ソードアート・オンライン 〜少年よ〜 (ちゃーもり)
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EP.0 世界へ

初めまして。ちゃーもりです。

未熟者ですが、頑張っていくつもりですのでどうかよろしくお願いします。


2022年人類は遂に──完全なる仮想現実を実現した

 

 

 

2022年11月6日、その仮想世界──VRゲーム、ソードアート・オンラインの正式サービスが始まる。

 

そして、その世界に一人の少年が降り立とうとしていた

 

◇◆◇

 

 

ピピピ………

 

 

暗い視界の中、耳障りな音が脳内に響きわたる。

 

俺は完全に眠気の取れない脳と体を起こし、ベッドに腰掛け大きなあくびをしてからゆっくりと起き上がる。

スマホで時間を見てみればもうすでに11時半を回ろうとしていた。

 

今日は遂に待ちに待った日だ。そんな日を寝過ごしてしまったなんてなったらたまったもんじゃない。

 

そんなことを考えながら俺は部屋を後にして、1階のリビングへと向かう。

 

1階に降りると炒飯の香ばしい匂いが漂い、この時間となればもう既に昼飯が出来上がってる頃のはずだ。

そしてその香ばしい匂いを堪能しながら戸を開ける。

 

「もう11:30だぞ?今日はやけに遅起きだったな」

 

扉を開けると、台所からよく通る低い声が聞こえた。

そちらに目を向けると、食器を洗っている俺の実の兄の姿があった。

 

「ついつい夜遅くまで調べ物してたからな…」

 

「どうせ、SAOの事だろ?全くお前飽きねぇな…」

 

そう。昨日は待ちに待ったソードアート・オンライン正式サービス間近という興奮が抑えきれずにずっとネットを見ていた。

そして気づけば寝落ちをかましていて、この時間まで寝ていた訳だ。

 

「そういう兄貴だって楽しみで仕方ないんだろ?」

 

「まぁな。なんたって今日が正式サービスなんだからな」

 

今日は2022年11月6日、SAOの正式サービス当日。

今か今かと1万人という多くのプレイヤーが待っている事だろう。

 

「それよりもだ、時間までは少しあるんだから飯さっさと食っちまえよ」

 

「あいよ………そういえば…二人共仕事か…?」

 

席につき、スプーンに載せた炒飯を頬張りながら二つの空席を眺める。

 

「あぁ、親父もおふくろも仕事だとよ」

 

俺達の両親は共働きの為、昔から家を空けることが多かった。

だから、俺の面倒は昔から兄貴が見てきてくれた。

まぁ……家族の仲は悪いわけじゃない。というかむしろ……両親はラブラブ夫婦だ。

そんな両親から俺はナーヴギアとSAOのソフトを買ってもらったので文句なんて言えない。

 

「いいよなぁ……兄貴はβテスト当選したんだからさ」

 

「なぁに……ただ運が良かっただけさ………あと気合い」

 

ドヤ顔でそう言う兄貴はたった1000人という枠しかないSAOのβテストに当選した。そして、俺は落選という結果だった。

兄貴からβテスト時の話は色々聞いたはしたが実際に自分の目で見てないので、遂に自分の目で完全なる仮想現実を見れることが楽しみでたまらない。

 

「兄貴はソードスキルの発動の仕方とか色々知ってんだろ?」

 

「気合いって所無視かよ…………まぁ、伊達にβテスト時に6層まで行ったわけじゃねぇからな」

 

「あんなにやり込んでた兄貴でさえ2ヶ月で6層か………」

 

兄貴からSAOはとてつもなくハードなゲームだと聞いていた。それに、βテストに当選した1000人の中にはレベリングの仕方もわからないという初心者が相当多かったらしい。

 

「俺の知ってる奴の1人に8層まで行った奴がいるぞ。アイツは俺らとは明らかにレベルが違ったよ」

 

 

「へぇ……そんな凄いやつがいたのか……当然正式サービスの時に会うのが楽しみだ」

 

生粋のゲーマーなら自分よりもレベルの高いプレイヤーが入れば当然対抗心が芽生え、勝ちたいと思ってしまうものだろう。

俺もその類だ。そんなすごいプレイヤーがいるなら俺も負けずに上へと上り詰めたいものだ。

 

俺達はSAOへの楽しみが抑えきれず、あれこれと話し込んでいて気が付けばもう既に正式サービス開始15分前となっていた。

 

「っと………もうこんな時間か。そろそろ正式サービスぴったしにログインできるように準備するか」

 

そう言って兄貴は食器を持ちながら椅子から立ち上がり、流し台に食器を置く。

それを確認すると兄貴と一緒に俺はリビングを出て二回へと登っていく。

 

「ログインしたら転移門の所に来い。フランって名前のアバターを探せ。それが俺のアバターネームだからよ」

 

兄貴は部屋の前でそう告げると部屋へ入っていった。

 

そして俺も自分の部屋へと入り、ナーヴギアを取り出す。

ベッドに横たわり、ナーヴギアを被ってその時を待つ。

いよいよだ。いよいよ待ち焦がれていた仮想世界に行ける。

 

正式サービス開始の時間へと刻々と近づきそれに比例するように俺の高揚感も高まっていく。

あと数分が待ち遠しい。1秒1秒が長く感じる。

 

12:58…

 

どんな凄いプレイヤーがいるのだろうか。

 

12:59…

 

どんな美しいフィールドが存在するのだろうか。

 

残り30秒

 

どんな強いモンスターがいるのだろうか。

 

3秒

 

どんな戦いが広がっているのだろうか。

 

2秒

 

どんな武器がどれだけあるのだろうか。

 

1秒

 

どんな出会いが待っているのだろうか。

 

13:00

 

正式サービス開始。

 

ついに始まった。その瞬間、俺は目を閉じ、まだ見ぬ世界への希望を胸に、現実と仮想を繋げる呪文を唱える。

 

 

「リンクスタート!!」

 

現実世界から仮想世界へと誘うその言葉と共に、視界が一瞬白くなり俺の意識は自身の体から離れていった。

 

ここから俺の物語が、戦いが始まるんだ!

 

 

 

 

 

 

​───────俺達はまだこの時、ソードアートオンラインはただ遊びのゲームだと勘違いしていた。




誤字等がありましたらお気軽にご連絡ください。

ご感想もお待ちしております。


どうか今後よろしくお願いします


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EP.1 始まりの鐘

今回からソードアート・オンライン本編に入ります。




Welcome to Sword Art Online!

 

 

目を開けば何も無いエリアに俺は立っていた。

 

『アバター設定を行ってください』

 

SAOの世界で使用する事となるもう一人の俺自身の容姿等を決めろってことか。

 

特に容姿にこだわりもない俺は迷わず、ランダム設定をタップする。

容姿なんてどうでもいい。早くSAOの世界へ連れてってくれ。今の俺にはそれで頭がいっぱいだった。

 

『アバター設定はランダムとなりました。それでは、心ゆくまで楽しんでください』

 

そのアナウンスと共に俺の視界は再び真っ白となり、咄嗟に目を瞑った。

 

 

 

そして、目を開けばそこには俺の待ち望んだ世界が広がっていた。

 

アインクラッド第一層

始まりの街

 

俺が今立っているのは全てのプレイヤーが最初に訪れる事となる、始まりの街の中央広場。

そこは石造りの床と石の支柱に囲まれた広場だ。

そして、俺はふと空を見上げる。そこには現実と何ら変わりのない青く澄んだ大空が広がっていた。

太陽が街を照らし、影をおとす。

想像していた以上に言葉にならないくらい美しかった。

 

(これが……仮想世界……)

 

遂に人類が到達した仮想世界という物の世界に圧倒されてしまう。

まさに圧巻の一言に尽きる。寧ろその言葉がこの世界のためにあるようにも感じれる。

そして周りを見回すと俺と同じようにキョロキョロと周囲を見回すプレイヤー、真っ直ぐにフィールドへ走っていくプレイヤー…等様々だ。

 

俺自身もフィールドへと突っ走っていきたいところだが、兄貴と約束していたことを思い出し、再び周りを見渡す。

 

そういえば兄貴は転移門に来いって言ってたな……

広場の中央に目をやると、石碑と2本の柱の立つオブジェクトが存在していた。

恐らくそれが転移門だ。兄貴もそこにいるはずだ。

俺は迷わずそこへを足を進める。歩く度に現実と変わらない重力、地面を踏みしめる音、ブーツの感触を味わい改めてこの世界の凄さを実感する。

 

転移門に着くと、柱に体重を預け余裕のあるオーラを放つプレイヤーがいた。そのプレイヤーにカーソルを合わせるとFLANというネームが現れる。

その人物は確かに兄貴の示した名前そのものだ。

 

「兄……貴…か?」

 

その人物は現実とかけ離れた超超が付くほどのイケメンだ。

リアルの兄貴の顔が脳裏に浮かんでしまい違和感がとてつもなくこみ上げた。

 

「おう。俺がフランだ。後、この世界で兄貴は止めろ。ここではキャラクターネームで呼べ」

 

「お、おう。えっと…フラン?」

 

「おし。それでいい。そういうお前は………セイジ……か」

 

そう言うとフランはどこかニヤニヤした顔で俺を見つめる。

 

「お前………なんか現実と似てんな。それにお前……キャラクターネーム、本名からもじっただけだろ」

 

「わ、悪いかよ!」

 

容姿はランダム設定にしたが、どうやらリアルの姿と似ていたようだ。それに確かに名前を決めようにもなかなかいいものが思いつかなかった為に単純に本名をもじったものにした。

 

「いいや。なんかお前らしいなって」

 

そう言ってフランは笑い飛ばし、フランはメニューを操作すると、俺の手元にもメニューが現れる。

 

『フランからフレンド申請が届いています。承諾しますか?』

 

俺は迷わずYesというボタンをタップする。それを確認したフランはメニューを閉じ転移門から少しだけ歩き出し、俺もそれについて行く。

 

「それじゃ、RPGの醍醐味……モンスター狩りといきますか」

 

「おう!!」

 

◇◆◇

 

街を囲む城門を潜れば、そこには大地を満遍なく覆う広大な草原のエリアが広がっていた。

 

「すげぇ……」

 

「だろ?けど凄いのはこれからもっと沢山ある」

 

元βテスターの兄貴と違って初心者の俺にはこの世界は未知の世界だ。驚きはもっとこれからだ。

見渡せばちらほらと既に狩りを始めているプレイヤーの姿が見てとれる。

 

「他のプレイヤーもどんどん増えてくるぞ。このフィールドが埋め尽くされる前にじゃんじゃん狩りまくるから、取り残されんなよ!」

 

そう言ってフランは初期装備に選んでいたであろう槍を構えフィールドを駆け抜ける。

俺も負けじまいと初期装備の片手剣を取り出しフランの後を追いかける。

 

フランはこの世界最弱であろうモンスター…青いイノシシの近くで立ち止まる。

 

「こいつがフレンジーボアだ。初心者の経験値稼ぎのカモだ」

 

「確かこいつはこっちから攻撃を仕掛けない限り敵対しないmobだよな」

 

SAOにはプレイヤーが攻撃しない限りプレイヤーには反応しない中立mob、プレイヤーを見つけるとすぐさま敵対してくる敵対mobが存在する。

このフレンジーボアの場合は前者だ。

 

「そういう事だ。こいつ自体はさほど強くもないから練習にはうってつけってわけだ。とりあえず最初に手本見せてやるからよく見とけ」

 

フランは落ちている石を拾い、それをフレンジーボアに向かって投げつける。

 

システムアシストを受けた石は真っ直ぐに飛んでいき青イノシシの体に小さな赤いダメージエフェクトを残す。

 

「プギィ!」

 

ダメージに反応した青イノシシはフランを敵と認識し突進の構えをとる。

そして勢いよく青イノシシはフラン目掛けて突進する。それをフランは何の造作もなく交わし、急ブレーキをかけた青イノシシに対して槍を突く。

突きを食らって、青イノシシは一瞬怯みはするが、迷わずフランへと再び突進する。

フランは槍を横に持ち、その柄で青イノシシの突進を受け止める。

それでもなお、押し勝とうと青イノシシは踏ん張るがフランはびくともしない。

 

「そらよ!!」

 

フランは踏ん張っている青イノシシを下から蹴り上げ奴の動きを止める。

今の蹴りは純粋な攻撃とは認識されない為ダメージ判定はない。だがノックバックは発生するため相手の動きを止める手段として有効だ。

そして、フランは槍を中段に構える。すると槍の刃は淡い光…ライトエフェクトを纏う。

その時俺はこれがソードスキルなんだと悟った。

 

「これがソードスキルってやつだ」

 

両手槍ソードスキル

『ソニックチャージ』

 

瞬間、目にも留まらぬ速さでフランが動き鋭い突きがフレンジーボアを襲う。

その突きはフレンジーボアの体を貫き、奴のHPバーは空になる。

その瞬間青イノシシはポリゴン片と化し、四散した。

そして、フランの手元に経験値、コル入手を知らせる画面が現れる。

メニューを閉じ、フランは槍を収めながら俺の方を見る。

 

「セイジ、次やってみろ」

 

「おう!」

 

俺は近くにいるフレンジーボアに対し、さっきフランがやったように石ころを拾い投げる。

それに反応した青イノシシはこちらへと向き直り突進の構えをとる。

するとブルルと鼻息を荒くしながら青イノシシは俺目掛けて一直線に走ってきた。

 

「よっ!」

 

俺は冷静に横へと回避し、すれ違い様に青イノシシへ一振り傷を付ける。

真横からの衝撃でバランスを崩した青イノシシは躓き倒れる。

 

フレンジーボアの見せた隙を俺は見逃さない。ここしかない、その瞬間俺はフランの見よう見まねで片手剣をスっと構えライトエフェクトを纏わせる。

 

片手剣ソードスキル

『スラント』

 

一瞬の出来事だった。気が付けば俺の剣はシステムアシストにより、フレンジーボアへと吸い込まれるように動いていた。

 

そして振り返ればそこにはポリゴン片となり砕け散るフレンジーボアの姿。

 

これが…ソードスキル…。従来のRPGには魔法等が多く存在する。だがこのSAOには魔法たるものが存在しない。その代わりとしてソードスキルという切り札…必殺技のようなものが存在している。プレイヤーがソードスキル発動の為のモーションを取ればそれにシステムが反応しシステムアシストによる自動攻撃が可能となる。無論、その攻撃力は通常の攻撃とは比べ物にならない。その反面、ソードスキルを発動させればその後硬直状態になる。

この世界ではこのソードスキルをどう使い分けるかによって勝敗を決すると言っても過言ではない。

そんなソードスキルを初めて発動させた俺の興奮度は言葉に出来ないほど高まっていた。

 

「見事なもんだな。たった1回見ただけでソードスキルを発動させるなんて。若しかしたらお前この世界で大物になれるかもしれん」

 

「そうなれるよう努力するよ」

 

拍手をしながら兄貴は大袈裟な世辞を言う。だが俺はこの程度じゃ満足しない。俺はフランや例の凄腕プレイヤーの到達出来なかった更なる高みまで駆け上って行かなくちゃいけないんだから。

 

「無論…………このまま狩りを続けるだろ?」

 

「んなこと聞かなくたって当たり前だろ」

 

そして俺達は近場にいるモンスターに狙いを定め走り抜ける。

 

 

◇◆◇

 

現実世界に日の昇る昼、月の昇る夜があるようにこの世界にも昼夜という概念が存在する。

あれから俺とフランはフレンジーボア相手にひたすら戦闘の練習を繰り返し気が付けば夕暮れ時となっていた。日が地平線の半分まで姿を隠し空を鮮やかなオレンジ色に染め出している。

現実みたいな無駄な建物が無く、ただ草原に囲まれたこのエリアではその光景がとても美しく見える。

 

「茅場晶彦………こんなにすげぇ世界を仮想世界で実現させるなんてとんでもない天才だな」

 

「全くだ。4、5年前まで仮想世界なんて想像もつかなかったよ」

 

仮想世界が実現される前は擬似的なVRゲームやテレビゲームしか無かった。いざSAOが始まって体験してみればこのクオリティは今までのゲームには無いものだった。

 

「そろそろ夕飯の準備しなきゃな。親父もお袋も帰ってくる頃だし」

 

「もうそんな時間か……フランも夕飯を食ったらまたログインするんだろ?」

 

「あぁ。そろそろレベルも頃合だし次の街でも目指すさ」

 

俺達のレベルはあれからだいぶ上がった。フレンジーボアはさほど強くもなければ経験値もそんなに多くもない。だが塵も積もれば山となる。数十匹と俺らはフレンジーボアを狩ってきたためそれなりに上がっている。そしてこのアインクラッドを攻略するならずっとこの場所にとどまっている訳にはいかない。だから俺達は夕食後には次の村を目指す。

 

「俺は先に上がって飯でも作ってるけどお前はどうする?」

 

「俺はもう少しだけイノシシ狩りでもして経験値稼いどくよ」

 

「了解」

 

そう言ってフランはメニューを開く。そして、首を傾げた。

 

「どうしたんだ?」

 

「いや……ログアウトボタンが…ねぇんだ」

 

「は?」

 

フランはいったい何を言ってるんだ?そんなことあるわけないだろと俺もメニューを開く。

メニューの1番下の項目を開き、ログアウトボタンを探すがどこにもない。

 

「確かに無い……」

 

「だろ?」

 

ログアウトボタンが無い。そんなバグが見つかれば運営側からすれば大問題だ。

 

「GMコールしてみるか」

 

フランがメニューからGMコールのボタンを押すが反応はない。

 

「ちっ……こっちも駄目か。ナーヴギアの回線を切るのも無理か」

 

フランの言うようにナーヴギアのマニュアルには緊急切断方法は一切書かれていなかった。

つまり自力でナーヴギアを外す、若しくは電源を切ることは不可能ということ。

俺らの場合は両親が家に居るため、第2者に回線を切ってもらうことは可能だが。

 

だがこんな状況俺らの前に誰かしら気づいているはずだ。そんな彼らがGMコールしその対応に手詰まっているという可能性も否定はできない。もしそうであればプレイヤー全員を一斉に強制ログアウトさせ緊急メンテナンスを行うなど対応をとってもいいはずだがそんな気配は一切ない。

 

「なんか変じゃないか?」

 

「フランもそう思うか?こんなのただ事じゃ………」

 

 

ゴーン…ゴーン

 

俺の言葉を鐘の音が遮り、俺は咄嗟にフランの方を見たが、その時は既に俺の体もフランの体も青い光に包まれていた。

 

◇◆◇

 

青い光が消え、辺りを見回すとここはほんの数時間前に俺達プレイヤーが最初に訪れた始まりの街の中央広場だった。

それに加え異様なのは数え切れない程のプレイヤーの姿があった。

 

「強制転移…」

 

横でフランがそう呟く。それならこの広場にいるプレイヤー達にも納得がいく。

恐らくこの中央広場に全プレイヤーが強制的に集められた。そう考えるのが自然だろう。

 

そして、どこからかエラー音のような音が聞こえ俺とフランは上空を見上げた。

 

「おい……セイジ、あれ………」

 

そこには《Warning》という文字が浮かび上がった。途端、その文字は中央広場の空を赤く染め上げ、血のような液体がドロリと流れその液体は数メートルはあろうローブを着た人型を形成する。

だがそのローブの下に顔は見えず、その姿には1種の恐怖さえ感じる。

そしてそのローブは誰も想像していなかったであろう言葉を放った。

 

『プレイヤーの諸君。私の世界へようこそ』

 

私の世界………?コイツがこのアインクラッドの主だとでも……?

 

『私の名前は茅場晶彦。今やこの世界をコントロールできる唯一の存在だ』

 

茅場晶彦……だと?彼は仮想世界を創造したSAOの神とも言える存在だ。確かに彼ならこのアインクラッドの主とでも言えよう。

 

『プレイヤー諸君の中には、ログアウトボタンが無い事に気付いている者もいるだろう』

 

その言葉を聞いた瞬間、俺はこのSAO開発者本人からのこの状況についての説明と謝罪があるのだと思って胸をなで下ろした。

​───────が、次に放たれた言葉に俺はその考えを裏切られることとなった。

 

『これはバグではなく、ソードアート・オンライン本来の仕様である』

 

本来の仕様……?現実世界に帰るためのログアウトボタンが無いことが仕様だと?それじゃ俺達は現実世界に帰れないってことなのか……?

 

「なぁ……兄貴……俺ら閉じ込められたってことなのか……?」

 

「考えたく無いが……その答えは茅場晶彦……本人が説明してくれるだろうよ」

 

フランの声と顔には焦りと戸惑いが混じっていた。確かにこんな状況で冷静にいられるはずが無い。

 

『よって諸君らによる自発的なログアウトは一切できない。また外部によるナーヴギアの強制ログアウトも出来ない。もしもに外部の人間の手によってナーヴギアが停止、あるいは取り外しが行われた場合…ナーヴギアの信号素子が発する高出力マイクロウェーブが、諸君らの脳を破壊し、生命活動を停止させる』

 

生命活動の停止……それはつまり死を意味する。

そしてそれに付け足すように茅場晶彦もう既に犠牲者は出ており、現実世界で家族や友人がナーヴギアの取り外しを試みた結果死亡したプレイヤーが少なからずいて、そしてその結果死んだプレイヤーは213人に及んでいる。しかしメディアの報道にによってナーヴギアの取り外しによる危険は低いだろうと。

そんな嘘みたいな言葉を信じさせる為か、茅場晶彦は既に報道されているニュースの映像がいくつも浮かび上がる。

 

『しかし、充分に留意してもらいたい。今後ゲームにおいて、あらゆる蘇生手段は機能しない。HPがゼロになった瞬間、諸君らのアバターは永久に消滅し、同時に…諸君らの脳はナーヴギアによって破壊される』

 

それは敵との戦闘でHPがゼロになれば脳を破壊され、現実世界でも死ぬことを意味していた。

ほかのゲームみたいに死んでも死に戻りが出来るわけでもない。

この世界から帰るには第100層に存在しているボスを倒しこのゲームをクリアする他ない。

 

「兄貴………もし俺らのHPがゼロになったとしてナーヴギアで脳を破壊するなんてできるのかよ……」

 

 

「理論的には可能だ………電子レンジと同じ原理さ」

 

『それでは最後に、諸君のアイテムストレージ私からのささやかなプレゼントが用意してある。確認したまえ』

 

俺は何も考えずに言われた通りアイテムストレージを確認する。そこにあったのは回復アイテムや武器なんかでもなければそれは​───────

 

「手鏡…?」

 

そのアイテムをオブジェクト化し、確認するが何の変哲もないただの手鏡だ。

何故こんな物を?

 

 

「うおぁっ!」

 

隣からフランが声を上げ、何事かと隣を見るとフランが眩い光に包まれていた。

そしてこの広場にいるプレイヤーが次々と光に包まれていく。俺も例外なく光に包まれていった。

が、さっきみたいに強制転移させられるわけでもなく、何事もなかったように俺は中央広場に居た。俺だけではなく他のプレイヤーも同様だった。

 

「おい、セイジ無事か?」

 

「あぁ、なんとも…無…い」

 

返事を返しながらフランの顔を見るとそこには普段見慣れている兄貴の現実の顔があった。

あちらこちらからお前は誰だ。男だったのか。など様々な声が聞こえてくる。まさかと思い手鏡で俺は俺自身の顔を見る。

 

 

そこには短髪で歳よりも幼く見える童顔の少年の顔。

 

俺のリアルの顔だ。つまり、全プレイヤーがアバターの容姿から現実世界本来の容姿へと姿を変えられたということだ。

 

『以上でソードアート・オンライン、正式サービスのチュートリアルを終了する。プレイヤー諸君の健闘を祈る』

 

その言葉を残して茅場晶彦を名乗ったアバターは消え去った。

 

そして、この瞬間からただのゲームだと思っていたSAO………ソードアート・オンラインはデスゲームへと変貌した。

 

 

これはゲームであっても、遊びではない。この茅場晶彦の言葉は現実だった。




ご感想、ご指摘、誤字報告等があればお気軽にどうぞ


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EP.2 別れ、出会い、旅立ち

ヒロイン登場です。そして今回から三人称に変わります。


思いもしなかった最悪な状況に貶められたセイジは頭に流れてくる現状の情報、不安、困惑といった物に脳の処理が追いつかずその場に立ちすくむしかできなかった。

 

(最悪だ……)

 

セイジの様に中央広場に立ちすくむ者もいれば膝を付く者、泣き出す者、あるいはいち早くこの広場から去っていく者達もいた。後者の者達は恐らく元βテスターだ。彼らはこの世界での戦い方を知っている。それは彼らにとってアドバンテージであり、ビギナーとの大きな差だった。

そんな中、立ちすくむセイジの手を取り、引っ張り出す者がいた。彼の実の兄であり、この世界においてはセイジが最も信頼のできる人物、フランだった。

 

「セイジ…来い」

 

その言葉をきっかけにセイジは我を取り戻す。

 

「どこ行くんだよ兄貴」

 

「いいから黙って付いてこい」

 

フランは黙り込んだまま、ズンズンとセイジを引っ張りながら中央広場の出口を目指す。

 

そして、ただ引っ張られるセイジの瞳に一人の少女の姿が目に入った。その姿は絶望し、今にも崩れそうな程に脆く悲しく見えた。

 

(あぁ、そうか。この世界には俺みたいに誰かが一緒にいるわけじゃなく一人だけの奴もいるんだ…)

 

こんな最悪な状況の中でもセイジにはフランという家族がいた。しかし、彼とは違いたった一人でこの世界に残された者もいる。

その点で考えればセイジは報われている方だ。

 

ただ無言のまま中央広場を出て、ある程度開けた場所に着くとフランは手を離し、セイジの方へ向き直る。

 

「あの広場に立ち止まってるだけじゃ何も変わらない。だから俺はこのまま次の村へ向かう。だからお前もついてこい」

 

フランはこの世界で戦う選択肢を選んだ。フランの言う通り、立ち止まってるだけじゃ何も進まない。なら進み続けるしかない。この先はただのゲームじゃない。本当に死ぬかもしれない死と隣り合わせの戦場だ。

そんな所に弟を連れていきたくない。弟を死なせるかもしれない。それはフランもわかっていた。しかし、セイジと共に戦うというのはセイジをあの場所に置いていくことなんてできないからこそフランが下した決断だった。

 

───────が、セイジは黙って首を横に振った。

 

「セイジ……?」

 

「悪い…兄貴。先に行ってくれ」

 

(兄貴はこの世界での生き抜き方を知っている。けど俺はそれを知らない。このまま一緒に行けば俺はきっと足でまといになる…それに……)

 

自分のせいで二人とも死んでしまうかもしれない。そんな最悪なパターンを避けるためにセイジは敢えて別行動を取りたいと申し出る。それに、セイジはさっき見た少女の姿が脳から離れなかった。

 

「おい……この状況でお前を置いて行けってか?…馬鹿か!茅場の言葉が本当ならHPがゼロになった瞬間、俺達は死ぬんだぞ!?そんな危険なゲームで単独行動がどれだけリスキーなことなのか分かってるのか!?況してやお前はビギナーだ。俺ら元βテスターとは違ってこの先のモンスターの戦い方を知ってるわけでもない。そんな弟をみすみす置いてけぼりに出来るわけねぇだろ!」

 

しかし、セイジの答えは変わらない。これだけは譲らないと言いたげな真っ直ぐな瞳でフランを見つめる。

 

「わかってるさ。けど、このままじゃ俺は後悔することになるかもしれない。だから……先に行ってくれ。必ず追いかけるから」

 

フランはセイジのその真っ直ぐな瞳を見つめ返す。

そこには昔のようにずっと自分のあとを追いかけてきていた幼い弟の姿はなかった。それどころかそこにいるのはもう自分で物事を決め進もうとしている成長した少年の姿。

 

(いつの間にか……強く成長したもんだな……)

 

その姿に嬉しさを感じるもののどこか寂しさをフランは感じた。

 

「はぁ……勝手にしろ。俺は先に行く。第1層の迷宮区から一番近いトールバーナっていむ街がある。そこで合流だ」

 

「あぁ、絶対に追いつくから、待っててくれ」

 

その力強い返事を受け取ると、フランは踵を翻し、最後に一言だけ告げる。

 

「絶対に………死ぬなよ」

 

それだけ言い残してからフランはその場から駆け抜ける。

セイジはどんどん遠くなってゆく兄の背中を見送り、見えなくなると中央広場へと走り戻る。

 

◇◆◇

 

(さっきの子は……どこだ……)

 

中央広場へと戻ってきたセイジだが、さっき少女がいた場所にはその少女の姿はなかった。

少女の姿どころか少し前まで人で溢れていた中央広場にはちらほらとしか人がおらず、静けさを醸し出していた。

 

(もうどこかに行ってしまったのか……?変なことを考えて自殺なんてしてなければいいけど…)

 

そんな時だった。路地裏からある少女の叫び声がセイジの耳を貫いた。

 

「やめてください!」

 

まさかと思い、セイジはその声のした路地裏方へと走る。

 

「いいじゃんかよ。どうせ俺らはもう帰れねぇんだ。だったら死んじまう前に俺らと楽しい事しようぜ?」

 

駆け付けてみればそこには腕を掴まれ壁に押し付けられているさっきの少女の姿があった。

そしてその周りを数人の男が囲んで、汚らしい笑い声を上げている。

 

(こんな時にでも………ろくな事を考えないクソ野郎はいるもんだな)

 

そんな事を考えていたら、気づけばセイジは一番近くの男の頬を殴り飛ばしていた。

 

「ふぐぁ!?」

 

殴り飛ばされた男は言葉にならない声を出しながら地面を転げる。

 

「あぁ?誰だテメェ」

 

「通りすがりのただのプレイヤーだ。その声……嫌がってるだろ。離してやれよ」

 

取り込み中の所を邪魔された男達は不機嫌な目付きでセイジを睨み、またセイも睨み返す。

 

「お前には関係ないだろ。俺達のお楽しみの時間を邪魔するなよ」

 

「なら力づくで彼女を解放させてもらう」

 

「やれるもんならやってみやがれ!」

 

リーダーらしき男の言葉で取り巻き達はセイジを囲むように広がる。

セイジは右腕をすっと上げ、人差し指で男達を指さす。

そしてセイジは昔憧れていたヒーローの一度は言ってみたい思っていたある決めゼリフを決める。

 

「さぁ…お前たちの罪を数えろ」

 

「ほざけぇ!!!」

 

男達は一斉にセイジ目掛けて突っ込むが、セイジはまず一人目、二人目そして3人目の攻撃を容易く躱す。

 

「大きく腕を振りかぶりすぎ。それじゃ、簡単に動きなんて読める」

 

続いて四人目が殴りかかってくるが、セイジは冷静にその腕を掴みその勢いを利用して床にその男を投げる。

 

「やりやがったな!!」

 

先程簡単にセイジにあしらわれた男の一人が再びセイジに突っ込んでくる。

 

「だから…動きが単調なんだって」

 

そう言ってセイジは足を振り上げそのまま、振り下ろされてくる腕とは反対方向から男の顔面に回し蹴りを放つ。

その男の影からもう一人の男が現れ、下から腕を突き上げるがセイジはバックステップで避け、その男の股間に蹴りを入れる。

 

「ぐぼぁっ」

 

このSAOには痛覚はない。だからどれだけ殴られようが腕を切り落とされようが痛みを感じることはない。が、その代わり違和感は残される。男にとっては第二の心臓とでも呼べるその部位を蹴られれば痛みこそないが違和感は残る為、その感覚はセイジ自身も考えるだけで恐ろしい。

そして、圏内と呼ばれる街の中等ではダメージを食らうことない。ただ攻撃を受けてもノックバックが発生するだけ。

つまり、こういう輩を懲らしめるには充分というわけだ。

 

「テメェ………ふざけた事をしやがって!」

 

怒りを露にしたリーダーと思われる男は両手斧を構え、少しずつセイジへと近づく。

他の男達も各々の武器を手に取る。

個々撃破ならまだしも、こうなっては部が悪い。

そう判断したセイジがとった行動は───────逃げる。

 

 

「走るぞ!!」

 

男達の間を潜り抜け、少女の手を取り、路地裏から走り抜ける。

 

「えっあっ!?ちょっと!」

 

「待ちやがれ!!この小僧!」

 

セイジはとにかくAGI全開にして猛ダッシュで男達から逃げる。

走り続ければ見る見るうちに男達の影は小さくなり、今だと言わんばかりにセイジは近場の宿に逃げ込む。

 

「ふぅ…何とか逃げ切った…それにしても大丈夫か?」

 

「う、うん。助けてくれてありがとう」

 

初めてセイジは少女を正面から見た。そこにいるのはショートカットが似合う小顔の女の子。綺麗や美しいよりも可愛いという言葉が似合う少女だった。

そんな彼女はまだ恐怖が残っているのかまだ震えていた。

 

「落ち着くまでこの宿にいればいい。俺もこの宿に泊まるから何かあれば呼んでくれ」

 

見知らぬ少女と同じ宿に泊まることに多少の抵抗はあるが、彼女を一人にさせるわけにはいかない。それがセイジの考えだった。

とりあえずここに居れば一安心だろうとセイジはNPCの元へ二人分の料金を払いに行こうとする。しかし、くいっと後ろに引っ張られる力によって遮られた。

セイジが振り返れば少女が彼の服を掴んでいるのが見て取れた。

 

「えっと……もう少しだけ一緒に居てくれない?一人になるのはちょっとまだ怖くて……」

 

「わかった。とりあえずそこの席に座ろっか」

 

二人は宿のフロアに置いてある丸テーブルの椅子に向かい合い腰を下ろす。

数分の沈黙が続いた後、やっと少女が口を開く。

 

 

「あの……さっきはありがとう。私今のこの状況が受け止められなくて、一人ほっつき歩いてたらさっきの人達に捕まっちゃって………怖くてたまらなくなって動けなくなっちゃったんだ……」

 

「別に俺はただアイツらが気に食わなかっただけだよ」

 

あの男達が気に食わなかったのは事実ではあるが、悲しそうな彼女がほっとけなかったという言葉を敢えてセイジは伏せた。

 

「私ね………友達に誘われてこのゲームを始めたんだ。けど友達は用事があるから先にログインしててくれって言われて迷わず私はログインしたの」

 

少しずつ言葉を紡ぎながら彼女は語りだし、セイジは黙ってそれを静かに聞く。

 

「そしたら突然あの広場に集められて………あんな話を聞かされて、あの時………友達を待っていればこんな事にならなかったのかもしれないって思っちゃって………死ぬかもしれないっていう現実が怖くなって仕方がなかった」

 

「そっか……」

 

頑張って心の中の気持ちを表す彼女はだんだんと涙を浮かべ始め、そして涙を零した。

そんな彼女になんて言ってあげればいいのかセイジにはわからなかった。

 

「ごめんね。変な事に巻き込んじゃって」

 

「気にするな。俺が君を助けたのもなにかの偶然だ。それより今日は色んな事があって疲れてるだろ?もう寝た方がいい」

 

「そうだね…ありがとう」

 

感謝の言葉を受け取るとセイジは椅子から立ち上がりNPCに宿代を払った後、自分の部屋へと入る。その後を追って彼女も自分の部屋に入っていった。

 

 

◇◆◇

 

SAOが死のゲームと化してから一つの夜が明け、一つの朝を迎える。

 

自然と目を覚ましたセイジはゆっくりと体を起こし、辺りを見回す。

そこは現実の自室ではなく昨晩泊まった宿の部屋。

目が覚めれば現実世界に帰れてるんじゃないかという微かな淡い期待を抱いていたセイジは改めて自分はこのゲームに閉じ込められたんだと現実を叩きつけられる。

 

(普段なら制服を着て学校に行くところだけど………不思議だな)

 

セイジは身支度を済ませると1階へと降りてゆく。

1階に降りると昨日二人が話をした所に少女はポツンと座っていた。

 

「おはよう」

 

「あ、うん。おはよう」

 

ぎこちない挨拶を受けながらセイジは少女の対面に座る。

 

「君に言うべきことと聞きたいことがある。俺はこの世界を攻略するために戦う道を進もうと思っている。そこで君に聞きたいのは…俺と一緒に来ないか?」

 

セイジはフランと同じように戦う道を選んだ。

彼が聞いたのは共にこの世界で戦おうという申し出だった。

このゲームはもうただのゲームじゃない。一人で立ち向かうにはとても危険な世界だ。だが二人となれば生存率は飛躍的にあがり、攻略が幾分か楽になる。

 

「この世界にはモンスターが沢山いるんだよ………?それに死んじゃうかもしれないんだよ」

 

「わかってる。けどここで待ってたって助けは来ない。茅場の言う言葉が正しいならね。それなら前に進むしかない。俺はそう思う」

 

茅場晶彦の言葉通りならナーヴギアの取り外しは不可能。外部からの救助の可能性はゼロに等しい。

 

「そんな………なんで私達…こんな目に合わなくちゃいけないの……?君は…怖くないの?」

 

「俺も怖い。死ぬのが怖くない奴なんていない」

 

「君は強いね………私はそんな強くないよ………」

 

か細い声で言葉を紡ぐと少女の瞳からポツポツと涙が溢れ出す。

 

「私一人じゃ…とても前に進むめないよ……」

 

セイジは少女の涙に心を揺らがされ、少女の前に立つと膝を付いて少女の瞳を見つめる。

 

「君は一人じゃない。一人になんてさせない。俺が君のそばに居る。俺は君を死なせない。約束する」

 

そう言ってセイジは少女の前に右手の小指を差し出す。

 

「約束……?」

 

「あぁ。何があろうと君を守る。絶対だ」

 

その言葉を聞いて少女はどこか安心したような顔をして自分の右手の小指をセイジの小指に結ぶ。

 

「約束だよ?」

 

そう言って彼女は初めて笑顔を見せた。その時の笑顔がセイジの中でとても印象的なものとなった。

 

「そういえば……君の名前を聞いてなかったな」

 

「私はレイ。えっと…君は……」

 

「俺はセイジ。よろしく」

 

自分の名前を告げるとセイジは右手を差し出し握手を求める。

その意図を察した少女は細く小さな手で握り返す。

 

「よろしくね!セイ(・・・)!」

 

「いきなり愛称かよ……」

 

「別にいいじゃん!それより早く行こ!」

 

セイジの前にいるのは涙を流していた少女ではなく本来の明るさを取り戻したレイの姿。これが本来の彼女なのだろう。その明るさに釣られて自然とセイジも笑顔が零れる。

 

そうして二人はたわいも無い話をしながらこれから始まる戦いへの第一歩を踏み出す。

 

 

 

 

 




なんか駆け足な気がしなくもないですが申し訳ありません。

ご感想、ご指摘、誤字報告等があればお気軽にお願いします


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EP.3 死というもの

遅くなってすみません。仕事で忙しかったというのもあるのですが…蒼穹のファフナー見てました……


始まりの街を出て、道中襲いかかるモンスター達との戦闘を順調にこなしながら、何とかセイジとレイは第一層の第二の街、ホルンカへとたどり着いた。

現状を受け入れきれない者達が未だに大勢いる始まりの街とは逆にホルンカにはプレイヤーの影はほとんど無い。それはHPゼロ=死という現実が多くのプレイヤーに戦う選択肢を奪い取っている証拠でもあった。

 

「とりあえず、この先安全に進むならレベルを上げなくちゃ話にならない」

 

セイジは正式サービスが始まってすぐにフランと共に狩りをしていた為にそこそこレベルは上がっているもののそれと対照的にレイのレベルはやや心伴いものだった。

 

「セイって私よりレベル高いよね?皆集められるまで一人でモンスターと戦ってたの?」

 

「いや、一人でじゃなくリアルでの……知り合いと一緒に狩りをしてたんだ」

 

この世界で自分の現実の情報はタブーな為にセイジはフランが実の兄ということを伏せた。

 

「私はこの世界の綺麗さに感動させられちゃって戦うことなんて忘れちゃってたよ。ねぇ、その一緒に居た人は?」

 

「このデスゲームが始まった時に、別れた。いや……置いていってもらった」

 

フランはセイジを共に連れていこうとしていた。だがセイジはそれは自分がフランの足枷になるんじゃないかと思い敢えてそれを断った。そして、悲しそうなレイの事が心配だったから。

 

「そうなんだね…」

 

「だから、ソイツに追い付くためにも前に進まなくちゃいけない。そんで、今のレベルと装備じゃちょっと物足りないから装備を整えて狩りに行こうと思ってるんだけど」

 

「うん。わかった」

 

二人は始まりの街周辺のモンスターよりも少しだけ強い敵に苦戦しないようにするために装具屋と武器屋へと向かう。

 

「なんか…最初の武器よりも少し重たい気がする」

 

「重たい代わりに攻撃力は増してるはずだ」

 

セイジは『アイアンブレード』を、レイは『アイアンダガー』をそれぞれ購入した。初期武器よりも要求レベル、攻撃力を含めたステータス自体が上がっているため初期武器と比べれば重く感じるのは当然だ。

 

「すぐ慣れるさ。早速だけどレベリングに向かおっか」

 

二人は武器をしまい、二人並んで、フィールドへと出る。

 

「いいか?くれぐれも俺の傍を離れるなよ?」

 

「わかってるよ。私も子供じゃないんだからそんなに心配しないでよ」

 

セイジは何度も自分の傍を離れるなと忠告し、レイはぷくーっと頬を膨らませる。セイジはそれを微笑ましく苦笑いを返す。

 

 

◇◆◇

 

 

「スイッチ!」

 

草原に住まうコボルトから振り下ろされる攻撃をセイジがすかさずソードスキルで相殺しパリィする。

セイジの掛け声と同時に彼の背後から勢いよく飛び出したレイが短剣にライトエフェクトを纏わせる。

 

「やぁっ!!」

 

気合の入った声と共に光を帯びた短剣はコボルトへと吸い込まれるように命中する。

その攻撃を受けたコボルトのHPはゼロになり、四散する。同時に青イノシシを倒した時よりも多いコルと経験値が表示される。

 

「やった!」

 

「お見事」

 

レイはセイジの元へと駆け寄り、そして二人はハイタッチを交わす。

 

「この調子でジャンジャン行こっか」

 

「おー!」

 

◇◆◇

 

 

二人はさほど戦闘回数が多いわけでもないが、抜群のコンビネーションで順調にモンスターを順調に倒していくき、それなりにレベルが上がった時にそれは起きた。

 

「うあああ!!!」

 

何処からか男性の悲鳴声が聞こえ、二人は咄嗟に振り向く。

 

「行くぞ!」

 

セイジの言葉にレイが頷き、それを合図に二人は声のした場所へ走り出す。

 

セイジとレイが駆け付けてみれば数匹の狼…ダイアーウルフの群れに襲われている男性プレイヤーの姿があった。

 

が、その男は既に腕を、横腹を食いちぎられており、HPもレッドゾーンにまで減っていた。

 

「死にたくない!!やめてくれぇ!!こんな所で……ぁぁあ!!」

 

悲鳴をあげる男は無惨にも狼の群れに飲み込まれていき、次々に食い漁られゆく。

 

このままでは彼が死んでしまうと、セイジは群れに突っ込み、狼達を薙ぎ払っていく。

それに続き、レイも狼達を確実に仕留めていく。

 

二人の助けも虚しく、遂に男のHPは全て狼に食い尽くされその男の体は四散した。

 

「クソっ!」

 

「そんな……」

 

「レイ!今は悲しみに浸ってる場合じゃない……とりあえず今はこいつら全部倒して生きる事だけを考えろ!」

 

叫びながらセイジは襲いかかる狼達の牙を爪を、確実に避けながら剣でそれらを切り裂く。

 

(セイが頑張って戦ってるのにこんな時にで私が弱気になってちゃ駄目だよね)

 

レイは弱音を吐きそうになりかけた気持ちに喝を入れて

 

二人が敵の攻撃を避けバックステップを踏むと互いの背中がコツんとぶつかる。

互いに背中に感じるバディの頼もしさを噛み締める。

 

「この数なら俺達二人で倒せるはずだ。だけど気は抜くなよ」

 

「わかってる。私もこんな所で死にたくないからね!」

 

そして、二人は自分達に遅い迫る狼の群れに突っ込んでゆく。

 

◇◆◇

 

二人が最後の一匹ずつを倒すと、一瞬にして体の力が抜けるのを感じた。それと同時に何とも言えない空気が流れる。

一瞬にして力の抜けた二人はどさっとその場に座り込む。

 

 

「帰ろっか……」

 

「うん」

 

これ以上このエリアに居ても、ただ悲しい光景を思い出してしまうだけだと付け足して、セイジはゆっくりと立ち上がりレイに手を差し伸べる。レイはその手を掴み立ち上がる。

 

 

「本当にあの人死んじゃったのかな……」

 

人が本当に死ぬという物を見た事もなく、死ぬというよりかはアバターが爆散するという光景にレイは彼が死んだということに実感が湧かなかった。

 

「茅場の言葉が正しいなら…ね」

 

セイジもレイもこの世界で初めて死という物を目の当たりにした。

その事実はそう簡単に受け入れきれるものでも割り切れるものでもない。

 

「助けられなかった……私がもっと早く助けに行ってれば…」

 

「レイは悪くない。俺達が早く駆けつけていたとしても……奴を助けれたどうかは…」

 

自分達がもっと早く彼を助けてに入ってたとしても彼はもう既に虫の息だった。だから助けれたかはわからなかつた。

 

「あの男は俺達と同じようにただあの街で腐り果てるのが嫌だったのかもしれない。だからこそ戦うことを選びそして散った。アイツもこの世界で生き抜こうと戦った勇敢な戦士だよ」

 

「……そうだね」

 

「………レイ。引き返すなら今の内だぞ?これから俺達はもっと危険な戦いをしなくちゃいけない」

 

目の前で死を目の当たりにし、改めて自分達は死と隣り合わせの世界にいるだと実感して恐怖してるのでは?それがセイジにとって気がかりだった。

 

「わかってる。けど、私はもう逃げたくない。私も一緒にセイと一緒に戦うから」

 

「そっか…」

 

レイの言葉がセイジには何だか嬉しく彼はほっと胸をなでおろした。

 

「私ももしあの広場で一人だったり……あの人達に捕まったままだったら……けど私は今一人じゃない。頼りになる味方がいるしね」

 

レイはセイジを瞳を見ながらそっと微笑む。

 

「俺はただ君がほっとけなくて…」

 

「セイは優しいね」

 

「べ、別に俺は…ただ……」

 

「あれぇ?もしかしてセイ……照れてるの?」

 

このしんみりとした雰囲気をどうにかしようとレイはわざといたずらっぽい笑顔でセイジに尋ねる。

 

「照れてねぇよ!ていうか俺をからかうのはやめろ!」

 

そう言って拗ねた子供のようにセイジはそっぽを向く。そんなセイジの隣でレイは静かに微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 




今回は短めですがご勘弁ください……
ご感想、ご指摘、ご報告等がありましたら、お気軽にどうぞ


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EP.4 攻略会議

2022年12月2日

 

SAOがデスゲームと化してから1ヶ月。その間に2000もの命が散った。それだけの犠牲が出てもなお彼らはこのデスゲーム攻略どころか第一層のボス部屋にすらたどり着けずにいた。

 

現在、セイジとレイの二人は第一層迷宮区から一番近い街《トールバーナ》に滞在していた。この街の中心には噴水があり、尽きること無く透き通る水が流れている。それを中心に多くのプレイヤー達が取り囲んでいた。その理由は今日、この《トールバーナ》において第一層攻略会議が開かれるからだ。

 

中心地からさほど遠くない場所に石造りの劇場があり、そこで会議が行われる。

 

フランが生きているのであれば彼ならそこに必ずいるという確信と共にセイジはそこへと足を運ぶ。

 

そして、劇場の上にある柱の近くにその男はいた。そして彼もまたセイジに気づき駆け寄ってくる。

 

「セイジ!生きてたか!!」

 

「フランこそ!」

 

フランはセイジの肩を掴み、心底安心した顔を見せる。

セイジもまた、この世界において唯一の肉親である兄が生きていたことに安堵を零す。

 

そして、セイジはフランの後に立っている、髪を後にまとめた、綺麗な女性の姿が目に入った。

 

「そちらの方は?」

 

「あぁ、ここに来る途中で出会ったリザだ」

 

フランが彼女を紹介すると、ぺこりと会釈をする。

 

「お前こそ、隣の可愛いお嬢ちゃんは?」

 

セイジは隣にいる、レイを紹介しようとするが、彼女は驚いた顔をしてある人物を見つめていた。

 

「お、お姉ちゃん!?」

 

「れ、れい!?」

 

「「へ?」」

 

状況が飲み込めずに、ポカンとするセイジとフランを他所にレイとリザはお互いの存在を確認し合うように抱き合う。

 

「なんでお姉ちゃんが?」

 

何故、姉がここにいるのか尋ねるレイの瞳には涙が滲んでいた。

 

「レイを驚かせようと私もこっそりログインしてたんだけど、こんな事を巻き込まれちゃって……困ってるところをフランに助けられたの」

 

「そうなんだ……私もセイジに助けられたんだ」

 

リザはレイの背中から腕を解くと、セイジの方に向き直り、深くお辞儀する。

 

「妹を助けていただきありがとうございます。」

 

「いえ、俺はただ……俺一人だったらこんなところまで来れなかった。だから俺こそ彼女に礼を言わないといけないと」

 

「お、お礼なんていいよ!」

 

「あー、おほん。積もる話の途中悪いんだが、そろそろ会議が始まるぞ」

 

フランの言葉に、三人が劇場を見るとそこには40人近くのプレイヤーが集まっていた。

 

◇◆◇

 

「はーーーい!それじゃあ、そろそろ始めさせてもらいまーす!」

 

劇場の中心に一人のプレイヤーが現れ、会議の始まりを告げる。アイテムで染めたであろうシアン色の髪に、腕と肩や胸に鎧を纏った盾持ちの片手剣プレイヤーだ。

 

「今日は俺の呼び掛けに集まってくれてありがとう。俺はディアベル!職業は気持ち的に『ナイト』やってます!」

 

このSAOにはジョブシステムなんてものは無い。これは冗談だ。しかしそのセンスのある冗談は多くのプレイヤーにウケ、笑いが溢れる。掴みは上々といったところだ。

 

「今のってどいう意味?」

 

「今のはな…」

 

レイはネットゲームをいままでやったことがないため、RPG等に関する知識が欠けている。戦闘に関しては彼女自身のセンス、才能により、事なきを得ずに済んできたが、それら以外のことはセイジに質問を繰り返してきた。

今回のディアベルのジョークは、ジョブシステムの存在しないSAOでは知る機会などない。

説明が終わると、ディアベルはパーティーを組むように促す。

 

「まず初めにパーティを作ってくれ!」

 

4人は目を合わせ、自然とセイジ、フラン、レイ、リザの4人パーティが完成した。

 

「ちょっと待ってくれ」

 

劇場の端に、二人だけハブられてるプレイヤーを見つけたフランは、そのプレイヤーの元に駆け寄り、何かを話した後、セイジ達のパーティメンバーの中にキリト、アスナという二人の名前が加わった。

 

「皆決まったかな。それじゃあ……」

 

「ちょお待ってんか!」

 

ディアベルの言葉を劇場の最上段から癖のある関西弁で遮った。彼の言葉を遮った男は、趣味の悪いサボテン頭の男だった。その男は最上段から一段ずつ飛び跳ねながらディアベルの元に着地し、自分の名前はキバオウと名乗った。

 

髪だけでなくネームまでも趣味の悪い奴だとセイジは心の中でぼやきながら彼の言葉に耳を傾ける。

 

「こん中に、全プレイヤーに対して!詫び入れなあかん奴がおるはずや!!」

 

キバオウは怒りが混じったような声で叫ぶ。キバオウの言う『詫びを入れなければならない者』とは元βテスターの事だった。

キバオウ曰く、元βテスターはビギナーを見捨て、自分達だけがβテスト時の情報を元に美味しい狩場を独占して、それが原因で多くのプレイヤーが命を落とした。今までの事を全て謝罪、なおかつアイテムとコルを全て差し出せと言う。でなければパーティーメンバーとして命を預かれないし、預けれないというものだった。

 

「こんな時に…馬鹿かよ。んな事すれば戦力を削るだけじゃねぇかよ」

 

セイジはボソリと零す。

 

セイジの言うとおり、元βテスターがアイテムやコルを差し出したとしたら、彼らは戦う術を無くす。それはこの世界において死ねと言ってるのと同じだった。

 

セイジは隣に座っているフランを見る。彼は元βテスターだ。だが彼は静かに黙ってキバオウを見据えていた。

誰しもが黙りこんだ中、最前列に座っていた男が手を上げる。

 

「発言いいか」

 

その男は立ち上がり、キバオウの前まで歩いて止まる。

遠くから見てもわかる巨体に黒い肌とスキンヘッド、背中には彼が持っていれば全く違和感を見せない両手斧を背負った男はエギルと名乗り、彼から放たれる威圧感にビビったキバオウはたじろぐ。

 

エギルは腰のポーチから1冊の本を取り出し、皆に見えるように掲げる。それは道具屋で無料で配布されているガイドブックだった。そのガイドブックはセイジやレイも少し前の村で貰っていた。そのガイドブックにはクエストの受注方法、モンスターとの戦い方等、SAOでの基礎知識をわかりやすくまとめたもので、これを持っていない者などいないほどに普及している代物だ。そしてこのガイドブックは元βテスター達よ情報提供により、作られた事はあまり知られていなかった為、多くのプレイヤー達が驚いた顔を見せる。

 

「情報は誰でも手に入れることができた。だがそれでも多くのプレイヤーが死んだ。その失敗をしない為にどう攻略するべきなのかを話し合うべきだと俺は思うんだがな」

 

エギルの言葉に場の空気が変わり、キバオウは不満そうな顔をしてズカズカと最前列に腰を下ろす。

それを確認するとディアベルはエギルと同じガイドブックを取り出したが、それは最新版のものだった。

 

「ボスの名前だが、ボスの名は《イルファング・ザ・コボルド・ロード》。そして《ルイン・コボルド・センチネル》という取り巻きの二種類がいる。ボスの武器は斧と円盾を使い、四段あるHPバーの最後のバーが赤くなると、武器を曲刀カテゴリのタルワールに持ち替え、攻撃パータンも変更される」

 

ディアベルはボスの情報を伝え終わると、ガイドブックを閉じる。

 

「この情報を踏まえて、明日のボス戦に挑もうと思う。あとは、パーティーメンバーと親睦を深めるなり、アイテムを補充するなり各自で明日への準備を進めてくれ。それでは解散!」

 

◇◆◇

 

「おい、男共」

 

劇場から立ち去ろうと皆が腰を上げると、フランはセイジとキリトを呼び止める。

 

「俺らは今から飲み行くぞ」

 

「はぁ!?明日はボス戦だぞ?んな時にそんなことしてる場合かよ」

 

「こんな時だからこそだよ」

 

そう言ってフランはニカッと笑う。

 

「リザ、お嬢ちゃん達のことは任せる。明日攻略会議に遅れないような」

 

「ええ。わかったわ」

 

フランの頼みを了承すると、彼女はレイとアスナを連れて立ち去る。

 

 

「さて行きますか」

 

◇◆◇

 

フランが二人を連れてやってきのはトールバーナ内にある静かな飲み屋だった。

フランは迷いなくドカッと席に腰を下ろし、セイジとキリトは渋々と腰を下ろす。

それを確認したフランは本題へと切り込む。

 

「キリト………お前さん、元βテスターだな?」

 

フランはどの時点で気づいていたのかは定かではないが、真面目な顔をして問う。

 

「………!」

 

キリトは黙ったまま驚き焦る。

 

「別に隠さなくたっていいよ。俺も元βテスターだからな」

 

「そうだったのか……セイジ元βテスターなのか?」

 

「いや、俺はビギナーだ」

 

「よくここまでたどり着けたな…」

 

「まぁな。頼もしいパートナーがいてくれたからな」

 

この街まで弱音一つ吐かずに自分について来てくれたレイの顔を思い浮かべる。

 

「そりゃあそうとよ。セイジ………あんな可愛い子ちゃんを引っ掛けるなんてお前も隅に置けないやつだなぁ」

 

「別に俺は……!」

 

「照れんなよ!」

 

真面目な話から一転し、空気は既に明るいものへと変わっており、気がつけばもう遅い時間になっていた。

 

◇◆◇

 

「ここであったのも何かの縁だ。フレンド登録しとこうぜ?キリト」

 

「あぁ」

 

キリトはフランか送られてきたフレンド申請を承諾し、彼はセイジにフレンド申請を送る。

 

「これから宜しくな。キリト」

 

セイジのフレンドリストにフランやレイ以外の同年代の男の友人の名前が初めて刻まれた。

 

明日への不安と未来への希望を胸に抱きながら彼らは朝を待ちわびる。

 

 

 




いつもの事ながら毎回後半が駆け足に………それにしても謎ポエムにハマってしまいました。

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EP.5約束

攻略会議が行われた翌朝。セイジはいつもよりも早くに目を覚ました。元βテスターのフランが付いているとはいえども、ビギナーのセイジにはボス戦は未知数で不安なものだった。故に落ち着かずにはいられない。

 

(時間まで時間があるな………散歩でもして時間潰すか)

 

ただその時を待っていられる程冷静になれないセイジは身支度を済ませ、街中へと出る。

朝だからか昼間のようにプレイヤーが集っているわけでなく、セイジだけがこの世界に取り残されたようにさえ感じれる程に街中は静まり返っていた。もしかして本当に自分だけしかいないんじゃないかと不安に思えたその時。

 

「セイ?」

 

後から透き通る声がセイジの歩みを止めた。

振り返ればそこには始まりの街から共にここまで二人三脚で進んできたレイの姿があった。

 

「レイか…あんまりにも街が静かだから俺だけ取り残されたんじゃないかって思ってた所だったんだ。なんかホットしたよ」

 

「私も早くに目が覚めて落ち着かないから外に出たら、静かすぎてちょっと不安だったんだ。けど、セイが居たから安心した」

 

お互い同じような事を考えてたことがつい面白く、二人は笑顔をこぼす。

 

「せっかくだし少し話でもしない?」

 

「時間まで特にすることもないし、話でもして時間潰そっか」

 

セイジの了承の言葉を合図に二人は広場にあるベンチへと向かい、隣合うように腰を下ろす。

 

「昨日はお姉ちゃんがこの世界にいて本当びっくりしちゃった」

 

レイとリザ。思いもよらぬ再会がつい先日果たされた。

その出来事にレイだけではなくセイジとフランも内心驚きを隠せなかった。

 

「話してなかったけど、実は俺とフランも実の兄弟なんだ」

 

「えぇぇぇ!?確かに………言われてみれば似ても似つかないような………」

 

レイが驚くのも仕方が無い。セイジとフランは実の兄弟とはいえ、セイジは母親に、フランは父親に似ていると言われ続けた為にあまり似ていると言われたことがない。

 

「セイもお兄さんと…なんだか私達似た者同士だね」

 

えへへと微笑みを付け足すレイはどこか嬉しそうにセイジには見えた。

 

「今日……ボスを倒せば少しは希望見えてくるよね…」

 

さっきの笑顔とは一変し、その体は震えていた。

 

「レイ…?」

 

「私ね、怖いんだ」

 

それはレイの心の底から溢れた本音だった。本当は怖くてたまらないはずなのにそれでも、レイはセイジ共にここまでやってきた。レイに無理をさせてたんじゃないかとセイジの心がチクリと痛む。

 

「これまでも怖かった。いつ死んじゃうかもわからないのに、戦わなくちゃ生きていけない。でもね………隣にセイがいてくれたからここまで来れた」

 

もし、セイジが助けに来てくれなかったら一人で始まりの街に閉じこもっていたかもしれない。そんな未来をセイジとの出会いが変えた。だからこそ彼女は明るく振る舞うことが出来た。だがレイもまたセイジとあまり年の変わらない女の子なのだ。レイが戦うことにどれだけ怖い思いをしていたのかセイジは痛いほど思い知っることになった。

 

「無理させてたんだな……ごめん」

 

セイジはレイの瞳を見て深々と頭を下げるが、レイは黙ったまま首を左右に振る。そしてセイジはそっと顔を上げる。

 

「セイジが居たから私も強くなれた。それは本当に感謝してるんだ。けど……いざ、ボス戦の前になると怖さで押しつぶされそうになっちゃった」

 

強がってるのか、レイは笑顔を見せる。しかし、その笑顔が儚く、いとも簡単に崩れてしまいそうでセイジは悲しくなった。そして初めてレイと出会った時の彼女と約束を思い出す。

 

「前に約束しただろ?俺はレイを死なせない。絶対に守ってやる」

 

「セイってよくそんな事言えるよね………言ってて恥ずかしくないの?」

 

「うぐっ」

 

ぷっと吹き出すようにレイは笑い、真剣な瞳をセイジに向ける。

 

「セイが私を守ってくれるなら私もセイを守るよ」

 

その言葉は強い意志を宿し、さっきの儚い彼女とは違い強い瞳を見せる。これがあの時悲しみで潰れてしまいそうだった、涙を浮かべていた少女なのだろうか。触れればいとも簡単に砕け散ってしまいそうだった弱々しい彼女の姿はない。この1ヶ月が彼女をここまで成長させた。そんなレイを見てセイジは心の底から安心した。

 

「そっか………そりゃ頼もしい限りだ。これからもよろしく頼むよ。相棒」

 

「任されました!」

 

どこか嬉しそうに、満面の笑みを見せるレイを見てセイジはある決心をする。

 

(絶対に誰の笑顔も奪わせやしない……絶対に)

 

それはレイの笑顔だけじゃなく誰かの笑顔が消えるのを見たくない。

そんな思いをしたくないからこそセイジはそう固く決めた。

 

「そろそろ時間だね………駆けっこしよっか!」

 

「おいおい………」

 

「よーいドン!」

 

元気のいい声と共に駆け出すレイ。それを追って数秒のタイムラグを経てセイジも駆け出す。

 

「待てっ!」

 

ステータスにSTRとAGIをバランスよく振っているセイジがAGIよりに振っているレイに適うことはなかった。

 

◇◆◇

 

第一層迷宮区最奥。今回のボス攻略戦に参加する全プレイヤーが集っていた。

 

「なんで私達が取り巻き相手なのー!」

 

「仕方ないわ。レイ」

 

セイジ達のパーティーの役目は取り巻きの排除。ボス本体との戦闘は他の隊に任せる形だ。キバオウ曰く、「ガキ共は出しゃばらず隅っこで大人しく雑魚を倒してろ」との事だった。

それが納得いかずブーブー文句を口にするレイをリザが宥める。

 

このボス攻略戦は今後のSAO攻略に大きな影響を与えることになるだろう。ボスを倒せば、SAOはクリアできるという希望。倒せなければ多くのプレイヤー達が絶望に打ちひしがれることだろう。

活気に溢れた者達、緊張か恐怖で肩を震わせるプレイヤー達。

その中キリトとアスナはただ静かにボス戦の幕が上がるその時をただ待っていた。

そして、セイジはフランの横へと歩み寄り立ち止まる。

セイジとフランは横に並び、お互いの腕を伸ばし拳をコツンとぶつける。

 

「死ぬなよ」

 

「その言葉、フランにそのまんま返すよ」

 

そして、プレイヤー全員を見渡して、ディアベルが一言告げる。

 

「皆、俺から言うことはたったひとつだ。…勝とうぜ!」

 

そして、遂にその扉が開かれた。

 

 

 

 

 




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EP.6 ボス戦

扉が開くと、暗闇の中二つの小さな紅い光が灯る。

その光が揺らめき、ボス部屋に明かりが点く。

ボス部屋の奥には玉座が置かれており、その玉座に鎮座するはこの第一層の暴君──────『イルファング・ザ・コボルドロード』。

その王は左腕には円盾(バックラー)を装備し巨躯に鎧を纏った獣人。王はゆっくりと立ち上がり、プレイヤー達の前に立ちふさがる。それを合図に王の周りに取り巻き(ルイン・コボルドセンチネル)が現れた。

そして王は腰から斧を取り出し雄叫びを上げる。

 

「グオオオオ!!」

 

「戦闘開始!!」

 

雄叫びを聞いたディアベルはボス戦メンバーに号令を叫ぶ。

 

『うおおおおお!!!』

 

それを合図にボス戦メンバー達と取り巻き達は互いの武器を交差させた。

 

◇◆◇

 

戦闘は作戦通り順調に進んだ。各隊がディアベルの指揮の元それぞれの役割を果たしながら、ボスのHPを削る。

 

セイジ達F隊も、取り巻きをボスと戦っている本隊に近づけないように的確に処理していた。

基本2人1組で取り巻きを倒していく。セイジとレイ、キリトとアスナ、そしてフランとリザ。

 

レイはもう初心者とは思えない短剣裁きで、セイジがコボルドの攻撃を弾いた所を攻撃する。

キリトは経験を積んできた戦士のようにコボルドの攻撃を躱し、いなし、弾く。そこをアスナの洗練された無駄のない鋭い細剣の一撃が貫く。

フランはβテスターとしての経験をフルに活用し、徐々にHPを削りながらも隙を見せないように豪快かつ繊細に動き回り、攻撃を弾く。その一瞬をリザが片手剣で切り裂く。

自分のパーティーには手練が集まり、それに負けてられないという対抗心を僅かながらセイジは抱いていた。

 

そして、戦闘が始まってから数十分後、王が再び雄叫びを上げた。気がつけば、王のHPは最後の一段をレッドゾーンまでとなっていた。

ここまでは作戦通り。だがこの順調さが逆にセイジに不安を覚えさせた。

 

(このまま何事もなければ………)

 

ボスは手に持っていた斧と盾を投げ捨て、腰の後に手を伸ばす。それは武器を持ち替えるという証拠。ここまでは情報通り。だが、ここまではの事だった。

 

「下がれ!俺が出る!」

 

今まで指揮を執っていたディアベルが前へと出る。その時、ディアベルはちらりとセイジ達のパーティーにを目を向ける。その行動の違和感にセイジを始め、キリトとフランがいち早く気づいた。

 

(なぜこのタイミングで……?ここは全員で攻撃するのがセオリーの筈だぞ?)

 

ディアベルは剣にライトエフェクトを纏わせる。それはソードスキルを発動させる予兆。ディアベルがソードスキルを放つと同時に王は腰から武器を引き抜く。それはガイドブック載っていたタルワール────ではなかった。

 

「あれは!?」

 

((野太刀!?βテストの時とは違う!))

 

βテスト時及びガイドブックとは違うことに気づいたのはF隊の6人だけ。他の隊はちょうどボスの武器が死角になる位置にいるため、誰一人としてそのことに気づかない。

 

「ダメだ!!全力で後ろに飛べ!!」

 

「そいつは危険だ!!さがれぇぇ!!」

 

その武器の危険性を知っているキリトとフランが全力で叫ぶが、ディアベルにその声は届かない。ソードスキルをの軌道に乗っていたディアベルだが、ボスが高く跳躍した事により、その攻撃は当たることがなかった。ボスは柱を足場に使って天井を飛び回る。その情報外な行動にディアベルは動きを追うことが精一杯で、気がつけば、ボスの斬撃がディアベルの身体を抉った。

 

「うわぁぁぁぁぁぁ!!」

 

ディアベルの身体が吹き飛ばされる。だがその程度で王の反逆は終わらない。ボスはディアベルに狙いを付けたまま、刀スキル《浮舟》を発動し、それを獲物に叩きつける。

 

まともにソードスキルを喰らったディアベルがF隊の所まで吹き飛んでくる。その間も、ボスは他のプレイヤー達へと、次はお前らだと言わんばかりに迫る。

 

 

「ディアベル!!何故あんな無茶を!?」

 

キリトがポーションを手に、HPが尽きかけているディアベルのところまで駆け寄り抱き起こす。キリトのあとを追ってフランとセイジも駆け寄る。

 

「君もβテスターなら分かるだろ?」

 

LA(ラストアタック)ボーナスか」

 

ディアベルの言葉の意味を一番に察したのはフランだった。ラストアタックボーナスとは、ボスに最後の一撃を与えたプレイヤーにのみ与えられる、いわばボーナスアイテム。LAボーナスともなればそれは強力なアイテムに違いない。それをディアベルは狙っていたのだ。

 

「キリト君………フランさん。後は頼………」

 

最後の言葉を告げ終わること無く、ディアベルの身体がポリゴン片と化し、宙を舞う。それはプレイヤーのHPが尽き、死んだという証。

 

「任せろ」

 

フランはそう言うと立ち上がり、両手槍を構える。

 

「立てセイジ、キリト。力を欲しはしたが、皆を導く為に戦った戦士に俺達はこの場を任せられたんだ」

 

「わかってる」

 

「やってやろうじゃないか」

 

フランを先頭にセイジとキリトが立ち上がる。その後にレイ、アスナ、リザも歩み寄ってくる。

 

「ちょっくら無茶をするが着いてこれるか?」

 

フランの力強い言葉に皆が頷く。そして、ボスの元へと駆け出す。

 

「グルルルルルル………!!」

 

敵意を感じとったのかボスは逃げ惑うプレイヤー達に攻撃を辞め、走ってくる6人に牙を向ける。

 

『はぁぁぁぁぁ!!!』

 

ボスは大きく武器を振り上げ、攻撃のモーションを取る。それを良しとしないセイジとフランが攻撃を二人がかりで弾く。

胴体ががら空きになったボス目掛けてレイがしなやかに身体を動かし、短剣で切り裂き、アスナが、目にも止まらぬ速さの連続突きを、リザが舞うように華麗に片手剣で切り裂く。

三人の攻撃によってボスのHPは目に見えるほど大きく減ったがそれでも、全損には至らない。

ボスは刀を薙払おうとするが、それをセイジが間に入って食い止める。

 

「ぐっ…………ぐあっ!!」

 

セイジとボスの鍔迫り合いになるも、ボスのパワーにより、セイジは剣諸共吹き飛ばされる。

 

「大丈夫!?セイ!」

 

吹き飛ばされたセイジの元にレイが駆け寄り、無理矢理ポーションを彼の口にねじり込む。

 

「ぷはっ!!問題ない。大丈夫だ」

 

「無茶しすぎたらダメだよ?」

 

「わかってるよ!」

 

HPが全回復したセイジは剣を握りしめて再びボスへと走り出し、それをレイが追いかける。

 

「グガァァァァ!!!」

 

ボスの猛攻は止むことを知らず、次第に6人は押され気味になってゆく。それほどボスが強力だということを6人はひしひしと味わう。

ボスの懐に飛び込もうとするセイジとキリト。それを妨害するように刀を薙ぎ払う。間一髪で二人は躱すが、次はアスナを狙って刀が振り下ろされる。

 

「ふっ!!」

 

その攻撃をくぐり抜けるようにアスナは避ける。そして彼女の顔を隠していたフードは刀により裂かれ、彼女の顔が顕となる。セイジ達男組は初めてそこでアスナの素顔を目にした。ハーフアップの腰まで伸びた栗色の髪と整った顔。その姿はレイの様な可愛らしいものともリザの様な大人の綺麗とはまた違った美しさだった。所謂美人というものだ。戦場に咲き誇った一輪の花は、がら空きになった胴体に向かって今まで以上に美しく強く鋭い突きを放つ。

その一撃でボスは体制を崩した。そこへキリトが突っ込み、ソードスキルを繰り出す。

片手剣二連撃ソードスキル《バーチカル・アーク》

 

ボスの右肩から入った剣は腹部を突き抜け、そこから軌道を変え、左肩へと切り裂いてゆく。V字型に切り裂かれたボスは断末魔のような雄叫びを上げながらよろよろと後退する。

 

「グオオオオオァァァア!!」

 

そして《イルファング・ザ・コボルド・ロード》の身体が光り輝き、ポリゴン片と化し爆散する。

 

 

《Congratulations》

 

上空に勝利を告げるシステムウィンドウが表示され、6人はほっと肩の力を抜く。

そして彼らをよそに他のプレイヤー達は歓喜の叫びをあげる。

 

「お疲れ様」

 

セイジの横から、後ろで手を組んだレイが顔を出す。

 

「レイもお疲れさま」

 

倒したという安堵と達成感に浸っていた6人の元へ大柄な身体の両手斧使い、エギルが歩み寄る。

 

「congratulations!こんかいのMVPはアンタら6人のもんだ」

 

「ははっ!そりゃあ光栄だありがたく受け取るぜ」

 

労いの言葉をフランが代表して受け取り、その場は歓喜に溢れていた。

 

だがしかし、それは長くは続かないものだった。

 

「なんでや!!」

 

その怒りの言葉がボス部屋全体に響き渡り、その場は静寂の場を

 

 

 



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EP.7 ビーター

「なんでや!!」

 

喜びあってたセイジ達はその怒鳴り声の方向を見る。

そこには怒りを顕にして震えているキバオウの姿。

 

「なんでディアベルはんを見殺しにしたんや!!」

 

「見殺し?」

 

キリトの呟きにキバオウが血を吐くように叫ぶ。

 

「せやろうが!!自分はボスが使う技知っとったやないか!最初からあの情報伝えとったらディアベルはんは死なずに済んだんや!」

 

情報、ガイドブックと違ってボスが取り出したのは刀だった。だからそれを知らなかったディアベルは死んだ。その情報を言わなかったキリトのせいでディアベルは死んだのだとキバオウは叫ぶ。だが、キリトもその寸前までボスの武器が刀に変更されてたなど知らなかった。

 

「そうだ……」

 

「確かに………」

 

キバオウの発言に空気はガラリと変わり、周りのプレイヤー達も便乗してヒソヒソと批難を零す。

 

「きっとアイツ元βテスターだ!」

 

その言葉が波紋となり、次々とプレイヤー達の怒りがキリトへと向けられる。

 

「他にもいるんだろ!?βテスター共は!出てこいよ!」

 

 

「お前もβテスター何じゃないのか!?」

 

「俺じゃねぇよ!」

 

「俺でもねぇよ!」

 

あちらこちらで口論が湧き上がり、空気は最悪のものとなった。

 

「まずいな…………このままだと……」

 

「ディアベルさんは皆の為に戦ったのに………これじゃ台無しになっちゃうよ……」

 

このままだとβテスター達へとビギナー達から憎しみを向けられ被害を負うことになる。

そして、プレイヤー達の希望を作ろうとしたディアベルの意思も水の泡となってしまう。セイジとレイはそれが心配だった。

 

その最悪な事態をどうにか避けたいと考えるキリトは自分の目の前に現れているウィンドウを見てゴクリと唾を飲む。

 

「おい………お前……」

 

この場を鎮めようとエギルとアスナ、リザがキバオウ達の注意を試みるが、それは一人の少年の笑い声によって遮られた。

 

「クハ…クハハハハハハハハ…ハハハハハハ!」

 

この場で突如聞こえた笑い声に対して、皆が一斉に振り向く。

その先にはゆっくりと立ち上がるキリト。

 

「元βテスターだって?俺をあんな素人連中と一緒にしないでくれないか」

 

「な、なんやと!」

 

キリトの発言にキバオウは怒り混じりの疑問の言葉を投げかける。

ゆっくりとキバオウ達の元へと

 

 

「SAOのβテストに当選した千人のうち、そのほとんどがレベリングのやり方も知らない初心者だったよ。今のアンタらの方がよっぽどマシさ」

 

その言葉に、言葉を失いながらキバオウ達はキリトを見つめる。

キリトはセイジ達の横を通り過ぎ、キバオウ達の前に立つ。

 

「でも、俺はあんな奴らとは違う。俺はβテスト中に他の誰も到達できなかった層まで登った。ボスの刀スキルを知ってたのはずっと上の層で刀を使うモンスターと散々戦ったからだ」

 

キリトの言葉を聞いて、セイジはある事を思い出す。正式サービス開始前にフランが言っていた、『8層まで行った奴がいる』。それがキリトだった。

 

「他にも色々知ってるいるぜ。情報屋なんか問題にならないくらいな」

 

不敵な笑みを零しながらキリトはそう告げる。

8層まで行けばそれなりの情報を得ることが出来るのは当然だ。その情報を自分は色々持っているのだと。

 

「な、なんやそれ。そんなんβテスターどころやないやんか!もう、チートやチーターやろそんなん!」

 

チーター────ゲームなどにおいて不正行為を行う者の名称だ。

 

「そうだ!そうだ!」

 

「チーターだ!」

 

再び怒りの、言葉がキリトへと飛び交う。

 

「βのチーター!だからビーターだ!」

 

「ビーター……いい呼び名だなそれ。気に入ったよ」

 

軽蔑の名を、いい呼び名だと言うキリトに周りのプレイヤー達は驚きの顔を隠せない。

 

「そうだ。俺はビーターだこれからは元βテスター如きと一緒にしないでくれ」

 

キリトはウィンドウを操作し、先程のボス戦のLAアタックボーナスで受け取った黒いロングコートを身に纏う。

 

セイジはキリトの自分を犠牲にして他の元βテスターを庇おうとしていることを見抜く。

 

(キリト………)

 

セイジがキリトを止めようとするが、それを今まで黙っていたフランが右手で制止する。

 

「待て。俺に考えがある」

 

そういうフランは左手を現実だったら血がにじみ出そうなくらいに握りしめていた。

そして、フランはキリトの横へと歩み寄り、小さく息を吸う。

 

「何も……ビーターは1人じゃねぇぞ?俺もその名前で呼んでもらおうか?」

 

フランはニヤリと笑みを浮かべ、他のプレイヤー達を見下したように見つめる。

 

「俺はお前らみたいな雑魚とは違う。情報量も技術も全てにおいて格が違うんだよ。だから雑魚は引き下がっていろ」

 

フランは自らキリトと同じように悪役を演じる事で、キリトを1人にさせまいとする。その意図をセイジ達は察した。

 

「んだよ……それ。ふざけるなよ!!」

 

一人のプレイヤーが激昇して怒鳴りながら、拳を握り殴りかかろうとフランに向かって走る。

 

だが、フランは軽く身体を動かして最小限の動きで躱すと、その腕を掴んでプレイヤーの足を払う。

足を払われてバランスを崩したプレイヤーは床に突っ伏すように倒れ込み、フランは掴んだ腕をプレイヤーの背に押さえつけ、動きを封じる。

 

「いいか?この世界で生き抜くのに必要なのは情報だけじゃねぇ。必要なのは情報、金、武器、装備、そして………力だ」

 

「ぐっ………」

 

押さえつけられているプレイヤーは怒りの瞳でフランを睨みつけるが、フランは何食わぬ顔で話を続ける。

 

「この世界は力の無い奴から死んでいく。理不尽も関係ない。弱いから強い力の渦に飲み込まれて死ぬ。それがこの世界のルールだ。ディアベルだってそうだ。アイツが弱いから死んだ…ただそれだけだ」

 

そのフランらしくない攻撃的な言葉に、彼が自分を悪者に仕立て上げる事でキリトだけじゃなく他のβテスターへの被害を防ごうとするその姿を見てても何も出来ない自分を歯がゆく思もいながらセイジはフランを見つめる。

 

(俺にはあんな真似はできない。その選択肢すら持っていなかった………)

 

憤怒、憎悪の矛先が一瞬にしてフランへと向き直される。

 

(そうだ。これでいい)

 

自分の思惑通り、プレイヤー達の矛先が自分になり他のβテスターへの被害は最小限に抑えられるだろうとフランは安心した。

 

「先に行って、2層のアクティベートはやっておいてやる。こっから先はこの層とは比べ物にならなんぞ?死ぬ覚悟がある奴だけ登ってこい」

 

そう言い残し、フランはくるりと踵を翻し2層へと続く道をキリトと共に歩いていく。

 

「待って」

 

途中で声をかけられた二人は一瞬立ち止まるが、フランはその声の主が誰なのかを悟るとキリトを置いてゆく。

 

「アスナか…………どうした?」

 

「貴方達………戦闘前から私の名前を知ってたでしょ?」

 

「ごめん。呼び捨てにして………それとも呼び方違った?」

 

キリトは決して振り返ることはしないまま彼女に尋ねた。

 

「どこで知ったのよ」

 

「この辺に…自分の以外に追加でHPゲージが見えるだろ?その下になにか書いてあるはずだ」

 

キリトは左上を指さしながらアスナに教える。

 

「キ……リト……フラン……セイジ……レイ………リザ?これが貴方達の名前?」

 

アスナは自分達のパーティーメンバーの名前を読み上げる。

昨夜、共にいたレイとリザの名前は知ってたが、セイジ、キリト、フランの名前は一致していなかったアスナは改めて確認を問う。

 

「あぁ。フラン達は前からパーティ組んでたみたいだから、君の名前がわかったんだ」

 

そして、突如アスナはクスッと微笑みを零した。

 

「なんだ……こんなところにずっと書いてあったのね…」

 

その笑顔が眩しく感じたキリトは彼女を遠ざけようと言葉を残す。

 

「君は強くなれる。だから、もしいつか誰か信頼できる人にギルドに誘われたら断るなよ。ソロプレイには絶対的な限界があるからな」

 

キリトの言う通り、アスナの剣さばきには見入ってしまうように美しいものだ。それは彼女の才能であり、彼女の武器となりうるものだ。

ソロプレイには助けてるれる仲間がいるわけじゃない。それは極めて危険な道だ。だからこそ、その才能を無駄にしないように、いつかギルドに入れとキリトは残す。

 

「なら……貴方は?」

 

「俺は…………一人だ」

 

自分は一人だと言い残し、独りで上へと続く階段を登り始める。

 

一方でフランは先に進もうとするフランは途中であとを付いてきている三人に気づき、足を止め振り返って尋ねる。

 

「俺はこのまま2層に登る。おまえらはどうする?」

 

フランの視線の先にはセイジ、レイ、リザの姿。

 

「俺は兄貴について行く。土台のねぇ俺に行き場所は無いからな」

 

「私もついて行く!フランさんとセイジの二人だけだと心配だしね」

 

「私もついて行くわ。貴方に助けてもらった恩をまだ返してないもの」

 

迷いのない三人の顔を見て、フランは歩みを続ける。

 

「ふ…………馬鹿達が…」

 

そう呟き2層へと続く階段へと歩みを進めるフランだが、その顔はどこか嬉しそうだったのを三人は見逃さなかった。

 

フランの後を追って、次なる戦いへの道をセイジ達は往く。

 

 

 

 




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