デート・ア・ライブ 士道ウィザード (みたらし団子が好き)
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プロローグ

妄想を小説にした結果こうなった。
小説を書くことに関しては素人なのであまり期待しないでください。


特殊災害指定生命体―――――精霊

 

この世界とは異なる隣界に存在する謎の生命体であり、こちらの世界に現れる際に空間震という大爆発を引き起こす。

空間震の規模はその時々によって変わるが大きなものでは大陸に穴が開くレベルの、甚大な被害を巻き起こす。

発生原因、存在理由、ともに不明。絶大な戦闘能力を有しており討伐するのは非常に困難である。

またその存在は世間においては秘匿されておりその存在を知っている人間は少ない。

 

そして人類は精霊に対抗すべく科学技術の粋を集め30年前あるテクノロジーの開発に成功した。

「顕現装置」これはコンピューターの演算結果を現実の世界に再現する。

要するに、科学で魔法を再現する機械と言う事だ。

まさに奇跡といっても過言ではないこのテクノロジーは軍事や医療などの様々な分野で大いに貢献した。

そしてその顕現装置を使い精霊に対処する部隊が存在する。

 

アンチ・スピリット・チーム―――――通称「AST」

 

その名の通り精霊を殺すことを目的とした自衛隊所属の特殊部隊である。

CR-ユニットと言う顕現装置を戦術的に運用するための装備を用いて精霊を残滅する存在……………そのハズだった。

 

魔法ような力を使えるようになっても精霊の、無敵に等しい絶対的な力の前では無力だった。

人間が背伸びして勝てるほど精霊は甘い存在でなかったのだ。

ASTでは精霊が現界したら出動するものの精霊に有効打は与えられず、という状況が延々と続いていた。

 

スペシャル・ソーサリィ・サーヴィス―――――通称「SSS」

 

ASTと同じく精霊を殺すことを目的としている対精霊部隊。

もしASTと違うことを挙げるとすればSSSはイギリス陸軍所属ということだろうか。

つまりSSSはイギリス版ASTと言えなくもない。

 

いずれにしろ精霊にとってはASTもSSSも大した脅威にはなりえなかった。

ある男がSSSに入隊するまでは。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

カタカタとパソコンのキーボードを叩く音が部屋に響く。

その部屋の中にはベットと本棚、机と椅子があり机の上に一つのノートパソコンが置いてある。

特におかしいものはない。

至って普通の部屋だ。

 

「んー……これはいらないか」

 

彼はノートパソコンの画面に映ったものを品定めするように見るとそういい、それを削除した。

椅子には一人の少年が座っている。

身長は大体140cmぐらいで髪の色は青みがかかった黒だ。

これまた普通の子供だ。

 

最も彼がやっていることを知れば普通なんて言葉は出なくなるだろうが。

彼がやっている事を一言でいえば「情報屋」だ。

依頼された情報を盗みその情報を依頼主に渡す。

それが情報屋だ。

つまり彼は法に触れていてもおかしくない事をしているわけだが。

彼は今、手に入れた情報が入ったファイルを整理していた。

すると。

 

「?なんだこれ」

 

彼は異変に気が付くとその手を止めた。

どうやら彼が今、内容を確認しようとしたファイルにはロックがかかっていたらしい。

この手のものは大抵、機密性が高いものだ。

彼はこれに変なプログラムが入っていない事を確認すると、ロックを解除し始めた。

 

「さてさて何が入ってんのかな」

 

彼は面白そうにノートパソコンの画面を見ている。

機密情報は高く売れる為とても貴重なのだ。

今の彼はさながらプレゼントを開けようとしている子供のようだ。

 

「おっ開いたさてどんな内容なのか―――――は?」

 

彼はそこで体の動作を完全に止めた。

口は半開きになり呆けた顔をしている。

ここがマンガの世界だったらポカーンという効果音が付きそうだ。

後の彼は思う、ここが分岐点だったのだろうと。

 

「精……霊?」

 

彼の名前は五河士道。

後に世界最強の魔術師になり、いずれは世界を、ひいては精霊を救う人間だ。




士道を強くしたかった。

アドバイスや文句などは感想欄に書いて下さい。
次の更新日は早くて一週間以内、遅くて1ヶ月後です。


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士道ウィザード
どうしてこうなった


本当は昨日投稿する予定だったんだけどアニメ見たりしてさぼってた。
うまるちゃんR終わっちゃって悲しい。



ロンドン。

世界屈指のグローバル都市であり、世界をリードする金融センターでもあり、タワーブリッジやビッグ・ベンなどの観光名所を有するイギリスの首都だ。

 

その郊外にはイギリス陸軍の基地がある。

表向きはただの軍事基地だとされている。

それはある意味間違ってはいない。

“ただの“という文章が抜ければの話だが。

 

ここの軍事基地では魔術師(ウィザード)といわれる少年少女たちが訓練を積んでいた。

その訓練内容は様々だ。

レイザーブレイドを素振りして戦闘の訓練をしている者。

周囲に随意領域を展開して随意領域(テリトリー)の操作能力を高めている者。

はたまた疲れて膝をついている者など本当に様々だ。

 

その魔術師(ウィザード)達が訓練している区画の一角に彼はいた。

その少年は訓練内容における前者に分類される。

レイザーブレイドを振り下ろしては上げる。

振り下ろしては上げる。

その繰り返しだ。

 

少年にはひとつ、訓練しているほかの魔術師達とは違う点があった。

ほかの魔術師達は着用型接続装置(ワイヤリングスーツ)を体に纏っているが少年はそれに加えヘルメットとマスクを着用している。

戦闘用なのか異様にゴツゴツしている。

 

その少年、五河士道はレイザーブレイドを素振りしながらSSSに入ってまだ一度も見たことのない未知の存在、精霊について考えていた。

それとともに今の自分の現状についても。

彼は周囲に人がいなかったら声を大にして叫びたかった。

 

「どうしてこうなった!」と。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

今から遡ること1カ月

 

精霊の存在を知ってしまった士道は抑えられない好奇心から精霊についての事を調べてしまった。

そして士道はすべてを理解した。

空間震の真相、精霊の人知を超えた力についての事を。

こんな国家機密レベルの重大な情報を知った士道の第一声は。

 

「精霊……すげぇ」

 

常人なら「こんなことを知ってしまったどうしよう」なんてことを考えるのだろうが士道

の頭にそんな思考は微塵も浮かばなかった。

彼が抱いたのは、未知への興味だった。

わかりやすくいえば、普通の生活をしていたら突然目の前に火を吹くドラゴンが現れた。そんな感じだ。

たとえ話だがそんなことが起これば人は興味がわくだろう。

話を戻すと士道は精霊に興味を持ち、そして実際に見てみたいと思ってしまった。

そしてあわよくば戦ってみたいと。

 

「でもどうやって見つけるか……」

 

精霊は見ようと思って見れるようなそんな存在ではない。

それは士道もわかっていることだ。

 

「んー……ダメだ思いつかねえ」

 

そうやって士道がうんぬん唸っていると。

 

「?なんだこれ」

 

パソコンの画面に映っていたある資料が目に留まった。

 

「対精霊部隊?」

 

その資料には対精霊部隊に関することが書かれていた。

資料を読んだ士道はあることを思いついた。

 

「そうだ!魔術師になればいいんだ」

 

魔術師になって対精霊部隊に入れば精霊をわざわざ探す必要がなくなるのだ。

おそらく一番、単純明快な解決方法だろう。

 

そうとなれば話は早い。

士道は早速、準備を始めた。

 

まずどの国の対精霊部隊に入るかだが士道はSSSを選んだ。

調べたところ現状、一番精霊が出没するのは欧州らしいのでSSSを選ぶのは当然だろう。

利便性を重視するのならAST一択なのだが士道の目的は精霊を見ることなのでASTを選ぶ選択肢は士道にはなかった。

 

次に士道は、偽の戸籍の確保を始めた。

イギリス海軍の特殊部隊であるSSSに日本人の士道が入れる訳がないため、イギリス人の戸籍がどうしても必要なのだ。

これに関してはどうにかなった。

情報屋としてのコネクションを利用することで偽の戸籍は手に入れることができた。

まあもちろん、まともな手段で手に入れたものではないが。

 

そして士道は一番重要なもの、移動手段を探し始めた。

言うまでもないがSSSがあるのはイギリスだ。

たとえSSSに入れたとしても、イギリスに行けなければ意味がないのだ。

 

だがイギリスと日本は簡単に行き来できる距離ではない。

イギリスと日本は海とユーラシア大陸を挟んで10000kmに届くほど距離が離れている。

「ちょっとコンビニ行ってくる」みたいなノリの軽さで行けるほど近くない。

当然だが士道には家族がいる。

そのためずっとイギリスにいるなんてことはできる訳がない。

イギリスと日本を簡単に行き来するなんてそれこそ魔法でもない限り不可能だろう。

 

だから魔法を使うことにした。

 

 

 

―――――転送装置

顕現装置(リアライザ)を流用して作られたものだ。

これがあればまさに瞬間移動のようなことが出来るようになるのだ。

 

だが某ネコ型ロボットが出すピンク色のドアのようにどこでも行ける訳ではない。

わかりやすくいえばA地点からB地点にはいけるがC地点にはいけないということだ。

まあ観光名所巡りをするために買った訳ではないので別に構わないが。

 

つまり日本からイギリス、イギリスから日本にしかいけない。

だがその代わり日本からイギリスという超長距離を簡単に行き来できる。

流石に長距離すぎるので数分ほどのラグがあるらしいが誤差の範囲だろう。

大きさは士道の部屋のクローゼットに何とか収まるぐらいの大きさだ。

これも、もちろん真っ当な手段で手に入れたものではない。

 

あと買った理由は見た目が非常にメカメカしておりそれを士道が気に入ったという理由もある。

 

因みに転送装置というのはかなりのお値段がするものでこれを手に入れるのに士道がいままで情報屋として稼いだ金額の8割強が消えていった。

 

そして最後にSSSに入れるかどうかだが、これは大した問題にはならなかった。

面接とCR-ユニットの使用適性検査をしたが、面接官いわくCR-ユニットの適性値がとても高いらしいので特にくわしい面接もされず即採用となった。

どうやらSSSはかなりの人員不足らしい。

 

何はともあれここまで来るのに半月程かかった。

だがしかし日本から遠く離れたイギリスの地で、士道は自分の見通しの甘さを痛感することになった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「どうしてこうなった」

 

誰にもわからないぐらいの小声で士道はそういった。

 

精霊に会えると思ったのも束の間、待っていたのは訓練ばかりだった。

確かに士道はSSSに入隊したての新人だ。

精霊と戦う為には訓練が必要だろう。

士道もCR-ユニットの使い方ぐらいは知っておこうと思い真面目に訓練していた。

 

だが訓練を初めて2週間が経過しても精霊が現れたなんて話は聞いたことがなかった。

もしかしたらずっと訓練しっぱなしになるんじゃないかと嫌な想像が頭によぎるが士道はレイザーブレイドを素振りすることでその想像をかき消した。

そして士道はふとレイザーブレイドを構えるのをやめ、開いていた足を揃えそして。

 

「ハァ~」

 

士道は今の状況を悲観するように大きくため息をつくのであった。

そして心の底から願った。

精霊が現界しますように、と。




転送装置に関しては完全に独自設定です。

因みに今は原作の7年ちょっと前です。
あと士道くんがいつ五河家に引き取られたかということは原作にも明確に記されていないので、ここでは原作の12年前ということにしています。

次回は1人称視点でも書いてみようかな。


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訪れる機会

またアニメやら小説やら見てたら遅くなっちゃった(・ω<)てへぺろ
Fate/Apocryphaの最終回がとても良かった。
サブタイトル考えるのが地味に難しい。




その部屋は約六畳ほどの広さだ。

簡素なベットとクローゼットがある。

まるで一人暮らしをしはじめたばかりの人の部屋のようだ。

 

部屋のすみに近未来感を醸し出しているメカメカしい機械が置いてなかったらの話だが。

そして部屋には一人の少年がいる。

その少年は今ヘルメットとマスクを顔に着けている最中だ。

そしてヘルメットとマスクをつけ終わると言葉を発した。

 

「こりゃどうしたもんかね?」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

この俺、五河士道がSSSに入隊してから3カ月が経った。

いまだに精霊は一度も現界していない。

 

………なんでだ

 

欧州って一番精霊がでるんじゃないのか?

今のところ精霊の影も形もないのだが。

なんで俺はSSSを職場に選んでしまったんだ。

 

この3カ月ずっと訓練を毎日してただけで何も変化はない。

あえて変化を指摘するとすれば訓練内容に模擬戦闘が加わったぐらいだ。

因みに模擬戦の戦績は俺がトップだ。

こんなところでなんとなくやっていた剣道が役に立つとは思わなかった。

CR-ユニットの操作能力も順調に上がってるし一応訓練の意味はある。

 

「あるん……だけどな」

 

士道は不服だった。

精霊が現界しないことが。

これではSSSに入った意味がない。

 

「やばっ!もうこんな時間か」

 

士道が時計を見ると時間はもう午前10時を少し過ぎていた。

 

「早く行かないと」

 

士道はドアを開け足早に訓練区画に向かう。

訓練が始まるのは午前10時からだ。

士道は少し遅れている。

 

因みに今日本の時間は午後7時ぐらいだろう。

日本とイギリスは遠く離れている。

そのため時差というものが生じる。

日本のほうがイギリスより時間が9時間早く進んでいるのだ。

 

ついさっき士道は、五河家の食卓で夕ご飯を食べていた。

食べ終わったらすぐ風呂に入りそのあと転送装置でイギリスまで来たのだ。

そしてSSSの訓練はイギリスの時間で言うと午後5時に終わる。

そのあと日本に帰ったら、日本は午前2時の真夜中だ。

士道は5時間ほど寝たら、起きて学校に向かう。

かなりのオーバーワークだが徹夜慣れしている士道にはそこまで苦でもなかった。

 

士道は自分がイギリスで住んでいる軍事基地の寮を出ると、舗装された道に出た。

道の脇には木が埋められている。

士道はその道を小走りで走りはじめた。

 

士道はイギリスでは寮生活をしている。

本当ならもっと広い部屋で3人と共同生活をすることになるのだが、士道は無理を言って一人部屋にしてもらっている。

転送装置を見られると困るからだ。

 

余談だが、士道はイギリスにおいても友達が一人もいない。

それどころか知り合いもほとんどいない。

精々上司であるSSSの部隊長ぐらいがいいところだ。

士道に友達ができない理由は士道がゴツいヘルメットを着けてる変な奴だと思われているのが原因だ。

 

約30名ほどいる新人魔術師の中でも唯一ヘルメットとマスクなんてものを着けている士道は浮いているのだ。

それも悪い意味で。

そして士道はそのことにまったく気付かない。

 

士道は寮を出てから数分程で訓練区画の敷地内に入った。

そこで士道は空を見上げた。

そこには空を駆ける戦闘機の姿があった。

訓練区画からは近くの空軍基地から離陸していく戦闘機が見えることがある。

士道はSSS入隊したばかりのころはあれを見るたびにニヤけそうになっていたことを思い出した。

 

「何かいいよな、ああいうのって」

 

士道は少しずつ遠くなっていく戦闘機を見ながらそう呟く。

 

「ってこんなことしてる場合じゃないな」

 

士道はふたたび歩みを再開させる。

そこからは1分もかからずいつも訓練をしている場所についた。

しかしそこにはいつもはない姿があった。

さっき話に出てきた士道の唯一の知り合いのSSS部隊長、サミュエルだ。

従軍したこともある経験豊富な人らしい。

階級は大佐だ。

大佐は士道に気付くとすぐに声をあげた。

 

「おいシドウ遅刻だぞ!早く来い」

 

シドウというのはイギリスにおける士道の名前だ。

フルネームはシドウ・ウォーリバー。

シドウはそのまま、ウォーリバーと言うのは自身の名字である五河を英語にしただけ、とかなり安直な名前だ。

現地人からは変わった名前と思われるだろうが、正体がバレることはないだろう。

無論、士道は自分が日本人だとバレる事は避けなければならない。

その為のヘルメットとマスクだ。

 

「すいません遅れました」

 

士道が少し遅れるのは日本の生活の都合上仕方ないのだがもちろんそのことを言う訳にはいかない。

 

「お前よく遅刻するよな……まあ今日はいい」

 

どうやら今日は許してくれたようだった。

 

「そういえばここに隊長が来るなんて珍しいですね。何かあったんですか」

 

士道は聞きたかったことを聞いた。

普段なら隊長は訓練区画にはこないはずなのだが何故か今日はいる。

そしてほかの魔術師(ウィザード)達もこの時間ならいつも訓練をしているはずなのに今日は全員一つの場所に集められている。

しかもみんなざわついており落ち着きがないようだ。

 

「ああ非常事態だ。」

 

そういわれて士道はほかの魔術師(ウィザード)達がざわついている理由がよくわかった。

非常事態なんてこの3カ月の間に一度もなかったからみんな緊張してるんだろう。

士道はそう思うと隊長に詳しい話を聞いた。

 

「へぇ非常事態なんて俺たちが入ってきて初めての事じゃないですか。まさか精霊でも現れたんですか」

 

士道は冗談5割期待5割でそう言う。

 

「……そのまさかだ」

「………………えっ」

 

士道は隊長の言葉に目を見開く。

 

「つい30分前ここから100kmほど離れた町で空間震が起こった。精霊も現れたとのことだ」




ああ、書くの大変だった。
現状士道くんはちょっと厨二気味です。
ノートに設定を書き込むよりはまだマシ。
次回は天使がかなりチートな精霊が出ます。


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精霊退治

この小説の投稿頻度は、一週間以内に一話を目指してます。
理想は数日に一話投稿です。

毎日投稿してる人の凄さを自分で書いてみて改めて感じました。
僕はどれだけ頑張っても数日が限界です。

あと昨日から学校始まったんで投稿速度落ちるかもしれません。


その町はつい数時間前まで栄えていた。

いろんな場所にスーパーマーケットやATMがあり、町の中心部にはそこそこの高さを誇るビルが建っている。

ロンドンほどではないがそれなりの規模の都市だろう。

だがその町には不自然な点が幾つかある。

 

町の郊外に不自然な穴が空いているのだ。

直径は約30mほどだろうか。

まるでその部分だけえぐりとられたようだ。

 

この現象の正体は空間震。

空間の地震と称される突発性の広域災害だ。

その正体はある存在が現界する時の余波なのだがそれを知る人間は極めて稀だ。

 

そしてこれまた不自然なことに自動車の騒音や人の声はまったく聞こえない。

風の吹く音がビュウビュウ鳴っているだけだ。

その理由は空間震によってここに住んでいる人間が避難したに他ならない。

 

しかしこれまた不自然なことがある。

避難して人がいないはずの町に一人の少女がいるのだ。

灰色の髪にターコイズの瞳を持ち修道服のような服を着ている。

現代では珍しい服装だ。

 

その少女は何かをするわけでもなく悠然と街中を、しかもアスファルトで舗装された車道歩いていた。

そのまま歩いていると少女は十字路にたどり着いた。

そして少女が十字路のちょうど真ん中に差し掛かると。

 

ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド

 

弾丸の嵐が少女を襲った。

かなりの威力だ。

あっという間に周囲の建物は穴だらけになり道路も街路樹もボロボロになっていく。

 

少し経つと弾丸は止んだ。

さっきまでとは見違えた光景になっている。

特に十字路の真ん中は地面がデコボコになっており土煙が立っている。

それから間もなく土煙が徐々に晴れていく。

 

そこからは無傷の少女が現れた。

 

あの弾丸の嵐を身に受けて死んでいないどころか傷一つ、ついていない。

それもそのはず。

あの少女に銃弾なんてものは効かない。

牽制にすらならないだろう。

 

なぜなら少女は精霊だから。

 

―――――霊装

 

精霊の身を守る絶対の盾だ。

一見するとなんてことのない修道服でも精霊のそれはまさに城壁のような防御力を秘めている。

 

弾丸の嵐の掃射から少し経つ。

すると周囲の建物の残骸、もしくは空から数十人の人間が空を飛び、出てくる。

何故か女性が多い。

全員SF映画に出てきそうなメカメカとした装備を身に纏っている。

その人間達はすぐに次の行動を開始した。

 

空を飛んでいる人は身の丈ほどもある巨大なガトリング銃を精霊に向けて構え、地上に居る者は手に持っている銃をしまいレイザーブレイド―――ノーペインを手に持つ。

 

彼ら、彼女らは魔術師(ウィザード)

精霊を殺すことを目的とした特殊部隊。

 

今ここで精霊と魔術師、人知を超えた力を持つもの同士がいま、まさに激突しようとしていた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

―――精霊マジヤベェ

 

俺はサミュエル大佐から精霊出現の報を聞き、その場で飛び跳ねて喜びたくなる衝動を抑え、CR-ユニットを装備してすぐに空間震の起こった場所へ向かった。

 

精霊は空間震を起こした後特に何かをするわけでもなくただ街中を歩いているだけだったのですぐに作戦が立案された。

十字路で精霊を待ち伏せて精霊が来たところで全方向から銃弾を浴びせるという作戦だ。

単純な策だが強力ではある。

 

予測通り精霊は十字路に来たから作戦は開始されたんだが案の定、全然効いてなかった。

俺は全然手応えを感じられなかったのから途中で撃つのをやめた。          まあ俺一人が撃ち続けた所で結果は変わらんだろうしな。

それで銃が効かなかったから次はレイザーブレイドで接近戦が繰り広げられて今に至る。

 

―――ハズだったのに

 

なんか精霊に接近した人の挙動がおかしいんだ。

精霊とは明後日の方向に走ってしまう人が居たり、全く動かない人が居たり、挙句の果てには同士討ちをしている人まで居る。

 

(なんだこれ?)

 

よく見てみると精霊が、持ってる本にペンで何かを書いている。

あれはおそらく天使だろう。

精霊が持つ究極の矛だ。

どういう能力を持っている天使なのかは不明だが大抵はチート極まりない代物だ。

 

(本に何かを書くとなると、もしかすると本に書いたことが現実になるとか?)

 

もしそうだとすればあの天使はガチート認定されることになる。

精霊マジヤベェ、である。

仮に俺の予想が当たってるとしたら気付かれないように不意打ちを狙うのが一番簡単な対策だが。

 

(とりあえず後ろから攻撃かけてみるか)

 

そういってる間に他の魔術師達は精霊によって鎮圧されてしまった。

 

(いまだ!)

 

士道は、全員倒したと思い込んでいる精霊の背後から攻撃を仕掛ける。

 

だがその攻撃は失敗に終わった。

 

レイザーブレイドがあと少しで当たろうとした瞬間、精霊が後ろに振り向いたのだ。

精霊は驚異的な反応速度で、士道の攻撃を避ける。

すると精霊は士道に蹴りを入れる。

反応の遅れた士道はその攻撃を避けることが出来なかった。

 

「ぐあっ!」

 

精霊の蹴りは士道の腹部に突き刺さった。

士道は吹き飛ばされるが途中踏ん張る事によってなんとか衝撃を殺す。

すると精霊が疑問を持つような顔をする。

 

「あれ?おっかしいなー。あたしの攻撃が当たって倒れないなんて」

 

どうやら精霊は士道が一撃で倒れなかったことを不思議に思ったらしい。

 

「いままでの魔術師は一発入れたらノックアウトできたのになぁ、君って魔術師(ウィザード)のエースだったりする?」

 

精霊はここが戦場とは思えなくなるぐらい能天気な声でそう言う。

 

「……答える義理はないな」

「ふ~ん、まっいいけど」

 

そう言うと精霊は手に持っている本にペンで何かを書き込もうとする。

 

(ッ!やばい)

 

士道は精霊がしようとしていることを理解すると背中についているスラスターを起動し、

ものすごい速さで精霊から離れる。

10秒もかからずに士道は精霊の視界から姿を消してしまった。

 

「あ!逃げちゃった……まあいっか戦いたい訳じゃないし」

 

精霊は魔術師(ウィザード)が全員戦闘不能になると、さっきと同じ様にボロボロの町を歩き始めた。




今の士道君はまだ最強ではありません。
頭の回転はすでに最強クラスですが戦闘に関しては、折紙以上、真那未満って感じです。
今は、ですけどね。
訓練始めて三か月で最強ってのはさすがにどうかな?と思いまして。


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精霊討伐、し損ねた

あっヤベ、間に合わん(学校登校する5分前)。

と言う訳で一週間以内に書けませんでした。 m(_ _)mすいません

それなりに長くしたんで許してください、何でもするわけではないですけど。



―――ちくせう

 

士道は内心そう愚直った。

 

士道は今、精霊と戦った場所から離れ、建物に身を隠していた。

精霊に蹴られた傷は、防性随意領域(プロテクトテリトリー)を展開していたためそこまで酷いケガにはなっていない。

もし防性随意領域(プロテクトテリトリー)を展開し損ねていたら、骨が何本も折れていただろう。

もしくはそれ以上の重症になったかもしれない。

取り敢えず痣だけで済んだので良かったと思うべきだろう。

 

さてどうしようか。

もう一度不意打ちを狙ってみるか。

今度はもっと決定的な隙が欲しいな。

 

『おいシドウ!』

 

精霊を倒す事を考えていると無線から声が聞こえてくる。

 

「!隊長どうしたんですか?」

『どうしたじゃねえよ、さっきから呼びかけてんのに反応がなかったぞ!』

 

どうやら俺は考えに浸っていて無線の声に気付かなかったらしい。

 

「すいません、精霊の事について考え事をしてまして」

『……ほかの奴はどうなった?』

「俺以外は全員全滅か、もしくはどっか行ってると思いますよ」

『だろうな。こっちでも確認した』

 

やっぱりそうか。

俺が逃げた時は全員石像みたいに固まってたり、倒れてたりしてたからな。

 

「精霊は今どうしてますか。」

『……今は街中を歩いてる。戦闘なんてなかったって言わんばかりにな』

「そうですか」

 

となるとこれはチャンスじゃないか?

今ならもう一回仕掛ける事も出来る。

 

『シドウ、撤退しろ。……作戦は失敗だ』

「待ってくださいよ。今精霊をどう倒そうか考えてたんですから」

『おまえは、まだそんなことを考えてたのか。新人が居たとはいえ30人で戦って負けたんだ。おまえ一人で勝てるような奴じゃないぞ。ついさっき身に染みただろう?』

 

……確かに精霊は強い。

それも、想像以上に。

サミュエル大佐が言う通り勝てるような存在じゃない。

あの物理的ファンタジーは口じゃ説明出来ない。

だが勝機がない訳ではない。

 

「隊長、俺は無策で精霊に戦いを挑もうなんて考えてませんよ。俺は勝つ予定です。理由もちゃんとあります」

『……理由とは?』

「あの精霊の天使はおそらく戦闘向けじゃないと思います。使われたら間違いなく詰みますけど、使う前に無力化すればいい話です」

 

あの精霊の天使の能力が本に書いた事を現実にするものであれば使う隙を与えなければいい。

幸い本に書く動作が必要だから効果を発動させるには少し時間が要るはずだしな。

 

『使われる前に無力化……か。随分とピーキーな策だな』

「精霊を殺すのはそれぐらい難しいってことですよ。それにシスターは好き好んで人を殺す精霊じゃないですし死ぬって事はないんじゃないんですか?」

 

もしこれで勝てなかったらこれ以上何をしろと言ってやりたいものだ。

 

『……分かった、許可する』

「えっ!いいんですか」

『今更なにを言っているんだ。おまえが勝てるって言い出したんだろ』

「い、いやあ、ハハハ……ダメ元で交渉してたもんですから」

 

正直許可が出るとは思っていなかった

頭の固そうな大佐がこんな一か八かの戦いに賛成するとは思えなかった。

 

『許可は出す。たがこんだけ大口叩いたんだ。勝てよ』

「わかってますよ、では」

 

そう言うと俺は無線を切った。

 

さて精霊をどうやって倒そうか。

今、俺が持ってる武器はノーペインが二本と拳銃が一丁だ。

 

……ぶっちゃけ言って拳銃は力不足かもしれないな。

精霊を殺す為の部隊に支給されるだけあって威力はそこらの軍隊が持ってる物とは比べ物にならないほどの差がある。

けれど、それでも霊装の前では威力不足と言わざるを得ないな。

精々こけおどし程度にしかならない。

となると消去法で精霊に対抗する手段はノーペインってことになるな。

 

一回情報を整理しよう。

勝つための条件は大体こんな感じだろうか。

 

一つ、シスターに天使を発動させない。

二つ、拳銃は間違いなく決定打にはならないので、戦闘にはノーペインを使う。

 

特に天使を発動させないことは最も重要だ。

発動を許しただけで負けると思っていた方がいいだろう。

 

この二つの条件を守りつつシスターを戦闘不能に追い込まなければならない。

………………よし。

無数の敗北の中から勝利を掴み取るような戦いだけど、やるしかないか。

 

(今度こそは必ず勝つ)

 

士道は大佐から送られてきている位置情報を頼りに精霊に少しずつ接近していった。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

誰一人として居なくなった町の中。

議別名、シスターは街中を黙々と歩いて自身が消失するのを待っていた。

 

すると少しだけ音がした。

普通の人間なら聞き逃してしまうほどの微細な音だ。

だが精霊の人外じみた聴力はこの音に気付いてしまった。

 

その直後、ジェットエンジンのような轟音が響いた。

その轟音とともに真横の建物の屋上から士道が姿を現す。

士道は轟音の正体―――スラスターを最大出力で起動しほんの数瞬でシスターの近くに迫る。

そして士道は左足を突き出しシスターに飛び蹴りをする。

 

スラスターの生み出す圧倒的な速さが勢いとなって、士道の蹴りは途轍もない威力になっているだろう。

だがそれを事前に察知していたシスターは、その飛び蹴りを躱すことに成功した。

目標を失った士道の飛び蹴りはそのまま地面に突き刺さる。

 

「いやー危ない危ない、避けるのが少し遅かったら当たってたよ~」

 

シスターは相変わらず呑気に言葉を発する。

士道は自分の蹴りによって抉れた地面から出てくる。

そしてノーペインの刃を出すとシスターの首を狙って斬撃を放つ。

シスターはその攻撃を軽快に避けていく。

 

「あーもう、少しは会話を楽しむ気になんないのかな~?」

 

シスターは士道の攻撃を避けながら、そんな言葉を口にする。

 

「生憎、こっちには会話を楽しむ余裕がないんでな!」

 

士道は会話を無理やり終わらせると横、または背後に回って縦横無尽に攻撃を浴びせていく。

だがどれも跳んだり地面を蹴ったりして避けられてしまう。

 

「!……ちょこまかと」

 

士道は悪態をつき、天使を使わせまいとひたすらに攻撃を放ち続けた。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

戦いがふたたび始まりすでに十数分が経過した。

その間、士道は休むことなくシスターを攻撃し続けているが全ての攻撃を難なく避けられてしまう。

 

それもそのはず。

相手は精霊なのだ。

技術では勝っていたとしても、身体能力においては歯が立たない。

それはCR-ユニットを使っても同じことだ。

 

そしてこの戦いにも終わりが見え始めた。

士道のスタミナ切れだ。

いままでずっと休まず攻撃を続けていた代償が今払われようとしているのだ。

始めは動きが速かった士道もいまでは少しずつ速度が落ち始めている。

その隙を精霊は見逃さなかった。

 

「んーそろそろ避けるのも飽きてきたね」

 

シスターは士道の大振りの攻撃を避けるとさっきと同じように蹴りを入れてくる。

 

「あぶねっ……」

「ふーん、ならこれでどう?」

 

シスターは蹴りを避けた士道に間髪入れずに今度は腕を振るってくる。

 

「がッ」

 

士道はシスターの腕を避けられずに被弾、一気に吹き飛び端にある建物のコンクリート部分にぶつかってしまう。

 

「ハァ……くっそ」

 

これが精霊と人間の差だ。

士道がぶつかった建物は軽く皹が入っている。

軽い攻撃を当てられただけでこれなのだ。

シスターは立てない士道に歩いて近づいてくる

 

「はい残念でした、これを使えばあたしの勝ち」

 

シスター持っていた本を開き霊装についているペンを手に持つ。

おそらく天使を使うつもりだろう。

 

「いや~惜しかったね、最初の飛び蹴りは結構危なかったけど」

 

シスターは相変わらず呑気にそんな言葉を言ってくる。

 

「じゃーね、マスクを着けた魔術師(ウィザード)さん」

 

シスターの持っているペンが先が本に触れ、内容は分からないが何かが書かれる。

だがそれが達成されることはなかった。

 

シスターが天使を発動しようとした直前、彼女が見たのは拳銃の丸い銃口だった。

 

ドガァン

 

その音は銃弾というよりかは砲弾といったほうがいい。

それぐらい重厚な音だった。

 

士道は天使を発動される直前、拳銃をホルスターから抜いて撃った。

放たれた銃弾は天使を発動する直前で油断していたシスターの胸に当たる。

もちろん霊装によってダメージは皆無だろう。

 

だが衝撃までも完全に殺せる訳ではない。

撃たれたシスターは撃たれた事により少しのけぞってしまう。

それが致命的だった。

 

(チャンス!)

 

士道は立ち上がりノーペインから刃を出す。

そして力を振り絞りシスターにノーペインを振り下ろす。

その攻撃はこの戦いの中で最も速く鋭い一撃だった。

 

「うあッ」

 

士道の攻撃はシスターの足に命中し、深い傷をつける。

それによりシスターは地面にうつ伏せで倒れてしまう。

そしてペンはシスターの手から離れ地面を転がっていく。

 

「……うう」

 

シスターは地面に落ちた本とペンに手を伸ばそうとする。

まだ天使を使おうとしているらしい。

だが士道がそれを許すハズがなかった。

 

「きゃあッ」

 

士道はシスターの手の甲にノーペインを突き立て、地面に固定する。

 

「ふう……どうにか勝ったか」

 

士道は息をはくともう1本のノーペインを手に持ち刃を出す。

 

「……うう」

 

シスターはどうやらまだ諦めていないようで、手の甲に刺さったノーペインをもう片方の手で抜こうとする。

 

「無駄だ、足の筋を切った。君はもう歩けない」

「……こ、これって見逃したりしてくんない?」

「え?」

「君ってほかの魔術師(ウィザード)と違って私に殺意みたいなのは抱いてないみたいだし……見逃してくれないかなぁ~って」

 

どうやらシスターは士道がほかの魔術師(ウィザード)と士道が何かしら違うことに気付いたらしい。

まあ確かにほかの魔術師(ウィザード)とは絶対的に違うことがあるが。

 

「……見逃すわけないだろ」

「ッ……!」

「君をここまで追い詰めておいて取り逃がしたなんてことになったら、上司に怒られる」

「……へ?」

士道は至極真面目な顔で理由を話す。

シスターは理由が案外しょぼいもので驚いてしまう。

そして士道はノーペインをシスターの首筋に当てる。

 

「じゃあな、精霊」

 

士道がシスターの首を切ろうとした瞬間、無線からまた声が聞こえてくる。

 

『シドウッ!待てッ』

「うわっ!」

 

士道は大佐の声が大きかった為、少し驚いてしまう。

 

「な、なんですか隊長。今、シスターにトドメを刺そうと……」

『シドウ、落ち着いて聞け』

「?何ですか」

『上層部から捕獲命令が出た』

 

そこで士道は黙り込む。

今だに地面に寝そべっているシスターは、怪奇な表情を浮かべている。

 

『理由は分からん。だが陸軍のお偉いさんからの命令なんだ、ここは一つ我慢してくれ』

「あっはい、わかりました」

『……まあそりゃあ渋るよな……は?』

 

今度はサミュエル大佐の方が黙り込む。

そして少しすると口を開いた。

 

『い、いいのか?そんな軽く決めてしまって』

「別にいいですよ。そんなことより捕獲するなら早く回収班寄越してください。その間俺がシスターを見張らないといけないんですから」

『あ、ああ、直ぐに手配する』

 

そういうとサミュエルは無線を切った。

 

―――あいつ魔術師(ウィザード)にして良かったのか?

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

「えーっと、まあ喜べ」

「え?」

「取り敢えず殺されなくてすむらしいぞ」

「そ、そうなの?」

「……取り敢えずはな」

 

士道はノーペインの刃を消して、シスターの近くに座り込む。

 

「あー、疲れた」

 

今の士道はまさに疲労困憊と言った感じだった。

今CR-ユニットを解除したらもう動けそうになかった。

士道は座って一息つくとふとシスターの顔を見てみる。

色の髪とターコイズの瞳、皺一つない真っ白な肌に端正な顔立ち、いわゆる美少女と言う奴であった。

 

「こうしてよく見てみると可愛い顔してるな」

「……んえ?」

 

その言葉でシスターは頬を少し赤く染める。

 

「資料で見た通り精霊って美少女なんだな、ぶっちゃけその点に関しては半信半疑だったんだけど、スタイルも結構いいし」

「あ……う」

 

もはやノーペインで手の甲を刺された痛みなど忘れていた。

シスターは士道に向けていた顔を地面に向ける。

 

(ヤ……ヤバい!普段そんなこと言われたことなかったから顔がにやけちゃうぅ)

 

まあ言われたことがないと言うよりかは普段誰とも会わなかった、と言った方が正しいだろう。

 

(でも……少し嬉しい……)

 

そしてしばらく経つと音がしてきた。

シスターと士道はそれがヘリコプターのプロペラが出す独特な音だという事に気付く。

おそらく回収班が到着したのだろう。

 

(……私ってこれからどうなるんだろ)

 

捕まりこれから何をされるのかシスター、本条二亜はそれを考えずにはいられなかった。




今回初めてルビ機能使ってみました。



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飲み物買い忘れた

あ~サブタイ思いつかないんじゃ~。

サブタイの意味は内容を読めば分かります。


あれから二か月が経った。

 

イギリスにある陸軍基地、その施設の屋内を士道は歩いていた。

顔にはいつも通りヘルメットとマスクを装着しており、その手には某ファストフードチェーン店の紙袋がある。

士道は今ある場所に行き昼ご飯を食べようとしている。

いや、実際には夜食と言うべきかもしれないが。

 

士道は既に通い慣れた複雑な道を迷いなく歩いていく。

そしてある扉の前にたどり着く。

ほかとは違う頑丈そうな扉でまわりの目を引く程大きい。

士道はその扉の横の壁に付いている電子パネルに4桁の暗証番号を入力する。

扉が開く。

 

扉の先は階段になっていた。

そして扉が大きいのと同じ様に道の幅も長い。

士道はその階段を一瞥すると下りていく。

 

1分程下りると階段が終わった。

そこはまるで別世界のようだった。

白で統一された床と壁。

その壁には所々に線のようなものが入っている。

天井に張り付いている何本もの太いコード。

まるで映画の舞台のような場所だ。

 

士道はその道を進んでいく。

道中所々に扉があるがそこは士道の目的地ではない。

変わらず道の幅は長い。

その気になれば車も通れそうなぐらい広い廊下だ。

その廊下はとても複雑で、士道が曲がった回数は片手間では数えられないほどだ。

 

そして士道はある扉の前にたどり着いた。

士道は地下に降りる時にやったのと同じ様に電子パネルに4桁の暗証番号を入力する。

それに加え士道はカードキーを電子パネルにかざす。

すると漸く扉がスライドして開いた。

 

扉が開くとそこは一面にガラスが張ってあった。

そしてそのガラスの向こうにはもう一つの部屋がある。

現状士道の居る部屋ともう一つの部屋はガラスによって二分される形になっている。

そしてそのガラスの向こうには……

 

「おお!来たねー少年」

 

つい二か月前に士道によって捕獲された精霊、シスターの姿があった。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

遡ること二か月前

 

「つ……疲れた」

 

士道は今、基地の医務室のベットに寝そべっていた。

シスターとの戦いの後、士道は案の定動けなくなってしまった。

数時間ずっとCR-ユニットを起動し続けていたので無理もないだろう。

すると医務室の扉が開く。

 

「おいシドウ、具合はどうだ。」

 

誰かと思ったらサミュエル大佐だ。

士道は何とか体をベットから起き上がらせる。

 

「隊長ですか、体中至る所がバッキバキですよ」

「ハハ、そうだろうな。まあ気にするな、回数をこなせばそのうち慣れるさ」

 

大佐曰く何回もCR-ユニットを使えばある程度は負担がましになるらしい。

 

「それで?なんでしょうか。世間話をしに来た訳ではないですよね?」

「ああそうだ、お前の事についてな」

 

そこからの話はかなり複雑だったが、簡単に言えばこんな感じだ。

 

1、専用のCR-ユニット作ってもらえるかもしれないよ

 

2、士官候補生になるよ

 

と言ったところだ。

うん……まあいいんじゃない?

 

大佐の話が長すぎる上に頭があんまり回ってなかったからほとんど聞き逃してたけど平たく言えばこんな感じだ。

 

「とまあこれぐらいにしとくか、いつの間にか5時になってるしな」

「ん?ああそうですね」

 

気づけばもう時計の針は5時に差し掛かったいた。

 

「動ける様になったら今日はもう帰っていいぞ、じゃあまたな」

 

そう言うと大佐は医務室から出ていった。

士道も帰ろうと何とか立とうとする。

明日は学校があるのでここでゆっくりしている暇はないのだ。

士道はフラフラと歩きながらも何とか転送装置で日本まで帰るのだった。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

次の日もまだ疲れが取れてないのか、いまいち歩きがおぼつかない。

しまいには転んで母と妹に心配されてしまうほどだ。

その日の学校でテストがなかったのは幸いだっただろう。

 

そして夜の七時あたりになるといつも通りSSSに出勤した。

流石にほとんど休みなしなのはきついな。

明日有給でも使ってみようかな。

そんな事を考えながら訓練区画に移動していたら。

 

「よおシドウ、相変わらず少し遅刻だな」

「ん?隊長」

 

そこにはまたサミュエル大佐の姿があった。

 

「すまんな、一つおまえに話忘れてたことがあった」

「なんですか」

「おまえが捕獲した精霊の処遇についてだ」

 

そういえば昨日は精霊がどうなるのかは全然聞いていなかった。

せっかくだし聞いてみることにする。

 

「えーシスターは少しの間この基地に幽閉することになった」

「へえ、そうなんですか?」

「ああ今精霊専用の収容施設に移送する準備をしてるらしい」

 

まず士道は精霊を収容する施設なんてのがあること自体に少し驚いた。

そして疑問が浮かんでくる。

 

「あのー何でそのことを俺に?」

 

士道は何故自分にそんな機密情報を教えてくるのかが不思議だった。

そしてそれと共に嫌な予感も感じていた。

 

「いやそれがなシスターを監禁してからというもの様子を見に行く奴が誰もいなくてな、監視も今はカメラに任せてる状態なんだ」

 

まあ当然だ。

精霊の居る場所行きたがる人なんている訳がない。

 

「それでシスターを捕獲したお前自身に行ってもらいたい」

「え、なんで俺が」

「いやな、上層部曰く捕獲した張本人が行けば精霊も脱出なんて考えないだろうってことらしい」

「俺はそんな事はないと思います」

「……まあ俺も同感だ」

 

自分が監視をして大人しくなるような奴じゃないと士道は思った。

むしろ否が応でも脱出を慣行しそうである。

 

「でも何もしないよりはまだましだろう?」

「まあ……そうかもしれませんが」

「そうだな……ウチの技術部に新しい装備が作れないか頼んでやr」

「喜んで行かせていただきます」

 

士道は新装備の話が出た途端態度を180度変えるのであった。

その様子にサミュエルは額から少し汗を出す。

 

「そ、そうかじゃあこれが暗証番号とカードキーだ。精霊が監禁されている部屋に行くのに必要になる。昼飯がてらちょっと様子を見るだけでいいぞ」

「任せてください」

 

士道はカードキーと暗証番号が書かれた紙を受け取る。

そして、

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

「ねえ少年ちょっとぐらいポテト分けてよ」

「……ガラスの向こうにポテトを届けろって?」

 

こうなった。

最初の頃は二言ほど言葉を交わす程度だったが今ではそれなりに打ち解けている。

因みに名前は本条二亜と言うらしい。

 

「で、でもあたしの目の前で食べる事はないんじゃないかな~」

「仕方ないだろ、昼しか時間が空いてないんだ」

「う……うう、目の前で食べられるとお腹が空くんだよー」

 

そう言うと二亜は上目遣いで士道を見てくる。

 

「……いや、上目遣いされてもあげないからな」

 

―――――ウルウル

 

「……涙目になってもあげないからな」

「む、むうぅー」

 

二亜は上目遣いと涙目をやめたかと思ったら今度は頬を少し膨らませる。

 

「そもそも基本的に二亜には干渉しないように言われてるんだ、ポテトなんて渡せる訳ないだろ」

「……むむむ」

「無理なものは無理なんだ、納得しろ」

 

そう言うと士道はふたたびポテトを食べ始める。

因みにこのポテトは士道が基地から2kmも先にある店舗からわざわざ買ってきた物だ。

食堂の食べ物が嫌いな士道は毎日そこに通い詰めている。

 

「あっ、コーラがない」

 

そこで士道はポテトのお供であるコーラがない事に気が付く。

 

「……買い忘れたか」

「……あのー少年」

 

二亜が突然話しかけてくる。

 

「ん?なんだ」

「……ポテトは諦めるから……食べ物の話はやめてくれない?」

「……悪い」

 

士道はその声がマジトーンである事を察して素直に謝る。

 

「……まあその……最低限の食事は与えてくれるように上司に相談してみるよ」

「えっ!ほんと?」

「まあ許可されるとは思えないけどな」

 

精霊は食事が無くても生きていけると言う。

でも二亜によればお腹が空いたら空腹感も感じるらしい。

 

「まあ期待しない程度に楽しみにしとけよ」

「うん!そうする」

 

二亜は機嫌が悪そうだったさっきとは一転して笑顔になる。

するとふと士道は自分の腕時計を見た。

士道は時間を確認すると直ぐにゴミを紙袋に入れ始める。

 

「少年どうしたの?」

 

いつもの時間より帰る時間が早い為、二亜は士道に質問をする。

 

「仕事だ」

「あ……ふーん、そっか」

 

士道が仕事の有無を話すと二亜が少しシュンとする。

士道はそのことに気付いたが、話し相手が居なくなって残念なんだろうと思った。

マスクで顔は見えないが一応士道は笑顔を浮かべる。

 

「もし許可が出たら明日ハンバーガー買ってくるよ」

「うん、じゃあまたね」

「ああ、またな」

 

そう言うと士道は部屋のドアを開けてついさっき来た道を戻っていった。

そして階段を上り地下を出た。

 

「フー……ハァ」

 

士道は深く深呼吸をした。

それはこれからの仕事に向けて意識を切り替える為だ。

これから士道は人を殺す(・・)のかもしれないのだから。

 

「……さて」

 

士道は深呼吸を終えるとふたたび歩き出した。




現時点の士道に対する二亜の好感度は十香が士道にバーカバーカと言い始めたあたりです。

これ書いてる時ちょうどテレビで世界仰天ニュースやってました。
しかもかなりシリアスな内容。
何か胃が痛くなりました。


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俺が何時の間にかボディーガードになってる件

最近、本気出し始めたので早く投稿。
小説の質はお察しください。




ロンドンの中心部にある一泊何十万もする高級ホテル。

その一室は酷い有様になっていた。

高級そうな家具はほとんどが壊れ、窓ガラスはすべて割れている。

 

そしてその部屋には5人の人間が居る。

一人は少し太っている中年男性だ。

ホテルのバスローブを着て壊れた家具の残骸に隠れ、怯えている。

 

そして5人の中の3人。

その3人の服装はこんな惨状になっている場所に居るのが場違いなぐらい普通の服だった。

二人は壁際で気絶し、もう一人は大型のナイフを構えている。

その男の呼吸は乱れており、額に汗を浮かべある一点を射殺さんばかりに睨みつけている。

 

その男が睨みつけている方向に5人目が居た。

黒いスーツを着込み顔には頭部すべてをすっぽり覆うフルフェイスヘルメットを被るというミスマッチにも程がある服装をしている。

 

状況を整理すると一人が隠れ、二人が気絶し、部屋の中心で二人の男が対峙している。

 

そして立場を説明すると、隠れている男はイギリスの政治家だ。

それもかなりの権力を持つ有名な政治家だ。

 

そして超普通な恰好をしている三人組はその政治家を殺す為に雇われた暗殺者だ。

それも全員プロと言える腕前をしている。

彼らにとって政治家一人を殺すぐらい簡単だと言える事だった。

 

奇妙なヘルメットを被る少年がいなければの話だが。

 

「ハァハァ、クソ、何なんだテメェは!」

 

暗殺はその少年によって阻止されてしまった。

現に三人の中、二人は瞬く間に無力化されてしまった。

そして最後の一人は敵わないことを理解しているため逃げることを考えていた。

だがこの場から逃れる算段を考えていた最中、一瞬でその少年が目の前に現れた。

 

「なぁ!?」

 

暗殺者はそのことを認識するとすぐにナイフを振り下ろした。

だがその攻撃は少年の素早い手捌きで流されてしまった。

 

「んな!?ゴッ」

 

それに気付いた時にはもう手遅れだった。

少年の拳は暗殺者の胸に食い込んでいた。

その攻撃で暗殺者は何mも吹き飛び後ろにあったドアに激突し吐血する。

その後まもなく気絶した。

 

少年は暗殺者が気絶したことを確認するとポケットから携帯を取り出し誰かに連絡する。

連絡し終わるとその少年、五河士道またの名をシドウ・ウォーリバーはフゥと息を吐いた。

 

(あー疲れた、早く帰りたいな)

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

あ…ありのまま起こった事を話すぜ!

俺は魔術師(ウィザード)をやっていたと思ったらいつのまにかボディーガードになっていた。

な…何を言ってるのか(中略

 

始まりは二亜を捕獲してひと月ほど経った頃だ。

俺の上司であるサミュエル大佐のさらに上の人からボディーガードをやってみないか、と誘われた事が発端だ。

SSSの予算増額とボーナスに釣られた俺はその仕事を受けちまった。

 

ボディーガードの仕事を一言で言うと、ヤバい。

俺は現状10件ほどボディーガードの仕事を受けたがそのうち8件で誰かしらの襲撃があった。

ていうか汚職してる人多くない?

おかしいのが俺の護衛対象は悪い噂がある政治家だと言う事だ。

いやこれは間違いなく上が仕組んだ事なんだろうな。

 

自分で言うのもなんだが俺は優秀だと思うし。

上は十中八九襲撃がある議員のボディーガードに優秀な俺を就かせてるんだろうな。

 

しかも襲撃してくる奴らも質の悪い連中ばっかりなんだ。

先日の襲撃者の暗殺者はまだましな方だ。

暗殺者は事件がバレるのを嫌うからな。

 

本当にヤバい奴らはマフィアとかの犯罪組織だ。

トラックで突っ込んで事故に見せかけようしたり、この前なんか街中で平然と銃を乱射するイカれた奴が出てきた。

そのおかげで殺気のようなものを感じ取れるようになってしまった。

 

その時は拘束することを忘れて殺してしまった。

いやロンドン市民を巻き込む訳には行かないからさ。

つまり多くを生かす為だ。

まあそれはただの言い訳なんだが。

 

俺はこの仕事で5人の人間を殺した。

まあ……かなり堪えた。

何回かやったら慣れたけど、やっぱりやりきれないってのが本音だ。

 

因みに上から、ボディーガードする時は顕現装置(リアライザ)を使わないよう厳命されている。

まあ秘匿されてる顕現装置(リアライザ)を公然で使う訳にはいかないよな。

 

そして最近SSSの技術部が俺専用のヘルメットを作ってくれた。

フルフェイスなのは嬉しいな。

因みに色は黒だ。

 

このヘルメット、特殊な合金で作られているようで普通の銃弾ぐらいなら防いでくれるらしい。

目のガラスの部分はその限りではないらしいけど。

 

何でも視界を確保するために目の部分はガラスにせざるを得ないらしい。

だがガラスと言ってもただのガラスじゃない。

顔を隠す為にそのガラスは青くなっている。

しかも強化ガラスだ。

 

そしてロック機能がついてるから簡単に外れないのだ。

いままで外れないかどうか冷や冷やしてたからな。

 

正直たかがヘルメットに最新技術詰め込みすぎじゃない?と思わない事もないが。

そんな事を考えていると。

 

「ねえ!少年」

「うお!?……何だ二亜」

「もう……無視しないでよ」

 

どうやら二亜が話しかけてきている事に気付かなかったらしい。

 

「あー……すまん、何だ」

「だからポテト食べさせてって」

「あーはいはい」

 

俺はポテトを二亜の口に持っていく。

二カ月前、大佐から食事は与えていいって許可をもぎ取ってきたから今こうして二亜は昼だけ食べれる様になった。

因みに部屋を隔ててるガラスはスイッチ一つで開閉出来る様になってる。

そこは流石軍事基地って感じだな。

 

因みに天使を使わせないように二亜の腕には手錠がつけられている。

その為一々俺が食わせてあげないといけない。

最初の頃は、

 

『二亜!俺の手をポテトと一緒に食べるな!』

『ん~?なんのこと?』

 

と言った感じで、俺の事をからかってきていた。

今は少しばかり落ち着いたが、最初は何かを食べさせるだけで四苦八苦した。

主に二亜のせいではあるけど。

 

因みに今は八月、つまり夏休みだ。

今の俺の一日は、昼間に妹の琴里と遊んで夜にSSSで訓練といった感じだ。

まあ忙しいのは変わらないが学校行ってる時よりは遥かにマシだ。

 

「あのさー少年」

 

ポテトを食べ終わった二亜が話しかけてくる。

とても嫌な予感がするが俺は意を決して応えた。

 

「……なんだよ」

「マ〇ク飽きた」

「あー……」

 

そろそろそんな事を言うと思った。

二亜は非常にわがままで飽き性だ。

この前、暇つぶしとして渡したルービックキューブを次の日には六面揃えて返してきた事を思い出す。

むしろ二か月飽きなかったことを嬉しく思うべきか。

 

「一応聞くけど、何食べたい」

「うどん!」

「うん無理」

 

案の定ワケの分からない事を言い出してきた。

こいつ自分が囚われの身だって事を理解してんのか。

 

「あのなぁ、まずイギリスにうどんが売ってる訳ないだろ」

「あ、そっか……じゃあ日本から取り寄せてよ」

「……………………」

 

絶句した。

二亜は清々しい程の笑顔でそう言ってくる。

流石美少女の笑顔、俺じゃなかったら見惚れちゃうね。

実を言うと俺も最初はドキッとさせられることもあったが今となってはそれは悪魔の笑みにしか見えない。

 

「あーもう昼飯買ってくるのやめようかなー」(棒)

「あっ何か急にうどん食べたくなくなってきたなー」

「……おまえそんなんでよくいままで討伐されなかったな」

「ふふーん!すごいでしょ!」

「褒めてない」

 

こいつもうダメだわ。

 

「……はぁ、黙ってれば可愛いんだけどな」

 

黙ってれば可愛い、まさにその通りだ。

これってあれかな。

俗に言う、残念美人って言うのかな。

そんなことを考えてたら、

 

「!か、かわいい!?な、なななななな何を言ってるのかな~少年は」

 

これだ。

二亜は偶にすごい動揺することがある。

 

「何を言ってるってそのままの事を言っただけだ」

「え、あっ、~~~っ!」

 

二亜は顔を真っ赤にさせる。

精霊ってこんな変人ばっかりなのか。(絶望)

 

「ってもう時間か二亜、俺帰るからな」

 

俺は壁のスイッチを押してガラスを閉める。

 

「う、うん」

「じゃあな」

 

俺は部屋を出て扉を閉める。

……あと二か月か。

俺は先日大佐に言われた事を思い出す。

 

『シドウ、そういえばシスターを移送する日時が決まったぞ』

『ああ……そうなんですか』

『今から二か月後だ、何でもDEM社関連の施設に送られるらしい』

 

いつかこうなるとは思ってたけどな。

というか不思議なんだが何でDEM社の施設に送られるんだ?

しかも管理もDEMの元で行われるらしいし。

普通政府とかがするんじゃないのか?

まあ魔術師(ウィザード)の俺が気にする事じゃないけど。

 

因みにDEM社はイギリスに本社を置く世界屈指の大企業だ。

顕現装置(リアライザ)を製造する数少ない企業で今回の件を見る限り国に介入出来るほどの権力を持ってるみたいだ。

SSSと同じく本拠がイギリスにあるという事で新装備を融通させてもらってるらしい。

 

まあどうせブラック企業なんだろ、そうなんだろう。

多分社員をこき使ってその癖して残業代を払わないブラック企業に違いない。




世界の闇を見てしまって疑心暗鬼になってしまった士道の図。
二亜との会話は案外、士道の心の支えになってます。

何か二亜のキャラを再現出来てるか不安になってきた。


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別れ

何時の間にか投稿始めて一カ月以上経ってた。


そろそろ冷え込んでくる十月。

俺はバッキンガム宮殿に居た。

 

今日俺は政治パーティーの護衛をすることになった。

因みに俺の立場はパーティーに出席する人として護衛することになった。

要するに覆面調査員みたいな感じだ。

 

だから今日はヘルメットではなくサングラス着けている。

……何か落ち着かない。

イギリスに居る時はいつも何かしらで顔を隠していたからすごい違和感がある。

 

因みに今回のパーティーはイギリスの大臣も数人出席するらしい。

今回は大臣を含めた何十人もの人を護衛しないといけない。

正直言ってめんどくさい。

いままでは一人だったから楽だったんだけどな。

 

─────出来れば襲撃なんて無ければいいのにな

 

でも俺が護衛を頼まれたという事はそういう事なんだろう。

俺はそろそろ宮殿の中に入ろうとする。

 

しかし何故だろう。

会場から歓声のようなものが聞こえてくる。

 

「あっヤベ、もうイス取りゲーム始まったのか?」

 

俺はすぐさま走り、会場の入り口にたどり着く。

だがの入り口の前には黒スーツの屈強な男が数人立っていた。

おそらく警備員だろう。

 

「くそっ中から戸締りされてやがる」

「おい誰か応援呼んで来い」

 

様子を見る限り何かあったらしい。

早く中に入らないと。

俺はバッキンガム宮殿の壁の装飾を手でつかんで二階から入ることにする。

壁がゴテゴテだったから案外簡単に登れた。

 

窓を蹴り破って二階に入る。

するとそこには凄惨な光景が広がっていた。

何人もの人が血だらけで倒れている。

 

「っ!てめぇ警備員か」

 

そしたらスタッフらしき服を着た男が数人近づいて来る。

 

「ん?あんたらスタッフじゃないのか、イス取りゲームはどうなったんだ」

「何がイス取りゲームだ!死ね」

 

そう言うとそいつらは襲いかかってきた。

俺は即座に懐からレイザーブレイドを出して刃を出す。

 

「な…なんだソレは、ガッ!」

 

俺は敵が言葉を言い終わる前に足を切ってついでに頭を殴って気絶させる。

俺は一瞬で敵を全て無力化した。

さっきのは歓声じゃなくて悲鳴だったのか。

 

因みに何故俺がこんな場所で秘匿対象の武器を使っているかと言うと上からは顕現装置(リアライザ)は使っちゃ駄目だけどレイザーブレイドだけならいいよって言われたからだ。

 

あとこのレイザーブレイドは俺の特注品でノーペインに比べて刃の色が赤く刀身も長い。

出力も上がっており人体もスパスパ切れてしまう。

多分霊装も切れるんじゃないの。

 

この前試し切りをしたら技術部の一室をボロボロにしてしまったためデストロイヤーなんて武器名をつけられてしまった。

解せぬ。

 

ってそんな事考えてる場合じゃないな。

この調子じゃイス取りゲームは中止か。

2等賞のプ〇ステ3狙ってたのに。

こうなったら意地でも手に入れてやる。

 

俺は窓から入った部屋を出て大広間に辿り着く。

そしたらそこはさらに酷い光景が広がっていた。

カーペットは血で真っ赤に染まって、死体も幾つか転がってる。

そしてさっきと同じスタッフの制服を着た男が何人も居る。

 

「くそ、もう外から増援が来たか、お前らやっちまえ」

 

リーダー格らしき男がそう言うと大広間に居る敵が全て俺に向かってくる。

その数は軽く十人を超えており、その上拳銃を持っている人までいる。

数人が拳銃を構えると俺に向かって発砲してくる。

俺は放たれた銃弾をデストロイヤー(仮名)で軽く弾いていく。

まあ弾くどころか当たった瞬間に焼き切られてるけど。

 

「な…なんだこいつ!」

 

剣で銃弾を防ぐのはスター〇ォーズを見た時からやってみたいと思っていた。

実際やってみると楽しい。

俺は一瞬で銃を持つ敵に接近して胴体を切り裂いていく。

 

「ぐあ」

「あがッ」

 

スタッフは少し呻き声をあげると気絶した。

俺は止まることなく流れる様に敵を切っていく。

 

「な…なんなんだ、こいつは」

「おい!誰か応援呼んで来い」

「プ〇ステを返してもらうぞ」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

「ってことがあったんだ」

「ふーん……そっか」

 

二亜は興味なさげに言葉を返した。

 

「何か反応薄いな、面白い話をしろっていったのは二亜のほうだろ」

「んー、そうなんだけどさっきまでしてたアニメの話の方がいいかなって」

「ああ……そうか」

「少年、一応聞くけどその後どうなったの?」

「スタッフルームに行ったらプ〇ステは壊れてたし、仕事も失敗って事で減給された、いろんな意味で理不尽だよ」

 

因みに二亜は日本で漫画家をやってたらしく最近俺はその影響を受けてオタク文化にハマりつつある。

 

「そっか……ふふ、えーと何のアニメの話してたっけ」

「……お前今笑っただろ……何の話をしてたかは忘れた、ていうかもう時間だから俺もう帰るよ」

「ええ、もうそんな時間なのー!?」

「ああほらもう一時だぞ」

 

俺は二亜に腕を向けて腕時計を見せる。

 

「えー、もうこんな時間、この部屋さぁ時計がないから時間の間隔がおかしくなっちゃうよー」チラッ

「………………」

 

そう言うと二亜は此方をチラチラ見てくる。

これはおそらく、部屋に時計持ってきてくれないかなーチラッチラッ、と言う奴なのだろう。

まあ持ってくる気はないし……もう持ってくる意味もなくなる。

 

「いや持ってこないからな」

 

ウルウル

 

「俺に涙目+上目遣いが通じないのも、もう理解してるだろ……あと明日二亜は別の施設に送られるから」

「むうぅぅ、少年のケチ………………えっ?」

 

二亜は言葉を止め少し目を伏せるとすぐに驚愕の表情を作った。

 

「え……ええぇぇぇ……う、嘘でしょ」

「いやほんと」

「ア、アニメの前にその話をしなさいよー!」

「悪い……中々話を切り出せなくてな、と言う訳で俺と会うのはこれが最後、多分もう会えない」

「あ………………」

 

俺がそう言った途端、二亜は俯いて黙り込んでしまう。

俺はいつもどうりスイッチでガラスを閉めて、ドアから出ようとする。

 

「じゃあ─────」

「待って!」

 

俺が出ていこうとすると二亜は俺を呼び止めて来る。

 

「最後に……少年の名前、教えて」

「……名前?」

 

一瞬何故?と思ったがそう言えば名前を教えてなかった事に気がついた。

日頃ずっと少年としか呼ばれていなかった士道はそのことを忘れてしまっていた。

 

「……俺の名前は………………シドウ、だ」

「ん、そう……じゃあまたね、少年!」

「……また?」

「うん、何かこう、うまく言えないんだけど……少年とはまた会える、そんな気がするの」

「そうか……じゃあ、またな二亜」

 

そう言うと俺は部屋の外に出て扉を閉める。

……何となくまたな、と言ってしまったが現実的に考えるともう会わないだろうな。

 

これから二亜は太平洋に送られる。

また会うなんて奇跡でも起こらないと無理だろ。

二亜と俺が再会する事は絶対ない。

絶対にな。(フラグ)

 

とにかく明日から俺は元の魔術師(ウィザード)に戻る。

寂しい気もするが、明日からはこんな迷路みたいな道を通らなくてもいいと言うことだ。

明日からはまた訓練に励むとしよう。

 

もう精霊を捕獲するのは勘弁だけどな。

あんな一癖も二癖もある人の話し相手を務めるのはもう勘弁願いたい。

精霊全員がそうとは言わないけど。

 

とにかくこれで一件落着と言うわけだ。

めでたしめでたし……

 

にはならなかった。

 

その数日後、士道はふたたび複雑な事情に巻き込まれる事になる。




二亜との別れを区切りとして次回から新章にします。

次回は世界最強の魔術師(笑)が出てくる予定です。


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八舞ストーム
世界最強の魔術師、襲来


今の目標:エタらないように頑張る!




二亜が居なくなってから数日後、士道は今日も変わらずイギリスに行き、SSSに出勤していた。

SSSの技術部から渡された無駄に高性能かつ多機能なヘルメットを顔に被り、訓練区画で鍛錬をしている。

するとそこに、

 

「おいシドウ!シドウはいるか!」

 

自分の事を呼ぶ声が聞こえてくる。

この声の持ち主は大佐だと言う事に士道はすぐに気が付いた。

 

自分の事をシドウと呼ぶ人物は大佐しかいないからだ。

そもそも士道に話しかける人が、ここにいるハズのない二亜を除いて、このイギリスには大佐しかいない。

 

「はい、何ですか?」

 

士道は大佐の元に歩き、言葉を返す。

 

「ここに居たか、お前に客だ」

「……はぁ?俺にですか?」

 

士道は頭に疑問符を浮かべる。

何度も言った通り、士道には友達どころか知り合いすらほとんどいない。

そんな自分に来客が来る訳ないのだが。

 

「正直言ってお前には会わせたくないんだが……まあ取り敢えず来てくれ」

「会わせたくない?」

 

士道は益々疑問が増えた。

会わせたくないとはどういう意味だろうか。

そして疑問とともに、途轍もなく嫌な予感が士道の体を駆け巡った。

大佐の命令や頼みはいつも厄介ごとの前触れなのだ。

 

「……わかりました」

 

士道は展開していたCR-ユニットと着用型接続装置(ワイヤリングスーツ)を光の粒子に変え、デバイスに格納する。

勿論、ヘルメットは残したままで。

 

取り敢えず士道はついていく事にした。

士道はサミュエル大佐に連れられ、屋内に移動する。

それから少し歩くと一つの扉の前で止まった。

 

「ここだ」

 

確かここは来客対応用の部屋だったな、と士道は頭から記憶を引っ張り出す。

 

「ここからは一人で入ってくれ」

「一人で……ですか」

「そうだお前以外は入れるな、と言われてる」

「……わかりました」

 

イギリス軍の大佐ともあろう人に命令出来るとはどれ程の人物なのだろうか。

士道はドアをノックする。

すると部屋の中から透き通るような綺麗な声音で「どうぞ」と声が聞こえた。

どうやら来客は女性らしい。

士道は了承も得たのでドアを開ける。

 

部屋の全貌が士道の目に入ってきた。

そこそこの広さに、机が一つと二人程座れそうな幅のソファーが二つ、そして部屋の隅には観葉植物が置かれている。

そして窓が一つありそこから日差しを部屋に取り入れている。

まさに応接間と言った感じの部屋だ。

 

そして最も士道の目を引いたのは、部屋に二つあるソファーの内の一つに座っている人物だった。

その女性はノルディックブロンドの長髪を後ろで括っていて、黒い女性用のスーツと、同じく黒色のタイトスカートを着ており、足にも黒色のストッキングを履いている。

二亜にも劣らない美少女であった。

そしてその美少女の目線が士道に向けられる。

 

「あなたがシドウさんですか?」

「……そうです」

 

質問に士道が肯定の意を示すと謎の美少女がソファーから立ち上がり士道に向かって歩いてくる。

すると、

 

ずるべったぁぁぁぁんッ!

 

「むきゅ」

「……えっ?」

 

突然の出来事に士道はつい声を漏らしてしまう。

何故か何の障害物もない所でその美少女がコケた。

しかも顔面から床にダイブしている。

とても痛そうだ。

 

これが、これからそこそこ長い付き合いになる、世界最強の魔術師とのファーストコンタクトであった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

士道は部屋にあるソファーに座る。

そして向かいにはつい先程コケた、謎の美少女が同じくソファーに座っている。

コケた時に顔面をぶつけたからか顔が少し赤くなっている。

 

「私はDEMインダストリーから来ました、エレン・M・メイザースと申します。以後お見知りおきを」

「あの今コケましたよね?」

「今日はシスターを捕獲した張本人である貴方にお話しがあって来ました」

「あの今コケま―――――」

「是非とも我が社に入っていただきたいのです」

「あの今―――――え?」

 

エレンと言う女性は、士道がコケた事を言おうとする度に、言葉を被せてくる。

そしてその言葉に混じってとんでもない事を口にした。

 

「……それは、どういう意味だ?」

「そのままの意味ですよ、私はあなたをスカウトしに来ました」

 

士道は大佐が会わせたくない、と言っていた意味を理解した。

多分この事を予想していたのだろう。

 

「歴代最高クラスの顕現装置(リアライザ)適正、模擬戦では無敗、精霊の捕獲、申し分ない実力です。シドウさん、改めて申し上げます。DEMインダストリーに入りませんか?」

 

エレンは士道から答えを聞き出そうとするように、言葉を並べていく。

 

「勿論、今よりも更なる好待遇で迎え入れますが、どうでしょう?」

 

そこでエレンは喋るのをやめた。

おそらく士道がこの誘いに対し応か否か、答えを待っているのだろう。

士道は考えるよう目を伏せると、

 

「……断る」

 

その誘いを一蹴した。

 

「……一応理由を聞いておきましょうか。何故です?」

「それはな、会社だからだ」

「……は?」

 

エレンは士道の言っている意味がよくわからないようで、眉をひそめて声を出す。

 

「どういう意味ですか?」

「俺は精霊を倒す為にSSS、もといイギリス軍に所属してるんだ。会社勤めをする為に、ここにいる訳じゃない」

「……そうですか」

 

士道は何かそれっぽい理由をつけて断った。

本当の理由は転送装置を動かすのが面倒くさいというのが理由なのだが、エレンがそれを知る由はない。

士道は誘いを蹴ったが、エレンは特に落胆した様子を見せず、ソファーを立ち上がる。

すると次の瞬間さらにとんでもない事を口にした。

 

「……では、ここからは実力行使で行かせていただきます」

「よしわかった。話し合おう」

 

士道は即答で話し合いを提案した。

 

「ちょっと待ってくれ!何でそうなる!」

「アイクからは連れてこいと言われているので、致し方ありません」

 

軍事基地に来る人間が常人な訳がないと思っていたものの、こんな事態になるとは士道も

全く予想していなかった。

 

「……実力行使って事は、あんた魔術師(ウィザード)なのか?」

「ええ、それも実力は世界最強だと自負しています」

「……世界、最強?」

 

士道は少し前に周りの魔術師(ウィザード)達が話していた話を思い出した。

DEMインダストリーには世界最強の魔術師が所属していると言う。

その名前が、

 

「悠久のメイザース、だったか?」

魔術師(ウィザード)達の間では、そう呼ばれています」

 

士道は少し思考する。

何でそんな大物がここに、と言う疑問が出て来る。

他にも幾つか謎が浮かび上がったが今はそれを考えている場合ではない。

 

「話が少し長くなりましたが、どうします?私は世界最強の魔術師。例え戦ったとしても貴方には万に一つの勝ち目もありませんが」

「いやでもさっきコケてt―――――」

「ああん?……貴方に勝ち目はありませんよ」

 

エレンは少しの戸惑いもなく?言葉をつらつらと発する。

どうやら自分の実力に余程の自信を持っているらしい。

 

「言ったな。じゃあ賭けるか?戦って俺が勝ったら、俺はSSSに残る」

「いいでしょう。最も勝敗は既に決まったも同然ですが……」

 

エレンはこれから戦う士道を嘲笑うように、自分が有利だと言う事を伝えて来る。

まるで自分の勝利が当たり前と言うように。

いや実際そうなのだろう。

 

士道はその高い鼻をへし折る事にした。




あー何とか執筆し終わった。

現時点の士道の強さは、エレン>士道>真那、って感じです。
単純な力量ではエレンに敵いません……今はですけど。

ネタバレすると、主人公補s……ゲフン、ゲフン、いろいろあってエレンに勝ちます。

次回は短めになるかもです。


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世界最強の魔術師……ん?

いやーすみません、一日遅れてしまいました。
過去最大の文字数だから許して。

今回はガチガチの戦闘回です。

やっぱり戦闘描写は執筆するのが難しいです。
まあ自分の力不足なんですけど。


その空間はとても不自然だ。

 

壁は頑丈そうに出来ており、何より広さが桁違いだった。

床から天井までの高さは、軽く見積もっても10mを優に超えるだろう。

その天井には等間隔で蛍光灯が設置されている。

部屋の奥行きも、桁違いだ。

まるで巨大な箱の中に居る様な、そんな不思議な感覚を覚えさせる。

 

そのだだっ広い空間にポツンと人影が二つある。

そのうちの一人、エレン・メイザースは白い着用型接続装置(ワイヤリングスーツ)と白銀のCR-ユニット、〈ペンドラゴン〉を装備している。

手には巨大なレイザーブレイド〈カレドヴルフ〉を持ち、前に居る人物に敵意を向けている。

 

そして相対するは、最近あまり眠れなくて目の下に少しだけ隈が出来てしまった士道。

だがその隈はヘルメットで隠され、エレンからは確認できない。

因みに最近眠れないのは何故かと言うと、二亜の影響により深夜アニメを見出したからである。

つまり自業自得だ。

 

士道もエレンと同じく着用型接続装置(ワイヤリングスーツ)とCR-ユニットを装備しており、手には右手に〈デストロイヤー〉、左手に〈ノーペイン〉を持っている。

 

だが士道の着用型接続装置(ワイヤリングスーツ)とCR-ユニットはどちらとも黒を基調に青く光るラインが入っている。

これは士道が技術部に頼んでカラーリングを変えたものだ。

ラインが青く光るのは……まあ男の浪漫と言う奴だ。

 

因みにこれは標準装備の色を変えただけで別に性能が上がっているとかそんな事はない。

言ってしまえば士道の道楽だ。

 

その二人、世界最強の魔術師(後でポンコツと分かる)と精霊の捕獲に成功した魔術師(ウィザード)の新星(厨二病予備軍)はその巨大な空間、地下の模擬戦専用の区画で睨みあっていた。

 

「ではシドウさん。精霊を捕獲したその実力、試させていただきます」

 

そう言うとエレンが動き出した。

スラスターで加速し一瞬で士道の目の前まで距離を縮めて、レイザーブレイドを振り下ろす。

 

「うおッ」

 

士道は二本のレイザーブレイドを重ね、エレンの攻撃を受け止める。

レイザーブレイドで鍔迫り合っている間、エレンは何の防御もない状態になる。

その状態を士道は見逃さずに蹴りをエレンの腹に入れる。

だがエレンは瞬時にレイザーブレイドを戻し、蹴りを防御する。

 

エレンが防御に回ると士道はすかさずレイザーブレイドを振るい、エレンに攻撃を浴びせる。

二刀流という事もあって士道は一瞬で複数もの斬撃を繰り出す。

地上で行う普段の模擬戦なら、相手はこの連撃に耐えられず、直ぐに音を上げてしまう。

 

だが今回の相手は『悠久のメイザース』と呼ばれている、名実ともに世界最強の魔術師だ。

エレンはその攻撃を的確に捌いていく。

それどころか負けじと士道に攻撃を放ってくる。

 

少しの間、ガガガガガッ、とレイザーブレイドを激しく打ち合う音が広い空間に響き渡る。

だがそれは長く続かなかった。

 

残像が見える程の速度で剣撃を繰り出していた士道だがエレンから離れ、一旦距離をとり、ついさっきまでの睨み合う状況に戻った。

 

すると士道の腕からは傷が幾つもついており、血が流れていた。

戦闘に支障をきたす程の傷ではないがそれでも負傷した事に変わりはない。

それに対し、エレンは無傷だった。

それどころか息一つ切れていない。

これはエレンが士道の力量を上回っている事を意味している。

 

「……まさかここまでとは思いませんでした」

「んあ?」

 

エレンは構えを解くと、突然話し始めた。

 

「想像以上の実力ですよ。如何やら私は貴方を過小評価していたようです。それでこそ、わざわざ来てまでスカウトしに来た甲斐があります」

「……そりゃありがたい言葉だなッ!」

 

士道は言葉を無理やり切ると、静止状態から一瞬で加速する。

速度に全神経を注いだ士道の今の速さは常人には消えた様にしか見えないだろう。

例え、世界最強の魔術師たるエレンでも姿を見失った。

すると、

 

「……ぐ!?」

 

エレンの真横から士道の攻撃が繰り出された。

エレンは直前に随意領域(テリトリー)を展開したため大した傷は負わなかったが衝撃まで防ぐ事は出来なかった。

途轍もない速度から繰り出された攻撃の衝撃は凄まじく、それによりエレンの体が斜め上の空中に吹き飛ばされる。

 

すると士道は投げナイフを三本取り出し、空中に漂っているエレンに投げる。

実用性は無いのに『かっこいいから』と言う理由で無駄に極められた、士道の投擲技術によって投げられたナイフは三本とも弧のような軌道を描き、尚且つ弾丸の様な速度でエレンに向かっていく。

 

ナイフはただ真っ直ぐ向かってくる訳ではない。

平時の状態でも回避は困難を極めるだろう。

そのうえエレンは空中に漂っている為、避ける手段すらない……と思ったら大間違いだ。

 

ナイフが当たる直前、エレンの体が上に上がったのだ。

そう、相手は魔術師(ウィザード)だ。

こんな小細工が通用する相手ではない。

随意領域(テリトリー)があれば空を自由に飛び回る事も可能だ。

 

まあ普通の魔術師(ウィザード)は反応が間に合わず、当たってもおかしくないが今回の相手は別格だ。

間違いなく、いままで戦ってきたどんな相手よりも強いだろう。

 

エレンが空に浮かんだ事で、士道が見下ろされる様な立ち位置になる。

少しばかり足を止め、ふたたび両者は睨みあった。

 

士道は目を伏せて呼吸を整える。

少しすると目を見開いた。

CR-ユニットを使ってエレンと同じく宙に浮き、ふたたび加速し始める。

 

それに倣ってエレンもスラスターを駆動させ動き始めた。

広い空間を余すことなく使い、縦横無尽に駆け巡る。

 

そこから先は音速の戦いだった。

巨大な訓練場を文字通り音速の速さで飛び交い、相手を攻撃する。

至る所から金属音が聞こえ、火花が散る。

 

そこらの魔術師(ウィザード)がこの戦いを見ても速すぎて追いきれず、状況もわからず、どっちが勝っているのかもわからないだろう。

 

そんな人間でありながら人知を超えた戦いを繰り広げる二人だが、それでも人間である事に変わりはない。

いつか戦いは終わるだろう。

すると、

 

「!」

 

エレンの動きが少しずつ遅くなっていく。

これはスタミナ切れだ。

(素の運動能力がゴミすぎる)エレンの体力は士道よりも少ない為、途轍もない速さで飛び続けた結果、徐々に押され始めているのだ。

その変化に気付いた士道は更に攻撃を激化させていく。

そして、

 

「なッ!?」

 

エレンがついに士道の攻撃を捌き切れなくなり、エレンの肩を士道のレイザーブレイドが

掠った。

擦り傷レベルの負傷だが、隙を作るには十分だった。

エレンは傷つけられた事によって動揺し、それによって空中で完全に止まってしまう。

士道はその隙を見逃さずエレンを蹴った。

 

「うあッ!」

 

先程とは違い、その蹴りはエレンの胸にクリーンヒットし、エレンは床に叩き落されてしまう。

士道は地面に倒れているエレンを更に追撃すべく〈ノーペイン〉を放り捨てて〈デストロイヤー〉を両手で持ち、仰向けになっているエレンに振り下ろす。

 

ガキィン

 

この戦いの中で一番大きい金属音が聞こえる。

エレンは士道の攻撃を〈カレドヴルフ〉の柄と切先を持ち、刀身で防御する。

だが士道の膂力に押し潰されそうになる。

 

「ぐ、うう」

 

士道のレイザーブレイドの切先がエレンの顔の目の前にまで迫るが力を振り絞り、こらえる。

 

「さあどうする。降参するか?」

「……降……参?」

 

今の状況、どう考えても士道の方が有利だ。

魔術師(ウィザード)としての技量はエレンが上だが、こういう単純な力比べでは士道に軍配が上がる。

士道があと少し力を入れれば勝負は決するだろう。

 

だがエレンはまだ勝つことを諦めてはいなかった。

それは世界最強の魔術師のプライドと言ってもいいだろう。

 

「この私が降参など……する訳がないでしょうッ!」

「うおッ!」

 

エレンは〈カレドヴルフ〉の切先を掴んでいる方の腕の力を緩め、横に抜け出す。

目標を失った〈デストロイヤー〉は、今までエレンが横たわっていた床に士道の膂力とともに突き刺さる。

すると今度はエレンが士道を蹴り飛ばした。

 

「ぐおッ」

 

エレンの足の甲で腹を蹴り飛ばされた士道は訓練室をゴロゴロと転がる。

だが士道は瞬時に受け身を取り、エレンに隙など与えない程の速さで体勢を整え、すぐさまスラスターを駆動し、空に浮かぶ。

だがそれは意味をなさなかった。

 

「ッ!」

 

士道は今まで感じたことがないほどの膨大な魔力を察知した。

エレンのCR-ユニットが可変し、脇の下から魔力砲が姿を覗かせる。

その魔力砲は、士道の居る上空に向けられている。

 

「まさかこれを使う事になるとは思いませんでした」

 

魔力砲に膨大な魔力が収束し、砲口が光り輝いていく。

 

「マズいっ、逃げ」

「精々死なないように、貫け〈ロンゴミアント〉」

 

その魔力砲から膨大な光の奔流が放たれる。

放たれた光の槍はその方向にある物体をすべて消し飛ばしていく。

 

「うおおおお!?」

 

その最大威力の一撃が士道に迫る。

士道は光に呑み込まれ、焦りの声とともにその姿を消していった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

地下にある巨大な訓練場、その一画は瓦礫の出す煙に包まれている。

それと同時にその場を、さっきまで戦いがあったとは思えない程の静寂が漂っていた。

 

「………………」

 

エレンが訓練場の天井に向けて放った最強の一撃は天井をそのまま破壊し、その上にある施設にまで大穴を開け、その一撃は地上にまで届いた。

 

天井に開いた大きな大穴、そこから太陽の日差しが降ってくる。

そして光の奔流に巻き込まれた士道の姿はどこにもなかった。

 

「……いったいどこに?」

 

―――あれほどの力量を持つ魔術師(ウィザード)だ、死にはしないだろう

 

それがエレンの見解だった。

そう思ったからこそエレンは自身が持つ最強の一撃、〈ロンゴミアント〉を放ったのだ。

 

煙が徐々に晴れ、辺りの視界は鮮明になっていく。

だが士道の姿は勿論、人体の一部分らしきものもなかった。

 

―――本当に消し飛ばしてしまったか?

 

エレンがそう思い始めたその時、背後からエレンは攻撃を受けた。

 

「みゅ!?」

 

想定外の出来事により、本気(マジ)で驚いたエレンはつい変な声を出してしまう。

慌てて後ろを振り返る。

そこにはいままで共に戦いを繰り広げた、敵の姿があった。

 

「わ、私が気付かなかった!?」

「副業柄、気配を消すのは得意なんだ」

 

士道はボディーガードをやっている最中、隠れる事もあった為、知らず知らずの内に隠密が得意分野になっていたのだ。

しかも、学校において全く認識されない影の薄さが、士道の気配の無さを更に助長させていた。

 

まあそう遠くない未来に、この気配遮断が全く役に立たなくなる人間?が数人程現れるのだがそれはまた別の話だ。

 

「……何だ今の約束された勝利の剣(エクスカリバー)モドキは……もう対精霊部隊は、あんた一人で十分なんじゃねえか?」

「………………」

「でも残念だったな、掠りはしたものの大部分は避け切れた」

 

士道の左腕はほとんどが焦げていた。

そのせいか、左腕はさっきからピクリとも動いていない。

つまり士道の左腕は封印されたという事だ。

 

その事に気付いたエレンは、再び攻撃をしようとするが、

 

「!」

 

ここでエレンは自身の異変に気付いた。

飛ぼうとしてスラスターが駆動せず、何故か随意領域(テリトリー)も展開出来ない。

随意領域(テリトリー)が解除された為、背中に背負っていたCR-ユニットが床に落ちる。

そのCR-ユニットを見てみると切り傷が出来ていた。

その傷からはパチパチと嫌な音が出ている。

 

「これは……まさか!」

「さっきの攻撃でCR-ユニットは壊させてもらった」

 

士道は左腕が使えないがエレンはもっと悪い状況に陥ってしまった。

随意領域(テリトリー)が使えないなど魔術師(ウィザード)じゃなくなってしまったようなものだ。

エレン程の魔術師(ウィザード)になればCR-ユニットが無くても随意領域(テリトリー)は展開出来るが、CR-ユニットがなければその精度は雲泥の差だ。

 

だが士道はエレンをそんな状況に追い込んでも油断する気は毛頭なかった。

 

―――世界最強の魔術師だ。CR-ユニットが無くてもさぞかし強いんだろう?

 

士道はそう思考する。

すると、

 

「むぎゅ!」

「んん?」

 

またもエレンが転んでいた。

よく転ぶ奴、と士道は思ったがそれとは別の考えが士道の頭をよぎる。

 

―――まさか……

 

士道はエレンに向かって歩いていき目の前にたどり着く。

そして自分の利き手の人差し指を折り曲げて親指の腹で抑える。

所謂デコピンと言う奴だ。

士道はデコピンの構えをした指をエレンの額に持っていく。

 

バチン!

 

「ぶっ」

 

エレンの額にデコピンが命中し、エレンの頭が跳ね上がる。

そしてうつ伏せになって気絶した。

 

「……あれ?」

 

士道は余りにもあっけない決着に唖然とする。

 

「……ええと」

 

すると訓練場の外から人の声が聞こえてくる。

かなり騒々しい。

まあこんな事をやらかしてしまったから仕方ないだろう。

 

取り敢えず士道は戦った結果、天井に大穴を開けてしまった事に対して、弁明の言葉を考えるのだった。




左右非対称の二刀流は、やりたかっただけと言えばそう。


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訓練と、そして

まず最初に、アニメ鑑賞と読書(ライトノベル)によって投稿が遅くなっている事を
お詫び申し上げます。

それでは本文をどうぞ。


11月上旬、ハロウィンが終わり世間の空気がそろそろクリスマスムードに移行しようという時、士道はいつものヘルメットを頭に被り、軍事基地に隣接されている運動場のベンチに座って、本を読みながら運動場のトラックを走っているエレンにチラチラと視線を向けていた。

 

エレンは運動場のトラックを二週半、約1kmを走りきるとその場に座り込む。

士道はその事を確認すると本を閉じ、近くに置いておいたスポーツドリンクを手に持って、走っていた少女に近づく。

 

「お疲れさん」

 

そう言いスポーツドリンクをエレンに渡す。

 

「……どうも」

 

着服しているスポーツウェアを汗に濡らしたエレンは渋々差し出されたスポーツドリンクを受け取る。

 

「一カ月間走り込んでようやく1km達成、か……」

「私にかかればその程度余裕です」

「余裕って言ってる割には汗をかいてるぞ」

「また貴方は余計な事を……気のせいですよ」

「ああ……はいはい」

 

エレンは誤魔化そうとするが、士道はそれに乗ってやることにした。

本当は一カ月間トレーニングをしてやっと1km走れるようになったのは悪い意味でおかしい事を言ってやりたかったが、士道はエレンにそんな事を言っても無駄な事を既に理解していた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

何故エレンと士道がこんなことをしているのか。

それは今から一カ月前に、

 

『あんたここで訓練したらどうだ?』

 

エレンにそう言ったのが発端である。

あの戦いの数日後、腕の火傷を直した士道が言った言葉だ。

エレンは最初こそ渋っていたものの士道にもやしっ子と煽られた結果、乗ってきたのだ。

 

最初は士道の鍛錬にエレンが付き合っていたがエレンが一時間も持たなかった為、持久走

1kmという内容になりそのまま一カ月が経ち、今に至るというわけだ。

 

「……全くあの戦いの後始末は大変だったぞ。地上に大穴を開けたのは、俺の目の前に居るもやしっ子なのになんで俺が始末書を書かないといけないんだ?」

「貴方が私を手こずらせるのが悪いのですよ」

「酷い言い分だな、もやしっ子」

「ッ!その呼び方はやめなさい!」

 

そういうとエレンは士道の胸に握った拳をぶつける。

 

ペチッ

 

可愛らしい音が聞こえてくる。

CR-ユニットを使っていたらその拳は砲弾のような威力になっていただろう。

だがエレンの身体能力は、見てるこっちが悲しくなるぐらい弱々しい。

 

「……お前そんなんでよく魔術師(ウィザード)なんかやってられるな」

「……うう」

 

エレンはぐうの音も出ないような様子だ。

 

「いいか?本物の正拳突きはこうだ!」

 

士道は同じく拳を握り、それを前に出す。

動作はエレンと同じだが、拳の速さが桁違いだ。

士道の正拳突きはエレンの顔に当たる直前で止まる。

拳圧でエレンの長髪が揺れた事を見ると、その威力は想像に難くない。

 

「………………」

「もし当ててたら頭がふっ飛んでたぞ」

「……今のは……」

「まあ空手のようななにかだ」

 

士道の言い方は間違ってはいない。

インターネットで調べた事を見よう見まねで真似しているだけだ。

毎日、何回も同じ事を続けていたら何時の間にか威力が馬鹿にならないものになっていたが。

 

「シドウさん!今のを教えてください!」

「はぁ?」

「今のようなパンチを私も打ってみたいのです!」

 

士道の正拳突きに魅せられたのだろうか、大人びた様子が一転し、まるで子供の様に教えてくれとせがんでくる。

 

「……ああ悪い聞いてなかった、もう一度言わなくていいぞ」

「無視した!?」

「お前がよくやってる手口だ、今回は俺が使わせてもらった」

 

士道は惚けたと思ったら、すぐにそのことをを認めるような発言をする。

 

「まあ冗談はともかく、真面目に答えると武術を修めるには時間がかかる。達人と言える腕前になるには年単位で時間が必要だ。そもそも体力のないお前が武術を学んでも大したメリットなんてないだろ。随意領域(テリトリー)を展開して殴った方が早い」

 

エレンは体力がない癖してその実、世界最強の魔術師(ウィザード)だ。

なら顕現装置(リアライザ)を使えばいいだけの話である。

 

「ただ私は、あのパンチを打ちたいだけです。メリットなんてものは求めていません」

「メリットを求めろよ。やりたいってだけで技を学ぶのは馬鹿のすることだぞ」

「そ、それを言うなら貴方は何故投げナイフが出来るんですか?投げナイフなんて銃を使う現代では役に立たないでしょう!」

 

エレンは憤慨しているような様子で士道を指さす。

 

「そ、それは……えっと」

 

士道はエレンの視線が痛くなり、真正面に立っているエレンから目を逸らして視界をウロウロさせる。

すると士道は運動場の一番高い場所に設置されている大きな時計が目に入った。

その時計の針はこっちの時間で12時を指そうとしていた。

 

「あっそろそろ12時だ、昼飯でも食いに行こうぜ」

「あ、貴方ねぇ、また話を逸らそうとして―――」

「1km完走したご褒美として苺のショートケーキ奢ってやる」

 

その瞬間、エレンの頭から士道を問い詰める事は完全に吹き飛ばされてしまった。

 

「……行きましょうか」

 

そう言うとエレンは士道を追い越し、足早に運動場を去っていく。

どうやら今のエレンの頭の中には苺のショートケーキの事しか頭にないらしい。

 

「……フゥ」

 

士道はホッと一息つき、エレンの後を追い始めるのだった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

士道はエレンとひと月一緒に訓練して幾つかわかった事があった。

 

一つ、意外と子供っぽい事。

二つ、苺のショートケーキをあげれば大抵の事は許してくれること。

三つ、実はバカ。

 

本人に言えば怒りそうだ。

特に三つ目は本人に口が裂けても言えない事だろう。

士道がそんな事を考えていると、

 

「ちょっと騒がしいですね」

「……確かにな」

 

食堂に赴くべく基地に戻ってきたエレンと士道はそう感じた。

通り道をすれ違う作業員などは忙しそうに走り回っている。

 

「何かあったのでしょうか」

 

エレンがそう思うのも無理はない。

外で遠目に見た格納庫には着用型接続装置(ワイヤリングスーツ)を着用している

魔術師(ウィザード)までいたのだ。

 

何か非常事態が起きていても不思議ではない。

少なくとも魔術師(ウィザード)が出張らければならない事態が。

すると士道のポケットにしまってある携帯が音を出し始める。

士道はポケットから携帯を出して画面を見る。

 

「げっ」

 

そこには英語でサミュエルと表示されていた。

イギリスにおいてはよく見知った名前だ。

 

―――なんだまた厄介ごとか

 

そう思いながら携帯の通話ボタンを押して電話に出る。

 

「もしもし……ああ、はい」

 

士道は何回か言葉を交わすと電話を切った。

 

「エレン、状況が変わった。先に昼飯を食べててくれ」

「えっ?」

「緊急事態だ。俺はすぐ司令部に行かなくちゃならない」

 

士道はエレンにそう言い残して走っていく。

 

「……はー、SSSって案外忙しいのでしょうか……」

 

取り敢えずエレンは士道が言っていた通り、先に昼ご飯を食べる事にした。




トラック…運動場にある周回走路の事。

次回は某風の精霊が出てきます。


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狂戦士強襲と新装備

今回はかなりオリジナル設定を盛ってます。


士道はサミュエル大佐に呼び出され、司令部に居た。

司令部には一般ではお目にかかれないような機材と最新設備が並べられている。

士道が司令室に入ると大佐はすぐに口を開いた。

 

「さて来たか。それじゃあ早速説明を……とその前に」

「「?」」

「……メイザース、何故お前がここに居る」

 

大佐は士道の隣に立っているエレンに厳しい視線を投げかける。

それと共に士道にも非難の視線を浴びせる。

 

「いえ、ただ私はシドウさんについてきただけですよ」

 

エレンは悪びれる様子もなく淡々と言葉を発する。

 

「……ならシドウ、何故お前はメイザースを連れてきた」

「私もついていきます、って聞かないので仕方なく」

「じゃあ説得しろ。現状メイザースと一番仲がいいのはお前だろう」

「いや……だって大佐が早く来いって、言うんですもん」

 

士道の口調が少しおかしくなる。

苦し紛れの言い訳をしているからか、もしくは別か、大佐に真意はわかりかねた。

だが今はそんな事を気にしている暇はなかった。

 

「……メイザース、お前には一つ言っておくことがある。シドウと訓練をするのは構わん。だが邪魔はするなよ。いくらDEMでも許さんぞ」

「わかってますよ、そんな事は。シドウさんはSSSのエースですからね」

「そうか?俺はわかってないように見えるが」

 

エレンと大佐がお互いを睨みあう。

だがそこで士道が話を戻すべく「ゴホンッ」と咳払いをする。

そこで争いは中断された。

 

「さっさと本題に入りましょうか。時間、ないんでしょう?」

「……そうだな」

「エレンも口出しすんなよ」

「………………」

 

エレンは腕を組み不機嫌そうな顔をする。

 

「無言は拝呈、ってことでいいのか?……それで精霊が出たらしいですけど」

「ああそれも飛び切り厄介な奴がな」

「二亜……シスターも十分厄介でしたよ」

 

士道の頭に思い浮かぶのはつい一月前まで一緒に昼飯を食べていた間柄だった二亜の事だった。

二亜の天使は今起こっていること、誰が今何をしているか、がすべて分かるというチート天使だった。

使っている張本人の二亜曰く、超々高性能検索エンジンらしい。

そんな天使を使う二亜よりも厄介な存在なぞ士道には想像も出来ない。

 

「確かにな。だが今回の精霊は接敵する事すら出来ん。空間震規模もAランク、シスターとは比較にならん」

「……そいつは?」

「議別名は〈ベルセルク〉、つい数十分前に北大西洋の上空に現界した。今イギリスに向かって飛んできてる」

「!」

 

大佐から敵の情報を聞いた士道は少なからず驚く。

精霊、議別名〈ベルセルク〉はかなり有名な二人組(・・・)の精霊だ。

 

世界各地の上空に現界し、ロケットのような速さで移動する。

その為、誰も〈ベルセルク〉に追いつく事が出来ず、しかも世界中を飛び回って一般人の目に触れることもあるのだ。

写真も撮られ、UFOだの空飛ぶスパゲッティモンスターだの、その正体を巡ってちょっとした論争になっている。

 

おかげで精霊の存在を秘匿したい各国は大困り。

SSSやASTなどの対精霊部隊では優先目標に指定されている。

 

しかも〈ベルセルク〉には常に巨大な台風が付いて回り、それが破壊をもたらす。

圧倒的な速さと他を寄せ付けない台風によって今まで接敵した例は一件もない。

 

ふと士道の脳裏に某隻眼隻腕の剣士の事がチラついた。

新刊はよ。

 

「何故俺を呼んだんですか。幾ら俺でもマッハで空を飛ぶことは出来ませんよ」

「……うむ……そうだろうな。でも安心しろ。策はある」

 

あんた俺がマッハで空飛べると思ってただろ!

口から出そうになる言葉を何とか呑み込む。

 

「んふふふっ」

「………………」

 

エレンは手を口に当てて笑いを堪えている。

どうやら、マッハで空を飛ぶ、についての会話に笑ってしまったようだった。

だがその笑いは完全に漏れており、堪えている意味はなかった。

笑われた士道はエレンをぶん殴りたくなった。

 

「何か方法があるんですか?」

「ああ、まあ口で説明するより実際に見てもらった方が早いな」

 

そう言うと大佐は司令室の出口に向かって足早に歩き出す。

 

「早く行くぞ。今のペースだと〈ベルセルク〉がイギリスの領空に侵入するまで……」

 

大佐は言葉を区切り、時計を見て再び話しだした。

 

「……あと45分しかない計算だ」

「わかりました」

 

何処に行くかを聞いている余裕はなさそうだ。

士道は同じく足早に司令室を去っていった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

司令室を出た士道は大佐とともに車に乗り10分程で目的地に着いた。

因みにエレンもついてきた。

ショートケーキでも食べとけばいいのに。

 

車内から出るとそこには滑走路がある。

他にもプレハブ工法で建設された格納庫が何軒も建っている。

 

「ここって……空軍基地じゃないですか。うちの近所にある」

「そうだ、緊急事態なんでな。急遽借りさせてもらった」

 

そして士道は、格納庫から出されて今は滑走路にある戦闘機に気が付いた。

大佐はその戦闘機に向かって歩いていくので、士道もそれについていく。

近づくにつれ士道はその戦闘機の正体がわかった。

 

「あれは……ユーロファイター?」

「見た目はな。だが中身は別物だ、こいつには金に物を言わせて作った特注のエンジンを積んでいてとにかく早い。計測上〈ベルセルク〉にもついていける」

「そんな物が……でも〈ベルセルク〉の周囲をついて回る台風はどうやって突破するんですか。あれは下手な台風よりも強力です」

「それも心配いらん。このユーロファイターにはな……顕現装置(リアライザ)が搭載されてる」

「……は?」

 

大佐の話を理解した士道は驚いた。

戦闘機に顕現装置(リアライザ)を搭載する計画なんて聞いた事がないからだ。

顕現装置(リアライザ)絡みの計画なら士道には必ず知らされる。

その疑問に大佐は答えた。

 

「お前が知らないのも無理はない。何しろ今までずっと格納庫で腐ってたからな」

「腐ってた?俺が知らないってことは……俺がSSSに入る以前に作られた機体ってことですか?」

「ああ、こいつは今から大体2年前に空軍が払い下げた機体にSSSの予算をぶっこんでうちの技術部が作った、対〈ベルセルク〉戦の為の兵器だ」

 

案の定、SSSの技術部が作ったらしい。

相変わらず、変わったものを作るのが得意な連中である。

大佐は口端を上がらせて自慢気に説明する。

 

「こいつは、戦闘機型CR-ユニット、って言った方がわかりやすいかもな。その名の通り随意領域(テリトリー)を展開出来るから周囲の環境をいじり放題だ。騒音を消すことも出来るし機体と操縦士に掛かる重力を完全に無くす事もできる。防性随意領域(プロテクトテリトリー)を展開すれば現代兵器じゃ傷一つ付かない」

「はぁ……各国が聞けば卒倒しそうな兵器ですね」

 

もうこれがあれば一国を落とせそうである。

説明してるサミュエル大佐はもう自慢を通り越して喜んでいると言ってもいいぐらい上機嫌だ。

 

「それでまあ作ったはいいんだが……作った後に俺たちは重大な事に気付いた。いや見落としてたと言った方がいいな」

「……一体何を見落としたんですか。こんな欠点なんて見当たらない様な兵器に……まさか」

 

士道はヘルメット越しに目を細めた。

ある考えが士道の頭をよぎったからだ。

 

「実はな……これを乗れる奴がいなかった」

「……詳しく」

 

士道は呆れ半分で話を聞く。

 

「さっき言った通りこいつには顕現装置(リアライザ)が搭載されてる。つまり魔術師(ウィザード)の素質がない性能を発揮できん。というより随意領域(テリトリー)を展開しないとエンジンの速力に耐え切れず機体が空中分解する」

「……なるほど、言いたいことは大体わかりました」

 

つまりはこれを使いこなせる人間がいないのだ。

これは戦闘機だ。

当然操縦するには戦闘機の操縦法をマスターしていなければならない。

そして顕現装置(リアライザ)も扱えなければいけない。

つまり顕現装置(リアライザ)を扱えて、尚且つ戦闘機を操縦できなければいけない。

 

「……SSSの隊員って案外アホばっかりなのでしょうか」

「お前が言うな」

「むきゅ!」

 

士道はエレンの頭にチョップをいれる。

いつも通りの変な悲鳴を出したエレンはチョップされた頭を押さえながら士道に非難の視線を送る。

 

「……続けるぞ。シドウ、お前空軍の研修を受けてただろう。操縦法も当然わかるよな?」

 

精霊が現界せず仕事がない時、士道はイギリス空軍を始め特殊部隊やMI6で研修を受けていた。

特殊部隊で習った銃の取り回しや体術、MI6で教わった情報収集法などはいずれ役に立つときがくるだろう。

だが戦闘機の操縦法は例外だった。

間違いなく生涯使う事は無いと士道はそう思っていたが……

 

「少しカジった程度ですよ。シミュレーターで訓練しただけで実践経験はないです」

「ならこれが初めての実践経験だな。頑張れよ」

「いやでも初戦の相手が精霊っていうのはちょっと……」

「いいからやれ」

「……はい」

 

士道はいますぐに逃げたくなったが上司の命令なので仕方なくやることにした。

因みにエレンはそんな士道の姿を鼻で笑っていた。

さっき投げナイフの話をはぐらかした仕返しのつもりなのだろうか。

ふたたび士道はエレンを殴りたくなった。

 

「いや良かった。これで開発にかけた予算が無駄にならずに済む」

「ああ、だから喜んでたんですか」

「まあそういう事だ。じゃあ早速乗ってくれ。〈ベルセルク〉が領空に侵入するまであと30分しかない。」

 

士道は大佐の言葉を聞き終わると滑走路に置いてある戦闘機に向かって歩き始める。

だがそこで再び大佐が声を上げた。

 

「あとシドウ。これを受け取れ。」

「……これは?」

 

大佐は士道に向かって何かを投げる。

投げられた物をキャッチした士道はそれを見つめるとすぐにその正体がわかった。

 

「デバイス?もしかして専用のCR-ユニットですか?」

「お前が使うCR-ユニットはそこにあるだろうが。それはついひと月前、そこにいるアホの魔術師(ウィザード)とお前が戦った時のデータを元にして作った、お前専用の着用型接続装置(ワイヤリングスーツ)だ」

「……あーはい、そうですか」

 

士道はため息を吐き、目に見えて落胆した様子を見せる。

期待していた物の下位互換が渡されたのだからそうなるのも無理はない。

 

「そういうな。その着用型接続装置(ワイヤリングスーツ)にはお前にピッタリな機能がついてる」

「全く……それを早く言ってくださいよ。ところでその機能とは?」

「それは使ってみてからのお楽しみってことでな」

「……そうですか……チッ」

 

士道は顔を顰めて小さく舌打ちをする。

だがその舌打ちは大佐に聞こえていた。

 

「お前……まあいい、最後に作戦確認だ。戦闘機で〈ベルセルク〉の討伐、もしくは無力化だ」

「はいはい」

「………………」

 

少しだけ士道を睨むと大佐は離れていった。

おそらく管制塔に向かったのだろう。

 

士道は今度こそ大佐との会話を終わらせ、戦闘機にたどり着く。

ふと戦闘機の外装に触れる。

そこから少しの間、士道はその場に立ち尽くした。

未だにその場に居るエレンには心なしか士道の体が震えている様に見えた。

それは恐怖によるものか、武者震いか、エレンに判別は出来ない。

 

「あ、あの」

「?」

「……気をつけて下さい」

 

少し顔を赤らめてそう言うとエレンは小走りでその場を離れていった。

 

「………………」

 

士道は心なしか少し気分が軽くなった気がした。

前に残念がつくとはいえ美少女に応援されたのは悪い気分ではなかったからだ。

 

「さてと」

 

士道はさっき大佐から受け取ったデバイスを展開した。

体が光に包まれて先程まで来ていた迷彩服が消えていく。

光が収まるともはや別人になっていた。

 

士道の体は専用の着用型接続装置(ワイヤリングスーツ)とヘルメットによって頭からつま先まですべて覆われており、人間らしい素肌は一部分も露出していない。

着用型接続装置(ワイヤリングスーツ)の色はヘルメットと同じく黒だ。

そして所々には青いラインがいれてありそれは蛍光灯のように光っている。

人間味を感じさせない金属と防弾繊維による機械の体はまるでSF映画に出てくる機械化兵士のようだ。

 

「これって……」

 

士道は不思議とこの着用型接続装置(ワイヤリングスーツ)が体に馴染むような気がした。

 

着用型接続装置(ワイヤリングスーツ)を展開した士道は戦闘に飛び乗る。

戦闘機のコックピットには正面に液晶ディスプレイが三つあり、真ん中に操縦桿、そしてボタンが所狭しと並べられている。

士道は半年ほど前に習った操縦方法を頭から引っ張り出す。

ぼんやりと思い出した事をなぞってボタンを押していく。

するとキャノピーが閉まり、エンジンが掛かる。

エンジンの音は次第に大きくなっていき、それとともについさっきまで話していた声が聞こえてきた。

 

『さて、シドウ。何時でも飛ばしていいぞ』

「……ではお言葉に甘えて」

 

戦闘機が一気に加速した。

士道は操縦桿を手前に引き、高度上げて離陸する。

 

戦闘機はほんの少しで空に姿を消した。




何か説明回なのに凄い長くなった。

ここでは原作の六年以上前から八舞は二人に分裂していたという事にしています。
分裂前にするか、分裂後にするか結構悩みましたけど。

耶倶矢と夕弦の勝負の回数は八舞テンペスト時には99戦。
現界する頻度を大体三カ月に一回と仮定して一回の現界ごとに数戦していたとすれば、まあ六年以上前から分裂していても違和感ないかなと。

すべて仮定の話ですけどね。
まあ仮定の話こそ二次創作の醍醐味だと思います。

因みにキャノピーと言うのはコックピットの開閉する窓のことらしいです。


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ドックファイト

何かマイペースに書いてたらこんなに遅くなっちゃいました。
すいません。

言い訳をさせてもらうと、最近は卒業式で忙しくてその上PCが起動できなくなってしまい少しの間、スマホで作業するしかなくなってしまいました。
スマホで書いたのは初めてでしたけど案の定キーボードで文字をうつ方が早いですね。

それとあらすじにのっけた通り、士道の偽名を変更しました。
何か士道以外の名前にすると紛らわしくなりそうなので。



つい15分前、イギリスの大地を飛び立った士道は台風の中を戦闘機で突き進んでいた。

目的は台風の中心、つまり台風の目だ。

台風の中は非常に視界が悪い為、士道は戦闘機の液晶に映るマップを頼りに目に向かっていた。

するとヘルメットに内蔵されている通信機から声が聞こえてくる。

 

『どうだ。乗り心地は?』

「子供の職業体験でもしてる気分です」

『そりゃよかった』

 

士道が今乗っている戦闘機には顕現装置(リアライザ)が搭載されている。

大佐曰く、随意領域(テリトリー)を展開することによって、かかる重力を消す事が出来るのだ。

大佐の言葉は今の状態を如実に表していた。

 

今、士道は何も感じていなかった。

エンジンの騒音、重力によって体が引っ張られる感覚、すべてが無と化している。

実際は戦闘機に乗っておらず環境映像でも見せられているのか、とつい勘違いしてしまいそうになる。

士道はそんな今の状態に、驚きを飛び越えて気味の悪さを感じていた。

 

「隊長……10%ぐらい重力を戻してもいいですか?」

『ん?何故だ』

「何か、今から戦いに行くぜ!……って実感がわかなくて」

『そ…そうか。まあ10%ぐらいなら特に問題はないか……いいぞ許可する』

 

大佐から許可をもらった士道は頭で随意領域(テリトリー)を操作し、少しだけ重力を戻した。

すると少しだけ振動がかかる様になる。

 

『そろそろ台風の目に入るぞ。〈ベルセルク〉も見えてくるはずだ。……いいか?台風の目はどうなってるかわからん。いきなり〈ベルセルク〉と接敵と言う事もあり得る。十分に注意しろ』

「……何かここに来て一気に腹減ってきましたね。あとフラグ建てるのやめてもらっていいですか?」

『お前は何を言っているんだ』

 

エレンとの訓練が終わった後、間髪入れずに空に飛び立った士道は昼ご飯を食べていない。

お腹が空くのは当然と言えるだろう。

 

『今そんな事を言ってる場合か!それよりも目に出るぞ』

「えっ……うわっ!?」

 

大佐が言葉を言い終わった途端に視界が一気に晴れて太陽がその姿を覗かす。

暗い台風の中から急に明るい場所に出た士道は日光のまぶしさに少し目を細める。

だがまぶしいと思ったのも束の間だった。

 

「きゃ!?」

「うわっ!?」

 

次の瞬間、何かがキャノピーにぶつかってきた。

ドン、と重い衝撃音とともに女の子だと思われる悲鳴が聞こえる。

一瞬、鳥でもぶつかってきたのかと思ったがこんな嵐の中に鳥がいるとは思えないし悲鳴が聞こえた為、その可能性はないだろう。

 

「いっつ~~~~ッ!」

 

今度は何か悶絶している様な声も聞こえてくる。

士道はその意味不明な出来事に混乱しかけたが素早く思考を整理して前を向いた。

するとそこにはこれまた意味不明な光景があった。

 

『……えっ?』

 

二種類の声音が同時に出される。

コックピットに座っている士道の目の前に居るのは橙色の髪に水銀色の瞳を持つ美少女だった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

台風の中心を二人の少女が舞う。

時にそれはぶつかり大きな衝撃波を周囲にまき散らす。

一方はその身を優に超す巨大な突撃槍を右手に持ち、もう一方は先端に菱形の刃がついた鎖を左手に持っている。

 

髪を後頭部で結い上げた少女はその巨大な突撃槍を構えて槍の先端から風の塊を放出する。

それに対し、長い髪を三つ編みに括っているもう一人の少女は左手を突き出すと、ペンデュラムが高速の速さで飛んでいく。

 

一見するとそのペンデュラムは槍に比べれば貧弱なものに見えてしまうかもしれない。

だが先端の刃が槍から繰り出された風に当たるとその風の塊は解け、空気中に四散していく。

 

風を突破したペンデュラムはその勢いを止めることはなかった。

今度は槍の少女を標的に変え、突き進んでいく。

だがそれを槍の少女は空を駆ける事で難なく避ける。

 

「迂闊。避けられましたか」

「ふん。あの程度の攻撃、この我が避けられぬとでも思ったか」

 

二人の少女は一息つくように言葉を交わす。

 

「否定。あれぐらいの攻撃、耶倶矢なら避けると思っていました。それぐらい出来なければ夕弦の半身として片腹痛いです」

「くくく……そうか、それは我としても同じことだ。貴様と我と拮抗せねばならん。それでこそ我が半身に相応しいと言うものだ」

 

耶倶矢と呼ばれた槍使いの少女が何かカッコいいポーズをとりながら不敵に笑う。

それに対し、夕弦と呼ばれた少女は耶倶矢とは真逆に憂鬱そうな顔と声音だった。

二人はおそらく誰もが口を揃えて美少女と言うであろう容姿をしているが、耶倶矢と夕弦の顔はまるで姉妹のように瓜二つだった。

 

議別名〈ベルセルク〉真の名を八舞と言う。

彼女らは精霊の中でも前例がない二人組の精霊だ。

だが元から二人だったというわけではない。

 

〈ベルセルク〉も元々は一人の精霊だったが、何度も現界を繰り返す内に、何の前触れもなく二人に分かれてしまったのだ。

神の悪戯か、あるいは偶然か、原因は不明だった。

 

何故こうなったのか、大元の原因はわからないが両者とも理解している事もあった。

それは、いつかまた一つに戻るという事だ。

 

その事について、良い事かと聞かれればそうでもない。

二人に分かれた時点で本来の八舞の人格は既に消えてしまっている。

つまり再び一つに戻る時は二人の少女のどちらかが主人格にならなければならない。

そしてどちらか一方は主人格に取り込まれ、消える。

 

その二人の少女、耶倶矢と夕弦はどちらが主人格に相応しいか雌雄を決するべく戦っていた。

戦いの方法は至ってシンプルかつ最も原始的な方法だ。

即ちどっちが強いか、と言うこと。

 

「だがこの審判の聖戦もついに終わる刻が来た。この聖なる戦いを制し、真の八舞となるのはこの我だ!」

 

そう言うと耶倶矢は、再び槍を夕弦に向けて今度は槍から渦を巻く風が繰り出される。

夕弦はそれを一瞥するが、焦る事も無く左手を動かす。

すると主人たる夕弦に従ってペンデュラムも同じく動き始める。

 

「反論。痛々しい耶倶矢に八舞の主人格の座を譲る訳にはいきません。……夕弦だけに」ボソッ

 

竜巻を生み出した耶倶矢に対し、夕弦は錠が着けられた左手から同じく竜巻を生み出す。

文字通り、竜のように荒れ狂う両者の竜巻はその数瞬後、激突してあたり一面に恐ろしい程の暴風が吹き荒れる。

もしここが上空ではなく街だったらすべての建造物がボロボロに破壊されていた事だろう。

 

「う、うるさいっ!私は痛々しくなんてないし!」

 

何かとても馬鹿にされたような気がした耶倶矢は暗黒言語をつい忘れてしまい、素で喋ってしまう。

すると竜巻が激突する場の右から夕弦のペンデュラムが伸びてくる。

さっきとは違い、それは時に曲がりながら耶倶矢に迫ってくる。

先程の風を打ち破る為のものとは違う。

これは耶倶矢に当てる為の攻撃だ。

複雑な軌道を描くペンデュラムを避けるのはかなり困難な事からそれが窺い知れる。

 

夕弦が最後にボソッと何かを呟いたのを耶倶矢の耳はキャッチしたがそれはこの際気にしないことにする。

 

「くっ!」

 

耶倶矢は竜巻の放出を即座に中止し、ペンデュラムから逃れようと後ろに後退する。

この後手に回った状況に、耶倶矢は苦渋の声を出した。

 

だが耶倶矢のこの判断はあながち間違いでもない。

夕弦の天使の形状がペンデュラムという鎖である以上、射程というものがある。

最善策とは言い切れないが、避けるよりもマシな対処方法だ。

だが突如としてある異変が耶倶矢を襲った。

 

「きゃ!?」

「うわっ!?」

 

耶倶矢は何かにぶつかった。

ペンデュラムの対処に集中していたばかりに耶倶矢は前への警戒を疎かにしていた。

それ故に気付くことができなかったのだ。

 

「いっつ~~~~ッ!」

 

全身を襲う痛みに耶倶矢は悶絶した。

精霊の持つ強靭な体のおかげで死ぬことはなかったが何とも言えない痛みだった。

人間風に言うのなら足の小指を角にぶつけたような痛みだ。

 

痛みに耐えるとともに耶倶矢は思考する。

一瞬、鳥でもぶつかってきたのかと思ったがこんな嵐の中に鳥がいるとは思えないし、そもそも耶倶矢は今そのぶつかった物体に横になっているのだ。

しかもその物体は金属の様に硬く冷たい。

少なくとも鳥ではない事は明らかだった。

 

数秒ほど時間が経つと痛みが少しずつだが引いていく。

耶倶矢は思考をまとめて下に向けていた目を前に向けた。

 

『……えっ?』

 

そこには窓を隔てて一人の人間が席に座っていた。

しかも体の至る所を金属で覆っており、ヘルメットで顔も全て隠している。

耶倶矢が言える事ではないが、その姿は人間社会に精通していない耶倶矢でも奇妙と思わざるを得なかった。

 

目が合ってから何秒か静寂が訪れる。

どちらとも突然の出来事に混乱しているからだ。

先に動き出したのは耶倶矢の目の前に居る人間だった。

人間は我に返ったように周囲を見渡すと手に持っている操縦桿を横に倒した。

 

「うあぁぁ!?」

 

すると耶倶矢の乗っている物体が回転し始める。

どうやら耶倶矢を引きはがそうとしているようだ。

耶倶矢の体が重力に従って引っ張られる。

その物体は右に数回回ると今度は左に回転し、耶倶矢を容赦なく落とそうとする。

 

「うぅ……もう無理ぃ」

 

絶えず襲ってくる重力に耐えられず耶倶矢は窓から手を放した。

 

「う、気持ち悪い……何なのよあれ」

 

精霊の力で空に浮いた耶倶矢はさっきまで自分が張り付いていた物体を見る。

その物体には両方に羽のような物がつけられており、さらにその羽の下には棒状の物がついている。

 

「耶倶矢!」

「!……夕弦」

 

声の聞こえた方を見るとそこには心配そうな顔をした夕弦がいた。

 

「質問。あれは一体……」

「……解らぬ。突然、我の前に現れ攻撃をしてきたのだ」

 

耶倶矢は口調を大仰なものに戻し、空を飛ぶ戦闘機を見ながらそう言う。

実際は攻撃ではなく事故なのだがこの場にそれを指摘する者はいなかった。

 

「あの空を飛ぶ異形の者が何奴かは解らぬが、少なくとも我らに友好的な者ではなさそうだ……ッ!」

「指摘。来ます!」

 

戦闘機は機首をこっちに向けて一直線に突き進んでくる。

 

「夕弦!ここは一旦休戦ってことで、まずはあいつをやるわよ!」

「同意。このままでは真の八舞を決める所ではありません」

 

耶倶矢は槍を構え、夕弦はペンデュラムを宙に浮かせて、それぞれの戦闘態勢をとる。

まず最手を取ったのは戦闘機の方だった。

戦闘機は八舞姉妹との距離が1kmほどに差し掛かると主翼の下についていたミサイルが分離し、一瞬宙に留まると後部から白煙出して八舞姉妹に向かっていく。

 

「対処。迎撃します」

 

ミサイルに一番早く反応したのは夕弦だった。

無表情で周囲に風を展開してこっちに飛んでくるミサイルを寄せ付けんとする。

だがミサイルは止まらなかった。

 

「ッ!……焦燥。これは!?」

 

一本の矢のように真っ直ぐ飛んでいたミサイルは夕弦の生み出した暴風により少しグラつくが勢いを完全に殺すことは出来なかった。

 

「させるかっての!」

 

耶倶矢は巨大な突撃槍を縦に構えて盾の代わりにし、ミサイルを防ごうとする。

直後、ミサイルの先端が槍に当たり爆発した。

 

「うあっ!?」

「!」

 

ミサイルの爆風が二人を包んだ。

それを見届けた戦闘機の操縦主は周囲を回って爆風が消えるのを待つ。

すると爆風の中から突如二人の人影が現れる。

耶倶矢と夕弦だ。

二人は飛び出すや否や高速でその場から離れていく。

 

「夕弦ッ!あいつを振り切るわよ!」

「呼応。ここは逃げるが勝ちだと判断します」

 

二人は、非常に、とても非常に、不本意だがここは逃げることに徹することにした。

だが戦闘機はそれを見逃さなかった。

戦闘機も二人を追うべくエンジンをより一層激しく燃焼させる。

 

「驚愕。私たちに追いついてきます」

「もうしつこいんだから!」

 

二人は後ろをチラりと見てまだ戦闘機が追って来ていること気付く。

戦闘機は二人が曲がらない事を好都合と言わんばかりに再びミサイルを発射した。

 

「ッ!また来る」

「挽回。今度こそは防ぎます」

 

夕弦は徐々に近づいて来るミサイルに対し、今度はペンデュラムを飛ばす。

ペンデュラムはミサイルにカチ当たりミサイルを誘爆させることに成功する。

二人は爆発の衝撃波で少し体制を崩すも即座に立て直す。

 

「もうっ!このままじゃ……」

「同意。埒が明きません。耶倶矢、あれについて何か情報は?」

「情報って言っても乗ってる人が操縦してるぐらいしか……あっ」

 

自身が知っている事を口にした途端、耶倶矢は一つの突破口を見つけた。

そして耶倶矢の話を聞いた夕弦も何かを思いついたように少し目を見開く。

 

「夕弦……もしかして今、私と同じ事考えてる?」

「回答。恐らく耶倶矢と同じ事を考えてると思います」

 

二人はピンチにも関わらず、耶倶矢はニヤッと擬音がつきそうな悪い笑みを、夕弦は微笑を浮かべている。

 

「結論。そうとなれば話は早いです。夕弦は攻撃を防ぎますので、耶倶矢は操縦主を狙ってください」

「クク……いいだろう。今回だけは貴様の手を取ってやる」

 

耶倶矢は上から目線で夕弦との協力を承諾した。

かなり嬉しそうではあったが。

耶倶矢と夕弦は手早く話をつけていくが、戦闘機はそれを見過ごさなかった。

戦闘機は空飛ぶ狂戦士を堕とすべく再三ミサイルを発射した。

 

「ふん。来よったな。我らの目論見にも気付かず愚かな奴だ」

「同意。今では操縦主に哀れみすら覚えます」

「我ら八舞を敵に回した事を後悔するがよい。いくぞ夕弦!」

「同調。いきましょう、耶倶矢」

 

夕弦は先程と同じようにペンデュラムを飛ばし、ミサイルを誘爆させる。

それを機に二人は方向転換、夕弦を先頭にして戦闘機に向かっていく。

八舞姉妹と戦闘機はどちらもとてつもない速さで飛行しており、その両方が真正面から激突しようとしているのだから距離はみるみるうちに縮んでいく。

 

戦闘機は八舞姉妹が近づいて来るのを見て爆風に巻き込まれるのを恐れたのか今度はミサイルではなく機関砲を撃ってくる。

ミサイル程の威力はないが戦闘機に内蔵されているだけあって銃弾とは比べ物にならないぐらいの威力がある。

 

「ッ!ゆ、夕弦」

「安心。心配せずとも必ず守って見せます」

 

連続して撃たれる機関砲の弾丸を夕弦はペンデュラムで的確に弾いていく。

だが何十発も撃たれる弾丸をすべて防ぐ事も出来ず、夕弦は何発か被弾してしまう。

霊装によりダメージは軽減されているが、ミサイルに爆風で所々が剥げてしまっているのでそう長くは持たないだろう。

 

そして遂に操縦席らしきものが肉眼で確認できるほど戦闘機に接近する。

 

「進言!耶倶矢、今です」

「うむ!任せるがよい」

 

耶倶矢は自信満々にそう言い放ち、夕弦の後ろを飛び出し槍を構えた。

そして斜め上から戦闘機に突撃する。

 

「いっけえぇぇぇぇぇ!」

 

耶倶矢と夕弦、両者の見事な連携で生み出した一撃。

槍が戦闘機の窓を突き破るその刹那、耶倶矢は操縦主たる人間の顔を見た。

槍の切っ先が向けられたその人間の顔はヘルメットで見えなかったが、茫然としているその姿は不思議と驚愕しているように見えた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

耶倶矢の天使たる槍が戦闘機を貫く。

窓は粉々に砕け散り、その破片が空の下に消えていく。

 

「?」

 

だがその手には肝心なものを貫いた感覚が無かった。

耶倶矢は寸分違わず、操縦主に槍を突き刺したつもりだった。

しかし肉を切り裂いたような生々しい感触は全くない。

そもそも戦闘機が精霊の絶対の矛である天使の攻撃をモロに喰らって未だに原型を留めている事自体がおかしいのだ。

本来なら貫通して巨大な穴が穿たれていた事だろう。

何故そうならないか。

 

「……え!?」

 

戦闘機の機器が発する黒煙が晴れていく内に耶倶矢の驚愕した声が出された。

黒煙が晴れた操縦席にはこの戦闘機を操り、八舞姉妹を苦境に立たせた張本人である人間がいた。

その人間は耶倶矢の槍を赤く光る剣の腹で受け止めている。

 

「う、嘘!?……ぐうッ!」

 

操縦主は驚愕して無防備になっている耶倶矢の右手を叩く。

その衝撃で耶倶矢は自身の天使である巨大な槍を落としてしまった。

操縦主は続けざまに耶倶矢の首を掴むと自身が座っていた操縦席に叩き付けた。

首を掴む力がよほど強かったのか耶倶矢は、ゴホゴホと咳き込む。

そして操縦席のシートベルトで耶倶矢の体を縛り付けた。

ここまで10秒も掛かっていない。

 

「ゴホッ……な、何すんのよ!」

 

耶倶矢は声を荒げるが操縦主は特に反応もせず言葉も返さない。

すると操縦主は席の足元に手を伸ばす。

そして奥から緑色のリュックサックのを取り出し、肩に掛ける。

それが何なのか解らなかったが、今の状況から鑑みてそれが脱出に用いるものだということを耶倶矢は理解した。

最後に操縦主は耶倶矢に顔を向けると、じゃあなとでも言わんばかりに手を振った。

そして操縦主は戦闘機から飛び降り、その姿は雲に消えた。

 

「う~、何なのよあいつは!」

 

耶倶矢は操縦主の仕草に何故かとてつもなく腹が立った。

理由は耶倶矢も解らなかった。

そうやって耶倶矢がイラついていると異変が起こる。

 

「ひゃ!?」

 

耶倶矢は体がふわっと浮くような未知の感覚を感じた。

それとともに耶倶矢は更なる異変を感じ取る。

主なき機体が先端から徐々に下を向いて急速に落ち始めたのだ。

耶倶矢は感じた感覚はこの落下によるものだった。

人がジェットコースターに乗って落下する時に感じる独特な感覚、それが今耶倶矢を襲ってる感覚の正体だった。

最もそれが耶倶矢に理解出来る筈もないが。

そして戦闘機はジェットコースターが可愛く見える角度と速さで落ちていく。

 

「ああっ!」

 

耶倶矢は恐怖を感じ、声をあげてしまう。

颶風の巫女である八舞の片割れとして世界中の空を飛び回って来たとはいえ、身動き出来ないまま落ちるということは耶倶矢も初体験だった。

それ故に耶倶矢はかつてない程の混乱に陥ってしまった。

それこそ天使の存在が頭からすっぽ抜けてしまうぐらいには。

だが耶倶矢は一人ではなかった。

 

「耶倶矢ッ!」

 

同じく八舞の片割れである夕弦が落下する戦闘機を追いかける。

戦闘機の落下するスピードは速かったが、無論風の精霊である夕弦が追いつけない速度ではなかった。

夕弦はあっという間に戦闘機に追いつき、席に縛られている耶倶矢に捕まる。

 

「対処。今これを解きます」

 

夕弦はすぐさま耶倶矢の体に巻き付いているシートベルトを解こうとする。

 

「くっ……焦燥。うまく解けません」

 

シートベルトは操縦主の仕業できつく複雑に絡み合っており、簡単には解けなさそうだった。

夕弦は今どの高度にいるのか確認する為、下を見た。

そこには肉眼で地面がはっきりと見えていた。

恐らく地面に激突するまでそう時間は掛からないだろう。

 

「思案。…………ならば」

 

夕弦は左腕を動かす。

すると宙を漂っていたペンデュラムが動き、その先端がシートベルトを抵抗なく切った。

それとともに耶倶矢の体も開放され、空に浮かぶ。

 

「質問。大事ないですか?耶倶矢」

「う、うん。……その、ありがとね夕弦」

「説明。真の八舞を決めるまで、耶倶矢に死なれる訳にはいかないので」

 

そうやって少し和やかな雰囲気になった直後、爆発音が響き渡った。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

地上にある岩山の一角に戦闘機の残骸が打ち捨てられていた。

残骸は爆発を起こした今も火を出して、轟々と燃えている。

その惨状を見てるのは二人の精霊だった。

空に浮かんでいたその二人はそっと地面に着地する。

その内の一人、耶倶矢は冷や汗をかく。

先の戦いで霊装が所々剥げている今、もしあのまま戦闘機と一緒に落ちていたら、重傷は免れなかっただろう。

もし運が悪かったら死んでいたかもしれない。

そう考えたからこその冷や汗だった。

 

「……疑問。これで終わったのでしょうか?」

 

もう一人の精霊、夕弦が戦闘機の残骸を見つめる。

 

「クックック……ああ、我々八舞の勝利だ」

 

戦闘が終わり、耶倶矢が思い出したように言葉遣いを大仰なものに戻す。

 

「補足。とても勝利とは言えないものでしたが」

 

夕弦が悔しそうに顔を俯ける。

たしかに今回の戦いは終始圧倒されっぱなしで、自信満々に勝利とは言い難かった。

 

「まあまあ、相手が逃げたんだから私達の勝ちって事でいいんじゃない?」

誰が逃げたって?(・・・・・・・・)

 

その耳元で囁くそうな声に気付けたのは耶倶矢だけだった。

それとともに耶倶矢は周囲に気配を感じた。

その気配が向いている方向には、

 

「危ない!夕弦!」

 

いち早くそれに気づいた耶倶矢は夕弦を思いっきり突き飛ばした。

それと同時に突き飛ばした耶倶矢の腕が切り裂かれ、赤い血が噴き出す。

 

「か、耶倶矢!?」

「ぐっ!……誰かいる!」

「中々、勘がいいな」

 

片割れを切り裂かれて驚愕する夕弦と耶倶矢の耳に今度ははっきり声が聞こえる。

それとともに二人から数メートル離れた場所の空間が歪む。

その歪みは徐々に人の形になり、黒い奇怪な服装をした人物が姿を現す。

その姿はつい先程、今は残骸と成り果てた戦闘機を操っていた人間だった。

 

「……質問。貴方は一体何者ですか?」

「何者?……そうか、魔術師(ウィザード)の存在を知らない精霊もいるのか。二亜の場合は天使が天使だからな……知っているのも当たり前だったけど……」

 

その声音からして男だろう。

その男は矢継ぎ早に理解出来ない単語を連発する。

 

「話しがそれたな。俺が何者か、だったな。まあ端的に言うと俺は君達を殺しに来た」

「ッ!」

 

殺しに来た、その言葉を聞き、理解したと同時に夕弦はペンデュラムを飛ばした。

ペンデュラムは弾丸の如く、男の顔に向かっていく。

だがその男は、何てことないと言わんばかりに頭を少し横に傾けてペンデュラムを躱す。

 

「さて、やるか」

 

男がそう言った途端、夕弦に体中に寒気が走った。

まるでスイッチが切り替わるように。

それはこの男が自身に匹敵する強者だと言う事をひしひしと感じさせた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

夕弦が臨戦態勢に入る。

それに対し、構える事もなく悠然と地面に立つ士道は、

 

(こいつら霊装がエロいな。二亜もそこそこエロかったけど、こいつらのは猟奇的と言うか何というか……腹減った)

 

こんなくだらない事を考えてたとか何とか……




超難産回にして書きたい事を書きまくった結果、長くなった回。

今回は視点を八舞姉妹中心にしてみた。
戦闘機を用いた八舞姉妹とのドックファイトは初期の頃からやりたいと思って書いたけど戦闘機の戦闘描写難しすぎんよー。

八舞姉妹って十香に準ずるレベルで世間に疎そうだから多分戦闘機も知らんやろなって。
サンタクロースも知らないぐらいだし。

それにしても18巻は凄かった。
戦艦がドカーンってなって、みんながピチューンってなって、伏線もかなり回収されたね。
苦労して精霊を封印した挙句に記憶消されるって、士道くん大変やな(白目)。


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超人と精霊の戦い

今回は夕弦メインです。
早く投稿した代わりに、長さは前回前々回に比べて短いです。

ところで俺の書いてる文章ってちゃんと読んでる側に伝わってる?
どういう事が起きてるか意味理解できてる?
もしよろしければ感想お願いします。

タイトルがそのまんま?
……まあ……何て言うの……そういう時もあるじゃん?



これは現在から数十分程前、戦闘機がまだ形を保っていた時の会話。

 

「大佐、聞こえますか?」

『……聞こえてるぞ。なんだ?』

「そろそろ俺にピッタリな機能とやらを教えてくださいよ」

 

士道が持ち掛けたのは、着用型接続装置(ワイヤリングスーツ)の機能の話だった。

 

『言っただろ。使ってからのお楽しみだと』

「でもこれ実戦なんですよ。試す暇があったんなら良かったんですけどね」

『……確かにな』

 

士道の言う通りである。

これは〈ベルセルク〉を討伐する実戦任務だ。

真面目な話、使ってからのお楽しみなんて言ってる場合ではない。

 

『わかった。話す。その機能はズバリ光学迷彩だ』

「光学迷彩?それは随意領域(テリトリー)を用いた、ということですか?」

『いや違う。この機能に顕現装置(リアライザ)は使ってない。純粋な科学によるものだ。最近、開発機関が作ったらしくてな。知っての通りウチ(SSS)には最新技術が優先して入って来る。それを着用型接続装置(ワイヤリングスーツ)に取り付けたって訳だ』

 

精霊の討伐というのは、世界各国の重要課題の一つだ。

それ故、対精霊部隊のSSSは技術面がかなり優遇されている。

 

『と言っても今回は空中戦だからな。多分出番はないだろうよ』

 

気配を断つのが得意な士道に光学迷彩はまさに鬼に金棒と言えるだろう。

だがそれは白兵戦においてしか効果を発揮しないものだった。

士道は何故今これを渡したのか大佐に問い詰めたくなったが自粛する。

 

「出番はないですか。……そうだといいんですけどね」

 

士道は、そうだといいと言いつつも少し残念そうに答える。

まあ新装備というのは非常に男心をくすぐる訳で、使いたくなるのも無理はないだろう。

だが使うべき場面はすぐそこまで迫っていた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

周囲が岩だらけの岩石地帯。

地面も土に石が多く混じっておりかなり硬い。

その場所の一角には今も燃えている残骸と3人の人影があった。

そして辺りの空は暗雲に満ちていた。

 

「滅殺。覚悟してください。我々八舞に手を出した事を後悔させてあげます」

「そうか。なら後悔させてみろ」

「主張。その余裕を消し飛ばしてあげます」

 

夕弦は左手を持ち上げた。

たったそれだけの動作で周囲に凄まじい強風が吹き荒れる。

人間なら立っている事すら困難だろう。

だが目の前に立ち塞がる漆黒の兵士はバリアでも張っているかのように動じない。

 

そして風は夕弦に集まっていき、濃密な風の層を作る。

敵は耶倶矢の天使を受け止める程の実力者だ。

故に夕弦は加減しなかった。

抵抗させること無く、岩石地帯ごと吹き飛ばして塵にする。

そうするべく風を動かそうとした矢先の事だった。

 

「……は?」

 

夕弦の全面に展開されていた風に巨大な穴が開けられたのだ。

ドパンという重々しい破裂音、まるで超強力な空気砲でも撃たれたかのような惨状。

だがこの惨状を引き起こしたのはたった一人の人間だった。

 

「風の防壁か。一撃で仕留めるつもりだったんだけどな」

 

夕弦の眼前に、全身を光学迷彩機能付きの黒い着用型接続装置(ワイヤリングスーツ)で覆った男が右手の拳を突き出した状態で立っている。

この男は夕弦が反応出来ない速度で迫り、人間とは思えない威力の拳で風に穴を開けたのだ。

それがどれだけ恐ろしい事か理解した夕弦の頬に一筋の汗が流れる。

 

「お前の風は弱い。……終わりだ」

 

夕弦に止めを刺すべくもう片方の手を出して首を掴み折ろうとする。

男が夕弦まであと数メートルの所まで迫る。

 

「ッ!否定!させません」

「!」

 

否定の言葉とともに男目掛けてペンデュラムが飛んでいく。

その攻撃に男は即座に反応した。

右手の籠手でペンデュラムを弾き、甲高い音と一緒に火花が散った。

 

「確認。今誰の風が弱いと?」

「……それが、お前の天使か」

 

決して劣らない。

この男が超人ならば、夕弦もまた人という種を超えた存在、精霊なのだから。

 

「空中戦の時は鬱陶しいとしか思わなかったんだが」

 

精霊の天使を籠手で防ぐという、これまた人外な事をやってのけた男は、ペンデュラムとの激突で傷ついた左手の籠手を一瞥する。

 

「憤慨。夕弦の風を弱いなどと言う世迷いはもう二度と言わせません」

 

夕弦は覚悟したように目を見開く。

そして左手を上げ、風を再び結集させる。

それが合図のように男の体が溶けるように消えていく。

光学迷彩機能を使ったのだ。

 

「……その自信と態度、一体何時まで持つことやら」

 

その姿が消える前に夕弦は上げた左手をバッと振り下ろした。

 

「必殺。これでも喰らいなさい」

 

振り下ろされた左手についているペンデュラムが渾身の速さで男に向かっていく。

厳密には男の足に喰らいつき、巻き付いて行動を阻害しようとする。

 

「くっ」

 

消えかかっている男が跳躍して、ペンデュラムを回避する。

音速の速さのペンデュラムを避けるだけでも称賛に値するがこれは手札の内の一つでしかない。

 

「予測。これぐらいは想定内です。しかしこれはどうでしょうか」

 

風の密度が更に濃くなる。

その全ての風が男に向かっていく。

 

「……ふっ」

 

街を一つを簡単にボロボロにする破壊力、その全てが人間一人に差し向けられる。

男はこの光景に物怖じするどころか笑った。

それどころか再び夕弦目掛けて突貫する。

 

「破壊。貴方の体を穴だらけにしてあげます」

「ほざけ」

 

男は首を捻り風の弾丸を避ける。

すると腰からレイザーブレイド〈デストロイヤー〉を取り出す。

構えると真っ赤な刀身が形成されていき、それで凝縮された風の弾丸を切った。

 

「遅い」

 

続いて迫って来る風の弾丸を素早い剣捌きで次々と切っていく。

時節、風とともに飛んでくる岩はもう片方の拳で殴りつけ、時には蹴って粉々に砕く。

 

「そして脆い」

 

次々、そのまた次々と無力化される風。

人間なら何も出来ずに屍を晒すであろう猛攻を難なく防ぎ続けている。

それは夕弦にとってはとても信じ難い光景だった。

 

「焦……燥。まさかこれほどとは」

 

夕弦の天使、〈颶風騎士(ラファエル)〉の風はとても速い。

八舞姉妹が数百キロと言う距離を数分で移動できる事がそれを如実に表している。

男は遅いと口にしたがそんなことはない。

風を遅いと言う男の方がおかしいのだ。

 

「驚愕。どれだけ並外れた反射神経をしているのですか……ですが不可能です」

 

ズシャ、と肉を切り裂く音がする。

その音の出所は男の肩だった。

その肩から血が流れ出る。

それを皮切りに足や胴体など、数か所からも血が噴き出す。

幾らあの男でも際限なく撃ち続けられる風の弾丸をずっとガードするのは無理があったようだ。

 

「終幕。これで終わりです」

 

負傷によって男の体勢が崩れた所を狙い、ペンデュラムが男に向かって飛来する。

ペンデュラム、【縛める者(エル・ナハシュ)】は夕弦の天使だ。

天使の破壊は不可能、素直に躱すか、もしくはさっきやったように籠手で弾くしかないだろう。

だがそうして隙を見せるが最後、男は夕弦の宣言通り風の弾丸で体が穴だらけになるだろう。

 

「勝利。さらばです」

「……そうだな。……俺じゃなければ、の話だけどな」

 

数瞬後、夕弦はその光景に再び驚愕することになる。

男はで飛来するペンデュラムに手を伸ばして、音速の速度のそれを両手で掴んだのだ。

 

「なっ!?」

 

夕弦は目を丸くし、驚愕の声を出す。

しかも男は掴んだペンデュラムを力の限り引っ張り始めた。

ペンデュラムは夕弦の左手の錠と繋がっており、その結果夕弦も引っ張られ始める。

男の人外じみた膂力で、大した抵抗もなく夕弦の体は引っ張られ、宙に舞った。

そして男が思いっきりペンデュラムを振り下ろすと夕弦は地面に強く叩き付けられる。

 

「かはっ!」

 

夕弦は苦痛の声を上げ、ひび割れた地面で痛みに悶える。

 

「苦…戦。あれは、ヤバいです」

 

夕弦はここにきて初めて恐怖を感じた。

あの男の尋常じゃない強さに、だ。

悲鳴を上げる体に鞭を打ち、夕弦は何とかして体を持ち上げ、顔を上げる。

 

「……あ」

 

顔を男の方に向けた夕弦は、目を見開いて声を失った。

そこには二本の投擲用のナイフが自身に迫りつつあった。

一本は胸に、もう一本は頭に。

夕弦はそれに反応出来ず、目を瞑った。




魔術師(ウィザード)だけど殴る。
魔術師(ウィザード)だけど蹴る。

今回は次回が気になる感じの終わらせ方をしてみた。




















まあ夕弦は死なないけどね。


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決着

タイトルがそのままなのは何時ものこと。

今週から高校が始まるので投稿ペースが更に遅くなるかもしれません。
本当に申し訳ないm(_ _)m


士道はペンデュラムを思いっきり地面に振り下ろした。

そして夕弦と名乗る少女もペンデュラムとともに地面に叩き付けられる。

 

「かはっ!」

 

夕弦の苦痛の声に手応えを感じた士道は内心でガッツポーズをとった。

だが遠目から見てみると夕弦は未だに身を捩じらせ、体を動かしている。

どうやら動く力と気力があるらしい。

それに気付いた士道の行動は素早かった。

腰のポーチから投擲用のナイフを二本取り出し、素早く狙いをつけて片手で投げ放った。

 

ナイフは暴風の中でもぶれることなく進み、数秒で夕弦の目前にまでたどり着いた。

自身を刺し貫こうとするナイフを止められない事に気付いたのだろうか。

死を覚悟したように夕弦は目を瞑った。

戦闘中に目を瞑るのは諦めたという事と同じだ。

その様子を見た士道は体から力を抜きかけた。

だが目に映った光景に再び臨戦態勢を維持する。

 

もう一人の〈ベルセルク〉がナイフの射線に割って入ったからだ。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

ガキンッ!

 

二つの重い金属音が耳に入った。

 

―――ああ自分は死んだのか。

 

夕弦は意識が少しずつ遠のいていく様な気がした。

あの男との度重なる激闘で霊装はボロボロになっていた。

それこそただのナイフすら防げない程に。

 

―――……金属音?

 

夕弦はおかしな事に気付いた。

何故金属音が聞こえたのだろうか。

精霊の肌が鉄で出来ているのなら話は別だ。

だがそんな事はない。

 

―――一体何が?

 

夕弦は重い目蓋をゆっくり上げた。

そこには今まで幾度と争ってきた耶倶矢の背中があった。

恐らく耶倶矢が投げられたナイフを防いだのだろう、と夕弦は推測した。

 

「耶……倶矢」

 

夕弦は小さく名前を呼ぶ。

その事に気付いた耶倶矢は後ろを向くとギラついていた目を多少緩和させた。

 

「夕弦!無事?」

「……返答。無事と言えば無事なのでしょうが」

 

意気消沈したような様子で夕弦は返事をした。

夕弦はもうほとんど諦めかけていた。

認めたくはないが相手が強すぎるのだ。

耶倶矢が戦いに復帰したものの、それでも全く勝てる想像が出来ない。

その様子を耶倶矢が見かねたのか声をかけてくる。

 

「と、とにかくこれ一つ貸しだかんね!」

「むっ、心外。夕弦はさっき耶倶矢を助けました。今のでお相子です」

「で、でも私は空飛ぶ奴壊したし!夕弦よりも活躍してるし!」

「反論。あれは夕弦が囮になっかからです。耶倶矢一人じゃ出来ませんでした。言うなれば夕弦は耶倶矢に手柄を譲ったのです」

「ぐ、ぐぬぬぬぬ~!」

 

二人は敵をそっちのけで言い争いを始める。

夕弦は得意気に腕を組んでいる。

耶倶矢はそれに対抗するべく必死に反撃材料を探す。

だがここで一人の乱入者が現れる。

 

「いや、どっちかというと君の方が奮戦していたと思うぞ」

 

その乱入者が誰なのかは言うまでもないだろう。

その男は夕弦を指差して発言する。

まあ奮戦していたというより単純に戦ってた時間が夕弦の方が長かったと言うだけだ。

奮戦と言う意味では耶倶矢も負けてはいない。

 

「!……宣言。どうやらこの勝負は夕弦の勝ちのようです。我ら八舞と戦った本人が言うのだから間違いありません」

「う、ううぅぅぅ……って何であんたが話に加わってるのよ!」

「ん?……何だよ。文句あんのか?」

「大有りに決まってんでしょ!」

 

耶倶矢は男が当然と言わんばかりに会話に入ってきている事に異議を申し立てた。

 

「いや……いけるかなって」

「指摘。何がどういけるのか意味がわかりません」

 

男の意味不明な返答に夕弦は首を傾げる。

 

「……ゴ、ゴホン……ではそろそろこの答弁も終いとし、この戦いの勝者を決めようではないか!」

 

この場の空気を仕切りなおすべく耶倶矢はわざとらしく咳払いをする。

ついでに口調も仕切りなおした。

 

「同調。改めて、八舞二人も揃ったことですし今度こそコテンパンにしてあげます」

「おう、知ってるか?それフラグって言うんだぞ」

『五月蠅い!』

「……ひっでぇ」

 

二人の声が重なると、その心情が表れるように周囲に強風が吹き荒れる。

それは苛立ち。

だが男はそれに萎縮する様子も見せないどころか愚痴をこぼした。

そして再び〈デストロイヤー〉を右手に持ち、それに加えて〈ノーペイン〉を左手に持つ。

 

それを見て耶倶矢と夕弦も同じく天使を構える。

だが自分たちから仕掛ける事はしない。

否、出来ないのだ。

ついさっき見せつけられた圧倒的な力量の差が二人を動かせない。

その姿を小バカにするように男は口を開いた。

 

「どうした?さっきまでの威勢は?」

 

明らかな挑発、それに二人はピクリと肩を動かす。

その反応を見た男はさらに言葉を続ける。

 

「いやーもう勝ったな。精霊とかクソ雑魚以下の生命体だぜ」

 

男は笑いながら子供が数秒で考えたような罵りを二人に浴びせる。

その二人は肩のピクつきが収まったかと思うと今度は不敵な笑みを浮かべた。

 

「あのさ、夕弦」

「応答。なんでしょう」

「やっちゃう?」

「同調。やっちゃいます」

 

そういうと耶倶矢は左手を、夕弦は右手を出して二人は手を繋ぐ。

すると二人の背中に生えていた機械のような翼が同じく繋ぎ合わされる。

そして夕弦のペンデュラムが二つの翼の先端を繋ぎ、耶倶矢の巨大な突撃槍がペンデュラムに継がえられる。

 

それは余りにも巨大な弓だった。

弓が組み立て終わると同時に矢となった槍に極大の風が纏わりつく。

 

「!……ははは」

 

それを見た男は理解した。

あれを喰らえば死ぬか良くても重傷か。

間違いなく自身に届きうる矢だと。

だがそれでも男は笑い、余裕を崩さない。

 

「貴様……名を何という」

「……シドウ・ウォーリバーだ」

「そうか……ではシドウよ。矮小な人間の身でよくぞここまで我ら八舞を追い詰めたと褒めてやる……だが」

「指摘。この戦いも遂に終わりです」

 

二人は言葉を投げ掛けると弓の弦を引いた。

その弓は耶倶矢と夕弦が真に手を結ぶことで使用できるまさしく最大最強の一撃だ。

 

「そうか……だったらそれを真正面からぶち破る!」

 

士道は怖気づく訳も無く、それどころか二人に向かって走り始める。

ほんの数秒で最高速度に達して二人との距離をどんどん縮めていく。

 

夕弦はその愚直な姿にもう驚愕を通り越して呆れすら感じた。

だが先程感じたような恐怖は湧いてこなかった。

 

最初の風を淡々と迎撃する姿は、恐ろしく冷徹で機械のような人間と言う印象を受けた。

機械の如き見た目も相俟って生物ではないのでは、と言う疑念すら湧いた。

だが言葉を交わし、腹が立ったことでそれは違うことがわかった。

あの男も空気を吸って吐き、心臓を脈打たせ、脳を使って思考する夕弦と同じ生命体なのだ。

なら決して無敵などではない。

超人的な絶技の使い手ではあるが勝つ術も存在する。

 

士道は暴風を引き裂き、八舞姉妹まであと残り数十メートルというところまで達した。

だがそこで弓の弦が最大限に引かれた。

それがこの戦いの終わりの合図だった。

 

『〈颶風騎士(ラファエル)〉―――【天を駆ける者(エル・カナフ)】!』

 

高らかな声が響くと共に矢が発射された。

矢は最初にして最大の敵である士道を射抜かんと、これまでにない速さで前へ進んでいく。

回避するのは不可能だった。

そもそも士道に避ける意思がないので尚更だ。

 

士道は渾身の力で矢に〈デストロイヤー〉を振り下ろした。

その瞬間、周囲に今までで最も強い風が吹き荒れた。

 

「ぐおッ!!」

 

士道はまず腕が悲鳴を上げている事に気付く。

そして腕に掛かる負荷が徐々に全身に回っていく。

天を駆ける者(エル・カナフ)】と〈デストロイヤー〉、二つは拮抗していたがそれはほんの数秒だった。

 

ピキッ

 

嫌な音と共に魔力で出来ている〈デストロイヤー〉の刀身に少しずつ罅が入っていく。

 

「んな!?」

『いっけええええぇぇぇぇぇ』

 

二人の咆哮に答えるように矢は勢いを増し、〈デストロイヤー〉の刀身が粉々に砕け散った。

そのまま矢は進み続け、地の果てに消えていった。

 

「……確認。やりましたか?」

 

夕弦はつい言葉を漏らす。

一見すると周囲に男の姿は見えず、気配も感じない。

今、この場にいるのは耶倶矢と夕弦だけだった。

矢を射った方向は岩石地帯とその先にうっすらと見える森まで更地になっている。

 

さっきの男の焦りようを見る限り【天を駆ける者(エル・カナフ)】を避けたとは思えない。

精霊二人を相手取った男と言えども、今頃遥かかなたへ吹き飛ばされている事だろう。

だとすれば戦いは終わった。

 

「ふっ……やはり勝利の女神に愛されていたのは我らの方であったか」

 

耶倶矢は何回目かの大仰な口調で結果を述べた。

力が抜けたように座り込んでしまったので微妙に恰好がつかなかったが。

 

「苦戦。かなり疲れましたが……これでッ!?」

「えっ?…………」

 

余りに突然の出来事に誰も反応することができなかった。

投げられた〈ノーペイン〉が夕弦の肩を掠めたのだ。

夕弦は苦悶の声を上げ、反射的に肩を抑える。

耶倶矢はその突然の出来事に一瞬、思考を停止させた。

 

「ゆ、夕弦!?……大丈夫?」

「ぐっ……応答。少し掠っただけです」

 

夕弦の肩からひたひたと血が流れ落ちる。

二人は矢を射った方向の後ろに顔を向ける。

そこには先程夕弦の肩を傷つけたであろうレイザーブレイドが地面に突き刺さっている。

少しすると青い刀身が消え、柄がカランと地面に落下した。

二人の脳裏に、これを投げた人物など一人しか思いつかなかった。

 

―――次は仕留める

 

武器から既にいないあの男の声が聞こえてくる気がした。

 

「進言。とりあえずは手当をしたほうがいいかと」

 

夕弦はいち早く次の行動に体を移そうとする。

二人とも激闘の末、霊装はボロボロで今なら拳銃でも通りそうだった。

その上、体力も気力も使い果たし、疲労困憊な状態だ。

何時、追撃が来るかわかったものでもないのでここは体勢を立て直すのが先決だ。

 

「そうであるな。ひとまず、むっ……」

「狼狽。これは……」

 

何かに引っ張られる感覚がするとともに二人の体が薄くなる。

それに二人が動揺を表したのは一瞬だった。

次の瞬間には二人の姿はこの世界から消えていた。

 

消失(ロスト)

 

精霊の意思とは無関係に発生する現象だ。

偶然か否か、二人は運良く隣界へ姿を消したのだった。

一目見て解る程の災害の跡を残して、その場は一転して静寂に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

無意識に体が震えてしまう程冷たく、光を通さない闇の中。

 

そこに士道は居た。

士道はここはどこか、を朦朧とした意識で考える。

最後に士道の記憶にあるのは〈ベルセルク〉の最大の一撃に打ち負けた自分。

消えゆく意識の中で最後っ屁と言わんばかりに〈ノーペイン〉を投げたのを皮切りに士道は気を失った。

 

士道の記憶の中に、答えにたどり着くキーワードは無い。

だが今もなお着用型接続装置(ワイヤリングスーツ)とヘルメットを着用していることから少なくとも地獄か、あるいは天国ではなさそうだった。

一通り考察すると士道は段々と息苦しさを覚えるようになる。

 

士道は考察をやめ、今度は目を動かし、辺りを見た。

よく見るとヘルメットのヘッドアップディスプレイに表示されている温度の計器が5度を下回っていた。

これでは寒く感じるのも無理はない。

そして士道は上にほんのりと光を見た。

 

それがスイッチとなり、士道の頭が急速に回転を始める。

ほどなくして士道はこの場所に検討がついた。

士道は脳内で顕現装置(リアライザ)に指令を出し、随意領域(テリトリー)を展開して上を目指した。

 

高度が上がっていく程、光も強まっていく。

そしてその光が最高潮に達した瞬間、

 

「ぷはっ!ごほっ」

 

士道は大きく息を吸う。

少しすると眼球が光に慣れ、士道は周囲の景色を見た。

そこは士道の読み通り、海だった。

全方向を見渡しても陸らしきものは見えない。

 

「何だここ……まさか最近流行りの異世界転移か?」

 

もちろん違う。

回りの風景を見て徐々に意識が目覚めていく。

それとともに全身を激痛が襲った。

 

「ッ!!」

 

士道は顕現装置(リアライザ)で体の状態を探る。

すると全身が打撲、両腕が骨折、左の脇腹が削れていることが解った。

かなりの重傷である。

士道は激痛に耐え、腰から端末を引き抜く。

国軍で使われている端末はもしもの時に備えて防水対策が施されており、不調を感じさせることなく起動した。

位置情報を調べると現在地が判明する。

 

「ノルウェー海……マジか」

 

どうやら士道は戦闘機で〈ベルセルク〉を追跡しているうちに北欧まで来てしまったらしい。

次に士道は上司であるサミュエル大佐と連絡を取ることにした。

端末を操作して大佐に繋ぐと数秒で声が聞こえた。

 

『シドウか!?一体何があった!30分以上前から連絡が取れなくなってたぞ!』

「まあまあ。落ち着いて下さいよ、大佐。全部説明しますから」

 

士道は戦闘機が木っ端微塵になったこと、〈ベルセルク〉と直接戦闘になって戦いの末に海まで吹き飛ばされた事、そして今の自分の状況を伝えた。

 

『……成程な。解った。まずお前には救出を送る。それと〈ベルセルク〉は消失(ロスト)した。残念だがお前が与えた手傷は無駄になった』

「そうですか。……救出をお願いします。ちょっと今までで一番ヤバそうなので」

『解った。すぐ送る』

 

そう言うと大佐は通信を切った。

端末の位置情報を元に捜索を行えば救出隊が士道を見つける事もそこまで苦ではないだろう。

とりあえずボート無しの漂流生活なんてものは送らなくてすみそうだった。

 

「いってぇ」

 

だが士道は未だに痛みに苛まれていた。

同時に意識が少しずつ消えかかる。

もしここで気を失ったら随意領域(テリトリー)を維持出来ずに士道の体は再び海に沈む事になるだろう。

士道は再度、周囲を見渡した。

 

「……あれって」

 

士道は離れた場所に何かを見つけた。

随意領域(テリトリー)を操作し移動する。

その場所にたどり着いた士道はそれを持つ。

それは木の板だった。

間違いなく人の手が入った物だろう。

ただの板きれではあるが浮きにはなりそうだった。

士道は木の板によりかかった。

 

「これで大丈夫……か」

 

少しずつ視界が霞んでいく。

そして体も動かなくなっていき随意領域(テリトリー)も解除される。

 

「…………………………」

 

士道は意識は再び暗転した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まず士道が感じたのは鼻腔を突く消毒液の匂いだった。

そして見えたのは清潔感のある白い天井だ。

士道は重い体を何とか起こす。

 

「ここは……医務室か?」

 

士道の両腕にはギプス着けられていて体の至る所に包帯が巻かれていた。

 

「目が覚めましたか?」

 

士道の耳に凛とした声音が響く。

横を見るとそこにはエレンがいた。

エレンは士道が横になっているベットの隣にある椅子に座っている。

士道は何故かエレンの様子が妙にしおらしく感じた。

 

「エレン……久しぶり?」

「何を言ってるんですか」

「あぁ……すまん。何か暫く会ってなかった気がしてな……っともう五時か」

 

士道は医務室の時計を見て呟いた。

 

「そうです。もう三時間以上寝ていたんですからね」

 

エレンは何やら文句がありそうな様子だった。

 

「全くもう……あまり心配を掛けないでください」

「あぁ……すまなかった」

 

士道は頬をかきながらそう言う。

何故か気恥ずかしくなり少しの間無言が続く。

 

「邪魔するぞー……ってマジでこれはお邪魔か?」

 

そう言って医務室のドアから入って来たのはサミュエル大佐だ。

 

「いや……別にそんな事はないですよ。何故そう思ったのか少し話を伺いたいところですけど」

「そんな感じの雰囲気だったからな。お前は気付いてないかもしれんが、メイザースがこっち来んなオーラ出してたぞ」

「えっ」

 

士道はエレンを見る。

その途端、エレンは残像が残る程のスピードで顔を横に逸らした。

身体能力は皆無の筈なのに、不思議な事もあるものだ。

士道はそんな大して重要でもない事を考えながら今後のことについて考えていた。

 

「そんな事よりお前ボロボロだな。大丈夫か?」

「大丈夫な訳ないでしょう。これって労災適用されるんですか?」

「お前何言ってんだ。SSSは陸軍の秘匿部隊だぞ。労災なんてある訳ないだろ。SSSじゃなかったら間違いなく適用されるだろうけどな」

「ですよね」

 

大佐の言葉に士道は肩を落とした。

労災については議論の余地もなさそうだった。

 

「あと一応もう一回言っとく。〈ベルセルク〉は消失(ロスト)した。こればっかりはどうしようもない」

「ええ、そうですね」

「で?どうだったよ。初めての空の戦闘は?」

「疲れました。出来ればもう二度とやりたくないです」

 

今日で士道は戦闘と言うものを嫌と言う程、思い知った。

既に半年以上前の二亜との戦いは遊びだったと言わんばかりに今回の戦いは激しかったのだ。

エレンとの戦闘も真の意味で敵と言う訳ではなかった為、決して全力で戦った訳ではない。

だが今回の〈ベルセルク〉との戦闘はまさに死力を尽くしたと言えるものだった。

 

「できれば一か月ぐらい休みが欲しいですね」

「……まあ考えてやらんこともない。あと怪我の事だが医療用顕現装置(メディカルリアライザ)を使ったから外傷はもうほとんど治ってる。でも腕の骨と脇腹はまだ治ってねえから気を付けろ、って感じだ」

 

かなりの重傷に士道は溜息をついた。

 

「これぐらいで俺は失礼させてもらう。仕事があるんでな」

 

最後にそう言い残すと大佐は医務室から出て行った。

 

「……それで、実際のところ休みは取るんですか?」

 

まるで大佐が居なくなるのを待っていたようなタイミングでエレンが口を開いた。

 

「いや休まねえよ。正直休暇取ってもやることないしな」

 

本音は負傷したのを理由に休みたかったが、士道は自身の技量の劣化を嫌う。

〈ベルセルク〉に見せたような神業の如き戦闘力を維持するには鍛錬を怠るわけにはいかないのだ。

 

「それにまだエレンに苺のショートケーキ奢ってないしな」

「!……てっきり忘れられたかと」

「流石に断言したことを忘れるほどバカじゃない」

「ほう……そうですか」

 

その瞬間エレンの目がキュピーンと光ったような気がした。

それと同時に疑わしい視線を士道に向けてくる。

 

「ち、ちゃんと約束は守るから!」

「……そこまでいうのなら……契約を」

「ん?」

 

士道は契約という言葉に首を傾げる。

するとエレンは小指を出してそれをフックのように曲げる。

士道は少し考えた後、その意味を理解し、同じく小指を曲げた。

そしてお互いの小指を引っ掛け、絡めあわせる。

これは所謂、指切りと言うものだ。

 

エレンの顔が喜色に染まる。

これだけ見てれば非常に可愛らしいのだがその本質は残念美少女だと言う事を士道はもう知ってしまっている。

 

「ってことで定時だから帰る」

「はい………………えっ!?」

 

そう言うと士道は両腕のギプスを外し始める。

それも自力で。

 

「ふ、普通ここで泊まるのではないのですか?」

「……俺にも色々あるんだよ」

「今の若干の間は何だったんですか?」

 

真面目な話をすると明日は平日、つまり学校があるのだ。

その為、士道は日本に戻らなくてはならない。

 

「まあそう言う事だから、また明日」

「どういう事ですか?」

 

エレンは困惑した表情だ。

士道はギプスを外すとベットから降りてすぐに医務室から出て行った。

そして寮に向かって足早に歩いて行く。

だが屋外に出たところで士道はある事に気付いた。

 

「そう言えば昼ご飯食べてなかった」

 

〈ベルセルク〉のごたごたですっかり忘れていたが思い出した途端、空腹感が士道を襲った。

ひとまず帰る前にどこかで食べて行こうと士道は方向転換した。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「……以上が〈ベルセルク〉の件の全容です」

『ふむ……そうか』

 

エレンは電話の相手が頷いたのが何となく分かった。

今エレンが行っているのは定期的な上司への報告だ。

 

『まさか今まで難攻不落だった〈ベルセルク〉を追い詰めるとは……我が社が誇る世界最強の魔術師(ウィザード)を倒しただけの事はあると言うことか』

「そうですね」

『おや?君がそれを認めるとは、心変わりでもあったのかい?』

 

エレンの上司にあたる人物は大層珍しそうに声を上げた。

 

「いえ特には。ただ事実を申し上げただけです」

『ほう、彼の力量は君が素直に認めるほどなのか……ますます興味が湧いたよ』

 

男はとても楽しそうに声が弾んでいる。

おそらく電話の向こうではその口角も釣り上がっているだろうとエレンは推測した。

 

『シドウ……シドウ・ウォーリバーか。彼には是非とも会って見たいものだ。……ではエレン引き続き、彼との訓練に勤しんでくれたまえ』

「はい。それでは……………………アイク(・・)

 

士道の次の戦いはもう、すぐそこまで迫っていた。




ちょっと最後あたり雑な感じになった気がする。

というわけで前振りも含めれば4話も掛かった八舞編もようやく終わりました。
ちょっと予定より長くなってしまったよ。
当初は2話か、長くても3話ぐらいの予定だったんですけど。
ちょっと章の構成を変更するかもしれません。

因みに士道はずっとヘルメットを着けてます。
治療の時に外さないのか?だって?
本人の指紋がないとロックが解除出来ないと言う事にしておこう。
取ってつけたような設定ですみませんw

そして次回からオリキャラを登場させる予定です。


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士道デウス・エクス・マキナ
新たな仕事


まず最初に、投稿が亀の如く遅れて申し訳ありませんでした。
オリキャラの設定を決めるのに右往左往すること約二週間、執筆するのに約三週間で一か月以上かかってしまいました。
面目ない。

それとUA1万超えました。
みんなアリガトー ワーイ♪♪\(^ω^\)( /^ω^)/♪♪ワーイ 

あと関係ない話ですけどGODZILLA決戦起動増殖都市がめちゃ面白かったです。
メカゴジラ動かないんかい!と、つっこんでやりたくなりましたがゴジラの高加速荷電粒子ビーム(言いたかっただけ)が、かっこ良かったから全て許す。


「はぁ~」

 

暖かいお湯が冷たい体に染み渡り、士道は自然と声を出した。

五河家にあるただの風呂ではあるが、未だに寒々しい3月の冷たさには抜群の効果を示した。

 

「はぁ~」

 

士道と向かい合って同じく風呂に入っている妹、琴里も同じく気持ちよさそうな声を出した。

 

今、士道は妹である琴里と一緒に風呂に入っていた。

混浴ではあるがそこは子供、しかも兄妹であるから許されることだろう。

勿論、士道は腰に、琴里は胸にタオルを巻いている。

 

「……ねぇねぇ、おにーちゃん」

「ん?どうした、琴里」

 

入浴して少し時間が経つと琴里が怪訝そうな視線を向けて士道に話しかけた。

 

「……体の傷、前より増えてない?」

「………………」

 

琴里が疑問に思うのも当然の事だろう。

前に入った時は腹に大きな痣と擦り傷だったのが、今は体中に切り傷があるのだ。

中でも目を引くのは、左脇腹にある槍にでも突かれたかのように思える大きな傷跡だ。

目算でも恐らく直径3cmはあるだろう。

 

「あー、いやちょっとやらかしちまって」

「また喧嘩したの?」

「ああ、うん」

 

勿論、これは虚言である。

実際は精霊、〈ベルセルク〉につけられた傷だ。

医療用顕現装置(メディカルリアライザ)は大抵の傷は治すものの処置が遅れてしまうと傷跡が残ってしまう事があるのだ。

無論、精霊にやられたなんて言える訳がない為、琴里には喧嘩と嘘をついている。

だがそれで誤魔化すには限度がある傷の大きさなので、士道は傷跡を消そうと躍起になっているのだ。

医療用顕現装置(メディカルリアライザ)を何回か使うことで少しずつ傷は小さくなっている。

 

「その……大丈夫なの?」

 

琴里が心底、心配そうな顔と不安そうな声音で士道に問う。

兄である以上、士道は琴里を安心させなければいけないだろう。

士道は出来るだけ声をやわらかくして答えた。

 

「大丈夫だよ。そう心配すんなって」

 

士道はそう言って琴里の頭を優しく撫でる。

 

「……うん。わかった」

 

頭を撫でた甲斐あってか、琴里は硬い表情を幾分か緩めた。

 

「じゃ、俺は先に上がるな」

「えっ!……今日も?」

 

もうほぼ毎日の事だが琴里は思わず溜息をついた。

士道は大体7時になると自分の部屋に籠ってしまうのだ。

そうしたら部屋に鍵を掛け、次の日になるまで出てこない。

士道は、人知れず世界を救ってるんだぜとか何とか言っていたが流石にそれを信じる程琴里は子供ではなかった。

 

「それじゃあ、また明日な。琴里」

 

そう言って琴里の頭をポンポンと撫でると、士道は浴室のドアを開け、脱衣所に入っていった。

 

「………………」

 

琴里は風呂によって赤くなった頬の色を更に濃くする。

小学3年生にしてブラコンと言う病を患ってしまった琴里は、士道の優しそうな声に何も言えなくなってしまった。

士道が部屋に籠って何をしているか、今の琴里に知る由はなかった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

脱衣所で服を着た士道は、自分の部屋に入って鍵を閉めた。

鍵を閉めるのは自分がいない事がバレないようにするためだ。

士道は部屋のクローゼットを開け、奥からやたらとメカメカしている台座、転送装置を引っ張り出す。

そして台座の下の部分についているケーブルをコンセントに繋いだ。

すると台座から電子音が聞こえ、同じく台座の下部についているゲージが少しずつ溜まっていく。

 

数分程するとゲージのすべてが青く染まった。

それは転送に必要な電力が全て貯まった事を意味している。

士道はゲージを確認すると台座に立って下部のレバーを倒した。

すると電子音が大きくなり、士道の体は浮遊感のようなものに包まれた。

士道の体内時計によれば、約2分経過したところで真っ白だった視界が晴れていく。

その場所は士道のイギリスの拠点である寮の一室だった。

最初の頃は、転送の独特な感覚に酔っていたが今はそれも慣れたものだ。

 

「……さてと」

 

狭い部屋の壁に掛けてある時計は既に10時を過ぎているが、SSSの隊員は時間にルーズな人ばかりなので士道は遅れている事を特に気にしなかった。

一息つくと、士道はまず洗面所に向かった。

この生活リズムになってから早くも一年以上が経過した士道の毎日の日課はもう決まっている。

まず洗面所に行き、眠気を覚ます為に顔を洗う。

次に歯を磨き、最後に持ち物を確認して準備が完了する。

 

「今日は精霊来るかな?……まあ処理が面倒くさいから現界して欲しくないけど」

 

対精霊部隊の隊員としてはかなり不適切な言葉を溢しながら、士道は部屋のドアを開け、外に出た。

 

「っ!」

 

ドアを開けた途端に入ってきた冷気が士道の体を震わせる。

日本は最近少しずつながらも気温が上がってきたが、こちらはまだまだのようだった。

イギリスは日本よりも北に位置するから当たり前、と言えばそれまでだが。

 

取り敢えず寒さは我慢することにして、士道はズボンのポケットからデバイスを取り出すと、着用型接続装置(ワイヤリングスーツ)を展開した。

ものの一瞬でカジュアルな服装が黒と蒼の装甲に変わり、腰の剣帯には鞘に収まった刀らしきものが着けられている。

着用型接続装置(ワイヤリングスーツ)を身に纏って顔を隠した士道は基地の中枢に向かってのんびりと歩き始めた。

 

しかし何と心が鎮まる光景だろうか。

爽やかな緑の街路樹に、緩やかな日差しが降り注ぐ。

どこかからフルートの音色でも聞こえてきそうな、そんな風景だった。

士道が散歩気分で歩きたくなるのも無理はない。

だが傍から見てみると、士道の近未来チックな戦闘服がその景観を破壊していた。

そしてその景観を破壊している張本人はその事に全く気がついていない。

 

そんなボケっとしている士道はどうでもいいとして、数分歩くと自然が消えて視界に金属のフェンスやコンテナ等が映り始めた。

その鉄格子の向かい側には作業員を始め、ちらほらと着用型接続装置(ワイヤリングスーツ)を展開している魔術師(ウィザード)の姿も見え、楽しく談笑しているようなグループも見受けられる。

 

そんなザ・平和な光景に一人、異物が混じっている事を士道は感じ取った。

 

あっちこっちに視線を飛ばしている士道の目の視界にあるものが映った。

士道が歩いている道の脇に等間隔に置かれてるベンチ、その内の一つに人が座っている。

その人物は特殊部隊が着ていそうなコンバットスーツを着ており、腰のホルスターにはハンドガン、太ももにはナイフ、肩にはサブマシンガンを掛けている。

まさに完全武装と言った装いだ。

そして最も目を引くであろう頭には、文明社会人であれば誰でも知っている某マスコットキャラクターの着ぐるみマスクが着けられていた。

スラッとした体格と胸部の膨らみを見て、士道はその人物が女性であることを看破した。

 

「………………」

 

士道はゴクリと生唾を飲む。

その人物の正体を理解したからだ。

コンバットスーツと着ぐるみマスクを着た人物なぞ、普段の士道なら感性が豊か?なコスプレイヤーとしか思わないだろうが、この時は普段ではなかった。

 

この女性、姿は隠しているようだがその身に宿す覇気までは隠せなかったようだ。

その覇気を見抜いた士道は、額に汗を浮かべながらも反応した素振りを見せずに女性が座っているベンチを通り過ぎることに成功した。

 

「……はぁ……はぁ」

 

士道はいつの間にか止めていた息を吐いた。

だが緊張が途切れたと同時に、後ろから敵意を感じた。

勢いよく後ろを向くとコンバットスーツの女性がハンドガンをこちらに向けていた。

そのことを認識してから間もなく炸裂音が響き、ハンドガンの銃口から弾丸が飛び出した。

 

士道は腰の鞘から居合の要領で素早く刀を抜き放ち、放たれた弾丸を真っ二つに両断した。

今ではすっかり板についた銃弾を切ると言う技を行った士道は、自身の視界の端に接近

する影を捉えた。

言わずもなが、コンバットスーツを着た女性だ。

女性はサブマシンガンやなんやらを身に着けてるとは思えないスピードで距離を詰め、士道がナイフを投げるなどの対応する暇も無く肉薄した。

 

「ッ!」

 

それに反応した士道は素早く刀を振り下ろす。

だが女性は放たれた神速の斬撃を両手で掴み、振り下ろしを止めたのだ。

掴んだ手の平から、ジュッと焦げるような音とともに少量の煙が立ち上がるが、女性はそれを意に返さず、そのまま流れるように士道の真正面に迫り、手から刀を叩き落とした。

 

「おっ!?」

 

士道の驚愕の声と一緒にいつの間に増えていた周囲のギャラリーから「おぉ…」と言う小さな感嘆の声が溢れた。

そして刀を失った士道にナイフを突き出す。

士道は突き出された腕を掴み、ナイフを止めると足を払った。

 

「!」

 

ここでようやく女性が反応を表した。

だがそれは想定外の攻撃に対する驚きのようなものではなかった。

女性は足を引くことで足払いを回避、士道の足は空を切る。

 

「ふふっ」

 

女性はマスクの中で笑う。

今度は此方の番だと言わんばかりに、女性は一回転して回し蹴りを側面から士道の頭に叩き込む。

 

「ちっ!」

 

士道は腕を構えて回し蹴りを受け、衝撃をいなした。

だがいなしても尚、有り余る衝撃に士道は数メートルほど後ろに後退した。

一回転が生み出した遠心力が内包されている回し蹴りの威力は士道の許容量を超えていたのだ。

左腕の痛みに眉を顰める士道に、女性は手刀や掌底を容赦なく打ち込んでいく。

士道は波状攻撃を捌いていくが次第に防戦一方になり、防御も儘ならなくなっていく。

そして何度目かの攻防で女性の右ストレートが士道の腹部を直撃した。

 

「ぐぁ!」

 

防御に失敗した士道は後方に大きく仰け反る。

そして士道が仰け反った体を戻した時には自身の眉間にサブマシンガンが向けられていた。

 

「……はい、降参」

 

士道は観念するように両手を上げて苦笑した。

 

「これで私の八勝ね」

 

女性は自慢げにそう言うと顔から着ぐるみマスクを取り、素顔があらわになる。

それはつい先ほどまで、凄まじい格闘術を行使していた人物とは思えないほどの美女だった。

輝くようなブロンド色の髪に、鮮やかな緑色の目を持つ美しい容姿をしている。

 

「ああ……正確には八勝一敗だけどな」

「そこまで細かく言わなくてもいいじゃない、シドウ」

「てかイリシャ、いい加減に朝の襲撃は止めてくれ。朝から戦うのはつらいんだよ」

「別にいいでしょ?鍛錬にもなるんだし」

 

士道の眠気を覚ますどころか意識を警戒状態にしてしまった彼女の名はイリシャ。

負けなしだった士道が初めて敗北を喫した相手であり、エレンと並んで最強の魔術師(ウィザード)の一角を担っている。

イリシャがどれだけ強いかは先程の両者の発言からわかるだろう。

初めて戦った時、かなり拮抗したのが彼女の琴線に触れたのか、それ以来不定期で士道にこうやって襲撃を仕掛けてくるのだ。

 

「それより、これを見てちょうだい」

 

そう言うイリシャは被っていた着ぐるみマスクを見せつけてくる。

 

「……これがどうしたんだよ?」

 

イリシャが手に持っている着ぐるみマスクに、特におかしいところはない。

強いて言えばそこそこの値段はしそうだという印象を受けた。

 

「これね、アメリカにしか売ってないのよ」

「いや知らんがな」

 

果てしなくどうでもいい答えに変な口調になる士道。

会話を切って士道は叩き落とされた刀、〈デストロイヤー〉を拾い、それを鞘に納刀した。

 

「それ、〈デストロイヤー〉だったかしら?相変わらず変な名前ね」

「オッケー、お前はちょっと黙ってろ」

 

因みに〈デストロイヤー〉は〈ベルセルク〉との戦いで破壊された為、改修されて新たな姿に生まれ変わった。

片刃の刀身はまるで日本刀を思わせるが、その刀身はレイザーブレイドよろしく魔力で出来ており、士道の着用型接続装置(ワイヤリングスーツ)と同じように、蒼く輝いている。

刃と柄の間にある、本来は丸い鍔も現代風になっていて、刀と銘打ってはいるが構造に刀の要素などはまったくない。

 

「言うなれば〈デストロイヤーⅡ〉ってところか」

「Ⅱをつけても変な名前に変わりはないわよ」

「ちょっと、割とマジで黙ってて」

 

平然と毒を吐くイリシャに士道は憤慨する。

〈デストロイヤー〉と言う名前は別に士道が決めたわけではないので、言われもない悪口に士道はほとほと困っていた。

 

「ああ、それと隊長から貴方に伝言よ。司令部に来てくれって」

「そうかよ……てかそれを早く言え!」

「ふふっ、ごめんなさい。つい戦いに集中しちゃって、つい本当の目的を忘れるところだったわ」

「お前、間違いなく戦闘のついでに伝言とか思ってただろ。ってこうしちゃいられん」

 

そう言うと士道は司令部に向かって走り去って行った。

士道がその場からいなくなると周囲のギャラリーもワイワイ、ガヤガヤと話しながら去って行った。

世界トップクラスの魔術師(ウィザード)である士道とイリシャの戦闘は否応無く周囲の目を引き、今ではどっちが勝つか賭けをする者まで現れる始末だった。

最も前述の勝敗の戦績により、士道に賭ける人は余りいなかったが。

 

「さてと、私は後片付けをしないとね」

 

イリシャは地面に落ちたハンドガンの薬莢を拾い、そして士道が〈デストロイヤー〉で両断して二つに分かれた弾丸を探しに行った。

それは魔術師(ウィザード)であってもかなりの苦行であることは間違いなかった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「それで、何か?」

 

士道は司令部の一番奥にある隊長用の椅子に腰かけているサミュエル大佐に、呼ばれた理由を問うた。

 

「おっ!来たかシドウ!」

「……ん?」

 

士道はサミュエル大佐の機嫌がかなり良さそう事に気付いた。

そしてその訳を少し考えると思い当たることが一つだけあった。

 

「随分とご機嫌が良さそうですね。もしかしてエレンが不在な事と何か関係が?」

「ははは!解ったかシドウ、基地にDEM所属の奴がいないだけでどれだけ気が休まることか!」

 

士道の思った通り、サミュエル大佐はエレン、引いてはDEMがいないことを喜んでるらしい。

まあDEMはSSSに装備を優先して提供してるのをいい事にSSSの魔術師(ウィザード)を実験か何かで廃人にする為、大佐がDEMを良く思っていないのは当たり前の事だった。

因みにエレンは社長に呼ばれたらしく、今はこの基地にいない。

 

「エレンがDEMにSSSの情報を流す事を恐れてるんですか?彼女はとてもそんな事はしないと思いますが……」

「そんな確証がどこにある?」

「ないですけど、そんな事をするならもっと冷たい態度をとると思いますよ」

「………………」

「エレンは敵に対しては冷酷ですけど仲間には結構甘いですし」

 

士道は口籠ることもなくスラスラと言葉を述べた。

 

「よくそんな事を自信満々に言えるな。俺にはあの狂人の手下にしか見えないが……それだけ奴を信用してるという事か……」

「でもイリシャと喧嘩することはやめてほしいですね。何故か知りませんけどエレンはイリシャが嫌いらしいですから」

 

士道に理由は分かりかねているがエレンとイリシャは仲が悪い。

それも特大に。

最初はちょっとした口喧嘩だったが次第にエスカレートしていき、今では時折兵装を持ち出して戦うまでになったのだ。

最初は放っていたが戦闘となると話は別で、今では一触即発になるたびに士道が仲裁を行っている。

 

「……お前、理由は分からないのか?本当に?」

「ええ、俺には。同じブロンドヘアだから敵対心でもあるんじゃないですか?そんなふざけた理由とは思いたくありませんけど」

「……………………はぁ」

 

士道の言葉を聞くと大佐は手を頭に当てて溜息をついた。

それは頭を抱えてるのか、士道に呆れているのか、もしくはその両方か。

 

「な、なんですか?その反応は」

「シドウ……後ろから刺されないように、常に後ろを警戒しとけよ」

「?……はい」

 

士道は大佐が何を言っているのか良く分からなかったが真剣な剣幕に思わず頷いてしまった。

 

「長々しく話しちまったが本題に入るぞ。単刀直入に言う。シドウ、お前魔術師(ウィザード)の育成に興味はないか?」

「それって俺が訓練させる側ってことですか?」

「そうだ。シドウ、お前も知っての通りSSSは今圧倒的に人材が不足してるんだ」

 

現在SSSはかなりの人員不足に陥っている。

そもそもの話、顕現装置(リアライザ)を扱う適正を持つ人間が圧倒的に少ないのだ。

顕現装置(リアライザ)を使えるか否か、こればっかりは潜在的な能力の有無によって決まる。

そんなただでさえ少ない適正者をDEMから取られているのだ。

しかもDEMの横暴を軍の上層部は知りながらも黙認している為、それに対しても対策のしようがない。

 

「だからウチは少数精鋭主義を推し進めようと思う」

「成程。それで教えるのが俺と言う訳ですか」

 

士道も今では世界最強の魔術師(ウィザード)の肩書を背負っている身だ。

少数精鋭の軍隊を作るのにこれほど適任な人物はそういないだろう。

 

「……因みに拒否権は?」

「ふむ……………………」

 

士道の言葉にサミュエル大佐は顎に手を当て、考えるような仕草をする。

そして少しの間、無言になると―――――

 

「無いな」

 

拒否の言葉を口にした。

 

「さいですか」

「別にイリシャでもいいんだが人に教えるのはお前の方が得意そうだからな」

 

士道は常日頃、エレンに正拳突きを教えている。

その為、人に教える事に関しては士道の方に分がある。

 

「それじゃあ、これにお前が教える魔術師(ウィザード)の情報が載ってる」

 

サミュエル大佐がA4サイズの封筒を士道に手渡す。

封は、紐をボタンに巻きつけて止められていた。

 

「早速ですか。仕事が早いですね」

「今のSSSの重要案件だからな。それと悪いが始まるのは明日だ。今日中に書類に目を通しといてくれ」

「……仕事が早いとやることも早いと」

 

余りにも早過ぎる話の進み様に関心半分、呆れ半分の士道。

SSSの仕事が唐突なのは何時もの事だが士道は溜息が出るのを止められなかった。

 

「話は終わりだ。訓練に戻れ」

「わかりました」

 

士道は渡された封筒を脇に挟み、一礼すると司令部を出た。

 

「……………………はぁ」

 

司令部を出て士道はもう一度、溜息をついた。

明日からやる事が増えると思うと、士道の気分はどんどん下降していった。

 

「って駄目だな。こんなんじゃ」

 

士道は体に力を入れて猫背気味な背筋を真っ直ぐに伸ばした。

SSS所属の魔術師(ウィザード)としてこんな鬱オーラを垂れ流してしまう訳にはいかない。

士道は気を張り詰めて、訓練区画に足を進めた。




時系列を把握する為に定期的に言っておきます。
今は原作から約6年前です。

と言う訳でオリキャラ二人目出してみました。
一人目のオリキャラであるサミュエル大佐が男性だったので次は女性にしようとした結果、最強クラスになってしまいました。
二人目のオリキャラのイリシャには後々、超重要な役目を担ってもらう予定です。

それと着ぐるみマスクはミ〇キーのことです。

あと地味に章のタイトルを変更しました。
八舞テンペストと八舞ストーム、ぶっちゃけ意味は同じです。


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原石

毎日ちょびちょび書いてたらいつの間にか一か月。
すまぬ。
次の更新はいつになることやら。

そして誤字報告、ありがとうございます。


「おっさん。ミートパイとカスタードプリン一つずつ」

「あいよ」

 

午前中の訓練を終えた士道はいつも通り着用型接続装置(ワイヤリングスーツ)を展開したまま食堂で昼飯?を食べようとしていた。

食堂と言ってもSSSの魔術師(ウィザード)は年端のいかない子供が多い為、食堂はフードコートと言ってもいい程大規模で、軍事基地には似合わない観葉植物にカラフルな色の壁、メニューも豊富だった。

 

「ところで、最近よくここに来るがそんなに俺の作る料理が美味いのかい?」

「おう」

「おお!SSSの魔術師(ウィザード)のエースにそう言われりゃ、俺も鼻高々だ」

 

店主は得意気な顔をして鼻を擦った。

だが次の瞬間、その気分はぶち壊された。

 

「まあイリシャの作った料理の方が美味いけどな」

「……………………」

「……………………」

 

二人は真顔になった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

店主の逆鱗に触れ、プリンが無しにされた士道は溜息をついた。

 

「ったく、冗談が通じないな」

「あら、冗談だったの?」

「うわっ!」

 

気付いたら士道の隣の席にはイリシャがいた。

言っている事からしてさっきの会話を聞いていたのだろう。

 

「ちょっと、気配消して近づいて来るのは止してくれよ」

「ごめんなさい。つい魔が差しちゃって」

 

イリシャは悪びれた様子も無く、言い訳をする。

 

「それに最近、精霊が現界しないから暇でしょうがないの」

「ああ、そういや今5か月連続で出動無しなんだよな?」

「そうね。隊長は空間震が起こらないから、復興に予算を使わずに済むって喜んでるけど」

「あー……あの人ならそんな事言いそうだな。隊長って割とケチ……倹約家だし」

 

ミートパイの生地と肉を纏めて食べながら士道は、サミュエル大佐がホクホク顔で喜んでいる姿を想像して苦笑する。

隣を見てみるとイリシャはタッパーからスコーンを取り出してそれを食べていた。

タッパーに入っているという事は恐らくイリシャが自分で作って持ってきたものだろう。

するとイリシャはタッパーからもう一つスコーンを取り出して―――――

 

「はい、あーん」

「………………え?」

 

イリシャは悪戯っ子のような笑みをしてスコーンを士道の口に向けた。

頭の回転は悪くない癖に、変なところで鈍感な士道でも、イリシャが何をしようとしているのかは直ぐにわかった。

 

「……まず聞くけどこれ食べていいのか」

「ええ、遠慮なく食べていいわよ」

「じ、じゃあ普通に食べるから」

「あーん」

「いや、あーんじゃなくて「あーん」

 

どうやらイリシャは士道に食べさせる事を諦めるつもりはなさそうだ。

 

「……いただきます」

 

士道は手を合わせてそう言い、フルフェイスヘルメットの口元からイリシャの手にある拳大のスコーンを一口で頬張った。

 

「美味しいです」

「ふふっ、良かった」

 

士道の言葉を聞いてイリシャは、見てるこっちの頬が赤くなりそうなぐらい可愛げな笑顔を作った。

士道はイリシャに向けていた視線を逸らし、頬をかくのだった。

 

その後はイリシャに食べさせられることも無く、順調に昼食は食べ進められていった。

お互いの肩が触れるほど近かったのが気になったが、士道は深く考えないようにした。

そして昼食を全て食べ終わり、そろそろ片付けようと思った時、イリシャが再び口を開いた。

 

「それで、隊長から話は聞いたのよね?件の魔術師(ウィザード)育成の話」

「ああ……相変わらず話が突然すぎて、思考が停止寸前になったけどな」

「仕事がいつも突然なのがここのモットーよ」

「……転職先考えておこうかな」

 

そんなものをSSSのモットーにしたら堪ったものじゃない。

 

「ふふっ、冗談よ。彼女の教育、頑張ってね」

「冗談っておまえ……てか彼女?友達なのか?」

「いいえ、友達ってほどでも無いわ。ほんの少しだけ話した事があるだけよ」

「ふーん。やっぱり女子か……」

 

何故かは士道も知らないが顕現装置(リアライザ)の適正持ちは男性より女性の方が多い。

その為、SSSの魔術師(ウィザード)チームは八割以上が女性で構成されている。

故に教える相手が女性だと知っても士道は特に驚かなかった。

 

「世界トップクラスの魔術師(ウィザード)の君が彼女を育てたらどうなるのか、私凄く興味があるの」

「へぇ……お前にそこまで言わす程の奴なのか」

 

イリシャの言葉に引かれ、士道も少しだけ興味が湧き始める。

基本的にイリシャは無頓着な性格で、興味がないものにはとことん気を掛けない。

そんな彼女がそこまで言うのなら士道の教える相手というのは余程の特異性を持っているということだろうか。

気になった士道はイリシャに問いかけた。

 

「その子の名前は?」

「名前はアルテミシア……アルテミシア・ベル・アシュクロフト」

 

イリシャは一息おいて言葉を続けた。

 

「成長すれば私達にも届きうる、世界最大の魔術師(ウィザード)の原石よ」

 

士道はどこかそれが含みある言い方に聞こえた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「あー、終わった終わった」

 

結局イリシャはあの後、彼女が落とされないか心配だとか、士道には意味が理解できないないこと口にして去って行った。

 

その後、特に何事も無く午後の訓練も終えた士道は18時頃、帰路についた。

精霊を捕獲し、撃退した士道は今や階級も中佐に上がっており、最近は裏方の事務仕事をすることもある。

そのため最近は定時で帰れていない時もあり、今日はその日だった。

 

冬場の18時ともなれば気温は昼間よりも更に低下していた。

太陽も既にその姿を消していて辺りはかなり暗く、道に設置されている照明だけが唯一の光源だ。

そのせいだろうか、朝に歩いてきた道を逆行しているだけなのに、士道にはまるで別の道を通っているように感じられた。

 

そんな薄暗い帰り道を歩いていると次第に風切り音が聞こえるようになってきた。

 

「誰だ?こんな時間に……」

 

士道はそれが気になり、音がする方向に歩いていく事にした。

道を外れて少し歩く。

そしたらすぐに風切り音の出所に辿り着いた。

 

人口で作られたひとけのない森の開けた場所で一人の少女がレイザーブレイド、〈ノーペイン〉を振るっていた。

 

「…………」

 

士道はそれを見て珍しいと感じた。

SSS所属の魔術師(ウィザード)、その大半は一日中訓練をして定時になったら帰ってしまう。

その訓練は真面目にやっているが、帰らずに訓練を続ける奴は士道の記憶に無かった。

 

「……何か御用でしょうか?」

 

するとその少女が士道に話しかけた。

腰まで伸びる長い金髪と碧眼が特徴の美少女である。

どうやら思考に浸っていたら気づかれてしまったようだった。

 

「いや、こんな時間に何してるのか見物しに来ただけだ」

「見物?あなたほどの人が……ですか?」

「ん?お前、俺の事を知ってるのか」

「この基地にあなたを、シドウ・ウォーリバーの事を知らない人なんて居ないと思いますよ」

 

この少女が言っている事は最もなことだ。

現在、士道は二度も精霊と対峙し、その全てで勝利を収めている。

〈ベルセルク〉との戦いに関して士道は勝ったと思っていないが噂には尾びれが付くものだ。

そしてワンオフ品のフルフェイスヘルメットと着用型接続装置(ワイヤリングスーツ)、目立たない要素は皆無だった。

 

「まあ……そうだな」

 

士道は頭を掻きながらそう言った。

 

「俺はもう帰るよ。ちょっと寄り道しただけだし、用事もある」

 

最もその用事は深夜アニメの視聴なのだが目の前の少女が知る由はない。

士道は体を反転させて、来た道を戻ろうとする。

 

「そうですか」

 

少女は再び〈ノーペイン〉を構え、素振りをしようとする。

が、しかし少女は構えたまま数秒ほど硬直した。

そして、何かを思い立ったように構えを崩すと、こちら背を向けて帰ろうとする士道に声をかけた。

 

「どうせなら訓練に付き合ってくれませんか」

「え?」

 

士道は振り向いて再び少女を見る。

 

「言っただろ。用事があるって」

「一回の模擬戦で十分です。どうかご教授を」

「……わかった」

 

少し考えて、士道はそれを了承した。

SSSのトップ魔術師(ウィザード)は精霊を討滅するだけが仕事じゃない。

偶には誰かの訓練に付き合うのもいいだろう。

士道は足を動かし、大体少女から10メートル離れた辺りに足を固定した。

 

「じゃあ、何時でもいいぞ」

「えっ!」

 

その言葉に少女は少なからず驚きを覚えた。

何時でもいい、つまりかかってこいと言う意味なのだろう。

だが今の士道は素手、何の武装も持っていないのだ。

いくら精霊に勝利したとは言え、素手で魔術師(ウィザード)と戦えるのだろうか。

 

続いてほんの少しの苛立ちが沸き上がる。

これではまるで自分が見くびられているかのようじゃないか。

少女は自身の目が自然と細められていくのを感じた。

 

その小さな変化から少女の意思を汲み取ったのか、士道は言葉を続けた。

 

「いや、別に君を侮ってる訳じゃない。ただこれで十分だからだ。必ず防ぐから、本気で来いよ」

「ッ!後悔しないでくださいね」

 

そう言うと少女は随意領域(テリトリー)を展開して身体能力を強化する。

そして〈ノーペイン〉を構えて、士道に走り出した。

随意領域(テリトリー)で強化した身体能力は凄まじく10メートルという距離を一瞬で詰めた。

だが士道には全てが見えた。

 

「えっ」

 

少女が驚愕の声を漏らす。

それも無理はなかった。

振るわれた〈ノーペイン〉を士道が手で掴んだからだ。

それだけで少女の勢いが全て殺され、その場に停止した。

 

「驚いた。並の魔術師(ウィザード)を超える速度だ。でも、まだまだだ!」

 

士道は掴んだ〈ノーペイン〉を叩く。

すると少女の手から〈ノーペイン〉がすっぽ抜け、明後日の方向に飛んで行き、木に刺さった。

魔力の供給が無くなった〈ノーペイン〉は光の刀身が消え、地面にカランと柄が落ちた。

 

「嘘……」

「伊達にSSSの魔術師(ウィザード)のエースやってる訳じゃねぇ。素手とは言え、君に負ける程、俺は弱くねえよ。でも」

 

驚愕で動くことが出来ない少女を横目に、士道は歩いて飛んで行った〈ノーペイン〉の柄を拾い、少女に差し出した。

 

「筋は悪くない」

「………………はい」

 

少女は〈ノーペイン〉の柄を受け取ると、考え込むようにそれを見つめる。

 

「じゃあ俺は帰る。君はどうするんだ?」

「……私はまだ自主訓練を続けます。私の辿り着く場所が見えた気がしますから」

「………………」

 

そう言うと少女は士道から離れて〈ノーペイン〉の光の刃を構成、再び素振りを始めた。

 

「君は毎日自主訓練をしてるのか?」

「はいッ……精霊を倒すにはッ……努力しないといけませんから!」

 

素振りしながら少女は問いに答える。

士道は少女が発したその言葉に、どこか鬼気迫るものを感じた。

 

「……君、名前は?」

「アルテミシア・ベル・アシュクロフト、階級は少尉です」

「!……アシュクロフト……君が」

 

アルテミシア、それは奇しくも今日イリシャから聞いた名と同じものだった。

士道は今日サミュエル大佐から受け取った封筒を取り出す。

ボタンに巻かれた紐を解いて封筒の中に手を入れると紙の擦れる音がする。

中身を出すと書類が二枚、クリップで止められていた。

士道はその書類に軽く目を通す。

 

「……こりゃあ」

 

書類を見て士道はある数値に目を見開いた。

この書類に書かれていることが正しければ、目の前の少女はエレンやイリシャに匹敵するということになるからだ。

 

士道は改めて少女、アルテミシアの訓練風景を眺める。

素振り一つ見ても、その身体能力はそこそこのものだという事が士道には分かった。

だが技術的には荒削りな部分が多いようだ。

 

士道は少女に近づく。

 

「他に何か?」

「…………」

 

士道はアルテミシアを、正確には〈ノーペイン〉を握っている手をよく見る。

 

「あの……シドウさん?」

「ダメだ」

「えっ?」

 

突如として言われたダメ出しにアルテミシアは声音に困惑の色を滲ませる。

 

「ああ、ダメなんだよ。お前の剣の持ち方は。そんな持ち方じゃあさっきみたいに、ほんの少しの衝撃でどっかに飛んでいっちまう」

「えっ?」

 

アルテミシアは突然言われた事に困惑した頭が追いつかず、再び呆けた声を出す。

そして士道は腰元から〈ノーペイン〉を引き抜き、柄を実際に持って見せる。

 

「何ボケッとしてるんだ。俺の持ち方を真似してみろ」

「あっ、はい!」

 

士道の言葉に従い、アルテミシアは手を見て持ち方を合わせた。

 

「もう少し握りを強くしろ……そうだ。剣の持ち方なんて基本中の基本だからな。絶対覚えろよ」

「はい!」

「それと闇雲に訓練し続けるのは脳筋のやることだ。何の為に休みがあると思ってる。夜はちゃんと休め」

「はい……すみません」

 

幾ら頑丈な人間でも体力の限界は存在する。

その体力を回復させるには休息が必要不可欠。

車が走り続けたらガソリンが必要なように人間も疲れたら休みが必要なのだ。

 

「ああ、分かればいい。あと素振りはもっとコンパクトにしろ。モーションが一々大きいから隙だらけだぞ」

「えっと、こう……ですか」

「そうそう。それを体に覚えさせろ」

 

その調子で士道は指導を続けた。

用事と言うよりかは日課と言ってもいい事を完全にド忘れして……




士道は指導を続けた。

しどうだけに……なんちゃって(・ω<)テヘペロ


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アルテミシアについて

今回はキリが良かったので少し短め。

デート・ア・ライブ19巻、8月18日に発売予定らしいですよ。
そのおかげで学業と執筆に集中できません。


「……やっちまったなぁ」

 

寮を出て基地に向かいながら、聞いた者に疲れた様子を感じさせるような錆びた声で士道はそう呟いた。

彼は結局、あの後7時頃までアルテミシアの訓練に付き合ってしまったのだ。

そのおかげでアニメは見れず、寝る時間も減ると言う散々な事態に陥ってしまったのだ。

 

「というか休めって言ったそばから訓練に協力どころか指導までするとかどういう事なんだよ」

 

士道は帰った後、自分がした事を振り返って頭を抱えた。

そして今はもう次の日だ。

 

「アニメも見れなかったし、レコーダーがあればなぁ」

 

士道は溜息のオンパレードを発動させながら基地の中心を目指す。

 

「中佐?」

「……ん?」

 

士道が有り余る給料を使って録画機器の購入を検討してると、後ろから声が聞こえた。

それとともに視界の横から金髪の少女がピョコっと姿を現す。

 

「アシュクロフト少尉か」

「昨日ぶりですね」

「ああ、昨日は悪かったな。休めと言いつつアドバイスしまくっちまって」

「いえこちらこそ。勉強になりました」

 

アルテミシアは畏まった様子で頭を下げた。

 

「そっか。なら良かった」

 

士道は見えない口を緩ませた。

昨日は散々なことにはなってしまったが決して無駄なことでは無かったのだ。

そう思うと士道は気が幾分か楽になった。

 

「では今日もご指導、お願いします」

「ああ、これからよろ……え?お前知ってるのか!?」

 

アルテミシアはニコッと擬音が付きそうな笑顔を浮かべてそう言った。

 

「はい。ついさっき中佐から教えを受けろと、私を担当していた教官から言われました」

「そりゃ随分と突然に言われたな……まあ俺も似たようなもんだけど」

 

士道は脳裏でニヤつくサミュエル大佐を思い浮かべ、苦笑した。

 

「因みに訓練には地下区画を使えと言われました」

「ああ……あそこか」

 

地下区画と聞いて士道が思い出したのは、あの痛いほどにだだっ広い空間だ。

四か月ほど前、エレンとそこで激闘を繰り広げた事は、未だに士道の頭に強く貼りついている。

まああれだけインパクト(ロンゴミアント)が強い光景は恐らく死ぬまで忘れないだろう。

士道は強く、そう思った。

 

「大佐にも言われたし早速訓練……いや、まずは」

 

士道は眼前に存在する建物を見て目を険しくした。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「で?……これどういうことなんですか?」

 

士道は司令部最奥の長椅子に腰かけたサミュエル大佐に、書類を向けてそう言った。

 

「どういう事も何も、そこに書いてある通りだ」

「……アルテミシア・ベル・アシュクロフト。つい二か月前、史上最高クラスの顕現装置(リアライザ)適正を叩きだして入隊ってことですか?」

「そうだ。お前が今言った事に間違いはない」

「……………」

 

サミュエル大佐の答えに士道は怪訝な表情を見せる。

 

「訳が分かりませんね。なぜ彼女を俺に任せたんですか?」

 

アルテミシアはイリシャが言うように世界最大の原石だ。

それ即ち、今後次第ではエレンやイリシャと同等の魔術師(ウィザード)に、或いはそれらも凌駕できるかもしれない。

まさしく無限の可能性を秘めている魔術師(ウィザード)なのだ。

 

「そんな彼女を俺が教えていいものか、少し議論の余地があると思いますけどね」

「……いや、お前だからこそだ」

「それはどういう意味で?」

 

士道は顎に手を当て、首を傾げる。

 

「アシュクロフトはその身に圧倒的な才能を宿している。世界中探してもアシュクロフトに匹敵する才能を持つ人間は10人もいないだろう」

「そうでしょうね」

 

サミュエル大佐の言う通り、人類は地球に七十億以上いるがそれら全員を検査したとしてもアルテミシアと同等の人は10人いればいい方だろう。

これは捻じれも曲げようも無い事実だ。

 

「そしてシドウ、お前はまさにそのアシュクロフトに匹敵する魔術師(ウィザード)だろう?だからお前に任せる事にした」

 

勿論のことだが匹敵するとは才能のことだ。

現状では士道とアルテミシアとの実力はまさに天と地ほどの差があると言ってもいいだろう。

だが場合によってはその差は埋まるだろう。

そう、例えば世界最強クラスの魔術師(ウィザード)が教えるなど。

 

「まあ実を言うと、あまりにも才能が有りすぎて教官役職全員にたらい回しにされた結果、お前ぐらいしか教える奴がいないって言うのが一番の理由だ」

「ああ、そういうことですか」

「そういやお前はそういうことが無かったよな」

「俺の場合、基本はともかくとして、銃弾を切るとか二刀流とかの応用は全部独学ですからね」

 

士道が思い出したのはスター〇ォーズかっけぇと言う理念の元、生み出された銃弾切りだった。

 

「だろうな。そんな尖った妙技を使う魔術師(ウィザード)は世界中探してもお前ぐらいだぞ」

「ですよね。そもそも魔術師(ウィザード)は精霊を倒す為の存在ですし、俺みたいな人を殺す存在は稀ですからね」

「ああ…………じゃあアシュクロフトの事は任すぞ」

 

サミュエルは一瞬、苦々しい表情を浮かべるがそれを振り切る様に頭を振った。

 

「へいへい、分かりましたよ、っと」

「何なら魔術師(ウィザード)として鍛えるついでに自分好みに染め上げちまってもいいぞ?」

「くたばれクソ爺」

 

士道はイイ笑顔でそう言った。

二人はお互いに軽口?をたたき合うと士道は後ろを向いて出入り口から出て行った。

 

「話は終わったんですか?」

 

司令部が設営されている部屋の前の廊下に立っているアルテミシアは士道にそう聞いた。

アルテミシアについての話を大佐とするのにその場に本人がいるというのもなんだかな、と言う理由でアルテミシアは士道から廊下で待機するよう言われていたのだ。

 

「ああ、取り敢えずお前の訓練を俺が引き受けることは決定的になった」

「!……そうですか」

 

アルテミシアは一瞬驚いたがすぐさま再び表情を引き締めた。

だが声音は喜色に染まっており微妙に締まらなかった。

 

「言っとくけどちゃんと訓練する以上、手加減する気はないぞ。俺の役目はお前を一人前以上の魔術師(ウィザード)にすることだからな」

「それは百も承知です。寧ろ手心を加えてもらうとこっちが困ります」

「ふっ……いい返事だ。……じゃあ、行くか」

 

士道は早速訓練を行うべく地下スペースを目指して足を進めた。

今から始まるのだ。

アルテミシアを最強の魔術師(ウィザード)に育てる。

それが士道の役目であり、仕事なのだ。

士道はその責任を強く感じ、力強く床を踏みしめた。




スター〇ォーズエピソード8見て思ったのは最高指導者の護衛めちゃくちゃかっこいい、でした。
二刀流とかハルバードとかロマン過ぎて痺れる、憧れる。


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精霊を殺す意味

夏休みになったけど多分更新ペースは変わらないと思う。

てかヤバい。
このペースで投稿してたらマジで一生完結しない。
まだ原作すら開始してないのに。


「はあッ!」

 

裂帛した掛け声とともに一筋の斬撃が繰り出される。

斬撃を繰り出したのはアルテミシアだ。

 

「遅い!」

 

その前方に位置していた士道は、体を横にして放たれた斬撃を難なく回避した。

 

「ほら、足元がお留守だぞ」

「くっ!」

 

士道は剣を振りかぶるアルテミシアの足を払い、転ばした。

アルテミシアは負けじと素早く体勢を立て直して士道の足に蹴りを入れる。

 

士道はアルテミシアの素早い蹴りを驚異的な反応速度で読み取ったが、反撃せずに足に力を入れて蹴りを受けた。

二人の足が激突した瞬間、ガンッと目を閉じて聞いてみれば金属音とでも思ってしまいそうな重い音が響いた。

 

そのアルテミシアの蹴りは随意領域(テリトリー)の恩恵を十全に受けた強力な蹴りだった。

片や士道は着用型接続装置(ワイヤリングスーツ)を展開しているとはいえ、ハンデとして随意領域(テリトリー)を展開していない。

どちらにアドバンテージがあるかは明白だ。

 

だが蹴りをモロに喰らった士道は、全く微動だにせず本来走る筈の痛みに身悶える様子もない。

 

「蹴りそのものは悪くないけど力がまだ足りないな」

 

アルテミシアの蹴りの威力は鉄の様に硬い士道の足を傷つける事は出来ず、衝撃は受け流されてしまった。

そして今度が士道が拳を握る。

 

「ッ!」

 

アルテミシアがそれに気付いた時には既に手遅れ、士道の拳は放たれてアルテミシアの整った顔の前で止まっていた。

 

「ほい、俺の勝ち。もっと冷静になれよ」

「う、うぅ~、あと少しだったのに」

 

アルテミシアは張り詰めた意識を解いてその場にペタンと座り込んだ。

 

「そんな闇雲に攻撃してたら精霊には勝てないぞ」

「そ、そう言われても……」

 

アルテミシアの言い訳も最もだろう。

二人での訓練が始まってもう二か月程経とうとしているが、模擬戦はこれが三日目なのだ。

それまでは顕現装置(リアライザ)の扱いや身体能力等の基礎能力を上げる訓練をしていた為、士道には全く太刀打ちできないのだ。

 

言うまでもないが戦闘技術云々を抜いた状態でもアルテミシアは士道に勝つことができない。

まず肉体能力が比べ物にならないのだから当たり前の話だ。

 

「まずちゃんと相手の隙を突け。そうしないとさっきみたいに防御されて終わりだ」

「隙……ですか?」

「そう。相手に隙を作らせて、そこに有効打を叩き込む。基本的にはこれを狙ってけ」

 

事実、士道はそうやって二亜の足を切り、〈ベルセルク〉を追い詰めたのだ。

 

「隙を作らせろと言われても……具体的にはどうすればいいんですか?」

 

アルテミシアは眉を寄せて疑問を口にした。

まあ詳しい説明も無しに隙を突け、と言われてもそれは困難だろう。

 

「ん~、例えば……ってイリシャじゃねえか」

「えっ、イリシャさん…きゃん!?」

「嘘だよ」

 

士道は後ろにある訓練ルームの出入り口を見て、まさしく隙だらけになったアルテミシアの後頭部にチョップを振り下した。

 

「え?……ず、ずるいです!」

 

自分が何をされたのか徐々に把握出来たのだろうか、アルテミシアはぶたれた後頭部を抑えて抗議してくる。

 

「まあまあ、こんな感じだ。実際の戦闘でこんなアホな方法を使えって訳じゃないけど隙を作るってのはこういう事だ。相手の意識を意図的に別の箇所に向けて、手薄になったところを狙う。これが隙を突くってことだ」

 

怒ったアルテミシアを宥めながら士道は詳しく解説した。

 

「隙を……突く……」

 

基本的に真面目なアルテミシアは、顎に手を当てて言われた事をしっかり記憶しようとしている。

すると突如として士道の後ろを指差した。

 

「あっ、中佐!後ろに隊長が!」

「いや、騙されねえよ」

 

出入り口はアルテミシアの後ろにある。

そのアルテミシアの向かいに居る士道は誰かが入ってくれば分かるのでここに大佐が居るわけがないのだ。

このアルテミシア、普段は真面目なのだが若干天然ボケが入っていることを士道はこの二か月間で理解していた。

 

「……ちょうどいい時間だ。キリも良いし、昼メシでも食おうぜ」

「そうですね」

 

士道は腕時計を見て時間が12時を過ぎたことを確認すると訓練室の端にある長椅子の左側に座った。

そしてアルテミシアは右側に座り、その長椅子の下に置いておいたバスケットを持って、自身と士道の間にポンと置いた。

 

「今日はサンドイッチです」

「そうか、じゃあいただくよ」

 

士道はバスケットの中にあるサンドイッチから一つを取り出して口に入れた。

パンに挟まれているのは卵とレタスとスタンダードなものだ。

 

「うん。うまい」

 

ここ最近の訓練ではこんな感じでアルテミシアが昼食を作って来ることが多い。

アルテミシアが自主的に始めたことだが、士道としてはわざわざ食堂に行かなくて済むので願ったり叶ったりだった。

イリシャが心なしかシュンとしているように見えたのが多少の気掛かりではあったが。

 

因みにアルテミシアは過去に一度、宇宙の辺縁を漂っていそうな真っ黒い物体を昼食として出した事がある。

本人曰く、ビーフシチューとのことだったが士道の目からはとてもそうには見えなかった。

あれ以来、士道はアルテミシアに昼食を作るなら必ずシチューは作るな、と言明した。

そのアルテミシアは今、サンドイッチを片手に端末をじっと見ている。

 

「また観測情報見てんのか」

「むぅ……そうですけど」

 

士道の呆れた様な声にアルテミシアは不服そうに答えた。

アルテミシアは暇さえあればこうやってずっと空間震の観測情報をチェックしている。

 

「いや、別に駄目って訳じゃねえけど四六時中見なくてもいいんだぞ」

「でも精霊を討滅するための対精霊部隊でしょう?」

「……まあ、そうだな」

 

精霊を討滅するための対精霊部隊、SSSを客観的に見ればそういう言葉が出てくるだろう。

だが深く知りすぎた士道は内心全くそう思ってはいない。

 

「でも精霊なんて早々に現界するもんじゃないし、時事ニュースでも調べた方が勉強になると思うぞ」

「それぐらいは見てますよ。……最近ではロンドン市内の死亡者数が急増中って、テレビでやってましたね」

 

死亡者数の突如とした急増、それは昨今ロンドンで騒がれている問題だった。

その死亡者の約半数は原因不明の不審死で、警察も解決の糸口を見つけられずに頭を悩ませている。

しかもそれだけではなく殺人まで増えているのだ。

犯人らしき人物は数人逮捕されているが被害は未だに収まっていない。

 

「不審死と殺人、何か接点でもあるんでしょうか……」

「さあな……そう言えば、警察から軍に応援要請が来たって大佐が言ってたな」

 

イギリスの首都、ロンドンを管轄する警察が軍に協力を求めることから、今回の異変がどれだけ大規模なのかが伺える。

 

「おまえも前みたいに夜に外を出て訓練なんてするなよ。まあ軍事基地で殺人なんて起こらないと思うけど」

「い、言われなくてもわかってます」

 

サンドイッチを食べながら話す士道にアルテミシアは前の自分を思い出したのか少し恥ずかしそうに返事をした。

一拍置くとアルテミシアは更に続けた。

 

「それにしてもこれだけ大規模な異変、もしかしたら精霊の可能性も……」

「……精霊、か」

 

精霊。

かつてユーラシア大陸に大穴を開けた破壊の権化。

 

確かにこんな異変は人間一人や二人が起こすのは不可能だろう。

なら人外たる精霊が首謀者の可能性も出てくる。

原因不明の不審死も何かしらの天使を使ったと考えれば説明はつく。

 

「……出来れば精霊はやめてほしいな」

「えっ!?」

 

アルテミシアが驚きの声を出す。

 

「どうしてですか?普通、精霊が現界したなら私達としては、待ちのぞんでいたようなものじゃないですか!」

「いやそれはそうだけど、精霊は現界しないのが一番だろ」

「それは……そうですけど、私達は対精霊部隊じゃないですか」

 

絞り出すように声を出すアルテミシア、士道はその姿に危うさを感じた。

精霊の討滅を焦っている。

心にまるで余裕がない様子だ。

 

「なあ、アルテミシアは何でSSSに入ったんだ」

「私は……空間震に巻き込まれた被災児なんです」

 

アルテミシアは悲壮感漂う様子で話を始めた。

 

「幸い大きな怪我はなかったんですけど……それで治療の際に顕現装置(リアライザ)の適正があることがわかって、それで精霊とか顕現装置(リアライザ)の事を聞かされてSSSに入ったんです」

 

SSSに入った、アルテミシアはそう言っているが恐らくはほぼ強引に、だろう。

アルテミシアほどの適正値を持つ人間を、そのまま放っておく筈がないからだ。

だが話から察するに、アルテミシアは対精霊部隊に入隊することに随分と好意的だったようだ。

 

「私は人々が平和に暮らせる世界を作りたいです。その為には精霊を倒さないといけません」

「だからSSSに入ったのか?」

「はい!」

 

士道の質問にアルテミシアは笑顔でしっかりと肯定の返事をした。

しかし次の瞬間にはその笑顔が苦笑となった。

 

「でも私の目標を聞いた人は全員言うんです。夢物語、理想論だって」

「………………」

 

確かにそう言われても仕方のない事だろう。

そもそもの話、精霊が世界から姿を消したとしても世界は平和にならない。

精霊を倒しても世の中の悪が消える訳ではないからだ。

平和な世界の実現はある意味、精霊を倒すよりも難しいだろう。

 

士道も魔術師(ウィザード)として精霊を討滅する傍ら、政府の命令に従うがままに邪魔な犯罪組織や汚職議員などを潰してきたが、それでも世の中の悪が一向に減る気配は無い。

 

だがそれは当たり前のことなのだ。

世の中の悪は、人類が存在する限り消えない。

そういうふうに出来ている。

 

「確かに理想論だな」

「そう……ですよね」

 

アルテミシアは少し俯く。

 

「でもいいんじゃないか」

「えっ?」

「少なくとも俺はそんな大層な夢なんて持ててないし、そんな夢を本気で実現させようとしてるのは凄いと思う」

 

夢を持つことは誰でも出来る。

だがそれを現実にするとなれば、途端に難しくなる。

 

「だから別に精霊を倒すのにそこまで必死にならなくてもいいんじゃないか」

「………………」

 

アルテミシアは無言だが、何か熱を帯びたような視線で士道を見つめる。

それに気づかない士道は、いつの間にか中身のサンドイッチが無くなっていたバスケットを長椅子から床に降ろした。

 

「何か眠くなってきたな」

 

日頃の不眠が祟ったか、サンドイッチを腹いっぱい食べたからか、もしくはその両方か。

マスクの口元部分に手を当て、欠伸をするような仕草をした。

今は昼食休憩だし、仮眠をしても特に問題はないだろう。

そう思いながら、士道は上体を後ろの壁にくっつけて腕を組んだ。

そしてしばしの間、眠りにつこうとすると―――――

 

「って、アルテミシアさん?」

 

あまりにも強い驚愕に士道は思わず敬語になってしまった。

アルテミシアが士道の頭部を自身の太ももに押し付けたからだ。

 

「あの~、何をしていらっしゃるんでしょうか?」

「何って、膝枕ですよ。寝心地にあまり自信はありませんが、壁よりはいいと思います」

 

士道の問いに、アルテミシアは顔を少し赤くして答えた。

 

膝枕。

それをされた士道に少しの羞恥心が湧く。

 

「いや確かにそうかもしれないけどこれはちょっと……」

 

マスクがあるからこそ、今は分からないが恐らく士道の顔は、少なからず赤くなっていることだろう。

 

「少しお疲れのようですし、別にこのまま寝てもいいですよ」

「えぇ……」

 

士道は困った声を上げる。

アルテミシアの太ももは柔らかく、普段通りの心境なら自然と眠りにつきそうだったが、この数分間の出来事で眠気は完全に吹っ飛んでしまった。

つまり寝るに寝れない。

 

「俺の頭、多分マスクでゴツゴツだろ」

「気になりません」

「その上、金属でできてるから重いだろ」

「中佐と訓練してますからこのぐらい平気です」

「……………」

 

士道は暫し無言になると、観念したように頭の力を抜いて頭部の重さをアルテミシアに委ねた。

どうやらアルテミシアは意地でも膝枕をやめるつもりはないらしいので、士道は仕方なく膝枕を続けることにした。

 

だがそれは直ぐに終わりを告げた。

 

士道はふと部屋に近づいて来る気配を感じた。

そして気配に気づくと同時に部屋の扉が開いた。

 

「いますか、シドウ。少し話があるのですが―――――」

 

その透き通った声は、酷く聞きなれた声だった。

それと同時に、少し懐かしい声でもあった。

 

士道は入口を見る。

そこにはエレンが立っていた。

確かエレンはDEMの本社に戻っている筈だ。

本来ならここにいない人物。

 

士道はその事を疑問に思ったがそんな事を考える余裕は直ぐになくなった。

 

「シドウ……その女は誰ですか?」

 

エレンの声音が、絶対零度の如き冷たさと鋭さを纏っていたからだ。

それを聞いた瞬間、士道は飛び跳ねるようにアルテミシアの膝から起き上がった。




アルテミシアは士道に対しては敬語です。
一応、階級的には士道の方が上なのでこうしてます。
違和感しかない。

因みにアルテミシアは士道より一つ年上らしいです。
それとアルテミシアの過去話はオリ要素です。
原作で特に説明がなかったので仕方ない。


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修羅場

コメ返信に(ノリで)本気出すと言ったものの結局この遅さ。

すんませんでした(´_ゝ`)


士道は机の上にあるコップを持ち、その中の紅茶を啜った。

そうしないとこの緊迫とした空気に耐えられそうになかったからだ。

 

現在、この場には士道を含めて三人の人物がいる。

 

一人はアルテミシア。

この緊迫した空気の中でも怖気づく様子は無く、悠然とした態度だ。

 

もう一人は言わずと知れた、世界最強の魔術師(ウィザード)、エレン・M・メイザースだ。

だが普段の丁寧な物腰は微塵も感じられず、目を猛禽類の様に鋭くさせている。

恐らくはこの空気を作っている元凶だろう。

 

士道が現状確認をし終わったところで、エレンは張り詰めた息を吐くように溜息をした。

 

「……話は分かりました。つまりシドウはアルテミシアさんの先生役をしていると言う事ですね?」

 

止まっていた会話がようやく動き始める。

 

「まあ大まかに言えばそういうことだ。何度も言わせるなよ」

 

エレンには、アルテミシアの才能のこと、サミュエル大佐に頼まれたこと、全てを説明した。

だがまだ納得していないのか何度も聞き返して来るのだ。

 

「……それは百歩譲って許しましょう」

 

エレンは渋々と言った様子で言葉を発する。

途中、士道は何でエレンの許しが必要なのか疑問に思わなくもなかった。

 

「ですがさっきの行為は何なんでしょうか」

「………………」

 

エレンの言う行為とは、間違いなく膝枕のことだろう。

そうとしか考えられない。

 

「あれは中佐が眠いと言ったから私の膝を貸しただけです。だから中佐は悪くありませんし、やましい事も別にしてません!」

「ほう……あれの何処がやましくないのか私は不思議に感じますけどね」

 

アルテミシアが反論するが、すかさずエレンが否定する。

 

「で、でもだからってあれはないですよ!中佐以外にやってたら殺人もいいところです!」

「ぐっ……」

 

ここで一転して、痛いところを突かれたようにエレンが押し黙った。

 

あの時のエレンは凄まじく、まずジャブと言わんばかりに初対面のアルテミシアと口喧嘩をし、挙句の果てには着用型接続装置(ワイヤリングスーツ)を着装して、涙目になりながら士道の胸板をポカポカ叩いてきたのだ。

普段なら防御するまでもないのだが、着用型接続装置(ワイヤリングスーツ)を着装した状態の拳は馬鹿にならない威力を秘めており、士道は受け止めるのに相当な労力を強いられたのだ。

 

そう言う理由があり、エレンは一方的に怒れないでいた。

 

「うぅ……シ、シドウ!」

「え、ええと……」

 

どうにもならなくなったのかエレンは士道を見て、助けを求める声を出した。

士道は目元を抑えて考えるような仕草をする。

そして出した答えは―――――

 

「と、取り敢えず話って何なんだ?エレン」

 

会話を大元に戻すことだった。

今思えばアルテミシアに対しては拒否するべきだっただろう。

だが後悔先に立たず、今はその事を悔いても仕方ない。

 

「話……ああ、そうでした」

 

これまでの出来事でその事を忘れていたのか、エレンの返答が少し遅れる。

 

「話についてですがアイク、うちの社長が貴方と是非お会いしたいと言っていました」

「は?DEM社の社長が?俺に?」

 

士道は湧いて出た疑問に首を傾げる。

 

デウス・エクス・マキナ・インダストリー、通称DEM社と言えば世界規模で事業展開を行っている超巨大企業だ。

製造、運送、建設、医療、エネルギーなどの主要産業から、はては旅行代理店など様々な分野で事業を手掛けており、その中でも顕現装置(リアライザ)においてはシェアの大半を占めている。

本社がイギリスにある為、SSSとは親交が深い。

そんな世界有数の会社の社長が何の用だろうか。

 

「何でも、私に匹敵する魔術師(ウィザード)とは個人的にも親交を持っておきたいらしいです」

「へー、でもなぁ……」

 

世界有数の会社。

だからといってDEMは超絶いい会社と言うわけではない。

 

SSS所属だからこそ分かることだが、DEMはSSSに汎用化前のユニットを試験的に融通する代わりにSSSの出向した魔術師(ウィザード)を廃人にして返してくるのだ。

その所業によりSSSの隊長であるサミュエルはDEMに対して尋常じゃない警戒を抱いている。

そしてそのサミュエルと上司と部下の関係である士道は、耳にタコができるほど日頃からDEMには気をつけろなどと言われており、それが士道を躊躇させた。

 

「確か……アイザック・ウェストコットだよな?社長の名前」

「ええ、正確にはアイザック・レイ・ペラム・ウェストコットです」

 

士道が口にした言葉にエレンが付け加える。

 

アイザック・ウェストコット、DEMの創業者であり、一代でDEMを大企業にまで成長させた敏腕経営者だ。

そしてSSSの魔術師(ウィザード)が廃人になって帰って来る元凶でもある。

それを考えるとこの誘いには乗らない方がいいかもしれない。

士道は丁重に断ろうとする。

 

「因みに、もし良ければデータ収集を兼ねた専用のCR-ユニットを作らせてもらいたいと

言ってました」

「行きます」

「!……そ、そうですか。アイクはいつ来ても構わないと言っていましたが、いつ行きましょうか?」

 

エレンは士道が行くと言った途端、嬉しそうに声を弾ませて、さっきまでの眼光が嘘のように表情が柔らかくなった。

その様子を見たアルテミシアはジト目でエレンを睨むが、誰もそのことに気がつかない。

 

「俺は別に今日でもいいぞ。定時まで3時間ぐらいあるし」

 

躊躇いも無く、さらっと考えを変えた士道は、時計を見てそう言った。

 

「では今日行きましょうか。ではそのようにアイクに伝えておきます」

 

エレンは携帯を片手に持ち、部屋から出ようとする。

するとアルテミシアが士道に近づいてそっと耳打ちをした。

 

「結局この人って誰なんですか。随分親しそうでしたけど」

「エレン・M・メイザース、世界最強の魔術師(ウィザード)の一人だよ」

「え!?そ、そうだったの?」

「お前、誰かも知らずに喧嘩してたのかよ……」

 

驚きで敬語を忘れたアルテミシアに、士道は呆れた声音でツッコミを入れた。

 

「む……シドウ、今度は何をしてるんですか?」

 

士道とアルテミシアが密着しているのが気に食わなかったのか、部屋を出ようとしたエレンが体を反転させてこちらへ向かってくる。

 

「い、いや特になんもないぞ!」

「その割には慌ててるように見えますが……」

 

真正面からエレンの厳しい疑念の視線が士道を貫き、士道は反射的に目を逸らした。

 

「中佐の言う通り特に何もありません!少し話をしていただけです」

「……ならいいですけど」

 

アルテミシアの声に、エレンはとても訝しげに返答した。

ようやく喧嘩に終わりが見え、士道は内心で胸を撫で下ろした。

だがそれは全くの見当違いだった。

 

「全く、疑り深くて面倒な人ですね」

「……貴方、今私の事をしれっと侮辱しましたね?」

 

士道に同調させるようなアルテミシアの言葉を受けて、案の定エレンの頬が引き攣り、再び一触触発の雰囲気が流れ始める。

 

「えっ、ちょお前ら、やめろって!つい今仲直りとは言わずとも喧嘩は終わりそうだったじゃねえか!?」

「シドウは黙っていてください。ここまで馬鹿にされては、私も引き下がれません」

 

エレンは聞く耳持たずといった感じでアルテミシアも未だに続ける様子だった。

 

「そもそもの話エレンさんは文句ばかり言って、後から来たくせに随分偉そうじゃないですか!」

「私は貴方よりも前にシドウと知り合いました。寧ろ出会って数カ月の貴方の方が偉そうなんじゃありませんか?」

 

―――――こりゃダメだ……

 

士道に胸中にそんな考えが充満していく。

ヘルメットの中にある目は、恐らく死んでいる事だろう。

 

「……ん?」

 

すると士道は再びこちらに向かって来る人の気配を感じ取る。

誰だ、という疑問が全く無いわけではないが、今の士道にとっては些細なことだった。

この戦争を止めてくれるなら誰でもいい。

士道はそう願い、そして扉が開いた。

そこには―――――

 

「シドウ居る?訓練に誘いに来たのだけれど―――――」

 

イリシャが立っていた。

煌めくブロンド色の髪、エメラルドの様に鮮やかな緑色の目。

間違える要素など何処にも無い。

 

イリシャは士道と口喧嘩をしていたエレンとアルテミシアを見た。

エレンとアルテミシアの喧嘩はイリシャが現れたことで一時的に止まったようだった。

そんな事を確認していると、イリシャの整った顔が次第に歪んでいく。

 

後で考えて分かったが、この時のイリシャには士道の目の前で喧嘩するエレンとアルテミシアが、士道を誘惑しているように見えたのかもしれない。

だとすればイリシャが何というかは明白だった。

 

「……何、してるの?」

 

頬を引き攣らせながらイリシャは声を出した。

心なしかゴゴゴゴゴという音がどこかから聞こえた気がした。

 

「…………もう、勘弁してくれ」

 

小さく呟かれた声は誰かの耳に届くこともなく消えていった。




アルテミシアが敬語だとエレンと区別がつきにくいですね。
これはアルテミシアに限った事ではないですけど。
これは尚更、早いところ敬語を無しにしなければ。

あと秋クールのラインナップヤバすぎませんか?
見るものありすぎて執筆が滞りそうなんですが……。


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遭遇

投稿遅れてすんませんした。
FGOのイベントが忙しかったんじゃ。

あと来週、学校の行事で自宅を離れるので、1週間以内の更新は無理だと思います。


「あと少しで着きますよ」

「…………………………そうか」

 

先の修羅場をウンソウダネ、としか言わない機械に成り代わった事で危機を回避した士道は疲労した声で返事をした。

現在の時刻は午後5時、えらく時間がかかったものだと士道は遠い目をした。

士道の反応から、イリシャが参戦した後に何があったかはもはや語るまでもないだろう。

 

そして今士道はエレンに希望した通り、車でDEM本社に向かっていた。

だがあんな事になるとわかっていたならDEMに行く日付を今日にはしなかっただろう。

 

因みに士道とエレンは車の後部座席に座っており、運転している人は黒いスーツを着てサングラス掛けているガタイの良い男と、明らかにその筋の人間の雰囲気を漂わせている。

 

「なあ、エレン。運転手がどう見ても普通の企業に所属してる人間じゃないんだけど」

「秘匿されているとは言え、DEMは顕現装置(リアライザ)の製造を行う軍事企業としての側面もあります。なので普通の企業という言い方には少し語弊があります」

「それは……そうか」

 

えらく事務的な口調で、エレンが質問に答える。

士道は少し考えたがすぐに納得した。

顕現装置(リアライザ)は機密性が高く、一般には全く公表されていない。

そんなものを製造する会社などどう考えても普通ではないだろう。

しかも話によればエレン以外にも会社専属の魔術師(ウィザード)がいるらしい。

大企業でありながら独自の軍事戦力を持つ会社、確かにサミュエル大佐が警戒しているのも頷ける。

 

因みに顕現装置(リアライザ)製造する企業は希少で士道の知る限り、DEMを除けば僅か一社しか存在しない。

その会社はアメリカに本拠を構えているのだがこれはまた別の話である。

 

そんな事をかんがえていると車が止まり、同時にエレンが口を開いた。

 

「着きましたよ」

「……ここか」

 

車窓から外を覗くと、その目前には立派なオフィスビルがそびえ立っていた。

典型的な鉄筋コンクリート構造で作られたビルは、まさしく一流企業といった雰囲気を出している。

 

「基地から意外と近いんだな。ロンドン市内って聞いてたけどもっと遠いと思ってたぜ」

 

基地を出発してまだ30分も経っていない。

信号の待ち時間等を考えても基地から10kmも離れていないだろう。

 

「シドウは本社の位置を知らなかったんですか?」

「ああ、俺には一生縁のない場所だと思って調べてなかった」

「所属してる部隊の取引先まで調べてないとは……私自身に会うまで全く私の事を知らなかっただけの事はありますね」

 

エレンは呆れた様に皮肉を言った。

 

「世界最強なんて肩書に興味が無かったからしょうがないだろ?まあ噂ぐらいは度々耳にしてたけどな」

魔術師(ウィザード)ならば本来、私の事は雲の上の存在として知っていて当たり前なんです」

 

車のドアを開けて外に出ると、エレンは自慢している様に話し始めた。

そのエレンについていく士道は、また自慢話が始まったと思いながらうんうんと適当に頷く。

 

「全く、貴方は世界トップクラスの魔術師(ウィザード)であると言う自覚が足りません!」

「あんたは俺の母親かよ……てかエレン、前を見ろ」

 

士道は半眼で文句を溢すが、あることに気付いてエレンに注意を呼びかけた。

しかし聞く耳持たずといった様子のエレンは、歩いてビルのエントランスに入る間ずっと話し続けた。

 

「シドウは自分の身の回りの事をもっと理解してくださくぎゅ!」

 

歩く先にあるのが窓ガラスである事にも気づかずに。

 

「あー……言わんこっちゃない」

「ひぃん……グスッ」

 

顔面を窓ガラスにぶつけたエレンは、痛そうに顔を押さえている。

エレンの進行方向は、ビルのエントランスへの入り口であるスライドドアから微妙にずれており、話す事に夢中になっていたエレンはそれに気が付かなかったのだ。

 

「……エレンが所属してる会社の社長か。先が思いやられるな、こりゃ」

 

士道はそびえ立つビルを見上げ、苦い顔をした。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

士道は社内に入った後も引き続きエレンに着いていった。

途中、何度もエレベーターを乗り換え、道を飽きる程曲がって漸く最上回に到着した。

 

「うぅ……」

 

因みに、エレンは余程強く顔をぶつけたのか、未だに痛みは引いていない様子だった。

後で湿布でも買ってやるか、と士道が考えたところでエレンがある扉の前で止まった。

 

「ここです……」

 

エレンが示したその扉の横には、英語で社長室と刻印されている標識が壁に固定されている。

つまりこの扉の向こうにDEM社の社長、アイザック・ウェストコットが居る訳だ。

 

「入ります」

 

エレンはノックをして一声かけるとドアノブを握って扉を開けた。

その先の空間は、ここに来るまで通っていた白一色の廊下と全く別物だった。

 

「……わお」

 

社長室の全容を見た士道は感嘆の声を出した。

大理石で出来た床から天井までは軽く見積もっても10メートルはあり、例え士道でもジャンプしたぐらいでは到底届きそうに無い。

その天井には現代風の照明が等間隔で吊るされている。

 

次に士道の目に入って来たのは、社長室の扉の正面にある応接間だ。

この応接間にも、これまた高そうなソファと机が使われている。

 

その他、来客者に出す飲み物を用意する場所と推測できるダイニングや、家電量販店程度には間違いなく売っていない巨大なテレビなど、まるでホテルや空港にある高級なラウンジのような内装だ。

 

士道は柄にもなく、その内装に目を奪われそうになる。

が、ある物体の存在によりそれは阻止された。

 

「これは……」

 

それを見て、この場所に通いなれているであろうエレンすらも驚いたような声を出す。

鈍色の胴体、その胴体と比べたらアンバランスな大きさの腕、異様な形をした頭部と足、それを士道が知っている言葉で表すのなら、それは間違いなくロボットだった。

 

「試作機DD-007、一体何故こんなところに……」

 

型式番号らしき数字を口にしたエレンも訝しむようにそのロボットを睨む。

すると突如、ロボットの各所のクリアパーツが緑色に発光し始めた。

その発光を皮切りに、置物の様に動かなかったロボットは一瞬で跳躍し、エレンの前に着地した。

そしてその剛腕を躊躇無く、エレンに振り下ろす。

 

「な……!」

 

ロボットの突然の行動に、エレンは言葉を失う。

 

「危ねぇ!」

 

それを見た士道は、咄嗟にエレンの肩を掴んで自分の後ろに引き寄せた。

それによりロボットの振り下ろしは、何もない空を切る。

間髪入れずに士道は、攻撃を外して隙だらけのロボットを殴った。

しかしロボットは数メートルほど後退しただけでどこにも異常は無く、士道が殴った装甲の部分にも傷一つ無い。

 

「……?」

 

だがそんな事は気にならないほどの違和感を士道は感じた。

それはロボットを殴った時の感触だ。

士道の手の甲には未だに金属を殴った衝撃が残っている。

だがその感触は余りにも金属過ぎた。

 

―――無人機?

 

そんな考えが士道の脳内を駆け巡る。

士道はてっきり人が装甲を装着しているものだと思っていたが、どうやら相手は本当にロボットのようだ。

 

「だったら……」

 

ならば手加減の必要はないだろう。

士道は素早くロボットに接近し、ロボットの頭部に回し蹴りを当てる。

ロボットの首は呆気無く胴体から取れて、勢い良く飛んで行った。

そして首が無くなった胴体は膝をついてそれっきり動かなくなる。

 

「ふう……エレン、大丈夫か?」

「え、ええ、特に外傷は……べ、別にシドウがいなくとも私一人で対処出来ましたからね!」

「いや危なかっただろ!」

 

素直に受け答えたかと思ったら、突然態度を変えるエレンに、士道は少し困惑する。

 

「まあエレンは自負心が強いからね。不意打ちに対応できなかった事を認めたくないんだろう」

「ああ、それは何となく分かる…………ん?」

 

ふと、士道は違和感を感じた。

自分が話している相手は誰なのか。

その声音は、間違いなく男のソレだ。

エレンとは全く似つかない。

士道はゆっくりと部屋の左側を見渡した。

 

「……誰だ、あんた」

 

そこには男が一人立っていた。

錆びたような灰色の髪に切れ目が特徴の壮年な男だ。

 

「ア、アイク!?」

「え?」

 

驚いたようなエレンの言葉に、士道は更に困惑した。

何故ならエレンが言った名前は───

 

「おっとすまない、自己紹介が遅れたね。私はアイザック・レイ・ペラム・ウェストコット、DEM社の業務執行取締役をしている」

 

男はそう名乗り、ゆっくりとソファーに座って手を組んだ。

 

「我々の呼びかけに応じてくれて感謝するよ。シドウ・ウォーリバー」

 

ウェストコットは目を細め、不敵な笑みを浮かべる。

その瞳は不気味と感じる程の闇に染まっていた。




改めて小説書くのって難しいな、って感じた。


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対話

割と今更ですが、士道の呼び方について。
文章の時は士道になり、セリフの時は片仮名になってシドウになります。
もちろん片仮名はSSS所属時限定の呼び方です。原作に入ったら士道で統一します。


「いやすまないね、こんな手荒な真似をして。悪いが君の力を試させてもらったよ」

「……………」

 

ソファに座って対面する二人の男。

一人は士道、着用型接続装置(ワイヤリングスーツ)を身に纏い、怪訝そうに目を細める。

もう一人は、この巨大なビルの主、アイザック・ウェストコットだ。

 

いつもこうなのかは知らないが、えらく饒舌なウェストコットに、士道は少し辟易しながら話を聞いていた。

その聞いた話曰く、無人機をこの部屋に待機させていたのはウェストコットの指示で士道の力量を図る為だったようだ。

エレンを襲ったのは操縦者のミスのようで、それを知ったエレンは不機嫌そうな雰囲気を醸し出しながら、秘書らしくウェストコットの傍に立っている。

 

「特に悪意は無いんだ。まあ少々刺激的な挨拶とでも思ってくれたまえ」

「へぇ……それにしちゃあ随分と物騒な挨拶だな?」

「全くです。アイク、こんな事をやる時はちゃんと私に前もって一言入れておいてくださいと、いつも言っているでしょう?」

 

─────いや、やめさせろよ

 

溜息交じりに言うエレンに士道はそう返したくなったが、来客に遠隔操作機で喧嘩を売るような社長の秘書にそんな事を言っても無駄だろう、と今までの経験から察して口を噤んだ。

まあそもそもポンコツだし、是非も無いよね。

 

「さて、雑談をする前に何か飲み物でも入れてこようか」

「アイク、それなら私が……」

「いいさ。彼は私が招いた客人なのだから、私が用意しよう」

 

そう言うとウェストコットはソファから立ってダイニングへ向かい、冷蔵庫を開ける。

その中身を吟味すること数秒、困ったように手を顎に当てた。

 

「……見事に酒しかないな……仕方ない、紅茶にするか」

 

数瞬迷った後にそう言うと、棚から茶葉を出してダイニングの上にあったティーポッドへ入れ、そこにお湯を投入して蓋をした。

カップ二つを手に取り、茶葉とお湯を入れたティーポッドも持ってこちらへ戻って来る。

そしてカップとティーポッドをソファの前の机に置いた。

 

「生憎だが、ここに来るのは各界のお偉いさん方ばかりでね。お子様向けのジュースをご馳走することは滅多にないんだ。もし嫌なら誰かに買いに行かせるが……」

「いや、これでいい」

 

来客の立場でそのような傲慢な事は言えない。

士道自身、紅茶は嫌いではなかったので素直に了承した。

 

そんな士道を横目に、エレンは持ってこられた紅茶をカップに注ぎ込んで二人の前に出した。

 

「……それで?わざわざ飲み物をご馳走するために呼び出したわけじゃないだろ。用があるならとっとと言ってくれ」

 

士道は急かす様に、単刀直入に尋ねた。

それに対し、ウェストコットは回答に困ったように目線を横にずらした。

 

「ふむ、用か……正直に言うと君に確固たる用はないんだ」

「……は?」

「我が社最大戦力のエレンが君に倒されたと、本人から直に聞いてね。前々から是非とも会って見たいと思っていたんだ。君の実力も知りたかったしね」

 

ウェストコットは特に悪びれる様子も無く、自分の意思を語った。

それを聞いた士道は心底呆れかえっていた。

何故なら、アイザック・ウェストコットという人物が自身の想像を遥かに上回る程の、非常識人だという事に気付いたからだ。

最も、それに気付くにはもう遅い段階まで来ているかもしれないが。

 

「しかし、まさか〈DD-007〉を一撃で破壊するとは思わなかったよ。一応、性能面では並みの魔術師(ウィザード)を上回ってるんだが、やはりエレンが認めるだけのことはあるようだ」

「〈DD-007〉ってさっきのロボットのことか?」

 

見た限り、その遠隔操作のロボットには顕現装置(リアライザ)が使われていた。

士道はそのことが気になり、ウェストコットに尋ねた。

だが顕現装置(リアライザ)を搭載したロボットなど聞いたことも無い。

もしかしたらDEMの機密情報かもしれないので、答えてくれるかは期待半分と言ったところだ。

 

「ああ。正式名称は決まっていないが、人が遠隔で操作できるCR-ユニットさ」

「CR-ユニットって扱いなのか、それ。AIのっけて無人機にしたりできないのか?」

「それは残念ながら、現時点では無理だ。顕現装置(リアライザ)が絡むとどうしても人の脳が必要でね。我が社の技術では無人機化には至っていない」

 

痛いところを突かれた、といった様子もなく、ウェストコットはあっさり答えた。

言っても別に困ることではなかったのか、それともあえて答えたのか、真意は測りかねた。

 

「ではそろそろこちらからも質問させてもらおうか。こうして話して、いくつか聞きたいことが出来たからね」

「……どうぞ」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

「ほう!君はアニメが好きなのか!」

「あ、ああ……」

「これは奇遇だね。私も日本のアニメが好きで、偶に見ているんだ。あの国は平和ボケが酷いと聞くが、アニメや漫画を作らせたら右に並ぶ国はない」

 

社長室に入って、一時間ほど経っただろうか。

最初は、「どうやってそこまで強くなったのか」等の真面目な質問だったのだが、何故か質問の趣旨がするりと別の方向にずれていったのだ。

因みに上記の質問に対して、士道が「訓練しただけ」と答えたら、面白くて仕方がないといった様子で大笑いを始めたので、士道は少し引いていた。

 

「ははっ、これは嬉しい誤算だ。私の周囲には同じ趣味を持ってる人がいなくてね。アニメを語れる人間は一人もいなかった」

「それには激しく同意」

 

士道は自身がアニメ好きであることを誰にも言っておらず、自分以外のアニメ好きとは全く親交が無かったため、これには頷かざるを得なかった。

まあそれ以前に友人がいないのだが、言っても詮無きことだ。

 

「ははは、いやまさか君と話題が合うとは思ってもみなかったよ。おかげで気付いたらもうこんな時間だ」

 

そう言って、ウェストコットは六時を過ぎている時計を指差す。

 

「うわ、もう定時過ぎてんじゃねえか」

 

窓の外を見てみると太陽は姿をほとんど消し、あたりは暗くなり始めていた。

 

「もう帰るのかい?」

「ああ、帰ったら用事があるんでな」

 

その用事が深夜アニメの視聴だということはもはや言うまでもないだろう。

士道はソファから立ち上がって、ドアに向かおうとする。

 

「まあ待ちたまえ。折角来たのだから、ここに泊まっていったらどうかね?」

「は……?」

「ここでは顕現装置(リアライザ)の研究を行っている。中々興味深いものが見れると思うが……」

「いや、だから俺には用事が「では私がシドウの上司に泊まることをお伝えしておきます」

「そうか。ではエレン、頼んだよ」

 

断ろうとしたところを、上機嫌なエレンが横から割り込んでくる。

そして士道が唖然としてる間に、話はとんとん拍子に進んでいく。

 

「まあ簡単な社会科見学だとでも思って、気楽に過ごしてくれたまえ。エレン、空いてる客間が幾つかあっただろう。そこに案内してやってくれ」

「いやなんでそうなる」

「はい。じゃあ早速行きましょう!シドウ」

「おいちょまっ、押すな押すな」

 

士道は背中を半ば強引にエレンに押され、社長室の外に出て行った。

 

「……行ったか」

 

一人になったウェストコットはソファに深く腰掛け、息を吐いた。

暫く天井を見つめていると、少しずつ口角が上がり、自然と笑いが零れ出た。

 

「まさかあれ程の逸材だったとは。……もしかしたら、そう遠くない内に今の沈黙(・・)が破られるかもしれないな。ふふっ、はははははははは!」

 

広い社長室には少しの間、哄笑が響き続けた。




や、やっと書き終わった……


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デートのお誘い

祝! ついにタイトル詐欺から脱却!


プルルルルル、プルルルルル

 

士道は、誰も来なさそうな階段の中腹で電話を掛けた。

呼出音が何回か繰り返されると、相手が出た。

 

「……シドウです」

『ああシドウか!何かあったか?』

「何かあったか、じゃありませんよ……」

 

電話相手はサミュエル大佐だ。

大佐の問いに、士道は元気の欠片も感じられない声で答えた。

 

「俺はいつまでここにいればいいんだ……」

 

DEMの本社に来てから初日も入れて三日が経ち、士道の心労は既に限界を迎えていた。

士道はこの三日間であったことを思い出す。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「やあシドウ、いきなりで悪いんだが紅茶の茶葉を買ってきてくれないかな?つい先程切らしてしまってね。因みに茶葉はこの店の買ってきてくれ」

「俺ここの社員じゃないんだけど……しかもこの店微妙に遠い」

 

社長にはパシられ、

 

「あラ、見かけない顔ネ。もしかしテ貴方がシドウ・ウォーリバーかしラ?」

「その人って確かメイザース執行部長を倒した人だよね?」

「そうだが……」

「そウ、貴方が……ふん!あの悠久のメイザースを倒したからって調子に乗らないことネ!」

「なんかかっこいい!今度私達の訓練場に遊びに来てよ!」

「今度と言わず今来ない?」

 

DEMの魔術師(ウィザード)からは逆ナンを受け、一部から喧嘩を売られた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

と、言った感じでロクな目に遭わなかった。

因みに、士道はイギリスと日本の時差を利用して、SSSと小学生の二足の草鞋を履いている。

日本が夜になったらイギリスは夜明けに、イギリスが夜になったら日本が夜明けに、といった感じになる。

幸い今、日本の学生は春休み期間のため、家族に適当な理由をつけて何とか数日家を空けていられるが、まだ小学生の子供が一人で数日間家に帰らないのはあまり常識的ではない。

流石にそろそろ家に帰らなければならないだろう。

 

加えて、ここに士道を呼び寄せたウェストコットの用はもう済んでいる。

士道はもう帰っていい筈なのだが……

 

『あー、その事なんだが、悪いがもう少しそっちに居てくれ。こっちも今忙しくてな』

「何でですか……まさか、もしかして最近の不審死と殺人に何か関係があるんですか?」

 

士道は少し考えて思い当たった事柄を、周囲に人がいないと分かっていながらも声量を抑えて尋ねた。

 

『正解だ。SSSに警察から協力要請があったのは知ってるだろう?』

「ええ、聞いています」

『それで俺達が本腰を入れて調査したところ、この一連の事件は精霊の仕業の可能性が非常に高いという結論に達した。』

「それは本当ですか?」

『ああ、現場を念入りに調べてみたら、ごく僅かに霊力反応が出た』

 

大佐の言葉に、士道は顔を少し顰めた。

霊力、その摩訶不思議なエネルギーは地球上で精霊しか持たないものだ。

大佐は可能性が非常に高いと言ったが、霊力の反応が出た以上、もうほぼ確定のようなものだった。

 

『今は基地にイリシャが待機している。特に問題はないと思うが、知っての通りSSSは人員不足でな。いざという時にはお前にも出張って貰うことになる。今の内に覚悟を決めとけよ』

 

平時の時は滅多に聞かない大佐の真剣な言葉。

だがそれを聞いた士道に、緊張は全く芽生えなかった。

それを見透かしたように大佐は続けた。

 

『とはいえ、お前はもう、うちの古株だ。精霊戦にも慣れてきただろう』

「古株って言っても、俺まだ一年ぐらいしか在籍してませんがね」

『それぐらい魔術師(ウィザード)は短命ってことだ。事実、お前を除いた戦闘隊員で一年以上SSSに居続けてるのはイリシャしかいない』

「ええ、俺と同時期に入隊した奴らも、今じゃほとんど見かけません」

 

士道は思い出すように、顎に手を当てる。

 

『……主に入隊した奴は三つに分かれる。一回精霊と戦ってその力の差に心が折れるやつと、それを乗り越えるやつ。そして乗り越えても力不足だった奴だ』

「……そうですか」

『……悪い、話がえらく脱線したな』

 

元はと言えば、この電話の主題は何故士道がDEMに残らなくてはならないかだ。

決して在籍歴がどうのこうのという話ではない。

 

「それで、精霊の出現と俺がDEMに残ることがどう関係してるんですか?」

『……アイザック・ウェストコットだ』

「ウェストコット?」

 

深刻そうな重々しい声の大佐に、士道は素っ頓狂な声を上げる。

突然ここの社長の名前が出てきたことに驚いてのことだ。

 

『何故かは知らんが、奴は精霊に並々ならん関心を持っている。〈シスター〉の事を覚えているか?』

「そりゃもちろん。自分で捕縛した精霊を忘れる筈もありま……」

 

士道の言葉が途中でストップする。

自分で言葉にするにつれてあることを思い出したからだ。

 

識別名〈シスター〉。、本名を本条二亜という精霊。

去年の夏、激戦の末に勝利して捕獲に成功した精霊だ。

その後、SSSの施設で管理することになり、士道はその監視を任されていたためよく会いに行っていた。

その結果、二亜の趣味に引きずり込まれる等されてかなり仲が良くなったのだが、閑話休題。

 

これはSSSで管理していた時の話であり、問題はその後のことだった。

 

『思い出したか。そう、〈シスター〉はSSSの手を離れた後、DEMの施設に送られた。聞いた話によれば、ウェストコットはイギリス政府と直接交渉して身柄を手に入れたんだと』

 

士道は目を見開く。

政府と交渉して、しかもその交渉材料が精霊となれば、政府が顔を縦に振ることはないに等しい。

そんな交渉を成功させるには相当な労力と代償が必要だろう。

それを成功させたという事実は、ウェストコットの精霊への強大な執着心を如実に表していた。

 

「つまり、今回の件でウェストコットが妙なことをしないか見張ってろってことですか?」

『察しが良くて助かる。こっちも早いところカタをつけるつもりだ。あの男のお膝元で過ごすのは同情するが、あと少し我慢してくれ』

「ここにいる期間が伸びたのはあんたのせいでしょうに、全く。……分かりました、その任、承ります」

 

本音を言えばもちろんやりたくないが、上官であり師のような存在のサミュエル大佐の頼みを無碍にするわけにはいかない。

士道は溜息をつきながらも了承した。

 

『いつもすまんな。それと今回出現した精霊なんだが───』

 

大佐が話していたその時、士道は近くに人の気配を感じた。

 

「すいません、後で掛け直します」

 

そう言って士道は電話を一方的に切った。

失礼に当たる行為だが、電話の内容は誰かに聞かせられるものではなかったので仕方ないと、士道は自分の中で自己完結させた。

そして階段の上の廊下に目を向けると、そこには予想通りの姿があった。

 

「随分と電話に時間が掛かっていたようですね」

「……言っとくけど、別に変な電話じゃないぞ」

「では聞きますが、今の電話の相手は誰ですか?」

 

腕を組んで自身を見下ろすエレンに、士道は再び溜息をついた。

 

「大佐だよ。内容は業務上のもんだから、幾らお前でもいえないぞ」

「ふん、どうでしょうか」

「ま、まあとにかく電話は終わったから、さっさとシミュレーションルームに戻ろうぜ」

 

士道は困った顔を浮かべながら、階段を上がって廊下を歩んでいく。

それを見たエレンは不服そうな顔をしながらも士道と同じ道を辿った。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

士道は〈デストロイヤー〉を鞘から抜き、水平方向に薙ぎ払う。

それに難なく反応したエレンは、一呼吸の内に複数の斬撃を放ち、それを相殺させた。

それどころか、お返しといわんばかりに攻撃の速度を上げていく。

 

ここはDEM本社内にある戦闘シミュレーションルーム、その中央で二人は戦っていた。

この戦いは、暇だった士道がエレンを誘って始まったものだが実力が近しい者同士、お互いに気付くことも多かった。

士道はエレンの戦い方を指摘し、エレンは士道に随意領域(テリトリー)の使い方をアドバイスする。

この戦いは両者にとても有意義なものになっていた。

 

「そこだっ!」

「それはもう覚えました」

 

士道の下段攻撃をエレンは飛び上がって避け、飛んだのを利用して跳び蹴りを放った。

変則的な低い攻撃も当初は効いていたが、使うにつれてエレンはそれに慣れて今や通じなくなってしまった。

それどころか反撃に利用される始末である。

士道は自分の未熟を恥じながら蹴りを流した。

そこからエレンは更に剣戟の速度を上げていく。

 

「!」

 

激しい攻撃に士道は徐々に後手に回っていき、次第に防戦一方となっていく。

 

「はあっ!」

 

そして勝負を決めに来たエレンから会心の一撃が加えられる。

そんな一撃をまともに防御した士道は衝撃で後方に吹き飛ばされ、二人の間合いに距離が空く。

だがここで士道は驚きの行動に出た。

踏ん張って壁に激突するのを防いだ士道は〈デストロイヤー〉を逆手に持ち、槍のようにして投げたのだ。

 

「っ……!」

 

反撃の暇を与えまいと距離を詰めようとしたエレンも、獲物を投げるというまさかの行動に一瞬面食らうもののすぐ冷静になり、投げられた〈デストロイヤー〉を弾いた。

だがその一瞬の動揺がエレンにとって決定的な隙となってしまった。

 

「なっ……!」

 

エレンは更に大きな驚愕に見舞われた。

その一瞬の内に士道がエレンに接近して腕を掴んでいたのだ。

そして士道は足を掛け、エレンに背負い投げを仕掛ける。

エレンは受け身を取れずに床に背中を叩き付けられた。

 

「これで俺の2勝5敗だな」

「……そうですね」

 

士道とエレン、二人の戦闘力を比べたらエレンに軍配があがるが掴まれた以上、力の強い士道が(たちま)ち有利となる。

それが分からないエレンでもなく、渋々といった感じで負けを認めた。

 

士道がエレンと知り合って約半年が経ち、模擬戦を行った回数もそこそこのものになってきたが、流石は世界最強の魔術師(ウィザード)というべきか。

負け越しているのは士道の方だった。

去年の冬頃に初めてエレンと戦った時はやはり運が良かったのだろう。

もし一歩間違えていたらDEMの社員になっていたことを考えると、背筋がゾッとする士道であった。

 

「あ、あの……シドウ」

「?……なんだ」

「その、そろそろ、離れてくれませんか……」

「ッ……!?」

 

頬を赤く染めたエレンはもじもじしながらそう言った。

どうやら、少しの間考えに浸っていた内に、士道はエレンに近づきすぎたらしい。

 

「す、すすすまん!!」

 

慌てる士道は音速の速さでエレンから離れる。

曲がりなりにもエレンはかなりレベルの高い美少女だ。

女性に対してそれほど免疫がない士道では動揺してしまうのも無理もない。

 

「少し考え事しちまってて!わざとじゃないんだ!」

「わ、悪気がないのならいいですが……………ソコマデハナレナクテモ」

「え、今何て?」

「ッ!何も言ってません!」

 

エレンはハッとしたように、羞恥心に溢れた顔を正していつもの強気な姿勢に戻る。

だがそんなエレンの様子が普段よりきつく感じた士道はこう問うた。

 

「な、なあエレン、もしかしなくてもまだ怒ってんのか?」

「いえ怒ってません」

「いやでm」

「怒ってません」

「…………はい」

 

エレンに睨まれた士道は社長に睨まれた社員のように何も言えなくなった。

そんな二人のやり取りは傍から見ていると女性の尻に敷かれる男性に見えたとかなんとか。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

時刻は朝八時、士道は社員食堂で朝食をとっていた。

といっても、その内装は社員食堂と呼ぶのがおこがましいほど豪華だった。

具体的にいうと一流ホテルに併設されてるレストランのような豪華さだった。

 

このようにDEM本社はまさしく超巨大企業、もしくはそれ以上の様相を呈している。

先程のシミュレーションルーム、後学のために見学した開発室等など。

しかも社内で聞いた風の噂ではあるが、戦艦を作っているなんて話もあるらしい。

大企業とはいえ、世間の認識は企業止まりのDEMが何故そんな兵器を作っているのかは、士道も気にはなった。

が、自分のようなただの魔術師(ウィザード)が考えても詮方なきことだろう。

そう思い、士道は思考を打ち切った。

 

「それにしても、DEMって業務に関係ないところにも金を掛けるよな。そこんところ、どうなんだ?エレン」

「社内のやる気上げと、DEMの威厳を保つためです」

「へえ……」

 

隣のエレンに聞いてみて、そんなアホらしい理由なのかと、士道は心の中で呆れた。

前者に関していえばそれなりに理解はできる。

やる気、所謂モチベーションというのは何かに打ち込む上で大切なものだろう。

だが後者の方は、士道には理解ができなかった。

威厳など、いざという時には何の役にも立たないだろうに。

 

「そういえば、結局シドウはいつ帰る事になったのですか?」

「あー、今のところは未定だな。ってそんなことを聞くってことはお前電話の相手が大佐だって分かってたのか?」

「シドウが連絡する相手なんて、片手で数えられるぐらいしかいないでしょう?それぐらい、私にも分かっているんですからね」

 

そう言って、エレンはフフンと得意げな顔をする。

途中、何気にちょっと辛辣な言葉を言われ、少し気分が落ち込む。

 

「それで、未定というのは?」

「あー、詳しいことは言えないけど、今は帰ってくんなってさ」

「そうですか……」

 

エレンは、少なくとも士道が今日帰ることはないことを知り、息を吐いて胸を撫で下ろした。

 

「ったく、あの人にはいつも振り回されっぱなしだよ。こっちは早く帰りたいのに」

「え……っ」

 

士道の言葉を聞いたエレンの顔に、一転変わって影が差す。

士道は続けてその理由を説明した。

エレンなら説明を要求してくるだろうと思ってのことだ。

 

「アルテミシアの訓練を途中で放置してるからな。早いところ妥協点までには到達させたいんだけど、やっぱり時間が足りん」

 

今、ロンドンには現在進行形で精霊の魔の手が伸びてきている。

こんな時こそ訓練をして力を付けて欲しいのだが、前述の理由で士道は面倒を見てあげられない。

アルテミシアなら、士道がいなくとも自主鍛錬に励んでいることは想像に難くないが、それでも幾分か効率は下がるだろう。

イリシャに自分の代役でも頼んでおけば良かったかと、士道は今更ながら愚考する。

 

「……シドウ、今日は暇ですか?」

「ん、やることはないと言えばないけど……どうかしたのか?」

 

エレンはいつもと違う声のトーンで話しかけてきたことに士道は怪訝な顔をする。

しかし次の瞬間、士道の顔は能面のような顔で固まることになった。

 

「ではシドウ、急ですが今日私とデートにいきませんか?……」

「ああうん………………………………………………………え?」

 

ふむ、今この場ではどうあがいても聞けないような単語が聞こえた気がするのだが、気のせいだろうか。




今の二人の力関係は、エレン≧士道というイメージにしてます。
強さではエレンが上だけどあまり差はないって感じです。


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デート・イン・ロンドン

アズールレーンにハマって気付いたらいつの間にか二か月以上たってたorz
マジすんません。

さて、今回はついにデート回ですよ!
この小説もやっとデアラらしくなってきました。
私、イギリスに行ったことはないので、とりあえずロンドンの名所を入れてみました。


「……普通にOK出しちまったけど、大丈夫かな」

 

ここはロンドンに八つ存在する王立公園の一つ、ハイド・パークだ。

その正面門で士道は体勢をこーでもないあーでもないと変えながら、エレンを待っていた。

エレンは別に士道の想い人というわけではないのだが、いざデートとなるとやはり緊張してしまう。

あまりの緊張につい大佐にわざわざ本日二度目の電話をして報告までしてしまうほどだ。

因みに大佐には、事が事なので全く信じてもらえなかった。

 

エレンによるデートの提案があった後、話しはとんとん拍子に進んでいき、その結果デートを企画した数時間後にそれが実現することとなったのだ。

予定が決まるや否や、逃げるようにピューっと去っていくエレンの姿が印象的であった。

 

「しっかし、まさかデートすることになるとはなあ。しかもこっちで」

 

士道はいまだに自分がデートをするという実感が湧かなかった。

大して交流関係を持っていない士道は、自分が異性とデートをすることなど一生ないだろうと思っていた。

勿論、妹との外出は除いてだ。

 

しかし何故かそれが実現してしまった。

それも魔術師(ウィザード)に成りすましているイギリスで、だ。

 

因みに士道は身元がバレないようにいつもメカメカしいマスクを被っているが、公衆の面前でいつも通りにマスクを被っていたら変な目で見られること間違いなしである。

なので、今日は風邪予防として一般的に使われる使い捨てマスクとフード付きのパーカーを併用して顔を隠していた。

目元は隠せてないが、そこまで隠したら不審に思われそうなので流石にやめておいた。

 

「少し遅れてるな……」

 

腕時計を見て、士道はそう呟く。

予定では12時にここで待ち合わせなのだが、その時間は既に過ぎている。

エレンはポンコツでかなりのおっちょこちょいではあるが、一応はDEMに務める立派な社会人であり、そんな彼女がほんの数時間前に立てた予定を忘れるとはとても考えられない。

以上のことから察するに何かしらのトラブルでも起きたのかと士道は訝しんだ。

だがそこまで考えて、士道はその懸念が早計だったと思い知った。

エレンが小走りで正面門に現れたからだ。

何かがあったわけではないのか、と士道は少し安堵する。

 

「おーい、エレン」

「!……シドウ、なのですか?」

 

士道が声を掛けると、エレンは本当に士道かどうか確かめようとする。

普段ずっとマスクで顔を隠している男が、そのマスクを外したのだ。

そんな反応になってしまうのが自然だろう。

 

「ああ、俺だよ。そう言えばお前の前でマスクを外したのは初めてだったな。いや、そもそもマスクを外した状態を誰かに見せること自体初めてか……」

「は、初めっ……そうですか」

 

エレンはほんの一瞬、嬉しそうな笑顔を見せるがすぐに口元を押さえて表情を隠した。

 

「すみません、少し準備に手間取ってしまって……」

「ん?……あ」

 

士道は改めてエレンを見て、思わず言葉を失う。

それはエレンが着ている服に原因があった。

純白のワンピースに上からは大人らしい黒いコート、靴は普段絶対履かないヒールと、かなり気合の入ったコーデであることがわかる。

 

「どうかしたんですか?」

「……いや、お洒落してきたんだなって。そういう格好したエレン初めて見たから、ちょっと驚いた」

 

別にエレンに見とれていたわけではない、無いったら無い。

士道は自分にそう言い聞かせる。

 

「……っ!」

 

そしてエレンは士道の言葉に少し顔を赤くする。

 

「ど、どうでしょう…か」

「あ、似合ってるよ」

 

恐る恐る聞くエレンに、頭を掻きながら答える士道。

さしずめ初々しいカップルといった様子だった。

 

「で、では早速行きましょう…」

 

仕切りなおすように咳払いをして、エレンはそう言った。

このクールぶりながらもおっちょこちょいなところを見て、相変わらずだなと士道は思った。

まあその部分があったからこそ、エレンとここまで仲が深まったのかもしれないが。

 

「ああ、それじゃあまず昼飯でも食べるか」

「はい!」

 

かくして二人のデートは始まった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

まず二人がしたことは腹ごしらえだった。

今は昼の真っただ中なので、まずは昼ごはんを食べるということは事前に話し合って決めたことの一つだ。

その時のエレンの強い要望もあって、中々にお洒落なカフェで食事を取ることが決まったのだが……。

 

「すみません、このショートケーキと同じものをもう一つ」

「はい、かしこまりました」

「……………………」

 

―――こいつショートケーキ食い過ぎ

 

士道は能面みたいな顔をして辟易していた。

この女、カフェに来てからというものショートケーキをひたすら食いまくっているのだ。

しかもショートケーキ以外を食べたのは最初に注文したサイドメニューのサラダのみときた。

 

「お待たせしました、当店自慢のショートケーキとなります」

 

これにて本日5個目のケーキ、エレンはそれを食べて癒されているような柔らかな笑顔を浮かべる。

心無しか、士道の目にはエレンが二頭身のデフォルメキャラクターに見えた。

 

「シドウももっと食べないのですか?」

「いや、俺はもう遠慮しとくよ。これ以上食うと胃が重くなりそうだ」

 

何でもここのケーキは美味しいと前々から評判だったようで、エレンが態々このカフェで食事を取ろうと言ったのはそれが理由だったようだ。

士道もエレンにおすすめされて一つ食べてみたところ、噂に違わぬ味であった。

かと言って、エレンのように食いまくろうとは思えなかった。

 

「すみません、このショートケーキをもう一つ」

 

エレンは先程注文したケーキを食べ終わると、また同じケーキを注文した。

このままではワンホール食べてしまうのではないかと思ってしまうほどの勢いだ。

これではデートがカフェのみで終わりかねないのでは?

そう思った士道はいい加減話しを進めることにした。

 

「それで、この後映画を見に行くんだろ?時間もあるし、早いとこ見る映画を決めようぜ」

「もぐもぐ………んぐ、そうですね」

 

エレンはケーキを飲み込むと携帯で今日上映中の映画を調べ始めた。

映画を見るというのも事前に決めていたことなのだが、これはやることがないので取りあえず映画でも見ようという考えで決めたものだ。

そのため二人には特に見たいという映画は無く、見るときに決めようということになった。

 

「む……あまり知っているものがありませんね」

 

難しい顔をしてエレンは呟いた。

どうやら検索結果は芳しくなかったらしい。

士道はエレンから渡された携帯を見て、少し吟味する。

 

「……確かに知らないタイトルばっかだ」

 

英文が羅列されたサイトを軽く見た結果、士道はエレンと似たり寄ったりの反応をした。

エレンの言う通り、上映中の映画はどれも大して知名度のない一作限りなものばかりでシリーズ物は全く見当たらなかった。

仕方ないので、見た感じ面白そうな映画をエレンに提案しようと、士道は適当に画面をスクロールする。

 

「…………おっ?」

 

ある部分で士道の手が止まる。

 

「なあ、エレン」

「なんでしょう?」

「お前ホラー映画っていけるか?」

「ゑ?」

 

目を丸くするエレンに、士道は携帯の画面を見せる。

そこには風船を持った道化師が主体となったキービジュアルが映されていた。

 

「この映画、ホラー映画史上一番の大ヒットってテレビで紹介されててさ、せっかくだしこれでも見に行き………」

 

そこで士道の言葉は止まった。

 

「………………」

 

何故なら、目の前にいるエレンが未だかつてないほど顔を青ざめさせていたからだ。

 

「だ、大丈夫か?」

 

取りあえず士道はエレンを慰めようと話しを聞くことにした。

この調子じゃあ今日は映画は無理そうだなと思いながら。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

今日は映画は無理そうだといったな?

あれは嘘だ。

ウワァァァァァァァァァ……

 

結論から言うと、映画は見た。

士道は無理して見なくてもいいといったのだが、エレンは案の定聞かなかった。

 

「水でも買ってこようか?」

「ハァハァ……お、お願い…しますぅ」

 

そしてこうなった。

エレンは息を荒くしてぐったりしており顔色も悪い。

ぶっちゃけ見た目に関しては救急車を呼んでも文句を言われないレベルだ。

その実、恐怖による動悸が激しいだけなのだが、この場でそれを見抜けるのは士道だけだ。

 

「ほい、水」

 

士道は近くの自販機から買ってきた水をエレンに渡す。

エレンはそれを無言で受け取り、口に流し込んだ。

 

「ったく、怖いんなら無理して見なくてもいいって言っただろ?」

「こっ、怖くなんてありません。最強である私が道化ごときを恐れるわけないでしょう。仮に私が恐怖していたとしても、私は人類最強の魔術師(ウィザード)、怖気づいて引き下がる訳にはいきません」

 

水を飲んで幾分か落ち着いたエレンはいつも通りの傲岸不遜な態度、もとい強がりを見せてくる。

 

「でも顔色悪いぞ。足も震えてるし……」

「これは恐怖によるものではありません!ただ突然出てくるのに驚いただけです!さあ!早く次の場所に行きましょう!」

 

エレンは必死な顔で言い訳をすると、そのまま映画館の出口にズンズンと歩いていった。

 

「……大したもんだよ、まったく」

 

エレンの相変わらずな態度に士道は苦笑した。

自分を最強最強と連呼するのはともかく、そのへこたれない精神は流石だと士道は思う。

一周回ってエレンをそう思ってしまうのはちょっとあれな気もするが。

少しぐらいは魔術師(ウィザード)としても、一人の人間としても、見習った方がいいのかもしれないと、士道は思った。




出来ればデートは一話に収めたかったんですけど、流石に長いわってなったので急遽分割。
なので次は早く投稿出来る筈……!


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開幕

デート回後編+αでお送りさせていただきます。


「……どうしましょう、シドウ」

「俺に聞かれても困るよ」

 

エレンと士道は現在進行形で迷っていた。

即ち、行く場所が思いつかない。

前準備の段階で、デートの内容はある程度決めていたが、それが早くも底を尽きてしまったのだ。

 

「あまり深く考えず適当にプランを決めたことが仇になりましたね」

「ああ、十分で考えてこれでいいやは流石に投げやり過ぎたかもな」

 

春の始まり、まだ冬の寒さが完全に抜けきっていないロンドンの街中を、二人は他愛のない話をしながら歩く。

士道はそんな自分とエレンを我ながら奇妙だなと、ふと思った。

元々、エレンは士道をSSSからDEM社に引き抜こうとし、そして士道はそんなエレンを倒して要求を断ったという、どちらかと言えば敵同士となりそうな関係であった。

そんな二人がデートとは、つくづく人生何が起こるかはわからないものであると、士道はしみじみと思う。

 

「それにしても、でかい建物だな」

 

士道は自分達の歩いてる通りに面してる建物がとても大きいことに気が付いた。

それはいつぞやに行ったバッキンガム宮殿に比類しそうなほどだ。

 

「そりゃそうです。何せこれ、大英博物館ですよ?」

「え?マジ?大英博物館ってあの大英博物館?」

 

エレンの言葉に士道は驚く。

大英博物館といえば、世界トップクラスの知名度を誇る博物館ではないか。

 

「どの大英博物館を言ってるか解りませんが、イギリスにある大英博物館ならここのことです」

 

イカン。

大英博物館がゲシュタルト崩壊しそうだ。

 

「というか、そんなことを聞くということは、まさかシドウは来た事がないのですか?イギリスを代表する観光名所ですよ?」

「ああ、そういえば来た事なかったな」

「では今から行きましょう!入場料も無料ですから」

「じゃあそうしようか」

 

行き先に迷っていた二人にとってこれはまさに渡りに船であった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「シドウ、これがモアイ像です」

「へえ、これがあの有名な……」

 

博物館のエントランスからほど近く。

大英博物館の数ある展示品の中でも目玉の一つであるモアイ像の展示場所に士道とエレンは来ていた。

士道は今までテレビと本の中の存在であったモアイ像を興味深そうに眺める。

 

「というか本当にシドウはロンドンに住んでる癖に、今まで大英博物館に来たことが無かったのですか?」

「あー……仕事が忙しくてな。来る機会もなかったし」

「そうですか。では、今日は私がここのガイドを務めてあげましょう」

 

そう言ってエレンはフフンと得意げに胸を張った。

 

「さあ、次はどこに行きますか?大英博物館の中ならどこにでも案内してあげます」

「んーそうだな……このエジプトのミイラでも見に行くか」

 

士道は手に持ったガイドブックの一部分を指さす。

その部分はエジプト関係の展示物の一覧となっていた。

 

「ふむ、この場所はあちらですね。さあ行きましょう、シドウ!」

 

エレンはその方向を指さし、此方を見ながら意気揚々と歩きだす。

超有名な博物館、かつ休日ということもあり、館内は人であふれかえっており、気を抜けば直ぐにはぐれてしまそうだった。

 

「なあエレン、その……手繋がないか」

「!」

 

士道は照れを一生懸命隠しながら、エレンに手を差し伸べる。

 

「……は、い」

 

エレンははぐれない為にという理由を直ぐに察したのか、特に抵抗なく士道の手を握った。

しかし歯切れが悪く、顔はそっぽを向いて隠していた。

エレンにも手を握ることについて、多少の羞恥に似た感情はあるようだった。

 

「じゃあ行くか、道はこっちでいいんだよな?」

「はい」

 

士道は方向を確認すると、エレンと並んで歩き始めた。

 

「……エレンは大英博物館に詳しいけど、よくここには来るのか?」

 

妙な雰囲気を払拭するためにも、士道はさっきから気になっていることを聞いた。

 

「そうですね。アイクが会社の取引先にここで接待されることがよくあるので、必然的に私もここによく来るようになりました」

 

少し考えてからエレンはそういった。

流石は天下のDEM社、ポジションは常に接待される側のようだ。

 

「まあよく来るとは言っても仕事上の話なので、こうやって展示物を鑑賞するのは初めてかもしれません」

 

エレンはゆっくり歩きながらところどころに展示されている展示物を流し見する。

 

「じゃあ自分で来たことは無いってことか?」

「……残念ながら、私も普段はかなり忙しい身なので」

 

疲れた表情で肩をすくめるエレン、その姿からはエレンの仕事がどれだけ大変かが垣間見えるような気がした。

そういえば実際にDEMで働いているエレンを見たことがないことに士道は気づく。

普段のエレンはクールかと思いきや割とポンコツという面白い?キャラをしているが、そんなキャラとは裏腹にとても多忙なのかもしれない。

 

「じゃあ、今日はそういうの忘れて楽しもうぜ」

 

なら今は英気を養ってほしいな、と思って士道は何気なく口にした。

自然とこういう言葉が出てしまう辺り、いつの間にか士道とってエレンの存在は相当大きなものになっているようだった。

 

「…ええ、そうですね」

 

エレンは穏やかに笑う。

二人の間にあったギクシャク感はいつの間にか消えていた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

博物館の外にでると、空はもう真っ赤に染まっていた。

どうやら展示品の鑑賞に熱中しすぎて時間を忘れてしまったようだ。

事実、もう時計の針は午後6時に差し掛かっていた。

 

「楽しかったですね」

「ああ、そうだな……」

 

この手のものはずっと敬遠していたが思いのほか楽しかったことに、士道は顔を綻ばせる。

 

「シドウはどの展示が良かったですか?」

「俺はミイラかな。いやでもパルテノン神殿の彫刻も捨てがたいな……」

「あ、わかります。あの削れてる部分から経った年月が感じ取れて――」

 

二人は歩きながら、今日の楽しかったことを語っていく。

士道の軽口にエレンはクスッと笑い、士道もそれにつられる。

もう時間は夕暮れでしかも連日の事件報道があったためだろうか、周囲に人通りはほとんど無く、その二人を見ている人はいなかった。

が、その様子はまるで恋人のようだったかもしれない。

まあ士道の身長がもう少し高かったらの話なんですけどねw

 

「今日は本当に楽しかったよ。縁のない場所にも、偶には行ってみるもんだな」

「はい、本当に……まるで昔の――」

「……昔の、なんだ?」

「い、いえなんでもありません!」

 

エレンは突然顔を赤くして手をブンブン降った。

明らかに誤魔化そうとしているエレンの行動から何か不都合なことが生じているのは明らかだったのだが、親しき中にも礼儀あり。

別段、気になることでもなかったので士道は特に追及しなかった。

 

「そ、そろそろ帰りましょうか。私は明日も仕事がありますし、そろそろ暗くなってくる時間ですから」

「そうだな。最近は物騒な事件も多いし、さっと帰るか」

 

現在のロンドンは件の不審死により、夜間の外出は控えるようお達しが出ている。

このまま出歩いてて何かのトラブルに巻き込まれないとも限らない以上、そろそろ帰宅するのが賢明だろう。

最もその原因は精霊らしいのだが。

 

それにしても、様子を見る限りエレンは今回の件が精霊に関することだとは知らないようだ。

エレンはあのウェストコットの右腕と言ってもいい人物だ。

そんなエレンが事態を把握していないということは、ウェストコットも知らないということだろうか。

 

「あ、シドウ。せっかくだし夕ご飯でも食べていきませんか?」

「えっ?」

 

ひらめいたといった様子のエレンが指差す先にはレストランが建っていた。

 

「いやお前ついさっき帰ろうって言ってただろ?」

「気が変わりました。というかわざわざ帰って食べるよりも、今食べた方がいいでしょう?」

 

確かにエレンの言う通り、ここで食べた方が手軽であることは間違いない。

だが今は大事件の真っ最中で、夜は出歩かない方が余計なリスクを回避できる。

 

「……まあいっか。ここで食った方が楽だし」

 

士道は少し考えて前者を選択した。

 

「じゃあ早速行きましょう」

 

少し遅くなるぐらい大丈夫だろう。

そう思って士道はレストランに足を運んだ。

例の事件の影響だろうか、店内は食事時にも関わらず人が少ない。

 

「エレンは何食べる?」

「そうですね……昼はケーキを食べたので、夜はお肉でも食べましょうか」

 

流石のエレンも夕食までショートケーキ尽くし、なんてことはないようだ。

もしかしたら、と思っていた士道も少し安堵する。

 

「お肉を食べるなら、ワインも欲しいですね」

「へーエレンってお酒飲むんだ…ってちょ!?」

 

安堵したのもつかの間、エレンの言葉に士道はギョッとする。

エレンが店員を呼び止めるのを、そうはさせんと士道は阻止する。

 

「今は酒飲んでゆっくりしてる時期じゃないだろ!早いところ飯食って帰ろうぜ?」

「そ、そこまで必死に止めなくても……ちょっとだけですから、ね?」

「いやっ、でも……えぇ」

 

エレンが酒を飲むなど微塵も考えてなかった士道は頭を抱えた。

士道としては一品食べたら早々に帰宅するの予定していたのだが、エレンにその気はあまりなかったようだ。

さてどうしたものだろうか。

仕方ないと許すか、心を鬼にしてキッパリ駄目というか、少し逡巡した結果。

 

「……い、一杯だけな!」

 

一本だけ指を立てた士道は苦渋といった感じで妥協案を出した。

 

「流石シドウ!そういってくれると思ってましたよ」

 

そういってエレンは意気揚々と注文をし始めた。

結局酒を禁止にしない辺り、士道も甘々である。

 

「シドウは何にします?」

「ええと、俺はこのハンバーグとコーラで」

 

注文を受けた店員は、足早にその場を去っていった。

少し待つと、料理の前にまずは飲み物が運ばれてきた。

そうして運ばれてきたのは、グラスに入ったコーラと一本(・・)のワインだった。

 

「……ボトルだな」

「ボトルですね」

 

この男、愚かにもワインはボトルに入れてあるものだということを失念していたのだ。

エレンが飲む量を一杯までと言ったものの、それは明らかに三杯以上に達しそうだった。

エレンはどうする?と言うように、ボトルと士道に目線を交互に向ける。

 

「じゃあ一本まで、ってことで」

 

士道は仕方ないと溜息をつく。

一杯だけ飲んで残すのも勿体ないし、店側にも失礼な気がした。

それにエレンも一本飲んだぐらいでベロベロに酔うなんてこともないだろう。

 

そうこうしているうちに料理も運ばれてくる。

 

「では、食べましょうか」

「そうだな」

 

エレンはフォークとナイフを手に取ってステーキを切る。

士道もそれに続いてハンバーグを食べ始めた。

そうしてこのデートを締めくくる晩餐が慎ましく始まった。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

「おい。しっかりしろ、エレン」

「うー……なんかふらふらしましゅ」

「ああもう、やっぱこいつに酒を飲ますんじゃなかった……」

 

今、士道はエレンに肩を貸しながら、誰もいない夜道をゆっくりと歩いていた。

何故そんなことになったのか。

まあ前述の士道の言葉で大体のことは察しがつくだろう。

 

この女、案の定酔っぱらったのである。

レストランで夕食を食べ始め、しばらくは談笑とともに時間が過ぎていった。

だがそんな穏やかな夕食の時間も束の間、段々とエレンの顔は赤くなり、呂律も回らなくなっていく。

そして夕食を全て食べきった時には立派な酔っぱらいの完成である。

士道はそんなエレンを肩で担ぎ、レストレンを出て歩いて今に至るというわけだ。

 

「ええと、ここからDEMまでは……」

「あっちれふよー!」

「いやそっちは歩いてきた方だっての!」

 

ついさっき食事をしたレストランの方向を自信満々に指差すエレンに士道はツッコむ。

今後エレンの言う事はあまり信用しないようにしようと、心に刻みつつ士道は携帯でDEM本社までの道を調べる。

 

「ていうかもう帰るんですかー?もうちょっと遊びましょーよー」

「いやさっきまではお前も帰るっていってただろ、あと抱き着かないでくれ!歩きにくい!」

 

士道の肩に腕を乗っけていたエレンは、いつの間にか士道の腕を絡みとっていた。

 

「シドーの手、あたたかいでしゅ」

「……ったく、もう好きにしてくれ」

 

士道はこれまた仕方ないな、と言うように肩をすくめる。

しかし、それは嫌々というわけではなく、その顔には微笑みが浮かんでいた。

かといってこのままではやはり歩きにくいので、士道はエレンを背負って歩くことにした。

 

「よっ…と」

 

士道は軽々とエレンを背負った。

身長はエレンの方が上だが、魔術師(ウィザード)として日頃から過酷な訓練を行ってることと、エレンが軽いこともあって、特に重いとは感じなかった。

これならDEM本社まで大して時間もかからないだろう。

そう思い、足を一歩前に踏み出すと、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――あらぁ?」

 

前方から女性の甲高い声。

士道はその呟かれたような短い声を頭で認識する、と同時に背中に冷水を浴びせられたような感覚を味わった。

 

「は……!」

 

それは所謂、殺意、殺気などと言われるものだった。

士道も今までそれを向けられた経験が何度かあったため、そのことには直ぐに気づいた。

だがその殺意は士道が今まで受けてきたものとは別種といってもいいほどに異質だった。

 

「珍しいですわねえ、こんな時間に人がいるだなんて」

 

年は十代後半ほど、黒髪の美少女に血のような赤と漆黒のドレスを纏ったそれは微笑みを浮かべて、ゆっくり歩いてくる。

それと同時に身にまとう殺気も強くなる。

 

それを受けた士道は、思わず怯んで後ずさりそうになる。

だがそれは一瞬、すぐに頭は戦闘状態となり急速に回転を速めていく。

 

「もし、そこのお方」

 

歩みを止めると再びそれは話し始めた。

今度は間違いなく此方に向けて投げかけられた言葉だ。

 

「今は、あまり外をうろつかない方がよろしいですわよ」

 

美しい音色のような声で、一見諭しているような言葉。

しかしそれには身の毛のよだつ恐ろしさが秘めらているように感じられた。

 

「でないと、」

 

士道は背負っているエレンを確認して足に力を籠め、少女はぶら下げていた細い腕を上げる。

その少女の手にどこからともなく現れた古式の洋式銃が握られたのが、合図となった。

 

「私のような化け物に出会ってしまいますわよォ!」

「ッ……!」

 

ゾッとするような凄絶な笑みをして少女は銃を構える。

 

―――精霊、識別名〈ナイトメア〉。

 

またの名を、最悪の精霊との戦いが、今一発の銃声とともに始まった。




みんな大好き、きょーぞーちゃん登場。


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危機

へいおまち!


「わたくしのような化け物に出会ってしまいますわよォ!」

「ッ……!」

 

少女の咆哮とともに銃口から弾丸が飛び出した。

と同時に士道はエレンから手を放して背中から落とす。

エレンからくぐもった声が聞こえてくるが、意に介することもなく士道はしゃがんで弾丸を避ける。

そして地面を蹴り、一気に加速した。

 

「速っ……!?」

 

思わず精霊は驚愕の声を漏らす。

対象がほんの一瞬の内に、既に自分の懐に潜り込んでいたからだ。

てっきりただの一般人だと思っていた精霊は驚かずにはいられなかった。

士道は動揺した隙を見逃さず、相手の鳩尾に貫手を叩き込む。

 

「ッ……!」

 

鳩尾には多数の神経が通っており、衝撃を与えると強い痛みを発する人体の急所の一つだ。

精霊とて体の構造は人と何ら変わらない。

その鳩尾を突かれた精霊は声にならない悲鳴を上げて仰け反る。

そして士道は、完全な隙を晒した精霊のその細い首に後ろから腕を回して締め上げた。

 

「がッ、あ……」

 

頸動脈を完璧に絞められた精霊は腕や足を使って必死にもがく。

しかし呼吸が遮られているおかげでそれもままならない。

 

「あ、なた…何者…ですの」

 

精霊は最後、苦し気に言葉を残した。

 

「俺は魔術師(ウィザード)だ」

 

その士道のセリフとともに精霊の意識は暗転した。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「ふう、何とか勝てた……」

 

気絶させた精霊をうつ伏せにして地面に寝かして、士道は軽く息を吐く。

士道は武器を何一つ持たない丸腰の状態で何とか精霊に勝利を収めた。

 

非常に危ない橋を渡った、士道は戦闘を振り返ってそう思う。

精霊がこちらを一般人だと思い込んで油断していなければ、ここまで簡単には勝てなかっただろう。

 

「いや、それにしても上手くいきすぎた気が……」

 

危ない戦いだった、だがそれと同時に驚くほどの手応えの無さが、士道に不信感を与えていた。

天使を使っていなかったからだろうか、だが考えても疑問が解消されることはない。

 

「まあいいか、エレン大丈夫か?」

 

考えても埒が明かないので、背中からほっぽり出したエレンの身を案じることにした。

 

「うぅ~、シドウ酷いです。突然私を背中から落として……」

「すまん。突然撃たれたもんだから、考える暇がなかった。許してくれ」

 

涙目で地面にぶつけたお尻を摩るエレンに士道は頭を下げた。

しかし咄嗟にエレンを地面に落とした士道の判断は割と正しかった。

そうしないとエレンに銃弾が命中していた可能性もあったからだ。

 

「もうっ、私は寛大なので許して上げます。でも私じゃなかったら許してないんですからねっ!」

「うん……ってあれ?お前まだ酔ってんの!?」

 

頬を膨らませてプンプンと怒るという、普段のエレンなら絶対やらないような可愛いらしい怒り方を見て、まだ酔ってんなコイツと思う士道。

 

「だから酔ってまーせーんー。私、今まで酔ったことないですから!」

「はあ!?」

 

胸を張って自信満々のエレンに、コイツマジで言ってんのかよ…的な視線を士道は向ける。

 

「どうです?びっくりしたでしょう?」

「あー、そんなこと言えてるお前にびっくりしてるよ」

 

現在進行形で酔っていながら、よくそんなことが言えたものである。

 

「まあいいや、応援を呼んで…」

 

気絶させた精霊を回収するために、士道は携帯でサミュエル大佐に連絡しようとする。

 

「させませんわよォ……?」

 

その時、再び濃密な殺意が士道達を包み込んだ。

その声の方向に導かれて後ろを見てみると、そこには先ほど気絶させた筈の精霊が立っていた。

 

「は……?」

「残念ですけど、わたくし精霊でしてよ?この程度で終わると思ったら大間違いですの」

 

 

それだけではなかった。

周囲から同じ姿をした精霊が無数に地面から湧いてくる。

 

「こいつは……」

 

精霊の足元を見る。

そこでは気絶していた精霊が影に落ちていく姿があった。

 

「なるほど、そういう天使ってことか」

「あら、察しのいい方ですわね。ですけど、それだけじゃ状況は変わりませんわ」

 

冷酷な笑みを浮かべて言い放つ精霊に、士道は額に一筋の汗を流した。

精霊の言ったことに間違いはなかった。

周囲は精霊に包囲されており、全方向からの攻撃を防ぐには着用型接続装置(ワイヤリングスーツ)が必要だ。

だが目の前で戦闘準備をするのを、変身ヒーローの敵よろしく精霊が黙って見物する筈もない。

簡単にいえば詰みである。

 

「貴方のことは少し気になりますけど、ここで死んでいただきますわ。今後の活動に差し障ったらいけませんので」

 

精霊が銃を構える。

 

「そりゃ残念だな。俺もあんたのことずっと気になってたんだ」

 

現れたタイミングからして昨今の殺人の首謀者だろう。

大規模なのも分身を使っていたのなら納得だ。

 

「それは奇遇ですわね。場所が違えば少しお話させていただきかったですわ」

 

そして引き金に手を掛けた。

 

「さようなら。魔術師さん」

(……せめてエレンはッ!)

 

エレンの壁になるため、士道はエレンに覆い被さろうとする。

間もなく撃鉄が引かれ、弾丸が放たれる。

 

その刹那、隕石でも落下したかのような一撃が地面を粉砕した。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「い、一体何が起こったんですの!?」

 

突然のことに精霊は困惑せざるを得ない。

周囲には土煙が舞い上がり、状況は把握できない。

 

「いや焦った。今回ばかりはマジで終わったと思ったわ」

「それはこっちのセリフよ。随意領域(テリトリー)の索敵範囲に見知った気配があると思ったら、明らかピンチなんだもの」

 

その中から男女の話し声が聞こえてくる。

 

「まあ、安心しなさい」

 

槍が一振りされ、土煙が払われる。

その女の黄金の髪は星屑のように煌めき、碧眼の中は覇気に満ち満ちていた。

 

「私がいる以上、負けはないわ」

 

SSS最強の女魔術師、イリシャ・クロウリー。

彼女は精霊相手にも恐れるに足らずと言わんばかりに不敵な笑みを浮かべていた




久しぶりの投稿。
投稿しなきゃなと思いつつもそのままズルズルと。
感想見て奮起。
自分で始めたことだし、何とか完結には持っていきたい。
あと地味にイリシャの名字判明


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