チョコボと剣姫の不思議なオラトリア (隣乃芝生)
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チョコボと剣姫

話を思いついたので書いてみました。

よろしければどうぞ。


 薄暗く、地下に広がる洞窟。

 

 

──ピョコ、ピョコ、ピョコ

 

 

 等間隔に付けられた篝火。

 

 

──ピョコ、ピョコ、ピョコ

 

 

 複雑に入り組んだ洞窟の中に足音が響く。

 

 

──ピョコ、ピョコ、ピョコ

 

 

 足音の主は二本の足でまっすぐに洞窟の中を歩く。

 

 

──ピョコ、ピョコ、ピョコ

 

 

 洞窟の向こうに感じる気配は牙を持つ獣か、はたまた武器を持つ人か魔物か。

 

 

──ピョコ、ピョコ、ピョコ

 

 

 それらの放つ気配を感じながらも歩みを止めぬ彼は、恐れを知らぬ勇者か、はたまた無謀な愚者か。

 

 

──ピョコ、ピョコ、ピョコ

 

 

 ・・・とはいえ、彼は人では無かった。

 

 

「クェッ。」

 

 

 大きな瞳に全身を覆う黄色い柔らかな羽毛。飛ぶのには適さない翼。その分走行に適した強靱な脚と丈夫な身体。

 

 

 この世界において『チョコボ』と呼ばれる鳥型のモンスターである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『村の近くに新しくダンジョンが出来た。』

 

 

 彼がモンスター村でその話を聞いたのは昨日のこと。

 

 本来ならばレアアイテムに目を輝かせて突撃するであろう友人は先日、『もうけ話』が出来たと言い彼を置いて村を飛び出したばかりである。

 

 そこで今回は一人(一羽?)でこの入る度にその構造を変える『不思議なダンジョン』に入って行ったのだった。

 

 

 

───ぐう。

 

「クェッ。」

 

 唐突に迷宮に気の抜ける音がした。言うまでも無く彼のお腹の音である。

 

 ダンジョンに潜って早数時間後。襲って来るダンジョンのモンスターを文字通り蹴散らし、階段を何度も降り、拾ったアイテムで一杯の鞄を抱えてスッカリおなかはペコペコであった。

 

 器用に翼で鞄を開けてお弁当──友人の白い少女が持たしてくれたナッツ──を食べようとして───既に食べていたことを思い出す。

 

───ぐぐう。

 

「クエ~~…」

 

 再び空腹を訴えるお腹に、途方に暮れた彼が視線を前に向けると・・・

 

「クエッ!?」

 

 

 

 今居る通路を抜けた先の小部屋のど真ん中、

 

 

 

 

 

 これ見よがしに置かれたソレを見つけた。

 

 

 

 

 

 大きくて張りのある艶々と輝くその名は

 

 

 

 

 

 

 彼の好きなナッツ!しかもごちそうの実!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クエェェ♪」

 

 

 喜び駆け出した彼がナッツに飛び付き

 

 

 

 

───カチリ

 

 

 

 

「…クェ?」

 

 足元からそんな音がした瞬間、彼はナッツ共々姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 かつて、世界に災いをもたらす魔物を生み出す大穴があった。

 

 ソレを塞ぐように立てられた天に聳え立つ巨塔『バベル』と地上に(暇を持て余して)降りた神々とその眷属となり、バベルの地下の迷宮に挑む人々の棲まう大陸きっての大都市。

 

 世界の中心にして最前線『迷宮都市オラリオ』。

 

 その日も何時ものように人々が迷宮に挑み、鋼を打ち、薬を作り、パンを焼き、芋を揚げ、書類を書き、怒り、泣き、笑い、楽しむ──何時もと変わらぬ日々を過ごす。

 

 

 そんな人々の中の一人である彼女もまた、他の多くの冒険者達と同じく迷宮に挑んでいた。

 

 

──コツ、コツ、コツ

 

 

 薄暗い通路に少し早足気味の足音が響く。

 

 

──コツ、コツ、コツ

 

 

 足音の主は見事な金髪を肩を越えるほどに伸ばした、美しい少女。

 

 

──コツ、コツ、コツ

 

 

 彼方此方に返り血を付け、剣を持ちながら歩く。

 

 

──コツ、コツ、コツ

 

 

 その顔にはどこか焦りを含んでいて、

 

 

──ピシリ

 

 

 

 と音が近くの壁からしたのをその耳が捉えた。

 

 

 

「!?」

 

 

 音がした方へと素早く身体と剣を向けた少女の目先には、ひび割れた壁。

 

 この迷宮が魔物を生み出す兆候である。

 

 彼女にとって、最早相手にならぬ上層とはいえ油断はしない。生まれ落ちるモンスターに先手を打つべく体を構え、何が生み出されるのか見極めようとし・・・思わず眼を丸くした。

 

 ひび割れた壁の中から見えるのはモコッとした黄色い羽毛。

 

(羽毛?)

 

 そんなモンスターがこの迷宮上層に居ただろうかと、思っていると大きくなったひび割れから黄色い塊が現れ…

 

「クェッ!?」

 

 べしゃりと音を立てて床に落ちたのは大きな(とは言え少女一人が乗れるくらいだが)黄色い鳥。

 

 大きな鞄を持ち、背中にクラを載せ、足にはツメを取り付けており、首元にはペンダントを取り付けていた。

 

「……えっと」

 

 床に落ちたまま動かない鳥に対し、少女は剣を構えたまま観察するが、間違いなく見たことも聞いたことも無い姿のモンスター?である。

 

 迷宮には武器を持ったモンスターが現れたり、特異なモンスターが現れたりするが、・・・少なくとも壁から生まれて床に落ちて気絶した、というモンスターの話は聞いたことが無い。そんなことを考えていると、

 

「…クェ?」

 

 パチリと目を開いたモンスターと少女の眼が合った。

 

「……」

「……?」

 

 困惑する少女の顔を見ながら二・三瞬きをした後、少女が手に持つ剣に目を向け、

 

「クェェェッ!?」

 

 自分に切っ先が向いていることに気付き、慌てて起き上がり少女から離れた。

 

 少女も困惑していたが、自分から離れて此方を観察しながらも身構えるモンスターに対して改めて剣を油断なく構える。しかし・・・

 

(このモンスター…強い!?)

 

 何故か殺意のような物は向けられていないが、隙の様な物が無く、感じられる強さは第一線級冒険者のそれ以上──

 

(さっきの様子で少し気が抜けたけど、気を引き締めないと…アレはモンスター…私が倒すべき敵!)

 

…何とか様子を伺い、倒そうと魔力を集め…

 

 

───ぐぐぐう。

 

 

「…クェッ…」

 

 

───パタリ。

 

 

「テンペス――あれっ…?」

 

 

 お腹の音を鳴らして倒れたモンスターにとうとう最後まで残っていた緊張感が集まりかけた風と共に霧散する。

 

「…えっと…?」

 

 暫く待ってみたが倒れたままである。幼い頃から迷宮に潜ってきた少女をして、初めての出来事に少し頭が呆然とした。

 

「…えい。」

 

 一応念の為にソッと油断なく近づいて、切っ先でつついてみるが、時折「クェ」と鳴き「ぐう」と音がするぐらいで起き上がる気配が無い。

 

「…」

 

 本来ならば、この隙を見逃さず倒すべきである。

 

 しかし、少女は徐にポーチを漁ると中から携帯食料─木の実やドライフルーツを使った固いクッキーの様な物─を哀れなモンスターの前に差し出した。

 

「…クェ?」

「食べる?」

 

 暫く匂いを嗅ぐ仕草をしていたモンスターは飛び跳ねるように起き上がると、少女の手から翼で携帯食料を受け取り一心不乱に食べ始め、あっという間に食べ終わる。

 

「大丈夫?」

「クェッ!」

「そう…あれ?」

 

 ようやく元気いっぱいとなったらしいモンスターは、お礼をするようにコクコクと頷いた。そのことに少女は驚く。

 

「…もしかして、言葉が解る?」

「?クェッ。」

 

 彼にとっては、今一少女が何故そんな当たり前のことを聞いてきたのか分からなかったが、とりあえず頷いておく。それよりも何故こんな小さな少女が一人で剣を持って不思議なダンジョンに居るのだろうか?そう思い聞いてみる。

 

「クェックェクェ~クェ?」

「…えっと?もう一つ欲しいのかな?」

「クェ?」

 

 不思議なことに彼女には自分の言葉が通じないらしい。とりあえず差し出されたクッキーは食べる。

 一方少女はモンスターが携帯食料を食べたことで、この鳥のモンスターと意思疎通ができることに驚いていた。

 

「モンスターなのに…?もしかして新種?」

「クェ?」

 

 食べる姿を眺めながら少女は改めてモンスターを観察する。

 

(…本当にモンスター?)

 

 どう考えても普通のモンスターではない。

 

 意思疎通できる知能。

 

 装備するクラとツメはよく手入れされた一級品。

 

 不思議な力を感じるペンダント。

 

 何より、ダンジョンのモンスターやすれ違う他の冒険者・・・どころか一般人より敵意が無い。寧ろ子供より純真かもしれないと思うぐらい眼が澄んでいる。

 

 暫く顔を見合わせ合う少女と鳥。そこへ、

 

「アイズー!どうしたのー?」

「ティオナ、ティオネ。」

「クェ?」

「先行し過ぎよアイズ…何ソレ?」

 

 二人の小麦色の肌をした同じ顔つきの少女が、後ろから近付いてきた。

 

「ん?何そのモンスター?初めて見たよ。」

「そうね。私も見覚えないわ…っていうか大人しいわね。」

「クエ?」

 

 恐らく金髪の女の子の仲間だろう少女二人の言葉に更に謎が深まる。チョコボ種は割とポピュラーなはずだが・・・そう考えて首を傾げた彼にティオナと呼ばれた髪が短い方の少女が目を輝かせた。

 

「…おお、何か可愛い…」

「気を抜かないの。で、アイズ?何してたの?」

「えっと、お腹空かせて倒れたからクッキーあげたら懐かれた?」

「クェッ。」

「何してるのよアイズ…大人しくてもモンスターでしょ?」

「うん。だけど…」

「…おおぅ、すっごいモフモフしてる…」

「クエェェェェ…」

「アンタ達は色んな意味で何してんのよ?」

 

 話す二人をよそにチョコボに近づいて、敵意が無いことを確認し、抱き着きながら羽毛をモフモフしていたティオナにティオネが呆れたような声を上げた。

 

「だってすっごい大人しいじゃん!此処まで大人しいモンスターなんて怪物祭でも…あ!もしかしてテイムしたってことなんじゃない?」

「この新種のモンスターを、いきなりアイズがテイムしたってこと?どうなのアイズ?」

「そうなる…のかな?よくわからないけど。」

「クェッ?」

 

 暫くティオナがモフっても抵抗しない(困った顔はしている)ので、アイズとティオネも手を伸ばす。

 

「これだけ触られても攻撃してこないし…本当にテイムできたみたいね。」

「うん…。やわらかい。」

「いーなー!アイズいーなー!モフモフし放題じゃん!」

「手触り良いわね…」

「クエー…」

 

 一人は大胆に、一人はおずおずと、一人は確かめるように羽毛をモフる。

 

「柔らかくて…鳥っぽい匂い。」

「うん…独特な匂い?」

「洗って団長のダウンジャケットか布団に…」

「クエ?」

 

 割と失礼な話をしながら、三人掛かりでモフモフしたが、攻撃してこない(困ったような顔をしているが)どころかされるがままになっていることから無害と判断された。暫くモフモフを堪能した三人は改めて話し合う。

 

「でさ。これからどうする?このまま進む?」

 

 いつの間にかチョコボの背のクラに跨がり背中から抱き締めていたティオナが二人に尋ねた。

 

「そんなわけ無いでしょ。今日は潜るの辞めて戻って団長に報告するわよ。新種のモンスターを見付けたこともテイムしたこともギルドに報告しなきゃならないだろうし。」

「クエ?」

 

 『団長』や『ギルド』といった聞き覚えの無い単語に首を傾げる彼にアイズが説明する。

 

「えっと、今からダンジョンを出て私達『ロキファミリア』の拠点に戻るから着いてきて?」

「クェッ。」

 

 勿論とばかりに頷く。どういう訳か解らないが、不思議なダンジョンで倒れていたところを助けてもらった恩があるのだから。

 

「じゃあ、行こ?」

「クェッ」

 

 金髪の少女と並んで歩き出す。

 

 

 

 

 

 誰よりも強さを目指す第一級冒険者

『剣姫』アイズ・ヴァレンシュタインと

 

 

 此処とは別な世界で仲間達と共に

『不思議なダンジョン』を攻略したチョコボ種。

 

 

 

 

 

 

 

 これは、一人と一羽の迷宮冒険譚。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「所でさ、名前どうするの?」

「…ジャガ丸号で。」

「クェ?」

 

 

 

───前途は多難なようだ。

 

 

 

 

 



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チョコボとロキ・ファミリア

皆様の期待に応えれるのか不安ですが、精一杯頑張ります。(まさかの赤評価にビックリ。)




「おい!見ろよ!」

「凄え美人じゃねぇか・・・」

「バカヤロウ!ありゃロキファミリアの『剣姫』だ!」

「てこたぁ横のアマゾネス達は『大切断(アマゾン)』と『怒蛇(ヨルムンガンド)』か!?」

「すっげえな。」

「んで・・・ありゃあ何だ?」

「さあ?」

 

 ザワザワと聞こえる群衆の声。

 

「目立ってるね・・・」

「そりゃあ目立つわよ・・・」

 

 ダンジョンの出口に向かう三人と一羽を襲う、すれ違う冒険者達からの大量な好奇の視線。

 

 もともと、オラリオ最大規模のファミリアの片割れであるロキファミリアの第一級冒険者であり、容姿に優れた三人は非常に有名で街を歩くだけで噂になる。ましてやそれが・・・

 

「モンスターに乗ってれば。」

「クェ?」

「うう・・・」

 

 モンスターのクラに跨がる少女、アイズ・ヴァレンシュタインは顔を真っ赤にして俯いた。

 

“折角クラが着いてるんだから乗って帰ろー”

 

 とティオナの提案により、最初は階層を一つ上がる毎に交代して背中に乗っていた三人。

 モンスターを見つければ彼に騎乗したまま突撃して攻撃するという、普段出来ない戦闘を楽しみながら出口に向かった・・・アイズを背中に乗せたままで。

 

 流石に人目が恥ずかしくなり、降りようと思ったアイズだが、ここで問題に気付く。

 

 実は、彼女のスカート丈は非常に(主神の趣味により)短い。いくらスパッツを履いているとは言え、戦闘中ならまだしも衆目監視の中、彼から降りればどうなるか・・・

 

(今度から服を変えよう。)

 

 主神が舌をかみ切ると騒ぎそうだが、少女は決意した。

 

 

 

 

 そんな人混みを抜けて外に出ると広がる街並み。世界の中心の名に恥じぬ賑わいと文明である。

 

「クェッ!?」

「どうしたのジャガ丸号?」

 

 彼は明らかにダンジョンに入った時とは違う景色に困惑していた。

 モンスター村とは比較にならない街並みと賑わい。

 

 何より見渡す限り、人、人、人・・・モンスターが誰も居ない。

 

 騒がしいボムの母子も。

 

 彫刻家のベヒーモスの一家も。

 

 道具屋のデブチョコボも。

 

 大木を世話するゴーレム種も。

 

 鍛冶屋のトータス種も。

 

 黒魔導師達も、白い少女も、誰も。

 

 

 

「クエッ?・・・クエッ!?」

 

 そして何かを感じて後ろを振り向けば、

 

「クェェ・・・」

「バベルが、どうかしたの?」

 

 

 天に向けて聳え立つ白亜の巨塔『バベル』

 

 

 その余りに巨大な建造物に、自分の居た場所と完全に別な場所・・・否、完全に別な世界に着いてしまった事を理解した彼は、

 

「それじゃあ行こう?」

「うん!お腹空いたし帰ってごはんだー!」

「クェッ!」

 

 ごはんと聞いて一先ず思考を放棄。三人の言うロキ・ファミリアとやらに向かう事にした。

 

「・・・クェ?」

「ほら、余所見しないで行くよ?」

「クェ。」

 

・・・聳え立つ白亜の巨塔の上からの視線も放って。

 

 

 

 

 

 

 

 

 広大な面積を誇る迷宮都市オラリオは、巨塔バベルを中心にした円形状の都市であり、その周りを堅牢な市壁に囲まれている。

 

 そんな都市の北部、北の目抜き通りから外れた場所にそれは有る。

 

 高層の塔を幾つも重ねて出来ている、周囲の建物から比べても長大な赤銅色の燃える焔のような色合いの豪華な邸宅。

 中央の最も高い塔に立つのは道化師の旗。

 

「着いた。ここが、私達ロキ・ファミリアの本拠地の『黄昏の館』だよ。」

「クェ~。」

「ほら、ジャガ丸号行くよ~。」

 

 聳え立つ槍の様にも見える外見の建物を見上げていた彼がおかしかったのか、アマゾネスの姉妹は苦笑しながら館へと招く。

 

「お帰りなさいませ・・・ってモンスター!?」

「えっと・・・ただいま?」

「クエッ。」

「あー後で説明するよ。」

「いや、ちょっと!?ティオナさん!」

「困りますって!?」

 

 慌てる門番達に一声かけて扉を潜ると、建物の奥から足音が響いてきた。それと同時にティオネ・ティオナがチョコボの傍から離れる。

 

「おっかえり~~~~!!」

 

 そんな大声を上げながら、どこからともなく赤い髪の女性が突撃してきた。

 

「えい。」

「クエッ!?」

 

 アイズはチョコボから降り立った勢いを使い、チョコボを自身の代わりにする。女性は突撃の勢いのままチョコボの胸に飛び込み頬擦りを始めた。

 

「ああ~~アイズたん~・・・グヘヘヘヘ・・・フカフカでモフモフで鳥っぽい匂い・・・・・・鳥?」

 

 ようやっと違和感を覚えてチョコボの胸元から顔を上げ、至近距離で眼を合わせた。

 

「クエッ。」

 

「ホワァアアアアアアアアアア!?」

 

 

 

 黄昏の館の近所中に赤髪の女性の声が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「って訳でテイムに成功したと判断して連れて来ました。」

「クエッ。」

 

 近隣住民に騒ぎの謝罪をした後、三人と一匹は、ロキの部屋にて主神ロキと三人の幹部達にダンジョンでの出来事を報告する。

 

「ダンジョン上層で新種のモンスターに遭遇・・・お腹を空かせて倒れたから携帯食糧を渡したら懐かれた、かぁ・・・」

 

一人は苦笑いを浮かべる小人族。

ロキ・ファミリア団長『勇者(ブレイバー)』フィン・ディムナ

 

「全く、三人ともダンジョンで気を抜きすぎだ。いくら上層とはいえ・・・」

 

一人は呆れ顔で三人を嗜めるハイ・エルフ

副団長『九魔姫(ナインヘル)』リヴェリア・リヨス・アールヴ

 

「ガハハ!新種のモンスターをテイムしてくるとはやるのう!」

 

一人は豪快に笑うドワーフの老兵。

最古参『重傑(エルガレム)』ガレス・ランドロック

 

 何れもが都市上位の冒険者にして、ロキファミリア結成からの古参にして大幹部だ。

 

「いや~流石はアイズたん!」

 

 そして、彼等・彼女等を眷属とし束ねる先程の赤髪の女。

 権能の全てを封じて尚、都市最大派閥の片翼を創り上げる頭脳と手腕を持つトリックスター。そして、不老不死の『超越存在(デウスデア)』。

 

ロキ・ファミリア主神。ロキ。

 

 そんな彼らに囲まれながら彼は、チョコンと用意された椅子に座りながらそわそわと部屋の調度品を眺めていた。

 

「本当に普通のモンスターでは無いな。人を前に襲わないばかりか、『椅子に座る』という知識が有る。」

 

 試しにロキがつまみとして用意していたナッツ類を、リヴェリアがそっと差し出せば、

 

「クエッ!クエ~♪」

 

 翼でナッツ類を取り、御礼を言うように一鳴きし一つ一つ食べ始めた。

 因みに干し肉や干し烏賊の類より、ナッツ類やドライフルーツを好むようだ。

 

「ちゃんと手?を使って食べる事が出来る。」

「器用だね・・・翼が手の代わりに使えるのか・・・」

「普通の子供の様じゃのう。」

 

 その様子を感心しながら観察していた団長の顔を見て「ステキです!」とクネクネしているティオネを放ってアイズはロキ達を見遣る。

 

「ふむ。これなら大丈夫じゃろ?」

「とは言え新種で情報の全く無いモンスターだ。気を抜くべきでは無いだろう。」

「暫くは男子棟の空き部屋に入って貰おうか。」

「んーウチはアイズたんが責任持って飼うんやったら構わんけど・・・ええんかアイズたん?一応こんなんやけどそれでもモンスターやで?」

「・・・うん。」

 

 正直な所、モンスターを仲間にするという行為をアイズ自身は良しとはしていない。

 オラリオ所か世界中にモンスターによる被害を受けた人々は数多く居る。モンスターへの復讐目的にダンジョンに潜る人も居るし、ロキ・ファミリアもまたダンジョンで団員が死んだケースは有る。それにアイズ自身も冒険者になったのは・・・

 

「クエッ?」

 

 心配そうに此方を見る彼の頭を撫でた。

 

「それでも、偶然とはいえテイムして連れて来ちゃったから。なら責任は持たないと。」

「・・・分かった。ならウチからは何も言わんよ。神々との交渉はまかしとき。」

「・・・ありがとうロキ。」

「クエッ!」

 

 自身の愛する眷属が、また一つ成長したのを感じたロキは彼を招き入れる事を承認した。

 

「よかったー!これからもよろしくねー!」

「よかったわね。」

「クエッ!」

「とはいえ、先ずは他の団員達への説明からだな。」

「少なからず、モンスターを受け入れる事への疑問や反対意見は出るからね。」

「私が黙らせましょうか!?」

「・・・気持ちだけ受け取っておくよ・・・」

「ふむ。ならば・・・」

 

 眷属達が熱く議論を交わし始めたのをロキは更に目を細めながら眺める。

 

(ホンマに子供達はええなぁ・・・)

 

 新たな出来事を積み重ねる度に成長する姿を見るのは本当に退屈しない。

 同時に、今回の件でちょっかいを掛けてきそうな邪魔者やメリット・デメリットを素早く計算し始める。

 多くの暇を持て余した神々にロキファミリアを敵視する派閥・ギルド・子供達・・・等々をどう丸め込むか考えながら、その原因を見れば。

 

「クエ~。」

「自分暢気やな~。確かに面白いもん集めとるけど。」

 

 話し合いを他所に乱雑に様々な物を集めたロキの自室を眺めていた彼にロキが話しかける。

 

「クエー。」

「モーグリみたい?誰やねんそれ?」

「クエッ?」

「レアアイテム好きの友達?って何で疑問系?」

「クエッ?」

「いや、ウチに聞かれても。」

「クエー。」

「お腹空いた・・・って話し合い終わるまで我慢・・・」

「・・・ちょっと待てロキ。」

 

 ポカンとした6人を代表してリヴェリアが尋ねる。

 

「どしたんママ?」

「誰がママだ。いやそれよりも・・・」

 

 全員が彼を見て、それからロキを見た。

 

「・・・言葉が解るのか?というか言葉を喋っているのか彼は?」

「んー?怪物祭とかの普通のモンスターのは判らんけど、この子なら片言やけど何となくわかるでー?」

 

・・・・・・・・・

 

・・・・・・

 

・・・

 

「「「「「何ぃ!?」」」」」

 

「クエェッ!?」

 

「いや!?今まで普通に喋っとったやろ!?」

 

 やっと普通に話していたことに気づいた彼にツッコミを入れるロキを見ながらティオナは首を傾げる。

 

「ええ・・・?私には全部『クエッ』って聞こえるんだけど、何か喋ってたんだ。」

「私もよ。どんだけイレギュラーなモンスターなのよ?」

「頭が良いとは思っておったが・・・」

「ばかな・・・『クエッ』の一言にどれだけの意味を?」

「だけど、コレで彼から話を聞けるね。えっと君の名前・・・有るのかな?とりあえず種族を教えてくれるかい?」

「クエッ、クエッ。」

「『チョコボ』が種族名で名前やて。」

「さっぱり違いが解らんな。・・・ふむ、チョコボ・・・と」

 

 とりあえずチョコボに対するメモを取り始めたリヴェリアを尻目に、フィンが話を続ける。

 

「ふむ、じゃあ先ずはチョ・・・」

「・・・名前はジャガ丸号。」

 

 しかし、フィンの言葉を遮って珍しくアイズが主張した。

 

「いや、今彼が名前・・・」

「ジャガ丸号。」

「ちょっとアイズ!?団長が話・・・」

「ジャガ丸号。」

「いや、アイズ・・・」

「ジャガ丸号。」

「うむ・・・しかしのうアイズ・・・」

「ジャガ丸号。」

「アイズ、我が儘を・・・」

「ジャガ丸号」

「アイズたんジャガ丸君好きやからって、無理強いしたらあかんよ?」

「クエッ?」

「ああ、ジャガ丸君っていうじゃが芋使った屋台の料理の事やで。色んな味があるアイズたんの好物やな。」

「クエェェェ・・・」

 

 思わず想像して涎を垂れそうになるチョコボにアイズが攻勢に出る。

 

「・・・明日沢山食べさせる。だからジャガ丸号。」

「クエッ!」

「・・・それでええんか自分・・・?」

 

 勢い良く首を縦に振るチョコ・・・ジャガ丸号に全員が何とも言えない表情を浮かべた。

 

「えっと彼を呼ぶときはチョコボかジャガ丸号?」

「間をとってジャガボ?」

「ジャガ丸号・・・ジャガ丸・・・ジャガボール・・・ジャガボ・・・チョコボ・・・チョコボー・・・ ん?何か天界でそんな名前の菓子があったような?んん?そういや・・・」

「どうしたロキ?」

「んー昔な?クエッ、クエッ、クエッ♪って歌いながら生物造っとった別世界担当の神が1柱おったなーって。」

「よく分からんな。」

「クエッ?」

「せやなー何で思い出したんやろ?」

 

 あのキャラはキョ○ちゃんやったしなーと呟きながら、此方を向いて首を傾げるジャガ丸号を眺めるロキであった。

 

 さて、思わぬ出来事に時間を取ってしまい、時刻は結構いい時間。とりあえず会議を終わらせるべくロキが動き出した頃、それは起こった。

 

「まあ、ええわ。とりあえず三人はジャガ丸号連れてお風呂入って来や。その後食堂で皆に説明・・・」

「む?何だ?ヤケに館が騒がしいな。」

 

 リヴェリアが館の異変に気付いた瞬間、扉を慌ただしくノックして、一人の団員が入って来た。その只ならぬ表情に全員が腰を上げる。

 

「何事だいラウル。」

「ヤバいっすよ!もう剣姫が新種のモンスターをテイムしたって情報が街中に出回ってガネーシャ・ファミリアの・・・」

 

 

 

 

 

『俺が、ガネーシャだ!』

 

 

 

 

「・・・主神、ガネーシャ様が直接来てるっす。ファミリアの団員達引き連れて。」

 

 その報告と館の外から此処まで響く大声に思わず全員天井を仰いだ。

 

 



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チョコボとガネーシャ

お待たせしました。

1月は仕事が忙しいですね。
皆様体に気を付けて・・・


 ロキ・ファミリア本拠地、黄昏の館前は騒然となっていた。それは、

 

「俺が、ガネーシャだ!」

「「「イエーーーーーッ!」」」

 

・・・と乗り物の上に立ち、周りの盛り上がる群衆達に謎の姿勢(ポーズ)を決めながら自己紹介をし続ける無駄に暑苦しい大男。

 

「俺が、ガネーシャだ!」

 

 都合十七回目の自己紹介をする、引き締まった全身の筋肉と浅黒い肌を持つ象面の神物、象神ガネーシャ率いる大規模派閥、ガネーシャ・ファミリアが集まっているのだから。

 

「相変わらずやることが派手だなガネーシャ様は!」

「ガネーシャ様が乗ってるのは何だ?」

山車(ラタ)・・・じゃねぇよな。」

 

 ガネーシャの足元には、ダンジョン産の希少鉱石をふんだんに使い造り上げられた鋼の塊。

 左右に無限滑走を可能とする履帯を取り付けた車の上部に、象の頭をイメージさせる砲塔。

 

 これぞ、ガネーシャ・ファミリア自慢の逸品。

 

「あ、ありゃ、『ガネーシャタンク』じゃねぇか!?」

「げっ!?ヘファイストス様の所の『狂鍛治屋(マッドスミス)』のか!?」

「前に王国を潰走させたって聞いたぞ!」

「アレ一台で150億ヴァリスするらしいぞ。」

「ひゃくごじゅ・・・!?マジかよ!?」

 

 ヘファイトス・ファミリア一の変わり者の造った『特殊兵器』を前にそれらを睨み付けるのは、本拠地に居た鋭い目をした狼人の青年、『狂狼』ベート・ローガを始めとしたロキ・ファミリアの団員達。

 

 大派閥の主神が、事前連絡も無くファミリアの幹部と群衆を引き連れて本拠地に来るという異常事態に臨戦態勢を敷いていた。

 

 都市最大規模の派閥同士が門を挟み、両陣営が対立すれば周り・・・否、オラリオの被害は只では済まない。

 ギルドの職員が仲裁に入ろうにも野次馬に遮られ近づけない状態である。

 

 緊張感が増す中、黄昏の館の扉が開き、中から現れた神物を見てガネーシャが声を掛ける。

 

「おお、ロキ!久しいな。」

 

 幹部達を左右に控え、ロキは細い目を一段と細めてガネーシャを睨んだ。

 

「久しぶりやなガネーシャ。んで、コレは何の真似や?カチコミか?やるんならとことんまでやったるぞ?」

 

 ロキファミリアの面々が、柄に手を掛けると同時にガネーシャ・ファミリアもまた身構えた。

 

・・・しかし、それらを意に介さずにガネーシャは上機嫌に来訪の目的を告げる。

 

「うむ!其方の所の子供達が新種のモンスターを発見したばかりか、それをテイムして凱旋したと聞いてな!見てみたいと思って来たのだ!」

「・・・は?」

 

 思わず、ポカンと口を開けたロキはガネーシャの足元の戦車を見る。

 

「・・・やったらその物騒なモンはなんや?」

「うむ!折角なので大々的にお披露目すれば良かろうと思ってな!格好良くて目立つから乗って来た『ガネェェェェシャタァァァァンク!!』だ!」

 

 頭痛を堪えるように頭を抑えるロキを横目に、フィンが向こう側に居るガネーシャ・ファミリアの幹部達を見ると、申し訳なさそうな表情で此方を見ていた。

 

「うむ!それでは群衆も集まったことだし早速お披露目といこうではないか!」

「何を勝手に話を進め「クエッ!?」ってコラ!?」

 

 ロキの背後から現れた黄色い鳥型のモンスターを見て、ロキ・ファミリア、ガネーシャ・ファミリア、群衆達から驚きの声が上がった。

 

「んだ?ありゃ。」

「何だ!?あのモンスター!?」

「テイムしたってのはマジだったのかよ!」

「鳥?」

「でも、なんか可愛い!」

「だ、大丈夫なのか?」

「お、おい前に出て来るぞ・・・」

 

 ロキファミリアの面々を抜け出て、ガネーシャ・ファミリアの前に立つチョコボの姿は、まるでファミリアを守ろうとする様にも群衆達には見えた。

 

「クエッ?」

 

・・・彼としてはガネーシャの足元に、見覚えの有る物があったので思わず前に出ただけなのだが。

 

「おお!お前が・・・とぅ!」

「クエッ!?」

 

 掛け声と共に跳び上がったガネーシャが、チョコボの眼前に降り立つのを見てガネーシャ・ファミリアの団員が慌てるが、ガネーシャにより手で制された。

 

 ガネーシャ・ファミリアとロキ・ファミリアの中間点に出来た空間に象面の神ガネーシャとチョコボが1対1で向かい合う。

 両陣営と群衆達が息を呑む中、ガネーシャが大きく息を吸い・・・

 

 

 

「俺が、ガネーシャだ!」

 

 

 

 オラリオ中に響き渡る大音量に思わず全員が耳を塞いだ。

 

 

「クエエッ!」

 

 

 その眼前で衝撃波染みた大声を浴びながらも、怯むこと無く鳴き返すチョコボ。

 

 

 

 

 

「俺が、ガネーシャだ!」

「クエエッ!」

 

 

 

 

 

 

「俺が!ガネーシャだ!」

「クエッ!クエエッ!」

 

 

 

 

 

 

 

「俺!が!ガネーシャ!だ!」

「クエッ!クエッ!クエッ!クエッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ならば良し!」

 

 

「「「「「何が!?」」」」」

 

 

 群衆総てから同時にツッコミが上がった。

 

「・・・ロキ、因みに彼等は何て言ってたんだい?」

「いや、どっちも自己紹介しかしてへんで?」

 

 何故か満足げに手と翼で握手?する1柱と1羽に周りの神と人々が困惑する中、再びガネーシャが群衆に聞かせるように声を上げる。

 

「うむ!とても善良な心と魂の持ち主で有る事が分かった。・・・では、次はテイムした者だな!」

「・・・私、です。」

 

 アイズがチョコボの横に並ぶと更に驚きの声が上がった。

 

「『剣姫』!?」

「噂はまじかよ!」

「流石はアイズさんです!」

 

 有名人の登場に更に群衆のざわめきが増し、最高潮に達した所でガネーシャが声を上げる。

 

「うむ!ならば折角これだけの群衆が集まったのだ!どの位懐いているのか皆に示してみるが良い!」

 

 そう言われてアイズは困った。いきなり過ぎて何をすれば良いのか・・・

 

(けど何とかしないと、ジャガ丸号が危険だと思われるかもしれないし・・・)

「クエッ?」

 

 此方を向いて首を傾げるチョコボを見て・・・否、モフっとした羽毛を見て閃いた。

 

「えいっ!」

「クエッ!?」

 

「「「「「!?」」」」」

 

 

 いきなりモンスターに抱き付いたアイズを見て群衆総てが驚いた。・・・内一柱と二名は驚愕の余り、思考すら飛んでいる。

 

「フカフカ・・・モフモフ・・・」

「クエェェェェ・・・」

 

「何だろうこの気持ち・・・」

「癒される・・・」

「俺もモフられたい。」

「ちょっと羽毛生やしてくる。」

「・・・モフりたい・・・10分10,000ヴァリス出す。」

「う、うちかてモフられた事無いのに・・・」

「アノヤロウ・・・」

「そ、そんな・・・アイズさん・・・」

「お前達・・・」

 

 遠慮なくモフる剣姫に一切抵抗する事無くモフられ続けるモンスターに群衆達は、ちゃんと調教出来ていると認識した。・・・内2名と1柱は射殺さんばかりの嫉妬の視線を向けているが。

 

「うむ!キチンと調教されており、他の子供達に危害を加えることは無いだろう!ガネーシャ歓喜!」

 

 響くような大声を上げてガネーシャが頷いた。

 

「もし不安な事があれば、何時でもガネーシャ・ファミリアに相談に来るが良い!わが眷属の調教師ならば新種とは言えど何かしらのアドバイスが出来よう!」

「・・・ありがとうございます。」

 

 目を丸くして礼を言うアイズにガネーシャ仮面の下で笑みを浮かべた。

 

「礼を言う必要は無い!何故ならば!俺は群衆の神!俺が、ガネーシャだ!」

 

 再び、「とう!」と跳び上がりガネーシャタンクの上に乗ると周りのファミリアの団員と群衆を引き連れ自己紹介とポージングをしながら去って行った。 

 

 群衆達と共にガネーシャ・ファミリアが去った後、残されたロキ・ファミリアはそれを見送り、

 

「取り合えず、入ろか。」

 

 疲れた顔で全員が賛成した。

 

 

 

 

 

 

 

「てな訳でアイズたんがテイムしたモンスター、チョコボ「ジャガ丸号」・・・ジャガ丸号や。皆よろしくしたってや。」

「クエッ!」

 

 片方の翼を挙げて挨拶するジャガ丸号に食堂に集まったロキ・ファミリアの団員達の反応は様々だが、概ね好評のようだ。

 

 アイズ自身への信頼もあるが、やはり先程の騒ぎが大きい。

 

 怪物祭という大規模なモンスターへの調教を行うイベントを開くほどのモンスターへの調教に長けたガネーシャ・ファミリア主神から太鼓判を押されているという安心感。

 

(まぁ、助かったが・・・何が狙いや?)

 

 食堂で主に女性団員達に囲まれて、撫でられたり、モフられたり、餌付けされたりしているチョコボを見ながら、ロキは酒を口にしながら思考を巡らせる。

 

 明らかに、チョコボを見定めに・・・そしてオラリオの住人に周知させる動き。ただの親切や気紛れ・・・そんなわけは無い。

 

(そうなると、怪物祭にも何か裏の理由が有るんか?アレだけ神々やギルド、関係各所に大金ばらまいてまでモンスターへの印象を変えなきゃならん理由が。・・・何を知っとんのやガネーシャ?)

 

 慎重に調べなくてはならない。今のままでは情報が足りなすぎる。

 

(この子についてもやな。)

 

 アイズの料理の皿から次々とニンジンを譲って(?)貰い、喜びながら器用に翼でスプーンとお皿を持って食べるチョコボ(食器を使って食事する姿に周りは目を疑っている)を再び見る。

 

「クエッ!クエー!」

「喜んでくれて嬉しい。」

「ア、ア、ア、アイズさんからニンジンを譲って貰うなんて!?」

「いや、アイズが嫌いなニンジンを全部チョコボに押し付けただけじゃん。」

「ティオナ、チョコボじゃなくてジャガ丸号。」

「・・・何がアイズをそこまで動かすのさ?」

 

(平和やな~。)

 

 ほっこりとしながら杯を傾けていると、隣にフィンがやって来た。

 

「ロキ、取り合えず男子寮の一部屋開けておいたよ。あの様子ならベッドも使えそうだしね。」

「おーーありがとなー。」

「・・・暫くは彼の両隣の部屋に誰かしら詰めて貰うつもりだけど・・・心配は要らなそうだね。」

「せやな。ホンマに暢気な子やで。」

 

 暫くは監視付きで生活する事になるだろうが、それも直ぐに終わるだろうとロキは団員達に囲まれるチョコボを見て思う。

 

「ところでさ、チョ・・・ジャガ丸号?食べる時くらいそのカバン外したら?」

「クエッ。」

「本当器用に外したわね。」

「ねぇ!中見ても良い?」

「クエッ。」

 

 チョコボが頷くや否や、ティオナは手早くテーブルの上を片付けると、カバンをひっくり返して中身を広げた。

 

「あははは!宝物がいっぱいだねジャガ丸号。」

「クエッ!」

 

 中から溢れ出てきたのは、様々な形の石ころやカード。色んな色の本や、栞、ホイッスルといった小さな子供達がよくやる冒険者ごっこで宝物として使われそうなものが沢山出て来た為、周りの団員達もどこか胸を張るチョコボに和んでいた。

 他には青色や赤色の液体の入ったビンを始め、ツメとクラや首輪、何かの力を感じる奇麗な魔石といったもの等があった。

 

「・・・見た目以上にアイテムが入ってる。」

「あのカバン、欲しいわね・・・」

 

 半分以上ガラクタにしか見えない物が、明らかにカバンの見た目以上に入っていたのを見てアイズは目を丸くした。

 冒険者のダンジョン攻略をサポートするサポーターなる職業があるほどに持ち物の問題は冒険者に付きまとう。予備の武器や回復薬、倒したモンスターから得られた魔石やドロップアイテムの持ち運び等の問題があのカバンで解決しそうだ。

 

(あんなカバンが有ればもっとダンジョンに潜っていられるのに・・・)

 

 生産系の大手ファミリアに行けば似たような物は有るだろうが、凄まじい金額が必要になるだろう。

 

「クエッ?」

 

・・・ならば、そんなカバンを持つ彼は何者なのか?そんな事を考えていると

 

「おいバカ女!さっさとそのガラクタ片付けろよ。」

 

 先程からチョコボを不機嫌な顔で睨んでいたベートが、はしゃいでいたティオナに食って掛かった。

 

「何よベート!それにガラクタじゃないよ!凄いのあるかもしれないじゃん!」

「ハッ!殆どが石ころとかじゃねえか。」

「ふん!チョコボがアイズに抱き付かれたからってさ、当たらなくて良いじゃん!?や~い残念狼~!」

「バッ!?てめえクソ女ァ!?」

「ティオナ、ジャガ丸号。」

「クエッ?」

「そうやー!羨ましいわジャガ丸号ー!」

「飲み過ぎだロキ。」

「なんじゃケンカか?」

「見せ物じゃねぇぞてめえらァ!?」

 

 何故か慌てるベートとティオナのケンカを酒の肴とばかりに楽しみ始めたロキや団員達にベートは舌打ちをする。

 

「ちっ!精々、ガキみてぇな性格のモンスターとガキみてえな体型のガキ同士で仲良くしてやがれ。」

「ンだとコラァ!?」

 

 ベートの発言に激昂したティオナは、テーブルの上にあった液体の入ったビンを掴みベートに向かい投げ付けた。

 

 筋力に優れるアマゾネスのティオナが投げる物ともなれば、並みのモンスターを仕留める事も可能な剛速球であるが、対する狼人のベートもまた俊敏性に優れた種族の第一線級の冒険者である。容易く自身に向かい来るビンを躱し、ビンは食堂の壁にぶつかり割れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────と同時に、大爆発を引き起こした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・あれ?」

 

 投げたティオナは言うに及ばず、全員がポカンとした顔をした後ベートの背後とチョコボに視線を向ける。

 

「・・・・・・」

 

 顔を引き攣らせてベートが自身の背後を見れば、先程まであった食堂の壁が大穴を開けて消し飛んでいた。

 

 

「てんめえぇぇぇ!?殺す気か馬鹿女ァ!?」

「し、知らなかったんだもん!?てかそっちが要らんこと言うからでしょうがぁ!?」

 

 

 唖然とする団員達をよそに、ティオナとベートが再び喧嘩を始める中、

 

 

「・・・フィン。絶対に監視付けといてな。」

「うん。厳重な警戒態勢にしておくよ・・・」

「クエッ?」

 

 ロキとフィンが決意を固くしたという。

 

 

 

 



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チョコボとオラリオの夜

皆様からのコメントを返せておらず本当に申し訳ありません!沢山のコメントありがとうございました!この場を借りて御礼申し上げます。


 いつも以上に騒がしい一日を終え、夜も深まったオラリオ。ロキ・ファミリアの拠点『黄昏の館』に急遽用意された一室にて、アイズは横になっていた。

 

「むにゃむにゃ・・・」

「クー・・・クー・・・」

 

 アイズが今日ダンジョンで発見した不思議なモンスター、チョコボ(ジャガ丸号)の部屋である。

 一応テイムした責任者として、当分の間一緒の部屋で眠ることにした(主神、並びにエルフの少女と狼人の青年からは強い反対があった。)アイズは中々寝付けずにいた。

 

「むにゃ・・・ジャガ丸号・・・もふもふ・・・」

「クエー・・・クー・・・クエー・・・」

 

 既にチョコボはベッドの中で眠っており、チョコボを挟んで反対側には付いてきたアイズの同居人ティオナがチョコボを抱き枕にして眠っている。

 万が一に備え、両隣の部屋には冒険者が詰めて(某エルフ少女と狼人青年含む)いるが問題は無いであろう。

 

 それにしても・・・と寝返りを打ち暗い部屋の天井を見詰めながらアイズは食堂の騒動の後の出来事を思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「つまり・・・何や、自分は別な世界から来た・・・言うんかいな?」

「クエッ。」

「嘘や無いな・・・まじかー・・・クリスタル間の移動やと・・・バハムートのヤツ何してんねん・・・」

 

 食堂を片付けた後、再びロキの部屋に集まりチョコボにカバンの中のアイテムを再び出して貰い、これらのアイテムについて話を聞いたところ驚くべき話が出て来た。

 

 ロキがチョコボから話を聞きだすと、

 

 

曰く、自分が持ってるアイテムは『不思議なダンジョン』という場所で手に入れたりした物。

 

曰く、お腹すいた。

 

曰く、『不思議なダンジョン』とは世界各地に点在する入る度に階層の構造が変化する迷宮であり、自分は友達の『モーグリ』達と共に旅をしながらダンジョンに挑んでいた。

 

曰く、友達は沢山居る。

 

曰く、最近はモンスター村という魔物と人間が住む村を拠点にしていた。

 

曰く、その村に住む『シロマ』のシチューは美味しいが、時々造るポーション類は刺激的な味。

 

曰く、ティオナが投げたポーションがソレ。

 

曰く、ところが最近、村の近くに『不思議なダンジョン』がまた現れたので潜っていた際に美味しそうなナッツを見つけたので近付いたら何かを踏んでしまい・・・気が付けば通路に倒れていてアイズに拾われた。

 

 

 ・・・時々関係ない所に話が飛ぶのを正しながら何とか聞き出し、まとめた話に集まった全員が驚いた。

 

「潜る度に階層の構造が変化するダンジョンだと・・・しかもそれ以外にも迷宮の悪意(ダンジョンギミック)が有るのか・・・」

「そんな物が世界各地に有る・・・人がモンスターと共存する世界・・・成る程、確かに彼が居たのは別の世界なんだろうね。」

「しかし、厄介じゃのう。ジャガ丸号が此方に来たという事はそのダンジョンと此方のダンジョンに繋がりが有るという事か?」

 

 ガレスの指摘に全員が頭を抱えた。

 

「洒落にならねーだろそれ・・・」

「マッピングを毎回やり直さないといけないってことー!?」

「ジャガ丸号以外のモンスターも出て来たり?」

「・・・ティオネ、今日ダンジョンで彼以外のモンスターや構造の変化は見られたかい?」

「いえ!ジャガ丸号を見付けたこと以外は、異常はありませんでした!」

「そうか・・・皆、暫くの間はダンジョンの調査をするよ。しっかりと準備をしてダンジョンに挑んで欲しい」

 

 フィンの言葉に冒険者全員が頷き、何処から調査すべきかを話し合い計画を練る。

 

 そんな風に話し合いの進む中、ふとアイズがチョコボを見るとどこかソワソワとしていた。

 

「どうしたのジャガ丸号?」

「クエー、クエー、クエッ?」

「あー自分は何処を調査するのか?やて・・・」

 

 その言葉に全員がチョコボを見る。

 

「そっか、ジャガ丸号も冒険者だもんね」

「でも、私達だと言葉判らないわよ?」

「・・・クエッ?」

 

 ティオネの言葉にチョコボはロキを見た。

 

「あーそっか、・・・ウチら神々はダンジョンに行ったらあかんのよ。大量のモンスターに襲われるさかいな」

「クエー・・・?」

「『こっちではそうなの?』・・・ってちょい待ちそれどういう意味や?」

「クエッ。クエークエッ」

 

 チョコボが何やら青い宝石の様な物をロキの手に渡し説明すると、ロキはそのまま固まった。

 

「まぁギルドに登録したりとか、暫くはジャガ丸号も忙しいしね。直ぐにダンジョンに行くのは無理かな?」

「クエッ・・・」

 

 石像と化したロキを置いといて、団長であるフィンがチョコボを諭すが、チョコボはダンジョンに行けないと残念そうに落ち込む。

 

「・・・だが、異変があったら色々お前に聞くし、その間にダンジョンについて学んだり、我々と意思疎通が出来る様になれば良いだろう」

「クエー・・・クエッ!」

「わかってくれたみたいだな」

 

 コクコクと頷くチョコボの頭をリヴェリアはそっと撫でた。

 

「クエ~・・・?」

「・・・何というか・・・その・・・思ってた以上にモフモフしているな・・・」

 

 少し頬を緩ませて優しくチョコボの頭を撫でるリヴェリアを見てアイズは尋ねた。

 

「リヴェリア・・・もしかして触りたかった?」

「ち、違うぞアイズ!?」

 

 顔を赤くしてチョコボの頭から手を放すリヴェリアを見て、ティオナとアイコンタクトを交わすとチョコボを両側から持ち上げてリヴェリアに近付ける。

 

「・・・私とティオナのおすすめは胸元の羽毛。・・・抱き付くと、とってもモッフモフ」

「気持ちいーよー?」

「クエ・・・?」

「・・・クッ・・・!?」

「リヴェリア様まで誘惑するなんて・・・!?なんて恐ろしいモンスター!?」

「レフィーヤ、落ち着きなさいよ」

「・・・野郎・・・!」

「いやベートさん、ジャガ丸号悪くないし寧ろ困ってるっスよ!?」

 

 ロキ・ファミリアの騒がしい夜はこうして更けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな騒動を思い返しながらアイズは寝台で寝返りを打った。目の前には寝息を立てるチョコボがいた。

 

 

(別な世界から来たモンスター・・・)

 

 

 自分の真横で寝息を立てる黄色い鳥をそっと撫でる。

 

「クエー・・・」

 

 ロキが、クリスタルがどうとか言っていた意味は判らないが、この人畜無害な見た目の暢気なモンスターと自分が出会ったのは、神が驚くほどにとてつもない出来事なのだろう。

 人とモンスターが言葉を交わし、共存する世界から来た自分達と同じ冒険者のモンスター。

 

「君は、どうして私と出会ったのかな?」

「クエー・・・クエー・・・」

 

 複雑な心情を抱えながらアイズは眠りにつくまでチョコボを撫で続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・以上が、現在集まった情報になります」

「そう、ありがとう。」

 

 バベルの頂上に有る居住地にて一人の男が報告を終えた。

 

 男の目の前には、この上なく美しい女が居る。

 

 花すら霞み、月も恥じらう・・・否、万人が『美しい』と想うほどの美を持つ女神は憂いを帯びた表情を浮かべ、男が手渡した黄色いハネを眺めていた。

 

「美しく、純粋で、・・・そして、優しくも強い輝きを放つ日溜まりのような暖かな魂、素晴らしいわ。どれ程の経験を積んで魂を磨き上げたのかしら・・・」

 

 見付けたのは偶然、迷宮から帰還した子供達が朝とは違う輝きを放つのをいつも通りバベルの上から眺めて楽しんでいた自分の目にソレはダンジョンから現れた。

 

「・・・貴女様がお望みなら、今直ぐに献上致します」

「あら、ありがとう・・・でもまだダメよ?」

 

 忠臣の言葉を嬉しく思いつつも首を横に振る。

 

「だって、あの子『この世界の誰よりも』強いもの。・・・貴方よりも・・・ね。」

「・・・・・・は。」

 

 女神は己に絶対の忠誠を誓う男が、表情は変わらないままに戦意を滾らせ、魂を輝かせ始めたのを見て笑みを浮かべた。

 

「あの子が、周りの魂を何処まで磨きあげるのか、そしてあの子自身がどう輝きを放つのか・・・」

 

 並みの男共が見れば一目で恋に堕ちるような顔で、その女神は窓の外を見る。その視線の先には、燃え上がる焔のような色合いの塔の一室。

 

 

「本当に・・・楽しみだわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・クエッ?・・・クエー・・・」

「んーふかふか・・・ぐぅ・・・」

「・・・ジャガ丸号・・・もふもふ・・・すぅ・・・」

「・・・クエェェェ・・・」

 

 その頃、何かを感じて目覚めたチョコボは両側を挟まれた上に抱き付かれ、身動き出来ない事に気付いた。

 

『放して下さい!今直ぐにアイズさんをあの黄色い魔物の魔の手から・・・!?』

『落ち着きなさいよレフィーヤ!?』

 

『・・・チッ!?』

『だ、団長・・・ベートさんが・・・』

『あはは・・・はぁ・・・』

 

 何故か自分をたくさんモフって来たりと、とても賑やかなこの世界の人々。

 明日はどんなことがあるのだろうか、とチョコボ楽しみにしながら再び眠りについた。

 

 

 

 

──その日、自分を探す白い少女の夢を見た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───ヤバイ。めっちゃヤバイ。

 

 

 ロキ・ファミリア主神、ロキは自室で一人頭を抱えていた。

 

 目の前のテーブルの上には雑多なガラクタが所狭しと並べられていた。

 そう、チョコボから預かったアイテム類である。

 

 

───まず、この別世界のアイテム類がヤバイ。

 

 

 ポーション類は『エリクサー』や『ハイポーション』等、此方にも似た物も有るためまだ(他のアイテム類と比較すれば)大丈夫である・・・多分。

 

 だが、他のマジックアイテムはチートだ。

 

 例えば──ダンジョンから拠点に一瞬にして帰還できる『テレポのしおり』等の『しおり』類。

 

 誰でも読めば魔法が使える『魔法の本』シリーズ。

 

 チョコボが身に着けていた、ドワーフにすら未知の金属『チタン』で出来た『チタンのツメとクラ』。

 

 金の量が非常に多い金貨『ギル』・・・の山。

 

 これ等異世界のアイテムを自分にも判別出来る様にした『確信のカード』等のカード類。

 

 

 他にも有るが、どれもダンジョン攻略の助けとなるアイテムばかりであり、このオラリオで市場に流せばその価値は計り知れない。

 

 

───が、天界きってのトリックスターをして頭を抱えさせた物は・・・青く美しい宝石・・・『召喚石』である。

 

(バハムート、シヴァ、イフリート、ラムウ、タイタン、アスラ・・・しかもオーディンもやと・・・!?あのド天然なんちゅう物別世界に持ち込んでくれとんねん!つうかマジで何者や!?)

 

 『召喚石』とは、一時的とは言えど天界の超越存在(デウスデア)を地上に召喚し力を借りるための魔力を内包した魔石の事である。

 

 一瞬しか顕現できない代わりにデカイ一撃を叩き込むか、少しの間召喚されて手伝いをするかの二種類だがその価値は計り知れない。

 

 そして・・・これらチョコボが持ってきた召喚石の対象である超越存在達は、天界から多くの神々が地上に遊びに行く為に、仕事が多すぎて休めない神々である。

 

 仮に・・・バハムート等が地上で召喚された場合・・・自堕落に過ごす神々を見たらどうなるか・・・

 

(灼かれる!オラリオごと更地にされてまう!?)

 

 浮かれた神々に、街とダンジョンごとメガフレアを撃ち込まれ、灼き尽くされる光景が頭を過ぎり、ロキは思わず顔を青くする。

 

「あかん・・・あかんで、まだまだやらなあかん事あるねんから!?」

 

 ・・・実際、召喚石から自分たちに向けてストレスが漂ってくるように彼女には感じていた。

 また、地上ではなくダンジョンにて『神威全開で』召喚された場合・・・大問題となってしまう懸念もあった。

 

「・・・これはウチが買い取りせなあかんな・・・胃と財布が痛いなぁ・・・」

 

 チョコボから買い取るアイテムと返すアイテムを選び、買い取り金額を考えていたロキの前に『ソレ』は転がってきた。

 

「・・・何やこの木の実?」

 

 それは一見するとクルミ程度の大きさの何の変哲も無い木の実であった。

 

「あの腹ペコが見逃すとは・・・さては忘れとったな?んでもって何の木の実やねん。もう今更滅多な事じゃ驚かんで?」

 

 『確信のカード』を使っていたロキの目は、そのアイテムの効果を把握した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『レベルアップの実』

 

・レベルがいっこ上がる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日、いつも以上に騒がしい一日を終えたオラリオで、胃痛を訴えた1柱の女神が医神の元に急患として運ばれたらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう言えば、聞きましたか?ロキ・ファミリアの『剣姫』が新種のモンスターをテイムしたらしいですよ?」

 

 とあるぼろ家で少女は隣に眠る相棒に声を掛けた。

 

「ロキ・ファミリア?あんな大手ファミリアの事なんか俺たちとは関係ないだろ?」

 

「でも、『黄色い鳥型モンスター』らしいですよ?」

 

「!?いや、でもそんなはずは・・・」

 

「違いますか?でもリリは話に聞いた『チョコボ』の様に思いますよ?」

 

「そ、そんな訳無い!あいつには上手く誤魔化してダンジョンに潜ったんだからな!」

 

「意地っぱりですね」

 

「う、うるさい!明日も早いんだから早く寝ろ!」

 

 怒って毛布を頭から被った相棒に溜息を吐いて、少女は再び目を閉じた。

 

 




次回、エイナさんの受難を挟んでようやくダンジョン予定。


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チョコボとギルド

お待たせしました。

何回か書き直し、ギルド登録編とオラリオ案内編を分ける事に。

毎日すらすらと書ける作者様方って本当に尊敬します。




 

 

 

 

ギルド職員、エイナ・チュールは困惑していた。

 

 ロキ・ファミリアがダンジョンの上層で新種のモンスターを発見し、あろう事かテイムしたとの情報が入ったのが一昨日の事。

 

 それから各ファミリアからの問い合わせ対応に加え、ダンジョン攻略に向かう冒険者への注意喚起、ロキ・ファミリアへの協議連絡等々・・・ギルド職員の多くが多忙極める日々となった。

 

 日付けが変わり、ロキ・ファミリアの団長『勇者』フィン・ディムナを始めとする幹部達(主神ロキは何故か不在だった)が早朝から訪れ、ギルド幹部達と別室でテイムモンスターの地上での飼育に関する協議(誓約書の作成と納税額の加算等々)を始めたのを見届け、エイナは自分の担当する冒険者へのマネジメントや日常業務を行っていた。

 

 そんな彼女に、ギルド長の太ったエルフ、ロイマンとロキ・ファミリア担当者であるミイシャがとある頼み事をした。

 

 曰く、『ロキ・ファミリアの新人冒険者の担当を任せたい。』

 

 都市の二大勢力の片割れの担当という大きな仕事を任され、不安を覚えながらもそれだけ実力を認められた事をうれしく思いエイナは仕事を受けた。

 そして本日。まだ見ぬ新人冒険者用に、ダンジョンについて分かり易く纏めた資料を作り、決してダンジョンで不覚を取らせないように初心者用の講習の準備も整えてまだ見ぬロキ・ファミリアの新人冒険者を待っていた。

 

 

 

 

「・・・えっと・・・?」

 

 そんな自分の対応する窓口の反対側に、ちょこんと座る新しい冒険者希望者がいる。

 

 これから挑む冒険への期待に輝く瞳。

 

 ピカピカに磨いた武器と防具。

 

 どこか期待にソワソワする体。

 

 両脇を固める経験豊富なファミリアの先輩。

 

 そして、首に巻かれた真新しい赤いスカーフに白抜きで描かれた滑稽な道化師の紋章は彼が件のロキ・ファミリアの新人冒険者で有ることを示していた。

 

「・・・あの失礼ですが、冒険者希望者・・・ですか?」

 

 しかし、このままならば確実に目の前の『彼』の担当になるであろうエイナは、念の為に確認の意味を込めて尋ねた。

 

 すると目の前の『彼』は、元気良く首を縦にコクコクと振り、しっかりと大きな声で返事をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「クエッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・

 

・・・・・・

 

・・・

 

 

 

「・・・クエッ?」

 

 首を傾げる目の前の黄色い鳥型モンスターが、間違って座ってないことを理解し、引き攣った笑顔のまま両脇を固める冒険者を見る。目の前のモンスターもエイナの顔に合わせて其方を見た。

 

 一人はその手で頭を押さえている、エルフ種の敬意を集めるハイエルフの王族。

 

「あの、リヴェリア様?」

「・・・済まないエイナ。面倒を掛ける。」

「クエ?」

 

 一人は反対側に座る、現在モンスター共々オラリオで話題の飼い主である美しい少女。

 

「冒険者登録、お願いします。」

「クエッ。」

 

 振り返って此方を眺めているロイマンとミイシャ、ギルドの先輩や後輩を見る。

 

 

 全員がサムズアップを返してきた。

 

 

(は、謀られたぁ!?)

「クエッ?」

 

 よく判らないまま翼を使って、サムズアップをギルドスタッフに返している鳥と職員達に挟まれ、エイナは自分がとんでもない事態に巻き込まれている事を理解した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、余りにもイレギュラーな事態とは言え、エイナもギルド職員の一人である。上がこのモンスターの登録を認めている以上はキチンと仕事をこなさなければならない(勿論後で抗議するが)。

 

(モンスターとは言え可愛らしい見た目だし・・・大丈夫。頑張るのよ、エイナ!)

 

 少なくともゴブリンやオークやミノタウロスよりはマシだ。場所を個室へと変え、エイナは気を取り直してモンスターに向き合った。

 

 

 

「そ、それでは、これから貴方の担当になるエイナ・チュールです。」

「クエッ、クエッ!」

「えっと・・・」

「クエックエックエ!」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・クエ~・・・」

「ご、ゴメンね・・・」

 

 素直に元気よく応えてくれるのは良いのだが、言葉が通じないという現実に早速心が折れかける。

 

「・・・今の『よろしくお願いします。』かな?」

「クエッ。」

「合ってるようだな。」

 

 そんなチョコボの言葉を何故か翻訳をするアイズに目を丸くすれば、

 

「彼との意志疎通の練習だと思ってくれ。」

「は、はぁ・・・鳥君との・・・ですか?」

 

 そう言ったエイナに対して、何やらチョコボが翼を振りながらアピールするのを見てアイズが何とか身振り手振りから翻訳する。

 

「クエッ。」

「えっと『自分は』」

「クエークエー。」

「『鳥じゃない』・・・かな?」

「クエッ!」

「・・・自己紹介?『ジャガ丸号だ。』」

「はい?ジャ・・・ジャガ丸号?」

 

 あんまりにもアレな名前に思わず聞き返すと、モンスターは若干涎を垂らしながらアイズに何やら話しかけた。

 

「・・・クエー、クエ?」

(後で約束通り、沢山じゃが丸君食べさせる。)

「クエッ!」

「ジャガ丸号も認めてる。」

「・・・それでいいんですか・・・?」

 

 明らかに食べ物に釣られているモンスターに思わずと言った感じで口にすれば。

 

「・・・いいんじゃないか。」

「リヴェリア様!?」

 

 エルフの王族の諦めの入った投げやりな姿に、思わずエルフとして声が上がった。奇天烈な名前を付けられた問題のモンスターを見れば、ジーっと興味深そうにエイナの顔を見ている。

 

「冒険者になりたいモンスターなんて前代未聞ですが、大丈夫なんですか?」

「確かに他のモンスターに比べて知性が高いが、見ての通りの暢気なモンスターでな。何というか・・・悪い事を考える程賢く無い。」

「まあ・・・確かに。」

「クエ?」

 

 とある技師にも「悪事を働く程賢くない。」と言われる彼に悪い感じがしないのは、言葉が通じなくても判る。

 

「昨日今日と見た限りはダンジョンのモンスターの様に人を襲うことは無かったが、一応当分は一人にしないように必ず団員が付く事になっている。」

「・・・判りました。ですが万が一に何か有れば、責任はロキ・ファミリア、並びに飼い主であるアイズさんが取ることになります。」

「はい。」

「だから、君も悪い事とかしちゃ駄目だよ?」

「クエッ!」

 

 エイナが嗜めれば分かったといわんばかりにコクコクとチョコボが頷く。

 

「・・・本当に言葉を理解してますね。」

「ああ、共通語の読み書きは出来ないようだが此方の指示はキチンと理解出来ているようだ。」

「ジャガ丸号えらい。」

「クエッ。」

 

 褒められ、ちょっと嬉しそうな様子のチョコボに少しほっこりしながらも話を進める。

 

「それでは、アイズさんは此方の書類に記入をお願いします。」

「はい。」

「それじゃあジャガ丸君には「号までが名前」・・・ジャガ丸号君には私からギルドについて説明するね。」

「クエッ!」

 

 アイズが書類を書く間に、チョコボはエイナから簡単にギルドの説明を受ける。

 

「・・・こんな所かな?後でまた改めてダンジョンについて初心者用の講習をするけど、一つだけ覚えておいてね。『冒険者は冒険をしてはいけない』」

「クエ?」

 

 矛盾した言葉を投げかけられ、チョコボは首を傾げた。

 

「つまり、無茶や無謀な事をしないで生きて、安全に帰ってくる事が冒険者には一番大事だよ・・・って事なんだけど。」

「・・・!クエッ!」

 

 それはチョコボにも理解できた。

 テレポの栞も持たずに無謀にもダンジョンへと挑み、途中で力尽きた場合、鍛え上げたツメにクラ、手に入れたアイテムとギル、それより何より後で食べようと思って大事に取って置いたナッツが無くなってしまうのはとてもとても悲しいことだと理解しているのだから。

 

「何だか理解してくれたみたいですね?」

「命が大切・・・と言うよりも何か別な理由で、理解したような気がするのだがな?」

 

・・・最も此方のダンジョンで力尽きた場合に待っているのは死なので、剥ぎ取ったら表に叩き出されるだけの不思議なダンジョンは、ある意味親切かも知れない。

 

 とは言え無茶をすれば友人に叱られてしまうので、『無茶を為べき時』以外は彼はしっかりと準備して潜るタイプだ。だからそれを証明すべくエイナにカバンの中を見せた。

 

・テレポの栞

・記録の栞

・マップカード

・エリクサー

・万能薬

・魔法の本各種

・カラのボトル

・クラッシュストーン

・ナッツ

・シーフのカギ

 

「えっと、栞とカラのビンは要らないし、本は持って行っても読んでる場合じゃないよ?」

「クエッ!?」

 

 アイテムの効果を知らないエイナに窘められ、

 

「・・・しっかりと準備してても、君は今日はダンジョンには潜らせんぞ?」

「クエエッ!?」

 

 リヴェリアに、こっそりとロキファミリアの冒険者達に紛れ込んで(この時点で大分無理がある)探検しようと思っていた事までバレた。

 

「昨日も言っただろう?キチンと私達が君の言葉を理解できるようになるまでは駄目だと。」

「クエークエー!」

「駄目だ。ダンジョンは危険に満ちているのだから。私の授業も終わっていないし、エイナの冒険者講習も君は受けるべきだ。」

「クエークエックエー!」

「皆楽しそうなのにズルいではない。ロキ・ファミリアの冒険者全員がやって来た事だ。」

「クエー・・・」

「いや、あの、リヴェリア様?十分言葉を理解してませんか?」

「私は彼のジェスチャーから判断しているだけだ。それに加えて、新人の言いそうな事は判る。」

「むう・・・ズルい。エイナさん、出来ました。」

 

 自分よりスムーズに翻訳するリヴェリアに、若干拗ねるアイズは書き終えた書類をエイナに提出した。

 

「はい、それでは確認しま・・・」

 

──────────────────────

 

調教モンスター登録申請書兼冒険者登録書

 

種族:チョコボ種

 

名前:ジャガ丸号

 

特徴:黄色い鳥型・もふもふ・独特な臭い

 

レベル:推定6以上?

 

所属:ロキ・ファミリア

 

責任者:アイズ・ヴァレンシュタイン

 

 

──────────────────────

 

「・・・」

「・・・クエッ?」

 

 エイナが書類から目を上げれば、チョコボが大きな目をパチクリとしながら此方を見ていた。

 

「・・・上層で見つけたモンスターなんですよね?」

「はい。」

「クエッ。」

 

 揃って頷く天然な飼い主とモンスターに思わず頭を抱えそうになる。

 

「色々と突っ込みたい所ですが・・・この子、ミノタウロスとか以上なんですか?この見た目で?」

「クエ?」

 

 どこから見ても筋骨隆々なミノタウロス所か、ゴブリン辺りにも負けそうだ。とても強そうにはエイナには見えない。

 

「少なくとも上層のモンスターは一瞬でした。」

「えぇ・・・君、新種の階層主か何か?」

「クエークエー」

 

 首を振られたが、ダンジョン上層にそんな高レベルモンスターが出現したことは一大事である。目の前のチョコボというらしい種族の見た目に騙されて、初心者から第一級線の冒険者達が次々と同種のモンスターに屠られる光景をイメージし・・・エイナはふと気が付いた。

 

「というかチョコボ種って何ですか?」

 

 新種のモンスターに何故、そんな種族名が既に付けられているのかという事に。

 

「ああ、それはロキが彼に聞き取った際に判った異世界での種族名だ。」

「き、聞き取っ・・・異世界?えっ?」

「神々には言葉が判るらしい。・・・そう言えば言ってなかったな。」

「リヴェリア、エイナさんにも知っておいてもらった方が良い。」

「えっ?」

「そうだな。これからエイナも彼にアドバイザーや、ギルドと共同の生態調査で関わるから先に伝えておくべきか。」

「・・・えっ?せ、生態調査?」

「ジャガ丸号もいいかな?」

「クエッ。」

 

 そこはかとなく嫌な予感を感じながらエイナは、こういった時には、必ずアイズに着いてくるはずの神物が不在であることに気が付いた。

 

「えっと、そう言えば今日、神ロキは・・・?」

「入院しました。」

「何があったのですか!?」

「それで入院したロキが聞いた所によると・・・」

「聞いてリヴェリア様!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何でも彼は、人とモンスターが共存する世界から来たらしい。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リヴェリアの言葉に思わず天井を仰いだエイナは、暫くしてチョコボに尋ねた。

 

 

 

 

 

 

「・・・担当、別な人に変わって貰って良いかな?」

「クエッ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハーフエルフのギルド職員エイナ・チュール

 

 

 

 

 

 

 後にプロアドバイザー(とんでも連中担当)と呼ばれる女である。

 

 

 

 

 

 

 



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チョコボとオラリオ

大変お待たせしました。
本業が忙しくコメント・メール等返せず申し訳ございません!

*2/25御指摘により修正しました。
×エアロストーム
○エアロオール


 人と魔物は分かり合えない。

 

 これはオラリオに住まう冒険者のみならず、この世界に住まう様々な人種の常識だ。

 

 オラリオの外に現れる最弱のゴブリンですら、神の恩恵無くば斃すことは難しく、三大モンスターの一角たる隻眼の黒龍に至っては最早災厄である。

 

 しかし、魔物とは恐ろしきこの世界の人々の敵であると同時に、その身に有用な魔石や素材を持った資源でもある。

 

 互いに狩り狩られる存在であるが故に分かり合う事は無いのである。

 

故に・・・

 

 

「きゃーっ!かわいーっ!」

「クエッ!?」

「モフモフしてる~。」

「クエェェェェ・・・」

「とりさんふかふか~!」

「クエ~・・・」

「ジャガ丸号大人気。」

「・・・そうだな。」

 

 目の前で子供達に集られて、怖がられることも無く思うままにモフられているチョコボは凄まじく希少な存在だよなぁと、ロキ・ファミリア副団長リヴェリアは遠い目をしながら思うのである。

 

「私も触っていいですか!?」

「・・・いいよ。」

「クエッ!?」

「ジャガ丸号も良いって言ってる。」

「クエ!?クエッ・・・!」

「「「わーい!」」」

「クエーーー!?」

「・・・いや、明らかに困ってないか?」

 

 何とか無事?にチョコボの担当者も決まり、(担当者の体調不良により講習は延期)一行は昼食を取るべく広場に向かったところで近所で遊んでいた子供達に囲まれ・・・今に至る。

 元の世界と違い、何故か皆が身体を撫でたりモフモフしてくるので困惑するチョコボであったが、何だか子供扱いされているような気がしてきたので一言物申そうと口を開いた。

 

「クエー!クエ・・・」

「鳥さんクッキーあげるー。」

「あ、わたしもわたしも~!」

「・・・クエッ!」

 

 数秒前の決意を忘却の彼方に置き、子供達におやつを分けて貰っている鳥を何とも言えない顔でリヴェリアが眺めていると近くの屋台から紙袋を抱えてアイズが戻ってきた。

 

「じゃが丸君か。買いすぎじゃ無いか?」

「違う。買おうとしたら『祝エブリバディ発売』って言って渡された。」

「・・・エブリバディ?」

「ジャガ丸号、じゃが丸君あげる。」

「クエッ!!」

「皆も。」

「「「わ~い!」」」

 

 近くの屋台で買って来たらしい沢山のじゃが丸君をチョコボやおやつを分けてくれた子供達に配るアイズを眺めながらリヴェリアは首を捻る。

 

「『エブリバディ』とは何だ?」

「さあ?」

 

 『エブリバディ』という言葉に一体何の意味があるのかさっぱり判らないが、2019年3月辺りに何か不思議な事が起こるのかもしれない。

 

「・・・色んな世界にジャガ丸号が現れ(クロスオーバー作品が増え)そう。」

「よく判らんが色んな人が困りそうだな。」

「クエ?」

 

 揚げたてのじゃが丸君をパクパクと食べていたチョコボが振り返って首を傾げ、再び食べる事に戻った。

 

「美味しい?」

「クエッ!!」

 

 三つ目のじゃが丸君を食べていたチョコボがコクコクと頷いた。どうやらかなり気に入ったらしい。

 

「クエ~・・・クエックエッ!」

 

 すると、自分の身体を弄ったジャガ丸号が緑色に発光するハネを取り出してアイズに差し出した。

 

「くれるの?」

「クエッ。」

 

 どうやらじゃが丸君のお礼のつもりらしい。

 

「綺麗なハネだね。」

「ハネだと?私には植物の葉に見えるが・・・」

「え?」

 

 思わず聞き返した瞬間、アイズの手のハネは吸い込まれるように消え、

 

──『エアロオールのハネ』を手に入れた。

──異世界のプログラムを変換し適応します。

──『エアリアル』が強化されました。

──『エアロ』系統の魔法が解放されました。

──『エアロオール』が解放されました。

 

 そんな言葉が頭に浮かんだ。

 

「何だったんだ今のは?」

 

 狐に化かされたかのような顔をするリヴェリアに、アイズは先程頭に浮かんだアナウンスを伝える。

 

「何で魔法が増えるんだ・・・?」

「よく判らないけど・・・良い物?みたい。」

「・・・彼にはまだまだ謎が多いな。」

「・・・ロキが帰って来たら聞いてみる。」

「クエッ?」

 

 頭を抱えるリヴェリアを心配そうに見上げるチョコボに、アイズはじゃが丸君をもう一つ渡した。

 

「もう一つあげる。」

「クエッ!クエクエ~。」

「沢山食べた?」

「クエッ!!」

「・・・これで正式にジャガ丸号。」

「クエッ?」

「気にしなくていい。もう一つあげる。これは小豆クリーム味。」

「クエッ!」

 

 アイズが呟いた台詞は聞き取れなかったらしいが、差し出された五つ目を吞気に食べるのであった。

 

 そんなやり取りを行う一人と一羽を呆れたような目で見ながらリヴェリアは通りを行き交う人々を眺める。

 道行く冒険者が網を抱えていたり、鉄製の檻を運ぶ集団が居たりと何時もよりオラリオは騒がしい。

 

「網や檻を持った冒険者がいっぱい。」

「恐らくチョコボ種の捕獲が目的だろうな。」

「クエ?」

「何故かモフモフモコモコした装備をしてる男の人もいっぱい。」

「・・・それも間違いなくジャガ丸号が原因だな。」

「クエッ?」

 

 この世界で『モンスター』と言えば、ゴブリンやオーク、ミノタウロスと言ったような『恐ろしい姿』だったりする訳であり、とても愛でたい様な見た目ではない。

 そんな世界に『人に懐く可能性が有る可愛いくてモフモフなモンスター』が発見されればどうなるか・・・

 

「・・・多分捕まらないよ?」

「まぁ彼らは知らないだろうからな。」

 

 ロキ・ファミリアの面々はチョコボが異世界から来た事は知っているが、そんなことは知らない冒険者達は新種で一獲千金とばかりにダンジョンへと繰り出していった。

 仮にこの鳥がもう一羽居たとしても、第一線級の冒険者が認める強さを持つこのモンスターを並の冒険者に彼等を捕まえる事が出来るとはリヴェリアは思えない。

 

「とは言え何が起こっているのかは判らないから、一概には言えんがな。フィン達がダンジョンの調査に当たってはいるが・・・」

 

 他にも此方の世界に来ているモンスターが居るのか?居たとしても彼の様に友好的なモンスターなのか?

 

「少なくとも今後のダンジョンは一筋縄ではいかないだろう。」

 

 そう言うとリヴェリアは白亜の塔を見上げた。

 

 

 

「──可愛いっ!!」

「クエ・・・クエーッ!?」

「あ、捕まった。」

 

 

──決して通りすがりの豊穣の女神の双丘に、野菜に釣られて捕まった彼の助けを求める目から逸らしているわけでは無い。・・・多分。

 

 

 

 そんな風に地上でアイズ達が過ごす一方、ギルドからの依頼を受けロキ・ファミリアのメンバーはダンジョンに潜っていた。

 

「ふむ・・・特に異常は観られないね。」

「何時ものダンジョンじゃのう。」

 

 何時もの様に壁から現れるいつも通りの姿のモンスター達を屠りながら一階層ずつ見て回っているが、ダンジョンの構造が変化することも無く至って順調であった。

 

「うーん。ジャガ丸号みたいなチョコボ種が他にも居たら良いのになー。」

「・・・ロキが今度こそ(ストレスで)送還されかねないから止めなさいよ。」

「そうですよ!あんな何処の馬の骨とも知れない鳥がこれ以上増えるなんて!?」

「レフィーヤ・・・」

 

 憤慨するエルフの少女に対してティオネは呆れた顔を向けた。

 

「今朝だってアイズさんとティオナさん直々にお風呂に入れて貰ったばかりか、洗って貰うなんて!」 

「それは仕方ないじゃ無い。二人ともジャガ丸号と寝た所為で匂いが付いちゃったんだし。」

「あははは・・・何か変な匂いがしてたからね~。」

「それだけでも羨ましいのにアイズさんのシャンプーとリンスとトリートメントにボディーソープと洗顔料を使って・・・!!」

「あ~しかも使い切っちゃったもんね。」

「え、待って?ジャガ丸号のどこから何処までシャンプーでボディーソープで洗顔料なのよ?」

「おい!うるせえから静かにしやがれ!」

「何さー!ジャガ丸号が羨ましいからってさー!」

「ああ!?」

「ちょっと!?気になるんだけど!?」

 

「君達・・・もう少し緊張感を持てないのかい?」

 

 団長の眼だけが笑っていない笑顔に全員が一斉に黙る。

 

(ちょっと!?私まで団長に怒られたじゃない!)

(ティオネだって騒いだじゃん!)

(あわわわわ・・・スミマセン!)

「チッ・・・あん?」

 

 目線だけで会話する姉妹とエルフに付き合ってられないとばかりに前を行くベートは足を止めた。

 

「どうしたベート?」

「何々?ジャガ丸号でもいた?」

「居ねーよ馬鹿。アレ見ろよ。」

 

 ベートの指し示す先で、黄色い花を咲かせた丸っこくてトゲトゲした緑色の植物が揺れていた。

 

「・・・花でしょうか?」

「あれは・・・サボテン・・・かな?」

「こんな階層に在ったかのう?」

「何でこんな階層にサボテンなんかが在るのよ?」

「本当だ、サボテンだー!」

 

 フィン達が首を傾げる中で無邪気にティオナが声を上げた瞬間、左右に揺れていたサボテンがピクリと止まるとクルリと回る。

 

「うわ!?ナニアレー!?」

「モンスター!?」

 

 花が咲いた丸っこいサボテンの胴体に点で記したような顔が付いていた。胴体に短い手足のような物が付いた奇妙なモンスターはロキファミリアの面々を見て、

 

『∑(∵)!?』

「何か喋った!?」

 

 人には意味不明な鳴き声を発する奇妙なモンスターは、特に襲い掛かる事も無くロキ・ファミリアの面々をじーっと見詰めていた。

 若干首・・・というか身体を傾けているので『何か用?』と聞いているようにも見える。

 

『・・・(∵)?』

「何だこいつ?」

「明らかに新種だね。」

「でも・・・何か弱そうですね?」

 

 レフィーヤが何となく見た感じの感想を呟けば、モンスターはレフィーヤの方を見てタシタシと短い足で地団駄を踏みながら鳴き声を発する。

 

『(∵)!!!!』

「・・・怒ってない?」

「もしかして聞こえてたんじゃ・・・キャア!?」

 

 顔面に何か金色に輝く物が凄まじい速さで投擲され眉間に直撃したレフィーヤはそのまま涙目で蹲った。

 

「レフィーヤ大丈夫!?・・・ふぎゃっ!?」

「だらしねぇな、それぐらい躱し・・・ガッ!?」

「アンタだって躱せてな・・・痛っ!?」

「これは・・・ジャガ丸号が持ってた硬貨?」

 

 同じように硬貨─ギルをぶつけられた姉妹とベートは怒りを込めた目で謎の緑色のモンスターを睨み付けた。

 どこか虚ろに見える目と口をしたモンスターは彼等を見渡し・・・

 

『(∵)www』

 

 明らかに馬鹿にするように笑った。

 

「「「ぶっ殺す!」」」

 

 斯くして、ダンジョン内部にて冒険者達をおちょくりながら逃げる謎のモンスターと、本気で追う第一線級冒険者達の永きに渡る追走劇が幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・クエッ!クエー!クエッ!」

 

 一方その頃、ボサボサになった毛並みを整えてもらいつつチョコボが抗議の声を二人にあげていた。

 

「ゴメンねジャガ丸号。」

「すまない。何というかあの方・・・デメテル様には意見し辛くてな。」

「クエ~・・・」

 

 通りすがりの男共から大量の嫉妬の視線を浴びながら豊穣の女神が堪能するまでモフられたチョコボは、頬を膨らませ女神に貰った大量の野菜をバリバリとヤケ食いする。

 

「・・・館で私に出された分の人参あげるから。」

「クエッ!」

「それで良いのかジャガ丸号・・・あとアイズは人参をサラッと押し付けるな。」

「・・・誰も不幸に成らないロキが言う『WinWinな関係』だと思う。」

 

 そんな話をしながら一行は、ここオラリオの中心的存在である白亜の塔『バベル』へとたどり着く。

 昼過ぎとは言え沢山の人々で賑わう広場で遠巻きに眺められながらバベルを眺めた。

 

「クエ~。」

 

 巨大な建造物は元の世界でも見てきたチョコボであるが、改めて見上げる神々の造り上げた白亜の巨塔の持つ威容と美しさに感嘆の声を上げる。

 

「・・・クエッ?」

 

 だからこそ、その白亜の巨塔の一部に貼り付く様に造られた人工物に違和感を覚えた。

 

 バベルの四階から八階に至る一部に矢鱈と金属的で無骨な建造物が内部から突き出るように存在していた。

 その違和感たるや明らかに世界観が違うとチョコボでも思うレベルである。

 

──具体的には似た物を元の世界で見たような。

 

「・・・クエークエッ?」

「ん?・・・ああ、アレか。」

 

 翼で指す先を見たリヴェリアが苦い顔を浮かべ、代わりにアイズが答える。

 

「今から行く『ヘファイストス・ファミリア』の拠点だよ。」

 

 

『ヘファイストス・ファミリア』

 

 地上に降りた隻眼の鍛冶神、ヘファイストスが率いる武器や防具の製造業大手である。

 ヘファイストス自身と在籍する鍛冶師達の造り上げる逸品を求め、毎日沢山の冒険者達で賑わう。

 その実力と実績は、オラリオの中心的存在であるバベルの四階から八階をテナントとして占有するという事からしても伺えるだろう。

 

「クエッ?」

「ジャガ丸号のツメとクラに使われてる素材を観てみたいって依頼があったんだって。」

「まあ君の調査研究の一環だな。ヘファイストス様自身はかなり常識的な方だから安心して良い。・・・非常識な団員の件でかなり苦労をされているからな。『狂鍛冶師(マッドスミス)』め・・・」

「・・・クエ?」

 

 溜息と共に米神を抑えるリヴェリアにアイズとチョコボが揃って首を傾げる。

 

「・・・おじさん変わってるけどいい人だよ?」

「現在進行形でギルドと外壁の件で揉めているんだがな。・・・造り上げた物が多くの実力有るファミリアで評価・支持されているから質が悪い。」

 

 そうリヴェリアが口にした時である。

 

「・・・相変わらず失礼なエルフじゃのう。」

 

 雑踏から此方に向けて歩いてきた一人のドワーフがリヴェリアに声を掛けてきた。

 ドワーフにしては大変珍しくヒゲを整え、ヘファイストス・ファミリアの紋章の入った革のジャケットを着てゴーグルを頭に着けた・・・

 

「クエエッ!?」

「どうしたのジャガ丸号?」

「ん?何じゃいお前さん・・・いや、待てよ。」

 

 とある技師と瓜二つな外見を持つドワーフに驚くチョコボを見て、暫く何かを思い出す様に顎に手をやったドワーフの男はポンと手を打った。

 

「ああ!お前さん確か『別な世界の儂』と会っておったチョコボ種じゃな?」

「クエ!?」

 

 ドワーフの言葉に更に驚くチョコボとアイズ。

 

「おじさんジャガ丸号を知ってるの?」

「ジャガ・・・何じゃいそのけったいな名前は?」

「・・・変じゃないモン。」

「相変わらず変わっとるのう。まぁ、別な儂から此奴を見付けたら助けてやってくれと頼まれとるでな。」

「クエ?」

「『誰に?』じゃと?そりゃ勿論お前さんの所の儂にじゃよ。」

「・・・翻訳まで・・・」

「どういう事だ?」

「儂のレアスキルの関係じゃ。後でお前さん達にも教えてやるわい。じゃが先ずは改めて名乗ろうかの。」

 

 ドワーフは頬を膨らませたアイズと目を丸くしているリヴェリアから改めてチョコボに向き直る。

 

 

 

「儂の名前はシド。シド・ランドロックじゃ。」

 

 

ヘファイストス・ファミリア所属の「()()()

level.5『狂鍛冶師(マッドスミス)』シド・ランドロック

 

 別な世界の自分()と繋がるレアスキルを持つ、ヘファイストス・ファミリア一の問題児である。

 

 

 

 

 

 

 



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チョコボとヘファイストス・ファミリア

転職、引っ越しときてやっと投稿。

もう一つの方も書かないとなぁ・・・




 

 

 ファミリアを運営する神々にとって自身の眷族達にレアスキルが宿ることは歓迎すべき事である。

 

 自分の眷族が更なる高みを目指して邁進する姿、そしてその想いや努力の結晶に神それぞれ思惑は違えど喜ばない者は居ない。

 

 

 

 

 

・・・あくまでも常識の範囲内(胃が耐えられる間)ならば。

 

 

 

 

 神々が地上に降り立ち、神血を地上の子供達の背中に刻む『神の恩恵』を与える事によりこの世界、特にオラリオには英雄と呼ばれる神々の領域にその存在を近付けた人間達が数多く存在する。

 

 しかしながら、世の中には他の人外魔境な世界(ルビスやバハムート達の管轄)や、かつて地上に神々が降りる以前のように『神の恩恵』が無くても『英雄』の頂に上がれるだけの素質や才覚を持つ『規格外』な者も極々少数ながら存在するのである。

 

 

 そんな規格外な存在に『神の恩恵』を与え、魂の位階を上げさせて、素質や才覚をブーストし、経験値を積み上げ、あまつさえレアスキルに目覚めれば一体何が起こるのか。

 

 

 

 

──どうにもならない事になるのである。

 

 

 

 

 

 主神に神々、ファミリアの幹部やギルドの職員達の頭を悩ませ、胃を散々に痛め付けるようなとんでもないスキルを持ち、その力を存分に振るいし者達・・・

 

・・・一例を挙げるならば、

 

かつてのオラリオで『ドロップ品が見たことも無いような武器や防具やアイテムに変わる』スキルを得てオラリオ中の鍛冶屋を大不況に陥れた恵比寿・ファミリアの『大武器商人(太っちょ武器屋)』(現在は引退)。

 

上記と似たスキルに加え『旅先で大事件(試練)に出会う』スキルを得てオラリオの外で大事件の中心となりながら旅をし続けるヘルメス・ファミリアの『風来人(フリーダム)』。

 

 

 そして、ヘファイストス・ファミリア所属、『狂鍛冶師(マッドスミス)』シド・ランドロック。

 

 『ランドロック』の姓から判る通りロキ・ファミリア幹部の『重搩(エルガレム)』ガレス・ランドロックの弟に当たる。

 

 ヘファイストス・ファミリアに入団した当初は、見た目も極々普通のドワーフであった。

 

 そんな彼の背に『恩恵』が刻まれた時。発現したレアスキル。

 

 

英雄の隣人達(シド・ネットワーク)

・他世界の自分達と経験や技術を共有出来る。

・他世界の自分達と夢の中で会話できる。

・偉業達成難易度上昇。

 

 

 このスキルが発現し、世界の広さを知った日から、普通のドワーフと同じであった髭を剃り髪を整えた彼の大躍進が始まる。

 

 

──世界初の魔石を使わないエンジンの発明

 

──戦車・潜水艇・飛行艇を独自に建造。

 

──現在確認されている全階層主の単独最速撃破。

 

 

 王国との戦争においては持てる技術の限りを尽くした発明品とアイテムを携え、そしてとある世界のシドばりの戦い振りを行い・・・オラリオ・王国両方から「出禁」を喰らった初の冒険者でもある。

 

 

 

 

「つまり、そのスキルを通じて異世界中のシドに『もし見付けたら』と、ジャガ丸号の保護要請があったという事ですか?」

「・・・ジャガ丸号実は凄い鳥?」

「クエ?クエークエークエッ?」

 

 ヘファイストス・ファミリアの応接室のソファにてシドのスキルの説明を受けたリヴェリアは眉間を押さえ、取り敢えず世界を越えて保護要請されるチョコボは、どうやら自分が思うより凄い鳥らしいと思うアイズに対して『自分は鳥じゃなくて普通のチョコボだよ?』と返している吞気なチョコボ。

 

「そうじゃ。流石向こうの儂じゃよ。向こうに出現したダンジョンが他世界に通じとると見抜くとはのう。」

「クエ~。」

「じゃが、お前さんを帰す手段までは見付かっとらん。それに何でもお嬢ちゃんが一人でお前さんを探してダンジョンに入っとるらしいでな。」

「クエー・・・?」

「お前さんを探しとるらしい。」

「クエ・・・クエー?」

「わかっとるわかっとる。ちゃんと向こうの儂に見つかったと伝えて貰っておくでな。」

「クエッ。」

 

 何やら向こうの世界の様子を普通にチョコボと会話するシドの様子には嘘が見られない。どうやら異世界と繋がっているという話は本当らしい。

 

「信じられないかも知れないけど本当に発現してるスキルなのよ・・・」

 

 余りのスケールに頭を抱えるリヴェリアの対面に座る隻眼の女性、鍛冶神ヘファイストスは慣れた手つきで懐から取り出した瓶から錠剤を二つ取り出すと白湯で飲み込んだ。

 

「クエックエ?」

「心配してくれてありがとう。・・・気持ちだけで嬉しいからその万能薬とやらは仕舞ってくれるかしら?」

「クエッ。」

 

 カバンにビンを仕舞うチョコボの隣で、リヴェリアはヘファイストスからそっと分けて貰った錠剤を白湯で飲み込む。

 

「クエックエ?」

「・・・私も要らないから仕舞っててくれないか?」

「クエッ。」

 

 再びカバンにビンを仕舞うチョコボにヘファイストスは溜息をついた。

 

「いいかしら、えっと・・・ジャガ丸号君?そんな簡単に他の世界のアイテムを渡そうとしちゃ駄目よ?」

「クエ?」

「はあ・・・君にとっては普通のアイテムでも、物や技術によってはこの世界に対して余りにも危険な物だってあるのよ。・・・場合によってはソレを巡って争いが起きる位に。例えば・・・『かまど合成』とか。」

「クエッ?」

「『かまど合成』?」

 

 コテンと首を傾げたアイズにチョコボが身振り手・・・翼振りで説明する。

 

「クエ~クエックエークエー・・・」

「『丸くて?大きな・・・かまどに・・・?』ごめんジャガ丸号。さっぱり判らない。」

「クエー・・・クエー?」

「すまないジャガ丸号私も判らない。」

「クエー・・・」

 

 何かしら表現しているのは判ったが、まだ二人には細かい説明が判らない。

 

「かまど合成って言うのは二つの武器を一つのより強力な武器にする画期的な技術さ!」

「・・・基にした武具に素材とする武具の力や特性を加え引き継がせる『この世界』には無い技術ね。」

 

 そんな二人と一羽に女神が説明をする。

 

「但し、使うには専用の竈と薬剤、それと特殊な術式の用意が必要なのよ。それに基にした武器は消滅するし・・・術式に問題があって場合によっては大変な事になるんだけど・・・それは置いといて」

 

 そう言ってヘファイストスはテーブルの上に置かれたツメとクラを指でなぞった。

 

「これはかまど合成で変化させて出来たチタンをメインに・・・ミスリルと幾つかの金属を使った物ね。このツメとクラはかまど合成で手を加えたり・・・かなり腕の良い鍛冶師が鍛え上げたりしたみたいね。付与されているのは『吸血』・・・良い物を見せて貰ったわ。」

「クエッ!」

「だけどね?この世界でコレと同じ物(+99相当)を作ろうとしたら、ウチの椿達上位鍛冶師達が不眠不休で打ち続けても作り上げれは・・・いや。作り上げれるかもと言った物なのよ。」

 

 その言葉にチョコボの両隣に座っていたアイズとリヴェリアが息を呑み、チョコボのツメとクラを見た。

 

「だ、誰でも強い武器が手に入るんだぜ!」

「素材と道具さえ有れば誰でも同じ物が手軽に作れる・・・その技術を否定するわけでは無いのだけれどね。だけど、武器の価値と鍛冶師達の技術を暴落させかねない『かまど合成』はこの世界だと鍛冶師達の多くが廃業になりかねないわ。・・・そんな訳だから鍛冶の神としては。」

 

 そう言うとヘファイストスは自身の隣に座る、見事な黒髪をツインテールに束ねた小柄な女性の方を向いた。

 

「ヘスティア。この世界でかまど合成屋さんをやるなら私達鍛冶系ファミリアの全てが敵に回るわよ?」

「酷いよヘファイストス!?僕の計画が・・・」

「そもそも『かまど合成』は、問題の改善出来なくて天界で禁止になったでしょ?」

「あんまりだぁ!?」

「・・・クエェ・・・?」

 

 先日地上に降り、ここヘファイストス・ファミリアに居候中の神。『かまど』を司る女神ヘスティアがテーブルに突っ伏した。

 

 

 

「君ぃ!酷いじゃ無いかぁ、僕のファミリア計画が台無しになっちゃったじゃないか!」

「・・・クエ~・・・クエックエ?」

「し、失礼な!?さっき初めて挨拶した時は目を輝かせて信仰みたいな気持ちを送ってくれたのに『本当にかまどの女神様ですか?』だって!?」

 

 憤慨する小柄な女神を見て、暫定飼い主であるアイズはチョコボを窘める。

 

「ジャガ丸号。それは失礼。」

「クエークエー?」

「ちょっと格好が変だけど本当に女神様。」

「クエッ!」

「揃って失礼だな君たちは!?しかも悪気が無い分質が悪いよ!」

 

 やはり天敵の所の子供達とは相性が悪いのか、とヘスティアは頭を抱えた。

 

「全く、ファミリア運営に楽な道なんて無いわよ。貴女は先ず地道に働いてウチを出て拠点を作りなさいな。」

「ううっ・・・使われなくなった武器や防具を安く買い取って、所属する冒険者の武器や防具を自前で強化したり販売したりして最強の探索系ファミリアになる計画が・・・」

「・・・本当に今すぐ叩き出してやろうかしら?」

 

 堂々と居候先の迷惑になりそうな計画を口から漏らす居候に家主は青筋を立てる。

 

「そんな訳だからかまど合成は無いけど、君の武器は私かシドに言ってくれれば鍛えてあげるわよ。勿論お代は頂くけど。」

「クエッ!」

「ヘファイストス様も打たれるのですか!?」

「・・・ジャガ丸号ズルい。」

「・・・クエ~・・・?」

 

 ヘファイストスの言葉にリヴェリアは驚愕しアイズは拗ねてチョコボの頬をモフった。

 

「私か上位鍛冶師達じゃないと君に耐えられる武具は作れないでしょうし。・・・それにモンスター用の武器って言うのも面白そうだしね。」

「クエッ!」

「あら、早速依頼してくれるの?」

 

 チョコボは頷くとカバンからヴァリス─ロキが買い取ったアイテムの代金─の詰まった袋を取り出してヘファイストスへと渡した。

 

「あら、一括即金なんて。君は随分お金持ちさんね。」

「クエ」

「だけどさっき言ったばかりでしょ?」

「クエッ?」

 

 首を傾げたチョコボは周りを見渡した。

 

 気楽に大金を支払うチョコボに頭を抱え込んだリヴェリア。チョコボに頬を膨らませて嫉妬するアイズ。

 

「モ、モンスターに所持金で負けるなんて・・・」

 

 そして床に膝から崩れ落ちた女神。

 

 それを見たチョコボはヘスティアに近づいてナッツを差し出した。

 

「・・・クエー?」

 

 ポンポンと・・・もといモフモフと肩を叩いてナッツを差し出すチョコボに、肩を震わせて崩れ落ちていたヘスティアは徐に立ち上がる。

 

「ど、同情されてたまるもんかぁ!?見てろよ!今にお金持ちになって君の目の前で山ほどじゃが丸君を食べて見返してやるんだからなぁ!!」

「何よその安い報復は?」

「うわあああん!こんなとこ出てってやるぅ!」

 

 勢いよく立ち上がったヘスティアは部屋から飛び出て行った。

 

「山ほどのじゃが丸君・・・羨ましい。」

「クエ。」

「・・・あなた達本当に似た者同士ね。」

「「?」」

 

 ヘファイストスの言葉に揃って首を傾げる一人と一羽であった。

 




次ぐらいにはダンジョンに突入させたいなぁ・・・

・・・リヴェリア様の胃が痛むけど。



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チョコボとお見舞い

お待たせしました。

ダンジョンまでたどり着けてませんが、きりが良いので投稿です。


 

オラリオが燃え上がる。

 

白亜の巨塔は崩れ落ち、迷宮の蓋は開けられた。

 

 

『モンスターに』では無い『英雄達により』だ。

 

 

 

 様々なクリスタルでその崩壊を防ぎ、世界を救って来た英雄達。それが今、この街に神々の手により集められていたのだ。

 既に彼等彼女等はダンジョンの奥深くへと進攻し、並み居る恐るべき実力を持つモンスター達を軽々と屠っていた。

 

 地上では多くの神々が焼かれ、斬られ、雷に討たれ、遠くガネーシャ・ファミリアの本拠地の方を見れば巨大な氷山が作られているのが見える。

 

 そして今、自身の目の前には怒り狂う神々がいた。

 

青い巨体の龍の姿をした『バハムート』

 

槍と剣を持ちこちらを睨む『オーディン』

 

焰に体を包む『イフリート』

 

白いローブを身に着けた老人『ラムウ』

 

氷の微笑を浮かべる美人『シヴァ』

 

土色の巨人『タイタン』

 

『遊びは終わりだ。』と言わんばかりの天界戦力の投入により迷宮は攻略され、神々は強制送還されていった。

 

 頼みの綱の自身のファミリアの子供達は、と言えば

 

『『『クエッ!』』』

『・・・ち、ちくしょうが・・・!』

『むう・・・!?』

 

 色取り取りのチョコボ種の群の足元にぼろ雑巾になっているか・・・はたまた

 

『くっ!?た、頼むから離れてくれ!』

『これは・・・困ったね。』

『『『『『キュピキュピキュピ!』』』』』

 

『危ないから纏わり付かないで~!?』

『ちょっと!離れなさいよ!』

『『『『『キュピキュピキュピ!』』』』』

 

『・・・君はコンソメ号。君はうすしお号。君は・・・サワークリーム号。君は柚子胡椒号。君は・・・』

『アイズさん!雛が名付けられに益々集まって来てますから名付けるのやめて下さい!?』

『『『『『キュピキュピキュピ!』』』』』

 

 色取り取りなチョコボ種の雛達に足下や身体に群がられるかしていた。

 

『は、離れてくれ!このままでは・・・』

『ああ、ロキを助けに行けない・・・』

『『『『キュピキュピキュピ!』』』』

 

『お願いだから離れてー!?危ないからウルガに乗ったりしないでよー!?』

『離れなさいってば!団長とロキの所に行けないでしょ!?・・・は・な・れ・ろやぁ!』

『『『『キュピキュピキュピ!』』』』

 

『君はのり塩号。君はジャガバター号。君はコンソメWパンチ号。』

『キュピッ!』

『キュピキュピ!』

『キュピキュピッ!?』

『『キュピキュピキュピキュピ!』』

『・・・コンソメ号とコンソメWパンチ号、喧嘩しないで。』

『ああっ!?ちょっと何処に乗って・・・きゃあ!?』

『『『『キュピキュピキュピキュピ!』』』』

 

 しっかりと足止めや倒されたファミリアの団員達を眺めている間に、神々はロキを囲み残酷な言葉を紡ぐ。

 

『有休の時は過ぎ去った。』

 

 時を司るバハムートの言葉に囲む神々が頷く。

 

『『『『『『さあ、仕事を始めよう。』』』』』』

 

 絶望に包まれるロキは、最後に一言─────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アイズたんだけ、助ける気ゼロなんやけどおぉぉぉ!?」

 

 

 細い目を見開き叫び声を上げながらロキは目覚めた。

 

 『青の薬舗』の簡易病室のベッドの上で身体を起こしたロキは、痛みを発する胃を抱え、肩で息をする。

 

「・・・おんどれ、とうとう夢の中にまで出て来よったかあの鳥・・・」

「またか、今度はどうしたロキよ?」

「おぉ・・・すまんなミアハ。」

 

 悲鳴を聞き付け、若干呆れた表情を浮かべながら病室に入って来たのは美男子・・・ポーションと胃薬、そして胃の治療に神々から定評のあるここミアハ・ファミリアの主神であり、善神として名高いミアハは持って来た薬湯をロキに差し出しながら問うた。

 

「いや、天界の連中にオラリオが崩壊された上に、鳥が大量発生してアイズたんに助けて貰えん夢見てな。」

「・・・それは予知夢では無かろうな?」

「やめてや・・・笑えんで。」

 

 薬湯を啜りながら応えるロキだが、どうも連中と関わり深いらしいチョコボがこの世界に居る以上、その可能性が有るので笑えない。

 

 そんなわけ無いだろう、と思うそこの貴方に一つ問題である。

 

 

 

 

 

Q:自分達のお気に入りの子が突如行方不明になり、捜してみたら自分達に仕事を押し付けてバカンスしている連中、特によく知ってる神物の所に居ました。

 

▶どうしますか?

 

①メガフレア

②グングニルの槍&斬鉄剣

③全員纏めてニーベルン・ヴァレステイ

 

出題者・休みの無い人事課の戦乙女(次女)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・アカンアカン!バハムートのメガフレアがぁ!?オーディンがぁ!?アイツら真っ先にウチを殺しに来るやん!?序でにレナスも絶対参戦してウチにオーディンごと槍投げてくる気やん!増えとるやんか!?」

「落ち着くのだロキよ。後、彼女との件は完全に其方の自業自得である。」

 

 天界(VP)時代のトラウマが蘇り、再び頭を抱えてベッドの上で転がり回っていたロキは冷めた目で見遣るミアハに対して細い目を開いて訴える。

 

「自分はアレを喰らってへんからそないに落ち着けるんや!ホンマに洒落にならんくらい痛いんやで!?つーか今喰らったら死ぬわ!?強制送還や!」

「・・・かつて戦乙女の件もであるが、直近でバハムート達を怒らせたという『あの件』は、そもそも其方が原因であろう。」

「ぐぅっ・・・」

 

 気まずそうに目を逸らしながら薬湯を啜るロキに、ミアハは一つ溜息をつく。

 

・・・ロキがここまでバハムート達に会いたくないのは、彼等にオラリオ毎自堕落な神々を灼かれるのを懸念しての事だけでは無いと知っているのだから。

 

 最近地上へと降りた知古の神物と酒を酌み交わした際に聞いた、別世界で起きたとある事件とその顛末に顔を曇らせる。

 

「聞いた話では、最後の生き残りの子が時間逆行し、その時代に居た英雄がその子を助けて解決したらしいが。」

「・・・ホンマに反省しとるんよ?そないな事になるとは思わんしな。ウチもホンマに『オレTUEEEEE!』的なイベントにするはずで用意したアイテムやったんやけどなぁ・・・せやけど、世界滅ぼした化け物を倒したいうんやからホンマにバハムート達の管轄しとる世界の英雄はどチートばっかりやで。」

「バハムート達やルビス達の管理世界はどれも一歩間違えただけで滅びかねん世界故な・・・」

 

 自分達が今居る世界の強者──フレイヤ・ファミリアの『猛者』オッタルでlevelは7。バハムート達の管轄に換算すればlevel70台中半から後半と言ったところであろう。

 勿論バハムート管轄の世界でも十分に強者に分類される強さであるが、あの世界はlevel99等の規格外な強さに至った英雄達が存在する上に、その彼等彼女達をたやすく屠れる化け物すら存在する人外魔境であるのだ。

 ・・・ちょっと隣町に行くのにこっちでの中堅冒険者並の力量が要る何て話も珍しくない修羅の世界である。

 

「・・・まぁ、兎も角彼等の世界のモンスターが何故かオラリオに現れた以上は、バハムート達が何かしらのアクションを起こすであろうな。」

「・・・アカン胃薬胃薬・・・」

 

 それぞれ頭に浮かんだ未来予想図に顔を曇らせるミアハと、胃が痛み始めたロキが胃薬を飲もうとしたとき、病室の扉がノックされた。

 

「・・・ロキ。大丈夫ですか?」

「おお、アイズたん!?」

 

 扉の向こうから聞こえた自身の愛する眷族からの声に思わず声が上がる。

 

「大丈夫やで、アイズたんの顔みたらこんな胃の痛みなん「クエッ!」・・・おおぅ。胃がヒュッとしたわ。」

「・・・どれだけジャガ丸号に対してストレスを感じているのだロキ。」

 

 病室に入って来たのはチョコボの冒険者登録やヘファイストス・ファミリアに行っていたアイズとリヴェリアであった。アイズの後ろからピョコピョコ歩いてきたチョコボはそのままロキに近付く。

 

「クエークエー。クエッ?」

「あー大丈夫やで。自分がちゃんとこっちの常識ちゅーもんを持ってくれたらな。」

「大丈夫。私も居る。」

「クエッ。」

「不安しか無いけどホンマに頼むで・・・」

「・・・ふむ。其方が異世界のモンスターか。」

「クエッ?クエックエー!」

「うむ、元気があって良いな。ミアハという。よろしく頼む。」

「クエッ!」

 

 挨拶を交わすミアハとチョコボを横目にロキはリヴェリアに話し掛けた。

 

「んで、登録はどうやった?」

「ああ、紆余曲折あったが無事に受理された。担当はミイシャではなくエイナになったが。」

「・・・今度ギルド行った時、エイナたんに菓子折と胃薬差し入れとくわ。」

「そうしてやってくれ。」

「クエッ?」

 

 彼女がこれから請け負うであろう数多の苦難と困難を思い、ロキは出来る限り彼女を助けることを決めた。

 

「んで、ファイたんの方は?なんかジャガ丸号の武器見たいて連絡来たんで了解しといたけど。」

「それなんだがな・・・」

 

 そうロキが尋ねるとリヴェリアは気まずそうにしながらポツポツと話し出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ロキへの病室見舞いから時間を少々遡る。

 

 ヘファイストスとの会談を終えて、ツメとクラを預けたチョコボと一行はシドの工房へと足を運んだ。

 

「いつ来ても不思議。」

 

 と、アイズが評する通り他の鍛冶師達の工房とは違い、機械類が所狭しと並ぶこの場所は研究所とでも言った方が良いだろうか。燃料を燃やして黒煙を吐き出しながら何かの部品を作ったり組み上げたりする光景や何かの液体が入った多くのガラス製の容器の用途は恐らくこの工房の住人達でないと判らないだろう。 

 

 『オラリオ発電所建造計画書(没)』や『マテリア計画稟議書』と書かれその辺にあった書類の束を読み顔を青くし固まったリヴェリアを他所に、アイズとチョコボはヘファイストスが造り上げるまでのチョコボの代剣・・・もとい代ツメと代クラをシドに作って貰っていた。

 

 因みにチョコボのチタンのツメとクラは、ヘファイストス・ファミリアの鍛冶師達が後学のために群がり議論を交わしたりとしばらくの間研究に借り受けられる事になっており、その分の代金を差し引いてヘファイストスが自ら鎚を振るい新たなツメとクラを造り上げる事になっている。

 

「まぁ、簡単に作ったもんじゃがどうかの?」

「クエッ!」

 

 打ち上がった『ミスリルのツメ(+50)』と『ミスリルのクラ(+50)』をキラキラした眼で見るチョコボはとても微笑ましい物の・・・

 

「・・・やっぱりジャガ丸号ズルい。」

「・・・クエ~・・・?」

 

 頬を膨らませてチョコボの頬をモフる位に、冒険者登録初日に大手鍛冶ファミリアの高位鍛冶師が専属契約を結んでくれた上に、その主神自らが武具を造り上げるのは一冒険者として羨ましいのである。

 

「お嬢のも見てやりたいがなぁ・・・今のお前さんのはゴブニュ様の所が見とるからなぁ。」

「むぅ・・・」

 

 頬を膨らませるアイズに、シドは昔を懐かしみながら苦笑する。

 

「昔はお前さんにも打っておったんだがのう。」

「・・・我々の目を盗んで装備をポンポン与えたのは許してないからな?」

「じゃからあの頃のお嬢がポキポキ折れる鈍で戦っとったからじゃて。んでお嬢が椿に苛められて可哀想だったもんでな。」

 

 アイズを姪っ子感覚で可愛がっていたシドからすれば、明らかに釣り合ってない装備でアイズがダンジョンに入るというのが心配だったのである。

 

「確かに剣が欲しいっておじさんに言ったけど・・・」

 

 当時精神的に不安定だったアイズが、より良い剣を求めシドに話をし──自身の想定していた装備の数十倍以上の品質と性能と価格の装備をポンポン与えられた事がある。

 明らかに自分が望んでいた剣以上の、今後数十年は借金返済に頭を悩ませるだろう名剣や鎧に喜ぶよりも怖くなった。

 

 そして、アイズがロキ・ファミリアの保護者達に相談した結果・・・シドと保護者達が大いに揉める事になる。

 

『冒険者になりたてなんじゃ!まずは身の丈に合った装備と手入れを学ぶのが大事じゃろうが!』

『一日や其処らでポキポキ折れとるナマクラの何処が身の丈に合う武器じゃ!?』

 

 と実兄と怒鳴り合い殴り合い。

 

『その前に何やこの請求書わぁ!?』

『マサムネとタマネギソードそれに儂がお嬢専用に拵えたミスリル合金製防具の代金じゃい!』

『それはわかっとるが高過ぎやろがぁ!』

『深層の魔物の攻撃にも耐えれるんじゃぞ!?』

『レベル1の冒険者の防具じゃないだろう!?』

『お嬢の暴れっぷりなら丁度良かろうが!』

 

 主神や団長とも怒鳴り合い。

 

『それを諫めてこその先達であって・・・』

行き遅れのハイエルフは黙っとれ!』

『そうじゃ黙らんか年増ハイエルフが!』

『・・・・・・あ゛?』

 

 と、副団長と工房を半壊させるほどの血みどろの殴り合い(一方的)を繰り広げたのは過去の思い出である。

 

・・・余談ではあるが、この一件でピカピカの装備を身に着けオロオロしていたアイズはこの騒動の後、顔面を変形させたドワーフ兄弟から装備の重要性や整備を学び、キチンと実力に見合った装備を整え、本来より軽微な負傷でlevelを上げている。

 

「とは言え、アレの代わりにはまだ足りんな。ふむ・・・お嬢も何ぞ持って行くか?例えば・・・儂のシドタンクを「それは要らない。」・・・シドウイングのが良いか?操縦にウチのバカ弟子を付けるが?」

「要らない。・・・それなら、」

 

 工房にてライトを浴びて鎮座する鋼の戦車と飛行艇を整備している赤髪の青年を横目に、アイズは壁に掛けられた様々な武器の内の一振りを指差した。

 

「エクスカリバーⅡが欲しい。」

 

 『エクスカリバーⅡ』とは、とある世界のシドの愛剣をシドが他の世界のシド達と悪乗りしながら作り上げた剣である。

 ダンジョン深層で手に入る限りのレアメタルとレアドロップをこれでもかと言わんばかりに贅沢に使用し、他世界の様々な技術を結集して造り上げられた『装備者に常に加速魔法(オートヘイスト)』等を持つ大変規格外な『壊れない魔剣』である。

 

 作成したのが普通の鍛冶師達ならば間違いなくランクアップを行える偉業であるとされる程の一振りであるが、シド本人的に『再現しただけ』らしくランクアップには繋がらなかったという。

 

・・・因みにヘファイストスが頭痛薬を飲みながら付けたお値段はデスペレート約50本分である。

 

 このオラリオでも最上級の大業物を指差すアイズに対してシドはアゴに手を当てながら考える。

 

「アレか。タマネギソードや村正は良いのか?防具なら源氏シリーズとかあるが?」

「その辺りはまだ買えないし・・・一回使ってみたい。」

「うーむ・・・まぁ、使っとらんしかまわんか・・・あのチタンのツメとクラを預っとる間だけじゃぞ?」

「判ってる。」

「因みに壊したり無くしたりしたらロキ・ファミリアに請求書が行くからのう?」

「おいこら。」

「・・・そうなったらジャガ丸号と頑張って稼ぐ。」

「クエッ?」

「さらっと彼を巻き込むな。」

 

・・・・・・・・・

 

・・・・・・

 

・・・

 

「そういう訳でエクスカリバーⅡを借りれた。」

「・・・何でや。」

 

 何故に自分は胃痛で再入院しそうなのかと、ピカピカの装備をしたチョコボとキラキラした眼でエクスカリバーⅡを抱えるアイズと『エクスカリバーⅡ貸与に関する契約書』を前にロキは胃を抱え、ミアハから渡された胃用ポーション(神用)を呷った。

 

「流石は安心と信頼と実積のミアハ印の胃薬やなぁ。」

「ロキ、現実逃避はよくないぞ。」

「ほっといてや・・・」

「クエックエ?」

「要らんから万能薬しまってや。」

 

 やばげな魔石や木の実等のアイテムを、手持ちとヘソクリのありったけでチョコボから買い取ったロキとしては、今や愛と勇気と胃薬だけが友達になりそうな気分である。

 

「そうだロキ、先程アイズがジャガ丸号からハネを貰ったんだが・・・」

「ん?羽根飾りでもしたらええやん。」

「それがアイズはハネと言うのだが、私には葉っぱに見えてな。直後にそれはアイズに吸い込まれてアイズに新しい魔法が・・・ロキ?」

「やめてやぁ・・・この鳥まだ他にも・・・?」

「クエ?」

 

 頭を抱えて座り込んだロキを心配してピコピコ足音を鳴らしながらチョコボが近付く。

 

「クエー、クエ?」

「何ぁにが『大丈夫?』やおどりゃあ!?後何とんでもない物を隠し持っとんやぁ!?」

「クエ!?」

「キリキリ白状せんかい!おどれバハムートらからの刺客かぁ!?ウチの胃に何の恨みがあるんやぁ!?」

「クエー!クエー!?」

「落ち着くのだロキよ!?」

「落ち着けロキ!ジャガ丸号から手を離せ!?」

「ロキ、いじめは駄目。」

「(胃を)いじめられとんはウチの方やぁ!?」

「クエー!?」

 

 その後、近隣住民から『『青の薬舗』にて鳥型モンスターと女神が騒いでいる』との通報を受けたギルド職員(エイナ)が、青筋立てて駆け付けるまで騒ぎは続いた。

 



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チョコボと不思議な二人

せめて・・・せめて年内に一度は・・・!

ということでお待たせして申し訳ございませんでした!


 

「では、私はギルドに帰りますからこれ以上!騒ぎを!起こさないで下さい!判りましたね!?」

「「「申し訳ございませんでした。」」」

「特・に・君ぃ!」

「クエッ!」

 

 体調不良を理由に早退しようとしていた所を「鳥案件」で青の薬舗まで呼び出されたエイナから小一時間程の注意を受けた後、ミアハ・ファミリアを後にした一行は、再び広場へとやってきた。

 

「酷い目にあったわ・・・」

「それはどちらかというとエイナと私達の台詞なんだが。」

「後、ミアハ様達。」

「クエー・・・」

 

 グッタリと適当に入った店の椅子に座る一行は深い溜息をついた。嵐に遭ったかのように無茶苦茶になった部屋を賠償で許す(眷族の女性からは凄まじく睨まれたが)神ミアハの懐の深さに頭が下がる思いである。

 

 ズゾーっとよく冷やされた果実水をストローで飲んでいたチョコボは、アイズの隣に座り足をぶらぶらさせながら道行く人を窓から眺めていた。

 

「それで、結局アイズに何が起こったんだ?」

「アイズたんのステータス更新したら判るんやけど・・・多分貰ったんコレやろ?」

 

 そう言うと気怠げに身を起こしたロキは手にアイズが貰ったモノとは色違いのハネを手にしていた。

 

「色は違うけどそんなハネ。」

「色は違うがそんな葉っぱだな。」

「「ん?」」

 

 同時に違う単語を口にしたアイズとリヴェリアは思わず顔を合わせた。

 

「あ~合っとるよ。人によって見え方に違いがあるねんコレ。」

 

 カップのコーヒーを飲み干すとロキは手元のハネを戻した。

 

「分かり易く言うと『託す想い』あるいは『託す力』と言う方向性を持たせた『命の欠片』や。」

「命の欠片・・・?」

「せや。例えば使い込まれた武具とかが壊れた時にその武具に魂が宿っていた時に『持ち主に力を与えたい』と思ったりしたら何かしらの『力』を持ち主に与えるねん。」

「「・・・?」」

「あ~…英雄伝説とかで、登場人物の大切な道具壊れた時とか仲間が死んだときとかに『その時不思議なことが起こって』パワーアップしたり能力に目覚めたりするやろ?アレの正体やねん。」

「なるほど。」

「クエッ。」

「何で自分も今理解しとんや。」

 

 分かり易くなった説明にアイズとチョコボが縦に頷く。

 自分でもよくわかってないものを渡すなや、とロキが叱る傍らでリヴェリアが首を傾げた。

 

「しかし、ロキ今まで私達はおろかそんなモノが見えたと言う話は聞いたことが無いぞ?」

「そら、全部の武器が命を託す言うわけやないしな。大抵はステータスを若干強化して終わりやし。目に見えるほどに強いモンは中々お目にかかれんやろ。」

「?なら私がジャガ丸号から貰ったのは?」

「それな。ホンマは多分魔法の強化用なんやろうけど・・・多分アイズたんの「エアリアル」を別世界の「風」系統の魔法とハネが誤認した所為でバグが起きたんやろな。帰ったら一回ステータス更新せなあかんなぁ。」

 

 アイズ的には問題ないどころか棚ぼたで魔法が増えたので万々歳である。

 

「今ロキが出したのは?」

「今二人に見せたんは・・・せやな『ロキのハネ』とでも言おか?」

「大丈夫なのか?命を取り出して。」

 

 思わず二人が心配そうにするがロキは苦笑を浮かべた。

 

「大丈夫も何も・・・同じ物を二人の背中に刻んどるやろ?」

 

 その言葉に二人揃ってキョトンとした顔になる。

 

「神血に含まれとる力と本質的には同じモンやねんで?その力を『対象を自身の眷族とし位階を上げることが出来るようにする。』様に方向性を向けたもんが自分等のそれで、こっちハネの方やと強化とかは出来んけど『持ち主の力量に合わせて一時的に力をセーブした状態で地上とかに召喚・・・地上・・・に────。」

 

 そこまで口にしたロキはピタリと固まった。

 

「・・・ジャガ丸号?自分まさかバハムートとかのハネを・・・っておらん!?」

 

 恐る恐るアイズの隣に座っていたはずのジャガ丸号に尋ねれば、そこには空っぽのコップが置かれているだけであり、

 

 

『えっ!?とっ!?わわわっ、キャアアア!?』

『リリぃ!?』

『クエーーー!?』

 

 

・・・そんな悲鳴と、何かが倒れ崩れ壊れる音が店の外から聞こえたのはそれと同時であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、一方そのころダンジョンではというと

 

「「「「待てやこらぁ!!」」」」

「┌(∵)⁠┘⁠」

 

 謎のサボテン型モンスターとロキ・ファミリアの追走劇が繰り広げられていた。

 

「ウソでしょ!?全然追い付けない!?」

「速いよ〜〜!」

「良いから走りやがれバカゾネぶげらっ!?」

「ベートさきゃあ!?」

「「レフィーヤ!?よくもレフィーヤを!!」」

「おいこら!」

 

 顔に硬貨の直撃を受けたベートを無視して顔近くを通った硬貨に怯んだレフィーヤの方を心配する姉妹。

 

「速いな。」

「まったくのう。我らでコレか。」

 

 先程から攻撃より逃走を選び始めたサボテン型モンスターを観察しながらフィンは思う。

 

 次々と下の階層へと降りていくモンスターのスピードを考えると・・・そろそろ様子見も終わりにしなければならない。

 

「・・・総員、次の17階層で捕らえるよ!」

「「了解!」」

「「大人しくしろやぁ!」」

「Σ(∵)」

 

 

 スピードを上げたサボテン型モンスターにロキ・ファミリアの第一線級冒険者達もまたスピードを上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クエークエー、クエ。」

「ほう、なんや難しい話しよったから?」

「クエー、クエックエ。」

「外を見よったら蝶々が飛んでいて。」

「クエークエックエー。」

「それを追いかけたらいつの間にか荷物の上に乗っとったと?」

「クエッ。」

「はっはっは~さよか~。」

「クエ~。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ホンマに申し訳ございませんでしたぁ!」

「クエッ!?クエー。」

「アンタも誠心誠意あやまらんかい!」

「クエー!」

 

 

 眼の前で頭を下げる神物と鳥を前に小人族の少女の背中は冷や汗でびっしょりであった。

 

「すまない。ウチの団員が迷惑を掛けた。」

「ごめんなさい。」

「いえいえいえ!?気にしないで下さい!!」

「そ、そうだぜ。」

「・・・お詫びに好きなだけモフっていい。」

「クエッ!?」

「いえ、モフモフは間に合ってますので!」

「おいコラ。」

「これは・・・中々・・・」

「それでいいんですかご店主!?」

 

 倒れた拍子に巻き込んだ露店の店主達や自分に向けて鳥の頭を下げさせながら自身も頭を下げる神物達に顔が引き攣る。

 

 特に今、自分の目の前で謝罪している、ハイエルフに背中は冷や汗でビッシリである。

 只でさえ騒ぎになり野次馬が集まっているのに、自分のような一サポーターに謝罪しないで欲しい。

 

(周りのエルフ達からの視線が凄いですから!?)

 

 周囲の冒険者・・・主にエルフ達からの若干殺気だった視線に背を伝う冷や汗が止まらない。

 

「だが怪我をさせてしまったからなどうか頭を下げさせ・・・」

「本当に大丈夫ですから!?どうかそれだけは勘弁して下さいませんか!?」

 

 周りの冒険者エルフ達がそれぞれの得物に手を掛け始めたのを見て慌てて頭を上げさせた。

 

・・・さもなくば今日このあとにでも、路地裏かダンジョンでサポーターの遺体が一つ転がりかねない。

 

「お、おい早く行こうぜリリ・・・」

「・・・クエッ?」

「ゲッ・・・」

 

 小人族の少女よりも更に小柄な全身をローブに包み隠した、妙にポンポンとした丸いアンテナを付けた人物がそう声を掛ければ、ロキの隣にいた鳥が何故かその声に反応した。

 

「クエ~・・・クエックエ?」

「な、何だよ・・・?あっち行けよ。」

「?クエッ「ほれ、これ以上迷惑かけんなや。」クエー・・・」

 

 ローブを着た少年と覚しき人物の周りをグルグル回っていたチョコボをロキが引き放す。

 

 

「それでは、私達はこれで・・・」

「あ~ホンマ堪忍な。」

「いえ、お気になさらず。」

「本当にすまない。」

「大丈夫ですので。」

「ごめんなさい。」

「いえいえ・・・」

「クエックエ!」

「あ、はい。チョコボさんもお気を付けて・・・」

 

 そうしてサポーターの少女はペコリと頭を下げた後、相方と共にその場を去り・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・待って。」

 

 ガシリ、と荷物をアイズに掴まれ足を止めた。

 

「えっ?な、なんでしょうか・・・?」

「リリ!?」

 

 困惑するリリルカを更にロキとリヴェリアが囲む。

 

「いや~今自分おもろいこと言うたな?」

「は、はい?」

「私達はそんな名前で呼んでない。」

「・・・へ?あっ、いや、でも・・・」

 

 言い逃れようとするリリルカをアイズが論破する。

 

「彼にはジャガ丸号という立派な名前が有る!」

「何でそんな変な名前に!?…あっ」

 

 思わず突っ込みを入れてしまい、不味いと思うも完全に荷物を掴むアイズの表情が険しい物となった。

 

「・・・『変な名前』・・・?」

「落ち着けアイズ。」

「自分『チョコボ』を知っとったし、ジャガ丸号の『気を付けてね!』ちゅー言葉も理解しとったな?・・・ちょーっとウチの所で話聞かせて貰おか?」

 

 自分の迂闊なミスに気付き、薄く開いた目が笑って無い笑顔で近付くロキと、何故か殺気を感じるレベルで怒っているアイズの迫力に動けない。

 

「先ずは・・・」

 

 少女に手を延ばそうとしたアイズに、少女の相方の小柄なローブの人物が仕掛けた。

 

「えいやっ!」

「ッ!?」

 

 死角からの急接近に掴んでいた荷物を離して、小柄なローブの人物から間合いを取るとアイズはとっさにエクスカリバーの柄を握り抜剣・・・

 

「・・・えっ!?」

 

 しかし、手は虚空を掴んだ。

 

 慌てて腰を見ればエクスカリバーが鞘毎喪失していたのだ。

 

「そらよっ!」

「なんや!?」

「クエッ!?」

 

 忽ち周りに煙が立ち上り、アイズ達の視界を奪った。

 

「今の内に逃げるぞ!リリ!」

「ドコにですか!?」

「と、取り敢えずダンジョンに!」

「・・・クエッ?」

 

 煙の向こうから聞こえた声にチョコボが反応した。

 

「えっと・・・あったあった!『ヘイスト薬』!」

「・・・『テンペスト』!」

「「「ぎゃああああああああ!?」」」

「「「店がぁあああああ!?」」」

 

 アイズの魔法により煙(と人や店)ごと辺り一辺を吹き飛ばしたが、ソコには小人族の少女もローブの人物も姿を消していた。

 

「どこ・・・?」

「アイズたん!彼処や!」

 

 ロキの指差す方向には、信じられない速さでダンジョンの入り口に向かう二人組の姿が見えた。

 

「何やあの速さ!?アレがホンマにサポーターか!?」

 

 しかし、アイズはそれどころでは無かった。

 

 逃げ去る二人組の内、ローブの人物の手に有る物──借りたばかりのエクスカリバーを見付けたのだから。

 

「な、何でそんなの持って来てるんですか!?」

「い、いや、レアアイテムぽかったし・・・・・・つい。」

「───絶対逃がさない!」

「「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」」

 

 魔法を使い風を纏ったアイズが、二人組を追ってダンジョンに突入する。

 

「アイズたん!?危ないで!ああもうどないしよか・・・?」

「私が追おう。ジャガ丸号はここでロキと・・・」

 

 そう言いかけたリヴェリアは周りを見渡した。

 

「待て、ジャガ丸号は何処へ行った?」

「・・・へ?」

 

 あの目立つ黄色の鳥がどこにも居ない。先のアイズのエアリアルで吹き飛んだのかと慌てて探すと、

 

「クエー!」

 

 騒然とするダンジョンの入口。

 

 そこに突入して行く黄色い後ろ姿が目に映った。

 

 




アンケートはトンベリが人気ですね!




・・・ベル君のトラウマが増えるなぁ。


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