美少女ゲーム大好き女の私が、ゲームの主人公になっちゃってさあ大変! ~しかも記憶や知識がそのままだから百合ハーレムです~ (楠富 つかさ)
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プロローグ
真っ暗な部屋に灯る青白い光、パソコンのディスプレイから発せられるものだ。その光が照らすのは、一人の少女。パソコンから流れるゆったりとした曲と澄んだ女性の歌声を聞きながら、事務椅子の背もたれに寄りかかって大きく伸びをする。机に肘をつき再びパソコンの画面を眺める少女。パソコンの光で、彼女の顔つきが明らかになる。
やや幼いその整った顔には、優しげな瞳や程よい高さの鼻、潤いに満ちた唇がきれいに配置されている。綺麗な黒髪は高めに結い上げられ、甘い顔つきに僅かながらに凛とした印象を与える。
そして、ディスプレイに映されるのもまた、少女だった。
現実にはありえないであろう美しい銀髪とアイスブルーの双眸、それらを決して冷たいものと思わせることない人間味ある暖かな表情。精緻と呼ぶに差し支えないバランスのいい体躯。そんな少女が満面の笑みを浮かべている。そしてその身に纏うのは純白のウェディングドレス。胸元と背中の空いた清純でありながら扇情的な装い。そんな彼女に微笑みかけながら、少女はふと口を開く。メゾソプラノの可愛らしい声だ。
「やっと終わった…。ついに、これで真(トゥルー)ルートが解禁される…。とはいっても、徹夜三連続は死ぬね。明日から高校だし、寝ようかな」
彼女が夜通し興じていたのは美少女ゲーム。またの名をギャルゲー。しかもR18の一品。つまるところのエロゲーだ。そもそも十八歳以上を対象としたゲームを未だ15歳である彼女が手に入れ、そしてプレイするには相応のロジックがある。入手するためには、6歳年上の兄に頼み込んで、買ってもらっているのだ。しかも新作一本一万円近い価格は全て兄が負担している。とはいえ、元々は二年前に彼女の兄がひょんなことから、パソコンを妹に貸してしまったことが原因だから、兄からすれば自業自得なのだ。いわゆる親への口止め料としてしぶしぶ兄は従っている。
「せめて、シャットダウンくらい……ふわぁあ……しなきゃ……ね」
エンターキーを押そうとしたところで、彼女――結城(ゆうき)柚花里(ゆかり)――の意識は途絶えた……。そして、ホームメニューに戻っていたゲーム画面には。
〈ようこそ、私たちの世界へ。幸せに、してくださいね♪〉
刹那、蒼白い光が部屋全体を包み込む。光が収束した時にはパソコンの画面は何も表示しておらず、部屋の主である柚花里の姿もそこにはなかった。
この物語は、エロゲーを愛し、エロゲーに愛された彼女がエロゲーのトゥルーエンディングを実体験する百合色に満ちたハーレムストーリーである
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第一話 憧れた風景
「――ちゃん、柚花里ちゃん、起きて」
ん? あ、今日から高校生なんだ。起きなきゃ……。あれ? 私……ベッドで寝たっけ? というか、部屋が……違うような……。
「起きたかな? まったく、私の妹はこんなにお寝坊さんだったかなぁ」
女の人の声……聞き覚えのある……ん? 妹って言ってた。兄はいるけど……姉?
「朝御飯できてるよ。もぅ、急がなきゃ遅刻するよ?」
とうとう部屋の扉が開けられて、一人の女性が顔を覗かせる。その人の顔は、あまりに見覚えがありすぎた。
「汐里ちゃん! な、なんでここに?」
彼女の名前は
ちなみに、ゲームでの主人公の名前は縁(えにし)。由来は私の名前、柚花里の漢字違いの縁(ゆかり)から。結構気に入って毎回使っていたんだけどなぁ。ていうか、今はそんなこと考えてる場合じゃなくて……。
「なんでって? 大学ならまだ休みだし……ま、いいわ。寝ぼけていたのよ。さ、朝御飯にしましょ」
そう言って部屋を出ていく汐里ちゃん。あぁ、振り向く時に揺れるあの胸……たしか……Fカップだっけかな。別に、羨ましくないし。まぁ、さすが一部のメインヒロインより人気のあるサブキャラって感じ。リメイクしたら絶対に攻略キャラになるんだろうな……。って、そんなこと考えてる場合でもなくて……。ここが現実? 夢じゃない? これ……18禁のゲームなんだけど私の貞操は大丈夫なのかな……。まあ、相手も乙女だ。気楽にいこう。夢かもしれないし。
「お腹が空いてちゃ話にならん。取り敢えず朝御飯だ!!」
あぁ、ゲーム画面で憧れた朝食の風景だ……。上げ膳据え膳だよ。今まで朝から晩まで家事をしてきた私には嬉しすぎる。ほっかほっかのご飯に、豆腐とお揚げの味噌汁。卵焼きとかまぼこ……。いい朝だ。
「いただきます!!」
まずは味噌汁、あぁ……美味しい。染みるわぁ。次は卵焼きとご飯を同時に。こっちも美味しい! ほんのり甘い卵焼きが、ちょうどいい! ご飯もちょっぴり柔らかめで、美味しく炊き上がってる。さすが汐里ちゃんだぁ。
「私に義兄ができたら、その人は世界一のラッキーボーイだろうね」
不意に口をついた一言に、汐里ちゃんが頬を染める。もう、初々しいんだから! 理性が揺らぐね。
「柚花里ちゃんだって、美味しい洋食作ってくれるでしょう? お菓子も。私は…朝御飯くらいしかね?」
あれ? こんな会話はゲームにはない。そもそも、縁は料理ができない。つまり、この世界は私と縁が入れ替わった世界? それが少しずつ変化をもたらしているのね。まあ、もとから汐里ちゃんの料理は和食ばかりだったけど。
「こんな朝御飯なら、一日中幸せだもん。ご馳走さま」
「ありがとうね柚花里ちゃん。お粗末様です」
なんとも甘酸っぱい空間から逃げるように、私は制服に着替えるためにリビングを出た。部屋に吊るされていた制服の内ポケットには、茜屋柚花里の名前が可愛らしい字で書かれていた。きっと、汐里ちゃんの字だろう。
コスプレで着ようと何度も思った、私立
「よし、いいじゃん!」
カバンを持って部屋を出る。そのまま階段を駆け降りて玄関に向かう。
「行ってきます!」
「行ってらっしゃい」
ある意味いい高校生活を送れそうな気がする! 現実の地味な公立高校より、ゲーム内の私立の方が楽しそうじゃん!
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