月香が導く悪夢の果て(旧タイトル:夢の続き) (マリア様良いよね)
しおりを挟む

設定


感想にてステータス情報が欲しいとの要望がありましたので、投稿いたします。

警告!
宝具(妄想)ネタバレもありますので、「遠慮するよ」という方は注意

妄想&独自設定&独自解釈在り。
尚、吐き気を催された方はポリ袋持参でBloodborne、人喰い豚(吸血豚)へ内蔵攻撃してきましょう



 

 

 

 

クラス:■■■■■■

 

筋力A+

耐久B

敏捷A+++

魔力—

幸運C

宝具EX

 

クラススキル

・■■■■■■EX

・■■A

・気配察知A

・気配遮断C+(青の秘薬使用時1ランクアップ)

・道具作成(水銀弾)B

 

 

固有スキル

 

・狩人EX

獣を。血狂いを。上位者を。この世ならざる異形を狩る、業を背負う者の証。狩りとは尊く、また何よりも罪深い。

相手がたとえどれ程の悪であれ善であれ、己の裁量で生殺与奪も想いのまま。決して裁定者では無い。あくまで狩る者だ。

効果:獣属性、神性、人属性に特攻

 

 

・技術A+

扱いが困難な武器を最大限活かす才能。

狩人の武器にはそれぞれ特徴がある。例えば彼の奥の手である『月光の聖剣』は、その重い刀身を支える筋力、扱う技量、神秘の引き出し方を知らねば宝の持ち腐れになろう。

狩人はただ荒々しく在ればいいのではない。

常に最適な解を求める探求者で在れ。

効果:致命攻撃の威力アップ

 

 

・神秘A+++

かつての神代に満ちていたものとは違う、上位者たちの能力の根底にあるもの。

膨大なエネルギーを繊細に扱う知識を要求され、しかし心弱くば己の身を滅ぼしかねない。

だがそれは、確かに、狩人の糧となるだろう。

効果:神秘攻撃の威力アップ

 

 

 

宝具

 

『月光の聖剣』

 

ランク:A+++  種別:対人宝具

 

かつて狩人の歴史上一度のみ黄金期を迎え、英雄として讃えられた時代があった。

医療教会最初の狩人ルドウイーク

彼のみぞ知る、隠すべき秘匿こそ究極の一

それは、地球上の概念に存在しない、異星の理

悍ましい獣共を駆逐する度に擦り切れ摩耗していく彼に与えられた、最後の(よすが)

誰の目にも触れられず彼と共に在り続けた導きの光

 

———たとえ欺瞞の糸であろうとも

———真実それは希望足り得たのだ

 

 

 

補足(という名の蛇足):

神秘を纏わせる事で真価を発揮する白銀の大剣。

並の筋力では持てないほど重い。

見た目以上に重い。

一撃一発がとにかく重い。

その分、武器に振り回されるような攻撃でも当たれば致命傷。

……というのが、あの「夢」では唯一の慈悲だったのかもしれない。

 

良くも悪くも、彼は夢の中では()()されていた。

当然だ。造物主は被造物が自身を超えるようには設計しないだろう。

必要な力を蓄えさせ、最期は永く利用する「都合の良い駒」へと仕立て上げる為の下地だというのに、上限が無くては必要以上に付け上がると分かりきっているのだから。

それが罷り超えられ、挙句今の今まで縛っていた拘束()が無くなれば……

 

現実で目覚めてから、彼が武器を持てばすぐに気付くだろう

()()()()」と……(一撃の重さではなく、その手に持つ感触が)

 

要は「扱い辛いが、一撃の重い武器」が、「ブンブン振り回せる一撃一発が致命傷の武器」になっている。

 

 

深淵を纏う、導きの光(フリーティング・ムーンライト)

 

ランク:EX  種別:対■■宝具

 

『月光の聖剣』の最大解放

担い手に月の加護を齎し、その仄暗い光波は宇宙の神秘を振り撒く祝詞だろうか

神秘を纏ったこの聖剣は対魔力では防げない

彼が扱う「神秘」とはそも、「根源」を目指す現代の魔術師の手段と根幹を違えるものであるが故に

例えるなら呪術の様に、辿るプロセスが異なるものなのだ

 

只人が見てはならぬ理の真髄を覗いて尚

正気を保てるか

 

これを防ぐに能うのは、そう

想いの強さを守りとする、かの円卓の盾に限る

 

 

補足(という名の蛇足):

神秘纏った聖剣の全力の一撃。

乖離剣エアの天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)のイメージ。

モーションは約束された勝利の剣(エクスカリバー)

 

特殊BGMは「Ludwig, the Holy Blade」

 

「———我が師、導きの月光よ」

 

 

狩人の防具:

状況により変えるが、基本は狩人の装束一式

 

武器:

右:獣狩りの曲刀、月光の聖剣

左:獣狩りの短銃

 

カレル文字:

左回りの変態

右回りの変態

オドンの蠢き

【契約】狩り

 

狩道具:(随時追加)

 

青の秘薬:本来は麻酔薬だが、飲めば副作用で姿が消える。狩人は副作用の姿が消える能力だけを反映できる。足音は消えない。

 

聖歌の鐘:水銀弾を消費し、味方全員を回復することが出来る。神秘補正が高い為、その回復力はプロローグ参照。心臓に穴が空こうが、首が物理的に飛ぼうが、味方なら回復する。味方なら。

 








……ステータスが高過ぎる?
フロム主人公ですし、これくらいはあってもバチは当たんないです、きっと、多分。

伏字は本編の進行度で開けていきます

3/22.Bloodborneフリープレイ中ですね!
やりましょう?……月光は良いぞ

血質マン?灰エヴェビビるから勘弁して……


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

プロローグ

獣が悪夢の中だけの存在と、誰が決めた?
立ち向かう試練は、夢を乗り越えた先の現実にこそ






 

 

 

 

 

 狩人とは、孤高であり。狩人とは、孤独である。

 

 ただ獣を狩り、ただ蟲を潰し、ただ穢れを雪ぐ。そんな、単純な殺戮機構であればどれだけ幸せだっただろうかと、意味もなく考える。

 

 目を当てることが苦痛なほどの惨劇。不治の病魔に苦しむ者、死んだ家族の帰りを待ち続ける少女、燃やされた悲劇の街を独りで守り続ける優しい古狩人。誰一人として救えない。手を伸ばすと、泡沫のように消える希望。叩きつけられる現実(悪夢)に、心は擦り切れる。

 そも、生きとし生けるもの全てに猛る憎悪と嫉妬の爪牙を向ける呪われた地に、ささやかな救いなど入る余地すらなく。ただただ心を殺し、狩りを続けるしかなく。己の不甲斐なさと遣る瀬無さが故に零れる涙を飲み込み、夜明けを偲んだ。

 

 

 

「……だからこんな世界(悪夢)、終わらせなければならない。邪魔をするな、ゲールマン。」

 

 

「君の気持ちはよく解るとも。だが、夜を終わらせた狩人がその先を求める様を見過ごせる立場じゃないのだよ。例え、()()()()()()()()()()()()()()。」

 

 

 夜が終わろうと、また次の夜が来るだけ。繰り返し続ける無限回廊ならば、悪夢そのものを。元凶(月の魔物)をただ狩るのではなく、或いは———

 

 

 

「矮小なる人の身で、悪夢を終わらせること能わぬと、何故気付かない?私のように、使われるだけの駒と成り果てるのが関の山だ。潔く、死を受け入れたまえよ。」

 

「真の『瞳』を得ない者が囚われることなど分かりきっているとも。馴染めば容易く上位者の器へと至る『へその緒』は既に取り込んだ。

——空の器は既に在り、青ざめた血は不要。注ぐ血は聖血にあらず、この悪夢そのもの也。」

 

 

「………君は、本当にそれを実行しようと云うのか。」

 

 

「無論だ。」

 

 

「…………そうか。」

 

 

 

 草臥れた老人は徐に立ち上がる。弱々しい耄碌した雰囲気は霧散し、空気を鋭く裂く抜き身の刃が如く、若輩者を見据える。

 

 

 

「君はよくやってくれたとも。だからせめて、私の手で君を介錯しよう。安心したまえ。全ては悪い夢のように、全てを忘れて目を覚ますだけだ。」

 

 

「…………来い。」

 

 

「言われずとも。」

 

 

 片手の曲刀をその背に負う()に連結することで仕掛けを発動し、構える。対して、数多の業を託された狩人もまた、その手に大刃を構える。獣に堕ち果てようと、ただ狩りの間ならば理性を取り戻させたという、ルドウイークの秘匿。暗闇の中に、確かに輝き導いた光、『月光の聖剣』

 

 

悪夢は巡るのだろう。だがそれも、今宵で終わりだ

 

 

 

 

 

———ゲールマンの狩りを知るがいい

 

 

———導きの光を手向けとしよう

 

 

 

 

 

獣狩りの夜に、最後の光が灯された

 

 

 

 

 

———————————————————————

 

 

 

 

 

 穏やかに流れる夕暮れ。秋の紅葉も枯れ始め、間もなく冬が来る季節。家々の前を通れば、夕餉の支度をする暖かい忙しさと、空腹をつつくような懐かしい匂いが鼻をくすぐる。

 

 ありふれた日常。幼子なら帰るべき時刻はとうに過ぎた頃。

 

 だが、此処に、独りの少女が彷徨い歩いていた。少女の足取りは酷く重く、また視線は定まらず、今にも消えそうな雪のように儚かった。

帰る場所ならある。ただそこが、この少女にとって地獄であり、諦めるしかない絶望の場所()だから。必死になって逃げてきたのだ。

 

 当たり前に、ごく普通に日々を過ごす事が、どれ程大切で尊い温もりだったのか、もう覚えていない。心が折れても尚、少女がその悪夢に向かったのは、ただそれ以外に選択肢が無いから。従わなければ容易く棄てられ、最悪命が絶たれるから。強制される魔術の訓練という名の常軌を逸した虐待は、少女に希望を捨てさせるには充分過ぎた。それでも逃げられたのは、限界がそろそろ近いことを悟り、壊れかけの心に悲鳴をあげた理性がその身をここまで動かした。

 

 

「……………」

 

 

 ふらふらと、当ても無く歩き続け、ふと。寂れた空気を醸し出す公園に行き着いた。今の家に養子へ出される前に、よく母や姉と、たまに会いに来てくれた雁夜おじさんと、楽しく遊んだ場所だ。記憶がうっすらと思い浮かんだ。

 

 

「………ぅ……うぅ……ひっ……ぁぁあ………」

 

 

 少しずつ、思い出していく。もう戻らないだろう明るかった日々を考えれば考える程止まらず、涙の雫が溢れた。

 

 当然だ。心が折れていようと、まだ年端もいかぬ幼子。感情そのものが無い機械なぞではないのだから。

 

 

 

「……うっ……ぐす…………っ?」

 

 

 何気なく。何となく。濡れる目元をこする時に映った視界に、何かが居た気がして。

 

潤んでぼやける目で凝らして見ると、誰かが倒れていた。

 

 

「………………」

 

 

 否。正確には、木を背凭れにして寝ているようにも見える。だが、一切身動きしない様に徒ならぬものを感じ、恐る恐る近付いていく。見知らぬ人で見知らぬ服を着ていて、本来関わってはいけないかもしれない。なのに、何故か、声を掛けなければ、そうしなければ変われない、何故そう思うのかはわからない、でも。そんな気がした。

 

 

「………………………」

 

 

 そばにしゃがみこんで、そっと肩を揺らす。離れていると解らなかったが、浅く呼吸もしている。ほっと息をつき、声を掛けてみる。

 

 

「………あ、の…………だい、じょう…ぶ……?」

 

 

「…………………………」

 

 反応は無く。それでも、めげずに声を掛け、肩を優しく揺らす。不思議な事に、ただそうしているだけの時間がひどく暖かく感じた。

 わからない。何故そう感じるのか。初対面でまだ話してすらいない。全く知らない筈なのに。それでも、早く起きて欲しいという気持ちはわかる。いつまでもこうしていては、また"悪夢"に戻ってしまう。少しずつ逸る焦りを抑え、揺らし続ける。

 

 

 

「…………ぅ……ん……………」

 

 

「………!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 うっすらと、重い瞼が開かれていく。深碧色の瞳がぼんやりと虚空を見つめる。視界に靄がかかったようにはっきりとしない。何度か瞬きした後、ゆっくりと視線だけ周りを見回す。

 恐らくは遊具のようなものがそれなりにある開けた場所。どれも彼の地では見たことのない。

 

 私は、少なくとも、ヤーナムや悪夢ではない何処かに居る。ゲールマンを弔った後、悪夢そのものを糧にすることで主となり、もう二度と獣共の犠牲にならないよう文字通り全てを終わらせ、自身は消える筈だった。

 

 だから疑問に思う。ここは、何処だ?

 私は夢から覚めたのか?

 

 

 信じられず、思わず口から言葉が漏れる。

 

 

 

「……………ここは…………夢、か……?」

 

 

 

「……………夢じゃ、ない……よ……?」

 

 

 

「………!?」

 

 

 

 まさか答えが返ってくるとは。

 見ると、すぐそばに、見知らぬ娘が居た。

獣ではない、普通の………いや

 

 

裡に『蟲』がいるようだが。

 

 

「……………よかった。ぜんぜん動かないから……死んでるのかと、思って………目を覚まして、よかった。」

 

「……………………私を、起こしてくれたのか。」

 

「…………うん。」

 

「…………」

 

 

 

 意識がなく無防備な私を前に襲わず、『蟲』による獣化もなく。だが、心身ともにボロボロの少女、か。恐らく『蟲』による何かしらの悪影響が原因なのだろうが………

 

 

「……ここは夢ではなく、現実なのか?」

 

「…うん。」

 

 

 悪夢から覚めても、苦しむ人がいる。現実というのは、儘ならないらしい。

 一先ず、状況を把握してから成すべきことを探そう。消え逝く私がこうして今も居るのは、何か意味がある筈だから。

 

 

「………では、ここが何処なのか教えてくれないか?」

 

「………………記憶が、ないの?」

 

「いや、記憶はある。ただ、ここがどこで、どうしてここに来たのか……全くわからない………」

 

「………………居場所が、ない……の?」

 

「………………そうらしい。」

 

「…………………」

 

 

 怪しまれた……?流石に、事実は本当であれ、不自然だったか。記憶があるにも関わらず、何故ここにいるのか分からないというのは確かにおかしい。………嘘は余り吐きたく無いが、それでも記憶喪失という事にした方が———

 

 

「…………そう、なんだ………お兄さんも………独りは、いや……だよね………」

 

「……!」

 

「………うん……独りは……いや…………ぅ、うぅ……ぁぁ………」

 

「……………」

 

 

 どうやら、この娘の中に居る『蟲』は余程醜悪らしい。年端もいかない少女がこれほど苦しむなど、あってはならない。悲しむ者を見捨てるなど、ましてやかつての地のように、()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「……君が苦しい思いをしているのは、君の中に潜む()()が元凶か?」

 

「!?………どう、して……」

 

「どうなんだ?」

 

「…………………………うん。」

 

 

 彼の地では、手を伸ばそうと、誰一人とて救えなかった。だが、この娘はまだ———

 

 

「では、()()を取り除けば、君は変われるか?」

 

 

「……………そんなの………」

 

 

「君がそう願うなら、私は必ず救うとも。」

 

 

 私がこうして在るのは本来有り得ない事なのかもしれない。

放っておけば勝手に修正されるバグのようなもの。そんな私を気にかけてくれたこの娘を私は、助けたい。

 

 この娘の負の運命を覆そう

 

 

「………………な……んで……?……わたし、は……わるいこ………なのに………」

 

 

「君は悪くない。悪いのはその体に巣食う蟲だ。」

 

 

「………ぅう…………なんで………たすけて、くれるの……?」

 

 

 防疫マスクを外し少女と目線を合わせて、優しく頭を撫でながらふっと微笑む

 

 

 

「君が、私を目覚めさせてくれたから。悪夢から引き上げてくれたから。それだけで、私には充分過ぎるんだ。」

 

 

 

 そうだ。目的がないなら丁度良い。私がここに居るのは、この娘を守る、唯一の居場所になる為に。そう定めよう

 

 

 

「………ひっぐ………あぁ………!」

 

 

 

「私に、君を助けさせてはくれまいか。」

 

 

 

「……っ……お願い、助けて……!!」

 

 

 

———その言葉を待っていたとも

懐から『青い秘薬』を取り出す

 

 

 

「承知した。では、少しの間眠ってもらう。大丈夫、君が目を覚ました時、私は必ず居るとも。」

 

 

「………ほんと?」

 

 

「無論だ。では、しばしおやすみ。起きた時、体に血が付いているかもしれないが、気にしないでくれ。」

 

 

「…………う……ん………」

 

 

 青い秘薬の匂いを吸わせ、眠らせる。秘薬をしまい、代わりに白銀に輝く神秘の鐘、『聖歌の鐘』を取り出す。医療協会の上層「聖歌隊」の齎した秘儀。

 

 これからするのは治療というには余りにも惨い。そしてすぐ様回復しなければならないやり方だ。ある種の根源ともいえる業。手を手刀に構え、心臓()を狙う。

 

 助ける為とはいえ、せめて方法は言うべきだったと苦笑する。

 

 

———躊躇うことなく少女の体を貫き、潜む蟲を容赦なく潰す。

手を抜き、血を浴びる事も厭わずすぐ様聖歌の鐘を鳴らした。幻想的に輝く真白の光球が、少女の傷を跡も遺さず癒し消えていく。

 

 

 

 

 

 この娘が起きたら、まずは謝らねばな………

 

 

 

 

 

 寄生する蟲だった肉塊を気にも留めず。少女を抱え、夜の帳の覆う街に()()()()は歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

———第四次聖杯戦争。最大級の異常(イレギュラー)発生

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




臓硯 「ぎゃああああああああああ!?」

狩人(………そういえば、此処が何処なのか聞いてなかった。)



聖杯「いや、お前誰だよ。」
抑止力「」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

夕刻の終わり/夜の始まり

 

自由な鳥は夢を見る

虚無と欺瞞に塗り固められた悪夢へ囚われ

孤独に抱かれた哀れな鴉の夢を



 

 

 

 

 

夕陽に染まるヤーナムの街で、私はある少女の願いを聞いた。

 

 

『お母さんを探して欲しい』

 

 

 獣狩りの夜が始まり、灰色の血を、臓腑を撒き散らしながら街を進んでいた頃に。初めて聴く筈なのに、何処か懐かしいオルゴールの音色に惹かれて、気付けば話しかけていた。

 

 常であれば官憲の者に頼む事案。だが忌避すべき血濡れの夜に外を出歩くのは自殺行為だ。故に狩人である私に頼んだのだろう。

それに、家族の安否を案ずる彼女の切実な願い、断る道理も無かった。

 

 嬉しそうに喜ぶ少女の声音を聞き、これからに思いを馳せ、再び歩きだした。

 

 ヤーナムを訪れ不治の病の完治と引き換えに狩人となったらしいが、そもそも何故ここへ訪れたのか。輸血をされてから記憶が無い為わからない。本当の目的も、病気の治療ではないのだろう。

 記憶を失った私には何も残っていない。正しく無だ。願いも()()()()()()()()()()()()()。それでも、私に頼ってくれたから。助けたかった。

 

 

 

 

 

 

 

だが遅かった。遅過ぎた

 

 

 

 

 

 古狩人ガスコインと死闘を繰り広げ、死の瀬戸際を生き延びた先に待っていたのは

 

 

 

————物言わぬ骸となった少女の母親だった

 

 

 

 こんな筈ではない

 

 こんなことを望んではいない

 

 こんな報われない終わりなど、誰も救われない

 

 

 

 鮮血の様に混じり気の無い真っ赤なブローチを手に取る。少女にとって母親の形見となるもの。燃えるような見目に合わずその感触は、酷く冷たかった。それが、私に不甲斐なさをより克明に刻み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 少女の家の近くまで戻ると、家族が帰って来ない孤独感と恐怖に嗚咽をもらす声が聞こえてくる。

 年端もいかぬ少女が背負うには重すぎる傷を負っていたという事実に、己の認識の甘さを思い知った。

 

 そっと、ブローチを窓際に置いて去る。合わせる顔がない、ある筈がない。

 

 見つけた時には手遅れだった?違う!助けられなかった!何も報いることが出来なかったんだ!!

……その結果が全てであり、役立たずの無能と蔑まれるのは当然だった

 

 

 

 

 

 

 

…………嗚呼………でも、私はただ

 

 

 

 

泣き咽ぶ慟哭ではなく、母娘の無事に安堵する

 

 

そんな救いを求めただけだったんだ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

———————————————————————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……スー……スー………」

 

「………………」

 

 

 穏やかな夕暮れは過ぎ、辺りには夜の帳が下りた。この少女を助けて数時間。街の雰囲気も、人々の賑わいも、闇空に煌々と輝く月も。なにもかもがヤーナムとは違う概念で彩られた光景にしばし目を奪われ、やがて深い感慨を覚えた。狂気ばかりを見つめてきた身からすればあまりにも眩しいものばかりだ。それだけで、報われた気になりそうなほどに温かい。

 

 

 だからだろう。この世界に於いても()()()()()()()()()()()という事実に……形容し難い不快感が込み上げてくるのは

 

 獣狩りの夜が終わろうと、人が人である限り獣もまた陰より脅かす。以前に比べ幾らかは消極的な様だが、だからといって見逃すほど甘くない

 

 

獣が未だに朽ちぬならば、その悉くを狩り尽くそう

 

 

「………ん…ぅ…」

 

「……………」

 

 一先ず、休める拠点を探さなければ。私は兎も角、幼い身の上の子供に野宿をさせるなど以ての外だ。何処か空き家でもあれば良いが。

 

 

「………スー……スー………」

 

「……………」

 

 

………それにしても。子供というのはこんなにも温かく、見ていると何処か落ち着くものなのか。

 

 

「……ぅ、ん………お…にぃ……さ………」

 

「………ふ、寝言か」

 

「……………スー……」

 

「今はまだ、寝ていたまえ」

 

 

 そっと手を頬に触れる。少し冷えてきた。いい加減、裏路地を歩きながらの視察も飽きてきたところだ。空き家なら住宅街をうろ付けばそのうち見つかるだろうが、暖炉の一つでもあれば良いな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 静寂な空間に、水の滴る音が響く

 

 ピチョン、ピチョン、ピチョン

 

 音は等間隔に、時計の針はくるくる回る

 

 カチ、カチ、カチ、カチ

 

 家主のいない家に、ナニカがいた

 

 

 

————………………—–———

 

 

 

 ソレは、呼吸をしている。生き物だから

 

 

 

 ハァ……ハァ……ハァ……!

 

 

 

 ソレは、怯えている。真黒の宙に浮かぶナニカに

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

————死告の髑髏に————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

聞くが良い

 

晩鐘は汝の名を指し示した

 

死に快楽を見出した愚かな獣よ

 

此処に、汝の縁は潰えた

 

疾く消えよ、若き狂人め

 

 

 

 

 

滴る雫は、赤色でした

 

 

 

 

 

 




 










ジル「………はて?私の出番は?」


狩人(………獣が減っただと?)


聖杯「アサシンもう居るけど?」

抑止力「」

聖杯「?」

抑止力「…………勝手に行った」

聖杯「」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

それは、とても細く儚い



月光とは、導きの光であり
月光とは、破滅の兆しである



嘗て狩人の根幹を築いた一角、医療教会最初の狩人であり、英雄として語り紡がれたルドウイーク

彼は、暗闇に蠢く血と獣の中で、唯一輝き続けた

偏に、己の(よすが)で在り続けた光の糸を一切の疑心無く信じた故に

嗤われ、憎まれ、蔑まれ、それでも前に進み続けた







果てに、その身が獣へ堕ちようとも







誰も報われないと嘆こうと
誰もが不憫だと哀れみを抱こうと
誰も救われないと義憤に駆られようと



真に救いを求めるべきは、英雄(咎人)である己だろうに








だが、()にとっては

英雄を堕落へと誘った導きの光が

その破滅こそが、夢を終わらせる為に必要だったと





今も、何の根拠も無く信じているだろう

———受け入れ難い真実をその背に負いながら







 

 

 

「………ふむ」

 

 

 

 予想通り、探し始めて然程もかからずに空き家を見つけることができた。つい最近まで生活の痕跡が所々に残された家だ。着替え用の衣服に、食事に必要な材料、休息に必要な寝具、暖房設備等。その他見慣れない物も多いが、暮らすことに関しては文句無しの実に素晴らしい家……と、言いたいところだが。いかんせん腑に落ちないこともある。

 直ぐに見つかるだろうとは言ったがそれはあの排他的で荒廃した街を見てきた私自身の感性であり。本来ならそう簡単に人の有無を察して家を見つけ、あわよくば利用するなど不可能だ。獣狩りの夜も無い世界で、後から帰ってくる可能性も考慮せず、ただ人がいないだけで居座るなど話にならない。

 にも関わらず、何故態々生活感が色濃く残るような家に居るか?単純な話、家主も暮らす者も消えたことを確信しているからだ。恐ろしく巧妙に隠滅を計ったようだが、僅かに"血の匂い"が残っている。

 

 そもそも、ここへ来たのは住まいを探す以外に別の理由があった。

 

 ()だ。獣の臭いが、ここから漂っていた。感知した気配の主をみすみす逃す様な真似はしない。本当はこちらが本命だったんだが……徒労に終わったらしい。

 蓋を開けてみれば、既に誰かに狩られた後。死体も狩られた痕跡も、消えかけの血の匂い以外は全く残っていない。誰かは知らんが只者では無いだろう。

 なにせ、獣の臭いを嗅いでから()()()()()()()()()()()()というのに目に映るのは普通の家。

 明らかに異常。臭いを嗅いだ時はまだ生きていた筈。微かな血の匂い以外、一切の痕跡も足跡も残さず去るなど尋常じゃない。

 

 結論として、『拠点は見つかったが、新たに危険な因子もまた見つかった』という事だ。

 

 そのナニカについて、今はどうしようもない

優先されるのは少女の休息だ。寝室のベッドへゆっくりと降ろし、冷えないように毛布をそっと掛けてから、部屋を出る。

 

 私は取り敢えず、簡易的な工房を作成した後、この世界について知識を得ることにしよう。無知は時に救いになる事もあるが、そんな状況はかなり極端な例と言える。何も知らないというのは、何も出来ないとイコールにはならない。

 何も知ろうとしない、現実から目を逸らすことこそ罪になる

 

なにより知ることに損は無い筈だ。あの悪夢とは違ってな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………綺礼、それは事実か?」

 

『はい。アサシンが集めた情報と照らし合わせましたが、間違いありません。』

 

「そうか。すまない、君とアサシンを疑う訳ではないが、俄かに信じ難くてね。」

 

『心中お察しします』

 

魔術礼装越しに届く報告の声がいやに遠く聴こえる

 

数時間前、マスターの情報収集も兼ねてアサシンを冬木の各地に向かわせたところ、思わぬアクシデントが起きた。

 

 

 あの間桐臓硯が殺され、間桐桜が拐われた

 

 

桜についてはまだ分からなくもない。あの娘、いや、彼女が秘めた可能性は、推し量るに余りあると言って過言ではない程だ。

 

聖杯戦争は既に始まっている

 

その才能を見るや攫い、利用する輩が居る事も考えられなくもないだろう。だが、解せないのは間桐の翁の死だ。あれ程の御仁が並みの英霊如きに遅れを取るとも思えない。それも召喚されて間もない者などに。つまり、件の下手人は相当の手練れで間違えようもないと考えられるが、該当する人物はやはり———

 

『残されていた()()()()()()()()()()……察するに、これは恐らく……』

 

「あぁ、君の想像通り。()()()()の仕業と思われる。……全く、我々の想像以上の事をしてくれたな」

 

 

衛宮切嗣

 

魔術師としての才がありながら、それを道具としか見ない、哀れで愚かで卑劣な魔術師殺し。

 

彼ならば、恐らくあの間桐を出し抜く事も可能だろう。目的の為ならば手段を問わない陰湿な男故に。とはいえ、これで確定するわけにはいかない。他に我々の知り得ない凶悪な何かが存在し、誰に気取られることも無く暗躍する者が居ることも無いとも限らない。

 

 

「敵とは言え、御三家が狙われたんだ。いつ我々に牙を向くともわからない。引き続き警戒と情報収集を続けてくれ」

 

『かしこまりました、我が師よ』

 

 

 桜が攫われたのは予想外だったが、問題はない。情報戦でアサシンの右に出る手札は他にないのだから焦る必要もない。とはいえ、相手はあの間桐臓硯を殺す程の手練れ。衛宮切嗣だろうと、別の者だろうと、油断出来ない存在がいると再確認したのだ。用心するに越したことはない。

 言ってしまえば、その程度の事だが。

 

 

———依然、私の勝ちは揺るがない

———此方には、彼の王が居られるのだから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……あぁ、誰か

 

……誰か、聞こえているかね

 

 

 

 

………おぉ、君は聞こえているかね?

 

此処は灯りが消えて久しい……故に暗い

 

私の姿は見えないだろうが……寧ろ僥倖と言える

 

私の姿は、見るに堪えない醜悪さだからね……

 

でも、君の姿は、少しだけだが分かるよ

 

 

………そう卑下することはない

 

可愛い雛鳥の様に尊いものだろう

 

こんな……いや、今は関係ないな

 

 

……少し、愚者の話を聞いてくれないかね?

 

こうして人と会うのも久しい……耳を傾けてはくれまいか

 

つまらない男の下らない末路だが、それでも聞いて欲しい

 

 

………ありがとう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

———少女よ、光の糸を見たことはあるかね?

 

 

 

 

 

 











桜ちゃん(スヤスヤ)

狩人「折角だ、簡易的な工房も作ろうか」


とっきー&麻婆「「衛宮切嗣だな」」

キリツグ「……?」


聖杯「うーん、どうすっかねー?」

抑止力「………妙な真似をしたら処理する」

聖杯「はぁ、保留ね。じゃ、あのアサシンはどうすんの?」

抑止力「今は様子を見る、が……」

聖杯「?」

抑止力「そもそも、退去する様に言ってもきかなかったし……」

聖杯「………………は?」

抑止力「………好きにさせるよ」

聖杯「」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

元凶は”元”から潰すに限る




数時間前

少女を運ぶ道中、狩人は徐に鐘を取り出した。

「共鳴する不吉な鐘」

血塗れの、暗い情念や呪いを宿した不吉な鐘。
本来であれば、これはあらゆる不吉な鐘の音に共鳴し、使命を全うせんとする別次元の狩人へ敵対する為の狩道具である。

しかし、今や狩人はただ一人。不吉な鐘を鳴らすヤーナムの狂女もまた存在しない故に、最早共鳴を探す意味など皆無だが……

()()()()()()()()()

確かに、鐘を鳴らすものは居ない
狩人も、この世界にはたった一人

だが、忘れてはならない。
狩人とは、次元を跨いだその先に同じ使命をもつ者(何もかもが異なる同一人物)が無数に居るのだ。


であるならば。たとえこの世界に狩人が一人だろうと、此処がヤーナムでなかろうと。一度(ひとたび)鐘を鳴らしたのであれば———


———嗚呼、聴こえてくる。不吉な鐘を呼ぶ音が






 

 

人の営みから遠ざかる様に、冬木の街の外れに位置する間桐邸にて。

間もなく聖杯戦争が始まる二日前に迫ったこの日。

 

間桐桜が魔術鍛錬を拒否し、あろう事か逃げ出した

 

「……よもや、あの娘にまだそれだけの気力が残っておったとはの」

 

桜への魔術鍛錬を始めて早一年、既に心も精神も完全に壊れていたと思い込んでいた間桐臓硯からすれば、些か予想外のことではあった。

逆に言えば、たったそれだけ。逃げたとて、所詮は子供。当てもなく彷徨い歩いたところで、限界など高が知れている。

そもそも、桜の今の位置など手に取るようにわかる。万が一の為に仕込ませた蟲が、まさか数日ばかりで役割を果たすとは。

 

始めこそ驚いた臓硯であったが、所詮はその程度。文字通り、駄々をこねる様を観ているようで、ほほえましさすら感じる。

 

だが、おいたが過ぎた子供に罰は必至。

 

 

「呵呵!さて、如何様にしたものか……む?」

 

 

そこまで考えたところで、気が付く

桜に埋め込んだ(パス)の気配が消えたことに

 

「……なんじゃと?そんな馬鹿なことが……!?」

 

次いで襲う、全身を潰されかけたような感覚。

 

「………グッ…ギギガ……!」

 

間違いない、桜の身に何かが起きた。

加え、単なる端末越しから本体に直接攻撃を仕掛けるような得体の知れない何者かに攫われた

 

不味い(いかん)不味い(いかん)不味い(いかん)

 

すぐにでも手を打たなければ……相手が何者か分からない上に、後手に回るのは不味い!

 

そうして、『蟲群』を放とうとしようとした直後、

 

 

 

███████、███████

 

———いやに耳に残る、鐘の音が聞こえてきた

 

 

 

「………鐘の音?一体、何が起きてお———」

 

 

それが、500年もの間生き長らえた妄執(亡霊)

間桐臓硯(マキリ・ゾォルケン)の最期であった

 

 

人の形を成していた穢らわしい蟲の集合体(間桐臓硯だったもの)は、灰の山が崩れ去るように消失していった。

 

 

その骸の背後に

 

硝煙が僅かに残った銃身を構える、

紅い血の様な気を纏ったナニカが立っていた

 

「……………………………」

 

ソレは、なんの感慨を抱くことも無く

周囲を見渡すように見た後、徐に空砲を抜き、

 

 

 

———蜃気楼の様に消えていった

 

 

 

 

———————————————————————

 

 

 

———夢を視た

 

 

聖職者が獣と化す、狂気の夢を

 

 

夢を観た

 

 

探求者が神を犯す、冒涜の夢を

 

 

悪夢を見た

 

 

██が万象を鏖殺する、終末の夢を

 

 

 

生きとし生けるもの全てを嘲笑い

己に牙を向けた愚者を嗤い

同じ獣を人と宣う滑稽さを憐れんだ

 

 

 

 

 

 

 

…………私は、なにを成せば正しかったんだ?

 

 

 

人を喰らう獣を狩った

 

 

人を殺す狂人を狩った

 

 

人を弄ぶ偽神を狩った

 

 

 

目に移る不愉快な事象の悉くを狩った

 

 

 

 

 

……………本当に、それで解決したのか?

 

もっと他にできることがあったのでは無いのか?

 

もっと、誰かを、

一人でも、助けることは出来なかったのか……?

 

 

いくら後悔しようとも、

失った時間を取り戻すことなぞ誰にも出来はしない

 

全てを忘れ、やり直すことはできても、

そんなもの、ただの自己満足な幻想の投影に過ぎず

 

個人の我儘が罷り通る程、世界は甘くない

 

 

 

…………それでも、私は████

 

 

 

———————————————————————

 

 

———ひどく虚しくて、悲しい夢を視ていた

 

 

 

「……ん、んぅ………」

 

 

 雪が降り始めるこの季節には珍しい、暖かな陽射し。微睡みからゆっくりと目を覚ます様に、優しく包み込むような温もり。

 

 朝は辛い。虐げれられた体の痛み、苦しみ、重くのしかかる様な倦怠感。忘れていた感覚が、再び現実へと戻すから。

でも、今は何故か、それらは感じられない。

 

 身を内側から切り裂かれていく苦痛も。肌が荒み、震えるような寒気も。心の底から吐き気を催す悍ましい蟲群から与えられる魔術鍛錬(耐え難い拷問)が、全く無いのだ。

 

 穏やかで、まるで昨日までの日々が嘘のように

 

「…あ、れ……?」

 

 まだ少し眠い体を起こして周りを見ると、ここが間桐邸ではないことに気付いた。

 

知らない天井

知らない部屋

知らない、知らない、知らない……

 

……ここは、一体どこだろう?どうしてこんなところに?

 

 少しづつ今の現状へ戸惑い混乱し始めた時、部屋の扉が控えめにノックされた。

 ゆっくりと、誰かが入ってくる。

 

「おはよう、お嬢さん?……む、もう目が覚めていたか」

 

「……あ」

 

 狩人

 

その名を

その姿を

その業を

 

覚えている/覚えた

知っている/知ってしまった

 

夢で視た、彼の慟哭を思い出した

 

 

 

「ん?どうした、そんなにじっと見つめて」

 

「……ううん」

 

「…?」

 

 彼は、狩人だ。獣を狩り、神をも殺す。

 でも、優しくて。狂気に晒されながら、誰かの救済を求めた人。

 しかし、いくら手を伸ばせども、彼に救いは訪れることはなく。ただただ虚空へと帰結した。

 むしろ救われるべきなのは、彼の方ではないかと思うまでに。何度も何度も何度も何度も……

 

 

「おにいさんの………夢をみた」

 

「私の、夢?……その様子だと、あまり良いものでは無かったようだな」

 

 

 

 

 前も後ろも右も左も上下さえも。どこを見ても真暗闇。自分が本当に存在しているのかすらわからない、暗い暗い深淵。

 

最初に聞こえたのは「声」だった。

 

 知らない人の声。優しいけれど、どこか哀しみを感じさせるような、そんな男の人の声。

 なにも見えない筈の底で、何故か彼には少女の姿を見ることが出来るようで。

 

 やがて彼は、少女を助けてくれた狩人の過去を語り始めた。

 

———紡がれたのは、「月の狩人」と呼ばれた者の物語

 

 

「………………こわかった。でも、おにいさんが……ずっと、がんばってて……でも、くるしそうで……」

 

 

 

「———それでも、ずっと前をむいてた」

 

「…………」

 

 

 (狩人)はどれほど苦悩し、また正気を失う程の狂気を目にしようと、決して下を向くことも背けることもしなかった。罵倒され、嘲られ、信用されず、それでも歩みを止めることはなかった。()()()()()()

 

 

「だから……うまく言えないけど………私も、がんばらなきゃって…思った……の」

 

「……そうか」

 

「……うん」

 

 

 特徴的な帽子を更に目深に被るよう手を添えながら呟いた言葉は、どこか重く。噛みしめるようにゆっくりと頷くと、そっと手を少女の頭にのせて撫でる。

 

 おにいさんに触れられると……なんだか少し、あたたかい

 

 

 

「そういえば、まだ君の名前を聞いていなかったな」

 

(さくら)、です……」

 

「サクラ……良い名だ」

 

「……そう…ですか?」

 

「あぁ。どんな意味が込められているのかは分からない。だが、尊いものだと感じる。例えるなら、儚くも今を確かに生きる一輪の花の様に。いや、私が知らないだけで、もしも花の名に準えたのならば。君にこそ相応しいのだろう」

 

「………ありが、と……」

 

 

 名前を聞かれただけなのに……でも、少しも悪い気はしない。やっぱり、どこか嬉しい気がする。

……不思議な人

 

 気にしないでくれ。そう言いながら立ち上がった彼に、桜は思いたった様に口を開いた

 

「………あ、の………おにいさんの、名前は?」

 

「私の名前、か……そういえば、久しく名乗ることもなかったな」

 

 

 彼と出逢ってから、あるいは夢の中においても。彼が名前で呼ばれたり、名乗ることなど一切無かった。

 

 

 知りたい。月の狩人ではない、彼の本当の名前を

 

 

 

 

 

 

 

「—————私の名は、ルーナ。ルーナ・ルクス。擦り切れ、忘れてしまった記憶の中で、唯一憶えていた………私の存在証明でもある。」

 

 

 

 

 

 

 サクラ……どうか、忘れないでくれ

 

 そう呟いた(ルーナ)の表情は、どこか淋しそうで……

 けれど、少しだけ嬉しそうに見えた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「———成程。微笑ましい、とはこういうものか」

 

「「!?」」

 

 

———いつの間にか、いつからか。狩人と桜から少し離れた部屋の隅にある椅子に、少女が座っていた。

 

 

「穏やかな日常というのは……こうも温かいものなのだな」

 

「………貴公、何者だ?いったい、いつからそこに」

 

()()から居たぞ」

 

「………何?」

 

()()()()()()()()()()()()()()、と言えばわかるか?」

 

「!!……よもや私が、気配に気付くことすら出来ていなかったとは……!?」

 

 

 自然体に椅子に座る少女は何の事は無いように。狩人が驚愕する事実を淡々と述べた。獣の気配であろうと、自らを狩らんと息を潜める敵対者であろうと、ただそこに居るだけのナニカであろうと。いずれの()()も、敏感に感じ取ることができる狩人が、

 

()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「無理もないだろう。確かに最初から居たが、椅子に座ったのはたった今だ。それまで、ずっと霊体化していたからな」

 

 

「霊体……?」

 

 

「? 嗚呼、そういえば。まだ真名()を言っていなかったな」

 

 

———其の者、あらゆる魔を切り裂く者

 

———其の者、あらゆる神を穿つ者

 

———其の者、人の祈りを束ねし者

 

 

「———我は、抑止の守護者」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔神・沖田総司

 

 

 

 

 

 

 

 









臓硯「ぎぇええええええええええええ」

血に狂った狩人「灰エヴェの味はどうだ?」


さくらちゃん「えへへ……」

ルーナ&魔人さん「「可愛いな……ん?」」


聖杯「」

抑止力「」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

黄金の輝きと血の歪み




月の香りの狩人

———たった一度きりの夜の間に全てを終わらせる責務を持つ者

魔神・沖田総司

———たった一度きりの召喚のために霊器を調整された決戦英霊


どこか似た境遇の者、惹かれ合わぬ道理無し


 

 

 

 

「………英霊、サーヴァント、魔術師、マスター。聖杯戦争、か。ずいぶんと大層な儀式もあったものだ」

 

「言っておくが、お前の手にしている『聖杯』とは訳が違うぞ。起動と同時にダンジョンが形成されるとか、魔神さんは聞いたことがない」

 

「私の知る聖杯とはそういうものだが……あらゆる願いを叶える願望器、だったか?俄には信じ難いが、覚えておこう」

 

 

 

出会いこそ一方的で突然ではあったが。沖田オルタはそもそも二人を害する気が無いことを示し。また、情報が不足していた狩人は、彼女がもつ現状況の説明を求め今に至る。

 

 

 

「しかし、聞けば聞くほど、私の知らないことばかりだ。物語や神話の英雄を擬似的にとはいえ蘇らせ、従えるなど。まぁ、私も似たような事(古狩人の召喚)が出来なくはないが、詠唱で呼びかけるのではなく鐘を鳴らすだけなど、些か聞き劣りしてしまうな……」

 

「いや、待て。個人の範囲とはいえ、先人を呼び出す手段を持っている?鐘を鳴らすだけで召喚可能、だと?………そうか、そういうもの(召喚方法)も、あるのか」

 

 

 

驚くことばかりだ……と、同時に呟く。お互い、自身の常識から乖離した知識に混乱していることがわかり、どちらともなく破顔した。

 

 

 

「正直、信じ難いことばかりだが、私は嘘には敏感でね。貴公の語りには、何一つ偽りが含まれていないことはわかる。———ありがとう。貴公は、いや。君は、信用に足る御仁のようだ」

 

「気にするな。私も、一度聞いたものだけが全てではないと学ぶことが出来た。しかし、感謝される、というのは……少しこそばゆいものだな」

 

 

 

先程まで漂っていた疑心を探るような雰囲気は霧散し、やがて穏やかな空気が流れ出した。ルーナの警戒する気にあてられ、知らず緊張の糸が張っていた桜も、ホッと息をついた。

 

 

 

 

「ところで。貴公もサーヴァントならば、マスターは居るのか?」

 

「? あぁ、居るぞ」

 

「では、ここに居るのはマスターの指示なのか?」

 

「……? いや、私は私の意思でここに居る。むしろ、居てはダメなのか……?」

 

「む。別にそういう訳ではないのだが……」

 

「……よかった。()()()()は私を必要としてくれるんだな……」

 

「……………んん?」

 

 

一通り説明を受けて、ふと疑問に思ったことを切り出したルーナだが。沖田の反応に少し、戸惑う。何か、認識に齟齬がある様な、まるで自分が勘違いをしているような……

 

 

「……貴公、質問ばかりですまない。この世界に呼ばれて、最初に見たものはなんだ?」

 

「目の前で横たわるマスターの姿だな。気を失っているようだから起こそうとしたんだが、誰かが近付いてくる気配を感じて咄嗟に霊体化して、うっかりそのままだった。魔神さんのミスだ」

 

「………………マスターには、令呪と呼ばれるサーヴァントへの絶対命令権があるそうだが、具体的にはどういう代物なんだ?」

 

「サーヴァントの持つ能力は個人差はあれどどれも凄まじい。それを御する為のものではあるが、使い方は他にもある。まず———」

 

「いや、使い方ではなく。どういう見た目をしていて、何処に現れる?」

 

「……??? 赤い痣の様な紋様が手の甲に刻まれる筈だ」

 

 

しばし左手を凝視するルーナ。やがて、ゆっくりと、緩慢な動作で篭手を外し、手袋を脱ぐと———

 

 

「…………………ままならないものだ」

 

 

自身がよく知るカレル文字、「導き」にも似た紅い刻印が、手の甲に刻まれていた。

 

 

「魔神さんとしたことが、大事なことを後回しにしてしまっていた。すまない。

 

では、改めて————我が銘は、魔神・沖田総司。消え逝く定めだった私を現世(うつしよ)につなぎ止めてくれた主よ。その恩に報い、この身の霊器が砕け散るその時まで、共に闘う事を誓おう。これからよろしく頼むぞ、マスター」

 

 

クラスはアルターエゴだぞ、そう告げる沖田の声が、心なしか遠く聴こえるような気がした。

 

 

 

 

 

———————————————————————

 

 

 

 

 

不吉な鐘の音は、未だに鳴り響いている

 

命を、生命あるもの尽くを呪うが如く

 

耳について離れぬ木霊の様な鐘の音だ

 

 

何故、狩人呼びの鐘ではなく、共鳴する不吉な鐘を鳴らしたのか?

 

それは、狩人自身の特殊な在り方に起因する

 

そもそも。世界の理において、自身と全く同一の存在が同じ世界、同じ場所、同じ時間に存在する事など有り得ない。

例外を除けば(オルタナティブ)

 

狩人が彼の地にて相手取るのは、なにも獣だけではなかった。人々を脅かすものであれば、狂人であれ上位者であれ狩り尽くす。しかし、獣も上位者も、己のみで殺めるには些か手に余る時もある。

であれば。平行世界に存在する己自身そのものを呼べばいい。自分であって自分ではない別の可能性の自分そのものを。

 

 

結論を述べる。不吉な鐘を鳴らすと、それに呼応するのは平行世界へ無数に存在する狩人であり。彼等・彼女等は、呼ばれた世界で己が好きに振る舞うだろう。()()()()()()()()

 

呼ばれる者は、確かに平行世界の狩人であり、不吉な鐘に共鳴すればまず敵対するだろう。ただし、それはあくまで狩人同士での話。

呼ばれた狩人からしてみれば、自身が狩りをする際に邪魔なものは消したくなるはず。ましてや、しばし先の時間を体験している者ならば尚更に、野放しにすれば厄介な芽をたとえ己の世界でなくとも狩るはずだ。取り返しのつかないことを体験した者ならば、その元凶を腹いせに殺すだろう。

 

何故、不吉な鐘を鳴らしたのか?

 

答えは単純、自身が把握していない厄介事の種を事前に摘む為だ

 

 

 

 

 

———————————————————————

 

 

 

 

 

「………………」

 

 

「———この(オレ)を睨むか。その不敬、万死に値するぞ?剪定事象からの除け者(逸脱者)

 

 

遠坂邸にて

アサシンの脱落を()()した直後、鐘の音が鳴り響き、血に濡れた紅い気を纏う者が現れた

 

相対するは、

 

———この世全て己がものと宣う人類最古の英雄王

 

 

「そのまま消えていれば良かったと、直ぐに後悔させてくれよう。光栄に思うが良い。身の程を知らぬ雑種如きが、我が財を目にする幸運に恵まれたのだからな」

 

 

「………………」

 

 

「———疾く失せよ」

 

 

瞬間、黄金の波紋(砲門)が無数に展開される

波紋より召喚されるは古今東西の英雄達の武器宝具

 

対し、血に濡れた気を纏う者、否

 

()()()()()()()がその手に握るのは、

 

 

———己が血に濡れた刀一振り

 

 

「………敢えて言おう。オレは貴様を()()()()が、手足の一つ二つは貰い受ける」

 

 

「……ほう。その大言壮語、いつまで持つか見物だな。精々死に際で我を興じさせてみせよ、雑種!」

 

 

「———来い」

 

 

血に狂った狩人は駆ける

迎え撃つ宝具の嵐の中へ

 

 

 

———英霊狩りが、幕を開ける

 

 

 







狩人「(いつの間にかマスターになってるとか)」

聖杯「(何故、アイツが令呪を宿しているのか)」


狩人&聖杯「「知らない」」


抑止力「ふざけるな」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

流血鴉






———もう、どれだけ彷徨ったのだろう

女王の為を想い、血の穢れを求め幾星霜

気が遠くなる程歩いて、走って、穢れを探しながら、殺して、殺して、殺されて、殺してきたヤツをまた殺して

目に映った醜い異形、凶刃を以て迫り来る血に酔った同胞達、凄惨窮まる尋常ではない実験を未だに繰り返す医療者共

血の女王へ穢れを捧げ、狩りを続け、穢れを集める
終わりなど、きっとない

女王は不死だが、俺は違う
それに、もう夢を見ることもない

叶えられぬ悲願と知りながら俺は狩りを止めない
いや、()()()()()()

なぜなら、


「……貴公。また、行くのか?」

「———我が身は女王のモノなれば。穢れを捧ぐは我が使命」

「……そうか」


今もこうして、


「……貴公、また戻り給えよ?」

「………御意」

「カインハーストの名誉のあらんことを………」

俺を待っていてくれる人が居るのだから、
———死ぬ(忘れる)わけには、いかないだろう?







「……………戻り給えよ、()()()






どこか寂しげに呟かれた言霊は、鴉の背に届くことはなく



———赤い月の夜、大聖堂にて

鮮血と共に漆黒の羽が散った


 

 

荒れ狂う暴威の中、血濡れの鴉は観察する

 

 

「………………」

 

「フハハハハハハハハ!!!!!どうした?先程の威勢はどこへいった?逃げるばかりでは我に触れる事すら叶わんぞ!!!」

 

 

獲物を狙う狩人は、いきなり襲う様な下策はしない

 

 

「口だけが達者なようでは世を渡ることも出来まい。おっと、貴様は汚物を啄む烏であったか!それだけの理性すら失った畜生のなぁっ!」

 

「………………」

 

 

絶えず降り注ぐ宝具の雨は地面を抉り、爆ぜ、その余波ですら生命を刈り取るにあまりある破壊力である。

 

 

「……………」

 

 

今の奴には、隙が無い

 

絶え間のない波状攻撃は掠りでもすれば致命傷、奴からすれば俺はただただ逃げに徹する、それこそ雑兵に見えるか

 

だが、

 

「……チッ!」

 

様子見は終わりだ。狩りを始める

 

宝剣を避けながら、腰のホルスターに掛けたエヴェリンを抜き、骨髄の灰を込めた直後、

 

()()()()()()()()()()()

 

 

 

———————————————————————

 

 

 

 

「………なんだ?焼きが回ったか?」

 

腰に下げていた銃を取り出したかと思えば、即座に投げ捨てた。大方、今の状況を覆そうと取り出したは良いが、撃つ隙が無いと諦めたと見える

 

 

所詮、取るに足らない有象無象であったか

 

それが、目の前を逃げ回る無様な烏へ対する英雄王の評価だった。いや、評価ですらない。今までと変わらない、変わることはない。

己を愉しませる事すら出来ぬ三流にかの王は飽きてきていた。

 

王の威光を前にただ畏れ慄き、逃げるだけ

 

実に、つまらぬ

 

此度の聖杯戦争へ赴いたのも、自らの財を奪うと抜かす身の程知らずな愚か者共から回収する為。ただそれだけ。

召喚者である時臣も、形式的ではあるが配下の礼を示すならば、それに応じるのも王が務めではある。が、典型に過ぎる故にやはり、つまらぬ。

 

無聊の慰めにも成らぬ煩わしい烏めを消し去ってくれよう———

 

そう、思った矢先。突然、烏の姿が消えた

 

この期に及んで悪足掻きか?と、最早呆れを通り越して憐れみすら感じかけた直後、白い残光を横目に捉える。

 

———まさか

 

いや、あり得ぬ。今まで、さんざ翻弄されていた筈の雑種如きが———

 

 

「———慢心が仇になったな、英雄王」

 

 

咄嗟に後ろを振り向くと、刀を納刀し、抜刀の構えを取る烏が居た

 

 

「宣言通り、腕は貰うぞ」

 

 

鯉口を切り、柄に添えた右手に力を込め、鞘から抜き放たんとし———

 

 

「———戯け。貴様如きが我が玉体を傷付けるなどと、片腹痛いわ」

 

 

黄金の波紋が即座に烏の周囲に展開、同時に無数の黄金の鎖が烏の身体へ巻き付けられる

 

「逃げ回るだけの無能かと思えば、小さくも牙を隠しておったか。しかし、この我を出し抜こうなどと、夢のまた夢であったな」

 

「……………………」

 

構えの姿勢を取ったまま、体は完全に拘束され、身動きが取れない。自力で外すには困難だろう。

 

 

「しかし、意表を突かれたという一点のみは認めよう。せめてもの褒美だ。苦痛なく殺し———」

 

「いいや、やはり片腕は貰う。

———貴様はオレを、最後まで侮った」

 

「……何?」

 

戯言を、と。二の句を告げることは、出来なかった

 

後方で鉄の破裂音の様な乾いた音が聞こえた瞬間、

 

「っぐぅ!?」

 

———突如背に、()()()()()()()()()()()

鎧を貫通こそしなかったものの、気を取られるのには充分過ぎた

 

拘束していた天の鎖が消え、

致命的な隙を晒してしまう

 

 

「——————ッ!」

 

 

神をも斬り伏せる居合抜刀を、避けられる筈もなく

 

英雄王は、右腕を斬り飛ばされた

 

 

 

 

 

———————————————————————

 

 

 

 

 

「……嗚呼………オレは……負けた、のか」

 

赤い月の夜。聖堂街の中枢ともいえる大聖堂にて。カインの流血鴉は二人の狩人を相手取り、月の香りのする者に敗北した。

 

 

「…………申し訳…ありません、女王……私は…」

 

 

道半ばにして、自身の悲願でもあった夢が終わる

 

なんと無念なことか

なんと惨めなことか

なんと無様なことか

 

己の全てを賭けて尚、あの狩人には一歩及ばなかった

 

全て、全て、全て、忘れてしまう

 

散々色んなモノを殺めておきながら、この期に及んで生に未練がましくもしがみつきたくなる甘さに、我がことながら自嘲する

 

そして思い出す。これから訪れる、暗い死を

 

「………出来……こと、なら………私は…」

 

嗚呼。今際の際に思い出す。冷たい鉄仮面の奥で。いつも我が身を気にかけて下さった、血の女王を

 

そう。出来ることなら

 

「………貴女の……願い、に………応えたかっ……た………」

 

女王の隠したもう一つの願い

同じ血族をもう喪いたく無い、と。哀しみに憂う彼女の願いに、応えたかった

 

 

 

「———貴公」

 

 

 

他ならぬ致命傷を与えた月の香りの狩人が、死に際の鴉へ呼び掛ける

 

 

「貴公の遺志は、尊いものだ。私は何者でも無いが故に、貴公のソレは輝いて見える。貴公がもし許してくれるのなら、私にその遺志を継がせてはくれまいか?」

 

 

人の夢を砕いておいてよく言う、と。恨みがましい思いもなくは無かった。

 

だが、それでも。彼女がまた、独りにならずに済むというのであれば

 

自然と、静かに、けれど意志を込めて

 

頷いた(託した)

 

 

「………ありがとう。私は……いや、オレは。貴方の遺志を引き継いで、血の女王を支えよう」

 

 

防疫マスクを外した狩人の顔は、見る者によっては冷たい印象を与えるだろうか。

 

だが、その口元は、慈しむかのように微笑んでいた

 

きっと、俺を殺した()()ならば

もうアンナリーゼを悲しませる事は無いだろうと、根拠のない安心が心に残った

 

 

 

 

 











宝具

『失われた血刀』

ランク:A+++  種別:対人/対神宝具

血に狂った狩人が使っていた仕掛け武器。刀身に自らの血を纏わせることで本領発揮する呪われた刀。居合斬りはしたが、変形機構そのものは用いていない。

余談だが、血を纏わせると夢の中で上位者殺しも積極的に行っていた狩人である為、この世界では神殺しへと化ける。肝要なのは刀の方ではなく、()()の特殊な血の性質が故ではあるが。

その血は劇毒であり。蓄積すれば身体を蝕み、一定量を超えた瞬間相手は即死するという恐ろしいもの。即死する対象に例外は無い。



『エヴェリン』

ランク:A  種別:対人宝具

カインハーストと呼ばれる血の貴族の騎士達が用いた独特の銃。水銀の弾丸を用いることでは工房の銃と変わらないが、カインハーストそれはより血質を重視する。
女性名を冠されたこの銃は、意匠にも凝った逸品であり騎士たちによく愛されたという。

強靭な獣の動きを止めるどころか仕留める程の火力を誇るが、骨髄の灰を使用する事で神ですら場合によっては屠れる代物。血の狩人達の愛用品。




狩道具

『古い狩人の遺骨』

古い狩人の遺品。その名は知られていない。
その狩人は、老ゲールマンの弟子であったと言われ初期狩人の独自の業「加速」の使い手でもあった

その遺骨、意志から古い業を引き出すとは
夢に依って遺志を引き継ぐ、狩人に相応しいものだろう


使用する事で狩人の敏捷を一時的に上げる。効果時間は短いが、敏捷のランクが二段階上がる。






















※尚、血に狂った狩人の宝具は他にもある模様


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

鴉の矜恃








おのれ……

おのれおのれおのれおのれおのれ!!!

たかが消された世界の異邦人風情に、事の運びを掌握されるとは……!!

飢えた鴉如きが、我が玉体を啄んだその不敬!羽も残さず塵にしてくれるわ!!!

完膚なきまでに八つ裂きにし———



…………………なんだ、これは






 

 

 

 

深淵に浸るものにとって正常こそが狂気であり、故に彼らは怯え(嗤い)ながら殺すのだ

 

光の中に微睡む羊達を恐ろしい(悍ましい)

 

天空を羽ばたく鳥達を恐ろしい(恨めしい)

 

大海に生を育む魚達を羨ましい(妬ましい)

 

 

生を冒涜しているのはどちらであるのか、そんな問いは彼等にとって理解し難い当然の答えとして既に出ている

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()に他ならぬのだ

 

 

 

深淵を恐れよ

 

闇に呑まれては為らぬ

 

人のままであることを望むならば

 

 

一度でも虚底(うろそこ)覗けば、奴等は決して逃がさぬ故に

 

 

 

 

 

たとえ全てを忘れたとしても(そんな事は出来るはずもなく)

 

奴等は、決して忘れない

 

 

 

———————————————————————

 

 

「………………」

 

 

名も出自も知らぬ、たかが雑種と侮った狩人に腕を斬り飛ばされた英雄王。

 

本来であれば、真の王たる己を傷付けた下賎な輩にその万死に値する罪を王手ずから贖わせる所である筈なのだが。

 

「…………………」

 

無言。無表情。身動ぎ一つなし。ただ狩人を見るその瞳は未知に触れた探求者のように、或いは裁定者として改めて格を見定めるように。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「…………………」

 

頭部を覆う特徴的な鉄兜により顔を窺うことは出来ないが、刀の柄を握る強さからして、狩人もまた警戒を解いていないことはわかる。

 

「…………………貴様」

 

英雄王が、血に狂った狩人へ呼びかける。見定める目はそのままに、『正直に応えねば殺す』と言わんが如く形相で

 

「…………………」

 

何も答えず。しかし、聞く意思はある様で、一先ず刀を納刀した。

 

「———貴様は、人に仇なす獣か?」

 

「———否。断じて否だ。」

 

即答。いくら血に狂っていようと彼女は狩人。

人を無差別に己が欲望のままに貪り食い散らかす獣であろうはずがない———

 

「貴様は他を殺める快楽を知っている。むしろソレを求めてすらいる。血を流し流される歓びと悦に浸る貴様が、何故獣ではないと言いきれる?」

 

理性が残っているから

感情のままに殺すことはないから

人々の為に獣狩りを始めたから

 

 

 

理性など、とうの昔に捨てた

感情の昂りは、強者との死合を得て増すばかり

何よりもまず、彼女は人々の為などという大層な理由で狩りなぞしていない

 

では何故、断言したのか?

()()()()()()

 

 

「私は狩人だ。であれば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「………ほう」

 

 

狩人が狩るのは獣。獣とは欲に溺れ人ならざる身に堕ちた者。

獣の病?上位者の呪い?そんなものは関係ない。人の姿をしていようが異形の化け物だろうが人に仇なす全ての害は『獣』だ。

 

それらを見定め狩る彼女が、獣であろうはずもない

 

「この我を前にして、よく宣ったものだな。貴様は確かに獣ではないのだろうよ。だがな、知っていたか?人間とは他を踏み躙ることでしか生を謳歌出来ぬ獣の名だ。」

 

「……………」

 

 

だが、英雄王は言う

 

 

「つまり、獣でないと宣った貴様は、()以下の何かということになるな?」

 

 

貴様は人ですらない、と

 

 

「………………違う」

 

「違うものかよ。人とは欲深く、浅ましさのあまり見るに堪えん愚か者へと堕ちる者も居よう。だが、欲があるからこそ人間という種は栄えてきたのだ。それすら否定する者が居るとすれば、確かに獣では無い。()()()()()。貴様のことだぞ、()()()()()

 

「………違う!」

 

「認めよ。そして目を逸らすな。己のうちに潜む淀んだ業にな。」

 

「…っ……ち、が……う……ああ……!!」

 

 

なにかに苦しむように頭を抑えながら否定の言葉を吐く

 

————嗚呼、何故だろう

 

あの男の姿が歪んで見える

 

殺意が、溢れて止まらない

 

奴を殺せと(狩人)の本能が叫ぶ

 

 

————それはダメだ

 

今ここで英雄王を殺してはならない

 

耳を貸さず己を律しろ、正気を保て

 

何もかも手遅れになる、衝動を殺せ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「———殺しても、良いかな?」

 

 

蕩けるような、甘い声

 

 

「———キラキラ光って星みたい。きれい(おいしそう)

 

 

誘う様に、淫らに唄う

 

 

「———もったいないけど、味見したい」

 

 

奏でる様に言葉を紡ぐ

 

 

 

 

………だめだ

 

やめろ、それはだめだ

 

堕ちるところまで、堕ちてきた

 

今更悔いを償うことも叶わない

 

愚行に蛮行を積みかさねてきた

 

 

だが、それでも

 

 

獣を狩るべき己が、()()()()()()()()()()()……!

 

 

 

「………っ!」

 

鞘から刀を抜こうとする右手を無理矢理抑え付ける

 

 

「……っ………くっ!!」

 

「理性で以て自らの本能を律するか。だが、それもいつまでもつ?どうせ無為なのだ、潔く屈すれば楽であろうよ。」

 

今この場において、これ以上にない甘言に思わずつられそうになる。

 

それだけはいけない

 

ただの自己満足で不吉につられてきたというのに、顔も名も知らぬこの世界の狩人(平行世界の己)に余計な後始末を負わせるわけにはいかないっ!

 

 

故に

 

「………っ!!ゴホッ…!!」

 

 

自決した

 

 

「……なに?」

 

 

血を鞘へ過剰に流すことで刀を抜かずに死んだ

 

 

ゆっくりと、体が前に倒れていく。遮るものはなく、重力に従ってあっさりとその身は地に落ちた。

 

狩人の体が消えていく。陽炎の様に、まるで最初から無かったかのように跡形もなく消えて逝く。

 

 

「……欲に呑まれることを良しとせず、躊躇いもなく死を選ぶか。」

 

 

片腕を失った王は踵を返す

 

 

「………フン」

 

 

最後に、狩人が消滅した場所を一瞥してから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………己の矜恃を死をもって守り通したのだ。他ならぬ(オレ)が認めてやる。貴様は、確かに人間(ヒト)だ」

 

 

 

 

 

———————————————————————

 

 

 

 

 

私は、弱かった

 

目覚めてからすぐ、診療所で初めて見た獣に訳も分からず殺された。気が付いたら最初に戻ってて、少し進むと同じ場所に獣が居て、同じようにまた殺された

 

獣が怖かった。気付かれないように先へ進もうとしても、敏感に気配を察知して獣は追いかけて来た。がむしゃらに走った。必死に逃げたけど、無様に転んで追い付かれて、殺された

 

 

獣が、ずっと怖かった

 

夢に囚われて、武器を渡されて、身を守る手段を手に入れても安心なんて出来なくて。ずっと、死なないように必死だった。

襲ってくる民衆を殺すのも、化け物みたいな動物を殺すのも、獣を殺すのも、本当は嫌だった。肉を断つ感覚が、内臓を抉り回す感触が、骨を削る不快さが、大嫌いだった。

でも、死にたくないから。我慢して、気持ち悪くても耐えて、罪悪感から目を背けて、必死に殺した。

 

 

ただ、死にたくなかった

 

無様に死にたくなかった。油断して死にたくなかった。訳も分からず死にたくなかった。いきなり死にたくなかった。詰めが甘くて死にたくなかった。とにかく、死にたくなかった。

 

 

いつしか、どうでもよくなった

 

獣狩りも、上位者も、狩人の使命も、殺すことの罪悪感も、死への恐怖も、何もかも。

 

獣がどうした?いくら殺したってキリがない

 

上位者だと?ただただ気持ち悪いだけじゃないか

 

狩人の使命?獣狩りの終結?知るものか

 

殺すことへの罪悪感?感傷に浸るだけ無意味な事だ

 

死への恐怖?何度も何度も繰り返してきたんだ、今更……

 

 

 

 

何もかもどうでもよくなって、ふと思った

 

 

 

———私は、なんでこんな事をしているんだろう?

 

 

 

使命なんてどうでもいい。死ぬことなんてもう慣れた。獣を殺しても何も思わなくなった。

 

 

なのに、何故、こんな事を続けているのか

 

 

わからなかった。わからないのが、何故か怖くなった。理由なんて全く無いはずはのに、怖くて怖くて仕方がなかった。

 

 

 

 

 

 

白痴のロマを狩り、儀式が破られて、気が付いたら大聖堂の近くの古協会の水盆に立っていた。その時は、何を思ったのかは覚えていない。ただ、何となく大聖堂の方に向かって歩いていた。

大聖堂の入口の前まで来ると、一人の古狩人が傷を負って階段の上で手摺りを背に凭れていることに気付いた。

 

狩人狩りアイリーン

 

理由なんて、もう覚えていないけれど。ただ一度だけ共闘した狩人だった。死にたくないと喚いていた頃の自分が何故か、その時だけは何度も何度も何度も死にながら、彼女だけは死なせないように立ち回っていたような気がする。

 

結局、意味なんてなかったようだが。

 

目の前でか細く息をする彼女は、どう見ても致命傷だ。どのみち助かりそうもない。過去に必死になって戦ったことも、無駄になってしまっただけらしい。………そう考える頭とは逆に、私は彼女をどうしても放っておくことが出来なかった。もう助からないのに。助けることなんて出来ないのに。

 

"大丈夫か?"

"誰にやられた?"

"輸血はしたのか?"

 

とんだお笑い草だ。口では心配しているようで、その実何も思っていないというのに。何も関わることなく、そのまま立ち去ればいいのに。

 

「………この先は、(あたし)の獲物だ。あんたは戻りな……手を出すんじゃあないよ……」

 

「……そう」

 

 

言葉とも、思考とも裏腹に、体は勝手に進んでいた。古狩人に致命傷を負わせるような相手に、何が出来るというのか。すぐに返り討ちに合うだろう。そう、わかっていたのに———

 

 

体は決して止まらなかった

 

 

そこから先は、一方的だった。

 

仕掛け武器を振るうと完璧なタイミングで狙撃(パリィ)され。瞬きの間にいつの間にか背後を取られて斬り伏せられ。蓄積していた体の傷に気付かず、感覚が戻った瞬間に体の負荷に耐えきれず隙を晒して首をハネ飛ばされた。

 

何度も苦しんだ

何度も殺された

何度も死を繰り返した

 

なのに、諦めなかった

……訳がわからない。自分の事なのに理解出来なかった。もう止めればいいのに。私では敵わないと、とっとと匙を投げてしまえばいいのに。

無理なんだと、諦めてしまえばいいのに

 

 

 

…………私は、弱いのに

 

 

 

 

 

 

 

 

『なんだい、あんた狩人かい』

 

 

ふと、思い出した。初めて、アイリーンと出会った時のことを

 

 

『どうした?まさか狩人が、獣が恐ろしいのかい?』

 

…………あぁ、そうだ!獣は恐ろしいよ、怖いに決まってる!訳も分からず殺されて、逃げたくても逃げられない。死にたくないなら、殺すしかないんだ!こんな狂った世界で私が正気でいられる訳ないじゃないか!?心すら壊れて、擦り切れてもう、自分が何者だったかのかさえ覚えてない!!無慈悲で、残酷で、この世界は変わらないのに!!!

 

狩人だから?獣は狩らなきゃならないから?悪夢を終わらせろ?

 

うるさい…………うるさい、うるさい………!

うるさい、うるさい、うるさいっ!!!

 

私に、なにができるって言うんだ……!

私に、なにが残ってるっていうんだ!!

私なんかに……………私なんかに!!!

 

私は……私は……!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は、私は弱いままなのにっ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

まぁいいさ

 

 

————え?

 

 

フフッ……恐れなき狩人など、獣と何が変わろうものかね

 

 

『——————!』

 

 

———あぁ、そうか

私は、死を恐れない獣が怖くて。それを狩る狩人も、恐れてはいけないと、勝手に思っていた。

 

でも、そっか。狩人は、恐れてもいい。恐怖を忘れたら、それはきっと獣だから。

私が弱くても、私の弱さだと思っていた恐怖は、別に間違ってなんかいなかった。

 

———あぁ、そうだった

 

怯えていた私を、初めて励ましてくれた彼女を死なせたくなくて、私は————

 

 

 

 

 

 

—————その後、もう一度大聖堂の奥の奴(カインの流血鴉)と再戦すると、驚くほどあっさりと勝つ事が出来た。

 

先手で負けるならば、後手(カウンター)で。

相討ち覚悟で零距離射撃(散弾銃パリィ)

勝つ為にとか、そんなことは考えてなかった。

 

当たれば死ぬ程痛いし、当たりどころが悪ければ即死するかもしれない。ずっと、怖かった。

 

でも、それが正しい事だと思い出したから。

 

 

「……グ……ゴフッ……!!」

 

「………………………」

 

 

血溜まりの上に仰向けに倒れた、彼女と同じ狩装束を纏った狩人にゆっくりと近付く。頭の近くで膝を着き、カインの兜をゆっくりと外した。今際の際に、兜越しでは呼吸が辛いだろうと少しばかりの気遣いだった。

 

 

「……嗚呼………オレは……負けた、のか」

 

 

虚空を見つめ、譫言のように呟く最期の言葉を静かに聞く。

 

 

「…………申し訳…ありません、女王……私は……出来……こと、なら………わたしは…………」

 

「………………………」

 

想い人の頬に手を伸ばすように、彼は記憶の作り出した見えぬ虚像へと手を伸ばす。

 

彼の表情はとても穏やかで、

 

 

「………貴女の……願い、に………応えたかっ……た………」

 

 

けれど、後悔が滲むソレはどこか儚げだった。

 

 

「———貴公」

 

 

他ならぬ致命傷を負わせた私が、死に際の鴉へせめてもの手向けを送る。

 

 

「貴公の遺志は、尊いものだ。私は何者でも無いが故に、貴公のソレは輝いて見える。貴公がもし許してくれるのなら、私にその遺志を継がせてはくれまいか?」

 

 

この悪夢の中で尚強く、誰かを想う彼の姿に、私は少し惹かれたらしい。憧憬の念を抱いたようだ。

彼にとって、それは意外だったのか。一瞬呆けると、心の底から安堵したように頷いた。

 

 

「………ありがとう。私は……いや、オレは。貴方の遺志を引き継いで、血の女王を支えよう」

 

 

 

 

大聖堂を後にして、アイリーンの元へ戻るも、既に彼女は居なかった。その場に、『鴉の狩人証』と『狩り』のカレルだけを残して。

 

 

「……………………」

 

 

………彼女の遺志も、私が継ぐ

 

決意を胸に、その場を去った

 

———目元に、淡い雫を残しながら

 

 

 

 

 

私は一度、全てを捨てた。でも、ただ一人のために狩りを行うとしたら。

きっとそれは、私の拠り所となるだろう。

 

例え、夢を忘れ戻れなくなったとしても。数え切れない罪を重ねるとしても。私は彼と彼女の遺志を糧に、人として獣を狩ろう。

 

 

 

獣の愚かを恐れながら、ただ一人の為に

 

 

 










血の狩人ちゃん「今のオレは、負ける気がしねぇ!」

AUO「いいぞ狩人!貴様の本気を見せてみよ!」

血の狩人ちゃん「上等だっ!!」



聖杯&抑止力「やめてください」



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。