リリカル世界に魔王さま進出 (エビノカラアゲんまいはー)
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1話
From:《時の庭園》
「言ったでしょう…?私はあなたが大嫌いだって……」
何もない虚無が、そこに広がっていた。
《虚数空間》
全てを飲み込み、無力化する闇に彼女は眠る愛娘と共に身を投げ出す。
「母さんっ!」
次元の狭間に存在する《時の庭園》でロストロギア《ジュエルシード》を暴走させたプレシア・テスタロッサは、もう一人の娘の声を背に目を閉じた。
その口元に、微かな笑みを浮かべて……
____また、とんでもないところに出くわしたな
不意に、透き通るような声が聞こえる。
既に病と度重なる戦闘で限界だったプレシアは、その声の出所を確認する事も出来ずに意識を手放した。
〜〜〜〜〜
「母さんっ!母さんっ……!!」
少女と少年に抑えられているフェイト・テスタロッサは、その身を乗り出すようにして自らの生みの親に叫び続けていた。
たとえ、生まれてから今まで虐げられていても……
たとえ、優しかった大切な思い出が自分のものではなかったとしても……
フェイトは、母が消えるのが嫌だった。
涙を流し、声をあげて手を伸ばすが母との距離はあまりにも遠い。
全身から力が抜けた。
もう、どうしようもないとわかってしまったからだ。
「あまり時間はない!急いで脱出するぞ!」
時の庭園の崩壊が進んで行くのに対して少年____クロノ・ハラオウンの焦った声が響く。
フェイトは少女____高町なのはに手を引かれ、時の庭園を後にした。
〜〜〜〜〜
From:《時の庭園》の近く。虚数空間
「また、とんでもないところに出くわしたな」
俺こと『リムル・テンペスト』は《
やって来た、のだが……
「これ、いわゆる次元の狭間って奴か?こんなところに放り出されるなんて初めてかもな」
俺の《胃袋》の中とほぼ同じ性質の虚数空間。
今まで色んな物を取り込んできたが、俺自身中に入るのは初めてだ。
周囲を見渡すと遠くに浮遊している建造物が見つかったが、明らかに現在進行形で崩壊している。
そして俺の近くには、なぜか眠っている女性とその娘らしき女の子の死体が漂っていた。
(ほんと、どういう状況だ?これ)
正直色々と意味不明だったが、この親子を放っておくのも目覚めが悪い。
俺はひとまず、この親子を連れて崩壊中の建造物に近づくのだった。
〜〜〜〜〜
建造物が崩壊している原因だが、周辺の空間を維持している力場が正常に作動していない事と、膨大なエネルギーの暴走という事が判明した。
ひとまずパパッと暴走しているエネルギーを俺の《胃袋》に収納し、空間維持の力場を俺自身が生成する事で対処する。
親子に対しては一旦家屋っぽい所の寝室らしき所に寝かせ、俺特製のフルポーションをかけてから死体の少女に蘇生魔法を行なった。
死にそうだった女性と死んでいた女の子は、今ではスヤスヤと夢の中だ。
俺の解析結果でも、二人とも問題ない状態になっていることがわかっている。
一息ついた俺は、この建造物に興味が出て来たので散策することにした。
特に、この空間を維持している技術が興味深い。
解析でおおよその力場の中心地点を把握したので、そちらへ向かう。
「まぁ、当然のように壊れてるよな」
建造物内部の奥深く、力場の中心地であるそこは見事に荒れていた。
力場を形成していたであろう機関部は未だに内部から小規模の爆発を起こし、完全に崩壊する寸前といった所だ。
「エネルギーを力場の形成ではなく別の事に使おうとしたんだな。無理な形でエネルギーを引っ張り出そうとしたから暴走してる、と」
このまま放置して壊れても、俺自身で力場を生成しているから今は問題はないが……
もちろん俺がこの場を離れれば、この建造物は機能を停止して力場を失い完全に崩壊するだろう。
少しだけ見たこの建造物は、某天空の城を彷彿とさせる美しいものだった。
あの映画のように、壊れていく姿を眺めるのも一興かもしれないが……正直無くなるのは惜しい。
この機関も直す事にした。
(そんじゃ頼むぜ、相棒!)
<御心のままに、
俺のスキルであり、自我を持つ相棒でもあるシエルが応える。
機関の構造、原理などは俺にはわからなかったがシエルさんは把握済みらしい。
呆気ないほどに、サクッと修理は完了したのであった。
〜〜〜〜〜
建造物の崩壊を止めた俺は、好奇心の赴くままに内部を探索しつつ修理していた。
解析すると、随所に未知の技術が使われている事が判明したりして面白いのだ。
機械の動作には電気だけでなく、この世界特有の魔法などが使われているらしい。
しかも、魔法は機械で制御されていた。
魔法を発動する際、演算を機械に任せてアプリケーションの要領で発動しているようだ。
「なるほどねぇ…ドアの開閉とかにも魔法が使われてる所を見ると、この世界でも魔法は一般的に普及してるんだろうな」
少し見るだけでも、この建造物が非常に高度な魔法技術で動作していることがわかる。
気になったので更に色々調査する事にした。
建造物内部の研究室らしき所を見つけ、データベースをハッキングする。(シエルさんがやってくれた)
どうやら此処では死者蘇生について研究してたようだ。
もしかしたら、さっきの死体の女の子を蘇生させようとしていたのかもしれない。
ちょっと軽率にやらかしたかとも思ったが、過ぎた事だ。
生き返らせた命をまた奪うのは嫌だし、親子はあのまま放置する事にする。
それより気になるのはもっと一般的な魔法の技術体系だ。
「ふむ…基本的には《デバイス》ってのを用いて魔法を発動してるのか。
魔力さえあれば使えるからこその普及率、と」
しかも、この建造物で動いている大半のものは使用者がいなくても動かせるようになっていた。
魔法については魔力炉というものでエネルギーを生成して動作させているらしい。
なかなか面白い。
ウチの国でも魔道具の類は結構開発に成功しているが、ここまで汎用的で高度なものではない。
ウチの開発陣がもっと高度なものを作成できるようになったら、俺の世界とこの世界で異文化交流してみるのも面白いかもな。
さらに色々と情報を追ってみる。
すると、驚いたことにこの世界は複数の次元世界で構成されている事が判明した。
どうやら《ミッドチルダ》という世界を中心にして、多くの次元世界が交流を行なっているらしい。
無論全ての世界ではなく、交流のある世界は《管理世界》、交流のされていない世界は《管理外世界》と区分されていた。
区分の仕方としては、ある程度魔法技術が発達し、かつ管理局の庇護下に入る事を承認した世界が《管理世界》になるみたいだな。
そんで、それ以外が《管理外世界》と。
ざっくりとした区分だが、そんな感じで捉えていいだろう。
「ふむ……このミッドチルダってとこにも行ってみたいな」
データを見る限り、相当発展してそうだ。
他の連中(主に友人の竜とか妖精とか)を連れて行くのは不安なので、あくまで一人でお忍びという事になりそうだけれども。
そうと決まれば、この建造物(データベースで調べたら《時の庭園》と言うらしい)から別の次元世界に出発だ!
俺は(シエルさんの力で)データベースの情報を全てまるっとコピーして、この場を後にした。
〜〜〜〜〜
時の庭園に備え付けられている次元転送装置はまだ生きていた。
早速装置を起動させ、行き先をミッドチルダに指定しようとしたが……
「ありゃ、ここからだと遠すぎるのか」
転送先の項目にミッドチルダの名前はあったが、距離が遠いので行けないとの事だった。
次元転送というのだから、いろんな意味での距離とか無視してくれても良いと思うが……
仕方がないので、転送履歴を遡って近くの次元世界を検索する。
「最近だと《第97管理外世界》って所に頻繁に行ってるな。でも、管理外世界かぁ……」
正直がっかりである。
魔法に支えられる異文化を見たいのに、魔法技術のない所に行って意味があるのだろうか。
「そういえば、時の庭園って次元航行ができるんだったか」
データベースにそのような事が書かれていた。
であれば、目的地をミッドチルダにしてみても良いかもしれない。
さっき助けた親子が時の庭園の主みたいだし、ちょっと相談してみよう。
〜〜〜〜〜
幸せな夢を見ていた気がする。
ふと、目が覚めた。
「ここは……」
あたりを見回すと、白を基調とした部屋の内装が見える。
開かれた窓からは、そよ風が入り込みカーテンを揺らしていた。
ここは一体どこなのだろうか。
見覚えがある気もするが、寝起きの頭ではよくわからない。
視線を下に落とす。
そこには____
「っ……アリシアッ!」
最愛の娘が、自分と同じようにベッドに寝かされていた。
私の声が大きかった為か、彼女は身じろぎをする。
「ぅ、ぅう〜ん……ママ……」
「っ!」
息を飲んだ。
今、確かに私を呼んだ……!
自分は、まだ夢の続きを見ているのだろうか?
触れたら壊れてしまうんじゃないかと、恐ろしくて、
けれど、確認せずにはいられなくて、
恐る恐る、アリシアに手を伸ばす。
指先が、アリシアの頰にそっと触れる。
「ぁ____」
その指には、確かな体温と、呼吸の動きが感じられた。
「ぁ……あぁ……っ……アリ、シア……っ!」
我慢できなくて、寝ているアリシアを抱きしめる。
情動の赴くままに力強く、けれど、壊れてしまわないようにそっと優しく。
「んぅ……ママ……?」
アリシアが私を呼ぶ。
抱きしめる腕に力が入る。
この声が、嘘ではないのだと証明してくれる事を願って。
「ママ、泣いてるの……?」
アリシアが怪訝そうな声をあげるが、喉からは嗚咽しか出てこない。
自らの頰に伝わる涙は、止められそうになかった。
〜〜〜〜〜
「よっ。二人とも起きたみたいだな。調子はどうだ?」
助けた親子が起きたようなので、様子見に顔を出す。
親の方の顔には涙の跡が見えるが、顔色を見る限り親子共に大丈夫そうだ。
「アナタは、一体……」
親の方が反応した。
疑問ももっともだし、ここは自己紹介するとしよう。
「俺はリムル =テンペストと言う。よろしくな!…んで、お前達はなんて言うんだ?」
データベースをハッキングしたのでなんとなく予想はついてるが、一応名前を聞いておく。
すると、親の方がおずおずといった様子で反応した。
「……私は、プレシア・テスタロッサ。こちらは、私の娘のアリシアよ」
プレシアはアリシアを大切そうに抱き抱えている。
アリシアの方も嬉しそうにプレシアの腕に顔を埋めながら、こちらを上目遣いで見てきた。
「あ、アリシア・テスタロッサです……その、よろしく?」
疑問形で返されたがまあいいだろう。
俺が頷き返すと、アリシアは真っ赤になってプレシアの腕に顔を埋める。
名乗られた名前は予想通りのものだった。
時の庭園の主であるプレシアと、プレシアが蘇生をさせようとしていた娘のアリシア。
どちらもデータベースで見た名前だ。
もう一人、アリシアのクローン体もいた筈なんだが……
少なくとも、ここにはいないようだな。
その事は一旦置いておいて、本題に入るとしよう。
「さて、薄々感づいているとは思うけど、君達を保護したのは俺だ。そこで、ちょっと相談があるんだけど、いいかな?」
プレシアが身体を強張らせる。
自らの腕にアリシアを隠すようにして、彼女は口を開く。
「その前に、確認したい事があるのだけれど……いいかしら?」
俺が頷くと、プレシアは意を決したようにこちらの目を見た。
「その……アリシアを生き返らせたのは……アナタなの……?」
「ああ。ついでに言うと、プレシアの身体を治したのもな」
「っ……そう……なのね」
プレシアはそこで目を瞑り、幾許かの時間をかけてゆっくりと目を開いた。
「わかりました。アリシアを生き返らせてくれて……本当にありがとうございます。私に出来る事ならなんでもするので、アリシアだけは……」
そう言って、彼女はアリシアを強く抱き締める。
アリシアの方は若干困惑気味だが、静かにしていた。
大事な話をしていると肌で感じ取ったのだろう。
「そんなに怯えなくても大丈夫だよ。俺からそちらに要求したい事は2つ。この《時の庭園》をミッドチルダに向かわせる許可が欲しいってのが一つ。もう一つは、君たちには俺の国へ来てもらいたいんだ」
プレシアは俺の意図が掴めず困惑しているようだ。
ごもっともなので、もう少し説明する。
「まずは俺自身がミッドチルダに行ってみたいから《時の庭園》を貸して欲しいのが一つ目の理由。二つ目の理由については……多分だけど、プレシア達はミッドチルダに行ったら困るんだろ?だったらウチに来てみないか?まだまだ発展途上だけど、きっと気にいると思うぜ。ま、タダ飯食わせる余裕とかはあんまりないから働いてもらうことにはなるだろうけどな」
小さい子供がいる手前詳細はぼかしたが、データを見た感じ犯罪まがいの事をしてたようだしな。
プレシアがこのままミッドチルダに行ってもおそらく捕まるだろう。
優秀な研究者だったみたいだし、それならばウチの研究者として迎え入れた方がお互いに利益はあると思っての提案である。
プレシアは俺の言葉を聞いて少し逡巡していたが、どうするか決めたようだ。
「……わかりました。あなたの国にお世話になりたいと思います。時の庭園はあなたの好きなようにしてください」
彼女はしっかりとこちらを見つめて言い切る。
不安もあるだろうに、それを見せない力強さが彼女の目には宿っていた。
俺は鷹揚に頷く。
「わかった……安心しろ。後悔はさせないからさ。それじゃ、早速行くか」
「…え?」
ゆっくりと彼女達に近づき、《
そして、そっと親子に触れると魔法陣の輝きが強まった。
「きれー……」
「っ…これは、一体っ?」
「《
さらに一層光が強まり、室内が光で塗りつぶされる。
しばらくして____
光が収まったその部屋には、誰もいなかった。
〜〜〜〜〜
その後。
《
最愛の娘と共にやってきた彼女は、発達していない文明に戸惑いながらも精一杯生きていく事にしたようだ。
彼女はその画期的な魔法技術を駆使し、これから多大な功績を上げる事になるが、それはもう少し未来の話である。
余談だが、愛娘を微笑んで見つめている彼女の表情は、なぜかいつも若干の陰りがあるらしい。
まるで、何かを悔いているかのように。
Web版の後半では《胃袋》という表記は使われず、《虚数空間》となっていますが、
今作ではリリなの世界の《虚数空間》との区別が面倒なので《胃袋》で統一しています。
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2話
From:《時の庭園》
「再び時の庭園に到着〜っと」
《
「さてさて……ミッドチルダへいざ行かん!」
テンションが高いままに、鼻歌なんぞを口遊みながら俺は時の庭園のコントロール室で行き先を操作する。
「ミッドチルダ、ミッドチルダっと。あった。ここだな」
ポチッとな____などと言いながら行き先を変更する。
あとは自動操縦だ。
楽なものである
高度な文明ってやっぱ良いよな……
文明をもっと発達させる決意をした瞬間である。
「さて、と。到着までまだまだ時間かかるみたいだし、《時の庭園》の修理でもしますかね」
無論、行き先であるミッドチルダについての勉強もしながら。
〜〜〜〜〜
しばらくして。
ミッドチルダ付近に着いたというアナウンスが《時の庭園》に流れた。
正規の手順だと、この後は次元航空艦用の港に泊めて入国(入界?)するらしいのだが、残念ながら《時の庭園》は非正規の艦だ。
パスポートとか、身分を証明するモノも無い。
仕方がないので、不正入国(入界?)する事にした。
その場から飛び立ち、時の庭園を保護している力場の外に出る。
「なんか久しぶりだけど……喰らい尽くせ!ってな」
言葉と同時に《時の庭園》そのものを全部胃袋に収納した。
あとは、ミッドチルダに転移するだけだ。
「座標データはあるから大丈夫だとして……入国管理のセキュリティとかあるだろうけど、突破可能か?」
<問題ありません。実行可能です>
「OK。よし、行こうか」
シエルさんが言うのであれば間違いはないだろう。
俺は演算をシエルさんに丸投げして、その場から転移した。
〜〜〜〜〜
From:ミッドチルダ西部、エルセア
とうとうやって来ました!ミッドチルダ!
ここはミッドチルダの西部、エルセアという場所らしい。
パッと見は近未来の郊外って感じ。
車には普通に車輪があって飛んでたりはしないし、モノレールらしきものがそこら中を走っている。
都市設計をある程度徹底してるのか美しい街並みだ。
歩道を歩く人々は多様な人種が見かけられ、白人や黒人、黄色人種といった地球にいるような人種以外にも、耳が長かったり獣耳が生えている人とかもいる。
さすがに明らかに魔物らしい人影は見かけないので、異種族間交流は基本的に亜人までなのだろう。
ふーん、ほーう、とか言いながら街を歩いていると、奇異な視線を感じた。
周囲を見渡すと、珍しいものを見るような目で人々が俺を見ている。
中には、クスッと笑ってる人もいるようだ。
(あっ、これじゃ俺、完全に田舎者まるだしじゃないかっ)
急に恥ずかしくなってきたので、顔を伏せつつ人目をかいくぐるように移動する。
ちょうど人の少ない細い路地を見つけたので素早くそこに入った。
(あー、恥ずかしかった……)
一息ついた俺はこのまま細い路地を進むことにする。
なんか事件の起きそうな怪しい路地だと最初は思ったんだけど、意外と綺麗だった。
治安はそれなりに良いんだろう。
表通りでも、現代日本の東京と遜色ないくらいには人々は無防備だったしな。
良いことだなと、うんうん頷きながら歩いてたら悲鳴が聞こえた。
割と怯えたような声だったので、ただ事ではなさそうだ。
(治安が良いって思った矢先にこれか!)
悲鳴の発生源は、俺が歩いている路地を少し先に行った場所っぽい。
とりあえず、現場を見に行く事にした。
そこでは____
「お兄ちゃんっ!」
「大丈夫だティアナ。……俺は管理局のティーダ・ランスター二等空尉だ!お前らを窃盗及び器物破損、暴行未遂の現行犯で逮捕する!」
「管理局かっ!?とはいえ一人じゃ何もできないだろうが!お前ら、あいつを袋叩きにするぞ!」
「へっ、公務執行妨害罪も追加だな!」
顔をバンダナとかで隠した、10人ほどのガラの悪い連中に囲まれている少年と、その妹らしき幼女がいた。
その近くでは建物の窓が割れており、宝飾品がいくつか地面に落ちている。
どうやらテンプレ的な宝石強盗らしい。
周辺にいた人たちは悲鳴をあげて逃げている。
強盗達は笑いながら少年達にじりじりと近づく。
このままでは酷い暴力沙汰になってしまうだろう。
だが____
「おせぇ!」
「がっ!?」
「ぐあっ!?」
意外な事に、少年はその体捌きのみで瞬く間に強盗の2人を無力化した。
あの年齢で見事と言う他ない。
少年はそのまま何かを呟き、一瞬で服装を変更した。
拳銃のような物も2挺握っている。
おそらく、あれが戦闘時の格好なのだろう。
解析してみると、拳銃のような物はデバイスという魔法を補助する機械らしい。
《時の庭園》のデータベースとも照合したから間違ってはいない筈だ。
その拳銃のようなデバイスから魔力でできた弾を打ち出し、次々と強盗を無力化していく少年。
強盗側もデバイスを持って魔法で応戦するが、軍配は少年の方に上がっている。
無力化された強盗が無傷なのを見ると、《非殺傷設定》で戦ってるみたいだな。
ちなみに《非殺傷設定》とは、純粋な魔力によるダメージで物理ダメージのない攻撃の事を指す。
《時の庭園》でコレを見た時は、俺の世界でも使えないかと思ったものだが……
この世界や、俺の前世の世界などはいわゆる物質界……
それに対し俺の世界は半物質世界なので、
つまり何が言いたいのかと言うと、魔力ダメージは
そう美味い話は無いのである。
さて。
話は戻って少年の方だが、強盗の完全無力化まで残り僅かといったところだ。
このまま眺めていても大丈夫かなとか思ったんだが……残念ながらそうはいかないらしい。
杖を持った強盗の一人が、少年の妹に狙いをつけたからだ。
少年はそれに気づいていない。
強盗の方は《殺傷設定》にしているみたいだし、下手したら少年の妹は死んでしまうだろう。
「おらぁ!」
幼女に狙いを定めた強盗がニヤリと笑いながら魔力弾を撃つ。
流石にそれを放置するのは後味が悪いので、俺も手を出す事にした。
強盗と幼女の間に割り込む。
魔力弾をパクリと《胃袋》に取り込んだ。
「何!?」
「っ!?ティアナ!」
魔力弾を撃ってきた強盗が驚いたが、少年も幼女に攻撃された事に気付いたのだろう。
動きが硬直し、視線がこちらに向かってしまっている。
強盗達はその隙を逃さなかった。
幼女に向けて攻撃しなかった他の強盗が少年に向けて攻撃しようとしているのが見える。
「お兄ちゃんっ!」
「っ!」
幼女が叫び、少年が再び強盗に向き直ろうとするも間に合わない。
そんな少年の横を複数の光が疾る。
ドドドンッ!という音と共に、光は残りの強盗を打ちのめしたのであった。
光の正体はもちろん、俺の攻撃である。
この世界の《非殺傷設定》を解析したので、同じく純粋な魔力ダメージによる攻撃を試してみたのだ。
結果は成功。
強盗達を無傷の状態で倒すことができた。
「無事に終了っと。少年。その勇敢さと強さは認めるが、近くに守る相手がいる場合はもうちょい慎重になった方が良いぞ」
そう言って俺は横に立つ幼女の頭をぽんぽんと撫でる。
幼女と少年はハッとしたような顔になって、お互いに駆け寄り抱きついた。
「お兄ちゃん!お兄ちゃん!うっ、うぅ……」
「ティアナ!無事か?どこにも怪我はないか?」
「ぐす……うん、だいじょうぶ。あのお姉ちゃんが守ってくれたから」
そう言って幼女は俺を指差す。
幼女よ、俺は男であってお姉ちゃんではないぞ。
とも思ったけど、兄妹の感動の抱擁に水を差す気はないので心の内で言うだけに留めた。
少年は自らに抱きついて離れない幼女を抱き上げて、こちらにやってくる。
「妹を助けて頂いて、本当にありがとうございます。俺はティーダ・ランスターと言います。こっちは妹のティアナ。何かお礼ができればと思うのですが……」
そう言って少年はチラリと倒れた強盗達を見る。
「気にしなくていいよ。それよりも、アイツラを拘束する方が先だろ?妹さんは見守っといてあげるから、行っておいで」
「何から何まですみません、恩に着ます!ほら、ティアナ。俺はやることがあるから、このお姉ちゃんと一緒にいてくれ」
「うぅ〜、やだっ!」
必死にティーダにしがみつくティアナ。
さっきの事がよっぽど怖かったんだろう。
このままだと強盗が起きてしまうかもしれないので、俺もティーダに加勢する。
「ティアナちゃん。このままだとお兄ちゃんがちゃんとお仕事できないよ?そうなると、あそこの怖い人たちが起きて、また怖い事になっちゃうかもしれないからさ。俺と一緒に待ってようぜ?」
「うぅ〜……」
俺の言った事を理解してくれたのか、ティーダを掴む手が少し緩んだ。
聡い子なのかもしれない。
俺は畳み掛ける。
「お兄ちゃんの言う事をちゃんと聞いたら、ご褒美にコレあげるからさ。ちょっとだけ辛抱しよう?」
「う……?」
俺は大人の親指サイズの綺麗な丸い物体をティアナちゃんに見せる。
その正体は、いつもより強めに保護した《回復薬の魔素包み》。
我が国ではスライム形態の俺に似ているとの事で、結構人気がある。
ティアナに渡すこれは、特別仕様という事でスライムの俺と近しい形になるようにした。
触りごちはツルツルぷにぷにで、通常の《回復薬の魔素包み》と違って簡単には破けない。
護身用かつ子供のオモチャにもなって一石二鳥なのだ。
名付けて《スライムもどき(回復薬入り)》。
試しにティアナに触らせてみると、その見た目と触り心地を気に入ってくれた様子。
素直にティーダから離れて、俺のところに来てくれた。
「よし、いい子だな。待ってる間はそれで遊んでるといい」
「すみません、ありがとうございます。えーと……」
「リムル・テンペストだ。ほら、行ってきな」
「ありがとうございます、リムルさん!ティアナも、すぐに戻ってくるからちゃんといい子にしてるんだぞ?」
「うんっ!わかった!」
ティーダは慌ただしくも強盗達のところに戻っていき、その一人一人を拘束し始めた。
どこかと連絡もしているようで、おそらくは管理局の仲間を呼んでいるのだろう。
あの年なのにもう随分と手馴れている。
ティアナはそんなティーダを尊敬の眼差しで見つつ、俺の渡したスライムもどきで遊んでいた。
〜〜〜〜〜
暫くして。
管理局の局員らしき人たちに強盗が連行されるのを見届けた俺は、ティーダ達と向かい合っていた。
「今日は助かりました。強盗の捕縛協力に加えてティアナのお守りまで……本当に、ありがとうございます。リムルさん」
そう言ってティーダが頭を下げる。
「気にしなくていいさ。困ってたらお互い様ってね。ティアナもスライムもどきを気に入ってくれたみたいで良かったよ」
「うんっ!ありがとーリムルお姉ちゃん!」
「お姉ちゃんじゃなくて、お兄ちゃんなんだけどな?」
とか言ってみたが、ティアナに俺の言葉は届かなかった。
軽くスルーされてスライムもどきを触るのに夢中になってしまう。
「あはは……すみません。それで、なんですが」
苦笑していたティーダが真面目な顔になった。
「改めまして、リムルさん。今回は本当にありがとうございました。管理局として、あなたのその功績を讃え、感謝状と金一封をお渡しできると思うのですが……」
どうしますか?と言外のその目が語っていた。
この世界で無一文の俺にとって正直、金一封はありがたいが……
「やめておくよ。勧誘とかされても困るだけだし、その功績はティーダ君が貰っといてくれ」
そうなのだ。
《時の庭園》のデータベースにアクセスした時に知った事だが、管理局は常に人手が足りていないらしい。
その状況で強盗を捕縛した一般人なんて出て来たら、勧誘の嵐がやってくるのは想像に難くない。
なので、ここは断ることにした。
まぁ、受けると不正入国したことがバレる可能性が高いので、そういった意味でも受け取れなかったりはするのだが。
ティーダは若干残念そうにしたが、仕方がない。
「そうですか……いえ、これはあまり深入りする話でもありませんね。それでしたら、この後ティアナと一緒に昼食を食べる予定だったんですが、リムルさんも如何ですか?」
良い店知ってますよ、と続けたティーダに対して俺は「是非」と応えた。
ミッドチルダの食べ物にも興味あったし、奢ってもらえるんだったら是非はない。
そうして俺たちは、ちょっと遅めの昼食を取るのだった。
〜〜〜〜〜
その後、公園でティアナと一緒に遊んだりした俺は、別れ際にティーダにも《スライムもどき》をあげることにした。
「これは……?」
「ティアナにあげたのと一緒の奴だけど、まあ御守りだ。持っておくと、何か助けてくれるかもしれないぜ?」
「はぁ……」
半信半疑になりつつも、ポケットに《スライムもどき》をしまうティーダ。
そんなティーダとは対照的に、ティアナの方はご機嫌だ。
「えへへ、お兄ちゃんもティアナとおそろいだね!」
「そっか……ああ、そうだな。ティアナとお揃いだ」
ティアナの喜ぶ姿を見て、ティーダもその顔を綻ばせた。
その姿に満足した俺は、身を翻した。
「それじゃ、ティーダ、ティアナ。またなー」
「はい、リムルさん。また機会があれば!」
「リムルお姉ちゃん、またねっ」
バイバーイ、と声をあげるティアナに手を振りながら、俺はその場を後にした。
エルセアはベッドタウンってイメージ。
非殺傷設定でもリムル様の世界では殺傷設定と変わらないって話はオリジナル設定です。
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3話
From:ミッドチルダ西部、エルセア
ランスター兄妹と別れた俺は、夕暮れの街を歩いていた。
辺りでは帰りを急ぐ子供達や、犬の散歩をしている人、スーツを着て忙しそうに歩いている人など、多くの人たちを見かけた。
本当に、地球と変わらない。
穏やかな風景がそこにはあった。
俺は郷愁を感じつつも、それを楽しむようにゆっくりと歩いていく。
すると……小さな子供の、泣き声が聞こえた。
「ひっぐ、ぐすっ……ギン姉、おかあさん、どこ……?」
どうやら迷子のようだ。
道の片隅で、しゃがみこんで泣いている。
その子を見ていると、俺も小さな子供だった頃を思い出す。
(俺も、昔迷子になって泣いた事があったっけ)
なんとなく懐かしくなって、その子供に近づく。
「どうしたんだ?お母さんとはぐれちゃったのか?」
俺もしゃがんで子供に目線を合わせ、殊更優しく声をかける。
子供は声をかけられたことに驚いたのか、目を丸くしてこちらを見た。
「ぐすっ……うん……おねえちゃん、だれ?」
「お姉ちゃんじゃなくてお兄ちゃんなんだけどな?俺は、リムル。リムル・テンペストって言うんだ。君はなんて名前なんだ?」
「スバルは……スバル・ナカジマ」
「スバルちゃんか。よしよし、よく言えたな。それじゃ、おかあさんが見つかるまで、お兄ちゃんと一緒にいようか?」
「うん……」
苦笑しつつ、頭を撫でながら提案するとスバルは頷いてくれた。
だが、ただ待ってるだけというのもスバルを不安にさせてしまうかもしれないので、ちょっとしたものを見せる事にした。
「ほら」
「わぁ……すごいすごい!」
何をやっているのか一言でいうと、あやとりだ。
ブランコ、ちょうちょ、東京タワー……などなど。
色々な物を、色をつけた鋼糸で再現して見せた。
それに対してスバルは目を輝かせている。
スバルの反応に気を良くした俺は、シエルさんの力も借りてよりダイナミックに、全身を使って色々表現する。
そうやって夢中になっていると……
パチパチパチ!
気がつくと、周囲にはギャラリーができていた。
中には、足であやとりするため脱いだブーツにおひねりを投げている人もいるくらいだ。
なんとなく気恥ずかしくなった俺は、ササッと糸を仕舞い、その場で優雅に片足で一礼した。
最後に割れんばかりの拍手と歓声が上がり、その場はお開きとなったのだが……
「もう、やらないの……?」
「あっ、えーと、だな」
しまった。
またスバルが泣きそうになってしまう。
ギャラリーを集めてしまうのを覚悟で再度やるしかないか?と思ったところ____救世主が現れた。
「スバル!」
「あっ!おかあさん!ギン姉!」
人垣を分けて、親子が現れた。
スバルの反応を見る限り、あれがスバルの母親と姉なのだろう。
母親はスバルを抱きしめて、無事だった事に安堵している。
姉の方も、そんな二人と同様に安心した表情だ。
「もう、心配したんだから……大丈夫?寂しくなかった?」
「だいじょうぶだよ、おかあさん。あのおねえちゃんがいろいろすっごいの見せてくれたの!」
そう言って俺を指差すスバル。
母親は、俺に気がついて礼を述べる。
「すみません、この子が世話になったみたいで……でも、本当にありがとうございます」
「気にしないでください。俺も旅の者なんで予定は無かったし……困った時はお互い様ですから」
このやりとり、さっきもやったな。
今日はつくづく子供に縁のある日みたいだ。
「それでも、助かりました。私はクイント・ナカジマ。こっちが長女のギンガ。そしてこの子が次女のスバルです」
「俺はリムル・テンペストと言います。スバルはいい子でしたよ」
クスッと微笑んで自己紹介を済ませる。
すると、クイントさんは何を思ったのか、是非お礼をと言ってきた。
「もしよかったらなんですけど…今夜特に予定がないのでしたら、お礼に夕食なんて如何ですか?」
その提案は魅力的だ。
今日の宿すらも決めていないので、俺はありがたくその提案を受ける事にしたのであった。
「ありがとうございます。そう言う事でしたら、是非ご相伴にあずかりたいと思います」
〜〜〜〜〜
From:ミッドチルダ、ナカジマ家
ナカジマ家に行く道すがら、スバルに見せてたあやとりをギンガとクイントにも見せつつ、俺はナカジマ家にお邪魔させて貰った。
夕飯ができるまで少し時間がかかるとの事だったので、それまではギンガ、スバルと遊んで過ごした。
あやとりしたり、パフォーマンス目的で魔法をいくつか見せたり。
そうこうしていると、夕飯ができたようだ。
「ごはんできたよー」
「「はーい!」」
姉妹が真っ先に駆けて行く。
そんな姉妹の様子に苦笑しつつ、俺もゆっくりと後を追って行くのであった。
〜〜〜〜〜
ナカジマ家の食卓は、なんというか凄かった。
内容自体は普通の日本の夕食って感じなんだが……
量がとてつもなく多い。
一人一人に配膳されたご飯と味噌汁だけでも、大人5人前くらいはあるんじゃないだろうか。
おかずの唐揚げや煮物、サラダなんかも山のように盛り付けられている。
これをスバルとギンガみたいな小さな子が食べきれるのか心配になったものだが……
その心配は杞憂であった。
元気よく「いただきます!」と言った後は、2人ともかなりのペースで箸を進め、あっという間に平らげてしまった。
「「ごちそうさまでした!」」
大人顔負けの健啖家である。
思わず拍手をしてしまった。
「おー。小さいのに2人ともよく食べるなぁ。あ、クイントさん。ごちそうさまでした。とても美味しかったです」
「はい、お粗末様です。でも、リムルさんも流石ですね。私達もそれなりに食べる量が多いという自覚があったんですが、それについて来れるとは思いませんでした」
「あはは……まぁ、普段から体を動かしてますからね」
本当のところは俺がスライムだからなんだけど、それをそのまま言うのは憚れたので言葉を濁す。
それにしても、クイントさんも相当だ。
スバル達よりも多い量を食べてるのにケロッとしている。
まあ、俺もクイントさんと同量を食べてたりするのだが。
「そういえば、リムルさんって普段は何をされているんですか?」
食後のまったりした時間。
食べたばかりにも関わらず、スバルとギンガはまたきゃいきゃいと遊んでいる。
俺がさっき見せたあやとりを真似しようとしているようだ。
そんなのほほんとした時間に、ちょっとした世間話といった様子でクイントさんが質問してきた。
さすがに「魔王やってます」とは素直に言えないので、言葉を濁す事にする。
「普段は自分の世界でデスクワークとかをしてますね。一応、公務員なもんで」
あっ、そう言えば、こっちでも「公務員」って通じるのかな?
「あら、そうなんですか?私達と一緒ですね」
微笑みながら答えるクイントさん。
どうやら「公務員」でも通じるようだ。
それにしても、少し気になる点があったな。
「私”達”?」
「ああ、すみません。私と夫は二人とも管理局の局員をやっているんですよ」
ちなみに管理局とは____
正式名称《時空管理局》と言い、大雑把に言うと「次元世界をまとめて管理する、警察と裁判所が一緒になったところ」らしい。
他にも各世界の文化管理とか、災害救助とかもしたり、その業務内容は多岐に渡るようだ。
昼頃に会ったティーダも管理局の局員だそうで、今日は何かと管理局との出会いが多い気がする。
「ま、現場での仕事が多いんですけどね」
言ってウィンクするクイントさん。
とても二人の子供を抱えてるとは思えないくらい若々しい。
<
まじか。
よくよくシエルさんの話を聞くと、過去に管理局が摘発した事件の中には、違法な《戦闘機人》を取り締まったものもあるらしい。
《戦闘機人》の作成自体、非人道的との観点から違法として取り締まっているのだそうだ。
確かに、スバルとギンガを解析してみると普通の人間とは違う身体構造をしている。
<推測ですが、過去に管理局が摘発した《戦闘機人》関連の事件で保護したのがスバルとギンガなのだと思われます。遺伝子情報がクイントと同じというのも関係しているかと>
なるほど……
チラリとスバル達を見る。
今は元気でやっているが、過去はとても大変だったんだな。
それを頑張って育てているナカジマ夫妻。
色々とドラマを感じて、ちょっとじーんとしちゃったぞ。
「大変そうですね……」
「あはは……でも、やりがいはありますよ?男女関係なしに活躍できますし」
言外に、「入局してみませんか?」と言われているようで若干気まずい。
話を逸らすために、俺はある案を思いついたので実行する。
「そうなんですか……ところで、折角ご馳走になった事ですし、ささやかながらお礼をさせてください」
「そんな……気にしないで大丈夫ですよ?」
「まあまあ、そんなに大したものじゃないんで」
俺はそう言いながら、懐から出したように見せて《胃袋》からとある物を取り出す。
取り出したのは、イヤリングだ。
なんの変哲も無い金属を加工し、綺麗に輝くようにカットしたガラスを嵌めただけのモノ。
そのガラスの中には、回復薬が仕込んである。
俺はそのイヤリングをクイントさんに手渡した。
「まあ!こんな高価そうなもの、良いんですか?」
「ええ。ウチの国の特産品なんですが、割と安価で手に入りますし。それに、はめ込んでるのはタダのガラスなんですよ。見た目がいいのでウチの国では老若男女問わずに買ってもらえる人気商品です。御守りにもなるんですよ?」
事実である。
回復薬仕込みのこの商品は、比較的安価で手に入る緊急護身用の一品だ。
装備している者が危機に陥った時に自動で割れ、回復してくれるというスグレモノである。
イヤリングという形なので、入れられる回復薬の量は微々たるものだが……
まぁ、あくまで緊急用なので問題は無い。
かさ張らず、見た目も良いので、多くの冒険者に愛用される一品なのだ。
「そうなんですか……フフッ。では、ありがたく頂きますね」
「そうしていただけると、こちらとしても嬉しいです」
「あー!おかあさん!何それー!」
「いいな、いいなー。スバルもほしい!」
ありゃ。
クイントさんに受け取ってはもらえたは良いが、子供達に見つかってしまった。
でもなぁ……子供にイヤリングって、ちょっと早い気がするしなぁ。
「うーん、そうだな。ギンガとスバルにイヤリングはちょっと早いから、こっちのペンダントで我慢してくれないか?」
「わぁ……」
「きれー……」
取り出したのは、ちょっと子供向けにデザインされたペンダント。
これも、イヤリングと同様にガラスで出来た品だ。
丁寧にガラスをカットしているので、これも綺麗に輝いている。
子供達も取り出したペンダントに視線が釘付けだ。
クイントさんが「良いんですか?」と視線で問うが、問題ないと頷く。
「ま、お近づきの印ってね。御守り替わりに持っておくといいかもよ?」
「うん!ありがとー!」
「ありがとー!リム姉!」
「スバル。俺はお姉ちゃんじゃなくてお兄ちゃん。な?」
「わかった!リム姉!」
「……」
スバルは完全に俺をお姉ちゃんだと認識しているようだ……
仲良くなって、呼び方が「おねえちゃん」から「リム姉」になったのは進歩したと言って良いのか悪いのか。
俺はがっくし肩を落としつつも苦笑する。
子供達は喜んでくれたみたいだし、とりあえずはこれで良しとするかな。
さて、と。
「それじゃ、そろそろお暇しますね」
「えー、もう行っちゃうの?」
「もっとあそぼうよー」
「うーん、ほら。あんまり遅くなってもクイントさんと旦那さんに迷惑だからさ」
実際、今日の宿すら決まってないのだ。
眠る必要はないが、深夜に徘徊してお巡りさんの厄介になるのも頂けない。
さっき貰ったおひねりで、なんとか泊まれる所を探さないと……
「そういう事でしたら大丈夫ですよ。リムルさんさえ良ければ、是非泊まって行ってください」
「……良いんですか?まだ会ったばかりの相手ですよ?」
「フフッ、リムルさんの人となりは何となくわかりましたからね。それに、私と夫は管理局の局員ですよ?何かあったら、しっかりとっちめるので安心してください」
「おー怖……そうならないように気をつけます」
お互いにクスッと笑いながらの応酬。
こういうのも悪くはない。
それに、宿を探す必要がなくなるのは助かるしな。
「それじゃ、今晩はお世話になります」
「はい、お世話します」
「「やったーー!」」
〜〜〜〜〜
それからは、姉妹と遊んだり、一緒にお風呂に入ったり。
「リム姉って、やっぱりおねえちゃんだよね。おとーさんと違うもん」
「あ、いや、違……もう良いか、それで……」
その時に少し見られて(ドコとは言わないが)、晴れて「おねえちゃん」認定されてしまったり……
風呂を上がった後は子供達に歯磨きさせて、子守唄を歌って寝かしつけた。
「ねーんねーんこーろりーよ____♪」
もちろん、シエルさんによる自動モードである。
小さい頃に聴いた子守唄なんて流石に覚えてないしな。
2人を寝かしつけた後、そーっと部屋を出る。
「あの子達の世話をしてくれて助かったわ。ありがとう。それにしても綺麗な歌ね……でも、なんだろう?懐かしい感じがするわ……」
「そりゃあ、ウチの先祖の故郷の歌だからな。大方、俺のお袋からでも聴いたんだろうさ」
子供部屋を出た所で、クイントさんと旦那さんが待っていた。
どうやら、旦那さんはちょっと前に帰ってたらしい。
「どうも、はじめまして。リムル ・テンペストと言います。今晩は厄介になりますね」
「ああ、はじめまして。俺はゲンヤ・ナカジマと言う。アンタがウチの娘を大道芸やってまであやしてくれたってのは話に聞いてる。改めて、俺からも礼を言わせてくれ。ありがとう」
深々と頭を下げるゲンヤさんに、俺は慌てて手を振る。
「そんな、気にしないで下さい。俺もこうして泊まらせてもらってる身ですしね」
「ああ。アンタみたいな別嬪さんならむしろ願ってもがっ!?」
おお……
クイントさんの見事なエルボーがゲンヤさんに突き刺さってるよ……
ゲンヤさん悶絶して何も言えなくなってるし。
そして当のクイントさんと言うと、何事も無かったかのように微笑んでこちらに向き直る。
どことなく迫力があって、ちょっと怖いと思ったのは秘密だ。
「ここで立ち話もなんですし、リビングの方に行きましょうか」
「あっはい」
〜〜〜〜〜
「おーイテテ……しっかし、アンタ地球出身だったんだなぁ。さっきの子守唄、すごかったぜ」
俺まで寝る所だったわ、とか言いつつ豪快に笑うゲンヤさんは、一本気のある日本男児って感じで好感の持てる相手だった。
ウチの国だったら、クロベエに近い感じかもな。
「ええ。俺も、故郷に近しい人に会えるとは思っていませんでした」
「不思議な偶然もあったものねぇ……あ、リムルさん。もう一杯、如何ですか?」
「あ、それでしたら有難く。いや、泊めてもらうばかりじゃなく、お酒まで頂けるなんて、ほんと恐縮です」
「そんな気にしなくて良いのよ?むしろ付き合わせちゃって申し訳ないくらいなんだから」
典型的な日本人っぽいやりとりをしつつ、俺の持つグラスに酒を注いでくれるクイントさん。
なんか、こういうやりとりも久しぶりで、ひどく懐かしい。
これも、郷愁の念ってヤツなのかもしれないな。
「しっかし、地球からとなると結構遠かったろう?アンタ、どうやってミッドチルダまで来たんだ?」
ぎくっ
内心で冷やっとしたが、ここは冷静にお茶を濁すとしよう。
「実は、個人的な伝手がありまして……俺自身も魔力があるって事で、
大嘘である。
しかし、ナカジマ夫妻は俺の嘘を信じてくれたみたいだ。
「そういえば、さっきもギンガ達に綺麗な魔法見せてくれたものね。デバイスもないのに大したものだわ」
「それほどでも……まぁ、ああいう小手先の技なんかは得意ですしね」
「いや、それでも大したもんだ。俺は魔導師になれなかったからな。羨ましい限りだぜ」
ふむ。
そういや、管理局も魔導師のみで構成されてる訳じゃないんだっけ。
現場で指揮をするのは魔導師でなくても良いし、デスクワークの類で必要なのは戦闘力よりも優秀な頭脳だしな。
そういった事を鑑みると、魔導師=地位が高いって事にはならないのだろう。
「てーことは、あれかい。リムルさんはミッドチルダで魔導師になりに来たのかい?」
「うーん、知己には勧められてるんですけどね。でも、国の公務を放り出す訳にはいかないんで、今回はあくまで見学って所です」
「そうかい。そりゃ、残念だな。だが……もし
「あはは……機会があればよろしくお願いしますね」
ちなみに補足すると、今の俺は魔力を持ってる関係で魔導師の知り合いがいて、その魔導師に勧誘がてらミッドチルダを見て欲しいと言われてやってきた、という設定だ。
「そういう事でしたら、明日ウチの訓練を見せましょうか?ふふふ…地上のエースと謳われるゼスト隊、その真髄をお見せしましょう!」
その提案自体は、この世界での戦力や魔法を解析できるので魅力的だ。
だが……怪しげに笑ってるクイントさんを見ると、どうにも不吉な予感しかしない。
「あー……その、すみませんが、街を見学に来ただけなのでそこまでは……」
「遠慮しなくていいのよ?それで、何か良い所を感じてくれたら嬉しいし!」
その後に「有望株GETのチャンス!」と小声で呟いたのを俺は聞き逃さなかった。
このままだとまずい気がするが、今のクイントさんを宥める有効な手段はありそうにない。
半ば諦めた心地で、俺は訓練の見学を承諾するのであった。
かなり強引ですがナカジマ家とも繋がりを持たせました。
クイントさんは初対面なので丁寧な口調で喋ってます。
次回、リムル様勧誘されるの巻。
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4話
From:ミッドチルダ、管理局地上本部
翌日。
そんな訳でやって来ました、管理局!
ぶっちゃけ、不正入国した事がバレないかドキドキしている俺。
そんな俺の内心を知る筈もなく、クイントさんは意気揚々と前を進んでいる。
一緒に来ているギンガとスバルも、そんなクイントさんに感化されたのかウキウキ気分だ。
ちなみにゲンヤさんはクイントさんと違う部署らしく、ここに来る途中で別れた。
今は先頭にクイントさん、その後ろが俺と、俺の手を掴んでギンガとスバルが歩いている。
「はい、着きました!ここが私の職場の訓練場です!リムルさんとギンガとスバルは、あそこの端の椅子で座って待っててくださいね」
「「「はーい」」」
通された訓練場は、一言で言うと東京ドームみたいな場所だった。
広いグラウンドがあって、東京ドームと比べて圧倒的に数は少ないが端の方に観覧席のような場所がある。
そして、何よりも目を見張るのは随所に設置された装置だ。
最初はなんか大きなカメラがあるな程度にしか思ってなかったが、実際の所は違った。
解析して判明した事だが、なんと《空間シミュレーター》と言う地形変更が可能な装置なのだ。
ラミリスの
正直驚きである。
この技術は是非ウチに欲しい思った。
特に、闘技場でこの装置を使えれば、より舞台を盛り上がらせる事ができるだろうしな。
そうして子供達と揃って物珍しそうに周囲を見渡していると、程なくしてクイントさんと大柄な男の人がやって来た。
「みんなお待たせー。隊長、紹介します。こちらが今回の見学者のリムルさんです。リムルさんにも紹介するね。こちらの人が、ゼスト・グランガイツ隊長よ」
「はじめまして。リムル・テンペストと言います。今日はよろしくお願いしますね」
「ゼスト・グランガイツだ。入局希望の優秀な魔道士と聞いている。楽しみにさせてもらおう」
「えっ」
「ゼストおじちゃん!」
「おじちゃんひさしぶりー」
子供達に遮られたが、聞き逃せない単語が聞こえた。
入局希望って、クイントさん一体何を吹き込んだんだ!?
思わずクイントさんを見るが、さっと目をそらされる。
確信犯か!
「ゴホン!……えーと、入局希望ではないん「それじゃ、そろそろ訓練を開始するよ!」えぇ……」
弁解しようとするも、クイントさんに妨害されてしまう。
クイントさんとゼストさんは、そのままさっさと訓練場の中央付近に行き、既に集まっていた部下達に号令をかけた。
「それでは、訓練を開始する!」
〜〜〜〜〜
訓練の内容は、さすが地上のエースという他無かった。
基礎体力の向上から始まり、いくつかのチームに分かれて射撃、近接、補助などの専門的な技術の向上。
それから火事や洪水などの特殊なケースに備えての、空間シミュレータを使った訓練。
どれも相当なハイレベルで隊員の全員がこなしていた。
そして_____
「よし……全員集合!これから模擬戦を行う!」
来た。
やっぱりあるよな、模擬戦。
《非殺傷設定》なんて便利なモノがあるのだ。
これを訓練に有効活用しない手はない。
その後、ゼストさんが簡単にチーム分けを行い、空間シミュレータで市街地を再現してから、各チームが激突した。
互いに鎬を削る白熱した戦い。
ゼストさんがバランスよく配分した為か、どのチームも良い勝負を繰り広げている。
俺と子供達はそれに見入りながら、どこかのチームを応援したり、どっちが勝つかを予想したりした。
「____終了だ!全員集合!」
そして、全ての模擬戦が終わった後____俺と子供達は自然と拍手していた。
クイントさんがそんな俺たちに気がついて、顔を綻ばせる。
訓練で汚れていたが、とても綺麗な笑顔だった。
「俺たちの訓練は、どうだった?」
いつのまにか、ゼストさんがこっちに来て感想を求めて来た。
「すごかった!」
「おかあさんかっこいい!」
子供達は無邪気に答える。
俺も、素直に賞賛するとしよう。
「えぇ、本当に素晴らしい訓練でした。全員コンディションが高いのに加え、まとめてやってるように見えて各々のギリギリを見極めて訓練メニューを適切に変更しているようですし……この訓練メニューはゼストさんが?」
「まぁ、俺だけではないがな。細かい所は副隊長達に見てもらっている」
「そうなんですね。いや、素晴らしい」
「お前も、参加してみるか?」
「えっ」
「いいですね!リムルさんもやってみようよ!」
「えぇー……」
クイントさんもグイグイ来るなぁ……
唐突にぶっこまれた感が半端ないんですけど。
しかも、なんか断れる雰囲気じゃないし……
はぁ……仕方ない。
「まぁ、ちょっとだけなら」
そう、言ってしまった事を、少しだけ未来の俺は激しく後悔する事になった。
〜〜〜〜〜
いや。
いやいやいや。
これ、おかしくね?
なんで……なんで俺が……
地上のエースと1on1なんてやる事になってるんだよ!
そりゃ、他の隊員さん達が訓練終了直後で動けないのはわかるんだけどさぁ……
「リム姉、がんばれー!」
「がんばれー!」
「リムルさん、期待してるよー!」
いや、クイントさん。
期待されても困るよ?
あー、しっかし、どうしようかなぁ……
ぶっちゃけ、普通に戦えば、ここの人たち全員を相手にしても負ける事はないと思う。
だけど、下手に実力見せちゃうと後が大変だろうしなぁ……
主に勧誘とかで。
理想的なのは、適度に善戦したと思わせつつ、俺が負ける事。
可能であれば、他の隊員よりも弱く演出できれば尚良しだ。
正直難しいだろうけど……
こういってはアレなんだが、ぶっちゃけ俺は演技が下手だ。
それで騙されてくれるかは、運次第って所だろう。
うーん、なるようになるしかない……か。
そうこう思案していると、もう開始の時間になったようだ。
「二人とも位置に着いた?それでは……開始!」
クイントさんの号令と共に、模擬戦が開始された。
どうしようかまだ悩んでる俺は、正面に目を向けて____
「っ!」
体を捻って、緊急回避した。
速い!
開始して間もないのに、100mはあった距離を詰められた。
そして態勢を立て直す間も無く、槍の穂先が次々と俺のいた場所を通過する。
おいおい……手加減とかないのかこの人!?
俺は反射的にゼストさんの後ろ数十mの所に瞬間移動した。
「ぬっ!?」
そこで、《非殺傷設定》になるようにした魔力弾を複数展開し、ゼストさんを攻撃する。
だが、背後からの奇襲にも関わらずゼストさんは反応した。
振り向き樣に自身に当たる最小限だけを槍で弾き、魔力弾をやり過ごす。
ぶっちゃけ人間業じゃない。
背後から音速以上の速度で飛んでくる弾を弾くってどんだけだよ……
「そこか!」
「うおっ!?」
ゼストさんは即座に俺を捕捉し、瞬く間に距離を詰めて来た。
俺の頭がさっきまであった位置には、音より速い槍が既に貫いている。
というか、明らかに音速に近い速度で動いてるんですけど!?
仙人や聖人、神人でもない人間にこんな事できるのか?
<魔法で身体機能の強化、保護を行い、更に高速移動魔法を用いてます。反応速度に関しては本人の訓練の賜物でしょう>
つーことは、反応速度だけは努力でなんとかしたって事かよ!
やっぱ人間業じゃねえわ……
そうこう考えている内に、既に百以上の攻撃を避けている。
ちょいちょい魔力弾で反撃してるんだけど、全部いなされるし……
「どうした。まだやれるだろう?」
勝手な事言ってくれるよ、ほんと。
しかも、ギアを上げたのか攻撃が更に速くなってきたし。
さて、どうしたもんかな。
ちょっとだけ、本気でやってみるか?
もちろん、極力スキルは使わない方向で。
こういう風に考えるって事は、俺もゼストさんの熱気に感化されてるんだろう。
けれど、今は良いかと思えてしまうから不思議だ。
さて、それじゃ____
「反撃しますかね!」
「ぬっ!?」
左手を使い、襲い掛かってくる槍を弾く。
ゼストさんは、思ったよりも強い力で弾かれた事に驚いたのか、僅かに隙を見せる。
(ここだっ!)
その隙を見逃さなかった俺は、一歩踏み込んでから、なるべく軽く、右手の掌打をゼストさんの胴体に叩き込む。
(手応えアリ!)
重い音と共に、ゼストさんは数十m離れたビルまで吹っ飛んでいき、激突した。
派手な音を鳴らしながらビルが崩れていく。
(あれ?もしかして、やり過ぎちゃった?)
<いえ、
えぇ……
どんだけの勢いで跳んだんだよ。
若干呆れを含めた目で崩壊しているビルを見ていると、土煙の中からゼストさんが出てきた。
「あー……大丈夫?なんかすごいスピードでビルに突っ込んだみたいだけど……」
ちょっとした気まずさもあってか、思わず素で声をかける。
だが、そんな心配も杞憂だったようだ。
「フッ……問題無い。それよりも……俺の見立て通りだ。やはり、お前は強いな」
うん?
一体どの場面で俺の強さに気付いたんだ?
こう言っちゃなんだけど、
<最初に会った時、ゼストから威圧されたので遮断しました。その事を言ってるのでしょう>
うぉい!
威圧されてたとか、全然気がつかなかったぞ!?
もしかして、それのせいで模擬戦を最初から飛ばしてたのか!?
<その通りかと>
おお……
気付かない内に強者感を出しちゃってたらしい。
「フッ、フフッ……隠してたんだが、バレちゃしょうがないな」
今更だが、とりあえずわかってましたよアピールだ!
「?お前はそもそも隠してなんて無いだろう?」
グハァッッ!!
コ、
「ま、まぁそれは置いといて……そろそろ、この辺で止めにしないか?これ以上やると、訓練どころじゃなさそうだし……」
「む……確かに、そうだな……負けたまま引き下がるのは癪だが、これ以上は施設を破壊してしまいかねん」
良かった!
ゼストも納得してくれたようで何よりである。
そんなこんなで、波乱の模擬戦はようやく終了した。
観覧席に戻ってくると、それはもう酷かった。
スバルとギンガからの「すごいすごい!」っていう賞賛は普通に嬉しかったからともかくとして、クイントさんを始めとするゼスト隊からの勧誘が凄まじかった。
「やっぱりウチに来ましょうよ!」と言うのから「隊長を蹴落としてやってくだせえ!」とか「是非俺の嫁に!」とかまで……
とりあえず、「俺の嫁に」発言した奴はブン殴っといた。
最終的に、「自分の世界で外せない職についているから無理!」と言うまで、この勧誘は続いたのであった……
〜〜〜〜〜
「ねぇ、リムルさん。それだったら、嘱託魔導師だけでも試験を受けてみない?」
勧誘の嵐が終わったと思ってたのも束の間、平穏をぶっ壊すかのように、クイントさんがブッ込んで来た。
「嘱託魔導師?臨時バイトみたいなものですか?」
「ええ。ウチは万年人手不足だから、そういった制度も設けてるの。中には学生とかもいるよ」
うーん、強制招集とか掛けられても行けない可能性が割と高いんだけど、それでも大丈夫なんだろうか?
「俺、立場的に招集かけられても行けない事とか多いと思いますよ?」
「そこは大丈夫。任務を要請する事はあっても、強制はできない制度だから。受けるも受けないのも自由よ。注意点はいくつかあるけど、この資料を見てもらえればわかると思う」
そう言ってクイントさんが目の前にウィンドウを開き、嘱託魔導師の資料を見せてくれる。
俺はウィンドウをざっとスクロールさせ、中身を確認した。
ふむふむ。
臨時バイトってのは確かだけど、一定の成果を上げないと、嘱託魔導師としての権利を剥奪されるみたいだな。
他にも当たり前だが、犯罪を行ったり問題行動を何度か起こしても同様に剥奪される。
後は、後見人が必要との事だが……
クイントさんを見遣る。
「後見人なら、私がやるから大丈夫よ?」
内心の懸念を見抜かれてしまった。
「ね、やってみない?勿論、任務に対しての報酬は出るし。中には危険な任務もあるけど、ゼスト隊長を負かしたリムルさんならきっと大丈夫!」
おお……
熱烈な視線が辛い。
まぁ、特に拘束されないのであれば、別にやっても良いかな?
この世界の通貨が手に入るのであれば、やぶさかではないし。
「うーん……わかりました。そういう事でしたら、嘱託魔導師、やってみようかと思います」
「ほんと!?ありがとう、リムルさん!」
クイントさんはよっぽど嬉しかったのか、勢いよく俺に抱きついてきた。
それにつられてギンガとスバルも抱きついてくる。
俺は苦笑して、彼女たちをなだめるのであった。
ちなみに後で知った事だが。
この時の微笑ましい光景を写真に撮っていた者がいたらしく、その後ずっと当時のゼスト隊とナカジマ家の宝物にされてたんだとか。
聞いた時は、気恥ずかしいやらなんやらで、苦笑いを浮かべる事しか出来なかったぜ……
戦闘シーンって難しいね…
10年前の管理局地上本部に空間シュミレーターはあるのだろうか、いやあって欲しい。
だんだんとクイントさんの口調が砕けてます。
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5話
From:ミッドチルダ、ナカジマ家
訓練が終わった後。
俺は再びナカジマ家に厄介になっていた。
なんでも、嘱託魔導師認定試験まで少し日が空いてるから、それまでは泊めてくれるとの事。
子供達は諸手を上げて喜んでくれた。
しかし、ただ泊めてもらうだけというのも悪いので、その間は子供達の世話や、家事なんかを俺がやる事にしたんだが……
「リムルちゃん。もし、万が一でも嘱託魔導師認定試験に落ちるようだったら……ウチの家政婦にならない?」
俺の(というかシエルさんの)完璧な家事を見て、クイントさんがそんな事を言ってくる始末だ。
冗談めかしていたが、その目はマジだった。
さすがに無理なので断ったけどね。
ん?試験勉強はしなくて良いのかって?
ハッハッハッ。俺にはシエルさんという最強の味方がいるんだぜ?
もちろん、全て任せるつもりですとも!
それで身につくか?と言われれば、あんまり大丈夫とは言えないが……
まぁ、問題は無いだろう。
嘱託魔導師として活動できる時間はそんなにないだろうし。
それに、わからない事があればシエルさんに聞けば良いのだ。
さて、と。
「おーい。ギンガー、スバルー。お昼ごはんできたぞー」
「「はーい!」」
〜〜〜〜〜
From:ミッドチルダ、管理局地上本部
嘱託魔道士認定試験当日。
試験会場入り口で、後見人のクイントさんと、なぜかついて来たゼストに見送られてから、俺の試験は開始した。
試験について特筆するような事は特にない。
筆記試験はシエルさんパワーで満点だし、魔法の実技試験も俺にとっては特に難しいものでは無かった。
試験官が、「デバイスもないのにこの規模と精密さとは……」とか呟いてた気もするが、気にしない。
気にしたら負けな気もするから無視でいいのだ。
懸念していた身分証明についても、後見人であるクイントさんがいてくれる関係でクリアした。
管理外世界出身という事も、身分証明を求められない理由の一つになったようだ。
そして、最後の試験である模擬戦だが……
なぜか相手はゼストだった。
「マジかよ……」
「マジだ。お前の魔道士ランクは推定でもオーバーSだからな。試験相手を出来る者が少ないのだ」
「だから仕方ない」とかなんとか言ってるけど、明らかにこの前より戦意マシマシなんですけど!?
この野郎……この前負けたからってリベンジするつもりかよ!
こうなったら腹をくくるしかない、か。
あんまり大勢に実力を見せたくなかったんだけどな……
半ば諦めの境地に達していると、ゼストが珍しく不思議そうな顔で口を開いた。
「そういえば前の模擬戦から疑問だったんだが……リムル。お前はデバイスを使わないのか?」
「使わない。持ってないし、使ったこともないからな」
それに、あった所でシエルさんの演算以上の結果を出せるとは思えないし。
「そうか……ククッ」
「お、おい……いきなりどうした?」
「いや、なに。デバイスも持たない一般人が、この俺に勝つとは、とな。世の中は想像よりも広いと思っただけだ」
「……そうかよ」
そんなんで笑うもんなんかね?
ほんと、前の模擬戦の時といい、よくわからない奴だ。
まぁいいか。
ちゃっちゃと終わらせるとしましょうかね!
〜〜〜〜〜
そうして、お互いにちょっとやる気を出しちゃった結果。
勝負は中断され、勝敗は引き分けとなった。
中断の理由は、模擬戦試験会場が深刻なレベルで破壊されてしまった為だ。
試験官の人に「お願いだからこれ以上壊さないでください!」って泣きながら懇願されてしまったのだから仕方ない。
俺もちょっと申し訳ないとは思ったし。
心なしか、ゼストもどこか気まずそうにしていた。
まぁともかくにも、そんなこんなで____
「リムル・テンペスト。アナタをAAAランクの嘱託魔道士として認定します」
涙目の試験官から、晴れて合格を言い渡されたのであった。
ちなみに、今回の試験で認定できる魔道士ランクは最高でAAAまでだったらしい。
戦闘力だけで言えば間違いなくオーバーSと太鼓判を押されたが、これ以上のランクに認定されるには都度試験を受ける必要があるとの事。
魔道士としての実績とかも必要らしいし、これ以上は求めなくてもいいかもな。
ランクを一気に上げ過ぎて、悪目立ちするのも本意ではないし。
とりあえず、まずはいくつか適当に任務を受けてみるとしましょうかね。
〜〜〜〜〜
後に、この試験の事は色々な形で噂として広まることになる。
曰く、都市を破壊する怪獣がいる。
曰く、地上のエースの影に隠れたもう一人のエースがいる。
曰く、デバイスを使わないで100個以上の砲撃魔法を精密操作する化物がいる。
などなど……
試験内容は公開されないが、関係者の口から情報が漏れた為にこのような噂になってしまったようだ。
噂は一人歩きし、多くの物好きが噂の出所を確認しようと躍起になるが……それはまた、別のお話。
〜〜〜〜〜
From:ミッドチルダ、ナカジマ家
「リムルちゃん、認定試験合格おめでとう!」
「おめでとー!」
「リム姉おめでとー!」
「嘱託とはいえ、管理局の一員みてぇなもんだ。歓迎するぜ!」
試験が終わりナカジマ家に戻ると、ナカジマ一家が盛大にお祝いしてくれた。
部屋の飾り付けはギンガとスバルが頑張ってくれたらしい。
ゲンヤさんとクイントさんに至っては、今日の為に休暇を取得してくれていたようだ。
なにこれ。
ちょっと……いや、かなり嬉しい。
「ああ……みんな、ありがとな!」
その後は、今日の為に用意されたパーティー料理を食べ、大人組と酒を飲んだり、テンションの上がった子供達と遊んだり、仕事終わりに遊びに来たゼスト隊の人達と歓談したりした。
その中にはゼスト本人もいて、今日の模擬戦についてお互いに反省したり……
「今日は、やり過ぎてしまったな……」
「あー、試験官の子、泣いてたもんなぁ……」
「聞いたよー?なんでも、試験会場をめちゃくちゃにしたんですって?」
クイントさんが意地の悪い笑顔で茶々を入れる。
「いや、めちゃくちゃにするつもりは無かったんだけど、ゼストが俺の攻撃を弾いちゃうからさ」
「ぬ……それならば、最初からあのような特大の魔力弾など撃たねばよかったろう」
「いやいや、一応あれは試験じゃん?こういう事も出来ますよってアピールくらいはしとかないと」
「それにしても、あの数はやり過ぎだろう……」
ゼストが呆れているが、知った事では無い。
こういうのは言ったもん勝ちだからな。
それよりも、だ。
「まぁ、その話は置いといて。最初の任務はどうしようかねぇ」
「おっ。だったら、ウチの捜査を手伝ってくれやしねぇか?今ちょうど人手が足りなくてよ」
俺のボヤきにゲンヤさんが反応した。
「あれ?ゲンヤさんの所って陸上警備隊ですよね。捜査なんてするんですか?」
「ああ。ちょいちょいな。本局に突っぱねられるような、優先度の低い案件なんかはウチで捜査する事があるんだよ。まぁ、大抵はイタズラの犯人探しとかなんだがな」
「へー、今はどんな捜査を?」
「人のデバイスに落書きされるって案件だ。被害者は全員、気づかない間に落書きされてるらしくてな。まぁイタズラだとは思うんだが、最近被害が増えてるらしくてなぁ」
「ま、手頃そうな案件だし、肩慣らしにどうだ?」と聞いてくるゲンヤさん。
断る理由も無いので、承諾する事にした。
「そういう事でしたら、やってみます」
〜〜〜〜〜
それから少しして。
簡単だと思ってたこの捜査は、なぜか最終的に巨大な闇組織を潰すまで続いた。
え?一体なにがあったんだって?
正直それは俺も知りたい。
いや知ってるけど、理解できない。
気がついたら別の次元世界でロストロギアを巡って戦争することになったなんて、俺も信じたく無い話なのだから。
<フフフ、全ては
シエルさんがなんか言った気がするが、現実逃避する俺には届かない。
斯くして。
俺の名前は、管理局の伝説として長い間語り継がれていくことになったのであった。
〜〜〜〜〜
「いやー、すごかったねぇ、リムルちゃんの大捜査。ベテラン捜査官も真っ青な仕事ぶりだったんじゃない?」
「あの案件、途中でウチから離れちまったからなぁ。あの後一体なにがあったんだ?」
ナカジマ家に戻るとナカジマ夫妻に色々聞かれたが、正直困る。
俺だってよくわかってないし。
ただ、ひとつ言えることがあるとすれば____
「しばらくは、任務やらなくても良いかな……」
〜〜〜〜〜
その後。
のんびりしていたかった俺だが、世の中そう甘くはないらしい。
どこから噂を聞いたのか、いろんな所からの勧誘が凄まじくなってしまった。
聞けば、最近では俺に接触する為にナカジマ夫妻へのアプローチも激しくなっているんだとか。
このままだと子供たちにも悪影響が出ると判断した俺は、決心した。
即ち____自分の世界に帰る決心を。
「そーいう訳で、ほとぼりが冷めるまではこっちに顔出さないようにしようかと思う」
「「えぇーーーー!」」
「そんな……気にしなくてもいいのに」
「ああ、そうだ。お前さんはもうウチの家族みてぇなもんだからな。いなくなると逆に調子狂うぜ」
ナカジマ一家は惜しんでくれたが、それに甘えるわけにはいかない。
なぜなら____
「そう思ってくれるのは嬉しいんだけど……ぶっちゃけると俺、王様だからさ。あんまり長いこと国を空けると怒られるんだよ……」
「「「えー、うっそだー」」」
「……」
まさかの全否定である。
何も言わなかったが、ゲンヤさんまで呆れた目をしてるし。
ちくせう。
「ほんとなんだけどな……まあいいか……とにかく、帰らないと怒られるのはマジなんだよ。だから、近いうちに大勢の前で帰ろうかなって」
人前で帰るのは、ナカジマ家にはいませんよって言うアピールだ。
ただ忽然と姿を消しただけじゃ、まだナカジマ家にいるんじゃないかと疑われるだろうし。
それでもしばらくは、俺を探してナカジマ家に聞きに来る人は出るだろうが……
何もしないよりかはマシって程度だな。
「帰っちゃうの……?」
「リム姉行っちゃやだー!」
今度は俺の言葉をちゃんと受け止めてくれたのか、子供達が泣きそうだ。
正直後ろ髪を引かれる思いだが……
俺は子供達をそっと抱き締める。
「ギンガ、スバル。元気でな。またいつか、絶対会いに来るから」
ギューっと抱き締め返される。
俺は苦笑して、子供達の頭を撫でた。
そうしてると今度は後ろから抱きつかれる。
クイントさんだ。
「リムルちゃんも、元気でね。絶対、また顔を見せに来るのよ?」
「ええ、必ず」
返事をすると、頭に手を置かれた。
今度はゲンヤさんだ。
彼は何も言わず優しい目で、ただ頷いた。
俺も頷き返す。
それだけで、通じ合えたような気がした。
〜〜〜〜〜
その日は、俺の送別会が開かれた。
ナカジマ家や、ゼストを始めとしたゼスト隊の面々、お世話になったゲンヤさんのいる陸上警備隊の人達などに別れの挨拶をした。
みんな気の良い人達で、俺との別れを惜しんでくれていたのが素直に嬉しかった。
〜〜〜〜〜
From:ミッドチルダ中央、首都クラナガン
翌日。
俺は、首都クラナガンに来ていた。
今は魔法使用OKの公園で、記者や俺を勧誘しようとしている人達大勢に囲まれている。
別に呼んだ訳じゃないよ?
クラナガンに来たら囲まれただけである。
「是非ウチに来て頂きたい!」とか「闇組織を単独で壊滅させたのは本当ですか!?」とか色々聞かれていて、身動きの取れない状況になってしまったが……
関係無い。
俺は、俺の思うままに行動する事にした。
「諸君!色々と騒がせてしまって申し訳ないが、俺は自分の世界に帰る!機会があったらまた会おう!」
言いたい事だけ言って、久し振りに《
今回は特別に、いつもより派手に展開する事にした。
積層型の壮大な魔法陣が、辺りを包み込む。
ミッド式ともベルカ式とも違う複雑怪奇な魔法陣に驚く周囲を余所に、俺はミッドチルダから姿を消したのであった。
〜〜〜〜〜
ちなみに余談だが。
この時の魔法陣を見た人達は、俺の事に関して様々な憶測をしていた。
ただのパフォーマンス目的で展開したデタラメな魔法陣だって言う人から、
未知の方式だとして、伝説のアルハザード出身者なんじゃないかと疑う者、
また、カメラやマイクなどの記憶媒体がデバイス含めて全て機能しなくなってた事から、俺の存在を集団的無意識の生み出した夢だったんじゃ無いかと言う人まで。
真相は全て闇の中である。
嘱託魔道士で受けられる最大ランクとか、陸上警備隊がイタズラの犯人探しやるとかはオリジナル設定です。
今回省略したリムルさん大捜査線は、そのうち幕間とかで書きたいなーって思ってます。(いつできるのかは不明ですが)
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6話
空白の期間についてはいずれ幕間として書きたいと思ってますが未定。
また、他の人の視点も今回から取り入れてます。
今回の話は、アニメのなのはSts 23話視聴済み推奨です。
どこがとは言いませんが、個人的にも熱いシーンなので是非。
From:ミッドチルダ西部、エルセア
久し振りにやって来ましたミッドチルダ!
かれこれ10年ぶりである。
まぁ、正確に言うと俺の世界じゃまだ3年くらいしか経ってないんだけどね。
時間の流れが違うのか、ミッドチルダでは既に10年近く経過していた。
ウチの世界の3倍くらいの早さである。
ナカジマ家には悪い事しちゃったな、と思う。
さてと。
ひとまずは、スバルを驚かしに行くとしようかな。
俺はすぐさま、スバルの元へと転移した。
〜〜〜〜〜
From:ミッドチルダ中央、首都クラナガン
転移した先はクラナガンだった。
そこで、俺は驚く光景を目にした。
なんと、スバルとギンガが激しく争っているのである!
大きくなったな、とか、美人に成長したな、とかの感想が全部吹き飛んでしまうくらいの衝撃だ。
(おいおいおいおいおい!一体どうなってんだこの状況!)
<
なんだと?
ギンガに手を出すとは、なかなか巫山戯た奴がいるじゃないか。
絶対、後悔させてやる……
ひとまず、それは置いておくとして。
まずは目の前のスバルとギンガだ。
サクッとギンガの洗脳を解除して2人を介抱しようかと思ったが……
やめた。
明らかにスバルが追い詰められていたが、スバルはまだ諦めてない。
ボロボロになりながらも、立ち上がるその目には確固とした覚悟と信念が見えた。
少なくとも、最後まで見届けたいと思うくらいには……強い眼差しだ。
「フルドライブ!……ギア!エクセリオン!!」
スバルのデバイスの出力が上がった。
これで決着をつけるつもりらしい。
光の道を走り、スバルとギンガが交差する。
何度も何度も、空を駆けながら拳や蹴りの応酬が続く。
二人は、一見互角に戦っているように見えた。
埒が明かないと思ったのか、ギンガが自らの手をドリルのように回転させてスバルを攻撃し、それに対してスバルが拳をギンガへ突き出す。
互いの拳で、互いに相手の展開したシールドを破壊しようとする。
ほぼ同時。
しかし、数瞬早く相手のシールドを先に破ったのは、ギンガだった。
だが____
「一撃…必倒ぉおっ!!うおおおおおおおおおおおおおお!!!ディバイィン…バスタァァァァァァァァァ!!!!!」
シールドを貫通したギンガの攻撃を間一髪でスバルが避け、渾身の砲撃魔法を撃ち込む。
ギンガが光に飲まれ、倒れた。
スバルの意地が、勝ったのだ。
〜〜〜〜〜
Side:スバル
「ハァ……ハァ……ッ……ふー…………よし。こちらスターズ3、ギン姉…ギンガ・ナカジマを無力化、保護しました!」
『こちらロングアーチ!了解した。スターズ4の援護が完了次第ヘリを向かわせる。……お疲れさん、よくやったな。スバル!』
「……はいっ!」
よかった……なんとか、ギン姉を確保できた。
強いギン姉に勝てた喜びよりも、今は助けられたっていう安堵の方が大きい。
あー……ちょっと血を流しすぎたかな……
フラフラする。
けど、分断されたティアとの連絡はまだ繋がってないし、事件は全然まだ終わってない。
こんな所で、倒れてる場合じゃない……!
「よく頑張ったな」
「え……?」
とても、懐かしい声。
ハッとして顔を上げると、そこには10年前と変わらない、あの人の姿があった。
「リム……姉……?」
「おう。久しぶり、スバル。泣き虫だったあの頃と違って、強くなったな」
リム姉はとても優しい目をして、あたしの頭を撫でてくれている。
不意に、視界が滲んだ。
「リム、姉ぇ……!」
「おいおい。強くなったと思ったのに、泣き虫なのは変わらずか?」
お調子者のように冗談めかしているが、その声からは労わりの気持ちが伝わってきた。
このままずっと撫でてほしいって気持ちが、どんどん溢れてくる。
けれど。
「リム姉、ごめん。あたしは、ギン姉をヘリに乗せたら、スグにでも皆の援護に行かないといけないから……」
あたしだけ、休んでる訳にはいかないんだ!
すると、リム姉はフッと笑って……魔法陣を展開した。
「ほんと、強くなったな……頑張ったスバルにご褒美だ。久しぶりに、嘱託魔道士リムルさんの活躍を見せてあげよう!」
リム姉が言葉を発してる間に、あたしの傷はみるみる内に治っていく。
心なしか、疲れてる体まで癒えてるような気もする。
魔法陣の光がどんどん強くなっていく。
「リム姉、一体なにを____」
「するの?」って言葉を発し終える前に、視界が暗転した。
〜〜〜〜〜
「うぉっ!?」
視界が明けると、そこは見覚えのある場所。
ロングアーチの武装ヘリの内部に、あたしとギン姉はいた。
振り返ると、ヴァイスさんのびっくりした顔が見えたから間違いない。
「スバル!?お前、一体どうやって……」
「その前に!ティアは!?」
ヴァイスさんの疑問も最もだけど、まずは現状確認だ。
特に、分断されたティアの状況が気になる。
ヴァイスさんは呆気にとられていたが、不意に真面目な顔になると、状況を報告してくれた。
「ティアナは無事だ。現在は戦闘機人3名を保護。これからヘリに収容する所だ」
「そう……よかった……」
ホッと一安心だ。
そういえば……
「あれ?リム姉は?」
リム姉の姿が見えない。
一体どこに行ったんだろう、と思って周囲を見渡すと……いた。
って!?
「ほい。ついでに回復しといたぜ。」
「いつのまに!?」
気づいた時にはティアと、ティアが無力化した戦闘機人3名を抱えて、リム姉があたしの後ろに立っていた。
リム姉は彼女達をゆっくり下ろすと、ティアの頭を撫でる。
「ティアナも、よく頑張ったな」
「え?……あれ?……リムル、お姉ちゃん?」
「おう。10年ぶりだな、ティアナ。ついでに言うと、お姉ちゃんじゃなくてお兄ちゃんな」
驚いた。
なんと、リム姉はティアとも面識があったらしい。
ティアは驚きすぎたのか、珍しく寝起きみたいなぼーっとした顔をしてた。
「誰?あの美人さん……」
ヴァイスさんがリム姉を指差して小声で聞いてきた。
その気持ちはあたしにもよくわかる。
なんとなくすごい人ってことは聞いてたけど、目の前で見ると手品にしか見えないもん。
「えーっと、あたしはリム姉って呼んでるんですけど、なんか昔に活躍したすごい人?らしいです」
「俺はリムル・テンペストと言う。ま、ただの嘱託魔道士だよ」
リム姉にはしっかりと聞こえてたらしい。
ヴァイスさんがちょっと気まずい顔してたけど、リム姉は気にしないで話を続ける。
「なんか聖王のゆりかごってのが動いてて大変なんだろ?ちょっくら手伝いに行ってくるわ」
「「「え?」」」
「んじゃ、また後でなー」
リム姉が消えた。
おそらく、ヘリに入った時と同じように転移したのだろう。
ちょっとコンビニまで行ってくるくらいの気軽さで、リム姉は行ってしまった。
それからヘリの中は騒然とする。
「ちょっ、マジか!嘱託魔道士とはいえ、一般人が気軽に行っていい戦場じゃねえぞ!」
「リム姉!?はやて部隊長とロングアーチに連絡しないと!」
「今やってる!……ロングアーチ!こちらスターズ4!ゆりかごの元に、一人嘱託魔道士が向かいました!名前はリムル……リムル・テンペストです!」
〜〜〜〜〜
Side:グリフィス
『名前はリムル……リムル・テンペストです!』
「こちらロングアーチ、了解です!くっ、この忙しい時に!ルキノ陸士、ゆりかご近辺に一般人が出現したら退避勧告をお願いします!」
「……」
「ルキノさん?」
どうしたのだろうか。
いつもはハッキリと返事をするルキノさんが、珍しく押し黙っている。
切羽詰まった状況なので、こちらも大声で呼びかけるしかないか……
「ルキノさん!」
「……消えた……」
「え?」
「ゆりかご周辺の敵性体の反応が、全て消えました……!」
「なんだって!?」
一体、何が!?
騒然とするブリッジに、はやて部隊長から連絡が入った。
『ロングアーチ!こちらはやてや。ゆりかご周辺のガジェット及び、ゆりかごの外部兵装全ての沈黙を確認。これから指揮を離れて突入します!』
「は、はやて部隊長!一体何があったんですか!?」
『うーん、正直冗談みたいな話なんやけど……地上の影のエースは化け物って話やな』
〜〜〜〜〜
Side:はやて
いや、ほんと。
自分の目で見ても、この光景は幻なんやないかって思ってしまうよ。
光の雨が降ったと思ったら、自分達の戦ってた相手が全て、一機残らず破壊されてたんやから。
それだけやない。
戦ってたウチら全員と、直下の地上を覆う程の大規模魔法陣。
それが展開されたと思ったら、戦いで傷付いてたみんなが、完全回復した。
正直、理解が追い付かない感じや。
だけど、幻じゃないって目の前の人が証明してた。
「よっす。アンタがこの戦場の指揮官だろ?とりあえず周りは黙らせといたから、デカブツの中にいる人たちを助ける部隊を編成しといた方が良いかもよ?」
「アンタは、一体……」
「俺はリムル。しがない嘱託魔道士だ」
嘱託魔道士の、リムル?
あれ?……聞いたこと、あるような……
『数年前……二週間くらいウチにいた奴がいてなぁ。くくっ……こいつがまたとんでもないのなんの』
記憶が脳裏にフラッシュバックする。
その時の、ゲンヤさんの言葉を思い出した。
『嘱託魔道士の試験で、当時カミさんの上司だったオーバーSのゼストって人と模擬戦して、試験会場ぶっ壊して引き分けになったり____』
『嘱託魔道士なりたてで、でっかい闇組織を一人でぶっ潰したりな____』
聞いたときは、言っちゃ悪いけど作り話かな?って思ってたけど……
『そんな凄い人なら知っておきたいですねぇ』
『気になるか?』
『えぇ』
『ま、そりゃそうだよな。ソイツの名前は、リムル。リムル・テンペストって奴だ。ウチの、もう一人の家族さ』
____思い出した!
AAAの嘱託魔道士、地上の影のエース、戦闘力で言えばオーバーS確実と言われた、リムル・テンペスト!
「アンタが……リムル・テンペスト……」
「お?よく知ってるな。そのリムルで合ってるぜ。俺はこの後行かなきゃいけないとこがあるから、この場はお前さんに任せるよ」
「え?ちょっ……」
呼び止める間も無く、リムルさんは消えてしまった。
「なんだったんやろ……でもまぁ、助けてくれたのはありがたいなぁ……よし!ロングアーチ!こちらはやてや。ゆりかご周辺の____」
とりあえず、ヴィータとなのはちゃんの援護に行かなな!
〜〜〜〜〜
Side:リムル
目的地まで転移をせずに高速移動する。
道中見つけたガジェットを《
そこに、ゼストが向かっている事がわかったからだ。
通信や各所のデータベースをハックして、ゼストにもう時間が無いのはわかっている。
だからこそ……ゼストに本意を聞きたい。
生きたいのであれば、俺なら生かせる筈だから。
〜〜〜〜〜
From:ミッドチルダ管理局地上本部
周辺にいるガジェットを一掃した俺は、とうとうゼストの元へ転移した。
そこでは____
「旦那ぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ザンッ!!!
子供の悲鳴を背景に、ゼストが女性の騎士に斬られ、敗れる所だった。
一瞬激昂しそうになったが……ゼストの顔に笑みが見えて、冷静になれた。
おそらくこれは、ゼストにとって本望の結果なのだろう。
倒れるゼストを女性騎士が支え、先程悲鳴をあげたと思われる妖精のような小ささの女の子が寄り添う。
ゼストは震える手で、自らの手の指輪型デバイスを女性騎士に差し出した。
「俺が知る限りの事件の真相が、ここに収めてある」
「お預かりします」
「アギトとルーテシアのことを、頼めるか……巡り逢うべき相手に、巡り会えずにいた……不幸な子供だ」
そっと、小さな女の子をゼストが撫でる。
「旦那ぁ……!」
「アギト……お前やルーテシアと過ごした日々……存外、悪くなかった」
こいつは、このまま逝くつもりなのだろう。
なんとなくだけど、本人がそれを望んでいるのがわかった。
だからこそ、一歩を踏み出す。
「相変わらず勝手な野郎だな、ゼスト」
「お前は……リムル、か」
「ひとつだけお前に聞くぞ。俺はお前の身体を治す事ができる。完全にだ。お前は治療を受ける気はあるか?」
「っ……!」
アギトと呼ばれた小さな女の子が、希望を見出したかのように俺を見る。
俺は答えを聞くべく、まっすぐにゼストを見つめた。
「フッ…いや、やめておこう」
「旦那!?」
「俺は汚れすぎた……その上で、騎士として誇りある最後をもらったのだ……フッ…お前に負けたままなのは心残りだが……これ以上は、望まん」
「……そう、か……」
決心は固い、か。
馬鹿みたいに真っ直ぐで、自分勝手なこいつらしい。
「いい空だな」
「ああ」
「俺やレジアスが守りたかった世界……お前達は、間違えずに進んでく…れ……」
ゼストの目が、閉じた。
「っ!旦那ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
〜〜〜〜〜
その後。
俺と、シグナムと名乗った女性騎士は室内にある遺体を丁寧に並べた。
ゼストに、レジアス中将、中将を殺したらしき戦闘機人。
気絶していた秘書らしき女性には、軽く回復魔法をかけておいた。
少しすれば直に目を覚ますだろう。
シグナムと俺は黙祷し、アギトはゼストにしがみついて泣いている。
その中で最初に動いたのはシグナムだった。
彼女は解けていたリボンを手に髪をポニーテールに結び直すと、こちらに向き直る。
「私はこれから空に上がる。アギト、それにリムル。お前達はどうする」
先に反応したのは、意外にもアギトだった。
「アンタは……旦那を、殺した!……っ、だけど!騎士として、誇りある最期をくれた……旦那はアンタに、アタシを託した。だから、アンタと行く。傍にいて、見極めてやる。アンタがもし、旦那の言葉を裏切るような真似をしたら……!」
「その時は、お前が私を焼き殺せ」
「……っ!」
シグナムがアギトに向けて手を差し出す。
アギトがその小さな手を叩きつけるように、シグナムに触れた。
「ユニゾン……イン!」
二人が光に包まれ、アギトの姿が消え、シグナムの見た目が変わる。
融合型デバイスのユニゾンを見たのは初めてだったが、こうなるんだな。
「お前はどうする、リムル」
「もう少ししたら俺も空に上がる。今は……悪いけど、もう少しだけ旧友を見送らせてくれ」
「……そうか」
そのままシグナムを見送った俺は、死んだゼストに語りかける。
「ほんとに、満足して逝ったんだな……もう、魂が拡散してるや」
強い未練や怨念などがあると、肉体的に死んでいても、精神体がこの世に残り続ける事がある。
10年前にアリシアを蘇生できたのも、アリシアが母であるプレシアを置いていく事が未練となって、精神体が少し残っていたからだ。
ゼストの場合は、そうならなかった。
未練は無い、という事なのだろう。
「レジアスさんも、ゼストが逝ったのを見て成仏したみたいだし」
実は、ゼストが死ぬその時まで、レジアス中将は精神体の状態で残っていた。
ゼストに何か伝えたい事があったように見えたが……
ゼストが死んで、その精神体に語りかけていたようなので、未練も晴れたのだろう。
そんで最後に。
レジアス中将を殺害した戦闘機人の女性は、意外な事にまだ精神体が残っていた。
自分は道具という意識が強いようだから、生への執着とか少なそうなもんなのにな。
(まだ……まだ私は、死にたくない!!)
「もう諦めなよ。お前は死んだんだから」
(嘘、嘘よ!任務さえこなしていれば、自由を謳歌できたのに!好きなように生きられたのに!このまま消えるのは嫌……いやぁ!)
うーん、思ったよりも未練たらたらだなコイツ。
消滅させるのは簡単だが……ちょっと寝覚めが悪くなりそうだ。
自由を謳歌するために任務を全うしてただけなら、ウチに引き入れても問題ないかもしれない。
ざっと解析したところ、諜報活動に特化した戦闘機人だったみたいだし、ソウエイの所に所属させてもいいかもな。
「あー、わかった。俺の部下になるなら生かしてやってもいいぜ?」
(なる!なります!だから、助けてぇぇぇ!!!)
よし。
言質はとった。
早速俺は、戦闘機人の女性の死体を解析して無傷な状態のコピーを作り、横たわらせる。
それに、漂ってる女性の精神体を引っ掴んで突っ込んだ。
拡散しつつあった魂も、完全に修復させている。
程なくして……コピーした体が、動いた。
目が開き、ゆっくりと上半身が起き上がらせて、呆然とした表情をする。
「い、生きてる……?」
「ああ。生き返らせたからな。俺の部下になるって約束は覚えてるか?ドゥーエ」
「っ!……は、はい」
よしよし。
ちゃんと術式は成功したみたいだな。
ドゥーエという名前にも違和感なく反応してるし。
(ちなみに名前は魂を解析して知った)
当の本人は、未だ信じられないのか手を握ったり開いたり、周囲を見渡して、自分の死体を見て悲鳴をあげていたりした。
まぁ、自分の死んでる姿なんて見たら普通びっくりするだろうけども。
「俺の勝手で死体を消す訳にはいかなかったからな。お前さんの体のコピーを作った。まぁ、特に違和感無いだろ?」
「え、えぇ……」
「さて。お前は一度死んだ身だ。この世界にいられないのはわかるな?」
「え、でも、私のISなら……」
「それでも、ジェイル・スカリエッティだったらお前を識別できる。違うか?」
「……そう、ですね」
「ま、そんな訳で、だ。お前さんには俺の世界に来てもらおうと思う」
「……はい」
ちょっとだけ逡巡したようだが、納得くれたようだ。
それじゃ、とっとと済ませるとしようかね。
「よし。それじゃ、俺たち魔物の国へ1名ご案内っと」
「!?……これは!?」
《
「ソウエイって奴のところに送るから、ドゥーエはそいつの部下になれ。んじゃ後でな」
「あ、ちょっ____」
ドゥーエが何か言う前に、転送は完了した。
ついでに、魂の回廊経由でソウエイに思念通話を送っておく。
『ソウエイ。お前のところにドゥーエっていう変装の得意な奴送ったから部下にしてやってくれ。よろしくな!』
『承知しました。リムル様』
よし、色々片付いた事だし……
俺も空に上がって、みんなを援護しますかね!
リムルの世界とミッドチルダの時間の流れが違うのはオリジナル設定です。
ヴァイスくん……ゆりかご突入時の見せ所奪っちゃってごめん……
あと、はやての関西弁に違和感あったらごめんなさい。
精神体云々に関しては転スラ小説8.5巻(設定資料集)を見て考えつきました。
以下引用と、今作の設定としてちょっと補足した文章です。
魂を覆う最も脆弱な体の
力を蓄える基盤となりうる
世界との直接的な繋がりを持つの
この三つの位相体にて大半の生物は構築されている。
精神体と星幽体だけになってしまうと、物質的な繋がりがないので時間が経過すると拡散、消滅してしまう。
今作では、
いわゆる幽霊ですね。
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7話
そんなこんなで。
後にジェイル・スカリエッティ事件、もしくはJS事件と呼称される大規模事件は解決した。
機動六課……スバル、ティアナと、その仲間達が聖王のゆりかごの機能をある程度破壊、中にいた人たちを救出し、脱出。
その後、複数の次元航空戦艦で一斉攻撃、聖王のゆりかごは完全に消滅したそうだ。
ん?俺?
俺は、地上で人に攻撃してるガジェットをひたすら殲滅してたよ。
ま、すぐに全部停止したから、あんまり意味はなかったかもしれないけど。
そして、今は____
〜〜〜〜〜
From:ミッドチルダ西部、エルセア、ランスター家
Side:ティーダ
大規模な事件が発生し、解決してから一週間。
今日は、久しぶりにティアナが帰って来ていた。
現場に駆り出されてた為、その顔には若干の疲れを見せていたが……
ティアナが無事で、本当に良かった。
俺も事務方として参戦していたからよくわかる。
あの事件で、ティアナがどれだけ危険な状況にいたのか。
「____でね、お兄ちゃん……お兄ちゃん?」
車椅子をティアナの元まで押し進めて、抱きしめる。
「本当に、無事でよかった……」
「ちょっ!?恥ずかしいってば、もう……」
そんな事言いながらも、ティアナは抵抗しない。
自然と、涙が溢れる。
今この手にあるのは、本当に守りたかったものだから……
「あー、お邪魔かな?それだったら出直すけど」
唐突に、俺たち兄妹以外誰もいない筈の部屋に第三者の声が響く。
俺たちはバッと離れ、声の発生源を確認する。
そこには____
「よっ、ティーダ。久しぶりー。ティアナは一週間ぶりだな」
「アンタは……え?リムルさん!?」
「あっ!リムルお姉ちゃん!?あの後また姿を消して……探したんだよ!」
「すまんすまん」とか言いながら笑ってるリムルさん。
っていうか!
「え!?来てたんですか!?」
「おう、一週間前にな。ちょいとティアナ達を手伝ったんだ」
忘れもしない、10年前のあの日。
俺とティアナはこの人に助けられ、そして御守りを貰った。
6年前の捜査で、死にかけた時に無くしてしまったけど……
俺は、あの御守りがあったからまだ生きているんだと思ってる。
だからこそ、俺は……
「リムルさん。あなたの事だから、きっと今回も助けてくれたんでしょう?本当に、ありがとうございます」
「よせって。それに、今回は大した事してないよ。ティアナが頑張ったんだ。それに、ティーダも、な」
リムルさんは柔らかく微笑んで、俺の頭を撫でる。
はは……この人には、ほんと頭が上がらないな。
バシャッ
とか思ってたら、いきなり水を掛けられた。
「!?一体、何を____!?」
怒鳴るよりも先に、自分に起きている変化がわかった。
これは……
「足が……治った!?」
「ドッキリ成功ってね。お前達に渡した御守りにも入ってた、俺特製フルポーションだ。よく効くだろ?」
言葉が出ない。
6年もの間まったく動かなかった足が、まさか動くようになるなんて____!
恐る恐る、近くのテーブルを支えにして、車椅子からゆっくり立ち上がる。
立ち上がる事が、できた。
「た、立った……お兄ちゃんが、立った……!」
ティアナが感極まったように声を上げる。
リムルさんがドヤ顔しているが、それも気にならない。
俺はティアナを抱き締めて、声にならない声を上げて泣いた。
〜〜〜〜〜
Side:リムル
うんうん。
兄妹の仲が良いのは良きことかな。
ちょっと良過ぎる気もするけど、そこはまあスルーでいいだろう。
しかし……
昔俺の渡していた
俺はそっと後悔した。
そんな事になってるとは知らなかったとはいえ、下手したら友達が一人死んでたかもしれないのだ。
俺は決心する。
次に渡す御守りには通信機能を入れようと。
さて、と。
手を叩き、二人の注意をこっちに向ける。
「はい二人とも。喜んでるとこ悪いんだけど、これからお出掛けだ。付いてきてくれ」
「「はい?」」
〜〜〜〜〜
From:ミッドチルダ、ナカジマ家
あれから二人を強引に連れ出し、行った先はナカジマ家だ。
ランスター家から意外と近かったし、ティアナはスバルと仲が良い。
紹介しておくに越した事はないと判断したので、顔見せのついでに連れて行こうと思った次第である。
インターホンを鳴らす。
ピンポーン
『はいはーい、どちら様で……あ!リムルちゃん!』
「ご無沙汰です、クイントさん」
〜〜〜〜〜
「もう、早く顔見せに来なさいよ!スバルに話を聞いてから、いつ来るのかなーって待ってたんだから!」
「あはは……すいません。スバルに会ってから、諸用でまた国に帰ってたんで」
クイントさんに怒られるが、これは仕方ない。
俺も、まさか10年も経ってるとは思ってなかったんだし。
「アタシ達、結構近所だったのね……」
「ほんとにねー。あ、お母さん、ギン姉。前にも話したけど紹介するね。こっちがあたしとコンビ組んでるティア。あちらは、ティアのお兄さん」
「ティアナ・ランスターです。通話したことはあったけど、直接会うのは初めてですね。よろしくお願いします、クイントさん」
「ティーダ・ランスターです。妹がいつもお世話になってます」
「いえいえ、こちらこそ。ウチのスバルがお世話になってます。ティアナちゃんも、いつもありがとね。スバル、結構やんちゃでしょ?」
「あはは……まぁ……」
「ちょっとお母さん!?ティアも目を逸らさないでよ!」
「コホン……ギンガ・ナカジマです。よろしくお願いします。ティアナさんとは久しぶりですね」
「お久しぶりです、ギンガさん。あの後は大丈夫でしたか?」
「ええ、おかげさまで。あの時は、六課のみなさんに助けられました。ありがとう」
「いえいえ。結局、ギンガさんを助けたのはスバルですし」
各人、和やかに自己紹介を終える。
いやはや、スバルとティアナのお陰でティーダやギンガ、クイントさんもすっかり馴染んでるし、連れて来た甲斐あったな。
それにしても、少し気になる事がある。
「クイントさん。身体に不調が見られるんですけど、もしかして……」
「ああ、これは8年前にちょっとね。失敗しちゃったの。その時にリムルちゃんに貰ったイヤリングも無くしちゃったんだ……ごめんね」
そう言ってクイントさんは目を伏せる。
クイントさんも死にかけたのか……
俺は無言で、魔法陣を展開する事にした。
「リムルちゃん……?これは……」
「唐突ですみません。クイントさんを治す為に回復魔法をかけました。前線復帰するかはクイントさん次第ですが、これで昔と同じように動けますよ」
「……!」
クイントさんは、ガバッと俺を抱き締める。
「ありがとう……本当、感謝してもしきれないわ……」
その眦には涙が浮かんでいたように見えるが、そこは何もせず抱き締め返すのが良いだろう。
喜んでる人に水を差すのも、なんだしな。
後ろでティーダが「俺の時は水をぶっかけたのに……」とか言ってるけど無視だ。
イタズラ相手は選ぶのが俺の流儀である。
〜〜〜〜〜
場が落ち着いたので、かねてより決めていた事を実行しようと思う。
「さて……スバル、ギンガ。俺の渡したペンダント、壊れてるだろ?」
「ぎくっ」
「あ、はい……すみません、壊しちゃって」
「いいよいいよ。壊れたって事は、その役目を果たしたって事なんだろうし。まだ持ってるのなら、ちょっと貸してくれないか?」
スバルとギンガの二人はお互いに顔を見合わせると、こちらにペンダントの残骸を渡してくれた。
俺はそれを受け取り、状態を確認する。
ガラス部分が無くなってるのは当然として、金属フレーム部分もちょっと歪んでるな……
懐からフルポーション入りガラス部分を取り出し、ペンダントに嵌める。
歪んだ金属フレーム部分は魔法で修理した。
「よし、できた!返すよ」
「わぁ……新品みたいに直ってる!」
「ありがとうございます、リムルさん!」
うんうん。
喜んでくれたみたいで何よりだ。
さて、そこで物欲しそうにしてる子たちにも何かしてあげないとな。
「クイントさん、ティーダ、ティアナ。君達には、これらを渡しておこうかと思う。皆、好きな物を持って行ってくれ」
そう言って取り出したのは、いくつかのアクセサリ。
もちろん、フルポーション入りの御守りである。
みんな怪訝な顔をしながらも受け取ってくれた。
クイントさんとティアナはイヤリング、ティーダは指輪を選んだようだ。
「リムルお姉ちゃん、これは?」
「ああ、昔渡した御守り、みんな無くしちゃっただろ?だから、新しいのを渡しておこうと思ってな」
「そういえば、この中にはフルポーション?ってのが入ってるんでしたっけ」
「うん。何かあったときには割れて助けてくれると思う」
ティーダはランスター家での俺の言葉を覚えてたらしい。
「フルポーション?なんだか、ゲームみたいなお話ね」
クイントさんは「フルポーション」という単語に対して疑問を持ったようだ。
「我が国特産のフルポーション!名前の通りの回復薬で、飲んでよし、かけてよしの優れものです」
ふふんとドヤ顔をする。
得意になっていると、スバルがおずおずと手をあげる。
「あの、リム姉?リム姉の出身って第97管理外世界《地球》じゃなかったっけ?この前行った時、そんなの無かった気がするんだけど……魔法が使えるのは、なのはさんやはやて部隊長の事があるからわかるんだけどさ」
げっ……スバルは行った事あるのか……
であれば、まぁもっともな疑問である。
正直な事を言ってもいいかもしれないが……
それで嘱託魔道士の資格が剥奪されたりしたら面倒だしな。
「地球出身で合ってるよ。ただ、地球にもいろいろあってな。俺の国はあんまり認知されてないんだよ。だから、ポーションの類もあんまり出回ってないって訳」
地球と繋がりの強い世界なのは間違ってはないので、ちょっと強引だけどこれで通す事にした。
スバルも「へー、そうなんだ」と納得してくれたようだ。
「いやいやいや、地球ってそんな技術あるの!?お兄ちゃんの足を一瞬で治すとか、ミッドにも無いレベルの技術なんですけど!?」
「まあまあ。地球って言っても広いからさ。そう言う事もあるって」
「えぇ……」
ティアナは納得できなかったようだが、強引に丸め込んだ。
そんな中、気を取り直すかのようにクイントさんが声を掛ける。
「さーて。もういい時間だし、皆ウチで夕飯食べていかない?」
お。
これ以上言及されても面倒だったし、その提案はありがたい。
俺も乗るとしようかね。
「そう言う事でしたら、俺も料理手伝いますよ」
「えっ!リム姉ごはん作ってくれるの!?やったーーー!」
「リムルさんのご飯……また食べられるなんて、嬉しいなぁ……」
俺が作ると言った瞬間、大食い姉妹がはしゃぎ出す。
それに対し、ティアナとティーダは揃って首を傾げている。
「リムルお姉ちゃんって、料理できたの?」
「ティア知らないの!?リム姉の作ってくれるご飯、ものすっごく美味しいんだよー!」
「おいおい、ハードル上げるなよ……ま、本当の所は食べてみればわかるさ」
シエルさんの作る料理だから、絶対外れないだろうけどな!
その後。
俺(というかシエルさん)の料理を食べて驚くランスター兄妹と、それに構わずおかわりしまくる大食い3人を相手に料理で忙殺される俺の姿があったとか、なかったとか。
「「「おかわりっ!」」」
〜〜〜〜〜
結局、あの後のクイントさんの「折角だし泊まっていきなさい」という一声で、俺とティーダ、ティアナはナカジマ家に泊まる事になった。
今は、ギンガとスバルがランスター兄妹を部屋に案内している最中である。
頃良くクイントさんと二人きりになれたので、今日の目的を果たす事にした。
「クイントさん。俺、ゼストの最期に立ち会いました」
「……話には聞いてたよ。……隊長は、何か言ってた……?」
「……「俺やレジアスが守りたかった世界……お前達は、間違えずに進んでくれ」…と」
「そう……フフッ、隊長らしい、な……」
「ええ。俺が最初に会った時と変わらず、自分勝手で、馬鹿みたいに真っ直ぐな……アイツのままでした」
そう俺が告げると、クイントさんは数秒間目を閉じ、深呼吸をした。
「リムルちゃん」
「はい」
「隊長の死に目を見届けてくれた事、ゼスト隊の生き残りとして……感謝します」
そう言って、クイントさんは深々と頭を下げた。
「……はい。俺も、アイツの……誇りある騎士の最期に立ち会えた事、光栄に思います」
〜〜〜〜〜
それから暫くは、俺はナカジマ家に泊まる事になった。
以前泊まった時と同じように家事の手伝いをしたり、クイントさんと俺でゼストやゼスト隊の皆さんの墓参りに行ったり。
その間、ティアナとティーダはちょくちょくナカジマ家に訪問している。
ゲンヤさんの「どうせだったらウチに住まないか?」という言葉には、二人とも本気で悩んでるようだったが……
二人がどういう決断をするのか、俺は見守ろうと思う。
さて……他の所用も、さっさと済ませてしまおうかね。
〜〜〜〜〜
ある日。
無人世界にて拘束されていたジェイル・スカリエッティと、一部の戦闘機人が唐突に白髪化、発狂するという事件が発生する。
原因は不明。
カメラには何も映っておらず、これが外部犯なのか、それともスカリエッティの用意した何かの策なのかも定かではない。
本人達はそれ以来何かしらの譫言をずっと呟くようになったが、正気では無いと判断された為放置された。
かねてより懸念されていた戦闘機人達の「スカリエッティ化」も特に発生せず、捜査を担当する局員は頭を悩ませる事になる。
「ああ素晴らしい素晴らしいこれが真の美かそして真の恐怖かああ惜しいこれを伝えられない私の糧にできない惜しい惜しい素晴らしい素晴らしいああ美しい素晴らしい____」
リムル様の作るご飯、食べたいなぁ……
ティーダとクイントさんは、過去に致命傷を負った時にリムルの渡した御守りが割れてフルポーションを被る→少量だった為完全回復はせず、身体の一部が機能不全になったけど生き残ったという設定です。
かわいそうな目にあってしまった戦闘機人が誰なのかは想像にお任せします。
犯人はもちろんあの____(文章はここで途切れている
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8話
今回はあの人たちもちょっとだけ出るよ!
From:ミッドチルダ中央区画
機動六課解散翌日。
スバルとティアナに手を引かれ、なんか軍の施設っぽい所に連れられる。
二人が所属してた機動六課は昨日時点で解散した筈だが、俺なんかを連れ込んじゃって良いのかな?
やって来たそこには、年若い少年少女達がいた。
大人もいるが、それでも20代前半といった見た目だ。
この前の事件で見かけた人達も何人かいるので、この子達がスバルの仕事仲間なんだろう。
顔を知らない子達は怪訝そうな顔をしているが、ズバッとスバルが切り出す。
「皆さん、紹介します!こちらが、この前のJS事件で手伝ってもらったリム姉です!」
「俺は男なんだけどな……ゴホン、あー、俺はリムルと言う。ここにいるスバルとティアナの昔馴染みみたいなもんだ。よろしくな」
「あの時はあんまり話できなかったけど、随分別嬪さんなんやなぁ。10年前に活躍した凄腕の嘱託魔導師、地上の影のエース。リムル・テンペストって、アンタの事だったんやな」
最初に反応したのは、この部隊で一番高い階級章を付けた、この前ゆりかご前で出会った女の子だった。
「よくそんな前の事を知ってるな」
「リムルさんの事は、今でも管理局の語り草になってますから」
「うへぇ……」
「あたしはここの部隊長やらせてもらってた、八神はやてって言います。2度目ですけど、お会いできて光栄ですわ。リムルさん」
はやては部隊長をやってるだけあって、出来る女の貫禄を持っていた。
魔導師としての実力もかなり高そうに見える。
次に反応したのは、茶色の髪をサイドテールにした年長組の女の子だ。
「そうなんですか!?私は元スターズ分隊隊長の高町なのはって言います。リムルさん、もし良かったら是非私たちと模擬戦しませんか!?」
「あー……気が向けばな?」
随分と向上意欲の高い子みたいだな、なのはは。
相手にするとちょっと面倒なタイプな感じがしたので、次に移る。
「私はフェイト・T・ハラオウンです。元ライトニング分隊隊長です____」
こんな感じで、サクサクっと各々自己紹介をした。
最後は、シグナムがこっちに一歩踏み出してくる。
「以前にも自己紹介をしたが、私は元ライトニング分隊副隊長のシグナムと言う。私からも是非、模擬戦をお願いしたい。ゼストに打ち勝ったという貴方と手合わせ出来るのは非常にありがたいからな」
シグナムは最初に会った時と変わらず、凛とした風格を持ち合わせていた。
「ああ、アンタか。あの時の事は感謝している。嫌な役目をさせちゃって悪かったな」
「いや……私も武人だ。誇りある騎士として、彼の最期に立ち会えたのは嬉しく思う」
「そっか」
こういうのは、いつまで経っても慣れないな。
逝ったゼストの事を思い浮かべる。
最期の最期まで、自分勝手な奴だったが……シグナムの言う通り、誇りある騎士として最期を迎えられたんだと思う。
俺は、自分の頰をバチン!と叩く。
「よし、わかった!お前達との模擬戦、受けて立ってやる!全員まとめてかかって来い!」
「!」
「感謝する!」
〜〜〜〜〜
Side:スバル
この日。
初めて、リム姉の強さを知った。
あたしが小さい頃に一度だけ、ゼストおじちゃんに勝っていたのは見て知ってたんだけど……
相対すると、その理不尽さがよくわかる。
戦闘開始直後、宙に浮かぶリム姉を見て……あたしはギョッとした。
たぶんだけど、機動六課の全員が同じ気持ちだったんじゃないかな?
砲撃魔法の大規模展開。
おそらくは、1発1発が、なのはさんのディバインバスターに匹敵する威力。
それが、リム姉を中心にして100以上は展開されていたのだから。
それからは、阿鼻叫喚だった。
間断なく降ってくる砲撃を、みんな必死になって避ける。
ヴィータさんからは、「防御しようなんて考えるなよ?そんな事すれば、固まった所を狙い撃ちだ!」と指示されたが、そんなの言われるまでも無かった。
全力でガードすれば、2〜3発は耐えられるだろうけど……おそらく、一度足を止めたら数十発の魔力弾が襲ってくるって直感的にわかったから。
それにしても、隊長陣は流石だ。
あの砲撃を掻い潜りつつ、各々が攻撃を開始している。
けれども……
シグナムさんや、ヴィータさん、フェイトさんが接近するや否や、リム姉は武器も持たない手足で迫るフォワード陣を吹き飛ばした。
さらに、吹き飛ばした直後は砲撃魔法の連射で追い討ちしてる。
その隙に、センターガードのなのはさんとはやて部隊長が遠距離砲撃を撃ってたけど……
「嘘っ!?」
どういった手品なのか……砲撃はリム姉の手前で軌道を180度変えて、なのはさんとはやて部隊長に襲いかかってた。
しかも、この間あたし達への攻撃は一切緩んでない。
一人、また一人と撃墜され……最後は、なのはさんとはやて部隊長、リム姉の
更地になった訓練場で、最後に立っていたのがリム姉ただ一人だったのは、もはや冗談なんじゃないかと笑わずにはいられなかったよ……
〜〜〜〜〜
模擬戦終了!
「いやー、みんな結構鍛えてるじゃん。良い部隊だな、はやて!」
「いやいやいや、一人で全滅させた本人がそういうこと言います!?」
なんだなんだ。
褒めてるのに、素直に受け取らないのは失礼だぞ?。
「あはは……まさか二人分のブレイカーを相殺されるとは思いませんでした……はぁ」
「私たちも……攻撃全部、いなされちゃった……」
なのはとフェイトが沈んでいるが、別に落ち込むことはないと思う。
充分に強かったと思うよ、マジで。
ほんと、よくあそこまで保ったものだ。
「私も、まだまだ剣の腕を磨かなくてはな……次こそは一太刀、届かせてみせる」
「あたしのグラーフアイゼンも、今度は踏み台になんてさせないぜ」
シグナムとヴィータは、リベンジに燃えている。
やる気があって結構な事だ。
「あたし達は、避けるので精一杯でした……あはは……」
「いや、おかしくないですか!?デバイスも使わないで、なんであの数の砲撃を制御出来るんですか!最後にはブレイカーまで撃ってたし!理不尽だぁ……」
スバルは茫然自失してるっぽい。
ティアナはヤケになったのか、俺の理不尽さに対してプリプリと怒っている。
「これが、地上の影のエース……戦闘力は確実にオーバーSと言われてるリムルさんの実力……」
「うぅ、なにもできませんでしたぁ〜……」
「きゅくるー……」
年少組とフリードは呆然としたり、無力さを嘆いていたり。
そんなこんなで、今回の模擬戦は終了したのであった。
〜〜〜〜〜
Side:リムル
「そういえばさ。フェイトにちょっと聞きたい事があるんだよ」
「はい、あの……どうしました?」
「うーん……もしかしてなんだけどさ。フェイトのミドルネームのTってテスタロッサだったりしない?」
「え?……あ、はい。その通りです」
なるほど。
名前を聞いて得心がいった。
そりゃ似る訳だよな。
良い土産話が出来て口元がニヤけるのを自覚しつつ、俺はフェイトの耳元に近づいて言葉を紡いだ。
「そっか……プレシアとアリシアは、今は元気でやってるぜ?」
「え……?」
フェイトが呆けた顔をし、なのはとはやてがピクッと反応したのに対し、俺はさっと身を翻した。
「じゃ、またな!機動六課の諸君!」
「ちょっ……リム姉!?」
「リムルお姉ちゃん!?」
「スバルとティアナも元気でな!」
スバルとティアナが呼びかけてくるが構わず《
機動六課の面々が驚いた顔をしているが、この際無視だ。
「待ってください____!」
フェイトが焦ったように叫ぶ。
だが、いきなり会わせても、おそらくプレシアは心の整理ができないだろう。
会わせられるまでには、もう少し時間が必要だと俺は判断した。
「悪いな、フェイト。今はまだ、会わせられる時期じゃないんだ。今度ウチの国に招待するから、その時にでも会って話をしてやってくれ」
最後にそう言い残し、魔法陣の光が強くなるのと共に俺はこの世界を後にした。
「えっ?えっ?リムルさん、あんた一体何者なんやーーー!?」
俺が居なくなったその場には、はやての本気の叫びが響いていた____
〜〜〜〜〜
それから暫くの間、フェイトを中心としてリムルの捜索が行われたが、成果は出なかった。
第97管理外世界《地球》出身との情報から、現地の協力者、アリサ・バニングスと月村すずかの協力の元、捜索しても結果は出ず。
結局、リムルの地球出身という話は嘘だったんじゃないかという結論になって、捜索は終了したのであった。
〜〜〜〜〜
From:《
「クフフフフ。おかえりなさいませ、リムル様」
「おう、ディアブロ。出迎えご苦労さん」
優雅に目の前の執事が一礼する。
こいつはディアブロ。
俺の配下の中でトップクラスの実力を持つ、悪魔だ。
「プレシアはいるか?」
「プレシア殿でしたら、いつもの場所にて作業中でございます」
「そっか。あんがと」
「クフフフフ。もったいなきお言葉です」
いつもの場所っていうと、魔導具開発の研究所だな。
プレシアにはそこで魔石に代わる高密度エネルギー体の開発研究を行ってもらっている。
本人が言うには、
話が少し逸れてしまったが、今日はそんな活躍をしているプレシアに話があるのだ。
お、プレシア発見。
「よっす、プレシア。今ちょっと時間いいか?」
「あっ、リムル陛下!はい、今でしたら大丈夫です」
そう言って微笑むプレシア。
30代と言っても信じられそうな見た目の彼女は、実は60代だったりする。
最初に会った時と比べて、随分と若返ったモノだ。
俺は病気に蝕まれてた身体を治してフルポーションを飲ませただけなのだが……
今ではお肌ツヤツヤ、シワもほとんど見えない、若奥様状態になっていた。
何があってそうなったのかは不明だが、女性とは不思議なものだなぁとしみじみ思う。
おっと、また話が逸れた。
さて、本題に入るとしようか。
「ミッドチルダでフェイトに会ったよ」
「!……それで、あの子はどうしてましたか……?」
プレシアの声が震える。
「幸せそうにしてた。今では大切な家族がいるって」
「……そう、ですか。……よかった……」
おそらくだが、プレシアはフェイトに対して負い目を感じている。
過去の記録を見た限りだと虐待のような事もしてたみたいだし、仕方ないだろうが……
それでも、切り込む事にした。
「俺はそのうち、フェイト達をこの国へ招待しようかと思ってる」
「!!……そ、それは……」
「悪いけど、これは決定事項だ。その上で、プレシアに聞くぞ。お前はあの子に会う気はあるか?」
プレシアは押し黙ってしまった。
本人に会って謝りたい気持ちと、そんな事をしてもただの自己満足なんじゃないかという気持ちがせめぎ合っているように見える。
「申し訳ありません、陛下……少し、考えさせてください……」
か細く、頼りない声で、彼女が返事をした。
俺はそれに頷くと、軽くプレシアの肩に手を置く。
「うん、じっくり考えてくれ。ま、俺の予想だと、会ってもそんなに悪い事にはならないと思うよ?気楽に考えてこうぜ」
「フフ……陛下の仰る事なら、本当にそうなりそうですわね。……ありがとうございます、リムル陛下」
「おう」
俺はニシシと笑って、その場を後にした。
〜〜〜〜〜
「あー!リムル、今までどこ行ってたのよさ!」
「そうだぞ、リムルよ。折角我らで”デバイス”とやらを作ってみたのに、見せびらかす事ができないではないか!」
プレシアの研究所を出ると、早速やかましいのに捕まった。
妖精王女で俺と同じ魔王のラミリスと、竜種で俺の友達のヴェルドラだ。
というか、気になる単語が聞こえたような……
「ん?デバイス作ったって……マジで?」
「クアハハハ!驚くがいい、リムルよ!」
「アタシと師匠の技術の真髄を!」
「「セーット・アーップ!!」」
カッと二人が光に包まれる。
これは____!
なんと、目の前には服装の変わった二人がいた。
ヴェルドラは黒騎士然とした格好になり、ラミリスは魔法少女っぽいようなファンシーな格好になった(元々ファンシーな感じだけど)。
その服装の効果は、耐衝撃、対魔法と、立派な防護服になっていた。
「おお、バリアジャケットを再現したのか!それで、デバイスには他にどんな魔法を登録してるんだ?」
「クアハハハ、もちろん用意してあるとも」
「見ててよね!ミラージュハイド!」
言葉と共に、ラミリスの姿が消える。
「クアハハハ!ラウンドシールド!」
ヴェルドラが目の前に光の盾を出す。
解析してみたが、驚くことに本当にデバイスが全て自動で処理を行っているらしい。
この仕組みは……
「なるほど。刻印魔法を使ってるんだな。薄い魔鋼のプレートに刻印して、複数枚をデバイスの中に入れてるのか」
「もう見破るか。流石だな、リムルよ」
「まあ、これくらいのサイズのデバイスだと、5枚くらい入れるのが精々なんだけどね」
ふむふむ。
プログラミング言語といった高度な文明の無い中では及第点といった所か。
「今後の課題は、魔鋼プレートの小型化と刻印魔法の自由な書き換えって所かな?」
「うむ。しかし……自由度で言ったらやはりリムルの
「そうなんだよねー。
そう……今の課題は正にそこなのだ。
「となると、今後は刻印魔法の書き方も変えていく必要があるな。たとえば、魔法を立体的に刻印して、その中に複数の魔法を持たせたりしたらどうだ?」
「なるほど!それで魔力を通す場所によっては使える魔法が変わったり____」
「クアハハハ!その仕組みであれば我にもわかるぞ!後は魔鋼をそのように加工する技術が必要だな____」
「ふむ。それだったら、こんなやり方はどうだ____?」
などなど……どんどん議論を進めていく。
議論の途中でシュナに捕まって仕事に向かったりもするが、まあ概ねいつもどおりだ。
こうして、《
フェイトには悪い事をしたが、もう少し待ってほしいと思う。
俺だって、懐いてくれる子供達にまた会いたいしな。
「ま。また今度って事で____またな」
これにてストックが無くなりましたので、毎日更新は一旦終了となります。
これからも書き上がり次第随時更新していく予定ですので、よろしくお願いします。
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幕間 《魔国連邦》での1日
今回はいつもと違う形式の文なります。
Side:アリシア
こんにちわ!
あたしはアリシア・テスタロッサ。
今は8歳で、テンペスト人材育成学園の初等科2年生。
《
得意科目は算数と魔法で、苦手なのは国語かな。
算数と魔法はママ譲りの才能(ってママが言ってた)でなんとかなるんだけど……言葉が以前住んでた所と違うので、国語は苦手。
最初の1年はママと一緒に学園で学んでました。
前住んでた所?
うーん、あたしはあんまり覚えてないんだけど、ミッドチルダっていう、こことは違う世界だったらしいよ?
物心ついた時には《
アタシが5歳の時にママと一緒にこっちに引っ越してきたらしいんだけどね。
リムル陛下に誘われてこっちに来たんだってー。
フッフッフ、驚いた?
そう!
なんと、あたしとママはリムル陛下にお誘いいただいたのです!
まぁ、あたしは覚えてないんだけどね。てへへ。
さて、今日はそんなあたしの1日を紹介しちゃいます!
えーとね。
まず、朝はママと一緒に起きるの。
それで、洗面所で顔を洗って、歯磨きして、それから朝ごはんの準備。
あたしはお皿とかコップとか出して、ママが魔石コンロでお湯沸かしてお茶を入れたり、パンを焼いたりするの。
あたしが好きなのは、ルベリオス産の麦を使ったパンに、
他の家だと、朝は絶対
朝ごはんを食べたら、ママとあたしはお出かけの準備をするの。
あたしは学園に行くから教科書とかを用意して、ママはお仕事の準備。
ママのお仕事?
えっとね、たしか”魔導具研究所”って所でいろんなの作ってるんだって。
作ってるものは、”しゅひぎむ”?っていうのがあるから言えないらしくって、あたしは聞いてないんだけどね。
でも、あたし達の暮らしをもっともっと便利にするためのお仕事してるって言ってたから、きっとすごい事やってるんだよ!
いっつも優しいし、自慢のママなんだ。
それでね。
あたしは学園へ向かって、ママはお仕事に
フッフッフ、よく聞いてくれました!
《
文字通りの迷宮で、中は複雑な迷路!
そして、10階層毎にはそこを守る
冒険者の人たちは、ここで魔物の素材や、宝箱に入ってるお宝とかを手にいれてお金を稼ぐんだって。
え?
とっても危ない場所?
そんな事ないよー。
ほら、
あれは《復活の腕輪》って言ってね。
あれをちゃんと装備してると、
でも、
リムル陛下のお友達の、魔王ラミリス様の力が届く場所じゃないとダメだって、学園で習ったもん。
ラミリス様はどんな人かって?
えっとね、お母さんの上司?だからあたしもちょっと会った事あるんだけどね。
ちっちゃくてかわいいの!
ケーキが大好きで、いっつも飛んでて、元気いっぱい!
妖精女王様ってだけあって、妖精や精霊、ドライアスの人達もとっても尊敬してる。
そんでね、すっごく頭いいんだって。
しかも
あ、話がずれちゃったね。
なになに?
ママはなんでそんな所に仕事に行くのかって?
えっとね、
街は、なんか偉い人とかが泊まる場所なの。
とってもいい所って聞いたんだけど、どんな所かはわかんない。
いつか行ってみたいよねー。
で、ママは研究所に行くの。
”こっかきみつ”になるから、どんな事してるのかは内緒だって言ってたけどね。
さてと。
次は学園だね。
さっきも言ったけど、あたしの行ってる学園は”テンペスト人材育成学園”って言うの。
《
すっごく小さい子とかはさすがにいないけど。
あとは、大人の人たちもいっぱいいるね。
国語や算数ができないと仕事ができない事があるから、みんな一生懸命勉強してるの。
あたしも国語が苦手だから、大人になった時のお仕事とかちょっと心配……
うん!きっとなんとかなる!がんばるもん!
褒めてくれるの?
えへへ、なんかうれしいな。
うん、がんばるよ!
あ、そうそう。
学園では国語や算数だけじゃなくって、音楽や美術、図工なんかもやるんだ。
ここで音楽の才能を見つけて音楽家になる人とかもいるんだよ?
すごいよねー。
あとはね、魔法と戦闘訓練とかもあるの。
あたし、魔法は得意なんだー。
いっつも成績で花丸!
でも、戦闘訓練はちょっと苦手。
すぐにへとへとになっちゃうんだよね……
いいもん。
将来は冒険者じゃなくって、ママみたいな研究者になるつもりだし!
ん?
見かける人たちで人間が思ったよりも少ない?
そりゃそうだよー。
だってここは《
元々は、魔王リムル陛下の作った魔物の街なんだから。
え?
魔物ばっかりで怖くないのかって?
大丈夫だよ。
みんな優しいもん。
隣の家のゴブリナのロロナちゃんはあたしの親友だし、向かいの家のハイオークのキーゴくんは頼りになるし。
学園でも友達いっぱいいるんだよ。
楽しそう?
うん、楽しいよ!
もし、学園に入る事があったら、あたしが案内してあげる!
お昼ご飯もおいしいしね。
あ、そうそう。
ウチの学園では、給食制度ってのがあるの。
お昼ご飯を学園が用意してくれてね。
午前にいっぱい勉強した後に食べる給食はとっても美味しいんだ。
たまーにシュナ様が作りに来てくれる事もあって、その時はみんなでお祭り騒ぎになったりして。
あと、ほんっとーにたまにしか食べられないけど、ハクロウ様の握ってくれる”お寿司”っていう料理も大好きだよ。
海のお魚を生のままで、ご飯と一緒に食べるんだけどね。
とってもおいしいの!
いつもはパン派だけど、お寿司の時だけはあたしもご飯派になるんだ〜。
給食を食べたらお昼休み。
この時は仲のいい子たちとかと一緒に遊ぶの。
最近だと、魔力お手玉とか、魔力キャッチボールとかしてるよ。
え?
危ない?
そんなことないよー。
当たってもちょっと痛いくらいだもん。
あ、信じてないなー。
それじゃ試してみよ?
えいやー!
…………
ほらね?
全然痛くないでしょ?
え?痛くはないけど、いきなりでびっくりした?
あ、あはは……ご、ごめんなさい……
…………
えーと、気を取り直して!
お昼休みの後は、また授業があります。
午前中が必須科目で大体みんな同じ授業を受けるんだけど、午後は選択式なの。
自分の好きな事を授業で学べってリムル陛下が言ったからこうなったんだって。
あたしはママみたいな研究者を目指してるから、魔導工学をやってるよ。
魔鋼に刻印魔法を付与したり、どんな物に魔力が通るのか、通らないのかとか実験したりするんだ。
よく、難しそうって言われるけど、最初からやってみるとそうでもないんだよ?
興味があったらやってみてね!
それで、午後の授業が終わったら帰ります!
友達と遊んだりとかもするけど、あたしはあんまり遅くまでは遊ばないかな。
ママが帰って来るまでにおつかい済ませなきゃいけないもの。
帰り道でお野菜とかパンとか、ママの書いたメモどおりに買い物して、お家に直行!
それでね、外が暗くなり始めたくらいにママが帰って来るから、夕食の準備を手伝うの。
その後は、ママと一緒にご飯食べて、お風呂に入って、歯磨きして。
最後にママと一緒にベッドに入って、一緒に寝るの。
〜〜〜〜〜
一通りの話を終えて、元気よくアリシアが振り返った。
「はい、あたしの1日はこんな感じです!どうでした?
「うん。元気一杯で良い子だね、アリシアちゃんは。とっても良いお話聞けました、ありがとうね」
フェイトは優しげな笑みでアリシアを見つめて、その話に聞き入っていた。
「この後ママの所に差し入れ持って行ってやれってリムル陛下にこれもらったんだけど、フェイトお姉ちゃんも一緒に来る?」
そう言ってアリシアがケーキの入ったバスケットを掲げた。
対し、フェイトは迷ったような仕草をしている。
「えっと……いいの?」
「うん!リムル陛下が「フェイトも一緒に連れてくといいよ」って言ってたもん!」
フェイトは逡巡するが____
「うん、わかった。一緒に行こう、アリシアちゃん」
〜〜〜〜〜
その後。
真相は当人達のみが知るべきなのだから。
その後の親子の会話がどうなったのか、それは読者様の想像にお任せします。(丸投げとも言う)
リムル様の予想通り、「悪くない」結果だと、私は思うんですけどね。
ちなみに今回、フェイトは一人で《
親子との会話は1対1が良いだろうとリムル様が気を回してフェイトを拉致____げふんげふん。連れて来たからですね。
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