この素晴らしい錬金術師に祝福を (リアム・フォン・スミス)
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書籍一巻
プロローグ


 

 気がつくと俺は真っ白な部屋の中で、パイプ椅子に座って、水色の髪と瞳のアイドルなんて比べ物にならない美少女と、事務机を挟んで向き合っていた。

 

(きり)(さき)(せつ)()さん、ようこそ死後の世界へ。あなたはつい先ほど、不幸にも亡くなりました。短い人生でしたが、あなたの生は終わってしまったのです」

 

 唐突に目の前の美少女に、自分の死を告げられた。

 だが、不思議と疑問には思わず、俺は最後の記憶を思い出す。

 

 

          ※

 

 

 その日は授業中居眠りをしていたからか、夜中の2時に目を覚ました。布団に入っていても中々寝つけないので、暇潰しの序でに菓子を買いに近くのコンビニへ向かった。

 夜中の2時なのに車通りが多いと思ったが、ここは東京のど真ん中なんだからそこまで異常じゃないか。

 菓子を入れたコンビニのレジ袋を手に下げながら横断歩道の信号を待っていたら、急に背中に衝撃を感じた。

 

「あ、すいません」

 

 声は男の物だったが、直ぐに謝ってきた。振り返ると、もう男は去っていったようで信号を渡ろうとした。

 すると、俺は急に立っていられなくなり横断歩道に倒れてしまった。背中は妙に温かく、体の先は冷たくなっていく感覚がした。

 

 

          ※

 

 

 俺の記憶はそこで途絶えていた。俺は何故死んだんだ?

 疑問に思い目の前の美少女に、ふと聞いてみた。

 

「あの、俺は何故死んだんですか?」

 

 美少女は一度頷き、口を開いた。

 

「あなたは、最近多発していた通り魔の快楽殺人者によって背中を刺され、出血多量で死んでしまったのです」

 

 美少女が言ったことで、俺は納得した。

 背中が温かくなったのは血が溢れていたから、体の先が冷たくなっていったのは血が失われていったからだろう。

 呆気ない、酷くそう思った。俺の15年の積み重ねがこんなに簡単に終わるだなんて。

 でも、そんなことを目の前の美少女に言っても意味が無いだろう。気持ちを切り換えよう。

 

「残念に思うでしょうが、あなたの死は無駄では無かったのですよ。あなたは無意識の内に携帯で警察を呼び、そしてその警察は通り魔を捕まえたのです。あなたのお陰で、あの通り魔に他の人が殺されることは無くなったのです」

 

 美少女にそんなことを言われた。俺はそれだけでとても救われたように思えた。

 慰められているのだろうか、だがそのお陰でもう未練も何も無くなったかな。

 

「これから俺はどうなるんですか?」

 

 美少女は待ってました、とでも言いたそうな満足げな顔になり、指を二本立てた。

 

「では、改めまして。初めまして霧崎雪那さん。私の名はアクア。日本において、若くして死んだ人間を導く女神よ。さて、あなたには二つの選択肢があります」

 

 この人は女神だったのか。だったらこの美貌も頷ける。

 

「一つは人間として生まれ変わり、新たな人生を歩むか。そしてもう一つは、天国的な所でお爺ちゃんみたいな暮らしをするか」

 

 生まれ変わるとしたら、やっぱ記憶とか無くなるんだろうな。天国はやっぱドラゴンボールの天国みたいな所なのかな?

 

「天国ってどんな所なんですか?」

「天国ってのはね、あなた達人間が想像している様な素敵な所ではないの。死んだら食べ物は必要ないし、死んでるんだから、物は当然産まれない。作ろうにも材料も何もないし。がっかりさせて悪いけど、天国にはね、何にもないのよ。テレビもなければ漫画やゲームもない。そこにいるのは、すでに死んだ先人達。もちろん死んだんだから、えっちい事だってできないし、そもそも体がないんだからどうにもなんないわね。彼らと永遠に、意味もなく、ひなたぼっこでもしながら世間話するぐらいしかやる事ないわ」

 

 急に言葉が砕けたな。こっちが素か?

 てか、それって天国ってより地獄だろ。

 生まれ変わるか天国かって、究極の選択じゃねえか。

 そんなことを考えている俺を見て、アクアは満面の笑みを浮かべた。

 

「うんうん、天国なんて退屈な所行きたくないわよね? かといって、今更記憶を失って赤ちゃんからやり直すって言われても、今までの記憶が消える以上、それってあなたっていう存在が消えちゃう様なものなのよ。そこで! ちょっといい話があるのよ」

 

 だんだんこの女神の事が分かってきたぞ。あれだ、駄目な系の女神だこの人。

 

「あなた……。ゲームは好きでしょ?」

「好きだが」

 

 アクアが説明を始める。要約するとこうだ。

 地球じゃない世界、異世界に魔王がいる。

 そして、魔王軍のせいでその異世界がピンチらしい。

 その世界では、魔法があり、モンスターがいて、レベルやステータスがある。

 そして、その世界で魔王軍に殺された人達はもうあんな死に方するのは嫌らしく、生まれ変わりを拒否するらしい。

 そして、そのままだとその世界が滅んでしまう。

 それなら他の世界で死んだ人達を転生させようという事だった。

 世界単位の大規模な移民政策だな。

 

「で、送るなら、若くして死んだ未練タラタラな人なんかを、肉体と記憶はそのままで送ってあげようって事になったの。それも、送ってすぐ死んじゃうんじゃ意味が無いから、何か一つだけ。向こうの世界に好きな物を持っていける権利をあげているの。強力な特殊能力だったり。神器級の武器を希望した人もいたわね。……どう? あなたは、異世界とはいえ人生をやり直せる。異世界の人にとっては、即戦力になる人がやってくる。ね、悪くないでしょ?」

 

 なるほど、ウィンウィンの関係か。悪くないな。

 すげぇテンション上がってくる。

 まさか、こんなゲームの世界みたいな所に行けるなんてな。

 

「文字とか言葉ってどうなんだ? 読んだり聞いたり喋ったりすることはできるようになるのか?」

「その辺は問題ないわ。私達神々の親切サポートによって、異世界に行く際にあなたの脳に負荷を掛けて、一瞬で習得できるわ。もちろん文字だって読めるわよ?副作用として、運が悪いとパーになるかもだけど。……だから、後は凄い能力か装備を選ぶだけね」

 

 今凄く重要な事をきいたような。まぁ、運がいいことには定評のある俺だ。大丈夫だろう。

 と、アクアがカタログの様な物を差し出した。

 

「選びなさい。たった一つだけ。あなたに、何者にも負けない力を授けてあげましょう。例えばそれは、強力な特殊能力。それは、伝説級の武器。さあ、どんなものでも一つだけ。異世界へ持って行く権利をあげましょう」

 

 アクアからカタログを受け取ると、パラパラと見流していく。

 そこには、《怪力》《超魔力》《聖剣アロンダイト》《魔剣ムラマサ》……その他諸々、色々な名前が記されていた。

 結構あるな、一時間やそこらじゃ全部読みきれないな。

 てか他にも転生者はいるんだよな。それなのにまだ魔王を倒せていないってどんだけ強いんだよ。

 それなら俺が欲しい物でいいかな?

 

「決まりました」

「そう、何にするの?」

「その世界で最も硬い金属で作った軽い機械鎧(オートメイル)の右手と左足にしてほしいです」

「えっと、それだけでいいの? そんなんじゃ魔王軍となんて戦えないわよ」

「別にいいよ、戦う気は無いし。それに他にも転生している人がいるのに魔王倒せてないとか、それ絶対に倒せないだろ」

「そんな事ないわよ! ねぇ、他にないの? そんなんじゃ私が上に怒られちゃうの!」

「えぇ、他に欲しい物はあるけど、前に言ったものがあってこそだからなあ」

「いいから!二つ叶えてあげるから!」

 

 おっ、ラッキー! 二つも貰えるぞ。

 

「じゃあ錬金術を使えるように、真理を見せてください」

「見せることはできないけど、いいわ。言語と同じように脳に負荷を掛けて覚えさせてあげる。」

 

 俺の脳は大丈夫だろうか? 負荷の掛けすぎで廃人になったらどうしよう?

 

「まぁ、それでいいよ」

「ん。それじゃ、この魔法陣の中央から出ない様にね」

 

 そして俺の足の下に、光る魔法陣が現れた。

 すげぇ、リアルで初めて魔法陣を見た。

 

「霧崎雪那さん。あなたをこれから、異世界へと送ります。魔王討伐のための勇者候補の一人として。魔王を倒した暁には、神々からの贈り物を授けましょう」

「贈り物って?」

 

 てか、口調が戻ったな。

 

「そう。世界を救った偉業に見合った贈り物。……たとえどんな願いでも。たった一つだけ叶えて差し上げましょう」

「まじか!」

 

 何だよ! それ最初に言えよ! もっと真面目に考えとけばよかった。

 

「さあ、勇者よ! 願わくば、数多の勇者候補の中から、あなたが魔王を打ち倒す事を祈っています。……さあ、旅立ちなさい!」

 

 そして、俺は明るい光に包まれた。

 



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駆け出し冒険者の街アクセル

 

 目を開けると石造りの家々が目に入る。馬車が音を立てて進んでいく。無邪気な子供達がはしゃいでいる。

 

「すげぇ、マジで異世界だ。俺は本当に異世界に来たんだ! 俺、この世界で冒険するのか」

 

 現代日本で見るような車やバイク、ビルやマンションなんて一切無く、青々とした綺麗な空。

 俺は軽い感情に浸っていた。

 

「おっ、獣人がいる! あっちにはエルフが! すげぇすげぇ! やっぱ異世界はこうじゃなくちゃな!」

 

 数分程、はしゃいでいたら周りから奇異の目で見られ始めたので、その場から離れた。

 やっぱりここは定番の冒険者ギルドに行くべきだろう。そこで冒険者登録して冒険して。

 てか、ギルドは何処にあるんだ?街の人に聞くしかないか。

 

「あの、すいません。冒険者になりたいんですけど、何処に行けばなれますか?」

「ん? 何だい? この街の冒険者ギルドを知らないなんて、他所から来た人かい?」

 

 よかった、やっぱりギルドはあるんだな。

 

「そうなんですよ。冒険者になりにこの街に来たんですが。場所が分からなくてね」

「あらあら、そうかい。冒険者ギルドはここの通りを真っ直ぐ行って右に曲がれば、看板が見えてくるわ。駆け出し冒険者の街、アクセルへようこそ。私は服屋をやってるから何か合ったら訪ねてきな」

「ありがとうございました! それでは」

 

 駆け出し冒険者の街、アクセルか。

 死んだばかりのスタート地点としてこれ以上の所は無いだろう。街の人も親切だし。

 おばさんに礼を言った後、教わった道を歩いて行く。

 

 

 ──冒険者ギルド──

 

 

 冒険者ギルドとは、冒険者に仕事を斡旋したり、支援をしたりする組織。地球で言うところのハロワだ。

 それは大きな建物で、中からは賑やかな声や食べ物の匂いが漂っていた。

 やはり荒くれものがいたりして、絡まれるのだろうか?でも俺としては絡まれたくないな。

 もっと親切な荒くれものだったら良いけど。

 俺は覚悟を決め、中へ入る。

 

「あ、いらっしゃいませー。お仕事案内なら奥のカウンターへ、お食事なら空いてるお席へどうぞー!」

 

 短髪赤毛のウェイトレスのお姉さんが出迎えてくれた。

 店内は少し薄暗く、酒場では鎧を着た人や剣を腰に差した人がたむろしている。

 

「あの、冒険者登録は何処ですればいいんですか?」

「奥のカウンターでできますよー」

「わかりました、ありがとうございます」

 

 俺は喧騒の中を進んでいき、他の人にならって並んだ。

 他は空いているが誰も行こうとしない。やっぱ美人の方がいいよね!

 数分並んでいると俺の番がやって来る。

 

「はい、今日はどうされましたか?」

 

 受付の女の人はウェーブのかかった金髪の様な髪と巨乳で、おっとりした感じの美人だ。

 

「冒険者登録をしに来たんですが、ここで合ってますか?」

「はい。合ってますよ。えっと、では登録手数料が掛かりますが大丈夫ですか?」

「登録手数料? いくら掛かるんですか?」

「千エリス掛かります」

 

 登録手数料か。ふとズボンのポケットに違和感を感じ、てを突っ込んだ。

 中には二枚のコインがあった。

 

「これで足りますか?」

「はい、千エリスちょうど貰います」

 

 よかった。これで足りなかったらあの女神を呪ったぞ。

 そして、多分一エリスは一円換算だと思うので、俺は異世界へ千円を渡され放り出されたわけだ。

 これ呪っても悪くないよね?

 

「こほん、では。冒険者になりたいと仰るのですから、ある程度は理解しているとは思いますが、簡単な説明を。……まず、冒険者とは街の外に生息するモンスター、人に害を与えるモノの討伐を請け負う人の事です。とはいえ、基本は何でも屋みたいなものです。……冒険者とはそれらの仕事を生業にしている人達の総称。そして、冒険者には、各職業というものがございます」

 

 おお! やっぱあるんだな、職業。一応錬金術を使えるようにしてもらった筈だが、大丈夫だろうか?

 受付のお姉さんが、俺の前にカードを差し出した。

 免許証ぐらいの大きさのそれは、見た感じ身分証の様に見える。

 

「こちらにレベルという項目がありますね?ご存知の通り、この世のあらゆるモノは、魂を内に秘めています。どの様な存在も、生き物を食べたり、もしくは殺したり。他の何かの生命活動にとどめを刺す事で、その存在の魂の記憶の一部を吸収できます。通称、経験値、と呼ばれるものですね。それらは普通、目で見る事はできません。しかし……」

 

 お姉さんが、カードの一部を指差し、説明を続けた。

 

「このカードを持っていると、冒険者が吸収した経験値が表示されます。それに応じて、レベルというものも同じく表示されます。これが冒険者の強さの目安になり、どれだけ討伐を行ったかもここに記録されます。経験値を貯めていくと、あらゆる生物はある日突然、急激に成長します。俗に、レベルアップだの壁を越えるだのと呼ばれていますが……。まあ要約すると、このレベルが上がると新スキルを覚えるためのポイントなど、様々な特典が与えられるので、是非頑張ってレベル上げをして下さいね」

 

 アクアがゲームは好きかと聞いてきていたがこれが理由だろう。確かに今の説明通りだと、まんまゲームである。

 

「まずは、こちらの書類に身長、体重、年齢、身体的特徴等の記入を願います」

 

 差し出された書類に、俺は自分の特徴を書いていく。

 身長180センチ、体重65キロ、年は15、黒髪黒目、義手義足。

 

「はい、結構です。って義手義足って本当ですか?自然にしているように見えるんですが」

 

 確かに今まで動かしていたように動かせるから、服で見えなかったらわからないだろう。

 俺は袖を捲って右腕と左足を見せる。右腕と左足の機械鎧は銀色の光を反射させていてとてもグッとくる。

 

「本当だったんですね。ではこちらのカードに触れてください。それであなたのステータスがわかりますので、その数値に応じてなりたい職業を選んでくださいね。経験を積む事により、選んだ職業によって様々な専用スキルを習得できる様になりますので、その辺も踏まえて職業を選んでください」

 

 遂にきたな。

 これで錬金術師が出なかったら少し落ち込むな。出なかったとしても魔法使い職にはなりたいな。

 俺は緊張しながら、カードに触れた。

 

「……はい、ありがとうございます。キリサキセツナさん、ですね。ええと、……。あ、筋力、生命力魔力に器用度、敏捷性……、どれも平均値を少し上回ってますよ。って、知力が尋常じゃないほど高いんですけど!? 紅魔族でもここまで知力が高いことは無いですよ!?……あ、幸運も非常に高いですね。まあ、冒険者にとって幸運ってあまり必要ない数値なんですが」

「……ではどうしますか?一応ほぼ全ての下級職になることができ、上級職は最高の魔法を誇る魔法使い《アークウィザード》になれますが……、ってあれ?もう二つ上級職がありますね」

 

 お、もしや錬金術師ではないのか?

 

「一つは錬金術師(アルケミスト)ですね!初級から中級までの魔法を扱い、ポーションや魔道具の制作をすることができるサポート職ですね。これはとても珍しいですね、あまり錬金術師の方はいらっしゃらないのですよ」

 

 あれ?何か思ってたのと違う。もっと鋼の錬金術師みたいな感じだと思ってたんだけど。

 

「もう一つは国家錬金術師? これは錬金術師から派生した職業ですかね? これは未発見の職業ですからどの様なスキルかわからないのですが。多分錬金術師に似たスキル構成だと思われます」

 

 来た! これだ! 絶対にこれを選ぶ! 国家錬金術師とかまんまじゃん! でもよかった! これが無かったらアークウィザードを選んでたよ!

 

「国家錬金術師にします!」

 

 ヤバい、テンション上がって少し声が大きくなってしまった。

 

「国家錬金術師ですね! 未だに未知数の職業ですが他の上級職に負け劣らない職業だと思われます! では、国家錬金術師……っと。冒険者ギルドへようこそセツナ様。スタッフ一同、今後の活躍を期待しています!」

 

 お姉さんはそう言って、にこやかな笑みを浮かべた。

 こうして、俺の異世界での生活が始まった。

 



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初クエスト

 

 冒険者登録を終えた後、俺は酒場の席で一人で座って冒険者カードとにらめっこしていた。

 まずステータスだが筋力、生命力、魔力、器用度、敏捷性は同じくらいで低いわけではない。むしろ平均値より高いらしい。

 そして知力と幸運、これが他と比べるとどう見てもおかしい。両方とも他のステータスの倍以上ある。

 推測だが、アクアが俺に真理を覚えさせると言っていた事が関係しているだろう。そりゃあ真理を覚えたら知力もおかしくなるだろう。

 幸運は、これは元々だろう。そうとしか言えない。他に理由が思いつかないし。

 スキルは何故か初級魔法から上級魔法まで習得できるようになっていた。その代わりかポーション制作に必要な調合というスキルは習得できないようになっていた。

 そして錬金術というスキルがあり、他にも機械鎧耐久上昇や機械鎧自動修復、機械鎧温度耐性等の機械鎧に関するスキルが多くあった。

 スキルポイントは100あったのだがこれが多いのか少ないのかはわからない。

 初級魔法は1ポイント、中級魔法は5ポイント、上級魔法は15ポイントで習得できた。

 聞いた話だとアークウィザードでもその倍は掛かるらしいので改めてこの職業はチートだと思った。

 その後魔道具制作スキルを10ポイントで習得し、錬金術を50ポイントで習得した。

 錬金術だけポイントが高すぎると思うのだが、基本職の冒険者だとこれ以上掛かると思うと笑えてきた。

 次に機械鎧スキルの機械鎧自動修復と機械鎧温度耐性を8ポイントで二回ずつ習得し、残り11ポイントは機械鎧耐久上昇と機械鎧軽量化を二回ずつ習得し、残り3ポイントは長槍と短槍、剣を習得しポイントは0になった。

 錬金術師なのに武器のスキルとはこれ如何に。

 機械鎧耐久上昇と軽量化を両方とも取っているのはこれで相殺できるからだ。耐久上昇といってもその分重くなる事を知り、軽量化を取る事にしたのだ。

 

 全ての習得を終了したとき、俺の体の中で何かが変わったような感覚がしたあと魔法や魔道具制作、錬金術の使い方が何となくわかるようになった。

 とても不思議な感覚だ。これは地球では絶対に感じることのない感覚だろう。

 

 ある程度のスキルや魔法を習得した後、俺は依頼掲示板で初心者向けのものを剥がして受注した。

 

 

          ※

 

 

 雲一つない、晴天といえる青空の下。

 ズッゥゥゥン、ズッゥゥゥン。

 俺は現在縦横幅2メートルを越すカエル──ジャイアントトード追いかけられていた。

 今日初めて受けたクエストは三日間でジャイアントトード五匹の討伐だ。

 このクエストは定期的に掲示板に張られる。その理由は酒場でそのカエルを原材料とした食事が出されるからだ。

 場所は街を出て数十分歩いた所の広大な平原地帯。

 ジャイアントトードは繁殖期になると、産卵のための体力を付けるため、エサの多い人里にまで現れ、農家の飼っている山羊や子供を丸呑みするらしい。

 最初その話を聞いたときそこまで大きくないと思っていたが、これは予想外。大きすぎるだろう。

 今にも俺の事を食おうと舌を使って捕まえようとしてくる。

 しかも分厚い脂肪が、打撃系の攻撃を防ぐとの事。

 金属を嫌っているらしくそこそこの冒険者にとっては余裕の相手らしい。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、『ライトニング』!」

 

 俺は危機を感じ咄嗟に中級魔法のライトニングを使った。

 俺の手から放たれた雷は俺を追っていたジャイアントを貫きその後ろにいたもう一匹のジャイアントトードも貫いた。

 はっ?魔法強すぎない? これ中級魔法だよ。どう考えてもオーバーキルだろう。何かが失われた様な感覚がしたけど気にするほど大きくはないし。

 何だこれ、このクエスト美味しすぎるだろ。

 

 それから後三匹をそれぞれ違う魔法で討伐した。

 試した魔法は全部で四つ。

 最初の『ライトニング』、火の玉を打ち出す『ファイアーボール』、風の刃で相手を切り裂く『ブレード・オブ・ウィンド』、冷気を帯びた白い霧で相手を凍り漬けにする『フリーズガスト』の四つだ。

 四つを使ってみてジャイアントトード狩りに適しているのは『ブレード・オブ・ウィンド』だった。他のだと焼いたり、凍らせたりで肉の状態が悪くなっていた。

 魔法を使ってみてあまり魔力消費が無かったが、中級魔法ならせいぜいここら辺だろう。

 だが改めて異世界へ来たんだな。と思った。

 その後試したことだが、やはり錬金術は思っていたのと同じく両手の平を合わせて錬金術を使うことができた。

 帰りはエドみたいに腕から剣を生やしたり、槍を作り出したりして遊んで帰った。

 錬金術を試してみて、どうやらこれは魔力消費が0で使えるらしく、また魔力を込めることによって強力な錬金術が使えることがわかった。

 

 

          ※

 

 

 ジャイアントトードを五匹倒した後もずっと平原にいたせいか、それ以上にジャイアントトードを倒していた。

 俺はギルドに報告に行きジャイアントトードの死体がある場所を教え報酬を貰った。

 報酬は依頼報酬で十万エリス、ジャイアントトードの移送費混みで一匹五千エリスでの買い取り。

 今回倒した数は九匹、これを合計すると俺は一日に十四万五千エリス稼いだことになる。

 そこから宿代、飯代、服代で消えていくから贅沢はしてられない。

 一応錬金術で武器は作れるが、心配だから武器も持っておきたい。

 

 酒場で飯を食った後、俺はギルドに教えて貰った宿屋に来ていた。

 この宿屋は中堅冒険者が主に利用するらしく一泊一万エリスだそうだ。だが安眠のためだ、仕方ない。

 初心者冒険者は馬小屋で寝泊まりするらしいが俺にはそんなの無理だ。

 

 

          ※

 

 

 翌日。朝早くからギルドに向かい、またジャイアントトード討伐のクエストを受けた。

 まだまだひよっこの俺がこれ以外受けることができないからなんだがな。

 他のクエストを見ても一撃熊や初心者殺し等、ヤバい名前のモンスターばかりだ。

 だからある程度レベルが上がり、装備や仲間が揃ったら行こうと思う。

 因みにまだパーティに入ることは考えていない。

 

 

 

 手早くカエルを五匹討伐した後、ギルドに報告し報酬を貰った。

 今回は槍を使ってみて倒してみたが、あれは少し怖かった。いつ呑み込まれるかわからないんだぜ。

 手持ちが二十万ほどになったので俺は服屋へ行き、服の制作を頼んだ。

 デザインは勿論フラメルの十字架のマークが背中に付いた赤いコートに黒が基本の上下だ。

 これを三セット分頼んだ。代金は十五万エリスだった。一週間もすればできるらしい。

 次に靴屋へ行き、黒色のブーツを買った。

 その後、小物が売っている店へ行き、純白の手袋を三組、靴下、下着等、日常品を買い揃えた。

 俺は残った金で飯を食い、昨日と同じところで宿を取った。

 

 

          ※

 

 

 一週間後、俺は黒いズボンと上着に赤いコートを着てギルドに向かったいた。

 この一週間の間も毎日毎日ジャイアントトード狩りをこなし、着々とレベルを上げていった。

 レベルは11となりポイントは30も貯まっていた。1上がるごとに3ポイント増えているようだ。

 今は特に必要なスキルは無いので貯めておく事にした。

 俺が転生してから二日目に土木工事の所で見たことがあるような人を見かけたが思い出せないので保留だな。……誰だったけな、あの水色の髪の人。

 そしてこれは転生してから毎日思っていたことだが、何故か夕方より少し早い時間になると、何処からか爆発音が聞こえてくる。

 騒音迷惑にもほどがある。そして何処からか爆裂魔法がどうとか聞こえたので、爆発音は爆裂魔法というものによることがわかった。

 ここまでの威力だ、……その内使えるようになりたいもんだな。

 そして、その日もカエルの肉は美味しかった。

 



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邂逅

 

 更に一週間後。俺はパーティメンバーを求め、パーティ募集の張り紙を見ていた。

 普通に前衛を求めている事が書いてあるものもあれば、友達か恋人でも求めてるのか? と思うようなものもあった。

 その中で一際怪しい張り紙を見つけた。

 内容は纏めると上級職のみらしい。アットホームやら宝くじやら地球特有の単語が書かれていたので転生者で間違いないだろう。

 俺は募集主を探したが直ぐに見つかった。と言ってもこの時間帯に一組しか人がいなかったからだ。

 募集主は水色の髪に同じ水色の瞳をした女の子、……ってあいつアクアじゃね? あ、目が合った。

 

「あの、募集の張り紙を見たんだが。女神がこんな所で何してんだ?」

「えっと、誰だっけ?」

 

 こいつ!

 

「おい、女神って言ってんだからお前が転生させた人じゃないのか?」

 

 すげえ。この人異世界まで来てジャージ一丁だ。てかこの人毎日土木工事してる人じゃん。あぁ、この人転生者だったんだな。

 見た感じ歳上っぽいな。

 

「んー?あー、カズマの前に転生させた人だわ。この人」

「そうなのか?(ん?さっき募集の張り紙を見て来たって言ってたな。てことは俺みたいなノーチートじゃなくて、特典にチートを貰った転生者が俺達のパーティに!)」

「つか、何でアクアがここにいるんだ?」

「あぁ、それは俺がこいつを特典のモノとして持ってきたんだ」

「なーる」

 

 考えたな。女神を持ってくるってマジでチートじゃねぇか。やっぱここに入ったほうがよさそうだな。

 

「なぁ、メンバー募集してるんだろ?俺の事を入れてくれないか?」

「あなた、張り紙を見たの?上級職のみなんですけど」

「俺は錬金術師で、これでも上級職だ」

「(おぉ、マジか?おい、アクア。こいつは絶対に逃さないぞ!)」

「(そうね、なんたって上級職なんだしね!)」

「おい、入れてもらえるのか?」

「お、おう。大丈夫だ。よし、これから実力を見にジャイアントトードを狩りにいくか」

 

 よかった、同じ日本人だったら話しやすいしな。

 

「俺は佐藤和真、職業は冒険者だ。よろしくな」

「霧崎雪那だ、職業は国家錬金術師だ。こちらこそよろしく」

「じゃあ行くか」

 

 カズマたちと外へ行こうとすると、一人の少女が近づいてきた。

 

「上級職の冒険者募集を見て来たのですが、ここで良いのでしょうか?」

 

 その少女は気怠げな、眠そうな赤い瞳。

 そして、肩口に届くか届かないかの長さの黒髪。

 黒いマントに黒いローブ、黒いブーツに杖を持ち、アニメで見るような魔法使いが被るトンガリ帽子を被っている少女。

 とても整った顔つきで、慎ましやかなものをもつ子である。

 12か13歳くらいに見える少女は、急にマントを翻す。

 

「我が名はめぐみん! アークウィザードを生業とし、最強の攻撃魔法、爆裂魔法を操る者……!」

 

 この子はあれだろうか?中二病と言う症状の子なのだろうか。にしても可愛いなこの子。

 

「……………冷やかしに来たのか?」

「ち、ちがわい!」

「名前と親の特徴を教えてもらえれば親探そうか?」

「おい、私の名前に何か文句があるなら聞こうじゃないか」

 

 およ、本名だったか。にしても可愛いな。絶対にパーティに入れたいな。

 

「……その赤い瞳。もしかして、あなた紅魔族?」

 

 紅魔族って受付の人が言ってた種族かな。知力と魔力が高いんだっけ。

 アクアの問いにその子は頷くと、アクアに自分の冒険者カードを手渡した。

 

「いかにも! 我は紅魔族随一の魔法の使い手、めぐみん! 我が必殺の魔法は山をも崩し、岩をも砕く……! ……と言う訳で、優秀な魔法使いはいりませんか? ……そして図々しいお願いなのですが、もう三日も何も食べてないのです。できれば、面接の前に何か食べさせては頂けませんか……」

 

 めぐみんはそう言って悲しげな瞳で見てきた。

 しょうがない。何か奢ってやるか。

 

「すいませーん! 一万エリスでできるだけ多く食料を持ってきてください! 早く!」

「お、おい。ちょっとキャラがおかしくなってるぞ」

「いや、おかしくなどなってない!」

「いやいや、口調が全くさっきと違うから!?」

「それで、その眼帯はどうしたんだ?怪我でもしてるのか?」

「無視かいな。怪我?それならこいつに治してもらったらどうだ?こいつ回復魔法だけは凄いから」

「だけ!?」

 

 そういえばこいつ女神でアークプリーストだったけな。

 

「……フ。これは、我が強大なる魔力を抑えるマズィックアイテェム……。もしこれが外される事があれば……。その時は、この世に大いなる災厄がもたらされるだろう……」

 

 おお、かっけえ。

 

「へえー……。封印みたいなものか」

「まあ嘘ですが。単に、オシャレで着けているただの眼帯……、あっあっ、ごめんなさい、引っ張らないで下さい」

「おいおい、離してやれよ」

「……ええと。カズマとセツナに説明すると、彼女達紅魔族は、生まれつき高い知力と強い魔力を持ち、大抵は魔法使いのエキスパートになる素質を秘めているわ。紅魔族は、名前の由来となっている特徴的な赤い瞳と……。そして、それぞれが変な名前を持っているの」

 

 カズマから眼帯を解放されためぐみんは気を取り直し。

 

「変な名前とは失礼な。私から言わせれば、街の人達の方が変な名前をしていると思うのです」

「そうだ、めぐみんなんて可愛い名前じゃないか!」

「そ、そうですか。ありがとうございます」

 

 モジモジしながらお礼を言うめぐみん可愛い!」

 

「は、はぅわぁ」

 

 ? 何故かめぐみんが赤くなってる。

 

「セツナ。お前、もしかして(ロリコンなのか?)」

「ん? 何だ?」

「いや、何でもない」

「お待たせしました、ジャイアントトードの唐揚げでーす」

「あ、ありがとうございます。ほらめぐみん、じゃんじゃん食え」

「ありがとうございただきます!」

 

 はっはっはっ。よく噛んで飲み込めよ。

 

「…………とりあえず、この子の種族は質のいい魔法使いが多いんだよな? 仲間にしてもいいか?」

 

 アクアがめぐみんに冒険者カードを返す。

 

「いーんじゃない? 冒険者カードは偽造できないし、彼女は上級職の、強力な攻撃魔法を操る魔法使い、アークウィザードで間違いないわ。カードにも、高い魔力値が記されてるし、これは期待できると思うわ。もし彼女の言う通り本当に爆裂魔法が使えるなら、それは凄いことよ?爆裂魔法は、習得が極めて難しいと言われる爆発系の、最上級クラスの魔法だもの」

「おい、彼女ではなく、私の事はちゃんと名前で呼んで欲しい」

「大丈夫だよ、俺はしっかり名前で呼ぶから」

「まあ、いい。俺はカズマ。こいつはアクアだ」

「俺はセツナだ」

「よろしく、アークウィザード」

 

 カズマがそう言うと、めぐみんは何か言いたそうな顔をしながら、カエルの唐揚げを口にした。

 

 

          ※

 

 

 カズマside

 

「爆裂魔法は最強魔法。その分、魔法を使うのに準備時間が結構かかります。準備が調うまで、あのカエルの足止めをお願いします」

 

 俺達はセツナと満腹になっためぐみんを連れ、あのジャイアントトードにリベンジに来ていた。

 平原の、遠く離れた場所には一匹のカエルの姿。

 そのカエルは、こちらに気付いて向かって来ていた。

 だが、更に逆方向からも別のカエルがこちらに向かう姿が見える。

 

「遠い方のカエルを魔法の標的にしてくれ。近い方はセツナと……。おい、行くぞアクア。今度こそリベンジだ。お前、一応は元なんたらなんだろ?たまには元なんたらの実力を見せてみろ!」

「わかった」

「元って何!? ちゃんと現在進行形で女神よ私は! アークプリーストは仮の姿よぉ!」

 

 涙目で俺の首を絞めようとしてくる自称女神を、めぐみんが不思議そうに。

 

「……女神?」

「……を、自称している可哀想な子だよ。たまにこういった事を口走ることがあるんだけど、できるだけそっとしておいてやって欲しい」

「あまり気にしない方がいいぞ、アクアにとってもその方が良いはずだ」

 

 俺とセツナの言葉に、同情の目でアクアを見るめぐみん。

 涙目になったアクアが、拳を握ってヤケクソ気味に、近い方のカエルへと駆け出した。

 

「何よ、打撃が効き辛いカエルだけど、今度こそ女神の力見せてやるわよ! 見てなさいよカズマ! 今のところ活躍してない私だけど、今日こそはっ!」

 

 そう叫んで、見事カエルの体内へ侵入する事に成功した学習能力の無いアクアが、やがて動かなくなりそのまま一匹のカエルを足止めする。

 流石は女神、身を挺して時間稼ぎをしてくれているらしい。

 遠くでセツナが両手の平を合わせ、地面に手を当てた。

 すると地面から槍が生えてきた。何あれ凄い!

 そしてセツナはその槍を使いカエルを刺し殺していた。

 ……と、めぐみんの周囲の空気がビリビリと震えだした。

 めぐみんが使おうとしている魔法がヤバそうなことは、魔法を知らない俺でも分かった。

 

「『黒より黒く、闇より暗き漆黒に』」

「『我が深紅の混交に望み給もう』」

「『覚醒の時来たれり、無謬の境界に堕ちし理、むぎょうの歪みと成りて現出せよ!」』

「『踊れ、踊れ、踊れ』」

「『我が力の奔流に望は崩壊なり』」

「『並ぶ者なき崩壊なり』」

「『万象等しく灰燼に帰し、深淵より来たれ!』」

「これが人類最大の威力の攻撃手段!!、 これこそが! 究極の攻撃魔法」

 

 めぐみんの杖の先に光が灯った。

 膨大な光をギュッと凝縮した様な、とても眩しいが小さな光。

 めぐみんが、紅い瞳を鮮やかに輝かせ、カッと見開く。

「『エクスプロォージョンッ』!!!」

 

 カズマsideout

 



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爆裂娘

 

「『エクスプロォージョンッ』!!!」

 

 槍を使ってジャイアントトードを狩っていたら遠くからめぐみんの声が聞こえた。

 声がした方を見たら凄い瞬間が見えた。

 一匹のジャイアントトードを中心に魔法陣が展開されていて、次の瞬間平原に一筋の閃光が走り抜けた。

 めぐみんの杖の先から放たれたその光は、ジャイアントトードに吸い込まれる様に突き刺さり。

 凶悪で強烈な光が、周囲の空気を震わせる轟音と共に、ジャイアントトードを爆散させた。

 遠くにいたこちらまで届く爆風に、顔を庇う。

 爆煙が晴れると、ジャイアントトードのいた場所には直径二十メートル以上のクレーターができており、爆裂魔法の異常さを語っていた。

 

「すげぇ、上級魔法なんてめじゃないな」

 

 爆裂魔法に感慨に耽っていると、魔法の轟音と衝撃で目覚めたのか、ジャイアントトードが一匹地中から這い出た。

 

「めぐみん! 一旦離れて、きょりを取ってから攻撃を……」

 

 カズマが何か言っているがめぐみんは倒れたまま起きる気配がない。

 多分めぐみんは魔力が尽きて動くことができないのだろう。

 俺は一度もあの状態になったことが無いが、上級魔法を連発したりしたらああなるだろう。

 あ、もう一体出てきて、カズマのことを追い出した。

 

「あああああああ! 助けてくれ! セツナ、助けてくれええええええ!」

「わかったー。今助けるぞー。『ライト・オブ・セイバー』! 『ライトニング』! 『ライトニング・ストライク』!」

 

 俺は走って今まさに食われそうになっていためぐみんを助けた後、アクア、カズマの順番で助けていった。

 アクアは既に補食されていたのでカエルの粘液まみれになっていて、とても生臭い。

 カズマは息を切らしながら、肩で呼吸している。

 めぐみんは現在俺が背中と膝裏を支えて抱えていて──所謂お姫様抱っこ──帽子で表情が見えない。

 

「カズマ、どうする?」

「…………撤収」

 

 

          ※

 

 

「うっ……うぐっ……。ぐすっ……。生臭いよう……。生臭いよう…………」

 

 カズマの後ろを粘液まみれのアクアがめそめそと泣きながら付いて行ってる。

 

「それにしても、セツナは上級魔法を使えたんですね。錬金術師は中級魔法までしか使えなかったはずですが、どうして使えたんですか?」

 

 そしてその横をめぐみんを背中におぶさって付いていく。

 魔法を使う者は、魔力の限界以上を超えて魔法を使うと、魔力の代わりに生命力を削って魔法を使うらしい。

 魔力が枯渇、まぁ今のめぐみんの状態で大きな魔法を使うと、命に関わる事もあるそうだ。

 

「俺の職業は正確には国家錬金術師だからな。ポーションを作るための調合が無い代わりにか、上級魔法を習得できたんだ」

「そうだったんですか」

 

 どうやら納得してくれたようだ。まあ、後でまた質問されるだろうからその時に答えてやろう。

 にしてもめぐみんをおんぶすることができるなんて、何て役得。

 と、そんな下らないことを考えていたらカズマが口を開いた。

 

「今後、爆裂魔法は緊急の時以外は禁止だな。これからは、他の魔法で頑張ってくれよ、めぐみん」

 

 カズマの言葉に、背中におぶさっためぐみんが、肩を掴む手に力を込めた。

 

「…………使えません」

「…………は? 何が使えないんだ?」

 

 めぐみんの言葉に、カズマがオウム返しで言葉を返す。

 めぐみんが、肩に掴まる手に更に力を込め、その薄い胸が俺の背中に押し付けられた。うぐっ、理性が、飛びそう。

 

「…………私は、爆裂魔法しか使えないんです。他には、一切の魔法が使えません」

「…………マジか」

「…………マジです」

 

 カズマとめぐみんが静まり返るなか、今まで鼻をぐずぐず鳴らしていたアクアが、ようやく会話に参加する。

 

「爆裂魔法以外使えないってどういう事? 爆裂魔法を習得できる程のスキルポイントがあるなら、他の魔法を習得していない訳がないでしょう?」

 

 何やらカズマが首を傾げている。

 カズマは説明をしっかりと聞いていたのか?

 そんなカズマを見てアクアが説明を始めた。

 

「スキルポイントってのは、職業に就いた時に貰える、スキルを習得するためのポイントよ。優秀な者ほど初期ポイントは多くて、このポイントを振り分けて様々なスキルを習得するの。例えば、超優秀な私なんかは、まず宴会芸スキルを全部習得し、それからアークプリーストの全魔法も習得したわ。

「宴会芸スキルって何に使うんだ?」

 

 確かに俺も思った。だがカズマの質問を無視してアクアは説明を続ける。

 

「スキルは、職業や個人によって習得できる種類が限られてくるわ。例えば水が苦手な人は氷結や水属性のスキルを習得する際、普通の人よりも大量のポイントが必要だったり、最悪、習得自体ができなかったり。……で、爆発系の魔法を習得できるくらいの者なら、他の属性の魔法なんて簡単に習得できるはずなのよ」

「爆裂魔法なんて上位の魔法が使えるなら、下位の他の魔法が使えない訳が無いって事か。……で、宴会芸スキルってのは何時どうやって使うものなんだ?」

 

 俺の背中で、めぐみんがぽつりと呟いた。

 

「……私は爆裂魔法をこよなく愛するアークウィザード。爆発系統の魔法が好きなんじゃないです。爆裂魔法だけが好きなんです」

 

 どんどんカズマの表情が曇っていくなか、アクアは真剣な面持ちでめぐみんの独白に耳を傾けている。

 

「もちろん他のスキルを取れば楽に冒険ができるでしょう。火、水、土、風。この基本属性のスキルを取っておくだけでも違うでしょう。……でも、ダメなのです。私は爆裂魔法しか愛せない。たとえ今の私の魔力では一日一発が限界でも。たとえ魔法を使った後は倒れるとしても。それでも私は、爆裂魔法しか愛せない!だって、私は爆裂魔法を使うためだけに、アークウィザードの道を選んだのですから!」

 

 これは俺にも言えることだろう。アークウィザードに成っていたらもっと楽に冒険ができたかもしれない。だが、錬金術を使いたいが為に国家錬金術師に成ったのだから。

 

「素晴らしい! 素晴らしいわ! その、非効率ながらもロマンを追い求めるその姿に、私は感動したわ!」

 

 あ、カズマの表情がもう死んでる。

 それにしてもアクアと同じ意見って、結構ショックなんだが。

 あれ、カズマが何かを決めたような表情に。

 

「そっか。多分茨の道だろうけど頑張れよ。お、そろそろ街が見えてきたな。それじゃあ、ギルドに着いたら今回の報酬を山分けにしよう。うん、まあ、また機会があればどこかで会う事もあるだろ」

 

 ああ、カズマはめぐみんがアクアと似たような奴って理解したのだろう。

 だから切りはなそうとめっちゃ早口になってるし。

 

「ふ……。我が望みは、爆裂魔法を放つ事。報酬などおまけに過ぎず、なんなら山分けでなく、食費とお風呂とその他雑費を出して貰えるなら、我は無報酬でもいいと考えている。そう、アークウィザードである我が力が、今なら食費とちょっとだけ!これはもう、長期契約を交わすしかないのではないだろうか!」

 

 そう言いながらめぐみんはカズマの腕をがっしりと掴む。

 

「いやいやらその強力な力は俺達みたいな弱小パーティーには向いてない。そう、めぐみんの力は俺達には宝の持ち腐れだ。俺達の様な駆け出しは普通の魔法使いで十分だ。ほら、俺なんか最弱職の冒険者なんだからさ」

 

 カズマはそう言いながら掴まれた手を剥がそうとしている。

 

「いえいえいえ、弱小でも駆け出しでも大丈夫です。私は上級職ですけどまだまだ駆け出し。レベルも6ですから。もう少しレベルが上がればきっと魔法使っても倒れなくなりますから。で、ですから、ね?私の手を引き剥がそうとしないで欲しいです」

「おい、カズマ。一日一発とは言えあの威力なんだ。別にパーティーに入れてもいいんじゃないか?」

「そ、そうですよ! ね、ね!」

「いやいやいやいや、一日一発しか使えない魔法使いとか、かなり使い勝手悪いから。くっ、こいつ魔法使いのくせに意外な握力をっ……! お、おい放せ、お前多分ほかのパーティーにも捨てられた口だろ、というかダンジョンにでも潜った際には、爆裂魔法なんて狭い中じゃ使えないし、いよいよ役立たずだろ。お、おい放せって。ちゃんと今回の報酬はやるから! 放せ!」

「見捨てないでください! もうどこのパーティーも拾ってくれないのです! ダンジョン探索の際には、荷物持ちでも何でもします! お願いです、私を捨てないでください!」

「そうだカズマ! いいだろ一人くらい。俺がめぐみんの事面倒見るから入れてくれよ! 散歩も餌やりもちゃんとやるから!」

「おい、庇ってくれるのは嬉しいのだが、ペットか何かと間違えてないか?」

 

 腕を放さないめぐみんが捨てないでだのと大声で叫ぶためか、通行人達がこちらを見てひそひそと話をしていた。

 すでに街中に入っているため、粘液まみれのアクアもいるせいか、凄く目立つ。

 

「──やだ……。あの男、あの小さい子を捨てようとしてる……」

「──隣には、なんか粘液まみれの女の子を連れてるわよ。一体どんなプレイをしたのよあの変態」

「──あんな小さな子を弄んで捨てるなんて、とんだクズね」

「──見て! もう一人の男の人がそれを止めようとしてるわ。優しい人もいるのね……」

 

 わあ、凄い誤解が生まれてるー。でも面白そうだから何も言わないでおこう。

 アクアがそれを聞いてニヤニヤしている。

 そしてめぐみんにも聞こえたようで、めぐみんは口元をにやりと歪め……。

 

「どんなプレイでも大丈夫ですから! 先程の、カエルを使ったヌルヌルプレイだって耐えてみせ」

「よーし分かった! めぐみん、これからよろしくな!」

 

 こうして、無事?めぐみんを仲間にしたのであった。

 



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新入員?+α

 カズマside

 

「はい、確かに。ジャイアントトードを三日以内に五匹討伐。クエストの完了を確認致しました。ご苦労様でした」

 

 冒険者ギルドの受付に報告を終え、規定の報酬を貰う。

 粘液にまみれたアクアはそのままだと生臭い上、また俺があらぬ誤解を受ける可能性があるので、とっとと大衆浴場へ追いやった。

 めぐみんはセツナにおぶわれたままセツナとどこかへ行った。

 仕留めたカエルの内一体は爆裂魔法で消滅したため、クエスト完了の報告はどうなるのかと思っていたが、冒険者カードには、倒したモンスターの種類や討伐数が記憶されていくらしい。

 俺は自分のカードと、セツナとめぐみんから預かったカードを見せると、受付はカウンターに置いてある妙な箱を操作して、それだけでチェックを終えていた。

 科学の代わりに魔法が発達した結果なんだろうが、この世界の技術もあながちバカにはできない。

 俺は改めて自分のカードを見ると、そこには冒険者レベル4と記されている。

 あのカエルは駆け出し冒険者にとってレベルを上げやすい部類のモンスターなのだそうだ。

 俺一人でカエルを二匹狩った訳だが、それだけで一気にレベルが4に上がった。

 低レベルな人間ほど成長が速いらしい。

 カードに記されているステータスの数値が多少は上がっているが、あまり強くなったという実感は無い。

 

「……しかし、本当にモンスターを倒すだけで、強くなるもんなんだなぁ……」

 

 俺は思わず呟いた。

 

 受付のお姉さんは、最初の説明の時に言っていた。

 この世のあらゆるモノは、魂を体の内に秘めている。どの様な存在も、生き物を食べたり、もしくは殺したり。他の何かの生命活動にとどめを刺すことで、その存在の魂の記憶の一部を吸収できる、と。

 こういう所は本当にゲームみたいだ。

 

 よく見ると、カードにはスキルポイントと書かれていて、そこに3と表示されている。

 これを使えば、俺もスキルを覚えられるわけだ。

 

「ではジャイアントトード三匹の買い取りとクエストの達成報酬を合わせまして、十一万五千エリスとなります。ご確認くださいね」

 

 十一万五千か。

 あの巨大なカエルが、移送費込みで一匹五千円程での買い取り。

 そして、カエル五匹を倒して報酬が十万円。

 アクアの話では、クエストは四人から六人でパーティーを組んで行うものらしい。

 なので、普通の冒険者の相場だと、一日から二日をかけて命懸けで戦い、カエル五匹の取引と報酬、合わせて十二万五千円。五人パーティーだったとして、一人当たりの取り分が二万五千円。

 ……割に合わねー。

 クエストが一日で済めば日当二万五千円。

 これだけ見れば一般人にしてはいい稼ぎに思えるかもしれないが、命懸けの仕事にしては割に合っていない気がする。

 事実、今日なんてセツナがいなければ全員食われて、誰も助けることができず、あっさり全滅していただろう。

 考えただけでもゾッとする。

 一応ほかのクエストにも目を通すと、そこに並んでいたクエストは……。

 

『──森に悪影響を与えるエギルの木の伐採、報酬はでき高制──

 ──迷子になったペットのホワイトウルフを探して欲しい──

 ──息子に剣術を教えて欲しい──※要、ルーンナイトかソードマスターの方に限る。

 ──魔法実験の練習台探してます──※要、強靭な体力か強い魔法抵抗力…………』

 

 うん。

 この世界で生きていくのは甘くない。

 冒険開始二日目にして、もう日本に帰りたくなって来た。

 

 

 

「……すまない、ちょっといいだろうか……?」

 

 近くの椅子に座り、俺は軽いホームシックになっていると、背後からボソリと声がかけられた。

 異世界の原質を見せつけられ、なんだかぐったりしていた俺は虚ろな目で振り向いた。

 

「なんでしょ…………うか…………」

 

 そして、俺は声の主を見て絶句した。

 

 女騎士。

 

 それも、とびきり美人の。

 パッと見た感じ、クールな印象を受けるその美女は、無表情にこちらを見ていた。

 身長は俺より若干高い。

 俺の身長は165センチ。

 それより少し高いとなると170ぐらいだろうか。

 頑丈そうな金属鎧に身を包んだ、金髪碧眼の美女だった。

 

 

 カズマsideout

 

 

「なあめぐみん、お前どこに住んでんだ?」

「私ですか? 私は普通に馬小屋ですが、どうしてですか?」

「ああ、このまま送ってあげようかと思ったんだが。俺が泊まってる宿に来るか?」

「え!? いきなり宿に連れ込むとか何言ってんですか!?」

「いや、違うよ。馬小屋とか夜寒そうだし、危なくねえか?」

「それはそうですが。というかセツナは宿を取っていたんですね」

「俺は今までソロでジャイアントトードばっか狩ってたから、宿には泊まれるんだよ。それで、どうする?」

「襲ったりしませんよね」

「しねーよ。して欲しいならするけど」

「そうですか、って大丈夫ですよね!? まあ馬小屋で寝泊まりするのがきついのでお願いしますが」

 

 よっしゃ! めぐみんちゃんゲットだぜ!

 

「じゃあ行こう、直ぐ行こう」

「あ、あの本当に大丈夫ですよね?」

「大丈夫大丈夫、めぐみんちゃんが嫌な事はしないから。序でに宿で飯済ませちゃおうか」

「とても心配ですが、まあいいです。後ごちそうさまです」

「いいのいいの。カズマに俺が世話するって言ったしね」

「あの、私はペットじゃないですよ?」

「わかってるわかってる。ちゃんと女の子として扱うからねー」

 

 今だに体力が回復しないめぐみんは俺におぶさった状態のままだ。

 別に動けないパーティーメンバーを宿に無理矢理連れ込もうとしてるわけではない。しっかりと許可を取った。

 お、着いた。

 一応宿の人に言っとかなきゃな。

 

「あの、今部屋を借りてる者なんですが、一人増えていいですか?」

「えっと、それなら追加で五千エリスいただきますが」

「わかりました」

「あ、あの後ろの子がその、増える人、なんですか?」

「え?そうですが」

「そそそ、そうですか。あの、夜はお静かにしてくださいね」

「あ、はい」

 

 この人は何を言ってるんだ?

 まあ、いいか。取り敢えず飯が先だな。

 

「あの、宿の人にあらぬ誤解を受けているような気がするのですが」

「誤解? 何の事だ? あ、飯が来たぞ。食おうぜ」

「あ、はい」

 

 ううむ、めぐみんが借りてきた猫の様に大人しい。まあいつも騒いでいるわけではないよな。

 

 

 

「ふぅ、食った食った」

「ごちそうさまです。あの、こんなに奢ってもらってもよかったんですか?」

「ん? いいのいいの。金は結構貯まってるし」

「そうですか。えっと、お風呂に入ってきていいでしょうか?」

「別にいいよ。それに一々断りを得なくてもいいから」

「わかりました」

 

 さて、俺も大衆浴場に行くかな。

 

 それにしても今日初めて上級魔法を使ってみたが、中級魔法よりちょっと疲れるくらいだったな。

 これって他の魔法使いも同じような感じなのか? 

 そうだったら上級魔法を使える魔法使いはもう人間兵器じゃねえか。

 それともやっぱりおかしいほど高い知力が原因なのか?

 まあ今度上級魔法が使える魔法使いに聞いてみよう。

 あー、結局アレ(・・)使う機会がなかったな。速めに試したかったんだけどな。

 まあ、明日でいいかな。何時でもできるわけだし。

 

 

          ※

 

 

「ふぃー。いい湯だった。大衆浴場を作った人は偉人だなぁ」

「あ、あの。ベッドが一つしか無いんですが」

「ん? ああ、俺は床で寝てるから、ベッドは使っていいぞ」

「いやそこまで施しを受けるには」

「んー、めぐみんに床に寝させるわけにはいかないしな。あ、じゃあ一緒にベッドで寝よう」

「何を言ってるんですか!? それ絶対に襲われますよね!?」

「大丈夫大丈夫、抱き締めはするけど襲ったりしないよ」

「そうですか、ってそれ駄目でしょうが!?」

「えー、駄目かー?別にいいじゃんかー。抱き締めるくらい」

「何でそんなに子供っぽくなってるんですか!?」

「もうめぐみんったら、駄々捏ねないの」

「駄々捏ねてなんて無いですよ!? 私が子供みたいじゃないですか!?」

「ほらほら、もう寒くなってきたしさ。おりゃあ!」

「わきゃあ!?」

 

 俺はめぐみんを抱き上げ、ベッドへダイブした。

 そのまま掛け布団を掛け、横になる。

 

「ななな、何をやっているのですか!? くっ、遂に本性を現しましたね!」

「良いではないかー」

「ちょ、さっきからテンションがおかしくなってますよ! って、お酒くさい! 酔ってるんですね!? ちょ!? どこ触ってるんですか!?」

「お胸様とお尻様」

「ヒヤッ!? 本当に酔ってるんですか!?ヒヤンッ」

「うへへ、マシュマロー」

「ちょ、やめ。あんっ」

 

 

          ※

 

 

 チュンチュンチュン。

 

「眩し。んあ、朝か。ん? 横に何か……が……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………へっ?」

 

 横には産まれたままの姿のめぐみんがいた。

 



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朝チュン?

 

「お、おい。めぐみん、めぐみん。起きてくれ」

 

 眠っているめぐみんに掛け布団を掛け、起こそうと揺する。

 何回か揺すると気付いたようで……。

 

「ん、んぁ。あ、おはようございます。セツナ、昨日は激しかったですね//」

 

 ま、マジか。マジなのか。あれか、酔った勢いでヤってしまったのか。

 最低のド畜生じゃねえかあぁぁぁ!

 

「まあ、嘘ですが。あの後、セツナは直ぐに寝たんですよ」

「…………へっ?じゃあ何で裸なんだ?もしかして痴j」

「違いますよ!?セツナがどんどんと剥いでいったんですよ」

「はあぁぁぁ!?俺が!?おい、本当にヤってないんだよな!?」

「ヤ、ヤってませんよ//あの、あまりそれを口にしないでください」

「ん?あ、すまん」

 

 はぁ、よかった。マジでヤってたら犯罪じゃん。

 

「その、取り敢えず服を、着たいので、その」

「はい!わかりました!出てきます!」

 

 顔赤めながらモジモジすんな!

 駄目だ。今日はもう顔合わせられねえ!

 後、もう酒は飲みたくない。大変な事になる。

 

「あの、着替え終わりました、よ?一体何をしているのですか?」

「んー、ちょっと後悔して、もう酒は飲まないと決心したんだよ」

「では何故土下座をしているのでしょうか?」

「…………精一杯の謝罪を……」

「……もう許しましたよ。だから顔を上げてください」

 

 そう言われ顔を上げると優しく微笑んでいるめぐみんがいた。

 いい子やなあ。癒されるなあ。

 ホント、どっかの駄女神よりも女神してるわ。

 

「ありがとう、許してくれて。その、あれだ。めぐみんが恥ずかしがってるときの声とか表情可愛かったぜ!…………あっ……」

 

 時間が止まったように動きを止める俺とめぐみん。

 すると、めぐみんの顔がどんどんと赤くなっていき……。

 

「ふんっ!」

「あべっ!?」

 

 右頬を殴られ俺は意識を失った。

 

 

          ※

 

 

「なあ、口を聞いてくれよー」

「…………」

「なぁあ」

 

 俺はめぐみんとギルドへ向かっていた。右頬をフリーズで冷やしながら。

 俺は起きたあと、どこまで覚えていたかを洗いざらい吐かされ、何度も忘れるようにと釘を刺された。

 

「はぁ、もうあんな事はしないでくださいね」

「……善処します」

「そこは断言して欲しいですね」

 

 漸く口を聞いてくれたが、その道すがらに色々と奢らされ、ご機嫌取りをしていた。

 

「あ。そろそろギルドに着くし、この話はまた今度って事で」

「わかりました」

 

 ギルドに入ると既にカズマとアクアが来ていて昼食をとっていた。

 

「よっ、カズマ」

「おはようございます、カズマ」

「ん、二人ともおはよう、ってもう昼だがな。あ、カード返しとくぞ」

 

 俺はカードと昨日の報酬を貰い席に着いた。

 めぐみんは直ぐに昼食を注文し、食い始めていた。

 ふむ、ハムスターみたいに口一杯に詰め込む姿は可愛いな。

 アクアもどんどんと注文してるが、金は足りるのか?

 

「なあ。聞きたいんだがスキルの習得ってどうやるんだ?」

 

 ふと、カズマがそんな事を聞いてきた。

 俺は一瞬、は?って顔になったけどカズマが冒険者の職業に就いていることを思いだし納得した。

 

「スキルの習得ですか?そんなもの、カードに出ている、現在習得可能なスキルってところから……。ああ、カズマの職業は冒険者でしたね。初期職業と言われている冒険者は、誰かにスキルを教えてもらうのです。まずは目で見て、そしてスキルの使用方法を教えてもらうのです。すると、カードに習得可能スキルという項目が現れるので、ポイントを使ってそれを選べば習得完了なのです」

 

 概ね、その通りだ。

 そして、冒険者の場合は必要ポイントも高くなり、職業の補正が無いから同じスキルを使っても本職には及ばない。

 

「……つまりめぐみんに教えてもらえば、俺でも爆裂魔法が使えるようになるって事か?」

「その通りです!」

「うおっ!」

 

 カズマの一言に、思い切り食いつくめぐみん。

 

「その通りですよカズマ!まあ、習得に必要なポイントはバカみたいに食いますが、冒険者は、アークウィザード以外で唯一爆裂魔法が使える職業です。爆裂魔法を覚えたいなら幾らでも教えてあげましょう。というか、それ以外に覚える価値のあるスキルなんてありますか?いいえ、ありませんとも!さあ、私と一緒に爆裂道を歩もうじゃないですか!」

 

 おお、凄い熱弁。

 というか、アークウィザードと冒険者以外じゃ覚えれないのか。少しショックだな。

 そう思いカードを見てみると習得可能なスキルの中に爆裂魔法があった。

 

「えっ?」

「ちょ、落ち、落ち着けロリっ子!つーか、スキルポイントってのは今3ポイントしかないんだが、これで習得できるものなのか?」

「ロ、ロリっ子……!?」

 

 めぐみんが珍しくショックを受けている。

 

「冒険者が爆裂魔法を習得しようと思うなら、スキルポイントの10や20じゃきかないわよ。十年ぐらいかけてレベル上げ続けて一切ポイントを使わずに貯めれば、もしかしたら習得できるかもね」

「待てるかそんなもん」

「ふ……、この我がロリっ子…………」

「め、めぐみん。大丈夫だぞ、めぐみんはロリっ子じゃなかったぞ。ちょっとだけだけど胸も出てたし大丈夫だぞ」

「セツナ、慰めてくれてありがとうございます。でも今その話は」

「ねえねえ、今のどういうこと?出てたしって実際に見たってこと?ひ、広めなきゃ。速く広めなきゃ」

 

 ヤバい、このままでは光の速さで広められる。

 

「ち、違う違う。昨日おぶってるとき感じただけだから」

「え、でもめぐみんからセツナの匂いがするんですけど」

 

 こいつ、無駄の事を……。

 

「それは宿が一緒だったからだろ。うん」

「ふーん。ねえ、何で一緒の宿なの?」

「そ、それは、あれだ。俺がめぐみんの世話するって言ったからな」

「そう、まあいいわ」

 

 はあ、過去最大級に焦った。冷や汗が止まらねえ。

 めぐみんはまだショックらしく、しょんぼりと項垂れながら再び定食をモソモソと食べだした。

 

「なあアクア、セツナ。お前らなら便利なスキルをたくさん持ってるんじゃないか?何か、お手軽なスキルを教えてくれよ。習得にあまりスキルポイントを使わないで、それでいてお得な感じの」

 

 スキルポイントの消費が少ないスキルか。ないな。

 

「俺は無さそうだ。国家錬金術師のスキルは全部、スキルポイントが高すぎる」

「そうか……」

「……しょうがないわねー。言っとくけど、私のスキルは半端じゃないわよ?本来なら、誰にでもホイホイと教えるようなスキルじゃないんだからね?」

 

 何かアクアが得意気に言ってるけど、落ちがありそうだな。

 アクアの言葉にカズマが頷く。

 

「じゃあ、まずはこのコップを見ててね。この水の入ったコップを自分の頭の上に落ちないように載せる。ほら、やってみて?」

 

 あれ?それってもしかして。

 アクアに諭されカズマが真似る。

 すると、アクアはどこから取り出したのか、一粒の何かの種をテーブルに置いた。

 

「さあ、この種を指で弾いてコップに一発で入れるのよ。すると、あら不思議!このコップの水を吸い上げた種はにょきにょきと……」

「誰が宴会芸スキルを教えろっつったこの駄女神!」

「ええーーーーーーー!?」

 

 やっぱり宴会芸スキルだったか。

 何故かめぐみんに続いてしょんぼりしてるし。

 頭の上のコップはそのままにしてるから目立つな。

 

「あっはっは!面白いねキミ!ねえ、キミがダクネスが入りたがっているパーティーの人?有用なスキルが欲しいんだろ?盗賊スキルなんてどうかな?」

 

 それは、横からの突然の声。

 見ると、金髪碧眼のスタイルのいい美人のお姉さんと、頬に刀傷を付けた凹凸の無い体つきの明るい銀髪の美少女だ。

 異世界は美少女美人が多いのかな?

 

「えっと、盗賊スキル?どんなのがあるんでしょうか?」

 

 どっか他所他所しいな。

 カズマの知り合いじゃ無いのか?

 

「よくぞ聞いてくれました。盗賊スキルは使えるよー。罠の解除に敵感知、潜伏に窃盗。持っているだけでお得なスキルが盛りだくさんだよ。キミ、初期職業の冒険者なんだろ?盗賊のスキルは習得にかかるポイントも少ないしお得だよ?どうだい?今なら、クリムゾンビア一杯でいいよ?」

 

 盗賊スキルか。確かにうちのパーティーには盗賊職がいないし、ダンジョンに入る際に結構役に立つな。

 

「よし、お願いします!すんませーん、こっちの人にキンキンに冷えたクリムゾンビアを一つ!」

「はーい!」

「まずは自己紹介しとこうか。あたしはクリス。見ての通り盗賊だよ。で、こっちの無愛想なのがダクネス。昨日ちょっと話したんだっけ?この子の職業はクルセイダーだから、キミに有用そうなスキルはちょっと無いと思うよ」

「ウス!俺はカズマって言います。クリスさん、よろしくお願いします!」

「俺はセツナだ。よろしくな。で、こっちでしょんぼりしてんのがめぐみんとアクアだ」

「うん、よろしくね!」

 

 そう言ってから、クリスとダクネスはカズマを連れて冒険者ギルドの裏手の広場に向かっていった。

 そういえば、あのクルセイダーの人がパーティーに入りたがってるって言ってたな。

 俺達と別れた後に会ったのかな?

 まあいっか。

 それよりも一つ疑問になってることの方が重要だ。

 

「なあめぐみん。何か俺、爆裂魔法習得できるっぽいんだけど」

 



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爆裂魔法習得

 

「なあめぐみん。何か俺、爆裂魔法習得できるっぽいんだけど」

「へっ?マジですか?」

「マジだ」

「習得しましょう!直ぐしましょう!」

「落ち着け落ち着け」

 

 わあ、顔が近い。チューしちゃうぞー。

 

「25ポイントで習得できるんだが、これならカズマでも習得できたんじゃないのか?」

「……………えっ?」

「ん?どうした?」

「25ポイントで習得できるんですか?」

「ああ、そうだよ」

「因みに、中級魔法と上級魔法は?」

「5ポイントと15ポイント」

「な!?」

「どうした?」

「おかしいですよ!?爆裂魔法は本来50ポイントも必要なんですよ!?中級魔法と上級魔法だって10ポイントと30ポイント必要なんですよ!?何で半分なんですか!?」

「さ、さぁ?」

 

 そ、そうだったのか。

 しかし何故だ?本職よりも必要ポイントが少ないなんて特典でもないと…………。

 もしかして。

 

「な、なあ。必要ポイントって知力とかって関係してるのか?」

「えっと、一応関係はしてますけど」

「じゃあ多分そのせいだ」

 

 そう言い、めぐみんにカードを見せる。

 すると、めぐみんが目を見開く。

 

「ななな、何ですか!?この知力は!?私よりも全然高いじゃないですか!?」

「やっぱり高いのか。まあ、それがポイント半減の理由だな。多分」

「うーん、あまり認めたくは無いですが、納得しました。では、習得しましょうか!」

「まあ、特に必要なスキルは無いしいっかな」

「おお!ではこれから一緒に爆裂道を極めようではないか!」

「はいはい」

 

 俺はカードで習得可能なスキルから爆裂魔法を押した。

 ついでに錬金術強化と機械鎧の耐久力上昇と軽量化を習得した。

 爆裂魔法で25ポイント、錬金術強化で5ポイント、耐久力上昇と軽量化で10ポイント、計35ポイントの消費である。

 レベルはあれから15になったのでスキルポイントが42ポイントになっていた。

 だから、差し引き残り7ポイントである。

 

「あの、その機械鎧というのは何でしょうか?特に鎧は着ていないようですが」

「んあ?ああ、言ってなかったな。ほれこれの事だ」

 

 俺はそう言い袖と裾を捲り、右腕と左足を見せる。

 すると、めぐみんは一際目を輝かせた。

 

「な、何ですか!これは!?義手義足なのでしょうか?それにしてもこれは紅魔族の琴線に触れますよ!この質量感、鈍い輝き、どれを取っても素晴らしいです!」

「お、おう。そうか。そんなに褒められると照れるな」

 

 一気にめぐみんの好感度が上がった!

 いやあ、特典をこれにしといてよかった。

 機械鎧の話で盛り上がっていると、カズマ達が戻ってきた。

 だがどこか様子がおかしい。

 クリスって女の子が涙目になって目元が赤くなっている。

 ダクネスってクルセイダーは何故か頬を赤らめていて息が荒い。

 カズマは何時もと変わらないようだが。

 うん、何があった?

 と、いつの間にか立ち直って周りに宴会芸を見せて騒いでいたアクアがカズマ達に気付いたようだ。

 

「あっ!ちょっとカズマ、やっと戻ってきたわね、あんたのおかげでえらい事に……。って、その人どうしたの?」

「あ、俺も気になってた」

 

 そう言って、カズマの隣で涙目になって落ち込んでいるクリスにアクアが興味を抱いた。

 するとカズマが説明しようとするが、先にダクネスが口を開いた。

 

「実はだ「うむ。クリスはカズマにぱんつを剥がれた上にあり金毟られて落ち込んでいるだけだ」

「おいあんた何口走ってんだ!待てよ、おい待て。間違ってないけど、ほんと待て」

 

 え、ぱんつを剥いだ?

 しかもあり金毟った?

 流石に俺も庇護できないぞ。

 めぐみんとアクアなんかダクネスの言葉に軽くひいてるぞ。視線が汚物を見る目になってるよ。

 やがてクリスが落ち込んでいたその顔を上げた。

 

「公の場でいきなりぱんつ脱がされたからって、いつまでもめそめそしててもしょうがないね!よし、ダクネス。あたし、悪いけど臨時で稼ぎのいいダンジョン探索に参加してくるよ!下着を人質にされてあり金失っちゃったしね!」

「おい、待てよ。なんかすでに、女性冒険者達の目まで冷たい物になってるからほんとに待って」

 

 今の話を聞こえていたらしい女性冒険者。

 その視線に怯えているカズマを、クリスがクスクスと笑っている。

 ああ、わざとか。

 ドンマイ、カズマ。せめてめぐみんとアクアには説明してやる。

 

「このくらいの逆襲はさせてね?それじゃあ、ちょっと稼いでくるから適当に遊んでいてねダクネス!じゃあ、いってみようかな!」

 

 そう言いながら、クリスは冒険者仲間募集の掲示板に行った。

 

「えっと、ダクネスさんは行かないの?」

 

 自然と俺達のテーブルに着いたダクネスに、カズマが聞く。

 

「……うむ。私は前衛職だからな。前衛職なんて、どこにでも有り余っている。でも、盗賊はダンジョン探索に必須な割に、地味だから成り手があまり多くない職業だ。クリスの需要なら幾らでもある」

 

 なるほど、職業によって優遇されたり、色々あるのだろう。

 臨時パーティーが見つかったのか、数名の冒険者を連れてギルドを出て行った。

 出掛けにクリスはこちらに手を振っていたので、一応振りかえした。

 

「もうすぐ夕方なのに、クリス達はこれからダンジョン探索に向かうのか?」

「ダンジョン探索は、できることなら朝一で突入するのが望ましいです。なので、ああやって前の日にダンジョンに出発して、朝までダンジョン前でキャンプするのです。ダンジョン前にはそういった冒険者を相手する商売すら成り立っていますしね。それで?カズマは、無事にスキルを覚えられたのですか?」

 

 ああ、だから今から向かったのか。

 カズマはめぐみんのその言葉に、にやりと不適に笑った。

 あ、嫌な予感がする。

 

「ふふ、まあ見てろよ?いくぜ、『スティール』ッ!」

 

 カズマは叫び、めぐみんに右手を突き出すと、その手にはしっかりと白い布が握られていた。

 

 そう、ぱんつである。

 

「……なんですか?レベルが上がってステータスが上がったから、冒険者から変態にジョブチェンジしたんですか?……あの、スースーするのでぱんつ返してください……」

「おい、カズマ。ちょっと来なさい」

「あ、あれっ!?おかしーな、こんなはずじゃ……。て何だよ?セツナ。(ヤバい、セツナの顔が何時もより無表情になっている)」

 

 俺はカズマを呼び出し、口を開く。

 

「言い値で買おう」

「…………いくらだす?」

「おい!?私が聞こえるところで私のぱんつを取引しないでもらおうか!?」

「じゃあ十万エリスでどうだ?」

「売った!」

「おい!?」

 

 セツナは めぐみんのぱんつを 手に入れた。

 

 めぐみんが凄い形相で迫ってきた。

 

「セ、セツナ!返してください!ほんとに!返してください!」

「大丈夫大丈夫、返すつもりだったから。ほらよ」

「あ、ありがとうございます。しかし何故お金を払って買ったのですか?」

「だってカズマだぞ。クリスからあり金毟ったあのカズマだぞ」

「おい!?それ誤解だから!?おい聞けよ!?」

 

 すると、突然バンとテーブルが叩かれた。

 それは、椅子を蹴って立ち上がったダクネスだった。

 その目は、なぜか爛々と輝いていて……。

 

「やはり。やはり私の目に狂いは無かった!こんな幼気な少女の下着を公衆の面前で剥ぎ取るなんて、なんと言う鬼畜……っ!是非とも……!是非とも私を、このパーティーに入れて欲しい!」

「いらない」

「んんっ……!?く……っ!」

 

 カズマの即答にダクネスが頬を赤らめてブルッと震わせた。

 何故カズマがこの美人のお姉さんを断ったのかわかった。

 あれだ。この人Mだわ。しかも筋金入りのド変態だ。

 

「ねえカズマ、この人だれ?昨日言ってた、私がお風呂に行ってる間に面接に来たって人?」

「ちょっと、この方クルセイダーではないですか。断る理由なんて無いのではないですか?」

「ドンマイ、カズマ」

 

 ダクネスを見ながら口々に勝手な事を言っている。

 あれだろう、昨日断ったのだろうが、曖昧な言葉で場を濁したのだろう。

 するとカズマは口を開き……。

 

「……実はなダクネス。俺とアクア、それとセツナは、こう見えて、ガチで魔王を倒したいと考えている」

 

 何故かアクアがふふん、と自慢げにしているが。

 というか、カズマもしっかりと考えていたんだな。

 俺なんて、魔王討伐の事を忘れかけていたぞ。

 俺の横で聞いていためぐみんは少し驚いた顔をしていた。

 

「丁度いい機会だ、めぐみんも聞いてくれ。俺とアクアとセツナは、どうあっても魔王を倒したい。そう、俺達はそのために冒険者になったんだ。という訳で、俺達の冒険は過酷な物になる事だろう。特にダクネス、女騎士のお前なんて、魔王に捕まったりしたら、それはもうとんでもない目に遭わさせられる役どころだ」

「ああ、全くその通りだ!昔から、魔王にエロい目に遭わされるのは女騎士の仕事ま相場は決まっているからな!それだけでも行く価値がある!」

「えっ!?……あれっ!?」

「えっ?……なんだ?私は何か、おかしな事を言ったか?」

 

 あちゃあ、カズマはダクネスがドMという事を忘れているのか?

 

「めぐみんも聞いてくれ。相手は魔王。この世で最強の存在に喧嘩を売ろうってんだよ、俺とアクアとセツナは。そんなパーティーに無理して残る必要は……」

 

 すると、いきなりめぐみんは椅子を蹴って立ち上がった。

 そしてマントを翻し……。

 

「我が名はめぐみん!紅魔族随一の魔法の使い手にして爆裂魔法を操りし者!我を差し置き最強を名乗る魔王!そんな存在は我が最強魔法で消し飛ばしてみせましょう!」

 

 ギルド内の多くの視線を集め、中二病発言をするめぐみん。

 ドンマイ、カズマ。

 離したいのだろうけどもう無駄だ。

 

「……ねえ、カズマ、カズマ……」

 

 落ち込んでいるカズマにアクアが話しかける。

 

「私、カズマの話聞いてたら何だか腰が引けてきたんですけど。何かこう、もっと楽して魔王討伐できる方法とか無い?」

 

 おい、アクア。お前一応女神だろう。何故一番弾けてるんだよ。

 ……と、その時。

 

 

『緊急クエスト!緊急クエスト!街の中にいる冒険者の各員は、至急冒険者ギルドに集まってください!繰り返します。街の中にいる冒険者な各員は、至急冒険者ギルドに集まってください!』

 

 

 今度は何なんだ?

 



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キャベキャベキャベツー

 

 『緊急クエスト!緊急クエスト!街の中にいる冒険者の各員は、至急冒険者ギルドに集まってください!繰り返します。街の中にいる冒険者な各員は、至急冒険者ギルドに集まってください!』

 

 

 

 今度は何なんだ?

 街中にアナウンスが響く。

 

「おい、緊急クエストってなんだ?モンスターが街に襲撃に来たのか?」

 

 カズマが不安げに聞いていたが、ダクネスとめぐみんはどことなく嬉しそうな表情だ。

 ダクネスが嬉々とした声で言った。

 

「……ん、多分キャベツの収穫だろう。もうそろそろ収穫の時期だしな」

 

 は?キャベツの収穫?

 

「は?キャベツ?キャベツって、モンスターの名前か何かか?」

 

 カズマが呆然とそんな事を言った。

 

「キャベツとは、緑色の丸いやつです。食べられる物です」

「噛むとシャキシャキする歯ごたえの、美味しい野菜の事だ」

 

 うん、知ってる。でも何で緊急クエスト?

 

「そんな事知っとる!じゃあ何か?緊急クエストだの騒いで、冒険者に農家の手伝いさせようってのか、このギルドの連中は?」

 

 いや、それは無いんじゃねえか?

 そういえば畑にサンマを取ってこいって街を歩いてるときに聞こえた事があったな。

 やっぱり地球と異世界は違うって事なのか?

 

「あー……。カズマとセツナは知らないんでしょうけどね?ええっと、この世界のキャベツは…………」

 

 アクアが何か話そうとしているが、それを遮る様に、ギルドの職員が建物内にいる冒険者に向かって大声で説明を始めた。

 

「皆さん、突然のお呼び出しすいません!もうすでに気づいている方もいるとは思いますが、キャベツです!今年もキャベツの収穫時期がやって参りました!今年のキャベツは出来が良く、一玉の収穫につき一万エリスです!すでに街中の住人は家に避難して頂いております。では皆さん、できるだけ多くのキャベツを捕まえ、ここに納めてください!くれぐれもキャベツに逆襲されて怪我をしない様お願い致します!なお、人数が人数、額が額なので、報酬の支払いは後日まとめてとなります!」

 

 はあ?キャベツが一玉一万エリス?

 それにキャベツに逆襲されるってどうなってんだ?

 ほら、カズマも固まってるよ。

 

 その時、冒険者ギルドの外で歓声が起こった。

 

『うおぉぉぉぉぉ!!!!!!』

 

 何が起こったと思いギルドの外に出て見ると、街中を自由に飛び回る緑色の球体の姿が目に入る。

 何あれ、緑色の波ができてんだけど。

 すると、いつの間にか近くまで来ていたアクアが言った。

 

「この世界のキャベツは飛ぶわ。味が濃縮してきて収穫の時期が近づくと、簡単に食われてたまるかとばかりに。街や草原を疾走する彼らは大陸を渡り海を越え、最後には人知れぬ秘境の奥で誰にも食べられずに、ひっそりと息を引き取ると言われているわ。それならば、私達は彼らを一玉でも多く捕まえて美味しく食べてあげようって事よ」

「俺、もう馬小屋に帰って寝てもいいかな」

「諦めろカズマ、これが異世界の現実だ」

「……セツナ」

 

 これはもう悟るしかないのだろう。

 これから異世界で何が起きても異世界では現実だと。

 そして俺達の隣を、冒険者達が声を張り上げ、走っていく。

 自由に飛ぶ数え切れない程のキャベツに向かっていく冒険者達。シュールだな。

 カズマが握り拳を作っていた。

 色々な感情が混ざっているのだろう。

 何が悲しくてキャベツを相手にしなければならないのだろう、俺が思ってた異世界生活と違う、日本に帰りたい、等々だろうか。

 可哀想だな。異世界に来てまでバイトやったりキャベツを追いかけなくちゃいけなくなったり。

 

 俺も行くか。

 もうすでに殆どの冒険者達が外へ出て、キャベツを追いかけている。

 こんだけ人が多いとまたアレ・・は使えなさそうだな。

 じゃあ、数も数だし一気に串刺しにするか。

 俺は胸の前で両手の平を合わせ、乾いた音が響く。そして地面に手をつき錬金術を使う。

 手が地面についた途端、錬成反応の光が発し、一瞬で地面が変形する。

 変形した地面は多くのキャベツを貫いた。勿論冒険者には当たってないよ。

 さて、他の冒険者が呆然としている内にジャンジャン稼ぎますか。

 そう考えながら、また両手の平を合わせた。

 

 

          ※

 

 

 緊急クエストが終わった後、俺達はギルド内の酒場で飯を食っていた。

 にしても美味いなぁ。地球で食べてた頃のキャベツなんか目じゃないな。これで経験値も入るし報酬で金が手に入るしで、一石三鳥だな。

 報酬はアクアがそれぞれが手に入れた報酬をそのままにと言っていたので俺は結構な額になっているはずだ。アクアもそんな事を考えて言ったのだろう。

 

「何故たかがキャベツの野菜炒めがこんなに美味いんだ。納得いかねえ、ホントに納得いかねえ」

 

 どうやらカズマは納得いかないようだ。

 いいじゃないか。美味くて、経験値も金も手に入る。

 こんな事そうそう無いぞ。

 そしてカズマが不機嫌なのはもう一つ理由があるそうだ。

 

「しかし、やるわねダクネス!あなた、さすがはクルセイダーね!あの鉄壁の守りには流石のキャベツ達も攻めあぐねていたわ」

 

 実際あのキャベツの体当たりには男冒険者がよく吹っ飛ばされていたので、ダクネスの防御力が見てとれた。

 まあ、実際は嬉々としてその場に飛び込んで肉壁になっていただけだがな。

 

「いや、私など、ただ硬いだけの女だ。私は不器用で動きも速くは無い。だから、剣を振るってもロクに当たらず、誰かの壁になって守る事しか取り柄が無い。……その点、めぐみんは凄まじかった。キャベツを追って街に近づいたモンスターの群れを、爆裂魔法の一撃で吹き飛ばしていたではないか。他の冒険者達のあの驚いた顔といったら無かったな」

 

 実際に役に立ってたけど、冒険者達は何ぶっぱなしてんだ!?って思ってただけだけどな。

 

「ふふ、我が必殺の爆裂魔法の前において、何者も抗う事など叶わず。……それよりもセツナとカズマの活躍こそ目覚ましかったです。セツナは魔力を使い果たした私を素早く回収して背負って帰ってくれましたし、あの錬金術でしたっけ?キャベツ達は手も足も出てませんでした」

「……ん、私がキャベツやモンスターに囲まれ、袋叩きにされている時も、カズマは颯爽と現れ、襲い来るキャベツ達を収穫していってくれた。助かった、礼を言う」

「確かに、潜伏スキルで気配を消して、敵感知で素早くキャベツの動きを捕捉し、背後からスティールで強襲するその姿は、まるで暗殺者のごとしです」

 

 確かにあのときのカズマは凄かった。スティールでキャベツの外の葉を奪い取り収穫する。

 新しく覚えたスキルを上手く使ってたな。

 そして今回のキャベツ収穫において、好き勝手動き回ってキャベツに逆襲されていたアクアは口元を拭い……。

 

「カズマ……。私の名において、あなたに【華麗なるキャベツ泥棒】の称号を授けてあげてあげるわ。セツナ、あなたには【裏通りのキャベツの通り魔】の称号を授けてあげるわ」

 

 いらねえ、しかもださい。何だその称号。

 

「やかましいわ!そんな称号で俺を呼んだら引っ叩くぞ!……ああもう、どうしてこうなった!」

 

 カズマは頭を抱えてテーブルに突っ伏した。

 その理由とは……。

 

「では……。名はダクネス。職業はクルセイダーだ。一応両手剣を使っているが、戦力としては期待しないでくれ。なにせ、不器用過ぎて攻撃がほとんど当たらん。だが、壁になるのは大得意だ。よろしく頼む」

 

 つまりそう言うことだ。

 ダクネスが仲間になったよ!

 しかし、攻撃が当たらないって不器用過ぎませんかね?

 だからカズマは美人なのに断ったんだな。

 アクアは、満足そうに余裕の笑みを浮かべながら……。

 

「……ふふん、ウチのパーティーもなかなか、豪華な顔触れになってきたじゃない?アークプリーストの私に、アークウィザードのめぐみん、国家錬金術師にして上級魔法まで操るセツナ、そして、防御特化の上級前衛職である、クルセイダーのダクネス。五人中四人が上級職なんてパーティー、そうそうないわよカズマ?あなた、一生分の幸運を使い果たしてるわよ?感謝なさいな」

 

 一日一発撃ったら倒れるアークウィザード、攻撃が当たらないクルセイダー、知力が低くて運が最低値で、未だに役に立ったことがないアークプリーストか。

 こんなパーティー見たことがない!

 キャベツ収穫で意気投合したアクアとめぐみんがダクネスをパーティーに入れようと言い出したのだ。

 めぐみんのお願いに俺が断る事ができるはずがなく、結局ダクネスをパーティーに入れる事になったのだ。

 

「それではカズマ、セツナ。多分……いや、間違いなく足を引っ張る事になるとは思うが、その時は遠慮なく強めで罵ってくれ。これからよろしく頼む」

 

 こんなドM変態クルセイダーとよろしくしたくねえええぇ!!!

 



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ああ、駄女神だわ

 翌日、冒険者ギルドに行くと既にカズマ達が揃っていた。

 そしてカズマは遂にジャージ姿から異世界の服装に変わっていた。

 異世界の服の上から革製の胸当てと金属製の篭手、同じく金属製のすねあてを装備している。

 カズマは防御力が無いからなるべくもうちょい大きな防具を着けた方がいいと思うが、それはカズマの筋力値では難しいだろう。

 だから攻撃に当たらないように最低限の装備なのだろう。

 

「よう、カズマ。随分とましな格好になったな」

「そうだろ。盾は持たずに魔法剣士みたいなスタイルでいこうと思ってるんだ」

「お、言うことはいっちょまえだな。まあ、ジャージ姿だとファンタジー感ぶち壊しだったからな」

 

 本当に異世界をジャージ姿でうろつくのは目立つ。

 珍しい服装だから目立つし、本人が本人だから更に目立つ。

 

「そう言うセツナは、会ったときからその服だったな」

「まあ、こっちに来てから二日目でオーダーメイド頼んだからな。防御力は無いけど、俺は見た目重視だからな」

「二日目ってそんな早くにもう稼ぎ始めてたんだな」

「まあ、ずっとカエル相手だったけどな。あいつら報酬結構高いし」

「そうなんだよな」

 

 その後、少し話していたがカズマはどうやら片手剣と初級魔法を習得したそうだ。

 初級魔法は俺もよく使うからカズマならもっと上手く使えるだろう。カズマ頭の回転は早いし。

 

「なあ、スキルも試してみたいしクエストに行かないか?」

 

 ああ、初めての魔法にワクワクしてるんだな。

 俺も初めて魔法を使ったときは楽しかったな。

 

「ジャイアントトードが繁殖期に入っていて街の近場まで出没しているから、それを……」

 

 ダクネスがそんなことを言いかけるが……。

 

「カエルはやめよう!」

 

 強い口調でアクアが拒絶した。

 まあ捕食されたんだし、もうやりたくないよな。

 

「……なぜだ?カエルは刃物が通り易く倒し易いし、攻撃法も舌による捕食しかしてこない。倒したカエルも食用として売れるから稼ぎもいい。薄い装備をしていると食われたりするらしいが、今のカズマの装備なら、金属を嫌がって狙われないと思うぞ。アクアとめぐみんは私がきっちり盾になろう」

「あー……。アクアはカエルに捕食された事があるから、トラウマになってるんだ。頭からパックリいかれて粘液まみれにされたからな。しょうがないから他のを狙おう」

「……あ、頭からパックリ……。粘液まみれに……」

「……お前、ちょっと興奮してないだろうな」

「してない」

 

 少し顔を赤らめたダクネスが否定する。

 はあ、これだからドMは。

 

「で、どうするんだ?」

「そうだな。緊急クエストは除くとして、このメンツでの初クエストだし楽に倒せるヤツがいいな」

 

 まあその辺が妥当だろう。

 カズマの意見にめぐみんとダクネスは掲示板にクエストを探しに行ったが、アクアはその言葉にカズマを小バカにするように……。

 

「これだから内向的なヒキニートは……。そりゃあカズマは一人だけ最弱職だから慎重になるのも分かるけど、この私をはじめ、上級職ばかりが集まったのよ?もっと難易度の高いクエストをバシバシこなして、ガンガンお金稼いで、どんどんレベル上げて、それで魔王をサクッと討伐するの!という訳で、一番難易度の高いヤツをいきましょう!」

 

 上級職って言っても癖がありすぎて殆ど使えない奴らだけどな。

 それにそんな事言うとまた泣かされるぞ。

 

「……お前、言いたくないけど……。まだ何の役にも立ってないよな」

「!?」

 

 アクアがピタリと固まるが、事実その通りだと思う。

 めぐみんとダクネスだってそれなりに役に立ってたし、カズマは全員の欠点を埋めようとして纏めてるし。

 カズマが言葉を続ける。

 

「本来なら俺は、セツナみたいにお前から強力な能力か装備を貰って、ここでの生活には困らないはずだった訳だ。そりゃあ、俺だって無償で神様から特典を貰える身で、ケチなんてつけたくないよ?それにその場の勢いとはいえ、能力よりお前を希望したのは俺なんだし!でも、俺はその能力や装備の代わりにお前を貰った訳なんだが、今のところ、特殊能力や強力な装備並みにお前は役に立ってくれているのかと問いたい。どうなんだ?最初は随分偉そうで自信たっぷりだった割に、ちっとも役に立たない自称元なんとかさん」

「うう……、元じゃなく、その……。い、一応今も女神です……」

「女神!!女神ってあれだろ!?勇者を導いてみたり、魔王とかと戦って、勇者が一人前になるまで魔王を封印して時間稼いでたりする!今回のキャベツ狩りクエストで、お前がやった事って何だ!?最終的には何とかたくさん捕まえてたみたいだが、基本はキャベツに翻弄されて、転んで泣いてただけだろ?お前、野菜に泣かされといてそれで本当に女神なの?そんなんで女神名乗っていいのか!?この、カエルに食われるしか脳の無い、宴会芸しか取り柄のない穀潰しがぁ!」

「わ、わああああーっ!」

 

 ほーら言わんこっちゃない。

 それでも二週間以上一緒に暮らしてきたんだろ。カズマの性格ぐらい理解しろよ。

 カズマはカズマでやりきった感出してるし。

 アクアはテーブルに突っ伏して泣き出してるし。

 するとアクアがキッと顔を上げ、カズマに言い返し始めた。

 

「わ、私だって、回復魔法とか回復魔法とか回復魔法とか、一応役に立っているわ!なにさ、ヒキニート!じゃあ、このままちんたらやってたら魔王討伐なんてどれだけかかるか分かってんの!?何か考えがあるなら言ってみなさいよ!」

 

 そう言えばアクアがヒキニートヒキニートって連呼してるけど、カズマは学生じゃなかったのか?

 

「高校もサボりまくってプロのゲーマーとして着々と修行を積んでいた俺に、この手の事で何の考えもないと思っていたのか?」

 

 あ、サボってたのね。

 それにしてもプロゲーマーだったのか。それなら凄いな。

 

「プロのゲーマーだったの?」

「……言ってみたかっただけだ。いいかアクア。俺には、物語に出てくる主人公みたいな凄い力なんて無い」

 

 そりゃあ普通の日本人の高校をサボっていた奴にそんな力無いだろう。

 

「だが、日本で培った知識はある。そこで、俺でも簡単に作れ、かつここの世界に無い日本の物とかを、売りに出してみるってのはどうかと思ってな」

 

 まあそれなりに知識はあるだろうがたかが知れてると思うぞ。

 

「ほら、俺は幸運が高い。商売でもやったらどうだって、受付のお姉さんに言われただろ?」

 

 お前、そんなこと言われてたのか。

 ウキウキしてたカズマをどん底に突き落としたな受付のお姉さん。

 

「だから、無理して冒険者稼業だけで食っていくだけじゃなく、他の手段も考えておこうかと思ってさ。金さえあれば、経験値稼ぎだって楽ができるだろ?キャベツみたく、食べるだけでも強くなれる食材もあるんだしさ」

 

 貴族や王族がそうやってレベル上げをしているのは知ってるけど、それはそれなりに才能があるからだろ。カズマが何もしないで食ってレベル上げをしてもステータスはあまり上がらないと思うぞ。

 ここの王族なんて勇者の血を受け継いでいるらしいし。

 まあカズマも不幸だよな。俺みたいに転生特典を貰っているわけでもないし、付いてきたアクアは未だに役に立たない駄女神だし。

 魔王討伐なんて言ってるけど何人この世界に送り出したんだか。多分十や二十じゃ無いだろう。

 しかもその中には俺のネタ特典じゃなくて強力な特典を貰っている奴もいたはずだ。

 なのに未だに魔王を討伐する事ができない。

 そりゃカズマもそんな考えになるわ。

 

「と、いう訳でお前も何か考えろ!何か、手軽にできて儲かる商売でも考えろ!あと、お前の最後の取り柄の回復魔法をとっとと俺に教えろよ!スキルポイント貯まったら、俺も回復魔法の一つぐらい覚えたいんだよ!」

「嫌ーっ!回復魔法だけは嫌!嫌よおっ!私の存在意義を奪わないでよ!私がいるんだから別に覚えなくてもいいじゃない!嫌!嫌よおおおっ!」

 

 意外な抵抗を見せるアクア。

 するとめぐみんとダクネスが戻ってきたようだ。

 

「……何をやっているんですか?……カズマは結構えげつない口撃力がありますから、遠慮なく本音をぶちまけていると大概の女性は泣きますよ?それにセツナもちょっとは止めてください」

「いやぁ、見ててちょっと楽しくなっちゃってさ」

「はぁ」

「ストレスが溜まっているのなら……。アクアの代わりに私を口汚く罵ってくれても構わないぞ。……クルセイダーたるもの、誰かの身代わりになるのは本望だ」

 

 それはお前の願望だろうが。

 アクアは顔を埋めた腕の隙間からチラチラとこちらを窺っている。カズマもそれには気付いているようだが。

 




 中途半端な終わりになってしまいました。


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キャベツと報酬とナニ

 先日、俺達はゾンビメーカーの討伐クエストを受けたのだが。

 何故かアンデッドの王、リッチーが現れた。

 何でも、お金が無いため葬式すらされていない魂達を天に送ってあげているそうだ。

 そしてそのリッチーを見逃し、代わりにアークプリーストのアクアが定期的に浄化する事になったらしい。

 リッチーは見逃さなくてもいいだろと思ったが、まだ人を襲ったことがなく、とても人道的な人?だったため見逃すことになった。

 まあ、あの中でリッチーと戦っても俺とアクアくらいしかまともに戦えなかっただろう。

 アクアの浄化魔法が効いたのは驚いたが、流石は女神と言ったところか。

 俺の場合は持ち前の魔法攻撃力で何とか生き残る事は出来ただろう。まあ、あんな存在がチートみたいのと戦いたくはないがな。

 しかしリッチーが普通にすごしているなんて、この街は大丈夫なのだろうか。

 何でもこの街で魔道具店を開いているらしく名刺をくれた。

 カズマにスキルを教えてくれるらしい。これは冒険者であるカズマの特権だろう。

 そして、このパーティーの初クエストは失敗となった。

 

 

          ※

 

 

「知ってるか?何でも魔王軍の幹部の一人が、この街からちょっと登った丘にある、古い城を乗っ取ったらしいぜ」

 

 そう、何故かこの街の近くの廃城を乗っ取ったのだ。

 お陰で近隣の弱いモンスターは逃げ隠れして、俺達駆け出し冒険者はまともなクエストを受けることすらできない。

 

 

          ※

 

 

 例の、緊急クエストのキャベツ狩りから数日が経過した。

 その間、俺はソロで受けることのできるクエストへ行き小銭稼ぎに。カズマはちょいちょいバイトへいき飯代を稼ぎ、アクアは飲み食いしまくり、めぐみんはどこかへ爆裂魔法を放ちに。ダクネスは何処かで筋トレ。

 本当にまとまりがないパーティーだな。

 冒険者やってるの俺しかいないんだけど。

 あの時収穫されたキャベツが軒並み売りに出され、そして、冒険者達にはその報酬が支払われたのだ。

 

「カズマ、セツナ、見てくれ。報酬が良かったから、修理を頼んでいた鎧を少し強化してみた。……どう思う?」

 

 ダクネスが修理から返ってきた鎧を見せつけてきた。

 

「また硬くなったのかよ。まあやるからには最硬を目指してもらわなきゃな」

「あ、ありがとう。セツナにそんな事を言われるとは思わなかったぞ」

 

 失礼な。俺はカズマと違って鬼畜ではない。

 

「なんか、成金趣味の貴族のボンボンが着けてる鎧みたい」

「……カズマはどんな時でも容赦ないな。私だって素直に褒めて貰いたい時もあるのだが」

 

 流石は鬼畜のカズマ。カズマはそんな通り名があるだなんて知らないだろうがな。

 

「今はお前より酷いのがいるから、構ってやれる余裕はないぞ。お前を超えそうな勢いのそこの変態を何とかしろよ」

「ハア……ハア……。たまらない、たまらないです!魔力溢れるマナタイト製の杖のこの色艶……。ハア……ハア……ッ!」

「おーい、めぐみーん。どことなく動きがエロいぞー。戻ってこーい。チューしちゃうぞー」

「はっ!?や、やめてください、こんな人目のつくところで!」

「人目がつかないところだったらいいのか!?」

「ち、違います!違いますよ!」

 

 めぐみんが杖に向かって頬擦りをしていたので冗談半分で言ったら戻ってきたようだ。

 マナタイトとは杖に混ぜると魔法の威力が上がるらしく、めぐみんは報酬の殆どをそらに費やしたそうだ。

 まあ、食費とか宿代は俺持ちだから気にしなくていいって言ったのは俺だしな。それにめぐみんの魔法は絶対に俺達の切り札になるしな。

 一応は魔王討伐を目指しているんだ。爆裂魔法を極めるくらいしないと話にならないだろう。

 俺とカズマも換金が終わり、小金持ち気分だ。

 そして今アクアが換金に行っているのだが……。

 

「なんですってえええええ!?ちょっとあんたどういう事よっ!」

 

 やっぱりか。何かあると思ったんだよ。

 アクアが普通に終わるわけがないんだよ。いつもいつも何かしら落ちがある。

 嫌だなあ。近づきたくないなあ。

 見てみるとアクアが受付のお姉さん──ルナさん──の胸ぐらを掴み、揺さぶっている。

 

「何で五万ぽっちなのよ!どれだけキャベツ捕まえたと思ってんの!?十や二十じゃないはずよ!」

「そそ、それが、申し上げ難いのですが……」

「何よ!」

「……アクアさんの捕まえてきたのは、殆どがレタスで……」

「…………なんでレタスが交じってるのよー!」

「わ、私に言われましてもっ!」

 

 うん、確かにキャベツの中に何故レタスが交ざっているのだ?

 それにレタスの換金率がキャベツより全然低いし。

 アクアは諦めたのか、手を後ろに組み、にこやかな笑みを浮かべ近づいてきた。

 

「カーズマさん!今回のクエストの、報酬はおいくら万円?」

「百万ちょい」

「「「ひゃっ!?」」」

「おおー、結構いったな。俺よりも少ないがな(ドヤッ)」

 

 おっ、カズマの額に青筋が。

 

「じゃ、じゃあいくらなんだよ?百五十か?二百か?」

「千三百万」

「「「「はぁぁぁぁあ!?」」」」

「うるさいなぁ」

「ちょっ、桁が違うじゃねえか!お前どんだけ収穫してんだよ!?」

「さあ?数えてなかったからな」

「俺結構幸運が高いと思ってたんだけどなあ。セツナちょっとステータス見せてくれよ」

「ん?別にいいぞ」

 

 カズマにカードを渡す。

 

「はぁ!?何だよこのステータス!軒並みめっちゃ高いじゃねえか!しかも知力がおかしいだろ!このチート持ちめ!それに俺の唯一の取り柄の幸運も俺より高いじゃねえか!」

「え?そうだったのか?まあそういうこともあるよ」

「つかお前結局特典は何を貰ったんだよ?」

「ん?俺か?俺はこれだよ」

 

 そう言い、カズマ達に右腕と左足の機械鎧を見せる。

 すると、ダクネスは驚愕の表情になり、めぐみんは目を輝かせ、アクアはまだ金の事を考えているのか反応せず、カズマはめぐみんと同じ様な顔をした。

 

「こここ、これ、オートメイルじゃねえか。え?てことは実質ノーチート?」

 

 カズマは俺が二つ特典を貰っているとは思ってないらしく絶望したような顔になっている。

 まあ、そういうことにしとくか。

 

「まあ、そんなもんだ」

「え?じゃあリアルチートじゃないですかー。もうやだこの世界」

 

 あーあ、カズマ拗ねちゃった。

 

「そうか、セツナも大変だったんだな」

「えっ?と?」

 

 何か重大な勘違いをされているような。

 

「なに、義手や義足を付けることになるような大変な事が合ったのだろう。それに義手や義足は付けるとき大人でも泣き叫ぶような痛みが伴うらしいからな」

「あっ、えっとそうですね」

 

 これは言わないでおこう。格好良いから付けて貰ったとか絶対に言えない。

 あ、アクアが復活した。

 

「セツナ様ー!前から思ってたんだけれど、あなたってその、どことなく、そこはかとなく良い感じよね!」

「金は貸さないぞ。俺の担当はめぐみん。借りるならお前の担当のカズマに借りな」

「カジュマ様ー!」

「言っとくが、この金はもう使い道決めてるからな、分けんぞ」

 

 先に逃げ場を潰したカズマ。

 プルプルと震えるアクア。

 俺が担当と言い、怒りか羞恥かで赤くなるめぐみん。

 

「カズマさああああああん!私、クエスト報酬が相当な額になるって踏んで、この数日で、持ってたお金、全部使っちゃったんですけど!ていうか、大金がはいってくるて見込んで、ここの酒場に十万近いツケまであるんですけど!!今回の報酬じゃ、足りないんですけど!」

 

 ああ、だからあんなにばかすか飲み食いしてたのか。アホなだ。本当に。

 流石は知力が平均値より低い駄女神だ。後先考えずツケを作るとは。

 

「あのセツナ。セツナが私の担当ってどういうことですか?」

「ほら、問題児には先生が必要じゃん」

「どういう事ですか!私は問題児じゃないですよ!」

「それにほら、生徒と先生の関係ってちょっと楽しそうじゃん。それにいけない関係になれそうだし」

「//そ、そんなこと言わないでください!?それよりも今はアクア達ですよ!」

「はいはい」

 

 アクアは泣きながらカズマにすがりついて叫んでいる。

 カズマも何とか抵抗しているようだ。

 

「と言うか、いい加減拠点を手に入れたいんだよ。いつまでも馬小屋暮らしじゃ落ち着かないだろ?」

 

 ああ、そうか。カズマはアクアと一緒に馬小屋で暮らしてんだっけ。

 まあ、冒険者の中で拠点を持っているヤツなんて殆どいないけどな。

 まあ、一応俺は小さな家くらいなら買える金は貯まってんだけどな。今の暮らしの方がいいから買わないけどな。だってめぐみん柔らかいんだもの。抱き枕としたら一級品だな。どことなく良い匂いもするし。(変態)

 

「そんなあああああ!カズマ、お願いよ、お金貸して!ツケ払う分だけでいいからぁ!そりゃあカズマも男の子だし、馬小屋でたまに夜中ゴソゴソしてるの知ってるから、早くプライベートな空間が欲しいのは分かるけど!五万!五万でいいの!お願いよおおおおお!」

「よし分かった、五万でも十万でもお安いもんだ!分かったから黙ろうか!!」

 

 カズマも大変だなあ。俺はまだこっちに来てからナニしてないけどそろそろヤバそうだな。

 めぐみんが寝ている内に治めておこうっと。

 



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ばっくれつばっくれつらんらんらーん

「カズマ、早速討伐に行きましょう!それも、沢山の雑魚モンスターがいるヤツです!新調した杖の威力を試すのです!」

 

 あ、俺も爆裂魔法を試してみたいな。

 

「まあ俺も、ゾンビメーカー討伐じゃ、結局覚えたてのスキルを試す暇もなかったしな。安全で無難なクエストでもこなしにいくか」

「いいえ、お金になるクエストをやりましょう!ツケを払ったから今日のご飯代も無いの!」

 

 本当にまとまりが無いな。癖者が集まりすぎだろう。

 

「とりあえず、掲示板の依頼を見てから決めようぜ」

 

 カズマの言葉にぞろぞろと掲示板に向かって付いて行く。

 だが、掲示板には依頼が全く無く。

 

「……あれ?何だこれ、依頼が殆ど無いじゃないか」

「カズマ!これだ、これにしようではないか!山に出没するブラックファングと呼ばれる巨大熊を……」

「却下だ却下!おい、何だよこれ!高難易度のクエストしか残ってないぞ!」

 

 そう、残っているものはこのパーティーじゃ手に余るモノばかり。

 俺一人なら受けることができるものもあるが殆どが駆け出し冒険者じゃ無理なクエストだ。

 

「ええと、……申し訳ありません。最近、魔王の幹部らしき者が、街の近くの小城に住み着きまして……。その魔王の幹部の影響か、この近辺の弱いモンスターは隠れてしまい、仕事が激減しております。来月には、国の首都から幹部討伐のための騎士団が派遣されるので、それまでは、そこに残っている高難易度のお仕事しか……」

 

 俺達に近づいてきたルナさんが申し訳なさそうに言う。

 

「な、なんでよおおおおおっ!?」

 

 ドンマイアクア、バイト頑張って!

 

 

          ※

 

 

「全く……!何でこのタイミングで引っ越して来るのよ!幹部だか何だか知らないけど、もしアンデッドなら見てなさいよ!」

 

 アクアも不幸だな。キャベツを大量に収穫して大金持ちになったと思ったら殆どがレタスでツケ代も払えなくてカズマに借りて、一文無しになって、クエストへ行こうとしたらクエストすら無いなんて。

 これも幸運度の差というものか。

 他の冒険者も飲んだくれてるし。

 こんな街に魔王の幹部なんてバランス悪すぎるだろ。

 カズマの目も死んできてるし。

 

 

          ※

 

 

「あの、付き合ってください」

 

 俺は今めぐみんに何て言われたのだ?あれか、異世界まで来て漸く告白されたのか。

 ここは男を見せなければな。

 

「めぐみん、そういうのは男から言うことだ。だから改めて俺から言っとこう。俺はめぐみんがすk」

「違います!違いますよ!男女交際の付き合うじゃないですよ!私の日課に付き合って欲しかったのです」

 

 なーんだ、俺の勘違いかよ。ちぇー。

 

「で、日課って何の事だ?何か修行でもやってたのか?」

「一日一発の爆裂魔法ですよ。セツナも爆裂魔法を試してみたいでしょう」

「一日一発か、何か言い方がどことなく卑猥だな」

「何で直ぐそんな話になるんですか!もうちょっと自重をしてください!」

「わかった!善処する!」

「やっぱり善処なんですね。結局毎晩抱き枕にされますし」

「良いじゃんか。ほら、さっさと行くぞ。俺も爆裂魔法を使ってみたかったんだよ」

「おお!やはりセツナも爆裂魔法の魅力がわかってくれますか!」

「おう、じゃあ行くぞー」

「あ、待ってください!」

 

 俺とめぐみんは爆裂魔法を試しに街の外へ向かった。

 

 

          ※

 

 

 現在、街の近くには危険なモンスターはいないらしい。魔王の幹部の出現により、弱いモンスターは怯えて身を隠しているからだ。

 めぐみんは、一日に一度、必ず爆裂魔法を放つ事を日課にしているらしい。

 多分俺はこれから一ヶ月間、毎日これに付き合うことになるのだろう。まあめぐみんを背負う事ができるから止めないがな。

 めぐみんも俺がやらなかったらカズマに頼ると言ってたし俺がやらなければ。カズマに任せたらめぐみんがセクハラされてしまう。

 

「もうこの辺で良いんじゃないのか?」

 

 街から少し離れた場所で言うがめぐみんは首を横に振る。

 

「駄目なのです。街から離れた所じゃないと、また守衛さんに叱られます」

「またって。はぁ、良いよ。もうちょい遠くに行くか」

 

 まあめぐみん一人で遠くまで行って爆裂魔法撃って倒れたら、盗賊や魔物に襲われてしまうだろうししょうがないか。

 まあ、これからは俺が付いて行くがな。

 

「あの、セツナは誰に爆裂魔法を教えてもらったんですか?」

「俺か?俺はめぐみんの爆裂魔法を見た後に習得可能になったから実質めぐみんに教わったもんかな」

「そうですか、ふふ」

 

 何で少し嬉しそうなんだ?

 

 そう言えば、あまり遠くまで来たことがなかったな。

 いつもクエストで行く場所は決まってるしな。

 こうして女の子とほのぼの散歩なんて異世界に来なきゃ絶対に出来なかったことだろう。

 

「……?あれは何でしょうか。廃城?」

 

 遠く離れた丘の上に佇むかなり古い城。

 薄気味悪いなあ。

 

「あれって人住んでんのか?」

「アレにしましょう!あの廃城なら、盛大に破壊しても誰も文句は言わないでしょう」

「まあ誰も住んでるわけないか」

 

 そう言いながらウキウキと魔法の準備をするめぐみん。

 

 

「『紅き黒煙、挽回の王

 

  天地の法を敷衍すれど

 

  我は万象祥雲の理

 

  崩壊破壊の別名なり

 

  永劫の鉄槌は我がもとに下れッ!

 

  エクスプロォージョン!!』」

 

 

 おお、すげえな。こっちまで爆風と衝撃が来てるぞ。

 やっぱり近くで見ると凄いな。

 魔力消費量が少なければ良かったんだけどなあ。

 めぐみんも俯せになって倒れてるし。

 めぐみんを起こして近くの木に凭れ掛けさせる。

 

「じゃ、俺も試してみるわ」

「はい、しっかりと見てるので全力で撃ってみてください。爆裂魔法のセンパイとして見ていてあげます!」

「はいはい」

 

 じゃ、ここは格好良くめぐみんみたいに詠唱しますか。

 俺は足を肩幅まで開き片手を前に突き出す。

 

 

「『全てを害せし我が力

 

  家桜から受け継ぎし破壊の件現

 

  陰子と陽子の混沌よ

 

  万象等しく呑み込む波と成れ

 

  灼熱を纏い、雹をも崩し

 

  霹靂を顕し、壌土を砕く

 

  我が神撃を以て撃滅せよッ!

 

  エクスプロォージョン!!』」

 

 

 突き出した手の平が紅く光り、白く光り、黒く光る。

 そして手から城の間に何枚もの魔法陣が現れた。

 光は段々と質量を伴っていき、半壊状態の城へ光が駆けた。

 次の瞬間、城から爆風が来て、数瞬遅れて轟音が轟いた。

 城は既に全壊していて、ほぼ修復不可能だろう。

 流石に爆裂魔法二発には耐えられないか。

 

「す、凄いです!本当に初めて爆裂魔法を使ったのですか?詠唱も格好良くてとても良かったですよ!」

「はいはい、ありがとう」

「あの家桜から受け継ぎし力って私から受け継いだのですよね。家桜ってどういう意味なんですか?」

「ん?嫁とか妻とか。そんな感じの意味」

「…………へっ//」

 

 おう、見事なリンゴが実ったな。

 こうやってからかうのは本当に楽しいなあ。

 からかいがいのある娘だ。

 

 にしても魔力消費が凄いな。魔力が半分も無くなってるぞ。

 まあ、もう一発撃たない限りは大丈夫だろうな。

 じゃ、めぐみん背負って帰るか。

 

「よし、じゃあ帰るか!」

「はい、よろしくお願いします。って大丈夫なのですか?爆裂魔法は魔力消費が激しいのですが。何で普通に立ってられるのですか?」

「ん?何か消費魔力が少なくなってるのか魔力が半分くらい残ってるんだよ」

「ぐっ、どこまでも卑怯な。絶対に超えてみせます」

「はいはい、じゃあ行こうか」

 

 俺はめぐみんを背負い歩き始めた。

 

「あの、手の置き場はどうにかなりませんか?」

「えー?なにー?」

「あの、手の置き場を。ヒアッ」

 

 うむ、善きかな善きかな。めぐみんの反応も可愛いし、柔らかいし一石二鳥だね。違うか?違うな。

 

「あの、ん、だから、手の位置を、ひやん」

「何だってー?」

 

 こうして、俺とめぐみんの一日一日爆裂の日課が始まった。

 カズマはやることも無いらしくキャベツの報酬で飲み食いしているらしい。

 アクアは一文無しなので毎日バイトに励んでいる。

 ダクネスは、しばらくは実家で筋トレしてくると言っていた。

 特にやることの無い俺とめぐみんは、その廃城の近くへ毎日通い、爆裂魔法を放ち続けた。

 何故か全壊しても次の日には修復されていたのだが、俺とめぐみんはあまり気にしないでいた。

 雨の日も、風の日も、雪の日も、朝も昼も、どんな時でも俺達は廃城に爆裂魔法を放ち続けていた。

 俺とめぐみんは互いの爆裂魔法を評価し合い、切磋琢磨していった。

 やはり同じ爆裂魔法の使い手が傍にいるのといないのとでは違うのだろう。

 めぐみんの爆裂魔法はキャベツ狩りの時とは段違いな威力となっていて、俺の爆裂魔法も段々と制御がいくようになっていった。

 そして帰りはめぐみんを背負いながらセクハラしつつ笑いながら帰った。

 今日はこっちの爆音がよかった、こっちは爆煙がよかった、等々の事を語り合い、めぐみんと着々と仲良くなっていった。

 

 

          ※

 

 

 そんな日課を始めて一週間がたった頃。

 

 

 

『緊急!緊急!全冒険者の皆さんは、直ちに武装し、戦闘態勢で街の正門に集まってくださいっっ!』

 

 

 

 街中にキャベツ狩りで響いたお馴染みのアナウンスはどこかとても焦った様子だった。

 冒険者達は装備を調え、現場へ向かう。

 街の正門に冒険者が集まる中、冒険者達の目の前には凄まじい威圧感を放つモンスターがいた。

 そのモンスターとはデュラハン。

 それは人に死の宣告を行い、絶望を与える首無し騎士。

 アンデッドとなり、生前を凌駕する肉体と特殊能力を手に入れたモンスター。

 

 正門前に立つ漆黒の鎧を着た騎士は、左脇に己の首を抱え、街中の冒険者達が見守る中、フルフェイスの兜で覆われた自分の首を目の前に差し出した。

 差し出された首からくぐもった声が放たれる。

 

「……俺は、つい先日、この近くの城に越してきた魔王軍の幹部の者だが……」

 

 やがて、首はプルプルと小刻みに震え出し…………!

 

「まままま、毎日毎日毎日毎日っっ!!おお、俺の城に、毎日欠かさず爆裂魔法を二発も撃ち込んでく頭のおかしい大馬鹿は、誰だあああああああー!!」

 魔王の幹部は、それはもうお怒りだった。

 

 

         ※

 

 

 その頃、俺は正門前にではなく、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 王都の冒険者ギルドに来ていた。




 セツナの爆裂魔法の詠唱頑張って考えました。
 ここ最近で一番悩んだかもしれません。


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焔+α

 駆け出し冒険者の街アクセルに魔王軍の幹部が訪れている時、俺は王都の冒険者ギルドに来ていた。

 一応めぐみんには夕方には帰ると言っておいた。

 そして何故俺が王都に来ているかと言うと、一つ試したいことがあったのだ。

 アクセル周辺でも試すことはできるのだが、やっぱりモンスターがいた方がわかりやすいだろう。

 それに王都には強いモンスターが多そうだしな。

 

 それにしても王都だからか、強そうな冒険者が多い。やはり駆け出し冒険者の街とは違うな。

 それじゃあなるべく数が多くて倒し易いモンスターがいいな。そこまでマジでやるってわけじゃないしな。

 そして王都だからか冒険者ギルドも大きく、掲示板には多くのクエストが張り出されていた。

 俺が掲示板のクエストを見ようとした途端、アクセルの街でも聞いたようなアナウンスが響いた。

 

 

『魔王軍襲撃警報、魔王軍襲撃警報!現在、魔王軍と見られる集団が王都近辺の平原に展開中!騎士団は出撃準備。今回は魔王軍の規模が大きいため、王都内の冒険者各位にも参戦をお願い致します!高レベル冒険者の皆様は、至急王城前へ集まってください!』

 

 

 ふむ、魔王軍の襲撃か。アレ(・・)を試すにはちょうどいい機会だな。

 それに王城ら辺はまだ見たことないし行ってみたいな。

 じゃあちょっくら行ってきますか。

 あれ?俺って高レベルじゃないけど大丈夫かな?どうやって説得しよう。

 

 俺は少し迷いながらも数分かけ、王城前までやって来た。

 王城前には重武装を身に纏い綺麗に整列した騎士団と、数多の冒険者達で溢れていた。

 中には俺と同じように黒髪黒目のヤツがいた。多分俺よりも前に来ていた転生者だろう。これなら万が一の事があっても大丈夫だろう。

 

「冒険者の方は、こちらに集まってください!皆さんへの特別な指示はありません!皆さんは集団による軍事訓練を受けた訳でもないので、騎士団とは別行動を取ってもらいます、自由に戦って頂いて構いません!戦闘に参加する前に冒険者カードチェック致します。戦闘後に記載されているモンスター討伐数により、特別報酬が出ますので頑張ってください!」

 

 王都の冒険者ギルドの職員と思われる人が拡声器を使い、声を届かせている。

 指定された場所へ行くと、職員に冒険者カードの提示を求められた。

 

「キリサキ・セツナさん……、ですね?これは上級職なのですか?」

「ああ、そうだ。国家錬金術師だ。初級魔法から上級魔法、爆裂魔法を操ることができる」

「ほ、本当ですか!よかったです。上級職とはいえまだこのレベルだと不安になってしまいまして」

「いえいえ、気にしないでください」

 

 あまり目立ちたくも無いのでその場をそそくさと離れていく。

 すると不意に視線を感じた。

 俺は視線がした方向に目を向ける。

 そこには城の窓からこちらを見下ろす少女の姿が見えた。

 その少女は金髪碧眼で、その気品から王族であることが窺える。

 多分あの子がこの国の第一王女のアイリス様なのだろう。

 だがその表情からは何も伺うことが出来ない程の無表情だ。これが素なのか仮面なのかはわからないが何処と無く詰まらなそうだ。

 王女の方を見ていたらあちらも気付いたようなので小さく会釈をしたが、次の瞬間にはもう居なくなっていた。

 うーん、不審がられたのかな?

 

 少し時間がたった頃、騎士団と冒険者達の前に立った、白いスーツを着た女性が声を高らかに宣言した。

 

「──魔王軍討伐隊、出陣せよ!」

 

『おおおおおおっ!!!!』

 

 辺り一帯に冒険者達と騎士団の声が響く。

 魔王軍の方を見てみると、ゴブリンやコボルトのようなメジャーなモンスターや、トレントやオーガ、下級悪魔等々色々な魔物と魔族が入り交じった集団だった。

 俺は相手を確認した瞬間飛び出した。

 何て絶好な好機!こんなに雑魚モンスターが大量にいるなんて、これは逃しちゃいけねえ!

 

「なっ、一人で出るなんて無茶だ!」

 

 白いスーツを着た女性が何か言っているが、今の俺の耳にはそんなこと入ってこない。

 俺は走っている最中に今着けている手袋を外し、懐から取り出した紋様が甲に描かれている手袋を着ける。

 そして俺はモンスター達から三十メートル程の所で止まり、右手をモンスター達に狙いをつける。

 

 パチンッ。

 

 小さな乾いた音がした瞬間魔王軍の魔物達がいるところに焔が出現した。

 

『ぎぃぃぃ!!やぁぁぁぁ!!』

 

 次々と焔が現れていきモンスターを虫の息にしていく。

 そう、これは鋼の錬金術師で出てくる焔の錬金術師──ロイ・マスタング大佐の錬金術である。

 これは異世界に来てから八日目に完成した。

 原理などは真理のお陰か直ぐに理解することが出来たが、発火布と言うものを探すのにそうとう時間がかかってしまった。

 これは魔道具扱いなのかは知らないが、魔力の消費は無いらしい。

 そして魔力を込めると焔の威力が何倍にもはね上がった。しかもその魔力消費は少ないときた。

 これは十分にチート装備と言えるのではないか?

 いや、まず理解が出来てないと使えないから俺以外は使えないか。

 消し炭にしても消し炭にしても切りがないな。

 と、思っていたのは相手の数が尋常じゃ無いほど多かったためだ。

 

「わ、我々も続けえぇ!」

 

 ようやく回復したのか他の冒険者達や騎士団も動き始めた。

 しかもどうやら俺の周りはあまり近づかないしてるっぽい。殺り易くて結構。

 近づいてきた敵は錬金術で腕の一部を剣にして切り裂き、地面を錬成して串刺しにし、焔で焼き払った。

 一時間程して魔王軍は撤退したが、俺の周りは阿鼻叫喚の光景だった。

 モンスター達は串刺しにされたまま焼き殺されていて、生きていたとしても生者のそれとは思えない呻き声を上げ。

 正しく地獄絵図と呼べる物だった。

 後ろに控えていた冒険者達や騎士団はその事に恐怖し、これを一人でやってのけた冒険者に畏れを抱いた。

 まあそのお陰で、セツナは何も言われること無く、帰ることができたのだが。

 そしてセツナは自分がとっくのとうに“人間兵器”であることを悟っていた。

 そりゃあこれだけのモンスター供を無傷で殲滅したらわかってしまうだろう。

 これがマスタング大佐の感じていた事なのかな?違うか?違うな。

 

 

          ※

 

 

 さて、結構頑張って狩ったし今日はもう帰ろうかな。

 正直すげえ疲れたし。ずっと指パッチンし続けるってきついんだよ。

 行きは王都の場所がわからなかったからテレポート屋に頼んだが、アクセルの街には既に登録してあるから直ぐに帰れる。勿論王都も登録した。

 それからめぐみん達にお土産を買い、アクセルにテレポートを使い飛んだ。

 

 

          ※

 

 

 アクセルに帰ると何故か何時もより騒がしいように見えた。

 何かあったのだろうか?

 

「おーい、めぐみーん、帰ってきたぞー」

「あ、お帰りです」

「おいセツナ、お前どこに行ってたんだよ。お前がいない間大変だったんだぞ」

「ん?何かあったのか?あ、これお土産ね」

「ありがとうございます」

「実はついさっき魔王軍の幹部が来てな──」

 

 

「おお、それは大変だったな。俺も王都は大変だったぞ」

「そっちでも何かあったのか?つか王都まで何しに行ったんだ?」

「実は試したいものがあってな。それで王都でクエスト受けようとしてたら何か魔王軍の襲撃があってな。流石王都って感じだな」

「そっちも色々有ったんだな」

「まあな」

 

 俺はその後、何時もと同じ様にめぐみんと廃城に爆裂魔法を撃ちに行き、帰って飯を食ったあと直ぐにベッドに横になった。

 

「セツナ、今日はどこかおかしいですよ」

「そうか~?普通だぞー」

「いえ、セツナは今日爆裂魔法を撃った私にセクハラ無しに帰ってきたんですよ。これは異常です」

「セクハラじゃなくてスキンシップな。てかセクハラしなかったら異常っておかしくないか」

「いいえ、セツナの場合異常です。王都で何かあったのですか?」

 

 ははは、めぐみんには何でもお見通しだなあ。

 参ったねえ。

 

「ん~。ちょっと恐くなったな」

「何がですか?魔王軍がですか?」

「いや、自分」

「何故、ですか?」

「実はな今日の魔王軍の襲撃で俺は最前線にいたんだがな、俺の攻撃でみんな簡単に死んでくんだ。もし力に溺れたらお前達の事を傷つけたりしたら嫌だなって思ってな」

「そう、ですか。でもセツナはそんな事にはならないと思いますよ」

「…………何で、そう思う?」

「そうなる前に私が止めますから」

「はは、そう簡単に止まると思うなよ」

「いいえ、簡単に止めてやりますよ」

「そうか」

「そうです」

 

 ん~。めぐみんは優しいな~。癒されるな~。

 

「それで今日はもう寝るのですか?」

「いんや、寝るまでめぐみんちゃんを弄りまくる」

「…………へ?」

「おりゃあ!」

 

 俺はめぐみんに飛び掛かり、抱きついた。

 

「ちょっ!?またですか!?またお酒飲んだんですか!?」

「飲んでない、正常だ」

「尚悪いです!ひぁ//」

「うへへ~、めぐみんには今日まだスキンシップしてなかったしな~。それにしない方が異常って言われちゃったしな~」

「ちょっ、やめ、ん!?止めてください//これ以上は、うん!?ひやん//ホントに//!」

「可愛いな~、めぐみんちゃんは」

「そそそ、それを今言いますか!ぁん!」

 

 めぐみん弄りは夜中まで続いたとさ。愛でたし愛でたし。

 



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ピュリフィケーション

 俺が王都に行って魔王軍襲撃があってから、カズマ達からすると魔王の幹部襲撃から一週間が経ったある日の事。

 

「クエストよ!キツくてもいいから、クエストを請けましょう!」

 

「「「えー……」」」

 

 アクアが言い出したことに、俺とめぐみんとカズマは声を揃えて不満を漏らす。

 何故アクアがこんなことを言ったのかはわかるが、別に俺達は行かなくても大丈夫なのだ。

 それにアクアが無一文になったのはアクアの責任だし、アクアは一応カズマの“モノ”だから、行く責任はカズマにある。

 だがカズマもこんな高難易度のクエストしかない今、仕事なんか行きたくないだろう。

 

「私は構わないが。……だが、アクアと私では火力不足だろう……」

 

 おい、こっちをチラチラと見るな。俺はめぐみんとじゃれるので忙しいのだ。

 それに俺達には高難易度クエストを受ける必要性が全く無い。

 いい返事をしない俺達にアクアがついに泣き出した。

 

「お、お願いよおおおおおお!もうバイトばかりするのは嫌なのよお!コロッケが売り残ると店長が怒るの!頑張るから!今回は、私、全力で頑張るからあぁっ!!」

 

 今回はっていつもは頑張って無いのかよ。

 つうかコロッケが売れ残るのはお前が悪い。もうちょっと接客方法考えやがれ。

 

「しょうがねえなあ……。じゃあ、ちょっと良さそうだと思うクエスト見つけて来いよ。悪くないのがあったら付いてってやるから」

 

 その言葉に、アクアは嬉々としてクエスト掲示板へと駆け出す。

 

「本当にカズマは優しいなあ。まあカズマがいいなら別にいいけど、飴と鞭はしっかりと判断しろよ。その内返しきれない程の借金背負ってくるぞ」

「わかってるよ。だからちゃんと見とかなきゃだな」

 

 本当に内臓売るレベルの借金持ってきたら絶対にひっぱたく。

 

「……クエスト、一応カズマも見てきてくれませんか?アクアに任せておくと、とんでもないもの持ってきそうで……」

「ああ、確かに。爆裂魔法をぶちかませばいいじゃないとか考えて滅茶苦茶強いモンスターの討伐とか持ってきそうだな」

「……だな。まあ私は別に、無茶なクエストでも文句は言わないが……」

 

 俺達の話を聞いて、顔色を悪くしたカズマはクエスト掲示板の方で吟味しているアクアの所へ向かった。

 

「アホか!」

 

 やはり無理なクエストを受けようとしてたのか。カズマを送り出して正解だったな。

 

 お、どうやら一悶着あったらしいが受けるクエストが決まったらしい。

 まあカズマが見て大丈夫と思ったのならよっぽどの事が無い限り安全だし大丈夫だろう。

 

「で、何のクエストを請けたんだ?」

「ああ、湖の浄化だ。報酬三十万エリス。モンスターは討伐しなくていいそうだ」

「そうか、ちなみに浄化は誰がやるんだ?めぐみん?」

「違うわよ!私よ私!」

「お前、浄化なんてできるのか?」

「何でセツナもそう言うのよ!ねえ、私女神なのよ!名前や外見のイメージで、何の女神かわかるでしょう?」

「堕落と怠惰と宴会芸」

「違うわよ!て言うかカズマの時よりも酷くなってるんですけど!水よ!水の女神よ!」

 

 あ、そうだったんだ。普段の生活見てると女神かどうかも怪しくなるからわからなかったよ。

 まあその水の女神がいるのだから浄化くらい楽勝だろう。

 

「じゃあとっとと行って終わらせるか」

「そうだな、あ、ちょっと待っててくれ。準備するものがある」

 

 カズマはそう言ってギルド職員の所へ向かい話を始めた。

 それにしても、アクアは何で女神だって騒いでもばれないんだ?もしかして逆効果だったりするのか?

 

 

          ※

 

 

 街から少し離れた所にある大きな湖。

 街の水源の一つとされているその湖からは小さな川が流れており、それが街へと繋がっている。

 湖は濁っており、淀んでいた。

 そしてこの中にブルータルアリゲーターってモンスターがいるらしい。

 そのための対策であろう物なのだが……。

 

「……ねえ……。本当にやるの?」

 

 後方からアクアの不安気な声が聞こえた。

 

「……私、今から売られていく、捕まった希少モンスターの気分なんですけど……」

 

 そう。アクアは今、オリに入れられている。

 カズマが言うには、オリの中から浄化すればアクアも安全だろうとのこと。

 確かに安全だろうが、大丈夫かね?モンスターの大きさもわかってないし、数もわからない。

 不安要素ありまくりだな。

 アクアに水に触れていないと浄化できないと言われたのでオリを用意したらしい。

 そしてアクア曰く、自分は水の女神だから浸かっているだけで浄化効果があるそうだ。

 まあ、見た感じ使えないやつを湖に捨てに来たようにしか見えないがな。アクアの顔も暗くなってるし。

 そして俺達は協力しアクア入りのオリを湖に入れた。アクアは体育座りで足の先と尻の部分を湖に浸からせている形になる。

 アクアが膝を抱えたままポツリと呟く。

 

「……私、ダシを取られてる紅茶のティーバッグの気分なんですけど……」

 

 言わないでくれ。これでも良心が痛む。

 

 

         ※

 

 

 アクアを湖に設置してから二時間が経過した。

 未だにモンスターは現れる気配が無く、俺達四人はアクアから二十メートル程離れた陸地でアクアの様子を見ていた。

 カズマが水に浸かりっぱなしのアクアに声を掛ける。

 

「おーいアクア!浄化の方はどんなもんだ?湖に浸かりっぱなしだと冷えるだろ。トイレ行きたくなったら言えよ?オリから出してやるからー!」

 

 遠くから叫ぶカズマにアクアが叫び返した。

 

「浄化の方は順調よ!後、トイレはいいわよ!アークプリーストはトイレなんて行かないし!!」

 

 お前は昔のアイドルか!後、他のアークプリーストに謝れ。

 てかまだまだ余裕があるなアクア。流石女神様。

 

「何だか大丈夫そうですね。ちなみに、紅魔族もトイレなんて行きませんから」

「いや、お前夜にトイレ行ってるじゃん。着いてってあげてるじゃん」

「な!?ち、違いますよ。トイレなんて行ってません」

 

 だとしたらいつも食って飲んでしているものは何処へ消えてるんだ?爆裂魔法?

 

「私もクルセイダーだから、トイレは……トイレは……。……うう……」

「ダクネス、この二人に対抗するな。トイレに行かないって言い張るめぐみんとアクアの二人は、今度、日帰りじゃ終わらないクエストを請けて、本当にトイレに行かないかを確認してやる」

「あ、俺も手伝うわ。俺めぐみんを監視する」

「や、止めてください。紅魔族はトイレなんて行きませんよ?でも謝るので止めてください。というかセツナも止めてください。一緒になってやらないでください。……しかしブルータルアリゲーター、来ませんね。このまま何事もなく終わってくれればいいのですが」

 

 おっと、めぐみんがフラグを立てたぞ。

 そして今まで平穏だった湖に、小波が走る。

 大きさは地球の平均的なワニと比べて一回り大きいくらいか。

 

「カ、カズマー!なんか来た!ねえ、なんかいっぱい来たわ!」

 

 すげえ。この世界のワニはあんなに群がるもんなのか。アクアなんてもう囲まれてるぞ。

 

 

──浄化を始めてから四時間経過──

 

 

 水に浸かって女神の浄化能力だけを使ってたアクアは、今は一心不乱に浄化魔法も唱えまくっていた。

 

「『ピュリフィケーション』!『ピュリフィケーション』!『ピュリフィケーション』ッッ!」

 

 ワニ達は鋼鉄製のオリを囲みガジガジとかじっている。

 

「『ピュリフィケーション』!『ピュリフィケーション』ッッ!ギシギシいってる!ミシミシいってる!オリが、オリが変な音立ててるんですけど!」

 

 オリの中で喚いているアクアだが、爆裂魔法をぶっぱなす訳にもいかず、俺もちょっと見ていて楽しいので、俺達は何もすることができない。

 

「アクアー!ギブアップなら、そう言えよー!そしたら鎖引っ張ってオリごと引きずって逃げてやるからー!」

「イ、イヤよ!ここで諦めちゃ今までの時間が無駄になるし、何より報酬が貰えないじゃないのよ!『ピュリフィケーション』!『ピュリフィケーション』ッッ!……わ、わああああーっ!メキッていった!今オリから、鳴っちゃいけない音が鳴った!!」

 

 意外とアクアも強情だな。それほど金が欲しいのか。憐れだ。

 今も喚いているアクアを見てダクネスが呟く。

 

「……あのオリの中、ちょっとだけ楽しそうだな……」

「……行くなよ?」

 

 ドMめ。

 

 

──浄化を始めてから七時間が経過──

 

 

 湖の際には、ボロボロになったオリがある。

 オリは所々ワニの歯型が残されている。

 ブルータルアリゲーターは浄化が終わったからか、オリから離れ、山へと行ってしまった。

 そしてアクアは一時間程前から、喋っていない。

 

「……おいアクア、無事か?ブルータルアリゲーター達は、もう全部、どこかに行ったぞ 」

 

 オリの中のアクアを窺うと……。

 

「……ぐす……ひっく……えっく……」」

 

 アクアは膝を抱えて泣いていた。途中でクエストリタイヤすればよかったのにな。

 

「ほら、浄化が終わったのなら帰るぞ。四人で話し合ったんだがな、俺達は今回、報酬はいらないから。報酬の三十万、お前が全部持っていけ」

 

 体育座りのままのアクアの肩がぴくりと動く。

 

「……おい、いい加減オリから出ろよ。もうアリゲーターはいないから」

「そうだぞー。早くオリから出て帰ってシュワシュワでも飲もうぜ」

「……まま連れてって……」

 

 なんつった?

 

「なんだって?」

「オリの外の世界は怖いから、このまま街まで連れてって」

 

 あらま、オリの中に引きこもっちゃった。

 やっぱりあの体験はそうとう堪えたんだな。

 



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魔剣のソードマスター(笑)1

「ルールールルルー、てーがらしめーがみが運ばれていーく、きっーとこのまま売られていーくーよー」

「……お、おいアクア、もう街中なんだからその歌は止めてくれ。ボロボロのオリに入って膝抱えた女を運んでる時点で、ただてさえ街の住民の注目を集めてるんだからな?というか、もう安全な街の中なんだから、いい加減出て来いよ」

「そうだぞー。しかもその歌を歌ってる時点で結構余裕あるだろ。さっさと出てこーい」

「嫌。この中こそが私の聖域よ。外の世界は怖いからしばらく出ないわ」

 

 おう、女神が引きこもるとこんな事を言うんだな。女神だからこその引きこもり理由だな。

 というか周りからの視線が痛い。何をしてるの?って視線が殆どだが、一部の視線がうわっ、て言ってる視線だよ。

 もう少し離れて歩きたいが反対側をめぐみんに抑えられて、もう反対はアクア入りのオリがあるし。

 しっかし今回はアクアのトラウマが増える以外特にトラブルが無かったな。まだ何かあると思ってたんだがな。

 アクアの目は、本当にこいつ女神か?って思うほど死んでいるし、頑なにオリの中から出てこようとしないし。

 まあしばらくはって言ってるしその内出てくるだろう。出てくるまでずっとこの痛い視線の中なのだろうが。

 結局俺達はやることも無かったし、アクアは一人でも出来たんじゃないのか?俺達見てるだけだったし。

 そんな中、ギルドへ向かって歩いていると……。

 

「め、女神様っ!?女神様じゃないですかっ!何をしているのですか、そんな所で!」

 

 突然叫んで、オリに引き篭もっているアクアに駆け寄り、鉄格子を掴む男。

 うわあ、絶対に面倒な事になるだろうな。

 アクアの事を女神様と呼んでいる男は、掴んでいる鉄格子をねじ曲げ、中にいるアクアに手を差し伸べた。

 すげえな、ブルータルアリゲーターでも破壊できなかったオリをあんなに容易く。

 この男そうとうレベルが高いな。それこそ王都にいる冒険者並みだ。

 唖然としているカズマとめぐみん、少し感心している俺を尻目に、そのどこぞの勇者だと思う鎧と剣を提げた男は、アクアの手を取ろうと……。

 

「……おい、私の仲間に馴れ馴れしく触るな。貴様、何者だ?知り合いにしては、アクアがお前に反応していないのだが」

 

 手を取ろうとした男の肩を掴み、ダクネスが止めに入った。

 すげえ、さっきまでのアクアを羨ましがっていたダクネスは何処へ行ったのやら、今のダクネスは騎士の中の騎士と言えるクルセイダーだ。

 いつもあんなんだったら助かるんだがな。

 男はダクネスを一瞥すると、ため息を吐きながら首を振る。

 何だ?あの面倒事に巻き込まれたとでも言いたそうな顔は。とても腹が立つな。

 ダクネスもその態度にイラッと来たそうで、顔が何時もより怖い。

 カズマはその間にアクアにあの男の事を聞こうと、アクアに耳打ちをしている。

 まあ、アクアの正体知ってる時点で転生者なのは確定だろうがな。あとあの金髪に近い茶髪?に黒い目、堀が浅い顔つき、多分日本人だろう。

 というか転生者って日本人しか居ないのか?王都でもそれっぽい人が居たけど全員日本人っぽいし。

 

「……ああっ!女神!そう、そうよ、女神よ私は。それで?女神の私にこの状況をどうにかして欲しいわけね?しょうがないわね!」

 

 漸くアクアが立ち直ったようで、オリから出てきた。

 てかこいつ自分が女神ってこと忘れていたのか?やはりこいつはバカだな。真正のバカだ。

 アクアは、気づかない内にいた男に対して首を傾げる。

 

「……あんた誰?」

 

 知らんのかい。てか俺の時も忘れてた様だし結構な数を送り出してるんだろうな。それか只単に忘れているだけか。

 だが男は驚いた表情で目を見開いている。

 

「何言ってるんですか女神様!僕です、()(つるぎ)(きょう)()ですよ!あなたに、魔剣グラムを頂いた!!」

「…………?」

 

 どうやらまだ思い出せないようだ。

 てことは、結構前に送り出されたわけだ。一日前に送った俺でも少し時間がかかったし。

 しかしやはり日本人か。しかも名前が主人公っぽいし。

 そしてイケメン。フツメンの俺とカズマからしたら敵だ。親の仇と同じくらいの敵だ。

 後ろには、槍を持った戦士風の美少女と、革鎧を着て、腰にダガーをぶら下げた美少女を引き連れている。

 あれか、ハーレムってやつか。イケメンってだけでも罪なのにハーレムまで持っている。大罪ものだ。極刑にしよう。

 俺とカズマのパーティーはハーレムじゃない。只単に女性比率が高いパーティーだ。

 それに中身が残念すぎる。

 アクアはバカで残念だし、ダクネスはドMで変態、めぐみんは中二病。まあめぐみんは可愛いから許す。

 ミツルギと名乗った男はあれだ。ゲームの主人公みたいな奴だ。

 名前、容姿、装備、ハーレム。主人公の要素をかなり抑えている。

 ここまで来たら最大の敵だな。リア充死すべし、慈悲は無い。

 

「ああっ!いたわね、そういえばそんな人も!ごめんね、すっかり忘れてたわ。だって結構な数の人を送ったし、忘れてたってしょうがないわよね!」

 

 ミツルギの事を漸く思い出したようだ。やはり結構転生させているんだな。

 若干引きつりながらも笑顔を見せるミツルギ。

 

「ええっと、お久しぶりですアクア様。あなたに選ばれた勇者として、日々頑張ってますよ。職業はソードマスター。レベルは37にまで上がりました。……ところで、アクア様はなぜここに?というか、どうしてオリの中に閉じ込められていたんですか?」

 

 37か。やっぱり王都の冒険者並みだな。

 俺はっと、お、レベル48まで上がってる。

 王都に行ったときの魔王軍襲撃で結構上がったな。まあ百や二百以上は倒した筈だしな。

 ミツルギはチラチラと俺やカズマの方を見てくる。

 というかアクアはこいつに選ばれし勇者とか言っていたのか。だからこんなにアクア様アクア様言っているのか?

 アクアがどれ程いい加減なのかよくわかる。

 そしてそんなアクアを俺達がオリに閉じ込めていたと疑っているのか?

 オリから出そうとしたんだけどな。

 カズマはこの世界に来るまでの事をミツルギに説明しだした。

 すると、どんどんとミツルギの表情が驚愕の表情に染まっていく。

 

「……バカな。ありえないそんな事!君は一体何考えているんですか!?女神様をこの世界に引き込んで!?しかも、今回のクエストではオリに閉じ込めて湖に浸けた!?」

 

 ミツルギはカズマの胸ぐらを掴み、叫ぶ。

 てか要所要所しか聞いてねえじゃん。

 引き込んだのだってアクアが死因を笑ったからだし、オリに閉じ込めて湖に浸けたのだってアクアの安全のためじゃん。精神に大きい傷を負ったようだが。

 アクアがカズマの胸ぐらを掴むミツルギを慌てて止めに入った。

 

「ちょちょ、ちょっと!?いや別に、私としては結構楽しい毎日送ってるし、ここに一緒に連れてこられた事は、もう気にしていないんだけどね?それに、魔王を倒せば帰れるんだし!今日のクエストだって、怖かったけど結果的には誰も怪我せず無事完了した訳だし。しかも、クエスト報酬三十万よ三十!それを全部くれるって言うの!」

 

 その言葉に、ミツルギは憐憫の眼差しでアクアを見る。

 

「……アクア様、こんな男にどう丸め込められたのか知りませんが、今のあなたの扱いは不当ですよ。そんな目に遭って、たった三十万……?あなたは女神ですよ?それがこんな……。ちなみに、今はどこに寝泊まりしているんです?」

 

 不当な扱いって、普段のアクアの行いからしたら妥当だと俺は思うんだが。

 それと、アクアが寝泊まりしているところを聞いてどうするつもりだこいつ?

 カズマの表情も何言ってんだこいつ?って顔して額に青筋つけてるぞ。

 ミツルギの言葉に、アクアが若干押されながらもおずおずと答えた。

 

「え、えっと、みんなと一緒に、馬小屋で寝泊まりしてるけど……」

「は!?」

 

 カズマの胸ぐらを掴むミツルギの手に力が更に込められた。

 流石に限度があるってもんだ。

 ミツルギの腕を、ダクネスが横から掴み、ミツルギの首筋に剣に変形させた右腕を当てる。

 

「おい、いい加減その手を放せ。お前はさっきから何なのだ。カズマとは初対面のようだが、礼儀知らずにもほどがあるだろう」

「そうだな。流石の俺もちょっと怒るぞ。さっさとその手を放せ、このクソ野郎」

 

 バカな事を口走る時以外は物静かなダクネスと俺は珍しく怒っていた。

 めぐみんも杖を構え爆裂魔法の詠唱をしようとしている。流石に俺もカズマも消し飛ぶかな。

 ミツルギはやっとカズマの胸ぐらから手を放し、興味深そうにダクネスとめぐみんを観察する。

 

「……クルセイダーにアークウィザード?……それに随分綺麗な人達だな。君達はパーティーメンバーには恵まれているんだね。それなら尚更だよ。君はアクア様やこんな優秀そうな人達を馬小屋で寝泊まりさせて、恥ずかしいとは思わないのか?さっきの話じゃ、就いている職業も、最弱職の冒険者らしいじゃないか」

 

 周りからみたら俺達ってそういう風に見えるのかな。知ってる人は同情の表情で見てくるけど。

 後、一つ訂正することがある。

 

「一つ訂正させてくれ。俺とめぐみんは馬小屋で寝泊まりしているわけではないぞ。他は知らんが殆どの駆け出し冒険者はその筈だ」

 

 ミツルギはこちらを見て少し睨むが何も言ってこようとしない。

 カズマとアクアはこそこそと何かを話しているがこちらには聞こえない。

 まあ、このミツルギって奴にはカズマの苦労の一つも理解出来ないだろうな。

 俺を睨み付けていたミツルギは同情でもするかの様に、アクアやダクネス、めぐみんに対して憐れみの混じった表情で笑いかけた。

 

「君達、今まで苦労したみたいだね。これからは、僕と一緒に来るといい。もちろん馬小屋なんかで寝かせないし、高級な装備品も買い揃えてあげよう。というか、パーティーの構成的にもバランスが取れていいじゃないか。ソードマスターの僕に、僕の仲間の戦士と、そしてクルセイダーのあなた。僕の仲間の盗賊と、アークウィザードのその子にアクア様。まるであつらえたみたいにピッタリなパーティー構成じゃないか!」

 

 おっと、俺とカズマが入っていないな。

 まあこんなやつのパーティーに入りたいなんて思わないが。

 




 中途半端に終わりました。すいません。


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魔剣のソードマスター(笑)2

 日間ランキング三位に入りました!
 見てくださってありがとうございます!


 身勝手なミツルギの提案を聞き、アクア達はヒソヒソと囁き出した。

 待遇はいいけど、この性格がなあ。確か、そう!ナルシスト、ナルシストだ!

 アクアはミツルギの方へ行った方が魔王討伐は確実性が出てくると思うんだがな。

 アクアは魔王を倒さないと天界へ戻れないそうだし。

 俺とカズマは、アクア達も流石に心が動いたかなと、後ろの会話に聞き耳を立てると……。

 

「ちょっと、ヤバイんですけど。あの人本気で、ひくぐらいヤバイんですけど。ていうか勝手に話進めるしナルシストも入ってる系で、怖いんですけど」

 

 アクアにここまで言わせるミツルギは凄いな。普段誰にでもおちゃらけた雰囲気で相手するアクアがここまでとは。

 

「どうしよう、あの男は何だか生理的に受けつけない。攻めるより受けるのが好きな私だが、あいつだけは何だか無性に殴りたいのだが」

 

 ふむ。やはりドMで変態なダクネスには合わないらしい。ダクネスの好みで言ったらカズマが一番だろう。変態で鬼畜。

 

「撃っていいですか?あの苦労知らずの、スカしたエリート顔に、爆裂魔法を撃ってもいいですか?」

 

 許可を出したい所だが俺達まで死ぬわ。というかめぐみんもミツルギは受けつけないそうだ。まあこういう性格のやつを好きになる奴なんて、目が節穴か、顔にしか目がいってない女だろう。

 カズマの顔も今の大不評を聞いてニヤニヤしている。あれだろう。イケメンが散々言われてスカッとしているのだろう。俺も心の中が大変爽やかだ。

 アクアがカズマの服の裾を引っ張った。

 

「ねえ。もうギルドに行こう?私が魔剣をあげておいてなんだけど、あの人には関わらない方がいい気がするわ」

 

 ここはアクアの言う通りだろう。憐れ、スカしたイケメン君。

 

「えーと。俺の仲間は満場一致であなたのパーティーには行きたくないみたいです。俺達はクエストの完了報告があるから、これで……」

「もう関わってくんなよ。お前は精々レベル上げでもして魔王軍の戦力でも削いでいてくれ。じゃあな」

 

 俺達がそう言い、馬を引いてオリを引き、立ち去ろうとした。

 ………………。

 ミツルギは俺達が進もうとした先に立ち塞がる。

 いるよな、こういう人の言うことが聞けないくそったれ。

 

「……どいてくれます?」

「そうだ、とっととどけクソ野郎」

 

 カズマがイライラしたような声で、俺がドスのきいた声で告げる。

 

「悪いが、僕に魔剣という力を与えてくれたアクア様を、こんな境遇の中に放ってはおけない。君にはこの世界は救えない。魔王を倒すのはこの僕だ。アクア様は、僕と一緒に来た方が絶対にいい。……君は、この世界に持ってこられるモノとして、アクア様を選んだという事だよね?」

「……そーだよ」

 

 この後の展開は読める。多分カズマもわかっているだろう。

 

「なら、僕と勝負をしないか?アクア様を、持ってこられる『者』として指定したんだろう?僕が勝ったらアクア様を譲ってくれ。君が勝ったら、何でも一つ、言う事を聞こうじゃないか」

「よし乗った!!じゃあ行くぞ!」

「待った」

 

 俺は勢いよくミツルギに襲い掛かろうとしたカズマの肩を掴み止める。

 カズマはその行為にどうした?という表情で見てくる。

 

「その勝負、俺に受けさせてくれないか?もちろん俺が勝っても、ミツルギへの命令権はカズマにやる」

「別にいいが、お前勝てるのか?」

「勝てるよ。それに俺もこいつにイライラしててそろそろ堪忍袋の緒が切れそうなんだ」

 

 酷くイラついた表情で言うと、カズマやアクア達が怯えたのがわかった。

 

「クソ野郎、それでもいいよな?」

「クソ野郎と言うのは僕の事かな?まあいいさ。結果は変わらない」

「よしじゃあ一旦街の外へ移動するぞ。俺は魔法を使うからな、街中じゃ中級以上を使えない」

「わかった」

 

 

 

 街からまた外へ出て、開けた平原に来た。

 周りにはカズマ達とミツルギの仲間とすこしの野次馬がいた。

 まあ観客がいてもいいか。

 

「そうか、君はウィザードだったんだね。まあ冒険者だろうがウィザードだろうが構わない」

「……一つ、言っとくぞ。お前はさっきカズマと戦っていたら負けていただろう、それも間抜けな負け方だな」

「……なに?」

「じゃあ始めようか」

「……わかった。合図はアクア様に頼もう」

「アクア、よろしく頼む」

「わかったわ。それでは、始め!」

 

 俺はアクアの合図と共にミツルギに向かって疾走する。

 俺とミツルギの距離は一瞬で縮まり、俺は錬成で拳の出っ張り部分を刺にして殴る。

 ガンッ!と鈍い音が響く。

 どうやら咄嗟に抜いた剣で防いだようだ。流石レベル37の前衛職。

 俺は防がれている事も気にせず何度も殴り、蹴る。

 ミツルギは防戦一方で少し焦っている。

 

 

 

 カズマ達はガンッ!ガンッ!と響くなか、少し怯えた様子でセツナの戦いを見ていた。

 まあ怯えて当然だろう。

 いつも穏やかな表情で、笑っている彼が、怒りの表情で殴りに掛かっているのだから。

 

 

 

 セツナは怒っていた。

 カズマがバカにされたことに。

 アクアが賭け事の景品の対象にされたことに。

 セツナは怒っていたのだ。

 ミツルギが、パーティーメンバーを憐れむような目で見たことに。

 だから殴り、蹴る。

 

 数十分間続いたセツナの攻撃は止んだ。

 セツナがバテたからか?違う。

 

「どうしたんだい?もう体力も残って無いんじゃないのかい?」

「いんや」

 

 セツナはバテてなんかいなかった。それどころか息切れもしていなかった。

 セツナはいつもの穏やかな表情になっていた。

 

「やっとストレス解消が出来た。最近嫌な事があってストレス貯まってたんだけど、お前のせいで限界までストレスが貯まったからお前でストレス発散した」

『…………はっ?』

 

 この場にいたセツナ以外の声がハモる。

 そりゃあそうだろう。

 あの怒濤の勢いが只のストレス発散だったなんて誰も思わなかっただろうから。

 しかも当の本人は疲れた様子は全く無い。

 カズマ達も口を開け、呆けている。

 

「じゃあ早速本戦始めよっか」

 

 そう言いながら錬成で拳の刺を直し、地面から一本の槍を錬成した。

 

「ふっ、たかが槍で僕がどうにかなるとでも思っているのかい?」

「ああ、なるさ」

 

 セツナは先程よりも速いスピードで距離を詰め、槍を繰り出す。

 槍はミツルギの頬を掠め、足を掠め、鎧の無い腕を掠める。

 

「なっ、お前程度槍一本でどうとでもなる」

「くっ、それじゃあ奥の手だ!」

 

 ミツルギが叫ぶと共に魔剣が光り輝く。

 

「はあぁぁぁぁぁあ!!!」

 

 ミツルギはその魔剣を俺に向かって振りおろすが……。

 

 ガキンッ!と音ともに槍が魔剣を止める。

 

「な、なに!?」

 

 そりゃあ驚くだろう。魔剣と呼ばれる物が、ただ単に錬成された槍に止められたのだから。

 

「驚いたか?」

「ど、どういうことだ!この魔剣グラムは鉄をも容易く切り裂く。何故防ぐ事ができる!」

「だってこの槍、鉄なんかよりずっと硬いもんでできてるし」

 

 この槍実は、この世界で上位の硬さをもつ金属でできている。それはもう鉄が豆腐と言えるほどの硬さだ。

 この世界の人達はまだこの金属を加工できないだろう。俺ができたのは真理を知っていて、錬金術を使う事ができたからだ。

 

「どうだ?降参するか?」

「まだ、まだ!」

 

 中々降参しないミツルギにセツナは飽き飽きし始めていた。まあ一方的に攻撃して、こちらは無傷なのだから詰まらないに決まっている。

 

「もういいや」

「なに?」

「『カースド・クリスタルプリズン』」

「がっ!?」

 

 俺は器用に、ミツルギの首だけ残して凍結させた。

 流石のソードマスター様(笑)も抜け出せないようだ。

 

「どうだ?敗けを認めるか?」

「……いいや、まだだ!」

「……………もういいや、めんどくさい。寝てろ。『スリープ』」

 

 俺はミツルギにスリープを掛けて寝かせた。

 あいつはもう面倒すぎて相手にならない。

 

「アクア、判定」

「……そ、そうね。勝者、セツナ!」

「うし、じゃあカズマ。後は任せた。俺はもう疲れたし帰る。めぐみん!行くぞ!」

「あ、待ってくださーい。ではまた明日です」

「お、おう」

「ああ、また明日」

「またねー」

 

 めぐみんはアクア達に先に帰ると伝えてからついてきた。

 俺はそのまま宿へ向かい、部屋へ入りベッドへダイブする。

 

「…………ああぁぁぉぁ、疲れたあぁぁぁぁ」

「お疲れ様です、セツナ」

「いやあ頑張った頑張った。今日はもう二日分くらい働いた」

「そこまで言いますか」

「あぁ、もうあんな面倒な事嫌だなあ」

「それにしても、何故あんなに怒っていたのですか?」

「そりゃあ人の話聞かなかったり、無視したり、勝手にめぐみんを引き抜こうとしたり。あそこまで俺の嫌いなタイプを持った奴なんてそうそういないぞ。まあとにかく気に入らなかっただけだ」

「そうですか」

 

 俺はベッドに横になったまま言葉を発す。

 

「…………なあ、めぐみん」

「何ですか?」

「今日の俺は頑張った」

「そう、ですね」

「だからご褒美があっても良いと思うんだ」

「ご褒美ですか。……あの、嫌な予感が、するのですが」

「……まあ、耐えてくれ」

「え、ちょまっ、ひゃん──」

 

 この日、セツナが満足するまでめぐみんへのセクハラは止まらなかったとさ。

 




 前回中途半端に終わらせてすいませんでした。


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大暴露

 

 翌日、めぐみんと共に冒険者ギルドに行くと……。

 

「な、何でよおおおおおっ!」

 

 何だ?今度は何をやらかしたんだ。

 アクアがルナさんの胸ぐらを掴んで揺さぶっている。

 

「だから、借りたオリは私が壊したんじゃないって言ってるでしょ!?ミツルギって人がオリを捻じ曲げたんだってば!それを、何で私が弁償しなきゃいけないのよ!」

 

 ああ、なるほど。そういうことか。

 ミツルギが壊したオリの弁償がアクアに回ってるのね。

 やっぱりアクア運悪いな。

 アクアは暫く言い合っていたが諦めたのか、報酬を持ってトボトボ歩いてやって来た。

 

「……今回の報酬、壊したオリのお金を引いて、十万エリスだって……。あのオリ、特別な金属と製法で作られてるから、二十万もするんだってさ……」

 

 しょんぼり説明するアクアに、こればっかりは同情した。ホント、今回はアクアは全く悪くないのにな。

 ミツルギに関しては、アクアはとんだとばっちりだ。

 

「あの男、今度会ったら絶対ゴッドブローを食らわせてやるわっ!そしてオリの弁償代払わせてやるから!!」

 

 アクアが、席に着いてメニューをギリギリと握りしめながら歯ぎしりする。

 ……と、アクアが未だ悔しげに喚く中。

 

「ここにいたのかっ!探したぞ、佐藤和真!霧崎雪那!」

 

 ギルドの入り口をバンッ!と開きズンズンとこちらに歩いてきたのはミツルギだった。

 俺達のフルネームを知っているということは誰かに聞いたのだろうか?

 

「佐藤和真!君の事は、ある盗賊の女の子に聞いたらすぐに教えてくれたよ。ぱんつ脱がせ魔だってね。他にも、女の子を粘液まみれにするのが趣味な男だとか、色々な噂になっていたよ。鬼畜のカズマだってね」

「おい待て、誰がそれ広めてたのか詳しく」

 

 俺も広めてた人は知らんけど、この名前考えた人は凄いな。カズマの事をよく知ってる。

 

「霧崎雪那!君の事はあまり聞かなかったけど、ある宿屋の人に聞いたよ。いつも年端もいかない女の子を部屋に連れ込み卑猥な事をしてるんだってね。ロリコンセツナだってね」

「ふむ。宿屋の人は誰かわかったからいいが、一つ言っとくぞ。ロリコンじゃなくて好きになったのがめぐみんだっただけだ。それに同意の上でやっているし、最後までやっているわけではない」

「へっ?//」

 

 視界の端でめぐみんの顔が赤くなっているのがよくわかる。

 それにロリコンみたいな節操なしじゃ無いぞ。俺はめぐみん一筋だ。

 ミツルギが驚いた表情で俺とめぐみんを見る。

 この場にいた他の冒険者達も時間が止まったかのように固まっている。

 やらかしちゃった?

 そんな中、冷静さを取り戻したミツルギの前にアクアがゆらりと立ち塞がる。

 

「……アクア様。僕はこの男から魔剣を取り返し、必ず魔王を倒すと誓います。ですから……。ですからこの僕と、同じパーティー「『ゴォッドブロォー』!!」はうあぁぁぁぁぁぁぁ!!??」

「ああっ!?キョウヤ!」

 

 アクアのダイレクトアタックがミツルギにクリーンヒットした。

 ミツルギは倒れ、ミツルギの仲間達が駆け寄る。

 そういや、カズマはミツルギから魔剣を奪ったのか。ミツルギが嫌がる事を適切に選択したな。

 吹っ飛んで何故殴られたのかわからないという表情のミツルギに、カツカツとアクアが詰め寄り胸ぐらを掴み上げると……。

 

「ちょっとあんたオリ壊したお金払いなさいよ!おかげで私が弁償する事になったんだからね!三十万よ三十万、あのオリ特別な金属と製法で出来てるから高いんだってさ!ほら、とっとと払いなさいよっ!」

 

 あの、アクアさんや。二十万じゃなかったっけか?こういうところは見直した方がいいのか呆れた方がいいのか。

 ミツルギは殴られた所を押さえ、オドオドとしながらアクアに素直に財布から出した金を差し出す。

 アクアはミツルギから金をふんだくると、上機嫌になって戻ってきてメニューを片手に定員を呼ぶ。

 気を取り直したミツルギが、アクアを気にしながらカズマに言う。

 

「……あの戦いは僕の負けだ。そして何でも言う事を言った手前、こんな事を頼むのは虫がいいのも理解している。……だが、頼む!魔剣を返してはくれないか?あれは君が持っていても役には立たない物だ。君が使っても、そこらの剣よりは斬れる、その程度の威力しか出ない。……どうだろう?剣が欲しいのなら、店で一番良い剣を買ってあげてもいい。……返してはくれないか?」

 

 こいつあれか、アホか。アクアに次ぐアホなのか。

 

「……お前さ、勝手に内のパーティーメンバーを憐れんで引き抜こうとしたり、無理だと知ったらアクアを景品にしてカズマに決闘を挑んだり、負けた癖に魔剣を返してくれないかと言ったり。アホなんじゃないか?お前さ、ただ単にハーレムでも作りたかっただけだろ。てか自分が負けた時に限ってそういう事言っててバカだろ。アクア達の気持ち考えてんのか?考えて無いだろ。考えてたらアクア達がお前のパーティーに入りたくないって本気で言ってるのわかるだろ。お前アクアは自分と来た方が絶対に良いとか言ってたよな。俺はそうは思わないね。実際アクアはカズマ達と一緒にいてイキイキしている。これをお前は壊そうとしたわけだ。わかるか?お前は何も考えていなくて、ただ自分の自己解釈で終わらせてんだよ。この能無しが」

 

 ふう、スッとした。

 本当にこいつは俺のストレスをよく貯める。一種の天才だな。

 ミツルギが俺に言いたい放題言われてひきつった顔になっている。

 周りの冒険者もちょっと青ざめてるな。

 何故だ?殺気を混ぜて説教と愚痴を言っただけなのに。

 

「そうよ!私を勝手に景品にしておいて、負けたら良い剣を買ってあげるから魔剣返してって、虫が良いとは思わないの?それとも、私の価値はお店で一番高い剣と同等って言いたいの?無礼者、無礼者!仮にも神様を賭けの対象にするって何考えてるんですか?顔も見たくないからあっちへ行って。ほら早く、あっちへ行って!」

 

 わぁ、ここまでアクアに嫌われてる奴アンデッドや悪魔以外で始めて見た。

 いや、アンデッドや悪魔は率先して倒そうとしてるけど、顔も見たくないってそっちの方が悪いか。

 

「ままま、待ってくださいアクア様!別にあなたを安く見ていた訳では……っ!」

 

 慌てるミツルギに、めぐみんがクイクイとミツルギの袖を引く。

 ダメだめぐみん!近づいたらナルシストミツルギ菌が移るよ!

 

「……?なにかな、お嬢ちゃん……、ん?」

 

 めぐみんがカズマの方向に指を差し、言葉にする。

 

「……まず、この男が既に魔剣を持っていない件について」

「!?」

 

 言われて気づいたミツルギ。

 えっ、今の今まで気づかずに会話してたのか?やはりアホだな。

 

「さ、佐藤和真!魔剣は!?ぼぼぼ、僕の魔剣はどこへやった!?」

 

 顔中に脂汗を浮かべてカズマに聞く。

 カズマは一言。

 

「売った」

「ちっくしょおおおおおおお!」

「「キョウヤー!!」」

 

 ミツルギは泣きながらギルドを飛び出し、それを追うようにミツルギの仲間も出ていった。

 

「……一体何だったのだあいつは。……ところで。先ほどから、アクアが女神だとか呼ばれていたが、一体何の話だ?」

 

 涙目でミツルギがギルドを飛び出した後、ダクネスが言ってきた。

 そりゃああんなに女神女神って言ってたら気になるか。

 カズマとアクアも言おうとしてるっぽい。

 俺は空回りすると思うんだけどな。

 アクアがめぐみんとダクネスに真剣な表情で向き直る。

 その雰囲気でめぐみんとダクネスも真剣に聞く姿勢になった。

 

「今まで黙っていたけれど、あなた達には言っておくわ。……私はアクア。アクシズ教団が崇拝する、水を司る女神。……そう、私こそがあの、女神アクアなのよ……!」

「「っていう、夢を見たのか」」

「違うわよ!何で二人ともハモってんのよ!」

 

 やっぱりな。女神って自称する奴なんかいても信じないよな。

 

「あと、セツナとめぐみんはどういう関係なのだ?さっき宿屋がどうとか言っていたのだけれど……」

 

 まあその内言おうと思ってた事だしこの際話すか。

 

「実はな、俺とめぐみんは付き合って──」

「違いますよ!違います!同じ宿屋にいるだけです」

「まあ同じ宿屋の同じ部屋の同じベッドで──」

「わああああー!!!それ以上は言ってはいけない!」

「ええー、良いじゃん。その内知れることだ」

「いえいえダメでしょう!この様な話はもうちょっと時間を置いてでも」

「俺はめぐみんと一緒のベッドで寝ている!」

「わあああああー!!言いましたね言いましたね!どうするんですか!周りの冒険者も固まっていますよ!」

「毎日抱き合って寝ている!」

「何で追い討ちを掛けるんですか!もう喋らないでください!」

「めぐみんは柔らか──」

「ストップ!」

 

 俺の言葉はめぐみんの手によって口を抑えられる事で止められた。

 めぐみんは真っ赤に、他の女冒険者もちょっと赤くなっている。

 

「……セツナ」

モガッ?(何だ?)

 

 カズマは真剣な表情で言う。

 

「責任はしっかり取れよ」

「ちょっとカズマまで何を言ってるんですか!」

 

 めぐみんが突っかかってる内にめぐみんの手を外し。

 

「ああ、わかってる。もとからそのつもりだ」

「セツナまで!」

「…………後、最後に一言」

「何だ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リア充爆発しろ!!!!!!!!!!!」

 

 まあわかってたさ。俺も逆の立場だったらそう言ってるし。

 昨日の事?何を言ってるのかわかりましぇん。

 その時だった。

 

 

 

『緊急!緊急!全冒険者の皆さんは、直ちに武装し、戦闘態勢で街の正門に集まってくださいっっ!』

 

 何だ?また何か来たのか?

 

「またかよ……?最近多いな、緊急の呼び出し」

 

 ミツルギとの騒ぎのあとで面倒だな。

 行きたくないなあ。

 俺とカズマがだらけていると……。

 

 

 

『緊急!緊急!全冒険者の皆さんは、直ちに武装し、戦闘態勢で街の正門に集まってください!……特に、冒険者サトウカズマさんとその一行は、大至急でお願いします!』

 

 

 

「「…………えっ」」

 

 今なんつった?

 



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魔王軍幹部襲来1

 俺達は正門前に急いで駆けつけた。

 軽装の俺やカズマ、めぐみんやアクアも門の前に着くが、重装備のダクネスだけは少し遅れていた。

 

「お、やっぱりな。またあいつか」

 

 カズマがそう言った。

 

「誰だ?お前達の知り合い?にしてはモンスターっぽいけど」

「あれはセツナが王都に行っていた時に来た魔王軍幹部のデュラハンですよ」

「へぇー、あいつが」

 

 にしても何でまた来たんだ?やっぱり街を攻めに来たのか?

 まあ、十中八九そうなのだろう。

 何故ならデュラハンの後ろには多くのモンスターを引き連れているのだから。

 そのモンスターは、朽ちて、ボロボロになった鎧を身に纏った騎士達。

 あれが俗に言うアンデッドナイトなのだろう。

 リアルでゾンビを見るのは始めてだが、暗いところで見たらトラウマもんだな。

 

 デュラハンが俺達……いや、カズマやめぐみん、アクアの姿を見つけると、開口一番叫びを上げた。

 

「なぜ城に来ないのだ、この人でなしどもがあああああっ!!」

 

 俺は咄嗟にめぐみんの前に立ち、カズマが問い掛けた。

 

「ええっと……。なぜ城に来ないって、なんで行かなきゃいけないんだよ?後、人でなしって何だ。もう爆裂魔法を撃ち込んでもいないのに、なにをそんなに怒ってるんだよ」

 

 爆裂魔法?

 カズマの問い掛けを聞いたデュラハンが怒って、思わず左手に抱えていた物を地面に叩きつけようとしたところで、それが自分の頭だと気づき、慌てて抱え直す。

 

「爆裂魔法を撃ち込んでもいない?撃ち込んでもいないだと!?何を抜かすか白々しいっ!そこの頭のおかしい紅魔の娘が、あれからも毎日欠かさず通っておるわ!」

「えっ」

 

 ん?どういう事だ?全く話に着いていけん。

 カズマがそれを聞き、隣のめぐみんを見ると、めぐみんが目を逸らす。

 

「…………お前、行ったのか。もう行くなって言ったのに、あれからまた行ったのか!」

「違うのです、聞いてくださいカズマ!今までならば、何もない荒野に魔法を放つだけで我慢出来ていたのですが……!城への魔法攻撃の魅力を覚えて以来、大きくて硬いモノじゃないと我慢できない体に……!」

 

 どうやら俺はめぐみんを知らず知らずの間に調教していたようだ。憐れデュラハン。

 

「もじもじしながら言うな!大体お前、魔法撃ったら動けなくなるだろうが!てことは、一緒に通った共犯者がいるだろ!一体誰と…………」

 

 アクアがそれに声を発す。

 

「私じゃないわよ。私はバイトで忙しかったもの」

「それじゃあ誰が」

「悪いカズマ。多分俺だ」

「セツナああぁぁぁぁあ!」

「いやあ、めぐみんに頼まれたらつい断れなくて」

「ついじゃねえ!ということはお前二週間前からずっとめぐみんと爆裂魔法放ちに行ってるのか?」

「ああ、そうだが」

「そうだがじゃねえええええっ!」

 

 いや、だってね。めぐみんが一緒に行ったらご褒美くれるって言ってたし。

 めぐみんのおねだりには逆らえないし。

 カズマに怒られていたら、デュラハンが言葉を続けた。

 

「この俺が真に頭にきているのは何も爆裂魔法の件だけではない!貴様らには仲間を助けようという気は無いのか?不当な理由で処刑され、怨念によりこうしてモンスター化する前は、これでも真っ当な騎士のつもりだった。その俺から言わせれば、仲間を庇って呪いを受けた、騎士の鑑の様なあのクルセイダーを見捨てるなど…………!」

 

 デュラハンが喋っている途中に遅れてダクネスがやって来た。

 ダクネスは頬を赤くして照れているようで……。

 

「……や、やあ……」

 

 ダクネスがおずおずとデュラハンに向けて片手を挙げ……。

 

「………………あ、あれえ────────────っ!?」

 

 デュラハンは素っ頓狂な声を上げた。

 今ごろ、兜に隠れている顔は何で!?って表情になっているのだろう。

 

「なになに?ダクネスに呪いを掛けて一週間が経ったのに、ピンピンしてるからって驚いてるの?このデュラハン、私達が呪いを解くために城に来るはずだと思って、ずっと私達を待ち続けてたの?帰った後、あっさり呪い解かれちゃったとも知らずに?プークスクス!うけるんですけど!ちょーうけるんですけど!」

 

 アクアが心底楽しそうにデュラハンの事を笑う。

 デュラハンは肩を震わせていることから、かなり怒っているのだろう。

 ていうか、アクア。そんな態度取ってると相手が思いがけない反撃をしてくるぞ。いつもの様に。

 

「……おい貴様。俺がその気になれば、この街の冒険者を一人残らず斬り捨てて、街の住人を皆殺しにする事だって出来るのだ。いつまでも見逃して貰えると思うなよ?疲れを知らぬこの俺の不死の体。お前達ひよっ子冒険者どもでは傷つけられぬわ!」

 

 ほーらな。やっぱり相手をやる気にさせちゃったじゃん。

 デュラハンが不穏な空気を滲ませるが、デュラハンが何かをするより早く、アクアが右手を突き出し叫んだ。

 

「見逃してあげる理由が無いのはこっちの方よ!今回は逃がさないわよ。アンデッドのくせにこんな注目集めて生意気よ!消えて無くなんなさいっ、『ターンアンデッド』!」

 

 アクアが突き出した右手から白い光が放たれる。

 だがデュラハンは何故か避けるつもりがないのか動く気配はない。

 魔王の幹部だから、自信があるのだろう。

 白い光が徐々にデュラハンに迫っていく。

 

「魔王の幹部が、プリースト対策も無しに戦場に立つとでも思っているのか?残念だったな。この俺を筆頭に、俺様率いる、このアンデッドナイトの軍団は、魔王様の加護により神聖魔法に対して強い抵抗をぎゃああああああああああー!!」

 

 アクアの浄化魔法を受けたデュラハンは叫び声を上げながら、体のあちこちから黒い煙を立てている。

 

「ね、ねえ!変よ、効いてないわ!」

 

 今の見て効いてないってこいつの目はどうなってんだ?

 てか何で魔王の加護を受けているデュラハンにアクアの浄化魔法が聞くんだ?

 

 あ、こいつ一応にも女神だったわ。

 いつもの行動と言動のせいで忘れてた。

 デュラハンは、よろめきながら。

 

「ク、ククク……。説明は最後まで聞くものだ。この俺はベルディア。魔王軍幹部が一人、デュラハンのベルディアだ!魔王様からの特別な加護を受けたこの鎧と、そして俺の力により、そこら辺のプリーストのターンアンデッドなど全く効かぬわ!……効かぬのだが…………。な、なあお前。お前は今何レベルなのだ?本当に駆け出しか?駆け出しが集まる所だろう、この街は?」

 

 言いながらデュラハンはアクアを見ている首を傾けた。

 態々傾ける必要あるか?

 

「……まあいい。本来は、この街周辺に強い光が落ちて来ただのと、うちの占い師が騒ぐから調査に来たのだが……。面倒だ、いっそこの街ごと無くしてしまえばいいか……」

 

 よくねえよ!こいつ案外脳筋だな。

 

「フン、わざわざこの俺が相手をしてやるまでもない。……さあ、お前達!この俺をコケにしたこの連中に、地獄というものを見せてやるがいい!」

「あっ!あいつ、アクアの魔法が意外に効いてビビったんだぜきっと!自分だけ安全な所に逃げて、部下を使って襲うつもりだ!」

 

 カズマも酷いな。追い討ちを掛けてやるなよ。

 

「ちちち、違うわ!最初からそのつもりだったのだ!魔王の幹部がそんなヘタレな訳がなかろう!いきなりボスが戦ってどうする、まずは雑魚を片づけてからボスの前に立つ。これが昔からの伝統と……」

「『セイクリッド・ターンアンデッド』ー!」

「ひああああああああああー!」

 

 アクアは喋っている途中に遮るの好きだね。ベルディアが可哀想に見えてきたよ。

 またアクアの浄化魔法に掛けられたベルディアは体から黒い煙を上げながら、地面をゴロゴロと転げ回っている。

 アクアは慌てた様子で。

 

「ど、どうしよう!やっぱりおかしいわ!あいつ、私の魔法がちっとも効かないの!」

 

 多分アクアはアンデッドや悪魔が消えるか消えないかで効いてるか効いていないのか判断しているのだろう。

 でも結構効いてると思うぞ。さっきよりも叫んでるし、転げ回っているし。

 ベルディアもう怒ったと言わんばかりに。

 

「こ、この……っ!セリフはちゃんと言わせるものだ!ええい、もういい!おい、お前ら……!」

 

 ベルディアは体から煙を上げながら、右手を掲げ……。

 

「街の連中を。……皆殺しにせよ!」

 

 その右手を降り下ろし、アンデッドナイトが冒険者目掛けて襲い掛かった。

 



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魔王軍幹部襲来2

 今回少し短いです。


 デュラハンのベルディアの号令でアンデッドナイトが冒険者達に襲い掛かる。

 アンデッドナイトとはゾンビの上位互換モンスターであり、ボロボロになったとはいえ、鎧を着たアンデッドナイトは駆け出し冒険者にとっては十分な脅威となった。

 

「おわーっ!? プリーストを! プリーストを呼べー!」

「誰かエリス教の教会行って、聖水ありったけ貰って来てくれえええ!」

 

 あちこちから切羽詰まった冒険者達の叫びが響く。

 そしてついにアンデッドナイトは街の中に浸入して来た。

 それらを迎え撃とうとする冒険者達、それを嘲笑うかの様なベルディアの哄笑が響く中。

 

「クハハハハ、さあ、お前達の絶望の叫びをこの俺に……。……俺……に……?」

 

 ベルディア哄笑が止み、ベルディアは困惑する。

 何故なら街へと浸入したアンデッドナイトは……。

 

「わ、わああああーっ! なんで私ばっかり狙われるの!? 私、女神なのに! 神様だから、日頃の行いも良い筈なのに!」

「ああっ!? ずっ、ずるいっ! 私は本当に日頃の行いは良い筈なのに、どうしてアクアの所にばかりアンデッドナイトが……っ!」

 

 アクア、お前の普段の行いが良いなんてあるわけないだろ。

 ダクネス、もう少し自重してくれ。悲しくなってくる。てか行い“は”ってことは他は悪いのか?

 アンデッドナイト達は街の住人に目もくれず、アクアだけを追い掛け回していた。

 そんな中、ベルディアが焦った声を上げる。

 

「こっ、こらっお前達! そんなプリースト一人にかまけてないで、他の冒険者や街の住人を血祭りに……!」

 

 まあ女神だから他の生者なんかよりも本能的に求めたくなってしまうのだろう。

 カズマが何かを思い付いたのか声を上げる。

 

「おいめぐみん、あのアンデッドの群れに、爆裂魔法を撃ち込めないか!?」

「ええっ! 街中ですし、ああもまとまりがないと、撃ち漏らしてしまいますが……!」

 

 なるほど。アクアの浄化魔法が効かなくても、爆裂魔法で消し飛ばしてしまえばいいのか。

 そして、アンデッドナイトに追い掛け回されているアクアはカズマ目指して駆けていった。

 

「わああああ、カズマさーん! カズマさーん!!」

「このバカッ! おい止めろ、こっち来んな! 向こうへ行ったら今日の晩飯奢ってやるから!」

「私が奢るから、このアンデッドをなんとかしてえ! このアンデッド達おかしいの! ターンアンデッドでも消し去れないの!」

 

 やはりか。魔王の加護は伊達じゃないな。

 あ、そうだ。

 

「カズマ、アクア! そのまま街の外まで走れ!」

「……そうか! わかった!」

「わああああーっ! 早くなんとかしてえ!」

「めぐみん、街の外で詠唱しながら待機してろ!」

「りょ、了解です!」

 

 カズマは直ぐに意図に気づいたようで、アクアの手を引いて、街の中で戦闘している冒険者の近くを通り過ぎ、アンデッドナイトをアクアに擦り付けていく。

 その行動にアクアが震えた声で……。

 

「カズマさーん! なんか、なんか私の後ろに! 街中のアンデッドナイトがついて来てるんですけどー!」

 

 アクアの後ろには街の中に浸入した全てのアンデッドナイトが付いていた。

 そして、カズマはアクアと共に街を出て、アンデッドナイトがそれに着いていき街を出る。

 

「「めぐみん、やれーっ!」」

 

 俺とカズマの合図に、めぐみんが杖を構え、紅い瞳を輝かせる。

 

「何という絶好のシチュエーション! 感謝します、感謝しますよセツナ、カズマ!」

「我が名はめぐみん!紅魔族随一の魔法の使い手にして、爆裂魔法を操りし者! 魔王の幹部、ベルディアよ! 我が力、見るがいい! 『エクスプロージョン』──────ッッ!」

 

 めぐみんの爆裂魔法が、アンデッドナイトの群れに炸裂した!

 爆裂魔法は炸裂したその場に巨大なクレーターを作り、アンデッドナイトを一体残らず消し飛ばした。

 爆裂魔法のその威力にその場が静まりかえる。

 そんな中、めぐみんの声が響いた。

 

「クックックッ……。我が爆裂魔法の威力を目の当たりにし、誰一人として声も出せない様ですね……。ふああ……。口上といい、凄く……気持ち良かったです……」

「お疲れ様」

「あ、セツナ。いつものお願いします」

「おう」

 

 魔力を使い果たして倒れているめぐみんをお姫様抱っこの様に抱え、その場を離れる。

 

「……あ、あの。別におんぶでも……」

「いいのいいの。……後は俺達がやっとくから休んでな」

「……はい……」

 

 俺は抱えためぐみんを近くにいる女冒険者の人に預けてから、ベルディアの所へ行く。

 

「口の中が……、口の中がじゃりじゃりする……!」

 

 爆裂魔法の爆心地の近くにいたアクアが半泣きで口の中の砂を吐きながらカズマの所へ向かった。

 そんな中、思い出したかのように冒険者達が歓声を上げる。

 

「うおおおおおおお! やるじゃねーか、頭のおかしい子!」

「頭のおかしい紅魔の子がやりやがったぞ!」

「名前と頭がおかしいだけで、やる時はちゃんとやるじゃないか、見直したぜ!」

 

 街からめぐみんに対する歓声が上がる。

 漸く、めぐみんの良さがわかってきたか。

 そして、そんな中。街の正門の前、俺の目の前でベルディアが肩を震わせ始める。

 ベルディアは肩を震わせながら、声を上げる。

 

「クハハハハ!面白い! 面白いぞ! まさかこの駆け出しの街で、本当に配下を全滅させられるとは思わなかった! よし、では約束通り!」

 

 カズマの顔が青ざめているのがわかる。

 

「この俺自ら、貴様らの相手をしてやろう!」

 

 ベルディアが大剣を構えて、カズマ達がいる方へと駆け出した。

 ベルディアがカズマ達のもとへ着くよりも早くに、カズマ達とベルディアの間に入る。

 そんな俺を見て、ベルディアが愉快そうに肩をすくめる。

 

「……ほーう? 俺の狙いはそこにいる連中なのだが」

「俺も一応こいつらと同じパーティーだからな」

「仲間を庇うか。良い心がけだ」

「それに俺もお前の城に爆裂魔法を撃ち込んでた一人だし」

「なに?」

「あれー? 聞こえなかったのかなー? 俺も爆裂魔法を撃ち込んでたんだよ。めぐみんが撃った後、半壊になった城に向けて。いつも止めを刺していたのは俺だよ、俺」

 

 ベルディアがさっきとは違う意味で肩を震わせる。

 

「いやー。毎日毎日修理して大変だったね(笑)。お陰で毎日あの城に爆裂魔法を撃ち込むことができたよ!」

 

 俺はニヤニヤと笑いながら、ベルディアに話しかけた。

 すると、ベルディアは……。

 

「……えのせいで……だったか」

「えっ、なに? 聞こえないなー」

 

 尚もベルディアに向かって挑発を続ける。

 

「おおお、お前のせいで毎日毎日毎日毎日、ししし、城を一から直さなければいけなかったのだぞ!!どどど、どれ程大変だったか」

「おー、お疲れさん」

「一日かけて直したら、直ぐにまた破壊され。どれ程の苦渋をなめたか」

「俺は破壊していた側だからわからないなー」

「お前! 絶対にぶっ殺してやる!!」

 

 おお、まんまと挑発にかかった。

 

「じゃあ始めようか。俺の名前は霧崎雪那、国家錬金術師だ」

「魔王軍幹部のベルディアだ。錬金術師の身でこの俺に挑んだこと、死して後悔するといい」

 

 俺とベルディアはお互いに名乗り合い……。

 

「「いざ、尋常に」」

 

「「勝負!!」」

 

 俺とベルディアの戦いが幕を開けた。

 




 今日は二話しか投稿できません。
 すいません。


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魔王軍幹部襲来3

 

「「いざ、尋常に」」

 

「「勝負!!」」

 

 お互いの声と共に互いに距離を詰め合う。

 数十メートルあった距離はゼロになり、俺は槍──ミツルギ戦の時の物──を繰り出す。

 それをベルディアは軽々と避け、大剣で横薙ぎして来ようとするがその前に、後ろへ下がる。

 

「ほう。今のを避けるとは、只のバカじゃなかったのだな」

「ハッ、あんなもん目隠ししても避けれるぜ」

「ほざけ」

 

 実質セツナはベルディアの攻撃を捉えることは出来ていなかった。

 なら何故避けれたのか、それはスキルのお陰であった。

 それが空間把握スキル、スキルポイントを30も消費するモノであり、自分の指定した範囲内の物や動きを正確に把握することが出来る。だがそれも真理によって上がった知力のお陰である。知力のお陰で演算処理が追い付き、魔力の消費が抑えられる。これを例え紅魔族が使ったとしても、数秒で魔力が枯渇し、脳が焼き切れるだろう。

 その空間把握は現在、セツナを中心に半径十メートルで展開されていて、ベルディアがその範囲内にいる限り、セツナはベルディアの動きを捉えることが出来る。

 

 セツナはベルディアの言葉に、挑発ついでに目を閉じる。

 これは閉じる必要は無いのだが、視界からの情報を断ち、少しでも空間把握に集中するためである。それと挑発。

 

「ふふふ、ふざけているのか!」

「いいや、ふざけてないよ。目を閉じたって当たらないって教えてやろうかと思ってな」

「どこまでもコケにするつもりか! いいだろう。この俺を相手にその様な態度をとったこと、あの世で後悔させてやろう」

「やれるもんならやってみろ」

「ムキイィィィイ!?」

 

 今度はベルディアから仕掛けて来た。

 剣速はさっきよりも全然早い、だが容易く避けることが出来る。

 それはそうだろう。なんたって空間把握でベルディアの筋肉や重心から正確に攻撃を予測しているのだから。

 俺はベルディアの剣を避けながら、槍で石突きをする。斬撃は効かないと思ったからだ。

 俺は上がった筋力をフルに使い、石突きを連発する。ガンッ、ガンッとベルディアの鎧に鈍い音を立て続けながら、遂にヒビを入れた。

 

「なに!?」

「ハッハー、どうした、どうした? ん? 鎧にヒビが入っちゃったねー。さっき地獄を見せてやるとか後悔させてやるとか言ってなかったけー? もしかして口だけの人なのかなー? いやもう人じゃないか。それにしても俺はまだ無傷なんですけど、もしかして魔王の幹部って意外とちょろいのかなー(笑)?」

「クソガァァァ!! てめえ絶対に殺す!」

 

 うわー、からかいがいのあるモンスターだなー。簡単に挑発乗ってくれるよ。お陰で動きは早くなったけど攻撃は単調になってるし、避けやすい。

 にしても、硬いなあ。俺の攻撃は威力が高いやつなんて殆ど無いからなー。

 

「おーい! セツナー! その場から離れろー!」

 

 ん? カズマの声。何か策があるんだな。てかベルディア、怒りでカズマの声が聞こえて無いのか?

 

「わかったー!」

 

 俺は直ぐにその場から離れ、それと同時にカズマが叫ぶ。

 

「『クリエイト・ウォーター』ッ!」

「ブハッ!?」

 

 ベルディアはカズマの魔法を食らったと思ったら、思いきり仰け反った。

 

「お、お前! 一対一の決闘に割って入るなど、礼儀を知らんのか!」

「えっ、決闘だったの?」

「いや、勝負としか言ってないしいんじゃね」

「お、お前ェ!!」

 

 カズマの問いに適当に返す。

 だって魔王の幹部と一対一なんて誰がやりたがるよ。いないだろ……、いやダクネスはやりたがるだろうな。あいつドMだし。

 

「……だが、こんなことしても俺には効かぬぞ!!」

「これは、こうするんだよっ! 『フリーズ』!」

「!? ほう、足場を凍らせての足止めか……。だがそんなもの関係ない」

 

 カズマも上手く魔法を使うよな。でもそっからどうすんだ?

 

「回避し辛くなればそれで十分だ! お前の持つ武器を貰うぞ、喰らえ『スティール』ッッッ!」

 

 なるほど。ベルディアの武器を奪って攻撃手段を無くそうってか。カズマの高い幸運と合わさって強力なスキルだが……。

 

「なに!?」

「……悪くはない手だったな。それなりに自信があったのだろうが、俺は仮にも魔王の幹部。レベル差というヤツだ。もう少しお前との力の差が無ければ、危なかったのかもしれないが」

 

 ベルディアの武器を奪うことはできなかった。

 ベルディアが、カズマを指差す。

 まずいっ! 呪いか!?

 だがその前に……。

 

「私の仲間に手を出すな!」

 

 良かった。いつもいつもダメダメなクルセイダーだけどやるときはやるんだな。

 ダクネスは攻撃を仕掛けるが、ベルディアは凍った足場を容易に壊し、軽々と避ける。

 

「盗賊、頼むー! 万に一つ、こいつから剣を奪っちまえば俺達の勝ちだ! スティール使える奴は協力してくれっ!」

 

 カズマが冒険者達に指示し、スティールを仕掛けるが、効果を見せず。

 ヤバイな。ダクネスが一方的にやられ始めた。

 

「ダクネスが! カズマ、セツナ。ダクネスが!」

 

 後ろでめぐみんの悲痛な叫びが聞こえる。

 そこでカズマが何か思い付いた顔になり……。

 

「なかなか楽しめたよクルセイダー! 元騎士として、貴公と手合わせ出来た事に魔王様と邪神に感謝を捧げよう! さあ、これで……」

「『クリエイト・ウォーター』ッッッ!」

「!?」

 

 ダクネスに斬りかかろうととしたベルディアは足を止め、攻撃することは無かった。

 ダクネスが恨めしげに……。

 

「…………カズマ、その……。私は今、結構真面目に戦っているのだが……」

 

 だがカズマはそれに気にせず……。

 

「水だあああああああーっ!」

 

 叫んだ。

 水? ああ、アンデッドモンスターは流水は弱点だったけか。だからか。カズマも頭が良いな。

 

「『クリエイト・ウォーター』! 『クリエイト・ウォーター』! 『クリエイト・ウォーター』ッッッッッ!」

「くぬっ! おおっ? っと!」

 

 俺やカズマ、他の魔法使い達が魔法を放つが、ベルディアはそれを避け続ける。

 弱点だけど当たらなかったら意味が無いからな。あいつの回避能力無駄に高いし。

 俺は大丈夫だが、他の冒険者達の魔力が尽きそうだ。

 そんな中……。

 

「ねえ、一体何の騒ぎなの? なんで魔王の幹部と水遊びなんてやってるの?この私が珍しく働いてる間に、カズマ達ったら何を遊んでいるの? バカなの?」

 

 バカはお前だ! なんで気づきもしないんだよ。

 カズマがアクアに説明をする。

 

「水だよ水! あいつは水が弱点なんだよ! お前、仮にも一応はかろうじてとは言え、水の女神なんだろうが! それともやっぱり、お前はなんちゃって女神なの? 水の一つも出せないのかよ!?」

「!? あんた、そろそろ罰の一つも当てるわよ無礼者! 一応でもかろうじてでもなんちゃってでもなく、正真正銘の水の女神ですから! 水? 水ですって? あんたの出す貧弱なものじゃなく、洪水クラスの水だって出せますから! 謝って! 水の女神様をなんちゃって女神って言った事、ちゃんと謝って!」

 

 出せんのかよ!でも洪水クラスってヤバくねえか?

 

「後でいくらでも謝ってやるから、出せるんならとっとと出せよこの駄女神が!」

「わああああーっ! 今、駄女神って言った! あんた見てなさいよ、女神の本気を見せてやるから!」

 

 カズマの言葉に怒ったアクアが一歩前に出る。

 そのアクアの周囲には、霧の様な物が漂い…………。

 あれ、ヤバくね?

 

「この雑魚どもめ、貴様らの出せる水など、この俺には……?」

 

 ベルディアはアクアを見て動きを止める。

 そんなことを気にせずに、アクアがぼそぼそと呟き始めた。

 

「この世に在る我が眷族よ……」

「水の女神、アクアが命ず…………」

 

 アクアの周りに、異常に魔力が詰められた水の玉が漂い始め、空気が震えだす。

 この感じ、俺とめぐみんの爆裂魔法と同じ感覚だ。

 ベルディアも危険を感じたのだろうが、ダクネスが立ち塞がる。

 アクアが両手を広げ。

 

「ちょ!? まっ」

「『セイクリッド・クリエイト・ウォーター』!」

 

 水を生み出す魔法を唱えた。

 それと同時に俺は錬金術で即興の防壁を作った。

 



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魔王軍幹部襲来4

「『セイクリッド・クリエイト・ウォーター』!」

 

 え?これってもう詰んだんじゃね?

 錬成した防壁が約五メートルあるんだけど、水出しすぎじゃね?

 

「やべ、水が来…………!」

「ちょっ……! 待っ…………!」

「ぎゃー! 水、水があああああー!」

 

 アクアが放った魔法は、ベルディアは勿論、周囲にいたダクネスや冒険者、遠くにいた俺やカズマやめぐみん、そして水を放ったアクアまでも呑み込んだ。

 

「あぶ……! ちょ、おぼ、溺れま……!」

「めぐみん、めぐみーん! 直ぐ行く! ちょっと耐えてろ!」

 

 俺は水の流れに逆らわずにめぐみんのもとへと行く。

 水は街の正門にぶつかり、圧力で破壊し、街の中心部へ流れていった。

 やがて、水が引いたその後には、地面にぐったりと倒れこむ冒険者達と、そして……。

 

「ちょ……、ちょ……っ、何を考えているのだ貴様……。ば、馬鹿のか? 大馬鹿なのか貴様は……!?」

 

 ベルディアがよろよろと立ち上がりながらそう言った。

 うん、アクアは馬鹿だよ。

 

「今がチャンスよ、この私の凄い活躍であいつが弱ってる、この機会に何とかなさいなカズマ! 早く行って。ほら、早く行って!」

 

 アクアの言葉にカズマの顔が怒りに染まる。

 ああ、後で絶対仕返しされるなアクア。

 今はそんな事をしている場合じゃないと気づいたのか、ベルディアに片手を突き出し……!

 

「今度こそ、お前の武器を奪ってやるよ! これでも喰らえぇ!」

「やってみろ! 弱体化したとは言え、駆け出し冒険者のスティールごときで俺の武器は盗らせはせぬわ!」

 

 カズマと対峙したベルディアは自ら首を空高く投げ、両手で大剣を構える。

 対してカズマは、右手を突き出し、足は震えている。

 

「『スティール』ッッッ!」

 

 カズマのスティールが炸裂した。

 ベルディアは相変わらず、両手に大剣を持って構えている。

 

「「ああ…………」」

 

 周囲にいる冒険者達から失望や絶望の混じった声が上がった。

 ベルディアは何故か、そのままカズマに斬撃を放つことなく、ぽつんと突っ立っている。

 その場にいる皆が、何が起こったのか分からず、辺りが静まり返っていると。

 

「あ、あの…………」

 

 ベルディアのか細い声が聞こえた。

 だが、その聞こえた声の発信源は……。

 

「あ、あの……。…………首、返してもらえませんかね…………?」

 

 カズマが両手で抱えている、ベルディアの頭だった。

 瞬間、カズマの顔が悪どくなり。

 

「おいお前ら、サッカーしようぜ! サッカーってのはなああああぁ! 手を使わず、足だけでボールを扱う遊びだよおおおお!」

 

 カズマはそう言った後、カズマはベルディア頭を蹴り上げた。

 そのベルディアの頭は見事俺のもとまでやって来て。

 

「お、いいな! サッカーやろうぜ、じゃあお前ボールな!」

 

 俺は他の冒険者達の前に蹴り込んだ。

 

「なああああああ! ちょ、おいっ、や、やめっ!」

 

 蹴られて飛んだり転がったりするベルディアの頭は、今まで待っていた冒険者達の格好のオモチャにされていた。

 

「にゃはははは! これおもしれー!」

「おい、こっちこっち! こっちにもパース!」

「やめっ!? ちょ、いだだだ、やめえっ!?」

 

 頭は冒険者達の玩具に、体は前が見えずにあたふたしている。

 憐れベルディア。

 

「おいダクネス、一太刀食らわせたらどうだ?」

「ふむ、あまり動けない者を一方的に攻撃するのは気が進まんが」

 

 ダクネスは大剣を大きく振り上げ、思い切り振り下ろした。

 

「ぐはあっ!?」

 

 冒険者達に蹴られているベルディアの頭から、くぐもった声が聞こえた。

 不器用さがド頂点のダクネスの攻撃も動かなくなったベルディアには当たり、ベルディアの黒い鎧を打ち砕き、胸元に大きな傷を与える。

 不器用だけど無駄に力が高いんだよな。今の俺より高いんじゃないか?

 

「おし。アクア、後は頼む」

「任されたわ!」

 

 鎧が砕け、大量の水を浴びて弱体化したベルディアにはもうアクアの浄化魔法を耐えることは出来ないだろう。

 ベルディアに向けてアクアが片手を突き出す。

 

「『セイクリッド・ターンアンデッド』ー!」

「ちょ、待っ……! ぎゃああああああー!」

 

 アクアの浄化魔法を受けて、ベルディアが悲鳴を上げる。

 すると、ベルディアの身体が白い光に包まれて、薄くなり、消えていった。冒険者達に蹴られていた頭も消えたのか、冒険者達は少しどよめいた。

 今度の浄化魔法はしっかりと効いたようだ。

 こうして、魔王軍幹部のベルディアは浄化されたのだった。

 

 

          ※

 

 

「……ダクネス、何をしてるのですか?」

 

 俺に背負われためぐみんがダクネスに声を掛ける。

 何かあったのかと見てみれば、ダクネスはベルディアが消えた場所の前で、片膝を付き祈りを捧げるポーズで目を閉じていた。

 ダクネスは目を閉じたまま答えた。

 

「……祈りを、捧げている。デュラハンは不条理な処刑で首を落とされた騎士が、恨みでアンデッド化するモンスターだ。こいつとて、モンスターになりたくてなった訳ではないだろう。自分で斬りつけておいて何だが、祈りぐらいはな……」

「そうですか」

 

 俺はそれを聞いた後、ダクネスがいつものドM変態クルセイダーではなく、確りとした聖騎士のクルセイダーなんだなと思った。

 

「……ふぅー……。じゃ、今日も昨日に続いて疲れたし帰りますか」

 

 俺は深い息を吐いて帰路に着いた。

 

「そうですね。今日も私達を守ってくれてありがとうございました」

「何の事だ? 俺は只強い奴と戦ってただけだ」

「フフフ、まあ、そういうことにしといてあげます」

 

 何だそりゃ?

 

「あ、めぐみん」

「なんですか?」

「今日も昨日に続いて一仕事頼むわ」

「? 何の事ですか?」

「いやー、随分と戦闘で興奮しちゃってさ、中々熱が冷めないんだよ」

「ハァ」

「だから今日もちょーっとだけ、我慢してね」

「…………えっと、もしかして……」

「そう、多分めぐみんが考えている通りだと思うよ」

「や、やめてください! だ、誰か!」

「ここには他の人はもういないよ? 街の人も門の方に行っちゃって誰もいないし、もう宿に着いたし」

 

 やっと宿に着き、部屋に入る。

 

「あ、あの」

「なんだい?」

「お手柔らかに」

「……眠くなるまでよろしくね」

 

 そう言った途端、めぐみんの顔が青ざめたり赤くなったりした。

 うん、めぐみんも大変だね。

 

「おりゃあ!」

「なんでいつもいつもベッドに投げ込むんですか!? ひゃん」

「そりゃあ、何かいけない事をしている気になってな。それに楽しいし」

「後半は理由になってぅん、ないじゃないですか! ちょっと待っひあっ」

「いいのいいの、めぐみんは頑張って耐えててね」

「セツナが我慢すればいいじゃないですか!」

「それは俺に死ねと言ってるのか!?」

「何があってそこまで飛躍したんですか!?」

「だってめぐみんにしなきゃ、俺このままずっと血が熱くなったまま過ごして、周りの女冒険者を変な目で見てしまうかもしれないんだぞ」

「大丈夫ですって、時間がたてば収まりますって」

「いや、無理だ。王都に行った後、もう結構辛かったし。だから頑張って!」

「いやいや、理由になってませんよ。大体なんで私なんです、んむ────」

 

 わからず屋のめぐみんの口を物理的に塞ぎました!

 

「──ぷは、それは俺がめぐみんがいいからだ。それ以外理由は無い」

「ファファファ、ファーストキスが////」

「お、何だ? ファーストキスだったのか?」

「そうですよ! どうしてくれるんですか!」

「嫁に貰う」

「何でそんなにド直球に言うんですか!?//」

「良いじゃん。自分の気持ちに素直になったって。じゃあ、ゴタゴタ言ってないで」

「ゴタゴタってなんですんむ────はぅ//」

「どうしたそんなに赤くなって」ニヤニヤ

「//ファーストならずセカンドも//」

「一度やったらもう変わらないだろ」

「何でそんなに軽いんですか! もうちょっと考えてぇん! ふぁっ!」

「じゃ、息つく暇なくやるから頑張って」

「ちょっと、待ってんむ──ん!?──んん!!」

 

 この日めぐみんは眠ることなく、眠りに着いたのは朝日が昇る少し前だったとさ。

 




 できたら午後に2話投稿します。


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書籍二巻
二度目の死?1


 約四ヶ月も開けてすいませんでした!!!
 言い訳はしないです!!!申し訳無い!!!


「……金が欲しいっ!」

 

 

 めぐみん成分を充分補充した数日後。

 冒険者ギルドでつまみを摘まみながらカズマの心からの叫びと愚痴を聞いていた。

 カズマは両手で頭を抱えながらテーブルに顔を伏せていた。

 それをアクアは当然と言ったように返した。

 

 

「そんなの誰だって欲しいに決まってるじゃないの。もちろん私だって欲しいわよ。……というか、甲斐性が無さ過ぎでしょう? 仮にも女神であるこの私を、毎日毎日馬小屋なんかに泊めてくれちゃって、恥ずかしいと思わないんですか? 分かったら、もっと私を贅沢させて。もっと私を甘やかして!」

 

 

 こいつは本気でこんな事を言っているのだろうか? だとしたら迷惑極まりないんだが……。

 頭を伏せていたカズマがゆっくりと頭を上げ、口を開いた。

 

 

「……お前は、俺がどうして金が欲しがっているのかが分からないのか?」

 

「元引き篭りの汚れた頭の中なんて、清く正しくも麗しい私に分かるわけないでしょ? 引き篭もれるだけのお金が欲しいとか、そんなところじゃないの?」

 

「借金だよ」

 

 

 カズマが一言呟くと、アクアがびくりと震えて目を逸らした。まさか忘れていたんじゃ無いよな? でもこいつの知力、平均より結構低いらしいし、まさかな。

 

 

「借金だよ! お前が作った借金のせいで、毎回、請けたクエストの報酬から大半が、借金返済のために天引きされていくんだぞ!? そろそろ冬だ! 今朝なんて、馬小屋の藁の中で目が覚めたらまつ毛が凍ってたんだ! 他の冒険者は既に宿屋で部屋を借りて寝泊まりしてんだぞ! 本格的な冬にでもなったらどうすんだよ、馬小屋の寝床じゃ凍え死ぬわ! はっきりいって、魔王を倒して帰るどころの話じゃ無いんだよ!」

 

 

 そう、借金である。

 実は、前に魔王軍幹部のベルディアが襲撃してきた際に、ベルディアを弱体化させる為にアクアが喚んだ洪水が街の門、及び壁を破壊したのだ。

 その弁償総額、三億四千万エリス。ベルディア討伐の報酬三億エリスを差し引き、借金総額四千万エリスである。

 流石に俺もそんな額をぽんと出せる訳も無く、請けたクエストの報酬の半分が借金に宛てられているのだ。

 そして半分になった報酬を五人で分ければ日々の飯にありつけるかどうか。宿屋に泊まるなんて夢のまた夢である。

 まぁ俺はある程度貯金があったから宿屋に泊まれてるんだけどね、めぐみんも一緒に。

 ダクネスがどうしてるか分からないが、カズマとアクアは未だに馬小屋生活を続けているのだ。

 それに冬のクエストの報酬は高いが、難易度が高いものばかりで、俺でも危険なクエストは少なくない。

 そんなクエストをほぼ駆け出し冒険者のカズマ達や俺が請けるなんて自殺行為だ。

 すると、アクアがばんとテーブルを叩き、カズマに反論をし始めた。

 

 

「だってだってしょうがないじゃないの! あの時の私の超凄い活躍が無かったら、この街は滅ぼされていたのかも知れないのよ!? 感謝こそされ、借金背負わされる謂れはないんじゃないかしら! 不当な請求だわ!」

 

「こら止めろ、受付のお姉さんを困らすな! ……そもそも、一応は高額な賞金だって貰っただろうが。……差し引きでマイナスになったってだけで。街を守るために街の一部を壊しましたじゃ、流石にお咎め無しって訳にもいかないんだろ」

 

 

 まぁこんな事を言っているカズマだが、ギルドの外ではよくアクアのような愚痴を吐いているんだがな。

 そこんところはやっぱりカズマだなあと思うが、そろそろ何とかしないとカズマとアクアはヤバイんじゃないだろうか。カズマが言っていたように、本格的な冬が始まったら、それこそ凍え死ぬだろうし。

 

 

「なによ! カズマなんて、散々敵から逃げ回った挙げ句に私が弱らせたデュラハンから、スティールで首もぎ取っただけじゃないの! もっと私を称えてよ! 敬ってよ! 褒めて褒めて、甘やかしてよ! ギルドの皆で、流石ですね女神様っていって尊敬してよ!」

 

「この構ってちゃんのクソバカが! 黙ってりゃ調子に乗りやがって! ああ、お前の活躍で何とかなったって認めてやるよ! じゃあ、あの時の報酬も手柄も借金も、全部お前一人の物な! その調子で借金も一人で返してこい!」

 

「わあああ待って! ごめんなさい、調子に乗ったのは謝るから見捨てないで!」

 

 

 とうとうカズマが切れて本音をぶちまけた。流石にアクアの事は擁護出来ないな。俺もこんなこと言われたら見捨てるだろう。

 こんなやり取りをしているとめぐみんとダクネスも来たようだ。

 めぐみんと同じベッドで寝ていたのだが、今日は寝起きが悪く俺一人だけ先に冒険者ギルドに来ていたのだが。こんなことになるなら一緒に寝てれば良かったと思ってる。

 

 

「全く、朝から何を騒いでいるのだ。皆見て……いないか。既にギルドの連中も、お前達に慣れてきたのか……」

 

 

 流石に毎日毎日こんなに騒いでいたら他の冒険者も慣れるわ。周りなんてまたやってるよ的な目で見ながら、酒のつまみにしてるしよ。

 

 

「三人とも早いですね。何か、良い仕事はありましたか?」

 

「他の奴等がこんな状態だったらそんなの関係無いだろ。掲示板を見に行った奴なんて片手で数えれる程しか見てないし、クエスト請けた奴なんて一人も見てないし……」

 

「それもそうでしたね。大金が入ったからって、だらしな過ぎませんか? 冒険者でしょうに。それにしても、セツナは今日は早いですね。いつもは一緒に行ってたのに」

 

「めぐみんの寝起きが悪かったしな。起こすのも悪いし、先に出たんだよ。あ、寝顔は可愛かったぞー」

 

「なっ//」

 

 

 ニヤニヤしながらそう言うとめぐみんは顔を赤くし、隠すように俯いた。

 そんな感じでめぐみんで遊んでいると、カズマ達がクエストを一枚だけ剥がして持ってきた。

 何々、雪精の討伐? 一匹十万エリスってメチャクチャ高額じゃないか。難易度もそこまで高くないし、何で誰も受けないんだ?

 

 

「今日はこれを請けることにした。弱いらしいし俺達でも出来るだろ。それに報酬も美味しいしな。ある程度準備したら向かうぞ」

 

「わかったんだが、ダクネスの様子がおかしくないか?」

 

「俺もそう思うが、今は金だ! 少しでも稼いで宿屋に泊まってやる!」

 

「俺とめぐみんは宿で寝泊まりしてるがな」

 

「金あるんなら俺も泊まらせてくれよ!?」

 

「野郎なんかと同じ部屋で寝てたまるか。それにお前金貸しても戻ってきそうにないし」

 

「ひでえ!?」

 

「それよりもさっさと行くぞ」

 

 

 俺は準備は出来ているので、カズマに準備を速く済ませるように言う。

 やっぱりカズマは突っ込みが似合ってるな。俺がボケているわけでは無いがな。

 ちなみに俺は防寒具として、温度調整がされる魔道具のコート等を着ているので寒くはない。

 というかめぐみんにも着せている。めぐみんが風邪をひいたら大変だしな。

 カズマは野郎だし、アクアはアホだし、ダクネスはドMだし。三人には要らないよね?

 



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二度目の死?2

 前の話からまたまた投稿が遅くなってしまいすいません!


 場所は移って街から離れた平原。いや、今は雪原と言った方が適切だろう。

 街はいつもよりは寒かったが雪なんて降っていなかった。だが少し離れたここには雪が深々と降っている。これは雪精の影響だろうか?

 雪精は直径10cmに満たないくらいの小さな丸で、辺りをフワフワと漂っていた。辺りの雪景色に同化する様な白色で、正面?には小さな目が二つあった。

 こんな人畜無害という言葉がピッタリの雪精だが、こいつを一匹倒すと春が半日早くやって来るそうだ。

 日本だと、大体冬に雪精を240匹倒すと春がやって来る計算になる。

 さて、こんな無駄な思考から離れ、カズマ達を見てみる。

 カズマはやや貧乏さが見える防寒着をいつもの服と防具の上から着ている。

 めぐみんは俺が渡した魔道具のコートをいつも羽織っているローブの代わりに着ている。下半身がスパッツなので少し寒く見えるがコートで全身の体感温度が調整されているので本人は全く寒そうにしていない。

 ダクネスは私服の上に高級感のあるコートだけである。防具は魔王軍幹部(笑)のベルディアにボロボロにされて修理に出しているそうだ。寒そうだが本人は楽しそうなのでそれで良いのだろう。

 そしてアクアなんだが、一応防寒着は着ているが装備が色々とおかしい。俺は錬金術でどうにでもなるから別として、カズマやダクネスは剣、めぐみんは杖を持ってきているのだが、アクアは片手に虫取り網を持ち、肩からガラス製の虫かごをかけ、腰に小さな瓶をベルトを使いひっさげている。

 馬鹿なのか?いや、馬鹿なのだろう。馬鹿としか考えられない。雪精が無害だからと言って、杖の一つも持ってこないなんて、馬鹿としか言いようがない。

 カズマもアクアの格好に頭を痛めているようだ。残念だな、特典として連れてきたのが高性能な馬鹿だなんて。

 心の中で今度酒でも奢ってやろうと思っていると、本格的に雪精討伐をやり始めた。

 カズマやダクネスは剣を振り回して討伐をしている。ダクネスは一向に当たる気配がないが。

 アクアは虫取り網を振り回している。頭が痛くなりそうだ。だが、剣なんかよりも面積が広い分、多くの雪精を捕獲することができている。一応討伐依頼なんだが……。

 めぐみんは爆裂魔法しか使えないので、雪精が一ヶ所に多く集まるのを待っているようだ。まあ一日一発なんだし無駄打ちは出来ないよな。

 さて、そろそろ俺も始めるかな。と言っても、今回の依頼は俺と相性が良すぎて手間なんて全くかからない作業なんだが。

 俺はズボンのポケットから発火布製の手袋を取り出し、右手につけた。

 

 

「セツナ?その手袋はまさか……」

 

「……ふっ、そのまさかだ」

 

 

 カズマはこの手袋が何かわかったのだろう。めぐみん達は首を傾げているが。

 そう、王都の魔王軍襲撃の時に使ったロイ・マスタング大佐の手袋である。アクセルの街に戻ってからは使う機会なんて無かったが、ここなら思い存分使えるだろう。この前のシリアス?んなもん忘れたわ。

 ふははははっ!焼き尽くしてやるぜぇえ!!

 

 そこからは圧倒的だった。指パッチン一回で10近くの雪精が溶け、地に積もっていた雪は蒸発する。

 乾いた音が鳴る度に凄まじい熱が押し寄せる。

 

 

「ちょっ、何て威力ですか!?周りの雪精が殆んど溶けましたよ!?」

 

 

 そう言ってるのは既に爆裂魔法を放ち、地に伏しているめぐみんである。少し離れた所には雪原では一際目立つクレーターが作られている。

 

 

「まあめぐみんの爆裂魔法には負けるがな。さすがにあそこまで威力を高めることはできない」

 

「そ、そうですか……。ま、まあ、セツナのそれも中々の威力でしたよ」

 

「そりゃどうも」

 

 

 この手袋だが、魔力を通せばさらに熱量は上がるが、そこまで爆発が起きるわけではない。むしろあの大きさのクレーターができる爆裂魔法の威力は異常だろう。

 

 めぐみんが脱落して、俺、カズマ、ダクネス、アクアで雪精を倒していると、異変が起きた。

 遠くにある小さな丘で雪崩の様な災害が起きているのを視界の端で捉えた。あんな小さな丘で雪崩なんて起きるのかと思って見ていると、俺達の方に方向転換をして向かってきたのだ。

 

 

「おい、お前ら!雪崩が来たぞ!!?」

 

「な!?マジかよ!!!??」

 

「いいえ、あれは……」

 

「……ん、出たな!」ワクワク

 

「………………」

 

 

 俺が切羽詰まった声音で叫ぶと、カズマ以外の反応が少しおかしなものだった。

 めぐみんは何故かピクリとも動かなくなり、アクアは何か知っている様子で、ダクネスはどこか嬉しそうにそわそわしている。

 厄介事だな。絶対に、厄介事だな。大事な事だから二回言った。

 雪崩に見えていたものはついに近くまで距離を詰め、動きを止めた。すると、宙を舞い、姿を隠させていた粉雪が地に積もり、そいつの姿は現れた。

 日本の歴史博物館か歴史の教科書でしか見ないような鎧。それを白く染め上げたかのように純白になっている鎧をその身に纏う鎧武者。顔は純白の兜によって見ることはできないが、自然と顔がないのではという思考が過った。

 

 

「……カズマ、セツナ。なぜ冬になると、冒険者達がクエストを受けなくなるのか。その理由を教えてあげるわ」

 

 

 アクアが純白の鎧武者から視線を少しでも逸らさないようにしながら、一歩退いた。それに合わせるように鎧武者も一歩前に足を踏み出した。

 緊張からか、ごくりと唾を飲み込む音が聞こえた。これが俺から発せられたものなのか、そうでないのかはわからない。

 

 

「あなた達も日本に住んでいたんだし、昔から、この時季になると天気予報やニュースで名前ぐらいは聞いたでしょう?雪精達の主にして、冬の風物詩とも言われている……」

 

 

 鎧武者は腰に提げたこれまた純白の日本刀をすらりと抜き、

 

 

「そう。冬将軍の到来よ」

 

「バカッ!このクソッタレな世界の連中は、人も食い物もモンスターも、みんな揃って大バカだ!!」

 

「ゴォォォオオオオ!!!!!!」

 

 

 刀身を煌めかせ、 常人が聞いたら卒倒するような雄叫びを上げながら、()()襲いかかってきた。

 

 

 

          ※

 

 

 

 俺は急なことに戸惑いつつも手の甲を両刃の剣身に錬成し、冬将軍の刀を受け止める。

 冬将軍の剣戟は重く、鋭い。多分だが、この前戦ったベルディアよりも数段上の剣の腕だろう。それは無駄など無く、美しい。刀剣や陶磁器などを美しいと思う気持ちはわかるが、よもや異世界に来て剣術を美しいと思うとは思ってもいなかった。

 冬将軍の刀と俺の剣は鍔迫り合いをしているが火花を上げはしない。しかし、金属が削れるような甲高い音がなっている。

 暫くすると、鍔迫り合いは終わり、決着が着いた。

 俺の剣が半ばから折れるという、結果により。

 

 

「なっ─────」

 

 

 そして最後に見たのは、俺の首に添えられるように置かれた冬将軍の刀だった。

 

 

 

          ※

 

 

 

 カズマside

 

 

「なっ─────」

 

 

 それは一瞬の事だった。剣と化した腕を使い冬将軍の刀と鍔迫り合いをしていたセツナは、半ばから折れた剣を見て驚き、首を跳ねられた。

 

 

「セツナァァァァアア!!!!!!」

 

 めぐみんの悲鳴と取れる叫び声が聞こえた。

 だけど身体が動かない。何故か足に力が入らなくなり、尻を打つように後ろに倒れた。

 冬将軍は刀にベットリと付いたセツナの血を見て、少し動きを止めた。あの雪精の主は何を思ってそれを見ているのだろうか。

 動きを止めたのも一瞬で、血を落とすように刀を振るい、鞘に納めた。

 ふと、めぐみんの叫び声が途絶えていることに気がつき、めぐみんを見る。どうやらショックで気を失っているそうだ。

 ダクネスとアクアはどうしているのかと見てみると、ダクネスは両手剣を冬将軍の正眼に構え、アクアはセツナだったものを見ている。二人は強いな。

 冬将軍は今にも襲いかかろうとするダクネスを見るが、興味が無いと言わんばかりに消えるように去っていった。

 冬将軍が去っていき、アクアはセツナの遺体の所へ向かう。そうか、蘇生魔法(リザレクション)で生き返らせるのか。女神だしそのくらいできるよな。

 良かった。本当に、良かった。

 俺はショックで倒れているめぐみんを見ながら、心の底からそう思った。

 

 

 カズマsideout

 

 

 

          ※

 

 

 

 目を開けると、そこは初めてあの駄女神に出会った場所に酷似した所だった。もしかしたら人が死んだら皆こういう所に来るのだろうか。

 辺りを見ていると、銀髪の少女がやって来た。年齢はわからないが、見た感じ俺と同じくらいの見た目だな。

 多分だがこの人、いや、この女神が俺の次の道を示してくれるんだろう。

 そう思っていると、銀髪の少女は言った。

 

 

「霧崎雪那さん……。ようこそ死後の世界へ。私は、あなたに新たな道を案内する女神、エリス。この世界でのあなたの人生は終わったのです」

 

 

 銀髪の少女、エリスは悲しげな表情で俺が死んだことを告げた。

 見ず知らずの俺相手にそこまで悲しそうにするなんて、どこかの駄女神に見習わせたいものだな。

 

 

「そうですか。ではこの後、俺はどうなるのですか?」

 

「えっ、あれ?」

 

 

 俺が冷静に受け答えすると、エリスは驚いたような、戸惑うような様子を見せた。

 

 

「あの、どうとも思っておられないのですか?」

 

「自分が死んでか?」

 

「……そう、です」

 

「思わないわけないだろ」

 

 

 何を聞いているんだ?この女神は。自分が死んで何とも思わないやつなんているわけないだろう。

 

 

「俺はある程度落ち着いているが、これでも悲しんではいるぞ。めぐみんとはもう会えないし、カズマ達とももう冒険したり楽しんだりすることもできないんだし」

 

「では、何故そこまで落ち着いていられるのですか?」

 

 

 本当に何を聞いているんだ?この女神は。

 

 

「俺は()()()だ。いつ死んだっておかしくないし、はたから死ぬ覚悟なんてできている。魔王軍なんている世界だぞ?死ぬ覚悟ができてなくて戦えるかよ」

 

「そういう、こと、ですか」

 

「ああ」

 

 

 エリスと俺の間に沈黙が訪れる。まあ自分が死んでここまで落ち着いているなんて稀なんだろう。だが人間いつしか死ぬもんだ。それが早いか、遅いか。それだけだ。

 

 

「冬将軍は、どうなったんだ?」

 

 

 心残りの一つだ。もしも冬将軍があいつらに手を出したのなら、死んでも死にきれねぇ。

 

 

「冬将軍でしたら、あなたを斬った後、その場を去りました」

 

「そうか。ならもう、思い残すことは無いわけではないが、お前が言う新たな道を案内してくれよ」

 

 

 俺がそう言うと、エリスはまた悲しげな表情を浮かべた。どうしてそこまで感情移入することができるのかねえ。俺にはできそうにないな。

 

 

「霧崎雪那さん。あなたには記憶を無くし転生するか、天国へ行くことができます。転生するのでしたら、せめて私の力で、次は平和な日本で、裕福な家庭に生まれ、何不自由なく暮らせるように。幸せな人生が送れるような場所に転生させてあげましょう」

 

 

 天国へは行きたくないし、転生一択じゃないかこれ。

「転生で」と短く言い、エリスが片手を俺の前にかざし、転生させようとする直前、それは響いた。

 

 

《さあ帰ってきなさいセツナ!こんな所で何をあっさり殺されてんの!死ぬにはまだ早いわよ!》

 

「アクア?」

 

「なっ!?この声は、アクア先輩!?随分先輩に似たプリーストだなと思っていたら、まさか本物!?」

 

 

 なんだ、エリスはアクアの後輩なのか?てか神の間に先輩後輩ってあるんだな。初耳だ。

 

 

《ちょっとセツナ、聞こえる?あんたの身体に『リザレクション』って魔法かけたから、もうこっちに帰って来られるわよ。今、あんたの目の前に女神がいるでしょう?その子にこっちへの門を出してもらいなさい》

 

 

 なるほど、アクアは蘇生までできたんだな。普段はダメダメだけどやっぱり女神なんだな。ぶっ壊れ性能だわ。

 

 

「ちょっ、ちょっと待ってください。申し訳ありませんが、あなたは既に一度生き返っていますから、天界規定によりこれ以上の蘇生はできません!アクア先輩には私の声が届かないので、そう伝えてください」

 

 

 なに、そうなのか?つっても一度生き返ったって、転生だからノーカウントなんじゃねえの?一応アクアに言っとくか。

 

 

「アクアー、どうやら天界規定で二度目の蘇生は無理らしいぞー」

 

 

 俺がそう言うと、一瞬沈黙が降りたと思ったらまた大音量でアクアの声が響いてきた。

 

 

《はあー?誰よそんなバカな事言ってる女神は!ちょっとあんた名乗りなさいよ!仮にも日本担当のエリートな私に、こんな辺境担当の女神がどんな口効いてんのよっ!!》

 

 

 その辺境担当の女神だが、お前の発言でめっちゃ顔引きつらせてるぞ。やめてやれ、可哀想だ。

 

 

「お前の後輩のエリスって女神だぞー」

 

「!?」

 

 

 俺がそう返事すると、エリスが体をびくりと震わせた。

 

 

《エリス!?この世界でちょっと国教として崇拝されてるからって、調子こいてお金の単位にまでなった、上げ底エリス!?ちょっとセツナ、エリスがそれ以上何かゴタゴタ言うのなら、その胸パッド取り上げてやり》

 

「わ、わかりましたっ!特例で!特例で認めますから!今、門を開けますからっ!」

 

 

 おお、エリスがめっちゃ慌ててる。しかも少し泣きそうになってるぞ。ちょっと悪いことしたな。反対に嗜虐心をそそられるものもあるけど。

 にしてもパッドか、妙な膨らみかただと思っていたが、それが原因か。

 っと、どうやら無駄な思考をしていると準備が整ったようだ。

 

 

「さあ、これで現世と繋がりました。……まったく、こんな事普通は無いんですよ?本来なら、魔法で生き返れるのは王様だろうがどんな人だろうが一回まで。……まったく。セツナさん……」

 

「なんだ?」

 

「この事は、内緒ですよ?」

 

 

 エリスはイタズラっ子のような笑みに片目を瞑り、囁いた。そして、現世と繋がるその白い門を押し開け──

 

 

「見た目は十代でも、精神年齢数百歳の女神がそれやっても痛いだけだぞ」

 

「なっ!?」

 

 

 押し開ける直前に率直に自分の意見を述べた。

 

 

 

          ※

 

 

 

 最後に門越しに見るエリスはめちゃくちゃ落ち込んで涙目になっていたな。ああ、面白かった。

 目を開くとまず最初にアクアが視界に入り、目が合った。

 

 

「あ、やっと起きたわね。そろそろ足が痺れそうなんですけどー」

 

 

 随分寝心地が良いと思ったらアクアに膝枕をされているようだ。ふむ。

 

 

「まさに、最悪の寝起きだな」

 

「何ですってぇ!?」

 

 

 体を起こしてから、アクアをからかうと、思いきり掴みかかって来た。それをダクネスが横から掴んで止めた。

 

 

「止めないか。一応病み上がりなんだぞ。セツナ、首の調子はどうだ?痛くはないか?」

 

「ん?……おお、しっかりとくっついてるな。違和感も特に無いし」

 

「そうか、良かった」

 

 

 ダクネスが酷く安心した様子になった。まあ目の前でパーティーメンバーが首跳ねられて死ぬとかグロすぎんだろって話だし、ピンピンしてる所を見れば安心もするだろう。

 

 

「ごめんなセツナ。しっかりと事前に情報集めてればこんな事にはならなかったのに」

 

 

 カズマが酷く落ち込んだ様子で謝ってくる。

 

 

「カズマ、それは過ぎた話だ。俺だって情報収集する時間は合ったが、自分の力を過信して情報収集を怠った。それにもし俺がいなかったら、カズマやめぐみん、ダクネス、アクアが危険に晒されたんだ。寧ろ、俺だけで済んだんだ。お前達に危険が及ばなくて良かったよ」

 

「セツナ………、本当にありがとう」

 

「ああ」

 

 

 どうやら今回のことは結構堪えたようだ。まあ現代の日本じゃ人が目の前で死ぬことなんて早々ないだろう。大体がテレビ越しだ。それがこんな所で知り合いに死なれたらさすがに気が滅入るだろう。

 

 

「めぐみんは、寝ているのか?」

 

「いな、実はセツナが斬られた時に、ショックで気絶してな」

 

「そういうことか」

 

 

 めぐみんには悪いことをしたな。いくら気が強いめぐみんでもまだ十三歳の女の子だ。こんな場面を見せちゃいけなかったな。後でしっかりと謝らないとだな。

 

 

「今日はもう帰ろうってことになったけど、それで良いよな?」

 

「ああ、ちょっと身体がダルいし。さっさと帰って寝たい」

 

「そうだな。失った血液は戻らないって言ってたし、数日は休みにしよう。じゃあアクセルの街に帰るか」

 

「ああ」

 

 

 今日ばかりはダクネスにめぐみんをおぶってもらい、俺はカズマの肩を借りて歩いた。さすがに血を失い過ぎたらしく、数歩歩いたらすぐに倒れてしまった。

 この日はすぐに解散となり、報酬は明日もらいに行くそうだ。

 俺は疲れた身体を既にめぐみんが眠っているベッドに沈ませ、意識を暗闇へと落としていった。

 




 書いてて思ったんだけど、シリアスとは違うよね?


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抱擁

 えぇ、約一年間、お待ちしていた人にはお待たせしました。
 久しぶりに書きたくなったので書くことにしました。
 大変申し訳ないのですが、久しぶりという事で短い話となっておりますが、ご容赦ください。
 また、一年近く空いていたこともあり、文章の書き方や、キャラの口調に変化があるかもしれないので、よろしければご指摘ください。


 雪精討伐の依頼の翌日、俺は()が昇るよりも早く起きた。

 というのも、珍しくめぐみんから俺に抱きついているのを感じ、何事かと思い起きただけだが。

 めぐみんの方を見てみると、どうやら魘されているようで、表情がいつもの生意気な小娘のものではなく、どこか怯えた様子のものになっている。

 恐らくだが、俺が死んだ事が原因だろう。いくら強気でどんな相手にも物怖じしないだろうめぐみんでも、知り合いが目の前で死んでしまうのは応えただろう。

 なんたって、まだ齢13の女の子なのだから。どこか大人びているというか、大人ぶってる女の子。冒険者といえども、まだまだ成人すらしていない女の子。好きなことにどこまでもひたむきな女の子。

 こんな世界じゃなければ、地球の日本ような一応にも平和な世界ならば、あんな危険に晒されることはなかっただろう。

 いや、これはめぐみんに対する侮辱になるな。冒険者になることを選んだのはめぐみんだ。それを俺の価値観で考えるのは侮辱であり、あまりにも傲慢である。

 13歳と言っても冒険者。自ら冒険者になり、名前はあれだが爆裂道を切り拓く立派な女。

 ならばその背を支え、押すことはあっても、引き留めてはならない。一緒にいたいのならその横にいて、支えてやればいい。

 彼女がもし、挫折しそうならば肩でも背中でも貸してやればいい。

 彼女がもし、前へ走り出そうとするならば、思い切り背中を叩いてやればいい。

 彼女がもし、疲れたのなら一緒に休んでやればいい。

 それが仲間ってもんだろう。もし、なんて例えでしか話せない俺だが、こんな上辺だけのことしか言えない俺だが、彼女なら、アイツらなら、こんな俺でも受け入れてくれるだろう。

 

 艶のあるサラサラな黒髪を優しく丁寧に撫でながらこんなクサい事を考える俺は中二病なんかよりも酷い病気だろう。

 いや、こんな事を考えてしまうのは思わず襲ってしまいたくなるほど天使なめぐみんが悪い、いや天使より天使なめぐみんが悪いことなどない。つまり誰も悪くない(病気)。

 めぐみんを見ているとついつい余計な事を考えてしまうほど心に余裕ができてしまう。さすがめぐみん。

 しかも撫で始めてから魘されていた様子が一転し、とても心地の良さそうな表情をしており、俺のことを完全に堕としに来ているのではと思ってしまう。

 抱きつきも強くなり、どことは言わないが色々やわっこい。もしや起きていて誘っているのではなんて馬鹿なことを考えたり考えなかったり。

 すると、さすがに違和感を感じたのか、眠そうな目を擦りながら、俺の下腹部あたりに馬乗りになるように起き上がった。器用だなこいつ。

 眠そうな目はとても虚ろであるが、それでも愛おしく感じる俺は末期なのだろう。

 そんな虚ろな目で一度俺を見て、辺りを見渡し、また俺を見る。

 どうやら寝ぼけていたようだが、だんだんと目が覚めていったのだろう。

 虚ろな目から変じて、光を取り戻したような、そして目尻に涙を浮かべ、口を開いた。

 

 

「……セツ、ナ?」

 

「おう」

 

「ほん、とに、セツナ、なんですか?」

 

「俺以外の、何に見えるってんだ?」

 

「セツナ、なん、ですね……、ほん、とに…」

 

「あぁ、セツナだ」

 

「─────っ」

 

「おっ、と?」

 

 

 いきなり抱きついてきためぐみんに驚く。病み上がりの体に何してくれんだって文句を言おうと思ったが、そんな気はすぐに失せた。

 

 

「おいおい、泣くなよ。冒険者だろ」

 

「泣いて、ません……、泣いてなんか、ないです……」

 

「そうかい。んじゃあ、珍しくめぐみんから抱きついてくれてるわけだし、俺が何しても言い訳できないなぁ」

 

「…………」

 

 

 めぐみんは何も言わないが、ずいと頭だけ突き出してきた。

 

 

「…………へいへい、撫でればいいんでしょう、撫でれば」

 

 

 さっきと同じように、めぐみんの黒髪を上から下へゆっくりと撫でる。まるで宝物を扱う子供のように、優しく。

 めぐみんが鼻をすする音が聞こえる。

 髪と髪の間を縫うように、髪を梳く。まるで抵抗らしい抵抗はなく、ひっかかることがないのはめぐみんの髪の質が良いことが分かる。

 めぐみんの呼吸音が聞こえる。

 抱きついてきているめぐみんの頭を撫でながら、頸に顔を埋める。

 めぐみんの緊張が伝わる。

 片手で撫でながら、もう片方の手で傍から背中に手を回し抱き返す。

 めぐみんの安堵が伝わる。

 鼻で呼吸をすればめぐみんのくすぐったさそうにしているのがわかる。

 めぐみんの温度が伝わる。

 抱きしめれば抱きしめ返され、その抱擁はだんだんと強くなる。まるで、生きていることを確認するかのように。

 こんな空気でも心拍数が上がり、その心臓の鼓動はめぐみんも感じているだろう。

 そして俺とは逆にめぐみんの心拍数はとても穏やかなものだった。とても落ち着いていて、緩やかであった。

 いつのまにか、めぐみんは眠っていたようだ。どうやら余程安心したのだろう。

 それはさっきよりも穏やかで、安らぎを感じている表情だった。




 書いてるうちによくわからなくなってしまいました。


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めぐみん接近

 お久しぶりでございます。しぐでございます。
 まだ、このような小説を読んでくださる方がいらしましたらどうぞお楽しみください。


「あの〜、めぐみんさん」

「なんでしょうか?」

「ちょ〜っと、くっつきすぎじゃないかね」

「いえいえ、全然そんなことないですよ」

 

 最近、めぐみんがめっちゃくっついてくる件について。

 

「いやいやいや、ちょっと前まで膝の上で飯を食うなんてしてなかったよね?」

「そうでしたか? 私はいつも通りなのですが……」

 

「セツナは、いや、でしたか?」

「いえ、滅相もございません」

 

 そんな上目遣いで聞かれたら何でも許しちゃう。めぐみんは可愛いから仕方ないな。

 

 こんなやり取りをして数日が経つ。

 何故、めぐみんが幼稚化とは言わずも、俺に引っ付くようになったかは分かっている。

 先日の冬将軍による俺の死、それがトラウマ若しくは精神的不安の一因になっているからだろう。

 それを無意識で俺の傍にいることにより安らげているのだろう。

 冒険者としての仕事は病み上がりと言うこともあり控えているが、めぐみんのこれがどう影響してくるかは分からない。

 だからと言うわけでもないが、少しでも心のケアをする為、めぐみんと日夜くっついて過ごしているのだ。断じて柔らかいとか良い匂いとか欲望に突き動かされているわけではない、断じて。

 

 そんな、自堕落な療病生活を送る中、ギルドにカズマの声が響く。

 

「大喜びで代わってやるよおおおおおおおおおおおおっ‼︎」

 

 何事かと目をやると、カズマが金髪の酔っ払った(あん)ちゃんに啖呵を切っていた。

 

「代わってやるよって言ったんだ! おいお前、さっきから黙って聞いてりゃ舐めた事ばっか抜かしやがって! ああそうだ、確かに俺は最弱職だ! それは認める。……だがなあ、お前! その後なんつった!」

 

 どう言った経緯で揉めているのかは分からないが、カズマがとてもキレていた。

 多分あの金髪がカズマの地雷でも踏んだんだろうな。一見したら女子が多いパーティーのリーダーだし、女関係だろう。

 

「いい女! ハーレム‼︎ ハーレムってか⁉︎ おいお前、その顔にくっついてるのは目玉じゃなくてビー玉かなんかなのか? どこにいい女がいるんだよ! 俺の濁った目ん玉じゃどこにも見当たらねえよ! お前いいビー玉つけてんな、俺の濁った目玉と取り替えてくれよ!」

 

 やはり女だったか。

 と言うか、『いい女』なんて今まさに俺の膝の上で呑気に寛いでいるめぐみん様がいるじゃないか。まさかめぐみんが『いい女』カテゴリから外されているわけじゃないだろうな。いや、めぐみんは『ロリッ子』か。だとすると俺は『ロリコン』と言う事だろうか? だがしかし俺は『ロリッ子』が好きなわけじゃなくめぐみんが好きなわけで、言うなれば『めぐみんコンプレックス』と言うのが正解ではないだろうか。

 

 閑話休題(めぐみん最高)

 

 俺が馬鹿な事を考えている間に、どうやら話が進んでいたようで、カズマはあの金髪のパーティーに。金髪はカズマを抜いた俺たち四人のパーティーに今日一日だけ移籍することになった。

 因みに、金髪はダストと言う名前らしく、英語でほこり、ちり、ゴミである。

 

 今日の仕事はゴブリンの討伐らしく、何でも冬にこの依頼があるのは運が良いらしい。

 一度死んだ身としては、うまい話には何かあると思ってしまい、ゴブリンについて書かれた資料を漁ってみると、やはりあった。

 ゴブリンは基本十数匹で群れを成し、強力なモンスターが跋扈する冬は洞窟や森の浅いところで隠れている。そして、住処を変えるのは天敵に害された場合である。

 このページには『初心者殺し』という名のモンスターの絵が描いてある。詳細も書いてあるが、体長は三メートル近く、鋭い牙と爪を持つネコ科の猛獣だそうだ。その頭脳は狡猾で、ゴブリンやコボルトと言った比較的弱いモンスターを餌に新人冒険者を狩る。とも書かれている。

 これは先に行ったカズマ達が心配だな。しかし、アクアとダクネスを金髪に任せるのも心配だ。めぐみん? めぐみんは勿論俺が連れて行く。拒否権はないし、めぐみんも俺にくっつきっぱなしだ。

 しょうがないが、ここはカズマを信じるとしよう。初心者殺しは狡猾だそうだが、カズマの姑息さの狡賢さには負けるだろう。

 別に追いかけるのが面倒だとか、めぐみんとゆっくりしていたいとか、そう言ったわけではない。

 

「な、なぁ、あんたはどんな事ができるんだ? 一応今日だけとは言え同じパーティーなんだし教えてくんねぇか?」

 

 めぐみんとイチャコラしていると金髪が聞いてきた。ぱっと見バカップルぶりのひっつき具合の俺たちを見て、なお聞いてくるとは、中々度胸があるじゃないか。俺なら絶対に話しかけないね。

 

「俺は魔法とか錬金術とか。めぐみんは最強の爆裂魔法だ」

「れ、錬金、あんま分かんねぇが、魔法で牽制でもしてくれ。そっちの子は爆裂魔法か? すげぇじゃねえか、その歳で爆裂魔法を使えるなんて」

「ふふん、そんなに褒めても何も出ませんよ。ですが、良いでしょう! 景気付けの一発、見せてあげます!」

 

 お、いつものテンションに戻った。なんだかんだで良い仕事するな金髪。

 ただ、仕事に全く関係ないところで撃っていいのかね。背負うのは俺だからいいけど、戦力半減するぞ?

 

「『エクスプロージョン』ッッッ!」

 

 そんな事を考えていると、すでに詠唱は終わったのか、めぐみんが必殺の一撃を何もない平原にぶっ放した。

 今日の一撃も中々なものだ。爆裂範囲はとても広く、映画館の音響を遥かに超える音の暴力、そして大地を焦がすこの匂い。前よりも一層に強力な一撃になっているな。

 ドサリと、魔力切れになっためぐみんは俺に倒れてきたので優しく支える。どうやら満足な一撃だったのか、とても良い笑顔だ。

 めぐみんを背中に背負い、小さいが柔らかな双丘が触れる感覚に幸せを感じていると、金髪が気を取り直したらしい。

 

「おいおい、すげぇじゃねえか! 爆裂魔法ってのはここまで凄まじいものだったのか⁉︎ って、おい。なんでその子はぐったりしてんだ?」

「ふふ、爆裂魔法は最強魔法故に消費魔力も膨大なもの。ぶっちゃけ魔力を使い切ってもう動けません」

「そして魔力切れになっためぐみんをおんぶするのが俺の役目だ」

「はぁあああああ⁉︎ つまりは何か、今日はもうその子は使いものにならないのか?」

「「そういうことです(だな)」」

「…………」

 

 金髪はどうやらこのパーティーの非常識さの一部に触れて、言葉を失っているようだ。だがこれはカズマの大変さを知ってもらう為にやっているのであって、めぐみんともっと触れ合いたいから止めなかったわけではない。

 

「ん? お、おい、なにかコッチに向かってきているぞ……?」

「なになに? もしかして、めぐみんの爆裂魔法でモンスターが寄って来たんじゃないでしょうね?」

 

 そのまさかだ。

 遠くからだから確定ではないが、十中八九、初心者殺しだろう。この辺りに四足で走るネコ科のモンスターなんていなかったはずだし。

 

「げぇっ⁉︎ ありゃ初心者殺しじゃねぇか‼︎ さっきの爆音聞きつけて来やがった!」

 

 金髪がそう叫ぶ頃が、嘆いている暇もない。

 ダクネスは初心者殺しという強敵に嬉々として向かって行ったのだ。

 最近は討伐系の仕事をできずに溜まっていたものがあるのだろう。初心者殺しと知るやいなや、(かす)りもしない剣を抜き、すっ飛んでいきやがった。

 

「おい⁉︎ あのクルセイダーの嬢ちゃん行っちまったぞ⁉︎ つーかマジで擦りもしねぇじゃねえか! あのままじゃやべぇぞ⁉︎」

 

 確かにヤバイが、ヤバイのはあいつの頭であって、あの頑丈過ぎる体は大丈夫だろう。

 さて、ここは本日このパーティーのリーダーの金髪に任せるべきだろうが、あのヤンキーもどきに初心者殺しを退治できるか?

 いや、できなかったとしても指パッチンでなんとかなるだろうし、今は任せといていいか。

 

「あ、あの、セツナ? ダクネスが恍惚とし表情で初心者殺しに嬲られているのですが、助けなくていいのですか?」

「ん? あぁ、あのドMクルセイダーはあの程度の攻撃じゃやられんだろうし、大丈夫(だいじょぶ)なんじゃね?」

「そ、そうでしょうか……? 鎧もかなり傷ついてきていますし、そろそろ助けた方がいいのでは?」

「そうか〜? んじゃあサクッと終わらせますか」

 

 めぐみんに請われちゃしょうがない。本当(ほんと)サクッと終わらせてさっさと帰ろう。

 ポッケに突っ込んでおいた発火布製の手袋を取り出し指を鳴らす。

 すると、俺の手を中心とし火花が散り、酸素濃度の調節をされた道を通り、初心者殺しを高温の炎で延焼する。

 突然の高熱に初心者殺しはのたうち回ると、俺から逃げるように元来た道へ走り去っていった。

 

「よし、疲れたしもう帰るか」

「そうですね、私も爆裂魔法を放てたのでもう満足です」

「いやいやいや⁉︎ ゴブリン討伐の依頼がまだあんだけど⁉︎」

「そ、そうだぞ? それに私はまだまだやられたりな「そーよ! 私も酒場に借金作っちゃったから報酬が無いのは困るんですけど‼︎」

 

 アクアのやつ、また借金作ったのか。カズマも大変なやつを持ってけるモノに選んだな。借金は払わないが同情するよ。

 

「今日はめぐみんも魔力切れになったことだし帰ろうぜ。借金だってカズマがなんとかしてくれるさ」

「それならいいわ! お外は寒いし早く帰りたかったの!」

「え、おい! 俺の意見は⁉︎」

「却下」

(ひで)ぇぞおい⁉︎」

 

 こうして今日も一日無事に過ごすことができた。たまにはこうやってすぐに帰るのもいいだろう。

 

「く、くぅ、発言は遮られ、挙げ句は無視。良い……! セツナも中々やるな」

 

 やらないやらない、だからもう口を開かないでください。




 次話はなるべく早く投稿しようと思います。


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最強の眼

 速い(確信)


「明日はダンジョンに行きます」

「嫌です」

「行きます」

「めぐみんが嫌なら行きません」

「セツナは黙ってろ」

「はーい」

 

 カズマと金髪のパーティートレードから数日、カズマは新たなスキルを試すためと、あわよくば一攫千金で借金の返済をというところだろう。

 だが、ダンジョンだと爆裂魔法を使えないとめぐみんは嫌がっているのだ。

 基本的にめぐみんに味方したい俺だけど、これに感してはリーダーに賛成してもいい。

 カズマは少なからず、自身の無力さに対し劣等感を感じている。そのため少しでも戦力になれるように、冒険者の特性を活かして使えるスキルを多く覚えようとしている。

 

「カズマ、流石に一人で行かせるのは不安だ。アクアを一応連れて行け。こいつは言わばアンデッド特攻みたいなもんだし、ヒーラーでもある。一人でダンジョンに行って帰ってきませんでしたなんて、洒落になんねぇぜ?」

「それもそうだな。よしアクア、お前もダンジョンについて来い」

「えぇ良いわよ。元々ついて行くつもりだったし」

「そうか。じゃあ夜になったら向かうから、準備したらまた集まってくれ」

「「「「はーい」」」」

 

 

          ※

 

 

 アクセルの街から半日ほどかけて山まで行き、雪が積もり歩きにくくなった獣道を進んでいく。

 しばらく歩くと、異世界語で『避難所』と書かれた看板の掛かったログハウスを見つけた。

 そのログハウスの近くには不格好な整えられた入り口が山に開けられていた。入り口の先は暗くて見えないが、『空間把握』のおかげで付近の造りなら知ることができる。

 

「よし。それじゃあ、ここから先は俺とアクアとセツナで行くから、ダクネスとめぐみんはそこのログハウスで待っててくれよ。一日経っても帰って来ない様なら、街に戻ってギルドに助けを求めてくれ」

「ちょっと待った」

「セツナ? なんだ急に?」

 

 

「なんで俺もついて行くみたいな(はなし)になったんだ?」

「え……?」

 

 何を疑問に思っているのだ、カズマは。

 

「俺がめぐみんの元を一刻(いっこく)たりとも離れるわけが無いだろう。馬鹿だなぁカズマは」

 

 馬鹿だなぁカズマは。

 

「心の声を先に声に出すな! というか、あれ!? ついて来てくれないの!?」

「だからさっきから言ってるだろう。何のためにアクアを推したと思ったんだよ」

「んなっ!? じゃあ俺はアクアと二人で行くのか? 不安しかねぇ」

「なによぉ〜! 女神と二人きりでなにが不安なのよ〜!!?」

「お前のせいで今までどれだけ苦労したと思ってんだ!」

「ーーーーー!!」

「ーーーーーーーー!!!」

 

 アクアとカズマが言い争いをする中、ダンジョンに入らないめぐみんとダクネスはすでにログハウスに入っていた。

 俺もカズマとアクアの見送りをした後、寒さから逃げる様にログハウスに入った。

 ログハウスの中は少し大きなテーブルに椅子が四つ、暖炉が奥にあり、窓は三箇所と簡単な造りだ。

 避難所だからかとても頑丈そうで、ゴブリン程度のモンスターの襲撃が来ても安全だろう。

 

「ふっふっふっ、ここでクルセイダーを前に出してチェックです。さぁ、どうしますかダクネス?」

「くっ、やるなめぐみん」

 

 めぐみんとダクネスは屋敷から持ってきたチェスの様なモノをやっている様だ。以前やったことがあったが、追い詰めたらエクスプロージョンでゲーム盤をひっくり返されてからやっていない。

 因みに恨みは夜に返してやった。

 

 どうにも手持ち無沙汰なので、新たな武器でも作ることにする。

 武器と言ったが、実際に今回作るのは武器になり得るモノだ。

 その名も『最強の眼』。キング・ブラッドレイがホムンクルスとなることで手に入れた力だ。

 キング・ブラッドレイは元々の戦闘力も高いが、『最強の眼』によってそれは人外の域に届き得る。

 能力こそ超人的な反射神経という単純なものだが、戦いは一瞬で方がつくモノだ。実際に、俺は冬将軍に一瞬のうちに斬首され、死んだ。

 今後あんな化け物じみたやつが現れないとも限らない。幸いなことに知識ならある。ならば作らない手はないだろう。

 ぶっちゃけこれで右腕に左足、そして左目が義眼となるのだが、後悔はしない。むしろ、これを躊躇ってせずに、パーティーの誰かを失うことの方が怖い。だから俺は自身の身体を傷つけることになっても強くなる。ならなきゃいけない。

 

 つい、二度目の死を思い出してセンチメンタルになってしまったが、今回の本題は『最強の眼』の作成だ。

 原理は簡単。まず元となる眼球を作る。金属製の物になるが、内部構造は殆ど人間の眼球と変わらない。()()信号が送られる速さをいじっただけだ。それと普段の生活に支障をきたさない様に、微小な魔力によるスイッチを設けた。

 また、この義眼には錬成陣を書き込んでおいた。眼球の神経を通して脳の処理速度の更なる向上をさせ、通常の六十コマ程度で認識するところを二百五十コマで認識できる様にする。

 言葉にしてしまえば簡単だが、脳の仕組みを弄るようなものだから、知識のあやふやな状態の場合、十中八九失敗し、廃人になる。

 そんな一抹の不安を抱くが、俺の貰った真理はチートだ。自身のことなら尚更間違えなどない、筈だ。

 

 義眼が完成した。

 あとはこの義眼を俺の左目と入れ替えるのみ。錬金術を使えばある程度の痛みも抑えられる筈。一は全、全は一。今ある眼球()俺の身体()に取り込み、新たな義眼()俺の身体()に取り付ける。

 大丈夫だ、成功する。

 

 そう確信を持って俺は手を合わせた。




 次もなるべく早くする。(盲信)


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手記

 前回の続きからです。


「……なんとなくこうなる予想はしていましたが、何があったのか聞いてもいいですか?」

 

 カズマ達がダンジョンへ向かってから数時間、何故か泣いているアクアとカズマにめぐみんが問い掛けた。

 

「うっ、うあああああああ! カズマがー! カズマがああああああああ!」

 

 めぐみんはカズマの後ろで泣くアクアの頭を撫で、慰めている。俺もめぐみんに撫でられたい。

 

「人のせいにするなよ、お前がアンデッドに集られる体質なのが悪いんだろうが! 帰り道ですら散々苦労させやがって! お前への最初の高評価を返せ!」

「だってだって、私が神々(こうごう)しくて生命力に溢れてるのは生まれつきなんだから、こればっかりはしょうがないじゃないの! それとも何!? 私に、カズマのヒキニートレベルにまでこの神聖なオーラを下げろって言うの!? そんな事をすれば、世界に散らばる敬虔なアクシズ教徒がどれだけ嘆き悲しむか……!」

 

 どうやらダンジョン探索の始めはアンデッドを上手く捌いていたらしいが、そのアンデッドがアクアの神聖な生命力に引き寄せられていたらしい。なんというマッチポンプ。

 

「こいつちっとも反省していやがらねえ! お前、もう一度ダンジョンに潜って、さっきのリッチーとお嬢様の爪の垢を探してこい! そして、少しはあの二人を見習って、あの純粋さとかを分けてもらえ!」

「ヒキニートが、女神にリッチーを見習えとか言った!」

「……リッチーとお嬢様」

 

 取っ組み合いをしているカズマとアクアにダクネスが呟いた。

 

「アクアの話じゃ、そのお嬢様は未練もなく、綺麗に成仏していたらしいけどな。そのお嬢様にとって、厳しい逃亡生活はどうだったんだろうな。あのリッチーは、お嬢様を幸せにできただろうか、とか言ってたけれど。お嬢様は、幸せだったのかねえ」

「……幸せだったさ。幸せだったに決まっている。断言できる、そのお嬢様は、逃亡生活の間が人生で一番楽しかったに違いない」

 

 カズマが呟いた言葉にダクネスが寂しげにそう返した。

 

「なあセツナ、さっきからなんも話してないけど、どうかしたのか?」

「…………」

 

 訳あって話せずにいる。

 と思ってもカズマ達には伝わらない。さっきから黙っている俺にめぐみんとダクネスも不安に思っているだろう。

 どうにかして伝えたいのだが、人体錬成もどきによる脳への影響で一時的に喋れなくなっている。

 

「……喋れないのか? なら紙とかペンとかで書けばいいんじゃ?」

 

 なるほど、その手があったか。

 俺は内ポケットにしまっておいた手帳と万年筆を取り出し、スラスラと書き記す。

 

『錬成の後遺症で一時的に喋れない』

「ああ、なるほどな。一時的って事なら大事はないんだな?」

『うむ』

「あ、あの! 一体なんて書いてあるのですか? 私達には読めないのですが……」

 

 どうやら癖で日本語で書いてしまったようだ。だが元日本人以外には読めない手記と言うのも乙なものだし、このままでいいか。

 

「錬成の影響で一時的に喋れないんだってさ。だけど大丈夫って言ってる? し、心配はないだろ」

「そうですか、なら良かったです。ログハウスに入ってからずっと黙っていたので、少し、心配したんですからね?」

『すまん』

「すまんだってさ」

「いえ、別に、怒ってませんし……」

「てかなんで態々日本語で書くんだよ。通訳めんどいぞ」

『特定の人しか読めないってカッコよくね?』

「馬鹿だなお前が」

 

 なんとでも言え。

 

「そういや、結局何を錬成したんだ? 後遺症ってことは身体のどっかか?」

『眼』

「短っ。眼ってどうやったんだよ。それ人体錬成とは違うのか?」

『書くの面倒だから今度説明する』

「んだよ、気になんな。喋れるようになったら、しっかり説明してくれよ」

『了解』

「ねえー! 早く帰りたいんですけどー! 私頑張って疲れてるんですけどー!」

「あーもーわかってるよ! それじゃ、撤収ー!」




 早い(確信)
 次も早くする(妄言)
 短くてすいません(謝罪)


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冬将軍

 早い(確信)
 短い(謝罪)


 今日は一日、パーティーの皆んなとは別行動をとっている。カズマとアクアはウィズ魔道具店へ新たなスキルを覚えに行き、ダクネスは美味いクエストが出ないかギルドで見張りをし、めぐみんは朝からどこかへ行っていた。

 因みに俺は以前パーティーで請けた雪精討伐の依頼を一人で請け、アクセルの街から離れた山と平原の中間らへんに来ていた。

 

 雪精討伐を再度するのは早く春になってほしいからじゃあない。つい一、二週間前に俺を殺した冬将軍へのリベンジだ。

 他のパーティーメンバーには説明せずに来たので、帰ったら怒られるだろうが、冬将軍を倒すことが出来たなら賞金二億エリスは貰えるはず。

 それで一人で向かったことはチャラにしてもらおう。

 アクアというヒーラーがいない中での戦いは危険だ。前の様に死んでしまったら蘇生なんてできる筈もなく、その場では死なずとも出血死や呪いなどで死んでしまうかもしれない。

 アクアを連れて来なかったことは後悔しているが、回復手段が無いわけでもない。自前で錬成したポーションもどきがある。このポーションは傷口にかけるとその体細胞を活性化させ、修復を促す効能がある。

 だが疲れた体力が元に戻るわけではないからスタミナ切れには要注意だ。

 

 以前雪が降る大地に踏み入れてから一時間。

 俺はホコリを払う様に雪精の大群を一掃していた。焔の錬金術師の力は凄まじく、生み出した焔は雪精を溶かし、降り積もった雪を溶かし、地面を焦がす。

 両手につけた手袋は各々違う方面の雪精を撃退し、俺を中心とした爆心地の様な紋様が刻まれていた。

 

 雪精を五十体以上は討伐した頃、ついにやってきた。

 

「冬将軍の到来、か」

 

 白一色の鎧兜。博物館で見かけるようなその姿は、やはり美しく見え、圧倒的な存在感を誇る。

 俺のことを覚えているのかいないのか分からないが、その姿からは憤怒という感情がありありと伝わってくる。

 今までこれほど雪精を減らされることがなかったのだろう。だからか、思わず殺気が首を刺すような幻視をするほどの激情を冬将軍はいだいている。

 俺の首を斬り落とした刀を抜刀すると、その刀からは冷気が溢れ、大気中の温度が少し下がったかのように感じる。

 すかさず、腰につけた剣を抜刀し左眼に移植した『最強の眼』を起動させる。

 魔力をスイッチとして扱い、脳へと信号がいき、一時的に脳内麻薬を分泌させ、一種の覚醒状態へ促す。

 俺の微小な魔力を感じたのか、準備が終わるのを待っていたのか、冬将軍は()()()()()()()()()で斬りかかってくる。

 普段の四分の一倍の速度の世界では、とても遅く、圧倒された時とは明らかに違った。

 眼が良くなろうが、身体がついていくわけではない。俺は奇妙な世界を感じながら、振り下ろされる刀に合わせるように剣を振る。

 刀と剣がぶつかり合い、鍔迫り合いになる。前に死んだのはこの後剣が耐え切れずにおれてしまったから。

 

 だが今回は折れない。

 この剣は俺の機械鎧(オートメイル)と同じ金属製であり、錬成と鍛造を繰り返して作った逸品だ。地下奥深くまで魔力を伸ばし、探る必要があったため、必要量を集めるのに何日もかけ、後はぶっ通しで錬成と鍛冶屋で教わったなんちゃって鍛造でより硬く、より鋭く仕上げた。

 製造期間は冬将軍に殺された次の日から昨日まで。

 勝つことへの一心によって作られたこの剣は、折れない。

 

 鍔迫り合いが終わり、冬将軍が一歩引く。

 恐らく今までに一撃を本当に耐えた奴はいなかったのだろう。それを不思議か疑問に感じている、ってところか。

 だがそんな考える間もあけず、次は俺から斬りかかる。

 ステータスの筋力では負けているだろうが、予め補助魔法のパワードを掛けておいたから、押し負けることはない。

 

 何度も叩きつけるように刀と剣で斬り合い、超摩擦により火花が散る。

 剣術のスキルを持っている俺と日本人の馬鹿な考えで作られた冬将軍とでは、剣の扱いで巧拙が出るが、冬将軍はその差をフィジカルで埋めている。

 だがこの斬り合いにも終わりはある。

 

 ピシッという音が鳴る。

 冬将軍の刀にヒビが入り、次の斬り合いで刃こぼれし、次の斬り合いでついに、砕けた。

 

 冬将軍は折れた刀を一見し、手放した。すると徐にその場で正座をした。恐らく俺に首を差し出そうとしているのだろう。

 冬将軍は日本人の勝手なイメージで作られた偶像の様な存在だ。そしてその姿は将軍を模している。

 ならここで介錯してやるのが(日本人)としての責務だろう。

 その場に威風堂々の姿で正座するこの将軍は、今何を思っているのだろう。悔やみか怒りか、それとも解放される幸福感か。

 

「冬将軍」

「………」

 

 呼びかけようが、反応はしない。こいつは自分が冬将軍ということすらも知らないだろう。

 

「来世で、もう一度」

「………」

 

 俺は首に向けて剣を振り下ろした。




 次話(早い)(盲信)


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めぐみんと相部屋

 早い(確信)
 短い(謝罪)
 二話構成()


「ここですよ、新しい我が拠点は」

「へえ、かなり大きな屋敷だな」

 

 冬将軍との戦いの後、アクセルの街に帰ってきた俺は街門で待っていためぐみんに案内され、パーティーメンバー全員で住むという屋敷に来ていた。

 

「ホントに無料(タダ)なのか? なんか騙されてんじゃねえの?」

「なんでも、祓っても祓っても悪霊(あくりょう)が消えないらしく、それを祓う依頼も兼ねて、屋敷を貸してくれるそうです」

「悪霊、ね。まあアクアがなんとかしてくれるだろ。疲れたからさっさと寝たいわ」

「今日は何をしてたんですか?」

「……あー、また今度話すわ」

 

 冬将軍とバトってたなんて言ったら卒倒しそうだし、落ち着いてるとき話せばいいだろ。

 

「……そうですか」

「ああ、ところでもう部屋の割り振りとかは終わってんのか?」

「終わってますよ、ただ……」

「ただ?」

 

 終わっちまったかあ、めぐみんの部屋の隣とかにしたかったけど、さすがに警戒されてたかなあ。

 冬将軍とのリベンジマッチ、また今度にしとけばよかったなあ。

 

「寝室として使える部屋が四つしかなくて、一緒に寝ていた私とあなたが相部屋になり、ました……」

 

「まさかの幸運来たああああ!!!!」

 

「お、襲って来ないでくださいよ!? 同じ屋敷でカズマ達も住んでいるのですから!!!」

「おー、ワカッテルワカッテルー」

「ふ、不安だ!」

 

 なんという幸運。ありがとう幸運の女神エリス様。こんな幸福を授けてくれるなんて。「俺、エリス教に入団するよ」

 

「やめてください! こんな切っ掛けでそんな決心しないでください!」

「あ、声に出てた?」

「思いっきり出てましたよ!」

 

 これはうっかり。

 だけども、まさかパーティーメンバー全員が住む屋敷で相部屋って、もうパーティー公認みたいなところあるよな。いやないか? いやある(確信)。

 だがしかし、ここで間違いでも起こしたら間違いなく屋敷から追い出されるだろう。

 昨日までの宿屋暮らしだったら、宿屋の女将や周りの部屋の奴に白い目で見られる程度だったが、屋敷でやったらその程度じゃ済まない。

 うっかり追い出されたらめぐみんとの合法的な相部屋生活がなくなってしまう。

 どうやら俺は試されているようだ。パーティーに、めぐみんに、男の俺がどれほどのモノか試されているようだ!(迷走)

 ならば、めぐみんとの二人きりを待つだけだ。その気になれば二人きりになるなんて簡単なこと。残念だったなめぐみん!

 

「ふふふふふ」

「ど、どうしたのですか? そんな薄気味悪い笑みを浮かべて」

「薄気味悪い言うな。なんでもないさ、パーティーメンバーとホームシェアが楽しみなだけさ」

「そう、ですね。私も、こんなこと初めてなので、とても楽しみです!」

 

 おお、守りたい、この笑顔。

 しょうがない、お楽しみは当分お預けだ。

 

 

          ※

 

 

 夕飯も食い終わり、みんなが寝静まった夜中。

 となりにいるやつがモゾモゾと動きだし、ベッドから出るのに気がつき目を配る。

 そこには、ベッドが一つしかなく残念(笑)ながら同衾することになっためぐみんがモジモジしながらこっちを見ていた。

 

「起こしてしまいましたね。すいません」

「いんや、別にいいよ。‥…トイレか?」

「……いいですか、女の子にトイレとか聞いちゃいけませんよ」

「わ、わかりました」

 

 どうやらめぐみんにも恥じらいというものがあったようだ。

 疲れも溜まっているし、寝るか。

 

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「行かないのか?」

 

 何故かめぐみんはトイレに行かず、こちらを見つめている。

 

「いえ」

 

 まさか、まさかあのめぐみんが、夜のトイレを怖がっているのか。

 

「怖いのか?」

「……まさかそんな」

「だよな」

「…………」

「…………おい」

「なんでしょうか」

「……ついて行こうか?」

「なんと言いましたか?」

 

 こいつ、まさか俺からついてきてほしいと言うまで、動かない気では。

 

「…………」

「…………」

「…………」

「……なあ、トイレに行きたいんだが、ついて来てくれる、か?」

「いいでしょう! そこまで言うならついて行ってあげましょう!」

 

 こいつう! 下手に出れば調子に乗りやがって。二人きりになったときに覚えてやがれ。

 しかし、めぐみんにも怖いものがあるんだな。夜のトイレが怖いなんて可愛いもんじゃないか。

 

「全く、トイレについて来てほしいなんて、子供ですねセツナは」

「あ、ああ、すまんな。わざわざこんな」

「いえいえ、別に良いですよ。私も少ししたくなったので、ついでです」

 

 押し倒してやろうか!?

 

 お、落ち着け俺。一時の直情的な怒りでヤってみろ? 俺の社会的地位は一気にカズマを下回り、地の底を突き破る勢いだろう。

 冷静になれ、ナニしようとしたときに母親に部屋に入って来られたのを思い出せ!

 

 

 

 ふぅ、萎えた。危うく一歩踏み込んで全力疾走するところだった。

 ここまで俺を動揺させるとは、さすがめぐみん。さすめぐだな。

 

「なあああああああああああああああああああああああ!!」

 

「!? な、何か今、聞こえませんでしたか?」

「…‥聞こえたな」

「少しは濁してください! 若しくは聞こえなかったことにしてください!」

「いや、確かに聞こえたし」

「くっ……」

 

 怖がるめぐみんとても可愛い。

 じゃなくて、さっきの声はカズマだな。もしや本当に悪霊が出たと言うのか? なら試してみたいことがあるんだが。

 

「よし、行くぞ」

「ト、トイレ! に行くんじゃなかったんですか!?」

「ならトイレに行ってから行くぞ」

「結局行くんですか!?」

「ああ、どうしても試してみたいことがあってな」




 次話も早くする(盲信)


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白銀の刀

 短くてすいません。


「なあ、まだなのか?」

「もう少し、っていうか乙女にトイレまだかなんて聞かないでください。デリカシーなさすぎますよ」

「へいへい」

 

 悪霊を見に行きたいと言うと、先にトイレに行ってからと言われたので、トイレへと寄っていた。

 

「あの……」

「なんだ」

「……いえ、いるか確認しただけです」

「そうか」

「勝手にどっか行ったら許しませんからね」

「行かねえよ」

 

 怖くて逃げるとしたら、めぐみんを抱えてだ。

 

「……ちょっと恥ずかしいので、大きめの声で歌でも歌ってくれません?」

「あいにく、真夜中のトイレの扉の前で歌う趣味なんてないんで。それにこれよりも恥ずかしいことなんてこれまでもあったし、これからもあるぞ?」

「普段と変わらないトーンで言わないでください。それと、これからはあるなんて思わないでください」

「同じベッドに同衾しているんだからな、枕を高くして眠れると思うなよ?」

「対象を相手にした刺客みたいなこと言わないでください! させませんからね、アークウィザードの筋力舐めないでください」

「そっちこそ国家錬金術師の筋力舐めるなよ。それに日々の筋トレのお陰で俺の筋力はダクネスに匹敵しつつあるんだぞ」

「それは、……ヤバイですね」

 

 この異世界に来てからとだが、俺は毎夜なにもなくても仕事の後でも筋トレを欠かさないようにしている。

 この世界は弱肉強食。モンスターだけでなく、野盗やチンピラなんかも突っかかってくる。

 ステータスがレベルアップにより高くなろうが、見てくれは変わらない。ならば、少しでも筋肉をつけて、無駄な戦いは避けれるようにする。

 

「お待たせしました。さあ部屋へ戻りましょう」

「‥…待て」

「どうしました? セツナも用は済ませたでしょう」

「悪霊を見にいくぞ」

「いやです! なんで自分からそんな所へ行かなきゃならないんですか!」

「さっき言っただろう。試したいことがあると」

「こ、怖くないんですか!? 悪霊ですよ! あの、フラーってして、ブワーってしてる、悪霊ですよ!」

 

 怯えて語彙力皆無のめぐみん可愛い。

 

「なにを伝えたいのかわからんぞめぐみん」

「なんでわからないのですか! ほら、さっさと部屋へ戻りま、す……よ」

「どうしたんだ?」

 

 めぐみんが目を見開いて震えながら指をさす。

 

「…………」

「…………」

 

 そこにはこちらを覗き見る数十体の人形が。

 

「…………」

「……まじか」

「逃げますよ!」

「いや、逃げん」

「えっ、ちょっと……!」

 

 俺はめぐみんを脇に抱えると、持ってきておいた刀を抜く。

 

「その剣はなんでしょうか? どこか見に覚えがあるのですが」

「気のせいだろ」

 

 めぐみんには悪いが、気のせいではない。

 この刀、銘は無いが、ぱっと見一級品だ。色は白銀、刃からは冷気を漏らしていて、恐らく生物や無機物以外にも、魔法すらも切ることが出来るだろう。

 薄々わかるだろうが、原材料は冬将軍の持っていた刀だ。折れていたため、地中から抽出した純度百度の銀を混ぜ合わせ、特殊合金の刀に仕上げた。

 魔を祓うと言われる銀に、精霊という不思議な存在からできた刀、もしかしたら新たな切り札になるかもしれない。

 

「セツナ! 向かうのはいいんですが、私を下ろしてもらえないでしょうか!? 人ひとり抱えて戦うのは難しいでしょう!?」

「余裕のよっちゃん。つうか、この刀見せてからずっと霊達に逃げられてるんだが、どうしよう」

「恐らく、その尋常じゃ無いほど濃い魔力が溢れているからではありませんか? ほら、今も溢れているではないですか」

 

 めぐみんが言うには、この刀は魔力が込められすぎている。そしてそれが溢れている。対して強い悪霊でもないから逃げる、ということだ。

 

「それじゃあ実験にならないんだよなあ」

「いいじゃないですか。それにその刀なら悪霊も斬れると思いますよ。なんですかその悪魔でも封印したかのような魔力の多さは」

「はは、まあ明日にでも説明するさ」

「そうですか」

 

 妙に勘の鋭いコイツやカズマ達には長く隠し続けることはできないだろう。明日折を見て説明して、怒られそうになったら逃げるとしよう。

 

「では部屋へ戻りましょう。まだ夜も冷えることですし」

「そうだな」



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