Live版 WORKING!! (みずしろオルカ)
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第1話 アルバイト

初めましての方は初めまして、以前からご愛読くださいっている方はお久しぶりです。

みずしろオルカです。

リアルが呪いの一年となっておりましたので、投稿どころか肉体的精神的にボロボロでした。

ゆっくりと更新して行きたいと思いますので、楽しんでいただけたら幸いです。



 北海道にあるチェーン店、ワグナリア。

 

 東京にも数店舗が進出しているこの店、話では北海道の店舗では個性溢れる面々が働いているらしいが、うちのメンバーも負けてはいないと思う。

 

 高校生が働ける時間帯をメインで勤務する六人。

 濃いメンバーが揃っている。

 

 自己紹介をしよう。

 俺は、キッチン担当の松岡智成(まつおかともなり)。

 バイトなのに料理長代理とかいう役職を貰ってる。

 

「店長、キッチンスタッフの増員って望めませんか?」

 

「増員ですか? 確かに夕方帯はキッチンスタッフは足りませんが……」

 

 店長である南さん。

 一応、ホールバイトである南ことりの叔母に当たる人らしい。

 

 バイトは足りないどころではない。

 夕方帯は夕食の時間だから結構な客が入る時があるが、俺やたまに来る昼帯のヘルプ、あとはホールから急遽入ってくれる矢澤しか居ないのだ。

 誰か一人でも休んだら大変なことになる。

 

「昼帯の人間が居るから多くなくてもいいかもしれないが、それでもあと一人は夕方帯のキッチンスタッフは欲しいです」

 

「料理長が入ってくれるなら問題もないのですが……」

 

「あの人は、完全にこの時間は俺に回してますから難しいと思います」

 

 料理長という役職、キッチンの責任者なのだが、その役職の人は基本的に夕方帯には帰ってしまう。

 俺にその役目を押し付けてだ!

 

 ええい、なぜに大学の遊興費稼ぎで始めたバイトでこんな重要ポジションをさせれているのだろうか。

 車の維持費も出さないとならんから、やめるわけにもいかんしな。

 

「せやったら、ウチに心当たりあるから任せてくれん?」

 

「東條……音ノ木坂は女子高だろ? そうそうバイトしてくれる人なんて居ないだろ」

 

「そうでもないよ。音ノ木坂って廃校避けるのに共学化って方法も考えててな、数人だけ男子生徒もおるんよ」

 

 それは初めて聞いた。

 まぁ、大学生の俺は高校の状況とかを調べることも無い。

 女子高なんて更に関わりが無い。

 俺の大学の専攻はビジネス系だし、どうあっても女子高と関わる事は無いだろう。

 

「それは初耳だな。店長が良いなら俺は構わんぞ。雇うのは店長だしな」

 

「いえ、料理長にもその権限はありますし、松岡さんもその権限はありますよ?」

 

「むしろなんで、そんな権限をバイトに与えてるんですかあの料理長!?」

 

 俺も知らない権限があったよ。

 なんなんだよあの料理長。

 

「店長と料理長代理が許可ならウチに任せてくれるんよね?」

 

「ええ、東條さんの紹介なら安心ですし、お任せしますよ」

 

「数人の男子がどんな人間かわからんしなぁ」

 

「あれ? 松岡さんもよく知ってる人やよ? ホールの佐藤君」

 

「身近に居たのな」

 

 佐藤優一、夕方帯の唯一の男性ホールスタッフだ。

 いろいろ苦労してそうで、そのうち胃薬でもおすすめしようかと考えている。

 

 新しいバイトの採用権か。

 俺としては夕方帯にキッチンスタッフが増えてくれるのはありがたいのだ。

 

「まぁ、東條のおすすめなら問題無いか……どんな奴だ?」

 

「いやぁ、カードのお勧めやから、わからない……かな?」

 

「知ってる人間じゃないのかよ!?」

 

 そうだった、比較まともな彼女だけど、スピリチュアルなものが好きだったんだ。

 どんな人間が来るのか……、まともな人だと良いな。

 

 

********************

 

 

 音ノ木坂の共学化の試験運用でオレが入学してから、一年と少し。

 正直な感想を言わせてもらえるのならば、居心地が悪い!

 

「中学のダチにはハーレムとか言われるけどなぁ。そんな良いもんじゃねぇって」

 

 1:9の男女比で過ごしてると、珍獣を見る目線で見られたり、着替えなんかも教室は女子が使うから少し離れた空き教室へ行くことになる。

 トイレだって男性職員用のを使ってるし、男同士でコミュニケーションを取ろうにも、クラスや学年がバラバラで中々コンタクトも取れない。

 

「正直、居づれぇ……」

 

 想像できるか?

 教室で携帯を弄っていると、生理用品が飛び交い、結構どぎつい下ネタが飛び出したりするのだ。

 

 男同士ならその下ネタに乗っかりもするが、女子相手に乗っかる勇気はない。

 人間出来ることと出来ない事があるのだ。

 

「なぁなぁ、君? アルバイトって興味ない?」

 

 授業も終わり、帰宅しようとしていたところで声をかけられた。

 振り返ると、そこには女神が居た。

 

「え、あ……え?」

 

 情けない!

 こんな美人に声を掛けられてドモッてしまうなんて!?

 

「ウチは東條希。ここの三年や。君は?」

 

「えっと、原田玲央、ここの二年です」

 

「玲央君やね? それで、どう? ファミレスのバイトに興味ない?」

 

 ファミレスのバイト。

 確か音ノ木坂からも何人かアルバイトを雇っているって話のファミレスがあったけど、そこだろうか?

 

「えっと、どんな仕事をするんっすか?」

 

「そやねぇ。基本的にキッチンで料理を作る仕事やな。私はホールで接客担当」

 

 このお誘いは正直嬉しい。

 だが、俺が部活に入らず、帰宅部に入っているのは放課後の自由な時間を得るため……。

 

「それじゃ、仕事場に案内するから付いて来てな?」

 

 俺の放課後はゲームとサバイバルゲームの為にあるのだ。

 秋葉原で良い銃を探し、装備を揃えて、フィールドで楽しむ。

 

「学校からも近いから、うちの高校の生徒も多いんよ」

 

 確かに銃を揃えるための資金は必要だが……。

 

「ほら、ここや! 今店長呼んでくるから、ここ座って待っててな?」

 

 そういえば、この前見たライフルはいいものだったな。

 しかし、如何せん高い。

 どこの世界でもそうだが、銃もピンキリだ。

 

「おまたせしました、私が店長の南です。助かりました、キッチンスタッフが不足してて困ってたんですよ」

 

 この前だって、オプション全乗せで六万はするヤツも出てきたのでこれはいいタイミングだと思う。

 

「いえ、自分もいいタイミングだと思いまして」

 

 本当にいいタイミングでの話だ。

 両親からの小遣いも無限じゃない。

 自身で働いて、欲しいモノを買うぐらいの甲斐性は必要じゃなかろうか?

 

「それでは三日後に来てください。詳細はこちらのプリントに書いてますので、次に来るときに細かい部分を説明いたしますね」

 

 これはありがたい話ではなかろうか?

 東條先輩に感謝しなければならない。

 もし働くとなれば、同僚になるのだし、お近づきにもなれるかも?

 

「ありがとうございます。それではよろしくお願いします」

 

 ん?

 いつの間にか、バイトの面接が終わって条件とか書いた紙を渡されている。

 あれ~?

 

「ほな、よろしくな玲央君!」

 

 東條先輩に握手で歓迎された。

 ……ま、いいか!

 とりあえず、親に説明しておかないといけない。

 

 

********************

 

 

「まっつん、新しいバイト決まったって」

 

 声をかけてきたのは夕方帯ホール唯一の男性、佐藤優一だ。

 年齢の差はあるが、仲は良い。

 まっつん、佐藤ちゃんの呼び名で呼び合っているし、たまにプライベートで飯食いに行ったり、遊びに行ったりしている。

 

「佐藤ちゃん、情報早いな」

 

 キッチンとホールを繋ぐ窓。

 ここから料理をホールに渡し、注文をこちらに伝える。

 その窓から顔を出して、会話をする。

 いつもの事だ。

 

「いや、休憩中の真横で面接してたからさ」

 

 それはどうなんだろうか?

 普通、面接とは余計な人間を置かないものでは?

 

「松岡さん、11番テーブルに野菜チーズドリアとナポリタンお願いします」

 

 佐藤ちゃんと話していると、南ことりが話しかけてきた。

 ドリアはすぐだが、ナポリタンは少々時間がかかる。

 

「あいよ。あと、13番テーブルのゴマプリン、そろそろ出せそうか?」

 

「いいえ、まだ食事されてましたから、もう少しかかると思います」

 

 パフェはホールスタッフが作るのだが、プリン等々はモノにもよるが、ウチはパレットで大量生産してスプーンで取り分けている。

 冷蔵庫があるのはキッチン側だからキッチンスタッフが用意する。

 

「なら南さんは8番テーブルのコーヒー確認してきて、オレが13番テーブルの状況見てまっつんに報告するから」

 

「分かりました。佐藤君よろしくお願いね!」

 

 そう言うと、パタパタとホールへ向かう南。

 その後ろ姿を眺める佐藤ちゃんと、佐藤をニヤニヤしながら眺める俺。

 

「……なんだよ?」

 

「いや、うまく隠してんなっと思ってね」

 

「隠したくて隠してるわけじゃないんだけどな!?」

 

 佐藤ちゃんが此処のバイトを始めた理由が彼女、南ことりから誘われたという部分が大きい。

 ホールのメンバーが今より少なかった時に、南が連れてきたのだ。

 そんな佐藤ちゃんだが、南ことりを好いているのだ。

 色々タイミングが悪く、南側に伝わっていないのがまた物悲しい。

 

「コントみたいなタイミングだしなぁ」

 

「うっせぇ、ロリコン」

 

「よし喧嘩だ表出ろ!」

 

 いきなりこちらを罵倒してくる。

 そりゃ、星空とか矢澤とかと仲がいいが、ロリコン呼ばわりは心外だ。

 つか、そんなに年齢離れてねえよ。

 

「悪い! 13番テーブルの状況見てくるよ~」

 

「くっそ、仕事熱心だなオイ」

 

 そう言いつつ、ドリアの用意を始め、耐熱の器に具を盛り付けて、オーブンへ投入。

 茹でてあったパスタを用意し、ホールトマトとウスターソース、牛乳、砂糖、塩、コショウを混ぜてあるモノをフライパンで炒める。

 赤かくなるまで煮詰めたら、野菜やウィンナーを投入。

 玉ねぎに色が移ってきたら、パスタに絡めて完成。

 この時分でドリアの様子を見ると、もう少しという所だ。

 

「13番のゴマプリン出していいぞ? 11番の用意は?」

 

「ナポリタン上がり! ドリアもうすぐだから先に持って行ってくれ!」

 

 ナポリタンを窓から出すと、業務用冷蔵庫からパレットで作ってあるゴマプリンを出す。

 それからスプーンでデザート用に器に見栄え良く盛り付ける。

 

「8番さんコーヒー出しました、松岡さん、料理出ますか?」

 

「佐藤ちゃんが11番のナポリタン持って行ったから、ドリアはもう少し、13番のゴマプリン上がり!」

 

 お客が入っている時はこんな感じだけど、暇なときは本当に駄弁るだけの職場だ。

 これで、きちんとバイトを養えるだけの稼ぎがあるのだから不思議な店だ。

 

「ナポリタン届けてきたぞ、まっちゃん、ドリアはまだか?」

 

「今上がった、熱いから気を付けろよ!」

 

 ダンっとホール側にグラタン皿を出して、溜まった注文が終わる。

 このレベルのラッシュは久々だな。

 

「松岡~? 一息ついたなら洗い物溜まってるから処理しておきなさいよ? その間キッチン立っててあげるから」

 

「矢澤、テメェ落ち着いたの狙ってきやがったな?」

 

「ホールの制服で洗い物出来ないでしょ? 代わってあげるだけありがたく思いなさいよ」

 

 ああくそ、ニヤニヤしやがって……。

 ホールとキッチンの両方をこなせる矢澤は正直貴重な戦力なんだが、いい性格してやがるからなぁ。

 

「にこちゃんって松岡さんと仲良いよね?」

 

「ああ、恋人というよりは悪友かな? 性別の壁を越えた友情ってやつか?」

 

「「そこ! 気持ち悪いこと言わない!」」

 

 ハモってしまった……。




呪いを振り切り、来年は神田明神に初詣等々、しっかりやろうと思います。

来年はゆっくりとでも更新を続けていきたいと思いますので、楽しんでいただければ幸いです。


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第2話 料理長補佐とフロアチーフ

どうも、みずしろオルカです。

オリキャラは3人で、アルバイトしているμ'sメンバーは、4人です。
他の5人は別のバイトをしていたり、部活をしていたりしています。

スクールアイドル活動は行っていますが、この作品ではあまり描写しないかもしれません。

オリキャラ多いので、書き分けられるように頑張ります。


 夕方からのアルバイト。

 両親からも許可が出て、学校側も申請を出したらあっという間に通ってしまった。

 

 そして、初出勤の日。

 なぜか東條先輩に校門で捕まり、初出勤となった。

 

 バイト先の人にどんな評価をされるのかが若干怖いな。

 

「この子が今日からキッチンに来てくれた原田玲央君やね。松岡さん面倒見たってね?」

 

「おう、了解だ。俺は松岡智成ってんだ、一応夕方帯のキッチン責任者ってことになってる。よろしくな」

 

「はい、原田玲央です。よろしくお願いします」

 

 大学生ぐらいだろうか?

 背は高めで、コックコートが様になってる。

 相当着てるから、馴染んでいるといった感じ。

 少したばこの匂いがするから、二十歳以上だろう。

 大学の二年以上かな?

 

「夕方帯のメンバーは俺と東條が各パートのリーダーで、キッチンは俺と原田がメインになる。ホールは東條含めて五人で、うち一人がキッチンとの兼任をしている」

 

「キッチンが少ないっすね」

 

「この前、一気に辞めちゃってなぁ。東條が探してくれなきゃ、俺休み無しになるところだ……」

 

 ああ、この人はいろいろ大変そうな人だ。

 遠い目で明後日の方向を見てる姿は、哀愁を背負っているようにも見える。

 

「それだけ松岡さんが頼りにされてるってことやん」

 

「料理長代理ってなぁ……本部へ出す新作コンペの試作押し付けられるしさぁ……姉妹店の店長との会合にもなぜか呼ばれるしさぁ……」

 

(ああ、苦労人だなこの人)

 

 一瞬でわかった。

 押しが弱いタイプの苦労人だこの人。

 

「ああ、キッチンの仕事は基本俺が教えることになる。それ以外の事は東條が教えるけど、俺に聞いてくれてもいい。ホールメンバーの紹介は会う度に近くにいる奴が紹介してくれると思うぞ」

 

 適当だ。

 ちょっと心配になった。

 

「へぇ、コイツが新しいキッチンスタッフ? なら、にこの部下ね」

 

「正確には俺の直属の研修になるんだがな?」

 

「にこっち、紹介するな。この子が新しいキッチンの玲央君。玲央君、この子がホールとキッチンを兼任している矢澤にこちゃん」

 

「え? この人って……」

 

「私を知ってるの? 音ノ木坂3年の矢澤にこ! ホールもキッチンもこなせる万能スタッフよ」

 

 三年だと!?

 バカな、学校で見た時は一年だと思ったんだけどな。

 思わず東條先輩と矢澤先輩を交互に見てしまう。

 

「先輩でしたか……」

 

「よくも目線下に向けてくれたわね!!」

 

 バレた。

 そりゃ、東條先輩と露骨に見比べれば仕方ないか……。

 

「どうどう、矢澤。新人に絡むな絡むな」

 

「にこは馬じゃないわよ!?」

 

「静かにしないと、ワシワシの刑やよ?」

 

 ピタッと矢澤先輩の勢いが止まる。

 どうやら、ワシワシの刑と言うモノは相当嫌なようだな。

 

「まっつおかさーん!!」

 

「ぐぼぉあ!?」

 

 視界から松岡さんが消えた。

 正確には飛びついて来た誰かを受け止めて、視界の外に追いやられた形になった。

 今すごい声出したぞ?

 

「星空! 危ないから飛びついて来るなっていつも言ってるだろうが!」

 

「もうすぐ休憩だから、松岡さんの賄いが食べたいにゃー」

 

「話を聞け! 後、首キまってるから……」

 

 背の高い松岡さんと小柄な星空とかいう人。

 そんな体格差で首にぶら下がると、苦しいだろうなぁ。

 星空さんの腕をタップしてるが、その腕が解かれる気配はない。

 

「あ、紹介するな。松岡さんにジャレ付いてるのが、星空凛ちゃんや。凛ちゃーん、新人さん紹介するから降りてきてな」

 

「はーい!」

 

 あれはジャレ付いているというのだろうか?

 松岡さん、顔色が紫になってたけど……。

 

「凛は、星空凛。ホールメンバーの一人にゃ~」

 

「凛ちゃん、この子はウチの高校の2年で原田玲央君。キッチンに入るメンバーやね」

 

「という事は、松岡さんの負担が減るんだね。ちょっと頑張りすぎてたから心配してたんだにゃ」

 

 その心配していた相手の首を的確な角度でキメていたんだが……。

 解放された松岡さんが壁に手をついてゼーゼー言ってる。

 なんだろうな、料理長代理なんてすごい立場なのに威厳が無い人だなぁ。

 

「原田玲央です。えっと……初めまして、よろしくお願いします」

 

「凛もそんなに長く働いているわけじゃないから、敬語とか別にいいよ。同期だと思ってよろしくにゃ~」

 

 バンバンと笑いながら肩を叩く星空さん。

 気軽に話しかけられそうな人だ。

 

「後は、ことりちゃんと佐藤君が居るんやけど、今日は休みやから後日改めてやな」

 

「わかりました」

 

「ほな……、松岡さん大丈夫?」

 

「少し……待って……息、整えるから……」

 

「情けないわね~、シャンとしなさいよ」

 

 まだ、ゼーゼーと呼吸を整えている松岡さんと、追い打ちをかけている矢澤先輩。

 ここまでの印象で、女性陣に男性陣が押されているイメージ。

 

 男女の仲が悪い職場よりは断然良いが、もしかして苦労するのか俺?

 

 

********************

 

 

「最初は皿洗いが基本の仕事になる。料理の方は客の少ない時間や賄い飯作る時に徐々に教えていくから」

 

「分かりました」

 

 案内されたのは、食器が山積みの洗い場。

 比喩などではなく、本当に山積みなのが恐ろしい。

 

「食べ残し等はホール側で処理してくれる。皿に付いたソース等は洗い場の水に漬ける前に、このシャワーで流してな」

 

 庭に水を撒くためのシャワーノズルが設置されていた。

 これで、皿に付いたソースや調味料を流し落とすのだろう。

 

「溜め水が汚れてきたら、水を抜いてこっちのシンクで洗ってね」

 

 シンクが二つ並んでいて、片方には水が溜められていて、片方は何も無い。

 確かに、ソースとかが乾くと落とすのも大変だから水に漬けておくのが正解かな?

 

「矢澤ー! 原田を洗い場に入れておくから、気付いたらフォロー宜しくな」

 

「何かあると、にこに頼むのやめなさいよ!」

 

「……今月のフェア。後、三日ぐらいだったかな?」

 

「グッ……」

 

「確か、アイドルのDVDの発売日が重なってるんだよな?」

 

 仲良いなぁ。

 アイドルのDVDとか、趣味なのかな?

 今月のフェアって確か、丼物だったかな。

 食費削ってるのかな?

 

「にこの弱みで脅すのやめなさいよね!」

 

「だったら、休日にアイドルのライブに行くために俺の車当てにするの控えろよ」

 

 プライベートでも仲良いのか。

 付き合ってたりするのかな?

 いや、あれは付き合っているというか……。

 

「アンタ、希やことりや凛には優しいクセに、私にはなんで扱いが雑なのよ!」

 

「胸に手を当てて考えてみやがれナンバーワン問題児。仕事が完璧だからって悪戯が許されると思わないことだ」

 

「女の子に胸とか、セクハラじゃない!」

 

「うるせぇ、揚げ足どころか、揚げてもいない足を取るんじゃねえよ」

 

 言葉でど突き合ってるのか。

 気心の知れた友人同士の様な不思議な関係に見える。

 

「仲ええやろ? 男女の友情って感じで見てて微笑ましいんよ」

 

「いつの間に背後に立ってるんですか」

 

「ちょっと冷蔵室に用があってな」

 

 そう言った東條先輩の手には小鉢が沢山乗っているお盆がのっていた。

 ある程度作っておいて、保存しておくのか。

 小鉢の様な小さい料理は特に大量に作って盛り付けておくと便利なのだろう。

 

「付き合ってるわけじゃないんですか?」

 

「あれは恋愛やのうて、友愛の方やな。二人とも苦労人で面倒見のいい人たちだから、気が合うんやろうね」

 

 珍しい関係だと思う。

 ああやって、言い合っていても大丈夫だという確信があるから、遠慮なく喋れるんだろうな。

 

「あ、洗い物はスポンジで汚れをある程度落としたら、そこの食器洗い機にセットしてな」

 

「おお、なるほど、了解っす」

 

 ホール専門の東條先輩に教えられてしまった。

 それでいいのだろうか? キッチン専門の松岡さんと、ホール・キッチン兼任の矢澤先輩。

 

「あ、松岡さん。凛ちゃん休憩そろそろやから、賄い宜しくな~」

 

「ん? もうか、原田。ラーメン作るからちょっと見ておけ」

 

 そう言って、厨房に歩いていく。

 急いで行かないと!

 

「メンマとかチャーシューとかトッピングの具材は冷蔵庫に入ってる。スープは出来合いの缶詰に入っているからこの計量お玉で一杯。後は冷蔵庫に入ってるスープの素を温めて混ぜるんだ」

 

 ポンポンと手順を話していく松岡さん。

 話しながらも手を止めずに作業をこなしていく。

 かなり手際がいい。

 

「麺はこの専用の鍋があるからそこに麺を入れて、タイマーをかけて茹でるんだ」

 

「味ごとにトッピングの具材は変わりますか?」

 

「ああ、後で一覧作って渡すよ。今日は味噌で作るから見てるといい」

 

 そういうと麺を湯で始め、具材を刻み始める。

 深めのフライパンで野菜を炒めて、味付けに味噌のベースソースで味を付けていく。

 

「この辺りは、星空用のカスタムだから覚えなくてもいいぞ。あいつ、今日妙に元気だったから期限ギリのチャーシュー追加するか」

 

「あ、好きにカスタムしていいんですね」

 

「賄いはな。後、基本的に常識に則った使い方がルールだ。今のチャーシュー追加も、タッパーに書かれてる期限がギリギリだから早く消費するって目的だしな」

 

 なるほど、そういう風に考えるんだな。

 タッパーとかに期限が書いてあるんだ。

 

「タッパーに書く期限とかは後で教えるけど、中身が切れたらすぐに報告してくれ。仕入れの方法も簡単なのを教えるからな」

 

 料理長代理って役職だし、いろんな仕事こなしているな。

 手際もいいし、どこに何があるかを完璧に把握してる動きだ。

 

「まっつおかさーん! 休憩入るから賄い頂戴にゃ~」

 

「ほい、ジャストタイミングっと、野菜たっぷり味噌チャーシュー麺だ」

 

「わぁ~、松岡さんのラーメン、お店で出すのよりおいしいから大好きにゃー!」

 

 星空さん、ラーメンを受け取るとパタパタと休憩室へ向かっていった。

 本当に嬉しそうだったけど、ラーメン好きなのかな?

 

「ま、そんな一度に詰め込まないから安心しろ。何度か一緒に仕事して、少しずつ慣らしていくから」

 

「ありがとうございます。助かります」

 

 さて、今日居ない他のメンバーとも仲良くできるかな……。

 仕事、がんばろう。




予約投稿と言うモノを試してみましたが、うまく投稿できているでしょうか?

最近はアニメも見れてなくて、いくつか目を付けた作品もHDDで眠っています。

あ、弟に勧められた『鬼灯の冷徹』がめちゃ面白かったです。

BLEACH系の作品も考えているのですが、単行本揃え直すのに時間がかかってます。


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第3話 幼馴染と自覚

今年一年お世話になりました。
来年もよろしくお願いします。

年内最後の更新です。
書き溜め分を少しずつ手直ししながら投稿してますが、もう残り少ないです。

徐々にスピードダウンするでしょうが、お待ちいただけたら幸いです。

それではお楽しみください。


 不足気味だった夕方帯キッチンのメインメンバーが追加になった。

 まさか同級生の、しかも数少ない男子生徒だとは思わなかった。

 

 東條先輩が連れてきたのだけど、よく見つけたものだと思う。

 

 一応、音ノ木坂の共学化に伴う数少ない男子生徒の一人。

 顔は知ってても交流が無ければ無いモノだ。

 

「佐藤君、キッチンの新しい人って友達?」

 

「いや、顔は知ってるけどクラスも違うし話したことはないかな」

 

 ホールの掃除の為、オレはモップ、ことりはテーブル拭きで掃除をしている。

 一度、女子高の中に男子が入るという特殊な状況を共に乗り越えようという目的で、男子が集まろうとした経緯があったけど、一部男子に彼女ができたことでその集まりもお流れになった。

 

 要は、変に集まると女性陣が近づき辛くなり、自分に彼女ができなくなる可能性を危惧した、っという事だ。

 

「私や穂乃果ちゃん、海未ちゃんと仲がいい男子生徒って佐藤君だけだもんね」

 

「おかげで一部男子から敵視されてるんだけどなぁ」

 

「ん?」

 

「いや、幼馴染で男がオレだけだなってな?」

 

 本当に幼稚園児の頃からの付き合いで、高校まで一緒となると腐れ縁を感じざるを得ない。

 幼馴染フィルタを考慮しても三人ともかなりの美少女だと言える。

 三人ともタイプの違う美少女。

 そりゃ、他の男子から目の敵にもされる。

 

 オレだってことり達の様な幼馴染が居たら嫉妬の一つもするだろうからな。

 

「そういえばそうだね。幼稚園の頃は佐藤君以外にも男の子の友達いたけど、小学生ぐらいで殆どいなくなっちゃったんだよね」

 

 そりゃ、小学生って異性を意識し始めたり、男女で派閥を作ったりするから疎遠になったりするんだよな。

 オレもそうなりそうだったんだけど、ガチでことりと海未に泣かれたのだ。

 それを穂乃果に窘められ、三人で親に怒られるまで遊んだものだ。

 

「まぁ、子供の頃なんてそんなもんだと思うぞ」

 

「佐藤君はずっと一緒だったよね」

 

「お前と海未に泣かれて、穂乃果に窘められたからな」

 

「……」

 

 ことりの視線が半眼でにらむ形になっていた。

 なにかしたかオレ?

 

「穂乃果ちゃんや海未ちゃんは名前で呼んで、ことりの事は名字で呼ぶんだ……」

 

「いや、バイト中はケジメつけて、名字で呼び合うって決めたじゃんか」

 

「だって……」

 

 不満そうに頬を膨らませている。

 コイツたまに狙ってるんじゃないのかってぐらい可愛い時がある。

 不意打ちはひどい。

 

 仕事のけじめはつけましょう。

 同期とは言え、仕事の場ではきちんとするべきだ。

 

「……客がいない時なら普通に名前で呼ぶようにするから」

 

「うん、それで許してあげる」

 

 ……オレ、弱いなぁ。

 

 

********************

 

 

「ことりちゃん、佐藤君。新人君紹介するから、ちょっと来てくれへん?」

 

「「はーい」」

 

 幸いというか、いつもの通りというか、お客様も居ない時間帯に東條先輩から声がかかった。

 ずっとホールに出ずっぱりだったし、新人さんは洗い場に缶詰だったから話ができていない。

 

「波も去ってるけど、洗い場は落ち着いてるんですか?」

 

「さっきまで叫んでたけど、大丈夫だと思うわ」

 

「いや、それ追い詰められてません?」

 

 入って数日だし、波の後の食器は文字通り山積みになる。

 調理についてマッツンがメインで、洗い物が新人君メインだ。

 飲食店で忙しくなった時、最初にホールメンバーが忙しくなり、次にキッチンの調理担当が忙しくなる。

 そして、再びホールメンバーが忙しくなり、最後にキッチンの洗い場が戦場になる。

 

「でも、希ちゃんやにこちゃんがフォローしてるって聞いてましたけど……」

 

 ことりの言う通りだ。

 新人だし、調理の為にマッツンがサポートに入れない時にフォローに入るのが、東條先輩と矢澤先輩だ。

 今日は矢澤先輩とマッツンが休みだから必然的に東條先輩がフォローに入るのだけど……。

 

「いやぁ、原田君って結構優秀でなぁ。割と教えたことすぐにやってくれるから……」

 

「放置してたんっすか!?」

 

「放置はしとらんよ。定期的にちゃんと見て、大丈夫って思ったから……」

 

「放置してたんっすね……」

 

 洗い場に着くと、新人君がものすごいスピードで食器を洗っていた。

 その表情は鬼気迫るものがあった。

 

「小皿は小さいからたまり易い……、ハシやスプーンはラックの隙間を詰める様に……」

 

「必死だな」

 

「必死だね」

 

「必死やなぁ」

 

 おいコラ元凶。

 

「波も過ぎたし、ゆっくりやってもらう方がいいと思うんですが……」

 

「せやね。原田君~、もう落ち着いたからホールの子紹介するよ~」

 

 なんだろう。

 たぶん、思考の余剰を削って行動を最適化しているなあれ。

 今、彼は目の前の食器を洗うための機械として自分の思考を仕事をしながらカスタマイズしていったのだろう。

 

「平皿は数が少ないから優先的に。茶碗は多いから一セットに2・3個……」

 

 だって、東條先輩の声に反応せずに、ずっとぶつぶつ呟きながら洗っている。

 正直言わせてもらえば不気味だ。

 

「原田君? 没頭してて聞こえてないかな?」

 

 そう言った後に東條先輩が何かを思いついたのか、ニヤッと笑うと忍び足で新人君の背後へ忍び寄っていく。

 あの体勢から出るであろう東條先輩の行動は幾つかあるけど、どれも新人君が驚く方向だ。

 南無。

 

「ふぅ~」

 

 完全に集中している新人君の後ろ。

 耳元に優しく息を吹きかける。

 不意打ちでこれは辛い。

 

「のぉわぁ!?」

 

 おお、前傾姿勢で丸まっていた背中がピンッと反り返った。

 東條先輩は予想してたのか、スッと身を引いて避けてたし。

 あと、背骨あたりからゴキッと破滅の音が……。

 

「何スか、東條先輩!? 背骨メキョッていいましたよ!」

 

「ごめんな? 呼んでも気づかなかったからつい……」

 

 ニコニコ笑いながらちょっと舌を出している。

 あ、新人君が固まった。

 なるほどなるほど、新人君の好みはこういうタイプか。

 

「あ、原田君。ホールの子達紹介するな。佐藤君とことりちゃんや」

 

「佐藤優一。音ノ木坂の2年だ。ホール担当だから、よろしくな」

 

「南ことりです。ホール担当で、同じく音ノ木坂学園の2年です」

 

「あ、っと、原田玲央です。音ノ木坂の2年です。キッチン入りたてですが、宜しくお願いします」

 

 背は低いが、横幅が広い。

 太っているんじゃなくて、筋肉質な体型。

 そんな人物が急激に背筋を伸ばしたら……。

 

「どうしたん? プルプルしとるけど」

 

「背中から……! 破滅の音が……!?」

 

 ヘルニアには成ってないと思うけど、ちょっと休ませた方がいいかもしれない。

 あの量の食器を処理してたんだし……。

 

「東條先輩、原田君と一緒に休憩に入ってください。少し休ませてあげないと、辛いと思いますし」

 

「そうやね。ほら、原田君、休憩室行こうか」

 

「う、すいません。でも、洗い物が……」

 

「オレとことりで済ませておくから、原田君は休んでおけって」

 

「そうやで、うちが看病してあげるからな?」

 

 そう言いながら、東條先輩に引きずられるように、原田君は連れていかれた。

 病人を引きずるように連れていく東條先輩。

 連れていかれている当人は、たぶん東條先輩との触れ合いに緊張してガチガチになってるし。

 

「佐藤君、原田君って……」

 

「ことりの考えてる通りだと思うけど、口は出さん方がいいと思うぞ」

 

「そうなの?」

 

「経験上、第三者が恋愛沙汰に口を出すと、碌なことにならん」

 

「じ、実感こもってるね……」

 

 穂乃果と海未にさんざん苦労させられたオレの言葉だからな。

 恋愛レベルが上がらないで、友情レベルばかり上がっていく悲しみが分かるか?

 

「とりあえず、ことりは食器を所定の場所に運んでくれ。オレは洗いに専念するから」

 

「うん、わかった!」

 

 とりあえず、この山の食器を片付けよう。

 

 

********************

 

 

 背骨を庇う形で休憩室に横になっている。

 反射的に背を反ってしまったせいで、ちょっとヤバい音が鳴ってしまったのだ。

 

「ごめんな? ちょっとイタズラが過ぎたわ」

 

 ちょっとシュンッとなっている東條先輩。

 そんの手には救急ボックスが用意されている。

 

「いえ、呼ばれて気付かなかった自分が悪いんで」

 

「ほら、背中出して、湿布貼ってあげるから」

 

「ぬ……、わかりました」

 

 正直恥ずかしいが、背中の丁度手が届き辛い場所が痛むのだ。

 上半身を脱いで、横になる。

 

「おお、何かスポーツやってるん? ガタイ良いけど……」

 

「サバゲーを少し。装備って意外と重いので、それを着て走り回ると自然と筋肉とかつくんですよ」

 

 ペタペタと肩あたりを撫でるように触ってくる。

 恥ずかしいはむず痒いわで、色々一杯一杯だ。

 

「おお、男の子の身体とか直に触ったの初めてやから、不思議な感じや……」

 

 ペタペタと撫でたり、つついたり、ペチペチと叩いたり、楽しんでますよね先輩。

 

「あの、先輩」

 

「あ! ご、ごめんな? この辺か?」

 

「あ、はい。もうちょっと下……はい、そのあたりです」

 

 ヒヤッとしたものが背中に貼られる。

 破滅の音がしたから、しっかりとケアしないとやばいのだ。

 

「落ち着くまで休んででええよ。シフトで明日休みやし、無理せんでな?」

 

「ありがとうございます。たぶん大丈夫です。サバゲーの野外戦とかって、結構生傷絶えませんし」

 

 実際、ステージによっては地面の起伏が激しい場所とか、砂利が多い場所とか、バランスを崩すと痛い場所がある。

 足首を捻るとか、割と多い。

 

 背中は初経験だけど、この程度なら明日には痛みは引くだろうし、東條先輩に湿布を貼ってもらったという事実がきっと回復力に影響を与えるだろう。

 

「そうか? それじゃ、飲み物持ってくるわ。ウチがおごってあげる、何がいい?」

 

「すいません、それじゃコーラお願いします」

 

「了解や、服着て待っててな?」

 

 そういうと、パタパタと休憩室を出ていった。

 ちょっと今のセリフで心が幸せになった俺は、色々とあれなのかもしれない。

 

 あー、ダメだ。

 先輩にどんどん魅かれてる自分がいる。

 ちょっと、がんばるかな。




人によって書きやすいキャラクターはいると思います。

しかし、書きやすいキャラと好きなキャラは必ずしも一致しないのです。

やれやれです。

今年は神田明神へ厄払いのお守り買いに行ってから、徐々にですが悪いことが少なくなってきたので、感謝の意味も込めて、初詣は神田明神へ行こうと思います。

まぁ、今日夜勤で明日は午前中に引き継ぎが終わればマシですが。
人の波がある程度引いていることを願いましょう。

午後に一人でフラフラと初詣をしている人が居たら私の可能性が微レ存。

今年最後の更新でしたが、来年最初の更新も早めに予定してますのでお楽しみに。

長らく更新できていなかったのに、すぐにコメントをいただけて、お気に入りなども登録くださる方が居て、大変うれしいです。

来年もよろしくお願いいたします。


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第4話 兼任者

あけましておめでとうございます。
オルカです。

今年最初の更新です。

本当なら、1/1に投稿する予定だったのですが、神田明神へ初詣に行ってまして、その道中に夜勤明けの眠気からレッドブルで翼を授かろうとしたわけです。

前日から計算して通算四本目のレッドブル。
参拝終わるころに、具合が悪くなりました。

で、気付けば今日の昼頃でした。

オーバードーズ怖いわぁ……。


 飲食店にはお客様用の出入り口と従業員用の裏口がある。

 従業員用の裏口は、従業員以外に食材や機材などの仕入れ業者が出入りするので、目立ちはしないが大型車や大量の段ボールを出し入れしやすい程度の広さは確保されている。

 

 食品は店内の冷蔵庫や冷凍庫へ仕舞うが、割り箸や補充用の食器、期間限定メニューや店の備品などは裏口付近にプレハブが設置されていて、そこに仕舞われている。

 

 そのプレハブの設置個所が物陰になるような形になっていて、そこに従業員用の喫煙所が設置されている。

 

 一応休憩室は喫煙OKなのだが、夕方帯のメンバーは学生が多いので、俺は外の喫煙所で吸うことにしている。

 

「……ってな感じで人が気を使ってるのに、お前らは」

 

「気にしない気にしない、マッツンが気を使ってるのはホールメンバーもよく分かってるから」

 

「いいじゃないッスか。俺らはコーヒーですし、喫煙所でのまったり会話も良いッスよ」

 

 いや、副流煙とかも気にしてるんだが……。

 本人たちが良いのならいいのか?

 

「休憩室に押し込もうとはしないのな」

 

「ことりに煙の匂い付ける訳にいかないっすわ」

 

「佐藤ちゃんのそういう所ブレねぇなぁ」

 

「本人に伝えられなきゃ意味ねぇっすわ。で、玲央はどうだ?」

 

「俺は、東條先輩がいいな」

 

「原ちゃんは包容力を求めてんのかな?」

 

 スパーっと斜め上に煙を吐き出し、ニシシッと笑う。

 原ちゃんと佐藤ちゃんとは、高校生と大学生の差があるが、世間一般の年齢差で考えるとそんなに離れてはいない。

 俺自身、2年前は高校生だったんだし。

 

「「人のこと言えねぇっつの、このロリコンめが!」」

 

「ハモるな、笑うな、ロリコン言うな!」

 

 そりゃ、仲の良い矢澤や星空の二人は、幼く見える容姿だが星空だって可愛らしい部分があるし、矢澤なんて俺と2歳しか違わないんだぞ。

 それに、矢澤の奴は子供っぽい見た目に反して、中身は実年齢より大人っぽい部分がある。

 星空は……、天真爛漫って言うのかなああいうの。

 

「いや、だってマッツンの身長が大体180ぐらいで、矢澤先輩が150前後……」

 

「身長差が約30センチ以上……事案っすわ」

 

「双方、合法の年齢なんだがなぁ」

 

 ふと、佐藤ちゃんや原ちゃんの後ろに視線を向けると話題の人物が立っていた。

 頭に青筋を浮かべて。

 

 あ、やばい。

 チラッと腕時計を確認すると、休憩時間が終わりそうだ。

 たぶん、呼びに来てくれたのだろうが、如何せんタイミングが悪かった。

 

「ア・ン・タ・達~?」

 

 グワッシっと握られる二人の肩。

 気のせいだと思うが、二人の方からメリメりと音が鳴っている気がする。

 いや、俺の錯覚だろうな、うん。

 

「ヒトが休憩時間終わりだからって呼びに来てみれば……、面白いこと話してるじゃない?」

 

 佐藤ちゃんはアチャーッといった顔を、原ちゃんはどこか遠い目をしている。

 お前ら諦め早すぎだろ。

 

「バカなこと話してないで仕事しなさい! 特にキッチンはメイン二人が休憩で抜けてるから大変なのよ!!」

 

「「すんませんっしたー!?」」

 

 そう叫ぶと矢澤は、佐藤ちゃんと原ちゃんを店の中に叩き込む。

 二人も慌てて店の中に引っ込んでいく。

 

「まったく、アンタも早く戻りなさいよ?」

 

 そう言いながら、喫煙所の壁に寄り掛かるように立つ。

 学生の矢澤には喫煙所は縁の無い場所のはずだが……。

 

「へいへい。……たばこの匂い付くぞ?」

 

「ちょっとなら構わないわよ。喫煙席の接客もしてるのよ? あそこの方が煙がすごいわ」

 

 喫煙席と禁煙席が分かれているから、ホール側のスタッフはタバコの煙に晒されることが多い。

 確かに外で風上に居る矢澤には気にならないのかもしれないな。

 

「休憩か?」

 

「ええ、ちょっと飲み物買ってくるわ」

 

「そっか、そんじゃ、俺も戻るかね」

 

 ジュッと音を立ててタバコを煙缶に捨てる。

 水を溜めているので、火事になる可能性はないが、火種を全て煙缶内に落とすようにする。

 

「そうなさい、責任者」

 

「そうするよ、兼任者」

 

 さて、休憩も終わったんだ。

 ラストスパートと行きますか。

 

 

********************

 

 

「23番テーブル、季節野菜のドリア上がったぞ」

 

 どうも、原田玲央です。

 現在、矢澤先輩に怒られて、厨房に戻った途端に修羅場が始まった。

 

「15番テーブル、チーズハンバーグ定食1、ステーキ定食1、野菜炒め定食1にゃ!」

 

「了解。原ちゃん! 野菜炒め定食の手順覚えてるよな!?」

 

「はい!」

 

「そのまま調理してくれ。俺の方でチーズハンバーグとステーキを仕上げる!」

 

 賄いでスタッフ達の注文を作っていた時に、野菜炒め定食は作っていた。

 いくつか合格を貰ったものの一つだ。

 

「分かりました!」

 

 調理手順は全部頭に入っている。

 数回ほど作ってもいる。

 やってやろうじゃねぇか!

 

「星空! 11番テーブルのマンゴープリンは出せそうか?」

 

「えっと……。 もうすぐ食べ終わるから、もう準備してもいいと思うにゃ!」

 

「了解! 東條! 矢澤の休憩終わりまで回りそうか!?」

 

「う~ん、これ以上増えるとなると、ちょっと危ないかもなぁ」

 

 うわぁ、あれが責任者ってやつかぁ。

 マネージャー、店長、料理長、料理長補佐、フロアチーフ。

 店によるらしいが、これが基本権限が大きい順の並びになる。

 

 この店では、マネージャー>店長=料理長≧料理長補佐=フロアチーフという順番になっている。

 料理長は基本的に夕方帯は出勤せず、ほぼ全権を料理長補佐が振るうことになっている。

 

 今日のホールスタッフは東條先輩、矢澤先輩、南さん、佐藤ちゃん、星空さんの5人。

 基本的にこの四人で回るのだが、今は矢澤先輩が休憩中で南さんがほぼホールに出ずっぱりの状態だ。

 佐藤ちゃんは急遽食器洗いに回っているので、ホールに戻るにしても洗い物の心配がある。

 

「矢澤を呼び戻すか……? いや、買い物に出てるし、消耗品の買い足しも頼んだから呼び戻せないな……」

 

「うーん、だったら原田君ちょーだい?」

 

「は?」

 

「うぇ?」

 

 変な声が出た。

 俺は萌えキャラじゃないぞ。

 

「オーダーは取れないけど、配膳とかレジなら一通り教えてるし、キッチンはもうすぐ落ち着きそうやろ?」

 

「確かに今の三つの定食がハケれば俺一人でも回るが……」

 

 そう言いながら、ハンバーグを皿にのせてチーズを振りかけていく。

 考え事しながらできるのかよ。

 

 つか、俺のあずかり知らぬところで俺の処遇が話されてるというのはどういうことだ!?

 

「ことりちゃんがホールに出ずっぱりなように、こっちに常駐してくれるスタッフがいるだけで随分違うし、是非とも原田君が欲しいんよ」

 

 なんだろう、わかってて言ってるんじゃないだろうな東條先輩。

 この流れはホールの手伝いに行くのか?

 

「原ちゃん、野菜炒めどうだ?」

 

「もう盛り付けでおわりです」

 

 そう言いつつ、さらに調理が終わった野菜炒めを盛り付けていく。

 皿の端にソースが付くと拭き取らなくてはならないから、慎重にきれいに盛り付けていく。

 

「なら、それ終わったらホールのヘルプ行ってくれ。東條にホールの基礎は教わってるんだろ?」

 

「そうですけど、それってみんな教わってるんですよね?」

 

「いや? キッチンとホール両方知ってるのは俺と矢澤ぐらいで、後はみんな専門職だけだぞ?」

 

「え?」

 

「え?」

 

 噛み合わない話に、ギギギっと音が出そうな動作で一人へ目を向ける。

 

「いやぁ、原田君の飲み込みが早いから楽しくなって……」

 

 テヘッという表情でこちらを見ている東條先輩。

 くっそ、かわいいな……じゃなくて!?

 

「勢いでホールの仕事まで教え込んだと……」

 

「俺は常人の倍の仕事を覚えてたのか……」

 

 どおりでマッツンからの要求と東條先輩からの要求の差があるわけだ。

 漫画みたいなやり取りをしてしまったじゃないか。

 

「まぁ、おかげで原ちゃんをヘルプに出せるか。俺はもうキッチン専門だし、キッチン側の兼任者を原ちゃんにしておこうか……」

 

「え、いや、あの……」

 

「せやね。原田君の所属、にこちゃんと同じ兼任者にしておくな~」

 

「いや、ですからマッツン? 東條先輩!?」

 

 俺の処遇が俺が関われない形で進行してる。

 そして東條先輩、絶対に俺を兼任者にしようとしてましたよね?

 いま、小さくガッツポーズしましたよね?

 計画的犯行ですよね!?

 

「とりあえず、原ちゃんは休憩室に予備のホール制服があるはずだから、それを着てヘルプ入ってくれ」

 

「あ、原田君のサイズの制服なら用意してるから予備のロッカー見てみてな?」

 

「確信犯だと!?」

 

 その日、俺のタイムカードの職業欄の記載が、キッチンからキッチン&ホールに変わった。

 仕事量が倍加し、時給が少し上がった。

 新作のスナイパーライフルが出る予定なので、まぁいいかっという気分になった。

 M40A5、アメリカ海兵隊が改良したスナイパーライフルだ。

 海兵隊のファンとしては是非とも購入したい。

 

 ちなみに、東條先輩は確信犯という事でマッツンに怒られてた。

 まぁ、ガミガミというよりは、呆れ半分の注意程度な感じだった。

 

 俺の扱いが分かった気がしたなぁ。

 矢澤先輩にはいい笑顔でサムズアップを向けられた。

 無性にその親指を逆に曲げてやりたくなった。




いかがだったでしょうか?

書き溜めていた分を少し変更しております。
オリキャラ全員喫煙者で書いてたのですが、さすがに高校生で堂々喫煙者ってのもまずいと思い書き直しています。

お酒とたばこは二十歳になってから!
三十路の叔父さんとの約束だ!

というわけで、今年も一年宜しくお願い致します。


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第5話 幼馴染の関係

 どうも、みずしろオルカです。

 少しずつストックを溜めつつ、投稿させていただいております。

 年始で皆さん忙しいようで、私の仕事もそれなりに詰まってきています。

 書きたい原作の作品が積もっていきますが、書き上げるのが遅くて間に合いませんね。

 長らく書けなかったのも原因でしょうけどね。

 二年組のパート。
 楽しんでくださいね。


 オレは南ことりの幼馴染だ。

 正確には、南ことり、高坂穂乃果、園田海未の三人と幼馴染だ。

 男女の意識が無い頃からの付き合いだから、気心こそ知れてるが、だからこそ親密になる為の一歩が異様に遠い。

 

「優一はもう少し積極的になるべきです」

 

「そうだね。優ちゃんは、こう……ガバッとしてギュッとして……!」

 

「擬音ばかりなのにどういう行動なのか分かる自分が嫌だな」

 

 学校からの帰り道、ことりがバイト、オレが休みで穂乃果と海未と一緒に下校中だ。

 ことりが居ないと、話題が高確率で俺の恋愛関連の話になる。

 応援してくれているのが分かるから無下にもできないのだが、これまた高確率で変な方向へ行く。

 

「だって、ことりちゃんへ想いを伝えるって言ってもう三年ぐらいかな?」

 

「忘れてるかもしれんが、今の関係になった原因の7割方はお前ら二人なんだぞ?」

 

「うっ……、しかし! 優一が臆病風に吹かれてしまったのも原因でしょう」

 

 海未の奴が、ビシッとオレを指さす。

 痛い所を突いてきやがる。確かに、オレが悪かった部分があるが、それでもあの流れは無い。

 あと、指が近い、目潰しでもする気かお前。

 

 

********************

 

 

~中学時代~

 

「優ちゃんはいつことりちゃんへ告白するのかな~?」

 

「いきなり何言いやがるアホ娘が」

 

「私より成績良いからってヒドイ!?」

 

 昼休み、オレの席の周りに穂乃果と海未が集まって雑談をしていた時だった。

 突然、穂乃果の奴がニヤニヤしながら珍妙な事を言ってきた。

 

 ちなみに、オレの成績は平均より少し上回る程度。

 ことりと海未には敵わない。

 

 むしろ、オレと穂乃果で教わるのがテスト前の習慣になっている。

 

「優一は小学校からことりの事好きでしたよね?」

 

「さりげなく言ってるが、オレのトップシークレットだぞ……?」

 

「幼馴染にこの程度の隠し事なんて意味ないでしょう」

 

「そうかな~? ことりちゃんは気づいてないみたいだけど?」

 

 穂乃果ほどじゃないが、ことりも抜けてるところがあるからな。

 海未は普段真面目だけど、変なところで変な方向へ走り出すからなぁ。

 

「これは優一がことりに告白するべきですね」

 

「お~、海未ちゃんそれいいね!」

 

「待てお前ら、当人をおいて話を進めるな」

 

 いかん、穂乃果に火が付いた気がする。

 基本的にオレら四人の中心は穂乃果だ。

 良くも悪くも穂乃果が引っ張って、ことりがフォローして、海未がブレーキをかける。

 悲しいかな、オレはこいつらの後始末が基本だ。

 極稀に全員がアクセルと化す時があるが、その時はフォロー・ブレーキ・後始末のすべてが俺に降りかかる。

 

 幼稚園の頃、こいつらが散らかした積み木を片付けてたし、小学校の頃、冒険だと言って山奥で遭難しかけた時にオレが連れ帰って四人分の親からガッツリ怒られた。

 

 海未の親、滅茶苦茶怖かったなぁ……。

 一番苦手なのが海未の親だったりする。

 

「やっぱり、二人っきりのシチュエーションは基本ですね」

 

「だよねだよね! 夕暮れ時の教室か公園か……」

 

「よしわかった。お前らオレと会話する気無いな?」

 

 暴走したこいつらは止められない。

 しかし、全力を持ってして止めにかからないと告白の方向へ持っていかれる。

 

「つーか、お前らもオレの心配してるが、自分の心配しろよ……」

 

「う!? 優ちゃんヒドイよ……」

 

「ちゅ、中学生で早すぎます!」

 

 それを言ったら今の話題がほぼダメじゃないか。

 というか、そんなんだから百合の噂が流れるんだよ。

 知らぬは当人ばかりなりってか……?

 

 それに、別方向へ話を持って行けたようだ。

 後は、水の流れを変える様に話題を反らしていくだけだ。

 放課後まで思い出さなきゃ、数日はぶり返さないかな?

 

 

********************

 

~翌日~

 

「優君、優君!」

 

「お、おう。なんだよ、ことり」

 

 なぜか興奮気味のことりに話しかけられた。

 嫌な予感がする。

 

「さっきね優君の好きな人の話してたんだ」

 

 よし、穂乃果の口に餡子を詰め込む刑罰を思いついた。

 息苦しさとカロリーに苦しむ事間違い無し。

 

 本日さっそく実行しようか……。

 

「海未ちゃんが好きなんだよね?」

 

「……お前って時々、穂乃果よりアホだよな」

 

「優君ひどい!?」

 

 刑罰の追加も視野に入れよう。

 そうだな、きな粉なんかもいいかもしれないな。

 口の中の水分を持っていかれて、苦しむがいい。

 

 

~数日後~

 

「あの、優君?」

 

「ん? なんだ、ことり」

 

 丁度、クラス委員の仕事で書類作業をしていた。

 相方の委員は帰ってしまうし、急ぎの仕事だったから今日中に片付けなくてはならない。

 まぁ、プリントをまとめてホチキスで留めるだけなんだが。

 

 そろそろ穂乃果達が、思い出したように告白の件を騒ぎ出す頃だろう。

 どうやって話を逸らそうかと考えていた時だった。

 

 ことりが奇妙な反応で話しかけてきた。

 ちょい珍しい反応だ。

 

「えと……、あのね……?」

 

「どうしたんだ? 様子が変だぞ。体調悪いのか?」

 

 いつもの感覚で、ことりの額に触れようと手を伸ばした。

 

「ひゃい?!」

 

 っと奇妙な声と共に仰け反られた。

 なんというか、触れられたくないみたいな反応に感じてしまい、少し傷ついた。

 

「あー……、すまん」

 

「えっと……、私の方もごめんなさい」

 

 気まずい。

 この場所から逃げ出したい気持ちもあるが、目の前の書類を片付けないといけない。

 とりあえず、カシャカシャとプリントをホチキスで留めていく。

 

「あの、優君の好きな人……」

 

「またその話かよ。前にも的外れな事言ってただろうに」

 

 カシャカシャ、カシャカシャとホチキスの音が俺とことりだけの教室に響く。

 動揺を誤魔化す為に、ひたすらホチキスを動かし続ける。

 我ながら弱いとも思うが、中学生の人生経験では喚き散らしたり、逃げ出さないだけマシだと自己完結をする。

 

「穂乃果ちゃんがね……」

 

「またあのアホ娘か。先日のきな粉アンコの刑では足りなかったと見える……」

 

 オレの自腹だが、たっぷりとごちそうしてやった。

 アイツの家のアンコは質は良いが、学生にはきつい値段設定だった。

 しばらく、オレの昼食のパンの値段をワンランク下げる必要があるなぁ。

 

「私だって言うの……」

 

 世界が凍る音が聞こえた気がした。

 

 知られた?

 穂乃果も海未もいたずらに人の恋愛感情を言いふらすやつらではない。

 あれか? 二人が話しているのを聞いたのか?

 可能性はそれが高いが……。

 

「あの、ことりは……」

 

 震えている。

 気づいてしまった。

 

 ことりが胸の前で組んでいる手が、震えていた。

 そして、目頭が潤んでいるのも気づいてしまった。

 

 今の関係が、この距離感が壊れるのを恐れている。

 

「そうだな、穂乃果の奴も、ことりも、海未もみんな大好きだ。大切な幼馴染だからな」

 

 言ってしまった。

 たぶん、この言葉が今の関係を長く固定してしまいそうだが、ことりが泣きそうだったのだ。

 

 受け入れてくれるのか? 拒絶されるのか?

 わからないが、関係が壊れることにためらっている。

 

 なら、オレはことりの笑顔を崩さないような選択をしよう。

 こいつの涙が引っ込むなら、笑顔が続くなら、オレは何度でもこの選択をしよう。

 

 これがオレのことりに対する好きという感情だ。

 

 

********************

 

 

~現在~

 

 こんな事が中学時代にあったわけだ。

 

 恥ずかしすぎる!!!?

 

 何が「好きという感情だ。」だ!

 自己犠牲の元に相手を救うとか、中二かよ!?

 ……当時中二だったよ!!!

 

 脳内を沸騰させるような羞恥! いっそ殺してくれ!!

 

「えっと……忍ぶ恋も……素敵だと思うなー」

 

「よっしゃ、穂乃果テメェは今日これからきな粉アンコの刑に処す」

 

「藪蛇だった!?」

 

「傷口に塩を塗り込むような真似をするからです。大体、こうなった原因は私達ですよ?」

 

 海未の奴は、当時土下座せんばかりの勢いで謝ってきていた。

 こいつは真面目だからなぁ。

 

 高校を卒業すれば、たぶんオレとことりは別の進路を進むだろう。

 

 それまでにこの曖昧な状況にケリを付けなきゃな。

 

 ことりは服飾関連の世界に飛び込むだろう。

 だとしたら俺がやるべきことは、いくつか考えているが、それもこれもケリが付かないとダメだ。

 

 カバンの中にある経営学の参考書。

 

 もし、恋が叶ったなら……。

 もっと専門的な参考書を買おう。

 

 サポート、したいんだよ。

 だから、高校生活を満喫しつつ、恋愛も頑張る。

 

 それがいい。

 

 さて、とりあえず今は穂乃果の口にきな粉を投入する為に小遣いを叩こうかね。

 バイトしてる人間の財力をなめるなよ!




いかがでしたでしょうか。

佐藤優一は、幼い頃から穂乃果達と一緒に居た設定です。
そして、今日まで後片付けをやりつつ一緒に居ました。

彼が音ノ木坂に居るのは、共学化のテストケースを探す際に、穂乃果達に説得されて、理事長のことりママンが、この子なら大丈夫だと許可された経緯があったりします。

家族半ば公認です。
モゲルと良いよ。

それでは、感想とか評価とか頂けると、モチベーションアップに繋がります。
中には誤字脱字報告もしてくださる人も居て、嬉しいやら恥ずかしいやらの感情が渦巻いております。
いつも読んでくださってありがとうございます。

次回もよろしくお願いします!


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第6話 料理長補佐

 どうも、最近ウーロン茶ばかり飲んでいる気がするオルカです。

 ティーパックを買って、2Lペットボトルで水出ししてます。

 実家から餅が届きました。
 余ったら、フライパンにサラダ油をしいて、弱火でチリチリと両面を焼くと程よくカリカリになるので、そこに強火にした鍋肌に醤油をサッと投入して焦がし醤油にしてあげると、カロリーの塊なジャンクフードができます。

 カリカリ、トロトロなのでやめられない。

 正月の体重増加の原因でもありますが、やめられないのです。


 ワグナリアのメニューは幅広い。

 ラーメンやドリア、パフェやサラダ。

 海鮮丼やかつ丼なんかもグランドメニューに存在している。

 

 そこに季節のフェアメニューやコラボイベントのメニューが増えてくるので、調理手順なんかが混乱するほど存在している。

 

 ここで、ワグナリアのメニューの決定方法を教えよう。

 

 料理研究部の様なメニューを決定するチームが決定するか、各店舗の料理長が定期的にレシピを提出してコンペのような形式で決定する。

 

 各料理長は定期的にオリジナルのレシピを考案し、本社へ提出する。

 

「そんでもって、この店では料理長は料理長補佐の松岡にその仕事を投げっぱなしにしてる訳」

 

「他人事だからって、気楽に言ってくれるな矢澤」

 

「知ってるかしら? 月末の夕方帯のシフトの人気って高いのよ?」

 

 大体予想ができるのが微妙な気分になる。

 先ほども語ったが、月末あたりから本社へ提出する試作品レシピを賄いで作り始める時期だ。

 評価をしなければならないが、目新しい料理を食べられるからか、望んでくれている人も多い。

 

「そうにゃ、松岡さんの新作はみんなの楽しみだから人気も出てるよね」

 

「そうなんっスね。でもそれって料理長さんが怒られないんですか?」

 

「あはは……、松岡さんには悪いんですけど、料理長さんの権限の一つなんですよ」

 

 南の言う通り、料理長の権限に代理権限者を立てられること、自身の仕事を代理権限者へ委譲できることになっている。

 店長も同様だが、不在時の命令系統の保持の為の権限だ。

 

 夕方帯は店長のメイン出勤帯になるので、フロア側での店長代理は居らず、フロアチーフが店長不在時のトップとなる。

 料理長代理は店全体での権限としては店長、料理長に次ぐ権限者となっているので、夕方帯は店長の次の責任者になってしまっている。

 何度も思っているが、大学のバイトに何を求めているのか。

 

「というわけで、アンタの今月の新作早く出しなさい」

 

「追い剥ぎかテメェは……。今日は矢澤に南、星空と原田、東條か。今持ってくるから待ってろ」

 

 キッチンへ行き、皿ごとオーブンから出すと、皿をお盆に乗せて運び出す。

 フツフツと脈動するかの様に動くチーズ。

 フワッと鼻腔をくすぐるチーズの匂いの裏に寄り添うように有る海鮮独特の香り。

 

 ズシッと手に伝わる重さ。

 キッチンミット越しに伝わる熱。

 

「うん、良い焼き加減だ」

 

 エビとホタテの海鮮ドリア。

 小さいエビとホタテを使った新作のドリアだ。

 ライスを少なめにエビとホタテを多めに入れた既存レシピとは別路線にした一品で、コスト削減をメインに置いている。

 

「ほい、お待たせ。『エビとホタテの海鮮ドリア』だ。熱いから気を付けろよ」

 

 テーブルに座っている東條達に配膳。

 全員、待ってましたとばかりに目を輝かせてくれているが、毎回この瞬間は緊張する。

 

「ボイルしたエビとホタテをたっぷり使ったからホワイトソースとライスの量が少し抑えられている。まずはご賞味あれってな」

 

「「「「「いただきます!」」」」」

 

 

********************

 

 

 評判は上々。

 後はレシピを本社へ送って今月のコンペ終了。

 

「う~ん、やっぱり松岡さんのラーメンの新作が食べたいにゃ~」

 

「本格ラーメンとなると、ベーススープから作ることになるからファミレスじゃ難しいっつの」

 

 それこそ、専用の寸胴鍋に魚の頭やら数種類の野菜を煮込むことから始まる。

 さすがにキッチンの一角を占拠するほどの設備が必要になるし、仕入れも恐ろしいほどに管理が必要になる。

 ファミレスでそれは現実的ではない。

 

「そういえばマッツンって賄いにはいろいろ手を加えてるっスけど、お客に出す皿には手を加えないっスよね」

 

「ああ、賄いはお前らの体調や様子を見て手を加えてるだけだからな。それにチェーン店の料理に手を加えるのはダメだろ」

 

「そんなもんっスか」

 

「そんなもんだ」

 

 原田の言う通り、俺はスタッフの賄いにアレンジを加えている。

 例えば、星空が元気そうだと、腹も空くだろうと期限ギリのチャーシューを加えたり、逆に体調が悪そうだと油を落として野菜を多く入れる。

 医食同源ということわざがあるが、要は食事で持ち直すなら薬に頼らずにっという発想だ。

 

「ちなみに……。俺はある程度冷蔵庫の食材を覚えててな?」

 

 その言葉にビクッと特定の二人の肩が跳ねる。

 心当たりがあるのだから当然だが、逃がすつもりはない。

 

「へぇ、さすがマッツンだな」

 

 佐藤ちゃんも感心したようにつぶやく。

 そりゃ、料理長補佐なんて役職貰ったんだからある程度は仕事しないとね。

 

「ああ、なるほどなぁ。にこっちと凛ちゃんは知ってた~?」

 

 にやりとした笑みをコッソリと休憩室から出ていこうとする二人に投げかける東條。

 ナイスだ、ビクッと動きが止まった瞬間に、二人の後頭部を鷲掴みにする。

 

「あぅ!?」

 

「にゃ!?」

 

 女の子の頭を掴むのはマナー違反ってか?

 残念ながらお仕置きと説教が必要な時はマナーよりもルール違反を優先して対処するのが俺のやり方だ。

 

「さて、ラーメントッピング用のチャーシューとメンマ。後はデザートの杏仁豆腐、ゴマプリン、マンゴープリンをパレットで作ってた分が無いわけだが……」

 

 パレットと言うのはそれなりに底の深い金属容器で、イメージとしてはA4のコピー用紙を二枚並べたぐらいの大きさと手の指程度の深さがある容器っといった所か。

 

 大きさは色々あるが、食材の保管や揚げ物のパン粉や溶き卵を入れておくのに便利だ。

 そのパレットに杏仁豆腐やゴマプリンを流し込んで、冷蔵室で固めると一度に大量に作れる。

 大きめのスプーンで小皿に一定量盛り付ける形でお客に出しているのだが……。

 

「パレットに至っては三分の一は残ってたぞ? 5人前は余裕であったはずなんだがなぁ」

 

「うわ、マッツンおっかないっスわ」

 

 普段あまり怒ったりしないからそう見えるのかもしれない。

 だけど、この二人は何度言ってもやりやがるからな!

 

「あんな? にこっちと凛ちゃんってつまみ食いの常習犯なんよ。ホール側でもパフェ用の生クリームとか何回かやられたし……」

 

 コソッと東條が原ちゃんに耳打ちで状況を説明している。

 ほうほう、パフェ用の生クリームもあったんだったなぁ。

 

「あ、あはは……。何度か注意してるんですけど……」

 

「自業自得だことり。オレやマッツンがいくら注意してもサラッとつまみ食いするからな。一度しっかりと絞られた方がこいつらの為だ」

 

「コラ! 佐藤! アンタにこを見捨てる気?!」

 

 手足をバタつかせながら、佐藤ちゃんへ抗議する矢澤。

 器用だな。

 

「見捨てるも何も、何度も注意したぞ? マッツンに報告してない分も多々あるし」

 

「むしろ今バレたわよねソレ!?」

 

「絶対確信犯にゃー!!」

 

 二人とも暴れるにも力が入ってくるが、たった一言でいい。

 店長へも許可は取ってあるのだ。

 

「二人とも明日から一週間、従業員用、客用のトイレ掃除当番だ」

 

 二人が絶望した表情でこちらを見てきたが、お仕置きだ。

 これぐらいじゃなくては懲りないだろこいつらは。

 

********************

 

 

 別室へマッツンに連れていかれた矢澤先輩と星空さん。

 佐藤ちゃんは笑いをこらえているし、南さんは苦笑いをしつつ困り顔。

 

 東條先輩はイタズラ好きの笑みを浮かべていた。

 

「あの、トイレ掃除って確かに嫌っスけど、罰になる程なんっスか?」

 

 素朴な疑問。

 学校のトイレ掃除とかの当番は確かに嫌なものだが……。

 

「ん? ああ、原田君は知らんのか。飲食店というか客商売でトイレ掃除はある意味鬼門なんよ?」

 

 イタズラ好きの笑みを崩さないまま、楽しそうに俺に説明を始める東條先輩。

 そんなに?

 

「結構働いて来て、原ちゃんもお客に色んな人がいるって分かるだろ?」

 

「え? まぁ、頭沸いてるんじゃねぇかって人も偶に来ますよね」

 

「トイレの使い方も……その、色々な人が居るんだよ……ね?」

 

 南さんの一言で理解できた。

 まともな用の足し方をする人ばかりじゃないのか。

 

 学校だったら自分らが掃除したり使ったりする場所だし、そんな使い方をする人はいないだろう。

 

 だけど、何度も来るかもわからない店のトイレだ。

 ひどい使い方をする人も居るのだろう。

 

「ちなみに一番ひどかったんはな。酔いつぶれてもどしたお客様が使こうた後やな」

 

 うわ、なにそれやりたくない。

 なるほど、そりゃ罰になるか。

 

「ファミレスで泥酔するまでよく飲めるよなぁ」

 

「ビールと酎ハイしかないのにね」

 

「滅多にはおらんけど、居らんわけやないし、玲央君も気を付けてな?」

 

 ホール側にも立つようになったし、恐ろしい情報だ。

 できれば、そんな客には当たりたくないが……。

 

「原ちゃんよ。ここで一年ほど働いているオレからアドバイスだが、そういう珍客にはな……」

 

 佐藤ちゃんが水を飲みながらため息交じりに漏らした言葉がなかなか真理を突いている気がした。

 

「慣れと諦めを持って対応する……だな」

 

「いや、どうなんっスかそれ?」

 

 いやまぁ、対応し切れないのも分かるけどね?




 いかがでしたでしょうか。

 独自設定と独自解釈が多々あります。
 チェーン店のメニュー決めは、基本的にメニュー開発室の様な部署があってそこで行われているの事が多いです。

 全国の料理長がコンペ形式で提出するなんて、私の学生時代のバイト先ぐらいじゃないかな?
 数か月に一度、死にそうな顔した料理長を見てた私はキッチンとホール兼任者でしたね。
 懐かしいなぁ。

 それでは、良ければ感想や評価を頂ければ、やる気と嬉しい感情が燃え上がるので、お願い致します。

 質問もあれば、お気軽に!


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第7話 勉強会

 どうも、みずしろオルカです。

 色々とメッセージを頂きまして、応援のコメントがとてもうれしいです。
 やっぱり感想とかメッセージがあるとモチベーションアップに繋がりますね。

 徐々に関係性を変化させつつ、変わらない部分を……難しいですね。


 私の幼馴染の凛ちゃんが、どうやら恋をしているようです。

 と言っても私が見ただけなんですが……。

 

 ファミリーレストラン『ワグナリア』。

 スクールアイドルの活動費の為に何人かはアルバイトをしています。

 私もスーパーの託児所でアルバイトしてるし、希ちゃんなんてワグナリアと神社を掛け持ちしている。

 

 穂乃果ちゃんは実家の和菓子店を手伝ってる。

 絵里ちゃんは生徒会のお仕事が忙しいから私達で止めている。

 海未ちゃんは部活動の方を優先している。

 

 その代わり、μ's活動の部分を支えてくれる立場に立ってもらっているし、ありがたいです。

 

「かよちん、かよちん! 松岡さんがね! チャーシューオマケしてくれたんだよ」

 

 お昼休みにそれぞれのアルバイトの近況報告みたいな形で雑談をしている。

 今日は一年だけ。

 二年は課外授業で外での食事みたいだし、三年は調理実習でそのままご飯になるらしい。

 

 凛ちゃんの松岡さん話はほぼ毎日な様な気がする。

 私も真姫ちゃんも会ったことも話したこともある。

 μ'sのメンバーで凛ちゃん達のアルバイト先に食べに行って、その時に会った。

 

 ことりちゃんや穂乃果ちゃん、海未ちゃんの幼馴染の佐藤さんも一緒に働いていたし、結構ワグナリアで会議とかやったりするんですよ。

 その時に、さすがに客席を長時間占有するのはいけないという事で、松岡さんが休憩室を貸してくれました。

 

「凛って、いつも松岡さんの話ばかりしてるわよね」

 

「そうかな?」

 

「そうよ、私も花陽もそんなに松岡さんと話したことないのに、人柄把握してるし……」

 

 主に苦労人というイメージなんだけどね……。

 そして、松岡さんには私たちの話が良くされているらしい。

 

 先日、松岡さんに

「ああ、小泉さんですか。西木野さん共々、星空から話は聞いてますよ」

 と、笑顔で言われたときは、色々と凛ちゃんに問い正したくなった。

 

「うーん、そんなに話してないと思うけどなぁ」

 

「凛、三日連続で松岡さんの話なの気付いてる?」

 

「え!? そんなにかにゃ!?」

 

 正確には昼食の時の話が三日連続なんだけどね。

 私は登下校時もあるから、あまり会っていない人なのに、妙な親近感があるんだよね。

 

 これだけ私達に話して来るのに恋愛感情が無い訳もないと思う。

 これは本人に自覚があるかどうか、だと思う。

 

 

********************

 

 

 ワグナリアの休憩室。

 私達μ'sのメンバーはよく利用させてもらう場所です。

 

 店長さんがことりちゃんの叔母さんらしいので、色々と優遇してもらって、松岡さんも気を使ってくれます。

 

 自動ドアをくぐると、独特の来店チャイムが店内に響く。

 それに反応して店員が一人、パタパタと足早に来てくれる。

 

「いらっしゃいませ~……って、小泉と西木野か、少し待っててくれマッツンに確認するから」

 

 そう言うと小走りにキッチンへ向かっていく。

 ことりちゃんや穂乃果ちゃん、海未ちゃんの幼馴染の佐藤優一さん。

 

 海未ちゃんが言うには、穂乃果ちゃんが走り出して、ことりちゃんがフォローして、海未ちゃんがブレーキをかける。

 そして、後片付けは佐藤さんがやるのが基本だと言っていた。

 練習の時とかによくドリンクを差し入れしてくれたりとμ'sの活動を色々と支えてくれている一人でもあります。

 

「おう、いらっしゃい。店長から許可は貰ってるから、休憩室使いな」

 

 そう言って、松岡さんが奥から出てきて私達を休憩室へ案内してくれる。

 なんでも、一応は責任者が案内しないとセキュリティ上、良くないと言っていました。

 

「お邪魔します」

 

「よろしくお願いします」

 

 真姫ちゃんと二人で頭を下げて、松岡さんの後ろをついていく。

 店内はあまりお客さんは入っていないみたいで、さっきの佐藤さんがファミリー席のお客さんにコーヒーを運んでいた。

 

「あ、花陽ちゃんに真姫ちゃん。来とったんやね」

 

 パフェを運んでいる希ちゃんに会った。

 ワグナリアの制服が似合ってて可愛いなぁ。

 

「後で凛ちゃんも休憩入れるからお願いな」

 

 今回は一年組でワグナリアに来た理由がこれなのです。

 凛ちゃんの勉強会!

 

「はぁ、凛が逃げるからいつも休憩室借りることになっちゃってごめんね希」

 

「ええんよ。ウチも赤点組には頑張ってもらいたいしな」

 

 ちなみに、穂乃果ちゃんはことりちゃんと海未ちゃんが付きっきりで教える予定です。

 でもにこちゃんが不安で、絵里ちゃんは生徒会の仕事で、希ちゃんはにこちゃんと休憩が合わせられないから、勉強を教えられない。

 

「にこは大丈夫なの? 流石に私達じゃ三年生の勉強は教えられないし……」

 

「うん、さすがに凛ちゃんとにこっちがホール抜けるとウチは教えられんからな。やから、ちょっとした助っ人頼んでるから楽しみにしたってな」

 

 そう言うとパタパタとパフェを運びに行ってしいました。

 助っ人?

 

「助っ人って誰でしょうか?」

 

「さぁ? ま、休憩室で凛を待ってれば分かるでしょ」

 

 真姫ちゃんと一緒に休憩室の椅子に座ると、松岡さんが再び入って来た。

 手にはお盆。

 

「もう少ししたら、星空に休憩入れさせるから少し待っててな。はい、お茶とお菓子。勉強中に摘むといい」

 

「あ、ありがとうございます」

 

「それじゃ、ごゆっくり。また後でね」

 

 

********************

 

 

 経済・経営系の大学に通っている俺としては、ある程度は高校生の勉強を教える知識はある。

 というか、割と頑張って勉強とかしてたから推薦取れたし、特待生に選ばれて半分の学費で大学に通っている。

 

 その代わり、四年間上位の成績を維持する必要があるけどな!

 

 だけど、そのお陰で普通より安く通えている。

 

「松岡、ここの計算なんだけど……」

 

「どれ……。これはさっきの公式を使うんだ。ここを普通に計算すると、さっきの公式に当てはまるだろ?」

 

「あ、ホントだ」

 

「ひっかけみたいなものだ。公式の形になるように計算してみるといいぞ」

 

 バイト先の休憩室で矢澤と星空相手に、俺と小泉、西木野が教えている。

 ホールから二人も抜けるから流石に東條が矢澤の先生役で入るわけにもいかず、キッチンの俺に白羽の矢が立ったという訳だ。

 

 今は一人前になったばかりの原ちゃんがメインで回してくれているから大丈夫だろう。(適当)

 

「あの、松岡さん。ありがとうございます! にこちゃんや凛ちゃんだけじゃなく私達まで……」

 

 矢澤に教えながら、星空の勉強で小泉達でも詰まった場合は俺が教える。

 まぁ、西木野がすげぇ頭いいみたいだからほとんど無いけどな。

 

「気にするな。矢澤や星空がバイト来れなくなったらこっちも困るからな。それに、大学生だし多少は教えられないとな」

 

 まぁ、英語とかは全然ダメだから教科は選ぶが……。

 英語以外はそれなりにやれるが、英語は教えられるレベルには達していない。

 

 もしかしたら西木野の方が英語は上だろう。

 星空が言うには全教科すごい点数らしいし。

 

「どれ、何か食っていけ。俺が奢ってやる」

 

「そ、そんな……悪いで」

 

「よっしゃ! 松岡! デザートも良いわよね!!」

 

「……いいだろう。ただし、今日の予定分を全部終わらせるならだ」

 

 グダグダしている分、勉強の進みは悪い。

 エサでも出して、やる気を上げないと心配になるレベルだ。

 

「ほら、星空も……肉野菜炒め味噌ラーメンでどうだ?」

 

 チャーシューではなく、肉野菜炒めをたっぷりと味噌ラーメンに盛り付ける賄いで、星空の好物だ。

 まぁ、野菜と肉の期限が切れそうじゃないとやらないから、中々出せない。

 今回は、自腹を切っていい思いさせるか。

 

「ホント!? 松岡さん、いつも頼んでも作ってくれないから、食べられるなら勉強も頑張るにゃ」

 

「現金な奴だな。ほら、小泉さんと西木野さんも頼むといい。功労者には相応の報酬が必要だよ」

 

 四人分の注文を聞いた後、調理の為に一度休憩室を出る。

 その際にチラッとホールを見たが、ほとんど客が入っていない。

 まぁ、いつもの状態だ。

 

 キッチンは、原ちゃんがバタバタと慣れない手付きでだが、調理をしている。

 一品ずつ作ることもあるが、殆どは並行作業。

 品を完成させても、盛り付けの時に内容が取っ散らかることもある。

 

「原ちゃん、勉強組に賄い作るからこっちの一角使うぞ」

 

「うえぇい!? やりながらでいいんで、手助けしてくれないっスか!?」

 

 どうやら、取っ散らかっているようだ。

 まぁ、何事も経験だが、やり方を見続けて、自身に取り込む事が原ちゃんには必要だ。

 放置は成長するかもしれないが、同時に間違ったスタイルに行きやすい。

 取っ散らかった頭の中を落ち着かせる為にも、手伝うべきだ。

 

「わかった、わかった。2番卓と4番卓は引き受けるから残りはちゃんとやってくれ」

 

「了解!」

 

 取っ散らかったなら、処理する個数を少なくすれば、スムーズに行ける。

 面倒な卓番の注文を引き受ければ、さすがはキッチン&ホールの兼任者になる事をアルバイト初日から東條に決められていただけはあり、すぐに処理を始める。

 経験さえ積めば、まだまだ伸びる。

 

 ……俺の代わりに料理長補佐(生贄)になれるかな?

 

 その日の勉強会は予定よりも矢澤と星空の勉強の進みが良く、小泉達に感謝された。

 同時に俺の財布は軽くなったが……。

 

 社員割効いてても俺含めて五人分はお財布にダメージがあったか……。




 いかがだったでしょうか?

 彼女たちの魅力を引き出すにはまだまだ修練が足りないです。

 次の話は誰になるか……お楽しみに!

 よろしければ、評価や感想をお願いいたします。
 作者のモチベーションアップに繋がります!


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第8話 ツマミ食い

どうも、遅くなって申し訳ありません。みずしろオルカです。

ハンター業に勤しみつつ、最近調査兵団に入団していた為、遅くなりました。

スラッシュアックスばかり使っていてそろそろ別武器を使おうと画策中。

それはそうと、空き時間にラブライブとWORKING‼を通し視聴してきました。
雰囲気ってやっぱり浸らないと分からないものですね。

それではどうぞ!


 ワグナリアで数少ない兼任者と呼ばれるスタッフがいる。

 矢澤にこと原田玲央。

 

 ホールをメインで働いているのが、矢澤先輩だ。

 

 つまみ食いやイタズラを頻繁に行うのが悩みどころだが、それ以上に汎用性に富んでいて、ホールとキッチンの両方をこなせるという技術は強みだ。

 

 矢澤先輩は時給が上がるというメリットを取って兼任者という立場を選んだようだ。

 見習い<一人前<兼任者≦チーフ=料理長補佐の順で時給が変わってくる。

 

 原ちゃんがこの前、研修バッジが取れて一人前になると同時に、キッチンメインの兼任者として登録された。

 東條先輩が流れで兼任者にしてしまったというから始末が悪い。

 

 あの人もイタズラ好きだからな。

 ただ、人との距離感が上手いというか、苦笑いで許してしまうような程度のイタズラだ。

 

 本人の人柄もあるんだろうけど。

 

「優君。にこちゃん見なかった?」

 

「矢澤先輩? いや、キッチンじゃないか?」

 

 雨のせいでお客の足元が汚れている。

 だから、軽くモップがけをして泥とか水滴を掃除していた。

 

 人も少ない今ならサッとできるからな。

 

「原田君も知らないみたいなの。松岡さんは休みで、そのヘルプでキッチンに入ってるのかとも思ったんだけど……」

 

 というか、その構成でシフトが組まれていたはずだ。

 店長が矢澤先輩にそう頼んでいたのを覚えている。

 原ちゃんも一人前まで成長したけど、まだメイン一人で任せるのは不安というマッツンの話で原ちゃんがメインで入る日は矢澤先輩がキッチンに入っている。

 

 そして矢澤先輩がキッチンに入るという事は、ホールが減るので東條先輩やオレ、ことり、星空の中から三人がホールに入る。

 今日はオレとことり、東條先輩が入っている。

 

「……マッツン今日いないよな?」

 

「え? うん、松岡さんは休みだよ」

 

 抑止力が居ないという事は、やりたい放題という事だ。

 

「冷蔵室行くぞ」

 

「え?」

 

 嫌な予感というか、行動パターンというか、予想が外れてて欲しいけど……。

 無理だろうなぁ。

 

 

********************

 

 

「せやから、多少のつまみ食いは松岡さんが黙認してくれてるけど、度が過ぎるとお仕置きされるって分かっとるやんな?」

 

「いや、あの……冷蔵室じゃなくて休憩室でいいんじゃ……」

 

 チェーン店や大きめの飲食店だと、大きめの冷蔵室があって、中に電気なんかも点けられるから問題ない。

 中は結構広いからなぁ。

 入る時用の防寒着が入口にかかっとる程には広い。

 

「ん?」

 

「……なんでもないデス」

 

 なんや、さすがにデザートのパット食い現行犯で見つかったんは、堪えたかな?

 そして、作り置きのデザートと小鉢の状況の確認と管理簿の記入をやりに来たウチと鉢合わせって訳やな。

 結構長い時間冷蔵室に入る予定やったから、防寒着も装備しとるし、問題ないと思う。

 

「松岡さんも玲央君も材料無駄にしないで作り置きしてくれとるし、にこっちも期限ギリの選んでるんは分かるけどな」

 

 ワグナリアの様なチェーン店は、デザートが出来合いのモノが直接納入されるか、既定の材料が送られてくるのが普通だ。

 それを作り置きで冷蔵庫に保存してる。

 

「そりゃ、松岡さんと玲央君がデザートの味を再現できるようになったけど、それでも食べ過ぎだと思うんよ。それにこの前、松岡さんの吸ってる煙草にハッカ油を垂らすイタズラもしとったな」

 

 喫煙所で盛大に咳き込んで、深呼吸しようとしてハッカ油の清涼感でまた咳き込むというループをしてた。

 落ち着いてから、「矢澤ぁぁぁぁぁぁ!!!」って叫んどったしなぁ。

 タバコの事はよう知らんけど、そういう吸い方をすることもあるらしいし、気を抜いたところでの完全な不意打ちだったから(むせ)たとの事。

 

「まぁ、アレは松岡さんが直接制裁しとったし、そこはええとしても。今回のつまみ食いのお仕置きは必要やと思うんよ」

 

 ビクッとにこっちの肩が跳ねるのが見える。

 ああ、何をされるか分かっとるんやろうね。

 WASHI WASHIは必要やろうなぁ。

 

「えっと……冗談……よね?」

 

 幸い冷蔵室で逃げ場も無いし、思う存分とWASHI WASHIできる。

 そう考えて、手を伸ばそうとした瞬間。

 

「矢澤先輩! まさかデザートつまみ食いしてないですよね!?」

 

 ガチャっと音を立てて冷蔵室の扉が開けられた。

 佐藤君とことりちゃんだ。

 しまった、外部の介入を考えてなかった。

 

「チャンス! でかしたわよ佐藤!」

 

 そう叫ぶとスルッと小柄な体を生かして二人の間をすり抜けて出て行ってしまった。

 これは追いかけないといけない。

 

「佐藤君、ことりちゃん。デザートの被害状況確認しといて! ウチはにこっちを追いかけるから!」

 

 二人の間を通ってにこっちを追いかける。

 あの子すばしっこいからなぁ。

 前も撒かれたし、見失うわけにはいかない。

 

「にこっち~、待ちぃ~!」

 

 

********************

 

 

 客がいない時、ホールスタッフやキッチンスタッフは何をやっているか。

 掃除だったり、仕込みだったり、意外と仕事はあるものだ。

 

「あれ? いくら客が居ないからって、ホール誰も出てねぇのはまずいんじゃね?」

 

 今日は希先輩、佐藤ちゃん、南さんだったはずだけど。

 しかもキッチン側のヘルプに入ってくれているはずの矢澤先輩も居ない。

 

 仕込みがひと段落したから周囲を確認してみると、誰も居ない。

 いやいや、ホラーじゃないんだから。

 

「冷蔵室の方から話し声聞こえるし、在庫管理でもしてるのかね?」

 

 煮物系の小鉢が完成したし、後は盛り付けて、粗熱を取ってからラップをし、冷蔵室へ保存する。

 

 割と煮物系の作り置きは保存時に気を遣う。

 粗熱を取らないとすぐに悪くなるからだ。

 

「マッツンは今日休みだし、俺が頑張らねぇとなぁ」

 

 キッチンの仕事は一通りできると先日マッツンから合格を貰えたわけだが、一通りできることと一日を問題無く通して勤務できるかは別問題なのだと言っていた。

 マッツン曰く、「五回リフティングができた人間にいきなり百回リフティングをしろって言うのは無茶ぶりだろ? 大切なのは五回出来たリフティングを十回、二十回と増やしながら確実にできる様にして、百回を目指すことだ」との事。

 

 分かり易いのか分かり難いのかが、分からないっスよマッツン……。

 

「矢澤先輩! まさかデザートつまみ食いしてないですよね!?」

 

 ん?

 佐藤ちゃんが冷蔵室の方で叫んでるな。

 

 また、矢澤先輩がつまみ食いしたのか。

 マッツンもいい加減何らかの制裁を加えるべきだろ。

 

「まぁ、マッツンも矢澤先輩も仲がいいからなぁ」

 

 見ていると喧嘩するほど仲がいいを地で行っている関係だ。

 男同士だってそういう関係は滅多に無いと思う。

 

「さて、煮物を小皿に取り分けるかな」

 

 鍋ごと冷めるのを待つより、小皿に盛り付けてからの方が早く冷める。

 中々使える豆知識を仕事で得たものだ。

 

 煮物の鍋を持ったまま、小皿が並べてあるところへ運んでいると……。

 

「原田! どきなさい!」

 

 その言葉が聞こえて、振り向く前に鍋を持った手元近くに気配を感じて慌てて鍋を上にあげる。

 危なかった。

 煮込みたてのこの鍋が、万が一ぶちまけられたら、矢澤先輩が大火傷を負うところだ。

 

「あぶねぇ!? 矢澤先輩、気を付けて……!?」

 

 鍋を上げた状態で注意しようと声を上げたが、最後まで言い終わる前に、グワシッという効果音が出そうな勢いで胸を掴まれた。

 なんだ!?

 しかも、まさぐられる様な感覚とフワッとしたいい香りが後ろから感じた。

 

「捕まえたでにこっち……って、にこっち随分固くなったなぁ」

 

「いや、希先輩、俺っス、原田ッス」

 

 ああ、これがWASHI WASHIなんだな。

 まさか身を持って体験するとは思わんかったが……。

 

「え? キャァ!?」

 

 短い悲鳴と共に、抱き着かれたような状態になっていた手は離れてくれた。

 危なかった、鍋も俺の方も……。

 いやぁ、かわいい声だなぁ。

 

「ご、ごめんな玲央君。にこっちが上手く避けたみたいで……」

 

「あー、気にしてませんので大丈夫ッス。それより、希先輩火傷とか大丈夫っスか? 熱い鍋持ってるんで……」

 

 見た所火傷とか怪我は無いようだし大丈夫だろうが、一応確認する。

 

「うん、ウチは平気。いやぁ、にこっちに逃げられたわ」

 

 アハハ~っと、恥ずかしそうに笑う希先輩の表情は俺にグッとくるものがあった。

 赤面した希先輩とかめったに見れないからね!

 

「ああ、マッツンに報告しとくんで今日の所は良いんじゃないっスかね?」

 

「せやね、明日にこっちが怒られるんは忍びないけど、しゃあないかな!」

 

 哀れ矢澤先輩。

 マッツンのお仕置きがまた味わえるよ!

 




さて、前書きでいろいろ書いておりましたが、筆が止まってしまっていたのも事実です。

友人に相談した所、「ひとつのネタで詰まるなら、別のネタを用意して詰まったらネタを変えたり、新しいネタに切り替えるとまた書けるようになるぞ」
と、助言を貰いました。

何か新作か、止まっている作品を更新するかもしれませんのでその時は楽しんでいただけると幸いです。

それでは、評価や感想を頂けるとモチベーションに繋がりますので、ぜひお願い致します。


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第9話 気遣いと夢とせつなさと

 どうも、みずしろオルカです。

 時間がかかった上に、今回は短くて申し訳ございません。
 オリキャラ三人の設定を出していかなと話を進めづらいのです。

 活動報告にも書きましたが、色々つまり気味で、楽しみにしたくださっている方には申し訳ないのですが、不定期投稿になる事をご了承ください。

 それでは、本編をお楽しみください。


Live版 WORKING!! 第9話

 

 

 私、星空凛には兄の様に慕っている人がいる。

 お姉ちゃん達が居る中で、弟と妹が欲しいと思った事は結構あるけど、お兄ちゃんは敵わない夢だった。

 

 スクールアイドルとして活動を始めて、アルバイトをことりちゃんの紹介で始めて、そこで松岡さんに出会った。

 

 大学生で、料理長補佐って肩書を持っていて、同い年の男の子みたいに変に距離を詰めて来ないで、それでいて周りを見ていてくれる。

 

 親以外で深く関わった初めての大人の男の人。

 第一印象は寡黙な人だと思った。

 

 挨拶をすれば返してくれるし、話しかけられれば会話も弾むけど、基本的に松岡さんから話しかけるところを見たことは無かった。

 

 そんな松岡さんの優しさに気付いたのは、偶々ことりちゃんと休憩が重なった時。

 私はいつもの様にラーメンで、ことりちゃんがグラタンを賄いで松岡さんへ注文していた。

 

 ことりちゃんのメニューを見た時に違和感を覚えた。

 いつもお客様へ運んでいるグラタンと明らかにチーズの量が違った。

 

 気になり始めると、色々と目についてくる。

 私のラーメンもメンマやネギなんかのトッピングが普通より多く入っている。

 

「あれ? ことりちゃん、これってお店の料理と違うよね?」

 

「うん、松岡さんって時々賄いでオマケしてくれるんだ」

 

 ことりちゃんは知っていたみたいで、笑顔で食べている。

 野菜が多めに入っているのか、チーズの隙間から緑黄色野菜が多く見えるから健康に良いと思う。

 

「松岡さんってどんな人?」

 

「松岡さん? そっか、凛ちゃんは入ったばかりだから知らないんだね」

 

 ことりちゃんは元々ここのウェイトレスとして働いていて、μ'sのメンバーでアルバイトをしようと提案された時に、ここを推薦してくれた。

 

 だから、ワグナリアの夕方帯スタッフの中では松岡さんの次に長く働いていることになる。

 その次が佐藤さんになるらしい。

 

「近くの大学の学生さんらしいんだけど、アルバイトに来てからすぐに料理長に気に入られて、料理長の技術を教え込まれて、夕方帯の責任者になったんだって」

 

 料理長の顔を見た事無かったけど、松岡さんに任せているから夕方帯に出てこないのかもしれない。

 少し女の人と話している時に一歩引いたような印象がある人。

 

 にこちゃんとよく言い合っている印象がある。

 

「みんなの好きな食べ物を良く知ってるし、体調とかを見てトッピングとか変えてくれるからスタッフの中だとかなり松岡さんの料理当番の時の人気って高いの」

 

 そう言われてここ数日の賄いを思い出してみる。

 元気いっぱいだった時は、チャーシューとかひき肉とかが多くトッピングされていたし、ちょっと落ち込んでいた時とかはメンマとかお野菜が多かった。

 その時は気づかなかったけど、思い出せば出すほどにいろんな気遣いが見えてきた。

 

「ふーん、あまり話したこと無かったから知らなかったにゃ」

 

「凛ちゃんって初対面の人ってワンクッション置くもんね」

 

 そんなつもりじゃなかったんだけど、そう言われれば自覚がある。

 ちょっと恥ずかしい。

 

 その日から松岡さんへの印象が少しずつ変わっていった。

 

 

********************

 

 

 俺は料理長補佐と言うアルバイトにはちょっと過ぎた役職を貰っている。

 ワグナリアの職場で、仲の良い人間は夕方帯のバイトに多い。

 稀にヘルプで午前から入ることもあるが、基本は夕方帯をメインに勤務している。

 

「マッツンって、本当に矢澤さんや星空さんと仲が良いよな」

 

 喫煙所で佐藤ちゃんからそう指摘された。

 確かに、東條や南とは普通に話すが、あの二人は遠慮と言うか壁が他のメンバーよりも無いかもしれない。

 

 矢澤は接し方に遠慮がないから、徐々に対応が変化して行って今の形になっている。

 星空は最初こそ双方に壁があるような他人行儀というか、普通のアルバイトの同僚程度……といった関係だった。

 

 俺個人としても踏み込むことも無く、無難な会話と無難な接触。

 これを崩してはいなかった。

 

「うーん……。一定以上の接触が多いからからな? 東條や南なんかは距離感一定だろ?」

 

「だな。マッツンって彼女居らんの? バイト先の女の子とか矢澤さんと星空さん以外に仲良い人居ないけど……」

 

 サラッと失礼な。

 まぁ、大学生にして彼女いない歴更新中の身の上では説得力はないけどねえ。

 

「居ないな。俗に言う『いい人』止まりが多いタイプだ」

 

「あー」

 

 納得したような顔でそう呟く佐藤ちゃん。

 悲しいかな、その認識は友人全般に納得されたからな。

 怒りも起きない程にいつもの事である。

 

「納得しやがったな『忍ぶ恋』」

 

「それを今口にするんじゃねぇよ、『都合のいい人』」

 

 ただ、いつもの事であっても、ツッコミって大事だと思うんだ。

 手痛い反撃を食らっても仕方ないのだ。

 少し目尻が熱くなってきたな。

 

 双方こめかみ辺りに青筋が見えている気がするが、一種のコミュニケーションで済む。

 同性同士ならこの程度の言い合いも出来るのだが、こと女性となると一歩以上引いてしまう。

 

 友人からも良く言われる俺の欠点だそうな。

 

「マッツンの相手の事を立てるようなスタンツって割と女性受け良さそうなんだけどな」

 

「そもそもが恋愛対象に見られてない」

 

「……あぁ」

 

 憐みの視線を向けられた。

 いや、自虐ネタとして使っちゃいるが、簡単に頷かれると悲しい気持ちになる。

 

「昔、惚れてた女性に恋愛相談されたこともあるぞ?」

 

「やめろ! それ以上自分を傷つけるな!」

 

 割と昔だからもう立ち直ってるんだがね?

 当時は一人部屋で涙を流したものだ。

 

「まぁ、そういう事もあったってことだ。今はバイトしつつ勉強って感じだな」

 

「何目指してんの?」

 

「料理人。大学では経済学と経営学を学んでる」

 

 料理の修行をしつつ、バイト代を貯めて自分の店を出すのが目標だったりする。

 なので、ここの料理長の技術というのは非常に自分にとって大事なのだ。

 

「流石大学生、目標とかしっかりしてるんだなあ」

 

「高校卒業ぐらいである程度は道筋考えておいた方が良いぞ。……ってお前は問題無いか」

 

 思い出すのが休憩室で経営学の本とブティック系の雑誌を読んでいた佐藤ちゃんの姿。

 どこまでもこいつは、筋金が入っていると思う。

 

「あれ? オレ、マッツンに話したっけ?」

 

「休憩中に読んでるモノで予測できるわ」

 

 夢も目標も人それぞれ。

 他人にできることはあまり無いのだ。

 

「……いい参考書知ってるから後で教えるよ」

 

「あんがと、ここは秘密で……」

 

「わかってるよ」

 

 甘酸っぱいなぁ。

 年齢としては、三年前ぐらいかな?

 

 それしか離れていないのに、青春してるな。

 大学生になって恋愛経験平均以下って……。

 

 ちょっとブルーになったある日のバイトの休憩時間。




 いかがでしょうか?

 現在、活動報告にてアンケートを実施しております。
 期間は未定ですが、内容は設定厨の悪い癖でたまっている設定集の中から、いくつか作品化できそうなものを挙げています。

 興味があるものとかが見つかりましたら、コメントで教えていただければ幸いです。


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