この素晴らしい世界にて、火継ぎの旅の終着点 (猫パン)
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第一話 火継ぎの終わり、夢の始まり
また懲りずに新しいものを書いてしまいました!!
構想、及び執筆に5ヶ月。
さっさと蒼白コントラスト書けってんだよって思ってる方マジすんません。
今から何億・・・神代の遥か前、火の時代と呼ばれる時代があった。
最初の火が見出され、熱さと冷たさ、光と闇、生と死がそこで生まれた。
そして闇から生まれたモノたちは、生命の源たるソウルより王のソウルを見出した。
そして王のソウルを得た彼らは、支配者たる古龍を根絶し火の時代を繁栄させた。
だが全ての根幹を担う最初の火が消えかかり、人々に不死の呪いの証『ダークリング』が現れ始め、不死人となった。
王は世界に再度光を戻すため自らを薪とし、その火を延命させた。
そして再度、その火が衰えた頃最初の火を継ぐモノを見出す
そうして火を継いだ王達を殺して回り、王の薪を携えて、最初の火を継いだのです。
何度も。
鐘が鳴る度に火の無き灰は棺から蘇り、火継ぎの旅に出る。
そうして火を継げば、また棺から始まる。
無限に繰り返される火継ぎの旅、それに終止符を打ったのは今までとは違う、たった一つの選択だった。
火継ぎが終わり、最初の火が消え使命も終わり。
火防女もその役目から解き放たれたとき、火の無き灰の役割もそこで終わる。
役割から解放され、薄れゆく意識の中に、火の無き灰は確かに火の時代の終わりを見た。
そして、目覚める事などないと思っていた火の無き灰は、その重い目を開け・・・
「え・・・」
唖然とする一人の女性と目が合った。
「え、なんで。貴方の様な方がここに・・・」
驚愕に目を見開き、疑問を浮かべる女性。
だがそれは火の無き灰も同じだった。
永劫に続く火継ぎの使命を、無理矢理に終わらせ、世界を闇に落としてみれば、我前に広がるのは真っ白の明るい空間。自らの視界が闇に閉ざされ、傍らに寄り添っていた火防女の感覚も消え失せたのを感じ取れたのだ。
この空間自体、火の無き灰にとっては驚愕だった。
そしてそれは、目の前の女性・・・女神エリスにとっても驚愕するに値する、否それ以上の出来事だった。
エリスにとって彼は、目の前にいる存在は神々が生まれるずっと前の世界を維持し続けて居た神をも超える存在。
火が継がれている限り、彼の魂は永劫の時を火の時代に囚われ続けている筈なのだから。
そんな目の前の彼は、右手を開いたり閉じたりして調子を確認していた。
「ふむ、
「ここは神々が死者を導く天界です、火の英雄様。」
そう言いながら跪く女神エリス。
神代の神々より最古の、神すら上回っていた薪の王を殺して回り、何度も最初の火を維持し続けた最古の英雄。
女神だろうが、エリスとの力関係は明白だった。
だが、
「良い、
「で、では何故ここに?本来であれば来れる場所では無いはずなのですが。」
「さあな。火継ぎの使命も無理矢理終わらせ、世界を闇へと導いたんだ。死んだ扱いにでもなったんではないか?」
状況が分からない為何とも言えないのだが、とりあえずはエリスもそれで納得したらしい。
業務通り、この空間へと来たものに対しての対応をする。
「本来であれば、貴方様のような方は死者足りえないのですが。まあそれはこの空間に来た段階で省略されます。そして転生して記憶も何もかもまっさらとなって赤子となるか、天国のような場所で平凡で何にもない、使命も何もないところに送られるかの二つの選択肢があるはずなのですが・・・」
「それが選べないのは
「はい・・・」
そうエリスは頷く。
火の無き灰のような不死人達が体のどこかにあるダークリング、これこそが呪いの証である。
これが現れたモノは死んでも感情や記憶、理性や人間性を犠牲にして蘇る。
死ぬたびに精神が摩耗し、いつの日か亡者と成り果てる呪いだ。
解呪することは不可能な為、永遠に不死人のままだ。
そしてこのダークリングこそが、転生などをすることが出来ない理由だ。
ダークリングは肉体と魂の結びつきを強め、死してなおもその肉体から魂が離れることはない。
そして魂が滅びることがなく、それに従い肉体も滅びることがなくなるのだ。
摩耗する魂と精神は別として。
「貴方様に許された選択肢はただ一つ、その肉体のまま転移していただく他ありません。当然呪いもそのままです。」
「まあだろうな、それでこそ不死人だろうさ。」
苦笑いを浮かべ、肩を竦める火の無き灰。
その様にエリスは申し訳なさを浮かべるも、気を取り直して口を開く。
「最後に、転生するにあたって1つだけ。向こうの世界へと持っていける特典を授ける事になっているのですが、何に致しますか?望むなら一撃で倒せる剣から、身体能力が上がるスキルまで。いろいろありますが。」
「篝火だ、自由にどこでも設置したり撤去できる篝火さえあれば良い。」
エリスの問いに、間髪入れずに即答した火の無き灰。
篝火とは不死人の故郷とも言えるものだ。
それに触れれば全ての傷は癒え、篝火どうしの転移すらも可能とするのだ。
「承りました、では・・・」
「まて。」
エリスの言葉を手で制しながら、一歩前に進み火の無き灰は口を開く。
「大事なことを聞いていなかった。」
「はい、何でしょう。」
「今まで
火の無き灰は、自身にとって最も大事なことを聞いた。
そう肉体強化、簡単にいえばレベルアップだ。
転移先の世界では経験値とやらを入手すれば自動的に上がるらしいのだが、生憎と不死人はそうはいかない。
レベルが上がるのは人間だからだ、呪われた不死である火の無き灰にそのようなことは出来ない。
故に外部からあげる必要があるのだが・・・
「それについては心配要りません、火防女の代わりは私…女神エリスが努めます。」
「お前がか?」
「正確には、これを用いてですけどね。」
そう言って取り出したのは、白く澱んだモノ。
だがそれは、エリスが持っているはずがないもの。
火の無き灰ですら、誰のものか分かっても手にしたことはないのだから。
その穢れ無き澱みは、かつて火の無き灰を支え続けた火守女のもの。
それは・・・
「穢れ無き火守女の魂・・・これでなんとかなるでしょう。」
「これは、アイツの・・・そうか、それなら安心だ。」
そう口に笑みを浮かべ、火の無き灰は頷き跪いた。
それを見たエリスは、そのまま右手を火の無き灰にかざす。
「火の英雄様・・・貴方に祝福があらん事を。」
そう言ってかざした手から溢れ出る光に包まれ、火の無き灰は姿を消した。
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光が完全に消え、火の無き灰はその眼を開いた。
するとそこは先程まで居た真っ白の空間ではなく、澄み切った青空の下に広がる赤レンガの町並みが広がっており、それはどこかしらあの世界を彷彿とさせるが確かに自分が異なる世界へと来たことを実感させる。
火の無き灰は人通りが全くない裏路地から、大通りを見つめつつ自分の体を確認する。
自身の体は、なんの違和感もなく最初の火を消した当時そのままであることが分かる。
着ている防具にも違和感は何もなく、常に身につけていたファランの大剣もその背にあった。
「ふむ、問題なしか。」
自身のソウル内にしまっていた武具も取り出せることを確認した火の無き灰は不意に、自身の胸に小さな紙切れが挟まっているのに気付きそれを開く。
『まずは冒険者ギルドへ』
そう書かれた紙が、一枚の金貨と共にあった。
「粋な計らいだな、大抵は無一文で放り出すのだがな。」
火の無き灰が
十分良心的と言えよう。
「さて、行くか。」
そう言って影に紛れていた火の無き灰は、その姿を大通りへと曝け出し歩き出した。
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冒険者の街アクセル
それがこの街の名であり、冒険者になって日が浅い初心者が集う通称駆け出し冒険者の街とも呼ばれている。
円形の城壁が囲むこの街で、街の中心にあるギルドからクエストを受けて街の外へ出向き、モンスターを狩るなどして報酬を得ているのが冒険者だ。指定モンスターの討伐の他、採集や捕獲、緊急クエストなどがあり、日々世界を脅かしていたりするモンスターに対処している。その最たるが魔王であり、冒険者が倒すべき明確な敵である。
そして冒険者とは、冒険者ギルドに所属し冒険者として活動するもののことを指す。そしてその冒険者になるには冒険者ギルドに所属する必要がある。
「ここか・・・活気があるな。」
大通りを真っ直ぐ進んだところに、他の建物よりも目立つ外見の建物があった。
ギルドの紋章が看板に焼き付けてあったため、簡単にわかる。
何よりもその建物の前に装備を固めている人間が多々居た為、この建物だという確信が簡単に持てた。
「いらっしゃいませ!お仕事の案内なら奥のカウンターへ、お食事なら空いているお席へお座りくださ・・・い。」
すぐ近くを通ってきた赤毛の女性が、火の無き灰の姿を見るなり途端に固まる。
冒険者でも、冒険者登録に来たものでも。火の無き灰のような隙間のない全身鎧姿で来るものなど、普通は居ないのだ。
現に酒場に座っている冒険者も鎧や防具等は付けていても、そのほとんどがプレートアーマーやドレスアーマー、レザーアーマーなのだから。
だが
そんな喧騒を横目に、火の無き灰は確かな足取りで受付へと進む。
「こんにちは、今日はご依頼ですか?」
「いや、冒険者というものになりたいのだが。」
「冒険者志望の方でしたか、では冒険者登録料として1000エリスを頂きますが・・・よろしいですか?」
それを聞いて火の無き灰は少し固まった。
何しろエリスなんて単位を聞いたことがなかったからだ。
だが、女神エリスが知らぬ間に鎧に挟んでいた金貨の存在を思い出し、カウンターへと置いた。
「1000エリスとはこれでいいのか?」
「あ、はい。1000エリスちょうどですね。少々お待ちください。」
そう言うと受付の女性は奥へと歩いていき、しばらくして数枚の書類とカードを持って戻ってきた。
「それではまず、この冒険者カードについて説明しますね。」
火の無き灰に一見ボロボロに見えるカードと、数枚の書類を手に持ちながら口を開く。
「これは冒険者が冒険者足り得る為のカードで、身分を証明する役割も持っていて、このカードがなければ
「なかなかに便利なものだな。」
そう言いながら女性が手に持っているカードを眺める。
ただの紙切れにしか見えないが、とてつもない性能を秘めていた。
「そしてレベルについてですが、全ての生物には
そう言って差し出した書類を受け取り、眺めた火の無き灰はまたしても固まった。
その書類に書くべきものは自分の名前、身長、体重、年齢、身体的特徴・・・
自分の名前は摩耗して分からない、身長と体重はまあ自分の体が故に分かる。
年齢は・・・そもそも生まれてから何度も死に、何度も蘇っているのだ。正確な年齢など把握しているはずがない。
身体的特徴は、不死などと言えるわけがない。
そこで火の無き灰は、取り敢えず怪しまれなない範囲で適当に書くことにした。
「はい、アッシュ様ですね。では次にこちらの水晶に手をかざしていただけますか?」
書類を受け取った受付嬢は、カウンターに置かれた水晶に冒険者カードを差込んだ。
うっすらと水色に輝くそれには、アッシュには皆目検討もつかない何かが取り付けられている。
アッシュは特に何も言わずに水晶に手をかざすと、水晶はひとりでに輝きだし、カードにレーザーで文字を記していく。
そしてステータス欄に移ったところで・・・
「あら、これはすごいですね。」
受付嬢が少しだけテンションを上げて生成途中の冒険者カードを見ていた。
アッシュも気になり、未だ生成されている途中のカードを見るために乗り出す。
「すごいですね、全ステータスが平均を大幅に超えてます。これなら割とどんな職業にもなれますよ。上位職であるソードマスター、アークプリースト、アークウィザード、クルセイダーはもちろん、希少職である
少々小声ながらも、その興奮を隠しきれないように捲し立てる受付嬢。
小声なのは周りに居る冒険者に情報が流れないようにという配慮だろう。
冒険者というものはステータスによって自分がなれる職業が決まる。
そしてその選択肢から自分に合った職業を選ぶのだ。
アッシュは何か一つを極めると言うことは向いていない為、魔法や剣を極める上位職は除かれる。
そうなれば必然的に、多方面へと手を出せる・・・
「では、
狩人に決まったのだった。
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「これで冒険者登録の全ての過程が終了しました。今この時をもって、貴方は当ギルド所属の冒険者です。職員一同貴方様のお力になれるよう全力でご協力致します。アッシュ様。」
「なら早速だが依頼を受けさせてくれ、さっきの手数料が全財産だったんでな。できれば討伐系が望ましい。」
「かしこまりました、ではこちらはいかがですか?」
そう言いながらカウンターの隣にある掲示板に張り出されている1枚の紙を引き剥がすと、アッシュへと提示する。
登録したてで討伐系の依頼は数件しか無いため、早々に見つかったようだ。
そして同時にモンスターリストと書かれた本を開き、モンスターの挿絵が入ったページを開いてカウンターへと置く。
「3日間でジャイアントトードー3匹の討伐です。3日以内であれば何匹倒そうが報告した段階で討伐数による報酬上乗せにより達成できます。1日目や2日目に報告することもできます。生息地もこの街から結構近いですし、初心者にはよくおすすめするクエストですね。」
ジャイアントトードー
モンスターリストによれば四足歩行の巨大な怪物で、普段は刺激しなければ温厚だが、繁殖期になると長い舌で家畜や人を丸呑みにするため繁殖期前に狩る有害生物として書かれている。
だが・・・
「トードー・・・そうかカエルか。」
トードーと聞き、顔を顰めるアッシュ。
彼の頭の中では、自身の体ほどのカエルが浴び続けると即死する煙を出してくるシーンが再生されていた。
「このジャイアントトードーとやらは、何か特殊な行動はするのか?」
「・・・?いえ、長い舌で捕食行動をする以外には、打撃攻撃が効き辛い点しか報告はされていませんね。」
「そうか、ならいい。それで頼む。」
受付嬢の言葉に安堵したアッシュは、この依頼を受けることにした。
彼の言葉を聞いた受付嬢は、一応
「では、何人で参加されますか?」
「1人だが、何か問題でもあるのか?」
「アハハ・・・やはりそうですか。」
その返答に、わかっていたかのように乾いた笑いを浮かべる受付嬢。
周りに誰も連れずにやって来ている時点で察していたのだが、本人が言うことで確信してしまった。
「オイオイあんちゃん、流石にソロはやめとけって。いくら素質が高かろうと、初めての討伐クエストでそれは自殺行為だぞ?」
「そうよ、なんなら私達のパーティーと一緒に行かない?狩りについて優しく教えてあげるわよ?」
ソロで行こうとするアッシュを、周りの冒険者達は口を揃えて止めてくる。
初討伐クエストでソロというのは大変危険で、ましてや冒険者登録を済ませたばかりの新人が選ぶ事ではないのだ。
何が起きるか分からないからこそパーティーを組み、1人で対処出来ないことのフォローをするのが定例だ。
素質が高いと言われて舞い上がり、ソロで討伐クエストに行って初日に死んだ新人冒険者が何人も居るのだ。
故に彼らも二の舞にはなって欲しくないと善意で止めるのだが・・・
「気持ちは嬉しいが、ソロで大丈夫だ。この街ではないが、こういった獲物を狩るのは初めてではないのでな。」
そう言って、アッシュは口々にパーティーを勧めてくる冒険者達に断りを入れて受付嬢に向き直った。
「ではアッシュ様お1人での受注ですね。決して死なないいようにお願いします。では冒険者カードをお出しください、発注致します。」
受付嬢はアッシュから受け取ったカードを、先ほどとは別の水晶へとかざすと、何やら操作してからカードを返却した。
「準備が出来ました。ジャイアントトードーの生息地があるのは正門を出た西の草原地帯です、このギルドから真っ直ぐ進んだ先ですね。ではご武運を、アッシュ様。」
にっこりと微笑んだ受付嬢に軽く頷いたアッシュは、そのままギルドを出て行った。
『あの騎士かっけー・・・』
『カズマ・・・何やってんの?』
ギルドを出るときにアッシュを熱の篭った視線で見つめてくる少年と、それを冷ややかな目で見ている少女と入れ違いになったがそれはまた別の話。
ーーーー△ーーーー
街から少し離れた草原地帯にて、アッシュは息を殺すようにしゃがんで岩陰に隠れていた。
その岩から覗く視線の先には遠くから見ても分かる、どう見ても巨大な緑色カエルがそこには居た。
自身の身長の倍以上あるそのカエルは、見たことあるものよりもずっと巨大で、狩りごたえがありそうであった。
だがいくら陰に隠れてても、倒すことなど出来やしない。
故にアッシュは、1つ敵の強さを測る事をしながら一気に倒すことにした。
不死人が最も得意とする方法で。
故にアッシュは武器を構えて姿を見せた。
アッシュの姿を見つけたジャイアントトードーはアッシュへとゆっくりと確実に近づいてくる。
ジャイアントトードーはかなりの巨体のようで、跳ねるその移動で地面がかなり揺れる。
そしてジャイアントトードーはアッシュの目前で止まった。
まん丸の球体のような目でアッシュを見つめたまま動かないジャイアントトードーを、これまた動かないアッシュが見つめ返す。
そして突然に開いた口から、長い舌がアッシュに向かって伸びてきた。
カエルはその長い舌を瞬時に伸ばし、獲物を捕食する。
その速さは大きくなろうと、いや大きくなったからこそ小さいカエルとは比べ物にならないほどに速い。
その舌を鞭のようにしならせ、獲物に巻きつけて捕食する。
ジャイアントトードーにとってはいつもどおりの食事だったのだろう。
アッシュに向けてその長い舌が飛んで行く
そして彼に当たる直前に、彼が左手に持つ短刀で弾かれーーー
その刹那無防備に開いたその口目掛けて、彼が右手に持つ大剣が無慈悲にも口内に叩きつけられ・・・
衝撃と重さでズタズタになり大量の血を吹き出すその口にもう一度大剣が叩きつけられて、ジャイアントトードーは口が2つに割れて絶命した。
「ん、案外いけるな。これなら楽に狩れるか。」
ジャイアントトードーの返り血を多分に浴びながら、笑みを浮かべるアッシュ。
即死する呪われた霧を噴き出してくる
「・・・ほう、これは。」
その時、彼の周囲の地面がボコボコと次々に膨れ上がり、何匹ものジャイアントトードーが姿を現した。
そしてあっという間に囲まれてしまった。
不死人にとって1対多数は非常に不利、故にアッシュは瞬時に取り出した誘い頭蓋を1体のジャイアントトードーの足元へ投げて一気に距離を取った。
「ふむ、この距離なら行けるだろう。」
そう言ってアッシュは、宮廷魔術師の杖と呼ばれる魔法杖を取り出してとある魔術を唱えた。
『ソウルの奔流』
先端に青白い魔力の塊が浮かび、徐々にその大きさを増していく。
そして誘い頭蓋の効果範囲に群がっているジャイアントトードーへ向かって、その魔力の塊は極太のレーザーとなって襲いかかった。
それは重なっていたりと射線上に居る全てのジャイアントトードーの腹を食い破りながら突き進んでいく。
当然のように腹に大穴が開けば、いくらモンスターといえど即死である。
「これは楽だ。少しの間、俺の懐を暖める役に立ってくれよ?」
このあとアッシュが飽きるまで、誘い頭蓋で誘き出してはソウルの奔流を唱え続けた。
ーーーー△ーーーー
「はぁ・・・こんなものか。」
持っていたエストの灰瓶を全て使いきり、魔術が撃てなくなりそうな当たりで湧き出てきていたジャイアントトードーが打ち止めとなった。
最後の1体を作業同然にパリィスタブで片付け、ようやく武器を背負うことができた。
彼の周りには乱雑する壁のように横たわるジャイアントトードーの死体が山のように積み重なり、その足元をかなりの量の血が水溜りよろしく溜まってぬかるんでいる。
もう既に日は沈み始めているが、何匹狩ったかなど覚えていない。
だがかなりの数を狩ったことは確かで、結構な量のソウルがアッシュに流れ込んでいる。
「さて、何エリスになるか楽しみだ。」
ジャイアントトードーが湧いて出てこなくなるまで狩り尽くしたアッシュは、来た道を戻り帰って行った。
ーーーー△ーーーー
「いらっしゃいませ!お食事のかたはーーーってアッシュさん、お帰りなさい!」
ギルド職員の女性が入口付近でアッシュを出迎え、それを聞いた他の冒険者も続々とアッシュの周りに集まってくる。
「無事に帰って来れたみたいだな、よかったぜあんちゃん。」
「その様子だと無事に狩れたみたいね、初めてで上手くいくのってなかなかないことなのよ?」
皆口を揃えて安堵の言葉や安心したといったように声を掛けてくる。
ソロで行ったアッシュのクエストの行く末が気になり、こうして帰ってくるまで律儀に待っていたのである。
「戦果は上々。パーティの誘いを断って悪かったな。」
「いいのよ別に、死ななかったのなら何も言わないわ。」
「そうか、礼を言う。」
声を掛けてくる冒険者達と会話をしながらも、アッシュはカウンターへと足を進める。
カウンターに居たのは、朝アッシュの登録を担当した受付嬢とは別にもう1人居た。
「クエストは達成した、報酬を頼む。」
「もうよろしいので?まだ期限は2日も残っていますが・・・」
「ああ。今日の分の宿代すら無いからな、早々に報酬を貰えると助かる。」
そう言うとアッシュは、冒険者カードを取り出し受付嬢へと手渡す。
冒険者カードには、討伐したモンスターの数が正確に表示される。
それはクエストと言う関係上、狩っていないにも関わらず狩って来たと虚偽の申請をして報酬を貰おうとする輩が過去に居た為こういった措置を取る形になった。
そしてアッシュの冒険者カードに記載されているジャイアントトードーの討伐数に、2人居た受付嬢の1人が信じられないものを見るかのように目を見開いて叫んだ。
「に、210匹ぃっ!!!!」
「「「はぁっ!!!???」」」
アッシュの冒険者カードに記載されていた討伐数は、いくら朝から夕方までの間狩り続けて居たとしても普通にはありえない数字だ。
余りにも現実離れした数字を聞いたギルド職員も、その場に居合わせた冒険者達も一様に声を荒らげて驚いた。
そして当然、カードに書かれているアッシュのレベルも討伐数に見合った経験値の分だけバク上げしていて、スキルポイントも相当な量となっている。
「嘘だろ・・・半日足らずで200匹超えだと。」
「インチキじゃ・・・」
「馬鹿、ギルドカードは偽造できねぇんだ。本当に狩って来たんだよ、半日足らずで200匹も。」
誰も彼もが予想できなかったアッシュの初クエストの結果に、ギルド内で騒いでいた冒険者達はざわつき始める。初登録のレベル1だというのにジャイアントトードーを200匹も狩ることは、普通は不可能な出来事なのだから。そんな中叫んだ受付嬢とは違うもう1人の受付嬢は、平然とした顔でその事実を受け入れ、受け入れた上で口を開いた。
「アッシュ様。流石に当方の想定外の討伐数ですので、今すぐに報酬を用意することは出来ません。報酬というものはギルドにてモンスターを買い取った金額も内訳に入っていますので、通常ならばギルドにて回収後に報酬をお渡しすると言うルールになっております。」
ジャイアントトードー1匹の討伐報酬が移送料やら諸々を差し引いても5000エリス。
3匹討伐クエストの為最大で15000エリスの基本報酬に加え、加算報酬が207匹分。
そしてそこに追加討伐ボーナスで1.25倍。
計1,293,750エリスの報酬が、アッシュの手元に入って来る。
いくら偽造の出来ないギルドカードに記載された討伐数だとしても、実際にその討伐した現物が無ければ報酬を渡すことは出来ない。ギルド側が冒険者から受け取るか、狩場となった現地へギルド職員が赴き現物を回収して初めてクエストを達成した冒険者に報酬が支払われるのだ。
故に現物がない今、アッシュに報酬が支払われるのはまだ先となる。
だが・・・
「ですので、2時間程お待ちいただければ当方は全ての精査を終わらせて報酬を用意致します。」
「な、何を言ってるんですか先輩!?」
たった2時間で210匹分のジャイアントトードーの精査をして報酬を用意する、言うのは簡単だが実際には不可能に近い。
だがアッシュの目の前の受付嬢は、それが出来ると豪語した。
そんな受付嬢をもう1人、恐らく新人であろう女の子が止めようとするが手で軽く制され、その勢いを失った。
「出来るのか?2時間で全て。」
「ええ、当然でございます。他の受付はどうかは存じ上げませんが、私は問題ありません。」
そう言いながら翳された彼女の手には、”何も無い”ところから現れた短剣が握られていた。
それどころか現れた短剣すらもいつの間にか消え失せ、1拍も置くことなく今度はその手に彼女の身の丈はありそうな大剣が出現した。
「・・・ッ!?」
流石のアッシュも、目の前で起こった事に驚愕を隠せなかった。
アッシュが用いる、物質をソウルに変換して体内に収納するソウルの御技と殆ど似ている現象だったからだ。
「生きてさえいなければ、私はどんな物でも収納することが出来ます。例えそれが生物だとしても、死んでいるのならそれは既に”生きている物”ではありませんから。」
そう言って、持っていた大剣がまた空虚へと消える。
「ご理解頂けましたでしょうか?」
「ああ、嫌という程にな。では2時間後にまた来よう。」
「お待ちしております、アッシュ様。」
そう言ってアッシュは、鎧をガシャガシャと鳴らしながら来た道を戻っていった。
「これはまた、とんでもないルーキーが入ってきたもんだ。」
「ああ。この調子なら、俺達を追い越す日も近いかもな。」
残った冒険者達は皆一様に、出て行ったアッシュを高評価しながらシュワシュワを片手に笑い合っていた。
そして去って行ったアッシュの背中を見つめる4人組の冒険者パーティーが、ギルド内に居たことをアッシュは知らなかった。
ーーーー△ーーーー
2時間という時間は、何もせずただ待つには少し長すぎる時間である。
報酬が入るまでは無一文なアッシュは、飲食店、宿屋、娯楽施設、その全てに対し支払う金が無い。
従って暇を潰そうにも、現状やることが無かった。
故にアッシュは、観光をすることにした。
彼が元いた世界には、観光をする暇など無く、ただひたすらに死ぬか狩るか前に進むかしか無かった。
それに加え常に戦いの中で生きてきたアッシュに観光なんて心的余裕など無かったのだ。
1歩進めば敵が待ち構えていたり、即死する罠があったりと、常に気を張っていないと簡単に死んでしまう。
故にアッシュは、周囲の風景等一度たりとも見たことがなかったのだ。
だがこの世界に来たことで心的余裕が幾分か生まれた。街の中であれば死の危険を孕んだモンスターは居ない為、気を抜いて武器を構えて進まなくても良い程の世界なのだ。
気楽に歩いて殺されないというのは、アッシュにとって素晴らしいことなのだ。
「ふむ、こうして見れば不思議な世界にやってきたもんだ。」
不死人が存在せず、最初の火すらも無い。
なのにソウルだけは存在していて、どうやって世界が維持されているのかが分からない不思議な世界。
アッシュの元居た世界では、最初の火が見出されてから生と死と言う概念が生まれた。
つまり最初の火が世界を維持しているのだ。故に消えかけた時には、最初の火の炉で新たな薪を燃やす必要がある。
だが最初の火の燃料になり得る薪の王は早々居ない為、
不死人となった者がそれに当てられ、亡者とならずに蘇った不死人に火継ぎの旅と言う使命を強制的に押し付けられる。
斯く言うアッシュもそのうちの1人であり、
かつて火を継いだ薪の王達とアッシュが違う点は、アッシュと言う薪が燃え尽きる度に、またアッシュと言う同じ薪が蘇り火継ぎを行う為だ。これがアッシュが無限機関と呼ばれる所以。何度火継ぎを行おうとも、火が陰り出す度に火継ぎを行う。始まりは有っても終わりは無い。始まりの終点は、また新たな始まりだったからだ。
「すまない、あなたが噂のアッシュで良いのか?」
そんな中ふと、アッシュの背後から女性の声が響いた。
街中で全身鎧の輩に話しかける酔狂な奴だと思いながらも振り向くと、そこには金髪の女騎士を先頭に青い髪の女と黒髪の男女の4人が居た。
「噂が何かは知らんが、俺がアッシュだ。だが・・・一体なんのようだ?物乞いなら他を当たって欲しいのだが、生憎と無一文でな。」
「物乞いではない。要件はただ1つ、あなたを私達のパーティーに勧誘しに来たのだ。」
「・・・は?」
アッシュは女騎士が言う言葉を、少しの間理解することが出来なかった。
To be continued……
設定をば
・火の無き灰
自身の記憶に自らの名前等もうどこにも存在しない為、自らの使命から取って
薪の王達を殺し、玉座に引きずり戻して火を奪い、最初の火を継ぎ、また火が陰ると棺桶から蘇り薪の王達を殺す。
そんな火の世界の無限機関の一部。
幾度となく最初の火の薪となり、陰る度に火継ぎを行ってきた。
そうして自我も擦り切れ、記憶も飛んでしまって部品と成り果てた頃に火防女へと返した瞳によってその宿命から解き放たれた。
既に自分が何者であったかなど覚えておらず、自らに課せられていた使命とその間の記憶しかない。
古の竜狩りを殺して奪った防具を着用し、そのソウルから取り出した多彩な武具で敵を翻弄するスタイルを好む。
短剣、直剣、大剣、刀、大鎌、槍、盾、弓、クロスボウ、杖。
様々な武具を場面によってコロコロと変える。
ステータスはカンストではなく、上げても伸びが悪いステータスを切り捨てて上げていない物に振っている。
ステータスを割り振り、3以上伸びればそのままガン上げ、1しか上がらなければ次へ。
その結果全てのステータスが高い水準で纏まっている。
だがカンストではないし、高レベルになるたびに必要なソウルが増え、それに比例し何度も死んでいる為上げるのを諦めていると言っても良い。
レベル 390
生命力 55
集中力 50
持久力 55
体力 50
筋力 45
技量 60
理力 50
信仰 55
運 60
冒険者登録時の必須事項目
アッシュ
179cm
65kg
28歳
怪我の治りが早い。
転移後のレベルは騎士の初期ステータスである9。
女神エリス
幸運を司る女神であり、協会の最大派閥であるエリス教の御神体。
相手を敬い、決して見下した態度を取らない品のある女神であるが、悪魔などには欠片も容赦がない。
火の世界の英雄に強い憧れを持ち、仮称として神器となっている火の時代の遺物を回収しては自室へ並べると言う収集癖がある。
エスト瓶の欠片や楔石の欠片、帰還の骨片等の遺物などが特にお気に入りらしい。
時々下界に、冒険者クリスとしてクエストを受けると言う名目で神器回収に赴いており、その際に穢れ無き火防女の魂を見つけ出し大事に鍵付きの宝箱に入れていた。
因みに虚乳の疑いが掛かっている模様
篝火
不死人の故郷、安息地とも言える場所。
不死人の骨が
使用するとあらゆる傷、体力、状態異常、部位欠損が修復される。
アッシュが選んだ特典でもある。
火を灯し使用する際は必ず最初に大元の1つの篝火を灯さねばならない点を除けば、各地に篝火を設置することが可能となるため篝火間の転送も可能になる。
熟練狩人の職業、主に狩猟に役立つスキルや、隠密、索敵などのスキルが多く存在する。
獲物を狩る為の過程に特化したスキルで対象まで無音で気配遮断すらもできる隠密スキルや、距離が離れた場所に居る生物を感知する事ができるスキル。
弓や剣等物理攻撃に特化したスキル等がある。
穢れ無き火守女の魂
エリスが見つけた、火の無き灰を常に支え続けた火の番人の魂。
火の無き灰が集めたソウルを変換し、返還することで
現在その魂は火の無き灰と融合しており、火守女が居なくともレベルを上げることが可能になっている。
エリナ
元冒険者で、現在は冒険者ギルドの受付嬢。
世界に5人と居ないと言われているディメンションストレージと言うスキルの所持者。
ディメンションストレージ
この世界とは違う、何処かに存在すると言われる異次元空間へと接続できる能力。
能力自体はただの鍵の役割しか持たない為、接続時の消費魔力はごく僅かである。
レベルによって接続できる最大空間数が増加する為、高レベルになるほど使用できる空間が多くなる。
内部に物を仕舞うのも出すのも、所有者の任意で行うことが出来、サイズを問わず収納することが出来る。
唯一の欠点は”生きている”生物を収納することが出来ない事。
生きているかどうかはソウルがあるか否かで判断していると思われ、例え無機物でもソウルが宿って動いているならばそれは生きている生物と言える。
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第二話 泡沫の夢、灰の幻実
いやぁ、全く難産でしたね。
仕事が忙しくて書いてる暇も無くて、時折書いてはいたのですけどねw
まあ最近ファークライ5やダークソウルリマスター、とか楽しんでたのでそれも遅れる原因でしたかね。
まあ、今回も楽しんでください。
現在アッシュは、2時間後にギルドに戻ってくるつもりでいた筈なのにギルドに居た。
謎の4人パーティーに勧誘を受け、有無を言わさず腕を取られて連れてこられた場所がギルドだったのだ。
故に2時間・・・むしろ1時間すら経っていないのに、ギルドに戻ってきて席に座っていた。
一応の礼儀としてフェイスヘルメットを外し、テーブルの上へと置いてあった為素顔を晒していた。
中性的な顔立ちの男性であった為に、素顔を見た謎の4人は驚いていた。
「で、何の話だったか?」
「貴方に私達のパーティに参加してもらいたくて。」
金色の髪をした女騎士が、改めて本題をアッシュに伝える。
だがふと思い出したかのように口を開いた。
「そう言えば自己紹介をしてなかったな。私はーーー」
「自己紹介ならまずは私から!!
我が名はめぐみん!アークウィザードを生業とする紅魔族であり、至高の攻撃魔法『爆裂魔法』を操る紅魔族随一の魔法の使い手!」
めぐみんの自己紹介に、一気に空気が静まり返る。
そんな空気を払拭するように女騎士が口を開いた。
後ろで(おい、私の名前に何か言いたいことがあるのなら聞こうじゃないか。)と言っていたが誰も取り合わなかった。
「あー、私はダクネス。職業はクルセイダーだ、攻撃はさっぱりだが防御には自信がある!むしろ盾役は望むところだ、モンスターの群れに放置されても構わない、いやむしろしてくれ!」
ダクネスの自己紹介に、別の意味で空気が凍った。
アッシュにはその方向性が全く分からなかったが、変な奴だということは確かに伝わっていた。
「次は私ね!」
シュワシュワを片手に青い髪の女性が勢いよく立ち上がった。
既に酔いが回っているのか、顔が若干紅く染まっていた。
「私はアクア、アクシズ教徒が崇めるアクシズ教の御神体!水の女神アクアよ!」
「を、自称している可哀想な子なんです。自分が女神だと、そう思い込んでるみたいなんで気にしないでください。
あ、俺はカズマ、佐藤和真です。こんなナリですが、魔王を討伐する為頑張っている冒険者で、このパーティーのリーダーやってます。」
「ちょっとカズマ!誰が自称女神よ!正真正銘の女神よ私は!」
女神と言う単語に反応したアッシュは、力の波動を注視する。
だが読み取れたのは、僅かにブレたエリスと同じ女神の波動。
かなり弱体化が掛けられ、エリスの10分の1以下の力しか感じない為に波動に敏感かつ感知力に優れた者でさえ感知するのが困難な程の弱々しい神の力だった。だが魔力は相当なもので、なるほど流石は女神だと感心する程潤沢であった。
「ふむ、では俺も改めて名乗ろう。名はアッシュ、今朝方この街に来た。まあ先ほどまで狩りに出ていたから滞在時間は冒険者登録中の1時間程度の駆け出し冒険者だ。」
「「(いやいや、駆け出し冒険者が200匹以上もジャイアントトードーを狩ってくるとか可笑しいから。)」」
ギルド内に居たカズマ達のパーティー以外の冒険者たちやギルドの受付嬢は、口には出さずにそう思った。
「さて、パーティー加入の件だったか?入ることについてはやぶさかではないが・・・」
「ほ、本当ですか!!是非!是非に加入してください、お願いします!」
その言葉を聞いた途端、カズマは涙を若干浮かべながらアッシュに懇願するように床に膝を着いて手を組み合わせた。
カズマはこの瞬間、走馬灯のように今までの記憶が蘇ってくる。
問題児アクア、ドM騎士ダクネス、一発しか撃てない爆裂娘めぐみん。
常識人が誰も居ない中、3人に振り回され続けて居たカズマは割と結構限界だったようだ。
元々ただのニートゲーム廃人だったカズマには、少々荷が重かった故にアッシュのパーティー加入を切に願っていた。
「良いのか?昨日入ってきたばかりの新人冒険者だぞ?」
「アッシュさんが入ってくれたらありがたいです!この3人、上位職の癖にあまり役に立たないんで。」
「「(役に立たないとは失礼な!)」」
「ああ、良い・・・」
三者三様の反応を示したアクア、めぐみん、ダクネスの3人。
それを尻目にアッシュは、カズマの差し出した手を握った。
「まあ、よろしく頼む。ついでにこの街について教えて貰えると助かる。」
「はい、よろしくお願いします!」
こうして、アッシュのパーティー入りが決まったのだった。
ーーーー△ーーーー
「そう言えば気になったんですけど、アッシュさんのレベルってどれくらいなんですか?」
ふと気になったカズマがアッシュに訪ねて来た。
カズマはパーティーリーダーを勤めている為メンバーであるアクア、めぐみん、ダクネスのステータスやレベルは一応把握している。戦闘中に指示を出すためには必要不可欠な為必死に覚えたのだ。
故にこれから同じパーティーに入るアッシュのレベルやステータスも知りたいと思い、聞いたのだ。
それを聞いてアッシュはおもむろに冒険者カードを取り出して、レベルの欄に書かれていた数字を口に出した。
「今は77だな。」
「「「えっ!?」」」
その言葉に、ギルド内の空気が一瞬で凍りついた。
現在最高レベルの冒険者は確認されている1人の42レベルが最高である。
それですらこの駆け出しの冒険者の街アクセルでも最高のレベルなのだ、それすらも上回るレベルはもう既に駆け出しとは呼べない程の高レベルであるのだ。
それにカズマのパーティーでは、最高レベルはアークプリーストのアクアでレベル20なのだ。
アッシュの強さがどれだけ物凄いかが、レベルだけですぐに分かる程だ。
「ほ、本当ですか!?アッシュさん!」
「ああ、良かったら見てみるか?」
そう言ってアッシュは自らの冒険者カードをカズマに差し出した。
そのカードを、カズマ達は全員で覗き込んだ。
そこには運のステータス以外の全ての数値が高く表示されていた。
1点特化型ではないアッシュは、全てのステータスの効率を考えながら振っている。
そのため何かに特化しているわけでは無い、万能型である。
だが今のカズマ達に比べれば明らかに高レベルステータスであるのは確かである。
「アッシュさん、精査が終わりましたのでご確認をお願いします。」
「ああ、今行く。」
カズマ達と話していたアッシュは受付嬢に呼ばれて席を立つ。
「すまないカズマ、少し席を外す。」
「あ、はい。分かりました。あ、そうだアッシュさん。それが終わったらクエストに行きましょう。」
「ああ、分かった。」
そう言って去っていくアッシュを尻目に、アクアは腕を振り上げて手に持っていたクエスト用紙を振り回していた。
「いざリベンジマッチよ!!」
ーーーー△ーーーー
日が傾き出し、周囲がオレンジ色に染まりだした頃。
報酬を貰い財布が潤ったアッシュがカズマ達と向かったのは、つい2時間程前までカエルを乱獲していた草原。
クエスト目標もアッシュが今朝受けた物と同じもの。
流石の受付嬢も、アッシュに対して苦笑いをしていた。
200体以上もアッシュに狩られたジャイアントトードーであるが、その繁殖力は異常の一言に尽きる。
過去も湧かなくなるまで狩り尽くされたにも関わらず、30分も経てばまた湧き出すからだ。
故にジャイアントトードー討伐クエストは常に張り出されているのだ。
だが今回はアッシュではなくカズマ達の戦闘力を測るのが主な目的である。
故にエストの灰瓶が尽きているアッシュは危なくなるまで基本的に手を出す気はないのだ。
だが・・・
ジャイアントトードーを視認したアクアが脇目も振らずに突撃して右手を振りかぶり始めた。
「私は女神!こんなカエル如きに遅れを取る存在じゃないのよ!喰らいなさい女神の力!」
『ゴッドブロォォオオオオオッ!!』
アクアは右手を光らせると、突進した勢いそのままにジャイアントトードーの腹へと一撃を叩き込んだ。
『ゴッドブロー』とは神の力を宿した、神々にしか扱うことのできない、神の怒りと悲しみを拳に乗せた一撃必殺(アクア談)のワンパンチ。相手は死ぬとされている。
だがアッシュから見て、込められた力はそんなに無かった。
ポス・・・
アクアの渾身の一撃は、ジャイアントトードーの腹部に衝撃を全て吸収されてアクアの右手を少しめり込ませていた。
ジャイアントトードーの腹は物理攻撃の大半を吸収する。
斬撃の特性を含まない打撃系の武器は特に吸収されやすく、連発して攻撃するかキャパオーバーのダメージで一撃を与えるかしなければ腹部のダメージ吸収を超えられない。
そして全力に近しい一撃を放ったアクアは、カエルを見上げる。
そこにはもう既に開いた口が目の前に迫っていた。
「ッチ、役に立たないとはこういう事か。」
パーティー加入時にカズマが言っていた、上級職なのに役に立たないと言う言葉を思い出しながらアッシュはとある武器を構えながらアクアを押しのけカエルの目の前に立ち、その腹に一撃を叩き込んだ。
「あ・・・」
バチバチとイカヅチがカエルの体を駆け巡り、同時に腹を切り裂かれて絶命する。
『竜狩りの大斧』
竜狩りの鎧が持っていた、強い雷を纏った大斧。
斧であるが故の斬撃の特性と雷属性を持ったその武器は、アッシュが永遠とも言える火継ぎの旅で手に入れた数ある武器の中の1つ。当然の如くフル強化されている為、ダメージ吸収のキャパシティを容易に超え、オーバーキルのダメージを与えた。
「やべぇ、アッシュさんマジかっけー。」
それを見ていたカズマも、めぐみんも、ダクネスも、その強さに魅了されていた。
だがアッシュはアクアを左手で掴むと、残りのジャイアントトードーをガン無視してカズマ達の元へ戻ってきた。
「カズマ。このダメ神は俺が見ていよう、残りは3人で片付けてくれ。」
「ではまず私が行きましょう。」
そう言ってめぐみんが一歩出て、颯爽と杖を構えた。
「あ、おいまてめぐ「我が魔力にて、敵を滅する爆炎を。我が呼び声に答え、具現せよ業火!」
カズマの静止を振り切り、杖を掲げながら詠唱する。
そして魔力が最高潮に高まっためぐみんは、視界に捉えたジャイアントトードーに向かって高らかに唱えた。
『エクスプロージョン!!!』
その刹那、ジャイアントトードのいる場が光り周囲を眩く照らしつんざく音を立てて爆発し、範囲内のジャイアントトードーは灼熱の業火に呑まれた。
これこそがめぐみんが持ち得る最強にして唯一の攻撃魔法、『
範囲内のジャイアントトードーは、その強烈な威力に文字通り塵へと帰った。
しばらくしてから爆煙が収まると、範囲内のジャイアントトードーは文字通り殲滅されていた。
そう{範囲内}は、である。
多少集まっていた場所のジャイアントトードーは消滅したが、撃ち漏らしはかなり居る。
だが件のめぐみんは、再度爆裂魔法を撃つようなことはせず。
そのまま地に倒れふしたのだ。
そう、爆裂魔法はものすごく燃費が悪い。
威力だけを見ればどんな魔法も追従できないほど抜きん出ているが、その消費魔力は他のどんな魔法をも群を抜く程に恐ろしく高い。魔法の扱いに長け、魔力量もかなりの量がある紅魔族のめぐみんでさえ1発撃てば空になるほどの消費量。
冒険者達からは単なるネタ魔法と呼ばれるモノが、爆裂魔法と呼ばれる魔法だ。
これにアッシュは完全に呆れ返った。
MP管理、無くなった後の保険、奥の手、切り札。
何も用意しておらず、ただただ最強の一撃のみなのだから。
この時点でパーティーに入ったことを若干後悔していたが、アッシュはカズマに期待していた。
こんな問題児を抱えていながらも、カズマは決して弱い訳では無い。
カズマの女性に対する対応等を除けば、このパーティーで唯一の常識人であり、戦闘に関する観察眼や小手先の技術を応用した戦術を即興で編み出す柔軟性等を、アッシュは評価していた。
現在アッシュの目の前では、ダクネスが頬を紅く染めながら体をくねらせながらジャイアントトードーの攻撃を回避しながら囮を努め、それを目当てにやってきたジャイアントトードーをカズマが脳天に攻撃を加える事で確実に倒していた。
自ら食われようとするダクネスを時折聞こえてくるカズマの罵倒によって更に頬を染め体をくねらせる事で回避させると言う、なにげに高等テクニックを用いていた。
カズマはなにげにしっかりと、舵取りをしながら確実に戦っていた。
他の2人の奇行とダクネスの変態性、これらに目を瞑れば割とバランスの取れたパーティーなのだ。
遊撃と囮、回復と一撃必殺。
何とか一箇所に敵を集めれば一撃で葬り去る事だって可能なのだ。
まあ、カズマの指示をまともに聞けばの話だが。
そして数分後には、残っていた数体のジャイアントトードーは死体となって地に伏していた。
「アッシュさん、どうでしたか?」
「妥協点と言ったところか。めぐみんやアクアに比べ、カズマとダクネスの連携には目を見張るものがあるな。鍛えたら化けそうだ。」
率直な感想を述べるアッシュだが、その答えに不満を見せる若干2名。
めぐみんとアクアである。
「ちょっと待ってくださいアッシュ!私のどこがダメなんですか、いい爆裂だったじゃないですか!」
「そうよそうよ、私の何が悪いのよ!私は全力を出したわ!あんなカエル如きに女神であるこの私が負ける訳が無いのよ!」
2人の言い分に、大きくため息を吐くアッシュ。
自らの行動の反省点を理解することなく、正当性を主張する2人には、そばで見ていたカズマも頭を抱えていた。
「はぁ・・・・・・めぐみん、爆裂魔法を1発撃った後は知らぬ存ぜぬ等、そんなものパーティー行動には毛ほども役に立たん。単なる足手纏いに他ならん。
そもそも先手で切り札を切って動けなくなってどうする。避けられたら?殲滅し損ねたら?カズマの助けが無かったら?ダクネスの助けが間に合わなかったら?アクアの助けが間に合わなかったら?その時お前はどうする?」
「んぐッ・・・・」
完全に論破されてしまっためぐみんは、悔しげな表情で口を噤む。
アクアはへっぽこで真っ先に突撃し、カズマはダクネスの囮スキル『デコイ』で集まってきたモンスターを狩っていた。
そしてめぐみんは爆裂魔法で動けなくなっていた。
この状況でめぐみんがカズマ達と分断されて、単身でモンスターと遭遇してしまえば、身の安全を保証してくれるものは何も無いのだ。
「で、アクア。お前は何故打撃系の物理攻撃が効かない腹部へと殴りに行く?」
「女神の私の攻撃が、あんな低位の、カエルなんかに効かないなんて可笑しいわ!私の一撃は必ず効く筈なのよ!」
女神の力が込められた一撃をも吸収出来るなんて可笑しいと主張するアクアだが、アッシュが見た感じだとそれほど力が込められているようには見えてなかった。
恐らくはアクアに掛かった弱体化のせいだろうと推測するが、本人には自覚症状が全くなく、弱体化も何らかの呪いによって強制的になっている状況でも無い為判断しかねていた。
「何故そこで攻撃場所を変えると言う発想が出ないのか、甚だ疑問なのだがな。」
それはアッシュが今までの経験から導き出した答えだった。
生物だろうがゴーレムだろうが、万物には必ず弱点と成りうる綻びが存在する。
だがそれ以外の場所では、攻撃が効き辛かったり全く効かなかったりする部位もある。
効き辛ければ別の場所へと攻撃を繰り返し、弱点を突けば容易に倒す事が出来る。
それをアッシュは死んで覚えてきたが、冒険者は死んだらそこで終わりである。
時間を掛けるほどMPや回復アイテムの残量等が心もとなくなり、長期戦が続くほど不利になる。
だからこそ、どこの部位を攻撃するとダメージが通りやすいか等は知っておく必要がある。
だがアクアには、何度言っても女神だから効くはずと言って聞かなかった為、流石のアッシュでも諦めてしまった。
これにはカズマも苦笑いを隠せなかった。
「まあアッシュさん、一先ず帰りましょう。」
そう言って一行は帰路に着いた。
ーーーー△ーーーー
「ジャイアントトードー計13体の討伐、お疲れ様です。報酬の77500エリスになります。」
今回のクエスト報酬を受け取り、今までで一番稼いだ日となったカズマは拳を挙げて思わず叫んでしまう程だった。
受け取る事を辞退したアッシュの分を4人で分けても、1人19000エリスだ。
「やった!やりましたよアッシュさん!初めてこんなに稼げました!」
「今回俺は何もしていない、これは全てお前たちが手にした成果だ。」
両手を挙げて喜ぶ4人を見て、アッシュも自然と顔を綻ばせる。
それはアッシュが火継ぎの旅の中で久しく忘れていた、『感情』というものであった。
失くしたと思っていた感情が出てきたと言う事自体、アッシュにとって更に顔を綻ばせる事となった。
「やった!これで馬小屋生活から脱却だわ!」
ピシッ
アクアが放ったその言葉に、アッシュの綻んでいた顔が一瞬で凍りついた。
カズマ達4人、今まで満足な報酬を得ることができず、得たとしてもアクアの浪費癖で消えていた為、今の今まで宿も借りれず馬小屋で寝起きを共にしていたのだ。
カズマならともかく、アクアやめぐみん、ダグネスは傍から見て十二分に可愛い美少女である。
カズマからしてハーレム状態だが中身が残念と言わしめているが、冒険者の中には女に飢えている男連中だって居るのだから。馬小屋なんてものはプライバシーは愚か、セキュリティの面でも皆無である。
寝ている少女を蹂躙することなど簡単なのだから。
「カズマ・・・」
「いや、待ってくださいアッシュさん!俺は悪くないんです!悪いのは毎回稼ぎのほとんどを酒に突っ込むコイツが悪いんです!」
そう言ってアクアを指差すカズマの言い訳に、
アッシュは同意していた。
カズマが初期装備すら揃えられず宿屋にも止まれない程金欠だと聞いていたし、アクアの金遣いの粗さも聞いた。
ダグネスやめぐみんが足枷となって、今まで稼げなかったと言う現状も聞いた。
だが少女3人を馬小屋で生活させていたのは流石に見ていられなかった。
「ならカズマ、明日俺は少し別行動させてもらう。少々用事が出来たからな。」
「あ、はい。分かりました。」
アッシュの感情の温度差に呆然としながらも返事をしたカズマ達は、満足げに頷いたアッシュの後に続いてギルドを後にした。
因みにだが、アッシュも馬小屋で一夜を明かした模様。
最も火の無き灰であるアッシュに睡眠も食事も、生理現象すらも必要がない為カズマ達が眠っている横で夜が明けるのを待っていただけだが。
ーーーー△ーーーー
翌日、アッシュはカズマたちと別れ、1人不動産屋へと来ていた。
元々篝火を設置する為の拠点をどこかに構える予定であった為、それが少し早まっただけとなった。
当初はどこかのホテルの1室を拠点として借りることを考えていた。
アッシュの強さならアクセルの街の付近に生息するモンスター等容易に狩ることが出来るため、2~3クエスト受ければ宿代等直ぐに稼げてしまう。
それに加え鎧を多数所持している為に服も買う必要がなく、食べることも必要ない。
そして武器も、限界まで強化された神器すらも凌駕する数多の武器をソウルとして収納している為新規に買う必要が無い。
そうなってくると出費は宿代のみで、金は腐るほどに溜まっていく。
ならばせっかくパーティーを組んだカズマ達の為に使ってしまうというのも悪くはないのだ。
「今すぐ入居出来る家は何処かにないか?合計で5人なのだが。」
入店して案内された別室で、アッシュは早々に持ちかけた。
「5人で今すぐ・・・となると、この5件が空いていますよ。」
アッシュの前に渡された資料を1つ1つ読んでいく。
意外にもアッシュは見比べながらも即決して答えを出さない。
こう見えても完璧主義者であるらしい。
自身の所持する武器が全て限界強化されている所からも、その完璧ぶりが窺える。
「候補としてはこの2件だな。内装などは見せてもらえるのか?」
「はい。今すぐにでもご覧になられますか?」
その言葉に少し考え込むアッシュ。
カズマに1日別行動すると言ってあるとはいえ、現在はもう昼前。
朝からここにいることを考えれば相当悩んでいた事が伺える。
そのため、これ以上となると昼を過ぎて夕方になってしまうだろう。
そうなると家を決める前に夜になってしまう可能性もある。
「ああ、頼む。」
「ではこちらの物件から行きましょう。」
その言葉の後に案内を始めようとした受付嬢だったが、突如なったサイレンによりその足を止めた。
『緊急クエスト発令!緊急クエスト発令!街の中に居る冒険者各員は、直ちに冒険者ギルドに集合してください!繰り返します!緊急クエスト発令!冒険者各員は、直ちにギルドに集合してください!』
「すみませんアッシュさん、とても案内出来る状況ではないですね。」
「そのようだな。」
アッシュは机に立てかけて有った大剣を手に立ち上がり、その足を店の外へと向ける。
「世話になった、続きはまた明日来るとしよう。」
「ええ、ご来店お待ちしております。」
その言葉を聞きながら、アッシュはギルドに向かって走って行った。
ーー△ーー
一方その頃、カズマ達はギルドのテーブルで食事を取っていた。
昨日アッシュと共に行ったクエストの報酬がいつもと比べて倍以上有った為に、今日の朝は豪勢にしようと4人でいつもとは違う少しお高めの料理を注文して舌鼓を打っていた。
「それにしても、アッシュさん強かったよなぁ・・・」
「そうだな。あれだけの技量や武器を持った騎士だ。仕えていた国はよほどの強国だったのだろうな」
ふと呟いたカズマの独り言に、ダクネスが同意する。
そう思うほどにアッシュの技量や武器などは卓越したものだったのだ。
火継ぎの旅を永久に繰り返していたアッシュは、薪の王を、光の王グウィンすらも超えていると言ってもいいだろう。
だが最初からそうであったわけでも、ましてやどこかの国の騎士だった訳でもないのだ。
ダークリングが現れた時から、火の無き灰としての使命を全うしていたと言う訳でもない。
彼は元々、名も知れぬ流浪の民の子だったのだから。
今はもうそんな出生は関係なく、記憶も存在しない。
だが当時は、親の顔も、ましてやどこで生まれたのかすら分からず、自分の名を持たず、ゴミを漁って生きていた。
そしてダークリングが現れ、馬車に轢かれても死ねず気味悪がれて棺桶に閉じ込められてどことも知れぬ土地に捨てられた。
捨てられた時の記憶等、もうアッシュは持っていない。
だが拾われた時の・・・
火守女に出会った時の記憶だけは、今でも鮮明に思い出せる。
それがダークリングを宿して以来、
「でもアッシュさんにおんぶにだっこって訳にも行かないよな、俺も強くならないと・・・」
「うむ、その息だカズマ。若干名・・・分かっているのか不明だが。」
そう言ってダクネスが顔を横に向けると、何やら料理の取り合いをしているめぐみんとアクアの姿が有った。
カズマとダクネスが2品程度しか頼まずに多少お金の余裕を作っておこうとしている間に、この2人は最も高いものを頼んだのだ。
1品ならまだ多少の贅沢で流せただろうが、2人が頼んだのは合計で10品である。
1人5品で、5000エリス程かかっている。
たいていの料理が500エリスから800エリス程度で食べられる事を考えれば、十分に使いすぎであった。
だが、4人で分けた報酬の自分の分で払って食べている為カズマやダクネスには何の影響もない為か何も言わないでいたのだ。
そんな中・・・
『緊急クエスト発令!緊急クエスト発令!街の中に居る冒険者各員は、直ちに冒険者ギルドに集合してください!繰り返します!緊急クエスト発令!冒険者各員は、直ちにギルドに集合してください!』
突如として街中に大音量で鐘の音と共にアナウンスが響き渡る。
「おい、緊急クエストってなんだ?モンスターでも攻めてくるのか?」
「なんだあんちゃん、知らねーのか。この時期は収穫祭だよ、キャベツのな。」
「は・・・キャベツ?キャベツって・・・モンスターの名前かなにかか?」
こんな異世界でキャベツなんて単語を聞くとは思っていなかったカズマは、自分が見たこともないキャベツと言うモンスターかと思って口に出した。
「キャベツとはまん丸の緑色のやつです、食べられるものです。」
「噛むとシャキシャキする、歯ごたえのある美味しい野菜の事です。」
と、ダクネスとめぐみんの言うことに、一瞬理解が追いつかなかったカズマだった。
「ッテ!そんなこと知っとるわ!じゃあ何か?緊急クエストだのと騒ぎ立てて、冒険者達に農家の手伝いをさせようてか?このギルド連中は。」
「あー・・・カズマは知らないんでしょうね?ええっとね、この世界のキャベツは・・・」
アクアが申し訳なさそうに言いかけるのだが、それを遮るようにギルドの受付嬢が建物内の冒険者に向けて説明を始めた。
「みなさん、突然のお呼び出し申し訳ありません。もう既にお気づきの方も居るとは思いますが、今年もキャベツの収穫時期がやってまいりました。今年のキャベツは例年より出来が良く、1玉の収穫につき1万エリスになります。既に街の住民の皆様には家に避難して頂いております。では皆様方、出来るだけ多くのキャベツを捕まえ、ここへと納めてください。くれぐれもキャベツに逆襲されないよう、キャベツといえどジャイアントトードーと同程度の難度があります故。なお、報酬は後日支払いとなりますのでお忘れなきよう。」
その瞬間、ギルドの内外が歓声で溢れかえった。
ダクネスやめぐみんに連れ出されて外に出たカズマも、その姿を目にする。
ギルドから真っ直ぐ伸びる街道、その先の門に迫るようにやってくる大量の緑色の物体。
唖然としているカズマの隣に、籠を持って現れたアクアが口を開いた。
「この世界のキャベツは飛ぶわ。味が濃縮されて収穫時期が近づくと、簡単に食われてたまるかと言わんばかりに街や草原を疾走するの。彼らは大陸や海を越え、最後は人知れず秘境の奥で誰にも食べられずその生を終えると言われているわ。それなら私達が彼らを捕まえて美味しく食べてあげようってことになったのよ。」
食べられまいとあっちへこっちへ飛び回るキャベツを、冒険者達は全力で狩りに行っている。
緊急クエストというレイドが発表されたときの緊張感は何処へやら、カズマは脱力してしまった。
「もう、帰っていいかな・・・」
何が悲しくて、キャベツを狩る為に転生しなければならないのかと。
カズマは頭を抱えていたのだった。
追加した設定について
カエル乱獲後のレベル。
素性:持たざる者
レベル:77
生命: 40
集中: 10
持久: 20
体力: 15
筋力: 20
技量: 20
理力: 15
信仰: 9
運: 7
このスバに適応したステータス
Strength(力) 150
Health(体力) 200
Magic pow(魔力) 480
Dexterity(器用) 400
Agility(敏捷) 300
Luck(運) 60
オリジナル設定として、装備の必要能力値に達していなくても奇跡や呪術、魔術を発動することは出来る。
だが威力にかなりの下方修正がかかる為、適正能力値以下での使用は推進出来ない。
因みに転移後のレベルアップ方式は少し変わっており、レベルアップ後に各ステータスにポイントを割り振っていく方式になっている。
アクアの弱体化
カズマが特典として選んでしまった為に課せられた、能力の下方修正。
地上で神の力を使う事は禁忌に触れる為、地上で使っても神の使いや巫女等と誤魔化せるよう神力を天界に居た時の10分の1程度に落とされる。
因みに女神エリスも、冒険者クリスとして地上で活動するうえで同様の弱体化を受けているが、アクアとは違い自らが解除することも可能である。
アクアの場合は特典として選ばれてしまった為、自分の意思では天界に帰れず地上に居るしか無い為に解除出来ず、エリスの場合は自由に行き来出来る為に天界に帰れば解除されると思われる。
アッシュのパーティーメンバーに対する評価。
カズマ
特筆するような才能も抜きん出た技術も無いが、その機転と発想力は物凄い。
運も高く技術の組み合わせも上手い為、鍛えたら化ける可能性が高い。
めぐみん
その潤沢な魔力を他の様々な魔法に使えば、魔法使いとして大成することは間違いないが…本人が爆裂魔法しか使う気が無い故に現在はほぼほぼ足手纏い。
隙を作って強大な1擊を入れるとき位しか、運用方法が思い付かん。
ダクネス
防御や回避に関しては俺を超えるかもしれんな。
だが攻撃には全く期待できん。
稽古で斬り合った時、相対している俺に一撃すら入れられなかったからな。
純粋に囮や盾役なら最良の存在だ。
アクア
回復や蘇生、浄化や状態異常回復位しか頼れないダ女神。
女神だというのに、一言で言って馬鹿である。
戦闘中だろうと日常だろうと、目を離すとろくな事をしない問題児。
カズマが苦労するのも頷ける。
因みに原作とは少しお金事情を変更しております。
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