射命丸文は伝えない (夢見 双月)
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黒の聖夜
文を綴る 『文』


 ペンを走らせる。

 

 見たものを文字化させ、読者に視せる。

 

 聞いたものを簡単にし、読者に聴かせる。

 

 

 そして、伝える。

 

 それが射命丸文の、文々新聞の記者の仕事だ。

 

 彼女はかつて、そう誇った。

 

 

 しかし、世の中には伝えたくないものもあるわけで。それは文々新聞も例外ではなかった。

 

 理由は様々。みんなが知るべきではないと判断したものや、単純に自分が恥ずかしいと思ったもの。

 

 今回のこれは、おそらく後者の理由である。

 

 

 

 

 

 

「なんていうか……そのー、もうちょっと映えるというか、派手なものは無いものですかねぇ?」

「あっ、と驚く発明なんて、ヒラメキがなけりゃ出来ないに決まってるよ。あんたの新聞が当たるのと同じくらいの確率でしか成功しないしね」

「あれ、割とディスられてません私?」

「気のせいだよ。そのぐらい私も苦労してるってことさ!」

 射命丸は発明好きの河童、河城にとりの工房に取材に来ていた。経緯としては、平和で書き記すことがなかったから書くことがなかったためである。

 いつもなら適当にでっち上げて、風評被害者から満身創痍にされるのがいつもの光景だが、長い間、にとりの工房に入らせてもらってないことを思い出し、記事になる発明がないか見に来たのである。結果は芳しくないが。

 

 にとりの方も、どうせなら、と広めてもらうために色々紹介はしている。しかし、実はにとりもにとりでしくじっていた。最近、大きな発明のために部品を節約しており、目玉と言える発明がなかった。それでも必死に売り込んでいるが効果はあまりない。

「これはどうだい!?名付けて『コンタクトランチャー』っ!!盟友が言っていた台詞の『真の英雄は目で殺す』から閃いたものさ!一回だけの使い捨てだけど、前方3キロは焦土と化すよ!威力調整すれば、肉を焼くことも出来る優れものさッ!」

 果たして肉を焼くことは必要なのだろうか。ちなみに、にとりのいう盟友とは人間の事である。射命丸は首を横に振ると、にとりは口を尖らせた。

「これじゃ仕方ないですねぇ。にとりの発明をランキング形式で載せましょうか」

「いいじゃないか!?そうしてくれよ!」

 

「最下位をデッカくしておきますね!」

「意味ないんだけど!?」

 

 他愛のないじゃれ合いをしながら奥に進む。すると、奥の方に緑の光球が中央で浮かんでいる機械を見つけた。

「にとりさん、これなんです?」

「これかい?これは色んな偶然が重なって出来たエネルギーさ。使い道はまだ分かってないけど保存できるから、とりあえずこのままにしてるって感じなんだけどね。スイッチを入れて解放させればもう少しおっきくなるし、綺麗だよ。最初は外の世界のメロンジュースを作ろうとしただけなんだけど……」

「いやどうやったら逆にこうなるんですか。……少しスイッチを入れてください、綺麗だったらコレを見出しにしますので」

「ガッテン!ちょっと待ってておくれー!」

 待っている間にカメラの準備をする。禍々しくも、穏やかになりそうな優しい光で自分を照らしている目の前の機械に、なんとなく、なんとなくだが、懐かしさを感じた。

 

 撮影準備完了。いつでもいける。

 

「いっくよー!スイッチオン!」

 稼動し始める。光球に波が出来て、次第に回りはじめる。徐々にだが、球自体も大きくなる。それはまるで、緑色の星であった。

「綺麗」

 そう、口から溢れた。それでもカメラを構えるのは変わらない。

 光球の表面に波がある、ということは模様が一番綺麗になるのは一瞬で一回だけ。海とかいうものと似て、同じ模様は絶対にない。それを撮り損ねないように注視し続ける。

 

 またシャッターを切る。まだ足りない。満足な出来じゃない。

 

 にとりは射命丸と同じように光球に見惚れていた。射命丸にはにとりの抱く気持ちは想像出来ない。娘をカメラマンが撮ってくれてるような誇らしさだろうか。案外、合ってるかもしれない。

 余分な思考を早々に切り上げ、目の前に集中する。シャッターを切る手は絶対に休まない。

 もうしばらくして、全部で50枚ぐらい撮った後、射命丸はにとりに告げる。

「もう大丈夫ですよ。ありがとうございます」

「分かった!止めてくるねー」

 にとりが奥に突っ込んで消える。その間に写真を確認する。いくつかは手応えがあった。ベストショットもきっとあるだろう。そう思い確認していた。

 

 刹那、バシュン、と何かが炸裂したような音が鳴った。

 

「文!!機械がスイッチ押しても止まらなくな……!……あれ?文?」

 

 射命丸文は、緑の光球と共に消え去っていた。残ったのは中身が空っぽの機械だけだった。

 

 翌日、射命丸のライバルである姫海棠はたてが、射命丸の失踪を記事に載せた。

 

 

 

 

 

 

 一瞬の事だった。緑の光に包まれた後、液体の中にぶち込まれた感覚がした。急に息が出来なくなり、パニックに陥る。

「ガボッ……!ガバ、ゴポ!?ガボ、ボコボコボ–––––!」

 必死にもがく文に、全身に突き刺さるぐらいの冷たさが押し寄せる。

 

 寒い。寒い!寒いッ!

 

 死ぬッ!!

 

 まだ浅い場所のようで下に足がついた。勢いよく立ち上がり、あたりを見回す。

 

 

 

 一面の銀世界が広がっていた。

 

 

 

 

 季節は冬。射命丸文が落とされたのは極寒の中での川だった。

「は、はは」

 乾いた笑いしか出ない。身体が震え、急な温度変化に心臓がついていかない。全身がかじかんで上手く動かない。

 ふと近くに何かが飛んでくる。少し身構えたが、それはロープに繋がれた浮き輪だった。

 

「あんたー!大丈夫かー!一回、河原の方に来い!」

 

 拒否する余裕もなかった文は浮き輪を掴んで倒れた。動く気力はなかった。引っ張られる感覚と共に、顔にかかった水がとても冷たかった。

 

 

 

 少年は上着を文に羽織らせ、体全体を見回して状態を確認する。

「完全に冷えてるな。大丈夫か?」

「……」

 声は聞こえないが、少年には何か言おうとしていることはわかったようだ。

「何も言わなくていい。一旦家に連れて行くぞ。俺の上着を羽織っておけ」

 抱き上げて少年は自宅に向かう。かなり揺れてしまうが急ぎ足で向かう。「うう……」という呻き声が聞こえたのか、少年がいささか焦った。幸い、彼の家はここらの建物の中で一番近いらしい。足でドアを開け、二人分の靴を置いて中に入る。そして、囲炉裏の火の前に少女を置いた。

 

 

「そこでしばらくあったまっているといい」

「……あ、」

「まだ無理をするな。座る事すら億劫に感じるなら寝ていろ。毛布を持ってこよう。汁物も作らなくっちゃな」

 少年は何処かに行ったと思うとすぐに戻って、バスタオルと毛布を渡してきた。文は軽く会釈して受け取った。羽織っていた少年の上着を脱ぎ、バスタオルを挟んで毛布にくるまる。

 少年は文の顔をしばらく見て、毛布を取りに行った部屋とは別の部屋に入っていった。

 

 何も聞かず、ただ助けてくれる少年がありがたく思えた。

正直、自分すらまだこの状況を理解出来ていない。しかし、原因はなんとなくわかってきた。

(きっと、あの緑の光球のせいです。よくわからないけど、アレのせいでここまで飛ばされたみたいですね)

 

「昨日の残りだが、味噌汁だ。飲んでおけ」

「ぁ、ありがとう……ございます。……ぁっ」

「すまない、熱すぎたか」

「いえ……大丈夫、です」

「そうか」

 今度は気をつけて味噌汁をすする。まるで内側から寒さが溶かされていくようで。

 ––––生き返った。

 それをみた少年は、また何処かへ行く。「あ、その……」と引き止めようとするが無視される。いや、無視というよりは単純に気付いていないようだった。

 しばらくして、味噌汁を飲み干すのと少年が戻ってくるのはほぼ同時の事だった。

「あ、あの!……ありがとうございました。実は……」

「事情か」

「は、はい」

「急用があるのか?」

「あ、いえ。それはないですけど……」

「なら、いい。もう少しいろ。夕方に行くにつれて今日は雪が酷くなってくるから、当分は動けないかも知れん。風呂に入れ、案内する」

 少年に出鼻を挫かれ言いたい事も言えず、文は若干拗ねながら少年について行った。

 

『風呂は一人で大丈夫か?……そうか。すまないが少し出掛ける。風呂から出たらゆっくりしていろ』

「……ふぅ……」

 じんわりと温かさが外側から入ってくる。寒いからだろうか、風呂の魅力が倍増してように思える。とても気持ちがいい。

 風呂は広く、最初はあらかじめ沸かしてくれたのかとも思ったが、ここは源泉掛け流しの温泉のようで、いつでもこの風呂に入れるのは贅沢に感じて少し羨ましい。妖怪の山にもこんな風呂があればいいのに。

 ところで、あの少年はなんなのだろうか。この世界はなんなのだろうか。おそらく外の世界だとは思うのだが、少年の性格がイマイチ掴めない。いい人というのはわかっている。だが、あんな感じの無愛想でいい人というのは幻想郷でも中々いない。感情を表すのが器用な方ではないだけか。それとも、何か大きなものに巻き込まれていたか。少なくとも只者ではないだろう。好奇心が湧いてくる。知りたくなってきた。少年には質問されるとは思うが、その時に私からも逆に質問しよう。記者たるもの、好奇心には正直に。

「まぁ、どっちみちあとでわかる事ですね。ついでに写真でも一枚撮らせてもらって…………ん?」

 

 違和感。

 

 そういえば、頭に被っていた小さい帽子とか、肩に掛けてあったカメラとか、手帳とペンとか。着替える時に持っていたっけ?

 

「……あわわ」

 どれもこれも記憶にない。顔が青くなり、慌てて着替えのところに走る。

「ペンと手帳……!は、ポケットにあった!濡れてるけど今はいい!帽子とカメラは!?……ない!ない!ない!どうしよう……!」

 

 居ても立っても居られず、走る。川に向かおうとする文に、玄関で帰って来たばかりの少年が即座に引き止めた。

「……!?どうした。その急ぎようからただ事ではなさそうだが」

「仕事道具とか、他にも落としたものが!!今ならまだ間に合うんです!行かせてください!」

「ダメだ」

「……っ!?なんでですか!?私の大事な……」

「さっき川に行って、ある程度のものは回収出来た。だから落ち着け」

「……えっ」

「後、勘違いしているようだが俺は外出そのものを拒否した覚えはない。自分を見てみろ。裸で外に出るのは自殺行為だと分かるだろう?」

「えっ?あ、ああ……!」

 文の顔がどんどん赤くなっていく。少年は見ないように気をつけながら口を出した。

「……見なかった事にしておくから、風呂に戻って温めなおしてこい。な?」

「わぁぁあああ!?!?」

 風呂に戻った文は、珍しく長風呂をした。

 

「……なぜ、土下座をする?」

「すいませんでした!!」

「……まぁ、気持ちは分かるが。事故だ、あれは」

「忘れてください!!」

「……まぁ、無理だろうな」

「お願いします!!」

「……すまない」

「うわぁぁあああ!?!?」

 文はのたうち回った。文のいつもの服は洗濯に出すために着替えられず、淡い青と白の浴衣にワインレッド色の上着を羽織っている。下着は、かつていた少年の姉の古着があり、それを借りた。「女性のそういうサイズは分からない」とタンスの引き出しごと持ってきた少年には少し驚いてしまった。ぴったりなものがあると伝えると安堵していたが。

「俺には姉さんと妹が居たからな。特に姉が活発なせいで、全裸で出会うなんて事故はよくあったから慣れている。要は、俺は気にしないと言いたいんだが……」

「うう……」

「俺の問題ではないようだな。なんと言えばいいか分からない」

「もう、お嫁に行けません……」

「……すまなかった」

「いいです……!元は自分のせいなので。それより、色々聞きたいことが」

「奇遇だな、俺もだ。いくつかあるだろうし、お前からでいい」

 

「まず一つ目、ここはどこですか?」

「見ての通り、田舎だ。日本の都市部には少し近いし電車も通るから不便ではないが。すまん、この家は最近譲渡されたばかりでまともに住所を把握していないんだ」

「大丈夫です、十分なので。次に、あなたの名前を伺っても?」

「名前は捨てた。以前は名字があったのだがな。ここに住んでた爺さんが亡くなって、その名字でいる義理もなくなった」

「な、何故ですか?」

「何故捨てたか、か?俺の親は所謂DVというやつでな。虐待は当たり前、自分の子を子と思わない奴から付けられた名前をずっと置いとくと思うか?」

「そ、そうですか……なんかすいません」

「過ぎた事だ。……爺さんが居た時もそうだったが、自分に付ける名前が思いつかなくてな。適当に呼んでくれ」

「分かりました。……あと、私の落としたものって……」

「これだな」

「そうですね。両方とも私のです!帽子はともかく、カメラは濡れて……ないですね」

「運が良かったのか、カメラは上の木の枝に引っかかっていた。帽子は下流まで流れていっていたが、問題なかった。他に落としたものはなかったか?」

「はい、大丈夫です!最後に、一枚いいですか!?」

「……ああ、いいが」

「じゃあこっち来てください!もう少し寄って!私写らないじゃないですか!」

「ふ、二人で撮るのか?」

「はい!……いい感じですかねぇ。撮りますよ!アザナさん!」

「アザナ?」

「私が今決めた、貴方の名前です!どうですか!?」

 

 

「……ああ、いい名だ。精々大事にするとしよう」

 

 

 パシャリ、と一枚。助けてくれてありがとう。

 そんな言葉も添えて。

 

「あと、十枚は撮りましょう!!」

「そこまでは勘弁してくれ……」

 

 

 

「次に俺の質問だ。いいか?」

「ちょっと待ってください、今写真を確認しているので!」

「職業病とでも言うのか、ここまでとは思わなかったな。楽しいならとやかく言うつもりもないが」

「はい、綺麗に撮れてました!差し支えなければ、記事にしても!?」

「記者とは思っていたが、新聞屋だったか。構わんが、つまらない記事になるだろう。それでもいいのか?」

「大丈夫です!面白くするのが私の役目ですから!」

「そうか。質問に移っていいか?」

「あっ、すみません!…どうぞ!」

 文は座り直し、言葉を待つ。少年は口を開く。

 

「箸は使えるか?」

「えっ?」

「どうなんだ?」

「使えますけど……」

 

「次だ、コメは二合炊こうと思っている。もう少し食べたいか?」

「えっ?多分、ちょうどいいと思います」

 

「そうか。今日の夕飯は鍋でいいか?」

「なんでそんな質問何ですか!?」

「……?鍋は嫌か?」

「そうじゃなくて鍋でいいですけど!もっと他にないんですか!?」

「夕飯は大事だろう」

 

「違う、そうじゃない!私の名前とか、どこから来たとか、あるでしょう!?」

「そうだな、名前は聞こう。他は別にいい。お前が話したくなったら聞こう」

「なぁっ!?……はぁ〜、もういいです。射命丸文と言います、よろしくお願いしますね」

「シャメイマル……それが名字か。珍しいな」

「名前がなかった人に珍しいと言われるのは少し複雑ですけどね。好きに呼んで下さい」

 

(あや)

「ぶっ!?」

「…?どうかしたか?」

「いえ、それで大丈夫です……!くっ、卑怯な……」

「何か言ったか?」

「いいえ、なにも!!」

「?」

 

「作ってくる。しばらく待ってろ」

「待ってください」

「どうした」

「夕飯の前に風呂に入ってください」

「……別にいい」

「ダメです!気付くのが遅れた私も私ですけど、ずぶ濡れじゃないですか!なんでそこまで顔に出さないでいられるか分かりませんよ!」

 よく見れば、全身が濡れている。カメラや帽子を取りに行く時に、川の中に入って探してくれたのだろう。

(そりゃ止められた時に、掴んだ手が冷たいなぁ、とは思いましたよ!?でも私は風呂に入ってたし、何より裸だったらそれどころじゃないではないですか!?)

 

「褒めているのか」

「褒めてません!!」

「……冗談だ。だが、俺よりもお前の事だ。気にしないでいい」

「気にします!私の物の為に身体張ってくれたんでしょう!?それで風邪なんかになられてしまっては、私の罪悪感がやばいんですよ!貴方がどうなろうと構わずに喜べる程、ゲスくないので!」

「……」

 

「とにかく、ゆっくり入って来て下さい。お願いします」

「……ああ、分かった。言葉に甘えさせてもらう」

 アザナは風呂に向かっていった。文は囲炉裏のある部屋で暖まりながら先程の自分を振り返る。

「……ふぅ。アザナ、さん……か……」

 自分が名付けた名前。それも少年は受け入れてくれた。

「……なぁにやってんですか私はぁ!?!?なに初対面で名前なんてつけちゃうんですか!?頭おかしくなってますよねコレ!?アザナって!!アザナって!?あ〜もう少しいい名前はなかったのかなって、そういう事じゃなくてなにやってんの私ぃ〜……!!」

 いやぁぁあ、と、またもやのたうちまわる文。文の自己嫌悪はアザナが風呂からでる直前まで続いた。

 

 そのアザナはというと。

「アザナ、か。……ふむ、射命丸、アザナ。語呂も……いいか?。…………ふぅ、ダメだなおれは。さっさと上がるか」

 こちらもこちらで嬉しさが隠せていなかったのは、内緒。

 

 アザナが浴衣と紺色の上着を着て上がり、台所で料理を始める。すると、文は隣に立ち、アザナの料理する手を見始めた。

「どうした」

「手が空いてるので、手伝おうかと」

「つまらんぞ」

「良いですよ別に。それでわざわざ面白くして美味しくなくなったらイヤじゃないですか」

「……そうだな」

「手伝えることあります?」

「そこにある肉を炒めてくれ」

「分かりました」

 

 アザナはスイッチを押して火を点け、文にフライパンを渡した。

「……これだけで火がつくんですね」

「爺さんが年だったからな。昔のやり方の方が美味いとは思うが、いかんせん手間がかかる。少しでも楽にしてやりたかったから、多少家を改造してガスで調理出来るようにした。炊飯器もあるぞ。昔の道具もまだ使えるようにはしてるから、今度やってみるか?」

「貴方に任せますよ。迷惑にはなりたくないです」

「構わん。好きで言っていることだ。料理ぐらいにしかここには娯楽はない。ある程度ならば教えられる」

「じゃあ、近いうちに。火が通りましたよ」

「これを入れて、いい感じに絡めてくれ。あとで、鍋に入れる」

「なんですかこの赤い漬物は?」

「知らないか?キムチというものだ。少し辛いがご飯は止まらなくなるぞ。鍋に入れなくても、その時点で豚キムチとして食べることが出来る」

「へぇ、そうなんですか」

「肉をつまんで食ってみろ。美味いぞ」

「あむっ。ホントだ、美味しい」

「……」

「どうしました?こっちを見て。顔でもおかしかったですか?」

 

「……いや、見惚れてただけだ」

「ブハッ!?な、何言ってんですかぁ!!?」

 

「む?恥じらうとこか?」

「恥じら……!あなたもよく言えましたね!?恥ずかしくないんですか!?」

「別に、だな。姉にもこういう事はよく言っていたが、完全に褒め言葉として認識してくれていたからな」

「見惚れるって、好きな人を見ている時とかに言う事でしょう!?ちょっとおかしいと思いますよ!」

「好きな人……?つまり、俺はお前のことが好きだということか?」

「えぇ!?そうなんですか!?」

 お互いに目が合う。二人同時に手が止まった。

 

豚キムチは少し焦げ始めていた。

 

「いただきます」

「い、いただきます……」

 囲炉裏の上に鍋を引っ掛けて、既にあった囲炉裏の火に当てる。おたまを使って鍋を掬い、赤いスープと共に皿に盛る。キムチ鍋というものらしい。

 一口すする。内側に温かいものが流れていき、じんわりと体全体に伝わっていった。頰が少し染まる。

「おいしい」

 思わず溢れた。茶碗を手に取り、鍋の具材と共にご飯を頬張る。

 ふと見ると、アザナが微笑んでいる。

「それは良かった。好きなだけ食え」

 アザナはそう言い、自分も食べ始めた。

 外は吹雪が強くなってきた。文には囲炉裏と鍋の温かさが身に沁みていた。

 

 しばらく食事に舌鼓を打っていたが、少し気まずさを感じていた。調理中の会話が頭から離れない。アザナの方も同様だろうか。気になるが、なかなか切り出すことが出来ない。アザナの方を見れば、表情が小さいながらも楽しさと少しの気まずさが伺えた。意を決して文は聞くことにした。

「さっきの、意味って……なんでしょうか?」

「さっきの?……ああ、それのことで悩んでいたのか」

 アザナはしばらく逡巡した後、答えた。

「すまないがよく分かっていないのが本音だ。俺に姉弟がいた事は言ったと思うが、文。お前にかつての妹の面影があるんだ」

「妹さんの……?」

「所詮は他人の空似だろう。だが、それでも俺は似てるお前を放っておくわけにはいかない。そういう気持ちがあるのは事実だ。しかし、それともう一つお前に向けている感情がある。この二つがせめぎ合っているんだ」

「二つの感情……」

「俺はもう一つの感情の正体を知らない。こんな事は初めてだがな。結局は自分でもよく分かってない。だがそれが心地よいとも思える。不思議なものだ」

 もう一杯、鍋を掬いながらアザナは答えた。

「妹さんは、どうなったんですか?」

 文はこの後、後悔した。安易に聞くべきものではなかったと自分を責めることになった。

「死んだ。姉が消えた後の親の虐待でな。俺にはお前が朱里が成長したような姿に思える」

 

 

 

 文は自己嫌悪に苛まれた。用意してくれた布団にくるまるが、寝れる気がしなかった。

「なんて事を聞いたんでしょうか。良く考えれば分かることだったのに……」

 何故妹がいた、と言っていたのか。何故、たった一人でここに住んでいたのか。考えれば済む事だった。

 ガスストーブの音のみが聞こえる部屋が妙に怖く思えた。

 

 

 夢を見た。三人の姉弟の夢だった。

 公園では仲の良い姉弟であった。姉は遊具を動き回り、弟は妹と砂の山を作り、姉が弟にぶつかると弟は「なにすんだー!」とばかりに追いかけてくる。姉は「ごめんごめん」と笑いながら逃げ、妹もそれを見て笑っていた。

 しかし、とある場面に切り替わる。

 両親からの虐待。父親はロクに家に帰らず、母親が鬱憤を晴らすために姉に何回も殴りつけた。毎日。何回も。しばらくして、弟と妹は姉から「隠れてて」と言うようになった。弟は状況の分からない妹をただ抱きしめるしかなかった。

 そして、悪い方向に状況は変わりだす。

 母親は狂いながら笑い、金を徹底的に渡さなくなった。

 

 最初からこうしていればよかったわ!!

 

 人としてのタガなど既に壊れきった母親に道徳や倫理などなかった。この時、父親は危篤になり病院で治療されていたが、母親は父親へのコンタクトを阻止するために場所を教えなかった。

 

 当然、食べるためのお金をも渡されなくなるため、極限の生活を強いられる。しかし、姉は自分の貯金を少しずつ切りくずし、弟と妹に与えた。二人でパンを食べさせてる間、姉は一人で近くの雑草などを食べていたという。近くで通りかかった友人に食事を分けてもらったこともあった。

 だが、姉の貯金も数日持たなかった。姉は苦肉の策として出稼ぎに行くと決めた。姉は弟に妹を守るように言われた。確かに弟は守ると宣言した。

 

 姉がいなくなり、母親はまた虐待し始める。ここでの姉の誤算は、自分がどうやって耐えていたかを教えていなかった点である。姉は虐待をされてはいたが、向こうは鍛えてもいない女性。反撃する事でこの母親は虚仮威しだと分かっていた。

 弟はそんな事は分からない。そして弟はまだ信用していた。母親はまだ善性があると判断してしまった。

 

 だから、あの夜に妹が死んだ。

 蹂躙し、悦びを感じた母親は動けない弟を尻目に妹に手を出した。目の前で行われる行為に弟は目を逸らしたくとも逸らせなかった。伸ばした手は届かず。しばらくして、妹は動かなくなった。

 

 

 不意に目が醒める。

 まだ夜らしいが、文はまた寝る気が起きなかった。目の辺りに触ると、涙で濡れた。

「……んね、……よ」

 耳元に小さく囁くように声が聞こえたので振り向くと、そこには隣で寝ているアザナがいた。

「……大丈夫だぞ、……大丈夫だ、ぞ……」

 目を見開いたが、頭と肩を抱えるアザナの腕には安心感があった。

 寝言にこそなっているが、それは私のための言葉。

 

 多分、うなされていた私にまた気を利かせてくれたのだろう。

 

 瞼を閉じる。今度こそ眠れる気がした。



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字余り 『字』

 文は目覚めると同時に眩しく感じた。

 部屋を分ける障子が開いており、雪が光を反射していた。

「––––––!!–––––!」

「–––。–––––」

「–––––––」

 誰かが会話しているのが聞こえる。なんとなく気になっているので、顔を出すと、女の子と目があった。

「え?……えーっ!?本当に!?なんでいるの!?!?」

「だから言っただろう。女性を泊めていると」

「確かに入って鉢合わせでもしたらまずかったな。分かった。どうせなら俺たちの方で食べよう。久しぶりだから親父達も喜ぶ」

「分かった。昼過ぎに向かう。またそちらで」

「絶対説明してもらうからねー!!」

 

「……えーっと、出ていたらダメな感じでした?」

「いや、説明が省けた。助かった」

「そうですか」

「……顔だけだったから良かったが、身なりを正しておけ。……む、胸元がはだけているぞ」

「……っ!そういうのは早く言ってくださいよ!!」

「俺だってすぐわかるわけではないぞ、っておい何故こっちに来て……」

 

 

「ふん!」

 

 

「理不尽だと思うのだが」

「反省してください!」

 アザナの頰には綺麗な紅葉が出来ていた。首を傾げながら囲炉裏の火を消す姿はおかしく思えた。

「だって、寝てる時に一緒のところにいたじゃないですか!?気づいてたんじゃないですか!?というかそもそもなんで私の布団にいたんですか!?!?」

「落ち着け。服に関しては本当に気付いていなかった。すまない。だが、あそこはだな……」

「なんですか」

「……睨まないでくれ。あそこは俺の布団だ」

「え?」

「隣の部屋だと言っていなかったか?俺は自分の枕じゃないと眠れないタチでな。だが寝ている文を起こすのもどうかと思っていたら、妥協でああなった」

「いえ、もういいです……」

「すごい疲れた顔をしているな。大丈夫か」

「大丈夫じゃないです」

「ふむ……、ところで、昨晩うなされていたな?しばらくしたら収まったが、悪夢でも見たか?」

「ええ、まぁ。……でも大丈夫ですよ、途中からいい夢を見れたので」

 

 アザナのおかげというのは内緒にした。単純に言葉にするのが恥ずかしかった。

 

 

「今日は遅く起きてしまったからな。今から川越さんのところへ昼ごはんを食べに行く」

「カワゴエさん……?」

「隣の家……と言っても距離は少しあるが、前はそこの人たちとよく食べていた。最近は中々行けなかったが」

「なんで行けなかったんですか?」

「爺さんが死んだからだ。喪中……と言えばいいのか、向こうがそんな風に気を使ったおかげで、心の整理はついたが少し疎遠になってな」

「そうなんですか……」

「だが、会いに行っていなかっただけで会わないわけではなかったぞ。向こうは農家を営んでいるから野菜を分けてもらっているし、先生をやってる人から直々に授業してくれる時もある」

「優しい人達なんですね」

「まぁ、な。とにかく川越さんの家に向かうから準備をしよう。文の服も乾いている頃だろう」

「あ、ありがとうございます」

「……俺に敬語を使わなくてもいいぞ?」

「え?……ああ、これは癖のようなものなんでどうしようもないです。でも、もう少しに気楽にしますね!」

「ああ、それでいい」

 文は部屋を借りて着替えを始め、アザナは戸締りを始めた。

 

 

「よし、行きましょう!」

「待て、寒いだろう。この上着を着ておけ」

「あ、はい。ありがとうございます」

 

「さぁ、行きましょう!」

「待て、雪が少し深い。長靴を用意しよう」

「はい。ありがとうございます……」

 

「そろそろ、行きましょう!」

「待て、少し心もとないな。手袋とマフラーをつけろ」

「……」

 

「……」

「待て、雪合戦セットがあった筈だ。持ってくる」

「いや、もう行きませんか!?いりませんよねそれ!?」

 

 

「わぁ……凄い……」

「一面の銀世界、だな。俺もここに来て初めて見る」

 扉を開けた先には異世界とも見える景色が広がっていた。文は特に、建物の積もる様子を見ていた。

 

「この時期に雪とは珍しいのかもな」

「時期?」

「気にしなくてもいい。しかし、そんなに写真を撮って。雪が珍しいのか?」

「いえ。私たちのところでも雪は見れますよ。ですが、この建物の、そこの看板の、そして貴方のいる雪景色はここにしかないじゃないですか」

 そう言って、文は正面にアザナを据えてシャッターを切る。少し驚いた顔をした写真が撮れた。してやったりと言わんばかりに、にひひー、と笑った。

「油断禁物ですよアザナさん!」

「……やられたな。行こうか、文」

「はい!」

 二人は歩いて行った。お互い無意識で手を握っていたことには気付かずに。

 

 

「どんな雪が好きですか?私はこうやって積もった雪を踏むサクッて音が好きです」

「俺は……そうだな、教科書で見た雪の結晶が好きだ」

「雪の結晶なんてあるんですか!?」

「ああ。降ってくる雪は大体が綺麗な結晶になって落ちてくるそうだ。小さいし、すぐに溶けるから見えないけどな」

「へぇー、知らなかったです」

「他には……カキ氷は好きだ」

「……あれって雪ですかね?」

「……違うかもな」

「私も好きですけど」

「食べたいのか?」

「今はいいです!」

「冗談だ」

 

 

「いらっしゃい!権兵衛!」

「いらっしゃい」

 大きい建物が近づくにつれ、二人の男女が話しかけてきた。さっき、アザナと話していた二人組だ

「権兵衛?」

「俺のアダ名だ。すいません、大したものも持ってこれず」

「いつも通りでいいさ。お嬢さん、俺は川越橋立(かわごえはしだて)だ。宜しく」

 橋立は、おっとりとしつつもしっかりした印象の大人だった。

「あたしは橋立さんと従兄妹の片桐梢(かたぎりこずえ)よ!あなたは?」

 梢は活発なイメージそのままで、サバサバした印象がある。あと巨乳。そして巨乳……!

「しゃ、射命丸文です……」

「とりあえずは挨拶だけで、上がってくれ。すまないが、えーっと……」

「アザナだ」

「アザナ……?」

「最近やっと決めた。俺の名はアザナだ」

「そうなの!?権兵衛って呼ばなくてよくなるね、橋立さん!」

 橋立の顔が穏やかなものに変わった、と文は感じた。きっと、彼はアザナを気にかけていた一人なのだろう。

「……そうか。アザナ、手伝ってくれるか?梢では荷が重くてね」

「わかった」

「ちょっと!?今しれっとあたしを馬鹿にしたでしょ橋立さん!?分かるからね!?」

「文さんは待ってて貰っていいかい?すぐに準備出来るから」

「あ、はい」

「え、無視!?橋立さん無視するの!?」

「……せめて、米ぐらいは炊けるようにならんとな。お前は」

「うるさいわ!!余計なお世話ですよ!!」

「なら、余計なお世話をさせないぐらいに上手くなってくれ。高望みはしないから」

「うぐっ……」

「行くぞ、文」

「あ、うん」

 落ち込んだ梢さんの背中が悲しく、少し微笑む程度に笑ってしまった。

 

 

「何故、わしの仕事中にパーティーをするんだ?」

「親父がここを頑として譲らないからでしょ。俺たちは勝手にやるよ」

「許さん!!わしを誘え!!わしはあやつに『今日は民宿が忙しい時期なの!』と言われて傷心気味なんだぞ!!」

「知らないよ。あと初対面の人もいるから、恥かかないでくれよ親父?」

「む?」

 しばらく文がテーブルで待っていると、梢の父親と母親が現れた。紹介をされたが、パーティーには参加せずにすぐ農作業をしに行くという。なんとか一緒にパーティーをしたいと文は願ってはみたが、「農作業に休みはないの。それに一日くらい、娘を休ませたいと思うのも親心ではない?」と言われ、呆気なく倒されてしまった。今は玄関の方で梢とその両親が話し合っている。

 

 その時、奥の襖が開いて和服の年配が出てきた。厳かという文字を体現したような佇まいであった。文を一瞥すると「む」と少し唸り、近くの椅子に座った。

 

「お前が、橋立が言っていた奴か?」

「へっ!?多分そうです……」

「権兵衛が連れてきたのか。名は何という?」

「権兵衛……アザナさんか。私は射命丸文と申します!!」

「む……?アザナ?……お前、文とか言ったな。字は何と書く」

「はい!『文章』の『文』で『あや』と言います……」

 目の前の年配はやや思案して、

 

「くっくっく、ぶわっはっはっ……はぁ!?ゲホッゴホン!!」

「!?」

 笑って咳込んだ。

 

「だ、大丈夫ですか?」

「あぁ心配ない。お主も粋な奴よな。お主が考えたのだろう?」

「は、はい……」

「赤らめんでもよい。文よ。この先どうなるか分からんが、アザナの奴もお前を気に入っているようだ。悔いは残してやるな。分かったな?」

「は、はい!」

「橋立ェ!!これから仕事をする!!騒いでいいが入ってくるなよ!!」

「分かったよ親父!けど、聞こえてるからそこまで叫ばなくてもいいから!」

「じゃあな、文よ。こんな小さな催しだが楽しんでくれ」

「ありがとうございます……」

 年配の方はにこやかに笑って元の部屋に帰っていった。結局、文は年配の名前や仕事についての事を聞きそびれた。

 

 その直後、梢が戻ってきた。

「ふぅ、父さん達にも困ったものね。私も手伝おうと思ってたのに」

「たまにはいいんじゃないでしょうか……?」

「それもそうだけどねぇ……。あ、ところであんた!聞きたいことあんのよ」

「えっ、聞きたいことですか?」

「あんた、権兵衛のなに?」

「なっ!?……そう言うあなたはどういうご関係で?」

 今の質問で確信したのは一瞬。梢は私の敵だ。負けじと梢に睨みつける。

「そういえば、なんでアザナの前は権兵衛ってアダ名だったんだ?由来はなんだ?」

「名無しの権兵衛からって片桐が……って、あの二人らなにをやってる?」

「そろそろ名前で呼んでやれ……ん、あいつら顔近いな。お互い睨んでるのか?」

「仲が良くて何より」

「……あの時から何かと教えてはいるが、お前にも恋愛観は教えた方が良かったか」

「……?それより料理を運ぼう橋立さん」

「この状況でそれはきっとマズイぞ、アザナ」

 

「文さん?あたしは貴方よりも長く彼といるのよ?」

「梢さんでしたよね?彼は私の付けた名前を気に入ってくれてるんです!」

「ぬぐっ、どうせ短い間しか接してないんでしょ!そのぐらいで彼を分かった気にならないで!」

「うぐっ、そこまでいても進展がない貴方よりはマシじゃないですか!?」

「ぐぬぬ……!」

「うぬぬ……!」

 

「仲良しだな」

「ある意味な。こいつら相手に深く考えたら負けだな。そろそろ止めに行くぞ。……あと、お前も気付いてやれ」

「?」

 

 料理が運ばれ、パーティーが始まる。ソフトドリンクを持ち、乾杯してそれぞれ楽しんでいった。

「想像以上に美味しい……!なんで!?」

「ふっふっふ、そりゃもう素材が違うのよ!!」

「新鮮な野菜が近くで採れるからな。鮮度が違う」

「いつも都会の方にいると、この味は味わえないからな。農家はこれが羨ましい。アザナ、こっちの料理いるか?」

 

「すまない、とってくれ」

「全部一口は貰います!橋立さん!私にも下さい!」

「あたしも負けないわ!橋立さん!あたしにも!」

 

「梢は近くにあるだろう。文さん、取りますね」

「ひどい格差を見たな」

「梢さんが無言で涙目になってる!?」

「分かったよ!取ってやるから、なっ!」

「さっすが橋立さん!頼りになるね!」

「嘘みたいに元気になりやがった」

 

「そうだ、文さん。相談なんだが、そちらの知り合いに独身男性はいないか?俺の姉が華の二十代の後半にまで行っているのに未だに男の気配がない。何とかしてあげたいんだ」

「……私の周りに男自体が少なくて……すみません」

 

「あたしもお嫁さんになりたいな〜。ね、権兵衛!!」

「……っ!」

「ん?まずは料理出来るようにならないと話にならんと思うが。まぁ、頑張ってくれ」

「……ぐふっ」

「容赦ないなお前」

「……何か間違えたのか橋立さん?嫁に行くには必要だろう?」

「そういう意味じゃないですよ……」

「文さんすら同情してるじゃないか」

 

「皆さんで写真撮りませんか!?」

「いいわね!権兵衛!!あんた真ん中ね!」

「あ、ああ……」

「俺が撮ろうか?」

「タイマー機能があるので大丈夫です!……撮りますよー!」

「「「はい、チーズ!」」」

「……チーズ」

 

「ご馳走様でした!」

「ご馳走様!!」

「相変わらずおいしいですね、橋立さん」

「そう言ってもらえると嬉しい。また勉強見てやるよ、いつでも連絡してきてくれ」

「分かった」

「橋立さんが先生なんですか?」

「そうだよ。アザナが話してたのかい?国語の教師をやっている。姉も大学の方で教鞭を取っているよ」

「そんな事より、文さん!!決着をつけるわよ!!雪合戦で勝負!!」

「おっ、いいですね、そういうのには自信がありますよ……!」

「俺もやりたい」

「俺も参加させてもらおう。ジャンケンでチーム組んでさ」

 

 グーチーム 射命丸文 片桐梢

 

 パーチーム アザナ 川越橋立

 

「「決着がつけられない!?」」

 

「よし、やるぞアザナ」

「なん……だと……」

 

「くっ、とにかくやるわよ!」

「はい、足を引っ張らないでくださいよ!」

「こっちのセリフよ!」

 

「しまった、女子だけになるとは思わなかった」

「相手が女子でも手加減なしでいいんじゃないか?」

「それは駄目だろう」

「ふむ、ならこうするか。おーい!」

「何ですか?」

「どうしたの橋立さん?」

 

「勝ったら言う事なんでも一つ聞くってのはどうだ?」

 

「……?いいですよー!」

「わ、バカ文さん、そんな事したら……!」

 瞬間、さっきまで頭のあったところに何かが通り過ぎた。それを雪玉と認識したのは、投げた人物の手に持っているものが雪玉だったから。

すなわち。

「もう、言いなりは、ごめんなんだ……!」

 

 アザナは本気を出した。

 

「エェーー!?何ですかあれ!?」

「昔、同じように遊んでて、無茶な命令していたらー……気付いたらああなってた」

「梢さんのせいじゃないですか!?わぷっ!?」

 

「当たった」

「文さんアウトだ」

「隙あり!!」

「のわっ!?」

 

「橋立……!仇は取る!!」

「おい。今、ナチュラルに呼び捨てじゃなかったか?」

「決着の時よ、権兵衛……!くらえっ!」

「させん……!」

 

 二人の激闘の最中、アウトになった文に橋立が話しかける。

「文さん、顔に当たったけど、大丈夫かい?」

「あ、はい。何とか」

「そうか……。彼から聞いたかい?過去の事は」

「……はい。少しだけ。虐待で妹さんを亡くしたと……」

「その後はまだかい?」

「はい」

「まだ決着がつかないだろうし、少し話しておこう。君になら知っていてもらいたい。妹……朱里ちゃんは手遅れだった。悲しいけど。その時、アザナは朱里ちゃんへの罪悪感と共に両親の憎しみも芽生えていた。そこで出会ったのが俺だ。親父とアザナの爺さんの仲で、たった一回だが、一緒に過ごしたのを俺は覚えていた」

 橋立は少し俯いた。

「あの時のアザナの目は忘れられない。恐怖すら感じた。両親を殺す勢いと思えるほどの気迫があった。だから、方法を教えた。法を利用する方法をね。彼を犯罪者にはしたくなかった。だが、その結果があれさ。元気でいてくれている。あとは向こうのお爺さんと一緒に住んで、最近亡くなってしまった。そのぐらいかな」

「……あなたはアザナにとって恩人なんでしょうね」

「そこまでは分からない。彼がどう思ってるかなんて聞く気もない」

「きっと思ってますよ。彼の代わりとしてと、こうして彼と会えた私からお礼を言わせてください。ありがとうございます」

「……おかしな子だな。ありがたく受け取っておこう。おーい、そろそろ決着つけろよー」

「わかった……!」

「行くわよ権兵衛ぇ!!」

 そう言って橋立は顔を背けて誤魔化した。文はなんとなくだが、橋立の顔を見なくてもどんな顔をしているか分かった気がした。

 

 

「もう行くの?」

「ああ、やりたい事がある。すまない二人とも、こんなわがままを」

「気にするな。お前の気持ちもわかる」

 文にはよく分からなかったが、アザナには何かあるようだ。気にすることではないと思い、別れを告げる。

「それでは、また「待たんかぁぁあ!!」

「えっ!?」

「親父!?」

 別れを告げる前に年配の方が戻ってきた。肩の上下運動が凄い事になっている。

「やっと出来た自信作だ。おいアザナ!これを持っていけ!掛け軸にでもしな!!」

「なんだこれは……『字』?」

 持ってきたのは毛筆で書かれた『字』であった。文はそれに気付いて顔を赤く染めた。

 

 

 

「なんだ知らんのか?それがお前の名だよ、(アザナ)

 

 

 

「字……」

「そんだけじゃ。あー疲れた。思いつきで書くもんじゃないわい」

「親父……こりゃいい出来じゃないか」

「うー……こりゃ負けちゃうわ。ここまで情熱的だとねぇ」

 梢が文の方を見て、手を口に当てて笑ってくる。

 

「うぅ……。行きましょう!字さん!」

「ああ。それじゃあ、また」

「またね!」

「気を付けろよ」

 

「……手、繋いでたね」

「あれは諦めるしかないな、梢?」

「あれは卑怯だよぉ、橋立ぇ……」

「泣くな泣くな。なんか奢ってやるから」

「満漢全席食べたい」

「お前、おれの財布を殺しに来たな!?」

 

 

「いい人達でしたね」

「ああ、今までも……おそらくこれからも世話になる」

「それでもいいんじゃないですか?」

「なぁ文」

「なんです?字さん」

 

 

 

 

 

 

 

「この後、行きたいところがある。来てくれないか?」

「はい……え?」

 

 

「……え?」

 



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『東方文字録』

『後、少し。今日の夜まで待ってくれ』

 

『まだ、やりたい事がある』

 

 

 

二人で電車に乗って都会の方に向かう。その間、文は妙によそよそしくなっていた。

何をされるのか。想像出来ない訳ではない。

そういう事なのかもしれないと思いつつ、否定出来ないかもしれない自分に驚愕した。

 

 

自分は幻想郷の妖怪である。決して人間ではないのだ。

 

 

それでもこの二日間、たった二日間で変わって来ている自分も確かにいた。

 

「降りるぞ」

 

その言葉に驚いて、意味がわかってすぐに立ち上がる。今の自分はおかしい。そう思いながらも、字について行くことしか出来なかった。

 

 

彼と共にデパートのような場所に入った。そこで彼はカメラを借りたいと言い出した。私の持っている写真を使いたいらしい。すぐに返して貰った。

 

別の場所に行って貴金属の店に行った。何かを買ったのは見ていたはずだった。

 

でも、それどころではなかった。私は字になにを言われても上の空だったと思う。

 

「……」

 

字の所為だ。今、私は凄く動揺している。

 

「……い」

 

「おい!大丈夫か!」

「わっ!!だ、だだだだ大丈夫です!」

「……全然大丈夫じゃないだろう。どれだけ声を掛けたと思ってる」

初めて字が怒るのを見た気がする。そこまで長い間一緒にいた訳ではなかったので、当たり前かもしれないが。

「ところで、ここはどこですかね?」

あはは……と笑いながら聞く。正直、来た道すら覚えられていない。どれだけ私は色恋沙汰に弱いのだろうか。

「……ここに来た理由は、お前を帰すためだ」

 

 

 

………………え?

 

 

 

 

自分のナニカが止まった気がした。

 

 

 

 

 

「今日の朝のことだ。橋立と梢が来る前だ。実は一人、来客があった。もちろん俺が対応したが、その人は幻想郷という場所から来たこと。文がそこから事故でここの世界に来たこと。文は……人間ではないこと。色々教えてくれたよ」

 

「……知ってたんですね」

 

 

「ああ。あの人は文を連れ戻しに来たそうだ」

 

 

目眩がした。

もう、会えなくなる。

その事実だけが、文に大きくのし掛かっていた。

 

 

 

「だからせめて、夜まで待って欲しいと願い出た」

 

 

 

「……え?」

 

「後悔はしたくない。だから無理を言った。応えてくれるとは思わなかったが」

 

彼は続けた。

 

「知って欲しかった。お前が心配するほど、俺は弱くない。支えてくれた人達がいることを。ここに君の未練を断つ」

 

「忘れないでいて欲しかった。どんな事があっても、俺が、君が、傍に居ると思えるように。ここに俺の未練を断とう」

 

「コレは君へのプレゼントだ。そして……」

 

 

「好きだ。未来永劫別れようとも、君を愛し続けよう」

 

 

視界がぼやける。文は涙を流していた。

 

「君に迎えが来た時にやっと気づいた。一目惚れだったんだ。時間が有限な上に、遅かったとは思う。……答えを教えてくれないか」

 

 

 

 

 

「ごめんなさい」

 

発した言葉は何よりも弱々しく、儚いものだった。

 

 

 

「ごめんなさい。私も好きなのに、ごめんなさい……」

 

 

彼は微笑む。答えを得たとでも言うように。

 

二人は抱き合う。

 

「そのロケットペンダントを持っていてくれ。せめて、文が俺を忘れないように。迎えの人によると、君に関係した人たちの記憶は消えるそうだ、物しか、残らない。それでも、きっと思い出す。きっと会いに行く。待っててくれ」

 

「うん……!待ってる。待ってるがら……!!」

 

 

二人が交わした融けるような口付けは、温かかった。

 

 

雪の結晶が二人を彩っていた。

 

 

 

 

 

 

「おーい、起きてるー?ねーえー。起きろぉー!!」

「!?」

少年の目が覚める。目の前には梢がいた。

「やっと起きた。あんた起こすのホント手間がかかるわねー!」

「……悪い」

「早速だけど、ご飯作って!今日のあたしはあんたのご飯食べないと元気出ないのよねぇ……」

「分かった。……何故付いて来る?」

「あ……あたしも、手伝うわよ。少しずつでも頑張らないと、橋立さんの姉さんみたいになっちゃうから」

「ふっ、そうか。少しずつ覚えていけ」

二人で揃って台所へ向かう。準備をしていると梢から声が掛かった。

「ねぇ、権兵衛。この掛け軸、気に入ってる?」

「ああ、何故だろうな。それに俺は魅力を感じる」

「ふーん、この『字』がねぇ……」

「違う」

「え?」

 

 

「それは(アザナ)と読むんだ」

 

 

「どっちでも良いわよ。……あ、ごめん!先に風呂入らせて!」

「急にどうした」

「昨日遅くに入ったから、まともに身体洗えてないのよ!ごめんね、借りる!」

「おい……!やれやれ」

台所に戻ろうとすると、とある写真が入った額縁が目に入る。

 

ぎこちない俺の表情と……もう一人の女の子は誰だったか。

 

額縁を掴み少し考えるが、朝ご飯の準備の途中だったためそちらに意識を戻した。

「字ぁー!シャンプーないよぉー!」

「あ……。すぐ行く!」

 

 

おっと、忘れていたか。

 

ポケットから取り出したペンダントを首に付け、歩き出した。

 

 

 

 

 

「あー間に合ったー、これで休刊の分は返上ですねぇ!」

 

筆を置き、背伸びをする。今回の見出しは河城にとりの発明ランキングワースト10である。奴のせいで川の中に一回叩き落とされたのだ。これぐらいで許されるだけありがたいと思って欲しい。

今回の騒動では、あのはたてが真っ先に助けを求めていたのは驚きだった。おかげで救出も早かった。

 

 

おもむろに引き出しを開ける。そこにはたくさんの記事が詰め込まれていた。それは、彼女が記事にしなかったものが入っている。理由は様々、記事にするべきではないと判断したもの、単純に文自身が恥ずかしいもの。

 

一番上にある記事、『東方文字録』は、その後者にあたる。

 

さぁ、今日も面白い記事を探しに行きますか!

 

 

文は小さいペンダントを首に掛け、大空へ羽ばたいていった。




メリークリスマス!
これをやろうと言い出したのは自分で、リクエストしてくれたのがM氏なのですが、どんどんクリスマス間に合わなくなってしまいこの体たらく……。
M氏ごめんね!頑張ったよこれでも!

本筋は変えるつもりはないですが、近々修正するかもです。
特別編の企画としてはまたやりたいとは思ってますので、もし要望があれば(時間もあれば)頑張ろうと思います!
見てくれた方、ありがとうございました!


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黒き羽にて字を記す
『筆』を置く


一周年記念第一弾として、続編ですよ!

久しぶりの人は、お久しぶりです!
夢見双月ですよ!(強調)

1日間隔で投稿していく予定です。
頑張ってます。


 とある冬の日から、夢を見る。

 

 誰かを助け、誰かを望み、誰かとの別離の時を過ごした数日。

 

 悲しいようで、その実、とても充実した瞬間。

 

 自分にとって、何かが変わったかけがえのない宝。

 

 

 でも、分からない。

 

 

 記憶がテレビの砂嵐のように朧げになり、それでいて切り取られたかのように思い出がない。

 

 誰と、何をしたのか。

 俺は、何を思ったのか。

 

 何も分からない。

 

 

 今の自分に残っている選択肢は、

 

 失った事すら忘れるか。

 

 

 それとも……。

 

 

 

 

 俺の家の近くには川があり、その向こう岸には多くの木々によって遮られている。

 しかし、その森は私有地なので、所有者が森に入るための小さな橋が架けられている。だからわざわざ川を渡る手段を考えなくても楽に対岸には向かえる。

 さらに言えば、所有者から森に入る許可を俺はもらっていた。

 

 山菜拾い。気づけば冬があっという間に通り過ぎ、色んな生き物が芽吹く春となっていた。事前に所有者の方に森へ入る事を伝えて、植物の採集に腐心した。

 

「うん、なかなかの量が採れた。だが、この量になると判別が面倒だな」

 

 そう、独り言を言いながら、探索を続ける。

 

 彼自身、どの植物が毒なのかはイマイチ分かっていない。

 植物図鑑は持っているが、万が一のことがあると拙いため、隣に住む……と言っても田舎のために少々距離があるが、片桐一家と共に山菜を判別し、半分をそのまま渡す事になっている。

 

 特に代わり映えのない、季節の風物詩と言える。

 

 しかし、彼にとって目的はそれだけではない。

 

 

 

 彼の頭に巣食うモヤモヤの正体。

 彼はそれを思い出すキッカケを探していた。

 

 

 冬になっていつからか、数日の記憶が消失している事に気付いたのはおそらく失った直後だ。なぜなら、来た事もない神社にいたからだ。

 気のせいかとも思ったが、いくつかの知人に連絡してみると、橋立さんから興味深い返事が来た。

 

『俺は確か親父や梢に会いにいく予定だったんだが、お前と同じように日にちが過ぎていてな。忘れてたのかと思って謝罪の電話をしたら、俺がいた形跡があったらしい。お前が何か知っているのか?』

 

 いや、分からない。彼はそう返してこの話は終わった。

 

 

 違和感を探すと、まだいくつか存在した。

 

 一つは橋立さんの親父さん、川越 龍之介のサインとともに描かれた『字』の掛け軸と。

 

 

 もう一つ、買った覚えのないロケットペンダントである。

 

 

 ロケットペンダントには、中に小さな写真を入れる事が出来る。だから中に写真が入っていれば、それは大切な手がかりとなるはずだ。

 しかし彼がペンダントを開けた時、なんとも言えない感情に襲われる事になる。

 

「誰だ……この人は……?」

 

 黒髪の活発そうな少女が映っていた。

 緋色の目には吸い込まれるようで、少し変わった小さな帽子を被っていた。

 そして、明らかにほとんど見切れているであろう隣の人間は、彼自身である。

 

 このペンダントを持って色んな人に見せて回ったが、正体どころか微かな情報にすらたどり着けず、結局分からないままに日が過ぎていった。

 

 

 山を降りて、そのまま片桐家へ向かう。

 

 チャイムを鳴らせば家の方からドタドタと大きな足音が聞こえ、世話になっている友人の片桐梢が出迎えた。

 

「久しぶり!権兵衛!!」

「ああ、片桐。両親はいるか?山菜を適当にだが摘んできたぞ」

「名前で呼べやぁ!」

 

 そう言われながら蹴られた。

 

 

「どう?私達の記憶の事、なんか分かった?」

「いや、まともな手がかりすら掴めん。そっちはどうだ?思い出せるものはないか?」

「駄目。忘れてる事は父さんや母さんも分かってはいても、誰一人も何を忘れたのか分からない。橋立さんは当分仕事でこっちに来れないし、お爺ちゃんに至っては何してたかすら覚えてないもん」

「そうか……ペンダントを渡しておく。二人に一応見せておいてくれ。念の為に龍之介さんにも見せておいて貰えると助かる」

 

「ねぇ。権兵衛」

「どうした。梢」

「やっぱりおかしいよ。私達に分かるぐらいの違和感で思い出せないって事は、記憶を取った人は思い出して貰いたくないからじゃないの?……正直、記憶を意図的に操るってだけでも頭痛くなるのにさ……」

「……そうとも読み取れるが、俺にはこのやり方は俺にとって思い出さなければいけない事のように映った。あの時に俺たちの隣にいた少女。何があったのかを俺は知りたい」

 

「権兵衛」

「ん?」

 

「写真の女の人だけど、その人の正体じゃなくてどう過ごしたのかを知りたいんだね」

「……そうだな。彼女が何者なのかはどうでもいいと思う節があるのは自分でも感じる」

 

「……どんな人だったんだろうね」

「……さぁな。もう、それすらも忘れてしまった」

 

「山菜の選別、ありがとう。あと、お前の両親は俺たちに気を使いすぎだ。すぐ農作業には戻らず、お礼の言葉も言わせてくれ。と、言っておいてくれ」

「分かったよ。きつく言っておく!権兵衛はどうするの?」

 彼は立ち上がりながら、告げた。

 

 

「街に行って、あの神社を調べてくる」

 

 

 

 最寄りの駅から歩いて約10分弱、30段の石階段を二つ上った所にこの神社は存在する。

 神社の名前は『御九字社』と言うらしい。

 記憶が失ったすぐ後の、一番最初に立っていた時と同じように寂れていた。参拝客どころか、人一人もこの辺りにはいない。

 

「ここで、あの少女と別れたのか……?」

 

 ここにいたという記憶がある、という事はすなわち。

 記憶がない間は彼女がいた可能性があるという事である。

 

 実際にはそこまで正確な術ではないのかも知れない。何せ、記憶が失った事を自覚出来るほど大雑把な術である。

 それでも、もし正確に記憶が取られたのなら、別れた途端に消失することがなくなったと考えられる。

 

「ここに何かしらの痕跡が残っていればいいが、そういう道には精通していない。自分の足で確かめるしかなさそうだな」

 

 そう言いながらも、探索を開始した。

 

 

 閑散とした木造の建物は一部が腐って脆くなっていて、何より人の姿が見えない。それでいて、何か不思議なものに引き寄せられるような感覚を覚えた。

 

 八角柱型の木の箱を横の家の受付口で見つけた。おみくじらしく、上側の中心に小さな穴がある。

 

 振って実際に出してみると、「14」と書かれた数字が出てきた。

 隣に、数字毎に設置されたおみくじが置いてあり、出た数字のところから受け取るらしい。『せるふさーびす』となぜかひらがなで書いてあった。

 

 お金を置いておきながら、「14」の箱から紙を一枚取り出す。

 

 

 大きく、『大吉ッ!!』と書いてあった。

 

 

 怪しく思って何回かおみくじをやったら、全て大吉だった。

 

 

 多分、適当に作られてる。

 

 

 

 気を引き締めて、神社の裏手に出る。

 この神社は小さな山の中腹に造られていて、裏山で遊んでいた子供が迷子になるという話がいかにもありそうな場所である。

 一つ一つの木々の幹は細いものの、生い茂っているために、2メートル先もまともに見れないほどである。

 

 するとここで、一つの獣道を見つけた。

 

「道?あまり人も通ってなさそうだが……」

 

 行ってみよう。彼はそう決意した。

 

 

 勾配が急なところも多く、木の幹を掴んで進んでいく。

 ザクッ、と足を踏みしめるたびに大きな足音を響かせる。

 森は深く、目印もないのでケータイのコンパスを使用しながら歩いていく。北へ向かっているので、南に行けば帰ることは出来るはずだ。

 

 しかし、緑が多い。背の低い植物でも自分の腰まで伸びているものある。

 そして何より。

 

(おかしいな。植物しかないのか?)

 

 リスなどの小動物はともかく、虫すらもまともに見ていない。蚊はまだしも、蝶のような虫はいてもいいものだと思ったのだが。

 

(それにさっきから甘いような、気持ち悪いような、へんな匂いがする。これが原因か……?)

 

 少女がこんなところにいるとは思えない。

 これは一旦出直した方がいいのだろうか……?

 

 しかし、彼の思考に退却はなかった。それが全く関係のないものだとしても、少女に繋がるためならば小さな関わりだとしても行かなければならない。

 

 敢えて、彼は匂いが強い方に向かって歩を進めた。

 

 

 甘ったるくて気分が悪くなるような錯覚を覚えながらも進み続ける。

 彼女が遥か彼方だろうと、その先にいると信じて。

 

 

 そして、大きな自然の広場に出ると同時に、ありえないものを見つけた。

 

「なんだ、あれは?」

 

 現実として、あってはならないもの。

 

「亀裂……なのか?」

 

 それは天国への入り口か、地獄か。

 まるで、風景画に亀裂のような穴を開け、後ろからもう一つ別の風景画を重ねてるような。そんな奇怪で神秘的な場所だった。

 

 そして、その下の異物にもやがて気づく。

 

「大きな……花?いや、これは……!?」

 

 何かの入り口を包み込むかのような大きな花弁。中央部には全てを惹きつけるほどの蜜。

 

 曰く、世界最大の花。

 

 

「ラフレシアか!?」

 

 

 瞬間、大きな蔓によって薙ぎ払われ、彼は夥しい木の一つに押し付けられた。

 

「なぁ!?ぐっ、がぁ……ああ!?」

 

 メキメキと体内で音が鳴り、体の至る所が危険信号を発した。

 お腹を抑えてうずくまりながらも、必死に考える。

 

「はぁ、はぁ……!うぐっ」

 

 何故、ラフレシアが日本にいるのか。

 何故、蔓が意思を持っているかのように動くのか。

 何故、俺を攻撃したのか。

 

 意識が混乱したまま、何も考えられなくなっていた。

 口から血が流れ出る。内臓へのダメージが著しい。

 

 しかし、さっきのような蔓の攻撃は、距離から考えて俺にはもう届かない

 。吹き飛ばされてラッキーだったのかもしれない。

 

 なんとか立ち上がろうと体を奮起させるが、足が震えて中々立ち上がれない。激突した木にもたれかかるようにして早く立てるように体を動かす。

 

 

 

 ふと、耳障りな音が聞こえた。

 

 

「は?」

 

 

 同時に、ラフレシアの近くにある、三つの塊を見つける。あれは、図鑑でもよく目にしたとある虫の巣。

 

 それは、蜂の巣。

 

 

「まさか……!嘘だろう!?」

 

 羽音は次第に増えていき、目の前の景色を途端に黒く染めていく。

 

 間違いない。

 

 蜂はラフレシアに操られている。あの蜜の効果なのかは分からない。

 そして、あのラフレシアは––––––––!?

 

 俺を、殺すつもりだ!!

 

 

「くっ、間に合えぇぇええ!!」

 

 一気に背を向けて走り出す。

 羽音の勢いが増し、信じられないほどの轟音となって迫ってくるのが分かる。

 

 腹部の負傷や、あらゆる痛覚を無視して森の中を走り抜ける。

 森の勾配は急だった。なら、下りである今なら勢いよく駆け下りられる!

 

 足はほぼ跳躍の形を取り、半ば落ちるように走り抜ける。

 

 蜂の種類なんて俺はよく分からない。だが、もし自分があの花だとしたら。

 

 毒のない蜂なんて、そんな優しい蜂を飼う筈がない!!

 

 一匹にでも刺されれば動けなくなり、集団で刺されれば間違いなく即死。一瞬の油断も出来ない。

 

 腕を使って、たくさんの木にぶつからないように軌道を変え、さらには勢いをつけて蜂を引き剥がそうとする。

 

 不意に、手の甲に激痛が起こった。

 

 

 刺された。問題はない。手なら。

 

 

 ふくらはぎの方にもチクリとした感覚が起こった。

 

 

 まだ。

 

 

 一瞬にして背中の感覚が消えた。

 

 

 まだ。いける。

 

 逃げなきゃ。

 

 

 

 逃げなきゃ。

 

 

 

 逃げなきゃ。

 

 

 

 

 

 

 

 ……。

 

 

 

 

 

 逃げなきゃ……。

 

 

 

 

 

 

 ……逃げなきゃ。

 

 

 

 ……に……。

 

 

 逃げ……。

 

 

 

 

 

 なきゃ。

 

 

 

 

 

 逃げ…………。

 

 

 

 …………ないと……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だれか……。

 

 

 

 

 ……………………。

 

 

 

 

 

 

 ……たす…………け…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 て。

 

 

 

 …………–––––––––。

 

 

 

 

 

 

 ––––文。すまない。

 




脳裏に浮かぶはかつての……。

かの者の運命の歯車は今、再び廻りだした。

幻想は、全てを受け入れる。


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『炭』を溶かす

死ぬ気で1日投稿。
結構急ぎめなので、誤字などあれば報告してくれると助かります。
(早急に修正しますので!)

ノンストップで頑張りますよ!


 …………。

 

 

 

 

 

 ……い。

 

 

 

 ……い!!

 

 

 

 

 

 

 ……おい!!

 

 

 

 

 

 ……目を開けろ!!

 

「おい!!」

 

「……っ!?」

「うわっ!?と……俺がわかるか!?権兵衛!?」

 

 

 

 

「…………橋立……さん?」

 

 

「……ふぅう、良かった。心配させやがって。この野郎」

 

 飛び起きて驚かれたが、気が抜けたように安堵したようで、橋立はわざとらしく大きなため息を吐いた。

 

「……何が起きたか覚えてるか?」

「確か……大量の蜂に追われて……?」

「ひと昔前のアニメのようだが、それは事実だ。俺のところに住んでる居候の気まぐれさえなければ、お前は間違いなく死んでいたぞ」

 

「橋立さんが俺を……?それに居候って……?」

 

「ゆっくり話そう。お前には時間がたくさんあるだろうしな」

 

「時間?どういう……?」

 

「ここは病院だ。お前はしばらくここで入院。……ここまで、わかったか?」

 

 

「病院……?」

 

 

 

 

「……ああ。助かったのか、俺は」

 

 

 

 白い病室にはアクセントをつけるように、鮮やかな果物が置かれている。

 目覚めた後、橋立が買ってきたものである。

 

 ついでに、俺と同い年ぐらいの少女も連れて。

 

「……」

「……」

「……?あー……?」

 

「橋立さん……」

「一応聞こう。なんだ?」

「……?」

 

 

 

「事案ですか?橋立さん」

「違う!!」

 

「?」

 

 

「改めて紹介だ。コイツが俺が養ってる居候で、名前は恋。聞いての通り、意思疎通は出来るが喋る事が出来ない。……まぁ、その、色々あって家に置いてる」

 

「要するにロリコンか。橋立さん」

 

「違う!!」

 

「?」

 

 

 橋立は器用にウサギのりんごを作りながら、これまでの経緯を話し出した。

『恋』と呼ばれた女の子は、皮を剥いてもらった柑橘系の果物を酸っぱそうに食べている。

 

「恋は事情が分からんが、社会自体に疎い。箱入り娘よりもモノを知らないレベルだ。だから、最近はよく一緒に散歩をして知識を深めて貰っているんだが……あの神社に来たのはたまたまで、恋が興味を示しただけに過ぎない。だから、裏手からお前が飛び出てくるなんて思いもしなかったし、蜂の大群に狙われてる事すら知らなかった」

「橋立さんは蜂をなんとか出来たということか?」

「違う。追い払ったのは恋だ。そういうのには滅法強いんだコイツは」

「どうやって……?」

 

「……あー、あれだ。あそこ石階段あるだろう?俺、そこでくたびれちまって……。どうやって追い払ったのか……見てないんだ」

「……運動する事を勧める」

「うるせぇ。こちとらネット教師になってからまともに家に出てなかったんだぞ」

「うあぁ……!!うぅ……!」

「恋……さん、でいいか?酸っぱいなら我慢しなくてもいいんだぞ?」

「えっ?って、おい!そんな顔してまで食わなくてもいいって!大丈夫か!?」

「……ウン」

 

 

「とにかく、そっから急遽、救急車を呼んでお前を治療。入院まで至った。先生によるとかなりやばい状況だったようで、今も腫れがほとんど引いてないから辛いだろう。それでさっき、やっとお前が気付いてくれたという事だ」

「そうか……迷惑をかけて申し訳ない」

 

 話がひと段落ついて、ウサギのりんごを一つもらおうとして……一つもない事に気付いた。見れば青白い髪の無口な少女が幸せそうに頬張っている。

 彼が少し微笑むと同時に、橋立は小さなため息を吐いて果物ナイフと別の果物を手に取った。

 

「さて、今度はそっちが事情を話す番だ。ただ事ではなさそうだが……話せるな?」

「ああ……」

 

 

 

 

「彼女……記憶が途切れた原因であろう少女の行方を知るための捜索として、あの神社に向かっていた。記憶がなくなって最初に居た場所があそこだったからだ。そこで、裏手にある小道を見つけた」

「小道?」

「獣道というより、木と木の隙間に過ぎない場所だったのかもしれない。だが、何か胡散臭いものを感じてな。その先へ進むことにした」

 

「その先にあったのは、日本にいるはずのない上に通常かそれ以上に大きいラフレシアと、世界の切れ目のようなヒビ割れだった」

「ヒビ割れ?どこにあったんだ?」

「空中だ。何かモノの表面にあった訳でもない。何もない場所に亀裂が出来ていたんだ」

「亀裂……?非現実的だな。ゲームみたいだ」

「……そうだな」

「だが、実際に見たんだろ?オカルトじみてはいるが、信じるよ」

「橋立さん……」

 

「だが、お前の記憶がなくなった直後の場所に、そんなものがあるのは明らかにおかしい。少なくともお前が勘付いている通り、あの少女が関わっているはずだ」

「やはり……橋立さんもそう思うか」

「その亀裂はおそらく、異世界へ通じる道。それもこの世界より小さく、限りなく近い世界だ。その亀裂というのは『神隠し』を可視化させたようなものと言えばいいか?……その辺りの文献は読んだことがないから分からないが、この推測は当たっている」

「あのラフレシアは異世界から飛んできた存在。それなら、日本にラフレシアがいるのも納得できる。そして……!」

 

「「あの少女はその世界にいる可能性がある!」」

 

「!?」

「すまん、恋。驚かせたな。……だが、最悪なのはお前が求めている少女とその世界になんの関係もない事と、そもそもあのラフレシアがこの世界に影響を及ぼしてしまうことだ。前者の世界云々はともかく、ラフレシアに関しては早急に片をつけた方がいいかも知れんな」

「大丈夫だ。橋立さん」

「ん?何故だ?」

 

 

 

「俺がやる」

 

「……おい。お前、自分で何言ってんのか分かってんのか」

 

「ああ。俺が倒す」

 

 

 

 

「このッ、馬鹿野郎!!テメェのその怪我、何にやられたかもう忘れたのか!?ふざけてんじゃねぇぞ!!」

「……ッ」

「刑務所にぶち込んだテメェの母親とは訳が違う!!虫を操る花!?その程度でボロボロになりやがった奴にはなを倒す事なんざ出来るわけねぇだろうが!!」

 

 

「お前は弱い。……俺だって、弱いんだ。もし、お前がここを抜け出して一人で戦う事になったら……守れない」

 

 

 酷くうなだれた橋立に、恋が寄り添う。

 恋は何も言われずとも、橋立にすり寄った。

 それに気付く橋立は小声で「ありがとう」と返す。

 

「お前は犬死をするために戦いたいわけじゃねぇだろう……?頭冷やせよ」

 

「……」

 

「まだ、なんとか出来るかどうかすら分かっていないが、ただ無謀に行くのは早すぎる。……すまない、怒鳴って。出直すよ」

 

 そう言って、恋に合図を出して席を立つ橋立。

 ドアノブを開けるために手を掛けようとして。

 

「出直す必要はない」

 

 その直前に開け放たれたドアの前に、見知ったかおの老人が立っていた。

 

 

 

「……お、親父」

「……龍之介さん……」

 

 

 

「橋立、車を出せい。外出許可はワシが無理やり取った。……お前も来い」

 

「お前に伝えねばならんことがある」

 

 

 

 

 

 

「お、親父……」

「黙って運転しろ。橋立。そこの嬢ちゃんのように、礼儀正しくな。聞きたい事があるじゃろうが、それはお前に言える事ではない。権兵衛の方にのみ伝えるべきじゃ」

「……。分かったよ」

 

 橋立の車は五人乗りの軽自動車である。龍之介が助手席に座る以上、運転免許を持っている橋立が運転席に乗り、恋と橋立は必然的に後ろに乗る事になった。

 

 恋の青白い眼が彼を凝視する。

 

 とても珍しそうな顔をしながら覗く純粋な目を向けられ、彼は少し戸惑った。

 

「さっきは助かった」と、病院から出る時に手を貸してくれたことのお礼を言うと、真顔のまま顔を傾けた。

 

 まるで、何を言っているかわからないようだった。

 

 しかし、「ありがとう」と言い直せば恋の口角が僅かに上がり、微笑んだ。

 

 小さな変化ではあるが感情が分かりやすい娘だな、と思った。

 

 

 腫れた痛みがじわりと蝕むなか、彼が口を開く。

 

「龍之介さん。何処へ向かってるんですか?」

 

「ん?……おお、行き先を橋立に告げた時に、お主はお嬢ちゃんに手助けされて病院から出ておったから知らんのか」

 

 

「お前の家じゃよ。

 そしてお主に伝えなければならぬ事。それは……–––––

 

 

 

 ––––……あの少女の正体。そして、記憶のない間に何があったか、じゃ」

 




龍之介が語るのは、彼にとっての希望か。または。

境界の狭間に見えるは幻想の都。

せめて、彼の選択が鈍らぬよう……。

とぅー・びー・こんてぃにゅーど。


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『墨』を吸う

少し遅れて申し訳ない。

書き溜めは既に尽きて、ギリギリなんです。ごめんなさい。

それでも頑張ってます!

どうぞ!


「ふぃ〜、やっと着いたのぉ〜!!橋立よ、もちょいと早く着くように出来んか?」

「ここがどれだけ秘境の地か分かってるか?というかそもそも、怪我人をこんな遠くに運んでいいと思ってんのかよ親父!」

「構うまい。此奴は子供の頃からタフじゃったろう。この程度、どうということはない」

「親父……!」

「橋立さん……。気にしなくていい。冗談だというのは分かっている」

 

 四人は一旦片桐家の駐車場で車から降り、彼の自宅に向かっていた。

 この中で唯一の女性である恋だけは、辺りの畑を珍しそうに眺めながら歩いている。

 

 歩いて暫く。

 橋立は事あるごとに本題を龍之介から聞き出そうとするが、その度に龍之介はのらりくらりと躱していく。彼の自宅に着くまでは、頑として語らないという意思がありありと見て取れることだろう。

 そして、ついに自宅へ着いた。

 

 彼にとっては、この場所にいたのが遠い過去のように感じた。

 ふと思えばだが、こうして家の周りを見たのはいつ振りだろう。

 

 前まで一緒にいた爺さんが生きてた時に一回。どんな家なのかという好奇心と共に。

 

 独りになってからは十数回。まるで自分の存在を縛り付ける楔を確かめるように。

 

 

 

 確か、あの雪の日もそうだった。

 

 俺の生きる意味が。徐々に。消えていった時。

 

 家の大きさに潰れそうになった俺に、刺激を与えるかのように。

 

 近くの川で誰かが飛び込んだ音を……俺は……聞いた?

 

 

 

「……権兵衛?」

 

「……!?……なんだ、橋立さん?」

 

「いや。ぼーぅ、としてたから何かあったのかとな。考え事か?」

 

「…………そのようなものだ」

 

 声のトーンとは裏腹に、少し慌てるように先導する。

 

 自分の家なのだ。俺が案内しなければならない。

 

 鍵を取り出して玄関を開ける。

 

 

 

 と、ここで。

 

 片桐家から出た時、厄介な事にならなかった事に気付く。

 橋立同様、またはそれ以上に自分の身を案じてくれる人。

 

 その存在を。

 

 目の前で見た事によって思い出した。

 

 

「久しぶりじゃない。権兵衛?……で?言わなきゃいけないことはない?」

 

 

「……梢……か」

 

「『梢か』じゃねぇわぁぁあ!!!」

 

「うぐっ!?待てっ、まだ傷が……!」

 

「うっさいうっさいうっさいうっさい!!この馬鹿ぁ!!大馬鹿!!うわぁーん!!!生きててよがっだァァァアアア!!」

 

 タックルされた拍子に倒れてしまったが、泣き喚きながら抱きつく隣人を見ていると当分立ち上がれなくなるのだった。

 

 

「そろそろ良いか?梢よ。いつまでもワシらがここに留まるのは拙い。橋立にも仕事があるなかここまで来てくれたし、ワシにも今日中に千枚は書かねばならんほどの依頼がある」

「千枚って……、親父いつからバックれてたんだよ……」

「昨日だけじゃ。ワシはこれでも高尚な書道家ぞ。敬え、おら」

「高尚なら、まずサボらねぇだろ。それで?どうするんだ?」

 

「……ワシはあくまで此奴にのみ、話すべきじゃと思う。その結果、此奴がどの選択をしようと良いようにな。お前達にも話せばきっと此奴を止めようと奔走し、此奴の優しさ故に、本心を押し殺して流されてしまう。それだけはいかん」

 

「……そうだな。やはりそう考えてしまうだろう。俺なら」

「……権兵衛」

 

「じゃから、お前達は手を引け。ざっくり言ってしまえば、お前達は邪魔なんじゃよ」

 

「そうなの……?」

「……」

 

 

「梢、すまない。先に片桐の家に行っててくれ。橋立さんも恋さんも。俺だけでいい」

 

「……ばか」

「……わかった。行くぞ。恋、梢。この先は俺たちが考える事じゃない」

「ウー」

 

 

 各々の反応と共に、三人が外へ出た。

 最も反応が顕著だったのは梢ではなく橋立だった。口から出た言葉こそ冷静そのものであったが、実の父である龍之介を睨んで去って行ったからだろう。

 

「ふむ。橋立との付き合い方を考えねばならんのう。近いうち、ワシはあやつに殺されるかも知れんなっ!今のうちから媚を売っておかねばのう……!」

「龍之介さん。軽口はここまでにしてくれ。出し惜しみしすぎですよ、流石に」

「分かっておる。ところで、例の掛け軸の所で話そう」

「掛け軸?」

 

「儂が書いた事になっている『字』の掛け軸じゃよ。ほれ、説明してやるからさっさと案内せんか」

 

 

 

「……かーっ!いつ見ても立派な文字じゃのう!儂が書いたから当たり前じゃがな!ははっ、はーはっはっはぁ!!」

「これについて、何か分かったんですか?」

「何を言っとるか」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……!」

「馬鹿な、なんて思ったか?職業柄……いや、書道家の在り方の一つとして、いつ、どこで、どんな事あって、どんな事を思いながら書いたかを聞かれたら即答出来る、という特技が儂にはあってな。よくあるじゃろ。この画家はこんな気持ちを込めて描いていた、とかな。それと一緒じゃ。儂はこれまで書いた書道の作品ならば、失敗作含め全ての情報を記憶しておる」

 

 まぁ未熟者時代の時は別じゃがな!と、軽口を交える。

 

「それは今回の事であろうと変わらん。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。笑わせるわ。……まぁ、そういうことじゃ。分かったか?」

 

「あ、ああ……」

 

「それでは本題じゃ。といっても、儂が言えるのは儂とお主とあやつが関わったアレだけに過ぎんがな」

「……どういう事だ?」

「儂がこれから言う事以外は自分で思い出せ。そこまでの面倒が見切れるか、という事じゃ」

 

 

 

 

 

「今一度、言うぞ。『お前の名は「(あざな)」じゃ』。あやつが、お前のために付けてくれたお前だけの名じゃぞ。二度と忘れてくれるなよ。小童」

 

 

 

 1人、部屋の真ん中で座ったまま、字は心の整理をしばらくした。

 龍之介さんは先に片桐家の近くにある仕事部屋で仕事を済ませに行った。

「決めたのなら、結果如何に関わらず儂の処へ訪れろ」と残して。

 

 

 忘れられた記憶。

 掛け軸にある俺の名前。

 写真の入ったロケットペンダント。

 廃れた神社での別離。

 謎の異世界への入り口。

 異形の花。

 橋立さん。

 恋さん。

 龍之介さん。

 梢。

 

 そして、名をくれた少女。

 まだ名前も思い出せないのに。

 

 今は、とても近くにいてくれる気がする。

 

 

 おもむろに立ち上がり、手拭いに包んでいたロケットペンダントを取り出した。

 

 中を開けば、少女の顔が字を迎える。

 

 

 

「決める事」なんてとっくに決まっていた。そんな気がする。

 

 確かに、そう誓っていた。はずなんだ。

 

 もう迷いはない。既に無かったんだ。そんなものは。

 

 ペンダントを握りしめ、もう一度誓う。

 

 

 

 

 

「待っていてくれ、『文』。」

 

 

 目を見開く。少しして、ふっ、と声が漏れた。

 

 

 

 ペンダントを首にかける。

 

 

 

 その黒い眼には、決意と覚悟の色が映っていた。

 

 

 

 片桐家に向かう。

 既に、覚悟は決まっている。

 

 しばらくして正面の家から梢が飛び出し、橋立も玄関から顔を覗かせた。恋はその橋立の背から字を覗き見ていた。

 

「権兵衛!!」

「……違うよ。梢」

「え?」

 

「名は、既にあったんだ。俺の名前は字だ。やっと、思い出せた」

 

「……」

 

「思い出はまだ思い出せてないけど。きっと、彼女に会って思い出す。例え思い出せなくても、忘れたという後悔がなくなるぐらいの思い出を作って……ありがとうと言いたいんだ」

 

「……うぅ」

 

「ごめん、俺は行くよ」

 

「うあぁぁああああ!!あぁぁぁあああ!!!」

 

 梢さんは縋り付いて泣いた。

 字はただ何も言わずに梢の頭を撫でた。

 

「橋立さん」

 

「……なんだ」

 

「無謀かもしれない。危険なのは分かってる。それでも、だった」

 

「……そうか」

 

「ありがとう。心配してくれて。会いに行ってくる」

 

 

 

 

 

「違うところかもしれないぞ」

 

「かもしれない。それでも諦められない」

 

 

 

「戻れないかも知れないんだぞ」

 

「覚悟はもう決まってるんだ。どんな道でも、進むよ」

 

 

 

 

「……」

 

「橋立さん。すまない」

 

 

 

 

 

「……謝るぐらいなら、やめろよ」

 

「……」

 

 

 

「……勝手にしろ。精々のたれ死ね」

 

「橋立さん。多分、俺とはもう会えないよ」

 

「……」

 

「橋立さんもそんな言葉で終わらせたくないのは分かるよ」

 

 

 

 

「……幸せに、生きろよ。お前だけでも」

 

「……ああ」

 

 

 

 

「恋さん」

 

「……?」

 

「あなたに会ったのは今日だから、早い別れで少し言いづらいかもだが……」

 

「……??」

 

「橋立さんと仲良くな。この人の優しさは不器用なところあるから。橋立さんから大切に想われてるのは分かってくれ」

 

「うぅ!」

 

「……知ってたのか、それは良かった」

 

 

 

「じゃあ、いってきます」

 

「……いってらっしゃい」

 

 

 

 

 最後、見送った娘は小さな声で。

 

「やっぱり、勝てなかったなぁ」と呟いたという。

 

 

 

 

「来たか」

 

「はい」

 

「座れ。紙だらけじゃが、適当にどかせ」

 

「これ、仕事の作品なのでは……?」

 

「知ったことか。奴らなら雑に扱われてる事すら付加価値にしおったからな。次はいっそのこと、ビリビリに破いてしまおうか」

 

「龍之介さん」

 

「ワシのことなぞ、どうでもいいんじゃ。お前に渡しておく物がある。数年前に死んだ友人が、その直前に儂に渡したものだ」

 

 

 

「友人?」

 

 

 

「旧友でな。画家のあんちくしょうなアイツと三人でつるんでた。小説家をやっとったんじゃが、ヤツはいつも愛用の羽根ペンを使っていた」

 

 そう言って、取り出したのは羽根ペンと、それをしまうための墨壺。

 

「お前になら渡しても怒られんじゃろう。この羽根ペンはアイツが一回も執筆に使わず、ただただホラ話の自慢をするために話題に挙げていた」

 

 

 字が驚いたのは、龍之介が羽根ペンを持っていたことでは当然ながらない。

 

 驚いた事。それは。

 

 

 

「漆黒の……羽根。全てが黒い」

 

「奴曰く、『鴉天狗の羽根』。奴が最高の友と言った鴉天狗の置き土産じゃ」

 

 

 

「こんなものを……」

 

「儂が持っていた所で使えん。紙を貫いて穴を開けるのが精一杯じゃ。お前に託す」

 

 

 

 

 

「お前をボコボコにしたヤツ。そいつの鼻を明かしてこい。字よ」

 




爺「はな、だけにな!!」

橋立「一発はこの爺さんを殴っていいと思うんだ」
恋「ダメ」
梢「いいぞもっとやれ」



それは魔術にとっての聖遺物であり。

幻想において、価値なきに等しい弱き力。

しかし、ことこの世界において。

純然たる神秘を振るう矛となる。

再戦の時は、近い。


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『心』を整える

 ワシの友の話だ。無理に聞かなくても良い。ほとんどアイツの自慢だからな。

 

 

 アイツが名もなき小説家の頃、下手っぴな文章で世界を動かそうと躍起になって空回ってた時期がある。

 

 その頃はもう必死に書き、ネタというネタを全て消費して、世間に訴えかけようとしていた。

 

 当然、日の目をみない新人小説家など世間は無視し。

 

 数少ない読者からも離れられて行ってしまい、小さな努力すらも棒に振った。

 

 当時はそれでいてメンタルの弱い奴だったから、ワシらに助けの連絡一つもせずに自殺に追い込まれていった。

 

 アイツはやがてロープを持ち、傍迷惑な事にワシの家の山へ自殺のために入っていった。あやつら片桐家の者が山に入る輩を監視し始めたのもこの話を聞いてからじゃ。我が息子、娘ながらなんと優しいことか。

 

 そして、ロープを首にかける瞬間。声が聞こえてきたという。

 

『お兄さん。何をしてるんですか?』

 

『えっ?死のうとしてるんです』

 

 コイツバカじゃろ?

 

 人がいるのに死のうとするんじゃぞ?

 

 バカじゃろ?

 

 当時の話を聴いてみたら、あの時は幻だと思ったらしい。

 

『死にづらくありませんそれ?』

 

『何故?』

 

『苦しいじゃないですか。楽な死に方もっとありますし。今日は諦めて楽な死に方探した方が有意義ですよ』

 

『死ぬのに有意義も何もあったもんじゃないな』

 

 一見、ツッコミ所は満載なんじゃが、この会話によってアイツは自殺をやめた。

 

 経緯を知れば分かるが、此奴の正体こそ鴉天狗じゃ。じゃが、鴉天狗という事と、こんな感じの事を言っていたという事しか知らんからイメージと違う事がある。お主の追っている少女とは関係ない可能性もあるからな。

 

『あっ、生きてるついでに私の新聞読んで下さいよ』

 

『はっ?』

 

 その鴉天狗はあろうことか、自分が書いたという作品をアイツに見せたんじゃ。あくまでイメージじゃから、新聞ではないかもしれんぞ。

 

『……』

 

『どうですか……!誰が見ても素晴らしい出来ですよ!』

 

『いや、嘘っぱちってのがわかりやすい、いい作品だな』

 

『完全に皮肉じゃないですか!?』

 

 どんな内容だったかは知らんが、思っくそ貶しまくって批評したらしい。まぁ、アイツは着眼点やアドバイスには目を見張るものがあったからいい加減な事は言わんかったろう。

 

『そんなんでいいなら、俺の方が良いものを作れるぜ』

 

『言いましたね……!なら、勝負です!』

 

 簡単に言えば、ライバルだったらしい。時にはアイツの部屋の中、2人で缶詰になって苦しんだり、心が折れそうな時はベジなんたらのように励ましてくれたそうだ。

 だが、誰であれ切磋琢磨し合う仲というのは、成長するにはもってこいだったろう。

 やがて人気が出始め、当時の名声がワシや画家と同じくらいまで上り詰めてきた時。

 

 

 別れが訪れた。

 

 

『何故だ!?お前の新聞も、次が読みたくなるぐらいには洗練された出来になったばかりじゃないか!?』

 

『こればかりは趣味ですからねぇ。鴉天狗の存続とどちらを比べるんだ、と言われてしまうと……ですねぇ……』

 

 もちろん、この時にはアイツは鴉天狗の正体を知った上で絡んでいた。だからこそ、納得出来ない事もある。

 

『「誰もが永遠に届かない夢のような場所」!?俺にすら新聞を届けられなくて何が新聞屋だ!?』

 

『……っ!』

 

『地味に楽しみにしてたんだぞ!?お前の記事に、俺の連載を載せてくれるって!そっちの仲間にも読んでもらえるようにするって!』

 

『……がい……めて……!』

 

『有名になったら、友達のよしみでページを全部使って記事にしてやるって!冗談でもよぉ、本当に嬉しかったんだぞ!?それをお前は……』

 

『お願い……やめて……』

 

『あっ……』

 

 やっとバカは気付いたのさ。鴉天狗のヤツが苦渋の末に、離れる事を決めたのを。

 鴉天狗の涙がそれを意味していた。

 

『ごめんなさい……!ごめんなさい……!』

 

『……!』

 

 そりゃ、何も言えないさ。謝られようが、泣かれようが、なんて言えばいい?

 少なくとも、引き止める事はもう出来ない。かと言って、馬鹿正直なアイツだ。ただの別れであると割り切る事もできない。

 

 去ろうとする鴉天狗に最後、アイツはこう叫んだ。

 

『絶対に、お前の場所に届くぐらいの作家になってやる!絶対にだ!!覚えてろ!!俺は必ず、て”め”ぇ”に”と”と”く”ッ!!』

 

 泣きながら叫んで、情けなかったと思うぜ?出会って1年や2年じゃない。アイツはこの頃には立派なおっさんだ。そんなヤツが鼻水垂らしながら泣いてやがんだ。

 

 そして、鴉天狗は飛び去って行った。

 

 泣き崩れるバカに、ひらひらと羽根が落ちていった。

 

 それが、お前に渡した鴉天狗の羽根ペンさ。

 

 

 

 ん?何故羽根ペンかって?

 

 アイツがそう言ってたからさ。

 

 

「龍。俺は永くねぇ。そろそろ死ぬぜ?マジってやつさ。こりゃ参ったね」

「何言ってんだ。鴉野郎ともまだ会えてねぇ奴がよ」

「耳が痛いねぇ。……おい龍。そこにいるんだろう?」

「……ああ、いるぜ」

「俺が毎回自慢してるアイツの羽根……なんだがよ……。あれ、偽物なんだわ」

「ああ……は?」

「お前、俺の家に来る度に『あそこの金庫の番号なんだよ』って言うだろ?仕方ねぇから教えてやるよ」

「お前……」

「結局、アイツに会って、アイツのための作品を書くために置いておいたのに……全然会えねぇんだもんなぁ。その時以外使う機会なんてないよ」

「……」

 

「お前が持っててくれ。会えたらでいい。渡してくれ」

 

 

 

 

「馬鹿野郎。あの後すぐに死んじまいやがって。何が鴉野郎のための作品だ……」

 

 

「もう、作ってんじゃねぇか。……鴉のための物語を」

 

 

 お察しじゃと思うが、金庫にあったのはその羽根ペンとアイツの晩年の本。そして本に不恰好なセロハンで貼られたアイツ愛用の羽根ペンがあった。

 

 持っていってやってくれ。コイツ、画家の野郎が編み出した特殊ラミネート加工をしてやがるから、物理的な衝撃は当たり前、耐水、耐火、ブラックホールにぶん投げても壊れねぇよ。……ブラックホールは言い過ぎじゃな。……おい、本気にしたらワシ怒るぞ?マジでやめろよ?大事にしろよ、全く。

 

 

 



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『字』を書く

いつもの。(深夜投稿スタイル)

0時丁度は無理だった。ごめんね遅くなって。

後、終わりどころを見失ってしまってるので「他にも色々あるし、そろそろ終わらせないとなー」と考えている作者であった。

まだまだ続きそうだけどねッ!!(泣)


 鴉天狗の羽根ペン。

 

 それはかつて願った、友との誓いの証。

 

 互いに切磋琢磨し、対立し、笑い合いながら、過ごした思い出の結晶。

 

 遥か未来に希望を持ち、再会を願う魂の結晶。

 

 

 

 なんとなく。彼がこの羽根ペンを使うのを躊躇った理由が分かった気がする。

 

 同時にそれは、俺がこの羽根ペンを使う理由にもなった。

 

 

 

 黒の羽は不思議な力を持っていた。

 お伽話でもなんでもない、小説家さんの言った通りの本物という証明だろう。

 それが時代によるものか、鴉天狗の力なのかは分からないが。

 

 手に取ると、不思議な力がすんなりと自分を受け入れたのを感じた。

 身体の中に心地よい異物が入り込む感覚を全身で感じる。

 

 

 ふと、例の羽根ペンは手から消えていた。

 

 

 願う事なら。

 

 いや。

 

 俺に、願う事はない。

 

 

「俺から行けばいいのだろう?……文、待っていろ」

 

 

 吸い込まれるような黒眼を持っていた少年の目は、(あか)に染まっていた。

 

 

 

 神社の裏手を越え、森の中を進んでいく。

 

 進む。

 進む。

 あの地まで、ひたすらに進む。

 

 決して、恐怖がなくなったわけではない。無数の蜂に襲われたのが脳裏に焼き付いて離れない。

 

 それでも、行くべき理由がある。

 

 異世界に通じる世界の亀裂。

 元々、あの花の上に存在するそれは、花を妨害なしには通れない。

 結局のところ、目的の為としても交戦は避けられないのだ。

 

 

「きたぞ、怪物」

 

 高木のない広々とした空間の中心に構える異形の存在。

 見渡せば、以前の時より空間が広くなっている。おそらく、先日俺も味わった蔓により、陽の光を遮る樹木も片っ端から薙ぎ払い、養分にしているのだろう。

 

 ただの花ではない。

 意思が確かに存在し、狡猾に生きていた。

 

 

 怪物のテリトリーに入り、向かい合う。

 

 ラフレシアも字に気付いたのか、自身の周辺に蔓をなびかせる。

 

 瞬間、複数の方向から蔓が襲い掛かってきた。

 

 

「さぁ。あの時の屈辱、雪がせてもらうぞ……!」

 

 

 

 鴉天狗の大まかな特徴としては二つ存在する。

 

 一つ、剣術に秀でていること。伝説にはかの源義経が幼き牛若丸であった頃、牛若丸は天狗から剣術を習ったという。

 

 二つ、速さに置いて鴉天狗の右に出る者はいないこと。これは射命丸文の能力から考えても想像しやすい特徴だろう。

 

 ならば、鴉天狗の羽根と融合した人間はどうなるか。

 鴉天狗本来の性能は出せなくとも、この二つに秀でるのは当然の帰結である。

 

 鴉天狗由来の反応速度と俊敏性を持った字には、この程度の攻撃は回避出来て当然である。

 

 蔓が身体掠る事もなく、正面に向かって疾駆する姿はラフレシアにとっても脅威に映るだろう。

 先程の猛威に加え、背後からも攻撃を繰り出して字を追い詰めようと画策した。

 

 しかし、瞳が紅くなると同時に動体視力も向上している字は、体勢が整う前に隙間を縫って回避。そのまま要所である塊の三箇所を殴り倒し、蹴り飛ばして速やかに後方まで下がる。

 

「……まずは関門その一、と言ったところか」

 

 要所と定めた三箇所。それは、周辺に点在するラフレシアが操る蜂の住処三つ。

 

 つまり、蜂の巣。

 

 字は蜂の利用法に、一つの弱点を見出していた。

 

「ミツバチという蜂がいるように、花の蜜や花粉を持ち運ぶ蜂がいるのは当然だが。悪く言えば花と蜂の関係性はそこにしかない。つまり、蜜によって蜂達を操っている事は容易に想像できる」

 

 

 

 

「だが、住処を破壊されて怒らない蜂はいないだろう?潤沢な餌の事などそっちのけに襲撃者を襲う」

 

 

 

 蜂の巣から、幾万の蜂か一斉に飛び出す。やがて、全ての蜂が空をも覆った。

 

 

「より効率的な運用法があったとしても、怒り狂う奴等を従わすのは骨が折れるぞ」

 

 

 字が恐れたのは、蔓と蜂の多方向同時攻撃である。それをされれば、字とて前回の二の舞になっていただろう。

 

 しかし、蔓の射程距離外まで退避した今なら。蔓の妨害を最小限にした上で蜂のみを相手にすることが出来る。

 

 腰に無理やりつけた布を括り付けた木の棒を取り出し、巻き付けた布の部分にライターで火をつける。

 さらに、上着の内ポケットに引っ掛けておいたビンを取り出した。

 

 蜂の絨毯が火を見て僅かながら動揺する。

 なるほど。動物同様、火を嫌うのは当たり前か。

 

「俺の家には愛煙家で、異常な程酒好きな爺さんが以前いてな。この松明こそ手作りだが、他のは全て家に置いてあった。例えばこの変に高火力なライターとか、このアルコール98%のスピリタスと呼ばれるものとかな」

 

 そう言って、一気にスピリタスを口に含みだす。

 人間である字の異様な光景を恐れながらも、蜂達は退治せんと突貫していく。

 

 字は口に含んだ酒を松明に向けて噴き出し。

 

 

 突如、火炎放射が蜂を尽くを包んだ。

 

 

 

 

「……おえっ、げほっ!うっ……!……はぁ、はぁ、きついなこれ……!少し飲んじまったし……ピエロの真似事なんかするもんじゃないな」

 

 辺りは蜂によって焦土のように見えた。

 あちらこちらで草や木の葉が燃え移っていた。

 

「……ついでに言えば、こっちは風上だ。火は緩やかでもお前達を包んだ筈だ。……だが……すまない」

 

 小さくそう呟く。許されることではないが。

 気休めの謝罪を言葉に乗せた。

 

 

「さて、あとはお前だけだ」

 

 ラフレシアには聞こえるはずはない字の言葉。しかし、彼に応えるかのように植物全体が揺らめいた。

 

 まだ負けてない、と。

 

 正面から突進する字。左手には酒。右手には松明を持って突撃した。

 

 それにラフレシアは幾多の蔓を以って払いのける。

 

「くぅ……!」

 

 思わず声が漏れる。先程よりも迫真に迫ってくる殺意を受け流し、松明で弾く。

 

 松明を当てて軌道を逸らした蔓が僅かに焦げていた。

 

 

「うおおおおおああああ!!!」

 

 

 字の雄叫びが森中に響く。

 それが勝負の終わりを告げる叫びとなった。

 

 

 

 

 

 松明が蔓に弾かれた。それに気を取られた瞬間に左足を取られる。

 

 字が酒瓶を投擲するも、これすらも弾かれてラフレシアを僅かに掠めた程度に撒き散らされた。

 

 あらゆる方向から襲い掛かる蔓の猛攻に、転倒しながら防御の態勢を取るものの、全てが字に直撃した。

 

 

 勝敗はここに決した。

 

 

 

 

 

 

「俺の勝ちだ……」

 

 

 

 字が、そう呟いた。

 

 

 

 

「……教えておいてやる。アルコールってのは水よりも蒸発しやすい。だから、今のお前の近くの空気中にも蒸発して気体となったアルコールが存在する。そして、もう一つの着火材、マッチの数本に火をつけてお前に投げる。あとは、さっきと同様、燃え移るだけだ」

 

 

 そう言って手首の力だけでマッチを複数、ブチまけられた酒の辺りに投げた。

 

 

 小さな爆発と共に燃え盛る世界最大の花を見て、立ち上がる。

 

「言ったろ。爺さんは愛煙家だ、って。マッチやライターなんて、俺の家にうんざりするほど積まれてる爺さんの置き土産だよ」

 

 

 

 

 

 

 

 しばらく、花が燃え尽きるまで、その場にいた。

 

 辺りをうろついて大きい火種を消しながら、ひたすら待ち続けた。

 

 やがて、最後の煙の一本が消えると字は手を合わせ、目を閉じた。

 

 

「傷はあるが、まだ動けるだろう。後は、あの亀裂に飛び込むだけ……か」

 

 もう戻ってこれないかもしれない、そうかつての恩人は忠告してくれた。それは事実だろう。

 

「それでも……」

 

 会いに行きたい。決意は揺るがなかった。

 

 

 

 

 ––––今まで、ありがとう。

 

 

 

「よし……行こう!」

 

 

 思いっきり一歩を踏み出し、亀裂に向かって飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 光に包まれる。

 

 

 

 

 

 

 

 そして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は?」

 

 

 

 

 

 

 

 空に投げ出された。

 

 

 

 

 

「……すまん橋立さん。早速死ぬかもしれん」

 

 

 

 何も出来ないまま、字は林の中に墜落していった。

 

 

 

 

 

 

 

 ––––。

 

 

 ––––––––。

 

 

 ––––––––ん?

 

 

 …………なんだあれ。

 

 

 

 おーい。誰かいんのか?

 

 

 おおっ、クレーターか!?なんで、って……!

 

 

 大丈夫かー?おーい。

 

 

 仕方ねぇ、取り敢えず運ぶか。

 

 

 ん?ええー?なんだお前。

 

 

「なんでお前の翼、片方にしかついてないんだ?」

 

 

「ま、いっか。……てか、死んでないよな?大丈夫だよな?……アイツに借り作りたくないから無事であって欲しいんだけど……」

 

 

「……後で慧音に相談してみるか」

 

 




幻想の果ては、ついに彼を受け入れる。

拾い人は案内人なれば。

再会の時は近い。



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『一息』吐く

サブタイトルがこれなのに、作者は一息すらまともにつけてません。
ツライです。でも1日投稿頑張ります。

そういえば、作者の名前のそのまんまでツイッターやってます。
軽く進捗を報告したり、投稿報告したり、わけわからんこと呟いてます。ので、よければフォローの方よろしくお願いします。(唐突なフォロワー稼ぎ)



それはいつもの日常の一部に過ぎない。

 

藤原妹紅にとっては、なんでもない日常の1ページ。

 

……の、はずだった。

 

 

いつものように妹紅は起床し、生活リズムを狂わせない程度に活動していた。基本的には迷いの竹林の案内を務め、案内を終えるとぶっきらぼうに去っていく。

背中で受ける感謝の言葉にも随分前に聞き飽きてはいるが、嫌な気分にはならない。

 

今日も見えないところでかすかに微笑み、帰路についた。

 

異変。というのはここでは大きな意味で捉えがちだから、この場合は一風変わった事としよう。それが起きたのは夕方頃。

 

夕飯の用意をするため、人里に向かおうとしていた頃である。

 

 

「……ん?なんだあれ」

 

赤く染まった空から、黒い流星が飛来していた。

遠いからか飛来したものの正体は分からないが、不思議と嫌な予感はなかった。

むしろ……ちょっとした、面白そうな予感がしていた。

 

「見てくるか」

 

 

妹紅という少女は不老不死である。

蓬莱の薬を飲んだ事により永遠を生きる体に変化してしまったのだ。

だが、この事は別に暗い話でもなんでもなく。不老不死ならアイツもだし。

 

ただ、毎日似たような事をやっていれば、それすらやがて飽きるだろう。

 

 

 

要するに、刺激が欲しかった。

それだけの理由と好奇心で妹紅は墜落するだろう地点に向かっていった。

 

 

 

「おーい、誰かいんのか?」

 

向かう最中に衝突の轟音が鳴り響いた。先ほどの何かが落ちた音だろう。

 

「おおっ、クレーターか!?なんで、って……!」

 

なんで?見たときはそこまで大きく見えなかったけど、といいかけて、息がつまる。

墜落地点の中心に、知らない男が倒れていたからである。

 

 

後先考えずに、気づいたら青年に向かって走っていた。

 

滑るように降りて、駆け足で近づく。そしてすぐさま耳を心臓に近づけた。

 

 

 

どくん、どくん、と一定のペースで鼓動が聞こえてるのを知り、知らずのうちに息を吐く。

 

いつものぶっきらぼうを装い、「大丈夫かー?おーい」と声をかけるが反応はない。

 

飛んできたのに当たったか、またはこいつが飛んできたか。どちらにせよ、生きているなら聞き出せるだろう。

 

「仕方ねぇ、とりあえず運ぶか」

 

仰向けの青年の腕を取り、肩まで持っていく。そしてそのまま担ぐ。

 

 

ふと、後ろに目をやる。確かに人間にはないものがそこにあった。

 

「ん?」

 

こればかりは、さすがの妹紅も驚いた

 

「ええー?なんだお前」

 

 

 

「なんでお前の翼、片方にしかついてないんだ?」

 

改めて見ても、右にしか黒い翼が生えていない。

 

妖怪か?それとも人間?

 

すこし悩んだが、早々に考えを打ち切った。

考え事は自分の性に合わない。それより体を動かす方がいい。

 

「ま、いっか。……てか、死んでないよな?大丈夫だよな?……アイツに借り作りたくないから無事であって欲しいんだけど……」

 

もっとも、そんなことを言ってられないぐらいには重傷ではある。しかし、幸いにすぐ死にそうな気配はない。

 

「……」

 

しばらく人の怪我と自分の無いに等しいプライドを天秤にかけて。

 

「……後で慧音に相談してみるか」

 

結局、保留になってしまう。

やっぱり、考え事は性に合わない。

 

 

 

目覚めれば、字は木造の天井を見ていた。

何があったか、頭の中で思い返す。

 

あの花との死闘。

 

俺を迎え入れるような、異世界からの暖かい光。

 

突如、空に投げ出される俺。

 

 

……。

 

…………。

 

……どう考えても原因は空に投げ出されたこと以外にないな。

 

 

おそらく、俺は急な状況の変化に耐えきれずに思考停止し、そのまま落ちてしまったのだから記憶の整理がいまいちつかないのだろう。

 

 

……ところで、ここはどこなのだろうか。

 

正直、『ここは死の世界です☆』なんて言われたら目も当てられない。それなら橋立さんの言った通りに向こうの世界にいた方が良かった。

 

 

「いや……。違うな」

 

 

結局、自分自身の覚悟は変わらなかったはずだ。こうなるとわかっていたとしても、俺は進んでいたろう。

 

 

 

なんにせよ、これが夢ではないのなら介抱してくれた人がいるはずだ。

 

探そうと決心して体を動かそうとするが、うまく動かせない。

むしろ全身に痛みが走り、体を強張らせる。

 

「ぐぅっ……!落ちた痛みは分かるが……!それ以上に動きづらいな……!俺はどうなっている?」

 

布団の中で寝かされているために、全身の様子が分からない。痛みに悶え苦しみながら、動きづらい体で掛け布団を剥がす。

 

 

全身が露わになった途端。納得すると同時に呆れ返った。

 

「包帯で、ぐるぐる巻きになってやがる……」

 

助かったことには感謝しかないが、これに関してだけはこれしかやりようがなかったのか問い正したくなった字だった。

 

 

 

詳しい時間は分からないが、障子に映っていた赤い光が無くなり、暗くなってから随分経った。今は大体午後8時から9時の辺りだろうか。しばらくは睡魔に身を任せたりしていたが、一向に誰も来る気配がない。

包帯が暑苦しい。かといって水も周りにないので、水分補給もままならない。助けてくれた人は今まで介抱した覚えはないのだろうか。少々放置しすぎだと思う。

 

 

それからもうしばらく経った頃、外が白み、日が昇った頃にようやく辺りに人の気配が出始めた。どこの部屋からか、会話が聞こえてくる。

 

「その為にわざわざ私を呼んだのか?」

 

「ま、まぁ。一応私よりは詳しいだろうから、診てもらいたくてな」

 

「……ふぅ、つまらない意地で人一人を見殺しにしようとしないでくれ」

 

「分かったよ。次からは永遠亭に直接行く。なんかアイツの顔がよぎると無性になぁー」

 

「それでもだ。全く、なんのために私は博麗の居候に寺子屋を任せたと……」

 

「あ、そうか。今日寺子屋あったか」

 

「あったわ戯け」

 

「ごめん」

 

「構わない。友からの頼みだ」

 

二人の間で交わされる会話のようで、共に低めの女性の声だったが印象はだいぶ違った。一人は堅い印象があり、もう一人は奔放な印象を受けた。

 

奔放な方が堅い方を呼びつけたらしい。それでいておそらく俺を助けてくれた人だろう。と考える。

 

 

そして、障子が開かれる。

 

目と目が合う。

 

 

その上で、目の前にいる女性が硬直した。

 

後ろにいた全体的に赤い女性が「目覚めてたのか」と目を丸くした。

 

俺が「この包帯を外してくれ」と言おうとした瞬間、目の前の怒気に触れて何も言えなくなる。

 

間違いなく、女性が怒っていた。心なしかツノが見えるぐらいに。

 

「この包帯は?」

 

「……け、慧音?」

 

「誰が、やったんだ?」

 

友人らしい女性の急な変化にタジタジになる赤の女性。

 

「わ、私だけど……?」

 

 

そう答えた瞬間、女性は噴火した。

 

 

「このッバカヤロウ!!!」

 

 

猛烈な頭突きが赤の女性にクリーンヒットした。

 

 

 

 

字は楽になった体で布団の上に座りながら、水を飲む。

 

その隣で気絶している赤の女性こと、藤原妹紅。

 

字の目の前で友の代わりに土下座をしている女性、上白沢慧音。

 

なんとも言い難い空気になりながらも、仕切り直す三人(内一人気絶)。

 

「すまなかった。妹紅は応急処置などの治療には滅法疎くてな。苦しい思いをさせた」

 

「確かにそれはそうだが……。何はともあれ、助けてくれたのはそちらだ。感謝することこそあれ、文句を言える立場ではない。現に今、生きているのなら、それで問題はないよ」

 

「そういってくれると助かる。改めて、上白沢慧音という。そっちは藤原妹紅」

 

「字だ。名字はない。負傷していた理由はここに来る際の事故だ」

 

「ここに……。やはりあなたは外来人なのだな」

 

「外来人……?」

 

「外来人とは、外の世界から来た人間の事を指す。来たという事は、意図的に入ってこられたという事になるな」

 

「そうか。なら俺は外来人だ」

 

「わざわざ幻想郷に入りに来るとは。何か目的があるのか?」

 

「幻想郷……?ここはそう呼ばれているのか。とにかく、俺の目的は人探しだ。以前出会った少女を探している」

 

「少女?」

 

「ああ。文と呼ばれる少女だ」

 

「文?鴉天狗の事か」

 

「俺のペンダントの中に彼女の写真がある。それを見てもらえればいいんだが……まだ包帯の中に埋まってるな」

 

「今巻いてる包帯はテーピングに近い役割を担っている。無理に外すと骨折箇所が余計痛むぞ」

 

「わかった。何にせよ、まずは回復だな」

 

「それがいい。少し待っていてくれ。妹紅を起こす」

 

「起こす?何故だ?」

 

「私も奥まで行くと迷いかねんからな。妹紅はこの辺り一帯、迷いの竹林と呼ばれる場所の案内人なんだ。ナビゲーターは必要だろう?」

 

「何処へ行くつもりだ?」

 

 

 

「永遠亭。凄腕の医者がいるところだ。その程度のキズ、すぐに治してもらいにいくぞ」

 

 

 




幻想郷は今日も平和。

字の人探しは始まったばかりだが。

名前が明らかである以上、再会の時は近い。かも。

次回、永遠亭訪問。


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『筆跡』を眺める

折り返し地点は流石に超えた頃ですが。

思ったよりも長くなって作者は戦慄してます。

ちゃちゃっと終わらせる気はなかったですけどコレほどとは……w

そんなこんなで変わらず、やりたいように書いていきますよぉ!!


「ここは幻想郷だ。忘れ去られた者たちの楽園。簡単に言っちまえば、妖怪なら妖精やら他にも外の世界で住みづらくなった奴らが集まって一緒に隠れたのが幻想郷の始まりさ」

 

「なるほど。俺の探してる人がいればいいが」

 

「いると思うよ。なんせあんた、忘れてたんだろ?」

 

「ふっ、そうだな。期待するとしよう」

 

「そうしてくれ。……じゃなくて、好戦的な奴もたまにいるから気をつけてな」

 

「気遣い、助かる。その助言は大いに役立ちそうだ」

 

「……礼儀正しい割には、敬語使わないんだな」

 

「……敬語は苦手なんだ。気に障ったか?」

 

「全然。むしろ気楽でいい。そうは思わないか慧音?」

 

「時や場所、場合によるな。字は苦手なのはわかるが、使い分けられるようにしておいた方が敵を作りにくいぞ」

 

「分かっ……分かりました」

 

「ふふっ、今はいいさ。君の性格は大体ではあるが分かってきている。素直ないい子だな」

 

「いい子……なのか……?」

 

「慧音は教師だからな。そういう見方になるんだよ」

 

「教師……か。俺の知り合いにも教師がいた。今も不器用ながら優しく、教える事が得意で慕われてるはずだ」

 

「そうか。是非会ってみたいな。教える側同士の意見交換はいつでも有意義だからな」

 

「機会があればいいのだが」

 

「あったらダメだろ。その教師が幻想郷に来る事になるじゃないか」

 

 早速、支度をした字、慧音、妹紅の三人は永遠亭に向かう。

 字が全身打撲によって所々痛めている為に慧音が支える形で同行し、妹紅が先導する形である。

 

 出掛ける当初は、字が痛みを顔に出す事がなかった為に気付くのが遅れてはいたが。

 

「おっと。ここからは気をつけて行こうか」

 

「……?何か危険でも?」

 

「いや、危険はない。だけど、悪戯好きのうさぎがこの辺りから罠を仕掛けてるんだ」

 

「罠?」

 

「本人曰く、遊びのつもりだから簡単な落とし穴程度だろうが、今のお前は怪我してるからな。念のために下をよく見るように––––––」

 

 

 

 

 

 そう言って、妹紅は下に落ちていった。

 

 

「「……」」

 

 

 下をゆっくり覗けば、結構深い穴の底で倒れている妹紅の姿が。

 

 上手く言えないが、この時の字が感じた事。

 

 一言で言えば、『飲茶(ヤムチャ)』だった。

 

 

 

「「もこたんんんんんん!」」

 

 

 

 

「大丈夫か、もこたん」

 

「大丈夫だ。後、その呼び方やめろ」

 

「もこたん。もう片方の肩なら貸せるぞ?」

 

「慧音、お前だけなんか凄い呼び慣れてる気がするんだけど。私に隠れていつもそう呼んでたりしないか?」

 

「そんな訳がないだろう」

 

「そ、そうか」

 

「もこたんの目の前でもよく言うぞ」

 

「マジで!?いつ!?」

 

 

 

 

 

「んんっ。まぁ、とにかくさっきの通りだ。気を付けて歩こう––––––」

 

「「もこたんんんんんん!」」

 

 

 

 

「「もこたんんんんんん!」」

 

 

 

 

「「もこたんんんんんん!」」

 

 

 

「「もこたんんんんんん!」」

「「もこたんんんんんん!」」

「「もこたんんんんんん!」」

 

 

「あんっのクソうさぎがぁーーーー!!!」

 

「妹紅、キレるのは良くない。周りが見えなくなるぞ」

「そうだぞもこたん」

 

「うるさい!!なんで今日に限ってこんなに仕掛けてあるんだ!?ケンカならいつでも買ってやんぞオラァ!!」

 

「……まぁ、冗談は置いといてだ」

「慧音?今、私の全身全霊の怒りを冗談で済ました?」

 

「見えたぞ字。あれが永遠亭だ」

 

 

 

 竹林の奥に存在する純和風の造りの建物。それを慧音は永遠亭と呼んだ。

 

 ゆっくり入り口に向かう間に、字は永遠亭をしばらく眺めていた。

 芸術というものが分からなくても、日本文化の美しさというものがなんとなくでも分かる建物だと感じた。

 少なくとも、同じ和風であった字の自宅とは設計の方向性が違う為に、新鮮に映っていた。

 字の自宅は大きくはあるものの、やはり田舎の家であり、農民が生活を営むようなイメージを持っている。それに比べるとこの永遠亭は。

 

(まるで、貴族の屋敷のようだ……)

 

 字はチャイムによって中の住人が出て来るまで、ただただ永遠亭に目を輝かせていた。

 

「はーい、誰でしょうか」

 

「よう。うどんげ」

 

「すまない、鈴仙。連絡もなしに悪いが」

 

 

 

「てゐはどこだ」

「怪我人だ」

 

 

「えっ?なんて……?」

 

「「だから」」

 

 

「てゐを出せや!」

「治療を頼む!」

 

「同時に言わないでください!?というか妹紅さん!?殺気がやばいんですけど!?」

 

「二人とも、気持ちは分かるがはやりすぎだ。俺が言う」

 

 そう言って、字はよろけながらも前に出た。

 

「はじめましてになるな。俺は字という。『文字』の『字』一つでアザナだ。よろしく頼む」

 

「は、はい。私は鈴仙・優曇華院・イナバと言います」

 

「なら、すまないが鈴仙、と。鈴仙、俺は外来人なのだが、ここへ来る時に下手を打ってな。だから此処なら医者がいると聞いて、治してもらいに来た」

 

「確かに酷そうですね。とにかく中へ。師匠が診察しますので御二方もご一緒に」

 

 そう言って上げられる三人。しかし、妹紅だけは永遠亭の中を勝手に進んでいった。

 

 呼びかけようとする鈴仙に、字は言葉を続けた。

 

「それで、妹紅なんだが、散々悪戯うさぎとやらの罠に引っかかり過ぎて激怒している。そちらが良ければだが……早めに下手人を差し出すことを勧める」

 

「……あー。……検討しておきます」

 

 納得した鈴仙の顔は、少し諦観の表情をしていた。

 

 

 

 

「ぎゃー!?!?」

 

 そんな感じの悲鳴が聞こえてしばらく、顔に手を当ててため息をつきながらも鈴仙は診察室に案内してくれた。

 

 鈴仙が中に入り、促されてから二人も中に入っていく。

 

「こんにちは、外の人。永琳といいます。今日はどうなされました?」

 

 診察室にいた八意永琳はそう切り出した。

 

「字でいい。全身が痛い。治療を願うが、治せそうか?」

 

「簡潔過ぎるぞ字。永琳、彼は幻想入りした際の事故で全身を打っている。こんな顔をしているが、骨折箇所もあるはずだ。応急処置は焼け石に水だが包帯を巻いている」

 

「なるほど。一度全身脱いで、全体の様子を見ます。後の処置は状態によりますが、しばらくはここで安静になることを覚悟してください」

 

「……そうか」

 

「……後、字さん。さっき仰った『治せそうか』という質問ですけど」

 

「なんだ?」

 

「私は医者よ。と言えば答えになるかしら?」

 

「頼もしい限りだな。よろしく頼む」

 

「では、そちらに」

 

 

 

 

 軽い触診が行われた後は、骨折箇所の固定。

 後は一本注射をして、用意した部屋で安静にしろとの事だった。

 

 なんの薬をいれたのか、字が聞くと。

「言ってもよく分からないでしょうからカンタンに言うと、治りやすくなる薬よ」と返された。慧音は「それはどの薬でも言えることだろう」と思ったが、当の本人がなぜか納得していたので喉から出かけた言葉を飲み込んだ。

 

 

 慧音は仕事があるからと先に帰った。字がお礼を言うと微笑み、「やはりいい子だ」とまた言われた。

 

 妹紅は妙にスッキリした顔で病室を訪れ、「治ったら、案内する為にまた来てやる」と言って去っていった。

 

 

 

(いい人たちに巡り会えた)

 

 そう思った。

 

 彼女は、こんな世界で生きているのだろうか。

 

 今もこの世界のどこかで、変わらずに元気にやっているだろうか。

 

 まだ記憶は全ては戻っていない。戻らないかも知れない。

 それでもいい思っていたし、今でも思っている。

 

 彼女に会えればいい。それは変わらない。

 

 だが。

 

「変わらないな」と言えない事だけは、口惜しかった。

 

 

 

 

 瞼が重くなる。

 早く治そう。話はそれからだ。

 

 胸の高鳴りが、妙に大きく聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  「あー……。目を背けちゃあダメですよねぇ……」

 

「流石にこの部屋はマズイ……。散らかり過ぎちゃってる」

 

「最近ゴタゴタしてたし、注目株もいたから熱中しすぎてたかぁ。あっちゃあ、かなり昔の記事のサンプルがあるじゃないですか!捨てよっと」

 

 

 

「この引き出しは……あー、あの時の……か……」

 

「思い出したら、また恥ずかしくなってきた。小さなコラムとして掲載するだけでも恥ずか死ぬヤツですよねぇコレ……」

 

 

 

 

「あの人は今頃、元気ですか?……なーんて、ね」

 

 

 

 

 ……やっぱりあなたがくれたペンダントだけじゃ、寂しいですよ。

 

 ……字さん。




『もし、今二人に千里眼があったら』

字「もういるぞ」

文「なんでいるんですか!?めっちゃ怪我してる!?」

字「すぐ行くから待ってろ」

文「あーもう!!私から行きます!」

字「いや、俺から……」

文「うるさい!黙って待ってて!」

字「えぇ……」


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『東』の幻想の地

そろそろね、モチベがね、辛いのよ。

ふしゅう、とやる気が抜けてく感じなんだけど、この感覚はあまり好きじゃないね。やる気がなくなってくのも自覚出来ちゃう分自分に嫌気がさしちゃうのがね。

でもそれ以上に嬉しいのが皆さんが読んでくれること!
UA2000突破!!ありがとうございます!!

ちゃんと感想も見させてもらってますし。(というか見つけ次第即返信ですよ)
みんながどの時間にどれぐらい見てくれてるのかとかも確認してます。(ある意味エゴサ)

それでは、どうぞ!


 昨日はどっ、と疲れた。

 あれからかなり怒られたし、より厳しく動けないようにされた。

 

 原因は分かっている。

 

 妹紅が尽く罠にハマったその元凶、因幡てゐという少女に会った事だ。

 

 

 

 因幡てゐは妹紅から仕置きとばかりに軽く燃やされた後日、ぴんぴんしながら字の部屋に通りがかった。

 

 ちなみに元気な理由は永琳の治療によるものである。これには字も羨ましく思った。

 何しろ山奥だからなぁ、と珍しく表情に出してしまうほど。

 

 ともかく、てゐが字に気付いたのはたまたまであった。

 

「誰?」

 

「ん?」

 

 割と患者自体に興味を示さないてゐだが、自分の記憶にない人間が永遠亭にいるのは気味が悪く感じていた。

 知らないのは無理もなく、その時に丁度妹紅の怒りを被っていたのだから。

 

「昨日からここで世話になっている者だ。名前を聞いていたなら、字と呼んでくれればいい。君は確か、因幡さんだったか?」

 

「うどんげとこんがらがっちゃうからてゐでいいよ。それよりどんな怪我をしたの?」

 

「ふむ……。実はよく分かっていない」

 

「なんだそれ」

 

「いや、分かっているんだ。だが難しい専門用語ばかりで説明するとなるとな……確か永琳が細かい内訳を何処かに記してくれていたはずだが」

 

「あー、そういう事。別にいいよ、そこまで興味ないし。簡単に言えばいいさ」

 

「なら、打ち身や打撲、それによる骨折だ。思いっきり全身をぶつけてしまったんだ」

 

「ふぅん」

 

 そう聞くと、しばらく考えるそぶりをした後にてゐは何事もなかったかのように別の質問をし始めた。

 

「ところで、その首についてる飾りは何ウサ?」

 

「これか、大切なものだ。中に写真が入っていて、その人を探している」

 

「どれどれ。わたしに見せてくれれば一発ウサ!」

 

「そうか、有難い。今首から外すから少し待っててくれ」

 

 そう言って、字はペンダントを渡した。

 てゐは受け取り、そのまま病室から出て行った。

 

「……もう分かったのか?……いや、でもまだ中を覗いてはいなかったが……?」

 

「字さん!?」

 

「ん?」

 

 てゐの行動に不思議に思っていると、鈴仙が焦ったように入ってきた。

 

「どうした鈴仙?昼ご飯の時間ではなかったと思うが……」

 

「えっ?いや、てゐがここから勢いよく出て行くのを見て、もしかしてイタズラをしたのかと思ったんですが……」

 

「いや、それらしき事はしてないハズだが」

 

「そうですか。なら……いいん……です…………って、字さん?あのー、アレは?」

 

「アレ?」

 

「師匠の触診の時にすら外さなかったペンダントは?」

 

「ああ、さっきてゐが持って行ったな。なんでも人探しを探してくれるそうだ」

 

「騙されてますやん!!」

 

「ますやん……??」

 

「じゃなくて!あいつはすぐ嘘をついて騙すんです!!字さんが動けない事をいい事に盗んだんですよ!!」

 

「盗まれたのか。なら……取り返さないとな」

 

「今すぐてゐを探してきますから!ちょっと待っててくださいね!」

 

「いや、いい」

 

「えっ?」

 

 

 

「俺が行く」

 

 

 

 

「楽勝過ぎて欠伸が出るわ。よくあんなホイホイと渡せるのかねー」

 

 てゐは迷いの竹林の中を歩きながらペンダントを手からぶら下げていた。驚いた様子もなかったし、信じ切ってるのかも知れない。とんだお人好しだ。

 

「ま、いっか。中の写真見てブサイクな奴だったら捨てちゃえ。『風で飛ばされちゃったー♪』って言っておけば信じるでしょ」

 

 そう独り言を漏らし、ペンダントを開ける。

 

「は?」

 

 流石のてゐも硬直するほどには驚いた。

 

「えっ、こいつって、鴉天狗のブン屋じゃないか。探すも何も新聞取ってたらすぐ会えるじゃん。……つまり、あいつ外来人か?でもなんでブン屋と外の世界で……??」

 

「案外真面目に探してくれているようで安心だが、写真を見たなら返してくれないか」

 

「!?」

 

 てゐが後ろを振り返ると、外には出られないハズの字がいた。

 

「はぁっ!?お前、動けないんじゃ!?」

 

「怪我してるだけで、動けないワケじゃない。返すか返さないか決めてくれ。返さないなら実力行使だが……構わないな?」

 

 

 

「ふんっ、捕まえてみろ、バーカ!!」

 

「決裂と判断しよう。逃がさん!!」

 

 

 因幡うさぎの長である因幡てゐという少女は竹林を知り尽くしている。案内人をしている藤原妹紅と同等、又はそれ以上に迷いの竹林を把握している。

 さらに、地を駆ける速さは幻想郷のなかでも一二を争うスピードを持っている。少なくとも「地を駆ける」という点ではてゐより素早い者はほとんどいない。

 

 速さ比べでてゐと同等に速いものと言えば。

 

 鴉天狗ぐらいのものである。

 

(さっきから見られているハズなのに、全然足音が聞こえない……!何処にいる!?)

 

「そこだ!」

 

「くっ!」

 

 上空から襲ってきた字に対して、間一髪のところを跳躍で回避。

 

 避けられたのは単純に声に反応しただけに過ぎないが、その襲い方が人間としては異常過ぎて、思わずてゐは声を荒げていた。

 

「な、なんだよ今の!?なんでお前、空から降ってくるんだ!?」

 

「飛んでいただけだが?」

 

「飛んだって……!というか、お前なんかさっきと雰囲気違うだろう!?目も赤くなってるし!!」

 

 

 

「どういう事だ?目の充血という事か?」

 

「自分が今どうなってるのか知らねーのか!?とんでもねー馬鹿だな!!大体、その後ろの黒い翼はなんだよ!?お前、本当に外来人か!?」

 

「翼?俺にそんなもん生えてるワケないだろ」

 

「お前の頭にはお花でも咲いてんのか!?よく後ろを見ろ!!」

 

 

 

「?」

 

「何、後ろ見てんだよ!?普通背中見るだろ!!」

 

「うるさいし、何が言いたいのかもよく分からない。大丈夫か?」

 

「お前の頭がな!!いい加減にしろ!!」

 

 

 

 

 この後もしばらく追いかけっこは続き、苦しんだフリをした字を本気で心配したてゐが捕まり、ペンダント騒動は終結した。

 

 

 あとで鈴仙が「なんで珍しく怪我を心配したの?」と聞くと、「アイツだったら本当にやりかねないと思った」と言った。

 

 よくわからなかった鈴仙だが、目が赤くなったり黒い翼が片方だけ生えていることを永琳に指摘されるまで気付かなかった姿を見て、鈴仙はてゐの言った事が少し分かった気がした。

 

 

 

 それから数日経ち。

 

 永琳が示した完治予定日丁度に、字は無事回復。

 庭で軽いリハビリを送ったあと、別れの挨拶をするために永遠亭を歩いていた。

 

 

「永琳先生にはお礼は言えたし、てゐの奴は見かけたついでに言えた。だが、鈴仙だけが見つからないな。何故だ?」

 

 考えるが、彼女が勝手に永遠亭からいなくなるとは思えない。見つけられていないだけか、出かける用事があるか。少なくともここには病室で過ごした事ぐらいで殆どの事を知らないため、それぞれがどんな生活をしているかは把握していない。

 

「これなら、永琳先生に聞いておけばよかったか。部屋の方も探してみよう」

 

 色んな場所でノックをして、中を覗く。そうしてるうちに、全く鈴仙を見ないどころか迷ってしまっていた。

 

 流石にこれはマズイ、と困り気味に辺りをうろついていると、離れたところに大きな家屋を見つけた。

 

 ここにいる事を賭けるしかないと意気込み、障子の前に立って軽くノックをする。

 

 反応を伺うまでもなく「どうぞ」という声がした事を確認して、中に入る。

 

 

 しかし女性の声ではあったが、鈴仙の声はこんなだったろうか?

 

 

 その疑問は時すでに遅く。

 

 中にいた永遠亭の主と邂逅を果たした。

 

 

「永琳?何か面白い事でも……あら、どなたかしら?」

 

 見目麗しい女性が、目の前に居た。着物をベースにした衣服を纏っていて、それでも尚お淑やかな雰囲気を持っている不思議な女性だと感じた。

 

「失礼した。鈴仙を探していたのだが……女性の声だけで鈴仙と勘違いをしてしまい、入ってしまった。人騒がせをしてしまい申し訳ない」

 

「いいわ。そういう事もあるでしょう。あなた、名前は?」

 

「ああ。字という。名字がないから、字と呼んでくれ」

 

「そうなの。字さん、何故鈴仙を探しているのかしら?」

 

「先程やっと怪我が完治したので、ここを出ようと思ってな。世話になった人達に挨拶をしていた。後は鈴仙だけだったんだが見つからなくてな……」

 

「鈴仙は人里の方で薬を売りに出かけたわ。帰ってくるのはもう少し後でしょう。私からよろしく言っておくから安心して」

 

「助かる。えっと、ありがとう」

 

「ふふっ、どういたしまして」

 

 どうせですしもう少しお話に付き合ってもらってもいいかしら、と目の前の女性は続ける。

 

「正直、今少し悲しい気持ちになっているの」

 

「何故……ですか?」

 

「これでも絶世の美女と呼ばれた事があったし、魅力もあると自負はあったのだけど……。あなたには届いてないのね」

 

「つまり、あなたを女性として見ていないと?」

 

「そうよ。あなたは興味がないだけ?それとも、相手がいるのかしら?」

 

「……正直、この気持ちがその類なのかは分かっていない。ただ、その人に会うためならなんでも出来る。そう思う」

 

「素敵ね。あなたみたいな人に想われているなんて」

 

「あなたも俺とは釣り合わないぐらい美しいと思う。とても綺麗で……なんて言えばいいか……まるで、かぐや姫のようだ」

 

「ふっ、あっははは!」

 

「……!?」

 

 褒めただけなのに笑われるとは思っていなかった字は、何故彼女が笑っているのかが分からない。

 もしかすると何か失礼な事を言ったのか、と字は少し考え込んだ。

 

「ふふふっ、困らないで字さん。そうね、私の名前を言ってなかったわね。蓬莱山輝夜よ。ありがとう、お話出来て楽しかったわ」

 

 

 

「まさか、本物だったとは……世間が狭い、というよりもとても貴重な経験をしている、という感覚だな。そもそも、こんな場所で世間なんて言葉は合わなそうだ」

 

「どうかしたか?」

 

「ああ、改めてここは凄いところだと分かっただけだ、妹紅」

 

「ふーん。そんなものか?」

 

「俺から見れば綺麗な世界だよ。ここは。」

 

 

 

「何処へ案内すればいい?迷いの竹林からは出してやるが、遠過ぎるところは流石に嫌だぞ」

 

「そうだな」

 

 

 

 

「……人里へ。ここに住む人達を一目見たいんだ」

 

「……人探しはどうするんだ?」

 

「人に聞きながら自分で行くよ。妹紅達には厚かましくて頼めない」

 

「そうか。お前がそういうならいいさ。だが、会えたら今度紹介してくれ。お前の好きなヤツは興味がある」

 

「ん?……妹紅に俺の探してる人が女と伝えたか?」

 

 

 

 

「馬鹿。お前みたいな真っ直ぐなヤツが人探しなんて、それしかないだろ」




色んな人に出会った。

恵まれた環境でなくとも、生きてこられた。

きっと、どんな事があっても。

自分は支えられているから。

死ぬ事になったとしても、諦めない。




命の灯火が、僅かに揺れた。


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『方』違えの凶

お気に入りも30人突破!!

こんなに嬉しい事がありますでしょうか。

いや、ない。

ここまでお付き合いくださりありがとうございます。
タイトルの方で気付く方もおられるでしょうが、そろそろですね。何がとは言いませんが。
それでは、引き続きお楽しみください。


妹紅に向かって手を振る。

 

すると、妹紅は後ろを向いてそのまま去っていった。

 

字も後ろを振り向き、賑やかな住人達の間に潜って行った。

 

 

妹紅による道案内は人里にて終了したため、ここからは自力で探すことになる。

 

不思議と住人の反応を見るに、文の存在を知っている人は多い。少なくとも慧音やてゐは知っていたのだから。

 

ならば、町行く人に聞いても情報は得られる。

 

そう思いながら、茶屋で足を止める。

 

「すいません」

 

「はーい!なんでしょう!」

 

店員の娘に話しかけると、活発な返事が来た。

元気がいいな、と感心しながら注文をする。

 

「茶を一杯。それとおススメの団子を二本頼む」

 

「かしこまりました!」

 

そして、赤い腰掛けに座り、周りを見渡す。

 

一言で言うなら、江戸時代の小さな町。

 

賑わいながらも人と人が協力しながらここで生活しているような雰囲気がある。

 

「平和、だな」

 

ふと、そう呟いた。

 

「お待たせしましたー!お茶と、みたらし団子ですね!」

 

「ありがとう。金は……あ」

 

金は今払えばいいのか、と聞こうとして、肝心な事に気付き青ざめる。

娘も急に言葉が途切れた事に首を傾げていた。

 

「あの……俺は外来人なのだが、外の金銭でも問題はないか?もしかして、ダメだったりするのか?」

 

「えっ、と……そうですね」

 

「……しまったな。大切な事を忘れていたか」

 

字は困ってしまった。こんなミスをしてしまったのはこの世界が異世界だと言う実感が少なかったせいだ。

 

もっと気を引きしめなければならない。

 

「すまない。少し、いいだろうか」

 

「は、はい」

 

「この中には外の金が入っている。それが分からなくとも、財布自体はそれなりの価値を持っているはずだ。これを渡すから、ツケにする事は出来ないだろうか」

 

「ツケですか?なら、これはお金を払う時に渡せば……」

 

「違う。あげるからツケにして欲しい、という話だ」

 

「えっ!?そんな悪いですよ!?急に渡されても……!」

 

「遠慮はいらない。寧ろそれでも足りないくらいだ。常連でもない人間ならこれくらいの身銭を切らなければ割りに合わないだろう。どうか受け取っておいてくれ。必ず返す」

 

「……分かりました。どうも腑に落ちませんけどね」

 

「なら、代わりと言ってはなんだが、人を探している。ペンダントのこの写真の女性で、文という名前だ」

 

そう言って、娘の人にペンダントを渡す。すると、「えっ」という声とともに静かに驚いていた。

 

「分かるか?」

 

「はい……。文々新聞の射命丸さんですよねコレ……」

 

「どこにいるか分かるか?恩人のような人で、一目だけでも会いたいだけなんだ」

 

「はい、確か……」

 

 

 

 

「おい、なんだありゃあ!?」

 

 

「……!?すまない、後でな……!」

 

「えっ、お客さん!?せめてお名前を!!」

 

 

「字だ!周りの避難を頼む!」

 

 

字は正義の味方ではない。何かしらの敵に遭遇した場合、どちらかと言えば、周辺の人に声を掛けながら逃げ惑うことを選択する人間だ。

 

しかし、悲鳴が聞こえた時。その先で字は確かに見た。

 

 

緑の触手。……つまりは蔓。

 

それはあの時。

 

 

 

 

幻想の入り口にて相対した、世界最大の異形の花。

 

 

つまり、あの触手は字にとって単なる異変ではなく。

ラフレシアとの再戦を意味していた。

 

 

(何故奴がここにいる––––!?完全に燃え尽きたはず!?)

 

人混みを掻き分け、その生物の全容を視認する。

 

植物の姿をした化け物。人型のようにまとまってはいるが、所々から蔓が飛び出ており、頭部がラフレシアの花弁になっている。何より体躯が巨大であり、見上げなければ上半身が見られない程である。

 

「なんだこいつは!?規模があの時とは違いすぎる!!」

 

このラフレシア。字はもしかすると、自分の責任でラフレシアが襲いに来る事態を招いたのではないかと思っていた。少なくとも、ラフレシアと前回戦った場所は外の世界である。だからこそ、自分と同じ場所から移り住んでしまったのだと考えていた。

 

俺がなんとかするべきなのかも知れない。

 

しかし、そんな考えは化け物を見た途端に全て拭い去る。

 

あの花とは明らかに異質。逆だった。()()()()()()()()()()()()ラフレシアは外の世界に逃げたのだ。

 

植物の化け物は蔓が幾重にも重なって出来た足で足元の建物を踏み潰して進んでいく。

 

まるで災害のようだった。

 

 

眼は赤く染まり、背中の右側のみに翼が生える。

彼は一目散に走っていった。

 

壊れた住居から長めの木の棒を取り出す。

 

「外で出会ったラフレシアでさえ、周りの木々に影響を及ぼしていた。なら、あの自立しているヤツが暴れたらこの世界がひとたまりもない!」

 

ライターを取り出し、先端に火をつける。

 

「向かっている方角は知って知らずか永遠亭の方……。世話になった人たちの元に、こんなヤツを向かわせるわけにはいかない……!」

 

 

 

 

「止めさせてもらうぞ!植物擬き!」

 

 

 

風の様に駆け抜け、植物の化け物を追う字。その手には燃え盛る木の棒を握っている。

 

蔓で出来た足に目掛けて、燃える棒を突き刺す。

 

しばらく押さえ付けても燃え移る事は無く歯噛みするが、危機を感じ取って身をかわす。

 

足から何本かの蔓が飛び出して字を搦め捕ろうと襲いかかっていた。その衝撃で、火のついた棒も吹き飛び、地面を滑っていった。

 

取りに行く暇はない。永遠亭とは逆方向へ向かい、人の居ない方向へ誘き寄せる。

 

「来い、化け物!」

 

すると、意に介さずに変わらず進み続ける化け物。

字はとっさに木片を握り、火をつけて頭部らしき花弁に投げつけた。

 

意外にも足に火をつけようとした時とは違い、今度は腕部分で防ぐ化け物。

 

 

 

刹那、全身が震えた。

 

 

確かな殺気。冷える様な感覚と共に、目こそ無いものの睨まれた気がした。

 

押し負けない様にするのが精一杯で、身体がまともに動かない。

 

 

指先の部分から、勢いよく触手が飛び出した。

 

 

(死ぬ……!)

 

 

最大級の危険信号が全身を駆け巡る事によって、回避と同時に空へ飛び出す。

 

いくつもの蔓が速さに拮抗するなか、隙間を縫う様に片翼を広げて羽ばたく。

 

 

 

 

とある瞬間で、不意に引っ張られる感覚がした。

何が起こったか分からないままに。

 

 

 

 

原因の足を見る。

 

 

 

 

 

 

一本の太い蔓が巻き付いていた。

 

 

 

 

 

ごおっ、という音が鼓膜を揺らし。

 

 

 

視界のあらゆるものが線に見えた。

 

 

 

全てがブラックアウトする寸前。

 

 

 

ようやく、地面に投げ飛ばされる事に気付いた。




ただの無謀である。

ただの蛮勇である。

ただの愚行である。

誰かはそう笑うだろうか。

それでも。
もう、立ち向かわずに。

虐げられ。

大切な人を守れなかった。

あの時の自分にだけは。



なりたくなかった。
ただ、それだけだったんだ。


ここに文がいるのなら。

俺が立ち向かうのは。


分かりきった事だろう?


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射命丸『文』

まず、これを読むにあたり、注意がございます。
この話から、 原作にはないオリキャラが一人ふわっと出て来ますが、バグではありません。

詳しくは『幻想郷でまったり過ごす話。』という私の作品にて、主人公をやっている青年が出てきますが。

バグではないんです。

それではどうぞ。


 いつか、俺は言った。

 

「ごめんな」

 

「ごめんなさい」

 

「……ごめんなさい」

 

 

 

「……ごめんなぁ。こんなお兄ちゃんで……ごめんなぁ……」

 

 

 

 

 

 

 いつか、俺は耳にした。

 

「母親と同じように、お前が汚れる必要は無いんだよ……!!お前は!!」

 

 橋立さん。

 

 

「……ワシが出来る事と言えば。あのバカ息子と同じぐらいに、お前を愛してやることぐらいじゃ」

 

 爺さん。

 

 

「権兵衛ぇー!なぁにやってんの!……え、それ何!?美味しそう!!…………ちょっと、食べていい?」

 

 梢。

 

 

「『お前の名は「(あざな)」じゃ』。あやつが、お前のために付けてくれたお前だけの名じゃぞ。二度と忘れてくれるなよ。小童」

 

 龍之介さん。

 

 

 

 

 

 

「–––––––––––––––。」

 

 文。

 

 

 そして。

 

 

 

 

「好きだ」

 

 

 

 

「未来永劫別れようとも、君を愛し続けよう」

 

 俺自身が、確かに言った言葉。

 

 

 誰に言った言葉だったか。

 

 

 

 ……いや、分かっている。

 

 彼女に対しての、俺がしたプロポーズだ。

 

 

 ……彼女の答えが朧げなままで。それが思い出せない。

 

 

 その答えを知るだけでいいのに。

 

 

 何故こうも。

 

 

 

 

 遠いのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 『射命丸文は伝えない』

 

 

 

 

 

 

 空を飛び立つ。

 

 いつもの空。いつもの自然。

 

 巡回中の白狼天狗を尻目に、今日も私。

 

 

 

 射命丸文は、まだ見ぬネタを探しに奔走するのだ。

 

 

 しかし、ネタがない。

 最近は正直、博麗の居候についての特集ばかり書いていた所為で飽きやすい内容になっているのは否めない。

 

 だって、あの博麗の巫女が家に置く男である。その人について回った方が面白くなるのは必然、人気になるのは当然。

 

 ……だったのだが。

 

 もうそろそろ2年ぐらい経つのかな。居候が来て。

 

 ……。

 

 …………。

 

 …………言いたい事はわかる。

 

 ちょっと、書きすぎました。分かるますよ。そりゃ。

 

 だって、凄い人気だったんですから!!妖怪、甘い汁ばっか吸いたいじゃないですか!!

 

 他の記事は見向きもされてなかったし!!

 分かってましたよ!そろそろなんとかしなきゃなぁ、って!!

 

 でも、面白いネタがないから仕方ないんです!!

 

 

「でも最近、そのせいで取材の仕方忘れちゃってるんですよねぇ。霊魔さん、ホイホイ答えてくれるから……」

 

「デカイ独り言言ってるトコ悪いが、ちょっといいか文?」

 

「えっ?……へぇあ!?霊魔さん!?ぬぁぜここに!?」

 

 

「すまん、話をするが急いでる!並走して来てくれ!」

 

「えっ!?……あっ、はい!」

 

 

 

 

「植物の暴走!?なんですか、その面白そうな事態は!?」

 

「あのババ……風見幽香と色々あってな!!とにかく今、暴れてるヤツを止めに行かなきゃならん!!が、どこにいるかが分からない!手を貸してくれ!!」

 

「分かりました!!ネタの為なら何処へでも!!それで、どうします?」

 

「白玉楼にはもう向かった!後、地霊殿に向かってみる!文は神社や人里を頼む!紅魔館で落ち合おう!」

 

「任せてください!それじゃあ!」

 

 

 それを最後に、博麗の居候こと霊魔と別れる。

 

 文は全速力で飛翔した。

 

 

「先に人里の方ですかね!」

 

 

 数分もかからずに人里へ到着したが、上空から降りる事はなかった。

 

「……えっ!?……何ですかあれは!?」

 

 文は愕然と化け物の存在を知る。

 

 ラフレシアの花弁を頭部に見立てた、植物の巨人。蔓に覆われた身体を見て、文はなるほど、と合点がいった。

 

 ラフレシアとは寄生植物であり、その寄生対象のブドウ科の植物からのみ栄養を摂取する。つまり、この巨人はブドウ科の植物である蔓を完全に支配下に置いた形。その蔓を操り、人型にまで昇華したのだ。

 

 しかし、問題は規模である。

 

 それこそ、先程の霊魔という青年の言葉によって疑問は解消される。

 

「風見幽香の仕業、か。確かにあの花妖怪ならこのぐらい出来そうですねぇ」

 

 花を操ることの出来る幽香なら。

 目的は定かではないが黒幕が分かった以上、私が出ない道理はない。

 

 つまり。

 

「大スクープ発見ですね!『犯人は風見幽香!彼女の隠された本性とは!?』という見出しで行きますか!早速、ぱしゃりと一枚」

 

 本当は一枚どころでは無く、連写しているのだが。

 自分からも多少近づかないように動き、より恐ろしいアングルを探していく。

 

 すると、下の方で火を用いて立ち向かっていく青年を発見する。

 

「ん?誰ですかあれ。……大切な何かでも壊されてしまったのでしょうか。気の毒ですねぇ」

 

 あの程度でどうにかなる相手でもない。さっさと逃げて、博麗の巫女やその居候に任せてしまえばいいのに。

 

「まぁ、好きにさせればいいでしょう。そろそろ紅魔館に行かないと。やる事はちゃんとやらないとですね」

 

 

 

「霊魔さぁーん!人里にいました!結構デカいですよアレ!」

 

 早速集合場所に向かい、紅魔館正面で合流。

 門番の「えっ?何かあったんですか?」という問いを完全に無視して、二人で飛んでいく。

 

 

 

「文!お前はどうする!」

 

「任せますよ!あんなのと戦って、カメラが壊れたら嫌じゃないですか!!」

 

「……だろうな!せめて避難誘導ぐらいはしとけよ!」

 

「片手間にやっときますね!じゃあ!!」

 

 霊魔が巨人に追突していったのをカメラに収め、地面に降り立つ。

 

「博麗の居候が来ましたので、邪魔にならないように離れてくださいよ!後、私の邪魔もしないでくださいね!」

 

「そうか!」

「助かった!」

「よろしく伝えといてくれ!」

 

「はいはい、分かりましたって。それじゃあ!」

 

 適当にあしらい、記事を逃さぬようにカメラに収める。

 

「普段の霊魔さんの戦闘は、だいたい一瞬で終わるから見所ないんですよねぇ。でも、さすがにこれは苦戦しそうですし。……いっそのこと、隠された力とか解放してくれませんかね?」

 

 少しして霊魔の得物である長すぎるお祓い棒が、霊魔の手まで飛んで来た。

 上手くいなしながら攻撃を加えていく様を、しばらく傍観していた。

 

 

 

 気付いたのは、ちょっとした心当たりからである。

 

 

 

(あれ?)

 

 

 

 

 些細な気付き。

 

 

 

 例えば、集合写真から一人だけいなかった事になっていた。そのぐらいの気付きだった。

 

 

 

「さっき見た、あの子はどこだろう?」

 

 

 

 羽ばたいて、避難していった方向へ向かう。

 

 あの子がいない。一人、あの巨人に対抗していた子だけが。

 

 顔こそ見れなかったが、全体的に真っ黒な服装だったからこの中の人々と見間違えることはない。

 

 

「うぅん……。気付いちゃったけど……、完全に戦ってる場所のどこかで倒れてますよね?……邪魔しないようにしないといけないけど、それだとあの子が死ぬかも知れないし……」

 

 別にどうでもいいと思ってしまえば、それで終わる話ではあった。

 

 しかし、霊魔に避難誘導。つまりは人々の安全を任された手前、どうしても気になる。

 

 

 

 

 

「チャチャっと行って、見つけて逃げればいいでしょう!……こんなんじゃ、記者失格ですかねぇ」

 

 葛藤の末、文は救助の選択をした。

 

 

 

 巨人の方を警戒しながら、探索を進める。

 

 この時、思いの外早く探索が進んだ。

 

 というのも、あの巨人は脅威に対し、あらかじめ潰すという動きよりも迎撃という形を取っているからだ。

 

 先程、かなり近い距離まで近づいて霊魔が文に勧告を叫んだにもかかわらず、霊魔のみに対応していたためだ。

 

 お陰で、ある結論に早く達する事が出来た。

 

(道端に倒れてはいない。なら、吹き飛ばされていない限りは、倒壊した建物の中にいる……!)

 

 だとすると、答えは明確に出ていた。

 

(大半の倒壊した理由はおそらく、あの巨人の進行方向にあったから。実際、上から確認したら直線上になっていた事から、これは合ってる)

 

 そして、そう考えると明らかに不自然な一区画を目にやる。

 

(ならここの、直線上には近いだけのこの場所は?予想が正しければ、ここにあの子が倒れてるはず……!)

 

 その区画。半壊した家屋が一軒あるが、まるで上から何かが落ちて来たかのように穴が空いてる事もこの予想の根拠となっていた。

 

 

 上部分の穴から入る寸前。

 

 文にぞわりっ、とした感覚が背中を駆け巡った。

 

 

 

 

 

 床部分まで下降し、緩やかに着地。

 

 この家は殆どが瓦礫に埋もれてしまっていた。

 屋根の瓦は木片が散らばり、家具も倒れていた。

 

 しかし、文は見つけていた。

 

 

 瓦礫の山に埋もれながらも、外に出ていた右手を。

 

「ナイッスゥ!!文ちゃん天才!!これなら名探偵も楽勝ですね!……さてと、もう生きてるかは分かりませんが、ここまで来たら助けますからね!」

 

 

 そう言って、右手に自分の手を添えた。

 

 

 

 添えた。

 

 

 

「……えっ?」

 

 

 

 握った。

 

 

 

「あれ?」

 

 

 

 何故だろう。考えがまとまらない。

 

 

 

 手を握った……だけなのに。

 

 

 

「……えっ、ちょっと」

 

 

 

 瓦礫をどかす。

 幸い重い物はない。

 

 

 

「ちょっと待ってください」

 

 

 

 次々にどかす。

 腕が少し見えた。僅かながら服の袖も見える。

 

 

 

「ちょっと待って」

 

 

 

 一つ一つどかすのでは遅い。

 両手を使って掻き分けていく。

 

 

 

「えっ、そんな」

 

 

 

 カメラのレンズに砂塵がかかる。

 

 

 

「嘘っ……」

 

 

 

 うつ伏せになった背中。そして、男にしては長い髪が瓦礫から露わになる。

 

 

 

「そんな……まさか、ですよね」

 

 

 

「そんなわけない……!」

 

 

 

「そんなわけ……!」

 

 

 

 下半身に積まれている邪魔な物を力任せに取り払う。

 

 

 

「なんで……!?」

 

 

 

「いやぁ……!嘘っ……!!」

 

 

 

 自分の脚がしゃがんだまま動かなくなる。

 かつて見た青年の上半身を抱き上げる。

 

 

 

「ああっ……!あああ……!!」

 

 

 

 その青年の首にかかっているペンダントがきらりと光った。

 おもむろに文もシャツの内側に隠れている、全く同じペンダントを手繰り寄せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「アザナっ……!さんっ……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 返事は返って来なかった。

 

 

 

 

 

 

「うああああああああああああああ!!!!」

 

 

 

 文の叫びを聞いたのはただ一人だけだった。




再会。されど、それは夢見た事とは程遠く。


喜ぶがいい。少年。

幻想と嗤える願いを、世界は受け入れたのだ。

喜ぶがいい。少年。

結末の時は未だ来ず。

然るべき時に、訪れるだろう。


精々、踊り狂え。
人形。


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射命丸『字』

短め。

すまん。


夢を見た。

 

この夢は子供の頃からの夢。

 

 

綺麗な女の子と別れる夢。

 

追いかける夢。

 

そして、その子に抱えられながら、眠る夢。

 

 

そのどれにも、涙があった。

 

 

決別の覚悟。

 

叶うはずのない悲願。

 

そして、永遠の別離。

 

 

……俺は少年の頃から、最後の涙の意味は知っていた。

 

だからもし、この夢の通りに世界が廻るのなら。

 

最後の涙だけは、流させまいと決意した。

 

 

それが俺の……。

 

 

 

 

君は、どうしたい。

 

「あなたは、だれだ」

 

 

君は、どうしたい。

 

「俺は……彼女に会いたい」

 

 

それだけかい。

 

「……会うだけじゃダメなのか?」

 

 

君はもう知っているよ。

 

「……」

 

 

それだけかい。

 

「いや、そうだ……。それだけじゃない。俺はきっと、守りたいんだ。あの時、手を取れずに死んでしまった過ちに報いる為にも」

 

 

……。

 

「教えてくれ。大切な人の守り方を」

 

 

もう持っているだろう?

 

「持っている?何をだ?何が言いたいんだ?」

 

 

大丈夫。

 

 

 

 

 

僕の願いと共に、君は羽ばたくんだ。

 

「願い……?もしかして、あなたが龍之介さんの……!!」

 

 

それの使い方は、分かるね。

 

 

月並みだが、言葉を贈ろう。

『最高の結末へ向かい給え』

 

 

 

 

 

 

「うああああああああああああ!!」

 

 

溢れた涙は止まず、一粒、二粒と次々に零れ落ちる。

 

 

「字ぁ……!字ぁあ……!!」

 

 

涙で視界が滲む。声が枯れるほどに泣き叫んだ。

 

 

 

 

ふと、頰に。

 

温もりを感じた。

 

 

 

目を見開く。

 

 

彼の右手が、文の頰をさすっていた。

 

「ああ……」

 

こちらも掠れるぐらいの声で、言葉を紡いだ。

 

「泣かせないように……って……決めてたのになぁ」

 

 

 

「あざな……?」

 

「あや。ごめんなぁ。遅くなった」

 

 

少女は、顔を青年の胸に埋めた。

 

 

「バカ……!このバカ……!!」

 

「ごめん。本当にごめん」

 

「死んだかと思っだぁ…!!だっで……!!いるなんて……!!」

 

「大丈夫だから。近くにいるよ。消えたりしないから」

 

「字ぁ……!!」

 

「会えてよかった。本当に。よかった」

 

二人は、しばらく不恰好に抱き合っていた。

 

 

 

 

大きな地響きの音により、二人は我に返った。

 

 

まだ、異変は終わっていない。

 

 

その事実が、二人の顔色を変えた。

 

「文。積もるは山ほどあるが、先にあの化け物を倒さないと……!」

 

「今は博麗の居候が戦ってるから、時間は稼いでくれてる!急いで逃げよう!」

 

「ぐっ……!待て、今その人が一人で戦ってるのか!?」

 

「ええ、大丈夫。あの人、博麗の巫女と同じぐらい強いですから!」

 

そう言って字の手を引こうとする文に、字は疑問を呈する。

 

 

「その人だけで勝てるのか?」

 

 

「そうですよ。いつものように……」

 

「その『いつも』っていうのは結果論に過ぎないんじゃないのか……っ。その人がどんなに強かろうと……!……勝てなきゃ守れねぇだろ……!」

 

「……っ!?」

 

字の激昂は正論であった。

 

「あれはお前たちから見て楽勝な相手なら何も言わないが、現に今この時まで戦ってるんだろう?そんな苦戦している相手を見て、確実に勝てるとは思えない」

 

 

 

「じゃあ、どうするんですか」

 

「俺に考えがある」

 

 

 

「無謀な考えじゃないですよね」

 

「見てくれれば分かる」

 

 

 

そう言って、字が取り出したのは黒い羽ペン。

 

瓦礫から屋根の瓦を取り出し、そこに『砕』の字を書いて壁に放り投げた。

 

 

壁に激突にた瓦はしばらくした後、ひとりでにパキンっ、と粉々に壊れる。

 

「これは一体何ですか!?」

 

「昔、鴉天狗が外の世界に置いていった小説家との友愛の品らしい。こんな使い方がある事はさっき知ったが」

 

「さっき?」

 

「ふとコレの使い方が分かって、俺の左腕にさっき『活』の字を刻んでいたんだ。今は消えてしまったが、きっとこの羽根ペンには『字の通りの現象が起こる程度』の能力がある」

 

「なんで分かったんですか?」

 

「些末事だ。……そんな事より、先に向こうを片付けるべきだ。……なぁ、文」

 

「なんです?」

 

 

「俺の考えなんだが、俺を担いで飛ぶ事は出来るか」

 

 

 

 

「……あの」

 

「なんだ、文。無理はしないでくれ」

 

二人の目の前には遠くてなお大きく凶暴な植物の巨人、そしてそれの進行を阻止すべく動く博麗の人間。

 

そんな中、文と字は、字の提案により。

 

 

「……無性にすっごく恥ずかしくなってきたんですが」

「それはガマンしてくれ」

 

お姫様抱っこをしていた。

 

 

 

「なんでですか!?別にこれじゃなくても良くないですか!?」

 

「さっきも言っただろう。自分だけで行くならともかく、俺は唯一無事だった右手ぐらいしかまともに動かせないんだ」

 

「だからそうじゃなくて、何もこの体勢でなくたっていいという話をしてるんです!!」

 

「まず作戦だが……」

 

「話を聞けェ!!」

 

 

「さっきの瓦の要領で奴の足部分、腕に『文字』を書く。文は俺を運ぶ事と避けるのに専念してくれ」

 

「さっきの『砕』の字を書くんですか?」

 

「いや、それよりも植物に効果的な字があるだろう?」

 

「……なるほど」

 

 

「とにかく、花が咲いてるところがラフレシア本体と分かった以上、体を構成する蔓を減らすしかない。頼むぞ!」

 

「はい、行きますよぉ!!」

 

 

鴉天狗の翼を広げて飛び立ち、僅か1秒で最高速度に到達する。

 

 

字はGに耐えながら、正面にいる巨人を見据える。

 

勝てるだろうか。

策はある。だが、確実に勝てる保証なんて何処にもない。

 

それでも。

 

不思議と、彼女といるとなんでも出来る気がしていた。

 

それは文も一緒であった。

 

 

 

二人の戦いの火蓋が切って落とされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




この瞬間をただ一時のモノにしたくない。


自分で断ち切った心を。
記憶と共に消えた思い出を。


もう一度繋ぐ為に。


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鴉を二度、愛した男。その1

UA3000突破!!やったね!
ありがとうございます!!!

でも、それとは相反するようにちょっぴりスランプ気味……。

ですが、頑張って行きます。
申し訳ないです。


「あの植物の化け物は単純な接触程度なら感知出来ない。ロボットに乗ったパイロットのように、異常が起きないとアイツは対応出来ない筈だ!」

「分かりました!しっかり掴まってて下さいよぉ!!」

 

 字は唯一動かせる右腕に羽根ペンを持ちながら、文の肩を掴んで踏ん張る。

 

 文も負傷した字を気遣いながらも巨人に近づいていた。

 

 しかし、字は既に重体に等しい状態であり、常人ならば死んでいてもおかしくない程である。文がどう考えて動き回ろうが痛みは字を蝕み続けているだろう。さらに字は永遠亭に行く際にも指摘された通り、痛みや苦しみを極限にまで顔に出さない傾向があるため、字が幻想郷にいる事で動揺を隠せない文が気づくことはない。

 

 そして、黒い羽根ペンの使い手として、字が書かなければ効果は発動しない事が分かり、かなり辛い条件となる。

 これは先の作戦会議の時に試して分かった事である。

 

 つまりは、時間との勝負。

 

 植物の巨人を倒せるか、字が気を失うかの戦いであった。

 

 

 そんな事も露程も知らない文が、後方から足元に到着する。

 

「今です、頼みますよ!」

「ああ!」

 

 即座にペンを走らせる。書く文字は四画の一字。ほんの少し時間は取るが、一息に書けるレベルのカンタンな字だ。

 

「書けた!離れろ!」

「はい!」

 

 やがて離れた後の文字が光り、その効果が現れ始める。

 

 

 ここで一つ、能力の細かい説明が必要になるだろう。例えば、先程文に見せた「砕」の字を大きい岩にでも書いたとする。そうすると、岩が文字通り砕ける事になるだろう。これはつまり、『書いた対象をどうするか』を文字に書いている事になる。それによって、『岩が砕けた』という理屈だ。

 

 ならば、『どうするか』以外の漢字を用いるとどうなるか。具体的に言えば、漢字一文字で書ける物質や生き物を書いた場合がこれにあたる。

 

 

 結果を言えば、『書かれた対象が、それに変化する』事になる。

 

 

 

「書いた字は『火』。一本の蔓がどう伸びてるのかなど分からないが……仮に力不足で元の蔓に戻ったとしても、その間に燃え移る時間は十分にある」

 

 瞬間、巨人に明るい線が一本なぞられた。その蔓は書いた左足から胸の方にかけて燃え盛る。

 

 巨人が叫んだように暴れ散らす。身体を激しく揺れ動き、消化しようとするが、火自体は元の蔓の為、次々と身体を構成する別の蔓に燃え移って行く。

 

「やった……!字さん、これなら……」

「文、避けろ!!」

 

「えっ!?わぁ!!??」

 

 ほんの一瞬の油断で蔓が掠める。避けたと思うのも束の間、無数の蔓があらゆる方向に伸びていた。

 この一本一本が鋭く伸び、まるで槍のように貫かんと迫ってくる。

 

 文がこの時、万全な状態だったなら難なく躱す事の出来る攻撃ではあった。しかし、今は手負いの字を抱えて飛んでいる状態。

 

 僅かなズレがより大きなズレを呼び。

 ついに、無理な体勢から、字を取り零した。

 

「……!?字さん!!」

「なっ……!?……くぅっ!!」

 

 あの巨大な人型になっていたぐらいである。本数にしても多く、また一つ一つが太い。

 少なくとも、この中のたったひとつにでも直撃すれば、字は満身創痍になってしまう。

 

 咄嗟に字は黒の羽根ペンを身体に取り込む。未熟な半妖化に戻り、赤目と片翼の姿を取り戻し、翼を器用に羽ばたかせて軌道修正で避けていく。

 

 文は字の変化に驚いた。それと同時に何故字がこの幻想郷に来れたのか分かった気がした。

 彼は人間でありながら、既に人間ではなくなっていたのだ。

 

「字さん!!」

「コイツは……ぐぅう!?」

 

 速度の減衰や滑空で難を逃れていた字だが、数には勝てない。

 さらに、無理な翼による方向転換などに身体が悲鳴をあげ、終始真顔に近かった顔全体に脂汗が流れる。

 

 一瞬動けなくなった字にタイミングよく当てに来たように蔓が飛んで……。

 

 

 

 

「射命丸。コイツは貰っていくぞ!」

 

 その蔓は空を切った。

 

「霊魔さん!!」

 

「もう少し離れるぞ。奴の様子がおかしい。第2形態の登場だろうな」

 

 そう言って、長いお祓い棒片手に蔓を弾きながら抱えられた。霊魔は当然字の傷の詳細は知らない為、文よりも字を粗暴に扱いながら後退した。

 

「男ならもう少し頑張れよ。何、女の子に担がれてんだ」

 

「あなたは……あの時、文を迎えに来た人か……!あの時はワガママを言って悪かったな」

 

「射命丸を……?……ああ!お前、あん時の青年か!?アイコンタクトだの変なその翼だの、イメチェンしてるから気付かなかった。すまねぇな!」

 

「別にいい。初対面な上にそこまで親しくもなかったしな。それより……」

 

 

「ああ、やっと本気モードってヤツか?」

 

 

 巨人の身体は解け、花弁を中心に蠢き始める。

 先程の字によって焦げた箇所や燃えている箇所は早々に千切って捨てられた。

 花弁の下には大きな木の根が現れ、それが地面に突き刺さる。

 

 つまり、ここら一帯が根城になった事を意味していた。

 

「字さん、大丈夫ですか!?」

「……問題ない」

「……さて、どうするか」

 

 顎に手を当ててすぐ、こちらを見てから空にいる少女に声をかけた。

 

「おい魔理沙!」

 

「なんだよ!」

 

 箒に乗った少女は言葉を発しながらも、襲い来る攻撃に魔弾で牽制して敵の行動を抑制してくれていた。

 

「時間稼げ!!すぐ終わらせる!!」

 

「1分は確実に稼いでやる!!さっさと終わらせろよっ!!」

 

 そう言って、植物の巣窟に一人で向かっていった。

 

「さて、策はあるよな?えーっと、字さん?」

 

「ああ」

 

 

 

「任せておけ。むしろ、あの状態は好都合だ」

 

 

 

 

 




本来はここには台詞のような物しか入れてなかったのですが、この話だけ分割扱いにしてしまった(のが我ながら悔しい)ので、小話をひとつ。

基本的に小説のストーリーが思いつくのが、曲を聴いている時なんですが、キャラクターの方向性を決める時も曲に依存している部分が作者にはあるんですね。つまり。

この作品のイメージソング的なものがあるという事になります。

(あくまで作者のイメージが入っております)

この作品では藍井エイルさんの『MEMORIA』という曲から、イメージを膨らませていました。

気になる人は聞いてから読み直すと面白いかもしれません。
それではまた会いましょう。



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鴉を二度、愛した男。その2

最近、妙に書ける量が少ない理由が分かった気がします。
戦闘描写がかなり苦手っぽいです。

頑張らないといけないですね。

それではどうぞ。


 霊魔が言う。

 

「奴さんは完全に本気。移動形態から変態して、根を張ってナワバリ化した花の化け物に対し、俺は策はあるか?……そう言った」

 

「だから、あると言っている」

 

「むしろ好都合なんて言うお前の作戦、しくじったらぶっ飛ばすぜ?」

 

「俺が考えた作戦には、貴方達の力が必要だ。最も、それが出来るかはどうかは分からないが、伝える価値はあると思うぞ」

 

「聞かせてみろ」

 

 

「簡単に説明すれば、ラフレシアの花自体が本体なのだから、花に直接文字を当てる。具体的には鏡のように反転させた文字を手のひらに書いて、版画、又はスタンプのように押し付ける。当然『火』は対称の文字だから、別の字を仕込んだ」

 

「……『爆』の字か」

 

「これなら、花本体が『爆』の字の効果で消し飛んでなくなろうが、なくなるまいが戦闘不能になるだろう」

 

「どう言うことですか?」

 

「つまりは、本体消し飛ばせる効果なら勝ち、効果で消し飛ばなくても()()()()()()()()()()()()()()()()()()()って事だろ?」

 

「そういう理屈で、さっき書いたこの右手の文字が相手に写せれば勝ちになる」

 

 

「字さん。私達はどう動けば?」

 

「文は同じように俺を運んでくれ。そしてあなたと向こうの魔女なんだが、聞きたいことがある」

 

「なんだ?」

 

 

「高火力の照射型の武装はあるか?もし使えれば、ヤツは必ず全身全霊で防御に回すだろう」

 

「生憎だが魔理沙の奴が使えるし、俺にもその手の攻撃に覚えがある。大幣が壊れるかけるから使いたくねぇが」

 

「……頼む」

 

「わかってるさ。……しかしなるほどねぇ。よく考えりゃ動かないヤツに向かって最大火力ぶつけんのは道理だ。任せとけ」

 

「ああ。文、射線にぶつからない場所に回り込もう。タイミングは任せる」

 

「あいよ。……死ぬなよ」

 

 

 

 

「もとよりそのつもりだ。これ以上大事な人を泣かせる訳にはいかない」

 

「……ほーん、大事、ねぇ」

 

「霊魔さん。その顔はなんです?」

 

 なんでもねぇから、さっさと行け。

 

 

 そう言って締めた霊魔は、文と字が移動したのを見送った後魔理沙に合図を送って呼び戻した。

 

 

 その後の事の二人は見ていない。ラフレシアの射程距離が長いために、かなり大回りで移動しなくてはならないためだ。

 

 字は文に注意を促しながら、敵の様子を伺う。

 

「わかってると思うが今は無理に近づかなくていい。合図を待ってから慎重に行くぞ」

「分かってますよ。至って私は冷静ですので!」

 

 文は飛びながらもそう答えた。文は字の分かりきった忠告が単純な意味ではなく、心を落ち着かせるものであるという認識だった。

 なにせ、大事な人間も危ない所まで移動させなければならないのだから。今の文は字の足である。自分が動けなくなる事は字も動けなくなる事に直結するためだ。

 

 手に力が入る。彼の方を見ると、字は文を見つめていた。

 

 少し見つめあった後、字が微かに微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 突然の事ではあった。

 

 霊魔と魔理沙の方向から、二つの光線がラフレシアを照らした。

 ラフレシアもそれに対応するように蔓を巧みに操り、最小限の被害で済むように蔓を酷使させた。

 

 攻守が拮抗するその光景こそ、二人の行動開始を意味する。

 

 踏み出しだけで10数メートル先まで到達し、そこから翼を開いて突貫する文。

 

 大半が防御に回されているにもかかわらず、ラフレシアは未だ多くの余力を残しているらしい。未だ無数の蔓が伸び、二人の道を阻もうと立ち塞がった。

 

 躱した事ですぐ下を通った蔓を蹴り、速度をより速めて行く。

 

 あらゆる方向から襲い来るものを躱し、いなし、潜り抜ける。

 

 幻想郷一の速さを謳う種族なのだから、これぐらい切り抜けられずに何が鴉天狗か。

 

 文は自分にそう鼓舞し、遂にラフレシアまで目前に迫る。

 

 

 

 

 

 そして。

 

 

 

 

 字が仕掛けを打とうと手を伸ばしたその時。

 

 

 

 

 その手は、花に触れる直前で止まっていた。

 

 

 

「……ごめんな……さい……!」

 ……字さん。

 

 漏れるような声で文はそう告げた。

 

 

 それは、蝶が蜘蛛の巣にかかるように。

 

 ラフレシアは罠を張っていたのだ。

 火が吹いて全身を覆った時、字がした事は分かっていない。しかし、分かったのは右手とその羽根に何かをされると燃える事だけはわかっていた。そして、至近距離で行わなければならない事も。

 

 ならば確実に仕留めに来る字の為に罠を張り、ひたすらに待つ。字さえ抑えてしまえば、今この場所で自分に勝てる存在は存在しない。

 

 そう思った故の、行動。

 

 

 文は左足首と腰、さらに首も締め付けられていたため、まともに発声する事も出来ない。

 腕を使って足掻こうにも、字を抱えている為にそれだけは出来ない。

 

 万事休す。ここは字だけでも逃げて欲しい。そうでなくとも、文字を使ってなんとかする事は出来るはず。

 

 そう考え、字を見つめた。

 

 

 

「もう十分だ」

 

 

 ふと、そう言った。

 

 何を言ったのか理解出来てない文を横目に腕の中で微笑みながら、彼は文の頰に羽根を走らせる。

 

 その字は『退』。

 

 

 

「待っ……て……!あっ……さ……!!」

 

 文の身体が光り始めたのは、言い終わる直前だった。

 

 

 文はその場から消えた。

 実際には、瞬間移動のようなものではあるだろう。

 

 字は文を逃したのだ。

 

 文が消えた為に重力に任せて落ちて行く字だったが、羽根ペンごと右腕を吊られてしまう。宙吊りのまま、罠にかかり捕まった事を悟る。

 

 

 もう、書く事は出来ない。

 

 このまま、トドメを刺されれば終わりである。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ。だから俺の勝ちだ」

 

 左手に握りしめた木片を花に向かって放った。

 

「蝶番って知ってるか?主に扉に使われる部品なんだが、なかなか面白い役割でね。壊れた家屋から出る時に隠し持っておいたんだ」

 

 

 奥の手は最後まで隠しておくもの。

 直接触れずとも、ただ近づけばいいだけのもう一つの策。

 

 

「こんな風に蝶番を開かせて、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。さしずめ、『爆』の字と合わせた時限爆弾って所だよ。策は何重にも重ねておかないと上を行く事は出来ないからな。精々覚えておくべきだろう」

 

 

 

 書く事は出来ない。する必要も無い。

 行動は既に終わっているのだから。

 

 

 

 

「講義は終わりだ。『爆』ぜろ。化け物」

 

 

 その爆発は一帯を巻き込み、爆炎に包まれる。

 

 

 

 

 この後、数多の蔓はその殆どが爆発と同時に枯れ始めた。

 

 

 

 幻想郷で起きた、巨大な植物の暴走。

 この騒ぎは近くにいた字をも巻き込んだ爆発により、事態は収束した。

 

 

 

 




次回、最終回。


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二人だけの知る物語

 目が覚めたのは朝方だったように思う。

 

 

 いつか見たような場所。

 

 

 少し前に見た白い室内から、ここが永遠亭という事に気付いた。

 

 

 身体中が包帯で覆われており、足や腕は天井にかけられた布により宙吊りでぶら下がっていた。

 

 

 ふと、側で寝ている少女に目をやる。

 

 

 

 

 

 少女の安らかな寝息に見て心の底から安堵し、もう少し寝るか、又は少女が起きるまで見続けるか悩み。

 

 少女の頭に手を当て、優しく撫ぜた。

 

 

 

 

 

「反省してください」

 

「お前の頭を撫でた事をか?」

 

「違います!!…というか、私が寝てる間に何やってるんですか!?セクハラですよ!?」

 

「そうか……」

 

「いや、そんなに落ち込まないでくださいよ。なんて言うか……その……タイミングが悪かっただけで、いつもならそんなに気にしないと言うか、むしろ嬉しいというか……モニョモニョ……」

 

「……文?」

 

「はっ!?いや、別にそういうわけではなく!!仕方なくですよ、仕方なく!今度またやってくださいね。分かりました!?」

 

「は、はい……?」

 

 訳も分からずに空返事をすると、妙にニコニコした文が謎のガッツポーズをした。

 とりあえず、後で頭を撫でればいいらしい。

 

「話を戻しますよ。……あの最後の捨て身、なんでやったんですか?」

 

「……あれか」

 

 言わずもがな、ラフレシア戦の最終局面の事だろう。膨大な力を蓄えていたラフレシアには単純な力業では歯が立たず、力の差関係なしに対応できた俺が唯一の突破口であったあの戦い。

 

 あの時、服の中に隠し持っていた『爆』の付いた木片を放り投げ、自分諸共爆炎に包み込んだ策。

 

 何故、爆発を受けて尚、俺は生きているか。

 

 当然、『爆』の字の威力は高く、ラフレシア本体が消し炭と化す程であった。

 なら、どうしてか。簡単な事だ。自分自身に爆発を受けても死なない様に文字を書き込めばいい。

 

 タイミングとしては、文に運ばれている時。

 重傷だった俺が抱えられている時に、何度も意識が吹っ飛びかけていた。身体が既に限界を迎えていた。

 

 それ故に使った文字は、『耐』。

 

 右脚に書いておいた『耐』と、グレネードと同じ要領で使おうと考えていた木片を使って、自爆行為の策が浮かんだのは奇しくも文がラフレシアに捕まった時に他ならない。

 

 結果的に、痛みから『耐』える為に書いた文字は、爆発にすら『耐』えたという話。

 

 これによって、爆発による怪我は全身の火傷ではあるものの、全てが軽度なものに終わっていた。

 

 

 

 もちろん、文が聞いているのはそういう事では無い。

 

 何故、自分の体を大事にしなかったか。という事だろう。

 

「これはエゴだろうが、聞いてもらいたい話だ。俺には姉と妹がいた」

 

「……知ってます」

 

「……そうか、この事も話してたのか。俺の記憶には残ってないが、聞いてくれていて安心した」

 

「安心?何故ですか?」

 

「俺がこの話をする時、当然の事ながら俺の罪でもあり弱みでもあるこの話をおいそれと口外は出来ない。文が知ってるって事は、俺が今記憶にない時の頃も文をいい人だと思ってた事が分かったってことだ」

 

「……そ、そうですね」

 

「話が逸れたな。あの時、俺は妹を守れなかった。自分の手から初めて取り零した命だ。大切なものを目の前で失くした。それが俺が今回戦った理由でもある」

 

「理由、ですか」

 

「あの化け物から逃げていたら……文に会えなくなる様な気がしたんだ。その時には、文がこの世界にいる事はなんとなくは分かってた。だから、守りたかった。いつだってそうさ。文が危険にさらされるぐらいなら、俺が盾になる」

 

「……」

 

「結局のところ、一つの賭けになっていた事は事実だ。言い訳こそあるが、自ら危険を冒した俺に非はある。心配させて悪かった」

 

「……もうちょっとだけで、いいですから」

 

「うん」

 

「大事に。自分を大事にして下さい」

 

「うん。分かった。すまなかった」

 

 

 

 

 

 数日間、療養のために永遠亭で寝泊まりを繰り返した。

 これでも最短で復帰出来るように永琳先生が治療してくれたらしい。嬉しい限りだろう。

 

 文はその間、付きっ切りで看護をしてくれた。時折、鈴仙が「あら〜」と言いながら覗いている事に気付くと、頰を赤らめながら怒っていた。

 照れ隠しなのだろうが、お前は新聞屋なんだろう?……腹いせに有る事無い事書くのはやめてやれよ。そのメモ、大雑把な内容は見なくても何となく分かってしまったからな。

 

 それと些細な事ではあるが、俺の服は所持品は全て爆発の影響で消失してしまったらしい。残っていたのは身体に融合している羽根ペンと思い出のペンダントのみである。それでもペンダントの方は写真が付いている部分は無事だがチェーンが切れてしまい、ネックレスとしてかけられなくなっている。(爆発後、落ちていたペンダントの写真を見て、文に届けてくれたらしい)

 

 という事で治った直後の全裸になった俺を見かねて、文が俺の服を新調してくれた。

 

 その時に、俺の身体を採寸したのも彼女なのだが、かなり時間がかかった覚えがある。服というのはそんなに難しいものなのだろうか。文が鼻血を出す程に困難なものだろうか?

 

 その様子を見ていたてゐが「どこかのメイドと同様、愛情も鼻から出るのかねぇ」と言っていたはずだが、イマイチ何のことか要領は得られなかった。

 

 とにかく、以前の全身真っ黒な服装からワイシャツに黒いネクタイ、黒の長ズボンに黒のジャケットが普段着となった。

 

 確か、ペアルック……とか言うものだろうか。シャツとネクタイは明らかに文のそれである。シャツは男用に形状が全体的にスマートな印象だが、ネクタイの蝶々結びは流石にキツいので普通に結んだ。

 

 後で赤いネクタイピンでも付けてみよう、とか思いながらペンダントを胸ポケットにしまい込んだりした。

 

 

 そして、一番厄介だったのは靴だった。天狗の靴と言えば、アレである。

 靴底の一本歯が大きいのだ。あれだけは何度履いても無理だった。結局は革靴になったのだが、文がとてつもなく凹んでいたのは覚えている。

 

 

 

 そんなこんなで入院中は大騒ぎがあり。

 

 やっとの思いで退院したその日、文が案内したいところがあると言い出した。

 

 俺は即答で頷いた。

 

 

「眺めはどうですか?」

 

「良いが、命綱が文しかいないというのは怖いな。それに重いだろう。無理に飛ばなくても良いんじゃないのか?」

 

「良いんです!行きたいところは結構高い場所ですので!!」

 

 翼が片方しかない俺に跳ぶ能力はあれど、飛ぶ能力は心もとない。精々、出来てムササビの様に滑空できる程度である。

 

 なので、文と手を繋いでもらって空を飛んでいる状況というわけだ。

 

「あそこに一本、高い木があるの見えますか?」

 

「あれか」

 

「はい。そこの上で少し、お話しませんか?」

 

「構わない」

 

 

 

 ゆっくりと太めの木の幹に足をつけ、腰を下ろす。その隣に文が座った。

 

 

「覚えてますか?出会った時の事」

 

「……前も言ったが、霊魔が働きかけたのか分からないが、記憶が曖昧にされていてな。教えてくれるか?あの時の事を」

 

 

 

「最初会ったのは川の中ですね。冬なのに事故で川に落ちてしまって。それで字さんが助けに来てくれたんです」

 

「そう……だな。少しずつ思い出して来た。偶々、外に出ていたら水の音が聞こえたんだ」

 

 

 

「それで私を介抱してくれて。落としたものも見つけてくれたんですよ」

 

「そう……だったか。そこまでした事は思い出せないな」

 

「ダメですよ。川にわざわざ入ってまで探してくれたんですから。この時から自分を大事にしてないじゃないですか!」

 

「……思い出した。こんな感じで叱られた気がする」

 

 

 

 

「字さんの周りにいた、いろんな人に会いました」

 

「梢や橋立さんにも会ってたんだよな、文は。良い人たちだっただろう?」

 

「そうですね。字さんの周りには、心優しい人たちばかりでした」

 

「……俺はあの人たちと別れてここに来た。でも、決して忘れられない恩人だ」

 

「……そうですね」

 

 

 

「お爺さんに、『字』さんの名前がバレちゃったりして……」

 

「文と字……だな。上手く考えたものだ。この響きは気に入っている」

 

「あの時は適当って言った気がしますけど、結構本気で考えたんですからね!感謝してくださいよ?」

 

「感謝しているよ。俺だけの名前だからな」

 

 

 

 

 

「……そして、最後に二人で気持ちを伝えあいました」

 

 

 

 

 

「字さん」

 

 

 

 

 

 

「なんだ」

 

 

 

 

 

「夕陽が綺麗ですね」

 

 

 

 

「そうだな」

 

 

 

 

 

「文」

 

 

 

 

「はい」

 

 

 

 

「俺は、たぶん。あの時から気持ちは変わっていないと思う」

 

 

 

 

「はい」

 

 

 

「それでも、もう一度だけ。ここで君に伝えるから」

 

 

 

「はい……!」

 

 

 

 

 

 

「好きだ。俺と一緒にいてくれないか」

 

 

 

 

「はい。喜んで!」

 

 

 

 

 二人の姿が、夕陽に溶けていった。

 

 

 

 

 この様子を千里眼で見ていた白狼天狗、犬走椛は頰を赤らめ。

 

 この様子を念写した姫海棠はたてが熱愛報道を記事にして。後日、文に追いかけられる事になる。

 

 

 

 この日からしばらくして、文の薬指には指輪が光るようになったが、何を意味するか文本人は決して言う事はなかった。

 

 

 

 そして、字は。

 

 

 

「ふむ、迷うが……なら、これはどうだろうか?」

 

「ダメですね。もう少し綺麗なアングルならこっちの方が見映えが良くなりますよ」

 

「なるほどな」

 

「……字さん、ちょっと良いですか?」

 

「……?構わんが?」

 

「なんで、取材に使う写真よりも私の写真のデータの方が多いんですかねぇ!!恥ずかしいからそんなに撮らないで下さい!!」

 

「可愛いからこのぐらいは良いだろう」

 

「かわっ……!?じゃなくて、そう言う問題じゃないです!!」

 

「ほら、この写真はどうだ。綺麗だろ」

 

「えぇっ!?何この写真!?寝顔なんて撮らないで下さいよぉ!!もう、貸してください!!私の写真で恥ずかしいのは全部消します!!」

 

「全て現像済みだから構わないが」

 

「はぁっ!?何やってるんですかこのバカはぁ!?」

 

「なっ、バカとはなんだ!」

 

「大バカですよ!!バーカ、バーカ!!全部燃やしてやる!!」

 

「させるか!待て!」

 

「待ちませんよ!」

 

「……っ!この!」

 

「えっ、わっ、ちょっと……!」

 

 

「すいませーん。薬を売りに来ましたー。字さん、以前の怪我の調子はどうですか?痛みの再発とか出てませんか……って、え?」

 

「「ん?」」

 

「……」

 

「「……」」

 

 

 

「えっと、ごゆっくり」

 

「待って、うどんげさんんんんん!!!???」

 

 

 

 文と共に取材に訪れ、写真を担当する様になった。

 

 

 そして、時々「射命丸さん」と呼ぶと、二人ともが振り返る時がある。

 

「何故って……。俺の名前は––––––––」

 

 

 

『射命丸字』、だからな。

 

 

 

『黒き羽にて、字を記す』完。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 字が永遠亭で目覚めた翌日。

 

(ところで、何かを忘れている気がするのだが……思い出せない。なんだったか……?」

 

「よう、射命丸はいるか?」

 

「ん?……ああ、霊魔さんか。今、文はいない。しばらくしたら来ると思うから、待っていると良い」

 

「いや、都合がいい。お前だけに用がある」

 

「何か?」

 

「お前と一部の奴にしか言えないことだ。決して、他の誰にも口外するな。射命丸にもだ」

 

「……霊魔さん。一体何の話を?」

 

 

 

 

「近いうちに起こる、最低最悪な異変についてだ」

 

 

 ––––to be continued




これにて『射命丸文は伝えない 黒き羽にて字を記す』編、完結でございます!

これ以下、あとがきになります。

いやぁこんなに長くなるとは思わなかった。
コレ、一周年記念第一弾なんだぜ?もう一個、続編を出す予定の短編あるんだぜ?きついよ。アッハハ。

そんなわけで前にも言った通り、私が書いている別作品と合流した形となり、その作品の伏線もこちらで貼られましたね。
これ以降は、字さんや他の設定など、そちらの連載作品に出るようになります。

『幻想郷でまったりと過ごす話』←こちらです。

気が向いたらこちらも読んでもらえると助かります。
作者の名前から調べたりなんなりすれば出てきますので。
ここだけの話、字さんが最後に忘れた事。それによってまた字さんが現れる事もあるかもしれません。

ただ、連載の方は進行ペースがかなり遅いので、だいぶ後になってしまうかもですが……。

後、一周年記念企画第二弾の告知は活動報告、またはツイッターで作者の名前そのまんまのアカウントにて告知する予定です。
フォローしてくれる方はよろしくお願いいたしますね!


さて、宣伝もここまでに、またどこかの作品でお会いしましょう!

ここまで読んでくれたあなたに感謝を!

さいならー!


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