは赤ん坊の名前を【キオ】と名付けられるが、不思議な事に……マナの光は使えるけど、触れた途端に他者のマナの光が崩れと言った障害を持っており、世間からはキオの事を"悪魔"と呼ばれていたが、ロマノフ家はキオを決して、たった一人の息子として育てた。

 

それから18年後……。マーメリア共和国首都が見える野原でキオは空を見つめていた。

 

「(今日は、ミスルギ皇国でアンジュリーゼ・斑鳩・ミスルギ皇女殿下

が洗礼の儀を得て、皇族になる日……父さんと母さんや爺ちゃんに婆ちゃんは彼らの様なノーマ差別にはなるなって言っていたけど……どう言う事なんだろう?)…………」

 

キオがそう考えていると、車が止まる。

 

「キオー!」

 

「ん?」

 

つと後ろからキオを呼ぶ声がし、振り向くと、マーメリア共和国高等学校で通っている友達が呼んでいた。

 

「キオも行く?アンジュリーゼの洗礼の儀!」

 

「うん!」

 

キオは起き上がり、友達の車に乗る。マーメリア共和国首都でミスルギ皇国の映像が映し出されており、キオは友達と一緒に映像に映っているアンジュリーゼのパレードを見ていた。

 

「今日もマーメリアは賑やかだなぇ♪」

 

「うん♪」

 

キオは市場で友達と楽しんでいると、

 

「ん?(…………皇女アンジュリーゼ・斑鳩・ミスルギはノーマだ……彼女や仲間達……ドラゴンと姫巫女と共にお前の両親の仇敵を取れる……)」

 

突然頭の中から声が聞こえてきて、首に身に付けているクリスタルが鼓動する。キオはそれを感じ、クリスタルを見る。

 

「父さんがくれたペンダント…」

 

そう言っていると、友達が言う。

 

「あ!ほら!アンジュリーゼだ!」

 

映像にアンジュリーゼや兄のジュリオ、妹のシルヴィア、そしてジュライ皇帝と皇妃ソフィアが映っていた。洗礼の儀が始まった直後、ジュリオがアンジュリーゼがノーマだと各国に暴露した。

 

「え!?」

 

「アンジュリーゼが……ノーマ!?」

 

そしてアンジュリーゼは数分も経たないうちに検察官や保安官に連行され、ジュリオが新たなミスルギ皇帝に継ぎ、キオ達は家へ帰るのであった。

 

「ただいま……」

 

「キオ!早く地下室に来なさい!」

 

「っ!?母さん?」

 

突然帰って来たら、マリアが大慌てでキオを連れ、地下室へ向かう。中には武装したメイド隊や強化人間兵士【スパルタン】が銃器を持ったり、機動兵器【ドール】の"Urban"がショートライフルとアサルトライフルを持って、邸外へ向かう。邸外の庭や屋上には武装したメイド隊、スパルタン、ドールが武器を構える。すると何もない上空から無数の黒い円盤が出てくる。円盤は円周からチェーソーを展開して、突撃して来た。

 

「撃てぇ!!」

 

メイド隊やドール、スパルタンが迫り来る円盤に目掛けて攻撃を開始するのであった。

 

 

一方、地下室ではマリアやチャールズが何かの装置を起動していた。

 

「父さん、母さん……ここって?」

 

「話は後!……今はあなたをあそこへ転送しないと!」

 

マリアはそう言い、格納庫からある物が出てくる。

 

「これって!?」

 

それはキオが身につけているペンダントと同じ翠色のクリスタルであったが、それはペンダントより、何十倍も大きかった。

 

「今からあなたのコアクリスタルを再起動させる」

 

チャールズが何やら訳の分からない言葉を言い、キオはどう言うことかチャールズに言う。

 

「父さん!とういう!?コアクリスタルって?」

 

するとマリアの方は巨大なリング状の装置を起動すると、リング状の中心部に渦のような穴が出現する。そしてチャールズも巨大なクリスタルを修正を終えると、巨大なクリスタルが光り出す。クリスタルの形が変わっていき、現れたのは天使を模したドール以上の全長を持つ純白のロボットであった。

 

「父さん!これって……」

 

「…………キオ」

 

「?」

 

突然チャールズがキオを抱きしめる。

 

「私と母さんは……いつまでも…………お前を愛しているぞ……」

 

「え?……うっ!?」

 

チャールズはキオの首に注射器を刺し、キオを眠らせる。キオを抱き上げ、セイレーンに渡す。

 

「セイレーンよ……私の役目も終わった。アルストの皇太子様を彼らの所へ……」

 

(…………タシチウョシ)

 

セイレーンはそう呟き、マリアが起動した亜空間ゲートの中へ消えていった。そして地下室の扉が壊され、中から複数の機械兵がチャールズとマリアを取り囲む。すると奥から和装の鎧を来た黒い武人が現れ、チャールズに問う。

 

「チャールズ・ロマノフ…貴殿に問う。アルストの皇太子と天の聖杯とゾハルは何処だ?」

 

「……知っている。だが、お前らには渡さない」

 

チャールズはそう呟き、持っていたスティッキーディトネイターを亜空間ゲート装置に撃ちこむ。

 

「っ!!?」

 

武人は驚き、刀を抜き取るが、チャールズはトリガーを引き、着弾したスティッキーディトネイターが爆発し、亜空間ゲート装置を破壊した。

 

「貴様!!」

 

武人はチャールズを襲い掛かろうと刀を振り下ろすのであった。

 



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第1話:決意を胸に

 

チャールズによって、眠らされたキオは夢を見る。元皇女であったアンジュリーゼが何処かの軍事施設で仲間達と共に、ドラゴンを倒したり、ドラゴンの世界に行って美しい女性と出会ったり、黒い武人と戦っているキオの姿が浮かび上がる。

そして目の前が真っ白になり、キオは目を覚ます。

 

「……ここは?」

 

キオが寝ていた場所は、色んな機械や機材が並んだ医務室であった。キオは起き上がり、側に置かれている衣服を着用すると、ドアが開く。

 

「ん?」

 

「あ!目が覚めたんですね?」

 

「よかったですも!心配したですも!」

 

現れたのは黒髪の少女と人間の膝程度の大きさの丸っこい体系に全身体毛が生えており、グルグル眼鏡を掛けたぬいぐるみのような生き物がはしゃいでいた。

 

「何!?」

 

キオはぬいぐるみ見たいな生き物に驚き、マナの光を展開しようとする。

 

「マナの光よ!…………あれ!?」

 

しかし、キオのマナの光の障壁が全く展開できなかった。

 

「何でマナの光の障壁が!?」

 

キオは慌てていると。

 

「驚くのも無理もないわ、元々あなたのマナは天の聖杯の力で維持していたから……。」

 

「誰!?」

 

扉から現れたのは、白い長髪に赤いバトルスーツを着た女性がキオに声をかけてきた。

 

「驚かさせてごめんなさい、私はエルマそしてこっちがリン、そしてノポンのタツ……あなた、キオ・ロマノフね。」

 

「え?はい…………って!俺の名前を知ってるんだ!?」

 

キオは自分の名前を知っていることに驚くと、エルマが説明する。

 

「チャールズとマリアが教えてくれたわ……あなたが二人が拾った【天の聖杯のドライバー】って……」

 

エルマの言葉に、キオは呟く。

 

「父さんと母さんが……俺を拾った……?」

 

「そう……あなたは18年前、天空の彼方からセイレーンと共に隕石のようにマーメリア共和国の山奥へ落下し、それを見ていたチャールズはそこへ行き、赤子であったあなたとコアクリスタル化したセイレーンと出会ったのよ。」

 

「…………」

 

「それから18年……あなたの邸を襲った奴らの狙いは、キオの持つそれ……」

 

エルマが指差す方向にキオは見る。それは肌身離さず持っていた翠のクリスタルであった。

 

「俺の……ペンダント?」

 

「それは普通のクリスタルじゃない……【天の聖杯】と言うか特殊なブレイドなの…。」

 

「ブレイド?…それって何ですか?」

 

「私たちをサポートするパートナーの事よ。本来はこのコアクリスタルって言う結晶の中で眠っているの。」

 

エルマはそう言い、ポーチから蒼く輝くクリスタルを取り出す。

 

「これって……翠のクリスタルと同じ…」

 

「そう、普通のコアクリスタルは蒼なの、だけど……あなたのコアクリスタルは翠なの。そしてブレイドはドライバーと同調させることによって、パートナーを得るの。因みに私のブレイドは【スザク】。」

 

「私のブレイドは【カサネ】って言うのよ♪」

 

リンも説明するとタツが呟く。

 

「前線では何も使ってませんが……」

 

「何か言った?」

 

「もも!!いえ!何も!!」

 

「良ければ、この大型戦艦インフィニティを案内するわ♪」

 

「あ、分かりました」

 

キオは医務室から出て、エルマ、リン、タツに大型戦闘艦『インフィニティ』の艦内を案内される事になった。

大型戦闘艦インフィニティは全長5000メートル超(約5,694.2m)もある事に、そして驚くのは戦闘艦だけではなかった。艦内にはスパルタンがいて、ブレイド同調やドールの訓練をしていた。邸を守っていたスパルタンやメイド隊は元々、キオのいた世界の兵隊ではなく、エルマやリンが所属する同盟軍『エーテリオン』は現在キオの世界を暗躍する組織『デウス・コフィン』の総裁"X"がエンブリヲと言うキオの世界を裏でノーマをアルゼナルと言う軍事施設で、並行世界から来るドラゴンを戦わせていると。

 

「それって、良いんじゃないのですか?」

 

「確かにそう思うかもしれない。だが、ドラゴンは取り戻そうとしているの……アウラを……」

 

ドラゴンは並行世界=本来の世界の人間が遺伝子改造され、穏やかに暮らしていたが、エンブリヲは彼らのリーダー的存在とも言えるドラゴン【アウラ】を奪い、彼女達であるノーマにアウラを取り戻そうとするドラゴンと戦わせ、凍結させた大型ドラゴンの心臓を抉り取り、中からドラゴニウムと言う本来の世界で起こった戦争のエネルギーをアウラに充填させ、永遠に続くマナの光を生み出していると……。

事実を知ったキオは呟く。

 

「結局は人を贄に差し出しているみたいじゃないか!」

 

「えぇ、チャールズとマリアはあなたと出会ってから四年後に、私たちと交流を果たし、真実を受け入れ、あなたを生かす事を考えていたの」

 

「生かす?」

 

「そう、さっきも話した様に…あなたはあの世界の人間ではない。何故ならキオ……あなたこそが、かつてデウス・コフィンが恐れられた存在【天の聖杯】のドライバー『アデル』の子だから……」

 

「アデル?」

 

「キオさんのお父さんです。」

 

「え!?、俺の……本当の父さん?」

 

「そう、アデルはかつて……アルストと言う世界で英雄と呼ばれた存在。そしてある国の皇女と共に恋をし、駆け落ちし、あなたが生まれた。そして…」

 

「そしてあっちの世界でチャールズとマリアに拾われ、育てた。」

 

エルマ達の後ろから、アーマーを着た男性が言う。

 

「ほぉ、コイツが天の聖杯のドライバーか……」

 

男性はキオの眼を見る。

 

「良い目をしてやがる。気に入ったぞ♪」

 

「ジョンソン、あなたまさか…キオを?」

 

『エイブリー・J・ジョンソン』エーテリオンの曹長であり、皆からは『鬼のジョンソン』と呼ばれている。

 

「そう言うな、エルマ…キオ、お前……スパルタンになってみる気はないか?」

 

「え?」

 

「エルマ、ラスキーやキースには伝えている。キオのデータはもう既にチャールズに見せて貰っているからなぁ♪」

 

「はぁ、あなたと言う人は……」

 

エルマは頭を手を当て、首を左右に振る。

 

「それとエルマ…チャールズとマリアのビーコンがまだ消えていない。」

 

「本当に?つまり奴らは、二人を捕虜としたのね……」

 

「何の話ですか?」

 

「キオさん、落ち着いて聞いてください。チャールズさんとマリアさんはまだ……生きています。」

 

リンが説明すると、キオは驚く。

 

「本当に!?」

 

「はい!」

 

「どうやらデウス・コフィンは、二人を捕虜して連行したかも……助けたい気持ちは分かるわ。けど、今のあなたの力では無理かもしれない。だけど…スパルタンとあなたのコアクリスタルを同調させれば、二人を助ける事は出来る。」

 

「そう言う事だ……元々、お前が今まで使っていたあのマナは、天の聖杯であるそのコアクリスタルから放出していたからなぁ。同調すれば、もう二度とマナの光は使えなくなる。どうする?」

 

二つの選択肢にキオは迫られるが、本人はもう、決意している。

 

「確かに…マナの光は人間である証……けど、それは人を殺すことによって出来る力………良いよ、俺……スパルタンになる。二人が本来の親ではない他人だけど、俺にとって二人が今の俺の両親なんだ。だから、二人を助けたい!」

 

キオの決意に、ジョンソンが笑い出す。

 

「ハハハハ!!!良い決意をしたじゃねぇか!気に入ったぞ!良いだろ、お前の履歴はチャールズから教えられている。覚えていないか?今まで、剣術や格闘、サバイバル知識、dollシュミレーター教習をやった事を?」

 

「え?……はい、って!?あれってまさか!?」

 

「そうだ。チャールズやマリアはお前をスパルタンにさせるために、お前が思い込んでしていた訓練は全て、スパルタンにするための適正試験であったのだ♪」

 

「あれ?じゃあ、俺が今まで家にあったサンドバックやバトルシュミレーターゲームも?

 

「そう、全てはデウス・コフィンとエンブリヲを倒すためにな……さて、お喋りしすぎたかな?早速医務室へ来い、スパルタンにさせてやる。」

 

ジョンソンはキオを医務室へ連れて生き、超兵士のバイオ手術を開始した。手術は成功、キオの身長が2メートル超へ伸び、与えられたスパルタンアーマーは【アスロン】であり、着用後、サンヘイリ人の通称"エリート"の五体を模擬試験で圧倒する事になるのであった。そしてキオはセイレーンの操縦訓練も物にしてしまい、3日で試験を終え、最年少のスパルタンと呼ばれた。翌日、キオは身につけていた翠のコアクリスタルとの同調を始める。コアクリスタルが光り出し、現れたのは銀髪の青年であり、手に持っているのは中央の空洞部のガラス状のプレートを付けた青く輝く大剣であった。

 

「僕を呼び出したのは君なのかい?」

 

青年は陽気な言葉でキオに問う。

 

「そうだ……俺の名はキオ・ロマノフ。お前は?」

 

「僕はモナド……名前は色々あるけど、気軽にアルヴィースでも良いよ♪」

 

アルヴィースは大剣をしまい、キオに手を差し伸べる。

 

「よろしくな、アルヴィース」

 

キオもアルヴィースに手を差し伸ばし、握手で交わすのであった。

 

 

ハンガーでセイレーンに乗ったキオ。アルヴィースはコアクリスタル状に戻り、いつでも呼び出せるようになっている。

 

『任務は分かっているね?あの世界でドラゴン達と戦っているアンジュと彼女達の支援、それに私たちの仲間である【タスク】にエーテリオンからの招集に呼びかけて。』

 

「わかりました」

 

キオはそう言うと、セイレーンがカタパルトデッキへ移送される。トレースシステム式のコックピットで深呼吸するキオは決意を胸にする。

 

「(父さん……母さん……絶対に助けに行くから……)」

 

『キオ・ロマノフ、発進スタンバイ』

 

オペレーターの指示と共に目の前のカタパルトデッキが開き、射出システムがオフになる。キオはセイレーンを動かす。激しいGが襲うがキオは押されなく、インフィニティから射出され、空間を飛び回る。

 

「さてと……腐った世界に行きますか!」

 

キオはそう呟き、偽りの世界と繋がる特異点へと入って行くのであった。

 



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第2話:皇女とイレギュラーとの出会い

 

静かな夜、何処かの上空に特異点が現れ、中からセイレーンが飛び出す。

 

「アルゼナルが近くにある海域は……この辺りだったかな?」

 

夜の海域を飛ぶキオは辺りを見渡す。

 

「アルヴィース、何処かに生体反応はない?」

 

「ん〜、分からないねぇ……それに僕の因果律予測はたまに起こることだから、あまり便利とは言えないよ」

 

「ごめん……」

 

「気にしなくても良いんだ♪それに、君はこの世界ではない王子様だから、あまり目立たないようにね♪」

 

「そうだな……ん?」

 

するとキオの頭の中である物が浮かび上がる。複数のパラメイルがドラゴンに襲われており、三人がドラゴンの攻撃で倒される姿、そしてその中にアンジュリーゼが泣きながら逃げ回っていた。キオは目の前の出来事をアルヴィースに話す。

 

「因果律予測が教えてくれたようだね、そうなるとしたら、急いだ方が良いんじゃない?」

 

「だな、じゃ…行きますか!」

 

キオはそう言い、セイレーンを加速する。

 

 

その頃、ある上空では、実兄であるジュリオに暴露されたアンジュリーゼ、後のアンジュは故郷へ戻ろうと、グレイブを動かしていた。しかし、隊列から出たことに、第一中隊副隊長のサリアがホルスターから拳銃を抜き、アンジュに向ける。

 

「アンジュ戻って!もうすぐ戦闘区域なのよ!?」

 

「私の名前はアンジュリーゼ・斑鳩・ミスルギです。私は私のいるべき世界、ミスルギ皇国へと帰るのです!」

 

「持場に早く戻りなさい!でないと貴方を命令違反により今此処で処罰するわよ!」

 

サリアは銃を取り出し、アンジュを脅しにかけたその時。

 

「アンジュリーゼ様! 私も、私もミスルギ皇国へと連れて行って下さい!」

 

なんとココがアンジュに近寄り、自分も連れて行ってほしいと頼みに来たのだ。

 

「え!?な!何を言ってるの!? ココ!?」

 

「私も魔法の国に!」

 

「ちょっとココちゃん!何を言ってっ!?」

 

その時、特異点が開き、中から青い閃光がココのグレイブを貫こうとしたその時、セイレーンが流星の如く速さでココの掴み上げ、その場から離れる。

 

「良し!」

 

キオは急いで、気を失ったココをコックピットにいれ、ステルスモードに入る。

 

ココのグレイブはそのまま海面へ墜落し、大爆発を起こす。

 

「ココ!ココォォォ〜〜〜ッ!!!!」

 

ココが乗っていない事にまだ気づいていないミランダはただ叫ぶだけであった。そして特異点からこの世界に囚われているアウラを取り戻そうとしている存在【ドラゴン】が姿を現した。ステルスモードで見ているキオはドラゴンを見て驚く。

 

「あれが…本来の地球人か……」

 

『それよりキオ、この子どうする?』

 

アルヴィースの問いにキオはそこらで気を失っているココを見る。

 

「とにかく、ド派手な演出で姿を現わす。良い?」

 

「分かった、君の好きなようにしてくれ♪」

 

キオはアルヴィースを上空へ向かう。第一中隊とドラゴンの戦闘が始まる中、アンジュのグレイブが逃げ回っていたそれを見ていたキオは呆れる。

 

「あ〜あ……あれはちょっとヤバいんじゃないか、アルヴィース……」

 

『確かに、逃げてばかりだと、ドラゴン達に目立ってしまうんだけど……』

 

「そうだろう、ん?」

 

するとまたキオの因果律予測が発生する。今度は深緑の髪の子がドラゴンに襲われ、空中に投げ飛ばされ、最後に数体のドラゴン達に食い殺されていた。

 

「うわぁ…こればかりは見てられないなぁ」

 

キオはそう呟き、ミランダのグレイブへ向かう。

 

 

一方、第一中隊の方ではドラゴンの数、さらにガレオン級の大型ドラゴンがもう一体増えるのであった。サリア達は必死に交戦するが、アンジュの方では故郷に帰りたく、ただ逃げてばかりであった。

 

「ま、待って!」

 

ミランダは逃げ回るアンジュを追う。

 

「私どうすればいいの?・・{ココのバカ・・何が魔法の国だよ・・何夢見てんだよ・・私達はノーマなんだぞ・・}」

 

ミランダは散っていってしまった親友を思い悲しみに暮れる。

その隙を逃さまいとスクーナー級ドラゴンが彼女の遥か上空から迫り、ミランダのグレイブに激突、そしてミランダは空中に放り出された。

 

「!!?」

 

「た!助けてえええぇぇぇ〜〜〜!!!」

 

放り出されたミランダが叫ぶ中、一匹のスクーナー級がミランダに喰らい付こうとしたその時、天空の彼方から光の槍がスクーナー級を貫き、ミランダを掴み上げ、掌に乗せる。そしてそれは姿を現わす。それは正に……"天使"と言ってもいい機体であった。

 

「何……あれ?」

 

「おいサリア!ありゃ一体何なんだ!?」

 

「パラメイルにしては大きすぎるわねぇ」

 

「綺麗……」

 

「かっちょいい〜〜!!!」

 

第一中隊のメンバーがセイレーンの姿に見惚れている中、ミランダが気がつく。

 

ミランダ「……あ、あれ…?」

 

強い光に思わず瞳を閉じてから、どのぐらいの時間が経っただろうか?

恐る恐る瞳を開けば、視界に入るは自分の掌。

 

「どこも…痛く、ない?」

 

思わず全身をまさぐるが、齧られた所は一つもなく血も流れて居なかった。

 

「な、なんで…?それに私…」

 

しかもだ、自分は海面に向かって落下している最中であったにも関わらず、全く体が濡れていない。

そもそもとして、幾ら水面であったとしてもあれ程の高所から落下して平気である筈が…。

いやそれよりも。

今、自分が横たわっているこの固くてひんやりした地面のようなモノは一体……?

 

「……???」

 

そこで初めて。

彼女は自分の頭上に目を向けた。

 

そこに居た…否、"あった"のは。

 

自分を見下ろすようにして、鈍く光るは紅色の瞳。

現れた時に浴びたであろう水滴に反射するは、白く透き通ったかのような純白、頭頂部の五本の金角…まるで自分たちが乗る「パラメイル」のアンテナのような"角"は昔、資料室で見かけた王の兜を彷彿とさせ…。

 

何よりも驚くべきはその大きさ。

"頭部"だけで自分の身長の何倍もの…。

 

「ひぃっ!!」

 

さらに驚くのは、今自分が座っているところが天使の掌であった。

 

『おい!』

 

「ひゃ、ひゃいっっ!!」

 

ノイズ混じりに響いた大声に、思わず彼女は直立の姿勢を取る。

…嗚呼、こんな時でも発揮してしまうしまう悲しき奴隷根性…。

 

などと、現実逃避気味に考えている暇も無く。

 

『今からハッチを開く、滑り込め!』

 

立て続けに降り注ぐ声はミランダを急かし立てるように響く。

 

ミランダ「………?」

 

何をそんなに、と彼女が振り向けば…。

光による硬直が解けたドラゴンの群れが…否、仲間のパラメイルへと攻撃を加えていた個体達も一斉にこちらに向かって来ているではないか。

ぞわりと先程までの恐怖が一気に蘇ったミランダは1も2も無く…。

 

"バシュン!"と開いた天使の胸部へと飛び込んだ。

 

ミランダ「ぜえっ!ぜえっ!ぜえっぜえっ!!」

 

息も絶え絶えに入ったソコでは。

見た事もないようなモニターが並ぶ空間と。

その真ん中に立っている……

 

「無事か?」

 

こちらを気遣う声。

 

「は、はひ……」

 

半ば鸚鵡返しのように返答したが、この人(?)は一体何者なのだろう?

外の天使と同じような白く、見た事もないような分厚い服と、これまた見た事が無い、頭部を包み込む灰色の兜(自分達が付けている"バイザー"に似ているような…)のようなアクセサリのせいで顔すら解らない大男がいた。

 

「全く……どんだけ怖がりなんだよ…」

 

白い人は何もない空間でミランダに問う。

 

ミランダ「……へっ?」

 

自分の背後に、足を放り投げるようにして寝そべる一人の人間の…少女の姿。

 

「…そ…んな、でも……」

 

ソレを否定する単語の羅列が幾重にも浮かび上がる。 不意にこちらに向けられた少女の顔が目に入り、ミランダは……。

 

「…………あ…」

 

くしゃりと、自分の表情が歪むのを感じる。

恐怖によってではないソレは、歓喜によるモノだ。

鼻の奥からツンとしたモノが湧き上がるのを止めようともせず、彼女は衝動のままに。

 

「ココォッ!!!」

 

瞳を閉じた少女…同期のココ・リーブの小さな身体を抱きしめた。

 

「…ひぐっ、うぐっ…ゴゴ…良かっだ…生ぎでる…!!」

 

瞳こそ開かず、身体はびしょ濡れで、顔の所々が煤ぼけているが紛れもなくその小さな胸の上下を感じた。

 

「知り合い?」

 

「…は、い…ぞうです…!目の前で、爆発して…でも、どうして…」

 

「あのドラゴンの攻撃直前に回収させて貰った。ある程度の処置は済んであるが、早く医者に見せた方がいいと思う♪」

 

「は、い…はい…!ありがとう…ありがとうございます…!!うっうう…!」

 

「……礼を言うのはまだ早いぞ」

 

「………へっ?」

 

涙をぬぐい、白い人の方を向けば。 何とドラゴンの群れが一斉に第一中隊のメンバーを無視し、セイレーンの方へ向かってきたのであった。

 

「ひぃっ!!」

 

「あちゃ〜〜、ちょっと目立ち過ぎちゃったなぁ、どうする…アルヴィース?」

 

『まぁ、取り敢えず……彼らに恨みがないんだ。』

 

「だろうな…」

 

「?」

 

ミランダは、突然白い人が何やら独り言を話している事に、首を傾げると、白い人は首から翠色のクリスタルを取り出す。

 

「行くよ、アルヴィース…」

 

するとクリスタルが強く光だし、青白く光る大剣へと変わると、セイレーンの手から大剣に似た光の剣を出す。

 

「悪いなドラゴン……恨みはないんだが、これも任務なんだ……」

 

キオはそう呟き、体を動かしながら、セイレーンを動かす。迫り来るスクーナー級のドラゴン達を光の剣で薙ぎ払ったり、両断して行く。後方からスクーナー級が三体迫るが、両股間のフレシキブルアームが動き、先端部からビームサーベル放出し、切り裂いていく。すると大型ドラゴンが魔法陣を展開し、雷撃を放つ。

 

「甘い!」

 

キオは大剣のプレートに【疾】が表示される。するとセイレーンから青いオーラが放出し、ドラゴンの雷を素早く回避する。回避すると同時に、キオは遊び心で海面をスケートの様に滑りながら、ドラゴンの攻撃を回避し、後ろに回り込んだ。そして……。

 

「貰った♪」

 

大剣のプレートに【斬】と表示され、セイレーンの光の剣がドラゴンの強靭な鱗と体をメスの様に切り裂いた。ドラゴンは悲鳴を上げ、キオは十字を書きながら落ちていくドラゴンに言う。

 

「アーメン………これも彼女達が未来を切り開く為だ。恨みはないが、お前達の分も全て、エンブリヲと総裁Xにぶつけてやるからな……」

 

キオはそう言い、海中へ落ちるドラゴンに慈悲も言う。

 

 

その後、もう一体の大型ドラゴンは逃げられたが、アンジュの独断行為により、第一中隊の隊長であるゾーラが死に、パラメイル三機が大破してしまった。そしてアルゼナル甲板では……。

 

「ここでク~イズ! あのデカくてゴツくて真っ白なヤツは敵でしょうか?それとも味方でしょうか~?」

 

「…何よ、"ヴィヴィアン"。まーたやくたもないクイズ?」

 

海風を浴びながら無邪気に問題を問いかける、棒キャンディを咥えた少女は―――"ヴィヴィアン"。

捲くれ上がる赤い髪を手で押さえつけながら、鬱陶しげに返答するは―――"ヒルダ"。

 

「そんなん…ドラゴンを攻撃してたんだし、味方……に、決まってるじゃん……だよな?」

 

「………でも、あんなの見た事無いよ。新型のパラメイル?」

 

自信無さげに己の意見を述べるオレンジ髪の少女は―――"ロザリー"。

その後ろで、隠れがちになりながらぼそぼそと喋るそばかすの少女―――"クリス"。

 

「パラメイルにしてはちょっと大き過ぎるわよねぇ……あら、"サリア"ちゃん。隊長は?」

 

「……今は捜索中……」

 

顎に指を当てつつ背後の人影に気づく豊満な女性は―――"エルシャ"。

一拍遅れて集団に合流したサリアは暗い表情で話す。

 

「…………ま、怪我で死ぬような女じゃなけりゃ、良いんだが、」

 

「隊長…」

 

「…に、してもさあ……」

 

ロザリーが周辺へと目を配らせると…。

 

「―――ワイワイ」

 

「―――ガヤガヤ」

 

「―――キョロキョロ」

 

「―――ウロウロウロ」

 

「「「「「―――ザワザワ…ザワザワザワ……!」」」」」

 

「………多すぎじゃね?」

 

この基地の甲板が広いとは言え、そこかしこにぞろぞろとパイロットや整備員や挙句の果てに内勤の連中までが列挙している…。

まさか、アルゼナルの人員全てがここに集まってきているとでもいうのだろうか。

 

…有り得なくもないのが、また恐ろしい。

 

「幾ら娯楽に飢えてるからって暇人ばっかね…」

 

「…まあ、私達も似たようなモノでしょうけど」

 

何しろ戦闘が終了してからこっち、帰還して一目散に甲板へと駆け出したのだ。

 

…報告その他は副長のサリアに丸投げして。

 

―――副長:サリア。

―――ヒルダ。

―――ヴィヴィアン。

―――エルシャ。

―――ロザリー。

―――クリス。

 

彼女達こそ、このアルゼナル基地が"所有"する戦乙女であり、先程から口々にしている「パラメイル」という名の機動兵器群のパイロットでもある。 そして、今はこの場に居ない"隊長"と、"もう一人"………。

 

「あり?そーいえば……"アンジュ"は?」

 

ヴィヴィアンが何気なく発した一言で。

 

―――ピシリ。

 

と、周囲の空気が冷たく固まった。

 

「…悪いけど。今はあの"痛姫"の名前なんて聞きたくもないね」

 

「…そーそー。あの白いのが乱入してきてくれたおかげで、こっちから意識が逸れてくれたから良かったけどさあ…ヘタすると隊長まで撃墜されてたんだぜ?」

 

クリス「そうなってたら、アイツ…絶対許さない…」

 

三者三様に、"アンジュ"なる人物を口々に酷評する。

しかも、言葉の端々に殺気すら感じられる程に。

 

「……それで、サリアちゃん。アンジュちゃんは……?」

 

「……ゾーラと共に捜索中……」

 

「……お?な~んか見えて来た、見えて来た!!」

 

重苦しい雰囲気を破ったのはこれまたヴィヴィアンの言葉だった。

それに倣い目を凝らすと、確かに水しぶきを上げる点がこちらに迫って来ていた。

 

点は丸になり丸は秒を刻む毎に徐々に大きさを増し、そして甲板に吹き荒れる一際強い風。 が、それも一瞬の事であった。

中空に浮かぶボディを直ぐ様安定させた天使が、甲板の先端に…脚を下ろした。

数刻経たずに、眼と思しき部分から輝きが消える。

動力を切ったのだろうか?とすれば、いよいよか。

 

サリア達はこうして目の前にすると改めて思う。

基地の甲板は確かに広いが、この天使の歩幅の前ではそれも霞んでしまう。

単純に見ただけでも自分たちの乗るパラメイルの大凡2倍くらいはありそうだ。

 

中型ドラゴンもかくやと言わんばかりのその威圧感に、思わずロザリーの喉が鳴った。 変わらず天使の両腕は空へと挙げられているが、よくよく考えると本当にコイツは信用出来るのだろうか? 敵でないと思われる根拠は仲間を救った事とドラゴンに敵対していた事だけで(普通ならそれで十分だろうが)本当はどこかの国からアタシら(ノーマ)を抹殺するる為に送り込まれた殲滅兵器で、救助とかその他が全てだったとしたら…?

若しくは急に気が変わったと、騙して悪いが~なんて襲いかかられたとしたら…?

未知への恐怖か、彼女の生来の気の弱さ故か。

思考がどんどん悪い方へと傾いてゆく。

 

「―――、」

 

目線を仲間の方に向ければ。

 

《…………》

 

他の連中の内幾人かは懐の銃器に手を沿え。

そして自分たちの背後では。

 

《…………》

 

待機状態のパラメイルが、砲身を構えていつでも甲板上の巨人を狙撃出来るようにしていた。

 

「(だ、大丈夫なのかよぉ……)」

 

何しろ相手はドラゴンの集団を、たった一機で鬼神の如く屠ったヤツであって……。

あれ?そう考えたらなんでアタシは呑気にこんな所に立ってんだろう?

 

天下のパラメイル第一中隊とはいえ、自分は大した実力なんて無いっちゅーに。

…自分で言ってて泣けてくる。正直言うのならとっととここから逃げたい。

けど逃げたら後でヒルダあたりからの追求が怖いだろうし、報酬減らされそうだし…。

 

などと、ぐるぐる思考をループさせていたら。

 

その時は、訪れた。

 

天使の全身が光り輝き、小さくなっていく。そして翠色のコアクリスタルへと戻っていき、そこにいたのは……。

 

少女二人を小脇に抱えた、全身を真っ白な服で包んだ見るからに怪しい巨人であった。

しかも、しかもだ。

青張りのガラス?みたいなのを嵌め込んだ兜みたいなのでご丁寧に顔面も覆っている為、彼女達は目の前の人物(?)が同じ人間であるのかどうかを錯覚してしまった。

 

「(……なぁ、撃っていいんじゃね?アレ?)」

 

「(えー、何で~?カッコい~いじゃんアレ!)」

 

「(…マジか?マジ言ってんのかソレ?)」

 

「…真っ白で、青い…」

 

「(…どう思う?)」

 

「(い、今の所怪しい動きは見せていないし…)」

 

「…あ。こっちに向かってくるよ?」

 

器用に少女二人を抱えたまま甲板に降り立つ…"赤い人"。

そのまま新兵達は駆け寄った救護班の担架に乗せられて運ばれてゆく。 すると白い人がサリア達の方を向き、近く。

 

「……ゲ!お、おいこっちに来てんじゃねえか!?」

 

白い人は一歩、また一歩と間違いなくこちらに向けて歩を進めていた。 銃で狙おうとしたのがバレたのだろうか?

いやそれならば巨人に乗っている時にアクションを起こすだろう。

どうするべきかとほぼ全員が一瞬で考えを巡らせて…。

そしてヒルダ達はチラリと、全員の目線が等しく青髪の少女の方へ集まる。

 

「……は?えっ…わ、私!?」

 

確かに(このメンバーでの)階級ならそうなるかもしれないけど…。

狼狽する副長に対し。

 

「がんばれ〜、サリア〜」

 

「副長の意地、見せてやれよ〜」

 

「応援してる〜」

 

「サリアちゃんなら大丈夫よ!」

 

「あー、アタシはめんどいからパスで」

 

「~~~~~~~~~~っっ(こ、こいつら…都合の良い時だけ副長呼ばわりしてからに…。 こんな肝心な時に限って隊長はいないし、

そもそも、コレは副長の仕事なのだろうか?いいや絶対に違うだろうそもそも私の仕事は戦闘における隊の連携云々… )」

 

等と、ウダウダしているサリアに向かって。

 

「あの……」

 

「……?」

 

すると白い人はヘルメットを脱ぐ。下から黒髪の短髪で、唇に大きな傷跡がある勇ましいキオであった。

 

《………………》

 

甲板にいる一同がキオの顔を見て口を開け、呆けたように固まった。

無論、他の娘達も。

 

それ"についての事は勿論知っているし、この世に生まれ落ちた人間は必ずそのどちらかに分けられるモノである。

しかしながらこの基地に居る殆どの少女達は皆"ノーマ"であり。

であるが故に、人生の全てを"ソレ"から隔絶させられるようにして生きてきたのだ。

 

それ程までに、自分達の目の前に現れた人物は強烈なモノで。

 

「……基地司令はどちらに?」

 

「……………、」

 

「……?」

 

目の前の人物が何か言っているようだったが、正直こちらはそれ所ではなく。

漸くに硬直が解けた誰かが。

 

震える唇で。

 

「………お ……お、お………オトコ"だぁぁぁぁぁぁぁ――――――!!! 」

 

素顔を顕にした"白い人"―――否、"男性(おとこのひと)"を指差したのであった。

 



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第3話:孤島のタスク

 

アルゼナル甲板に着陸したキオはヘルメットを脱ぎ、顔を露わにした。

 

「……?(何?この状況……)」

 

キオはそんな事を思っている中、

 

「………………、」

 

藍色のツインテールの少女は固まられ。

 

 

「はわ…はわわわわわわわわ…」

 

片目が髪で隠れた少女には震えられ。

 

 

ヴィヴィアン「へー、ふーん…おおー…!」

 

赤いショートカットの髪が特徴で、常に棒付きキャンディを舐めている少女にジロジロ見られ。

 

 

「………は、初めて見たぜ………」

 

橙色のショートカットの少女にも珍しがられ。

 

 

「………………へぇ~」

 

赤いツインテールの髪が特徴の少女に妖しい輝きを投げかけられ。

 

「………………ポッ///」

 

ピンクの長髪の少女にジロジロと…いや何か違うような?

 

他にも甲板の少女達も、キオを見て呟く。

 

「お、"男"よねあれ多分…いや絶対…! 」

 

「何で?何で男がこの基地に来るの? 」

 

「ここ、"ノーマ"の施設なのに…。 」

 

「本当に居たんだ、男って…。 」

 

ヒソヒソ…ヒソヒソヒソヒソ……。

 

 

他にも何か色々な感情が綯交ぜになった視線で、四方から射られているような感覚を味わい。

 

「……………、」

 

何故だろう。

別に法を犯したワケでも無いというに、この場に物凄く居辛い空気が立ち込めているのは気の所為か。

女所帯に男性である自分が紛れ込んでいるのが矢張り彼女達の不安を駆り立てているのか。

 

…いや。

 

原因はもっと別の…根本の部分から"自分"と"彼女"達の間で、何かが決定的に噛み合っていないような。

 

だが、今はそれを問うてるべき時では無い。

 

「…失礼、自分の顔に何か?」

 

キオは諸々生まれた疑念をあえて身の内に押しやりつつ、話を進めるべく努めて冷静に声をかける。

 

 

 

「―――はっ…?え?い、いいええ!!別に、別になんでもあり、ありま、あり…!」

 

「(ガチガチじゃねえかよ…)」

 

普段見ることのない副長の姿に、思わずロザリーは額に手をやる。

緊張の余り声が上ずっているのがバレバレだ。

 

「(…………へぇ、"あの"堅物サリアがねぇ)」

 

「失礼よヒルダちゃん、サリアちゃんだって乙女さんなのよ?」

 

「…口に出してないのに、人の思考を読むの止めてくんない?」

 

「あら、ごめんなさい♪」

 

エルシャが舌を出してテヘペロをすると、ヴィヴィアンがキオの前に出る。

 

「なあなあなあ、兄ちゃん名前なんてんだい!?」

 

「な!ちょっ…―――ヴィヴィアン!?」

 

ある種空気の読めてないヴィヴィアンの行動に驚く一同。

だが男(キオ)はその勢いのある質問にたじろぐ様子もなく、ごく自然体で質問を返す。

 

キオ「…そういう君は、ここの職員か?」

 

ヴィヴィアン「おう、アタシはヴィヴィアン!よろしくだにゃ!!」

 

言って、彼女はキオの目の前に右手を差し出す。

 

「ヴィヴィアン………!?」

 

「(あんの、ノーテンキ娘……)」

 

幾ら何でも気安すぎるその態度に、サリアの表情が真っ青に染まり。

ヒルダもまた眉根を潜めてヴィヴィアンを見据える。

 

…"男"が自分達"ノーマ"からの握手なんて、受ける訳がないだろうに…。

 

しかし……。

 

「……キオ。キオ・ロマノフだ」

 

キオは(無表情のままだったが)不快感を全く顕にせずにその手を握り返す。

 

「え……?」

 

「……は?」

 

―――どよ…どよどよどよどよ……!!

 

 

各々の予期せぬその結果に、周囲が重くどよめいた。

 

「(…何なんだ)」

 

自分からすればごくごく一般的な行動を取っているだけなのだが。

どうもそれが尽く彼女達の"ナニか"に触れてるようで…。

 

ヴィヴィアン「………、」

 

握手を受けている"ヴィヴィアン"と名乗った少女も、何故か呆けたようにこちらを見ている。

先程からこちらにおいて、全く話が進む気配が無い。

 

「……(どうしたものか…)」

 

などと、キオが思案している所に…。

 

「お前達、揃いも揃って何をやっている!!!」

 

甲板中に響き渡らんかという硬質的な、それでいて凛とした声。

 

それを耳にした少女達は、どよめきを一瞬にして止め。

奥の人垣を割るようにして中から現れたのは、憲兵を引き連れた…片腕に義手と思われるアタッチメントを装着した相齢の女性。

 

「帰還後の自由はある程度許されているとはいえ、規律を乱す行いを推奨した覚えは無いぞ?」

 

《い、イエス・マム!!!!!》

 

統率性を多分に含んだ物言いに、瞳の奥に輝くは強い意志。

もしかしなくとも間違いない、自分の眼前に現れたこの女性こそが…。

 

「……さて。部下共が失礼したな、キオ・ロマノフ……私がこのアルゼナル基地の司令官を賜らせて戴いている"ジル"だ」

 

 

「…キオ・ロマノフです。受け入れを感謝致します、司令」

 

手馴れた敬礼の後、キオは差し出された"右手"を当然のように握り返した。

 

 

 

「おや?義手程度では物怖じせんか?」

 

「…戦いの場に身を置く者としては、見慣れた物ですので…」

 

「フッ……そうか」

 

若き司令は何処か喜々としたように目線を細めるが。

 

それも一瞬の事。 するとキオの目の前が光に包まれ、未来視が起こる。

 

ジルが彼女達を道具として扱い、エンブリヲに復讐している姿が映る。だが結果、彼女達は全滅する姿が目に映るのであった。未来視が終わり、キオは薄々と警戒する。

 

貴官が何者であり、こちらもまた何者であるか、互いに説明を求めねばならない事は数多いが…その前に」

 

言葉をそこで打ち切った司令は、キオの前に"あるモノ"を提示する。

 

「(……これは、何だ?)」

 

差し出されたのは白地に麻で編まれたごく変哲の無い…何処からどう見ても"唯のロープ"にしか見えないが。

一体コレを自分にどうせよと言うのだろうか。

 

「何、別段私は難しい事を言うつもりは無いさ―――」

 

貴官はコレを、"手を使わずに結べるか否か"。

それを訪ねたいだけだ。

 

「(……???)」

 

司令からの謎の問いに、無表情が常のキオが珍しく眉根を潜め当惑の表情を見せた。

 

出会い頭で、しかもこのような非常時にする質問にしては稚拙が過ぎる。

 

「(何かの符合か、まじないの類か?嫌……)」

 

しかし、いずれにせよ。

 

「…申し訳ありませんが、出来かねます」

 

「なんだと?」

 

「ですから、自分にはそのような呪い師もどきのような力などは無い。と言っているのです」

 

これがタスク辺りならまた別だろうが(アレは手品の類だが)、少なくとも自分はそんな芸当は持ってない。

 

それがキオ・ロマノフという男の共通認識であり、己の価値感から導き出した正当な結論だった。

 

 

だが。

 

その一言が、決定的となる。

 

 

ザワ…ザワザワザワ……!

 

 

周囲から再びざわめきが、しかし今度は珍しさからではなくもっと別の。

何か、見てはならないモノを見てしまったかのような驚愕に彩られた表情で、こちらを見ている。

 

ジル「フッ」

 

司令もまた、喜色なのかそうでないのか妙な雰囲気で口角を釣り上げる。

 

「(…何だ?)」

 

周囲の空気が突如硬質化して迫るような圧迫感。

まるで、大勝負の最中にカードを開く直前で大負けを提示させられたような……。

 

キオ・ロマノフのその予感は的中していた。

 

尤も。

 

ジル「憲兵!至急この男を拘束せよ!!」

 

キオを拘束しようと憲兵が警棒を振り下ろした直後、キオはアルヴィースを召喚し、光の大剣であるモナドを振るう。モナドからエーテルの波動が放たれ、憲兵が吹き飛ばされる。さらに空から警戒していたパラメイルがアサルトライフルを撃ってきた。キオは因果律予測を発動し、弾丸の軌道を読み取り、あっさりと回避する。

 

「何っ!!?」

 

キオはヘルメットを被り、スーツのバーニアで高く飛び上がり、パラメイルのコックピットに飛び移る。

 

「っ!!?」

 

キオはコックピットハッチを掴み、スパルタンとしての強靭な力でコックピットハッチを引き剥がした。

 

「嘘っ!!?」

 

ライダーが驚くと、キオは拳でコンソールを貫く。システムを破壊されたグレイブは回転しながら落ちて行き、ライダーを掴み上げて助け、飛び降りる。

 

「セイレーン!!」

 

キオはポーチからセイレーンのコアクリスタルを投げ、セイレーンを呼び出す。セイレーンはギリギリの所で飛翔し、ライダーを甲板へと投げ捨てた。華麗に舞い踊るセイレーンは海面をスケートのように滑り、光の速さでアルゼナルから姿を消した。

 

「己れっ!!キオ・ロマノフ!!」

 

ジルは拘束できなかったことに悔しがり、消えたキオに怒りを込み上げる。

 

 

 

ジル達から逃げ切れたキオは何処かの島で着陸し、次元の彼方にいるインフィニティに通信回線を開いていた。

 

『あ、キオさん!よかった〜、無事で♪』

 

「思っていたよりも、アルゼナルは厄介な人達だらけだった。ただ人を助けただけなのに、拘束しようとしたんだ」

 

『そりゃ、そうですよ!怪しまれるのは当然です!』

 

「はぁ……」

 

キオがため息をしたその時、背後から誰かの気配を感じた。キオはすぐさま振り返り、ホルスターからハンドガンを抜き、森の方へ構える。

 

『どうしたのですか!?』

 

「俺の後ろに……誰かが隠れている。姿を見せろ!」

 

キオが警告を言うと、森の中から現れたのはキオぐらいの身長のある青年であった。

 

「ご、ごめん…驚かすつもりはなかったんだ」

 

「……所属は?名前は?」

 

「俺はタスク…」

 

「?……お前がタスクか?」

 

「え?」

 

『タスクさん!お久しぶりです!』

 

「リン!?とすると君は?」

 

「あぁ、エーテリオン所属のキオ・ロマノフ。天の聖杯のドライバーだ」

 

ようやくタスクと出会ったキオは島で彼の事情を話すことになった

 



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第4話:反抗期

遅れてすみません!


静寂な夜……タスクがいる孤島で、二人はそれぞれの機体で言い争っていた。キオの“デバイス”である【セイレーン】、タスクの“ドール”【Ares】が戦闘していた。セイレーンは腰部のフレシキブルアームに搭載されているビーム砲からビームサーベルを展開し、タスクもアレスのハンドウェポンであるエナジーヌンチャク“VAJRA”を展開し、ビームサーベルを振り払う。

 

「過去の事で逃げるな!!タスク!!」

 

「うるさい!!もうほっといてくれっ!!」

 

二体のロボットが上空で戦っている中、砂浜で大剣と刀を持った二人の会話はさらに激しくなる。何故二人がこうも争っているのか……それは数十分前に遡る事であった。アルゼナルから逃げ切ったキオは孤島で探していたタスクと出会う。

 

「お前がタスクか?」

 

「あぁ……」

 

するとタスクの後ろから半身機械、夜叉のようなブレイドが現れる。

 

「そのブレイド……タスクの?」

 

「“ヴァサラ”だ……お前のブレイド、普通ではないなぁ」

 

「その通り♪」

 

今度はアルヴィースも現れ、自己紹介する。

 

「僕はアルヴィース……キオのブレイドでね♪」

 

「それよりタスク……君に招集命令が来たんだ。デウス・コフィンが動こうとしている。」

 

「………悪いが、断る」

 

「え?」

 

「それで何を得られる?……これ以上、俺に関わらないでくれ……」

 

「けど、あなたがいないと、エルマさんやリン達も……」

 

「ほっといてくれ!!」

 

「っ!!……そうですか、なら」

 

するとキオはモナドを突き構える。

 

「強制的に連れていくまでだ!!」

 

キオは大剣を構えると、タスクもヴァサラから刀を受け取り、鞘からエネルギー式の刀を抜く。

 

「やれるものなら……やってみろ!!」

 

タスクは端末を使い、森の中に隠していたドール“Ares”が現れる。キオもセイレーン・デバイスを脳波で操る。【白きデバイス】と【黒のドール】は遠隔操作で空中を舞い、争う。キオとタスクは剣と刀の刃をぶつけ合う。

 

「“ダブルスピンエッジ”!!」

 

「“ワイルドエッジ”!!」

 

それぞれのドライバーアーツが炸裂し、お互いの意見もぶつかり合う。

 

「いい加減にしろ!!タスク!!逃げてばかりだと、デウス・コフィンの思う壺だ!!」

 

「ほっといてくれ!!」

 

タスクは過去の事に悔やむ。自分の無力差に父と母、仲間達の命をエンブリヲに奪われ、指輪を失ったジルもエンブリヲの恐怖に怯えたあの日……。彼はエンブリヲに殺される直前、エルマさんやリンや軍曹が率いるエーテリオンに助けられ、父と母、仲間を殺したのはXが率いるデウス・コフィンだと分かり、タスクはスパルタンへとなった。しかし、未だに彼の恐怖心はエスカレートし、任務を放棄した事……。そして……

 

「過去の事で逃げるな!!タスク!!」

 

「うるさい!!もうほっといてくれっ!!」

 

キオとタスクは剣と刀を振り回しながら、アルヴィースとヴァサラに言う。

 

「アルヴィース!」

 

「ヴァサラ!!」

 

それぞれのブレイドが武器を持ち、アーツを放とうとしたその時、上空からペリカン降下艇が飛来し、キオとタスクに通信回線が入る。

 

『お前達!!いい加減にしろぉっ!!』

 

声の主はジョンソン軍曹であった。どうやらリンがキオの通信回線が開いていた状態であったため、その通信を聞いて急いでジョンソン軍曹に報告したと思われる。

 

砂浜で土下座されている二人はジョンソン軍曹に怒りのお説教が来る。

 

「馬鹿かお前達は!!」

 

さらにジョンソン軍曹の拳骨が二人の頭を殴る。

 

「「痛っ!!」」

 

「キオ!お前は状況というものが分かっているのか!?」

 

「……はい」

 

「……何だそのだらしない返事は!!」

 

「は、はい!!」

 

「後でインフィニティに帰ったら……ヴァンダムのトレーニングが待っているぞ♪」

 

「ヒィィィ〜〜〜ッ!!それだけは勘弁してください!!」

 

「それとタスク!」

 

「はい!!」

 

「過去の事で迷いながら逃げんじゃねぇ!!使命を全うしろ!!」

 

「はい!!」

 

タスクも気合の入った声でジョンソン軍曹に敬礼し、キオを連れて行く。

 

「タスク…」

 

「?」

 

キオは振り返り、タスクに言う。

 

「……悪かったな、いきなり剣を突き付けて…」

 

「え?……あぁ、俺の方こそ…ごめん」

 

「……戦場から逃げたらダメだぞ…」

 

「?」

 

「俺は……Xに囚われている父さんと母さんを助ける。絶対に…」

 

キオはそう言い、降下艇に乗り込む。ペリカンが特異点の中に入って行く光景を見るタスクは考える。

 

「逃げたらダメか……“押し付けられた使命”から…フフ」

 

「ん?タスク、何を笑っているのだ?」

 

隣にいるヴァサラが少し笑っているタスクに問い掛ける。

 

「いや、あのキオって言う彼……“強い”な♪」

 

「……そうだな」

 

ヴァサラはそう言い、タスクと共に森の中へと姿を隠すのであった。




次回……キオが“あの世界”に飛ばされます!


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第5話:龍の大地

インフィニティに帰艦したキオはヴァンダムとジョンソンの説教により、うさぎ跳びで艦内を50周、腕立て一億回と言うスパルタ教練されていた。だが父と母を助ける思いを胸に、キオはそのスパルタを軽々と熟していった。スパルタ教練を終えると、キオは格納庫でセイレーン・デバイスに新たな装備が追加されていた。それはデバイス専用に作られた兵器。大気中のエーテル粒子をエネルギー弾に変換し、一気に放出する『HEーRifle』が装備されていた。

 

「リン、俺のセイレーンの装備を付け加えたのか?」

 

「はい!セイレーンの今の装備だけでは心許ないと思って作っちゃいました♪」

 

「これで、セイレーンも射撃武器が使える♪」

 

キオが喜んでいると。

 

「キオ!」

 

「?」

 

そこに現れたのはドール隊のメンバーであるイリーナ、グインであった。

 

「イリーナ中尉!グイン!」

 

「元気していたか?」

 

イリーナが思いっきりキオの背中を叩きつける。

 

「痛でっ、相変わらず力強い…」

 

「でしょう?イリーナ中尉は」

 

「ちょっと……二人で何コソコソ私の事を話してるんだ?」

 

「「っ!!」」

 

イリーナが拳の音をバキバキと鳴らしながら、笑っているのか笑っていないのかの表情を浮かべる。

 

「いや!イリーナ中尉!これには!」

 

ブォォォンッ!!ブォォォンッ!!ブォォォンッ!!

 

「っ!?」

 

「この警報!?」

 

『総員に告ぐ!総員に告ぐ!デウス・コフィン艦隊がインフィニティに接近!直ちに迎撃準備を!』

 

「デウス・コフィンの奴ら、もうここを嗅ぎつけたか…」

 

キオはすぐにスーツを着用し、セイレーンに乗り込む。イリーナやグイン、他のスパルタン達もそれぞれのドールに乗り込んで行く。

 

インフィニティ《ブリッジ》には艦長と副艦長であるジェイコヴ・キースとトーマス・ラスキーの他、軍務長官のナギと鬼教官のヴァンダムがいた。各部のオペレーター達が報告し合う中、それはついに告知して来た。

 

「前方から急激なスリップスペース波を確認!!来ます!」

 

インフィニティの前方からワームホールが現れ、楔形の形状をしたデウス・コフィン戦艦『フォルトゥラー』が3隻、そしてそれを遥かに上回る巨大戦艦『カタストロフィー』がワープドライブして来た。

 

「カタストロフィーだと!!?」

 

ラスキーは驚く。滅多に動こうとしないデウス・コフィンの最大にして最強の駆逐艦が今まさにインフィニティの目の前にいる事を。フォルトゥラーとカタストロフィーからデウス・コフィンの主力機『タイタン・デバイス』が発進していき、インフィニティもカタパルトからドール隊やブロードソード戦闘機が発進していき、迎撃戦が始まった。そしてインフィニティのカタパルトデッキが開き、キオは発進準備する。

 

「セイレーン!行くぞ!!」

 

セイレーンが飛び立ち、向かってくるタイタン・デバイスに向けてHEーRifleを撃つ。するとフォルトゥラーから空間魚雷が一斉に放たれ、インフィニティに向かって行く。イリーナが率いるドール隊がそれに気づき、急いで防衛する。

 

「魚雷だ!!墜とせ!!」

 

ドール隊のアサルトライフルやマシンガン、ビームライフルが弾丸やビーム弾が空間魚雷を破壊して行く。

 

「埒があかない!!」

 

キオはこのままだとみんながやられる事を考え、一人で艦隊の包囲網の中へと突撃した。フォルトゥラー艦隊ブリッジではデウス・コフィンの兵士『ラフィン・トルーパー(笑う騎兵)』達がこちらに向かってくるセイレーン・デバイスに気づく。

 

「セイレーンを確認!!天の聖杯の物と思われます!」

 

「直ちに迎撃準備を!」

 

フォルトゥラーの艦長がラフィン・トルーパーに命令し、急いで迎撃準備をする。キオは空間を舞い踊りながらフレシキブルアームキャノンからビームソードを展開し、タイタン・デバイスのマシンガンの弾丸を暴発させ、タイタン・デバイスを両断していく。そして光の剣であるモナドからエーテル波を放出するモナドブレードを突き上げ、フォルトゥラーの艦橋目掛けて振り下ろした。

 

「避けろぉぉぉぉっ!!」

 

艦長が回避命令を下すが遅し、艦橋がエーテル波の刃により切られ、フォルトゥラーの一隻が撃沈された。キオが戦っている中、インフィニティではある作戦が立てたらていた。それはカタストロフィーに向けてプロトン爆弾を積んだ爆撃機で一気にカタストロフィーだけを殲滅すると言う作戦。成功すればフォルトゥラー艦二隻は強大な戦力が喪失された事に慌て、急いで撤退を試みる筈。既にインフィニティから爆弾を積載した爆撃機『スパローホーク爆撃機』とT字型のエーテリオン新型爆撃機『オウルホーク重爆撃機』合計約11機が発進し、護衛のドールである『Formula』と『Lailah』が配備されていた。そして艦隊の包囲網中にいるキオにラスキーからの作戦が伝達される。

 

『キオ!よく聞いてくれ!今からプロトン爆弾を積んだ爆撃機がカタストロフィー級ドレッドノートを破壊する。その為にはドレッドノートの全ての局所防衛対航空機砲と戦艦を覆っている偏向シールドが邪魔なんだ。そこにいるキオなら全ての偏向シールド発生装置を破壊してくれると思ってね!』

 

「喜んで引き受けましょう!」

 

キオは喜んでラスキーの頼みを引き受けると、キオの元にドール隊が集う。

 

「お伴します!」

 

計17機のUrbanがキオの元に集い、カタストロフィーへ突撃していく。そしてカタストロフィーからキオ達を阻害しようと126機のタイタン・デバイスと主力機である『TEE(Twin Ether Engine)チェイサー』60機が発進された。セイレーンを先頭に、キオはライフルを構え、レーザーやマシンガンの攻撃を回避していく。ドール隊のみんなも迎撃戦に入り、局所防衛対航空機砲と傾向シールド発生装置を破壊していく。

 

「全部倒してから行ったら時間がない!ラスキー艦長!今すぐ爆撃機を向かわせて!!ギリギリのとこまで来たら落とすように!!」

 

『分かった!』

 

ラスキーは承知し、急いで待機している爆撃部隊に連絡を取り入れた。そして各爆撃機が動き出し、カタストロフィーへと向かっていく。爆撃機がこちらに向かってくる事に気が付いた敵艦の艦長はトルーパーに命令する。

 

「あの爆撃機を撃ち落とせ!!」

 

フォルトゥラーやTEEチェイサー、タイタン・デバイスが一気に爆撃機に襲い掛かる。イリーナやグインのドール隊や護衛のドール、インフィニティもさらに苦戦する。

 

「くっ!!」

 

キオは急いで爆撃機の護衛へと向かう。爆撃機では応戦しようとするが、敵の集中火力に次々に撃墜されていく。そしてカタストロフィーで戦うドール隊の必死の攻防により、ついに傾向シールドが消え、カタストロフィーはガラ空き状態へとなる。後は爆撃機のプロトン爆弾をカタストロフィーへ誘導するだけ。爆撃機は既にプロトン爆弾投下準備が進められていた。

 

「良し!後は……」

 

だがその直後、一体のドールが破壊され、その残骸が空中に舞い、爆撃機に直撃した。だがまだ終わらなかった……プロトン爆弾が爆発し、爆撃機の残骸が他の爆撃機に飛び散り、爆発していく。結果残存した爆撃機は新型の一機だけであった。

 

「クソ!!」

 

キオは急いで残り一機の爆撃機を死守する。イリーナやグイン達も必死に爆撃機を護衛する。

 

「早く投下しろ!!」

 

「頼む!!」

 

「お願いだ!!」

 

みんなの願いが届いたその直後、爆撃機のコックピットが破壊される。

 

「っ!!」

 

誰もが絶望しかけたその時、爆撃機からプロトン爆弾全弾がエネルギーコア目掛けて投下されていく。無数の爆弾が爆裂していき、カタストロフィーのエネルギーコアを破壊していく。

 

「急いでこの次元から退避するぞ!!」

 

イリーナやグイン達は急いでインフィニティへ戻る。カタストロフィー全体に爆炎が吹き、その巨大な戦艦は燃え盛る艦橋と共に沈黙し、大爆発を起こす。巡回していたフォルトゥラー艦隊目掛けてカタストロフィーの残骸が飛び散る。カタストロフィーが撃沈した事に焦るデウス・コフィンは急いで撤退していく。するとカタストロフィーから未知の特異点が現れる。一人そこに遅れ残されたキオがその特異点を見る。

 

「何だあれは!?」

 

急激な吸引力に残存していたTEEチェイサー、タイタン・デバイスが吸い込まれていく。

 

「ヤバイ!!」

 

激しい引力にセイレーンが持っていかれる。しかし、脱出も間に合わず、キオは特異点へと吸い込まれて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

特異点は上空に現れ、そこから残骸が地上へ降り注ぐ。その中に機能が停止したセイレーンも出てくる。コックピット内ではキオはセイレーンの再起動させようと必死にシステムを弄りまくる。

 

「クソ!セイレーンが動かない!アルヴィース!そっちは!」

 

「……ダメみたいだね♪」

 

「仕方ない!モナドバリアでセイレーンに纏わせて、不時着するか!」

 

キオはアルヴィースの力を頼りに、セイレーンの周りにトリオン型障壁であるモナドバリア、さらにセイレーンの緊急時に使えるモナドシールドを発動させ、セイレーンを覆い尽くす。

 

「しょうがないなぁ♪」

 

「え?」

 

アルヴィースが突然指を鳴らす。すると特異点が現れ、中から巨大な鳥のような姿をしたものや恐竜のような姿をしたものなど様々な個体をしており、虹色の体と光の羽を持つ生命体が現れ、落下していくセイレーンの速度を抑え、助ける。ゆっくりと落下され、地面にゆっくりと着地したセイレーンは機能が回復したと同時に、謎の生命体は特異点へと消えたいった。キオはセイレーンの内部を点検する。

 

「何処も異常はない……アルヴィース、あの鳥みたいな恐竜は何だ?」

 

「……“テレシア”」

 

「テレシア?」

 

「(不浄な生命を刈り取る者)……ある世界の生命体だけど、あんまり彼らを道具のように従事していたら……命はないからねぇ。まぁ、君と僕以外は♪」

 

「俺とアルヴィースだけに従事するって……そんなにヤバイのか、テレシアって?」

 

キオはテレシアが恐ろしく思い、さらにアルヴィースに質問する。そしてアルヴィースが放つ言葉は……。

 

「うん、下手でもしたら、あっちやこっちの世界の住民や生命………………数日で“絶滅”するよ♪」

 

「っ!!」

 

アルヴィースの言葉に、キオの背筋が凍りつく。

 

「……まぁ、そんなに怯えなくても良いよ♪テレシアは僕やキオ以外は全て敵とみなしているし、命令されすればテレシア達は言う事を聞くから♪」

 

「へぇ〜……(ガクガクブルブル)」

 

キオは震えながら、ある事に気づく。草や苔で生い茂って並ぶ高層ビルと地面に……。

 

「ここ……何処?」

 

「……知りたければ、ここへ向かってくる“彼女さん”に質問すれば?」

 

「え?」

 

「それに隠れた方がいいと思う♪ハプニングが起こるから♪」

 

「何を言って…?」

 

アルヴィースの言葉通り、何かがこちらに向かってくる気配がする。キオは急いで高層ビルの屋上へ向かい、DMRを構える。そしてそれは現れた。上空から巨大なドラゴン群が現れた事に…。

 

「あれは……ドラゴン!?」

 

そしてドラゴンと共にパラメイルに似た赤い龍のような機体も一緒であった。ドラゴン達や赤い機体は着陸し、赤い機体の方ではコックピットから何かが出てきた。

 

「…………」

 

それはこの世とは思えない程の絶世の美女。黒くしなやかな長髪、青空のような瞳、薄紅色の唇、吸い付くような肌、さらに特徴だったのは彼女の背中と腰にドラゴンの翼と尻尾が生えていた事。

 

「……綺麗」

 

「……(惚れた♪)」

 

「何?」

 

キオは慌てると、未来視が起こる。彼女がカタストロフィーの残骸からあるものを拾う。それはエーテリオンで使われている筈のコアクリスタルであり、二つもあった。その時、残骸の山からガーゴイル・デバイスとタイタン・デバイス、生き残ったラフィン・トルーパーが現れ、彼女やドラゴン達に襲い掛かる。未来視はここで終わり、アルヴィースに伝える。

 

「っ!……アルヴィース!」

 

「僕もだ、彼女が危ない」

 

「行こう!」

 

キオは急いでSAW持ち、彼女達がいるカタストロフィーの残骸へと向かうのであった。



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第6話:新たなブレイド同調

何か……グダグダな展開で申し訳ございません……。
サラ専用のオリジナルブレイドでかなり時間をロスしました。


 

一方、カタストロフィーの残骸を調べているドラゴン達。指揮をとるのはキオが見た美しい美少女であった。美少女は残骸に落ちている物を拾い、考え込む。

 

「(このような技術…500年前の文明にもない物ですわ。一体どうやって……)」

 

「君!!」

 

「っ!?」

 

突然美少女の後ろから声が聞こえ、後ろを振り向く。そこにいたのは機関銃を構えた白い人がいた。

 

「何者!?」

 

美少女は警戒し、腰の刀を抜き、構える。

 

「早くそこから離れろ!!奴らが生きている!!」

 

「え?」

 

少女が不思議に思ったその時、残骸からタイタン・デバイスが現れ、左腕のスクラップドリルが回転しながら美少女に向けて突き刺そうと迫る。キオは腰部からプラズマグレネードを投げつけ、タイタン・デバイスの円盤状頭部に付着し、爆発する。タイタン・デバイスはぐらりと倒れ、転倒する。

 

「こっち!!早く!」

 

キオは少女の手を掴み、タイタン・デバイスから離れる。そして残骸からガーゴイル・デバイスとTEEチェイサーのコックピットから武装したラフィン・トルーパーが出てくる。

 

「天の聖杯のドライバー!!」

 

ラフィン・トルーパーはキオを見て、ブラスターをしまう。

 

「チッ!アルヴィース!」

 

キオはアルヴィースを呼び出し、光の剣を抜き構えると、ラフィン・トルーパー達はエナジーシールドを展開し、トンファー状の電磁コントロールバトンを取り出し構える。

(分かりやすく言えばファーストオーダー ストーム・トルーパーです。)

キオは光の剣を振り下ろし、ラフィン・トルーパーを攻撃する。しかし、ラフィン・トルーパーは光の剣の刃を防御し、コントロールバトンを振り回す。天の聖杯のブレイドであるアルヴィースの剣さえも意図も簡単に防御する事ができるデウス・コフィンの技術。トルーパー達は一気にキオを取り囲み、コントロールバトンで追い討ちをかける。そしてトルーパーのコントロールバトンの電磁波を流す伝導体接触ベーンがキオの腹部に炸裂し、吹き飛ばされる。

 

「ハァハァハァ…トルーパーってこんなに強かったか?嫌、スパルタン以上だ!」

 

トルーパーがとどめを刺そうとコントロールバトンを振り下ろそうとした直後、トルーパーの喉元に刀が突き刺さる。

 

「ヴッ!!」

 

それは少女の刀であった。キオは後ろを見ると、少女は鞘から刀を抜き、それをトルーパーに投げたのであった。キオは立ち上がり、剣を構えると、ガーゴイル・デバイスが爪を突き刺そうとキオに襲い掛かる。

 

「クッ!」

 

キオは受け止め、互角に戦う。すると転倒していたタイタン・デバイスが起き上がり、パイルブレードスマッシュアームを突き刺した。道路にヒビができ、そのまま崩れる。

 

「うわぁっ!!」

 

「キャァッ!!」

 

キオと少女は一緒に道路の地下へと落ちるのであった。

 

 

 

 

 

キオは薄暗い空洞の中で目を覚ます。瓦礫で出入口は塞がっており、ガーゴイル・デバイスは瓦礫で押しつぶされていた。

 

「あ、そうだ!」

 

キオは一緒に落ちた筈の少女を探す。

 

「無事か!?」

 

「ここです!」

 

「何処だ!」

 

暗くて何も分からなく、音を頼りに歩くと…。

 

「うわっ!」

 

「きゃっ!」

 

キオと少女がぶつかり、一緒に転倒する。

 

「痛つつ」

 

「大丈夫ですか?」

 

「うん、何とか…(何だ?右手や顔に柔らかいものが……)」

 

キオはアルヴィースを呼び出し、光の剣の光で自分を照らす。

 

「どうした?アルヴィース」

 

アルヴィースが突然目を瞑り、何かを見ないようにする。

 

「ん?……あ。」

 

キオは焦る。何故なら彼の右手には美少女の胸を自我でガッチリと触れて掴んでおり、さっきの顔に触れていた所は彼女の胸の谷間であった。少女は顔を赤くし、キオも赤くなり、二人は急いで距離を取らながら慌てる。

 

「あびゃっ!!ご、ごめん!!」

 

「はわわ!いえ、良いのです!」

 

二人の目がチラチラとお互いの顔を見る。アルヴィースはそんなキオに喜びを感じていた。二人が落ち着くと、キオは自己紹介するため、ヘルメットを脱ぐ。

 

「私は、神祖『アウラ』の末裔にしてフレイヤの一族の姫、近衛中将サラマンディーネと申します。」

 

「俺はキオ。キオ・ロマノフ……解放組織“エーテリオン”のスパルタンだ。」

 

「エーテリオン?スパルタン?」

 

「特異点から出てきた残骸は知っているだろ?あれは次元の中で俺達エーテリオンが今さっきまで破壊した敵戦艦の残骸だ。」

 

「お待ちください!急にエーテリオンやスパルタン、そして敵戦艦と言われましても!」

 

「…………仕方ない。長くなるが、説明しよう。」

 

キオはサラマンディーネにキオ達エーテリオンや自分の目的、そしてXとそれを率いるデウス・コフィンの事を教える。

 

「何て卑劣なのでしょう……あなたのその“ブレイド”アルヴィースを狙うために、エンブリヲと協力するなんて…」

 

「あぁ……俺は、アイツらを許さない。父さんと母さんを連れ去り、しつこく俺の天の聖杯のブレイドであるアルヴィースを狙っている。」

 

「………」

 

「そう言えば、サラマンディーネさんは…」

 

「サラと呼んでください。その方が呼びやすいと思いますわ♪」

 

サラマンディーネ改め、サラはキオに穏やかな笑顔を見せる。キオはサラの綺麗な微笑みにより顔を赤くする。

 

「そそそ!そう言えば、サラ!あの時、カタストロフィーの残骸で拾っていた二つの結晶石があるだろ?」

 

「えぇ、」

 

サラはキオに二つの結晶石を見せる。

 

「それは“コアクリスタル”と言ってね、俺みたいな人と同調する事で、コアクリスタルからアルヴィースのようなブレイドが生まれ、正式にドライバーとなる。アルヴィースは翡翠のコアクリスタルで、ちょっと特殊なブレイドなんだ。」

 

「……私も、ドライバーになれますか?」

 

「分からない、同調するという事はそれなりの覚悟が必要なんだ。俺は何人者の同調に失敗し、血を吐いた兵士達を見てきた。成功率は丁度50.0%で、二分の一なんだ。手本を見せてやろうか?」

 

「あ、お願いします。」

 

「貸して♪俺ならすぐに同調できる体質だから♪」

 

キオはサラからコアクリスタル一つを持ち、同調させる。キオの心が水のように静かになり、水面が揺らぐとコアクリスタルが光りだす。光が強くなり、コアクリスタルから黄金のキャノンと黒いコールドスリープカプセルが現れる。コールドスリープカプセルが開き、中から白のプロテクトアーマーをした女性型のブレイドが現れ、額や腰部のリニアスラスターからピンク色に輝くエナジーウィングが展開される。

 

「Kosmos Obey Strategical Multiple Operation Systems……貴方が私のマスターですか?」

 

「あぁ♪俺はキオ…こっちは最初のブレイドのアルヴィース。」

 

「どうも♪」

 

「どうぞよろしくお願いします。マスターキオ。」

 

コスモスは光の球体へとなり、キオの体の中へと入って行った。

 

「今のが?」

 

「うん、ブレイドだ。一般は男性型や女性型、屈強男性型と動物型に分かれているんだ。たまにそれと違って姿形が違うレアなブレイドが出てくることもある。さっきのコスモスみたいなレアブレイドもそうだ♪なぁサラ……一回同調して見ないか?」

 

「え!?」

 

「俺は未来視できるが、同調するとこは見れない。だけど君から何かを感じるんだ……“私もブレイドを持ち、ドライバーとなって見たい”と。」

 

「ですが、二分の一の確率ですし……」

 

「嫌、そうでもないんだ。サラから何か特別なオーラを感じるんだ。そのコアクリスタルも同じオーラが見える。しかも同じオーラなんだ。」

 

「でも……ブレイドが生まれたとしても…」

 

「なれば良いさ!互いの絆を結びつけば、ブレイドとドライバー、一心同体になる!君の自信を信じれば同調する♪」

 

キオはサラにドライバーへとなる勇気の言葉を言った直後、揺れがする。

 

「どうやら、君の仲間が殺されかけている…」

 

「誠ですか!?」

 

「行こう!」

 

キオはコスモスのキャノンを持ち、天井に風穴を開け、外へ出る。

 

 

 

 

 

外では対戦になっていた数百人生き残っていますラフィン・トルーパーがブラスターライフルやメガブラスターで、上空から応戦している大型ドラゴンに撃ちまくる。タイタン・デバイスやガーゴイル・デバイスが小型ドラゴンや大型ドラゴンに攻撃を仕掛ける。血塗れで地に堕ちゆくドラゴンの姿にトルーパーはふざけながら笑い飛ばす。

 

「フンッ!所詮は下等生物。」

 

「任務に戻れ、我々の目的は天の聖杯のブレイドとドライバーの抹殺。価値のないドラゴンなど相手する暇もない♪」

 

その時、何処からかエネルギー光弾が飛来し、トルーパーの頭部を貫通する。

 

《何処からだ!?》

 

「向こうの方だ!!」

 

その先にはコスモスのブラスターキャノンを手に、鬼の表情をしたキオと光の剣を持ったアルヴィースが立っていた。

 

「貴様ら……地獄へ落ちる覚悟はできてるだろうなぁ?コスモス!!」

 

「F・GSHOT」

 

キオはキャノンをコスモスに渡す。コスモスはキャノンを両手に持ち敵を蜂の巣状態にしていく。キオは背負っていたSAWを乱射し、トルーパーを倒して行ったり、コントロールバトンで攻撃してくるトルーパーにはコンバットナイフで首を掻っ切ったり、突き刺していく。アルヴィースも光の剣を振り回し、トルーパーを薙ぎ払っていく。するとタイタン・デバイスがキオとアルヴィースに襲い掛かろうとする。するとアルヴィースが指を口に入れ、指笛を吹く。するとタイタン・デバイスの頭上に巨大な特異点が開く。そこからドラゴンと思わせる巨大なテレシアが現れ、タイタンに襲い掛かる。(分かりやすく言えばクロスに出てきたオーバード“終焉のテレシア”ですwww)

 

「テ!テレシアだ!!撃ちまくれ!!!」

 

トルーパーはテレシアに恐れを感じ、必死に抗戦する。しかし、テレシアの周りには元素であるエーテルの膜が張られているため、ブラスターのエネルギー弾でさえも無効化にしていた。

 

「そんなバカな!?」

 

トルーパー・コマンダーが驚いていると、テレシアから拡散エーテル砲からエーテル粒子弾が放たれ、トルーパーを分子へと蒸発させていく。その光景にキオは青ざめる。

 

「不浄な生命を刈り取る者……まさにこれだ。」

 

テレシアがトルーパーを殲滅すると、残っているガーゴイル・デバイスとタイタン・デバイスが襲い掛かる。しかし、強力は体型と武装を持つテレシアに敵うはずもなく。あっという間にやられると思いきや、上空からテレシアに向けてターボレーザーが放たれる。

 

「っ!?嘘だろ!!?」

 

キオは驚く、テレシアに放ったターボレーザーの正体は残存したフォルトゥラー艦であった。

 

「アイツ等……援軍を呼んでいたか!」

 

するとフォルトゥラー艦から一体のドールが現れる。それは白いカラーリングを塗与されている高起動型ガルドラと四機のクムーパであった。キオはSAWを構えると、ガルドラのコックピットから紫髪の女性トルーパーが姿を見せる。

 

「お前は?」

 

「初めまして、天の聖杯の坊や♪私はデウス・コフィンの『ニライ』」

 

「ニライ……何の用だ?」

 

するとニライはキオ目掛けてクナイを投げてきた。キオは驚き、腕で防御する。

 

「クッ…」

 

腕に二本のクナイが突き刺さると、ニライは返答する。

 

「あなたの命の抹殺と天の聖杯の回収よ♪あと総裁X様からあなたの体の中にある“ロゴス”と“プネウマ”も♪」

 

「『ロゴス』と『プネウマ』?何だそれ……」

 

「どうやら、あの二人に聞かれていないのね〜。まぁ、良いわ……早速だけど♪」

 

ニライ親衛隊のクムーパ達がビーム砲を構える。

 

「セイレーン!!」

 

すると上空の彼方から光の槍がクムーパ達に突き刺さる。

 

「っ!!?」

 

キオの頭上からセイレーンがエナジーウィングを展開し、セイレーンの頭頂部にビームリングも展開され、フレシキブルアームキャノンを構える。

 

「ひ!卑怯ですわ!!」

 

「どの口がそれを言う!!」

 

セイレーンは降下し、キオは乗り込む。ニライのドールであるガルドラとキオのデバイスであるセイレーンは戦闘を開始する。その光景に見とれるサラとアルヴィースとコスモス。

 

「私も行きます!」

 

「止めておけ」

 

「何故です!?」

 

「今はこっちが最優先だ」

 

アルヴィースが目の前にいるトルーパー達とフォルトゥラーから転送されてくるトルーパーとTEEチェイサーが飛来してきた。その数にサラは驚く。

 

「どうすれば……」

 

「方法ならある。君が持っているコアクリスタルを同調させ、ブレイドと共に倒す。」

 

「え!?」

 

「大丈夫♪君ならできる。キオが言っていただろ?互いの絆を結びつけば、ブレイドとドライバー、一心同体になる!君の自信を信じれば同調するって……」

 

アルヴィースがキオの言葉を言うと、サラは持っていたコアクリスタルとの同調を始める。

 

「集中……」

 

サラはコアクリスタルに集中すると、コアクリスタルが光りだす。トルーパーがサラの同調を阻害しようとブラスターを向けると、アルヴィースが光の剣で叩き斬る。

 

「邪魔をしないで貰おう♪」

 

アルヴィースとコスモスが防衛する。そしてコアクリスタルが光り出し、サラとの同調が成功する。コアクリスタルからブレイドが生まれる。星煌めく龍神を模した聖弓、天馬の如く輝く聖なる矢、翼を広げ、周囲にプロミネンスを発する半人半馬のブレイドであった。

 

「我が名は……『アイロス』!」

 

アイロスと名乗るブレイドは前足を上げながらいななくとプライマルアローの弓弦を引き、上空に浮遊するフォルトゥラー艦目掛けて矢を放つ。放った矢が金色に輝き、フォルトゥラー艦を貫き、艦橋ごと射抜いた。艦橋が大爆発し、ブリッジを失ったフォルトゥラー艦が沈黙する。戦っていたニライが驚く。

 

「一体何が!?」

 

「どうやらサラ……同調に成功したみたいだな♪」

 

キオが喜ぶ中、アイロスはサラを見る。

 

「お前が我の主君か?」

 

「……え?はい!」

 

「主君よ……我と共に戦おう!」

 

アイロスはサラにプライマルアローを手渡す。トルーパーがサラ目掛けてブラスターを乱射する。アイロスはサラを援護するかのように手をサラの方へ伸ばし、モナドシールドでサラを包み込み、守る。サラは弦を引き、無数の光の矢を展開し、一気に放つ。光の矢は蛇のように動き、トルーパー目掛けて矢が炸裂する。その光景にニライは舌打ちする。

 

「チッ!まさかアイロスと同調するなんて…」

 

「よそ見してんじゃねぇ!!」

 

キオがHEーrifleを乱射し、ニライを追い詰める。しかしニライは運良く回避し、キオに告げる。

 

「今日の所はここまでにしておくわ。だが覚えておきなさい……あなたの中に眠るロゴスとプネウマ……そして“ウーシア”を手に入れ、我らの悲願を完遂させるわ」

 

「ウーシア?」

 

「話は以上よ……それじゃ♪」

 

ニライはそう言い、特異点を開き消え去った。

 

数分後、キオの所に迎えのペリカン降下艇が飛来し、セイレーンの回収作業が行われていた。

 

「行くのですね」

 

「あぁ……向こうでやり残していることがあるからな。」

 

「お待ちください、このアイロスは?」

 

「ん?それはサラのブレイドだ。持っていっていいよ♪」

 

キオは無垢な笑顔をサラに見せる。

 

「///!!」

 

サラはキオの笑顔に頰を赤らめながら見惚れる。

 

「……ん?どうかした?」

 

「え?いえ……何でもありません\\\〜〜!」

 

サラの頭から湯気が立ち上り、キオは不思議に思いながら首を傾げる。そしてキオ達を乗せたペリカンは特異点を開き、エーテリオンの総本部へと帰還するのであった。

 



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第7話:タスクの決意・前編

異次元の彼方……そこに浮かぶ巨大なステーション。そうここがキオが務めているエーテリオンの総本部コロニー『エリュシュオン』。工業エリア、商業エリア、住宅エリア、ブレイドエリア、港エリアと言うサラ達のいる世界と同じ『楽園』であり、キオがいた世界では『新たな理想郷』とも言える場所であった。キオは任務を終え、キース艦長から休暇の許可がおり、商業エリアのカフェに来ていた。キオは端末を見ていると、ある事を思い出す。

 

「そう言えば……俺が助けた二人と、学校のみんな何しているんだろう?」

 

数日前にアルゼナルがある海域でドラゴンから助けたあの新人二人とエーテリオンに所属する前までの学園仲間事を思い出すキオ。ぼーっとしているキオにある人物が尋ねる。

 

「おや?キオさん♪」

 

「ん?ルーさん」

 

現れたのは人間と違い、青肌と2本の垂れた角が特徴の人物。彼はブレイドエリアでアーマーの追加品を販売している店の店長であり、キオの相談相手にもなっている。ルーの他に、セリカやロック、マ・ノン人やタツと同じノポン人、バイアス人(大樹の一族)、オルフェ人、ラース人、ザルボッカ人、アービターが率いるサンヘイリ人やハンターと言った様々な種類もいる。キオはルーに学園の友達の事を相談する。

 

「……要するに、会いに行きたいのですか?」

 

「うん、父さんと母さんが捕まる前まではみんな仲が良かったからなぁ。数日間もこうやってエーテリオンで活動しているから、アイツ等が無事か心配なんだ……」

 

「ふむふむ……なら、会いに行けばどうですか?」

 

「え?」

 

「いつ会えるか分かりません。ですが、行動すれば会える♪これぞ故事に言う“一か八か”です♪」

 

「……やってみます。あ、それとルーさん、何か奢りましょうか?いつも相談相手としてくれているから♪」

 

「良いのですか?ありがとうございます♪」

 

二人は仲良くカフェのメニューから料理を注文するのであった。

 

 

その頃、偽りの世界にある孤島……タスクは食料確保の為、パートナーであるヴァサラと一緒に釣りをしていた。

 

「ふぁ〜〜」

 

「だらし無いぞ、主よ」

 

「あ、ごめん」

 

タスクがだらけていると、ヴァサラの竿に動きがある。

 

「引いてる」

 

「まだだ。」

 

ヴァサラは何かを待つかのように竿の動きの様子を見る。

 

「良し!」

 

ヴァサラは竿を持ち、引き上げる。引き上げたのは大きな魚であり、直ぐに陸に引き上げる。食料調達を終えたタスクとヴァサラは洞窟に戻ろうと砂浜を歩く。

 

「いや~大漁大漁♪これでしばらくは食料に困る事はないな」

 

「ですね♪」

 

無人島でタスクはヴァサラに釣ってもらったたくさんの魚を獲る事ができて上機嫌だ。ふと、彼はある事を思い出す。

 

「どうしたタスク?」

 

「……え?嫌、何でもない」

 

「本当か?」

 

「本当だって♪」

 

「そうか、なら良いんだが……」

 

「……(何やってんだ俺……他の生き物の命を奪って…生きて……何の…ために?)」

 

タスクは不安げな心を感じながら歩いていると、砂浜にある物が打ち上げられていた。それは全身が純白に満ちた機械の天使であった。

 

「主……あれって。」

 

「あれは……ヴィルキス…!?」

 

 

 

 

 

 

数時間前、

 

「!!」

 

「あ。目…覚めた?」

 

「あ…え…あ…(ええ〜〜〜〜っ!?)」

 

タスクも顔を赤くし、アンジュから離れると机に置いてあったポットの水をコップに入れる。アンジュが辺りを見回すとすぐ近くに自分が着ていたライダースーツが置いてあった。

 

「君はどうしてここ、にぃ!?」

 

アンジュに尋ねようとしたタスクは床に落ちていたビンに足を取られ、バランスを崩す。そして、アンジュの股間や胸に顔や手を突っ込む様にして転んでしまうのだった。これにはアンジュも顔が羞恥で真っ赤になる。

 

「ご、ごめん!これはわざとじゃ「いやあああぁぁぁ!!!」ぐえっ!」

 

タスクが弁解する前にアンジュは彼を足で殴り、思いっきり蹴り飛ばす。そして、手首を縛っていたロープを力づくで千切るとライダースーツを持って浜辺の方へ逃げていった。倒れたタスクは起き上がり、焦る。

 

「ヴァサラ、俺何かした?」

 

「(充分した…)」

 

ヴァサラは呆れながら、タスクに説教する。そして説教を終え、タスクは彼女を追う。見ると砂浜に打ち上げられているヴィルキスに点検しながら、何かで怒りながら“それ”を踏みつけていた。タスクは彼女に問う。

 

「酷いじゃないか、君は命の恩人になんてこと──って!?うわぁ!!」

 

突然彼女がホルスターからハンドガン取り出し、タスクの足元目掛けて撃つ。タスクは慌ててそれを回避する。

 

「それ以上近づいたら撃つわ!」

 

「お!落ち着け! 俺は君に危害を加えるつもりはない!それに君はもう撃ってるし…!」

 

「縛って脱がせて抱き付いておいて…!」

 

「嫌…あ、あれは…」

 

タスクは流石にあの事には何も言えず、顔を赤くし、彼女は銃を握りしめながら睨む。

 

「目覚めなかったら、もっと卑猥で破廉恥なことをするつもりだったんでしょう!」

 

「もっと卑猥でハレンチ!?....ハァ、女の子が気を失っている隙に、豊満で形のいい胸の触感を味わおうとか、無防備で、体隅々まで触ろうとか、女体の神秘を存分に観察しようとか、そんな事をするような奴に見える....」

 

男は火に油を掛けるような言葉を放ち、彼女はさらに顔が赤くなり、銃を構える。

 

「そんな事をするような奴だったの!!!?何て汚らわしい!この変態っ!!」

 

「ご!誤解だ! 俺は本当に君を助けようと!!」

 

タスクは弁明しようとしたが、彼の足元にカニがいて、タスクの足を挟む。

 

「痛ああああああ!!!」

 

突然の痛さにタスクは驚き、彼女の方に倒れ込んで。彼女の股に埋まってしまう。

 

「はぁ!!!」

 

男はすぐに離れるも、彼女は真っ赤な顔で男はを睨みつける。

 

「うわあああああああああああああ!!!!」

 

タスクが叫んだと同時に銃声が鳴り響いて、しばらくすると…。

 

「変態!ケダモノ!発情期!!」

 

怒りながらタスクを蔓で簀巻き状態にして吊して去って行く彼女。

 

「あの~もしも~し、今のは事故…」

 

タスクの弁明に、彼女の耳には届いてなかった。一人ぶら下がって残されたタスクはため息を吐くと、茂みの中からヴァサラが顔を出す。

 

「主、大丈夫か?」

 

「ヴァサラ、いつの間に……」

 

「本部であるエリュシュオンから、キオ達が通信が入った。」

 

ヴァサラはタスクに通信モニターを見せる。モニター画面にはキオ、リン、タツ、エルマ、イリーナ、グイン、ジョンソン、アービター、ヴァンダム、さらにパスファインダー部隊隊長のラオとアヴァランチ部隊隊長のダグが映っていた。

 

《タスク/タスクさん!》

 

「皆んな!?」

 

タスクは彼女の事を話す。するとキオ達の表情がしける。

 

「え?何で皆んなそんな顔に?」

 

『そりゃ、怒りますよ!』

 

「え?」

 

「最低〜」

 

「えぇっ!?」

 

「それは良くないと思うわ…」

 

「えぇ〜〜っ!!」

 

リン、イリーナ、エルマの順でそう言われ、タスクは唖然する。キオも呆れながら注意する。

 

「お前バカじゃねぇのか?」

 

「え?」

 

「まぁ良い……それよりタスク、インフィニティが襲われかけた。」

 

「え!?」

 

キオは説明するインフィニティにデウス・コフィン超弩級戦艦であるカタストロフィーとフォルトゥラーが一気にインフィニティに攻め込んできて、キオや爆撃部隊の活躍のお陰で何とか振り切ることが出来たが、最強の戦艦であったインフィニティがとてつもなく被弾しており、エーテリオンの戦力もかなり減少してしまったと……。

 

「そんな…!」

 

「事実だ……幸いにも撃沈はされていないが、修理に物凄く時間が掛かる。」

 

「良かった……」

 

「本当…大変だったからなぁ……お。」

 

「どうしたのですか?」

 

「未来視が発動した……今日、雨が降るぞ」

 

「え?でも天気は──(ピトッ!)え?」

 

タスクの鼻に雫が落ちる。そして空が薄暗くなり、雨が降り注ぐ。

 

「ほらね♪」

 

「あ〜……」

 

「……女の子は丁重に扱うんだぞ♪じぁあ♪」

 

キオはそう言い、皆んなも通信を切る。

 

「女の子は丁重にか……ん?」

 

するとタスクの元にさっきの女の子がずぶ濡れで現れ、倒れふ。

 

「あの…大丈夫?」

 

「?」

 

よく見ると、彼女の顔がちょっとだけ真っ赤になっており、その女の子が吊り上げられているタスクに助けを求める。

 

「たすけ…て…」

 

「!」

 

手を男の方に伸ばした直後に意識を失い、その様子にタスクは急いで蔓を切り、女の子の元に向かい抱きかかえて容体を調べる。

太腿に蛇にかまれた所を見つけ、蛇にかまれたことを知り、急所口で傷口から毒を吸い出して処置をする。

 

そしてタスクは女の子を隠れ家に抱いて連れて帰って、泥で汚れた身体を拭いていた。

その時にアンジュの指輪を見て、自分の幼い頃の事を思い出す。

 

 

紅蓮の炎が破壊された街を覆い尽くし、一体の黒い天使と赤いエナジーウィングを展開する堕天使。彼方此方に破壊されたパラメイルとバラバラになったメイルライダーたちの姿もあった。

 

そしてそこに両親も息絶えて、幼い頃の自分は泣いていた。

 

《父さん…母さん!》

 

泣いている自分は違う方向を見ると、片腕を無くして歩いてくる黒髪の女性と女神のオブジェがついていた白い機体が目に映った。

 

 

「…ヴィルキス」

 

呟きながらタスクは呼吸が安定し寝ている女の子を見る。

何故彼女がヴィルキスに乗っているのか、何故あの女性の機体を彼女が受け継いでいるのかそう思う男であった。

 

 

 

夜となり、彼女が目を覚ます。気が付くと、最初に目覚めた洞窟だ。

 

「無理しない方が良いよ? 毒は吸い出したけど痺れは残ってから」

 

タスクが彼女にそう言い、彼女が身体を起こす。っとライダースーツじゃなくワイシャツ姿を見て気付き。思わずタスクを睨む。

 

「言っておくけど、動けない女の子にエッチな事なんてしてないからね」

 

タスクはそういいながら、煮込んでいたスープを器に盛り付ける。

 

「もう少し治療が遅かったら危ない所だったんだ。これに懲りたら迂闊な格好で雨の森に入ったらダメだよ」

 

「…余計なお世話だわ」

 

彼女は頼んでもいない顔をしながら明後日の方向を向き、タスクはスープの具をスプーンにのせてアンジュに向ける。

 

「はい」

 

「…え、何?」

 

「食事、君何も食べてないだろ?」

 

「いらないわよ! そんな訳の分からい物!」

 

女の子はそう言うが腹が空腹で鳴っている。身体が正直なのが彼女は恨めしくなってきた。

 

「変な物は入ってないよ、ほら」

 

渋々と口を開けて、食す。

 

「…不味い」

 

そう言いながらも口をアーンッとあける彼女。

男はクスリッと笑う。

 

「気に入ってもらえてよかったよ、ウミヘビのスープ」

 

ウミヘビと言う言葉にギョッとし、一気に飲みこむ彼女。

 

「少しは信用してくれた?」

 

「…」

 

女の子はまだ信用出来ない様で男見て、男は少し困った表情をする。

 

「出来ればもう殴ったり撃ったり、簀巻きにしないでくれると嬉しんだけど…」

 

「考えとく…」

 

そう言いながらまたアーンッとし、食べる。

するとある言葉を思い出す。確か、蛇にかまれた部分は…。っと少しばかり頬を赤くする。

 

「どうしたの?痛む?」

 

タスクは心配そうでアンジュに言う。

 

「さっき、毒を吸ったと言った…?」

 

「うん、そうだけど…」

 

「口で?」

 

「うん…ハッ! そ!それは…!」

 

タスクは気が付き弁明するが……。

 

ガブッ!!

 

「いだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだ!!!!」

 

「噛まないとは言ってない!!!」

 

何処を噛まれたのかは知らないが、何やら良い雰囲気な様子だった。

 

 

 

 

 

 

一方、エリュシュオン上層ブレイドエリアの格納庫では、キオが夜食にリンシェフの特製チキンカツカレーを食べながら、収納されているセイレーン・デバイスに新たな武装や追加パーツ、装甲やバーニア、スタビライザー、そしてマーキングを追加していく。

 

「良し……後はっと!」

 

キオはスプレーを持ち、セイレーン・デバイスの右肩に向けて赤き狼のエンブレムと左肩に向けて青き双頭の大鷲のエンブレムをペイントする。

 

「最後は……ドールに必要なギアを搭載して──……出来た!(これとタスクのアレスのギアと共鳴させれば、デウス・コフィンのカタストロフィーに対抗できる!)」

 

キオが喜ぶと同時に、ツインアイのカラーが赤から青へと変色するのであった。

 




次回…タスクのドールであるアレスとキオ専用にカスタマイズした新たなセイレーン・デバイスが輪舞します!!


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第8話:タスクの決意・後編

 

一晩経ってその翌日、ヴィルキスで男が工具で何かをしていた。

そこに少女がやって来て、それに男は気づいて向く。

 

「もう動いて大丈夫?」

 

「何してるの?」

 

「修理…かな」

 

タスクはヴィルキスの修理をしている事に少女は問う。

 

「…直せるの?」

 

「此処にはたまにバラバラになったパラメイルが流れ着くんだ、それを調べて行っている内に何となくね。そこの六角レンチ取ってくれる?」

 

少女の横にある六角レンチを取ってほしいとお願いされた少女はそれを取って男に渡す。

タスクはそれを受け取って作業を進める途中で少女がすぐに気にしていた事を聞く。

 

「マナで動かせばいいじゃない」

 

それにタスクは手を止めてしまう。

 

「どうして使わないの?、どうしてパラメイルの事を知ってるの? あなた……一体何者?」

 

少女の問いに男は険しい表情をする。

 

「…俺はタスク。ただのタスクだよ」

 

タスクはそう言って作業を再開する。

 

「いや、そうじゃなくて」

 

「あ!やっぱり出力系の回路が駄目になってるのか、でもこれさえ直せば無線は回復する。そうすれば君の仲間とも連絡が取れるよ」

 

タスクは原因を調べてくれて、直せば仲間が来るとそう少女に言う。しかし少女は…。

 

「…直しても無駄よ」

 

「え?」

 

その言葉にタスクは唖然としてしまう、少女は砂浜に座り海の方を向く。

 

「連絡しても誰も来ないし、帰ったって…誰も待ってないもの…」

 

「…本当にそうかな?」

 

タスクの意外な言葉に少女は顔を上げて向く。

 

「君はそう言うかも知れないと思うけど、実際本当に待ってくれない人はいないと俺はそう思うな」

 

「…なんであなたがそんな事分かるのよ」

 

「え、まあ、君じゃないから分からないけど…そうだ。修理が終わるまで此処に居たら? あの…変な事はしないから」

 

タスクの誘いを聞いて彼女はクスリっと笑い「そうね」と答えて再び海を見る。

その時に少女は思った。自分を助けてくれたタスク、最後に気遣ってくれたヴィヴィアン、彼女の心に何時しか凍りついていた心が少しずつ溶けていく様な感じがしていた。

 

 

 

 

少女がタスクと無人島で二人っきりで過ごしてから数日後、ヴィルキスの修理をしていた他に楽しい日々を過ごしてから、お互い打ち解けて行き。

二人は川岸で寝ころび、夜空を見上げていた。

 

「うわぁ…、こんなに星が見えるなんて」

 

「気が付かなかった?」

 

「空なんて、ずっと見てなかったから…。綺麗…」

 

少女は星を眺めて、その時にタスクが少女の手を握り、タスクが顔を赤くしながら言う。

 

「君の方が…綺麗さ」

 

「え?」

 

少女は少しばかりタスクの言葉にドキッとする。

良い雰囲気となり、二人が顔を近づけようとした時にタスクが何かを感じ取り、少女を押し倒し。静かにと言われる。

すると空にある物が見える。

 

「あれって…凍結されたドラゴン?それにあの輸送機…」

 

「デウス・コフィン…」

 

「え?」

 

少女とタスクは凍結されたガレオン級が見たこともない輸送機に運ばれて輸送されていくのを目撃した。

その時にスクーナー級一体が森から現れた、それは少女と戦っていたドラゴンの一体だった。

 

デウス・コフィンの輸送機はスクーナー級に襲われ、反撃するもむなしく全て撃墜されていった直後、輸送機から大きな影浮かび上がり、スクーナー級に飛びかかった。ガレオン級を輸送していた機体は全滅し、島の奥へと墜落した。

 

「逃げるよ!」

 

タスクは少女連れて逃げようとした矢先、ドラゴンを絞め殺した五メートルもある怪物。右腕にガトリング式のパルスキャノンを組み込まれ、身体の至る所が筋肉で膨れ上がっており、顔は悍ましい怪物へとなっていた。(整形失敗の様な感じです。)

 

「何…あれ!」

 

「デウス・コフィンが拉致し、人工的に改造した改造生物『オーク“Organic Crazy”』だ!」

 

タスクが説明すると、オークはタスクをスキャンする。

 

『ブレイド反応を確認…排除する』

 

オークがパルスキャノンを構えると、少女がハンドガンをオークに向け発砲する。しかし、オークの分厚い筋肉がハンドガンの弾丸が食い込み、血の一滴も出ないどころか、すぐさま撃たれたところから肉が盛り上がり、銃弾が弾き出されてしまう。

 

「嘘!?」

 

「そんなもので改造人間は倒されない!」

 

「じゃあ!どうすれば良いの!」

 

タスクと少女が言い争うと、オークはパルスキャノンを乱射してくる。タスクは少女を押し、ヒラリとかわす。

 

「そうだ!パラメイルなら!」

 

「でも修理が終わっていない!!」

 

「直して!早く!!」

 

「分かった!」

 

二人はヴィルキスがある海岸へと向かう。

ヴィルキスに着いた二人、タスクはすぐに修理に取り掛かり、アンジュはナイフでオークと立ち向かう。森の中から雄叫びを上げながら転がるオーク。

 

「私が相手よ!この豚ゴリラ!」

 

少女はオークの攻撃をすぐに避けて、それを見たタスクはすぐに取り掛かる。

すぐに直さなければは喰われてしまう、焦ってしまうが落ち着きながら修理を進めるタスク。

アサルトライフルで攻撃するも、オークの腕で弾かれてしまう。オークが少女を喰いにかかろうと時にタスクは急いでスパルタンスーツを装着し、オークの大口を受け止める。

 

「アレス!!」

 

森の方から起動音と共に、アレスが宙に舞い上がり、タスクの後方に着地した。

 

「あなた!その機体?それにその姿は!?」

 

タスクは遠隔操作でアレスに命令し、オークに戦わせる。

 

「今ここでバックウェポンを使ったら、被害が及ぶ……どうすれば…」

 

タスクが戸惑っていると、通信が入る。

 

『タスク、俺だ』

 

「キオ!?」

 

「オークの頭上にいる。離れて」

 

キオの言う通りに、タスクはアレスに命令し、オークから離れる。すると天空から赤外線レーザーがオークを標的にし、セイレーンのフレシキブルアームキャノンから光り輝くサテライトレーザーがオークを焼き尽くす。オークは悲鳴を上げながら、灰に満ちる。

 

「今のは!?」

 

少女がタスクに問うと、上空からエナジーウィングを展開し、セイレーンが降下してくる。セイレーンは砂浜に着陸すると、セイレーンからキオが現れる。

 

「タスク!」

 

「キオ!」

 

するとオークは立ち上がり、キオとタスクを睨む。

 

「ゴキブリ並みの生命力の高い奴だ……アルヴィース!」

 

「ヴァサラ!」

 

二人はそれぞれのブレイドを呼び、剣と刀を構える。オークがガトリングの如くパルスキャノンを乱射してくる。セイレーンがトリオン型障壁を展開し、二人を守る。アレスが前に出て、M-BLASTERを手に、オークを撃つ。セイレーンもアレスに続きHE−LIFLEを乱射する。白と黒の機体はオークの円周を周りながら、蜂の巣になるまで撃ち続ける。キオとタスクはその隙にオークへと走り、アーツを放つ。

 

「フォトンエッジ!」

 

「抜刀・疾風!」

 

それぞれのアーツの居合斬りがオークに炸裂し、オークの体が四つに分かれる。それを見ていた少女は唖然する。

 

 

 

 

その後、キオはリンと連絡を取り、リンが来ると同時にヴィルキスの修理を済ませる。

 

「終わりました!」

 

「ありがとう、リン」

 

朝日が昇り、一筋の日差しが照らす。オークに殺されたスクーナー級の死体は海へと襲われて、そのまま流されて行く。

二人は光景を静かに見届けていた。

 

「仲間を助けようとしたんだ。一緒に帰りたかったんだね、自分達の世界に…」

 

「……」

 

「これから、どうする?」

 

「……」

 

「一緒に来ない?」

 

「?」

 

「お、タスク。もしかして誘ってるのか♪」

 

キオが笑いながらタスクに問う。

 

「いや、そうことじゃなくて、綺麗で美人で可愛いかったから、それにこの子は一人で、ん?」

 

するとヴィルキスの方からヴィヴィアンの声が聞こえてきた。

 

『アンジュちゃ….ん、応答願いまーす!もう死んじゃってますか?死んじゃってるんなら、返事をお願ーい』

 

「何だ?」

 

「こちらアンジュ、生きてます」

 

『嘘っ!?アンジュ!?本当にアンジュなのっ!?』

 

「救助を要請します」

 

『りょっ!了解!』

 

ヴィヴィアンは慌てて通信を切り、アンジュの方はタスクの方を向いて、決意する。

 

「私、帰るわ…今はあそこしか...私の戻る場所はないみたいだから」

 

「うん、そっか」

 

タスクが頷いた直後、アンジュは突然タスクの襟元を掴み、顔を赤めて言う。

 

「いいこと?私とあなたは何もなかった。何も見られてないし、何もされてないし、どこも吸われてない、全て忘れなさい!!いいわね!?」

 

「え!?はい…」

 

二人のやりとりにキオはクスッと笑っていた。アンジュは優しく微笑み自分の名前を名乗った。

 

「アンジュ….アンジュよ、タスク」

 

「良い名前だ♪」

 

「そして、俺の名はキオ。キオ・ロマノフだ♪」

 

「リンリー・クーです♪リンと呼んで良いです♪」

 

「それじゃ、アンジュ♪」

 

タスクはそう言い、キオ達と共に森の中へと消えていった。

 

「変な人達……♪」

 

アンジュがそう言うと、上空からアンジュを迎えに来たサリア、エルシャ、ヴィヴィアンが乗っている輸送ヘリが飛来して来た。

 

 

 

そしてキオ達はタスクの両親や仲間が永眠している墓地で祈っていた。覚悟を決めたタスクは荷物をまとめ、アレスに乗る。キオとリンもセイレーンとurbanに乗り、エリュシュオンへと帰還する。

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、とある次元を超えた先の世界……不気味に揺らめくオーラを放ち、血のように真っ赤に染まった巨大結晶赤城『エルダーゴア・キャッスル』が輝いており、赤城周辺にはデウス・コフィンの艦艇であるカタストロフィーとフォルトゥラー艦隊が巡回していた。赤城の中枢部での天辺にある間の王座に、顔は細長く、目は淡い青色で、頭頂部から額にかけて大きな傷跡が残っていた。また、右頬の傷跡ないし火傷のせいで口が歪んでいるように見え、飾り気のない外套を着用した老人がいた。そうこの老人こそがキオ達エリュシュオンの最大の敵であるデウス・コフィンの最高指導者『総裁“X”』であり、エンブリヲと組んだ者であった。周りにはXを守るかのように十二人の赤きプロテクターとアーマーを身に付けた近衛親衛騎士隊『プレトリアン・ナイト』が並んでいた。そして王座の間に、金色の長髪に背広を着た紳士的な印象の青年が膝ま付く。

 

「エンブリヲよ、お前に命を出す。マーメリア共和国の学園の生徒達を人質に取り、天の聖杯を奪い取れ。ドライバーは……殺すか、捕らえよ…」

 

「えぇ♪最高指導者Xの命なら喜んで……」

 

エンブリヲは不適な笑い顔を表し、その場から消える。

 

「…………フェイト」

 

Xの声に現れたのは、黒い甲冑を着用している武士『フェイト』であった。

 

「はい、最高指導者……」

 

「エンブリヲとニライとカナイ、ディストラと共に“あの二人”を学園の生徒達と共に人質にしろ……ドライバーは構わず現れる。それに……相手をしたかったのだろう?」

 

「……えぇ。」

 

「ならば行け……お前に“バンシー・デバイス”を託すぞ」

 

「仰せのままに…」

 

フェイトは命令に従い、その場から消える。残されたXは目の前に飾られている物を見る。

 

「我が愛娘よ……」

 

Xの左手には青いコアクリスタルと赤いコアクリスタルが輝いており、目の前の美しい美少女の肖像画を眺めるのであった。



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第9話:囚われの学園

ここではない何処かの世界……高原が広がる大地、天空に浮かぶ数多の大陸、幼き少年はその世界に迷い込み、色んな花々が咲く花畑へ辿り着く。

 

「お父さーん……お母さーん……」

 

少年は父と母を探すが、誰もいなかった。

 

「父様〜!母様〜!」

 

「?」

 

すると花畑から別の声が聞こえてくる。女の子の様だ……少年は声がする方へ走る。

 

一方、少女の方もこの世界に迷い込み、両親を探していた。花畑の中を駆け走り、誰かとぶつかった。

 

「「痛っ!/痛い!」」

 

ぶつかった二人は尻餅付き、二人ともたんこぶが出来る。

 

「何すんだよ!」

 

「そっちこそ!」

 

「「?」」

 

少年と少女は互いを見る。少年は少女の姿に驚く……なぜならその少女には色鮮やかで露出が少しある服装、アイシクル・ピンクの羽と尻尾、黒の短髪の可愛い女の子であった。少女の方も少年を見る黒の短髪、紳士な服、首にぶら下げた翠の結晶石のペンダントをしていた。

 

「見せて♪」

 

「え?うん……良いけど…」

 

少年は少女にペンダントを見せる。

 

「……もーらい♪」

 

少女は少年のペンダントを取り上げ、花畑を走る。

 

「あ!返せ〜〜!!」

 

少年も少女に取り上げられたペンダントを取り返そうと追い掛ける。二人は幸せな笑顔で駆け回り、そして少年は少女の手を掴むと、一緒に転ぶ。少女が少年に抱きつき、少年が少女を支えていた。

 

「……」

 

「……」

 

「「プッ……アハハハハハハハ♪」」

 

二人は花畑に寝転がり、一緒に笑いながら風で舞う花弁を一緒に見上げるのであった。

 

 

 

───────────────────────────────────────

 

 

キオとタスクの自室……人工太陽が放つ朝日が差し込む窓が部屋を照らす。二段ベッドの上で寝ているキオと下で寝ているタスクは起き上がる。共に歯を磨いたり、共に食堂で朝食を摂る。するとキオがタスクに夢の事を話す。

 

「浮遊大陸がある高原?」

 

「あぁ……詳しくは分からないが、俺が九歳の頃にその夢が見れるようになったんだ……それにその夢の中の俺、6歳ぐらいだっし。」

 

「それってキオがまだ子供だったからじゃないの?」

 

「そうでもないんだ…俺がそんな夢を考えるか?それに竜の羽と尻尾が生えた女の子……あっちの世界のじゃあるまいし、世界観が違うし。」

 

「あっちの世界?」

 

「…………事情があったんだ。そこまでは言えないけど……」

 

「だけど?」

 

「夢に出てきた女の子…………めっちゃ可愛かったなぁ〜…」

 

「……」

 

タスクが口を開けて唖然する。

 

「何、唖然としているんだ?」

 

「え、いや……君も女の子に思い心があったんだなぁっと……それで、続きは?」

 

「……それが、良く思い出せないんだ」

 

「え?」

 

「その夢を見た翌日、何もなかったかのように忘れてしまうんだ。でもさっき話したその夢だけは良く覚えているんだ。」

 

「不思議だなぁ〜。キオが見る夢……」

 

「……タスク、すまんが頼みがあるんだ」

 

「?」

 

キオはタスクにある頼みを申し出る。

 

 

 

───────────────────────────────────────

 

 

マーメリア共和国、ロマノフ邸跡地

 

数ヶ月前の戦闘で邸は無残に焼け跡となり、ただあるのは黒く焦げた柱であった。キオは焼け跡地から唯一焼けていなかった父の書斎室の本を見る。

 

「父さんの本……」

 

キオは父との思い出を思い返していると、車のクラクションの音が鳴る。キオは振り向くとそこに現れたのはキオの同級生の四人であった。

 

「「「「キオ!?」」」」

 

キオの同級生である『ノア・ベレッツァ』『オリバー・ロー』『アリアンナ・ティグリス』『オスカー・リビングストン』が車から降りてくる。

 

「キオ、心配したんだぞ!」

 

オスカーがキオに問う。

 

「ごめん…色々あって、連絡が出来なかったんだ。言い訳は言わない……皆んな、ごめん……」

 

「「「「……」」」」

 

「……まぁ、これは置いておいて……キオ、おかえり♪」

 

アリアンナがキオやみんなを励ましたり、キオにおかえりと一言を言う。

 

「そう言えば、学園のみんなは?」

 

「皆んなお前の事を心配してたぞ、特に校長がな♪」

 

オリバーがそう言い、キオ達を車に乗せ、学園へと向かう。

 

 

 

学園ではキオの無事を待っていたクラスメートや先生方も待っていた。校長に呼ばれたキオは校長室に入る。

 

「失礼します…」

 

「座りたまえ」

 

キオはソファに座り、全てを話す。

 

「アルヴィース…KOS-MOS Re…」

 

キオの身体からアルヴィースとKOS-MOS Reが現れる。

 

「!?」

 

「校長……全てを話します。」

 

キオは校長にロマノフ邸の事やデウス・コフィン、エーテリオン、この世界の真実を説明する。

 

「そんな……」

 

「事実です。俺達が使っているこのマナの光……その正体は同じ人を殺し、その心臓から摂取しているドラゴニウムで安定しているのです。ノーマはドラゴニウムを回収させる為の道具……エンブリヲは俺たちマナの光持つ物をただの操り人形として扱っているのです。」

 

「そ、それでは……私達が使っているマナの光の情報欄は!?」

 

「恐らく……全部デタラメ、偽造でしょう。人を本能的にプログラムする為に……」

 

「……くっ!」

 

校長は拳を握りしめ、自分の中の血に罪悪感を抱く。

 

「……そこの四人、隠れていないで出てきたらどうだ?」

 

アルヴィースとコスモスが校長室のドアを開ける。するとドアからノア、オリバー、オスカー、アリアンナが倒れ込むように現われた。

 

「キオ!本当なの!?」

 

「……あぁ」

 

「それじゃあ、ロマノフ邸が火災事故って言うのは!?」

 

「全部嘘……本当は────っ!?」

 

突然キオが窓の方を見る。そして未来視が発動し、目の前の光景が火の海となる。そして戦っているキオとタスクの前にエンブリヲとニライ、そして彼女と瓜二つの女性と筋肉質の男性、黒い甲冑を見にまとった武人が刀を構え、キオに襲い掛かる光景が見えた。未来視が終わると、キオは光の剣を持ち、窓の方を向く。

 

「来る!離れて!」

 

《え?》

 

その時、窓のガラスが一斉に割れ、生徒達はパニックになる。そして校長室の割れた窓から黒いアーマーを装備したラフィン・トルーパーが侵入し、バイブレーションソードとエナジーシールドを構える。コスモスが校長達を守りながら後方に下がる。キオはスパルタンスーツを装着し、ラフィン・トルーパーと戦う。トルーパーはエナジーシールドで防御しながらバイブレーションソードでキオを追い詰める。

 

「す、すげぇ!」

 

オリバーが感心していると、ラフィン・トルーパー達がコスモスに迫る。すると壁が左の壁が吹き飛び、ヴァサラの刀を持つタスクが現れた。

 

「スパルタンだ!!」

 

トルーパー達はブラスターライフルをタスクに向けて乱射するが、タスクは刀を振り回しながらブラスターライフルのエネルギー弾を霧散していく。そしてキオは倒したトルーパーの死体を盾に、コスモスのキャノンを背負いながら突撃する。近距離まで近づいたら、死体を放り投げ、格闘技で次々とトルーパーを倒していく。しかし、校長達を守るのが精一杯なキオとタスク。

 

「クソ…数が多すぎる。タスク、付いてこれるか?」

 

「言われなくとも!」

 

キオとタスクはアサルトライフルを構えたその直後。

 

「待て……」

 

別の声がトルーパーの攻撃を止めさせる。するとトルーパー達の中から金髪で紳士の青年が来る。

 

「「エンブリヲ!!」」

 

キオとタスクは武器を構える。

 

「アイツが!?」

 

「私達を操っている化け物って?」

 

アイナノアが呟くと、エンブリヲは返答する。

 

「フフフ、化け物とは酷いなぁ……“調律者”と呼んでくれ♪」

 

パチンッ!!

 

「「「「う!!」」」」

 

「皆んな!!」

 

エンブリヲの指鳴らしと共に、オスカー達の目のがまるで死んだ魚のような目をしていた。

 

「エンブリヲ!オスカー達に何をした!?」

 

「分かっているだろ?この人間達を作ったのが……誰なのかを♪」

 

エンブリヲはそう言い、オスカー達の手がキオを掴む。

 

「クッ!すまん、オスカー!」

 

キオは捕まえようとするオスカーの頰を殴り、校長やアイナノア達を空手チョップで目を覚ましていく。

 

「痛ぇぇぇっ!!何で頰がこんなに!?」

 

オスカーは殴られたことに、正気を取り戻した。

 

「卑怯だぞ!」

 

タスクはエンブリヲに向けてハンドガンで撃つ。しかし弾丸はエンブリヲの身体をすり抜ける様に後ろの柱に当たる。

 

「クッ!」

 

弾丸がエンブリヲの身体をすり抜けたことにオスカー達は驚く。

 

「弾丸がすり抜けた!!?」

 

「焦るだけでマナの障壁が出来るはずなのに!?アイツ平気そうな笑顔をしてやがる!!?」

 

「気持ち悪っ!」

 

オスカー達は次々にエンブリヲの悪口を言う。

 

「仕方ない…一旦体育館へ退避するぞ!!全員!退却!」

 

キオは発煙弾を投げ、トルーパーの視界を遮断する。

 

「目を閉じて!」

 

さらに、発煙弾の他に閃光弾を投げ、二重に視界を遮断させる。キオとタスクはその間にオスカー達の為に、トルーパーの死体からブラスターガンやライフル、エナジーシールドとコントロールバトンをいくつか盗み、体育館へと急ぐ。

 

 

 

渡り廊下を歩くキオ一行は銃を向け、前進する。オスカー達もエナジーシールドを構え、ブラスターガンを向ける。その間にタスクはエリュシュオンにいるエルマ達に通信で援護要請していた。キオは目の前にいるトルーパー隊の様子を見る。

 

「(チッ……ブラスターキャノンと“オーク”や“ゴブリン”を引き連れてやがる)」

 

トルーパー隊の他に、二体のオークとオークと同じ異形な顔を持つその名の通り、小柄な身体をしており、手にはレーザートマホークとエナジーシールド、腰にはブラスターガンを装備していた。キオはオスカー達の武装と非武装の校長を見る。

 

「(……今の武装だと、あっちの方が上だ。どうすれば……そうだ!)アルヴィース……“テレシア”を呼んで」

 

「何をするつもり?」

 

「……代用だ」

 

「分かった♪」

 

アルヴィースが指を鳴らすと、トルーパー隊の頭上にワームホールが現れる。

 

「何だ!?」

 

そしてワームホールから無数の小型、中型、大型のテレシアが現れ、トルーパー隊やオーク、ゴブリンに襲い掛かる。その光景はまさに地獄絵座であった。オリバー達はその光景に圧倒され、胃の中の物を吐いてしまった。タスクはテレシアを見て驚く。

 

「あれって、テレシア!?」

 

「あぁ、アルヴィースが呼んでくれた。幸いなことに、俺たちの味方でもある。」

 

キオはそう言うとテレシアに近づく。するとキオの目が翠へと変色し、テレシアに話す。

 

「アヤリィス ディボルティ ボーラメグメレント……ラフィンイビル ヘルママンガイアス。」

 

キオの奇妙な言葉に、テレシアが動き始める。外で生徒達を人質に捕らえているトルーパーに目掛けて、慎重にエーテルキャノンを放つ。解放した人質は何が起こったのか分からなかったが、テレシアが現れ、生徒達を脅かしながら体育館へと誘導させていた。その光景にノアがキオに問う。

 

「キオ、あの化け物になんて言ったの?」

 

「…………」

 

「キオ?」

 

そしてキオの目が元の色へ戻る。

 

「……え?何?」

 

「何って?覚えていないの?」

 

「何がだ?」

 

「どうなってるんだ、お前の身体……」

 

皆んなは不思議に思っていながらも体育館へ目指すのであった。

 

 

体育館ではテレシアに追いかけ回された生徒達が集まっており、一同はトルーパーやテレシアの恐怖で煽られていた。すると体育館のドアから何かをぶつける音が響く。

 

「もうダメだ!」

 

「私達、ここで死ぬんだ!!」

 

ドアは今にも破られそうになっており、絶体絶命。その時、ドアから光の刃が突き出る。

 

《っ!!》

 

一同はもうダメだと感じる。そしてドアが倒れ、光の剣を持ってオークを突き刺したキオ一行がただいま到着する。

 

「何あれ!?」

 

一同がおどおどしている中、キオはオスカー達を一同に引き渡す。キオとタスクはエンブリヲを探そうと体育館へ出ようとしたその時、体育館の天井が突き破られ、四人の影が下りてきた。一人は紅い鎧に水色のゴーグルを装着した巨体を持つ褐色の肌の大男。二人目はニライと分かるが、もう一人はニライと瓜二つ青い短髪の女性、最後は戦国武将のような黒い甲冑を見に纏った男であった。キオとタスクは武器を構える。

 

「何者だ!?」

 

キオが問うと、四人は自分達の名を答える。まず最初はゴーグルを装着した巨体を持つ褐色の肌の大男からであった。

 

「俺の名は…“絶滅のディストラ”」

 

次にニライと青髪の女性がそれぞれの呼び名を言う。

 

「私は“地獄のニライ”、こっちは私の双子の妹の“消滅のカナイ”」

 

「……囚われの鳥はたとえ籠から出ても……自由はない。自由を持たぬ鳥に大空は似合わない」

 

突然カナイが訳の分からない言葉を言う。

 

「ごめんね〜、カナイはネガティブな事を言うから気にしないでね〜♪」

 

「ニライ姉さん……行く手を阻まれる事こそが、幸福かもしれない。うふっ……ウフフフフッ♪」

 

不気味な笑い声を言い出すカナイ。そして漆黒の武人が鞘から刀を抜き、キオに突き付ける。

 

「キオ・ロマノフ……最高指導者“X”様からの命により、貴様を拘束する。そしてお前に贈り物がある……」

 

すると武人の後方から黒い機体が現れる。その機体にキオは驚く。

 

「黒いセイレーン!?」

 

あのセイレーンと違って全身が漆黒に染まっており、各スラスターから赤いエナジーウィングを展開していた。

 

「X様のデバイス……バンシー・デバイス!」

 

バンシー・デバイスの目が赤く輝き、両手に持っている物を見せる。それは光の球体であり、中には心配そうにキオを見る囚われのチャールズとマリアであった。

 

「父さん!母さん!」

 

「「キオ!」」

 

二人がキオを心配すると、武人は叫ぶ。

 

「俺の名は……“漆黒のフェイト”。天の聖杯のドライバーであるキオ・ロマノフに決闘を申し込む!!」

 

フェイトは刀をキオに突き付け、決闘を申し込む。キオは父と母を助ける為、決闘に申し出るのであった。

 



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第10話:トリニティ・プロセッサ

またしても、グダグタですみません…


 

学園の上空、キオのセイレーン・デバイスとフェイトのバンシー・デバイスが浮遊していた。

 

観戦席で見るニライ達は平気そうな表情をしていた。その様子にオスカー達が不可思議に思う。

 

「アイツら、何であんなに平気そうな表情をしてやがるんだ?」

 

「分からない……だが、あのフェイトと言う人、只者じゃないと思う。それは俺やヴァサラも知っている……」

 

タスクが呟く中、上空にいるキオとフェイトは互いを睨む。セイレーンとバンシーはそれぞれのフレシキブルアームからビームソードを持ち、斬りかかった。白と黒、翡翠と深紅の閃光、蝶のように舞い、蜂のように刺すが如くの高速戦闘が上空で繰り広げられる。キオは未来視でフェイトの攻撃を回避する。フェイトも同じように、キオの未来視と同じ能力である“因果律予測”でキオの動きと軌道を読む。その様子にオスカー達は愕然となっていた。

 

「何か……凄い動きがキレッキレッに動くな……」

 

ビームソードのプラズマが迸り、互いの機体を圧倒していく。

 

「流石は天の聖杯“アルヴィース”に選ばれたドライバーだ。お前との決闘と相見えるはずなのに、こうも楽しくなるとは♪」

 

「良いのか?隙が丸見えだぞ?」

 

「言われなくとも!」

 

両者トリオン型障壁を展開し、一気に突撃を開始した。二つのバリアから衝撃波が放たれ、二機共々地上へ墜落していく。

 

「ちょっと!やばくない!!?」

 

「逃げろ!!」

 

タスク達は一斉に走り逃げる。そしてタスク達がいた観覧席へ不時着する二人。タスク達は恐る恐るセイレーン・デバイスとバンシー・デバイスに駆け寄る。するとコックピットから光の剣を持ったキオがヘルメットを脱ぎ捨てる。同じくバンシー・デバイスからフェイトも這い出てきて、刀を抜く。両者は互いの武器をぶつけ合う。

 

「スゲェ…二人ともほぼ互角じゃん!」

 

オリバーが感心する中、エンブリヲがマグナムを取り出し、キオの方に向ける。

 

「フフフ♪」

 

エンブリヲがマグナムのトリガーを引こうとした瞬間。

 

「おっと♪」

 

ディストラがエンブリヲのマグナムを取り上げる。

 

「何をする!?」

 

「邪魔はするなと、フェイトに言われているもんでね♪」

 

「チッ、あの若造…」

 

エンブリヲは舌打ちし、フェイトを睨む。キオとフェイト、互いに睨み合う。

 

「そろそろ決着をつけようか……」

 

「それもそうだな……」

 

両者は刃を構えたその瞬間、二人の頭上から巨大なテレシアが現れ、吼える。

 

「“終焉のテレシア”…」

 

「あのテレシア……サラの世界で現れたテレシアだ!」

 

すると終焉のテレシアがキオの方を見る。キオは光の剣を構えながら警戒すると、テレシアが舌を伸ばし、キオを舐め上げる。キオの身体中がテレシアの涎まみれになる。

 

「あ……あ…」

 

キオは震えながら、テレシアを見る。するとテレシアの触角から何かが飛んで来た。それは絵本や御伽噺に出てくる人魚の様な妖精であった。人魚型の妖精はキオの周りを飛ぶ。

 

「この妖精…何処かで…っ!?」

 

キオは妖精を見ていると、視界が白い光で覆われる。光が晴れると、目の前に映っている光景が変わる。そこは夢で見た謎の大地であり、浮遊する大陸の空域をテレシア達が飛んでいた。

 

「この大地……夢で見たあの…」

 

するとキオの横に首長竜が姿を現し、村と共に湖の水を飲んでいた。その他に、小生物達や中型、大型の生物達が不浄な生命を刈り取る筈のテレシアと共に生息していた。

 

「綺麗……」

 

キオは丘の上に立つと、在る所に目が入る。丘の下に綺麗な花畑で広がる高原であった。

 

「あれ?この場所……この花畑……ん?」

 

すると今度は花畑に誰がいる。よく見ると五歳ぐらいの少年と羽と尻尾がある少女が一緒に、近くにいる尻尾がポンポン丸い草食生物と遊んでいた。すると二人の近くに綺麗な女性が見守っていた。

 

「誰だ、あの人……」

 

「お前の本当の母親だ♪」

 

「え!?」

 

するとキオの横から黒い男が現れる。

 

「そう、あなたとあの子をずっと見守っているの…」

 

今度は背まで伸びている金の長髪女の子が語る。

 

「キオが幼少の頃……“ゾハル”の力で母親の故郷に迷い込んだ。そこで本当の母親が別世界に迷い込んだ龍の姫さんを一緒にずっと見守っているんだ♪」

 

すると後ろからアルヴィースが現れる。

 

「アルヴィース?」

 

「よう、久しぶりだなアルヴィース!」

 

「元気で何よりだよ、『メツ』♪」

 

「メツ?……それが…」

 

「俺の名前だ♪」

 

「私は『ヒカリ』……アルヴィースとメツと同じ、“天の聖杯”……」

 

ヒカリの放った言葉に、キオは驚く。

 

「天の聖杯!?」

 

「そう…天の聖杯は僕だけじゃないんだ。君の身体の中には、僕とメツ、ヒカリの三つの天の聖杯が封印されているんだ。僕は封印が解けたけど、そっちの二人はまだだがね」

 

キオはメツとヒカリを見て、二人に手を差し伸べる。するとメツは紫色のコアクリスタルへとなり、ヒカリは翡翠色のコアクリスタルへと、そしてアルヴィースは青空色のコアクリスタルへとなる。

 

「アルヴィース……メツ……ヒカリ……」

 

三つのコアクリスタルがキオの周りを周回すると、キオは歌い出す。

 

「風に飛ばんel ragna 運命と契り交わして

 

風にゆかんel ragna 轟きし翼

 

星に飛ばんel ragna 万里を超えて 彼方へ

 

星にゆかんel ragna 刹那 悠久を

 

凪がれ凪がれ慈しむ

 

また生死の揺りかごで柔く泡立つ……」

 

するとメツとヒカリが光り輝き、キオの両手にメツのモナド、ヒカリのモナド、そして背中にアルヴィースのモナドが装備される。

 

「行くよ…アルヴィース、ヒカリ、メツ!」

 

アルヴィース、ヒカリ、メツが三角陣形でキオを囲み、キオは叫ぶ。

 

「トリニティ・プロセッサ!」

 

三人のブレイドが光り輝き、今起こっている世界へと帰還する。

元の世界へ戻ってきたキオはアルヴィースに剣を渡す。

 

「何をするつもりだ?」

 

「すぐ分かる……メツ!」

 

「何!?」

 

キオの身体からメツが現れ、禍々しい闇のオーラを放つ剣を持つ。ニライとカナイ、ディストラはメツを見て驚く。

 

「“ロゴス”が起動しただと!?」

 

「と言うことは……」

 

「『トリニティ・プロセッサ』のリミッターが解除された……ロゴスとプネウマ、そしてウーシア。終わりだ……ゲームオーバーだ。」

 

三人のどよめきにエンブリヲは納得しながら、キオを見る。

 

「……(あれが……三位一体のブレイド。最高指導者“X”…お前には渡さない、あの力は私の物だ♪そしてお前達が恐れるテレシアも……)」

 

エンブリヲはそう考えながら、キオとフェイトの戦いを眺める。

メツのモナドを持ったキオはフェイトを睨む。

 

「ッ!!」

 

フェイトはキオの威圧感に圧される。他にも、ディストラやニライとカナイ、そしてエンブリヲでさえもキオの威圧感に圧されていた。

 

「………これ…は…!」

 

「……なんて…濃密な!」

 

「……グッ!!(これが…天の聖杯の本当の力!あの“メツ”と言うブレイド……凄まじい!)」

 

すると浮遊していたテレシア達が一斉に怯え出す。

 

「(テレシアの動きが……フフフ、そうか♪)」

 

エンブリヲはキオの隣にいるメツを見て、野心を持つ。キオはメツのモナドのプレートに「喰」と言う文字が表示され、付き構える。

 

「笑止……」

 

互いが一気に突撃し、フェイトの居合切りが先に入る。

 

「“モナドイーター”」

 

モナドが紫に光り出し、フェイトの刀をいとも簡単に切り、フェイトの身体に大きな切傷ができる。

 

「グッ!!」

 

傷口から血が噴き出し、血を吐くフェイトは感心する。

 

「力を奪い取ったのか……」

 

「…………」

 

「……み…見事だ」

 

フェイトはそう呟き、倒れる。

 

「……安心しろ、臓器に傷は付けていない。三日もすれば目を覚ます。」

 

「……余計なお世話を。」

 

フェイトはそう言い、気を失う。キオが去ろうとした直後、トルーパー達やディストラ達が武器を構えていた。

 

「そうはいかん……」

 

「どう言うつもりだ?」

 

「厄介者であるヒカリとメツが起動した以上……生かしては行かないんだ。」

 

ディストラがレーザー・アックスを構える。

 

「……時間切れだ」

 

「?」

 

すると上空からエーテリオンのフリゲート艦が飛来する。カタパルトから複数のドール隊が出撃し、TEEチェイサーとクムーパーと交戦し始める。

 

「チッ!」

 

ニライとカナイは急いで負傷したフェイトを担ぎ上げ、エンブリヲに命令する。

 

「エンブリヲ!早く転移を!」

 

「分かった……」

 

エンブリヲはディストラ達を転移させると、キオと終焉のテレシアを見る。すると終焉のテレシアがエンブリヲを睨みつける。

 

《(エンブリヲ……貴方は昔から、変わらないのですね。)》

 

テレシアのエンブリヲにテレパシーで呟き、他のテレシア達を連れて去る。残存していたトルーパー達はドール隊の戦力差に圧され、撤退していく。フリゲート艦からエルマ達やスパルタン、海兵隊、メイド隊が直ぐにオスカー達を保護する。チャールズとマリアの救出したキオは二人に抱かれていた。

 

「父さん、母さん…」

 

「キオ……その…」

 

チャールズとマリアはキオに隠していた事を戸惑いながらも話しかけるが、キオはそれを手を出して止める。

 

「良いよ父さん、母さん。俺は“英雄アデル”と別世界の皇女の子だとしても……俺は父さんと母さんの息子だ。それだけは事実だよ」

 

「キオ…」

 

マリアはキオの優しい言葉に目に涙を浮かばせ、その様子にタスクやオスカー達は感心する。するとキオの目が光り出し、未来視が発動する。最初は龍の女の子が幼いキオに歌っていたあの譜を楽しそうに聞いていた。次に雨の降る林檎畑、薄暗く雨が降る道に赤いツインテールの少女が何人もの検察官に殴り蹴られる光景、次にボロボロの服を着せられ、吊り下げられているアンジュに実の妹であるシルヴィア・斑鳩・ミスルギが鞭打ちをしており、ミスルギ皇国の民の前で喜びの声援を上げていた。最後に映ったのは終焉のテレシアが幼い頃のキオと龍の女の子に接近し、二人の胸に虹色のコアクリスタルが埋め込まれる。

 

「っ!?今の……」

 

未来視が終わり、元の光景に戻ったキオは二人から離れ、セイレーンに乗り込む。

 

「何処行くんだ!?」

 

タスクがキオに問うと、キオは大声で返答する。

 

「エンデラント連合で助けを求めている!ヤバイ事になりそう!」

 

キオはセイレーンの出力を最大に上げ、エンデラント連合へと向かうのであった。

 



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第11話:孤独の林檎

 

雨が降るエンデラント連合、薄暗い上空を飛空するセイレーンは林檎畑のある街上空へ来ていた。

 

「父さんと母さんが旅行で連れて来てくれた思い出があるなぁ、変わらない風景だ……」

 

キオは上空で街を眺めていると、リンゴ林のある小道に二台の警察官のパトカーが止まっており、その近くに人垣ができており、何だと恐る恐る覗いてみれば…一人の女の子が警官達にボコボコにされている場面だった。

 

しかもその時警察官が女の子の顔を踏みにじったモノだからキオの中にある怒りメーターは瞬時に振り切り、セイレーンからヘイロージャンプで降下し、その場にいる警官達を全員射殺した。雨水で射殺した警察官達の血が排水溝に流れ、キオは女の子を助け起こす。この時女の子は一瞬目をパチクリとさせるが、次の瞬間には敵意剥き出しの表情となり、自分に殴りかかってきたのだ。

 

……余程人に恨みを持っているのだろう。憎しみまみれの彼女の拳は大した威力はないものの、酷く冷え切っていた。自分を殴った後力を使い果たした女の子はそのまま気絶してしまった。

 

「強引だなぁ……あれ?この子、確か……」

 

キオは数日前の事を思い出す。アルゼナル甲板で第一中隊の中に、赤いツインテールの少女がいた事………。

 

このままでは風邪を引かせてしまうと思い、キオは彼女と一緒にセイレーンに乗り込み、人気のない場所へと移った。

 

 その後人気のない森の中にまでやってきた俺はそこ古い空き家を見つけ、少しばかり借りる事にした。暖炉もあるし、近くに水辺もある。寝具も埃まみれだがまだ使える状態になっているし、一休みするには十分な環境だった為、自分は彼女を横に寝かしてドラゴンの時と同様に看病を始めた。

 

今は自分の後ろで健やかに寝息を立てている。脱がした服も暖炉で乾かしていることだし、朝には目を覚ますだろう。

 

……一応言っておくが、彼女の服を脱がしたのは風邪をひかせない為の必要な処方であってやましい理由や気持ちなど断じてない。

 

そもそも意識の無い女の子に手を出すなど外道の所業。精神的にも弱っているみたいだしこのまま一晩様子を見ることにしようと思う。

 

雨が降り終わり、月の光が窓に差し込む中、キオの服の中に隠れていた妖精が肩に乗ってきた。

 

「?」

 

「キー…」

 

“キー”キオと言っているのか、妖精はキオを呼ぶ。

 

「……そう言えば、君はあのテレシアと一緒にいたけど、君は何者なんだ?」

 

「?」

 

「……名前は?」

 

しかし、妖精は首を左右に振る。

 

「……“フェイ”」

 

「?……ふぇ〜…い?」

 

「フェイ……君の名前だ♪」

 

「……フェイ♪フェイ♪フェイ♪」

 

妖精は改め、“フェイ”は喜びながらキオの周りを飛ぶ。

 

「フフ♪……」

 

月夜を眺めるキオは光り輝く三日月を眺める。

 

「あぁ…千の時の 輪廻の旅 繋ぎ合う 手と手 探 し求め 心交わし 息吹く風よ 新たな世界を飛べ……。」

 

キオはあの大地の時、ヒカリとメツを呼び覚ました歌の続きを歌う。

 

「(何だろう…何で俺この歌を知っているんだ?俺の知っている“あの歌”とは違うなぁ…)」

 

キオが歌っていた譜に興味を持つ。

 

 

 

 

 

「う…ん…」

 

ヒルダがぼんやりと目を開ける。まだハッキリしない頭の中、最初にその目に飛び込んできたのは見たこともない天井だった。

 

「…っ!」

 

次第に意識がハッキリして、ヒルダが上半身を起こした。

 

「痛った!」

 

全身に暴行を受けたときの痛みが走る。皮肉にもその痛みが現状を現実と認識させた。顔をしかめながら、ヒルダは辺りを見渡す。

 

「?…ここは…?」

 

高級そうな内装に日の光を多く取り入れるように造られた窓。ソファーにテーブル。そして自分が今、身を委ねているのはフカフカのベッドの上だった。隣を見ると、自分が休んでいるのと同じようなベッドがもう一つ設えられている。

 

「あたし…何で…こんな…」

 

意識を失う前にハッキリと覚えているのは舗装されていない畦道である。そこと現状のここは何をどうしたって繋がりようがなかった。

現状を理解するために再び視線をあちこちに走らせる。

 

「気がついたか?」

 

「えっ!?」

 

不意に声を掛けられビックリしたヒルダが慌ててその方向に目を向ける。そこには、見慣れた顔の男が立っていた。

 

「あんた!あの時の!」

 

「覚えていたか…」

 

近くにあった椅子を引いてそれに腰掛けた。

 

「傷の具合はどうだ?」

 

キオの服装は白と灰色のタートルネックと藍色のジーパン、キオのお気に入りの私服を着ていた。

 

「え…あ、ああ…」

 

一応答えたものの、今一つ状況が飲み込めずに答えることが出来ない。そんなヒルダにキオは言葉を重ねた。

 

「幸いにして内臓破裂や骨折といった重篤な症状は見られなかったんでな、俺が応急手当てをしたんだが、そこは勘弁してくれよ」

 

「え?…お前が?」

 

「ああ」

 

コクリと頷く。

 

「本当は医者に見せるべきなんだろうが、診療中に万一お前がノーマだと言うことがバレてしまうとまた大事になるからな」

 

「……」

 

ノーマ。その言葉を聞いただけで顔を伏せ、ヒルダは唇をかみ締めていた。そもそも自分がノーマだからこそこんな目にあったのだ。このときほどヒルダは自分がノーマであることを恨んだことはなかった。

 

「それと、手当てをするためにお前をそんな格好にしたが、そこは怒らないでくれ」

 

「格好…?」

 

ヒルダが己の身体を見下ろす。包帯やら何やらで確かに手当てされているが、それよりも身に付けてるのが上下の下着にTシャツ一枚であった。

 

「っ!」

 

少し全裸に近い格好になっていることに気付いたヒルダが慌てて布団を引っ張ると己の身体を隠す。そして、キオをキッと睨みつけ、彼に向けて強烈な蹴りが炸裂した。

 

「ゴベェッ!!」

 

キオは倒れ、ヒルダは下が見えないよう隠しながら、怒鳴る。

 

「この変態!スケベ!エッチ!!何勝手に私の服脱いでんだよ!!」

 

「あ…あ……」

 

キオの頰にヒルダの蹴り跡が残っていた。その時、キオからアルヴィースやヒカリ、メツ、コスモスが出てくる。

 

「あ〜あ…やっぱり」

 

「だから言ったのに、私がやろうかって?」

 

「こいつは女にデリカシーって言うのはないのか?」

 

「理解不能……」

 

アルヴィースやヒカリ、メツ、コスモスに散々言われる羽目になるキオ。その様子にヒルダは何が起こっているのかアルヴィース達を見て動揺する。

 

「な!?何なんだコイツら!?」

 

ヒルダは下がりながら、古いテーブルの上に置いてあったキオのハンドガンを向ける。キオは起き上がると、ヒルダがこっちにハンドガンを向けている事に慌てる。

 

「ば!バカ!こっちに向けるな!」

 

「うるせー!!」

 

ヒルダは構わずハンドガンを発砲する。キオは急いでスパルタンスーツを着装し、全身を覆う傾向シールドが弾丸を防御する。

 

「うわぁ!危ねぇ!これ着装してなかったら死ぬところだったぞ!!」

 

「あんたが私の服を脱がしたからだろうがぁ!!」

 

ヒルダはさらにエスカレートし、ハンドガンを発砲しまくる。

 

「お、落ち着け!!」

 

キオは必死に抵抗しながら、ヒルダに接近し、取り押さえる。

 

「くっ!」

 

ヒルダもキオに抗う。そしてヒルダの拳がヘルメットのバイザーに直撃する。バイザーにヒビが入り、キオはよろける。

 

「フン!ザマァ見ろ!」

 

「痛つつ……」

 

キオはヘルメットを脱ぎ捨てる。額から血を流すキオは腰からバイオフォームを取り出す。

 

「全く、世の中はこんな可愛い女の子まで乱暴な人に変えるのか?」

 

バイオフォームで血を流している額に向けながら治療すると、ヒルダの手を見る。

 

「……手ぇ貸せ」

 

「ちょっ!」

 

キオは怪我をしたヒルダの手にバイオフォームを流し込む。

 

「女の子は綺麗な手が一番だ。バイザー殴って、血が出ている手をそのままにするわけにはいかないだろ…」

 

「ハッ、お優しいこって」

 

大仰に肩を竦める。

 

「…そう言やあ、あのポリどもはどうしたんだよ?」

 

話の流れから自分を暴行した警官たちのことを思い出し、ヒルダが尋ねた。

 

「知らないな」

 

「はぁ?」

 

キオの返答に、思わずヒルダが面食らった。

 

「知らねえわけねえだろ! あの連中があたしをそのままにしておくかよ!」

 

「言葉が悪かったな。今どこで何をしているかは知らないって意味だ」

 

そしてキオが当時の状況を説明した。

 

「お前を見つけたとき、ボロ雑巾のお前を囲むようにして何かろくでもないことをしようとしていたからな、遠慮なく殺してやった。恐らく、今頃は仲良くどこかの病院の霊安室で眠っているんじゃないのか?」

「……」

 

こともなげにそう言うキオにヒルダは一瞬、二の句が告げなかった。が、すぐに自嘲気味に呟く。

 

「ハッ、ノーマのあたしを助けるためにポリぶちのめすなんて、テメエは馬鹿かよ」

 

「この世界では女である前にノーマなのかもしれないがな、俺にとってはノーマである前に女だ」

 

そう言い切り、淡々と言葉を続ける。

 

「相手が誰であろうと、どんな理由があろうと、何の抵抗もしない女性を集団で暴行するような輩にかける情けはないし手加減してやる義理もない。この世界の常識など知ったことか」

「……」

 

ヒルダは何も返せず、俯くとギュッと布団を握り締めた。

 

(何でこいつは、一々…)

 

こうなんだろう…。思わずヒルダは涙をこぼしそうになったが、グッと堪えた。そのまましばし静寂があたりを包む。

 

「何も…聞かねえのかよ…」

 

どれぐらい経ってからだろうか、ポツリとヒルダが呟いた。

 

「聞いて欲しいのか?」

 

同じようにキオもポツリと呟いた。

 

「自分から言い出さないということは、聞かれたくないということだと思ったから憚っていたのだがな。それに…」

 

キオはチラリとヒルダの姿に目をやった。

 

「その姿を見れば大方の想像はつく。芳しい結果にはならなかったんだろう?」

 

「フン」

 

つまらなそうにヒルダが鼻を鳴らした。

 

「あーあ、今思えば馬鹿な真似をしたもんだ。思い出だけに頼って、ママが待っていてくれるなんて」

 

「……」

 

「あたしらの居場所なんざ、この世界の何処にもないんだ。今更ながらに思い知らされたよ」

 

「……」

 

「もういっそ、このまま死んじまおうかな~」

 

自暴自棄になり、投げやりな態度でそう呟くヒルダ。すると、ここで始めてキオが行動を起こした。椅子からすっくと立ち上がると、ヒルダのベッドに腰を下ろしたのだ。

 

「な、何だよ…」

 

いきなり近寄られ、何をされるのだろうかと若干警戒するヒルダ。するとキオはいきなりヒルダの後頭部に手を回すと、そのままグッと力を入れて自身の胸に彼女の顔を抱いたのだ。

 

「なっ!」

 

予想外の行動にビックリして逃れようとするものの力を入れているのかビクともしない。

 

「て、テメエ、一体何を…」

 

ようやく顔を上げてキオを見上げると、ヒルダが文句を言う。だが、キオはそれに対して返答しようとはせず、ただ一言、

 

「泣け」

 

とだけ言った。

 

「はぁ!?」

 

何言ってんだこいつと言わんばかりにヒルダが怪訝そうな表情になった。

 

「何言ってんだ、お前?」

 

思ったことをそのまま口にするヒルダ。キオは視線を落とし、ヒルダの顔を見た。不意にその真っ直ぐな瞳に射抜かれたヒルダは何故か心臓が高鳴り、視線を外さざるをえなかった。

 

「母親から手酷い仕打ちを受けたんだろう?」

 

思わずヒルダの身体が小刻みに震えた。思い出したくないのか、表情も曇る。

 

「脱走なんてしたらどうなるか、わからないお前じゃないだろう。にもかかわらずお前は脱走をした。全ては母に会うために」

「……」

 

独り言のようなキオの言葉を黙って聞いている。

 

「その結果が、最悪といっていい形の結末を迎えたんだ。悲しくないわけがないだろう。虚勢を張っても痛々しいだけだ、見るに耐えない」

 

「だから…泣けってのかよ…」

 

「あぁ…存分に泣いていい」

 

キオが頷いた。

 

「悲しいときに泣けないのは不幸なことだ。それにここまできて、今更強がる必要もないだろう」

 

「っ、うるせーな! いいから放せよ!」

 

キオの拘束から逃れようともがくヒルダ。しかしその拘束はビクともしない。

 

「放せ!放せったら!」

 

さらにもがくヒルダ。しかし結果は変わらなかった。そのうち抵抗も弱くなり、そして……。

 

「う…」

 

さっきのキオの言葉で色々と思い出したのだろうか、目に涙が溜まってくる。それを見計らったというわけでもないのだろうが、キオがもう片方の手を背中に回してポンポンと背中を叩く。まるで幼い子をあやすかのように。そして、それが引き金となった。

 

「う…あ…あああああっ…」

 

ついにヒルダはキオの胸の中で泣き出してしまった。一度堰を切ってしまうとあふれ出た想いはそう簡単には止まらない。意識しようとせざると、ヒルダはキオの言葉通りその胸の中で泣き崩れることになった。

 

「……」

 

キオは黙ってそのままヒルダを抱きしめ、同じように背中をポンポンと叩いてあやす。本当の両親も知らないキオにとっては分からないのも当然、だが、キオは18年間も自分の子供として育ててくれた親の愛情を受け、ヒルダを励ます。二人は暫くの間、そうやって時間を過ごすことになったのだった。

 

 

 

 

 

「ZZZ…」

 

どれぐらい時間が経ったであろうか、キオに背を向ける格好でヒルダは寝息を立てていた。それを現すかのように肩が小刻みに上下している。

 

「泣き疲れて眠ってしまったか…」

 

キオは未だヒルダのベッドの上に腰を下ろしている。もっとも、彼女の邪魔にならないように隅っこに陣取る形ではあったが。

 

「……」

 

不意に、キオはヒルダに手を伸ばすと彼女のトレードマークであるツインテールに手を伸ばした。と言っても、キオに背を向ける形で寝ているので、片側だけしか手に出来なかったが。

そしてそれを掬い上げると、撫でるようにゆっくりと梳いた。

 

「お前に…いや、お前たちに何の咎があるって言うんだ…」

 

思わず口をついて出たそれは、前々から思っていた疑問だった。

 

「人を騙したわけでも、人を襲ったわけでも、ましてや人を殺したわけでもないのに、ただマナが使えないノーマというだけでこの仕打ち。そんなことがそれほど重要なことなのか?俺にはわからない…」

 

そのまま窓の外に目を向けた。往来を行き来する人々の姿が見える。

 

「あそこを歩いている連中とアルゼナルの面々。どんな違いがあるって言うんだ。マナの有無こそがこの世界で最も重要な意味を持つのかもしれないし、実際そうなのだろう。だが、やはり俺にはわからない」

 

もう一度ヒルダに視線を戻した。

 

「マナの有無で実の母親にまで拒絶され、裏切られて手酷い仕打ちを受けるとはな。…哀れな」

 

言葉通り、ヒルダを哀れむような目で見る。そしてその手に掬ったヒルダの髪をするっと滑らせて元に戻した。

キオはヒルダを起こさないようにゆっくりと彼女が寝ているベッドから立ち上がると、屋根の上に立つ。

 

『♪〜♪〜…♪〜♪〜…♪〜♪〜…♪〜♪〜』

 

星が見える屋根の上、キオは一人で歌い出す。

 

翔べるもの 安らかに 悲しみ 胸に 秘め

時の輪を 遥か超え この想い 届けたい

 

すべて 闇にのまれて 心なくして消える

でも あなたの 腕に抱かれ 吐息 蘇る

 

♪〜♪〜…♪〜♪〜…♪〜♪〜…♪〜♪〜…

 

翔べるもの とめどなく あふれる 涙 秘め

時の輪を 遥か超え 奇跡を 届けたい

 

すべて 闇にのまれて 夢を無くして凍る

でも あなたの 胸に抱かれ 吐息 蘇る

 

そして 永久に 包まれ 願い叶う場所まで

 

決して 心 見失わず 翔びつづけ 還る

 

♪〜♪〜…♪〜♪〜…♪〜♪〜…♪〜♪〜…』

 

歌を終えると、夜空にはいつのまにか流れ星が降り注いでいた。綺麗な星空を眺めながら、キオは眠りにつく。

 

 

 

 

 

夢境の中、幼いキオは龍の女の子の歌を聞いていた。

 

「綺麗な歌だね♪」

 

「うん、私の世界の始祖“アウラ”様から教えられた歌なの♪」

 

「アウラ?」

 

「私達を支えてくれる聖龍様なの!」

 

「会ってみたいなぁ……でも僕たちはこの世界でしか会えない存在…君の世界に行こうとしても、それぞれの世界の出入り口は僕と君を入れさせてくれない…」

 

「……ねぇキオ」

 

「?」

 

「二つプレゼントがあるの♪目を瞑って♪」

 

女の子は無垢な笑顔をキオに見せる。キオは女の子の言うことに従い、目を閉じる。キオの唇に女の子の唇を重ねたのだった。

 

「っ!?」

 

キオは慌てて、女の子に言う。

 

「な、何!?」

 

「これが一つ目♪キオ、大〜好き!!」

 

「うわぁ!」

 

女の子は大好きなキオに抱きつき、告白する。

 

「二つ目は!私、キオの“お嫁さん”になりたい!」

 

女の子の告白に、キオは……。

 

「うん!僕も─○○─ちゃんと一緒にいたい!だから─○○─ちゃん!将来僕の───になってください!」

 

「うれしい!」

 

女の子は頰を赤くしながら、キオと共に将来を誓い合ったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝、ヒルダの心が落ち着いたのか、どこか最初よりもマシな顔になっていた。

 

「――サンキューなキオ、少し吹っ切れたぜ」

 

ややそっぽを向きながら、そう礼を述べるとキオはやや驚きに眼を見張ってる。その反応にヒルダは不機嫌そうになる。

 

「な、なんだよ、その顔」

 

「いや…君が礼を言うなんて…」

 

「なんだよ、あたしだって礼を言うぐらいできるぜ!」

 

不機嫌そうに言われるも、実際これまでの経緯を振り返っても予想できないだけに、キオは小さく頭を掻く。その時、キオにタスクからの通信音が鳴り響く。

 

「もしもーし…」

 

『大変だ!キオ!』

 

「どうした?」

 

『ミスルギ皇国でアンジュが捕まったんだ!』

 

「は!?」

 

「どうしたんだ、急に?」

 

「ちょっと待ってろ!……どう言うことなんだ!?」

 

タスクはキオにアンジュの事を詳しく説明する。実は数日前、アルゼナルにアンジュに仕えていた侍女“モモカ・荻野目”が侵入し、アンジュがその子を養っていたと。しかし、彼女の元に皇室の回線が送られ、アンジュはミスルギへと足を踏み入れたの事であった。しかし、それはミスルギ皇室の策略であり、モモカを餌にして、アンジュの兄である神聖ミスルギ皇国皇帝『ジュリオ・飛鳥・ミスルギ』がアンジュを絞首刑にしようとしているとのことであった。

 

『だから頼む!助けてやってくれ!』

 

「……分かった、今から最大出力でそこへ向かう。ビーコンを発信してくれ…」

 

『分かった!』

 

タスクは通信を切る。キオがヒルダに説明すると、もちろんヒルダもアンジュを助けに行くと承知してくれた。

 

「へっ、上等だぜ! こんなムカつく世界、なんの未練もないね。それに、アイツに命を粗末にするなって言ったんだ。ムカつく奴だけど、死なれたら胸糞悪いしな」

 

ややそっぽを向きながらそう悪態をつくヒルダに、キオは小さく嘆息する。

 

「好きにしろ」

 

何を言っても無駄と悟ったのか、そう促すと、ヒルダはワンピースを着直し、掛けられていた布を羽織る。

 

「セイレーン!」

 

キオは森林の中に隠していたセイレーンを起動させ、遠隔操作でこちらに呼び寄せた。キオはスパルタンスーツを着装し、セイレーンに乗り込む。

 

「乗れ…」

 

キオはヒルダをセイレーンに乗せ、そのままミスルギ皇国へと向かうのであった。

 




次回はちょっと番外編になります。内容はサラとアイロスの物語に設定しております♪


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番外編01:弓の龍姫君

今回は真実の地球にいるサラの物語になります。


その頃、キオと出会い、アイロスと同調したサラは夢境の中である光景を見ていた。

 

「雨…止まないね」

 

「うん…」

 

夜光のように輝く密林、昼も夜も問わず永遠に光るその場所に雨が降り注ぐ。幼きサラと少年は大きな葉の下で雨宿りしていた。

 

「そうだ♪」

 

少年はポケットからビスケットを取り出し、サラと半分こするのであった。

 

 

 

 

朝になり、夢から覚めたサラは夢の事をDr.ゲッコーに検査してもらう。

 

「幼き頃の夢を見る?」

 

「えぇ、毎晩寝る度に奇妙な夢を見るのです。不思議な高原、森、渓谷、白い大地、炎の山、空の大陸……そして、私と一緒にいるあの少年。」

 

「……サラマディーネ様、恐らくそれは『思い出』かもしれません。」

 

「思い出?私にそんな思い出はない筈……」

 

「いいえ、もしかしたら……12年前の“あの出来事”のショックで、大脳部の側頭連合野に不可解なダメージが与えられたと思います。」

 

「12年前の出来事……」

 

 

────《回想》────

 

 

 

 

12年前……とある森にて、サラの父君と母君が娘を探していた。

 

「サラ!何処にいるの?返事をしてー!」

 

サラの母「ミレイ」とサラの父は森を隈なく探す。

 

「あの子無邪気だから、危ないところに行っていないと安心だけど……」

 

ミレイがそう思った時、薄暗い森の中に幽霊のように現れる青白く揺らめく炎が現れる。

 

「?」

 

ミレイが恐ろしく感じると、青い炎がもう一つ、またもう一つ現れ、薄暗い森の奥を指す。ミレイは恐れるが、勇気を出して歩む。青い炎を辿っていくと、奥から白く輝く物が辺りを浮遊する。

 

「これは?」

 

ミレイがそう思うと、光が見えてくる。その先に映ったのは白く輝く大地、緑に光る球体を抱えた大樹、見たこともない動物達が存在していた。

 

「ここは?」

 

ミレイが不思議な光景に見惚れていると、遠くから大咆哮が大陸に響き渡る。

 

「!?」

 

すると緑に光る球体の中から湖から灰色の怪物と虹色に輝く鳥龍が戦っていた。その光景にミレイは驚く。

 

「何…あれ?」

 

虹色の怪物は翼から拡散エーテル砲を放ち、灰色の怪物に攻撃をする。すると灰色の怪物は虹色の怪物にのし掛かり、身動きを止める。ミレイは早く立ち去ろうとすると、湖に誰かが倒れていた。それはずっと探していた我が娘「サラマンディーネ」であった

 

「サラマンディーネ!」

 

ミレイは急いで湖から打ち上げられたサラを助ける。サラの側頭からは血が流れており、ミレイはサラを抱き上げ、その場から離れる。しかし、灰色の怪物が虹色の怪物を持ち上げ、ミレイの方へ投げ飛ばす。虹色の怪物は起き上がり、口部エーテルキャノンを放とうとすると、足元にいるミレイとサラを見て、エーテルキャノンを止める。そして灰色の怪物は翼から拡散エーテル砲を放つ。ミレイは娘を守ろうと庇うと、虹色の怪物が前に出て、ミレイを守る。

 

「え?」

 

灰色の怪物の攻撃で全身が火傷まみれになった虹色の怪物はミレイにテレパシーで送る。

 

《早くお逃げなさい!……私が“彼女”を足止めしている間に!》

 

虹色の怪物は灰色の怪物に叫ぶ。

 

《悠妃ファルシス!!》

 

《終焉のテレシア!!》

 

灰色の怪物…『悠妃ファルシス』、虹色の怪物…『終焉のテレシア』と名乗る二体の怪物がぶつかり合う中、ミレイは急いで出口まで飛び立つのであった。

 

 

────《回想終了》────

 

 

 

 

12年前の真実に、サラは驚く。夢で見た白い大地……あれは夢でなく、現実に存在していた事に。

 

「それで…母様は?」

 

「それからミレイ様はその大地の事で研究に没頭していましたが、行方不明となってしまったのです」

 

「行方不明?どうして?」

 

「それは私にも分かりません。ですが、ミレイ様が残した研究所なら、そこに答えが見つかるかもしれません。」

 

 

Dr.ゲッコーの言葉を信じ、サラは母が残した研究所がある森へと向かう。

 

 

 

森の中、苔が生えた研究所……サラは研究所の扉を開けようとするが、鍵が掛かっていた。

 

「鍵が掛かってあるわ……こんな形状、見たこともない…」

 

サラが困っていると、アイロスが呟く。

 

「ゾハル……」

 

「ゾハル?」

 

「夢で見たのだろう?幼き頃の主様と遊んでいた少年の……」

 

「少年……!」

 

サラはこれまでの夢を振り返って見る。確かに、あの少年の首にそれらしい形のペンダントを身に付けていた。だが、何故だろう?ペンダントの他に、あの少年の事を思うと……懐かしく、絶対に忘れてはいけない約束、そして彼の顔、そして残酷な記憶。

 

「ダメです、思い出せません……」

 

サラは必死に思い出そうとするが、やはり無理であった。

 

「…………行動あるのみ」

 

「?」

 

「これから、あの龍神器の力を試すのだろう?いずれ、主の記憶が蘇る……」

 

「……分かりました。」

 

サラは研究所の事は後にし、焔龍號に乗り込む。

 

「(主様にとって、大事な記憶……ですが“彼”と共に記憶戻ると同時に“X”の本性を知るでしょう。あなた様はアデルの子であり、天の聖杯であるモナドの後継者『キオ・ロマノフ』に近しい人物……“因果律の姫君”…)」

 

アイロスは小声で呟き、サラの身体の中へと戻る。

 

 

 

 

 

 

深夜になった宮殿。一仕事を終えたサラは布団の中である事を考えていた。

 

「(気になる…あの鍵穴(キオ)……え?)」

 

突然頭の中でキオの事を頭に浮かばせる。

 

「(あれ?何ででしょう?……彼の事を思うと、胸が……何で!?)」

 

キオの無垢な笑顔を思い浮かべると、サラの顔は真っ赤になり、布団の中でジタバタする。

 

「(うわぁぁぁぁぁぁぁ〜!!何でぇぇぇ〜〜!!!)」

 

彼女は足をバタつかせながら、枕を顔に押し付け、はしゃぐ。翌日、彼女が熱(恋の病)を出して倒れた事は誰もが呆れ返る事であった。

 




どうでしたかな?サラが頭の中でキオの事でいっぱい考え、デレデレになり、結果熱を出してしまいました!……アヒャヒャヒャ♪


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第12話:激戦の予兆

「これは私を馬から落とした罪!」

 

「うあっ!」

 

ミスルギ皇国、皇宮の中庭。まだ年端も行かぬ少女が目標に向かって鞭を振り降ろした。ボロ雑巾のような衣装だけを纏い、処刑台から吊るされ悲鳴を上げているのは言うまでもなくアンジュだった。そして、彼女を鞭打っているのは実の妹であるシルヴィア。

だがその目は、実の姉を見るものではなかった。怒りと憎しみに燃え、親の敵でも睨んでいるようである。…まあ、非常に歪んだ解釈ではあるが、実際に親の敵であるのは間違いないのでこの形容もあながち外れではない。

 

「これは私を歩けなくした罪!」

 

「ああっ!」

 

又も鞭が振り下ろされる。悲鳴を上げるアンジュに対して、広場に集まりそれを見ていた観衆は喝采を上げた。どう贔屓目に見ても気分のいい光景ではないが、ノーマに対する断罪ということで酔い痴れているのだろう。…もっとも、非常にタチの悪い悪酔いには違いないが。

少し離れたところでは、アンジュの兄であるジュリオと、近衛長官であるリィザという妙齢の女性がそれを見ていた。ジュリオは楽しげな表情だったが、リィザは何の感慨も感じていないようだった。

 

「そしてこれは生まれてきた罪です!」

 

三度、シルヴィアが鞭を振り下ろしてアンジュの身体を鞭打った。その様に、見物に来た民衆のボルテージが一際上がる。

 

「シルヴィア様! どうか、どうかもうおやめ下さい!」

 

シルヴィアの後ろで錠をかけられ、拘束されているモモカが悲鳴に似た訴えを上げた。

 

「こんな酷いこと!」

 

「…酷い?」

 

車椅子に乗ったシルヴィアがゆっくり振り返る。その雰囲気に、思わずモモカは息を呑んでしまった。

 

「…このノーマが、汚らわしく暴力的で反社会的な化け物が、私のお姉さまだったのですよ!それ以上に酷いことが、この世にあって!?」

 

憎しみが宿った目で涙ぐみながら、シルヴィアは怨嗟の声を上げて吊るされているアンジュを見上げた。

 

「謝りなさい!私がノーマだから悪いんです、ごめんなさいって!」

 

「シルヴィア様の言う通りよ!」

 

観衆の中から声が上がる。それはまだアンジュが皇女だった頃、彼女と共に学び、彼女を慕っていたはずの同級生たちだった。だが、今はそんな面影は何処にもない。

 

「返して!私たちの人生を返して!」

 

それに呼応するかのように、観衆のあちこちからシュプレヒコールが上がった。

 

「感謝しているよ、モモカ」

 

今までそれらの光景を見るに留めておいたジュリオがモモカに視線を向けた。

 

「えっ?」

 

「私たちに断罪の機会を与えてくれたことを」

 

そして、語りだす。己の企みを。

 

「洗礼の儀でアンジュリーゼの正体を暴いたのは、私だ」

 

その言葉が聞こえていたのかいないのかはわからないが、吊るされているアンジュの瞳が揺れた。そんなことに気付くこともなく、ジュリオはふふふと陰湿に笑う。

 

「16年もの間皇室に巣食っていた害虫はようやく駆除された…。後は地獄に送られ、別の化け物に喰い殺されたという報告を待つだけ…」

 

取り上げたのだろう、指先でアンジュの指輪を弄びながら更に語りを続ける。

 

「だが…驚いたことに死ななかったんだよ! こいつは!」

 

吊るされたまま自分をキッと睨むアンジュに見下した視線をジュリオは送った。

 

「このままではのうのうと生き延びかねない。そこで…だ、モモカ、お前を送り込んでやったのさ。方々手を尽くしてね」

 

「えっ!?」

 

明かされた真実に、モモカは息を呑んだ。

 

「一介の侍女が、世界の果てに追放されたノーマに簡単に会えるわけがないだろう。踊らされているとも知らず、シルヴィアの為に戦うお前たちの必死な姿…実に滑稽だったよ」

 

「そんな…そんな…っ!」

 

絶望に染まるモモカを尻目に、ジュリオはおもむろに座っていた椅子から立ち上がった。

 

「ノーマを護ろうとしたバカな皇后は死に、国民を欺いた愚かな皇帝は処刑された!」

 

「処刑…!?」

 

聞かされた父の末路に、アンジュの顔に驚愕の彩が広がり唇を噛む。

 

「皇家の血を引く忌まわしきノーマ、アンジュリーゼ! お前の断罪をもって皇家の粛清は完了する! 今宵、この国は生まれ変わるのだ、神聖ミスルギ皇国として!」

 

大仰な仕草の演説だが流石は皇太子、良くも悪くも堂に入っていた。その証拠に、観衆もジュリオの演説に聞き惚れているようだった。

 

「初代神聖皇帝ジュリオⅠ世が命じる! このノーマを処刑せよ!」

 

その宣言と共に、観衆のボルテージは最高潮にまで上がった。その歓声に顔を上げたアンジュの表情は、先程以上の驚愕の彩りに彩られていたのだった。

そのまま拘束を解かれ(と言っても、手錠はしっかりとされているが)、近衛兵に後ろを固められ、アンジュは処刑台に向かって前進する。…と言うより、前進せざるを得ない状況にさせられているのだが。

 

「あっははは、惨め」

 

「私たちを騙していた罰よ!」

 

その後ろ姿に、侮蔑の言葉を投げかけるのはかつての友の姿。

 

「どうして…」

 

思わず立ち止まり、アンジュが呟いた。

 

「どうして私が処刑されなければいけないの!? 何の罪で…」

 

振り返り、己の想いを主張しようとしたアンジュだったが、そうしようとする前にそれは中断された。突然投げつけられた生卵が彼女の顔にぶつけられ、中身が割れたのである。

 

「黙れノーマ! 私に何をしたか忘れたの!?」

 

投げつけた人物…かつての友の一人、アキホが憎々しい目でアンジュを睨みつけた。

 

「ちょっと蹴飛ばして簀巻きにしただけでしょ。大げさなのよ」

 

「ちょっと!? …酷い、酷いわ!」

 

アンジュの返答にアキホは泣き出してその場にへたり込んでしまった。慌ててその周りに友が集う。

 

「死刑にされるほどの罪じゃない」

 

だが、アンジュはそんな光景を見ても最早何の痛痒も感じないのだろう。フン、とばかりにそっぽを向いた。

 

「それは人間の場合でしょう!?」

 

「あんたはノーマ! 人間じゃない!」

 

「たくさんの人たちを不快に、不幸にしたの! だから死刑なの!」

 

「それで黙って殺されろって言うの!? 家畜みたいに!?」

 

「悪いのはノーマよ! だから全部貴方が悪いの!」

 

「ジュリオ様が死刑って言ってるんだから、死刑でいいじゃない!」

 

両者の応酬は何処までも平行線だった。そして、そこかしこからアンジュの旧友…彼女は最早友とさえ呼びたくないだろうが…に賛同する歓声が上がる。

 

「悪くありません! アンジュリーゼ様は何も悪くありません!」

 

その状況にいたたまれなくなったのだろうか、モモカがアンジュをかばうように両者の間に入って声を張り上げる。

 

「私は、アンジュリーゼ様のおかげで幸せに…」

 

しかし、そこまでだった。何故なら観衆の間から自然発生的に悪意が押し寄せてきたからだ。

 

吊ーるーせ、と。

 

そしてそれは瞬く間に手拍子と共に観衆の間に広がっていった。

 

「どうして…? どうしてアンジュリーゼ様だけが、こんな酷い目に…」

 

目の前の光景が信じられないのだろうか、はたまた理解できないのだろうか、モモカはそれ以上二の句が告げなかった。

 

「モモカ…」

 

そんなモモカに、アンジュが慈しむような視線を向けた。

 

「貴方と…あそこの人たちだけね。差別や偏見、ノーマだとか人間だとか関係なく、私を受け入れてくれたのは」

 

脳裏に浮かぶのはアルゼナルの面々の姿。恐らくはもう二度と逢えないのだろう。共に過ごした期間は短くとも、その姿は強烈に、印象は鮮烈にアンジュの頭の中に残る。

 

(それに比べて…っ!)

 

アンジュは元は自分の臣民だったミスルギの観衆に目を向けた。吊るせコールと手拍子は止むことなく続いている。

 

「さっさと殺せよ」

 

「早く帰りたいんだけど」

 

そしてそんな揶揄が、尚もアンジュに浴びせられる。

 

「(これが、平和と正義を愛する、ミスルギ皇国の民?……豚よ!こいつらみんな、言葉の通じない、醜くて無能な豚どもよ!)」

 

アンジュの視線は一層鋭くなり、ギリッと歯噛みする。

 

(こんな連中を生かすために、私たちノーマは…っ!)

 

悔しさからか、兄であるジュリオにそのまま視線を向けた。と、ジュリオが自分の指輪を弄んでいるのが視界に入ってきた。

その瞬間、アンジュは今は亡き母のことを思い出していた。

 

『アンジュリーゼ…貴方にこれを』

 

『どうか、光のご加護があらんことを』

 

洗礼の儀の前夜、母から譲り受けた指輪を見たアンジュは何かを思い出したのか、今までの険しい表情が嘘のように納まった。そして

 

「始まりの光、キラリキラリ…」

 

歌を口ずさみ始めたのだ。永久語りという、ミスルギ皇家に代々伝わるものだった。アンジュはその永久語りを口ずさみながら、処刑台へと自ら歩いていく。途中、リィザに命じられた近衛兵が止めさせようとするが、アンジュの気迫に圧されてか、手出し出来なかった。

永久語りを口ずさみながらゆっくりと歩くアンジュの脳裏には、二人の人物の顔が浮かんでいた。

 

「♪〜♪〜(タスク…)」

 

一人はかつて無人島に不時着したとき、その島で数日を共に過ごした青年、タスクだった。あのときの思い出が脳裏に幾つも蘇る。

決して楽しい思い出だけではなったけど、それでもあの数日間は今迄で一番生き生きとしていたときだったかもしれない。

 

「♪〜♪〜(会いたいな、もう一度…)」

 

無性にそう思った。そしてもう一人…

 

「(キオ…)」

 

もう一度その顔を思い浮かべ、アンジュは吹っ切っていた。

 

(道を示す光。お母様が私に残してくれたもの)

 

未だ永久語りを口ずさみながら、アンジュは一歩一歩処刑台へと向かって歩く。

 

(私は死なない。諦めない。殺せるものなら、殺してみろ!)

 

いつからかそんなアンジュに呑まれたかのように、広場に集まった観衆は静まり返っていた。

 

 

 

 

 

上空ではタスクのアレスと合流したキオは浮遊していた。

 

「さて、タスク……先に降下してろ、俺はアンジュの首のロープを何とかする。そしたらお前は落ちるアンジュを受け止めろ」

 

「分かった!」

 

タスクはキオの言う事に従い、ヘイロージャンプの準備をする。

 

「お前はここで待っておけ、セイレーンなら酔いはしない♪」

 

「お、おう!」

 

ヒルダはキオの顔を見て赤く染まる。

 

「………どうした、顔赤いぞ?」

 

「う、うるせぇ!」

 

「……そうか」

 

キオはキョトンとした表情をし、タスクがアレスから飛び降りる。

 

「それじゃ♪」

 

キオもコックピットハッチを開き、サブマシンガンとバトルライフルを持ってヘイロージャンプする。

 

 

 

 

「っ! 早くしろ!」

 

先程までと一変した状況に苛立ったジュリオが近衛兵に命令した。弾かれたように近衛兵が、未だ永久語りを歌っているアンジュに近寄って絞首に顔を叩き込む。

 

「さらばだ、アンジュリーゼ」

 

ジュリオがそう呟いたのが合図のように、刑が執行される。足元の感覚がなくなり、アンジュは観衆が望んだ通り吊るされることとなった。

 

「アンジュリーゼ様ーっ!!!」

 

モモカの悲痛な悲鳴が響き渡る。そしてそれとほぼ同時に、上空から一発の閃光弾が発射され、中庭を昼のように照らした。

突然の事態に悲鳴を上げて目を押さえる観衆たち。そんな彼らの隙を突くかのようにタスクが着地し、ジュリオが持っていたアンジュの指輪を奪い返す。

そしてキオは着地寸前に投げナイフが投擲すると、アンジュを絞首していたロープを切断した。

タスクの方はと言うと、機影がジュリオに迫るよりも早く処刑台にスライディングする。

 

「はあっ!」

 

「うっ!」

 

「がっ!」

 

キオはモモカを拘束していた近衛兵たちを瞬く間に叩きのめしてしまった。

 

「大丈夫か?」

 

影が尋ねる。

 

「あ、は、はい…」

 

急展開に驚きながらもモモカは振り返って礼を言った。が、その瞬間動きが止まってしまった。

 

「ふんっ!」

 

キオはそんなモモカを気にすることなくを振り下ろすと、モモカを拘束している手錠を粉砕したのだ。

モモカを無事に保護したキオがアンジュに目を向ける。そこには、救出には成功したのだろうが、何故だかアンジュの股間に顔を突っ込んでもがいているタスクの姿があった。

 

「タスク…何やってるんだ?」

 

その惨状にキオは思わず目頭を押さえた。と、タスクがアンジュの全力の蹴りを食らって処刑台に吹っ飛ばされ気を失ってしまった。が、その表情はいいもの見たとばかりに非常に情けなく緩んでいたが。

 

「アイツ……お姫様を救いに来た騎士がそれでどうするんだ?」

 

タスクの続けざまの醜態に呆れるキオ。不可抗力の側面はあるかもしれないが、それでもこれではなと、こんな状況ではあるが思わずにはいられなかった。が、状況は刻一刻と変化する。

 

「近衛兵、何をしている! 早く取り押さえろ!」

 

いち早く復活したリィザが近衛兵にそう命令した。その命令通り、アンジュに近衛兵が近づく。が、

 

「ふっ!」

 

「がっ!」

 

「ぐあっ!」

 

「ぎっ!」

 

「ノーマを助けるあの男たち、一体…」

 

「反乱分子だ。ノーマに与するテロリストどもめ!」

 

忌々しげにジュリオが吐き捨てる。その間に新たな近衛兵たちがアンジュ達を囲んでいた。新たな敵の出現に、アンジュの表情に緊張が走る。

 

「アンジュリーゼ様ーっ!」

 

そんな彼女の元に、拘束を解かれたモモカが駆け寄ってきた。

 

「モモカ!」

 

「開錠!」

 

マナの力でアンジュの手錠を解除するモモカ。そんな二人に、近衛兵たちは照準を定めて銃の引き鉄を弾こうとする。しかし、キオは未来視で近衛兵の未来を視る。

 

「そうはさせるか!ヒカリ!」

 

キオはヒカリを呼び出し、ヒカリのモナドを手に、近衛兵達の方へ走り、切り裂く。

 

「うっ!」

 

「がはっ!」

 

「げっ!」

 

いつものように瞬時に移動してきたキオが彼らに当て身を当て、簡単に排除するとアンジュに視線を向けた。

 

「アンジュ!これ使え!」

 

キオはアンジュにサブマシンガンを投げ渡す。

 

「っ!殺しても構わん! 決してその者たちを逃がすな!」

 

ジュリオの命令と共に又新たな近衛兵たちがどこからともなくワラワラと出てくる。

 

「メツ!」

 

次にキオはメツのモナドを持ち、プレートに『轟』と表示される。

 

「モナドサイクロン!」

 

モナドにエーテルの力を溜め込み、周りにいる敵に向けてモナドを叩き込むと、近衛兵が吹き飛ばされる。その圧倒的な力にジュリオは驚く。すると吹き飛ばされた近衛兵が銃を構えた直後、上空からセイレーンが飛来し、キオを守ろうとトリオン型障壁を展開する。

 

「何だあの機体は!?」

 

ジュリオが驚く中、セイレーンの他にペリカン降下艇を連れたタスクのアレスも飛来する。ペリカン降下艇の後部ハッチが開くと、リンとエルマ、イリーナ、グインが待っていた。

 

「アンジュさん!モモカさん!乗ってください!」

 

イリーナとグインはそれぞれのブレイド『トキハ』と『グレン』を展開し、キオの援護に回る。タスクは……気絶してノビたままペリカン降下艇に積み込まれる。

 

「逃がすなーっ!」

 

ジュリオが半ば狂乱気味に命令するが時既に遅し。火が入り飛び上がった。

 

「モモカ!」

 

「は、はいっ!」

 

慌ててモモカが命令通りマナの力でシールドを展開する。するとキオが前に出て近衛兵を薙ぎ払う。

 

「逃げるわよ!さ、早く!」

 

ペリカン降下艇に乗り込んだアンジュ達、イリーナとグインはプラズマグレネードを投げ、近衛兵を近寄らせないようにペリカン降下艇に急いで乗り込む。キオも気が済み、セイレーンに乗り込む。

 

「おのれ、アンジュリーゼ…!」

 

忌々しげに見上げるジュリオの前でアンジュがペリカン降下艇から眺める。

 

「感謝していますわ、お兄様。私の正体を暴いてくれて。ありがとう、シルヴィア。薄汚い人間の本性を見せてくれて」

 

そして微笑むアンジュに、シルヴィアはヒッと短い悲鳴を上げて顔を引きつらせた。

 

「さようなら!腐った国の家畜ども!」

 

訣別の宣言をすると、アンジュは機体を空へと舞い上がらせる。

 

「追え!追えーっ!」

 

狂ったように叫ぶジュリオ。そんなジュリオにアンジュは手裏剣のようなものを投擲した。音を立てて闇夜を切り裂いたそれは、ジュリオの左頬を掠めて後ろの玉座に突き刺さる。

 

「うわあああっ!」

 

頬を押さえ、傷口から鮮血が噴き出した。と言っても、薄皮一枚切れたぐらいのものなのだが。しかしジュリオは大仰に叫び、その光景を見たシルヴィアも悲鳴を上げた。

ジュリオを慰めるリィザは飛び去るセイレーンとキオを見る。

 

「(あれが報告にあった天の聖杯とエーテリオン……)」

 

 

 

 

 

 

ミスルギ皇国近海の海上。先程広場を脱出したアンジュたちは自動操縦に切り替えて進路をアルゼナルに向けていた。途上、マシンの後部部分に装着させるコンテナを結合し、その中でアンジュたちは束の間の休息を取っていた。

 

「ごめんなさい…ごめんなさい、アンジュリーゼ様…」

 

毛布を身に纏いながら、泣きながらモモカが謝罪する。騙されていたとはいえ、敬愛する主人を窮地に追い込んでしまったのだ。実際、あのまま何もなければアンジュは間違いなく死んでいただろう。今こうして生命があるのは奇跡といってもいいのだ。筆頭侍女の身としては、どれだけ謝っても自分を許せるようなものではなかった。

 

「何言ってるの? おかげでスッキリしたわ」

 

が、当のアンジュは一向に意に介した様子はない。それは言葉だけでなく、その口調からも感じ取ることが出来た。

 

「え?」

 

「私には、家族も仲間も故郷も、何にもないってわかったから…」

 

「アンジュリーゼ様…」

 

寂しげな口調に、モモカはそれ以上声を掛けることが出来なかった。

 

そう言って、キオは傍らのタスクを見下ろす。その顔はまだ先程までと同じように情けなく緩んだままで気絶していたが。

 

「…そうね。……それと」

 

そのニヤけた面に少々ムカっ腹が立ったのか、アンジュは思い切り平手でタスクの横っ面を叩いた。

 

「痛ったーい!」

 

「どう?目が覚めた?」

 

「良かったアンジュ、無事だったんだね!」

 

アンジュの無事な姿に手放しで喜ぶタスクだったが、どうやら当のアンジュはそれだけではないようで、タスクの両方のこめかみを握りこぶしでグリグリと締め付けた。

 

「貴方、またやったわね!」

 

「何ぃ!?あっ、何が!?」

 

痛みに顔を歪ませるタスクだが、アンジュはお構いなしに両腕に力を込める。

 

「どうして股間に顔を埋める必要があるわけ!?癖なの!?意地なの!?病気なのッ!?」

 

「ごめーん…痛ててててててっ…ごめん!」

 

謝罪の言葉を聞いてもタスクに容赦なくお仕置きを続けるアンジュ。その後ろではキオがやれやれとばかりに溜め息をついていた。と、

 

「あの…アンジュリーゼ様、こちらの方とはどういう関係で?」

 

タスクのことを知らないモモカが疑問に思ったことを尋ねた。

 

「えっ? えーと…」

 

どう説明したらいいものかとアンジュが言いよどむ。そんなアンジュが言葉を探している隙に、

 

「ただならぬ関係…」

 

と、ある意味正しいがある意味大いに間違っている答えをタスクが答えた。

 

「はぁっ!?」

 

予想もしなかった答えに心外だとばかりにアンジュがタスクを睨みつける。しかしモモカはそれを素直に受け止めてしまったようだった。

 

「やっぱり! そうでなければ、生命掛けで助けに来たりしませんよね! 男勝りのアンジュリーゼ様にも、ようやく春が…筆頭侍女としてこんなに嬉しいことはありません!」

 

「ちっがーう!」

 

手を叩いたり、口元を押さえたり、涙を浮かべたりと様々な手段で喜びの感情を表すモモカだったが、アンジュは犬歯を剥き出しにして否定の意を表し、モグラ叩き宜しくタスクの頭に拳を振り下ろした。キオ達は口元を抑え、笑いを堪える。

 

「痛っててててて…」

 

「どうしてあそこにいたの?」

 

拳を振り下ろされて痛む頭を押さえるタスクに向き直り、アンジュは疑問に思っていたことを尋ねた。

 

「えっ?」

 

一瞬素っ頓狂な声を上げたタスクだったが、すぐに真面目な表情になった。

 

「連絡が来たんだ、ジルから」

 

そして事の真相を伝える。

 

「ジル…司令官?」

 

「君を死なせるな…ってね。それにこれ…」

 

ごそごそと己の身体を漁ると、タスクはジュリオから奪還したアンジュの指輪を手渡した。

 

「大事なものだろ?」

 

それを受け取ったアンジュは本当に嬉しそうな表情をすると、早速指にはめて指輪をあるべきところに収めた。

 

「ありがと」

 

素直に感謝の言葉を口にする。が、すぐに険しい表情になった。

 

「貴方…一体何者なの?」

 

流石にそこに引っかかったのだろう、アンジュが尋ねる。タスクも表情を引き締め、そして、

 

「俺は…ヴィルキスの騎士」

 

そう、簡潔に答えた。

 

「騎士?」

 

タスクの回答を聞いたアンジュが怪訝そうな表情でその言葉を繰り返す。

 

「君を護る騎士だよ。詳しいことは、ジルに聞くといい」

 

「…そうするわ」

 

二の句を告げようと思ったが何故か言葉が出てこなかったアンジュは、タスクの言った通りジルにどういうことかを聞くことにしたのだった。

 

「僕も一つ、聞いていいかな?」

 

そこで一呼吸置くと、

 

「アンジュの髪…綺麗な金色だよね?」

 

真面目な面持ちになってタスクがそう言った。その表情に胸が高鳴ったのか、それとも髪を褒められて嬉しいのかはわからないが、アンジュは頬を赤く染めた。

 

「そ、それが、何よ…」

 

手持ち無沙汰といった感じで毛先をいじるアンジュ。次にどんな言葉が来るのか恐らく楽しみにしていたのだろう。が、

 

「下も金色何だ「死ね、この変態騎士!!!」」

 

下衆にも程があることを言われてアンジュは激昂し、タスクは負わなくてもいい余計な怪我を負う羽目になったのだった。

 

「……」

 

呆然と目の前の展開を見ていたモモカだったが、キオは笑い出す。

 

「アハハハハハハハ!!!!」

 

 

 

 

 

 

近くの島で着陸したキオ達、セイレーンのコックピットからヒルダも出てくる。

 

「ヒルダ!?何でここに?」

 

アンジュがキオに問う。

 

「俺が助けた。俺の未来視(ビジョン)で♪」

 

「何それ?」

 

「俺の力であり、先の未来で起こる事が読むことができる……」

 

「そう」

 

俄かに信じていない表情をするアンジュ。するとキオの目の前の光景が光る。映ったのはアルゼナルで数日前にキオが助けた二人の少女の一人。藍色の少女の所に、終焉のテレシアが話かけてくる。

すると少女の周りにエーテルの粒子が溢れ、少女の服装が一変する。アルゼナルの制服から機会を模した黒きドレスを纏っ少女。次の未来視が映る。今度はアルゼナルにドラゴンとサラ達が襲来してくる映像であり、サラの焔龍號とアンジュのヴィルキスが黄金に輝き、展開した肩部から竜巻状の光学兵器をぶつける。そして最後に何処で出会うのか、処刑された筈のアンジュの父『ジュライ・飛鳥・ミスルギ』皇帝と兵士の放った銃弾からアンジュを庇って死亡した筈の『ソフィア・斑鳩・ミスルギ』皇妃がコールドスリープカプセルの中に眠らされていた。未来視はここで終わり、キオは元の風景へと戻る。

 

「キオ?」

 

タスクが声を掛けると、キオは気がつく。

 

「っ……」

 

「……また、未来視が?」

 

「うん……」

 

キオは頷き、アンジュを呼ぶ。

 

「アンジュ!話がある……」

 

「何よ?」

 

「落ち着いて聞いてくれ…………」

 

キオは深呼吸し、アンジュに言う。

 

「……君のお父さんと……お母さんは…………“生きている”…」

 

「……はぁっ!?」

 

アンジュとモモカは驚く中、アンジュが怒鳴る。

 

「冗談やめてよ!だってお母様は私を庇って死んだ!お父様はお兄様に絞首刑されたって!」

 

アンジュが興奮する中、エルマが呟く。

 

「未来視で、見たのね?」

 

「はい……」

 

「何よ、その未来視って?」

 

「アンジュ、あなたには言っていなかったね?キオは……この先の未来を見ることができる能力を持っているの。」

 

「そう、俺たちはそうしてキオにずっと助けられてきたんだ。だからキオの言った言葉は……紛れもなく、嘘でもない事実なんだ」

 

タスクも言うと、アンジュは自分の両親が生きている事に驚愕する。

 

「お父様とお母様が……まだ生きている」

 

するとアンジュがキオに呟く

 

「……こ?」

 

「?」

 

「何処にいるの!!?」

 

突然アンジュがキオの胸ぐら掴んで、吐かせようとする。

 

「お!落ち着け!まだ場所までは分かっていない!でも生きていのは本当の事だ!」

 

「ハァ!ハァ!ハァ!」

 

「キオ…詳しく教えて。」

 

「はい……二人とも、コールドスリープカプセルで眠されてました。バイタルは正常でした。」

 

「そう、もしそれが本当なら……救出したいわね」

 

「あ、それともう一つ。二人共……レーザーフェンスの中で囚われていて、窓から薄っすらと見えたのですが…………“赤く光る結晶体”が見えたのですが……」

 

《っ!!!》

 

エルマを含め、イリーナ、グイン、リン、タツ、タスクの背筋が凍りつく。アンジュ達は何がどうなっているのか分からなくなる。

 

「赤い結晶体………それも見えたの?」

 

「えぇ?それが……」

 

「……マズイわ」

 

「え?」

 

「赤い結晶体……そこが、デウス・コフィンの総本部であり、彼等の本拠地……総裁“X”がいる宮殿『巨大結晶赤城“エルダーゴア・キャッスル”』なのよ」

 

「総裁“X”の城!?」

 

「城というより……大要塞そのものなの、あらゆる防空兵器及び、強力な傾向シールド、そして最終兵器である強力な拡散型の生体ガンマ線レーザー砲『ブレイズヴェルグ』を搭載しているの私達エーテリオンは何十年もそれに苦戦してきたの……」

 

「嘘だろ……」

 

「アンジュのお父さんとお母さんが囚われているという事は、総裁Xに関わる事なのよ。でもおかしいわね?」

 

「何がですか?」

 

「どうしてキオのお父さんとお母さんは総裁Xに囚われていたのに、あっさりと解放したのかしら?」

 

「そう言えば……」

 

エルマとキオが深く考えるも、分からなかったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

朝日が昇り、アルゼナルの甲板にはサリア達が待っていた。

 

「お、来た来たー!」

 

ヴィヴィアンがこっちに向かってくる三つの機影に指を指す。甲板へと降下するセイレーンとアレス、ペリカン降下艇が着陸する。ペリカン降下艇ハッチが開き、中からアンジュとモモカ、ヒルダが出てくる。

 

《アンジュ!ヒルダ!》

 

第一中隊の皆んなが二人の生還に喜ぶと、ジルが来る。

 

緊張が空気を包むなか、保安係が銃を構えてキオに威圧する。銃口を向けられ、アンジュやヒルダが息を呑み、モモカも二人を守るように前に立つ。

 

だが、いくらマナが使えてもこの多方向から向けられていては迂闊な真似もできない。やがて、ジルが静かに前に立つと、アンジュが憮然と口を開く。

 

「アルゼナルの司令官ジル……久しぶりだな」

 

キオはジルの前に立つ。するとジルがナイフを抜き、キオに突き付けてきたが、キオはピクリとも動いていなく、ナイフでの威嚇でさえも克服していた。

 

「それで?……拘束すれば?」

 

キオは両手を上げ、エルマ達に言う。

 

「エルマさん!逃げろ!」

 

「分かったわ!」

 

エルマ達やタスクははペリカン降下艇とアレスに乗り込み、空間転移でエリュシュオンへと戻っていった。

 

「待て!」

 

「おっと…」

 

キオはアルヴィースを呼び出し、ジルにモナドを突き付ける。

 

「それ以上彼等に危害を加えると……ここにいる連中全員が大怪我を負うぞ」

 

ヒカリとメツもジルにモナドを突き付け、コスモスが保安隊に向けてXブラスター発射形態へとなり、警告していた。

 

「人質は……俺一人で十分だろ?」

 

「チッ!」

 

ジルは舌打ちし、キオを睨みながら呟く。

 

「お前の機体と力……アルゼナルの為に貢献しろ」

 

「言われなくとも……」

 

キオも鋭い眼差しでジルを睨み付ける。保安隊は銃を下ろし、キオも四体のブレイドを体の中へと収め、アルゼナルに入る。

 

「(良し……ここからが俺の計画通りだ。)」

 

キオのある計画に誰も知る由はないが、一人だけキオの心を読んでいたものがおり、当の本人もその力に覚醒している事に気付いてもいなかった。

 



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第13話:兄妹との謁見

 

アルゼナルに滞在することとなったキオ。アンジュとヒルダは不幸な事に、脱走した罰として所持金や持ち物を没収され、機体の騎乗を禁止、一週間の独房での謹慎が下された。……哀れな。そして最悪な事にアルゼナルの軍医であるマギーに色々と体の隅々まで調べさせられた。あそこを除いては……。それから翌日、キオは食堂で配給食を食していると、

 

「あのぅ、ここ良いですか?」

 

現れたのは前にキオに助けられた新兵メイルライダーのココとミランダであった。するとココの横に緑でまん丸い者が座り込む。

 

「ん?それって…」

 

「あ、はい……この子はティビイって言う“ノポン”の子供です♪」

 

「ノポン!?」

 

キオは驚く、エーテリオンやエリュシュオンにはたくさんのノポン人を見かけるが、この世界のノポン人がいる事に唖然する。ココによれば、アルゼナルにモモカが来た時、輸送機の積荷から丸々としたお肉が飛び出たと慌て、ちょうどそこにココが現れ、ノポンの女の子であるティビイを引き取ったと。

 

「だって可愛いだもん♪」

 

ココは可愛い顔をしてティビイを抱く。

 

「止めてくれも〜」

 

ティビイは必死に離れようとする。キオは呆れていると未来視が浮かび上がる。

 

「?……」

 

するとキオの未来視と同時に、ココの目がキオと同じ未来視が発動する。だが、それは未来視ではなかった……

 

「あれ?今回のは何か違うぞ?」

 

そこに映っていたのは、どこか知らない建物の廊下であった。見たこともない色彩な柱、壁に描かれている綺麗な壁画、すると何処からか赤子の泣き声が聞こえて来た。横のドアを開けるとそこは寝室であり、ベッドの上でやつれた顔に最高の笑みを浮かべている女性が産まれたばかりの子を抱いていた。寝室のドアが開き、メイドというより巫女達が入ってくる。

 

《レイナス・オルド・エルダー様…ヴァラク・ディラ・エルダー皇帝殿下が見舞いに来られました。》

 

部屋の中から高貴な服装をした老人が現れた。さらに驚く事に、その老人は銀髪で頭に翼生えていた。

 

「お父様……」

 

「……名は?」

 

「……ココル。“ココル・マシーナ・エルダー”……」

 

「マシーナ……“機械族”の力を宿した新たな神姫か。」

 

「えぇ……そう言えば、“エメル”は?」

 

「フェメル・ハイエンター・エルダーか……彼は教練に育んでいる。いずれエルダー皇家の跡取りとなるだろう。」

 

ヴァラク・ディラ・エルダーは生まれたばかりの孫娘にある物を授ける。それはオレンジ色に輝くプレートであった。

 

「フェメル♪…ティオル♪…ココル♪…貴方達は、私達の希望…そしてこの大地と、みんなの笑顔を守る……」

 

するとここでノイズが発生し、謎の力の効果が途切れる。目を覚ましたキオとココは周りを見る。二人を心配そうにフェイとティビイとミランダ。

 

「二人共大丈夫?」

 

「「え?」」

 

その後、キオとココは二人だけで話し合う。

 

「いつから、俺と同じ未来視を見れるようになった?」

 

「……2歳の頃です。突然、視界に変な光景が映ったと思ったら、その光景と全く同じ事が起きたの…」

 

「どういう事だ?……こんな事は言い難いが、“前に何か没収された”?」

 

「え?」

 

「あの光景であの老人が赤ん坊に何か渡したじゃないか?覚えはない?」

 

「……そう言えば、ジャスミンモールに綺麗な物が…」

 

「……うん、間違いない。」

 

「琥珀色のコアクリスタルだ♪」

 

するとキオの体からアルヴィースが現れる。

 

「琥珀色のコアクリスタルは……僕やメツ、ヒカリと同じ天の聖杯……名前は『メイナス』」

 

「メイナス……それが、そのコアクリスタルに宿るブレイド」

 

「急いだ方が良いよ、時が満ちる日が近いから♪」

 

キオとココは急いでジャスミンモールに行き、琥珀色のコアクリスタルを絵で表しながら探す。

 

「琥珀色の結晶?」

 

「こんな形!」

 

キオは絵をジャスミンに見せる。

 

「……ん〜、見たような気がするが……」

 

「「…………」」

 

「?」

 

するとキオがある事に気づく。ジャスミンの首にかけている琥珀色の結晶体、そしてその形は……。キオは絵を再度確認し、ジャスミンのと絵を見比べ、そして……。

 

「それだ!!!」

 

「?……これのことか?」

 

ジャスミンが琥珀色のコアクリスタルを見せる。

 

「……それ!」

 

「ダメだね…」

 

「「え?そこをなんとか〜……」」

 

「これを譲って欲しいなら、6000万キャッシュ払いな♪」

 

「「6000万キャッシュ!!!???」」

 

驚愕な値段に二人はしょぼんとする。

 

「と……取り敢えず、何か稼げる方法探しとくか?」

 

「はい……(トホホ〜)」

 

キオとココは海が見える丘を歩いていると、第一中隊の隊長であるサリアが何やら花を集めていた。

ある程度集め終えたサリアが紐で花の枝を結ぶ。

 

「お、サリアじゃねぇか!」

 

「貴方は……キオ」

 

「何やってたんだ?」

 

「墓に備える為の花を集めているのよ…」

 

「墓か……(俺たちのエーテリオンは皆んなB.Bだから、死んでもすぐ生き返る……本当の“死”ってどんなんだろう。)」

 

キオがそう考えていると。

 

「あ~、サリアお姉様だ」

 

サリアが呼ばれた方を見ると、幼年部の子供たちとその担当員が居た。

 

「サリアお姉様に敬礼~」

 

子供たちがサリア達に敬礼をし、サリアも子供たちに向かって敬礼をして、子供たちは「サリアお姉様綺麗~」「おっきくなったら第一中隊に入る~!」とそう言って去って行き。担当員も挨拶をして子供たちの面倒を見に行った。

そんな中でサリアは幼い頃の自分を思い出す。自分もかつては当時司令官ではなかったジルの様になりたいと幼い頃からの夢であった……。

 

『私、絶対お姉様の様になる~!』

 

昔の事を思い出しつつも、サリアはそのまま墓地へと向かう。

 

「俺も良いか?」

 

「好きにしたら…」

 

キオはサリアと一緒に墓地に行く。

そしてその場にメイも居た。

 

メイの前にある墓にはこう書いてる。

 

【Zhao Fei-Ling】っと…。

 

サリアはメイの元に来て、結んだ花を出す。

 

「これ、お姉さんに」

 

「毎年有難う、サリア」

 

メイがサリアに花の礼を言い、サリアは墓に花を置く。サリアは立ち上がって微笑みを浮かべていて。

それにメイが問う。

 

「どうしたの?」

 

「幼年部の子供たちに、お姉様って呼ばれた。私…もうそんな年?」

 

「まだ17じゃん」

 

「もう17よ…、同い年になっちゃった…『アレクトラ』と」

 

誰かの名前を言うサリアは昔の事を再び思い出す

 

 

―《回想》―

 

 

アルゼナルの海岸に、後部から煙を上げるヴィルキスが降下して来た。

ヴィルキスはそのままアルゼナルの海岸に着地する、そしてそこに乗っていたのは当時メイルライダーとして戦っていたアレクトラであるジルだった。

 

「アレクトラ!!」

 

そしてアレクトラの元に、当時司令官であったジャスミンがと部下のマギーと一緒に部下もやって来た。

ジャスミンはアレクトラの右腕が無い事を見て、すぐにマギーに命令する。

 

「マギー!鎮痛剤だ!! ありったけの包帯を持ってこい!!」

 

「い!イエス・マム!!」

 

その様子を上のデッキにいる、まだ当時幼かったサリアとメイが居た。

 

「あれは…お姉様の?」

 

サリアが見ている中で、ジャスミンはアレクトラをヴィルキスから下ろす。

 

「しっかりしろアレクトラ! 一体何があった!?」

 

ジャスミンはアレクトラから事情を聞く、しかしアレクトラはある者からメイに伝言があると言うばかりであった。

それを却下するジャスミンは何があったかと事情を問う。

 

ところがアレクトラは突然ジャスミンへと謝る。

 

「ごめんなさいジャスミン、私じゃあ使えなかった…。私じゃあ…ヴィルキスを使いこなせなかった…!!」

 

っと涙ぐんでジャスミンに謝り、それにはジャスミンは何も言えなかった。

 

「そんな事ないよ!」

 

そこにメイとやって来たサリアが居て、サリアはアレクトラの弱さを否定し、最後に「わたしが全部やっつけるんだから!」とアレクトラに向かって言う。

アレクトラはそれにサリアの頭に手を置いて撫でる。

 

 

―回想終了―

 

 

「全然覚えてないや」

 

「仕方ないわ、まだ3だったもの」

 

サリアは当時3歳のメイに覚えてない事に仕方ないと言い、メイと共に墓地を離れる。

っがサリアはこの時に思った。その時から数年がたち、司令となったジルはサリアにヴィルキスの搭乗を許さない事にかなり不満感が抱いていた。

 

アンジュに出来てサリアに出来ない事は何か…。

サリアは格納庫に付いて、ヴィルキスを見る。

 

「(一体私に何が足りないの…? アンジュと私に一体何が違うって言うの…? …あの子に…ヴィルキスは渡さない!)」

 

サリアはヴィルキスに騎乗できるアンジュに嫉妬する。それを見ていたキオは呟く。

 

「……サリア(乗れないのには、理由があるんだ……アンジュにはヴィルキスに乗れる条件が揃っている。)」

 

キオはそう考えて中、何故かココの頭を撫でていた。

 

「あの…キオさん?」

 

「ん?……あ、ごめん。つい“妹”のように撫でてしまった」

 

するとココは顔を赤くし、キオに撫でられた事に自分の手で撫でられた所を摩る。

 

そして同時にアルゼナルの司令室、レーダーに何かをキャッチした。

 

「これは…シンギュラー反応です!」

 

「場所は?」

 

ジルが出現地を特定しろと命令を言い、それにパメラが急いで特定する。

 

「それが…アルゼナル上空です!」

 

何と出現場所はアルゼナル上空、そしてアルゼナルの上空にゲートが出現し、そこから大量のドラゴン達が現れる。

 

「スクーナー級、数は…20…45…70…120…、数特定不能!」

 

「電話もなっていないのにどうして?!」

 

エマが司令室に到着して、電話が鳴らなかった事に疑問を感じていた。しかし今はそんな事を考えてる場合ではない。

ジルはするに基地全体放送で、アルゼナルの皆に言う。

 

『こちらは司令官のジルだ、総員第一戦闘態勢を発令、シンギュラーが基地直上に展開、大量のドラゴンが効果接近中だ。パラメイル第二、第三中隊全機出撃。総員白兵戦準備、対空火器重火器の使用を許可する、総力を持ってドラゴンを撃破せよ!』

 

そしてアルゼナルの対空火器が展開して上空に居るドラゴンを撃ち落として行く。

しかし数が多いのか一向に数が減って行かない。そして一体のドラゴンが司令室へと向かって行き、そのまま突っ込んでいく。

 

パメラとヒカルは慌てて離れて行き、ドラゴンは司令室へと突っ込んだ。

 

「ひっ!!」

 

エマは怯えながら後ずさりをするも、ドラゴンは吠えた時に瞳のハイライトが消えて、マシンガンを構える。

 

「悪い奴…死んじゃえ!!」

 

そのままマシンガンを撃ちまくり、辺り構わずばらまいていく。それもその筈今の彼女は意識が飛んで行ってしまって暴走している状態なのだ。

それにジルはエマに手刀で首を打ち、気絶させて、マグナムを構えドラゴンの頭部に撃ちこみ、それによりドラゴンはそのまま絶命する。

 

すぐさまパメラがコンソールを調べる。

 

「司令!通信機とレーダーが!」

 

「…現時刻を持って司令部を破棄、以降通信は臨時司令部にて行う」

 

「「「イエス・マム!」」」

 

その頃格納庫で、サリア達は侵入してくるドラゴンを撃退していた、多少は減って来たものの今だ数の多いドラゴンの方が有利であった。するものサリア達の後ろからドラゴンが迫るその時、キオがヒカリのモナドを手に、薙ぎ払う。

 

「このっ!!(殺しはしない、追い払うだけだ!)」

 

さらにメツのモナドの二刀流でドラゴンを次々に追い返すキオにそれを見たサリア達は唖然としてしまう。

 

「な、何よあれ…」

 

「何じゃありゃ!?」

 

「キオて…何者?」

 

サリア、ロザリー、クリスの三人はキオの奥義を見て驚きを隠せない。

その中でヴィヴィアン達はと言うと…。

 

「凄いじゃないキオ君!」

 

「うっひょぉぉぉぉ!! キオすげぇぇぇぇ!!」

 

「すご~い…!」

 

「キオさんやりますね!」

 

キオの技を見て、興奮しているのも居た。

 

「大分減ってきている。エレノア隊とベティ隊に感謝ね」

 

「チッ!今回出れないアタシ等の分も稼ぎやがって!…?」

 

突然ロザリーとクリスは不思議な光景を見る。

それはドラゴン達が突如アルゼナルから離れて行く光景が目にして、それにヴィヴィアンが指をさす。

 

「あれ? 逃げるよ?」

 

「どういう事でしょう?」

 

ココがドラゴン達の行動に疑問を感じる中、キオはその中である物が聞こえて来た。

それは物と言うより・・・。

 

「何だ…?」

 

「…歌?」

 

「この歌は……夢で見て聴いた!」

 

そして上空に居るドラゴン立はゲートの回りを飛び回ると、そのゲートから三機のパラメイルがゆっくりと降下してきた。

その内の一機の紅いパラメイルはヴィルキスと同じ間接部が金色のパラメイルであり、そこから歌が流れていた。

 

「♪~♪~♪〜」

 

その光景を臨時司令部にいるジルが双眼鏡で見ていた。

 

「パラメイルだと…」

 

同じ様にアルゼナルの上空で戦っている中隊の隊長のエレノアもその機体に目を奪われる。

 

「何こいつ? 何処の機体?」

 

皆が見ていると、その機体がいきなり金色の染まり始め、そしてその両肩が露出展開し、そこから竜巻状の光学兵器が発射されてそれにエレノアを含め第二中隊と第三中隊の数名を含むメンバーは消し炭へとなっていた。

中隊を消し去った光学兵器はそのままアルゼナルに直撃し、強烈な光が包み込む。

 

そして静まり返り、キオは近くに居たサリアを起こし立ち上がらせる。

 

「大丈夫か?」

 

「ええ…は!?」

 

二人は目の前の光景を目にする。

そこには半分ほど削られたアルゼナルを目にした。それをチャンスとしたドラゴン達は一斉に向かって行き、それにキオは構える。

 

「最悪だ……」

 

キオはヒカリの力で因果律予測を発動し、ドラゴンの攻撃パターンと軌道を読み、食い殺そうとするドラゴンの攻撃を回避し、蹴り飛ばす。

 

「どうすれば!……そうだ!」

 

キオは何かを思いつき、アルゼナルの上部へと駆け上がる。空はドラゴン村で覆われており、キオはドラゴン達に大声で言う。

 

「おーい!!俺は敵じゃねぇ!!!!“サラ”の知り合いだ!!!」

 

するとドラゴン達はキオへの攻撃を止める。

 

「今すぐあの機体に乗っているサラに伝えてくれ!!これ以上は被害が出る!そしてヴィルキスとその本当の乗り手が来る!早くサラに伝えてやってくれ!!」

 

キオの話を聞いたドラゴン達はすぐにサラの焔龍號へと飛び立つ。

 

「さてと、アルヴィース!」

 

キオはアルヴィースを呼び出すと、アルヴィースが口笛を吹き、テレシア達を呼び出した。

 

「頼む!ドラゴン達は絶対に殺すな!追い払うだけで良い、そして第一中隊だけ少し遊んでやれ!彼女達も殺さないでくれ!!」

 

キオはアルヴィースのモナドをテレシア達に突き付ける。テレシア達は吠え、従うかのようにキオに攻撃してくる。

 

一方、臨時司令部ではドラゴンではない未確認生命体が現れた事に驚くパメラ達。ジルはテレシア達を見る。

 

「ドラゴン?……違うなぁ。残存部隊を後退!第一中隊のサリア達に集約。サリア達を出せ!」

 

「了解!」

 

パメラはすぐに通信し、ジルは上空のパラメイルを見ながら思った。

 

「(あの武装…まさかな…)」

 

そして格納庫内でドラゴンと戦っているサリア達に命令が下る。

 

「了解! 皆!パラメイルに騎乗!」

 

「「「イエス・マム!」」」

 

サリア達が自分達のパラメイルに搭乗している中で、ジルが通信する。

 

『サリア、もう説明しなくても分かってるな?』

 

「はい」

 

『よし。それとアンジュは原隊復帰させろアンジュとヒルダを原隊復帰させろ。ヴィルキスでなければ、あの機体やあの未確認生命体は抑えられん。アンジュを乗せるんだ』

 

淡々と告げられた内容に唇を噛む。またアンジュなのか、沸き上がる嫉妬を抑え切れず、サリアは思わず口を開いた。

 

「だったら…私がヴィルキスで出るわ!」

 

そう……アンジュなど必要ない。彼女にヴィルキスは渡さない。だが、サリアの意思を制するように冷淡なジルの声が響く。

 

『黙れ! 今は命令を実行しろ!』

 

響く恫喝がサリアの内にあった大切なものを傷つけ、サリアは悔し涙を浮かべる。

 

「私じゃ…ダメなの? ずっと、あなたの力になりたいって思ってた……ずっと、ずっと頑張ってきたのに! なんでアンジュなの? なんであんな子なのよ! ちょっと操縦がうまくて器用なだけじゃない! 命令違反して、脱走して、自分勝手な奴なのに! どうしてよ!?」

 

これまで抑え込んできた感情が爆発し、吐露するサリアだったが、次にジルの放った言葉は、サリアへの否定だった。

 

『……そうだ』

 

「バカにしてっ……!」

 

愕然となった瞬間、サリアはアーキバスから降り、後方の機体へと向かって駆けていった。

 

「(見てなさい! 私の方が優れてるって思い知らせてあげるわ!)」

 

悔しさと怒り、それがごちゃ混ぜになりながら、サリアは止めようとするメイを振り切り、『ヴィルキス』へと飛び乗った。

 

 

 

その頃、焔龍號のコックピットにいるサラは戻ってくるドラゴンの話を聞いていた。

 

「え!?彼処にキオが!」

 

サラは驚き、アルゼナルの甲板上層部をズームする。そこにはサラに向かってキオがチェスチャーしていた。

 

「耳に?」

 

するとキオがインカムを見せる。

 

「?……通信!」

 

サラは通信機を起動すると、キオが通信してきた。

 

『サラ!俺だ!』

 

「キオ!」

 

『テレシアがドラゴンを追いかけ回しているだろ?今から聞く作戦の内容通りにやってくれ!テレシア達に君達や彼女らに殺さず、追いかけ回すようにと命令した!だから、テレシアとともに彼女達を追いかけ回してくれ!撃ってきたらテレシア達が守ってくれる!だから頼む!』

 

「ですが!」

 

「姫さま、来ました!」

 

「?」

 

蒼龍號のパイロットであるナーガがこちらへ向かってくる機影を見る。その中にヴィルキスがいた。

 

「あれは、ヴィルキス……」

 

ヴィルキスは不安定な飛空をしながら、こちらに向かってくる。

 

「姫さま!」

 

「ここは私達が!」

 

蒼龍號と碧龍號に乗っているナーガとカナメがサラを守ろうと前に出る。

 

「ナーガ、カナメ、良いのです。ここは私に♪」

 

「「姫様!」」

 

サラは不安定に飛ぶヴィルキスへと向かう。一方、サリアは単体で不明機のパラメイルへと向かう。っが出力が上がらない事にイラ立ちを現す。

 

「もっと!もっと早く飛べるでしょ!?」

 

何とか体制を整えて、呼吸を整えながらもヴィルキスの性能に驚きを隠せない。

 

「嘘よ…ヴィルキスがこんなにパワーが無いなんて…(アンジュの時はもっと…!)」

 

サリアが考えてる中でドラゴンが攻めて来る。その時にサリアを狙っているドラゴンをヒルダのグレイブが撃ち落とす。キオはバイザーでズームし、乗っているのがヒルダとアンジュと確認する。

 

「アンジュ、ヒルダ……良し!セイレーン!」

 

格納庫にあるセイレーンのツインアイが光り、キオの元へ飛び上がる。キオのところに着陸し、乗り込もうとした時、大きなワームホールが現れると同時に、中から終焉のテレシアが飛来する。

 

「終焉のテレシア!!」

 

セイレーンに乗ったキオが驚くと、終焉のテレシアが頭を下げる。

 

「?……乗れって言うのか?」

 

するとテレシアがセイレーンを掴み、そのまま飛ぶ。

 

「どうなるんだ?」

 

キオはそう考えていると何処からか声が聞こえてくる。

 

『…………んなさい』

 

「?」

 

『……ごめんなさい……あなた達に……こんな“力”を与えてしまって……』

 

するとキオの目の前の光景が変わる。何処か知らない都、和風建築な建物は燃え盛り、この世界独自のドールの残骸、絶命している民や兵達の体には無数の風穴があった。

 

「何……これ?……っ!!!!!?????」

 

キオが無残な光景を見ていた直後、背後からこの世とは思えないとてつもない殺気を感じとる。

 

「(何だ!?……この殺気!?)」

 

キオは恐る恐る振り向く。

 

「っ!!!!!!」

 

キオは驚く、血のように紅く染まった空に浮かび上がる巨大な頭部、嫌……その頭部だけなく全ての大地をも覆い尽くす程の巨大な人型をした巨人であった。さらに驚くのは巨人の身体の殆どが白と灰色に染まった大地と蒸気を放つ機械の半分で出来ており、巨人は赤く染まる四つの野獣の如く眼差しでキオを見つめる。

 

「何だ!?この化物は!?」

 

すると巨人は口が傾き、悍ましい微笑みを表し、耳まで裂けた口を大きく開かせる。

 

「!!」

 

キオの身体の中の細胞が昂ぶると同時に手と足が怪物の放つ威圧に手と足がの身動きが取れなくなる。

 

「(何で!?……何で動かないんだ!?)」

 

するとキオの後方から無数のテレシアや見たこともないドール、そして龍と思わせる白きドールが翡翠色の天使の翼と深紅色の龍の翼のエナジーウィングを展開し、巨人に向かってテレシアに命令する。

 

「我が同胞よ!忘れてはならぬ!我が“エルダー 一族”は決して、あの忌まわしきあの“神”によって我ら同胞の無念!ここで貼らさせてもらう!!!愛しき子である我が子達の未来を守る為に!!」

 

気高く美しい女性のパイロットは黄金に輝くモナドを神に突き付け、宣言する。

 

「同胞よ!厄災をもたらす神に!我が同胞と一族!エルダー皇国に永遠と栄光を!!!」

 

全軍が一気に突撃すると、神は声を上げる。

 

 

 

 

 

【……………面白い!!!】

 

 

 

 

 

神は微笑み、四つの目から収束拡散レーザーを放つ。

 

「(フェメル…ティオル…ココル……お母さんはいつまでも!あなた達を!!)」

 

女性は塵となっていくテレシアに構わず、モナドを振り下ろした。

 

「っ!!……母さん!!」

 

突然キオが女性に手を差し伸べ叫んだ。そして映ったのは、焔龍號とヴィルキスからサラとアンジュが会話していた。

 

「何故 偽りの民が、『真なる星歌』を?」

 

「あなたこそ何者!?その歌は何!?」

 

するとキオ達の回りにある光景が広がる、それはある服装や戦争をしているキオ達の姿をしていて、それにキオ達は目を奪われる。

っとその女性からの機体にある警報がなり、それにキオは向く。

 

「時が満ちる…か」

 

「ちょ!ちょっと!」

 

「真実は『アウラ』と共に」

 

そう言いってその不明機は残りの機体とドラゴン達と共にゲートの先へと消えていった。ドラゴンが消えて中、セイレーンのコックピット内でキオは手を差し伸べながら泣いていた。

 

「え?……何で?それに今……俺はあの女の人事を……」

 

すると終焉のテレシアが動き出し、ココのグレイブに迫る。

 

『ココ!危ない!』

 

「え?」

 

ミランダが注意するが既に遅し、テレシアはグレイブごとココを掴む。そしてそのままテレシアは丘の上に着地する。キオとココは緊張しながらテレシアを警戒する。すると終焉のテレシアが首を伸ばし、吐息を掛けると粒子が膨張し、拡散する。

 

閃光が掻き消え、その下から眩いばかりの虹色の粒子が満ちる。溢れんばかり粒子がキオとココを囲む。

 

「これ…」

 

「きれい……」

 

翡翠に輝く粒子がキオとココの服装を変えていく。スパルタンスーツは滑らかな鎧へと変わり、ヘルメットは光の翼を放出すると耳飾りへとなる。ココの方はアルゼナルの制服が弾け、機械を模した黒いドレスを纏う。

 

「これ……」

 

「服が……」

 

すると終焉のテレシアやテレシア達がキオとココに深くお辞儀する。

 

《エルダー皇国第ニ皇子 ティオル・ミラ・エルダー 皇太子殿下……エルダー皇国第一皇女 ココル・マシーナ・エルダー 皇姫殿下》

 

するとキオの中にいたアルヴィースとヒカリ、メツ、コスモスもお辞儀し、アルヴィースが呟く。

 

「我らを導く真なる皇族の兄妹よ♪」

 

「「……兄妹?」」

 

二人は互いに顔を見て、アルヴィースの方を向いてキオとココは天高く叫ぶ。

 

「「えええええええぇぇぇぇぇぇぇ!!!!???」」

 

「俺には!?」

 

「私には!?」

 

「「実妹がいたのか!!?/お兄ちゃんがいたの〜!?」」

 

キオとココ……明かされた事実に叫ぶ皇族の兄妹は驚くのであった。

 



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第14話:動き出す世界

 

ある場所に無数の島が浮いていて、その場所に社交場の様な丸くて大きなテーブルが置いてあった、その場所に各国の首相達が集まっていて。

彼らの回りにはアルゼナルを襲撃しているドラゴンの映像が映し出されていた。

 

「ドラゴンが自ら攻めて来るとは…」

 

「それにこのパラメイル、まさかドラゴンを引き連れて?」

 

一人の首相の目に映る映像にはあの不明機が映し出されていた。

 

「シンギュラーの管理はミスルギ皇家のお役目、ジュリオ…いえ陛下。ご説明を」

 

女性の首相がジュリオにシンギュラーの発生に付いて聞いてきた。

しかしジュリオは頭を傾げながら言う。

 

「それが、『アケノミハシラ』には起動した形跡が全くないのです」

 

「馬鹿な!あり得ん」

 

肥満な首相がジュリオの説明に納得が行かない事に拳をテーブルに叩き付ける。

 

「直ちにアルゼナルを再建し、力を増強せねば」

 

「だが、そうも行かんのだ」

 

っと年老いた首相がマナで次の映像を映し出す。すると光学兵器を発射するヴィルキスの映像が映し出された。

 

「この機体…まさか!」

 

「ヴィルキスだ」

 

それにはジュリオを含め各国の首相達は言葉を詰まらせていた。

 

「前の反乱の時に破壊された筈では?」

 

「アルゼナルの管理はローゼンブルム王家の役目。何故放置していた?」

 

それにはローゼンブルム王家の首相は表情を歪めながら黙る。

 

「監察官からは異常なしと報告を受けていた…」

 

「まんまとノーマにあしらわれていたと言う事か、無能め」

 

そう肥満体の首相は腕を組んで呟く。

 

「そしてその襲撃の最中、こんな物を見つけたのだ」

 

っと一人の首相がマナで新たな映像を映し出す。それはセイレーンとテレシアの映像だった。

それにはジュリオはと言うと…。

 

「うわっ!!! こ!こいつだ!!!」

 

ジュリオは思わず椅子から落ちて、怯えながらセイレーンに指をさす。

 

「何で奴がアルゼナルに!?」

 

そして今度は高貴な服装をしているキオとココの映像になる。

 

「何だこの二人は?」

 

「ノーマと……男だと?しかも何なのだねあの服装は?あのノーマ何故機械を模したドレスを?」

 

「それは置いておいて、今はどう世界を守って行くかを話し合うべき時」

 

女性の首相が皆にそう言い聞かせ、一人の首相が言う。

 

「ノーマが使えない以上、私達人類が戦うしかないのでしょうか?」

 

っとその事に各国の首相達は思わず戸惑いの声が上がる、そして木の裏で聞いていた一人の男性が立ち上がる。

 

「どうしようもないな…」

 

「え、エンブリヲ様?!」

 

一人の首相が思わず言う。世界最高指導者であるエンブリヲは皆の所に行く。

 

「本当にどうしようもないな…」

 

「し、しかし…ヴィルキスがある以上アルゼナルを再建させるには…」

 

「なら選択権は二つだ」

 

それに皆はエンブリヲに目線が行く。

 

「一、ドラゴンに全面降伏する」

 

「「「!!?」」」

 

それには思わず息を飲む首相達、エンブリヲは構わず言う。

 

「二、ドラゴンを全滅させる…」

 

「そ!そんな…!」

 

「だから…三、世界を作り直す」

 

っとそれにはジュリオが反応する。

 

「え?」

 

「全部壊してリセットする、害虫を殺し土を入れ替える。正常な世界に」

 

エンブリヲは肩にのって来た小鳥をなでながら言う。

 

「壊して作り直す…、そんな事が可能なのですか?!」

 

それにエンブリヲは笑みを浮かばせながら言う。

 

「全ての『ラグナメイル』とメイルライダーが揃えば。あと……あの二人の兄妹を私の元に連れてくるようにしてくれ♪彼らは膨大なドラゴニウムと膨大で濃度なエーテル粒子を持っている……新世界で新しいマナの光が永遠に生み出される…もう“ノーマ”と言う防衛兵器やドラゴンの侵略もない♪」

 

「やりましょう!! そもそも間違っていたのです!いまいましいノーマと言う存在も!奴らを使わねばならないこの世界も!」

 

エンブリヲの言葉に、ジュリオは賞賛の声を上げて立ち上がった。

 

「創り変えましょう、今すぐに!」

 

そして他の元首たちを、賛同を求めるかのようにぐるりと見渡す。

 

「そもそも間違っていたのです。忌々しい、ノーマという存在も。奴らを使わねばならないこの世界も!」

 

「バカな! ここまで発展した世界を捨てろというのか!?」

 

当然反論の声が上がる。が、

 

「では、他に方法がありますか?」

 

そうジュリオが発言すると、皆一様に押し黙ってしまった。

 

「話は決まったね。じゃ、庭の道具を使うといい」

 

そう言うと、エンブリヲはジュリオの掌に何かの鍵を置いた。

 

「期待してるよ♪ジュリオ君」

 

「お任せ下さい、エンブリヲ様!」

 

力強く返事をするとそれに満足したのか、エンブリヲの姿がその場から消えた。だが、消えたのはエンブリヲだけではなかった。その後、各国の元首たちも次々と姿を消し、ジュリオだけがその場に残った。すると、今度は彼らが今までいた海辺の屋外の光景も消えたのだ。代わりに出てきたのはジュリオの私室の光景であり、側に控えていたリィザの姿だった。

そう、先程の光景も、自分以外の全ての人物も、全部ホログラフィだったのだ。

 

「出るぞ、リィザ」

 

側に控えていたリィザにそう告げると、ジュリオは彼女を伴って自室を後にした。そんな彼の執務机の裏に盗聴器が仕掛けられてあるなどとは、ジュリオは思いもしなかっただろう。

 

 

 

「随分乱暴な手に出てきたもんだ…」

 

どこかの水路内部にて、盗聴器で先程までの各国の元首たちの密談を盗み聞きしていたタスクが呆れたように呟いた。ジュリオの私室の盗聴器は言わずもがな、タスクが仕掛けたものである。

 

「全部壊して創り直す…か」

 

タスクにしては珍しく怒りに満ちた表情で呟くと、アンジュを助けるときにも使った自機に跨る。

 

「急がなきゃね」

 

アレスを起動して、タスクは飛び立ってその場を後にしたのだった。だが、この時、各国の首相達が話し合っていたあの空間で、エンブリヲの元に杖を持った総裁“X”が現れる。

 

「『あの二人の兄妹を私の元に連れてくるようにしてくれ♪彼らは膨大なドラゴニウムと膨大で濃度なエーテル粒子を持っている……新世界で新しいマナの光が永遠に生み出される…もう“ノーマ”と言う防衛兵器やドラゴンの侵略もない』……何故あのような嘘をつく?」

 

「良いではないか♪……それに会いたかったのではいのか?」

 

「…………口を慎め。」

 

「フフフフ♪頑固なお爺さんだ事だな」

 

エンブリヲが呟くと、プレトリアン・ナイト達が武器構え、エンブリヲの喉元に突きつけられ。

 

「無礼者が!!!」

 

「待て……」

 

《っ!!》

 

総裁“X”が人差し指から赤黒い光球を出す。プレトリアン・ナイト達は慌て、急いで突き付けるのを止める。

 

「今回は……お前と共に私も出よう。」

 

「と言うことは……“あれ”で出るつもりか?」

 

「そうだ……我が旗艦を下等である“人間(生物)”達に知らしめるのだ。」

 

「お〜、それは恐ろしい物だな♪」

 

エンブリヲはそう言い、その場から消える。

 

「さて……準備をするか。ティオル…ココル……待っていろ♪フェイト、準備をしておけ」

 

『了解』

 

「お前も楽しみだろ?実の“弟”と“妹”と再会できるのだからなぁ♪」

 

総裁“X”から謎の声が発せられると、漆黒のフェイトは呟く。

 

『えぇ…』

 

「使うのだろ?……貴様の天の聖杯『巨神 ザンザ』のモナドを!!!!!」

 

『はい……』

 

「ならばお前も本気を出せ……それが出来なければ、貴様の臣下共の命はない。ティオル・ミラ・エルダーの天の聖杯『運命神 ウーシア』と“空のゾハル”。ココル・マシーナ・エルダーの天の聖杯『機神 メイナス』と“機のゾハル”を手に入れろ!!!!フェメル・ハイエンター・エルダー!!天の聖杯『巨神 ザンザ』と“地のゾハル”を持って!」

 

『仰せのままに…』

 

漆黒のフェイト改め……フェメルは通信を切り、Xもその場から消える。

 

 

 

 

 

そしてアルゼナルでは損害が大きかった外壁はどうにもならず、そのままの状態だった。

その場所でジャスミンがドラゴンの死体を大きな穴に落としていく。格納庫ではコモンとメイが必死にパラメイルの修理を当たっていて、医務室ではマギーは負傷者の手当てをしていた。

そんな中、ジルはメイルライダーたちを一箇所に集めていた。

 

「生き残ったのはこれだけか…」

 

心なしか気落ちした声色でジルが呟いた。だがそれは隊員たちも同じこと。シュバルツの件が糸を引き、場は恐ろしく沈んだ雰囲気になっていた。

 

「この中で、指揮経験者は?」

 

ジルの質問に手を上げたのはヒルダだった。そして、彼女以外は誰もいなかった。

 

「全パラメイル部隊を統合、再編成する。暫定隊長はヒルダ。エルシャとヴィヴィアンが補佐につけ」

 

「はあ? こいつ脱走犯ですよ。脱走犯が隊長って!」

 

「サリアが隊長で良いじゃない!」

 

尚も食い下がる。余程ヒルダの裏切りが許せないのだろう。

 

「あいつなら、命令違反で反省房の中だ」

「文句あんならあんたがやればぁ?」

 

それまで大人しくしていたヒルダが、気だるい感じでロザリーやクリスに振り返った。

 

「し、司令の命令だし、仕方ないし、認めてやるよ。なっ、クリス!」

「う、うん」

 

慌ててそう言い繕うロザリーにクリスが同調する。こうなるだろうことは予想していたとはいえ、ヒルダは面白くなさそうにそっぽを向いた。

 

「パラメイル隊は部隊編成の後、警戒態勢に入れ」

 

『イエス、マム!』

 

総員敬礼を返すと、解散する。命令を下したジルは一服するためだろうか、いつものようにタバコに火を点けた。そして、懐から一枚の紙を取り出すとそれに目を走らせる。

 

「壊して創り直す…か」

 

そして、恐らくその紙に書かれているであろうことの一部分を呟いた。と、

 

「ねえ」

 

不意に、声がかけられる。振り向くと、そこにいたのはモモカを従えたアンジュだった。

 

「私の謹慎、終わったのよね?」

 

アンジュが確かめるようにジルに問う。

 

「あぁ…」

 

「じゃあ、全部教えて。約束でしょ」

 

「このクソ忙しいときにか?」

 

ジルが鬱陶しそうにタバコの煙を吐いた。

 

「皆が助かったの、誰のおかげ?」

 

少しの間その場を沈黙が包んだ。が、すぐに、

 

「…いいだろう」

 

諦めたのかジルが了承した。

 

「但し侍女はなしだ」

 

そう切り捨てられ、モモカがあうぅ…と本当に悲しそうな声を上げた。そしてアンジュはジルの後をついていく。

 

「おい、何処行くんだ、アンジュ!」

 

そんなアンジュに、ヒルダが毒づく。が、二人の歩みを止めることにはならなかった。

 

「ったく、クソ忙しいってのに!」

 

「あら、ヴィヴィちゃんは?」

 

ヒルダの横にいたエルシャがその時始めて、この場にヴィヴィアンがいないのに気づいたのだった。

 

 

 

大破した居住区にあるサリアとヴィヴィアンの私室。ヴィヴィアンがいつも寝床にしているハンモックがグラグラ揺れると地面に落ちた。

 

「痛ったい…」

 

寝惚けた様子でヴィヴィアンが呟く。招集がかかっていたにもかかわらず私室で寝ていたらしい。いい加減というか大物というか、流石はヴィヴィアンである。

 

「落ちてる…何で…?」

 

ゆっくり目を開けながら、まだ完全に覚醒してないためか周囲を見渡す。と、

 

「わわっ、寝過ごしング!」

 

時計が目に入ったのだろうか、慌てて起き上がったのだった。

 

 

 

海が見える丘、キオとココは自分達が生き別れの兄妹だと言う事を知り、互いの出生を把握する。

 

キオは不妊症で子供を成さなかったロマノフ家の子として育てらた。ココは赤ん坊の頃からアルゼナルへと……。

 

「……でもおかしいな。」

 

「何がですか?」

 

「俺はアルヴィースとセイレーンと一緒に来た……つまり、ココも俺と同じ、ジャスミンがつけているメイナスと何かの“デバイス”に乗せられ、この世界へ来た。俺とお前は……何らかの目的を持ってだ……」

 

「目的……」

 

「待てよ、あの時の未来視……俺たちの本当の母さんはあの“神”に抗った後、どうなったんだ?」

 

「分からない」

 

「ココも見たのか……あの未来視……明らかに未来で起こる事ではない。もしかしたら過去に起こった事をそのまま視る事ができる。」

 

「過去を視る……“過去視”」

 

「良い名前つけたな……」

 

「「っ!?」」

 

するとキオとココの目の前の光景が移り変わる。海の彼方から複数の艦隊が来て、アルゼナルに集中攻撃をしてくる。次に何処か知らない空間で戦艦の他に“鷹”をイメージにした巨大で琥珀と黒がメインカラーをした大型戦闘機が格納されていた。最後に映るのは何処かの研究所、そこに色んな科学者が何かを研究しており、その中に綺麗でおっとりとした女性にある二人の研究者が話し掛ける。

 

「ミレイさん」

 

研究者とミレイと言う研究者は他の研究者から得た資料を見る。

 

「あの世界にある“亡国”の壁画……何が描かれていたのですか?」

 

「…………あれは、私達の世界とあなた方の世界の文明と科学が違うのは知っていますね?」

 

「え?はい……」

 

「……あの壁画に描かれているのは……私達の運命を左右する警告の事よ」

 

「警告?」

 

「その風貌、巨大怪鳥の如く。身の丈、大地の如し。」

 

「え?」

 

すると研究者の横に現れたのは……キオの養父である筈のチャールズ・ロマノフであった。チャールズは話を続ける。

 

「禍々しく山の如く四つの巨大な眼、大地を引き裂く四本の豪腕。

 

騎乗の覇王の如く、颯爽と天翔ける大翼は、大気を震わせ、その唸り声は星の大地を轟き揺るがす。

 

目と口と腹と大翼から無数の光線を放ち、その数 数千体から成る悪魔軍団……と言う内容だ。」

 

「そう……あの殺風景だと、凡そ私達が生まれる数万年前の遥か太古の昔の時代だった頃ね。」

 

新たに現れたのはキオの養母であるマリア・ロマノフであった。

 

「その世界の三柱の神……『巨神と機神と運命神』三柱の神々は互いの生命体を生み出し、平和に、穏やかに暮らしていたと…………だがある時、三柱の神の他に……もう一人の神も生まれていた。」

 

「もう一人の神?」

 

「……“魔神”だ」

 

「魔神?」

 

「チャールズがさっき言っていたあの壁画の内容の事よ。魔神だけは他の神と違い、生命を腐らせていく力を持っているの。これが本当なら、私達は生きて行けれない。あの世界の住人達が多分、その魔神を倒してくれたと思う……多分……」

 

マリアがそう思うと、キオとココの未来視と過去視が終わる。そして二人の目に映ったのは元の光景であった。

 

「今の過去視……何かを」

 

「何で……」

 

「?」

 

「……何で…父さんと母さんが出てくるんだよ?何なんだよ!」

 

キオは過去視に映った両親に疑問を浮かべたその時。

 

『総員、第一種戦闘態勢! ドラゴンです! 基地内に、ドラゴンの生き残りです!』

 

サイレンと共に、けたたましい管内放送がアルゼナルを駆け巡ったのであった。

 

 

 

 

ジャスミンモールと隣接した食堂に、管内放送の対象であるドラゴンの生き残りが迷い込んでいた。が、ドラゴンの生き残りというのはさにあらず。

いや、姿形こそ確かにスクーナー級のドラゴンなのだが、その正体は第一中隊の元気印、ヴィヴィアンだった。とはいえ、今の姿からは誰もそれがわかるはずはないだろう。

何しろ先述の通り、今はいつもの自分の姿ではなく、スクーナー級のドラゴンそのものであるのだから。

 

(うう~…何でこんなことにぃ…)

 

考えてところで理由がわかるわけはないのだが、それでも考えずにはいられない。と、

 

(ん? んんっ?)

 

その鼻が何かの匂いを嗅ぎ取った。そして、その匂いの元へと顔を向ける。

 

(やっぱりカレーだ!)

 

巧みに身体を厨房内部へと滑らせると、寸胴鍋の中にあった対象物を発見して腹ペコのヴィヴィアンが歓喜の声を上げる。

 

(いっただっきま~す♪)

 

寸胴鍋を持って食べようとしたヴィヴィアンだったが、鍋は不快な音を立てながら変形して口の部分が潰れてしまった。

 

(あれ?)

 

首を傾げたヴィヴィアンが、今度は床に落ちていたスプーンを拾い上げようとするものの上手く掴めない。

 

(ありゃ、おかしいなぁ…)

 

何でだろうと不思議がるヴィヴィアンだったがすぐに、

 

(あ、おかしいのあたしだ…)

 

自分の姿がいつもの状況でないのに気づいてポリポリと頭を掻いた。と、いきなり横から狙撃され、悲鳴を上げて慌ててその方向に顔を向ける。

 

「いたわ!」

 

そこには、自分に向けて銃を構えているサリアとエルシャの姿があった。

 

『サリア!エルシャ!』

 

そしてキオが到着する。

 

「行くぞ!」

 

キオがモナドを構えた瞬間だった…。

 

『キオ!!』

 

「えっ…?」

 

キオには聞き覚えのある声が聞こえた、それに思わず手が止まる。

 

「どうしたキオ君?」

 

「今…ヴィヴィアンの声が聞こえた」

 

その事にエルシャは驚き、ヴィヴィアンは急いで空へと逃げる。

 

「あ!待って!」

 

するとキオの背中に光の羽が生え、翼を広げ飛び立つ。

 

「嘘!?」

 

「キオ君が飛んだ!?」

 

エルシャとサリアが驚く中、キオは急いでそのままアルゼナルの上部へと到達して追いかける、丁度そこにアンジュもやって来てライフルを構える。

 

それを見たキオは止める。

 

「待て!撃つな!!」

 

「え?どうして?」

 

キオの問いに意味が分からずでいるアンジュ、その時にドラゴン態のヴィヴィアンが何かを歌い出し、それを見たアンジュはライフルを下ろす。

 

「これは…」

 

その歌はアンジュが歌っていた『永遠語り』によく似ていて、それにアンジュは歌い出し歩き出す。それにドラゴン態のヴィヴィアンも同じように歌い出しアンジュの元にゆっくりと行く。

キオはアンジュが歌いだしたのを見て、様子を見ていた。

 

っとそこにヒルダ達もやって来る。

 

「何やってんだよお前!」

 

ヒルダ達がライフルを構えた瞬間、キオがコスモスのキャノンを持ってヒルダ達の足元目掛けて技と外すように乱射した。

ロザリーは驚いてキオに怒鳴る。

 

「うわっ!! 何すんだよお前!!」

 

「手を出すな!!良いな!!」

 

アンジュが後ろを向くも、すぐに前を向いて歩く。その時にサリア達が来て、サリアがライフルを構える。

 

「離れなさい!!」

 

っがその時にジルがサリアのライフルを下ろさせて、それにサリアは見る。

そしてアンジュはドラゴンと向き合い、アンジュが触れた瞬間ドラゴンは一瞬に霧状になって行った。

 

キオはうっすらと見えているヴィヴィアンの今の状態に気付き、思わず顔を赤くし慌てて後ろを向く。

 

「ここでクイズです!人間なのにドラゴンなのってなーんだ?」

 

元の人間に戻ったヴィヴィアンにアンジュは唖然とするしかなかった。

 

「あっ違うかドラゴンなのに人間…? あれれ…意味分かんないよ…!」

 

自分がドラゴンだった事に戸惑うヴィヴィアンは泣いて混乱している中で、アンジュは優しく声を掛ける。

 

「分かったよ私は…、ヴィヴィアンだって」

 

「あ、有難う…アンジュ、分かってくれたの…アンジュとキオだよ」

 

っとヴィヴィアンはアンジュに抱き付いて泣きつき、後からやって来るロザリーとクリスもモモカも今の光景に目を奪われる。

 

「何だ…一体?」

 

「どうなってんだよ?」

 

「今ドラゴンからヴィヴィアンが出て来た様に見えたけど」

 

クリスの言葉にキオは顔を見合う。

そこにマギーがやって来て、ヴィヴィアンに麻酔を撃ちこみヴィヴィアンを眠らせて、マギーはヴィヴィアンを抱いてその場から去って行く。

 

見送ったアンジュ達はアルゼナルの抉られた場所に捨てられているドラゴンの死体の山を見る。

その時にヴィヴィアンの言葉を思い出す。

 

『人間なのにドラゴンなのってなーんだ? ドラゴンなのに人間…?あれれ?』

 

「っ!? まさか…!!」

 

アンジュは思わずあの場所に行き、キオ達も付いて行く。

 

「アンジュリーゼ様!」

 

モモカはアンジュの行動に叫び、ヒルダも同じように言った。

そしてジャスミンが死体を集めた所でガソリンをまき、ライターに火をつける、っとバルカンがアンジュ達に向かって吠え、それにジャスミンは振り向く。

 

「来るんじゃないよ!」

 

そう言ってジャスミンはライターを死体の山に投げ、死体を燃やし始めた。

キオ達は燃えている死体に驚きの光景を目にする。ドラゴンの死体の中に人間の姿も紛れていた。

 

それにはキオ達は言葉を失う。同時にヒルダ達も来る。

 

「おい!一体何が…!?」

 

「何…これ?」

 

「ドラゴンが…人間に」

 

その光景に皆がくぎ付けられてる中で煙草を持っているジルが来る。

 

「よくある話だろ?『化け物の正体は人間でした』…なーんて」

 

それにアンジュは息を飲み、再びドラゴンを見る。そして今までの事を思い出す。自分がドラゴンを殺し……そして倒していく光景に。

っとアンジュは思わず口を抑え、キオの腕を掴み、地面に向けて嘔吐する。

 

「う!うえぇぇぇぇ!?!」

 

「!!? アンジュ!!」

 

「アンジュリーゼ様!!」

 

キオとモモカが心配する中でアンジュの頭の中は混乱していた。

 

「私…人間を殺していた…? この手で?ねえ!キオ!! 私…私…!!?」

 

アンジュはキオ腕を掴みながら何度も問い、それにキオはジルを少しばかり睨みながら見る。

 

「…ジル、アンジュには言わなかったのか!」

 

それにジルは煙草を吸い、吹かしながら言う。

 

「フン、言ってどうする? それに気に入ってたんだろ?ドラゴンを殺して金を稼ぐ、そんな暮らしが」

 

「てめぇ…!アンジュの心をもて遊んでんのか!?」

 

キオはジルに向けてモナドを構える、それにエルシャは慌てて止める。

 

それでもキオの怒りは収まらず、そしてアンジュはジルを睨みながら怒鳴る。

 

「くたばれクソ女!!!もうヴィルキスには乗らない!!ドラゴンも殺さない!!! 『リベルタス』なんてくそくらいよ!!!」

 

その事にサリアはアンジュが知らないリベルタスを知っている事に思わず反応する。

 

「『神様』に買い殺されたままで良いなら、そうすればいい」

 

そう言い残してジルは去って行き、ジルを睨んだままアンジュはさらに嗚咽する。

キオはこの時に決心した、やはりジルを信用する事は出来ないと…。

 

 

 

 

 

 

ジルが臨時司令部に戻って行く所だった。

 

「『神様』か…」

 

っと誰かの声が聞こえ、ジルは足を止めて振り向くと、そこにはエンブリヲが立っていた。

 

「私は自分から名乗った事は一度もないぞ? 『創造主』と言う意味であれば…正解かもしれんが」

 

世界最高指導者がアルゼナルに居た事にジルはすぐさまマグナムを取り出してエンブリヲに撃ちこむ、しかし弾丸はエンブリヲの身体をすり抜ける様に後ろに木に当たり、ジルはエンブリヲを睨む。

 

「エンブリヲ…!!!」

 

「怒った顔も素敵だなアレクトラ…、今は司令官のジルか? 」

 

「クッ!!」

 

「ん?来たようだ…」

 

するとエンブリヲが違う方向を見ると、そこにマナの映像が映し出される。

 

『こちらはノーマ管理委員会直属、国際救助艦隊です。ノーマの皆さんドラゴンとの戦闘…』

 

その放送を聞いたジルはすぐに臨時司令部へと向かう。

 

その中でアルゼナル付近の海域で、ミスルギ艦隊がアルゼナルへと進攻していた。

その艦の中で旗艦『エンペラージュリオ一世』に乗艦しているジュリオが笑みを浮かばせていた。

 

「さあ、最後の再会と行こうじゃないか。アンジュリーゼ」

 




さぁ!次回はココ専用のデバイスが登場すると同時に、二人の本当の力
そして総裁“X”と二人の実の兄である『漆黒のフェイト』本名“フェメル・ハイエンター・エルダー”が登場します!次回も楽しみに!!


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第15話:三兄妹

 

『こちらは、ノーマ管理委員会直属、国際救助艦隊です。ノーマの皆さん、ドラゴンとの戦闘ご苦労様でした』

 

先程ジルの目の前に開いたウィンドウは、今はアンジュたちの前にも現れていた。燃え盛るドラゴン…いや、火葬されている大量の人の死体の前で、まるで似つかわしくない暢気な放送が流れている。

 

『これより、皆さんの救助を開始します』

 

「アンジュリーゼ様、助けです! 助けが来ましたよ!」

 

モモカが嬉しそうにはしゃいだ。この放送を鵜呑みにしているのだとしたら、なんともおめでたい限りである。現にアンジュを初めとする第一中隊の面々は歓声を上げるでもなく、表情を綻ばせるでもなく、疑いの眼差しでウインドウを見ていた。

 

『全ての武器を捨て、脱出準備をしてください』

 

「耳を貸すなよ、戯言だ」

 

司令室で同じようにウインドウを見ていたパメラ、オリビエ、ヒカルの三人が振り返った。そこには、司令部に戻って来たジルの姿があった。

 

「対空防御体制」

 

『イエス、マム!』

 

三人がジルに敬礼を返すと、矢継ぎ早にその指示をアルゼナル全域に伝える。程なく、先程と同じように防衛の準備が整った。

 

 

 

「アルゼナル、対空兵器を起動!」

 

対して放送を流し、アルゼナルへと向かっている救助艦隊…らしきもの。兵員の一人がアルゼナルの変化を報告した。

 

「やれやれ…」

 

報告を受けたジュリオが疲れたような表情で首を左右に振った。

 

「平和的にことを進めたかったというのに」

 

ジュリオは立ち上がると、マイクを手に取った。

 

「旗艦、エンペラージュリオⅠ世より全艦艇へ。たった今ノーマはこちらの救援を拒絶した。これは我々…いや、全人類に対する明確な反逆である。断じて見過ごすわけにはいかん! 全艦攻撃開始!」

 

号令と共にジュリオの指示通り、全艦隊がアルゼナルへ向けて攻撃を開始した。もっとも、先程の各国首脳会談の悪巧みの結論から、遅かれ早かれこうなっていたのだろうが。

その頃アルゼナルでは、ジャスミンの飼い犬であるバルカンが攻撃の気配を察知したのか、空を睨むと立て続けに吼えたのだった。

 

「!…小娘ども、来るよ!」

 

そのバルカンの姿にいち早く危険を察知したジャスミンがその場を離れる。

 

「え…?」

 

何のことかわからないのだろうか、一人モモカが首を傾げた。が、すぐにその意味するところがわかることになる。ミサイルの雨がアルゼナルに降り注いだのだ。

ある程度は対空防御によって着弾する前に処理出来るものの、それでも全て落とせたわけではない。対空防御の網の目を掻い潜った幾つかのミサイルがアルゼナルに着弾し、爆発して施設を壊し隊員たちの生命を奪っていく。まさに地獄絵図の様相を呈し始めていた。

アンジュたちも悲鳴を上げながらジャスミンに続いて施設内へと避難する。そして、そんな彼女たちの許へと向かおうとする機影が一つ。

 

「くそっ、遅かったか!」

 

タスクであった。

 

「無事でいてくれ、アンジュ!」

 

祈るようにそう言うと、タスクはアレスのスピードを上げたのだった。

 

 

 

 

 

アルゼナル内部。

何とか施設内に逃げ込んだアンジュたちだったが、一息つく暇もなかった。艦隊からの攻撃が止むことなく続いているからである。何処も彼処も建物は揺れ、爆音が耳を支配している状態だった。エルシャだけは一人離れ、子供たちのところに様子を見に行って彼女たちを落ち着かせていた。

 

「攻撃してきやがった!」

 

「救助なんて嘘だったんだ…」

 

ロザリーが歯噛みし、クリスが顔を伏せる。と、

 

『諸君』

 

ジルからアルゼナル全域へと通信が入った。

 

『これが人間だ』

 

恐らくは地下へと向かっているのだろう、囲いのない形だけのエレベーターに乗って下りながら通信を続ける。

 

『奴らはノーマを助けるつもりなどない。物のように我々を回収し、別の場所で別の戦いに従事させるつもりなのだ』

 

ジルの表情は険しい。状況が状況なのだから当然かもしれないが、それでも今までの中で一・二を争うぐらいに表情も雰囲気も険しかった。

 

『それを望む者は投稿しろ。だが、抵抗する者は共に来い。これより、アルゼナル司令部は人間の管理下より離脱。反抗作戦を開始する。…作戦名は、リベルタス』

 

決して望んだタイミングではなく、状況に迫られての側面は多々あるが、それでもここにアルゼナルの最後の作戦である“リベルタス”が発動されたのだった。それを聞き、この作戦の中心人物たちの表情が鋭さを増した。

 

『志を同じくする者は、武器を持ち、アルゼナル最下層に集結せよ。』

 

 

 

 

 

 

 

「お前たちはどうする?」

 

ジルと共にエレベータにー乗っていたパメラたち三人のオペレーターに、ジルが尋ねた。一瞬、三人は互いの顔を見合わせたが、それは本当に一瞬だった。

 

「共に参ります、司令と」

 

パメラが答えたのに同意するように、オリビエとヒカルも強く頷いた。

 

「サリア」

 

三人の返答を聞いたジルが、サリアに個人的に通信を入れた。

 

「アンジュは必ず連れて来い」

 

「わかってるわ…」

 

通信を受けたサリアはターゲットに気付かれないようにゆっくりとアンジュに視線を向けるとそう答えた。

 

 

アルゼナル最下層。

目的の場所に着いたジルがコツコツと歩を進める。

 

「いつの間にこんな…」

 

対照的に、パメラたち三人は辺りをキョロキョロ見渡していた。が、それも当然である。何しろ、ここに来るまで知りもしなかった施設の中にいたのだから。そして程なく、一向はアルゼナルの司令部によく似た場所に辿り着いた。

 

「パメラ、操縦席に座れ」

 

ジルはそんな三人に答えることもなく矢継ぎ早に指示を出す。

 

「ヒカルはレーダー席、オリビエは通信席。全システム起動、発進準備だ」

『イエス、マム!』

 

三人の返答が揃った。彼女たちのいる施設…それは巨大な戦艦の内部だった。一方、上階の施設内部では、

 

 

 

「反抗ってどういうことだよ!」

 

声を上げたのはロザリーだった。

 

「司令に従って死ぬか、人間共に殺されるか選べってことでしょ」

 

ヒルダがインカムをつけながらそう答えた。そして、

 

「ヒルダ了解。指揮下に入ります」

 

インカムに向かってそう告げた。恐らく通信先はジルか、通信席にいるオリビエだろう。その回答に、ロザリーとクリスは驚いてヒルダを見た。

 

「人間たちには怨みも憎しみもある。反旗を翻すにはいい機会さ。それに、キオももうすぐ合流するんだ。反る理由なんかないだろ?」

 

『間もなく敵の第二波がくる。パラメイルで迎撃せよ』

 

「イエス、マム」

 

指揮下に入った理由を二人に説明した後で、ジルからの指令を了承するとヒルダは通信を切った。

 

「私も行くわ、ヒルダちゃん」

 

声をかけられ、ヒルダとロザリーとクリスの三人が振り返った。

 

「護らなくちゃね、大切なものを」

 

そこにいたのは、決意を固めた表情のエルシャだった。そしてその周りには、彼女の言うところの大切なもの…幼年部の子供たちが十重二十重に彼女を囲んでいた。

 

「人間に刃向かって、生きていけるわけないでしょ!」

 

そう叫んだのはクリスである。が、

 

「やってみないとわからないさ」

 

ヒルダが不敵な笑みを浮かべた。もう随分、いつもの調子が戻ってきたようである。

 

エルシャが同意すると、子供たちが喜んだ。

 

「そーゆーことさ。そうだろ、アンジュ?」

 

ヒルダが同意を求めるように振り返った。が、

 

「あ…?」

 

そこには先程まで確かにいたはずのアンジュの姿はなかった。

 

 

 

「ヴィルキスが最優先だ! 弾薬の装填は後回し! 非常用エレベーターに載せるんだ!」

 

整備デッキ、メイの指示が飛ぶ。その指示の下、整備班の隊員たちは一丸となってパラメイルの修理と補給を行っていた。

 

「メイ、発進準備は!?」

 

そこに、パイロットスーツに着替えたヒルダたちがやってきた。

 

「えっ? ああ、いつでもいけるよ!」

 

メイが答える。ここでもヒルダ復帰の好影響か、メイの表情は先程までと違って非常に明るかった。声にも張りがある。と、

 

「あたしらもね」

 

彼方から声が上がった。ヒルダたちが視線を向けると、生き残った第三中隊の面々が同じようにパイロットスーツに着替えて、ヒルダたちに向かって敬礼した。

 

「ヒルダ隊長。ターニャ以下五名、出撃準備完了です!」

 

「よし」

 

頼もしい援軍に、ヒルダが満足げに頷いた。一方その頃、姿の見えなくなったアンジュはと言うと、サリアに後ろからライフルを突きつけられ、地下へと下りているところだった。

 

『第一中隊、出撃!』

 

オリビエの号令の下、オールグリーンとなった整備デッキで第一中隊が出撃し始める。まずは、新たに編入された五名が空へと舞い上がった。

 

「マジで人間と戦うのか?」

 

ロザリーが不安を口にする。パイロットスーツに着替えてここまで来たものの、やはり不安は拭いきれないのだろう。と、

 

「何、あれ?」

 

半壊している整備デッキから空を見ていたクリスが何かを見つけて指差した。ロザリーも視線を向けると、青い空を埋め尽くすかのように小型の何かが無数に浮かんでいたのだ。

円盤状のそれは暫く浮遊していたが、遠隔によるスイッチでも入ったのか上下が展開し無数の刃が飛び出た。そしてそれが高速回転して嫌な機械音を上げる。まるで空中浮遊する丸のこのようだった。

と、それが次の瞬間には降下してきてアルゼナルの地表に次々に突き刺さって削っていく。その影響で、整備デッキの一部が爆発、炎上した。

 

「!…退避!」

 

ヒルダが慌てて指示を出してその場から離れる。そのため人的被害はなかったものの、噴煙が収まった後の整備デッキには瓦礫が散乱してすぐには仕えない状態となってしまっていた。

 

「チッ!」

 

思わず舌打ちするヒルダ。

 

『た、隊長!』

 

そんなヒルダに通信が入った。

 

「どうした、ターニャ」

 

ヒルダが応答する。と、

 

『空に、空一面に未確認機が!』

 

先に出て迎撃に当たっているターニャたちが件の小型円盤と戦闘しながら、応援を要請するかのように叫んだ。そのうちの一機、イルマの乗るパラメイルが小型円盤から発射されたワイヤーに絡め取られて自由を奪われる。

 

「た、助けてー!」

 

恐怖に顔を引きつらせながらイルマは助けを求めたが、それは実ることなくイルマは無理やり空域を離脱させられたのだった。

 

『隊長! イルマが、イルマが連れて行かれた!』

 

「連れて行かれた…? どういう」

 

詳しい状況をヒルダが聞こうとしたその時だった。周囲が一瞬で真っ暗になったのだ。何が起こったのか…それは一足先に艦に乗り込んでいたジルたちが把握していた。

 

「発電システム、反応消失。基地内の電源、全てダウンしました」

 

「補助電源機動。攻撃による損傷か?」

 

「侵入者による攻撃です!」

 

状況確認のために尋ねたジルにオリビエが答えた。遂に到着してしまったのだ、人間たちの先鋒隊が。そしてそれによって、惨劇がそこかしこで繰り広げ始められた。

 

 

 

ジャスミン・モール。

つい先日までは大勢の隊員たちの憩いの場として賑やかだったここも、今では瓦礫の山に埋もれかけた廃墟になっていた。その中で、逃げ遅れた隊員たちが一箇所に集められ、跪かされて両手を頭に置かされている。そんな彼女たちを抑え込むように、何人かの武装した兵士たちがその周囲を囲んでいた。隊員たちは強要されているのか皆一言も喋らないものの、その表情は恐怖で満ちている。

そんな中、武装した兵士の一人がウインドウを開きながらそこに記された情報を滑らせていた。そこにあったのは、メイルライダーたちの一覧表だった。

 

「該当者、ありません」

 

その兵士がウインドウを閉じる。メイルライダーたちにとっては幸いだったが、兵士たちにとっては不幸なことにお目当てのメイルライダーはその隊員たちの中にはいなかった。

 

「本当に、殺すんですか?」

 

ウインドウを閉じた兵士が傍らの兵士に尋ねる。言葉遣いから、恐らく上官なのだろう。

 

「第一目標、アンジュリーゼ。第二目標、ヴィルキス。第三目標、メイルライダー数名。それ以外は処分だ」

 

何の慈悲もなくその兵士はそう告げると銃を構える。そして何一つ躊躇なく発砲した。その直後、兵士に向かってホーミングレーザーが炸裂する。頭頂部からX・BUSTERを放ったコスモスがおり、キオが急いで彼女達を誘導する。

 

『敵がアルゼナル内部に侵入! 襲撃目的は、人員の抹殺! 総員退避! 逃げてーっ!』

 

パメラの悲痛な通信がアルゼナル全域に響き渡る。その間も、火炎放射や銃撃などで隊員たちが次々に若い生命を散らしていった。

 

 

 

「エルシャ!」

 

整備デッキでは通信を耳にしたエルシャが慌てて走り出した。その彼女をヒルダが呼び止める。

 

「ゴメン、すぐ戻るから!」

 

一瞬だけ足を止めて振り返ってヒルダにそう答えると、エルシャはすぐに再び走り出した。

 

「ったく!」

 

不満げな表情になって吐き捨てるヒルダ。と、

 

『デッキ上の各員に告ぐ!』

 

ジルからの管内放送が響き渡った。

 

『敵の狙いはヴィルキスだ。対象の地下への運搬を最優先事項とせよ!』

 

「整備班集合!」

 

ジルの通信を聞いたメイが整備班に集合をかけた。

 

「ヴィルキスは手動で降ろす!」

 

『イエス、マム!』

 

メイが判断を下すと整備班はすぐさま手動降下の準備に入り始めた。が、そうしようとした整備班の一人が不意に横から発砲されて絶命する。とうとう、整備デッキにまで攻めてきたのだ。そして時を同じくして医務室前。そこでも銃撃戦が繰り広げられていた。

 

「重傷者の搬送が最優先だ! ちょっとぐらい内臓が出てても我慢しろ!」

 

瓦礫に身を隠してマシンガンで兵士たちを牽制しながらマギーがそう指示を出す。その指示に従い、ここに身を寄せていた隊員たちは重傷者から搬送していた。

 

『(ったく、きりがないね!)』

 

ドンパチをしながらマギーが内心で悪態をついた。こちらは一人で向こうは数人。状況が不利なのは誰の目にも明らかだった。

今更弱音を吐くわけにもいかず、マギーは辛抱強く応戦を続けていた。と、

 

「助けて私、ノーマじゃない!」

 

パニックになっているのだろうか、助けを求めてエマが銃弾飛び交う中、兵士たちに駆け寄ろうとする。

 

「バカ!」

 

マギーが飛び掛ってエマを押さえ込む。その直後、その拍子に宙を舞った、いつも彼女が被っている帽子の中心を弾丸が正確に撃ち抜いた。

 

「殺されたいのか!」

 

マギーが吐き捨てた直後、その穴の開いた帽子が目の前に転がり、エマは顔を引き攣らせた。

 

「チッ!ここはもうダメか」

 

状況の悪化でマギーはそう判断すると、マシンガンを構えたまま医務室内へと滑り込んだ。

 

「撤退する!ヴィヴィアン!」

 

医務室で未だ意識を失っている彼女を起こそうと、マギーがヴィヴィアンの名前を鋭く叫んだ。が、

 

「該当あり。メイルライダーです」

 

いつの間にやってきたのか、医務室内部にも数人の兵士たちの姿があった。

 

「その子、どうする気だ!」

 

マギーがマシンガンを兵士たちに向ける。だが、僅かに兵士たちの発砲のほうが早かった。

 

「ヴィヴィアン!」

 

慌てて医務室を出たマギーがヴィヴィアンに呼びかける。だが、ヴィヴィアンの意識は戻らなかった。

 

「ヴィヴィアン!」

 

室外からもう一度叫ぶものの、やはりヴィヴィアンの意識は戻らなかった。数名の兵士たちが銃を発砲してマギーを牽制し、残りの兵士がヴィヴィアンを拘束して窓面から室外へと連れ去っていったのだった。

 

 

 

他方、整備デッキ。

乗り込んできた兵士たちと第一中隊は他の場所と同じように銃撃戦を繰り広げていた。と、当たり所が悪かったのか、一機のパラメイルの一部分が爆発して装備が吹き飛ぶ。

 

「あーっ! おニューの連装砲が!」

 

悲鳴を上げたのはロザリーだった。全く運のないことである。

 

「この野郎!」

 

この恨み晴らさでおくべきかとばかりにロザリーがマシンガンを発砲した。ヒルダも同じようにマシンガンをぶっ放す。

 

「もうダメだよ。私たち、死ぬんだ…」

 

一人、悲観的なのがクリスであった。彼女の場合は、もともとの性格に起因しているというのもあるのだろうが。

 

「死の第一中隊が、こんなところでくたばってたまるかってんだ!」

 

「今更隊長ヅラしないで!」

 

「はいはい」

 

激高したクリスを軽く受け流すヒルダ。と、その視界が正面に、こちらに向けてライフルを構えている兵士の姿を捉えた。

 

「危ない!」

 

思わず身を挺してクリスの盾になるヒルダ。するとそこにキオが現れ、モナドを振り回し、銃弾を弾き返す。

 

「何だアイツは!?」

 

「男だと!?ん……よく見たらっ!!」

 

何かを言おうとした直後、キオがハンドガンで兵士の頭部を撃ち抜く。

 

「女の子や武器も持たぬ子供まで……それでも軍人かぁぁっ!!!」

 

キオの頭上にセイレーンが現れ、フレシキブルアームからビームソードを展開し、兵士達を薙ぎ払っていく。

 

 

 

「ヴィルキスがまだ整備デッキに…」

 

アルゼナル施設内のどこか。インカムで通信を受けながら、サリアが通信先の相手にそう返した。誰と通信しているのかはわからないが、その内容から恐らくジルかメイのどちらかであろう。

 

「アンジュを届けたら、私もデッキに戻るわ」

 

その言葉通り、サリアとココとミランダはアンジュの背後に回って後ろから銃を突きつけながら進路を誘導していた。先程から構図は全く変わっていない。そして彼女の前には先導するかのように、モモカを抱えたジャスミンとバルカンの姿があった。

 

「…ここ、危ないんでしょ? 逃げる準備なんてしてる場合?」

 

不満げな表情でアンジュがサリアに言葉をぶつける。

 

「言ったでしょう? あんたには、大事な使命があるの」

 

そう返すサリアも、アンジュに負けず劣らずの険しい表情だった。

 

「あんたとヴィルキスは必ず無傷で脱出させる。…それが私の、多分、最後の使命」

 

最後の方は自嘲気味になってサリアが呟いた。

 

「そのためには、仲間の生命も見捨てるってこと?」

 

「…仕方ないわ」

 

サリアの返答を聞くと、アンジュは歩みを止めた。そして、

 

「あの女そっくり」

 

サリアに向かって振り返ると、侮蔑したようにそう吐き捨てたのだった。そう言われ、サリアは思わず息を呑む。

 

「わけのわかんない使命感や、無意味な絵空事に酔いしれてるだけの偏執狂。巻き込まれて死んでいく方は、堪ったもんじゃないわね!」

 

そこまで言ったときサリアから平手が飛んできた。

 

「あんた何もわかってないのね! 自分がどれほど重要で、恵まれていて、特別な存在なのか!」

 

「わかりたくもないわ…」

 

「では、息を止めてください。アンジュリーゼ様!」

 

アンジュが吐き捨てた直後、今までされるようにジャスミンの肩に担がれていたモモカがそう言うとジャスミンから飛び退った。恐らく今までは機会を伺ってタイミングを待っていたのだろう。

 

「せい!」

 

着地の寸前、何か缶のようなものを地面に投げつける。すると、その缶から粉状の中身が一気に周囲に飛散した。

 

「何だいこりゃ!」

 

ジャスミンが悲鳴を上げ、バルカンも同様に苦しそうに吼えた。

 

「アンジュ! 何処に…くしゅん!」

 

口元を押さえながらアンジュを探すサリアだったが、思わずくしゃみが出てしまう。そう、モモカが叩きつけたのは塩コショウの缶だったのだ。

モモカの指示に従ったアンジュは寸でのところで息を止めていたので、被害は最小限に抑えられ、何とか脱出できたというわけである。

…それにしても、実にやり方がレトロな上に都合のいい展開であるが、まあそこは突っ込まないのがお約束であろう。

 

「いつでもお料理できるように…くしゅん! 塩コショウを用意しておいて良かったです…くひゅん!」

 

今来た道を戻りながらモモカが嬉しそうにそう言った。

 

「随分大胆なことするようになったわねえ…はっくしゅ!」

 

後ろを走るアンジュは随分嬉しそうだった。被害は最小限とはいえ、サリアたちと同じようにくしゃみをしているのはご愛嬌だろう。

 

「アンジュリーゼ様の影響で…くしゅ!」

 

モモカも微笑みながらくしゃみをした。

 

塩コショウの中、ココがアンジュを探そうとした時、

 

「待ちな、ココ」

 

ジャスミンがココを止め、首にかけていた琥珀色のコアクリスタルを渡す。

 

「お前に返すよ…」

 

「え?でもお金は……」

 

「元々お前のだったからな……キオ……お兄ちゃんを助けてやりな♪」

 

「……はい!」

 

ココはジャスミンからコアクリスタルを受け取ると、ある事を言う。

 

「それと……渡したいものがある」

 

「渡したい物?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「サリア、何があった?」

 

インカムの先にいるサリアの様子がおかしいことに気づいたジルが通信を通じてサリアに尋ねた。やはり先程の通信の相手はジルだったようだ。

 

「アンジュに、逃げられた」

 

「連れ戻せ!」

 

回線の先で何故かくしゃみをしているサリアにそう命令する。と、そのとき、何かのコールが鳴った。

 

「指令、外部から指令宛ての通信です」

 

オリビエがジルへと振り返る。

 

「外部?」

 

その報告にジルが怪訝そうな表情になった。

 

「周波数、1・5・3」

 

「私の回線に回せ」

 

周波数を報告したヒカルにそう命じ、自分の回線に通信を回させる。

 

『久しぶりだね、アレクトラ』

 

回線の先から聞こえてきた声は、その通り久しぶりで彼女も良く知る人物の声だった。

 

「タスクか」

 

『アンジュは無事か?』

 

アルゼナルにようやく辿り着いたのだろう、いの一番にアンジュの安否を確かめる。

 

「たった今逃げられたところだ。捕獲に協力してくれるか?」

 

とりあえずアンジュが無事なことにタスクがホッと一息つく。そして、

 

『わかった』

 

そう、返した。一方、整備デッキから立ち去ったエルシャは、こちらもまた銃撃戦を繰り広げていた。通路の曲がり角部分を遮蔽物としながら、マシンガンを連射して敵兵士を倒していく。

 

(皆、無事でいて!)

 

 

 

ジャスミンに連れられ、地下の格納庫まで来たココとミランダ。

 

「ここは?」

 

すると格納庫の電気が暗闇を照らす。目の前にあったのは琥珀色と黒をメインとしており、前進翼、鳥の足と思わしきランディングギア、正にその姿は黒鷲とも言っても良い大型戦闘機であった。

 

「これは?」

 

「……昔、あんたの養父母がこれを……預かって欲しいと頼まれたのだ。」

 

「?……私のお父さんとお母さんが…」

 

「理由は分からないが偉く急いでいたもんでな……時が来たらココにこれをっと…」

 

すると大型戦闘機のコックピットハッチが開き、ココは恐る恐る中を覗き、ゆっくりと座席式のコックピットに座る。するとコンソールが光り出し、認証キーのようなはめ込み口が出てくる。ココは琥珀色のコアクリスタルをはめ込むと、操縦桿が出てくると同時に、戦闘機の側頭部からツインアイが光り、目の前のモニター画面が映る。ティビイを側頭座席に乗せるとモニター画面に【Doll device:Hauresu】と表示される。ココは足元にあるアクセルペダルを踏み込むと、Hauresuが浮き上がり、ランディングギアが収納されていく。

 

「何でだろう!?私……この操縦法知っている!」

 

ココは驚きながらも、カタパルトデッキが開く。そしてアクセルペダルを一気に踏み込むと、Hauresuの四基のエンジンが点火し、物凄い音速共にカタパルトから射出され、空へ飛び立った。

 

 

 

 

 

そして食堂に付いたアンジュとモモカ、モモカはマナの光で灯りを照らしていた。

 

「こちらですアンジュリーゼ様、ここから行けそうです」

 

灯りを前に向けた途端二人は息を飲む、そこには焼け焦げた人が沢山いた。それにアンジュはまたしても嘔吐し、それにモモカは駆け寄る。

 

「アンジュリーゼ様! み!水!!」

 

すぐさま食堂のキッチンに向かったモモカ、アンジュはあたりを見渡していると。

 

「大切な物は失ってから気づく、何時の時代も変わらない心理だ。全く酷い事をする、こんな事を許した覚えはないんだが」

 

そこに謎の男が居て、それにアンジュは振り向いてみる。

 

その男こそエンブリヲだった。

 

「君のお兄さんだよ、この虐殺を命じたのは」

 

「えっ?!」

 

その事にアンジュは驚き、エンブリヲは言い続ける。

 

「北北東14キロの場所に彼は来ている、君を八つ裂きにする為にね。この子たちはその巻き添えを食ったようなものだ」

 

バン!!

 

「きゃあああああああ!!」

 

その瞬間キッチンから銃声がし、モモカの悲鳴が聞こえてアンジュはすぐに向かう。

 

向かうと二人の特殊部隊がモモカを狙っていて、モモカは左肩を撃たれていたが、動ける右手でマナの光を出して防御をしていた。

アンジュは銃を取り出し、一人を撃ち殺して、もう一人は両肩を撃ち抜く。

 

「あなた達がやったの? お兄様の命令で?」

 

「貴様…アンジュリーゼ!」

 

すぐに銃を構えるも、アンジュに手を撃たれてしまう。

 

「う、撃たないでくれ…我々は…隊長とジュリオ陛下の命令で『バン!!』

 

問いにアンジュは撃ちまくり、弾切れになっても引き続けていて、それを見たモモカは慌ててアンジュを止めた。

 

「大丈夫です!モモカはここに居ます!!」

 

アンジュはすぐに後ろを見る、あの場所に居たエンブリヲの姿は無く、それにアンジュは決心する。

 

「行かなきゃ…!」

 

「えっ?」

 

モモカはその事に意味が分からずだった、っとそこに…。

 

「アンジュ!!」

 

アンジュは横を見るとヴィヴィアンを背負ったタスクがやって来た。

 

「タスク!」

 

「銃声が聞こえてすぐに向かったんだ。でも良かったよ君が無事で…、キオが待っているから───」

 

タスクが一安心して話していると、アンジュが言う。

 

「タスク、行かなくちゃいけない所があるの」

 

「え? 何処に?」

 

「いいから!一緒に来て!」

 

アンジュはそう言ってモモカと共に格納庫へ行き、それに慌てるタスク。

 

「ああ!ちょっと待ってアンジュ!!」

 

タスクは慌ててアンジュを追いかけて行き、レオン達が待っている格納庫へと向かって行った。

 

 

 

 

 

 

その頃キオはセイレーンに乗って上空から飛来するピレスドロイドを駆逐していく。

 

「くそ!数が多すぎる!!……っ!!」

 

高出力のビームソードで薙ぎ払うも、ピレスドロイドの数に苦戦するキオは前方に見える艦隊を睨む。

 

「糞どもが!!」

 

キオはセイレーンの膝部からビームサーベルを持ち、マニュピュレーターを回転しながらビームシールドを作り、ピレスドロイドの大群へと突撃する。

 

「うおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!」

 

フレシキブルアームのビームソードを全開にし、さらにビームクレイモアも回転斬りで応戦する。

 

一方、ジュリオ率いる艦隊……旗艦“エンペラージュリオ一世”の艦長にして皇帝のジュリオの元にオペレーターが報告してきた。

 

「ジュリオ皇帝陛下!こちらに近づいてくる機影を確認しました。」

 

モニター画面にこちらへ向かってくるセイレーンが映し出される。

 

「捕獲対象である天の聖杯です!」

 

「やっと現れたか、新時代のエネルギー♪……“バグズ”を出せ!」

 

ジュリオの命令に各艦隊のハッチが開き、赤い蜻蛉と思わせる戦闘機が次々に発進していく。

 

「戦闘機?にしては……っ!!?」

 

驚いたことに、その戦闘機はあまりにも素早く、とてつもない高機動力を見せつけ、折角しながらセイレーンへ向かってくる。

 

「嘘だろ!警告抜きかよ!!?」

 

バグズからリニアキャノンやビームガンポッドでの追撃が始まる。キオは必死にセイレーンで回避するも、バグズのスピードに圧倒される。

 

「やばい!!追いつかれる!!」

 

キオは振り切ろうと漂うピレスドロイドの群れの中に入り込む。しかし、バグズはピレスドロイドを攻撃や回避しながら接近しくる。

 

「嘘だろ!?敵味方問わずか!!」

 

バグズが照準を定め、リニアキャノンを発射しようとしたその時。

 

「お願い!フラップ!!」

 

ココの声と共にHauresuの主翼に搭載されている遠隔操作支援兵器『マシーナフラップ “ガン”・モード』が5基が分離し、バグズへと向かっていき、ビームを放つ。マシーナフラップが蝶の如く上空を舞い、蜂の如く閃光の光弾がバグズを撃ち抜く。キオはそれに驚くと、Hauresuがホバリングしてきた。

 

「これが!!ココのデバイス!?」

 

「お兄ちゃん!」

 

「ココ!どうやって動かしてるんだ!?」

 

キオが問いただした直後。

 

「メイナスのコアクリスタルを使っているからだ……」

 

「「っ!?」」

 

上空から現れたのはバンシー・デバイスに乗った漆黒のフェイトであった。

 

「フェイト!」

 

「我が宿敵 キオ・ロマノフよ……再び戦場で相見えるとは。」

 

「けっ!あれだけの攻撃を喰らって……ピンピンしてるとは、思ってもなかったよ」

 

「………まぁ、良い。俺も本気でお前を倒す……ザンザ!!」

 

バンシー・デバイスから光輝くモナドが出てくる。

 

「モナド!?」

 

「そうだ……お前やその子の持っているアルヴィースとメイナスと同じ……天の聖杯だ。」

 

「何だって!!??」

 

「そして!!」

 

フェイトはモナドを築き上げ、エーテル波のエネルギーブレードを展開する。

 

「俺の真の名は……フェメル。」

 

「「え!?」」

 

「フェメル・ハイエンター・エルダー!!お前達の『兄』だ!!」

 

フェイト改め、フェメルはザンザのモナドを付き構え、二人に襲い掛かる。

 

 

 

 

 

 

「くっそーっ! 放せ、放せーっ!」

 

未だ戦闘中の空では、新たな犠牲者が生まれようとしていた。メイルライダーの一人、ターニャが先程のイルマ同様、小型円盤に拘束されて何処かに攫われようとしていたのだ。

 

「メイルライダー定数確保! 基地内でも、確保完了との報告あり!」

 

未だアルゼナルへ向けて推進中の艦隊の中で、ジュリオが報告を受け取っていた。だが、その報告を受けても満足した表情にはなっていない。

 

「…アンジュリーゼは」

 

一番の標的のことに言及されていないのだから当然だろう。今は家族としての縁を切った妹の名を呟く。

 

「第一目標がアンジュリーゼ! 第二目標がヴィルキスと言った筈だろう!」

 

思わず身を乗り出してジュリオが語気を強める。と、不意に警報が鳴った。

 

「本艦に急接近する物体あり!」

 

それを捕捉した兵士がそれをモニターに映す。そこには、ヴィルキスを駆るアンジュの姿があった。

 

「第一目標と、第二目標です!」

 

「アンジュリーゼぇ…」

 

目標が二つ、わざわざ自分たちのところに来てくれることに満足したのか、ジュリオは椅子に深く座り直すと、下卑た笑みを浮かべながらアンジュの名を呟いたのだった。

 

 

 

 

 

フライトモードのヴィルキスが空を舞い、華麗に小型円盤を撹乱する。そしてその隙を見つけてアサルトモードに変化すると、ライフルを乱射して次々に目標を墜としていった。と、全く予期せぬ方向から援護射撃があり、幾つかの小型円盤を落としていく。

 

「!」

 

思わずその方向に振り返る。そこには、

 

「戻りなさい、アンジュ!」

 

爆炎の中から姿を現したサリアのアーキバスがあった。

 

「戻って使命を果たして!」

 

サリアがそう訴えるものの、アンジュは一向に従う気配もなく、ライフルで小型円盤を掃討していく。

 

「何が不満なのよ!」

 

一向に変化の見られないアンジュに業を煮やしたサリアが、正対して再度訴えかける。

 

「あんたは選ばれたのよ、アレクトラに!」

「……」

 

アンジュは答えず、ただジッと鋭い視線でパラメイルの中にいるサリアを見据える。

 

「私の役目も、居場所も、全部奪ったんだからそのぐらい「好きだったの」えっ…」

 

アンジュの返答の意味がわからず、思わずサリアが呟いた。

 

「私、ここが好きだった。最低で、最悪で、劣悪で、ごく一部の例外を除いて、何食べてもクソ不味かったけど。好きだった、ここでの暮らし」

 

主人の感情に呼応するかのように、アンジュの左手中指に嵌められた指輪が光り輝き始め、その光を増してゆく。

 

「それを壊されたの、あいつに!」

 

そしてアンジュはいきなりサリアに突っ込むと、ブレードを展開した。

 

「はっ!」

 

突然のことに驚いたものの後の祭り、サリアのアーキバスは反応することも出来ず、振り上げられたブレードで片腕を切断されてしまった。

 

「だから、行くの!」

 

返す刀でブレードを振り下ろし、もう一方の腕を切断する。故障した…というわけではないのだろうが、バランスを失って機体の推進が崩れたのか、サリアのアーキバスは真っ逆さまに墜落してゆく。

 

「邪魔したら…殺すわよ! …それに、さっき選ばれたって言ったけど、私が頼んだわけじゃない!」

 

真紅の瞳が鋭さを増した。その言葉通り、邪魔者は全て殺すと言わんばかりに。

 

「アンジュ、アンジュ!」

 

他方、今しがた排除されたサリアは墜落しながらしきりにアンジュの名を叫ぶ。

 

「許さない…勝ち逃げなんて、絶対許さないんだから!」

 

目尻に涙を浮かべ、まるで呪うかのようにそう吐き出した。

 

「アンジュの下半身デブーっ!」

 

アンジュが飛び去っていくのを背景に、まるで子供の喧嘩のような幼稚な言葉を叫びながら、サリアはそのまま海に着水したのだった。

同じ頃、整備デッキでは第一中隊の四人が発進するための準備を終えているところだった。

 

「ヒルダ、発進準備完了!」

 

「了解」

 

メイのゴーサインにヒルダが頷いた。

 

「行くよ、お前たち」

 

「あぁ」

 

「分かったわ」

 

ヒルダ以下二人の返答にこれまた満足そうに頷くと、ヒルダは正面を向く。

 

「ヒルダ隊、出撃!」

 

『イエス、マム!』

 

三人の返答を受けるのを待っていたかのようにヒルダが発進し、その後を、ロザリー、クリスと続く。が、不吉なことにそんな彼女たちから少し離れたところに瓦礫に潜んだ一人の兵士の姿があった。

兵士は銃を装填し、その時を待つ。まずヒルダが通り過ぎ、そしてロザリーが続き、最後にクリス。

そして最初の二機をやり過ごし、最後のクリスが飛び立とうとしたところで兵士が銃を発砲した。その銃弾は無情にもクリスの頭部を捉え、コントロールの利かなくなったクリスのパラメイルはそのまま整備デッキ内の壁に勢いよく激突したのだった。

 

「クリス!」

 

「クリス、今行く!」

 

その異変はヒルダたち先に出ていた三人もすぐに気づいた。ロザリーが慌てて機首を反転させてクリスの元へと向かう。が、それを阻むかのようにアルゼナルを攻めていた小型円盤の大軍が、三人に向かって飛んできたのだった。

 

『待ってろクリス、今すぐ助けてやるからな!』

 

「うん…ありがとう…ロザ」

 

そこで通信は途絶えた。何故なら整備デッキが爆発してしまったからだ。幸いにもクリスは全壊に近いパラメイルに乗っていたものの、死ぬことはなかったのだが。

が、上空から見ていたヒルダ、ロザリーの二人にはそんなことがわかるわけもなかった。出来たのは黒煙を上げる整備デッキを、呆然と見下ろすだけであった。

 

「あ…」

 

「クリ…ス?」

 

ロザリーが呆然とクリスの名前を呟く。状況を確認しようにも向かってくる小型円盤の掃討に忙殺され、二人は現場に近寄ることも出来なかった。

 

「ちくしょう…」

 

ロザリーが呟く。

 

「テメエら全員ブッ殺す!」

 

流す涙を拭わず、ロザリーはライフルを発射した。だが、弔い合戦にはまだ早かった。

 

「……」

 

爆発によって投げ出され、ほぼ全壊に近いパラメイルに乗ったまま落下したクリスは、生死の狭間でロザリーたちの救援を待っていた。そんなクリスに、ゆっくりと近づく人影が一つ。

 

「……」

 

足音だけを立てながら無言で近づいてくるその人影は、先程アンジュの前から姿を消したエンブリヲだった。

 

 

 

 

 

その頃、一人第一中隊の全員と別行動を取っていたエルシャは、ようやく自分の邪魔になる最後の一人の兵士を倒したところだった。

 

「ぐわっ!」

 

マシンガンに撃たれて兵士が吹き飛ばされる。手向かってこないことを確認したエルシャは、すぐに目的地へと向かって走った。目的地の部屋は程近く、そこからは聞き覚えのあるオルゴールの音色が奏でられている。負の感情に責め立てられるように、エルシャは走った。そして、

 

「うっ!」

 

目的地に辿り着いたエルシャが口と鼻を押さえてしまう。オルゴールは床の上で無情に鳴り響いていた。そしてエルシャの目の前には、彼女が口と鼻を押さえてしまった原因…無残な死骸となった子供たちの姿があった。

 

「あ…あ…あ…」

 

目の前の光景にエルシャは立つことすら叶わずにその場にへたり込んでしまう。

 

「ごめんなさい…ごめんな…」

 

最後はもう言葉にもならず、エルシャはとめどなく涙を流すことしか出来なかった。そんな彼女たちを、部屋の外から見ている一つの人影がまたあった。

 

「……」

 

声をかけるでもなく静かに佇むその人影は、誰あろうエンブリヲその人だった。

 

 

 

 

その頃、アルヴィースのモナドを持つキオと実の兄であるフェメルはザンザのモナドをぶつけ合う。

 

「アンタが俺たちの兄なら!何で総裁“X”に付く!!?」

 

「黙れ!!愚弟が!!お前には分からない!俺がどんな奴なのか!そして己の宿命の為に!!」

 

「知るか!!」

 

キオは怒りながら、モナドを振り回す。しかし、フェメルも負けていなかった。セイレーンがモナドを持っている方の腕を掴み止め、今度はセイレーンがバンシーがモナドを持っている方の腕を掴み、互いは振りはなそうと抗う。するとバグズがキオとココに迫る中、フェメルはそれを見て、キオを蹴り上げ、バグズを薙ぎ払う。

 

「邪魔だ!!不浄な玩具が!!」

 

フェメルは指笛を吹くと、ワームホールが現れ、そこからテレシア達を呼び出し、バグズやピレスドロイドを攻撃していく。

 

「アイツもテレシアを操れるのか!?……ん?」

 

するとキオのセイレーンとココのハウレスのモニター画面に【Yatagarasu】と言う文字が表示される。

 

「何て書いてるんだ?や……【ヤタガラス】?」

 

キオはその文字に触れると、起動音と共に新たな文字がされる。

 

 

【process device01“Siren”Docking sequence start】

 

【process device02“Hauresu”Docking sequence start】

 

 

すると二機のツインアイが輝く。最初に動いたのがココのハウレスであった。ココが乗っているハウレスの機首頭部と本体が分離し、本体がセイレーンの背部とドッキングする。すると主翼のスタビライザーからテレシアの様な形状をした光の羽が展開され、セイレーンのツインアイのカラーが赤から青へと変わる。最後にココを乗せた機首頭部がセイレーンの胸部とドッキングし、背部にドッキングしたハウレスの本体と連結する。ハウレスのコックピットとセイレーンのコックピットが連結し、セイレーンのコックピットがトレース式から座席式へと変わり、ココが前部座席、キオが後部座席と言う形へと変わる。

 

「うぇっ!?合体した!」

 

「お兄ちゃん!」

 

「!」

 

モニター画面にピレスドロイドとバグズが向かってくる。

 

「返り討ちにしてやる!!」

 

キオは因果律予測を発動し、敵機の軌道を読む。

 

「見えた!ココ!」

 

「うん!フラップ!」

 

ココがフラップを遠隔操作で操り、キオもフラップを使う。

 

「ディスクフラップ!」

 

ハウレスの本体に搭載されているコンテナからディスクブレード状のフラップ8基が展開され、セイレーン・ヤタガラスの周囲を浮遊する。

 

「八つ裂きにしろ!!」

 

ココのガンフラップとキオのディスクフラップを操り、バグズとピレスドロイドを撃墜していく。恐れを感じたのか艦隊が対空ミサイルを一斉に放つ。

 

「来るか!なら俺はこれに応えよう!!」

 

ハウレスの主翼が8枚に分かれ、セイレーンの両肩に装着され、フィンが前方に展開し、発光部が展開発光しながら衝撃波の様なエネルギーを放出する。

 

「ハウリングフラッド!!」

 

向かって来るミサイルがハウリングフラッドから放つエネルギー波に直撃し、空中で爆発していく。

 

「今度はこっちの番だ!!」

 

今度はセイレーンのフレシキブルアームキャノンとハウレスに搭載されている四基のキャノン砲が両肩、両脇に展開される。キオの座席上部からライフル型コントローラーが現れ、キオはそれを持つ。ココの方も操縦桿が二つに分かれ、右手の他に左手用のトリガーが追加され、握りしめる。キオとココは巡洋艦に照準を合わせる。そして照準が合わさり、砲塔から粒子が集束し、二人はトリガーを引く。

 

「超粒子五連砲【スーパー パーティクルキャノン】!!」

 

フレシキブルアームキャノン砲とハウレスの四基の砲塔から超粒子が一気に放たれ、巡洋艦やピレスドロイド、バグズを一斉掃射。

 

 

その、ジュリオに対しての絶望的な状況は次々とエンペラージュリオⅠ世のブリッジに届けられていた。

 

「デファイアント、マリポーサ、撃沈!」

 

「フォーチュネイト、オーベルト、大破!」

 

「何をしている! 相手は一…」

 

機。とジュリオは続けたいところだったのだろうが、それは出来なかった。何故なら次の瞬間、ブリッジが切断されて通信していた兵士たちのいる前方部が滑り落ちるように落下していったからである。

 

「はっ、ははっ…」

 

つい先程までには考えもよらなかった状況に、随分と風通しのよくなったブリッジでジュリオは腰を抜かしてへたり込む。そしてその目の前に、白と黒の堕天使……セイレーン・ヤタガラスが審判者宜しく舞い降りた。そしてその状況下、遂に見限ったのだろうかリィザがブリッジから脱出したのだが、キオはジュリオもお互いそれを気にかける余裕はなかったのか、そのことには気付いていなかった。

 

「……」

 

コックピットが開き、コヴナント製のビームライフルを持ったキオが姿を現す。

 

「お、お前は!!」

 

ジュリオがその先を言う前に、自身の左足が光線で撃ち抜かれた。

 

「ああーっ!あっ!ああーっ!」

 

悲鳴を上げ、傷口を押さえてのた打ち回るジュリオ。図に乗った上に勘違いし、パンドラの箱を開けた愚か者には相応しい巡り会わせだった。

 

「今すぐ虐殺を止めろ!!」

 

対するキオは銃を構えたまま鋭い視線をジュリオに向けている。その表情は怒りに満ち満ちていた。

 

「今すぐにだ!!」

 

キオへの恐怖心からか、痛みに顔を歪ませながらもジュリオはマナの力で通信を開いた。

 

「神聖皇帝ジュリオⅠ世だ。全軍、全ての戦闘を停止し、撤収せよ!」

 

『撤収!? ノーマたちは!?』

 

通信の内容を聞いた兵士の一人が尋ね返すものの、それには答えずジュリオは自分の言いたいことだけ言って即座に通信を切った。

 

「止めさせたぞ! 早く医者を!」

 

その瞬間、二度目の銃声が響いた。今度はその光弾はジュリオの右肩を貫通していった。だが尚も、キオの銃口はジュリオから離れない。

 

「ま、待て、話が違うぞ!!」

 

腰砕け、激痛に耐えながらもジュリオは両手を開いて前方に差し出し、キオを制止しようと努める。しかし、キオの怒りは収まらなく、フラップの砲塔をジュリオの方に向ける。

 

「早まるな!要求は何でも聞く!そうだ、お前を一生狙わない!ノーマの虐待もしない!どうだ、悪くない話だろう!だから、殺さないでくれーっ!お願いだーっ!!」

 

神聖皇帝の称号が大笑いするほどのみっともない命乞いをするジュリオ。対して、キオは何処までも冷徹だった。いや、目の前の愚物がそうすればするほど、どんどん冷めていく。

 

「言うことはそれだけか?なら……」

 

冷たく吐き捨てると、キオは銃口の照準を静かにジュリオの額に合わせた。

 

「生きる価値のないクズが!妹のアンジュに対しても本当の愛を踏みにじった糞が!……地獄に落ちろぉぉぉぉ!!!!」

 

引き鉄に手を掛けるとそれに力をかける。ジュリオはキオの殺意の前に何ら抵抗も出来ず、悲鳴を上げて最期の時を待つしか出来なかった。そして、もう少しで終わるというところで、二人にとって予想もしない不思議なことが起きた。

 

何処からともなく黄金の羽が舞い散り、超粒子五連砲のエネルギー砲弾を霧散していく。

 

「何!?」

 

すると後方に待機していたバンシー・デバイスのコックピットが開き、フェメルが出てくる。そしてフェメルはコックピットハッチの場で膝まづく。

 

「我が最高指導者……」

 

「っ!?」

 

するとモニター画面が急に強い光を放つ。天空の彼方、曙光と共にそれは現れた。黄金に煌めきながら舞い落ちる鋼の羽、曙光が放つ光で全身が光輝く黄金の鎧、黄金の翼、光の翼、黄金の尾羽、それはまるで……天空から舞い降りし人型をした黄金の不死鳥そのものであった。その他に、ヴィルキスと似ているが、形状が全く違っており、その肩にエンブリヲが立っていた。

 

「お前は……エンブリヲ!」

 

そしてそこにアンジュのヴィルキスもやって来る。

 

「あなた、さっきの!」

 

「え、エンブリヲ様!」

 

突如現れた救世主にジュリオが当然のように縋りつく。

 

「こいつも!アンジュリーゼもブッ殺してください!今すぐに!!」

 

その名を呟く。

 

「アンジュ、君は美しい」

 

アンジュの意識が自分に向けられていることを悟ると、エンブリヲが語りだした。

 

「君の怒りは純粋で、白く、何よりも熱い。理不尽や不条理に立ち向かい、焼き尽くす炎のように、気高く美しい。つまらないものを燃やして、その炎を汚してはいけない」

 

「……」

 

雰囲気に呑まれ、アンジュは何も言えない。そして彼女は与り知らぬことではあるが、エンブリヲはここに来る前にクリスとエルシャの元に立ち寄ってそれぞれ瀕死の重傷を負っていたクリスと、死んでいた幼年部の子供たちを助けていたのであった。

 

「だから…私がやろう」

 

エンブリヲが薄く笑い、その言葉にアンジュは息を呑んだ。

 

「君の罪は、私がせお「待て……」どう言うつもりだ?最高指導者“X”」

 

突然総裁“X”がエンブリヲを止める。

 

「…………この者の未来が見えた。確かにお前の命令の内容に批判したことは赦されない。だが、他に使い道がある……」

 

「使い道……未来視で見えたのですね?」

 

「あぁ……。」

 

Xはそう言い告げると、キオの方を見る。

 

「……運の良い、小僧が」

 

「え?」

 

すると別の方からワームホールが開き、現れたのはエーテリオン艦隊であった。フリゲート艦から次々にドール隊が発進し、Xとエンブリヲを取り囲む。そしてそこに赤いWelsに乗ったエルマがビームライフルを構える。

 

「これは、これは……“紅のエルマ”ではないか」

 

総裁“X”はエルマに言う。

 

「黙りなさい…“サマールの裏切り者”!」

 

「フフフ……懐かしいなぁ、その言葉。だが…お陰で手間が省けた♪」

 

総裁Xが指を鳴らすと、ジュリオの腹から点滅が輝く。

 

「何だこれは!?」

 

ジュリオが慌てると、Xが説明する。

 

「量子次元反応弾だ……貴様の使い道は、我が仇名す的であるエーテリオンの抹殺する為の餌だ。エンブリヲの命令に余計なことをしたお前は…皇帝の資格と称号は剥奪される。よって!貴様をミスルギ皇室より外す!!」

 

最早ミスルギ皇国の皇帝の資格を失ったジュリオは泣き叫び、助けを請う。

 

「た!頼む!!助けてくれ!リィザ!リィザは何処にいる!!誰でもいい!アンジュリーゼ!」

 

しかし、誰も聞く耳持たなく、エルマ達は急いで逃げる。

 

「だ……誰か……誰でもいい……パパ…ママ……」

 

泣き崩れるジュリオはエンペラージュリオ一世に取り残された。同じ頃、同海域上空で、背中に翼を生やして滞空しているリィザもその視線の先を固定する。

 

「エンブリヲ…」

 

そして旗艦から眩い閃光が発し、光がジュリオを呑み込む。

 

「あっ、あっ、ああああーっ!」

 

直撃を受けたジュリオが悲鳴を上げる。それを末期として、ジュリオはこの世界から完全に消滅した。そして直撃地点から広い範囲で、まるで巨大な隕石でも落ちたかのように海が円球状に割れたのであった。その光景に、キオとエルマ、アンジュとリィザは思わず息を呑まざるを得なかった。

 

 

 

 

その頃、アルゼナル最下層では、あの戦艦が今まさに発進しようとしていた。

 

「注水、始め!」

 

「注水、始め!」

 

ジルの号令にパメラが復唱する。それと同時に、アルゼナルの生き残りを収容したこの戦艦に注水が始まった。ジルの大嘘により、本来辿るべき歴史よりもかなり多くの人員が無事にこの艦に収容されているのは、喜ぶべきことなのだろう。

 

「アルゼナル内に生命反応なし。生存者の収容、完了しました」

 

「メインエンジン臨界まで、後10秒」

 

「水位上昇80%」

 

「防水隔壁、全閉鎖を確認」

 

「交戦中のパラメイル各機には、合流座標を暗号化して送信」

 

「了解」

 

ブリッジでは、次々と報告や指示が飛び交う。

 

「フルゲージ!」

 

「拘束アーム解除。ゲート開け。微速前進」

 

エンジンに火が入る。そして、

 

「アウローラ、発進!」

 

ジルの号令と共に戦艦…アウローラはアルゼナルを後にして発進したのだった。

 

 

 

 

 

「……」

 

先程の洋上、エンブリヲが怪訝な顔をして視線だけ脇に向けている。その先にあるのは、アルゼナル。

 

「何なの」

 

そんなエンブリヲとXに、アンジュがコックピットを開けてその身を現すと端的に尋ねた。

 

「あなた達、一体何者!?」

 

「……」

 

「エンブリヲ…左から高速徹甲弾が来る。」

 

Xが未来視でエンブリヲの危機を教える。エンブリヲはそれに従うと、左からアレスのアグニガトリングの銃弾が飛んできた。

 

 

「アンジュ! そいつは危険だ!」

 

機銃を発射したのはタスクだった。アレスで洋上を滑りながら通信を入れる。

 

「タスク!」

 

「離れるんだ、今すぐ!」

 

「無粋な」

 

被害は受けなかったものの実力行使で邪魔をされたのに気分を害したのかエンブリヲが吐き捨てると、永遠語りを謳いながらパラメイルをタスクに向けて正対させる。当然の如く永遠語りに反応し、パラメイルはディスコード・フェイザーのギミックを展開させた。

 

「その歌は!?」

 

「アンジュ!急げ!!」

 

キオが一瞬で事態を察知し、アンジュに知らせる。瞬時にヴィルキスをタスクに向かって滑らせる。

 

「タスクーっ!」

 

「アンジュ」

 

自分に向かって物凄いスピードで迫ってくるキオとアンジュに、タスクは思わず顔を上げた。

 

「ダメーーっ!」

 

先日の襲撃で使われた兵器の光景を思い出したのだろうか、タスクに向かいながらアンジュが叫ぶ。と、それに呼応したように指輪が再び光り、今度はその身を瞬時に純白から青に染め上げた。その直後、ディスコード・フェイザーが放たれる。だが不思議なことに、それがアンジュとタスクを捉える直前、キオ達やエーテリオン艦隊はその場から瞬時に消えてしまったのだ。結果として、ディスコード・フェイザーは海を穿つだけで終わってしまった。

 

「ほぉ…」

 

エンブリヲが少し驚いた表情になる。

 

「つまらん筋書きだが、悪くない」

 

だがすぐに、彼が良く見せる薄く笑った表情になると、そう呟いたのだった。そして、

 

「さて、取り敢えずはここまでか。では、彼女たちを可愛がりにいくかな」

 

薄笑いを浮かべたままそう呟くと、エンブリヲもまた瞬時に姿を消したのだった。そして当事者たちが全て姿を消した海は、いつもの穏やかな姿に戻ったのであった。

 

 

 

 

 

 

夢境の中…キオはまたあの夢を見ていた。腕と足と首を錠で固定されており、身動きが取れなかった。頭には何かを被せられていた。すると隣から悲鳴が響く。

 

「ああああああぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!」

 

龍の女の子は彼を助けようと寝台の手錠と足錠を壊す。何人かの研究者が必死に抗う女の子を取り押さえる。キオは頭の痛さで目眩で視界がぼやける。すると彼の所にある影が手を差し伸ばす。

 

「貴様───ゾハル───手に入れ───その代わり───小娘───我が───にしてやる。我の計画の為に!!」

 

その影は何を言っていたのか、幼い頃のキオは気を失い、記憶が薄れて消えていくのであった。

 



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第16話:並行世界

OP:革命デュアリズム(革命機ヴァルヴレイヴ第2期OP)


木々と苔で満ちた廃墟、高層ビルに突っ込んだセイレーンとハウレス。コックピット内ではキオとココが気を失っていた。

 

「う……うぅ…」

 

「キオ!キオ!キオ!」

 

気を失っているキオにフェイが声を掛ける。

 

「フェイ…」

 

するとセイレーンのハッチ開き、中から同じスパルタンであり女性兵、キオの戦闘仲間である【アン・エルガー】が助ける。

 

「おい!キオ!生きてるか?」

 

「う……」

 

「生きてるな!」

 

アンはキオを担ぎ上げると、キオが咳き込む。

 

「待って…ココも…」

 

「お、おう!」

 

アンと他のスパルタン達も急いで救助に当たる。そして数分後、アンが率いる第十三独立部隊【ゼロット】や他に飛ばされてきたエルマやリン達と合流する。そしてスパルタンやドライバーにも慣れなかったが、エーテリオン海兵隊員専用のスーツを着装したオスカー達が来てくれた。

 

「皆んな!?」

 

「「「「キオ!」」」」

 

「お前らエーテリオンに所属したのか!?」

 

「当たり前だ!俺達も共にデウス・コフィンを倒すことにしたんだ!エンブリヲに操られない為の特殊な注射薬も打っているから♪」

 

オリバーが元気良く胸に手をぶつける。

 

「お前ら……」

 

「で、それで…彼方のノーマさんは大丈夫か?」

 

「ん?あぁ……ココは大丈夫。なぁに、心配するな……“俺の妹”だから♪」

 

「「「「「………………“妹”!!!!????」」」」」

 

「うん…生き別れの、実妹」

 

「「「「「………………“実妹”!!!!????」」」」」

 

「ていうか、キオ……お前妹いたんだ!!?」

 

「あぁ……俺も最初はビックリしたよ。ココも俺と同じ運命を辿って、未来視に導かれたんだ。正直、どこまで力が増したかは分からない。」

 

「あ、キオ……この子がお目覚めのようだ。」

 

 

 

数分後ココは目覚め、自己紹介をすると……。

 

「へぇ〜、へぇ〜、可愛い妹じゃない!」

 

「ほんと…良かったねキオ。唯一の肉親がいて♪」

 

ノアとアリアンナがココの頭を触ったり撫でながら可愛がる。

 

「アイツら……可愛いものに目がないんだ」

 

「……初めて知った。あ、それより…アンジュとタスクは?」

 

「それが、まだ連絡つかないんだ。この世界から放出する電波によって妨害されているんだ。」

 

「妨害電波……(ドラゴニウムの影響か…)」

 

するとキオの所にリンが駆け付ける

 

「キオさん!ココちゃん!セイレーンとハウレスの移送と格納を終えました。」

 

「そう…ありがとな、リン。ま、取り敢えずフリゲート艦の中で話し合おう。」

 

キオ達は不時着したフリゲート艦に乗り、ブリッジで状況報告をする。総裁Xが現れたこと、フェイトが自分とココの実兄だという事……。

 

「あのフェイトが…お前の兄貴!?」

 

「あぁ、自分の本名も確かにいった…間違いない。それと…アルヴィースと同じ、天の聖杯を使っていた。」

 

「その天の聖杯の名は?」

 

「確か……“巨神 ザンザ”って」

 

「巨神 ザンザ……まさか…」

 

「知ってるの?」

 

深く考え込むエルマに、キオが問う。

 

「えぇ、『巨神 ザンザ』……有機物の肉体を持つ“人間”や動物を誕生させた……神の事よ」

 

「神!!?」

 

「そう…キオのアルヴィースも『空神 ウーシア』って言う名前で、ココのその琥珀色のコアクリスタルに宿っているのも……『機神 メイナス』」

 

「『機神 メイナス』……。」

 

ココは琥珀色のコアクリスタルを見る。

 

「…同調してみようか?」

 

「え?」

 

「コアクリスタルに眠るブレイドを…解放すること。そうすればアルヴィースやヒカリ、メツ、コスモス、リンのカサネやエルマさんのスザク、タスクのヴァサラ。自分のパートナーとなってくれる。」

 

キオが教えると、ココは早速同調して見る。すると琥珀色のコアクリスタルから粒子が溢れで始め、それは現れる。機械を模した美しいドレス、しなやかな白い肌、月光の如く輝かせる美しい銀髪をした女性であった。その両手には彼女のモナドを持っていた。

 

「私はメイナス……あなたが私の“君”ですか?」

 

今ここに機械の女神“機神 メイナス”が解放され、ココはその美しさに見惚れる。

 

「あの、あなたが私のブレイド…なの?」

 

「…えぇ♪」

 

ココは嬉しくなり、メイナスに抱きつく。するとキオの目の前が光り、未来視が発動する。

夜になり、雪が降り、アンジュとタスク、モモカとドラゴン化したヴィヴィアンが何処かのホテルで休んでいた。そしてそこに二人の女性を連れた大型ドラゴンが飛来する。

 

「エルマさん、タスク達の居場所が分かりました。」

 

「未来視だね、何処なの?」

 

「何処かの建物のようです。場所は……ホテル:夢有羅布楽雅?」

 

「夢有羅布楽雅ね、分かったわ」

 

「あ、俺も言っていいですか?」

 

エルマとキオは急いでタスク達のいるホテルへと向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃タスクとアンジュ、モモカとスクーナー級ドラゴン(ヴィヴィアン) の三人と一匹はようやく休める場所『ホテル:夢有羅布楽雅』に到着し、タスクがアレスのバッテリーからケーブルを繋げて電源として、エンジンを入れる。するとそれは生き返った。

ケバケバしいピンク色のネオンが屋上に設置された建物…いわゆるラブホテルがアンジュの見つけた凄いものだったのだ。

 

「屋根もある! ベッドもある! お風呂もある!」

 

「奇跡的な保存状態だね」

 

内部の一室に足を踏み入れたアンジュはその状況に興奮している。タスクもアンジュほどではないが、それでも喜んでいるのが窺えた。

 

「きっと名のある貴族のお城だったの違いないわ!」

 

…まあ、確かに城っぽい外観のそれもあるのだが、それでもここが本来何のための施設か知らないというのは幸せである。無邪気に喜ぶアンジュに横から水が注される可能性がないのは喜ぶべきことだろうか……。

 

「見つけたヴィヴィアンとモモカに感謝しなきゃね」

 

「はい!」

 

アンジュが嬉しそうにそう言うと、ヴィヴィアンもまた嬉しそうに咽喉を鳴らしたのであった。

 

「お風呂入ってくる! タスク、掃除お願いね!」

 

「…はいはい、お姫様」

 

ウキウキしながらアンジュは、モモカ、ヴィヴィアンを伴って浴場へ向かい、タスクは少々呆れながらもにこやかに答えた。

こうして、二人と一匹は久々にゆっくりと休める場所を確保したのであった。

 

「ありがとう、タスク」

 

久しぶりの風呂をたっぷりと満喫し、ガウンに着替えてゆっくりと寛いでいたアンジュが窓の外を眺めながらそう言った。降り出した雪はいつの間にか積もりだし、見えている光景を白く染め上げ始めている。ヴィヴィアンはその身体の大きさゆえ、アンジュたちとは別の部屋で、今はもうぐっすりと夢の中だった。

 

「ん?」

 

壊れてしまったのか、それとも元から使えないものを使えるようにしているのかはわからないが、床に座ってドライバーを片手にドライヤーを見ているタスクが顔を上げる。タスクも風呂を満喫したのだろう、アンジュと同じガウンに身を包んでいた。

 

「色々と」

 

背を向けたまま、アンジュが続ける。向かい合わないのは照れ臭さの裏返しだろうか。

 

「沢山のこと知ってるし、いつも冷静だし、優しいし、頼りにしてる」

 

だがすぐにアンジュが振り返って、タスクに穏やかな視線を向けた。

 

「ははは…」

 

突然そう言われて戸惑っているのだろうか、はにかむように微笑むとドライヤーのスイッチを入れた。使えるようになったのか、排気音を上げながらドライヤーが動作する。

 

「私はダメね。すぐに感情的になって、意地になって、パニックになって…」

 

「仕方ないよ。こんな状況なら、誰だってそうなるさ」

 

タスクがそう返す。二人の間に流れる穏やかな空気が、少し前までのわだかまりやぎこちなさを払拭しているのを感じさせた。

 

「皇女様がノーマになって、ドラゴンと戦う兵士になって、とんでもない兵器に乗せられて、気付いたら500年後」

 

「そうよね…。ちょっと、色々ありすぎよね」

 

アンジュは窓際から移動して、ダブルベッドにゆっくりと腰を下ろす。

 

「でも、悪いことばかりじゃなかったわ。貴方や、ヴィヴィアンにも逢えたし。色んなこともわかった。…最期まで、わかりあえなかった人もいたけど」

 

そこで、少し表情が曇った。思い出していたのだ、自身の兄であるジュリオのことを。

 

「お兄さんかい…?」

 

タスクもそれを察したからだろう、アンジュと同じように表情が曇り、悲しそうな口調になっていた。

 

「ねえ?」

 

少し時間を置いた後、雰囲気を変えるためだろうかアンジュが問いかけた。

 

「ん?」

 

「あの、エンブリヲって何者?」

 

するとタスクは、床に座ったまま身体をアンジュの方へと向けた。

 

「…文明の全てを陰から掌握し、世界を束ねる最高指導者。俺たちが打倒すべき最強最大の敵…」

 

「じゃあ…あの最高指導者“X”は?」

 

「キオのアルヴィースとヒカリ、メツの天の聖杯のブレイドを狙うデウス・コフィンを束ねる最高指導者。エンブリヲ以上の権力者で、エーテリオンが打倒すべき史上最強最悪の敵…だった。」

 

「?…だった?」

 

タスクの言葉が過去形になっていることに、アンジュが首を捻った。

 

「500年も前の話さ」

 

頭の後ろで手を組むと、タスクはおどけたようにそう言った。

 

「そうね」

 

アンジュも静かに微笑む。

 

二人は顔を合わせると、クスクスと笑い合った。

 

「随分遠くまで来ちゃったな…」

 

笑い終わった後、振り返るかのように横を向いておもむろにタスクが口を開いた。

 

「でも、生きてる」

 

タスクの呟きを受けてそう言ったアンジュに、タスクは又視線を戻した。

 

「生きてさえいれば、何とかなるでしょ?」

 

そして、柔らかく微笑んだ。

 

「強いね、アンジュは」

 

タスクが素直な気持ちを口に出した。

 

「バカにしてる?」

 

「褒めてるんだよ」

 

そう言われ、アンジュが嬉しそうに微笑んだ。

 

「さて、と」

 

話はここまでというつもりだろうか、タスクが立ち上がった。

 

「久しぶりのベッドだ。ゆっくりお休み」

 

「タスクは?」

 

そのまま部屋を去ろうとするタスクの背中に、アンジュが声をかけた。

 

「廊下で寝るよ」

 

振り返ってそう答える。まあ、至極当然といえば当然の答えではある。

 

「ここで良いじゃない」

 

が、アンジュはそう答えて同室で寝るように促した。意識しての発言かどうかはわからないが、何とも大胆である。

 

「い、いや、でも…」

 

案の定、タスクが戸惑っている。男として嬉しいシチュエーションには違いないが、かと言って素直に頷けるほどタスクは豪の者ではなかった。

 

「いいでしょ?」

 

そんなタスクにアンジュが追い打ちをかける。上目遣いになり、寂しげな表情をしたのだ。どれだけ男勝りでも、やはり心細いのだろうか。

 

「う…」

 

そんな表情を見せられ、タスクは言葉に詰まってしまう。結果、

 

「じゃ、じゃあ、お言葉に甘えて…」

 

こうなるのも当然のことだった。タスクはそのまま反転すると、ソファーに腰を下ろす。が、その瞬間、ソファーは音を立てて壊れてしまった。やはり経年劣化は否めなかったのだろう。その姿にアンジュは楽しそうに笑い、タスクの悲鳴とソファーが壊れた音で近くの部屋で休んでいたヴィヴィアンが思わず目を覚ましてしまっていた。

 

「もう! 何してるのよ♪」

 

「ははは…」

 

アンジュの突っ込みにタスクも苦笑するしかなかった。そしてひとしきり笑った後、アンジュは頬を染める。そして、

 

「こっち…来たら…?」

 

と、自分が座っているダブルベッドにタスクを誘ったのだった。

 

「いっ!? 流石に、そこまでは…」

 

アンジュの大胆な誘いにタスクも当然のように頬を赤らめる。さて、それでは結果どうなったかというと…

 

 

 

(何の音~?)

 

寝惚けた感じの口調でヴィヴィアンと物音で起きたモモカが音源であるアンジュの部屋を覗き込む。そしてその瞬間、ヴィヴィアンとモモカは固まってしまった。

何故かと言うと、

 

(わ、わ!)

 

驚きでパニックになりながらそのまま更に顔を近づけて覗き込む。そこには、枕を並べてダブルベッドに入っているアンジュとタスクの姿があったからだ。

 

「ホント、静かね…」

 

「う、うん」

 

「世界には、私たちしか居ないんだ…」

 

「う、ぅん」

 

なんともぎこちない会話である。いや、この場合は初々しいと言ったほうが正しいかもしれない。身を硬くしたまま、タスクがロボットのようにアンジュに顔を向けた。

 

「こんな穏やかな気持ち、何時ぶりだろう…」

 

そして寝返りをうつと、アンジュはタスクに背を向けた。

 

「…私たちを逃がしてくれたのかも」

 

そしてそのまま、独り言のように口を開く。

 

「えっ?」

 

「ヴィルキスが。戦いのない、世界に…」

 

そして、アンジュは目を閉じると寝息を立て始める。

 

「あ…」

 

タスクは上半身を起こすとアンジュの顔を覗き込んだ。気持ち良さそうに眠りに就いている。その顔を見たタスクはゆっくりゆっくりと、アンジュを起こさないように慎重にベッドから出て立ち上がる。が、

 

「…しないの?」

 

いきなりアンジュが呟いた。どうやら狸寝入りだったようだ。

 

「ええっ!?」

 

その言葉にタスクが顔を真っ赤にして驚いた。狸寝入りもそうだが、何より発言の内容に度肝を抜かれたのだ。

 

「いやいやいや!」

 

パニクりながら何とかタスクが言葉を続ける。

 

「俺は、ヴィルキスの騎士だ!君に手を出すなんて、そんな!」

 

「もしかして私のこと、嫌いなの?」

 

「そんなことあるわけないだろう!」

 

「じゃあ…」

 

「だから、えーと…」

 

一瞬口籠ったタスクだったが、顔を真っ赤にしたままアンジュから背けると、

 

「お、畏れ、多くて…」

 

蚊の鳴くような声でそう答えたのだった。

 

「はぁ?」

 

思わずアンジュが布団から跳ね起きた。

 

「10年前…」

 

そんなアンジュに、タスクが己の心境を吐露し始める。

 

「えっと…正確には548年前か、リベルタスが失敗した。右腕を失ったアレクトラは二度とヴィルキスに乗れなくなり、俺の両親も仲間も死んだ。中には“裏切り者”もいたけど……。」

 

アンジュはタスクの言葉を邪魔することなく黙って聞いている。

 

「俺にはヴィルキスの騎士としての使命だけが残された。でも、俺は怖かった。見たことも会ったこともない誰かのために戦って死ぬ…その使命が」

 

「俺は逃げた。あの深い森に。戦う理由、生きる理由も見当たらず、ただ逃げた」

 

「そんなときに、君と出会った!」

 

アンジュがハッと息を呑んだ。

 

「君は、戦っていた。抗っていた! 小さな身体で」

 

「目が覚めたんだ。俺は何をやってるんだろうって」

 

「あの時、やっと騎士である意味を見つけたんだ。俺は歩き出せたんだ。押し付けられた使命じゃない、自分の意志で!」

 

「だから俺は、君を護れればそれで良いっていうか、その…」

 

「ヘタレ」

 

タスクの独白を、アンジュは容赦なく斬って捨てた。

 

「えっ!?」

 

振り向いたアンジュは不満そうな表情をしている。

 

「でも、純粋」

 

だがすぐにその表情は微笑みに変わった。そしてそのままベッドの上に立ち上がるとガウンを緩め、胸こそ手を交差させて隠していたものの、肩からすべり下ろす。

 

「あっ…あっ…」

 

あまりの展開に、思わずタスクは何も言えなくなってしまう。

 

「私は、血塗れ…」

 

今度はアンジュが独白する番だった。その表情は曇っているが。

 

「人間を殺し、ドラゴンを殺し、兄ですら死に追いやった。私は血と、罪と、死に塗れている。貴方に護ってもらう資格なんて…」

 

「そんなことない!」

 

自然とタスクはアンジュの側に駆け寄っていた。

 

「アンジュ、君は綺麗だ!」

 

その言葉にアンジュの瞳が揺れる。勢いそのままに、タスクはアンジュの両肩に手を置いた。素肌に触れられ、アンジュの身体が一瞬だけ震える。

 

「君がどれだけ血に塗れても、俺だけは君の側に居る!」

 

「暴力的で、気まぐれで、好き嫌いが激しいけど…それでも?」

 

「ああ、それでも」

 

不安げに揺れていたアンジュの瞳だったが、タスクのハッキリとした返事を聞いて救われたのか、諭された後は優しく微笑んでいた。そしてそのまま目を閉じる。

 

「……」

 

タスクも同じように目を閉じると、二人はそのまま唇を重ね合わせたのだった。

 

 

 

(ぎやーっ!)

 

「ひぁ〜っ!」

 

外からデバガメしていたヴィヴィアンと二人の愛をじっくりと見て、顔を赤くするモモカはその展開に思わず叫ぶ。それが合図というわけでもないだろうが、予想だにしない来訪者が三人と一匹の元に舞い降りてきた。突如、空をつんざくような咆哮が響き渡ったのだ。その直後、地面が振動してアンジュたちが泊まっているラブホも激しく揺れた。

 

「きゃあーっ!」

 

「アンジュ!」

 

足場が柔らかいベッドの上だったということもあり、アンジュはバランスを崩して床に投げ出されてしまう。そんなアンジュともつれるかのようにタスクも床に投げ出された。そしてその直後、窓が粉々に砕け散ったのだ。

 

「ちょっとタスク! あんたまた!」

 

「ごめん」

 

二人には何が起こったかというと、最早お約束のようにタスクがアンジュの股間に頭を突っ込んでいたのである。タスク本人は不意の衝撃からアンジュを護ろうとしたのだが、結果としてこうなってしまっては弁明の余地はない。そんな二人だったが、一体何がと思って先程の衝撃で亀裂が入って外を覗けるようになった外壁に視線を外に向ける。そこには

 

「救難信号を出していたのはお前たちか?」

 

二人の女性が居た。そしてそのうちの一人が尋ねてきたのだ。そのことに驚いたアンジュとタスクだったが、それ以上に驚いたのが…

 

『ど、ドラゴン!?』

 

アンジュとタスクがハモった。が、それも仕方のないことであろう。何故なら彼女たちはドラゴンを従え、それを足場にして二人を覗き込んでいるからだ。

 

「ようこそ、偽りの民よ」

 

先程の女性が再び口を開く。そして、

 

「我らの世界、本当の地球に」

 

そう、告げたのだった。

 

 

 

 

数時間後、ようやくエルマとキオがホテルに到着するが、中はもぬけの殻で誰もいなかった。

 

「どうやらタスク達…サラ達の所へ連れて行かれたと思う。」

 

「サラ?」

 

「実は…この世界の他にドライバーがいたのです。名前はサラマンディーネ。ブレイドの名は“アイロス”」

 

「アイロス…何処かで聞いた名だわ。それは置いておいて、急いで向かいましょう。」

 

「はい!」

 

エルマとキオは急いでサラ達のいるアウラの都へと進路を取るのであった。

 




ED:赤いメモリーズをあなたに(革命機ヴァルヴレイヴ第2期ED)


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第17話:サラとの再会

すいません間違えて予約よりも先に投稿してしまいました!!


アンジュとタスクがドラゴンを従えた女性たちと出会って少し後、何処かへ向かって空を飛行するドラゴンの集団があった。そのうちの一体がヴィルキスとアレスを足で掴み、もう一体が身体からコンテナをぶら下げている。そのコンテナの中には

 

 

「何処に連れて行く気だろう…?」

 

タスクが呟いた。そう、アンジュたちご一行が収容されていたのだ。と、何かあったのかコンテナが揺れる。その衝撃に、軽い悲鳴と鳴き声を上げるアンジュとモモカとヴィヴィアン。タスクは慌ててアンジュの元に駆け寄った。

 

「ゴメン、ヴィヴィアン、モモカ」

 

「女の子が乗っているんだ、もっと丁寧に飛んでくれ!」

 

思わずヴィヴィアンとモモカにぶつかってしまったアンジュが謝り、タスクは外に向かって怒鳴る。が、聞こえることはないだろう。

 

「大丈夫だ、アンジュ」

 

一応釘を刺した後、タスクがアンジュに振り返る。

 

「えぇ?」

 

「例えここがどんな世界でも、俺が君を護るから」

 

そのやり取りが恥ずかしくて見ていられないのか、それとも、あたしはどうでもいいの? という不満からだろうか、ヴィヴィアンとモモカが両目を隠しながら軽く吼えた。

 

「そうね」

 

自分を落ち着かせるためだろうか肩に置かれたタスクの手を払い除けると、アンジュが口を開く。

 

「あいつら、私たちの言葉を喋ってたわ。話しさえ出来れば、この世界のことも何かわかるかもしれない…」

 

「あぁ…そ、そうだね…」

 

タスクは頷いたものの、何処か肩透かしを食ったように苦笑している。当然のように、アンジュはそれに気付いた。

 

「何よ?」

 

「あ、いや、いつものアンジュだなって…」

 

「はぁ? エッチ出来なくて欲求不満なの?」

 

何とも辛辣である。

 

「えっ?」

 

「いいところで邪魔をされたもんね」

 

次には蔑んだような表情になった。何処までも辛辣である。

 

「えっ!?ええええーっ!?いやっ」

 

「今はそんな場合じゃないってのに、ホントに男って…」

 

「姫様、その言い方は。」

 

「何よ?」

 

呆れたように吐き捨てたアンジュに、同意するかのようにヴィヴィアンが頷いた。と、またもコンテナ内に振動が走る。

 

「ちょ、ちょっと、何処触ってんのよ!」

 

「ふ、不可抗力だって!」

 

「何時まで発情してる気!?」

 

「そんな! してない、してないよ!」

 

「終了!閉店!お座り!」

 

「落ち着いて下さい!アンジュリーゼ様〜!」

 

アンジュに同意するかのようにヴィヴィアンがいななく。四人の仲を宥めようとするモモカ。そんなくんずほぐれつのドタバタ劇がコンテナ内で起こっているとは知る由もなく、ドラゴンの一団は目的地へ向かって飛んでいるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「着いたわ。出なさい」

 

くんずほぐれつのドタバタ劇の余韻も覚めやらぬ中でコンテナが開くと、先程の女性がそう言って一行を促した。その手に得物を持っているのがどうにも恐ろしいが。

言われるがままにアンジュたちが外に出ると、そこには今まで見たこともない光景がアンジュたちの目の前に広がっていた。長い階段の上に巨大な、何処からどう見ても和風建築の建物があったのである。もっともアンジュたちは、この建物が和風建築という工法・技法のものだとは知らないだろうが。

 

「大巫女様がお会いになる。こちらへ」

 

その機体を見て衝撃を受けるアンジュ。対照的に、素直にこちらの言うことにアンジュたちが従ったことで少し警戒を解いたのか、二人は得物を外した。そしてそれとほぼ時を同じくして、ヴィヴィアンが突然悲鳴のような鳴き声を上げると意識を失ったのだった。

 

「ヴィヴィアン!」

 

異変に気づいたアンジュがすぐに振り返る。何故こんなことになったかというと、アンジュからは見えない位置に、麻酔と思われる注射器が刺さっていたからだ。

そして脇から、数人の新たな顔ぶれがヴィヴィアンの元に走ってきた。

 

「ヴィヴィアンに何をしたの!」

 

アンジュが強く詰る。が、二人は外していた得物を構え直して威嚇した。それを見て、アンジュは悔しそうに唇を噛んで口を噤んだのだった。

 

 

 

 

 

『連れて参りました』

 

建物内に入り、彼女たちの言う“大巫女様”の御前までアンジュとタスクを言葉通り連れてきた二人が報告した。

 

「ご苦労」

 

アンジュたちの正面にいる、一番高い場所に鎮座している人物が労をねぎらった。御簾に隠れて姿こそ見えないものの、声質からそう年齢がいっていないことが推測される。しかしその座っている場所と、真っ先に口を開いたことから、彼女が二人の言う大巫女様であるのだろうということは容易に推察されるものだった。

 

「異界の女」

 

アンジュは不満そうに少し顔を上げ、

 

「それに、男か…」

 

タスクは緊張した面持ちで唾を飲んだ。

 

「名は何と申す」

 

尋問としてはある意味当然の質問をする。が、こういう真似をされて大人しくしていられるような性格のアンジュではない。

 

「人の名前を聞くときは、まず自分から名乗りなさいよ!」

 

この状況下で臆せずにそう言えるあたり、流石に肝が据わっている。あるいは長い皇族生活の影響かもしれない。が、いくら納得できなくてもこの場合の初手としてはあまり賢い選択ではないかもしれない。

案の定、御簾に姿を隠したその他の連中がザワザワとざわめきだしたからだ。

 

「大巫女様に何たる無礼!」

 

後ろの二人のうち、一人が激高して自分の得物に手を掛けた。

 

「アンジュ!」

 

タスクが窘める。まあ当然だろう。話し合いでいきなり喧嘩腰では纏まるものも纏まらない。だが、アンジュは不満そうな表情を崩さない。

 

「…特異点は開いておらぬはず。どうやってここに来た」

 

だが大巫女様は意に介する要素もなく、違う質問を投げかけた。自分の言葉を無視されたのが気に入らないのか、アンジュは不満そうな表情を隠そうとはしない。

 

「大巫女様の御前ぞ、答えよ!」

 

そして更にアンジュをイラつかせることに、他の連中も口々に質問を向け始めたのだった。

 

「あの機体、あれはお前が乗ってきたのか?」

 

「あのシルウィスの娘、どうしてそなたたちと一緒に「うるっさい!」」

 

元々高くないアンジュの沸点がすぐに噴火する。

 

「聞くなら一つずつにして! こっちだってわかんないことだらけなの! 大体ここは何処!? 今は何時!? 貴方たち何者!?」

 

「ちょ、ちょっとアンジュ!」

 

慌ててタスクが宥めようとする。そんなアンジュの態度に、御簾の向こうの人影が一つ楽しそうに口元に笑みを浮かべた。

 

「威勢のいいことで」

 

そしてそのまま立ち上がると、その影はゆっくりと御簾の先から姿を現した。

 

「!…貴方!」

 

引き続き不快な表情に染まりながらもアンジュが驚いたのは無理はない。何故なら、その姿には見覚えがあったからだ。そう、先程の人間たちによる侵攻の前に戦った人型兵器のパイロットだったからだ。

 

「神祖アウラの末裔にしてフレイアの一族が姫。近衛中将、サラマンディーネ」

 

名乗りを上げる彼女…サラマンディーネに、アンジュは敵意を隠さずにぎりりと歯軋りをすると睨みつける。まあ、ついこの間殺し合いをした相手が目の前に居るのだから当然ではあるが。

 

「ようこそ、真なる地球へ。偽りの星の者たちよ」

 

「知っておるのか?」

 

大巫女がサラマンディーネに尋ねると、彼女はクスッと笑って、

 

「この者ですわ。先の戦闘で、我が機体と互角に戦ったヴィルキスの乗り手は」

 

そう、答えたのだった。

 

「ヴィルキスの乗り手…」

 

その事実に、大巫女は思わず息を呑む。

 

「この者は危険です! 生かしておいてはなりません!」

 

「処分しなさい、今すぐに!」

 

御簾の先にいる他の面々が次々と好き勝手なことを言う。言葉通り、アンジュが危険要素だと判断したからだろうか。

 

「やれば? 死刑には慣れてるわ」

 

対してアンジュはぶっきらぼうにそう言い放つ。が、

 

「…但し、タダで済むとは思わないことね」

 

ドスを聞かせて釘を刺すのも忘れない。その迫力に飲まれたのか、御簾の先にいる連中は思わず息を呑んだり、二の句が告げなくなった。

 

「お待ち下さい、皆様」

 

そこにサラマンディーネが割って入る。そして、アンジュたちの元へと歩を進めて降りてきた。

 

「この者は、ヴィルキスを動かせる特別な存在。あの機体の秘密を聞き出すまで、生かしておくほうが得策かと…」

 

その言葉に、御簾の向こうの面々がザワつく。

 

「この者たちの生命…私にお預けくださいませんか?」

 

そして間髪入れずに提案する。その結果、大広間は静まり返ったのであった。しかし納得出来ない人物が一人。

 

「ちょっと、勝手に決めないでよ!」

 

言うまでもなくアンジュである。

 

「悪い話ではないと思いますが」

 

サラマンディーネは首だけ後ろに向けて静かに答えた。

 

「だから納得しろって? 悪いけど、こっちの意思を無視されるのはもうこりごりなのよ」

 

「ではどうします? 実力行使によって訴えますか?」

 

「…そうね。それもいいかもね」

 

アンジュとサラマンディーネの間に火花が散る。二人の間にあるただならぬ雰囲気を悟った御簾の向こうの面々がざわめき始めた、そんな中だった。

 

「二人とも待て……」

 

扉の方から別の声がした。その場にいる全員の視線が扉の方に向ける。そして足音が響き渡り、それは現れた。

 

「「キオ!」」

 

キオが現れたことに、全員の視線がキオの方を向く。

 

「間に合って良かった。未来視で二人が喧嘩している姿が見えたからなぁ。」

 

「そなたは?」

 

「お初にお目にかかります大巫女様。自分はエーテリオン所属特務兵士『キオ・ロマノフ』天の聖杯のドライバーです。」

 

キオは大巫女や他の者達に深くお辞儀する。

 

「主がサラマンディーネが申していたキオ・ロマノフか……」

 

「いかにも。」

 

「……良い面構えをしておる。」

 

「恐れ入ります。それから……久しぶりだな、“サラ”♪後。アイロスも…」

 

するとサラから龍の射手であるアイロスが現れると同時に、タスクのヴァサラ、キオのアルヴィース、ヒカリ、メツ、コスモスが出てきた。

 

「それがお前のブレイドか……」

 

「…正確に言えば、“天の聖杯”って言ってもらったら良いんですが♪」

 

「なら、これからはそう呼ぼう。」

 

大巫女は納得するとサラがキオを見つめる。

 

「?」

 

「\\\\」

 

サラは頰を赤らめ、優しい眼差しで見つめていたのだった。

 

 

 

 

 

サラに連れられ、部屋に入った一行は床の間に座布団を敷き、それぞれその上に座っていた。引き戸に板張りの床に座布団に湯飲みと、和風テイストのオンパレードである。

 

日本茶を入れた湯飲みを自分の前に置いてくれたサラに、座布団の上でしっかりと正座しているキオは礼を言う。

 

そしてキオの目の前に居る二人…アンジュとタスク、モモカもそれを確認してからおずおずと湯飲みに手を伸ばした。

 

(毒なんて入ってはいないんだけどな…)

 

警戒しての二人の行動だろうが、まあ仕方ないかとも思う。何せ二人にとってはここはまだ右も左もわからない世界なのだ。警戒してしすぎることはないだろう。

 

(当然の行動か)

 

納得すると、キオはこれからする話を纏めるために頭を回転させ始める。

 

「さて…」

 

アンジュとタスクが湯飲みから口を離してホッと一息ついたタイミングを見計らって、キオが口を開いた。当然ながら、周囲の視線がキオに集まる。

 

「何処から話せばいいものかな…」

 

「決まってるじゃない。全部よ」

 

アンジュが真剣な面持ちで口を開く。

 

「う、…それはわかっている。だが、どういった取っ掛かりで話せばいいかと思ってな。まあ、それはそれとして…」

 

そこでキオは自分の左隣に目をやった。そこには、キオやアンジュたちと同じように座布団の上に腰を下ろしてニコニコしているサラマンディーネとお付きの二人の姿があった。

 

「サラ、お前たちは別に席を外しても構わないぞ」

 

「あら?お邪魔ですか?」

 

「いや、そういう「邪魔よ」…」

 

そういうわけではないがと言おうとしたキオを遮って、アンジュが短く切って捨てた。だが、そこは敵もさるもの。アンジュの言葉を黙殺したサラマンディーネ…サラがキオに視線を合わせ、

 

「お邪魔ですか?」

 

と、もう一度聞いたのだった。

 

「別に邪魔ではないがな…」

 

その返答にアンジュはムスッとし、サラはニコニコと笑った。

 

「アンジュとタスクは当事者だし、それに一度話したことだ。別に目新しい話なんてないぞ。あまり賢い時間の使い方とは思えないが…」

 

だが、サラも大人しく退きはしない。

 

「それを決めるのは私たちですから」

 

そこで、サラは後ろを振り返った。

 

「ナーガ、カナメ、貴方たちはどうします?」

 

そして後ろの二人…ナーガとカナメに声をかける。

 

「勿論、姫様のお供をします」

 

「改めて言うまでもありません」

 

「…だ、そうです」

 

身体を元に戻すと、サラが自分たち三人の意思をキオに伝えた。

 

「…まあ、お前たちがそれでいいなら構わないがな」

 

「では、決まりですね」

 

「あ、そうそう。今日、同僚も一緒に来ちゃったけど、自己紹介させて良いかな?」

 

「えぇ、構いませんよ♪」

 

「…だ、そうだ。hey come on!」

 

戸が開き、中からエルマ達が現れる。

 

「中々良い会話だったわ♪」

 

「ありがとうございます。エルマさん。」

 

「自己紹介するわ、私は“エルマ”」

 

「リンリー・クーですリンと呼んでください♪」

 

「タツですも!」

 

「イリーナだ、よろしく」

 

「自分はグインと申します」

 

「俺はダグだ」

 

「ラオだ」

 

「オリバーだ」

 

「アリアンナと申します♪」

 

「ノアだ♪」

 

「オスカーだ!」

 

「アンだ♪宜しく!」

 

エルマ達は自己紹介を終えると、キオが説明する。

 

「みんな俺たちの仲間だ。宜しく頼む♪」

 

「……さっさと全部話したら?」

 

「……分かった。あれは何日か前だ」

 

キオの話は数日前に遡る。この世界が何なのか、サラ達が何者か、サラにアイロスを同調させたこと……。アンジュはそれを聞いて納得する。

 

「つまり、はこういうことでしょう――」

 

今まで無言で聞き入っていたアンジュが徐に茶を啜り、サラマンディーネを見やる。

 

「あなたがここに居て、地球が二つあるって事は!」

 

そう言うや否や、次の瞬間持っていた茶碗を壁に向けて投げつけた。投げつけられた茶碗は壁に衝突して呆気なく砕け散り、中身が振りまき、破片が飛び散る。その行動に一同が戸惑い、一瞬硬直する。

 

その隙にアンジュは砕けて鋭くなった破片を拾い上げ、素早くサラマンディーネの背後に回り込み、背後から首筋に破片を突き付けた。

 

「帰る方法があるって事よね!?」

 

「アンジュ!」

 

「アンジュリーゼ様!!」

 

再起動した面々は、アンジュの突然の蛮行に驚き、眼を見開く。

 

そこへ騒ぎを聞きつけ、部屋の外で待機していたナーガとカナメが電光石火の如く扉を乱暴に開けて、部屋へ飛び込んできた。

 

「姫様!?」

 

「サラマンディーネ様!?」

 

二人もまたその光景に眼を見開き、状況が不利になったことにアンジュはギリっと奥歯を噛みながら破片をちらつかせ威嚇する。

 

「動かないで!近寄れば命は無いわ!」

 

「野蛮人め!やはり早々に処刑するべきだったわね!」

 

ナーガがアンジュに睨み付けると、カナメがタスクの首元に薙刀を近づけて抵抗する。

 

「姫様を離せ!さもなけばこの男を!」

 

「えぇっ!!?」

 

「殺れる者ならやってみなさい!」

 

「え?」

 

「タスクは、私の騎士。だから死んでも「それ以上言うな、アンジュ…」何!?」

 

その時、アンジュの頰を取りすぎるかのように青い矢が壁に突き刺さる。それはアイロスの弓矢であった。アイロスは三本の矢を構え、アンジュに向ける。

 

「この女がどうやっても良いの!?」

 

「私の能力は主君以外の者にしか矢を通さない。だからそのような抵抗など無意味だ。」

 

アイロスが説明し、弓弦を引く。

 

「くっ!」

 

すると、サラマンディーネは顔色を変えずに背中のアンジュに向かって話し掛けた。

 

「帰って、どうすると言うのです?」

 

その指摘にアンジュは動揺し、言葉に窮するも、畳みかけるようにサラマンディーネは続ける。

 

「待っているのは機械の人形に乗って我が同胞を殺す日々。それがそんなに恋しいのですか?」

 

「っ、黙って!」

 

己の迷いを指摘され、動揺を必死に押し殺しながら言葉を荒げる。だが、その手が震えていることに、サラマンディーネは小さくため息を零した。

 

「偽りの地球、偽りの人間、そして偽りの戦い――あなた達は何も知らなさすぎます」

 

するとサラが立ち上がり、アンジュの手を握り、何処かへ連れて行こうとする。

 

「参りましょう。真実を見せて差し上げます」

 

「ちょっ、ちょっと!」

 

「俺も付いて行った方が良いか?」

 

「えぇ♪」

 

「ナーガ、カナメ。留守を頼みましたよ」

 

そう言い残してサラマンディーネは部屋から出て行き、残されたナーガとカナメ、そしてタスクは呆気に取られたままだった。

 

 

 

サラマンディーネが呼んだガレオン級の頭に乗ってある場所へと向かった。

 

「着きましたわ」

 

サラマンディーネが示す場所の先を見るキオ達、そこはアケノミハシラと同じ塔だった。

 

「アケノミハシラが…ここにも?」

 

「『アウラの塔』とわたくし達は呼んでいます。嘗てのドラグニウムの制御施設ですわ」

 

「ドラグニウム…?」

 

キオは聞き覚えのない物を問い、サラマンディーネは制御施設内を進みながら説明していた。

 

「ドラグニウム、22世紀末に発見された強大なエネルギーを持つ超対称性粒子の一種」

 

そしてあるエレベーターの場所に着き、サラマンディーネがそれを操作して下へと向かって行く。

 

「世界を照らす筈だったその力は、すぐに戦争へと投入されました。そして環境汚染、民族対立、貧困、格差、どれ一つも解決しないまま人類社会は滅んだのです」

 

「…よくある話だ」

 

キオの問いにサラマンディーネは頷く。人は強大なエネルギーをすぐに兵器にする事を優先とする本質がある、しかし間違いだと知るのはいつも後になり後悔するばかりであった。

 

「そんな地球に見切りをつけた一部の人間たちは、新天地を求めて旅立ちました」

 

「似たような話、聞いた事あるわ」

 

っとアンジュはその事をサラマンディーネに言い、ジルに聞かされていたから当然の事でもあった。

そして目的地へと到着したエレベーターは止まり、サラマンディーネはエレベーターを降りながら言う。

 

「残された人類は汚された地球で生きて行く為に一つの決断を下します」

 

「決断?」

 

アンジュの言葉にサラマンディーネは頷いて言い続ける。

 

「自らの身体を作り変え、環境に適応する事」

 

「作り変える?」

 

アンジュはサラマンディーネが言った言葉を聞き、それにサラマンディーネは頷く。

 

「そう、遺伝子操作による生態系ごと…」

 

そしてキオ達の前に巨大な空洞が広がり、それにアンジュは問う。

 

「ここは?」

 

「ここに『アウラ』が居たのです」

 

「アウラ…?」

 

アンジュはその事を問うと、サラマンディーネはキオの方を向いて、それにキオは頷き装置である物を映し出す。するとアンジュの目の前に見た事もないドラゴンが現れる。

 

「これは…」

 

「アウラ、汚染された世界に適応する為、自らの肉体を改造した偉大なる子祖。あなた達の言葉で言うなら、『最初のドラゴン』ですね」

 

サラマンディーネの説明にアンジュはまたしても驚きの表情を隠せない。

これ程の真実を聞かされて、戸惑いを表さない者はいない。

 

「私達は罪深い人類の歴史を受け入れ、食材と浄化の為に生きる事を決めたのです、アウラと共に。男達は巨大なドラゴンへと姿を変え、その身を世界の浄化の為にささげた」

 

「浄化…?」

 

アンジュがその事を問い、それをサラマンディーネが説明する。

 

「ドラグニウムを取り込み、体内で安定化した結晶体にしているのです。女たちは時に姿を変えて、男達と共に働き、時が来れば子を宿し産み育てる、アウラと共に私達は浄化と再生へと道を歩み始めたのです」

 

キオは元の景色に戻すとサラマンディーネが少しばかり重い表情をする。

 

「ですが…、アウラはもういません」

 

「どうして?」

 

「奴に連れて行かれたんだ」

 

アンジュがそれを問うとサラマンディーネの代わりにキオが言う。

 

「エンブリヲ…ドラグニウムを発見し、ラグナメイルを作り、世界を壊し捨てた。この世界の破滅の元凶として“神に堕落した屑人間”だ」

 

困惑しながら問い掛ける。何故『アウラ』を連れ去る必要があるのか――まさか、一度滅んだ世界が再び再生しようとするのが気に喰わなかったなどというわけでもあるまい。

 

「――あなた達の世界は、どんな力で動いているか知っていますか?」

 

唐突に問いで返され、眼を剥く。

 

「え?……マナの光よ」

 

困惑しながらアンジュが答えるとサラマンディーネはやや表情を硬くし、更に問い掛ける。

 

「なら、そのエネルギーの根源は?」

 

「何言ってるのよ、マナの光は無限に生み出される……って、まさか!?」

 

「そう……そのまさかだ。」

 

無限のエネルギーなんて、ありはしない――どんなものにでも必ずそれを生み出す要因がある

 

『マナ』というものを不思議に思っていた。

 

無限に生み出される万能の光――『人間』であれば、如何なる者だろうと使用できる夢の物質―――だが、それが『まやかし』であるとしたら? 『無』から『有』は生み出せない―――エンブリヲという男が、あの世界を創った。ジルが言った争いを好まない人類のためには与えてやる必要があるのだ。

 

だが、そのために必要となったのだ。『餌』を生み出す『贄』が――『マナ』という餌を―――キオの態度にアンジュも察したのか、眼を瞬かせる。

 

「マナの光、理想郷、魔法の世界。それを支えているのはアウラが放つ、ドラグニウムのエネルギーなのです」

 

「!?」

 

「そしてアンジュ…聞いてくれ、ここからが重要なんだ。アウラは自らドラグニウムは生成できない…だけど、『マナ』は生み出しておく必要がある。そのためにはアンジュ……大型ドラゴンを凍結させ捕獲する必要があるんだ。」

 

あくまでアウラは、マナを生み出すための触媒に過ぎない。だが、あの世界を維持するためには『マナ』が必要だ。それを維持するためには―――キオとサラマンディーネの言葉にサラマンディーネは重く頷く。

 

「そうです――エネルギーはいずれ尽き、補充する必要がある。ドラゴンを殺し、結晶化したドラグニウムを取り出し、アウラに与える必要があるのです。それがあなた達の戦い――あなた達が命を懸けていた戦いの真実です」

 

ノーマがドラゴンと戦わされていたのは、『ドラグニウム』を体よく手にれるため――『マナ』を維持し続けるために……人間の世界を『守る』ために―――――告げられた事実にアンジュは衝撃を隠せなかった。

 

「そして、エンブリヲはデウス・コフィンの首領である総裁“X”と手を組み、俺たちエーテリオンに牙を向けている。人間達を何人か拉致し、改造兵士へと変えた。アンジュ…お前達はずっとそいつらに良いように飼われていたんだよ……」

 

 

「あなた達の世界のエネルギーを維持するため、私達の仲間は殺され、心臓を抉られ、結晶化したドラグニウムを取り出された」

 

「大型のドラゴンを回収していたのはそういう理由か」

 

ドラグニウムを結晶化するために、大型ドラゴンの体内には膨大な量が備蓄される。ドラゴンにとって浄化であると同時に魔法陣や強大な力を発露させるためのエネルギー源でもある。故に、大型ドラゴンの死骸は、無くてはならないものだ。

 

思い当たる節がある――アンジュがMIAになった時、あの島で見た凍結したドラゴンの死骸を輸送する船団を――気になっていたが、これでようやく謎が解けた。

 

どうして10年前に起きた反乱でノーマが粛清されなかったのか―――どうしてドラゴンを狩る必要があったのか―――どうしてそれが『ノーマ』でなければダメだったのか―――改めて胸糞が悪くなる。

 

「分かっていただけましたか? 偽りの地球、偽りの人間、そして―――偽りの戦いと言ったその意味を。それでも、偽りの世界に帰りますか?」

 

その問いにアンジュは一瞬逡巡するも、険しい顔をして答えた。

 

「当然でしょう、仮にあなたの話が全部本当だとしても、私達の世界はあっちよ!」

 

それは己の迷いを振り切るためのものだったかもしれない。だが、その答えにキオが顔を顰め、サラマンディーネはやや失望したように嘆息する。

 

「では、あなた達を拘束させてもらいます。これ以上、私達の仲間を殺させるわけにはまいりませんから」

 

凛と告げるサラマンディーネに気圧されるも、アンジュは反射的に身構える。

 

「やれるもんならやってみなさい! 私がおとなしく拘束されると―――!」

 

握っていた破片を振り上げようとした瞬間、尻尾を振り上げ、破片を叩き落とす。そして、サラマンディーネを守るように羽を広げる。

 

「本性表したわね、トカゲ女!」

 

殴りかかるアンジュの拳をかわし、もう片方の手で左腕を捻って拘束する。

 

耳元で囁く冷淡な声に歯軋りするも、サラマンディーネが静かに答える。

 

「殺しはしません――私達は残虐で暴力的なあなた達とは違います」

 

「アルゼナルをぶっ壊しておいて、何を――!」

 

痛みを耐えながら強引に拘束を解き、アンジュは睨みつける。対峙しながらも、こちらは悠然としている。

 

「アレは龍神器の起動実験です。あなた達はアウラ奪還の妨げになる恐れがありましたから」

 

ドラゴンとの戦いが戦争であった以上、彼女の言葉は正論だ。脅威を排除するために最小の犠牲で最大の結果を齎す――だが、それがアンジュの怒りを煽る。

 

「それで何人死んだと思ってるのよ!」

 

「赦しは請いません。私達の世界を守るためです――あなたが私と同じ立場ならば同じ選択をしたのではないですか、皇女アンジュリーゼ?」

 

「え……?」

 

突然、己の真名を言われ、アンジュは戸惑う。何故、会ったこともないドラゴンがそれを知っているのか――困惑するアンジュに、サラマンディーネはどこか不敵に告げた。

 

「あなたの事はよく聞いていました、リザーディアから―――近衛長官リィザ・ランドック、と言えば分かりますか?」

 

思いがけない名を出され、アンジュは驚愕する。

 

ミスルギ皇室の近衛長官であり、ジュリオの側近―――ジュリオに従い、自分を『アルゼナル』へと送り込んだ―――

 

「リィザが――あいつが、あなた達の仲間……?」

 

上擦った声で呟くと、肯定するようにサラマンディーネは笑った。それが酷く不愉快なものに見え、アンジュは悔しげに歯噛みする。

 

「バカにしてぇ―――!」

 

怒りに顔を真っ赤にし、アンジュは激情のままサラマンディーネに殴りかかろうと再度駆け出すも、寸前で割り込んだキオがアンジュの腹部に向けて拳を叩き入れる。

意識が薄れてく中、アンジュはキオの行動に問う。

 

「な、何で…?」

 

「いい加減にしろアンジュ、これ以上好き放題暴れるのはよせ」

 

そうキオは言い残して、アンジュはそのまま気を失う。

 

「あっ、う……」

 

するとキオはサラマンディーネの方を向く。

 

「俺も君の仲間を殺してしまった、その事にはどんなに頭を下げても許せないのは分かってる。それでも…」

 

キオは両膝を着き、頭を下げる。

 

「アンジュや彼らに変わって謝罪する。本当にすまなかった。」

 

そしてサラマンディーネは微笑みながら床に降り立ち、羽を仕舞いながらキオに近づく。

 

「顔を上げてください。キオ…」

 

キオはゆっくりと顔を上げると、サラがキオの頬を撫でる。

 

「最初に会った時もあなたはやはり優しかった。でも何故でしょう?私は……あの時や今、再会したばかりなのに…前に何処かで会った様な気がします。」

 

「その通りだ……」

 

するとキオの後ろから別の声がした。現れたのはエリュシュオンに保護してもらっている筈のチャールズとマリアであった。

 

「父さん!母さん!?」

 

「あの二人が、キオのご両親」

 

するとマリアがサラの方を見て優しい一言を言う。

 

「久しぶりねぇ、サラちゃん…12年ぶりだけど♪」

 

「サラちゃん?」

 

「私をご存知なのですか?」

 

「えぇ♪あなたのお母さん…ミレイとは旧友であり、同じ研究者なのよ♪」

 

「お母様と!?」

 

「ミレイ…ミレイ……っ!」

 

キオはミレイの言葉で過去視の事を思い出す。

 

「父さん、母さん……聞きたいことがあるんだ。ミレイと言う名前で思い出したんだが…ミレイとはどういう関係なんだ?」

 

「……過去視か、見たのだな?“魔神 ゼニス”の事も」

 

「“魔神 ゼニス”?」

 

「見たのだろ?人が住めるほどの大地の骸を持つ巨人を…」

 

「……あれか!」

 

「今こそ話そう……君の母の事と、サラマンディーネ様とキオが“あの世界”であった幼馴染だという事…」

 

語られる本当の真実に幼馴染である二人は自身の出会いについて深く告げるのであった。




本当に申し訳ございません!!


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第18話:幼き二人の出会い。

今から遡る事12年前───。ロマノフ邸の二階ーー自分の自室にいて本を読むキオ・ロマノフは退屈でいた。

 

「ハァ…退屈。」

 

子供の頃、チャールズとマリアの自作の絵本を放り投げる。タイトルは『ドラゴンと姫』であった。

 

「お父さんとお母さんは何かの研究で忙しいし、爺ちゃんは行方不明になるし、つまんないなぁ…………そうだ!」

 

キオは何かを思い付き、父と母の目視を盗み、庭へ歩む。庭の中は迷路になっており、キオは迷い込む。

 

「あれ?出口はどっちだろう……ん?」

 

すると目の前に不気味に揺らめく空間があり、キオはその空間に手を差し伸ばす。そして空間が水の様にキオの手が吸い込まれる様に通し、キオは空間の中へと入っていく。そこは何処かの森の中であった。

 

「ここは?」

 

キオは森の中をずっと歩いていくと、光が見えてきた。キオは光の方へ走り、外へ出る。そこに広がった光景は……。高原が広がる大地、天空に浮かぶ数多の大陸、幼き少年はその世界に迷い込み、色んな花々が咲く花畑へ辿り着く。

 

「………」

 

キオはその景色に見惚れていると、弾丸絶壁から首長竜『ミレザウロ』が首を長くし現れ、キオを見つめる。

 

「……」

 

するとミレザウロは興味ないのか、湖の水を群れとともに飲む。他にも高原を走る肉食生物『ルプス』湖のほとりで休む『ヒッポ』、空を自由に飛ぶ『アクイラ』とそれを捕食する『テレシア』が上空を優雅に飛んでいた。不思議な大地に見惚れていたキオは我に帰り、父と母を探す。

 

「お父さーん!お母さーん!」

 

キオは直ぐに森の中の空間へ帰ろうとしたが、その空間が何処にもなかった。キオはその世界に迷い込み、出口を探しに見た事も無い花が咲いている花畑に来る。

 

「お父さーん……お母さーん……」

 

少年は父と母を探すが、誰もいなかった。

 

「父様〜!母様〜!」

 

「?」

 

すると花畑から別の声が聞こえてくる。女の子の様だ……少年は声がする方へ走る。

 

一方、少女の方もこの世界に迷い込み、両親を探していた。花畑の中を駆け走り、誰かとぶつかった。

 

「「痛っ!/痛い!」」

 

ぶつかった二人は尻餅付き、二人ともたんこぶが出来る。

 

「何すんだよ!」

 

「そっちこそ!」

 

「「?」」

 

少年と少女は互いを見る。少年は少女の姿に驚く……なぜならその少女には色鮮やかで露出が少しある服装、アイシクル・ピンクの羽と尻尾、黒の短髪の可愛い女の子であった。少女の方も少年を見る黒の短髪、紳士な服、首にぶら下げた翠の結晶石のペンダントをしていた。

 

「見せて♪」

 

「え?うん……良いけど…」

 

少年は少女にペンダントを見せる。

 

「……もーらい♪」

 

少女は少年のペンダントを取り上げ、花畑を走る。

 

「あ!返せ〜〜!!」

 

少年も少女に取り上げられたペンダントを取り返そうと追い掛ける。二人は幸せな笑顔で駆け回り、そして少年は少女の手を掴むと、一緒に転ぶ。少女が少年に抱きつき、少年が少女を支えていた。

 

「……」

 

「……」

 

「「プッ……アハハハハハハハ♪」」

 

二人は花畑に寝転がり、一緒に笑いながら風で舞う花弁を一緒に見上げるのであった。

 

「君は?」

 

「私、サラマンディーネ!よろしく♪」

 

「サラマン?」

 

「“サラマンディーネ”……じゃあ、私のこと、『サラ』って呼んで♪」

 

「うん、僕はキオ・ロマノフ。僕の事も『キオ』って呼んで。」

 

「うん!」

 

幼き頃のキオと幼き頃のサラ……こうして二人の小さき子供はこの未知の平穏大地『ウル』で出会ったのだ。

 

 

 

 

 

キオとサラは花畑で咲いている花をじっくりと見る。

 

「この花、まるで睡蓮花に似ている!」

 

「そうかな?睡蓮花は水がある所にしか咲かないよ、それにこの花少し小さい…」

 

「……じゃあ名前を付けようか!」

 

「名前を付ける?でも先に名前が付けられたら?」

 

「そんなの良いの!」

 

「名前ねぇ……僕の庭の周りにはいつもお母さんの大好きなである“ミスミソウ”が咲いている…」

 

「私のはお母様の睡蓮花が咲いている……」

 

「ミスミソウ…ミスミソウ…」

 

「睡蓮花…睡蓮花…」

 

「……」

 

「……」

 

二人は互いの意見と提案を考案し、付けられたら花の名前は……『姫蓮草(ヒメレンソウ)』と名付けられた。

 

 

 

 

それからキオとサラは時々、この大地に遊びに来るのでした。

 

そんなある日……。チャールズとマリアは執務室で書類を作成していると。メイドがキオが頭から血を流して現れて来た報告。これは流石の二人も大慌てでキオを急いで看病する。寝ているキオが悪夢で魘され、寝言を言う。

 

「サラ…」

 

キオのこの言葉に興味を持った二人はキオの行動に疑問を持ち、彼が寝ている間、庭に出てくる異空間に入る。そして二人はこの大地の事を知るが……着いた場所は焼け跡から木々や草、苔が生え、その辺りには恐竜の様な鳥の様な大きな化石が横たわっている滅んだ亡国跡地であった。

 

「ここは…ん?」

 

チャールズはある事に気づく、国の中央部、城のような建物が聳え立つ中に、ある大きくて長い建物が城の中枢部にあった。

 

「あれは……まさか!!?」

 

その建物にチャールズとマリアは驚く。何故なら、その建物は長い歴史と様々な伝説を持ち、万世一系の皇族『斑鳩家』によって統治される巨大国家『ミスルギ皇国』の中枢部『暁ノ御柱(アケノミハシラ)』であった。

 

「何故……この滅んだ国に、アケノミハシラが!!?」

 

二人が驚いていると、別の方向に大きな赤いドラゴンが現れる。二人は驚き、逃げようとすると。

 

「お待ちください!」

 

「「?」」

 

ドラゴンの方から女性の声が聞こえて来た。そう…これがサラの母親との出会いであった。二人もまた、白き大地で倒れているサラを救助し、彼女が悪夢と寝言を頼りに、この異空間に入ってみるが、場所とは違かったらしいと。互いの認識確認しつつ、次第彼等はこの大地を『ウル』と名付け、各地にある情報を駆使し調べて来たと……。

 

 

 

 

 

 

 

 

真実を聞かされたキオとサラは驚きのせいか、出す言葉も浮び上らなかった。

 

「そ……それで?」

 

「研究して行くうちに、新たな賛同者も増えた。ファーレン、ボドウィン、キルケン、リーブ夫妻、ティオニス、アマロ、イシュトバーンとバネッサ…そして、ジュライ皇帝陛下とソフィア皇妃殿下…。」

 

「は!!?ちょっ!ちょっと待ってくれ!!ジュライ皇帝陛下とソフィア皇妃殿下!?え!?どどど!どうなってるんだ!?」

 

突然の言葉にチャールズは説明する。二人はエンブリヲのこれからの計画に否定し、古の民でタスクの両親と共に私の研究の賛同者でもあった。皇帝陛下にその世界のアケノミハシラを見せた……彼は驚き、アケノミハシラの構造を調べるが、どれもミスルギ皇国と全く同じであるが、本当に驚くのはこれからであった……。ジュライと共にアケノミハシラを制御する通信タワーへ入ってみると…。

 

「な!?」

 

「何だ……これは!?」

 

頂上から見たその光景、私達がいた場所と言うより、アケノミハシラの真後ろ……。

 

その風貌、巨大怪鳥の如く。身の丈、大地の如し。禍々しく山の如く四つの巨大な眼、大地を引き裂く四本の豪腕を持つ人型の巨大な大地が横たわっていた。

 

「私達が見ていたあの山……あれは、巨人の骸だったのか!!?」

 

その骸…嫌、厳密に言えば『魔神』の骸の大地であった。チャールズはその神とこの滅んだ亡国の関係を調査する内に判明したのが……数万年前の遥か太古の時代……この世界がまだ、我々よりも先進国だった頃、我々よりも平穏で穏やかだった頃、大いなる巨大な神がこの世界を虚無に変えようとしていた。だが、この世界の住人である『エルダー族』はこの世界の生命とブレイドと団結し、見事に魔神を倒した。魔神の首は三つの山を越え、真っ二つにした魔神のそれぞれの半身から生命を腐らせる血液を流し、この国は滅んだ。我々はこの事実に驚愕し、世間や社会、情報を闇へと隠蔽した。

 

「……あの世界……俺とサラが一緒に遊んでいた世界がもしかして?」

 

「……そう、お前の本当の母親の故郷でもあり、お前が在るべき世界なのだ。」

 

真実を聞かされたキオは考え込むのであった。

 

 

 

 

 

数時間後、キオはエルマ達にその事を話す。

 

「えぇ〜!?キオとあのお姫様が幼馴染!!?」

 

「あぁ……過去視や夢で見たあれは、俺の思い出らしいんだ。だが、どうしてその思い出が曖昧なんだ?」

 

「……一回、エリュシュオンで脳検査してみる?もしかすれば、あなたに起こった事を視覚で確認できるわ。」

 

「分かりました。(俺の記憶…さっきの話だと、俺は頭から血を流して家へ戻ってきた。だがあの大地にそんな危険な所は無かったぞ?)」

 

キオはそう考えていると…。

 

「おーい! 皆ー!」

 

キオ達は聞き覚えのある声が聞こえて、その方を振り向くとアウラの民の服装を着たヴィヴィアンがやって来た。

 

「ヴィヴィアン!」

 

「あ!ヴィヴィアンさん!! どうやって戻ったんですか?」

 

「さあ~ここでクイズです、私はどうやって人間に戻ったでしょうか!」

 

っとここでヴィヴィアンのお得意のクイズが出て来て、それにキオ達は少々困った。何も知らないのにどうやって人間に戻ったか分からないからだ。

 

「ぶ~!残念! 正解は…え~と~…何だっけ?」

 

「知らないのかい!」

 

それには何故かキオがツッコミを入れる。っとそこに医者の『ドクター・ゲッコー』がやって来る。

 

「D型遺伝子の制御因子を調整しました、これで外部からの投薬なしで人間の状態を維持出来る筈です」

 

「って事でした~♪」

 

「いやお前が答えた訳じゃないだろ…」

 

ラオの言葉にヴィヴィアンは舌をペロっと出しながら笑う。

 

「ところであの皇女さんは?」

 

「まだ目が覚めないんだ」

 

タスクがそう言ってるとドクター・ゲッコーがキオ達に問いかけて来た。

 

「失礼ですが、貴方のどちらか私の所に来てくれませんか?」

 

それにキオ達は顔を見合って居る中で、キオの未来視が発動し、先の未来の内容を見る。するとタスクの方を向き、少し笑いながらタスクに言う。

 

「あ、じゃあタスクが行くそうです♪」

 

「え!?」

 

ドクター・ゲッコーの案内に付いていくタスク、それにはレオン達は互いの顔を見合って首を傾げる。

その中でキオはにやけながら扉の方に向かい、それにダグが問う。

 

「キオ、何処に行くんだ?」

 

「少し外の風に当たって来ます」

 

そう言ってキオは医務室から出て行く。

 

そして外に出たキオは沈んでいく夕日を見ながら考え事をしていた。

 

「(俺の記憶……あの場所で何が起こったんだ、そして昔の記憶がどうしてこんな曖昧になっているんだろう)」

 

自身の記憶の事を考えるキオ、するとそこにサラマンディーネが来る。

 

「あら、ここにおられたのですね?」

 

っとキオはサラマンディーネの方を見て、来た理由を問う。

 

「どうした?」

 

「これから、10年ぶりに仲間が帰って来た事に祭を祝うのです。今夜行いますからあなたもどうですか?」

 

サラマンディーネのお誘いを受けたキオはそれに少しばかり考えて、彼女の方を見て頷く。

 

「ああ、分かった。ところでその仲間って…ヴィヴィアン?」

 

「はい、あなた達と共に居たあのシルフィスの娘です」

 

 

 

そして夜になり、アウラの塔で皆が集まっていた。そこにサラマンディーネが儀式用の蝋燭を手に持ち、皆の前に姿を現す。

 

「サラマンディーネ様よ!」

 

「サラマンディーネ様ー!」

 

サラマンディーネの後ろにヴィヴィアンとその母『ラミア』が共に居た。

 

「何をするの?これから」

 

「サラマンディーネ様のマネをすればいいだけよ」

 

ラミアがそうヴィヴィアンに言ってほほ笑む、そしてレオンはその様子を人混みの中で見ていた。

 

「殺戮と試練の中、この娘を悲願より連れ戻してくれた事に感謝いたします」

 

そう言った後にサラマンディーネは儀式の蝋燭を空へと舞い上げ、それに皆も同じように舞い上げる。

 

「アウラよ!」

 

『『『アウラよ!』』』

 

ラミアも同じように舞い上げ、隣に居るヴィヴィアンも同じように舞い上げる。

 

そしてキオの所にアンジュ達がやって来る。

 

「良い光だ♪」

 

キオがそう言ってる中でアンジュはキオの方をずっと睨みつけ、それにキオは少々苦笑いしながら謝る。

 

「そう睨むな、俺もやり過ぎた事には謝る」

 

「果たしてそうかしら?」

 

「不思議な光景だね」

 

そしてタスクは月を見て呟く。

 

「同じ月だ。もう一つの地球…か」

 

「夢なのか現実なのか、分からないわ」

 

タスクとアンジュの問いにキオが月を見ながら言う。

 

「現実だよ、今見ている光景は…」

 

「ああ、だがヴィヴィアンが人間で良かった」

 

「うん、僕もそう思う」

 

オスカーとオリバーがヴィヴィアンの方を見ながら言い、それにレオン達は頷く。

その中でアンジュは不安に思っている事を言う。

 

「これからどうなるの? 私達、こんな物を見せて、どうするつもり?」

 

「知って欲しかったそうです、私達の事を」

 

っとそこにナーガとカナメがキオ達の元に来ていて、カナメがキオ達に話し続ける。

 

「そしてあなた達の事を知りたいと、それがサラマンディーネ様の願い」

 

「俺達の…事を?」

 

「知ってどうするの? 私達はあなた達の仲間を殺した。あなた達も私達の仲間を殺した、それが全てでしょ?」

 

アンジュがそうナーガとカナメにそう言うも、カナメは頭を横に振る。

 

「怒り、悲しみ、幸福。その先にあるのは滅びだけです、でも人間は受け入れ、許す事が出来るのです。その先に進むことも…全て姫様の請け売りですが、どうがごゆるりとご滞在下さい…っと姫様の伝言です」

 

二人は頭を下げて、その場から離れて行く。

 

キオ達はそれを聞いて、何となくオスカーは納得する。

 

「なるほど、確かにそうだな。人間は受け入れ許す事が出来る…あの方はよくご存じだ」

 

「信じるの?」

 

「少なくとも僕達は信じるよ?」

 

オリバーがそうアンジュに言い、その中でタスクが月を見ながら言う。

 

「…帰るべきだろうか」

 

「何?」

 

「アルゼナル、リベルタス、エンブリヲ。もし…もう戦わなくて良いのだとしたら…」

 

タスクのそれを聞いたキオは少々思いつめる表情をして空に浮かぶ儀式の蝋燭を見ながら考え込むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、ドクター・ゲッコーが密かにチャールズとマリアにある報告を伝える。

 

「御二方、どうか落ち着いて聞いてください…」

 

ドクター・ゲッコーがパソコンのモニター画面に映っているキオの細胞組織を見せる。

 

「キオ・ロマノフは確かにあなた方の子では無いと分かっております。ただ……」

 

「ただ?何だ……?」

 

「……この男性の組織細胞の一つ一つが…他とは異なるDNAを持っているのです。」

 

「他と異なる?」

 

「はい、妹さんの方も確認して、二人は兄妹と言う事が分かったのですが……妹さんの方も彼と同じ様に、他と異なるDNAと組織細胞を持っていたのです。つまり……」

 

「つまり?」

 

チャールズとマリアがキオとココの事で首を傾げ、ドクター・ゲッコーは答える。

 

「キオ・ロマノフとココ・リーブは……………………“人間ではありません”……」

 

「「…………はぁ?」」

 

突然の言葉に、チャールズとマリアは唖然するのであった。

 



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第19話:兄妹の原覚醒・前編

そして祭りが終わったその深夜、宮殿の玉座の間で大巫女とサラマンディーネ、そしてアウラの民の巫女たちが集まっていて、彼女達の前にリザーディア事…リィザがホログラムで通信回線を開き話していた。

 

「 真かリザーディア!」

 

『はい大巫女様、新生ミスルギ帝国の地下。アウラの反応は確かに此処から…』

 

リィザの報告に巫女たちは思わず声を上げ、大巫女は頷きながらリィザを褒める

 

「よくぞやってくれたリザーディア…時は来た。アウラの子よ、これよりエンブリヲの手から全能の母、アウラを奪還する。リザーディア『特異点』解放のタイミングは手筈通りに…」

 

『仰せのままに…』

 

そう言い残してリィザは通信を終えて消える。そして大巫女は巫女達に言う。

 

「これは…この星の運命を掛けた戦い、アウラと地球に勝利を!」

 

《勝利を!》

 

大巫女の声と同時に皆も頭をさげる。

その中でサラマンディーネは思いつめていた事を考えるのであった。

 

 

ナーガとカナメに連れられたキオはある部屋へと付いて、ナーガとカナメが襖の前に立つ。

 

「お連れしました」

 

「どうぞ」

 

っと部屋の中から聞き覚えのある女性の声がして、それにキオは思わず反応する。

 

「この声は…ひょっとして」

 

ナーガ達が襖を開けるとそこにはサラマンディーネが居て、それにキオが思わず目を開く。

 

「あの…何故サラが?」

 

「はい、ここは私のお部屋です」

 

っとニッコリと笑顔で話すサラマンディーネ、そして気になって居る事をナーガはキオに向かって怒鳴りつけるように言う。

 

「良いか!!! お前がサラマンディーネ様の幼馴染であっても、姫様に手を出して見ろ!! 私が貴様に!!!」

 

ナーガはキオを睨みながら怒鳴りつけて来て、それにキオは焦る。

 

「ナーガ、お止めなさい。私がお呼びしたのですから、カナメはナーガと共に行きなさい」

 

「え!!し!しかしサラマンディーネ様!!」

 

ナーガが戸惑いながらもサラマンディーネに問う、っがサラマンディーネは見えない殺意を放ち、それに二人は慌てて襖を閉め、その場を離れて行く。

そしてキオはサラマンディーネと二人っきりとなり、それに少々赤くなりながら問う。

 

「あの…、俺は…」

 

「いえ、お気にせずとも…それと私の事は“サラ”と言っても構いません、私はキオとゆっくりお話しがしたかったもので」

 

それを聞いたキオは昔話が聞きたいとサラマンディーネの願いに、笑みを浮かばせて頷く。

 

「分かった、それじゃ…」

 

そしてキオはに家族の事を話す。幼い頃の事、エーテリオンの事、行方不明になった大好きな冒険家で考古学者の祖父。

サラマンディーネはそれをしっかりと聞いていて、キオの様々な事を知った。

 

そしていよいよ眠けがキオに襲い掛かり、あくびをし出した事にサラマンディーネは見る。

 

「あら、もうそんな時間ですのね。ではそろそろお休みになさいますか?」

 

っとサラマンディーネが隣の襖を開けると、そこには布団がしかれてあった、それも二人分が入れるサイズが…。

 

「ん?あの、俺が寝る部屋って……まさか…」

 

「はい、私。サラマンディーネとです」

 

「…………………………What?」

 

もの凄い沈黙間にキオは思わず英語を出してしまう、

キオは真っ赤な顔でサラマンディーネを見る。、サラマンディーネも頬を少し赤くしながら襖を閉じるのだった。

 

「…………ヒカリ」

 

「何?」

 

キオは体の中にいるヒカリに問う。

 

「夢かな?幻覚かな?俺の頰を思いっきり引っ叩いてさらに蹴りを入れてくれないかな?」

 

「な!?何でそんな二重な事を!?」

 

「嫌……これは明らかに……◯◯になっているが」

 

「そんな事、自分で何とかしなさい!」

 

ヒカリはそう言い、キオの心の中に眠る。

 

「え?ヒカリ!……ヒカリ!?」

 

「さぁ〜て、俺も♪」

 

「メツ!!」

 

「楽しんで、キオ♪」

 

「アルヴィース!!!」

 

「おやすみなさい。マスターキオ。」

 

「コスモス!!!!」

 

誰も相談相手がいなくなったキオは心の中でどうすればと叫ぶのであった。だが一方で…襖の向こうにいるサラマンディーネと言うと。

 

「(ヒヤァァァァァァァァ〜〜〜〜ッ!!!!!キオと一緒に寝れる〜〜〜っ!!!)」

 

頰を赤くし、ハイテンションであった。すると襖が開き、キオが覗くとそこにいたのははしゃぐ姿のサラマンディーネであった。

 

「サラ……?」

 

「(はわわわわ!!見られた!)」

 

「……一緒に寝ない?」

 

「……は……はい(あれ?)」

 

 

 

午前4時30分……キオは寝ていると、腕に何かが当たっていた。

 

「ん……っ!!!!!!??????」

 

目を開くと、そこには可愛い寝顔をしたサラがキオの腕をしっかりと抱きしめ、腕に豊満で形の良い胸が当たっていた。

 

「(ちょ〜〜〜〜っ!!!!当たってる!当たってる!当たってる!)っ!!!!!!」

 

さらにサラの寝顔がほんわかな表情になり、キオの顔まで数センチ。

 

「(…………誰か、サラの寝顔と…この寝相を止めてくれ)」

 

キオの顔が真っ赤になると、ようやくサラが目を覚ます。

 

「…………」

 

「…………」

 

「?……っ!?」

 

サラは自分の姿にようやく気づく。

 

「嫌……これは……(……終わった、俺の人生…)」

 

キオは脱力し、自身のこれからの人生にお別れを言う。するとサラは頰を赤くし、口を開く。

 

「抱いても良いのですよ」

 

「……ふぇ?」

 

チュッ♪

 

突然サラがキオの頰にキスをし、キオは頭から湯気が出て気を失う。

 

「フフフ…」

 

サラは笑い、気を失っているキオの胸に近付き、再び眠りにつく。

 

 

 

 

翌朝、キオは頭を抑えながらサラマンディーネ達とタスクとアンジュ達の部屋へと向かっていた。

ナーガはキオを睨みながら問う。

 

「貴様、サラマンディーネ様に何かしたんじゃないだろうな…!」

 

「全然してない、誓って。」

 

そうナーガに言うキオ、実際目が覚めた時はサラマンディーネが俺の胸の近くで寝ていた事はどうしてもナーガに言えなかった…。

 

さらに別の部屋で寝ていたオスカー、オリバー、ノア、アリアンナ、ココも起きると、ココがフラフラな状態でキオに言う。

 

「ノアさんとアリアンナさんが私の事をかわいいぬいぐるみだと思って、ノアさんとアリアンナさんのアレが私の顔を押し付けて苦しかった……ハァ〜、二人の胸は本当に凶器だよ〜、お兄ちゃん〜」

 

「アハハハ……お前もか…」

 

そしてタスクとアンジュの部屋の前に来て、サラマンディーネが襖をノックし入る。

 

「おはようございます…あら?」

 

「「っ!!?」」

 

キオ達が見たのはタスクがアンジュを押し倒していた姿だった、しかもタスクがパンツ姿でアンジュの寝間着が完全に崩れていた状態。

それにキオは二人の光景を見ないようにココの目を手で覆い隠し、ナーガとカナメとモモカが頬を赤めていた。

 

「お前等、このタイミングで大人の階段を登るなよ…」

 

キオ達が来た事にタスクとアンジュは真っ赤な顔になって慌てていた。

しかしサラマンディーネが…。

 

「朝の“交尾中”でしたか。さっ、どうぞお続けになって?」

 

「ハァッ!!!?」

 

とんでもない発言にキオは思わず顔を真っ赤にし吹いてしまう。

 

「…っ! ちが〜〜うっ!!!!!」

 

その発言にアンジュはタスクを突き飛ばしてしまい、終いにタスクの尻を何度も蹴っていた。

 

そしてキオ達が朝食に行くと、既にオリバー達が座っていて。キオ達を見たオリバー達は声を掛ける。

 

「おう! キオ、タスク、アンジュ。おはようさん」

 

「おぉ!おはようさ~ん!」

 

「あれ? ヴィヴィアン?」

 

そこにはヴィヴィアンとラミアの姿が居て、共に朝食を取っていた所だった。

 

「サラマンディーネ様」

 

「よく眠れましたか?」

 

「それが、『ミィ』と朝まで喋りしてまして」

 

「だから寝不足~」

 

ラミアがそのミィと言った言葉にキオは頭を傾げる。

 

「ミィ? 誰だ?」

 

「ヴィヴィアンの事だよ。彼女の本当の名前だって」

 

タスクからその事を聞いたキオは思わずヴィヴィアンの方を向く。まさかヴィヴィアンの名前がミィと言うのは予想も付かなかっただろう。

 

そして朝食を取る時にオスカーがキオに気になる事を聞いて来た。

 

「おいキオ、あの後お前何処で寝たんだ?」

 

「ぶふっ!」

 

それにはキオは思わず味噌汁を吹いて、それにアンジュとタスクは思わず見る。

 

「何…?!」

 

「どうしたのキオ!?」

 

「あ、いや…それは…」

 

キオは思わず言葉がつまらせてしまう、しかしサラマンディーネが…。

 

「実はキオは私の部屋でお泊りしまして、とても楽しかったですよ」

 

サラマンディーネが顔をおさえながら頬を赤くして言い、それにキオは冷や汗をかきながら慌てる。

 

「ちょっ!それは!!」

 

《えっ!!!?》

 

「おぉ~!」

 

タスクとアンジュとオスカー達は思わず驚いてしまい、ヴィヴィアンは興奮していた。するとオスカーがキオに近付き。

 

「こら〜〜!!お前いつの間に大人の階段を〜〜!!!ちきしょう!ちきしょう〜〜!!!リア充爆発しろ〜〜〜」

 

オスカーはキオの胸元を掴みながら涙目で悔しがっていた。それにキオはオスカーがどこでリア充と言う言葉を覚えてきたのか分からなかった。ノア達がそれに呆れていると、アンジュはキオをジド目で見ていて…。

 

「変態〜…」

 

「なっ!その言葉お前にだけは言われたくない!」

 

「はぁ!!? どう言う意味よ!!!」

 

キオとアンジュが口喧嘩を初めてしまい、それにはタスクとモモカが慌てて、ヴィヴィアンは大笑いしていた。

しかしその時にアンジュがとっさにサラマンディーネの方を見て、それにサラマンディーネが笑みを浮かばせていた。

 

 

 

 

 

キオ達とサラマンディーネ達の居る場所とは違う世界である滝の前で

白い礼装、巫女服、神託服と仮面に身を包んでいる六人とエンブリヲ、そして総裁“X”がそれぞれの椅子から転送して現れる。

 

「天の遥々よくぞ来た…我が同胞“オラクル”よ」

 

最高指導者Xは六人のオラクルに話し掛ける。

 

「お久しぶりです。最高指導者“X”」

 

白と青の礼装をした男性『イザナイ』がXにお辞儀する。

 

「キャハハ!相変わらず酷い顔だ…」

 

白と黄色い巫女服をした女の子『インガ』が笑いながらXの焼け爛れた顔を馬鹿にする。

 

「こらこら、最高指導者“X”様に無礼よ」

 

白と水色の巫女服をした女性『カノン』がインガに注意する。

 

「良い、カノン……我はお前達が来てくれた事に感謝しておる。」

 

「その通りじゃ……最高指導者“X”は我らの指導者。この地にも下賤で下等な人類に“聖厄祭”で救済させる。そして我らはX様に忠誠を誓った六人。」

 

白と緑の礼装をした老人『マントラ』がXを崇める。

 

「始まった…マントラの忠誠事が」

 

白と赤の神託服をした青年『メシア』がマントラの忠誠心に呆れ返る。

 

「まぁ良いではないですか、妾はおもしろいと思う……フフフ」

 

白とピンクの巫女服をした美少女『シンリ』が彼等の仲を楽しむと、シンリがエンブリヲの存在に気づく。

 

「いたのか……“調律者 エンブリヲ”まぁ良いわ…」

 

「(チッ…)」

 

「まぁまぁ、シンリちゃんも久しぶりだから。ここはエンブリヲ君と仲良くね」

 

「…カンナがそう言うなら。」

 

カンナがシンリに注意するとXが皆に言う。

 

「……オラクルよ、“例の物”は?」

 

「既に整っております。後は奴が好きなように暴れれば良いです。」

 

「良し…此奴は我の可愛い飼犬だ。テレシアなどに殺られる筈などない…」

 

すると空間が歪み、現れたのは終焉のテレシアに敗れ、全身に古傷があるオーバード『悠妃のファルシス』が無数の鎖に繋がれて女性の悲鳴と思わしき咆哮を上げる。そしてこのオーバードこそが二人の過去を無理矢理呼び覚し、キオとサラを恐怖のどん底に陥れる事になろうと知る由もなかった。

 



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第20話:兄妹の原覚醒・中編

朝食を終えたキオ達。外でラミアがキオ達に言った。

 

「えっ? 家に帰る…?」

 

それに頷くラミアはヴィヴィアンを抱き付いて言う。

 

「この子が生まれて家を見せてあげよかと思って」

 

「おお~!見る見る!」

 

っとそれに賛同にするヴィヴィアン、そしてラミアはヴィヴィアンを連れて飛んで行った。

その時にヴィヴィアンはキオ達に手を振った。

 

「て事で、ちょっくら行ってくるね~!」

 

ヴィヴィアン達を見送ったキオ達、その中でタスクが腕を組みながら笑みを浮かばせる。

 

「親子水入らずだね」

 

「まあ、無理もない…ヴィヴィアンにとっては覚えてないと言えど、自分の生まれ故郷だからな。」

 

キオがタスクにそう言ってる中、アンジュがムスッとしている様子にノアが気づく。

 

「どうしたの、アンジュちゃん?」

 

「気にくわないのよ。何もかも…」

 

っとその事にキオ達は思わず顔を合わせて少々困った表情をする。そしてアンジュはサラマンディーネに問う掛ける。

 

「それで、茶番はもう十分よ。あなたの目的は何?私達をどうする気なの?」

 

「フフ♪、腹が減っては戦は出来ぬと申します。お腹はいっぱいになりましたか?」

 

その事にアンジュは戸惑いつつも頷く。

サラマンディーネはそれを確認したのち言う。

 

「では、参りましょう♪」

 

サラマンディーネはそう言うとガレオン級を呼び。キオ達を乗せてある場所へと向かう。

マサト達はその建物を見て唖然とする。

 

「此処は一体…?」

 

「古代の闘技場ですわ、嘗ては多くの者達が集い、強さを競い合ったそうです」

 

サラマンディーネの説明を聞いてタスクはそれに驚く。

 

「まさか…500年前の施設!? 完璧な保存状態じゃないか....!」

 

「姫様自ら復元されたのだ」

 

「え!?」

 

「サラマンディーネ様はその頭脳を持って旧世界の文明を研究し、様々な遺物を現代まで甦らせたのだ!」

 

「へぇ~?」

 

「我々の龍神器も、サラマンディーネ様がっ?!」

 

っとカナメがナーガの横腹を突き、小声で注意する。

 

「それ、機密事項でしょ?」

 

「あっ!御免なさい!」

 

ナーガはそれに気づいて、慌てて謝るが。それをサラマンディーネは答える。

 

キオ達が感心してる中でアンジュが前に出て問う。

 

「それで、此処で何するの?」

 

「…共に戦いませんか? 私達と」

 

サラマンディーネの言葉にアンジュは思わず「はっ?」と言葉をこぼし、それにはキオ達は反応する。

そしてキオはサラマンディーネ達の目的を問う。

 

「それは、アウラを奪還する為にか?」

 

「はい、それに目的は違うとはいえ、エンブリヲを倒す為に」

 

「フフフ…アハハハハ!」

 

っと突然アンジュが笑い出し、それにキオ達はアンジュの方を向き、タスクが問う。

 

「アンジュ?」

 

「な~んだ、そう言う事、結局は私を利用したいだけなの…戦力として。知って欲しかっただの、解りあえただの、良い人ぶっていたのも全部打算だったじゃない」

 

それにサラマンディーネは笑みを浮かばせて言う。

 

「その通りです、他の者達は兎も角として。あなたはそれなりの利用価値がありますから」

 

っとサラマンディーネの言葉を聞いたアンジュは思わずキレる。

 

「っ!? ふざけるな!私はもう!」

 

「もう…誰かに利用されるのはウンザリ…ですか?」

 

その事を聞いてアンジュは思わず拳を握りしめる。

キオはサラマンディーネの言葉を聞いて、腕を組んで問う。

 

「それってまさか……俺達も?」

 

「えぇ。あなた達は我々と同じ目的を持っています。ですがお願いがあります。」

 

「お願い?」

 

「私が勝った暁には……アンジュの所有権及び、あなた方エーテリオンの技術の提供をお願いします。」

 

「な!?そんな事出来るわけ無いだろ!!」

 

オスカーがサラに抗議する。

 

「それに俺たちの技術とエーテリオンの秘密をモーリス行政長官は絶対に!「良いぞ」え!?」

 

突然キオがサラの条件を呑む。

 

「おいキオ!お前自分がなにを言ってるのか分かっているのか!?」

 

「……俺は既にサラにアイロスを渡した。そしてサラの母親と俺の両親が同じ研究者……父さんと母さんがサラの母さん……ミレイと共に魔神の調査をしていたと言う事は、父さん達の技術とミレイさんの技術を使って、互いを理解し、協力しあっていたと思う。だから…俺はサラの要求を飲む。」

 

「キオ…」

 

「ちょっ!?勝手に決めないで!! キオ!貴方一体何を!!」

 

「この勝負はお前の運命を掛けた物だ、どうするかはお前が決めろ…」

 

キオの言葉にアンジュはそれに拳を再び握り締める。

 

「どうするかは自分で決めろ…か、良いわ!やってやろうじゃないの!」

 

「そう来なくては....!」

 

話が纏まってアンジュとサラマンディーネが勝負する為の闘技場へと向かう。

まず最初にテニスが始まって、タスク以外のキオ達は外で観戦していた。

 

「その玉を打ち返して、枠の中に打ち込めばいいのね?」

 

「その通り、では始めましょう」

 

「サービス!サラマンディーネ様!」

 

試合が始まり、アンジュは構えるとサラマンディーネの強烈なサーブが一気に決まる。

それにアンジュは驚いてしまう。

 

「なっ!?」

 

「15-0!サラマンディーネ様!」

 

「くっ!」

 

「あら? 速すぎました?手加減しましょう.....か!!!」

 

サラマンディーネが再びサーブを放つ、っがそれをアンジュはレシーブをする。

 

「結構…よ!!!」

 

それにサラマンディーネは驚いてしまい、反応が遅れてしまう。それを見た皆は驚く。

 

「「なっ!!?」」

 

「ふぃ!15-15!」

 

カナメが慌ててポイントを言い、アンジュとサラマンディーネはお互い睨み合いながらも笑みを浮かばせていて。それを見たキオはこっそりと笑みを浮かばせていた。

 

そしてテニスの後に野球、未来的なレース?的なマシン『サイバーフォーミュラ』、ゴルフ、卓球、クレーンゲーム、そしてツイスターゲームまでやり続けていた。

 

一方その中でもオスカーは何やら薄々と微妙な違和感を感じていた。

 

「これは…本当に決闘なのか?」

 

そう言いつつもカナメがルーレットの色をと位置を教える。

 

「サラマンディーネ様、右手、緑」

 

カナメの指示にサラマンディーネは言う通りに手を指定の位置に置き、次にタスクがルーレットを押す。

そして色と位置が表示されて言う。

 

「アンジュ、左手、赤」

 

アンジュも言われた通りに手を位置に置く。

苦しみながらサラマンディーネはアンジュに言う。

 

「予想以上ですわ…アンジュ」

 

「何が…?」

 

「少し…楽しみだったのです。今まで、私と互角に渡り合える者などいませんでしたから」

 

そしてカナメが次のルーレットの色と位置を言う。

 

「サラマンディーネ様、左足、赤」

 

「ですから…すごく楽しいのです」

 

アンジュがサラマンディーネを転倒させようとするが、サラマンディーネの尻尾がそれを抑える。

それに『尻尾を使うの反則よ!』と言ったアンジュは思わずサラマンディーネの尻尾を噛みつき、それに悲鳴を上げるサラマンディーネがアンジュを巻き込んで転倒し、それに皆は唖然とする。

 

サラマンディーネがすぐに起き上って言う。

 

「尻尾を噛むのは反則です!」

 

っと起き上がったアンジュが突如笑い出して、それにはサラマンディーネも見ていてしばらくすると笑い出す。

 

「姫様が…笑った?」

 

「あんな笑顔、初めて見た…」

 

ナーガとカナメはサラマンディーネが笑い出した様子を初めて見て、キオ達は笑みを浮かばせるのであった。

 

 

 

 

 

 

シャワールーム、サラとアンジュは互いの決闘でかいた勝負の汗を流し、互いを感心する。

 

「感服しましたわ、アンジュ。見事な腕前でした」

 

髪を洗い流しながらサラが素直にアンジュを湛える。

 

「貴方もやるじゃない。…サラマンデイ」

 

「サラマンディーネです」

 

ムッとした表情になって口を尖らせる。

 

「エアリアでも、ここまで追い詰められることはなかったわ」

 

「エアリア?」

 

「私たちの世界のスポーツよ」

 

「では、今度はそのエアリアで勝負しましょう」

 

サラがそう言うとアンジュは沈んだ顔になり、

 

「無理よ」

 

と、寂しげな表情で呟いた。

 

「何故?」

 

「…ノーマには、出来ないから」

 

その答えに、サラは思わず絶句した。

 

「ノーマ、マナが使えない、人間ならざるもの…ですか」

 

「……」

 

アンジュは答えを返すこともせず、じっとシャワーを浴びていた。

 

「何と歪なのでしょう。持つ者が、持たざる者を差別するなど。私たちはどんな苦しいときも、アウラと共に学び、考え、互いを思う絆と共に生きてきたのです。…貴方は何も思わないのですか? そんな歪んだ世界を知りながら…」

 

「……」

 

アンジュはやはり黙ったまま、微動だにしなかった。

 

「知っていますよ。貴方がかつて皇女として、人々を導く立場にいたことを」

 

「!」

 

そこで初めてアンジュが反応を見せた。と言っても、俯き気味だった顔を上げたぐらいの些細なものだったが。

 

「世界の歪みを糺すのも、指導者としての使命では?」

 

「…勝手なことばかり言ってくれるじゃない」

 

サラの意見に、苦虫を噛み潰したような表情でアンジュが吐き捨てる。

 

「私はもう皇女じゃない。指導者だの使命だの、知ったことじゃないわ。大体、歪んだ世界でも満足してる人間がいるんだからいいじゃない。結局世界を変えたいのは貴方たち。エンブリヲもアウラも、私には関係ないわ」

 

「…では、これからどうするのですか?」

 

内心を吐露するアンジュを慮るような表情で見ていたサラがアンジュに問う。

 

「え?」

 

「真実を知りながら、何処へも行けず、何もしないつもりですか?」

 

「…フン」

 

アンジュは返答することなく、そっぽを向いただけだった。するとアンジュはある事に気づく。サラマンディーネの胸に翡翠のクリスタルが強制的に付けられ、背中には大きな鉤爪跡があった事に。

 

「あなた…その胸や背中…」

 

「……えぇ、よく覚えてはいないのですが…私の胸に取り付けられたこのクリスタルと背中の傷は12年前に付けられた物です。」

 

「それ…アイツと同じ物を見たわ」

 

「え?」

 

「確か……っ!?」

 

「何事ですか!?」

 

アンジュとサラマンディーネはそれに気付き、ナーガとカナメは入り込む。

 

「サラマンディーネ様!」

 

キオ達は急いで外に出ると、アウラの塔から何やら異変が起きていた。

 

それはアウラの塔からある空間が変化して行く様子で、それにキオ達は目を奪われる。

 

「何なんだあれは.....!?」

 

そしてアンジュ達も合流して、アンジュはその空間の様子にある光景が映し出される。それはアンジュがまだ学生だった時に試合した事があるエアリアの試合会場であった。

 

「あれは....エアリアのスタジアム!?」

 

そして町にいるヴィヴィアンはラミアと共に逃げて行き、その光景を目にする。

異変の空間はその人々を飲み込み、街を崩し、がれきと共に生き埋めにさせて行く光景を…。

 

「うわっ!街が!皆が!!」

 

「どうなっているんだ!?」

 

「俺達も行こう!!」

 

「うん!」

 

キオ達は急いで、機体に乗り込む。一方、闘技場の方でもそしてサラマンディーネはある物を呼ぶ。

 

「焔龍號!!」

 

すると額の宝玉が光り、空から焔龍號がやって来た。サラマンディーネは焔龍號に乗り込んだ。

 

「カナメは大巫女様に報告! ナーガは皆さまを安全な場所に!」

 

「「はい!!」」

 

そう言ってサラマンディーネはアンジュに向かって言う。

 

「アンジュ、決着はまた今度で♪」

 

サラマンディーネはアンジュにそう話した後にコックピットを閉め、異変の空間へと向かって行く。

 

そしてヴィヴィアンはラミアと共に避難をしていたが、道がふさがれてしまって孤立してしまう。っと真上のがれきが二人と他の者達に目がけて落ちて来るが、そこにビームが飛んで来てがれきを破壊する。

 

皆が上を見るとサラマンディーネの焔龍號がやって来た。

 

「皆さん!すぐに宮殿に避難を!!」

 

それに皆はすぐに避難をし始めて、サラマンディーネは落ちて来るがれきを次々と破壊して行く。

 

「急いでください!…!?」

 

っとサラマンディーネは気配に気づく。迫っている異変の空間の上空が×字の光が現れ、空が割れていく。

 

「あれは!?」

 

そしてそこにキオのセイレーン・デバイスが到着する。

 

「何か出てくる!」

 

割れた空から、灰色の怪物が現れ、翼を広げる。

 

「っ!!!!」

 

「何だ!?あの怪物は…サラ?」

 

キオはサラの様子がおかしく、通信回線をする。モニター画面に額から大量の汗をかき、荒い息を吐き続けるサラの姿であった。

 

「ハァ!ハァ!ハァ!……っ!!」

 

サラの瞳の先に映る怪物により、彼女の12年前の記憶が蘇る。自分がキオと共にあの世界で誰かに拉致され、互いの記憶操作、苦痛の人体実験、幼いキオの変貌、そして灰色の怪物が彼女の背中に大きな傷を付けられた記憶。

 

「いやぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

サラは頭を抱え、恐怖に陥る。

 

「サラ!?サラ!!!」

 

突然不安定になった焔龍號が落ち、キオはセイレーンで焔龍號を受け止める。するとチャールズ達が灰色の怪物に驚く。

 

「あれは…『悠妃のファルシス』!!」

 

「悠妃のファルシス?」

 

「えぇ!サラちゃんの背中に傷を付けたのは…あの世界の怪物よ!!」

 

マリアがサラの背中の傷を付けた犯人の事を教えると、ナーガの形相が一変するが、キオが前に出る。

 

「つまり、サラにとってアイツはトラウマの元凶と言う訳か。ナーガ、カナメ!俺がアイツを引き付ける!その間にサラを!!」

 

「待て!/キオさん!」

 

キオがセイレーンを動かし、ファルシスに攻撃を仕掛ける。フレシキブルアームからビームソードを展開し、空を舞いながら、ビームソードでファルシスの胴体を切り裂いていく。しかし、ファルシスの切り裂いた傷がみるみると再生していく。するとファルシスの尻尾がセイレーンに直撃し、近くの岩に激突した。セイレーンのコックピットからキオが投げ出され、地面へ落ちると、彼の体の中の細胞が活性化していく。

 

「(何だ!?この昂ぶる感情!コイツを見ると…心が荒れる!)っ!!」

 

するとキオの爪と歯が鋭くなり、耳が尖る。

 

「クッ!……ろす…殺す……殺す!殺す!殺す!殺す!殺す!!!!ぐちゃぐちゃにーーーっ!!!!!!殺すーーーっ!!!!!!」

 

キオの瞳が野獣の如く鋭い瞳へとなると、翡翠の色の目が赤く染まり、キオの体が膨れ上がる。

 

「キオ!」

 

キオの体がみるみると大きくなり、ドラゴン思わしき……龍型“テレシア”へと進化した。

 

「あれって……テレシア!?」

 

「キオが…テレシアに…」

 

「「キオ…」」

 

タスクやオスカー達、チャールズとマリアがキオの姿に驚愕する。

 

「『うぅ!!……滅びろ。不浄な生命…』」

 

テレシア化したキオはファルシスに咆哮を上げる。

 

「『弱者がぁぁぁぁぁぁぁ!!!』」

 

キオは光の羽を広げ、エーテルストームを放つ。エーテル波の嵐がファルシスを襲う。

 

「『フハハ!!!オラァァーーーッ!!!!!』」

 

キオが強靭な牙刃でファルシスの首元に噛みつき、翼にある爪でファルシスの胴体を引き裂く。ファルシスはあまりの痛みに咆哮を上げる。テレシア化したキオと悠妃のファルシスの激戦にオスカー達は固まっていた。

 

「惨すぎる……」

 

「あれが、あのキオ!?」

 

「皆んな!キオがファルシスを抑えている間に奴をやるぞ!」

 

《おう!!》

 

アンのFormulaを先頭に、オスカーのInferno、ノアのMastema、オリバーのWels、アリアンナのLailahがキオの援護に向かう。

 

「『不浄な生命がぁぁぁぁぁぁぁ!!!!』」

 

「うわぁっ!!!」

 

「きゃっ!!」

 

「危なっ!!!」

 

突然テレシア化したキオが援護に向かってくるオスカー達に向けて、エーテルレーザーを放つ。さらに、エーテル波により、オスカー達のドールが不安定になる。

 

「クソ!キオの奴、俺達も殺す気か!!!」

 

「『おおおおおおおおーーーっ!!!!!!』」

 

暴れまわるキオ。その姿にココにも異変が来る。

 

「うっ!!」

 

「ココちゃん?」

 

「『来ないでっ!!!』」

 

ココの顔半分からテレシアと思わしき羽と体に変貌しかけていた。

 

「っ!!!」

 

「そうか!エーテル粒子だ!」

 

「エーテル粒子?」

 

「あの悠妃のファルシスから膨大なエーテル素粒子波が放出されている!エルダー族は濃度のエーテル粒子を浴びると、テレシア化になる因子を持っているのだ!だから、ココをファルシスに近づけるな!」

 

「でも!キオが……っ!?」

 

すると空間が歪み、ワームホールが現れる。そしてワームホールからゆっくりと終焉のテレシアが現れ、チャールズ達の前に着地する。

 

「終焉のテレシア!」

 

終焉のテレシアはココを見つめ、意識を乗っ取る。

 

「うっ!!」

 

「ココちゃん?」

 

するとココの目の色が赤色に染まり、ココの周りからエーテル粒子を放出する。そしてココの口が開く。

 

「『……我が名はレイナス・オルド・エルダー。ティオルとココルの母…』」

 

《えぇっ!!?》

 

終焉のテレシア改め……レイナス・オルド・エルダーがココの意識を乗っ取り、チャールズ達に話しかけるのであった。

 



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第21話:兄妹の原覚醒・後編

 

一方、サラはようやく目を覚ます。

 

「「姫様!」」

 

「ナーガ?……カナメ?……っ!キオは!?」

 

「あの悠妃のファルシスと!」

 

ナーガの指差す方向にテレシア化したキオとファルシスが争っていた。

 

「あれ…あれが、あのキオ?」

 

ドラゴンとは思えない異形な怪物へと変貌したキオ。するとサラの記憶に研究所で暴れるテレシア化した幼いキオの姿を思い出す。

 

 

 

 

 

 

 

ーーー《回想》ーーー

 

12年前。壮大な水で溢れた湖『エルト海』幼きキオとサラはそこで普通に遊んでいた。するとそこに現れたのは白い礼装をした者達と黒い礼装をした神官兵達がキオとサラを囲む。

キオはサラを守ろうとするが、神官兵は神託杖を振り下ろし、キオを気絶させる。サラは取り押さえられ、頭から血を流すキオも連れて行かれる。

あの大地ではない何処かの研究室、実験台に一緒に寝かされ、二人の頭に装置を被せられていた。

 

『どうだ?ティオル第二皇太子と龍姫のシンクロ率は?』

 

『完全に適合しています。やはり二つに分けられた“ゾハル”を取り出すのは不可能では?』

 

『無理という事か?』

 

すると一発の銃声が響く。

 

『私の前に不可能や無理という言葉は口にするな……即刻ゾハルを取り出せ!!』

 

謎の老人が科学者に命令を下すと、機械が動き、キオとサラの首や四肢に拘束具が取り付けられる。

 

『安心しろ、あの様な“異常でハレンチな民”の様には扱わない』

 

老人はがそう言った直後、キオの断末魔の叫び声と共に、大咆哮が響く。拘束具が破れる音、研究室内を暴れまわり、拘束されているサラの拘束具を破壊し、サラを連れ、研究室から脱出する。燃え盛る研究室内の機械に埋もれていた老人が現れ、焼け爛れた顔で逃げるキオとサラを睨みつける。

 

『追えぇぇぇっ!!!』

 

老人の命令が辺りに響き渡り、悠妃のファルシスがテレシア化したキオを追うのであった。

 

 

ーーー《回想終了》ーーー

 

 

 

 

 

 

 

サラは12年前の記憶を思い出し、テレシア化し暴れるキオを見る。

 

「思い出した……あの時、私を助けていた光の獣…あれは、キオだったのですね。」

 

サラは立ち上がり、決意する。

 

「ナーガ、カナメ……キオの所へ行きますわよ!」

 

「サラマンディーネ様!?」

 

「あの者はもはや“怪物”です!姫様にもしもの事があれば、行方不明のミレイ様に!」

 

「それでも!彼を放ってはおけません!」

 

サラはそう言い、ナーガとカナメを護衛に付け、ファルシスと戦っているキオへと向かう。

 

ファルシスは振り払おうと、キオの尻尾に噛みつき、振り回す。だがキオもただ振り回される訳でもなかった。遠心力を利用し、ファルシスの翼に噛み付く。ファルシスは悲鳴を上げ、倒れる。キオはファルシスの顔を押し付け、鋭い爪でとどめを刺そうとする。

 

「♪〜♪〜」

 

「『!?』」

 

すると何処からともなく歌声が聞こえて来る。キオはとどめを刺すのを止め、歌声が聞こえて来る方向を見る。焔龍號から下り、歌いながらキオの所へ歩いて来るサラであった。

 

「姫様!」

 

「サラマンディーネ様!」

 

ナーガとカナメが必死に止めようとするが、サラは勇気を出し、キオに近づく。キオはサラの『永遠語り〜風ノ歌〜』を聞き、一歩一歩と後退りしていく。するとキオの体が小さくなって行き、尖った耳、鋭い牙と爪、光の翼と尻尾を生やしたテレシアを模した龍人へと変わる。

 

「♪〜♪〜(お願い…元の貴方に戻って…)」

 

「『ああああああぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!』」

 

キオが突然暴れ出し、歌っていたサラを払いのけた。

 

「「姫様!!」」

 

キオはサラを殺そうと牙を向ける。

 

「♪〜♪〜」

 

「『っ!!』」

 

サラは倒れても、歌い続ける。するとキオとサラの周りにエーテル粒子が溢れる。

 

「♪〜♪〜……うっ!」

 

歌っているサラに首を掴み、唸り声を上げるキオ。サラは掴まれてもキオの頰に触れる。

 

「殺してもいい……だからお願い。あの時の“約束”…それだけは忘れないで…」

 

サラの言葉に、キオは思い返す。

 

 

 

 

─────────幼いキオは龍のサラの歌を聞いていた。

 

「綺麗な歌だね♪」

 

「うん、私の世界の始祖“アウラ”様から教えられた歌なの♪」

 

「アウラ?」

 

「私達を支えてくれる聖龍様なの!」

 

「会ってみたいなぁ……でも僕たちはこの世界でしか会えない存在…君の世界に行こうとしても、それぞれの世界の出入り口は僕と君を入れさせてくれない…」

 

「……ねぇキオ」

 

「?」

 

「二つプレゼントがあるの♪目を瞑って♪」

 

サラは無垢な笑顔をキオに見せる。キオはさの言うことに従い、目を閉じる。キオの唇にサラの唇を重ねたのだった。

 

「っ!?」

 

キオは慌てて、サラに言う。

 

「な、何!?」

 

「これが一つ目♪キオ、大〜好き!!」

 

「うわぁ!」

 

サラは大好きなキオに抱きつき、告白する。

 

「二つ目は!私、キオの“お嫁さん”になりたい!」

 

サラの告白に、キオは……。

 

「うん!僕もサラちゃんと一緒にいたい!だからサラちゃん!将来僕の“お姫様”になってください!」

 

「うれしい!」

 

幼きサラ頰を赤くしながら、キオと共に将来を誓い合ったのであった。

 

────────────────────────

 

 

 

将来誓い合ったサラとの約束、キオの瞳が赤から翡翠色へと戻り、目を覚ます。

 

「……っ!!」

 

目の前にサラの首を掴んでいるキオは驚く。

 

「サラ!!!」

 

キオは半分テレシア化した姿のままサラを解放し、心配する。

 

「……キオ?」

 

「あぁ!俺だ!」

 

「本当にキオなのですか?」

 

「……ごめん、お前を傷つけようとしていた。」

 

「良いのです。貴方が戻って来れて…」

 

サラの無事にキオは安心していると、ファルシスが起き上がる。

 

「サラはあの異空間を何とかして……俺はファルシスを倒す。セイレーン!!」

 

セイレーンのツインアイが光り、再起動する。キオはセイレーンに乗り込み、ファルシスへと向かっていく。サラも焔龍號を呼び、すぐに発生した異空間へと向かい、バスターランチャーを放つ。しかし、迫り来る異空間にバスターランチャーの粒子収束が歯が立たなかった。

 

「どうすれば!」

 

『撤退するのじゃ、サラマンディーネ』

 

「大巫女様?」

 

思い掛けない通信に思わず眼を見開く。

 

『龍神器はアウラ奪還の中心戦力、万が一があってはならぬ』

 

「っ…ですがっ」

 

その言葉に一瞬、息を呑むも、サラマンディーネは口調を荒げる。

 

『リーベルの民とたった今、エーテリオンの全勢力がそちらへ向かっている。後は彼らに任せるのじゃ。』

 

通信モニターにリーベルの民とエリュシュオンごと移送する複数の艦隊が映し出される。しかし…。

 

「それでは間に合いません!」

 

大巫女の指示も分かる。龍神器にもしものことがあれば、今後の作戦に支障をきたすことはサラマンディーネがよく理解している。だが、今からではドラゴンの部隊とエーテリオンが到着するより前に事態が悪化してしまう。

 

なにより、眼の前で危機に瀕している民や都を放って置いて見殺しにしてしまう事になる。

 

『撤退せよ』

 

サラマンディーネの気持ちに大巫女の声も硬くなる。揺れているのは同じなのだ。だが、それでもドラゴンを纏める者として、毅然と遮る。

 

「民を見捨てるなど、私には……!」

 

『これは命令じゃ』

 

サラが戸惑っているその時、異空間から飛ばされてきた向こうの世界のエアリアのスタジアムから吸い込まれたエアバイクが無数に舞い上がり、焔龍號に降り掛かった。

 

「っ!!」

 

反応の遅れたサラマンディーネが眼を見開くと、焔龍號の前にヴィルキスが現れ、エアバイクをラツィーエルで粉砕する。

 

「何をぼけっとしてるの!サラマンドリル!!」

 

「アンジュ!」

 

その時に皆の目に異変の空間が人々を飲み込んで行く様子にレオン達はくぎ付けとなる。

 

「何なの!?」

 

アンジュとサラがそれに言葉をこぼす中でタスクがそれに説明する。

 

「エンブリヲだ!」

 

「「え!?」」

 

その事に二人は驚く。

 

「エンブリヲは時間と空間を自由に操る事が出来るんだ! 俺の父さんも仲間も石の中に埋められて死んだ…あんな風に!!」

 

タスクの説明を聞いたアンジュ達は驚いている中でアンジュがヴィヴィアンとラミアの姿を見つけた。

映像にはラミアがエアリアのバイクに下敷きになっていた。

 

「ヴィヴィアン!!」

 

「ヴィヴィアンの方は私に任せて!」

 

ノアがヴィヴィアンの所へ向かうが、迫り来る異空間に手も足も出せないアンジュ達。

 

「どうすれば良いの!?」

 

『「方法なら一つあります」』

 

「「っ!?」」

 

するとそこに、ココを連れたキオの本当の母親『レイナス・オルド・エルダー』改め、終焉のテレシアが現れる。レイナスはココを意識を乗っ取り、翻訳していた。

 

『「あなた方の歌と私の歌……そしてキオの誠の目覚めが必要です。」』

 

「キオが!?」

 

『「信じなさい…」』

 

レイナスは優しい眼差しでサラの方を向く。

 

「……分かりました。」

 

そして丁度そこへファルシスを投げ飛ばしてきたセイレーンが飛来する。

 

「キオ!」

 

「それで?俺が必要?」

 

キオが必要と問いかける。

 

「え?」

 

「早く歌ってくれ!」

 

キオはそう言い、異空間へと向かう。アンジュとサラはモニターを見て互いに頷き、『永遠語り〜光ノ歌〜』と『永遠語り〜風ノ歌〜』を歌い出す。

 

「「♪〜♪〜」」

 

アンジュとサラ、二人が歌い出すと、レイナスも歌う。

 

『「♪〜♪〜♪〜」』

 

三人の歌姫の歌が重なり合い、異空間へ向かっているセイレーンに異変が起こる。セイレーンの後方にアルヴィース、メツ、ヒカリの紋章が浮かび上がり、セイレーンが光の剣を持つ。キオはそれに驚き、自分の手に持っているアルヴィースのモナドを見る。

 

「やるか?」

 

『あぁ、やれるとも…』

 

「良し!!」

 

キオはアルヴィースのモナドを持ち、空中に三角形を描く。三角形に『神』『滅』『聖』それぞれの漢字が浮き出る。そしてモナドを抜刀の構えをし、一気にモナドを振るう。

 

「三位一体!!トリニティ・スプリーム・ブレイカー!!!」

 

緑、紫、黄色に輝くΔ状のビームが回転し、ファルシスや異空間に炸裂する。ファルシスを包み込むビームがファルシスを塵に変え、異空間諸共消滅させていく。

 

 

 

 

事態が一段落して、ヴィヴィアンはラミアに抱き付きながら泣きついて、ラミアもヴィヴィアンを抱きながらヴィヴィアンの頭をなでていた。

その様子を集まったオスカー達が優しく見守っていた。

 

そしてキオ達がアウラの塔の前に集まって話し合った。

 

「何とか収まったみたいだ」

 

「ええ、そうね」

 

キオの問いアンジュも頷きながら言い、サラマンディーネも頷きながら言う。

 

「あなた達のお蔭で、民は救われました。本当に感謝しますわ、キオン、タスク殿、アンジュ」

 

するとサラマンディーネは自分でも少しばかり信じられない表情をする。

 

「まさか私達の歌がキオのにを与える事に…、それもアンジュのあの歌が……」

 

「え?」

 

「貴女が歌ったのは、かつてエンブリヲがこの星を滅ぼした歌……貴女はあの歌を何処で…?」

 

「お母様が教えてくれたの、どんな時でも進むべき道を照らす様にって」

 

アンジュは自分の歌を教えてくれた母の事を言い、それにサラマンディーネは言う。

 

「なるほど、わたくし達と一緒ですね?」

 

「えっ?」

 

「"星の歌"…私達の歌もアウラが教えてくれた物ですから。何て愚かだったのでしょう、貴女は私の所有物だなんて……」

 

「アンジュは元皇族。上に立つ者が皆を動かす指導者。誰かが困っていたら、助けるのは当然。」

 

キオはアンジュを見ながらそう言い、それにアンジュは少々照れくさそうに顔を逸らす。

そう話す中でサラマンディーネは髪をおさえながら言う。

 

「アンジュ…私はあなたのお友達になりたい、共に学び…共に歩く友人に……」

 

「長いのよね~、サラマンデンデンって…」

 

「えっ?」

 

っとその事にキオ達はアンジュの方を振り向き、アンジュはサラマンディーネの方を向きながら言う。

 

「『サラ子』って呼んでいいなら」

 

「……では、私もアンジュの事を『アン子』と」

 

「それはダメ」

 

アンジュの呼び名を否定するアンジュ。半身テレシア化したキオは気を失っているココを自分の膝枕で寝かしつけ、終焉のテレシア……本当の母親に問いかける。

 

「まさか……お前が本当の母さんだったなんて。」

 

終焉のテレシア……レイナスは悲しい表情で首を伸ばし、キオの額と自身の額と触れる。

 

『本当にごめんなさい……あなたやココル、フェメルを総裁Xから守りたかった。ですが、私にはあの世界でやり残したことがあります。』

 

レイナスはテレパシーでキオにそう告げ、ワームホールを展開し、未開大地『ウル』へと戻る。

 

キオはココを抱き上げ、真なる母親を見送るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、エルダーゴア・キャッスルの格納庫で漆黒のフェイトは首に身に付けているロケットの写真を見る。それは母であるレイナスと共に幼きフェメルの写真であった。

 

「母上……」

 

フェメルが悲しそうな表情をしていると。

 

「おやおや…今は亡きレイナス様ではありませんか。」

 

「っ!?」

 

現れたのはオラクルの一人『メシア』であった。

 

「メシア……いつから。」

 

「まぁ、そう気にしないでくださいよぉ〜。それより、お前に……良い上官を連れてきた。」

 

メシアがそう言うと、現れたのは全身が黒いプロテクトアーマーを装着した黒騎士であった。

 

「誰だソイツは?」

 

「総裁“X”様から君にプレゼントと……最強にして究極の『黒騎士』でございます。」

 

「……どれぐらい強い」

 

「それはもう、トリニティ・プロセッサをも超える程でございます。あぁ、それと……」

 

メシアがある物を渡す。

 

「このバンシー・デバイスの強化も…」

 

「………」

 

フェメルは首を傾げ、メシアは喜びながらフェメルのバンシー・デバイスの改造を急ぐのであった。



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主人公&キャラ紹介・用語(未完成)

今更ですが、キャラ紹介です。未完成ですが、投稿していくと同時に追加していきます。

5/21 キャラ追加。


《主人公》

 

キオ・ロマノフ【神撃のキオ】=(本名『ティオル・ミラ・エルダー』)

 

年齢:18歳→6018歳

 

性別:男

 

種族:ウル人(エルダーの一族の末裔にしてエルダー皇国第二皇太子)

 

所属:エーテリオン=《インターセプター》

 

ブレイド:アルヴィース、ヒカリ、メツ、KOS-MOS(コスモス) Re:、オリジン

 

能力:未来視(ビジョン)、過去視(ファルシ)、因果律予測、テレシア・フォーム、龍装光、思考予測

 

使用武器:バトルライフル、SAW・(ライトマシンガン)、聖杯の剣『モナド』、KOS-MOS bastard Canon。

 

スパルタンアーマー:アスロン→レイジングスーツ

 

搭乗機体:セイレーン・デバイス→グノーシス・デバイス

 

CV:大浦冬華(現・緒乃冬華)(6歳児:高橋李依) 6018歳:(櫻井 孝宏)

 

 

本作のオリジナル主人公。18年前、セイレーン・デバイスと共に現れ、チャールズ・ロマノフとマリア・ロマノフが自分の子として育ててくれた。しかし、ロマノフ邸にデウス・コフィンと名乗る武装組織に育て親が拉致され、自分は“天界アルスト”の英雄『アデル・オルド』と“楽園 ウル”の皇女『レイナス・オルド・エルダー』の子と判明し、デウス・コフィンと戦う解放組織『エーテリオン』のスパルタンへとなり、赤子の頃からまだ見放さず持っていた翡翠色のコアクリスタル『アルヴィース』とヒカリ、メツの天の聖杯のドライバーとして活動している。

 

キオの正体はかつて『ウル』と言う大地を統治していたエルダー皇家の第二皇太子、生き別れとなっていた妹『ココ・リーブ』本名は“ココル・マシーナ・エルダー”と合間見え、それと同時に自分の兄である『漆黒のフェイト』(フェメル・ハイエンター・エルダー)と再会するのであった。

強力な相手にはエルダー族の本能であり原種覚醒であるテレシアへと変身することが可能であり他のテレシア達も呼ぶことができる。さらに“未来視”(ビジョン)と言う相手の起こるべく未来を見ることと相手の軌道を読み取る『因果律予測』も使える。キオの場合は『テレシア・イグナイト』と言うドラゴン型のテレシアへとなれる。

 

総裁“X”とオラクルによって、アルヴィースとメツ、両眼を失われたが、別次元の彼方の異次元人によって、静止世界【次元の狭間】でオスカー達と共に6000年間の修業をし、【思考予測】と言う相手の考えている事を読み取る力を得た。

さらに、真実の地球、偽りの地球、幻想大地“ウル”の生命を守護する神の如き龍【地球神龍“オリジン”】との契約を結び、新たな外装【龍装光】を装着する事で、パワーやスピード、テクニックが飛躍的に上がり、そして相手の考えている事や未来視、因果律予測、その先の事も見破る事が出来るようになる。

 

 

 

タスク

 

年齢:20歳

 

性別:男

 

種族:古の民(“旧人類残党軍の末裔”)

 

所属:エーテリオン=《アヴァランチェ》

 

ブレイド:ヴァサラ

 

使用武器:アサルトライフル、ハンドガン

 

スパルタンアーマー:Recruit

 

搭乗機体:Ares

 

CV:宮野真守

 

本作のサブ主人公。古の民イシュトバーンの父とメイルライダーバネッサのこであり、最後の古の民。10年前のリベルタスにより、両親や仲間が死に、取り残されたタスクはエルマに拾われ、スパルタンへとなった。本作のヒロインであるアンジュにどうして股間ダイブする体質のか分からないが、ドジな性格とは裏腹に身体能力は非常に高く、爆弾による破壊工作やナイフと拳銃を使った近接戦闘を駆使して、マナの特殊部隊兵士5人を不意を突いて瞬殺するなど、高い戦闘能力を発揮する。孤島においても自給自足の生活を問題無く行えるなど、サバイバル能力に関してもかなりのものである。

 

 

アンジュ

 

年齢:16歳

 

性別:女

 

種族:ノーマ(元ミスルギ皇国第一皇女)

 

所属:アルゼナル

 

ブレイド:ヒカリ

 

搭乗機体:ヴィルキス

 

CV:水樹奈々

 

本作のヒロインであるが、この小説ではサブヒロイン。元皇女である彼女はノーマあると実の兄、ジュリオに暴露されて皇女の座から転落して一兵士となりアルゼナルへと来る。

少しばかり風当りはきついが何度も二度も助けてくれたタスクに恋心を抱いている。

 

 

サラマンディーネ《サラ》

 

年齢:18歳

 

性別:女

 

種族:地球人(アウラの民 フレイヤの一族)

 

所属:真実の地球

 

ブレイド:アイロス、ホムラ

 

搭乗機体:焔龍號

 

CV:堀江由衣(6歳児:大橋彩香)

 

本作でのもう一人のヒロインでありキオの幼馴染。龍神器を開発した者でもありパイロットとして前線に立つ指揮者でもある。12年前、謎の特異点により『ウル』に迷い込み、そこで同じく迷い込んだキオと親しくなり、幼馴染となる。12年後、キオと再会し、親しくなり、やがてはキオと恋人同士となる。しかし、彼女の力の秘密はまだ隠されている。

 

 

エルマ

 

年齢:22歳=???

 

性別:女

 

種族:地球人(サマールの民)

 

所属:エーテリオン=《テスタメント》

 

ブレイド:スザク

 

搭乗機体:Wels エルマ・カスタム

 

CV:桑島法子

 

エーテリオン民間軍事組織「ブレイド」のチームリーダーを務める。沈着冷静かつ的確な判断力と洞察力を持ちメンバーにも尊敬されている。キオやタスク、リン、イリーナやグインの大佐を務めている。

 

 

リン《リンリー・クー》

 

年齢:13歳=???

 

性別:女

 

種族:地球人

 

所属:エーテリオン=《アームズ》

 

ブレイド:カサネ

 

搭乗機体:Urban

 

CV:伊瀬茉莉也

 

本名は「リンリー・クー」。「ブレイド」のメカニックを担当。性格は明るく、誰にでも分け隔て無く接する。13歳。機械工学に長け、戦闘ロボット「ドール」の開発も手がける。天才であり情熱と行動力に優れた両親の遺志を受け継いでおる。

 

 

イリーナ

 

年齢:歳=???

 

性別:女

 

種族:地球人

 

所属:エーテリオン=《インターセプター》

 

CV:高森奈緒

 

 

 

 

グイン

 

年齢:歳=???

 

性別:男

 

種族:地球人

 

所属:エーテリオン=《インターセプター》

 

CV:中村悠一

 

 

 

ダグ

 

年齢:歳=???

 

性別:男

 

種族:地球人

 

所属:エーテリオン=《アヴァランチェ》

 

CV:小山力也

 

 

ラオ

 

年齢:歳=???

 

性別:男

 

種族:地球人

 

所属:エーテリオン=《パスファインダー》

 

CV:藤原啓治

 

 

オスカー

 

年齢:18歳

 

性別:男

 

種族:地球人

 

所属:エーテリオン=《フリー》

 

搭乗機体:リヴァイアサン・デバイス

 

CV:小野 友樹

 

 

ノア

 

年齢:18歳

 

性別:女

 

種族:地球人

 

所属:エーテリオン=《コンパニオン》

 

搭乗機体:スカラベ・デバイス

 

CV:日笠陽子

 

 

オリバー

 

年齢:18歳

 

性別:男

 

種族:地球人

 

所属:エーテリオン=《コレペディアン》

 

搭乗機体:ルフ・デバイス

 

CV:代永翼

 

 

アリアンナ

 

年齢:18歳

 

性別:女

 

種族:地球人

 

所属:エーテリオン=《ランドバンク》

 

搭乗機体:ジークフリード・デバイス

 

CV:橘田 いずみ

 

 

アン・エルガー

 

年齢:???

 

性別:女

 

種族:元ノーマ

 

所属:エーテリオン=《アヴァランチェ》

 

搭乗機体:ネフィリム・デバイス

 

CV:沢城みゆき

 

男勝りな性格で勝負事が大好きで、サリアとは訓練では常にトップ争いをしていた良きライバルで、彼女とよく張り合っていた。

ドラゴン出現時の出撃する際、戦闘で戦死してしまう。

しかし、エーテリオンの人達が死んだ彼女のDNAを採取し、クローン体として甦り、B.Bユニットでエーテリオンに所属する事となった。新たなライバルであるキオとはよく張り合っている

 

 

総裁 “X”

 

年齢:???

 

性別:男

 

種族:ウル

 

所属:デウス・コフィン

 

ブレイド:黒騎士、???

 

搭乗機体:ゴルドフェニキス・デバイス→???

 

CV:壤晴彦

 

 

フェイト【漆黒のフェイト】(本名フェメル・ハイエンター・エルダー)

 

年齢:???

 

性別:男

 

種族:ウル

 

所属:デウス・コフィン

 

ブレイド:“巨神 ザンザ”

 

搭乗機体:バンシー・デバイス フォアランナー

 

CV:福山 潤

 

 

ディストラ

 

年齢:???

 

性別:男

 

種族:ウル

 

所属:デウス・コフィン

 

ブレイド:オオヅチ

 

搭乗機体:ズハッグ

 

CV:日野聡

 

 

ニライ

 

年齢:???

 

性別:女

 

種族:ウル

 

所属:デウス・コフィン

 

ブレイド:ヨシツネ

 

搭乗機体:ニールネール

 

CV:福圓美里

 

 

カナイ

 

年齢:歳=???

 

性別:女

 

種族:ウル

 

所属:デウス・コフィン

 

ブレイド:ベンケイ

 

搭乗機体:ニールネール

 

CV:福圓美里

 



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番外編02:エーテリオンの秘密

今回はエリュシュオンの全てとオリジナル主要都市がでます。そしてキオがアイツに怒りをぶつけます。


 

謎の異空間及び、悠妃のファルシスを討伐したキオ達。エリュシュオンはアウラの都より離れた廃墟に着陸していた。キオはサラ達にエリュシュオンの全てを見せるとモーリス行政長官やナギ軍務長官、ヴァンダム司令官、戦艦インフィニティ艦長トーマス・ラスキーや他の上官にサラ達をエリュシュオン内部の入国許可を得る。そしてキオ達はエリュシュオン内部へ行くためのエレベーターの中にいた。

 

「準備は良い?」

 

そしてエレベーターの扉が開き、目の前の風景がサラ達を魅了する。工業エリア、商業エリア、住宅エリア、飼育エリアが建ち並ぶ居住ユニットであった。テラスから眺めるキオはサラに言う。

 

「どうだ?中々なもんだろ……」

 

「はい、あなた方の技術はとても素晴らしいですわ。ですが…この風景、何処かで……」

 

「そう、このエリュシュオンは……サラ達の世界の500年以上前からある巨大コロニー船なんだ。」

 

「500年以上前!?」

 

「正確に言えば……西暦2095年、人口の増加により、四億七千万人の市民を乗せた恒星間巨大コロニー船『エリュシュオン』は消息を絶った。」

 

「え!?……聞いたことがありますわ、20年後…エリュシュオンとの交信が途絶えた…。」

 

「転移したんだよ…。」

 

「まさか…」

 

「そつ、このエリュシュオンこそが……行方不明になった恒星間巨大コロニー船。そしてこの居住ユニットは俺の一番目のお気に入りの街で、500年以上前のモデルとなった都市からはこう呼ばれている……『NLA“ニューロサンゼルス”』。」

 

キオはそして、サラ達をNLAの街を案内する。街には色んな人々、タツやティビィと同じ【ノポン人】が商業したり、ピザを食べながら人々と話す【マ・ノン人】、住宅エリアの公園で寛ぐ【オルフェ人】商業エリアや住宅エリア、工業エリアで働いたり、のどかな暮らしをする【バイアス人 大樹の一族】と【サンヘイリ人】と獣人の【ラース人】、汚染物を除去する【ザルボッカ人】などの異星人が暮らしていた。そしてキオ達は輸送機に乗り、エーテリオン本部に辿り着く。輸送機から降りるとモーリス行政長官とナギ軍務長官、ヴァンダム司令官やトーマス・ラスキー、ジェイコブ・キース艦長、エイブリー・J・ジョンソン軍曹、エルマ大佐が待っていた。

 

「モーリス行政長官及び、ナギ軍務長官、ヴァンダム司令官、トーマス・ラスキー副館長、キース艦長、ジョンソン軍曹、エルマ大佐」

 

キオとタスクはモーリス達に敬礼する。

 

「君がアウラの民のサラマンディーネですね。キオやロマノフ夫妻から聞きました。もっと早くにあなた方との交流が早ければ、対処できました。」

 

モーリス行政長官はサラに謝罪する。そしてサラ達はエリュシュオンの全ての技術を見せた。NLAの他にモデルとなった主要都市《NLD“ニューロンドン”》《NTK“ニュートウキョウ”》《NOS“ニューオオサカ”》《NPK“ニューペキン”》《NSD“ニューシドニー”》《NBZ“ニューブラジリア”》《NBN“ニューベルリン”》《NKL“ニューカイロ”》の九つの主要都市。エーテリオンの汎用人型機動兵器『ドール』、様々な艦艇、強化人間“スパルタン”、あらゆる異星人のドールと兵器、科学力、艦艇、異文化。そして……。あらゆるクラウドデータが並ぶその空間、サラ達はキオに問う。

 

「ここは?」

 

「ここが……エーテリオンの最重要部分。『LIFE』だ。」

 

「“LIFE”?」

 

「……500年以上前、人類は生き残る術として、自らの体を断ち切り、このデータ内部に保存した。」

 

「え!?」

 

「つまり……モーリス行政長官達やエルマ大佐やここにいる異星人以外の人類は……Blue.Blood通称“B.B”と言うロボットの身体として生きているんだ。」

 

するとエルマやリン、イリーナ、グイン、オスカー達は腕の連結部を外す。それを見たサラ達は驚くのであった。

 

「まさか!!」

 

「そう…このクラウドデータ内のデータがある限り、ここにいる人類は……すぐに生き返ることが出来る。4億7000万人の命を揺り籠に乗せて。」

 

「そんな!では、このクラウドデータに入っているのは!?」

 

「……人類の新たな希望、4億7000万人のDNAと記憶データ、バイオ液……それらが揃えば、失った身体を元の状態に戻し、人類は復活する。」

 

「そんな事が可能なのですか!!?」

 

サラが驚くと、エルマが説明する。

 

「その通りよ、何せ私は……」

 

エルマがLIFEのコンソールに何かをパスワードを打つと、エルマの目のハイライトが消え、倒れる。

 

《っ!!?》

 

サラやアンジュ、ヴィヴィアン、モモカやアウラの民達は驚くと、中枢部から何かが出てくる。それはコールドカプセルであり、ハッチが開く。中から現れたのは白く透き通る肌、黒のスーツ、白銀の結晶の髪を持つ女性……エルマ本人であった。サラ達はそれに驚く。

 

「これが……私の本当の姿。このエーテリオンの技術やドール、設備を教えたのが私なの。」

 

「まさか…あなたが!?」

 

「えぇ、このエーテリオンの指導者のモーリス行政長官やヴァンダム司令官、ナギ軍務長官は敵の目を欺く為の仮装、私こそが、このエーテリオンの最高指導者なの。」

 

エルマはその全てを話した後、大巫女の前に立つ。

 

「まさかお主がエーテリオンの本当の指導者だったとは。」

 

大巫女がそう言うと、エルマも大巫女に言葉を放つ。

 

「如何かしら?私達の技術は…」

 

「……確かに、エーテリオンの技術は測り知れない。我らの科学力よりも栄えている。それで、お主達は何故我らに接触して来たのだ?」

 

「……率直に言わせてもらうわ。あなた方アウラの民と私達エーテリオンの友好条約及び、エンブリヲと総裁“X”に対抗する為、あなた方と同盟を結びに来たの。」

 

大巫女や他の者達も驚く。

 

「それはつまり、我らに力を貸すと言う事か?」

 

「えぇ…デウス・コフィンの艦隊はあなた方ドラゴンよりも強大な兵器と艦隊を持っている。エーテリオンならそれに対抗できるわ。」

 

「「…………」」

 

互いは睨み合うと、先に動いたのは……。

 

「……良かろう。我らアウラの民はお主等と同盟を結ぶ。」

 

大巫女の放たれた言葉に議論はなく、こうしてエーテリオンとアウラの民は同盟を結成した。

 

 

 

 

 

エルマが大巫女と話している一方、キオはエリュシュオン軍刑務所にある男を監禁していると聞いて足を運んたが、キオはその男を見て驚く。

 

「ここから出せ!私は神聖ミスルギ皇国皇帝 ジュリオ・飛鳥・ミスルギ!!私を解放しろ!反逆者どもめ!」

 

何と、アルゼナル襲撃の際に総裁“X”によって量子次元反応弾の爆破で殺された筈のジュリオが囚われていた。助けたのはジョンソン軍曹とアービター、ガ・デルグ殿下とガ・ボウらしい。ジュリオは監視兵に怒鳴りながら釈放を求めるが、監視兵は厳しい表情をしながら無視する。するとキオが現れるとジュリオは悲鳴を上げる。キオは怒りの表情でジュリオに言う。

 

「どうだ屑野郎。今の気分は……」

 

「ふざけるな!!覚えておくが良い!エンブリヲ様がきっとお前達を蹴散らしっ「エンブリヲがどうした……言っておくがアイツはお前を助けない。」えぇっ!?」

 

「エンブリヲは呑気にマナに頼りきって生きているお前達“豚”共に呆れている。この意味が分かるか?」

 

「な、何を!?」

 

「タスクが言っていた。世界を壊し、新しい世界に作り変える。プッ!フフフフフフ、アハハハハハハハ!!」

 

「な!?何が可笑しい!!」

 

「いやぁすまない……それに賛同したお前が屑で馬鹿で愚かだと思ってつい……っ!!!」

 

するとキオが壁に向けて拳をぶつける。拳は壁を貫き、ジュリオを恐怖に陥れる。そしてキオは血が滲み出ている拳を壁から引き抜き、ジュリオを睨む。

 

「言っておくが“世界を壊し、世界を作り変える”……その後の世界にお前達はこの世に居ないだろうなぁ」

 

「何だと?」

 

「エンブリヲは……お前達マナ派の人間達を新世界に連れて行くつもりはない。奴は新世界で新たな人類を作るだろう。誰もお前を助けには来ない。そして俺達はデウス・コフィンに囚われているジュライ・飛鳥・ミスルギとソフィア・斑鳩・ミスルギを助け出す。」

 

「何だと!!?アンジュリーゼに加担したあの二人が生きているだと!!?」

 

「ジュライ皇帝陛下とソフィア皇妃殿下は俺の両親とサラの母親と少し縁があってなぁ。二人を救出した後、俺達はお前の大将であるエンブリヲと総裁“X”を潰す!せいぜい屑妹と共に崩壊した世界で絶望していろ!!」

 

「ば!馬鹿が!エンブリヲ様に刃向かうなどと!不可能だ!!」

 

「不可能を可能にする…その目で大将が泣き叫ぶ姿を絶望しながら見ているが良い!!アンジュの父と母は新しく創るミスルギ皇国の王座にアンジュを付かせるだろうなぁ!」

 

「嘘だ!!私こそがミスルギ皇国皇帝だ!!解放しろ!!!」

 

しかし、誰もジュリオの言葉に耳を貸すものはいなかった。

 

「監視兵、防音シャッターをしておけ。あいつの声を聞いてるだけで耳触りがする。」

 

「同感だ。」

 

監視兵はジュリオの監禁室の防音シャッターシステムを起動する。すると徐々にジュリオの馬鹿でかい声が薄々と小さくなり、やがて聞こえなくなるのであった。

 



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第22話:日常

翌日、エリュシュオン内部“ブレイドエリア”では全スパルタン兵とエーテリオン隊員、ラース傭兵、バイアス強襲部隊が集まっていた。演説台の上に乗ったナギ軍務長官とモーリス行政長官が説明していた。

 

『各世界に散らばり、調査していた部隊。よくぞ集まってくれた。我々エーテリオンはアウラの民との友好条約結び、デウス・コフィンの殲滅に協力してくれるそうだ。そして、彼らの始祖であるアウラがミスルギ皇国皇都の中枢部“アケノミハシラ”の地下に幽閉されている事が確認された。明後日、我々エーテリオンとアウラの民はミスルギ皇国に侵攻し、デウス・コフィン艦隊殲滅した後、アウラの奪還を開始する。』

 

キオ達を含むエーテリオンの皆はナギ軍務長官に敬礼する。

 

 

そして同時に風呂に入っているアンジュはサラにミスルギ皇国に侵攻の話を聞いて、アンジュはそれに問う。

 

「それを聞かせてどうするの? 私に戦線に加われっとでも言うつもり?」

 

「…まさか、貴女は自由ですよ?アンジュ。この世界に暮らす事もあちらの地球に戻る事も…。勿論我々と共に戦っても貰えるとなればそれ程心強い物はありませんが。明日の出撃の前に貴女の考えを聞いて置きたくて…」

 

「私の…?」

 

アンジュはそれに頭を傾げ、それにサラは頷く。

 

「キオやあなた達には、民を救っていただいた恩があります。出来る事なら何でもお手伝いしますわ」

 

アンジュはそれを聞いて少しばかり考えいた。

これから自分はどうすべきなのか、どうするのかを…。

 

 

「アウラを取り戻せばエンブリヲの世界に大打撃を与えられるのは間違いないからね。」

 

「それでいいのかしら…」

 

っとアンジュのその言葉にキオは振り向く。

 

「信じられないのよ…」

 

「…サラの言葉が?」

 

「何もかもが…」

 

アンジュは空を見上げながら言い、それにキオ達はアンジュの方を見る。

 

「ドラゴンが人類世界に侵攻してくる敵だって言うのも嘘、ノーマの戦いが世界の平和を守るってのも嘘…あれもこれも嘘ばっかり。もうウンザリなの…ドラゴンと一緒に戦って、それが間違っていたとしたら……だいたい、元皇女がドラゴン達と一緒にミスルギ皇国に攻め入るなんて…悪い冗談みたい。分からないわ……何が正しいのか…」

 

 

「誰も分からないよ……何か正しいかなんて。」

 

「え?」

 

「大切なのは何が正しいかじゃなくて、君がどうしたいか…じゃないかな?君は自分を信じて進めばいい。俺が全力で支えるから…」

 

 

「バカね……そんな自分勝手な理屈が通じる訳ないでしょう?」

 

「えっ?そう?」

 

タスクはそれに振り向き、アンジュは安心するかの様な雰囲気を見せる。

 

「でも救われるわ、そう言う能天気な所」

 

「フッ、お褒めに預かり。光栄ですっ!!?──」

 

良い雰囲気なのに……転がっていたドライバーに足を取られ、タスクはアンジュの方へと倒れる。

 

「うわああああああっ!?」

 

「えっ!?きゃあああああああ!!」

 

アンジュを巻き込んで倒れ込んで、そこに運悪くヴィヴィアンがやって来た。

 

「皆!皆!お母さんがお礼したいって!」

 

煙が晴れると、そこにはアンジュがタスクに上になって、頭に自分の股を当ててる風な感じだった。

ヴィヴィアンは頬を少し赤くして、可愛らしいポーズをとる。

 

「~~~~っ!!この、A級発情期がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「あ〜〜〜〜〜っ!!!」

 

「大変だ!!タスクが!!」

 

「タスク〜〜〜!!」

 

「俺は未来視で、タスクのこの先起こるラッキースケベを何度も見ないといけないのか……。」

 

 

そして夜となり、町の人々がキオ達にお礼のバーベキューをしてくれて、ラミアがキオにお礼を言った。

 

「本当にありがとうございました、街と私達を護って頂いて」

 

「いえ、俺達はサラ──サラマンディーネを手伝いたかっただけですから。ですが…」

 

キオは崩壊している街の一部を見て、辛い表情をしてしまう。

 

「守れなかった者も大勢います…」

 

 

 

一方、川から無事救助されたタスクはあちこち包帯を巻いていた。

手が使いないタスクにアウラの民の女たちがタスクにお肉を食べさえていた。

 

「はい、あ~ん♪」

 

「あ~ん、はむはむ…」

 

タスクが食べてくれた事にその女たちは喜んでいた。

 

「うわ~!食べてくれた~♪」

 

「男の人って可愛い~!」

 

「えっ? そ…そう」

 

っと思わずタスクは笑みを浮かばせながら照れてしまう、だが近くに居るオリバーやリンがタスクの側までやって来て言う。

 

「おいタスク、あんまりデレデレするとアンジュがまた機嫌悪くなるぞ?」

 

「そうですよ、タスクさん、あなたにアンジュさんと言う彼女さんがいますから」

 

「あ…、それは……」

 

「楽しそうね」

 

『『『あっ』』』

 

タスク達は運悪くアンジュがその場にやって来た事に固まり、そしてアンジュの右手に何やら見覚えのある形をしているバーベキューのお肉串を持っていて、アンジュはその先端のキノコをかぶりつく。

 

ガブッ!!

 

「「痛い!!」」

 

タスク達は思わず自分の股をおさえ、女たちは悲鳴をあげてその場から逃げて行く。

それにアンジュは鼻で笑い飛ばし、タスクのそばまで行って隣に座る。お肉を差し出す。

 

「はい、あ~ん」

 

「えっ?」

 

「何?いらないの?」

 

アンジュの行動にタスク達は少々戸惑いを隠せない。

 

「えっ?…な、何で?」

 

「手、使えないんでしょう? 少しやり過ぎたわ」

 

っとアンジュは頬を赤くして、申し訳ない表情をしながら謝る。

 

「こ、このくらいどうってことないさ。アンジュの騎士は不死身だからね」

 

「あの高さでも生きてるって……俺たちB.Bの体じゃなかったら確実だな。」

 

オスカーはタスクの身体の頑丈さに思わず呆れる表情を示し、タスクはそれに苦笑いしながらもアンジュが差し出したお肉を食べる。

 

「うん!美味い! アンジュが食べさせてくれると格別だね!、それに一気に直る気がするよ!」

 

「バカ…」

 

その事にアンジュは呆れ返り、オリバーとオスカーはその事に笑い我慢し、ノアとアリアンナとリンは呆れながら笑みを浮かばせる。

 

そしてアンジュは街を見渡して、タスクがアンジュに言う。

 

「良い所だね」

 

「モテモテだもんねあんた達、特にタスクが一番…」

 

「えっ!?いや!そう言う意味じゃ…?!」

 

タスクは慌てて言うも、彼が言う言葉には説得力がない。

しかしアンジュはそう言いながらも、タスクの言葉に同意する。

 

「でも本当に良い所、皆助け合ってる生きている…あっ、そっか」

 

「どうしたんだ?アンジュちゃん」

 

オスカーがアンジュが何かに気付いて問い、アンジュはそれに答える。

 

「アルゼナルみたい…なんだ」

 

その事にオリバー達は理解した表情を示し、そしてアンジュは立ち上がる。

 

「私…帰るわ。ヒルダ達が待ってるわ!」

 

「アンジュ…」

 

「それが…貴女の選択なのですね。また…戦う事になるのですね? 貴女と」

 

「サラ子…」

 

「やはり危険です!この者達は我々の事を知り過ぎました!」

 

ナーガは後ろにある刀を手を伸ばしてアンジュ達を警戒する、それをカナメは止める。

 

「でも!キオさん達は都の皆を救ってくれたわ!」

 

「それでもこの間まで殺し合っていたんだぞ? 拘束するべきだ!」

 

ナーガとカナメの言い合いを聞いていたアンジュ達、アンジュは決意を決めた表情で言う。

 

「…私は、もうあなた達とは戦わないわ」

 

「ほら!私達は…えっ?!」

 

その言葉にナーガは思わず驚き、オスカー達もそれに頷いて言う。

 

言葉を聞いたサラは微笑みを浮かばせて言う。

 

「では明日開く特異点により、あちらにお戻りください。必要ならばカナメとナーガを護衛に付けましょう」

 

「さ!サラマンディーネ様!?」

 

ナーガはそれに問うも、そこにオリバーが言う。

 

「大丈夫。俺達もキオとエーテリオンと共に行く。」

 

「そうですか…、お達者でアンジュ。戦いが終わりましたら、何時かまた決着を付けましょう…」

 

「ええ、今度はカラオケ対決でね」

 

っとアンジュとサラは握手をして、それにタスク達は苦笑いをしながら見届けていた。

 

「ところでキオはどうしたのですか? まだ彼とお話ししたい事があるのですが…」

 

「そう言えば、あなた達知らない?」

 

「いや、言われて見れば見ていないな~?」

 

そう言うキオ達は辺りを探し回って行った。

 

 

その頃キオはアウラの塔の高い場所に居て、星空を眺めていた。暗くなったのかと思いきやサラがやって来た。

 

「此処に居たのですね」

 

「サラ…」

 

サラはキオの隣に座り、問いかける

 

「何を考えていたのですか?」

 

「……テレシアの事だよ。母さんがあのテレシアだとすると、俺は一族を何も知らずに道具の様にこき使っていたと思うと、あの時の自分に腹が立って仕方ない……」

 

キオは自身が同胞の末路の姿であるテレシアを兵器の様に扱った事に罪悪感を抱き、涙を流す。そんな時、サラがキオを優しく抱きしめる。

 

「?」

 

「ですが……そのお陰で多くの命が救われました。あなたの同胞もそれを望んでいます。だからどうか、あなたやテレシアを憎まないで下さい…」

 

「サラ……」

 

キオはサラの頭を撫でる。そして二人の様子を見てうっとりするマリアとカナメ。

 

「良いねぇ、幼馴染ロマンスは……」

 

「あ〜、私も早くステキな彼氏が欲しいです!」

 

そんな二人の中、小太刀を持ったナーガがキオを叩き殺そうとするがオリバー達に取り押さえられていた。

 

「グゥ〜〜っ!!離してください!あの下賤な者を斬らなければ!」

 

「やめろ、せっかくのムードを台無しにする訳には行かない。(これで二人の間に子を成せば安泰だ。)」

 

チャールズは二人の将来とその先の未来を思い描くのであった。

 



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第23話:黒き罠

早朝…、アウラの民がアウラを奪還するべく総力を持って進攻する為、戦力を集結させていた。

 

「ヴィデルの民、シルフィスの民、待機完了」

 

「ジェノムスの民は、まだ?」

 

「川を渡るのに数護符掛かるようです。」

 

その様子に外に居たキオ達、その中でヴィヴィアンは感心していた。

 

「お~!ドラゴンのフルコースなり~!」

 

「まさに総戦力…」

 

「まだまだいるな…。」

 

キオ達納得していると、するとタスクの耳元にドクターゲッコが....。

 

「タ〜ス〜ク〜さん♪」

 

「ぞぉ~!?」

 

タスクはビックリして見て、ドクターゲッコーはタスクの腕に抱き付く。

 

「もっと人型の成人男性を観察するいいチャンスでしたのに、残念です♪」

 

「あ、そうですか......」

 

「次回は是非、私と交尾の実験を.....」

 

アンジュがタスクの首根っこを引っ張って、ドクターゲッコーに言う。

 

「御免なさいドクター、これは貴女の実験用の珍獣じゃなくて。私の『騎士』なの」

 

「えっ?」

 

「あ、はい....」

 

アンジュの言葉にタスクとドクターゲッコは唖然とし、タスクとアンジュの様子にヴィヴィアンとオスカーは思わずからかう。

 

「全く、この馬鹿夫婦が〜♪」

 

「ヒューヒュー♪」

 

二人の行動にアンジュは思わず頬を赤くして、すぐさまヴィルキスの元に行く。

 

「な!何よ!ほら!!行くわよ皆んな!!」

 

「あ、ああ」

 

「お~!」

 

慌てて追いかけるタスクとキオ達、テンションよく付いていくヴィヴィアン。

 

そしてドラゴン達が集結して、大巫女が皆の前に現れる。そして大巫女はアウラの民達に宣言をする。

 

「誇り高きアウラの民よ、アウラと言う光を奪われ幾星霜…ついに反撃の時が来た。今こそエンブリヲに我らの怒りとその力を知らしめる。我らアウラの子!例え地に落ちてもこの翼は折れず!!」

 

その言葉にドラゴン達は雄叫びをあげて、それにヴィヴィアンもつられるように興奮しながら吠えた。

宣言が終えてサラは焔龍號に乗り込み、皆に告げる。

 

「総司令!近衛中将サラマンディーネである! 全軍出撃!!」

 

焔龍號が発進して、それに続くかの様にナーガとカナメの蒼龍號と碧龍號が続き、ドラゴン達もその後を追いかけるように出撃した。

 

「さぁ、私達も出ましょう。全艦隊、発進して!」

 

チャールズとマリアを乗せたエルマのドレッドノート『キルグナス』の主翼部が前翼に変形し、『白鳥』と思わせる形態へとなり、空を航空する。キルグナスを追うかのように、エリュシュオンから“戦艦 インフィニティ”と“戦艦 ヴィニディケーション”エーテリオン艦隊が次々に発進していく。そしてアービターやサンヘイリ人のアサルトキャリアとエリート艦隊、ガ・デルグ殿下のドール部隊、バイアスのドール部隊、エーテリオンのドール部隊が発進する。キオ達もそれぞれの機体を発進させ、インフィニティに付いて行く。タスクの方はアレスの最終改造の為、ブロードソード戦闘機にヴィヴィアンを乗せ、アンジュは後ろにモモカを乗せていた。

 

「行ってきまーす!」

 

ヴィヴィアンは見送っているラミアに言う、特異点に向かっている中でタスクが妙に笑っている事にアンジュが気付き、通信で問う。

 

「何?気持ち悪い」

 

「ああ、いや嬉しくてさ。君が俺の事を騎士として認めてくれたのが」

 

「ああ~そう言えばそう言ってたね。」

 

「まあ分からなくもないよ、タスク君はアンジュちゃんの騎士。アンジュちゃんがタスク君の事を認めた事だけでも凄い事なんでしょう。」

 

ノアがタスクの考えてる事に納得するかのように頷く。

そしてヴィヴィアンがある事を問う。

 

「ねえねえ、ドラゴンさん達が勝ったら戦いは終わるんだっけ?」

 

「えっ?ああ…多分そうだね」

 

「そしたら暇になるね、そしたらどうする?私はね、戦いが終わったら皆をご招待するんだ。あたしん家に♪皆は?」

 

「そうだな〜、そうだ!俺はルーさんの店を手伝う!結構商売繁盛って言うからなぁ!」

 

「俺は“コレペディアン”所属して、キオのお母さんが住んでいたとされる大地『ウル』で様々な場所に行ってその場所の調査をする。」

 

「私は“コンパニオン”かな、あのユニオンは何でも屋だからフリーである私に最適かな。」

 

「私は…“ランドバンク”。鉱物やドラゴニウムを調べて研究してみたい♪」

 

「うちはタスクとダグと同じ“アヴァランチェ”だな!キオは?」

 

オスカー、オリバー、ノア、マリアンナ、アンがそれぞれの夢を未来を想像し、キオも自身の夢とこれから先の事を言う。

 

「俺は……俺はやっぱり“インナーセプター”だな。人々の護衛や要人警護、サラを守る“防人(騎士)”なる。それに幼い頃……サラに約束したんだ。サラの……婿さんになる為に。」

 

キオの言葉にタスク達は驚愕する。

 

「おいおい……キオの奴ここでとんでもねぇ爆弾発言を言いやがったなぁ。」

 

「あぁ、ビックリ…」

 

「さすが幼馴染、約束を守る男は最高よ」

 

「将来のお嫁さんを悲しませないでね♪」

 

「期待しているぞ!」

 

「あ、あぁ!タスクの方は?」

 

「えっ?俺~? 俺は…海辺の綺麗な街で小さな喫茶店を開くんだ。アンジュと二人で…店の名前は天使の喫茶店アンジュ、人気メニューはウミヘビのスープ……」

 

「タスク…」

 

「えっ?何?」

 

「お前それはやめとけ……今、未来視でお前のゲテモノ料理が出されてバイアスが悲鳴を上げいる。」

 

「え!?本当に!?」

 

「うん……」

 

「分かった。あっ!でもまだ他にあるんだ。二階が自宅で子供が四人……」

 

「ヴィヴィアン、殺していいわよ」

 

っとアンジュが機嫌を悪くしてヴィヴィアンに言い、それにヴィヴィアンは「ガッテン!」と言って銃を取り出してタスクに向ける。

 

「あ、嫌!………俺はただ、穏やかな日々が来れば良い…ただそう思ってるだけさ」

 

アンジュはタスクの言葉にただ黙って聞いていて、次にヴィヴィアンがグレイスとアンジュに問う。

 

「じゃあ、アンジュは?」

 

「私は…」

 

そしてカナメが皆に言う。

 

「特異点開放!!」

 

すると皆の目の前にシンギュラーが解放されて、それにとヴィヴィアンが見開く。

 

「凄い…」

 

「おお~!開いた!」

 

開放と共にサラがドラゴン軍に向かって叫ぶ。

 

「全軍!我に続け!!」

 

その言葉と共にとドラゴン達はシンギュラーに突入して行き、向かっている中でアンジュはタスクが言った言葉、喫茶アンジュの事を考える。

 

「(悪くないかもね…喫茶アンジュ)」

 

そう思いながらも皆はシンギュラーに向かって行き、インフィニティも付いていった。

 

 

そしてシンギュラーを抜けてキオ達は見渡す。

 

「ここは…」

 

「ここでクイズで~す! 此処は一体どこでしょうか!クンクン…正解は!あたし達の風、海、空でした~!」

 

そしてエーテリオン艦隊もシンギュラーを抜けて、偽りの世界に侵入した実感を感じるのであった。

 

「ようやく戻って来たんだ…」

 

「ええ…」

 

サラは座標が違っている事にすぐに問う。

 

「到着予定座標より北東4万8000…?! どうなっているのですか!これは!」

 

「分かりません…!確かに特異点はミスルギ上空に開く筈…!」

 

っとその時サラの機体のレーダーに警告熱反応が表示され、それにサラは前方を見る。

 

すると目の前にミサイルが無数に飛んで来て、それにドラゴン達は光の盾を展開し防御する。

 

「何事!!」

 

煙が晴れた途端に無数のドラゴン達が海に落ちて行き。

ガレオン級が吠えた途端に緑色のビームがガレオン級の頭部を吹き飛ばして撃ち落とす、それにサラは目を見開く。

 

「あれは…!」

 

サラが目にしたのは、黒いヴィルキスとバンシー・デバイス、双子のニールネール、黄土色のズハッグ、デウス・コフィンのフォルトゥラー艦隊とカタストロフィー艦隊、さらに巨大ドールであるズハッグ20機とゼルン5隻が待ち構えていた。

 

「何ぞ?……あれ!?」

 

「黒いヴィルキス!?」

 

アンジュ達が言うと、黒いヴィルキス達はビームライフルを突き付け、ドラゴンとドール達に奇襲を仕掛ける。ドラゴンとエーテリオン艦隊ドール部隊は黒いヴィルキス達のビーム光弾を回避するが、TEEチェイサーやバグズ、タイタン・デバイス、ガーゴイル・デバイスに撃墜されて行く。

 

「これは!?」

 

「待ち伏せです…!」

 

サラが言った言葉にナーガとカナメは驚きを隠せない。

 

「待ち伏せ?!」

 

「では!リザーディアからの情報は…!?」

 

「今は敵の排除が最優先です!!」

 

そう言ってサラ達は龍神器達を駆逐形態に変形させて、ドラゴン達に言う。

 

「全軍!!敵機を殲滅せよ!!」

 

サラが先頭に進み、その後にナーガやカナメもあとに続くのであった。

 



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第24話:総裁“X”再臨

 

別の場所、ある拷問部屋で吊るされているリザーディアにラグナメイルとデウス・コフィン艦隊がドラゴン達とエーテリオン艦隊との戦闘を見ているエンブリヲが居た。

 

「どうだい、君が流した情報で仲間が虐殺される様を。リィザ…いや、リザーディアか?」

 

「ぅ…」

 

それにはリザーディアはただ悔しがるだけであった。

 

そしてキオ達の方では緊急事態であった。敵の待ち伏せに各艦隊に乱れが常時、混乱状態に陥られていた。ドール部隊はズハッグとゼルンに立ち向かうが、敵の攻防とズハッグとゼルンの武装に翻弄されて行く。艦隊も同じ状況であった。Macガンで応戦するも、フォルトゥラー、カタストロフィー艦隊の猛攻に押される一方であった。キオとココはセイレーン・ヤタガラスで応戦する。バグズ部隊が高速でヤタガラスを追撃してくる。

 

「クソ!速すぎる!!」

 

「お兄ちゃん!」

 

「っ!!」

 

ココが大声でキオに言う。セイレーンの上空から現れた機影黄土色をしたズハッグ、黒と白に別れたニールネール、そして見たこともない青白く輝く浮遊物と関節部がどうなっているのか中空状態のまま浮いているバンシー・デバイスであった。

 

「フェイト!」

 

「キオ・ロマノフ、そしてココル……今度こそ、アルヴィースとメイナスを渡して貰おう。」

 

「誰がアルヴィースとメイナスを渡すか!」

 

キオはフレシキブルアームからビームソードを展開し、バンシー・デバイスも改良された新たなフレシキブルアーム『フォアランナー・ブレード』を展開、左手にバンシー・デバイス専用狙撃銃『バイナリーライフル』を突き付ける。赤く輝くパルスビームがセイレーンに向かってくる。キオは因果律予測で弾丸の軌道を先読みし、回避する。

 

 

戦闘を行っている中、ドラゴン達が次々と落とされて行くのをヴィヴィアンが見て、大声で叫ぶ。

 

「ああ!!やめろーーーーー!!!!」

 

「くっ!」

 

するとアンジュがヴィルキスを動かして、最前線へと向かう。

それにタスクが慌ててしまう。

 

「!アンジュ!!」

 

「サラ子を助けに行くわ!」

 

「待ってくれ!相手はエンブリヲとデウス・コフィンだ!!」

 

「黙って見るつもり!!?私も行くわ!!モモカ、しっかり掴まって!」

 

「はい!」

 

モモカは返事をし、アンジュはサラを助けに戦場の中へ入る。

 

「クソ!!ヴィヴィアン!しっかり掴まってて!」

 

「おう!」

 

タスクもブロードソード戦闘機の出力を上げ、アンジュを追う。

 

そして戦闘は膠着状態へと陥っており、ドラゴンやエーテリオン艦隊が次々と撃沈されて行く。

サラの焔龍號は蒼い模様があるヴィルキス“クレオパトラ”と右腕に装備されている伸縮式ブレード“積層鍛造光子剣「天雷」”で応戦していた。

 

『戦力!消耗三割を超えました!!』

 

『早くも戦況が維持出来ません!!』

 

ナーガとカナメが左右の通信モニターから報告し合う。

 

「相手は……(考えてみれば多すぎるます、どうすれば!)」

 

サラが現状によって混乱し、クレオパトラがラツィーエルを振り上げる。

 

「っ!!」

 

サラが油断したその時、アンジュのヴィルキスが颯爽と焔龍號の前に現れ、ラツィーエルで防御する。

 

「!?」

 

クレオパトラに乗っているライダーは思わず反応し、アンジュはクレオパトラを一気に吹き飛ばして、その中にいるライダーはヴィルキスを見る。

 

「ヴィルキス…アンジュなの?」

 

ライダーはヴィルキスに呟く。

 

「大丈夫!サラ子!」

 

「アンジュ!」

 

「今の内に逃げなさい!」

 

「出来ません!エンブリヲからアウラを取り戻すまでは!」

 

『サラ!アンジュの言う通りだ!周りを見てみろ!この状況でアウラを奪還するのは無理だ!』

 

サラはキオの言う通りに周りを見渡すと、戦況が混乱状態だ。

 

「アンジュとキオの言う通りだ!今は引いて、戦力を立て直すんだ!勝つために!」

 

その事を言われ、少し頭を冷やして操縦桿を握りしめて皆に言う。

 

「アウラ…全軍!撤退する!! 戦線を維持しつつ特異点に撤退せよ!」

 

それによりドラゴン達は特異点に撤退を開始する。

それに緑のヴィルキス『テオドーラ』がビームライフルで追撃していた。するとアンジュがテオドーラに気付いてアサルトライフルのグレネードランチャーを撃ち、それにテオドーラはビームシールドで防御するも、強烈は爆風と吹き飛ぐ。

 

「ぐっ?!!」

 

そして再び攻撃しようとした時にアサルトライフルの弾が切れた事に気が付く。

 

「くっ…!」

 

『アンジュ、使え!!』

 

っとキオがアンジュにHEーrifleを投げ渡す。

 

『お前達も逃げろ!!』

 

「「「「っ!?」」」」

 

キオは戦っているオスカー達に言う。

 

「何言ってんだキオ!!」

 

「そうよ!」

 

『バカ!アイツらは異常だ!!お前達のドールじゃ奴についてこられない!』

 

「そんな!」

 

『キオの言う通りにしなさい!』

 

エルマがドレッドノートのMacガンを構え、オスカー達の盾になる。

 

『貴方達は体制を整え、戦場へ来なさい!ここは私とキオに任せて!』

 

「……分かりました。エルマさん」

 

「キオ……」

 

「了解……」

 

「キオ、すまない!!」

 

「……くっ!」

 

アリアンナ、オリバー、ノア、オスカー、アンは唇を噛み締め、戦っているエルマの戦艦とキオに背を向いてしまう。

 

そしてサラはナーガ達に通信を入れる。

 

「ナーガ!カナメ!後の事は頼みます! 私は…キオ達と共に残ります!」

 

「「えっ!?」」

 

「えっ!?サラ!?」

 

キオ達はサラの通信を聞いて驚き、アンジュは呆れながら怒鳴る。

 

「馬鹿!!貴女何を考えてるの!?」

 

「いくらキオ達が頑張ってもこの数では無理です! 私も残ります!」

 

そう言ってサラは自分のバスターランチャーを構えて攻撃し始める。

そしてキオの方はフェイトとの戦闘がさらに激しさを増していた。蝶のように舞う二つの流星、蜂のように刺すぶつかり合う衝動。セイレーンとバンシーがフォルトゥラーの外壁を破壊しながら飛ぶ。

 

「あんたが俺らの兄貴なら、何でXに着くんだ?!」

 

「お前に言われる理由はない。全ては最高指導者Xの為……俺の未来の為…」

 

「未来の為?」

 

キオがフェイトが語ろうとしたその時。

 

「やっぱり…」

 

「「?…」」

 

アンジュはクレオパトラの方を見ると、クレオパトラがフライトモードになり、そのライダーのバイザーが透通って素顔が現る。

その人物はサリアだった事に…。

 

「あなた…サリア!?」

 

それを見て聞いていたキオはクレオパトラに乗っているライダーがサリアだと言うことに驚く。そしてブロードソード戦闘機に乗っているタスクやヴィヴィアンも驚く。

 

「サリア…サリアだ!」

 

「えっ?」

 

「でも…」

 

「何やっているのよ!」

 

「質問してるのはこっちよ、どうしてあんたがドラゴンと共に戦って…、それにヴィヴィアンもどうして…」

 

するとレイジアとテオドーラが近くにやって来る。

 

「本当にアンジュちゃん?」

 

「うわ、マジビックリ」

 

「っ!? エルシャに…クリスも!?」

 

三人が敵側になって居る事にアンジュは驚く、するとサリアの元に通信が入る。

 

「こちらサリア…えっ? 分かりました…エンブリヲ様。アンジュ、貴女を拘束するわ、色々と聞きたいことがあるから…二人共、良いわね?」

 

「「イエス、ナイトリーダー」」

 

そう言って三人はアサルトモードに変形し、それにアンジュは驚いて慌てて逃げる。

 

に逃がさんとサリアがビームライフルを構える。

すると空からビームが飛んで来て、三人は回避する。

 

空から焔龍號が飛んで来て、アンジュの元に寄る。

 

「アンジュ!!」

 

「サラ子!?」

 

『サラマンディーネ様!撤退完了しました!』

 

『どうか…お気を付けて。キオ・ロマノフ…』

 

「?」

 

『……サラマンディーネ様をお頼み申す』

 

「言われなくとも、分かってる!!」

 

そう言ってナーガ達の特異点は閉じるのであった。キオはフェイトのバンシー、ニライとカナイのニールネール、ディストラのズハッグも相手していた。しかし、デウス・コフィンの艦隊が後方にいるキルグナスに一斉砲撃を開始する。ブリッジにいるエルマ大佐は歯をくいしばる。

 

「くっ!!」

 

「傾向リフレクターシールド50%低下!!これ以上の戦闘は!」

 

「今ここで彼等の盾がなければ、艦隊の蜂の巣よ!」

 

「しかし!!うわっ!!」

 

突然の衝撃に、キルグナスが揺れる。

 

「っ!?」

 

「キルグナス上空に未確認機を確認!」

 

「モニターに映します!!」

 

モニター画面が表示され、そこに映っていたのは…。

 

「あれは!?」

 

映っていたのは灰色と黒のカラーをしたアレス、そして水色、ピンク、緑、黄色、青、赤色をした未確認機が浮遊していた。すると六体の機体から声が発する。

 

《愚かなるエーテリオンの蛮人よ!我ら『六賢使徒 “オラクル”』の聖裁を受けるが良い!!》

 

すると六体のオラクル達の側頭部から光の羽が展開される。

 

「何なの…あれ?」

 

イザナイ、インガ、カノン、マントラ、メシア、シンリは神託杖を持ち、天高く掲げ、大声で叫ぶ。

 

《ニルヴァーナ!!》

 

神託杖から紫の雷が発し、キルグナスに炸裂する。

 

「エルマ大佐!」

 

煙の中、キルグナスが現れ、キオ達はホッとすると、オラクル達がまた神託杖を掲げる。

 

「止めろ!!」

 

キオはフラップを展開し、オラクルに攻撃しようと向かった直後、セイレーンが目の前の何かにぶつかる。

 

「え!?」

 

「一体何が!?」

 

キオとココは目の前の事に驚く。オラクルの周りに、鏡のような盾が現れ、オラクル達の周辺に漂っていた。すると今度は神託杖から赤く輝くレーザーが一斉に放たれ、周辺を漂ってるミラーシールドに反射していく。

 

「……まさか!!」

 

そして反射するレーザーが中心点に集まり、収束パルスビームを放った、

 

《戒律!!》

 

パルスビームがキルグナスに迫る時、キオのセイレーンがトリオン型障壁を展開し、キルグナスを守る…それを見ていたサラ達はオラクル達に攻撃を仕掛ける。しかし、黒騎士がアンジュ達の前に立ちふさがる。するとオラクルの一人であるメシアがブロードソード戦闘機に乗っているタスクを見る。

 

「あぁ、タスク…久しぶりだなぁ。」

 

「っ!?」

 

するとメシアの身体が光だし、縮んでいくと、白と赤の礼装をした男性へと変わり、仮面を外し、タスク達に素顔を見せる。

 

「お前は!!」

 

「……成長したなぁ、タスク。」

 

「クッ!!…『ガイアス』!!古の民の裏切り者!」

 

《え!!?》

 

タスクがメシア…ガイアスを睨みながらオートマシンガンを放つ。しかし、ガイアスはミラーシールドで防御する。

 

「おいおい、タスク…相手が違うぞ?」

 

ヘラヘラな口調で話すガイアスは神託杖をブロードソード戦闘機に突き付ける。

 

「“三毒“!」

 

神託杖から黒いオーラを放つ亡霊がタスクに襲い掛かる。しかしタスクはそれを回避し、ミサイルで撃墜する。

 

「お〜お〜!やるじゃねぇか。だが、ここまでだ。」

 

ガイアスは巨大な金属生命体へと変身すると、上空から光学迷彩でカモフラージュしていたそれは現れた。全長60km、20隻のカタストロフィー艦隊を連れた巨大戦艦……これこそが、総裁“X”専用超弩級旗艦『マデウス』であった。

 

「でか!!」

 

「何なの、あれ!?」

 

「あんな巨大戦艦までも用意していたのですか!?」

 

「っ!!」

 

するとマデウスからゴルドフェニキス・デバイスに乗った総裁“X”が舞い降りる。

 

「ダイアモンドローズ騎士団団長“サリア”早急にアンジュとキオ・ロマノフ、ココ・リーブを連れて来い。」

 

「イ、イエス…ゴールドロード」

 

総裁“X”の命に従い、サリア達は拘束しようと、アンジュ達を追撃する。

 

サリアの猛攻に防戦一方となり弾き飛ばされ態勢を崩される。

 

「今よ!陣形、シャイニングローズトライアングル!!」

 

「……」

 

「…ダっサ」

 

エルシャとクリス、二人は陣形名に厨二的ダサさを感じながら、毒舌を吐く。

 

「何か?」

 

「う、うん!了解よ!」

 

エルシャは無理をし、ヴィルキスを囲む。そして腕部のワイヤーショットを撃ち込み、ヴィルキスを捕らえる。そしてキオの方もフェイトが叫ぶ。

 

「センチネル・フラップ!」

 

バンシーの肩部に装備された無人機動兵器『センチネル・フラップ』四基が展開され、トラクタービームを放つ。

 

「くっ!」

 

キオとアンジュは振り払おうとするが、身動きが取れなかった。

 

「終わりよ!アンジュ!」

 

「アルヴィースとメイナスを渡せ!ティオル!ココル!」

 

サリアとフェイトはアンジュとキオに銃を突き付ける。その時、上空からヴィヴィアンが落下し、ワイヤーにプラズマグレネードを取り付け、ワイヤーを破壊した。

 

「うっほーい!」

 

「ヴィヴィちゃん!?」

 

「え!……嘘!!?」

 

エルシャとクリスはヴィヴィアンもいる事に驚く。

 

「キオ!」

 

そしてサラも焔龍號のバスターランチャーでセンチネル・フラップを撃墜する。フェイトはバンシー・デバイスの掌に搭載されているフォアランナー・シールドを展開し、バスターランチャーの高火力ビームを霧散する。

 

「邪魔だ!龍の姫巫女が!!」

 

フェイトはフレシキブルアームからビームソードを展開すると、上空からエーテルレーザーが飛んできた。

 

「っ!!」

 

フェイトは驚き、回避する。モニター画面をズームしてみると、キオ達を助けに終焉のテレシア…レイナスが飛来してきた。

 

「……テレシアが!!」

 

フェイトはテレシアを睨みつける。

 

『フェメル…あなたは……』

 

レイナスは自分の子を見て悲しむ。そして助け出したアンジュとキオを掴み、ワームホールを呼び出し、そのままサラとタスク、エルマのキルグナスと共に中へと入って行った。

 

「逃すか!!」

 

フェイトは追撃しようと、ワームホールの中へと入って行き、ワームホールが消える。ディストラ達とサリア達、サリアは消えていったヴィルキス達を見て唖然とする。

 

「何処に行ったの…アンジュ」

 

 

 

 

 

 

 

嵐が吹き荒れる乱雲の中、ココのハウレスとの連結部が解除され、何処かに飛ばされる。アンジュやタスク、モモカにヴィヴィアン、エルマ大佐のキルグナスも見えなくなり、キオはサラの焔龍號を抱きかかえ、地に不時着する。コックピットから投げ出されたキオとサラはその場で気を失う。乱雲が収まり、徐々に雲が晴れ、曙光が二人が気を失っている浮遊大地に差し込む。壮大な草原、不自然に咲く花々、天空に浮かぶ大陸、数多の原生生物が駆け巡る大地……『ウル』。そう……キオ達はレイナスの能力によって未開大地『ウル』に辿り着いたのであった。



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第25話:祖父との再会

 

太陽の光が二人の少年と少女を差す。小鳥の鳴き声がキオを目覚めさせる。

 

「……?」

 

キオは起き上がり、周りを見る。

 

「………………っ!?」

 

キオは焔龍號に気づき、倒れているサラに駆け寄る。

 

「サラ!……サラ!!」

 

「……キオ?」

 

キオの声にサラはゆっくりを目を開ける。キオは安心し、周りの風景を見てサラに言う。

 

「見て……」

 

キオとサラ周りの風景に見惚れる。

 

「…………ウル」

 

「あぁ…」

 

キオは立ち上がり、サラも立ち上がろうとすると。

 

「あ!」

 

突然サラが声を上げ、倒れこむ。

 

「!?」

 

よく見ると、サラの左足から血を流していた。キオはバイオフォームで治療し、サラどう運ぶか考える。そして…。

 

「良し!」

 

「?……ひゃっ!?」

 

突然キオがサラをお姫様抱っこし、サラを運びながら、周りを見る。浮遊する大陸、壮大な草原や高原、あらゆる植物、生と死の理によって弱肉強食の原生生物達が穏やかに暮らしていた。キオとサラは驚きながら、未開大地『ウル』を見る。それからキオはセイレーンと焔龍號の状態を見る。

 

「クソ…全回路がショートしている。」

 

「直せますか?」

 

「修理はできるが……あいにく必要なパーツが今ここにない。もしかしたら本当の母さんと共にここへ転移されたキルグナスも……」

 

キオはヘルメットの通信システムでキルグナスとの連絡を取る。

 

「こちら、“KL-408 キオ・ロマノフ”……聞こえますか?……………………」

 

しかし、通信は来なかった。

 

「ダメだ……念のため、信号弾を射つ。」

 

キオはハンドガンの銃口に信号弾を装備し、上空へと撃ち込んだ。すると北緯24度の森林から別の信号弾が撃ち込まれた。

 

「あそこだな……」

 

キオは半身テレシア化し、サラをお姫様抱っこする。

 

「掴まってて。」

 

キオは助走をつけ、光の翼で浮遊大陸からサラを運び、飛び立つ。

 

 

 

 

 

 

その頃、ココは近くの熱帯雨林の中で気を失っていた。そしてココの近くに不気味な面をつけた部族達が集まり、呟く。

 

《拝め者……拝め者……拝め者……》

 

部族は狂気に満ちた声を上げ、ココを連れて行くのであった。

 

 

 

怪我をしたサラを連れて行くキオ。飛んでいるとキオの元にテレシア達が集まり、一緒に飛ぶ。

 

「キオの事、仲間だと思っているのでしょうね。」

 

「かもな…」

 

そしてテレシア達が離れて行くと、銃声が響き渡る。

 

「この銃声……まさか!!」

 

キオは急いで信号弾が見えた森林へと向かう。

森林の中、アンジュとタスク、そしてヴィヴィアンとモモカの四人は、ヴァサルトに苦戦していた。(理由は簡単、アンジュがヴァサルトにライフルを乱射し、怒らせた事であった。)銃弾をもヴァサルトの分厚い甲殻には無意味、アンジュ達は必死に逃げる。怒るヴァサルトはアンジュ達を追う。

 

「何なのよここは!!」

 

「分からない!けど、ヤバイよこれは!」

 

逃げる最中、ヴィヴィアンが転ぶ。

 

「ヴィヴィアン!」

 

「ヒィーーーーッ!!」

 

ヴァサルトがヴィヴィアンの方に突進してきたかと思いきや、上空から女性の悲鳴のような鳴き声が響き渡る。そして、天から地、ヴァサルト目掛けて襲い掛かる。その襲って来たのはテレシア化したキオであった。

 

「キオ!」

 

ヴァサルトが絶命すると、キオはテレシア化を解く。

 

「皆んな無事?」

 

「あぁ、サラマンディーネ……どうしたの?」

 

「ん?足を怪我したみたいなんだ。俺とサラの機体はあの浮遊大陸に不時着している。タスク達の方は?」

 

「ヴィルキスは無事だけど、ブロードソードはもうダメみたい。それにここは何処なんだ?」

 

「……『未開大地 “ウル”』」

 

「え?」

 

キオはタスク達に“ウル”の事を説明する。

 

「つまり…ここはキオの本当の母親の故郷という事?」

 

「そう…そしてこの大地の何処かに、滅び去ったエルダー皇国とアケノミハシラがあるんだ。」

 

「アケノミハシラが!?」

 

「なぜここにそのような物が!?」

 

アンジュとモモカが問うと、サラが何かを感じ取る。

 

「何か来ます!」

 

キオは後方を振り向く。

 

「アルヴィース……」

 

「ヴァサラ…」

 

「アイロス……」

 

「「「…………!?」」」

 

三人はブレイドを呼び出そうと声を掛けるが、三体は出て来なかった。

 

「どうしたの?」

 

「アルヴィースが……出て来ないんだ。」

 

「は!?」

 

「こっちもだ!」

 

「私の方も、アイロスが!」

 

ブレイドが出て来ない以上、それぞれの手持ちの武器を構える。

 

「タスク、モーショントラッカーで敵の数を教えてくれ…」

 

「分かった……っ!?」

 

「どうした?」

 

「何だこの数……10、嫌、50人もいる!!」

 

「50人!?」

 

「来る!」

 

タスクが言うと、何処からともなく、複数人の雄叫びが聞こえて来る。

 

《アヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!》

 

キオは半身テレシア化し、鋭い爪と牙を森の中に突き付ける。そして未来視が発動する。森の中から原始的の弓矢が飛んできて、アンジュの肩に突き刺さる。

 

「アンジュ!避けろ!」

 

キオが教えると、森の中から弓矢が飛んできた。アンジュは教えられた通りに動き、弓矢を回避する。そして森の中から牛や骸骨を面にした部族が現れ、鉈や弓を構えていた。

 

《拝め者……崇め者……拝め者……崇め者……拝め者……崇め者……拝め者……崇め者……》

 

「な、何よコイツら!?」

 

「……先住民族かよ、おい!」

 

部民族は構う事なく、キオ達に襲い掛かる。キオはさらにテレシア化し、その巨大な姿で彼等に威嚇する。

 

《崇め者が!!マナに!!?》

 

意味の分からない言葉を発する部民族。キオはサラ達を守るかのように威嚇し続ける。だが、それも一瞬であった。部民族は隠れ草から吹き矢を吹く。毒矢はキオの足に命中した。

 

「『痛っ!!?』」

 

するとキオの視界がぼんやりと見えなくなり、徐々に睡魔が襲って来ると同時に、キオは倒れる。

 

「キオ!」

 

キオがぼやけている間にタスク達の大声とアンジュ達の叫び声が響く。そして数分後、夜になり、キオはその場で目を覚ます。

 

「サラ!タスク!アンジュ!ヴィヴィアン!モモカ!」

 

元の姿に戻り、キオは夜の森の中、五人を探すのであった。

 

 

 

 

 

その頃、ココは何処か知らない場所で寝かされていた。藁の家の様な小屋、仮面を付けた部族がココを看病する。

 

「拝め者、熱……シャカ、水を。」

 

「うん……」

 

シャカと言う少年は母親の言う事に従い、水を汲みに湖へと向かう。湖から水をバケツの中にいれ、村に戻ろうとすると、森の中からキオが飛び出して来た。シャカは何がどうなっているのか、キオを見つめる。

 

「……誰だ?」

 

キオが問うと、シャカは急いで逃げる。

 

「ちょっ!?」

 

キオもシャカの後を追う。シャカは急いで村の大人達に知らせる。

 

「崇め者!崇め者が来た!!」

 

村の男達は急いで倉庫から槍や鉈、木の盾を持ち、急いで門を守る。キオが駆け付けると、男達は槍を突き構える。

 

「◯△◇☆、◯△◇☆、◯△◇☆……」

 

「?????」

 

男は何を言っているのか、どうすればと迷っていると。

 

「…………」

 

すると村から一人の老人が村人達を武器を収めるよう説得する。

 

「?」

 

「アハハハハハ!」

 

その老人に、キオは驚く。その老人は13年前……冒険家で考古学者であり、行方不明となっていたはずの祖父『アレクサンダー・ロマノフ』その人であった。

 

「何をぼぉ〜っとしてるんだ?」

 

「…………じいちゃん?」

 

「当たり前よ!」

 

「じいちゃん!!」

 

キオは尊敬していた祖父が生きていた事に、嬉し涙を流すのであった。アレクサンダーは村人を説得し、小屋の中で熱を出して寝ているココを見る。

 

「じいちゃんが助けてくれたんだ。」

 

「あぁ、突然空から煙を吹き出した物がここへ落っこちてよ、騒いな事に、機体の方は修理できるし、この子は熱を出していたが、運良く狩をしていたシャカの家族に助けられたのじゃ。」

 

するとシャカとその両親がキオの前に現れる。

 

「実の妹、ココ助けてくれて……ありがとう。」

 

キオは深く頭を下げ、アレクサンダーが彼等に翻訳する。そしてアレクサンダーはキオに彼等のことを説明する。彼等はこのウルの先住民の末裔『陽族』と言う。数百万年も前、キオの祖先であるエルダー皇族を裏から支え、監視して来た由緒正しき一族であったと。しかし、レイナスと魔神ゼニスとの戦いにより、一族は守るべきエルダー皇族を失い、安住の地で隠れ暮らしていたと。ところが、その大戦の最中、異端者達が現れた。魔神崇拝者『陰族』と名乗り、数万年も前から魔神を信仰している組織だと言う。男と女を攫い、魔神崇拝の為の贄として何百年もその風習を続けていると…。

 

「あの時会ったアイツら…陰族だったのか!」

 

「それで、連れさらわれたお前の仲間……特徴を言え。」

 

「え?あぁ…」

 

キオは仲間について説明する。するとアレクサンダーが焦り出す。

 

「うん…マズイなぁそれ。」

 

「は?」

 

「そのミスルギ皇国の皇女さんと古の民の坊ちゃんかな……色々と疚しい事になるぞ…」

 

「…………マジ?」

 

「うん、マジ……大マジ。こっち来い。」

 

アレクサンダーはキオをある所に連れてくる。連れてこられたのは洞窟の奥深く、壁に描かれた壁画であった。

 

「これは?」

 

「……古い未来視じゃ」

 

「未来視!?これが!!?」

 

「そうじゃ、儂はこの壁画に触れた途端に……未来視が見えた。」

 

「え!?」

 

「……“強欲の者、浅ましき者を誑かし、厄災へと導く”。儂が見た未来視じゃ……。」

 

「“強欲の者、浅ましき者を誑かし、厄災へと導く”……一体何を見たんだ?」

 

「……あれは、恐ろしい物じゃ。言いたくても言えない、聞きたくても聞かない様になり、やがて青ざめて恐怖するだけだ。」

 

アレクサンダーは思い返す。ミスルギ皇国の大地から大地で模る巨人が皇都を煉獄の炎で焼き尽くしている未来視を……。

 

「じいちゃん?……じいちゃん?」

 

キオがぼーっとしているアレクサンダーに呼びかける。

 

「?……あぁ…何でもない。」

 

「……本当に?」

 

「……さてと、長話をし過ぎた。お前に渡す装備がある。」

 

アレクサンダーはキオを家に招く。中はエルダー皇国の様な和風建築構造になっており、エルダー族が使っていた『忍び』と言う隠密用の服が目の前に飾られていた。キオはスパルタンスーツを着脱し、忍びの服を着る。アルヴィースや他のブレイドが使えない代わりに、『オオテンタ』と言う野太刀を身に付ける。

 

「……髪、伸びたなぁ。」

 

「ん?……そうか?」

 

「……良いものをやる。」

 

アレクサンダーは箱の中から頭骨と思わしき陶器の仮面と赤い髪飾りが装備された兜を渡す。さらに奥の部屋に入ると、そこにあったのは……。

 

「何…これ…」

 

キオは驚く。それは上半身がハウザー、下半身がホバー推進器を搭載させた車両、両腕にはガトリング式パルスキャノン、頭頂部にショックカノンが装備されたパラメイル『ホバータンク』が格納されていた。

 

「パラメイルのスペアパーツをエルダー族と陽族の古代推進技術で作った水陸両用ハウザー『ハウザーリベルド』だ。飛べる事は出来ないが、強力な重火器と荷台には待機用の椅子と予備弾倉も積み込んでいる。さらにホバーバイクもあるからなぁ!」

 

「超逝かれてるが……カッコイイ!」

 

「さぁ、準備もできた事だし、乗るが良い!お前さんの愛しの彼女さんと仲間を救いに!!」

 

キオとアレクサンダーはハウザーリベルドに乗り込み、ホバー推進器を起動し、熱帯雨林の中をホバーで突き進むのであった。

 



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第26話:崇め者と拝め者

 

一方、陰族に連れさらわれたサラ達。アンジュとタスク、モモカとヴィヴィアンは何故かガラクタで作られた檻の中に囚われていた。

 

「何なのよ!アイツら!あたし達を攫っておいて、理由は私が正確ブスって!!?」

 

アンジュはサラが部族の長との謁見を認められるが、アンジュ達だけがこの扱い。そんな事にアンジュはギャーギャーと吠えていた。

 

「アンジュ、落ち着いて…まだキオも無事だから、今頃エルマさんを探していると思う。」

 

「フンッ!間に合えばいいんだけど…」

 

アンジュは頰を膨らまし、鉄柵を握りしめるのであった。

 

 

 

 

その頃、サラは部族達の長が待つ謁見の間に招かれる。謁見の間には部族達が念仏を唱えながらサラを崇める。

 

「(何なんですの!?……この宗団は!?)」

 

すると目の前に、族長らし者が座っていた。目を模した紋章が描かれた呪符で顔を隠しており、巫女服をした女性であった。

 

「崇め者…連れて来た。」

 

部民は族長に伝えると、族長がサラに問い掛ける。

 

「美しきマナの異端者……そなた名は?」

 

「……始祖アウラの末裔 フレイヤの一族 サラマンディーネ。」

 

「……妾達は何百万年も前より虐げられて来た。」

 

「?」

 

突然族長がサラに何かを語りかける。

 

「妾は陰族を束ねる者……“真実”の教徒 イリス。」

 

イリスと言う女性は呪符を剥ぎ取り、素顔を表す。

 

「っ!!」

 

サラは驚く。何故なら、その女性に見覚えがあったから…。

 

「な……何故……あなた様が!?」

 

 

 

 

 

 

 

一方、キオはアレクサンダーのハウザーリベルドに乗って、熱帯雨林を出る。

 

「陰族のいるアジトは?」

 

「この先の渓谷の洞窟…“嘆きの口”。そこが奴らの巣窟だ。」

 

「分かった。そう言えばじいちゃん…13年間もここにいて、何で帰ってこなかったんだ?」

 

「……これを、ずっと探していた。」

 

アレクサンダーはポケットから写真を取り出し、キオに見せる。それに写っていたのは、何処かの遺跡であり、その奥に綺麗な鏡があった。

 

「鏡?」

 

「……チャールズとマリア、そしてミレイや皇帝陛下と皇妃殿下の五人が探し求めていた物を導く鏡『モーセ』だ。」

 

「モーセ?旧約聖書に出てくるあの?」

 

「そう…そして儂等がお前と出会って18年間、モーセを見つけてある物を探している。」

 

「ある物?」

 

「……これを渡す。」

 

渡したのはUSBメモリーであった。

 

「そのメモリーの中に……儂等と総裁“X”が探し求めていた物が入っている。これは、決して欲深かしい人間に渡してはいけない。エンブリヲやジュリオ、そしてアレクトラにもだ。」

 

「アレクトラ?誰だそいつ?」

 

「話を長くしてしまったようじゃ、前を見ろ。」

 

「?」

 

目の前のモニター画面に薄暗い渓谷が見えて来だした。そしてハウザーリベルドを降り、高台から洞窟を見る。周りには、陰族の見張りが沢山いた。高台の陰から見下ろすキオとアレクサンダーは作戦を考える。

 

「儂が囮になる。お前はその間に、中に入れ……」

 

「分かった。」

 

キオは了解し、下へと降り、近くの岩陰で合図を待つ。そしてアレクサンダーがハウザーリベルドに乗り込み、高台から飛び降り現れる。ガトリング式パルスキャノンで見張りを蹴散らし、サーモナイザーで洞窟内の増援に目掛けてパルスキャノンを乱射する。

 

「キオ!今じゃ、行け!!」

 

アレクサンダーが合図を出し、キオは洞窟の中へと入る。洞窟内の通路では陰族の増援が直ぐに出入口の方へと駆け付ける。キオは仮面を被り、髪飾りを靡かせ、気配と音、息を殺し、背後に回り込んだ。暗闇の中、影が彼ら殺し、その悲鳴が洞窟内で響き渡る。その悲鳴を聞き、陰族達が駆け付けると、そこにいたのは、無数の死体と血の海、その真ん中に血だらけのキオが目の下の瞳を獣のように煌めかせ、駆け付けた陰族を血祭りに切り裂く。陰族の面の下の顔……逝ったような笑い顔が絶望に満ちた泣き顔と苦しむ顔へと変わっていくのであった。

 

 

 

 

別の間、アンジュ達が囚われている牢屋。すると出入口の方から、悲鳴が聞こえてくる。すると出入口から虹色に輝く尻尾が伸び、先端の鋭いブレードで陰族を突き刺し、引きずり込んだ。奥から悲鳴と肉を食いちぎる音が鳴り、今度は大きな腕が伸び、二人を捕まえ、喰らい尽くす。出入口からテレシア化したキオが人の肉片を吐き飛ばし、元の姿に戻る。

 

「皆んな!大丈夫か?」

 

《キオ!!》

 

「今助けてやる!」

 

キオは半身テレシア化し、檻をこじ開ける。独房部屋から脱出したアンジュはまだサラ子がいないと騒ぐ。

 

「任せろ!」

 

キオは急いでサラがいる謁見の間へと向かう。

 

 

 

 

 

 

謁見の間では、白い巫女服に着替えさせられたサラが、十字架に磔されていた。

 

《崇め者!!崇め者!!崇め者!!崇め者!!崇め者!!崇め者!!》

 

陰族達が生贄であるサラを運ぶ。そして謁見の間に連れてこられ、祭壇の上に、磔されたまま横にされる。そしてイリスが儀式用の短剣を持ち、サラの胸部に突き刺そうとする。

 

「っ〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」

 

サラは拘束されており、助けを呼びたいが、口をロープで縛り付けられ、何も言えなかった。イリスは短剣を振りかぶり、胸部目掛けて突き刺そうとしたその時、クナイが短剣を弾き飛ばす。

 

《っ!!?》

 

イリスや陰族達は後ろを見ると、助け出したアンジュ達と、クナイを投げたキオがいた。

 

「サラから離れろ!!」

 

キオは太刀を抜刀し、イリスに斬りかかる。イリスは陰族を盾にし、回避する。

 

「お前…仲間を盾に!!」

 

キオが太刀で構えている間、アンジュ達がサラを助け出す。キオは下がりながら、サラを守る。

 

「キオ!」

 

「お前ら……サラに何をしようとしていた!!」

 

キオは太刀を構えながら問うと、陰族達が槍を持って、地面にぶつける。

 

《イリス!イリス!イリス!イリス!イリス!イリス!イリス!イリス!〜〜〜〜〜〜!!!!》

 

陰族達が“イリス”の名だけ連呼していると、イリスの背中と腰からドラゴンと思わしき羽が生えた。キオとアンジュ達はそれに驚く。

 

《ドラゴン!?》

 

「……人!?」

 

そしてイリスは顔を覆い隠している呪符を引きちぎり、素顔を表す。アンジュ達は首輪傾げるが、キオはその女性の顔に見覚えがあった。

 

「っ!!?」

 

「…………御母様」

 

「え!?サラ子、今…あんたアイツの事を御母様って!?」

 

「何で……何でミレイさんが!!?」

 

キオが動揺していると、ミレイが語り出す。

 

「美しき崇め者、勇ましき拝め者……贄決まり!!」

 

《崇め!!拝め!!崇め!!拝め!!崇め!!拝め!!》

 

陰族達は『崇め』『拝め』と連呼すると、槍を突き構え迫る。

 

「来るな!!」

 

「ちょっと!どうすれば良いのよ!!」

 

「ち!タスク!俺の太刀を使え!」

 

キオは太刀をタスクに渡し、半身をテレシア化させ、鋭い爪を構える。っが、陰族達はアンジュやタスク、ヴィヴィアン、モモカの方は興味を示さず、キオとサラの方に向けていた。キオはサラを守ろうと威嚇するが、陰族達は迫り来る。それどころか、キオは彼らの本性と恐怖に威圧されていた。

 

「(っ!!!どうしよう、このままだとサラや俺も!頼む、じいちゃん早く!!)」

 

キオはそう思っていると、イリスと言うよりミレイが前に出る。キオが構えたその直後、天井が崩れる。

 

「っ!?」

 

陰族達やキオ達は崩れた天井を見る。すると穴が空いた天井からバンシー・デバイスが現れた。

 

「フェイト!!」

 

キオはバンシー・デバイスが現れた事に驚く。するとバンシー・デバイスからフェイトがモナドを持って出てきた。

 

「モナド!?一体どうやって!!?」

 

「……加戦するぞ。」

 

「え?」

 

突然フェイトが共同戦線と言い、陰族達を振り払う。そしてフェイトはキオの胸に触れる。するとキオの胸からアルヴィース、ヒカリ、メツ、コスモスのコアクリスタルが現れ、また胸の中に戻る。するとキオの手からアルヴィースのモナドが現れる。

 

「ブレイドが……使える!!」

 

するとヒカリのブレイドが二つに分かれ、アンジュとサラの所へ向かう。アンジュはそれを受け取ると、アンジュの手からヒカリのモナドが現れる。サラの方は赤いモナドであった。すると赤いモナドから赤い髪の少女が出てくる。

 

「私は“ホムラ”…貴女の力になります♪」

 

ホムラと言うブレイドはニコッと笑顔を見せ、サラの胸のクリスタルのへと入り込む。キオはサラの胸のクリスタルを見て、自分の胸のクリスタルを見る。

 

「同じだ……」

 

そしてフェイトがミレイにモナドを突き付ける。

 

「キオ……ここは俺に任せろ。お前達はあの老人の所へ向かえ。すでにエーテリオンの戦艦とは交信している。」

 

「何で俺達を!?」

 

するとフェイトがキオの耳元である事を言う。フェイトが放った言葉にキオは驚く。キオはサラの手を掴み、アンジュ達に言う。

 

「アンジュ!タスク!逃げるぞ!!」

 

「「え!?」」

 

「フェイトが時間を稼ぐって!外にはじいちゃんとエルマ大佐が待っている!」

 

「え!?わ、分かった!!」

 

タスクも了解し、キオに連れられ出口へと向かう。残ったフェイトはザンザを呼び出す。

 

『良いのか?……弟に彼の事を言って…』

 

「良いさ…とっくに計画と作戦は、伝えてる。それに、この女性の魂もコイツから解放しないとな……」

 

フェイトはそう言い、陰族を相手するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

洞窟から抜けると、上空にエルマ大佐の戦艦であるキルグナスが浮遊していた。

 

「こっちだ!」

 

キルグナスのポータル装置に、アレクサンダーが待っていた。アンジュ達は直ぐにポータルの中に入っていくと、アレクサンダーが言う。

 

「儂はまだ残る。」

 

「何で!?」

 

「お前さんの妹さんはすでにキルグナスに移送してあるから安心だ。だが儂はこの世界でモーセを探す。お前は向こうの世界でチャールズに言え!『ゾハル』と!!」

 

「ゾハル?」

 

「それじゃあな!!」

 

「じいちゃん!!」

 

ポータルが消え、キルグナスがワームホールを開き、吸い込まれる。一人取り残されたアレクサンダーは地図を見る。

 

「ここにもない。となると、心当たりがある場所は……魔神の体内か…」

 

地図の示す魔神の骸、アレクサンダーはハウザーリベルドを動かし、エルダー皇国跡へと向かう。

 

 

 

 

 

 

黄昏の夕陽、キオ達が辿り着いた場所は、ボロボロになったアルゼナルであった。

 

「ここは……アルゼナル?」

 

完全に基地機能を失ったアルゼナルを見て呟き、それにアンジュはただアルゼナルを見て呆然とする。

 

そして夜、アルゼナルの付近の海に着水して停泊するキルグナスはスパルタンを数十名向かわせて探索を開始させた。

そんな中、キオ達は海辺の近くでキャンプしていた。

 

「帰ってきたんだ……アルゼナル。でも、皆んなは何処?」

 

「分からない、ジルがそう簡単に殺られる人じゃない。」

 

「あぁ、アイツの執念深さは以上だ。」

 

キオ達が悲しい表情をすると、ヴィヴィアンとサラが何かに気付く。すると海中から三つの影が上がって来た。キオとサラはモナドを構える。

 

「サラ、気をつけろ!」

 

「えぇ!」

 

タスクもハンドガンを構える。

 

「お化け!幽霊!海坊主!?」

 

「い、いやぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜」

 

アンジュは怖がりながらタスクに抱き付く。

 

「コ……な…?」

 

ココもキオに抱き付き、怯える。

 

「ココなの?」

 

「え?その声……」

 

ココは自分の名前を知っている事に反応し、キオとサラ、アンジュ、タスク、ヴィヴィアンもその事を聞いて反応する。

するとその人物はマスクを外すとミランダが現れる。

 

「ミランダ!?」

 

「ココー!!良かった!良かった!」

 

ミランダはココに駆け寄って抱き付き、ココもミランダが現れた事に嬉しながら抱き付く。

そしてヴィヴィアンはその他の者達を見た時にマスクを外したヒルダとロザリーを見て驚く。

 

「うわ!みんなだ!!」

 

「ん?うわっ!ドラゴン女!?」

 

ロザリーはヴィヴィアンを見てビビって引いて、ヒルダは笑みを浮かべてアンジュに駆け寄る。

 

「本当に…アンジュなの?」

 

「勿論よ、ヒルダ」

 

それにヒルダはまた笑みを浮かべる。すると出入口の方から数十名のスパルタン達が銃を構える。

 

それにヒルダ達は慌てる。

 

「な!なんだこいつ等!?」

 

「ああ~!待ってくれヒルダ! エルマ大佐達は味方だ!」

 

「はっ?」

 

ロザリーはキオの言葉に頭を傾げる、っとそこにエルマ達がやって来る。

 

「キオ!皆さん…っと、あら?皆さん…?」

 

エルマはヒルダ達の姿を見て、すぐさま隊員たちに言う。

 

「皆!武器を下ろして。アルゼナルの子達よ」

 

「えっ?は、はい…」

 

スパルタン達はエルマの命令に従いライフルをおろし、その様子にエルマはキオに問う。

 

「おい!何だよこいつ等?! 一体何者なんだよ!?」

 

「彼らは解放軍『エーテリオン』、エルマと俺の両親がデウス・コフィンから時空を救うために結成された組織なんだ。」

 

キオの言葉にヒルダ達は驚き表情を隠せなかった。

 



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第27話:運命の決別 ・前編

 

「第一警戒ライン通過」

 

「まさか生きてたとは…」

 

ヒカルが別の部屋で話し合っているアンジュ達の方を見ながら言い、それにはオリビエも同意しかねる。

 

「アンジュ達もてっきりロストしたかと思ってました」

 

「今まで何処に行ってたんだ…?」

 

「シンギュラーの向こう…だって」

 

っとパメラが言った言葉にヒカルとオリビエが思わず驚きを隠せない。

 

「「うっそ~!?」」

 

「本当よ。後、もう一つの世界にも行ったって。」

 

 

 

 

「並行宇宙…、もう一つの地球…、ドラゴン、いや…遺伝子改造した人間の世界。未開大地『ウル』」

 

そうジルは呟きながら煙草を取り出す。

キオは頷いて言う。

 

「ああ、そして彼女達は話し合いができる、腐った人間達とは違ってな」

 

「ええ、手を組むべきじゃないかしら。ドラゴンと…」

 

アンジュがそう提案して来たのを聞いたヒルダ達は思わず驚く表情をする。そんな中でジルがキオを睨む。

 

「それにしてもよくもまあ隠していたものだなキオ、まさか未来を見通す力があるとは……。」

 

「当然の事だ。総裁“X”はアンタの想像を超える危険な奴だ…エンブリヲを“金魚”みたいに扱っている。」

 

「ふん…言い様だ。」

 

「それと、先ず最初にやるべきは一つ。」

 

そしてサラがキオの前に出て言う。

 

「先ずやるべき事はこの世界に捕らえられているアウラを奪還する事です。我々アウラの民の目的はアウラの奪還、上手くアウラを取り戻せば全てのエネルギーが立たれ、人間のマナも世界も停止する筈です。そこで考えました。」

 

「エーテリオンとアウラの民、そしてノーマ達。この三つの種族で同盟を結び、一致団結して戦う。」

 

キオの言葉にヒルダ達は驚きを隠せず、その中でジャスミンが納得した表情をする。

 

「敵の敵は味方、成程…」

 

「はい、ご理解していただきありがとうございます」

 

サラの言葉を聞いて、ロザリーが思わず抗議する。

 

「え!?じょ!冗談だろ!?人間は兎も角!あいつ等は沢山の仲間を殺してきた化け物なんだぞ!! ドラゴンと協力~!?在りあねっつ〜の!!」

 

ロザリーは思わず後ずさりする。

そんな中でヴィヴィアンが思わず頬を膨らませてロザリーを睨み、アンジュがそれに言う。

 

「ちゃんと話せば分かるわよ、彼らは…」

 

「無駄だ、奴らは信じるに値しない…」

 

ジルの言葉に一同は振り向く。ジルは携帯灰皿を取り出して煙草を消しながら言う。

 

「アウラなんだか知らないが、たかがドラゴン一匹助けただけでリベルタスが終わると思っているのか?神気取りの支配者エンブリヲを抹殺し、この世界を壊す…それ以外にノーマを解放する術はない」

 

ジルの硬い意思にアンジュは思わず黙り込む。その事にキオが言い返す。

 

「相変わらずだなぁ、俺達はそれ以外の方法を見つけた。アンタがどう言うが何を言おうが、お前の作戦よりマシな方だと俺は思う。」

 

「流石だな、まさか未来視でそこまで見通すとは…。なら、私はアンタが見た起こる未来を搔き消す。」

 

「やってみろ、さらに先を読んでやるから…」

 

キオとジル、両者は互いのやり方に否定しつつ、睨み合う。

 

「辞めるんだ二人共…しかしジル、キオ言葉にも一理あるよ。現にわたし等の戦力が心元ないのも事実だ」

 

「サリア達が寝返っちまったからね…、おまけにあの機体や巨大戦艦までも現れるし。」

 

っとその事を聞いたキオ達は顔を合わせる、どうやらヒルダ達はもう既に奴らとの戦闘は開始していた様だ。そしてジャスミンはキオ達にある事を問いかける。

 

「アンジュ、そこの姫さんとの世界にコンタクトは取れるかい?」

 

「ヴィルキスなら、シンギュラーを開かなくても行けるわ、多分。」

 

「そいつは凄い。エーテリオン、そしてドラゴン達との共闘。考えてみる価値はあるんじゃないのかい?」

 

ジャスミンの提案に聞いたヴィヴィアンは思わず嬉しがる。しかしジルは黙ったまま返答せず、それにキオ達は厳しい表情で見ていた。

 

「…ジル」

 

ジャスミンが再び問いかけ、それにジルはようやく口を開く。

 

「…よかろう」

 

そう言ってジルは扉の方に向かう。

 

「情報の精査の後、こん後の作戦を通達する。以上だ」

 

そう言ってジルは出て行き、それにキオは勿論の事、エルマも厳しい表情をしていた。

 

「エルマ大佐…あの人どう思います?」

 

「あの人…何か企んでるわ。キオ、未来視で何を見たの?」

 

「聞きたいですか?……無茶苦茶な作戦ですよ。」

 

 

 

 

 

 

「はむ!もぐもぐ…美味~い! いや~流石のモモカ飯!不味かったノーマ飯が懐かし~!」

 

キオ達は水を飲んでいるのに、ヴィヴィアンはのん気にご飯を食べていた。するとマギーがヴィヴィアンの身体をあちこち触る。

 

「ぷははははっ!く!くすぐったい!」

 

「本当に…キャンディーなしでもドラゴン化しなくなったのかい?」

 

「そう…らしい!」

 

「大した科学力だね~」

 

マギーはサラ達の世界の科学力に感心する。

 

「あ!そうだ! 向こうの皆は羽と尻尾があったんだけど、アタシなんでないの?」

 

「バレるから切ったよ」

 

「うわっ!!ひでぇ~!!」

 

ヴィヴィアンの様子に向かいに座っているココとミランダ、そして隣の席に座っている若者三人は苦笑いしながら見ていた。

キオ達がそれに顔を合わせる中、タスクがアウローラのを見渡して懐かしさを感じていた。

 

「アウローラ…まだ動いていたなんて…」

 

「タスク、お前この艦の事を知ってるのか?」

 

「ああ、古の民が作ったリベルタスの旗艦。俺達はこの艦でエンブリヲと戦って来たんだ」

 

「へぇ~…」

 

タスクの説明にアンジュは勿論の事、エルマ達も納得する表情をする。

 

「ベットは少し狭いですが、とても快適でした。ご安心を」

 

「そう、良かった」

 

「な〜んも良くねぇよ。戦場からロストして、帰ってきたらドラ姫や男、訳わかんねぇ連中も連れてきて!しかも、男のノーマって何だよ!全く!」

 

「あぁ…厳密に言ったらノーマじゃ…」

 

アンジュはヒルダに謝る。

 

「ごめんヒルダ。」

 

そう言うとヒルダは少しばかり頬を赤くし明後日の方を向く。

キオ達は何やらヒルダの様子を見て頭を傾げる。

 

「何頰膨らましてるんだヒルダ?」

 

「別に、全く…お前等が居ない間大変だったからな」

 

ヒルダがその事を問い、ロザリーが少しばかり暗い表情で言う。

 

「そうそう、アタシ等はとても苦戦した事ばかりなんだよ。アルゼナルは壊滅するわ、仲間は大勢殺されるわ、クリス達が敵になるわ…」

 

ロザリーの言った言葉にキオ達はそれに反応する。

 

「どうしてだ? 何故あのサリア達がエンブリヲの元に?」

 

キオはロザリーに寝返ったサリア達の事を問う。

 

「こっちが知りてぇよ!容赦なくドガドガボコボコ撃って来やがって…! あんなのもう友達でも何でもねぇよ!……」

 

「じゃあ、この艦を護っているのはあなた達だけ?」

 

「ん?そうだけど…」

 

ロザリーはアンジュの問いに頷き、アンジュは意外そうな表情をしていた。

 

「よく無事だったわね?この艦」

 

「喧嘩売ってんのか!てめぇは! こいつ等が頑張ってくれたからな」

 

そうロザリーは指を指して、三人の若い少女たちの方を向かせる。

 

「ノンナ、マリカ、メアリー。戦力不足でライダーに格上げされた新米たちさ」

 

「ココがいない間、私の後輩だからね!」

 

「流石、ミランダ」

 

ミランダが思わず立ち上がってキオ達に言う。それにはキオ達は苦笑いをしていた。

 

「まあともあれ、このアタシがみっちり扱いたお蔭で何とか一著前に───って、あれ!?」

 

するとメアリー達が一斉にヴィヴィアンの方に向かって行き、それにはロザリーも流石に突然過ぎて戸惑った。

 

「あの!お会いできて光栄です!」

 

「えっ?アタシ???」

 

ヴィヴィアンは自分の事を言われて、何が何やら分からなかった。

 

「第一中隊のエース、ヴィヴィアンお姉様ですよね!」

 

「ずっと憧れていました!」

 

「大ファンです!」

 

「そっかそっか♪ よし喰え喰え~!」

 

ヴィヴィアンは自分の食器の具をメアリー達にも分け、その様子にロザリーはやや悔しがる。

 

「ちょっとあんた等!!アタシにはそんな事一言も!?」

 

ヴィヴィアンだけあんなに尊敬され、自分は頑張っているのにこの様な事にロザリーは涙目で悔しがりながら文句を言うのだった。

っとアンジュが何やら考えているタスクの方を見る。

 

「どうしたの?」

 

「いや、アレクトラ…じゃなかった。ジルの様子が気になってね」

 

タスクは頷くと同時にヒルダがその事を言う。

 

「アレクトラ・マリア・フォン・レーベンヘルツ…だっけ」

 

「「「「「!?」」」」」

 

「皆知ってるよ、司令が全部ぶちまけたからね。自分の正体も…リベルタスの大義の事も」

 

ヒルダはジルが自ら正体を証し、リベルタスの全て、そして自分達の最大の敵であるエンブリヲを倒す事を宣言した事を話して、それにキオ達は納得しながら頷く。

 

「なるほどね…、あの司令が、アレクトラか……(じいちゃん、知ってたんだな)」

 

「アレクトラが…そんな事を」

 

「意気込みは分かるけど。ガチ過ぎてちょっと引くわ…」

 

「貴方にあの人の何が分かるの~!」

 

別に人物の声が聞こえた事にキオ達はその声がした方を見る。

すると厨房から完全に酔っ払いたエマが出て来る。しかもワインをラッパ飲みしながら。

 

「か!監察官?!」

 

「ぷはっ! えまさんで良いわよ~?エマさんで~♪」

 

《さ!酒臭?!!》

 

キオ達はエマからとんでもない酒の臭さに思わず鼻を閉じる。

その事をモモカが言う。

 

「この艦に乗られてからずっとお酒を飲んでいるらしいのです」

 

「ずっとって…マジ!?」

 

モモカの言った事にキオは驚きを隠せない。

 

「しょうがないでしょう!殺されかけたのよ!!人間に…同じ人間に!!」

 

エマはアルゼナルで保護を求めようとしたのに殺されかけたのをマギーが助けてくれて、それ以来エマは酒浸りになってしまっていたのだ。司令であるジルが保護し、エマが信じられる人はジルただ一人だけらしい。

 

「あの人だけよ~!この世界で信じられるのは! そうよね~!ペロリーナ~!!」

 

っとエマはペロリーナのぬいぐるみを抱きながら泣き崩れ、それにマギーが止める。

 

「はいはい、もうその辺にしときな…」

 

マギーはエマを食堂から連れ出して、その様子にキオ達はもの凄く呆れていた。

 

「でも、監察官の言う通りだ」

 

っとロザリーの言葉にキオ達は振り向く。

 

「アタシ等にとっちゃ、信じられるのは司令だけだからな、この世界で…」

 

「……」

 

その事にアンジュは何も言えずにいた。

 

 

そしてキオ達は自室で待機する。キオは祖父であるアレクサンダーから受け取ったメモリーをパソコンに接続する。

 

「さてと、調べるか……『ゾハル』。」

 

キオは『ゾハル』と打ち、検索する。するとゾハルについてあらゆる説明欄と情報が表示される。

 

“ゾハル”───実数宇宙と虚数宇宙、次元の上位領域と下位領域を繋ぐ“窓“のようなものであり、莫大なエネルギーを発生させる機能を持つ金色の巨大なプレート状の物体。私はゾハルを見つけ、モーセの鏡を使い、ウルの影に隠した。

 

「ウルの影?」

 

“ウルの影”───並行宇宙には“影”という物がある。幻想大地“ウル”が光の世界となれば、対となる世界が存在する。それが“ウルの影”と言う影の世界がある。虚無の楽園、ウルの光とは異なる大地、正に影と言ってもいい世界……。だが、エンブリヲの創り上げた世界の前住人は…ゾハルの力を手に入れようと、陰で暗躍していた組織『陰族』と名乗った。

 

「……は!?」

 

陰族を束ねていたのは…かつて『斑鳩家』旧ミスルギ皇国初代皇帝と呼ばれた者。最高指導者に忠誠を誓っていたが、失脚された為か、ゾハルを手にしようと闇に堕ちた。私は…レイナスのモナドと愛機である“クロノス・デバイス”と“アイオーン・デバイス”、“ノルン・デバイス”を駆使し、彼を奈落の底に封印した。これを読んでいるとなら、私は死んでいるだろう。フェメル…ティオル…ココル……忘れるな、ゾハルは強大さは、エンブリヲをも赤子の手をひねるが如く、容易く殺す事ができる。決して彼を信用するな……。

 

───『You have not seen anything』───

 

 

 

まるで機密のような言葉が表示され、キオは思わず立ち上がってしまう。

 

「(どういう事だ?……今束ねている陰族の族長がサラのお母さんであるミレイで?そいつらを昔、束ねていた族長がアンジュの先祖!?ていうか!?これを書いたのが俺の本当の父親で!?どうしてじいちゃんが!?まさかじいちゃんもそいつと同じでゾハルを探している!?あ〜〜〜〜!!何がどうなっているんだ〜〜!!!!!!!!!!??????????)…………兎に角、話を整理してみよう。」

 

キオはそう思い、頭の中やメモで整理する。

 

 

 

・ゾハル──膨大なエネルギーを持つ金属のプレート状。

 

・ウルの影──ゾハルが隠されているウルの反対側の世界。

 

・初代ミスルギ皇帝──ゾハルを狙って、アデルによって倒された偽帝。

 

 

 

 

他にも『アイオーン』『クロノス』『ノルン』と言う完全に時を司る三位一体の神の名を持つデバイスでどうやって……。

 

「ん?」

 

すると他にも謎の三体のロボットの設計図が表示される。

 

「これは?……」

 

 

 

 

──【オーベロン】──

 

“フェルトメイル・デバイス”第一号。その名の通り、妖精王の名や造形を模っており、機体との合体が可能。

 

 

 

──【ティタニア】──

 

“フェルトメイル・デバイス”第二号。その名の通り、妖精女王の名や造形を模っており、機体との合体が可能。

 

 

 

──【ゴッド・イーター ─ キオ】──

 

 

【ゴッド・イーター ─ キオ】と言う謎の言葉に興味を示したキオはさらに調べる。すると……。

 

───『Or breaking the rule?』───

 

いきなり何かのタッチアイコンと書かれている文字が表示される。

 

「!?……何!?」

 

すると今度は、あらゆる関数が表示され、最後の文字に【証明しなさい】と。

 

「ざけんな、じいちゃん!!こんな大学院や政治家で習う様な数学を出して、何になるんだ!!?それともこれを解いて、他の情報を得ろか!?……やってやろうじゃないか!!!勿論!!ジルの企みも警戒しつつ!!」

 

キオは気合いを入れ、『合格』と書かれた鉢巻を頭に巻き、ペンと紙の束を持ち、関数のテストを解いていく。するとサラがノックする。

 

『キオ、居ますか?』

 

「いるよ、入って。」

 

サラは部屋に入ると、部屋の壁中に関数だらけになっていた。

 

「何なのですかこれは!?」

 

「じいちゃんお得意のスーパー関数を使ったパスワードだ。2時間掛けてついさっきやっと解けた…」

 

キオは頭を抱えながら悩む。サラも一緒に見ると、その情報にはサラやナーガ、カナメの龍神器の武装強化や専用システムの構造図、設計図が書かれていた。

 

「どうして、私達の使う龍神器までも!?」

 

「分からない、じいちゃんは冒険家で考古学者だって知っていたが、裏ではこんな情報を掻き集めていたなんて……。一体何を考えているのか。チッ!あのクソジジィ……こんな関数出したこと、覚えてろよっ!!」

 

最後の一文字を打ち、ようやくさっきの文字がが提示される。

 

「YESだろ……」

 

マウスを使い、【YES】のアイコンをクリックする。すると何故画面が暗くなる。

 

「ん?」

 

するとメモリからあるプレート状の物体が出てきた。

 

「これ…」

 

「それは!」

 

突然サラがプレート状を見て驚く。

 

「サラ?」

 

「この形……間違いありません。これはお母様が残した研究所の鍵……」

 

「鍵?」

 

「はい…」

 

「どうなってるんだ?」

 

キオとサラは自分達の親の秘密に疑問を抱くのであった。



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第28話:運命の決別・後編

そして翌日、キオ達はアンジュとタスクとサラと共にアウローラでジル達と作戦会議を開いていた。

 

「よく眠れたか?」

 

「えぇ…」

 

ジルがアンジュに眠った感想を聞き。

アンジュはそう答え、ジルが笑みを浮かばせる。

 

「それは結構…、ではお前たちに任務を与える。ドラゴンと接触、交渉し…エーテリオンと共同戦線の構築を要請しろ」

 

それにアンジュとタスクは驚きの表示を隠せず、達は無表情のまま聴き続けた。

 

「どうした?お前の提案通り、一緒に戦うと言っているんだ」

 

「…本気?」

 

「リベルタスに終止符を打つには、ドラゴンとの共闘…それがもっとも合理的で効率的だと判断した…」

 

それには流石のジャスミン達も驚きを隠せずだった。

ジルの話しを聞いたタスクは笑みを浮かばせながらアンジュの方を向く。

 

「アンジュ…!」

 

「うん!」

 

しかしその中でもキオは真剣な表情を保ったまま聞いて、ジルの真の目的を未来視で見通す。

 

 

エンブリヲと総裁“X”が率いるラグナメイル部隊とデウス・コフィン艦隊が居る場所、暁ノ御柱にエンブリヲ、要塞旗艦マデウスに総裁“Xに”居ることが判明し、そこにドラゴン達とエーテリオン共にミスルギ皇国に進行すると言う作戦。アウローラはドラゴン達の後方支援にあたり、ミスルギに向かうと……。

 

その作戦を聞いている中でアンジュがある事を問う。

 

「ねえ、そう言えばサリア達はどうするの?」

 

「何?」

 

「サリア達も撃つ落とすつもり?」

 

その事にジルは思わず鼻で笑う。

 

「フッ、持ち主を裏切る様な道具はいらん」

 

「道具って…!だってサリアよ!?」

 

ジルが道具と言った言葉にアンジュはそれに反応して言い、ジルは言い続ける。

 

「全てはリベルタスの為の道具に過ぎん。ドラゴン共も、アンジュも、私もな…」

 

「えっ?!ドラゴンも…!?」

 

「貴女…一体何をするつもりですか? 我が民に何をするつもりで!」

 

サラがジルを睨みながら言い、それをジルは少しばかり目を瞑り、キオがジルの方を見ながら言う。

 

「嫌な予感はしていたが、未来視の通りだ!!」

 

「ドラゴンと共闘…?ふはははははは!! アウローラの本当の浮上ポイントはここだ!」

 

っと机の画面にアウローラだけが浮上ポイントが違う場所であり、それにキオ達はそれに目を奪われる。

キオ達が驚いてる中で、ジルがアンジュに言う。

 

「エーテリオンとドラゴン共がラグナメイルとモビルスーツ部隊と交戦している間に、アンジュ…お前はパラメイル隊と共に暁ノ御柱に突入…エンブリヲを抹殺しろ!」

 

「はぁ~!?」

 

アンジュはジルのとんでもない作戦に驚きが隠せず、サラは思わず立ち上がる。

 

「貴女!!我が民を捨て駒にするつもりですか!?」

 

「切り札であるヴィルキスを危険にさらす様な真似はできんからな…」

 

「貴様、ここにいるエーテリオンを敵に回す事なるぞ。それに未来視はエンブリヲをも超越している。時空を司る奴でも、未来を見通す力なんてない!勿論、お前の作戦がこの先無様にやられる事も!!」

 

「……ならば、協力する気にさせてやろう」

 

っとジルはコンソールを操作して、壁のモニターにある映像を映す。

それは手足ロープで縛られ、口をテープで縛られたモモカの映像だった。

 

「モモカ!?」

 

「減圧室のハッチを開けば侍女は一瞬で水圧に押しつぶされる」

 

キラ達はモモカが捕らえられている映像を見て驚き、ジャスミン達はジルの行動に驚く。

 

「ジル!あんたの仕業かい?!」

 

「聞いてないよ!こんなの!!」

 

「アンジュは命令違反の常習犯、予防策をとっておいたのさ。侍女を救いたければ作戦を全て受け入れ!行動しろ!天の聖杯のドライバーであるキオ・ロマノフ!」

 

その時、アンジュが銃を取り出してジルに向ける。

 

「ふざけるな!!モモカを解放しなさい!!今すぐ!!!」

 

っと次の瞬間、ジルに銃を奪われて、アンジュはジルに腕を捕まれ引き寄せられて、ジルに盾にされて銃口を頭に付き付けられる。

 

「ジル!!」

 

ジャスミン達はジルの行動に驚き。

それにキオとタスクはモナドと刀を取り出して構える。

 

「ジル!いい加減にしろ!!」

 

「動くな!特にキオお前は一番警戒する奴であった、未来視と因果律予測で私やヴィルキスを導け!!そしてタスク、お前はヴィルキスの騎士。お前はヴィルキスを護れば良いのだ!」

 

「アレクトラ…!!」

 

もう完全に昔のジルではないと感じたタスクは何かの小型リモコンを取り出し、スイッチを押す。

 

そしてジルは苦しむアンジュに問う。

 

「さあ、お前の答えを聞こうかアンジュ」

 

「く…くたばれ!」

 

っとアンジュはジルに向かって唾をかけ、唾を掛けられたジルはアンジュを睨む。

 

「痛い目にあいたい様だなぁ…」

 

ジルがアンジュに拳を上げた途端、ジル達の身体が急に動かなくなり、ジャスミン達は徐々に意識が失っていった。

何とか意識を保っているジルは換気口を見て、換気口から何かガスが出ているのに気が付く。

 

「ガスか…!」

 

「未来視でガスを取り付けている俺たちの姿が見えたものだなぁ。その通りに従った。案の定だったけどな」

 

「貴様…!!」

 

「サラ!」

 

キオはサラにガスマスクを投げ渡す。タスクもアンジュにガスマスクを付けてやる。

 

「キオはヘルメットを被り、ジルを睨む。」

 

「テメェのやり方じゃ、エンブリヲやXには勝てない。心を入れ替えて、よく考えてみろ。」

 

そう言ってキオ達は部屋から出て、ジルはアンジュを抱え出ようとするタスクを睨む。

 

「タスク!貴様もか…!!」

 

「アレクトラ、もうあんたは俺の知っているアレクトラじゃない!」

 

「貴様!ヴィルキスの騎士が! リベルタスの邪魔をするのか!!!」

 

その事にタスクは真っ直ぐな目線でジルを見ながら言う。

 

「俺はヴィルキスの騎士じゃない…。アンジュの騎士だ!!」

 

それにアンジュは思わずタスクを見て、キオは振り向きながら笑みを浮かばせて出て行き。タスクもアンジュを抱えて出て行く。

ジルはふらつきながらも立ち上がり、怒り満ちた顔になって行く。

 

「惚れ付いたか…ガキが!」

 

っとナイフを取り出す。

 

 

 

 

モカが捕らえられている減圧室、モモカは自分ではどうにも出来ないと分かった所にアンジュが減圧室の扉を開く。

 

「モモカ!!」

 

「(アンジュリーゼ様!)」

 

アンジュがモモカを助け出した同時にキオ達はヴィヴィアンと合流した。

 

「ココ!ミランダ!?お前等…どうして?」

 

「だって…アンジュさんが心配で」

 

「私達も裏切ってしまいますが…行きます!」

 

その事にキオは渋々と考え、そして頷く。

 

「分かった!なら付いて来い!」

 

ココとミランダはそう頷いて、キオ達の後を追いかけキルグナスへと行く。

そしてキルグナスはアウローラとの連絡通路を外し、浮上して海面へと向かう。キルグナスの格納庫に到着したキオ達はそれぞれの機体へと向かう。

 

「また敵前逃亡か、アンジュ!」

 

皆が前を見ると、脚にナイフを刺して引きずりながらやって来るジルの姿がいた。

 

「ジル!」

 

「あいつ…自分の足にナイフを刺して眠気を覚ますとはな!」

 

「無茶苦茶だなおい…」

 

ジュン達はジルの行動に信じられない表情をしながら見て、ジルはアンジュを睨む。

 

「逃がさんぞ…アンジュ! リベルタスを成功するまではな!」

 

ジルは刺しているナイフを抜いて構える。

 

「いい加減にしろ!!お前はどこまでアンジュの意思を弄ぶつもりだ!!」

 

「道具に意思など要らん!!」

 

「勝手すぎる……!!」

 

完全にアンジュをボロ雑巾に使い続けるジルにキオの怒りがますます上がって行く。

アンジュはジルの完全な復讐心に囚われている事に嫌気が出る。

 

「私の意思を無視して戦いを強要するって…人間達がノーマにさせている事と一緒じゃない!!」

 

「命令に従え…司令官は私だ!!」

 

「人間としては屑だ…お前は!!」

 

そしてアウローラとキルグナスが海面へと浮上し、艦内にサイレンが鳴り響く。

 

「アンジュ……コイツの相手は俺がやる。」

 

「大丈夫なの?」

 

「心配するな、俺には……馬鹿みたいなこのテレシアの姿がある!!」

 

キオは半身テレシア化し、ファイティングポーズをとる。

 

「お前が勝ったら、俺を煮るなり焼くなり好きにしてもいい。皆は下がっててくれ」

 

ジルはナイフを構えてキオを斬りにかかるが、避けて蹴りを放つ。

互いの攻防が続くが、ジルはキオに強く言う。

 

「人間の皮を被った怪物が!!そんなお前だからこそ、リベルタスを成功させるために必要なんだ!!」

 

「彼女達を道具にしか考えないお前が言うな!!」

 

キオはジルの腕を掴んで投げ飛ばすが、ジルは両手をついて一回転して着地する

 

「それでも俺とアンジュも復讐の道具にならねぇぞ!!アレクトラ・マリア・フォン・レーベンヘルツ!!」

 

「っ!!黙れぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

鋼の義手がキオの頰に炸裂した。

 

「キオ!!」

 

サラが心配する中、キオは鋭い眼差しでジルの腹部に強烈な一撃炸裂する。意識が朦朧としかけているジルだが両膝をついて倒れた。

 

「俺たちは自分の意思で歩む。勿論、この戦いもだ……お前のやり方だと、サラとの約束を壊す事にもなるからな!!」

 

キオがジルに向かってサラとの約束を守っている事を告白した。

 

「キオ…」

 

サラはキオの言葉に嬉しくなると、意識が薄れようとするジルはボロボロになっても立ち上がろうとする。

 

「私は……私は!」

 

「もうやめな!ジル!」

 

突然の声にキオ達は振り向くと、マギーに支えられやって来るジャスミンが居た。

 

「ジャスミン、どうやって此処に?」

 

「あんた等が連絡通路を切り離す前に何とか目が覚めて、切り離す直前に行き此処に来たのさ」

 

そうキオに言うジャスミンは倒れているジルに言う。

 

「ジル、あんたじゃキオに勝つ事は出来ないよ…。戦って分かるだろう」

 

聞いたジルは歯を噛みしめながら悔しがり、そのまま意識が途切れてしまう。

海面に出たアウローラとキルグナスは格納庫ハッチが開く。

 

「これからどうするんだい?」

 

「もう決まっている。俺達がリベルタスをやる」

 

「あの人のやり方は間違ってはいたけど、やっぱりノーマの解放は必要だもの…。私達がやるわ、リベルタス」

 

「ああ、俺達を信じてくれる人たちと……俺達が信じる人たちと一緒にね」

 

キオ、サラ、アンジュ、タスクがそう言ってジャスミンは笑みを浮かばせる。

ココとミランダはキオ達に言う。

 

「あの!私達この艦に居ればいいですか!?」

 

「ああ、俺達はあっち側に行くから、ココはエルマ大佐達と居てくれ。みんなを守るために。」

 

ココ達はキオの言葉にちょっと間を空けて黙り込む。

 

「何、心配するな。妹を置いていく兄ちゃんが何処にいる?必ず戻ってくる。約束な♪」

 

キオは小指を立て、ココと約束する。

 

そしてキオ達はそれぞれの機体に乗り込み、発進する。

 

「さて、アンジュ!お前撃つけど良いか?」

 

「えぇ、お願い!」

 

キオはエーテルライフルを向けたその直後、ワームホールが開き、キオの目の前にマデウスが現れる。

 

《っ!!!!!》

 

キオ達は総裁“X”の総旗艦が現れた事に驚く。するとマデウスから総裁“X”の声が聞こえてき出す。

 

『愚かな天の聖杯のドライバー……ティオル・ミラ・エルダー。大人しく我に空のゾハルを渡せ。そして皇女アンジュリーゼに宿りしヒカリと龍の姫巫女に宿りしホムラ、ココル・マシーナ・エルダーの機のゾハルもだ。渡さなければ、これから見せる我のマデウスに恐怖し、絶望するだけだ。』

 

マデウスの各部が光だす。すると各部が変形し始める。各部の対空レーザーが寄り集まり、主砲へと変わる。右腕部にレーザーガトリングが集まり、左手に強力なシザーを持つビーム砲、そして独特としたフォルム、最後に艦橋が頭部へと変わり、巨大な要塞ロボットへとなった。

 

「あれは!!!」

 

「デカ!!!」

 

「ありえない、あのような戦艦が……巨大なロボに!?」

 

「総裁“X”!!!」

 

キオ達は巨大ロボットに変形したマデウスを睨むのであった。



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第29話:Xの正体

最後ら辺でクロスオーバーになります!!!


ジルの企みに反抗し、サラ達の世界へ飛ぼうとしたキオ達の目の前に、変形した総裁“X”の総旗艦マデウスが立ち塞がる。するとマデウスから二機の機影が猛スピードでアンジュ達の横を通り過ぎる。それはエルシャが乗るレイジアとクリスのテオドーラであった。

 

ラグナメイル達はアウローラとキルグナスを襲撃し、攻撃を仕掛ける

水柱が幾度も上がり、船内が大きく揺れだす。

 

「皆、しっかりしな、敵襲だよ!!」

 

ジャスミンはガスで倒れている皆に言う。キルグナスはMacガンで応戦する。しかし、マデウスの傾向リフレクターシールドにMacガンのコイル弾が無効であった。エルマ大佐は厳しい表情でマデウスを睨む。

 

「やはり、私達の科学力を超えている。どうやって破壊すれば……」

 

エルマがそう考えている中、キオ達はラグナメイルと交戦する。

 

「やめなさい!!」

 

アンジュはヴィルキスを操縦して、バスターランチャーを持ってラグナメイルと交戦する。

 

「アンジュ機とキオ機、敵パラメイルと交戦中!!」

 

「誰のせいでこんなことになったのか……わかってんのかねぇ。まったく」

 

ジャスミンは呆れ、アウローラの舵をとる。キオとタスクはエーテルライフルとマシンに搭載されているマシンガンで交戦する。サラやヴィヴィアンもラグナメイルと応戦する。しかし、タスクの方はモモカを乗せているため、不利があった。ヴィヴィアンがタスクのマシンをキャッチし、プーメランブレードでクリスに向けて投げる。

 

「飛んでけ!ブンブン丸!!」

 

プーメランブレードが回転しながら、アンジュを援護する。しかし。

 

「駄目でしょ、ヴィヴィちゃん」

 

冷酷な言葉を言うエルシャが、ビームライフルでヴィヴィアンのレイザーに直撃した。

 

「モモカ!!」

 

爆発でタスクのマシンから放り出されたモモカが振り落とされた。

 

「きゃああああああああああ!!」

 

「しまった!!モモカさん!!」

 

「マナ!!マナの光!!マナの光よ!!」

 

慌ててマナの光をスカートに集中させて、パラシュート替わりにして落下を減速させる。キオはフレシキブルアームからビームを放ち、マデウスを攻撃する。しかし、リフレクターシールドによって霧散される。するとマデウスから群体を形成して、突撃する無数の機影がセイレーンに向かってくる。

 

「っ!!?」

 

キオはエーテルライフルで迎撃するも、群体で行動する無人兵器『ゴースト・フラップ』に苦戦する。ゴースト・フラップは群体で蛇のように動き、増え続ける。

 

「キリがない!!」

 

フレシキブルアームからビームソードを展開しつつ、ゴースト・フラップに切り攻撃を入れるが、ゴースト・フラップはこれを余裕で回避し、セイレーンを囲む。

 

「キオ!!」

 

ゴースト・フラップに囲まれたキオはモナドを解放し、ゴースト・フラップの機能を停止させた。

 

「ハァ!ハァ!ハァ!」

 

だがその直後、上空からビームがセイレーンの右フレキシブルアームを破壊する。

 

「っ!!?」

 

上空を見たキオはそれを見て驚く。何と、さっきのビームを放ったのは自分の機体であるセイレーンであった。しかも、そのセイレーンが何百体もいた事に……。

 

「セイレーン!?」

 

多数のセイレーンはキオのセイレーンに目掛けて、フレシキブルアームを展開し、レーザーポインタで照準を合わし、『セイレーンバスター』を一斉に放つ。

 

「っ!!!」

 

キオは急いで回避し、エーテルライフルを放つ。セイレーン部隊は散会し、キオに迫る。だが多勢に無勢、キオのセイレーンはセイレーン部隊に破壊される一方であった。キオはヘルメットバイザーが割れ、額から血を流していた。

 

「セイレーン……」

 

キオは自分のセイレーンを見る。赤ん坊の頃のキオと一緒にこの世界へと転移し、共に戦ってきた相棒でもあった。

 

「最後まで…俺と付き合ってくれてありがとうな…」

 

キオはセイレーンに感謝する。そしてセイレーン部隊が一斉にセイレーンバスターを放ち、キオのセイレーンをついに破壊した。そして爆煙の中からテレシア化したキオが吼える。

 

「『行くぞ!X!!!』」

 

キオはエーテルストームでセイレーン部隊やゴースト・フラップを薙ぎ払って行く。するとマデウスから総裁Xのゴルドフェニキス・デバイスが現れ、キオとぶつかり合う。

 

「『総裁X!!!』」

 

キオは鋭い爪でゴルドフェニキスに襲い掛かる。しかし、総裁Xはゴルドフェニキスに搭載されている神託杖『ゴルディオン』を取り出し、余裕で攻撃を弾く。

 

「『何!!?』」

 

テレシア化しても勝てない事に驚くキオ。総裁Xはテレシア化したキオの首を締め付ける。

 

「お前は我には勝てない。フェメルから聞いているだろ……。」

 

「っ!!!」

 

キオは振り解こうと抗うが、ゴルドフェニキスの握力はさらに増す。

 

「キオ!!」

 

っとそこにサラの焔龍號がバスターランチャーを向けて乱射する。

 

「邪魔だ……失せろ。」

 

総裁Xがサラを睨み、手を指し延ばす。するとマデウスの頭部の口部が開き、メガ・バスターを放とうする。すでにレーザーポインタが焔龍號にターゲットする。

 

「サラ!!くっ!!!」

 

キオはさらに抗い、ようやく離れ、サラの所へ向かう。マデウスのメガ・バスターが放たれた直前、キオは焔龍號を押し払った。

 

「キオ!!」

 

「ごめん、サラ……」

 

キオはそう告げ、メガ・バスターのメガ粒子砲を受ける。キオの体がメガ粒子の熱によって溶けて行く。まるでメルトダウンの様に。キオの無残な姿にサラは叫ぶ。

 

「キオォォォォォォ!!!!!」

 

溶けた体が徐々に再生するも、キオにとっては最大の一撃でもあった。キオはぼやけながら目の前を見る。総裁Xが近づき、キオの頭を掴む。

 

「ああああああああぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」

 

「貴様には未来視や因果律予測の力は重すぎる……」

 

するとXの力がキオを侵食していく。キオはもがき苦しむ中、キオの胸にとてつもない熱を感じる。それはゴルドフェニキスの手がキオの心臓をそのまま貫いていた。そしてその手には青く輝くコアクリスタルと紫のコアクリスタルを持っていた。

 

「我が貴様の養父母を素直に返した理由を教えてやろう。関わる重要な人物と秘密の記憶を抹消した。だから、お前の全てを抹消する!!さらばだ……“我孫”よ!!!」

 

総裁Xから放たれた言葉に、サラ達は驚く。

 

「嘘……」

 

「総裁Xが……キオの?」

 

アンジュ達が驚いている最中、キオの胸を貫いているゴルドフェニキスの腕部の装甲が展開し、内部に搭載されている零距離兵器『レイジング』が爆裂されキオの臓器を焼き尽くした。

 

「『グァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!………………………………………』」

 

キオは断末魔の叫びを上げ、徐々に声が聞こえなくなる。彼の瞳に輝きを失い、アルヴィースとメツの輝きが黒へとなる。

 

「常しえに堕ちしエルダーの皇子よ、虚無の世界に追放せり!!」

 

するとゴルドフェニキスの周りにオラクル達が現れ、それぞれの神託杖を構え、聖なる鉄槌を下した。

 

《ロンギヌスの槍!!》

 

七つの聖槍が現れ、キオの四肢と目、喉、耳に突き刺さる。最後に雷撃が降り注ぐ。

 

《天界の神罰!!!!》

 

ロンギヌスの槍を伝って、膨大なエーテル粒子を放出する稲妻がキオに降り注ぐ。キオの体は今、四肢と目が無くなっている状態へとなっており、ゴルドフェニキスが燃え盛る不死鳥の炎を纏った拳をキオの顔面に炸裂した。

 

「聖天使の拳!!!」

 

炸裂したキオはそのまま天高くまで飛ばされ、見えなくなる。

 

《キオ!!!!》

 

アンジュ達が叫んでいる中でサリアのクレオパトラが現れ、ヴィルキスのコックピットカバーを強引に剥がし、アンジュは前を見るとサリアが出て来て銃を構えた。

 

「さようなら、アンジュ」

 

アンジュに胸に一発の銃弾が撃ち込まれ、アンジュは倒れてしまい海へと落ちて行く。

 

「(な…なんて様なの…、依りによってサリアにやられるなんて…)」

 

そう思いつつアンジュは意識を失う。

 

 

───────────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

その夜、エルマ大佐が何とかエリュシュオンと通信し、報告していた。モニターに映っているモーリス行政長官が悲しい表情をする。

 

「何て事だ……。」

 

「現在、キオの遺体を捜索中です。ですが、何処まで飛ばされたのかは分かりません。そしてアンジュちゃんが連れさらわれて、アウローラ内では混乱状態です。」

 

「……それで、近衛中将殿は?」

 

「……部屋に引きこもりっきり。」

 

「無理もない……大切な人が、目の前で殺された。」

 

「…………」

 

「……ま、お前も無理をするな。報告は以上か?」

 

「はい………」

 

エルマは悲しい表情で通信を切る。

 

 

 

ココはサラの部屋をノックする。

 

「サラマンディーネさん……義姉ちゃん。ご飯持ってきた……」

 

『………………………………』

 

「……ここに置いておくね。」

 

ココは配給食をドアの近くに置き、跡を去る。廊下の陰にはエルマ大佐やリン、イリーナ、グインやヒルダ達がいた。

 

「どう?」

 

リンがココに問う。しかし、ココは首を左右に振る。

 

「そうですか……」

 

「もしお兄ちゃんが死んでたら……私……私……!!」

 

ココは唯一のここにいる肉親が居なくなってしまう事に、泣き崩れる。

 

「ココさん、泣かないで。キオさんはきっと何処かに生きていますよ!!だって、キオさんは数々の困難もあっという間に解決したのですから!!だから!!」

 

リンも涙目でキオを心配する。エルマはリンの頭を撫でながら、サラの部屋を観察する。

 

サラの部屋の中は物が荒れ、壁にはドラゴンの爪で傷つけた跡があり、サラは引き裂いた毛布に包まっていた。

 

「…………キオ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、血だらけのキオは何処かの空間に放り出されたいた。四肢は亡くなり、肉は腐り、潰された盲目と耳と喉、胴体と心臓がある位置の胸には風穴が空いおり、空間を彷徨っていた。やがてキオの亡骸は黒き穴『ブラックホール』に吸い込まれ、運良くホワイトホールへと投げ出される。数時間後、ちょうどそこにある巨大戦艦が通り、キオの亡骸を回収する。

 

艦内の廊下、人工呼吸器と大量の輸血パック、内蔵させたメディカルカプセルの中、人工バイオ液でキオの体が徐々に再生していく。

 

「治るか?」

 

「重症です。ブラックホールから出てきたと考えられます。治療まで精々100年も掛かります。」

 

医師と和風の服を着た老人がキオを見ていた。

 

「……異なる世界からか。」

 

老人はメディカルカプセルのガラスに触れる。

 

「陛下、まさかその若者を“弟子”にするつもりですか?」

 

「……そのつもりだ。」

 

「正気ですか!?共和国条約第一条“未開惑星保護条約”の違反者になりますよ。」

 

「それでもだ。私の師匠……初代ヴァルキュリアス総統『陽弥・ギデオン』なら、こうやっている。こんな状態になってまでも、護りたい者があるのだから、この若者には……。」

 

「クアンタ人の力……クアンタムシーカーの力ですか?」

 

「そうだ。我らがこの若者に限界を超えさせる。」

 

「……分かりました。大宇宙共和国最高議長とヴァルキュリアス連邦大統領には伝えておきます。元神聖クアンタ帝国皇帝『勇人・ブリタニア・クアンタ』陛下……。」

 

「陛下はよせ……今の皇帝は我が息子である一輝だ。」

 

「御言葉ですが、勇人陛下。私は常にあなたの左腕ですから……勿論、“彼”…『グレイス』先輩に負けませんから。」

 

「フフフ♪……そうか、ならグレイスも呼んだ方が良いな。」

 

勇人と名乗る皇帝は故郷であるクアンタ星へ向かい、キオを集中治療をするのであった。




キオと勇人……ついに出会いました。キオは果たしてサラの元へ戻れるのでしょうか!!


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第30話:弟子入り

クアンタ帝国直属医療センター。キオはメディカルカプセルの中にいた。元皇帝である勇人と惑星サーベラスの守護神『グレイス』も来ていた。

 

「この子が噂の異界から来た子ですか?」

 

「そうだ。」

 

「何故、宇宙空間に放り出されていたのでしょう?」

 

「分からない……ただ、言える事は一つ。彼が今まで見てきた物の記憶が全くないのだ。」

 

「全くない?」

 

グレイスがその事に興味を持つと、勇人は深く頷く。

 

「どうやら、この若者の世界は、大変な事になっているかもしれない。それと、この若者の懐の中に、この様なメモリーが入っていた。」

 

「……それで僕を呼んでのですね?」

 

「その通りだ。お前の力とサーベラスの古代技術なら、解読出来るはずだろ?」

 

「……仕方ありませんね、分かりました。」

 

グレイスは右腕のコンピューターガントレットを開き、メモリーを装着させ、解読を始める。メモリー内に入っているその世界の技術、文明、組織、記録を見る。

 

「フム……これは相当な事が記録されているなぁ。」

 

「ゾハル……ザ・コアとザ・シード、勇人さんのザ・ライフと同じ特質なエネルギーを持つ万能の力。古代神も想像してしまう程ですね。」

 

「……それと、このアイオーン・デバイスとクロノス・デバイス、ノルン・デバイスやオーベロンとティタニア……この五体の神話に出てくる物であり設計図、未完成じゃないか?」

 

「……ひょっとしたら。」

 

グレイスは5枚の設計図を並び替え、一枚に重ねていく。そして出来たのは想像絶する程の完璧な機体の設計図へとなった。

 

「5枚の設計図が一つに……何だこれ!?」

 

「龍神器やこのドールとデバイス、そしてパラメイルとラグナメイルを掛け合わせていますね。まるで僕のゼロメイルの様に。」

 

「…良し、この設計図を元に、新しい機体の開発と改良しよう。」

 

「え!?勇人さん、それコストが高くなりませんか?」

 

「……構わん。パラメイルやラグナメイル、オメガメイル、パンドラメイル、インフィニットメイル、ゼロメイルのデータを全て、この設計図を元に作り上げた機体に注ぎ込む!!……面白いじゃないか!!」

 

「……それ完全に“神様”超えちゃってますよ。後でカオス様に知られても無視しますから。」

 

「ハハハ……心配ご無用!」

 

勇人は張り切り、胸に拳をぶつける。グレイスは呆れ、デバイスの元となる物を探しに、フリューゲルスでキオのいた世界へと次元跳躍する。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…様……リーゼ様!アンジュリーゼ様!」

 

「っ!!」

 

呼ばれた事に驚いたアンジュは思わず飛び起きる。

周りを見るとかつて自分が過ごしていた豪華な部屋であった。

アンジュは呼ばれた方を見るとモモカが居た。

 

「モモカ…?」

 

「良かった!アンジュリーゼ様!無事でなりよりです!」

 

「どうして……?それにここは……」

 

「はい!ここは【ミスルギ皇国】です!」

 

モモカが言った言葉にアンジュはベットから下りて窓を見る。

目の前にアケノミハシラがあり、モモカの言う通りアンジュとモモカが居るのはミスルギ皇国であった。

 

「お、おおおおおー…本物のシルク! スベスベー!」

 

「一人で履けるってば」

 

全裸になったアンジュがそう訴えた。このやり取りが示すように、アンジュは今着替えの途中なのである。

 

「いけません! 皇宮の中では、私のお世話を受けていただきます!」

 

「じゃあ早くして。スースーする」

 

「はい!」

 

無駄に気合の入った返事とともに、モモカがアンジュに服を着せていく。そうしながら、

 

「また、帰ってきたんだ…」

 

何とも表現しがたい気持ちでアンジュが呟いた。何と言っても、妹のシルヴィアに騙されて処刑されかけて以来の帰還なのだ。正直、全てが終わりでもしない限りはもう二度と足を踏み入れることはないと思っていた場所なのだから当然かもしれないが。

 

「でも、どうしてサリアが私たちをここに?」

 

「わかりません。私も、目が覚めるとこちらにいましたので」

 

別に答えは求めていなかったのだろうか、アンジュはそのまま視線を落とす。と、不意に先ほど銃弾を受けた胸元が目に入った。

 

(何がさよならよ。ただの麻酔銃じゃない)

 

内心で悪態をつくアンジュ。と、あることを思い出した。

 

「タスクとヴィヴィアンは無事かしら」

 

ようやくそれに思い至り、アンジュは心配そうに二人を慮った。意識を取り戻してから、何処にもその姿が見えないのだ。

 

「きっと無事です。あのお二人は、お強いですから」

 

「そうね…」

 

気休めではなく、心からそう信じているモモカの口調にアンジュもクスッと笑った。時を同じくして、アンジュの着替えが完了する。

 

「はい、宜しいですよ」

 

「よし」

 

姿見の前で自分の姿を確認したアンジュは不敵な笑みを浮かべると、先ほどのクローゼットへと駆け寄り、引き出しを開けた。そして、そこにある万年筆やペーパーナイフを手に取る。

 

「本当は、ライフルかグレネードが欲しいところだけど、ないよりはましね」

 

そう言いながら、それらを身体の各所に仕込む。

 

「アンジュリーゼ様、何を…」

 

主人の行動に、モモカの瞳が不安げに揺れた。

 

「襲撃よ、この手紙の送り主のところに」

 

当然のようにそう言うアンジュの背後から、

 

「それは許可できないわね」

 

そう言って室内に入ってきたのは、誰あろうサリアその人だった。左右にはターニャとイルマの姿もある。

 

「貴方はエンブリヲ様の捕虜よ。勝手な行動は許さないわ」

 

「エンブリヲ様…ねぇ」

 

少し呆れた口調でアンジュが呟く。

 

「何があったの、一体? あんなに司令が大好きだった貴方が」

 

「別に。目が覚めただけよ」

 

人間たちがアルゼナルを襲ったあの日、アンジュに負けて海に墜とされたサリアは薄れゆく意識の中で絶望から諦観に達していた。

 

(墜とされちゃった…。お似合いよ、ジルに捨てられ、アンジュに負けた私なんか…)

 

涙も出ないほど打ちひしがれ、コックピットは海水で満たされていく。脱出しなければ溺死するだけだが、それすらももうどうでもよくなっていた。そんな時だった。

 

『それは違うよ、サリア』

 

誰かの声が脳内に響く。それに導かれるように目を覚ましたサリアはミスルギの皇城にいた。そして目を覚ました彼女の目の前にいたのが、エンブリヲだったのだ。

 

『君は、自分の価値をわかっていない』

 

目を覚ましたサリアに、そう優しい言葉をかけたのだった。

 

「あの方は、私を救ってくれた」

 

「私を生まれ変わらせてくれた」

 

サリアの脳裏に、ここに来てからの数々の丁重な扱いが蘇る。

 

「アレクトラは、最初から私を必要なんてしていなかった」

 

「いくら頑張っても、決して報われることはなかった」

 

「でもあの方は…」

 

いつかの夜。皇城のテラスでのことを思い出す。

 

『君の美しさ、君の強さ、君の価値は、私が誰よりもわかっている』

 

『この世界を変えるために、力を貸してくれるかい? サリア』

 

その言葉と共にエンブリヲから指輪を送られ、サリアはこうして寝返ったのだった。

 

 

 

「私は見つけたの。本当に護るべき人を」

 

指輪をはめた手を目の前にかざすと、うっとりとした表情になる。

 

「エンブリヲ様の親衛隊。名付けてダイヤモンドローズ騎士団。私は騎士団長のサリアよ」

 

「ダイヤ…モンド…」

 

「長っ」

 

はぁ…と言った感じでモモカが呟き、アンジュは呆れた表情で一言で切って捨てた。

 

「要するに、路頭に迷っていたところを、新しい飼い主に拾われたってことね」

 

「…っ!」

 

身も蓋もない言い方だが図星を突かれた自覚はあるからだろうか、サリアが言葉に詰まる。

 

「でも、貴方に司令を捨てる勇気があったなんてね」

 

薄ら笑いを浮かべてそう言ったアンジュにサリアが歩み寄ると、その頬に平手を見舞った。

 

「アンジュリーゼ様!」

 

当然、モモカが声を上げる。

 

「今度侮辱したら許さないわ!」

 

力強くそう宣言すると、サリアは先ほどと同じようにその手を目の前にかざした。ただ、先ほどとは違って指輪をアンジュに見せつけるように手の甲を外側に向けて。

 

「私はエンブリヲ様に愛されているの。誰にも愛されていない貴方と違ってね」

 

「それは良かったわね!!」

 

アンジュは瞬時にサリアとの距離を詰めると、万年筆で彼女の左胸の下の辺りを突いた。それに怯んだのを逃さず、腰のホルスターに収まっていた銃を奪う。

 

「「騎士団長!」」

 

イルマとターニャが慌てて銃を抜くが、アンジュは即座に発砲するとイルマの銃を弾き、そのままターニャとの距離を詰めると彼女の腹に蹴りを見舞った。

 

「アンジュ!」

 

サリアもアンジュに襲い掛かるが、アンジュは向かってきたサリアの勢いを利用してそのままベッドに投げ飛ばした。

 

「きゃあっ!」

 

ベッドの上に叩きつけられて思わず悲鳴を上げるサリア。アンジュはそんな彼女を睥睨しながら口を開く。

 

「弱っ。サラ子に比べたら弱過ぎよ」

 

「っ!」

 

「ネーミングセンスも壊滅的だし、大体何?その格好。…プリティサリアンの方がよっぽど似合っていたわよ。」

 

そこでアンジュはモモカに振り返る。

 

「行きましょ、モモカ」

 

「はい!」

 

アンジュはそのままモモカを連れ立って部屋を出て行く。

 

サリア達はアンジュを追うが、その時にはもうアンジュたちの姿はどこにも見当たらなかった。

 

「どこに消えたの!アンジュ!」

 

サリアが周囲を見渡す中、アンジュとモモカは廊下に設えられていた抜け道へとその身を潜らせていた。

 

「残念。ここ、私の家なのよね♪」

 

不敵にほほ笑むアンジュと苦笑いするモモカのコンビが実に対照的だった。

 

 

 

 

 

「ママー、かくれんぼ!」

 

「ダメ!お絵描きが良い!」

 

皇城からの脱出に成功したアンジュが物陰から様子を窺っている。が、そこにいるのは見たことのある顔ぶれだったが、それも当然のことだろう。何故ならそこにいたのはアルゼナルの幼年部の子供たちだからだ。

 

「こらこら、喧嘩しないの」

 

そんな中に、落ち着いた雰囲気の声色が一つ。子供たちの中に混じっているその声の主は当然、エルシャだった。と、

 

「あ、アンジュお姉さまだ!」

 

子供のうちの一人がアンジュに気付いた。それを皮切りに、他の子どもたちもアンジュを取り囲むように集まってくる。

 

「えー?あ、ホントだ!」

 

「アンジュお姉さま、いつ来たの?」

 

「お姉さまも騎士団なの?」

 

無邪気な子供たちに、アンジュも思わず顔が綻ぶ。が、

 

「あらあら、アンジュちゃんを追い詰めるなんて、みんなやるわね」

 

聞こえてきたその言葉に、アンジュは綻んだ表情を再び引き締めなおした。

 

「エルシャ…」

 

そこには、何一つ変わらないエルシャがいた。ただ一つ、立場が違うということを除けば何も変わらないエルシャが。

 

 

 

「エンブリヲ幼稚園?」

 

思い思いに子供たちが遊んでいるのを眺めながら、アンジュ、モモカ、エルシャの三人は円卓を囲んでお茶をしていた。

 

「そ。私、園長さんなの」

 

変わらぬ優しい笑顔で微笑むエルシャ。

 

「本当は、アルゼナルの子どもたちみんな連れてきたかったんだけどね…」

 

そこまで言ってエルシャの表情が曇った。その脳裏には、人間が侵攻してきたとき犠牲になり、救えなかった子供たちのことが浮かんでいるのだろう。その表情のまま、エルシャは子供たちへと顔を向ける。

 

「ねえ、信じられる? あの子たちね、一度死んだの」

 

『えっ!?』

 

流石にこれには驚きを隠せず、アンジュとモモカが同時に驚愕の声を上げた。

 

「それを、エンブリヲさんが生き返らせてくれたのよ」

 

「生き返…らせた?」

 

「そんなの、マナの光でも不可能です」

 

特にモモカはマナが使えるからだろうか、余計に信じられないといったような表情を浮かべていた。が、そんなことはエルシャにとってどうでもいいのだろう。彼女にとって大切なのは子供たちが生きているということなのだから。

 

「エンブリヲさんがね、あの子たちが安心して暮らせる世界を創るんだって。私は、それに協力するって決めたの」

 

「あの子たちを護るためだったら何だってやるわ。人間どもの抹殺だって、アンジュちゃんを殺すことだってね」

 

「っ!!エルシャ…」

 

エルシャの目が少しだけスッと細くなった。その表情から、アンジュはエルシャが本気でそう言っていることを悟る。と、ボールを追いかけていた子供の一人が転んでしまった。

 

「あらあら、大変!」

 

エルシャは急いで立ち上がるとその子に駆け寄って抱き上げ、優しく抱きしめる。

 

「…行きましょう、モモカ。エンブリヲを探さなきゃ」

 

その姿に、色々と思うことはあっても足を止めるわけにはいかない。複雑な思いを胸に秘めながらも、アンジュは円卓から腰を浮かせた。と、

 

「一緒に来る?」

 

不意に、何処からか声が聞こえた。アンジュとモモカが振り返ると、そこには木の陰から出てきたクリスの姿があった。

 

「クリス…!」

 

こうなることはある程度は予想していたものの、やはり戸惑いは隠せなかった。

 

 

 

 

 

皇城のとある廊下。そこを、クリスに先導されながらアンジュとモモカが歩いている。

 

「ねえ、クリス」

 

聞きたいことがあるのだろうか、アンジュが話しかけた。が、

 

「無理に話しかけないでいいよ」

 

にべもなく、クリスはそう答えたのであった。

 

「え?」

 

「どうせあんた、私に興味ないでしょ?」

 

戸惑いの表情を浮かべるアンジュ。そう言われたのもそうだが、以前までのクリスとは明らかに違った雰囲気を感じたのも、戸惑いを感じた大きな原因だった。

 

「怒ってたわよ、ヒルダたち」

 

そう話し掛ける。が、

 

「怒ってるのはこっち」

 

クリスは苦虫を噛み潰したような表情になって、言葉通り怒りの感情をあらわにした。

 

 

「私のこと助けに来るなんて言って、見捨てたんだよあいつら」

「……」

 

そう返され、アンジュは何も答えられなくなってしまう。実情はどうか知らないが、結果的にそういう結果になってしまったのだろう。

 

「でも、エンブリヲ君は違う」

 

そのことは、クリスが続けたこの言葉でも明らかだった。

 

「命懸けで私を助けてくれた。私と仲良くなりたいって言ってくれた」

 

先ほどの怒りの表情から一転、クリスは嬉しそうに微笑みを浮かべていた。

 

「本物の、友達…」

 

「……」

 

その言葉、その雰囲気に、アンジュはますますクリスに何も言えなくなってしまった。

 

「あの、アンジュリーゼ様。そのエンブリヲ様と言うのは、どちら様なのですか?」

 

おずおずとモモカが、今更な質問をしてきた。

 

「あれ? 聞いてないの?」

 

「慈善事業家か、カウンセラーの方でしょうか?」

 

「神様…らしいわ」

 

「はぁ…」

 

返ってきたアンジュの返答にどう反応していいかわからず、モモカはそう答えることしかできなかった。

 

 

図書室。…いや、皇城内だから蔵書庫とでも言うべきだろうか。クリスに案内されてきたそこに足を踏み入れたアンジュとモモカ。と、室内に入った瞬間、場にそぐわない音が二人の耳朶を打った。

 

「この役立たず!」

 

その罵声と共に聞こえてきたその音は、鞭で人を鞭打つ音だった。その直後、くぐもったような悲鳴が二人の耳に入ってきたことからもそれは明白だった。

 

「これは四巻ではありませんか!私が持ってこいと言ったのは、三巻です!」

 

そこにいたのは、全裸にされて猿轡を噛まされて手錠を嵌められたリィザと、そのリィザを鞭打つシルヴィアだった。

 

「この私に毒を盛るなんて、おじ様が助けてくれなければ、一生目が覚めないところだったのですよ!」

 

「うっ!ううーっ!」

 

猿轡を噛まされているために当然言葉は話せないのだが、リィザの目は光を失ってはいなかった。鞭打たれるたびに鋭くシルヴィアを睨み付ける。

 

「口答えをしない!」

 

それが余計に腹立たしいのだろう。シルヴィアは更にリィザを鞭打つ。

 

「おじ様のお情けで生かしてもらっていることを忘れたのですか!? このトカゲ女!」

 

シルヴィアからの苛烈な折檻に、引き続き声にならない悲鳴を上げるリィザ。

 

「り、リィザ!?」

 

思いもかけない二人の姿に、アンジュが戸惑いながら呼び掛けた。

 

「うぅっ!?」

 

アンジュの姿を見たリィザは声にならないながらも驚きに目を剥き、そして、

 

「きゃあああああああーっ!」

 

恐怖の表情に顔を歪ませたシルヴィアは一瞬でアンジュから距離を取ったのだった。

 

「シルヴィア…」

 

今までの経緯からこういう態度を取られるのはわかっていたことだが、それでもアンジュは悲しそうな表情になる。

 

「殺しに来たのですね、私を! お父様を、お母様を、お兄様を殺め、最後に私を殺しに来た! そうなのでしょう!? 来ないで、この殺人鬼!」

 

経緯が経緯とはいえ、まあ実の姉に浴びせるような言葉ではない文言のオンパレードである。あの兄貴はともかく、草葉の陰で両親が泣き崩れていてもおかしくはない。(本当は皆んな生きているのに…。)

 

「ちょっと、話を!」

 

「助けてください、おじ様! おじ様ーっ!」

 

「おじ様…?」

 

誰のことを指しているのかわからず、怪訝な表情になるアンジュ。と、

 

「見つけたわ、アンジュ!」

 

サリアたち三人がアンジュを拘束するためにここに入ってきた。アンジュが厳しい表情になって彼女たちに銃口を向ける。そんな緊迫した空気を、

 

「姦しいねえ」

 

誰かが破った。聞き覚えのあるその声の主にアンジュは視線を移す。

 

「読書中は、少し静かにしてくれるとありがたいのだが」

 

「エンブリヲ…」

 

睨み付けながらその人物…中二階にいたエンブリヲの名前をアンジュは呟いたのだった。

 

「やはり本は良い。この中には、宇宙の全てが詰まっている」

 

エンブリヲがゆっくりと階段を下りてくる。

 

「それに比べて、世界のなんとつまらないことか…」

 

睨み付けたまま、アンジュはエンブリヲが自分と同じところまで下りてくるのを待っていた。

 

「久しぶりだよ。本よりも楽しいものに出会えたのはね」

 

「エンブリヲ…っ」

 

「この方が…」

 

初めて見るエンブリヲの姿に、モモカが思わず呟いていた。

 

「手荒な真似をして済まなかった。君と話がしたくてね。サリアたちに頼んで連れてきてもらったんだ」

 

「来たまえ。君も、聞きたいことがあるのだろう?」

 

そう言うと、エンブリヲは歩き出した。後ろを振り向きもしないのは誘いを断らないという自信の表れだろう。

 

「アンジュリーゼ様…」

 

不安げな表情で呼びかけるモモカを一瞥すると、アンジュはエンブリヲの後を追った。

 

「すまないが、少しだけ二人にしてくれ」

 

サリアたちの横を通り過ぎようとしたところで足を止めると、エンブリヲはサリアたちにそう告げた。

 

「いけません! この女は危険です!」

 

即座にサリアが反対する。それは言葉通りの意味なのか、それとも別の感情に突き動かされてのものかはわからないが。だがエンブリヲは気にする様子も見せず、

 

「サリア」

 

窘めるようにサリアの名前を呼んだのだった。その一言で、サリアはこれ以上何も言えなくなってしまう。その横を、アンジュが無言で通り過ぎた。

 

「くっ…」

 

悔しそうにサリアが歯噛みをする。そんな彼女を気にもせず、エンブリヲとアンジュはそのまま出ていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

その頃、別次元の彼方、再生し終えたキオは医療センターのベッドの上で寝ていたが、ゆっくりと目を覚ます。

 

「ここは……?」

 

キオはその後、メディカルチェックを受ける。耳と喉の修復と治療はできたが、目の前の光景が全く見えない様になっており、包帯で目を覆い隠し、精神的ケアが必要だと判明。

勇人達は彼のドックタグに名前を見て、キオと呼ぶ。そして……。

 

「キオ、私の弟子にならないか?」

 

「弟子?」

 

「私の元で指導され、さらに強くなる事だ。」

 

「……自分、行く手がありません。分かりました……。」

 

「良し、準備しておけ。」

 

勇人はキオを連れ、時と空間、次元が止まった世界……“次元の狭間”に連れてこられ、約3000年の修練と鍛錬、精神力、知恵を高めた。そして……。格納庫、髪が背まで伸び、各国の機体が勢揃いし、キオを敬礼する。

 

「色々と、お世話になりました。」

 

「……因果律の勇士 “キオ・ロマノフ”よ。お前に返しておく物がある……」

 

すると持ってきたのは、青く光り輝くクリスタルであった。

 

「これ、何処かで……っ!!!?」

 

クリスタルに触れた直後、キオの頭の中の記憶が蘇る。自分の名前、自分の使命、愛する者、約束。落ち着きを取り戻したキオは立ち上がる。

 

「……思い出した。コスモス、今まで俺の記憶を守り続けていたんだね。ありがとう……。」

 

そしてキオはコスモスのコアクリスタルを胸の中にしまう。

 

「さて……式典の続きをしよう!!」

 

キオは式典の続きと勲章を授与し、付けられた名は『神撃のキオ』と名付けられた。キオには三つの贈り物が届く。それは黒いコートで派手な袖、背中には『唯我独尊』と言う字が描かれていた。二つ目は和風と洋風を融合させた黒と黄金のプロテクトアーマーとインナースーツ。そしてキオにしか扱えないデバイスが与えられた。この時空の全宇宙の星々の科学力、クアンタとサーベラス、フォアランナー、サマールの四つの最高テクノロジーでキオのいた世界では完全に解析不可能な究極のドール・デバイスが贈られた。

 

「これは!!?」

 

 

キオは驚く。その機体は前のセイレーンと違い、超巨大な全長を持つロボットになっていた。純白と漆黒の装甲に別れた機体、流動経路には翡翠と深紅に輝く光、龍のような四本の脚を有する下半身に、人型の上半身を取り付けた人馬のような形体、両肩には翡翠と深紅、純白と漆黒に別れたドラゴン型サブユニット『オーベロン』『ティタニア』を搭載、蛇のように動くテイルブレード、そしてコックピットに大破したセイレーンのコアクリスタルが装着されていた。

 

「君が持っていたメモリーを解析し、大破したセイレーン・デバイスの原型を元に、未完成であった五枚を重ね、一つにした史上最強の機体だ。」

 

「名前は?」

 

「乗ったら分かる。あぁ、それと……」

 

すると勇人がある物を渡す。

 

「これは?」

 

「……この時空に次元跳躍できるカードキーだ。差し込めばいつでもこの世界に来れる。たまには我らの所に遊びに来い。」

 

「師匠……」

 

キオは嬉し泣きし、感謝を込めて深く礼をする。

 

「3000年間!お世話になりました!!!」

 

「フフフ……期待しているぞ。因果律の戦士よ……」

 

勇人は微笑み、キオは早速乗り込む。渡されたカードキーと起動キーを差し込む。モニター画面に『Pureroma Direct Aggressive Impact Superlative Extruder Interlocked Technology Exclusive Nexus・Eating God』と表示される。

 

「『プレローマ大聖天神喰式』……良い名前だ」

 

キオはトレース式のコックピットを動かし、黒いコートを羽織る。

 

『では、行って参ります!!』

 

キオは勇人達に敬礼し、勇人達も敬礼する。プレローマ大聖天神喰式の四本足に搭載されている補助用ホイール『ランディングスピナー』と各スラスターウィングから翡翠と深紅に輝く光の翼『アレンティア・フリューゲル』を展開する。

 

『セイレーンの魂が宿った俺の新たな機体……行くぞ、『プレローマ』!!』

 

各部のジェットブースターと内部の永久機関『グノーシスドライブ』からラムダニウム、フォドラニウム、ドラゴニウム、ミラニウム、クアンタニウムから作られた新たなハイブリッド重粒子『Xenonium』を放出する。ランディングスピナーのローラーが回転し、フルスロットルで基地から超加速、アレンティア・フリューゲルを広げ、空を舞い、キオはクアンタ星から次元跳躍を発動、行き先である幻想大地“ウル”へと向かうのであった。

キオが飛び去り、クアンタ星から見送っていた勇人があることを言う。

 

「そう言えば、プレローマ大聖天神喰式のシステム……あらゆる機体のシステムも搭載していなかったか?」

 

「え?」

 

「我々の使う機体のデータを全てそれに注ぎ込んだんだ。師匠達とお前達の戦闘データやシステムだから、その世界の焔龍號とハウレス・デバイス、バンシー・デバイスと…後、“彼の母親が使っていたデバイス『ソフィア』と彼女が使っていた『真なる天の聖杯』”と合体と組み合わせれば20%の出力でもヤバイのでは?」

 

「……あ…………ああああああああぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!」

 

グレイスは頭を抑えながら、自分も法律を破ったことに罪悪感を持つのであった。



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第31話:五人の騎騎士

 

数時間前……キルグナス格納庫。大破したキオのセイレーン・デバイスがハンガーに収納される。リンは必死にセイレーン・デバイスの修理に取り掛かる。そこにグインもいた。

 

「こりゃ酷い。」

 

「無茶苦茶ですね……もし、キオさんが見つかり、生きていたら直ぐに乗せてやれるよう念入りにしないと。……ん?」

 

するとリンが何かに気づく。キルグナスのスパルタン達や整備班達が次々に倒れて行く。

 

「グインさん!あれ!」

 

「どうしたんだ!?……っ!?」

 

通路の目の前に、ドラグニウム粒子を放出する白い龍人が羽を広げ立っていた。

 

「「っ!!!?」」

 

「『見つけた……キオのセイレーン・デバイス。』」

 

その龍人は体から放出するドラグニウム粒子を放出しながら、歩いてくる。リンとグインはブレイドを構えたその直後、二人は彼の威圧感に圧される。コイツはXよりも凄まじき覇道と威圧、オーラを放っている事に、B.Bユニット筈なのに心臓が危険信号を知らせていた。そして二人は圧されたまま動けなくなると、白い龍人は二人を通り過ぎ、セイレーン・デバイスを見上げる。

 

「これがキオ・ロマノフのセイレーン・デバイスか……」

 

白い龍人は大破したセイレーンのあちこちを見る。

 

「これは確かにあの致命傷を負うくらいだな。フリューゲルス、持ち帰るよ!」

 

するとどうやって入って来たのか、神の如く機神が現れ、セイレーン・デバイスを抱える。

 

『本当に良いのか?この機体ごと勇人元帥に持って行って…』

 

「良いんだよ。それに持ってこれなかったら、どうやって修理する?そうしなければ記憶もなく再生中のキオに申し訳ないことだよ」

 

「(再生中のキオさん!?)」

 

「それに本当の神様である俺に口答えしているつもり?」

 

『そのつもりでは…』

 

「まぁ良い……早く戻ろ。」

 

『応!』

 

龍人と機神の会話が終わると、大破したセイレーンごと姿を消す。体が動き始めた頃には、皆んな呆然していた。

 

「聞いたか?」

 

「はい……キオさんは、生きている。」

 

 

 

 

 

 

キルグナス作戦室。

 

「そう、それじゃあキオは何処かに生きて、再生中なのね?」

 

「はい!間違いなく聞きました。」

 

「これだけ探しても行方が分からないのが納得したわ。っで、他に情報は?」

 

「はい、あの機体の名前……『フリューゲルス』って言いました。」

 

「『フリューゲルス』……兎に角、警戒しておくべきね。」

 

 

 

 

 

その頃、真実の地球ではキオがやられた事にオリバー達は驚いていた。

 

「まさか、キオが!?」

 

「総裁Xがキオの祖父だったとは……クソッ!!」

 

オスカーが壁に拳をぶつける。

 

「それで……お姫様は?」

 

「……引きこもっていると……」

 

《…………》

 

「“サラ”がどうしたって?」

 

「誰だね君は?」

 

「……なぁに、俺は別に怪しい者ではありません。」

 

「何が怪しい者じゃありませんだ!!表へ出ろ!!今はそんな事をしてる場合じゃないんだ!!」

 

「まぁ落ち着け…オスカー。」

 

「そうだ!サラマンディーネ様が悲しまれているんだぞ!!あのキオ、生きていたら姫様を悲しませた分、きっちりと叱ってやる!!」

 

「なら、今叱れば?」

 

「何を言っておるのだ!!服装も乱れた黒いコートなどを着て……だって…………っ!!!」

 

ナーガが突然、その人物の顔を見て驚く。

 

「3000年ぶりだな……皆んな♪」

 

その人物はヘルメットを脱ぎ、背まで伸びた髪を靡かせ、素顔を表す。

 

《っ!!!!!!??????》

 

「オスカー…オリバー…ノア…アリアンナ…アン…ナーガ…カナメ……」

 

目は包帯で隠されており、黄金のドールスーツと黒いコートをしたキオ本人であった。

 

《えええええええええええええええええええええええええええええええええええええ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!!!!!!???????????》

 

涙を流す者や目や下が飛び出た者、行方不明になっている筈のキオが凄い姿で現れた事に驚く皆んな。そしてナーガが怒りながら問う。

 

「うっ!!う、嘘だ!!!!!」

 

「…………俺たちはドラゴンと戦わない。そしてサラの防人だ♪」

 

彼の言葉にオスカー達は覚えがあった。アウラ奪還の際に自分達のこれからの事で、キオはサラの防人として彼女を守ると……。それを知っているのはオリバー達とキオの筈。オスカーは泣き崩れながらキオに抱きついて着た。

 

「キオォォォォォォォォォォォォォォォォォォ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!!」

 

「キオ!!お前どこ行ってたんだ!!!?3000年ぶりって……どんな世界だよ!!皆んなお前が死んだと聞いて絶望してたんだぞ!!!マリアさんはお前の事で気絶し、チャールズさんは罪悪感に苦しんだんだぞ!!!!!」

 

「皆んなには心配を掛けたり、悪いことをしてしまった。でも理由があったんだ……。」

 

キオは今までの事をオスカー達に話した。別宇宙の存在、キオ達の世界やサラ達の世界、エーテリオン以上の高度な技術と異なる文明、記憶喪失の間の師匠との修業と鍛錬した事を……。

 

「スゲェなぁ……最新型のそのメディカルカプセルって。後、マナの光を完全に使いこなしているって。それって……俺たちの世界の奴らよりもスゲェ平和過ぎやん!!?」

 

「昔はとんでもない大戦争があったから、協力しあって治安を守っているんだ。俺はそこや次元の狭間で3000年間も過ごして来た。」

 

「ちょっと待って!?お前いくつ?」

 

「……18だったが、あの世界にいたから3018歳。師匠は8万78歳だったな♪」

 

「えぇーーーーっ!!!!????」

 

「千も越している!!?という事はお前既に老人か!!?」

 

「ちげぇよ…不老長寿みたいになっているんだよ。次元の狭間って言う所は。」

 

「スゲェ……一体何の修業だったんだ?」

 

「詳しくは俺の師匠に言ってくれ、そしてヤバイ機体もある……」

 

キオはそう言い、プレローマを格納庫まで運ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

格納庫のハンガーに収納されるプレローマ。コックピットから下りてくるキオの元に、車椅子で運ばれるマリアと押しているチャールズが駆け付ける。

 

「父さん…母さん……」

 

「「キオ!!」」

 

二人は生きていたキオに抱き締める。

 

「心配かけてごめん……」

 

「良いんだ。お前が生きていれば、私達は……」

 

「……そうだ!!父さん、ウルでじいちゃんにあった!!」

 

「アレクサンダー!?お父さんが!!?」

 

「チャールズ!……キオ、もしかしてあのメモリーデバイスを貰ったのね?」

 

「え?はい……」

 

二人は頷くと、ある所へ案内する。そこはカモフラージュされた研究所であった。

 

「父さん、ここって?」

 

「ミレイさんが残した研究所だ。」

 

キオはチャールズにメモリー内に入っていたプレートを渡す。チャールズはプレートを鍵穴に嵌め込むと、音声認識が起動する。

 

『パスワードを認証した下さい。』

 

「“プロジェクト・ゾハル”」

 

『パスワード認証確認。』

 

扉が開き、奥へと入っていく。中は資料や大量の書類、そして壁画の断片や遺跡の写真と古代文字の本の山であった。

 

「これは……」

 

キオがある資料を見る。それは陰族と魔神 ゼニス……そしてある金髪の少年の写真が載っていた。

 

「父さん、こいつ誰?……父さん?」

 

するとチャールズが厳しい表情になり、キオに言う。

 

「キオ。そいつの事…今こそ話そう……」

 

チャールズは語る。かつてウルには様々な種が住んでおり、我々よりも推進した科学力とマナの光を使った共存も可能にしていた。そう……『ノーマ』と『人間』、総合理解、共和…その全てを解決していた。だがある日、ウルにとんでもない大馬鹿者の来客が迷い込んだ。ウルの世界だと百万年前、この世界だと五百年前……ひとりの来客が迷いんできた。その来客の名は『アルフォンス・斑鳩・ミスルギ』……五百年前、第7次世界大戦の最中にビルキスのライダーとして活躍していた兵士だが、エンブリヲと共にミスルギ皇国とアケノミハシラを建国した人物。そのアルフォンスがこのウルに迷い、ウルの住人の文明と科学力の力に魅入られ、等々彼は野心を持つようになった。それを知ったエンブリヲは彼らとの干渉を破るため、時空の力でウルの扉を引き裂いたが、既に彼はウルの力の源である……万能の力『ゾハル』の一部を手に入れていた。彼はその力を使い、ウルとの扉を自由自在に操れるようになり、エンブリヲの力ですら捻じ曲げていたのだ。そして次第に彼の野心は強まる一方であり、等々彼はゾハルの全ての力を奪うべく、一部の力を暴走させ…………“神”へとなってしまった。

 

「神…………父さん、それって!!?」

 

「そう、そのまさかだ……ミレイさんが調べていたこの研究。全ては“魔神 ゼニス”に対抗すべく、今のジュライ皇帝陛下とソフィア皇妃殿下と共に探してきたのだ。モーセの鏡によってウルの影にやったゾハルを探しに…。」

 

「そうか……じいちゃんの奴、俺の為に。でも、ミレイさんは?なんでアルフォンスが束ねていた陰族をミレイさんが束ねていたんだ?」

 

「おそらく、ミレイさんは催眠術にかかっていると思う。理由は分からないが、サラマンディーネ様を殺そうしたのには何か理由があると思うのだ……。それとキオ……渡したい物がある。」

 

チャールズは横長い古い木箱をキオに渡す。キオは木箱をゆっくりと開ける。中に入っていたのは黄金に輝く剣であり、光っていないコアクリスタルが飾られていた。

 

「この剣……もしかして!?」

 

「そう。それはかつてお前の母であるレイナスが、魔神 ゼニスを討伐した際に使われた真なる天の聖杯“コルタナ”だ」

 

「コルタナ……それがこのブレイドの名前。」

 

「そして……」

 

今度に取り出したのはコルタナが入っていた古い木箱であり、中に入っていたのは二つの剣であった。形状は違うが、黄金に輝いており、コアクリスタルが輝いていなかった。

 

「その剣の名は……『ロロ』と『ゼクス』。」

 

「“ロロ”と“ゼクス”……ん?」

 

キオは三つの剣を見るとある事に気づく。それぞれの剣に三角形の模様があり、それぞれの頂点が白くなっている。

 

「……もしかしたら。」

 

キオは三つの剣をそれぞれの位置に置く。三角形の形になると、三つの剣のコアクリスタルが光りだす。コルタナは翡翠色のコアクリスタル、ロロは中黄色のコアクリスタル、ゼクスは真紅のコアクリスタルへと輝き、キオ達は驚く。

 

「一体何が?」

 

そして三つの剣が指す中心点に金色に輝く光りが集まった直後、光の柱が研究所の天井を突き破った。光の柱から星を覆うほどの六枚の翼を持つ龍が真実の地球軌道上に現れた。キオ達は外へ出て、上空に現れた巨大なドラゴンを見る。

 

《デカ過ぎ!!!》

 

エーテリオンやアウラの都にいる民達も驚いているその時、キオ達の頭に誰かの声が響く。

 

『若きエルダーの皇子よ……』

 

「?……ねぇ、なんか言った?」

 

「嫌、俺たちは何も?」

 

「……もしかして、あのドラゴン。テレパシーを使って、俺たちに話しかけているんだ!!」

 

『若きにエルダーの皇子と五人の騎士よ……其方達は選ばれた。我が名は“地球神龍 オリジン”。悪しき者 Xから真なる地球と偽りなる地球、そして幻想大陸ウルの生命を守護する神……』

 

「地球神龍 オリジン……お前は神なのか?」

 

『如何にも、私は幾億年……クアンタ人の命により、ウルやあなた方の地球を守ってきたものです。あの大戦の最中に私の力は弱まり、滅びを迎えましたが、地球の再生、ドラゴニウムの浄化、手を取り合って生きていく思いが地球の生命を再生させ、それと同時に私も蘇ったのです。』

 

「そのオリジンが俺に何の用だ?」

 

「……率直に言います。総裁 X……いいえ、ヴァラク・ディラ・エルダーの魂を解放してやって下さい。」

 

「……は、何言ってるんだ?俺やココを殺そうとしたあの糞爺の魂を解放?」

 

「そうです。本当の彼は……そんな事をしません。あのヴァラクは違うヴァラクなのです。」

 

「違うヴァラク?あの糞爺は……糞爺じゃない。という事は……憑依?」

 

「……その通りです。」

 

キオはこれまでの出来事を考える。Xの能力、始まりの襲撃、ゾハル、トリニティ・プロセッサの数々のキーワードが揃い、Xの本性を理解する。

 

「そういう事だったのか、あの糞爺……嫌、爺に取り憑いている何かが黒幕か!!!あの時、俺達を助けていたフェイトが俺に言った言葉……“ヴァラクは別人だ。気を付けろ”……こういう事だったのか。」

 

「そう……彼の魂は朽ちた身体を乗っ取られている者に歪み苦しまれおります。倒すには…朽ちた身体を消滅させなければなりません。」

 

「だけど、俺には未来視も因果律予測も使えない。それに奴はエルダーゴアキャッスルにいる。」

 

「いいえ……今のあなたなら、彼の要塞の包囲網を突破できるでしょう。其方に……レイナス様からお預かりいたしました“あれ”を与えます。」

 

するとオリジンが研究所から飛び立ち、身体からある機体を取り出し、現れる。現れたのは龍と思わせる白きドールが翡翠色の天使の翼と深紅色の龍の翼のエナジーウィングを展開し、神々しい光を放つ。研究所から出てきたキオはその機体に驚く。するとオリジンが語る。

 

「このドールデバイスはかつて……レイナス様がゼニスを討伐する際に使われた……最強のドールデバイス『ソフィア』」

 

「“ソフィア”……。」

 

すると上空にワームホールが開き、現れたのは格納庫に整備されていた筈のプレローマであった。プレローマとソフィア相互の機体が金色へと輝きながら一つとなり、結晶体へとなる。そして結晶体の一部にヒビが入り、そこから強烈な光が飛び出し。

オスカー達はそれに目を奪われる。

 

「見て!」

 

そしてヴェルトラトスの結晶体が割れて、光がオスカー達の視界を奪う。

 

しばらくして視界が回復し、オスカー達は目の前を見て驚く。

 

純白と漆黒の装甲、翡翠と深紅の流動経路、模様がある翡翠と真紅に分かれた天使と龍のエナジーウィング、脚部も四本足だったのが二足へと変わり、ドラゴンと思わしき鋭い爪と天使と思わせるヒール、そして蛇のように動く尻尾、そしてエナジーウィングから神の光輪を展開し、雲から曙光が大地を照らしさす。オスカー達はその機体の神々しさに見惚れる。

 

「す、す、す!!スゲェ!!!!」

 

「綺麗…」

 

「なんて神々しさ……」

 

「あの翼……あの光輪……そして尻尾、言える事は一つ。…………カッコ良すぎ!!見た目やコストがどうこうじゃない!!!超神カッコ良すぎる!!!」

 

するとオリジンの身体が光だし、生き物の様な身体が機械へとなり、キオに近づく。

 

「貴方にこれを差し上げます。」

 

オリジンが取り出したのは、蛋白石であった。それをキオの左目の中に入れる。

 

「どうですか?」

 

「……片方だけだ、見える。」

 

蛋白石の義眼を手にしたキオは片方だけだが、目の前の光景やオスカー達の姿が見える。

 

「こんな姿になったけど……ただいま。」

 

キオは皆んなに言うと、キオの新たな機体が降りてくる。

 

「そう言えばキオ、この機体名前はどうするんだ?」

 

「どうするって?」

 

「いや、だって……“”とか、名前長すぎだし……。」

 

「『グノーシス』」

 

『グノーシス?』

 

「……“グノーシス”。呼びやすい名前だろ?」

 

「まぁ、確かに……」

 

オスカー達は納得すると、機械化したオリジンの背にグノーシスが騎乗する。そしてキオはグノーシスに乗り込み、告げる。

 

「エルダーゴアキャッスルに行く。多分、俺一人だと苦戦する…………オスカー、ノア、オリバー、アリアンナ、アン。一緒に来てくれるか?」

 

オスカー達は互いを見て、決心する。

 

「あったりまえだよ!!エルダーゴアキャッスル?上等!!」

 

《共に行く!!》

 

「だがその前に……お前達を強化する!!」

 

《………はぁっ!!!???》

 

キオがオスカー達に言い、オスカーや皆んなが使うドールごとキオの師匠のいる世界へと転移したのであった。



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第32話:時空の支配者

 

異次元の狭間……エルダーゴアキャッスルを警護しながら巡回するフォルトゥラー艦隊とカタストロフィー艦隊。

 

「何処も異常はないか?」

 

「異常はない。そもそもこんな包囲網をどうやって来るかだ。」

 

「ハハハハ!それもそうだ。エルダーゴアキャッスルのユグドラシルは最強の特殊砲。そしてこの無数の艦隊をエーテリオンはかなり警戒しているからなぁ!」

 

監視塔から見張りをする兵士がお喋りしていると、目の前に影が映る。

 

「?」

 

兵士は双眼鏡で覗く。

 

「あれは……一体なんだ?」

 

双眼鏡で覗いた影の正体。純白と漆黒の装甲に分かれた大型機体、竜を模した外観を持つ大型機体、大鷲を模した外観を持つ大型機体、甲虫を模した外観を持つ大型機体、戦艦を模した外観を持つ大型機体、球体を模した外観を持つ大型機体であった。

すると竜を模したオスカーの新たなドール・デバイス『リヴァイアサン・デバイス』が複数の腕部に搭載されている兵器『ハイパービーム砲』と尻尾の『テイルバスター』を構え、監視塔やフォルトゥラー艦隊のシールドをいとも容易く突き破り、撃沈した。

 

「こちら206番艦!!被弾した!!脱出すっ!!」

 

その時、ブリッジに何かが飛んで来た。それはアリアンナの新たな機体。球体を模したドール・デバイス『ジークフリード・デバイス』が回転しながら、球体表面に搭載されている高周波突撃槍『ブレイズ・スピア』を突きつけながら、次々と艦隊のブリッジを抉り破壊していく。

 

次に大鷲を模したオリバーの新たなドール・デバイス『ルフ・デバイス』は巨大な主翼兵器『ナノブレードウィング』と『拡散パルスレーザー砲』と『ミサイルバード』でTEEチェイサーとバグズ、ガーゴイル・デバイスを撃墜していく。

 

一方、甲虫を模したノアの新たなドール・デバイス『スカラベ・デバイス』が『電磁ミサイル』とビームで形成した強襲兵器『デリス・ソード』とスカラベを覆う防御フィールド『ペルス・シールド』を展開し、次々と敵艦や敵機を撃沈していく。

 

そして、戦艦を模したアンの新たなドール・デバイス『ネフィリム・デバイス』は“フォートレスモード”から“ヒューマノイドモード”へと変形し、巨大な腕や全身に搭載、内臓されている超兵器『ハイパーノバビーム砲』と『プラズマメーサー砲』、『フォトンブラスターキャノン』、『大口径3連装ハイメガ粒子砲』、『スパイラルミサイル』、『イオンミサイル』、『キングヴァイパーロケット』を一斉に放つ。イオンミサイルとキングヴァイパーが敵の包囲網を掻い潜り、艦隊に電磁波と爆発が流れ、大強度であったシールドと装甲がまるで針に糸を通すかのように炸裂し、次々と撃沈していく。

経った数時間でデウス・コフィンの艦隊が四分の一を地獄へと追いやる。これは流石にまずいと判断した兵士達はユグドラシルを使うと命令した。エルダーゴアキャッスルに内臓されている砲口が展開され、エネルギーが集まる。そして砲口から一気に拡散型の生体ガンマ線レーザーが発射される。キオやオスカー達の機体が拡散型の生体ガンマ線レーザーに包み込まれる。

 

「やった!!」

 

大爆発と爆煙が立ち込む中、轟音が響く。

 

「ん?…………何の音だ?」

 

爆煙が晴れてくると、彼らは絶望を感じた。何とユグドラシルを食らった筈のあの六体の大型機体が無傷であった事を。そして六体から放出する膨大な粒子が散布し、巨大なトリオン型障壁を形成していた。

 

「嘘……だろ?」

 

これは流石に兵士や士官達は驚き、急いでユグドラシルのチャージと艦隊に指示を出し、時間を稼ぐようにする。だがそれも叶わぬ結果となる。

 

「前方に高エネルギー波と高熱量を確認!!」

 

よく見ると、キオのグノーシスが超巨大兵器『スーパーアルマゲドンキャノン』を構え、引き金を引く。

 

「the end……」

 

砲口から高周波を纏った運動エネルギー弾が射出され、艦隊の包囲網のところで高出力拡散レーザーが乱射される。レーザーを放つ運動エネルギー弾は真っ直ぐユグドラシル砲口部へと直撃し、ユグドラシルが完全に破壊された。ユグドラシルや艦隊の大半がなくなり、エルダーゴアキャッスルを守る艦隊が全滅した。残りはエルダーゴアキャッスルを守る対空兵器のみとなり、キオは金色のモナドを構える。

 

「『チーム “アウトレイジ”』…一斉砲撃と共に、エルダーゴアキャッスル内部へ侵入するぞ!!!」

 

《おお〜〜〜!!!!!》

 

キオの宣言にオスカー達はフォートレスモードへと変形し、一斉に砲撃をしながらエルダーゴアキャッスルへと突撃する。

 

 

 

 

 

 

その頃アンジュはエンブリヲに連れられてアケノミハシラに連れられていた。

 

そしてエレベーターで最下層に降りて、アンジュの目にある光景は映る。

 

「アウラ…!」

 

アンジュの目の前にアウラがドラグニウム発生器らしき物を付けられて幽閉されていた。

 

「どうだいアンジュ、あれがドラグニウムだ。この世界の源であるマナは此処から発せられている、これで色々な事を楽しめたよ」

 

「貴方…!アウラを発電機扱いにしてるのね!?」

 

その事には全く否定しないエンブリヲは笑みを浮かばせる。

 

「ふふふ、人間達を路頭に迷わせる訳には行かないだろう、リィザの情報のお蔭でドラゴン達の待ち伏せは成功し、大量のドラグニウムが手に入った。これで計画を進められる…私の計画が」

 

そう話すエンブリヲにアンジュは睨みかましていると、エンブリヲの後ろに銃があった事に気が付いたアンジュ。

アンジュはエンブリヲの銃を奪い、頭に銃を突きつける。

 

カチャ!

 

「アウラを解放しなさい、今すぐ!」

 

銃を構えているアンジュに対しても余裕をかましているエンブリヲ。

 

「おやおや、ドラゴンの味方だったのか」

 

「いいえ…貴方の敵よ! 兄を殺そうとし…キオとタスクを殺そうとして、沢山のドラゴン達を殺した…敵と考えるのは十分だわ!」

 

「ふふふ…君のお兄さんは少女たちを皆殺しにしてその罪を受けようとしたが、罪を償うのも悪くない。それにキオ・ロマノフは天の聖杯…今の内に殺し、この“メツ”や君の“ヒカリ”とドラゴンの姫君の“ホムラ”、そして彼の持つ“アルヴィース”を私の計画使わないとね。」

 

っとエンブリヲが手に持っているメツのコアクリスタルを見てアンジュは驚く。

 

「貴方…それはキオの!?」

 

「勿論だとも、ブレイドは普通…ドライバーが死ねば、ブレイドは消滅し、コアクリスタルへと戻る。そしてあの小僧はもう実の祖父であるXによって葬られた。後はメツと私の同調を済ませばXに歯向かえる。」

 

「そうは…させないわ!」

 

バッーーーン!!!!

 

アンジュが持つ銃がエンブリヲの頭部を撃ち抜き、エンブリヲは血を流しながらそのまま倒れる。

 

「ふぅ…、さて…どうやってアウラを助けようかしら」

 

「気は済んだか?」

 

っと聞こえた方を向くと、何事もなかった様に立っていたエンブリヲが居た。

 

「どうして?!」

 

アンジュは倒れた方を見るとエンブリヲの死体が無く、それにアンジュはエンブリヲを睨みつけて再びエンブリヲの頭を狙い、エンブリヲの頭を撃つ。

それに抵抗せずにエンブリヲは頭部を撃たれて倒れる。しかしまた別の場所からエンブリヲが現れる。

 

「無駄だと言っているのに…アンジュ」

 

「あ…貴方、一体…?!」

 

「アレクトラから聞いているだろう…?」

 

っとその言葉にアンジュは思い出す、アルゼナルでジルが自分にリベルタスの事とそしてこの世界を作った者の事を…。

 

「神様…」

 

「チープな表現で好きじゃないな。…調律者だよ、私は」

 

「調律者…?」

 

アンジュはエンブリヲの言った言葉に呟く。

 

「そう。世界の音を整える…ね」

 

そこで、瞬時に周囲の風景が変わった。アンジュは知る由もないが、そこは以前、各国の指導者たちが集まってノーマやドラゴンたちの対処を話し合ったその場所の光景だった。

 

「はっ!?」

 

瞬時に形を変えた周囲の姿に、思わずアンジュは息を呑む。

 

「君は…私を殺してどうするつもりだね?」

 

アンジュから視線を外すと、彼女に背を向けて二・三歩歩きながらエンブリヲが尋ねた。

 

「世界を壊して、ノーマを解放するわ!」

 

アンジュがハッキリとそう宣言する。が、

 

「どうして?」

 

実に不思議そうにエンブリヲが尋ねた。

 

「どうして!?」

 

そのまま返され、アンジュは驚きを隠せない。そんなアンジュに畳み掛けるように、

 

「ノーマは本当に解放されたがっているのかな?」

 

そう、エンブリヲが尋ねてきた。

 

「確かに、マナが使えない彼女たちの場所は、この世界にはない。だが代わりに、ドラゴンと戦う役割が与えられている。居場所や役割を与えられれば、それだけで人は満足し、安心できるものだ。自分で考えて、自分で生きる。それは人間にとって、大変な苦痛だから」

 

「!…何を言って…」

 

エンブリヲの言っていることを聞いている間、アンジュは自身の身体の変調を感じていた。体温が上昇し、呼吸は乱れ、身体が熱くなっていく。が、そんな状態になりながらもアンジュは銃を構える。

 

「ほぅ…」

 

実に興味深そうに、面白そうにエンブリヲが呟いた。

 

「私に、何をしたの!?」

 

自身の身体の変調の原因を、アンジュはエンブリヲに問い詰めた。が、エンブリヲが素直に答えるわけはない。

アンジュは発砲するものの、今の状態では碌に狙いがつけられないのか、弾はエンブリヲから大きく外れて、彼の背後にあるテラスの屋根を支える柱に命中した。

 

「君の破壊衝動は、不安から来ているのだね?」

 

「!」

 

「奪われ、騙され、裏切られ続けてきた。何処に行くのかもわからない」

 

「だ、黙れ!」

 

フラフラになりながらもアンジュが叫ぶ。が、それで止まるようなエンブリヲではない。

 

「だから恐れて牙を剥く。私が解放してあげよう、その不安から」

 

「……」

 

熱に浮かされているような状態になったアンジュ。その瞳から、ハイライトが消え去った。

 

「愛情、安心、友情、信頼、居場所。望むものを何でも与えてあげよう。だから、全てを捨てて私を受け入れたまえ」

 

「はぁ…はぁ…はぁ…」

 

呼吸が乱れ、そしてアンジュがエンブリヲに従うかのように遂に銃を手から滑らせた。

 

「身に着けているものも、全てだ」

 

どこの洗脳系のエロゲの主人公だと言わんばかりの物言いである。そして、同じく洗脳系のエロゲのヒロインのようにアンジュが服を脱いでいく。ドレスを開けさせ、下着に手をかけた。が、その先がなかなか進まない。

 

「…!…!」

 

声にならない悲鳴を上げながら、下着に手をかけたアンジュの動きは鈍い。僅かに残っている理性が必死に抵抗しているのだろう。

 

「強いな、君は」

 

驚きつつも称賛してエンブリヲが手を伸ばした。そして、アンジュを落ち着かせるように、手の甲で彼女の頬を撫でる。

 

「私を信じていいんだよ」

 

その言葉がトリガーになったかのようにアンジュの抵抗は消え、遂に彼女の下着が脱ぎ捨てられた。アンジュは生まれたままの姿で、エンブリヲの真正面に立っている。

 

「いい子だ」

 

エンブリヲはそのままアンジュに手を伸ばし、その頬の感触を確かめるように撫でた。

 

「黄金の髪に、炎の瞳。薄紅色の唇に、吸い付くような肌。張りのある豊かな胸と、桜色の…」

 

「う、あっ!」

 

アンジュが身悶える。…それにしてもエンブリヲは、ますます洗脳系のエロゲの主人公っぷりに磨きがかかった感が半端ではない。心から楽しんでいるように窺える辺り尚更である。

 

「美しい…。ヴィーナスやアフロディーテも、君には敵わない」

 

美辞麗句か心底の感想かはわからないが、エンブリヲはアンジュの顎を持ち上げると、そのままキスをした。その瞬間、アンジュの脳裏にかつてタスクと交わした口付けと、そしてもう一つ。

 

『……』

 

グーサインを出すキオと握手で交わすサラの姿が浮かび上がり、その真紅の瞳にハイライトが戻った。

 

「ぐうっ!」

 

痛みに顔を顰めたエンブリヲがアンジュから離れる。

 

「まさか…」

 

口元を押さえ、信じられないとばかりにエンブリヲがアンジュを見た。アンジュは僅かに口元を血で濡らしながらそれ…おそらく噛み千切ったであろうエンブリヲの唇の肉片を吐き捨てた。

 

「何でも与えてあげる…?」

 

先ほどエンブリヲが言ったことを、アンジュは怒りの口調と表情で吐き捨てる。

 

「生憎、与えられたもので満足できるほど、空っぽじゃないの、私!」

 

「……」

 

心底驚いた表情でアンジュを見つめるエンブリヲ。推測でしかないが、おそらくこの呪縛を破ったのはアンジュが初めてだったのだろう。

 

「神様だか、調律者だか何だか知らないけど…」

 

脱ぎ捨てた服で身体を隠し、一度は落とした銃を拾い上げ、再び銃口をエンブリヲに向けた。

 

「死ぬまで殺して、世界を壊すわ!」

 

そう、宣言する。

 

(ありがとう、タスク、キオ、サラ子)

 

胸の奥で、自分を正気に戻してくれた二人に感謝しながら。一方でエンブリヲは、敵対宣言を受けたにもかかわらず嬉々とした表情を浮かべていた。

 

「ドラマティック!」

 

そして、本当に嬉しそうな表情になって両手を広げる。

 

「えぇ…?」

 

まさかそういう反応を返すとは思わず、アンジュが困惑する。が、困惑するアンジュに構わず、エンブリヲは地面に片膝を着くと、

 

「私は、君と出逢うために生きてきたのかもしれない。この千年を!」

 

大仰にポーズをとりながらそう訴えたのだった。

 

「はぁ…?」

 

尚更困惑したアンジュは、エンブリヲに銃口を向けたまま呆れるようにそう呟くことしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、アウローラの方ではエルマが皆んなを呼び集めていた。

 

「皆んな……良い話が山程あるけど、良い?」

 

《…………》

 

「…………キオが戻ってきた。」

 

《えぇっ!!?》

 

キオの安否が確認され、生きていた事に驚くヒルダ達。

 

「っで、キオは今エリュシュオンに!?」

 

「それが………信じられないかもしれないけど、彼の両眼は盲目となってしまったの。」

 

「それって!もう未来視や因果律予測が!」

 

「その通りよ。でも……キオはさらなる力を経て、オスカー達を連れてエルダーゴアキャッスルへと攻め落としに行ったわ。」

 

「エルダーゴアキャッスルに!!?」

 

「無謀すぎる!!」

 

「俺たちも助けに……」

 

「その必要はないと思うわ……これを見て。」

 

モニター画面に異次元の狭間が映る。

 

「これは偵察機から見た映像よ……」

 

すると映像に何かが映る。それは無数のデウス・コフィンの艦隊や部隊の機体が無残な姿になっていた。

 

「これ!?」

 

「フォルトゥラー艦隊が全滅している……」

 

「ここからよ。本当に無残な光景なのは……。」

 

デウス・コフィン艦隊の残骸の山を抜けると、リン達は驚愕する。それは対空兵器が火を噴き、各格納庫から煙が出ていた。

 

「これ…………ヤバくない?」

 

「何があってるんだ?」

 

すると最上層部で大爆発が起こる。

 

《っ!!?》

 

「内部の監視カメラにハックするわ。」

 

映像がエルダーゴアキャッスルの内部カメラに移る。各カメラに映るのは無数のラフィン・トルーパーの死体の山、そして炎の中に六つの影が映る。ブラスターライフルや各武装、ゴブリンとオークを投入し、警戒体制をする。すると爆炎の中から一筋の光線がラフィン・トルーパー隊を襲う。爆炎から現れたのは黄金のモナドを突きつけた黒いスーツやコートを着たキオ達であった。

その映像と奇妙な服を着ているキオにリン達は驚く。

 

「あれ?……キオさんやオスカーさん達、かなり変わってません?」

 

するとキオがモナドを掲げ、振り下ろした直後、衝撃のせいかカメラが壊れ、モニター画面が切れた。

 

「え?切れた!!」

 

「ちょっと!今、良いとこだったのに!!」

 

「今はそれどころじゃないでしょ。ココ」

 

「あ、はい!」

 

「サラマンディーネにこの事と映像を見せてあげて。」

 

「はい!」

 

ココは録画したさっきの映像とパソコンを持って引きこもっているサラの部屋へと走る。

 

 

部屋の中ではさらに荒れて散らかっており、サラは部屋の角の隅っこで毛布にくるまって引きこもっていると……。

 

「サラマンディーネさん!開けてください!」

 

「…………」

 

「お兄ちゃんが生きてたの!!」

 

「え……?」

 

 

 

 

 

 

 

その頃、応戦してきたラフィン・トルーパーやオーク、ゴブリンを蹴散らしたキオ達。そして謁見の間の扉を破壊し、駆け上がるキオ達の前に、玉座に座っている総裁 Xと黒騎士、オラクル、そしてフェイト達がいた。

 

「追い詰めたぞ、X!!」

 

「まさか生きていたとは…そして私のエルダーゴアキャッスルとユグドラシル、無数の兵士達の攻防を掻い潜り、ここまで来た事は褒めてやろう。だが……」

 

オラクルや黒騎士、フェイト達がそれぞれの武器を構える。

 

「この数をどう圧倒する?」

 

「……くだらない。」

 

「?」

 

「オラクルと黒騎士、フェイト達?お前にとっては最強に見えるが……俺から見れば子供遊びの……『オモチャ』の様に感じるんだけどね。」

 

「ほぉ……」

 

キオが余裕のある表情をすると、モナドを掲げ、叫ぶ。

 

「地球神龍!!」

 

モナドから地球神龍が現れ、総裁 Xを威嚇する。

 

「……まさか、オリジンと契約するとは。」

 

「それだけじゃない…………龍装光!!!」

 

キオの声と共に、オリジンが吼え、身体が光りだす。そして光り輝くオリジンがキオに吸い込まれる。すると今度はキオの方が光りだす。キオのアーマーの形状が変形し、近未来的なアーマーが繊細な和風と滑らかな洋風、そして龍と思わせる爪と牙、そして尻尾と翼を生やしていた。

 

「まさか、お前一人で我等に刃向かうのか?」

 

Xがそう言うと、キオは黄金のモナドを構える。

 

「笑止!!」

 

キオの雄姿に、Xは笑いながら命令した。

 

「殺せ…!」

 

オラクル達や黒騎士、フェイト達が一斉にキオに襲い掛かり、キオは黄金のモナドを構え、立ち向かうのであった。



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第33話:神の一部

エルダーゴアキャッスル……血のように赤く染まったその要塞で大戦闘が起こっていた。龍装光をしたキオは新たな能力【思考】を使いながら、オラクルや黒騎士、フェイト達の未来視を読み取り、カウンター攻撃をする。しかし、オラクルはまたしてもロンギヌスの槍でキオを拘束する。

 

「チッ!手こずらせやがって……」

 

イザナイは舌打ちし、メシア、シンリの三人がキオを取り押さえながら、Xの前に出す。

 

「態々レイナスが使っていたコルタナ、ロロ、ゼクスを持って来るとは……愚かな2番目の孫だ。」

 

Xは立ち上がり、アルヴィースのモナドを構える。

 

「そうだ……フェイト、此奴の始末を頼む。」

 

「はい…」

 

フェイトはそう言い、ザンザのモナドをキオに向ける。だがXは既にフェイトを睨む。

 

「(馬鹿が……我を暗殺しようとアルヴィースとザンザの力を共鳴し、二刀流で我を切り裂く。無駄な事を……。)この時を待っていた…我が長年の夢がついに実現する。そして我のもう一つの夢……」

 

するとXがキオの耳の近くで言う。

 

「…………」

 

「っ!!?……貴様!!!」

 

キオは怒るが、イザナイ、メシア、シンリが抑えつける。

 

「お前も熟、愚かな者だ……愚かな娘“レイナス”とアルストの英雄“アデル”と駆け落ちし、私の野望を阻止せんと立ち向かった。しかしここまでだ……我が娘よ。我を止める事は出来なかった…これでようやく。感じるぞ!!さぁ……フェイトよ、貴様の手で殺すが良い。」

 

フェイトがモナドを掲げるとキオの表情が笑顔になる。

 

「弟を!!!殺せ!!フェイト!!」

 

Xが叫んだ直後、彼の胴体に黄金のモナドが貫く。

 

「っ!!!?」

 

Xは恐る恐る、振り向く。何とXの後ろに、取り押さえられている筈のキオがいた。Xは前の方も確認するが、そこにキオがいた。二人のキオは笑い、モナドをXから抜く。

 

「「あばよ……糞爺」」

 

『………礼を言うぞ。ティオル……』

 

ヴァラクがキオに優しい微笑みで感謝の礼をし、解放される。するとヴァラクの死体から禍々しい煙が噴き出る。煙が一点に集まり、形を作りだすと、ニライとカナイが全身を震わせ、ディストラは「コイツは……!!!!」と呆然としている。禍々しいの顔になった煙の塊は両の目を見開き、耳まで裂けんばかりに口を開けて背筋が凍るような声を響かせる。

 

「『フフフフフ!!!ア〜〜ハハハハハハハハハハ!!!!!……我!三位一体の力により生みし力!!!時間と空間の調和を乱す、反宇宙論!!!我が名は“魔神 ゼニス”!!!!』」

 

Xの体から現れたのは、かつてキオとフェイトの母 レイナスが封印したとされる災厄を齎らす“神”。『魔神 ゼニス』だったと言う事を知る。オラクル達は膝まづき、ゼニスは集合体で地面につく。

 

「『驚いたよ、テォオル……まさか、私の未来視を越えるとは。』」

 

「黙れ!!お前が全ての首謀者だったとは!!祖父を……ヴァラク・ディラ・エルダー皇帝陛下を!!」

 

「『その通りだ、封印される直前……一部をヴァラクに寄生させた。結果、本体は見ての通りズタボロにされた。だが、魂は今もここにいる。実に良いよ…この体は……さて。』」

 

するとゼニスは口が耳まで裂け、にやける。

 

「『フェメルの愛する彼女を虜にするかフンフフ〜ン♪』」

 

《っ!!??》

 

突然ゼニスが気持ち悪い言葉と舌を出し、オラクルと共に姿を消した。

 

「急ぐぞ!!」

 

「え!?ちょっ!!?」

 

突然フェイトが急いで走る。一体何がどうなっているのか分からなくなるキオは後を追うと、ヴァラクの死体に赤と青のコアクリスタルが転がっており、キオは急いで拾い、フェイトに追いつく。

 

「どういう事だ!!?ゼニスが言っていた愛する者って!?」

 

「俺の大切な人……“ミリーナ”。」

 

「はぁっ!!?何で大切な人がこの城にいるんだ!!?」

 

「人質だったんだ!!地のゾハルと空のゾハルと機のゾハルを渡さなければ、貴様の愛するミリーナを殺すと……。今こうやって暗殺計画を実行したけど、まさかゼニスだったとは予想していなかった。兎に角、急ごう!!」

 

ふやキオ達は急いで、ミリーナが幽閉されている監獄塔へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

監獄塔……ゼニスは監獄塔の扉をこじ開け、ミリーナを犯そうとしたが、部屋には誰もいなかった。しかし、窓の所をよく見ると、カーテンや布団を千切り、ロープの代わりにしており、下の部屋まで伸びており、窓が空いていた。

 

「『…………チッ!!!』」

 

ゼニスは舌打ちし、煙となり、後を追う。その頃、通路を必死に走り抜け、格納庫につく少女。そう、この美少女がフェイトの守っていた大切な人『ミリーナ・アルファス』であった。ミリーナはゼニスから隠れようと、ハンガーに収納されている黄金の機体『イデア』のコックピットに隠れる。格納庫の隙間から煙が入って来ると、形を作り、ゼニスへと変わる。

 

「『ミリーナちゃ〜〜ん、どこにいるのかな〜〜?』」

 

女の敵と思える程の囁きでミリーナを呼びながら探すゼニス。通り過ぎていったと思いきや、頭上のモニターにゼニスが現れ、甘い言葉で言う。

 

「見〜〜〜〜つけた♡」

 

ゼニスは口が裂けた状態で笑い、イデアを揺らす。丁度そこにフェイト達が来て、イデアを見る。

 

「ミリーナ!!」

 

「『これはこれは……皇子様方々一行の御成か。だがお前にこの我やオラクルと黒騎士に勝てるのか?それに、ミリーナだけじゃ飽き足らないから、さっき言った……龍の姫巫女 サラマンディーネを!!!』」

 

その時、キオはコスモスを呼び出してキャノンを乱射する。

 

「黙れ!!お前をサラの所に行かせねぇ!!!」

 

すると天井が崩れ、グノーシスが黄金に輝くモナドを構える。

 

「いくら機体を新しく手に入れ、改造しようとしても、我がゴルドフェニキスには勝てないぞ!!!」

 

「違う!!」

 

ゴルドフェニキスの神託杖から光の槍が伸び、突き付けるが、キオはそれを回避する。キオはグノーシスに乗り込み、あるシステム起動する。するとコックピットの後方から端子が現れ、キオの背中と首、そして頭に装着させると、彼の脳と身体に激痛が走る。筋肉が痙攣を起こすが、徐々に回復していくキオは言う。

 

「さぁ……本当の戦いはこれからだ!!!」

 

キオは蛋白石の義眼を見せ、能力を発動する。オラクル達のロンギヌスの槍が迫った直後、何が起こったのかオラクル達の槍がオラクル達に炸裂した。

 

《っ!!?》

 

「何が起こった!?」

 

「……!!」

 

目の前にいた筈のグノーシスが突然姿を消し、ゼニスが辺りを見回していた直後、目の前からゴルドフェニキスから約1メートルまでグノーシスが聖天を構えていた。

 

「ゼニス様!!」

 

マントラがゼニスを押し飛ばし、聖天の輻射波動がマントラを襲う。

 

「ギヤァァァァァァァッ!!!!!!」

 

膨大な熱量を持って輻射波動がマントラの機械の身体からぼこぼこと膨らませ、やがて爆発した。オラクルであるマントラが一撃で倒された事に、残りの五人は驚く。

 

「マントラを一撃で!!?」

 

「クッ!!生かしてはおけん!!」

 

イザナイとカノンがマントラの仇を取ろうと、先制攻撃をして来た。

 

「【マテリアライズ】ディメンション・ヴァルキュリア」

 

散布されているエーテル粒子を物質化し、武器を作ることが出来るグノーシスは二本の巨大な剣を作り、イザナイとカノンの神託杖を赤子の手を捻るが如く、神託杖ごとイザナイとカノンを一刀両断した。

 

「まさか……やられ」

 

「イザナ」

 

《っ!!!》

 

今度はイザナイとカノンが瞬殺された事に、インガ、メシア、シンリが警戒する。

 

「待て……」

 

《どうやら……我々はとんでもない敵を極限まで高めてしまったらしい。今日のとこは勘弁してやる。だが、次会う時は最後だと思え、ティオル……フェメル……》

 

「俺はキオ……キオ・ロマノフであり『神撃のキオ』だ。」

 

「神撃のキオ、覚えたぞ…その呼び名を!!」

 

ゼニスはそう言い、オラクル達と共に姿を消し、エルダーゴアキャッスルから逃げるのであった。するとエルダーゴアキャッスルが激しく揺れ出す。

 

「何だ!?」

 

「エルダーゴアキャッスルが……崩壊している!!」

 

「急いで逃げよう!!」

 

「すまない皆んな、先に行ってくれ!!」

 

「え?」

 

「まだジュライ皇帝陛下とソフィア皇妃殿下が囚われている!!」

 

「……分かった!俺たちは待っているぞ!」

 

オスカー達は自分達のドールデバイスを呼び、フェイト達もそれぞれの機体に乗り込み、エルダーゴアキャッスルから脱出する。キオは二人が囚われて眠っているとされる研究室へと侵入すると、目の前の光景に吐き気がした。それは実験台に寝かされたオークとゴブリン、そして拉致した人々の無残な死体であった。

 

「……糞が」

 

キオは呟き、二人が眠っているカプセルをグノーシスで持ち上げ、頭部のプラズマレーザーで研究室や資料、全てを破壊していく。そしてエルダーゴアキャッスルの内壁ごと風穴を開け、城から脱出したキオ。みんなに追い付いたキオは崩れ落ちるエルダーゴアキャッスルを見る。

 

「危なかったなぁ!」

 

「あぁ……(何だろう?あのエルダーゴアキャッスル……何かに似ている。)」

 

キオはそう思い、真実の地球へと帰還する。そして彼らが姿を消したとき、ゼニスは呟く。

 

「……ゴルドフェニキスでは無理があり過ぎる。やはり、本来在るべき身体と本来在るべきドールデバイス、そして本来の力を取り戻さなければな……。」

 

ゼニスはゴルドフェニキスのまま拳を握り、マデウスへと帰艦するのであった。



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第34話:神の求魂・前編

エルダーゴアキャッスルから無事にエリュシュオンへと帰還したキオ達とフェイト達。スパルタン達は降りて来るフェイトを警戒していたが、キオ達の説得により、フェイトはモーリス行政長官の元で話し合う。その頃、キオは格納庫でフェイトのバンシー・デバイス、そして持ち帰った謎のデバイス『イデア』を使って、フェイト専用のドール・デバイスが完成されていくのを見ていた。

 

「なんか……フェイトのバンシーが変わっていくなぁ。え〜っと…名前は…『セフィロト』?」

 

キオはそう言い、セフィロトのコックピットを見る。

 

「あれ?」

 

興味深い事に、セフィロトのコックピットを見ると、空間が広く、ただ在るのはフロントパネルのみであった。

 

「フロントパネルだけ?」

 

キオがそう思っていると。

 

「それは二人乗り用だ。」

 

とそこに、チャールズが説明する。セフィロトは未来視と因果律予測が使えるフェイトとパートナーであるミリーナとのシンクロ率を高める為、あえてコックピット空間を拡張し、二人乗り用にしたと。

 

「納得……でも、それだったら俺にも付けてくれよ。」

 

「無理だ。」

 

「なぜ?」

 

キオが問うとチャールズは答える。

 

「お前のグノーシスは未知の領域だ。あっちの宇宙のテクノロジはエリュシュオンやアウラ、サマール、フォアランナーさえも軽く凌駕している。サラッと言えばお前のドールデバイスは今までの機体よりも最強すぎてコストが高過ぎるのだ。」

 

「…………それだけ?他にも永久機関の事は?」

 

「……それもだ。」

 

「…………え〜〜〜……」

 

キオは呆れながら、グノーシスとセフィロトを見上げるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃アンジュは、エンブリヲに呼ばれ廊下を歩いていた。すると。

 

「通してもらえる?」

 

アンジュが目の前に立ちはだかったサリアにそう言い、片手を上げた。その手には、一通の手紙が握られている。

 

「帰って」

 

そんなアンジュの態度が癇に触ったのか、それとも元からこうするつもりだったのかはわからないがサリアがナイフを抜くと構えた。その姿に、モモカも同じように緊張した面持ちになって構える。…もっとも、武器を持っているサリアと違って、モモカは徒手空拳だが。いざというとき、身体を張る覚悟はあるのだろう。相も変わらず実に見事な忠心振りである。

 

「帰るのよ、今すぐ!」

 

が、サリアはそんなモモカには目もくれずに同じ言葉を続けた。

 

「勝手なことをしたら、ご主人様に叱られるわよ?」

 

だが当然、それに従うほどアンジュは大人しいわけでも従順なわけでもなかった。

 

「だったら断って。エンブリヲ様に何を言われても」

 

サリアがそう修正する。元々サリア自身も、アンジュが大人しく自分の言葉に従うとは思ってなかったのだろう。

 

「ふーん…」

 

その一言で、サリアが何を言いたいのかアンジュは大体予想できた。が、サリアも怯むことなく鋭い視線でアンジュを睨んでいる。

 

「ご心配なく。間違ってもダイコン騎士団になんて入らないから」

 

それだけ言い残すと、アンジュはサリアの脇を通り抜けていった。その後を、モモカが走って追う。

 

「ダイヤモンドローズ騎士団よ…!」

 

アンジュの後ろ姿を見送りながら、サリアは不満気にそう吐き捨てたのだった。

 

 

 

先日ひと騒動あったこの書斎室で、アンジュは円卓の椅子に腰を下ろしていた。その目の前でエンブリヲがカップに紅茶を注ぐとそれをアンジュに出す。

 

「ダージリンのセカンドフラッシュね」

 

一口飲んでアンジュが銘柄を当てた。この辺りは流石に元皇族といったところだろうか。エンブリヲはゆっくりと歩くと、円卓を挟んでアンジュの正面にある椅子を引く。

 

「美味しい…とでも言うと思った?」

 

顔を上げたアンジュがエンブリヲを睨んだ。

 

「ん?」

 

「モモカが淹れてくれた紅茶の方が、何百倍も美味しいわ」

 

「♪」

 

主に引き合いに出されて褒められたモモカが嬉しそうに微笑んだ。

 

「それで? 下らない紅茶の自慢のために呼び出したわけじゃないんでしょう?」

 

続けざまにアンジュがそう毒づく。そんなアンジュとエンブリヲの様子を、庭から覗き見している人影があった。サリアである。

二人が何を話しているのか…いや正確には、エンブリヲがアンジュに何を言うのかがどうしても気になったのだろう。サリアはそうせずにはいられなかった。先ほどエンブリヲが言ったとおり、まさしく焼きもちの成せる業である。

 

「わかった」

 

エンブリヲがアンジュに答える形でそう言った。そして、

 

「では率直に言わせてもらおう。君を妻に迎えたい」

 

と、確かに率直に用件を伝えたのだった。

 

「はぁ!?」

 

「!」

 

それを聞きアンジュは、コイツは何馬鹿なこと言ってんだとでも言いたげな表情になり、対照的にサリアは驚きに息を呑んでいた。

 

「君は、私がこれより出会ってきた誰よりも強く賢く美しい。新世界の女神だ。我が妻にふさわしい存在だ」

 

「ッ!」

 

外から中の様子を伺っていたサリアが俯いて打ち震える。悔しさからか悲しさからか、それとも他の感情に突き動かされてのものかはわからないが、どちらにしろ今彼女を支配しているのは負の感情に違いなかった。

 

「私は、妻の望みを叶えてあげたいと考えている」

 

サリアが盗み聞きしているとは知らず…いや、実はとっくにお見通しかもしれないが…エンブリヲは歯の浮くようなセリフを続けた。

 

「えぇ?」

 

エンブリヲの言っている意味がよくわからず、アンジュは怪訝な表情になった。が、そんなアンジュに薄く微笑みかけると、

 

「この世界を壊そう」

 

と、何事でもないかのようにアッサリとそう言ったのだった。

 

「……」

 

これには流石のアンジュも何も反論できず息を呑む。そんなアンジュを置き去りに、エンブリヲが言葉を続ける。

 

「旧世界の人間は野蛮で好戦的でね。足りなければ奪い合い、満たされなければ怒る。まるで獣だった。彼らを滅亡から救うには、人間を作り替えるしかない。そしてこの世界を創った」

 

これは勿論、サラたちの地球とアンジュたちの地球のことである。

 

「高度情報ネットワークで結ばれた賢い人類と、光に満たされ、物にあふれた世界。…だが今度は堕落した。与えられることに慣れ、自ら考えることを放棄したんだ。君も見ただろう? 誰かに命じられれば、いとも簡単に差別し虐殺する、彼らの腐った本性を」

 

そこでエンブリヲは疲れたとばかりに一息入れた。

 

「人間は何も変わっていない。本質的には、邪悪で愚かなままだ。…だがアンジュ、君となら」

 

エンブリヲがアンジュに振り返る。

 

「私たちが生み出す人類ならば、きっと正しく善きものとなるはずだ」

 

「…どうやって?」

 

そこで、これまで聞き手に回っていたアンジュが徐に口を開いた。

 

「世界を壊すって、どうやるの?」

 

「フフッ…」

 

エンブリヲがいつものように軽く笑うと。

 

「♪〜♪〜」

 

「っ!永遠語り!?」

 

アンジュはすぐにそれが永遠語りだと気付く。

 

「統一理論……」

 

歌いだしだけで終わらせたエンブリヲが両手の平を上にかざす。そこに、突如地球を模したものと思われるホログラフがそれぞれの手の平の上に現れた。

 

「宇宙を支配する法則を、メロディに変換したものだよ。この旋律をラグナメイルで増幅し、アウラをエネルギーに使って二つの世界を融合し…」

 

手の上の二つの地球のホログラフを、同じように合体させて融合させる。そしてその後には…

 

「一つの地球に創り直す」

 

その言葉通り、エンブリヲの手の上には、合体・融合して一つになった地球のホログラフができていた。

 

「ドラゴンの星で君が見たものは、そのテストだよ」

 

エンブリヲは地球のホログラフを消すとアンジュに近寄る。そして跪くと、その手を取った。

 

「どうかなアンジュ? 協力してくれるかね?」

 

「フッ、新世界ね」

 

アンジュがエンブリヲのお株を奪うかのように軽く笑う。その様子がおかしいことに気付いたエンブリヲの手をアンジュが取ると、そのままテーブルに押し付ける。そして瞬時に太ももに忍ばせておいたナイフを抜くと、その手の平に突き刺してテーブルに釘付けにした。

 

「ぐうっ!」

 

エンブリヲの表情が歪み、テーブルクロスには赤い染みが広がっていく。

 

「これで、あの変な手品も使えないでしょう!?」

 

「あ、アンジュリーゼ様」

 

凄みを利かせるアンジュの凶行に驚きの声を上げるモモカ。自身を気遣う侍女を無視してアンジュはテーブルの上に乗り上げるとそのナイフを踏んでさらに深々と突き刺した。その度に、エンブリヲが呻き声とも悲鳴ともとれる唸り声を上げる。

 

「この世界に未練はないわ。でも、貴方の妻になるなんて死んでも御免なの、調律者さん」

 

そこで、アンジュはエンブリヲの前髪を掴むとその顔を上げさせた。右手には新しいナイフが握られている。

 

「だから、貴方が死になさい!」

 

「ま、待て!」

 

エンブリヲが止めようとするが、その直後にアンジュのナイフはエンブリヲの首元に刺さった。エンブリヲは身体を痙攣させながらそのまま頽れる。

 

「アンジュリーゼ様…」

 

主人の凶行に、モモカは呆然とすることしかできなかった。が、

 

「フフフ、血の気の多いことだ」

 

あらぬ方向から突然声が聞こえ、アンジュは驚いて振り返った。

 

「だが、それでこそ妻にし甲斐があるというもの」

 

振り返ったそこにいたのは、当然と言うべきかエンブリヲの姿だった。先ほどまでエンブリヲの死体があった方向から金属音が聞こえ、驚いてアンジュが振り返るとそこにはすでにエンブリヲの姿はなく、ナイフが床に落ちているだけだった。

 

「!」

 

憎々しげな表情になってテーブルの上のナイフを手に取るとそれをエンブリヲに向けて構えようとするアンジュ。が、みすみすエンブリヲがそんなことをさせる訳もなく、その手を背中で捻り上げる。苦悶の声を上げたアンジュがそのままナイフを滑り落とした。

と、エンブリヲはアンジュの自由を奪ったまま左手で彼女のこめかみの部分をチョンと触る。

 

「あああああああーっ!」

 

その瞬間、アンジュの全身に激痛が電気のように走った。そのまま倒れこむと、アンジュは痛みに悲鳴を上げる。

 

「あ、アンジュリーゼ様!」

 

先ほどのアンジュの凶行に呆然としていたモモカだったが、主人の異変に慌てて走り寄った。

 

「流石の君も、五十倍の痛覚には耐えられないか。では、これならどうかな?」

 

そして今度は、エンブリヲは額をチョンと触った。と、すぐさまアンジュの様子が一変した。顔が真っ赤になり、呼吸が荒くなったのだ。

 

「姫様、大丈夫ですか!?」

 

アンジュの許に駆け寄ったモモカがアンジュを抱き起す。が、

 

「さ、触らないで!」

 

モモカを振り払うようにアンジュが彼女を突き飛ばした。

 

「姫様?」

 

アンジュによって地面に倒されたモモカだったが、流石は忠誠心の塊だからかアンジュの様子がおかしいことに気付いた様子だった。そのアンジュは自分の股間と胸に手を置き、必死に何かに耐えている様子だった。

 

「う、ううっ…」

 

身体は小刻みに震え、呼吸は更に荒くなり、顔の赤みも増している。誰が見ても尋常でない様子が一目でわかるものだった。のたうち回りながら、しきりに太ももをこすり合わせている。

 

「姫様!」

 

モモカがもう一度駆け寄った。そしてその身体に触れる。と、

 

「もっと…触って…モモカ…もっと…」

 

熱にうかされているかのような表情で、息も絶え絶えにそう呟いたのだった。

 

「痛覚を全て快感に変換した。アンジュ、君を操ることなど簡単なんだよ?」

 

訳が分からないといった表情を浮かべるモモカの横で、エンブリヲが種明かしする。その表情は実に楽しそうなものだった。

 

「これ以上苦しみたくなければ、私の求魂を受けることだ」

 

そして、止めを刺すべくそう告げた。

 

「姫様を元に戻してください! 今すぐ!」

 

アンジュの突然変異の理由がわかったモモカが厳しい表情でエンブリヲに噛みつく。が、エンブリヲは一瞬チラッとモモカに顔を向けたが、すぐにアンジュに視線を戻した。

 

「できることなら君が私の求魂を受け入れるまで付き合いたいところなのだが、これからとても大事な客を迎えなくてはならなくてね。何、時間はある。ゆっくり考えたまえ」

 

それだけ言い残すと、エンブリヲはその場から消えた。

 

「え?」

 

驚いたモモカが慌てて傍らのアンジュに目を向けると、そこには先ほどまでいたアンジュの姿もなかった。

 

「え? えええーっ!?」

 

一人取り残された形になったモモカは驚きの声を上げることしかできず、役者のいなくなったことを確認したサリアもまた、その場を去ったのだった。

 

 

 

 

 

その頃、真実の地球ではフォートレスモードのグノーシスとフォートレスモードへとなったセフィロトの連結していた。

 

「グノーシスとセフィロト……連結できたんだ。」

 

「驚きだ。俺のセフィロトがさらにデカくなる。」

 

二人はバンシーと合体したグノーシスを見て驚く。人型だったグノーシスとセフィロトが合体し、二首を持つ龍へと変形していた。するとチャールズとマリアが語る。

 

「そう言えば、幻想大地ウルの研究で、これに良く似た龍の壁画を思い出す。」

 

「あ、そう言えばこの形……もう一つの首があれば巨大な三つ首のテレシアであったはずですね。」

 

「三つ首のテレシア?」

 

「あぁ……昔の壁画に、三つ首のテレシアがゼニスの身体を三つに分けた。昔、頭部と上半身と下半身に別れたゼニスの事を話しただろ?」

 

「ぁ、そう言えばそんな事を言ってたなぁ。」

 

「ひょっとしたら、ココのハウレスとフェイトのセフィロト、キオのグノーシスが合体すればとてつもない機体になると思う。だから、私はその合体した機体の事をこう名乗ろうとする……『ハイドラ』と。」

 

「『ハイドラ』……偽りの神話に出てくる怪物の事か。父さん、向こうにいるエルマ大佐達との交信は出来るかな?」

 

「彼女が心配なのか?」

 

「えぇ……引きこもっていたと、モーリス行政長官から聞きました。」

 

「……分かった。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「継ながりました!」

 

《キオ!》

 

「そう、フェメル達が……」

 

「えぇ……それとエルマ大佐。Xの事なんですが。」

 

「どうかしたの?」

 

「…………X、嫌……本当の敵は、Xではなく…Xであるヴァラクの身体に憑依していた魔神 ゼニスこと、“アルフォンス・斑鳩・ミスルギ”だったのです。」

 

「何ですって!?」

 

「知っているのですか?」

 

「タスク達には話していなかったね。アルフォンス・斑鳩・ミスルギ……元ビルキスのライダーで、アンジュの先祖なの。」

 

「え!?その、アンジュの先祖がどうして?」

 

「それはまだ不明だ。だがエルダーゴアキャッスルから救出したジュライ皇帝陛下とソフィア皇妃殿下が目覚めない限り、アルフォンスの狙いが何なのか、もしかしたら斑鳩家の事を知っているソフィア皇妃殿下なら知っていると思う。……あのエルマ大佐、サラは?」

 

「……引きこもっているわ」

 

「…………会わせて頂けないでしょうか?」

 

 

 

 

 

 

エルマはモニターパネルを持ってサラの部屋の前でドアをノックする。

 

「サラ……いる?」

 

「……キオ?」

 

サラは恐る恐るドアを開け、モニターパネルに映っているキオに驚く。

 

「キオ!」

 

「その……心配かけてごめん。」

 

するとサラがキオと再会できて泣き崩れ出す。

 

「生きていて……良かった!」

 

「……ごめん。」

 

キオとサラは互いの額をカメラに近づけるのであった。



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第35話:神の求魂・後編

 

そして格納庫ではついに、キオのグノーシスと並ぶ兄弟機『セフィロト』が完成された。キオとフェイトは互いの機体を見て呟く。

 

「俺のグノーシスと……」

 

「俺のセフィロト……」

 

『純白と漆黒の装甲を持つ天使“グノーシス”』『白銀と黄金の悪魔“セフィロト”』が並び立ち、二人は互いの拳をグータッチする。

 

「あ、そうだ。」

 

するとキオはポーチから赤と青のコアクリスタルを取り出す。

 

「これ……ゼニスが持っていたコアクリスタル。」

 

「これは……母上が使っていたブレイドだ」

 

「え?」

 

「無くなってしまったと思った。……」

 

フェイトは拳を握りしめ、青いコアクリスタルをキオに渡す。

 

「同調するぞ……」

 

キオとフェイトはそれぞれのコアクリスタルとの同調を始める。フェイトとキオのの赤と青のコアクリスタルが光だし、現れたのは額に赤いコアクリスタルが埋め込まれ、黒い刀、黒い衣服を着たブレイド『シン』と近未来的な外装と白いプロテクトアーマーをしたブレイド『ダイナ』であった。

 

「俺の主君はお前か?」

 

「よぉ!俺のマスターはアンタか?」

 

「「……あぁ。」」

 

二人は互いに握手で交わし、シンとダイナはフェイトとキオの身体の中へと入っていった。

そしてキオ達は戦艦インフィニティを含むキルグナス級ドレッドノートやアルデバラン級中型強襲戦艦隊、アンドロメダ級大型重戦闘艦隊、パリ級重フリゲート艦隊が空へ上がっていく。インフィニティの格納庫ではグノーシスとセフィロトの連結が終わっていた。前部にフォートレスモードへとなったグノーシスにセフィロトが合体しており、巨大航空機へとなっていた。コックピットにはグノーシスにキオ、セフィロトにはフェイトとミリーナが座っており、オスカーやナーガ達も準備をしていた。

 

「「「CPC設定完了。ニューラルリンケージ。イオン濃度正常。メタ運動野パラメータ更新。エーテル炉臨界。パワーフロー正常。全システムオールグリーン。」」」

 

キオとフェイト、ミリーナは二体の状況を把握しながら設定を確認をし、キオとフェイトが言う。

 

「「グノーシス/セフィロト!発進!!」」

 

フォートレスモードのグノーシスとセフィロトが発進すると同時にオスカー達やエーテリオン艦隊を連れて、空へ飛び立つのであった。

 

 

 

 

 

ミスルギ皇国、その頃アンジュは……。

 

「うあああああああ!!!!!!!!」

 

何やらとんでもない事になって居た、アンジュは生まれたままの姿で何やら床に転がりながら暴れまわっていて、それをエンブリヲは眺めていた。

 

何故アンジュはあんな事になっているのか、それはエンブリヲがアンジュの感覚と痛覚を全て快感へと変化させていて、それにアンジュは苦しめられていた。

エンブリヲは感覚と痛覚を全て変える事が出来る、彼はそれを使ってアンジュの心を徹底的に落とそうとしていた。

 

そしてようやく快感である呪いが解けて、アンジュは息荒らした状態で床へと倒れ込む。

エンブリヲはアンジュのそばにより、アンジュを見ながら問う。

 

「どうだねアンジュ、これで私の妻になる気はあるかい?」

 

っとそれにアンジュは息荒らした状態で、エンブリヲを睨む。

 

「はい……エン…ブリヲ…っくたばれ!!屑野郎!!!!!」

 

アンジュのとても強い心の強さはエンブリヲの感覚変化さえも折らせる事は出来ない、しかしエンブリヲはため息を少し出しながらアンジュを見る。

 

「はぁ…、やれやれ、困った子だ」

 

そうエンブリヲは指でアンジュ頭を突き、アンジュに再び快感の感覚を味あわせる、それも次は強烈な物を浴びせて…。

 

「ああああああああああああああ!!!!!熱いいいいいいいい!!!!!!!!」

 

アンジュは再び転がりまくりながら暴れ、エンブリヲはその部屋を出ようとした時だった。

 

「タスク…!!!」

 

「ん?」

 

エンブリヲはアンジュの言った言葉に思わず振り向き、アンジュは目に涙を流し絶えながらタスクの名を言う。

 

「助けて…!!タスク……!!!」

 

「(タスク…?まぁ良い、いずれ私の物になるからなぁ。)」

 

エンブリヲはそう思いながらその部屋を出て行く。そして数分後、扉が開き、現れたのは……。

 

「無様ね」

 

アンジュに近づきながら、サリアは侮蔑した言葉を浴びせる。

 

「サリア…」

 

ぐったりしながら、アンジュは何とか少しだけ顔を上げてサリアに視線を送った。

 

「エンブリヲ様に刃向かうから、そうなるのよ、バカ」

 

「バカは…貴方よ。あんなゲス男に…心酔しちゃって…」

 

ヘロヘロなのに口が減らない辺りは流石アンジュと言ったところか。だが、サリアは特に気にした様子もなかった。

 

「私にはもう、エンブリヲ様しかいないもの…」

 

言葉だけならそれっぽいが、その表情はどこか悲しさ、やるせなさを感じさせるものだった。サリアも薄々はわかっているのだろう。エンブリヲの正体に。その紡ぐ言葉が、どれだけ信用できないものかと言うことが。

とはいえ、今言った通り今の彼女にはエンブリヲしかないのである。寄る辺を失いたくはないのだろう。

 

「でも、あんたは違う。ヴィルキスも、仲間も、自分の居場所も、何でも持ってる。これ以上、私から奪わないで」

 

それだけ言うと身を翻し、アンジュに背を向けて歩き出した。そして、数歩進んだところで足を止め、振り返る。

 

「出てゆきなさい、エンブリヲ様が戻ってくる前に」

 

「え…?」

 

ノロノロした動きながら上半身を起こすと、アンジュがか細い声を上げた。

 

「抵抗を続ければ、そのうち心を壊されるわよ。それでもいいの?」

「!」

 

このままでは十分あり得る未来に、アンジュが瞳孔を開いた。

 

「別に、あんたを助けるわけじゃないから」

 

再びアンジュに背を向けたサリアがそう言う。状況によってはツンデレもいいところなセリフではあるが、サリアにはそんな気は全くないだろう。

 

「えっ…?」

 

「無様なあんたを、見たくないだけ」

 

そして、話は終わりとばかりにサリアはそのまま部屋を出ていく。と、不意にその背後からアンジュが襲い掛かり、サリアにチョークスリーパーを掛けた。

 

「ありがとう、サリア…」

 

言葉とは裏腹に、アンジュが力を入れてサリアの首を締め上げる。

 

「これは、助けてくれたお礼よ」

 

「ぐっ…はっ…」

 

苦悶の表情を浮かべながら、アンジュの腕を引き剥がそうと必死に抵抗するサリア。だが、残念ながらアンジュの腕はその首にますます食い込んでいった。

 

「逃がしたより、逃げられたことにしておいた方が、罪は軽くなるでしょう?」

 

「余計な…お世話よ…この…筋肉…ゴリ…ラ…」

 

そこで、サリアは意識を手放した。アンジュはそのままサリアを廊下に横たえさせる。

 

「はぁ…はぁ…」

 

肩で息をしながら呼吸を整える。と、

 

「アンジュリーゼ様!」

 

その場に丁度モモカが現れた。

 

「モモカ!」

 

アンジュはオトしたついでとばかりに散々虚仮にしていたサリアの制服を剥ぎ取るとそれを身に着け、モモカに支えられながらその場を後にしたのだった。

一方、暁ノ御柱最深部ではアウラの周囲を取り囲むように配置されているラグナメイルが、エンブリヲによる永遠語りに共鳴するかのように淡く光り輝いていた。

 

「準備は整った」

 

そう宣言すると、エンブリヲは後ろにいるエルシャたちへと振り返る。準備とは当然、以前アンジュに明かしていた時空融合のことだろう。

 

「総員ラグナメイルに騎乗! 計画完了まで暁ノ御柱を護れ!」

 

『イエス、マスター!』

 

エンブリヲに敬礼を返すと、エルシャたち四人は速足でその場を後にした。エルシャたちを見送ったエンブリヲが首を戻すと、そこに先ほどまではなかった一つのウインドウが浮かんでいた。

拡大したウインドウに映ったのは、下着姿で廊下に転がっているサリアの姿だった。

 

「くっ!」

 

その姿で大体何があったのか想像ついたのだろう。忌々しげな表情でエンブリヲは舌打ちをしたのだった。

一方、脱出に成功したアンジュはモモカに支えられながら皇城の中庭を出口に向かって歩いている。と、

 

『何処に行くの、アンジュちゃん』

 

不意に、二人の耳に通信越しのそんな声が届いた。声が聞こえた方に振り向いた二人の視線の先には、その声の主、エルシャがフライトモード状態のラグナメイルに乗ってアンジュとモモカを見下ろしていたのだった。

 

「エンブリヲさんが探してるわ」

 

サリアの状況からすぐに指令が飛んだのか、エルシャはその旨を伝えてきた。が、大人しく従うようなアンジュとモモカではない。

 

「走れますか、アンジュリーゼ様」

 

「ええ…」

 

体調はまだ万全でないながらも、エンブリヲに弄ばれているときよりは余程ましであるため、アンジュも頷いたのだった。そして二人は連れ立って走り出す。

 

「あらあら、仕方ないわね」

 

走り出した二人を見下ろしながらエルシャはそう呟くと、アンジュたち…正確に言えばアンジュを捕えるためにラグナメイルのスピードを上げた。

 

「くっ!」

 

グングン詰まっていく距離に不安げなモモカと歯噛みするアンジュ。と、アンジュの指輪が光を放った。そして、それに呼応するかのようにヴィルキスが瞬時にアンジュたちの目の前に現れる。現れたヴィルキスは主の意を汲むかのように、すぐさまアサルトモードからフライトモードへと姿を変えた。

 

『ヴィルキス!』

 

エルシャとクリスが驚きの声を上げる。アンジュは急いでヴィルキスに跨った。

 

「モモカ、乗って!」

 

「はい!」

 

モモカも急いでヴィルキスに跨る。そして、アンジュはそのままヴィルキスを発進させる。その直後、ヴィルキスのいた場所にエルシャの攻撃が着弾したのだった。

 

「クリスちゃん!」

 

「わかってる」

 

エルシャからの通信を受け取ったクリスが返事を返した。

 

「逃がさないよ、アンジュ」

 

そのまま、二機で追撃態勢に入る。

 

「くっ!」

 

歯噛みしながらヴィルキスを操縦するアンジュ。だが、流石にラグナメイル同士だからか、振り切るのは至難の業だった。ライフルが雨霰とアンジュを襲う。そうこうしている間にターニャとイルマも合流し、一対四の絶望的な状況になっていた。

 

「アンジュリーゼ様ーっ!」

 

必死でしがみついているモモカが救いを求めるかのように主の名を呼ぶ。だが、アンジュもこの状況を打開できる術はない。

 

(どうすれば…!)

 

焦り始めたその時だった。暁ノ御柱直上に不意にシンギュラーが開いたのだ。そしてそこから、エルシャたちを牽制するかのようにビーム砲が降り注いだのだった。

 

「!」

 

思わずアンジュが顔を上げる。そこには、こちらに舞い降りてくる機影が三つ。その先頭に立つのは当然と言うべきか、キオのグノーシスとオスカー達やインフィニティであった。

 

『助けに来たぞ!!アンジュ!!』

 

「キオ!?」

 

キオのグノーシスとフェイトのセフィロトは分離し、ダイヤモンドローズ騎士団と向かい会うのであった。



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第36話:遺されるもの・前編

 

アンジュを捕まえようとした時にキオ達の登場でエルシャ達はより警戒を強め、アンジュはキオのグノーシスを見て通信を入れて来る。

 

「キオ!あなたキオなの!?」

 

「アンジュリーゼ様、キオさんの機体はセイレーンではありません…」

 

モモカがアンジュにそう聞いてくる中でヴェルトサーガから通信が帰って来た。

 

『久しぶりだなアンジュ、無事でなによりだ』

 

「キオ!あなた無事だったのね!それにあなた、目が!?」

 

「まぁその事は後にしてくれ。つうかお前から変な臭いがするんだけど……」

 

アンジュが絶句する。図星を突かれたのだから仕方ないところでもあるのだが。

 

「風呂でも入ったらどうだ?その間、このラグナメイルの雑魚どもは俺らに任せておけ!」

 

キオはグノーシスに搭載されている輻射推進型自在可動有線式右腕部『聖天』を構える。

 

「じゃあ…お言葉に甘えて!」

 

機首を返し、アンジュは全速で離脱していく。

 

「皆んな!用意は出来てるか?」

 

離脱していくアンジュを見送ったキオが左右に控えているオスカー達

に尋ねた。

 

《おぉ〜!!》

 

オスカー達の返答を聞いたキオ。そして引き受けたの言葉通り、ダイヤモンドローズ騎士団へと突っ込み始めた。ラスキー達もキオの後に続く。

 

「目標!アウラ奪還!!」

 

新たな戦闘が始まり、その上空を見上げる人影が皇城に一つ。

 

「何ですの、あれ?」

 

シルヴィアであった。車椅子に乗って外の様子を見ていると、戦闘を繰り広げているセフィロトが彼女の方に突っ込んでくる。

 

「きゃああああああーっ!」

 

その姿に悲鳴を上げるシルヴィア。そして、

 

「助けて、エンブリヲおじ様ーっ!」

 

相変わらずの素早い身のこなしでエンブリヲに助けを求めながらその場を去ったのだった。その間も、ミスルギ皇城の上空ではキオたちとダイヤモンドローズ騎士団、そしてエーテリオンとデウス・コフィンの艦隊の戦いが繰り広げられていく。

 

 

 

 

 

 

 

「ヒルダ、何か変だ。もう戦闘始まってる!」

 

戻って来たキオ達とダイヤモンドローズ騎士団との戦闘の光景はアンジュを救出にきたヒルダたちからも視認できたのだろう。想定外の事態にロザリーが驚きの声を上げた。

 

「はぁ?」

 

それはヒルダも同様だったようで、訳が分からないといった表情をしていた。そんな中、

 

「クンクン…クンクン…」

 

ヴィヴィアンが鼻を鳴らす。そして、

 

「ヒルダ、アンジュあっち!」

 

得物を捉えたようだった。

 

「は?」

 

「あっちー!」

 

そのままヴィヴィアンは自分の嗅覚がアンジュを捉えた方向へと機首を向ける。

 

「くそ、どうなってんだよ!」

 

ロザリーは相変わらず混乱気味である。戦いに行ったのに、すでに戦闘が始まっているのだから仕方ないが。更に、当事者の一方はどこの勢力なのかわからないのだから尚当然である。

それはヒルダも同じだったかもしれないが、彼女は部隊を預かる身のためすぐに次の行動に移った。

 

『タスク、作戦変更だ』

 

出撃前の作戦通り、超低空を滑るように走るタスクに通信を入れたのだった。

 

「えっ?」

 

ここにきての作戦変更に訝しげな表情になるタスク。だがそれも、次の通信内容で得心のいくものとなった。

 

『アンジュはもう、皇宮にはいないらしい。これより追跡する』

 

「わかった!」

 

通信を切ったタスクもヒルダたちと同じように作戦の方針を転換させて、ひとまずアンジュの探索に舵を切った。

その頃当のアンジュは、相変わらずミスルギの皇城から離脱している最中であった。

 

「モモカ、追手は?」

 

後ろを気にしながら、アンジュがモモカに尋ねる。

 

「今のところは…」

 

モモカがそう答えた直後、

 

『アンジュ、いたー!』

 

通信からヴィヴィアンの声が聞こえてきた。

 

「!」

 

驚いてアンジュが真正面に視線を向ける。そこには、

 

「すげぇ、ホントにいた」

 

「助けにきましたよ!アンジュ!」

 

「みんな…サラ子も…!」

 

そんなアンジュのヴィルキスを、凱旋門のようなオブジェの上からライフルで狙いをつけているパラメイルが一機。クリスであった。クリスは慎重にライフルの照準を合わせるとその引き金を弾いた。ビーム砲が寸分の狂いもなくヴィルキスに向かって放たれる。

 

「っ!!…アンジュ!」

 

最初に危険に気付いたヴィヴィアンが叫ぶ。が、ビームは容赦なくヴィルキスに迫り、アンジュを飲み込もうとしていた。その瞬間、またも指輪が光ってバリアのシールドのようなものがヴィルキスを護る。だがそれでもビームの威力は十分だったらしく、当たり所が悪かったのかシステムがダウンしてしまった。

 

「きゃああああああーっ!」

 

モモカの悲鳴と共にヴィルキスは力なく高度を落とす。幸い…と言うべきか、下が河だったため地面に落ちるよりも軟着陸で不時着することができた。

 

『アンジュ!』

 

ヒルダ、ロザリー、ヴィヴィアンの三人が叫ぶ。それに割り込むように、

 

『どいて』

 

無機質な通信が三人の元に入った。三人が顔を上げると、クリスのラグナメイルが突っ込んでくる。

 

「アンジュ…連れて帰るから」

 

「アンジュはあたしが貰ってく。邪魔すんな!」

 

「へぇ…助けにきたんだ…」

 

俯き加減で顔を伏せるクリス。そうしている間にも、悪意のオーラと呼ぶべきものが増していくのがわかる。

 

「あたしのことは、見捨てたくせに!」

 

とうとう感情が爆発したクリスがヒルダたちに向けてライフルを乱射する。

 

「おおおーっ!」

 

驚きながらヴィヴィアンが攻撃をかわす。

 

「ま、待てクリス!」

 

ロザリーが制止しようとする。そんなロザリーとは反対に、

 

「邪魔すんなって言ってんだろ!」

 

ヒルダが距離を詰めて襲い掛かった。クリスも受けて立つとばかりにブレードを抜くと、ヒルダと鍔迫り合いを繰り広げる。

 

「あんたが、あたしに勝てるとでも思ってんのかよ」

 

「変わらないね、そういうとこ…」

 

二機のパラメイルは瞬時に距離を取るとライフルで牽制しあう。そしてまた距離を縮めてブレードで斬り合った。

 

「あたしのことなんて、弱くて使えないゴミ人形ぐらいにしか思ってないんでしょう!?」

 

「はぁ!?」

 

「あたしはもう昔のあたしじゃない!」

 

積もり積もった鬱積を爆発させるかのようにクリスがライフルを乱射する。

 

「邪魔すると…殺すよ?」

 

ヒルダに向けたその殺気は、確かに躊躇いの見られないものだった。

 

「クリス…」

 

「ひいーっ!」

 

ロザリーが信じられないとばかりに言葉を詰まらせ、ヴィヴィアンは大仰にのけぞる。そんな中、

 

「はっ、やってみろよ!」

 

ヒルダはクリスの挑戦を受けて立ち、再びクリスへと突っ込んだのだった。そしてクリスと斬り結びながらタスクに向けて通信を開く。

 

「タスク、ヴィルキスが落とされた! こっちは手が離せねえ。アンジュを頼む!」

 

「わかった!」

 

「ドラ姫は急いでキオの所へ向かえ!」

 

「承知!!」

 

ヒルダの通信を受け取ったタスクとサラは、自機のスピードを上げたのだった。

同じ頃、そのアンジュはと言うとモモカから人工呼吸を受けていた。河に不時着したため機体自体に重大な損傷はなかったが、搭乗者のアンジュは着水時にしこたま水を飲んでしまったらしく、意識を失っていたのだ。

そして、そんな主を目覚めさせるためにモモカが必死に人工呼吸をしているところだった。

 

「…ぐっ、ゲホッ、ゲホッ!」

 

何回かの人工呼吸の後、アンジュがえづきながら咳き込んで意識を取り戻した。

 

「姫様!」

 

意識を取り戻したアンジュにモモカが心底ホッとしたような表情を浮かべる。

 

「モモカ…?」

 

未だ少し朦朧とした頭でモモカの顔を見る。だが、その姿の向こうに衝撃的なものを見てしまっていた。

 

「ヴィルキスが…!」

 

そう、河に水没していくヴィルキスの姿だった。気がかりではあるのは確かだが、今はそれに構っている暇はないのもまた事実だった。

 

「行きましょう、モモカ」

 

ふらつきながらもアンジュが何とか立ち上がる。

 

「どちらにですか!?」

 

モモカが脇からアンジュを支えながら彼女に尋ねた。

 

「ヒルダたちが来たってことは、近くにアウローラがいるはず。海まで出れば、合流できるわ」

 

「は、はい!」

 

こうして主従は寄り添うように海を目指して歩き始めたのであった。そうしている間にも戦火は広がり、皇城にも流れ弾や狙いの反れたビーム砲などが着弾し始める。そんな皇城の中庭で、身を寄せ合うように震えている一団があった。エルシャが面倒みている、エンブリヲ幼稚園の子供たちである。

アルゼナル育ちとはいえそこは子供。まだ戦闘に慣れているわけもなく、肩を寄せ合って泣きそうになりながら恐怖に震えていた。

 

「皆! エルシャママが帰ってくるまでの辛抱だからね!」

 

子供たちの中でもお姉さん格の一人の子が、他の子たちを元気づけるためにそう励ました。するとそこにインガが現れ、神託杖を構えるのであった。

 

 

「車、探してきますね。ここで休んでいてください」

 

一方、モモカと共に連れ立って歩いてきたアンジュは、ひとまず路地裏の路上に腰を下ろしていた。まだあまり身体に力が入らないのだろう。エンブリヲに身体の感覚をいじられて弄ばれ、先ほどまでしこたま水を飲んで意識を失っていたので仕方ないのだが。

 

「世話をかけるわね、モモカ…」

 

か細い声でアンジュが礼を言う。

 

「モモカ・荻野目は、アンジュリーゼ様の筆頭侍女ですよ」

 

そう言って微笑むと、モモカはそのまま車を探しに走り出したのだった。

 

「はぁ…はぁ…」

 

モモカを見送ったアンジュが疲れたとばかりに大きく呼吸を繰り返す。と、すぐ側に人の気配を感じた。

 

「モモカ…?」

 

思わずアンジュがそう口にする。だが、そんなわけはないのだ。車を探しに行ったのに、すぐに見つけられるはずがない。普通ならそのぐらい気づきそうなものだが、今の弱っているアンジュにはその判断もできなかった。案の定、そこにいたのは熊のぬいぐるみを抱えた見たこともない一人の少女。

 

『疲れただろう?…アンジュ』

 

だがその口から紡ぎだされた声は、少女が出すとは到底思えない代物であり、そしてアンジュも良く知っている人物のものであった。

 

「っ!エンブリヲ!?」

 

ぎょっとした表情になって慌ててアンジュが立ち上がった。

 

『さあ、帰っておいで』

 

喋る少女の隣にウインドウが開き、そこにはエンブリヲの姿が映っていた。と、まるで計ったかのように丁度いいタイミングでモモカが車を調達して戻ってきた。

 

「アンジュリーゼ様、お車の「出して、モモカ!」」

 

全てを聞き終わる前にアンジュがふらついた足取りでモモカの元まで移動し、倒れこむように車に乗り込んだ。

 

「えっ!? は、はい!」

 

状況がわからないがそれでも主人の命令である。モモカ自身もすぐに車に乗り込むと、そのまま車を発進させたのだった。その頃、

 

「アンジューっ!アンジューっ!」

 

タスクがヴィルキスの着水地点にようやく到着して辺りを探している。だがもう既に移動した後なので、呼べど叫べど当然のようにアンジュの姿を見つけることはできなかった。見つけられたのは水没したヴィルキスだけである。

 

「っ!」

 

何か手掛かりはないかとタスクが周囲を見渡す。と、あるものを見つけた。それは、いつもモモカの胸元に結ばれているリボンだった。そしてそのリボンの落ちている近くに、足跡が二つ。その足跡は、真っ直ぐ街中に向かっていた。

 

 

 

「待ってくれクリス!」

 

ミスルギ皇城の上空では、未だにクリスとヒルダたちの戦闘が続いていた。ロザリーが必死の説得を試みる。

 

「何で…何であたしたちが殺し合わなきゃいけないんだよ!」

 

必死の説得は続く。が、

 

「人のこと見殺しにしておいて…!」

 

今のクリスの耳には届かない。

 

「あの時は…助けに行きたくても行けなかったんだ!」

 

ライフルの乱射を何とか回避しながら尚説得は続く。

 

「助ける価値もないから…でしょう!?」

 

だが、やはりクリスの耳には届かなかった。そのまま、クリスはロザリーのグレイブに突っ込んで体当たりを浴びせる。

 

「あんたたちはいつもそう。何にも変わってない」

 

そこでクリスは乗機のラグナメイル…テオドーラをアサルトモードからフライトモードに変形させる。そしてヘルメットを外し、シートから腰を浮かせて立ち上がった。

 

「ねえ…これ、覚えてる?」

 

そして、自身の三つ編みを手に取るとピンと伸ばしてロザリーとヒルダに尋ねる。覚えているのかいないのか、二人の反応は微妙なものだった。

 

「七年前のフェスタでさ…」

 

クリスが昔の…その時のことを語り始めた。

 

 

 

 

《回想》

 

 

 

「せーの!」

 

まだ幼い…十歳前後のヒルダ、ロザリー、クリスが目の前にある紙袋を取った。と言っても、ヒルダとロザリーが先に選び、クリスは残り物を取るという形だったが。

 

「それあたしが買ったやつ!」

 

ヒルダが取り出した紙袋の中身を見たロザリーが声を上げた。

 

「へぇ…いいセンスしてるじゃん」

 

言葉通り、ヒルダはまんざらでもない様子だった。そう、彼女たちはプレゼント交換をしているのだ。紙袋なのは、中身が見えないようにするためだろう。

 

「あたしが選んだんだよ」

 

ロザリーが取り出したもの…水玉柄の靴下を見たクリスがそう言った。

 

「えへっ、クリスらしい!」

 

喜ぶロザリーの姿に、クリスも嬉しそうに微笑んだ。そして、そのままクリスも紙袋を開ける。

 

「わぁ…可愛い…」

 

そこに入っていたのは、真っ赤なリボンだった。だが、一つだけしか入っていなかった。

 

「でも、どうしよう? 一つしかないんじゃ…」

 

そこにクリスは難色を示した。当時のクリスは左右で三つ編みを一つずつ作っていたため、リボン一つでは足らないのだ。そこに口を挟んだのがヒルダだった。

 

「お下げ、一つにしちゃえば?」

 

「え?」

 

クリスが顔を上げる。

 

「二つだと、あたしと被ってるし」

 

「あ、いいじゃんそれで。な!」

 

ロザリーも追随する。

 

「う、うん」

 

二人に促され、クリスも頷いた。が、本心は違っていた……。

 

 

 

《回想終了》

 

 

「酷いよね。あの髪形、気に入ってたのに」

 

「それが今更、何だって?」

 

「それだけじゃない!」

 

刺すように冷徹な視線で返事をしたヒルダに、クリスが感情を昂らせる。

 

「ずっとずっと我慢してた。何でも受け入れようとしてきた。あんたたちの我儘も、自分の立ち位置も。友達だと…思ってたから…」

 

鬱積した感情が爆発する。クリスの脳裏には後方支援に回っていることで碌に稼げなかった時のことや、ヒルダとロザリーが仲良く遊んで自分がハブられている(と思っている)時のことが次々と浮かんでは消えていた。

一つ一つは小さくても、それが積もれば山になる。今のクリスがまさにそうだった。と、不意にクリスが口元を醜く歪める。

 

「なーんて、わかるわけないか。人の気持ちのわからない女と、何も考えてないバカに」

 

「「!」」

 

初めてと言っていいクリスからの辛辣な言葉に、ヒルダとロザリーが表情を歪める。

 

「でも…エンブリヲ君は違うよ」

 

そして、今身を寄せる『友達』のことを口にしたのだった。あの時、アルゼナルが崩壊した直前、太陽の逆光越しに見上げたそこにいたのは、ヒルダでもロザリーでもなく、この時はまだ誰かも知らない初対面のエンブリヲだった。

 

『私と、友達になってくれないか? クリス』

 

そしてエンブリヲはクリスの左手を取ると、エンゲージリング宜しく彼女の中指に指輪を通した。

 

『これが…』

 

それこそが、後にクリスに与えられるラグナメイル、テオドーラのキーであった。

 

「………永遠の友情の証!」

 

それをヒルダとロザリーに見せつけるかのように手の平を二人に向ける。そしてそのまま三つ編みに手を掛けると、それを結んでいたリボンを引きちぎった。まるで過去と決別するかのように。

 

『……』

 

何を返せばいいかわからず…いや、何も返せずにヒルダとロザリーが絶句する。

 

「あんたたちは、友達なんかじゃなかったんだ!」

 

感情を爆発させたクリスがテオドーラをアサルトモードに変形させてヒルダたちへと突っ込む。

 

「頼むクリス、あたしの話を!」

 

それでもロザリーがクリスを説得しようとする。が、クリスは耳を貸すわけもなくライフルをロザリーに向けて発砲した。

 

「うわっ!」

 

慌ててロザリーが回避する。そんな戦況は戦闘空域から離れた位置にいるココ達にも聞こえていた。

 

「ロザリーお姉さま!」

 

当然その戦況は、待機している新兵の三人たちの耳にも入っている。

 

「あたしたちも行こう!」

 

新兵の一人、マリカがそう言った。

 

「ちょっと、マリカ!」

 

「命令は待機だよ!?」

 

左右から残りの二人の新兵、メアリーとノンナが抑える。が、

 

「でも、お姉さまが危ない!」

 

マリカが二人を振り切って出動したのだった。

 

 

 

 

 

 

一方、キオ達の方はカタストロフィー艦隊を撃沈して行く。オスカーのリヴァイアサン・デバイスは胴体をくねらせ、フォルトゥラー艦の装甲を貫いていく。そしてそこにキオのグノーシスとフェイトとミリーナのセフィロトが螺旋状に空を舞い、艦隊や敵機を撃墜していく。するとそこにターニャのビクトリアとイルマのエイレーネ、エルシャのレイジアが立ちふさがる。

 

「さぁて……少し遊んでやるか……」

 

「当然だ…コイツらはまだエンブリヲの本性に気付いていないようだからなぁ。」

 

キオとフェイトはそう呟き、聖天を飛ばす。聖天は蛇のように動き、有線式ビームワイヤーを自由自在に伸ばしつつ、敵艦の装甲諸共切り裂く。

 

「……来る!!」

 

フェイトの言葉と共に、上空からマデウスが現れた。

 

「来たか……」

 

するとマデウスからゼニスのゴルドフェニキスとインガ、メシア、シンリ、黒騎士が舞い降りて来た。

 

「情けないなぁ、ダイアモンドローズ騎士団。こんな奴らに苦戦するとは……。」

 

《ゼニス!!》

 

キオ達は武器を構えると、マデウスが変形し、巨大なロボットへとなる。

 

「掛かって来い……」

 

「上等!!」

 

キオは聖天を構え、輻射波動レーザーを放つ。ゼニス達は一斉に回避すると、レーザーはマデウスのシールドを突き破り、装甲諸共貫通した。

 

《っ!!?》

 

マデウスの強力なシールドがグノーシスの聖天から放たれた輻射波動レーザーでまるで矛盾であった。キオは開いているシールドへ向かい、聖天の鉤爪を使い、さらに開口する。

 

「オスカー!キース艦長!今だ!!」

 

キオの合図とともに、エーテリオン艦隊がシールドの中へと入り、マデウスに向けてMacガンを放つ。ゼニスはそれに驚き、迎撃しようとしたがフェイトのセフィロトが立ちふさがる。マデウスの円周は強力なシールドで覆われているが、シールド内へと侵入すればマデウスはエーテリオンにとって動く巨大な的でもあった。幸いなことに、マデウスの主砲はシールド内では使えなく、対空システムしか使えなかった。インフィニティやドレッドノートはMacガンやミサイルを一斉に放ち、次々と対空システムや装甲を破壊していく。オスカー達がシールド内に入ると、アンとキオ、フェイトとミリーナの四人がゼニス達を相手することになる。

 

「勝負!!」

 

そしてゼニスは攻撃されているマデウスの事で無性にキオに腹を立てていた。

 

「game over!!!」

 

ゼニスはゴルドフェニキスの近接武器『ゴルディオンブレード』を抜刀し、キオのグノーシスに切りにかかるのであった。



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第37話:遺されるもの・後編

 

「さっきの女の子が、エンブリヲさん!?」

 

モモカが、調達してきた車を走らせながら驚きの声を上げた。アンジュの言った内容が内容なのだから当然だろう。

 

「どういうことですか!?」

「わからない…」

 

アンジュも困ったような表情をモモカに向ける。言葉通りどういうことなのかわからないのだから、それ以上言いようがないのだ。

 

「でも、操られてるように見えた…」

 

モモカも眉を顰めた次の瞬間。

 

「うっ!」

 

雷に打たれたかのようにモモカは硬直してしまった。直後、

 

『忘れたのかね』

 

車内に聞き覚えのある男の声が響く。

 

「!」

 

驚いて再び顔を上げると、瞳のハイライトが失せたモモカがアンジュに向かって振り返った。と同時に、一枚のウインドウが開く。

 

「ひっ!」

 

そこに浮かんだ人物、エンブリヲの顔を見た瞬間、アンジュはこれ以上ない嫌悪の表情を浮かべたのだった。エンブリヲはそんなアンジュを気にすることなく話を続ける。

 

『この人間たちを創り出したのが、誰なのか』

 

「モモカ!」

 

瞬時にアンジュが正拳突きを繰り出してウインドウを割った。

 

「えっ…?」

 

と同時に、モモカも正気に戻ったように瞳にハイライトが戻る。

 

「今、私…」

 

呆気に取られていたモモカだったが、直後に悲鳴に近いアンジュの叫びが車内に木霊した。

 

「モモカ、前!」

 

「えっ?」

 

ぼんやりとした様子でモモカが前を向いた瞬間、車は街灯に衝突し、スピンして大破したのだった。

 

モモカ、大丈夫!?」

 

一方、アンジュは大破した車からモモカを引きずり出しているところだった。アンジュ自身もそれなりのダメージを負ったが、モモカは窓ガラスに突っ込んでしまったのだろうか、ショックで気を失ってしまったのだ。そんなアンジュの耳に、

 

『怪我はないかい? アンジュ』

 

事故の直前に聞いたあの声が聞こえてきた。

 

「はっ!?」

 

驚いて顔を上げたアンジュの周囲を囲むように、大勢の人間たちがフラフラと二人に近寄ってくる。そして、その一人一人の頭上にはエンブリヲの姿が映し出されたウインドウが開いていた。

 

『帰っておいで、アンジュ』

 

操り人形のように、瞳に生気のない多数の人間たちの上に開いたウインドウのエンブリヲがそう言う。アンジュは気を失ったモモカを連れ、建物の中へと入っていく。

 

 

 

 

 

その頃、ミスルギ皇国上空では激戦区になっていた。ゼニスのゴルドフェニキスとキオのグノーシスは互いのビーム兵器を乱射し、街を戦火の海にしていた。だが一方的に圧勝していたのはキオの方であった。グノーシスの60%の出力がゼニスを追い詰めていく。

 

「クッ!!キオ・ロマノフとあの機体がまるで一心同体。バケモノか!!!」

 

ゼニスはロンギヌスの槍を放つが、キオは輻射波動を展開し、膨大な熱量でロンギヌスの槍を溶解していく。そしてゼロ距離まで近づき、背後へと回り込んだ。

 

「おいおい…それっぽっちか、魔神様は?期待外れだったよ!!!」

 

キオはゴルドフェニキスの左右のスラスターウィングを引きちぎる。その瞬間、テイルブレードがゴルドフェニキスの胴体を貫く。

 

「ゴブフッ!!」

 

ゼニスは苦しむが、まだ終わっていなかった。グノーシスのテイルブレードが蛇のように動き、ゴルドフェニキスから引き離すと、今度は蹴りを食らわせ、建物に向けて頭部をぶつける。

 

「ぐあああっ!!」

 

さらにゴルドフェニキスの装甲やフレームを野獣の如く素手で引き剥がしていく。そして道路にボロボロのゴルドフェニキスが落ち、機能が停止する。

 

「無様だな……初代ミスルギ皇帝陛下が。」

 

キオが飛び去ろうとした時、ゼニスは呟く。

 

「あ…ああ……この機体では無理か。やはり勝てるとしたら……『あの機体』……『真の力』……『巨躯となる大地』が必要だな。巨躯となる大地は既にあるが……真の力とあの機体はまだウルの影に封印されている。やはりあの儀式の進めなければ……………………」

 

ゼニスは謎の言葉を呟くと同時に、大破したゴルドフェニキスから煙が溢れ、姿を消すのであった。キオはその言葉を不思議に思い、急いでフェイト達へ戻り、マデウスのシールドを引き裂く。そして合流したサラがナーガとカナメに通信を入れる。

 

「やはり、今の戦力では…」

 

サラの端正な顔立ちが歪む。相手を見くびった…と言うわけでもないだろうが、これ以上の継戦は自分たちに不利と判断した。

 

「退きますよ、カナメ、ナーガ」

 

故に、退却命令を出す。

 

『ええっ!?』

 

案の定、二人は不服とも驚きとも取れる声を上げたのだった。が、サラも構わず続ける。

 

「現有戦力でのアウラ奪還は不可能です。一度退いて、体勢を立て直します。リィザは先に逃がしました。今はもう、ここに用はありません」

 

そのままダイヤモンドローズ騎士団を牽制するようにライフルを乱射する。そして、カナメとナーガの用意が整ったのを確認すると、三機はそのまま戦闘空域を高速で離脱して行き、キオもオスカー達を連れて戦域から脱出した。

 

「くそっ、逃がすか!」

 

「深追いはダメよ」

 

追撃しようとするターニャをエルシャが制する。そして思わず眼下に目を向けたエルシャは見たくないものを見ることになってしまった。

皇城の中庭、とある一部分に砲撃の跡がある。だが、それ自体はそんなに珍しいものではない。先ほどまでドンパチしていたのだから、寧ろあってしかるべしである。では、何がエルシャの目を放さないのか。

それは、その着弾点に彼女が面倒を見ている子供たちの痕跡があったからだ。

 

「え…?」

 

業火の中、子供たちの遊び道具や日用品がその着弾点付近に四散している。子供たちの姿こそ見えないが、その状況を鑑みるに全員跡形もなく吹き飛んでしまったのだろう。

 

「あ…あ…」

 

起こってしまった取り返しのつかない事態に、エルシャは愕然とすることしかできなかった。

 

 

 

その頃アンジュの方ではエンブリヲに操られた民達から逃げ回り、非常階段で建物の屋上まで駆け上がる。しかし、非常口から操られた人間達が現れる。

 

『逃げられなよ、アンジュ♪』

 

「っ!!」

 

「薄々気づいているだろ?その侍女がいる限り、私からは逃げられない♪」

 

「知らないって言ってるでしょ!!」

 

アンジュはそう言い、人間の男を殴り飛ばし、モモカを連れて屋上へと駆け上がる。屋上へ着いたアンジュとモモカ、がしかし……。

 

「やれやれ、強情な花嫁だ」

 

聞き覚えのある声にアンジュはもの凄く驚いた表情をし振り向くと、近くのベンチに座っていたエンブリヲが居た。

エンブリヲは呼んでいる本を閉じて、立ち上がって人差し指をアンジュに向ける。

 

「またお仕置きが必要かな?」

 

「っ!!!!」

 

エンブリヲの指を見た途端、アンジュの心に途轍もない恐怖心が襲い掛かろうとしていた。っとその時だった。上空から機関銃の弾丸がエンブリヲの胴体を貫く。

 

「グベェッ!!」

 

「アンジュ!」

 

「タスク!」

 

「遅くなってごめん!君たちはこれに乗って逃げて!」

 

「あなたは?」

 

「……アイツに用がある」

 

タスクが見る方を見ると、エンブリヲはまたしても別の場所から現れて、何ともなかったかの様な風に歩き出す。

近寄って来るエンブリヲにタスクはアンジュに言う。

 

「急げ!」

 

「モモカ、行くわよ!」

 

「はい!」

 

モモカを後部座席に乗せ、アンジュは急いで飛行艇で逃げる。タスクはプラズマナイフを取り出し構える。

 

「私達を引きはがそうとは。覚悟はできているか、蛆虫が……」

 

「私たちを引き離すなどと…覚悟はできているな、蛆虫が!」

 

エンブリヲが浮かべていた笑みを消し、憤怒の表情でタスクを睨んだ。…しかし、アンジュはエンブリヲを受け入れたとは一言も言っていないのに、エンブリヲの脳内では既に愛し合う二人になっているらしい。こういう面においてはどうにもつける薬のない調律者様である。

が、タスクは気にした様子もなくナイフを構えた。

 

「ヴィルキスの騎士イシュトバーンとメイルライダーヴァネッサの子、タスク!」

 

タスクが走り出してエンブリヲに向かっていった。迎え撃つように、エンブリヲが何もない空間から剣を取り出してその手に握る。

 

「最後の古の民にして、アンジュの騎士だ!」

 

そう宣言すると、タスクは何かをエンブリヲの頭上に向かって投げた。思わずそれを目で追ったエンブリヲだったが、その瞬間、それが眩いばかりの光を放つ。タスクが放り投げたそれは、フラッシュグレネードの一種だった。

 

「っ!」

 

思わず手をかざしてエンブリヲはその閃光を防いだ。

 

「そうか、貴様が…っ!」

 

何かを語ろうとしたエンブリヲだったがその先は言えなかった。何故なら、背後に回り込んだタスクがナイフで背中を突き刺したからだ。

どうと音を立てて倒れ伏すエンブリヲだが、タスクはすぐに顔を別の方向に向けた。その視線の先には、何事もなかったかのように平然と立っているエンブリヲの姿があった。

 

「ふっ!」

 

タスクが瞬時に手裏剣を投げ、続けざまにワイヤーガンを発砲する。エンブリヲは持っていた剣で手裏剣を叩き落すが、ワイヤーガンはその手首を貫通して鮮血があふれた。

 

「ほぉ…」

 

タスクを見据えたエンブリヲが楽しそうに笑った。

 

 

 

「ふにゅうっ!」

 

皇城付近の上空では、クリスとヒルダたちとの戦いが未だ続いていた。吹き飛ばされたヴィヴィアンが何とか体勢を立て直す。

 

「クリス、つえー」

 

「くそっ!」

 

まさかここまでの壁になるとは思っていなかったのだろう、ヒルダが忌々しげな表情になった。と、タスクから通信が入る。

 

『ヒルダ、アンジュを見つけた!』

 

「!」

 

『保護を頼む!』

 

エンブリヲと渡り合いながら、何とかタスクが必要事項を伝える。

 

「ヴィルキスは!?」

 

『水没している!今すぐ回収するのは無理…っ!』

 

エンブリヲの攻撃を防いだ拍子にタスクが通信機を落としてしまい、そこで通信は途切れてしまった。

 

「タスク!」

 

ヒルダが叫ぶが、通信の向こうからはノイズしか聞こえてこない。

 

「くそっ!」

 

忌々しげに悪態をつくと、現状を分析したヒルダはロザリーとヴィヴィアンに向けて通信を開いた。

 

「総員撤退! アンジュと合流し、アウローラに帰投する!」

 

『了解!』

 

三人はフライトモードに変形すると、そのまま戦闘空域からの離脱を図った。

 

「逃がさない」

 

が、クリスも指を咥えて見ているわけもなく、三人を追撃し始める。そして、照準を三機のうちの一機に合わせようとした時だった。

 

「お姉さまーっ!」

 

一人、救援のために出張ってきたマリカが機銃を乱射してクリスに向かっていったのだった。

 

「マリカ! 何しに来たんだ!」

 

思わぬ援軍にロザリーが詰問口調になる。

 

「お姉さまの援護を!」

 

そう答え、マリカはそのままクリスに突っ込んでいく。が、今のクリスはその程度で怯みはしなかった。

 

「邪魔!」

 

クリスがブレードを投げて、マリカに向かって行く。それにマリカは思わず目を瞑った、しかし何もない事に目を開けると…。

 

「間に合って良かった!」

 

キオが、グノーシスのテイルブレードでブレードを受け止めていた。

ヒルダとロザリーが驚く中で、赤色のビームがその両機の間を通り、それに皆は振り向くとサラ達の焔龍號達がやって来たのが見えた。

 

「あの機体は…!」

 

「おぉ〜皆んなの機体なんかデカくてカッチョいい〜〜〜!!!」

 

「……チッ!」

 

クリスの投げ飛ばされ、地に突き刺さっていたブレードを回収し、退却する。

 

「待ちやがれ!クリス!!」

 

「ロザリー、堂々!」

 

ロザリーはクリスを追いかけようとするが、ヴィヴィアンに止められる。

 

「くっ!……ちきしょう!!!」

 

ロザリーは後輩であるマリカを殺そうとしたこと、クリスが今まで苦しんでいた事に悔しみ、コンソールを殴る。

 

 

 

 

その頃、タスクも苦戦していた。

 

「アンジュの騎士だと!?」

 

タスクに何度も斬りかかりながら激昂するエンブリヲ。余程、先ほどのタスクの発言が気に食わないようだった。

 

「旧世界の猿ども!テロリストの残党風情が!」

 

怒りに任せたエンブリヲは攻撃の手を休めない。タスクは防戦一方でここまでなんとか凌いでいた。

 

「無駄なことを…」

 

そんなタスクを、エンブリヲがバカにしたように蔑む。

 

「無駄じゃないさ。ハイゼルベルグの悪魔、不確定世界の住人、少しでも、お前の足止めができるならな」

 

タスクが反論する。その表情には、例え刺し違えても己の目的を達成するという強い意志が見て取れた。

 

「ほぉ…」

 

エンブリヲが剣を捨て、少しだけ感心したような口調になった。

 

「猿も少しは賢くなったということか。だが…」

 

エンブリヲはいつもの厭らしい笑みを浮かべると銃を手にし、自分のこめかみへと銃口を当てた。

 

「所詮は猿……」

 

そして、そう侮蔑するように言い残すと躊躇なく引き金を弾いた。当然のごとくエンブリヲは血を流しながらその場に倒れ、そして跡形もなく消え去る。

 

「っ!…しまった!」

 

その行為の意味に気付いたタスクの表情が青ざめた。

 

 

 

 

 

「モモカ、海よ!」

 

他方、アウローラを目指してタスクのマシンを駆っているアンジュ。いつの間にか時間は経ち、夕暮れが辺りを包んでいた。と、アンジュの後ろに跨っていたモモカが不意に手を伸ばし、アンジュに手を重ねて操縦桿を操作した。

 

「モモカ…?」

 

アンジュがその行為に怪訝な声を上げる。当のモモカは、再び瞳からハイライトが消えていた。その意味するものは…

 

「!」

 

アンジュが息を呑んで着地点になるであろう場所に目を向けた。そこには、椅子に腰かけて悠然とお茶を楽しんでいるエンブリヲの姿があった。

 

「っ!」

 

その姿に、思わずアンジュは拒否反応を起こし身震いしてしまったのだった。

 

「アンジュ」

 

結局、エンブリヲのすぐ側に着陸することになったアンジュたちをエンブリヲが迎えた。

 

「怒った顔もまた美しい」

 

椅子から立ち上がると、エンブリヲはゆっくりとアンジュに近づく。対照的にアンジュは怒りからか嫌悪感からかワナワナと震えていた。

 

「…何故、そこまで私を拒絶する」

 

刺すような視線でアンジュを射抜いたエンブリヲがアンジュに尋ねる。そして、瞬時にアンジュの背後に回った。

 

「あの男か」

 

「!」

 

エンブリヲはそのままアンジュの右手を掴むと、背中越しに捻り上げた。と、不意に近場の手摺にワイヤーが絡まり、今話題に出していた人物の片割れ…タスクがそのワイヤーを伝ってその場に現れた。

 

「アンジュを放せ!」

 

「ふっ」

 

エンブリヲが蔑むように嘲笑する。と、それを合図にしたかのようにモモカが剣を片手にタスクに襲い掛かった。

 

「モモカ!」

 

タスクが驚いて何とか剣を受け止めるが、予想外の展開だったからだろうか自分の得物を落としてしまう。そのままモモカは、恐るべきスピードで刺突を繰り返してタスクに襲い掛かった。

 

「くっ!」

 

歯噛みしながらも何とかやり過ごすが全てをかわし切れず、タスクは何箇所か身を斬られることとなった。

 

「肉体の限界まで身体能力を高めた。愚かな男の末路を見ていたまえ」

 

「止めて…っ!」

 

アンジュが痛みに顔を顰めながらもゆっくりと顔を起こす。その視線の先には、問答無用でタスクに襲いかかっているモモカの姿があった。

 

「止めなさい!モモカ!」

 

「無駄だよ。創造主の命には抗えない」

 

何とかその暴挙をやめさせようとするアンジュだが、エンブリヲは余裕綽々と言った様子でそう言い切る。だが、アンジュの諦めの悪さも中々のものであることをエンブリヲは忘れていた。

 

「違う…。モモカは、私の筆頭侍女よ。目を覚ましなさい!モモカ!」

 

叱りつけるかのように叫ぶアンジュ。と、エンブリヲの想定外のことが起こった。

 

「アンジュ…リーゼ…様…」

 

モモカの瞳にハイライトが戻ったのだ。それは、エンブリヲの洗脳、支配から脱却したことを表していた。

 

「タスクさん、姫様をお願いします……」

 

「!」

 

モモカが正気に戻ったことにタスクが驚き、思わず息を呑んだ。そのままモモカは持っていた剣を、エンブリヲに向けて構え直す。

 

「逃げてください、姫様!」

 

そして、そのままエンブリヲへと突っ込んだ。

 

「!」

 

アンジュはそれを合図にしたかのようにもがくと、何とかエンブリヲの拘束から逃れる。が、エンブリヲは一先ずアンジュのことを意識の外に追いやることにした。そのまま、拳銃を取り出すと構える。

 

「ほぉ…」

 

感心したかのように呟くと、エンブリヲは躊躇なくその引き金を弾いた。モモカの胸に銃弾の風穴が開く。

 

「モモカ!」

 

アンジュが思わず声を上げるも、モモカは怯むことなくエンブリヲに突進していく。

 

「光よ! マナの光よ!」

 

「何っ!?」

 

驚愕に彩られたエンブリヲの胸板をモモカの剣が貫いた。その直後、モモカがマナの力によって操縦したのであろう一台の車が突っ込んできて、エンブリヲを撥ね飛ばす。そして、モモカ自身も。

モモカはそのまま暴走した車と共に崖下へと落ちていく。その彼女を飲み込むかのように車が爆発炎上し、モモカはその姿を消したのだった。

 

「モモカ…」

 

フラフラとした足取りで、アンジュは車が破壊して落下した崖の手前までやってくる。そして、愕然とした表情でその場に崩れ落ちた。

 

「モモカ……モモカァァァァッ!」

 

嘆きながら崖下に向かって叫ぶ。そんな、絶望の淵にいるアンジュにタスクが近寄ると、彼女をお姫様抱っこの形で抱きかかえ、自分のマシンに向かって歩き出す。

 

「待って!モモカが!」

 

諦めきれないのだろう、タスクの腕の中でアンジュが暴れる。が、タスクはそれを黙殺するかのように足を止めることはなかった。

 

「タスクお願い! モモカを!」

 

アンジュがそう訴えた直後、その空間に銃声が鳴り響いた。そして、タスクの瞳が大きく見開かれる。

 

「いやいや、驚きだよ。ホムンクルスたちの中に、私を拒絶する者がいたとは」

 

「エンブリヲ…っ!」

 

タスクが振り返ると、そこには当然のようにエンブリヲが立っていた。

 

「よくも…よくもキオだけでなく、モモカまで!」

 

怒りと恨みからエンブリヲに向かっていこうとするアンジュだったが、それはできなかった。何故ならタスクが手錠でアンジュと自分のマシンを繋いでしまったのだ。

 

「えっ!?」

 

戸惑うアンジュをよそにタスクがマシンを自動操縦にセットした。

 

「君は…生きるんだ」

 

そして、優しく微笑む。

 

「必ず帰るから。君のところに」

 

「ダメ…ダメよ、タスク!」

 

アンジュが必死にタスクを翻意させようとするが、その先は言えなかった。タスクに口付けされてその口を塞がれてしまったからだ。

 

「……」

 

状況が状況なのに、思わず頬を赤らめてアンジュはウットリとした表情を浮かべた。少し後、タスクがアンジュから離れる。そして、アンジュの手の平にあるものを乗せた。

それはネックレスだった。この状況下で渡すということはタスクにとって余程大事なものなのだろう。ひょっとしたら父親か母親の形見なのかもしれない。

残念なことに鮮血に染まってしまったそれは、夕日を受けて鈍く輝いていた。そしてそれを合図としたかのように、タスクのマシンはアンジュを乗せて空へと舞い上がる。

 

「タスク!タスクーっ!」

 

叫んでも距離は遠ざかるだけだった。そしてタスクはエンブリヲに向き直る。

 

「下郎が!」

 

目の前でアンジュとのキスシーンを見せられたことが余程我慢ならなかったのだろう。怒りを隠そうともせずにエンブリヲはタスクを撃った。

 

「うっ!」

 

銃弾をその身に喰らい、よろけながらタスクは膝を着く。が、

 

「しつこい男は…嫌われるよ!」

 

その言葉と共に、防弾チョッキを勢いよく開けた。直後、タスクとエンブリヲのいた場所が爆発と轟音に包まれ、炎上した。

 

「は…っ…」

 

アンジュが振り返ると、そこには黒煙が立ち込め何も確認できなくなっていた。

 

「嘘でしょ…ねぇ…?」

 

今日で何度浮かべたのかわからない絶望の表情を再び浮かべ、縋るようにアンジュが呟く。

 

「嘘よね…モモカ…タスク…」

 

先ほど、タスクに託されたネックレスを握り締めながらアンジュが思わず涙を流した。

 

「私を…一人にしないで…」

 

そして、赤く染まった空にアンジュの慟哭が響き渡るのであった。

 



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第38話:Necessary・前編

最後……ついに一線を越えます!!


「ラグナメイルコネクター、パージ」

 

日が沈んで夜になったミスルギの皇城で、エンブリヲの声が響く。が、それと同時に何かを引っ叩く音がその空間に響いた。

 

「くっ!」

 

直後に、サリアが顔を赤く染めたまま苦悶の表情を浮かべている。どういう状況なのかと言うと、エンブリヲが椅子に腰かけながら自分の計画の指示を出している。そして、その膝の上にはサリアをうつ伏せにして寝かせ、お仕置きよろしく彼女の尻を叩いているという状態であった。無論、下着は開けて素肌の状態である。

…本当に、調律者の名が泣く行為である。

 

「耐圧核展開。ドラグニウムリアクター、エンゲージ」

 

だが、調律者様は気にする様子もなく次々に指示を出していく。

 

「D-ブレーン共振器、接続。全出力、供給開始」

 

エンブリヲの指示に伴って次々に次の段階へと進み、アウラを取り囲むように配置されているラグナメイルが共鳴するかのように光りだす。そして、その光が暁ノ御柱まで届いた。

 

「準備は整った。なぁ?」

 

自分の膝の上のサリアに問い掛けながらエンブリヲが再び彼女の尻を引っ叩いた。

 

「ああっ!」

 

エンブリヲの膝の上でサリアが悲鳴を上げる。が、エンブリヲは自分の膝の上の彼女に大して興味を示さなかった。

 

「…アンジュがいないとは」

 

「っ!」

 

これ見よがしに溜め息をつきながら呟いたその一言に、サリアが羞恥とはまた違う意味で顔を赤く染めた。

 

「何故逃がした?」

 

「……」

 

サリアは答えない。が、エンブリヲはすべてお見通しのようだった。

 

「嫉妬か?」

 

尋ねると同時にエンブリヲが三度サリアの尻を引っ叩いた。

 

「どうしてアンジュが必要なんですか!」

 

顔を赤く染めたままサリアが振り返るとエンブリヲをキッと睨み付けた。

 

「私はずっと、エンブリヲ様に忠誠を誓ってきました。エンブリヲ様のために戦ってきました。なのに、またアンジュなんですか!? 私はもう、用済みなんですか!?」

 

サリアが素直に己の心境を吐露して訴える。それは、糾弾や怒りと言うよりは文字通り見捨てられる恐怖や取って代わられる嫉妬心から来ているものだった。

それがわかっているからだろう、エンブリヲがサリアを弄ぶように口を開き始めた。

 

「私の新世界を創るのは、強く賢い女たちだ。だから、君たちを選んだ。アンジュも同じ理由だ」

 

よくもまあ、こんなペラッペラの嘘をスラスラと言えるものである。だがある意味、面の皮の厚さはまさしく調律者と言っても過言ではないかもしれないが。

 

「愚かな女に用はない」

 

「はっ!?」

 

そして、調律者様はサリアを見限るような言葉を発した。それがわかったからだろうか、サリアの表情が先ほどまでの鋭いものではなく、弱々しいものに一変してしまった。

エンブリヲはそのまま立ち上がり、そのためサリアは地面に倒れ伏すことになった。そして、サリアを大上段から見下ろす。

 

「アンジュは必ずここに来るだろう。私を殺すために」

 

最後通告のつもりだろうか、エンブリヲがその先を続ける。

 

「サリア。君が本当に賢く、強いなら、やるべきことはわかるね?」

 

急いで開けていた下着を元に戻すと、そのままサリアはエンブリヲに敬礼する。

 

「アンジュを捕え、服従させます」

 

「期待しているよ、私のサリア」

 

「っ!」

 

上辺だけの期待の言葉に、サリアは悔しさに唇を噛んだのだった。

 

 

 

 

 

「レイザーは破損部の装甲を換装!ロザリー機は補給を最優先!ヒルダ機はダメージチェックを!」

 

『イエス、マム!』

 

そしてココ達は無事だったマリカにメアリーとノンナが抱き合っていた。

 

「良かった~…!マリカ! もう勝手に動かないでね!?」

 

「御免なさい…!」

 

そしてココ達は優しく見ている所でリィザの元に集まっているチャールズ達を見る。

 

「はっ?!二つの地球を融合だって!!?」

 

オスカーが驚いた事実にリィザは頷く。

 

「制御装置であるラグナメイルとエネルギーであるアウラ、エンブリヲは二つの地球を時空ごと融合させ…新しい地球をゲホッ!!ゲホッ…!」

 

するとリィザは突如せき込んでしまい、体力的に無理と判断したマギーが止める。

 

「これ以上は無理だ。休ませるよ?」

 

それにチャールズは頷き、マギーがリィザを医務室へと連れて行った。そして場所を移動し、チャールズ達は待機室で話し合っていた。

 

「エンブリヲは二つの地球を融合か…」

 

「そんな事を…、ほんとなの?」

 

チャールズとマリアがフェイトに問い、頷く。

 

「ああ、エンブリヲはもう計画を最終段階へと進めている……」

 

フェイトの言葉を聞いてチャールズとマリアが互いに見合っているとサラは言う。

 

「二つの世界が混ざり合えば…全ての物は破壊されるでしょう…。急がねば」

 

するとサラはヒルダの方を向いてある事を問いかける。

 

「メイルライダーヒルダ殿、我々アウラの民はノーマとの同盟締結を求めます」

 

「同盟…?」

 

ヒルダはその事を聞いてサラ達を見る。

 

「我々の龍神器だけではエンブリヲの防衛網やデウス・コフィンの艦隊の突破する事は困難、それにエンブリヲ以上に脅威であるゼニスをも倒さなくてはいけません。それはあなた方も同じはず」

 

サラの言葉にヒルダは思わず考え込む。

 

「…確かにアタシ等だけじゃあラグナメイルもあの艦隊にも手も足も出ない…、良いよ…同盟結んでも」

 

その事にヴィヴィアンは思わず喜んでノアとアリアンナはハイタッチをしまくる。

 

「ただし!アンジュを連れ帰ってからだ…!」

 

「ヒルダさん…」

 

「その余裕があると思う?」

 

っとオリバーの言葉にヒルダが思わず睨みつける。

 

「何!?」

 

「恐らくエンブリヲはアンジュを必ず探している筈だ。必ず…」

 

その言葉にヒルダは黙り込んでしまった時だった。

待機室の扉が開いて、誰かが入って来た。

 

『おや?アンジュは戻っていないのか?』

 

っと皆は扉の方を向くとエマ監察官がやって来た、しかしバルカンは何故か警戒して唸りはじめ、そしてエマの様子がいつもと違う事にオスカー達とチャールズとマリアが気づく。

 

『やれやら…何処に行ってしまったのやら、我が妻は…』

 

「監察官さん?」

 

ヴィヴィアンがそれに問うとサラがそれを否定する。

 

「違います、あれは…」

 

するとエマがマナの通信画面を開くと、そこにエンブリヲの画面が映る。

 

「エンブリヲ!」

 

今話題に上っていたエンブリヲが姿を現したのだ。全員の間に緊張が走る。

 

「エンブリヲだって!?」

 

ジャスミンが思わず声を上げた。と同時にバルカンがエマにとびかかるが、こともなげに一蹴されてしまう。

 

「バルカン!」

 

「トチ狂ったか、テメェ!」

 

ヒルダが銃を構えようとするが、サラが刀でそれを制した。

 

「彼女は、操られているだけです」

「何?」

 

驚くヒルダを尻目に、サラが視線をエンブリヲに向ける。

 

「逃げた女に追いすがるなど、無様ですわね、調律者殿」

 

『ドラゴンの姫か』

 

挑発するサラだが、エンブリヲも軽く受け流す。

 

「焦らずとも、すぐにアンジュと共に伺いますわ。その首、もらい受けに」

 

『ほぉ…それと良い物を見せよう。』

 

そこで何を思いついたのか、エンブリヲがよく浮かべる意地の悪い笑みを浮かべ、キオ達にある物を見せる。それは奪われたメツのコアクリスタルであった。

 

「それは!」

 

「メツだ……残りの天の聖杯を渡せば、時空融合は止めてやる。」

 

「時空融合を止める?フンッ!嘘だな、その言葉。」

 

キオがそう言うと、サラは叫ぶ。

 

「ラアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

 

サラが叫んだ声によりエマのマナが不安定となって破壊され、エマは正気を取り戻して気を失う。

 

「監察官さん!?」

 

ヴィヴィアンが問いかけ、すぐさまアリアンナが見る。

 

「…大丈夫だ、気を失っているだけです。」

 

そう言った事に皆は安心をする。そしてサラはヒルダの方を向いて問う。

 

「司令官殿、エンブリヲはなりふり構わずにアンジュを探している様子です。エンブリヲの眼をかわしアンジュを助け出す事が出来ますか?貴女に…」

 

「っ…」

 

サラの言葉にヒルダは言葉を詰まらせる、エンブリヲの目をかわす事などヒルダには出来ない事だった。

それにサラは笑みを浮かばせる。

 

「アンジュは帰って来ます…タスク殿が必ず連れて帰ってきます」

 

「はっ!何であいつが!?」

 

「理由は簡単だ」

 

っとキオの問いに皆は振り向き、キオは当たり前の事を言う。

 

「あいつはアンジュの騎士だからだ」

 

その事にヒルダは言葉を止まってしまう。

そして今思えばアンジュとタスクは共に行動している事を考えると、あのタスクがアンジュのナイト様っと考えると渋々納得するしかないと考える。

 

 

 

 

 

 

 

 

「『やはり勝てるとしたら……『あの機体』……『真の力』……『巨躯となる大地』が必要だな。巨躯となる大地は既にあるが……真の力とあの機体はまだウルの影に封印されている。やはりあの儀式の進めなければ……………………』」

 

「“あの機体”…“真の力”…“巨躯となる大地”……“あの儀式”。儀式?ゼニスと言うより、アルフォンスの目的は何だろう?」

 

キオはそう考え、少しばかり休もうと自室へ入り、電気をつける。そしてキオの目の前には思わぬ人物がいた。

 

「…………」

 

「\\\\\\\\\\!!」

 

それはキオの毛布の臭いを嗅いでいる最中のサラであった。

 

「これは……どう言う…?」

 

「ち、違うのですよ!これには深い理由がありまして!」

 

キオは理由を問い掛ける。しかし、サラは慌てながら理由を纏めようとすると。

 

「!?」

 

急にキオがサラを優しく抱きしめる。

 

「もしかして……俺の事が好きなの?」

 

「////!!」

 

サラは顔を赤くし、頷く。

 

「アハハ……俺も好きだよ♪ありがとう、サラ……」

 

「キオ……」

 

キオとサラは互いに見つめ合った後キスをして、キオはサラを抱きしめた。サラもキオを抱きしめ返して、二つの影が一つに重なり合いながら、深い中へ入って行った……。

 

 

 

 

 

 

 

その頃、アレクサンダーはある場所に辿り着いた。

 

「ここが……“ウルの影”」

 

黄昏時の光のように輝く空、ウルと違ってあらゆる世界が混ざり、滅びた都、そしてそこには崩壊寸前のエルダー皇国跡地にあるはずの“暁の御柱”が聳え立っていた。アレクサンダーは影の大地に足を踏み入れる。

 

「っ!!」

 

大地を踏み込んだ直後、影の瘴気がアレクサンダーの足にまとわりつく。アレクサンダーは測定値でスキャンする。

 

「汚染レベル198.3%…エーテルは普通に安定しているのに、瘴気があるとは……なら。」

 

アレクサンダーは手を大地の方に手の平を開いて向けた。と、次の瞬間。影の瘴気が一斉に消えて無くなり、道が開く。だがこれだけではなかった。アレクサンダーの姿が若返り、黄金の装飾や禍々しい翼を広げていた。

 

「『フフフ……どうやら我の後を付けて来たようだなぁ。陰族が……』」

 

するとアレクサンダーの背後から隠れ付いて来た陰族達を束ねたミレイが現れた。

 

『ゾハル!ゾハル!ゾハル!ゾハル!ゾハル!ゾハル!ゾハル!』

 

陰族達はゾハルを連呼しながら、迫る。

 

「『……愚かな。魔神に憑魔された哀れな科学者が。フンッ!!』」

 

アレクサンダーが呟くと、彼の目が光り、ミレイを除く陰族達を塵に変えた。

 

「『目覚めよ、龍の科学者。貴様はまだ生きる資格がある……魔神如きに心を呑まれるな!!』」

 

「ああああああああぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!」

 

ミレイが苦しみだすと、彼女の身体から禍々しい闇が噴き出る。

 

「『滅ッ!!!』」

 

アレクサンダーは叫部と同時に青白い光の弾が飛び出し、闇の塊を吹き飛ばした。ミレイは気を失うと、アレクサンダーはミレイを担ぎ上げ、影の大地を歩き、そしてゾハルへと辿り着く。

 

「『これがゾハル……ん?』」

 

するとアレクサンダーがある物に気づく、黄金に光り輝くプレートの側に巨大な機体が浮遊していた。

 

「『この機体は………』」

 

アレクサンダーはその機体に構わず、ゾハルだけを持ち去り、ウルへと帰還する。




このリア充がぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!キエエエエエエエエエエエエエエ〜〜!!!!


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第39話:Necessary・中編

前回の話通り キオとサラ………とうとう、一線越えちゃいました!!!(プフッ♪)


そしてキオ達の通話を終えたエンブリヲは受話器を戻して、窓を見る。

 

「やれやれ…野蛮な女だ、それにXが死んだ今、この私に楯突くものなどいない…」

 

そう言い残してエンブリヲは小説を読み始めた。するとそこに思いつめたエルシャが子供たちの服を持って来てやって来る。

 

「エンブリヲさん」

 

「おや、どうしたねエルシャ?」

 

エンブリヲに聞かれたエルシャは思いつめた事を問う。

 

「幼年部の子供たちが…、あの子達を…また生き返らせて下さい」

 

エルシャは再び子供たちを蘇らせてほしいとエンブリヲに頼んだのだが、エンブリヲはそれをため息をつかせながら言う。

 

「はぁ…それは出来ない」

 

「え…?」

 

「新しい世界は新しい人類の物、あの娘たちは連れてはいけないのだ」

 

っとエンブリヲの言葉にエルシャは思わず戸惑ってしまう。

 

「…そんな」

 

「君には新たな世界で、新たな人類の母になって貰いたい…分かって貰えるな?エルシャ」

 

エンブリヲが言った瞬間、エルシャが持っている子供たちの服を落としてしまい、それにエルシャが混乱してしまう。

 

「…いや、…いや!!」

 

エルシャは混乱した状態でエンブリヲに近づいて、必死に頼み込んだ。

 

「あの子たちは!あの子たちは私の全てなんです!! 私はどうなっても構いませんから!!どうか!!」

 

涙を流しながらエンブリヲに頼み込むエルシャ、しかしエンブリヲはため息を付いた後に手を翳す。

それにエルシャは首に何かを掴まれた状態で浮かび、苦しみながらもがく。

 

エンブリヲは細目でつぶやく。

 

「もう少し物わかりの良い女だと思ったが…」

 

そしてエンブリヲはエルシャを離して、倒れたエルシャに冷たい言葉を放つ。

 

「これ以上手を掛けさせないでくれ、私は忙しい」

 

っとそう言ってエンブリヲは何処かに行ってしまう。残されたエルシャは絶望に叩き落とされて泣き崩れていった。

 

 

 

 

 

 

 

「ミスルギでヒルダたちを追い詰めたの、クリスらしいよ」

 

「何?」

 

ジルの自室。ソファーに腰を下ろしながら口を開いたジャスミンに、ジルが怪訝そうな表情になった。

 

「ヒルダたち相手に互角に立ち回って、新兵も一人やられかけたんだと」

 

「……」

 

「エンブリヲの部下は優秀だね。兵隊も、隊長さんも」

 

「…何が言いたい」

 

ジルが憮然とした表情で口を開いた。

 

「いや…」

 

吐き出すようにそう言いながら、ジャスミンがソファーから立ち上がった。

 

「サリアにもっと優しくしていれば、あの子が敵になることはなかったんじゃないか…ってね」

 

ジャスミンはジルを一瞥してそれだけ言い残すと部屋を出て行った。その後を、バルカンがついていく。

 

「……」

 

残されたジルはどんな顔をしたらいいのかわからず、しかめっ面を浮かべることしかできなかった。

 

 

 

 

 

「全部、嘘だったのね…」

 

雨が降りしきる皇城の中庭。雨に打たれるのも気にせず、全身濡れ鼠になりながらエルシャがシャベルで穴を掘り、呆然と呟いた。

 

「平和な世界も、平等な暮らしも、何もかも…」

 

涙が雨と共に流れ落ち、思わずそれを拭った。

 

「ごめんね、みんな」

 

許しを請いながらエルシャは穴を…彼女たちの墓標を作り続けていた。やはり爆発に巻き込まれて粉々になってしまったのか亡骸は見つけられなかった。ただ、彼女たちの日用品や遊び道具は元の面影が無くなったといえどある程度は見つけられたので、それを埋める気だった。

エルシャは悲しみと絶望の中、雨に打たれながらその後も延々と穴を掘り続けたのだった。

 

 

 

 

 

とある孤島。

アンジュを乗せたタスクのマシンはその島に着陸する。そして、役目は終えたのだろう、オートロックを解除した。

 

「ん…」

 

解放され、自由になった手首をプラプラさせながら前方を見る。そこには見覚えのある光景があった。そう、タスクがねぐらにしていたあの横穴の住居である。タスクは二人が初めて会った場所に航路を設定していたのだ。

マシンから降り立ったアンジュは覚束ない足取りで懐かしのその場所へと歩いていく。彼女の全身もエルシャと同じく雨が濡らしていた。

 

「あの日の…まま…」

 

入り口で立ち尽くしながら呆然とアンジュが呟いた。そして、中に入っていく。と、その拍子にそのポケットから何かが滑り落ちた。金属音に振り返ると、そこには床に落ちたペンダントが光っていた。タスクに託された、あのペンダントである。

 

「……」

 

それを目にして、アンジュの真紅の瞳が揺れる。

 

「帰るときには、いつも貴方がいた…。帰る場所には、モモカ、貴方が…」

 

タスクとモモカの姿がアンジュの脳裏に浮かび上がる。しゃがみ込むと、アンジュは落としたそのペンダントを拾い上げる。

 

「なのに…なのに…」

 

今は誰もいない。その事実がアンジュの心に重くのしかかり、自然と落涙させる。そしてそのまま、彼女の周りを慟哭が包んだのだった。

 

 

 

 

 

その頃、アウローラでは……。

 

『私が、アレクトラの仇を討つんだから!』

 

自室でソファーに横になりながら、ジルは昔のことを思い出していた。先ほどジャスミンに言われたからだろうか、泣きながらそう言ってくれたサリアのことを。しかし、今彼女はここにはいない。

 

「……」

 

ジルはその事実から目を背けるように寝返りを打った。そして、その当人であるサリアは、

 

「アンジュは、必ずここに来る…」

 

ミスルギ皇城の自室で、ベッドの上に体育座りをしながらブツブツと呟いていた。

 

「期待しているよ、私のサリア…」

 

膝を抱えながら、先ほどエンブリヲに掛けられた言葉を復唱するように呟いた。が、

 

「だって。嘘ばっかり」

 

サリアが吐き捨てるようにそう言うとベッドから立ち上がる。

 

「でもね、アンジュ。あんたがいなくなれば、私の方が強いってわかれば…」

 

サリアは部屋に飾ってある変身用の自分の衣装の元へとツカツカと歩み寄った。そして、コンバットナイフを抜いてその手を振り上げて、自分の衣装に突き立てた。

 

「エンブリヲ様は認めてくれる! 私の価値を!」

 

そして、まるでアンジュにそうするかのように衣装を切り裂いた。

 

「…それができるなら、何もいらない」

 

そう言って顔を上げたサリアの目は、何も映していないかのように昏いものになっていた。

 

 

 

 

一方、チャールズ達はグノーシスの整備点検をしていた。

 

「これがキオの新しいドールデバイス……」

 

メカニックであるリンがグノーシスを調べていた。

 

「チャールズさん、この機体の構造とフレーム凄いですよ!」

 

「?」

 

「この機体の構造とフレーム、サマールとフォアランナー、マ・ノン達の技術を遥かに上回っちゃっていますよ!ハァ〜〜……私もキオさんが飛ばされた時空に行ってみたいです…」

 

「無理を言うな、何処の時空なのかも分からないのだぞ。」

 

「そうですよね……」

 

 

 

 

 

そしてアウローラの医務室でリィザとエマはベットに寝かされえて点滴を受け、マギーはリィザのドラゴンの特徴を聞いた。

 

「ドラゴンの声はマナに干渉し人間を狂わせる…、だからマナを持たないノーマしか戦えなかったと言う訳か」

 

「そんな事何処に載っていません!」

 

エマはマナで資料をよく探しても見つからず、リィザの事実に驚きを隠せなかった。

 

「はぁ…、この世界は嘘で塗り固められいる。だけどマナを破壊するノーマは…その嘘を全て暴いてしまう」

 

「だから差別され、隔離された?」

 

マギーの問いにリィザは頷いて、再び話を続ける。

 

「人間達に…本能的にノーマを憎む様プログラムを与えて──」

 

「それじゃ!! ただの操り人形じゃない!!私達!!」

 

っとエマが怒鳴りながらそう言った瞬間マナの端末が急に割れて散り、それにマギーとリィザが慌てて見る。

 

 

そしてアウローラだけではなく、世界中に起き始めていた。

 

 

マナを失った各国は混乱し慌て始め、どうするかパニックを起こしていた。

そして各国の首相達が集まる場所に皆が集まり、世界に付いて話し合った。

 

「始まりましたな。世界の破壊と再生が…」

 

「して…、我々は如何にして新世界に向かえば宜しいのですかな?」

 

「早く脱出しなければ、時空融合に巻き込まれてしまいますわ」

 

各国の首相達は自分達だけ脱出しようとエンブリヲに頼んでいた、だがエンブリヲは…。

 

「誰が諸君を連れて行くと言ったかね?」

 

『『『えっ!?』』』

 

首相達はエンブリヲが言った言葉に思わず振り向き、エンブリヲは気にしないまま言い続ける。

 

「新たな世界は賢い女たちが作る。出来損ない共は世界を混沌にした責任を取りたまえ」

 

それに首相達は驚きながら言葉を失くし、そしてマナが消失してその場から徐々に消えていく。

 

《え!エンブリヲ様!?》

 

「我々を見捨てるつもりですか!?」

 

そう言い残して首相達は消えていき、残されたエンブリヲは何にも気にせずに立っていた。

 

「さて……そろそろ私の言う事聞かないのか?メツよ……」

 

「『誰が!!お前みたいな“人間”に!!』」

 

「大した根性だ。彼らに対抗するには、君の力が必要なのだ」

 

エンブリヲはさらにメツを苦しめるため、50倍の痛覚を与える。もがき苦しむメツは断末魔の叫びを上げる。

 

 

 

 

 

 

一方、キルグナスのキオの部屋では……。キオがサラと楽しい時間を過ごし、互いの尻尾を絡ませ、共にシーツをかぶってベットで寝ころんでいた。

 

「キオ、気分はどうですか?」

 

「もう、思い残すこともないよ……サラ。」

 

「あっ、アゴクイ…♡」

 

「……相変わらず、綺麗だよ(やば…!サラの顔直近で見るとかわいすぎ……っ!!)」

 

互いに見つめ合ってキスをしようとした瞬間、端末に通信が入り、それにキオは通信に出る。

 

「誰?(くそっ……良いところを。)」

 

『キオ!俺だ!!』

 

オスカーが慌てた様で端末の通信機に出ているのにキオは驚いて、それに問う。

 

「どうしたんだキオ、それにマナの光を使わないで……」

 

『大変なんだよ!俺達のマナが使えなくなったんだよ!』

 

その事を聞いたキオとサラは思わず驚いた。

そしてキオとサラは着替えてブリーフィングルームへと向かい、皆が集まっているの見て問う。

 

「どういう事だよ!オスカー達のマナが使えなくなったって?!」

 

「それが急になんだよ! いくらやっても全然発動しないんだ」

 

「恐らくエンブリヲが行う世界の破壊と再生が始まったのでしょう」

 

っとキオ達はチャールズが入って来て、説明した事に問う。

 

「父さん、エンブリヲが行って言う世界の破壊と再生ってまさか!」

 

「あぁ、恐らくエンブリヲが行う世界の創造が始まってしまったのです。急がねば…」

 

そうチャールズの言葉にキオはタスクとアンジュの事を考えるのだった。

 

「(タスク、アンジュ。早く戻って来い…エンブリヲが行動を開始したぞ!)」

 

っとそう願うキオ達であった。




もう…キオ、こんな大変な時にサラを“アゴクイ”しながらキス?
はぁ〜〜〜…こいつらリア充にも程があるぞい!!キエエエエエエエエエエエエエエ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!ナーガに切られちまえ!!!


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第40話:Necessary・後編

時空融合が開始した頃、まだ何にも影響が及んでいないタスクの無人島では、アンジュは服を抜いでワイシャツに着替えてベットに寝ては居たが、苦しい表情で起き上がる。

 

「み…水」

 

脱水症状なのか、それとも喉が渇いてしまったのか。テーブルに置いてある水を取ろうとした時に足を滑らせてしまってこけてしまう。

その際に戸棚にある一冊のノートがアンジュの前に落ち、アンジュは起き上がろうとした時にそれを見つける。

 

そしてそのノートを読み上げると、それはタスクが今まで書いてきた日記だった。

 

『モーガンさんが死んだ…、これで俺は一人になった…。無理だったんだ…エンブリヲに戦いを挑むなど…世界を壊すなんて。

何をしても一人…孤独に息が苦しそうになる…人は…一人では生きていけない…』

 

日記を読んでいるアンジュはタスクの苦労の日々を感じ取る、あの万能のタスクがここまで弱音を吐いているのは知りもしなかったからだ。アンジュは次のページをめくる。

 

『◎月〇〇日 エーテリオンの皆んなが、俺の原隊復帰を求めて来た。でも守るべきものがいない俺には関係ない……』

 

『△月◎日 浜辺で俺を原隊復帰させようと、天の聖杯のドライバーと呼ばれる“キオ・ロマノフ”と会った。彼は総裁Xから誘拐された両親を助けようと俺に求めて来た。だが、逃げることもしか考えない俺には無理だった。結果、彼と喧嘩し、そこにエルマさん達が止めに入ってきて、解決した。』

 

「タスク…」

 

アンジュはますますタスクの辛い過去を知る中であるページに目が止まる。

 

『今日、島に女の子が流れ着いた…ヴィルキスと共に。名前はアンジュ…とても良い名前で綺麗な子だけどかなり強暴で人の話をまるで聞かない女の子だった。だけどアンジュは…光だ』

 

「!?」

 

アンジュはその事に目を見開いて驚く。

 

『外の世界から差し込んだ…とても暖かく輝く光。父さん…母さん…、やっと見つけたよ…俺』

 

「『彼女を護る…、それが俺の…俺だけの使命』」

 

日記を読み終えたアンジュは手に持っているネックレス見て、そして握り締めながら目に涙があふれ出て来る。

 

「ずっと…ずっと護ってくれてた…なのに私…私は…、タスク…モモカ…!」

 

そしてアンジュの目から涙が落ちて来て、泣き崩れてしまう。

 

タスクに護れていたのをずっと気付かなかったアンジュは後悔していた。

どうしてももっと早く気付いてやれなかったのか、どうしてもっと分かりあえなかったのか。アンジュの心にはその後悔がずっと流れ続けていた。

 

泣き崩れているアンジュは身体を起こして目にある物が映る。

 

それはダイヤモンドローズ騎士団の制服にあった拳銃がアンジュに目に映ったのだ。

アンジュはそれを取り、残弾数を確認してセーフティを解除する。

 

ハンマーを上げて、銃を顎下に構える。

 

「モモカ……タスク」

 

アンジュは震える手でトリガーに指をかけて、引きがねを引こうとした瞬間頭の中に今までの光景が流れて来る。

 

その際にタスクがアンジュに言った言葉を思い出す。

 

 

──君は生きろ!

 

 

タスクの言葉にアンジュは銃をおろし、そして激しく泣き崩れる。

 

「うわああああああああああ~~……!!」

 

 

───────────────────────────────────────

 

 

降り続いていた雨が上がり、夕日が見える浜辺にあるコンテナにアンジュは毛布で包んで座り込んでいた。

 

アンジュは自分で引きがねを引けなかった事に呟く。

 

「不様ね…私、一人じゃ…死ぬことすら出来ないなんて…」

 

そう呟くアンジュは沈んでいく夕日を見る。

 

「…綺麗」

 

 

──君の方が…綺麗だ

 

 

またタスクの言葉を思い出して、目に涙を浮かばせる。

 

「バカ…! どうして私なんか…?」

 

 

──俺はアンジュの騎士だからね

 

 

アンジュはタスクの言葉に頭を上げて、涙を流して夕日を見る。

 

「それで良かったの?貴方は…、使命の為に全てを失っても…。それで望んだのはどんな世界の…?」

 

 

──穏やかな日々が来れば良い…ただそう思ってるだけさ

 

 

──必ず戻るから…君の元に

 

 

タスクの最後の言葉を思い出すアンジュ。

自分の騎士である為ならどんな命も投げ出す。そんな事でアンジュはどうしても納得できなかった。

 

「貴方が居なくなったら…何の意味もないじゃない…」

 

その言葉に海の波が打ち消すかのように音をたてる、そしてアンジュはようやく自分の思いを気付くのだった。

 

タスクの事が好きであると…。

 

「好きよ…タスク、貴方の事が…うぅ…!」

 

そう言った途端にアンジュはまたしても泣き出してしまう。

 

「こんな事なら…最後までさせてあげれば良かった…!」

 

っとそう言った時だった。

 

「本当に?」

 

「っ!!?」

 

突如タスクの言葉が後ろから聞こえてアンジュは思わず驚き、タスクはアンジュを後ろからそっと優しく抱きしめる。

 

「良かった~アンジュ、君が無事で」

 

「…何で?」

 

アンジュは突然の事に混乱し、タスクはその事に言う。

 

「前にも言ったろう、アンジュの騎士は不死身だって」

 

「タス…ク?」

 

「ああ、そうだよアンジュ」

 

アンジュは顔だけを振り向き、タスクを確認して。そしてアンジュは立ち上がってタスクも立ち上がったその時だった。

 

 

バシンッ!!

 

 

「痛っ!?…えっ?」

 

突然アンジュからビンタを貰ってしまったタスクは思わず唖然としてしまう、アンジュは涙を流しながら言い続ける。

 

「タスクは…死んだわ!」

 

 

バシンッ!!

 

 

「っぐ!」

 

またしてもアンジュの逆手ビンタがタスクの頬に直撃して、タスクは叩かれた部分を抑える。

 

「これは…エンブリヲが見せている幻!!」

 

「えっ!ち!違う!」

 

その事にタスクは慌てながら否定するも、アンジュの行動は止まらない。

 

「あの時のキスも、撃たれた血もないもの!!」

 

「お!俺は生きてるよ!」

 

「信じない!!タスクは死んだの!!!」

 

っとそれには思わずタスクは「ええ~!?」と声を上げる。

 

「信じない…信じないわ!」

 

「…ゴメン」

 

この時タスクは気づいた、アンジュは相当悲しい思いをしたんだと。

タスクは申し訳なさそうにしてアンジュの涙を指でふく、しかしアンジュは何やら決心した表情で顔をあげて、それにはタスクは頭を傾げる。

 

そしてアンジュはタスクの服を掴んで強引に倒す。

 

「えっ?うわっ!!」

 

強引に押し倒されたタスクはアンジュに防弾ベストと上着を脱がされる。

 

「あ、アンジュ…何を?」

 

「確かめるわ…ちゃんと!」

 

っとアンジュは自分のワイシャツを脱いで、裸になった状態になり。

それにはタスクは頬を赤くする。

 

「た…確かめるって?」

 

するとアンジュはタスクに寄り添い、キスをする。

 

「っ~~~!?!?」

 

「黙ってて、お願い…」

 

アンジュの必死の頼みに、タスクは思わず黙り込んでしまい、またアンジュはタスクを押し倒してキスをするのであった。

 

 

 

 

その頃、キルグナスの格納庫でキオはコックピットの中で瞑想をしていた。これから起こる戦闘に備えて、心と精神を集中させていると……。

 

「『キオ……聞こえるか?』」

 

「!?……その声は、師匠!?」

 

「『ゾハルについて分かったことがある……ゾハルは利用者によって古代神も欲する望み、手にした者のどんな願いを何でも叶える事ができると伝えられている。そして、ゾハルの他にも望みを叶える事が出来る神器が在ると。』」

 

「神器?」

 

「“ランプル”と言う神の力を意のままに制御し、利用者の善悪の願いと欲望を叶えしランプなのだ。」

 

「ランプ?」

 

「『お伽話であるだろ?“アラジンと魔法のランプ”を。』」

 

「……あのランプですか?それと何の関係が?」

 

「『……まぁ、誰が持っているかはまだ不明だ。それと、儂とグレイスからお前に贈り物がある。今は贈られないが、お前の危機的状況に現れる。まぁ、兎に角お前は最後まで生き延びれ、儂が言いたかったのはそれだけじゃ。では、待たな。』」

 

勇人の声が聞こえなくなり、キオは瞑想の続きをすると。

 

 

 

そしてアウローラのブリッジでは…。

 

『聞こえますか?こちらエルシャ』

 

っとエルシャからの通信が聞こえて、ブリッジのパメラ達はメイン画面に映し出される映像を見る。

 

それは白旗替わりに白ブラを旗にしているエルシャのレイジアが飛行していた。

 

「し!白ブラ!?」

 

「違うわ、白旗よ」

 

オリビエが言ったのをパメラが訂正する。

エルシャはアウローラだけではなく、全周波数で皆につなげて話す。

 

「こちらエルシャ、投降します」

 

その放送はキルグナスへと居るキオ達の耳にも入る。

 

「エルシャが!?」

 

「どうしてあいつが…?」

 

キオとオリバーがそう言っているとアンが言う。

 

「恐らくエンブリヲの本性に気付いたんだろうな」

 

「あのヘボ野郎にか?」

 

キオの問いにアンは頷く。

 

「ああ、エンブリヲの事だ。必ずそうに違いない」

 

「…そうか、よし、エルシャを向かい入れよう」

 

「ったく、エルシャの奴。気付くの遅えよ……」

 

っとキオ達はエルシャをキルグナスへと向かい入れた。

 

 

 

 

一方でタスクとアンジュは互いを満足した後に夜空を見上げていた。

 

「綺麗ね…」

 

「ああ、あの時よりずっとね」

 

そうタスクは話し互いに手を握る、アンジュはある事を言う。

 

「実はね私…さっき死のうとしていたの」

 

「えっ?!」

 

「人は…一人じゃ生きていけない」

 

っと聞かれたタスクはそれに恥ずかしそうに照れてしまう。

 

「日記…見たんだ」

 

「ええ、何にも出来ないのね一人って、話し合う事も…抱き合う事も」

 

そう言ってアンジュはタスクの方を見る。

 

「本当に、生き返ら」

 

「」

 

タスクはアンジュの言葉に頷く様に手を握る、そしてアンジュは上半身だけ起こしてタスクに互いに愛し合った事を聞く。

 

「ねぇ…、満足した?」

 

「え…、もう…思い残す事ないかも」

 

「駄目よタスク、これからなのに…それにもっと楽しみたいし。サラ子に自慢したいんだから」

 

っとアンジュがそう言った言葉にタスクは思わず苦笑いするしかなかった。

すると朝日が二人に指し光、それに二人は起き上がる。

 

「不思議…、何もかものが新しく輝いて見える」

 

「うん…」

 

そう朝日を見る二人、アンジュは気にしている事をタスクに言う。

 

「私ね…あの変態ストーカー男に言われたの。全てを壊して新しく作ろうって」

 

「えっ…」

 

タスクはそれに言葉を詰まらせるもアンジュが言い続ける。

 

「でも私…この世界好き、どんなにみじめで愚かでも…こんな世界が」

 

「俺もだ、何時までもね…。アンジュ、必ず護ろう…この世界」

 

「うん、護ろう…それにモモカが護ってくれたこの命、無駄にしない為にも」

 

「………あっ!!」

 

タスクはしまったと言う表情になって焦り、それにアンジュはタスクを見る。

そしてタスクとアンジュは服に着替えて、アンジュを連れて洞窟に戻ると…。

 

「お待ちしておりました~!」

 

そこにはモモカが朝食の準備をしていた事に、タスクは少々気まずかった。何せ忘れていたから。

 

アンジュはモモカが生きている事に唖然として、タスクに問う。

 

「な、何でモモカが…?」

 

「このフライパンのお蔭です!」

 

っとモモカはエンブリヲが撃った弾が止まっているフライパンをアンジュに見せる、そしてアンジュはしばらく唖然として笑い出してモモカに抱き付く。

 

「流石、私の筆頭侍女ね!」

 

「はい…アンジュリーゼ様……あっ!」

 

するとモモカは何やら思い出した表情をしてすぐ様タスクとアンジュに言う。

 

「大変です姫様、私マナが使えなくなっちゃんたんです!」

 

「「えっ!?」」

 

そう言っていると天候が急激に変化して、タスク達は海の方へと向かう。

それにモモカは思わずつぶやく。

 

「あれは…?」

 

その中でアンジュはその光景を見て言う。

 

「始めたのね…エンブリヲ、世界の破壊と再生を」

 

タスクとモモカは驚き、ある場所へと連れて行く。

その場所…島内にある格納庫の門を開けると、そこには一機のパラメイルが鎮座していた。

 

「これって…」

 

「母さんの機体だ」

 

アンジュにタスクが答えた。

 

「行こうアンジュ、まずはヴィルキスの回収からだ」

 

「その必要はないと思うわ」

 

自分の左手に輝くあの指輪に軽くキスをする。そして、

 

「おいで、ヴィルキス!」

 

と、その左手を高く掲げて愛機を呼んだ。すると指輪が輝きを放ち、ヴィルキスがその場に現れたのである。

 

「さ、行きましょ」

 

アンジュの号令に従って、一行は島を飛び立った。全ての決着をつけるために。まず第一の目標は懐かしき仲間が待つ場所、キオ達の元へ。



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第41話:歪んでいく世界・前編

各地で時空融合が開始して、各地に甚大な被害が及んでいた。

それにはサラ達の世界も影響が及んでおり、アウラの民達は宮殿へと避難をしていたが、時空融合の嵐が宮殿にまで迫っていた。

 

ミスルギ皇国に居るエンブリヲは大きな地図の上に人形を置いて、卓上を見ながらニヤリと笑う中、外では新たな世界の創造の犠牲者が刻一刻とその数を増していった。もう人間の世界のかなりの地域が破壊され、そしてそれに比例するかのように、夥しい数の人間がその計画に巻き込まれて生命を落としていた。

 

「重力波干渉計が、急激な振動を検出」

 

「始まったのですね、時空融合が」

 

「マナが使えなくなったのは、アウラの全エネルギーを時空融合に注ぎ込んでいるためでしょう」

 

アウローラのブリッジで、状況の分析が行われている。混乱しているのは何も人間の世界だけではない、真なる地球でも遂に始まった時空融合を、大巫女以下の全ての面々が固唾を飲んで状況の推移を見守っていた。

 

「エプトンの放射強度より予測される時空融合の境界分布、出ました」

「予想される、時空融合の中心点は?」

 

サラが一番重要な点を尋ねる。

 

「ミスルギエリア、暁ノ御柱です」

 

データが示した地点は、やはりと言うか当然と言うかエンブリヲのいる場所、そしてアウラのいる地点だった。

 

「二つの地球が混ざり合った時、全ては破壊され死に絶えるでしょう…その前に何としても、アウラを奪還せねばなりません」

 

「ヒルダ!アンタまだアンジュを!?」

 

「んな訳ねぇだろ!地球がなくなったらぶっ壊す世界も無くなっちまうしな!アウローラ、機関全速!目標、暁ノ御柱!」

 

ヒルダの指示を受けてオペレーターの一人、オリビエがアウローラを起動させる。と、その途中で不意に電子音が鳴った。

 

「通信です!スピーカーに切り替えます」

 

振り返ってオリビエがそう報告した直後ノイズが走り、そして次に、

 

『アウローラ、聞こえる?こちらアンジュ』

 

アウローラに懐かしき声が響いたのだった。その声に、ブリッジの面々が顔を綻ばせた。

 

「これより帰投する。アウローラ、返事しなさい!」

 

相変わらずの怒鳴りに通信を聞いていたキオ達は呆れてしまい、チャールズ達はキルグナスを浮上させる。

浮上して来たキルグナスを見て、タスクとアンジュはモモカを連れてキルグナスへと入って行った。

 

収納された三人は格納庫で待っているレオン達に向かい入れられる。

 

「「アンジュ!!」」

 

「お帰り!!」

 

すぐさまヒルダ達がアンジュの元に行き、アンジュは笑顔でヒルダ達に言う。

 

「ただいま皆、遅くなっちゃってゴメン」

 

「たくっ!何処ほつき歩いてたんだ!てめぇはよ!」

 

ロザリーが相変わらずの意地悪風な言い方でアンジュは安心し、キオ達はタスクに近寄る。

 

「待ってたぜタスク。遅い帰投だったな」

 

「あはは…、ちょっとね」

 

タスクは苦笑いをしながらキオ達に言う。するとエマがやって来てモモカの姿を見て安心した。

 

「モモカさん!無事だったのね!」

 

「監察官さん! あっ…お酒やめられたのですね?」

 

モモカはその事をエマに言い。エマは目線を反らすも何とも情けない表情で言う。

 

「飲んでいる場合じゃないわ…、私もリベルタスに参加します!!知ってしまったもの…人間とマナの真実を」

 

「…そう、エルシャが。それと、随分と派手な服装になったね。」

 

アンジュがキオの新しいスーツを見て呆れる。

 

「随分?……あっちの世界で6000年以上生きて、師匠と共に修業して帰って来た俺は、エンブリヲの数千倍以上強くなったからな。期待しておけよ」

 

キオは拳を胸に当て、ぐーサインを出す。

 

「あれ?ヒルダ、司令は何処?」

 

「あ?今の司令は“私”」

 

「え?じゃあジルは…?」

 

 

 

事実を知ったアンジュはアレクトラを謹慎している司令室に入る。

 

「良く帰ってこれたな…」

 

「えぇ、皆のおかげよ.……」

 

「んで、私を笑いに来たのか?」

 

アレクトラはそう言うが、アンジュは、

 

「聞いたわよ、エンブリヲの手込めにされていたそうだね」

 

「っ.…….」

 

「ま、貴女みたいなお馬鹿な人は、漬け込まれるからね」

 

「喧嘩を売りに来たのか?」

 

「聞きたいことがあるのよ.エンブリヲの殺し方を教えて…」

 

「何?」

 

「アイツは死ぬ度に多重存在と入れ代わる…タスクから聞いたわ….貴女、言ったわよね…ヴィルキスじゃなければ殺せないって。」

 

アンジュの問いに、アレクトラは返答する。

 

「……その不確定世界の何処かに、奴の本体があるんだ。」

 

「そう、それで?これから貴女はどうするの?」

 

「……私はもう、司令官の任を剥奪されたよ」

 

アレクトラの言葉に、アンジュが怒鳴り、アレクトラの胸ぐらを掴む。

 

「腑抜けた事を言ってるんじゃないわよ!貴女の勝手な復讐のせいで、何れだけの死人が出たと思っているの!!?」

 

「フンッ!私に何が出来ると言うのだ?革命にも失敗したこの私に…」

 

 

パシュッ!!

 

 

アンジュはアレクトラの頬を平手打ちし、あることを言う。

 

「私を助けてくれたの…サリアよ」

 

「何?」

 

「哀れだったわ……貴女を忘れようと、あの男に漬け込まれちゃってる。.責任、ないとは言わせないわ…アレクトラ・マリア・フォン・レーベンヘルツ…」

 

アンジュはそう言い、司令室から出ていく。

 

 

 

 

その頃格納庫では、チャールズがフェイトにある物を渡す。

 

「これは?」

 

それはキオと同じ黒いコートであった。

 

「キオに頼まれて、お前用に裁縫したのだ。黒いコートは無法者であり、ヤクザを意味をしているからなぁ」

 

「ヤクザ……無法者……エルダー皇家は神に祝福されし種なのだ。こんな野蛮人の服を着るだと?」

 

「んな事気にすんなって!!」

 

グダグダ言っているフェイトを拳骨するキオ。頭をさするフェイトと笑っているキオの所に、黒いコートを着たココがやってくる。

 

「お兄ちゃん!」

 

三兄妹が並ぶと、マリアがカメラで三人の並ぶ姿を撮った。

 

「フフフ…いい写真が出来たわ♪」

 

写真が乾くと、三人の写し絵が出来る。

 

「……こんな時に、何を?」

 

「何って?本来の兄妹写真じゃないか、もしかしたら……もう会えなくなる為の。」

 

「…………大事にしまって置く。」

 

フェイトとキオ、ココは写真を御守り代りとしてポケットの中に入れる。

 

その頃、時空融合が迫る中、ドラゴン達は時空融合を抑えようと雷撃を放つが、時空嵐の引力に引き寄せられ、他のドラゴン達と共に巻き込まれていく。迫り来る時空融合の嵐に危険を察知した大巫女は大声で民達に言う。

 

「皆の者下がれ!!エリュシュオンへと避難するのじゃ!!」

 

また偽りの世界でも、マナを失った人間達は自分だけが助かりたいと、ローゼンブルム王国専用の輸送機に乗り込もうと押し掛けてくる。

 

 

 

 

その頃、キルグナスから海が見える場所でキオとサラが二人っきりで眺めていた。

 

するとキオはポケットからある箱を取りだす。

 

「サラ、これ…」

 

「キオ、これは?」

 

「……開けたら分かる。」

 

キオは頰を赤くし、サラが箱を開ける。

 

「……これ」

 

箱に入っていた物。それは紅色の宝石をつけた指輪であった。

 

「……向こうの世界で徹夜して作ったんだ、サラの為に。だからその……」

 

キオは自分の心の迷いを振り切り、サラに言う。

 

「サラ!この作戦が終わったら……俺と結婚してくれ!」

 

「……」

 

「……(だぁ〜〜っ!!言った!ついに言ってしまった!!これで成功すれば……)」

 

キオがそう思っていると。

 

「……よ、よろしくお願いいたします。」

 

「え……?結婚……してくれるのか?」

 

「……はい♡」

 

「っ!!!!!やった〜〜〜〜〜〜!!!!!!!」

 

キオが告白に成功すると、通路の角の陰に隠れていたオスカー達が飛び出す。

 

「お、お前ら!!?」

 

「すまん、キオ。見てたわ♪」

 

「キオ!おめでとう!!」

 

《おめでとう!!》

 

オスカー達とエルマ達や兵達が拍手する。するとアンがキオの背中を勢いよく押し、サラの方に向ける。

 

「いっそのことだ!今ここで結婚したら〜?」

 

今度は反対側からカナメがサラを押し、二人を強引にくっつけた。

 

「先ずは付き合ってからですよ!姫様!」

 

困惑する二人に、

 

「好きと言えば切り殺す!!」

 

っとナーガが暴走しながら割って入ってきた。

 

「それとも、お姫様が嫌いなのか?」

 

アンが問いながらキオの背中を指でつつく。

 

「嫌いでも切り殺す!!」

 

っとナーガはキオを睨む。追い詰められたキオは意を決して大声で叫んだ。

 

「だっ、大好きだ!!既に一線も越えているし、キスもした!!」

 

《…………いえ〜〜〜〜〜い!!!!》

 

衝撃の言葉に皆んなはさらに拍手や指笛吹を吹く。サラの頰がじんわりと赤く染まる。

 

「貴様〜〜!!!」

 

キオはナーガに切り殺されると思いきや、すぐに何本もの救いの手が伸びて、ナーガを引っ張っていく。サラはキオに顔を向けると、はにかみながら小声で言った。

 

「……嬉しいです……不束者ですが、よろしくお願いします…」

 

その言葉に女達から「ひゅ〜〜〜〜!!」と言う冷やかしの声が飛び、男どもは「もう一度愛を確かめるん為、キスしろ!キスしろ!」の大合唱。無責任に盛り上げて、キオをサラに向かって突き飛ばした。つんのめって出てきたキオにサラはニコッと笑いかける。

 

「や、やめろ!切り殺されたいのか!?」

 

オスカーとダグ、ラオ、アンに羽交い締めにされたナーガが暴走しながら叫ぶ。

 

「……言われなくとも、分かってる!」

 

キオは決心し、サラとキスをする。

 

《イエ〜〜ッ!!》

 

大盛り上がりの外野の歓声、羽交い締めされていたナーガは尊敬する姫を奪われた事に肩を落とす。

 

「皆んな!この戦いが終わったら!俺とサラの結婚を祝ってくれ!!」

 

《おお〜〜〜〜!!!!!!!》

 

 

 

 

 

 

 

 

役者が揃い、そしてアウローラやキルグナス、インフィニティ、エーテリオン艦隊がミスルギ皇国へと進行していた。

 

「敵艦隊、捕捉!」

 

キルグナス格納庫、キオが皆んなに宣言する。

 

「皆…聞こえるか、アンジュに代わって、総司令のキオだ。俺達はこれからミスルギに突入しアケノミハシラに向かい、時空融合を停止させる。エンブリヲが創り出す勝手すぎる世界など一体誰が想像するか? ただ自分の想像する世界なんて、そんなの願い下げだ。

それに世界は....誰かが導かなきゃ幸福にはなれないって誰が決めた? 誰も決めていない...自分達の未来は自分達で見つけて歩まなければならない、ノーマやアウラの民に古の民、そしてエンブリヲの世界を拒絶し共に戦ってくれているエーテリオンとそれに何よりゼニスから自ら離れ戦ってくれる者達がスゲェよ!エンブリヲ…そしてゼニスことアルフォンス・斑鳩・ミスルギから世界を護る為に今こそ、立ち上がる時が来た! 作戦名は....『ラスト・リベルタス』!相手が神だろうが、何だろうが、俺達の手で野望を壊し、 共に戦い!生きて帰ろう!未来へと歩むために!」

 

《おおお!!!!》

 

キオの宣伝に皆は賛同するかのように声をあげて、アンジュは通信回線をキオに繋ぐ。

 

「結構いい言葉じゃない、上の立場の事。理解してるじゃない」

 

「一応ね……さぁ、行こう!!」

 

キオはグノーシスに乗り込み、皆んなは戦闘を開始するのであった。

 



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第42話:歪んでいく世界・後編

そして海面上、ミスルギ艦隊の船がミサイルを発射し、キルグナス達へ向かわせるように放つ。

それにインフィニティのブリッジで、オペレーターがレーダーにミサイルを確認する。

 

「敵艦隊よりミサイルの発射を確認!数多数!!」

 

艦長席に座るキースがすぐさま指示を出す。

 

「だったらこちらも本気を出すか……全艦!迎撃体制!アウローラを守れ!」

 

エーテリオン艦隊から70mmポイントディフェンスガンとM85 対空砲がミサイルを迎撃する。

 

「今度は我々の番だ。アーチャーミサイル一斉発射開始!!」

 

艦体からアーチャーミサイルが放たれ、敵艦隊に向かい撃墜して行く。

 

「各艦!!ミスルギ皇国に進軍するぞ!!」

 

インフィニティを先頭にアウローラ、キルグナス、エーテリオン艦隊達が空中へと舞い上がり、ミスルギ皇国へと向かう。

 

「強行突破か。乱暴なことだ」

 

余裕綽々のエンブリヲが、相変わらず楽しそうに微笑みながら次の手を打った。今度はジュリオがアルゼナルに侵攻したときに運用した小型兵器、ピレスロイドと残存したデウス・コフィンの艦隊を戦線に投入する。無数のピレスロイドとバグズがインフィニティを目指して飛行してきた。

 

「アンジュ、来たぞ!」

 

ヒルダがその状況を報告する。

 

「パラメイル隊、全機出撃!」

 

『イエス、マム!』

 

アンジュの号令に出撃メンバーが口を揃えて返答した。

 

「各機、アレスティングギア、リリース!」

 

「アンジュ機、サラマンディーネ機、イグナイト。リフトオフ!」

 

「ヒルダ機、ヴィヴィアン機、イグナイト。リフトオフ!」

 

「俺たちも行くぞ!」

 

《おぉ!!》

 

キオ達もキルグナスのカタパルトから発進する。エルマのドール部隊も隊列を組み、加速する。

 

管制指示に従い、次々とパラメイルとドール、戦闘機が空へと飛び立つ。そしてまずは小手調べの前哨戦とばかりに各々ピレスロイド、バグズと交戦が始まった。タスクの新たなドール『アレス・バーン』とキオのグノーシス、フェイトのセフィロトの三機が螺旋状に舞い上がりながらフォルトゥラー艦隊とカタストロフィー艦隊を撃沈して行く。

 

「沈めーっ!」

 

そんな中、アンジュは真紅のヴィルキスを駆って戦艦を次々に沈めていく。

 

「アンジュ?」

 

「っ!」

 

その戦況がわかったからか、エンブリヲが思わず呟いた。そして、アンジュの名を聞いたサリアがムッとした表情になってギリッと歯を鳴らす。

 

「私たちも出るとしよう」

 

サリアたちに振り返ると、エンブリヲはそう告げたのだった。

 

「暁ノ御柱、間もなく射程圏内に入ります」

 

「冷線砲、エネルギー充填!発射準備!」

 

「了解!冷線砲、発射準備!」

 

目標が手の届くところまでの距離に入ったため、ブリッジも次第に慌ただしくなる。が、そうは簡単に事は運べなかった。

 

「暁ノ御柱前に、敵影とマデウスを確認!」

 

それにキース艦長達はアケノミハシラにモニターを向けると、そこにはエンブリヲ、そしてオラクルとダイヤモンドローズ騎士団、マデウスがアケノミハシラに待ち構えていた。

 

「エンブリヲ!」

 

キースとジャスミンはエンブリヲ達を見て睨む。

エンブリヲは笑みを浮かばせながらインフィニティ達を見る。

 

「沈みたまえ…、古き世界と共に」

 

するとエンブリヲは永遠語りを歌い出し、それに戦っているキオ達はその歌を聞く。

 

「なっ!これは!」

 

「「「!!?」」」

 

エンブリヲが歌のを聞いたキース艦長はすぐに気づく。

 

「狙いは我々の艦隊やアウローラか……アウローラの冷線砲のエネルギー充填は?」

 

「74%です」

 

そうキースに報告するオペレーター。

しかしその前にエンブリヲの歌が終え、ヒステリカから光学兵器『ディスコード・フェイザー』が発射される。とその時、キオとオスカー達が前に出て、スーパートリンオンシールドを展開し、ヒステリカのディスコード・フェイザーからインフィニティとアウローラ、エーテリオン艦隊を守る。

 

「キオ達か!」

 

「エネルギー充填98%!」

 

ジャスミンが、今度は面舵を切って軌道を修正して立て直す。

 

「N式冷線破壊砲『アブソリュート・ゼロ』、撃てぇっ!」

 

「了解!N式冷線破壊砲、撃ちます!」

 

そして言葉通り機を逃さず、ジャスミンの号令に従ってエルシャがトリガーを弾いた。アウローラの前方の砲台から放たれたN式冷線破壊砲『アブソリュート・ゼロ』はピレスドロイドやバグズ、teeチェイサーや艦隊を寸分狂わず暁ノ御柱に直撃し、瞬く間に暁ノ御柱を凍結させる。凍結した暁ノ御柱は崩壊し、その跡地に巨大な穴ができたのだった。

 

「あれが、アウラに続くメインシャフトです!」

 

ブリッジに詰めていたリィザがその穴を見てそう説明した。

 

「全機、我に続け!」

 

『イエス、マム!』

 

「俺たちも続くぞ!!」

 

《おお〜〜〜!!!!!!!》

 

「これで対等になった。全艦!地上部隊を投下し、マンモスを中心に地上からキオ達を援護せよ!!」

 

《了解!!》

 

インフィニティやエーテリオン艦体からフリゲートが降下し、ハッチから機動対空兵器プラットフォーム『マンモス』や『スコーピオン』、『ワートホグ』、『マングース』、『グリズリー』、『ライノ』、『クーガー』、『ペリカン』、『ホーネット』、『ファルコン』、『ドール』が地上を突き進む。地上にはラフィン・トルーパー達がブラスターを乱射し、暁ノ御柱前を防衛する。スパルタンやエーテリオン海兵と陸兵はブラスターのエネルギー弾の雨の中を突き進み、格闘戦や肉弾戦の戦いが繰り広げられる。

 

っとキオを先頭にしてタスク達がアケノミハシラに向かう、が残りのピレスロイドとバグズ、TEEチェイサーがインフィニティ達に向かい、それを見たヴィヴィアンが慌てて引き返す。

 

「キオ!あたしやっぱここに残る!」

 

「分かったヴィヴィアン! 行くぞ皆!!」

 

 

 

 

 

 

 

「いつの間にあんなものを…」

 

エンブリヲが不思議そうに呟いた。先ほどアウローラから放たれたN式冷線破壊砲に対する感想である。以前はこの兵装がなかったのだろう。

とはいえ、エンブリヲは別段取り乱す様子もなく、悠然と佇んでいた。と、

 

『エンブリヲ君、来た』

 

「ん?」

 

クリスからの通信を受け取って顔を上げると、編隊を組んで突っ込んでくる、アンジュ以下7機のパラメイルの姿があった。

 

「諸君、迎撃を」

 

『イエス、マスター!』

 

エンブリヲの指示に従い、まずはイルマとターニャが出る。続けてクリス。そして、

 

「サリア、わかっているね?」

 

最後に残った傍らのサリアに念を押すようにエンブリヲが話しかけた。

 

『はい…』

 

通信でそう答えたサリアだったが、その口調と表情は確固たる意志が感じられた。その意志が何なのか…。それは、すぐにわかることである。

 

「お前達も分かっているな?」

 

エンブリヲは主人を失ったオラクル達に命令する。

 

「分かったよ、大将さん。」

 

「チッ!調子に乗りやがって……」

 

「だが……ゼニスはもういない。」

 

そうこうしているうちに、最初に出たターニャとイルマは接敵する。彼女たちに当たるのは、ナーガとカナメの二人だった。

 

『姫様はアウラを!』

 

ターニャとイルマを牽制しながら、二人はサラへと通信を入れる。

 

「ええ」

 

二人の意思を汲んだサラは頷くと、そのまま先ほど開いたメインシャフトへと機体を滑らせた。一方、市街地を低空で飛ぶヒルダとロザリーの上空から、ビーム砲が彼女たちの飛行しているすぐ脇に着弾する。

 

『!』

 

射線を見上げると、そこには降下してくる一機のラグナメイルがあった。

 

「あんたたち、また来たの?」

 

搭乗しているのはやはりと言うべきかクリスであった。フライトモードからアサルトモードへと変形すると、ヒルダとロザリーに向けてライフルを発射する。

 

「クリス!」

 

こちらもフライトモードからアサルトモードに変形し、ロザリーがクリスに斬りかかった。クリスもブレードを出してそれを受け止める。

 

 

 

 

 

そして要であるアンジュは

 

「お帰り、アンジュ」

 

サラと同じくメインシャフトへ向かうキオ達。すると進路上にエンブリヲが現れて行く手を遮る。

 

『!』

 

アンジュとタスクがその姿に息を飲んだ。

 

「やはり私たちは、再会する運命だったんだ」

 

「エンブリヲ…」

 

アンジュの表情が憎々しげに歪んだ。それほど嫌悪、憎悪しているのだから仕方ないのだが。と、タスクのアレス・バーンが前に出る。

 

「行け、アンジュ!アウラの許へ!」

 

そして、先に進むように促した。自身はそのままエンブリヲへと突っ込む。

 

「わかったわ!」

 

了解したアンジュは軌道を離れ、サラと同じようにメインシャフトへと向かった。必然的にその空域で残されることになったエンブリヲとタスクが拳を交えることになる。

激しく位置を入れ替えながらタスクがライフルで牽制し、そしてブレードで斬りかかった。

 

「ほぉ、生きていたのか」

 

タスクの攻勢に、エンブリヲが楽しそうに笑みを見せる。

 

「アンジュの騎士は不死身だ!」

 

「ほぉ…」

 

「タスク!」

 

キオはマテリアライズしたビームライフルをエンブリヲに向ける。エンブリヲはアレスを蹴り落とし、ビームシールドで防御する。キオは黄金のモナドを振り下ろし、エンブリヲは回避する。

 

「何!?」

 

今度はフェイトのセフィロトが聖天を放つ。しかし、エンブリヲは撃ってくる方向を分かっているかのように、回避し、セフィロトに攻撃を仕掛ける。

 

「何故俺の攻撃が!?まさか!!?」

 

「その通りだよ……メツを掌握し、君達と同じ、因果律予測を手に入れたのだ。」

 

エンブリヲはそう言い、メツのモナドを持つ。するとヒステリカの手に、メツと同じ黒いモナドが現れ、キオとフェイト、タスクの軌道を見て、攻撃を仕掛ける。

 

「動きを読まれている!!フェイト!サポートしてくれ!」

 

「分かった!…っ!?」

 

フェイトは未来視を発動しようとした直後、上空からロンギヌスの槍が飛んできた。インガ、メシア、カンナ、そして変形したマデウスが立ち塞がる。

 

「お前の相手は我らオラクルだ!裏切り者!!」

 

「裏切り者?……違うな、最初から裏切るつもりだったのだ!!」

 

フェイトはザンザのモナドを持ち、オラクルに立ち向かう。

 

 

 

その間、アンジュはメインシャフトに向かって飛行を続け、そしてようやくサラを視界にとらえるまでの距離に近づいたのだった。

 

「サラ子!」

 

その姿を見つけて急いで合流しようとするも、突然の上空からの砲撃に進路を阻まれる。その砲撃を仕掛けてきたのは、勿論サリアだった。サリアはそのまま一度降下していくと、駆逐形態に変形しつつ浮上し、アンジュの前に立ちはだかった。

 

「待ってたわよ、アンジュ」

 

「サリア…!」

 

二機はそうするのが当然であるかのように斬り結ぶ。二人の間に火花が散り、アンジュが唇を噛んだ。

各機がそれぞれ新しい展開を見せる中、アウローラでも必死の攻防が続いていた。護衛機はココ、ミランダ、ヴィヴィアン、、メアリー、マリカ、ノンナと、本来辿るべきであった歴史に比べて三機多い。そのため、アウローラ本艦にはまだ目立った被弾個所は見受けられなかった。その時、ノンナのハウザー目掛けてピレスドロイドが突っ込んできた。

 

「ノンナ!ノンナーっ!!」

 

ピレスドロイドがノンナに激突しようとしたその時、上空から輻射波動レーザーがピレスドロイドを破壊する。

 

《っ!?》

 

暗雲の中、曙光がアウローラを照らす。曙光の中から純白に輝く神と思わしき機体が舞い降りた。

 

「何だあの機体は?」

 

「エルマさん!あれ!あれですよ!」

 

「あれが……フリューゲルス?」

 

フリューゲルスは蛇のように動くテイルブレードを動かし、持っていたプライマルブラスターでバグズとピレスドロイド、TEEチェイサー、カタストロフィー艦隊を流星の如く速さで撃沈して行く。

 

「は、速い!」

 

「凄いです!あの機体!」

 

「うおお〜!!カッチョいい〜〜!!」

 

エルマ達やヴィヴィアンが興奮している中、アウローラのブリッジのモニター画面に誰かが映る。

 

『き……ますか?アウローラ、聞こえますか?』

 

「お前は?」

 

『僕は“グレイス”、キオの師匠である皇帝陛下直々に頼まれて、キオの助けに来た!』

 

すると雲の中から巨大な機体が現れ、敵艦を駆逐して行く。

 

 

その頃、キオはマデウスのトラクタービームに捕まっていた。そしてマデウスの腹部から高出力プラズマドリルが迫っており、グノーシスのトリオンシールドで何とか防いでいた。

 

「クッ!!!」

 

アレス・バーンを抑えつけているエンブリヲは笑う。

 

「いつまでも守っているだけでは、行動も出来ない!オラクルとマデウスよ!天の聖杯を殺し、残りのウーシアとプネウマを持ってくるのだ!」

 

エンブリヲの狙いがアルヴィースとサラのホムラ、アンジュのヒカリと分かり、必死にトリオンシールドを展開する。すると地上にいるキオのクラスメート達がキオ達を助けようと援護射撃をする。

 

「キオを離せ!!」

 

「無粋な…」

 

エンブリヲは地上にいるキオのクラスメート達を睨み、マデウスのメガ粒子砲で駆逐して行く。

 

「皆んな!」

 

「大丈夫だ!!俺たちもB.Bユニットだから直ぐに蘇れる!!」

 

「良し!皆んなのっ……何っ!!?」

 

キオはグノーシスの胸部バスターキャノンを展開した直後、エンブリヲがタスクのアレス・バーンを掴み、グノーシスの前に現れ、ビームライフルを構えていた。

 

「待っていたよ、バスターキャノンを展開すればシールドも張れまい……大人しく天の聖杯を渡せ!!」

 

ヒステリカのビームライフルの銃口にエネルギーが集まる。

 

「まずい!このポジションでは……クソッ!!」

 

キオがそう思った直後、上空から金色の流星が舞い降り、メシア、インガ、カンナと苦戦していたフェイトを助け、さらに三体のオラクルの胴体に風穴が開く。

 

「は、速すぎる!」

 

「どうなっ!?」

 

「クソォォォォォォ!!!!」

 

三体のオラクルが爆発した直後、マデウスのプラズマドリルが爆発する。

 

「!?」

 

その時、マデウスの巨体が高く吹き飛ぶ。

 

「何!?」

 

キオは体制を整え、聖天を構えると、キオの目の前に巨大なアームドデバイスが現れ、アームドデバイスはビームリングとエナジーウィングを展開する。

 

「これは!?」

 

キオが驚いていると、通信モニターにグレイスが映る。

 

『キオ!聞こえる?』

 

「グレイス!?何で通信機に!?」

 

『皇帝陛下から、キオに贈り物を届けに来たんだ!既にオラクルはこの戦略大型アームド・デバイス“プトレマイオス”を使ってくれ!!』

 

プトレマイオスが機械音を鳴り響かせる。それはまるで生きているかのように、吼えていた。キオはグノーシスとプトレマイオスと合体する。その時、キオの身体からオリジンが現れ、機械の体へとなる。そしてオリジンの形状が変形し始め、プトレマイオスの下半身として合体する。

 

「完成!【グノーシス・プトレマイオス】!!」

 

純白の超装甲、虹色に輝く流動回路、超輻射波動を搭載させた【大聖天】、それはまさに、人型のドラゴンであった。

 

「何……!!!???」

 

エンブリヲは巨大なグノーシスに驚きを隠せなかった。

 

「フフフ……今のうちに降伏しておけば斬らずに済んでやる」

 

「ふざけた戯言だ!!!」

 

「ならかかって来い!!」

 

キオは大聖天から高出力ハイパービームソードを展開する。プラズマエネルギーの刀身がマデウスの腕部である主翼の長さに、エンブリヲは驚く。

 

「そんな……馬鹿な!!?」

 

「おいおい……さっきまでの威勢はどうした?調律者さん?」

 

「クソッ!!」

 

エンブリヲはそう言い、ビームソードで掛かるが、キオのグノーシスがビームソードを振り回す。刀身の高出力のせいか、マデウスの装甲が削られて行く。最後に、肩部のハイメガ粒子をマデウスの胸部へと放つ。マデウスのシールドがあっさりと貫かれ、装甲諸共貫通した。

 

「マデウス!!」

 

エンブリヲは最強の旗艦であるマデウスが倒れて行く光景に驚く。マデウスの巨躯が大地を揺るがす。キオはマデウスを倒したことに、キース艦長やエルマ達、みんなに報告する。

 

「みんな!!マデウスは倒された!!」

 

『よくやったぞ、キオ君!』

 

『お見事よ、キオ!』

 

『よく聞け、これから我々も突入体制へと入り、君たちを援護する。エンブリヲを地獄へと叩き落とせ!!』

 

キース艦長はインフィニティや艦隊に指示を出し、突入を開始する。

 

エンブリヲは舌打ちし、ディスコード・フェイザーを放とうしたその時、グレイスのフリューゲルスがある槍をヒステリカに向けて投げた。槍は空中で爆発し、ヒステリカのディスコード・フェイザーが強制的に終了する。

 

「何!?」

 

「僕の役目はここまでだ。後はキオ達に任せた!」

 

「ありがとう!グレイス!」

 

キオはワームホールを展開したグレイスに別れを告げる。

 

「さて……やりますか!!」

 

キオはプトレマイオスごと高速形態へと変形し、タスクに通信する。

 

「タスク、エンブリヲは任せた!俺はサラの所へと向かう!」

 

『分かった!』

 

タスクはエーテルブレードを抜刀し、エンブリヲと再戦する。

 

そしてアンジュは何とかヴィルキスを皇宮から抜け出して、再びサリアへと向かい合う。

 

「随分と遅かったけど、何してたの?」

 

「ちょっと野暮用を済ましただけよ」

 

アンジュが言った言葉にサリアは納得する。

 

「そう…なら心置きなく死ねるわね!!!」

 

そう言ってサリアがアンジュに向かって行ってラツィーエルを振り下ろす。

っとそこにレイジアがサリアの攻撃を受け止めて、そのまま弾き返す。

 

アンジュとサリアはその事に驚き見ると、レイジアのコックピットが開いてある者が語り出す。

 

「エンブリヲの騎士と言うから、どれ程強くなったと思ったら…期待外れだな?サリア」

 

それはライダースーツを着て、レイジアを操るジル事…アレクトラであった。



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第43話:最凶の神

アンジュとサリアの目の前にレイジアに乗ったジルが現れたことに二人は驚いていた。

 

「ジル!?」

 

「ふっ、久しぶりだなぁ、サリア」

 

「何しに来たの?」

 

「会いに来たのだよ…昔の男に、」

 

「!?」

 

「聞いてなかったのか?……私がエンブリヲの愛人だって言うことを」

 

「!!」

 

サリアはジルの言葉に驚いた。

 

「さっ!退いてくれるかい?」

 

「あなたの事は!もう信じないわ!!私はエンブリヲ様騎士!ダイアモンドローズ騎士団、団長!サリアよ!あの方を元へは行かせない!」

 

「だそうだアンジュ…」

 

「は?」

 

「アウラの元へは行って良いらしい、」

 

「じゃあ、お言葉に甘えて!」

 

アンジュはヴィルキスを動かしアケノミハシラへと向かった

 

「待ちなさい!アンジュ!」

 

クレオパトラがヴィルキスにビームライフルを向けるとレイジアが前に来て、ビームライフルをクレオパトラに向ける。

 

「私の相手をしてくれるんだろ?」

 

「邪魔をするなら!斬るわ!」

 

「ほぉ?」

 

クレオパトラがラツィーエルでレイジアに降り下ろし、レイジアはラツィーエルで防御する。

 

 

 

 

 

 

そして艦隊では多数来る敵を迎撃しており、リザーディアが報告する。

 

「時空融合終焉率83%」

 

「十字方向、数12」

 

「了解!」

 

アウローラはその方向にいる敵をヴィヴィアンと一緒に迎撃する。

 

「飛んで火に入るカブトムシ!!」

 

何故かヴィヴィアンは間違っている言葉を言いながらネビュラメイルとピレスドロイドを撃ち落とす

 

「続いて二次方向、数5!」

 

「了解!」

 

「右舷から大群が来るよ!」

 

「了解!」

 

「落としても、落としても切りがないにゃ」

 

「泣き言を言ってる暇はないよ!この船で皆を乗せて帰るんだからね!しっかり守りな!」

 

《イエス!マム!》

 

 

 

 

 

 

一方、真なる地球でも時空融合の影響は着実に広まっていた。大巫女はじめ避難してきた面々全員の顔に不安の色が浮かんでいる。

 

「っ!」

 

ドラゴンが次々と時空融合に飲み込まれていくのを見るたびに、大巫女が不安に瞳を揺らしていた。

 

「頼んだぞ、サラマンディーネ…」

 

大巫女の期待を一身に背負ったサラはその頃、途中に襲ってくるピレスロイドを蹴散らしながらメインシャフトからアウラの許へと降下を続けていた。

 

「全く、無駄な抵抗をする」

 

同時刻、ミスルギ皇城の上でエンブリヲはタスクと対峙していた。

 

「世界の崩壊は止められないというのに」

 

「止めてみせる!」

 

ライフルを撃ちながらタスクがエンブリヲへと突っ込む。

 

「アンジュと約束したからな。この世界を護るって!」

 

「哀れな男だ」

 

エンブリヲがブレードを展開すると迎え撃つようにタスクへと突っ込んだ。

 

「アンジュは、私と共に新世界にゆくのだよ!」

 

「っ!」

 

反論することなく、いや、する気も起きないのかタスクはそのままエンブリヲのブレードを受け止めた。

他空域ではヒルダとロザリーがクリスと鎬を削っていた。

 

「こんのーっ!」

 

ロザリーが両肩のキャノン砲から次々に砲弾を放つが、クリスは平然と避けながら近づいてくる。そこに上空からヒルダが斬りかかった。

 

「フン」

 

が、クリスはこれも平然と受け止めると、そのボディに蹴りを入れて落下させる。

 

「くっ!」

 

「はっ、弱」

 

侮蔑した口調で吐き捨てると、続けざまにロザリーが放ってきたライフルの砲撃を盾で受け止める。そして、お返しとばかりにライフルでビーム砲を発射した。

 

「その程度で私を力づくで連れ帰るとか、笑わせないでよ!人の事見殺しにして!」

 

「あの時は、助けに行きたくても行けれなかったんだ!」

 

「助ける価値もなかったんでしょ?」

 

ロザリーが説得を試みようとするものの、今のクリスの心には届かない。

 

「弱いから、虐げられて、利用されて、馬鹿を見るんだよ!」

 

憎しみに凝り固まったクリスがヒルダに突っ込んで斬りかかる。ヒルダも、何とかそれを受け止めた。

 

「だから、エンブリヲ君は私を強くしてくれたの!」

 

 

クリスの猛攻がヒルダとロザリーを襲う。その猛攻に、二人は表情を歪めるしかなかった。

また、そこから少し離れた空域ではジルとサリアが激しく交戦していた。

 

「ラグナメイルと騎士の紋章。それで強くなったつもりか、サリア?」

 

ジルが挑発する。が、サリアは動じる様子はない。

 

「エンブリヲ様は、私にすべてを与えてくれたわ! 強さも、愛も、全て!」

 

ジルを憎しみの表情で見つめる一方、エンブリヲのことを語るときは穏やかな表情になるサリア。ジルはサリアに対してフォローらしいフォローをしなかったという点で、サリアはエンブリヲの本性を見抜けなかったという点で互いに自業自得なのだが、その結果二人は空しい戦いを続けることになった。

 

「愛だと?」

 

サリアの発した『愛』という単語にジルが反応して嘲笑する。

 

「奴は誰も愛したりしない。利用するためにエサを与え、可愛がるだけだ」

 

「!」

 

サリアの瞳が揺れた。思い当たる節があるからだろう。

 

「私もそうやって弄ばれ、全てを失った。目を覚ませ、サリア!」

 

だが、

 

「言ったでしょう? 貴方の言葉は信じないって!」

 

それでも今のサリアにはジルよりもエンブリヲに対する比重が大きかった。ブレードを構えてそのまま突っ込んでくる。そして二機は、激しく鍔迫り合いを繰り広げた。

 

「私を利用していたのは、貴方よ!」

 

恨みをぶつけるかのように何度も斬りかかる。だが、そうしながらも不思議とサリアは落涙していた。

各所でそれぞれの思惑の入り混じった戦いが繰り広げられる中、エンブリヲとタスクの戦いが激しさを増していた。

 

「決して穢されることのない美しさ…しなやかな野獣のような気高さ…実に飼いならしがいがある」

 

「!」

 

エンブリヲのその言葉に、タスクが青筋を立てる。

 

「お前は知るまい、アンジュの乱れる姿。彼女の生まれたままの姿を」

 

挑発するエンブリヲ。だが、

 

「知ってるよ」

 

そう返され、エンブリヲの表情が歪む。更に、

 

「アンジュの内腿の黒子の数までね」

 

タスクのこの言葉にエンブリヲの表情の歪みが増した。

 

「お前は何も知らないんだな、アンジュのことを」

 

挑発に挑発で返し、タスクがエンブリヲに突っ込む。

 

「アンジュは乱暴で気まぐれだけど、良く笑って、すぐ怒って、思いっきり泣く。最高に可愛い女の子だよ。彼女を飼いならすだって? 寂しい男だな、お前は!」

 

振りかぶって斬りかかったタスクを、エンブリヲは盾で受け止めた。

 

「ほぉ、以前の貴様ではないようだな?……っ!?」

 

その時にはいつもの余裕ある態度に戻っていたエンブリヲだったが、接触したことでタスクから何かを感じ取ったのか、エンブリヲの表情が再び歪んだ。

 

「貴様、アンジュに何をした!?」

 

「アンジュとしたんだよ、最後まで!」

 

「何!?」

 

「触れて、キスして、抱きまくったんだ、三日三晩!」

 

その内容に呆けてしまったエンブリヲのボディに蹴りを入れる。エンブリヲはショックからか少しの間流されるままにしていたが、すぐに体勢を立て直すとブレードを今まで以上に展開させた。

 

「下らぬホラ話で我が妻を愚弄するか!」

 

激昂するエンブリヲ。いつの間にか妻になっているが、そんなことは調律者様には些末なことなのだろう。だが、タスクも負けてはいない。

 

「真実さ。アンジュは俺の全てを受け止めてくれたんだ。柔らかくて、温かい、彼女の一番深いところで!」

 

「!」

 

それが真実だと分かったからか、その内容が余りにも度し難いものだったかはわからないが、エンブリヲの動きが止まる。そのエンブリヲに、タスクが再び斬りかかった。エンブリヲもライフルで牽制するもののタスクはその間隙を縫って距離を詰める。

 

「俺はもう、何も怖くない!」

 

エンブリヲはなんなくタスクの斬撃をかわしたが、その表情は今まで以上に歪んでいた。相当の怒りが見受けられる。

 

「何たる卑猥で破廉恥な真似を…!許さんぞ、我が妻を凌辱するなど…。貴様の存在、全ての宇宙から消し去る!」

 

そして、二人の男の戦いはいよいよ激しさを増したのだった。

 

 

 

 

 

 

ようやくサラがメインシャフトの最深部に辿り着いていた。そこには、彼女たちが求めて止まないアウラの姿があった。

 

「アウラ! アウラなのですね!」

 

喜びに顔を綻ばせると、サラは早速アウラを戒めから解放するためにライフルを発射する。が、それはアウラの周囲に張られたフィールドによって無効化されてしまった。

 

「!」

 

それに驚き、すぐさま得物をブレードに変えて斬りかかる。が、やはりフィールドによって弾かれてしまった。

 

「くっ!」

 

アウラのところまで辿り着ければ救出できると思っていたサラが唇を噛む。そのサラを排除するため、大量のピレスロイドがサラめがけて降り注いできた。

 

「邪魔を…するなーっ!」

 

言葉通り邪魔者を片付けるため、一旦アウラから離れてサラがピレスロイドに向かっていった。

 

「量子フィールド、50%に低下!」

 

アウローラでも増えてくるピレスドロイドやバグズに苦戦していた。エーテリオンの艦隊が次々に火を吹き、撃沈されて行く。

 

「残存艦隊が四割へと減少!このままではインフィニティもキルグナスも持ちません!」

 

「今更引き返すのか?残存している爆撃隊に通信しろ!カタストロフィー艦隊を始末するっ!!?」

 

インフィニティ艦体に揺れが起きる。ピレスドロイドやバグズは拉致があかないと自立から自爆モードへと切り替え、艦隊に向けて特攻を開始していた。

 

「フィールド、突破されます!」

 

「左舷隔壁、来ます!」

 

エマたちが報告した直後、アウローラの艦体を激震が襲った。被弾個所が爆発し、その場所にいた隊員たちが被害を受ける。

 

「被害状況は!」

 

振動が収まった後、ジャスミンがすぐさま状況の把握に努める。

 

「第一エンジン、停止!」

 

オリビエが報告した直後、アウローラが左に傾いた。そして重力に従って降下し始める。

 

「アウローラ、高度低下!」

 

「立て直せ!」

 

思わずジャスミンが命令した。が、

 

「駄目です! 降下、止められません!」

 

返ってきたのは不可能の返事だった。

 

「チッ!」

 

ジャスミンが即座に全艦に向けて通信を開いた。

 

『これから海面に不時着する! 総員、衝撃に備えろ!』

 

ジャスミンの命令に、アウローラの総員はすぐさま着水の衝撃に備えた。この辺りは流石に軍事組織と言ったところである。程なくしてそのままアウローラは海へ突っ込み、海面に不時着したのだった。艦内のそこかしこで悲鳴が上がる。それは、ブリッジでもそうだった。着水の影響で電源が落ちて一瞬真っ暗になったが、すぐさま予備電源に切り替わって照明が点灯する。

 

「…損害状況は?」

 

衝撃で頭を押さえつつも、ゾーラが報告を求めた。

 

「着水時の衝撃で、第二・第三・第七ブロック破損」

 

オリビエがそう、被害状況を報告する。その頃、マギーは医務室から飛び出し、近くに倒れている隊員たちの被害状況を把握することに努めていた。その後ろにはモモカが手伝いとしてついていた。

 

「モモカ、鎮痛剤を頼む!」

 

「はい!」

 

マギーとモモカはそれぞれ己の役割を果たすために走り出した。

 

「量子フィールド、消失しました!」

 

「対空火器も沈黙!」

 

「くっ、丸腰って訳かい」

 

その、ジャスミンのやり取りを聞いていたエルシャが、思い詰めたように表情を強張らせた。

 

「メイ!」

 

だがジャスミンはこの状況下と言うことも相まってそんなエルシャに気付くこともなく、メイへと通信を入れた。

 

「直せるか?」

 

『任せて!』

 

被弾個所である第一エンジンへと急行したメイがゾーラの通信に答える。

 

『20分で片付ける!』

 

「頼む!」

 

そこで通信を切ると、メイは早速修理に取り掛かり始めたのだった。

 

 

 

 

 

 

その中で、アウラの許に辿り着いたサラは自分に襲い掛かるピレスロイドを撃墜することに労力を割かれていた。と、不意に自分を援護するかのようにビーム砲が放たれて、数基のピレスロイドが爆発四散する。

 

「何てこずってるのよ、こんなおもちゃに!」

 

やってきたのは当然と言うべきかアンジュだった。

 

「遅いですよ、アンジュ!」

 

自分のすぐ側まで降下してきたアンジュに、サラは悪態をつく。

 

「ええ…?」

 

そんな返事が返ってくるとは想定していなかったのか、アンジュは戸惑いの声を上げた。

 

「おもちゃの相手は任せました」

 

そう言い残すと、サラはその場から離れる。

 

「ちょっと、あれを撃つつもり!?」

 

サラが何をやろうとしているのか悟ったアンジュがその顔を顰める。

 

「それしか、アウラを助ける方法はありません!」

 

「アウラごと吹き飛ばさない!?」

 

「三割引きで撃ちますから、ご安心を!」

 

いつぞやの真なる地球でのやり取りを彷彿とさせる。あの時はそんなことは出来なかったが、この短期間でそれが出来るようにしたのだろう。大した技術と実行力である。

 

「じゃあ、とっととやっちゃいなさい!」

 

アンジュの発破に答えて…と言うわけでもないだろうが、サラは口を開いた。そして、

 

「♪〜♪〜」

 

龍神器の力を解放する永遠語りを詠い始めたのだった。と、彼女の龍神器、焔龍號のモニターに時空収斂砲の文字が躍ったのだった。そしてそれは、外で戦っているエンブリヲとタスクの耳にも届く。

 

「この歌は!」

 

「サラマンディーネさんか!」

 

戦いが新たな局面を迎えようとしている中、他空域での戦闘も引き続き続いている。

 

「私には何もなかった!」

 

サリアが己の思いの丈をぶつけながらジルに攻撃を仕掛ける。

 

「皇女でもない、歌も知らない、指輪だって持っていない。どんなに頑張っても選ばれなかった! ヴィルキスにも、貴方にも!」

 

激情のままジルの乗るレイジアのボディに蹴りを入れて吹き飛ばす。ジルは苦虫を噛み潰したような表情で何とか体勢を立て直して踏みとどまった。

 

「そんな私を、エンブリヲ様は選んでくれた!」

 

引き続き猛攻を続けるサリア。そして、

 

「だからアレクトラ、貴方なんてもういらないのよ!」

 

涙を浮かべながらブレードを振るい、レイジアの左足を斬り落とした。

 

「っ! 強くなったじゃないか、サリア」

 

揶揄するようにジルが語り掛ける。

 

「っ!」

 

それが挑発に聞こえたのだろうか、サリアは休むことなくジルを攻め立てた。その間も、着々と時空融合は進んでいき、真なる地球でもその被害が徐々に増してきていた。

 

「くっ!」

 

好転しない状況に思わず大巫女が唇を噛む。その時、その耳に入ってくるものがあった。

 

「この歌は!?」

 

大巫女の耳に届いてきたのはサラの詠う永遠語りだった。それにつられるように思わず上空を見上げる。

そこには、灰色の空に幾つも開いたシンギュラー…真なる地球で言うところの特異点があったのだった。

 

 

 

 

 

「時空融合、収斂率91%!」

 

アウローラブリッジ内に、リィザの報告が響き渡る。事態はいよいよのっぴきならない状況に足を踏み入れようとしていた。

護衛部隊はアウローラを護り、メイを始めとする整備班たちは被弾個所の修理に懸命に従事する。そして、

 

「マギーさん、倉庫から包帯と鎮痛剤を持ってきました!」

 

モモカも必死になって自分の使命を果たす。と、不意にモモカの背後が爆発した。

 

「ひゃあっ!」

 

爆風に吹き飛ばされたモモカだったが、運よく被害は転倒だけで済んだ。隔壁が閉じてそれ以上の攻撃にさらされなかったおかげである。が、対照的に外の状況の悪化は危険水域に入ろうとしていた。

 

『はぁ…はぁ…はぁ…』

 

その旗色の悪さを感じ取ったエルシャは、両肩のキャノンをパージして機動性を上昇させた。

 

『えっ!?』

 

そのことに気付いたルーキー三人が驚いた声を上げる。

 

「ヴィヴィちゃんは、皆んなを連れて逃げて!」

 

通信を開いてそう叫ぶと、エルシャはそのままピレスロイドへと突っ込んだ。

 

「エルシャ!」

 

ヴィヴィアンが驚く間にも、身軽になったエルシャのハウザーはピレスロイドに突っ込み、そして自分の方へと誘導する。

 

「こっちよ、円盤ども!」

 

目論見は成功し、ある程度のピレスロイドはエルシャを追尾した。だがそれは同時に、エルシャの身が危険にさらされることと同義である。案の定、程なくエルシャはピレスロイドに囲まれ、そして、その生命を刈り取ろうとする攻撃を受けた。

 

「エルシャーっ!」

 

ピレスドロイドのチェーンソーが迫ったその直後不意に現れた“何か”が、自分の周囲のピレスロイドを瞬く間に破壊したのだった。

 

「え…?」

 

予期せぬ事態に呆然とするエルシャ。自体が理解できぬまま次にそこに駆け付けたのは、何頭ものドラゴン達だった。助かったとは言えども推進能力がなくなり、重力に引かれて落下しようとしていくエルシャのハウザーの両手を、ヴィヴィアンがキャッチして浮上した。

そしてその間も、ドラゴンやエーテリオン艦隊が次々と多数のシンギュラーを通って真なる地球からこちらへ駆けつけてきたのだった。

 

「何が起きてるんだい!?」

 

状況の変化についていけないジャスミンが思わず口走る。それに答えたのはリィザだった。

 

「恐らく、時空融合の影響で重力場が脆弱になり、特異点が自然解放されたのでしょう」

 

『聞こえるか…。偽りの…いや、ノーマの民よ』

 

モニターに誰かの声が響き、直後に一人のシルエットが浮かんできた。

 

『我はアウラの巫女、アウラ=ミドガルディア』

 

「大巫女様!」

 

モニターに映し出されたその姿…大巫女に、リィザが驚きを隠せず、口を開いていた。

 

『アウラの民とエーテリオンはこれより貴艦を援護する!』

 

その宣言通り、シンギュラーから続々と降り立ったドラゴン達とエーテリオン艦隊は次々にピレスロイド、バグズ、フォルトゥラー、カタストロフィー艦隊の掃討戦に加わる。そして。

 

「おお! すげー!」

 

ヴィヴィアンが目を輝かせた。それもそのはず、数体のドラゴンがアウローラの下に潜り、アウローラをその身体に乗せて浮上したからである。その、少し前までなら考えられない光景に、ヴィヴィアンのテンションが上がるのも仕方のないことだった。

 

 

「形勢逆転だな、エンブリヲ!」

 

ドラゴンに支えられながら暁ノ御柱へと向かってくるアウローラを目の当たりにして、タスクはモニター越しにエンブリヲを睨み付けた。だが、

 

「そう見えるか?」

 

エンブリヲは些かも動揺する気配はなく、タスクの相手をしている。そしてタスクをいなすと、不意にアウローラに向かって自機の左の手の平を開いて向けた。

 

「エンブリヲ、何を!?」

 

エンブリヲの狙いが読めないタスクは戸惑いを隠せない。と、次の瞬間、

 

『クリス!』

 

ヒルダとロザリーが自分の目の前から突然クリスが消えたことに驚き、

 

『ええっ!?』

 

ナーガとカナメも同じく、今まで目の前で戦っていたターニャとイルマがいなくなったことに驚きを隠せなかった。そして同様に、

 

『!』

 

ジルと対峙していたサリアも、ジルごと瞬間移動させられる。彼女たちが飛ばされたその場所は、ドラゴンたちの編隊の真っ只中だった。

 

「!?」

 

「エンブリヲ様!?」

 

「これは!?」

 

事態の急変についていけないクリス、ターニャ、イルマの三人。そんな三人に、エンブリヲは遂に本性を露わにした。

 

「君たちは、私のために時間を稼いでくれたまえ」

 

にこやかに微笑みながら彼女たちを切り捨てたのである。ドラゴンたちの中に放り込まれたダイヤモンドローズ騎士団に、当然の如くドラゴンたちが相次いで襲い掛かる。

 

「仲間を囮に使ったのか!」

 

エンブリヲの所業にタスクが怒りを隠しきれない様子だった。が、エンブリヲは気に留める様子も見せずに抜け抜けと、

 

「私は、花嫁を迎えに行かねばならない。後は頼んだよ、皆」

 

そんな戯れ言を吐き捨て、ダイヤモンドローズ騎士団を見捨ててメインシャフトへ急行した。

 

ドラゴンたちの真っ只中に放り込まれたダイヤモンドローズ騎士団にも異変が起こっていた。

 

「コントロールが…効かない!」

 

時空融合の影響か、それとも用済みになった道具だからエンブリヲが何か細工したのかは知らないが、ターニャの機体は上空を漂うだけの状態になっていた。その彼女に、当然のようにドラゴンが襲い掛かる。

 

「う、ああああああああ!!!!」

 

ターニャを乗せたビクトリアにドラゴンが噛み付き、コックピットごと潰された。

 

「ターニャ!」

 

その僚友の姿にイルマも動揺を隠しきれない。だが彼女も直後、ドラゴンに襲われ、絶命する。

 

ターニャとイルマのその姿にサリアも動揺を隠せない。そのサリアを、一体のドラゴンが亡き者にしようと襲い掛かる。

 

「サリアーっ!」

 

そんなサリアを、ジルが身を挺して救った。

 

「これがエンブリヲの本性だ!」

 

そして、ここぞとばかりにジルがサリアに説得を試みた。

 

「目を覚ませ、サリア。私のように、全てを失う前に」

 

アレクトラはレイジアの出力を上げ、エンブリヲを後を追う。

 

「アレクトラ!!」

 

 

 

 

 

その頃クリスはエンブリヲに見捨てられたと感じ、もう何もかも信じられずにいた。

 

「嘘…嘘だよ…エンブリヲ君? また捨てられた…また裏切られた!うわああああああああああ!!!!!」

 

クリスはビームライフルを撃ちまくる、そしてクリスを探していたヒルダ達がクリスを見つける。

 

「やめろ!クリス!!」

 

「来るな!!!!死ねぇ!!!!」

 

クリスはヒルダ達にビームライフルを撃ち、ヒルダ達はビームを回避する。

 

「へっ!ざまあねぇな」

 

ヒルダが言った事にクリスは一瞬驚き、ヒルダはクリスに言い続ける。

 

「自分から友達だと名乗る奴が、本当の友達な訳ねぇだろう!!騙されやがって!」

 

「ッ…!あんた達が…あんた達がアタシを見捨てたから!!」

 

「アタシは!見捨ててねぇ!!」

 

ロザリーが必死にクリスに言う。

 

「寄って集ってアタシを見下したり、バカにして!アタシがこんなに苦しんでいるのに、どうして分かってくれないの!!?」

 

「グダグタ文句ばかり言いやがって!いい加減しろ!このねくらブス!!」

 

アーキバスがテオドーラを取り押さえ、コックピットハッチを強引に剥がした。

 

「そうだよ!!言わなきゃ分かんねぇよ!アタシ、バカだから!」

 

ロザリーのグレイブが飛翔形態になり、テオドーラへと向かっていった。

 

「来るなぁぁぁぁぁ!!」

 

クリスが叫びながらテオドーラでヒルダのアーキバスを振り払い、ビームライフルをグレイブに撃ち、グレイブのウィングがやられる。

 

「ロザリー!!」

 

それでもロザリーはテオドーラに向かっていき、そしてグレイブからテオドーラへと飛び込んだ。

 

「こっのぉぉぉぉ!!クリス!」

 

そしてロザリーはクリスをしがみつき、そのまま落ちていった。

 

「お!落ちてる!離して!」

 

「良いよ!一緒に死んでやる!」

 

するとロザリーはクリスにキスをする。

 

「アタシはアンタが居なくちゃ困るんだよ!」

 

「でも、私を見捨てて…」

 

「見捨ててねぇ!!アタシは!アンタを見捨てる訳がねぇだろ!こんなにもアンタを信じてるのに!アタシ達じゃないか!アンタの胸のサイズも!弱いところも!ヘソクリの隠し場所も全部知っているのは!!」

 

「ロザリー…」

 

「もう一回信じてくれよ!もう一回友達になってくれよ!クリス!」

 

するとヒルダのアーキバスが猛スピードで落ちているロザリーとクリスへと向かいそして二人を庇うようにアーキバスの手で守り、陸に不時着した。

 

「てぇぇぇぇぇい!!!」

 

「ごめんな...ごめんよクリス…」

 

「許さない、新しい髪止めを買ってくれるまで」

 

「い!一番良いのを買ってやる!!!金はバンに払わせる!」

 

「ゲームする時もズルしない.…?」

 

「しない!」

 

「お風呂の一番…譲ってくれる?」

 

「ああ!」

 

「でも私、取り返しのつかない事をしちゃった…」

 

「良いんだよクリス…」

 

「バカみたい、世界が終わろうって言うのに…何してるんだろう。アタシ達…」

 

「仲直り…だろ」

 

突然、ヒルダがロザリーの台詞を取り、ロザリーが怒る。

 

「ああ!それアタシのセリフ!!」

 

するとクリスが大泣きするとロザリーも大泣きしながらクリスを抱き、ヒルダはそれを見て笑う。

 

 

 

メインシャフトの出入り口から光の柱が現れ、中からガレオン、ブリック級のドラゴンより大きく、白く回りが光る龍が現れ、吠えた。

 

「アウラ!」

 

その光景は全艦隊にも確認されていた

 

「あれが…!?」

 

「私たちの母なる始祖…アウラです。」

 

アウローラではリザーディアが言う。

 

「アンジュ!」

 

タスクは急いでアレスを動かしアンジュの所へ向かった。

 

 

 

 

 

そしてエンブリヲメインシャフトの最下層部にいた。するとそこにレイジアに乗ったアレクトラが現れる。

 

「アンタの負けだな、エンブリヲ。」

 

「アレクトラ?」

 

「出て行くんだろ?こんな世界を捨てて…」

 

「フフフ、愚かな女が……私が連れてい…ぐっ!!!」

 

「!?」

 

『やっと手薄になってくれた……』

 

「き、貴様は!!?」

 

「Xだ……」

 

「貴様、生きていたのか!!?」

 

「ハハハハハハ!!」

 

Xの高笑いしたその時、アウラが入っていたバイオカプセルから赤黒く揺らめく魂が無数に噴き出し、Xの体に吸収されて行く。

 

「何だ!?」

 

するとXの体に変化が起こる。何もない黒い煙から動脈から肉体、各部からそれぞれの身体へと変化し、皮膚が出来る。そして目玉も現れ、最後には白き黄金の長髪した少年へと変わった。

 

「ここまで愚民共の魄を集めてくれた事を礼を言わせてもらおう……エンブリヲ様」

 

「き、貴様は!!」

 

「そうだよ、思い出しましたかな?」

 

「538年振りですよ……ね?」

 

「アルフォンス・斑鳩・ミスルギ……この死に損ないが!!」

 

「ミスルギ!?どう言う事だエンブリヲ!!?」

 

「説明しなくても分かりますよ、元ガリア帝国第一皇女 アレクトラ・マリア・フォン・レーベンヘルツ姫殿下。僕はアルフォンス……初代ミスルギ皇帝であり、ビルキスの元継承者であった者だ。」

 

アルフォンスの言葉にアレクトラは驚く。

 

「さぁ、エンブリヲ様……両眼の眼に焼き付けてください……僕の力の復活の瞬間を!!」

 

アルフォンスはそう叫び、消えた。その時、アレクトラの腹にアルフォンスの手が貫く。

 

「!!!」

 

「させんぞ!!!アルフォンス!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、キオ達は時空融合が一向に収まらない事に疑問を感じていた。

 

「どうなっているんだ?!アウラは助け出したのに何故?!」

 

「分かりません!一体これは!?」

 

キオ達が混乱していると。アケノミハシラから何かが猛スピードで吹き飛ばされてきた。煙が晴れると、飛ばされてきたのは各部が大破したヒステリカと血だらけのエンブリヲであった。

 

「エンブリヲ!!?」

 

大ボスがここへ飛ばされてきた事に驚いたキオ達。っと、彼等の背後にこの世とは思えない気迫を感じた。

 

《…………………………》

 

「…………アウラは時空融合の起爆剤だ、エンブリヲ様はそれを利用して、この世界とあの世界を融合させる。後はアウラのエネルギーなしでも勝手にしてしまう事になっている。それにしてももうちょっと本気出してくださいよ、エンブリヲ様。」

 

っとキオ達の背後に現れたそれはキオ達の死を錯覚させる。キオ達は振り向き、構える。

 

「お前は!?」

 

「初めまして諸君……僕はアルフォンス……アルフォンス・斑鳩・ミスルギ。」

 

《アルフォンス!!?》

 

「ようやく……僕の積年の願望が果たされる。」

 

アルフォンスが右手をキオ達の方に向けた。するとキオとフェイト、ココルが消える。っと、三人が三角形の陣形で拘束されていた。

 

「何だこれは!!?」

 

「グッ!!」

 

「お兄ちゃん!!」

 

「“空”…“地”…“機”のゾハルよ…僕は望む。本来の力である“あれ”…ウルの影に封印されし最強の機体を甦らせよ!!」

 

キオとフェイト、ココの身体からアルヴィース、ザンザ、メイナスのコアクリスタルが現れ、三角形の中心点からワームホールが開く。その中からパラメイルやドールをも上回る全長の黒いドールデバイスが現れた。

 

「何だ!!?あの機体は!!?」

 

「ようやく戻ってきた……ついに戻ってきたぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

 

アルフォンスが叫ぶと、上空に巨大な特異点が出現する。その中から大破したエルダーゴアキャッスルが現れる。

 

「あれは!!?」

 

「エルダーゴアキャッスル!!?」

 

エルダーゴアキャッスルが現れた事に驚くと、撃沈した筈のマデウスが起き上がる。

 

「マデウスが!!?」

 

「まだ終わらないぞ…仕上げは。」

 

アルフォンスはサラの方を睨む。そしてアルフォンスが煙へとなり、サラの焔龍號の中を擦り抜け、彼女の身体の中に入り込む。

 

「っ!!…ああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!!!!!!」

 

「サラ!!」

 

サラが苦しみだすと、彼女の服装や髪型、髪の色が変貌する。サラに憑依したアルフォンスは微笑む。

 

「「フフフ……傀儡のコアクリスタルをこの女に埋め込んで良かった。」」

 

サラの胸に埋め込まれているクリスタルが黒く染まっていた。ナーガとカナメはサラを助けようとする。

 

「「姫さま!!」」

 

「「邪魔だ…失せろ。」」

 

アルフォンスは焔龍號を操り、蒼龍號と碧龍號を蹴り飛ばす。

 

「アイツ……サラに憑依したな!!」

 

キオはアルフォンスを睨むと、コックピットが開き、アルフォンスがエルダーゴアキャッスルへと飛ぶ。そしてアルフォンスはエルダーゴアキャッスルに触れると、紅き血に染まった城が光だす。するとフェイトがある事に気づく。

 

「まさか……」

 

「あのエルダーゴアキャッスルって……」

 

そしてキオもエルダーゴアキャッスルの正体に気づく。

 

「そう、そのまさかだよ。このエルダーゴアキャッスルとは、僕が創り上げた【コアクリスタル】!……そして、僕はもう既にゼニスやアルフォンスでもない……。」

 

アルフォンスがエルダーゴアキャッスルこと巨大なコアクリスタルとの同調に成功し、コアクリスタルから光り溢れ、マデウスを吸収した。マデウスとエルダーゴアキャッスルが一つとなり、トリオン型の繭が出来る。そして繭が消え、中から現れたのはミスルギ皇国の大陸をも超える巨大な大地の魔神であった。

 

《僕の名は……【デミウルゴス】!!全ての時間と空間に永遠の恩寵を創りし創造神でもある!!》

 

巨躯のデミウルゴスはその悍ましき血に染まった紅き眼を光らせる。

 

「デミウルゴス!?」

 

「サラ……」

 

「な…何なのだ!?あの化け物は!!?」

 

エンブリヲがアルフォンスことデミウルゴスを見て、絶望を感じていた。

 

「手始めに、調律者 エンブリヲ……貴様からだ!!」

 

アルフォンスが叫ぶと同時に、デミウルゴスが咆哮し、手から光の剣を出現させる。

 

「あれは……モナド!!?」

 

フェイトが驚くと、アルフォンスが憑依したサラの手から天使の剣が出現する。

 

「僕のモナド……この剣こそ、【無法人類】に相応しき神の剣だ!!」

 

サラの姿が神々しくなり、白銀の長髪、側頭部に青色と赤色に分かれた白天使羽根、ドラゴンの翼から六枚の天使の翼、白と黒、そして黄金の巫女服、尻尾には白き鱗がびっしりと生えていた。神々しく禍々しい姿へと変貌を遂げた【アルフォンス憑依 “サラ”】は肉眼でも見えない速さで、エンブリヲの目の前に着く。

 

「っ!!?」

 

「貴方には返しきれない恩がありました。ですが……全て砕けてしまいました。貴方の傲慢な性格に!!」

 

アルフォンスは渾身を込めて、モナドを振り下ろした。

 

「お…おおお…」

 

ゆらゆらよろめきながらたたらを踏み、エンブリヲは真っ二つになって血を吹き出しながら倒れた。そして斬られたエンブリヲの体から粒子エネルギーが現れ、ヒステリカの機能が停止し、墜落する。アルフォンスは粒子エネルギーを吸収すると、翼が大きく成長する。

 

「これで……準備は整った。」

 

それにアルフォンスは笑みを浮かばせ、すぐに姿を消してアンジュを連れて行ってしまった。

 

「アンジュ!!!」

 

タスクは消えたアンジュに叫び、キオは目を見開く、っとキオの手元にサラに渡した婚約指輪が手に残り、それにキオは叫ぶ。

 

「クソォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!!!!!!!!!!!!」



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第44話:因果律の戦士達・前編

ゼノブレイド2 のダウンロードコンテンツについに……“黒いセイレーン・デバイス”の軍団が出ました!!!


「よし、エンジン修理完了!」

 

「全システム、再起動します」

 

メイからの報告を受け、パメラがアウローラのシステムを再起動させる。流石にメイの仕事は確実で、アウローラは力強さを取り戻した。自律飛行が再び可能になったため、アウローラを支えていたドラゴンたちが次々に離れていく。

そんな中、アウローラに悲報がもたらされた。

 

「アレクトラ!」

 

デッキに駆け付けたマギーがサリアに肩を貸されているジルの姿を見て言葉を失った。

 

「早く担架を!」

 

サリアの指示に従ってマギーが身を翻して走り出す。が、

 

「無駄だよ…」

 

ジルのその一言に足を止めてしまった。

 

「それより…タバコを、くれ…」

 

そう言って薄く笑ったジルの顔色は、もう真っ青になっていた。そのままジルは格納庫の隅で横たわり、その周りを隊員たちが取り囲む。

 

「エンブリヲの奴……ザマァねぇなぁ。今まで弄ばれて事に気付かなかったは……」

 

「ごめんなさい、アレクトラ。私、なんてバカなことを…」

 

傍らに跪いたサリアが懺悔の言葉をジルにかける。だが、ジルはそんなサリアを責めるようなことはしなかった。寧ろ、今まで見せたことのないような優しい表情でサリアに微笑む。

 

「ホント…あんたは私にそっくりだよ。まるで、妹みたいに…」

「えっ!?」

 

その言葉に、サリアがハッとして顔を上げる。

 

「真面目で…泣き虫で…思い込みが激しいところから、男の趣味までね。…だから、巻き込みたくなかった」

 

そしてジルがサリアの頬に手を伸ばす。

 

「ゴメンね…辛く、当たって」

 

「アレクトラ…」

 

サリアがその手を己の手で包む。

 

「良かった…最後に…あんたと…」

 

そこでジルの身体が力を失い、咥えていたタバコが重力に引かれてゆっくりと滑り落ちた。

 

「アレクトラ…?」

 

呼びかける。だがその目は、もう二度と開かれることはなかった。

 

「アレクトラーっ!!!」

 

感情の堰が切れたサリアが泣きじゃくりながらジルに縋りつく。その光景に誰も何も言えず、沈痛な表情を向けることしかできなかった。

 

そして艦が大きな揺れにさらされて事にキオ達は気づく。

 

「何だ?!」

 

「時空融合の時間が…」

 

っとチャールズの言葉にキオ達は気付き、アウローラに居るリィザが報告する。

 

「時空収斂率98%!」

 

「くっ!諦めるな!皆!!」

 

ジャスミンが皆に言うも振動がより激しくなる。

っが突如振動が止まり、それにキオ達は驚く。

 

「振動が…止まった?」

 

《時間と空間の狭間、非ゲージ領域の果て、虚数の海。アルフォンスはかつてエンブリヲが隠れていた場所、彼はそこにいます…》

 

《!!?》

 

「だ!誰だ!?」

 

ヒルダが何者かの声に怒鳴り、それに気付いたエルマが問う。

 

「まさか…アウラ!!!」

 

そう…アウラがアークガーディアン達の全艦艇をバリアで囲み、時空融合の影響を一時的に阻止していたのだった。

 

 

 

 

「はっ!?」

 

アウローラでそういった事態がが起こっているのと同時刻、アンジュはとある場所で目を覚ました。上半身を起こして周囲を見渡す。

そこは、見たこともないとある部屋の一室だった。そして自分はベッドの上にいて、その身にはアルフォンスに拉致られた時に着ていたものと同じドレスを身に纏っていた。

 

「……」

 

自分の状態を確認したのち、目の前にこの部屋のドアがあることにアンジュが気付いた。アンジュは急いで靴を履くと、そのドアを乱暴に開けて廊下へと踊り出す。そして左右に首を振り、外の光が見える方向に向かって走ったのだった。

 

「!」

 

やがて外の光景が目に入って来たアンジュが言葉を失う。何故ならそこは墓地だったからだ。が、アンジュが言葉を失ったのはそこが墓地だからではなかった。良く知っているからだ、目の前に広がるその墓地の光景を。

 

「まさか、ここ…」

 

誰に聞かせるでもなく呆然と呟く。が、

 

「アルゼナルだよ」

 

その呟きに答える者がいた。アルフォンスである。上空から、アンジュの許に向かってヤルダバオトの肩に乗ってゆっくりと降りてきていた。

 

「本来在るべき、オリジナルの…ね」

 

そしてアルフォンスはそう続ける。確かに目の前に広がる墓地の光景はアルゼナルそっくりだったが、その先に見える光景が違っていた。海ではなく、星空が広がっていたからだ。それも水平線がなく、本当に星空だけが広がっていた。

 

「アルフォンス!!」

 

「初めてかな、僕は君の先祖であり、君の高祖父だからね。」

 

「誰が高祖父よ!!」

 

「無理もない…この女の体を借りなければ、僕は真の力を抑えれない。だから協力してくれ、孫娘よ。僕……嫌、僕と君となら、永遠不滅の物語を創れる。本来の皇位継承者はあの愚かなジュリオや傲慢なシルヴィアではなく…勇ましき孫娘であるアンジュリーゼに継がせる。」

 

「冗談じゃないわ!私は貴方みたいな高祖父の言うことなんて聞かないわ!!」

 

「無駄だよ、ここは君のが知るアルゼナルではない。少し昔話をしてやろう。エンブリヲ様がこの素粒子研究所である実験をしようとしていた、それは多迷宇宙…その次元に飛ぶ為に奴はある物を使った。

【有人次元観測機ラグナメイル】…、彼はそれを使って新たな大航海時代への幕開けと考えた。しかし実験の最中で発生した局地的インフレーションにより奴は次元の最中へと消えた。

同時にここはエンブリヲ様の隠れ家となり、時空が止まった世界で彼は僕等の創造主となり自分の思う世界を作り、理想の女を探し出したのだ…」

 

食堂へ逃げるアンジュとサラは既に先回りしているアルフォンスが待ち構えている事に驚き、アルフォンスはそれを気にしないまま言う。

 

「だけど……僕はそれに争い、幻想大地“ウル”へと追放された。そこで、ティオルの父“アデル・オルド”と出会った……。」

 

「え!?」

 

「彼はアルストで暴走したメツを封印し、旅をし続けこの世界へとやってきた。僕とアデルは友となり、そしてウルの先住民の姫であるレイナス達と出会った。レイナスはアデルに惚れるが、僕にとってそれは嫉妬でもあった。僕はエンブリヲを倒す力とゾハルに触れ、魔神へとなり、復讐の力を手にした。だけど、友であったアデルが僕をランプルの中に封印した。百年後、僕は復活を果たすが、レイナスがまた僕を封印した。そして100万年の時を経て僕の体は執念体へとなり、擬態であるヴァラク皇帝陛下の死体を使って復讐を誓った。」

 

「それが何なの、結局はジルと同じ復讐者じゃない!」

 

「確かに……だけど僕は決心したんだ。堕落したミスルギ皇国はこれからどうなるのか?そこで決めたんだ。ノーマでありながら、世界を壊し、世界を救うと言う孫娘に皇位を継承しようと。」

 

「あなた…何を言っているのよ!」

 

「だからアンジュリーゼ。力を貸してくれ……お願いだ。」

 

アルフォンスがアンジュに手を差し伸べる。

 

「お断りよ!!」

 

アンジュはアルフォンスを叩こうとするが、アルフォンスは昔の戦法でアンジュの手首を捻り、身動きを取れなくする。

 

「僕は争い事が嫌いでね。君が素直に聞き受け入れたら離してやる。」

 

「くっ!!誰が!!」

 

アンジュは必死に争い、アルフォンスから手を振りほどき、その場から逃げるのだった。

 

 

一方、キオ達の方は、アウラの情報でアンジュ達が居る場所が特定できたのを知り、ヒルダがその居場所の事を問う。

 

「時空の狭間?」

 

《そう、あらゆる宇宙から孤立した特異点からもたどり着けない場所…》

 

「んな所どうやって行きゃ良いんだよ?!」

 

《ヴィルキスとグノーシス。次元跳躍システムが使えるこの二機なら…あぁっ!!》

 

その時、艦体に揺れが起こる。デミウルゴスがバリアを張っているアウラに目掛けてビーム砲を放っていた。

 

「デミウルゴスめ!」

 

誰もが絶望したその時、アウラの頭上からワームホールが開き、現れたのはレイナスであった。

 

「本当の母さん!!」

 

レイナスはデミウルゴス目掛けてエーテルストームを放ち、攻撃する。

 

『ティオル、私が時間を稼ぎます!彼に最強の力を授かりなさい!』

 

「授かる?」

 

「儂だ。」

 

キオ達の背後から声が聞こえ、皆んな後ろを振り向く。

 

「爺ちゃん!?」

 

アレクサンダーが笑顔で現れた事に皆んなは驚く。

 

「お父さん!肩に抱えている人は!?」

 

「ミレイだ、アルフォンスの呪縛から解放してやった。」

 

ミレイを担架に乗せると、アレクサンダーがキオに言う。

 

「キオ…儂はついに見つけたぞ。」

 

アレクサンダーが手からあるものを出現させる。それはアレクサンダーやチャールズ、そしてアルフォンスが長年に探し求めていた物。黄金に輝くプレート『ゾハル』であった。

 

「これが……“ゾハル”」

 

「…………ゾハル、儂は願う。」

 

「?」

 

「……キオ達に神の子 アルフォンスと互角に戦える力……“血戦鬼”を!!」

 

「血戦鬼?」

 

“血戦鬼”と言う言葉に首を傾げるキオ達。するとゾハルが光りだし、プレートから禍々しい赤黒い闇が溢れ、キオ達へと迫り、呑み込む。

 

《キオ!!?》

 

他にも、オスカーとオリバー、ノアとアリアンヌ、アンにも闇が呑み込む。そして闇が晴れると、キオ達の服装が一変していた。オリバー達の服装が赤黒いスーツを模したデバイススーツと黒いコートを身に付けていた。さらに彼等の頰には血の筋が浮かび上がっており、鋭い爪、紅き瞳、尖った牙になっていた。

 

「爺ちゃん……これ?」

 

「……それこそが、神に争いし吸血鬼【血戦鬼】だ!!」

 

アレクサンダーが大声で言うと同時に、吸血鬼を模したマスクが装着され、キオ達の目が獣の如く鋭い瞳、血の色をした目を光らせる。デミウルゴスが腕部の荷電粒子砲を放とうと迫る。

 

「キオ!ここは俺達に任せろ!お前は姫さんを!」

 

「愛の為に、囚われのお姫様を救い出せ!!」

 

「サラちゃんを連れて帰らなかったら、承知しないからな!!」

 

オリバー達はそれぞれのデバイスに乗り込み、デミウルゴスと相手をする。

 

《時間がありません。私が時空融合を抑えている間に……強き思いと意志を…》

 

「俺達の…思い」

 

「アンジュへの強い思い…」

 

それを聞いたヒルダとナーガが言う。

 

「…タスク。もうお前でも気づいている筈だよ? アンジュを…あいつを思う気持ちはアタシが思っている以上に強い事を…」

 

「ヒルダ」

 

「キオ、お前もだ。先ほどの様子、お前はサラマンディーネ様の事を我々以上に思っている…頼む、アルフォンスからサラマンディーネ様を救ってくれ…」

 

「っ、ナーガ」

 

あのナーガが認めると言う事に鬼は驚き、それにはカナメも驚きを隠せない。

 

 

そしてアンジュは何とか逃げ回るもアルフォンスが先回りをして待ち伏せされ、それにアンジュは足を止める。

 

「ヴィルキス!!!ヴィルキス!!!」

 

「無理だよ、指輪わ置いてきた。頼む…力を貸してくれ。斑鳩家の伝承歌とウーシアと、ロゴス、そして君とこの娘の持つプネウマでゾハルを呼び出してくれ。」

 

「このっ!!」

 

アンジュが蹴りを入れようとした瞬間、アルフォンスがアンジュを睨む。するとアンジュの体が動かなくなる。

 

「ぐっ!!どうなってるの!?」

 

「神経との接続を停止し、体の各部を硬直させた。」

 

「何なのあなたは!!?どうしてサラ子や私を使ってゾハルって言う物を呼び出したいの?」

 

「…………永遠不滅の皇国を築き上げる為だよ。この世は穢れに満ちている。幾年が過ぎていく内に科学は進歩するが、人の心は進歩するか?貧富の差は広がり、紛争は絶えず、弱者は強者に虐げられ、むき出しの欲望が世界を覆い尽くす。いずれにせよ世界はまた滅ぶ、僕はその穢れと傷みを止める為に、ゾハルの力を使い、新たな理想国家を築く。その為には同士となる物が必要……だからアンジュ、君こそが真の皇女となるだろう!私は道具にしても構わない!誰もが夢見た理想の世界…皆や民が平等であり、怒りと悲しみの連鎖を断ち切り、永遠不変の皇国想像が!!」

 

アルフォンスの野望を知ったアンジュは怒鳴る。

 

「あなたは逝かれてるわ!!その為に世界を壊して、新たなミスルギ皇国を創る!?冗談じゃないわ!そんなくだらない事でエンブリヲを利用して!!」

 

「うるさい!!僕の心なんて君には分からない!!500年前の第7次世界大戦によって、僕の友!兄妹!父母!祖父母!親友!親戚!皆!どれだけの人が悲しんだと思う!?ノーマや堕落した人間以上だ!!!!」

 

アルフォンスは涙を流しながら、電撃を放ち、それにアンジュはくらい悲鳴をあげる。

 

「きゃあああああああああああ!!!!」

 

「早く歌ってくれ……ゾハルは孫娘に託す!もし君の子孫が過ちを犯しても、僕は復活し、その子孫を正しき導師へと指導し、新たな理想国家を築き上げる!!」

 

アルフォンスの言葉はもはや、人間のプライドとエゴと傲慢差を感じるとアンジュは歯を食いしばりながら思う。

 

 

 

 

キオとタスクはグノーシスとヴィルキスのコックピットに座りアンジュの指輪を持ち、サリア達はキオ達の機体のコックピット前に集まって見ていた。

 

「頼む、ヴィルキス……俺に力を貸してくれ………ヴィルキス!!」

 

「グノーシス…お願いだ。サラを助けたい…このままだとサラが奴の虜になってしまう……頼む!!!!グノーシス!!!!」

 

「「目を覚ましてくれ!!俺に力を!!!貸してくれぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」」

 

「(……タスク!)」

 

《…………(助けて…キオ!!)》

 

「「っ!!」」

 

タスクとキオの心の中で助けを求めるアンジュと体を乗っ取られたサラの悲痛の声が聞こえた。

 

そしてタスクの涙が零れ落ちた瞬間、それぞれ持っていた指輪と宝玉がそれに答えるかのように反応して光り出し、キオとタスクは見る。

 

「見ろ!!」

 

っとラオが指差した方にキオ達は見ると、ヴィルキスが突如色を変化させて、それにサリアが驚く。

 

「ヴィルキスが…!?」

 

「すげぇ~!!」

 

「おい!こっちも凄いぞ!」

 

っと今度はダグが指を差した方向を見ると、グノーシスの機体が光り出すと同時にセフィロトとハウレスが結晶体の中へと包み込まれ、グノーシスと合体する。さらにサラの焔龍號にも異変が起きていた。機体の各部が膨れ上がり、四枚の光の翼を持った焔龍號に模した生身の真紅のドラゴンへと変身した。

 

「焔龍號が!!」

 

「ドラゴンに!?」

 

そしてグノーシスとプトレマイオス、セフィロトとハウレスの四体が合体し、何十メートルもある巨大なロボットへと変わり、音声が鳴り響く。

 

【グノーシス・ゼノン! クロスオーバー!!】

 

翡翠と真紅、黄金と白銀の翼と装甲、そしてハウレスと思わしき部分がグノーシスの頭部と合体しており、王冠を思わせていた。

 

「グノーシスが……進化した。」

 

「うぉぉぉぉ〜〜!!!」

 

グノーシスはフォートレスモードへとなり、キオは新しくなったコックピットに乗り込む。

 

「基本システムはグノーシスのままだ。」

 

モモカとカナメがすぐにキオとタスクに言う。

 

「キオさん!サラマンディーネ様をどうか…!」

 

「タスクさん!!アンジュリーゼ様をお願いします!!」

 

それにキオとタスクは頷いてコックピットを閉める。

ヒルダの元にクリスが指輪を渡しに行く。

 

「ヒルダ!私のラグナメイルで行って!!」

 

「…ああ!」

 

そう言ってヒルダはクリスのテオドーラに乗り込む。

サリアがクレオパトラの準備をしている所にヴィヴィアンが声援を送る。

 

「サリア!ファイト!!」

 

「…ありがとう」

 

『サリア!帰ったら勝負の続きだ!忘れんなよ!!』

 

「……アン。分かったわ!」

 

グノーシスとヴィルキスのカメラアイを光らせ、周囲に電磁波を発生させて磁場を作り、ココ達は敬礼しながら言う。

 

「皆さん、帰りを待っています」

 

「どうかご無事で…」

 

キオ達はそれを聞いて笑みを浮かべ、ヴィヴィアンが皆に向かって叫ぶ。

 

「頑張ってけ~~~~!!!!」

 

グノーシスとヴィルキスはとサリア達を連れて時空の狭間へと跳躍するのであった。

 



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第45話:因果律の戦士達・後編

キオ達はグノーシス・ゼノンとヴィルキスの時空跳躍システムのお蔭で時空の狭間に突入した、その際に時空の狭間の空間に圧巻される。

 

「これが…時空の狭間」

 

「♪〜♪〜」

 

っとキオがサラの歌を詠い始めた。それを手掛かりにこの無限に続く虚数空間からアンジュを探そうというのだろう。

他の、タスクを始めとするラグナメイル組は周囲を警戒しながら進む。自分たちの目指す場所を見落とさないように。そして、

 

「!」

 

その歌声が確かにアンジュの耳に届いたのだった。そしてそれに答えるかのようにアンジュが永遠語りを歌いだす。

 

「…分かってくれたのか」

 

アルフォンスは積年の思いが通じたのか、苦々しい表情でアンジュを見下ろしながら呟く。アンジュの永遠語りは止まることなく、そして、

 

「!」

 

「これって…」

 

「聞こえるね。確かに」

 

「はい」

 

「アンジュ…アンジュだ!キオ!!」

 

タスクの呼びかけにキオが頷く。そして、その歌が聞こえる方に各機機首を向けた。その先にあったのは虚数空間の海に浮かぶアルゼナルの姿だった。アルフォンスは積年の願望がついに達成すると実感し、トリニティ・プロセッサーのウーシア(アルヴィース)とロゴス(メツ)、そしてホムラのモナドを取り出す。

 

「さぁ、アンジュリーゼよ。大人しくヒカリを渡せ……」

 

アルフォンスはアンジュからプネウマの片方であるヒカリを取り出そうとした瞬間、空から空間の裂け目が開き、それにアルフォンスは振り向く。

 

中からグノーシス・ゼノン、ヴィルキス、アレス・バーン、焔龍號、クレオパトラ、テオドーラが現れ、アルフォンスは驚き、急いでその場から離れるが、肝心なことに気づく。

 

「しまった!!」

 

取り出していたアルヴィースとメツ、ホムラのブレイドがそのままであり、キオは急いで回収し、叫ぶ。

 

「ラァァァァァァァァァァァァァァァッ!!」

 

『ガアアアアアアアアアアアアアアアッ!!』

 

キオと焔龍號が叫んだ声により、アルフォンスの力が不安定になる。

 

「力が!!うわあっ!!」

 

ドラゴンの咆哮がドラゴニウムを狂わせ、サラの体からアルフォンスが離れた。落ちて行くサラを見てキオは急いでコックピットから飛び出し、テレシア化する。

 

タスクもコックピットから出て、キオと共にアンジュに向かって叫ぶ。

 

「サラアアアアアアッ!!!」

 

「アンジュウウウウッ!!!」

 

サラは目を覚まし、向かってくるキオを見て大声でキオを呼ぶ。

 

「キオ!」

 

「タスク!」

 

「サラアアアアアアッ!!!」

 

「アンジュウウウウッ!!!」

 

二人は落ちるサラとアンジュを見事にキャッチする。

 

しかしタスクの方は何故かアンジュの股の方で受け止めるっと言う、こんな状況でもラッキースケベハプニングな展開が起きたのは言うまでもない。

その時にヒルダがタスクに向かって何やら言いたいことを言ったのは分からなかった。

 

タスクはすぐさまアンジュを下ろして謝る。

 

「あっ!ごめん!…あ」

 

タスクはアンジュが涙を溢れ出ているの見て言う。

 

「…怖かったよね」

 

それにアンジュは頷く。

 

「…ありがとう、来てくれて」

 

「皆が力を貸してくれたからね」

 

タスクはそう言ってアンジュは皆の方を向く。

すると先ほどから二人に対し何やら怪しげな行動をしていたヒルダが、アンジュが見た途端にやめて笑顔で手を振る。

 

そしてキオはサラを下ろして、傷が無いか確かめる。

 

「大丈夫か!?怪我は無いか?!」

 

っとそう言った時にサラはキオに抱き付き、キオはサラの方を見る。

 

「サラ…?」

 

「ありがとうございます…キオ。助けに来ていただいて…」

 

キオは一度離れてサラの顔を見ると、彼女の目から涙があふれ出て来たのが分かる。それにキオは申し訳なさそうな顔をする。

 

「…遅れてごめんな、サラ…」

 

「いえ…来てくれただけでもうれしいです」

 

「あと、これ……」

 

キオはサラに渡した婚約指輪を返す。するとサラが思わずキオにキスをする。一部始終を見ていたアンジュ達や隠しカメラで時空の狭間のの映像を見ていたチャールズ達も呆れていた。

 

グノーシス達はアルゼナルの上部に着陸してヴィルキスと焔龍號を下ろす。

その時アルフォンスが現れて、キオ達に問う。

 

「何故だ!?…何故お前達がこの場所にいるんだ!?一体どうやって!?」

 

「言われなくても、分かるだろ……ヴィルキスは完全にお前の元から離れているって言う事を!!」

 

キオは吸血鬼を模したマスクを装着し、両眼のソリッドアイも装着される。

 

「サラは焔龍號に。大丈夫俺が守る」

 

「えぇ」

 

「僕の理想郷の創造を邪魔するか……孫娘に虚言を吹き込むな!!」

 

「お前みたいなゲス野郎がアンジュの先祖?フンッ!ヴィルキスもよくこんな奴をライダーにしたな!」

 

キオはグノーシスから降り、アルヴィースのモナドを抜刀する。対するアルフォンスも自分のモナドを持ってキオに斬りかかる。

 

「タスク!」

 

キオはメツのモナドを取り出し、タスクに投げた。タスクはメツのモナドを見事にキャッチすると、タスクのアレス・バーンのエーテルブレードがメツのモナドと同じ剣へとなる。そしてアンジュとサラは自身の機体に乗る。

 

「あなたが連れてきてくれたのね、皆んなを…」

 

「ありがとうございます、焔龍號……キオ達を連れてきてくれて。」

 

アンジュとサラはそれぞれの機体の操縦桿を握る。その時、指輪と宝玉が強く光だし、同時に二人の中にいたヒカリとホムラが一つとなり、真の姿『プネウマ』へと覚醒する。アンジュの服装がドレスから白のライダースーツへ、サラもライダースーツからピンクのデバイススーツへと変わり、ヴィルキスと焔龍號の形状が変わる。そしてコンソールのモニターには二機の新たな名が表示されていた。

 

 

【ヴィルキス・アルビオン】

 

 

 

 

【焔龍號・破壊ノ紅月式】

 

 

 

 

 

「さぁ!行くわよ、ヴィルキス!」

 

「行きますわよ!焔龍號!」

 

空へと舞い上がるヴィルキスと焔龍號は駆逐形態へ変形して、アンジュとサラはキオとタスクに言う。

 

「皆んな!アルフォンスはゾハルを使って永遠不滅の国を創ろうとしてるわ!止めるにはアイツの機体を破壊するしかない!」

 

「嫌!師匠が言うには、アルフォンスの体はあの機体とデミウルゴスの三つに分かれている!つまり、両方倒さないと世界が守れない!」

 

キオが説明すると、アルフォンスが翼を広げ、アンジュを睨みながら呟く。

 

「……君には分からない、君には理解できない。」

 

ヤルダバオトの右手がヴィルキスに向けられる。っと、空間からエンブリヲのヒステリカ、レイジア、ヴィクトリア、エイレーネ現れる。そしてアルフォンスとヤルダバオトはそれぞれのモナドを持つ。

 

「だから……僕がやるしかない。そうでもしなければ、いずれ世界はまた穢れの連鎖を引き起こす。アンジュリーゼ……愚かな孫娘よ、お前はもう……いい。」

 

アルフォンスの言葉にキオは言う。

 

「永遠に続く世界に何の価値がある?そんな世界、ヘドが出るほど願い下げだ!!」

 

キオはグノーシスを遠隔操作で操り、ヤルダバオトに向かって行く。アンジュ達もヒステリカ達に向かって行く。

 

「キオはアルフォンスを!」

 

「ラグナメイルは俺たちに任せてくれ!」

 

タスク達がそれぞれのラグナメイルを相手していると、サリアが相手しているエイレーネからアルフォンスの声が発声する。

 

《愚かな小娘だ。あの皇女の道具にされ、調律者に弄ばれた気分は?》

 

「っ!!」

 

 

キオは黄金のモナドでアルフォンスを相手していた。

 

「無駄だね……僕を殺す事は、未来に終焉をもたらす事になるのに。」

 

「そうさせたのは、お前だろ!!」

 

キオは血戦鬼のリミッターを解除し、目にも止まらぬ速さでアルフォンスの各部に傷を入れて行く。アルフォンスは後方に素早く下がり、体制を立て直す。

 

「なるほど…その姿、正に『闇のクアンタ人』だな!!」

 

「龍装光!!」

 

次にキオは地球神龍と融合し、アルフォンスの腹に蹴りを喰らわせる。しかし、アルフォンスはキオの脚を受け止めており、モナドを振り下ろす。だがキオは思考の力で振りほどき、モナドを構える。

 

「地球神龍との融合化か……異次元人のテクノロジーが…神と対等するか!!」

 

アルフォンスの身体が光りだすと、彼の体から堕天使の白き翼と白き鎧、尻尾と角が生える。

 

「その姿は!!?」

 

「これこそが、“極大”にして“極限”の力を持つ者に赦された『神鎧』。」

 

キオはモナドを構え、アルフォンスに向かいながらモナドを振り回す。しかし、どう言う事なのかキオの攻撃が回避される。

 

「ッ!?」

 

「そして、貴様の思考をも上回る……“夢幻予測視”。“未来視”と“因果律予測”、“思考”を兼ね備えた完全な力。お前の全ての過去と未来を透視する事が出来る!!」

 

アルフォンスは余裕満々の表情を浮かべ、キオにカウンター攻撃が炸裂する。キオはモナドを突き立て、荒い息を吐いていた。

 

「やはりまだ生きているな……だが、これまでだ。もうすぐ時空融合は全てを破壊し、その先に新たなる生命が芽生え、感情も無く、穏やかで、穢れが溢れない世界へと変わろう…」

 

「……それはどうかな?」

 

するとキオの淡白石の義眼が強く発光し、ヤルダバオトと戦っているグノーシスの肩部が露出展開し、そこから眩い閃光が照らされる。

 

「何っ!!?(何だこれは!?……グノーシスの力なのか!?嫌!違う!)」

 

眩い閃光に、目を開けたまま未来視を見ていたアルフォンスの目が眩み、キオはボディーブローでアルフォンスを吹き飛ばす。

 

「まさか……ゾハルだと!!?」

 

アルフォンスが驚いていると、キオはテレシア化し、アルフォンスを睨む。

 

「テレシア化して僕を殺すか…けど、僕は殺しても復活する!」

 

アルフォンスが叫び、キオは咆哮を上げる。そしてアルフォンスの身体が大きくなり、山羊を模した仮面、脚が白き大蛇の尾を持つ龍へと変身した。テレシア化したキオとアルフォンスは肉弾戦を繰り広げる。互いの爪、アルフォンスの剣の如く翼、キオの刃の如く牙が肉を裂く。

 

 

 

 

その頃、フェイト達はデミウルゴスに苦戦していた。機械と生物、偽りの大地と街の瓦礫でできた魔神は笑う。

 

《フッハッハッハッハッハッハッハッハッハッ!!!!僕に刃向かうとは100万年早い!!!》

 

「くっ!!調子に乗りやがって!!だが!」

 

アウラがバリアを張っている先に、エーテリオン全艦隊が連携を組み、デミウルゴスの周囲を取り囲む。

 

「全艦隊!一斉砲撃、開始!!」

 

艦隊の主砲やMACガン、ミサイルが一斉に放たれ、デミウルゴスに直撃する。レイナスはボロボロになりながらも、フェイトとココに言う。

 

「『フェメル、ココル……』」

 

「母上!!」

 

「お母さん!」

 

「『私の命は長くありません……私はこれからデミウルゴスの外角に穴を開けます。その間に、貴方達はテレシアの力で強力な一撃を放ってください。』」

 

「そんな!!」

 

「『頼みましたよ』」

 

レイナスは一気にスピードを上げ、周囲にエーテルを纏い、槍を形成する。

 

「『……アデル。貴方の子達は立派になりましたよ。』」

 

レイナスはそう言い、デミウルゴスの胸部に直撃し、消滅した。

 

「っ!!!母上えええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!」

 

フェイトは断末魔の叫びを上げ、天馬型のテレシアへとなり、ココも自分の力を信じ、鳥型のテレシアへとなる。だが二人の前にボロボロになったメシアが立ち塞がる。

 

「『待て!!ここから先は通さない!!偉大なるアルフォンスの計画を終わらせる訳にはいかないのだ!!』」

 

メシアは神託杖を掲げ、ロンギヌスの槍を形成し、放つ。迫り来るロンギヌスの槍が二人に突き刺さる瞬間、黒騎士のアレスがロンギヌスの槍を切り裂いた。

 

「『黒騎士!!?』」

 

黒騎士は黒いブレードを突き構え、目にも止まらぬ速さでメシアの心臓を突き刺した。

 

「『……あ…ああ……』」

 

「……行け、エルダーの兄妹よ。」

 

「……恩にきる!!」

 

フェイトとココは急いでデミウルゴスの心臓が見えている胸部へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

その頃、サリアはエイレーネから発声しているアルフォンスの声を聞いていた。

 

《あの女を裏切った気分はどうだ?それとも、仇討ちに来たのか?》

 

「えぇ……貴方を倒すためにね!!」

 

サリアはエイレーネを蹴り飛ばし、ブレードを振り上げる。

 

「これは!アレクトラの仇!!」

 

《ハァ…やっぱり愚かだ。》

 

するとエイレーネの目が光り出し、同時にクレオパトラ達の制御が操られてしまい、クレオパトラ達はアンジュ達にライフルを構える。

 

それにサリアは叫ぶ。

 

「ハッ!!逃げて!!」

 

「え!?」

 

アンジュ達はサリアの言葉に思わず聞き、クレオパトラ達のビームライフルを避ける。乗っているヒルダは操作出来ない事に慌てる。

 

「何だよ!どうなってるんだよ!?」

 

 

 

 

キオはエーテルレーザーを放つが、アルフォンスは尻尾でレーザーを弾き返す。

 

「邪魔をするな!ティオル!!私は世界を救おうとしているのだぞ!」

 

「それのどこが世界を救うだ!!」

 

キオはエーテルストームを放つが、アルフォンスはキオの後ろに回り込み、先端が鋭い突起でできた尻尾でキオの右肩を貫く。

 

「グッ!!!」

 

「私は知っている……この先の未来、また争いが起こる!!人間は何も変わらない!!」

 

アルフォンスが呟いている隙を狙って、元の姿へと戻り、アルフォンスの腹目掛けてモナドを突き刺した。

 

 

グノーシスとヤルダバオトはエーテルブレードを展開しながら、戦う。

 

《ティオル……所詮人間は戦わずにいられない。僕が争いを止めなければならない。》

 

アルフォンスの言葉に、サラが言う。

 

『だから人々の感情を無に変え、自由のない幸福を与えると。』

 

サラはレイジアを吹き飛ばし、アルフォンスに言う。

 

「愚かなのは貴方の方ですわ、無法人類!」

 

《サラ!》

 

「その通りよ!貴方の方が傲慢すぎるわ!!」

 

「アンジュも……その通りだ!!」

 

キオはグノーシスと同時に、アルフォンスとヤルダバオトを蹴り飛ばす。

 

《「俺達は、この支配から開放する!!」》

 

そう聞いていたサリアは自分の考えに気が付く。

 

「そうね…いつも真っ正直に向かっているアンジュだもん。私も…真っ直ぐに進むわ…あんたなんかに従うは真っ平ごめんよ!!」

 

っとそれに反応するかのようにサリアの指輪が反応して光り、クレオパトラの機体の色が青色に変化する。

 

「何だと?!」

 

アルフォンスはクレオパトラの変化に驚く。

 

「アタシも…くそみたいな男の言いなりにはならねぇ!!」

 

するとヒルダの指輪も輝き、それにテオドーラが赤色に変化する。

 

キオ達と戦っているアルフォンスはそれに驚き、サリアとヒルダはヴィクトリアとエイレーネを破壊する。

 

《何で!?何でだよ!!どうして分かってくれないの!!世界の平和の為にしている事なのに!!何で!!?》

 

《「“人間”だからだ!!!」》

 

キオの言葉にアルフォンスは驚く。

 

《「支配を打ち壊す!!好戦的で反抗的なイレギュラー!それが人間だ!!」》

 

キオはアルフォンスの左腕を切り裂き、アルフォンスを睨む。

 

「ヒイッ!!」

 

アルフォンスは恐怖し、今度はアンジュが言う。

 

「貴方は、その傲慢差にエンブリヲに捨てられ、妬み恨んだ。だけど、エンブリヲと同じだわ!!」

 

「ああ!それにアンジュ達がノーマで生まれたのも何かの縁だって事、俺には分かる!エンブリヲとお前から世界を否定して!壊す為に!!」

 

「ええ!!それに今なら分かります!キオが何故アンジュ達の世界に来た理由も!! キオはアンジュ達や私達の世界を救う為に呼ばれた事に!そして…愛する者を護る為に来た理由も!貴方を倒す為にも!!!」

 

キオの言葉にアンジュやタスクとサラが言い、他の者達はヒステリカや他のラグナメイルを一つ残らず撃破して行く。意思のない機体に無限の可能性を秘める人間相手に勝つのは不可能だからだ。

アルフォンスは歯を噛みしめながら怒鳴る。

 

《「ふざけるな…………ふざけるなっ!!!!ふざけるなっ!!!!ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!まだ負けてもいない!!3度目の敗北なんて認めない!!僕は神の子であり無法人類 デミウルゴス!!!!穢れた魄に満ちた人類に救済を齎らす真の神!!!これで最後だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!」》

 

アルフォンスが空を飛び、ヤルダバオトの腹部からユグドラシル砲が展開される。

 

《「違う!!お前は神でも何でもない!!力で感情を支配するなんて、そんなの神でも何でもない!!!!!」》

 

キオは黄金のモナドを持ち、空中に三角形を描く。三角形に『神』『滅』『聖』そして『王』『愛』『人』漢字が浮き出て、モナドを構える。そしてヤルダバオトのユグドラシル砲が先に放たれ、γ線レーザーが浮き出る瞬間、アンジュとサラ、タスクの機体からディスコード・フェイザーとアーガラスキャノンが放たれ、ユグドラシルを同時にぶつかって行くがγ線レーザーは消滅する。

 

《「そ!そんな!!!!」》

 

「アルフォンスゥゥゥゥゥッ!!!!!」

 

キオとグノーシスはエナジーウィングを展開しながらモナドを構えると、グノーシスが100体に増えた。

 

《「っ!!!???」》

 

100体のグノーシスは次元跳躍を使い、ヤルダバオトの各部や四肢を切り裂いていく。そしてキオも夢幻予測視でも読み取れない無茶苦茶な速さでアルフォンスの翼を切り落とし、両眼を切った。

 

《「ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ァァァァァァァァ!!!!!!!」》

 

神の翼と因果律の未来を見通す力を失ったアルフォンスはアルゼナルの地へと落ちる。

そして動けなくなったヤルダバオトに向けて水色、紫色、翠色に輝くΔ状のビーム『トリニティ・スプリーム・ブレイカー』が回転し、ヤルダバオトに炸裂する。ヤルダバオトを包み込むビームがヤルダバオトを塵に変えた。

 

「神である僕は!!!!僕は!!!!僕はっ!!!!……、負けてなぁぁぁぁぁぁいっ!!!!!!」

 

断末魔の叫びを上げるアルフォンスに向かっていくキオは黄金に光り輝くモナドを掲げる。

 

《「これで終わりにする!皆んな思いは、神を超える!!!」》

 

キオはそう言い、上空へと舞い上がり、一気に急降下しながら一気に振り下ろして斬り込むと、何処からか別の声がアルフォンスの耳に響く。

 

 

 

 

 

 

 

『僕達は、僕達の力で神を斬り、そして、未来を切り開く!』

 

 

 

 

 

『これで終わらせる!そして、進むんだ!』『未来に!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!!?」

 

そして黄金のモナドがアルフォンスのモナドを切り裂き、彼の体を一刀両断した。それと同時にフェイト達の方も露出したデミウルゴスの心臓に目掛けて、ココと一緒にエーテル粒子を溜め込み、同時に放った。デミウルゴスの心臓の破壊、アルフォンスの体の一刀両断、ヤルダバオトの消滅により、時空融合が止まると同時に止んで行く。

 

「人は確かに過ちを犯す。けど!そんな人だからこそ!限りある今を生きて、世界を輝かせ、未来へ照らす!!』

 

キオは黄金のモナドを上に掲げ、アルフォンスを照らす。体が爆発して行くアルフォンスは断末魔の叫びと悔しさを吐く。

 

「うああああああああ!!!!そんな!……僕は!……世界の傷みを……止めたかっただけなのに!!!うああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

 

アルフォンスの体が膨れ上がり、ビックバンの様に弾け飛び、光がキオを包み込む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キオを包み込んだ白い光は消え、キオはある所に立っていた。草花が生い茂った丘、そして目の前の一本杉にフードで顔を隠した男性が立っていた。

 

「ここは?」

 

「ようやくここにたどり着いたな。」

 

フードの男はキオを見る。

 

「お前は?」

 

「……私はアデル・オルド。お前の本当の父親だ…」

 

「!!」

 

キオは実の父親に驚く。

 

「無理もない……既に私はこの世から消え、今はこの地を守る聖霊として彼等に任を押し付けられた。ハハハ♪」

 

「彼等?」

 

「俺達だ……」

 

「?」

 

っとキオの後方から現れたのは何と、ここにいないはずの勇人とアレクサンダーであった。

 

「師匠に!?爺ちゃん!?」

 

「ビックリだろ?」

 

「何で爺ちゃんがここに!?」

 

「……答え合わせと行こう。」

 

アレクサンダーの体が光り出し、彼の姿が若返り、黄金の装飾や禍々しい翼を広げていた。

 

「爺…ちゃん?」

 

《我が名はカオス……あらゆる宇宙と時空、次元を創りし原初神である。》

 

「…………は?」

 

《分からぬか?……本当の“神”であり、ゾハルを回収しにきた。》

 

カオスはゾハルを縮小し、小さくした。

 

《愚かだ、こんな物の為に人は堕落する。人間と言うのは面白おかしい種だ…弱い奴は、嫌いだ。だが、群れを成せば勇気が湧く。仲間がおれば、神にすら抗う。》

 

「もし抗いましたら?」

 

「…………その時は、お前等も消滅させる。」

 

カオスは微笑むと、キオの頭を撫でる。

 

「さて、私はもう帰る…キオ、これから私の記憶は世間から消されることになる。皆からの記憶にはいないが、お前の記憶にはいる。それにもうお前は立派な戦士だ……」

 

「爺ちゃん…」

 

「心配するな…私は元の世界に帰るだけだ。会いに来ても良いのだぞ、その時は“孫”も連れて来な♪」

 

カオスは微笑みながら、勇人と共に別世界へと帰るのであった。

 

「さて…私もそろそろ戻らないと。兄妹仲良く、そして未来へ輝かせろ…」

 

「……本当の父さん!!」

 

謎の異空間が歪み、キオは空間から放り出された。

 

 

 

 

 

「き…お…………きお……キオ……キオ!!」

 

倒れたキオに驚き、サラ達は必死にキオを呼んでいた。そして空間から放り出されたキオは目を覚ます。

 

「ハァッ!!!…………サラ?」

 

「……良かった、気が付いて。見て…」

 

キオは空からやって来るアウローラ達に気付き、まだ飛んでいたオスカー達とフェイト達がインフィニティ達と共にゆっくりと海面に着水して元に戻った…オリジナルのアルゼナルに入るのだった。

 

皆がアルゼナルの甲板に上がり、そこでヴィヴィアンが皆に言う。

 

「ここでクイズです!何処でしょうかここは?」

 

「とっても見覚えあるような~…」

 

《ようこそ、我らの星…真なる地球へ》

 

っと上空でドラゴン達と飛ぶアウラが皆に言い、それを見たロザリーは思わず引いてたことに誰も気付かない。

 

そしてヴィヴィアンがアウラに問う。

 

「ねえねえ!なんでアルゼナルでっかくなったの~?」

 

《時空が解放されて、全てがあるべき場所へ戻ったのです。そしてドレギアスも消滅して…次元の破壊は阻止されました…。時空融合も停止し、世界が解放されました…戻ったのです。世界が…貴方達の手に》

 

アウラの言葉を聞いて、ジュン達はレオン達の元に行く。

 

 

キオ達はアルゼナルの上部から海を眺めていた。

 

「終わったのね…リベルタスが」

 

「ああ、終わったよ…全てね」

 

そう呟くタスクとアンジュ、キオはその場に座り海を眺めていると、キオの身体から地球神龍とアルヴィースことウーシア、メツことロゴス、ヒカリ、ホムラことプネウマが出てくる。

 

「ようやく終わったね、キオ…これで僕やロゴス、プネウマの使命は終わった。」

 

するとアルヴィースとロゴスとプネウマの体から粒子が放出され、足が透けて来た。

 

「アルヴィース!?」

 

『ブレイドとしての使命が終わったのです。痛みはありませんか?』

 

「平気……僕達は別の地球で作られた相違転移管理コンピュータだから。キオ、これでお別れだね」

 

「そんな!ブレイドは不死身の筈!」

 

「僕達はこの世界に存在してはいけないブレイドなんだ。別世界の干渉にもなってしまう。そうなれば時空改変で君の存在が消滅する。」

 

「でも!でも……分かったよ!アルヴィース……」

 

キオは泣き崩れながらアルヴィースを抱く。そしてタスクはロゴスと握手をし、アンジュとサラはプネウマと一緒に涙を流しながら別れを言う。

 

「タスク!俺に会いたかったら生まれ変わって来い!」

 

「アンジュ、サラ、これでお別れだね」

 

「あなたも、ヒカリ!」

 

「別れは寂しいですが、元気で、ホムラ!」

 

そしてアルヴィース達の体が粒子へとなって行くと、アルヴィースがキオに告げる。

 

「最後に一つ、君にプレゼントがある。受け取ってくれ……」

 

そしてアルヴィース達の体がついに粒子へと変わり、空へ舞い上がる。すると空から、巨大な大陸が現れ、海面へと着水する。大きな波がアルゼナルを襲うと思ったが、地球神龍がアルゼナルをバリアで囲み、大津波から皆んなを守った。キオはその大陸がウルと分かると、彼の隣にフェイトが現れる。

 

「アルフォンスは消滅したけど、エルダー皇国は戻らない。母上も父上の所へ旅立たれた…」

 

「けど…本当の父さんと母さん、そして爺ちゃんが言っていた。どんな世界にも滅びはある。そして彼らにさよならの涙が穢れた魄を洗い流してくれる。本当の父さんが言っていた…未来へ輝かせろと……。」

 

《…………》

 

「……さて、俺たちも行こう。自分の足を動かし、自分達で歩み、そして未来へと輝かせる為に!」

 

こうしてキオ達の戦いは終わり、自分の足で未来へ希望を託すために歩むのであった。

 




次回、最終話じゃ!!


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最終話:神なき世界

…………《二年後》…………

 

 

日が昇る昼……サラは都内を歩いていた。周りにはノポン、マ・ノン、バイアス、オルフェ、ザルボッカ、ラース人、そしてB.B.ユニットから解放され、蘇った人類もいた。男性型ドラゴン達やテレシアだったエルダー族はゾハルの力で人型にもなり、楽に街を歩く。商店街を通ると、工事をしているジョンソン軍曹やスパルタン達が誰かを叱っていた。

 

「コラァッ!!貴様!!」

 

「す、すいません!ジョンソン軍曹!!」

 

「謝って済むか!!」

 

怒られていたのは人として教育し直されたアンジュの兄 ジュリオであった。どうやら工事で皆んなに迷惑を掛けるようなことをしたのであろう。

 

「罰として、うさぎ跳びで町の周りを50周!!」

 

「ヒィーーーーッ!!それだけは〜〜〜〜!!」

 

するとサラの目と鼻の先にエルマが歩いていた。

 

「だいぶん再建が進められているね。」

 

「はい!エーテリオンの技術にエルダー皇国のテクノロジー。この二つならドラグニウム除去装置が出来る!そうすれば、共鳴連鎖爆発は起こらない!正に凄いテラフォーミングマシーンの完成ですよ!」

 

リンは興奮しながらエルマに言う。

 

「エルマ殿」

 

サラはエルマに声を掛ける。

 

「あら?サラじゃない。」

 

「あ!サラさん!」

 

「キオは何処にいらっしゃるのですか?」

 

「キオさんなら、オスカーさん達と何処かへ行きましたよ。」

 

「そうですか、感謝いたします。」

 

「あ、サラさん!無理しないでくださいね。」

 

エルマ達は穏やかな表情でサラを心配する。

 

 

 

 

 

 

 

 

展望台へと上がるサラ、そこには自分の妻であるミリーナと成長したフェイト、そして彼の胸には産まれたばかりの愛娘を抱いていた。

 

「何だ?……ティオルならここには居ないぞ。」

 

「凄いですね、やって来ることが分かるなんて。何を見ていたのですか?」

 

「……特に何を見ていたのではない。強いて言うなら…これから先、俺達を待ち受ける未来――かな?」

 

「まぁ、それはカッコ良すぎますよ。義兄様」

 

「そうか?義理の妹の問いに率直に答えたが…」

 

「でも、分かります。色々ありましたからね。」

 

「あぁ…あったな。」

 

フェイトは穏やかな表情でミリーナとともに街を見下ろす。

 

「お前達には感謝している。お前達と共に歩まなければ、俺は何も知らないまま絶望に落ちていた。けど、今は愛するミリーナと愛娘である“レイナス”と共に生きている。」

 

「えぇ…それこそが生きる事です。田を耕す父、子を産む母の様に。ありがとうございます、義兄様……そして、キオと共に、これから先も…」

 

「あぁ……これから先も。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウルの砂浜、オスカー達は今夜の魚を取ろうと釣りをしていた。

 

「オスカー!食いついたぞ!頑張れ!」

 

「オスカー!あそこ!」

 

「頑張って!オスカー!」

 

オリバー、ノア、アリアンナ、アンがオリバーを応援する。

 

「どりゃ!!」

 

「「「うぇっ!?う、うわぁぁぁっ!!」」」

 

オスカーが力任せに引き上げた直後、バランスを崩してしまい、手助けしようとしたアンとノア、オリバーを巻き込んで海に落ちた。

 

「ちょぉぉっ!!!?」

 

「え!?皆んな大丈夫?」

 

アリアンナが心配する中、オスカー達が泳ぎながら、近くの砂浜へと上がる。

 

「甘すぎ!ウルの海域の海水が“甘い”なんて聞いたこともねぇ!」

 

「オスカー!何やってんだよ!今の怪魚めっちゃ大きかったのに!」

 

「何だよ〜、じゃあ今度はお前が釣れよ!」

 

「良いぜ!やってやろうしゃないの!」

 

「おう!」

 

オスカーとアンはずぶ濡れになりながらも、釣りの競争をする。そして吊り橋の近くの砂浜にキオが立っていた。

 

「ここに居たのですね。」

 

「サラ…」

 

「気持ちいい風です……」

 

サラはウルから見える海を眺める。彼女の姿は長髪だった髪をショートヘアにし、大きくしたお腹をしていた。そう、サラはキオとの間に出来た子供を妊娠していたのであった。その証拠にキオとサラの薬指には水晶でできた結婚指輪を付けていた。サラは海を眺めているキオを見る。

 

「何?」

 

「いえ、雰囲気が変わった思いまして。」

 

「そう?」

 

「あ、それとキオ……見せたい場所があります。」

 

サラがドラゴンになろうとしたが、キオが慌てる。

 

「無理するなよ、俺が送ってやる。」

 

キオはテレシア化し、サラの案内される。サラに案内された場所……そこはかつて、キオとサラが出会った草原であり、周りには姫蓮草が咲いていた。

 

「覚えていますか?この場所を。」

 

「あぁ、俺とサラが初めて会い、次第に仲良くなった場所。そしてこうして今、こうやって一緒になれて来た。懐かしい…」

 

キオは姫蓮草を取り、空を見上げる。

 

「まだ……会えるかな?」

 

「会える?誰と…?」

 

「……俺の爺ちゃんだ。」

 

「まぁ、お爺様に?」

 

「うん…約束したんだ。今度俺たちの子を会わせてやるって。けど、もう亡くなったからなぁ。」

 

「……本当は、生きていると言いたいのですね。」

 

「いつから知ってたんだ?」

 

「ずっと前からです♪」

 

「……さすが、俺の若奥様だ。」

 

「どうなるのでしょうか……私達。」

 

「どうって?……きっと、色んなことが待っているんじゃないかな?」

 

「色んなこと?」

 

「これから先、どうなるかなんて分からない。もう俺には未来視と因果律予測は使えない。けど、師匠から受け継いだ思考は受け取れた。だから、色んな想像が出来るし、目指す目標が出来ると思うんだ。」

 

「そうね……そうですね!」

 

「昨日の夜……夢の中で、爺ちゃん……嫌、カオス様が別れ際に行った事を覚えている?」

 

「えぇ、勿論ですわ。私もその夢を一緒に見ていましたから。」

 

 

 

 

ーー回想ーー

 

 

『キオ…………お前の選んだ世界は、我々以上の無限の広がりを持っている。そこには、お前達だけではない。様々な生命が芽吹くだろう……そして、そこの龍の姫の身に宿し新たな生命は、何か凄い事を起こすだろう。何故なら、その子はいずれ、全てのが手に取り合い、未来に向けて、歩んでいく姿が……。』

 

 

ーー回想終了ーー

 

 

 

 

「俺さ……いつか、会ってみたいと思うんだ。師匠達の他にもいる色んな世界に生きる人達と。」

 

「私もです。会えます、きっと…」

 

「あぁ……会えるさ。未来を目指して歩いていけば、必ず!」

 

「あ。」

 

「どうした?」

 

「今!お腹の中で赤ちゃんが動きました!」

 

「え!ほんとに?楽しみだな……俺たちの子。」

 

「えぇ……早く会いたいです。私達の子に。」

 

二人は幸せそうに手を繋ぎ、崩壊し、ウルの大地の上に立ったまま絶命したデミウルゴスの姿を見上げるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────────────────────────────

 

 

幾年が過ぎ、二人の少年と少女がある物を見つける。

 

「ねぇ!これ見て!」

 

黒髪の男の子は黒髪の女の子にある物を見つける。

 

「これ…誰のお墓なんだろう。」

 

森の奥深く、草原が広がるウルの大地に姫蓮草の花が咲き乱れており、姫蓮草の花畑に二つの墓跡があった。

 

「もしかして……お爺ちゃんが言ってた、曾祖父母のお墓じゃないかな?」

 

「分からない。けど、何だかこのお墓に眠っている二人……仲よさそう。」

 

女の子は二つの墓を見て呟く中、二人には見えてはいないが、二人の白き勇ましき男性と紅き美しい女性が優しそうに二人の少年と少女を見守っていた。

 

 

 

 

 

 

 

クロスアンジュ 因果律の戦士達 ──── END

 



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番外編03:そして青年は父へとなる

半年が過ぎ、午前四時……自宅でサラが突然、キオを起こす。

 

「きお…キ…お…起きて…くだ……さい」

 

寝ぼけたままの状態でキオは、サラをやっと見る。

 

「サラ?」

 

「お腹が痛いのです…んんっ!……」

 

「大丈夫??産まれそう??」

 

「だいじょう…ぶじゃな…いかも…あっ……」

 

「サラ??」

 

「破水しました…キオ、やっぱり産まれ…ます!…」

 

「わかった、マギーに連絡をいれるよ。我慢できる?」

 

「はい…何とか…んんっ!」

 

「サラ…」

 

キオは急いでマギーに電話を掛け、チャールズとマリア、そしてミレイさんを起こし、病院へと向かう。だがこの時、サラの胎内の中に何かが潜んでいたことに、彼らは知っていなかった。

 

 

 

診察を受けると、初産の割に、出産が順調に進んでいると言われ、入院することになった。 看護師とマギーが訪れ、サラの状態を確認すると、 マギーに促されるようにキオは病室の外に出る。

 

そして、オスカー達が慌ててやって来て、医務室の前で待っているキオ達の元に行く。

 

「キオ!」

 

「皆んな!」

 

「姫さんは?」

 

オリバーがキオに問い掛け、キオは医務室の方に指を刺す。

それを見たアリアンナは納得する。

 

 

「そっか!もうすぐ生まれるんだね!」

 

「楽しみね~!」

 

「うん!」

 

ココとミランダはワクワクしながら待っていると、看護師がキオを呼ぶ。

 

「キオさん、マギー先生がお呼びです。」

 

「?」

 

 

 

 

 

 

診察室に呼ばれたキオはマギーの話を聞く。

 

「キオ…よく聞き。あの姫さん……“双子”を妊っていたんだ。」

 

「……………………え!?ホントですか!」

 

キオはあまりの嬉しさに興奮するが、マギーは深刻な表情をしながらX線写真を見せる。その写真にキオは驚く、

 

「っ!!?」

 

それは、胎内にいる双子の胎児と胎盤をつなぐ臍帯に黒い物体が寄生していた。

 

「何だこれ…」

 

「分からない。今までの定期診察でこんな黒い物体が胎内にいるのは事実だ。しかも、この黒い物体……臍帯から双子と胎盤の酸素や栄養分を根こそぎ摂取している。このままだと、双子と母親の命が尽きるのも時間の問題なのだ。特に双子の場合は…………」

 

「!!」

 

キオは自分の愛する妻と双子が危険な状態だいう事に動揺する。診察室から出てきたキオは暗い表情をする。

 

「…………」

 

 

 

キオは薄く表情のままサラのいる病室に入る。陣痛で苦しんで額から汗をかいているサラはキオを見る。

 

「キオ…」

 

「………」

 

「何かあったのですか?」

 

「……ちょっとね。」

 

「……心配いりません。私が死んでも……この子達が無事に産まれれば、安心です。」

 

「!!」

 

サラの無垢な表情、死を覚悟しての決意にキオは涙を流す。サラは涙を流すキオの本当の真相を知らないまま、キオの頭を撫でる。

 

 

 

 

 

 

 

病室から出たキオは拳を握りしめ、ある方法が頭に浮かび上がる。そしてその方法とは……。

 

「サラの胎内に入る!!???」

 

「そう…師匠から教わった『ミクロイド・モード』て言うのがある。それを使えば自身の体がナノサイズまで縮小し、微生物へとなる。だがこれには欠点がある……自分の寿命を半分削る事になる。」

 

《っ!!?》

 

「ダメよ、キオ!アンタまさかとは思うけど……それを使って双子とサラちゃんを助けるつもりなのでしょうね!?」

 

「…………俺はもう決意した。だからやる……」

 

「お前……」

 

チャールズやマリアが止めようとするが、キオは呪紋を唱え始める。

 

「…イファラス ザラス イエザラス…イファリス ザリス イエザリク…」

 

するとキオの身体が光り出し、縮小していく。そして彼の体から機械的な体へとなり、背中に四枚の羽が展開される。そして羽音を立てて飛ぶ。

 

「本当に……やるのか?」

 

『…あぁ。三つの命を……死なせるわけにはいかない!!』

 

キオはそう言い、手術室へと侵入する。キオは気付かれない様に身体をさらに縮小し、量子体へとなり、サラの胎内へと移動する。胎内に辿り着いたキオは、そこで思わぬ光景を眼にする。胎盤と胎児の周りに黒い筋が侵食しており、臍帯が黒く変色していた。

 

『ここまで侵食されてたとは……っ!!』

 

その時、キオの横から黒い何かが突撃し、キオを吹き飛ばす。キオは胎児と子宮に危害を加えない様に泡を噴射し、体制を立て直す。黒い物体の正体は龍の様な蟷螂の様な微生物であり、頭上に天使の輪が浮いていた。

 

『コイツか!!』

 

キオは前腕部からナノマシンで形成した『ナノソード』を展開し、正体不明へに攻撃する。正体不明も自身の鎌を展開し、キオに斬りかかるが、キオは華麗に回避し、正体不明を一刀両断した。

 

「弱すぎだろ……」

 

正体不明の頭上の天使の輪が消えるが、胎児と胎盤に侵食している黒い筋がまだ消えていなかった。キオは『どうしてだ?』と思い、回り込む。そこでキオはとんでもない光景を目にする。それは双子の胎児の臍帯に寄生しており、身体は透けて体内が見えている小さな胎児がいた。そしてその胎児は側頭部や背中に小さな羽を広げていた。キオはその胎児の姿に見覚えがあり、ナノソードを構える。

 

「何て事!!まさか二年前のリベルタス。アルフォンスの奴、もう一体の“オラクル”を寄生させ、一気にサラと双子達を殺すつもりか!!」

 

キオはオラクルを斬り殺そうと向かったその直後、胎児が目を開く。

 

「っ!?」

 

《……………………………………ホアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!!》

 

オラクルは断末魔の叫びを上げ、メタモルフォーゼする。

 

「何!?」

 

胎児の体から複数の腕が伸び、キオに襲いかかる。

 

 

 

 

 

一方、手術室ではサラのバイタルが危険になっているとの事でマギーや医師達が必死になる。サラは必死に子供を産もうと悲鳴を上げる。するとサラのお腹から光の球体が現れ、そのまま手術道具へとぶつかる。煙が晴れ、ミクロイドの姿のままのキオが掌にオラクルを握っていた。

 

 

 

 

病室から出てきたキオを皆んなが心配する。そしてキオがサラと胎児から取り出したオラクルを見せる。

 

「姫さんや双子を苦しめていたのはコイツか……」

 

「まさかオラクルがもう一体いたなんて……」

 

チャールズ達がオラクルを見ていると、フェイトがやってきた。

 

「コイツは『サトリ』だ。」

 

「サトリ?」

 

「6体の中で最もズル賢い考えを持つ奴なんだ。小さい体をしていると噂があったが……まさか本当に存在していたとは。」

 

「ビックリだよ。」

 

キオはそう言い、オラクルごと握り潰す。そして拳から青い血が滲み出る。すると……

 

 

……うぎゃぁぁぁ〜!

 

 

 

《!!!?》

 

病室から赤ちゃんの泣き声が響き、キオ達は急いでガラスの向こうにいるサラを見る。綺麗な顔や黒色の長髪も、グッショリと汗で洗われているその様は、いつもの生気あふれる様子は欠片も見あたらない。しかし、彼女の横には丸っこい顔、赤い肌身をした赤ちゃんが泣いていた。ガラスの外から見ていたキオとチャールズ、マリア、ミレイ、フェイトとミリーナ、ココが元気な赤ちゃんを見て興奮する。特にキオの場合、自身の過去を振り返り、そして今ここにこうやっており、子供から大人へと成長し、父へとなり、彼の目から大粒の涙が溢れていた。

サラは一番目の赤ちゃんを助産師に預け、さらに息を踏ん張り、もう一人の赤ちゃんを産もうとする。キオ達は静かに見守り続ける。そして数分後にサラから二人目の赤ちゃんが産まれるが、肝心な産声が出ていなかった。

 

「どうなってるんだ!?」

 

ガラス内ではどうなっているのか分からないが、マギーや医師達が慌てる。すると助産師が二番目の赤ちゃんを連れて行こうとした時、サラが二番目の「せめて、お顔だけでも…………」と言い、二番目の赤ちゃんを抱き渡された。

 

「……ごめんね。元気に産んであげられなくて……ごめんね…」

 

サラは悲しそうに二番目の赤ちゃんに言うと、リンが慌ててキオ達の元へやってきた。

 

「皆さん!!」

 

《しーーーっ!!!》

 

「それどころじゃないんです!そそ…そそそ!外!!」

 

《…………外?》

 

キオ達は外へと向かう中、助産師に抱かれている一番目の子が泣き出す。

 

うぎゃぁぁぁ〜!おぎゃぁ〜!おぎゃぁ〜!おぎゃぁ〜!

 

 

 

 

 

 

 

 

病院の外へと出たキオは都上空に突然と現れた特異点に驚く。するとワームホールから黒く巨大な影が降りてくる。特異点が消え、黒き雲が晴れ、満月の月光が影を照らす。それはこの世には存在しない筈、その風貌龍神の如く、身の丈、大陸の如し、何枚もある紅き光の翼を持ち、長き首を伸ばす頭部、その背には黄金に輝く都市と天守閣があった。

 

「あれは……」

 

キオが不思議に思っていると、フェイトが呟く。

 

「黄金国…“イーラ”。」

 

「イーラ……」

 

「……アデル・オルド。父上の故郷だ。」

 

《っ!!?》

 

満月の月光が白き輝く《巨神獣(アルス)》“イーラ”を照らす。キオ達が驚いていると、イーラが咆哮を上げる。天まで鳴り響くその泣き声、世界中にまで届く。すると……

 

 

 

…………………………うぎゃぁぁぁ〜!!!

 

 

 

「っ!!?」

 

キオは一番目の子が泣き出したのか、すぐに病室へと向かう。ガラスの向こうに見えた光景……その泣き声は一番目の赤ちゃんではなく、産声を上げなかった二番目の赤ちゃんであった。一番目と一緒に泣き出し、外にいるイーラは特異点中へと入り、姿を消す。二人目の赤ちゃんが元気に生まれてきた事に、キオとサラは嬉し泣きする。

キオは緊張しながら覚悟を決め、扉を開ける。足早にベッドに駆け寄るキオに、サラは少しだけ枕から頭をもたげ、こちらに微笑みかける。横に元気な双子の赤ちゃんが寝ていた。

 

「サラ!」

 

「キオ…無事に生まれてきました」

 

「……」

 

キオはサラの横に座り、双子を抱く。

 

「二人とも、男の子の様です♪」

 

「え?本当に!?」

 

「はい♪」

 

「そうか……良かった!」

 

キオは双子の乳児を見て嬉し泣きする。そして病室からオスカー達やアンジュ達が見舞いに来る。マリアとミレイは初孫を抱きながら、あやしていた。

 

「も〜、何て可愛い寝顔をしているのかしら。絶対世界一可愛いランキング10位以内に入るわ。」

 

「そうですね、何せキオ君とサラマンディーネの子であり、私達の孫ですから♪」

 

ミレイは一番目の赤ちゃんの頰をぷにぷにっと指を触れさせる。

 

「そう言えば、この子達の名前は?」

 

「……一番目の子の名前は “アスベル” 。そして二番目の子は…………フフ」

 

 

 

 

 

 

“アデル”

 

 

 

 

 

 

二番目の赤ちゃんの名前が、キオとフェイト、ココの実の父親の名前。フェイトはまさか、キオが実の父親の名前をつけるとは思っていなかった。

 

「アデル……いい名だ。」

 

フェイトはキオとサラの赤ちゃんを見る。キオとサラ、二人の夫婦は生まれてきてくれた新たな二つの命に感動し、いつも以上の幸せを実感するのであった。

 



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番外編04:克服

エンブリヲからの解放戦争『リベルタス』。世界を作り変え、自由なき幸福を与えようとした神の子 アルフォンス。神気取りの支配者と偽りの神へとなった偽帝が世界を呑み込もうとしたが、世界を守ろうと一人の天の聖杯のドライバーと仲間達によって、彼らの野望は打ち砕かれ、ノーマ達は混沌と差別から解放され、自由を手にしたのであった。

 

 

 

 

 

《喫茶アンジュ》

 

アンジュとタスク、モモカ、パメラ、オリビエ、ヒカルが経営する飲食店であり、キオ達はそれぞれの仕事内容を話していると……。

 

《サラの弱点を探ってほしい?》

 

「そう、試合の時は尻尾が弱点だと分かった。だけど精神的な弱点が必要なのよ!だから協力して」

 

《えぇ〜〜〜〜!?》

 

その後、キオ達は自宅で作戦会議をしていた。

 

「なぁ、どうする?」

 

「アンジュちゃん、本気よ。」

 

「姫さんの弱点は尻尾って分かるけど……」

 

「アンジュの場合はお化けや幽霊……そうだ!!」

 

「キオ、何か考えがあるのか?」

 

「ある。まぁこれは……アンジュやタスクも巻き添いになる。ちょっと皆、これ見て。」

 

キオはオスカー達にある物を見せる。それを見たオスカー達はぞっとし、キオの提案に賛同した。

 

 

 

 

 

 

翌日、キオ達はアンジュとタスク、サラを連れ、古い建造物へと連れてきた。

 

「何……ここ?」

 

アンジュ達が連れられた場所は不気味な病練であった。

 

「え〜〜っと、アンジュがお化け屋敷でサラに再戦したいと言ってきました!」

 

「ハァ!?ちょっと待って!私そんな事言った覚えはないよ!」

 

「まあまあ、それとも……アンジュ。お前お化けが怖いの?逃げるの?このままだとサラに負けるよ♪」

 

「く〜〜〜〜(後で覚えときなさい!このむっつりスケベ!!)」

 

「ほぉ……アンジュはお化けが。ウフフ、これは楽しみですね♪」

 

「なっ!!く〜〜っ!!(このままだとサラ子に負ける!ここは我慢だよ!私!!)」

 

アンジュは決意し、キオ達と一緒に病練の中に入る。そして外で待っているオスカー達は早速準備を進めるのであった。

 

 

 

 

 

館内は不気味であり、壁や天井、そしてボロボロの車椅子、輸血キットが転がっていた。キオ達は不気味な病練の廊下を歩く。キオとサラとタスクは用心深く進むが、肝心なアンジュタスクにしがみ付き、怯えながら歩いていた。

 

「(予想通り♪)」

 

キオはそう思い、インカムを起動し、待機している仕掛け人に命令する。

 

「始めてくれ。」

 

通信を聞いた仕掛け人は位置に着く。キオ達が廊下を進んでいくと、物が落ちてくる。

 

「「「!!」」」

 

「ヒヤァァァッ!!!?」

 

三人の内キオだけは驚くフリをするが、アンジュは予想通りの悲鳴を上げる。

 

「あら?アンジュ、怖いのですか?」

 

「こ!怖くないわよ!!ちょっと驚いて悲鳴上げただけよ!」

 

「「(絶対に怖がっている…)」」

 

キオとタスクは呆れるが、本当の恐怖はまだ先であった。そして医療品がある部屋、病室、手術室、人体実験室、薬品室、診察室、廊下、化粧室、ロッカールームから病練で亡くなった怨霊達(仕掛け人)がキオ達を怖がらせて行く。そして、最後のとどめである『霊安室』へと辿り着く。キオとサラ、タスクは落ち着いているが、肝心なアンジュは冷や汗かきながら青ざめた表情していた。

 

「アンジュ大丈夫?」

 

「もう無理……ごめんなさい…もう許してください…」

 

異常になる程の謝罪に流石のタスクも心配する。

 

「ちょっとやりすぎたなぁ。タスク、リタイアのドアはこの廊下の先だ。」

 

「分かった。」

 

「俺とサラは……このまま続行する。」

 

キオとサラはそう言い、霊安室の中へと入って行く。

 

 

 

 

 

 

 

気分が悪く、目を回しているアンジュを外へ運んできたタスクはアンジュを落ち着かせていると。

 

「イヤァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!」

 

「っ!?」

 

出口の方から男女の悲鳴が聞こえ、タスクは慌てて駆け付けると、出口から涙目のサラと慌てるキオが出てきた。

 

「え!?」

 

「ハァ!ハァ!ハァ!サラが突然驚いて、仕掛け人の中を針に糸を通すかのように逃げたんだ。」

 

「だって!…だって〜〜!」

 

「何を怖がったんだ?」

 

キオはサラに問う。そしてキオは中へと入り、確かめる。

 

「あ!これか!」

 

キオが何かを見つけ、ゴミ拾い用のトングで素早く動く“あれ”を一瞬で捕まえる。そして“あれ”をタスクとサラに見せる。

 

「これに驚いて悲鳴を上げたんだな?」

 

それはこの世とは思えなく、男性や女性が嫌う“あれ”(平気な人は呆れる)がカサコソ動く。

 

「イヤァァァ〜〜〜〜!!!!!!それだけは絶対に嫌ぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

サラが“それ”を見て、表情がホラーな顔へとなり、自宅へともうスピードで飛び逃げるのであった。

 

「サラマンディーネさん、凄い逃げ方しましたね。」

 

「あぁ……そこまで“G”が非常に苦手だったとは。」

 

キオはGを見る。そして自宅では頭隠して尻隠さず、シーツで身を隠している筈のサラはGが来ないか刀を持って警戒していた。

 

「サラ…いる?」

 

 

 

ガタガタガタガタガタガタガタガタ!!!!

 

 

 

予想以上にサラの身体が震えていた。よっぽどGが苦手らしいと分かり、何でGが苦手なのか問う。サラが言うには、幼い頃、まだ幼いキオと一緒にウルで探検をしていたところ、キオが誤って上にぶら下がっていた蔓を引き、木の根から大量のGが雨のようにサラへと降り注ぎ、彼女の体にはGが纏わりついていた為、彼女にとって『G』は最大の敵であり、トラウマを呼び起こす元凶になったと。それを聞いたキオは呆れ、笑い転げるのであった。

 

「ハハハハハ!!!!」

 

「も〜〜!笑わないでください!」

 

「ご!ごめん!!!で!でも!以外だった!まさかサラの弱点が尻尾とゴキブリだったなんて!……アハハハハハハハ!!!!!」

 

「元はと言えば苦手なったのはキオのせいですよ!」

 

「ごめんごめん……ハァ。…………あ、サラ!Gがいる!!」

 

「えっ!!?」

 

キオの指差す方向にサラは振り向く。壁の端にGが二匹おり、サラの表情がホラーへと変わる。

 

「せぇぇぇぇぇぇぇばぁぁぁぁぁぁぁい!!!!!」

 

サラは悲鳴を上げながら、自宅で刀を振り回す。これを克服するのは……無理であろう。



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番外編06:父と子

これが本当のエピローグじゃ!!


三週間が過ぎ、キオとサラはアスベルとアデルのオムツを取り替えていた。アスベルはサラ似であり、アウラの民の特徴である赤色をした翼と尻尾をしていた。アデルの方はキオにであり、テレシアの特徴である白色の翼と尻尾をしていた。アスベルの方はやっぱり母親似でいつもにこにこしており、アデルは父親似でいつもうるうるしている。キオとサラは嬉しそうなのか嫌そうなのか分からない子供達を見て幸せになっていた。キオは約束通り、彼の元を訪ねる事になる。キオはフォートレス・モードのグノーシスと焔龍號・破壊ノ紅月式との連結をし、アスベルとアデルをそれぞれの機体に乗せ、次元跳躍をする。

 

 

 

 

 

空間が歪み、到着した場所はクアンタ帝国が支配している宙域『ガドメルス宙域』であった。キオの目と鼻の先には、翡翠色に輝く惑星、クアンタ帝国の中枢国家『神聖クアンタ帝国』があり、キオの恩師でもあるクアンタ帝国元皇帝『勇人・ブリタニア・クアンタ』がいる星でもあった。キオは次元跳躍を使い、クアンタ帝国帝都『天月』上空へと跳ぶ。すると上空を飛行していたクアンタ帝国主力機部隊が検問をしにやって来た。

 

『未確認機へ。安全な周波数帯域を使用して、セキュリティコードを発信してください。送信を待ちます。』

 

通信機から天帝軍兵の問いに応じ、キオはデータカードを装着し、セキュリティコードを入力し終える。

 

『更新確認完了。キオ・ロマノフ、クアンタ帝国を代表して貴方を歓迎します。』

 

『ドッキング・ベイ5、クリア。グレイシア宮殿に向かって進んでくれ。お帰り、キオ。』

 

主力機の案内を元に、宮殿に赤と緑のランプが点灯する。キオ達は発着場に着陸する。キオはグノーシスから降り、こちらに来ている兵士に話しかける。そして中にいるサラに丸サインをヂェスチャーし、サラはカプセルからアスベルとアデルを出し、キオと一緒に宮殿内へと入る。

扉が開き、謁見の間へと入るキオとサラ、目の前の玉座に現皇帝である勇人の長男『一輝・ブリタニア・クアンタ』と現皇妃『シレーヌ・ブリタニア・クアンタ』、そして一輝皇帝の弟であるクアンタ帝国公爵『ロビン・ブリタニア・クアンタ』と公爵夫人『アイナノア・ブリタニア・クアンタ』がいた。キオは皇帝達の前に膝まづき、挨拶する。

 

「皇帝陛下……何用でございますか?」

 

「…………キオ…落ち着いて聞け。我が父“勇人・ブリタニア・クアンタ元皇帝”……亡くなられた。」

 

「っ!!?」

 

一輝の言葉に、キオは驚く。そしてキオは棺の中にいる勇人を見る。

 

「お師匠…………」

 

キオはあまりのショックで腰が抜けてしまう。偉大なる恩師が今、この棺の中に眠ってしまった事に……。サラはキオの恩師である勇人を見る。

 

「貴方が、瀕死であったキオを助けてくれたのですね。」

 

サラが棺に入っている恩師に泣き崩れるキオをそっと抱く。

 

「泣いていては、始まらない。ですが、彼らが作り、与えられた命を無駄にしていけません。」

 

「……う……うう……」

 

キオはサラの言葉にさらに泣き、宮殿内を轟かせるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

翌日、帝国民達が宮殿の周りに集まり、葬式が始まっていた。前列の人達が棺の中に宇宙中の花々を添え、天帝軍兵達は機体から降り、敬礼したり、空に向かって粒子ライフルや軍刀を突き付けたり、発砲していた。皇帝陛下方々は自分たちの子や親戚達と共に泣いていた。そして勇人の遺体が入っている棺を火葬し、キオとアスベルとアデルを抱いたサラは深く祈る。一泊二日の滞在を終え、キオとサラは帰る支度を済ませていると。

 

「キオ…」

 

「皇帝陛下…」

 

「渡したい物がある。付いて来い。」

 

一輝はキオをある場所に連れて行く。

着いた場所は宮殿の地下深く、周りには七人の戦士達の像と七つの聖剣が台座に刺しこまれており、その中心点が射す光に、大太刀が置かれていた。

 

「師匠の刀…………」

 

「キオ、それはもうお前の物だ。」

 

「え?」

 

「……親父が死ぬ間際に言っていた。“もし、キオがここに来たときに言ってくれ。神刀 スサノオをお前に渡すと”……」

 

「師匠が……これを!?」

 

「あぁ……死ぬ前に、スサノオを弟子であるキオに渡してやりたいと、先祖代々伝わる神刀 スサノオをさらに打ち直し、お前が扱える程の武器にしたのだ。その剣には代々受け継がれて来た七人の戦士と七人の力が思い込められている。今のお前なら、上手く使いこなせることができる……これは、師匠からの遺言だ。」

 

一輝の言葉に、キオは驚きを隠せなかった。キオは決意を胸に、神刀を鞘から少し抜き、呟く。

 

「…………金打。」

 

武士としての堅い約束『金打』をし、サラの所へと戻る。地球へと戻ったキオは自宅へと戻ろうとすると、近くの海辺へと行く。

 

「………………」

 

キオは心を無にし、鞘からスサノオを抜刀する。刀身が銀河の様に輝き、青白いオーラを放つ。キオは修行の成果を天国にいる恩師に見せるかの様に、奥義を放つ。

 

「ブリタニア流神極奥義…………【覇神】」

 

キオは海に目掛けてスサノオを振り上げた。すると大地が揺れ、海原が荒れ、風が吹く。そして一気にスサノオを振り下ろすと、雲と海が裂き、モーセの様に道が切り開かれた。キオは静かにスサノオを納刀し、空を見上げる。裂いた海によって、海水の雨が降り虹が出てくる。雲が消え、綺麗な青空が広がる。風も静かに吹き、キオは一筋の涙を流し、空に向かって呟く。

 

 

 

 

「今まで………………ありがとうございました。大恩師 勇人・ブリタニア・クアンタ元帥…………」

 

 

 

 

 

 

────トゥルーエピローグ──── END

 




はい!ようやく因果律の戦士達 ついに完結いたしました!!



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