この素晴らしい嫁に祝福を! (王の話をしよう)
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一章旅立ち
1話




はいどうも。王の話をしようです。初めましての方は初めまして。

最っ悪ですよ………。寝ぼけてて削除するとか本当クソ。
今まで読んでくれてた方にも申し訳が立ちません。
一応バックアップが取れてたので順次再投稿させて頂きます。
98話分が全てパー………。






 

 

 ※

 

 

 それは擦り切れた映像。

 

 白と黒の世界、そこで何者かと会話する『自分』。そして何かが割れるような甲高い音。

 

 その映像は自分で体験し、記憶として覚えていることなのか、それとも知識として知っているだけのことなのか。

 

 それももう今の自分には分からないけれど。

 

 

 

 ※

 

 

 

 何かが柔らかく頰に触れる。それを認識した瞬間、急速に意識が浮上するのが分かった。

 

 

 目を開く。

 

 

 最初に映ったのは燃えるような赤。真紅と言い換えても良い。

 長く、真っ直ぐな赤い髪。優しそうに細められ、潤んだ赤い瞳。素直に美しいと思える、そんな少女が目の前にいる。

 どうやら頰に触れる物の正体は彼女の指のようだ。彼女はまるで羽毛を撫でるかのように優しく、何度も、何度も俺の頰を指で撫でる。

 

 

 彼女は誰だろう。どう考えても初対面の人間への対応とは思えない。俺の知ってる人なんだろうか。

 

 

 そこまで考えて気づく。彼女の事どころか自分が誰なのかすらも分からないことに。

 

 これはちょっとした恐怖である。起きてすぐ誰かも分からない自分が誰かも分からない人物の横にいるのだ。そもそもここはどこだろうか。

 周りを見ると、近くにもう一人、お婆さんがいることが分かった。逆に言うとそのくらいしか分からない。

 

 混乱する俺に隣で横になっていたその少女が声をかけてきた。

 

 

 

「…あなたの名前はゼロよ。これからよろしくね、ゼロ」

 

 

 

 ーーーゼロ。それが俺の名前らしい。

 

 

 ……うーん?なんか俺の常識とはかけ離れた名前だな。それは俗にキラキラネームとか言われるやつじゃないのか?いや、他に自分を示す名前は知らないんだけどさ。

 

 そうすると彼女は俺とどういう関係なのだろうか。俺も知らない俺の名前を知ってる……?…考えても分からん。

 

 

 分からんので聞いてみることにした。

 

 

 

「すみません、俺はゼロ。それは了解しました。それでは貴女は…?それと、ここがどこかも教えて頂けると助かります」

 

 

「「えっ」」

 

 

 

 ピシッ、と時が止まった。『世界(ザ・ワールド)』かな?

 

 しばしの停滞。そして時は動き出す。

 

 

 

「キェェェェェェシャベッタァァァァァァァ⁉︎」

 

 

 

 まず婆さんが大声を上げて卒倒した。おい、中々ヤバめの倒れ方だったぞ。大丈夫か、婆さんや。

 

 そして俺の横にいる少女は目を見開いて俺を凝視し、動かない。彼女だけまだ時間が止まったままのようだ。なんでもいいが、美人にじっと見られると恥ずかしいんですけど。

 

 

 

「……あー、えっと…。もしかしてフレイムヘイズの方だったりします……?」

 

 

 

 照れ隠しによく分からないことを口にする。赤い髪と赤い瞳を見ていたらその単語が自然と思い浮かんできたのだがーーー。

 

 俺の言葉を聞いてハッとした表情になる炎髪灼眼さん。勢いよく立ち上がると、近くにあったらしい扉から外にダッシュしていった。

 

 ……失敗したかな。ちょっと髪の色が濃い気もするけど「武偵の方ですか」の方が良かったか。というかなぜ俺の声を聞いただけで気絶したり逃げたりするんだ、失敬な。

 

 俺が軽い憤りを感じていると、先ほどの女性の声だろう、外からかなりの大声が響いてきた。

 

 

 

「聞いて聞いて!産まれたばかりの私の息子が喋ったのよ⁉︎それもちゃんと意味のある言葉を!凄くない⁉︎」

 

 

「マジで?」

 

 

 

 それが本当なら確かに凄い。産まれたばかりで喋るというのは創作のキャラでは良くあるかもしれんが、現実ではまずもってあり得ないだろう。俺にもその息子とやらと会わせてくれないだろうか。

 いや、そんなことをしなくても彼女はこの部屋から出ていった。ということはこの部屋にそいつがいるわけだ。勝手に会えばいいのか。

 

 そのバカボンのパパを探すために起き上がろうとする。なぜかこけてしまった。

 

 

 

「お…、おお?」

 

 

 

 何度立ち上がろうとしても失敗してしまう。バランスが上手く取れない。それでもなんとか近くにあった机を支えにプルプル震えながら立ち上がる俺。まるで産まれたての子鹿である。

 

 

 

「…ん?産まれたて…?」

 

 

 

『働けど働けど我が暮らし楽にならず、じつと手を見る』ではないが、じっと自分の手を見る。

 

 ……実にぷにぷにしていそうな、柔らかそうな手だ。今まで何も持ったことが無いだろうことが容易に想像できる。

 

 

 

 ーーーーーあ、もしかしてその息子って俺のこと?

 

 

 

 ※

 

 

 ようやく落ち着いたのか、部屋に帰って来る俺の母親だという少女。

 俺の方は大混乱中なのだが、さっきの婆さんやこの少女の取り乱し方を思い出したら冷静になれた。自分よりもパニクってる人を見ると落ち着ける、というあれだろう。とりあえず挨拶してみる。

 

 

 

「おかえりー」

 

 

「あ、ただいま、ゼロ」

 

 

 

 えらい普通に返してきたな。あんだけ興奮してたのに大した立て直しだ。

 

 ……俺を産んだところだというのにあんなスピードで動いて平気なんだろうか。元気なのはいいことだが、少なくとも健康には良さそうじゃないよなぁ。

 

 

 

「ええと、俺のお袋、でいいんだよな?」

 

 

「うん、あなたは私の息子。名前はゼロ」

 

 

 

 オーケー。お袋に敬語使ってもしゃあないし使えとも言われてないからタメ語で会話させてもらおう。

 改めてお袋の姿を見る。

 

 

 ーーー若い。せいぜい十七、十八歳以上には見えない。こんな歳で子供産むのは相当に大変だっただろう。それだけでも尊敬に値する。いわゆる『できちゃった婚』というやつか。お相手の顔も見たいものである。

 

 

 

「……旦那さん…、俺の親父か。親父は?姿が見えないけど」

 

 

 

 さっきから気にはなっていたのだ。自分の子供が産まれるって時に妻の側にいないというのはかなり稀だろう。何かトラブルがあったのかもしれない。そこで寝ている婆さんは俺の祖母かな?

 

 

 

「あ、その人はこの村の産婆さん。今日急いで来てもらったの。ゼロがいきなり話すからびっくりしちゃったみたい。後で謝らないと。

 ……えっと、お父さんはね、王都であった魔王軍との大規模な戦闘でつい先月死んじゃったの。……ごめんね」

 

 

「それは………」

 

 

 

 御愁傷様でした、とか言おうかと思ったけど…、いや、御愁傷様はおかしいな。むしろ俺が言われる側だ。

 

 

 ……まず魔王軍ってなんじゃらほい。

 

 

 聞きたいことが多過ぎて収拾付かなくなっても困る。一つずつ行こう。

 

 

 

「とりあえずここがどこなのか、とか教えてくれない?俺本当に何も知らなくてさ。自分のことも、ホント、何一つ」

 

 

「そりゃそうでしょ、今さっき産まれたばかりなんだから」

 

 

 

 言いながら笑うお袋。

 

 いや、そうなんだけどあんた動じねえな?そこの婆さんだってそうだけど普通は気味悪がったり、怖がったりするもんだろ。いきなり赤ん坊が喋るなんざリアルなら完全にホラーだ。俺なら失禁するまである。その辺どう思ってるのかも聞きたいもんだが。

 

 

 

「なあに、それ。どこの普通なの?それは他の人の普通であって私の普通じゃないからね。ゼロが私がお腹痛めて産んだ子なのは間違い無いんだし、それでいいじゃない。

 それに、最初から息子と話せるなんてとても素敵なことだと思わない?」

 

 

「………………あんた凄えな…」

 

 

「ふふん、そうでしょお!もっと褒めて褒めて!

 ……あ、ここがどこか、の話だっけ?えっとねーーー」

 

 

 

 なるほど、『自分』をしっかり持っている強い人だ。この人を俺のお袋と呼ぶことに何ら不満は無い。俺は産まれる場所に恵まれたようだ。

 だがその考えは一歩間違えれば狂人のそれとなってしまうだろう。良識的な人で良かったとも思う。

 

 

 そのまま俺が現在いる場所の説明をしてくれるお袋。聞くと、ここは大陸の一番端っこにあるアルマという小さな村で、魔王軍の影響も受けないほどの田舎らしい。

 

 そう、それだ。さっきも出たけど魔王軍ってなんぞそれ。

 

 

 

「魔王軍っていうのは、魔王が統率してる軍隊のことだよ」

 

 

「それは聞けば分かるわ。そもそも魔王って……?」

 

 

「ああ、そっか。魔王はね、うーん……人間を滅ぼそうとしてる人…かな」

 

 

 

 うん、それも聞けば大体分かるな。悪い奴だってのは字面からひしひし感じる。真央さんみたいな働く魔王なら仲良くするのも吝かではない。もしくは話が分かる女魔王でもいいよ。

 そうじゃなく、ガチの人類敵対者なら今からそれを懲らしめる物語が始まる展開だな、これは。

 

 

 

「なるほど、話は聞かせてもらった。…人類は滅亡する‼︎」

 

 

「まあ今のままだとそうなるかもねー」

 

 

「軽いし‼︎そこは『なんだってー⁉︎』で通して欲しかったし‼︎」

 

 

 

 ノってくれないと寂しいんだが。

 

 さっきから引っ切り無しに言葉が頭に浮かんでくる。アニメやら漫画、と呼ばれる著作物の知識もあるようだが、どこでどうやって知ったのかはまるっきり不明だ。

 お袋も聞いた事が無いと言うし、これはどこから得た知識なのかね。

 

 

 

「まあ話は分かったよ。とりあえず俺はその魔王とやらを倒せば良いんだろう?親父の仇的なアレコレで」

 

 

 

 顔も知らない親父の仇とか別に取りたくもないけど、生きる目標ってのは大事だ。こんな小さい時期から自意識があるのは幸いと言えるだろう。今から鍛えればかなりのアドバンテージにもなるしな。

 産まれたその日から闘争心丸出しである俺をお袋は目を細めながら見てーーー。

 

 

 

「え?何で?別にゼロの好きなようにすればいいんじゃない?わざわざお父さんの仇なんて理由で危険を冒す必要無いよ」

 

 

「あれっ⁉︎」

 

 

 

 ……おかしいな。今の流れは「お父さんの仇を取ってね」ルートだと思ったんだが…?

 

 それに魔王ってのは悪い奴なんだろう。人類を救うために頑張れ、とか、『僕はね…、正義の味方になりたかったんだ』とか、遠回しに跡を継げみたいな話にならない?普通。

 

 

 

「だからどこの世界の普通よ……。……正義の味方ねえ…」

 

 

 

 お袋は思案するように上を見てから少し真面目な顔を作って俺を真っ直ぐ見つめる。

 

 

 

「……うん。ゼロ、一つだけ、この世界で生きるにあたって覚えておいて欲しいかな」

 

 

 

 ……急になんだろう。軽い雰囲気だったお袋が真面目になると場が締まった気がするな。

 

 相手が真剣なら俺も真剣にならなくては。赤ん坊なのに姿勢を少し正す。

 

 

 

「この世にはね、絶対的な正義なんて無いんだよ。絶対的な悪はあるかもしれないけどね。誰かの正義は必ず誰かの悪になるの。

 魔王軍だってそうだよ。魔王軍なりの事情があるから人類に攻め込む。それを私達は私達の都合で追い払う。そこには貴賤も善悪も無く、ただ自分が生きるために戦うだけなの。

 ……お父さんが死んじゃったのは確かに悲しいけど、それは向こう側だって同じ。お父さんも沢山の魔王軍を殺してきた。お父さんが死んだのはそんな魔王軍の家族が仇を取った結果なのかもしれない。

 そうやってずーっと仇の連鎖をしたって、行き着く先は共倒れだよ。不毛過ぎて死んだ人にも顔向け出来ない。

 …私は魔王軍に滅ぼされるならそれでもいいと思ってるの。もちろん人類が勝つのが良いのはその通りなんだけどね。だってそうでしょう?今まで人間がしてきた事。それが少し大規模になっただけじゃない。自分達がそうなりそうだからって取り乱すのは少し違うんじゃないかな……。って思うんだ。

 あくまで私個人の意見だから、これもゼロの好きに解釈してくれていいよ」

 

 

 

 お袋はそう締め括った。

 

 

 

「…………………」

 

 

 

 ーーーいや、言いたい事はなんとなく理解出来たけど、結局俺に何をして欲しいのさ。

 

 

 

「お父さんの仇、とか余計な事考えずにゼロの好きなように生きてってこと!あ、なるべく他人には迷惑かけないでね?それ以外ならなんだって応援したげる!」

 

 

「最初からそれで良いじゃねえか」

 

 

「酷くない⁉︎せっかくお母さん頑張って話したのに!」

 

 

「無理に堅苦しい雰囲気出すから見てるこっちとしては窮屈だったよ。今日会ったばかりだけどお袋は明るく笑ってんのが似合うと思う」

 

 

「あ、それはお父さんにも言われた!『お前はたまに真剣味を出すとスベってるみたいに感じるから普段通りにしてろ。普段のお前はそれだけで最高に可愛いんだからさ』だって!……えへへ〜」

 

 

 

 両頰に手を当てていや〜ん、と体をクネクネ動かすお袋。周囲にハートが乱舞しているのは気のせいじゃないだろう。

 

 親父凄えな。セリフがジゴロ過ぎて聞いてるこっちが鳥肌立っちまった。

 しかしそれだけ夫婦仲が良かったのにもう会えないってのは辛いだろうに……。

 

 

 

 ……………………。

 

 

 

「…よし、ならやっぱり俺は魔王を倒すことにするよ」

 

 

「………それはゼロが本当にしたいことなの?」

 

 

 

 もちろん。別に親父の仇取りたい訳じゃない。とりあえずそれを目標にするってこと。他にやりたい事が見つかればそっちに移るだけだ。

 

 

 

「魔王討伐を目的にする奴の名称とかあるの?勇者とか」

 

 

「お父さんは勇者候補って良く呼ばれてたけど、それは少し特殊だって言ってたし、世間一般では『冒険者』がそれになるかな」

 

 

「『冒険者』?」

 

 

「うん、お父さんとお母さんも冒険者だったんだよ。冒険者っていうのはその括りの中に色んな職業があって、その職業に応じて戦闘スタイルが変わるの。魔法で攻撃したり回復したり、剣で攻撃したり。

 お母さんは『プリースト』って職業でパーティーメンバーを回復、強化するのが役割だったかな。お父さんは『エレメンタルマスター』っていって、色んな属性の上級魔法を使い分けて攻撃する職業。

 

 ………あ!そういえば、ゼロが冒険者を目指すならお父さんが遺してくれた物があるよ!ちょっと待っててねー!」

 

 

 

 言いながら部屋の奥に引っ込んでいった。

 

 マジかよ、魔法あんのか。それは是非とも使ってみたい。上級の魔法を使えるという親父が遺したというからにはきっと魔法に関係する物だろうし、杖とかかな。

 

 ……俺の額には稲妻型の傷とか無いけど、大丈夫だよね?今この瞬間にも名前を言ってはいけないあの人が扉から入って来たりしないよね?

 

 その考えに至ってから若干ビビって扉から離れる。

 

 いやいや、まっさかぁ。今の俺なんか喋れるだけのただの赤ん坊だし。来たら即殺されちゃうわ。まあでももうちょい離れておくか………。

 

 

 

「お ま た せ‼︎」

 

 

「うおおおおおおっ⁉︎って、お袋かよ!心臓止まりかけたんだけど!」

 

 

「いや、私以外には産婆さんしかいないんだけど。…心臓が止まるって、大丈夫?持病か何か?」

 

 

 

 驚いただけとは言えませんでした。

 

 

 

「そ、それよりも、親父の形見だろ?早く見せてくれよ」

 

 

「ああそうそう、はいこれ。開けてみて。」

 

 

 

 そう言ってお袋が床に置いたのは少し長め、成人男性の脚くらいの長さの箱だ。

 

 この細長さならやっぱり杖かな。ワクワクしながら早速蓋を開けようとーーーーー。

 

 

 

「ごめん、開けられないわ。蓋が持ち上がらん」

 

 

「……そうだよね、産まれたとこだしね。私こそごめん」

 

 

 

 ちくしょう!女に力で負けるなんて!

 

 これからの日々が体を鍛える事に費やされるのが確定した瞬間である。

 

 

 

「さあ、これがお父さんがゼロに遺した形見よ!」

 

 

「おお……!」

 

 

 

 気を取り直してお袋が箱から布に包まれた棒状の物を取り出して、見やすいように掲げてくれる。

 

 

 ここから俺の大魔術師としての人生が幕を開け……開け…………?

 

 

 お袋が持つそれの質感はとても硬く、とても重く、どう考えても木製の杖には思えずーーーーー。

 

 

 

「『不壊剣』デュランダルよ‼︎」

 

 

 

 

 それは一本の美しい剣だった。

 

 

 

 

 







この作品では低評価だろうがなんだろうが黙って付けて頂いて、何か物申したい時は感想に書くようにして下さい。
と言うのも、消去前の作品は初期から基本的にコメント無しで付けて頂けるようになってたんですが、ある時にふと
「みんなどんな事を思って評価付けてくれてるんだろう」
と思って5文字コメント有りで設定してみたんですね。
そうしたらその、出して良いのか分かりませんが上手く説明出来ませんので例として挙げさせて頂くと、


①『ここの部分について説明がされてない。作者が設定を忘れちゃ駄目でしょ』

いやいや、忘れた訳では無いんですよ!それは伏線として後の方で回収する予定だったんですって!ホントホント!


②『オリジナル展開多すぎて萎える』

えっ……。あの、オリ主である時点でオリジナル展開仕方なくないですか……?
それとタグにもオリジナル展開って入れておいたのになーおかしいなー……。


③『ああああああああああああ』

……⁉︎…………⁉︎⁉︎


とまあこんな感じで中々にアレだったんですよ。感想で書いてもらえれば弁明とか言い訳も出来たんですが、評価のコメントだとそういう訳にもいかず。
というか最後の本当になんだったんだよ。『単純につまらない』でいいからせめて意味のある言語で書いてくれよ。

評価アテにならねえな⁉︎というのが連載してきて作者が得た結論なんですよね。
ですので、基本的に評価に貰ったコメントは一切参考にしないとその時決めたんです。
まあ評価って個人がどう思うかで付ける物なんで人それぞれだっていうのは分かっているつもりですがね。
もちろん面白いと言ってもらえるのは嬉しいですし、ごく稀にちゃんと考えてくれてるなってのもあるんですが、今後の展開も考えて作った話を今ある材料だけで
『ここのくだり要らないよね?出した意図が分からない』
って返信できないコメントでバッサリ切り捨てられるのも心にクるものがあるので……。

消去前のこの作品の初期の初期から作者に付き合って下さっている方がもしまた読んで下さっていれば分かると思うのですが、作者は感想であればどんな罵詈雑言でもあんまり気にせずにグッド付けて返信しますのでね。

とにかくこの作品のここがおかしい、ここはどうなってるなどの質問があればネタバレしない程度であればお答えしますので、これからは感想でお願いしますとだけ言いたかったんですよ!
今後ともよろしくお願いします!




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2話



再投稿。





 

 

 

 ※

 

 

 一本の美しい剣を前に茫然とする俺に色々お袋が説明してくれる。

 

 

 

「この剣はね、お父さんが女神様から貰った物で、『不壊剣』デュランダル。その名前の通り絶対に壊れないし、傷付かないし、消耗もしないから手入れも必要無いという優れ物なのです!」

 

 

「いや、いや、その前に一つ確認していいかな、お袋さん」

 

 

「?なに?」

 

 

「親父の職業をもう一度言ってみてくれ」

 

 

 

 そう、俺の聞き間違いかもしれない。普通に考えたら魔法使いの武器が剣なんてこたないだろう。きっと『ナイト』とか、ちゃんと近接系の職業に違いない。うん、俺の勘違いーーー。

 

 

 

「『エレメンタルマスター』。色んな魔法で攻撃する上級職だけど?さっき言ったじゃない」

 

 

「聞き間違いじゃないんかい‼︎」

 

 

 

 どういう事だよ。あれか?剣に魔法をエンチャントして斬りつける感じで戦ってたのか?それならまだ納得もいくが。

 

 

 

「んーん、お父さんは剣なんかほとんど使わなかったよ。料理する時に切りにくい食材を真っ二つにする時……くらいかな」

 

 

 

 まさかの包丁扱い。こいつはひでえや。さぞかしこの剣も嫌気がさしていたことだろう。

 

 

 

「いや、真っ二つにした後は普通の包丁使ってたし、包丁扱いですらないんじゃないかな」

 

 

「そっちの掘り下げは要らへんわ」

 

 

 

 不憫過ぎる。せめて俺は正しく使ってやるからな、…えっと、デュランダル?

 

 

 

「大体、女神に貰ったって何だよ。親父、なんか怪しいブツでもやってたんじゃないの?」

 

 

「失礼な!お父さんがクスリに手を出してたって言いたいの⁉︎」

 

 

 

 その通りである。

 

 女神なんて存在自体が信じられないし、仮に本当に女神から貰ったならばなぜ職業に応じたアイテムを貰わなかったのか。使いもしない剣なんか貰って一体何がしたかったのか。今となっては一切が不明だな。

 

 

 

「そ、そんなことないもん!女神様は二大宗教神のエリス様とアクア様がいるし!お父さんも私にはちゃんと剣を貰った理由は教えてくれたよ!」

 

 

「へえ、なら俺にも聞かせてくれよ。親父殿がどうトチ狂ってこいつを受け取ったのか。

 …あ、それか強制的に押し付けられたのか?それならしょうがねえけどな」

 

 

「そんな嫌味ったらしく……!そんな子に育てた覚えはありません‼︎」

 

 

「そらせやろな」

 

 

 

 俺がいつ産まれたと思ってんだ。ついさっきだぞ。育てた覚えがあってたまるかよ。

 

 

 

「………お父さんも最初はこの剣を使おうと思ってたんだって。でもいざ使う時になって、自分には剣の才能がこれっぽっちも無い事に気付いたの。

 でも魔法の才能はあったみたいだから、潔く剣の道を諦めて魔法使い職になったんだってさ。

 よく嘆いてたよ。『特典には永遠に魔力の尽きない身体とか、使う魔法の威力が十倍になる力とかもあったのに、どうして俺は選ばなかったんだろうなぁ……』って」

 

 

「……女神にはいつ会ったんだよ。そして特典って何だ」

 

 

「うっ…そこは私も知らない…。聞いても教えてくれなかったの……」

 

 

「今の話だと、その剣は親父が高い金払って買ったはいいけど才能が無かったから負け惜しみに女神から貰ったって言い張ってる、とも解釈出来るよね」

 

 

「捻くれ過ぎてない⁉︎」

 

 

「だって証明出来ないんじゃしょうがないだろ」

 

 

 

 信じて欲しけりゃ証拠を求める。壊れないってだけじゃただの丈夫な剣じゃねえか。まあ俺は剣の実物なんか見た事無かったし、これを貰えるってだけでテンション上がるし。女神がどうとかは特に拘らないけどね。

 

 

 

「証拠……証拠ならあるよ!ちょっと待っててね!」

 

 

 

 言うが早いか、家の外にすっ飛んで行った。おい、だから産後すぐにそんな運動よくできるな?それも心臓に悪いからじっとしててくれよ。俺だって母親の心配ぐれえするぞ。

 

 ものの数分で帰って来たお袋の手には出て行った時には持っていなかった皿に豆腐らしき白い真四角が乗っていた。なんだい、そりゃ。

 

 

 

「え?これ?お豆腐。お隣さんから分けて貰ったの。今度ゼロも一緒に挨拶に行こうね」

 

 

「本当に豆腐だったのかよ。そして挨拶?丁重に御断りさせていただきます」

 

 

「何でよ!挨拶は大事だよ‼︎」

 

 

「知ってるよ。古事記にも書いてあるからな」

 

 

「……?コジキ?」

 

 

「……いや、何でも無い。それよりも何で豆腐?食うの?だったら味噌汁にしてくれると嬉しいな」

 

 

「あ、ごめん、私料理とかこれっぽっちも出来ないから。ふふふ、何で豆腐かって言うとだね、ゼロ君……」

 

 

「お袋、ストップ。まずは皿を置け」

 

 

「ん?うん」

 

 

 

 皿を机に置いて話を聞く姿勢になるお袋。

 

 ちょっと待ってくれ。その話よりもショッキングな話題が出たぞ。え、何?料理出来ないの?どうやって暮らしてきたの?

 

 

 

「えー?その話するの?別に良いじゃない。料理出来なくても死にはしないんだから。お父さんが料理出来たから作ってもらってただけだよ」

 

 

「もう親父が死んで一ヶ月経つんだろ?この空白期間をどう説明するんだよ」

 

 

「……ゼロ、知ってる?料理なんて作らなくてもお金を払えばご飯は食べられるのよ」

 

 

 

 つまり外食でどうにか繋いでいたらしい。うせやろ?

 

 嫌な汗が滲んできた。想像してみよう。身重の少女が一人で店に入り、飯を食って出て行く様を。それが毎日である。しかも俺が産まれてからはどうするつもりだったんだ。まさか赤ん坊を連れてまで毎日飯屋に通うつもりだったんじゃないだろうな。

 

 

 

「……………嫌なの?」

 

 

「オーケーだ、お袋。料理を覚えようか」

 

 

「やだ。だいたい誰が教えてくれるのよ」

 

 

「こういう時のご近所さんじゃねえのかなぁ。……まあ、あれだ。俺が教えてやるよ」

 

 

「……料理……出来るの…?」

 

 

 

 なんかそれらしき知識も頭に入ってるから一通りは出来そうだ。教えていく内に思い出す物もあるかもだし、丁度良いだろう。

 

 

 

「ええー。なんか産まれたばっかの息子に教えてもらうのってこう…、母親の威厳とかさあ」

 

 

「お袋お袋。威厳とか気にするのは威厳を手に入れてからな」

 

 

「なっ⁉︎どういう意味よ!」

 

 

「どうもこうもないんだよなぁ……。それに、そんな安っぽい誇りとやらはな、そこいらの犬にでも食わせてしまえ」

 

 

 

 口調を渋めに変えてやる。槍の兄貴の怒りがマッハである。

 

 

 

「あ、今の渋い声かっこいいね。誰かの真似?」

 

 

「英霊エミヤ。……それよりも何で食いもしない豆腐を持ってきたのかの説明キボンヌ」

 

 

「……キボンヌ?…まあいいや。えっとね、そのデュランダルは壊れないっていうのと、もう一つ特徴があるんだ。それが持ち主以外が持っても何も切れないってことなの。『言うは易く行うは難し』って言葉もお父さんが良く言ってたし、実際に見せようと思ってね」

 

 

 

 それを言うなら『百聞は一見に如かず』だと思うのだが、親父の誤用なのかお袋の曲解なのかわからないので黙っておく。

 

 お袋は徐ろにデュランダルを振り上げーーー。

 

 

 

「さぁ‼︎」

 

 

「守護月天のOPかよ」

 

 

 

 何でも自分で出来そうな掛け声と共に豆腐に振り下ろした。

 

 ……いや、その勢いだと置いてある皿どころか机も無事じゃ済まないだろ。アホかな?

 

 机諸共にバキバキに割れる瞬間を幻視した俺が身構えるが、その予想に反して何の音も立てずに振り切り、ビシッと決めてみせるお袋。……?何の音もしないってのはどういうこった。

 

 

 近くに寄って見てみると…………。

 

 

 

「おおお…⁉︎マジで切れて無いのかよ⁉︎」

 

 

「だから言ったでしょ?斬れないのよ」

 

 

 

 いやあ、俺の想像した『斬れない』よりも数段不可思議な現象だぞ。だって何の傷も無い。机どころか豆腐にもだ。言っておくが、当たらなかったとかそういう話じゃない。確実に剣が通った半円上にあった。これはーーーーー。

 

 

 

「通り抜けた……のか?」

 

 

「ご名答!良く分かったね?」

 

 

 

 お袋が剣を抜いたまま拍手する。危ねえからもう納めろよ。

 

 

 

「俺ぁてっきり斬れないってのは鈍器のようには使えるって意味だと思ってたが……」

 

 

「ちなみにいつでも通り抜けるわけじゃないよ。ほら、こうして刃を立ててもゆっくりなら当たるし、お腹を向ければ鈍器としては使えるかな。あくまでも『斬る』行為に対して反応するみたい」

 

 

 

 言いながらお袋が片手で実演してくれる。つーかさっきからあんたとんでもない怪力発揮してんな?そんな軽々扱える剣じゃ無いだろ、それ。

 

 デュランダルの刀身は幅が十センチ、長さは一メートル程ある、少し肉厚な刃だ。お袋みたいなか弱そうな少女が片手で持てるとは思えない。

 

 

 

「言ってなかったっけ?冒険者は普通の人間よりもかなり強くなるんだよ。その辺りもこれから教えてあげるけど……どうかなゼロ?これでお父さんを信じる気になった?」

 

 

 

 ドヤァ……‼︎と音がしそうな顔で俺を見下ろすお袋。しかし何も言い返せない。

 女神とかの胡散臭い話は置いておくとしても今の超常現象は素直に凄いと思ってしまった。何か反撃をしたいが……。

 

 

 

「………悪かったよ。信じる事にする。

 …ところでその剣ってさ、親父の物なんだろ?俺が使っても同じなんじゃないの?」

 

 

「うむ!謝れる子はいい子!あと、それは多分平気だよ。お父さん、死ぬ前に産まれる子に所有権を譲ったって言ってたし」

 

 

 

 何がどう平気なのか今のではわからなかったが、とりあえず納得はした。

 

 

 

「じゃあその剣を振れるように今から鍛えないとな。早く練習すればそれだけ強くなれそうだ」

 

 

「私は止めないけどさ、ちょっと急ぎ過ぎじゃない?まだ赤ん坊だよ?ゼロ」

 

 

 

「俺だってちょっとはそう思うけど、なんか体動かしてないと落ち着かないんだよ。どんどん力が湧いてくるっていうかさ」

 

 

「ふーん?じゃあそのためにも早くご飯食べて、早く寝ましょー!夜更かしすると大きくなれないよ!」

 

 

「おー‼︎」

 

 

 

 お袋のノリに合わせて拳を上に突き上げた。まだほんの少しの付き合いだが、この人とは仲良くやれそうで何よりだ。

 そのままお袋が服を脱ぐのを大人しく待ってーーーーー。

 

 

 ……………えっ。

 

 

 

「お袋、何で服脱いでんの?露出癖でもあったの?お袋がヒステリアモードになっちゃうの?」

 

 

「何でって、ご飯でしょ?ヒステリア……なに、とかは知らないけど」

 

 

 

 だから何で服脱いでんだっつの。飯なら俺が教えるから作れよ。

 

 

 

「ゼロ、ご飯食べられるの?赤ちゃんって普通、お母さんのおっぱいで育つんじゃないの?」

 

 

「残念でした〜!俺はこの時点で普通の赤ん坊じゃないから普通にご飯を食べます〜!」

 

 

 

 もう普通がゲシュタルト崩壊を起こしているが、いくら母親とはいえ、自意識がこんだけはっきりしてると裸には抵抗あんだよ。察しろや。

 

 不思議そうに首を傾げながらまた服を着るお袋。それでいいのだ。

 

 

 

「よし、ではこれからお袋に作ってもらうのは『お粥』だ!まずは米と水、あとは鍋と火を用意しろ!出来れば塩と出汁もあると尚良し‼︎」

 

 

 

 さすがに赤ん坊の内から脂っこい物なんて食えない。ここは無難にお粥で良いだろう。

 

 対してお袋は俺の指示を聞いて動く……こともなく。

 

 

 

「今言った中だと火ぐらいしか用意出来ないかなぁ」

 

 

「………?あ、もしかして米とか存在しない感じ?」

 

 

「お米でしょ?あるけど、この家には存在しないってだけ。お塩と、お出汁。あと鍋も無いや」

 

 

「……………………」

 

 

 

 ……冗談だろ?最低でも塩はあるだろ普通。こんなに調理器具が揃ってない家はもう人が住む家じゃないだろ。

 

 

 

「ふふん、それはゼロの普通であって私の普通じゃないのよ!私は周囲には流されないことで有名なんだから!」

 

 

「威張る事じゃねえからな?マジで」

 

 

 

 次の日から鍛錬しようと思ってたのだが、急遽予定を変更して食材、雑貨、その他を買い揃える必要がありそうだ。先に土台を作らないと鍛えるもなにもあったもんじゃない。

 幸いにも我が家には親父とお袋が冒険者時代に稼いだ金と、親父が死んだ時に王都から今までのお礼としてかなりの金額貰ったらしく、一生困らない額の金があるらしい。俺の知識があれば生活基盤はすぐ整うだろう。

 

 

 

 これ俺がいなかったらお袋孤独死してたんじゃないの?今凄く産まれて来たことに感謝してるわ。多分普通とは違う意味で。

 

 

 明日からの予定を頭で組み立てながら強くそう思った。

 

 

 

 



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3話



再投稿。





 

 

 

 ※

 

 

 俺が産まれた日からもう十二年が経つ。

 

 あの日から一日足りとも休まずに鍛え続けた。剣を振れるようになってからはそれこそ朝、太陽が昇る前に起っきして、剣を振り上げ、振り下ろす。その動作を最初はぶっ倒れるまで続けたものである。倒れなくなってからは夜、太陽が落ちて自分が見えなくなるまで剣を振る毎日。

 

 今では振った剣先から空気が弾ける音が聞こえ、体を動かす速度は音速に届くのではないかとも感じる。いや、絶対におかしいけどな。十二歳のガキがこれだけ強くなれるのなら他の奴らはどれだけサボってんだって話だ。

 その他の奴らはサボってる癖に最近は俺の周りをうろちょろして難癖付けてくるんだぜ?文句言うんなら俺と同じだけ訓練してからにしろってんだ。無視して剣振ってると何故か怯えた表情をして逃げていくし。何がしたいのか全然わからん。

 

 そんな自分を鍛え続ける日々の中で、俺は自分の体が俺の常識と比べて頭がおかしい程に怪我が治るのが早い事に気付いた。手の皮がズル剥けになろうと、指の筋が切れたように感じた時も、寝て起きたら次の日には治ってるのである。そして二度と同じような怪我はしない。

 恐らくこれはこの世界に住む人間の特徴なのだろう。お袋に聞いたら「そんなこともあるよね」とか言ってたし、この世界の戦闘力の基準がかなり高いことも知った。いちいち怪我くらいで何日も休んだりはしないということか。

 なんつーブラック的な考えだとも思わなくも無いが、一刻も早く強くなりたい俺からすればありがたい事この上ない……………。

 

 

 ……と思ってた時期が俺にもありました。

 

 

 

「………どうなってんだ?」

 

 

 

 いつも練習場所にしている木の根元で目を覚ます。別に俺に突発性居眠り病の気があるという事じゃない。俺は同じ世界を夢の中で何度もループしたりしないし、『雀聖』とも呼ばれない。

 ただ、いつもの通りに動きながら剣を全力で振っていたら、いきなり全身が裂けたので動けるようになるまで横になっていたのだ。

 

『動いていたら身体が裂けた』。中々のミステリーに感じるが、この現象には覚えと言うか、似たような物が知識の中に含まれていた。

 

 

『物体が音速を超えると衝撃波が出る』。

 

 

 この極めて当然な物理現象だ。俺の知ってるだけでもこの影響を受けて怪我したのは遠山キンジと愚地克巳の二人がいる。つーかどう考えても『桜花』と『マッハ突き』は同じ物だと思うんだよね。

 その二人だって後々まで後遺症を引き摺る程にその衝撃波は強いのだ。それこそ俺の全身を引き裂くくらいには。

 

 それがどうだ。寝て起きたらその傷が影も形もないでは無いか。いくら俺の基準よりもこの世界が激しいと言ってもこれはあり得ないだろう。

 試しにさっきよりも速く動いてみる。衝撃波らしき物は視認出来たが、それで怪我をするような事もなく、普通に立っていられた。

 

 

 ………ほんの少しだけ。自分が怖くなる。

 

 

 だってそうだろう。産まれてすぐに喋る、どこで得た知識かもわからん事を知ってる、おまけにこの超速回復と来た。俺が人間なのかどうかすら今の俺は疑っている。

 

 とりあえず夜も更けてきたので家に帰る。親父も女神だとか変な事を言ってたみたいだし、帰ったら親父の話でも聞いてみるか……。

 

 

 

 ※

 

 

 

「お父さん?人間に決まってるじゃない。何言ってんの?」

 

 

 

 帰ってすぐにお袋に親父の事を聞いたらバカを見る目で見られた。失礼な話である。

 

 確かにいきなりだとは思ったので事のあらましを説明する。そもそも着ていた服が俺の血で真っ赤だったのだから誤魔化しようも無いが。そしてそれを聞いたお袋はーーーーー。

 

 

 

「……?それってそんなに重要な事なの?どうでもよくない?」

 

 

「ど…⁉︎どうでもいいって…どういうことだよ……」

 

 

 

 少なからずショックを受けながら聞き返す。

 

 いくらお袋が究極の放任主義だからって息子が自分の事が分からずに不安がってんだから少しはなんかあるだろう。

 

 若干の失望と怒りを含めた俺の視線を真っ向から受けるお袋の答えは…………。

 

 

 

「うーん、確かにね?そんなに早く怪我が治るのは聞いた事ないよ。回復魔法なら別だけどね。

 でも良いじゃない。便利で。怪我が早く治るなんて冒険者からしたらゼロの言う『アドバンテージ』に他ならないよ。

 ゼロが自分の事が分からないっていう不安は分からないでも無いけどさ、仮にそれが判ったとして、何か変わるの?ゼロがゼロなのは変わらないでしょう?

 その結果がもし人間じゃないってなったとしても今人間として暮らせてるんだからそのまま暮らせば良いだけだし、何も変わらないよ。少なくともお母さんが態度をキツくするなんて事は絶対に無いから‼︎安心だね‼︎」

 

 

 

 いつも通り予想の斜め上の答えだった。

 お袋の意見を吟味するように頭の中で転がしてみる。

 

 

 ……………あれ、その通りじゃね?

 

 

 うん。俺の正体が人間じゃなかったとしても、それでいきなり人類を滅ぼそうとかは絶対思わないだろう。今までとなんら変わらずに鍛錬を続けるに違いない。気にするだけ無駄って事か。

 

 それに、そもそもお袋以外とはまともに会話すらした事がない俺だ。だってゼロ歳からずっと鍛えてるからね。

 だったらお袋さえ変わらずに居てくれれば俺はそれで良い気がしてきた。

 

 

 

「……お袋、ありがとうな」

 

 

「どういたしまして!さ、ご飯も出来るから、着替えて着替えて!」

 

 

 

 ニッと笑いながら何も変わらない様子で家事を始めるお袋。

 それを眺めて、俺はこの人には頭が上がらないんだろうな、と。そう思った。

 

 

 

「そういえば、親父もお袋もそれなりに魔法使えたんだろ?なら俺にも魔法の才能とやらはあんのかね」

 

 

 

 お袋が作ってくれた飯を食いながらついでに、と気になる事を聞いてみる。これだって俺の今後を左右する大事な事だ。

 俺は今の時点でかなり強いと自負している。本当に最近になってからだが、剣を速さ重視で振ると斬撃のような物まで飛ばせるようになってきた。この世の人間は鍛えれば皆こんなことが出来るのかと感動したものである。

 そんな俺には魔法使い職として名を馳せたという親父の血が流れている。であれば、俺は剣も使えて魔法も使えるハイブリッド冒険者になれる可能性があるかもしれない。

 

 

 

「……どうだろね。優秀な魔法使いの子供が優秀なのは良く聞くけど、お父さんはともかく私は大したことないからなあ。

 ……あ、そうだ。ちょっとお待ちくださいねー」

 

 

 

 席を立ち、部屋の奥にある押入れをゴソゴソやるお袋。

 

 どうでもいいけどウチの押入れどうなってんの?中が四次元と繋がってんじゃ無いかってくらい色んな物入ってるよね。

 

 今度中を気が済むまで調べたい、という欲求が湧いてきた俺の元へ植物の茎のような細い物が数本置かれた。

 

 なんだこの茎昆布は。食えってか。

 

 

 

「惜しい!これは『魔力珪藻』の茎で、咥えるとその色が変化して咥えた人の魔力量を教えてくれるんだよ。今は綺麗な緑色でしょ?魔力が多くなるに連れて赤っぽくなっていくの。

 生まれつき魔力が桁外れな紅魔族の中でも優秀な人がこれを咥えると色が赤を通り越してどす黒くなるっていうね。…ほら、咥えてみて?」

 

 

「………なんか体温計みたいだな」

 

 

「似たような物かもねー。……そういえばゼロって風邪とかひいたことないね?私としては助かってるけど」

 

 

 

 多分それも俺の回復力の特徴だろう。下手な病気はおろか、この歳まで風邪一つ引いたことがないなんてのはかなり珍しいんじゃないかね。

 

 

 さて、俺の魔力量はいかほどかーーー。

 

 

 親父の形見は魔法には関係無かったが、親父の血は俺にどのくらいの才能を遺してくれたのだろう。そう思いながら魔力珪藻の茎を咥え、しばらく待つ。

 

 

 

 ……………………………。

 

 

 

「…………全然変わんないんだけど」

 

 

「あ、あれっ?おっかしいなあ、結構放置してたから効果切れちゃったのかな?」

 

 

 

 お袋も口に咥えてみると、数秒程で茎の色は鮮やかな緑色からお袋の髪の様な真紅に染まった。

 

 お袋が何とも言えない顔でチラチラ俺を見てくる。

 

 

 

「…………えっと……。効果は…あるね……」

 

 

「俺もう寝るわ」

 

 

「わああああああ‼︎ごめんごめん、ごめんってば!お母さんがこんなもの持ってきたばかりに‼︎」

 

 

 

 親父には剣の才能が欠片も存在しなかったようだが、俺には魔法の才能が皆無だったようだ。

 

 魔法使える!と楽しみにしていた身としては残念極まりないが、俺のやる事は今までと変わりない。これで剣一本に集中出来ると考えればそれほどでも無いさ(震え声)。

 

 

 

 …………泣いてなんか無いぞ‼︎

 

 

 

 ※

 

 

 四年後。

 

 数ヶ月前に十六歳の誕生日を迎えた俺は一般的に冒険者の適正年齢と呼ばれる歳になった。中にはもっと若い内から冒険者としての経験を積む奴もいるみたいだが。

 何はともあれ、そろそろ俺も冒険者登録をするために『始まりの街アクセル』に向かおうと思う。

 

 

 

「は?朝っぱらから何言ってるの?ダメですけど」

 

 

「ダメとか無いです」

 

 

「ダメですー!」

 

 

 

 お袋はダメだと言うが、これはもう決めた事なのです。

 っつーか今まで俺のしたい事は人に迷惑かけなきゃ何しても良いとかいう放任主義のお袋が今回はどんな風の吹きまわしだよ。俺を納得させる理由が言えるなら言ってみろ。

 

 

 

「私が寂しいから、ダメです」

 

 

「お、おう………」

 

 

 

 そんな直球で言われても反応に困るな……。

 

 いや、しかし俺は産まれた時から冒険者になりたいと言っていたではないか。そしてそれをお袋は応援すると言った。それがいざなろうとするとダメとは何事だ。そいつはスジが通らねえな。

 

 

 

「大体、何で急にそんな事言い出したの?お母さん何かしちゃった?だったら謝るから………」

 

 

「お袋、違うんだよ。逆だ、お袋は優し過ぎるんだよ」

 

 

 

 それに急にではない。十六歳になったら旅に出て冒険者になるという事はずっと前から決めてあった。本当は十六歳の誕生日の日に出ようと思ってたんだが、俺もお袋と別れたくなくて先延ばしにしちまった。恥ずかしい限りである。

 

 

 

「お袋とずっと一緒に暮らすのは魅力的だ。出来ればそうしたいという気持ちがあるのは否定できねえ」

 

 

「だったらーーー」

 

 

「けどそれをしたらそれこそ駄目になっちまう。俺はいつか冒険者になるために産まれてから今日この時まで一日も休まずに鍛えてきた。ここで折れたら今までの努力、それに費やした時間が全部消えるんだよ。

 それは嫌だ。お袋が言ってくれた事だぞ、『俺の好きなように生きる』。お袋は自分で言った事を嘘にするつもりかよ。

 

 ……冒険者になるのは俺が今本当にやりたい事なんだ。今回ばかりはお袋になんと言われようと聞く気はねえぞ」

 

 

 

 これが俺の偽らざる気持ちだ。お袋だって頭が硬い訳じゃ無い。ちゃんと誠意を込めれば分かってくれるはず………。

 

 

 

「……………………いつ出るつもりなの?」

 

 

 

 なんか凄い葛藤が垣間見えたけどこの流れは大変よろしい。

 今日は朝から快晴だし、ちょうどいいだろう。

 

 

 

「今から」

 

 

「急過ぎない⁉︎やだやだやだ‼︎私一人になっちゃうじゃない!お母さんが寂しくて死んじゃっても良いの⁉︎ゼロの人でなし!」

 

 

 

 おい、今の許してくれそうな雰囲気どこ行ったし。カムバック。

 

 

 

「あんたは兎かなんかかよ⁉︎全然こころぴょんぴょんしねえわ!

 大体な、人間そう簡単にゃ死なねえよ!俺を見ろ、全身ズタズタになっても寝て起きたら治るんだぞ‼︎」

 

 

「それはゼロがおかしいの!ゼロみたいな人外と一緒にされちゃたまったもんじゃないし!私は寂しいと死んじゃうかもしれないでしょ⁉︎」

 

 

「ついに息子を人外扱いしやがったな⁉︎あんたの鋼鉄の心臓はその程度じゃ傷一つ付かねえよ!賭けてもいいね‼︎」

 

 

「あああ⁉︎言ったね、言っちゃったね?じゃあ賭けましょうか‼︎ゼロが旅から帰って来て、私が死んでたら私の勝ち、死んでなかったらゼロの勝ち‼︎」

 

 

「……いいだろう。何を賭ける?」

 

 

「………私が勝ったら私のお墓にお嫁さんと孫を連れてお墓参りに来て」

 

 

「は?いや待て、何でそんな話になるんだよ。嫁がどうとか関係無えだろ」

 

 

「お母さん、これでもゼロの事心配してるんだよ?ほら、ゼロって全然人と話さないじゃない?このまま誰とも関わらなかったら冒険者引退してから一人で生きなきゃいけないんだよ?それは私草葉の陰で大号泣しちゃうから、そうならないために」

 

 

 

 なんという余計なお世話。そんな簡単に嫁が見つかるかよ。お袋は世の中を舐めきってるとしか思えんな。

 それに俺が今まで人と関わらなかったのは必要が無かったからだ。必要があればそうする。そこまでコミュ症では無いぞ。

 

 

 

「……俺が勝ったら?」

 

 

「うーん……、そうねえ。………ゼロが好きなお粥作ってあげる」

 

 

「やっす」

 

 

「お前の血は何色だあ‼︎」

 

 

 

 普通に赤ですけど。

 

 繰り出されるお袋の連続パンチを軽々といなしながらお袋に話しかける。

 

 

 

「お袋、俺はお袋には本当に感謝してるんだよ。俺が産まれた時に怖がらないでくれた事。俺に色んな考え方があるって教えてくれた事。……今まで育ててくれた事。数え出したらキリが無いくらいにはな」

 

 

 

 何故かパンチが速くなる。いや、ちょっと。全部腰が入ってるのに中々の回転の速さだな。そして急所狙いを織り交ぜるの止めてもらえませんかね。

 

 

 

「向こうで落ち着いたらまた帰って来るよ。数年はかかるだろうけどさ。

 ………今までありがとう。元気にしててくれ。死ぬなんて言葉使うなよ」

 

 

 

 これ以上会話してたら俺でも泣きそうになっちゃうから早く出たいんだが。

 

 そんな甘々な俺を余所に、拳を今まで以上に強く握って振りかぶるお袋。受け止めるか避けるかしようと思ったが、『避けるな』と睨まれた様な気がして動きを止める。まあこれはある意味俺の我が儘なんだし、罰くらい受けるか。

 思えば、お袋が俺に手を上げるのは初めてではないだろうか。そう考えれば真新しいとも言えるしな。

 

 さあ来い、と身構える俺の鳩尾を。

 

 

 

「うぐぅ⁉︎」

 

 

 

 ドゴン、と鈍い音と共に想像を遥かに上回る衝撃が貫いた。

 やっべ、うぐぅとか言っちゃったよ。たい焼き食べなきゃ(使命感)

 

 そんな超威力のストレートを放ったお袋はフッ…、とニヒルに笑い呟いた。

 

 

 

「憶えておく事ね。母の拳は息子の防御を無視できるってことを……」

 

 

「超強力な防御力無視攻撃か……。それは憶えておかないとな……」

 

 

 

 お袋はもう一度ニヤリと笑うと俺に背を向けた。

 

 

 

「さ、早く行った行った!自分で決めた事なんだから、やり遂げなきゃ駄目だよ!」

 

 

 

 どうやらこのまま行かせてくれるらしい。少しだけ迷った末にお袋に頭を下げる。

 実は昨日の夜に準備しておいた手荷物を持ち、家のドアを開けて振り返ると、お袋がこちらに手を翳していた。その手が光っているのはなんだろう。

 

 

 

「いやね、ゼロには私の魔法見せてなかったなって思ってさ。これは私が一番得意な支援魔法なんだ」

 

 

 

 支援魔法。今ここで掛けてもらうのは良いが、その効果はどのくらい続くのだろうか。攻撃が上がるにせよ、防御が上がるにせよ、そう長く続くとは思えないが、くれるというのだから有り難く頂戴しよう。

 

 

 

「いくよ………!『ブレッシング』‼︎」

 

 

 

 お袋がおそらく詠唱だろう、聞き慣れない単語を口にすると同時に俺の身体が光に包まれる。しかしそれだけだ。力が湧いてくるとか、動きが素早くなったとか、変化らしきものが見られない。

 今のは何の支援魔法なんだよ。ただ光っただけだぞ。

 

 

 

「秘密だよ。冒険者になればその内分かるからさ。…………じゃあね、ゼロ。ゼロなら心配要らないかもしれないけど、身体には気を付けてね。私が教えてあげたのは私が冒険者として体験した事だけだから、きっとまだたくさん知らない事もあるよ。それをいつか聞かせてくれると嬉しいかな」

 

 

 

 そう言ってまた背を向けてしまう。もうこちらを見る気は無さそうだ。

 再び頭を下げてドアを閉める。見えてはいないだろうが、こういうのは気持ちの問題だ。

 

 俺が帰って来たらどんな事をお袋に話してやれるだろうか。そう考えかけて思考を中断、苦笑する。今から旅に出るってのにもう帰って来た時の事を考えてどうするんだ。未練タラタラじゃねえか。

 

 とりあえずはアクセルに向かうことだけを頭に入れておけばいい。その後のことはその時になってからでないと分からないさ。

 

 しばらくどころか下手をすれば一生会えなくなるお袋の事を思い浮かべ、それをなるべく頭の片隅に追いやりながら村を踏み出す。

 

 

 

 願わくば、この旅路に祝福のあらん事を。そんなお袋の声が最後に聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

 

 ※

 

 

 

 一時間後。

 

 

 周囲に何も見えない、邪魔する物が何もない平原を歩く俺は、何かが近づいて来る気配がして剣を抜いた。

 早速モンスターとの遭遇か、と思ったが、周囲には本当にそれらしき影が無い。しかし気配は確かにする。

 

 唐突に俺の周辺が暗くなる。嫌な予感がして全力で前に跳ぶと、直後にとんでもない重量が先ほどまで俺がいた地面に激突した。その大きさと重量によってかなりの量の砂煙が舞い上がり、襲撃者の姿を覆い隠してしまう。

 

 おかしい。お袋からこの辺りに生息するモンスターの情報は教えてもらったが、ここまで巨大なモンスターなどいないはずだ。いたらあんな小さな村などとうに捨てられているだろう。

 正体を確かめるべく砂煙が晴れるのを待つ俺に凄まじい熱量の炎が吐きかけられた。砂煙の内側から、それを吹き散らしての火炎放射を間一髪のところで躱すが、あまりにも熱が強いのか、その炎が掠っただけの地面が融解してしまっていた。

 

 この時点で俺の嫌な予感が想像よりも悪い方向に向かっている事を確信してしまった。こんな熱量の炎を体内で生成できる存在など限られている。

 恐る恐る、砂煙が晴れた事によって露わになった襲撃者を見る。

 

 まず目に付くのはその巨体だ。優に三十メートルはある、俺の家よりもでかい体にびっしりと敷き詰められた赤い鱗。身体のでかさに比例するかのように広げられた空を覆うような翼。俺が知る知識の中でも伝説と呼ばれ、この世界に於いては生態系の頂点とされる存在、『ドラゴン』がそこに鎮座していた。

 

 

 ……………うん、こういう時は確かこう叫べば良いんだっけか。

 

 

 そんなお決まりの定型句を口に出すために思いっきり息を吸い、それ(・・)を力の限り空気の振動として放出した。せーの。

 

 

 

 

 

「不幸だあああああああーーーーーーっっっ‼︎‼︎」

 

 

 

 



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4話



再投稿。


 

 

 ※

 

 

「アイエエエエエエ⁉︎ドラゴン⁉︎ドラゴンナンデ⁉︎」

 

 

 

 お袋から教わったアルマ近辺の生態分布図を思い出し、頭の中で作成する。当然ながらドラゴンなんて項目はない。当たり前だ。こんなんがいたらあんな小さな村など一瞬で灰にされちまうわ。

 という事は、こいつはどっかから流れて来たドラゴンなのだろう。問題なのはそれがどうして今ここに降りてきたのかだ。そのまま流れて行けよ。わざわざこんなちっぽけな俺に構わないで結構ですけど。

 

 そんなビビりまくりの俺の心など大自然の前には何の意味も無い。具体的には一切の躊躇も容赦も無く攻撃され続ける俺と攻撃し続けるドラゴンの鬼ごっこが平原では繰り広げられていた。古より伝わりし由緒正しい鬼ごっこの構図である。

 

 

 

「ゴアァアアアアアアアアアッッ‼︎」

 

 

「残像だ‼︎」

 

 

 

 わざとゆっくり動き、ドラゴンが炎を吐いた瞬間に全力で移動。視界を振り切りながらドラゴンの背後に回り込む。

 もはや何度目か数えるのも億劫だが、とにかく何度目かの火炎放射が直前まで俺がいた地面を溶かし、周囲の雑草を根こそぎ燃やし尽くしながら着弾した。

 

 おそらくアレを喰らってしまえば俺は消し炭になってしまうだろう。そこがまた不思議なのだ。

 俺を獲物として見ているならばそんな事はしない。誰も炭なんざ食いたくないだろう?

 つまり他に何か別の目的があってこいつは俺の元へ降りてきたということになる。これだけ翻弄してやっても俺に執着し続けるのはそういう事だ。

 

 ドラゴンにモテるとか辛いねえ。いや、冗談じゃ無くて本当に辛い。どうせなら美少女にモテたい。

 

 

 動きの素早さだけなら俺はこいつよりも遥かに速い。この体格差で鬼ごっこの体裁を保てているのはそのお陰だ。最初はトップスピードで逃げ切ってやろうと思っていたのだが、よく考えなくてもそれは出来ない。

 

 今は俺に執着しているかもしれないが、流石に振り切ってしまえば俺から興味を失ってしまうだろう。ドラゴンといえどもそこまで暇ではないはずだ。

 そうなったらこいつは何処へ行く。この近くにはアルマ村しか無い。お袋がいる村だ。俺が産まれ、育ち、今も多くの人間が暮らしている村だ。それは出来ない。

 

 

 一つ、息をつく。

 

 俺はこいつと遭遇してからこっち、村から離れる方向に少しずつ誘導していた。その間、攻撃は一切していない。あわよくば諦めてどっか行ってくれねえかと思っていたのだ。攻撃してしまうといよいよ期待できなくなるからな。

 

 だがそれも終わりだ。どうも俺にご執心のようだし、これ以上付かず離れずで逃げるのは俺の心臓にも悪い。何よりーーー。

 

 

 

「やられっぱなしってのは性に合わねえんだよなぁ!」

 

 

 

 言うが早いか、背後から斬りかかる。まだこいつの視界に俺は入ってないはずだ。バックスタブ頂きます。

 尻尾を斬り落としてやろうと、本体の大きさと釣り合いの取れたそれなりに太い尾に剣を振り下ろした。部位破壊!部位破壊!天鱗だ!天鱗を出せ‼︎

 そもそも天鱗なんて物があるのかも知らんが、尻尾斬ればリーチが短くなるのは確かだろう。

 

 

 

「えっ」

 

 

 

 そんな考えを持って放った渾身の一撃は、ガリィ!と耳障りな音を立てながら、尻尾を隙間なく覆っていた赤い鱗を数枚削り取るだけに留まった。

 うっそお……。

 

 

 

「げぶぅっ⁉︎」

 

 

 

 休まずに鍛え続けた自身の全力がその程度の成果しか出せなかった事に唖然としていると、俺の位置へ正確に尾が振られ、見事なまでに腹部にストライク。そのまま後方へ吹っ飛ばされてしまった。

 

 

 

「うえっぷっ…っ!てんめ、おいゴルァ!降りろ!おい免許持ってんのかゴルァ‼︎」

 

 

 

 危うく昨夜の飯がリバースしかけたじゃねえか。アナザーじゃ無くても今のは鍛えてなかったら死んでたぞ、どうしてくれんだ。

 

 言葉の通じないドラゴンに何やら喚き散らす危ない男がそこにいた。

 当然、そんな事など奴さんには関係無い。今度は火炎放射ではなく、それをぶつ切りにした火球を俺目掛けて連続で飛ばしてくる。

 正直遅過ぎる。こんな物に当たるほどノロマでは無い。が、そこじゃない。問題は俺の攻撃手段がデュランダルによる直接攻撃しか無く、かつそのクリーンヒットが今まさに通じなかった事にある。

 どうすんの、これ。

 

 火球を避けながら思案する。

 そういえばだ。俺は訓練と言っても基本的には素振りしかして来なかった。

 例えば、そんな男がいきなり刀を持たされて人間を斬れるだろうか。

 答えは否だ。刀の切れ味にもよるが、ただ剣を振る動作に使う筋肉と、何かを斬ることに使う筋肉はまるで別物なのだ。その事に遅蒔きながら今気付いた。

 実際は人間程度ならば苦もなく両断出来るが、こいつの鱗自体かなりの硬度があるのだろう。

 四足歩行から振り下ろされる前脚を躱しながらまた斬る。結果は変わらない。

 

 ここに来て実戦経験が足りないとか勘弁してくれよ。これが初戦だっつーの。

 

 

 …………だが、考えようによっては好都合かもしれない。

 動きが遅く、体が硬いドラゴン。うん、初めての相手としては悪くは無いぞ。

 

 また放たれる火炎放射を掻い潜り、胴体を連続して斬りつける。何度も何度も、身体にその感覚を刻み込むように。

 鱗が剣を振る軌跡に沿って剥ぎ取られていく。その下に地肌が見えて来た。ここを斬ればダメージは通るのだろう。まだ早い。

 流石に痛みは感じたのか、焦ったように俺を前脚で蹴ろうとするが、今度はまた背後に回り、後ろ脚を斬る。回避せざるを得ない攻撃が来るまで何度も。そして地肌が見えて来る。だが、まだ早い。

 幾ら体を動かしても俺を振り払えない事に痺れを切らしたのか、巨大な翼を羽ばたかせて尾で打ち付けようとして来るが、逆に尾を伝って体を登り、頭部で思う存分暴れてやる。

 

 そう、こいつの攻撃は俺にはまず当たらない。ならば今のうちに何かを斬る感触を覚えれば良いのだ。

 先も言った通りに俺は斬る行為に不慣れだ。こいつのように、いつでも攻撃が躱せ、尚且つ体が硬く生命力が強い、すぐには死なないモンスターは恰好の練習台になる。

 遭遇時には不幸だと嘆きもしたが、なるほど。こうしてみると案外幸運だったのかもしれないな。

 

 

 

「オラオラオラオラァ‼︎逆鱗寄越せ‼︎あと三百個あればとりあえず足りるんだからよぉ、秘石は要らねえぞぉ⁉︎」

 

 

 

 なんだかんだでドラゴンの動きにも慣れ、余裕の出て来た俺はデュランダルの硬さと自身の力に任せて全力で頭部の鱗を剥ぎ取り続ける。

 ドラゴンの方も黙っておらず、必死に上空に飛び上がったり急降下したりして俺を振り落とそうとするが、その度に鱗を掴んで抵抗してやる。

 落とせるもんなら落としてみやがれ。俺を襲った事を後悔して死んでいくがいいわ。いや、むしろーーー。

 

 

 

「テメエが落ちろ」

 

 

 

 剣を一振り。今度は鱗に弾かれず、斬り裂きながら確かな傷を与えた。鱗だけで無く血と炎が飛び散っている。

 

 ………?炎?

 

 ともあれ、そろそろコツも掴めて来た。お別れの時間だぜ。

 

 初めて傷らしい傷を受けたからか、今まで以上に激しく体を揺さぶる。

 残っていた鱗に掴まり、ドラゴンの動きが鈍くなる瞬間を待つ。生態系の頂点だからって疲れねえわけじゃねえだろ。動きが止まった時が決着の時だ。

 

 

 待つ。待つ。待つ…………今‼︎

 

 デュランダルを逆手に構え、頭上高くに振り上げる。あれはよく見たら逆手じゃなかった気もするが、まあいいだろう。

 

 

 

「もらったぁああああーーーーーっ‼︎」

 

 

 

 叫びながら、先ほど斬った炎燻る傷口を抉るように全力で突き下ろしたーーーーー‼︎

 

 

 

 

 

 ※

 

 

 

 

「……いっ……づっ……あっ…‼︎」

 

 

 

 苦悶にのたうち回りながら黒焦げになった左腕を地面に押し付ける。ようやっと燃え移った炎が消えたところだ。

 

 俺がこんな重傷を負うハメになったのは無論あの憎っくきドラゴンのせいだ。

 奴の頭頂部にデュランダルを根元まで突き刺して息の根を止めたまでは良かったのだ。そう、なぜかその傷から大量の炎が噴出して俺の左腕を丸ごと飲み込みさえしなければ。

 熱いというかもう痛いすらも超越した感覚だ。まあ完全に炭化してる訳ではないという証拠でもあるが。

 

 ………これ治んのかな。治らなかったらヤバくね?

 

 ドラゴン一頭の討伐と引き換えに腕一本。対価としては充分以上に感じるが、当人である俺からすればたまったものじゃない。

 いつもみたいに寝て起きたら治ってたりしないものか……流石に無理か。

 

 アクセルに行く前に優秀な医者か、プリーストを見つけなければいけなくなった。お袋はそこまで腕は良くなかったはずだし、何より、あんな大見得切って旅に出たのにその日のうちにとんぼ返りとか俺が情けなくなるから頼れないし。

 

 

 

「っとに余計な事してくれたよ、クソトカゲが…!

 大体誰だよ、こいつと遭ったのが幸運とか言った奴は。俺の目の前に出てこいってんだ」

 

 

 

 できるわけがない。それを言ったのは他ならぬ俺だ。

 

 今後の予定が大きく狂ってしまった事に悪態をついていると、腹が鳴るのが分かった。そういやあ朝からなんも食ってないな。

 こんな非常時でも腹は空くのかと苦笑してーーードラゴンの肉の効能を思い出す。

 確かドラゴンの肉は栄養が豊富で、かつ自然治癒力を高め、冒険者ならレベルという概念が上がるとお袋から聞いた事がある。

 

 どうせまともな処置も出来ないのだから、ドラゴンステーキでも食ってさっさと不貞寝決め込むのが俺なら最善手な気もする。治らないにしても痛みを忘れるくらいはできるはずだ。

 

 

 

 初めて自分で狩った肉は調味料が足りないのか、クソみたいな味がした。

 きっと喰種がコーヒーか人間以外を食うとこんな味がするんだろう……。

 

 

 



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5話



再投稿。






 

 

 ※

 

 

 白と黒の世界。その世界には中心に椅子が2つ置かれているだけだった。何とも寂しい光景である。

 片方には俺が座り、もう片方には俺と同い年か、少し歳上に見える少女が座っていた。

 いつか、どこかで見たような風景ーーどこだっただろうか?

 違うところを挙げるとするなら、目の前の少女の色彩が違うことだろうか。どちらも美しい事には変わらないが、受ける印象はかなり違った。

 ちなみに俺はこっちの方がタイプです、はい。

 

 

 

「初めまして、ですね。ゼロさん。私はエリスと申します。これでも、一応女神なんですよ?」

 

 

 「エリス?エリスってーと、この世界の二大宗教神の一柱である、あのエリスですか?確か幸運の女神でもありますよね」

 

 

 

 俺が敬語を交えながら聞く。初対面の人には敬語、これ社会人の常識な!女神だけど!

 エリス様は恥ずかしそうにはにかみながら、

 

 

 

「あ、はい、そのエリスで合ってますけど…その、恥ずかしいのであまり口には出さないでいただけると…」

 

 

 

 カワイイ。

 何だこの人。めっちゃかわいい。天使か。女神だった。俺、エリス教に入信しようかな。

 その顔に見惚れたことを誤魔化すように口を動かす。

 

 

 

「あー、その、えっと、エリス様?がこんな俺に一体どのような御用向きで?俺もしかしていつの間にか死んでたんです?」

 

 

 

「あ、いいえ、そんなことはありませんよ。えっと、ゼロさん。あなたは日本という国に聞き覚えはありますか?」

 

 

 

 ーーニホン。

 聞き覚えは、ある。どんな所かも空で言える…が、どこで聞いたのかまるで思い出せない。少なくともこの世界にはそんな国は無い。

 

 

 

「あなたは、そこからの転生者なのです。」

 

 

 

 ※

 

 

 ・・・・・・?

 いきなりそんなことを言われてもどう反応したらいいのか分からないのだが。

 

 

 

「この世界が、魔王軍によって脅かされているのはご存じですね?」

 

 

「なので、ここで亡くなった方はその、この世界にもう一度産まれることを嫌がってしまって、人口が減る一方だったんですよ」

 

 

「困った神様が、では他の世界で若くして亡くなった人を記憶と肉体をそのままに、こちらへ呼び寄せようと、言い始めまして…」

 

 

「もちろん、平和な日本の方がそんな世界に来ても戦うのは難しいでしょう。そこで何か一つだけ、特典のようなものを授けて、それで魔王軍に対抗しようとしたんです。それは神器であったり、特殊能力であったり様々ですけどね」

 

 

「あなたもご多分に漏れず、同様の転生になるはずだったんですけど…その、日本担当の私の先輩が…言いにくいんですが…やらかしまして…」

 

 

「この世界に生を受けるはずだった胎児に特典と、一部の記憶だけが移った不完全な転生になってしまったんですよ。その、すみません…そんな微妙な顔で見ないで下さい…」

 

 

「というわけで今までずっとそのことを伝えるために探していたんですが中々見つからず、今日やっと見つけたのでこうして夢でお伝えした次第です」

 

 

 

 ※

 

 

 どうやら話が終わったようだ。

 

 

「あの、いくつか聞きたいんですけど」

 

 

 

「はい…いくらでもどうぞ…」

 

 

 本当に申し訳なさそうな顔で言うエリス様。

 ?何でエリス様が?別に悪くないだろうに。

 悪いのは一から十までその先輩とやらだろう。もし会ったら指を一本ずつ順番に詰めてやろう。

 

 

「そ、そんな酷いこと!良いところもあるんですよ!」

 

 

 良いところ()って言ってる時点でどうかと思うけど…例えば?

 

 

 

「え⁉︎えっと…あ!明るくて、面白い…?」

 

 

 

 何で自信なさげなんだ…まあいいや。

 

 

 

「えっと…まず向こうの俺はどんなやつで何をして死んだんで?」

 

 

「鉄砲玉です」

 

 

「……………なんて?」

 

 

「えっと…ですから…()の付く方々の…鉄砲玉…です…」

 

 

「……………」

 

 

 

 随分エキサイティングな男だったようだ。

 

 

 

「い、一応死因はですね。所属していた組の跡取りの娘さんと恋に落ちて、それを許してもらうために大きな抗争に突っ込んで…巻き込まれそうな一般の方を庇って…という感じなんですが…」

 

 

 

 訂正しよう。エキサイティングな漢だったようである。

 その、庇った一般人とやらは…?

 

 

 

「無事ですよ。ゼロさんは安全な場所まで送り届けてから力尽きたようです」

 

 

 

 …そうか。それならまあ筋は通したと言えるだろう。もちろん未練はあっただろう。だが、その瞬間、『俺』は後悔していないに違いない。他ならぬ俺だから分かる。

 

 

 

「本来ならそういうご職業の方は転生させないのですが、最期がとても立派だったので、ということだそうです」

 

 

 

 そりゃ嬉しいね。

 

 

 

「ほいじゃあ次なんですが、俺がついさっき倒したドラゴン、分かります?」

 

 

「はい、お疲れ様でした。凄かったですね。その歳で最長齢クラスのフレイムドラゴンを討伐するなんて多分初めてですよ。」

 

 

 

 フレイムドラゴン。それがあいつの種類か。その中でもかなりの長寿個体だったらしい。まあでっかかったもんなあ。

 で、俺が聞きたいのは…

 

 

 

「俺の左腕、こんがりされちゃったじゃないですか。これってどこかで治してもらえるんですかね。」

 

 

「えっ」

 

 

「えっ」

 

 

 

 何だ、どういう「えっ」なんだ。

 

 

 

「もう粗方治ってますよ?」

 

 

 

 …なんだって?

 

 

 

「フレイムドラゴンの血液は少し特別なんです。」

 

 

 

 いや、急に何の話?関係あるのだろうか。

 

 

 

「体内では普通に流れているんですが、空気に接触すると凄まじい高温を発するんです。その高温によって熱に強い自分の皮膚を焼いて傷を塞ごうとするんですね。」

 

 

 

 すげえ生態だな。セルフ根性焼きとはたまげたなぁ…

 しかし、なるほど。だからあんな短時間で炭化まで進んだのか。

 

 

 

「しかも傷が簡単に開かないように炎が消えたように見えても徐々に体内に熱が進行するような呪いみたいなものも付加されていまして、通常の手段じゃ治りません。」

 

 

「えっ、マジで?あれ、でも治ったって…」

 

 

「ええ、それを治癒する数少ない手段の一つがドラゴン、それもその火傷を負わせたドラゴンの肉を食べることなんです。他には高ステータスのアークプリーストに治してもらうとかありますけど…まさか知らずに食べたんですか?」

 

 

 

 知るわけがない。ただ腹が減ったから食っただけである。せいぜい栄養が豊富で自然治癒力が高まる、程度の知識しか無い。

 

 

 

「じゃああいつの肉食わなかったら今頃死んでたってことです?」

 

 

「はい。あの炎を浴びて何とか逃げ延びたものの、翌日に焼死体になって発見されたケースもありますからね。」

 

 

 

 こっわ。

 何それ、どんだけ他の生物殺す気満々なんだよ。

 もうお前がNo. 1でいいよ。

 しかし、それだけであんなになった腕が治るのか?正直、二度と使い物にならないレベルだったんだが。

 

 

 

「割と危なかったんですよ?ゼロさんが死に近付いたからこそ、見つけてここへ呼べたんですから。」

 

 

「…………」

 

 

 

 今更ゾッとした。よく俺アレに勝てたね。

 そもそもあいつは何でわざわざ俺のとこに来たんだろう。

 

 

 

「えーと、あの近辺ってあまり強いモンスターって生息してないんですよ。」

 

 

 

 知っている。それこそ俺が瞬殺できるレベルの奴しかいまい。

 

 

 

「だからみたいです。」

 

 

「うん?」

 

 

「周りに低い山しか無い所に高い山が一つだけあると気になる、みたいな感じじゃないですか?」

 

 

「…………」

 

 

 

 えっ。

  じゃあ何か?俺が村から離れるように逃げ切ればあんな死ぬ思いして戦う必要無かったの?

 

 

 

「まあ逃げ切ることができるならその通りですけど…忘れているかもしれませんが彼等、飛べるんですよ?流石に無理では…」

 

 

 

 なるほど。それは考えてなかった。つまりどう足掻いても絶望ってやつですね。

 

 

 

「じゃあ次は…」

 

 

「はい」

 

 

「俺の転生がイレギュラーって言ってたじゃないですか」

 

 

「はい」

 

 

「なんか俺の知識、偏ってません?何でです?」

 

 

「そ、それは直接先輩に聞いていただかないと…」

 

 

 

 ああ、そういえばそれもあったな。

 

 

 

「…何でやらかした張本人がここに居ないんです?」

 

 

 

 ピシッと、空気が固まる。

 

 そっと視線をそらすエリス様。

 おい。

 

 

 

「せ、先輩は…急用が、出来たそうなので…代わりに私が…」

 

 

「今、連絡って、つきます?」

 

 

 

 にこやかに、感情を隠すように、ゆっくりと口を開く。

 

 

 

「ヒッ…⁉︎あ、あの、少々お待ちください…」

 

 

 

 おや、なぜビビるんだろう。不思議だなぁ。

 

 

 

「あ、アクア先輩ですか⁉︎あの、先輩が前に転生に失敗させちゃった方がいるじゃないですか、覚えてますよね?あの、凄く怒ってらっしゃるので出来ればこっちに来て欲しい…えっ、アニメ?あの、急用は…あ、そうですか。あの、じゃあ早速こちらへ…………そんな!あんまりじゃないですか!いつかバチが当たっても知りませんよ!あっ、ちょっと!」

 

 

 

 何だか電波でも受信しているような実に危ない雰囲気だが似たようなものかもしれない。

 そもそも一部の知識と特典だけ胎児に移るってなんだよ。どんな失敗したらそうなるのさ。

 そして、アクアか。覚えた。

 

 

 

「えっと、その時先輩は見たいアニメの時間が迫ってる、ということで割と適当に処理したそうで…」

 

 

 

 ほう。

 

 

 

「今もアニメが忙しいから来ることはできないと…」

 

 

 

 なるほど。

 

 

 

「あの、怖いのでその顔やめてください…。それで…先輩の言う事をそのまま伝えるとですね…『完璧な私が失敗するなんてありえないの!むしろそっちに問題があったんじゃないの⁉︎帰って!早く帰って!』とのことで…」

 

 

 

 ぶっ殺。

 

 

 

「ヤロオブクラッシャァアアアア‼︎」

 

 

 

 力の限り叫んだ。

 こんなに怒ったのは産まれて初めてかもしれない。そりゃあ神なんて碌なものじゃない。ソースはギリシャ神話な。

 それでも神だ。正直に謝るようならこちらもそれなりの対応をするが、後輩に謝罪を押し付け、あまつさえの責任転嫁。これは絶許である。

 よくまあヘラクレスはあのクソ(ヘラ)の寄越す試練を唯々諾々とこなしたもんだ。流石に英雄は懐の深さも格が違うわ。絆ヘラは最強。はっきりわかんだね。

 

 

 

「お、落ち着いてください!すみません!本当にすみません!」

 

 

 

 む、なんの責任もないはずの美少女に諭されては怒鳴るに怒鳴れないな。

 

 

 

「あの、次の目的地は決まってませんよね?急ぐ旅でないのなら、紅魔の里に行ってはいかがでしょう?ドラゴンの鱗や爪を武具にしてもらえますよ。…お詫びと言っては物足りない情報かもしれませんが…これぐらいしか出来ることもなくて…」

 

 

 

 何を言うのか。謝罪すらしない駄女神とは比べ物にもならない。マジで見習えよ、アクア。

 ふむ、しかし武器は間に合ってるし、防具はスピード落ちるから着けたくないな。持ってるだけで効果のあるアクセサリーとかにしてもらえないかな。

 

 

 

「…もし紅魔の里に行くようでしたら、道中でオークの縄張りを通ると思いますけど…決して彼女達を傷付けてはいけませんよ。」

 

 

 

 オーク?確か雌しかいない変わった種族だっけか。

 ……傷付けてはいけない?

 別にお袋は特に何も言ってなかったけどな。まあそう言うのなら肝に命じておこう。

 

 

 

「ありがとうございました。ではこれで。」

 

 

 

 そろそろ朝になるだろう。ひと段落ついたし返してもらって……。

 

 

 

「あれ?もういいんですか?」

 

 

 

 …それはもっとお話ししたい、ということか?

 おやおや、女神様ともあろう方がおねだりなどはしたない。ニヤニヤ

 

 

 

「違っ、何でそんな嫌らしく言うんですか⁉︎そうじゃなくて、まだゼロさんの特典について説明してませんよ?」

 

 

 

 はあ?彼女は何を言ってるんだ。もうデュランダルがあるではないか。

 

 

「それはあなたのお父様の特典ですよ。」

 

 

 

 ああ、そういえば元々親父のだっけ。あまりに馴染むからつい自分のかと…

 …うん?じゃあ親父も転生者なの?転生者の息子に転生者の魂が宿るって中々の確率じゃないの?ある意味すげえな。

 

 

 

「じゃあ俺のはどんななんです?」

 

 

「身に覚えがありませんか?」

 

 

 

 ふむん。なんとなく避けていたが、あるっちゃ、ある。

 自分を見直すきっかけになった寝て起きたら治った裂傷。

 ドラゴンの肉を食ったとはいえほとんど治ったという左腕。

 ここから導き出される結論は…

 

 

 

「再生能力?」

 

 

 

「う〜ん、惜しい!当たらずとも遠からず、ですね。」

 

 

 

 おや、間違いないと思ったんだが…

 

 

 

「あの時にあなたに与えられたのは『鍛えれば鍛えるほど強くなる体』です。」

 

 

「正確には2種類ありまして、まず肉体のもつ回復力の強化、これは成長スピードを超回復で促進するためのものですね。副次効果として怪我が早く治ります。」

 

 

 

「・・・・・・・」

 

 

 

「もう一つは成長の上限の解放。人間の持つ絶対的な限界をなくすものです。これによって肉体自体の強度などもどこまでも上げることができます。」

 

 

 

「・・・・・・・」

 

 

 

 

 ※

 

 

 

 エリス様が丁寧に解説してくれているが、俺は途中からほとんど聞いていなかった。聞く余裕が無かった。

 俺が強くなれたのは血の滲むような努力によるものだと思っていたのだ。

 俺が強いのはこれだけ努力したからだと、誰に何を言われても、お前らが努力しないからだと、口にはしなかったが、それなりの自負を持っていたのだ。

 それがなんだ?結局は才能か?

 いや、才能よりもよほど悪い。

 だって、正真正銘人様、いや、神様から貰った特典(チート)なのだから。

 

 

 ハ、笑える。あいつらの言った通りじゃないか。

 

 

 嫌味ったらしく投げ掛けられた言葉が頭をよぎる。

 

『才能がある奴は違うよな』、『俺たちみたいな凡人の気持ちなんて分からないんだろうさ』。………確かこんな感じの事を言われたっけか。

 

 もう俺にそれを否定することは出来ない。権利が無い。

 今まで、俺を動かしていた炎が、小さくなってゆく。これが消えれば、もう二度と燃え上がることはないだろう。だがもう、燃料(・・)がない。

 

 

 

 ふと気づくと、エリス様がじっとこちらを見ている。

 話を聞いていなかったことを咎められるのかと思ったが、どうやら違うらしい。

 真剣な表情で話始める。

 

 

 

「…少し誤解があるようですね。確かにこの力は他の人にはありませんが、普通の人間がこの力を持っても意味なんてありませんよ。

 超回復は便利でしょう。傷が早く治るのだから。でも鍛えるぶんには少し成長が早いだけで個人差の範囲でしかありません。

 上限の解放はそもそもそこまで鍛えなければならないという前提があります。この世界で生きる人間であっても、そこに到達出来る人はほんの一握りでしょう。」

 

「そこまで鍛えたのは他ならぬあなた自身なのですよ。

 あなたはそれこそ皮が裂け、血が滲んでも、腕が震えて、剣を握れなくなっても。ひたすらに努力して、遂にはドラゴンを倒すほどに強くなりました。」

 

 

「それだけは純然たる事実です。この私が女神の名をかけて、否定などさせません。」

 

 

「女神のお墨付きですよ?これは誰に誇ってもいいんじゃないですか?」

 

 

 

 最後の言葉はいたずらっぽく笑いながら。

 彼女は、いとも簡単に俺の火に、薪をくべてくれた。

 少しずつ、少しずつ、炎は大きくなってゆく。

 遂には、あのドラゴンの吐く炎と同じくらいになる。

 何かが弾けて、世界が広がった気がした。

 

 

 

「エリス…エリス様?あの、なんとお呼びしたら…?」

 

 

「え?別に今まで通りで…あ、でもフランクな感じも憧れますし、タメ口でも良いですよ?」

 

 

「じゃあエリス。」

 

 

「はい?」

 

 

「結婚してくれ。」

 

 

「……………ふぇ⁉︎」

 

 

「俺が魔王を倒そう。そうして平和になったら、俺と結婚してくれ。」

 

 

「あああの、困ります!そんな、女神とけっ…こんなんて…ぜ、前例もありませんし!そもそもで、出来るかどうか…!」

 

 

 

 シュボッと真っ赤になりながらしどろもどろになるエリス。

 

 魔王を倒して、それでおわりか?

 

 

 

「え…」

 

 

 

 そちらの都合でこっちに呼び出しておいて、神様とやらはいざ目的を果たしてもらって、なんの褒美もくれないのか?

 

 

 

「い、いえ!あの、神様が魔王を倒したあかつきにはなんでも一つだけ願いを叶える、と…」

 

 

 

 それだ。それでエリスを所望する。

 

 

 

「そんな…神様がお許しになるか…………え⁉︎神様⁉︎い、今大事な話を………え、オッケー⁉︎そんなあっさり…あ、ちょっと!

 

 ………………あの、い、良いそうです…」

 

 

 

 ほう、神にも話が分かる奴がいるじゃないか。威張り散らす癖に人間には何もしてくれない案山子ばかりだと思っていたが見直したぞ。

 

 

 

「な、なんか性格変わってませんか⁉︎」

 

 

 

 人は恋に落ちると変わる。これ豆知識な。

 

 

 

「こ、恋って…」

 

 

 

 ………嫌なのか?

 俺はエリスと結婚したいがエリスの意思を蔑ろにするつもりはない。嫌ならすっぱり諦めよう。

 

 

 

「そんな…いやなんて…まだお互いよく知りませんし………。あの、好きと言ってくれるのは、その、嬉しいですけど………」

 

 

 

 それなら見ていてくれ。

 

 

 

「え?」

 

 

 

 この世界の様子は見れるのだろう?女神は全てを見通すって話だしな。

 

 

 

「ええ、まあ………」

 

 

 

 だから俺のことを見ていてくれ。俺が何をして、何を考えるのか。その上で判断してくれればいい。

 いつか魔王を倒した時にもう一度聞こう。返事はそのときくれ。

 

 

 

 相応の苦悩と葛藤があっただろう。これすら断られれば望みなどないが、エリスは真っ赤になりながらも、

 

 

 

「は…、はい……」

 

 

 

 と応えてくれた。

 

 

 

「そして時々でいいから、こうして夢で会ってほしいな、今の契約は関係なく、友達としてさ」

 

 

 

 その言葉にエリスは、花が咲くような笑顔を浮かべてもう一度、頷いてくれた。

 

 

 

 

 ※

 

 

 

 目覚める。

 もう日は上っている。左腕…まだ痛む……が、問題ない。

 体調を確認して大きく伸びをする。

 これからドラゴンから必要な物を切り出して紅魔の里へむかわなくては。

 

 

 解体する為にデュランダルを引き抜き、誰へともなく呟く。

 

 

 

「魔王しばくべし」

 



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6話



再投稿。






 

 

 ※

 

 

 

 あれから一週間。

 途中でいくつかの小さな村で宿をとったが、平和そのものである。

 魔王の脅威とはなんだったのか。エリスを疑うわけではないが、拍子抜けしたのも事実だった。

 

 

(そういや、アルマの村も別に魔王に怯えてるわけでもなかったしなぁ)

 

 

 例えるなら、戦争が起こっているのは知っているがそれが自分に関係あるのか実感が湧かない、みたいな感じか。

 聞いた限りだと王都では毎夜のように魔王軍が攻めてきているそうだ。

 

 

(紅魔の里→王都→アクセルの順で回ってみよう)

 

 

 

 大まかに旅の予定を頭の中で組む。

 最初の目的地である紅魔の里まではあと2日といったところか。

 

 

 そこまで考えて気づく。

 前方数百メートル、何かいる。ゆっくりこちらへ歩いて来るようだ。旅人かなにかだろうか。向こうから来たということは紅魔からきた可能性もある。話を聞くのも良いかもしれない。

 だが、少しずつ近づくにつれて、はっきりする姿。

 まず、輪郭がおかしい。二足歩行してはいるが、どう考えても人間のそれではない。

 そして話しかければ声が届く程の距離。俺は愕然とする。

 

 

「あら、旅の冒険者?よければ私の家で休んでいかない?ご馳走も用意してあるわよ?」

 

 

 …醜い。

 どの動物にカテゴライズされるか分からないレベルで色々とごちゃ混ぜにした様な生き物がそこにいた。

 だが、やはり辛うじて分類できるならば、それは正しく(オーク)だった。

 

 ※

 

 だが、こんな形でも話が通じるのは良いことだ。

 言葉こそ人間を人間たらしめる文明。

 顔が引き攣るのを自覚しながら文明を紡ぐ。

 

 

「ち、ちなみにそのご馳走とやらはどんな物を?」

 

 

 俺が想像するものならマジで逃げる5秒前である。略してMN5。

 

 

「それはもちろんあ た 」

 

 

 パァン‼︎

 

 

 そこまで聞けば充分です。

 音の壁を破裂させながら脱兎の如く駆ける。

 どうやら行動に移すのが早かったおかげで何が起こったのか分からないらしい。ポカーンと間抜け面を晒す豚を尻目にひた走る。歩いて2日。このスピードなら日が暮れる前に到着できる。

 なにやら背後で凄まじい鳴き声が聞こえるが気にしない。

 

 

 ※

 

 そこから僅か1分後。

 

 

 ゴゴゴゴゴ……

 

 

 地鳴りが聞こえる。地面もかすかに揺れている気がする。

 

(…?地震?)

 

 

 速度を落とさないままに思考するが直後、地平線の彼方を見て動きを止める。

 砂煙が、こちらへ来る。周りを見渡すと、360度全方位から少しずつ大きくなってくる。

 

 

 それを起こす者の正体を見て絶望する。

 

 

 豚豚豚豚豚豚豚豚豚豚豚豚豚豚豚豚豚豚

 

 

 もはや見渡す限り豚塗れである。

 数を数えたくもないが、どんぶり勘定でも千体は下らないだろう。

 一体として同じ形のものはいない。共通するのはあらゆる動物をチャンポンにした様な見た目をしているということだけだ。

 

 

 再び紅魔の里の方向へ走る。おそらく包囲網の薄いところなど存在しないだろう。

 ならば目的地へ!

 走る方向にはやはり豚。だが、一箇所につきせいぜい十体程度の厚みしかない。これならばエリスの言葉も守りながらすり抜けることも出来よう。

 

 

 いよいよ間近に迫る悍ましい生物を前に集中する。思い出すのは王者の踏み付け。あの時のゆっくり時間が過ぎる様な感覚!

 …先に言っておくけどパクリじゃないから!オマージュだから!

 

 

 イメージするのは球体。一歩踏み出して剣が届く範囲の『円』。

 最初の豚が俺の領域に踏み入る。通常ならば剣で真っ二つだが、エリスの言葉もあるし、正直デュランダルで触りたくない。

 手を伸ばすのが分かる。髪の毛一本触れないように躱す。そこで一歩踏み出せばもうそいつは考えなくても良い。こいつらも相当の速度だ。一度逃した標的を追うのは難しいだろう。

 次は三体同時か。今の俺には止まって見えるね。

 スピードの下落は目を覆う程。しかし、それを補って余りある精彩さをもって襲いくる豚を躱し続ける。

 

 

 抜けた‼︎

 

 

 それと同時に入れていた『スイッチ』を切り替え、全速力で逃げる。

 フハハハハ!追い付けるものなら追い付いてみやがれぃ!なんの為にマッハで走れるようになったと思ってる!いや、絶対このためじゃないけど!

 

 

 油断。慢心。それが許されるのは王のみである。

 つい先日痛い目を見たというのに俺はまたやらかす。

 

 ほんの十メートル(・・・・・)先で巨大な壁が地中から立ち上がる。歩いていたなら躱せただろうが、悲しいかな、今の俺は音速である。

 

 

(っ、無理!)

 

 

 判断するや否や壁をぶった斬って通り抜ける。そうしてようやくそれ(・・)の正体を見る。

 それは縦に五メートル、横に十メートル、そこから更に何十本もの触手を伸ばした形容しがたい何かであった。

 まさかこれもオークだとでもいうのか。これは流石に無理があるだろ。クトゥルフに出てくる邪神と言われた方がまだ納得がいく。見てるだけでSAN値がピンチである。

 

 

 そして、気づく。奴を斬ってしまったことに。

 

 

 その途端にかなり引き離した筈の豚共が加速。こちらへ爆走してくる。

 

 

 もはや恥などと言っていられない。もしかしたらエリスに見られてるかもとかも言ってられない。

 

 

 顔から色んな体液を撒き散らしながら走る。

 イメージとしてはサンプラザ中○くんのRunnerを想像すれば近いだろうか。ただし流れるのは汗と涙と鼻水、涎等色々だが。ついでに小の方を垂れ流すまである。

 

 

 

 

 

 

 

「あなた、速いのね?一族で一番速い私でも追い付くのがやっとだなんて」

 

 

 

「ッ⁉︎」

 

 

 急停止しながら直角に跳ぶ。冗談ではない。マッハに追い付くとはどういう了見だ。俺が死ぬ程の鍛錬で得たものに性欲で得たものが勝っていいはずがない。

 

 どうやら直線でしか俺に対抗できないようだ。

 間近に来ていた豚も急停止しようとして失敗。バランスを崩してこけていた。

 ただこけただけと侮るなかれ、それが音速を超えると地面との接触で出来上がるのは紅葉おろしに似た何かである。味付けは塩と胡椒でどうぞ。

 

 

 だが俺もただでは済まない。少しスピードを落としただけなのに俺は豚に囲まれていた。一斉に襲いくる豚。

 これは逃げ場が上しかない。力一杯のジャンプ。目下では勢い余った豚共がぶつかり合い、轟音を響かせていた。どんな勢いだよ。殺す気か。

 

 

 そのままのんびりしていたら待つのは地獄である。既に手を出してしまったのだ今更変わるまい、と抜剣。デュランダルを汚したくはなかったが、これも必要な犠牲。いわゆるコラテラル・ダメージというやつだ。心の中で愛剣に謝る。

 

 

 地上は見渡す限りの豚野原。まさにこの世の終わりの風景だ。

 どいつもこいつも目をギラギラさせて手を広げている。俺が剣を抜くのを見てこいつら何を言ったと思う?

 

 

「あら〜剣なんか抜いちゃって。これは下の方もヌいてあげた方がいいのかしら?」

 

 

「剣を抜く…これは男根のメタファー…⁉︎」

 

 

「そ、その剣をどこに刺すの?大歓迎よ?」

 

 

「何が国だよ!クンニしろオラァ!」

 

 

「ヤらせろ(直球)」

 

 

 

 

 吐き気がするわ。

 唐突にエリスに会いたくなった。

 

 

 着地と同時に地面を血の海に変えながら斬る。斬る。斬る。斬りまくる。

 ゾロッ、と音がしてなにかの舌が頰を舐める。

 もはや辛抱堪らん、一刻も早く、誰でもいい、人間(・・)の顔が見たい。

 

 

 周囲は豚、豚、豚、豚、豚どこまで斬っても豚。

 これだけ囲まれると自分も豚なのではないかという気さえしてくる。もちろん錯覚ですらない。

 

 自分が何を叫んでいるのかもわからない。型もなにもない斬撃を繰り出し続ける。あれからどれだけ経った?豚の数は一向に減らない。その癖、地面は死体だらけで動きにくいにも程がある。

 

 

 その俺の貞操を守護るためだけの闘いは体感で三日三晩続いた。

 その間俺の悲鳴はおさまらなかったように思う。

 

 

 

 

 ※

 

 

 

 

 …呼吸が荒い。手足の動きがおかしい…

 心臓は弱まる一方で、どんなショックを受けても止まりそうだ。

 

 ここはどこだ…少し先に灯りがみえる…久しぶりの人の営み…

 豚はどこだ、早く斬らなければ、大事なものが奪われる。

 しかし、周りを見ても見馴れた姿はない。

 

 

(……もう…斬らなくても…いいのか…?)

 

 

 

 自覚した瞬間に力が抜けてヘタリ込む。純粋な運動だけならここまで消耗しなかったろう。常に狙われる精神的苦痛は思いの外俺の心をすり減らしていたらしい。

 

 ここが紅魔の里なのだろうか、それとも、元いた村に戻ってしまったのか、どちらでもいい。ようやくアレ以外のものがみられる…

 身体を引き摺りながら灯りを目指す。全身にこびりついた返り血が乾いて動きにくい、自らの汗とその他の体液、そして豚共の汚らわしい唾液が混ざり合い、なんとも言えない匂いとなっている。

 だが、あそこまで行ければ全て終わる、あそこに辿り着ければ…

 

 

「『カースド・ライトニング』!」

 

 

 突如として響く人の声。そちらを振り向く前に、黒い雷光が俺の胸を貫いた。

 

 糸が切れたように崩れ落ちる俺。もう自由がきかない。手も足もピクリとも動かない。意識が遠のいていく。完全に落ちる前に、先程と同じ声が聴こえた。

 

 

「あれ⁉︎やべえ!人か⁉︎すまん!誰か、来てくれ、血塗れの人間が死にかけてるぞ!」

 

 

 

 トドメ刺したのはてめえだクソ野郎。



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7話



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 ※

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

「・・・・あの」

 

 

 

「何も言わないでくれえっ!」

 

 

 

 顔を両手で覆って滂沱する俺。

 目の前には気まずそうなエリスがいる。

 ここに来るのは2度目、いや、3度目になるのか。

 なんと、前回から1週間と少ししか経っていない。恐るべきハイペースである。

 

 

 

「わ、私は気にしていませんから。その、少し驚いてしまっただけで…」

 

 

 

「グ、ウ…ウ…」

 

 

 エリスの顔もほんのり赤いが、俺の顔などもはや羞恥によって噴火しそうな程に熱されている。

 

 あろうことか俺はここに来た瞬間に涙を滝のように流しながらエリスに抱き付いてしまったのだ。

 

 だってしょうがないだろう⁉︎3日もの間平原中をあの醜悪なクソ化け物達とサーチアンドデストロイならぬデストロイアンドデストロイを繰り広げていたんだぞ⁉︎

 そしてボロボロになった体でようやく辿り着いた人里でいとも容易く行われるえげつない行為…そして満を辞しての女神降臨である。これはもう誰だってそうなるさ!

 いやもうほんと癒やされるわ〜、初恋とか度外視で心に負った傷が癒えるわ〜、今日寝れるわ〜。

 

 

 

「大体なんなんだよこの世界⁉︎なんで俺はなにかに遭遇する度に死にかけてんの⁉︎冒険者の先輩方はどうやって生き延びてんのさ!」

 

 

 遂に世界に対してキレ始める俺。どうしようもない。そこら辺の酔っ払いと同義である。

 しかし、俺の正当性も主張させて欲しい。

 好きな女の子に「俺を見ててくれ(キリッ)」とかいった1週間後にあの無様を晒してみるがいい。多感なお年頃ならそれだけで自殺ものだろう。

 

 

 

「いえ、他の方はここまで人生ハードモードではありませんよ?ただ、ゼロさんの運と巡り合わせが悪かったとしか…」

 

 

 

 ゼロだけに俺の運もゼロってか?

 

 

 

「…?…!ふふっ!」

 

 

 

「笑い事じゃねえ‼︎」

 

 

 

 可愛いけど!

 

 

 

「あっ…ふふっ…す、すみません…ちょっと不意を突かれまして…」

 

 

 

 くそっ、かわいいなこいつ…

 このレベルで笑うってことは親父ギャグに耐性が無いのだろうか。

 

 

 気勢を削がれた俺は今回も聞きたいことを聞くことにした。

 

 

 

「あのクソ豚共はどうなった?」

 

 

 

「ゼロさんが全体の4分の3ほど屠殺した時点で紅魔族の領域に入ったので撤退して行きましたよ。」

 

 

 

 そうか…そのまま絶滅してくれたら助かるのだが。

 

 

 

「ちなみに…俺のこと、見てた?」

 

 

 

「……みてませんよ?」

 

 

 

 見ていたらしい。誰か殺してくれないかな…いや、殺されかけたからここにいるのか。

 

 

 

「…それで?今回の俺の死因は?なんかトドメ刺されたのは覚えてるけど。」

 

 

 

「死因って…。まだ辛うじて生きてますよ…。えっと、紅魔の里ってアークウィザードがいっぱいいるんですよ。」

 

 

 

 というかアークウィザードしかいないって聞いたけど。

 

 

 

「ええ、それで、上級魔法を覚えたけど里の外には出たくないって人達が魔王軍遊撃隊っていうのを結成してるんですね?」

 

 

 

 ふむふむ。

 つまり働きたくないけど何もしてないとは思われたくない意識高い系のニートどもか。

 タチ悪いな…

 

 

 

「い、言い方は悪いですが概ねその認識で良いです。で、その遊撃隊の1人がゼロさんの姿を見て…モンスターか何かだと勘違いしてしまったようで…」

 

 

 なるほどね。まあ結構エグい格好だったからな。カラ回りだとしてもその気持ちが自分の里を守ろうとするものなら、うん、許してやらんでもない。

 

 

 

「で?あの黒い雷は?あいつが撃ったんだろ?」

 

 

 

「あれは上級魔法の一つ、『カースド・ライトニング』です。こう、右手をズバーッて振って撃つんですよ。」

 

 

 

 ワンモア。

 

 

 

「えっ」

 

 

 

 ワンモアプリーズ。

 

 

 

「あ、あの、こう…ズバーッて…」

 

 

 

 ワンモアプリーズ。

 

 

 

「ず、ずばー…」

 

 

 

 ワンモアプリーズ。

 

 

 

「〜〜〜〜〜〜っ!」

 

 

 

 顔を真っ赤にしてポカポカ殴ってくる。

 やべえ、顔にやける…

 

 うん、よし。

 

 

 

「じゃあ俺は行くよ。」

 

 

 

「あっ、ちょっと!もう!急になんですか!」

 

 

 

 いや、もう十分癒やされたし…

 

 

「エリスに会って元気も出たしな。」

 

 

 

「…そうですか。」

 

 

 不服そうにしながらも照れるエリスを目に焼き付ける。

 これでしばらくは大丈夫だ。まあもう一回オーク掃討とかは御免被るがね。

 

 

 

 ※

 

 

「あ、起きたかい⁉︎」

 

 

 

 目を開けた瞬間に野郎の顔が見える。

 エリスとえらい落差だな。豚よりはマシだが。

 体を起こす。うん、五体満足。疲れも無いな。

 

 

 

「ここは紅魔の里で間違いないですか?」

 

 

 

「ああ。昨晩はうちの倅が悪かったね。なにしろ血塗れだったからな、変な生物が紛れ込んだと勘違いしたみたいなんだよ。」

 

 

 

 まあその件はもう整理したし、蒸し返すのも良くない。

 と、何を思ったのかおっさんは、右手を左腰に当て、左手で顔を隠しーー

 

 

「我が名はむんむん!アークウィザードにして、紅魔の里一番の鍛冶屋を営む者!」

 

 

 そう宣ってきた。

 

 

 …………あ?

 何だ?喧嘩売ってんのか?

 それともやっぱり申し訳無いから好きなだけ気を晴らしてくれという配慮なのだろうか。

 ようし、ご厚意に甘えようじゃないか。

 息子の責任をとろうだなんて立派な父親だ。

 

 

 峰打ちだからヘーキヘーキ、と両刃剣であるデュランダルを引き抜く。

 

 

「うぁ⁉︎ちょっと、たんまたんま!紅魔族の挨拶だよ!まったく…外の人はノリが悪いなあ。」

 

 

 そんな挨拶があるわけないだろ!いい加減にしろ!

 

 

 

「本当だって!嘘だと思うならこの里を周ってみるといい!」

 

 

 

 …そういわれては何も言えない。

 アイサツはダイジ。コジキにもそう書いてある。

 俺は絶対嫌だけど。

 

 

 

「それはそうと鍛冶屋なんですよね?これ使って動きを阻害しないアイテムとか作れます?」

 

 

 

 そう言いながら先日剥ぎ取った素材を広げる。

 これを守りきった俺を誰か褒めてくれよ…

 

 

 

「へえ!随分上等なドラゴンの爪だね!うーん、それならマントとかはどうだろう、軽いし、暖かいし、火にも強いよ!」

 

 

 

 ほう、それは良い。

 しかし爪や牙をどうやってマントに加工するのだろうか。

 やはり秘伝の技とかがあるのだろうか。さすが紅魔族随一の鍛冶屋だ。言うだけの事はある。

 

 

 

「まあ里にはウチしか鍛冶屋無いんだけどね。」

 

 

 

 ぶち殺すぞこの野郎。俺の感心を返せ。

 

 

 

「でも、加工するのに特殊な魔道具を使うから結構な値段するよ?大丈夫かい?」

 

 

 

 

 む、金か。

 どいつもこいつも金金金…金がそんなに大事ならお金と結婚すればいいでしょ‼︎

 …正直当てがまったく無いな…

 どうにかしてサービスしてくれまいか…

 

 

 

「魔王軍だ!魔王軍が来たぞ!」

 

 

 

 

 代金の事を考えていると、外から警鐘とともに声がきこえてきた。

 …魔王軍?

 魔王軍ってよく来るんですか?

 

 

 

「ああ、最近はめっきり増えたねぇ。シルビアとかいう幹部が率いているんだが、追い詰めようとするとすぐ逃げちまうし、それなのに懲りずに何度も攻めてくるんだ。強くは無いから良いんだけど安眠妨害もいいとこだよねぇ」

 

 

 そういえばアークウィザードしかいないんだったな。なぜこんな攻めにくいところを攻めるのか。ひょっとして魔王はバカなんじゃなかろうか。

 

 では、そいつを仕留めたら代金をサービスしてもらえますか?

 

 

 

「そんな事しなくても懸賞金が懸かってるからこれぐらいならお釣りが来るよ」

 

 

 

 これは善いことを聞いた。里の皆に今日は誰も迎撃しなくていいと伝えてもらえますかね。

 

 

 

「それは良いけど、なに、まさか兄さん1人でやる気かい?雑魚ばかりだけど数は無駄にいるから大変だよ?」

 

 

 

「ご心配無く。数が多い?ハハハ、別に捕まっても殺されるだけでしょう。死んだ方がマシな思いはせずに済みます。」

 

 

 

 偶然にもここ最近で多対一の状況は見飽きている。乾いた笑いをあげながら里の入り口へ向かう俺だった。



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8話



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 ※

 

 

 シルビアは焦っていた。毎日、毎週のように攻めては追い返される。その度に今日こそは!と奮起するも数時間後には完全に鎮火している。

 熱しやすく、冷めやすいとはなんと厄介な性格か。

 

 

 

「シルビア様!里に向かう道に誰か立っています!」

 

 

 

 また紅魔族か⁉︎

 と思ったがどうやら違う。

 紅魔族は髪は黒。そして眼は赤色なのに対し、()の配色は逆だった。

 

 燃えるような赤い髪。その中にあって静かにこちらを見据える黒い眼。目つき自体は悪いが、その中心には優しげな光。

 

 

(あら、中々…)

 

 

 シルビアの好みだった。

 その彼が口を開く。

 

 

 

「どうも、今晩は。ゼロと申します。えぇ、この中にシルビアって人がいると思うんですけど、出て来てもらえますかね〜?」

 

 

 

 どうも自分をご指名らしい。初めての経験に不覚にも少し緊張しながら名乗り出る。礼儀正しいところもプラスだ。

 

 

 

「あたしがシルビアよ。そのゼロさんがどんな用事?」

 

 

 

「ああ、あなたが魔王軍幹部のシルビアさんでしたか。お美しい女性………男性の方ですね。はじめまして。」

 

 

 

 なんと、初対面で正体を見破られるとは思わなかった。あの人の悪感情を食べる悪魔以来ではないだろうか。

 しかもそれを知って態度が少しも変わらない。もしかしたら、この少年なら自分を受け入れてくれるのかも…

 淡い期待を抱きながら続く言葉を待つ。

 

 

 

「あ、それではシルビアさん以外の方はお帰り頂いて結構です。お疲れ様でした。」

 

 

 

 と、その言葉にシルビアの部下が剣呑な雰囲気を醸し出す。

 

 

「ニイちゃんよぉ、こっちは一応仕事で来てるもんでね、帰れと言われてハイそうですかとはいかねぇんだなぁこれが」

 

 

 部下の中で一番立場が上の悪魔がゼロに詰め寄る。

 

 

 

「いえ、帰れとは言ってませんよ。そうしても良いですよ、というだけで別に居て頂いて結構です。」

 

 

 

 何を言いたいのかわからない。そういえば、普段ならもうとっくに紅魔の連中が魔法を雨霰と撃ってきている頃だ。だが、ここにはゼロしかいない。

 

 

(なぜ…連中は1人も出てこない?)

 

 

 

 まさか逃げたわけではないだろう。現に灯りはついている。

 そして、家の陰からこちらを見ている無数の目に気付く。

 なにかヤバい。なぜ迎撃してこない?

 その疑問に答える声は無く。代わりにあっさりと聞こえてきたのは。

 

 

 

「それでは誰も帰らないようなのでみなさんを敵対者と見做します。…………首を出せ。」

 

 

 

 死刑宣告だった。

 

 

 

 ズパァン‼︎と何かが破裂したような音がした。

 

 

 

 何が⁉︎と身構えるシルビアの目の前に、ドチャリ、と落ちてきたものは。

 ゼロに近づいていた、一番信頼できるはずの。

 

 

 部下の、頭だった。

 

 

 

 ※

 

 

 せっかく人が忠告してやったのに聞かないんだもん。しょうがねぇなぁ。

 

 身近にいた奴の首を切りとばす。

 それを皮切りに次々と魔王軍が飛び掛かってくる。

 全部で200は居ないな。冷静に戦力を分析しながら頭の中で『スイッチ』を切り替える。

 まるで流れる水のように腕を掻い潜り、剣を避け、身を躱す。

 

 手が出せない。

 

 

(なんだこりゃ。これが魔王軍?)

 

 

 余りに隙だらけで。

 

 

 

 連携もクソも無い。ただそれぞれが動くだけ。これならオークのほうが数十倍手強かった。

 奴らは俺の貞操を狙ってそれはもうえげつないコンボを決めてきたものである。しかも個の強さでも劣るのでは無いだろうか。ぬるい。ぬるすぎる。

 こんなものか?人類の敵対者、魔王軍というのは。しかも幹部が率いてこれ?おいおい、あまり失望させるなよ。

 

 デュランダルを一息で抜き、なぞるように周りの雑魚を斬った。

 それだけで他の奴らはたじろいで動きを止める。

 

 ここら辺も豚共との差だな。奴らは決して止まらない。他人が傷つこうが関係無い。自分が傷ついても関係無い。ただ一つの目的(レイプ)に向かって命を投げ捨てていた。

 

 …うっ…吐き気が…嫌なことを思い出させやがって。

 動きを止めずに剣を振るう。いつの間にか半数がてるてる坊主に成っていた。

 

 

「なんだ…なんなんだてめえ‼︎」

 

 

 シルビアが野太い声で叫びながら腕を蛸のように変化させ、こちらへ伸ばしてくる。

 おっと、それが本性かい。心が女に寄ってるなら良心の呵責も感じたかもしれんが…そっちなら話が早い。

 

 横へ一歩ズレてその腕を斬る。

 

 

「グア⁉︎」

 

 

 痛覚はあるのか。そいつは御愁傷様。

 そのまま怯むシルビアを叩き斬ろうと歩み寄る。

 その道中に雑魚共が殺到する。

 

 

「シルビア様!逃げてください!」

 

 

「この化け物は俺たちが!早く!」

 

 

 その言葉にシルビアは一瞬迷ったようだが、脚を変形させてかなりのスピードで逃亡する。

 なんだあれ、どうなってんだ。さっきは蛸で、今度は…走り鷹鳶(・・・・)…か…?

 

 それにしても化け物とは随分な言い草である。

 外見だけならお前らの方がよっぽどだ。

 

 

「そんなに命を奪って…なんとも思わないのかてめえ‼︎」

 

 

 いや、お前らが言うの?

 それ他ならぬお前らが言っちゃダメでしょ。

 

 

「別に。何も。」

 

 

 俺だって同族を殺そうとは思わないさ。

 だが、俺がこっち(・・・)側に産まれたからには滅ぼそうとする奴に容赦するわけにもいくまいよ。

 

 

「化け物が…。だが残念だったな。ここで足止めさせてもらうぜ。シルビア様は追わせない!」

 

 

 

 中々熱い台詞ごちそうさま。でもやっぱりバカだなお前ら。

 

 

「たった一枚の紙の壁で剣を防げるわけ無いだろう。」

 

 

 

 

 

 ※

 

 

 

 シルビアは平原をひたすら逃げる。

 自分を逃がしてくれた奴らに報いるために。

 新しく現れた脅威を魔王様に知らせるために。

 

 シルビアはキメラだ。なんでも取り込み、その力をそのまま自分の物にできる。今発動しているのは取り込んだものの中で一番早い走り鷹鳶の脚だ。人間では追いつけない速度を以って全力で逃げていた。

 

 

(明日の朝には魔王城に着く。そうしたら部隊を再編成して…っ⁉︎)

 

 

 

 唐突に、転ぶ。

 勢いのままにしばらく転がり、止まった。全身が痛むが問題無い。

 

 

(何も無いところで転ぶなんてあたしもヤキが回ったもんだね…)

 

 

 脚が縺れたのか。苦笑しながら確認しようとして、気付く。

 

 

 脚が、無い。

 

 

 遅れてやってきた凄まじい痛みに絶叫する。

 なぜ、どうして、そんな疑問も押し流される。

 

 

 そしてーーー

 

 

「ああ、やっと追いついた。」

 

 

 赤い死神が、来た。

 

 

 

 ※

 

 

 中々速かったな。

 割と時間かかっちまった。

 

 目の前で足の付け根を押さえて苦しげにするシルビアが、

 

 

「あ、あいつらは…?」

 

 

 

 そんな分かりきったことを聞く。

 俺がここにいるんだから、それが答えだろ。

 

 シルビアの脚がまた変形を始める。この後に及んでまだ逃げるのか。今度はまた違う種類だ。

 

 

(同じ物には連続して変形できないのか?それともストックがあってそれが尽きたのか?)

 

 

 

 思考する間に脚が形成を終える。

 それが大地を蹴ろうと力を入れたところでまた斬撃を飛ばす。

 

 

 再び響く絶叫。

 

 

 うるさいうるさい。もうちょい静かにできないのかね。

 無様に叫びながらオークから逃げ回っていた男が自分を棚上げして言う。俺である。

 

 やっと覚悟が決まったのか、こちらを睨み付けるシルビア。その上半身が爆発的に膨れ上がったかと思えば、凄まじい勢いでこちらに飛んでくるありとあらゆる生物の腕、脚、爪、牙。

 おおよそ、生物が攻撃に使う全てが俺に向けられる。

 

 

 

(うえ…)

 

 

 

 俺は悪夢の3日間を思い出して心底萎えていた。

 大きくバックステップして、距離をとる。

 

 そして目の前で立ち上がる巨大な冒涜的な何か。

 再びSANチェックの時間の到来である。

 俺が出逢ったフレイムドラゴンよりも大きいかもしれない。

 

 

 

 触手のように伸びたモノが連続して俺を貫こうとする。その数はおよそ数百は下らない。

 その数を一体で統率するのだから先ほどの有象無象とは比べるべくも無い。ギリギリで避ける。躱しきれずに幾筋か頰や腕に赤い線が引かれる。

 

 ああ、これなら退屈せずに済みそうだ。

 

 自分の口が獰猛に歪んだことを自覚しながら、伸びた触手を片っ端から切り落とす。

 

オークの群れにも匹敵する凄まじい密度の猛攻をいなし、防ぎ、時に甘んじて受ける。

 

 

 

 その死闘が終わったのはそれから数時間後だった。

 

 

 ※

 

 

「いやあ、あんた凄いな!」

 

 

「そいつはどうも」

 

 

 シルビアの討伐を終えて紅魔の里に帰って来た俺は早速むんむんにマントを作ってもらっていた。

 とはいえ、物が物なので1週間はかかるらしい。その間俺はむんむんの家に泊めてもらう事になった。

 

 

 

「まさか本当に剣一本で奴らを皆殺しにしちまうなんてなぁ!あ、よければ冒険者カードとか見せてもらってもいいかい?」

 

 

「…………」

 

 

 さっきからずっとこの調子だ。

 悪い人ではないのだが、しゃべりっぱなしというのはどうにもウマが合わない。

 日中は外に出ていた方がいいか…

 

 

「すみません、少し散歩してきます。」

 

 

 

「おう!行ってらっしゃい!」

 

 

 

 行ってらっしゃい、か…

 少しだけアルマの村に残してきたお袋を思い出す。

 元気にやっているだろうか。

 屋外に設置されていたベンチに座って日光浴をしていると、

 

 

 

「あなたがむんむんの家に居候している余所者ですか。」

 

 

 

 うん?

 意識を向けると、12歳くらいの少女と、5歳くらいの幼女がそこにいた。

 

 

 

「我が名はめぐみん!紅魔族随一の天才にして、爆裂魔法を愛する者!」

 

 

 

「我が名はこめっこ!家の留守を預かる者にして、紅魔族随一の魔性の妹!」

 

 

 

 ……マジでそれ外の人皆に言ってんの?キッツくね?

 

 

 

 



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9話



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 ※

 

 

「というわけで何か食べる物を下さい。」

 

「いきなり出てきて何がというわけだ。なんも聞いてねえぞ。」

 

「はらへった!」

 

 

 初対面で図々しいにも程があるだろこいつら…

 

 

「うちは貧乏なんですよ。なので両親が働きに出ていまして、食べる物に困ってるんです。」

 

 

 ほう。

 それは同情の余地はあるかもしれない。

 しかし、こんな小さい子供を置いてその両親は食費とかの対策をしていないのだろうか。

 

 

「話を聞いてなかったのですか?…うちは貧乏なんですよ。」

 

「……………」

 

 

 いや、もちろん聞いていたよ。だが、貧乏にも程度がある。

 いきなり見も知らぬ他人に食い物を要求せざるを得ない程なのか?

 

 

「最近は土の中にいるミミズが見つかるかどうかが死活問題と言えば分かってもらえますか?」

 

「ちょっと待ってろ。」

 

 

 即断した。

 これは俺の負けだわ。もし仮に嘘だったとしてもその発想がすっと出てくるのはかなりまずい。

 そういえば紅魔族は知力が高いんだったか。それも計算の内かもしれんが。

 しかし困ったな。今は居候の身だ。勝手に食糧を工面するわけにもいかん。

 

(そういえばこの辺りは一撃熊の生息域だったか。)

 

 まだ遭遇したことはないが、ドラゴンより強いということはあるまい。

 …よし。

 

 

「ここら辺に森があるだろ?すまんが案内してくれ。」

 

「は?いや、それは構いませんが、まさか今から何か捕まえるんですか?もっとこう、今すぐお腹が膨れる物とか持ってないんですか?冒険者なのでしょう?」

 

 

 こいつグイグイ来るな。

 ご生憎だが、まだ冒険者ではない。アクセルに行く前に立ち寄ったのだから。

 

 

「え。昨夜は魔王軍を撃退したと聞きましたが…まさか職業補正無しで…?」

 

 

 何を今更。

 そもそも職業補正とは自転車の補助輪の様なものだろう。ある程度戦えるなら必要無いものだと思っていたのだが。

 

 

「間違ってます!その認識はすごく間違ってます!」

 

「姉ちゃんはらへった!」

 

 

 何かごちゃごちゃ言うめぐみんとどこまでもマイペースなこめっこ。

 

 どうでもいいけど行くの?行かないの?

 

 

「はぁ、しょうがないですね。では行きましょうか、こめっこ。」

 

「うん!」

 

「ちょっと待って。まさかそいつも連れて行くのか?」

 

 

 いくらなんでも危険だろう。それとも自衛の手段があるのだろうか。

 

 

「そう言われても…森ならこめっこの方が詳しいですし。」

 

「森はわたしのにわ!」

 

 

 聞けばめぐみんが学校に行っている間は森に通って食糧を探しているのだとか。

 逞しいなおい。

 

 

「ああ、それと私もこめっこも戦闘とかできないのでよろしくお願いします。」

 

「なんで熊がいる森に戦闘手段無しで入ろうと思えるのか不思議でしょうがねえよ!」

 

 

 

 ※

 

 

「ゼロはこの後、王都に行くのですか。」

 

 

 簡単な身の上話をしながら森の中へ踏み入って行く。

 ちなみに先頭はこめっこだ。木の枝を振り回して茂みに搔き行っていく。

 熊がいつ出るかわからんのにいい胆力をしている。将来大物になるだろう。

 

 

「まあ今となってはその過程すっ飛ばしてアクセルに行っても良いけどな。」

 

 

 元々、王都へは魔王軍の様子を見るために行くつもりだったのだ。紅魔に来て魔王軍の実態を知った以上、特に行く必要は無い。

 

(正直幹部クラス以下は恐るるに足らんな。)

 

 シルビアは最後は凄まじい猛攻で驚かせてくれたが、雑魚の練度があまりにお粗末過ぎる。

 

 だが途中で予定を変えるのも性に合わんし、王都の観光と思えば行く価値ぐらいはある。

 

 

「私も学校を卒業したらアクセルに行こうと思っているのでもしかすれば向こうで会うかもしれませんね。」

 

 

 ほう、冒険者になるのか。向こうに行ったら前衛俺、後衛めぐみんでパーティーを組むのも良いかもしれない。

 

 

「ふふん、私はいつか魔王を討伐するのです。ゼロなど釣り合いませんよ。」

 

 

 自慢気に言うめぐみん。中々のビッグマウスである。

 それはそれとして…

 

 

「いや、それは許さん。魔王を倒すのは俺だ。」

 

 

 エリスとの約束がある。

 もし他の奴に魔王を倒されたとしたら俺が第二の魔王になるまである。

 もしくは赤の他人を魔王に仕立て上げて一方的に虐殺するとか。

 

 

「女との約束にそこまでするのですか⁉︎」

 

 

 当然である。エリスと結婚するためなら割となんでもやると思う。神だって殺すかもしれない。

 

 

「す、すごい覚悟ですね…。というかそこまでしないと結婚できないというその女は一体何者ですか…。」

 

 

 何者かと聞かれたら女神だ。それ以上ではあっても以下ではない。

 

 と、前方のこめっこが大声をあげる。

 

 

「姉ちゃん!兄ちゃん!ごはんでたよ!」

 

 

 どうやら何か出たらしい。そちらを向いた俺の目に飛び込んで来たのはーー

 

 一撃熊(ごはん)にごはんにされそうなこめっこの姿だった。

 

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

 

 …何やってんの⁉︎

 

 

「こ、こめっこぉーーーー⁉︎」

 

 

「うおおおお⁉︎」

 

 

 

 居合の構えから斬撃を飛ばす。

 ズパァンという聞き慣れた音とともに熊の首と胴体が泣き別れする。

 

 

 崩れ落ちる一撃熊の向こうには一撃熊の群れ。

 完全にこめっこを狙っている。

 

 

 ウッソだろおまえ。

 

 

 

「ヒャッハァァァ⁉︎最っ高にハイ!ってやつだぜえええぇぇ⁉︎」

 

 

 叫びながら群れに猛進する。

 焦って変なテンションになっている俺を誰が責められよう。

 

 途中でこめっこをひっ掴み、後ろ手にめぐみんへ放り投げた。めぐみんが抱きとめたのを確認して、背後から迫る殴打を屈んでやり過ごす。

 

 そのまま斬撃の暴風雨で群れを細切れにしていく。今日のメシは熊のハンバーグじゃあ!

 

 …誰かを守るのは、とても大変だと思いました。まる。

 

 

 ※

 

 

「こめっこ!無事ですか⁉︎無事ですね⁉︎」

 

「姉ちゃん、くるしい。」

 

「言ったじゃん!だから言ったじゃんさあ!」

 

 

 バカじゃないの?…マジでさ。バカじゃないの⁉︎

 

 知力高い癖に何故こんなこともわからないのか。

 

 

「その、ありがとうございました。本当に強かったんですね…。」

 

 

 逆に俺が対応できなかったらどうするつもりだったのか。怖くて聞けない。

 

 

「お前も早く上級魔法覚えろよ。妹くらいは守れるようにな。」

 

「私は上級魔法は覚えませんよ?」

 

 

 うん?

 ああ、段階を踏むってことか。いきなり上級魔法を扱うのは怖いもんな。

 

 

「いえ。私が覚えるのは爆裂魔法だけです。」

 

 

 …その爆裂魔法がどんなかは知らないが、そんなに汎用性がある魔法なのだろうか。

 

 

「すべての魔法の頂点に位置する凄まじい威力‼︎遠距離から広範囲を吹き飛ばす殲滅力‼︎どれをとっても爆裂魔法より凄い魔法などありませんよ!」

 

 

 ほう、それは凄い。それを連発すれば魔王軍など物の数にもならないだろう。何故誰も実行しないのか。

 

 

「あ、連発は出来ませんよ。基本的に一発撃ったら魔力切れで倒れてしまいますのでその後の戦闘では完全にお荷物です。」

 

 

 

「産廃じゃねーか。」

 

 

 

 今言った利点をすべて消し飛ばすデメリットだ。戦場でなんの役に立つというのか。

 

 

 

「なにおう⁉︎もしゼロがパーティーに入れてほしいと言って来ても入れてあげませんよ⁉︎」

 

 

 

 結構です。

 お前が爆裂魔法とやらしか使わない限り俺たちが組むことは無いだろう。俺が敵と戦闘しているところへ撃ち込まれたら間違いなくエリスのところへ直行である。

 

 …あれ?案外悪くないな。

 

 

 

 ※

 

 

 それから1週間、めぐみん、こめっこの姉妹に付きまとわれたのは言うまでもない。最初に餌付けしちゃうと中々自然に還ってくれないのである。

 野生動物か!

 

 

 

「色々お世話になりました。」

 

 

 頭を下げながらむんむんに礼をいう。

 

 

 

「おう!気いつけてな!っつっても兄ちゃんにゃ要らん心配か!」

 

 

 別れを告げながら1週間過ごした家を去る。

 そういえばむんむんの息子とはついぞ会わなかったな。聞くところによると俺を撃ち抜いたことが気まずくて未だに出られないらしい。気にせんでもいいんだがな。

 

 

 歩きながら作ってもらったマントを着る。表は黒、裏地は赤色の中二力の高いマントだ。

 黒い方は防御力を高め、赤い方は火炎に強い。

 

 高性能ではあるのだが、そもそも俺はスピード命でまず攻撃を喰らうことが無いので役に立つかと言うと微妙にも程がある。

 

 

 

 そうこうしてるうちにもう村の出入り口だ。王都へはテレポートで送ってもらう手もあったのだが歩くのも旅の醍醐味だしね。

 

 

 

「もう行くんですか。」

 

 

「めぐみんか。こめっこはどうした?」

 

 

「最近捕まえた黒猫と遊んでます。」

 

 

 

 相変わらずゴーイングマイウェイガールだな。

 

 この2人の両親とやらは俺が滞在した1週間、一度も帰ってこなかったようだが…俺が居なかったら食事はどうするのだろうか。

 

 

 

「ご心配には及びません。隣のニートはこめっこが強請ればいくらでもごはんをくれるのでそれにあやかりますから。」

 

 

 

「妹に養ってもらうとか恥ずかしくないの?」

 

 

 流石は魔性の妹こめっこ。

 もう姉の威厳とかカケラも残ってねえな。

 

 

「それとあんまり男にせびったらダメだぞ、お前ら顔はいいんだから。そういう趣味の連中だっているんだ。」

 

 

 

「なんですか、もしかして粉かけてるんですか。すみませんが戦闘能力お化けをそういう目では見られませんよ。」

 

 

 

 バカかこいつは。エリス一筋の俺に向かってなんたる暴言。貴様には諸々足りないものがあるが俺が求める『母性』が足りない。それを身に付けて出直してくるがいい。

 

 

「なにおう⁉︎母性⁉︎胸か!男はそんなに胸が良いのか!」

 

 

 

 ハッ!青いな。

 おっぱい=母性とはにわかもいいところだ。

 エリスを見るがいい。母性は溢れんばかりなのに対して胸の寂しさよ。それをパッドで誤魔化そうとしているのがいじらしいのではないか。

 つまり、俺の選考基準に脂肪の固まりは含まれない。

 お。エリスから電波を受信したぞ。『後で屋上』だそうだ。告白かな?(白目)

 

 

 

「この男最低ですね…。」

 

 

 

 おっと、ゴミを見る目ですね。我々の世界ではご褒美かもしれんが生憎俺の世界ではムカつくだけだな。

 

 

 

「先にアクセルに行っててやるよ。爆裂魔法、覚えたら見せてくれ。」

 

 

 

「ふん。その時に泣いて謝っても知りませんよ!」

 

 

 苦笑し、立ち去る。

 めぐみんは爆裂の素晴らしさを俺に伝えようとしていたのだが、いかんせん俺は実物を見ていない。見てからでないと判断できないからいつか見せてくれと言ったら何故か「こんなに言ってもわからないのですか!」と怒られてしまったのだ。

 

 

 こんなに小さな村でもそれなりに良い出会いがあった。王都ではどんな出会いがあるのだろう。

 

 

 少し、楽しみだ。

 



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二章王都
10話




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 ※

 

 

 人、人、人。

 王都の夕暮れは人でごった返す。

 いつの時代も、どこの世界も、大都市の早朝と夕方は人まみれだ。

 

 

 

 カン、カン、カン。

 

 

 日が沈む。

 その直前に鳴り響く警鐘。

 王都に設置されている鐘はいくつかの音によってそれが意味するものを伝え分ける役割を持っている。

 そして、今聞こえたのは最もよく使われ、また、最も危険性の高い音だった。

 

 

 

『魔王軍の襲来です。都民の方は速やかに避難して下さい。また、冒険者の方は規定に従って配置について下さい。』

 

 

 訓練された民衆はその放送が流れる前に避難を終える。あれだけいた人間が、通りから消えていた。

 その中を動くのはレベルが様々な冒険者と衛兵。

 今日もまた、命懸けの『戦争』が始まる。

 

 

 

 ※

 

 

 城壁の上に座り、城門の外で行われる大規模な戦闘を見学する怪人黒マント。

 それがこの俺、ゼロである!

 

 

 いやね、俺も早速魔王軍か!と喜び勇んで飛び込もうとしたのよ。

 そしたら放送が流れてくるじゃん?

 その中で『冒険者の方は規定に従って』とか聞こえてくるじゃん?

 

 …俺は冒険者じゃないから規定に従わなくてもいいのか?はたまた、冒険者じゃないやつはお呼びじゃないのか?そもそも規定って何だよ。初めて聞いたわ。それに違反するとなんか罰則とかあるんじゃね?魔王軍と必死に戦ってそれで罰とか馬鹿馬鹿しいにも程があるだろ。

 

 

 

(というわけでおとなしく見学しますかね。まあ危なくなったら突っ込みゃ良いだろ。)

 

 

 それに俺の出る幕は無さそうである。高レベルの冒険者が揃っているのか、魔王軍は完全に押されている。やはり人類はしぶとい。この戦闘を見れば分かる。まだまだ滅びはしないだろう。

 

 魔王よ、一言いっておこう。

 

 人類(にんげん)無礼な(なめるな)

 

 

 ーーいいたかっただけである。

 

 

(そんじゃ、そろそろ宿に向かいますかね…ん?)

 

 

 立ち上がって伸びをしたせいか、少し遠くまで見える。

 魔王軍の中央を割って最前線へと進む一騎の黒い騎士をみる。

 

 

 体に電流が走る。なんだあれは。明らかにレベルが違う。強さが違う。下にいる連中では勝てない。

 おそらく今この場であれの相手をできるのは自分だけだと理解し、デュランダルを鞘から引き抜いた。

 

 

 

 ※

 

 

 その騎士はこの軍を率いていた。

 通常、将が戦場に出るなど言語道断の所業である。

 だが、これ以上この訓練の足りん雑魚に任せていたらいつまで経ってもあの門を突破するなど出来ん。

 ドス黒い殺気を放ちながら前線へ赴く。その殺気に当てられて部下が前に道を開く。この光景だけは好きだ。これが無ければ軍を連れ歩くなどゴミを引き摺るに等しい。

 乗っていた騎馬から飛び降りる。

 その騎士は片手に()を持ち、片手で大剣を構え名乗った。

 

 

 

「俺は魔王軍幹部、デュラハンのベルディア!我こそはという者はかかってくるが良い!」

 

 

 

 

 

 

 突然の幹部の台頭に戸惑ったのはほんの数秒。

 高レベルの冒険者が次々と剣を、槍を、弓を構え一斉に殺到する。

 なるほど、どいつも粒が揃っている。これではいくら雑魚が集まろうがなんてことはないだろう。

 

 頭を上へ、放り投げる。

 

 

 それに気をとられて視線を向ける者も数人いるが、大多数は脇目も振らずこちらへ来る。

 まあそれが目的ではないから関係ないのだが。

 

 

 猛然と振るわれる武器はことごとく宙を切る。

 戦場の全てを把握したように僅かな隙間を縫って進む。

 そろそろ落ちて(・・・)来る。タイムリミットだ。

 頭の中でカウントして剣を両手で握り力の限り横薙ぎにする。周りにいた奴らの腹部周辺を切り裂いた。

 

 

(む…)

 

 

 流石にレベルが高いだけはある。一撃では決まらなかったようだ。

 頭を片手で受け止めながら間近に転がる冒険者に大剣を振り下ろそうとしてーーー

 

 

「ぬう⁉︎」

 

 

 咄嗟に横に盾にするように構える。

 脳で認識するより先に身体が反応した。幾多もの戦場を渡り歩いてきたベルディア特有の直感が命運を分ける。

 

 

 直後、轟音と共に赤黒い弾丸が飛来し、大剣の盾ごとベルディアを吹き飛ばす。

 とんでもない衝撃だ。ただの剣ならば何の抵抗にもならなかっただろう。

 

 

 

「…何者だ。名を名乗れ。」

 

 

 普段のベルディアならまずあり得ない敵から名を訊くという行為は知らず、目の前のこいつ(・・・)は、自分に匹敵、或いは凌駕するだろうことを確信しての物だった。

 

 

「ドーモ、ベルディア=サン。ゼロ=ニンジャデス。」

 

 

 手を合わせながら腰を折り、にこやかに言う自らと同じ超越者(・・・)

 

 

 

 …………ふざけてんのか、こいつ。

 



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11話



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 ※

 

 

 …驚いたな。

 まさか今のを無傷で防がれるとは思わなかった。完全に死角から突っ込んだはずなんだがね。

 

 

 内心の動揺を隠すためにジャパニーズニンジャ式の挨拶したらすげー睨まれたし。

 

 

 

「まあいい。それで、ゼロニンジャとやら。貴様の職業とレベルは…。」

 

 

 

 

 あ、隙だらけなんで攻撃させてもらいますね。

 

 

 

 平眼に剣を構え、ベルディアの心臓に向かって突きを入れる。

 

 

 

 

「うおお⁉︎き、貴様!人が話しかけているだろうが!」

 

 

 

 文句を言いながらも突きを大剣の腹で受け流し、続く俺の蹴りを肘で打ち落として逆に大剣の柄で殴ってくるベルディア。身を捻って回避する。

 

 こいつすげえな。不意をついたとおもったんだが。

 喋りながらここまで対応するのは俺では無理だ。

 

 

 

「戦場で主義主張など、何の意味もありませんよ?」

 

 

 

「むう…。」

 

 

 

「あ、俺はゼロ=ニンジャじゃなくてただのゼロで良いですよ。あと、まだ冒険者じゃないので、無職(プー)のレベル0となります。」

 

 

 

「答えるのかよ‼︎…何?冒険者ではないとはどういう…」

 

 

 

 学習しろや。

 

 靴のつま先で地面を抉り、それをベルディアの頭に向けて蹴り込んだ。

 その直後に思い切り横に跳び、真横から奇襲する。

 

 対し、頭をひょいっと上に投げて砂かけを回避したベルディアはそのまま両手で俺に斬りかかる。

 

 ぶつかり合う剣と大剣。

 普通に押し負けた。

 

 

 

(うおっ⁉︎)

 

 

 

 体勢を崩したところで脚を刈られた。宙を舞う俺に容赦無く大剣を振り下ろす。

 

 力を抜き、大剣を受け流しつつその勢いで風車の如く回転、着地と同時に下から剣をカチ上げる。

 

 ベルディアは一歩退いて避けながら地面を得物で抉りこちらの広範囲に向かって散弾のようにばら撒いてきた。

 

 回避するために大きく後退せざるをえない。

 ちょうどよくベルディアの頭も落ちてきたし、仕切り直しというところか。

 

 しかし、俺のスピードに対応するとは…

 正確に言えば対応しきれてはいない。おそらくこいつは俺の動きがはっきり見えているわけではないのだろう。

 

 だが、上手いのだ。

 自分だけの修練では決して身につかない、戦場での戦い方を知っている。

 

 

 

「…貴様、歳は。」

 

 

 

 また奇をてらってやろうかとも思ったが…

 

 

「16、いえ、もうすぐ17になります。」

 

 

 

「どうやってそこまで強くなった。ある程度の戦場は知っているようだが世に出て長くはあるまい。」

 

 

 

 まあ経験が浅いのは仕方ないだろう。

 そしてその質問には自信を持って応えよう。

 

 

 

「ただ、ひたすらの鍛錬の成果ですよ。」

 

 

 

 それが俺のアイデンティティでもあるのだから。

 

 一刀修羅ぁっ‼︎

 

 ごめんなさい勘弁してください。

 

 

 

「フハハハハハハ!鍛錬!鍛錬ときたか!それはいい!近頃はそれを怠って死に急ぐ者ばかりだからな!」

 

 

 

「こちらも一つ良いですか?なぜ魔王は人間と敵対しているのか教えてください。」

 

 

 こちらは答えたのだ。そちらも一つぐらい教えてくれても良いだろう。

 

 

 

「そんな大層な理由などない。いつの世も戦が起きる理由は食糧の問題と、思想の違い…まあそんなもんだろう。」

 

 

 

 ありきたりだな。

 もっとこう、人類に怨みとかあったりしないのか。

 

 

 

「…どうだ?ゼロ。魔王軍に来ないか?貴様なら即幹部になれる。」

 

 

 

 バカこくでねえわ。

 俺の目的の真逆じゃねぇか。途中で寝首を掻くのならアリかもしれない。

 

 

 

「そうか?貴様は、戦えればそれでいい。そうではないのか?俺の同族かと思ったのだが。」

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

 まあ間違っちゃいない(・・・・・・・・)

 強くなろうとして鍛え始めたのも魔王軍なんてあまり関係無いしな。親父の仇とか正直どうでもいい。顔も見た事無い男の為に命は張らない。

 

 

 だがそれは前提が崩れている。

 もう俺にはエリスとの約束という明確な目的がある。

 今はそれを果たすために剣を振ると決めた。

 誰が何と言おうと、だ。

 

 

 

「女との約束か!ハハハハハ!本当に面白い奴だ!俺はおまえが気に入ったぞ!」

 

 

 

 俺も…ベルディアには妙な親近感を感じていた。

 

 思えば、純粋な剣技で俺と渡り合うやつは今まで1人もいなかったのだ。

 

 

(もし…生まれが同じだったなら、友人として語り合うこともーーー)

 

 

 

「それで、もちろんその女はでかいのだろう?サイズはいくつだ。」

 

 

 

 

 ーーー気のせいだった。

 

 あ?なぜでかいことが前提なのだ。俺はでかかろうと小さかろうと関係無い。

 エリスがエリスだから好きなのだ。

 

 だが、そういう趣味を否定することもしない。この国では憲法で思想の自由は保証されて……ここ日本じゃなかったわ。

 

 

 

「いえ、残念ながら…」

 

 

 

「はあ?貧乳など娶って何が嬉しいのだ。」

 

 

 

 ぶっ殺す。

 

 こいつは言ってはいけないことを口にした。万死に値する。

 

 俺の雰囲気を感じ取ったのか、ベルディアも戦闘態勢に移行する。

 

 

 

「…まさか貴様がそちら側だったとはな。目を覚まさせてやろう。」

 

 

 

 そちら側もクソも無い。おっぱいはおっぱいなのだ。

 巨乳もおっぱい。貧乳もおっぱい。おっぱいは等しく尊いもの。それでいいではないか。おっぱい万歳。

 

 

 

「それは尚悪いわ!ただの優柔不断ではないか!見損なったぞ!」

 

 

 

 何を言うのか。

 外見を見る人もいれば内面を見る人もいる。

 俺は後者だっただけだ。

 

 

「まあどちらでもいいがな。どうせ貧乳には人権などないのだ!バーカバーカ!」

 

 

 

 こいつ言い過ぎだろう。

 俺は巨乳派でも貧乳派でもないが、今だけは貧乳派であるべきだ。

 

 

 

「「ぶっ殺してやる‼︎」」

 

 

 

 激突する巨乳(おっぱい)貧乳(おっぱい)

 これが後に語られる太古から続く大戦。

 

 きのこたけのこ戦争よりも根深いとされる第ウン次巨乳貧乳戦争の勃発だった。(貧乳派は代理)

 

 

 いつの世も戦の幕開けには思想の違いがあったのだ。

 

 

 

 



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12話



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 ※

 

 

 ベルディアが大剣をバットのように横に振る。

 それを屈みながら剣の腹を上に構え、先端に右手を添えた剣身を滑らせて空振りさせる。ギャッと音がして火花が散るがデュランダルには傷一つ無い。削れたのは向こうの大剣だろう。

 

 そのまま左手で横腹に突き入れる。

 完全に態勢が泳いだのだ。回避は難しい。

 かなり深くまで入ったのだがベルディアは怯まずにグルリと一周回って更に勢いをつけた大剣で俺を強打する。咄嗟に剣を抜き横に盾にするが、受けた瞬間に全身が軋み、10メートル以上吹き飛ばされた。

 

 

 とんでもない馬鹿力だ。これを喰らえば両断は免れまい。さっき冒険者が喰らっていたが勢いが段違いだ。手加減していたのだろうか。

 

 

 突進してくるベルディアに着ていたマントを視界を塞ぐように叩きつけ、奴の横→背後と二段跳び。剣を斬りつけようとするが、なんとベルディアは後ろを見ずにサイドステップ。俺が振った剣にマントが絡まる。

 

 

 いやこいつおかしいだろ。

 今絶対見えてなかったよね?

 どんな反応だ。何をもって俺の剣を回避したのだろうか。

 攻撃の悉くを避け、反撃してくるベルディア。埒があかない。

 

 舌打ちをしながら俺は戦法を変えることにした。

 

 

 

 ※

 

 

 ーー速い。

 

 

 ゼロの動きを一言で言うならそれに尽きる。

 今まで出逢ったどの剣士よりも素早く、斬りつけ、躱し、防ぐ。

 もはやベルディアの眼には動きが線にしか見えない。

 今は辛うじて生前、死後合わせた経験から発生する直感で凌いでいる状態だ。

 

 

 これで職業補正無しとは冗談も休み休み言うがいい。冒険者になったら一体どうなってしまうのか。

 この世界はやはりどこか間違っている。

 

 

 世の中の理不尽さに文句を浮かべていると、ゼロの動きに変化が生じる。

 

 

 これまではフットワークで翻弄しつつ、有効打を与えることに躍起になっていたようだが、今度は移動に重きを置くようだ。

 ベルディアの剣が掠りもしなくなる。そして空振った直後にガガガン‼︎と息つく間もなく3連撃。

 即座に離脱し、視界から消える。

 次は背後から現れ、連撃を加えてまた離脱する。

 

 

 

(馬鹿め、そんな動きをすればすぐに体力切れで動けなくなるだろう)

 

 

 

 ベルディアも反撃するのをやめ、防ぐことに終始する。そして相手が疲れたところへ、一撃でいい。全力で撃ち込めばそれで終わるのだ。

 幸い、自分はアンデッドだ。

 体力切れなどという概念は無いし、痛みは感じるが、生前と比べれば鈍い。我慢すれば致命傷でなければ動ける。

 

 ベルディアは強い子なのだ。

 

 

 

 ※

 

 

 ガガガ、ガ、ガガガ、ガガ、ガガガガガ、とマシンガンのような音が連続する。

 

 

 ーー

 

 

 ーーーー

 

 

 ーーーーーーこ、こいつ…体力に底が無いのか⁉︎

 

 

 ベルディアは驚愕する。

 もう空は白み始めているのだ。

 冒険者も魔王軍もとっくに撤退している。この場にいるのは自分達だけだ。

 

 冒険者はともかく自分が率いた軍が撤退するのはどうなのだ?

 なぜ頭を置いて先に帰ってしまうのか。

 自分の嫌われっぷりに涙が出そうになるが、それどころでは無い。

 

 どんな体力をしているのだ。こいつは本当に人間なのか。

 しかもーー

 

 

 

(ぐ…!ど、どんどん速く(・・)なってやがる…!)

 

 

 ベルディアの視界にはしばらく前からゼロの姿が映らなくなっていた(・・・・・・・・・)

 攻撃を受け、そちらに目を向ける頃には砂煙しか無いのだ。

 心なしか、威力まで強くなっている。

 

 

 

(ば、化け物…!)

 

 

 

 ベルディアの心が音をあげる。

 それは、今まで直感が支えてきた均衡を崩すのに十分過ぎる停滞だった。

 

 

 直後、凄まじい勢いでベルディアの全身に斬撃が降り注ぐ。その数は数十を超え、百に届くかもしれない。

 

 

 

「グオオオオオオオ⁉︎」

 

 

 無理矢理大剣で防ごうとするが、ゼロの連撃を受け続けた大剣に先に限界が来る。

 

 完全に真っ二つにへし折れた大剣は持ち主の折れた心を表していた。

 

 

 

「ま、参った…。俺の負けだ…。」

 

 

 

 ※

 

 

 ーー愉しい。

 

 

 一撃毎に速くなる。自分が強くなるのが分かる。

 これほどの愉悦があるだろうか。

 

 もっとだ。もっとよこせ。

 

 最高だ。同じ技量の剣士との戦いがこれほど愉しいとは思わなかった。

 王都に来てよかった。心からそう思う。

 

 誰にも邪魔させない。誰にも譲らない。

 

 

 これはおれのえものだ(・・・・・・・・・・)

 

 

 獲物の態勢が崩れる。

 もっと愉しみたかったのだが…。獲物に限界が来てしまっては仕方がない。

 

 少し前からいつでも終わらせられた戦闘が終わりを告げた。

 

 

「ま、参った…。俺の負けだ…。」

 

 

 

 ※

 

 

 

「どうした。早くとどめをさせ。」

 

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

 うむ、正直勿体無い。

 今ベルディアを倒すのは簡単だが、もう一度戦いたい。もう一度愉しみたい。

 

 …よし、決めた。

 

 

「ベルディアさん、命まではとりません。」

 

 

 

「…何?」

 

 

 

 アンデッドに命はとらないとかどうなのだろうと思いながら良い笑顔(自分調べ)を浮かべ、告げる。

 

 

 

いつかもう一度戦ってください(・・・・・・・・・・・・・・)。その時を、楽しみにしていますよ?」

 

 

 

 なぜか(・・・)怯えた顔をするベルディアが首無し馬に跨り、一目散に駆けていく。

 

 

 む…

 今の目はなんとなく故郷のクソガキを思い出すな。なぜだろう。

 

 

 いやあ、それにしても良い汗をかいた。

 

 

 やはり正義(おっぱい)は勝つのだ。

 



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13話



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 ※

 

 

 翌日、宿で物を壊さないように鍛錬をしていると、白スーツを着た女が入ってきた。

 

 

 

「ゼロ殿!ゼロ殿はいるかーーな、なぜ服を着ていないのだ⁉︎」

 

 

 

 いや、あんたは誰でなんで入ってきてんだよ。

 自分の借りてる部屋でどんな格好しようが俺の勝手だろ。

 

 

 

「それで、俺に何の用ですか?」

 

 

「せめて服を着てから応答してくれ!」

 

 

 

 我儘な女だな。

 

 通報されたりすると怖いから言う通りにする。

 

 

 

「ゴホン、ゼロ殿!昨晩の魔王軍撃退について国王様がお呼びである!令状はこちらに用意してあるので、至急きてもらおう!」

 

 

 

「あ、俺は急用を思い出したのでこれで。」

 

 

 

 ヤバいヤバい。

 やはり勝手に前線に出てはマズかったか。

 もしくは規定とやらに引っかかったのかもしれない。ここはトンズラこかせてもらうぜ。

 

 

 

「馬鹿者!そうではない!国王様直々に感謝の言葉を伝えたいそうなのだ!早く来い!」

 

 

 

 なんだよ。

 だったら最初からそう言うがいい。紛らわしい言い方をするから焦ってしまったではないか。

 

 

 

「それはそうと少し待ってもらえますか。」

 

 

 

「なんだ。また逃げようとするんじゃ…」

 

 

 

 いや、今汗まみれなんだけど。

 こんな格好の男連れて行ってあんたが怒られないならオラァ構わんよ?

 

 

 

「ーーー三十分で支度しろ!」

 

 

 

 お、ラピュ○かな?

 

 

「イエス!マム!」

 

 

「ふざけるな!」

 

 

 ※

 

 

 …おお、結構緊張してきたぞ。

 よく考えなくてもめっちゃ偉い人じゃん。

 俺の敬語なんて一般常識の範囲だし、王族に対しての態度が全くわからない。

 

 

 

「…君がゼロ君か。…まずは街を守ってくれたこと、心から礼を言おう。」

 

 

 

 へえ!

 

 凄い威厳のある人が出てきたぞ。

 威張り散らすような似非貴族ではない。一目見て

 そう(・・)分かる。

 おそらく街中で普通に歩いていても誰もが一発で並の人間ではないと見抜けるだろう。

 

 俺が無条件で尊敬できそうな人だ。初めて会った。

 え?エリスは違うのかって?

 エリスは可愛らしいというか、手元に置いておきたいというか、とにかく結婚したいのである。

 

 

 

「はい。アルマ村出身のゼロと申します。此度は王城にお招きいただき恐悦至極。」

 

 

 ダメだこりゃ。

 絶対間違った敬語を使いながら跪く。

 おお?なんと、自然に跪いてしまった。彼のカリスマのランクはAを超えているに違いない。

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

「・・・・・・?」

 

 

 

 なんだ?なぜ王は俺をじっと見つめているのだろう。まるで品定めか何かをしているような目だ。

 俺にそっちのケはないのだが。

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

「・・・あの、王様?」

 

 

 

 俺が耐え切れずに口を開いた時。

 

 

 

「ゼロ君は、いくつだね?」

 

 

 

 またそれか。

 昨日ベルディアにも聞かれたがなぜそんなに人の年齢が知りたいのだ。

 これが俺だからまだいいが、女性だったら激怒するところだ。

 

 

 

「あと2ヶ月程で17になります。それが、何か?」

 

 

 

「…若いな。」

 

 

 

放っとけ。

 

 

 

「…ゼロ君。どうだね。私には18になる息子がいるのだが、少々手合わせしてみてはくれんか。」

 

 

 

「は?」

 

 

 

 何言ってだこのおっさん?

 それは王子と戦ってみろ、という事か?

 バカか。それでもし怪我などさせてみろ。俺はこの歳にして国に存在を抹消されるなどまっぴらゴメンだ。

 慎みを持ってお断りさせてもらおう。

 

 

「私の見立てだと、かなりいい勝負になると思うのだが。」

 

 

 

「…ほう。」

 

 

 

 中々云うじゃねえか。

 これでも人に自慢できるぐらいには鍛え抜いた強さだ。

 そんな俺と王室育ちのお坊ちゃんが同等だと?

 面白い。やってやろう。

 

 

 

「承りました。それはいつの話ですか?」

 

 

 

「何を言うのかね。やると決まったら今からやるに決まっているだろう。今、闘技場に馬を走らせよう。早く乗るといい。」

 

 

 

 強引過ぎるだろ。

 急に元気になるんじゃねぇよ。それに、仮にも王子ならそれなりに忙しいのだろう。そちらの都合はどうなのだ。

 

 

「はっはっは。それは心配せんでも良い。王子は君の話を聞いてからうずうずしていてな。君が了承した旨を伝えれば文字通りすっ飛んでいくだろう。」

 

 

 なんだそりゃ。

 それで本当に王子が務まるのか。

 一国の王子が戦闘狂とか目も当てられねえな。

 

 

 

「息子の名はジャティスという。君とも気が合うと思うのだが。」

 

 

 

 ジャティス。

 なんだか正義(ジャスティス)に響きが似ている。きっとその名の通り正義感の強い好青年なのだろう。

 

 …なんつってな!

 いざ会ってみたら思いの外のクズ野郎が出てくるフラグだね、わかるとも!

 

 

 

 ※

 

 

 

「君がゼロ君かい。僕はベルゼルグ・スタイリッシュ・ソード・ジャティスだ。昨晩は凄かったそうじゃないか!魔王軍の幹部と互角以上に渡り合ったと衛兵から聞いているよ!今日はよろしく!あ、もしよかったらゼロと呼んでもいいかい?」

 

 

 

 メチャクチャいい奴だった。

 顔もすこぶるいい。ケッ、イケメンがぁ…!

 

 

 



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14話



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 ※

 

 

 闘技場の中央にて出逢った俺とジャティス王子。

 この闘技場、かなり広い。

 一辺が300メートル四方の正方形とか一体何と何を闘わせるために造らせたのか。

 

 

 今、この闘技場には観客を含め4人しか人間がいない。

 そのうち2人はもちろん俺と王子。

 もう2人は観客席でこちらを見下ろす国王と、その隣にちょこんと座っている小さな女の子。

 国王の娘にして王子の妹、アイリス王女だ。

 

 この王女だが、めっちゃかわいい。

 エリスの次くらいにはかわいい。エリスがいなかったら犯罪に走りそうなくらいの美少女だ。

 

 …ちなみに王女は11歳だ。

 もしかしたら俺にはロリコンの素質があるのかもしれない。

 いや、だが綺麗なお姉さん枠のエリスがいる以上、決めつけるのは早い。

 …言っておくが、浮気ではないぞ?

 

 

 

「どうしたんだい、ゼロ。さっきから妙な顔をしているけど?」

 

 

 

 うるせぇな、黙ってろイケメン。

 てめえと比べたら大体の人間は変な顔してるよ。

 そもそも、呼び捨てにしていいなんてひとっっ言も言ってねえからな?

 

 相手がイケメンというだけで敵意を剥き出しにし、尚且つその妹に変な視線を向けていたクソ野郎がそこにいた。俺だよ、悪りぃか!

 

 こんな醜い感情をエリスに見抜かれたら、きっとゴミを見るような視線で蔑んでくれるだろう。ゾクゾクするね。

 めぐみんではダメだ。あれは妹枠でいい。妹にそんな目で見られたら腹パンする自信がある。

 

 …いっそ清々しい程のクソ思考だな。俺っていつの間にこんな嫌な奴になったんだ?

 

 自己嫌悪に陥っている俺に心配気な視線を向けてくる王子が、

 

 

「その、もしかして調子でも悪いのかい?良ければ次の機会に回してもいいんだよ?」

 

 

 と言ってくれる。

 

 

 …くそっ。

 こんないい奴に俺はなんでこんな感情を向けているんだ。どうも昨日のベルディア戦から調子がおかしい。

 まるで俺の中に誰か別のやつがいるかのようだ。

 こんな時は身体を動かして気を紛らわせるに限る。

 

 

 

「いえ、大丈夫です。さあ、始めましょうか。」

 

 

 

「!ああ、よろしく頼むよ!」

 

 

 

 心底嬉しそうに剣を構える王子。

 本当に闘うことが好きらしい。こういうところは確かに気が合うのかもしれない。

 

 

(さて、王子の実力はどんなもんかーー)

 

 

 直後、王子の姿がブレる(・・・)

 

 

 

「はぁ⁉︎」

 

 

 俺ですら辛うじてでしか認識できない猛スピードで突っ込んでくる。

 だが、見えるのなら反応できる。

 剣を上から振り下ろす王子と下から振り上げる俺が激突。王子が目を見開く。もしや、今ので決めるつもりだったのかもしれない。

 

 

 よくぞ反応してくれたと言わんばかりに嬉しそうな笑みを浮かべ、王子が頭突きをしてくる。

 

 今度は俺が驚く番だ。そりゃそうだろう。王子が頭突きとかしてくるか、普通?

 完全に虚を衝かれた。仰け反る俺の顔面に後ろ回し蹴り。どうやらこの王子、ラフプレーを好むらしい。どんな王子だ。

 

 

 

(いっ、てぇ…!)

 

 

 

 地面を転がり、即座に態勢を立て直す。当然のように追撃してくる王子の足を剣で薙ぎ払い、行動を制限する。

 跳躍して躱すしかないと判断した王子は間違ってはいない。

 

 

 

(これでも喰らえ‼︎)

 

 

 空中にいるのなら逃げられまい。着地する前に全身を捻って力を溜めた4連撃ーー

 

 

 それをなんのことは無いように空中を蹴って(・・・・・・)躱す。

 

 

 …俺は一体何度驚けばいいのか。

 空中を蹴る?バカ言えや。そんなこと俺でも出来んぞ。

 今のはアレか、某ジャンプ漫画でいう『月歩』とかいうやつか。ナマで初めて見たぞ。いや当たり前なんだが。できるやつなんている筈が無いのだ。いたけど。

 

 

 アホ面を晒していた俺に渾身のドヤ顔を決めてみせるジャティス王子。

 …案外子供っぽいところもあるのか。

 それはそうと許さん!

 

 

 今度は手数で勝負だ。

 ベルディアの時のように一撃離脱ならぬ連撃離脱を試みる。

 だが俺には確信があった。

 そう、()のようにこいつが追いついてくると!

 

 

 

 

 

 

 広いはずの闘技場で俺と王子が並走しながら観客席も利用して、まさに縦横無尽に剣戟を繰り広げる。端から端まで一瞬で到達する。当然だ。二人共とうの昔に音速など通り越している。

 

 更に驚くのは、観客席にいる国王と王女までもがしっかりと俺たちを目で追っていることだ。

 

 というか、どう考えてもおかしい。なぜ王族がこんなに強いのか。これならば護衛や衛兵など必要ないだろう。

 もうお前らが魔王倒したら?それは俺が阻止するけど。

 

 

 俺と王子のスピードは完全に互角だ。

 一番自信のあるスピードで互角なことにショックを受けるがそんな暇があるものか。

 

 一合打ち合う度に圧される。パワーでは勝負にならない。ベルディア並のパワーに俺と互角のスピードとかどんなチート野郎だ。

 

 

 そんな闘いに揺らぎが走る。王子のスピードと動きのキレが目に見えて落ちたのだ。

 

 

(こいつ、まさかーー)

 

 

 

 確証は無いが、これに賭けるしかない。

 

 

 俺は何の前触れも無く速度を落とす。

 すると王子もそれに追随するかのようにスピードを落とした。その直後、猛烈な加速で王子を置き去りに。

 王子が慌てて加速したところで急反転、全力で剣を叩きつける。王子も反応が遅れたが辛うじて剣を前に出す。元の力が別物なのだ。この条件でようやく互角。双方の剣が後ろへ弾かれる。その勢いをそのままに、俺はサマーソルトキックで王子の顎を掠める。バック転して剣を構え、腰が落ちた王子の喉元に切っ先を突きつけ、勝ち誇った。

 

 

 

「俺の勝ちです。ジャティス王子。」

 

 

 

「ッハァ、ハァ、っどうやら、ハァ、そのようだね…。」

 

 

 

 俺よりも強く、俺と同じくらい速く、ラフプレーにも強いチートイケメン王子の唯一の弱点はスタミナの無さだった。

 

 



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15話



再投稿。





 

 

 ※

 

 

「しかし驚いたな。僕と同世代で僕よりも強い人がいたなんて。」

 

 

「いえ、王子こそ。最初から本気を出されていたら地に伏しているのは俺でしたよ。」

 

 

 俺は膝をつく王子に手を差し伸べながら応える。

 

 実際、最初に王子が様子見など挟まずに全開で来ていたら間違いなく負けていた。

 力も強い上に動きも速いのだ。スタミナ勝負に移行しなければ手の打ちようが無かったろう。

 

 と、俺は心の中にあったモヤが晴れ渡っているのに気づく。こんなに清々しい闘いは始めてだ。

 王都に来てから、いや正確には旅に出てからだが、始めての経験ばかりだな。当たり前だけど。

 

 

 

「ジャティスでいいよ。敬語もいらない。君とは対等でいたい。……ダメかな、ゼロ。」

 

 

 

 手をこちらに向けながら一応は問の形を示す。

 

 

 …呼び捨ては強制だったくせに。

 

 そんなことは…ああ、言うまでもないけどな。

 苦笑しながら言葉にする。

 

 

「いや、こちらこそよろしく頼むぜ。ジャティス。」

 

 

 

 しっかりと握手を交わす。

 ふと、パチパチと音が聞こえる。

 観客席では静かに手元で手を叩く国王と、隣で両手を上に上げて思いっきり拍手してくれているアイリス王女。大はしゃぎである。撫でたい。

 

 

 すると、ジャティスが握手する手に力を込めた。

 

 まさか王女を邪な目で見ていたことがバレたか…?

 

 ほんの数秒で友情が破綻することを危惧したが、ジャティスはいたずらっぽい顔で挑発するように更に握力を込めるだけだった。

 

 

 

(ーーこのやろう‼︎)

 

 

 

 俺も笑いながら思いっきり力を入れる。

 他人が見れば何やってんだ、と思うかもしれないが、当人達は割と楽しかったりする。

 

 そういえば、俺は友人と呼べる存在と対等に接するのも始めてだ。村ではハブられていたし、旅に出てから会ったなかで一番歳が近かったのはめぐみんだが、あれはなんだろう、俺が庇護していたようなもんだし、友人ではあるが対等ではない気がする。

 

 

 

 唐突に俺の手からミシリ、という嫌な音があがる。

 

 

 

「痛え痛え痛え‼︎離せバカ、やり過ぎだ!ちったあ加減しろクソゴリラ‼︎」

 

 

 

「クソゴリラ⁉︎き、君思ったより口悪いな⁉︎」

 

 

 

 手を離すと同時に殴り合いを始める。

 ジャティスの拳が当たる度に骨が軋んで行く。こいつズルくね?おんなじだけ拳を振るってもこっちしかダメージ受けないとか理不尽だろう。

 

 

 

 

『貴様が言うな‼︎』

 

 

 

 

 なんかベルディアの声が聞こえたが多分気のせいだな、うん。

 

 

 

 と、いつの間にか近くに来ていた国王が楽しげな笑い声を響かせる。

 

 

 

「仲良くなれたようで大いに結構。元気なのは良いことだ。」

 

 

 

 今まさに喧嘩している俺たちからすればたまったものではない。

 

 文句を言おうとするジャティスを手で制し、こちらを見る国王。

 なんだろうか?

 

 

「私の想像以上だったよ、ゼロ君。見立てでは相討ちだったのだが、君はジャティスに勝った。」

 

 

「君も気づいたろうが、息子は体力が無い。小さい頃から力が強くてね、大人でも持て余してしまっていたせいで全力を出す機会が無かったんだよ。」

 

 

「それを解消させようと前線へ送ったりもしたんだが、その中に有っても息子の強さは異質だった。訓練をする必要も無いと自分の才にかまけてサボっていてね。困り果てていた。」

 

 

「そこへ現れたのが君だ。君は息子と歳も近い。実力も拮抗している。となればぶつけてみたくなってね。」

 

 

「相討てばなお良し、勝っても辛勝になるだろうと読んだ。同世代の子にてこずれば、自分を見つめ直すだろうと思い、君を利用させてもらった。まあ結果はこの通り、情け無い限りだが。申し訳ないね。」

 

 

 

 ーーなるほど。

 あの時の目は俺の強さを見ていたのか。

 だが謝る必要などどこにもない。俺にも得るものはたくさんあった。

 

 ベルディアの時とは違う、戦いではなく、闘い。

 別に命を掛けているわけでもなく、かといって手加減することもないこの行為は俺も愉しかった…いや、楽しかった(・・・・・)

 

 

 それに、対等な友人も出来た。

 これが一番の収穫だよ。ありがとうございました。

 

 

 

 ※

 

 

 それはそうと、こいつそんなにサボっていたのか。人は見かけによらないと言うが…。

 

 

 俺が批難するような目でジャティスをみると、すっと目を逸らした。

 

 

 

「し、仕方がないだろう。どれだけ訓練してもそれを満足に振るうことも出来ないし、国民の皆に認めてもらうことも出来ないんだ。やる気なんか出るわけないじゃないか。」

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

 

 いや、なるほど。

 そういう考えもあるのか。

 もしかしたらジャティスは鍛錬し続けなかった(・・・・・・・・・)俺なのかもしれない。

 全く、気が合うとは良く言ったものだ。

 

 

 まあ俺が鍛錬やめてたらこんなことも出来なかっただろう。

 こいつはサボってこれなのだ。特典(チート)よりもチートだな。

 

 

 

「そこでものは相談なんだがね、ゼロ君。」

 

 

 

「?…はい、何でしょう?」

 

 

 

「君、王城に逗留しないか?息子を鍛えてやってほしいのだ。」

 

 

 

 …このおっさんこれでも王なんだぜ?

 部外者を国の中枢に招き入れるとかどうなのよ?危機感足らなすぎない?

 

 これはジャティスも怒るだろ…

 

 

 

「それは良い!そうしなよ、ゼロ!」

 

 

 

 こいつら揃いも揃ってアホばっかりだ。

 

 

 

「あの、俺は一応どこの馬の骨かもわからない部外者なんですよ?そんな俺が王城に滞在なんかしたら国民だって…」

 

 

 

「「何を言うんだ(ね)、ゼロ(君)‼︎」」

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

「君は客観的に自分のしたことを理解すべきだ。昨晩、君が助けた冒険者がいるだろう。彼らは、君は命の恩人で、この王都を魔王軍の幹部から守りきったのだと市井に広めているんだよ。」

 

 

 

 あの時斬られそうになってた奴らか。

 

 何をしているのだ。そんなことをしている暇があれば自分が死なないように鍛え直すべきだろう。

 

 

 

「それによって君の評判はかなり高ぶっていてね。むしろ君をすぐに帰すと『英雄を門前払いした器の小さい王族』とあらぬ噂をたてられるかもしれないのだ。」

 

 

 

 たまに聞くけどそんなこと本当にあるの?

 訝しげな視線を送る。

 

 

 

「それにゼロ!」

 

 

 

 今度は王子様かよ。

 

 

 

「君は楽しみじゃないのかい?僕はこれから毎日君と闘えるのが楽しみでしょうがないよ!」

 

 

 

 

 分かっちゃいたけどどうしようもねえなこの戦闘狂。

 国政よりも体動かす方が好きとかほんまつっかえ!王族やめたら?

 

 

 …いや、別に楽しみなのは否定しないよ?うん。

 

 

 と、少し靡きかけた俺に援護が入る。

 

 

 

「あの、お父様、お兄様。ゼロ様が困っています。」

 

 

 

 大天使アイリスの降臨だ。

 そうそう!もっと言ってやって!

 

 

 

「それにゼロ様にも元々の予定というものがお有りになるのでは?」

 

 

 

 

 応ともさ!俺は早くアクセルに行って冒険者にーーー

 

 

「なので、とりあえず三カ月だけ、というのはどうですか?」

 

 

 

 ーーーーーうん?

 

 

 

 ギギギ、と壊れた機械のようにぎこちなくアイリスの方を見る。

 

 天使の微笑みを浮かべる大天使。

 

 

 

 …これがハシゴを外されるということか。

 

 



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16話



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 ※

 

 

 なしくずし的に王城へ滞在することになってしまった。

 

 

 好きに使って良いと案内された部屋が広過ぎて落ち着かない。

 なんだ?好きに使って良いとは鍛錬によって壊してもいいということか?

 それよりも明日から早速闘うのだろうか。闘わない時は何をすればいいのか。もしかしてずっと休み無しでやらされるのか。今から不安になってきたな。

 

 

 グルグルと明日のことを考えながら部屋を歩き回っているとノックが聞こえる。

 

 うん?

 

 

 

「どうぞ。」

 

 

 

「やあ、ゼロ。こんばんは。入ってもいいかな?」

 

 

 

 

 ジャティスだった。返事も聞かずに入ってくる。

 いやお前…別にいいけどさ、確認ってなんのためにするか分かってる?

 

 

 

 

「細かいことは気にしない気にしない。それよりもゼロの話を聞かせてくれよ。あ、これお土産ね。」

 

 

 

 

 ほう、俺も色々聞きたかったからちょうどいい。

 

 

 部屋の隅にあった机と椅子を並べて何かの瓶を置くジャティス。つーかお前これ…

 

 

 

「酒じゃねえか!」

 

 

 

 

「うん?そうだけど、もしかして飲めないのかい?」

 

 

 

 

 いや、それ以前の問題だろうが。

 お前も俺も未成年なのに飲んで良いと思ってんの?

 

 

 

 

「ええ?ゼロはもうすぐ17歳になるんだろう?とっくに成人してるじゃないか。」

 

 

 

 

「はあ?」

 

 

 

 

 え、そうなの?

 そういえばこの世界ではいつから成人なのかとか知らなかったな。

 

 

 酒…向こうの『俺』は飲んでいたんだろうか。

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

 改めて机に乗った酒を見る。銘は『魔王殺し』。

 

 う、うむ。良い名前だ。ゲンを担ぐためにも飲んでおくのがいいかもしれん。興味が無いといえば嘘にもなる。

 

 

 

 

「…しょうがねぇな。」

 

 

 

 

「そうこなくっちゃ!あ、おつまみとかは料理長に作らせてるから。」

 

 

 

 

 言うが早いかグラスに注ぎ始める。どうやらかなりの酒好きらしい。

 

 

 

 

「それじゃあ乾杯!」

 

 

 

「お、おう。」

 

 

 

 

 グイッと一気に呷るジャティスと恐る恐る口をつける俺。

 

 む…不味くは、ない。というか、なんだ…味醂?のような風味がする。

 

 

 

 

「それで、ゼロはどうやってあんなに強くなったんだい?今までの旅の内容とかも教えてくれよ。」

 

 

 

 

「ん…、ああ。」

 

 

 

 

 少しボーッとする頭を振る。

 どうやって、と言ってもベルディアにも言った通りずーっと剣振ってただけだが。

 

 それを話すとものすごく嫌そうな顔をする。こいつはそんなに努力がしたくないのか。こんな甘いマスクしといて中身はダメ人間とかギャップがたまらない女等はイチコロだろう。

 

 

 

 

「そ、その話はもういいじゃないか。しかし、普通の人間がただの訓練で王族よりも強くなれるものなのか…?」

 

 

 

 

 うん、その疑念は正しい。

 俺は普通の人間じゃないからね。

 成長限界を取っ払ってもらってようやく互角なお前らがおかしいのだ。

 

 

 

「つーか、それだよ。王族が強いとかどうなってんのさ。サボってたお前がその調子なんだ。アイリスや国王もかなり強いんだろ?なんで魔王討伐に乗り出さない?そんなに魔王は強いのか?」

 

 

 

「何言ってるんだい?王族は強いものだろう。まあこんな風に強いのはベルゼルグぐらいだけどね。」

 

 

 

 ダメか。それが当たり前の国で生きてきたのだ。自分の強さの理由に疑問を持ったことがないらしい。

 どうせ、昔から強い人間と交わってその血を取り入れてきたから、とかそんなところだろう。

 

 

 

 

「それと、実は僕は魔王に会ったことは無いんだ。」

 

 

 

「あ?何でだよ。」

 

 

 

 前線に送られてるとか言ってただろうが。

 まさかこいつ、最前線ですらサボってたんじゃーー

 

 

 

 

「そ、そんなわけ無いだろう⁉︎僕だって王子だ、ちゃんと戦うさ!…ごほん。そうじゃなくて、純粋に魔王は城から出てこないんだよ。ほら、指揮官は普通陣地から出ないじゃないか。」

 

 

 

「まあ普通はな?普通は。」

 

 

 

 暗にお前は普通じゃないと揶揄しながら続きを促す。

 

 ジャティスは微妙な表情で話す。

 

 

 

「う、うん。それで、魔王城の外に出てくるのは幹部と、魔王の娘って自分で言ってる子くらいなのさ。あ、部下は除いてね?」

 

 

 

「…魔王の娘?」

 

 

 

 なんと、魔王とは既婚者だったのか。これで俺が密かに考えていた『魔王、あまりにもモテないから世界滅ぼす』説が否定されてしまった。

 いや、ベルディアから聞いた時点でその可能性は潰れてたんだが。

 

 

 

「じゃあなにか?お前ら、最大の敵がどんな能力持ってたりするのか一つも分かんないわけ?」

 

 

 

 人類詰んでね?

 やはり統べる頭が脳筋だとそのしわ寄せは国民にくるのだ。

 これより国王、ジャティス、アイリスの三名をベルゼルグ三脳筋と呼ぶことにしようそうしよう。

 

 

 

「ゼロ、君少し酔ってない?…まあいいや。いや、そんなことは無いよ。確かなものはないけど魔王の強さとか力についてはある程度推測できている。」

 

 

 

「ほう?お兄さんに聞かせてごらん。」

 

 

 

「いや、ゼロ僕より年下だからね?…やっぱり少し強すぎたかな、このお酒。」

 

 

 

 

 ごちゃごちゃ言ってんじゃねえ。こっちは待ってるんですけどー。

 

 

 

 

「あ、ああ。結論から言うと、魔王の娘が少し特殊な能力を持っていてね。『自分と契約した者を超強化する』という力なんだが、おそらく魔王自身もこれと同じか、より上位の物を持ってると思ってる。」

 

 

 

 へえ?

 なんだか特典(チート)みたいな能力持ってんな?どんぐらい強くなるんだろう。

 

 

 

「それがまた厄介でねぇ。ゼロはゴブリンって分かるかい?」

 

 

 

 それくらいはお袋から教わった。何匹かで群れている初心者向けのモンスターだろう?

 

 

 

「ああ。それが魔王軍幹部並みに強くなる…と言えばどのくらい厄介か分かってもらえるかい?」

 

 

 

「・・・・・・え?」

 

 

 

 酔いが吹っ飛んでしまった。

 その衝撃を誤魔化すためにまたグイッと酒を呷る。

 

 

 …初心者向けモンスターがあのシルビアやベルディアと同等クラス…だと…?では元から強い奴はどれだけ強くなるのか…

 

 

 

 

「お前よくそれでサボるとかなんとか言ってられんなぁ?ええ、おい。マジで人類終わってんじゃねぇか。王都に攻め込んできたら俺やお前がいても守りきれねえだろ、それ。」

 

 

 また頭がフラついてきた。そのままジャティスに絡んでいく俺。

 

 

 

「そんなに一気に飲むなよ、弱いんだから…。でも…うん、これからは真面目にやるさ。ライバルも出来たしね。」

 

 

 

 …?らいばるぅ?誰のことだ?

 ジャティスと同じくらい強いのか、友達なんだから俺にも紹介してくれよ。

 

 

 

 

「それに、希望が無いわけじゃない。魔王の娘自体はそんなに強く無いんだ。せいぜい普通の兵士レベルかな。それは能力を発動しても変わらない。魔王もそうだと思っていいよ。」

 

 

 

 …ま、そんぐれえは弱点無いとやってられんわなあ。そんだけ強化バフかけまくって自分も強いとかどうしようもない。

 

 

 

 

「王都に攻めてきたら…か。考えた事もなかったけど、大丈夫だよ。お父様がいるからね。」

 

 

 

「ふうん?強いとは思ってたけどそんなにか。」

 

 

 

「ああ。僕とゼロ。あと、アイリスも含めようか。僕たちが同時にかかっていっても仕事の片手間で負けちゃうんじゃないかな。」

 

 

 

「いやさすがに嘘だろそれは。」

 

 

 

 間違いなく人類最強格の三人にそれは無理だろ。というか信じたくない。

 そのまま酒を注ぎ、流れるように飲み干す。

 

 

 

 …よし!

 

 

 

「じゃあ俺、今から魔王倒してくるわ!」

 

 

 

「はぁ⁉︎何言ってるんだい!今から⁉︎」

 

 

 

 そうだ!王都に攻め込まれないためにはこっちから攻め込めばいいんだ!こんなことにも気づかないとは流石脳筋!

 

 

 

「完全に出来上がってるじゃないか!だからゆっくり飲めって言ったのに‼︎というか無理だって!魔王城には幹部が一人ずつ張った結界があるんだ!幹部を全部倒さないと入る事も出来ないって!」

 

 

 

「ごちゃごちゃうるせえイケメンがあああ!」

 

 

 

 なにか言い始めたジャティスに抜剣し、振り下ろす。

 

 

 

「危なっ⁉︎君本気かい⁉︎」

 

 

 

「本気も本気よ!邪魔すんな‼︎俺は早く結婚したいのだ!」

 

 

 

「君は何を言ってるんだ⁉︎今の話からなんでそうなった!まるで繋がりがないぞ⁉︎」

 

 

 

 

 こいつはバカだな。完全無欠に繋がりなんか大有りだろう。魔王を倒す、エリスと結婚する。みんなハッピー‼︎

 

 

 

 

「…どうやら完璧にイッてしまったようだね。残念だがきみを行かせる訳には行かない。」

 

 

 

 ジャティスも剣を抜きながらこちらを見据える。

 

 

 

 

「おいおい、友達じゃないか。そこを通してくれよ。」

 

 

 

 

「友達だからこそだ!折角対等なライバルが出来たのにこんなくだらない事で失ってたまるか!だから…今ここで、君を倒そう‼︎」

 

 

 

「くだらないだとこの野郎が…上等じゃゴルァアアア‼︎」

 

 

 

 剣を振り上げながらジャティスに躍りかかる俺。

 

 エリスとの結婚を邪魔するやつはぶっ殺してやる!

 

 対し、ジャティスはその剣に光を集めーー

 

「『セイクリッド・エクスプロード』ーーー‼︎」

 

 

 

 迸る光。太陽がもう一つ出来たのではないかという程の明るさが深夜の王都を照らした。

 

 

 

 ちなみに王城の屋根まで俺を吹き飛ばし、大穴を開けたジャティスは国王に激怒されたそうだが筋肉痛に呻きながらもどこか晴々としていたそうだ。

 

 

 



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17話



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 ※

 

 

「何やってるんですか⁉︎」

 

 

「・・・・・・」

 

 

「酔っ払って王城を壊すなんて前代未聞ですよ⁉︎」

 

 

「・・・・・・」

 

 

「…ゼロさん?」

 

 

「・・・・・・」

 

 

「ちょっと!ゼロさん聞いてますか⁉︎」

 

 

「…ごめん、なんで怒ってんの?」

 

 

「はああ⁉︎」

 

 

 

 さて、俺の前には顔を真っ赤にしたエリス。

 ここはいつもの場所である。

 

 真っ赤なエリスはよく見るが、今回はいつもの羞恥が原因ではなく、どうやら怒りの側面が強いらしい。

 しかし、俺には理由がさっぱりわからない。王城を壊したとか言ってるが、さっきまでジャティスと酒を飲んでいただけなのだ。なぜそんな国家転覆罪の容疑が俺にかけられているのだろう。

 これが冤罪というやつか。

 

 

 

 

「なんて理不尽な世界なんだ…。」

 

 

 

「世界だってゼロさんには言われたくないと思いますよ…。」

 

 

 

 

 おっと、辛辣ですね。

 まあ何はともあれ…

 

 

 

 

「久しぶりエリス。5年ぶりくらいか?」

 

 

 

「まだ一ヶ月くらいですけど⁉︎」

 

 

 

 

 そうだったっけ?

 もう随分会ってないと思ったが…。

 

 

 

 

「もう一度聞きますけど、本当に何やってるんですか…。王城に逗留まではいいにしても、その日のうちに城に大穴を開けるなんて魔王軍のスパイって疑われても仕方ないですよ?」

 

 

 

 そこんとこがよくわからない。

 城に大穴ってなんだよ。俺には覚えがないね。

 断固身の潔白を主張する所存であります!

 

 

 

「潔白どころか完全に真っ黒ですよ。証明するまでもありません。」

 

 

 

 酷い言い草だな。心なしいつもより遠慮がない。

 まあ遠慮なんてしてほしくないけど。むしろもっとガンガン前に出るといい。

 

 

 

 

「で、結局何があったのさ。本当に俺がやったとかじゃ無いんだろ?」

 

 

 

 

「…まさか本当に覚えてないんですか?」

 

 

 

 

 覚えていないとも。どうしても俺を犯人にしたいなら何があったか一から教えてもらいたいものだ。

 

 

 

「あ!私知ってますよ!こういう時に開き直るのは大抵犯人なんですよね!」

 

 

 

 

「いやそれは偏見入ってるよ!」

 

 

 

 

 犯人じゃなかったらどうするつもりだ。

 

 おう、税金で給料もらってる警察がその税金支払ってる国民を冤罪で捕まえるとかいい加減にしとけよ。警察上層部はもっと反省して、どうぞ。(唐突)

 

 

 

 

「…何の話でしたっけ…。」

 

 

 

「王城に大穴。」

 

 

 

「ああ、そうでしたね。ゼロさんがお酒に強くもないのに一気飲みして酔っ払った挙句に「魔王を今から倒しに行く」と訳のわからないことを言い始めたのでジャティス王子が決死の覚悟で止めた話でしたっけね。」

 

 

 

 

「ちょっと待って!俺そんなことしたの⁉︎」

 

 

 

 

 何やってんの俺⁉︎

 その話が実話ならばジャティスに土下座するのも吝かではない。

 

 本当にっ、すまないと思っているっ…!

 

 

 

 

「え、じゃあデュランダルで王城に穴あけたの?俺基本斬ることしか出来ないんだけど、丸く切り抜いたってこと?」

 

 

 

 

「いいえ?ゼロさんが王子に襲いかかったので止むを得ず王子が王族に伝わる技を使ってゼロさんをお城の上まで吹き飛ばした結果ですよ。」

 

 

 

「あいつも何やってんの⁉︎じゃあ俺今回も死にかけて…うん?」

 

 

 

 

 あれっ。

 今の話だと穴あけたの俺じゃなくない?完全にジャティスがやってるよね?

 

 

 

 

「原因は間違いなくゼロさんにあるんですから、責任の所在もゼロさんにあると思いますけど?」

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

 

 いやぁ…言わんとすることは分かるよ?でもそれで納得出来るかと言えば…うーん。

 

 例えるなら友人に車を貸して、その友人がスピード違反したけど車の持ち主は俺だから罰金も俺が払ってね、みたいな理不尽さを感じる。

 

 わかるかなぁ…わっかんねぇだろうなぁ…。

 

 

 

 

「だいたい俺だってほら、こうやって死にかけてるわけじゃん?それで何とか勘弁してもらえませんかね、エリス様?」

 

 

 

「…もう、しょうがないですね。」

 

 

 

 お、今の呆れたような表情カワイイ。

 可愛くない時ないけどな!

 

 

 

「まあこの件に関しては裁くのも咎めるのも本来私じゃありませんしね?」

 

 

 

 

 む、それはそうか。後で国王にも謝っておこう。

 

 

 

「それにしてもそろそろ普通に夢で会えるように出来ないのか?俺、瀕死になんなきゃエリスに会えないとか今後会いたくなったら首括らなきゃいけないじゃん。」

 

 

 

「…別に…私に会いに来なくてもめぐみんさんとか、アイリス王女とそっちで仲良くやればいいじゃないですか。」

 

 

 

「‼︎」

 

 

 

 

 こ、これはまさか…YAKIMOTI⁉︎

 

 ついにエリスにもデレ期が来たのか⁉︎これは早く結婚式の準備をしなくては!式場はどこがいい?いつにする?子供の名前は⁉︎

 

 

 

「安心しろ!俺の一番はいつだってお前だけだぜ☆」

 

 

 

 

「違っ、違います!何でそんなに話が飛ぶんですか!私そんなんじゃないですから!ほ、ほら!もう朝ですよ〜、早く起きて下さ〜い!」

 

 

 

 今度は羞恥で顔を紅くしながらグイグイと俺を押してくる。

 

 ちくしょう!まだか!まだ好感度が足りないというのか!

 

 

 

 

「そりゃあ私だって偶にはお友達と会いたいですけど、天界って割とそこらへんに厳しくて…。今だって結構アウトとセーフの境目ギリギリなんですよね。ゼロさん別に死んでるわけじゃありませんし…。」

 

 

 

「そこらへんはいいや。どうせ俺すぐ死にかけるし、また来るよ。」

 

 

 

 

「あの、あまり無理はしないでくださいね。私たちは本来関わることは無いんですから、自分を大切にして…なんなら本当にそちらで私のことは忘れて…」

 

 

 

 

「エリス。」

 

 

 

 

 

 それ以上いけない。

 俺はエリスに説教したくないし、エリス以外とそういう関係になるつもりも無い。

 

 

 

 

「要するに魔王討伐まで保留にしといてくれればそれでいいんだよ。エリスが待てないならそれも良し、俺は諦めよう。」

 

 

 

 その時は俺が世界を滅ぼすかもしれないけど。

 

 

 すご〜い!君は世界を滅ぼせるフレンズなんだね!わーい、たーのしー!

 

 

 

「最後に不穏なこと言わないでください‼︎」

 

 

 

 

 ※

 

 

 

 あの後ジャティスに謝りに行ったら筋肉痛で寝込んでいた。俺との試合の後に普段使わない技を使ったからとはいえ情け無いことこの上ない。

 

 俺が顔を出すと、「君何でピンピンしてるんだ⁉︎」だの、「一ヶ月は安静じゃなきゃおかしいだろう⁉︎」とか、「君、魔王の息子とかじゃないよね…?」など、意味不明の供述をして来たのでデュランダルの鞘でブチのめしておいた。

 

 失礼な事をいうからである。インガオホー‼︎ショギョームッジョ‼︎

 

 

 

 

 

(さて、今日は暇になってしまったかな?)

 

 

 

 

 アレではジャティスは休まざるを得ないだろう。何をして過ごそうか…。…やはり鍛錬か?

 

 

 

 

「あの、ゼロ様?少しよろしいですか?」

 

 

 

「おや、アイリス様。何か御用ですか?」

 

 

 

「今日はお兄様がお休みですよね?もしよろしければ私に付き合ってほしいのですが…。」

 

 

 

「今なんと?」

 

 

 

「いえ、ですから私に付き合ってほしいのです。」

 

 

 

 

 …弱ったな。

 つい先ほどエリスと誓ったというのに、俺にはモテ期が来てしまったか。いやぁでも一国の王女の告白を無下には出来ないしなぁ、困った困った。

 

 

 

 

「いいですよ、ちょうど何をするか困っていたんです。」

 

 

 

 

「よかった!では闘技場でお待ちしていますね!」

 

 

 

 

 

 

 

 知ってた。

 

 

 



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18話



再投稿。






 

 

 ※

 

 

 

「さあ、いきますよ!ゼロ様!」

 

 

 

 

 闘技場の真ん中でフンス!といった感じに気合い入りまくりなアイリス。非常に愛らしい。

 

 筋肉痛とかいうおっさんみたいな理由で寝込んだ某王子とは若さというか張りが違うよね。

 しかし…

 

 

 

 

「アイリス様もお強いのですよね?ジャティス王子と試合というか、その、なさらないのですか?」

 

 

 

 

 そうすればあんなに飢えた戦闘狂は生まれなかったろうに。

 

 俺の疑問にアイリスは少し寂しそうにしながら、

 

 

 

 

「お兄様は前線によく出てしまいますし、お父様は国の運営が忙しいので、あまり相手をしてもらえないのです。」

 

 

 

 と言った。

 

 

 

 

「…これは失礼をしました。」

 

 

 

 

 しまったな。藪蛇を突いたか。

 

 寂しそうにするアイリスをどうにかしてやりたいが、俺はアイリスの兄でも父でも、ましてや恋人でもない。

 せいぜいこういったお遊び(・・・・)に付き合ってやるぐらいしか出来ない。歯痒いもんだ。

 

 だが、いつか必ずそういう隙間を埋めてくれるやつができる。

 

 できればそいつは俺みたいな闘いしか能のないやつとは別ベクトル、アタマを使って一方的に優位に立ちにいくようなやつが望ましい。

 言い方を悪くすればズル賢いやつだな。王室育ちのアイリスには足りないものも埋めてくれるだろう。

 

 それまでは俺が代わりになるのは大歓迎だ。

 それにしばらくジャティスも城にいるだろう。この機会にたっぷり甘えるといいよ。

 

 

 

 

「あの、それで、ですね。ワガママかもしれませんが…ゼロ様には、その…わたしに対してもお兄様に接するように気安く接していただきたいのです。…ダメでしょうか?」

 

 

 

「それは…ですが、良いのですか?」

 

 

 

「……ツーン。」

 

 

 

「…分かったよ。これからよろしくな、アイリス。」

 

 

 

「はい!よろしくお願いしますね!」

 

 

 

 

 カワイイ。これは相手がいなければ完全に惚れる笑顔だ。この歳にして既に魔性を秘めてらっしゃる。

 観客席からもうスンゴイ形相でこちらを睨んでいる白スーツの女がいなければナデナデしていただろう。

 

 というかあいつは何なんだ。確か俺を連れに来たやつだよな。俺がアイリスを名前呼びしたのがそんなに気に入らんのか。

 

 

 そう思いながら見ていると、ある事に気づいた。

 

 視線がアイリスから一瞬たりとも動いていない。

 更によく見ると顔が「ぼっへええええええ!」って感じになっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 …この闘技場潰してタワー建てようぜ。名前?キマシタワーに決まってんだろ。

 

 

 

 

 ※

 

 

 半月後

 

 

 

 

「パーティー?」

 

 

 

「そう。パーティー。」

 

 

 

 

 闘技場の観客席で寝そべりながら俺に話し掛けるジャティス。

 ちなみに俺が訓練と称するこの試合でジャティスに勝てたのは最初の一回だけだ。それ以降はガチ勢と化したジャティスによる短期集中攻撃によってノックダウンされまくっている。

 

 コイツの闘い方アタマおかしいぜ?なんか光る斬撃をやたらめったらブッパしてくるんだぜ?闘技場を整備する人が試合後の惨状を見て遠い目をしながら「さすが我が王子は常に全力ですな。」と呟いていたのは記憶に新しい。

 

 

 そんな暴虐王子によると今夜貴族や王族が集まってパーティーを開くらしい。

 

 

 

 

「要するにそのパーティー会場には近づくなってことだろ?分かってる分かってる。」

 

 

 

 

 俺もそんな堅苦しいとこに近寄りたくないしね。

 

 

 

 

「何いってるんだい、ゼロも参加するんだよ。」

 

 

 

 いや、何でだよ。意味わからん。

 

 

 

 

「別に貴族として参加しろってことじゃないよ。何なら護衛っていう体でそこにいるだけでもいいしさ。」

 

 

 

「それなら尚更俺が行く意味無くね?」

 

 

 

「貴族の間でゼロって結構有名なんだよね。魔王軍の幹部を一方的に虐殺したとか、剣の一振りで100人以上斬殺したとか、あと、僕に勝ったのも大きいかな。とにかく噂に尾ひれがついて一人歩きしてるもんだからその手の娯楽に飢えた貴族がゼロを一目見たいって言ってるんだよ。それに…」

 

 

 

「それに?」

 

 

 

「僕があんな場所で挨拶回りしてるのにゼロはのんびりしてるなんて、ズルいじゃないか。」

 

 

 

「お前ここ最近本音ぶっちゃけ過ぎだろ。」

 

 

 

 

 あんな場所て。

 

 

 

 

 ※

 

 

 

 早く帰りたいんだけど。

 

 

 パーティー開始10分でもう自室に帰りたい俺がいる。

 始まって早々ジャティスもアイリスも貴族連中と話を始めちまうし、俺を見たいとかほざいてたらしい奴らも遠巻きにこっちをチラ見するだけで寄ってこないし。

 おかげで会場の隅っこのテーブルに乗ってる料理つつくぐらいしかやること無い。

 

 

 

 

(まあ一人飯なんざ平気だけどな。)

 

 

 

 

 ボッチじゃないよ〜。と鳴きまくって最終的に裸単騎にしそうなことを思っていると、誰かが来る気配がした。

 

 こちらへ真っ直ぐ向かって来るのは女だ。金髪碧眼…貴族は大体そうだから普通だが、こいつは女にしては背が高い。俺が175センチで、それよりも少し低いから170くらいか。俺の前で止まり、小声で話し掛けてくる。

 

 

 

 

(すまないが、少し話を合わせてもらえないだろうか。)

 

 

 

(?いきなり何です?合わせる?)

 

 

 

 

 なんだこの女?

 いきなり顔を近づけられると暑苦しいので離れてもらいたい。

 合わせるとは一体なんだろう。その答えはすぐにやってきた。

 

 

 

 

「おや、ダスティネス卿、急にどちらへ行かれるのかと思えばお相手がいらっしゃったので?」

 

 

 

「そちらの方は…見覚えがありませんな。一体どちらの貴族ですかな?」

 

 

 

 

 若い2人の貴族だ。どうやらこの女…ダスティネスというらしいが、俺に寄ってきたのはこいつらから逃れるためのようだ。

 こいつらには俺が貴族に見えてんのか?明らかに振る舞いが違うし、俺赤髪黒目なんだけど。

 

 

 

 

「え、ええ。私、先約がありまして…ほら、行きましょうか。」

 

 

 

「いえ、人違いです。俺と彼女は今会ったばかりで何の関係もないです。」

 

 

 

「「ん?」」

 

 

 

「ばっ、ちょっ、貴様…!」

 

 

 

 

 俺の肩をグイグイ引っ張ってまた顔を寄せてくる。近いって。あとお前力強いな。王城の衛兵よりも全然強いわ。

 

 

 

 

(き、貴様一体どういうつもりだ!合わせてくれと言ったじゃないか!)

 

 

 

 

 確かに言われたね。でも俺やるともなんとも言ってないんだよなぁ…。

 だいたい、なぜ見ず知らずの女を手助けせにゃならんのだ。俺を買いたいなら相応のメリットを提示して下さい。そこまで親切ではないよ、俺は。

 

 

 

 

(む…報酬か。で、では私の身体を好きにしていいというのは…どど、どうだろう?)

 

 

 

「HAHAHAHAHAHA‼︎」

 

 

 

「どういう笑いだそれは!」

 

 

 

 

 お〜い、聞いたかジェニー?

 もう、寝言は寝てる時に言うから許されるんだぞ?このおばかさんめ!

 

 今この瞬間分かった。こいつは関わっちゃダメなタイプだ。

 当たり前だが、初対面の男にいきなり「自分、どうっすか?」とか聞いてくるやつがマトモであるはずがない。

 

 触らぬ神に祟りなし。逃げる算段を立てていると、俺の苦手な女がもう一人来た。

 

 

 

 

「いた!探したぞゼロ!お前はなぜこんな隅にいるのだ…む?貴公はダスティネス家の…?」

 

 

 

 

 うっわ、めんどくさっ。

 

 半月で俺にここまで嫌われる女も珍しいだろう。俺を呼びながら来たのはクレアだ。今日もいつもの白スーツに身を包んでいるこいつはとにかく俺に絡むのだ。

 

 ある時は面倒ごとを俺に押し付け、ある時は俺の普段の行いに文句をたれ、またある時はアイリスに触れたとかいう理由で腰に下げたサーベルをぶん投げてくるぶっちぎりでイかれた女、それがりんごちゃん…間違えた、クレアである。

 

 

 

 

「この女のことはどうでもいい。それより何だ。こんな場で人の名前呼ぶからにはそれなりの理由があんだろうな?」

 

 

 

 

 そもそもこの女が自らアイリスの元を離れるのは緊急時以外ありえない。

 隣でソデにされたダスティネスが「んっ…!」とか言ってるけどそれもありえない。

 

 

 

 

「お、お前…仮にも貴族になんと言う…いや、そうだな。王城にお前に会いに来たと言っている男が訪問していてな。その男なのだが…」

 

 

 

 

 男…男の知り合いなどむんむんくらいしかいないのだが、何か用なのか?

 

 

 

 

 

「魔王軍の幹部と名乗っているのだ。」

 

 

 

「…はあ?魔王軍の幹部?」

 

 

 

 

 なんでそんな不審人物の話を俺に通すのだ。衛兵に対応させろよ。

 

 

 

 

「それくらい私がしていないと思ったのか?衛兵では歯が立たないのだ。だが、何故か奴もこちらに危害を加える様子が無くてな。事を荒立てるよりはお前を連れて行く方が良いと判断したのだ。何かあってもお前の馬鹿げた強さなら何とかなるだろう。早いところ追い返せ。」

 

 

 

 

 つまりいつもの厄介ごとじゃねえか。

 お前軽くいうけどなんだかんだ幹部って強いんだよ?俺だって撃退ないし討伐するのに数時間は掛かっているのだ。これではRTAなどとても成り立たない。別に目指してないけど。

 

 俺もパーティーに飽きて来たから丁度いいっちゃいいしな。

 魔王軍幹部で俺の知り合いなら十中八九ベルディアだろう。俺にリベンジしに来たのか、今日は軍を引き連れていないようだ。しかし、危害を加える様子が無い?あいつが?…行ってみれば分かるか。

 

 

 

 

「場所は?」

 

 

 

「裏門だ。衛兵が見張っているから行けば分かる。」

 

 

 

「りょーかい。」

 

 

 

 

 気の無い返事をすると早足で向かう。さて、勝算があるから来たのだろうが、今回も楽しめるだろうか。

 

 

 

(…ん?)

 

 

 

 後ろから俺を追うように足音が聞こえる。

 

 

 

 

「…で?ダスティネス家のお嬢様はなんで危険地帯について来ようとしてるんだ?」

 

 

 

「話に魔王軍幹部と聞こえたのでな。これでも私は冒険者をしている。足手まといにはならない。」

 

 

 

 

 おいおい、貴族様が冒険者とか冗談だろ?と思ったが、そう考えればあの力には納得できるな。

 

 

 

 

「いや、そういうことでもねえだろ。あのパーティーは貴族が集まってんだ。泥くせえことはこっちに任せてさっさと帰って楽しめよ。」

 

 

 

「お、お前…私が嫌がっていたのは知っているだろう…。あの2人から逃げるのにも丁度良かったのでな。利用させてもらうぞ。」

 

 

 

「…ま、勝手にしろ。」

 

 

 

「それに魔王軍の幹部なんていかにもじゃないか。この私の肢体をどんな目で見てくるのか今から楽しみだ…!」

 

 

 

「…初対面の男の前でそんなこと言ってお前平気なの?」

 

 

 

 

 こいつの親御さんは何を考えているのだ。こんなハァハァ言ってる歩く18禁を世に出して恥ずかしくないのか。

 

 

 

 

「じゅ、18禁とは失礼な!私はまだ17だ!」

 

 

 

「はあ?嘘つけよ。俺とほぼ同い年だと?」

 

 

 

 

 その体で?

 

 

 

 

「お前…本当に失礼なやつだな…。嘘などつかん。正確にはあと一ヶ月ほどで18だがな。」

 

 

 

「結局一歳年上じゃねーか。見た目完全に年増…うおっ⁉︎」

 

 

 

「お前というやつは!初対面でそんなことを言われたのは初めてだぞ!」

 

 

 

 ダスティネスがキレて殴りかかって来た!コワイ!

 

 

 

「はぁ、まったく…。それにしても、ゼロだったか、お前随分とクレア殿に信頼されているな。「何かあってもお前なら何とかなる。」か。彼女がそんなことを言うのは初めて聞いたぞ。貴族ではないよな?衛兵…でもない。冒険者か?」

 

 

 

「惜しいな、俺は冒険者見習いってとこだ。」

 

 

 

 

 あのクレアが俺を信頼?バカ言うな。あいつが向けてくるのは信用ってやつだ。この二つは全然違う。

 信頼はある程度仲の良い者同士が向け合う物、信用は初対面でもある程度の実績があれば誰でも向けられる物だ。

 

 まあわざわざ口には出さないけどよ。

 

 

 

 

「私はダスティネス・フォード・ララティーナだ。アクセルで冒険者をしている。まだ冒険者登録をしていないならそのうちアクセルで会うかもな。」

 

 

 

「へえ、ソロ…いや、1人で活動してんのか?」

 

 

 

「基本的には1人だ。たまにと、友達…と組むぐらいだな。」

 

 

 

 友達と言った時のダスティネスの顔は照れるような、嬉しいような、悪くない顔をしていた。内に秘めたる変態性を表に出さなければモテるだろうに、出してるから全てご破算である。

 

 しかしマジか、こいつアクセルにいるの?関わらないようにしよう。

 

 

 

 

「お、そこ曲がれば裏門だ。気いつけろよ、割と強いから下手すりゃ死ぬぞ。」

 

 

 

「ああ、私はど、どんな目にあわされてしまうのか…!」

 

 

 

「台無しだし、真面目な話だからね⁉︎」

 

 

 

 ダスティネスに怒鳴りながら裏門に通じる扉を開ける。

 さて、ベルディアはどれだけ強くなったのかーーー

 

 

 

 

 

「変態中年首なし騎士かと思った?残念!我輩でしたー!」

 

 

 

「「・・・・・・」」

 

 

 

 

 ………誰だお前⁉︎

 

 

 



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19話



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 ※

 

 

「フワーッハハハハハハハ‼︎したり顔でそこの最近腹筋が硬くなってきていつか割れてしまうのではと心配している女に、「気いつけろよ、割と強いから下手すりゃ死ぬぞ。」などと言っていた男よ!残念でしたー!」

 

 

 

 

 白と黒で半々に彩られた仮面と、黒いスーツ?タキシード?…どっちでもいいか。を身に付けた不審者が高笑いをしながらこちらを煽ってくる。はっきりと事案である。

 

 

 

 

 

「テンション高えな、アンタ。」

 

 

 

 

「…む?我輩好みの悪感情が湧いてこんな。もっとこう、恥ずかしがったりはしないのか?」

 

 

 

 

 

 いやあ?別に?

 この程度の煽りに負けているようでは日本ではやっていけないのだ。主にネットとかでな。いや、はっきり覚えてるわけじゃねーけど。

 

 しかし、こっちの人間にはこうか は ばつぐん だったようでーーー

 

 

 

 

「ななな、何を言っているのだ⁉︎ふ、腹筋など気にしてないぞ!本当だぞゼロ!仮に気にしていてもまだ割れてないから!セーフだから!」

 

 

 

 

「おおっと!こちらからは大変上質な羞恥の悪感情、ごちそうさまです!」

 

 

 

 

 顔を真っ赤にしたり、否定したり。忙しい限りだ。もっと落ち着けよ。

 

 

 

 

 

「それで?アンタは何者よ。魔王軍幹部って聞いて来たんだが?」

 

 

 

 

「フハハ!これは申し遅れました。我輩、魔王軍幹部にして地獄の公爵、『見通す悪魔』こと大悪魔バニルである!よろしくお願いします。」

 

 

 

「あ、これはどうも御丁寧に。」

 

 

 

 

 おお?礼儀正しいぞ。

 少なくとも隣の変態よりは好感が持てる。これは態度を改めなければならんな。

 と、急にダスティネス(隣の変態)が怒鳴る。

 

 

 

 

「貴様!衛兵達に何をした!」

 

 

 

 

 

 見ると、おそらくバニルを見張っていた衛兵達だが、妙に疲れた表情をしている。

 

 まさかこいつ、危害を加えないとか言っといてーーー!

 

 

 

 

 

「…ん?ああ、貴様がくるまで暇だったのでな。そやつらには羞恥の悪感情を頂いていた。命に別状はないのでご心配なさらず。」

 

 

 

 

「その悪感情を頂くってのは何だ?」

 

 

 

 

 

 聞けば、悪魔は普通の食べ物を食べない代わりに人間の悪感情を食べるのだそうだ。特にバニルが好物としているのは、羞恥の悪感情。

 

 

 

 

「故に!我輩は人間をからかって羞恥心を煽り、それを喰らうことを生業としている!ので、我輩が人間に危害を加えるなどありえん。むしろどんどん繁殖してもっと悪感情を寄越すがいい。」

 

 

 

 

 

 そう聞くとあんまり危ないやつじゃ無さそうだな。少なくとも直接殺したりしてくるよりは遥かにマシだろう。

 

 

 

 

 

「さて、貴様が今魔王軍で懸賞金をかけられている『死神』ゼロか。お初にお目にかかる。…ふむ?ボンヤリとしか見えんが…貴様、中身(・・)が面白いことになっておるな。」

 

 

 

「『死神』ぃ?」

 

 

 

 

 何だその恥ずかしい二つ名みたいなものは。俺はいつ賞金首になったんだ。そのうち卍解とかすれば良いのだろうか。

 

 …?最後のはよく分からんな。中身ってなんだ?

 

 

 

 

 

 

「賞金をかけるように魔王の奴に掛け合ったのは先日貴様がボコボコにしてトラウマを植えつけた首なし中年幹部だぞ。」

 

 

 

 

「ベルディアか。」

 

 

 

 

 

 トラウマって…。そこまでやってないだろうに。あれだけ良い勝負をしてトラウマとは一体彼に何があったのだ。

 

 

 

 

 

「フハハハハ!知らぬは本人ばかりだな!

 それはそうと我輩、頼みがあるのだ。貴様、近いうちにアクセルに行くのだろう?そこに一軒の魔道具店があってな、我輩の古い友人がいるのだ。

 こやつが商売をすればするほど赤字を出すという欠陥店主なのだが、名をウィズという。

 そのウィズに我輩がそのうちに訪問する旨を伝えて欲しいのだ。…頼めるか?」

 

 

 

 

「…色々言いたいけど、一つずつ聞こうか。まず、何で自分で行かない?何で俺なんだ?」

 

 

 

「お、おいゼロ!お前悪魔と取り引きするつもりか⁉︎しかも魔王軍の幹部なんだぞ⁉︎」

 

 

 

 

 悪いが少し黙ってろダスティネス。

 

 相手が人間を傷付けないなら俺はそんなに倒すのに躍起になったりはしない。もちろんエリスとの約束は最優先だが、メリットがあれば取り引きだってするさ。

 シルビアやベルディア?あいつらは元々攻めてきたのだからアウトよ。シルビアの方はマントの代金の件もあった。

 

 人間とは他の生物を自分の利益の為に殺すものだ。…そう考えると魔王軍とどっちが悪いとかは一概には言えないが。

 

 

 

 

「フッ、話が分かるようで何よりだ『死神』。我輩にも都合があってな。自分で赴く訳にはいかんのだ。

 貴様を選んだのは単に一番近くにいてなおかつ話が一番通りそうだったからだ。元々アクセルに行くのだからついでに、とな。」

 

 

 

「そもそも、なんで俺がアクセルに行くことを知ってんの?」

 

 

 

 

 あと、死神呼びはマジでやめて欲しいんだけど。恥ずかしい。

 俺は代行証も持ってないし、斬魄刀も持っていないのだ。

 

 

 

 

「む?ここで羞恥を出すのか?変わっておるな。そして言ったであろう、『見通す悪魔』と。我輩は何でも見通す。

 それこそそう、そこな女が少女趣味で、可愛い服を着たいが似合わないので泣く泣く自室のタンスにしまっていることなどはお見通しだ!」

 

 

 

「あああああ⁉︎貴様!何故それを⁉︎」

 

 

 

「お前…。」

 

 

 

 

 

 別に似合わないってこたないだろうに。服くらい着たいものを着ればいいのだ。

 

 しかし凄えな。戦闘中に発揮すれば最強だろそれ。動き全てが見通せるなどこちらからすれば絶望に他ならない。

 

 

 

 

「まあ貴様などは過去は見通せても現在や未来を見通すのは難しいがな。我輩も万能ではない。我輩に実力が近い、あるいは上回る者ははっきりと見通せんのだ。地獄にある我輩本体ならいざ知らず、この仮初めの肉体では貴様には勝てん。」

 

 

 

「地獄の公爵ともあろう方にお褒めに預かるとは光栄だね。」

 

 

 

 

 どうやら、今のこいつは分身のような物らしい。

 

 …え?分身が魔王軍幹部張ってるってこと?本体はどんな化け物なんだよ。…今はいいか。少なくとも敵対はしていないのだし。

 

 ともあれ、俺を選んだ理由は分かった。

 次はーーー

 

 

 

 

「報酬は?当然タダでやって貰おうなんてケチ臭いことは言わないんだろ?」

 

 

 

「無論だ。大悪魔の沽券に関わることだからな。貴様に支払う報酬はなんと、大判振る舞い!ーーー我輩の命で、どうだ?」

 

 

 

「はあ?何でお前の命が報酬なんだよ。ふざけんな。俺に得がないものは報酬になりませ〜ん!」

 

 

 

 

「貴様はアホか!魔王軍幹部の命だぞ⁉︎ただの伝言の報酬としては破格であろうが!…それに魔王城には幹部一人一人が管理する結界があるのだ。

 今ここで我輩を倒しておけばそれを一枚消すことができる。そこをよく考えるのだな。」

 

 

 

 

 …何か聞いたことある話だな?しかしそれが本当なら確かに割りが良いかもしれないーーー

 

 

 ーーーあれ?ちょっと待って。

 

 俺はそのウィズとやらにこいつが訪問することを伝えるんだよね?

 …なんでこいつ自殺しようとしてんの?俺が頭悪いから理解出来ないだけなの?

 

 

 

 

「先程我輩の本体は地獄にあると言ったであろう。今はこの仮面を媒体にして身体は土塊で形作っておるのだ。仮面を地面に置けばあら不思議!第二、第三の我輩がお手軽に作れてしまうという優れもの!このバニル仮面、お一ついかがか?」

 

 

 

 

 なんか通販みたいなことを言い始めたが、つまり、ここにいるこいつはどれだけ倒しても新しい仮面さえあれば本体にはなんの痛手も与えずに復活するらしい。

 

 な、なんやそれ…ベータテスターどころやないやないか…もうチートやチーターやろそんなん!

 

 あ、それはそれとして何か気に入ったので一つ貰おうか。

 

 

 

「毎度あり!…ふむ、なんの痛手も無い、というのは少し語弊があるな。我々悪魔は長く生きると『残機』というものが増える。現世に出ている分身はそれを削って作っている故、仮面を割れば当然『残機』が減るぞ。

 まあ我輩の場合その『残機』の数がそんじょそこらの木っ端悪魔とは文字通り桁が違うので一体や二体、痛くも痒くもないがな!」

 

 

 

 

 結局痛手にはならねえんじゃねえか。

 長々と話してすることが自慢とは。

 

 

 

 

「でも俺はあと二ヶ月くらいはここにいる予定だぞ?お前がどうしてもっていうなら出発を早めてもいいけど、その復活にはどのくらい時間かかるんだ?」

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

「あ?何だよ。」

 

 

 

 

 バニルが何故かこちらを測るように見てくる。

 折角人が親切にしてやってんのに何だというのか。

 

 

 

 

「…いや、何でもない。そうだな、復活は急げばその日のうちに可能だが、我輩も地獄で少しのんびりさせてもらうとしよう。出立は貴様の都合で良いぞ。それと…」

 

 

 

 

 言いながら俺の言葉を守って口を閉じてくれているダスティネスに視線を向ける。席を外させろってか。

 

 

 

 

「ダスティネス、悪いが中に戻っててくれるか。そこに転がってる衛兵も救護室に運ばなきゃいけないし、頼む。」

 

 

 

「あ、ああ。私は構わないが…大丈夫なのか?」

 

 

 

「任せろ。魔王城の結界とやらを一枚剥ぎ取ってやるぜ。」

 

 

 

 

 頷くと、ダスティネスは衛兵二人を担ぎ上げて城の中へ入っていく。あいつやっぱ力あんなぁ。

 

 

 …さて。

 

 

 

 

「で?お望み通り二人にしてやったぞ。さっき言い淀んだことでも話してくれんのか?それとももう斬っていいのか?」

 

 

 

「うむ。ひと思いにやるがいい!…と、言いたいところだが報酬をサービスしようと思ってな。」

 

 

 

「へえ?くれるもんなら貰うけどな。」

 

 

 

 

「一つ忠告しておいてやろう。貴様、魔王を倒すのが目的らしいが、長時間の幹部以上との戦闘は避けるんだな。我輩が見たところ貴様はどうにも染まりやすい(・・・・・・)ようだ。」

 

 

 

「…どういうこと?」

 

 

 

「言葉通りの意味だ。先程貴様は我輩の都合を気遣うそぶりを見せたが、いくら我輩に危険が無いとはいえ、普通の人間は悪魔など気にかけることはしないのだ。

 気付いているか分からんが、貴様は確かにこちらに寄り始めているということを覚えておくがいい。」

 

 

 

「いや、だから意味分かんないんですけど。」

 

 

 

「フハハハハ!さあ!サービスは終いだ!やるがいい、『死神』よ!」

 

 

 

「お前…中途半端に教えてもらっても迷惑なだけだからな?もうちょい詳しく…。」

 

 

 

 

「おおっと!見える、見えるぞ!貴様がオークに追われ、恥も外聞も無く体液を撒き散らしながら逃げ惑う様がーーー」

 

 

 

「そぉい‼︎」

 

 

 

 一片の躊躇もなく仮面を剣で叩き斬った。

 それは俺の黒歴史だ。みなまで言わせはしない。

 

 ーーー最後によく分からんことを言われたが、まあ、どのみちアクセルに行けばそのうちあいつも来るのだろう。その時に聞けばいい。

 

 

 

 衛兵を送って戻って来たダスティネスと合流し、会場に戻る。

 

 バニルから言われたことは早くも頭から消えかけていた。

 

 

 

 



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20話



再投稿。





 

 

 ※

 

 

 二ヶ月後

 

 

 

 

 さて、長くなった王城の逗留も明日で終わりを告げる。いよいよアクセルだ。

 思えばまだ村を出て半年も経ってないんだよなぁ…。

 早いのか遅いのか分かんねえな。

 

 

 

 今日は自由に時間が使える最後の日ということで国王、ジャティス、アイリスが旅の餞別に、と一人一人手合わせしてくれるらしい。

 

 いや、そんな物より他に無かったのかとか聞きたいが。まあその気持ちだけで値千金と思うことにしよう。うん。

 

 

 ということで闘技場で俺と向かい合うのはアイリスだ。

 

 

 

 

「それじゃあ、始め!」

 

 

 

 

 ジャティスの開始の合図と共にアイリスが冗談抜きに俺を超えるスピードで俺の周辺に残像を残しながら動く。俺の動きに少し似ているのはアイリスが周囲の影響を受けやすいからだろう。

 

 俺が以前ベルディアに使った戦法をアイリスに話してやったのだが、これは失敗だった。

 いや、これ使われる方すげー怖い。今度会ったらベルディアに謝っておこう。

 

 

 アイリスが剣を喉に突き入れて来た。一歩ズレて躱すが、アイリスの戻りが速い。突き、斬り上げ、払う動作が一息のうちに行われる。その動きの先には俺の心臓部、眉間、頸動脈を正確に捉えている。

 

 どうでもいいけど何で全部急所狙いなんだよ。殺す気か。俺はいつの間にかアイリスに嫌われてしまったのだろうか。涙がで、出ますよ…。

 

 最初の突きはデュランダルで防ぎ、斬り上げは上体を逸らすスウェーで逃れ、次の斬り払いでわざと(・・・)体勢を崩した。その時同時にある物を手に忍ばせる。

 

 

 

 さて、アイリスはどう反応する?追撃か、待ちか…。

 

 

 そこで好機と見たか、アイリスが剣を引いて僅かに力を込める。

 

 

 

 

 

(かかった(・・・・)!)

 

 

 

 

 

 俺は表情で焦り、内心でほくそ笑む。

 アイリスは素早さは他の追随を許さないがこういう搦め手に少し弱い。素直すぎるのだ。

 

 というかまだ11歳でこの動きは異常だろ。明らかに俺が同じ年齢だった頃よりも強い。これからサボらずに精進すれば俺など足元にも及ばない強さを手に入れるだろう。頑張っていただきたい。

 

 

 手に隠し持っていたエリスの肖像が掘られた1エリス硬貨を手首のスナップでアイリスの目の前に放る。

 

 

 

 

 

「ッ⁉︎」

 

 

 

 

 

 完全に虚をつかれたのか、俺に振るうはずだった剣をその何の反撃にもならないコインを弾くことに使ってしまうアイリス。

 

 

 カキン、と高い音が鳴り硬貨が割れる。

 

 

 十分以上の働きをしてくれた。流石はエリス。俺の勝利の女神といっても過言ではない。

 

 崩した体勢を戻しながらアイリスに足払い。

「キャッ!」と可愛らしい悲鳴をあげ、宙に浮くアイリスの剣を打ち落とし、落下するアイリスを両手で受け止める。俗に言うお姫様抱っこだ。事案待った無しである。

 

 びっくりした顔で固まっていたアイリスだが、俺が何をしたのか分かってきたのだろう、次第に膨れ面になりながら抗議する。

 

 

 

 

「ゼロ様ズルい!もう一度!もう一度です!」

 

 

 

「はいはい。またの機会をお待ちしてます、お姫様。」

 

 

 

 

 まだ不満そうなアイリスを地面に下ろした直後に観客席からサーベルが飛来する。

 見なくてもわかる。クレアだ。最近クレアは隠れるのが上手くなった。いざ攻撃されないと何処にいるのかもわからない。

 …多分俺を暗殺するために練習したんだろうなぁ…。

 確かに今回は俺が悪い。以前あいつと交わした『YESアイリス、NOタッチ』の誓いを破ったからな。甘んじて受けたいがそんな余裕はない。

 

 

 サーベルの柄を掴み、飛んできた方向へ返してやりながらこちらに高速で向かう『エクステリオン』の斬撃をデュランダルで縦に斬って俺が通れるだけの亀裂を入れて避ける。

 

 

 

 

「次は…僕だ!」

 

 

 

 

 斬撃の軌跡をなぞるようにジャティスが走ってくる。

 

 ジャティスとの戦績はもう俺の圧勝だ。最初の半月は負けっぱなしだったが、更にその半月後には負け無しにまでなっていた。

 一対一では勝負にならなくなったあたりでジャティスとアイリスが俺を打倒するためにタッグを組んだのだが、このタッグがマジで強い。

 

 元々兄妹で、息はピッタリなのだ。片方が俺を抑え、もう片方が俺を嬲るという弱い者いじめの構図が出来上がってしまった。このコンビに勝てるようになったのはつい最近の話だ。

 

 コンビを組んだ後のアイリスは大層嬉しそうで、「久しぶりにお兄様と遊べました!」と100万ドルの笑顔を俺に見せてくれた。

 

 その笑顔は俺の犠牲の上に成り立っていることを忘れないでくれ…。

 

 

 

 デュランダルと聖剣が激突する。

 

 力でもジャティスを上回った俺が鍔迫り合いながらジャティスの胴体を蹴飛ばし、距離が開いたところへデュランダルの鞘をぶん投げる。

 

 ジャティスは、避けるのは間に合わないと考えたか、聖剣を斬り上げて鞘を上に弾くーー

 

 

 

 ーーその影に隠すように俺がデュランダルを投げていたことにも気付かずに。

 

 

 

 

「うわっ‼︎」

 

 

 

 

 見えない急襲ほど恐ろしいものはない。反応が遅れたジャティスの頰を切り裂いて地面に刺さる。かなり深い傷だ。血も結構出ている。悪いことをしたな…だが謝るのは後だ。

 

 さっきジャティスが弾いた鞘が10メートルほど上空に舞っているが、これなら一跳びで取れる。

 鞘をキャッチし、再度ジャティスに投擲。

 まだ怯んでいる彼の胸に直撃し、身体を後方へ弾き飛ばす。

 

 狙ってデュランダルの真横に着地し、剣を地面から引き抜きながらジャティスへ肉薄する。

 

 

 既に体勢を立て直しつつあるジャティスは『エクステリオン』を乱発するが、狙いも甘く、こんな腰も入っていない斬撃は苦し紛れにもならない。

 俺に直撃するものだけを斬り開き、突進。

 掠る軌道のものは無視しているため、痛みが何本も走る。それでも止まらない。

 無茶な姿勢で放っていたせいか、反動で再び体勢を崩したジャティスへデュランダルを振り下ろす。

 

 辛うじて受け止めるジャティスの顎へ容赦無く前蹴り。ぶわっと浮き上がる身体はガラ空きだ。落ちていた鞘を拾い上げて鳩尾へぶち込み、吹き飛ぶジャティスの手から聖剣を奪い取った。

 

 

 ちなみに俺がこの剣を聖剣と呼ぶのは、見た目と使う技が型月世界の某聖剣ととても良く似ているからだ。名前は出さないけど。

 

 

 

 

「さて、お前は剣を奪われた訳だが、これは俺の勝ちでいいんだよな?」

 

 

 

 

「ゲホッ!ゲホッ!わ…分かってるくせに…性格悪い…ゲホッ!最後くらい…君に勝ちたかったけど…。」

 

 

 

 

 鳩尾を強打したせいで咳き込むジャティス。敗けを認めたからには俺の勝ちである。

 

 

 

 

「よっしゃ次ぃ‼︎」

 

 

 

 

「聞けよ!というか君は本当に体力お化けだな…⁉︎」

 

 

 

 

 何を言うのか。そんな情け無いことを言うならお前をオークの群れへ放り込んでやろうか。

 この程度の戦闘で息を切らすようなら1日も持つまい。力尽きても無理矢理立ち上がらなければ貞操が危ないのだ。

 

 

 

 

「そ、そんな鬼みたいなことを何で思い付くんだ…!」

 

 

 

 

 弱音を吐き続けるジャティスを弄っていると、唐突に周囲が暗くなる。

 

 

 

 

「うおおおお⁉︎」

 

 

 

 

 同時にとんでもない重量が俺目がけて落下してくる。デュランダルで受け止めるが身体中が軋み、足が地面に埋まってゆく。折れるはずのないデュランダルが折れるのではないかと思う程の圧倒的な質量だ。

 

 

 

 

「ふむ、よく受け止めたものだ。剣の方が折れると思ったのだがな。」

 

 

 

 俺にとんでもない一撃を見舞ったのは国王だ。さっきまで反対側の観客席にいたから、多分直接跳んできたのだろう。

 

 お忘れかもしれないが、この闘技場、端から端まで300メートルあります。

 

 

 

 

「さあ!最後の相手は私だ!」

 

 

 

 

「アンタは仕事しろぉ‼︎」

 

 

 

 

 

 敬語も忘れて叫んだ。

 

 

 

 

 

 ※

 

 

 

 

 

 俺が勝手にベルゼルグ三脳筋と呼んでいる国王、ジャティス、アイリスの三人は同じ脳筋でもタイプがまるで違う。

 

 

 アイリスは力に頼らない速攻タイプ。その素早さはなんと俺よりも速い。まさにハヤテのごとく!である。

 

 

 ジャティスはああ見えてスピードとパワーを両立させたバランスタイプだ。ハイレベルで纏まっているため、戦闘の幅が広い。

 

 

 そして国王だがーーー

 

 

 

 

 

「ふん!ぬん!おりゃあ!」

 

 

 

 

「ひっ!ちょっ!あぶっ!」

 

 

 

 

 掛け声の度に俺に死そのものである大剣が振るわれる。スピードで翻弄したいが、これを実際目にすると反撃する気なんかさらさら起きない。

 

 軽く振るわれる一撃が掠っただけでその周辺がごっそり持ってかれるような凄まじい圧力を持っているのだ。反撃して直後にこれを喰らったら即死待った無し。

 故に剣すら振るわずにひたすら躱すことしかできないのだ。

 

 

 柔よく剛を制す?ふざけるな。このバケモンを見てから物を言え。

これを受け流せるのは渋川先生くらいだろう。

 

 

 

 究極の剛。破壊神。日中三倍バスターゴリラ。

 

 

 

 呼び方など何でもいい。とにかくとんでもない剛の化身がそこにいた。

 

 見た目は俺と同じくらいの体格なのにそこから引き出される力は間違いなく人類最強だ。どんな筋肉をしているのか、地面に拳を振るえばクレーターができてしまう。バカか。

 小学生が考えた『ぼくのかんがえたさいきょうのひーろー』とはきっとこんな感じなのだろう。

 

 

 その手に持つ大剣など、幅が50センチ、全長が3メートルを超えているのだ。どこのガッツさんだよ。それほどの大剣が驚くことにジャティスと同じくらいの速度で振るわれる。

 

 以前、俺VSアイリス、ジャティスペアで闘っていた時に国王が急に「今日は私も混ざろう。」などと言ってきたことがある。

 

 

 その時は俺とコンビで手を組んで国王をギャフンと言わせてやろうと意気込んでいたのだが、開始10秒後にはもう涙目になってしまった。

 

 

 

 開始と同時に国王へ躍り掛かるアイリスとジャティス。普通なら片方に気をとられている隙にもう片方が攻撃するシステム。しかも今回は背後に俺が控えているのである。

 

 この布陣なら魔王ですら攻略できると思える最強トリオのうち2人が国王のたった一振り(・・・)で夜空の彼方へ吹き飛ぶことになった。

 

 

 

『………は?』

 

 

 

 

 俺は最初、2人が高速で動いたせいで見失ったのかと思ったのだ。

 だが、国王が剣を振り切った姿勢でいることに気付き、呆然とした。

 

 後に聞いたが、アイリスとジャティスは闘技場の外まで吹き飛ばされ、周辺の民家に激突していたんだそうだ。文句無しの場外ツーランホームランである。いや、すぐ俺も後を追ったからスリーランか。

 何度でも言うが、端から端まで300メートルある闘技場だ。

 

 

 その時に前回から一ヶ月の間を空けてエリスに会ったことは誰にも言っていない。

 

 

 

 

 

 

 その恐怖の斬撃が俺一人目がけて襲いかかるのだ。俺が如何に綱渡りをしているか推して知るべし。回避に専念するのはしょうがない、しょうがないのだ…。

 

 

 

 

 

 

 

「どうした!逃げてばかりでは勝てないぞゼロ君!それで魔王を倒すつもりか!」

 

 

 

 

「勝手なこと言わないでもらえます⁉︎それより手加減!手加減プリーズ!これ死にますって!」

 

 

 

 

 

「それでも私の子供たちに勝った男かね!あまりに不甲斐ないと私が魔王を倒してしまうぞ!」

 

 

 

 

「ぐっ…!」

 

 

 

 

 

 

 むしろ出来るんならなんで今までやらなかったのか。

 人類的に言えばさっさとやれという話だが、それは俺に一番効く煽りだ。

 

 

 横薙ぎに振るわれる大剣を地面スレスレに伏せて躱し、伸び上がりながら腕辺りを狙って突き上げる。しかしもうその時には次の一撃を振っているのだ。おかしいだろ。あの大剣をどうしたらそんな回転で扱えるのだ。

 

 動きを中断して一旦大きくバックジャンプして距離をとり、構える。とりあえず剣が届かない場所で一息つきたかったのだ。

 それを見て取った国王が言う。

 

 

 

 

 

「さて…ゼロ君。私はなにも君に怪我をさせたいわけでもないし、本気で闘いたいわけでもない。」

 

 

 

 

 ウソつけ絶対殺す気だゾ。

 

 

 

 

「なので、この一撃を躱すか防ぐかすれば君の勝ちにしようと思う。気張るといい。」

 

 

 

 

 

 

 

 国王が剣を両手で握り、右に思い切り体を捻る。そしてミシ…ミシ…という音が聞こえそうなほど…いや、実際に聞こえる。力を込め始めた。

 

 なるほど。

 あれを躱すか防げば俺の勝ち…素晴らしいサービス精神だ。恐怖で涙が出るね。

 

 この場にいなければわからないだろうが、俺と国王は30メートルは離れているのだ。

 その相手が筋肉を膨張させるのが目で見て分かるこの圧迫感。多分冗談でも何でもなくアレが掠っただけで命が危ういだろう。

 

 

 

 

 

 防ぐのは無理だ。ならば全力で避ける。いつもやってることだ。

 

 全身から力を抜く。そして剣を垂れ下げ、久しぶりに『スイッチ』を切り替える。時間が引き延ばされ、自分の体が重くなる。

 動体視力が上がる代わりに動きは遅くなるこの『スイッチ』。自覚したのは村で鍛えていた時だ。

 

 

 よく漫画とかで「動きが止まって見えるぞ」って強キャラ感出すセリフがある。

 …それが止まって見えるなら日常はさぞ生きにくいだろう。常々心の中でツッコミを入れていたが、同じ立場になって分かった。

 

 アレは集中した時にだけ起こる現象なのだ。そう結論付けた俺は自分の中に『スイッチ』をイメージして、切り替えることで体感時間を引き延ばすことができるようになった。

 

 体感時間が延びると、周りの空気が質量を持ったかのように重くなり結果的に動きが遅くなるが、それなりに便利なものである。

 

 

 

 

 国王が一歩踏み出す。

 足元が爆発し、真っ直ぐにこちらへ飛んでくる。対して俺は剣を垂らしたまま微動すらしない。

 

 大剣が届く距離になって初めて国王に困惑が浮かぶ。「なぜ避けない⁉︎」とでも言いたげな顔だ。しかし止めるわけにもいかないだろう、その鉄の塊を全身を使って横に振るう。砂塵を巻き上げて俺に迫る『死』。

 そこでようやく俺が動く。

 

 ーー剣をほんの少し上に投げる。

 

 国王が更に目を開く。ここで武器を手放す意味がわからないのだろう。

 

 

 投げた高さは10センチ程度。普段なら投げたとも言えない距離だが、この引き延ばされた時間の中ではかなり滞空しているように見える。

 

 

 大剣はもうすぐそこまで来ているが、俺にはしっかりと見えている。

 

 ーー大剣の腹に手を乗せる。こちらを斬るために振るのだから当然腹は上を向いている。他の剣では無理だが、これだけの大剣ならーー

 

 そのまま剣の上を転がる(・・・)。その途中で上に投げたデュランダルを手に取り、着地。

 砂塵吹き荒れる中、国王の喉に向かって腕を伸ばす。こっちは加減などする余裕はない。怪我をさせてしまうかもしれない…。

 

 

 

 だがそれは杞憂に終わった。

 

 国王はあろうことかデュランダルを歯で挟み込み、首を捻って俺の突きを回避したのだ。

 

 驚愕する俺に凄まじい衝撃が襲いかかる。感触からして大剣ではないが、背骨から嫌な音がした。もしかしたら折れたかもしれない。

 

 

 意識が遠のく。これはまたエリスコースだな…、そんなことを思いながら瞼を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 ※

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

「…あの、大丈夫ですか?」

 

 

 

 

 いつもの場所でいつもの通りエリスが座っている。

 しかし、俺は答えられなかった。

 

 

 ーーー悔しい。

 

 

 国王の基準では勝ったことになっているが、そんなことは関係無い。

 実力で勝てなかったことが、あれだけ歴然とした差があることが悔しくてたまらない。

 

 

 

 

 

「だーうー…。勝てないなぁ…。」

 

 

 

 

「それは…仕方ないと思いますよ。彼は歴代の王族でも類を見ないくらい強いですから…。」

 

 

 

 

「…俺が国王に勝ったらエリスがなんかしてくれるなら勝てる気がする。」

 

 

 

 

「…?えっと、例えばどんなことですか?」

 

 

 

 

 

 …そう言われると考えてなかったな。

 

 

 

 

 

「チューとか?」

 

 

 

「はぇ⁉︎」

 

 

 

 

 

 もちろん冗談だ。俺にそんな勇気は無いし、乗ってこられても困るが、こうしてふざけてないと泣きそうなのだ。

 エリスの表情の変化を楽しんで帰してもらおう。

 

 エリスはしばらくうんうん唸っていたが何か思い付いたようにこちらを見た。

 

 

 

 

「さすがにち、チュー?とかはダメですけどーーーー」

 

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

 

「ーーーーーこれならどうですか?いつか彼に勝った時にでも。」

 

 

 

 

 ーーーーーー。

 

 

 

 

「・・・エリス、今すぐ俺を帰せるか?」

 

 

 

 

「え?できますけど…?」

 

 

 

 

「今からリベンジしてくる。起こしてくれ。」

 

 

 

 

「え⁉︎だ、ダメですよ!起きるのはできますけど、ここにいるってことはかなりの怪我を負ったんですよ⁉︎すぐに闘うなんて…!さっき万全の状態で負けたばかりじゃないですか!」

 

 

 

 

「大丈夫大丈夫。今なら無茶すれば勝てる気がするから。」

 

 

 

 

「だから無茶はしないでくださいって…ああ!もう!」

 

 

 

 

 

 俺の意思が変わらないと悟ったのか、エリスはしょうがないとばかりにーーー

 

 

 

「『筋力増加』!『速度増加』!『体力増加』!『防御増加』!『知覚強化』!」

 

 

 

 

 矢継ぎ早に…これは…支援魔法…?たまにクレアと共にアイリスの世話係をしているレインが使っているーーーそれをかけてきた。

 

 

 

 

 

 

「どうせやるなら勝ってきて下さい。あなたは同じ条件で勝負したいかもしれませんが、今度同じものを受けたら本当に死んでしまいますよ。」

 

 

 

 

「いや、確かに自分の力だけで勝ちたいのはあるけど…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは今更だ。

 元々特典(チート)を持っているわけだし、俺が振るう力はほとんどが初めてエリスに会った時にエリスから貰ったものだ。あの会話が無ければここまで来ることは出来なかった。

 この魔法もありがたくもらおう。

 

 

 

 

 

 

 

「さあ、目が覚めますよ!頑張って行ってきて下さい!ーーー『祝福を』‼︎」

 

 

 

 

 

 

 

 最後の魔法はおそらく幸運を引き上げるものだろう。幸運の女神による『祝福』。人間が同じ魔法を使うよりもはるかに効果は高いだろう。

 

 

 ありがたい。俺の運が悪いことなどとっくに分かっている。自慢ではないが旅に出てから人との出会いにしか恵まれていないからな。その最たるものがエリスと出会えたことだ。

 

 

 

 

 

 

「ああ!行ってきます!」

 

 

 

 

 

 ※

 

 

 

「あ!ゼロ様が起きましたよ!」

 

 

 

 

 目を開くとアイリスの声が聞こえる。

 どうやら看病…と言っていいかはわからないが看てくれていたらしい。

 

 

 

 

 

 

「まったく!お父様は少し反省して下さい!」

 

 

 

 

「そうですよ、ゼロじゃなかったら普通に死んでましたよ、あれ。」

 

 

 

 

「う…む…。す、すまない…。」

 

 

 

 

 

 これは珍しい光景だな、一国の王が王子と王女に叱られている。普通なら一生見ることはないだろう。いつか誰かに自慢したいものだ。

 

 

 

 

 

 

「いや…すまなかったね、ゼロ君。君が思いの外強いものだからつい熱中してしまった。しかし私が提示した条件をクリアしたのだ。素晴らしいよ、君の勝ちだ。」

 

 

 

 

 

 手を差し出しながら俺を褒めてくる。

 素直に嬉しい。だが残念、俺が本当に欲しいのはそんな上辺だけの賞賛ではない。

 

 

 握手のために差し出された手を無視して国王に喧嘩を吹っ掛ける。

 

 

 

 

 

「そのことなんですが…今からもう一度俺と勝負してもらえませんか。」

 

 

 

 

 

 

 手を引っ込めながら俺を見据える国王。何か思案する素振りを見せたが、快く了承してくれた。

 

 

 

 

 

 

 ※

 

 

 

 闘技場。中央で向かい合う俺と国王。

 

 

 勝利条件はどちらかがどちらかに一撃を入れることーーーこれは俺が提案した。さっきのままだと勝ったとは言えないからな。

 

 

 国王はあの時と同じ構えで既に力を溜めている。もしかしたらアレが国王の一番得意な技なのかもしれない。勝手に『フィールドクラッシャー』と名付けさせてもらおう。

 

 

 

 

 ーーー俺は今まで試していなかったことがある。

 

 この場で言えば、ジャティスも国王も持っている、俺の知る漫画やアニメの世界でも大抵誰でも持ち、使っている華々しい『必殺技』を俺は一度も考えたことがない。

 

 漫画のキャラクターの技を再現しようと思えば、まあ出来るのだろう。むしろ一部俺の方が強く、速く撃てるかもしれない。

 

 

 だが、それには()がこもっていないのだ。当然だろう、あいつらが使う技はあいつら自身がそれこそ身を削って生み出したあいつらのための技なのだ。

 

 それをいくら強さが上とはいえ、猿真似にすぎない俺が使って良いわけがない。

 

 ならば、俺の『必殺技』とはなんなのか。

 これは俺の持論でしかないが、『必殺技』とは一番繰り返し、自身が最も得意とする技に与えられる名称ではないのか。

 

 誰しも、最初に必殺を思い描く。それを目指して修練していく中で、そいつが『これだけは他の誰にも負けない』程に積み重ねて自分に合わせて変化させたものだけが『必殺技』と呼べると思うのだ。

 

 その考えでいくと俺が最も積み重ね、世界で一番とは言わない、同じ年数だけ生きた人間には決して負けないくらいに繰り返した動作ーーー。

 

 

 

 

 剣を正眼に構え、脚は前後に肩幅より少し広めに。そのまま大上段に振りかぶり、そのまま振り下ろす単純な動き。

 

 向こうの世界でいう剣道の素振りに似ているが、細部は違うだろう。

 

 これ(・・)だ。これが俺の必殺…誰にも、誰よりも繰り返した俺の技だ。

 

 

 一体俺の他に誰が朝日が昇り、夜日が落ちるまで…それを10年以上延々とこの動作を続けたというのか。

 他の動きや振り方に手を出してもこれだけは欠かしたことがない。これが俺の基本動作ーーー『必殺技』だ。

 

 

 だが、哀しいことにこんなものは戦場で役に立つことなどない。

 当然だ。脚を止めてこんな綺麗な形で剣を振ることなど戦闘時において出来るわけがないのだ。

 

 

 この『必殺技』が役立つのはそれこそ今のように一撃必倒の試合ぐらいなものだ。今後使う機会が訪れるかどうかーーー。

 

 

 

 

 

 国王の足が沈み込み、もういつでも飛んできそうだ。

 俺の方は気負うことなどない。いつも通りに、いつものように剣を振りかぶる。力を抜き、来るべき時に備える。

 

 

 直後に国王の足元が爆ぜ、地面に蜘蛛の巣状に亀裂が入る。完全にあの時と同じようにこちらへ振られる大剣。もう目の前だ。

 

 

 

 

 

 ーーー今‼︎

 

 

 

 

 全身に瞬時に力を入れる。

 支援魔法で強化された力が爆発的に膨れ上がり、たった一つの動作をすることだけに注力される。

 

 

 狙うのは王そのものではない。

 振るわれる大剣。確かにその大剣は国王が振るに値する名剣と呼ぶにふさわしい。

 

 だが俺のデュランダルは神から授かった神器だ。人が打った剣が『不壊剣』との衝突に耐えられるものかーーー‼︎

 

 

 

 全身の力が解き放たれる直前に思う。そういえば俺はこの技の名前を考えるのを忘れていた。

 

 と言っても元がただの素振りだ。そんな大層なものは付けたくない。かといって呼び名無しは…。

 

 

 …ダメだ。思いつかない。イタくなく、カッコ悪くも無い名前は存外に難しい。

 

 

 

 まあ、後から考えるとして、とりあえずはこう呼ぼう。

 

 一太刀であらゆるものを切り裂く。どんなものをも真っ二つにする。そんな願いを込めて…。

 

 

 

 

 

 

「『一刀両断』‼︎」

 

 

 

 

 

 直後に人が打った名剣と神が授けた神剣が激突する。

 何かが折れる音がした。

 

 

 そしてーーーーー。

 

 

 

 

 

 

 ※

 

 

 

 

「王都に寄った時はいつでも遊びに来てくれよ。」

 

 

 

「そんなに王都に来ることはねえだろうけどな。」

 

 

 

 

 翌日、正門の前でジャティスの見送りを受ける。

 アイリスは俺が帰ることになって寂しそうにしながら部屋に閉じこもってしまった。

 それくらいには懐いてくれていたようで嬉しい限りだ。

 

 

 国王は「しばらく山に籠る」とか言って姿をくらませてしまったそうだ。何やってんだ。冨樫も国王も仕事しろ、マジで。

 

 

 

 

「いや、折角の出発なのに見送りが僕だけでホント申し訳ないね…。」

 

 

 

 

「まあいいさ。アイリスによろしく言っといてくれよ。国王様は一発殴っておけ。」

 

 

 

 

「き、君じゃないんだからそんなこと出来ないよ…。」

 

 

 

 

 顔を引攣らせながらジャティスが言うが残念、俺だってそんなことは出来ないし、絶対やりたくない。

 

 

 

 

「それじゃ、もう行くわ。ありがとうな。」

 

 

 

 

「僕こそ。君のおかげで前よりずっと強くなれた。また来た時にでも勝負しよう。」

 

 

 

 

 

 ジャティスと握手して三ヶ月過ごした王城を離れる。

 

 アイリスの部屋がある辺りをふと見ると、アイリスがこちらへ手を振っているのが見えた。隣にはクレアとレインもいるようだ。手を振り返して王都の正門へ向かう。

 クレアとはあいつから突っかかって来たからある程度話したが、レインとはあまり会話できなかったな。今度来たらもう少し仲良くしたいものだ。

 

 

 

 街を歩いていると見知った衛兵が敬礼をしてくる。いらないってのに。

 今度は一緒に戦ったことのある冒険者が話しかけてくる。今からアクセルに向かうことを告げると、『サキュバスネスト』という店を紹介された。何の店かは教えてくれなかったが、行けば分かるそうだ。楽しみにしておこう。

 

 

 

 正門に着いた。

 王都からアクセルへ行く手続きをして、衛兵に別れを言う。また敬礼されたが、何で俺に敬礼するのか。王子でも貴族でも無いんだぞ?意味分からん。

 

 

 

 

 王都を出てしばらく歩いた後に振り返ってみる。滞在中に何度も思ったが、やはりデカい。周囲をグルっと城壁が囲んでいるため、魔王軍も容易く攻められまい。

 

 

 

 

 

 再びアクセル方向へ歩き始める。

 色々なことがあったが、やっと冒険者になれる。それがとても楽しみだ。

 

 

 それ以上に今度エリスに会う時を楽しみにしながらゆっくり歩いてゆく。

 

 

 

 



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三章このすば前日譚
21話




再投稿。






 

 

 ※

 

 

「どちらからいらっしゃったんですか?」

 

「王都から来ました。冒険者登録をして、しばらくアクセルで活動する予定です。あ、これ一応紹介状です。」

 

 

「ああ、はい。結構ですよ。お通り下さい。」

 

 

「ありがとうございます。」

 

 

 

 門番に滞在する理由を説明して通してもらう。

 アクセルの街並みを眺める。石畳みの路を馬車や通行人がのんびりと歩いていた。

 

 先に王都を見てしまうとどうしても基準が偏ってしまいがちだが、これでも普段より賑わっているそうだ。

 

 

 

(次は何をしようか…?やはり最初に冒険者登録を…いや、もう少し後でいいや。)

 

 

 

 早速登録しようとも思ったが、俺は先に面倒ごとを片付けてしまうことにした。

 

 途中で人に道を聞きながら路地を歩く。

 大通りから少し外れたところにその店はあった。

 

 

『ウィズ魔道具店』。ここで間違いなさそうだ。

 バニルからの伝言を伝えるために来たのだが、朝も早いというのにもう開店しているらしい。感心なことだ。

 

 

 

「ごめんくださーい!」

 

 

 

 扉を開けながら大きめの声を出す。すると奥から

 

 

 

「い、いらっしゃいませー!」

 

 

 

 と、若干上擦った声とともに髪の長い女性が顔を出す。歳は20代くらいか。穏やかな顔付きの優しそうな人だ。そして目を引くのは服の上からでもわかる胸元の膨らみ。

 ふむ、でかいな。ベルディア辺りが喜びそうだ。

 

 

 

「あ、あの…お客様…ですか…?本当に…?」

 

 

 

 変なことを言うもんだ。店に来る人間は大抵客だろう。俺は残念ながら違うが。

 

 

 

「あ…すみません、その、滅多に人が来ないもので…。そうですか、お客さんじゃないんですね…。」

 

 

 

 どうやら客足が思わしくないらしい。見てて可哀想なほどにしょんぼりする女性。

 悪いことをしたかもしれないが、実際に客として来たのではないのだ。

 

 

 

「あなたがウィズさんでよろしいですか?」

 

 

「あ、はい。私がウィズですけど…?」

 

 

 

「バニルという名に聞き覚えは?」

 

 

 

 バニルの名が出た途端にあからさまに警戒の色を強めるウィズ。

 

 

 

「…あなたは誰ですか?どこでバニルさんと知り合いに?」

 

 

「ああ、いえ、違うんですよ。バニルから伝言を頼まれましてね。詳しい期日は分からないんですけど近いうちにここに来るそうですよ。」

 

 

「え⁉︎バニルさんがアクセルに⁉︎」

 

 

 

 なるほど、迂闊だったな。

 

 魔王軍の幹部と知り合いの自分の元へ全く知らない人間がいきなり訪ねて来たら警戒しない方がおかしい。

 

 しかし、弁明とともにバニルからの伝言を伝えると、そちらに意識を割いてしまったようだ。

 俺が言うのもなんだが、もう少し気を付けた方が良いのではないだろうか。

 

 

 

「俺はゼロといいます。バニルとは、王都で会いましてね。あいつが魔王軍の幹部だって事も知ってるので安心して下さい。」

 

 

「あ、そうなんですね。ゼロ…さん?わざわざありがとうございます。あの…ということは私の事もバニルさんから聞いてます…?」

 

 

 

 少し不安げに聞いてくるウィズ。

 何かやましいことでもあるのか?…そういえばウィズはバニルとどういう知り合いなのか。

 

 悪魔関係か魔王関係か…もちろん何の関係も無いかもしれないが、一応カマをかけておくことにした。

 

 

 

「ええ、聞いてますよ。俺は人間ですけどあなた達が人に迷惑をかけない限り害そうとは思わないので平気です。

 もちろんあなたの仲間が迷惑をかけるなら倒しますけどね。ほら、そういう方、そちらにいらっしゃるじゃないですか。」

 

 

「はい…そうですね。私は大丈夫ですけど、ハンスさんやシルビアさんなんかは一般の方も傷付けてしまうので…。

 私が目の届くところなら一応注意くらいはするんですけどね。」

 

 

 

 ちょっろ。

 

 よくもまあ初対面の人間に内情をペラペラ喋れるもんだ。逆に感心するわ。

 

 だがビンゴだ。ウィズは魔王軍の関係者…しかも幹部であるシルビアに注意できる程の立場にいる。幹部か、それ以上だな。とてもそうは見えないが。

 しかし、シルビアはもう俺が倒したのだ。その事を知らないってのは…あまり魔王軍側に詳しくないのか?

 ハンスとやらは聞いた事が無いが、シルビアと並んで名前が出たからには幹部クラスだろう。

 

 あまり根掘り葉堀り聞くと警戒されてしまう。この辺にしておきたいが、最後にウィズ自身について質問する。

 

 

 

「ウィズさんが幹部だってことは知ってますけど、どんな能力を持っているのか、バニルは直接聞けと言って教えてくれなかったんですよ。よければ教えてもらえますか?」

 

 

「あ、私はリッチーなんですよ。一応最上位のアンデッドですから、色々出来ますよ?」

 

 

 

 なんとこの危機管理能力をどこかに捨ててきたとしか思えないウィズはリッチーだという。

 

 リッチーは不老不死で、特有の能力をいくつも持っている。通称『不死王』と呼ばれ、今では世界に数人しかいないとお袋から教わった。

 

 戦えば苦戦どころか普通に死ねるだろう。ウィズが人間と敵対していないのは僥倖だな。

 

 

 

「なんで魔王軍の幹部になんかなったんです?リッチーだなんて言わなければバレやしませんし、普通に人間社会で暮らせてるじゃないですか。」

 

 

「それがですね…。昔…あ、私冒険者をやっていたんですけど、魔王城に攻め込んだことがあって、その時に魔王さんに泣き付かれちゃったんですよ。

 悪いことしたかなーって思って、魔王城に張ってある結界の管理だけ受け持ったんですね。その他は何もしなくていいと言われましたので、中立を保ってる感じです。言わばなんちゃって幹部ですね。」

 

 

 

 どうやら冒険者だった頃もかなり強かったらしい。

 まさか単独で魔王軍のど真ん中を突っ切れるほど強いとは…。

 

 

 

「あ!せっかくなので、お茶でも淹れましょうか?よろしかったら品物も見ていってください!良い商品を入荷したんですよ!」

 

 

「ふむ、じゃあお願いしましょうか。」

 

 

 

 それほどの実力者がどんな物を取り扱っているのか興味もあるしな。

 

 淹れてもらったお茶を飲みながら目に付いた商品について聞いてみる。

 

 

 

「このビンはなんですか?なんか緑色の液体が入ってますけど。」

 

 

「それは普通のポーションですね。飲むと疲労回復と、傷の治りが早くなりますよ。」

 

 

 

 そんな便利なものがあったとは知らなかった。後で買おうかな。

 というかポーションってまんまかよ。

 

 

 

「こっちは…色が赤い…?これも飲むんですか?」

 

 

「あ、それは蓋を開けると爆発しますよ。気を付けてください。」

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

 そっと手に持ったビンを棚に戻す。

 

 …え?それ何に使うの?

 いや!…きっと俺が知らない用途があるのだろう。そうに違いない。

 

 

 

「…こっちは?色は赤いですけど、ビンが違いますね。」

 

 

「それは飲めますよ。ポーションの一種ですね。」

 

 

「へえ!色からして…筋力が上がるとか?」

 

 

「いえ、飲むと爆発します。」

 

 

「何に使うんだよ!」

 

 

 

 我慢出来なかった。

 

 蓋を開けると爆発するのはまだいい。投げれば手榴弾として使えるかもしれない。

 飲むと爆発ってなんやねん。マイナスの要素しか見つからんわ。

 

 まさか他の物もこの調子なのだろうか。役に立ちそうなのがただのポーションしかないぞ?

 

 この店が流行らない理由がわかってしまった。ウィズは一体何を思ってこんなモノを仕入れているのか。

 何か心に病を患っているなら力になってやりたい。

 

 

 

「…こっちの赤いのはなんだ?これも飲んだり開けたりしたら爆発するのか?」

 

 

「いえ、違いますよ。それは強い衝撃を与えると爆発するので落とさないでくださいね。」

 

 

「…結局爆発するのか…。…ん?」

 

 

 

 衝撃を与えると爆発?逆に言うと他の方法では爆発しない…?

 

 

 

「え?そうですね…。…はい。それは衝撃を与えなければ何をしても爆発しませんよ。」

 

 

 

 ーーーーー。

 

 …これは使えるかもしれない。

 いや、他のはゴミも同然だが。なんだ、普通にマシなのもあるじゃないか。

 とはいえ俺以外にはまず売れないだろう。俺は偶然活用方法を思い付いただけだしな。

 

 

 

「これを全部くれ。あと、普通のポーションを10個程。」

 

 

「え⁉︎あ、はい!ありがとうございます!」

 

 

 

 驚きつつも商品を袋に詰めるウィズ。

 

 幸いにも俺は王都で衛兵の訓練を時々見てやったり、ジャティスが前線に出ている間に攻めてきた魔王軍を撃退したりといった報酬を貰っているので少し割高なポーションを買った程度ではビクともしないくらいには金を持っている。

 

 あれだな。実はこの店、はじまりの街で出してるから流行らないのであって、他の街ならそれなりに客が来るのかもしれないな。

 

 

 

 ※

 

 

 

「よし、じゃあ冒険者ギルドに行くかな。またさっきのポーション、入荷しといてくれ。たまに来るかもしれない。」

 

 

「本当ですか⁉︎あ、ありがとうございます!今後もご贔屓にーーー」

 

 

 

 来た時は朝も早かったのに気付いたら外は昼下がりだ。

 

 商品を包んだ袋をウィズから受け取ろうとしたその時ーーーーー。

 

 

 ーーー唐突に世界が変わった気がした。

 

 

 

 

「「‼︎」」

 

 

 

 俺とウィズが同時に全く同じ方向へ弾かれたように顔を向ける。

 

 と、言っても俺はなんか変な感じがするな〜程度の認識だったのだが、ウィズに至ってはこの世の終わりが来た時のように怯えた表情で俺が来た方向ーーーアクセルの入り口を見つめている。

 

 それと、俺には今の気配に既視感があった。

 

 

(…エリス…?)

 

 

 目を細めながら思案する。

 なんとなくしかわからないが、エリスの雰囲気に似ている気がしたのだ。

 

 

 

「…今の、分かったか?」

 

 

「…はい。何かとてつもなく神聖で強力な気配がこの街に降りました。それこそ世界を丸ごと変革させるような何かが。これは…神気…?」

 

 

 

 凄いな。そんなことまで分かるのか。

 普段とは違うしっかりとした受け答えにこれがどれだけ緊迫した状況なのか伝わってくる。

 

 それよりも今、聞き捨てならない単語が出たぞ。

 神気…それは読んで字のごとく、神や女神(エリス)が放つものなのだろう。

 

 

 

「…少し様子を見てくる。その袋、預かっててくれ。また取りに戻る。」

 

 

「え、あ!き、気を付けてくださいね!」

 

 

 

 返事を聞く前に走り出す。

 周りに影響を与えない程度のスピードで元来た道を逆走して、ものの数分でそれらしきモノを見つけた。

 

 全体的に青い色彩で身を固めた少女と、緑色のような、奇妙な服装をした少女と同年代の少年。俺よりは少し若いか。

 

 なにやら少女が喚き散らしながら少年に縋り付いている。どうやら違和感はあの青い少女から出ているようだ。

 

 つーかいい年頃の女が何やってんだ。もうちょっと慎みを持てよ。なんかアイツ見てると腹立つな…。あ、今緑色の少年が振り払った。ついでに殴っていいぞ。

 

 

 少年の着ている服も変な感じだ。俺は見たことが無いはずなのに、似た服を着たことがあるような無いような。

 

 

 ひとしきり騒いだあと、どこかへ向かおうとしたようだが、場所がわからないらしい。

 

 少し迷った。

 俺もアクセルに着いたばかりであまり詳しくは無いのだ。だが、どうにもあの2人は気になる。役に立つかわからないが、声を掛けておくことにしよう。

 報酬には期待出来ないが、放っておくのもよくないしな。

 

 

 

 

「すみません、何かお困りでしょうか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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22話



再投稿。






 

 

 ※

 

 

 

「お前、女神なんだろ?ギルドがどこにあるのかわかんないのか?」

 

 

「そんな事聞かれても知らないわよ。基本的な知識はあるけど、たくさんある異世界の中の小さな街の施設なんていちいち知る訳ないでしょ?」

 

 

 

 コイツ、一発ぐらいぶん殴っても許されるんじゃないだろうか。

 

 せっかく異世界に転生したというのに、特典として連れてきたこの女神は使えないし(自業自得なのは置いておく)、早くもダメダメな気配がするが、俺は生まれ変わるのだ。

 

 この世界で魔王を討伐して元の世界に帰るという目標があるのだから!

 

 

 そのためにはまずはギルドの場所だな。そう考えながら道行く人に声をかけようとした時、男の声が聞こえてきた。

 

 

 

「すみません、何かお困りでしょうか?」

 

 

 

 見ると、腰に剣を下げ、黒と赤のリバーシブルのマントを身に付けたイケメンがそこに居た。

 

 髪は燃えるような赤、地毛なのだろうか。さすが異世界。目付きは多少悪いが、紛う事なきイケメンだ。

 

 

 

(ちっ!イケメンかよ。こういうのは美少女ってのがお約束だろうが!)

 

 

 

 ただイケメンというだけで拒否反応が起きそうになるが、せっかく声を掛けてくれたのだ。好意に甘えてギルドへの道を教えて貰おう。転生したばかりでわざわざ波風を立てることも無いしな。

 

 

 

「あ、はい。この街には来たばかりで何も分からなくて。とりあえず冒険者になりたいのでギルドへの道を教えてください。」

 

 

 

 ※

 

 

 

 なんか声掛けた途端すげえ顔で睨まれたんだが。初対面で失礼なクソガキだなおい。

 

 とはいえ、困っていたのは確かなようだし、ギルドへは俺も行きたかったところだ。

 ウィズの店に置いてきた荷物は…まあそれを済ませてからでいいか。

 

 

 

「いいですよ。ちょうど俺も冒険者登録をしに行く途中だったので一緒に行きましょうか。俺はゼロです。よろしく。」

 

 

「えっ。あ、はい、佐藤和真です。よろしく…。」

 

 

 

 なぜかまた顔を顰める芋虫少年もといサトウカズマ。ぶっ飛ばすぞ。

 

 険悪になりかけた俺に今まで空気と化していた少女が急に声をかけてきた。

 

 

 

「ねえ、その剣って『不壊剣』デュランダルでしょ?もしかしてあなたも転生者なの?なんか見覚えないんですけど。」

 

 

「「は?」」

 

 

 

 俺とサトウカズマの声がハモる。

 

 …待て、なんでこいつがそんな事を知ってんだ。まさかこいつ、いや、こいつらも転生者なのか…?

 

 …ダメだな。さすがに怪しすぎる。嘘はつかずに様子見してみるか。

 

 

 

「いえ、この剣は俺の親父が持っていたものでしてね。親父が死ぬ時に所有権を譲ってもらったんです。確かにそのような銘が付いてますが…転生者、とは?」

 

 

「……んん?」

 

 

「バッカ、お前…!」

 

 

「痛ったーい⁉︎何すんのよヒキニート!あんた女神に向かって暴力とかバチ当たりも大概にしなさいよ!」

 

 

「ヒキニート言うな!いきなりそんな意味不明な事言ったら怪しまれるだろうが!少しは考えろこのクソアマ!」

 

 

 

 青い少女は俺の話を聞いて首を捻って何かを思い出そうとしたみたいだが、サトウカズマの脳天チョップにより思考が中断されたようだ。そのまま掴み合いの喧嘩を始める。仲がよろしいようで何よりだ。

 

 

 怪しまれるというが、お前らは少し自身を省みるがいい。もはや俺の中のお前らは怪しさMAXなど通り越して、ギルドだと嘘をいって衛兵所に案内するまである。

 

 

 というか今この女、女神とか言わなかったか?

 

 

 

「…往来で騒ぐのもいいけど、君たちの事はなんて呼べばいい?俺はただのゼロで構わないけど。」

 

 

「あ、俺はカズマでいいです。」

 

 

「私のことはアクアって呼んで。」

 

 

 

 ※

 

 

 危うく剣を抜きかけた。自制した俺は褒められてもいいんじゃないかね。

 

 

 アクアぁ?それは忌まわしくも俺の転生に失敗しやがったクソ女神の名ではなかったか。それだけでは飽き足らず、謝罪や仕事をエリスに押し付けてアニメを視聴するとかいう魔王軍よりも優先されるべき駆除対象だ。害虫に他ならない。

 

 

 さすがに本人ではないだろうが、同名で自称女神……?

 

 

 

「カズマに、アクア…。ちなみになんですが、アクシズ教の御神体、女神アクアと何か関係があるんですか?」

 

 

「本人よ‼︎」

 

 

「って言ってますけどただ頭が弱いだけなんでお気になさらずー!」

 

 

「なんですって!カズマあんた、仮にも女神に頭が弱いってどういうことよ‼︎」

 

 

「お前自分で仮にもとか言ってんじゃねーか!」

 

 

 

 ほう…?

 

 

 …まあそういうことにしておいてやろう。カズマの苦しい言い訳にも一応の説得力はある。

 

 それにまだ(・・)騒ぎを起こすのは早い。ここでキレても良い事など俺の気が晴れるってことしかない。

 

 

 あと見逃す理由は…………ああ、こいつが失敗しなけりゃエリスとも出会えなかったのか。

 おお、コレはでかいな。なんとか折り合いはつけられそうだ。

 

 

 まあそもそも前の『俺』なんて俺は知らんけどね。俺が一番怒ってんのは果たすべき責任もエリスに押し付けてエリスに先輩面して偉ぶってることに関してだ。

 

 転生失敗は今の俺には正直どうでもいい。

 

 

 んむ、そう考えたらスッキリしてきたな。

 以前…王都に逗留する前の俺なら多分殺ってたと思う。

 

 

 人の気持ちなどちょっとしたきっかけで変わるもんだ。荒れてた奴がたった一つのアニメによって丸くなることもあるのだ。CLANNADは人生。

 

 

 

「ほら、あれがギルドの建物だ。騒ぐのもいいけど、衛兵に捕まっても俺は知らんぞ。」

 

 

 

 敬語を使うのもめんどくさくなった俺が遂に殴り合いをし出した二人を諌めつつギルドを指差す。

 こいつらはアレだな、喧嘩するほど仲が良いを体現してんな。

 

 未だにいがみあう二人を尻目に、扉を開けて中に入った。

 

 

 ※

 

 

 

「ようこそ、冒険者ギルドへ。本日はどういったご用件ですか?」

 

 

「冒険者登録をしたいんです。えっと、この三人。」

 

 

「はい、承りました。登録料は一人千エリスです。」

 

 

 

 千エリスね。登録の手続きをしてもらうために俺が財布を取り出すと、後ろから何やら不穏な会話が聞こえてくる。

 

 

 

「おいアクア、お前金って持ってる?」

 

 

「あんな状況で連れてこられて持ってるわけないでしょ?」

 

 

 

 こいつらマジかよ。何しに来たんだ。きょうび運転免許だって発行するのにウン十万かかるだろうに一文無しでどうやって登録するつもりだったのか。

 

 というか今更だがなぜ女神がこんなところにいるのか。あんな状況ってどんな状況だよ。

 

 俺が尽きぬ疑問と格闘しているとアクアがなにを思ったか俺にしなだれかかってきた。

 

 気持ちわりいから離れてくんねーかな。手が滑るかもしれん。

 

 

 

「ねえ、ゼロさん?初めて会った時から思ってたんだけど、あなたってすっごくその、かっこいいわよね!」

 

 

 

 こいつまさか俺にたかるつもりか。

 なんてこった、生まれて初めてカツアゲに遭遇してしまった。新鮮な体験をさせてもらったお礼をしなくては。

 

 

 

「おいカズマ、これ、千エリス。貸してやるからさっさと登録してきな。」

 

 

「お、マジで?いいのか?」

 

 

 

 俺がカズマ(飼い主)に千エリスをやると、アクア(ペット)がこちらに両手を揃えてなにか欲しそうに向けてきた。

 

 …何だ?ペットの分際でお捻りが欲しいってか。しょうがねぇなあ。

 

 

 心優しい俺はその手に一エリス硬貨を乗せてやる。いやあ、親切って気持ちいいね!

 

 

 

「なんでよ‼︎」

 

 

 

 このペットは何が不満なのか。せっかくお小遣いをやったのだ。さっさと外に消えて道端の草でも食ってろ。

 

 

 

「あ、あの、ゼロさん?なんでそんなに怒ってるの?私なにかした…?」

 

 

「いやあ?別に?ただオレ、オマエ、キライ。」

 

 

 

 なにかしたかと聞かれりゃそりゃされたよ。二、三発殴っても俺は許される(断言)

 

 いや、実際こいつが余計なことしなければ普通に貸してやったかもしれん。アクアのしたことが癇に障ったからこうしているだけで。

 

 

 

「…う…うわああああああ‼︎ガ、ガズマ!ゼロが、ゼロがあああああ‼︎」

 

 

 

 メンタルよっわ。

 

 俺のキライ宣言が響いたのかアクアが泣き始めた。うるさいことこの上ないが…その、なんだ。こう泣かれるとちっと悪いことした気分になるな。

 

 

 子どものように泣き喚くアクアをカズマに任せてため息をつきながら迷惑そうにする受付嬢に三千エリスを渡した。

 

 

 

「あの、すみません。これ、あの二人の分もお願いします。」

 

 

 

このままだと登録手続きも一向に進まないしな。

 

 

 心の中で言い訳をする。

 俺はなんだかんだ一度知り合った人間にはあまりキツく当たれないのかもしれない。

 

 

 

 



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23話



再投稿。





 

 

 ※

 

 

 まだぐずるアクアに謝りながら受付嬢から冒険者という職業についての説明を受ける。

 とはいえ、俺はその辺は抜かりないし、この説明が必要なのはこの二人だろう。カズマは良いとして、アクアはちゃんと理解出来るだろうか。少し、ほんの少しだけ心配だ。

 

 

 

「ーーーというわけで生き物を倒したり、食べたりすればその魂の記憶の一部を吸収してレベルアップします。レベルアップすればステータスが上がったり、スキルを覚えるためのスキルポイントを貰えたりするので、レベルアップ目指して頑張って下さい。」

 

 

 

 お袋から大体聞いてたけど改めてゲームまんまだな。もしかしてこの世界ゲームの中なんじゃないの?

 

 しかしさすがはこの道のプロ。説明はかなり分かり易かった。これならこのバカ(アクア)でもーーー

 

 

 

「すかー」

 

 

 

 俺はもう知らん。

 

 

 泣き疲れたのか、熟睡するアクア。カズマがゴミを見る目で見て、頭にゲンコツを振り下ろしてまた泣かせていた。

 こいつは泣いているアクア(子ども)を見て可哀想とか思わないんだろうか。それとも俺が優し過ぎるだけか?

 

 

 説明してくれた受付嬢ーーー名札にルナって書いてあるな。ルナもどう反応すればいいか困っている。あんまり人に迷惑かけんなよ…。

 

 

 

「え、ええ…それではこのカードに必要事項を記入して、触れてみて下さい。それであなた方のステータスが分かります。ステータスに応じてなりたい職業を選んで下さいね。」

 

 

 

 気をとりなおして冒険者カードの作成を進めるルナ。最初にカズマがカードに触れる。

 

 

 

「はい、ええと…サトウカズマさん。あなたは…筋力、生命力、魔力に器用度に、敏捷性…。これらは普通ですが、知力が少し高い…かな。

 

 あれ、幸運は凄いですよ⁉︎こんなに高いのは久しぶりに見ました!…まあ冒険者って幸運は関係ないですけど…。

 

 …どうします?これだと基本職の『冒険者』にしかなれませんが…。」

 

 

 

 これはひどい。

 

 冒険者を勧める立場の人間がこれほど人のやる気を削いで良いのか。見るがいい。期待に満ちた表情だったカズマの目が死んだ魚のようになっている。

 もっと褒めるとかあるだろう。幸運が高いなど、エリスと相性が良さそうで羨ましい限りだ。

 

 

 結局カズマは『冒険者』になった。いや、他になれる職業が無かったのだが。しかもなぜか商売人を勧められていた。カズマの顔が見るに耐えない。

 

 

 次は寝ていたアクアだ。腐っても女神なのだ、それなりにステータスは高いのだろう。……知力以外は。

 

 

 

「はああ⁉︎知力が平均以下なのと幸運が一桁なの以外は全ステータスが凄く高いですよ⁉︎ま、魔力なんかこんなに高いのは初めて見ました!」

 

 

 

 ほぼ俺の予想通り、かなりの高ステータスらしい。知力だけじゃなく運まで低いのか…。

 

 しかしルナの声が大きすぎるために周りがざわめき始めた。ますますカズマが不憫だ。

 

 

 アクアは魔力が高いのに知力が低いため、魔法使いにはなれなかった。代わりに支援職のアークプリーストになったようだ。

 

 さて、最後は俺か…。

 柄にもなく少し緊張しながらカードに触れた。

 

 

 

「はい、ありがとうございます。ゼロさんですね…。…………?」

 

 

 

 な、何だ?凄い微妙な顔でこっちを見てくるんだが。何かマズいことでもあったのか?

 

 

 

「…あの、他に冒険者カードをお持ちの方は新しく作ることは出来ないのでお手持ちのカードを登録することになります。」

 

 

「は?」

 

 

 

 いやいやいやいや、待ってくれよ。冒険者カードなんか持ってないって。作るのはこれが初めてだって。なぜそんなあらぬ疑いがかけられるのだ。

 

 

 

「いや、冒険者カードを持ってない人の初期レベルがこんなに高い訳ないでしょう。というかこんなに高いのは直に見たのは初めてなんですが、一体どこで活動を?」

 

 

 

 呆れた感じでルナがカードを見せてくる。レベルは68と表記されて…………68⁉︎

 

 そんなバカな。確かにモンスターは倒してきたが冒険者カードなんて持ったことなど…………ふむ?

 

 

 

「あの、ちょっと聞きたいんですが、冒険者登録する前、つまり素の状態でモンスターを倒すと経験値とかレベルってどうなるんですか?」

 

 

「え?それは確か…魂の記憶を受け継ぐ訳ですから、蓄積されるはずですよ。それでカードを作った時にーーーー…えっ…まさかとは思いますが…?」

 

 

 

 残念ながらそのまさかだろう。というかそれしかこの不自然な程に高いレベルに説明がつかない。

 

 

 

「ちょっと失礼……はぁ⁉︎なん、なんですかこの討伐数⁉︎冒険者登録前に二千体近くモンスターを倒したっていうんですか⁉︎素の実力で⁉︎」

 

 

「まあ…そうなりますね。」

 

 

 

 実際そのくらいは倒しただろう。なお、半数以上オークの模様。オーク強かったもんなぁ…。

 

 まだ疑いが晴れないのか、ルナが訝しげに視線を送ってくるが、事実は覆せないのだ。

 

 

 

「はあ…。俄かには信じられないですが…、まあいいでしょう。えっと、ステータスは………ふっ。」

 

 

「今何で笑ったんですか。」

 

 

 

 こいつも大概失礼だな。

 ここまで俺はレベルしか自分のカードを見ていないぞ。開示することを請求する。

 

 

 

「ああ、すみません。こんなに潔いステータスは初めて見たので…。なんですかこの馬鹿げた筋力と生命力と敏捷性は…。一つ一つの桁がおかしいんですけど…。平均なのは器用度だけで、残りは最低クラスですし…。

 まあこれなら近接職なら何だって上級職につけますよ。ああ、魔力が必要な職は諦めて下さい。

 

 はあ…、何で今日に限ってこんな変なのばっかり…。」

 

 

 

 途中から投げやりだし最後のは俺に聞こえるように言ってね?

 

 プロの根性はどうしたのだ。たとえその通りだとしても多少は隠せよ。

 

 

 ふむ、しかし職業…職業ね…。

 

 

 

「……では『冒険者』で。」

 

 

「はいはい、『冒険者』です………うん?

 あの…す、すみません。聞き逃しました。もう一度…。」

 

 

「『冒険者』でお願いします。」

 

 

「何で⁉︎正気ですか⁉︎上級職になれるのにわざわざ『冒険者』ぁ⁉︎」

 

 

 

 そこまで驚くことかね。アンタ、カズマにさっき言ってたじゃん。『冒険者』はどんなスキルも覚えられて便利だって。

 

 

 

「た、確かに言いましたけど!あれはその、詭弁と言いますか、何と言いますか…。」

 

 

 

 それにカズマが気の毒ではないか。連れ歩いた二人ともが上級職など、どれだけ肩身が狭くなるか想像するのは易い。アクアは空気を読まなかったが、せめて俺だけは合わせてやらんとな。

 

 

 そう言った途端に腐っていたカズマがバッ!とこちらを向いて感動したように目を潤ませた。

 

 

 

「ゼ、ゼロ…!お前いいやつだったんだな…!いけすかないイケメンクソ野郎とか思っててすまん!」

 

 

「お前そんなこと思ってたの⁉︎」

 

 

 

 台無しだよ!俺が読んだ空気を返せ!

 どうりで初対面から妙に睨んでくると思ったよ!

 

 

 

「…まあ本人が納得するならそれでいいですが…、あの、職業補正とかも無いに等しいですよ?本当に良いんですか?」

 

 

 

 くどい。俺が良いって言ってんだろ。俺は職業補正なんて欲しいと思ったことは無いし、それに後から転職も出来るんだろ?何でもいいから早くしてくれ。

 

 

 俺が急かすとようやくカードを俺に渡してくれた。

 これでやっと冒険者か…。感慨深いな。

 

 

 

「それで?カズマたちはどうするんだ?」

 

 

「んー…、今日は宿を取って早めに寝るよ。なんか疲れたしな。」

 

 

「ねえカズマ、今日のごはん何食べようか?」

 

 

 

 疲れたってのは分からんでも無いな。まあ明日から頑張ると良いさ。縁があったら組んだりもするだろ。

 

 

 

「じゃあな、二人とも。せっかく冒険者になったんだから早々に死ぬなよ。」

 

 

「「あれっ。」」

 

 

 

 あん?何だ?俺は早くウィズのところに荷物を取りに行きたいんだが。

 

 

 

「えっと、ゼロは一緒に来ないの?てっきりパーティー組む流れだと思ってたんですけど。」

 

 

「はあ?何で?」

 

 

 

 お前らはお前らで頑張れよ。

 

 別に嫌ってんじゃねえけどまずは自分の戦闘スタイルを決めてから本格的に冒険するべきだ。俺に頼ってもらっても困る。

 

 

 

「おいやめろアクア。…今日はありがとな。千エリス、そのうち返すから。」

 

 

「おう。どうしても無理ってなったら手ぇ貸してやらんでもないぞ。じゃあな。」

 

 

 

 カズマはそこらへんを分かってんな。まあただ遠慮しただけかもしれんが。

 日本人はこういう時に深く突っ込まないのだ。外人のガンガン来る感じホント合わない。

 

 

 

 

 ※

 

 

 

 

 二人と別れた後、ウィズの店でウィズに「特に何もなかった」事を伝える。

 

 ウィズは不思議がっていたが…うん…女神が現界してたとか言っても嘘にしか聞こえないからね。

 

 またお茶をご馳走してくれると言うのでご相伴に預かることにした。ついでにスキルの確認もしたかったしね。

 スキルポイントを確認すると、68と表記されている。どうやらレベルが1上昇する度にポイントが1ずつ加算されていくようだ。

 

 

 

「今までに他の冒険者の方にスキルを見せてもらっていれば習得可能スキルの欄に記載されているはずです。それだけポイントがあれば私が知る中で一番ポイントを使う爆裂魔法以外ならなんだって覚えられますよ。」

 

 

「爆裂魔法…。」

 

 

 

 冒険者の先輩であるウィズに教えてもらいながら確認していく。俺のレベルを見てウィズも驚いていたが、モンスターの討伐数を聞いて納得したようだ。

 ーーーその討伐数を表示する欄のシルビアの名前を見た時、ウィズは少し悲しそうにしただけだった。

 

 

 それにしても爆裂魔法か。めぐみんがえらい推してくるから頭に焼き付いちまったな。

 

 ちなみに爆裂魔法を習得するのに必要なポイントは75。これは『冒険者』が必要とするポイントであって、魔法使い職ならもっと少なく済む。『冒険者』はどのスキルも習得出来る代わりに必要ポイントが跳ね上がるのだ。

 

 俺の習得可能スキル欄は王都にいた時に冒険者と関わったおかげでかなりの数埋まっている。良いものはないかと下へスクロールしていくと、最後に一際目に付くスキルがあった。

 

『一刀両断』・・・68

 

 

 

「…なあにこれ。」

 

 

 

『一刀両断』とはつい先日俺が仮に名付けた技の名前だが…?というか必要ポイントが爆裂魔法と似たり寄ったりなんじゃが。

 

 

 

「なあ、このスキルがどんなスキルか知ってるか?」

 

 

「えっと、どれですか?………いえ、こんなスキルは初めて見ました。ポイントは…ええ⁉︎68⁉︎」

 

 

 

 ウィズでも分からないらしい。必要ポイントが今の俺のポイントぴったりというのも気になる話だ。

 

 

 

「…ゼロさん。このスキルを覚えるのはお勧め出来ません。何に使うかも分からない、しかも爆裂魔法と必要ポイントがさして変わらないなんて…。汎用性があるなら良いのですが、もし使えないスキルだったら後悔することに………」

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

 当然だろう。ウィズの言うことは一言一句その通りだ。他に習得したいスキルが出てきた時にいざポイントがありませんではお話にもならない。

 

 しかし…妙に気になる。

 

 

 悩んだ末に俺は保留にすることにした。今すぐスキルが必要というわけではない。冒険者として活動していく中で使いたいスキルを覚えればいいのだ。

 

 

 ウィズに礼を言って店を出る。外はもう暗くなっているな。宿を探さなければならない。この街の宿は…、王都でもそうだったが、冒険者のために長期契約が出来るアパートみたいなシステムになっているのだ。

 

 

 やっと冒険者になれたことに微妙に胸を弾ませながら夜のアクセルを歩く。そのうちに紹介してもらった『サキュバスネスト』とやらにも行ってみたいものだ。

 

 

 

 

 



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24話



再投稿。






 

 

 

 

 

 冒険者登録をした翌日、少し遅めの時間に再びギルドを訪れる。とりあえずはクエストを一つ受けてみようと思ったからだ。

 

 ギルド内を見回してみてもアクアとカズマはいない。もうクエストに行ったのか、感心感心。

 

 そのまま横に視界を移していくと…、

 

 

 

「んん?」

 

 

 

 どこかで見たような服装。全体的に黒と赤を基調とした中二力の高い装いをして、(ワンド)を机に置き、ぽつんと一人で食事をしている女の子。おそらく紅魔族だ。

 

 

 うーん?なんか見たことがあるような…?

 いや、そりゃ紅魔の里にいたんだから見たことあってもおかしくないが…。

 

 ……………ああ!

 

 

 

「おい、そこの紅魔族!お前、ゆんゆんだろ?」

 

 

「ひゃいっ!あ?その、ど、しょ、かっ!」

 

 

 

 なんだって?

 

 何語だ。一体いつから紅魔の里は違う言語を使うようになったんだ。

 

 

 ゆんゆんは激しくどもっていたがようやく落ち着いたようだ。

 

 こいつはゆんゆん。会話したことはないが、俺がめぐみんとこめっこの野生動物二匹に餌をやっている時に遠くから構って欲しそうにめぐみんを見ていたから覚えている。

 

 

 

『おい、あれお前の友達だろ?一緒じゃなくていいのかよ。』

 

 

『…?ああ、アレはいいのです。構って欲しければこっちに来ればいいのに、行動に移さないあの子がわるいんですよ。』

 

 

 

 めぐみんがなんともドライな発言をしていた事も思い出した。世の中にはそれが出来ない子も居るんですよ、めぐみんさん。

 俺も多分遠慮して出来ない。

 

 名前だけは聞いておいた。紅魔族の族長の娘で、ゆんゆんだ。

 

 

 

「あ、あの…どちらさまで、しょうか…?な、何でわたしの名前…?」

 

 

「覚えてないか。ほら、数ヶ月前に紅魔の里でめぐみんとこめっこにーーー。」

 

 

「ーーーーーああ!あの時の!」

 

 

 

 

 どうやら思い出してもらえたようだ。これで不審者扱いはされずに済むな。

 

 それよりもなぜ一人でいるのだろう。めぐみんと一緒ではないのか。

 

 

 

「あ…めぐみんは先に二人組の冒険者とクエストを受けちゃいまして…。」

 

 

 

 一応めぐみんと一緒にアクセルに来たようだが、めぐみんはさっさとパーティーを組んで行ってしまったそうだ。相変わらずひでぇ扱いしやがる。めぐみん入れて三人ならもう一人くらい連れて行ってやりゃいいのに。

 

 

 

「あ!あの!もし、よ、よよよよかったら…一緒にク、クエスト…………。」

 

 

「ああ、じゃあとりあえず行ってみるか。」

 

 

 

 言葉の最後が消え入りそうどころか完全に消えていたが多分そんな内容のことを言ったのだろう。

 

 俺が返事すると本当に嬉しそうにコクコク頷く。パーティーを組むつもりは無かったが、このまま日がな一日一人で座っていそうな少女を放っておけなかった。

 

 それにしてもこいつは友達になろうとか言ったらどこまでもついて行きそうだな。悪いやつに引っかからんことを祈る。

 

 

 

 ※

 

 

 

『クエスト:ローリングボアを10頭討伐せよ』

 

 

 クエストを受けて森に来たはいいが、全然標的が見つからない。ゆんゆんによると生息域はこの辺りのはずだが…?

 

 

 ローリングボアは文字通り転がって体当たりしてくる猪のような生き物だ。鉱物を主食にしているため、体が岩石のように変質しており、その体当たりは民家を粉々にするのだとか。

 

 なぜ鉱物を主食にするのに森に住んでいるのだろうか。それこそ鉱山に住めばさして苦労せずに鉱石を食えるだろうに。あれか、わざと自分に試練を課しているのか。気が合いそうだな。

 

 

 

「見つかりませんね…。もも、もし場所を間違えてたらごめんなさい‼︎」

 

 

「気にすんな。そもそも俺はローリングボアなんて初めて聞いたしな。お前の知識あてにして文句言うのは筋違いだ。」

 

 

 

 しかしマジで姿も形も見えねえんだけど、本当に場所が…?

 

 …ふむ、鉱石…………。

 

 

 

 

「…なあ、もしかしてそいつら地中にいたりしない?普通鉱石って森にはあんまり無いだろ。あったとしてもそれは地中にあるんじゃねーの?」

 

 

「え?……あっ、確かに!で、でもどうしましょう…?」

 

 

 

 そう、それが問題だ。

 

 地中にいたとして、どうやって引き摺り出す?俺は無論そんなことは出来ない。習得可能スキル欄にはそれらしきスキルもちらほらあるけど、そもそも魔力がゼロに等しい俺では大して効果はないだろう。

 

 ゆんゆんに聞いても地面を丸ごと掘り出すような魔法や強い衝撃を与えるスキルは無いときた。まさか手で掘るわけにもいくまい。

 

 これは………詰んだか?

 

 

 記念すべき初クエストが失敗するのは業腹だが向き不向きってもんもある。大人しく他のパーティーに任せるのも手段の一つーーーーー

 

 

 

 突然轟音が響き渡る。

 

 と、同時に割と近い場所で何かが爆裂(・・)したかのようにこちらへ爆風が向かってくるのが見えた。咄嗟にゆんゆんをマントで包んで庇う。フレイムドラゴンの素材から作った火竜のマントだ。爆風などはかなり遮断してくれる。腕の中が色々柔らかいが緊急時だ。勘弁してもらおう。

 

 

 しばらくすると、なんとか爆風は収まった。周囲の木は折れていないにしても片面が焼き焦がされている。相当の熱量だったようだ。

 

 ゆんゆんを解放しながら音がした方を見ると、キノコ雲のように咲いた爆炎の華が少しずつ消えていくところだった。

 

 

 

「…んだありゃ…。」

 

 

「あ…、あれって…。」

 

 

 

 どうやらゆんゆんには心あたりがあるようだ。

 

 

 

「えっと、あれは多分めぐみんの爆裂魔法…です…。」

 

 

「あれが爆裂魔法か!」

 

 

 

 なるほど、聞きしに勝るとんでもない威力だ。こっちの世界にミサイルでも持ち込んだバカがいるのかと思った。

 

 めぐみんの話が本当なら今頃魔力切れでぶっ倒れているはずだが大丈夫だろうか。

 

 あれほどの威力をぶつけなきゃいけない相手と対峙しているならもし魔法を外してしまった後はかなり悲惨な事態になるぞ。

 …やっぱり使えないんじゃないか?爆裂魔法。

 

 

 ふと、そこら中からボコボコと音がし始めた。見ると岩の塊が次々と地面から盛り上がり、土を振り払うように体を揺すっている。

 

 

 

「おい、こいつらがそうか?」

 

 

「え?あ!はい!これがローリングボアですよ!」

 

 

 

 どうやら爆風と爆音に驚いて地中から上がってきたようだ。めぐみんも中々やるじゃないか!

 これで数が10頭いれば後は倒すだけだ。

 

 ゆんゆんが出てきたローリングボアの数を数え始める。

 

 

 

「えーと、数は…ひい、ふう、みいーーー」

 

 

 

 

 ボコ、ボコ、ボコ、ボコ。

 

 

 

 

「…十一、十二、十三ーーー」

 

 

 

 

 ボコ、ボコ、ボコ、ボコ。

 

 

 

 

「…三十、三十一…?た、たくさん…。」

 

 

 

 

 ボコ、ボコ、ボコ、ボコ。

 

 

 

 

「「ちょっ⁉︎多い多い多い多い‼︎」」

 

 

 

 なんということをしてくれたのでしょう。

 

 

 数が三十を超えた辺りでゆんゆんは数えるのを放棄したが、まだまだ出てくる。

 

 ローリングボア…転がる猪と聞くとポケ◯ンのドンファンを連想するが…いや、あれは象だったか?…まあいい。こいつらの見た目はどちらかというとゴローンに似ているな。

 ローリングボアは、今の音は俺たちのせいだと思ったのか怒り心頭といったご様子だ。一斉に吼えると凄まじい勢いで木々をなぎ倒しながらこちらへ転がってくる。すごく…固そうです…。

 

 

 

「おいやべえってこれ!早よ逃げろ!」

 

 

「もおおおお!めぐみんのばかああああ‼︎」

 

 

 

 俺が聞いた中で一番の大声だ。普段もそれのカケラほどでもいいからはっきり話してくれ。

 

 



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25話



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 ※

 

 

 ローリングボアの大群に追われて森を爆走する俺とゆんゆん。正直俺は普通に逃げ切れるが、ゆんゆんが問題である。

 

 そもそもこのゴローンどもの速度が人間よりもずっと速いのだ。今ゆんゆんが逃げる体裁を保てているのは後ろから追いついてくるローリングボアを俺が並走しながら斬り捨てたり蹴飛ばしたりしているからだ。おう、サッカーしようぜ!お前ボールな!(直球)

 

 …そろそろ足の甲が痛いです。

 

 

 それにいかんせん数が多い。

 一体に対応すれば違う方向からゆんゆんに突進してしまうのでさっきからわりと本気で動く必要がある。広い場所ならそれほど苦労しないだろうが、木が多すぎる。直行しようと思っても急激なストップ&ゴーを繰り返さざるを得ない。

 これはこれでいい鍛錬になるから俺はしばらくやってもいいが、さすがにゆんゆんがバテてしまうだろう。このままではジリ貧だ。

 

 また追いついてきた猪を両断する。こいつら、硬いことは硬いのだが元は肉から変質したものだからか、一度刃が通ると結構すんなり斬れるな。

 

 飛び散る血やら岩の破片やらを避けていると、視界にひらけた平地が映った。森で障害物に邪魔されながら走るより広いところで殲滅した方がいいかもしれない。

 

 

 

「ゆんゆん!左!あそこでやるぞ!」

 

 

「は、はひいいいっ…。」

 

 

 

 大分疲弊しているが…無理もない。こんな岩の塊が自分にあからさまな敵意を持って押し潰そうとしてくるのは常人には相当のプレッシャーだろうしな。

 

 

 

「なるべく中央に行け!足止めは何とかしてやるからとにかく魔法で片っ端から吹っ飛ばせ!」

 

 

「ハァ、ハァ、ハァ…っよ、よし、『ライト・オブ・セイバー』!」

 

 

 

 平地の真ん中に陣取ると同時に振り向き、魔法を放つ。光る刃がローリングボアを三体まとめて真っ二つにした。

 

 すごいな。さすがにジャティスの『エクステリオン』よりはかなり弱いが、俺が飛ばす斬撃とは段違いだ。俺のは所詮かまいたちでしかない。硬いものには弾かれてしまうのだ。

 

 

 

「やるじゃねぇか!お前はそっから動くなよ!なるべく遠くにいるやつに魔法をばら撒け!近づくやつは俺がやる!」

 

 

「は、はい!『ライト・オブ・セイバー』!『ライト・オブ・セイバー』!」

 

 

 

 

 ゆんゆんがなるべく近寄る前に広範囲を斬り飛ばし、すり抜けてきたやつを俺が斬る。

 おお、なんかチームプレーって感じがするな。

 

 既にクエストの10頭討伐は完了しているのでゆんゆんを担いでさっさとアクセルに逃げ帰ってもいいのだが、こいつらが人に危害を加えないとも限らない。なるべくここで全滅が望ましいだろう。

 

 

 

 ※

 

 

 

「お疲れさん。すごかったぞ。」

 

 

 

 別に競ってはいないが、ローリングボアの討伐数なら5−2でゆんゆんの勝ちだろう。俺は取りこぼしを倒してただけだしな。

 ゆんゆんと俺のカードを合計すると、ローリングボアは73体もいたようだ。オーバーキルにも程がある。あまり多く倒すと生態系が壊れるとかでギルドから怒られるんだよなぁ…。

 

 あ、オークはギルドからすら優先駆除対象になっていますです。ざまあ。

 

 

 

「い、いえ…、ゼロさんがこっちに来ないようにしてくれたから…。やっぱり近接職の人がいると違いますね…。」

 

 

「俺も本物の魔法使いの戦いが見られて良かったよ。そんじゃ、後はギルドに報告してーーー」

 

 

 

 ズン。ズン。

 

 

 

 

「…?どうしたんです?ゼロさん。」

 

 

「ゆんゆん、残業発生。向こう見てみ。」

 

 

「えっ…?え⁉︎な、なななにあれ…⁉︎あれもローリングボア…⁉︎」

 

 

 

 俺の中のどこかが残業とかいうパワーワードに猛烈な拒否反応を起こしているが、それどころではない。

 

 なんかキラキラしたのが出てきた。

 

 見た目、というか形はさっきまでの岩塊と同じだ。注目するのはその色彩。様々な色のクリスタルやあれは…マナタイトにフレアタイトもあるのか。ついでにKBTITも含んでそうだ。含んでたまるか。

 

 とにかく、七色に光り輝く色違いの登場だ。見ただけで分かった。これ、多分剣通らんわ。

 

 雰囲気がモンハンでよく道を塞いでいる黒い大岩に似ている。初心者はあれを壊そうとして武器の切れ味を奪われるまでがワンセット。

 

 しかもあの量のクリスタルーーーーー

 

 

 

「ちょっと魔法撃ってみて。あの斬るやつ以外で。」

 

 

「はい!『ライトニング』!」

 

 

 

 打てば響く返事と共にゆんゆんが白い雷光を放つ。察するに、俺が以前受けた『カースド・ライトニング』の下位互換だろう魔法は文字通り雷速でローリングボア亜種に命中しーーー綺麗にゆんゆんに跳ね返ってきた。

 

 剣をゆんゆんの前に出して雷を受け止めてやる。剣の柄をマントで包まないと感電していたかもしれない。

 

 

 

「そ…、そんな…!ふ、『ファイアボール』!『フリーズガスト』!『ライト・オブ・セイバー』!」

 

 

 

 次々とゆんゆんが魔法を放つが全て反射される。ショックなのはわかるけど対応するのは俺なのでもうちょい手加減して…。

 

 ゆんゆんに跳ね返る魔法をデュランダルで防御してそのまま斬りかかる。が、命中すると同時にやはり跳ね返される。いや、俺の場合弾かれた。魔法も物理も効かないとは厄介な。

 

 心なしかローリングボアの目が自慢気に「ッエーイ☆」って言ってる気がした。気がしただけだ。ただ間違いなくこいつはロリコンだろう。ムカついたのでその眼を潰すことにした。

 

 

 

「魔法も剣も効かない…、ど、どうしましょう⁉︎」

 

 

「落ち着け。落ち着いて素数でも数えてろ。」

 

 

 

「…すみません、素数ってなんです…?」

 

 

 

 

 無視して走り出す。対策は今思い付いた。動きが遅い今ならやれる!

 

 俺の心を読んだわけでもあるまいにその瞬間に高速回転して地面を削りながら向かってくる仮名:クリスタルボア。

 

デスヨネー。お前も転がるんだよねー。

 

 

 

(『スイッチ』‼︎)

 

 

 

 スローモーションの世界で確かにそれ(・・)を捉える…が、動きが遅くなった俺では狙って剣を突き出しても高速で移動する点には間に合わない。

 

 

 

「ヘイ!なんか相手の動きを止めたり遅くしたりする魔法ない⁉︎」

 

 

「やってみます!『ボトムレス・スワンプ』!」

 

 

 

 いい返事だ。

 魔法が発動した直後にクリスタルボアの進行方向の一定範囲がグズグズの泥沼と化した。そこにハマり、目に見えてスピードが落ちる。これならいけそうだ。

 

 

 

「そこっ!」

 

 

 

 思いっきり突き出した剣がクリスタルボアの眼球に命中、奥まで到達する。硬っ。なんで眼まで硬いんだ。感触が普通のローリングボアと同程度だったぞ。

 

 思いの外硬かったせいでトドメには至らなかった。その水晶の体を振り回して俺を追い払うクリスタルボア。剣をそのままにして離脱、受け身を取りながら大声を出す。

 

 

 

「ゆんゆん、『雷』ぃ!」

 

 

 

 俺の意図が伝わったとは思えない。さっき魔法を自分に反射されたことを忘れたわけでもないだろう。それでもゆんゆんは即座に応じてくれた。

 

 

 

「『ライトニング』‼︎」

 

 

 

 この世界で通常の物理法則が仕事するかはわからない。もし反射されてもいざとなれば俺の体を盾にして庇うつもりだったが、問題なかったようだ。

 

 ゆんゆんの放つ雷光はクリスタルに当たるーーー直前に軌道を変え、デュランダルに吸い込まれる。クリスタルボアの全身がビクリと震え…ゆっくりと倒れる。

 

 魔法を弾く体を持ってるなら体内に直接撃ち込めばいいのだ。

 

 

 しかし今日のMVPは間違いなくゆんゆんだな。俺と別れた後も他の奴とパーティーを組んでもらえるようにギルドに推薦しておこう。

 

 

 

 ※

 

 

 

「今日はありがとうございました。」

 

 

「ああ。こちらこそ。」

 

 

 

 クエスト達成の手続きはゆんゆんがやってくれるそうだ。今日はこのまま一緒に食事をして解散しようということになった。

 

 それにしても俺は明日からもお願いしますとか言われると思っていたからすんなり解散するのは意外だったな。

 

 

 

「えっと…いえ、組んで欲しいのはその通りなんですけど…、私ゼロさんの足を引っ張ってたじゃないですか。」

 

 

 

 何を言うかと思えば。

 そんなことはない。良い感じに連携もとれていたじゃないか。

 

 

 

「でもすごく動きにくそうでしたよ?私にずっと合わせて手加減…というか私に多く倒させて経験値をくれようとしてませんでしたか?」

 

 

 

「……バレてたのか。」

 

 

 

 

 驚いたな、あの状況でそんなところに気が回ったのか。

 

 まあその通りだ。実際ゆんゆんを気にかけなければあいつらが出てきた時に瞬殺している。パーティーを組んだからには仲間にも経験値を積ませてやらんといかんからなるべくゆんゆんに倒して欲しかったのだ。

 それに俺一人なら躱せる攻撃も他の奴が反応できるかわからない。あのままだとゆんゆんが危ないから最初は逃げ一択だったんだしな。

 

 そもそも俺の戦闘スタイルがパーティーに向いていない。ジャティスやアイリスクラスなら形にはなるだろうが、音速で動く俺に合わせられる人間など限られるからだ。

 

 ずっと一人でやってきた弊害ってやつだな。それでも誘われれば断るつもりは無いし、合わせるのも吝かじゃない。

 

 

「バレバレでしたよ。ありがとうございます。でもずっと守られるわけにもいきませんし…。

 私も…が、頑張って強くなります。それで…、ゼロさんに合わせられるようになったら…また組んでくれますか…?」

 

 

「ああ、もちろんだよ。」

 

 

 

 そんなことしなくてもたまになら組んでもいいさ。魔法が便利だってのも再確認したし。

 

 

 

 

 ※

 

 

 

「私はクエストの報酬を貰ってきますね!」とゆんゆんは受付に行ってしまった。

 

 そろそろ夕食時だ。他の冒険者も帰ってくるだろうし早めに席を取っておきたい。

 

 

 ギルドの酒場を見回していると、見たことのある少女が机に突っ伏しているのを発見した。

 

 先ほどギルドのカウンターに向かった少女と同じ黒と赤のローブ。大きな帽子をかぶっているせいで顔は見えないが、間違えようもない。こちらには気付いていないようだ。

 

 口元が綻ぶのを自覚しながら音を立てないように背後に立ちーーー首根っこを掴んで持ち上げた。

 

 

 

 

「うわっ⁉︎何するんですか!やめろお!いたいけな少女に乱暴するとはどういうーーーーーゼロ?」

 

 

「よう、久しぶりだなクソガキ。」

 

 

「クソガ…!じょ、女性に対してなんて口をきくんですかあなたは‼︎」

 

 

 

 

 後にアクセルで『頭のおかしい紅魔の娘』『爆裂狂』などなどの悪名を轟かせることになる野生動物その一との再会だった。

 

 

 

 



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26話



再投稿。






 

 

 

 ※

 

 

「それで?お前は爆裂魔法撃って魔力切れってわけか。一発屋乙。」

 

 

 

 目の前の男が失礼なことを言ってくる。もうちょっと疲れた女の子に優しくするということが出来ないのだろうか。

 私が抗議しようと口を開いた瞬間にお腹が鳴る。

 

 魔法は使うとお腹が減る。特に私の愛する爆裂魔法は貧乏な私に対する当て付けかのように燃費が悪い。これさえ無ければ文句なんてないのだが…。

 

 ゼロがギルドのテーブルに備え付けられたメニューを差し出してくる。何のつもりだろうか。

 

 

 

「あ?腹減ってんだろ?遠慮すんなよ。ここじゃあ「腹減ったから何か狩ってくる」が無いから助かるよなぁ。」

 

 

「そういうことを言ったのではありません。なぜライバルに施しを受けなければならないのですか。」

 

 

「ライバルぅ?」

 

 

 

 なんてムカつく顔をするのだこの男は。

 

 魔力切れでなければ掴みかかってやるのに。…どうせあしらわれるのだけれど。

 

 

 

「ハハハ、いや違う違う。お前がそんな風に思ってたとは知らなかったもんでついな。」

 

 

「そんなに私がライバルでは不満ですか!」

 

 

「不満っつーかそんなこと思ったこともねぇな。あれだ、俺にとってお前は扶養家族みたいなもんだから。」

 

 

 

 

 こ…、この男は…。

 

 駄目だ、怒りすぎて空腹に耐えられない。

 渋々メニューを開く。お腹が膨れたらどうしてやろうか。

 

 

 

「お、素直なのは良いことだ。お父さん嬉しいぞ。」

 

 

「誰がお父さんですか。」

 

 

「私だ。」

 

 

「あなただったんですか…。」

 

 

「暇を持て余した紅魔族の遊びってか。」

 

 

「…?」

 

 

 

 まただ。ゼロは紅魔の里にいた時からよくわからないことを言っていた。

 

 本当に意味がわからないし、どう反応すればいいのか困るのでやめて欲しい。

 

 

 

「そういや今日はお前の魔法のせいで酷い目にあったぞ。…ま、無かったらクエスト失敗してたかもだが。」

 

 

「どういうことですか?」

 

 

 

 詳しく聞くと、なるほど、悪いことをしたかもしれない。が、同時にローリングボアを引っ張り出したのも私なのでプラスマイナスゼロくらいだろう。謝らないことにした。

 

 それよりも気になることがある。

 

 

 

「あ…、あの、ゼロは私の魔法、見たんですよね?」

 

 

「おう。つっても最後の名残だけな。」

 

 

「ど…、どう、でした…?」

 

 

 

 らしくもなく声が震えてしまう。

 

 ゼロにはいつか爆裂魔法を見せると約束していたけれど、実際に見てどう思ったのか。

 里では産廃だの使えないだの……組むことは無い、なんて……好き放題言ってくれたが…。

 

 ゼロは私の様子を変に思ったようだが、それには言及せずに目を優しげに細めて質問に答える。

 

 

 

「ーーーああ、素直に凄えと思ったよ。あんな威力、直接見るのは初めてだ。お前が薦めてくるのも分かる気がした。」

 

 

「そ、そうでしょーーー」

 

 

「ただそれと別にして、お前はこの先どうやって冒険者やっていくつもりだ?」

 

 

 

「ーーーっ!」

 

 

 

 

 一瞬で浮き足立った心に氷水がかけられる。

 

 

 

「そのざまを見ろ。一発撃って終わりなんて都合のいい状況なんてそうそう無いんだぞ?当たり前だがパーティーに入れてもらわなきゃそのまま野垂れ死にだ。」

 

 

 

 

 そんなことは分かっている。だからアクセルに来て仲間を見つけようとーーー。

 

 

 

「お前は今日、二人組とクエストを受けたそうだが、そいつらはどうした。」

 

 

 

「…っ。それは、その…。」

 

 

 

「当ててやろうか。『その威力は僕達では活かせないから、他に良いパーティーが見つかることを祈ってるよ。』…こんなとこか。」

 

 

 

 ーーー図星だった。

 

 似たようなことを言われて解散したのだ。うっすらと分かっていた。体よく追い出されたのだと。

 

 ゼロは目を細めたままだ。言葉は厳しいが、雰囲気は柔らかい。

 私はこの仕草が苦手だ。なんでも見透かされているような気分になる。

 

 

 この人は里にいた時からこうだ。掴み所がない。

 普段はよくわからないことを飄々と言って、戦うときは悪魔のような表情に。…私達を諭すような時は優しげに。ーーー本当によくわからない。

 

 

 私は返す言葉も無く、それでも目を逸らすのは負けな気がしてゼロの黒い瞳を見続ける。例えゼロに何を言われてもこれが私の全てなのだ。変えるつもりはない。

 

と、唐突にゼロがパンッと手を打ち鳴らした。

 

 

 

 

「よし、追及終わり!ここまで言っても貫ける物があるのは良いことだ!」

 

 

「………ふふっ…、なんですかそれは…。」

 

 

 

 

 少しだけ笑ってしまう。

 なんだか先生みたいだ。少なくとも里の学校の先生よりはそれっぽい。

 

 多分気を遣ってくれたのだろう。ゼロがああいうことを言うのは純粋に誰かの為を思ってのことなのだ。今回なら私のために。

 

 

 

 

「そういやお前、ゆんゆんとは組まないのか?あいつも寂しそうにしてたぞ?」

 

 

「ああ、あの子のことは………うん?」

 

 

 

 

 …なぜゼロの口からゆんゆんの名が出てくるのだろう。里で名前は教えたが、喋ったことも無いはず…。

 

 

 

 

「そりゃお前、今日あいつと組んでクエスト受けたからな。」

 

 

「何をしてるんですかあの子は‼︎」

 

 

 

 

 こんな頭のおかしい男とクエストとは正気か。いくら組む人がいないとはいえ、常時剣一本で危険生物の群れや魔王軍のど真ん中に特攻して無傷で生還する化け物と組むなんて命がいくつあっても足りないだろう。トラウマとか、大丈夫だろうか。

 

 

 

「おっと、心は硝子だぞ。…お前はもっと俺の心を心配しろよ。俺だって人並みに傷付くんだよ?

 大体、お前が一緒にいてやりゃ済む話だろ。」

 

 

 

 それは出来ない。同じ紅魔族が同じパーティーにいたら目立てないではないか。魔法使いはパーティーに一人いれば充分なのだ。

 

 

 

 

「お前ら使う魔法も性格も全然違うのに何を競ってんだよ…。まぁゆんゆんがいりゃ、大抵は何とかなっちまうしな。お前も早く信頼出来る仲間ってやつを探せよ?

 

 妹の就職先が見つからないとお兄ちゃん養わなきゃいけなくなっちゃう。あ、パーティーメンバーと恋愛なんて許しませんよ!」

 

 

 

 

 今度は兄気取りをし始めた。話題と会話がころころ変わる。老人みたいだ。

 

 …確かに私にとってのゼロを表すなら兄というのが一番近いかもしれない。今までは長女としてこめっこに接していたし、周りの子にも大人ぶることが多かったのでこういう関係は初めてだ。

 

 

 ーーー少しだけいたずらしてみようか。

 

 

 

 

「では、その時はよろしくお願いしますね?ーーお兄ちゃん?」

 

 

 

 

 …これはマズい。顔が真っ赤になるのが分かってしまう。自滅した。

 

 ぜ、ゼロはーーー?

 

 

 

 

「ぶははははははははははははははは‼︎」

 

 

 

「おい!せっかく人が恥をしのんで呼んでやったというのにどういうつもりか聞こうじゃないか‼︎」

 

 

 

 

 なんて失礼な男だ。かつて見たことが無いほどに爆笑された。

 ノリは少しおかしいが、もっとクールな男かと思っていた。この男、こんな風に笑うことがあるのか。新鮮だ。

 

 と、その笑い声を聞き付けたかゆんゆんがこちらへ小走りで向かってくるのが見えた。

 

 

 

「おい、ゆんゆん!聞いてくれよ、こいつ今俺のことーーーーー」

 

 

「やめっ………、やめろお!あの子にその話をしたら私は死ぬぞ!死にますよ!いいんですか!」

 

 

 

 

 とんでもないことを口走ろうとするゼロに体の倦怠感を無視して飛びかかる。

 

 

 私の黒歴史をゆんゆんに知られることだけは阻止しなければ。負けると分かっていてもやらなきゃいけない闘いもあるのだ。

 

 



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27話



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 ※

 

 

 めぐみんと仲良く兄妹喧嘩をした夜から一週間と少し経ったある日。俺はギルドでルナに魔王軍幹部の情報が入ったら教えてくれるように交渉していた。

 

 この一週間、ギルドからの信用を得るために一日に何回もクエストを受け、こなし続けた。その寝る間も惜しんでモンスターを斬り、様々な雑用をこなしていくさまはルナからも『もう終わったんですか⁉︎す、少し休んだらどうでしょう…?』と言われる始末だ。

 

 そのブラック活動によって今後は優先的に情報を回してもらえることになった。なんかルナの俺を見る目が頭のおかしいものを見るような感じがしたのはなんでだろう。

 

 

 現状、結界のせいで入れないというのなら、結界を消すために幹部を倒すしかないのだ。

 

 ウィズによると、結界は全部で八枚。必然、幹部も八人だが、そのうちの一人は倒したし、一人はもう結界には関与していない。

 

 今さらだけど王都でベルディアを見逃したのは痛かったよなあ。結界を知らなかったとはいえ、今後目撃されるとも限らない。なるべく会ったら即殺するのが良いか。

 

 …ウィズと戦り合うことも考えなくてはならないな。魔王との契約はリッチーと言えども破れないらしい。なんとか契約破棄させることは出来ないものか。

 ウィズが善良な性格をしているのはもう分かっている。あまり手に掛けたくはない。

 

 

 色々思考を回転させながら本日のクエスト、『増え過ぎた一撃ウサギの間引き』をするために最近悪魔が出ると噂の森へ向かう。

 

 この森は以前俺とゆんゆんが来た森なのだが、生息していたローリングボアは俺たちが八割がた殺ってしまったため、しばらくクエストは出ないとのことだ。

 

 

 一撃ウサギについて補足しておくと、見た目は可愛らしいのにその角による一撃は木を抉り飛ばし、しかも肉食であるという恐怖のモンスターだ。

 

 俺も初見の時は大変だった。愛でようとしていたら茂みからマシンガンのように連続で飛び出してきたのだ。

 なんだか殺すのは偲びなかったので飛んできたやつを片っ端から捕まえて角をへし折って全部逃がしてやった。

 角を折る最中に何匹かなぜか動かなくなったけど不可抗力でいいよね。

 

 

 

 俺が一撃ウサギ求めて徘徊していると、遥か遠くで爆音がして空気がビリビリ震える。あいつまたやりゃあがったな。

 

 最近はめぐみんとゆんゆんで行動することが多いようだが、この辺にはウサギもいないようだし、探しがてら様子を見に行くか。ほら、俺『お兄ちゃん』だし。

 

 もくもくと土煙が上がっているあたりを目指して歩き出す。そもそも森の中で爆裂魔法を撃つとかどういう神経をしているのだろう。森林破壊とかの心配はしないのか。果たしてあんな破壊願望丸出しの爆裂狂を仲間にしてくれるお人好しはいるのか。

 

 

 めぐみんの行く末を案じていると、程なくして爆心地と思しきクレーターが見えた。周辺の木は根こそぎ消しとばされている。やっぱ頭おかしいわこれ。

 

 爆裂魔法は視界の中ならどこにでも撃てるそうなのでめぐみんはここから見える範囲のどこかにいることになる。結構大変だな。

 

 

 どこにいるのかと辺りを見回していると、黒い物体が見えた。

 金属を思わせる光沢のある漆黒の肌に大きめな翼を生やした筋肉モリモリ、マッチョマンの変態…かどうかは分からない。

 見た感じは完全に悪魔という様相だが、あれが噂の悪魔なのか?

 

 その鉄丸を使った石島土門みたいな巨体がゆっくりと手を伸ばす。その手の先には倒れる二人の少女がーーーーー

 

 そこまで確認した瞬間に空気を爆ぜさせ、急行。

 めぐみんとゆんゆんを庇うように立ち、剣に手をかける。

 

 

 

「すみません。この二人は俺の連れでしてね。イタズラはご遠慮願えますか?」

 

 

「うおっ⁉︎なんだお前急に!速えな…。……あ!言っとくが何もやっちゃいねぇぞ!アホみたいな魔力を感じて来てみたらガキが倒れてるから声かけようと思っただけだ!本当だって!」

 

 

 

 ーーーどうやらただの親切だったようだ。それは悪いことをした。ちょっと頭に血が上りかけて判断力が落ちていたらしい。素直に頭を下げる。

 

 

 

「これは失礼しました。幼い少女を攫って良からぬことをするロリコンクソ野郎かと思いまして。ああ、俺はゼロと言います。以後、お見知り置きを。」

 

 

「ほんとに失礼だな⁉︎俺様の姿見たらもっと他に心配することあるだろ!

 …………ちっ…、俺様はホーストだ。事を荒立てるつもりはねえから見逃せや、人間。」

 

 

 

 言いながら身体に力を込めていくホースト。なんだ?俺が手を出すと思ってんのか?剣だってまだ抜いてないだろうに。

 

 

 

「ええ、どうぞ?何もしないなら危害は加えませんとも。それよりも何かアクセルにご用ですか?先ほどの親切のお礼にできる事ならある程度は…。」

 

 

「ん?今なんでもって…、」

 

 

「言ってねぇわ!言葉狩りはやめろクソ悪魔‼︎」

 

 

 

 

 敬語は投げ捨てるもの。

 態度を変えた俺をゲラゲラ笑いながら愉快そうにホーストが見る。

 

 

 

「お前面白いな。ゼロ、だったか、そんじゃあここら辺で真っ黒で巨大な魔獣を見なかったか?名前はウォルバク様ってんだが。」

 

 

 

 名前なんて聞いても知らんよ。

 黒い猛獣、というなら一昨日くらいに首無しにした初心者殺しと呼ばれる虎のようなモンスターが該当するが…?

 もしかしたら俺が知らぬ間に倒してしまったかもしれない。

 

 

 

「ああ、初心者殺しじゃあなくってな、なんつーかこう……もっと神聖な感じなんだよ。」

 

 

 

 益々分からん。残念だが俺じゃ力になれそうにないな。

 それにしても悪魔が神聖なものを探してるってなんだよ。お前らが一番忌み嫌うもんじゃないの?

 

 

 

「そ…、そうかぁ…。知らねえかあ…。いや、悪かったな。俺様はこの辺をしばらくウロついてるからなんかわかったら教えてくれ。」

 

 

 

 ゴツい顔をどこかしょんぼりさせながらトボトボと歩いて去っていくホースト。あの姿を他の冒険者が見たら色々とマズいのではないか、とも思ったが教えてやる程の恩でも無いので放置することにした。

 

 俺とホーストは結構な声で会話していたというのにまだ目を覚ます気配のないめぐみんとゆんゆんを頰を叩きながら起こすことにする。

 

 

 

「おい、めぐみん。起きろ、おい。」

 

 

「……う…んん…。ゼロ…?」

 

 

 

 どんだけ熟睡してんだ。一応モンスターだっているんだぞ。

 

 ようやく視界がはっきりしてきた様子のめぐみんは俺の姿を見た途端にバッ、と起き上がり自らの服を確認するように調べて身体を庇うように腕をクロスさせる。なんなんだ。

 

 

 

「ま…、まさかゼロが私達の身体を狙っていただなんて…。」

 

 

 

 ーーーーー。

 

 

 

「………はぁ⁉︎」

 

 

「ゆんゆん!早く起きてください!この変態から逃げますよ!」

 

 

 

 ブチ殺すぞこのクソガキ。

 俺があの悪魔見た時にどんだけ心配したと思ってんだ。

 お兄ちゃん悲しいわ。

 

 そうか、痴漢の冤罪とはこうして生まれるのか。絶対に許さねぇ!ドン・サウザンド‼︎

 

 そもそもお前の身体で欲情などでき………なくはないが、兄は妹にエロいことはしない(伏見つかさ先生の著作とヨスガノソラを見ながら)

 

 

 目を覚ましたゆんゆんに何やら耳元でボソボソ喋るめぐみん。ゆんゆんがこちらを見ながら後ずさる。

 

 

 

「ゼ…、ゼロさん…。信じてたのに、見損ないました!」

 

 

「早く離れますよ!ギルドにこの男の悪評を広めないと!」

 

 

 

 

 森を抜ける方向に走っていくめぐみんとゆんゆん。

 それを本当にする気なら今すぐにでも追いかけるべきなのだが、あの二人がそれをしないことを俺は分かっている。

 逃げる二人の口には笑みが浮かんでいたのを見たからな。

 

 

 

 上を向いてフーーーーーッ、と長い溜息を吐く。

 

 

 なるほど、俺がいつもからかっているから意趣返しのつもりなのだろう。だが普段俺は別に反撃を禁止していない。

 これ即ち俺も反撃をしていいということだ。

 

 大体、貴様らのような鈍足で俺から逃げようなどとは数百万年早い。

 

 俺は二人が逃げた方向を向いて誰にともなく呟いた。

 

 

 

「知らなかったのか?大魔王からは、逃げられない。」

 

 

 

 いや、俺大魔王じゃないけど。

 

 

 そして迅速に懲らしめるために動き出す。

 具体的にはめぐみん達の行く先々に瞬間移動のように先回りをして決して森から出さないように動いた。

 

 ついでに目に付いた二人の進行方向にいた一撃ウサギを危なくないように倒しておく。これぞまさに一石二鳥。

 

 夜になっても森から出さなかったら、ゆんゆんがとうとう大泣き、めぐみんは涙目になって謝ってきたので許してやった。

 

 

 

 悪いことをしたと思ったら謝る。俺は躾はしっかりするタイプなのだ。

 ……帰りに飯を奢ってやったらあらかた忘れてしまったようだが。

 

 

 

 



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28話



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 ※

 

 

 翌日、ホーストから頼まれた魔獣の情報をギルドが把握していないか聞くが、それらしきモンスターは確認していないようだ。

 

 あいつが何のためにそのウォルバクとやらを探しているのか知らんが、それなりに強そうな悪魔にアクセル近辺をウロつかれると大ごとになってしまう恐れもある。さっさと帰ってもらいたいものだ。

 

 俺は悪い事さえしなきゃ何してもらっても構わんけどさすがにギルドから要請されれば討伐に動くしかないからな。

 

 なるべく遠くへ行くクエストを受けておこう。道中でそれらしいモンスターを見かければ儲けものだ。

 

 

 

 ギルドから出てアクセルの外壁へ向かう、その途中。アクセルの外壁には今日も元気に土木工事をする人達。その中に二人並んでレンガを積み続ける見知った顔を見る。

 

 

 

「えっ?お前ら何やってんの?」

 

 

「…?ねぇちょっとカズマ。なんか知らない人が話しかけてきたんですけど。カズマの知り合い?」

 

 

「ゼロだよ!お前この世界に来た時にあんだけ世話になったってのに…、…もういい。おう、おはようゼロ。」

 

 

 

 いやおはようじゃないが。

 

 冒険者になったのに全然ギルドで見ねえな、とか思ってたらまさか二週間経たずに引退していたとは。まあこんな危険な職業辞めた方が良いってのは同感だが…。

 つーか今このクソ女神俺のこと忘れてた?また泣かせてやれば思い出すかね?

 

 

 聞けば、最初は街の近くで簡単なクエストを受けようと思ってたら、周辺のモンスターはだいたい狩られ、採集クエストは難度が高いものしかない。それでも生活するためには金が無いと話にならないのでバイトする、←今ココだそうだ。ヘタレか。

 

 

 

「気持ちは分からんでもないがせっかく冒険者になったんだろ?目標だってあるんだったら明日からで良い、頑張ってやってみろよ。何なら分け前さえ貰えりゃ手伝ってやる。友達だからな。」

 

 

 

 我ながら臭いセリフをよくもまあ言えたもんだ。見ろ、カズマが「お…、おう…。」とか言って照れてんぞ。キメェな。男が男のセリフで照れんな。

 

 微妙な空気が流れた場に駄女神がさらに追い討ちをかける。

 

 

 

「やだ、これが今流行りのBLってやつ?正直リアルで見ると引くわー。カズマもゼロ?ってひともやるんなら向こう行ってくれないかしら。ほら、お小遣いあげるから。」

 

 

 

 てめえは俺を怒らせた。

 

 アクアが積んでいたレンガの部分だけを綺麗にデュランダルの鞘でぶっ壊してやった。

 泣き喚くアクアを放置しつつ、そのうちにカズマとパーティーを組むことを約束してその場を去る。

 朝から嫌な気分になってしまった。

 

 

 

 ※

 

 

 翌日

 

 

 恐れていた事態が起こってしまった。

 

 ついにホーストがギルドに確認されてしまったのである。昨日俺が遠出しているうちにマツルギ?とかミツルギとか言う奴が討伐に乗り出したらしいが、普通に負けたようだ。中途半端な実力で虎の尾を踏むからこうなるんだ。反省するが良い。

 

 しかし一応アクセルでは高レベルに属する冒険者が負けたことで一気に場が緊張してしまった。

 森への立ち入りが禁止されてしまったのだ。当然街の冒険者はクエストの受注が出来ずに困り果て、だったらいっそのこと倒しちまうか、とどっかのバカが勝手に討伐隊を編成し始めやがった。

 

 俺は勝手にやってくれ、と楽観視していたが、アクセルで一番レベルが高く、最近の大連続クエスト受注で名を広めていた俺は了承してもいないのに討伐隊に組み込まれてしまっていた。

 

 

 バカじゃねえの?何で『ホウ・レン・ソウ』が出来ないんだ。一番大事なこと疎かにして何が『討伐隊』だ。これじゃあそれぞれで動くのと何も変わんねえだろうが。

 

 こんなところで名を売った影響が出てしまうとは予想外だったが、こうなったらもうどうしようもない。ホーストには悪いが成仏してもらおう。あいつも上位悪魔なら残機くらい持ってるだろ。滅びることは無いはずだ。

 

 

 

「…ん?そこにいるのはもしかしてゼロか?」

 

 

「はい…?げえっ!ダスティネ…、ぐぶっ⁉︎」

 

 

(ば、馬鹿者!ダスティネス家の者が冒険者をやっているのがバレたら問題になるだろうが!アクセルでは私のことはダクネスと呼べ!)

 

 

 

 は、速え…。

 

 名前を呼ぼうとした瞬間にはもう口を塞がれていた。こいつこの体でなかなか機敏じゃねえか。

 

 そういやダスティネス家はアクセルを治めてるんだったか。騒ぎになるのは嫌だしここは従ってやろう。

……こいつには会いたくなかったなぁ………。

 

 

 

「こほん。しかし、そうか。お前が噂の超高レベル冒険者だったのか。お前がいるなら私も安心できるな…。…この街を頼んだぞ、ゼロ。」

 

 

「お前は誰だ⁉︎」

 

 

 

 やべえ、俺の知ってるダスティ……ダクネスじゃない!こんな真面目な美人が変態なわけがない!

 

 

 

「んっ…!お、お前なかなかやるな…。だが、私だって時と場合ぐらいは選ぶ。そういうプレイをするならこれを解決してからに…。」

 

 

「あ、ごめん気のせいだったわ。」

 

 

 

 ダスティネス家のお嬢様は今日も平常運転だった。

 

 

 

「ダクネスー?戻るのが遅いけど誰か知り合いでも見つけーーーーえっ…。」

 

 

「む。クリスか。すまん、王都での知り合いとちょっとな…。」

 

 

 

 

 ダクネスの名前を呼びながらこちらへとことこと歩いてきたのは銀髪で頰に傷のある元気がありそうな美少女で………?

 

 

 

 ーーーえっ。待って、こいつ何やってんの?

 

 

 

「え…、ええーっと、は、初めまして、だよね。あたしはクリス。そこのダクネスの親友で、盗賊をやってるよ。ダクネス、その…、こちらは…?」

 

 

「ああ、こいつはゼロ。王都では王城の守護をしていてな。私が知る中でも腕利きの冒険者だ。魔王軍の幹部すら倒したことがあるんだぞ。」

 

 

「へええ!すごいね?えっと、ゼロ君、で良いかな?」

 

 

「あ…、ああ…。エ…、クリス…も、討伐隊に参加するのか…?」

 

 

「あー…、ううん。あたしはみんなほど強くないしね。ほんとは悪魔なんて消し飛ばしちゃいたいけど…、うん、大人しく後方支援に徹するよ。ほら、ダクネスも前線に出たいなんてワガママ言わない!ダクネスは堅いけどレベルは全然低いじゃん!」

 

 

「ああ!ま、待ってくれクリス!そんなにすごい上位悪魔ならきっと攻撃もすごいはずなんだ!大丈夫、私が皆を守ってみせる!」

 

 

「かっこいいこと言ってるけど欲望塗れじゃん!さっき聞こえてきた時と場合を選ぶってのはどこいったのさ⁉︎」

 

 

 

 呆然とする俺を置いて去っていく二人。

 

 別人……?いや、この俺が他ならぬ彼女を見間違えるだろうか。

 もし本人だとしたらそれはそれで問題だな。さすがにバレれば貴族がどうのとかいうレベルじゃないし、俺も知らんふりをして普通に接しよう。

 

 しかしあの二人は仲が良かったな。ダクネスの方に嫉妬しちまうよ。

 

 

 

 コツン。

 

 

 

「……なんだよ。」

 

 

「いえ、随分色んな人と知り合いなんだなーと。」

 

 

 

 頭に軽い衝撃を受けて振り返るとめぐみんが微妙な表情で杖を両手で持っていた。

 

 

 

「なんだ?嫉妬か?悪いが俺よりもお前を幸せにしてくれるやつがきっとどこかにいるからそいつを探してくれ。」

 

 

「何いってんですか、最近まで兄気取りだったくせに。ついに私の魅力に気づいたんですか?

 そもそもゼロには心に決めた人がいると言っていたではないですか。なのにあんな美人と関係を持つだなんて浮気と邪推されてもしょうがないと思いますが。」

 

 

「浮気も何も………まあいいか。それで?結局何の用だよ。」

 

 

 

 

 なぜかもじもじして言いづらそうにするめぐみん。どうでもいいけど早くしないと討伐隊が出発するぞ。

 

 

 

「あの…、その、ですね。今から私の部屋に…来てもらえないで、しょうか…?」

 

 

「は?今からか。なんで。」

 

 

 

 もう先頭がギルドを出始めている。討伐隊やなんやは俺は乗り気じゃないからいいが…。

 

 

 

「あなたに見て欲しいものがあるのです。」

 

 

 

 



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29話



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 ※

 

 

 

「あの悪魔が探してるのは黒い魔獣だそうですね。」

 

 

「あ、ああ。確かそういってたな。」

 

 

 

 ところ変わってめぐみんの部屋。

 考えたら女の子の部屋に入るのは初めてだな。王都では入ろうと思えばアイリスの部屋には入れただろうが、いつもアイリスが俺のところに来るから行く必要も無かった。

 

 

 

「…あの、そんなにジロジロ見ないでもらえませんか。特に変わったところは無いと思いますけど…。」

 

 

「おっ…、と悪い。それで見せたいものってのはなんだ。まさかその黒い魔獣…ウォルバクってのを見つけたのか?」

 

 

 

 最悪そいつを渡せば事態を収拾できる。そう考える俺をよそにめぐみんはベッドの下に隠れていた一匹の黒猫を引っ張り出す。

 

 

 

「おそらくあの悪魔が探してるのはこの黒猫です。名前はウォルバクなんて変なのじゃなく、ちょむすけですが。」

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

 腕を組んで首を捻りながらホーストの話を思い出す。

 …俺が聞いた話とだいぶ違うな。デカくもないし、神聖な感じもしない。

 

 

 

「…こいつがその魔獣だってのはどうしてそう思ったんだ?正直お前の勘違いを疑ってるんだが。」

 

 

「私がアクセルに来る前、紅魔の里から出てすぐはしばらくアルカンレティアにいたことは話しましたっけ。」

 

 

「初耳だ。」

 

 

「その滞在中にも一度、アーネスとかいう上位悪魔がウォルバクという名前の魔獣を探しに来たんです。」

 

 

 

 ーーーなるほど、話が見えてきたぞ。

 

 

 

「アーネスはこのちょむすけがウォルバクだと言っていたんですよ。それで、襲いかかって来たので爆裂魔法で吹き飛ばしたんですが…。」

 

 

「…オーケー。事情は分かった。それで…、お前はどうするつもりだ?」

 

 

 

 俺にこいつを見せてきた理由が分からない。こいつの処遇を俺に任せるなら容赦無く俺はホーストに渡すだろう。めぐみんも俺とある程度の付き合いはあるんだ、それくらいは分かってるはず…。

 

 

 

「どうしたらいいと……思いますか……?」

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

 ……こんなに不安そうなめぐみんは初めて見るな。

 

 

 

「俺が言う言葉はだいたい予想できてんだろ。……渡しちまえ。」

 

 

 

 俺の言葉にめぐみんはビクッと肩を竦ませる。今の話を聞く限りでは俺の意見は変わらん。

 

 

 

「いいか?あの悪魔は強い。おそらく俺以外ではまともに打ち合えもしないだろう。それがこの黒猫一匹で帰ってくれるんだぞ。いい話じゃないか!それで解決するなら是非そうするべきだ!」

 

 

 

 袖をギュッと握って顔をうつむかせる。

 

 

 

「もう討伐隊は出発しちまってんだぞ?もしかしたら全滅もあり得るかもしれん。お前がそのたった一匹を渡せば救えるかもしれない命を奪おうとしているのは…分かるよな?」

 

 

「…お前がどういう経緯でこいつを飼ってんのかは知らん。だが、ホーストがこんなに人間を敵に回してまで探し続けてるんだ。…相当大事なやつなんだろう。それを横から奪ったのはお前かもしれないんだ。……返すのが、筋だとは思わないのか…?」

 

 

「俺のスタンスは基本的に魔王本人でない限り変わらんぞ。『人間寄りの中立』だ。相手が人間を害さなければどちらの味方にもつくし、こっちが一方的に向こうを害せば向こうを庇うことだってある。今回は一応もう被害が出てるからな。それでも戦わずに、被害が少なくて済むなら俺はその方法を推す。」

 

 

 

 目を潤ませながらも強い意思の宿る瞳で俺を見据える。

 

 

 

「……渡したく、ありません。」

 

 

「……こっちに被害が出ても、か?ならなんでそいつを俺に見せた。あのまま行けば普通にホーストと戦っていたぞ。俺はそいつの存在すら知らなかったんだ、隠し通すなんざいくらでもできただろう。」

 

 

「その方が確実だからです。」

 

 

「…?」

 

 

「あの悪魔がこの子を探しているなら手当たり次第でいつか見つかるかもしれません。ゼロがあの悪魔の討伐に乗り気じゃないのは分かってましたからね。ですから……これは依頼です。」

 

 

「依頼…お前から俺にか。」

 

 

「はい、私とこの子を守ってください。お金はここに一千万エリス用意してあります。あの悪魔を倒して欲しいのです。」

 

 

「……お前にとってそいつはそんなに大切か。そんな大金、どうやって都合したか知らんがそれだけの金を払ってでも守りたいものなのか?…素直に渡した方がいいとは…」

 

 

「思いません‼︎」

 

 

「・・・・・・」

 

 

「この子は里にいた時からウチにいて…里を出た後もずっと一緒にいました!最初はこめっこが食料として捕まえてきた猫です。でも……もう私の家族なんです!誰にも渡したくありません!」

 

 

「お願いします!ゼロが意見を変えないなら、せめて私の手助けをしてくれるだけで良いんです!トドメは私が刺しますから……私の家族を助けてください‼︎」

 

 

「はいお任せ。最初っからそう言やいいのによ。」

 

 

「…………え?……い、いいんですか…?」

 

 

「俺は依頼は非人道的なもんじゃなきゃ断らん。今のはお前が最初に『どうしたらいいですか』なんて聞いてくるから俺の意見を言っただけだ。」

 

 

「じゃ、じゃあ私の恥ずかしい告白はなんだったのですか⁉︎」

 

 

「無駄ではなかったぞ。ただなんの理屈もなく『助けてください』では俺のモチベーションが違う。だから、その覚悟があれば俺は全力を尽くすって寸法よ。」

 

 

「そして勘違いすんな。金は要らん。その代わりに今の覚悟を嘘にするな。動きは止めてやるからトドメはお前がやれ。お前の家族はお前の最強の爆裂魔法で守って見せろ。」

 

 

「そ、それは構いませんが…、あの…お金は本当に要らないんですか?」

 

 

「くどい。兄貴ってのは妹が涙を流して頼んできた事を報酬有りで出来るような脳内構造はしてねえんだよ。」

 

 

 

 目を丸くするめぐみん。そろそろ俺が兄貴と言い張っても反応すらしなくなってきたな。これが調教というものだ。いやらしい意味じゃなくてね。

 

 

 

「お兄ちゃんにまっかせなさ〜い☆」

 

 

「あ、すみません。すごく気持ち悪いのでやめてもらえませんか。」

 

 

「辛辣ゥ‼︎」

 

 

 

 

 ※

 

 

 

「…チッ、無駄に頭数だけ揃えやがって…!いっそのこと全員やっちまうか?大した奴はいないしな……ん?…お前…。」

 

 

 

 ホーストは討伐隊に見つからないように森の中を隠れながら移動していた。

 そもそも他の奴らはホーストの姿を知らないぶん俺たちが見つけるのが早かったのだろう。

 俺は剣を抜かないままホーストに気軽に話しかける。

 

 

 

「よう、ホースト。大変そうだな?」

 

 

「…へっ、なんてこった、お前もそっち側なのかよ…。さすがに万全じゃない今の俺じゃ歯も爪も立ちゃしねえ。」

 

 

「万全じゃない?」

 

 

 

 見ると、確かに体に傷が付き、翼も一枚切り飛ばされていた。これはあのマツルギにやられたのか。なるほど、中途半端とか思って悪かったな。高レベル冒険者の意地は見せたってとこか。

 

 

 

「まあ待てよ。俺が来たのは約束を守るためだ。ほら、これがお前の探してたウォルバクって魔獣じゃないか?」

 

 

 

 言いながら隣に立つめぐみんが持っている黒猫を示す。どういうことかと言いたげなめぐみんだが、落ち着けって。

 

 

 

「この毛玉がか?……確かにウォルバク様の気配がする…。マジかよ、お前良い奴だったんだなぁ!さあ、早くウォルバク様をこっちに「渡すわけにはいかんのだ」………何?」

 

 

「残念だがこいつはウチの妹が飼っていてね。勝手な話だとは思うが…、お兄ちゃんとしては妹の頼みは聞かんとなあ。」

 

 

「てめえ…、約束ってのはどうした!」

 

 

「おいおい、あの時の会話を思い出せよ。お前は『何か分かったら教えてくれ』としか言ってねえぞ?……つまりこれで約束は履行、貸し借りの話はゼロだ。」

 

 

 

 我ながら屁理屈にしか聞こえないが、今のセリフはホーストの琴線に触れたようだ。

 

 

 

「フハッ!フハハハハハハ‼︎た…、確かにな!確かに俺はそうとしか言わなかった!約束だけ(・・)は何がなんでも守るスタンス、俺は嫌いじゃねえぜ!……お前人間より悪魔に向いてるぜ、ゼロ。」

 

 

「…何で俺は魔王軍やら悪魔からの評価が軒並み高いのかねえ…。」

 

 

 

 ここでようやく俺は剣を引き抜く。そして剣を前に突き出し、用意していた口上を述べた。

 

 

 

「つー訳で悪いな、ホースト。こっから先は俺の喧嘩だ。」

 

 

 

 そこでめぐみんも杖を俺が突き出した剣に重ねて口を開く。

 

 

 

「いいえ、ゼロ。私達(・・)の喧嘩です‼︎」

 

 

 

 

 もちろん教えたのは俺です。この口上、紅魔族の感性的にもアリだったようで、結構ノリノリでやってるようだ。

 

 

 一度言ってみたかった……‼︎

 

 

 

 

 



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30話



再投稿。






 

 

 

 ※

 

 

 気付いたことがある。

 

 魔王軍や悪魔と戦闘するとき、俺を導いてくれる人影が現れるのだ。そいつは全体的に赤と黒でぼやけているので詳細は何一つ分からない。

 

 ただ、分かることもある。こいつ(・・・)は俺よりもずっと強い。

 こいつが動いた軌跡をトレースするだけでどんな奴にも傷を与え、雑魚共は為すすべなく虫を潰すように死んでいく。

 

 俺ではあんなに効率的に斬ることは出来ない。こいつは相手の動きが全て分かっているかのように淀みなく剣を振るう。俺でも勝てることは勝てるのだろう。だが、こいつを真似した方がずっと早く、速く、疾く終わる。被害も少ない。

 

 だから俺はあいつを追い続ける。今はまだ全然あいつの方が速い。だが戦闘を続けるうちに少しずつ、少しずつ背中が近づいているのだ。それが楽しい。愉しい。たのしい。こんなにはっきりとした目標を持てることが楽しくて仕方がない。口の端が獰猛に歪むのを自覚してしまうほどに。

 

 残念なのは、こいつが俺を手助けするのは別に俺を心配してのことではないことだ。むしろこいつは俺を憎んですらいる。親の仇のように、まるで自分を乗っ取られた(・・・・・・・・・)かのように時々睨んでくるのだ。『お前に手を貸すのは仕方がないんだ。』、『本当はお前など、今すぐにでも俺が殺してやりたいんだ。』そんな声が、見えない口から俺に投げかけられる気がする。

 

「そんなことを言うなよ。」「仲良くしようぜ。」そう言いたくてあいつを追う。あいつはそんな言葉など聞きたくもないとばかりにスピードを上げて敵を屠り続ける。俺も真似をして剣を振る。いつか、いつか追い付いてみせる。追い付いた時、自分に何かが起こる気がするのだ。それが良いことなのか、悪いことなのかはわからないが、それを確かめるためにひたすらにトレースを続ける。

 

 なぜこいつは悪魔や魔王軍との戦闘にしか出てこないのか。普段の戦闘も出てきてくれれば、きっと愉しいし、もっと早く追い付けるのに。そんなことを確かめるためにも、ひたすらに脚を、手を、身体を動かす。

 

 

 

 赤黒い俺の目標は、まだ遠い。

 

 

 

 ※

 

 

 

「クソッタレがああ!ちょこまか動き回るやつは苦手なんだよおおおお‼︎」

 

 

 

 叫びながらホーストが腕を振るう。最小限、当たらないように頭を後ろに引き、またすぐに戻して振り切った腕を切り落とした。ホーストからは俺がすり抜けたように見えただろう。

 

 

 

「ぐあっ⁉︎いっ………てえなあああああ‼︎『インフェルノ』おおお‼︎」

 

 

 

 残った片腕で上級魔法を放つが…、炎…?遅すぎてあくびがでるな。

 

 大火球に直進し、当たる瞬間にスライディング。態勢を戻し、伸び上がりながらホーストを飛び越え、最後の翼を毟り取る。ホーストの悲鳴が聞こえないうちに膝の裏をデュランダルで刺し、貫通させる。

 と、ホーストが脚に思い切り力を入れて筋肉を締めたようだ。抜けない。

 

 

 

「馬鹿が‼︎」

 

 

 

 腰を捻って後ろにいる俺を無理矢理ラリアットに巻き込もうとするホースト。腕が振るわれる方向に頭を移動させてそのまま一回転する。

 ホーストの腕には何の感触も無いはずだが、めぐみんからは俺の頭がモロに弾き飛ばされたように見えたようだ。小さく「キャッ…‼︎」と悲鳴が聞こえた。中々可愛らしい声も出せるじゃないか。あと落ち着けよ。頭を殴られたインパクト音がしなかったろうが。

 

 抜けないなら、とデュランダルをさらに突き刺し、腰の回転で膝から丸ごとぶった斬る。さすがにいきなり片足にされてはバランスを保てなかったのか、ホーストが倒れていく。倒れながらこちらに向かって魔法を詠唱しているようだ。

 

 

 

「『ライトニング・ストライク』‼︎」

 

 

 

 詠唱からして雷系だな。それを確認した俺はデュランダルを近くの木に投げ刺し、手から離す。雷の魔法が金属に反応するのは予習済みだ。

 

 俺とは明後日の方向に放たれた魔法に呆気に取られるホースト。その詠唱したために開かれた大きな口に懐からある瓶を取り出して数個、放り込む。

 

 驚いたホーストが口を閉じたのを確認してから渾身の力でアッパーカットを決める。

 途端に爆音が上がり、ホーストの口からとんでもない量の血が噴き出た。

 

 そのまま両手を地面についてバク転をしながら焦げ付いた木に刺さったデュランダルを引き抜く。

 

 今のはウィズの店で買った衝撃を加えると爆発するポーションだ。俺が思い付いた使い方とは違うが、こんな使い方もある。…二度と出来るとは思わないけど。

 

 

 そしてこれが本来の使い方だ。

 

 まだ悶絶しているホーストを視界に捉えながら取り出しておいたポーションの蓋を開けて剣に塗る(・・・・)。そしてホーストに走り寄りながら腕に振り下ろすーーー!

 

 

 

 モデル:T・C・M(テン・コマンド・メンツ)ーーーーー

 

 

 

「『エクスプロージョン』‼︎」

 

 

 

「ハァ⁉︎」

 

 

 

 斬った傷口が爆炎を上げ、その反動で腕がもぎ取られ、ホーストが倒れていく。なぜかめぐみんがショックを受けた表情で素っ頓狂な声をあげるが、なんだろう。

 あれか?結構グロいことやったから引いてんのか?

 

 

 普通の剣ならこんなことをすれば折れないにしても傷が付くのは避けられない。だが、一切変形しないこのデュランダルならこんな荒技だって可能なのだ。ちょっと申し訳ないけどな。

 

 

 何はともあれ詰みだ。

 倒れながらもがくホーストの最後に残った片足を斬りとばす。これで世にも珍しい悪魔の達磨の完成です。

 

 

 

「…あーくそ…、俺様も悪運尽きたかね…。まさかこんなアホみたいに強い奴がはじまりの街にいるなんざ思わねえだろ、普通…。」

 

 

 

 観念したのか、ホーストは諦めを含んだような、どこか晴々とした声色で自虐する。まあ観念といっても四肢が一つも残ってないから動く事が出来ないんだが。

 

 俺は俯いてプルプル震えているめぐみんを促す。

 

 

 

「ほら、めぐみん。グロいことやって怖いとは思うが、今のうちにトドメを…。」

 

 

「うがああああああああ‼︎」

 

 

 

発狂しためぐみんが杖で殴りかかってきた!

 

 

 

「うおおおお⁉︎何だお前⁉︎あ!ひょっとしてホースト!お前なんか催眠を…!」

 

 

「やってねえよ!さすがに冤罪被るのは御免だぞ⁉︎」

 

 

 

 やってないらしい。それではなぜこんなに激昂しているのだろう。

 

 

 

「な…!な、何が『エクスプロージョン』ですか‼︎あの程度の爆発で最強魔法を名乗るとはちゃんちゃらおかしいですよ!改名を要求します‼︎」

 

 

 

 どうやらさっきの俺の技は爆裂魔法の名前と一緒だったらしい。マジかよ…俺的にはあれ以外付けようが無いんだけどな。

 …まあそこまで言うならなんか他の名前を考えるか。

 

 

 

「今から私が本物の爆裂魔法を見せてあげます!ゼロはそこでその悪魔が逃げないか見張っててください!」

 

 

 

 と言い残してかなり離れた場所で詠唱を開始する爆裂狂めぐみん。あれだけ離れりゃ大丈夫かね。

 

 

 

「…なんか言い残すことは無いか?今回のは俺としても不本意なんだ。覚えといてやるぞ。」

 

 

「………あのガキ、どっかで見たことあるような気がしてたんだが、もしかして妹とかいるか?」

 

 

「ああ。何で知ってんだ?五歳…もう六歳か?それくらいの妹が紅魔の里にいるぞ。」

 

 

 

 俺が不思議に思いながら答えてやると、ホーストは実に楽しそうに笑い始めた。

 

 

 

「な、なるほどね!あのガキの姉貴か!そりゃ似てる訳だ!」

 

 

「…お前こめっこを知ってるのか?」

 

 

「知ってるも何も…ああ、いい機会だ。紅魔族風に名乗ってやるから耳かっぽじって聞けや。」

 

 

 

 そうしてホーストは仰向けに倒れたまま、大声で清々しく名乗った。

 

 

 

「我が名はホースト‼︎上位悪魔にして、やがては魔性の妹、こめっこに使役される予定の者‼︎………へへへ、どうだ?こんな感じだろ?」

 

 

 

 ニンマリと血だらけの口で笑うホーストと、目を見開いて固まる俺が視線を交差させる。

 

 ……こいつ今なんて言った?

 

 

 

「お、おい、お前…」

 

「『エクスプロージョン』ーーー‼︎」

 

 

 

 

 は。と俺とホーストが同時に上空を見ると、既に発動し終えた凄まじい密度の熱と破壊の華が咲くのが見えた。

 

 

 

 …あのさぁ……離れろ、くらい普通言わねえ?

 

 

 

 

 ※

 

 

 い つ も の

 

 

 かと思いきや、今回はエリスのところへは行かなかった。

 別に死にかけなかったとかじゃない。むしろ一番酷かった。何せ回復力の高い俺が三日間起き上がることすら出来なかったんだからな。

 

 ではなぜエリスに会えなかったのか、これは単純にエリスが天界に居なかったからじゃないだろうか。

 

 

 …この件もいずれ確かめなきゃな。

 

 そう思いながら三日ぶりにギルドを訪れる。

 

 聞いた話だと、あの後討伐隊が爆裂魔法を目印に俺達を発見、回収してくれたようだ。今回は本当に死ぬかと思ったわ。

 回復してまず最初にやることはあの爆裂狂をとっ捕まえてのお仕置きタイムと決めてある。

 

 どこにいるのか、と酒場内を見回すと、程なく発見した、が…。

 

 

 

「やるわねダクネス!あなた、さすがクルセイダーね!キャベツ達を一匹も後ろに通さなかったじゃない!」

 

 

「いや、私は硬いことしか取り柄がないからな。めぐみんなどは凄まじかったではないか。あの量のキャベツを一撃で吹き飛ばすなど、初めて見たぞ。」

 

 

「ふふふ、我が爆裂魔法の前では何物も抗うことなど出来ないのです。つい先日もこの街最強の冒険者を屠ったところですか」

 

「誰が誰を屠ったって?」

 

 

「ヒィ⁉︎ゼロ⁉︎いつからそこに!」

 

 

「ゼ、ゼロ!お前が居ないから仲間がどんどん変な風に…!」

 

 

 

 カズマも泣きついてきたな、鬱陶しい。それにしても…。

 

 

 

「ん、ゼロではないか。先日は悪魔を倒したそうだな。やはり私の目に狂いはなかった。…しかし、めぐみんもカズマもゼロと知り合いだったのか?」

 

 

「おや、ダクネスもですか。……この男も大概顔が広いですね…。」

 

 

「俺はこの世界……、ゴホン、ギルドに来た時に世話になったんだよ。なあ、アクア。」

 

 

「ん?私は知らないけど、確かカズマさんのホモ達の人よね?」

 

 

 

 アホぶっこいたアクアがカズマに叩かれて泣いている。

 

 …それにしても見事に知り合いばっかだな。こいつらがパーティー組むなんざ誰が予想出来ただろうか。

 

 と、その中で一人、見当たらないやつがいた。

 

 

 

「ダクネス、クリスは一緒じゃないのか?」

 

 

「…?なんだお前、クリスが好みなのか?…クリスなら明日カズマにスキルを教えに来るはずだからその時に会ったらどうだ。」

 

 

 

 そうか、ならその時でもいいか。それより今はーーー

 

 

 

「おいクソガキ。てめえよくも俺に魔法ぶっ放してくれたな。おかげさまで生死の境でダンス踊ることになっただろうが。」

 

 

「そ、それは…、つい声をかけるのを忘れてしまって…。無事でよかったです…。というか、むしろどういう体をしているのですか!あの悪魔は塵一つ残らなかったのに何でその程度で済むんですか!おかしいですよ!」

 

 

 

知らんよ。マントのおかげじゃないの?(適当)

 

 

 

「お、おいゼロ!その魔法について詳しく教えてくれ!めぐみん、さっきの魔法とは違うのか⁉︎次は私にどうだ⁉︎」

 

 

「うるせえぞ変態!ゼロも困ってんだろ、少しは自重しろ!」

 

 

「んっ…!か、カズマの直球の罵倒でも私は構わんぞ…?」

 

 

「…ウチのパーティーも豪華な顔触れになったわねえ。アークプリーストの私に、アークウィザードのめぐみん。そしてクルセイダーのダクネスに、聞いた話だとアクセルどころか王都でも『英雄』って呼ばれてたゼロ。…あら?カズマさん要らなくない?」

 

 

「お前らから解放されるならそれでいいよ、もう…。」

 

 

 

 いつもアクセルは騒がしいが、今日はまた数段増しで騒がしい気がするな。

 

 そして、何だかこの騒ぎがしばらく続く予感がする俺であった。

 

 

 

 






せっかく最新話で正体明かされたのに作者に存在を無かった事にされる人影さん可哀想。





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四章魔王軍幹部
31話




再投稿。






 

 

 

 ※

 

 

「ーーはい、次はあたしのオススメ、窃盗のスキル『スティール』だよ。成功率は使用者の幸運に依存してるから、カズマ君向きって言えるかな。成功すればすごいよ?相手が手に握っている物だろうが、鞄の奥にしまい込んだ大事なものだろうが、ランダムで奪えるんだから。そのランダムも幸運値依存なんだけどね」

 

 

 

 目の前ではクリスが得意満面、といった感じでカズマに盗賊スキルを教えている。かわいい。

 

 いいなあ…。聞いた限りだと使いやすそうなスキルだ。カズマのとんでもない幸運値ならば十分に力になるだろう。

 残念ではあるが、俺ではまず成功以前に発動するかもわからない。幸運値も魔力も最低クラスなのだ。『スティール』ですら使った瞬間に動けなくなる危険性がある。そんな博打をして成功率も幸運値依存など、もう直接相手を倒して奪った方が早いのではないかね。

 

 

 

「とりあえず見せてみるね。そんじゃ、いってみよう!『スティール』!」

 

 

 

 どうやら窃盗したらしい。はたから見ても何も起きていないがーーー?

 

 

 

「へっへー、これ、なーんだ?」

 

 

「あっ!それ、俺のサイフ!」

 

 

 

 おお、すげえ。一切触れていないのに、クリスのその手にはカズマのサイフ…サイフ?薄くね?ハンカチかなんかと勘違いしそうだ。が、握られていた。

 

 クリスは俺が付いてくると知った時はチラチラとこっちを気にしていたが、俺が気付いてない振りをしてやると、割り切ったのか、早速カズマに盗賊スキルを教え始めた。というか俺と『クリス』はほぼ初対面なのにあんなに気にしてどうするのだ。隠す気ねえだろ、もう。

 

 

 

「おっ!サイフか、当たりだね。……よし!じゃあカズマ君さ、私にも窃盗、使ってみなよ。このサイフだとさすがにあたしのサイフの方が入ってそうだねー。自分のサイフを奪い返すのもよし、あたしのサイフやその他のものを奪うのもよし!早速いってみようか!」

 

 

「よおし、やってやる!」

 

 

「いいね!そういうノリがいいの、嫌いじゃないよ!さあ、当たりはこのサイフ!大当たりはこの魔法がかかったダガーだよ!売ってもいいし、自分で使うってのもアリだね!そしてハズレは『スティール』対策に拾っておいたこの石ころさ!」

 

 

「…ああっ、そういうことか!」

 

 

「にひひ〜、そういうこと。どんなスキルでもこうやって対処法があるから勉強を怠らないことだね!」

 

 

 

 二人は実に楽しそうで、少し疎外感を覚えてしまう。俺にも魔力があればあんな風にクリスや他の冒険者と教え合うことが出来たのだろうか。あ、ちなみにどれだけ魔力があっても爆裂魔法だけは覚えねえから座ってろ爆裂狂。

 

 

 

「『スティール』‼︎」

 

 

 

 カズマも窃盗を発動する。さて、何を奪ったのだろうか?

 

 ……?なんかクリスが短パンを押さえてるが…。

 

 カズマがゆっくりとその手に持った物を広げていく。…なんだありゃ?今度こそハンカチ…。

 

 

 

「ヒャッハアアアアア‼︎当たりも当たり、大当たりじゃあああああ‼︎」

 

 

 

 カズマが上に掲げながらぶん回すのは…パンツか?パンツ………誰のパンツ?

 

 

 

「い…、いやあああああああ‼︎ぱんつ返してえええええええ‼︎」

 

 

 

 相変わらず短パンを押さえながら涙目でクリスが絶叫を………。

 

 

 

「「何ぃ⁉︎」」

 

 

 

 俺と実は近くにいたダクネスの声がハモる。ダクネスは目をキラキラさせながらカズマを見ていやがるが、こいつの人となりを知っていれば何を考えてるのか察しはつくな。

 

 パンツを未だにブンブン頭上で回しながら下種笑いを続けるカズマ。

 

 ーーー泣いている。クリスが、泣いて、助けを求めている。

 

 

 俺は懐からサイフを取り出して振りかぶる。これぞ伝説のマサカリ投法。

 

 

 

「調子に乗んな‼︎」

 

 

 

 カズマの頭を爆散させないように注意深く後頭部目掛けて投げる。サイフ(ボール)カズマ(ゴール)へシュウウウウウゥゥゥ‼︎超‼︎エキサイティン‼︎

 

 

 

「ぶべらぁ⁉︎」

 

 

 

 奇声を上げながら吹き飛ぶカズマ。クリスがこちらを希望に満ちた目で見て、「ゼロさん…!」とか言ってくる。うん、お前やっぱ隠す気ないよね?

 

 しかし、ああも期待されては裏切れない。せっかくだ、目一杯格好付けさせてもらおう。

 

 

 

「てめえ…、どういうつもりだ、ゼロ‼︎」

 

 

 

 なんか逆ギレしてくる犯罪者K。

 

 どういうつもりも何も、自分の姿を客観的に見てみるがいい。自分に親切にもスキルを教えてくれた先輩冒険者に対してパンツを奪うという暴挙、貴様はやってはならないことをしたのだ。

 

 ……という正論を言っても良いが、こいつは無駄に頭が回る。屁理屈であしらわれるのがオチだ。ならばこいつの理論で正々堂々とパンツを返してもらうとしよう。

 

 こちらを睨み続けるカズマに向かって腕を組み、仁王立ち。その場の一般の通行人を含めた全視線を集めた俺は用意しておいたセリフを堂々と口にする。

 

 

 

 

「言い値で買おう!!」

 

 

 

 

 ※

 

 

 

 めっっっちゃ怒られた。クリスに。

 

 

 

 

「まったく!キミ、そんな人だったんだ!見損なったよゼロ君!」

 

 

 

 プンプン、という擬音がこれ以上似合う顔はないだろうというほど赤くしながら頰を膨らませている。

 

 はい、ダウト。俺と『クリス』は今日以外では一度しか会ってないのにあなたに何が分かるというのでしょう、先生!

 

 しかし俺はなぜ怒られているのだろう。コレガワカラナイ。

 

 カズマは俺から毟れるだけ毟ってホクホク顔で帰っていった。ダクネスもしつこく「い、今のプレイをぜひ私に‼︎」と言いながらカズマについて行った。MとS…いや、KSは惹かれ合うからね、しょうがないね。

 

 俺は先ほどから路地裏にてクリスに正座を強制させられている。ジト目で見下ろしてくるクリスは大きくヘソを出した服装なため、自然と真正面にきれいなヘソが見えてしまう。せっかくなのでジッと見つめる。

 

 

 

「ちょ、ちょっとキミどこ見てんのさ⁉︎」

 

 

「ヘソ」

 

 

「直球⁉︎」

 

 

 

 慌てたようにお腹を隠すクリス。そんなに恥ずかしいならなぜそんな格好をしているのか。どう考えてもヘソを見てくれと言ってるようにしか見えない服装だ。ヘソには自信があるけどいざ見られると嫌だとかいうめんどくせえ思考でもあるのだろうか。

 

 

 

「そんな考えないよ!この服着てるのは単に盗賊っぽいからだよ!ーーそれにしてもさ…」

 

 

 

 顔を赤くして、お腹を隠したまま非難するような目で俺を見る。やばい、新たな扉を開きそうだ。

 

 

 

「ゼロ君には好きな人がいるって聞いたんだけどな!他の女の子にこういうことするのってその、う、浮気……?とかになるんじゃないの⁉︎」

 

 

 

 ……こいつは本気で隠し切れてると思っているのか?

 

 しかし今のはトサカにきたぜ。浮気ぃ?そんな言葉を使うんじゃありません。これはささやかな反逆も許されるはず。

 

 ………ふむ、そうだな。

 

 

 

「そうだな、例えばの話だぞ?例えばーー」

 

 

「………?うん」

 

 

「ーー好きな女の子が街で変装をしていました」

 

 

 

 ピシッと空気が凍りつく。

 

 さっきまで真っ赤だった顔を蒼白にして視線をそこら中にクロールさせるクリスさん。気にせずに続けさせてもらおう。

 

 

 

「その女の子が好きな子だと男は一目見て気付きました。その女の子の変装した姿もまた可愛いので男は気付かない振りをしてその姿を堪能しました。ーーーさて、これは浮気に含まれるのか?エリス(・・・)

 

 

 

 俺はせいぜい意地悪く見えるようににっこりと笑って『可愛いので』のあたりからまた顔を赤くしたクリスに質問をした。

 

 

 

 

 



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32話



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 ※

 

 

「な…、なんで…分かったんですか…?」

 

 

「変装する時は鏡くらい見ろよ。エリスのときと髪型と服装…、そのくらいしか違わねえぞ。」

 

 

「それだけ違えば分からないと思うんですが…」

 

 

 

 俺を見くびってもらっては困る。これで気付かないのは恋人が美容院に行って、こっちに『髪切った?』と言って欲しくてそわそわしてるのを完全にスルーするのと同じだ。

 俺はそんなラノベ主人公気質ではない。相手の言いたいこと、言って欲しいことはそれなりに察せるつもりだ。

 

 

 

「あの、今のは私言って欲しくないことだったんですけどそれは…」

 

 

「そりゃお前が悪いよ。お前一筋の俺に対して浮気だのなんだのと失礼極まりない。いいか、俺はお前でいく。お前じゃなきゃ嫌だ。……足りないなら何度でも言うぞ」

 

 

「…っ!うぇ、は…、はい…。ごめんなさい…」

 

 

 

 隙あらば告白する俺と隙あらば赤面するエリス。しばし微妙な空気が流れたが、エリスがあることを思い出してしまったようだ。

 

 

 

「…あ!そ、それはそれとしても!なんで私のぱ…、ぱんつ…を欲しがったんですか⁉︎…まさかただ欲しかったから、とかじゃないですよね?」

 

 

「……それなら返してねぇだろ…」

 

 

 

 そう、既に女神様の聖なるパンツは返却済みだ。

 

 確かに欲しくはあるが、本当にそうならパンツは俺の頭の上に鎮座していなければおかしい。

 

 

 

「欲しくはあるんですか⁉︎というか頭の上って……うわぁ…」

 

 

 

 おう、本気でヒき始めたな。

 

 

 

「いやいや、考えても見ろよ。あのカス野郎だぞ?あのままだとお前が返してって言ってもタダでは返さなかっただろうし、金で済みゃまだいい、エロいこととか要求されたらどうするつもりだよ」

 

 

「え、エロいこと…。さすがにカズマさんでもまさかそんな……」

 

 

 

 い〜や、あいつはやるね。そんでいざ相手が泣きながらそれをしようとするとチキって「やっぱなし」と言うとこまで予想した。

 

 

 

「お前にそんなことさせらんねえし、だったら先んじて俺が買っておいてお前に返した方がいいだろ。さあ、俺を責められるなら責めるがいい。」

 

 

「わ、分かりました!疑ってすみませんでした!これでいいですか!」

 

 

 

 うむ、それでいいのだ。人に嫌疑を掛けて、それが間違いならば謝る。西から昇った太陽が東に沈むくらい当たり前のことである。

 

 

 

「あー、それと『クリス』。別に俺にもタメ語でいいんだぞ?なんか話しにくそうだ」

 

 

「…え…っと、……いいの?」

 

 

「もちろん。フランクなのも憧れって言ってたじゃないか」

 

 

「……フフッ」

 

 

「うん?」

 

 

「あ、ごめんね。いや、話しにくそう、とか、本当によく見てくれてるんだなって思って」

 

 

 

 当たり前だろう。長い付き合いとまでは言えないが、エリスの変化ならばかなり敏感だと自負している。常に注視してるからね。

 

 

 

「またお腹見てるし⁉︎」

 

 

 

 いや…、なんかエリスだと思うとその格好、股間にクるな…。もう一枚なんか羽織ったらどうだろう。

 

 

 

「普通本人前にしてそういうこと言うかなぁ!」

 

 

「俺が普通だとでも?」

 

 

「…アッハイ、そうですね」

 

 

 

 ……自分で言った事だけどそんな「確かに」みたいな顔されると傷付くな。俺だって一応十七歳の少年なのだ。向こうの『俺』は何歳で死んだか知らんけど。

 

 

 

「ま、まあいいじゃん!はい、この件はおしまい!…それじゃ、あたしは帰るね!」

 

 

「あん?送ってくに決まってんだろ。家…っつか宿はどこだ?」

 

 

「あ、ほんと?えーっと、向こうの角曲がってーーー」

 

 

 

 ーーーほう、奇遇だな。俺の宿も同じ方向だ。ちょうどいい。これから会いやすくなる。

 

 

 日が沈み始めたアクセルの街をゆっくりと二人並んで歩く。…あれ、これデートじゃね?ヤダ、人生初デートが嫁の家だなんて何段階トばしてんだ俺。

 

 

 

「まだ嫁じゃないけどね」

 

 

「今まだって言ったよね?」

 

 

 言質?言質とっていい?

 

 

 

「今日のキミなんかおかしくない⁉︎そんなグイグイ来るタイプだっけ⁉︎」

 

 

「ーーーーーあ、あー…、あれだ。ほら、これからはいつでもクリスに会えるからテンション上がってんだよ」

 

 

「…?ふーん?」

 

 

 

 ーーーまたか。

 

 王都にいた頃からそうだったが、どうも魔王軍やらとの戦闘後は周囲からは俺が違って見えるらしい。衛兵いわく、言動が暴力的だとか、アイリスいわく、なんかエッチです、だとか。…言われたい放題だな俺。ちなみにアイリスはその言い方がエッチなことを自覚した方がいい。

 

 これがバニルの言っていた寄りやすい、というやつか分からんが…、俺は『何』に寄りやすいんだ?

 

 ……考えても分からんことは放棄するに限るな。

 

 

 変な思考を振り払うために気になっていたことを聞く。

 

 

 

「ダクネスはカズマのパーティーに入るって聞いたけどクリスも入るのか?」

 

 

「ううん。ほら、あたしカズマ君にスキル教えちゃったじゃない、あんまり同じスキル持った人がパーティーにいるのって良くないんだよ。目立つ人、目立たない人が出てきちゃうからね」

 

 

 

 

 それはそうかもしれない。…でもクリスは今までダクネスとパーティーを組んでいたはずだ。一人になってしまうが平気なのか?

 

 

 

「だいじょーぶだいじょーぶ!あたしこう見えて結構人気者なんだよ?あっち行ったりこっち行ったりして過ごすよ!…元々盗賊なんてそんなもんなんだしさ…」

 

 

 

 ……その姿はとても大丈夫には見えないがな。

 

 俯きながら声だけは元気に張り上げる様はまさに空元気ってところか。

 その寂しそうな顔を見て俺が何も思わないと思ったら大間違いだ。

 

 俺は無言で懐から冒険者カードを出してクリスに見せた。

 

 

 

「なあに?冒険者カード?…うわっ⁉︎すごいレベルだね!72なんて初めて見たよ⁉︎」

 

 

 

 えっ。それは俺もびっくりなんだけど。いつの間に4も上がったのだ。レベルは高くなればなるほど上がりにくくなるんじゃないの?

 

 いや、それは置いといて…。

 

 

 

「クリス。俺とパーティーを組まないか?今はフリーなんだろ?」

 

 

 

 弾かれたように顔を上げて俺を見るクリス。心なしか瞳が潤んでいるようにも見える。

 

 

 

「えっ…?で、でもゼロ君はカズマ君のパーティーに入るって聞いたけど…?」

 

 

 

 なんだそれは。どこ情報だ。

 

 

 

「いや、カズマ君も自慢気に話してたし、ダクネスは前衛の自分が攻撃してもらえないって嘆いてたけど…」

 

 

「それはあいつらの勘違いだな。俺は手を貸すとは言ったけど固定パーティーになるとは一言も言ってない。」

 

 

「……絶対みんなそんな風に思ってないよ?すでにゼロ君ありきで考えてるみたいだし」

 

 

「関係ねえな。俺は俺のやりたいようにやる。あいつらを手伝っても良いが、それは報酬をきちんと貰う……言っちまえば傭兵みたいなことをやろうと思ってる。そんなことより返事を聞いてないんだが?」

 

 

「そんなことって…」

 

 

「そんなことだよ」

 

 

「……あたし、女神だからずっと地上にいるわけじゃないよ?」

 

 

「知ってる」

 

 

「…そんなに強くないから、迷惑もかけるよ?」

 

 

「迷惑だとは思わない」

 

 

「………私で…、良いんですか…?」

 

 

 ……え?なあにこの雰囲気。パーティー組むだけだよね?付き合ったりするわけじゃないよね?いや、それは全然構わないけど。

 

 クリスもダクネスとしか組んだことないみたいだしなんか勘違いしてそうだな。

 

 野暮なことも考えるが、目の前にいる不安そうな女の子にそんなこと言える男がいると思うか?いやいない。(反語)

 

 

 

「…言って欲しいんだな?……お前がいい。お前じゃなきゃ嫌だ」

 

 

 

 プロポーズみたいな言葉を繰り返す。そもそもプロポーズなど、初対面のときに済ませているけどな。

 

 対して、クリスは照れたように頰をポリポリとかきながら、

 

 

 

「そ…、そっか、へへ…、なら…お願いしようかな…。えっと、よろしく!」

 

 

「オッケェイ‼︎」

 

 

「ちょっと‼︎あたし今結構感動してたんだけど⁉︎」

 

 

 

 

 ロッキュー!バーニン!

 

 

 

 

 ※

 

 

 

 俺がふざけたりクリスをからかっているうちにクリスの宿に着いたようだ。ーーーーーあれ?この宿屋って…。

 

 

 

「そんじゃ、今日はあんがとね!明日からよろしくお願いします!」

 

 

 

 さっきまでの沈んだ空気は取り払えたようだ。元気いっぱいの笑顔でーーー宿屋の馬小屋へ向かおうとするクリス。

 

 

 

「ウェイウェイウェイ‼︎」

 

 

「うわっ⁉︎何さ急に!」

 

 

「wait‼︎」

 

 

 

 おい、年頃の娘さんがまさか一人でこんな男衆ひしめく馬小屋で寝泊りなんてしないよな?

 

 

 

「ええ?何言ってんの、冒険者なんだから当たり前でしょ?」

 

 

「は?許しませんけど。」

 

 

 

 そんなこと言うんならお前には俺の部屋で寝てもらうよ。さあ、お嬢ちゃん、おじさんのお家に行こうか。

 

 

 

「ちょっと何言ってんのかわかんない」

 

 

「馬小屋だって他の男はいるわけだろ?ならいいじゃん。パーティーメンバー同士、仲を深める意味合いで寝食を共にするって聞いたぞ?」

 

 

「いやいや!キミと一緒とか身の危険しか感じないよ!」

 

 

 

 身体を腕で庇う仕草をするクリス。失礼な。俺の鋼の自制心をナメてもらっては困る。ムラムラはするけどガマンする。

 

 

 

「いまその言葉で信用してもらうのは無理じゃないかなぁ⁉︎」

 

 

 

 しかし、そんな危険性など馬小屋の方が高いだろう。なぜ俺はダメなのか。

 

 

 

「他の冒険者なら撃退くらいは出来るけどキミに襲われて抵抗できる女の子なんて多分この世に一人もいないよ‼︎……それに現実的な話、宿屋の部屋借りると一泊でお金がどんどん消えて行くからさぁ…」

 

 

「だからちょうどいいじゃないか。ルームシェアってことで。何なら俺が全部持つよ。」

 

 

「キミ…カズマ君にサイフ丸ごと持ってかれてたけど大丈夫なの?」

 

 

 確かにカズマにぶん投げたサイフから好きなだけ持っていけと言ったらあの野郎、丸ごと持って行きやがった。……俺の手の平の上で踊るが良い。

 

 

「うん。あのサイフ、重く見せかけて小銭しか入れてないし。ほら、こっちが本命」

 

 

 

 もう一つサイフを取り出して見せる。中を確認しなかったのはカズマの責任だ。パンツさえ返してもらえばこっちのもんである。小銭入れってのは偉大だよなぁ。

 

 

 

「うわぁ…カズマ君より狡いかも…」

 

 

「恩人に対してなんて言い草だよお前。それよりどうなのさ。冬とかもこっちの方が便利だろ?」

 

 

「うええ…?ちょ、ちょっと待って。考えさせて」

 

 

「早くしてー早くしてー」

 

 

「……それひょっとしてアクア先輩の真似?」

 

 

 

 クリスはひとしきりうんうん唸ってこちらをチラと見る。

 

 

 

「…………ほんとになにもしない?」

 

 

「してほしいならする」

 

 

 

 性夜の幕開けである。

 

 

 

「……はあああああ……。…信用してるからね?」

 

 

「クリスには信頼もしてほしいかな」

 

 

「うん、うん、よっし!じゃあ行こうか!案内してよ。キミの宿はどこ?」

 

 

「ここ。ここの二階」

 

 

「…えっ。」

 

 

 

 宿屋というのは構造は基本的に同じだ。一階は食堂兼大家の住居で、外には馬小屋が併設されている。二階が旅人や冒険者に開放されているのだ。

 

 俺は二階へと続く階段を上りながら微妙そうな、騙されたような顔をするクリスに声をかける。

 

 

 

「ほら、早く来いよ。まさか女神様ともあろうお人が吐いたツバ飲み込むなんてはしたないことはしないよな?」

 

 

 

 結局のところクリスがこの宿屋に世話になった時点で俺に襲われる危険性などは振り切っていたのだ。

 

 

 

 

 



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33話



再投稿。


これ何が残念って、今まで基本欠かさずに書いてきた前書きや後書きは再現しきれないって事なんですよね。
なんて書いたか憶えてない……。





 

 

 

 ※

 

 

「おい、ゼロ。クリスとパーティーを組んだというのは本当か?」

 

 

「何で知ってんだよ。クリスから聞いたのか?」

 

 

「ん。クリスがとても嬉しそうに話してきてな」

 

 

 

 ダクネスは嬉しいような、淋しいような、複雑な表情をしている。

 

 

 今、俺とカズマ一行は街から外れた丘の上にある共同墓地に来ている。辺りはそろそろ夕日が沈んで暗くなる頃合いだ。

 

 なんでこんなところにいるのかというと別に墓荒らしをしようというわけではなく、クエスト『ゾンビメーカーの討伐』を受けたからだ。

 

 なんでも、プリーストであるアクアは後衛であるが故に直接攻撃の機会が少なくレベルが上がりにくい。そこで、回復魔法で倒せるアンデッド系モンスターを倒してレベルアップ、知力を含めたステータスを上げて戦力にしよう。とはカズマ談だ。

 

 アンデッドが動き始めるのは真夜中だ。しかし、万一を考えて早めに現場に来た、というわけだ。

 

 俺たちは焚き火をたいてその周りにたむろしているわけだが、その中でダクネスが急に近づいて話しかけて来たのだ。向こうではアクア、カズマ、めぐみんで騒いでいる……アクアがひっくり返った。何しとん、あいつ。

 

 

 

「それがどうかしたのか?前の相棒としては俺は認められんってか」

 

 

 

 茶化しながら続きを促すと、ダクネスはいつになく真剣な表情で、

 

 

 

「いいや。逆だ。お前なら信用できる。…クリスをよろしく頼む」

 

 

 

 と言ってきた。

 

 

 

「……そんなに心配ならなんでパーティー解散なんかした?クリスが寂しそうにしてたのはお前だって知ってるだろ」

 

 

 

 少し言葉が強くなってしまったかもだが、実際理由が知りたい。

 

 俺の疑問に少し恥ずかしそうに、躊躇いながらもダクネスは答える。

 

 

 

「クリスは私の初めての親友なんだ。貴族の私は心から笑い合える友人というものがいなくてな……、エリス教の教会に入り浸って『仲間が出来ますように』と祈っていた。」

 

 

 

 ……それは初耳だな。

 

 

 

「そんなある日、いつものように祈っていた私に声をかけてくれたのがクリスなのだ。クリスは私を連れ出して、外の世界を見せてくれた」

 

 

 

 なるほどねえ。敬虔な教徒はちゃんと見てくれる神様もいるって事か。優しいのは知ってたが、サービスしすぎだろエリス。だから下界にいたのか。

 

 

 

「だからかもしれん。私はクリスに頼り過ぎるきらいがある。このままズルズルとクリスの迷惑になるのは耐えられん。だから一度距離をとって、一人前になったらまたパーティーを申請するつもりだったんだが………」

 

 

「お前、それはクリス本人に言ってやれよ。言わなくても伝わるなんて甘っちょろいこと考えんなよ。クリスだって完璧じゃない。言わなきゃ分からん事だってある」

 

 

「うう……、だ、だって恥ずかしいじゃないか」

 

 

 

 顔を赤くしてモジモジしながら言う。乙女か。いや一応乙女だったわ。

 

 

「それにもういいのだ。クリスがあんなに嬉しそうにするのは久しぶりに見た。お前にならクリスを任せられる。……クリスを泣かせたら許さんぞ?」

 

 

「………任された。どんな敵からもクリスを守ると誓おう」

 

 

 

 相手が真剣ならこちらも真剣にならざるを得ない。この覚悟は誰にも譲らない。

 

 張り詰めた空気が流れてしばらく。唐突にダクネスが顔を寄せてくる。近えっつってんだろ。貴族のお嬢様は人との距離が分からないんですかねえ?

 

 

「と、ところでお前、クリスがその、すすすす、好きなのか⁉︎」

 

 

 

 こいつは今の良い空気をどうやって弁償してくれるんだ。

 

 恋バナ大好きお嬢様がドキドキした目で見てくる。

 ふむ、俺が好きなのはエリスだ。しかし同一人物である以上クリスが好きだと言っても間違いではあるまい。

 

 

 

「……ああ、まあな。そうじゃなきゃ声掛けてパーティー組んだりしねえよ」

 

 

「や、やはりそうか!参考までにど、どんなところが好きなのか教えてもらってもいいだろうか⁉︎」

 

 

 

 こいつ目がやべえ。ギラギラし過ぎだろ。

 

 と、いつの間にか離れていた三人も近くに来て俺の話を今か今かと待ち構えていた。

 

 

 

「ふむふむ、ゼロの好きな人とはクリスのことでしたか。一体どこで知り合ったんです?」

 

 

「ダクネスったらエリス教徒だったの?ダメよ、あんな上げ底女神崇めたら。今からでもアクシズ教に変えて女神アクアを崇めるといいわ!」

 

 

「アクア、今いいところだから。小遣いやるから黙っててくれ。出来たら永遠に」

 

 

 

 なんか女神(笑)とクズが喧嘩し始めたし。

 初めて会った時のこと……女神関連だけ隠せばどってこた無いか。

 

 

「あー、どこで知り合ったか、だったかーー」

 

 俺が渋々ながら話そうとした時だった。

 

 

 

「……ん?待て、敵感知に反応がある。多分ゾンビメーカーだ?」

 

 

 カズマが鋭い声を出す。お出ましのようだが……、カズマの反応が煮え切らないな?

 

 

「……数が多い。取り巻きは二、三体って聞いてたけど、五、六体はいる。こっちにはアクアとゼロがいるから大丈夫だとは思うけど一応注意してーー」

 

 

「あーーーーーっ!」

 

 

「ちょっ⁉︎バカ‼︎止まれ!」

 

 

 いきなり叫んだアクアがカズマが止めるのも聞かずに猛ダッシュしていく。……あいつある意味スゲえな。

 

 

 

「止めるか?」

 

 

「……はぁ、頼む」

 

 

 

 了解。

 

 すでにゾンビメーカーの目の前で魔法を放とうとしていたアクアに一息に追いつき、頭を掴んで後ろに放り投げた。背後から鈍い音とともに「ふぎゃ‼︎」と悲鳴が聞こえるが無視。いい気味だ。すかさずゾンビメーカーに剣を構えて………。

 

 

 

「……何やってんのお前」

 

 

「ぜ、ゼロさん⁉︎あああの人なんなんですか!」

 

 

 周りをゾンビ…というかアンデッドが蠢く中心で何らかの術を使っていたのは俺が時々利用する魔道具店の店主、魔王軍の幹部にして『不死王(リッチー)』のウィズだった。

 

 

 

 ※

 

 

 

「要するにこの街のプリースト連中が拝金主義でこの共同墓地に寄り付かないから代わりに迷える魂を浄化してたってことか」

 

 

 ウィズの話をカズマが簡潔に纏める。この場のウィズ以外の視線はアークプリーストであるアクアに注がれている。

 

 

 

「うう…、な、何よ。言っとくけど私は知らないわよ。この街の連中がどんな主義してたって分かるわけないじゃない!むしろアンタ、なんで私のところに来なかったのよ!」

 

 

「ええ⁉︎そ、そんなこと言われましても…」

 

 

 

 こいつ無茶苦茶言ってやがるな。さっきまで滅ぼそうとしてたくせに、わざわざ自分の前にでてきて自殺しろとでもいうのか。

 

 今度はウィズ含めた全員の視線でアクアを滅多刺しにしてやると…。

 

 

 

「わーかったわよ!時々ここに来て浄化すればいいんでしょ!じゃあ早速目の前の迷えるリッチーを浄化してあげるわね!」

 

 

「お前こんな良い人を浄化だと?まずはお前の性根の方をどっかで浄化してきたらどうだ?」

 

 

「………うふふ、やだカズマさんったら、こんなに心の綺麗な美少女を捕まえてこれ以上どこを綺麗にしろって言うのかしら?」

 

 

「全部」

 

 

「なんですってーー!」

 

 

 

 こいつらほんとに喧嘩好きだな。

 

 

 

「ウィズ、行け行け、もう良いぞ。こいつがお前の後を継いでくれるってさ」

 

 

「ほ、本当ですか?ありがとうございます!」

 

 

 

 カズマに砂をぶっかけられて地面を転がる駄女神にお礼を言って足早に立ち去っていく。……今度カズマを連れて店に遊びに行ってみよう。カズマに何かスキルを教えてくれるかもしれない。

 

 

 

「正気ですか、ゼロ!相手は人間の敵ですよ⁉︎逃すなんて……」

 

 

 

 ウィズの人となりを知らないめぐみんが尤もな事を言ってくる。

 

 

 

「安心しろ。ウィズは人間を傷付けたことはないし、もしそんなことがあれば俺が斬る。それでいいだろ?」

 

 

「……そういえばあなたはそんな考え方でしたね。で、でもリッチーだと言っていましたが、リッチーなら魔法のかかった武器しか通じませんよ?」

 

 

 

 あれ?言ってなかったっけ。デュランダルは神器なのだ。例えリッチーだろうと大悪魔だろうと斬れる……と思う。 うむん、ちょっと自信無くなってきた。

 

 

「おい、その辺どうなんだ、女神」

 

 

 

 涙目のアクアが言うには。

 

 

 

「えー?多分大丈夫なんじゃない?特典の武器ってだいたいの物は斬れるし、通じるわよ。あ、でも物理だからスライムとかの軟体には効かないかもね」

 

 

 

 だ、そうだ。いやあ安心安心。この世界だってそうそうスライムなんざいないだろうし実質最強の剣やな。

 

 俺が密かに安堵していると、アクアのことを知らなかったらしいダクネスとめぐみんが首を傾げる。

 

 

 

「「女神?特典?」」

 

 

「……そうね。あなた達には言っておくわ。…私はアクア。そう、アクシズ教団が崇拝している水の女神とはこの私のことなのよ……!」

 

 

「「そうなんだ、すごいね!」」

 

 

「なんでよーーー!」

 

 

 

 アクアが必死に二人に信じてもらおうとしているが、効果は無いようだ。

 あいつは女神として二人に敬われたいのか?仲間としては見られなくなると思うんだが。

 

 ………あ、そうだ。

 

 

「カズマ。今日の報酬は要らねえから、俺はこれで帰るわ」

 

 

「うん?何でだよ。タダより怖いものは無いって言うし、ちゃんと払うぞ?」

 

 

「……その金はどっから引っ張ってくるんだ?」

 

 

「そりゃ今回の報酬金か、ら……?……あっ」

 

 

 

 今回のクエストは『ゾンビメーカー』の討伐。ゾンビメーカーが存在しなかったというならそもそもクエストが存在しないということだ。当然、報酬なぞ無い。

 

 頭を抱えるカズマをよそにダクネスが聞いてくる。

 

 

「そういえば今日はクリスは良かったのか?せっかく組んだのに一日放置なんて……、私は大歓迎だが」

 

 

「てめえと一緒にすんな。クリスは今日実家に帰ってんだよ。明日明後日くらいには戻るってさ」

 

 

「まだ組んで一週間も経って無いのにもう愛想を尽かされたのですか。これはゼロもウチのパーティーに入るしかないのでは?」

 

 

 

 めぐみんが無茶振りしてきた。

 お前どんだけ俺のこと好きなんだよ。入らねえよ。

 

 いや、多分普通に実家(天界)に帰ってんだろ。仕事も片づけなきゃとか言ってたし。女神様は大変だなぁ…手伝えりゃいいんだけどーー

 

 

 ーーいや?まてよ、閃いたぞ。

 

 

 

 

 ※

 

 

 

 翌日。早速昨日の閃きを試そうと適当なクエストを受けようとしたが……。

 

 

「……なんか難度高いのばっかりじゃないですか?」

 

 

 俺なら問題無いものばかりだが、他の冒険者からすると受けるのを躊躇うようなクエストしか掲示板にはなかった。その理由をルナに聞くと。

 

 

 

「それがですね、どうやらアクセルの近くにある廃城に魔王軍の幹部が来ているようでして、その影響で弱いモンスターが隠れてしまったんですよ。あ、この話、ゼロさんとはそういう約束してたからしたのであって、まだ他の方には広めないでくださいね?」

 

 

 

 ほう!魔王軍の幹部!で、俺はそれを今から倒してくればいいんだな?

 

 

 

「ええ⁉︎えっと、その………、…やれるんですか?」

 

 

 

 愚問だな。やれるやれないじゃなくてやるんだよ(・・・・・)。それ、一番言われてるから。

 

 ………おお?

 

 

 

「…いや、やっぱりやめておきます。この街に攻めて来るようなら迎撃はしますがね。また何か分かったら教えてください。あ、それと今日はこれ、行ってきます」

 

 

「あ、そうですか……。いえ、お気になさらず。では行ってらっしゃい」

 

 

 

 ルナはすこぶる残念そうな顔をしたが、そこはプロ。滞りなくクエストを受注させてくれた。

 

 別に日和ったとかそういう話じゃない。今は幹部には居てくれた方が都合がいいから泳がせてるだけだ。なあに、そのうち顔でも見に行ってやるさ。

 

 

 

 



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34話



再投稿。






 

 

 

 ※

 

 

 魔王軍幹部が近くに来ているだけあって、確かに弱いモンスターは見かけなかった。他にクエストを受けたやつも居なかったようだし、俺の企みはまた今度だな。

 むしろ今の状況は俺にとって御誂え向きと言える。幹部さんには是非とももう少し滞在した後に俺の元へ出て来て欲しいものだ。丁重に葬って差し上げよう。

 

 クエストを完了して宿の前。俺の部屋の灯りが点いていることに気付く。

 

 クリスか。そろそろ戻る頃だとは思っていた。

 

 

 

「ただいま、クリス」

 

 

「おか〜えり〜……」

 

 

 

 扉を開けながら帰宅を告げると、クリスは部屋の真ん中で仰向けに寝転びながら足を伸ばしてストレッチのような運動をしていた。どうせならベッドに寝転べよ。

 

 ……別にいいけどこいつリラックスし過ぎじゃね?最初の三日は借りて来た猫のように大人しかったのに、俺が本当に何もしないと分かると急にだらけ始めた。案外ものぐさなのかもな。そんなとこも好きだけど。

 

 クリスが手を出してきたので俺の冒険者カードを乗っけてやる。なんでも俺のステータスは尖ってて見ていて飽きないので、暇潰しに良いのだそうだ。

 

 俺もくつろごうとベッドに腰を下ろすと、クリスが話しかけてきた。

 

 

「うーん……、ねえゼロ君、やっぱり君のステータスちょっとおかしくない?」

 

 

 

 ……何がおかしいって?肉体的なステータスは桁がおかしいとは最初に言われたがね。

 

 

 

「いや、そっちもアレだけどそれは諦めもつくよ」

 

 

「諦めってなんだよ」

 

 

 

 勝手に諦めんなよ!もっと頑張ってみろよ!お前を応援してくれてる人の気持ち考えろよ!

 

 

 

「そうじゃなくてさ、キミの知力だよ。どう考えても低過ぎじゃない?むしろ高い方だと思ってたんだけど…」

 

 

 

 やだ、私の知力、低過ぎ⁉︎

 

 ……うん。いや、まあね?知力低いって言われるとショックだけど、正直どうでもいいじゃん?最悪まともに戦えて、工夫が出来るだけあればなんとでもなるよ。

 

 

 

「それがおかしいんだよ。だって、アクア先輩より低いんだよ?正直日常生活に支障をきたすレベルだと思うんだけど」

 

 

「うん。それは俺も変だと思った」

 

 

 

 俺がアクアよりも低いとかちょっと信じたくない。この『知力』は何を基準に決めているんだろう。そしてさりげなく先輩をdisるクリス後輩。

 

 

 

「うーん……?まあいいか。あ、あとまたレベルアップしたみたいだね。なんかスキルとか覚えないの?」

 

 

「また上がったの?それもおかしくね?」

 

 

 

 見ると確かに72→73に上がっていた。

 

 今日は『ダンジョン付近に住み着いたアークデーモンの討伐』を受けてきた。アークデーモンっていうかむしろホーストに似ていた。

 でも今回の奴は喋らなかったし、ホーストに比べるとクソほども強くなかった。……ホースト、あいつ強かったんだな…。

 

 何とは無しに習得可能スキルをスクロールしていく。未だに最後に君臨するのは圧倒的にポイントを必要とするスキルーー

 

 

『一刀両断』・・・73

 

 

「…………なあ、クリス。必要ポイントが変動するスキルなんてあるのか?」

 

 

「………?そんなの聞いたこと無いけど」

 

 

 

 だよなあ。俺も無い。じゃあなんぞこれ?

 

 初めて見た時は間違い無く必要ポイントは68だった。レベルが上がる毎に必要ポイントが増えているということは、何か一つでもスキルを覚えたらこのスキルとはおさらばということだ。

 ………それは嫌だな。やっぱりまだ保留にしておこう。

 

 返してもらったカードをポケットに突っ込んでおく。

 ーーさて。

 

 

 

「なんか話したいことがあるのか?」

 

 

 

 ビクッとしたクリスが恐る恐る聞き返してくる。

 

 

 

「……なんで分かったの?」

 

 

「そんな感じがした。ステータスのついでに話すつもりだったんだろ?」

 

 

 

 ふふん。この洞察力は自慢できるんじゃなかろうか。クリス相手なら言葉にしなくても言いたいことが分かる気がするね。

 

 そんなことを言うと、クリスは何が気に入らないのか、震える声で聞いてきた。

 

 

「へ、へえ。あたしそんなに分かりやすい?」

 

 

「少なくとも俺にとってはな」

 

 

「な、なかなか言うじゃん。じゃあはい!あたしが今から何を話すでしょうか!当たったらナデナデしてあげる!」

 

 

「要らんわ。逆にナデナデさせろ。それなら受けてやらぁ」

 

 

「……セクハラ、だめ、絶対」

 

 

 

 健全に頭だっちゅうの。なんだ?胸でも撫でようか?ツルツルして気持ち良さそう……とは絶対言わない。冗談でもなんでもなく殺されそう。

 

 ……ふむ。

 

 

「何か頼みごと、それもやましいことと見た。クリスは一応盗賊職だからそれ関係じゃないか?」

 

 

「なんで分かるのさ⁉︎ちょっと怖いんだけど‼︎」

 

 

 

 伊達に一週間一緒に居たわけじゃない。これがシステム外スキル『以心伝心(クリス限定)』だ。

 

 

「……キミにあたしが下界にいる理由って言ったっけ?」

 

 

「昨日聞いた。ダクネスの友達になるためだろ」

 

 

「ちょっ⁉︎だ、ダクネスから聞いたの……?あ、いや、そっちじゃ無くて、それもそうなんだけどーー」

 

 

 

 ほのかに頰を紅くしながら俺に掻い繰りされるクリスが言うには、転生者が貰った特典の神器。本来はこの世界にあっちゃいけないものがどういうわけか持ち主の手を離れて他の人の手に渡ってしまうことがある。持ち主から買い取ったり、持ち主が死んだりした時に発生する事例で、だいたいは貴族が持っているそうだ。そんな神器を貴族の屋敷にこっそり侵入して回収するのがクリスの目的なんだとか。

 

 

「だから『盗賊』になったのか」

 

 

「まあね。あと、ついでに義賊っぽいこともやってみたかったから、出自不明の悪どいお金も幾らかいただいちゃってるよ」

 

 

 

 舌を出しながらイタズラっぽく笑うクリス。いやそれは本来お茶目では済まされないけどな。もう、こいつめ!ぷんぷん、がおーだぞ!

 

 

「で、それを手伝えってか。いいよ、やろうか」

 

 

「手伝ってくれる?ありがと」

 

 

 

 何を遠慮してんのか。昔偉い邪神が『バレなきゃ犯罪じゃないんですよぉ』って言ってたし、バレなきゃいいのよ。

 

 

 

「へえ、いいこと言う人がいるもんだね?」

 

 

 

 ………俺が言うのもなんだが、クリスも大概だな。この言葉に同調する女神は割と駄目なんじゃないか?エリスバージョンはあんなに女神然としているのにクリスバージョンは俗っぽいというか何というか。だが……そこがいい。

 

 

「神器を持ってる貴族の目星は付いてるのか?」

 

 

「あ、うん。今のとこ、確認してる神器は三つだね。一つはこのアクセルの貴族のところだけどここはちょっと複雑で今は手が出せないかな」

 

 

「なんだ、ダスティネス家の屋敷だったりするのか?」

 

 

「ち、違うよ。単純に神器の方に問題があって……、まあそれもおいおいね。そんで、残り二つは王都にあるよ。今回はこっちの片方を手伝って欲しいかな」

 

 

「ってことは王都に行くのか?」

 

 

「そうなるね。次回の王城の下調べもしたいから一ヶ月くらいアクセルから離れるけど……いい?」

 

 

「ああ。俺はいつでもいいけどーーん?」

 

 

 

 ーーちょっと待て。次回の王城?王城に神器あんの?じゃあ侵入しなきゃいけないの?

 

 

 

「え?まあ今回はそこまではしないけど、神器がある以上いつかはーーー」

 

 

「バカじゃないの⁉︎」

 

 

「えっ」

 

 

 

 

 いやもうマジでバカなんじゃないの?王城ってことはあそこにいる化け物連中の目を盗まないといけないんだぞ。

 

 もし戦闘になってみろよ。まだジャティスやアイリスなら何とかなるよ?国王は無理だぞおい。

 

 

 

「えっ、でもキミ勝ったじゃん……」

 

 

「あれはお前のバフ盛り盛りで、しかも武器が耐えられなかったからで、その上試合形式だっただろうが!」

 

 

 

 いくら脳筋国王でも自分の城がピンチの時に武器壊されていじけて山に籠るってこたしないだろう。つまりガチの、本気のバスターゴリラとバトルせねばならないってことだ。死ぬわ!

 

 

 

「ええ⁉︎ちょっと困るよ!キミに外で騒ぎを起こしてもらってその隙に盗ってこようと思ったのに!」

 

 

「バーカバーカ‼︎もうほんと……バーカ‼︎」

 

 

 

 なんだその虫食いだらけの計画。俺をなんだと思ってんだ。

 

 俺の直球の暴言にムカっとした顔で反論してくる。

 

 

「ば、バカとは何さ!アクア先輩より知力低いくせに!」

 

 

「あ、そういうこと言う⁉︎その俺ですらその作戦は杜撰すぎるって言ってんの!」

 

 

「嘘つき!一緒にやってくれるって言ったのに!もういいよ、ダクネスに頼んでくるから!」

 

 

「お前今何言ってるか分かってる⁉︎貴族のダクネスに王族の城で騒ぎ起こさせようとするとかそれでも親友かよ!」

 

 

「うう、だって、だってぇ……」

 

 

 

 あっ、こいつ泣き始めやがった!くそ、ズリぃなぁ!

 

 

 

「……ふぅ、ぅぅぅ…。わかった、わかったよ。そっちは俺がなんとかしてやるよ」

 

 

「うっ、ほ、ほんと……?」

 

 

 

 なんか幼児退行してんじゃねえか。アクアといい、女神ってのは下界に降りたら子供っぽくならないといけない決まりでもあんのか。向こうとは違って腹立たないのは惚れた弱みってやつなのかねえ。

 

 

 

「………ごめんね。なんかゼロ君に断られたって思ったらすごく悲しくなってさ」

 

 

「……悪かったよ。でも、国王とやるのは本気でヤバいんだってばさ」

 

 

 

 さっきの続きとばかりにクリスの頭を撫でながら謝る。そういえばあの時、国王に勝ったらって約束こいつ忘れてね?いや、ムードが大事ってのはなんとなく分かるから今はいいけど。

 

 

「……下調べって言ったよな。それ、俺に任せてくれ」

 

 

「え?いいけど、どうするの?」

 

 

 

 場所が王城なら俺の方が内情を確かめるのは簡単なはずだ。国王の予定を聞いておいて、いない日を作戦決行日にすればいい。それとあとはーー

 

 

 

「……協力者が要るな。できれば盗賊系のスキル持ってるやつ」

 

 

 侵入してそれで終わりじゃない。そこから宝物庫までの罠だらけの通路を突破できるくらいには実力がある奴が望ましい。クリスだけだと不測の事態に対応出来るか心配だ。

 

 

 

「ううん……?でもアクセルにはあたし以外に盗賊なんていないし、王都で集めるにしたってこんな犯罪紛いのことに協力してくれるかな?」

 

 

「犯罪紛いじゃなくてれっきとした犯罪だろうが…。……いや、一人いるぞ。盗賊スキル持った機転の利く男が」

 

 

「だ、誰?あたしの知ってる人?」

 

 

 

 知ってるも何もそいつにスキル教えたのはお前だぞ。

 

 

 

「…………えっ⁉︎……まさかとは思うけど」

 

 

 一つ頷く。

 

 クリスは嫌がるかもしれんな。あいつが手え貸してくれるかも分からんが……

 

 

 

「カズマに頼もう」

 

 

「絶対嫌です」

 

 

「真顔⁉︎」

 

 

 



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35話



再投稿。





 

 

 

 ※

 

 

 ギルドの酒場。そこに設置されたカウンターに一人でカズマ君が座っていた。他のメンバーはそれぞれの用事で出掛けているようだ。

 

 

 

「は?やだよ。厄介ごとに巻き込まれるのはごめんだぞ」

 

 

 

 ……ほらごらん。

 

 どうするのさ?という意味合いを込めて隣にいる男の人を見る。あたしは嫌だし、そもそも手伝ってくれないって何回も言ったのに。

 

 しかし、ゼロ君はカズマ君が適任だと思っているようだ。諦めずに報酬について交渉している。

 

 

「そんなこと言うなよ。報酬だって払うって言ってんじゃねえか。何が不満なんだよ」

 

 

「全部だよ‼︎なんで犯罪の片棒担がなきゃいけねえんだ!

 それで金貰うくらいなら普通にクエスト受けるし、だいたい、お前がいて尚難しいんじゃ俺一人追加したところで大して役に立たねえだろ……」

 

 

「声がでけえよ。今の掲示板に貼ってあるクエスト受けられんのか?カズマのパーティーじゃ厳しいんじゃないかねえ」

 

 

「ぐっ。痛いとこ突きやがる………」

 

 

 

 カズマ君が顔を顰める。確かに最近は妙に簡単なクエストが出なくなった。まだ駆け出しのダクネス達では難しいと思う。

 

 ゼロ君がニヤリと笑い、ここで畳み掛けるとでも言うように報酬を追加する。この人ほんと悪い顔するなぁ……。

 

 

 

「どうだ?今なら報酬金とは別に今から一ヶ月の間俺をタダで使わせてやるぞ?俺なら今のクエストでも楽勝だ。この条件なら悪くないんじゃないか?」

 

 

「ゼロ君⁉︎い、いいの……?」

 

 

 

 ゼロ君は基本的に報酬に関しては厳しい。例え相手が友達だろうと無償でクエストに力を貸すことはまず無いし、決められたお金は絶対に徴収する。その代わりになにか不測のことがあって、クエストが潰れた時や命の危険がある時は手助けして、組んだパーティーがお金を差し出してきても受け取らない。明確な基準があるみたいだ。

 

 ……あたしの頼み事ではお金取ったことなんてないけれど。

 その事実が無性に嬉しくて、恥ずかしい。この人はなんで『私』をこんなに好きで居てくれるのだろう。以前理由を聞いたことがあったけどはぐらかされただけだった。「わからないならそれで良いよ。今はな」……そう言ってそっぽを向くのだ。

 

 彼の提示した条件を聞いてカズマ君が腕を組んで悩み出す。これはいけるんじゃーー?

 

 

 

「………お前ら、王都に行くっつったよな?いつからいつまで向こうにいるんだ?」

 

 

 

 ………あれ?確かに。今から一ヶ月ゼロ君を使えるって言ってたけど今から一ヶ月はあたし達は王都に行くわけで。

 

 ゼロ君をあたしとカズマ君が見る。

 

 

 

「……バレたか」

 

 

「やっぱりかてめえ‼︎ふざけんなよ⁉︎どうせそんなこったろうと思ったわ!俺はまだあの小銭だらけのサイフの件忘れてねえからな‼︎なにが知力最低クラスだ、この詐欺野郎!」

 

 

 

 狡っ‼︎今のは狡っ‼︎実質報酬金しか払わないつもりだったんじゃん!

 これはカズマ君が怒り狂うのも仕方ないだろう。

 

 

 

「ま、まあ待てって。悪かったよ、期間じゃなくて回数制にしてやるから……」

 

 

「はい、もうお帰りくださ〜い!交渉の場で嘘つくやつを信用できるわけねえだろうが!回数制にしたってなんかインチキするんだろ?ほら早く出て行け‼︎」

 

 

 

 取り付くしまもないとはこのことだ。なくしたのはゼロ君だけど。ゼロ君にもまだなにか考えがーーー?

 

 ゼロ君の顔を見ると、冷や汗が一筋流れていた。

 

 あ、ダメだこれ。もう考えなんてないや。

 

 もともと乗り気じゃなかったあたしが完全に諦めていると、ゼロ君の目が鋭くなった。

 

 

 

「カズマ。賭けをしよう」

 

 

 

 どうもまだ諦めないらしい。あたしとしてはゼロ君と二人でいいと思うんだけどなあ。

 

 カズマ君があたし達を追い出そうとする動きを止める。

 

 

 

「……賭けだと?」

 

 

「そう、賭けだ。お前が勝てば協力しなくていい。しかも俺が王都から帰ってきてから一ヶ月、お前らパーティーの専属になってやる。その際には分け前だけ貰えれば報酬は要らん」

 

 

「………負ければ?」

 

 

「俺たちに協力はしてもらう。ただし、こっちも報酬は払うし、帰ってきてからも一週間はお前らの依頼を優先してやる。……どうよ、そっちの不利益は最小限にしたつもりだが……?」

 

 

 

 再びカズマ君が熟考する。確かにカズマ君達からすればどう転んでもゼロ君の力を借りることができる分有利だ。でも。

 

 

「(ちょ、ちょっと!あんなこと言っていいの?だってゼロ君の幸運、本当に最低じゃない)」

 

 

 そう、彼の幸運はあたしやカズマ君からして、目を覆うほどに差がある。今までの旅だってそのせいで色々不幸な目にあい、その度に死にかけてきたのではないか。

 それでもゼロ君は笑う。

 

 

「(心配すんな、賭けの内容はつい今し方思い付いた。あとはこいつが賭けを受け、俺の望む内容にできるかだがーーー)」

 

 

「いいぞ。その賭け、乗った!」

 

 

「(ーーーかかったぜ、カモが)」

 

 

 

 うわぁ……。今の顔は魔王軍幹部って言われても否定出来ないレベルだったよ…。あたしじゃなかったら嫌いになってたかも。……いや、別に今だって好きってわけじゃなかった。

 

 変な思考が頭をグルグル回るなか、ゼロ君が勝負をかける。残った条件は賭けの内容。

 

 

「カズマよ、やり方は俺に決めさせてくれないかね。もちろん実力勝負なんてのは無しだ。純粋に運の要素でやろう」

 

 

「おい、おい本気かよ?お前程度のステータスでこの『レア運だけのカズマさん』に運で勝とうってか?しょうがねえなぁ!さっさと決めろよ!」

 

 

 

 御愁傷様です。

 

 あたしは心の中で手を合わせる。ゼロ君の勝利条件が揃った。ゼロ君はいかにも今から考えますよ、という風に悩み出す。白々しいなこの人。

 

 

 

「そ、う、だ、なぁ。よし、じゃあこうしようぜ」

 

 

 彼の提案はこうだった。

 

 器に入れた野菜スティックを用意して、細工の無いようにカズマ君が選ぶ。それを机に置いて、二人とも離れてからあたしが机を叩く。野菜スティックが飛ぶか飛ばないかを賭ける。

 

 ……?これのどこに勝利できる要素があるんだろう?見かけは完全に運次第だけど……。

 彼のことは信頼してるけれど、もう少し詳細くらい話してくれてもいいのに。そう思っているとカズマ君が首を捻る。

 

 

 

「……野菜スティックが飛ぶってなんだ?飛ぶの?野菜スティック」

 

 

 

 ああ、そう言えば彼も転生者だったっけ。まだこちらの常識に慣れていないらしい。ゼロ君が一言。

 

 

「キャベツだって飛んだだろ」

 

 

「…………分かった」

 

 

 

 凄い説得力だ……。

 

 

 

 カズマ君が器を選んで二人とも離れていく。カズマ君は『飛ぶ』方に賭けた。その器を机に置く時に気付いてしまった。

 

 このスティックは飛ぶ。だってもうプルプル震えてるんだもの。活きが良い証拠だ。

 

 さすがはレア運のカズマと呼ばれるだけはある。多分この店で一番活きの良い野菜を迷わず選ぶとは……。

 

 

 

「(だ、大丈夫なんだよね⁉︎もう飛びそうなんだけど!)」

 

 

 彼に視線を向けると不敵に笑う顔が見えた。俺を信じろとでも言いたげだ。ようし!もうどうにでもなれ‼︎

 

 

「行くよ‼︎」

 

 

 合図をあげて手を振り上げる。意味なんてないけど何故か身構える二人。振り下ろす。ドン、と手に鈍い感触。衝撃でスティックが僅かに浮き上がりーーーーー。

 

 

 

 ッパァン‼︎

 

 

 なにかが破裂する音が大音量で響き渡り、直後にキーーン、と耳鳴りが起こる。思わず耳を塞ぐ。

 

 い、今のは…?

 

 周りを見渡すと、カズマ君もギルドにいた他の人も全員耳を押さえていた。

 

 唯一、ゼロ君を除いて。

 

 

「はい。悪いなカズマ、賭けは俺の勝ちだ」

 

 

「え?……あっ、くそ!」

 

 

 

 見れば、野菜スティックは変わらずにそこにあった。飛んだ形跡がない以上、ゼロ君の勝ちと言えるだろう。

 

 ……カズマ君は遠目で分からないようだがあたしははっきりと分かる。

 

 野菜スティックがなぜか短くなっている(・・・・・・・)。完全にトドメが刺されていた。

 

 ダメ押しとばかりにあたしに向けてチラリと剣の柄を見せてまたニヤリと笑うゼロ君。

 

 彼の旅を思い出す。最近は使っていなかったが、彼は音速で剣を振って斬撃を飛ばすことが出来なかっただろうか。彼自身はかまいたち程度と卑下しているが、その威力は野菜を切り裂くなど造作も無い。

 

 

 ーーーそう言えばこういう人だった。

 

 どれだけ運が悪かろうと、誰にも負けない努力によって手に入れた強さで全てを捩じ伏せる。死にかけてきたということはまだ死んでいないということだ。これからも彼はこうやって文字通り道を切り拓いて行くのだろう。

 

 

 ーーーいや、やったことはただの不正なんだけども。

 ジト目でゼロ君を見つめる。それには気付かない様子で項垂れるカズマ君を煽り続ける彼。

 

 

「いやあ、ホント悪いなカズマ!当日はよろしく頼むぜ!そう気い落とすなって!今回ばかりは『幸運の女神様』は俺に微笑んでくれただけだからSA☆」

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

『幸運の女神様』なら今キミに若干ヒいてるけどね。

 

 さすがは普段から『無理をゴリ押し道理を粉砕』を座右の銘にしているだけのことはある。

 

 終始ゴリ押しで何とかしちゃったよこの人。

 

 

 

 

 



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36話



再投稿。






 

 

 

 ※

 

 

 夜の王都に男の高笑いがこだまする。

 

 

「フハハハハハハハハハ‼︎どうもご機嫌麗しゅう人間の皆々様!我輩は地獄の公爵にして見通す悪魔……そう!バニルと申します!今宵は特別に我輩の大悪魔としての力の片鱗をお見せ致そう、恐れ慄くがよろしい‼︎フハハ、フハハハハハハハハハ‼︎」

 

 

 

 ※

 

 

「お?ゼロじゃないか!アクセルにはもう行ってきたのか?まあお前ならすぐ王都に戻ってくるって分かってたけどな!」

 

 

 

 これで何回目だよ。

 

 俺とクリスが王都に来て知り合いの冒険者に声を掛けられること十数回。まだ王都の門から入って全然進んでないんだが。

 

 アクセルに慣れると王都ってのは本当に混雑している。その中で知り合い全員に対応していると宿に着く前に日が暮れそうだ。

 

 

 

「うん?そっちの子は……ゼロの仲間か?」

 

 

 

 目の前の男はディラン。以前、王都で魔王軍襲来時に助けてやってから話すようになった冒険者だ。

 ディランがクリスに言及する。クリスは少し俺の後ろに隠れながらも自己紹介をした。これも今日何度も見た光景である。

 

 

 

「う、うん、初めまして。あたしはクリス。盗賊をしてて、ゼロ君とはパーティーを組ませてもらってるよ」

 

 

 

 それを聞いたディランは何が不思議なのか首を傾げ、クリスを指差して俺に聞く。

 

 

 

「………男?女?」

 

 

 

 顔面をわりと強めにぶん殴ってやった。近くにあった露店に激突してピクリとも動かなくなるディラン。殴った時に「ピシッ」と音がしたから顔の骨にひびくらいイったかもな。

 まあディランも高レベル冒険者だ。怪我なんか慣れっこだろ。

 

 

 

「ちょっ!何してんのさキミ⁉︎」

 

 

「いいんだよ。失礼な奴はあんぐらいしないと直らないしな」

 

 

 

 失礼なことを言われたというのにディランを心配そうに見つめる女神のようなというか女神であるクリスの手を引きながら進む。

 

 俺たちが通った道には既に男の冒険者が死屍累々に横たわっている。

 だってあいつらクリスの声を聞いてようやく男か女かどっちか、みたいに聞いてくるんだぜ?

 失礼の極みだろ。せめて本人には隠して聞けって話よ。

 

 

 

「それにしてもキミ、本当に人気者だねえ」

 

 

 

 先ほどの俺の暴挙は置いておく事にしたのか、それはそれとしてクリスが感心したように声をあげる。

 

 

 

「なんだよ、俺のこと見てたんじゃないのか?」

 

 

「いやあ、見てはいたけど実際に体験するとまた違った感じがするっていうかさ…」

 

 

「惚れ直した?」

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

 おっと、黙ってしまったか。俺も人の事は言えんな、もう少し言動に気を付けよう。

 

 

 

 

 ※

 

 

 

 夜、とある宿屋にて。

 

 

 

「なあ、本当に明日やるの?もうちょい予定に余裕持たせたりしないの?」

 

 

「いいじゃん。ゼロ君だって早く終わるにこしたことはないでしょ?それに今回の屋敷は中の警備は手薄だから、キミが外で気を引いてくれたらすぐに盗ってくるよ。

 それより問題は次の王城なんだよねぇ……、それの下調べに時間も割きたいからさ」

 

 

 

 なんだかクリスはもう成功したかのような雰囲気を出しているが、俺としては気が気ではない。大丈夫?これ、フラグとかじゃない?

 まだ作戦前だというのに次の話をするとか鬼ならぬバニル(悪魔)大爆笑じゃないの?

 

 俺が尽きぬ不安を感じる間にも。

 

 

 

「だーいじょうぶだって!なんだかんだ言っても王都の英雄と女神であるクリスさんが組んだんだから、今さらアルダープなんて悪徳貴族の別荘から神器盗むことぐらい楽勝だって!」

 

 

 

 フラグ建築に余念がない女神クリスさん。どうしよう、俺が知らぬ間にどこで一級フラグ建築士の資格を取ってきたのだろう。

 

 いや、俺の方こそ明日のことばっか考えてもしょうがないか。あれだ、明日は明日の風が吹くってな。

 

 

 

「それにしてもアルダープ、ねえ」

 

 

 

 その名前は王城にいた時に聞いたことがある。確か悪どいことをやりまくっているのに何故か決定的な証拠が出ないから摘発出来ないとかなんとか。

 憎まれっ子世に憚るってのはどこの世界も同じだな。やるとなったら派手にやっちまうか。誰も文句なんざいわねえだろ。

 

 

 

「それじゃあそろそろ寝ようぜ。細かいことは明日考えりゃいいさ」

 

 

「うん、そうだねー。灯り消すよ?……じゃ、おやすみー」

 

 

 

 部屋が暗くなる。なんだかんだ二人の生活にも慣れてきた。瞼を閉じるとそのまま夢の世界にーーー。

 

 

 

「いややっぱりちょっと待って!おかしくない⁉︎」

 

 

 

 いきなりまた灯りが灯る。なんだというのか。せっかくうっすらと意識が沈みかけたってのに安眠妨害もいいところだ。

 

 

 

「あ、ごめ……、じゃなくて!なんであたし達同じ部屋で寝てるのさ⁉︎」

 

 

「お前今さら何言ってんだよ……」

 

 

 

 いつも平気でやってることだろうが!つべこべ言わずにつべこべぇ‼︎

 

 

 

「今回は別に部屋分けるとかできたじゃん!お金だってそのために多めにもってきたんだからさあ!」

 

 

「節約するのは良いことだろ。俺だって何にもしないって、まだ信じてくれてないのか?」

 

 

「そういうことじゃねーよ!キミのことは信頼してるけど、その、他の人の目が気になるっていうか……」

 

 

 

 ……なるほど。つまりは周囲から夫婦みたいに見られるのが耐えられないわけだ。王都ではクリスは何故か男に見られることが多いが、アクセルでは普通に女として通っている。アクセルで俺たちが同棲してるってことは周知の事実だけど王都では違うしな。気にするなってのは無理な話か。

 

 

 

「⁉︎ えっ、アクセルであたし達が一緒に住んでるのってバレてるの⁉︎」

 

 

「逆になんでバレてないと思ってたんだよ」

 

 

 

 アクセルでは噂が広まるのが早い。その中で俺とクリスは一週間も同じ部屋で生活してきたのだ。クリスの方は気を付けていたようだが俺は別に隠すことでもないと開き直っていたからな、すぐ広まるさ。

 

 

 

「キミのせいじゃん!」

 

 

「その通りだが何か?」

 

 

 

 悔しそうにするクリス。いやあ、表情豊かで可愛いことこの上ない。とは言えあまりからかうと拗ねてしまうのでこの辺にしておくか。

 

 

 

「わかった。明日から俺は王城に泊めてもらうからこの部屋はクリスが好きに使えよ」

 

 

「……王城に泊まるってなに?泊めてもらえるの?」

 

 

 

 ふはは、俺を誰だと思ってやがる。王城の衛兵には教官と親しまれ、王子と王女とは一緒に汗を流したゼロさんだぞ。

 それに前は三ヶ月逗留したんだし一ヶ月くらいは頼めば泊めてくれるだろ。

 

 

 

「へええ、改めてキミすごいよねえ。王族に知り合いがいるとか一般冒険者の域を軽く超えてるよ」

 

 

「それよりそれでいいか?別々の部屋借りるよりは情報収集も出来るしこの方がよくね?」

 

 

 

 まあそれならいいか、とクリスも納得してくれたようだ。我が儘な嫁を持つと苦労するのは夫なのだ。

 

 

 

「だから我が儘でもないし嫁でもないからね」

 

 

「………チィッ」

 

 

 

 

 ※

 

 

 翌日

 

 

 とりあえずは王城に行って宿泊許可を取ることにした。クリスは作戦決行時まで別行動だ。

 ……俺、実はものすごいことしてんな。王城をホテル代わりとかクレアあたりに怒鳴られそうだ。

 

 

 

「久しぶりに姿を見せたと思えば王城に泊めろだと⁉︎ふざけるな‼︎お前はどこまで王族を貶せば気が済むのだ‼︎」

 

 

 

 怒鳴られた。

 

 

 

「別に良いじゃねえか。減るもんじゃなし。ほら、衛兵達も是非にって言ってるぜ?」

 

 

「そこの衛兵どもは後で話がある!お前もさっさと帰れ!塩を撒くぞ!」

 

 

 

 この女は相変わらずピリピリしてんなぁ。そんなに俺が気に入らないのか。ちっと凹むぞ?

 

 

 

「……私とてお前の実力は認めている。だからと言って平民であるお前と王族であるアイリス様やジャティス様がこうも気軽に接すると王族としての威厳がだな……」

 

 

「ほうほう。だ、そうだがどうなんだ、そこの暴虐王子」

 

 

「気にすること無いんじゃない?クレアは頭が固すぎるよ。それより久しぶりだね、ゼロ。今回はいつまで居られるんだい?」

 

 

「なっ……⁉︎ジャ、ジャティス様‼︎」

 

 

 

 こちらも相変わらず爽やかイケメンのジャティスである。さてさて、その王族様が良いって言ってるんだがね?クレア君?

 

 

 

「ぐっ……!貴様、調子に乗るなよ!」

 

「調子は乗り物、乗りこなしてみせらあ」

 

「あ、今の言い方良いね。僕は使う機会無さそうだけど」

 

 

 

 クレア陥落。ジャティスとハイタッチを交わす。

 

 しかしクレアには悪いことするなぁ。そろそろ胃に穴が開くんじゃないか?回復魔法だけは信用できるアークプリーストでも紹介してやろうか?

 

 

 

「いらんわバーカ!今回こそアイリス様には指一本触れさせんから覚悟しておけよ‼︎」

 

 

 

 お手本のような負け惜しみを言いながらジャティスに礼をして下がっていくクレア。あいつも難儀な性格してんね。

 

 

 

「悪りぃな。迷惑だってのは分かっちゃいるんだが、一ヶ月くらい世話になってもいいか?」

 

 

「うん。好きにするといいよ、アイリスも喜ぶ。あ、でも申し訳ないけど僕は明日からまた前線に出ちゃうからゼロの相手は出来ないね。王都のことも少し心配だったけど君がいるなら安心だ。僕がいない間、王都を頼んでもいいかな?」

 

 

 

 任せとけ。

 今回は他の用事があるが、その合間でもいいならまた剣を振るおう。

 

 

 

「ハハハ、頼もしい限りだけど実際そんなには気を張らなくてもいいかな。

 以前の逗留で最後に君が張り切り過ぎたおかげか、魔王軍はあれから一度も来てなくてね、平和そのものだよ。

 その影響でいなくなった後の君の評判は前にも増して高くなっているから、街で君の名前を出せばそれこそ英雄扱いされるよ」

 

 

 

 ああ、最後の戦闘な。もうほとんど我を忘れて『アイツ』を追っかけてたから、気が付いたら敵さんが全滅しててびっくらこいたのしか覚えてないや。

 

 ………おっと。

 

 

 

「悪い、ジャティス。積もる話もあるだろうが、早速外出してくらあ」

 

 

「うん?構わないけど、さっき言っていた用事かい?僕にも言えない用事っていうと?」

 

 

 

 考え込むジャティスだが、放置して行かせてもらうとしよう。なにせ今からする事はとっても悪いことだからな。王子様にゃあバレるわけにもいかん。

 

 

 

 

 ※

 

 

 

「少し遅くなったか?」

 

 

「んーん、時間ぴったりだよ。さて、じゃあ悪巧みといってみようか!」

 

 

 

 今から貴族の別荘に侵入するってのに楽しそうだな、こいつ。

 

 

 

「あ、そういえばキミさ、変装の道具とかある?一応あたしはこうやってスカーフで覆面っぽいこと出来るけどキミは……」

 

 

 

 大丈夫だ、問題ない。

 以前買っておいた仮面をつければ俺とは分からんはず。

 

 

 

「そっか、なら安心だね。それで、王城には泊まれそうなの?」

 

 

 

 少し心配そうに聞いてくる。宿から俺を追い出したようで気が引けるのだろう。滞り……はまああったがそれも問題ない。

 

 

 

「ねえ、思ったんだけどキミが王城にある神器盗ってきてくれればわざわざ侵入しなくて済むんじゃない?」

 

 

「無茶言うなよ。それがどんなものかも分からないし、調べたけど宝物庫には魔法っぽいロックが掛かってて開けられないからお前に頼るしかない。壊すこともできなくはないけどそっから先は地獄だぞ」

 

 

「それもそっか」

 

 

 

 元より期待はしてないのかあっさり諦めたな。とりあえず今は目の前のことに集中集中。

 

 

 

「確認するぞ。まず俺が正面から押し入って暴れる。その隙にクリスが神器かっぱらう。終わったら俺に合図を出して二人で逃げる。これでいいか?」

 

 

「うん、それでいいよ。そっちもOK?」

 

 

 

 OK‼︎(ズドン‼︎)

 

 

 

「さーて、行きましょうかね!」

 

 

「ん?あれ。キミ、剣は?何も持ってないけど」

 

 

「置いてきた。あいつはこの先の戦いについてこれそうもない」

 

 

「ちょっと何言ってんのさ⁉︎素手で戦闘なんかしたこと無いでしょ⁉︎」

 

 

 

 

 うん。無いね。さすがはクリス、よく俺を見てる。

 

 

 

「何やってんの⁉︎」

 

 

「いやわりと真面目な話さ、俺って結構有名じゃん。そのせいで副次的にデュランダルも有名になっちゃったから見られたら正体バレするかもしれないんだよね」

 

 

 

 真名バレいくない。

 

 

 

「え、ええー?大丈夫なの?」

 

 

「クハハハハ!慈悲など要らん‼︎」

 

 

「誰の真似さ……。…まあそれで良いならいいけど」

 

 

 

 あんま心配しなさんな。素手っつってもそんじょそこらの衛兵とは肉体スペックが違わあ。立派に囮を務めて見せますとも。

 

 

 

「……ん。よし、わかった。気を付けてね」

 

 

「そっちこそ」

 

 

「……うん!作戦決行!『銀髪盗賊団』の初陣だよ、とりあえずいってみようか‼︎」

 

 

 

 いつの間に盗賊団になって、いつの間に名前なんか付けたんだ。張り切り過ぎだろ。

 

 

 

 ※

 

 

 

 さーてとお。

 

 俺は用意しておいた仮面を装着する。思えばこれをアイツから買ったのも王都でのことだったな。

 

 暗いはずの街を満月が照らす。仮面を付けた瞬間から妙に力が溢れるのを感じた。

 おお?なんか調子いいな。これなら十全以上に動けそうだ。

 

 屋敷の閉じられた正門の前には二人衛兵が立っている。片方に素早く近寄って首を締める。もう片方は俺が速すぎて見えなかったようだ。同じように締めてオトす。

 

 

 ……よっしゃ!こっからは派手にいくぜ‼︎

 

 

 

「ごめんくーださーい‼︎」

 

 

 

 挨拶とともに閉じられていた門を蹴破る。鉄格子の門が吹き飛び、凄まじい音を立てた。

 

 中からは音に釣られたかぞろぞろと人が出てくるな。衛兵に混じって高レベルと思しき冒険者もちらほら見え……あれ、ディランじゃね?

 

 

 

「なんだあいつ⁉︎」

 

「おい、もっと人呼んでこい!侵入者だ!」

 

「相手は一人か……?自信があるのか知らんがとんでもねえな」

 

 

 

 ふええ……結構いるよぉ……。

 

 パッと見ただけで衛兵三十に冒険者十ってとこか?中はどうか知らんけど外厳重すぎるだろ。もしかして常にこんなに配置してんのか?金持ちは違うねえ。

 それともやましいことばっかりやってるから警戒を怠らないってか。

 

 

 

「おい!てめえ、何のつもりだ!ここが誰の屋敷だか知ってんのか!変な仮面なんか付けやがって、名を名乗れ!」

 

 

 

 昨日俺が殴ったところに手当てしてあるディランが声を張り上げた。

 

 なんだかんだと聞かれたら!答えてあげるが世の情け!……なんっつってな。

 

 アイツの口調を思い出す。確かこんな感じだったはず。まあ多少間違えても誰も分からんだろう。気にせずに行こう。

 

 

 

「フハハハハハハハハハ‼︎どうもご機嫌麗しゅう人間の皆々様!我輩は地獄の公爵にして見通す悪魔……そう!バニルと申します!今宵は特別に我輩の大悪魔としての力の片鱗をお見せ致そう、恐れ慄くがよろしい‼︎フハハ、フハハハハハハハハハ‼︎」

 

 

 

 バニルから買った仮面を付けて口調を変えながら声高らかに宣言する。

 

 深夜の王都に俺の高笑いが響き渡った。

 

 やっべえ、バニルのモノマネ意外と楽しい‼︎

 

 

 

 

 

 



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37話



再投稿。





 

 

 

 ※

 

 

「フハハハハ!華麗!あまりに華麗!我輩、自分で自分の体捌きの美しさが恐ろしいな!どうしたどうした人間諸君、そんなヘナチョコでは虫すら殺せんぞ⁉︎フハッ、フハハハハハ‼︎」

 

「こ、こいつ!」

 

「オラァ!」

 

「ぐ……⁉︎くそっ速え!」

 

「そっち行ったぞ!」

 

 

 次から次へと襲い掛かってくる冒険者。振り上げた武器を奴らが振り下ろす寸前に立ち止まり、挑発しながら捌きまくる。

 さすがに刃物、当たれば俺とて無事では済むまい。当たればの話であるがな!

 

 ……ふむ?後ろから槍で突進してくるやつがいるな。……というか、だ。

 

 

 

「貴様、なぜ槍を腕だけで突き入れるのだ!突進というのは腰だめに構えて身体ごとぶつかるんだよ!ほら、貸してみろ!」

 

 

「うえ⁉︎ど、どうぞ⁉︎」

 

 

 

 こいつら動きが素人すぎるだろ。レベルはそこそこ高そうなのにこの程度の基礎も出来てないとかどういうこった。

 

 以前王城の衛兵達に稽古を付けてやった時の血が騒ぎ始めた俺が手本を見せてやる。剣以外は俺も専門外のはずだが、試してみたところ弓、槍、斧など、一通りの武具は扱えるようだ。

 はて、転生前はこんな物騒な物も使ってたんだろうか。記憶が無いってのは案外と不気味なものだ。

 

 

「そっちの貴様は相手の動きにビビり過ぎだ!警戒するのは悪くないがそれでへっぴり腰になってどうする!勇気を振り絞った一撃だけが道を開くんだ!叫んでみろ!さん、はい!『ヒッテンミツルギスターイル』‼︎」

 

「ひ、ひって…?」

 

「声が小せえ‼︎次ぃ‼︎」

 

「ごっぶ⁉︎」

 

「次はお前、ちょっとこっち来いや‼︎」

 

「もうお前本当に何なんだよ!口調最初と全然違うじゃねえか!」

 

 

 

 情け無い姿を晒す衛兵を殴り飛ばして喚きながらツッコミを入れてくる衛兵に近寄ろうとした俺に。

 

 

「調子に乗ってんじゃねえぞ、クソがあ‼︎」

 

「おおっとお⁉︎華麗に離脱‼︎」

 

 

 ディランが戦斧を全身を使って振り回しながら突撃してくる。やるねえ。戦斧を力任せにぶん回すってのは正解の一つでもある。加えてディランはパワー溢れる叫びとは裏腹に緻密にコントロールも出来ている。

 ただし動きに無駄が無いというだけで、俺に当てるにはスピードもパワーも足りない。もっとレベルを上げて物理で殴るんだよ、おうあくしろよ。

 

 ヒラリと戦斧をかわしながらディランの背後に回り込み、あまり怪我になりにくい位置に拳を突き出してーー

 

 

「そこだろ‼︎」

 

「むうっ⁉︎」

 

 

 

 あっぶなっ⁉︎

 伸ばした拳に斧を合わされそうになった。殺さないように限界まで手加減してるとはいえ今のは見えてなかったと思ったが如何に。

 

 

「……ほう、貴様は中々やるようだな。我輩をどうやって捉えたか参考までにお聞かせ願おうか」

 

「別に大したことじゃねえよ。ただあんたの動きにそっくりなヤツを知っててね。一応そいつを目標に頑張ってんだ、あんたには負けてられないってだけだ」

 

 

 それはもしかしなくても俺の事だろうか。そんなこと考えてたのか…、なんか照れるなおい。

 その点俺は何やってんだ。今さらながら自分がやってることが恥ずかしくなってきたぞ。

 悪いなあディラン、お前の目標とやらは今泥棒の片棒を担ぎ上げてお前の冒険者仲間をぶっ飛ばしてるところなんだ。

 

 

「あんたはなんでこの屋敷に攻めて来たんだ?あんたの目的を話してくれよ」

 

 

「そうだな、とりあえず我輩がやらないと世界がヤバいとだけいっておこう、か!」

 

 

 

 答えながら背後から接近していた衛兵を蹴り飛ばす。

 

 これに関しては別に適当にでっち上げた嘘話なんかじゃない。クリスから聞いたこの屋敷にある神器は『好きな相手を呼び出して使役する』というのが本来の効果らしい。

 しかし神器というのは持ち主が使わないと正確な効果を発揮出来ないとクリスは言う。

 確かに俺のデュランダルは俺以外が使っても豆腐も切れなかったりする。そしてこの召喚する神器は使えなくなる訳ではなく、『ランダムでどんな相手も呼び出す』という効果に変わるんだとか。ちなみに呼び出した後、使役する能力は完全に失われるそうだ。

 

 これがどれほどの脅威かなど計り知れたものではない。なにせ本当にどんな相手(・・・・・)も呼び出せて、しかもそれを持ち主が自由に使えないとかどんな破滅主義者が使うというのか。

 

 自身の手に負えない……例えば超強いモンスターなどを呼んでみるがいい。そのモンスターは間違い無く大暴れ、然る後に外に解放されるだろう。世界がヤバいというのは決して大袈裟なんかではないのだ。

 クリスが最初にこれを盗むのを選んだのも他の二つの難易度を差っ引いても緊急性が極めて高いからだそうだ。そりゃそうだ。俺も効果を聞いてから一も二もなく賛成したよ。

 

 

「へ、世界ね。随分大ごとだな?さしずめあんたは世界を救う『英雄』ってか」

 

「………ふん、まあそういう事になるのか?そういう訳だ、あまり邪魔をしてくれるな人間」

 

 

 ……こいつ俺の正体に気付いてるとかないよね?

 

 

 

 

 ※

 

 

 目の前から度々消えるような速度で移動する奇妙な仮面の男、バニルと名乗ったか。

 魔王軍の幹部にそんな名前で指名手配されている奴がいた気もするが、確か前にゼロが倒したと人伝てに聞いた。

 だとすると今ここにいるこいつは偽物なのだろう。何の目的があって魔王軍の名を騙るのかは知らない。

 それは知らないが、とんでもない実力者だという事は嫌でも理解できる。あのゼロには及ばないだろうがさっきからこの人数がまるで赤子扱いだ。その上でこうして敵である俺の質問に答える余裕、こいつは明らかに本気を出していない。

 

 非常に腹立たしいが、こいつが本気になった瞬間にこの場の全員バラバラにされるだろう。そういう意味では助かっているのは事実だ。

 しかしあのマントにあの動き、仮面からはみ出る赤い髪。該当する知り合いが一人いるが、まさかな。

 

 一応カマもかけてみるが反応もない。あいつが肌身離さないデュランダルも持っていないようだし、気のせいか。

 

 警戒しつつ、相手との距離を測っていると、背後の屋敷から何かが爆発する音が聞こえた。

 

 

「‼︎」

 

「やっとか!待ちくたびれたぞ!」

 

 

 仮面の男が歓喜の声を上げる。

 

 何が起こったのかの確認の為、自身もほんの一瞬だけ男から目を切って背後を振り返ってしまった。その瞬間。

 

 

「隙ありである!フハハハハ‼︎それでは今宵はこれまで!縁があればまた会おう諸君!なあに、縁とは繋がるもの、一度交わればそうそう切れたりはしない!」

 

「しまっ⁉︎」

 

 

 こちらに何かの瓶を投げつけてくるバニル。普段なら避けるべき場面で迂闊にも戦斧で迎撃してしまった。

 

 爆発。愛用の戦斧に亀裂が入り、そのまま割れていく。

 

 

「ああっ⁉︎クソッタレ、こいつに一体いくらかけたと思ってやがる!弁償しろオラァ‼︎」

 

 

 それを言うべき相手の姿は既になく、常の静かな夜がそこにあるだけだった。

 

 

 

 

 ※

 

 

 

 いやあ危ない危ない。ボロが出る前に合図が出て良かった。

 アルダープの屋敷から離れ、昨夜宿泊した宿の前でクリスと合流する。

 

 

 

「おつかれー。想定よりも警備の数が多かったから撤退するか悩んだんだけど、問題無かったみたいだね」

 

 

「おう、お疲れ様。そっちはどうよ」

 

 

「うん、バッチリだよ。ほら、これがその神器」

 

 

 

 それは本のような、というかどう見ても本だった。これでモンスターやらを召喚するのか。マジで悪魔召喚みたいな儀式になりそうだな。クリスが言うにはこれを一ページずつ破って使うんだとか。

 

 

「超CoooooooLだよ旦那ぁ‼︎」

 

「うわっ、何?どしたの」

 

「いやごめん。なんかそれ見てたら言わなくちゃいけない脅迫観念が湧いてきて」

 

 

 驚かせてしまった事を謝りながら本を何とは無しにペラペラとめくっていくと。

 

 ……?もう破られた跡(・・・・・・・)があるみたいなんだが、召喚されたモンスターは消えたのだろうか?

 いや、流石にその辺の確認はクリスがしてるか。

 

 ともあれ、これで記念すべき『銀髪盗賊団』の初仕事は終了ってわけだ。めでたいね。

 

 

「そういやあその回収した神器ってのはどうするんだ?直接天界に送り返すのか?」

 

「うーん、まだ神器だけを天界に戻すっていうのは出来ないんだよねー。とりあえず誰も使えないように封印してどっかの湖にでも放り込んでおくよ」

 

 

 バカなの?

 

 そんな危険な神器を手元から離すとか正気か。送り返す方法も確立してないのに回収してどうするんだ。湖に放り込むって……、何?その湖に『湖の乙女』でも居るの?

 

 

「し、仕方ないじゃん!嵩張るし保管しておく場所も無いし!そんなこと言うならキミが預かる⁉︎」

 

「分かったよ、悪かったって。……これで今日のところはお開きでいいな?明日からは情報収集って言ってたけどこれなら一ヶ月なんて要らないかもな。なんせ一番有利な場所に俺が泊まってるわけだし」

 

「そうかもね。もともと一ヶ月って相当余裕持たせた日程だったし、早く終わったらアクセルに帰るか王都の観光でもすればいいよ」

 

「じゃあまた明日な。腹出して寝るな……ごめん」

 

「なんで謝るのさ!あたしの服に文句あるの⁉︎」

 

 

 常時腹出してる人間に腹出すななんて言えないわ。きっと何か信念があってその格好をしているのだろう?失礼なことを言った。

 

 未だにギャーギャーわめくクリスにヒラヒラと手を振ってその場を後にする。まだ王城で泊まるにしたって部屋に案内してもらってないからな。使用人の迷惑にならないうちに戻らねば。

 

 

 

 ※

 

 

 

「ヒューッ、ヒューッ!ヒューッ‼︎」

 

 

「ヒューッ、ヒューッ!ヒューッ‼︎」

 

 

 

 

 



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38話



再投稿。


あれ?1話飛ばした?と思ったそこのあなた、飛んでませんとも。話が王都からアクセルに移動してるの仕様です。仕様だからしょうがない(激寒)









 

 

 

 ※

 

 

 王都での用事を全て済ませてアクセルに帰ってきたはいいが、いきなりトラブル発生だ。いや、エロい方じゃないよ?

 

 やる事があるとかでまた一週間ほど天界に帰るクリスと別れた後、街の正門からギルドの方へ歩いていたらカズマ達を見つけたのだ。

 カズマ、めぐみん、ダクネスはいいとしよう。普段通りだ。

 

 ……アクアはなんで檻に入れられてんの?ついに売られてしまうのだろうか。

 それも分からないし、あの、カズマ達の側で何事かを喚き立てている勇者風の格好した男はどこのどいつだろう。後ろの女二人を見る限り違うパーティーのようだが。

 

 趣味は悪いがしばらく覗かせてもらうことにした。路地裏の影に隠れて聞き耳をたてる。

 

 

「サトウカズマ!君は何を考えているんだ⁉︎女神様をこんな扱いして恥ずかしくないのか!」

 

 

 カズマに怒鳴りながらアクアが入っていた檻をこじ開ける男。

 

 どうやらあいつはアクアが女神だってのを知ってるらしいな。察するにあいつも転生者か?あの腰に下げてる剣が神器くさいーーいやいや、それより話の流れをだな。

 

 抑えが効かなかったのか、名前を呼びながらカズマの胸倉を掴もうとした男の腕をダクネスが弾く。

 

 

「おい、貴様いい加減にしろ。初対面で失礼だとは思わないのか!」

 

「撃ちますか、撃ちますか?」

 

「いやそれはやめろ」

 

 

 男はイケメンではあるのだがどうやらカズマ一行からは不評のようである。

 そんなイケメンにとってはダクネスとめぐみんがどのように思っているのかなど関係ないのか、何処までもマイペースに話を進めようとしているご様子。

 

 

「……クルセイダーにアークウィザードかい?君はパーティーメンバーには恵まれているんだね。大方今までやってこれたのも彼女達に守ってもらってきたんだろう。男として情け無いとは思わないのか?」

 

「…………………」

 

 

 ………うん?今の発言からすると別にあの男はカズマ達と一緒にクエストに行って動きを見た訳では無いんだよね?

 見てもいないのに何を根拠に情け無いだのと言っているのだろうか。カズマだって纏まりのないあいつらを束ねてリーダーとして良くやってると俺は思うんだけど。

 

 そしてカズマを完全に下に見た今の発言を受けてカズマ以外のメンバーの目が剣呑になっていく。おいおいおい、死んだわあいつ。

 本来庇われる立場のアクアですら、

 

 

「ちょっとこの人何言ってるの?怖いんですけど。ねえ、早く帰ってカエルの唐揚げ食べましょうよ」

 

 

 などと言う始末だ。

 

 この辺りで前言撤回とか、こう、初対面なのに失礼が過ぎましたーとかの言葉を入れないとそこにいる爆裂狂がヤバいんですけど。眼が真っ赤なんですけど。

 

 しかしその男は頭のおかしい紅魔の娘ことめぐみんの恐ろしさは微塵も知らないようで。

 

 

「カエルの唐揚げ⁉︎なんでそんなものを女神様に食べさせているんだ!そんなにいいパーティーメンバーがいるのになぜそんな貧相な……⁉︎

 ………これで決まりだな。君たち、安心するんだ。今日からは僕のパーティーに入るといい。そんな生活は君たちがするべきじゃないんだよ」

 

 

 さも当然、といった顔で抵抗するアクアを自分の方へ引っ張ろうとする男。

 

 いやこれは駄目じゃね?アクア達への気遣い通り越してただの因縁になっちゃってるぞ。決まりとか言ってるけど何も決まってないし、あいつら別にそれがしたいとかも言ってないワケだし。

 

 ……ゲームだったらここで選択肢発生だな。

 例えが悪いが、言うなれば街で友人がチンピラに絡まれている所を目撃しました。チンピラはそれなりに強そうでしたが自分も腕には覚えがありました。さて、あなたはどうしますかって感じか。

 

 流石にここで見捨てるのはCG回収目的以外であり得ないだろう。ましてやこれはリアルで起こってる事だ。

 

 隠れていた路地裏からアクアの手を掴んでいた男に歩み寄る。

 

 

「あの〜、すみません。さっきから見ていたんですがちょっと強引過ぎませんかね貴方。

 ほら、アクアもなんか嫌がってるみたいじゃないですか?」

 

「……あら?ゼロじゃない。帰って来てたの?」

 

 

 俺に反応するアクアに釣られてか、勇者風の男が俺を睨み付けてくる。

 

 

「何ですか貴方は。関係ないでしょう、引っ込んでいて下さい」

 

「………えーっと、俺の名前はゼロって言います。以後お見知り置きを」

 

 

 俺当たり障りの無い対応したよね?なんでこんなに敵意剥き出しなんだろうこいつ。

 あれか、きっと今のこいつには世の中の全てが自分の敵に見えるとか、そんな現象が起こってるのかな。

 それはともかく。

 

 

「俺に関係ないってことはないんですよ。俺とカズマ達はその、一緒にクエストに行くというかパーティーを組むというか、とにかくそんな約束をしてましてね。アクアやめぐみんを連れて行かれるのは俺としても困るっていうか」

 

「ん……っ!ご、ごく自然に私を省くとは……!」

 

「ダクネス!ダクネスも連れてかれるのは困ります!」

 

 

 こういう時くらい真面目にやれないのかよ。まさかそっち系の反応されるとは思わなかったぞ、びっくりだ。

 

 果たして俺の言葉を聞いた男は。

 

 

「……ゼロさんと言いましたね。僕は『ソードマスター』のミツルギキョウヤです。

 見た所貴方は相当に高レベルの冒険者のようですが、何故この男とパーティーを?何か弱みでも握られているのでしたら僕が力に」

 

「あ、メンドくさいので結構です」

 

 

 油断大敵。

 

 俺に何かを提案しようとしたミツルギの隙を突いてアクアを掴んでいた手を引き剥がし、アクアを無理矢理カズマの方へ投げてやる。

 

 

「危ねっ!」

 

「ぶぎゃっ⁉︎」

 

 

 てっきり受け止めるもんだと思ってたのに、カズマが普通に避けた為にアクアが派手に地面と激突してしまった。

 今のは俺は悪くないぞ。ちゃんと受け止めてやれよ飼い主。

 

 そのままダクネスとめぐみんにアイコンタクトを試みる。

 

 

「「……………」」

 

 

 どうやら通じたようで、頷きあってカズマとアクアを連れてギルドの方向へ走っていく二人。

 

 

「あっ⁉︎待てサトウカズマ!僕と女神様をかけて勝負をしろ‼︎」

 

 

 いくらミツルギが呼び掛けようとも聞く耳など持たずに一目散である。それでも諦めきれないらしいミツルギが追いかけようとするがーー

 

 

「ヘイボーイ。俺を置いて何処へ行くのさ!」

 

「ちょっ、さっきから何なんですか貴方⁉︎」

 

 

 そこは当然俺が行かせない。反復横跳び、もしくはカバディの要領でミツルギの行く手を阻んでやる。

 

 

「なに、今お前言ったろ?女神様をかけて勝負。良いじゃねえか、俺とやろうぜ」

 

 

 アクアをペット扱いするのは構わないが物扱いするのは気が引けるな。まあ俺が言い出した事じゃないし許してくれや。

 

 ミツルギはやや値踏みするように俺をジロジロと見た後。

 

 

「貴方が?それはサトウカズマの代理、ということですか?」

 

「おう。良いだろ?まさか『ソードマスター』様は相手が最弱の『冒険者』じゃなきゃ戦いません、ちょっと強そうな相手とは穏便にいきますぅ、なんて言わねえよなぁ」

 

「……良いでしょう」

 

 

 カチン、と癇に障った表情のミツルギ。

 おいおい大丈夫かよ。煽り耐性低過ぎて心配になってくるぜ。

 冷静に考えてみれば「いや、それでも貴方が出張って来るのはおかしい」の一言で流せるだろうに、よしんば自分の実力に自信があるもんだから特に問題無いと思っちゃうんだろうな。

 

 本来ならここで充分、だがしかし。ここでさらに煽るのが俺。

 

 

「あーでもやっぱりミツルギさんが正しい気がしてきたなー。何だか申し訳なくなってきたなー!」

 

「………ふぅ。降参するのであれば今の内ですよ。僕だって無抵抗の人間を斬りたくはないーー」

 

「申し訳ないからハンデとして俺は素手で勝負する事にします!ほら、ミツルギさんは遠慮なく剣で切り掛かって来てください!」

 

 

 一瞬だけ譲歩しようとしたミツルギが固まる。

 

 

「………正気ですか?武装した僕に素手で勝てるとでも?」

 

「勝てないようなら尻尾巻いて逃げるんだけどな。そうじゃないから俺はここに立ってる」

 

「…………………」

 

 

 無言で中々の業物らしき剣を抜いて構えるミツルギ。

 もう言葉は必要無いといった雰囲気である。そらこんだけ煽ってやりゃ後には引けんわなあ、男としては。

 

 

「キョウヤ頑張って!」

 

「そんな変なヤツ殺しちゃっても構わないんだから!」

 

 

 今の今まで完全に空気と化していたミツルギの取り巻きが騒ぎ始める。

 

 変なヤツて。失礼だな。

 

 ハーン!残念だがその声援と期待は裏切られることになるぞ!

 何故なら、なんか今のでムカついた俺が目の前の熱くなって短絡的になった男に上には上がいるって事を教えてやるからだ!

 

 

 ………変なヤツて。(;ω;)

 

 

 

 

 



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39話



再投稿。





 

 

 

 ※

 

 

「『ロードローラー』だッッ‼︎」

 

「いやそれただのパンぶはぁっ⁉︎」

 

「キョウヤーーー⁉︎」

 

 

 結果なんて言うまでもない。

 

 そのムカつく顔を気の済むまでボコボコにして、ミツルギの背後で終始俺にビビっていた二人組にそのボロ雑巾を放り投げる。

 

 

「キョウヤ‼︎こんな…、ひどい…!」

 

「あ、アンタよくもキョウヤを!絶対に許さないから‼︎」

 

 

 ひどいってあーた、そのくらい冒険者やってりゃ日常自販機だろ。そこら中でタダで売ってるよ。

 このタイプの奴らに文句つけられると面倒だな、無視しよう。

 

 さて、スッキリした事だし、俺も王都から帰ってきたことを伝える為にギルドにーー

 

 

「ぼ、僕の……、何がいけなかったんですか……。何が僕に足りなかったんですか……?」

 

「キョウヤ⁉︎」

 

「無理しないで、こんなのにもう関わらない方がいいわよ!」

 

 

 ……ほう。つい今しがた負けた相手に教えを請うのは並大抵じゃないな。

 本来教える義理などないが、王城の鬼教官ことゼロさんが戦闘について教えないわけにはいかん。

 お前に足りないこと、それは‼︎の後に続くクーガー兄貴の定型文を挙げ列ねてもいいが、とりあえずーー

 

 

「努力が足りない。その剣……かな、おそらくお前の身体能力を底上げしてくれるんじゃないか?」

 

 

 ミツルギが力無く頷く。やっぱりか。

 

 

「剣の能力におんぶに抱っこじゃあいざ剣が折れたり失ったらどうするつもりなんだ?お前みたいに降参したら許しますよって相手が敵にいるのか?

 少なくとも俺が知ってる魔王軍にそんな奴はいなかったけどなぁ」

 

 

「僕だって……、今まで僕なりに頑張って鍛えてきて……」

 

「ああ、そうだろうな。俺を相手にするには足りないってだけでお前は充分強いと思うよ。

 でもさ、最初の話に戻ると『カズマもカズマなり』に頑張ってるんだよ。お前は見下してたみたいだけど。今そうやって落ち込んでるお前はカズマの事は馬鹿にできないだろ?機会があったらその事をちゃんと謝っといてやってくれ」

 

「……………!」

 

「後はそうだな……」

 

 

 こういう強引なのはあんま好きじゃないけど……。

 

 ミツルギの側に寄り添っていた二人の手を掴んで引っ張る。

 

 

「いっ⁉︎痛い、何すんのよ⁉︎」

 

「いやっ、離して!キョウヤ!」

 

「っ⁉︎フィオ、クレメア‼︎ゼロさん一体何をするんですか!」

 

「こいつらがお前と一緒にいるのはこいつらのためにならない。勝負には俺が勝ったんだし、俺といる方が幸せになれるだろう。というわけで頂いていきますね」

 

「っふ、ふざけないでよ!なんでそんなこと勝手に決められなきゃいけないの⁉︎」

 

「〜〜〜〜〜〜〜っ‼︎」

 

 

 痛え痛え。噛むんじゃないよ。噛まれながらも二人を強引に引き摺っていく。

 当然、ミツルギが黙ってるはずもない。

 

 

「二人が嫌がってるでしょう!その手を離して下さい!」

 

 

 怪我もしている、足も震えているというのに剣を構えて俺の前に立つ勇者。二人が眼を潤ませて「「キョウヤ……!」」とヒロイン力を高めている。この辺でいいか。

 

 パッと手を離して二人を解放してやる。ミツルギに走り寄ってその背後に隠れてすんごい威嚇してくるな。ミツルギも俺が何をしたいのかわからないのか、剣を向けたまま困惑している。

 

 

 

「よお、悪かったなお二人さん。……えっとだな。ミツルギ、お前がやったことはこういうことだ。極端に言えば、だけどな。あいつらは別に嫌々カズマと一緒にいる訳じゃないってことも理解してやってくれよな」

 

「………………」

 

「お前がいいやつだってのはなんとなく分かる。けど本当にいいやつなら相手に自分の考えを押し付けるな。善意の押し売りは悪って言い換えても良いと個人的に思ってんだ。

 ……とまあ、俺は別にいいやつじゃないから勝者の権利を行使してお前にこの考えを強制するぞ?オーライ?」

 

 

「………善処します」

 

 

 それは分かったのだろうか。その言葉には不安しか残らないが、一応の反省は見られる……か?反省できるやつは嫌いじゃない。

 ……ふう、言いたいこと言ってなんか疲れたな。変な空気になっちまったし、ここらで場を和ませておくか。

 

 

「あ、言っとくけどあいつがクズだってのは別に否定しないからな?俺はただなんとなくお前の言うことがムカついたから殴っただけなんだからね!勘違いしないでよね!」

 

「……あなたの事は、何とお呼びしたら?」

 

 

 ノリの悪いやつだな。そんなもん好きにしろっつの。呼び名は相当に変なのじゃなきゃ構いやしねえよ。

 

 

「ゼロだ。ただのゼロでいい」

 

「ゼロさん、あなたの言いたいことは分かりました。僕が強引過ぎたことはサトウカズマにも謝ります。……いつか、僕がもっと、もっと鍛えて、強くなったらもう一度闘ってくれますか。僕はあなたに負けたままではいたくない」

 

 

 なんだこいつは。俺と闘うことを目標にしてどうすんだ。魔王軍やらを倒すことを目標にしろよ。仕掛けてくるんなら断りはしないが。

 

 

「…………まあ、手合わせ?とか稽古とか、そんなもんでいいならいつでも相手になってやるよ」

 

「ほ、本当ですか⁉︎あ、ありがとうございます……!」

 

 

 こいつ、なんか初対面から嫌いになれないな。こう、空回りだとしても必死なやつには手助けしたくなる……、こう……なんかってあるよね。

 

 そろそろミツルギの背後の二人の睨みが居た堪れなくなってきたので退散させてもらおう。

 ミツルギは姿が見えなくなるまでこちらに頭を下げたままだった。あんだけボコにしてやったのにへこたれないね、君。

 

 

 

 

 ※

 

 

 ギルドのドアを開けながらカズマ達を探すと、何やらアクアがルナに縋り付いて文句を言っているな。

 

 カズマ達も見つけたので近寄る。

 

 

「あいつはまた何を泣いてんだ?」

 

「お、ゼロか。大丈夫だったか?」

 

 

 誰にモノ言ってんだ。まさか俺が負けるとでも思ってたのか。

 

 

「いや、そうじゃなくてあいつ、あの……、何だっけ、ムッツリ?」

 

「ミツルギです」

 

「そうそう、あいつを殺したりしてねえかなと思ってさ」

 

 

 何かと思えば。最初は腕と脚を逆方向に捻じ曲げて二度と戦闘出来ない身体にした後、あの自慢の剣をへし折ってやろうかなくらいは考えたけどさすがに殺したらまずいだろ。

 

 

「こ、この男……、その考えもよっぽどだということに気付きもしませんね……」

 

「アクアはあのミツルギという男が壊してしまった檻を弁償しているところだ。素材が特殊らしくてな、報酬の六割を持っていかれたらしい」

 

 

 ほーん。それは俺をして気の毒だな。ミツルギからサイフの一つくらい剥いでくれば良かった。

 

 そもそもなんで檻に入ってたのかを聞くと、浄化クエストをモンスターに襲われないように安全にこなせるように考慮した結果だそうな。

 うーん?もっと他にやり方は無かったんだろうか。俺がいればモンスターから守るとかもできたかもな。

 

 

「あ!それよりお前がいない間大変だったんだぞ!最近クエストが難しかったのって、近くの廃城に魔王軍の幹部が来てたせいだったんだよ!」

 

 

 それは知ってる。お前らには話してなかったけど。

 

 

「それでその幹部がアクセルに来たんだよ。その時にダクネスが『死の宣告』を受けちゃってさあ」

 

「それは……、大丈夫なのか?」

 

「私は心配ない。アクアが解呪してくれたからな。もう少し死の恐怖に怯えるのも良かったが」

 

「あの時に私達がどんな気持ちで幹部の城に乗り込もうとしたかも知らないで、よくそんなこと言えますね!」

 

「ああ、あの時のめぐみんは格好良かったぞ。その……、私も、う、嬉しかった」

 

「………そうですか」

 

「あら^〜」

 

 

 顔を赤くして照れるダクネスとぷいっとそっぽを向いて照れるめぐみん。よく分からんが仲が深まったのはいいことだ。

 

 

「なんか大事な時に居なかったみたいで悪いな。その幹部とやらはどんな理由で攻めて来たんだ?」

 

 

 俺は至極真っ当な質問をしたつもりだが、なぜか今度はカズマとめぐみんが同時に俺から顔を背ける。

 この二人にやましいこととなると?

 ……あっ(察し)

 

 

 

「カズマ、めぐみん、お前らが始めたって言ってた一日一爆裂、この一ヶ月どこに撃ち込んでたんだ?」

 

 

「「うっ!」」

 

 

 どうやら当たりらしいな。分かりやすいことこの上なし。

 

 

「な、なんで分かったんですか?今の流れで分かりますか普通」

 

 

「そうかあ?わりと誰でも……。いや……、まあ妹のことぐらい分かるさ。兄貴だからな」

 

「……またそれですか。いい加減子供扱いはやめてくださいと何度も……」

 

 

 ごにょごにょ言うめぐみんは無視する。こいつらが余計なことをしたせいでその幹部さんも迷惑したんだろうなあ。

 

 

「で、可哀想な幹部さんはどんなやつなんだ?特徴とかあるんだろ?」

 

「……ん。廃城の幹部はデュラハンだ。名前はベルディアとか言ったか?ああ、あのいやらしい目、今思い出してもぞくぞくするっ……!」

 

 

 安定の変態は放っておくとしてだ。

 

 おやおや?奇遇ですね。俺の知り合いにもデュラハンでベルディアって名前の魔王軍幹部がいるんですよ。同じ種族、同じ職業で同じ名前なんて、まあ!凄い偶然!これは是非とも挨拶に行かなくちゃいけないわね!

 

 まあ挨拶は明日に回すとしよう。何だか帰りたい気分。

 明日から頑張るのではない。今日…!今日だけ頑張るのだ!今日を頑張った者にのみ明日は来る…!ってどっかの地下で誰かが言ってる気がするけど、帰って寝るわけじゃなくて筋トレかなんかして鍛えるだけだから別にいいよね?

 

 

「カズマ、今日はお前らもクエスト受けないんだろ?俺は帰るからさ、明日からよろしく頼むぜ」

 

「お、おう。まさか本当に約束守ってくれるとは……。てっきりまた誤魔化されるのかと思ってたぞ」

 

 

 失礼な。今約束を破ったらお前に力を貸してもらえないだろうが。……え?それが無かったら守らないのかって?ノーコメント。

 

 カズマとその他に手を振りながらギルドから出た。街道を歩いて宿屋に着き、自分の部屋のドアを開けようとした瞬間、

 

 

『緊急!緊急!全冒険者の皆さんは、武装し、戦闘態勢で街の正門に集まってくださいっ!特に冒険者、サトウカズマさんのパーティーは大至急向かってくださいっ‼︎』

 

 

 とアナウンスが聞こえて来た。

 

 ……ほうほう。こちらから挨拶に向かうよりも先に来てくれるとは感心してしまうな。これは是非とも感謝の気持ちを伝えなくては。

 

 

 

 

 ※

 

 

 

「そ、その……、こ、こんにちは?」

 

「あっるぇぇぇぇぇぇぇ⁉︎」

 

 

『死の宣告』を受けて効果があらわれる一週間が過ぎたというのにピンピンしているダクネスをみて素っ頓狂な声を上げるベルディア。

 

 

「えー?なになに?もしかしてダクネスにかけた呪いを解きに来るはずってずっとあの城で待ってたんですか?プークスクス!解けないはずの呪いをあっさりと私に解かれちゃったデュラハンさん、どんな気持ち?ねえ、どんな気持ち⁉︎」

 

 

 おいやめろ、煽るな。ベルディアも肩を震わせて激怒してるから。俺もなんか腹立って来るから煽るな。

 

 

「……クソどもが!調子に乗るなよ、この俺が本気を出せば駆け出し冒険者の街などあっという間に根絶やしに出来ることを思い知らせてやろうか‼︎」

 

 

 手に持つ大剣を振り回して威嚇するベルディア。だが、冒険者の反応はまちまちだった。

 

 

「おい、あの魔王軍絶対殺すマン、今回は帰って来てるんだろうな?」

 

「あいつか。あいつがいればあんなデュラハン瞬殺だろ」

 

「お、あんた、カズマだっけか。あの凄腕と仲良かったよな。あいつ、今日はいるのか?」

 

 

 みんなが口々に『アイツ』の名を出す。前の時もそうだったけど、なんでこんなに有名なのか聞いてみると、「クエスト中に助けられた」、「とんでもない悪魔をあっという間に斬り伏せたところを見た」、「王都で世話になった」などの実にらしい(・・・)話がたくさん聞けた。

 

 冒険者全員がその話で持ちきりになっていると、ベルディアの耳にも届いたのか、興味深そうに聞いてくる。

 

 

「……?ほう、そんなに凄腕がこの街にいるのか?とは言え、せいぜいが王都にいる一般冒険者レベルだろうがな。言ってみろ、どんなやつなのだ?」

 

「おい、あのデュラハン、あんなこと言ってるぜ?ゼロが聞いたら笑っちまうんじゃねえの?」

 

「…………待て。貴様今、なんと言った……?ゼロ、と聞こえたが気のせいだよな……?」

 

 

 ……?ゼロのことをまるで知っているかのような口振りだ。知り合いなのだろうか。

 

 

「そのゼロとは、まさか赤髪黒目でマントを身に付けた、これくらいの長さの剣を使うやつではないだろうな……?」

 

 

 ベルディアが大剣で地面に線を引く。確かにゼロが使っていたデュランダルはあのくらいの長さだな。

 

 

「「「そうだよ」」」

 

 

 俺を含めた冒険者達が確認して一斉に返事をする。ベルディアが言った特徴とも合致するし、間違いないだろう。

 

 途端にベルディアの全身から汗がぶわっと出るのがわかった。アンデッドなのに汗腺とかは潰れていないのか?

 

 動かなくなったベルディアを観察していると、「あいつは王都にいるはずだ」、「……まさかな」、「いやしかし、万が一ということも……」などの声が聞こえてくる。心なしか焦っているようにも見えるな。一通り呟いた後、顔を上げた。

 

 

「き、今日のところはこれくらいにしておいてやる。俺は急用を思い出したのでな!あと、腹も痛くなってきた。うむ、これは帰るしかないな!そこの爆裂娘!今回も見逃してやるからもう城に撃ち込みに来るんじゃ無いぞ!……さらばだ‼︎」

 

 

 最後の方など可哀想なくらいに声が裏返っていた。一刻も早く、といった体で帰ろうとするベルディア。

 

 そこに街を取り囲む街壁の上から赤黒い流星が直撃した。

 それは俺の目からはまさしく流星にしか見えない速度だった。衝撃波すらも伴う凄まじい弾丸を、しかしベルディアは辛うじて大剣で防いだようだ。

 

 

 

「ぐうおああああああああ⁉︎」

 

 

 

 それでも無事では済まなかった。大剣ごと弾き飛ばされ、踏ん張ろうとしたようだが失敗。地面を転がりながらようやく体勢を整え、荒い息を吐く。

 魔王軍の幹部にそれほどまでの打撃を与えた『そいつ』は汗一つかいていない。

 

 そのまま『そいつ』は両手を合わせて礼をする。

 

 

「ドーモ、ベルディア=サン。ゼロ=ニンジャです」

 

 

 いつものようにふざけた調子で、この街が誇る最強、魔王絶対殺すマン、汎用人型決戦兵器:『ゼロ』がアイサツをーー

 

 

「またお前かああああああああああ‼︎」

 

 

 ーーそんなゼロのアイサツを聞いたベルディアがいっそ悲痛な叫びを上げた。

 

 

 

 

 



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40話



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ベルディアさんとの決着が薄味?良いじゃないですか薄くても。
わぁいうすしお。あかりうすしおだぁいすき♡






 

 

 

 

 ※

 

 

「なっ、なぜお前がこんなところにいるのだ!お前は王都にいるはずだろうが‼︎」

 

 

 

 あんまり怒鳴んなよ。俺がどこにいようが自由だろ。

 それに言ったはずだ、俺はまだ冒険者じゃないと。つまりアクセルに冒険者登録するために来るのは当然の帰結なのだ。

 

 

「あれ本気で言ってたのか⁉︎マジで冒険者じゃなかったのかお前!」

 

「あの時点でそんな嘘を吐く必要がどこにあったんですか」

 

 

 俺はつく必要の無い嘘はつかんぞ。つけば有利になる嘘はつくけど。

 ベルディアの方は相も変わらず死角から攻撃しても防ぐという特技を持っているようでなによりだ。

 俺も負けてられんな、と一歩踏み出したところで何を思ったのかベルディアが大剣を地面に突き立て、その手をこちらに向けてきた。

 すわ噂の『死の宣告』か、とも考えたがどうやら違うな。

 

 

「まあ待て、話し合おうじゃないか、ゼロ」

 

「プッ(笑)。話し合いぃ?」

 

 

 冗談だろう?そっちから攻めて来ておいて迎撃されるや否や休戦の申し入れとかギャグにもならんわ。

 魔王軍幹部のプライドとかはどっかに捨ててきたらしい。それならもうこちらから言うことは無いのでさっさと消え失せるが良い。

 

 俺が無言で身を沈めて剣を構えるとなぜか焦り始めるベルディア。

 

 

「ちょちょちょ、ちょっと待て!い、今俺が身に付けている鎧を見て何か分からんか?」

 

「………綺麗な光沢のある漆黒の鎧。手入れはしっかりされているようですね、さすがベルディアさん。……もう良いですかね?」

 

「この鎧は吸光鉄で出来ている、と言えば分かってもらえるだろう?」

 

「……………」

 

 

 吸光鉄。

 

 確か、神聖な魔力を吸収する金属で、それで作った防具は『ターンアンデッド』などの破魔の魔法を打ち消す効果がある…が、代わりにとんでもなく脆く、高レベルの冒険者ならば素手で殴っても紙くずのように壊れてしまうとかいうそれはもう鎧じゃないだろと思わずツッコンでしまいそうな代物だと聞いたことはあるな。……それがどうかしたのだろうか。

 もしかして

 

 

「分からんか。この鎧は酷く脆い、これではお前の相手などとても務まらないだろう?今から城に帰って着替えてくるからしばらくそこで待っていろと言っているのだ」

 

「…………………」

 

 

 …………えっ?それだけ?今のは俺になんの得があるのだろう。話し合いとは互いに何か相手を認めるものがあるから成り立つのであって、一方的な要求は該当しないんじゃないかなあ。

 

 

「………ダメか」

 

 

 何か俺に得がありゃ別。無いならダメですけど。

 

 

「ンなことより大将首!大将首寄越せ!幹部がいる限り魔王城には入れねえって聞いたぞ!

 お前の命に代わる得なんざある訳ねえだろ、大人しく斬られろオラ!」

 

「いやあああああああ‼︎お家帰りゅうううううう!」

 

 

 情けの無い声を出して逃走しようとするベルディア。繊維喪失……は違った。戦意喪失どころの騒ぎじゃねえぞ。

 

 一方的な戦闘開始と同時にいつものように『アイツ』が現れ、俺を一瞥してから動き出す。

 あ、どうも。今回もよろしくお願いしますね。

 

 

「アンデッドナイト‼︎」

 

 

 ベルディアが部下なのか、アンデッドの大群を召喚し始めた。

 

 と、『アイツ』がまだ顕現前のアンデッドに突進する。数瞬遅れて俺も意図を察して後を追った。

 なるほど、『湧き潰し』はロープレの基本ってか。

 

 湧き始めた直後のアンデッドの首を次から次へと斬り飛ばし、ベルディアに向かう。壁が地面から生えてくるのなら道を塞ぎきる前に走り抜ければなんら問題ない。取り零しが数体出たが、なぜか俺ではなく正門前に集まっていた冒険者の方に、より正確にはアクアの方にフラフラと歩いて行った。

 あれは……無視していいか。アクアが何とかするだろ。

 

 逃げるのは無理と悟ったか、ベルディアが片手に持った頭を全力で上に投げた。かなり高いな。

 気にせず正面から最大速度で剣を振り下ろす。ベルディアも大剣を盾に受けようとしたが、俺は以前戦った時とはパワーもスピードも桁違いに強くなっている。

 そのまま弾け飛んだベルディアを追って斜め上にジャンプしながら剣を逆手に持って突き下ろす、と、体を捻って避けたようだ。着地と同時に進行方向にウィズ謹製爆発ポーションを放り投げてやる。爆風とともにこちらへ帰ってくるベルディア。おかえり。

 もう既に鎧はボロボロである。ほんとに脆いな。

 

 飛んでくる勢いのまま大剣を振り上げていたのでデュランダルを横にバットのように構える。一本足打法である。

 

 ベルディアの剣が迫る。上げた足を勢いよく振り下ろすと共に体にタメを作り、構えた剣をアッパー気味にフルスイング、激突した大剣をへし折りながらベルディアの胸に大きな傷を残して吹き飛ばした。

 ついでに、と落下してきた頭をキャッチして地面にダンクをかましておく。君が好きだと叫びたい。

 

 

「いでえっ⁉︎ま、参った!降参!降参する!」

 

「…………降参?」

 

 

 あれ、これで終わり?あっけないっていうか、物足りないんですけど。『アイツ』もいつの間にかいないし。

 前に戦った時こいつってこんなに弱かったっけ?

 

 

「ぐっ……!お、お前が強くなりすぎなのだ!以前は俺に力負けしていただろうが!だいたい前から思っていたが、なんなのだその剣は⁉︎魔王様の加護を受けた俺の大剣をポキポキ折りやがって、どんな素材で出来ているのだ⁉︎」

 

 

 地面に押し付けた頭部から喧しい声が響く。聞くところによるとベルディアの大剣は魔王の加護とやらで、触れた武器や防具の消耗を早める効果があるのだとか。なるほどね、そりゃ冒険者には天敵だな。

 その疑問の答えは簡単だ。消耗を早めるも何も、俺のデュランダルは元々の特性として『壊れない』という概念が付加されている。故に消耗も磨耗もしないんだなあこれが。残念でした。

 

 

「まさかその剣は神器とかいうやつか?そういうのは大抵変な名前の冒険者が持っている物だが……」

 

 

 変な名前ってのはあれだな、転生者は日本から来るからね。俺は生憎生まれも育ちもこっちの世界だけど。

 

 

「とりあえず俺の勝ちでいいよな?ほれ、なんか辞世の句とか、俺に言いたいこととか無いのか?それかお前が魔王軍の結界の維持を放棄すれば逃してやらんこともないぞ」

 

「ふん、好きにしろ。そもそも魔王様との契約は死ぬ以外には解除出来ん。ーーそれに、こんなに完膚なきまでに負ければ諦めもつくというものだ。俺は生前、謂れなき罪に問われて処刑された。その時は人間を恨み、妬んだものだが………こうしてお前のような奴に会えたのだ、悪くはーー」

 

「『セイクリッド・ターンアンデッド』‼︎」

 

「「えっ」」

 

 

 俺がベルディアの遺言のような最期の言葉を聞いてやっていると、いつの間にか離れた胴体に近寄っていたアクアが浄化の魔法をーーー。

 

 

「ちょっ、まっ、ギャアアアアアアアア⁉︎」

 

「・・・・・・」

 

「……?なにか話し中だった?ダメよ、あんな腐ったナメクジみたいな連中とあんまり長話しちゃ。ゼロまでアンデッドが移っちゃうわよ?」

 

 

 最期の言葉すらも満足に言わせてもらえなかったベルディアの悲痛過ぎる叫びが辺りに響き渡る。聞くに耐えない断末魔だ。

 どうやら爆発ポーションのせいで吸光鉄の鎧が仕事を放棄してしまったらしい。生前だろうと死後だろうと報われないベルディアの生き様になぜか自然と敬礼の姿勢を取ってしまった。

 

 

「あら?ようやく私に敬意を表すようになった?まーったくー、カズマもみんなも私に対して尊敬の念って物が足りないわ!その点ゼロはさすがね!これより、ゼロをアクシズ教会名誉教徒に任命します!」

 

「カズマあ‼︎こいつ今からでもさっきの檻に入れて売りに行かねえ⁉︎」

 

 

 何を勘違いしたのか名誉どころかとんでもなく不名誉な肩書きを俺に勝手に付けて敬礼をし返すアクア。プラチナむかつく‼︎

 

 

 

 

 ※

 

 

 

「魔王軍幹部、デュラハンのベルディアの討伐お疲れ様でした!ベルディアの懸賞金が三億エリス、功労者のゼロさん、アクアさんに一億ずつお渡しして、残りの報酬はお二人の意向によってみなさんに均等に分配されます!」

 

 

 ギルド内が歓声に包まれる。

 

 

「イエアアア‼︎さっすがゼロ、話が分かるぜ!」

 

「おい、胴上げしようぜ!」

 

「今夜は朝まで飲みまくるぜえええ⁉︎」

 

 

 うっるさ。胴上げとか要らないから。思うんだけど胴上げって素のテンションの時にされると罰ゲーム以外の何物でもないよね?

 

 ちなみにアクアはこの報酬の分配はすこぶる不満だったようだが、俺が弱らせなかったら浄化は通じなかったってことは理解しているらしく、その俺の提案に渋々ながら合意した。

 俺の方はなんか報酬を独り占めすると暗殺とかされそうで怖かったし、今の所使う予定も無い金など持っていても意味などないからね。この世界にも銀行とか作ればいいのに。

 

 それと気になることがある。幹部であるベルディアにこれほどの懸賞金がかけられていたということは他の幹部にも同等のものがあるはずだ。ルナに近寄って質問する。

 

 

「あの、ルナさん?すみませんけど、魔王軍幹部のシルビアの懸賞金ってお幾ら万円ほどか教えてもらっても?」

 

「え……、え?シルビアはもう討伐されて懸賞金が支払われているはずですが……。えっと、一億五千万エリスですね。それがなにか?」

 

 

 ………そんなに貰って無いんですけど。

 

 マントの代金のために倒しただけだが、代金を引いて俺に残った金額はそこそこ多かったものの、そんなに元があったようには思えない。それともこのマントはそれほど高価だったのだろうか。

 

 

「えっと………?いえ、討伐者は他の方になってますけど…」

 

「は?なんで?」

 

 

 いや、今さら金くれなんて言わないけどそれはおかしくね?シルビアは間違いなく俺が一人で倒した。完全にバラバラにしたから実は生きてたとかも無いはずだ。大体、俺ではないことになったのだとしたら俺に渡ってきたあの金はどう説明するのだ。

 それに冒険者カード、これは偽装できまい。

 

 

「ほら、これ。討伐モンスターの欄に書いてあるでしょう?」

 

「あれ、本当ですね……。うーん、でも、申し訳ありませんがすでに支払われた懸賞金を払い戻すことはできないんですよ」

 

 

 その討伐者とやらはどうやってシルビア討伐を証明したというのか、何故証拠を持ってる俺には端金しかくれなかったのか。

 色々疑問が浮上するが、最早過ぎた事であるし、正直面倒くさいからもういいや。俺は考えるのを放棄した。

 

 うええ……。自分の手柄を他人に取られると褒められたかったわけじゃなくても納得いかない気分になるんですけど。なんかどっと疲れちまったぞクソッタレ。

 

 重い足取りで酒場に戻ると、カズマや他の冒険者が声を掛けてきた。

 

 

「おいおい、何しょぼくれてんだよ!」

 

「MVPがそんなんじゃ場が白けちまうだろうが!ほら、飲め飲め!」

 

「………酒か」

 

 

 そういえば以前飲んだのは王城に初めて行った時だったな。それ以後は飲もうとするとジャティスが必ず止めにきたから飲めていない。ここにはジャティスはいないんだし、良いだろう。

 

 細かいことは酒を飲んで忘れることにした。

 なみなみと注がれたジョッキを一気に飲む。

 

 

「お、いい飲みっぷりだな!」

 

「どんどん飲めや!ほれほれ!」

 

 

 飲み干しては注がれる酒をまた飲み干す。だんだんいい気分になってきたぞ。これはいいものだ。

 

 

「……ん?あの、ゼロさん?聞こえてる?」

 

「おい、これマズいんじゃ…、目が据わってきてるーーーーー」

 

 

 

 

 

 

 ※

 

 

 

 

 翌日。

 

 

 いつの間に帰ったのか、自室にいた俺は痛む頭を抱えてギルドへ向かう。今日からまたカズマと組むんだっけか。一週間は優先して、その後はまたフリーの傭兵だな……。

 

 そんなことを考えながら道を曲がる。この先にはすぐギルドの入り口がーーーーー。

 

 

「ーーーーーは?」

 

 

 無かった。入り口が。

 あるのは残骸のようなものだけだった。

 ギルドの建物は半壊して、辛うじて普段の機能を果たせるかどうかという程のひどい有り様だ。

 

 そこかしこに昨夜一緒に騒いでいたはずの冒険者が転がっている。

 その中の一人に駆け寄って抱き起こす。

 

 

「お、おい!何があった!しっかりしろ!誰にやられた!」

 

 

 柄にもなく焦ってしまう。ここにはそれなりの数の冒険者がいる、それを全員ノックアウト。しかもこれほどの破壊を巻き起こすやつが攻めてきたのだとしたら、俺でも勝てるかどうかーーー。

 

 気絶していた冒険者がゆっくりと目を開いて俺を見る。

 

 

「……ん…?……ヒッ⁉︎」

 

「大丈夫か!どんなやつがここに来たんだ!」

 

「や、やめろ!近寄るなぁ!」

 

 

 ……なぜ俺を見てそんなに怯えるのだ。

 

 その後、何を聞いてもお前は一生酒を飲むな、と言ってくるだけで埒があかない。どっかプリースト……アクアの所にでも連れて行くか。

 

 その日は転がっている冒険者を全員をアクアに診せるだけで潰れてしまった。

 ちなみにアクアは半壊したギルドの端っこで酒瓶を抱えたまま寝ていた。昨日は早々に酔い潰れたおかげで難を逃れたとか言っていたが、結局何が起こったかはわからなかったな。

 

 

 後日。俺のところにギルドの修理代と冒険者達の慰謝料を請求する書面が届いた。

 なぜだ。俺は何もやっちゃいないぞ。そう弁明するが、ギルド職員は俺がやったの一点張りだ。

 しょうがないのでベルディアの賞金の大半を使って一括で払ってやったわ。警察沙汰はマジ勘弁。

 

 その後で久しぶりに天界から帰って来たクリスにも開口一番で、「キミはもう二度とお酒は飲まないでね⁉︎」と怒られてしまうし、散々だったよホント。

 

 

 

 

 



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閑話
無題1




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 ※

 

 

 それは『彼』が旅に出てすぐの頃。アクセルに着く前。

 

 

 紅魔の里で彼らは見る。まだマントを身に付けていない『彼』の背中を。

 

 

 まだ少年とも呼ぶべき者がたった一振りの剣を携え、百を超える魔王軍に一歩も退かずに、それどころか圧倒するその様を。

 

 

 その背中に不覚にも憧憬を覚えてしまったことを、彼らは忘れないだろう。

 

 

 か、かっこいい……‼︎

 

 そう思ってしまったことを忘れないだろう。

 

 

 別に『彼』が戦わずとも自分達で撃退は出来る。それでもなぜかあの姿に憧れを感じてしまうのは紅魔族の特性故か。

 

 

『彼』はマントの代金を支払いたいから自分一人で撃退すると、里の人間の助力を断っていた。

 

 

 なんと自分勝手なのだろう。だが…、そこがまたかっこいい。もう琴線に触れまくりである。

 

 

 彼らは考える。どうやったら『彼』よりもかっこ良くなれるだろう?

 議論は尽くされた。ああでもない、こうでもない。

 

 

 …それは、誰が言ったのか。

 

 

『彼』がピンチの時に颯爽と駆けつければ、それは『彼』よりもかっこいいのでは?

 

 

 

 結果は満場一致だった。

 

 

 とは言え、あれほど強い『彼』がピンチなど、よほどのことが無いとそんな機会に恵まれはしないだろう。だが、もしその日が来たらーーー。

 

 

 彼らは知らない。

 

 自分達のこのたった一つの気まぐれが、後に世界を変える程の戦争の一端を担うことを、今はまだ、誰も知らない。

 

 

 

 ※

 

 

 それは『彼』が旅に出てしばらくした頃。アクセルに着く前。

 

 

 王都の正門前で彼らは見る。もうマントを身に付けた『彼』の背中を。

 

 

 自分達に振り下ろされるはずだった『死』(大剣)が『彼』の手によって弾かれる様を。

 

 

 その背中に不覚にも安心を覚えてしまったことを彼らは忘れないだろう。

 そしてそれを上回る感謝の念を、彼らは一生忘れないだろう。

 

 

 その時の『彼』は何も考えてはいなかった。

 せいぜいがこの場で敵の相手ができるのが自分しかいない。ついでに強いやつとも戦える、その程度しか考えていなかった。

 

 

 なんと自分勝手なのだろう。それでも、その自分勝手で救われた命が幾つもあった。

 

 

 その後も度々『彼』の剣が敵の大群を切り裂き、彼らの前に道を作った。もうダメだ、そう思う度に『彼』の剣が希望を作り出す。

 その度に、彼らの感謝の念は深まっていく。

 

 

 いつかこの恩は返す。その言葉が本当になることは極めて少ない。

 

 

 特に『彼』の場合、ほとんど自力でなんとか出来てしまう。

 

 

 だが、もし『彼』がピンチに陥ったり、力を貸して欲しいと頼んできた時には。

 

 

 その時に採算を度外視して手を貸す人間は王都だけで何百人、いや、何千人いるだろうか。

 

 その全員が『彼』の戦いに勇気付けられ、また、直接助けられた人間なのだ。

 

 

 

 彼らは知らない。

 

 自分達のこの感謝の気持ちが、後に世界を変える程の戦争の一端を担うことを、今はまだ、誰も知らない。

 

 

 

 ※

 

 

『彼』は知らない。

 

 

 この世界では自分の行いは必ず自分に返って来るとされることを。

 自らが犯した業は必ず自分に返って来ることを、『彼』は知らない。

 

 

『彼』が自分勝手に犯してきた『人を助ける』という業は、いつか必ず自分に返って来ることを、『彼』はまだ、知らない。

 

 

『彼』の元の世界において、『情けは人のためならず』と表される言葉。その本当の意味。

 

 それを知らずに『彼』は今日も自分の都合で人を助け続ける。自分がそうしたいからという理由で、剣を振るい続ける。

 

『彼』が自分のしてきた旅が決して無意味ではなかったことを、自分がしてきた『努力』が無駄ではなかったことを本当の意味で知るのは、ずっとずっと先のお話。

 

 

 

 

 

 



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五章起動要塞デストロイヤー
41話




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 ※

 

 

 もうダメかもしれない。

 

 本日何度目かもわからない思考を繰り返す。

 前方には三十体は下らないゴブリンの群れ。

 背後を振り向くと漆黒の初心者殺しがこちらを向いて舌なめずりをしている。

 パーティーメンバーは全員疲弊している。その中の一人があたしに催促をしてきた。

 

 

「リーン!おい、魔法はまだか!」

 

「今やってるよ!けど、もう魔力が……!」

 

「ちぃっ!おい、ダスト!キース!俺たちで何とかリーンだけは逃すぞ!」

 

「「ふざけんな!」」

 

 

 完全にシンクロした声が響く。仲が良いのは構わないけど今はそんな場合じゃないって!

 

 

「俺はまだ美人の嫁さん貰ってないんだよ!こんなとこで死ねるか!」

 

「応ともさ!逃すんなら俺だけ逃がしてくれればいいぞ!お前らのことは忘れねえ!」

 

「わかったから身体を動かせえ‼︎」

 

「魔法、できたよ!離れて!『ファイアーボール』ッ‼︎」

 

 

 残った魔力を全て注いで完成させた火球にゴブリンが数体巻き込まれて焼け死ぬ。でも数が多すぎる、文字通り焼け石に水でしかない。

 

 

(あっ、ヤバッ…)

 

 

 魔力の使いすぎで頭が一瞬フラついてしてしまう。

 

 

「ッ⁉︎おいバカ、リーン‼︎」

 

「え……?」

 

 

 ダストの珍しく切羽詰まった声。なんだろう、と顔を上げると、目の前にあたしを食べようと開かれる初心者殺しの大きな口があった。

 

 

(……あ、あたし死ぬんだな)

 

 

 いざその時になるとこのくらいしか考えられない。

 

 時間がいやにゆっくりと流れていく。ダストがこちらに手を伸ばすのが見えた。

 何さ、その顔。普段は軽薄に、バカにしたような顔しかしないくせに。

 

 キースとテイラーもあたしに気付いたみたいだ。もう誰が動こうと間に合わない。

 

 まあ…、呆気ないけど死ぬ時なんてこんなものでしょ。

 大きな口があたしの頭を噛み砕こうと閉じていく。あたしは目を開いたままその時を待ってーー。

 

 

 瞬間、暴風が吹き荒れた。

 

 それ(・・)は止まったように感じる時間の中ですら目にも映らない程に速く、早く、捷く。

 

 気がつけば目の前に迫っていた初心者殺しは輪切りになってそこに転がっていた。

 

 

「え?」

 

 

 降って湧いた幸運に呆然とするあたし。ダストも、キースもテイラーも同じように唖然としてその風の正体を見ていた。

 

 

 燃えるような赤い髪。静かに細められた黒い瞳は鋭い光を放っている。

 表側が黒色、裏側は赤色をしたマントをはためかせて銀色の美しい剣を右手に構えた彼はあたしを庇うように立っていた。

 

 

「勝手な助力、失礼します。どうやらお困りのようですが、助太刀は必要ですか?」

 

 

 彼が口を開いた。その場にいるあたしを含めた四人はハッとして、ブンブンと首を縦に振って手助けをお願いする。

 

 確か彼の名前はゼロ。

 先日魔王軍幹部を討伐した、アクセルで最強の名高い冒険者だ。あたし達はその時街を離れていたから実力をこの目で見たわけではないが、その助力を得られるなど願ってもない。

 ゼロは短く首肯すると、飛びかかってきたゴブリンを縦に割る。

 

 速すぎる。剣を振るう手元が一切見えなかった。あたしからは飛び上がったゴブリンが一人でに割れて地面に崩れ落ちたように見えただけだ。おそらく他の三人もそうだろう。

 

 

「それではこれより殲滅を開始しますので離れていてくれると助かります。できれば耳を塞いで口を開けておいてもらえると健康にいいですよ」

 

 

 なぜそんなことをするのか、とは思ったものの言われた通り耳を手で塞ぎ、口を開けてみる。三人もそうしているが、なんだろう、バカみたいな光景だ。

 

 ゼロがそれを確認して身を沈めーーー姿が消える。

 そして連続して何かが破裂する音があたし達の体を叩く。塞いでいなければ耳がどうにかなっていたかもしれない。思わず目を閉じてしまった。

 体感で十数秒、実際はもっと短かったかもしれない。

 

 

「もう大丈夫ですよー」

 

 

 彼の声に目を開くと、そこは一面血の海だった。

 

 中心には返り血すらも浴びていないゼロがこちらに笑いかけている。

 その様子にようやく助かった、という実感が湧いて腰が抜けてへたり込んでしまった。

 

 

「お怪我は………無さそうですね、良かった。

 いやあ、大変でしたねえ。ゴブリンってのはもっと数の少ないコロニーを作るもんですが、まあ何事も例外はありますしね。ただし型月作品、テメーはダメだ」

 

 

 ゴブリンは多くても五、六体でしか群れないはずなのに、本当になんであんなにいたんだろう。ゴブリン退治なんて楽なクエストを受けてこんなことになるとは……。

 

 

「あ、ああ。助かったよ、俺はテイラー。そっちが右からリーン、ダスト、キースだ。

 ……お前さんがゼロだろ?礼をしたいのは山々なんだが、生憎と手持ちがこれだけしか無くてな。これで勘弁してもらえないか」

 

 

 リーダーのテイラーが代表して彼に礼金を払おうとする。確か彼は傭兵紛いのことをしていたはずだ。

 普通の冒険者はそんなことはしない。そもそもクエストは複数人で受けなければ達成すら困難なものがほとんどで、むしろ組んでる人が居なければ頼んでパーティーに入れて貰わなければロクに稼げもしないからだ。

 彼がそれを生業にして成り立っているのは、ひとえに彼の実力がそれだけ飛び抜けていることの証でもある。

 当然、報酬が発生するものだと思っていたがーー

 

 

「え?ああ、いりませんよ」

 

 

 差し出したサイフをやんわりと手の平で押し返されてしまうテイラー。

 これには渋面を作ってしまう。それは「こんな端金いらねえよ!」なのか、「あとから別の物で補填してもらいます」なのか。どちらの意味でもそんなに安くは済むまい。命あっての物種とはいえこっちは一般冒険者なのだ、そんなに高額の報酬は払えないーー

 

 

「いえいえ。報酬自体今回は結構だと言ってるんですよ」

 

 

 あたしの方を向いてそんなことを言ってくる。そんなに分かりやすい顔をしていただろうか。それとも彼の観察眼が優れているのか。

 今度はダストがそれを聞いて不機嫌そうな声を上げる。

 

 

「おいおい!さすがは王都の英雄様は器が違うなあ!命を助けたけど好きでやったことだから金は取りませんってかあ⁉︎お高く止まってんじゃねえぞ!」

 

「ちょっとダスト!失礼でしょ!」

 

 

 この男はなんでこんなにクズの思考をしているのだろう。せめて心の中で留めておいてくれれば実害はないのに、漏れなく口に出してしまうから余計な争いを呼ぶというのだ。

 

 ゼロの顔がヒクッと引き攣る。気のせいか青筋もこめかみに浮いている。ここで彼を怒らせてしまえばあたし達もこの血の海に沈むことになる。それはマズい。

 

 しかし幸いにもこっちのクズよりも精神的には大人だったらしく、平静を保ったまま受け答えをしてくれた。

 

 

「ーー確かに好きで助けた、それは間違いじゃないですよ。ただ、勘違いはしてほしくありませんね。俺は別に人を助けるのが好きなわけじゃ………あー、ないです。

 ……白状すると、あなた達に限らず、あまりモンスターによって死んでもらうと困るんですよ。嫁の仕事(・・・・)が増えて一緒にいられる時間が減るのは嫌ですからね」

 

「……?お嫁さん?」

 

 

 なんと、彼は若く見えるが結婚しているのだろうか。

 アクセルではなぜかカップルの成立が珍しい。女性の方が困惑してしまうぐらいだ。そんな中で結婚まで漕ぎ着けるとは、意外とプレイボーイなのかもしれない。

 しかし、冒険者が死ぬと嫁の仕事が増えるとはどういうことだろう?葬儀屋の手伝いでもしているのだろうか。

 

 そしてそんなことは関係ないとばかりに『嫁』という言葉に反応して吠えだすクズがこのパーティーには一人いる。いや、今二人に増えた。

 

 

「おいゴルァ!先輩を差し置いて嫁だとぉ?厚かましいとは思わねえのか!」

 

「夜は奥さん侍らせてニャンニャンってか!随分といいご身分ですねえ、英雄様は‼︎」

 

「ゼロさん、この二人はもう斬ってもいいと思うよ」

 

 

 キースとダストのゴミ二人がチンピラそのものの様子で助けてくれた恩人に絡みまくる。そうか、ここが地獄だったのか。

 

 しかしまだ我慢するゼロ。歯を食いしばって腕を押さえながらここを去ろうと二人を無視してテイラーに別れを告げようとする。いい人だなぁ。

 

 

「と、ともかく、そういうわけですから。自分の都合で助けておいて報酬を貰うなんて詐欺師みたいな真似はできませんよ。それでは帰りもお気を付けて」

 

「あ、ああ。こっちのゴミどもは気にしないでくれ。今日はありがーー」

 

「おいおいこっちはまだ話ついてねえぞ!ああ⁉︎」

 

「ハッ、結婚も出来ねえクズどもは話すにも値しねえか?人が話しかけてんのに無視すんのは人間としてどうなんですかねえ⁉︎」

 

「上等じゃゴルァ!さっきっから聞いてりゃ好き放題言いやがって!話だぁ?つけてやろうじゃねえか‼︎」

 

「「うおっ⁉︎なんだお前、やんのかコラァ‼︎」」

 

 

 ついに我慢の限界がきたのかチンピラ二人に飛びかかるゼロ。さっきまでの丁寧な口調はカケラも残っていない。もしかしたらこっちが素なのかもしれない。さっきよりは取っ付きやすい印象は受けるが、まるでチンピラが三人になったかのようだ。

 

 二人がボコボコにされるのを待ってから五人でアクセルに帰った。チンピラ三人は喧嘩してそれなりに打ち解けたようだ、笑い合っている。

 なんだかあたしも仲良くなれそうな気がした。

 

 

 

 ※

 

 

「じゃあな、気いつけて帰れよ」

 

 

 アクセルに着いた俺はテイラーのパーティーと別れる。今日も目に付く範囲では誰も死なせなかった。少し前から画策していたエリスの仕事を減らそう作戦が実を結んだかはわからないが、最近はずっとクリスの姿でアクセルにいる。

 まあ、冬場になって出歩く冒険者が少なくなったから女神としては暇になったってだけかもしれんが、とにかく喜ばしいことだ。

 

 

「おう、またな」

 

「(おい、ゼロ。今度俺とキースである店に行こうと思ってるんだが、お前も来いよ)」

 

「ん?何の店だ」

 

 

 ダストが小声で話しかけてきた。俺が聞き返すと、チラリとリーンの方を見てから首を振る。

 

 

「(そいつは今は言えねえな。現地に行ってからのお楽しみってやつだ)」

 

「へえ……」

 

 

 そりゃまあせいぜい楽しみにさせてもらうとするかねえ。

 

 そのままキース、ダストと別れると、テイラーがまた申し訳なさそうに呟いてくる。

 

 

「なあゼロ、お前の言い分もわかったが、本当に金はいいのか?気持ちだけでも……」

 

 

 いらねえって。俺は俺の好きなようにやるだけだ。それで金を貰うのは正規の依頼だけで充分だっつの。

 

 

「……そうか、わかった。ありがとうな。お前がなんか困ったことがあったらいつでも言ってくれ。力になれるかは分からんができることはしたい」

 

「じゃあね、ゼロ!」

 

 

 テイラーとリーンも連れ立ってギルドの方向へ歩いていく。

 

 ベルディアの討伐から二ヶ月が経ち、もう季節は冬になる。その間、とにかく目に付いたモンスターに殺されそうになっていた冒険者を助けまくって、どうにか被害をゼロのままここまで持って来れた。

 

 冬になれば弱いモンスターは冬眠に入り、強いモンスターだけが闊歩するようになる。そうなれば必然、難易度の高いクエストが多くなるが、冒険者もなるべく危険なクエストの受注などしたくないため、街からは出なくなるのだ。ここまで来れば少しは楽になるはず。

 

 

 ………『助けるのが好きなわけじゃない』、か。つい照れ隠ししちまったな。

 

 ダストに勢いで言ってしまった言葉に苦笑しながら帰路を急ぐ。

 早く帰ろう、今も自室では嫁(予定)が帰りを待ってくれているはずなのだから。

 

 

 

 

 

 

 



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42話



再投稿。







 

 

 

 ※

 

 

「ほうほう、昨日も人助けですか。随分良い人になりましたね、ゼロ」

 

「いきなり引っ張ってきて絡むなよぉ……。そもそも俺はお前に対しては以前からわりと優しいお兄ちゃんだったと思うんだが?」

 

 

 テイラーのパーティーを救出した翌日。ギルドを訪れた俺を見るなり駆け寄ってきためぐみんは俺に難癖をつけ始めた。

 

 俺とめぐみんは人から隠れるようにギルドの隅っこにしゃがんで身を寄せ合っている。この姿勢に何か意味はあるのだろうか。

 あと、お前いい匂いするね。シャンプー何使ってる?

 

 

「………変態ですね」

 

「ありがとうございまーー悪かったよ!」

 

 

 目を見て謝罪。

 

 アカン、これは我々の業界ではご褒美とか言ってられないくらいのガチのやつだ。

 中学生女子の直球の罵倒は時に成熟した鋼のメンタルをも貫くことを忘れてはいけない(戒め)

 

 それでも俺から身を引かないあたり、冗談で言っているのだと信じたい。信じることにした。うん。

 

 しかし身嗜みには最低限しか気を使わなかったはずの我が妹が急にどうしたのだろうか。

 まあ今まではそんな余裕がなかったと言えばその通りなんだろうが。裕福にならなきゃ身嗜みってのは行き届かないもんだしな。

 

 

「別になんだっていいじゃないですかそんなこと。それよりもその人助け精神を今度は私達に向けてみてはどうです?」

 

「なんだ?そいつは俺に依頼したいってことか?

 ……というか今からクエストに出るの?お前らが?外は大雪だぞ」

 

 

 そう、外は一面の銀世界だ。宿のドアが開けにくいと思ったら膝の高さくらいまで雪が積もってやがった。こんな日にクエスト受ける奴じゃないだろカズマは。お前らはどうか知らんが。

 

 

「それがですね、カズマがお金が欲しい!と言って、何をトチ狂ったのか『雪精の討伐』のクエストを受けてしまったのですよ」

 

「金が欲しい?……なんで?」

 

 

 ベルディアの懸賞金がアクアが貰った一億と、カズマ、めぐみん、ダクネスにもそれぞれで分配された分があったはずだ。あれから二ヶ月経ったっつってもそんな簡単に消える額じゃないぞ。

 

 

「あのお金はアクアが全部使いました」

 

「バカなの⁉︎」

 

 

 いやバカなんだろうけどさ。

 

 億を超える金を一体何に使ったのさ。家?不動産?俺の貧困なイマジネーションじゃその辺が限界なんですが。

 

 

「えっと、その、実はですね………」

 

 

 聞くと、道端にいた行商人らしき人物がドラゴンの卵なるものを有り金全部と交換で、という名目で売っていたらしく、たまたま通りがかったアクアが一億で買ってしまったようだ。

 アクアが言うには相場よりも少し安く買えたとか何とか。そもそもドラゴンの卵を買って何に使うのかとか色々聞きたいことはあるが、まず。

 

 

「それが本物かどうかの確認はしたのか?見ればわかるってんなら問題は無さそうだが」

 

「私が見たところあれは鶏の卵にしか見えませんでした」

 

「じゃあ鶏の卵なんだろ」

 

 

 おそらく世界で一番高価な鶏の卵だ。一億である。童話の金の卵だってそんな値段はするまい。

 おっとおじさんの金の玉は別だぞぐへへ。

 

 

「しかし雪精かぁ。ってことは当然、『アレ』も付いて来るよな」

 

「まず間違いなく付いてきます」

 

「……お前、ちゃんとカズマに『アレ』の危険性教えてやったのか?知ってて受けたなら正気とは思えないんだが」

 

 

『アレ』は冒険者の間じゃ最大クラスの禁忌だろ。俺ですら戦おうなんて愚考はしねえし。

 

 

「お、教えようとしましたよ!でも雪精自体はとても弱いって聞いた瞬間にはもうクエストを受注してしまいまして……」

 

「なるほど、それで俺ってワケかい」

 

「なんとか頼めませんか?『アレ』を倒してほしいわけではないのです。誰も死なないように……、ゼロにしか頼めないんですよ」

 

 

 ……まあ別に構わんがな。

 

 自殺しにいくアホを止めるのは最近の俺の仕事でもある訳だし、『アレ』と対峙しても俺なら時間稼ぎくらいできるだろう。倒さなくていいなら受けてやらあ。

 

 

「ほ、本当ですか⁉︎ありがとうございます!あの、報酬なんですが……」

 

 

「報酬……三十万ってとこか。俺も基準や相場を決めてはないから結構適当だけど。……払えるか?」

 

 

 めぐみんからエリス銀貨の入った袋を受け取る。これにて契約成立っと。

 

 

「さて、じゃあ行くとするかね。カズマは?ギルドには……いないな。どこで待ち合わせだ?」

 

「あ、カズマ達はもう先に行ってますよ。ゼロが来る二時間くらい前でしょうか。私は用事があると言って残らせてもらったんですよ」

 

「早よ言えや!あいつらがもう『アレ』に遭遇してたらどうすんだ⁉︎お前走るのは……、ええい、遅いか!」

 

「おい、何をもって私の足が遅いことを決めつけたのか聞こうじゃないか!」

 

「うるせえ、俺からすりゃ基本的に常人は遅いって認識なんだよ!………しゃあねえなぁ。ほれ、おぶされ」

 

「言われなくともそのつもりです」

 

 

 最初からそのつもりだったのか、振り落とされないようにかどこからか紐を取り出して俺と自分を結び始めるめぐみん。

 

 産まれたばかりの赤ん坊を抱くお父さんはこんな感じなのだろうか。細心の注意を払って走らなければめぐみんが傷付いてしまいそうだ。

 

 

「そんじゃ行くぞ、娘よ」

 

「誰が娘ですか……ぐえっ⁉︎」

 

 

 もう一度解けないように紐を結び直してギルドを飛び出す。雪で走りにくいが、それはあいつらも同じだろう。なんとか間に合えばいいが……!

 

 

 

 

 ※

 

 

「あれがかの有名な『冬将軍』よ」

 

「本当にこの世界はアホばっかりだな!今再認識したわ‼︎」

 

 

 目の前には白。鎧も兜も手に持つ刀まで全身白づくめの鎧武者がそこに立っていた。

 

 その冬将軍とやらがダクネス目掛けて刀を構え……いきなりダクネスの持っていた剣が甲高い音を立てて真っ二つに折られた。

 

 断言する。俺の目には何も見えなかった。

 あのゼロよりも速かったのではないか。そう思えるほどに目の前の存在は底が知れない。

 

 

「ああっ⁉︎今まで一緒にやってきた私の相棒がぁ……⁉︎」

 

 

 愛着のある剣だったらしく、ショックを受けるダクネス。

 

 

「ど、どうするんだよ⁉︎めぐみん爆裂魔法……いやめぐみんはいないのか!くそっ、なんか弱点とか無いのか⁉︎」

 

「カズマ、DOGEZAよ!寛大な冬将軍はDOGEZAして謝る人間は許してくれるわ!ほら、ダクネスも!カズマも早くして!」

 

 

 仮にも女神がモンスターに土下座する姿を見てしまった。が、今はそんなもんに拘ってる場合じゃない。それに倣って俺も土下座をーーー

 

 

「………ん⁉︎お、おいダクネス、何やってんだ!早くお前も土下座しろ!」

 

「わ、私とてプライドという物がある!モンスターにそう簡単に頭を下げる訳には……」

 

「バカか‼︎お前はプライドと命とどっちが大事なんだ!俺の地元じゃ『死ななきゃ安い』って名言があるんだ、命より大事な物なんかねえぞ‼︎」

 

 

 嫌がるダクネスの頭を無理矢理下の雪に叩きつける。「んぶっ⁉︎い、いいぞカズマ、もっと強くしても平気だぞ⁉︎」と変態丸出しのダクネスを押さえつけ、自らも頭を下げ続ける。

 

 しかし冬将軍は俺たちから離れようとしない。何か足りないのだろうか。

 

 

「あっ、ちょっとカズマ!手に持ってる剣!早く捨てて!」

 

「剣か‼︎」

 

 

 頭を下げることに躍起になるあまり武器を捨てるのを忘れてしまっていた。

 

 急いで投げ捨てるが、その際に頭が僅かに上がりーー

 

 

 キンッ、と澄んだ音がした。

 

 目を向けると、冬将軍が刀を鞘に収めて構えているのが見える。俗に言う居合いの構えというヤツだ。

 

 

 ーーーあ、これは死んだ。

 

 そんな思考が頭をよぎり、冬将軍の上半身がブレる。

 きっと痛みなんて感じる暇も無いだろう。それが少しだけ気を楽にしてくれるーーー

 

 

「悪りぃがこっから先はぁ……一方通行だぜェ‼︎」

 

 

 そんな聞いたことのある声が遠くから一瞬で近づき、俺と冬将軍の間に割って入った。

 

 ガキィィィン、と金属同士がぶつかり合う耳障りな音がして、直後に吹き荒れた風によって俺は後方に雪まみれになりながら吹き飛ばされる。

 

 ガバッと雪を撒き散らしながら顔を上げると、最近は酒癖が悪いと評判の俺の友人がグッタリするめぐみんを背負って立ち塞がっていた。

 

 めぐみんを縛っていた紐をほどき、わざわざマントをバサッ!と翻しながらその男が叫ぶ。

 

 

 

「俺‼︎参上‼︎」

 

 

 

 ……前から思ってたんだがこいつはどこでこういうネタを覚えて来るんだろう。こいつの父親が転生者なのは初めて会った時にそれらしいことは聞いたけど、こいつが転生者だってのは聞いてないしなあ。

 

 

 

 

 

 



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43話



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 ※

 

 

 危っっっぶねえなおい……‼︎

 

 まだ心臓がバクバク鳴っている。

 

 今のはマジでヤバかった。危うく知り合いの首が宙を舞うショッキング映像を脳に刷り込まれるトコだった。

 この俺が思わずめぐみんを気遣うのを忘れてしまうほどに全力を出してしまったほどである。

 急激な加速によるGに耐えられなかったらしいめぐみんを静かに雪面に降ろし、改めて目の前の相手を見る。

 

 へえん、これが噂の冬将軍かいな。積極的に会いたいとは絶対思わないが、正直なところ人生で一度くらいはちょろっと戦ってみたいという気持ちが無いでもなかったんだよね。

 けど今回悪いのは無害な雪精を虐殺したこっちだしな。なるべく時間稼ぎしてパパーッと逃げちまおう。

 

 弾き飛ばした冬将軍がこちらを値踏みするように見てくる。今すぐ襲ってはこなさそうだ。

 

 

「カズマ、めぐみんを頼めるか?アクアもダクネスも早く街に戻れ。しばらくならなんとかしてやる」

 

「そ、それよりお前、なんでここに?俺は依頼なんかしてないぞ?」

 

「それはめぐみんに礼を言うんだな。そいつはお前らのために自腹切ってまで俺に依頼してきたんだ。いい仲間を持って幸せだなあ。ええ、おい?」

 

 

 カズマが見直したような目でめぐみんを見てそのまま抱き抱えて後ずさっていく。

 それでいい。早く逃げてくれないと俺も逃げられないからね。

 

 

「やったわ、ゼロさんが来てくれたなら安心ね!今のうちに規定数の雪精を倒しちゃいましょう!上手くいけば冬将軍の懸賞金も手に入って一石二鳥じゃない!」

 

「すっとぼけたこと言ってんじゃねえぞドアホ‼︎アクセルに帰れっつってんだよ、早よしろや‼︎」

 

 

 この後に及んでクエストがどうのこうの言う元なんたら様に怒鳴る。

 どんどん涙目になっていくアクアだが、知ったことではない。そのアクアをダクネスが引きずって連れて行く。

 

 頼むから早くしてくれ。アクアの発言を認識したから知らんが冬将軍から殺気というか、そんな感じのオーラが滲み出てきてるんだよ。

 

 何の前触れもなく。フッ、と冬将軍の姿が雪に紛れて消える。

 

 遂に様子見は終わりってか、くそっ!

 

 俺を無視して雪精討伐宣言をしたアクアに向かって凄まじい速度で突進する冬将軍に何とか追い付き、肩を掴んでこちらを向かせる。

 振り向きざまに俺の太ももあたりを狙って刀を振ってきたが、それをベリーロールで飛び越え、兜の目が覗いている隙間目掛けてデュランダルで突く。狙い違わず突き刺さるが、手応えがない。

 そういや実体が無いとかいう噂されてましたっけね。……あれ、じゃあ俺って勝ち目無くない?いや、勝たなくて良いんだったか。

 

 返す刀で首チョンパしようとしてくるが、両足を限界まで開いて回避し、逆に冬将軍の左脚を丸ごと切り落とした。どうやら鎧にはある程度の実体があるようだ。これならなんとか……?

 

 どうにか戦闘の算段を立てていると、また冬将軍が搔き消える。雪と同じ真っ白だから本当に分かりにくいな。今度はどこに行きやがった。

 

 

「ゼ、ゼロさあああん!ピンチなんですけど!私今すごいピンチなんですけどー‼︎」

 

「なんでお前ばっか狙われんだよ!お前なんかしたの⁉︎」

 

 

 見ると、カズマ達が逃げた先に立って居合いの構えをしている。かなり離れているのに一瞬であそこまで行くとなるともう雪原上はどこにでも出現出来ると思った方がいいかもしれない。

 

 これは間に合うか危ういな……!

 

 全速力で向かうが刀が抜き身になる方が早い。俺から見て近かったアクアとダクネスを踏んで地面に押し付けながらカズマ、めぐみんに向かって跳ぶ。回転しながら剣を持つ手とは逆の手でカズマの首根っこを引っ掴んだところで冬将軍が冷気を固めたような色合いの斬撃を飛ばしてきた。

 

 カズマを無理矢理上に投げ、自分はしゃがんで躱すが、タイミングがギリギリだったせいで火竜のマントを掠めてしまう。

 当たったところがスパッと切れて、周りに霜が降りていた。

 何だ今の、羨ましいな。俺の斬撃にもあんな効果が付与されないものかしら。

 つーか四人も庇いながら戦うのは結構キツイぞ。なんか斬ったはずの脚まで再生してやがるし、どうすっかなーーー

 

 

「うッ⁉︎」

 

 

 ぞくっとした感覚が背筋を走った。周囲の空気が急速に冷え、少しずつ冬将軍に集まっていく気がする。

 冬将軍は攻撃を回避する俺たちに業を煮やしたのか、何かするつもりらしい。

 

 ヤバい、とんでもないのが来る。直感と経験でわかってしまう。これは俺の手に負えるモノじゃない。

 例えるなら『エターナルフォースブリザード』相手は死ぬ、みたいのが来る。

 俺はともかくこいつらじゃ間に合わなそうだな。

 

 

 ………カズマ、めぐみん、アクア、ダクネス!

 

 頭の中で優先順位を決めて即座に動く。基準は死にやすい順だ。

 最後のダクネスが俺が動いただけじゃ厳しいか……?

 

 

「ダクネス!ご褒美だ!」

 

 

 ダクネスに向けて持っていた爆発ポーションを一つを残してありったけぶん投げる。足元でうつ伏せになっていたカズマとめぐみんを両手で抱え込み、ダクネスの隣にいるアクアの方向にあらん限りの力で跳ぶ。

 腕の中の二人がブラックアウトしないかなど気にする余裕は無い。そもそもめぐみんは手遅れだ。

 アクアが着ていた服を歯で挟んで首の筋肉で引っ張って離脱させ、直後に連続してダクネスから爆発音が上がった。

 

 悪いなダクネス!死ななきゃ俺の口元のこいつが何とかしてくれるからーーー?

 

 予定では爆風でこちらに吹き飛んでくるはずのダクネスが、しかしいつまでたっても飛んで来ない。

 不思議に思いながらそちらを見て、愕然としてしまう。

 

 

 「なんっで耐えてやがるんだてめえはあーーー‼︎」

 

 

 ダクネスは腕をクロスして脚を踏ん張り、その位置から一歩も動かずにいた。多少の火傷以外のさしたる傷は見当たらない。

 

 化け物かよ、どんな身体してやがるんだ。なんかこっちに向かって「どうだ?凄いだろう」みたいな顔してドヤってんのが腹立つなクソ。

 

 

 辺りがシン…と静まり返る。

 

 もう背筋の悪寒はマッハだ。これだけで風邪を引くまである。

 

 冬将軍は右手に持った刀をこちらに刃をむけながら左の首元に構えている。

 その刀身は全ての冷気が凝縮されたのではないかと見紛うほどに白く光り輝いている。もう一刻の猶予も無い。

 

 両腕の二人と口に咥えたアクアを全力で前方の上空に放り投げた。着地はどうにかしてくれ。下は雪だから何とかなるだろ。

 

 冬将軍が刀をゆっくりと動かす。それは振るというにはあまりに遅いが、そこに秘められた危険性は想像することなどできまい。左の首元の刀を雪原を通し、右に持っていく。ちょうど振り子のような動かし方だ。雪原を撫で斬ったようにも見える。

 その斬った雪が質量保存の法則など無視したかのようにとんでもない勢いで膨張してこちらに雪崩れ込んで来た。『賢者の石』でも持ってるんですかねえ。

 

 片足を軸に反転してダクネスの目の前に急行、未だにクロスして踏ん張った状態の腕の真ん中に後ろ回し蹴りを打ち込んで他三人の方向へ蹴り飛ばす。

 

 さあ、俺もトンズラのお時間だ。なあに、流石に雪崩よりは速い……速い……。

 

 

「………あれっ」

 

 

 逃げる方向を決めようと周辺を見渡すが、逃げる場所がそもそも存在しない。いつの間にか全方位の雪が俺一人目がけて怒涛の勢いで膨れ上がっていた。

 

 あれれー?おかしいぞー?

 いつの間に標的が俺に変更されていたのだ。完全に俺だけは殺すという覚悟を感じる。これは逃げられませんね。

 

 せめてもの抵抗とばかりにマントに包まって防御姿勢をとる。とっくに対ショック!

 

 膨大な量の雪が斜面でもないというのに雪崩のような圧迫感と質量で俺を押し潰そうと迫って来た。

 

 その先頭に冬将軍が刀を振りかざしながらこちらに斬りつけようとする姿を見る。

 こいつは雪崩でサーフィンするのが趣味なんだろうか。さすがは雪の精霊の塊なだけはあるな。迷惑だからマジやめろ。

 

 しょうがねえからせめて一矢報いさせてもらうとしようかな、記念にもなりそうだ。

 予定変更、防御姿勢を解除しながらデュランダルに最後に残した爆発ポーションを塗る。松脂をヌリヌリいたしましてっと。

 

 

「『緋炎』‼︎」

 

 

 めぐみんから不評だった『エクスプロージョン』から必死に名前を考えた新たな技で迎え撃つ。新しくなったのは技名だけとか言っちゃいけません。

 

 冬将軍の刀と俺のデュランダルがぶつかり合い、デュランダルが爆発、冬将軍と雪崩を僅かに押し戻す。

 俺も爆発の衝撃に逆らわずに後ろへ吹き飛ぶ。あわよくば逃げようと思ったのだが、全方位ということは当然ながら背後からも雪は押し寄せて来ている訳で。

 

 

 今ので撃退できてればいいけど。

 

 

 その思考を最後に俺は雪崩に飲み込まれた。

 

 

 

 

 



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44話



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 ※

 

 

 さっきまで白一色の世界にいたわけだが、今は白と黒の景色しかない。どっちがどっち、というわけではないが殺風景なものである。ここに来るのも久しぶりだな。これが実家のような安心感というやつか。

 

 目の前にはいつかと変わらずエリスが居てくれている。これは良かった。他の天使やら女神だとどう対応していいか困るからね。

 

 

「ーー冒険者、ゼロさん。ようこそ死後の世界へ」

 

「え?あぁ、どうも」

 

 

 エリスにさん付けされるとこそばゆいな。

 普段地上じゃあんだけくだけた態度取ってるんだからこっちでもタメ語でいいのに。

 

 

「この世界でのあなたの人生は終わりました。あなたはつい先ほど、不幸にも亡くなったのです……」

 

 

 エリスが目を伏せて悲しそうに言ってくる。

 

 

 ……まだ俺を侮っているとみえるな。俺のシステム外スキル『以心伝心(エリス・クリス共用)』を甘く見てもらっては困る。こいつ、笑いを堪えてやがるぞ。

 

 おそらく俺が死に掛けるのも久しぶりだからか、からかっているのだろう。不謹慎かもしれないが、エリスは意外とそういうのは気にしないからな。

 

 とはいえ折角なのでノってみることにした。

 

 

「そうか。まあ自分の無茶が祟ったんだから諦めも付くってもんだ。次の人生ではもうちょい上手くやりてえもんだなぁ。

 ……それで、俺はどうやって生まれ変われば良いんだ?」

 

「え⁉︎」

 

 

 まさか通じるとは思わなかったのか狼狽するエリス。うむ、やはりこっちのバージョンも趣深いな。

 

 

「あの後、カズマ達はどうなった?冬将軍に殺されたとか、雪崩に巻き込まれたとかは無いか?」

 

 

「え⁉︎あ……、えっと、はい、冬将軍は力を使い果たしたのかゼロさんが雪崩に飲み込まれた後、雪崩と一緒にすぐに消えてしまったので大丈夫です、けど………」

 

 

 どうやら上手く撃退できたらしい。

 あんだけ苦労して報酬まで先払いしてもらったんだ、依頼主を死なせるとかシャレにもならない。

 

 

「そいつは何よりだ。………どったの?もうこれで心残りは無いし、早いとこ天国なり地獄なり好きに送ってくれよ」

 

「ちょっ⁉︎あの、良いんですか⁉︎本当に何の心残りも無いんですか⁉︎」

 

「良いんですかも何も死んじまったらしょうがないだろう。いや、あー、そういえば心残りはあるか」

 

「いえ、あの………」

 

「エリス、約束を守れなくてごめん。俺は所詮この程度の男だったと思って忘れてくれて構わない。お前と過ごした日々、楽しかったぞ」

 

「う、うう………」

 

「最期に一言だけ。……愛して」

 

「嘘ですごめんなさいぃっ‼︎」

 

 

 この空気が居た堪れなくなったのか白状して頭を下げるエリス。うむ、素直でよろしい。

 

 

「……なんでえ。もう終わりか?最後まで言っても良かったんだが」

 

「‼︎や、やっぱりわかってたんですね⁉︎どうりで途中からおかしいなって思いましたよ!」

 

「そりゃお前……今さら俺が雪崩程度で死ぬかよ」

 

「ぐぬぬ……‼︎」

 

 

 フハハハハ‼︎我にそっち方面で勝とうなどとは思い上がったな、雑種!

 せいぜい励め、そうすれば我自ら褒美をやらんこともないぞ?

 ………絵に描いたようなぐぬぬ顔もいただいたし、意趣返しもこの辺にしておこうかね。

 

 

「ほんじゃ改めて、こっちでは久しぶりだなエリス。今回の俺の死因は分かりきってるけど一応どんな状況かだけ教えてくれるか?」

 

 

「死因……死んではいないって……はぁ。……はい、お久しぶりですゼロさん。

 ゼロさんは今雪の中で凍死寸前になってますが……あ、いえ、今ダクネスに発見されましたね。もうすぐ先輩が回復魔法をかけますので向こうに戻れますよ」

 

 

 

 今サラッと凍死寸前とか言ったね?……と思ったけどその程度、驚くほどでもないか。

 もう少しエリスで遊んでても良かったんだがこっちじゃなくても会えるし、帰れるならその方が良いよな。

 

 それにしてもまだ敬語は外さないのか?散々向こうでもケンカとかした仲だし、今さらなんだが。

 

 

「うーん、この姿だとどうしても敬語がしっくり来るんですよね。

 あ、どっちがいいとかあれば合わせますけど?」

 

「いやぁ、いいよ。一粒で二度美味しい、みたいでお得感もあるしな」

 

「そんな人をお菓子みたいに。……あ、もう戻れますよ。皆さん、特にめぐみんさんが心配されてますので早く戻った方が良いと思います」

 

「俺も人に心配されるようになったのか、感慨深いな」

 

「何老けたこと言ってるんです。あなたを心配する人なんか幾らでもいるじゃないですか」

 

 

 呆れたように言ってくるエリス。それはエリスも含めての話だろうか。

 ……だと嬉しいが。

 

 

 

 

 ※

 

 

「あ!ゼロ、起きたわよー!」

 

 

 ………起きてすぐ駄女神の声聞くと気い抜けるな。

 一応アクアに礼を言って起き上がると、めぐみんが腕を広げて迫って来るのが見えた。

 

 …………んん?

 

 

「はい、ストップー」

 

「ぶわっ⁉︎な、何ですか急に!」

 

 

 何か勢いよく体当たりしてこようとしてたので顔面にアイアンクローをかまして止める。

 

 何ですかじゃないよ。何の恨みがあって俺に威力35……いや、最近は50か。命中も上がって使いやすくなったよなあ。の攻撃をしてくるんだ。

 なんだ?もしや今のは抱きつこうとでもしてたのか?兄貴が心配だったのはわかるが、いくら妹でも抱きつくのは好きな男だけにしとけよ。まだお兄ちゃんそんなの許しませんけどね!

 

 

「美少女のハグをこんな風に拒否する男初めて見ましたよ⁉︎」

 

「なんだ、本当にハグだったのか」

 

 

 今の勢いだとハグはハグでもベアハッグくらいの威力はあったぞ。完全に攻撃手段の一つだ。

 

 それと美少女って言うんじゃないよ。

 確かにそうなんだがどこの界隈でも言われてるように本人が言ったら全部台無しだっての。それで許されるのは神に愛されてる照橋さんくらいなもんだ。

 

 

「誰ですか照橋さん」

 

「まあいいだろ、なんでも。それより、だ」

 

 

 周囲を見回す。

 めぐみん、アクア、カズマにダクネス。なんか生暖かい目でこっちを見てきやがるが、全員無事だな?

 ……めぐみんの目尻が少し赤いのはスルーしておこう。

 

 

「お前の依頼はこれで完了ってことでいいだろ?さっさと帰ろうぜ」

 

「はい、ありがとうございました。まさか自分が死にかけてまで助けてくれるとは、思いませんでしたけど」

 

「ああ、ゼロが来なければ今頃カズマなどは死んでいたかもしれん。私からも礼を言おう」

 

「いやあれは死んでたよ。完全に首チョンパだったよ俺が来なかったら」

 

 

 そもそもダクネスが俺の予定通りにこっちに飛んで来てくれればあんな事にならずに済んだかもしれないんだけど。

 むしろこいつ俺より身体丈夫だし雪崩に呑まれても喜んだかもしれない。けど依頼された護衛対象を放置して結果的に大丈夫でした、では胸を張って依頼達成とは言えないし、悩ましいね。

 

 大体だな、そんなに礼を言われても困るだけだぞ。俺は依頼として金を受け取っているのであって、代金分の働きをするのは既に義務が発生している。契約を守るのは当然だろう。

 それで死んでは元も子もないのはまあその通りなんだけども。

 

 

「まあ死んでもこの私がいれば一回くらいなら生き返らせられるわよ!回復魔法や蘇生魔法は私の専売特許みたいなところがあるわよね!」

 

「えっ?お前マジで?死んだ人間も生き返らせられるってすごいな」

 

 

 カズマが驚いているが、残念ながら俺やカズマ、ミツルギなんかはもう二度と蘇生は出来ない。

 クリスから聞いた話だと天界規定とやらで転生した人間や、もう過去に蘇生されたことのある人間は生き返れないと定められているからだ。

 

 あんまり脅かしてもしょうがないし、これは伏せておいた方が良さそうだが。死んだらそれまでなのは俺もこいつも変わんないんだから。

 

 

 

 

 ※

 

 

 翌日、ギルドで掲示板を見ていたらカズマが話したい事があるとか抜かしやがるから酒場のテーブルで話を聞いてやる。

 最近はこいつらに関わると碌な事がないから警戒しておこう。

 

 

「というわけでさ、改めて思ったんだよ。ウチのパーティーってバランス悪いなって。

 だってそうだろ?防御特化のダクネス、攻撃特化だけど一点集中のめぐみんに、宴会芸特化のこのアホだぞ?」

 

「ちょっとあんた表に出なさいな。この私に向かってアホとか言った意味を思い知らせてあげるから」

 

「せめて宴会芸特化を否定してくれ。

 ……で、さ。なんか俺が覚えられる強力なスキルとか無いか?

 ゼロなら王都で色んなスキルを覚えてるだろ。冒険者の数少ない長所の一つがどんなスキルも覚えられる事なんだから、それを活かしたいんだよ」

 

「……なあ、俺ってお前らからどう見られてるの?相談役かなんかと勘違いしてない?」

 

 

 期待した目でこっちを見てくるカズマには悪いが、それを俺に聞くのは激しく人選ミスだと言わざるを得ない。

 習得スキルはゼロ、魔力もゼロ、知力もゼロのこのゼロさんにスキルについて聞かないでほしい。

 あ、いや、魔力も知力も実際には一桁なだけでゼロではないよ?うん。

 

 

「まあね?確かにカズマが色んなスキルを覚えるのは賛成だ。

 しかしこのゼロさんには教えられるようなスキルは無い。ので、代理人を紹介しようと思うがよろしいか?」

 

「代理人……誰だ?」

 

 

 俺がチラリとアクアに視線を向けるとカズマも釣られてそちらを見る。

 

 

「………?なあに?」

 

 

 出来ればっつーかアクアは連れて行きたくない。ジャイアントトードに虫を与えるようなもん……いや、虫はあちらさんに失礼か。

 

 

「あ!あーあー!その物言いで何となくわかったぞ!」

 

 

 さすが、頭の回転が早いだけはある。今ので俺が誰を紹介しようとしたのか理解してくれたらしい。

 

 

「つー訳だ、アクア。今から行くところは特段面白いことも無いからお前はどっかで遊んでてくれないか?」

 

「?何言ってるのよ。何が面白いかなんて私が決める事なの。それに、もし面白く無かったとしても宴会芸でその場を盛り上げるのがいいんじゃない」

 

 

 なんでこいつはこんなに付いて来る気満々なんだ?遠回しに邪魔だから来んなって言ってんのに。やっぱりそういう察する能力とかが欠如しているのだろうか。仕方ないね、アクアだからね。

 

 

 

 

 

 



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45話



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 ※

 

 

「良いか?魔法使うな手え出すな口出すな。はい復唱してみろ」

 

「ねえ、カズマったら私のこと何だと思ってるの?いきなり建物の中で魔法使ったり暴れたりなんかしないわよ、めぐみんじゃあるまいし」

 

「えぇ〜?本当にござるかぁ〜?」

 

「「うわっウザッ‼︎」」

 

 

 俺の煽りへの反応がハモる二人を尻目にウィズの店に向かう。アクアには行き先を告げていないが、カズマには予想はできているようだ。

 今回の目的はカズマにリッチーが覚えているとされる強力なスキルを教えてもらうことだが、俺もそろそろウィズの店には行こうと思っていたからちょうど良いとも言える。

 

 というのも、先日の冬将軍戦で爆発ポーションを使い果たしてしまったからだ。結果的には無駄遣いに他ならなかったわけだが。主にあの狂性堕(クルセイダー)のせいでな。

 

 あれは俺の戦術を広めてくれるいいものだ。入荷したそばから買い占めているが、一度に入荷する量も入荷する頻度も決して多くないため、すぐに切らしてしまうのは俺の反省点でもあるな。

 あのポーションが正直なぜ売れていないのか不思議でしょうがないが、一本一万エリスとかいう中々の値段がするからだと勝手に思っている。

 

 アクアが寒いだのあったかいんだからぁだのと喧しくしているうちに『ウィズ魔道具店』の看板のすぐそこまで来た。

 

 

「おーい、ウィズー。前に頼んどいたポーション買いにーー」

 

 

 俺がいつものようにドアを開けながら来訪を告げると、とても魔王軍の幹部をやっているとは思えないくらい優しそうなリッチーが店の奥から姿を見せ……たりはせずに。

 

 

 

「へいらっしゃい、お客様!我輩はつい先日バイトで入った………ん?おおっと『死神』ではないか、久しぶりであるな。

 欠陥店主から聞いているぞ、何に使うかは知らないがこの爆発するポーションを毎回買い占めてくれるお得意様だとな」

 

「き、たぞ………」

 

 

 俺が持っている仮面と同じものを顔に付け、エプロン姿の身長190を超える色んな意味での大悪魔が妙に板に付いた様子で出迎えてーーー

 

 ーーー何やってんのこいつ。

 

 

「フハハハハハハ!どうしたどうした、そんな鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をして!

 おお、そういえば貴様には礼を言わねばならんな!我輩との約束を守ってくれたようではないか、感心感心!

 ………む?なんだ、その、後ろから差している後光のようなものは?誰か他に客でもいるのか?」

 

「……?ねえゼロ、どいてくれない?なんか中から凄い腐臭がするんですけど。アンデッドか、それに準ずる何かがいたりしない?」

 

 

 ……どう思いますか、皆さん。凄くないですか。女神と悪魔が壁一枚どころか俺一人隔てた距離でお互いを認識せずにいるんですよ。奇跡的なバランスじゃないですか?

 

 

「ーーーおい、そこをどけ『死神』。何やら貴様の背後から忌まわしくも神聖な気配を感じる。我輩や貴様には毒だ。どれ、今すぐ排除してやろう」

 

「ーーーなんか我慢出来ないくらい汚らわしい気配が中からするんですけど。これはアンデッドどころじゃないわね。ちょっとそこどきなさいよ」

 

 

 あ、もう駄目みたいですね。

 

 と言うかバニルは何で俺を悪魔か何かみたいに言うんだ。俺は人間だっつーの。神聖な気配なんか感じねえし毒でもない。回復魔法で滅んだりもしないぞ。

 

 

「あのさぁ……。一応言っておくけどここ人の店だからな?暴れるなよ?

 特にバニルはここにどんな危険物が置いてあるか知ってるだろ?お手柔らかに頼むわ、切実に」

 

 

 とりあえずこの店に用事がある以上この二人の邂逅は避けられまい。そこは諦めるとしてもマジで頼むぞ。

 

 

「フン、貴様が我輩をどんな目で見ているか知らんが安心しろ、我輩はTPOというやつを弁えて………」

 

「……………………」

 

 

 この空気をどう表現したら良いのか。凍り付いた時間はどちらからともなく動き始めた両名によって氷解する事になる。

 

 

「『バニル式殺人光線』‼︎」

「『ハイネス・エクソシズム』‼︎」

 

 

 このように。

 

 

「フハハハハ!なぜ女神が下界にいるのかは知らんがここで会ったが百年目という言葉がある。実際には百年では足らんがな!」

 

「ねえちょっとゼロさんカズマさん、あの虫けら何言ってるの?私人の悪感情を食べないと生きられない寄生虫の言葉なんてわからないのよね」

 

 

 いがみ合う二人。

 さすがに迂闊には飛び込めないのでなんとか止める隙をうかがっていると、カズマが唐突に。

 

 スッパーン‼︎

 

 という小気味の良い音をアクアの頭と自分の手の間から響かせる。

 

 

「痛づぁ⁉︎何すんのよカズマ‼︎」

 

「この馬鹿、お前店の前で言った事もう忘れてんじゃねーか!魔法使うなっつったろ!」

 

「だ、だってだって!カズマだって目の前にゴキブリがいたら反射的に引っ叩きたくなるでしょ⁉︎今のは不可抗力よ!」

 

「今俺が引っ叩きたいのはお前の頭だよ!」

 

「…………フン」

 

 

 いきなり始まったいつもの夫婦漫才にバニルも気勢を削がれたのか、鼻を鳴らして構えを解く。

 

 バニルは人間には基本攻撃しないと自分で言っていたし、アクアも飼い主には強く出られまい。

 まさか天地がひっくり返るレベルの争いを止めたのが何の特技もないただの人間だなんてどんな神話にも載ってはいないだろう。カズマさんってばやりますねぇ!

 

 せっかく落ち着いたのだし、今の内に用件だけ話して大悪魔パイセンには奥に引っ込んでてもらおう。

 

 

「よお、今日はいつもみたいにポーション買いに来たのもあるけどウィズに頼みたいことがあるんだよ。ウィズ、いるか?」

 

「ウィズ?ねえ、今ウィズって言った?確かあの墓場であったリッチーの名前よね?ここあいつの店なの?

 ていうかカズマにリッチーのスキル覚えさせるつもり?女神としては見過ごせないんですけど」

 

 

 こんな時だけ耳聡いアクアが猫がマタタビに反応するかの如くウィズの名に振り向くが、その程度の答えなら俺でも用意できるぞ。

 

 

「さっき言っただろ?カズマは強力なスキルを覚えたいんだって。アンデッドの王であるリッチーのスキルなら申し分無いと思ったんだよ。

 文句言うんなら、じゃあお前が回復魔法とか教えたらどうだよ」

 

「それだけは絶っ対嫌よ。……しょうがないわね、こんなアンデッド臭い場所に長く居たくないし、早く済ませてよね」

 

 

 俺の思い違いでなければ付いてくるなと命じたのに勝手に付いてきたのはこいつだったと思うんだが。

 それを言うとまたごちゃごちゃ言い出しそうだったので黙っておく。

 

 

「あの店主なら店の奥で我輩の殺人光線を受けて倒れておるぞ」

 

 

 いや何してんだよ。

 

 

「あの店主ときたらガラクタばかり仕入れるのでな。我輩が来る前に仕入れた物はまだ、まだ許そう……!

 しかし何故我輩が来た後、あんなに口を酸っぱくして言ったのにちょっと目を離すと変な物が棚に増えているのだ!あの欠陥店主はガラクタを生み出す錬金術でも覚えているのか⁉︎」

 

「それは本当にあるかもしれねえな」

 

 

 マジで謎なのが俺が店にいる時、ウィズから目を離してすらいないのになぜか棚に見覚えのないものが増えていることだ。

 何でだ、ウィズは棚に近寄ってもいないんだぞ?一体誰があんな所に置いたというんだ。

 

 おそらくこの謎は永久に解かれることは無いんだろうなって。

 

 

「なあ『死神』よ。物は相談なのだが……」

 

「断る。あと、死神呼びはやめろっつったろ。地獄に叩き返すぞ」

 

 

 ここぞとばかりに不要品を押し付けようとするバニルに機先を制する。

 ごく稀に俺が使えなくも無い道具を買ってはいるが基本どころか原則的にウィズの売ってる道具はガラクタor効果は高いが高価過ぎる物しかない。使わん物は買わない。クリスに怒られる。

 

 以前もある魔道具というかポーションを鍛錬に使えるかな、と考えて買った時にすんごい真顔で「いくらしたの?」とか「何に使うの?」とか「えっ、もう一回言って?いくらしたの?」って何回も同じこと聞いてくんだよ?怖すぎてちびりそうになったわ。

 

 というわけでお引き取り願おうか、見通す悪魔さん。

 

 

「チッ。……少し待っていろ。店主を起こして来る。

 そしてそこの女神もどき!棚の品物に勝手に触れるな!死に……小僧供!見張っていろ!」

 

「お前意外と素直だな」

 

「ちょっとあんた待ちなさいよ、もどきって何よもどきって!私は立派な女神なんですけど!謝って!ほら、早く謝って!」

 

 

 噛み付くアクアを無視して店の奥に入っていくバニル。

 それから数分間。アクアがポーションを水に変えたり、置いてあった魔法がかかった武器をただの武器に変えたりしようとする度にカズマが剣の柄で頭を叩く音が響いていた。なるほど、頭の中が空っぽだといい音が響くものである。

 ……その理屈でいくと俺の頭を叩いた時もいい音がするのだろうか。やっぱり納得いかん。

 

 俺が冒険者カードの基準に疑問を抱いていると、程なくして奥からフラフラのウィズが青白い顔をさらに青白くしながら出て来る。

 

 

「あ、ゼロさん、いらしてたんですね。伝言通りバニルさんも遊びに来てくれたんですよ。改めてありがとうございました。

 えっと、そちらの方達は以前共同墓地で会いました、よね……?お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」

 

「ああ、そういえば自己紹介がまだだったな。俺は佐藤和真。カズマでいいよ」

 

「私は崇高なる水の女神にして、アクシズ教団が崇めるご神体、女神アクアよ!そこの寄生虫もなめくじリッチーも控えなさい!」

 

「アク……シズ……。ひ、ひっ⁉︎アクシズ教⁉︎あの頭がおかしいことで有名な宗教の元締めだなんて……‼︎ほ、本物……⁉︎」

 

「……ねえゼロさん、なんで私の可愛い教徒達はこんなに怯えられてるの?みんないい子達なのよ?何かの間違いじゃないかしら」

 

 

 ところがどっこい、これが現実……!

 残念ですがアクア様、逃避してばかりでは精神的に成長出来ないと思われますのでしっかりとこの世界の真実を味わうといい。

 そしてアクシズ教を解散させてくれれば世界は少しだけ平和になるかもしれないよ?

 

 

「いや、実際アクシズ教と関わったことないけどそれは幸運が最低の俺の最高の幸運だと思ってるから。(エリス関連以外で)

 お前、アクシズ教の評判なんか酷いもんだよ?魔王軍よりも厄介でゴキブリよりもしぶとい最悪の害虫とか言われてるから」

 

「な、なんでよおおおおおおおお⁉︎」

 

 

 どうやら真理を見ることに耐えられなかったらしいアクアが泣き崩れる。安易に真理の扉を開くと対価は高く付くのだ。

 これに懲りる事が無さそうなのがアクアのアクアたる所以でもある。

 

 

「フハッ!フハーッハハハハハ!ゲホッ、ゲホッゴホッ!い、いいぞ小僧!もっと言ってやれ!

 なんと、全てを見通す眼を持つとされる女神(笑)が自分の信徒の評判すら知らんとは!傑作であるな、フハハハハハハ‼︎」

 

「『セイクリッド・ハイネス・エクソシズム』‼︎」

 

「華麗に脱皮‼︎」

 

「だからよ………暴れるんじゃねぇぞ………」

 

 

 ここぞとばかりに大笑いして咳き込むバニルに沸点を通り越した自称女神が反撃した。

 

 アクアの魔法を受ける前にバニルが自分の仮面を放る。おや、本体に直撃して消えてしまったが地獄に帰ったんだろうか?

 

 

「そうではないと言っただろう。我輩の現世での本体はこの仮面なのだ。仮面が割れでもしない限り我輩の『残機』に影響は無い」

 

「ああ、そういやそんな話だったな」

 

 

 投げた仮面が地面に接触したと思ったらムクムクと土が固まってバニルが盛り上がってきた。

 どうでもいいけど下はタイルなのにどこから土くれが出てきたんだろう。身体が出来た後も床に傷とかも無いみたいだし。

 

 

「………ねえゼロ?なんでその寄生虫とそんなに仲良さげなの?さっきから気になってたけど、どこで知り合ったのよ」

 

「あ!その話は私も聞きたいです!王都で会ったというのは聞きましたけど詳しいことは遠慮してしまって……。もし宜しければ聞かせてもらえますか?」

 

「ゼロの王都にいた頃の話か、気にはなるよな」

 

「アクア様もカズマさんもそちらのテーブルにおかけになってください。今お茶を淹れて来ますので」

 

「あら、あんたリッチーのクセに気がきくじゃない。浄化するのは待ってあげてもいいわ!」

 

 

 ガンガン進む、ドンドン進む。俺は一言だって話すなんて言ってないのに勝手に話す流れになってるのが不思議でしょうがない。スキルの件はどうなったんだ。

 

 

「我輩は知らんぞ。貴様が話してやれ」

 

 

 バニルは早々に奥に引っ込んじまうし。

 

 ……まあ、隠してるわけじゃないしいいか。

 お茶を淹れに行ったウィズが帰ってくるのを待って話を始める。

 

 

「そうだな。話をしよう、あれは今から36万……いや、1万4000年前だったか、まあいい、私にとってはつい昨日の出来事だがーーー」

 

「「「あ、そういうのいいんで」」」

 

「…………俺は王都にいた頃とある理由で王城に滞在しててだなーーー」

 

 

 ちぇっ、もうちょっと続けさせてくれてもいいだろ……。

 

 

 

 

 

 



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46話



再投稿。


作者:「さあ!あと三日で全話修復!頑張るぞい!」

ゼロ:「頑張れ♡頑張れ♡年末で仕事も休みだろうし余裕だな!」

作者:「いや?作者は大晦日まで仕事入ってるけど?」

ゼロ:「は?」

作者:「まあ流石に大晦日は早めに上がらせてもらうし、何とかなるでしょ」

ゼロ:「………………」


三日間で46話まで復元。残と致しまして50話以上。しかもそれ全部見直して改稿して消したり付け足したりして更に仕事………?

………これ無理じゃね?

ゼロは訝しんだ。







 

 

 

 ※

 

 

「ーーというわけでカズマになんか使えそうなスキルを適当に教えてやってくれないか?」

 

 

 王都の話が思いの外長くなってしまったもののやっと本題に入れた。

 カズマとウィズは俺の上手くもない話をどうにか理解してくれたみたいだが、あんだけ聞きたいとか言ってたアクアはもう寝てるし。

 ごめんね、俺長話する時だけ学校の校長先生と同じ催眠機能付きウィスパーボイス使えるからさあ。

 

 

「はい、いいですよ……と言っても私のスキルって誰か相手がいないと使えないスキルばかりなのですが、……あの、ゼロさんお願いできますか?」

 

「お願いできるも何も消去法で俺しかいねえだろ」

 

 

 チラリとアクアを見る。

 

 

「すかー……」

 

 

 幸せそうな顔で熟睡してやがるなあ。無理矢理起こしてお前がやれ!とかはさすがに言えねえか。

 

 

「………即死級のシロモノじゃなければいいぞ。

 カズマ、なんかあったらさすがにアクアを起こしてくれよ」

 

「お、おう。なんか悪いな、ウィズを紹介してくれたり、何から何まで世話になっちまって」

 

 

 気にする必要は無いさ、誰も無料だなんて言ってないんだから。

 

 それともこいつは俺がタダでこんな面倒臭いことをしてやる男だとでも思っているのだろうか。だとしたらとんだお笑い種だ。ただの案☆山☆子ですな!

 

 

「ああ……、そういえばお前はそういうやつだったよ」

 

 

 金が無いと嘆いていたカズマが死んだ魚の目で虚空を見つめる。そのうち間違った青春ラブコメが始まりそうだ。

 

 しかし俺だって別に金に余裕があるわけでは無いのは理解してほしいね。

 確かに傭兵業でそれなりに稼いではいるが、そんなものはウィズのポーションやら宿屋の支払いやら食費などで結構ギリギリなのだ。

 クエスト中に人を助けたりする時は報酬だって貰ってないワケだし、そもそも今日みたいに頼まれ事を聞いてクエストを受けない日もある。

 いくら友人といえども世知辛いこの世界ではあまり期待すんな。

 

 

「せめてベルディアの懸賞金が残ってりゃ俺だってこのくらいの親切は通してやるかも知れなかったのに。

 衣食足りて礼節を知るじゃないがやっぱり世の中ってのは金なんだよどいつもこいつも金金金……」

 

「わかった、わかったよ!お前も色々大変だってことはわかったから!」

 

 

 俺が決して裕福ではないことを熱弁すると、若干引かれたが分かってはもらえたようだ。

 そうなんだよ、大変なんだよ?

 

 

「わかります!わかりますよゼロさん……!そうなんですよ、最近はゼロさんのおかげで何とか固形物を口に出来ていますが以前は砂糖水で湿らせた綿で一ヶ月」

 

「すまなかった!さあ、始めようじゃないか!」

 

 

 そうだった。ここには貧乏話のレパートリーに事欠かない幹部様がいたんだった。

 俺程度が大変だの何だの言うのは本物に失礼だな。ウィズの苦労話は闇が深過ぎる。

 

 ただし半分以上は見境なく変な品を仕入れて金を天下に回しまくるウィズの自業自得であることは言わぬが花。

 

 

「……?はあ、では早速いきますよ?」

 

「イキますよぉ、イクイク……」

 

「ゼロ、汚ねえ。黙ってろ」

 

「ごめんなさい」

 

 

 ウィズのひんやりとした手が俺の手を包む。

 

 おお、リッチーの手って冷たいんだな。これは熱が出た時なんかは頭に乗せると気持ちいいだろう。

 そんな小学生並みの感想を思い浮かべていると。

 

 

「……ッ⁉︎う、おっ……!」

 

 

 凄まじい勢いで力が抜けていく。驚いて声が漏れ出てしまった。

 ヤッバ、これ結構キツイぞ⁉︎

 

 自然と息が荒くなってしまう俺を見てカズマが一言。

 

 

「……なんか美人と手を繋いで興奮してるみたいに見えるな」

 

「ぶっ殺すぞてめえ‼︎」

 

 

 誰のためにこんな目に遭ってると思ってんだ。

 その話をクリスにしたらお前のパーティーからお前の存在が消えることになるから覚悟しとけよ。

 

 しばらく歯を食い縛って耐えていると力を吸われる感覚が薄くなる。ぜ、全然大した事なかったね。あと五分吸われてたら死んでたかもしんない。

 

 

「ーーーとまあこんな感じですね。それにしてもゼロさんすごいですよ、こんなに長い間生命力を吸ったのにまだ半分も残ってるだなんて」

 

「何を半分吸ったって?生命力?」

 

 

 今の俺はどういう状態なんだ。いわゆる半殺しという状態なのだろうか。

 その吸ったモノは返してもらえないのか?フラつくんですけど。

 

 

「ああ!す、すみません、今お返しします……!」

 

 

 再び俺の手とウィズの手が触れ、今度は力が俺に流れ込んで来る感覚がした。

 毎回思うんだがこの世界のスキルはどんな仕組みになってんだかさっぱり分かんねえな。

 

 

「はい、えっと、これが『ドレインタッチ』というスキルです。

 見ての通り触れた相手から体力や魔力を奪って自分に付与したり、逆に自分の力を分け与えたり出来るスキルですね。……あの、いかがですか?」

 

「いや、見ての通りって…、ゼロがウィズと手を繋いで鼻息を荒くしたり気持ち良さそうにしてただけなんだけど。ゼロの変態性しかわからなかった」

 

「お前は今度から夜道に気を付けろよ」

 

 

 月夜の晩ばかりだと思うな。マジで。

 

 

 

 

 ※

 

 

 さて、スキルの実験台が終われば俺は手持ち無沙汰になってしまうな。

 カズマにああだこうだと冒険者の先輩としての威厳を発揮するウィズに話しかける。

 

 

「なあ、ちょっと店の奥に入れてもらっていいか?」

 

「え?でも今奥にはバニルさんしか居ませんよ?」

 

「ああ、あいつに用があるんだよ」

 

 

 一応の許可を得たと判断して奥に入らせてもらう。他の奴はいない方が都合がいい。

 

 店の奥を覗くと、バニルが木箱をガサゴソやりながら背を向けてしゃがんでいた。

 どうやら物品整理の途中だったようだ。邪魔して悪いとは思うが俺の用事を優先させてもらおうか。

 

 

「む?なんだ小僧。ここは関係者以外立ち入り禁止だ」

 

「まあそう言うなって。お得意様を邪険にすると売り上げが落ちるぞ?」

 

「ふん、我輩に聞きたい事があるといった面構えであるな」

 

 

 おっ、さすがは見通す悪魔だ。話が早いじゃねえか。

 

 

「この程度は見通す力を使うまでもないわ。大体、貴様は現世の我輩でははっきりと見通せん。これも王城で言った筈だが?」

 

 

「ああ聞いた。ついでにあの時お前言ったよな、俺が『寄りやすい』って。ありゃどういう意味かをもうちょっと詳しく聞かせてくれないかね」

 

「その前にお得意様、こちらの商品をご覧下さい。

 こちら、お得意様のような魔力のカケラも無い方でも気軽に魔法が使えるマジックスクロールとなっております!効果は『指定した対象の防御力を大幅に下げる』という優れもの!

 あのポンコツ店主が仕入れたは良いが売れそうも無いので処分に困っているのだ。……我輩が言いたい事が分かるか小僧」

 

 

「買わなきゃ答えねえってか?売れそうにないって事は、なんかデメリットがありそうだな。言ってみ」

 

「このスクロールを使用して防御力を下げた相手は攻撃力が大幅に上がる。それこそ天井知らずにな」

 

 

 こいつなんて物売ろうとしやがる。そんなロマン兵器はゲームの中だけにしとけよ。いや、ウィズが仕入れたにしてはマシな方か。使い道は色々ありそうだ。

 

 マジックスクロールとは魔法が封じ込まれた巻物のような物で、本当に丸ごと魔法が入っているので発動させれば魔力を消費せずに魔法が扱えるという便利な道具だ。

 ただし使い捨てなのと、入っている魔法の威力がそのスクロールを作った術者依存なので性能がピンキリなのに対して割合高額なのは如何ともしがたい。

 

 

「一つ幾らだ」

 

「五十万エリスになります。今ならなんと!五個セットで百万エリスのお得価格!お一ついかがか?」

 

 

 高っ。紙切れ一枚が五十万とか小切手かなんかかよ。

 

 

「………支払いは後ほどでお願いしたい」

 

「お買い上げありがとうございます!今後ともご贔屓下さいお客様!

 ……さて、貴様の話だったな……ふむ」

 

 

 商談が成立すると目を光らせてバニルが俺を見てくる。今まさに見通す力を使ってるってところか。

 

 ……んん?でも、俺ははっきり見通せないとか言ってなかったかこいつ。

 

 

「それも王都で言ったはずだぞ。貴様の場合は現在から未来にかけては見通せんが過去は別だとな。

 ……一つ聞こうか。貴様の母親の容姿は赤髪赤目、間違い無いな?」

 

「あ?なんだ急に」

 

 

 目を光らせたまま聞いてくるバニル。

 そうだけどさ。俺の赤い髪はお袋譲りだ。

 

 

「では貴様のその黒い瞳は誰譲りだ」

 

「………?」

 

 

 いや、そりゃ普通に考えたら親父だろ。

 

 

「本当にそうか?貴様の父は茶色の瞳をしていたようだがな」

 

「何が言いたいんだお前は」

 

 

 親父が茶色だろうとそういうこともあるんだろうよ。なんだよ、遺伝じゃないとでも言いたいのか?

 

 

「……まあそれはいい。さて小僧、貴様は別の世界の魂がこの世界で生まれるはずだった胎児に宿った存在である。そう思っているな?」

 

「そんなことまで分かるのか」

 

 

 最強じゃないですか、ヤダー。

 

 と、バニルがなぜか首を振る。

 ………違うってのか?

 

 女神であるエリスが言ったことだから無条件に信じてたけど、あいつも意外と抜けてるところがあるからなあ。

 

 

「ああ、違うな。女神の言うことなどアテにはならないといういい証拠ではないか。

 正確には貴様は知識だけが胎児に宿った存在なのだ。つまり、貴様の魂はこの世界で産まれる筈だった胎児そのものであり、向こうの世界の『貴様』とも言うべき存在と貴様はあくまで別人。貴様の知識に経験というか、記憶が不足しているのはそのためだろうな。

 ………今の貴様から読み取れるのはこんな所か」

 

「はあ?俺の質問に答えてねえだろうが」

 

 

 俺が何にどう寄りやすいとか全然明らかになってねえじゃんよ。

 

 

「喧しいわ。我輩にも確証が持てないことだってある。

 ただ、感覚的な話になるが貴様の気配……考え方などはどうも我々悪魔に近しい物を感じるのだ。あくまで人間の範疇ではあるがな」

 

「……悪魔だけに、あくまで?」

 

「下らん事を抜かすな!……さあ、もう良いだろう。我輩の邪魔をするでない」

 

 

 手の動きだけで追い払われてしまった。俺としては金を払った以上その分は答えて欲しかったのだが、こいつにもわからないってんじゃ仕方ない。

 

 言われるがままに奥から店内に戻ろうとした時、ふと思い付いたこともついでに聞いてみることにした。

 

 

「……なあ、もう一つサービスで教えてくれたりしないか?」

 

「ほう?聞くだけは聞いてやる。答えるのは我輩の自由だがな」

 

「魔王軍や悪魔と戦う度に、俺には赤黒い影が見えるんだよ。アレが何か分からないか?それ以外の時には出てこないんだけど」

 

 

 特に知ったところでどうこうなる話ではないが、正体不明の物が見えるってのは案外不安になるもんだ。

 こいつならもしかして、と思った俺に返ってきたのは期待外れというか、肩透かしを食らったような答えだった。

 

 

「ふむ?そんな物は我輩には見えんがな。貴様の幻覚ではないのか?」

 

 

 ……そう言われたら俺には否定する材料が無いな。友達が居ないのが寂しくて作っちゃったエアフレンズ。わお、悲しくて涙がちょちょ切れるぜ。

 

 

「いや、悪かったな。結局よく分からんままだけど、まあ後はなるようになるさ」

 

「待て小僧。その影とやらは見るたびに近づいてはいないか?」

 

「…………?」

 

 

 近づいているかと聞かれたら、そりゃ近くはなっているさ。何せ俺が『アイツ』を追いかけているんだから。

 

 

「それがどうかしたのか?」

 

 

 なぜそんな事を気にするのか分からずに聞き返してもバニルは言い澱むだけだった。

 

「いや………、後は貴様の言う通りなるようになるだろう。とにかくさっさとあの光り物と小僧二号を連れて帰れ。

 我輩はここに何故か増えているガラクタについてあのポンコツ店主に話がある。

 それともこの中から何か買っていくか?そうであれば大歓迎である」

 

 

 まーた錬成したのか、壊れるなぁ……。等価交換の法則はどこへ行ったのだろう。

 そしてまだ俺から毟るつもりかよ。スクロール買って素寒貧だよ。これ以上はポーションだって買えやしない。ポーションの補充はまた今度だな。

 

 

「……案外その影が『貴様』なのかもしれんな」

 

「あ?今何か言ったか?」

 

 

 店の奥から出ようとした俺にボソリと何かが聞こえる。

 

 俺に発した言葉というより独り言みたいな感じだな。現にバニルは聞き返した俺を無視し、ガラクタを箱にしまう作業を続けている。

 

 ……まあいいか。言う必要がある事ならそのうち改めて言ってくるだろ。

 

 

 

 

 

 



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47話



再投稿。







 

 

 

 ※

 

 

 バニルと別れた俺が店の奥から店内に戻ると、何やら知らないおっさん二人が透けているウィズと会話していた。

 

 ……うん、ウィズが透けてる。なんでこんな消え入りそうになってんだこいつ。会話してるおっさん達も不思議に思わないんだろうか。

 

 カズマと、いつの間に起きたらしいアクアもいるにはいるが、カズマの方はウィズに対して申し訳なさそうな顔をしている。アクアはいつも通りだが。何かあったのだろうか。

 

 

「いや、それがお前が奥に引っ込んだ後、もう一つウィズにスキルを教えてもらうことになってさ、それも相手がいないと使えないって言うからアクアを起こして使ってもらおうとしたんだよ。

 そしたらこのバカがウィズのスキルに抵抗しやがって、ウィズが何とか成功させようとずっと触ってたら、こいつの神聖な気とやらに当てられちゃったんだと。で、あんな感じに」

 

「だってしょうがないじゃない!リッチーのスキルにかかるなんて女神の沽券に関わることだわ!

 それに私の発する神聖で清浄なオーラは抑えられるものじゃないの!」

 

「バッ、お前……⁉︎」

 

「「……リッチー?女神?」」

 

 

 カズマが慌ててアホの口を塞ぐが少々遅かった。

 

 ウィズと話していたおっさんらが訝しげにウィズとアクアを交互に見始める。ウィズは汗をダラダラ流して震えているな。いや、誤魔化すなり何なり出来るだろ。

 

 テンパって挙動不審になるウィズ。……仕方ないな。

 

 

「カズマ、アクアの冒険者カードを貸してくれ」

 

「?あ、おう」

 

「ちょっと、私の大切なカードに何すんのーーー」

 

「『スティール』。ほい、ゼロ」

 

 

 泣きながらカズマに摑みかかるアクアを無視してカードを受け取り、おっさん二人にアクアの極めて低い知力の項目を見せる。ついでにこめかみを人差し指で指してクルクル回すのも忘れない。

 

 

「「ああ、なるほど……」」

 

 

 どうやら納得してもらえたようだ。

 

 カズマに頰を引っ張られて大泣きするアクアを可哀想な目で見て頷いてくれた。

 

 

「それではウィズさん、よろしくお願いします」

 

 

 二人がウィズに頭を下げて出て行く。何か頼み事をされていたような雰囲気だったが?

 

 

「あ、はい。実はーーー」

 

 

 ウィズによるとさっきの二人はとある屋敷の持ち主で、その屋敷に最近幽霊が頻出するようになってしまった為に凄腕のアークウィザードであるウィズに浄霊を依頼しに来たのだとか。

 俺も門外漢だけど頼む相手間違えてない?幽霊ならウィザードよりプリーストってのは常識である。ウィズがそれ関係に強いのはリッチーだからだろうに。

 

 

「なあ、それ、俺達がやろうか?」

 

 

 カズマが唐突にそんな事を言い出した。

 

 

「大丈夫か、お前!熱でもあるのか⁉︎ウィズ悪い、ポーションを飲ませてやってくれないか!代金はもちろんこいつ持ちで!」

 

「どういう意味だよ‼︎」

 

「カズマ、どうしちゃったの?そんな他人のためになるような事を言い出すなんてカズマらしくないわよ。

 ………『ヒール』」

 

「おいやめろ、頭に回復魔法かけるな。お前の魔法で頭が悪くなったらどうするんだよ。

 大体、こんな消えそうなウィズを見て原因であるお前は何とも思わないの?」

 

 

 要するに罪悪感というか、ペットの不始末の責任を取る飼い主の心境のようだ。良かった、カズマが良い奴になったら世界の法則が乱れるところだった。

 

 内心で失礼なことを思い浮かべていると、アクアに消されかけた凄腕アークウィザードが申し訳なさそうに頭を下げる。

 

 

「えっと、それではお願いしてもよろしいでしょうか?霊たちも私なんかより女神であるアクア様の方が安心できるでしょうし……。

 先ほどの方には私から伝えておきますが、今日はその屋敷に泊まり込んで、ということになると思います」

 

 

 どうやら話は自然に纏まりそうだ。

 

 俺の心配はアクアが嫌がって駄々をこねることだったが、大きな屋敷に泊まれて自分の得意な浄霊が出来るからか、満更でもない様子だ。

 

 敵さんが幽霊じゃ俺がいても何も出来ないし今日はここら辺で別れるのが良いだろう。

 

 

「じゃあカズマ、俺は帰るぞ。自分で引き受けたことは投げ出すなよ」

 

「分かってるよ。……ほら、行くぞアクア。めぐみんとダクネスにもこの事を言わないといけないし、泊まる準備もしないといけないからな」

 

「あ、待って。ゼロもバイバイ」

 

 

 俺と一緒に店を出る二人。手を振るアクアにこちらも手を振り返して宿へ歩き出す。

 

 アクアのああいうところは俺はわりと嫌いじゃない。子供とかの仕草は見ていてほっこりするからな。

 それをしているのがあの図体の年齢不詳で、極め付けに女神ってのはこの際置いておいて。

 

 

 

 ※

 

 

 翌日。

 

 よく考えたら昨日はカズマから報酬を貰っていなかったため、バニルからボられた分の持ち金を補充できていなかった事に気づいた俺は、今日こそは、と難易度が高めのクエストを受けようと掲示板を見てーーー。

 

 

「あ!ゼロさん!今日も稽古つけてもらって良いですか良いですよね、お願いします!」

 

 

 横から出てきたイケメンをノータイムでぶん殴ってやった。

 

 

「痛い⁉︎な、何するんです⁉︎……あ、もしかしてもう始まってるって事ですか!

 さすがはゼロさんですね……!「常に気を引き締めていろ」。こんな気持ちが痛いほど伝わって来ます!

 ……というか本当に痛い……」

 

 

 違う、そうじゃない。

 

 込めてもいない思いを勝手に汲み取られても困惑するだけだ。一体お前には何が見えているというのだ。

 

 俺に殴られた頰を押さえながら立ち上がる男。

 青っぽい鎧を身に付け、本日も勇者然とした装いのミツルギは俺の反射的に突き出した拳にすら何かを感じ取れたらしい。

 凄い感性ですね?危ないモノでもやってるんじゃないですかぁ?(煽り)

 

 

「………なあミツルギよ、俺とお前が知り合ってどのくらいになる?」

 

「やだなゼロさん、忘れちゃったんですか?二ヶ月と半分になりますよ」

 

「……その間、お前が俺のところに来た回数も言ってみろ」

 

「今回で二十二回目ですね!」

 

 

 もう一回ぶん殴った。今度はさっきとは逆側の頰だ。

 

 そう、こいつはボコボコにしてやったあの日からあろうことか三日から四日おきに俺の元を訪れるようになってしまったのだ。

 絶対におかしいと思う。普通あんな別れ方をしたら、何ヶ月、あるいは何年と修行を重ねて自分が満足いくまで強くなった後に、「僕ともう一度闘ってください、今度は負けません!」的なことを言って再戦するものじゃないのか?少年漫画な王道展開だと。

 

 当然ながらこいつに関わっている間はクエストを連続で受ける事も出来ないし、金が減る一方だ。

 最初はそれこそ元気があって大変よろしいとプラス思考で相手をしてやっていたが、俺にも我慢の限界というものがある。

 俺に負けたくせに何回も登場して恥ずかしくないんですか?出てくるならせめてハロウィンにチェイテ城という限定的な時と場所にしてもらわないと。

 

 

「ゼロさんがいつでも稽古してくれるって言ったんじゃないですか!」

 

「俺はお前がこんなに図々しいとは思いもよらなかったんだよ!

 俺を超えたいだの何だの偉っらそうな口聞いといてなんだその体たらくは⁉︎恥を知れ!」

 

 

 こいつ本当に俺の迷惑とかを考えないらしい。そういうところを直せと言ったのにちっとも直りゃしねえ。

 学習出来ない人間は霊長類辞めろ。猿の方がまだマシだぞクソッタレが。

 

 

「えっ、僕って迷惑だったんですか?」

 

「今まさに迷惑してるところだよ!」

 

 

 気付いてもいなかった。鈍感にも程があるだろ。そんなだから取り巻き二人の好意にも気付かないんだよ。

 

 難聴かつ鈍感な主人公。俺は嫌いじゃないがそれは創作物の中の話であって現実で存在が許されるかどうかはまた別なのである。

 

 

「とにかく、今日は無理だ。俺にも生活ってもんがあらぁな。

 特に最近は金が入って来ないわりに減るのが早すぎるんだよ。一文の得にもならんお前の相手はしてられんから日を改めてくれないか」

 

 

 こんだけ分かりやすく言ってやったんだ、さすがにそろそろ遠慮という物を覚えてもらわないと俺が困るしーー

 

 

「………?お金がなら僕が払いますよ?僕もタダで訓練してもらってると罪悪感くらいは感じますから」

 

「さて、今日はどこへ行く?何をどう伸ばしたい?時間は有限だ、適当なクエストを受けてさっさと行くぞ」

 

 

 金を戴けるとなれば話は別である。

 

 手のひらクルックルだ。まあ俺の手首はドリルで出来てるからね。

 俺のドリルは天を創る……あ、ダメだ。このセリフは熱過ぎるわ。こんなところじゃ使えん。これは来るべきアンチスパイラルとの決戦用にしておこう。

 

 

「というかゼロさんの実力でお金に困ってるってどういう事ですか。

 僕が知る限りでも相当な数のクエストこなしてますよね。何に使ってるんですか?」

 

 

 何に使ってるのか、と聞かれたら大半はウィズの店に消えているわけで。その金をウィズが有効利用してくれるならまだしも仕入れるのはゴミやガラクタの山である。

 つまりその質問に対しては『金をドブに捨てる』の表現が最も正確だと思われる。……あれ、なんだろう、目から汗が。

 

 

「そ、そんなことはどうでも良いんだよ。それより何か受けたいクエストとかはあるか?」

 

「いえ、ゼロさんに任せます。あ、お金はこのくらいで良いですか?」

 

 

 そう言ってミツルギが取り出すのはずっしり重そうな袋。百万は入っていそうだ。マジかよ、百万エリスPON☆とくれたぜ。

 ……なんでこんな大金をパッと払えるのだろう。そんなに稼いでいるのか。

 

 

「僕くらいになるとこれが普通ですよ。だからゼロさんがおかしいんですって。レベルがこんなに高いのに金欠の人なんてゼロさんしか知りませんよ」

 

「………………」

 

 

 また流れそうな涙をぐっと堪える。

 

 泣いて良いのは……、トイレか……パパの胸の中だけだもん……!

 

 あ、俺親父居なかったわ。普通にトイレ行ってくる。

 

 

 

 



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48話



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 ※

 

 

 俺が受けたクエストは『牧場に出没した白狼の群れの討伐』。

 ついでにクエストの場所が近かった『畑に出た冬眠から覚めた一撃熊の討伐』もミツルギに受けさせる。

 

 どちらも報酬が良く、ミツルギの訓練にも良さそうだったので二人で別々のクエストを受けて一緒に行く事にしたのだ。場所が遠ければこんな事は出来なかったが。

 アクセルにより近い牧場に向かう途中でいつもの取り巻きがいないことについて聞いてみた。

 

 

「そういえばお前のパーティー、フィオとクレメア、だったか?最初はお前に付いてきてたのに最近は見ないよな。

 パーティー解散でもしたか?やっと金魚の糞が取れてスッキリしただろ」

 

「違いますよ。あと、二人をそういう風に言うのはやめて下さい。いくらゼロさんでも怒りますよ」

 

「……いや、今のは悪かった。つい口が滑ってな、もう言わん」

 

 

 ミツルギに付いてきてはこいつが望んだ稽古に対して二人がかりで俺に文句を言ってくるもんだからついマイナスの感情が先に出てしまった。

 

 やれ「キョウヤを傷つけるな」だとか、「訴えて牢屋に入れてやる」だとか鬱陶しいことこの上ない。

 あいつらはこいつに過保護過ぎるんだよ。モンスターペアレントを相手にしている教師はきっとこんな気持ちなんだろう。

 

 もっとこいつを信じてやることが出来ないのかね。こいつは首が据わってない赤ん坊でもなければ介護が必要なご老体でも無い。自分で決めた事は自分で責任ぐらい取れるだろう。それでゴネるこいつではない事はあいつらも知ってるだろうに。

 心配するのは仕方ない。好意を持つ相手を心配するのは当然の事だ。だがそれが行き過ぎてはただの過保護になってしまう。

 あんな態度を取ったらミツルギが弱いみたいではないか。決してそんな事は無いのに。あれでは一生懸命努力しているミツルギに失礼だ。俺にもね。

 もし問題が起こってしまった時は俺を牢屋にでも何でも入れりゃ良いが、それまでは信じて待つってのも良い女の条件……なんて偉そうに言えるほど女を知ってる訳でもない俺である。

 今現在俺の周囲に女性として認識できる奴なんざクリスくらいしかいねえしな。

 

 

「ゼロさんのそういう、他人の自尊心を思い遣る考え方って僕は結構好きですよ。

 あの二人は最近僕に内緒で自分の得意な事を鍛えているみたいなんです。良かったらゼロさんも見てあげてくれませんか?」

 

「やっぱりホモじゃないか!(ドン引き)」

 

 

 いやいや、好きとか言われても困るし。気持ち悪いだけだわ。やばい、最近こいつに構い過ぎたかもしれない。

 どうりで俺を見る目が怪しいと思った、懐かれるのは悪い気しないがそっちに一歩でも進んだ瞬間にアウツ。

 お前との師弟関係も友人関係も破綻することになるから覚えておけよ。

 

 

「何でそうなるんですか⁉︎僕はホモじゃない!ゼロさんを見てるのは何か盗める物がないかと思ってですね!

 それに僕が好きな人はこの間言ったでしょう⁉︎」

 

 

 その赤面も気持ち悪いからやめてくれないかしら。いや、今の流れ作った俺が百パー悪いんだけどさ。

 

 それに好きな人と言うが、アクアを恋愛対象に見るのは絶対やめておいた方が良いと思う。

 あいつの関係的なパラメータは多分『友達』か『知り合い』か『その他大勢』の三択しかない。

 そしてお前がそのどれに属しているかは言うまでもなく分かるだろ?

 

 

「……ええ、まあ。以前サトウカズマに謝りに行った時も覚えてすらもらえてませんでしたし、まだまだ先は長そうです……」

 

「……マジでか」

 

 

 まさかの『その他大勢』だと?いやアクアよ、流石に『知り合い』くらいにはカウントしといてやれよ。実際に何度も会って会話もしてんのに他人扱いとか心折れるわ。

 

 その時の事を思い出したのか、気持ち落ち込んだ表情のミツルギ。

 

 こんな傷心の若者に冷たく当たれるほど鬼でも無い俺はもう少しだけミツルギに優しくしてやることにした。

 

 俺に当てはめてみるとエリスに「誰ですかあなた」と言われる感じだろうか。

 ………正直もう立ち上がれる気がしない。

 

 それでも立ち上がり、諦めないこいつは俺よりもメンタルが強いのかもしれない。そこだけは評価に値する。俺も応援くらいはしてやるさ。協力は、アクアの気持ちもあるし約束できんがな。

 

 

 

 

 ※

 

 

 白狼とは読んで字のごとく白い狼だ。冬眠はしないので年中姿が見られるが、普段は森の奥の獲物しか捕食しない。そのために人里には下りて来ず、クエストも発令はされない。別に迷惑かけてるわけじゃないからね。

 しかし冬場は別だ。森の生物が軒並み冬眠してしまうせいでそれこそ牧場にいる家畜くらいしか獲物がいなくなってしまう。そうなるとさすがに牧場主もクエストを出さざるを得ないのだ。

 

 後から来た人間が先住民を排他するのはどこの世界でも物悲しさを感じてしまうな。

 

 

「さて、牧場主によると白狼の群れが襲来する時間までもうちょいあるみたいだからその間は俺が相手してやるよ。暇だしな」

 

「はい!よろしくお願いします‼︎」

 

 

『魔剣』グラムを引き抜きながら構えるミツルギ。よろしい。挨拶と礼儀がしっかりできる奴は好ましい。

 

 ミツルギのグラムは持ち主が使うと人智を超えた膂力を与え、鉄でも何でも両断出来るようになるという触れ込みの神器だ。……何か俺のデュランダルよりも高性能じゃね?それ。

 俺としては付き合いがもう十八年になるこいつ以外の剣なんてありえないんだけどさ。本当の意味での相棒だな。

 

 そのまま俺が棒立ちになっていると、ミツルギは目を伏せて不満そうにしてしまう。どうした?早くかかってくるがいい下郎。

 

 

「…………やっぱり剣は抜いてくれないんですね」

 

「危ないと感じたら抜く。それ以外で人間に剣を向けるのは相手を殺すのを決めた時だけだ。お前は俺に殺されたいのか?」

 

「うっ……。い、いえ、やっぱり良いです。素手最高ですね」

 

「だろ?」

 

 

 実際、人間相手に剣使うのは躊躇っちまうんだよ。実力がそれなりに伯仲しないと使いたくない。懸命なミツルギには悪いがもう少し強くなったらな。

 

 

「……シッ‼︎」

 

 

 短く声を上げて俺に斬りかかるミツルギ。最初は無手の人間に剣使うのにビビってたくせに随分な進歩ではある。それだけではなくちゃんと以前よりも速くなっているところがこいつの真面目さを表しているね。

 

 横にすっと移動して避ける。ミツルギは空振りはしたが決して俺から目を離してはいない。試しに俺が小さく右に体重をかけると、それに反応して右に動いてしまう。

 あらら、こないだ注意してやったろうに。

 

 そのまま右足を軸に左足で回し蹴り。ミツルギの後頭部に命中して地面に顔面を強打する。すぐさま起き上がるが、目を俺から離していないせいで俺がつま先で抉った土を顔面にモロに食らってしまった。

 目を逸らさないのは立派だけどこの世には見なくて良いもの、見てはいけないものだってあるのだ。

 時には目を瞑り、逃げる事も大事。例えばお前の大好きなアクア様が酔ってゲロってる場面なんかは目を逸らすのが正解なんだぞ。

 

 ミツルギが見えないはずの目で闇雲に剣を振ってくる。

 この当てずっぽうが一番怖いのは多分どの格闘技でも同じなんじゃないかな。どこ狙ってんのか全然分からないし。

 少し後退して力を足に溜める。視力が回復したらしいミツルギは俺を捉えるなり飛びかかろうとするが、足を踏み出す前に俺が右足でダァン!と地面を強く踏む。

飛び出すタイミングを崩す為のフェイントだが、それに釣られてミツルギがまんまとつんのめった。体制を崩すのを見計らっていた俺は一拍おいてから右のアッパーで鎧のど真ん中、腹部を貫いてやる。

 

 

「おぇっ⁉︎ゲホッゲホッ……」

 

「前から言ってんだろうが。相手の一つの動きに気を取られ過ぎだ。もっと全体を見てりゃ重心がどこにあるのかは分かるはずだぞ」

 

 

 膝をついて腹を押さえながら咳き込むミツルギに今日の授業を開始する。これもまあ大体いつもの流れだ。

 

 

「ぼ、僕の戦い方が間違ってるって事ですか…?」

 

「いんや?間違っては無い。使い分けが出来てないって言ってんの」

 

 

 戦場では俯瞰して相手の全体像を見なきゃいけない時もあれば、集中して相手の動きを一つも見逃してはいけない時もある。ようは臨機応変にって事だ。

 俺が見たとこ、こいつは集中しか出来ていない。それは馬鹿正直に突っ込んでくる強敵、モンスターとの一対一の戦闘なら有効な手段だが、俺みたいにフェイントを織り交ぜる相手や多対一の戦いになると途端に弱くなってしまう。もっと俯瞰して、見せかけではなく重心がある部分を見抜く必要があるのだ。

 

 イケメン度も強さもこいつの完全上位互換であるジャティスはそこらへんはしっかりと出来ているぞ。あいつは魔王軍のど真ん中に特攻ぶっ込んでも圧倒的なスペックと経験で蹂躙できるからな。あいつ自身もフェイントやらラフプレーとかも上手いし。

 

 

「お前のそれも悪くは無いけど、例えば魔王軍とかに囲まれた時にどうすんのさ。一人一人に気い取られてたらしょっちゅう動きが止まっちまうだろ。全体を見て、次は誰がどんな攻撃してくんのか、とかは抑えとけよ」

 

「な、なるほど、勉強になります」

 

 

 つってもこれはどんなに口で言っても感覚を覚えるまではそうそう出来ることじゃない。

 

 これを習得するならオークの群れとかに放り込むのが一番手っ取り早いのだが。実際俺もオーク共に囲まれてる時に発見した事だしな。

 これを見つけなかったらと思うと俺は……、うっ⁉︎頭と腹と股間が痛い……⁉︎

 

 

「ゼ、ゼロさん⁉︎どうしたんですか!そんな真っ青になって震えて、何かの病気ですか⁉︎」

 

 

 どうやら少し豚平原(トラウマ)を思い出してしまったようだ。大丈夫、大丈夫……、もう俺は大丈夫……。

 

 

「と、というわけでだな!今から白狼の群れに突っ込んでもらう。その中で今言った『俯瞰』を学び取れれば御の字だ。その後はお前が受けた一撃熊のクエストで『集中』のお勉強だな!

 まあお前はこっちはまあまあ出来てるし、心配はないだろ」

 

「えっ。……まさか、ここまで考えてこのクエストを受けたんですか⁉︎さすがですよ、ゼロさん!」

 

「えっ。あっ、いやまあーうん、そうだよ(便乗)」

 

 

 ごめん、実は受ける時にそこまで考えてたわけじゃないんだよね。

 適当に一番報酬が良いやつ選んだらたまたま条件に合致したってだけで。

 

 

「よ、よし!時間もそろそろだし、ミツルギ、いってみようか‼︎」

 

「はい!ずっと付いていきます‼︎」

 

 

 いやそれはやめてくれ。お前俺を超えるのが目標なんじゃなかったのかよ。それもどうかと思うけどさ。

 

 

 

 

 

 



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49話



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 ※

 

 

 クエストを無事に完遂してアクセルに帰って来た俺とミツルギ。ギルドへと向かう途中でミツルギがこんな事を聞いてきた。

 

 

「ゼロさんは強いのにどうしてアクセルにいるんですか?王都に行けばもっと活躍の場もあるでしょうし、何より報酬も良いクエストがたくさんありますよ?」

 

 

「ああ?別に俺は報酬の為に冒険者やってる訳じゃ……つーかそっくりそのまま返してやるよ。お前は何でアクセルにいるんだ?」

 

「え?僕ですか、僕はゼロさんがいるのと、後は、アクア様がいるからっていうのが大きいですね」

 

 

 だいたい予想どおりの回答だな。俺も似たようなもんだとだけ言っておこうか。

 

 

「ええ⁉︎ま、まさかゼロさんもアク」

 

「チーガーイーマースー‼︎」

 

 

 俺があの治療機械兼宴会芸装置にそういう感情を持っているかのように誤解するのはやめてもらおうか。

 そんな不名誉はお前に押し付けてやる。さあ喜ぶが良い。さあ、さあ。

 

「何でそんな酷いこと言うんですか‼︎」

 

「それはね、俺が酷い奴だからだよ(マジレス)」

 

「……何かクエストに行く前よりテンション高いですね?」

 

 

 そりゃそうだろう。男のお守りから解放されて、さらにこいつからの報酬と受けたクエストの報酬を折半することによって相当な額の金が舞い込んで来たのだ。これで浮かれるなという方が無理な相談である。

 まあ一番は帰ったら可愛い嫁がいるからなんだけどな!

 

 

「あれ、ゼロさん結婚してたんですか?僕とさほど歳は変わらないのに」

 

「いやいや、結婚はしてない出来てない」

 

「えっ?」

 

 

 色々と複雑なのである。

 

 

「一緒には住んでるんだけどそう言うのは一切してないし、相手は全くその気無さそうだからな」

 

「ちょっ、ちょっと待ってください。一緒に住んでるって言いましたか?」

 

 

 何驚いてんのこいつ。お前だって帰ったらあの二人と寝てるんだろ?

 

 

「ね、寝てるって………。ゼロさん下品な所がありますよね」

 

「そっちじゃねえよタコ、流れから意図を汲み取れ。同じ部屋で生活してんだろって言ってんの」

 

「あ、ああ……。いえ、普通に二人とは違う部屋を借りてますよ」

 

「はあ?そんなことして金は大丈夫なのかよ」

 

「だから、ゼロさんは何でそんなにお金の心配するんですか」

 

 

 どうやらそんな贅沢をしても全く堪えないらしい。

 

 俺は今の生活に満足してるから平気だが、カズマが聞いたら激怒しそうな話だ。あいつよく夜に処理するのがツラいとか自分の部屋が欲しいとか言ってたし。

 

 俺?俺は確かに処理すらして無いが今のところクリス見ると反応しかけるだけで特にモーマンタイ。

 ………冷静に考えると見ただけで反応するってヤバない?

 

 

「処理とか反応とか、あまり人前でそういう話はしない方がいいと思いますよ。ゼロさんが常識外れなのは知っていますけど」

 

「常識外れなんてのは踏み外せない奴等の体のいい言い訳なんだよ」

 

 

 逆にお前はどうなんだと聞きたいね。個室を持ってるならさぞ楽ちんだろう。

 

 アホな会話をミツルギと続けていると、噂をすれば何とやら。件の冒険者、サトウカズマさんがいらっしゃるではないですか。

 昨日の悪霊についても気にはなってたし、声をかけてみる事にする。

 

 なぜか路地の角に蹲っているカズマに意図して足音を消しながら近寄る。どうやら他にも二人いるようだ……んん?

 

 

「あれ?お前ら知り合いだったのか?」

 

「どうわっ⁉︎って何だゼロか。驚かすなよ……」

 

 

 悪いな。癖になってんだ、足音消して歩くの。

 

 カズマと一緒にいたのはダストとキースだった。接点なんか無さそうなもんだがこいつらは一体いつどこで知り合ったのだろう。

 

 

「あっ、お前どこ行ってたんだよ!俺とキースと例の店に行く約束してだろうが!今日ギルドに行ったらいなかったからカズマ誘って三人で行くところだったぞ!」

 

「つーかお前らも知り合いだったのか?当たり前っちゃ当たり前だけどアクセルって狭いな……」

 

 

 ダストがぶちぶちと文句言ってくる。確かに約束はした。したけどさ、お前さん日時も場所も指定せんかったやないかい。

 お前らは冬だから酒場に入り浸ってるかもしれんが俺はお前らがサボってる分クエストを受けまくってるのだ。

 危険なクエストしか無いってんなら俺を雇えば良いだけだろ、働け屑供。

 

 

「チッ、うるっせぇなぁ。お前はこっち側だって期待した俺がバカだったよ!」

 

「ゼロはこういうとこ真面目だからなあ」

 

「働きたく無いでござる!絶対に働きたく無いでござる‼︎」

 

 

 こっち側でもどっち側でも良いけど勝手に期待して勝手に貶すのはやめてもらいたい。

 拙者だって働きたく無いときはある。仲間外れは良くないぞ。

 

 

「あ、お前そういうの気にするんだ?」

 

「いや、男友達からハブられたら寂しいだろ」

 

 

 故郷の村にいた時は気にもしなかったけど友達ができると気になる。これが『友達を作ると人間強度が下がる』ってことか。名言だね。

 

 

「あの。ゼロさん、サトウカズマ。そちらの二人は?」

 

「げっ、マツルギもいるのかよ」

 

「僕の名前はミツルギだ!……この会話もう何度目だい?いい加減覚えてくれないか?」

 

「お前らケンカすんな。こっちがダスト、こっちがキース。こいつはミツルギだ」

 

 

 共通の知り合いである俺が紹介してやると、ダスト、キース、カズマのクズ三人衆はヒソヒソと話し合った後、頷きながら俺達を輪に加える。

 

 

「ゼロにはもう話したかもしれねえけど、ここから先は女どもには秘密だ。連れに女がいるやつは気を付けろよ」

 

 

 この場の全員いるんだよなぁ。俺にいつそんな話したって?聞いてませんけども。

 

 ダストの確認にカズマとキースが頷く。俺も一応頷いておいた。ミツルギも状況がわからないなりに俺に倣う。

 

 

「……よし。いいか?このアクセルの街には妙に高レベル冒険者が多い。その理由があそこの喫茶店にあるんだ」

 

 

 ダストが指差す先には小ぢんまりした喫茶店。見た目は特に変わった様子もなく、いたって普通の店だ。

 

 冒険者はレベルが30を超えると一般的に高レベルに属される。そこまで行くとそいつらの主な活躍の場は王都などの大きい都市になることがほとんどだ。王都の友人のディランなどもレベル31と中々のレベルをしている。

 しかしながら、ダストの言う通り確かにアクセルには高レベル冒険者が多い。俺やミツルギはともかく、30を超える奴等が俺の知る限りでも七、八人はいる。

 その事についてはずっと不思議に思っていたのだが、どうもあの店にその要因があるらしい。

 

 見た感じは本当にただの喫茶店にしか見えないんだがねえ。

 

 

 

「ふふん。実はな、あの店はサキュバスが経営してて、表向きはただの喫茶店。しかしその実態は夜な夜な男に良い夢を見せてくれる楽園のような場所!なんだってよ。

 俺も他の冒険者に教えてもらってな。独り占めしても良かったんだが、こうしてお前らとも秘密を共有してやろうって訳だ。有り難く思いやがれ野郎供!」

 

「「ありがとうございます!ありがとうございます!」」

 

 

 クズ供はなんか興奮しているが俺とミツルギはポカーンである。

 

 うん。………うん?だから何?という感じだ。

 

 

「というかサキュバスだって?悪魔じゃないか!あなた方、そんな怪しげな店に行こうなんて恥ずかしくないんですか!

 もう行きましょう、ゼロさん。こんな人達に関わったらダメになりますよ」

 

 

 俺を連れて帰ろうとするミツルギだが、その物言いは良くねえな。こいつはまた………。

 

 

「待て待て。ミツルギ、その言い方は酷いぞ。お前が正しいと思ってることが全員に対して正しいとは限らないから。自分の考えは他人に押し付けんなって初対面の時に言っただろ。

 もうちょっとこいつらに付き合ってやろうじゃねえか」

 

「む、ゼロさんがそう言うなら仕方ありませんね」

 

「へっ、そっちのいけ好かねえイケメンとは違ってこっちのイケメンはクズ寄りだからな。

 さすが、ゼロは違うぜ。初めて会った時から俺と同じ匂いがするって思ってたんだよ」

 

 

 我が意を得たりとばかりに俺を仲間に引き入れようとするダスト。俺はニヤリと笑い、頷きながら立ち上がりーー

 

 

「帰るか、ミツルギ」

 

「「「あれっ⁉︎」」」

 

 

 三つのゴミ袋が驚いた声を出すが、当然だろう。

 いくら温厚な俺でもそんな暴言吐かれちゃムカ着火ファイアーよ。お前らみたいなクズと同等に扱われちゃあおしまいだ。俺は帰らせてもらう。

 

 

「テメエの方がよっぽど酷でえじゃねえか‼︎」

 

「クソが!こうなったら無理矢理お前らも巻き込んでやらあ!」

 

「ほら行くぞ!キリキリ歩けオラァ‼︎」

 

 

 マズイですよ先輩‼︎

 

 なんかクズ三人衆に拉致られてしまった。まあこの流れもわりかし面白いからされるがままになってやる。ミツルギにもアイコンタクトで店の内装くらいは見て行こうか的な事を送っておいた。

 

 なんだかんだ言っても俺もあの店がどんな事をしているのか、良い夢とはどんな夢なのか、ってのも気になるしな。

 

 かくして、急遽組まれた三人+二人のウホッ☆男だらけのむさ苦しいパーティーは魔窟の扉を開くのであった。

 

 

 

 

 



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50話



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 ※

 

 

「いらっしゃいませ!」

 

「あ、ど、どうも………」

 

 

 店に入った俺達を迎えたのは豊満な身体つきの美女だった。

 見回してみると、男、男、男。テーブルに座っているのは男しかいない。その全員が何かの紙に記入をしているようだ。表向きは喫茶店とか言ってたが、何かを飲んだり食べたりする奴はいない。

 

 

「お客様、こちらのお店に来た事はありますか?」

 

 

 俺を含めた全員が首を横に振る。

 

 

「では、ここがどんな店で私達が何者かは知っていますか?」

 

 

 今度はカズマ達はコクンと頷いたが、俺とミツルギはサキュバスが経営する良い夢を見せてくれる、とは聞いたものの具体的に何をどうしてどんな夢が見られるかは聞いていなかった。

 

 しょうがないので手を挙げて説明を求める。

 

 

「……あー、すみませんお姉さん。俺とこいつはお姉さん達がサキュバスだってのは知ってますけど、ここが何をする店なのかっていうのは詳しく知らないんですよ。申し訳ないですが説明していただいても大丈夫ですかね」

 

「あれ?ゼロさんって敬語使えたんですか?」

 

「言うねえ。大体初対面の時はお前にだって使ってたんだぜ?お前はそれどころじゃなかったみたいだが」

 

「………あの、その節はとんだ無礼を……」

 

「うふふ、とても仲がおよろしいんですね?それでは、知らないという方がお見えになるので簡単に説明させていただきます」

 

 

 そんなコントにも呆れずに微笑を湛えながらゆっくりと分かりやすく解説を始めてくれるサキュバス。やはり悪魔にも話がわかる奴はいるのだ。会話はいい文明。破壊しない。

 

 サキュバスによると、彼女達は男の性欲……精気を吸って生きる。なので、人間の男という存在が絶対不可欠なのだが、そこで注目したのが冒険者という存在だ。

 冒険者というのは基本的に馬小屋で寝泊まりをしている。それも仲間と一緒にだ。俺やミツルギは冒険者の中ではかなり特殊な例なのだ。

 そして当然ながら他人がいるところでは下の事情を処理するのは憚られる。故に、サキュバス達が僅かなお金を貰って寝てる間にコッソリ枕元に立ち、冒険者が望む良い夢を見せてスッキリさせてくれるという訳だ。

 

 彼女達は精気を苦労なく吸える。もちろん手加減して、影響は俗に言う賢者タイムになる程度に抑えてくれるので、俺たちは処理をしなくても済むというなんとも一石二鳥というか、誰も損はしない良い関係だ。

 

 その話を聞くと俺も利用したい気持ちになるが、ある一点、気になることがある。

 

 

「すみません、枕元に立つって言いました?もしかして俺のところに来るって事ですか?」

 

「はい。今からお渡しする紙に住所を書く欄がありますので、そこに記入いただいた場所へ直接行かせていただきます」

 

「……その、直接来ずに夢を見ることって……」

 

「申し訳ありませんがそれはちょっと難しいですね……」

 

 

 なるほど。それは出来ないらしい。それなら俺の答えは簡単だ。

 

 俺は立ち上がりながらカズマ達に告げる。

 

 

「悪い、俺はもう帰るわ」

 

「は?お、おい?急にどうしたんだよ。まだ説明聞いただけじゃないか」

 

「直接来るってんなら俺は無理だ。俺の宿にはクリスがいる」

 

「なんだ、そのくらい。俺らのところにもリーンがーー」

 

「お前らはあいつのあの姿を見てないからそんなことが言えるんだよ」

 

 

 以前クリスと外出している時に下級の悪魔に出くわした事があるが、その時のクリスといったらもうさ………。

 

 

「な、なんでそんなに焦ってんだよ。クリスがどうかしたのか?」

 

「どうかしたか?はん、そんじゃその時の再現をちょっとしてやる」

 

 

 女神と悪魔の相性が良いはずが無いのは知っているが、あそこまでとは思わなかったからな。はっきりしっかり覚えている。

 

 連れ立ってきたメンバーの視線を受けながら俯き。

 

 

「………ころす、殺す、殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺すゥゥ‼︎ア■■■スゥゥゥァァァッッッ‼︎」

 

 

 唐突にそう叫んだ。

 

 俺の急な豹変をとんでもなくビビった目で見る面子を見回して満足する。

 

 

「………悪魔を前にしたクリスは大体こんな感じになります」

 

「「「なんで⁉︎」」」

 

 

 なぜか話を聞いていた周りの冒険者まで俺に突っ込む。

 皆さんすんません大声出して………ってかおいおい、よく見たら周りにいるの知ってる奴ばっかりじゃねえか。この街の冒険者はクエストにも出ずに大丈夫なのかよ。

 

 

「いやすまん、大袈裟に言い過ぎたかも。

 ……理由は言えんが、とにかくクリスに悪魔はマジでヤバいんだよ。という訳で俺は先に帰るわ。あ、お姉さんすみません。感じ悪いかもしれませんがこれについては如何ともし難くて……」

 

 

 俺が謝ると、気にした風もなく手を振ってくれる。すげえな、悪魔ってよりも天使じゃね?

 もう完全に帰る雰囲気の俺を、だがカズマは引き留めようとしてくる。

 

 

「待てよ、おい、良いのか?これを逃したらお前……!」

 

「つーかお前だって他人事じゃねえんだぞ」

 

 

 お前とアクアは一緒に寝てるんだろ?女神の前に悪魔来させるとか正気かよ。遠回しにここのお姉さん達に『闇の炎に抱かれて消えよ』って言ってるようなもんだろ。

 

 

「あ、それなら俺は大丈夫だ、もう自分の部屋を持ってるんだよ。ほら、昨日の屋敷の件があるだろ?」

 

「屋敷?ああ、幽霊屋敷か」

 

 

 カズマ達が依頼を引き受けた屋敷だが、どうやら悪霊のせいで評判が落ちてしまっているらしく、解決したお礼に評判が回復するまで住んでいいという話になったそうだ。

 

 

「へえ、さすがは幸運が高いだけはあるな。そんな上手い話ないぞ?良かったじゃないか」

 

「お、おう……そうだな……。……元はと言えばアクアのせいだなんて言えない……」

 

 

 カズマが胸を押さえて苦しそうにしてしまった。なんだ、またぞろ何かしでかしたのだろうか。

 

 

「まあとにかく俺は行くぞ。じゃあな」

 

「あ、待ってくださいよゼロさん。ゼロさんが帰るなら僕も……」

 

 

 俺が店を出ようとすると、ミツルギが俺を追って帰ろうとする。俺としてはどっちでも良かったのだが、唐突にその肩をクズが捕らえる。

 

 

「まあ待てよミツルギ。せっかくなんだからお前は楽しんでいけって」

 

「なっ、何ですか、離してください」

 

 

 ダストがミツルギを強引に席に繋ぎ止めようとしていると、キースが何を思ったかこちらに寄ってきた。

 

 

「おい、ゼロもあいつ引き止めるの手伝えよ」

 

「はあ?なんで?」

 

 

 別にいいじゃないか。こういうサービスを受けるのも受けないのも当人の自由だ。嫌がる奴に無理矢理やらせても楽しめるとは限らないだろう。

 

 

「そんなこたどうでもいいんだよ。………エリートイケメン野郎がこっちの道に足を踏み外すのは見てて面白いだろうが」

 

「………………」

 

 

 くうううううううずうううううううううれたああああああああああああ!

 

 ここまでクズ野郎だともはや感心してしまうな。エリートを自分達と同じ位置まで落とそうとする事に凄まじい執念を燃やすダストは依然としてミツルギを離さない。というか俺を逃がすつもりも無さそうだ。ギラギラ睨んできやがる。

 ……しょうがねえなあ。

 

 俺はおもむろにミツルギに歩み寄り、ポン、と肩を叩く。

 

 

「ゼロさん………‼︎」

 

 

 期待した目で俺を見てくるミツルギ。俺は微笑みながら頷きーー

 

 

「ミツルギ、お前は残っていけ」

 

 

 梯子を外した。

 

 

「えっ……?」

 

「何て声、出してやがる……。ride on‼︎

 ミツルギ、俺だって本当は良い夢を見たいんだ。だけど俺は止むに止まれぬ事情があって断念するんだよ。

 その点お前はそんなことは無いだろ?わざわざ俺に合わせなくっても良いって。見たいものは見たい。お前は自分の欲望に素直に生きて良いんだ。

 それにちゃんとした理由だってあるんだぞ。お前の訓練に関する事だ。

 ほら、お前は真面目過ぎるんだよ。そんなに張り詰めてたらいつかは切れちまう。戦闘には多少の遊びがあった方が色んな物事に対応出来るもんだ。これを機にそういう事も覚えれば強くなれるかもしれない、いや!きっと強くなれる。……俺を信じろ。お前が信じる俺を信じろ。

 それに良く考えろ。夢の中ならお前が望むアクアとイチャイチャ出来るんだぞ?……もう道は決まったな?」

 

 

 我ながらよくもまあスラスラと屁理屈を思い付くもんだ。

 こんな時にだけ頭の回転が速くなる知力一桁の俺に密かに戦慄していると、ミツルギが感激した様子で俺に頭を下げて来た。

 

 

「ゼロさんがそこまで僕の事を考えてくれてるなんて…………‼︎

 ……ありがとうございます。ゼロさんの言う通りです。僕は真面目過ぎると周りに言われて来ました。今までは気にしませんでしたが、ゼロさんがそう言ってくれるなら……」

 

「「「うわあ………」」」

 

 

 ぐぅっ……⁉︎ざ、罪悪感がっ……⁉︎

 

 クズ供にこれ以上絡まれるのが嫌だったという理由でたった一人の弟子を売り、店にいた知り合いだけでなく、初対面のサキュバス達にまで引かれる男の姿がそこにあった。何を隠そう俺ことゼロである。

 

 いや、よく考えなくてもダストとキース、お前らがその態度はおかしいだろ。元はお前らが言い出したことだろうが。

 

 

「あー、ミツルギ。ああは言ったけどお前がどうしても嫌だってんなら一緒に帰っても………」

 

「いえ、せっかくゼロさんが勧めてくれたんですから!これも勉強だと思って体験してーーあ⁉︎どうしたんですかゼロさん!ゼロさん⁉︎」

 

 

 どうしようもなく俺がクソ野郎になった気がして店を飛び出す。すまない、ミツルギ。不甲斐ない師匠を許してくれ。

 せめて良い夢を見てくれ。それが例え一夜限りでも、その思い出は色褪せないのだから……!

 

 

 なんか良さげな台詞を意味も無く思い浮かべながら今度ミツルギに会ったら飯を奢ってやろうと誓った。

 

 

 

 

 

 



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51話



再投稿。



ゼロ:「なあもう無理だって。諦めて今年最後の投稿話で読者さんに一言謝ってさ」

作者:「ウルセェ‼︎てめえ仮にも主人公が簡単に諦めてとか言ってんじゃねえぞ!俺の分身なら当たり前だよなぁ⁉︎」

ゼロ:「んーな事言ったってこのペースじゃよお」

作者:「……そうだ、いい事思い付いた。まず今夜から明日にかけて徹夜するだろ?そんで仕上げた話を一時間に一話、予約投稿使って放出するだろ?」

ゼロ:「ん、おう」

作者:「さらに明日から明後日にかけても徹夜するだろ?そんで同じことすればほおら、ジャストで元に戻るまで持ってける!そして新年明けましておめでとうで投稿する予定だった最新話をブチ上げれば!完璧じゃね?」

ゼロ:「……明日と明後日の仕事は?」

作者:「バカ、出るに決まってんだろ。その為に予約投稿使うんだ。
なあに、作者なんか年越しは毎年三重県に行ってオールナイトフィーバーしてんだから二徹ぐれえ余裕余裕。今年は行けなくて残念だけどなあ」

ゼロ:「俺知ってるぞ。あんた、オールナイトとか言っても耐え切れなくて毎回台に座りながら寝てるだろ。手はちゃんと捻ってるみたいだが」

作者:「……あ、この話題やめやめ。作者がカス野郎だってバレちゃう」

ゼロ:「(もう遅いんだよなぁ……)」






 

 

 

 ※

 

 

「ただいまー」

 

「おかえりー、ご飯出来てるよー」

 

 

自分を慕ってくれる弟子を置き去りにした事はこの際すっぱり忘れる事にした俺が自室のドアを開けながら帰宅を告げると、普段着である『盗賊っぽい服(クリス談)』ではなく、寝る時に着用するような薄いピンク色をしたパジャマみたいな服装をしたクリスが出迎えてくれた。

 もう見慣れた姿だが、実に良い。

 

 クリスは最近は女神として死んだ人間の魂を導く仕事には出ていない。

 というのも、クリスの担当するのは『モンスターによって死んだ人間』であり、冬場はクエストを受ける人間が少ないからだ。そしてその『少ない』に含まれる奴らも俺が全力でサポートすることによって、なんとアクセル始まって以来の犠牲者ゼロを実現している。要するにとても暇なんだとか。

 もちろん分身出来るわけではない俺ではアクセル近辺をカバーするのがやっとだが、そもそもモンスターに殺されるようなヘマをする冒険者は基本的に駆け出しと相場が決まっている。

 冬は魔王軍すらも動きが鈍くなるのでそちらの被害はこの時期は考えなくともいいしな。

 故に、駆け出しの街アクセルで犠牲ゼロになればそれだけでクリスの仕事は激減、俺と一緒にいられる時間が増えるのだ。

 

 それでは、そのとても暇なクリスさんが普段何をして過ごしているかというと。

 

 

「今日はね、ゴミ捨て場にカラスが出るっていうからそれを追い払いに行ったんだよ。ついでにその周辺だけだけど掃除したりね。明日は他の場所に行こうかな」

 

「カラスねえ。目とか突かれないようにしろよ?」

 

「分かってるよ!あたしだって冒険者なんだから、カラスなんかに遅れは取らないっての!」

 

 

 ボランティアなどアクセルに住む人を手伝ったりしている。それだけではなくエリス教の教会や、ギルドの雑用などを引き受けて陰ながらに他の冒険者をサポートしているようだ。

 それでなのか、ギルドにクエストを受けに行くと「クリスのおかげで助かっている」、「今度お礼を言っておいてくれ」などの感謝の言葉が俺に届く。いやー、できた嫁を持つと誇らしいわー。

 

 いつも通りに箸を動かしながら相槌を打っているとーーー

 

 

「あ、それとね、そのゴミ捨て場でバニルさんって人と仲良くなったよ!」

 

「ブバッ⁉︎」

 

「うわっ⁉︎ちょっと、何さ!汚いよ!」

 

 

 口に含んだ食い物を噴き出してしまった。

 

 ちょっと待ってくれ。あれだけ苦労してきて今まで一度も止まったことが無かった俺の心臓がガチで止まりかけたぞ。

 

 咳き込む俺にクリスが心配そうにしてくる。

 

 

「大丈夫?背中さすろうか……?」

 

「い、いや、悪い。続けてくれ。その、バニルさんがなんだって?」

 

「うん?そのバニルさんはウィズさんっていう元凄腕冒険者の人が経営してる店にここ最近バイトで入ったんだけどね」

 

 

 どうやら近所やギルドにはそれで通してるらしい。そう言えば店に行った時にそんな事を言おうとしてたような気もする。

その解釈でも間違いではないから特に問題にはならないのだが……。

 

 

「カラスってすばしっこいじゃん?だから一羽ずつ追い払うのに苦労してたんだけどバニルさんが、

『フハハハハ!ご近所付き合いも大事にせねばならぬな!どれ、お嬢さん、お手伝いいたしましょう‼︎』

 って言ってあっという間に追っ払っちゃったんだよ!いい人だよねー」

 

 

 あいつ何やってんだよ。いや、文句言うようなことはやってないんだけど。

 

 

「その後はウィズさんのお店でお茶をご馳走になっちゃった。あのお店って面白い物売ってるんだよ。

 あたしは最高品質のマナタイトを勧められたけど、値段聞いて心臓止まりかけちゃったよ。元々大した魔力を消耗するスキルなんて覚えてないし使わないから買っても困るだけだしね」

 

 

 あそこで俺が買ったものは今のところクリスに全否定されているのだが、それを面白いで済ませるならあんなに俺に怒らなくても良かったんじゃないかなあ。

 

 というか、だ。

 

 

「その、クリス?バニル……さんとかウィズさんを見て何か感じなかったのか?」

 

「へ?だからいい人だよねーって」

 

「………………」

 

 

 どうやらクリスは悪魔がどうとかアンデッドがどうとかはよく分からないらしい。節穴かフラウロス‼︎

 

 しかし、同じ女神だというのにアクアの方はあんなに悪魔の気配に敏感だったではないか。姿を見る前から汚らわしいとか腐臭がするとか言ってたし。

 

 

「……なあ、お前もアクアも同じ地上に降りてるわけじゃん?」

 

「……?何、急に」

 

「お前がクリスとしてここにいるのとアクアがアクアのままでここにいるのってやっぱどっかしら違いがあるわけ?」

 

「そりゃ大違いだよ。あたしはここにいる時は女神としての力なんてほとんど封印してるからね。ここにいる『クリス』はあくまで人間としての器ってこと。

 でも先輩は本当にあのまま引っ張ってこられちゃったから、地上では女神の力が弱まるとは言え本物の女神として顕現してるわけだよ」

 

「………なるほどね」

 

 

 把握した。

 

 要するにここにいるクリスは女神ではない。アクアは女神である。

この違いなのだろう。それで悪魔の存在を感知できるかできないかが決まってしまうとはなんとも曖昧だな、女神ってのは。

多分それの影響もあってあの鋭いとかそういうのを超越したトコにいる見通す悪魔もクリスを認識出来ないんだ。

 

 ………あれ。こいつが悪魔を察知できる訳じゃないんなら、じゃあ俺もサキュバスサービスでワンチャンあったんじゃね?

 ……ちょっと確かめてみるか。

 

 

「なあ、俺からなんか変な匂いがする、とか変な気配がする、とか無いか?」

 

「ええ?何それ。そんなの分かんないよ」

 

「もっと寄ってみろって」

 

「んんー……」

 

 

 これで悪魔の匂いがするって言われたらバッドエンドだ。もう一度セーブポイントからやり直す羽目になる。ちなみに俺の冒険の書はバグってるのでどれだけ上書きしてもセーブなんて出来ない仕様です。

 

 鼻をすんすん鳴らしながらこちらに近づいてくるクリス。それでもまだ分からないのかどんどん顔が近くなる。おっとこれは?

 

 ………オーライ、オーライ、オーライ、キャッチ。

 

 最接近したタイミングで抱き締めてみた。

 

 

「どうだ?なんかわかったか?」

 

「この匂いは……、銭湯の石鹸の香り。帰ってくる前に行って来たでしょ?」

 

「お、よくわかったな。……その他は?」

 

「別に何も感じ…な…い……?

……………っ⁉︎」

 

 

 サキュバスの方はセーフだったようだが今度は俺の行動がアウトだったようだ。

 みるみるうちに顔が真っ赤になっていくクリス。いやー、もう少し楽しみたかったけどなー。

 

 と、ガツンと顎に衝撃が来て視界が揺れる。どうも人体の急所である三日月にヘッドバットをくらったらしい。

 

 

「にゃっ、なななななにしてんのさキミ⁉︎」

 

 

「何って……、近寄ってきたから抱き締めて欲しいのかなって思って」

 

「そんなわけ無いじゃん‼︎バカ、エッチ!変態!何もしないって言ったのに‼︎」

 

「ありがとうございます‼︎ありがとうございます‼︎」

 

 

 クリスが手当たり次第に色んな物を投げてくるが、残念ながら痛くも痒くも無い。といってもかなり本気で投げているようなので常人には当たれば相応のダメージが行くだろう。

 

 しかし俺の特典は『鍛えれば鍛えるほど強くなる体』であり、その強くなるには肉体の強度も含まれる。つまり痛い思いをすればするだけ堅くなっていくのだ。おっと、蒲郡先輩の話はそこまでだ。俺はMではない。

 

 この世界に生を受けてから潜ってきた死線の数だけ堅くなっている俺には生半可な打撃では意味を為さないーー

 

 

「ってうおおおい‼︎刀身丸出しのダガー投げんのは止めろよ!刺さったらどうすんだ!」

 

 

 乱れ飛ぶ雑貨の中に光り物を見つけて指で挟み止めながら叫ぶ。

 お前刃物投げるのはナシだろ。目に当たったら失明するかもしれないんだ、気を付けろ。

 

 

「どうせ避けるか止めるかするじゃん!あたしの攻撃なんかほとんど効いてないくせに!」

 

「バカ、それは本当にシャレにならねえって‼︎」

 

 

 そう言いながらまたもクリスが投擲しようとするのは爆発ポーションの瓶(中身入り)だった。

 

 おいなんだよ、使い切ったと思ったらこんなところに一個余ってたのか。

 ……爆発物を家に保管してるって日本だったら免許いるよなあ。この世界色々ユルくね?

 

 

 

 ※

 

 

 クリスは不貞腐れて早々に寝てしまった。今さら抱き付くくらい良いじゃんねえ。

 ま、確かめたかったことは確認出来たから良いけど。

 

 俺はサキュバスサービスはいらねえ。理想そのものがそこにあるんだからな。わざわざ夢を使う必要が無い。

 エロいことがしたくないと言えば嘘になるが、そんなもんは本人との合意がなきゃ意味がねえんだ。それを再確認できた。

 

 そういうことがしたいならゆっくりと心を許してもらっていけばいい。そのための時間ならいくらでもあるのだから。

 

 俺もクリスとの今後を楽しみにしながらいつも通り浅すぎる眠りについた。

 

 

 

 ※

 

 

「今日も一日がんばるぞい‼︎」

 

「……ぞいって何?」

 

 

 ぞい君さあ、ぞいぞい言ってないでさあ!

 

 翌日、起床した俺とクリスが部屋を出ながら戸締りをする。

 今日はウィズの店に行って爆発ポーションを補充してからクエストに出掛けようと思っている。ついでにバニルに先日の借金を返さねば。

 

 

「それにしてもゼロ君がウィズさんのお店の常連さんだったとはねー。……世間っていつからこんなに狭くなったんだっけ?」

 

「狭いのは世間じゃなくてアクセルだろ。ほら、クリスは今日も町内清掃だろ?途中まで一緒に行こうぜ」

 

「あ、うん」

 

 

 朝日が昇り始め、段々と明るくなる街を二人並んで歩く。

 そう、こんな日常はずっと続くのだから、焦る必要など無いさ。

 俺が昨日の続きを考えながらクリスと気温の話をしていると。

 

 

『緊急‼︎緊急‼︎』

 

 

 久しぶりに流れた警鐘と放送によって会話が断たれてしまった。

 

 ……?なんだこの警鐘?聞いたことない音だな。

 

 クリスも初めて聞く音らしく、近くにあったスピーカーに揃って目を向けて放送の続きを待つ。程なくして聞こえてきた内容は、

 

 

『デストロイヤー警報‼︎デストロイヤー警報‼︎機動要塞デストロイヤーが、現在アクセルに向かって侵攻中!全冒険者は速やかに装備を整えてギルドに!一般の住民の方々は直ちに避難してくださいっ‼︎』

 

 

 俺が望む全てをぶち壊す物だった。

 

 

 ーーー日常壊れんの早くね?

 

 

 

 

 



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52話



再投稿。







 

 

 

 ※

 

 

 衝撃の放送が流れた直後。

 

 

「やばいって、早く逃げろぉ‼︎」

「おいいつまで寝てんだ!」

「もうダメだ……、おしまいだぁ……!」

「化け物?違うな……、俺は悪魔だ……!」

 

 

 朝も早いというのにそこら中の家が阿鼻叫喚の様相を見せてパンピーの皆さんが一斉に避難していく。

 ……いや待て、今一般人に紛れてブロリーがいたぞ。お前が迎撃しろや。

 

 

「ゼ、ゼロ君聞いた⁉︎今の放送‼︎」

 

 

 かなり焦りながら確認してくるクリス。

 聞いたとも。一緒に横にいただろうが。

 

 

「あ、そ、そうだよね……。ってそんな場合じゃないよ!早くーーー」

 

「ああ、早くーーー」

 

「ギルドに行かないと‼︎」

「荷物纏めて逃げないとな‼︎」

 

「「……ん?」」

 

 

 

 なーに言ってだこいつ。

 

 

「えっと、あ、あたしの聞き間違いだよね?まさかねえ、ゼロ君が逃げるなんて……」

 

 

「聞き間違いでも何でもねえよ。早く準備してどっか逃げるぞ」

 

 

「……なんで…?」

 

 

 

 本当にショックを受けた顔で見つめてくる。

 

 何でも何もなあ……。

 

 

 

「デストロイヤーだぞ?その意味がわからないお前でもないだろうに」

 

 

「だ、だけどキミなら……!」

 

 

 

 ……信頼してくれるのは嬉しい。俺もそれになるべく応えたいとも思う。

 

 だが無理なもんは無理だ。俺にアレに対して何しろってんだよ。魔法も効かねえ二百メートル級のメタルギアだぞ。一寸法師よりも絶望的な状況だ。主に相手が生物じゃないって意味でな。

 

 

 

「でもさ、じゃあこの街を見捨てるってこと……?」

 

「そうだよ、街は捨てる。ギルドに行って迎撃する時間があんなら街の人間の避難誘導でもした方がまだ有意義だろ」

 

 

 実際デストロイヤーが通った街や国はそうしてきたんだろうが。今回はこのアクセルにお鉢が回って来た、それだけだろ。

 

 

『機動要塞デストロイヤー』。魔王軍すらも恐れる史上最悪の兵器の名前だ。

 

 元々は魔王軍に対抗するために『魔導技術大国ノイズ』という国で造られたそうなのだが、その全長たるや脚を含めれば三百メートルはあるとかいう、もはや人間がどうこう出来る代物ではない蜘蛛のような形の超巨大ゴーレムである。

 ではなぜその兵器が魔王軍だけでなく人間をも脅かしているのかというと、デストロイヤーを造ったとされる開発者があろうことかこのピースウォーカーを乗っ取り、今も操縦をしているから……と一般的に見解されている。詳細は不明だ。

 

 もちろん人間側も黙ってはいなかった。大規模な軍を編成して、幾度となく破壊しようとはしたのだ。当然ながら近寄るのは無理だ。そんな巨体が馬を超える速度で脚をワシャワシャ動かすのだ、足元にいたら即お陀仏だからな。しかも体表にレーザー兵器まで備え付けられているという話も聞いたことがある。接近すれば足元に着く前に蜂の巣である。

 そうなると魔法しか無いわけだが、厄介な事にノイズの技術の粋を集めて作られた魔力結界が常に展開されているらしい。この結界が非常に強力で、どんな魔法も弾き返すため、そもそも解除魔法も通さないというATフィールドも真っ青な性能を誇っているのだ。

 そんな結界を消せるとすればそれは造った張本人だけ。

 というわけでノイズがこれにどんな対策をしたのかと言えば、何もしていない(・・・・・・・)

 出来るわけがない。だって、デストロイヤーが乗っ取られたその日に魔導技術大国ノイズは更地にされてしまったのだから。

 唯一、魔力結界を消せるかもしれない可能性を真っ先に潰すとは、その開発者とやらは相当なやり手と見える。

 

 というわけで何ら対抗策を用意できなかった人類軍は甚大な被害を受けて壊滅。その被害者数は魔王軍との戦闘で出た最高死傷者数よりも多かったと記録にはある。

 その後、破竹の勢いで侵攻を続けるデストロイヤー。その脚で蹂躙されていない土地はもうこの大陸には無いとされている。

 

 つまりどう足掻こうと、人間側も魔王軍側も見て見ぬフリをするしかないという天災のような存在なのだ。わかったかな、良い子のクリス君。

 

 なお、真正面から踏み潰されても生き残れるのはアクシズ教徒という害虫だけと言われる。

 すっごーい!君はゴキブリよりもしぶといフレンズなんだね!頼むからさっさと滅びてくれ。

 

 

「とりあえずさ、ギルドには行ってみない?何か打開策とかあるかもしれないし!」

 

「……しゃあねえな、行くだけだぞ」

 

 

 無駄だと思うがねえ。

 

 こんな駆け出しの街で何とかできる代物ならとっくに他の街がスクラップにしてるよ。

 

 

「あ、そうだ。クリス、一つ約束してくれねえ?」

 

 

 ギルドに行く前にこれだけは確約して欲しい。

 

 

「ギルドに行って、何ら有効策が挙がらなかったら俺と一緒に逃げてくれ」

 

「キミまだそんな事言ってんの⁉︎」

 

「……俺はさ」

 

 

 

 俺を批難する口調。

 傷付かない筈がないが、今はそんな事言ってる時じゃない。本気の説得を使う時だ。

 

 

「俺はこの街よりも、何よりもお前が大切だ。この街全部、国全てとお前、どちらを選べと言われたら迷わずお前を選ぶぐらいには」

 

 

「ゼロ君……」

 

 

「本当にどうしようもなくなったら俺と王都にでも逃げよう。向こうでもお前、楽しそうだったじゃないか。何もアクセルじゃなきゃダメってわけじゃないだろ。

 別に街の人間を置き去りってんじゃねえんだ、多分だけどデストロイヤーが到着するにゃ時間が多少ある。皆で避難しようぜってコト」

 

 

 そう、最初から諦めようって話じゃない。具体案が出て、それが有効そうなら俺だってこんな事言わん。

 けど作戦が決まらないまま全員でバンザイアタックするくらいなら絶対に逃げた方が良い。それがわからないクリスではないはずだ。

 

 俺の何度目かもわからない告白に、しかしクリスは。

 

 

「……ダメだよ、ゼロ君」

 

「おいおい、何でだ?アレと真っ向からぶつかったら下手したら死ぬかもしれないんだぞ」

 

「冒険者の皆はきっと諦めないよ。何か策が無くたってこの街を守る為に戦うと思う。

 んでもってあたしはさ、昨日も言った通り今は女神じゃなくて冒険者のクリスさんだから。皆が頑張ってる時に逃げる訳にはいかないかな」

 

 

 首を振るクリスが強い決意が窺える瞳で『キミはどうなの?』とでも言いたげに見てくる。

 

 

「………どうしても逃げる気は無いんだな?」

 

「うん」

 

「………分かった」

 

 

 

 なら俺に言える事はもう一つしかない。

 

 

 

「OK、わかった。なら早くギルドに行こう。俺が絶対に止めてやる」

 

「………え、え?」

 

 

 あ?何だその呆けた面は。可愛いなこんちくしょう。

 

 

「え……、いやだって、今の流れだとてっきり一人で逃げちゃうかなって思って……」

 

「お前俺をどんな目で見てんだよ」

 

 

 そんなことするぐらいならお前を無理矢理掻っ攫って逃げるわ。

 

 だがそれはクリスの決意と望みに反する。ミツルギには人に自分の考えを押し付けるなとか高説垂れた身でそんな自分勝手を押し通すわけにはいかない。

 俺一人で逃げるなんざそもそも選択肢にすら入らない。論外だ。

 

 だったら何とかするしかないだろう。足りない頭と命振り絞って、それでもどうにもならなきゃ逆に諦めだってつくさ。それが今、この世界で生きる俺のポリシーだ。

 

 勝ち目の話じゃない。やれるやれないの話でもない。寄せられた信頼と信用には応えるのが本当の傭兵だ。

 ……いやまあ応えられない依頼は受けないのも傭兵なんだけども。

 

 あとは傭兵に必要な物、報酬さえ貰えれば俺はいつでも動ける。

 

 

「というわけで、さあ!報酬を要求しようか!お前は俺を何で雇ってくれるんだ?」

 

 

 もはや開きなおったと思われてもおかしくない態度でいつものように接する俺に、クリスは。

 

 

「………………」

 

「………あれ?もしかしてハズしちゃった?」

 

 

 

 顔を真っ赤にして俯いてしまった。

 

 何だこの赤面?流石にこれはどんな赤面なのか分からんな。

 しばらく返事を待っていると。

 

 

「……キミのそういうとこほんっと………っ……‼︎」

 

「………どういうところ?」

 

 

 真っ赤なりんごのままクリスが絞り出すように口にするが、最後は口の中に押し留めたのか空気の振動にはならなかったようだ。

 

 俺が聞き直すと、いきなり顔を上げたクリスにバチーンと肩を叩かれた。何さ急に。

 

 

「なっ、何でもないよ!ほら、早くギルドに行かないと!報酬なら全部終わった後に言い値で払ってやらー‼︎」

 

「ほう?ほほほう!言い値とな!よろしい。ならば全力を尽くそうじゃないか!」

 

「セクハラ、ダメ、絶対」

 

「………それ、久々に聞いたな」

 

 

 二人で笑いながらもう人っ子一人いない道をギルドに走る。

 

 

 ーーーやっぱりクリスは笑った顔が一番だな。

 

 そしてその笑顔を翳らせる物は俺が排除せねばなるまい。

 惚れた女が根性見せてるんだ、俺が諦めるわけにもいかねえ。腹あ括ってやるよ。

 

 一匹残らず駆逐してやる‼︎

 

 あ、もちろんあんなのが複数いたら人類なんてとっくに滅びてるからね、言葉の綾だよ?

 

 

 

 



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53話



再投稿。







 

 

 

 ※

 

 

 俺がクリスと共にギルドの扉を開けると中にはかなりの人数の冒険者が集まっていた。

 

 

「人多っ」

 

「ん?おお!ゼロも来たか!」

 

「嫁さん連れて見せびらかすんじゃねえよこの野郎!」

 

「ちょっ、嫁さんじゃないし‼︎」

 

 

 今からこの街にデストロイヤーが来るっていうのに気負いの類がどこにも見受けられない。

 ほとんどが低レベルのくせしてこいつら凄えな。俺なんかよりもずっと冒険者してるぞ。

 

 俺がさっきまでの自分の女々しさに恥じ入りながら決意を新たにしていると。

 

 

「ゼロに、クリスか。お前達が来てくれるなら頼もしい。この街を守るために力を貸してくれ」

 

「まっかせといてよ、ダクネス!あたしはご存知の通り戦闘は苦手だけど、こっちにはゼロ君がいるからね!」

 

 

 まさに誰だお前⁉︎と言いたくなるほど普段とはかけ離れた態度のダクネスが騎士然とした装いで歩み寄ってくる。

 こいつがいるって事は、あいつらもいるのか。

 

 

「ねえ、アレと戦うって皆本気で言ってるの?今からでも遅くないわ、どこか遠いところに逃げましょうよ」

 

「お前、せっかく屋敷を手に入れたんだぞ?そう簡単に諦められるかよ。ほら、ゼロも来てるんだし何とかなるだろ」

 

「いや、でもデストロイヤーですよ?やはり逃げた方が良いのでは……。現状ですと無謀に過ぎますよ」

 

「お、いたいた」

 

 

 カズマさん一向を発見する。パーティー内では五分五分の割合で逃げる感じだったのに何故かリーダーのカズマがやる気出したから仕方なくってトコか。

 

 他に戦力になりそうなのは……とギルド内を見回すと、こんな時一番気合いが入っていそうなファッション勇者の姿が無いことに気づいた。

 

 

「おいカズマ、ミツルギ知らねえか?あいつがこの緊急時に顔出さないとは考え難いんだが」

 

「いや俺が知るかよ。あいつと一番仲良いのはお前だろうが。……ん、でもキースとダストもいないな?」

 

 

 確かにその二人もいない。

 

 つい昨日サキュバスサービスを利用した四人中三人の姿が見えない。これは単なる偶然なのだろうか。

 と、先述の二人のパーティーメンバーであるテイラーとリーンを見つけた。

 

 

「テイラー、リーン。お前ら、あのクズ二人はどうした?ギルドには居ないみたいだが」

 

「おう、ゼロか。いや、それがなあ………」

 

「あの二人ならなんかどんだけ叩いても幸せそうな顔して寝てるだけで全然起きなかったから置いて来たよ。なんか気持ち悪い寝言も言ってるし」

 

「それは………」

 

 

 もしかしなくてもサービスの影響では無いだろうか。

 となるとまさかあのクソ真面目なミツルギでさえ今頃布団の中ということか?

 

 つーかあのサービスそんな副作用があんのかよ。影響無いって言ってたやんけ。俺受けなくて良かったわ。

 

 ……となると、じゃあカズマは何で起きてこられたんだろう。

 

 

「皆さん!お集まりいただきありがとうございます!早速デストロイヤー対策会議を始めますので注目して下さい!」

 

 

 俺がその疑問にたどり着くと同時にルナが大声を出す。

 

 んま、どうでもよろし。今は目の前のデストロイヤーに集中だ。

 

 会議の前にカズマ他数名の要望によって簡単なデストロイヤーの説明が行われる。これは俺の認識とそう差異は無さそうだ。せいぜいデストロイヤーに使用されている素材は特殊な魔法金属で軽くて丈夫、くらいしか目新しい情報は無かった。

 

 さて、いよいよ会議に移っていく。何か作戦でも立てられれば良いのだが……。

 

 色んな案が出るが、どれもこれも過去に試して効果が無かったとされる物ばかりだ。まあ俺らが考えつく程度の事を先人がやってない訳ないわなあ。

 瞬く間に案が出尽くし、ギルド内がお通夜ムードになってしまう。

 

 これは……分かっちゃいたがかなりやばいでござるな。

 

 やっぱり無謀だったかなぁ、と俺が少しだけ弱気になっていると、何故かルナが俺に視線を向けてきた。

 

 

「……冒険者ゼロさん、アクセルで最もレベルが高いのはあなたです。何か考えがありませんか?あればお聞かせください。何でも良いんです」

 

「………考えねえ」

 

 

 レベルなんざ関係ねえだろ、とか俺の知力の低さは知ってるだろ、とか文句も言いたいが、聞かれたからにはとりあえず考えてみる。今まで勝つ事どころか戦う事すら視野に入れて無かったからなあ……。

 

 他の冒険者も俺に視線を集中させ始めた。そんな見られると照れちまうだろうが。向こう向いてろ。

 

 手持ちの道具、相手の兵装、こちらの戦力……。

 

 ーーーうん、無理。大前提として魔法を弾くってのが厄介過ぎる。

 

 

「……ダメだな。せめてあの魔力結界を消せないにしても無力化出来なきゃ同じ土俵にも立てねえ」

 

「やはり結界、ですか……」

 

 

 素直に匙を投げる。やるからには勝たないといけないが、いかに無謀な戦いを挑もうとしているのか再認識しただけだった。

 

 俺に注目していた冒険者達にも暗い雰囲気が広がり始めるが、

 

 

「なあ、おいアクア。お前一応女神だろ?その、結界とか女神パワーで消せたりしないの?」

 

「ええ?うーん……、実物見ないとわかんないわね。消せるかもしれないし消せないかもしれないわ」

 

「……待て、お前デストロイヤーの結界が消せるかもしれないってのはどういう事だ?」

 

 

 

 解除魔法も弾くんだぞ?どうやって消すんだよ。スマホ太郎みたいに魔法が効かないのに魔法で倒すとか頓珍漢な事は現実じゃ起こらない筈なんだが。

 

 他の冒険者達も僅かに希望を視線に乗せてアクアを見る。視線にたじろぐアクアの答えは。

 

 

「うぅ、い、一応女神の権能に『結界を無視して魔法を使える』っていうのがあるから……。

 で、でも地上じゃ私の力も弱まっちゃうし、あんまり強いのだと効かないかもしれないし……、や、やってみないと分からないってば!」

 

 

 勝負をかけるには充分な可能性を残してくれた。

 

 

「消せるんですか⁉︎いえ!かもしれないでも結構です、やれるだけやってもらえませんか⁉︎」

 

 

 ルナが興奮した様子でアクアに詰め寄るが、俺も同じ気持ちだ。

 

 待て、待てよ。アレを消せる可能性がある、いや、もう消したと仮定するとだ。

 

 一つだけ、幾つもの仮定と憶測の向こう側に光が見えた。軽くて丈夫な素材の蜘蛛の形をしたゴーレム。いや、ロボット……、八本脚……、魔力の流れ。

 あの時……、クリスに怒られたあの時のポーションとこのスクロールがあれば、いけるか?どうだ?いや行くしかねえ。

 俺がリスクを背負うのは当然として、あと必要なのは優秀なーーー

 

 

「………ダクネス、お前の冒険者カードを見せてくれ」

 

「ん?……ああ。必要な事なのだな?私に出来ることがあれば何でも言ってくれ」

 

 

 ん?今何でもって……、いや、そんな場合じゃない。

 

 ダクネスからカードを受け取り、ステータスの数値を確認していく。必要なのは筋力、耐久、体力………。

 

 

「ちょっ⁉︎おま、この耐久どうなってんだよ⁉︎」

 

 

 斜め読みで確認する俺の目に飛び込んできたのは他の数値と比べて文字通り桁が違う耐久の高さだった。なんだこれ。お前の身体アダマンタイトで出来てんの?

 

 

「私は取得したスキルポイントを全て防御系や状態異常の抵抗系に使っているからな」

 

 

 少し自慢げに言ってくるが、それが許されるほどのとんでもない数字だ。

 

 体力と筋力は俺の方が遥か上だが、耐久に関しては俺の倍以上のステータスがある事になる。

 先日付けでレベル80となった俺の耐久の倍以上、だ。ちなみにダクネスはレベル20にも満たない。

 君の種族値いくつよ。喩えるならデオキシススピードフォルムとメガボスゴドラ級の差がありそう。まさに天と地の差。

 

 期待はしていたが期待以上である。これならあのポーションを使えばやれる。

 

 

「……よおカズマ。ダクネスを借りても良いか?危険ではあるが何とかヤツを止める事が出来るかもしれない」

 

「おう、俺は良いぞ。このド変態が役に立つってんなら存分に使ってやってくれ。その危険とやらもこいつ喜ぶかもしれないし」

 

「ん……っ⁉︎わ、私の意思など無関係に私の身体が取り引きされて……っ」

 

 

 リーダーのカズマの許可も取れた。俺の中で最も可能性の高い策の条件が整った事になる。

 興奮するダクネスには後で説明するとして、時間が惜しい。早速準備にかかるとしよう。

 

 この作戦の要はダクネスと俺だ。名付けるなら

 オペレーション:『アクセルの盾と矛(ウルド)

 ってとこかね。名前の理由?かっこいいだろ。

 

 

 

 ※

 

 

「オラ急げぇ!もう直ぐデストロイヤーが来るぞ!ほらそこ、手を休めるなぁ‼︎」

 

 

 アクセルの外、平原では急ピッチでバリケードなどが出来つつある。バリケードとは言っても木で作られた簡単な物なので何の抵抗にもならないだろうが、何かしていないと落ち着かないのだろう。

 

 何故か土木作業のおっさんに混じってアクアが嬉々として木材を運んでいる。出来ればあいつにはデストロイヤーの結界を剥ぐまで休んでいて欲しいのだが……、楽しそうなのでまあいいか。

 

 

「ちょ、ちょっとアクアさん⁉︎そんなにいっぱい持って大丈夫なの⁉︎」

 

「へーきへーき!ほらほら、クリスもそっち持って!」

 

「あたしは無理だって‼︎」

 

 

 クリスはアクアと話せて嬉しそうにしている。先輩後輩ペアは仲がいいようで何よりだ。

 

 しかし何であいつ、クリスはあんなにアクアに懐いているのだろう。天界にいた頃から色々押し付けられてたみたいなのに。

 

 ーーーん?

 

 

「おい、アクア、クリス。ダクネスがどこ行ったか知ってるか?」

 

 

 ダクネスの姿が無い。まさか逃げはしないだろうが、直前で「嫌だ」と言われればそれまでなのだ。なるべく早く話をつけたい。

 

 

「ダクネスならカズマと一緒に向こうに行ったわよ」

 

 

 アクアが指差すのは平原の先、アクセルから離れる方向だ。そこに二人分の人影を見つけた。

 

 

「おう、ありがとな」

 

 

 手を振って俺もそちらへ向かう。死ぬ気はさらさら無いが、もしかしたらこれがこいつらとの今生の別れになるかもな。

 

 今さらになって少し怖くなってきた。俺みたいな奴が考えた策が本当に上手くいくんだろうか。

 相手は機動要塞デストロイヤー、何百年も前から誰も破壊出来なかった怪物兵器だ。こんな脳筋な発想など歯牙にもかけずにアクセルを滅ぼされてしまうのではないか。ここにいる冒険者も全滅してしまうのではないか。ーーそんな事ばかり考えてしまう。

 

 特に俺とダクネスは今からかなりの危険に晒される。俺はまだいい。自分で立てた作戦だ。だがダクネスは俺の考えに巻き込んでしまう事になる。失敗すれば死ぬ可能性が極めて高い作戦に。

 

 いっそのことダクネスが俺の作戦を断ってくれれば楽になるのだが……あいつはまず断らないだろう。それがアクセルを守るためだとすればあのダスティネス家のお嬢様は一も二もなく乗るに違いない。

 

 

「ゼロ君」

 

「……クリスか。何だ?」

 

 

 決して武者震いではない震えに足を包まれていると、クリスに呼び止められた。

 なんだろうか。できればあまり俺の足は見ないでほしいんだが。こんな情けないところは見られたくない。

 

 そんな俺のガキっぽい意地を知ってか知らずか。

 

 クリスがギュッと俺の手を握って、とびっきりの支援魔法を掛けてくれた。

 

 

「ーーーなんとかなるよ。絶対、大丈夫だよ!」

 

 

 ーーーーーーー。

 

 

「ブフッ⁉︎……お、お前それ誰に教わった……?」

 

 

 不意を突かれて思考が空白で埋まった後に込み上げてきた笑いを抑えられなかった。

 

 

「アクアさん。魔法の言葉だってさ」

 

 

 アクアの方を見ると、ニヤリとしながらサムズアップをしていた。

 

 苦笑してしまう。やるじゃないかアクア。お前に対する評価が今のでかなり上がったぞ。

 いや、何で今そのセリフをカミングアウトしたのかは分からないけどな。

 

 別に足の震えが止まった訳では無い。今も変わらずプルプルしているが……なるほど、なんとかなる気がしてきた。

 

 

「……魔法の言葉か」

 

「大丈夫だって!キミとダクネスが失敗してもあたし達がいるんだから!めぐみんもそのために爆裂魔法の準備してるよ!」

 

 

 そう、俺達が失敗した時の事を考えてカズマが提案したのはめぐみんの爆裂魔法による迎撃だ。

 確かに可能性としてはかなり高いが、俺としてはそれは最後の手段にしたい。一発しか込められていない弾丸だ。もし外したら目も当てられない。

 

 俺の作戦が上手くいけば最低でもかなり相手の速度を制限出来るため、命中の確率は跳ね上がる。万が一爆裂魔法を使うなら俺の作戦の後、というのは俺とカズマ、そしてギルド内にいた冒険者達の総意だ。

 どちらの作戦ももちろんアクアが結界を壊さないと意味がないが、そもそもそれを言い出したら打つ手など無いのだ。これは成功する前提で進めないとお話にならない。

 めぐみんによると、一撃で完全破壊は難しいが、軌道を変える事なら出来るかもしれないとのこと。充分過ぎる成果だ。

 

 ーーーそうだったな。まだ後衛がいてくれるんだった。

 

 思えば俺は後衛に頼った事が無かったが、これが任せられる安心ってやつか。そう考えればちっとは気が楽になるかねえ。

 俺が少しだけ肩の力を抜いていると、クリスがスッと雰囲気を変えながら俺に語りかけてきた。

 

 

「……はい。ですからあまり気負わずに行ってきて下さい。いつものように、帰って来るのをお待ちしてますよ?」

 

 

 その一瞬だけ女神に戻ったエリスが俺の反応も見ずにアクアの元へ小走りで戻って行く。

 

 ……あれはちょっと照れた時の仕草だな。

 

 俺とダクネスが失敗してもって、失敗したら高確率でお亡くなりになっちゃうんですけど。

 

 俺の方も気恥ずかしさを誤魔化すために頭をかきながらダクネスに作戦の詳細を伝えるべく歩き出す。

 

 いつの間にか震えの止まっていた足は、今回も存分に働いてくれそうだった。

 

 

 

 

 

 



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54話



再投稿。







 

 

 

 ※

 

 

 アクセルから少々離れた平原でカズマとダクネスは何か話しているようだ。

 

 雰囲気的に真面目な話のようだが、こちらも生きるか死ぬかの真面目な話だ。優先させてもらおう。

 

 

「おーい、ダクネーー」

 

「ララティーナって呼ぶなあ‼︎」

 

 

 ええええ⁉︎俺今ちゃんとダクネスって呼ぼうとしたよね⁉︎

 

 そもそもダクネスをララティーナ呼びしたことなんざ一回も無いぞ。王都でもダスティネスって呼んでただろうが。

 俺が理不尽に対して言い返そうとすると、ダクネスとカズマが何やら言い争っている事に気づいた。どうやら俺に言った訳では無いみたいだ。

 

 ……あいつは確か自分が貴族だって事を隠していたはずだが、カズマには明かしたらしい。なんでこのタイミングなのかは知らん。きっと大人の事情でもあるのだろう。

 

 カズマがこちらに歩いてくる。もうアクセルの正門前で待機しに行くようだ。

 

 

「カズマ。もし俺達が失敗したら後は頼んだぞ」

 

「……ふぅ、こっちも不安だらけなんだからなるべく失敗しないように頼むぞ。あの爆裂狂一人に任せる事になるんだからな」

 

「ああ。それと、これ渡しとくわ」

 

 

 俺が小さな懐中時計の様な物をカズマに渡す。これはルナから預かった物で、送受信一体の無線だそうだ。カズマ達とは距離がかなり空いてしまうからな。こっちが作戦決行中に独断で爆裂キメられても困る。これで連絡を取り合おう、という訳だ。

 

 

「もう一度確認するぞ。爆裂魔法は最後の手段だ。動力に何使ってるかも分からんエンシェントウェポンに爆発系とか本当は正気の沙汰じゃねえんだからな。狙うとしても本体には絶対に当てるなよ。脚だけだ」

 

「分かってるよ。……これがアクアだったらそのセリフはフリだ!とか何とか言うんだろうけどな」

 

 

 冗談でもマジで止めてくれ。本体吹っ飛ばしたけど一緒に街も吹っ飛びました、とかネタにもならん。

 

 カズマと別れてダクネスに歩み寄る。

 

 いよっし、こっから先は失敗する事を考えてもしょうがねえ。切り替えが大切だ。成功する事だけイメージしてりゃいい。

 アレだ、『イメージするのは常に最強の自分』ってな。

 

 

「ダクネス」

 

「……ゼロか。そう言えばお前の作戦の詳細を聞いていなかったな」

 

「まず詳細も聞かずによくこんなとこまで来たなお前」

 

 

 こちらに向き直りながら話を聞く態勢を整えるダクネス。

 あと一時間くらいで到着予想時刻になる。せっかくだからこいつにも言いたい事は言っておくか。最後になるかも分からんしね。

 

 

「………俺は正直お前があんま好きじゃねえ。バカだし、空気読めないし、ド変態だし」

 

 

 指を一つずつ折りながら気に入らないところを述べていく。こいつに関してはまあこんなもんかね。意外と少ない事に俺が驚いちゃうわ。

 なお自分で言っといてなんだが特大ブーメランが返って来ている模様。

 

 

「んっ、くっ、ぬあっ……!お、お前はこんな時に私をどうするつもりだ!」

 

 

 どうもしませんけど。

 

 無視して先を言わせてもらおう。せっかく人がカッコつけて最後になるかもしれない挨拶してんだからさあ。もうちょいこう……無いのかな、こいつは。無いんだろうなあ。

 

 

「ああ。お前のそういう雰囲気とかガン無視するところが俺は嫌いだ。

 けどな、お前のその体の堅さと、仲間を思う気持ち、何よりこの街を守りたいっていう貴族としての心構えは信用……いや、信頼している」

 

 

 折った指をまた一つずつ伸ばしながらこいつの良いところを必死に探して言葉にする。

 ……あれっ、帳消しになっちゃった……まあいいか。

 

 今度はダクネスもさっきの名残か、頰を赤らめながらも俺の続きを待っている。普段からそうしてりゃもうちょっとマシなのによ。

 

 

「……そのお前に今から作戦の説明をするぞ。

 お前が嫌なら、癪だがめぐみんの爆裂魔法に頼る事になる。それは説明を聞いて判断してほしい」

 

「いや、大丈夫だ。任せてくれ」

 

「………そう言うとは思ってたけどな。いや、まずは聞いてくれ。到着まであと一時間はあるが、予想がズレる可能性もある。手早く行くぞ。

 ……我ながら馬鹿げた作戦だと思うが、質問があれば答える」

 

「ああ。わかった」

 

 

 いい返事だ。

 

 了承するダクネスに頷き返してから、俺は特大の爆弾を落とした。

 

 

「今からお前には機動要塞デストロイヤーを受け止めてもらう」

 

 

 

 

 ※

 

 

 ダクネスが無言でいるのを意外に思いながら説明を続ける。てっきりここら辺でツッコミが入ると思ったんだがな。

 

 

「いいか?まずアクアに、デストロイヤーが解除魔法の射程ギリギリに到達した瞬間に結界を破ってもらう」

 

 

 これが一つ目の仮定。

 

 ここで結界を解除出来ないかもしれない。

 

 その場合はもうどうしようもない。それこそアクセルが滅びるのを棒立ちで眺める羽目になる。

 

 

「次に俺が手持ちの道具を使ってデストロイヤーの脚を最低でも二本、停止させてみせる。

 ……俺の予想が正しければその二本を完全に破壊できれば全ての脚を停止させることができるはずだ」

 

 

 ここでダクネスが手を上げる。はい、ダクネスさん。

 

 

「なぜそんなことが分かる?二本壊せれば全ての脚が止まるなど、都合が良すぎないか?」

 

「良い質問だ。……お前、ゴーレムの構造は知ってるか?なにで動くか、とかだ」

 

「……?それは魔力で動いているのではないか?」

 

「その通りだ。じゃあその魔力がどう流れて手足を動かしているか、とかはどうだ?」

 

 

 今度は首を振るダクネス。まあそうだろうな。俺だって王都にいた頃知り合いから聞きかじっただけの知識だ。まさかこんなところで役に立つとは思わなかったが。

 

 

「ゴーレムってのは基本的に術者が操るもんだ。人型のゴーレムであればそれぞれの四肢に魔力を通して、自由自在とまではいかないが、ある程度は自分が動くように動かすことができる。

 でもデストロイヤーには八本も脚がある。これを術者が完璧に操るのはかなり難しい。なにせ人間には手足合わせて四本しか付いてないからな。

 自分に付いてない機関を自分で無理矢理動かすよりは半自動にした方が楽だし、便利だ。と言うわけでそれはまず間違いないと思う」

 

 

 つーかそうしないとその乗っ取った開発者とやらは何百年も休まずに動き続けてる事になる。逆に怖いわ。

 寿命に関しても俺は突っ込みたいが、魔法も度を越した科学も存在したこの世界、気にするだけ損だ。

 

 

「その半自動でも脚一本一本に魔力を流して動かすこともできる……が、そんなめんどくさい事しなくてももっと楽に動かす方法がある。

 ある一本が動けば次は自動的にこの一本が動くって感じに最初にプログラミングしておくんだ。

 これを正確にはシーケンス制御っつーんだが……詳しい説明は省くぞ。必要も無い。

 要するにあの脚は魔力の流れが繋がってるんじゃねえかって俺は思うんだ。これに関しては仮定に過ぎないが可能性はかなり高いと考えてる」

 

 

 

 これが二つ目の仮定&推測。

 

 繋がってないかもしれない。

 

 だが今言った通り可能性は低いだろう。なぜかって、その方が楽だからだ。わざわざ動きを複雑化させる必要が皆無に等しい。魔導技術大国ともあろう国が簡略化を図っていないとは思えないのだ。

 

 技術が優れているから動きを難しくするんじゃない。優れているからこそ動作は複雑にしてもそれに必要な動きは簡単にするもんだ。

 

 

「そこで俺が脚……前脚だな。前脚を二本とも破壊してみせる。動きの起点でもあるし、何より最初に体重がかかる脚だ。そこで魔力の流れが途切れてくれれば残りの脚も正常には動かなくなるはずだ。

 そうでなくとも確実にバランスは取りにくくなるし、スピードなんかは絶対に落ちる。

 んで、その後。俺の策が上手くいって脚が全停止したとしよう。前脚を破壊すれば踏ん張りも効かないだろうし、頭からつんのめると思う。

 ……それだけだろう、相当の勢いがついているデストロイヤーは簡単には止まっちゃくれねえ。そこでお前の出番だ。

 お前にはここから立ち退かずにデストロイヤーを街に到達しないように堰き止めてほしい」

 

 

 ここでまたダクネスが手を上げる。さすがにそろそろ来るだろうとは思ってたよ。はい、ダクネスさん。

 

 

「お前が私を信頼してくれるのは嬉しいし、そんなことができればすごく気持ち良さそ……んんっ……。

 ……そんな大役を任されるのも嬉しいがーーー」

 

「お前今気持ち良さそうって言ったな?」

 

「言ってない。ーーーだがさすがに無理がないか?いくら私の耐久が高くとも、相手はあのデストロイヤーだぞ?」

 

「そこでこのポーションだ。これをお前に預けておく」

 

 

 俺は懐から黄色の液体が入った瓶を取り出してダクネスに手渡す。高かったんだからな、このポーション。

 

 物珍しそうに瓶を眺めるダクネス。

 

 

「……なんだこのポーションは?初めて見るが」

 

「そのポーションの効果は『使用者の筋力と耐久のステータスを一時的に数十倍に上昇させる』だ」

 

「数十⁉︎」

 

 

 驚いたダクネスが瓶を落としてしまうが、落下直前に俺がキャッチする。危ねえな。これが無いと詰みなんだから気を付けろよ。

 

 

「あ、ああ、すまん。……しかしそんな凄いポーションは聞いたことがない、一体どこで売っているんだ?」

 

「非売品です」

 

 

 

 コーヒー一杯につき一回モフモフさせてやろう。

 

 じゃあ三杯‼︎(幻聴)

 

 

「それにそんな便利なもんじゃねえんだそれは。致命的な欠点がある」

 

「欠点?しかしそれほどの効果があるのだ、多少の欠点など関係無さそうなものだが」

 

「そいつはな、飲んだら麻痺して動けなくなっちまうんだ。本当に、一歩もな」

 

「……………。し、しかしだな、私は状態異常の耐性も上げてある。これなら」

 

「関係ない。どれだけ耐性を上げようが絶対に麻痺する」

 

「…………………」

 

 

 理解してくれたようだな。そいつがいかに高価なゴミなのかを。

 

 最初こそ俺の攻撃されればされるほど強くなる身体を利用した鍛錬をしようとウィズの店で買ったのだが、麻痺が思った以上に厄介だったために断念せざるを得なかった。

 どれだけ耐久と筋力が上がろうとも動けないのでは何の役にも立たない。ジワジワとモンスターに嬲り殺されるだけだ。

 

 かと言って五個セットで八十万エリスもしたポーションを捨てる訳にもいかず封印してあったのだが、日の目を見ることができて良かった。

 しかもその麻痺する性質もこの状況なら利点にすらなり得る。アホ耐久のダクネスがこのポーションを飲めば俺のデュランダルでさえ斬れないのではないかね。

 

 ルナから聞いた話だとデストロイヤーの主材は鉄よりも軽い魔法金属でできているという。これなら止められる可能性は高いはずだ。

 

 

「ーーー以上が俺の作戦の全容だ。これぐらいしか勝算のある策が思いつかなかった。ま、要約するといつも通り壁をやれって話だな。

 俺が知る中で最も優秀なタンクがお前だ。これはお前にしか出来ない。どうよ、やってくれるか?」

 

 

 聞きながらもこいつなら間違いないだろうな、と諦観にも似た気持ちで答えを待つーーーまでもなく即答してくれた。

 

 

「無論だ!アクセルを守るために私の体を使えるだけでなく私の欲望までも満たせるなど願ってもない!」

 

「ついに欲望とか言っちゃったよ」

 

 

 もっと恥じらいを持っていただけないかなあ。

 

 だが前半はいい事言ったぜお嬢様。

 

 

「ではこれを以って

 オペレーション:『アクセルの盾と矛(ウルド)』を開始する!ついてこい、ララティーナ‼︎」

 

「ラッ⁉︎ララティーナ言うな‼︎」

 

「では助手よ!俺が矛となりヤツを貫こう!貴様は盾となりアクセルを守るがいい!フゥーッハハハハハ‼︎」

 

「お、お前急にどうしたんだ⁉︎そんな喋り方をする奴だったか⁉︎」

 

「何を言うか!これは『運命石の扉(シュタインズゲート)』の選択というものだ!機関に遅れを取るわけにはいかんぞ‼︎」

 

「しゅた……、何?機関とは何だ?」

 

 

 いや、俺も知らないけどね。

 

 ダクネスをからかいながら内心で意思疎通が出来たことに安堵していると、遠くからガシャガシャ音が聞こえる気がした。

 

 もうお出ましか。予定よりも随分早いじゃねえか。

 

 無線でカズマにもうすぐデストロイヤーが来ることを伝えてから音の響いてくる方向を睨む。

 ダクネスも気付いたようで、険しい表情で俺と同じ方向を見ていた。

 

 そのまま数分、俺とダクネスの視線が地平線の彼方から黒い物体が近づいてくるのを捉えた。まだ相当先なのに音が聞こえるとは、思ったよりも重量があるのかもしれない。

 

 

「……俺とお前でアクセルを守るぞ。つっても失敗してもカズマ達がいる。あんま気負うなよ」

 

「……フッ、お前とこうしていると王都で初めて会った時のことを思い出すな」

 

「いや、思い出さねえよ。こうして並んで戦ったことなんざねえだろうが。記憶を捏造すんな」

 

 

 こうしてる間にもどんどん黒い影は大きくなってくる。またさっきの足の震えが復活しそうだったのでクリスの言葉を思い出してみた。

 まあ本来はとある小四の女の子の言葉なんだけどもね。

 

 

「………絶対大丈夫だよ、か。いい言葉だよなあ。クリアカード編もお楽しみにね!」

 

「……?何だそれは?」

 

「何でもねえよ。ーーーさて」

 

 

 そろそろデストロイヤーがアクアの解除魔法の射程に入るはずだ。

 遠目に脚の動きを確認する。

 

 よし……よし!パターン化はされてる!

 

 自身の読みが正しいことに勇気付けられ、もはや手の一部にも感じる愛剣を引き抜きながらダクネスに努めて声を張り上げた。

 

 

「行くぞクリスティーナ‼︎せいぜい死ぬなよ‼︎」

 

「誰だそれは‼︎ええい、お前に任せたぞ!しっかり脚をへし折って来い‼︎」

 

 

 

 

 

 



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55話



再投稿。







 

 

 

 ※

 

 

 俺が剣を引き抜いていつでも飛び出せるように構えた直後、俺達の頭上を後方からとんでもなく太いレーザービームがデストロイヤー目掛けて一直線に伸びて行った。

 

 何だありゃ。まさかあれが解除魔法だとでも言うつもりか。完全に『波動砲』クラスじゃねえか。いや、あれは惑星すら崩壊させるから桁が違うってのはあるが、それにしても凄え圧力だ。

 

 直進していたデストロイヤーとアクアが放ったと思われるかめはめ波が正面衝突。なんとデストロイヤーの巨体を僅かに押し戻し、何かが割れる音がした。

 

 それと同時に無線からカズマの声が聞こえてくる。

 

 

『アクアが言うには消せたみたいだ!あとは任せたぞ!』

 

「了解だ。アクアにあとでなんか奢ってやるって言っとけ」

 

 

 アクアさんあんな事出来たんですね。今度からあんまり怒らせないようにしないと。

 

 アクアの波動砲に若干ビビりながらデストロイヤーに向けて全力疾走を開始する。そういえばこの世界って空気の摩擦とかどうなってるんだろうか。俺が音速とか生温い速度で走っても服が焼けたりはしないもんなあ。たまに破けるけどそれは多分衝撃波のせいだしな。

 

 ほんの僅かに思考に集中を割く間にデストロイヤーが近づく。と、俺が向かう前方の地面が小さく焼けるのがわかった。おそらく噂のレーザー兵器だろう。数からして数十はありそうだが、そもそも俺はデストロイヤーに近づくにあたってレーザー兵器などなんら問題にしていない。

 確かに常人ならば足元に辿り着く前にお陀仏かもしれないが、俺からしたらほーん、で?という感じである。レーザー兵器というからには本体が照準を付けてこっちを撃ってきてるんだろう?

 

 ーー照準付けて撃つまでの数瞬に俺が何メートル移動出来ると思ってんだ。むしろ当ててみろよ。

 

 周りの地面が熱したフライパンに油を垂らしたような音を連続で立てているが、俺への影響はそれだけだ。レーザー光自体は俺の目には見えない。こんなところは嫌に現実的だな。もっと目でわかりやすくする、とかファンタジーを期待してたんだけど。

 

 あっという間にデストロイヤーの足元に着き、タイミングを測る。

 

 ……速度は六十から七十キロってとこか。なるほど、馬よりは速いが正直あくびが出そうなほどにノロいね。

 

 右の前脚が地面に下りたタイミングでデュランダルを突き立てて一気に機体上部まで駆け上がる。

 硬いことは硬いが刃が通らない、ということは無さそうだ。その点は良かったな。

 

 さて、デストロイヤーのグラグラ揺れる表面を見回すと迎撃用なのか何なのかは知らないが人型のゴーレムがウロついている……が、今回は相手取る時間が無い。気付かれないうちに脚を破壊してトンズラこかせてもらおう。

 

 懐からバニルに買わされてしまったマジックスクロールを取り出してたった今駆け上ってきた右前脚の付け根の関節部に押し付け、発動。

 出来れば脚一本丸々効果範囲に入れたかったのだが、デストロイヤーの巨体を支える脚は相応に大きく、脚一本でも優に五十メートルはある。関節部をギリギリ覆うくらいしか無理そうだ。それで充分だけどな。

 スクロールから魔法陣のようなものが広がり、付け根を全て飲み込んだ。これで良し。結界があるままだったらこのスクロールも弾かれていただろう。アクアに感謝だな。

 

 スクロールの影響でこの脚は相当脆く、また、攻撃力が上がった状態になったはずだ。

 

 それを証明するかのように一瞬だけ右前脚の動きが早くなる。勢いよく地面に脚を叩きつけたと思ったらーーーその衝撃で関節部が完全に粉砕。破片が散弾のように飛んできた。

 

 

「ひょっ⁉︎」

 

 

 思わず声が漏れてしまった。

 

 破片が俺に当たる直前に高速で後ろに跳び退り何とか事なきを得る。不意を突かれるといくら速く動けようと対処出来るか分からなくなってしまう。今回は対応できて良かった。

 

 それにしてもあのスクロール意外に使えたな。防御が下がり、攻撃が上がる、というのは自らの攻撃の反動にも耐えられなくなるって事だ。土台がしっかりしていなければまともな攻撃など出来ないという良い見本である。

 

 さて、他の脚は……?

 

 辺りを見回して影響を確認する。俺の予想が正しければこれで停止するのはーーー。

 

 突然ガクン、とデストロイヤーが傾く。見ると、今俺が破壊した脚から交互に右と左の脚が合計三本停止しているのが分かった。やったぜ。

 

 これで俺の読みが当たったことが分かった。あとはもう一本、今度は左前脚を何とかすればかなり勝ちの目が濃くなる。おそらく結界解除からこの行程までは三十秒くらいしかかかっていまい。良いペースだ。

 

 だが俺の手に脚を丸ごと粉砕させるような道具はもう残っていない。正真正銘身一つ、剣一本だ。とりあえず周回しているゴーレムに見つからないように反対側へ回り込む。

 デストロイヤーは最初の速度など見る影もなく、ぎくしゃくしながらも前進を続けている。とはいえ今にも崩れ落ちそうだ。これなら破壊しないまでも正常な動きを阻害してやるだけですっ転ぶかもしれない。

 

 少しだけ楽観視するくらい良いだろう。そもそももうこれしか手が無い。なるようになれ、だ。

 

 そう考えながらデュランダルを両手で逆手に持ち、大きく上に振りかぶる。狙うは関節部、形状的に一番薄い場所。上手くいきゃ一発だ。

 

 心の準備を終えて、自分の中で決めていたタイミングで全身の体重をその切っ先に乗せて渾身の力で突き刺した。

 

 

「デュランダルを……、押し込めぇええええええ‼︎」

 

 

 別に俺は遥かな古から黄金騎士の使命を受け継いではいないのだが、何とな