やはり俺の相棒が劣等生なのはまちがっている。 (読多裏闇)
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入学編
入学編1


と言うわけで1話目です。

とうとう駄文を電子の海に放流してしまったと言う感じがしますが、お付き合い願えたら幸いです。


「納得できません!!」

 

「まだ言っているのか・・・・・・?」

 

 魔法大学付属第一高校、通称“第一高校”の入学式が始まるまでの残り2時間を切ろうかという少々会場入りには早すぎる朝。

 当然のごとく参加者さえまだ疎らな入学式会場のである校門前でもう何度目かになる論争が展開されていた。

 

「何故お兄様が補欠なのですか?入試の成績はトップではありませんか!」

 

「・・・魔法科高校なのだからペーパーテストより実技が優先されるのは当然じゃないか。俺の実技の実力は深雪もよく知っているだろう?」

 

 一人の女生徒が食って掛かかりそれを男子生徒が何とかなだめている構図だ。だがそこにはもう一人、それを後ろで眺めつつ気配を消してその場からエスケープを図ろうとしてる人物が居た。

 

『この議論は今日に至るまで何度やったか覚えていないが、このパターンで行くと巻き込まれるのは確実だな。こういう時には撤退がいちb・・・』

 

「ですが・・・。いえ、この件については全く納得しかねますがお兄様の実力が評価されにくいものは分っていたことです。全く納得しかねますが。

 ですが、それでも私が新入生総代になるのはおかしいと思うのです“八幡さん”?」

 

誰もが認める美少女である深雪に氷のように冷たいにこやかな笑顔を向けられ、その兄である達也の手によって右肩を捕まえられつつ『逃がすと思ったのか?』と言わんばかりの目線で無言の圧力をかけられた比企谷八幡の撤退作戦は失敗に終わった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「さて、八幡さん。今まで事あるごとにはぐらかされてきましたが今日という今日は白状しててください。“手を抜きましたね?”」

 

 先ほどまで達也に向けていた矛先を八幡に向けた深雪は今日こそは逃がさないというオーラをまとい問いを投げる。

 

『笑顔が怖い。いやそんな氷のような微笑で見ないでくれませんかね?ちびっちゃうでしょ。』

 

「いや、魔法技能として見る分にはお前のが成績がいいのは事実だろ?」

 

「それを含めましてもペーパーテストでお兄様に匹敵する知識量を持ち、お兄様に次ぐ2位の成績を修めている八幡さんが私を下回るのは考えられないのですが?」

 

「ほう。入試結果の出所は八幡だったか。」

 

 兄妹両方から痛いところを突かれたのか「うぐっ」と唸りつつ目を背けた八幡に対し違う視点から追撃をしてきたのは達也だった。

自分でばらしたのだから自分で責任をとれと言う事だろう。

 

「いや、当日はアレがコレしててな・・・。それに、さっき達也が言ったが実技にウェイトが置かれるのは当たり前だ。試験内容も別に俺が得意な内容と言うわけでもないし至極真っ当だよ。

 それに俺が新入生総代の挨拶とかしてみろ。初っ端から噛んで黒歴史が増えちまうだろうが。」

 

「そんな覇気のないことでどうしますか!八幡さんはご自分の過小評価が過ぎます!お兄様だって本来の実力を以てすれば「「深雪」」」

 

名を強く呼ばれる警告でハッとした深雪は悲しげに目をそらす。

 

「それは言っても仕方のないことだ。分っているだろう?」

 

「・・・申し訳ありません」

 

 告げられた謝罪は悲痛さが込められていた。

 達也の力が通常の魔法科高校の評価基準では測れないというのは分っていたがやはり納得がいかないのだろう。

 

「気持ちは分からなくはないが頼むから元気出してくれないか?そんな顔で深雪を演説させたとか言ったら小町に殺されるんだが・・・」

 

「・・・・・・ふふ。」

 

「またごみぃちゃんとか言われちゃうでしょ」とぼやく八幡を見て毒気を抜かれた深雪がほほ笑む。

 

「そうだ。俺も楽しみにしているんだよ。

なんたって今日は深雪の晴れ舞台なんだから。」

 

「・・・分かりました。しっかり勤め上げて見せます。

見ていてください。お兄様、八幡さん。」

 

先ほどとはうって変わって明るい笑顔での問いかけに。

 

「そろそろ時間だね。行っておいで。」

 

 と、背中を押しつつ促す達也と。

 

「まぁ、がんばれ。」

 

猫背を保ちつつ気だるげに手を振る八幡に。

 

「行ってまいります。」

 

と頭を下げ、深雪は講堂の中へ消えた。

 

 

 

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「さーて暇になったぞ」

 

入学式開始まで後1時間半はある。そもそもこの早い時間の登校は深雪の新入生総代が行う答辞の準備のためであり達也と八幡はその付き添いでしかない。

 

「まぁ、俺たちは答辞があるわけではないし、そこのベンチ当たりでのんびり待ってれば十分だろう。

 ・・・と言うか待たされるのが分かっていたから別に一緒に登校しなくてもいいと伝えたはずだが?」

 

「小町に

 

「どうせ入学式なのにギリギリに行くんでしょ!深雪さんは答辞があるんだし応援してあげなきゃダメでしょ!」

 

って怒られてな。」

 

面倒さと気だるさMAXで体現しつつポケットに忍ばせていたマッカンを取り出す。

 

「あぁ・・・、それで深雪が迎えに行くと言い出したのか。流石のシスコンだな、まるで妹に頭が上がってない。」

 

「小町が深雪にメールかなんか送ったんだろ。・・・・・・ってシスコンはお前にだけは言われたかねえぇ!!」

 

 そう叫びつつプルを開けたマッカンをあおる。口の中に強烈な甘みが広がるのを感じながらまだ家にいるであろうあざとい笑顔の妹を思い出す。

 そう、妹の小町と深雪は仲のいい友達・・・・・・と言うだけでなく、実は比企谷家と司波家は両母親が姉妹であるため達也と八幡は従兄弟に当たる関係で司波家の一部を除き両家との関係も良好なのだ。

その兄妹の妹同士である小町と深雪は非常に仲が良くお互いの家族のこと(特に兄の事)は筒抜けであり、愚痴や告げ口(主に八幡についてのもの)も容赦なく行われる。

 

「まぁ、それが無くても迎えにはいきそうな雰囲気だったがな。お前が入試で手を抜いたりするからだ。」

 

「新入生総代とかになったら高確率で生徒会だ何だに勧誘受けるだろうし、何より目立つ。ボッチを殺す気か?」

 

「ならそう深雪に伝えたらいいだろう。」

 

「・・・・・・入学初日からの凍傷は勘弁願いたい。」

 

達也は毎度のボッチを盾にした主張に頭を抱えつつ、あの甘すぎるコーヒーを「よく飲めるな」と思いつつも特に突っ込みを入れるわけでなく二人はベンチに座り他愛のない雑談などで時間を潰しつつ、入学式が始まるのを待った。

 

 

 




書き出しの部分書いてたら話が前に進んでいないような・・・?

素人感満載ですが2話目は出来次第投稿致します。


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入学編2

書けるうちに書いとけ精神で書き上げました。

よろしければ参考などよろしくお願いします。


 差別とは何だろうか?

 

 入学式の開場を待つ1時間少々の長いとも短いともとれる空き時間において比企谷八幡が考えていた議題である。単純に差別と言っても人種、宗教に趣味趣向など多岐にわたるが目下、目の前で起きているのは“学力格差”と表現するのが妥当だろうか?

 

ーーあの子ウィードじゃない?

ーーこんなに早くから・・・・・・補欠なのに張り切っちゃって

ーー所詮スペアなのにな

 

 ここ魔法科高校は一学年の定員が200名。だが、その全員を十全に教えることが出来るキャパシティをこの学校は持ち合わせていない。

 その理由は単純。講師が足りないからだ。そもそも魔法と言う技術自体が才能に大きく作用される分、全体数が多いわけではない事もさることながらそれを会得するのは長い修練が必要となっている。

今の状態では増やしていくので手一杯で教育を行き届かせる人員は明確に足りていない。

 また、残念なことに事故や怪我で魔法力を喪失すると言うことも魔法教育では起こりうるのが実情だ。

 ただでさえ足りていない講師を遊ばせる選択はなくそう言った無駄は国益としても看過できない。ならばどうすればよいのか?その結論は簡単だ。

 

 スペアを用意すればいい。

 

 単純明快かつとても分かりやすい解決法である。

 ここ第一高校ではその“スペア”にあたる人員は入学時の半数であり、合計100名がそれに当たる。また、それをわかりやすく示すため、この魔法大学付属第一高校には2種類の制服が存在する。

 

 一つは左胸に花柄のエンブレムが刺繍されているもの。

 そしてされていないもの。

 

 大方予想がつくだろうが刺繍付きの方が講師に教えてもらえる権利を持つ一科生徒であり、それが無いのが二科生徒である。

 この割り振りは入学試験の成績で割り振られ上位半数が一科、残りが二科という完全実力主義の構図だ。

 一科と二科に制服という分かりやすい分類指標を設け、なおかつ実力主義とくればエリート意識と劣等感が生まれるのにさして時間はかからなかっただろう。誰が言い出したか胸の花柄のエンブレムを持つものを“ブルーム”、ついていない物を雑草に例え“ウィード”と呼び始めそれが定着した。

 

 ちなみにだが俺と深雪は一科、達也が二科で、先ほど深雪が不満たらたらだったのも達也が二科だったからである。あの超が頭につくブラコンは兄が蔑まれる事態が我慢ならなかったのだ。

などとつらつらと長くこの学校の差別問題を考えてきたわけだが、要するに何が言いたいのかと言うと、

 

「ここに深雪が居なくてよかった。居たら人型の氷像が量産されてる・・・」

 

「八幡、そのつぶやきは物騒にもほどがあるから、やめろ。」

 

否定が返ってこないあたりがお察しである。

 

 

 

 

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 そんなこんなで入学式開園まで30分を切ろうとするタイミングで達也は八幡に一声かけようと眺めていた愛用の書籍サイトからログアウトしたのと頭から声が降ってくるのが同時だった。

 

「新入生ですね?開場の時間ですよ。」

 

 見上げると声の主は小柄な女生徒で左手首にはCADが見えた。

 

『おそらく生徒会関係者、か』

 

「ありがとうございます。すぐに向かいます。

八幡、行くぞ。」

 

「ほいほい。・・・それでは失礼します。

遅れたら深雪に何言われるかわからんさっさと行くか達也」

 

 達也と八幡はさらっと従い講堂に向かおうとするがどうやらそうは問屋が卸さなかったらしい。

 

「八幡・・・・・・もしかして貴方、比企谷八幡君かしら?今年次席入学の。」

 

「え、あ、はいしょうですが。」

 

 時が止まった。比企谷八幡の黒歴史に新たな1ページが刻まれた瞬間である。

 

『・・・・・・さっきちゃんと対応できたから油断したんだよこっちみんな。いや見ないでください死にたくなるので』

 

「・・・・・・あっ、申し遅れました。私は第一高校の生徒会長を務めています。七草真由美です。ななくさ、と書いて、さえぐさと読みます。

よろしくね。」

 

 八幡の戦闘不能を悟ってか自己紹介をすることでさっきのことをなかったことにしてくれているようだ。

 

「ひ、比企谷八幡です。」

 

「自分は、司波達也です」

 

「入学試験トップ2の二人がお友達だったのね」

 

 名を聞いて目を丸くして驚いた真由美は意味ありげに頷く。

 

「先生方の中では、貴方たちのうわさでもちきりよ?

7教科平均90点越えで、司波君に至っては96点。圧巻なのは魔法理論と魔法工学は二人そろって満点ですもの。先生方が前代未聞だって騒いでたわ」

 

「あくまでペーパーテストの結果ですよ。八幡のように実力が伴ってない情報システム上の話です。」

 

 そう言ってしれっと矛先を八幡に向け、睨んでくる八幡の視線を華麗にスルーする。

 

「そんな事は無いわ。少なくとも私は同じ真似は出来ないもの。比企谷君ももう少し実技の成績が高かったら今年の総代は貴方だったみたいで、理論の成績も鑑みて手を抜いてないか疑ってたわよ?」

 

 手抜きの疑惑は司波君の方が強いみたいだけれどね?と困り顔で捕捉した。

 

「会長~~!!何してるんですか?」

 

「あら、ごめんなさい。あーちゃんすぐ行くわ」

 

「だから、あーちゃんはやめてください!!」

 

 などと漫才染みたトークが始まった。この隙を逃す二人ではない。

 

「それでは時間ですので、失礼します」

 

「ごめんなさいね?引き留めてしまって。」

 

 二人は頭を下げ講堂へ向かった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 七草生徒会長との立ち話の代償は半分以上埋まった講堂の席で支払われる結果となった。座る席を探そうと見渡すとやはりその奇妙さが伝わってくる。

 

「見事なまでに分かれているな」

 

 そう。前半分にブルームである一科生、後ろ半分に二科生と初めからそう決まってるがごとく並んでいるのである。もちろん座席に指定はない。だが、先入観なのか明確な線引きが感じられた。

 

「最も差別意識が強いのは、差別を受けている者である、か」

 

「エリート意識からバカやってる奴がいないなら、な。

・・・まぁ、そこまで行ってたら末期だが。」

 

 前側は一科生の席だ、などと前側に座ってた二科生を押しのけるような事案を指しているのだがそれが起こってこうなっているならば腐敗ここに極まれりと言わざるを得ないだろう。

 

 新入生の腐敗度はさておき、ここで問題なのが座り方である。

 

「後方の目立たないベストポジションに座れねえじゃねえか。」

 

「もれなく注目の的になるな。まぁ、入学初日から無駄なもめごとは避けるべきだと思うぞ?」

 

 最もな意見である。実際エリート意識がどうのなど欠片たりとも興味がない八幡にとって座る席などどうでも良いが、多数派に逆らえばつるし上げるのが人間と言う生き物である。無駄にヘイトを稼ぐ必要はない。

 ならば問題はあと一つ。

 

「妹様のご機嫌取りは自分でやってくれ。この状況を見れば小言は確実だろうからな。」

 

 前半分に向かいつつ捨て台詞を吐く八幡を見つつため息をつく達也だった。

 

 

 

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「とりあえず適当に座るか。」

 

 空いてる席(なんとなく端っこ)を確保しとりあえずの居場所を確保する。時計を見るに開始まで後15分といったところである。

 

「となり、空いてますか?」

 

 髪を二つにくくった女生徒と黒髪の小柄な女生徒がこっちを見ていた。

 

「ひ、ひゃいどうぞ」

 

 二度目である。だがそんな八幡を気にすることなく二人は席に着いた。

 

「私は光井ほのかです。」

 

「北山雫。よろしく。」

 

「ひ、比企谷八幡だ。」

 

 噛まずに言えてほっとするもつかの間先ほど北山と名乗った女生徒が反応した。

 

「比企谷八幡・・・確か次席の成績の人だよね?」

 

どうやら既に知られていたらしい。

 

「なんかそうらしいな。まぐれだよまぐれ。」

 

「・・・例えまぐれでも抜かれたのは事実。」

 

 少しむくれているように見えなくない表情の北山を理由に内心首をかしげていると。

 

「雫は入試3位なんです。」

 

 と言う光井の説明で疑問が氷解した。だが俺なんかにライバル意識を向けるのは生産性に欠ける事だろう。

 

「俺なんかより深雪を目標にした方が良いと思うぞ?」

 

「新入生総代とお知り合いなんですか?」

 

「従妹だ。」

 

 再度驚きが伝わると同時に入学式開始のアナウンスが鳴り響いた。

 




入学式やっと終わったよ。

入学編終わるのにいつまでかかるやら・・・。


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入学編3

さて、3話目です。

3話かけて1日ってヤバくないでしょうか・・・。

後、俺ガイルキャラにアンチヘイトがかかりかねないエピソードが含まれます。今後恐らく容赦なく採用されますので苦手な方はブラウザバック推奨です。


 

 深雪の答辞は大方の予想通り見事だったと、会場の人間の顔を見ればわかる。大半はその容姿にあてられているだけだろうけれども、好感触なのは間違いないのだから答辞としては申し分無いだろう。

 

『まぁ限界ぎりぎりのワードが満載だったけどな。』

 

 入学式が終われば後はIDカードの交付がある。ざっくばらんに言えば学生証とクラス分けの発表の事で入学者にとっては心躍るイベントの一つであることは間違いないだろう。

 どうやら達也は二科生の友人ができたらしいので場を乱す必要もないからと個人で動こうとしていたところ先ほど知り合った光井と北山にIDカードを受け取りに行くことを誘われた。目的地も一緒であり固辞する理由も特に見当たらなかった為だらだらと向かうことになった。

 

「司波さんと従兄妹なのには驚いた。」

 

 北山が入学式開始前の話を続きを促す。

 

「あぁ、あいつは親族の中でも容姿が飛びぬけてるからな。」

 

「あ、いえ・・・・・・。あの比企谷君はその・・・目が・・・」

 

 遠慮がちに光井が目を背けるが皆まで言わなくていい。と言うかうまく核心に触れずに言ったんだから汲み取ってほしかった。

 

「でも、あの司波さんの従兄なら次席の成績もうなずける。入試の時の魔法は正直圧巻だった。」 

 

「本当にすごかったよね。私も雫も前の学校ではトップ争いをしていたから自信があったけど、井の中の蛙だったって思い知らされたもの」

 

 あぁ、入試の時の深雪と同じ会場だったのね。ならその感想もうなずける。因みにだが司波兄妹は同じ試験会場で試験を受けていたが俺は別会場だった。まぁ家で同じタイミングで出願をしたならば続き番号になっても不思議はないだろう。

 

「正直深雪と比べられても大したことはできないぞ?・・・っと着いたな。」

 

 IDカード交付場所についた八幡たちは手早くIDを発行した。俺はどうやらA組の配属らしい。確か達也は深雪と待ち合わせていたはずだが、俺は特に呼ばれてない。(深雪は八幡を“含む”達也と待ち合わせたつもりだったが名指しじゃなかった為八幡はそう解釈した)

 

『よし、帰れる!!』

 

 心の中でガッツポーズ気味の八幡である。いやだって帰りたいからね?帰りたくね?

 

・・・・・・え?違う?

 

「八幡は何組?」

 

「あぁ、A組だが・・・・・・。ってなんで名前呼び・・・。」

 

 この質問は北山だ。と言うかなんでこんなにぐいぐいなのこの子。

 

「じゃあ、クラス一緒だよ八幡。後、友達をわざわざ苗字で呼ぶ必要無いし、私は雫でいい。」

 

「私も同じA組ですね。あ、私もほのかでいいですよ?」

 

 いや、フレンドリー過ぎませんかね?と言うか友達って・・・。

 

「いや、いきなり名前呼びはちょっと・・・。」

 

「・・・?なら勝手に呼ぶから八幡は好きに呼んでいいよ。」

 

 いや、その首をかしげながらこっちを見るのやめてくれませんかね可愛いから。そういうのが世の男子を勘違いさせて死地へと誘うと言うことを全国の女性一同は知るべきだと思うのですよ。

 

「私たちはこの後ホームルームを見に行く予定なのですが八幡さんも一緒にどうですか?」

 

「あ、いや俺はそろそろ帰ろうかt・・・」

 

 

「あら、比企谷君じゃない。」

 

 

 空気が凍った。まぁ、こいつらの事を知らないであろう北山たちですら不穏な空気を感じて静かになったのだから相当な雰囲気が出ていたのだろう。

 

「雪ノ下に、由比ヶ浜もか。」

 

「貴方のようなゴミがこの学校に入学できるなんてね。いえ、一色家の回し者なら簡単に入れるのかしら?」

 

「なんで居るしヒッキーキモイ。」

 

 侮蔑を隠そうともしない言い回しで容赦なく切りつける罵詈雑言を浴びせる。どうやら虫の居所が相当に悪いと見える。大方入試成績か何かでも見てよくわからないヘイトを蓄えたのだろう。

 

「目障りだから早々に立ち去ってもらえないかしら?出来ればこの学校から。ここはあなたのような屑が居ていい場所じゃn・・・」

 

「さっきから聞いていたけれど随分と失礼。もし、“あの”雪ノ下家の子女のセリフなのだとしたら軽蔑を通り越してあきれ返る。

 それに成績で間違いなく負けている貴女が八幡に出ていけなんて言える立場にあるわけがない。」

 

 どう流そうか考えていたところ北山が唐突に食って掛かかった。光井も不快感を隠そうとしない形相でにらみ付けている。これは非常に不味い。

 

「関係ない方はしゃしゃり出てこないで貰えないかしら?」

 

「八幡は友達。だけれどそれ以上にあなたの言い回しや言葉は見ているだけも不快。あまり人格に対して物申すのは好きじゃないけど見ていて嫌悪感しかわかn」

 

 これ以上はマジで不味いな。このムードだと下手したら魔法を使う手段に手を出しかねない。

 

「あーーーーはい。ストップ俺はもう帰るからここまでにしろ。北山、こんな奴に時間を割くの時間の無駄だろ?」

 

「比企谷君、それはどういう意味k・・・」

 

「こんなところで問題を起こすことが雪ノ下家的に問題が無いのなら付き合うが?」

 

 これで引かないほど頭に血は登っていなかったのだろう。一にらみした後由比ヶ浜と共に去っていった。

 

「八幡さんあの人たちは・・・」

 

「中学の時の同級生だ。まぁちょっといろいろあってな。」

 

 変に巻き込むにも忍びないしここいらでお暇するとするか。

 

「悪いがそろそろ帰るわ。今日は巻き込んで悪かったな。あいつらがなんかちょっかいかけてきたら言ってくれこっちで何とかする。」

 

「気にしてない。それに過去に何があったにしてもあれは見るに堪えなかったし。」

 

「そう言ってくれると助かる」と言い残し帰路についた。しかしこの感じだと葉山も入学してる可能性があるな、ちょいと調べるか。

 今後あいつらがちょっかいかけてくるのはほぼほぼ確実だろうという事実に酷い頭痛を感じないではないが少なくとも今日巻き込んでしまった二人を守るくらいはしないといけない為対策を考えつつ重い足を前に進めた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 八幡が頭痛を抱えながら帰路についたころ達也は入学式の際に知り合った千葉エリカ、柴田美月、と共に講堂の出口付近で新入生総代である妹の深雪を待っていた。

 

「お兄様お待たせいたしました。」

 

深雪にとってはいつも通りだがそれでもストレスが溜まっているのだろう。おくびにも出していないが“やっと抜け出せた”という思いが達也には伝わってくる気がした。

 

「早かったね?」

 

 普通に返答したつもりだったが予定外の事に少し語尾が疑問形になってしまったようだ。

 予定通りの待ち人は、予定外の同行者を伴っていた。

 

「こんにちは、司波君。また会いましたね。」

 

 人懐っこい微笑で生徒会長は微笑手を振る。

 本来ならばそちらの対応を先にするのが一般的だろうが深雪の興味は達也の周りの女生徒に移った。

 

「お兄様、そちらの方たちは?」

 

事情説明が待てないらしく気持ちオーバーアクション気味に質問を投げる。まぁ、特に隠し立てする必要もない案件なのであっさり説明するだけの話なのだが。

 

「こちらが柴田美月さん。こちらは千葉エリカさん。クラスメイトなんだ。」

 

「そうですか・・・。早速、クラスメイトとデートですか?」

 

 深雪が可愛らしく小首をかしげる仕草に含みなど全くないパーフェクトな笑顔でこちらを見る。

 ただし目が笑ってない。

 

 挨拶やお世辞の十字砲火で思いのほかストレスが溜っていたらしい。

 

「そんなわけないだろ。深雪を待っている間二人と話して待っていただけだ。

そういう言い方は二人に対して失礼だよ?」

 

「初めまして。司波深雪です。

同じ新入生ですのでお兄様同様、よろしくお願いしますね。」

 

 その後何かを感じたのか3人仲良く交流を深め始めたのを尻目に後ろで見ていた生徒会関係者と思わしき人物、(まぁ片方はあの生徒会長なわけだが)に話しかけた。

 

「深雪に用事ですよね?お時間がかかるようでしたらどこかで時間を潰してきますが?」

 

 と、暗に所要時間を尋ねると、それを察した深雪が戻ってくる。

 

「大丈夫ですよ?今日はご挨拶させていただいただけですから。

 深雪さん・・・と呼ばせて貰ってもいいかしら?」

 

「あ、はい!」

 

その返答に生徒会長は満足そうに微笑み

 

「では深雪さん、詳しい話はまた、日を改めて」

 

 そのまま講堂を立ち去ろうとする生徒会長にお付きの生徒会役員と思われる人間が今後の予定が云々と食い下がったが目で制されその後達也を睨んでいたが深雪はどうあれ達也には何らどうでもいいことであった。

 

 

 

 

 




やっと俺ガイルキャラ出せたよ。味方皆無だけど。

いわゆるアンチヘイトに分類される程度には険悪になっているので苦手な方はお気をつけください。


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入学編4

なんとかかんとかコンスタントに書けています。(書けているとは言ってない)

結構コメントいただけてて驚いている作者です。(ありがたやありがたや)

さて今回ですがアンチ・ヘイトがマシマシです少々やりすぎかもしれませんがなにとぞご容赦を。


 ジョセフ・マーフィー曰く、

 

「人は静寂な時間を持ち、外界からの刺激を遮断することによって、問題解決の答えに導かれる。」

 

と言う。

 静寂とはそれほどまでに重要で、ボッチにとっても静寂する部屋では端っこで認知されないようにする俺にとっては一切の介入が無い完成された世界であり自分だけの世界、ある種の孤独も場合によっては必要なのだろうと思う。

 実際のところうるさくても生産性が生まれるというわけではない。教室で毎日うぇーいうぇーい連呼したところで何か得られるわけでもそもそもそのうぇーいと言う言葉にすら意味があるのか謎であると言わざるを得ないだろう。いやほんと戸部は何考えてうぇーい言ってんだろうか?

 

 ボッチにとって静寂とは隣人であり、今後生きていく上でのある種のパートナーなのだろう。

 実際俺は静寂は好きだ。

 何もない世界。空白の世界。自分だけの世界で思考する時間は場合によっては何事にも代え難い何かを感じることが出来る場合があるからだ。

 

 だが、時としてその静寂が牙をむくときがあるのを忘れてはいけないだろう。例えば静まり返った教室に入ったときの一斉にこっちを見てきたときの静寂。あれは死ぬ。ボッチの耐久度なめんなよ?死ぬんだよ。

 ・・・・・・さてそろそろ現実逃避をやめようか。いや、まだしてたいんだがな?達也がお前の仕事だとこっちを見てくるんだよ。え、俺が原因なの違ったら今日の枕が犠牲になるんだからな!

 さてまずは状況を理解しよう。ここに居るのは俺を含めて5人。俺と小町に、司波兄妹こと達也と深雪。そしてうちのメイドさん兼小町のガーディアンである水波である。

 

 ガーディアンと言うのはいわばボディーガードであり、要人警護のプロだ。昔は俺についていたんだがそのあたりは割愛しよう。

 水波はプロ意識が高く、小町の背後に控えているがうちでは水波は家族同然と扱われている為いつもだったら小町が輪に入るように促すのに今日に関してはそれはない。どうやらそれすら忘れる程に小町の機嫌は悪いらしい。

 他は全員リビングのテーブルに腰かけている状態であり、このまま料理が運ばれれば食事がいつでも行える状況だ。と言うかそろそろ夕食の時間のはずなんだが・・・。

 

 で、現在の私はですね、比企谷八幡は現在リビングにてテーブルを囲みつつ居住まいを正し座っているわけですが・・・・・・。え?口調が気持ち悪い?こっちはそんなこと気にしてる場合じゃないんだよ。

 なんせあんなにロングな思考ができるほど場が静かでな。俺の記憶が正しかったらこの後の予定は小町主催、入学お祝い会なる企画だったはずなんだがな・・・。

 

「えっと小町さん?静寂のままそろそろ5分が立ちそうなのですが・・・?」

 

 え、まだ5分しかたってないのん!?自分で言っててビビったわ。この感じだといつものパターンなら俺が何かやらかしてるパターンが多いんだが。・・・・・・いやそんなパターンが多いのは誠に遺憾なんだがな。

 俺の声を聴いて話を前に進める気になったのか不機嫌オーラ冷めやまぬ我が妹様は閉じていた目を開いた。

 

「深雪お姉ちゃん。さっきの話は本当なんだよね?」

 

「ええ。私がこんな不快極まりない冗談、言うわけないじゃない?」

 

 と、こちらの妹様も相当に不機嫌のご様子。達也も無表情は変わらないのに不快感が消えていない。と言うか感情がほぼ“兄弟愛”しか持たない分こういう部分では相当敏感だからなぁ・・・。

 

「じゃあお兄ちゃんちょっと聞きたいんだけど、小町的に超々ポイント低いことがあったって聞いたんだけど出来れば詳しく聞きたいな?」

 

「は!?何で知って・・・・・・あ。」

 

 やばい、カマかけられた・・・。

 

「八幡様、やはりあの不敬な者たちがまたもちょっかいを?」

 

 水波さん?ちょっと目が怖いですわよ?

 と言うかどこから漏れたんだ?あの現場には関係者は誰もいなかったと思うのだが・・・。

 

「いやちょっとアレがコレでな・・・?

と言うかマジでそんな話出てきたんだ?」

 

と、目で達也に説明要求をする。

 

「それは私から説明します。」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 生徒会長と別れた後もともと帰る予定であった達也、深雪の両名はエリカ、美月とカフェでお茶をする話になった。

 この後、比企谷家にて入学お祝い会なるイベントに呼ばれているが、言ってしまえばちょっとした夕食会であるため、遅くなりすぎない範囲でなら問題は無いだろう。

 入学式直後のコミュニティを広げる会話ではあったがエリカの気さくさも相成ってなかなかいい雰囲気だった。

 

 招かれざる乱入者が現れるまでは。

 

「お久しぶりですね。司波深雪さん。」

 

 おそらく待ち伏せだろう。柔和な仮面を張り付け、気さくに話しかけてきたがどうにも胡散臭さがぬぐい切れていない

 

「葉山隼人か。ここに入学していたのか。」

 

「司波さん。そちらの方々は?」

 

 その達也の存在を完全にスルーした態度に深雪の雰囲気が変わる。

 

「葉山さんでしたか?何か御用でしょうか?」

 

「いえいえ、同じ学校に同級生として入学したので一応ご挨拶を、と思いまして。

 どうでしょう。この後お食事なd」

 

「そうですか。ありがとうございます。それではこの後予定がございますので、失礼いたします。」

 

 恐らく先ほどの意趣返しだろう。深雪は会話をぶった切って一方的に言葉を返した。

 エリカたちも深雪の態度から葉山が招かれざる客だと察したのだろう。深雪に続こうとする。

 

「そう急がなくてもよろしいではありませんか。

 先ほど結衣から電話がありましてね?またあの愚か者が分をわきまえずちょっかいをかけてきたと苦情を貰いましてね。」

 

「八幡さんに・・・・・・っ」

 

 深雪が食って掛かるのは相手の思うつぼなのは弁えているとは言え並々ならぬ凄味で葉山を睨む。

 

「親類の方にこのような事を申すのは気が引けますが、身の程を知るように伝えてやって欲しいのですよ。元同級生としては見苦しい限りでしてね?」

 

「お引き取り願おうか。葉山隼人。」

 

 そろそろ我慢の限界であろう深雪に代わり達也が矢面に立った。

 

「司波達也。暗に君とは話していないと伝えたつもりだったんだけど。伝わらなかったかな?」

 

「お前こそ伝わらなかったか?“八幡の入試成績が次席である”と言う事実のやっかみを深雪にぶつけるのはやめろと言っている。」

 

 余裕を保っていた葉山の顔つきが変わる。この程度で剥がれるとは程度が知れるというものだろう。

 

「一色家の力を使うにもいい加減にしろと言っているんだよ。あいつが次席なんてありえない。」

 

「穏やかじゃないな。一色家が入試の不正を働いたというのか?“事実だとしたら”大ごとだ。それは葉山家として調査した結果なのか?」

 

 その一言に葉山の顔色が変わる。そして注目され始めていると悟ったのだろう達也を睨み去っていった。

 

「二人とも。巻き込んですまなかった。この後のお茶はお詫びにおごらせて貰うから」

 

「なんなのよあいつは。見るからに胡散臭いし、さも「自分はエリートです~」な態度が鼻につくし!」

 

 エリカも介入こそしなかったものの見ていて気分のいいものではなかったらしい。美月も悪口は言いたくないのだろうが、それでも否定できないという心情のようで労りの目を深雪に向けていた。

 

「本当に巻き込んでごめんなさいね?入学式でまでふっかけてくる度し難い阿呆だとは予想できなくて。」

 

「詳しくは聞かない方が良い?」

 

 エリカが込み入った話なのだろうと察して尋ねてくる。

 

「悪いが本人に話を聞いてみない事にはわからない点もあるし詳しい説明は後日にさせてくれ。」

 

「なんというか災難、でしたね?」

 

 と美月が苦笑いしつつ話を流しエリカがチェックしておいたというお店に足を運んだ。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

・・・・・・と言うことがありました。」

 

 あいつはとことん面倒事しか生成しないな・・・。

 しかしなるほどそう言う経緯か。

 

「あの人ほんと屑いよね。小町的にポイント低すぎて殺意がわいてくるよ?」

 

「小町ちゃん?物騒よ?どこでそんな言葉覚えたの?」

 

 ギンッっと音が聞こえそうな目で小町に睨まれた。ダメ、それ人殺せる目線だから・・・。

 

「で、お兄ちゃんは?」

 

 これは話さないと殺されるな。しゃーないまぁ葉山の件程じゃないしな・・・。

 

「えっとな・・・・・・」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「小町様。今夜中には終わらせられるかと。ご許可をお願いします。」

 

「亜夜ちゃん達も呼んだほうが良いよね?私たちだけだとボロ出した時の始末がちょっと面倒だろうし・・・」

 

 案の定物騒な流れになってきたぞ?

 

「亜夜子達も出すとなると“実家”案件になるな。叔母殿に話を通さないといけないぞ?」

 

「真夜叔母さんならたぶん許可出すんじゃないかな?たぶん骨も残んないと思うよ?雪ノ下家と葉山家はこれでお取りつぶしだね。日本の魔法社会にも貢献出来るんじゃないかな?」

 

 

「だーーーーーー!ちょっとまてーーー!!!!!」

 

 

 お前らアグレッシブ過ぎんだろ!?まぁ、こうなる予感がしたから言いたくなかったんだが。

 因みに亜夜ちゃんこと亜夜子とは黒羽 亜夜子と言う俺たちの再従妹だ。ちなみに双子で弟は文弥という。

 うちの実家である“四葉家”で諜報なんかを扱っているマジ物のプロであり二人セットで任務をこなしてるらしい。

 四葉家と言えば日本の魔法関係者なら関わることをやめた方がよいと言われるほどある種の危険視をされた家で、アンタッチャブルなんて呼ばれているらしい。中二病臭ぇな。

 まぁ、危なっかしくて名乗れないからうちではトップシークレットになってる程度にはやばい家での諜報員とくれば、やばさも伝わるだろう。知ってるか?あれで俺より年下なんだぜ?

 

「お前ら戦争でも始める気か!葉山はバックに恐らく三浦がついてる。雪ノ下家はあの感じだと俺らが“八幡”だと気が付いている。四葉の話の隠蔽の餌にこっちの情報が掴めるようになってる以上まぁ当たり前だがな。」

 

 雪ノ下家と八幡家の因縁はこの際どうでもいいが。

 

「問題は雪ノ下家は一色家と敵対していてあの一色家が介入する気満々だって事実だ。

 この段階で場合によっては三浦と一色での戦争に発展しかねない。師補十八家同士の戦争に場合によっては実家が介入するんだぞ?

この紛争に他の十師族が静観してると思うか?」

 

 そうなれば泥沼化は避けられずどう安く見ても相当数の血が流れる。

 

「と言うか、それくらいわかるだろ達也。止めるの手伝ってくれませんかね・・・?」

 

「理性的な部分では確かにその通りだが深雪や小町、水波の言い分も十二分に分かるからな。正直、あの葉山は手が滑って雲散霧消(ミスト・ディスパージョン)してしまいそうになるくらいには見るに堪えなかったからな。」

 

 シャレになってねぇ・・・・・・。手が滑って人を殺すな。

 

「冗談じゃない。そういう人殺しは俺が殺してでも止めると前にも言ったはずだ。」

 

「分かっている。だからこそ、お前ひとりで抱え込むんじゃない。これは十二分に“俺たち”で話し合うべき概要だ。それは前にも言っただろう?」

 

 しばしの静寂。だが、それは先ほどの静寂とは違う寒々しいものじゃなかった。

 

「だーーー!俺が悪かったよ!!さて、そろそろ生産性のある話にしようぜ。明日説明するんだろ?えっとその千葉と柴田だったか?」

 

「そうだな。となるとその北山、と言う子と光井と言う子も呼んだ方が良いだろうな。」

 

 確かに巻き込んでしまってるしそうするべきか。まぁ、同じクラスだし何とかなるか・・・。

 

「後の話は飯を食いながらだな。水波の絶品晩御飯をこれ以上冷ますわけにはいかん。」

 

「八幡様、お世辞が過ぎます!直ぐに温めなおしますので、座ってお待ちください。」

 

 少し慌て気味だが綺麗なお辞儀で駆けていく水波。

 

「私も手伝うよ~。あ、水波ちゃん今日は無礼講だから遠慮は禁止だからね?と言うかもう永久に無礼講でもいいんじゃないかな?」

 

「その様な訳にはまいりません!と言うか座ってお待ちください小町ちゃん!?」

 

 さて、やっと夕食にありつける。

 




雪ノ下周りの説明は次回の皆さんへの説明と共に。(例のゴタゴタが長引かなければ、ですが。)

とりあえずは納得できる形に落とせると思うので過去に起こった事件を理詰めで捉えていっていただければたぶん伝わると思うんだけど・・・(きっと・・・めいびぃ・・・)

次回もよろしくお願いします。


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入学編5

5話になります。中途半端に書けてはいたのですが、血を吐いたり緊急入院したりどたばたしていたらこのタイミングに。(詳しくは活動報告にて)

お気に入り400件を越えていました‼
作者、喜びより驚きが勝っておりなんとも言えない顔になっております。
一時ルーキーランキング6位だったらしいとか友人から聞きまして、な、何が起きてますのん?
と言う気分でございます。

何はともあれありがとうございます。

このような駄文ではありますが、楽しんでいただければ幸いです。


十師族。それは日本の魔法に関連するものならば誰もが知る魔法師社会のを統括し導くことを目的とした組織であり言わば日本魔法師社会のリーダー的存在である。

 表立っての権力こそ放棄したものの、国家の裏において絶対的ともとれる不可侵を示せるだけの力がある。

 この十師族と言う組織は細かく見れば非常に大きな力を持った魔法師家系のトップテンで構成されておりその選出も師補十八家と言う十師族を補佐する下部組織を含む合計二十八家から選出されるという形をとっている。

 この二十八家も魔法師社会のトップ集団と言う認識で間違っていないだろう。

 

 十師族についてはこのあたりにするとして、俺比企谷八幡に重要になるのは師補十八家。中でも八幡と言う家についてだ。

 現在の師補十八家には「八幡家」は存在しない。まぁ、昔はあったのだが。まぁ、ざっくばらんに言えば滅んだのだ。

 

 大亜連合の沖縄侵攻作戦。

 

 この日本の歴史的に大きな戦いの裏で大亜連合艦隊は沖縄上陸の時間を稼ぐため九州に対して攻撃を行っていた。沖縄への軍の派遣を少しでも遅らせるための策ではあったが当時九州防衛の一翼を担っていた八幡家は当然のように参戦した。当時の八代家と共に防衛線は確保され、後は海上の軍艦の対処と言うところで、“沖縄方向への退却を許した場合の被害を考え、確実に殲滅する必要がある”と言うのが軍からの判断であった。

 その先鋒となったのが八幡家当主を率いる部隊であった。その活躍は著しく相手保有戦力の8割を無力化することに成功。軍も十二分な戦果として撤退を指示したが撤退の為の船が大亜連合の最後の抵抗により破壊され救助部隊が向かうも連合艦隊は自爆を敢行。部隊は全滅したのだ。

 これにより八幡家は衰退の一途を辿った。当主の息子が居たが失ったものがあまりにも多すぎた。その他分家もほとんどは戦死したため、当主の妻もそのショックから魔法力を喪失と言う結果になった。

 その後八幡家は戦果を挙げつつも多数の魔法師を失ったという責任を取る形で師補十八家から退いた。

 

 これが八幡家次期当主となるはずだった俺の親父の話である。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 いや、昨日の水波の飯は美味かった。その幸せを噛みしめ、俺は二度寝に・・・

 

「八幡様、朝でございます!!小町様に“布団引っぺがしてでも起こして”と命を受けておりますのでご無礼をっ」

 

 はい?布団を引っぺがす?などと思っている間に俺の相棒おふつぅーんが取り上げられる。寒い寒い寒い寒い!!

 

「寒い!」

 

「お兄ちゃん早く降りといでね~」

 

 春先でも寒いんだからな?あぁもうしゃーない。・・・・・・学校行きたくない。

 そう思いつつも階段を降り朝食へ向かう。

 

「八幡さんおはようございます。」

 

「おふぁよふぉ。」

 

 どことなく少し緊張気味の深雪に挨拶を返しつつ朝食にありつく。

 

「八幡はいつも通りだな。今日の事分かっているのか?」

 

「・・・説明の話なら分かってる。どこでやるんだ?」

 

 昨日の今日だ。さすがに忘れていないが会場の確保は達也が出来ると言っていたのだ。

 

「昨日そのクラスメイト達とお茶をしたのは聞いたと思うがそこで問題ないだろう。

 それより例の二人、しっかり連れて来いよ?」

 

 うぐっ。それが一番難易度高いんですが。と言うか女子に話しかけるの何年ぶりだよ。いや、俺にはマイエンジェル小町と水波が居るじゃないか!!・・・え?家族はダメ?

 ・・・・・・勘の良いガキは嫌いだよ。

 

「まぁ、頑張ってみるわ。最悪、・・・・・・深雪に頼むわ。」

 

「八幡さん・・・・・・。」

 

 やめて!そんな目で見ないで!!

 それはさておき、今日はオリエンテーションだったか?まぁ、放課後に大仕事が待ってるし平和な一日だと助かるんだがな。・・・・・・あれ、フラグ、か?

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 誰だよフラグとか言ったやつ。回収しちゃったじゃねえか。・・・俺だったわ。

 

「司波さん一科と二科のケジメはつけるべきだ。」

 

「何よあんたたち!!深雪は達也君とご飯食べようとしてるだけじゃない!!」

 

 やべえなぁ、なんかヒートアップしてきてるぞ。

 

「軽い状況説明願っていいか?」

 

 近くにいた光井に状況説明を求めた。

 

「あ、八幡さん。えっとね・・・。」

 

「司波さんが二科生の人たちとご飯を食べようとしたのをみて司波さんのクラスメイトが絡んでる」

 

 なるほどな。しかし、どれだけ浸透してるんこの差別意識。一年の入学したてでこれって相当でしょ。

 

「深雪、俺はもう食べ終わったから行くよ」

 

 達也が動いたか、なら。

 

「深雪どこか別の席に行こう。多分これ以上は達也にも迷惑になるぞ」

 

 ぼそっと耳元で囁いて今日は諦める様に促す。

 深雪も不本意そうではあるものの折り合いはつけてくれるようだ。

 

 食事中の深雪の不機嫌さで、食事がどうなったかはご想像にお任せしよう。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 立てたフラグは回収した。もう大丈夫だ。

 

 そう思っていた時期が俺にもありました。

 

 帰りがけは順調だった。北山と光井はどうやら昨日の事を話すのは放課後まで我慢してくれていたらしく、出来れば詳しく事情が聴きたいと話しかけてくれた。

 その申し出はこちらの予定通りだったのでこれ幸いと本日の要件を伝え、一足先に達也との待ち合わせ場所に向かった深雪を追いかけたのだが・・・。

 

「司波さんは僕らと一緒に帰るべきだウィードと一緒に帰るべきじゃない!!」

 

「深雪は達也君と帰りたいだけじゃない!!なんであんた達が出てくんのよ!!」

 

 あぁ、またこのパターンかよ。この後の事を考えると面倒事はご免なんだが・・・。

 しかし、独占欲強いわ、エリート意識の塊だわどうなってんだ?ここ。

 

「これは1-Aの問題だ!ウィード如きが俺たちブルームに口出しするな!!」

 

 

「なら、俺は口出していいわけだ。」

 

 

 面倒だがここで達也が目立つのは得策じゃないし俺が出るしかないだろう。それに何よりこいつらはちょっと気持ちが悪すぎる。

 

「1-Aの比企谷八幡だ。悪いが深雪は向こうが先約だ。譲ってやってくれないか?」

 

「・・・・・・お前、ウィードの肩を持つのか?」

 

 おい、ここまで毒されてるのかよ。

 

「いや、どっちの方を持つとか以前の・・・」

 

 

「おや、この学校の流儀もわかっていないのかい?やはり君は身の程を知るべきだよヒキタニくん。」

 

 

「・・・葉山。」

 

恐らくこの場に最も不必要な存在が侮蔑的にこちらを見つめていた。

 

「またお得意の欺瞞に満ちた人助けごっこかい?」

 

 面倒なのが出てきやがったな。

 

「お前が俺の事をどう思ってようがどうでも良いが、この話にお前が介入する理由はないだろ。」

 

「お互い同じ新入生なんだ言い合いに発展していたら止めるのが人情と言うものだろう?

 どうかな深雪さん。森崎君たちも少し相談があるから時間を貸してほしいだけだと思うんだけど、それでも無理なのかな?」

 

 お得意のみんな仲良しだが、この場では・・・。

 

「無理だってさっきも言ったでしょうが!」

 

 通らねえよな。むしろ油注いでるまである。

 

「引っ掻き回しに来たんなら帰ってくれ。正直迷惑だ。」

 

「引っ掻き回してるのは貴方でしょう。葉山君は建設的な意見を提示しただけよ。」

 

今度はこっちかよ・・・。

 

「私たちはみゆゆんに話を聞きたいだけだから!!ヒッキー邪魔すんなし!!」

 

 みゆゆんって誰ですかね・・・。さて、どう収めるかねぇ・・・。

 

「深雪さん、そんなに時間を取らせるつもりはないわ。どうかしら?」

 

「あんたは唐突に出てきて何様のつもりよ。外野は引っ込んでてほしいんだけど?」

 

「私は一科生。貴女は二科生。どちらが外野なのかわからないかしら?」

 

 相変わらずの上からだなー・・・・・・。

 

「同じ新入生じゃないですか・・・貴方たちブルームが今の時点でどれだけ優れているというんですか!!」

 

 気持ちは分からないではないがそれは不味い・・・。このプライドの塊にその挑発は・・・!

 

「なら見せてやる!実力の差ってやつを!!」

 

 消すか?いや、大丈夫だな。

 

「この間合いなら体動かした方が早いのよね」

 

「バカな・・・」

 

 今のうちに何か・・・って不味っ!!

 

「ウィードの癖に・・・」

 

 取り巻きの一科生がCADを操作し始めた。

 

「み、みんな・・・ダメ!!」

 

 光井!?あぁ、もうしゃーない。自衛ってことになってくれよ。

 

「きゃっ!!」

 

 八幡の放った術式解体(グラム・デモリッション)に驚き悲鳴を上げる。

 

 

「何をしているのですか貴方たち!!」

 

 

 あれは確か生徒会長だったか?自発的な魔法発動を実行できてたのはあの森・・・何だっけ?森柳?だけだからな何とか言い訳できないか・・・?

 

「風紀委員長の渡辺摩利だ、事情を聴きます。まず全員来なさい。」

 

 威圧するように見渡す風紀委員長。

 

「待って下さい風紀委員長。この場で魔法を使用したのはそこの男だけです。」

 

「ほう、私にはそちらの女子生徒が攻撃性の魔法を放とうとし、それを迎撃したように見えたのだが?」

 

「術式解体(グラム・デモリッション)ですね。比企谷君が止めてくれなければ大惨事だったかもしれませんよ?」

 

 と、光井の方を見る七草。

 

 

「それはただの閃光魔法ですよ。殺傷能力も非常に抑えられていましたし。」

 

 

「どういうこと?」

 

 七草が問う。

 

「彼女は驚いてしまっただけでしょう。自分が後学の為森崎一門のクイックドローを見せてもらっていたのですが、真に迫っていたのでしょうね。危険だと感じて気を引こうとしてくれたのだと思われます。これは自衛ととれると考えます。」

 

「どうやら君は展開された起動式を読み取れるようだな?」

 

「実技は苦手ですが分析は得意なので。」

 

「摩利、もういいじゃない。ただ教え合っていただけなのよね~?」

 

 更に追求しようとする風紀委員長に被せるようにいうと。

 

「魔法の使用には細かいルールがあり、今回は入学したばかりと言うことで不問にいたします。魔法を使用した自主活動は控えた方が良いでしょう。」

 

「会長がこう仰せられるので今回は不問にします。今後はこのようなことが無いように。」

 

 それに伴い周りの生徒が一斉に頭を下げる。

 ・・・ふぅ。何とか切り抜けられたな。

 

「君、名前は?」

 

 摩利が問いかける。

 

「1年E組の司波達也です。」

 

「君は?」

 

 俺の事か・・・?と自分を指さすと頷かれた。

 

「1-Aの比企谷八幡です。」

 

「覚えておこう。」

 

 そう言って颯爽と去っていった。すげえ宝塚な人だな・・・。

 

「お前が見抜いた通り俺は森崎本家に連なるものだ。司波達也、俺はお前を認めない。それと比企谷、この借りはきっちり返してもらうぞ。」

 

 何の貸しだよ。返さねえよ。

 言って満足したのか去っていく森なんとかさん御一行。さて残るは・・・。

 

「君は本当に、僕の邪魔しかしない男だな。」

 

 そう言い残し憎悪の目を向けた葉山は雪ノ下たちを連れだって帰っていった。

 いや、勝手に邪魔されにくんのやめてもらえませんかね?ほんと。

 

「帰りましょ!あいつらのせいで遅くなっちゃったじゃない。

 それにまたしゃしゃり出てきた奴も居るし。達也君、詳しい話聞かせてくれるんだよね?」

 

 不機嫌さを隠す気が無い姿勢、あいつがエリカか・・・?

 まぁいいとりあえず合流しよう。

 

「達也、この子たちが昨日の、だ。」

 

「君はさっきの閃光魔法の・・・。」

 

「光井ほのかです。先ほどは庇っていただきありがとうございます!」

 

 そう言って深く頭を下げる光井に北山も続く。

 

「お礼を言うのは俺よりも八幡にだろう。もし閃光魔法が発動していたら少し説得が難しかったかもしれない。」

 

「八幡さんもありがとうございますっ」

 

「気にするな説得は達也がやったんだ実質俺は何もしてない。」

 

 実際説得しようとして失敗してるしな。

 

「まぁ、ともかく何とかまとまって良かった。さっきの件も含めていろいろ話したいこともある。目的地に移動しよう。」

 

 そう達也に促され目的の店に向かった。




説明までたどり着けなかった・・・。

次回は八幡の過去、雪ノ下達との因縁をガッツリ説明する予定なのでよろしくお願いいたします。


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入学編6

さて、過去編になります。

俺ガイルの歴史を魔法科高校的に再構築したものになりますので、俺ガイルのストーリーを知っている方が分かりやすいかと思います。

また、まだまだ表現力が追い付いていない部分がやはりあるかと思われますので、質問、疑問点、矛盾点、やらかしてるぞタコ作者!等ございましたら感想の方にお願いいたします。


 目的の店に着くまでにとりあえずの軽い自己紹介は終わった。達也の言っていた面子のほかに西城レオンハルトと言う男子生徒が増えていたが自己紹介の折“達也の友達(ダチ)”と言っていた事に加え、今回のゴタゴタの当事者であることも考えれば話しておいて損は無いだろうと頭の中で結論付けた。

 

 一行は無事言っていた店に到着。飲み物も行き渡り俺が立ち上がったところで西城ことレオ(レオと呼んでくれとゴリ押された)が待ったをかける。

 

「話の腰を折るようで悪いんだが、昨日の事件とやらについて聞いてもいいか?どうやらここに居る全員昨日何かしらあったみたいだが俺は今日が初顔合わせみたいなものだからな。

 なんか胸糞悪いことがあってそれについての状況説明をする、とは聞いてるんだが?」

 

 その顔には着いては来たが場違いならこのまま帰ってもいいが、居ても良いのか?と言うのを言外に含んでいた。

 

「今日のゴタゴタだけで昨日の事件がどういう感じだったのか何となく察せるだろうが、今日のゴタゴタにもあいつら介入してきたからな。一通り説明させてもらう。ほかのみんなも半分しか知らないしな。」

 

 俺、達也、深雪は昨日あったことに加え、それが今日介入してきた葉山、雪ノ下、由比ヶ浜であることを伝え共有した。

 

「なるほど大体わかった。で、今からなんでそう目の敵にされてるかの説明をしてくれるって感じか?」

 

「大まかにはその通りだ。」

 

 レオは理解が早くて助かるな。

 

「ちょいと疑問なんだが、聞く限りだと単純に仲が悪いからどーのって説明して詳しく語らなくてもよかったんじゃないか?」

 

「普通ならそう対応するところなんだが、ことがちょっと面倒でな場合によっては厄介ごとに巻き込んでしまいかねないんだ。だから自衛の為にというのも含めて知っておいてほしいという感じになる。」

 

 この一言で少し場の空気に緊張が走る。

 

「そこそこ大きな蛇が出てくるって思っておけばいいのか?」

 

「まぁそう認識しておいてくれりゃ、たぶん問題が無い。

 質問その他は適宜受け付ける、が。」

 

 そこで話し始めていいかどうかを問うように周りを見渡す。

 その後問題ないと判断し話し始めた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「じゃあ、まずは俺の事を知ってもらうことから始めることにするか。

 俺は比企谷八幡だ。そこに居る司波兄妹の従兄妹にあたる。

 そして例の葉山、雪ノ下、由比ヶ浜とは中学の同級生で、雪ノ下、由比ヶ浜とは同じ部活に所属していた、と言う間柄だ。」

 

 ここで少し口を湿らせる。少し緊張していたようだ。

 

「この部活動と言うのが“奉仕部”と言っていわばボランティア部の亜種のようなものだ。」

 

「亜種・・・?」

 

 当然の疑問だろうほとんどの人間が疑問を持っているようだ。

 

「簡単に言えば誰かを助けるのではなく自立を促す。飢えるものに魚を渡すのではなく魚の釣り方を教えるというのを指針にしたボランティアもどきと考えてくれればいい。」

 

「まともな理念じゃない。とてもあのお高くとまったのが所属してたとは思えないわね」

 

 まぁ、今のあれ見たらそう見えるかもな。あれでも部長だが。

 

「とまあその部活なんだが、まぁ諸々あったがまぁうまくいっていたんだがとある事件があってちょっと内部分裂した。まぁ俺含めて3人しかいない部活で俺が抜けたって話なんだが。」

 

 ここまではいいか?と見渡し問題が無いようなので続ける。

 

「事件と言っても要するに部に持ち込まれた依頼だ。内容的には恋愛相談だな。」

 

「すごく中学生らしい可愛らしい依頼に聞こえるんですが・・・?」

 

 光井の感想はもっともだろうな。この続きが無かったら。

 

「細かい内容は省くがまぁその時にやった解決方法があの二人には不服だったらしくてな。そこから喧嘩別れの状態になってる。」

 

「そこは省くんだ。」

 

「俺があいつらに嫌われてるって事実以外はあんまり関係ないからな詳しいことが知りたかったら後で深雪あたりに聞いてくれ。」

 

 エリカのツッコミに答えつつ次の話に移る。

 

「そこで俺は奉仕部を実質退部したんだがその後奉仕部に面倒な案件が舞い込んだ。

 内容っていうのがとある女生徒が嫌がらせで生徒会長に立候補させられるって言う意味が分からない事件だ。」

 

「させられる・・・?」

 

 北山が首をかしげて疑問点を示す。

 

「うちの学校の生徒会長出馬には20人の推薦人が必要なんだがこれを勝手に集めて本人の了承もなく出馬させてしまったんだ。これが所謂推薦としての行動ならまだ救いがあったんだが完全に嫌がらせの為に行われた節があってな。」

 

「えげつねーな、おい。」

 

 ほんとマジでそれ。あの時あいつどんだけ敵居たんだ?小町と水波以外の女子ほとんどか・・・?

 

「で、どうにかならんかって奉仕部に依頼が入ったみたいなんだがろくな案が出なくてな。

 で、その出馬させられた子が実は俺の再従妹の親友で、その伝手で俺に助けを求められたんだわ。」

 

 水波の頼みなら断れない。小町の頼みと同じレベルでの最優先事項だ(きりっ

 

「その依頼自体はまぁ、とりあえず丸く収める方向に持って行ったんだがそのゴタゴタが新たな問題を呼ぶ結果になった。」

 

「問題ですか?」

 

 美月の問いかけに答える形で情報を補足していく。

 

「ここで言ってなかったがその選挙に出馬させられた子について少しふれておきたい。そもそもこいつの性格がこの騒動のきっかけになったんだがそれよりも重要なのはあいつの家だ。

 名前を聞けば伝わるだろ。“一色いろは”それがこの騒動の被害者だ。」

 

「それ、あの“一色家”の次女?」

 

 北山の質問に首肯する。

 

「そうあの師補十八家の一色家の次女だ。

 追加であの葉山なんだが皆もうすうす察していると思うがあの“葉山家”だ。」

 

 ここで「やっぱりかぁ」と言う空気が流れる。まぁ、あの面倒くささに葉山となれば頭に挙がってくるか。

 実は葉山家は魔法師社会でそこそこ有名だ“あまりよくない意味”で。葉山家は元八山家であり、いわゆる数字落ち(エクストラナンバーズ)なのである。

 問題は、この葉山家、落ちたことに未だに不服さを感じているようで数字付き(ナンバーズ)に返り咲こうとあの手この手で謀略を働かせているのだ。場合によっては度が過ぎるレベルで。

 

「ここで面倒なことに葉山本人は一色いろはとそこそこ交流があってな。具体的には同じ部活に所属していたんだが、一色の問題を解決するにあたって一色を生徒会長にしてしまった為部活は実質的にやめてしまったっていうのもあるが一番の問題は一色の父ちゃんだ。」

 

「お父様となると一色家当主ですか?」

 

 北山がそういえば、と。

 

「確かすごく親馬鹿で娘たちを溺愛してたような?」

 

「お、知ってるのか?」

 

「うち主催のパーティーに来たことがある」

 

 しれっとパーティーって・・・。雫の実家もそこそこすげえ家っぽいな。

 

「北山の言った通りでこの事件を知った当主がガチでキレてな。文句を言おうとしたらしいんだが、問題そのものも一応は解決しているってんで今から引っ掻き回すのも本意じゃないって言う部分は良いんだが、その後言い出したのが何故かクレームじゃなくて俺への感謝だったんだわ。」

 

「ん?それって八幡に“一色家当主直々に感謝の意を表明した”って事か?すげえじゃねえか!

 ・・・・・・だが、なんかその後の流れが見えてきた気がするぞ。」

 

 皆もなんかひきつった笑みを浮かべている。みんな察しが良いな。

 

「まぁ、何となくわかったと思うがこれを葉山は“一色家に取り入った”と認識したらしい。そもそも、葉山自体、一色家に取り入れないかと画策していたみたいだから目の前で獲物がかっさらわれたとでも思ったんだろ。

 追加で雪ノ下達もそう認識したようで元々一色家と仲が悪い雪ノ下家としても明確に敵対したというわけだ。」

 

「あ、やっぱり雪ノ下さんってエレメンツの・・・。」

 

 やっぱり?

 

「ほのかの家も光のエレメンツの家系。やっぱり“あの”雪ノ下家であってたんだ。」

 

 そういうことか。友達にエレメンツが居たなら北山がとっさに思い出せたのもうなずける。

 

「少し速足だったが俺とあいつらとの関係のおおまかな説明はこんな感じだ。質問とかあったら受け付ける。」

 

 聞いた内容を反芻しているのだろう。

 

「しかしあれですね。雪ノ下家と八幡さんの確執ってあの事件を連想させます」

 

「あの事件って?」

 

 話があらかた纏まったからだろう。美月が連想ゲームの気分で歴史上の事件を思い出す。

 

「師補十八家であった八幡家が雪ノ下家の謀略で滅びその末裔は雪ノ下家に復讐の機会を伺っている・・・って話。エリカちゃん聞いたことない?」

 

「あぁ、私たちが子供の頃衰退した八幡家の都市伝説ね。

 美月そういうの好きなの?」

 

 そんな都市伝説になってるのか。知らなかったな。・・・・・・コラそこ、都市伝説教えてくれる友達が居なかったとか言わない。

 ・・・・・・居ないけどさ。

 さて、これ以上は深雪が限界だ。止めに入るか。本日最大の蛇携えて。

 

「いや、狙ってないぞ?」

 

「・・・・・・どういうことだ?」

 

 一瞬の静寂ののち、問いかけられたレオの質問に答える。

 

「だから、八幡家は復讐とか考えてねえよって話。」

 

「・・・え、まさか八幡さん本当に?」

 

 光井の言葉に静かに首肯し言葉を紡ぐ。

 

 

「俺の親父は八幡家次期当主になるはずだった人だ。まぁ、事件が事件だったからな、今は母方の苗字で通してる。」

 

 八幡家の滅亡は魔法師社会的にも大きなニュースだし概要ぐらいはみんな知っているのだろう。

 それぞれでうまく消化しようとしているのが伝わってくる。

 

「じゃあ達也さんたちも?」

 

「いや、達也たちは母方の従兄弟だからな。八幡家とは関係ない。」

 

 北山のこの質問以降、返答が難しくなったのか静かになる。

 まぁ、こんなもんだろう。とりあえずはこれより先は個々人の問題だな。

 

「と言うわけで俺が言いたいのは俺が八幡家の人間だったって事実を恐らく雪ノ下家は掴んでて、警戒してる可能性が高いって事も含め、俺って存在が結構面倒なことに巻き込まれてるから同じように巻き込まれないように気を付けてくれってことなんだが・・・。」

 

 伝わったか?

 

「・・・まぁなんだ。予想より蛇がでかくてビビったぜ。だがそういう事情なら納得だ。何かあったらいくらでも頼ってくれ!」

 

「あのいけ好かないのが敵なのは分かり切ってるしむしろ納得って感じかしら?そういう面白い面倒事は大歓迎よ。」

 

「八幡さん!私たちは味方ですからね!!」

 

「そうですよ!聞く限りだとほぼほぼ八幡さんがとばっちりを受けているようにしか聞こえませんし。」

 

「とりあえず目下、八幡が困ってることってあるの?」

 

 口々に言われる予想の斜め上の感想に困惑しつつ言われた北山の質問。

 

「とりあえずは特には?あいつらが面倒くさい程度だが、これは北山が気にする事じゃないしな・・・?」

 

「分かった。何か困ったことがあったら何でも言って。

 後そろそろ雫って呼んでほしい。他人行儀。」

 

 少し不機嫌そうなオーラを醸し出しつつ八幡をみる北山。 

 いやなんでそんなにアグレッシブなん?

 

「いやそれはアレがコレでな?」

 

「いやどれよ。」

 

 うぐっ。

 

「と言うかこんだけぶっちゃけたなら仲間も同然でしょう?ここに居る面子ぐらい名前呼びしなさいよ。」

 

「・・・・・・前向きに善処するわ。

 じゃなくて良いのか?友人選ぶならもっとまともなの探した方が良いぞって伝えたつもりだったんだが・・・?」

 

 この発言に場の空気が非常に白けた気がした。

 あれれーおかしーぞー??

 

「ねえ達也君、こいつって基本こんな感じなの?」

 

 こんな感じってどんなだよ。

 

「八幡にはよくわからない孤独癖と言うか、自分がボッチであることにポリシーを持ってる節があってな。自分の中の友達の定義のハードルが異様に高い。」

 

「それに加えまして他人の好意を素直に受け取れない性格なのが尾を引いて割と友人は少なくはないずなのですがいつまでもボッチだボッチだと・・・。そもそも、私やお兄様だって定義としては友達に分類されるはずなのですが・・・。」

 

「いや、お前らは家族だろ?」

 

 あぁ、なるほどこういう感じか~的なムードに包み込まれる。

 と言うかやめてくれ。こっちを見ないで。そんな可哀想なものを見る目でこっち見たら八幡死んじゃう!!

 

「まぁなんだ、八幡。ここに居る面子は友達だ。

 何がお前をそうさせちまったか知らないが、それは保証できるからゆっくり慣らしていこうぜ。」

 

 レオは八幡の肩を叩きつつ語り皆も頷いていた。

 ・・・・・・八幡そろそろ泣くよ?

 

 一応、これで思惑通り事は進んだし“真夜叔母さんの依頼”も完遂したと思っていいだろう。

 だが俺はそれ以上のものを手に入れられた気がしたが納得したくないという自分がどこかにあり、心の中を整理するのに非常に苦労した。

 

 

 

 




気持ち長めでしたが会話文が過多で大丈夫か少々不安な作者です。
言い合いや議論の地文って難しい・・・。

どうやら週間ランキングにもランクインしていたようで、喜びがやっと驚きに追い付いてきた、と言う感じの作者です。
今のところなんとかストーリーにまとめあげるのに必死な現状ではありますが、完成した作品を少しでも楽しんでいただければ幸いです。

感想等来る度に励みとなっております。ツッコミ含めて非常に助かっておりますので、よろしければ一言お願いいたします。


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入学編7

少々更新が開きました。

ちょっと救急搬送されたり入院したり退院したりとで余裕がありませんでした…。

と言うわけで少々リハビリ気味で書かせていただいたので、感想でも言っていますがタコ作者やらかしてるぞ!等を見つけ次第感想にてツッコミ入れていただけると幸いです。



「じゃあ、上手くいったのね?」

 

「はい。まぁ、上手く噂が流れれば俺の魔法力は八幡家の影響と映るんじゃないですかね?

 深雪が少し目立ってますけど八幡家が育成に関与したって考えたら多少ましでしょ。」

 

 今八幡は自らの叔母にあたる人物と話していた。今日の説明会を含む“叔母からのお願い”の進行状況の報告をしようと連絡を取ったのだ。

 

「私たち四葉の事はまだバレるわけにはいかないもの八幡家と言う餌は時間稼ぎとしては非常に有用。あまり行儀の良い手段ではないけれどそこはごめんなさいね?八幡さん。」

 

「いや、それが一番効率が良いんで利用できるものは利用したらいいと思いますよ。何やってもあいつらが突っかかってくるのは変わらないでしょうし、それなら利用した方が建設的ですよ。」

 

 あいつらとは雪ノ下家と葉山家の事だ。あいつらは俺個人に突っかかってるが、あいつらの家が持つ八幡家に対する敵対心があいつらの心象に与えている影響が大きいのは事実だろう。

 

「四葉の隠れ蓑としては確かに有用ですが、向こうへの妙な刺激とならないかが少し心配ですね。」

 

「四葉の事が知れればこの程度で済まないのだから必要経費と考えるしかないわね。私だって心苦しいのよ?」

 

 四葉家。十師族の一員でありその名は日本にとどまらず世界においても有名な魔法師一族である。だがそれは有名と言っても栄誉と言うよりは恐怖の対象としてのものである。

 

 あの一族を敵に回してはならない。触れてはならない者たち(アンタッチャブル)なのだ。

 

 この認識は日本だけではなく世界の共通認識と言っても過言ではない。そう納得させる力を示してきた、そう言う家なのだ。

 

 ここまで警戒と畏怖が伝われば、相応に敵も多く“四葉の関係者”と知られること自体が危険であることが多く、結果として四葉の関係者である俺らは安全の意味でも四葉とは無関係であると対外的に名乗っている。

 故に“四葉家当主”の叔母である四葉真夜との関係はトップシークレットなのだ。

 

「私がお願いした“八幡さんが八幡家の縁者であることをそれとなく伝えること”は今後戸塚くんにも手伝って貰うから問題ないでしょうけれど、先ほど気になることが聞こえたわね。“突っかかってくるのは変わらない”だったかしら?どうなの達也さん。」

 

「そうですね。少々いざこざがありました。実は・・・」

 

 達也が俺がわざわざ説明に省いた本日のお茶会の流れを説明する。おい、せっかく伏せたのにチクってんじゃねえぞ達也。

 

「・・・・・・やはり葉山家は根絶やしにしましょう。雪ノ下家同様ね。」

 

「やっぱりこうなったじゃねえか達也!!・・・いや、落ち着いてください四葉家との関係バレますよ?」

 

 四葉真夜、俺たちの叔母である。この人は達也の母親である深夜伯母さんと、その妹であり俺の母親である沙夜母さんの三つ子の姉妹で、真夜叔母さんはその末っ子だ。

 

「・・・・・・2年前の二の舞は許さないわよ?小町さんの報告を聞いた時の機嫌次第では葉山家と雪ノ下家は滅んでいたわよ?」

 

「葉山さんに宥めるのに苦労したって愚痴られたんでよく知ってますよ・・・。

 それにあいつらが騒げばそれだけ噂に信憑性が増すんで好都合です。精々利用してやりましょう。」

 

 この叔母、触れてはならない者たち(アンタッチャブル)とも呼ばれる四葉家のトップであるのだが、愛すべき欠点がある。ことを起こす時こそ非情であるものの家族に対しての害意は決して許さず、実は結構子供好きと言う性格なのである。

 

「分家の達也さんへの扱いの酷さで結構鬱憤が溜まっているのよ?これ以上ストレスを増やさないで欲しいわ。ねぇ、八幡さん?」

 

「叔母上、それについては俺は気にしていません。経緯も聞いているので分家の方々も仕方がない部分もあるのでしょう。」

 

 訳あって四葉家の分家筋の“大人”とは確執めいたものがある達也は気にしていないと叔母を宥めた。

 

「まぁ、感情が“兄妹愛(きょうだいあい)”しか持たない達也が現場にいたのに堪えたのです。それに免じて我慢するとしましょう。」

 

 達也の感情と言う四葉においてのタブーを出して話の空気を換えることで歓談はここまでであると暗に真夜は告げた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「“ブランシュ”と言う名前に聞き覚えあるかしら?」

 

「“ブランシュ”と言うと反魔法活動団体のでしょうか?」

 

 反魔法活動団体ブランシュ。魔法師排斥運動を行う反魔法組織であり、目的の為には非合法手段にも訴える危険な組織である。

 

「その一派が第一高校においたを働いているみたいなのよ。」

 

「それは、ブランシュの工作員が第一高校に潜入しているということですか?」

 

 え、それ不味くない?しかも魔法科高校で魔法師排斥ってどういうことだよ・・・。

 

「どのレベルで浸透しているのかは調査中です。ですが、この問題は放置しておいて良いレベルを超えているのは間違いないのは分かりますね?」

 

「四葉が出張らなくて良い様に処理してくれってことですかね?」

 

 ここで四葉が出張るとなるとのちのち面倒な事になるのは間違いないだろう。

 

「八幡さんは理解が早くて助かるわね。

 この件に四葉が介入する予定はありません。

 上手く対処してみなさい。」

 

 そう言って話を切った叔母さんは微笑みつつ告げた。

 

「少し遅くなったけれど、入学おめでとう。また遊びに来て頂戴。」

 

 そう言って通話は終了した。

 ・・・・・・入学早々仕事かよ。働きたくないってのに。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 皆さんは女性に声を掛けられる朝と言うものをどう考えるだろうか?アニメや小説では何かしらイベントが始まる瞬間だろう。現実ならば朝から女性と話せる素晴らしいイベントだろうか?

 だが、よくよく思い出してほしいこういったイベントの後に起こる主人公たちの末路を!

 ロマンスの始まりかと思えば波乱万丈の幕開けだったり、そこで知り合ったが故に覚えられ、後々起こる事件の中心に気が付いたらキャスティングされたりしている悲しき過重労働者の姿を!!

 故に我々は学ばねばならない。物語の、いや入学して間もないタイミングでの朝、女性に声を掛けられる場合返事をしたら後々面倒を被る可能性があるため無視するのが肝要であると・・・。

 

「八幡。そろそろ現実逃避から帰ってこい。会長が見ている。」

 

 どうやら回避に失敗したらしい。

 だって学校の最寄り駅を降りたと思ったら唐突に聞いたことのある声が後ろから聞こえてくるんですもの。鍛えられたボッチストとしては聞こえない振りは基本である。

 と言うか結構頑張って聞こえてない振りしてたのにグイグイ来すぎだろ・・・。

 

「・・・・・・えっとなんでしたっけ?」

 

「もう、やっぱり聞いてないのね。お昼ご飯に深雪さんたちと来て欲しいの。深雪さんに来てくれる件は了解を得られたけど一応伝わってるかの確認したかったのよ。上の空だったみたいだし。」

 

 あれー。本人の了解得ずに行くことになってるー。おかしいなー?

 

「いや、今日のお昼はアレがコレで・・・。」

 

「会長、予定は無いそうです。

 それではお昼に伺わせていただきます。」

 

「お待ちしていますね。それでは。」

 

 最後に逃げ道を封じてきた達也に非難の目を向ける。

 

「俺はオマケだがお前は呼ぶ気満々だったからな。下手をすると教室に迎えに来かねない勢いを感じた。むしろ気を使ったと思ってくれ。」

 

 俺何か目立つことしたか?・・・・・・昨日してましたね。

 頼むからこれ以上面倒増やさないでくれ・・・。

 

 登校前になぜか体力をごっそり持っていかれた気分だった。

 

 

 

 

 




少々更新が空いている中、感想等ありがとうございました!
ご指摘の内容からの発見も多く大変喜んでる作者です。

また、お気に入りが600件を超え、読んで頂けているというのを実感しており非常に上げ身になっております。(ありがたやありがたや

以前にも書かせていただきましたが、質問、ツッコミ等々募集中です。物語進行が亀速度ではよ入学編終われよ感は非常にありますが、もう少しお付き合いいただければ幸いです。


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入学編8

誤字のご指摘ありがとうございます!!
ちょいちょいやらかす事に定評がある為非常に助かっています。(ありがたやありがたや

あとがきの方でアンケートを取っている旨のお知らせを致します。よろしければご参加いただけると幸いです。




「さぁ、八幡さん。行きますよ?」

 

 教室から気配を殺し、出て行こうとする八幡に深雪が声をかける。

 ちっ、逃げるのに失敗した。

 

「八幡、往生際が悪い。」

 

「生徒会長さんと昼食でしたよね?流石にすっぽかしたら大変な事になるんじゃ・・・。」

 

「わーったよ。・・・・・・はぁ。」

 

 光井と北山に窘められ、ため息をつきつつ深雪と共に教室を出る。

 

「やっぱり逃げようとしましたね。逃げ切れないのは分かってたと思うのですが・・・。」

 

「俺は深雪のオマケだろ。居なくても良いと思うんだがな・・・。」

 

 俺の一言が気を触ったのか少し不機嫌そうにする深雪。

 

「八幡さんはオマケなのではありません!!ですが、それ抜きにしても七草会長は八幡さんに興味を持っていたように感じましたが?」

 

「・・・・・・俺はそれが深雪の勘違いだと願ってる。」

 

 「また、心にもないことを・・・」と呆れながらのツッコミを無視したころに目的地である生徒会室を目視。同時にその少し手前で達也がこちらに目を向けているのに気が付いた。

 

「その感じだとまた逃げようとしたのか?八幡。」

 

「うっせ。」

 

 先に着いて深雪達を待っていた達也が八幡と深雪の雰囲気から状況を察し呆れ顔で八幡を見るも、どこか疲れた顔をしている辺り達也の心情もお察しである。

 その二人とは対照的にどことなく嬉しそうな深雪は達也に促されつつ入室を求めるべくインターホンを操作する。

 入室の求めに明るい返答と共にロックの外れる音がし、達也を先頭に入室した。

 

「いらっしゃい。遠慮しないで入って。」

 

 中に居たのは4名の女子生徒が居た。会長に促され八幡、達也、深雪は席に着き会長から現生徒会メンバーの簡単な紹介を受けた。

 

生徒会長  七草 真由美

会計    市原 鈴音(通称リンちゃん)

書記    中条 あずさ(通称あーちゃん)

風紀委員長 渡辺 摩利

 

 そしてこの場には居ないが副会長のはんぞーくんなる人がメンバーらしい。通称とやらはどうやら会長のあだ名のようなので無視でいいだろう

 と言うかはんぞーってなに?忍者なの?俺知り合いに居るんだけど忍者。・・・あれは忍びだっけか?

 

 その後料理が配られ食事を勧めつつの雑談が始まる。空気を読んで空気に徹する男。それが真のボッチストたる俺の役目だ。一切会話には参加しない。

 何度か俺に話を振る素振りを見せた人間が居たが我関せずの態度で食事をしている俺に話しかける切っ掛けを見つける前に話は本題に切り替わった。

 

「当校は生徒の自治を重視しており、生徒会は学内で大きな権限を与えられています。

これは当校だけでなく、公立高校では一般的な傾向です。」

 

 達也は相槌を打って話の続きを促す。これ自体は一般から大きく外れていない純然たる事実なのだから疑問を挟む余地もない。

 

「当校の生徒会は伝統的に、生徒会長に権限が集められています。大統領型、一極集中型と言っても良いかもしれません。」

 

 実力主義の魔法科高校らしい伝統だな、と八幡は思ったがいちいち口を挟む愚など侵さない。

 

「生徒会長は選挙で選ばれますが、他の役員は生徒会長が選任します。解任も生徒会長の一存に委ねられています。各委員会の委員長も一部を除き任命権があります。」

 

「風紀委員はその例外の一つだ」と摩利が補足を入れつつも前置きから本題に移行する。

 

「毎年恒例なのですが新入生総代を務めた一年生に生徒会役員なって貰っています。そのままのちのち生徒会長に・・・と言うパターンもここ5年は続いていますね。」

 

 ここで一呼吸置き本題を切り出した。

 

「深雪さん。私は貴女が生徒会に入って下さることを希望します。

 引き受けてくださいますか?」

 

 ここで深雪は目線を達也に向け問いかける。達也がうなずくのを見て決意を固めたのであろう。

 爆弾を投下した。

 

「会長は兄の入試の成績をご存知でしょうか?」

 

 この発言での周囲の反応はきっぱり2種類に分かれた。

 

 なぜこの話が出てくるのかと言う疑問と驚き。

 そして“あぁ、やっぱりこうなったか”と言う苦笑いである。

 

 珍しいことに達也がこの妹の行動に非常に驚いており悲鳴を堪える様子が八幡には察せられた。

 

「ええ、知っていますよ。すごいですよねぇ・・・・・・。

正直に言いますと先生にこっそり答案を見せてもらった時は、自信を無くしました。」

 

「・・・・・・成績優秀者、有能な人材を生徒会に迎え入れるのなら、私よりも兄の方がふさわしいと思います。」

 

 そこで再起動が済んだのか予想通りと言う顔の俺に助力を願う顔を向けてきた達也。

 ・・・・・・しゃーない助けるか。

 

「デスクワークならばむしろ知識に勝る兄の方が・・・」

 

「深雪、生徒会は一科生しかなれない校則があるぞ。」

 

 今まで存在を認知されていなかったのであろう。俺がしゃべったことで空気が止まった。

 さっさと畳み掛けるか。

 

「まぁ、デスクワークは達也の得意分野だし、言いたい気持ちもわかるが一応は規則だしな。」

 

 ここまで言えば納得するだろうと思ったがその読みがいかに甘かったかを俺は思い知る。

 

「そうだったのですか・・・。申し訳ありません。分を弁えぬ差し出口でした。お許しください。

 ところで七草会長。その他に生徒会役員になる条件はあるのでしょうか?」

 

 ・・・・・・おい、いやな予感がするぞ?

 

「無くはありませんが、一科生の一年生ならば特に現段階で気にする部分はありませんね。」

 

「私、お兄様にも引けを取らない素晴らしい知識とデスクワークスキルを持つ方を知っているのです。

私を生徒会に加えていただけるお話についてはとても光栄に思います。喜んで末席に加えさせて頂きますがこちらの八幡さんも一緒に、と言うわけにはまいりませんでしょうか?」

 

 混乱した俺は達也に目で助けを求めた。借りを返しやがれ!!

 

「すまないが司波。そいつは生徒会に入れるつもりはない。」

 

 だが、そんな俺を窮地から救ったのは俺の予想外のところからの一声だった。

 

「比企谷は教職員推薦枠で風紀委員会に入ることになっている。もちろん本人の強い希望で生徒会に入りたいのならば変わってくるが?」

 

「いや、生徒会に入るのは希望してないですけど・・・。

と言うか風紀委員ってどういうことですか?」

 

 寝耳に水とはこのことである。窮地から救われた先が地獄ってブラック過ぎんだろ・・・人生。

 

「そのままの意味だ。本当は森崎がその枠で風紀委員になる予定だったが入学早々馬鹿やらかすような奴には任せられんからな。

 真由美に聞いたら術式解体(グラムデモリッション)とやらは現存する対抗魔法では最強クラスのものらしいじゃないか?

実際あの時の判断も見事なものであったからそれとなく推薦しておいた。」

 

 何してくれてますのん!?

 

「なるほど、そういうことでしたか。

無理を言って申し訳ありません。分を弁えぬ差し出口でした。お許しください。」

 

 俺がどうにか反論しようと口を開きかけた瞬間それをさえぎるように深雪が話を進めようとする。

 待って?俺に拒否権ないのん?

 

「それでは深雪さんには書記として今期生徒会に加わって頂くと言うことでよろしいですね?」

 

「はい。精一杯務めさせていただきます。」

 

 やばい。このまま流すと確定になりかねない。どうにかしないと・・・。

 

「そうだ、真由美。教職員推薦枠も埋まったことだし生徒会推薦枠の補充も決めてしまって欲しいんだが?」

 

「それはまだ人選中よ。急かさないで。」

 

 すると摩利の顔が何かを企むような目で続ける。

 

「さっきの司波の言い回しを借りるようで悪いが、実はいい人材に心当たりがあるんだ。

 なんでも発動した魔法の起動式を読み取れるという類い稀なる才能の持ち主なんだがどうだろう?」

 

「・・・・・・あぁそっか。ナイスよ摩利!!」

 

 突然立ち上がった真由美は達也を指さし声高らかに叫んだ。

 

「風紀委員なら問題ないじゃない!!生徒会は司波達也君を風紀委員に指名します。」

 

「ちょっと待って下さい!俺の意思はどうなるんですか?

大体風紀委員がどういう委員なのかも説明を受けていませんよ?」

 

 先ほどとは違いなまじ不可能でない事が危機感となり達也が声を上げた。乗るしかない、このビッグウェーブに!

 

「俺も詳しい説明がほしいっすね。と言うかなんで推薦してるんですか・・・。」

 

「妹さんにも生徒会の説明について具体的な説明はしていませんが?

後、比企谷さんの件は至極真っ当な手続きを通った結果ですので諦めてください。」

 

 その後達也の抗議が続いたが(俺の抗議は概ねスルーされた)昼休みと言うこともあり時間切れ。

 続きは放課後となった。

 

 

 




まだまだリハビリ気味とは言え物語進行おっそ・・・。

後、台詞メインだと拙さが目立ちますね・・・。(書き方等のアドバイスあったりしたら泣いて喜びます。

もう少し書けばそこからはずばば~と進むと思いますのでお付き合いいただければと思います。




私の活動報告にてアンケートをとっております。

内容的な観点ではあまり重要ではないのですが、よろしければご参加願えると助かります。


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入学編9

前話にて話題に出したアンケートですが、圧倒的に魔法科高校原作の方が良いという意見でした(と言うかほぼ全員そうでした。)

なので、差し支えなければ、次話投稿時を目途に原作の部分を「魔法科高校の劣等生」に変更したいと思います。

それについてツッコミがございましたら感想等、どこかで言ってくだされば対応させて頂きますので、よろしくお願いいたします。

誤字報告とても助かっています。毎度やらかすタコ作者ですが、末永くよろしくお願いします。


 今の学校教育は端末による課題達成がメインのもので、いわゆる教師が前に立ち教鞭を振るうと言う教師の姿は今ではあまり見られなくなった。特に高校教育ではその傾向が顕著で、ここ第一高校でもその例外に漏れず座学はモニターに向かうのがメインだ。

 だが、ここ魔法科高校に教師が居ないわけではない。もちろん教鞭を振るうために居る教師陣だがその仕事のメインとなっているのが“一科生の実技”である。

 

 一科生と二科生の授業においての明確な差異は教職員の有無である。

 

 その差が学習内容に違いが無いはずの一科生と二科生を優等生と劣等生に分け、それが決定的な優劣だと示す程の価値観を植え付けているというのだからさぞ素晴らしいものなのだろう。

 その教師、今何を教えればいいのか途方に暮れてるんだけどな。

 

「すごいよ深雪!!さっきよりもちょっと早くなってる!!」

 

「やっとこののろまな機体に慣れてきたみたい。やはりお兄様の調整なさった機体でないとダメだわ・・・。」

 

 深雪の記録は明らかに頭一つ飛びぬけている為教師は教えるところが無く、むしろ機械の設定ミスの方を疑っているレベルだった。既に2回機体を変えている深雪だが数値は下がるどころか上がっている為教師も何も言えなくなり、本日の内容については指導を諦めたようだ。

 

「次、八幡の順番。次こそは本気が見たい。」

 

「いや、今日の授業どう見ても機械馴れがメインだろ。疲れるのは却下だ。」

 

 今日は数名のグループを組みお互いに数値などを見つつ据え置き型のCADを動かすというもの。とりあえずの目標はあるものの、取りこぼすようなレベルではなく明らかに様子見と言う塩梅だった。

 北山は八幡の実力を見たかったようで八幡の近くで実習を行っていたがとことんやる気が無い八幡に不満があるようだ。

 

「八幡さんも本気を出せば私などに後れを取るような実力じゃありませんのに・・・。」

 

「深雪を超える程なの!?」

 

 八幡の明らかに手を抜いた魔法行使を横目にぼやいた一言にほのかが驚いた。

 

「ええ。魔法を使うという点だけじゃない。魔法師としての資質も私よりはるかに上よ?」

 

「過大評価もそこまで行くと妄言の域だぞ?深雪。

 例え本気であの課題をやったとしても調子が良かったらお前に追いつけるかどうか。これが純然たる俺の実力だろ?」

 

「そもそも追いつける段階ですごいですよ・・・。」

 

 ほのかの的確な突っ込みに遠巻きで耳を澄ませていた聞いていたクラスメイトは心の中で大いに頷いた。

 

「次期風紀委員の推薦を貰ったと言う事は、学校に実力が認められたということですよ?」

 

「八幡さんが風紀委員に、ですか?」

 

 ほのかが驚きと尊敬を込めた目線で八幡を見る。

 

「そうなの!素晴らしい栄誉でしょう?」

 

「もしかして、この前のほのかを止めた魔法が評価されたの?」

 

 雫が興味深々と言うのを隠す素振りもなく会話に加わる。八幡へ質問を投げ、終始苦虫を噛んだような顔の八幡が渋々応じる。

 

「なんか風紀委員長が教師陣に告げ口したらしい。そのせいで何故か森・・・森滝?がなる予定だったのに俺に回されたらしい。

 マジでいい迷惑だ・・・。」

 

「森崎だ!!・・・お前が俺の代わりに風紀委員になるらしいな。

 俺の代わりになるんだ。無様な真似は許さないぞ!!」

 

 森崎だったかー。覚えづらいんだよ全く。唐突に会話入って来たな・・・。そんなにやる気あるなら代わってくれよ。

 

「知るか。お前が問題起こして降ろされたんだろ?俺には関係ないっての。

 いや、マジで断りたいんだが・・・。」

 

「小町さん達に話したらすごく喜んでましたよ?水波さんなんて涙ぐみながら八幡さんは私の誇りって言っていました。」

 

 小町に報告済みかよ!これ、断ったら水波泣くんじゃ・・・・・・。しれっと外堀埋められてますね、はい。

 

「小町さんって誰?八幡。後、水波さん?も。どういう関係?」

 

 北山がすごい距離を詰めてきた。近い近い近い近い!!そういう行動が世の思春期男子に勘違いを生むんだぞ!北山はもう少しそういうことを考えて・・・。

 

「北山じゃない、雫。で、誰?」

 

 セルフで心読まないでくれませんかね?そういう魔法じゃないみたいだから良いけど。・・・良くないけど。

 

「妹と再従妹だよ。北y」

 

「雫」

 

 謎のオーラを纏って距離を詰めてきた雫。納得するまで引かないと全身で主張してるのがありありと伝わってきて、八幡の往生際もここまでとなった。

 

「わかったから離れろ!!そろそろ恥ずか死するよ?俺のチキンなハートじゃ限界だよ?

 し、雫って呼べばいいんだろ!?了解したから少し離れてくれって!!」

 

 思春期の男子にそういう事するとすぐに好きになっちゃうんだからな?俺がよく訓練されたボッチじゃなかったら、その後告ってフラれて黒歴史ノートに新たな1ページを刻んじゃうまであるからな?

・・・・・・刻んじゃうのかよ。いや、刻んじゃうんだけど。

 

「やっと名前で呼ぶ気になった。」

 

「おめでとう雫!この調子で私もお願いしますね?八幡さん。」

 

 その発言に何とも言えない顔で頭を掻きながら「気が向いたらな」と八幡が答えると同時にチャイムが鳴り本日の授業はここまでとなった。

 

 

 

 

 ん?森崎?そういや途中から存在がスルーされてたな。なんかしゃべってたみたいなんだがほかの面子に総スルーされてて完全に忘れてたわ。

 

・・・・・・なんつうか、強く生きてくれ。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

~深雪side~

 

 

 雫がアグレッシブに八幡さんに迫ってるわね・・・。

 

 深雪は長い付き合い故、八幡の性格上風紀委員などの委員会活動からは逃げるのを知っていた。だからこそ逃がさない為、妹であり、見栄を張りたいであろう小町や水波(八幡にとっては水波も妹のカテゴリーに含まれている)に話すことで逃げ場を封じつつ友達にも流布することで覚悟を決めさせようと言う策であった。

 そもそも本来ならばペーパーでの成績で圧倒的に優れている上、魔法力に大きな差が無い八幡さんこそが新入生総代にふさわしく、私などが本来なれるものではないはずなのだ。だからこそ、それについてはお兄様も同様の事ではありますが何事にも相性があります。今後のお兄様のご活躍で心を入れ替える事でしょう。(深雪にとって兄が活躍することは決定事項でありそうなることは疑っていない)

 深雪の策はほぼほぼ成功だ。だが、そんな事よりも目の前の事態の方が優先順位が高い。

 

 雫のあのこだわり様と女性としては無防備すぎる距離感・・・。もしかして?

 

「ねぇ、ほのか。もしかしてなのだけど雫って八幡さんに好意を抱いていたりするのかしら?」

 

 二人に聞こえないレベルで音量を落として話しかけた。

 

「あぁ・・・えっと・・・。私も昨日気になって少し雫にきいてみたの。

 普段の雫とは思えない程積極的だったから。」

 

「ええ。それで結果はどうだったの?」

 

 少々食い気味に聞いてしまってはしたなかった気がしないでもないけれど、他ならぬ八幡さんの話ですものしっかりリサーチしなくちゃ。

 

「雫が言うには、最初は自分を超えるすごい人って認識だったのに話してみたらえっと・・・ちょっとおどおどしてるからどういう人なのか興味を持ったみたいなんだけどね?」

 

「それは何となく想像がつきますね・・・。それで?」

 

 八幡さんの普段の行動から見れば印象はそういう感じになるのは無理はないでしょう。誇れるだけの実力と知識があるのだからお兄様みたいに堂々となさったらいいのに・・・。

 

「その後、私の魔法を止めてくれた時、あったじゃない?あの時の判断と動き、そして魔法が今でも頭から離れないんですって。だから、今の目標は本気の八幡さんに認められる実力を身に着ける事って。

 だから、多分好き・・・なんだと思うけど雫はまだ自覚してない段階だと思うよ?」

 

「そういう事ですか。八幡さんの魔法を見ればそうなるのは分かります。」

 

 八幡さんの潜在的な凄さをいきなりぶつけられたら確かにそういう気分になるのは過去の自分に覚えがある。なんだか同志が出来たみたいで少し気分が良い。

 

「だから、出来れば少し見守っていてあげて欲しいかな?雫が良い子なのは私が保証するから。」

 

「大丈夫よ。ちょっと気になっただけで、あまり社交的とは言い難い八幡さんにはいい薬のようだから、今後に少し期待してるわ。」

 

 何かあれば私が介入すれば良いだけですもの。あの二人の害意を見抜けなかったからこそ、今度は絶対に見逃さないわ・・・。

 

「にしてもすごいよね、深雪の周りは。八幡さんもだけど達也さんも・・・。」

 

 ・・・・・・あら?今度はお兄様かしら?

 それについて追及しようか迷っている間に八幡が雫に根負けた様だ。ほのかが雫のもとに向かったのを後ろから眺めつつ空を仰ぐ深雪。

 

 無意識に女性を誑し込む兄達を持つ妹は苦労するのだ。

 

 敬愛する兄たちがモテるのが誇らしいやら本人たちが鈍すぎて頭を抱えるやらで少し頭痛を覚えた深雪は「今日は小町さんに話を聞いて貰おう」と心に誓い話の輪に加わった。




話がビビるほど進んでいないですね・・・。

えっとですね。導入でいろいろ書くじゃないですか?気が付いたら膨らみすぎて次の内容書き始めたらどこで止めるん・・・ってなったんじゃ。

何を言ってるのかよくわからないと思うが、思いついてしまったから許してください。(すいません。


などと、計画性のない駄文生成をしていたらお気に入り700件が超えておりました。有り難過ぎてこんな駄文でいいのか戦々恐々の思いです。

毎度の事ですがツッコミ、問題定義、アドバイス、やらかしてんぞ作者!は常時受け付けております。お気軽によろしくお願いします。


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入学編10

少し間が開きました。

ちょっと入院の影響で体調を崩してまして・・・。

相変わらずの進行スピードですがよろしくお願いします!!


 人間は自らより格下の人間に蔑まれることに高い嫌悪を抱く生き物である。正確には“格下だと思っている人間に”ではあるが、プライドと言う自らを形成する為に必要な安心を保つためにも、自分が底辺ではないと納得する為の言い訳としても、自らの下に人が居るという事実を触媒に劣等感を忘れ、優越感をもって安心を得るのだ。

 「天は人の上に人を作らず人の下に人を作らず。」かの有名な御仁の日本人ならば一度は聞いたことがある名言である。

 まぁ、確かに天とやらが人に上下を作らないのはあっているのだろう。と言うか天から見ればどっちにしろ下なんだから差別なく下だとか言いかねん気がしないでもないが、これを言った当の本人は自らの娘の結婚相手を身分で破談にしようとした、などの逸話が残っていることからも分かるが天は作らずとも“人間は人の下に人を作る”のだ。

 こと集団を形成している以上学校でもそれは例外ではない。特にこの第一高校ではスクールカーストとは別に学校公認差別助長制度こと“一科生と二科生の枠組み”まである。これで差別問題が起きないと思っているならその能天気さに失笑しか漏れない。

 さて、考え事をしている間に場もそろそろ煮詰まって来たな。諦めて現実を見るとしようか・・・。

 

「渡辺先輩、その一年生を風紀委員に任命するのは反対です。」

 

 そう叫んだのは以前話題に上った服部半蔵だっけか?まぁいいやここでは服部でいいか忍者ぽくてかっこいいし。

 問題はこの人、達也が二科生なのが気に食わないらしい。

 

「おかしなことを言う。司波達也君を風紀委員に推薦したのは生徒会長である七草だぞ。口頭でも指名の効力は変わらないはずだ。」

 

「本人が受諾していないと聞いています。」

 

「だとしても決定権は達也君にあって生徒会の決定は既に為されている。君に決定権があるわけではないよ。」

 

 ここで本来ならばこの話題の中心人物たる達也に話が行く流れだが服部は達也を見ようとしない。その姿勢からも達也に決定権があること自体に納得がいっていないことが分かる。

 当の本人は妹がいつ暴発しないかが気がかりであり服部の態度には(深雪の感情面での問題を除いて)欠片も興味が無いのか心底面倒くさいと思ってるのが付き合いの長さからか伝わってきた。

 

「過去、二科生(ウィード)を風紀委員に任命した例はありません。」

 

「それは禁止用語だぞ、服部副会長。風紀委員会による摘発対象だ。委員長である私の前で堂々と使用するとは、いい度胸だな。」

 

 このウィードと言う表現は“表向きは”使用禁止となっている。まぁ、ほとんど守られる状況になっていないのが実情だが。

 風紀委員と言えばこういった禁止行動(差別発言も含む)の摘発など構内の風紀を守るための組織と言うのが一般的だろう。

 だが、この学校においての風紀委員は少々毛色が異なる。第一高校での学校内の風紀を乱す事(主に暴動系)に対して実力をもって対応するための実働部隊である。だが、一般的な風紀委員に比べこの学校には“魔法の不正使用”に対しても対処する必要が出てくる。

 ぶっちゃけるならば魔法を使ってはっちゃける馬鹿を力技で黙らせることも仕事の内なのだ。

 であればこそ、その人選には魔法力高さや暴動鎮圧に向いた魔法力を持った生徒が選出されるのが一般的であり、“魔法力”をメインにする以上、魔法で劣るとされる二科生から選出しようと考える方が稀であろう。

 

「取り繕っても仕方ないでしょう。それとも全校生徒の三分の一以上を摘発するつもりですか?

 一科生(ブルーム)と二科生(ウィード)の枠組みは学校が認めた区別であり、それを根拠付けるだけの実力差があります。

 有事には一科生(ブルーム)を実力で取り締まる必要がある役職だ。

 実力の劣る二科生(ウィード)に務まらない。」

 

「確かに風紀委員は実力主義だが実力にもいろいろあってな。達也君には展開中の起動式を読み取れる目と頭脳がある。

 これは使用された魔法によって罪状が変化する当校において今まで魔法をキャンセルさせたことで罪状が安定しなかった生徒に対する確かな抑止力になる。」

 

 この服部も普通の思考で考えるならば確かに理にかなったことを言っている。“実力が劣るから二科生”と言うのは純然たる事実なのだから。だが、エリート思想からかその方面での柔軟性が致命的に足りていなかった。

 

「・・・ありえない。基礎単一工程の起動式ですらアルファベット三万文字以上の情報量になる。それを展開中に読み取れるなんて出来るわけがない。」

 

「それが出来たからこそ任命しているのだ。実力で制圧するなら私が居るからな。私なら10人でも相手してやれるぞ?」

 

 驚きが勝るもののにわかには信じられない故に服部の反論は終わらない。それ故に兄への愚弄を黙っておけない妹がとうとうしびれを切らしたようだ。

 

「僭越ですが副会長。兄は実技成績が芳しくないですが、それは実技テストの評価方法が兄の力に適合していないだけなのです。

 実戦ならば、兄は誰にも負けません」

 

 その確信に満ちた顔に一同は驚いた。当の服部を除いては、だが。

 

「司波さん。魔法師は事象をあるがままに、冷静に、論理的に見なければなりません。身内であれ身贔屓をするのは魔法師を志す以上やめるべきでしょう。」

 

 諭すような口調が深雪のヒートアップを加速させる。

 そろそろ不味いな。

 

「お言葉ですが私は身贔屓など・・・。」

 

「あー副会長?少し質問があるんすけど、いいですかね?」

 

 存在を完全に忘れていたのだろう。俺を見た服部は戸惑いつつも「君は・・・」と自己紹介が欲しいようだ。

 

「達也と一緒で風紀委員に推薦された比企谷です。

 さっきの話聞く限りだと、俺は達也に実戦で戦うと多分勝てないんですが、その場合風紀委員には不適格ですかね?」

 

「・・・ほう。二科生に劣る実戦能力ならば難しいだろうな。君も含めて再考した方が良いだろう。」

 

「そうなんですか。“入試成績次席”でも風紀委員になれないって相当な実力が要るんですね。

 深雪、うちの学年の人間は深雪以外で副会長のお眼鏡に叶う風紀委員は居ないみたいだぞ?」

 

 この発言に「ぎょっ」っとしたのか慌ててまくしたてる。

 おい、風紀委員長笑うな。

 

「ちょっとまて、君が次席入学なのは本当なのか?」

 

「ええ。特に魔法理論と魔法工学は達也君と同じで満点です。実技も文句なく次席。普通に見れば風紀委員としては文句ないわね。どころか生徒会に欲しいくらいの人材でしょうね。」

 

 生徒会長補足が入り俺にうまく乗せられたのに気が付いたのだろう服部が俺を睨む。

 おー怖い怖い。

 

「服部副会長、俺と模擬戦をしませんか?」

 

「なに・・・?」

 

 ここで今まで静観を貫いていた一番の当事者が動いた。

 やっと動いたか。だが、お前だけ悪目立ちするのは避けるべきだ。

 

「なるほどその手があったか。これでもし達也が負ければ今年が不作だったと証明出来ますしね。服部副会長も自分の発言の信頼度を証明する形になりますし良案なんじゃないですか?

 実力が足りない“二科生”ごときにまさか負けるなんてことないでしょうし?」

 

「おいおい、八幡。俺は深雪の目が曇っていないと証明しなければいけないんだが?」

 

 この発言から達也が“勝つ前提”だと察したのだろう。服部のプライドの限界はここまでだった。

 

「思い上がるなよ、補欠の分際で!

 お前もだ、比企谷。新入生が粋がるのも大概にしろ!」

 

「はいはい。言い合いはその辺りで。両者が納得するなら、模擬戦を承認するけれど?」

 

 ここがまとめどころと判断したのだろう。真由美が話に割って入った。

 

「俺は異論はありません。もともと私の提案ですし。」

 

「・・・いいだろう。身の程を弁える必要性を、たっぷり教えてやる。」

 

「わかりました。二人の模擬戦を了承します。」

 

 なんとかなったか。これで後は達也が勝つだけ・・・。

 

「比企谷、お前も準備しておけ。懸案事項は少ないに越したことはないからな。」

 

 渡辺委員長がいい笑顔でこっちを見ている。

 あれ、ミスったか?

 

 




やっと一巻の後半というところでしょうか。入学編いつ終わるのやら・・・。

今後も体調次第でありますが投稿していく予定ですのでよろしくお願いします。


誤字報告を毎度ありがとうございます!!
今後ともよろしくお願いします。


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入学編11

やっと戦闘シーンに入りました。(いや、難しいって。マジ難しいって。

これで本格的なものになったらどうなるのでしょうか・・・。(精進せねばなりませんね・・・。



誤字報告ありがとうございます。よくよくやらかすので助かっております。


「申し訳ありません。お兄様、八幡さん。」

 

「お前のせいじゃないさ。」

 

「ですが・・・。」

 

 先程の言い合いの責任を感じているのか深雪は沈み気味だ。

 

「それに、ここまでうまく行ったのは八幡が服部副会長の冷静さを奪ったからだ。本当に八幡は煽るのがうまいな。」

 

「それ褒めてんのか?まぁ、今回は向こうが勝手に自滅してくれた感じだがな。

 それより俺も模擬戦やるのか?相手すら聞いてないんだが・・・。」

 

 なんでこうなった。働きたくないのに。模擬戦とか超疲れるじゃん。誰だよこんなことにしたの、・・・俺か。

 ・・・俺なのか?

 

「丁度良いではありませんか。あの方はお兄様だけでなく八幡さんにまで無礼なことを宣ったのです。格の違いというのを見せるべきです。」

 

「いや、もし戦ったら俺が格の違いを見せられる可能性もあるぞ?

それに、この学校だったらあれが正常な反応だろ。

 俺への攻撃は俺が逃げ道を潰したせいで後に引けなくなった部分が大いにあるだろうしな。」

 

 実際、ヘイトをこっちに向けるために結構エグい論調で攻めたからな。まぁ、氷の彫像にならなかっただけマシだと思ってくれって感じか。

 それにしても深雪さん、元気になったのはいいけどちょっとアグレッシブすぎやしませんかね?

 

「そういえば八幡、さっきのホラはなんだ?いつからお前は“俺より弱くなった?”」

 

「何言ってんだ。“実戦”で俺がお前に勝ったことなんて無いだろうが。そもそも、やったことが無いしな。

 模擬戦でどれだけ勝ってようがお前の弱点を突いて勝ってるだけで、対策アリアリ嵌め殺しで勝ってるだけの勝率に価値なんて無いだろ。」

 

 俺と達也は訓練の一環で過去にそこそこの回数模擬戦を行っているが、達也はその尖った魔力性質上殺さない事や一定以上の負傷をさせないルールで行う模擬戦はあまり相性が良くない。俺もそれが分かっている上で戦っている以上達也の得意をとことん排除していけば素の魔法力の差でどうしても勝率は偏りやすい。

 それでも、達也の求めるデバイスの進化や達也独自のスキルも相成って最近の戦績だけ見れば五分五分に持ち込まれつつある。

 

「八幡さんはご自分の凄さをもう少し理解した方がいいと思いますが・・・。」

 

「それについては俺も同感だな。」

 

「お兄様もです!!」

 

 模擬戦前とは思えないゆるい感じで演習室の扉を開いた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「それではルールを説明するぞ。

 直接攻撃、間接攻撃を問わず相手を死に至らしめる術式は禁止。回復不能な損壊を与える攻撃も禁止とする。

 相手の肉体を直接損壊する術式も禁止する。

 ただし、捻挫以上の怪我を与えない範囲での直接攻撃は許可する。

 武器の使用は禁止、素手での攻撃は許可する。蹴り技を使いたければ学校指定のソフトシューズに履き替えること。

 勝敗は一方が負けを認めるか。審判が続行不能と判断した場合に決する。

 双方開始線まで下がりCADを起動しないこと。

このルールに従わなかった場合その時点で敗北とする。違反は私が力づくで止めるから覚悟しておけ。以上だ。」

 

 摩利のルール説明を聞き双方頷いた達也と服部は開始線に向かう。服部は開始前に達也が摩利と話している時に言っていた「汎用型は処理能力が追いつかない」という言葉を聞いて勝利を確信したようだ。油断はしないが、余裕綽々という雰囲気だ。

 油断している様にも見えるが服部が余裕さを出すのも無理はないだろう。この模擬戦において、一番重要なのは“相手に先に魔法を当てれるか”である。

 実技の苦手な二科生であり、汎用型を使う上で処理能力が追いつかないほどの魔法資質、先程の会長の発言から試験成績が良いが分かっている。だとしたら実技が相当平均より下回っていなければ二科生にはならなかったのだろう。

 故にこの試合において服部は油断は一切していなかった。

 確実に勝つべく持てるスペックを最大限活用した正しい行動も取っていた。

 

「始め!」

 

 だからこそ、自分が床で寝ていることを理解するのに時間がかかった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「勝者、司波達也。」

 

 勝負は一瞬だった。まぁ、俺と深雪以外は驚愕していたが。

 淡々と成すべきことを終え、礼をした達也はCADを収納に向かう。

 

「待て。

 今の動きは、予め自己加速術式を展開していたのか?」

 

 この疑問は当然だろう。魔法に通じる人間であるからこそ、尚の事その考えに行き着くのは仕方がないことだ。

 

「純粋な身体的技術ですよ。」

 

「その通りです。お兄様は忍術使い九重八雲先生の指導を受けているのです。」

 

 その名は驚愕だっただろう。体術に通じる人間であればこそ八雲の存在は大きい。

 

「では、あの攻撃に使った魔法も忍術ですか?

 サイオンの波動そのものを放ったようにしか見えなかったのですが。」

 

「忍術ではありませんが正解です。あれは振動の基礎単一系魔法でサイオンの波を作り出しただけですよ。」

 

 本来、魔法をについて深く質問するのはマナー違反に当たる。だが、七草会長は同系統の魔法(サイオンを弾丸として打ち出し起動式を破壊する魔法など)を使う魔法師として興味が抑えられなかったのだろう。

 

「それでははんぞーくんが倒れた理由が分かりませんが・・・」

 

「酔ったんですよ。」

 

 その後はみんなで達也の魔法の考察大会に発展した。

 達也の放った魔法はサイオンを知覚できる魔法師に、3種類の振動数で放たれたサイオンの波をぶつけると言うもので、波の合成を利用することで威力が強まったサイオンの波のせいで強制的に強い船酔いのような状況に追い込まれたのが服部の倒れた原因だった。

 問題はその魔法を撃つために使用された魔法に使われる変数の多さだった。魔法は予めプログラムされていた魔法に自分で必要な情報、この場合では座標、波の強さ、波が続く時間が必須条件となるがこれらを入力することが求められる。

 達也の場合、これらの処理を行う変数の入力を増やすことを得意としており、この魔法においては先の3条件に加え波の振動数も予め設定せずに数字を入れている。こういった処理を多変数化と言い、魔法の自由度が増える分魔法そのものが難しくなるのだ。

 簡単に言えば暗算で1次方程式を解いていたのを同じ速度で2次方程式を解くようなものだ。三次、四次となれば難易度は格段に跳ね上がる。そういう類の技術だ。だからこそ。

 

「多変数化はこの学校では評価されない項目ですからね。」

 

「・・・・・・実技試験における評価項目は魔法を発動する速度、魔法式の規模、対象物の情報を書き換える強度で決まる。

 なるほど、テストが本当の実力を示していないとはこういうことか・・・。」

 

 服部はまだ少しふらついているようだが、それでもしっかりと床を踏みしめ深雪の前に立ち頭を下げる。

 

「先程は、その、身贔屓などと失礼を言いました。

 目が曇っていたのは、私の方でした。許してほしい。」

 

「私の方こそ生意気を申しました。お許し下さい。」

 

 これで大方解決に至っただろう。プライドは高いものの実力を正当に評価出来ないほど奢り上がった物ではなかったらしい。達也もそことなく満足そうだし。

 さて、終わった終わった帰ろう。

 

「あ、服部。今から比企谷と模擬戦を行うんだが・・・相手はお前がするか?」

 

 ・・・逃してくれなかったか。もう良いじゃん。俺いらないだろ・・・。

 

「ああ言ってしまった手前、比企谷の実力も見るのは義務だと考えますが、出来れば見学でお願いしたいです。」

 

「そうか。なら、私が相手をするしか無いな?」

 

 やだ、いい笑顔。

 

「いや、ちょっとアレで、コレですし?」

 

「八幡さん、CADです。」

 

 スルーすか。はぁ。

 深雪に渡されたのは腕に巻くタイプの一般的な汎用型。

 

「ルールは先程と変更なし、審判は真由美が適任だろう。

 問題ないな?」

 

「あってもやるんでしょう?もう好きにしてください。」

 

「では真由美、頼む。」

 

「いつもながら強引ねぇ、摩利。」

 

 そう言いつつもそそくさと審判をする位置につくあたり八幡の実力が気になっているのだろう。

 達也も少し興味があるのようで眺めているが、どっちかというと風紀委員長の実力が見たいのだろう。

 

「始め!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




お気に入り800超えてましたーーーー!!!!

ありがたいです。(拝み

戦闘描写がこれでいいのかすごい困ってるので今後ちょこちょこ色々試して見るので感想の方でコメントいただけると助かります。

次の投稿は比較的早く出ると思うのでよろしくお願いします。


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入学編12

というわけで後半です。

前回は戦闘、これでいいの?と言いつつほぼほぼ戦闘がない感じでしたが今回はガッツリ書いたつもりです・・・。(読みづらかったらすいません。


実際のところこんな感じで読みやすいのかがわからず、感想がほしいです。戦闘描写は難しいので四苦八苦ですがより良い文が書けるように何卒アドバイスをば。




 

~摩利side~

 

 昼話した時はやりたくないと全身で表現していたが、諦めたのか説得されたのか風紀委員自体はやる気があるらしい。

 真由美の言っていた対抗魔法の性能と“真由美よりも先に対処してみせた実力”からしても教師からの推薦納得の実力なのは間違いない。だが、いやだからこそ実力を見てみたい。何より先程の達也くんの戦いは見事以外の何物でもなかった。

 コレはなかなか楽しみになってきた。

 渡辺摩利は校内で実力的に有名人故に、こうやって“模擬戦を受けてくれる相手”が少ない。それ故にこういった機会は摩利にとっては貴重なのだ。

術式解体だったか。アレを考えるならば・・・。

 

「始め!!」

 

 摩利の初手は自己加速術式での移動だった。魔法の発動スピードと体の運びは得意分野だけに八幡が目で追いきれていないのが見て取れた。そのまま達也同様相手の死角に回り込む算段だったがそれに対する八幡の回答は摩利の予想外のものだった。

 

「・・・っ!??」

 

 地面が揺れてたたらを踏みかけた摩利はしゃがんで体勢を立て直す。自己加速術式を使い加速して床を走っていた摩利は、高速移動中に地震にあったような状況だった。

 八幡のことは目を離していないが、私の自己加速で私を見失っていると言う雰囲気だったためまさか狙い撃ちにされるとは思わなかったのだ。

 私の着地音を聞いたのだろう振り向いた八幡が魔法を放ってくるのが分かる。

 

 体勢を整えるのに手一杯だ。移動して体勢を立て直す・・・。

 

 摩利は跳躍術式にて八幡との距離を取った。いや、正確には“取ろうとした。”

 

「は!??」

 

 跳躍術式は発動した。着地状態のしゃがんだ体勢から右側への跳躍。だが“右足が地面から離れない。”

 

 足じゃない、靴か!!

 

 このままでは固定された靴を支点につんのめって地面に叩きつけられるのは必至。とっさに靴を無理やり脱ぎ跳躍のスピードを上げることで難を逃れようとするが、完全に自分のことで手一杯になっている。

 

 この隙を逃すほど甘くはないだろう。だが、せめて相打ちくらいには持ち込ませて貰う。

 

 恐らく八幡の次の魔法で戦闘不能になるであろう予想はついていたが最後の一撃、いや”悪足掻き”のつもりで八幡へと移動魔法を跳躍術式とのマルチキャストで放つ。

 

 ぞわり。

 

 感じ取れたのは剣士としての勘か、はたまた現在敵対してるが故のものなのか。開始からの動きは素直過ぎた。だからこそ完全に先手を取られているこの現状は侮ったが故のもの。そう思い、せめて相打ちにと手を伸ばした瞬間に感じたのは明確な強者のプレッシャーだった。

 摩利は明確に“負ける”と認識した。

 相打ちなんて甘すぎる。下準備して勝ちに行ってやっと相手になる。それだけのプレッシャーだと摩利には感じた。だからこそ。だからこそ耳に入ってきた言葉を認識できなかった。

 

「勝者、渡辺摩利!」

 

 

 ・・・・・・は?今何といったか?

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

~深雪side~

 

 

 

「勝者、渡辺摩利!」

 

 またですか、八幡さん。

 私は渡辺先輩の最後の魔法によって吹き飛ばされた八幡さんのもとに向かいます。

 

「序盤は摩利を見失ったのを奇策で捉えて追い込んでいたけれど、もともと後手後手だったから最後の一手まで詰めきれなかったという感じかしらね。」

 

「むしろ渡辺先輩にマルチキャストを使わせたと言うだけで賞賛に値するかと。3年生でもそこまでできる生徒は当校でも片手で数える程度しか居ないでしょう。」

 

 八幡さんの事を負けたものの高い評価だったと称賛を送る会長と市原先輩。まさか手を抜いたから負けたと説明するわけにもいかずヤキモキします。

 

「比企谷くんは大丈夫?深雪さん。」

 

「あーはい。生きてます。渡辺委員長が威力調節してくれたみたいなんで軽く打ったって感じです。」

 

 私が答えるまでもなく八幡さんが答えます。怪我はないようなので安心ですが。なぜ勝てる試合を・・・。

 ここで、なぜ勝ったのか未だに受け入れられていないご様子で立ち尽くしていた渡辺先輩が八幡の復帰に反応した。

 

「比企谷、一つ聞きたい。手を抜いたのか?」

 

 嘘は許さない。そういった目をした渡辺先輩が八幡を射抜く。やはり納得がいっていないのでしょう。

 

「何言ってるのよ摩利?あの状況で手を抜けるタイミングは無かったわよ?」

 

 そう。外野から見る分にはその通りなのです。自己加速術式で加速した摩利を見失った為、奇策を使って行動を封じつつ場所の特定。体勢を立て直している渡辺先輩に追撃兼行動抑制を仕掛けて止めを刺そうとしたところにマルチキャストに対応できず魔法発動に失敗し、無防備に反撃を食らって負ける。それが見たものの感想なのです。

 

「いや、確かに私のマルチキャストに対応できなかったのはそうなのかもしれない。だが、明らかに私は跳躍術式の時に自分の事に対応が手一杯になっていた。あのタイミングで一撃入れないどころか私の苦し紛れの一撃すら警戒していないなんてありえない。

 終始、私の行動を手のひらで転がしてみせたこの試合においてそこの詰めを誤る訳が無い。違うか?」

 

「どういうこと?摩利。

 まるで、摩利がワンサイドゲームされたような口ぶりだけれど。」

 

「正直、私はそうだと思っている。

 違うか?比企谷。」

 

 渡辺先輩の目線が八幡さんに刺さる。

 

「渡辺先輩の認識は概ね正しいと思われますが、結論が間違っていると思われます。」

 

「というと?」

 

 お兄様が八幡に目で一言断って説明を開始なされました。

 

「順を追って説明しましょう。

 まず、最初の自己加速術式ですが、八幡が渡辺先輩を見逃したのは事実です。ですが、“八幡が渡辺先輩を見逃すのは想定範囲内です。”」

 

「わざと見逃した、と言うこと?」

 

 会長の質問にお兄様は首を振る。

 

「まずですが、恐らく体術に秀でているであろう予想が出来る渡辺先輩の自己加速術式を見切れるほど八幡は体術に秀でているわけではありません。全く出来ないと言う訳ではありませんがどちらかと言うと深雪と同じタイプの八幡は魔法戦がメインです。よって見きれないから“見失う前提”で次の魔法の準備をしました。」

 

「私は比企谷とは初対面のはずだが?」

 

「それは渡辺委員長が一番“九重八雲”と言う言葉への反応が大きかったからです。」

 

 お兄様の説明に八幡さんの補足が入る。事実“九重八雲”と言う名前に反応できたのは会長と渡辺先輩だけで、中でも渡辺先輩はとても驚いている印象だった。

 流石八幡さん。細部からの情報を読み取るスキルは健在ですね。

 お兄様が「続けます」と一言断って話を進めます。

 

「次に地面を揺らした魔法ですが、アレはピンポイントで狙ったものではなく床を蹴った力を地面を伝って自分を中心に同心円状に広げつつ増幅すると言うものでほぼ無差別攻撃に近いものです。渡辺先輩が自己加速術式を使った高速移動中でなければ軽い地震程度にしか感じないものでしょう。」

 

「そう言われてみると、まるで自己加速術式を使われる前提の魔法チョイスですね。摩利が手のひらで転がされていると思ったのはこの辺りかしら?」

 

「ああ。その後の靴の固定もそうだ。まるで跳躍するとわかっているかのようだった。しかも飛ぶ方向まで。」

 

 渡辺先輩からしたら先読みされて前もって潰されるような印象の試合でしょう。ワンサイドゲームだと感じるのも無理はありません。

 

「それについてはその通りですね。急いで対応したから背中がおろそかな体勢で魔法を撃ってそっちに飛ぶように誘導したんです。そっち側が死角ですからね。」

 

「あの固定に使った魔法はなんですか?

 相手への、それも魔法を体にかけている人間への直接干渉となれば相当な事象干渉力がないと出来ない芸当ですよね?」

 

 今度は市原先輩の疑問です。コレについては私も分かりません。八幡さんのやることは予想ができませんから凄いです。

 

「あの攻撃は渡辺先輩の自己加速術式の方にも問題があるかと。

あの魔法は不可視の弾丸(インビジブル・ブリット)で、渡辺先輩の靴の踵をピンポイントで狙うことでかかとが固定され跳躍時、靴に引っかかったという訳です。先程展開された起動式を見た限りだと自己加速術式の定義範囲が靴をカバーしきれていませんでした。最悪、干渉力で押し切るにしてもあのレベルでしっかりと作用したのはそれが原因かと。」

 

「ご忠告ありがとう、達也くん・・・。

 じゃあ、本題だよ。なんで反撃が来なかったか。

 これは出来れば本人から聞かせてほしいかな?」

 

 やっとほしい回答にたどり着けたという印象で八幡さんに注目が集まります。私としてもぜひとも答えてほしいです・・・。

 

「・・・反則で負けるからです。」

 

 ・・・・・・なるほどそういう事ですか。八幡さんらしいですね。

 

 

「・・・それはどう言う意味だい?」

 

「最後の攻撃なのですが、俺の得意魔法で終わらせるつもりが不可視の弾丸(インビジブル・ブリット)が減衰なしでガッツリハマってしまって・・・。

 あのまま撃ったら間違いなく骨折しかねないと判断してキャンセルしたんですが、その間にマルチキャストで飛んできた移動魔法でお陀仏、と言う流れですね。

 ・・・・・・分かりました実演するんでそんな目でこっち見ないでください渡辺委員長!!」

 

 得意魔法というのがどういう物だったのか。見るまで納得しないという渡辺先輩の無言の威圧に八幡さんが耐えられなかったようです。

 

「じゃあ、軽めにやるんでそれで納得してください。」

 

 八幡さんがCADを操作すると渡辺の表情が歪んだ。あれ、初めてだと結構大変なのできつそうです。

 

「体が重い・・・。これは?」

 

「加重、加速の系統魔法で重力強化と呼ばれる魔法です。

 今だと重力加速度が2倍になっています。」

 

 お兄様が魔法についての補足説明をしています。

 

「この魔法を行動が停止出来るレベルであの状態の渡辺委員長に撃てば良くて打撲、概ね骨折でしょう。」

 

「それで反則負けになる、か。確かに筋は通っているが、気を使われている段階で上級生の面目はまるで立たないな。」

 

 渡辺先輩は悔しげに嘯きつつも賞賛を見せている。

 

「新入生だからっての油断と様子見があったなかで畳み掛けたからうまく行っただけで結局負けてますしね?ここまでやって反則威力の魔法しか用意できてない段階でまだまだっすよ。」

 

「それを差し引いても実質私に勝利したんだ。少しは誇ってほしいものだ。

 それで服部副会長。今年の一年はかなりの豊作だと判断するがどうだろう?」

 

 後ろで会話には参加せず見ていた服部先輩が八幡さんを見て、答える。

 

「そのようです。あのまま連戦で私が比企谷と対戦していたらまず勝てなかったでしょうね。

 比企谷、先程の言葉は撤回させてほしい。私からも君の風紀委員参加を推薦させて貰う。もちろん司波達也もだ。」

 

 そう言った服部先輩は私と先輩方に軽く頭を下げ、この場を後にした。

 

「じゃあ、戻りましょうか。」

 

 そう会長が促し、この場はお流れとなりました。

 

 

 

 




このような感じです。

戦闘描写ほんとむずいんですが?ですが?(二度言いました。重要なんで。

読みづれえよこのタコ!を含めここが読みにくい、こうしたら良いなど切実に募集中です。作者の駄文救済にご協力お願いします。



今後は皆さんお待ちかねの後半戦ブランシュ編に突っ込みます。ここのところ魔法科史メインのわちゃわちゃでしたがオリジナル部分、俺ガイル部分がちょろちょろ顔を出していく予定なので楽しんでいただければ幸いです。


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入学編13

皆さんはテスト前と言う時間をどうお考えだろうか?
余裕のものは遊び諦めた者も遊ぶが、基本的には赤点という恐怖から逃れるためにも勉強をするというのが正しき姿といえるのではないだろうか?
なればこそ、ここで私が小説など書いている場合ではない、なんとしても赤点を回避せねばと奮起したのは何も間違っては・・・!!

???「書き溜めって言葉知ってます?」

ウィッス。さーせんした。(土下座



というわけで、テストという名のデスマーチ・・・もとい学生の本分にかまけて続きの更新が遅れておりました、タコ作者こと読多裏闇です。
お気に入りが1000件超えているにも関わらず、赤点と必死に格闘しているという雑魚さを発揮しましたが、無事テストも終わりましたので投稿再開させていただきます。
雑魚さを盛大に発揮した後ですが楽しんでいただければ幸いです。


「ねぇ摩利?ここって本当に風紀委員会室?」

 

 七草会長の質問は風紀委員会室に入っての一言としては違和感を隠しきれないものだが、実際“以前の風紀委員会室”を知るものならばまっとうな質問だった。

 

 七草会長の困惑を理解するにはここまでの流れを理解せねばならないだろう。俺たち(模擬戦参加者一同)は終了後生徒会室へと集合し、その後深雪にそのまま生徒会業務についての説明、俺達は生徒会室の真下で階段による物理的な移動が可能な風紀委員室へと向かい絶句した。

 物は雑然と並べられ書類とCADが入り混じった魔境が完成されていた。渡辺委員長本人は「整理整頓は徹底しろ、と口酸っぱく言っている」と言っていたがこれはトップの影響なんじゃなかろうk・・・心読んで睨まないでくれませんかね・・・。

 結論から言えば達也が我慢ならなかったため片付けを開始。魔工師志望(魔法師でもCAD関係を専門としてる人)としてはCADのこのような扱いは我慢ならなかったのだろう。正直オレも目に余ると感じたが。

 

「委員長。CAD関係の整理、終わりました。」

 

「書類関係も整理完了ですね。後、これ今日までの書類なんですけど、見た感じ誰が書いても一緒な感じなんで書いときましたが問題ありましたかね?」

 

「・・・あぁ、うん。ありがとう。」

 

 最初こそ威厳を少しは保っていたが部屋が片付くにつれ少しづつ片付けに参加するものの手際の悪さからほとんど手を出せず終わるまで途方に暮れるという普段の摩利を知るものならば非常に珍しいと言わざるをえない状況を挺していた。

 

「早速役立ってくれてる訳だ。

 八幡くん、その書類を受け取りに来たの。見せてもらっていいかしら?」

 

「あ、はい。これでいいですかね?とりあえず埋めただけなんですが。」

 

 この話の流れで状況を察したのだろう。七草会長が呆れたようなおちょくるような目を摩利に向けつつ俺から書類を受け取り出来栄えに“問題ない”と告げる真由美。

 

「にしても、これじゃあどっちが委員長なのかわからないわね。」

 

「やめてくれ真由美。正直今日は受け止めきれる気がしない・・・。」

 

 片付けるの苦手なことそんなに気にしていたのだろうか?

 

「当の本人に自覚がないのはどうかと思うぞ?八幡。」

 

「達也くんもその片棒を担いでいるのは自覚した方がいいと思うわよ・・・。」

 

俺と達也はコメントする術がなかった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 そんな一幕もあったがやっと帰宅である。そう、帰宅である。俺がこの瞬間をどれほど待ちわびたことか・・・!!

 それは重要ではあるがまぁ脇において、現在は達也と深雪とともに比企谷家へ帰宅中である。本日は小町が晩御飯を一緒したいという要望が来たとのことで比企谷家に向かうとのこととなった。

 ところで皆さんは“帰宅中”と言うものはどういう風に定義されるだろうか。

 私は出発地点から目的地への到着までと以前は定義していた。だが、それは見直さなければならないのかもしれない。世の中には目的地到着後に“帰宅に失敗しているかもしれない可能性”を示唆しなければならない状況というものがあるらしい、何故ならば。

 

「お帰りなさい!せーんぱいっ!!」

 

 帰宅するにあたっての目的地の設定をミスった可能性が・・・ないな。自宅の場所ミスるってどんなんだよ。

 

「先輩。またくだらない事考えてるんだと思うんですが、もう少し帰ってきた先輩をお出迎えする後輩に目を向けてくれてもいいと思うんですよぅ。」

 

「いや、頼んでないから。」

 

 まじで頼んでないから。あれ、まじで自宅間違ちゃったの?てかなんでいろはす?

 

「お出迎え頼む人って相当少数派だと思いますけど?あ、でもこれは頼む人居るかもですね!

 先輩!ご飯にしますか?お風呂にしますか?それともいr」

 

「あざといんだよ。

 お前はいつから新妻キャラにジョブチェンジしたの?流石にキャラ盛りすぎでしょ。後、あざとい。

 てか、なんで居んだよ。」

 

「え、いきなり新妻扱いとか既に結婚前提ですか。いや、最終的にはそれも視野に入ってはいるかもですが色々段階踏んでほしいのと、いきなりすぎるんて気持ち的にも色々整理しきれないんで諸々含めて出直してきてください。ごめんなさい。」

 

 相変わらず早口で聞き取れねえがこの流れですら振られちゃうのかよ。今、振る流れあった?

 

「あの、いろはさん?何故八幡さんの家に?」

 

 今までのマシンガントークに呆気にとられていた深雪が復活して疑問を告げた。

 そう、この“一色いろは”は比企谷家の関係者というわけではない。もちろん家族というわけではなく赤の他人だ。俺が中学時代の後輩にあたり、The.リア充なオーラを漂わせる俺の人生において関わることが一切無いはずだった少女である。

 唯一の関係としては我が家のメイドさんこと水波の親友であり、小町とも仲が良くこの三人は全員俺の母校である中学の生徒会役員で有ることだ。

 そろそろみなさんも思い出して頂けたかと思うが、俺が生徒会長になるように“説得した”少女であり同時に、それを一色いろはを助けたとして一色の実家である師補十八家の“一色家”に感謝の意を表明された原因となった一色家ご令嬢だ。

 よって俺にはなんの関係も・・・・・・無いとは言い難くなってきてる気がするが赤の他人であるのは事実なのだ。家に居て帰りを出迎えられるような関係ではないのは間違いない。

 

「あ、深雪先輩と達也先輩もお久しぶりです!!

 今日、水波に先輩が第一高校の風紀委員に抜擢されたって聞いてこれはお祝いをしなければと思いまして!!

 ほら、入学のお祝いとかも出来ていなかったのでって水波に相談したら・・・。」

 

「小町がそれなら達也たちも呼んで家でやるとか言い出して今に至るってわけか。めんどくせ・・・。」

 

 水波さん言っちゃったんですか・・・。あ、後ろで申し訳なさそうに頭下げてるよ。・・・・・・やめてくれ、罪悪感がががg。

 

「八幡兄様鞄を・・・。」

 

「いやだから、それ、メイド業務の域超えてると思うんだが・・・。と言うかメイド業務も別に良いんだがな・・・。」

 

 水波だが、対外的には本人の希望で家のメイド的な仕事をしているということになっている。ガーディアン云々については言うわけにいかないのと、本人がメイド業に対してある種誇りに思っているようで、この家に来たときから家事全般をやることを譲らなかったのだ。(正確には“やるな”と言われない限り隠れて全部やってしまう為、母さんが根負けした。)

 一応表の設定として両親が死んでいる為に引き取られた子供となっていることから、居候であることを気にして自発的にやっている事としてメイド業に励んでいる。

 最初こそ家での扱いが悪いのか?などという勘違いも当時の担任の教師等で無くはなかったが、楽しそうにメイド業について語る事、辞めさせようとするととても悲しそうな顔をすることなどから本当に好きでやっていると言うのが伝わったらしくそういったトラブルはあまり来なくなってきている。

 

「あ、お兄ちゃんおかえりー。深雪お姉ちゃんも達也お兄ちゃんもお帰りなさい。

 水波ちゃん味付けなんだけどちょっと相談乗ってほしいから来て来て!!」

 

「あ、はい。ちょっとまってて小町ちゃん。」

 

 水波が鞄を諦め頭を下げてからキッチンへと向かう。

 

「今日は私もご飯作りましたから楽しみにしていてくださいね。先輩っ。」

 

 いろはすが料理?今日は命日か・・・。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「いい加減認めてくれてもいいと思うんですが?」

 

 なんだろうか。この振り上げた拳の落とし所が見つからない感じと言うか、イマイチ納得行かないというか・・・。

 

「少し悔しいですが、私よりも美味しいかもしれません・・・。」

 

 と、深雪の弁。

 そう、今はみんなで卓を囲み夕食を頂いている。小町、水波とそして一色の合作であり出来栄えは素晴らしい。そう、素晴らしいのだ。そして味も。

 

「八幡兄さん。いろはは少なくとも私と大差がないレベルで料理が得意です。

 因みにですが、今食べてらっしゃるグラタンはいろは作です。」

 

 マジかよ水波が作ったのだと信じて疑ってなかったぞ・・・。

 

「美味えな。正直びっくりだわ。

 一色にこんな予想外な特技があるとは。」

 

「しれっと失礼ですよ、先輩。前にお菓子とか作って食べさせてあげたことあったじゃないですかー。」

 

 そういやそうだがお菓子作りと料理って別もんだろ?・・・違うのん?

 

「話は変わるんですが、風紀委員ってどういうお仕事なんですか? 平塚先生は学内でCADの持ち込みが許可される武闘派の組織とか言ってましたが。」

 

 そう言って箸が進む中一色が本日の会を催した切っ掛けに触れる。

 

「そう言えば先生一校出身とか言ってたな。まぁ、大筋は間違ってないが、俺は裏で書類の整理とかしてるから安全だ。」

 

 平塚先生とは俺の中学時代の恩師である。それと同時にあの雪ノ下や由比ヶ浜と所属していた部活、“奉仕部”の顧問でもある。

 近年、日本の魔法師教育の強化に基づき、魔法師として素養がある人間をスキルを問わず学校機関(主に中学校)に最低一人づつ配置する試みが試されている。これは魔法素養があるものを早期に発見し魔法科高校への入学に導くことを目的としているため、魔法科高校入学ほどのスキルがなくとも教員資格を持つ魔法素養があるものが学校に赴任するのだ。

 平塚先生はそのテストケースの一人らしくそのせいもあってかうちの母校には魔法関係者が少し多いらしい。

 

「八幡。お前は間違いなく前線だと思うぞ。術式解体(グラム・デモリッション)が使える風紀委員と言うだけで持てはやされる筈だ。」

 

「・・・そんなえげつない対抗魔法使えるんですか先輩。

 水波ちゃんからサイオン量が多いとは聞いてましたがそこまでだとは思わなかったです。」

 

 おい一色UMAを見たような目でこっちを見るな。

 

「あんなんサイオン量が多けりゃ誰でも出来るだろ。一色も練習すれば出来んじゃねえか?

 力技と思われがちだが、サイオン量が多いのに出来ない奴は過剰にサイオン使いすぎて使い物になってないだけだと思うぞ?」

 

「八幡さんの言いたいことはなんとなく分かりますが、その辺りは無系統魔法に相当親和性がないと難しい部分だと思います。」

 

 深雪にまで人外扱いされてはぐうの音も出ない。深雪とかやりゃあ出来そうなんだがな・・・。

 

「それはさておきCADの学内携帯許可は安心だよね。どっかの誰かさんがまたやらかさないとも限らないし。」

 

「どっかの誰かって、もしかして葉山先輩ですか?」

 

 小町の発言に一色が食いつく。

 

「そうなんです。あの輩、また八幡兄さんにちょっかいを・・・。」

 

 水波が入学式のことについて一色に話し始める。俺そっちのけでヘイト増やさないでくれませんかね・・・。俺そこまで気にしてないのに。

 

「お父さんの心配が当たっちゃってる・・・。

 小町ちゃんが平塚先生にCADの学内携帯許可の話を聞いた瞬間、風紀委員になるの応援しだしたから何かあったのかなって思ったら案の定じゃないですか。

 先輩、何かあったら一色家の名前を出して構わないってお父さんから伝言もらってるんです。場合によっては日本魔法師社会の膿として排除も検討した方がいいって言ってましたからいつでも言ってください。」

 

「今日来た目的はそれか・・・。なら気にしないでくれって伝えてくれ。こう言っちゃあなんだが、面倒くさいことはあっても直接実害は無いんだよ。だから気にしなくて大丈夫だ。」

 

 葉山家と雪ノ下家どれだけ嫌われてるんだよ。これ以上暴発しないでくれよマジで・・・。

 

 そんなこんなで夕食が終わり一色は家に帰る事になった。家から車が迎えに来るらしい。流石はお嬢様である。

 

「先輩。例え一色家が動けない事態に発展したとしても私は来ますから。何かがあったら絶対に連絡してください。」

 

「一色家が動けない事態ってどれだけヤバいんだよ。んな事件に関わるわけ無いだろうが。俺を誰だと思ってんの?

 と言うか一色家が動かないといけない事態になる事も起こす気も関わる気も無えよ。俺は働きたくないんだっての。」

 

「必要なら動きますよ。先輩なら。」

 

 そう言って一色は去っていった。

 そういう予言めいたこと言うの止めてもらえません?

 

 

 




というわけで名前だけで出てなかったいろはす登場です。
今後も要所要所で顔を出す予定ですのでよろしくお願いします。


前書きでも触れましたがお気に入り1000件突破いたしました!!!!

作者、非常に驚いております。更新遅れてやがるくせに何様だこのタコ!など言いたいことは多々あるかと思われますが、感想にて作品への批評等頂ければ嬉しいです。


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入学編14

 皆さんは「時間」というものの価値という物をどうお考えだろうか?
 私は色々物の価値を考える上で「時間」と言う概念が一番難しいと考えている。基本的にどう使うかで価値変化が激しい「時間」という概念において一番問題は24時間という限界値が設定されており増やせず、借受も出来ず、極大化、加速化も出来ないという不干渉性にこそあると考えられる。
 人間は持てる時間を有効に使うこと限度であり、やるべきタスクが実時間を上回れば人間には物理的に出来ることと出来ないことが存在するt・・・。


???「あ、言い訳終わりましたかね?」


 いやですね、テストが終わったと言ったからと言って暇になったとは一言もいってn・・・。


???「今回の双剣ジャンプアクション格好いいな~」


 いやー、どっかのリ○ァイ兵長みたいっすよね!!


???「言い残すことは?」

 さーーせんっしたーーーーー!!!!






 というわけでテストを終わって体調戻して「おい、サッサか上位上がってこいよ、あくしろよ。」という友達の煽りに意地になってモンスターを追いかけ回しておりました、はよ書けやタコ作者こと裏闇です。

 やっとまとまった時間が取れまして更新再開いたします。私生活系の諸々も割りと解決の兆しなのでおそらく今後はちょこちょこ更新できるかと(多分、きっと・・・めいびぃ


前書きが長いわ本編あくしろよ、と言う声がそろそろ聞こえてきそうなのでここいらでこの辺りで締めます。それではどうぞ。




 時刻は10時を回ったあたりだろうか?八幡の携帯が電話の通知を知らせる。この家族以外は仕事関係しか滅多にかけて来ない携帯の発信に唯一の親友の名が刻まれる。

 

「もしもし戸塚か!!」

 

「そんなに大声を挙げなくても聞こえるよ?八幡。

 ちょっとぶりかな。もうちょっと早く連絡入れようかと思ったんだけどそっちも結構面倒なことになってるっぽかったしこっちも状況把握に時間がかかっちゃって。」

 

 戸塚彩加。俺の親友にして、実は四葉のエージェント的立場である。今回は俺らとは関係ないところから入学し俺や達也をサポートしてくれることになっている。四葉的には一応俺のガーディアンという立場で入学させているらしいが、俺を守るんじゃなくて諜報がメインの役どころだ。

 

「それは良いんだが、どうだ?あいつらの様子は。」

 

「今のところは大人しいものだよ。3人共人間関係の地盤形成をしてる感じかな。端にちくちくと八幡批判を混ぜてるけど鼻につかないようにしてるね。B組はエリート意識が強い子がちょっと多めみたいだから変な徒党にならないようにコントロールしてみるよ。」

 

 相変わらず俺へのヘイト高っけーなー。まぁ、いつも通りだが深雪の逆鱗には触れんでくれよ・・・。

 

「それは良いからお前が変なゴタゴタに巻き込まれんように気をつけろよ。情報流してくれるだけでも十二分に仕事になってるんだし。実家的にもな。」

 

「今のところ直接手が出せないからうまくブレーキくらいはかけさせてよ。どこまで出来るかわからないけど。また何か動きがあったら連絡するね。」

 

 そう言って電話を切る戸塚。現在戸塚は葉山たち3人と同じB組に所属している。これは四葉からの指示で葉山一派の内情を探るためだ。場合によっては向こうにスパイとして所属することもあり得る。

 まぁ、何も無いに越したことはないんだがな。叔母さん的にも“達也の秘密が漏れないこと”が最重要案件だ。戸塚の根回しもこちらの方がメインだしな。

 本当に、フラグの回収とか勘弁してくれよ?

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「状況的には以上になります。八幡は相変わらずですね。

 自分へのダメージや攻撃に対して寛容すぎます。

 場合によっては何らかの介入も視野にいれるべきかと。」

 

 戸塚は今の現状を真夜に報告した。

 今の時間は11時。電話をするには少々遅い時間だが八幡の現状の報告を含めて今日中に電話することを命じられていた戸塚が八幡との電話の直後に電話をかけたためこの時間となったのだ。

 あらかたの状況説明を聞いた上での真夜の表情はあまり優れない。予想範囲内だが呆れていると言った塩梅だ。

 

「八幡さんは相変わらずねぇ。

 どうせ、“戸塚さんのお仕事は達也さんの情報が漏れないようにするのがメインで、八幡さんの周りの内容はむしろ餌として使い倒してカモフラージュに徹する事”とか考えてそうね。」

 

「中学の時に小町さんと水波さんに言われて多少はマシになってはいますが、それでも本質は八幡ですから。

 土壇場や肝心な部分では自分自身を用いて安全マージンを取ろうとする所は変わらないです。」

 

 真夜はため息を隠そうとしない。戸塚とはこの点においては気持ち的に共有できる点が多いため、八幡への内容となると少々フランクな話し方だった。

 

 元々、真夜は八幡や達也たちとは可能な限り友好的でありたいと考えているし、何より自分では子供を産めないことも含めて実の息子と変わらない愛情を想っているが、四葉という立場や状況的に達也の扱いが難しい場面などではどうしても100%味方とは行かないのが現状である。

 それを考えた上で、世界を滅ぼしうる素質を持つ達也、場合によっては達也に対して絶対的なブレーキとなりうる八幡の才能は露見すれば“世界に敵が増え過ぎる”。

 子煩悩な真夜も苦労しているのだ。

 

「懸念についてもおそらくその通りですね。下手をしたら叩かれる事を計算に入れたプランを組んでるかもしれないです。どうやら雪ノ下関連について色々画策してるみたいです。

 どちらかと言えば達也君の方が大変かもしれません。“俺が動くのは八幡が求めるか、俺が我慢出来なくなった時だけだ。”と言ってましたが、怒ると容赦がないですからね。怒った時の深雪さんそっくりです。」

 

「それが一番怖いわね・・・。介入するのは達也さんのガス抜きも込みになるのかしら。」

 

 そう言って真夜は笑えない冗談ではあるが微笑みつつ紅茶を飲み一呼吸を置く。

 

「八幡さんの件も、一番信頼を置く貴方が言うのですもの。きっとそうなのでしょうね。

 八幡さんは家族を・・・、四葉を全くと言って良い程信じていないもの。私との会話も“真夜”としての発言か“四葉真夜”としての発言か、“四葉家当主”としての発言かロジカルに分けて聞いているのがよく分かるわ。

 ・・・これでも甥を贔屓するくらいの器量は持ち合わせてるつもりなのだけど、コントロールしきれないと見ると一切計算に組み込まないのは八幡さんらしいわね。」

 

 贔屓、と柔らかく言っているものの中学時代の八幡の待遇の酷さに主犯格を社会的に抹殺する計画を割りと真面目に立案したり、葉山隼人、由比ヶ浜結衣、雪ノ下雪乃の行動にキレて魔法師社会から追放せんとして、追い詰める事を画策したりしていた過去があったりと、その全てが少々(かなり?)暴走気味だった事から葉山さんに諫められた事など四葉家特有のやり過ぎる傾向が如実に出ている。

 

 四葉家特有、と言われれば四葉家の畏怖について考えを及ばせるのが一般的な魔法師であるが、それらの思い込みを脇に置きフラットで考えると実は結構単純なものである。

 元々触れてはならない者たち(アンタッチャブル)などと呼ばれているが、過去に畏怖される事件を起こしたきっかけはほぼほぼ共通している。“四葉の身内が害された時”である。

 その恐怖の理由も報復の苛烈さが原因であり、いわば報復された現場を周りの人間が見ていても絶対に手を出してはいけない、敵対してはいけない、と語り継がれる程なのだ。

 まぁ、手を出した組織の一族郎党片っ端から根絶やす為事を断行する容赦の無さも畏怖の対象ではあるが、“それによって一族に多大な損害が出ることすらお構いなし”とも来れば異常さは伝わるだろう。

 異常ではあるが結局のところ四葉ってどういう人間なのか?と色眼鏡抜きで考えると“家族愛がすごく強い一族”でしかなかったりする。力や影響力が強すぎた結果、やり方の過激さが際立ってしまったのが今の現状なのだ。

 

「僕も詳しくは聞いてないので、自力でどうにかしたいんだと思います。ですが、あれは工程を見据えて勝つために動いてる目でした。勝つための方法論と勝つべき敵とを見据えて機会を伺っているという印象です。

 雪ノ下家には僕も色々と違和感が多かったですしおそらくその辺りの状況を僕達みたいなデータ以上に掴んでるんだと思います。これに関しては八幡の“得意分野”ですし。」

 

「相談してくれたら色々手間が省けるのにね。まぁ、省けすぎるのを気にしてるのかもしれないから動き出すときに最高の武器を渡せるようにしておきましょう。

 よろしくお願いよ?戸塚くん。」

 

 そう言って微笑みつつも真剣な目で見つめる真夜。

 

「もちろんです。“たとえ、四葉と八幡が決別することになったとしたら殺されてでも八幡につく”そう言ったからこそここに居るんですから。」

 

 

 

 




待たした挙句本編進んでなくないですかね?

と言うツッコミが来ることが予想がつきますが申し訳ないです。

ここ以降は本編が走り出したらどうやってもブレーキ利かないんで差し込むタイミングここしか思いつかなくて・・・。


お気にい入りが1200件こえましたーー!!!
栞も300件超えてますーーー!!!!

ありがとうございますーーーー!!!!!!!!!!!



・・・・・・更新遅くてマジすんません。


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入学編15

 長く間があいて申し訳ありません。
 読多裏闇です。

 前回より投稿が遅れた原因なのですが、私のスペックが低かったのが原因です。

 前回、投稿に当たり読み直しをする事を提案して下さった方がいらっしゃったのですが、大変もっともなご指摘にもかかわらず実践すると修正作業が終わらなかったり、文章そのものが修正前の原形とどめてなかったりと、本来何が書きたかったのかが分からなくなったりなど盛大な迷子をしたあげく、時間ばっかり過ぎるという雑魚さを露呈する結果となってしまったという流れです。

 今後なのですが、このままだと投稿遅すぎゴミ作者が完成するどころか、私の文章力では直したところでたかがしれてますので細々なおしてる時間はさっさか続きを書いた方がお待たせもしませんし書いた数分多少は成長できると思いますので(出来るはずきっとめいびぃ)更新しつつ徐々にレベルを上げていければと思います。

 ですので、毎度の事ながらになりますが疑問、ツッコミ、指摘、やらかしてんぞタコ作者等の貴重なご意見お待ちしております。蓑虫レベルでの成長スピードではありますが糧とさせて頂きます。


「今年もまた、あのバカ騒ぎの一週間がやってきた。」

 

 渡辺先輩が少し引き締まった目を皆に向ける。

 “バカ騒ぎ”と言えば聞こえは可愛いものだが、起こる事象は魔法が飛び交う大乱闘が発生する場合すらあるものであり、非常に危険極まりない物の事を指しているだけに笑えない。

 そのバカ騒ぎ事“部活の新入生勧誘活動週間”が始まるのだ。

 そして、俺が何をしているのかと言うと。

 

「今年は幸い、卒業生分の補充が間に合った。

 紹介しよう、立て。

 

 1ーA の比企谷八幡と1ーEの司波達也だ。」

 

 早速、扱き使われることと相成っていた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 魔法科高校においての新入生勧誘活動は“魔法競技”と言う存在がある以上、成績上位者の争奪戦である。どの部活も優秀な魔法技能者を迎えるべく過剰な勧誘が各地で多発しており、風紀委員の仕事としてはその“やりすぎた勧誘活動”を取り締まるのがメインだ。

 本来ならば“行き過ぎた”と言っても普通の高校生の馬鹿騒ぎで済むが、ここは魔法科高校。魔法競技系クラブの勧誘にはもちろん、デモも含めた魔法の披露も学校公認で行われている。

 要するに本来構内では携帯しないはずのCADをデモに使用するためと言う理由で所持し、実質フリーパスで使用可能と言う無法地帯が完成する。

 これに対処しなければならないのだから風紀委員がいかに大変かがご理解いただけるだろう。新入部員確保のためにはっちゃけてる魔法が使える馬鹿を力技で黙らせろと言っているのだから頭が痛くなってくる。

 そして何より頭が痛くなってくるのは。

 

 

「助けて八幡さーーん!!!!」

 

 

「目の前でクラスメイトが拉致られていくのを目撃したから助けに行かないといけない事だな。」

 

 俺、拉致現場を直接見ることになるとは夢にも想ってなかったよ?しかも校内で。

 ともかく、追わないと行けない。拉致られたのはほのかと雫だ。拉致った人間は空飛ぶボードに乗っていたからそう言う空中スノボみたいな種目でもあるのだろう。

 俺は自分にかかる重力の指向性をいじり飛び上がるように追いかけつつ見回りをする風紀委員全員に配られる通信機を操作した。

 

「勧誘目的と思われる生徒が空飛ぶ板のようなものに乗って女生徒を拉致して行く所を目撃。こちらは現在正門前のロータリーから学校裏の方向へ移動中のその違反者を追っています。

 人数が多いため応援をお願いします。」

 

 まぁ、報告はこんなもんだろ。それに追いついたし。

 

「げ、もう追いついてきた!?」

 

 拉致った生徒は焦った声で加速する。

 これ以上逃げられるのも面倒だし止めるか。

 

 八幡が魔法を発動した。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

〜雫side〜

 

 

 

 八幡は風紀委員の仕事で今日は一日忙しそう。でも、達也さんが言うにはあちこち見て回って監視するのがメインって言ってたし、誘ったら一緒に見て回れるかもしれない。

 そう思ってほのかと八幡を探そうとしたが思った以上に想定が甘かった。

 

「先輩方に合うたびに勧誘されて身動きが取れないよ・・・。」

 

「予め八幡がどこに居るのか聞いておけばよかった。」

 

 そう、八幡とアポイントを取ることを忘れていたため合流が出来ないどころか新入部員獲得リストに私たちは名前が乗っているらしく出くわすたびに追い回されるのだ。

 これは本格的に面倒。八幡は風紀委員だし、この場合は連絡入れて部活回り手伝って貰うのも良いよね?護衛的意味で。

 

「八幡に連絡取ってみる。」

 

「八幡さん電話でないって言ってなかった?」

 

「達也さん経由でかけたら結構な確率ででるみたい。

 私だとでないけど。・・・・・・八幡の馬鹿。」

 

 そうして八幡に合流したい旨を達也に伝えて貰った私とほのかは待ち合わせ場所に行った。

 ・・・たどり着けなかったけど。

 

「助けて八幡さーーん!!!!」

 

 びっくり。拉致られるってこういう感じなんだね。

 私たちは合流直前に八幡の前で拉致られた。流石に拉致られた事にはびっくりしたけどほのかがテンパってるせいで案外冷静でいられる。八幡が追っかけてきてくれてるから多分大丈夫だし、本気で逃げようと思ったら多分逃げれるし。

 それにこれ、バイアスロンのボードかな?結構面白s・・・。

 

「キャッ!!!???」

 

 ほのかが空中に投げ出されているのが見える。と言うか私も投げ出されてるんだけど。

 このまま落ちると怪我するけど、これは八幡の魔法の結果だから多分怪我しないんじゃないかな・・・。

 案の定と言うか予想通り一向に地面に打ち付けられる感覚がない。ふわふわと軟着陸をした私達と違い私達を拉致した先輩方は地面に寝そべって呻いていた。

 

「大丈夫か?雫、ほのか。」

 

「は、はい。大丈夫です。ありがとうございます、八幡さん。」

 

「私も大丈夫、ちょっとびっくりはしたけど。

 ねぇ八幡、さっきの魔法はどういう原理なの?最後のは落ちるスピードが落ちたから重力軽減系だと思うんだけど。後、この人たち大丈夫?」

 

 私達をさらった人は現在八幡の魔法で床に押し付けられているのか立てないみたい。多分八幡が魔法かけてるんだと思うんだけど・・・。さっきの空中に飛ばされた魔法はボードに直接干渉したなら相当事象干渉力がないと出来ない芸当だし。あんな速度で撃てるようなものじゃないと思うけどどうやったのかな・・・?

 

「比企谷!状況は!?・・・・・・って捕縛済みか。応援要らなかったんじゃないか?

 これはこの前の重力操作の応用か?」

 

「渡辺先輩っすか。どっちにしても捕縛後の対応は1人では無理ですよ。

 この魔法は単純に重力重くしてるだけですよ。」

 

「あの、もう逃げないからそろそろ助けてっ・・・・・・」

 

 八幡、明らかに存在忘れてた顔してる。これ結構維持するの大変だと思うんだけど・・・。

 八幡が魔法を解除したみたいでバイアスロン部の人?が起き上がった。動けないレベルの重力って結構しんどいと思うけど大丈夫かな・・・。

 その後、どうやら私達をさらったのはバイアスロン部のOGだったみたいで、渡辺委員長が連行していった。連行されるとき「こんな風紀委員の新入生チートだ!!」という叫びに「私より強いからな。」と言う在校生が聞いたら真っ青になりそうなやりとりをしていたのはご愛嬌なの・・・かな?

 深雪が言ってた模擬戦の話は本当だったんだ・・・。

 

「八幡さんさっきは本当にありがとうございました。」

 

「ありがとう、八幡。」

 

「大したことじゃない。お前らは被害者だしな。

 これ以上巻き込まれるのも面倒だろうし行き先までついてくわ。護衛って言えば公的にサボれるしな、元々その予定だったし。」

 

 八幡はなんだかんだ言いながらも優しいよね。後、あんまり強さに胡座をかかないのが不思議。普通あれだけの力があったら驕りや優越感が出るものだと思うけど。もしかしたらそこが八幡の強さの秘訣だったりするのかな。

 

「それより八幡、さっきの魔法、どうやったの?渡辺委員長は重力操作とか言ってたけど。」

 

「そんな凄いものでもないぞ?エリア内にかかる物質の重力を増加させたり減らしたりする領域干渉魔法だ。雫達が投げ出されたのも落ちるのが遅かったのもボードの高さ以下の部分だけ重力加速度を増加させてそれより上は減らしただけだ。」

 

「地球の引力に領域干渉魔法をかけたんですか!?」

 

 領域干渉魔法ってそんなにさらっと出来るものじゃないと思うんだけど・・・。それに、その魔法のかけ方だと2つの領域干渉魔法を使ってることになるんだけど。あ、でも第八研究って確かそっち系だったような?

 

「もしかして、実家の得意系統だったりするの?」

 

「お、知ってるのか?すげえな。

 八幡家を含む”第八研究所”は「魔法による重力、電磁力、強い相互作用、弱い相互作用の操作」を研究目的にしてるからな。」

 

 流石は八幡家、と言うよりは八幡が凄いだけな気もするけど、得意魔法だとなおの事凄い。九校戦とか凄く活躍しそう・・・。

 まぁ、それはともかく。

 

「じゃあ八幡、バイアスロン部見に行きたいんだけど、エスコートお願い。」

 

「ほいよ。エスコートって言えるほどの物は出来んがな。」

 

 私の目標はまだまだ底が見えないな。

 




 前書き長いわタコ作者等、ツッコミがあるかと思われますが盛大に感想欄にてツッコんで頂いて構いませんので感想の方、よろしくお願いします。


 私の文章作成能力が追っ付くまではどっせーいな投稿が目立つかと思われますが、マダマダザコインダナと思って生暖かく見守っていただければ幸いです。


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入学編16

春の風が吹き込み、そろそろ暖かな風が吹いて参りました・・・。


って書き出しで前書きを書き始めていたんですが全力で消して書き直してる(←今ここ)なタコ作者です。
昨日辺り暖かかったのは嘘のように寒いんですが!寒いんですが!(←重要です。テストには多分でないと思います。

お陰様ネタ考えてなかったんで前書きからグダグダです。(え、中身も亀速度でグダグダじゃねーかって?・・・・・・勘のいい餓鬼は嫌いだよ?)
そろそろネタの無理ぶっ込みでゲシュタルト崩壊してますので本編へどうぞ。(吐血


『こちら第二小体育館、逮捕者一名。怪我をしていますので念の為、担架をお願いします。』

 

 達也、怪我させちゃってるじゃん。第二小体育館ってことは運動部か?やりすぎるとは思わないが面倒事にならなければ良いんだが。

 

「八幡、行かなくて良いの?

 聞いてる感じ結構大事に感じたけど。」

 

「いや、俺が今向かっても手持ち無沙汰だろ。結構な人間が向かったみたいだし達也なら少なくとも怪我もしないだろうしな。

 何より俺は働きたくないしな。」

 

 実際無線には急行を報せる物が何件も聞こえてきている。行ったところでほぼ仕事は終わってるだろう。と、バイアスロン部で部活説明を受けていた雫達にそう答えた。

 現在、俺たちはバイアスロン部の部室にいる。と言うのもあのままバイアスロン部を見学を希望した雫を送り届けた後、早々に退散しようかと考えていたら先輩方一同に俺も含めて捕まったのだ。

 バイアスロン部には入らない、と固辞したがどうせ来たなら説明だけでも、と押し切られた形だ。まぁ、”成績だけ”で見ればトップ5に入る人間が3人もきたのだ。舞い上がってるのだろうと考えればまぁ、納得の対応だ。

 

「怪我人って事は乱闘ですかね?ちょくちょくこういう事になるって聞きましたけど・・・。達也さん大丈夫かな?」

 

「達也が怪我を”させる”ならまだしも”する”事は無いな。

 しかし、止めに入るレベルの乱闘ってことは多分魔法使ってんな。たかが部活の喧嘩で人生棒に振るバカ多過ぎませんかね?」

 

 この発言にバイアスロン部の先輩方は苦笑い。なまじ間違いではないからツッコめないが思うところはあるのだろう。

 

「部活間のいざこざは昔からだから引っ込みがつかなくなってるのよ。それにたしか・・・うん、やっぱり。

 今の順番剣道部ね。なら、間違いなく剣術部が喧嘩をふっかけたんでしょうね。あそこ仲悪いし。」

 

 なに、やっぱり部活間もドロドロしてんの。やっぱり人間どこ行ってもそこは一緒か。一科だ二科だで学校真っ二つになってりゃまぁそうなるわな・・・・・・ん?

 

「あの、剣術部って雑に言うと魔法使った剣道みたいな競技ですよね?」

 

「ええ。そうだけど。それがどうかしたの?」

 

 おかしい。違和感しかない。

 

「何かおかしな点でもあったんですか?

 喧嘩の時点で十分おかしいですけど・・・。」

 

「剣術部が剣道部に突っかかる理由がない。」

 

 それを聞いてピンと来たのはどうやら雫だけのようだった。

 まぁ、分かってない側もほのかとそれ以外で大きな差があるが。それこそがこの学校の問題の根幹だと言って良い。

 

「・・・もしかして、突っかかる側が逆って事?」

 

「それだ。部活間の確執って言うのは恐らく一科生、二科生の云々が尾を引いてるのは間違いないだろう。能力差別で学校真っ二つになってりゃそりゃ確執だって出て当たり前。これに対する対応云々は今はどうでも良いとして、魔法社会公認での実力主義と名の付いたカースト制度において、弱者側に発言権はない。特に学校って言う狭い箱だと逃げ場も無いからな。となれば徒党を組むしかない。

 多分、魔法を使うクラブと使わないクラブでパキッと分かれてんじゃないすか?」

 

 それを聞いて驚いたのか言葉に詰まりつつも頷く先輩方。俺が凄いんじゃなくて、構図が単純すぎるんですよ。

 

「そうなれば後は簡単に想像がつく。

 クラブ活動って言う学校が認めた対等な立場でなら普段掲げられなかった公平さをいくらでも主張出来る。ならば平等という名の正義を振りかざし、そして見下げている側は格下と蔑んだ人間の主張を受け入れられない。

 学校側もガス抜きになるならそれはそれ、とか考えてそうだな。」

 

「そ、それじゃただのやり返しで何も変わってないですよ!」

 

 そう、その言葉がでるって事が他との違いだ。

 先輩方はこの状況に慣れてしまってこの構図がなぜ変なのか考えることが考慮に入ってない。だから気がつかない。

 ほのかは単純に悪意に鈍いだけ。まぁ、逆にちょっと心配だが。

 

「その通り。まさしくガキの喧嘩だ。幼稚さのレベルは・・・そうだな。

 二科生をウィードって呼ぶのと大差ないんじゃないか?」

 

 先ほどから何かしら言葉を発しようとしているが喋れていない辺り遠からず自覚がある人間も居るのが救いだが、いやはやマジで重傷だな。この程度の事実から突きつけないといけないのかよ・・・。

 

「で、話を戻すが。

 簡単に言えばこの乱闘を剣道部側が起こしたなら分かる。さっきも言ったとおりの確執だ。だが、さっき先輩は”剣術部が起こした”と断定した。となると剣術部が相当数喧嘩をふっかけている場面があってそれを見ていたんじゃないですか?」

 

 皆さん一斉に頷く。いえ、言論は封殺してないので普通にしゃべってもらっていいんですが・・・。まぁ、ちゃっちゃとまとめよう、長くなったし。

 

「ならば、今回の一件含めて剣術部が喧嘩をふっかけた物に関しては確執だけが理由とは少々考えにくい。

 往々にして強者に奢る人間は弱者と関わることそのものを嫌い、隔離し迫害する。わざわざ喧嘩などふっかける"みすぼらしい真似"はしない。

 そもそも喧嘩を売ってる段階で同じ土俵に乗りに行ってるも同じだからな。ならば。」

 

「喧嘩を売る必要がある何かが剣術部にある?」

 

「または、そう言ったいざこざを起こしたい何かを持った個人が居る、だな。

 ま、俺には関係ない話だから分かったところで無意味なんだがな。

 さて、そろそろ下校時間も近いし俺は拉致未遂の件を報告に行かないといけないな・・・。」

 

 あぁ、働きたくねぇ・・・。

 

「じゃあ、そろそろ引き上げるわ。」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「では、桐原以外は魔法を使ってないんだな?」

 

「はい。使っていません。」

 

 まぁ、使わせてもらえなかったんだろうな。本来、術式解体(グラムデモリッション)を含む魔法式の無効化は俺ではなく達也の得意分野なんだし。

 しかし、事情説明含めて報告するのは良いんだがなんで尋問されてるみたいな構図なんでしょうね?

 そう、現在俺と達也は今日あった事件に対する報告にきていた。呼び出されたのが俺たち二人だけな辺り、やばい事件トップ2である事は疑うまでもない。初日からこれとかどうなってるんだよこの学校・・・。

 

「十人を越える人を相手にしてよく怪我しなかったわね?

 流石は九重先生のお弟子さんってところかな。」

 

 そう答えたのは七草会長。

 そもそも今回の達也が巻き込まれた事件は、バイアスロン部の先輩方の予想を大きく外れない内容であった。剣術部と剣道部が揉め事を起こし言い争いから私闘に発展、その私闘にて負けた側である剣術部の桐原が結果に納得がいかなかったのか魔法による追撃に移ったところを達也に取り押さえられた、と言うのが全体の流れのようだ。

 

「聞いての通りだ、十文字。

 風紀委員会としては、今回の件を懲罰委員会に持ち込むつもりはない。」

 

「寛大な決定に感謝する。

 高周波ブレードなどという殺傷性が高い魔法をあんな場で使ったのだ。怪我人が出ずとも、本来ならば停学処分も止むを得ないところ。それは本人も分かっているだろう。

 今回のことを教訓とするよう、よく言い聞かせておく。」

 

 そう言ったのは十文字会頭。現在この尋問室(のような構図の報告室)は俺と達也以外に3名の生徒がいる。まさしく尋問室の用に取り囲む構図で前に生徒会長の七草会長、俺から見て右側に風紀委員会会長の渡辺先輩、そして左側に部活連会頭の十文字克人の3人だ。

 部活連と言うのは部活関係の統括組織らしい。十文字会頭はそこのトップでありまた、十師族の”10”を冠する十文字家の次期当主と言われる人間だ。

 歩く壁というか、小型戦車と言うか。居るだけで威圧感がハンパない。

 将来的に敵にならないことを祈りたいところだな・・・。

 

「それで、だ。比企谷が鎮圧した拉致未遂だが、被害者の方は大丈夫か?」

 

「メンタル的な意味では大丈夫ですね。光井は怖がりではありますが芯は強いタイプだと思うんで。

 北山はケロッとしてましたよ。あいつの場合俺が追いかけてきてるのを冷静に見るだけの余裕もあったんで気にする必要は皆無でしょう。

 そんなことより校内で拉致未遂が起きる方を問題視するべきでしょうね。」

 

 俺の一言に頭を抱える渡辺先輩。いやー俺も同じ立場なら全部投げて逃げ帰るね。

 

「あの、アホ共はここの卒業生だ。あいつらについては今後同様の事が発生した場合不法侵入者として突き出すと言ってあるからまぁ、心配しなくて良い。正直、あそこまでバカが居るとは私も思ってなかったからな・・・。

 明日以降は部活連側にも増援をお願いする予定だ。

 二度はないと思うが、一応気を引き締めてかかってくれ。」

 

 変なフラグ立てないでくれよ全く・・・。

 尋問室(と八幡が命名した部活連本部)を達也と共に後にする。

 

 これが残り4日とか俺死ぬぞ?引きこもりになりそう・・・。

 

 

 




本編が進みました。(裏っかわですけど。)
こっから後半にかけて結構面倒くさい流れになるかもしれませんが「分かりにくいわタコ作者」等の質問しっかり答えていく予定ですのでご不明な点がありましたら感想にてお願いします。(もちろん文章で伝えられる用に頑張る所存です。)


そして、なんと、この度UAが10万超えましたーーーーーーー!!!!!

ありがとうございますーーーーーーー!!!!!


・・・・・・更新頻度アゲルヨウニガンバリマス。


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入学編17

 ”後々の展開を考えつつ伏線をうまく張ろうとして失敗する雑魚”と書いて『読多裏闇』と呼んだ方が良いのではないだろうか?ともっぱら噂の私でございます。

 展開遅いんだよ。いつなったら入学編終わんの?等の突っ込みが来る予想が立つのですが、構成下手くそさを遺憾なく発揮しているのが現状です。
 頭に浮かんだ物をポンポン書いてるからこうなるんですが、ダイエットって難しいですね・・・。

 と言うわけで今回、原作としての進みは微妙ですが色々入れようと努力はしてみたんで忌憚のない突っ込みをよろしくお願いします。


「お帰りなさいませお兄様、八幡さん。」

 

 部活連本部を出た俺達を出迎えたのは深雪達一同だった。剣道部と剣術部のいざこざの時に一緒に居たらしい千葉と深雪は良いとして雫やほのかまで合流している。

 

「お疲れ様です。本日はお二人とも大活躍でしたね。」

 

「別に給料分の仕事をしただけだ。

 ・・・あれ、給料出なくね?ブラックかよ。」

 

「俺の場合は変に騒ぎが大きくなってる分、対応としては給料分の仕事になってないな。

 深雪、讃えられるべきは八幡のみじゃないか?」

 

 と、軽口の言い合いが始まったがどうやら俺らを待っていてくれたらしい。その後、達也の発案で1人1000円まで俺と達也持ちで喫茶店にいくことに相成った。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「え、それじゃあ雫達拉致られたの!?」

 

「うん。一周回って冷静になってしまうくらいびっくりした。」

 

 現在、喫茶店にて談笑中なのだが、話題は案の定本日の大捕り物についてだった。

 

「八幡さんに助けて貰わなかったらどうなってたか・・・。」

 

「いや、危害を加える目的じゃないからバイアスロン部の部室に着けば解放されただろうよ。

 まぁ、風紀委員の前で白昼堂々やるから追いかけざるを得なかったんだが・・・。」

 

 渡辺先輩も居るのによくもまぁあんなバカやろうと思ったな。

 

「で、その重力強化?を使って渡辺摩利に勝ったんだっけ。どんな魔法なの?」

 

「エリカちゃん、魔法についてあんまり詳しく聞くのはマナー違反だよ?」

 

 美月がたしなめるがすでに結構説明し回ってるし今更だ。一応、魔法社会では魔法に関する部分は特秘事項を多分に含んだ物が多くあまり根ほり葉ほり聞くのはマナー違反と言うのが暗黙の了解だ。と言うのも、今の社会状態において魔法技能はそのまま国防力に直結する。あまり吹聴しすぎないのが一般的だ。

 

「別に大丈夫だぞ。後、模擬戦の事なら俺は負けてるからな。

 で、俺の魔法だが重力加速度を増やしただけだぞ?」

 

「しれっと言ってるけどそんな魔法聞いたこと無いのよね・・・。

 達也君、その辺りどうなの?」

 

 達也が完全に解説員A扱いだな。まぁ、知識量を考えたら解説員なんてレベルじゃないけどな。

 

「重力操作、と言う括りだけで考えれば現代魔法にも存在する。ただ、対象物にかかる重力を増減するだけならば跳躍術式など一般的に普及されている術式もある種の重力操作に当たるからな。

 先の例では単一の対象にかかる重力に対して影響を与えるのに対して、八幡の場合はそれとは根本的な部分が違う。単一の対象にではなく重力加速度そのものが違う空間を生成すると言う魔法だ。」

 

「それって空間に魔法掛けっぱなしになるんだよな?しかもそこにかかるもの全てに干渉してるって事だろ?

 どんなサイオン量してるんだよ。」

 

 俺を見る目が人外を見る目に変わってきたな?おい雫、なんだその知ってたって顔は。

 ・・・てかあんまり注目しないでくれませんかね?キョドっちゃうでしょ。

 

「あーあれだ。詳しくは伏せるが俺の場合サイオン消費量を抑えれる方法があるんだよ。

 まぁ、方法って言うよりはテクニックというか技術だけどな。」

 

「八幡の場合ってことは八幡にしか使えないの?」

 

 雫の質問はもっともだし概要だけ説明するか。別に俺の"特殊な能力"使わなくても慣れれば出来るしな。

 

「いや、そんなことはないぞ。

 そうだな、走ってる車のスピードを下げるとき魔法でやるならどうする?」

 

「減速魔法を掛ければ良いのではないでしょうか?」

 

「そう。後は地面の摩擦係数を上げたり車体を加重系魔法で地面に押し付けるなんてのもあるが、ここでは減速魔法で説明するぞ。

 俺のやってるテクニックって言うのは極論で言えば無駄な魔法力を可能な限り使わないことに収束する。」

 

 ある種当たり前の話であるため知っている司波兄妹を除いて疑問符の嵐と言う感じだな。

 そもそも魔法技能師において余分な魔法力を抑えるのは当たり前にやっている技術だ。程度の差はあれ無駄な魔法力の使用は言わば技術として荒削りである事の証明であり未熟さの証明とされている。深雪なんかは無意識に魔法が発動してしまうなど魔法的な才能が大きいと周りに影響をもたらしてしまう場合もあるため不必要な場面で必要以上に魔法力を使わない事は魔法師として必要な技術なのだ。

 

「さっきの例えで車を止めろって言われると概ね今の加速を打ち消す用に魔法を撃つんだが重かったり早かったりすると速度は打ち消せても慣性が止まらんから引きずられる。それにその減速魔法は掛けっぱなしになるから慣性分まで下げきるのに10秒掛かったらその間魔法は掛けっぱなしになるわけだ。」

 

「八幡の場合は違うって事?」

 

「そうだな。俺の場合だと同じ十秒でも速度を少し下げる魔法を2,3回に分けて、慣性を下げるな。

 慣性下げるだけで慣性に引きずられる部分の魔法力はカットできる。一気に下げずに段階的に下げれば、下げきるのに魔法力が足りなくっても足りる範囲の魔法を回数重ねて十分に下げられる。それに、この場合だと普通に存在する摩擦や空気抵抗で下げ切らなくてもある程度下げりゃあ自力で止まるんだよな。そうなればその分も無駄としてカットできる。

 な?やろうと思えば出来るだろ?」

 

「出来るかーーーーー!!!!!」

 

 千葉がキレた。何故キレた。と言うか怖いから睨まないでくれませんかね?マジでチビるぞ?

 

「あの、八幡さん。その理論だと車に対して適切な魔法を複数回連続で発動するんですよね?

 確かに魔法力は少なくてすみますので省エネな感じではありますが、その度に必要な情報を修正して間違いなく魔法を行使しないと出来ないと思うのですが・・・。」

 

「それもだが、その魔法のセレクトって速度がどれくらい下がったかとか慣性がどれくらい大きいかとか読み取らないといけない情報が多すぎるだろ。起動式選ぶ速度も考えたら普通出来ないだろ・・・。」

 

「慣性制御の部分がマルチキャストになってる。とっさじゃ無理。」

 

 ちょっと反撃強すぎませんかね?いや、一つ一つの処理は魔法科高校生なら誰でも出来るんだから練習すれば出来んじゃねえの?

 

「人をチートみたいに言うんじゃねえ!ここに俺以上のチートが居るからな?」

 

 指を指された達也が心外な顔を向けてきたが俺は知らん。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

~達也side~

 

 

「キャストジャミング、なぁ。」

 

「正確には”キャストジャミングの理論を応用した『特定魔法のジャミング』”だがな。」

 

 八幡の八つ当たり的な指名(と、達也は見なしている)により話が八幡の話から俺の事件の件に移った。その際に10人以上との乱闘に魔法が使われなかった理由に、解説として複数のCADを利用して発動するキャストジャミングについて語ったのだ。

 そもそもCADは二つ同時に使う事は稀だ。と言うよりも”二つ同時に扱うことの難易度が非常に高い”。

 2つのCADを同時に使うとお互いのCADサイオン波が干渉することで両方共のCADがまともに動作しなくなるからだ。それを可能とする技術はあるが、今回の場合はそのまともに動作しなくなると言う性質を利用した技術だ。

 相手の魔法の起動式を読み取ってそれと同じ魔法の起動式を構築し、もう片方のCADでその逆の起動式を読み込ませて双方の起動式増幅することでその魔法が発動するのを妨害すると言うのがこの”キャストジャミングの理論を応用した『特定魔法のジャミング』”の概要だ。

 ここまでの流れで俺は新魔法を理論的に編み出した同級生として扱われてるな。さっきの返礼だ。その誤解を少し訂正しようか。

 

「因みにだが、確かに具体的なやり方は俺が編み出したが、この特定魔法のジャミングが行える事を発見したのも、理論を考えたのも八幡だったりする。」

 

「おい、達也!?」

 

「俺のチートの制作者の所在は明らかにするべきじゃないか?」

 

 こうして俺の意趣返しも叶った辺りで今日の会はお開きになった。

 まぁ、これで話を逸らしたがってた八幡の目的も達成しただろう。まぁ、最悪気付かれても構わないとは言え大っぴらに伝えるものじゃないからな。今はまだ、伏せておくべきだろう。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

~雫side~

 

 

 

『今日は本当にびっくりしたね。連れ去られそうになったのもそうだし、達也さん達の魔法とか。』

 

「正確には八幡の魔法みたいだけどね。

 魔法の切り替えとかさも普通に言ってる辺り自分のやってる事に自覚が無い。」

 

 ほのかと画面越しでの会話。昔からちょくちょく連絡していた為、こうやって寝る前に通話することも珍しくない。お互い寝る直前で私もほのかもパジャマ姿で通話している。

 話は自然と放課後の話になった。昼の拉致未遂もだが、やはり八幡と達也さんの話はどうしても頭から離れない。

 確かに魔法はずっと制御せず上手く終了させて継ぎ足すのは普通の技術だけど、それは同じ起動式だからこそ可能な技術。毎回細かな設定を変えてとなると難易度はとんでもなく跳ね上がる。

 

『八幡さんの自己評価の低さってやっぱり前の学校の事が関係あるのかな?』

 

「どうかな?それだけじゃない気がするけど、実力と態度がちぐはぐだよね。」

 

 深雪とか凄い八幡の評価高いのにまるで認めようとしてなかったよね。

 

『今日のとか高校生のレベルを超えてるような・・・。』

 

「魔法科高校生とは言え異常だと思う。八幡家の色々のせいの歪さ、なのかも。」

 

 きっとお家のゴタゴタとかで苦労したんじゃないかな。

 

『八幡さんが言ってたあの技術、出来るようになったら九校戦とかで役に立ちそうだし、どこかで教われないか聞いてみよっか?』

 

「そうだね。」

 

 この辺りで流石に時間が遅くなったので通話を切った。八幡の語る魔法の使い方や技術は自分達がいかに井の中の蛙だったかを自覚させられる。簡潔にまとめれば理論は簡単に見えるが、実際に使うイメージを持つといかに難しいのかが分かる。

 その後布団に潜った後でも八幡の魔法の使い方の考察は続いていた。途中で魔法をカットして小型の魔法を連発することで魔法力の消耗を抑えるなんて発想は考えたことが無かった。元々、自分はあまり細やかな魔法を撃つのに向いていない。大きな術式を叩き付ける様な魔法が性に合っていると自覚しているだけに、自分では恐らく身につけるのが困難な技術への憧れはある。それが自分の目標なら尚更。

 そういった思考が八幡の重力操作魔法に至ったとき違和感を覚えた。

 

「あの、重力操作って範囲内の重力加速度を変える魔法だったよね?」

 

 やっぱり。これ、継ぎ足ししても減らす要素がない。

 一定の重力加速度にその空間を変えるならそこの定義内容に段階も何もないし、状況が変わる事に新しい範囲指定で魔法を撃ってたように見えたからサイオン量を減らし様が無いんじゃ・・・?

 

「何か、言えない何かがあったのかな?」

 

 そう言えば"詳しくは伏せる"って最初に言ってたっけ。ならきっと聞かれたら困ること、かな。

 

「なら、話してくれるようにまずは認めてもらわないと、かな。」

 

 明日も頑張ろう、と深い眠りに落ちていった。

 

 

 




進んだって数ページじゃねえか!

やはりタコ作者であったか・・・。


内容的にはどこかで拾う伏線も含めれてると思うので今後の料理の仕方を見ていただけると嬉しいです。


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入学編18

 最近次の話を書いているはずが遠い未来の部分を執筆してることに気がついて夢遊病を疑い始めました。読多裏闇です。

 気がつくとですね?九校戦とか来訪者編とかのネタが思いついて書き始めちゃうんですよね無意識で。次の話先書けや、等自分に突っ込み入れて書いてる感じですね。

さて、前書き長えよ。等の突っ込みも頂いたので今回は短めです。そして多分気がつくと長くなってます。その辺り無意識でやっちゃう系学ばないタコ作者なのでその度毎に突っ込みお願いいたします。


 二つ名と言う物はレッテルだ。

 何故なら得てして自分から語る者はなく、何故なら勝手に周りから語られる物だからだ。それを自ら語る様な奴は15歳になり損ねた奴やどこかで拗らせちゃった奴くらいだろう。よって誰かを何らかの二つ名や通称などで呼ばれるのは相手や周りの環境が勝手にそうしたことであり、自分の意志ではない場合がほとんどなのだ。

 これらは本人の意思を介在しないことから言い意味でも悪い意味でも偏見であり、場合によってはその個人の有り様すら変質させてしまう場合がある。これが良い事になる場合は稀であり、あったとしても相応のリスクを伴う物なのである。

「コカトリス、ですか。幻獣に例えられるなんて流石は八幡さんです!」

 

・・・例えば俺が現在進行形で恥ずか死寸前だったりする。

 

 渡辺先輩の言う"バカ騒ぎの一週間"を明け、次の日週の頭の月曜日。ガチで学校さぼりたかったが深雪に見抜かれ迎えに来られるというアクシデントもあり学校にドナドナされた後、お昼に話したいことが有るとかで生徒会室へ連行。そこにはいつかの昼食会と同じメンバーが揃っていた。

「影でそう呼ばれているらしい。比企谷の重力強化での捕縛が神話の伝承での石化に似てるかららしい。」

 

 渡辺先輩がニヤニヤ顔でこっちを見てくる。だから見ないで下さいって・・・。

 因みにだが、達也も『魔法否定派に送り込まれた刺客』などの不名誉な肩書きを頂いており対応しようがない頭痛に悩まされている。

 

「にしても凄いわね。九校戦ならまだしも新入生歓迎会であだ名が付く程注目されるなんて。働きぶりを考えたら納得だけど。」

 

「途中から明らかに八幡や俺を狙った攻撃も混じってましたからね。正直なところ、あまりあれを活躍とは呼びたくないですね。」

 

 事実、俺と達也は魔法による攻撃を受けておりその度にキャストジャミングもどきや重力強化で取り押さえている為、検挙率や事件遭遇率は風紀委員会内で完全なツートップと化してしまった。中でも達也は魔法の性質上捕縛には向いておらず、肝心の達也への魔法攻撃を行っている人間の捕縛には失敗している。

 

「事件遭遇率と解決率は達也君だが比企谷は遭遇した問題生徒の検挙率100%なのはこの過去に類を見ないぞ。」

 

「ただの相性の問題っすね。重力って基本的に誤差はあれど魔法式の中では概ね定数で処理させますからね。

 気にしてない分隙も多いんですよ。」

 

 すげえ疲れるから乱発したくは無いんだがな。

 

「重力強化で動けなくなるから石化と言うのは分かりますが、何故コカトリスなのでしょうか?石化だけなら他にも有りますよね。コカトリスって私初めて聞きました・・・。」

 

「そうね、あーちゃん。石化と言うとゴルゴーンとかメデューサとかの方が有名な気がしますね・・・。

 何か理由があったりするの?摩利。」

 

「いや、えっとな・・・。」

 

 渡辺先輩が答えにくいように目を反らす。あぁ、やっぱりそうなのな・・・。

 

「コカトリスはヒキガエルに育てられた鶏の怪鳥だったはずだからじゃないすかね?てかなんで俺の昔のあだ名しってんの?」

 

「・・・八幡くん昔そんなあだ名で呼ばれてたのね。」

 

 会長を筆頭に同情の目が飛んでくる。止めて!そんな目で見ないで!!

 ・・・と言うよりなんでこんないらんとこで目立ってんの俺。ぼっちは注目されすぎると死ぬんだからな!?

 

「八幡さん、そんなあだ名で呼ばれてたなんて聞いていませんが・・・?」

 

「い、いや小学生の頃の話だからな?あるだろ、誰かをつるし上げて遊ぶ奴。比企谷菌とか。」

 

「ヒキガエル、比企谷菌・・・。」

 

 あれーなんか寒いなー。あれ、さっきまで飲んでたマッカン凍ってるじゃん。どうりで寒いわけだ。

 ・・・やべえ地雷踏んだか?

 

「落ち着け深雪。八幡が氷像になるぞ!」

 

「は!?申し訳ありません・・・!!」

 

 渡辺先輩、ヤバかったって顔してますが、地雷撒いたのあんたですよ。

 

「・・・八幡くんの過去についてはともかくとして、今後そんな事を言える人は減るでしょう。ある意味これもやっかみの類なのでしょうから、深雪さんもあんまり気にしすぎない方が良いと思いますよ?」

 

「・・・八幡さんの実力が認められたと思っておきます。」

 

 さて、そろそろ本題に入るか。俺は達也に一瞬目配せして話し始めた。

 

「俺の評価はまぁ、この際どうでも良いんですが問題はどっちかって言うと俺や達也を狙い撃ちで狙ってた連中です。達也の方は逃げられてますし全容が掴めてないとか言ってましたよね?」

 

「調査はしているが、比企谷が捕まえた連中から出て来るのはやっかみとか実力試しばかりでな・・・。

 達也君を襲った件については知らぬ存ぜぬと言った具合だ。これと言った共通点も見つからなくてな。これ以上の調査は難しいと言わざる得ない。」

 

 最悪魔法を使うことも考えたが、つつけば勝手にボロを出してくれそうだな?

 

「そうなんですか。俺を直接攻撃してきた奴らは"同じリストバンド"してたからてっきり同じ部活か何かなのかと思ってました。」

 

 先輩達の表情が少し固くなったな。まぁ、中条先輩が分かりやすすぎて一目瞭然なんだが。

 

「・・・同じリストバンドをしてたの?気がつかなかったわ。

 部活自体はバラバラで共通点がなかったものだから見落としてたわね。」

 

「なんだ、八幡も見たのか?なら間違いなさそうですね。

 会長。当校にテロリストの関係者が紛れ込んでいるかもしれません。」

 

 「はわっ!?」と叫んだのは一人だけ。他は驚きを隠せてないという表情で達也に注目が集まっている。

 

「・・・テロリストとは流石に穏やかじゃないな?何か確証があるような口振りだが?」

 

「先程も言ったとおり見たんですよ。赤と青の縁取りをしたリストバンド。

 あれは反魔法国際政治団体『ブランシュ』の構成員が身につけている物だったと思うのですが?」

 

 実名が出て来て会長は話の流れを理解したらしい。

 恨みがましく俺達を見つつ達也の発言修正した。

 

「・・・正確にはブランシュの下部組織である『エガリテ』の構成員のシンボルマークね。

 それより何故この事を知っているの?情報規制されているのに。」

 

「噂の出所を全部塞ぐのは無理ですよ。」

 

 反魔法国際政治団体『ブランシュ』

 魔法を持つものと持たざる物の政治的格差を改善するべく現代の行政システムに反対する政治集団である。魔法その物を否定するのではなく魔法を持つものと持たない物の収入格差の点から優遇されているというと主張の元、差別撤廃を理念として掲げた組織だが、中身はほぼほぼテロリストだ。

 こういった政治団体は概ね他国がその国に対する間接攻撃の手段として使うのが一般的でありブランシュのバックには大亜連合が居ると言う話もある。

 

「こういった事をあまり隠すのは得策じゃないのですが、事実情報規制されている。

 会長を批判するつもりはありませんが、政府のやり方は拙劣としか言えません。」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

~真由美side~

 

 

 

 

 正直達也君の意見は正しい。現在進行形で隠す側にいる人間としてはまさしく"痛いところを突かれた"といった印象だった。今回に至っては何故か達也君達を攻撃するような流れを見せている以上彼らは直接的な被害者。正直学園を預かる立場としては良心が痛い。

 

「達也君の言うとおりよ。

 魔法師を目の敵にする集団がいるのは事実なんだから、彼らが如何に理不尽な存在であるのか、そこまで含めて正しい情報を行き渡らせることに努める方が、その存在をまるごと隠してしまうのより効果的な対策がとれるのに……。

 私たちは彼らと正面から対決することを避けてーーいえ、逃げてしまっている。」

 

 そしてその被害を受けているのが目の前の二人なのだ。達也君の強い弁も納得するしかない。本来ならもっと怒っても不思議はないくらいですもの。

 

「それは仕方ないでしょう。」

 

 え・・・?

 

「この学校は国立の施設ですからね。会長の立場ならば国の方針に縛られるのは仕方ない事です。」

 

「・・・慰めてくれるの?」

 

 いきなりだったからびっくりしてしまったけれど、フォローしてくれるのね。本来は怒りを受け止めるべき立場だったのに大人ね・・・。

 

「自分で追い込んで自分でフォローするとは。これはこれはジゴロの手口だね。

 真由美もすっかり籠絡されてしまったようだ。」

 

 へ、は、ろ、籠絡!?

 

「ちょ、ちょっと摩利、変なこと言わないで!」

 

「顔が赤いぞ?真由美」

 

「摩利!」

 

 などと摩利とわたわたしてる間に達也君達は時間を理由に逃げていった。(真由美的にはそう判断した)この件については放課後摩利とじっくり話し合うとして、さっきの会話を思い返して頭にあった既視感の正体に気がつく。

 警戒していたのに気がついたら術中にハマってる感じ。不必要な話までズラされて結果として必要な部分は全部達成される感じ。その狸の手法を私はよく知っている。

 あの狸親父みたいに転がされてる・・・。しかも、これをデザインしたの達也君じゃなくては八幡くんよね・・・。

 後半全くと言っていい程会話に参加していなかったにも関わらず、初手のみで会話全体の流れを作って後処理を全部他人に押し付けている何食わぬ顔で去っていった彼。とんだ狸じゃない。

 

 この後真由美は八幡の策略が何処まで及んでいたのか、そもそも達也も事前に打ち合わせ済みでこの話になったのかも含めて翻弄され授業課題に身が入らず、放課後の生徒会室へ向かうのが遅れたなどの逆恨みで真由美の”絶対に復讐するリスト”に名前が刻まれたりしたが、その反撃に八幡が相対するのは少し先のことである。

 




 さてさて、そろそろ本格的に本編進めるぞーー!(←フラグ)

 ・・・いや、オリジン部分の入るとこ限界があるからきっと前に進むハズなんだ、きっとめいびぃ・・・。

 九校戦とかネタいっぱいだからそこまで行けば加速するんだそう信じてる。(それ、単純に分量増えるだけ?はっはーなんの事やら・・・)

 と言うわけで今後いろいろごちゃごちゃするかもしれませんが不明点などの質問突っ込みお待ちしております。


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入学編19

 この度は更新が遅れました事誠に申し訳ありませんでした!!(土下座

???「何故遅れたのでしょうか?」

 新学期にゼミの研究、自動車学校も重なりてんてこ舞いだったと言いますか・・・。

???「本当に時間は無かったのでしょうか?」

 いえ、その読む方が忙しくってですね?

???「ギルティ?」

 ちゃうねん。そろそろ読まないと禁断衝動がやばいかってん・・・。




~小町side~

 

 

 

 

『と言う感じなの。八幡さんは全く気にしてなさそうだけれど、釈然としないというか・・・。』

 

 あぁもう、お兄ちゃんらしいなぁ。こうやって周りのフォローを蔑ろにするから後で面倒な事になるの分からないかなー。

 と、心の中でお兄ちゃんにつっこむ。

 今は定期的に開催している妹会。(メンバーは私と深雪お姉ちゃんでたまに水波ちゃん)内容的には概ね家族間報告会だが参加者全員相当なブラk・・・お兄ちゃんを心配する妹なので会話の大半は兄のことになる。

 

「本当にお兄ちゃんはまったく・・・。

 それ以外はどうです?私的には未来のお姉ちゃん候補の話とか気になります!」

 

 ちょくちょく情報集めとかないとアシストも見極めも出来ないからなぁ。一度失敗してるしとことん下調べしないと。後、良い人でもお兄ちゃんヘタレだから進展しないだろうし。

 

「八幡さんのお嫁さん候補かは別として、何人か将来的に落ちそうな人が居るわね・・・。

 本人全く自覚無しみたいだけど。」

 

「自覚無し、と言うか気の迷いと一方的に処理してる感じですね。この前いろはが来た時も結構露骨にアプローチしてたのに容赦なくスルーですし。

 あまりの酷さにちょっと覗いたんですが、案の定自分を無理やり肯定する”偽りの色”が出てました。」

 

「・・・小町ちゃん?あんまり人の心を覗くのは感心しないわよ?」

 

 あちゃ、口が滑ってしまった。

 深雪お姉ちゃんはこの魔法使うのあまり好きでは無いからこの話題出さない方が良かったかな・・・。

 

「お兄ちゃんには遠慮は抜きです。そう二人で決めたので。

 それに、兄達以外の人間には使いません。使うときは兄の許可があった場合のみです。」

 

 お兄ちゃんが第八研究のお家芸でもある重力関連系の魔法を得意とするように私も四葉の魔法を色濃く継いでいる。精神干渉系の系統外魔法、アメリカだとルナストライクだったっけ?が得意魔法だったりする。でも私の場合深雪お姉ちゃんみたいに精神を凍らせたりは出来ないからこの辺りは八幡家の魔法に似てる感じだからある意味ハイブリッドなのかな?

 因みに八幡家の魔法は第八研究の「魔法による重力、電磁力、強い相互作用、弱い相互作用の操作」の部分でも重力干渉が得意なんだけど、中でも魔法だけでは説明がつかない程に受け継がれている素質があったりする。

 それが”環境情報を読み取る”こと。

 第八研究は環境の情報に干渉するから環境情報に敏感な魔法師が多い傾向があるけど、八幡家の魔法師はその中でも飛び抜けていて、まだ家が元気だった頃は「原因不明な事は八幡が調べたら解決する」とまで言わせた調査系魔法師のパイオニアって感じだったそうで。

 それを色濃く受け継いだ私は精神干渉系の魔法師でも読み取り特化。干渉も細かいところを少し弄るのが限界で、深夜叔母さんみたいに感情を白紙にして演算領域押し込むみたいな力業は無理。

 

「そう言う”誓約(オース)”なのは分かるけど、八幡さんにもあんまり使いすぎるのは反対よ。まぁ、これ以上は二人の問題だから言わないけれど。」

 

「分かってます。でも、止めるタイミングは決めてるのでそれまではこのままの予定だよ。」

 

 誓約(オース)って言うのは四葉家直伝の魔法の能力リミッターみたいな物で、「こう言うことをしてはいけません」って言う催眠術をかける感じの魔法。自分で分析したけど、魔法で強制的に「こうしないと」って自己暗示してる感じ。

 これで、「他人の感情を読み取ることは八幡の許可が無いと出来ない。」って言う誓約(オース)をかけて疑似封印状態になっている。因みに深雪お姉ちゃんはこれで達也お兄ちゃんの魔法力を縛ってたりする。

 

「そんなことよりお兄ちゃんだよ。相変わらず未来お姉ちゃん候補をちょくちょく作るのにヘタレるからなぁ・・・。前聞いた時の雫さんだっけ、その後進展とか?」

 

「相変わらずの好感度だけ上げて後は放置というか、釣れてる魚に餌はしっかりあげるのに食べもしなければ構いもしないというか・・・。普段こそめんどくさがって何もしないって言う割には、一番大変な時に一番欲しい手助を一番欲しいタイミングでくれてお礼すら受け取らないから、その優しさに気付くと不器用なヒーローにしか見えないのよね・・・。女って大なり小なりお姫様願望的な物があるから油断するとコロって行ってしまうし。」

 

 ・・・深雪お姉ちゃん刺さってる。結構鋭角に曲がって刺さってるよ、そのブーメラン。まぁ、深雪お姉ちゃんの場合はどっちかというと親愛だから、恋とか愛とか超えちゃってて多分恋愛とは違うっぽいんだよね・・・。

 え、私?やだなぁ、私は い も う と だよ?

 

「その感じだともしかして増えたりしてます?流石にこれ以上は予想外なんですが。」

 

「高校生にもなると流石に八幡さんの意図全てが分からなくても"八幡さんに助けられた"って事とか今までバレなかった優しさに気がつく人間が出てきたみたいなの。

 まぁ魔法科高校なのだから頭の出来は良い人が多いのもあって相対的に気が付かれやすい環境なのだと思うわね。」

 

 偏差値高いだけあるなぁ・・・。来年入ること考えると頭が痛いよ・・・。

 

「因みにどんな方なんですか?そのお姉ちゃん候補は。」

 

「私の印象でしかないけど、雫の他には多分七草会長、市原先輩、渡辺先輩は恋人がいらっしゃるから単純に興味を持ってると言う感じだけれど、間違いなく興味は持っていらっしゃるわね。

 特に七草会長はあの後八幡さんについて結構質問されたし、結構気になってそうね。」

 

「質問・・・?詳しくお願いします!」

 

 えっと?ざっくりまとめるとお兄ちゃんが目立ちすぎてやっかみが増え気味で、変な徒名が付けられたのはまぁいつも通りと言えばいつも通りだし置いとくとして、これまたいつも通りお兄ちゃんが達也お兄ちゃんに仕事丸投げしたのを怪しんだ七草真由美さんがお兄ちゃんに良い様に弄ばれたと思って深雪お姉ちゃんを色々質問責めにしたみたい。

 七草真由美さんはどうやら”あの”七草の人なんだね。・・・お兄ちゃん大物釣り上げすぎ。でも、十師族ならそう言うところに気が付くのも納得かな。真夜叔母さんも”七草の当主は狸”って言ってたし、見慣れてるのもありそう。

 一色に七草って、お兄ちゃん日本魔法師社会でも牛耳るつもりなの?まぁ、お兄ちゃんがそんな面倒な事する訳ないけど。

 

「本当に、お兄様よりよっぽどジゴロよね。無意識に誑し込むのは二人共同じだけれど。」

 

「達也お兄ちゃんも方向性は違うけどモテるし、この感じだと七草真由美さんは達也お兄ちゃんの路線もありそうだし要観察かな?

 九校戦辺りでお話出来たら良いんだけど。」

 

「そうね。可能ならセッティングしてみるつもりよ。

 と言っても、参加は確定してないから出れると決まっているわけではないのだけれど?」

 

 そう言いつつ「おやすみなさい」っと通話を切る深雪お姉ちゃん。

 

「深雪お姉ちゃんが出れなかったら1年生全員出れないと思うのは私だけなのかな・・・?」

 

 

 小町はこの異様に自己評価が低過ぎる兄や姉に頭痛を覚えつつ置いてきぼりにならない様に頑張ろうと思うのだった。

 

 もちろん、小町自身のオーバースペックさは棚上げされる結果となった。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 ”勝負は戦う前から終わっている。”とは孫子の言葉だっただろうか?

 ”間違いなく勝てるという予想が出来るのは勝てる筋道を前もって作っているから”と言う教えなのだが、要するに事前準備の重要性を説いている。

 敵を知り己を知れば百戦危うからず。など、事前に情報を得た上で入念に準備することの重要性は昔から多くの言葉で語り継がれている。

 逆に言えば、事前準備を怠ると結果が付いてこず求めた成果が十全に発揮されない。

 そう、この様に。

 

 

『全校生徒の皆さん!』

 

 

 

 ガッツリハウリングしたな。

 

『僕たちは、学内の差別撤廃を目指す有志同盟です。僕たちは生徒会と部活連に対し、対等な立場における交渉を要求します。』

 

 あぁ、そう来たか。流石に予想外だったわ。

 

「八幡、これ行かなくて大丈夫?」

 

 雫が首を傾げている。まぁ、いきなり学校の放送で不可解なものが流れたら風紀委員案件だわな。

 しかし、何か起きるとは思ってたが予想以上に面倒で雑いなぁ・・・。

 

「・・・行かなきゃいけないだろうな。

 これ、間違いなく無断侵入でやってるよな?魔法科高校はいつから治外法権になったんだよ。」

 

「これって前に八幡さんが言ってた一科生と二科生の話が影響してるんですよね・・・?」

 

 ほのかが心配そうに聞いてくる。ほのか的にはあって欲しくない現実だったのだろう。

 

「まぁ、そうだろうな。つってもそれが分かったとして俺らに出来ることは無いから気にすんな。

どちらかと言うと問題は、なんでここまで派手に動く事になったかだな・・・。」

 

「八幡さん、渡辺先輩が召集なさっているようです。

 行きましょう。」

 

 何はともあれ行くしかねえか・・・。あーあ、こっから忙しくなるんだろうな。残業代出ないかねぇ?

 




 このタコ作者は活字を一定量摂取しないと禁断衝動にみまわれる系ジャンキーでして、ここのところちょっと摂取量が足りず一気に不足分を回収しておりました。
 とりあえず禁断衝動は概ね収まりましたので更新のほう再開していきたいと思います。今回は私のジャンキーに巻き込んでしまい大変申し訳ありませんでした。


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入学編20

入学編もやっと終わりが見えてきております、と言いつつここからの描写が難しいと頭を抱える”THE.戦闘描写下手くそかよ”の裏闇です。

戦闘描写巧くなりたいですね。どうにかコツのような物ないのでしょうか。

感想、ツッコミ、やらかしてんぞタコ作者、戦闘描写はこう書くんだんよ下手くそか?等の感想お待ちしております。


 

 

「遅いぞ。」

 

「まっすぐ来ましたよ。無茶言わないで下さいよ?」

 

 放送テロ(放送事故?)のようなゲリラ放送から現場への放送室に向かった俺と深雪は途中で達也と合流して放送室前にたどり着いた。

 ざっと状況を共有したところあの放送をした人間は放送室のマスターキーを盗んで立てこもっており、外側からは開けられないものの、電源自体はカットしたからこれ以上の放送は出来ないらしい。

 まぁ、要するに膠着状態なわけだ。

 好戦的な性格のうちの風紀委員長殿は案の定突入して取り押さえるべきと主張し、市原先輩に「殴る蹴るでの解決は控えるように」といさめられている。

 埒があかないと思ったのか、対応について達也に水を向けられ十文字会頭は、早期解決は望ましいものの学校施設を壊してまで突入するほど切迫している事柄ではないという認識のようだ。

 この回答により達也の方針が確定したらしい。

 

「八幡。事後処理を任せた。」

 

「おい、何やらす気だ。」

 

 しれっとスルーして電話をかけ始める達也。どうやらこの前部活の勧誘を受けた壬生先輩らしく、追加で中にいらっしゃる様だ。・・・マジかよ。

 達也の口八丁手八丁で丸め込み”壬生先輩のみ”を”達也個人の権限の範囲内で安全を保証する”という内容をさも出てくる人間を保証するかのように言ってのけやがった。ひでえ。

 

 その後出てきた彼らを俺が重力魔法にて拘束。恐らく壬生先輩であろう人は範囲から外しておいた為、案の定達也に詰め寄った。

 

「どう言うこと!?身の安全は保証する約束でしょう?」

 

「だから、魔法の範囲に壬生先輩は除外されてますよ。

 達也が保証したのは壬生先輩の身の安全じゃなかったでしたっけ?」

 

 ここで俺が唐突に重力魔法を使った理由が他の人間にも伝わった様で、確保するために動き出したため重力魔法を解除する。流れが急過ぎてついて来れてなかったらしい。

 

「そんなの詭弁・・・!」

 

「それで司波達を責めるのはお門違いだ。」

 

と、ヒートアップする壬生先輩に冷や水をかける十文字会頭。

 おぉ、流石の貫禄だな・・・。

 

「お前たちの言い分は聞こう。交渉にも応じる。だが、お前たちの要求を聴き入れる事と、お前たちの執った手段を認める事は、別の問題だ。」

 

 壬生先輩が十文字会頭の迫力に呑まれているが、そんな事より俺は達也の言う”事後処理”をしないといけない。・・・俺に丸投げし過ぎだろ。

 

「それはその通りなんだけど、彼らを放してあげてもらえないかしら?」

 

 生徒会長が出張ってきた?

 

「学校側はこの件を生徒会に委ねるそうです。

 今後について話し合うにしても、壬生さん一人では打合せもできないでしょう。当校の生徒である以上、逃げられるということも無いのだし。」

 

「あたしたちは逃げたりしません!」

 

 ・・・えらい強気だな。会長相手に親の敵でも見る様な目で食ってかかってる。これか?

 

「逃げなきゃ何でもして良いってことにはならないでしょうけどね。」

 

「・・・どう言う意味?」

 

 人の気を引きたい時は”そいつが一番痛い部分をつつくのが一番効果的”とは言うものこの学校の人間には効き過ぎだろ。一科生の優越意識も相当だがこっちの劣等意識も大概だな。

 

「いや、何でも無いっすよ?」

 

「言いたい事があるならはっきり言ったらどうなの!?

 あなた、さっきの一年生よね?一科生だからって何やっても許されると思ってるの?」

 

 どんだけ一科生嫌いなんだよ・・・。煽ってるとは言えここまで下級生に威圧的になれるか普通?流石に少し不自然だn・・・・・・。

 ・・・おいおいマジかよ。連中ここまでやんのかよ?

 さっきの言葉は少々訂正がいるな。こりゃ早期解決しねえと不味いぞ。

 

「はいはいそこまで。壬生さん、今から交渉に関する打ち合わせがしたいのだけど、ついて来ていただけますか?」

 

「・・・ええ、構いません。」

 

 壬生先輩は俺をもう一睨みして会長に続く。怖い怖い。だが、その敵意の理由の一端を知った側からすると一周回って哀れだ。

 達也が伝えたいことも分かった。

 真夜さんが危惧してる事も察しが付いた。

 この学校の現状も大まかだが把握した。

 

 そろそろ反撃に行きたいんだがな?

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

~達也side~

 

 

 

 

 俺は八幡の空気が変わった事に気付き、あまり”あって欲しくない最悪の予想”が当たったのを察した。

 八幡は壬生先輩に対してわざと煽りを入れることで感情の起伏露わにさせていることから達也が求めた”事後処理”の意味を正確に読み取ってくれているのを確認し俺は八幡の感情を見ることで結果の確認に努めていた。

 元々、壬生先輩に関しては異常とも言える差別への憎悪と少々ヒステリック気味な思考ロジックが本人の性格とは微妙に噛み合っていないのを感じていたため、どこかで八幡に引き合わせることを検討していた。と言うのも、八幡は小町程ではないが精神の読み取りに長けたスキルを持っている。正確には生体電流などを読み取れる目と”今認識している物”を読み取れる精神干渉系の系統外魔法の複合で行われた個人技術に近いものだが、本人の観察眼の高さも重なって嘘発見器の真似事や敵の狙いの看破などはお手の物だ。

 同様に八幡が言うには「洗脳とか精神干渉を受けている人間にはそう言う不自然な流れがある」らしく実際、そういった人間をいくつも発見し無自覚型のスパイ(本人の意図しない形での洗脳を受けた疑似スパイの様な存在)を摘発した過去もある。

 今回の場合八幡の反応からも壬生先輩は恐らく何らかの精神干渉を受けているのとみて間違い無いだろう。

 八幡はこういう洗脳などのやり口に嫌悪感を隠さない。こういった精神の読み取りが出来てしまうが故に過剰に嫌っているのはあるだろうが、人としての道理に反することに潔癖な性格が如実に出ている。

 今回の件、八幡は”面倒な仕事が入学早々舞い込んだ”程度にしか見ていなかっただろうが、これでやる気になっただろう。

動くときは手伝うとして、まずは。

 八幡のご機嫌を取る事から始めるか。他の人には数名を除いて気付かれていないが八幡の殺気に深雪が怯えてる。

 

 これから忙しくなるんだろう、と心に感じながら達也は八幡の元へと向かった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「って感じかな?見た感じいわゆる非魔法系クラブに結構浸透してる感じだから思った以上に多そうだよ?

 と言ってもほぼほぼ参加してるだけのその他大勢って感じだけど。」

 

「おおかた予想通りだな。エガリテにガッツリ染まってる奴はその中でも一握りなんだろうけど、真夜叔母さんがわざわざ一言言いに来た案件だし構えといた方が良いか・・・。」

 

 今は戸塚にお願いしていたエガリテの侵略具合について、調査の報告を受けていた。

 

「そう言えばそっちも接触があったみたいだけど、八幡から見てどういう印象?」

 

「あぁ、壬生先輩な。アレの対応に関してはどっちかというと深雪の方が大変だった。追加で今日の放送テロの実行犯の一人だからな。

 ちょっと”厄介な事"になってるみたいだし、悪いけど探ってもらえるか?」

 

 先日の放課後に壬生紗耶香と言う剣道部の先輩が達也を勧誘に訪れた。表向きは部活勧誘だがその壬生先輩は先の剣道部と剣道部のいざこざの当事者らしく、タイミングから見てもちょっときな臭いとは思っていたがガッツリ黒だった。

 だが、深雪とのいざこざに関しての問題はそこではない。

 この壬生先輩だが結構な美少女でかつ、その勧誘のための話をするために達也へアプローチしてきたのが深雪を生徒会に送るタイミングだったのが致命的だった。

 

「キーマンなんだね?了解したよ。

 で、なんでまた深雪さん?達也君にちょっかいかけようとしたから不機嫌にでもなったの?」

 

「ちょっかいって言うか、勧誘の時にカフェで話してたのを見た誰かが”達也が壬生先輩に告白された”だのって噂を流してる程度にはカップルに見える二人だからな。そういった状況であのブラコンがどうなるかの想像をしてみてくれ。

 ・・・呼び出されてる間、深雪の愚痴を聞く羽目になった。」

 

 わざわざ風紀委員会室に愚痴りに来たからな・・・。と言うか明らかに七草会長の差し金だな。一通りグチった後生徒会室に返しに行ったら拝んで来たし。

 それは脇に置くとして、壬生先輩の話す内容は結構過激だった。どうやら校内差別が気に入らないとかで、それをどうにかする為に徒党を組んで二科生版部活連的な物を作りたいようだ。何がそこまで駆り立てるんかねぇ?って思ってたが今日対面して概ね事情が分かった。

 ちょっと急いだ方が良さそうだ。

 

「それはなんというかご愁傷様。話し合い自体は盗み聞きさせてもらったから内容はわかるけど、どうにも過激すぎる印象だよね。」

 

「それについては同感だ。

 ともかく情報収集は頼むわ。何も起きないに越したことはないが、どうも今回の相手は手段に節操がない。

 恐らく近々何かありそうだ・・・。」

 

「八幡の勘は当たるから急いだ方が良いね。

 了解。」

 

 後は交渉云々について会長の対応次第、だな。

 




次は公開討論会の予定やで?

戦闘やねんで?

・・・ヤバない?(震え声


などとビビっておりますがなんとか読める物にしてみます。




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入学編21

 更新が遅せえなこのタコ作者ともっぱら噂の読多裏闇です。(え?噂になる程知名度無いだろって?・・・すみません見栄張りました。

と言うわけでブランシュ編本格スタートです。

止まるんじゃねえぞ・・・俺・・・。


 この世の勝負のほとんどは出来レースである。

 以前俺が孫子の言葉について語ったことを覚えているだろうか?

 ”勝負は戦う前から終わっている。”

 以前考察した事前準備の重要性を説くこの言葉だが、よくよく考えてみて欲しい。勝利の方程式を整えている人間が居て、双方の情報を客観的に得れる人物がいるとする。するとその人間はこの勝負の結果が分かってしまいこの勝負はただそれを現実に落とし込む作業となってしまうのだ。それが勝利の方程式を整えた側だとそれはもう詰みだ。その勝負には形式上の意味を超える価値はなく、敗者側は決まってしまっている結果へと、確定された未来に辿り着かされてしまう運命を辿るのだ。

 要するに何が言いたいのと言うと。

 

「こいつらの負ける理由は”負ける運命”を証明しに来てしまった事だな。」

 

「八幡、それは流石に暴論が過ぎる。

 せめて、飛んで火に入る夏の虫くらいにしておくべきだ。」

 

 それ、むしろ追い打ちじゃね?

 

「いやもう負ける運命だったと言った方がマシだろ、これ。」

 

 そう言って目の前に繰り広げられている公開処刑ならぬ実質個人演説会を眺めた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 あの放送室占拠事件を起こした生徒の要求を飲み交渉に応じた生徒会だが、その話し合いはあまり建設的に行われなかったらしい。

 と言うのも、向こうの意見は一科生と二科生における差別撤廃を主張するものの具体案は無く、その方法は生徒会が考えろというほぼやっかみに近いものだったというのもあり、会話が押し問答と化してしまったのが大きな原因だ。もちろんの事ながらこれでは双方納得できないのは明らかであり、勿論の事ながら議論の結論は出ない。(最早、議論と言えるレベルではないが。)

 

 その折衷案として出されたのが双方の主張の正当性を示し、かつ学校全体にそれを示す場を設置すること。生徒会と有志同盟による”公開討論会”の開催だった。

 

 討論会自体は話し合いの2日後というほぼ準備期間皆無かつスピーディーに開催されることが決定した。開催決定後も有志同盟による過剰な討論会参加の呼び掛け等のパフォーマンスこそあったもののさして大きな問題も無く公開討論会は開催された。

 討論会自体は生徒会vs有志同盟と言う構図で行われているが、生徒会側の解答者は七草生徒会長のみ。本来ならば生徒会総出で対応するのがセオリーだが本人曰く「一番怖いのは発言内容の小さな矛盾に揚げ足を取られて感情論に持ち込まれることだから。」とのこと。まぁ、あんな押し問答やらかす相手にはそれがベストだろうな。

 

 まぁ結論から言えば、当日の公開討論会は酷い物だった。

 

 学内の差別撤廃を目指す有志同盟一同は冷静に討論こそするもの、同様に冷静な論破を繰り返す七草会長を相手に返せる言葉はどんどん無くなっていく。理由は簡単で、そもそもが言いがかりレベルの内容を状況をしっかり把握できてる人間相手に文句を付けるのだ、相当な説得力がないと話にならない。次第に発言の勢いは失われ、なんとか言い返すのがやっと、という様相。

 結果としてこの実質会長の演説会(精一杯擁護して討論会形式個人演説会)と化した公開討論会は有志同盟が話せば話すほどドツボに嵌まる段階まで来ており、本人達は業腹だろうが完全に七草会長の引き立て役となっている有り様だった。正直、もうライフ0なんで勘弁したって・・・。八幡見てらんない・・・。

 

 そしてこれらを綺麗に踏み台にし会長様はこの学校に残る最後の差別要素「生徒会役員は二科生を指名できない。」と言う制度の撤廃を求めることで大衆を味方につけトドメを刺した。

 正論で全て答えきり、あしらうのではなく誠実に対応しきって、彼らの要求に自分なりに答え、その成果を学校の利益として示すべく理解を求めた。完璧にデザインされていて文句のつけようもない。初めから思い描いていた、勝つための方程式を現実に落とし込んだのだ。

 会長を支持する声と拍手喝采に包まれる講堂。冷静に状況を見れる人間がいれば予定調和であり、美しいまで出来レース。

 これらは俺達(生徒会関係者)の予想通りであり、この後の流れもそれは同様で。

 

 客観的に情報を得れてしまった俺達(四葉)だからこそ、悲しい事ながら”これから起こること”も予想通りだ。

 

 

 

 けたたましい音と振動が会場の空気に水を差す。これは学校機関では本来あり得てはいけない無粋の極みであると同時に非日常の始まりであった。

 俺達(生徒会関係者)は事前の打ち合わせ通り”講堂内部に紛れている”エガリテ工作員を確保。それと同時に俺達(四葉)も打ち合わせ通りに動く。俺は達也にアイコンタクトをしてうまく意識の隙間を抜けるように外に出た。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

~達也side~

 

 

 

 爆発音が響き渡った瞬間八幡の予想通りの事態になってることが確定した。

 八幡は計画通りに動き始めており離脱の準備に入っている。上手く離脱させる為派手に音を立ててエガリテの工作員前に立ちはだかる。

 俺は八幡を見送りつつエガリテの工作員一人を捕縛し朝行った八幡のとのミーティングを思い出していた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

『今日の討論会、下手すると派手な戦闘になるかもしれない。』

 

 早朝、八幡からの電話があり開口一番出て来たのは物騒極まりない未来予想だった。

 

「何か分かったのか?」

 

『どうやらブランシュのアジトで戦争準備してるっぽいのと、工作員に対しての説明集会みたいなのがあったらしい。

 今日はうちの有名どころがあらかた討論会に出張ってるからな。そこさえ押さえれば他は手薄だし、討論会参加者として足止め部隊も待機させやすいしな。』

 

 なるほどな。これは師匠の予想通りの展開だな。

 

「師匠が昨日何か仕掛けてくるかもしれない、と忠告していたが現実味を帯びてきたな。

 それより、いつの間にブランシュのアジトの場所が分かったんだ?こっちは司甲がブランシュ日本支部のリーダーの弟だと昨日知ったばっかりだぞ?」

 

『はぁ!?あの剣道部の眼鏡使いっぱしりどころかバリバリ関係者じゃねえか。

 それ先に言ってくれれば戸塚にもう少しマシな指示出せたのによ・・・。』

 

 やはり戸塚か。情報収集に向いている魔法適性があるとは言え優秀だな。何よりも八幡の利益にならない事は絶対にしない。諜報員としては文句の付けようがない。

 

「で、始まる前に潰すか?今からだとかなり強引な流れになるが。」

 

『俺も迷ったんだが、今動くと事後処理が面倒な上に学内の奴らが炙り出せない。それに見つけたとは言えアジトが1つとは限らないから別の拠点があるとそっちが暴発する可能性も捨てきれない。』

 

 妥当だな。だが少し八幡らしくないな。

 

「だが、それだと学校への襲撃が前提だぞ?良いのか?」

 

『良くない。

 だが、この状態だと学内の奴らは間違いなく知らぬ存ぜぬで隠れ仰せて潜在的な脅威になる。そうなりゃ学校内のテロリスト予備軍が何の制裁もなしに野放しだ。来年小町も来るのにその状態は見過ごせねえ。

 それにこっちの方が事後処理は十師族に丸投げ出来るしな。』

 

「この襲撃を無くせば合法的に壬生先輩の精神汚染を解除する機会は永遠に失われるかもしれないから、じゃなくてか?」

 

 八幡のうめき声が聞こえる。図星を刺された時のいつも通りの反応だ。

 

「それで、このタイミングでかけてきたって事はあらかたの方針は固めてるんだろ?

 どう動けば良い?」

 

 相変わらずのお人好しだな。かと言ってここで止めれば一人で無茶しかねんからな。まぁ、いつも通りフォローするだけのことか。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 八幡が提示したの基本方針は3つ。

 

○テロリストの目的と思われる非公開文献奪取阻止。

○拉致は恐らく無いと思われるが人質を取る可能性はあるためそれを阻止し、武力攻撃からも可能な限り生徒を守ること。

○その後、これを理由にブランシュのアジトへ殴り込みに行く様、うまく話を付けること。

 

 目的が判明しているのは事前集会とやらで襲撃ポイントの見取り図等を使ったミーティングが行われていたらしく、その中に図書館の見取り図が含まれていたらしい。

 そこで八幡が先に図書館で現場を押さえ、俺と深雪が後詰めという流れでいくようだ。

 しかし、相変わらず八幡のプランは押さえるポイント以外が自由過ぎるな。

 

 俺と深雪は渡辺委員長に一言入れて実技棟に向かう事を告げて外に出た。外では既に戦闘が始まっており負傷者も数名見られる。だが、生徒が迎撃しており早急に手を出さないと不味いという状況では無さそうだ。

 周りのテロリストを無力化しつつ進むとレオとエリカに合流でき、軽い状況共有を行った。

 

「要するに、敵の正確な目的は不明だけど見た感じ誘拐目的じゃ無さそうだから窃盗目的っぽいって感じなのね?」

 

「八幡は先行して主要施設を回ってる。目聡いから今頃当たり引いてるんじゃないかな。」

 

「比企谷君が辿り着いたかどうかは分からないけど、敵の狙いは図書館よ。」

 

 出てきてくれたか。このまま隠れられると引っ張り出さないといけないところだったから手間が省ける。

 これで違和感なく図書館に向かえるな。

 

「図書館となると魔法大学が所有する非公開文献辺りが狙いですか?」

 

「その可能性が高いでしょうね。主力は既に侵入しています。壬生さんもそっちね。」

 

 やはり情報収集していたみたいだな。この隠密能力に加え、手馴れた対応。本職か?

 

「後ほど説明していただけますか?」

 

「却下します、と言いたいところですが、そうも言ってられないわね。その代わり、一つお願いしたいことがあります。カウンセラー小野遙としてお願いします。壬生さんに機会を与えてあげて欲しいの。」

 

 機会・・・?この非常事態において何を考えている?

 

「彼女は去年から剣道選手としての評価と二科生としての評価のギャップに悩んでいたわ。そこを彼らにつけ込まれてしまった。」

 

「甘いですね。そして、何より頼む相手を間違えています。

 行くぞ、深雪。」

 

 小野先生が何か言いたげな顔をしているが、今は時間が惜しい。八幡がわざわざ”後詰めで俺たちが来る”ように指示を出したということは俺達が図書館に行く事が必要なプロセスになるのだろう。

 もたついてはいられない。

 俺達は図書館の方に向かいその途中レオが俺に問い掛けた。

 

「あの言い方は流石にあんまりだったんじゃないか?」

 

「馬鹿ねぇ。それで怪我をするのはこっちなのよ?それにさっきの達也君の話聞いてなかったの?

 ”頼む相手を間違えてる”って事はもう動いてる人が居るんでしょ?」

 

「あぁ、成る程。そう言う事か。八幡が動いてるなら多分大丈夫だろ。

 よし、ここは受け持つ先に行ってくれ!」

 

 ここはレオに任せれば十分だな。

 そういえば図書館を押さえてる間にある程度生徒を守るのは当然としてブランシュへの殴り込みの話を取り付ける件は俺に丸投げされてたな。

 なにが「俺には人望とかないから説得は達也に任せるわ」だ。

 




この前次は戦闘シーンだと言っていたが、あれは嘘だ。

・・・いや、気が付いてたら文字数が4000字超えてましてね・・・?

ビ、ビビって無えよ?




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入学編22

多忙に圧殺される程度の雑魚で申し訳ないです。

とりあえず時間を見つけてじりじりと進めてはいたんですが、思いの外まとめるのに時間かかりました。

御託は良いからはよって声が聞こえますのでそれではどうぞ。


 

~紗耶香side~

 

 

 

 図書館の特別閲覧室で私と共に突入したブランシュのメンバーが、魔法大学の非公開文献を閲覧するためハッキングを仕掛けている。

 講堂の集会の影響で人間はそっちに集まっており予定通り突入は拍子抜けする程簡単だった。

 

「よし、これで非公開文献にアクセスできるぞ。」

 

 差別を無くすために何故、非公開文献が必要なのか、私にはそれがいくら考えても分からなかった。

 私はただ、差別が無い世界が欲しくて、虐げられない世界が欲しくて、そんな現実から逃げないで済む世界が欲しかっただけなのに。

 この文献も、私が分からないだけできっと何か意味があるんだろう。

 そう結論づけたはずなのに、あの時一年生が言った「逃げなきゃ何でもして良いってことにはならないでしょうけどね。」という一言がやけに頭に残った。

 

 

「へぇ、そりゃすげえ。

 非公開文献盗むのが差別撤廃にどう繋がんのか知らんけど。」

 

 

 最初は幻聴かと思った。さっきまでの思考が見せるまやかしなんだって。だってそれ程までにあり得なかったから。どんなに気を抜いていたって誰かが入ってきたら気が付くし、間違いなく警戒していた。それにドアが開いた形跡もない。いったいどこから・・・。

 

「あ、あなた、比企谷君よね?どこから!?」

 

「一緒に中に入ったじゃないですか。

 俺影薄いから気付きませんでしたかね?」

 

 隠密系の魔法・・・。さっきまでの行動を全部見てたって事!?

 いきなりの乱入者でみんな動揺してる。時間を稼がないと・・・。

 

「・・・魔法で隠れてたのなら何故不意打ちしなかったのかしら?」

 

「あー・・・別にするまでも無さそうだったから考えてなかったわ。」

 

 完全に舐められてる・・・。すぐこうやって見下すんだから・・・!

 

「あぁ、そうだ。聞きたいことがあるんですよ。」

 

「・・・何かしら?」

 

「このテロ行為はどんな差別を撤廃するんですかね?」

 

 ・・・っ!

 

「このまま帰っても得られる称号はテロリストか産業スパイか。

 その日本の敵になるリスクを払ってまで得られるものって、なんなんですかね?」

 

「それは・・・!」

 

「まぁ単純な話テロリストにとって扱いやすい駒があったから、良い様に利用されている訳ですけど。

 どうですか?平等な世界とやらは見つかったんですか?」

 

 ・・・・・・私にはそれは分からない。分からないけど、でも!

 

「無いですよね。んな世界があってもそれはただのディストピア(管理社会)です。

 個人の能力を無視して平等化してならす。それが先輩の言う”平等な世界”なんですかね?」

 

 

「じゃあ、どうすれば良かったって言うのよ!」

 

 

 もう限界だった。

 分かっている。言ってることは分かってる。それでも叫ばずにはいられなかった。

 比企谷君の話はきっと正論なのだろう。正しくて強くて、そしてあくまでも上から目線。そんな”一科生の見下した意見”なんか納得できないし、したくない!

 

 でも、その回答は唐突に倒れるドアの音と無残に弾け飛んだ記録用キューブと共に訪れた。

 

「少なくとも、テロリストに荷担する事がその疑問の回答にはならないのは確かです。」

 

 その声は私に”夢の終わり”を突き付ける、そういった何かに感じた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

~達也side~

 

 

 

 

 俺達が図書館に突入しそのつゆ払いをエリカに委託した後、情報閲覧室にたどり着いた段階で何故八幡がわざわざ俺をここに来るように誘導したかがなんとなく分かった気がした。要するに彼女側の立場にいながらそれでもなお批判する事が出来る、そういった存在が欲しかったのだろう。

 部屋に突入した後即座に相手の目的を達成不可能にするため記録用キューブを破壊、これで最低限の体裁は整うだろう。

 

「壬生先輩、あなたは魔法大学の非公開技術を盗み出す為に利用されたんです。」

 

「差別をなくそうとしたのが間違いだったの!

 平等を目指したのが間違いだったというの!

 差別は確かにあるじゃない!

 司波君はそれで良いの!?」

 

 完全に冷静さを失っている。恐らく八幡にうまく誘導されたんだろう。

 

「貴方だって同じでしょう!

 そこにいる優等生の妹といつも比べられていたはずよ!

 そして不当な侮辱を受けてきたはず!

 誰からも馬鹿にされてきたはずよ!」

 

 感情に溜まった膿が怒涛の様に吐き出される。

 壬生先輩は同じ立場の人間に救いを求めているのだろう。だが、俺はそこまで優しくもなければそう言った意見に全面的に同意できるほど偏った平等思想に毒されてもいない。

 

「妹さんだけじゃない。そこの比企谷君ともそう。

 新入生歓迎会の時だって結局一番認められて、影で二つ名までつけられていたのはそこの比企谷君。

 どうせこの前の捕り物だって最終的に私達の事を確保した比企谷君が全て治めたかの様にまとめられてるんでしょう?」

 

 放送室のことか。自虐が過ぎるな。

 だがここまでの流れを見ても、して欲しいことは分かっても最終目標が見えてこない。こういうやり方をするときは往々にして深雪を怒らせる結果を招きがちだが・・・。

 

「認められるべき事が立場によって不当に奪われている。そんな差別を無くしたいって思って何がいけないのよ!」

 

 

「良かったですね。実力の認められる世界を歩いて来れて。」

 

 

 八幡、お前・・・。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 一口に”精神汚染”といっても内容は様々だ。

 なにより、汚染といっても池の水質のように汚れている汚れていないをはっきり示せる指針がある訳ではない。そもそも精神状態は千差万別であって汚染されてない状態すら人によって違うのだ。

 そうなるとどうやって調べるのか。それは色々なパターンを過去の患者と照らし合わせて調べる総当たりのような作業によって精神的な異常性が見あたらないか調べるしかない。だが、この方法は患者にも負担が大きくなにより時間がかかり、結果として非常に患者負担がかかる結果となる。その負担を減らすためにも異常部分を正確に、かつ早く発見しリハビリして修正するのが肝要だ。

 であるからこそ重要になってくるのは誘導された背景や、異常な反応を示した情報である。なにより利用され、過去の事件や出来事などは問題の根幹部分であるため速やかに発見できれば治療は飛躍的に進みやすい。

 

 ならば、俺のやるべき事は一つだけだ。

 

「どういう意味よ!?」

 

「はい?そのままの意味ですが?

 要するに今まで頑張ったら頑張った分だけちやほやして貰ってたのに、頑張っても頑張っても認めてもらえないから駄々こねてるんですよね?」

 

「な・・・!」

 

 今のこの状況では壬生先輩は徹底的に追い詰められて癇癪を起こすので精一杯。冷静さを欠いて直情的にならざるえない状況。というか現在進行形でほぼヒステリック状態だ。

 そう”とても理想的な状況”だ。

 

「頑張ったら頑張っただけ結果が出て、褒めて貰えなきゃ納得できない。だから平等なんていう”分かりやすい欺瞞”に縋り着いた。

 当たり散らす敵が欲しかっただけでしょう?」

 

 少しオーバーキル気味だが冷静さは完全に奪えた上にヘイトもこっちがかっさらった。

 あとは・・・。

 

「貴方達一科生が私達を差別するのがいけないんじゃない!そうやって上から言いたい放題!」

 

「さも文句を言うのが正当かのようにですが、どれ程のことがあったんですか?どうせたかが陰口がどうのって程度じゃないんですか?」

 

「違う!あの時渡辺先輩は私のことを二科生だから差別した!間違いないわ!」

 

 

「ならば、そうやって渡辺先輩に直接おっしゃれば良かったのではないですか?」

 

 

 予想外のところで深雪が介入してきた。しかも拳を握りすぎて手が震えていらっしゃる・・・。

 俺の予定ではこの壬生先輩の精神汚染の肝の部分を上手く掘り出して会長達に伝えることで公的に精神汚染除去の治療を受けて貰う口実にする事以外はついでであり、残りはブランシュ潰して残業なしで直帰の予定だったんだがどうやらそうも行かないらしい。

 

「壬生先輩。何故、其処まで自分を否定するのですか?

 今の先輩は一つの物差しでもたらされた結果だけで劣等感に溺れ、それによって良い部分すらも自ら埋もれさせてしまっています。」

 

「なんですってっ!?」

 

 深雪が壬生先輩を容赦なく諭す。先輩も声だけは大きいが言葉に力がない。

 そもそも、現状ではもう目的達成。後は適当に話切り上げて終わるつもりだったし、それは恐らく深雪分かっているだろう。だが、このやり方は妹様にはご納得いただけなかったようだ。

 

「結局、誰よりも貴女のことを劣等生と、雑草(ウィード)と蔑んでいたのは、貴女自身です」

 

 まぁ、ここで深雪の演説が入ってしまった事でいらん事を考えてしまったのが仇になったのだろう。要するに油断した。

 

「壬生、指輪を使え!」

 

吹き荒れるサイオンのノイズ。達也の使う疑似的なものとは違う本物のキャストジャミングだ。

 本来キャストジャミングはアンティナイトと言う軍事物資にサイオンを流し込むことで発生するノイズが魔法の発生を阻害することを利用した技術である。このジャミング波は概ねの魔法を発動阻害出来るため魔法師をただの木偶の坊に出来る魔法師の天敵のようなものである。

 それにコンボのように投げつけられた物からは煙が広がり視界と魔法が完全に封鎖される。それとともに脱出する足音と鈍い殴打音。

 どうやら達也が壬生先輩以外を制圧し、壬生先輩は逃がしたようだ。

 

「悪い、油断した。

 てか、壬生先輩逃がして良かったのか?」

 

「下でエリカが構えてる。確保してくれるだろう。」

 

 エリカか。あいつ結構やり過ぎる印象があるのは気のせいか?

 

「そんな事よりさっきのあれはなんですか?

 明らかに壬生先輩を怒らせて煽っていました。」

 

「い、今はそんな話をしてる場合じゃないだろ・・・?」

 

 妹様の眼差しで背筋が凍りそうなんだが。

 

「・・・分かりました。今日は八幡さんの家に伺います。詳しい話は後で詳しくお聞きします。」

 

 oh・・・。

 深雪は色々気にしすぎだろ・・・。

 たかが先輩一人に睨まれるくらい大したこと無いってのに・・・。

 




終わらない入学編に呆れ顔が見えるようですが後数話で終われるはずなんだ・・・。(フラグ・・・?大丈夫、物理的に問題ないはず・・・。


と言うわけで多忙ながらじりじり書きますので、意見ツッコミ指摘批判をお待ちしております!


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入学編23

相変わらずの戦闘シーン描写下手くそマン事、読多裏闇です。

久々に書いたらさくっとしすぎて描写うっすい事うっすい事・・・。




 

 ここいらで一度、情報の整理をしよう。

 俺達の学校に攻撃を仕掛けてきた反魔法国際政治団体ブランシュの目的はこれまでの行動から大きく分けて2つだと予想できる。

 

 ブランシュのメイン目的である魔法大学が貯蔵している非公開文献の奪取。

 第一高校に蔓延る差別意識を増長させて魔法に対する不信感を世間にアピールする事。

 

 である。

 一つ目に関しては物理的に行動を起こしているため分かりやすいが問題は2つ目。具体的には、学生がテロリストの手先に利用されるような事態を起こして、管理体制の疑問や”テロの標的となる”という事実そのものを取り上げることで危険性を煽動する反魔法のプロパガンダの材料にすることなどが考えられる。

 言ってしまえば反魔法の為に良い様に晒し者にされるのだ。この流れは魔法師社会としても勿論、俺達としてもあってはならない事態。真夜叔母さんが一番危惧してたのはおそらくこれだろう。

 以上のことから言えるのは、ブランシュの目的はほぼほぼ失敗しており後は追い詰められた奴らの暴発を警戒しつつこの場所から排除するか殲滅するか、といった具合だ。

 そう、その筈だった。

 

 俺がこうやって過去の内容の整理をしていたのはほぼ解決しており残りは面倒な処理が少ない掃討戦に移行するはずの戦局に無視できないノイズが入ったからだ。

 図書室の特別閲覧室を制圧した後、エリカと合流した辺りまでは計画通りどころか不測の事態が一切無さ過ぎてブランシュを心配した程だ。壬生先輩も達也が言ったとおり怪我で気を失っているもののエリカがしっかりと確保しており、現在は達也がお姫様抱っこにて護送中。

 いやはやイケメンがやると絵になるわ、けっ。

 などと考えながら残りは残党のスマートな駆除方について考えていた俺の思考に水を差したのは一本の電話だった。

 

『八幡兄様ご無事ですか!?』

 

 開口一番から少々落ち着きがないが、発信元は水波。

 水波には今日の流れをある程度話してあるのでここで戦闘が起きているであろう事は知っている。にもかかわらずこの話し方なのは演技にしてもオーバー気味だな・・・。何らかの不測の事態があったか?

 

「お、おう。

 てかどうした?なんでこっちが戦闘になってるの知ってるんだ?」

 

『いろはに聞きました。第一高校に賊が攻め入って現在戦闘中だと。

 こちらには八幡兄様達の安否確認といろはからの伝言を伝えるためにお電話させて貰ってます。

 達也兄様達はご無事でしょうか?』

 

 表向きはこの襲撃そのものを予想できないはずの水波はこちらには連絡できないし、出来たとしてもこんなに早く電話が来ることはない。この会話は、お互いの立場を把握するためのプロセスだ。

 

「達也達は無事だ。怪我もない。

 それで一色の伝言ってのはなんだ?」

 

『良かったです。

 いろはが、この件に一色家として動くので一度合流したい、とのことです。

 今いろはがそっちに向かっているので正門付近で合流したいみたいです。』

 

 なるほど。まぁ、とりあえずは合流するのが先決って感じか。

 ・・・にしてもやはり早すぎる。やっぱり何かあったか?

 

「細かいことは”後で詳しくお話したい”です。少し込み入った内容になるので”お手隙の時"に折り返していただけると。」

 

 後ほど詳しく、お手隙の時に、な。つまり”今話すと問題だから後で”で、かつ手が空いているときだから”誰にも手が取られてない時"、つまりは俺単独が望ましいってか。なるほどな。

 

「分かった。とりあえず一色と合流する。」

 

『はい。失礼いたします。』

 

「水波か?」

 

 電話を切った俺に達也が質問を投げかける。不測の事態を警戒してのことだがあの水波の言い回し的におそらく俺が一人の時つまり、”達也も居ないときがベスト”なのだろう。

 とりあえず察してくれよ・・・。

 

「水波からだ。どうやら一色家が動くらしい。情報共有も含めて一回俺と合流したいんだと。」

 

「へーすごいじゃん。こんなにスピーディーに対応してくれるって相当気に入られてるって事じゃん。」

 

 何言うてはりますのん?

 

「別に一色家は俺のために動いてるわけじゃないぞ?」

 

「普通、自分の子供でも通ってなきゃこんなに手早く動かないよ?」

 

「・・・まぁ、エリカの勘違いはこの際どうでも良い。

 達也、というわけで別行動だ。詳しいことは後で連絡する。壬生先輩とこの後のことを頼む。」

 

 後ろで「後で覚えてなさいよ。」みたいな声が聞こえているが俺には聞こえん。・・・聞こえないったら聞こえない。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

~水波side~

 

 

 

 

 私が通わせて頂いている千葉市立総武中等学校は魔法師の卵になりえる子供の発見と魔法素養を伸ばす先取り教育を試験導入している学校です。学校自体は第一高校からは方向は違うもののそこまで遠いというレベルではなく、現代の鉄道技術で考えれば現比企谷家からはコミューター(現代における電車)で通学できる距離です。

 今は放課後、正確には下校中で、最寄り駅が同じいろはと小町ちゃんと共に下校中。

 

「ねぇ水波。なんか一校で一騒動あったって聞いたんだけど、何か聞いてる?」

 

「何か校内差別に関して、討論会の様なものをすることになった・・・とは聞いてるけど、詳しいことまでは。

 確か今日でしたよね?小町ちゃん。」

 

「なーんかいちゃもんの域を出ない内容で、全校生徒巻き込んだ大喧嘩ふっかけてきて無駄に仕事が増える・・・とか言ってたよ。」

 

 基本的にいろははあまり同性の友達が多くなく、最寄り駅も同じでしかも全員生徒会所属とあってこの3人での下校がいつもの光景です。

 会話内容も現在進行形で八幡兄様に恋してるいろはに非の打ち所の無いブラコンな小町ちゃんに、八幡兄様にお仕えしている私とそろっているため8割近くは八幡兄様の話題となる。

 今日も第一高校の会話をだしにして八幡兄様の話をしています。

 

「先輩も相変わず色々巻き込まれてますね・・・。まぁそうやってぼやいてる間はまだまだ余裕がある時みたいですし、大丈夫ですかね?

 一度で良いから本気の先輩みてみたいな・・・。」

 

「・・・お兄ちゃんが本気になってるときって大概ろくでもない事になってる気がするから、だらけてくれてた方が安心する・・・・・・なんて事はないね。

 いつもの調子でだらけてたらいつまで面倒見なきゃいけないか分かったもんじゃないよ・・・。」

 

「そう言えば、深雪姉様が一校では結構モテていると言っていませんでしたか?」

 

 たしか、小町ちゃんが言っていましたよね。通話で話した、とかで。

 

「・・・水波、それ詳しく。」

 

 いろはの目が本気モードに。こうなると私には手に負えません。

 

「私も小町ちゃん経由の話ですから詳しくはそちらに・・・。」

 

「水波ちゃんに売られた!?

 ・・・・・・えっとね深雪お姉ちゃんが言うには何人か無意識に粉かけて、一人はほとんど釣れてる・・・みたいなこと言ってたかなー・・・。」

 

「また無意識にたらし込んでるんですねあのスケコマシ先輩は・・・。

 来年までうまく繋がないとヤバいかも・・・。」

 

 恋する乙女は大変ですね。実際一色家的にも押せ押せムードの様ですし、将来はもしかするともしかするのかもしれませんが八幡兄様は色々家庭の事情が複雑ですからね・・・。

 などというとても平和な思考は不作法な乱入者によって中断された。

 

 

「比企谷小町だな?」

 

 

 前方に話しかけてきた男を含めて2名の怪しい男達、後方にも1名。退路を塞ぐように立っている。

 拳銃を所持している模様。

 そして何より小町様を名指しで話しかけてきた。標的は小町様の可能性が高い。

 身体と頭にたたき込まれたガーディアンのマニュアル通り攻撃に対して対応がとれるように即座に私達3人を包む対物障壁を展開する為、魔法式を待機させる。

 

「・・・何者ですか?」

 

「お前達には用はない。比企谷小町をおいて立ち去るのならば危害は加えない。」

 

 やはり、小町様が標的。武装していることからもおそらくただのチンピラでは無さそうですね。小町様の安全が最優先として最低でも一人は確保して背後関係を洗いたいところです。

 その後男は拳銃に手を伸ばしたのを確認したため待機していた対物障壁を展開。それに併せていろはも魔法を放つ。

 前の二人の頭に雷が落ちた。

 いろはが得意とする放出系の電撃魔法でしょう。明らかに死角からの狙い撃ちであの倒れ方は間違い無く意識が飛んでいますね。となれば残りは背後の一人のみ・・・と意識を向けたらテロリストが上空から落下してくる光景が映った。小町様が移動魔法で上空まで投げ飛ばしたのでしょう。

 

 とりあえず状況終了。拘束するものがなかったので武装(拳銃など)を解除させて気絶した襲撃犯を一ヶ所に集めて見張りつつ、いろはが一色家に電話で応援を呼んで引き渡し、背後関係は尋問してくれるそうです。四葉家を狙ったものにしては装備がお粗末な上やり方も素人臭かったので、おそらく別件で狙われた可能性が高くこちらの情報が漏れる可能性はないでしょう。

 残る問題は・・・。

 

「小町、なにか狙われる理由に心当たり無い?」

 

 それです。四葉家が絡まない案件で小町様が狙われる理由が見つからない。

 

「うーん。八幡家関連なら無いではないけど、白昼堂々拉致しに来られるほどのものは心当たり無いかな・・・。」

 

「となると尋問待ちかな・・・。

 後、今先輩と連絡とれる?」

 

 八幡兄様と・・・?となるとやはり・・・。

 

「とれると思うけど、今例の討論会で忙しいのでは・・・?」

 

「それどころじゃないみたい。今一校に賊が攻め入って交戦中だって。

 この襲撃も無関係じゃないかもしれないし私も一色家として先輩に合流して手伝ってこいってパパが。」

 

「襲撃って・・・あーもう、お兄ちゃんトラブルに愛されすぎ・・・。

 事態を大事にしないといけないわけじゃないんだよ。

 ほんとごみいちゃんは・・・。」

 

 頭を抱える小町様。学園襲撃の件が起きるであろうことは八幡様から聞いていたけど恐らく私達への襲撃は予想外。本来は襲撃の件も含めて私達は知らないことになってますし、知らないふりが必要なのですが、なまじ言ってる内容が本心なだけに演技とは思えない台詞です。

 案の定、八幡兄様の予想はドンピシャだったわけですが。なって欲しくない未来予想図、というのが本音です。

 となるとどうにかして連絡を入れなければなりませんね。

 

「じゃあいろは、早く八幡兄様の所に向かってください。八幡兄様にはこちらから連絡を入れます。家ももう目と鼻の先だし、家に引きこもってるから護衛の心配とかも大丈夫。」

 

「お兄ちゃんよろしくね。」

 

「うん。任されたよ。

 流石に友達をいきなり拉致する輩は放置できないからね。」

 

 そう言っていろはと別れ、いろはのお家の黒服さんに送って貰って無事帰宅。

 早く電話しないと・・・!

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 達也達と別れた後、水波に折り返し連絡して聞いた内容に俺は驚愕を隠せなかった。

 

『八幡兄様のみにお話したかった理由がこれになります。』

 

「分かってる。これをフォロー抜きに達也に伝えたら間違いなくキレる。

 ブランシュが消し飛びかねない。良い判断だ。」

 

『明らかに狙いは私だったよ、お兄ちゃん。

 流石に名指しで狙われる理由は思い当たらなかったし、伝えなきゃって思って。』

 

 小町が狙われた事実は間違いなく達也にとっては逆鱗だ。あいつは俺達家族(司波、比企谷両兄妹)に対する敵意に対しては容赦がない。向けるどころか実行したとなれば達也内での扱いが”敵から殲滅対象”に切り替わる。入学早々達也のガチキレは勘弁願いたい。

 

「分かった。とりあえず二人は家で待機。大丈夫だと思うが家のセキュリティーレベルを上げておいてくれ。」

 

 

 

 電話を切った俺はブランシュの目的を再検証していた。

 第一高校に在学している俺達が標的となって狙われているのは今の状況からしてもある種正常。

 また、かなり曲解ではあるが総武中等学校を狙うなら分からなくはない。

 同様に総務中学生として狙われた場合も納得できなくはない。

 

 だが、小町を名指しで狙うとなると話は変わってくる。

 小町個人を狙う事でブランシュが得られる利益はなんだ?

 四葉の件が漏れているとは考えにくい事から小町本人に価値を求めたとは考えにくい。小町の身柄を押さえる事で、人質として機能する相手は誰だ?

 

 考えるまでもない。俺達(四葉)だ。

 

 だが、先も言ったとおり四葉の件が漏れているとは考えにくい。

 なんだ、なにを見落としている・・・?

 ブランシュが小町を狙ってまで狙いたい相手は誰だ?関係者だけで考えれば筆頭は俺だ。だが、俺個人にあいつらには狙われる理由もないし何より得がない。同様に達也も立場は変わらないはずだ。

 なのに拭えないこの違和感はなんだ・・・?

 この状況に何となく既視感がある。目的が分からないのに標的にされる感じ・・・そうだ、新入生勧誘週間だ。

 俺と達也は何かとエガリテに攻撃された。建設的な目的が不明な攻撃の標的にされたあの時と、今の俺達への謎の個人攻撃は構図がとても似ている。

 あいつらは俺達に何がしたいんだ?

 ・・・いや、違う。そうじゃない。

 

 あいつらは俺達の何が欲しいんだ・・・?

 

 まだ、確信を得るに少し足りないが後一つピースが埋まれば見えてきそうな気がする。

 

「せんぱーい!」

 

 だが、どうやら時間切れのようだ。

 一色が持ってきてくれた情報が最後のピースになってくれりゃ良いんだが。

 




 と言うわけでブランシュ襲撃直前編でした。(いや、直前ってなんだよ。

 いやー思いついたもの全部ぶっ込むと何故かブランシュ襲撃が遠いこと遠いこと・・・。(白目

 いつもより1000文字くらい多くてなおたどり着けないのどうなのよ、とは思いましたが楽しんでいただければ幸いです。

 みんなもっと感想でツッコミ入れてくれてええんやで・・・。質問でも、ええんやで・・・。


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入学編24

 知っているか。ブランシュ襲撃直前編は第二部があるんだぞ・・・。

 本日も開幕からやらかしておりますが亀速度なりに多少は進んでいますので何卒ご容赦を。


 

 

~いろはside~

 

 

 今日は本っ当に厄日です。

 今日の寝癖は少し強情で直すのに手間取ったせいで登校がギリギリになるし、朝あわてたせいで昨日やった課題を置き忘れて水波を拝むことになるし、それだけならまだしも。

 

 私の親友(水波)がテロの標的になるとか、厄日にしても流石に笑えないですね。

 

 正確には小町が標的だったみたいだけど、小町も私の大事な友達だと思ってる。だけど、一番気に入らないのは水波が巻き込まれていること。

 こういう言い方をすると私が水波に恋してるのかと思われそうですが、私にそう言う趣味(百合)はないです。というのも、水波には私がまだ先輩(八幡)に出会う前のふらふらしていた時期に、女子から盛大にハブられて孤立していた私と変わらず友達でいてくれた大恩も含めて、色々な事で助けて貰った事は数知れずな訳で。いつか絶対に返さないといけないとてもとても大きな借りがあります。

 水波の事なのでおそらくこんな事気にしてるなんて言ったら呆れた目で「キャラじゃないですよ?」とか言ってきそうだけど、これだけは曲げたくない。

 だからこそ、って言うのは変だけど水波の事は一番の親友で水波の敵は私の敵です。

 だからこそ今回の件を解決するために先輩と合流しろっていうパパの指示はとても助かった。パパも水波と小町は自分の娘のように可愛がってるから今回の暴漢は一色家総動員で駆逐するであろう事は予想していたが、私が参加出来るとは思ってなかった。

 

「八幡君はおそらく自分で動くだろう。いつか彼の隣に立ちたいと思うなら、その為に必要なものを見つけてきなさい。」

 

 パパはそう言っていた。パパ公認なのはうれしいけれど、なんか重いよ・・・。確かにそういう事を見つけれたら良いけど、今回に関しては優先順位は水波の安全が上だと思う。

 まぁ、両方出来たら完璧だし、とにかく先輩と合流しなくちゃ。

 そろそろ魔法科高校の校門が見えてくる・・・と、思ったら特徴的なアホ毛を発見。

 

「せんぱーい!」

 

 とりあえず情報のすりあわせからかな。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「達也への人質・・・?」

 

「捉えた暴漢を尋問したらわりとあっさり吐いたらしくて、ブランシュ所属の構成員ってこともペラペラしゃべり出したみたいです。

 それで、小町を襲った理由を聞いたら"司波達也の為のカードになる"って言われたらしいです。

 達也先輩なにか狙われる事したんですか?」

 

 合流に成功した俺と一色は情報のすり合わせをしていた。どうやら一色家が掴んだ情報は一色にリアルタイムで伝わるらしい。先程も一色が付けている耳に付けるタイプの小型通信機から尋問の内容ともうすぐアジトの場所が絞り込めそうな件が報告された。

 どうやら小町が襲われたのは学園襲撃とほぼ同時刻でその時には一色家が暴漢のアジト発見のために市街地に展開。一校の騒ぎを聞きつけたときには暴漢襲撃と無関係ではない、として撤退車両を追跡する部隊をその場で編成しブランシュのアジト特定に動いていたらしい。

 

 そして今、先程あれだけ悩んでいた問題の最後のピースが嵌まった。

 と言うかあまりにもしょうもなさ過ぎて思い至らなかった。

 なんのことはない。達也のキャストジャミングも欲しいからって欲を掻いて結果として自分の首を絞めているだけだったのだ。挙げ句の果てにその計画も前の計画が成功する前提に組まれているとしか思えない辺りブランシュのリーダーさんの頭のお花畑感が伺える。

 

「今の一色の情報のおかげで小町が狙われた理由が多分だが把握できたわ。

 大仰に反魔法国際政治団体を語ってる割には色々片手落ちだな。」

 

「とは言っても十分害悪です。狙われた理由が分かったのなら先輩のサポート役として仕事になってるので良かったです。

 私も水波達が巻き込まれてるので腹に据えかねてるんで、いくらでも頼ってください。」

 

 一色の怒りはもっともだ。水波とは本当に親友の様に仲良くしてるしな。

 

「いや、巻き込まれたのはお前もだから、お前も被害者だろ。

 ってかサポート役ってなんだ?まさかついてくる気か?」

 

「父に先輩のバックアップを頼まれてるんです。一色家との連携の橋渡しがメインですのでついていって後方支援に徹するので心配しなくても大丈夫です。

 それに、伊達に一色家の人間を名乗ってないですから、足手まといにはならないですよ?」

 

 実際の所、一色家の情報は実際助かる。アジト発見までしてくれたら俺が掴んでるアジトの情報を一色家の情報って事で処理できる点も大きい。だが、連れて行くとなると話は別だ。おそらく一方的な殲滅戦になるとはいえ、この先は中学生の女の子が見るべき世界じゃ・・・。

 

「師補十八家の子女は普通の女の子ではないので無用な心配です。」

 

「・・・しれっと心を読まないでくださいませんかね?」

 

「女の子はちょっとだけエスパー能力があるものなんですよ。」

 

 怖えよ。てか、なんで女子限定なんだよ。俺にも実装してくれね?時止める奴とかさ。

 おい誰だ?「孤立した世界形成出来る能力ってぼっちって観点で見りゃ実質時止まってるだろ?」とか言った奴。

 

 

「師補十八家かどうかなんか大差ないと思うんだがな・・・。

 はぁ・・・、どうせ止めても着いてくるんだろ?」

 

「その通りですねー。

 それに一色家の情報網無いと先輩、動けないじゃないですかー。」

 

「分かった。連れて行くが、あくまでも後方支援だ。直接の戦闘参加は認めないからな?」

 

 この辺りが妥協点か。

 

「分かってます。ついて行くのは途中までで、その後は一色家の偵察隊と合流します。」

 

 これで後は動くだけだな。しかし、ブランシュの奴等には感謝して貰わねえと。小町の話を聞いたのが達也だったら地獄巡りの片道切符だったぞ。

 

 その点俺なら地獄体験ツアーくらいで済むんだ。八幡ちょー優しい。

 

 往復チケット代もタダだが、受け取り拒否は出来ないけどな。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

~??side~

 

 

 

 

「あー。あれっぽくね?」

 

 ブランシュのアジトと思われる場所はっけーん。

 てか、町外れの工場跡とか流石にそれっぽ過ぎね?これ完全に当たりっしょー。

 

「てーか、なんでテロリストのアジトなんか探してんの俺?」

 

 今日の外出はただのお使いだったはずだ。

 うちのお姫さんの新しいCADの調整が終わったとかで一色家に取りに行くのがメイン。と言うかその為に早めに授業切り上げて三高から、一色家に向かったハズなのに受け取りどころか色々仕事降ってきてどゆこと?

 物自体も受け取ろうと思ったらめっちゃ騒がしくなってきて、当主が緊急事態だから指示通り動けって言うし、正直何の車を追ってるのかすら分かってなかったべ?

 っべー。俺何も知らなさ過ぎじゃね?

 さっきからの通信聞く限りだと、いろはす襲われたとか言ってたっけか、怪我とか無いみたいだから気にしなくて良いらしいけど、帰りに襲われるとか普通に大事件じゃね?てか、犯人捕まったn・・・。

 あーそっか、だから俺今車追いかけてるのか。名推理来たコレ。

 となると、目の前の工場がいろはす襲った犯人のアジトなわけ。

 ・・・ん?あれ?あそこってテロリストのアジトじゃなかったっけ?「車が行った行き先がテロリストのアジトだ」って当主言ってたし・・・。

 

 え、じゃあいろはすテロリストに襲われたん!?

 

 っべー。ガチでやばい奴じゃん。

 てか、いろはすに襲いかかるとか命知らずなん?そんじょそこらのチンピラじゃ遊び相手にもならないくらい強いじゃん?

 テロリストも自棄になって喧嘩売るにしても相手考えないと痛い目みるっしょー。

 それはそれとしてアジト発見したし、一件落着っしょ。後は家の部隊が殲滅するだけ・・・。

 

「っべー、連絡しねえと。」

 

 いろはす待たせると直ぐにキレるからさっさと連絡入れないと。

 




 いやー最後の人誰でしょーかねー(棒)

 そしてまたたどり着けなかったよ。ブランシュ編ってこんなに長かったっけ・・・。


 だらだら駄文を量産しておりますが、いつも通り感想大募集中です。
 ツッコミから批判、質問、指摘、感想何でもござれ、といった塩梅となっておりますので、お気軽に話しかけていただけると作者がとても喜びます。何卒よろしくお願いします。


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入学編25

お久しぶりです。遅くなりました。(震え声

とりあえず進めてはいますのでもうじきブランシュ編は終わる予定です。(終わるとは言ってない・・・え。

なんかにたような話を前に言って様な気がしなくもなくなく無いですが気にしてはいけない。(気にしてはいけない。戒め。


 

~達也side~

 

 

 

 八幡の要望の通り壬生先輩を保健室に送り届け、情報把握を含めた尋問を行った結果は八幡の予想通りの流れを辿った。一科生に対する大き過ぎる不信感や敵対感情が見られた壬生先輩の言い分を一通り聞いたところ、実は勘違いであることが発覚した。それに加えて勘違いへの思い込みの強さや思考の偏り、その過剰さを鑑みても常人の思考と言うには少々過剰な点を踏まえ、何らかの精神汚染の可能性を生徒会長の真由美へ伝えた。本人への影響も鑑みて内密に告げたが、七草家なら何とかするだろう。

 その後の話し合いでブランシュのアジトへ襲撃することも確定した。面子も決まり移動手段も十文字会頭が車を用意してくれ、深雪と共に乗り込もうと車へと向かっているところだ。

 連中を叩きのめす準備は完了した。

 後は実行に移すだけで、障害は何一つとしてないはずだ。

 深雪の機嫌を除いては。

 元々、ここまでの流れはあくまで八幡の計画に沿って行われている。ざっくりではあるが内容を聞いて最善案であることは確認済みだ。だが、八幡の計画は臨機応変な対応を求められる部分が多すぎる。結果として付き合いの長い俺でも八幡の思惑を読み取りきれない部分が出てくる。

 

 その結果として産み出されたのがこの不機嫌なオーラを隠しきれてない我が妹だ。

 

 理由は先程の壬生先輩の尋問にある。確かに勘違いであり誤解も解けた。だが、その話はそこでは終わらなかった。

「勘違いでやってしまった私の罪は揺るぎません。けれど、あの時の比企谷君の私への侮辱は簡単に許して良いものじゃない。

 私は良い。責められるだけの事をしたんだから。でも、これ以降私みたいな生徒を出さないためにもああいった生徒の取り締まりは徹底してください。」

 反省し、後悔し、それでも前を向こうとしたが故に見過ごす事が出来なかったのだろう。そして、それと同時に彼女の間違いだらけの1年間に一つだけ”正しかった”と言える事実が残った。

 

 おそらくこの事実は彼女の心を救った事だろう。

 

 この発言が出たことで図書館で八幡が行った少々やり過ぎとも取れる煽りの真意に気が付いた結果が今のこの惨状だ。深雪が不機嫌と怒りを押し殺さんと努力しているが、あまり成功してるとは言い難い。

 とは言え、八幡の行動には大きな価値があることも分かる。

 ”たかが高校二年生の少女が弱みに付け込まれたとは言え精神を汚されたあげく1年以上誰かの傀儡にあった”という事実を受け止めきれるか?っと問われればイエスとは答えにくい。

 だから、八幡はわざわざ敵になったのだ。

 もしこの罪を受け止めきれる事が出来なかった時、身近に自分を正当化できる何かがあるだけで精神が折れてしまう事を防げる。おそらくはそんなところだろう。仮初めでも冷静に物を考える事が出来るところまで保てばいい。その為の仮想敵を買って出たというわけだ。

 とはいえこのまま深雪を放置するのもマズい。深雪の精神衛生面も含めてそろそろ合流したい。一色と話してるとはいえいい加減長い・・・。

 

「お兄様、携帯が鳴っております。」

 

 その心の声が通じたのか着信先は八幡。

 

「八幡、今どこにいる?」

 

『おう達也、現在地は・・・あーそうだな、んーと空?』

 

 一瞬何を言っているのか訝しみかけたがまさか。

 

「お前、飛行魔法で飛んでるのか?」

 

『飛んでるってーかいつも通り”上空に向かって落ちてる”だk

「きゃーーーーーーー死にます、ホントに死にますって!・・・え、ちょっと待ってくだsきゃーーーー!!!?!?」

 ・・・まぁ、そんな感じだ。』

 

 どんな感じだ。省略するにも程があるだろう。

 

 達也は先ほどの叫びを聞いて驚いた深雪への説明を含めてやっかい事が増えたのを自覚した。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

~深雪side~

 

 

 

 深雪は非常に怒っていた。

 

 それほどまでに壬生先輩の発言は許し難いものだった。

 何よりもその愚かな発言を誘導したのが愚弄された八幡さん本人なのが質が悪い。それでは壬生先輩に撤回すら求められないのだからこの怒りの向け先を失った感じと言いますか、振り上げた拳の落とし所を見失ったと言いますか。

 我慢こそ出来ましたが、感情のままに怒りを表に出せば保健室は冷凍室になっていたと自信を持って言えます。この様な自信があっても仕方がありませんが。

 確かに、今回の八幡さんの行動で再起不能になってしまうかもしれない少女が一人救われた。その事実は大変誇らしい事態ですが、相変わらず容赦なく自己犠牲を行う部分が全く直っていません。

 だからこそ怒りをこらえるのに必死になっている。八幡さんにもだが、何よりも"目の前に居ながらそれを止めることが出来なかった自分自身の体たらくさ"に腸が煮えくり返っていた。

 ”魔法科高校ではどうしようもないからお兄ちゃんをお願い”っと小町ちゃんとも約束してるというのにこの様です。以前の事件では学校が違ったため歯痒い思いをしつつも手が出しようがなかったですが、今回の場合は止められただけに精神的ダメージは相当なものです。

 

 今夜のお話合いは長くなりますので覚悟しておいてくださいね八幡さん。

 

 ともあれ、その問題の八幡さんは何処にいるのかしら・・・。

 普段から面倒くさい、働きたくない、などと言う割には仕事はしっかりとこなす人です。今もサボってるとは思えませんが・・・。

 そもそも、一色家が出て来るのも異様に速いですね。お兄様もその点は気になっているのでしょうけれど八幡さんはその説明をしていきませんでした。普通ならば分かり次第メールなり電話なりを入れそうなものですが、何かあったのでしょうか?

 などと、ぐだぐだ考えでも埒があきませんね。

 早急に八幡さんと連絡を取りましょう。

 そう思っていると、どうやら電話ですね。お兄様の携帯です。

 

「お兄様、携帯が鳴っております。」

 

 お兄様が電話の着信先を見て直ぐに出た。おそらくは八幡さんでしょう。

 そのまま訝しげな顔をしつつも会話をしているお兄様。どうにも雲行きが怪しいと思っていた矢先。

 

『きゃーーーーーーー死にます、ホントに死にますってえ、ちょっと待ってくだsきゃーーーー!!!?』

 

 ・・・・・・あの声はいろはさんですね。

 八幡さんが一色家と接触しているなら、使者としていろはさんが選ばれるのは想像が付きますし、八幡さんのそばに居ること事態は納得できますが、それがどうすれば悲鳴を上げるような事態に・・・。

 

「お兄様、先程の悲鳴は・・・?」

 

「あぁどうやら今、八幡は疑似飛行魔法で上空に居るらしい。しかも一色もそれで一緒に運ばれているようだ。」

 

「・・・いろはさん初めてでしたよね。

 大丈夫、『せんp、いぃいーー!!す、少しまっtえええぇぇええーーー!!』

 ・・・では無さそうですね。」

 

 ・・・・・・・・・・・・いろはさん頑張って耐えて。先程の悲鳴はせめてもの情けで聴かなかったことにします。

 八幡さんが時たま使う飛行術式は飛んでいるというよりはまさしく”上に向かって落ちる”という表現がしっくりきます。いわゆる跳躍術式も極限まで絞ればそういった浮遊感などがあったりしますが、八幡さんの場合は本当に地球の重力が逆さまになったのでは?っと錯覚するほどの浮遊感・・・いえ、”頭から落ちていく自由落下”が体を襲います。ちょっとした無重力感などは所謂遊園地的な物でも体験出来ますし、それこそ跳躍術式でジャンプすれば体感出来ますが、空に向かって落ちる・・・といった感覚は流石になかなか体感できる物ではありません。

 それ故に初見の人は大抵グロッキーな事になります。

 かくいう私も初めての時は・・・いえ、必死で堪えましたとも。

 ・・・・・・いえ、そんな話は今は良いのです。重要なのはそれよりも八幡さんの今の状況の確認です。

 

「お兄様、八幡さんが移動なさってるという事はもしかして?」

 

 私が過去のトラウマを思い出している間に電話を続けていたお兄様に問いかける。

 

「概ね想像通りだ。一色家がアジトを見つけたらしく既にそっちに向かって移動中らしい。」

 

『そっちは車で追いかけるなら到着自体は大きくズレることは無いだろうから俺は気にせずそっちの流れで突入してくれ。

 後、どうやら向こうは達也のキャストジャミングもどきにご執心みたいだ。気を付けてくれ。』

 

 お兄様が電話をオープンスピーカーに切り替えた為こちらにも音声が届きます。学内でお兄様を狙っていたエガリテの目的がこれですか。なんと愚かな。

 

「校内のエガリテがやたらと攻撃してきたのはそういうことか。

 それで八幡。その情報どこから得た?」

 

『どうやら俺達のカードにする為に小町達を拉致しようと計画したみたいなんだが、計画が杜撰すぎて一色家にさっくり潰されたらしい。

 一色家がこんなに速く動いてるのはあまりにも計画のレベルの低さから罠を疑ってる部分が大きいみたいだ。』

 

 小町さん達を拉致!?どうやら未遂で終わったようですが、それにしても許せませんね・・・。

 お兄様もお怒りに・・・。

 

「小町達は無事なんだな?」

 

『あぁ、お前がここで派手に暴れても小町はなんの得にもならないどころか小町的に嬉しくない結果になる。

 だから安全確実にブランシュを料理するぞ。』

 

「八幡、俺を瞬間湯沸かし器か何かと勘違いしてないか?」

 

 ・・・平然とはしていますが、お兄様にとって私達が害されることは逆鱗です。八幡さんも気にするのは分かりますが、お兄様もそこまで短気では・・・無いはずです。

 

『いやもしかしたら、ブランシュの人間を一部の危険な奴を除いて”逮捕”から、現在の作戦に参加しているブランシュ所属の人間全員の”殲滅”に切り替わらないかどうかを危惧していたんだが、高校生にもなってそんな子供の癇癪起こしたりはしないか。

 悪い、俺が気を回しすぎてたわ。』

 

「・・・あぁ、俺もそこまで子供じゃあないさ。」

 

 お兄様やる気だったんですか・・・。それよりも話を前に進めましょう。

 

「突入は各々別で、というのは分かりました。八幡さんは一色家の方々と突入する手筈で?」

 

『深雪か?

 いや、俺側は俺一人だ。流石に一色連れて、突入の選択はない。

 まぁ、問題ないだろ?』

 

 まぁ、確かに八幡さんの実力なら大丈夫でしょうけれど・・・。

 今はそれよりも目の前の敵を葬るのが先です。

 

「分かりました、八幡さんもお気をつけて。

 それより、いろはさんは大丈夫ですか?先程から悲m・・・声が聞こえませんが。」

 

「なんか大丈夫になったみたいだぞ。

 じゃあ後でな。」

 

 電話が切れました。

 あれ(八幡式飛行魔法)を初見でどうにかするなんて・・・。いろはさん凄いわね。

 

 

 

 

 




もう差し込むネタ無いからブランシュさっさか片付けよう・・・。

・・・九校戦長くなんの目に見えてるんだしさ。

定型文となりつつありますが感想くれても、ええんやで。

くれても、ええんやで。(すみませんください。

と言うのも、苦言やツッコミとかでも激しく参考になるので何でも良いからリアクションが欲しいのですよ。
よろしければこのタコ作者に色々言ってやってください。


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入学編26

もうじきブランシュ編が終われそうでほっとしているタコ作者が通りますよーーー。

終わってから言えって?・・・ウ、ウィッス。




 

~いろはside~

 

 

 

「きゃーーーーーーー死にます、ホントに死にますって!・・・え、ちょっと待ってくだsきゃーーーー!!!?!?」

 

 頭から真っ逆様に落ちてると体は訴えてるのに地面から体が遠のいてるのは何なのですか!?

 それに、時たま落ちる方向が変わるんですけど!?

 はっきり言って先輩にしがみついてなかったら意識を保ってられたか自信がない。そもそも、最初からこうなることは覚悟していなかったのだから、なおの事だ。

 

 元々、アジトが分かったっていう連絡が来た段階で車を呼ぼうとした筈なのに「別に自力で移動するからいらん」って言うので、移動に適した魔法が得意なのかな?って単純に考え、それに従った数分前の私にもう少し危機感を覚えて欲しかった。

 先輩はわりと無茶するってことを。

 まぁ、今回の場合は無茶するていうよりは先輩そのものが無茶くtyって・・・!?

 

「せんp、いぃいーー!!す、少しまっtえええぇぇええーーー!!」

 

 隣で悲鳴上げてるのに放置ですかこの先輩は・・・!!なんかしれっと電話してるし!!

 ・・・なんか気持ち悪くなってきました。むしろここまでよく保った方だと思います。

 

 で す が !

 

 先輩の前でいたすとか絶対、ぜ っ た い あり得ませんから。

 要するにこの気持ち悪さはこのむちゃな移動で酔ったのが原因です、なら三半規管などの感度を下げればいいのではないでしょうか?思いついたなら即実行です。と言うか四の五の言ってる場合じゃないです。

 私はCADを操作し自分の神経系に干渉。一時的にですが重力等を感じる感覚などを鈍らせていく。まぁ、こんな芸当が出来るのは一色家故の裏技ですけど。

 と言うのも、第一研の研究テーマは対人戦を想定した「生体への直接干渉」。中でも一色家では「神経への干渉」を得意としています。自分への干渉も出来ずに他人への干渉など夢のまた夢なので、一色家では自分の体における神経系の掌握は徹底的に訓練させます。うちの姉なんかは知覚情報を神経ネットワークや脳に干渉して加速させる訓練のやり過ぎで神経系の影響をほぼ0に出来る技術が身に付いてますね。「もう直接精神で知覚する域まで来たわ。」とか少し前に言っていたけど、もうそれ第一研の研究範囲超えてる気がするよ・・・。

 まぁ、お陰というか自分の神経系への干渉と微調整は息をするように出来る様になってるはず・・・そう、なっているはず・・・なのに。

 何故今までやらなかったのでしょうか・・・。

 最初に飛ばされた(落とされた?)段階で使ってれば、最初はまだしもそれ以降あんなはしたない声を上げることも無かったんじゃ・・・。

 いえ、コレも全部事前説明なしで空に向かって自由落下させる(それ自由落下って言うのかな?・・・いえ、そんな事は今はどうでも良いです)先輩が悪いんです。

 この埋め合わせは今度きっちりしていただけますからね?せーんぱい?

 

「あー、一色?生きてるか?

 いきなり静かになったがまさか気絶とかしてねえよな?」

 

「はい。意識ありますよ。気絶するかと思いましたけど。

 今は神経系を制御してこの船酔いみたいな感覚を無理やり抑え込んでます。」

 

 じとーーーと睨みます。先輩がビクついてますがこっちはもっと大変だったんですから反省してください。

 

「お、おう。悪い。

 跳躍術式と大差ないと思うんだがな・・・。」

 

「跳躍術式は体が軽くなる感覚はあっても上に向かって落ちたりはしません!!

 それより先輩。これってもしかして飛行術式だったりします?」

 

 もう、大概ヤバい魔法力見てますから。レアスキルの一つや二つあっても驚きませんよ。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 飛行術式。

 この単語を魔法に関わりが薄い人間が聞くと「空を飛ぶ魔法なんだなー」って感想が出てくる程度の物だが、魔法師が聞けば殆どの人間が「加重系魔法における技術的三大難問の一つ」を思い浮かべるだろう。大仰に"三大難問"と掲げる事からも分かるように魔法師にとっての飛行術式とは基本的に実現不可能な魔法というのが一般的だ。

 だが、何事にも例外という物がある。

 そもそも三大難問に定義されているのは「汎用的飛行魔法の実現」となってる事からも分かるように”汎用的でない”飛行魔法は存在する。もちろん汎用的ではないという点からも分かる通りこういった飛行魔法は個人スキルに近い物で言わば特殊能力や専用必殺技に近い物になる。・・・やべえ、かっけーなおい。

 まぁ最近よく考える内容だっただけに長々と飛行魔法について考えたわけだが、結論から言うと。

 

「飛行術式じゃなくて、上に向かって落ちることを利用した空飛んでる風な魔法だよ。」

 

「いえ、それで飛べてるなら飛行術式じゃないんですか?

 しかも、落ちるってことは加重系魔法ですよね?レアスキルじゃないですか。」

 

 んー。まぁ、確かに広義的に見れば飛行術式か?だが限定的すぎるんだよな。

 

「・・・今、どうやって浮いてるか分かるか?」

 

「上空に擬似的な重力を発生させてるんじゃ無いんですか?」

 

「それだとどこかでキャンセルして自由落下でも混ぜないと干渉力の累積加算が発生する。

 飛行術式が出来ない原因と同じで方向や高度を変える度により大きな干渉力をもって上書きしなきゃいけないから直ぐに打ち止めになる。」

 

 この魔法式が終了する前にもう一回魔法を重ねる工程を使ってる限り永久に空を自由に飛ぶことは不可能だ。

 

「ですから、レアスキルの類だと思ったんです。八幡家は加重系に秀でた家系ですからそういったレアスキルを持ってる可能性もあるかと思いますし。」

 

「その手のレアスキルは古式系の専売特許だろ?

 俺のは原理的に違うし、仕組みも結構単純だ。」

 

 理由が思いつかなかったのだろう。答えを待つようにこちらを見る一色。

 

「あそこに月が見えるよな?俺たちはあそこに向かって落ちてる。」

 

「・・・・・・えっと月の引力を増幅して、月に向かって落ちるから上に向かって落ちてる・・・って事ですか!?」

 

 蓋を開けたらとても簡単。下に引っ張る方(地球)がいらっしゃるなら上に引っ張る方(月)に手伝って貰いましょう。

 

「正確には、俺達にかかってる月の重力を増幅して地球の重力の影響を下げてるんだが、俺は俺を中心に一色が含まれる程度の範囲の引力を操作しっぱなしにする事で短距離でかつ移動先の方向に月がある場合に限って空が飛べる。

 こんな限定的な飛行魔法があってたまるか。」

 

「それでも魔法を使いっぱなしって事ですよね?

 後、途中で向きが変わってたのは・・・?」

 

「そこは魔法の親和性の問題だな。

 八幡家の魔法師は今ある物を増やしたり減らしたりって考え方をする魔法は扱いやすいからな。

 途中で向きが変わってたのは、月に向かって落ち続けると高度が上がりすぎるんで、適度に自由落下をな・・・。」

 

「それって空中に放り出してるって事ですか!?何考えてるんですか!?馬鹿なんですか!?死ぬんですか!?」

 

 やっべ口滑ったわ。

 

「そ、そんな事よりそろそろ目的地近くだと思うんだが、偵察の人間はどの辺りにいるんだ?」

 

「・・・そうですね。アジト手前の森に潜んでるって連絡が来てます。バカですけど仕事はちゃんとするので見つかったりはしてないと思います。

 今位置情報出しますね。」

 

 露骨な話そらしだがおふざけはここまでということで切り替えてくれたようだ。

 ・・・・・・しれっとバカとか言わなかったこの子?部下不憫すぎるでしょ。

 

「だいたい把握。そこそこ距離開いてるし、そこにまっすぐ降りるからその不憫な部下さんに伝えておいてくれ。」

 

「不憫・・・?あ、はい。伝えます。

 あ、降りるときは言ってください。絶対。いいですか、絶対ですよ?」

 

 え、何それフリなの?

 ・・・・・・心読んでこっち睨まないでくれません?

 

「あー、降りるぞ?」

 

 指定された座標はアジトから少し距離がある。まっすぐ降りても問題ないだろう。

 はい、着地っと。流石に少し疲れたな。近くに人が居る感覚があるが、恐らく一色家の奴だろう。

 

「うわ、空から飛んでくるってきいてたけど一気に来過ぎっしょー。

 超驚きまくりんぐなんですけど?」

 

 ・・・・・・んんー?あれ、俺どっかでこの声聞いた事あるぞー?

 気のせい・・・じゃないわ。このウザそうな雰囲気他の追随許してないわ。

 

「・・・おい、なんで戸部がいんの?」

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

~達也side~

 

 

 

「パンツァー!!」

 

 レオの魔法発動により硬化魔法によって強化された車体がフェンスを突き破る。

 現在地はブランシュのアジトとされている廃工場入り口。十文字会頭が用意してくださった車にてブランシュを制圧しに敷地内へ突入したところだ。

 メンバーとしては当初の予定通りの俺や深雪に十文字会頭。それについてきたレオとエリカの他に桐原先輩が参加していた。

 十文字会頭の指名により作戦指示を任された俺はエリカと先の魔法で無理をさせてしまったレオに殿を任せて十文字会頭と桐原先輩に裏口、俺と深雪で正面から突入する運びとなった。

 

 俺の目(精霊の眼)がある限りは待ち伏せという言葉はほぼ意味がない。今も、多数の拳銃武装を持った人間を従えた司一と思われる人物が待ちかまえているのが見えている。まぁ、"ここから制圧も可能”だが一応、自供も取りたいところだ、と待ち伏せに乗って正面から踏み込むと想像以上の小物で拍子抜けだった。

 ペラペラと自供はする中にはキャストジャミングもどきを狙ったことをほのめかし、挙げ句の果てには擬似的な催眠術をかける光波振動系洗脳用魔法「邪眼」(イビルアイ)を撃ってきたため小町たちの件と壬生先輩の件、両方ともの容疑者としての証拠を自ら持ってきてくれたようなものだ。

 本当に手間が省ける。

 邪眼も無力化したし、こいつにもう用はない。生き証人としての価値以外無い以上、早急に捕縛してここを制圧するとしよう。

 

 

 




 もうね、ブランシュって障害が完全についでになりつつある事に気がついて、司一に少々同情いたしました。もう完全に的です。

 さて、最近時間を見つけては書くのに必死で気がついてなかったのですが、UA21万超えてるじゃあありませんか。(←20万代の数字発見し損ねる程度の雑魚がコレです。

 作者の趣味で設定がコテコテ積み上がる妄想にお付き合い頂き誠に恐縮ですが、楽しんでいただけると幸いです。
 感想とか、感想とか、例えば感想とかお待ちしてます。(何卒何卒。


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入学編27

 あれは今から2週間前、もうじき夏休みだと心待ちしていた私はもうじき終わる入学編を仕上げるべく執筆をしていました。

 ですが、この時私は忍び寄る悪魔の到来に気がついていなかったのです。

 そもそも、この悪魔の到来は予想が出来ました。ですが私はそれをすっかり忘れ、忙しい中でも時間を見つけては執筆したりポンプショットガン撃ったり、執筆のネタ考えたり建築したり(いえーい!ドン勝したぜーい!)などと平和的なのか殺伐としてるのか分からないのほほんな生活を送るタコ作者の元にそいつは忍び寄り、そして囁いたのです。。

 キ マ ツ テ ス ト ノ ジ カ ン ダ ヨ !

 ・・・・・・・・・・・・oh.


 と言うわけで答案用紙と格闘しておりました。読多裏闇です。
 相変わらず書き溜めという言葉を覚えられない雑魚がやらかしておりますが、そろそろ入学編も大詰め。
 楽しんでいただければと思います。



~司一side~

 

 

 

 何なんだ、何なんだ、何なんだ!!

 俺の計画の邪魔ばかりしやがって!!

 司波達也に邪眼(イビルアイ)を無効化され、アンティナイトが無いと勝てないと判断し、別の部屋に待機させている別働隊の部屋まで走っていた。そもそもの話、司波達也のキャストジャミングはCADを複数用いることで行う技術だった筈だ。それが「起動式を一部消すだと?」そんな無茶苦茶聞いたことがない。

 そもそも、どこから狂った!?一部を除いて計画通りだったじゃないか!

 そう、コストと時間は掛かりつつも、第一高校への侵食は二科生を中心に多くの2,3年生の中に浸透し、今では割合で計算出来るレベルまで広がっていた。そのほとんどは都合がいいから同調しているだけの人間だが、この数は脅威ではある筈だ。その内部の分裂の隙を突けば、と思ったがここでも司波達也の介入があったらしい。有利に立ち回るべく従兄妹の娘を使おうとしたが小娘一人連れて帰れないとは・・・。挙げ句の果てに一色家が動き出したと聞いたときには激しい頭痛にみまわれた。

 どいつもこいつも使い物にならん!だが、アンティナイトがあれば司波達也もただの高校生の餓鬼でしかない。

 そもそも、これほどの不祥事を何の手土産も無しに帰れば自分の立場がどうなるかは目に見えている。せめてもの挽回として、司波達也の技術くらいは持ち帰らなければならないのだ。

 アンティナイトで司波達也を無力化し、本格的に十師族が介入してくる前に離脱。これで私の勝ちだ!!

 

「へ・・・?は・・・!?」

 

 別働隊を待機させていた部屋にいたのは、物珍しげにアンティナイトの腕輪を眺める比企谷八幡だった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 人は勝利を確信したときが一番油断している。

 典型的な慢心を表す表現だが、残念ながらこの手の慢心は現実ではさして結果に影響を及ばさない。

 強者と弱者という明確な格差が存在する状況ではそもそも隙が出来ることも少なく、その隙をついたところで大勢は決している場合がほとんどであるからだ。

 この手の慢心を突けるのは、突けるだけの実力と、突いて勝てる能力と、慢心している事実を読み取れる観察力が必須なのだが、そんなもの持ってる人間はそうはいない。それに加えてその慢心を突けば崩れるだけの隙で、その隙を致命的になりうる一撃に昇華出来なければ、ただの悪足掻きにもなりはしない。

 ましてや、そうしなければ勝てない状況になってなお慢心をチャンスに引き込めるなんて状況、起こることが奇跡であり、それが実際にチャンスとして機能する状況など物語における空想でしか起こりえるものではない。

 勝っている人間は舐めプでもしない限り敗者に反撃など許さないし、負けている人間に足掻く選択肢など残しておくほど暇な強者はその地位を維持できない。

 それほどまでに強者を崩す事は難しいのだ。

 その・・・筈なのだ。

 

「何故こんなところに居る!?」

 

 いきなりの登場に驚く気持ちは分かるが・・・いや、分からんわ。だってここまでの行程が簡単すぎて正直引いてるもん。

 まぁ俺が言うのもなんだが、ここのセキュリティちょっと甘すぎやしませんかね?

 ここの部屋制圧するのも、魔法で気配を察知されないようにしていたとはいえ後方待機だからって明らかに気を抜きすぎ。奇襲とかまるで警戒してないから雑に数人沈めただけで部隊は大混乱。攪乱するだけで同士討ち始まりそうな勢いだった辺り、攻め込まれてる自覚皆無なん?

 反魔法国際政治団体って名を関したテロリストである以上、魔法師相手に喧嘩するのがお仕事だろうに・・・。武力(魔法)で優れる魔法師を武力(テロ行為)で制圧する部隊にしては準備も戦略も浅過ぎる。相手の土俵で喧嘩する以上、策のない弱者などただの的だ。

 ついでに言うならばこの問題については第一高校所属のエガリテのみなさんも同類と言わざるを得ない。結果的に七草会長が"差別撤廃を推進したい派"の人間だったから良かったものの、そうでなければ差別は悪化。どころか、七草会長が不快感を示せば大きな味方を失う結果になってもおかしくない、というか普通の神経ならキレている程の暴論を投げかけていた。いやーストレス耐性ハンパねえわ、流石はあの七草の狸の娘だn。・・・・・・今背筋に寒気が走ったな?(震え声)

 

 要するにこの事件を総括してみると、なんでこう基本的には逆立ちしたって勝てない相手に真っ向勝負ふっかけてんの?馬鹿なの死ぬの?

 ・・・・・・いや、いろんな意味で死んでるけどさ?

 

「後方部隊が全滅したのかっ!?

 ここにも二個小隊は待機していたはずだぞ!!」

 

「いや、魔法使えるんだから建物の経路通りに入ってわざわざ罠にかかってやる必要なくね?

 それぐらい予想しとけよ。仮にも反魔法国際政治団体なんじゃねえのかよ?」

 

 あーあー、怒りのキャパシティーオーバーって感じだな。なんか喚いてるけどキレ過ぎて言葉になってねえ。

 まぁ、とは言っても時間切れだが。

 

「しかし、すげえ量のアンティナイトだな。

 なぁ、達也。これ、何処産だと思う?」

 

「おそらくチベット産だろう。雇い主(パトロン)はウクライナ・ベラルーシ再分離独立派で、そのスポンサーは大亜連合辺りじゃないか?」

 

「その辺りだよなー。こんな雑魚にこれだけ配れるほど保有してるとなると相当溜め込んでそうだな。」

 

「近年活発に動いてるからな。

 まぁ、そういった大きな事より今は目の前のゴミ掃除が先だ。」

 

 唐突に後ろから聞こえた声のあまりに呑気な会話に冷や水を浴びせられたかの如く冷静さを取り戻し、現在の状況のヤバさと先程の恐怖が甦ったのだろう。青ざめた司一は裏口へと続くドアに向かって這いずる。だが、残念ながらそっちも通行止めだ。

 

「ひぃっ!?」

 

 壁から刃が生えた。

 

「よぉ。コイツらやったのは、お前か?」

 

 その後生えた刃は裏口行きのドアを容赦なく切り刻み、姿を見せたのは桐原先輩。おそらく、裏口からの別働隊だとして、ここまで文字通り敵を切り払って来たのだろう。

 

「いえ、こいつらは八幡が。俺はそいつをここに追い込んだだけですよ。」

 

 桐原先輩は俺を一瞥して、

 

「へぇ、やるじゃねえか。

 ・・・んで、こいつは?」

 

「それが、ブランシュ日本支部のリーダー、司一です。」

 

 

「こいつか!壬生をたぶらかしやがったのは!!」

 

 

 その後の桐原先輩の鬼気は凄まじく、この事件の幕引きに相応しい鋭い一振りでブランシュ日本支部とのいざこざに終止符を打った。ついでに司一の五体満足な生活にも終止符が打たれたようだが。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

~達也side~

 

 

 

 

 その後の流れはとてもスムーズに運んだ。十文字会頭が手を回し事件は内々に処理され、その他誘拐未遂も一色家が後処理してくれたらしい。司一は十文字家がお持ち帰り。後ほど警察へと引き渡される事だろう。

 壬生先輩の方も深雪の報告で明確になった司一の自白内容が決め手となり、精神汚染に対処するため入院が決定。本当なら八幡や小町が見れば精神汚染の治療は一発なんだが、自分の手の内を無闇に明かして不必要に勘ぐられるリスクを作る必要は無いし、流石にそこまでやる義理もない。

 事後処理も終わり特に懸念材料もとりあえずは無いと言って良いだろう。

 八幡以外は。

 

「八幡さん、何故あのようなことを?

 いえ、理由は分かるのです。壬生先輩を助けようとしたのは。その優しい所は八幡さんの良いところで私も大変尊敬しております。ですが、八幡さんが泥を被る必要は一切ありませんでしたよね?」

 

「え、あ・・・はい。」

 

 現在地は比企谷邸リビング。時刻はそろそろ19時を回る頃か。

 現在リビングの中央、ソファーの”前”に対面で正座して話し合い(説教?)しているのは八幡と深雪だ。ソファーがあるのだから座ればいいのだが、深雪の不機嫌オーラ全開の「八幡さん、お話があります。」に劣勢を悟った八幡は、自ら土下座待ったなしのポジションを確保し正座で縮こまった。

 深雪も当然のように対面に正座(基本的に八幡を上に考えている為、八幡にだけを正座させて話をするなんて思考は深雪には以ての外である。)し、本日の不平不満を容赦なく追求。こうなってしまった深雪が基本的に止まらないのをよく把握している八幡は反論も禄にせず相槌を繰り返している。

 

「聞いているのですか、八幡さん!?」

 

「きいてます。

 ・・・いや、だがあれが一番効率が良かったから・・・な?」

 

「効率の問題じゃないんだよ?ごみいちゃん。

 女の人のために頑張ったのは小町的にはポイント高いけど、やり方がほんとごみいちゃんなんだから・・・。

 でも、深雪お姉ちゃんもお兄ちゃんのやり方にダメって”言わない”ならこれ以上は言い過ぎだよ?」

 

 目線で小町に救援を求めてる八幡に溜め息を吐きながらフォローする。

 小町の事のあらましを聞いての感想は「相変わらずだなぁ・・・。」である。そもそもこういった自分自身をリソース換算し効率重視で物事を進める八幡の悪癖は今に始まったことではない。それこそ生まれたときから見てきた小町にとってはいつも通りの兄なのだ。

 それ故なのか"八幡の味方"という所属こそ同じでもそのスタンスに若干の差が出ている。

 とりあえず、この場合は深雪的には納得がいかず、小町としては許容範囲内のようだ。

 

「まぁ、深雪ちゃん。それくらいにしてあげて。

 八幡の馬鹿は今に始まった事じゃないんだから。」

 

「沙夜さん・・・。」

 

 そう言ってキッチンから料理を運びながら沙夜叔母さんが深雪にブレーキをかける。

 比企谷沙夜。旧姓四葉沙夜は名前の通り八幡と小町の母親にして四葉家当主の3姉妹、三つ子の一人である。ざっくりと言えば四葉家当主の四葉真夜の姉だ。今は四葉家関係の仕事から、対外向けの調整などで日本各地を飛び回ってると聞いている。長ければ一月近く家を空けことも珍しくない。

 そんな沙夜さんだが、俺達が叔母上への報告も兼ねて一度集まろうと比企谷邸に八幡と共に帰ったところ水波と共に夕御飯を作っていた。久し振りの再会を皆で喜んだものの、夕御飯の支度でキッチンへと引っ込んだ後は八幡の公開処刑が始まってしまったため今の今まで放置気味になっていた。

 

「とりあえず夕御飯にしましょう。

 今日の報告も聞きたいし。」

 

「沙夜様、お料理は私が運びますのでお席でお待ち下さい!」

 

「あら、たまには母親らしいことさせて頂戴な。

 それと、私のことはお母さんで良いって言ったでしょう?」

 

「いえ、その様な・・・。

 で、ではなく沙夜様ー!」

 

 

 

 

 




入学編最終話を書いてたら前後編になった件について。(何故まとめきれてないかは次話を見ていただければ伝わります。

後編はわりと仕上がっているので早めに投稿できるかと思われます。(作者のついつい入れてしまうコテコテ設定が内容を増やしてしまったのが原因なのでなんとかします。

さて、入学編が終わるにあたって章分けしようかと思ったのですがやり方が分からなくてテンパってる雑魚作者が居るらしいです。(私のことです。
教えて下さる親切な方、募集してます。


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入学編28

思いの他かかりました。

〆に入りましょう。


~深雪side~

 

 

 

 

「報告は以上です。」

 

 お兄様が今回のブランシュ関係について報告を終えた頃には夕御飯も終わり、水波ちゃんが食後のお茶を出してくれたため皆で一息ついていました。今回の流れ自体はブランシュの不手際を除いて、さした問題も発生していない為報告は非常に簡潔に終わりました。

 

「了解よ。真夜にも伝えておくわ。

 それ以外の方は大丈夫?」

 

「はい。雪ノ下家も今回は不自然なほど介入してきませんでしたからね。」

 

 正直、もう少ししゃしゃり出てくると踏んでいたのですが音沙汰がないと言っていいレベルです。ここまで何もないとむしろ違和感があります。まぁ、介入してきて当然というのも不快この上ない状態ですが。

 

「それだけど、単純に行動が遅かっただけみたい。

 どうにも、校内の残党殲滅には結構精を出してたみたいだけど、アジトの所在が分かった頃には八幡達が制圧に向かった後。準備が整って行動した頃には殲滅が終わってるって状況だったみたいよ。

 こちらの動きが速いにしても、手際が悪いとしか言えないわね。」

 

 成る程・・・。行動が後手後手で、私達の後を追いかける結果になったのなら遭遇しないのも納得です。お兄様と八幡さんが動いているのですからこれは当然の結果ですね。

 

 

「・・・え、あれって雪ノ下家のマッチポンプじゃなかったのか?」

 

 

 空気が凍りました。

 

「・・・八幡、その発想は何処から来た?」

 

「いや、普通に考えて入学早々のタイミングで都合良く事件が起きて、それが偶然にも生徒会が介入しにくい内容で、そういったしがらみの少ないとこならさっくり殲滅できるイージーな敵だぞ?

 キャスティングでもしないと存在しないだろ。」

 

 確かに出来すぎているのは分かりますけれどもこの推理は飛躍し過ぎではないでしょうか?

 

「確かに偶然と言うには出来過ぎていますが、誰かの差し金だとしてもそれが雪ノ下家だという確証は無いのでは?」

 

「それについてはそうなんだが、そうでも考えないと事件が起きたこと事態が不可解なんだよ。

 非公開文献盗むにしても何故この時期なんだ?後一年待てば十師族のあらかたが卒業って形で勝手に排除できるのにその1年を待てない理由はなんだ?ただの学生運動ならともかくテロリストがバックについてるにしてはリスク管理が杜撰すぎる。」

 

 確かに、わざわざ面倒事が多いタイミングで行動を起こしているのは不可解ですね。それに、それによって得られるリターンも少ないです。

 

「だから”雪ノ下家のマッチポンプ”という意見がでたのか。

 確かにこの件でブランシュを雪ノ下家が処理すれば十師族に対する嫌がらせになる。巧くリークすればプロパガンダとしても活用できるか。」

 

「ですが、雪ノ下雪乃は二科生差別に参加していました。テロリスト排除で信頼を勝ち取るなら被害者を差別するのはマイナスになるのでは?」

 

「いや、雪ノ下家がほしいのはテロリスト被害者の信頼じゃない。

 もしそうなら公開討論会でアシストする為に何らかの形で参加してくるハズだ。」

 

 確かに八幡さんの言うとおりです。ですが、尚更雪ノ下家の意図が解りません。

 

「おそらくだが、生徒会が出張って要求が通らないのは筋書き通りだったんじゃないか?そのまま無茶苦茶言ってる二科生を黙らせて、言わせてる元凶を雪ノ下が検挙すれば良い箔がつく。

 二科生もテロリストなんかに唆されるのは実力が無いからだ、などと吹聴すれば今の学校の風潮だと差別の悪化は避けられないだろう。十師族が実権を握る世の中に異を唱え、"実力主義"を主張したい雪ノ下家には良いプロパガンダになる。」

 

 お兄様は八幡さんの真意を理解できたみたいです。ですが、その説明では・・・。

 

「まるで雪ノ下家が家の宣伝と十師族への攻撃のためにテロリストを学校機関に潜り込ませた様に聞こえるのですが?」

 

 八幡さんとお兄様の苦笑いが、このあってはならない推測が現実なのだと告げていました。あの輩は何処まで墜ちれば・・・!

 

「確かに論理的な部分で筋は通っているけれど、その説明だと推測の域を出てないじゃない?」

 

 沙夜さんが八幡さんを試すような目で問いかけます。

 

「いや、単純な話。この件を解決して得をするのは被害者以外だと雪ノ下家くらいだろってだけだから、証拠云々はないぞ。だが雪ノ下家だと、こうも綺麗に侵略されている事実にも説明が付くんだよ。第一高校の内部を知っていて手引きが出来る存在、例えば卒業生とかな?」

 

「雪ノ下陽乃か。

 にしても宣伝の為にしては随分手間がかかっているな。数年がかりの計画だぞ。」

 

 雪ノ下陽乃・・・。雪ノ下家の長女でしたね。生憎とお会いしたことはありませんが八幡さんが”全力で警戒していた女性”だったはずです。

 

「それについては俺も思ったが、雪ノ下さんが関わってるのなら考え過ぎぐらいで丁度良い。

 と言うか、その辺りの説明してくれると思ってたんだが違うのか?お袋。」

 

「そうね。きょうは事情説明はするつもりで急遽帰ってきたのだけど、結論から言うなら八幡の出した答えが私と真夜の考えとほぼ同じって感じかしらね。」

 

「調査しきれなかったって事ですか?」

 

 四葉でも掴みきれないなんて・・・!

 

「だから、今分かっているのは雪ノ下家がここ最近ブランシュと連絡を取っていたと思われること、エガリテが第一高校に侵略していること、ブランシュが第一高校襲撃の直前に移動させる前の拠点を知っている風だったことまでは調べられたけれど、エガリテ侵略の手引きについてはまともな情報を引き出せ無かったわ。」

 

「まぁ、雪ノ下家が手段を選ばなくなってきてる辺り切羽詰まってるのは明らかだ。油断せずに対処すれば勝手に自滅する。

 面倒なのは間違い無いが実害は薄い。テロリスト巻き込むような無茶した後だ、しばらくはおとなしくしてるでしょ。」

 

 少し無理矢理気味にまとめられた気がしますが八幡さんが言うように、そんなに都合よく事件が起きるわけではないでしょうから大丈夫でしょう。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

~戸塚side~

 

 

 

『聞いたよ八幡。上手くいったみたいだね。』

 

「そっちも時間稼ぎとかありがとな。」

 

 僕のメインのお仕事は第一高校での情報収集と雪ノ下関係者のスパイ。

まぁ、今回はブランシュのアジトへ行くのを遠回しに邪魔する事だったけど。

 

『正直、邪魔するまでもなくたどり着けなかったっぽいよ?』

 

 現場ではよく分かってないフリをしていたけど、明らかにアジトの位置が分かっているからか、余裕綽々と動いてて達也がアジトに向かったって聞いて慌てて向かおうとしてたし。

 しかも、古い方のアジトに。

 ついでに途中でアジトの場所が変わってるって連絡があったみたいで悪態ついてたし。

 

「まぁ、今回は関わらせない様にしないと後々面倒だからな。イビルアイ使う奴もいたし。

 ああそだ。雪ノ下家が関わってる疑惑、実家に話してなかったのな?」

 

「言わなくても気がつくかな?と思って。それに、変に実家が介入して八幡の邪魔になる結果はあっちゃいけない事だし。

 伝えなきゃいけない場合は八幡は念押しするでしょう?』

 

「まぁそうだが。」

 

 八幡最優先は絶対だからね。雪ノ下関係は当主が敏感だから下手に言うと過剰アシストが来る場合があるし。

 あぁ、そうだった。質問があったんだ。

 

『今回、雪ノ下が原因だって分かったのは何が決め手だったの?』

 

「・・・雪ノ下の言動だよ。

 雪ノ下は理不尽なレッテルで人を貶めるのを嫌う。自分がそれで被害を受けてるからな。だが、今回はそれを意図してやってるどころかあいつらしくもない暴論まで投げていた。

 どうやってもやらされてる感が拭えない。」

 

『異様に早く事態を収束させようと動いてたのは雪ノ下さんたちがブランシュと対峙しないように?』

 

「あいつらが洗脳とかされたら後々面倒なことになるのは明白だろ?しかも、あの手の洗脳は悪意を恣意的に一部に向けさせるのがセオリーだ。そうなれば十中八九俺に向くじゃねえか。リスクマネジメントだ、インシデント処理だ。」

 

 ほんと、相変わらずだなぁ。

 こうやって肝心なところは誰にも頼ろうとしないのはきっと死んでも治らないんだろうな。にもかかわらず望むことは大きいから手が回らなくなって自分すらリソースに使うようになっちゃうし。八幡の言う”効率がいい”は”雁字搦めの中で少ない手筋から取りたくない手段を選択肢から消した上で、自分の能力だけで実行可能な手段”なんて無茶苦茶な物だから、実際に押し通そうとすると自分自身しかリソースが残ってない。だから八幡にとって”最も効率がいい手段”=(イコール)"取り得る唯一の手段"である事がほとんど。一択しかないのに一番もなにもないんだけどね。

 そんな八幡だから、手段や良い悪いにこだわらず動く駒じゃないと本当の意味で”八幡の戦力”にはなりえないんだ。

 だから僕は。

 

『とりあえず、上手く雪ノ下さんたちにとっての味方になるよ。場合によっては八幡の周りの人たちと”敵対的”になるけど、大丈夫かな?』

 

「むしろそうしてくれ。それくらいじゃないと取り入れないし、ボロが出る。

 全部終わったら全部俺のせいにしてくれれば理解も得やすいし、後のことの責任はこっちで受け持つ。」

 

『それこそ気にしなくていいよ。そういう方向ではプロなんだから。』

 

 四葉家直伝の人心掌握術は伊達じゃないんだよ?

 

「お、おう。

 ぼっちには絶対無理なスキルだな・・・。

 ・・・まぁ、なんだ。頼むわ。」

 

『任されたよ。

 僕は八幡の最後の砦なんだから。』

 

 




 とりあえず入学編はこれで終わりですが、微妙にストーリーを被せながら九校戦編へと推移するので九校戦の最初で微妙に入学編のネタを引きずります。
 九校戦のネタは結構暖めてるのでスパスパ書ける・・・はず・・・。(目そらし


それでは次回からは一応九校戦編として物語が進みます。
入学編を終わっての感想諸々ありましたら是非とも一言お願いします。


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九校戦編
九校戦編1


やっとたどり着きました。
本当に入学編で30話弱かかってびっくりしましたが、とりあえず次章スタートです。


 

 ”誤解は解けないだろ、もう解は出てるんだからそこで問題は終わってる。”と、あいつに言ったのは何時だったか。噂やレッテルの押し付けが始まり、俗世に蔓延した段階で一人の人間がそれに対して出来ることなどたかが知れている。ぼっちともなれば皆無に等しいだろう。

 言い訳なんて意味はない。人間、大事なことほど勝手に判断するのだから。

 ただでさえテロリストの襲撃、校内の差別問題の表面化、と校内の不安は最高潮だ。いくら、高い魔法技術を持ったエリートの集団であっても所詮は高校生。表に出さなくともこんな筈ではない理不尽に不満を持っているし、解決したとはいえ被った負債をどこかで精算したいと考えるのは自然な感情だ。そんなおり、分かりやすいほど敵に回しやすい奴が現れたらどうなるか。とても簡単だ。

 分かりやすい責任転嫁先にすべて押しつける。

 あいつは、雪ノ下は似たような場面で「もう一度問い直すしかない」と言っていたか。

 だが、うちの妹様の選択は。

 

「八幡さん。九校戦に出ましょう。」

 

 反論の余地無く真正面から叩き潰す。

 深雪は絶対零度の微笑みと、魔法の発動兆候がないのに完全に空気が冷え切っているA組の教室で静かに提案(宣言)した。

 

「え、いや出ないけど。

 ・・・で、九校戦ってなに?」

 

 八幡のノータイム拒否に、その場にいたA組の人間は凍死を覚悟したとか、しなかったとか。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 話は少し遡る。

 ブランシュ事件が解決した魔法科高校で、俺は一部の人間から悪感情を向けられていた。

 と言うのも、第一高校では表向きこそ七草会長の演説によって差別是正の方針に舵が取られある程度学校が一つにまとまった風になったが、結局の所その直後のテロリスト騒ぎは多数の二科生が参加していたエガリテが手引きに参加しており、差別ではなく批判的な方向での溝が形成されつつあった。だが、テロリストの手先筆頭の壬生先輩が実は精神汚染の被害者であることが伝わり必ずしも加害者と言いきれない部分から同情的な空気が漂うと同時に、とある噂が流れた。

 

"壬生先輩を保護した目つきの悪い一科生がその戦闘の際、彼女に言い掛かりのような誹謗中傷を言ったらしい。"

 

 振り上げた拳の落とし所が無くなった二科生や、差別的な行動に多少の罪悪感を抱いていた一科生などを中心に瞬く間に広がったこの噂はその"目つきの悪い一科生"を即座に特定し、表向きこそ何もしないもの遠巻きから悪感情をさらされる結果となるまで時間はかからなかった。一校ではしばらく、昼食の話題には困らないだろう。

 不幸中の幸いか、共通の敵が出来たことで一科生と二科生の溝は少しづつだが狭まっており、会長の意向に沿っている事もあったため、”七草会長の意志の元やっている”と言う連帯感のような物が生まれる結果となった。

 しかし、幸いと言うべきか例外も存在する。

 特に、うちのクラスことA組は俺への理不尽な差別は妹様の不況を買うことがよく分かっており(実際に公開処刑が発生した。哀れ滝崎・・・栗崎だったっけ?)結果、その様な自殺願望者はもういない。更に、噂の内容に不可解さを感じて詳しい説明を深雪から聞いた雫と光井が”これは精神汚染のダメージ緩和を目的とした自己犠牲に基づく善行”(深雪の説明が元になっている為、八幡擁護の極致のようになっている)だと、クラス内に周知したことで比較的俺への感情は肯定的だ。

 だが、それが更に面倒な状況に拍車をかけた。

 単純に言えばA組の綺麗どころが揃って俺の味方をしている状況に俺への悪感情を向ける人間の嫉妬心やらプライドやらを刺激する結果となり謎の敵愾心が渦巻き始めたのだ。俺としても変ないじめに発展した場合に深雪達が巻き込まれるのは本意じゃない。上手く深雪達と距離を取ろうとしたが案の定読まれ、逃げようとする度に捕獲か行き先に先回りされるといった謎の捕り物を繰り返す結果となった。結果、俺の入学からせっせと発見していたベストプレイス(ぼっち飯出来る場所)は深雪達に完全にマッピングされてしまった。

 この追いかけ回される状況もただの知り合いが困っているが故のお節介なのだが、そこは思春期真っ盛りの高校生。あらぬ勘違いが勘違いを量産し最終的にはA組以外の人間からは"精神汚染された女生徒に誹謗中傷をかけるだけでなく、A組の綺麗どころ3人に護られるクズ野郎"が完成するに至った。

 それに加え状況を混乱させたのが、この騒動の発端である壬生先輩本人の行動だ。壬生先輩はこの八幡の誹謗中傷について責めるどころか、噂をこれ以上流すのを止めるよう皆に呼び掛けて回っているらしい。流石にこの行動は予想外だった為どういうことか調べたところ壬生先輩とあの桐原先輩はこの事件を期に交際を始めたらしく、その桐原先輩が壬生先輩から聞いた話の内容に違和感を感じ、達也を通じて真相を聞きに来たらしい。

 退院後、学校の状況を見た壬生先輩はこの噂を是正する事が最初の罪滅ぼしだと言っていろいろ動いてくれているらしい。・・・・・・八幡予想外。

 紆余曲折あったが最終的には"何らかの理由があったにせよ、やり方が不味すぎる"というのが大多数の生徒の見解として浸透し、一部は未だにやっかみの視線を向けてくる状態がデフォルトとなった。まぁ、ざっくり言ってしまえばこんなクズが深雪達と行動を共にしているのが許せない、何様だ?といった感情が学生の総意となってある意味学校がまとまっている。

 

 その代償として周りの悪感情に比例するように深雪達の機嫌が悪くなっていくのだがな・・・。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

~雫side~

 

 

 

「え、いや出ないけど。

 ・・・で、九校戦ってなに?」

 

 え・・・内容知らずに断ったの・・・?

 断られる可能性は予想してたけど、まさか内容を理解する前に拒否されるのは予想外。おかげで少し絶句してしまった。

 そもそもの発端は八幡の不名誉な噂だ。

 噂なのだからあること無いこと尾ひれが付くのは今更だがそれにしたって限度がある。何より、今回の事件の功労者であり、実際にテロリストと戦って私達を守ってくれた人間を何もしてないその他大勢が取り囲んで攻撃するなんて言語道断。

 なのに、八幡に言ったら「いや、まるで俺にでけえ影響力があるって勘違いしそうだわ。普段認知されないぼっちには新鮮。」とか言ってるし。元々影響力大きいでしょ、学年次席なんだから。

 そこで、深雪達(深雪とほのかと私)で話し合った結果、この不名誉を払拭するには八幡の実力を叩きつけるのが一番早いって結論になった。そもそも、この悪い噂も八幡が壬生先輩をケアするだけの力があるのか疑問に思っている部分と、八幡の実力も見ずに見た目(八幡の基本的な印象は目つきが悪くて猫背で愛想が悪い)で判断しているのが多大な原因だと思う。見た目に関してはみんなで改善していくとして、能力に関しては素直に格の違いを見せれば良いだけなんだから本気を出させたら良い。

 後は、本気を出せる場所に連れて行くだけなんだけど・・・。

 

「魔法科高校に通ってて九校戦を知らないのはどうかと思う。」

 

「聞いたこと無いですか?

 モノリスコードとかアイスピラーズブレイクとか?」

 

 ほのかが補足説明をしてくれてる。

 本当に八幡は物知りなのか世間知らずなのかよく分からない。

 

「あーなんかテレビでやってたな。て言うか、それって出るの3年じゃないのか?」

 

「新人戦がある。

 それ抜きにしても実力で選べば八幡と深雪は出ることになったと思う。」

 

 凄くめんどくさそうな顔してる。普通は九校戦に出れるって名誉な事だし、魔法科高校に通う人なら憧れるものだと思うんだけど・・・。少なくとも嫌がったりするのは相当少数派だと思う。

 

「ていうか、どの話の流れで九校戦に出る話が出たんだ?」

 

「八幡はそろそろ本気出すべき。そうすれば少なくとも侮った目で見られることはないと思う。」

 

 八幡は「気にしなくて良いんだがな・・・」って呟いてるけど、友達がこうも見下されるのは凄く不快。目標にしてる人なら尚更。

 

「それもあるのですが、そろそろ八幡さんの活躍が見たいと思いまして。」

 

「いや、別に俺なんk・・・。」

 

 

「八幡さんの活躍が見たいと思いまして。」

 

 

「・・・・・・はい。」

 

 八幡に自殺願望がなくて良かった。私達も不快だったけど、深雪は殺気を押さえるのに必死と言わんばかりで不快感を溜め込んでたからどうにかしないとって動いて良かった。

 ・・・・・・後、八幡。私まだ死にたくなかったから、とてもとても助かった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

~戸塚side~

 

 

 

『そろそろ俺は罪悪感で死ぬ』

 

「深雪さんたちは良いとしても、壬生先輩のあの行動は予想外だったね・・・。」

 

 僕も下手人だからそこはかとないダメージがあるね、うん。

 と言うのも、この"壬生先輩を八幡が誹謗中傷した。"って言う噂を流す計画は八幡の指示の元、僕がセッティングしたもの。「差別是正をどうにかするなら、互いに遠慮を孕んでるこのタイミングで団結する様に仕向けるのが一番手っ取り早い。目には目を、マッチポンプにはマッチポンプを、だ。」の発言の元、分かりやすい共通の敵を製作することでまとまる下地を作るのが目的だった。要するに、達也への差別意識をどうにかしたいみたい。

 

『壬生先輩には真相はどうあれ、普通に俺のこと嫌いになるようには言ったはずなんだがな・・・。』

 

「壬生先輩のメンタルの強さが八幡の予想を超えてきたって事かな?」

 

 計画自体は概ね順調だったし、独断ではあるけど"あの行為はある種の医療行為"って内容も撒いて八幡自体の能力を見せればそういった配慮が出来るのも肯けるって方向へ持って行くアフターケアの準備もしてたんだけど、まさか本人直々の否定が入ってまとまりきる前に八幡否定派と肯定派で二分化する予想はしてなかった。

 被害者本人であり、さらに壬生先輩本人が結構人望があることも追い風となって二年生の二科生はかなり噂には懐疑的になってるみたい。はっきりと物を言う性格なのも信憑性を上げてる。

 まさか、騒動を招いたのが渦中の八幡本人とは誰も思わず、善意の行動によってあらぬ方向へ学校はまとまっていってしまったのが今回の事件の真相だったりする。

 

「まぁ、でも結果として一科生と二科生が混ざり合った謎の徒党があちこちで発生してるし、結果オーライなんじゃない?」

 

『いや、確かにそうだがなんでその結論の果てに俺は九校戦に出ることになってるんだよ・・・。』

 

 あ、文句を言いたいのはそっちなんだ。

 

「・・・それは逃れられない運命だと思うよ?」

 

 この指摘に反論したいが、理性的にみれば事実なのは八幡も分かっているためただ唸るしかないみたい。

 

「まぁ、夏の課題が免除されるみたいだから役得だと思っとこうよ。」

 

 そう言って報告を終わった。

 八幡は自分の影響力が無視できるほどの小さな物じゃないってそろそろ認めていかないと。

 そう自分でも思えるようになるまで、何処までだって付き合うからさ。

 




思いの外速く書けたのでどっせーい致しました。

まだまだ導入ですがここから九校戦に向けてどんどん設定マシマシになっていきますのでご不明点やご指摘、感想。ツッコミ、違和感、質問などなどお待ちしております。


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九校戦編2

エタったと思われてた方、なんとかかんとか生きております。

次話を楽しみに思って下さった方は土下座も辞さない構えです。(土下座

実習あったり体調崩したりと色々ありましたが詳しいことはあとがきにいたしましょう。
どうぞ本編へ。


 トーラス・シルバー。

 その存在は日本に、いや世界においてこの名前を知らない魔法関係者はもぐりだと言える程有名な天才魔工師(魔工師とは魔法関係の技術者)。シルバーがもたらした技術や理論の世界への影響は凄まじく、今全世界の魔法技術関係者が最も注目している人物の一人だろう。

 

 ループキャストの実現。

 特化型CADの起動式展開速度の20%向上。

 非接触型スイッチの誤差認識率の低下。

 

 ざっくり言えばただでさえ高速化が進んだ現代魔法において、速度を重視した魔法デバイスの魔法発動速度を2割速くしたり、高速使用に便利なデバイスの最大の欠点であった”たまに誤反応する”という点を使用に耐えうる物にしたり、そもそも新しい理論で動かす魔法を編み出したりなどだが、これらの技術一つでも十分に人類史に名が残るレベルの偉業であり、今上げたものだけでも技術者として一生暮らせるどころか各方面に引っ張りだこになる事は間違いない。

 要するに、トーラス・シルバーとはそれ程までに大きな影響力を持つ人物であり、その動向は世界が注目していると言っても過言ではないのだ。

 ところが、そのトーラス・シルバーは登場からまもなく一躍時の人というだけの話題性を与えていながら、当の本人は顔見せNGで引きこもっており、センセーショナルな魔法技術に加えてそのミステリアスさから一時は特集記事まで組まれる様なお祭り騒ぎにもなったらしい。その為、トーラス・シルバー本人が専属にしているメーカーFLT(フォア・リーブス・テクノロジー)も予想外の取材対応でてんてこ舞いになったとか。

 そんな話題性の塊こと、トーラス・シルバーが実際にCADの開発、研究を行っているのがフォア・リーブス・テクノロジーCAD開発第三課。

 そして、そこの主任を務めるのが。

 

『あ、比企谷主任ですかい?今構わないですかね?』

 

「・・・いや、主任は俺じゃなくて、貴方でしょうが。」

 

 電話口で俺は毎度繰り返されているツッコミを入れた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 俺が九校戦に出るのに渋っていたのには非常に深い、深ーい理由がある。

 その理由は単純かつ純粋に忙しいからだ。・・・いや、冗談ではなく。

 将来の夢として不労の象徴とも言うべき"専業主夫"を掲げる俺だが、それが易々と達成できる程世界は俺に優しくなかった。産まれた家系や環境上"最低限身に付けなければならないあれこれ"や"自分の力を十全に使えるようにするためのあれこれ"など生きていくだけでもなかなかに過密スケジュールであった俺なのだが、それに追加でとある趣味にそこそこ時間を割かれるためなかなかに忙しいのだ。

 本日もその趣味が出来る場所に向かって、現在俺と水波は2人でとあるビルの窓のない通路を歩いていた。

 俺たちの目的地はその突き当たりにあり、俺はそこに呼び出しを食らっている。・・・え、呼び出される友達居ないだろって?・・・違えよ仕事だよ。そこの「何かやらかしたんですね?」とか思った奴、怒らないからこっちに来なさい。

 

「本日はどの様な作品をお作りになられるのですか?八幡兄様。」

 

「今日はおそらく達也の新デバイス用の試作機のテストだと思うぞ?

 俺の作る玩具とはレベルが違う代物。」

 

 水波は俺の付き添い兼護衛としてここに来ることになっている。

 本来ならば小町のガーディアンである水波は小町と行動を共にしているのが普通だが、俺が”ここ”に来る場合だけ例外で俺の護衛をする事になっているのだ。そもそもの発端が小町の護衛業の休みの無さがブラックの域を越えすぎているため休みを導入したところ、当時中学1年生だった水波はあまりの暇さに耐えきれず家事を開始。それは仕事だと言って止めると終いには半泣きなる事態に発展したという事件があった。

 水波のプロ意識の高さはワーカーホリックに近い域に達しており、何かにつけて理由を作って休ませるしかなく、当時から趣味のために通っていた場所であるここへ向かう時のみ八幡専属の護衛として一緒に向かう事にして仕事から少しでも遠ざける案が提案され、可決されたのだ。

 因みに、この場所が選ばれたのはここに来ているときが一番水波の機嫌が良いらしいからだ。(小町調べ)

 その際、小町は家でお留守番となる訳だが、小町からしても一人の時間は大いに価値がある時間であり、水波を常に拘束し続けるのは本意ではない事からある意味winwinの関係と言えるだろう。

 

「その試作品の設計は八幡兄様ですよね?」

 

「構想と前の試作品の問題点の洗い出ししただけで、一連の組み立てから図面引きまでやって、今日のテストまで漕ぎ着けたのは牛山さんだぞ?」

 

 そう、今日は先程も言ったとおり試作品のテストを行う、紛う事なくお仕事なのだ。・・・そう、お仕事なんだよな。この単語だけで気が滅入る・・・。

 嘆いているうちに目的地にである部屋に到達。ドアを潜って中に入る。

 

「・・・休日出勤とはなんてブラックな。」

 

「あ、主任!お待ちしてました!」

 

「だ、か、ら、主任じゃねえっての!!」

 

 というわけで本当の主任こと、牛山さんに呼び出された俺はFLT・CAD開発第三課の開発室に来ていた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

~水波side~

 

 

 

 FLT・CAD開発第三課の方々が八幡兄様のことを主任と呼び、それを訂正する毎度恒例の歓迎を受けています。

 本来ならば従者として割って入るところですが、研究所の方々が八幡兄様の実力に尊敬をもってこの呼び名を使っていることが分かっているためあえて何も言いません。

 なにより、こうやって八幡兄様の実力が認められ、活躍する姿を見ることが出来る貴重な場面です。八幡兄様はあまり自分のお力を誇示しようとはなさらない為こういった機会はあまりないのです。

 ”私の我が儘”を聞いて下さった比企谷家の皆さんには感謝の念が堪えません。

 ですので、その恩に報いるためにもいつも通り八幡兄様を補助しなければ。

 

「たいしたものではありませんが、簡単な焼き菓子になります。

 あまり粉が散らばらない物にしたので、良かったら皆さんで食べて下さい。」

 

 遠巻きに立っていた研究者の方に朝方作ってきた焼き菓子をお渡しします。

 

「いつもありがとうございます!

 おい、メイドちゃんがお菓子作ってきてくれたぞー!」

 

 この「メイドちゃん」というのはこちらの研究者の方達においての私のあだ名で、私が八幡兄様についてくるときは大抵こういった差し入れを持ってきている事から浸透してしまいました。

 私としましても、心情的にはメイドでありたいとは思っているので、あまり嫌な気はしていません。

 

「いやーいつもいつもすいませんねぇ。

 主任もわざわざ呼びつけてすみません。」

 

「もうツッコむのもめんどくせぇ・・・。

 で、この前の試作品のテストっすよね?いろいろ動作を”見る”事は出来ますけど、これ以上はほぼ微調整の域ですし、素人が介入して良いものでは無いんじゃないですか?」

 

  八幡兄様の趣味はCAD制作です。

 趣味とは言いつつも、必要性にかられたものが趣味に転じた側面が強く、実用性の高い事から四葉に縁がある企業のFLT研究室を使える様に手配して貰っています。本来ならば子供が出入り出来るような場所ではないのですが、ここの実質的トップが八幡兄様と同い年の少年であったこともあって大きな問題も無く受け入れられたとか。

 

「私達プロが死力を尽くして用意したデバイスの問題点と改善方法をサクサク指摘したあげく、あのミスターシルバーのプログラムにハード目線での改善を要求できる人間を素人扱いしたら世界中の研究者が失業しちまう。

 もし主任が居なかったら、あのシルバーのプログラムに見合ったハードが作れなくて研究者として全世界に恥晒す所だったんですぜ?

 どころか御曹司の看板に泥塗っちまう様な事になれば俺たちゃあ死んでも死にきれませんよ。そうでしょう?ミスタートーラス。」

 

「・・・その名前は俺には荷が重いっての。

 それに、天才なのは達也であって、俺は”目”が良いだけだ。」

 

 あのトーラス・シルバーは世間では知られていませんが、実は2人組でその正体は八幡兄様と達也兄様のチームとしての名前です。しかもその両方が未成年という事もあり完全に正体を伏せています。

 八幡兄様はその中でも主にハード担当で、世に出ているシルバーモデルの基本構造やデバイスの初期設計は八幡兄様のアイデアを元に作られています。

 達也兄様はその逆でありソフトがメイン。過去の数々の功績は達也兄様のアイデアを元にしたものが多く、世間の目はそこに行きがちです。

 現在FLTの第三課では基本業務に加えてトーラス・シルバーが考えた術式の為の試作デバイスの開発も行っており、どちらかと言えばこちらの方がメインであると言っても過言ではありません。事実、トーラス・シルバー監修のデバイスの売上が全体の数割を占めていることでいかに企業として価値が大きいかが伺えます。

 もちろん、トーラス・シルバーの試作用デバイスも開発が進めばそれによってバージョンアップしていくのが基本なので、その度に八幡兄様は製品のチェックや指摘などを行っています。

 

「失礼ながら八幡兄様。その天才である達也兄様の起動式にまともに耐えうるハードを制作できる方がこの世でどれだけ稀少な存在か、目を向けてみても良いと思うのですが?」

 

「いや、牛山さんなら出来るだろ?むしろ余裕まである。」

 

「出来ないたぁ言いませんが、それを趣味の範囲でやってのける主任と同じ仕事ができてると言えるほどの恥知らずじゃ無いですぜ?

 それよか、仕事の話にしましょうや。」

 

 




お待たせしてやっとの事で本作品の作品紹介の複線拾えました。読多裏闇です。

この1ヶ月ちょっとですが学校の実習へ行ってガッツリ忙殺されておりました。
まさか何も出来なくなるほど過酷だとは・・・。

と言うわけで、そろそろ本格的に執筆再開です。
ガンバリマスヨー。


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九校戦編3

実習が終わっても忙しいことに変わりがない、そんな現実から目をそらさんと毎日邁進しております。読多裏闇です。

もう少しちょこちょこ更新したいのですが、体がついて行ってません。1日、72時間ならないですかね?(それ、増えてるように見えて寿命変わらないから結果的に差はないって事実には触れてはいけない。

そんなこんなでぐだぐだですが本編どうぞ。


 定期試験という高校生特有のデスマーチを乗り越えた魔法科高校の生徒は解放された奴隷が如く清々しい顔をして夏休みに向けての計画や、夏休み中にある大型イベントである九校戦の話題で盛り上がっている。

 そして、俺の気分は盛り下がっている。

 いや、定期試験は問題なかったですよ?予定通り深雪の後塵を拝してるし、ペーパーはいつも通り手は抜いてないしな?もちろんの事ながら実技も呼び出されるようなヤバい点数は出していない。

 だから俺の過失が今回の定期テストにおいて一切無かったのは疑う事がなく、俺の無罪は決定的に明らかであることは誰の目から見ても明らかな筈なのだ。

 ・・・なのに何故、俺は呼び出し食らってんすかね?

 

「どうやら手を抜いていないのは本当のようだ。にわかには信じがたい、と言いたくなるがね。」

 

 認めたくない現実から目を背けていると、どうやら達也にかかった嫌疑が晴れたようだ。

 俺達というか俺と達也だけだが、テストの採点結果が出ると同時に呼び出し食らっていた。

 内容を詳しく聞いてみれば俺達の手抜き疑惑が浮上しているらしい。

 確かに、達也のテストは理論だけ見るとずば抜けている。一般的な学生がこれを見れば運動が苦手ながり勉タイプなだけ、と見られるのだが、魔法知識を用いた魔法科高校ではこういった結果は異常だと言われてしまうだろう。

 何故なら、こういった理論も魔法的感覚や経験があって初めてイメージに結び付くようなものが多く、魔法的な素養が薄ければ理解しにくいものが多い。結果として今回の定期テストの理論分野だけでランキングを並べれば下位50%に二科生が多く見られるだろう。

 そんな中、達也がはじき出した点数が一科生を差し置いて2位に5点、3位に至っては10点以上引き離したダントツのトップ。

 これを見た教師陣が実技の手抜きを疑うのも無理はないだろう。

 そう、達也に関しては別に呼ばれても理由は納得できるのだ。

 

 なんで、俺、呼び出されてんだよ!

 

「あの、俺手抜きしてないんで帰って良いっすか?」

 

「あーすまない。比企谷に関しては少し訂正だ。

 司波と違ってお前は手抜き”疑惑”じゃなくて手抜き”するな”って言う警告だ。」

 

 断定かよ。

 

「いやいやいやいや、手抜きして次席とか普通に考えて取れないでしょう?」

 

「私もな、手抜きして失敗してたら呼び出さないんだがな・・・。明らかに手を抜いているのに次席なんて叩き出されると呼び出さざるを得ないんだよ。

 分かるかい?」

 

 分からないです。分かりたくないです。

 え、俺試験の時何かやったか?

 

「すみません、私と違って明らかな手抜きがあったような話なのですが、比企谷はどの様な手抜きをしたんですか?」

 

 達也が俺の助け船を出してくれた。

 

「・・・まぁ実際に横で見ている生徒も居たから構わないか。

 容赦なく言うと試験に対して真剣味が全くなかった。

 私が担当した処理能力を見るテストでは順番が回ってきた事にも呼ばれるまで気が付かず、緊張しているのかと思えば怠そうにCAD動かして結果も見ずに欠伸をしながら去っていったな。」

 

 あーあの日、夜中までCAD弄ってたから眠かったんだよな。いや、別にテスト項目に態度とか無いからよくね?

 

「それでそれ相応の数値ならば納得なのだが、計測器の故障を疑うレベルの司波深雪さんの点数に微かに届かない程の高点数をはじき出している。

 それが私のテストの部分だけならばまだ偶々の出来事だとも思えなくもないが、実技担当全員が共通意見だと、な?」

 

 な?じゃねーよ。

 

「・・・八幡、流石に擁護できる点が見つからなかった。

 断定出来るかはさておいて、呼び出されるのは仕方がない。」

 

「・・・えっと、再試っすか?もっかい実技やればいいんですかね?」

 

「そうするのが妥当ではあるのだが、こと、今回に関しては能力というよりは生徒指導の分野が強い気がしてな。それも含めて色々な方々と相談したんだが、丁度良い案件を生徒会から聞いたんだが、なんでも九校戦の出場を渋っているらしいね?」

 

 ・・・え、ここでこの話出てくんの?それ職権乱用じゃないすか?

 

「え、いや、それはですね?」

 

「教師陣としても君の九校戦出場はお願いしたいところだ。これは学校としての意義ももちろんあるが、君の経験として価値のあるものだと思っている。

 試験を適当に受けた罰だと思って参加しては貰えないか?」

 

 主犯はあの会長か?深雪も一枚噛んでそうだな・・・。

 とりあえず今は、どうにか出ないですむ手段は・・・。

 

「出られないならば夏の課題を大幅に増やす方向になるが・・・。」

 

 

「出場させていただきます!!!」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

~達也side~

 

 

 お昼休みの生徒会室、昼食をつつきつつの会話は自然と今話題の九校戦の話になった。

 生徒会では、出場選手の選抜から練習のスケジュール、作戦会議の統括に移動の手配も含めて当日までは準備にバタバタし通しになるのだからある種の必然的に出てきた話題であろう。

 

「そう、じゃあ八幡君は参加する事になったのね!

 知恵を絞った甲斐があったわ。」

 

 そう言って八幡へ一泡吹かせられたことを隠すそぶりもなく喜ぶ七草会長。一体何がそこまで駆り立てるのか分からないがあの八幡の事だ、何かやらかしたのだろう。

 

「喜ぶのは勝手ですが犯人が会長なのはバレてます。

 練習などの説得は自力でがんばって下さい。」

 

「それについては深雪さんに手伝って貰いましょう。

 となると、残りは出場選手の微調整と・・・エンジニアよね・・・。」

 

 ストレスの権化かのような深いため息をはく会長。

 

「まだ数が揃わないのか?」

 

「うちは魔法師の志望者が多いから実技方面に戦力が偏っちゃって・・・。

 三年生は特にそうだし、はっきり言って魔工師関係の人材不足は危機的状況よ。」

 

 先程からエンジニア、と呼んでいるのが要するにCADの調整する競技参加ではなく補助をメインとしたスタッフのことだ。

 CADは使う魔法の起動式をただ入れておきそのまま使うだけでは十全使用できない機械である。CADはその機械を当人が使いこなすための専用機器となるように微調整して使うことが推奨されている。

 特に、こういった競技などの少しの差が勝敗に直結するような使用方法となると、CADの調整の誤差がそのまま結果に繋がってしまうことも少なくない。

 

「・・・せめて摩利が、自分のCADくらい調整出来るようになってくれたら楽なのだけど。」

 

「・・・いや、本当に深刻な問題だな。」

 

 悩んだところでエンジニアスタッフが湧き出るわけでは無いため議論というよりは愚痴合戦になりつつあるが、この話題の終着点が非常に雲行きが怪しい。

 早々に撤退・・・。

 

「あの、だったら司波くんが良いんじゃ無いでしょうか?」

 

 ・・・に失敗した。

 

「盲点だったわ!」

 

 そのまま見失っていて欲しかった。

 

「そうか・・・わたしとした事が、うっかりしていた。」

 

 改善してほしいうっかりさはここではない。

 など、思うところは色々とあったが、委員長が参加した段階でもうチェックメイトといってもいいだろう。

 だが、無条件降伏は主義に反する。

 

「エンジニアチームに1年生が加わるのは過去に例がないのでは?」

 

「何でも最初は初めてよ。」

 

「前例は覆す為にあるんだ。」

 

 こうして無駄ながら反論を繰り出すも生徒会内では達也のエンジニアチーム入りに反対意見どころか肯定的な意見しか出てくることはなく、最後には深雪の「九校戦でもお兄様に調整してほしい。」という申し出が決め手となり完全に退路を完全に断たれ、俺は反撃は諦めた。

 だが、タダで倒れてやるのは癪だ。

 

「そもそもなのですが、最初に頼む人間を間違えていませんか?」

 

 そもそも人間が居ないから白羽の矢が立っている状況の為、敗色濃厚な達也が苦し紛れに放った内容とでも思われてる感じだが事実、俺より適任な奴は居るのだ。

 

「八幡ですよ。

 俺と同じで悪目立ちはしてますが、相応の実力を”学内の物差し”で示しているのは大きいと思いますよ?」

 

 深雪は俺が参加する以上、八幡が参加する事を信じて疑っていなかったようだ。

 

「確かに成績の上では十分なのは分かるが、あいつは調整もできるのか?」

 

 そう疑問を浮かべた摩利を見て、そう言えば”深雪のCADは俺が面倒見ている”としか情報が伝わっていない事に気が付いた。確かにこれでは誤解が生まれても不思議ではない。

 事実を知ればいかにとんでもない勘違いだったかに慄く事になるがそれは今”伝えられることではない”ので放置するとしよう。

 

「渡辺先輩、私のこのCADは八幡さんのハンドメイドの物なんです。」

 

「「「なっ!?(えっ!?)」」」

 

「なるほど!カタログで見たことのない機種だと思っていたのですが、やはりオーダーメイドだったんですね!」

 

 約一名を除いてこの場が驚愕に染まる。(別に中条先輩が驚いていないわけでないが、驚くの性質が違った。)

 

「あーちゃん気が付いてたの・・・?」

 

「市販のものではないのは分かってました。ですが、まさか比企谷君が作ったものだとは思いませんでした・・・。」

 

 実際のところ会長達の驚きは当然のものだ。確かにCADの調整が出来るのは十二分に認められるべきスキルだが、CAD自体の制作が出来るのと比べると最低限求められる能力の敷居が差があるからだ。

 突き詰めていけば確かにどちらも重要な技術であり、極めるのは高校生程度では難しいものの、最低限以上で少なくとも"深雪が普段使いとして使用して問題がないレベル"の物ともなれば市販されているものに匹敵する証明でもある。

 言わば"ここにプロの技術者と大差がないレベルの魔工師が居ますよ"と言われた様なものだ。驚くのは無理もないだろう。

 

「お分かりいただけたと思いますが、八幡の”方が”適任です。」

 

「そうね。八幡君”も”適任みたい。

 じゃあ、放課後にミーティングがあるから来て貰えるかしら?

 深雪さん、八幡君も呼んで貰える?」

 

 会長はそう言って俺の退路を断った。

 回避には失敗したが被害は減らせそうだな。それにあの無自覚な天才はこうでもしないと実力を使おうともしない。たまには良い薬だろう。

 

「そう言えば、司波くんは深雪さんと違って比企谷君の作ったCADを使ってないんですね?」

 

「・・・シルバーホーンは八幡に勧められて使ってるデバイスなんです。俺にはこれが向いている、と。

 事実、俺の資質には一番向いている物だったのでそのまま使っているというわけです。」

 

「なるほど!高い技術を持ちながらも、より良い物を勧められるのは同じ技術者志望としては尊敬できますね!」

 

 勘違いを誘発するような言い回しをしたが、予想通り誘導されてくれた。

 俺が八幡が作ったCADを使ってないことを"否定していない”事に誰も気が付いていないようだ。

 




やっと伏線を少し拾い始めました。
九校戦本体が長くなりそうなのでそれまでのわちゃわちゃはスピーディーにやりたい(願い)ですが、どうなるかは状況次第になります。


気が付くとお気に入りが2000人超えてたり栞挟んで下さってる方が500超えてたりで大変驚いております。ありがたいです。

更新速度もですが、内容も可能な限りうまく作っていきたいので、疑問やわかりにくい点など御座いましたら指摘や質問をお願いします。


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九校戦編4

少し遅くなりました。
そして長くなりました(本編が
少々ボリュームがありますがおつきあい下さい。

そして少しだけ注意書きです。
魔法科高校のアニメのみ視聴の方は特になのですが、今回のメインで動くキャラが皆さんのイメージとかなり違うと感じる方がいらっしゃるかもしれません。
原作をわりと読んでいらっしゃる方はある程度納得頂けると思っていますが、アニメではそこそこに描写がカットされていた部分も無きにしもあらずだったので・・・。
後書きの方に少し何故こういった流れなのかの補足を入れますので、そちらも見た上で私なりのこのキャラの解釈を楽しんでいただければと思います。



 神と仏は宗教的にはどちらも崇められる存在ではあるものの、比べてみると扱いが結構違う。

 細かい部分を言い始めるとキリがないが少なくとも言えるのは”間違いなく、神様の方が導火線が短い”ということだ。

 なにせ、仏さんは3回目にはキレるけど2回くらいなら鋼の自制心で見逃してくれるらしいのだ。これが神様なら1回目でキレて周りも巻き込んで連帯責任で吹き飛ばされることだってあり得る。連帯してなくても同じ人間だったら責任は取らされる。マジ理不尽。

 それに比べて仏さんはろくに怒らず、体力を無駄に消費しないエコロジー的生き様だし、修行中はかなりのぼっちと来ている。言わばぼっち界の先人ではなかろうか?マジ、リスペクトだわー。

 だが仏さんと俺では根本的にスペックが違う。

 あの温厚な仏さんですら3回でキレるのだ神でも仏でもないただのプロぼっちでしかない俺が、我慢できるものなどたかがしれている。ましてや神様ならいざ知らず、俺程度がカムチャッカファイヤーしたところで猫も死なない。

 訓練されたプロぼっちであり仏さんリスペクトな俺はそう簡単にキレたりはしない。だが、ムカつきはするのだ。

 要するに何が言いたいかっていうと。

 

「俺の夏休みを返せ。」

 

「それ、今言うべき事なの・・・!?」

 

 やっべ、口に出てた。

 

「八幡君?そんな事よりも達也君のフォローをしてあげてほしいのよ。

 愚痴は後で聞いてあげるから、ね?」

 

「自分で追い込んどいて何”下手に出ました”風装ってるんですか、会長。

 ・・・しっかし言いたい放題だな。」

 

 現在、ここでは達也のCAD調整講座(と言えるだけの価値がある)ならぬ達也のCAD調整のスキルの試験を行っていた。二科生である達也のCAD調整スキルに疑問視を投げかけた上級生のエンジニアチームが達也の参加に反対したため、十文字会頭の「なら実際にやらせてみればいい」という正論に従った結果である。

 だが、ここで問題が発生した。

 達也の技術力に周りが付いていけなかったのだ。

 七草会長の"魔工師関係の人材不足は危機的状況"というのは誇張でもなんでも無かった様で、プロの調整技術者が見たら背筋が凍るような達也のオペレーションを”出来上がりが平凡”や"一応の技術はある"などで片付けている辺りお察しだ。

 中条先輩と他数名は達也を迎え入れる事に肯定的(どころか頼み込んででも入って欲しそう)な空気で状況を追っているがいかんせん反発者が多すぎる。エンジニアチームの約半数(7名しか居ない為実質3名程だが)に加えて会議に参加している一科生が反対側に加わり、かつ半端な知識で混ぜ返す為、高度な話をしてる風なのにやっていることは因縁の付け合いという建設性の薄い”話し合いの様なもの”が構築されていた。

 達也は正直どう転ぼうがどうでも良いのもあって放置している。

 深雪も堪忍袋が爆発するのは秒読みに入ってきている。会議室が冷凍室になるのは時間の問題。

 反発内容も俺にすらツッコミどころだらけの素人発言のオンパレード。

 

 ・・・なんかもうどうでも良くなってきたわ。

 

 なぜ、請われて参加した奴がこうも否定されなければならない?

 達也は別に参加を望んでるわけでもなければ、参加を提案したわけでもない。どころか、エンジニアチームに”参加する事の問題点”まで指摘してまでいる。

 何より、手が足りないのに例え"平凡な腕にしか見えない"状態だったとしてもエンジニアチームとして参加を拒否するコイツらの頭には蛆でも住んでるようにしか見えない。

 

 お前らほんと、一回黙れよ。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

~達也side~

 

 

 俺は現在進行形で後悔していた。

 八幡をエンジニアチームに迎え入れるのは悪かったとは思っていない。だが、"この様な不快な空間"に来なければならない状態に追い込んでしまったことに多大な後悔をしていた。

 俺としても、反感はあれどここまでレベルが低い反論は予想していなかったのに加えて、八幡のフラストレーションがここまで溜まっているとは考えていなかった。

 ・・・いや、言い訳を並べてる場合じゃないな。止めないと。

 

「はぁーーーーーーぁ。

 もう帰ろうぜ達也。俺達が出る幕じゃねえだろ、これ。」

 

 遅かったか。

 いきなりのこの発言に会議室の時間が止まる。取りようによってどうとでも取れる言い方だけにどういう意図なのか判断に困っているのだろう。

 まぁだが、提案自体は比較的温和だったのが救いだな。こっちで上手く誘導すれば衝突は避けれるか・・・?

 

「確かにそうかもしれないな。

 どうでしょう会長。チームワークを崩してまで強行する事でも無いと思いますが?」

 

「待って下さい!!

 今この場で一番高い技術力を持つ司波くんを外してエンジニアチームを存続させるなんてありえません!!」

 

 ここで予想外な所から反論がきた。

 正直、中条先輩にここまで強い推薦を貰うとは思わなかったな。若干過剰評価気味だが。

 だが、この状況でその言い方はまずい。間接的に下に見られた他のエンジニアチームメンバーの標的が中条先輩に切り替わりかねない。

 

「あーちゃん、達也君の技術力が凄いのは分かるのだけど、どれくらいのレベルなの?」

 

 だが、七草会長が質問を挟んだ事で暴発は回避されたようだ。若干食い気味の発言だった事から、エンジニアチームの反撃を牽制する為だろう。実際数名は怒鳴りあげかねない状況だっただけにまさにファインプレーだった。

 

「今回の課題ではあくまでもCADを複製する調整的価値しか無いですが、最初から競技に適した調整を完全マニュアルで反映させれば、機械調整と比べものにならない物になるのは明白です。」

 

「さっきの調整の出来は平凡な物だったじゃないか、何故そこまで言えるんだ!」

「先程も言ったが変則的にやったところで結果が伴わなければ意味がないよ。」

「何故そこまで庇いたてるんだ?私情で判断するべき事じゃないだろ。」

 

 反論から人格攻撃にシフトし始めている。

 こうなると俺が辞退した所で収拾がつきそうにない。それに、このままだとエンジニアチームの不和を誘発しかねない。その恨みがこちらに向くならばまだしも中条先輩に向くのは気持ちの良い物ではないし、そういう兆候が見えてしまった以上。

 俺が何を言ったところで八幡は止まらないだろう。

 

「良いじゃないですか、達也の調整を平凡なものって言い切れる技術者ばっかりなんでしょう?

 なら俺達が入るまでもなく自力でどうにか出来るんじゃないですか?」

 

 中条先輩に投げかけられた八幡の補足に肯定的なのか驚いたのか、一時的に反論が止まる。

 

「ですが・・・。」

 

 これで終われば中条先輩が駄々をこねているかのような雰囲気を作り上げただけだ。これでもエンジニアチームの為に賢明に考えた結果意固地になってしまった、ともとれなくは無いため、今後中条先輩を責める人間は減るだろう。

 

「それに見た感じ7人は確保してるんですよね?規定数8人らしいですしもし俺も入るなら1人溢れます。

 なら面倒にならない様に人選した方がいいですよ。どうやら人数的に足りてないのにプライドの保持に忙しいみたいですからね。だったら全体の利益にならない行動より問題ある一部を切り離して世界を維持した方が効率がいい。

 一人は皆のために、って奴ですよ。」

 

 やはり、八幡の虫の居所は相当に悪い様だ

 おそらく八幡的にこんな針のむしろな環境ならば、俺を入れない方が良いだろうという判断も当然あるのだろう。それに加え、あまり技術を出し過ぎるとトーラス・シルバーの話が露見しかねない懸念もある。だが、その程度でバレるほどシルバーの情報封鎖はヌルくはない。となればここまで攻撃的に出ているのは中条先輩を助けることに加えて技術者としての潔癖性が出ている為だろう。

 八幡の理想は高い。

 あいつは汎用型のCADにすら特化型並の専用性を要求しようとする面がある。また、基準も世界のデバイスを基準としている為”高校生の物差しで考える”ということが出来ていない。それ故なのか先ほどの”能力が足りてないが故のズレた会話”は八幡を苛つかせるのに十分な働きをしたらしい。

 相変わらず、自分にヘイトを集める手法は変わらないものの今回はエンジニアチームの膿を叩き潰すつもりらしい。場合によってはエンジニアチームに入ることにもなるだろうが、その場合は実力で叩き潰すつもりなのだろう。搦め手に走りがちな八幡には珍しいやり方だ。

 この流れに乗じて上手く推移すれば自分のエンジニアチーム入りを回避出来る様にしてる辺りらしい狡猾さだが、八幡が完全にキレる前に冷静さを取り戻してくれたので十分としておこう。

 と、思っていた時期が俺にもあった。

 

 

「なら、私がエンジニアチームを抜けます!!

 司波くんと比企谷くんが代わりに入って下さい!!!」

 

 

 八幡が本気で介入してきている為、大筋で流れが変わる事はないと踏んでいただけに思考が一瞬停止した。

 いったい何がそこまで彼女を駆り立てるんだ・・・?

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

~あずさside~

 

 

 

 

「なら、私がエンジニアチームを抜けます!!

 司波くんと比企谷くんが代わりに入って下さい!!!」

 

 あぁ・・・、言ってしまいました。

 私としても、ここまで言うつもりは無かったのでこの後のことは全く考えていません。おそらく、これを言われても比企谷くんにも司波くんにも迷惑にしかならないでしょう。

 でも、我慢できませんでした。何より、この二人を差し置いて私がエンジニアチームとして、第一高校の代表として参加するなんて恥曝しでしかないと思ってしまったのです。

 ですから・・・。

 

「調整スキルでは司波くんに、ハードでは比企谷くんに。

 少なくともこの2点においては確実に劣っている私よりもこの二人が出るべきです!」

 

「・・・ちょっと待って下さい。

 何故そこまでして俺達を推すんですか?」

 

 確かに少し過剰に推してる自覚はありますので司波くんの疑問も分かります。ですが、同じ技術者として譲るわけにはいかないんです。

 

「司波くんに関しては先ほどから説明したとおりです。私達エンジニアチームの中で間違いなく一番の技術者だと思っているからです。

 比企谷くんについては先程、深雪さんのCADを見せて貰ったときからエンジニアチームに引き入れるつもりでした。ハンドメイドで市販のCADを超えかねないスペック。同じ高校生である事に疑問を覚える程でした!」

 

 CADの自力制作。その価値を知らない魔法技術者はいません。これで比企谷くんへの目がかわるのが感じられます。

 先程の話し合いの後、どうしても我慢が出来ず恥を忍んでCADを見せてほしいと深雪さんに頼み込んだ私の感想は"このデバイスが欲しい"でした。

 比企谷くんの自作のデバイスであり、部品すらも自作であることを肯けるもの、目的が不明な機構や斬新な部品配置からその意味を推察し始めた段階で、比企谷くんのデバイスのファンになっていることに気が付きました。

 私はCADデバイスが好き。

 昔からCADのカタログを眺めたり、実物を見て分解した数も同年代の女子から見たら異常なほどになっているでしょう。

 だからこそ分かる高い本物の技術力。間違いなく市販されていないパーツがいくつも使われたそのデバイスはオーダーメイドである証拠であり、深雪さんがわざわざ比企谷くんが作っていると嘘をつく必要は無いことからも比企谷くんが作った一点物なのは明らかでしょう。

 だからこそ、これを作った比企谷くんは勿論、自分の作品のソフトを任せた司波くんもさぞ凄い技術があるに違いない、そう思って今日のテストを見ていました。

 結果は予想の斜め上、比企谷くんがソフトを任せているのが納得の本物の技術力でした。

 

 だからこそ、私の仕事はこの天才達が十全に、万全に仕事を出来る環境を用意することです。

 

 傲慢ですが、私の今までの頑張りがこの天才を見つける為にあったのだと思えば大きな価値があったと胸を張って言えます。現に理解出来たのは私も含めて数人だけ。

 だったらただ1年早く産まれ、生徒会に所属しているだけでしかない私でも、立場だけはあるのだから持てる全てでアシストしたい。

 それが私の使命だと思うから。

 

「会長、私は司波のエンジニアチーム入りを支持します。」

 

「えっ?・・・服部くん?」

 

 予想外でした。服部くんはあまり司波くん達に好意的ではなかったと思っていました。

 

「先程のテストではスペックの高いCADからロースペックなCADへ起動式の内容をフルコピーし、かつ、使用者に違いを一切感じさせなかった。起動式に触らないという条件を遵守した上での成果としては十二分どころか高く評価されるべきだと思います。」

 

 私とは違う、目に見える部分で確実な成果を並べていることで反論が出来ないのでしょう。静まり返る会議室に服部くんが畳み掛けます。

 

「九校戦は当校の威信を掛けた大会です。エンジニアチームのエースである中条が"エンジニアチームの中で間違いなく一番の技術者"と評価した事実は重く受け取られるべきものでしょう。

 当校は実力主義であり、魔法師を目指すものとして肩書きに捕らわれ目を曇らせる事はあってはならない。示した技術と最も評価に適した評価者が示す結果を無視してはいけません。」

 

「服部の指摘はもっともなものだと俺も思う。

 だが、エンジニアチームは8名なのもまた事実だ。

 七草、この場合の対応はどういう物を予定していた?」

 

「そこに関してはあーちゃん・・・、中条さんと話し合って人員の調整を行うつもりだったわ。

 何かしら良い方法があるならそれでも良いのだけれど・・・。」

 

 先程までの激論が嘘のように話が建設的に動き出しました。

 十文字先輩と会長が前向きな話し合いを始めていきます。

 ですが、比企谷くん達の参加が確定したなら話は終了ではないのでしょうか?

 

「あの、私が抜けて入る話ではなかったのですか・・・?」

 

「あーちゃん?さっきはんぞーくんが言った通りエンジニアチームのエースである貴女が抜けるのは有り得ないわ。」

 

 ・・・どうすればいいのでしょうか?この展開は考えていませんでした。

 ですが、このタイミングで他の方を外すのはちょっと・・・。

 

「なら、僕が抜けましょうか?」

 

「ちょっと啓!?」

 

 エンジニアチーム所属の五十里君に九校戦出場メンバーの千代田さんが止めに入る。お二人は家が決めた許嫁らしいので突然の辞退に驚いたのも無理はないでしょう。

 

「僕は元々調整が得意な方ではないので、司波くんや比企谷みたいな優秀な人が居るならそちらに任せるべきだと思いますよ?」

 

 この発言に千代田さんが止めに入って五十里君がなだめています。

 ですが、五十里くんは決してエンジニアチームを外れるほど腕は悪くありません。ど、どうしましょう・・・。

 

「司波。お前はどう考える。」

 

「どう・・・、と言われましても俺が入って良い物なんでしょうか?」

 

 十文字先輩が唐突に司波くんへ水を向けます。司波くんもまさか話が振られると思っては思っていなかったのでしょう、驚きつつ苦笑いしています。

 

「当たり前だ。

 中条の評価を受けて参加する権利を得たのだ。参加する道理は十二分にあると言って良いだろう。

 それは比企谷も同様だ。

 考えがあるなら遠慮する必要はない。」

 

 十文字先輩が話したことで騒がしかった会議室が静かになり、視線が司波くんに集まります。何故か聞かなければならない気になるのですよね、十文字先輩が話すと。

 

「考え、と言えるかどうかは怪しいところですが、少なくとも五十里先輩はエンジニアチームに必要な人材だと考えます。調整スキルについては分かりませんが、実用レベルのCAD制作を行っていると実際に作って貰った友人から聞いています。そういった面でも十二分な戦力になり得るかと。

 八幡はどうだ?」

 

「え、俺に振るのか?

 あー、なら外すのはあの人でしょ。達也の調整を”一応の技術がある”とか評価してた人。

 エンジニアチームの人の中では一番問題が多そうだ。」

 

 指を刺された三年生のチームメンバーに注目が集まります。

 司波くんの評価はまだしも何故彼なのでしょう・・・?

 

「失礼だぞ!!何故俺が名指しで外される!!」

 

「あの、比企谷くん?もう少し言い方・・・。

 あと、なんで彼を外すのか説明貰えるわよね?」

 

 会長が頭が痛そうな目で比企谷君に説明を求めます。相手の三年生も完全に怒ってますからね。当然の判断です。まぁ、あんな言い方だったら怒るのはわかりますが・・・。

 

「え、だって自分のCADの面倒すらみれない奴に調整任せるのとか嫌でしょう・・・?

 てか、なんであの人メンバーに入ってるんですか?数あわせだったとしても能力順で選んだんですよね?むしろ議論が始まったのに違和感を覚えたんですけど・・・。」

 

「はぁ!?何故そんなことが言えるんだ!!俺の調整を見たわけでもないのに因縁を付けるのも対外にしろよ一年!!」

 

 あわわわわ・・・。どどどどーしましょうか・・・。

 後ろで会長と司波くんが「八幡君っていつもこうなの?」「八幡は自分の実力に自覚が薄いですからね。」「・・・血のつながりを感じるわ。」とこそこそ会話しています。遊んでないで手伝って下さい会長!!

 ・・・確かにあの先輩はエンジニアチームの人員不足で急遽参加を求められた方ですが、ここまで容赦なく言われるほどスキルがないわけではない筈なのです。

 そもそも、自分のCADの面倒がみれないとはどういう意味なのでしょうか?

 

「比企谷くん、何故先輩がCADの面倒がみれていないと判断したんですか?」

 

「え、いや今先輩がつけてるCADが明らかに整備不足なんで普段からメンテナンスしてないのがよくわかるな、と。」

 

 先輩の腕にまかれたCADに視線が集まります。

 

「な、何故そう言いきれる!!」

 

「いや、だって中の回路の一部が明らかに整備不足が原因の回路破損や漏電が見られますし、感応石が明らかに劣化しているのに対策がとられた形跡がない・・・どころか一切触れてなさそうですね。

 これだけでも魔法発動に10%超えかねない影響が出ると思うんですけどほったらかしって感じで、このパターンだと古くなってきたから換え時かなとか思ってそうですが部品さえ修理すれば現役並の性能は保証できますよ。」

 

 え、比企谷くん先輩のCAD分解でもしたんですか?

 

「比企谷の言うことは本当か?」

 

 十文字先輩が先輩に問いかけます。

 

「・・・はい、ここのところ調子が悪かったので2年以上も使っているのでそろそろ換え時かな、と思っていました。」

 

 十文字先輩相手に嘘がつける人はなかなかいませんから間違い無いでしょう。しかし、どうやってわかったのでしょうか?

 

「比企谷、原因が分かったのは個人スキルによるものか?」

 

「あ、はい。

 八幡家特有のものって言ったら分かりますかね?」

 

「・・・なるほど。

 なら、発言の証明は可能か?」

 

 八幡家・・・。今学校に流れている噂のことですか・・・?

 いえ、そんな事より証明って流石にそれは難しいんじゃ・・・。

 

「実際に八幡がそのCADを修復すればいいのではないでしょうか?」

 

 この司波くんの一言にざわつく会議室。

 

「え、めんどくせー・・・。

 まぁ、応急処置程度なら良いか。」

 

 修理自体は簡単。かつ今この場でも終われる作業。

 言外のそう言われてしまった事から突っ込む気力も消失したのかふらふらした足取りでCADを手渡した先輩はなんというか哀れでした。

 

 その後、深雪さんに請われ、解説付きの修理が始まり実質公開処刑の様な有り様の三年生は、せめてもの矜持としてエンジニアチームを辞退を申し出てこの一件は決着いたしました。

 

 私が説得せずとも、最初から比企谷くんの実力を見せればあっさり終わっていたのではないか?という事実に気が付いたのは全てが終わった後のことでした。

 

 




 8000字弱です。
 概ねいつもの倍です。

 途中で切ったら絶対よくわからなくなるのでどっせーい致しました。

 こちらから前書きに書いたとおりの補足です。
 まず、深雪のCADですが八幡製の達也チューンの一点物。言わばトーラス・シルバーのオーダーメイド品です。
 原作で「憧れのシルバー様」とまで言っていたあずさがこれを目にし、かつ、制作者が目の前に居る。そして、その腕前を見せる機会を不当に奪われようとしている状況を技術者として我慢できないのではないでしょうか?と解釈した結果がこの流れになります。
 賛否両論あるかと思われますが、質問含めて感想にて悲嘆のない意見を頂けると作者がとても助かります。
勿論この件以外の質問ツッコミ指摘やらかしてんぞタコ作者!は常時受け付けておりますのでお気軽にお願いいたします。


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九校戦編5

非常にお久しぶりです。読多裏闇です。

そろそろ展開だけでなく筆も遅せえな、とツッコミが飛んできそうだと冷や冷やしておりました。
理由につきましては忙しく無くなったと、思っていた時期が私にもありました、と言う感じです。はい。

・・・はい。




 

 

~真由美side~

 

 

 

 九校戦は全国にある9つの魔法大学附属の国立高校が集まって開催される魔法競技大会。この催しは今年で10年目となり、その光景は毎年テレビで全国放映されている。

 この事からも各魔法科高校にとって九校戦は、学校を上げて準備し優勝を目指す魔法科高校の一大イベントであり、その参加メンバーは学校においては代表という扱いになる。

 魔法科高校に入学した人間にとっては自分の実力を学校側から認めれたことに等しく、名誉と考えるのが一般的。出られないと嘆くことはあっても出たくない人間はほぼ存在しないと言っても過言ではない。

 ましてや、メンバーに選ばれた感想が"え、めんどくせー・・・"なんてありえない。

 

「と、春頃までは思ってたんだけどね・・・。」

 

 そう言って溜め息をついた私を苦笑いしながら眺めるりんちゃんとあーちゃんとは今後も良い付き合いが出来そうね、なんて考えていたら溜め息の原因が到着したみたい。

 いえ、正確には連行かしら?

 

「会長、お待たせしました。」

 

「護送、お疲れ様。深雪さん、北山さん。

 まさか、発足式をすっぽかす暴挙を働く生徒が居るなんて想定していなかったから助かっちゃった。」

 

 そう、今日は魔法大学付属第一高校の九校戦参加メンバーのお披露目会及び発足式。

 今から体育館の壇上に九校戦に参加する生徒が並び第一高校のエンブレムが入ったメンバーの証であるバッジを授与される栄誉ある(はずの)式典。

 基本的に九校戦は参加出来ること自体がステータスの筈であり、学内全員にそれを示せる名誉な式。

 けれど、少しだけ困った事態が発生した。

 過去、自分のCADを自分で調整した選手は数多く居たけれど、"自分も2種目試合にエントリーしつつ、CADエンジニアとして調整を行う"などという明らかにオーバースペックな生徒なんて前例がない。

 運営側としてもエンジニアチームか選手かどちらとして式典に出るのか難しい所もあり、本人の意志に任せる判断となった。

 しかしながら、この式の存在を八幡君に告げた段階で九校戦参加メンバー辞退も辞さない覚悟といったレベルでの参加完全拒否。問いの解答も聞けず現在に至るまでになってしまった。

 とは言っても賽は既に投げられているのだから諦めて来ると思ってたら当日ボイコットするとは流石に予想できなかったわ・・・。

 深雪さんが事前に「おそらくギリギリまで出ないで済む方法を模索してると思うので、直前に探しに行ってきます。」って言ってくれなかったらどうなってたか・・・。言われたときはドン引きだったけど。

 と、苦笑いを浮かべていた私がいかに認識不足だった事をこの後の発言で思い知らされた。

 

「会長、それは冤罪です。すっぽかそうとしたのであって、実際にはすっぽかせてないんで。」

 

「すっぽかそうとしてる段階で同罪じゃないとでも思ったの!?

 ・・・しかも、すっぽかそうとした事は否定しようともしないのね。」

 

 この上まだ追加があるなんて・・・。

 なんだか頭が痛くなってきたわ。

 

「八幡、そろそろ諦めるべき。

 八幡がサボったら発足式どころじゃなくなる。

 ・・・・・・寒さで。」

 

「雫?私もそこまで無節操じゃ無いわよ?」

 

「でも不機嫌にはなるよね?

 司会進行が不機嫌オーラ纏って、しかもそれが深雪でしょう?

 空気は少なくとも凍ると思う。」

 

 確かにそれは想像するのも躊躇われる事態ね・・・。

 

「いや、俺が出てる方が空気凍るだろ。自慢じゃねえが学校内では悪目立ちしてる。

 最低でも野次は飛んでくるな。」

 

「・・・じゃあなに?私達を野次に巻き込ませないためにサボろうとたって事?」

 

「・・・いや、ぼっちはあんな目立つところ行ったら死ぬんですよ。

 だから先輩方を人殺しにするような事を防ぐためにですね・・・。」

 

 そんな分かりやすく目を反らしながら出て来る言い訳がそれなの・・・。

 どっかの狸親父と違って嘘をつくのは下手なのね。

 

「八幡君。

 貴方は生徒会推薦し九校戦作戦スタッフ全員の了承を得て壇上にあがる権利を持っています。

 その決定に異を唱えるどころか、この出発に泥を塗るような生徒は生徒会の名の下に絶対に許しません。

 だから、私達の顔を立てるために壇上に上がってくれない?」

 

「・・・いや、もうここに連行された段階で選択権がないでしょう。」

 

 素直じゃないわね本当に。

 癪に障るから反撃を食らいなさい。

 

「それに、脱走したからって探しに来てくれるお友達が2人も居るんだからぼっちで死んだりはしないでしょう?」

 

「いや、深雪達が俺を探しにきたのは仕事でしょう?」

 

「確かに深雪さんは生徒会所属だから仕事の側面もあるかもしれないけれど、北山さんは純粋な善意での行動よ。

 それに、うちの生徒なら諸手をあげて羨むような両手に花じゃない。」

 

 あら、絶句してる。

 ああやって慌ててくれることもあるのね。

 

「一年生の綺麗どころ二人を袖にした、なんて事になったらどっかの自称ぼっちさんも目立って死んじゃいますよ。」

 

 そう言って準備のために私は立ち去った。

 よし、初勝利っ!

 この後に式での事も考えると最先が良いわね。

 

 

 

 

 なんて考えていたけれど、こんな形で反撃がくるなんて。

 先程の勝利で気分の良いまま発足式は開会。

 講堂には全校生徒が参加し、壇上には九校戦参加メンバーが全員並んでいた。

目下の問題となっていた八幡君は出場選手用のユニフォームを身につけ壇上に立っている。このユニフォームが選手用とエンジニアチーム用に2種類あるため議論となったのだ。そして、そんなこっちの苦労も知らずに当の本人はというと。

 

 欠伸をしていた。既に3回目である。

 

 な、に、が目立つところに立ったら死ぬよ!緊張感どころか緊張そのものもして無いじゃないの!

 頑張って欠伸を噛み殺してるつもりみたいだけど見てたらバレバレなんだから!

 さっき突き放したけど本当に緊張し過ぎたりしないか、心配した私の優しさを返して!

 ・・・と、30分は文句を言いたいところだけど鋼の精神力で押さえ込んで、式を進めるしかないわね。だってこの式は既に始まっているのだから、止めるなど以ての外だし。

 現在は参加メンバー一人一人の名前を呼び上げ、選手の証明であるバッジを授与する演目。ちなみにもうすぐ八幡君の番なのだけど・・・。

 なんか、うつらうつらしてない?よくこの状況でうとうと出来るわね・・・。ゴキブリでももう少し繊細な心臓持ってるわよ。

 あーもうなんだか腹が立ってきたわね。驚くがいい。

 

 

「1年A組、比企谷八幡君!!」

 

 

 少し大きめに名前を呼んだことで、少しハウリングが起きている。

 驚いてビクッとなってる比企谷くん。いい気味よ。

 「失礼しました。」と再度名前を呼び直し、機材トラブルと判断したのか特に問題も発生していないみたい。注目がこっちを向いたので寝かけてた八幡君にはみんな気が付いていないみたいね。

 八幡君が居心地悪そうな顔で深雪さんからバッジをつけて貰う。

 さっきの大きな声がわざとだと気が付いたのかこっちを見てくるけど居眠りがバレるよりましでしょう?

 そしてバッジの授与も大詰め。ラストに達也君が呼ばれ参加者全員にバッジが配られた。

 

 さて、ここからが本番よ。

 

「バッジは全員の授与が終わりましたが、重ねてお伝えしたいことがあります。

 現在、エンジニアチームのユニフォームを着ているのは7名のみですが、今年のエンジニアチームは選手として出場が決まっている比企谷君も含めた合計8名です。

 この選手とエンジニアを両方とも兼任するのはこの第一高校においては九校戦始まって以来の事ととなります。

 この快挙も重ねまして、参加者一同に盛大な拍手をお願いいたします。」

 

 一瞬のざわつきを経たものの凄さは伝わったのか大きな拍手が会場を包んでいく。

 八幡君はどうにも目立つのが嫌いみたいだけど、あの実力でかつあの気質で目立たず生きるのは物理的に不可能ですもの。少し荒療治気味だけど馴れておいた方が良いでしょう。ふふん、精々盛大に目立って苦悩したら良いのよ。

 こうして色々あったものの一応は勝ち越し(?)てバッジ授与を終えた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

~鈴音side~

 

 

 

 

 

 「ーーーこの快挙も重ねまして、参加者一同に盛大な拍手をお願いいたします。」

 

 そう言って拍手を促す会長の目は爛々と輝き、少々小悪魔じみた印象がある物の大変魅力的な笑顔でした。おそらく、これを見た会場の生徒にも好印象に映り、七草真由美生徒会長としての評判にも好印象として記憶されるでしょう。

 その笑顔の理由を知っている生徒会所属の一部を除いて。

 

 そもそもこの様な発足式を私物化、もとい暴挙(暴走?)を働く切っ掛けになったのは先の比企谷君のネガティブな噂が切っ掛けになります。そもそもが根も葉もない噂でしかないにも関わらず、中途半端に真実を内包していることから完全否定がしにくい状況で、まるで誰かが悪意的に操作している印象まで感じられる様に比企谷君が悪者に仕立て上げられていく様は私としても見ていて気持ちの良いものではありませんでした。

 それに対して司波さんの反応は考えるまでもなく明らか。噂が蔓延する進行度に比例、・・・いえ、加速度的に悪くなっていく機嫌が生徒会室を霊安室の様な重苦しい空気に変え、中条さんの精神がすり切れるのも時間の問題でした。

 問題は本来重い空気を嫌う会長が、司波さんへのフォローに出るはずが予想以上に噂に対して深い嫌悪感を持っていた為、司波さんと同調してしまった事でしょう。 どうやらこのブランシュの事件の功労者たる比企谷君へのこの仕打ちは会長にとって許し難い物だったらしく、時には生徒会で対処について司波さんと議論までしていた事もあったほど。

 そして、深雪さんの発案で九校戦へ参加させること、それによる比企谷君への印象を変える事に全面協力を申し出た会長はこの発足式の場でだめ押しとして今回の暴挙に出ました。

 本人は「そろそろ実力に見合った周りの目という物に馴れるべきよ。それに、この前のお礼もしなきゃいけないし。」などと言っていたのと、やる内容については事前に聞かされていたため構わないのですが、少々やりすぎ感が否めません。

 ですが、今の会長の顔を見て以前から感じていた”疑惑”が”予測”に近い物に変わったことで色々な疑惑が氷解しました。

 

「要するにあれですね。お気に入りの玩具が貶されて頭に来て、挙げ句公的な場で玩具の自慢ですか。」

 

 自分が気に入っているものを貶されれば嫌悪感を持つのは確かに普通ではあります。

 先程の声も居眠りがバレるのを助けるため。

 今回のこれもおそらく九校戦で活躍するであろう事から、今後の注目を考えればこれくらいの注目は馴れておいた方が良いと言う荒療治。

 という事なのでしょう。なんとまぁ。

 

 相変わらず、肝心なところで素直じゃない人ですね・・・。

 

 もうここまで異常に構ったり意識したりしてたらある種の恋のようなものだと思いますが、素直に認めたりはしないでしょう。会長の場合家の都合もありますし多少は仕方無いのかもしれませんが・・・。

 まぁ、これでも長い付き合いですからね。少しくらいはアシストするとしましょう。

 

 

 




今回なのですが、忙しさに加えて七草会長が私の予想を超える勢いで暴れたため本来投稿するものを派手に修正するのに時間がかかりました。

りんちゃんの部分が修正の為に生み出された感じなので作者の混乱具合が伝わってきますね。本当にタコが治りません。

誤字報告下さる方、助かってます。何分タコですので、大変助かってます。
ありがたや、ありがたや。


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九校戦編6

遅くなりました。(土 下 座 。


言い訳につきましてはあとがきにて。
お待たせ致しましたので、とりあえず本編をば。


~ほのかside~

 

 

 

 

 今は九校戦の発足式が終わった放課後。九校戦に向けての練習はその日のうちに始まりました。

 まず行われたのは九校戦の新人戦参加メンバーの顔合わせと、エンジニアチームの担当割り振りです。これについてはほぼ混乱もなく当然の様に達也さんと八幡さんが新人戦女子メインエンジニアチームとなりました。

 とはいっても、達也さんと八幡さんだけでは物理的に手が回りません。特に八幡さんは自分も選手として出場するので、そのための練習や試合準備の時間を考えると当日の調整にも限界があります。そういった部分も考慮して一部の選手は上級生の方が担当して下さるそうです。

 九校戦では本戦と新人戦の2種類の大会が行われますが、その日程は完全に別日です。そのため、本戦出場選手の調整を行う上級生のエンジニアは新人戦期間中は比較的時間の自由が利くので日程上達也さんの参加が難しい部分を肩代わりして貰う、ということなのだそうです。

 そして今はその割り振りから更にもう一歩話を進めた"誰が誰の担当エンジニアとなるのか"の話し合い兼自己紹介の為に女子新人戦参加チームメンバーとエンジニアである達也さんと八幡さんが会議室に集まっています。

 

「技術スタッフの司波です。CADの調整の他、訓練メニューの作成や作戦立案をサポートします。」

 

「同じく比企谷だ。隣の達也のおまけと思ってくれて良い。

 俺が担当する人は少ないと思うが、まぁ当たった人は運が悪かったと思って諦めてくれ。」

 

 隣で達也さんが白い目で見ているのを全力で目を反らそうとする八幡さん。

 開幕からの容赦ない自虐で反応に困り一瞬静まり返る会議室。

 

「あら、自分の立場が分かっているなんて少しは成長したのかしら?貧乏谷君。」

 

 それを見越していたかのように静寂を貫いたのは雪ノ下さん。案の定というか現実になって欲しくないから目を背けていた事態といいますか、八幡さんに暴言を投げつけ始めました。

 現在、女子新人戦の参加メンバーは深雪、雫、私に加えて別のクラスの明智英美さん、里美スバルさん、そして雪ノ下雪乃さん。

 一年生の中では雪ノ下さんと八幡さんがあんまり仲が良くないのはそこそこ有名で、噂のせいで八幡さんが責められている風潮もあってか比企谷アンチ筆頭の様な扱いになっているみたいです。

 

「ぼっちなんだから比べるまでもなく最低辺だっての。てかなに?貧乏くじと掛けてんの?確かに俺にあたった奴は貧乏くじかもしれないが、その言い方だと俺が貧乏みたいになっちゃうでしょ・・・。」

 

「あら、脳みそが貧相なのは事実でしょう?

 正直、中学の頃の数学の成績から鑑みても調整を任せる気には欠片もならないのだけど。」

 

 ・・・数学の成績。そこまで言われる程悪かったんでしょうか・・・?

 

「いや、あれはいちいち途中式だの公式使えだの言ってくる教師が悪いんであってな・・・。

 答えあってるってのに、カンニング扱いとかしやがるし・・・。」

 

「式も何もなく答えだけ書いてたらカンニング扱いされて当然という事実が予想できないから脳みそが劣悪と言われるのよ。」

 

「うっせ。てかおい、今しれっと秀でてないから悪いに変えやがったな・・・。」

 

「あら、貴方がそんなに目敏いとは思わなかったわね。」

 

「なに?遠回しに目が腐っているって揶揄してんの?」

 

 ・・・・・・何ででしょうか。この二人凄く仲がいいんじゃないかと思ったのは私だけでしょうか?

 

「話し合いが進まないから、痴話喧嘩は後にしてくれないかな?」

 

 良かった・・・。私だけじゃなかった・・・。

 ・・・じゃなくて。今まであんなに敵対的だったのにどうしてこんなに仲が良さそうなんだろう?

 

「たしか里見さん・・・だったわね。

 その不愉快な勘違いを撤回してくれないかしら?

 この男なんかと、こっ恋人?寒気が走るわね。」

 

「・・・明らかに釣り合いが取れてねえだろ。ギャグならもう少し現実味のある物にしてくれ。」

 

 息もぴったり・・・。昔は同じ部活動をしてたからっていってもここまで示し合わせたように動けるのかな・・・。ここまで来たら逆にどうして仲違いしちゃったのか理由が気になるかも。

 そういえば八幡さんが身の上話してくれたときに詳しくは深雪にって言ってたっけ?場合によっては聞いてみようかな・・・。雫のためにも。

 

「八幡の言うとおり。事ある毎に誹謗中傷を投げかける様な人は八幡には釣り合ってない。」

 

 ・・・だめ、場合によってとか言ってられない。

 本来雫はあんまり揚げ足を取ったり恣意的に言葉を取り違える様な事はあんまり好きじゃないのに、今のは明らかに八幡さんの発言の言葉が足りない事を逆手に取って雪ノ下さんに攻撃してる。何より、後ろに座っている雪ノ下さんに前を向いたままで、目を合わせず話してる時の雫はもの凄く不機嫌なのを私はよく知っています。(お家のパーティーとかで身に着けた感情をコントロールするための知恵で、顔を見なければ少しくらいは怒りを我慢も出来るらしい。)

 そして大きな問題はパーティーならば明らかな不快感を示す相手に油を注いで事を大きくする人間は少ないかもしれませんが、ここは学校のただの一室で相手は雪ノ下さんだって事かな・・・。

 

「・・・それはどういう意味かしら?」

 

「言葉通りの意味。

 さっきから聞いてれば、不必要に人を貶める暴言ばっかり。しかも格上から見下すならまだしも実力の伴わない立場からではやっかみも良いところ。負け犬の遠吠えももう少し上品に映ると思う。」

 

「私は事実を指摘しただけよ。先程言った比企谷君への発言は全て事実に基づいたものだけよ。さも私が間違った事を言っているかの様な扱いを受ける謂われはないわ。」

 

 この段階で雫が雪ノ下さんの方へ向く。お互いに完全に臨戦態勢で敵意というよりも殺気の域だよ・・・。

 スバルが踏んではいけない何かを踏み抜いたと思ったのだろう。申し訳無さそうに手を合わせてくるのが見える。エイミィ(明智英美本人がそう呼ぶように触れ回っているあだ名)もどうにか仲裁しようとしているものの状況が読みとりきれていないため動くに動けない感じ。

 これはどうにかしないと、と達也さんの方を見ると隣の八幡さんが深雪に向かって拝んでいます。確かにこの状況をどうにか出来るとしたら深雪しかいないので流石の人選なのですが、深雪が凄く不服そう・・・。あ、そっか深雪的には雫側について参戦するつもりだったんだ!成る程!

 

 ・・・・・・ってダメだよそれ、まったく収拾がつかなくなるよ。

 

 どうやら達也さんも同じ考えのようで、深雪を諫めるような目線を送り深雪自身も溜め息を付いて状況解決に乗り出します。

 

 

「二人とも、お兄様が話せないでしょう?」

 

 

 同時にお互いに食ってかかろうとした2人を容赦なく停止させる圧倒的なオーラで緊張感が霧散しました。

 

「では、エンジニアの担当決めをしてしまおう。」

 

 その隙を見逃さず達也さんが話し合いを本筋に引き戻します。

 この後は滞りなく決まり、担当毎に分かれてミーティングを行いました。

 その間も色々な事を考えたもののやっぱり結論は変わらない。

 

 やっぱり近いうちに深雪に話を聞きに行こう

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 担当毎に分かれてのミーティングとは各競技毎に分かれての話し合いがメインだ。一人一人の担当、今後の方針や得意魔法の確認などやることはいくらでもあるが今日の所は担当の割り振りや簡単な方針決めがメイン。

 俺が調整担当する競技は俺の出場タイミングの都合上、一競技を全て担当とはいかず競技は複数にわたって担当する形となった。

 競技全体の種類は6種類。

 

・バトル・ボード

・スピード・シューティング

・クラウド・ボール

・アイス・ピラーズ・ブレイク

 

女子のみ・ミラージバッド

男子のみ・モノリスコード

 

 

 

 その中にバトルボードの担当があって、雪ノ下はバトルボードの選手だった。

 最初は雪ノ下を俺が担当にする話も出かかったが”エンジニアとの信頼関係に疑問がある”事を強固に主張した雪ノ下は別の担当となった。(達也はその時間、別競技を担当中)

 そんな一悶着を終えて一息付いた俺は雪ノ下の担当になった中条先輩とバトルボードの作戦会議中。もちろん雪ノ下はもう既に帰宅し、他の選手は達也とミラージバッドのミーティング中だ。

 

「では、私は雪ノ下さんを担当すれば良いのですね?」

 

「それでよろしくお願いします。」

 

 バトルボードは出場選手が2人で、雪ノ下とほのかだ。本来ならば俺がバトルボードの両方の選手をみれるので仕事を押しつけているみたいでいたたまれない。

 

「すいません。俺達の都合で仕事増やしてしまって。」

 

「気にしないでください。比企谷君のせいでは無いですし、雪ノ下さんの言い分も必ずしも間違ってる訳ではありませんし・・・。」

 

 CADの調整はされる側のメンタルの影響を大きく受ける。そもそも本人の資質で魔法というのは発動される。その補助器具であるCADは魔法師に合わせて調整するため、その調整者は精神を深く見せることに近い。

 結論としてその調整者への信頼関係が重要ではある。

 ・・・まぁ、その信頼は技術面での心配がメインであるため、拒否されるというのは腕に問題があると言ったようなものなのだが。

 そんなこんなで苦笑いをしつつ今後の方針について話し合っていると自分の部屋の上空に異常に湿度が高い空間があることに気が付いた。

 加湿器・・・?ではないな。それに人間が一人居る。

 

「中条先輩、この上って何の教室でしたっけ?」

 

「この上ですか?たしか空き教室だったはずですが・・・?」

 

 となるとなんらかの湿度が増える何かを行っている。見た限り湿度が増える要因は見当たらない。となると魔法か。

 隣で首を傾げる中条先輩。唐突に意味の分からない質問をしたあげく、天井を見上げていればそういう反応にもなるか。

 

「いえ、上の部屋の湿度が異様に高くなってるみたいで。」

 

「湿度、ですか?・・・私には分からないですね。」

 

 何故わかるのか気になってるが聞いて良いのか迷ってる感じの空気をまとう中条先輩。まぁ、少しくらいは良いか。

 

「うちの家系の八幡家は魔力的な読み取りに長けた一族で、まぁ所謂サイコメトリーに似た読み取りスキルがあるんですよ。」

 

「なるほど!それでCADの不調を見抜いたりしていたのですね!

 もしかしてそれをハードに生かしてるんですか?

 深雪さんのCADでは普通とは違う回路配置や回路の組み方もかなり手が加えられている印象でした。

 そういったスキルの観点からハードを見た故の配置なのだとしたら納得です!」

 

 お、おう、積極的だな。てか、テンションが上がりすぎでsy・・・・・・って近い近い近い!

 

「あにょ、すいません。少し離れて貰えると・・・。」

 

「・・・・・・・・・はゃぁ!!?

 す、すみませんお見苦しい所を・・・!」

 

「い、いえ。俺に実害はないんで。」

 

 いや、ここの女子ガード甘すぎませんかね?お父さん将来が心配よ?

 俺の様な訓練されたぼっちじゃなかったら勘違い誘発するんだからな?そして黒歴史を生成したあげく、そのギリギリなスタイルが犯罪者(ロリコン)予備軍のレッテルを貼り、学園生活に終止符を打つことになる。

 ほんと、理不尽だ。

 小さめの体型の人間を忌避すれば巨乳主義者と罵られ、手を出せば捕まる。もう何も信じられねえ。

 

「それで、上の部屋の湿度が多いというのは大丈夫なのでしょうか?」

 

 あ、やべ。忘れてた。

 ん・・・?あれは・・・達也か?それに柴田も居るな。それに湿気もかなり霧散してる。あの様子なら大丈夫そうだな。

 

「現地に達也が居るみたいなんで多分大丈夫っぽいですね。」

 

「司波君ですか?なら大丈夫ですか。風紀委員ですし適切に対応してくださると思いますし。」

 

 達也ならなんとかなる、そう思われている。

 こういう人間が増えてくれりゃ、少しは生活しやすくなるんだろうがな。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

~??side~

 

 

 

 今から思えば始まりは、些細な勘違いと意地の張り合い。

 彼にしかできない手段を肯定しきることが出来なかった狭量さと、知ることを怠った怠惰。

 散った花は枝に戻らないし、こぼれた水は盆に戻ることもない。

 それでも手を伸ばせば届くと思っていた。

 届かせて、もう一度。その願いが芽生えたときには全てにおいて取り返しが付かなかった。

 ただただ、それに気が付くのが遅かったから。

 そしてその遅さは致命的で、その怠惰さが彼に牙を剥いて襲いかかろうとしている。

 だから・・・。

 

「たとえ全てを壊してでも、私は・・・!」

 

 




 そろそろ九校戦前のわちゃわちゃはあらかた終わりです。そろそろ九校戦会場に向かえるかと。

 遅くなった理由ですが、書いてる途中でこれは今書く内容じゃなくね?を繰り返し、9割完成したものを投げ飛ばす愚考を繰り返したタコ作者がここにいるからです。←

 計画性の無さがここで発揮されております。やはりタコか。

 と言うわけで遅くなりました。筆遅すぎるわ展開遅いわの私ですが楽しんでいただければ幸いです。


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九校戦編7

投稿の遅さを指摘していただいているにも関わらず改善が出来ない雑魚がここにいるらしいな?(私です、すみません。

展開遅い、投稿遅いの遅い遅いがゲシュタルト崩壊しておりそろそろ遅さの化身となりつつありますが、そろそろ伏線も張りきったはず・・・。(ほんとにござるかぁ?


~いろはside~

 

 

 期末テストも一切手が抜けないのが受験生の辛いところですが、何とか乗り切りました。理系の勉強手伝ってくれた水波には今度スイーツでもご馳走しなきゃいけないですね。

 いくら総武中学が魔法師教育の先取りを行っている実験校でも成績は基本的な中学と同じ評価方法なので普通に義務教育の範囲。内容もレベルの差こそあれど一般的な中学校の範囲に準じるものなので、勉強するのも普通の内容。それに加えて私達受験生は受験勉強があるのですが、うちのクラスの志望先は基本的に魔法科高校なので、それとは別に魔法用の特殊な勉強が必要なのです。

 それによって普段の勉強があまり受験に活用できない悲しい受験生が完成します。

 学校の成績も魔法関係で出して欲しいなぁ。

 まぁ、叶わぬ願いはさておいて、期末テストが終われば後はもう消化試合。あの、待ちに待った夏休みがはじまる。

 

「まずは期末試験お疲れ様。結果は各自しっかりと見つめて受験に役立てるように。

 とまあ、堅苦しい話はここまでにしておこう。

 明日から待ちに待った夏休みが始まる。」

 

 教室内が喚起の声で包まれます。

 

「そして夏休みということは、ここ魔法特進クラスは毎年恒例、九校戦見学合宿がある。」

 

 九校戦見学合宿。

 日本の魔法特進の先取り教育を推進するに当たって”魔法師の資質を学ぶ上での能力向上には上級魔法技能保持者を見学する事が近道である”という考えの元に魔法技能を見る事に適した祭典でもある九校戦を見学する特別合宿の事。

 この考え方自体、当初は魔法技能にあまり明るくない国がとりあえずで決めた概念だったのですが、思いの外理にかなった内容だったためにそのままにされている指針です。

 と言うのも、魔法とは魔法師のイメージを魔法という技術によって再現すること。それをうまくコントロールしてイメージを形にする術や、効率を上げることで規模や出来ることを増やしたりするために、呪文や道具を使って魔法を使うのが魔法師の原点です。CADもその流れに逆らったものではなく、科学を魔法に利用するという流れを汲んだだけでしかなく、魔法においての計算処理や術を汲み上げる為の行動をコンピューターで補おうとした結果産まれた、例えるなら”近代文明の魔法の杖”と言ったところでしょうか。実際CADの事を魔法を使う機械として”法機”と言われることもあるそうです。

 となると、重要なのはイメージなのでイメージを養う為には出来る人の魔法行使を見るのが近道ということが提唱されて今の体系になったとか。

 堅苦しく言ってはいるものの魔法を学ぶには使える人のことを見て学んで欲しいと言う国の方針で、九校戦見学旅行に行けるということです。受験生としてはこういうイベントがあるだけでも嬉しいですし。

 

「詳しいことは後で資料を配布するが、滞在用の用意を調え前日にこの学校に集合、そのままバスで現地入りする。」

 

 魔法に関わる生徒なので、うちのクラスの九校戦への関心度は高い。当日の予定などを今から相談し始めている子もちらほらいる。

 

「平塚せんせー。当日どこに見に行くかって自由ですか?」

 

「新人戦、本戦のモノリスコードとミラージバッドは全員分の席が押さえられているから全員参加だが、それ以外は単独での行動は禁止するが各自見たいところを見に行くと良い。

 もちろん言わなくともわかっていると思うがどの競技を見に行くのかを”選ぶのが”自由だ。部屋に籠もって惰眠を貪る自由がある訳ではない。」

 

 ・・・異様に実感がこもった補足ですね。しかもすごーく顔が浮かんでくるんですが。

 

「先生、それってもしかして・・・。」

 

「あぁ、比企谷だ。

 合宿への参加拒否、当日の行動拒否、単独行動。あまりの問題児っぷりに驚きを通り越して笑うしかなったよ。もちろん悪い意味でだが。」

 

 やっぱりですか・・・。小町も「あのごみいちゃんはまったく・・・。」とか言って頭抱えていますね。それにしても、去年いくら探しても見つからなかったのはそれが原因ですか。

 

 この九校戦見学合宿は3年生は全員参加で、下級生の成績優秀者が希望参加ということになっています。去年は私も参加しましたが先輩を捜しても見つけられず、もしかしたら不参加だったのかと思ってたのですがまさか合宿先でも引きこもってたなんて・・・。

 

「比企谷先輩って小町ちゃんのお兄さんだよね?あの。」

 

「え、あ、うん。私のお兄ちゃんだけど、こんなところで聞きたい名前じゃなかったなぁ・・・。」

 

 あの比企谷先輩。そう呼ばれるほどに先輩は有名だ。この総武中学校全体ではとある生徒の広めたせいで蔓延した悪評として。魔法関係者や魔法特進クラスならば雪ノ下家、一色家の抗争の中心人物として。

 魔法関係の確執にも多少明るい人が多いこの環境で一色家と雪ノ下家が揃っている。触らぬ神の様に放置され、特に音沙汰無く1年を超えていたのに、とある男子生徒を中心に抗争が激化。あらゆる方面でも妄想や噂で昼休みのゴシップに事欠かない状況となりました。おまけに、何かと先輩の周りには女子生徒が居ることからもそれがエスカレート。

 結局それが学校全体に流れ、脚色され、学校全体の認識は女性関係がだらしない人といった風潮で定着しています。

 ですが、魔法特進クラスに関しては少し評価が変わります。

 なまじ魔法師社会に詳しいだけに魔法関係の派閥抗争が如何に面倒な側面を持つかよく分かってるため、先輩に対しても被害者なのだろうという印象があります。

 それに加え、小町は学内でも影響力の大きい間違いなくトップカーストの人間。基本的に誰にでも好かれやすい明るい性格に加え"怒らせたらとんでもない事が起きる”というのは過去の事例が証明しています。その兄である先輩を悪意的に語る人間は相当に偏った思考の持ち主か自殺願望者でしょう。

 

「でも、一校の受験で次席だったって聞いたよ?サボってるのにそれって本当に凄いよね・・・。」

 

「サボってるから評価は結局マイナスなんだけどね。はぁ、ほんとごみいちゃんは・・・。」

 

 魔法社会は実力主義。実力さえ見せれば評価は逆転してしまう。

 手のひらの薄っぺらさは苦笑い物ですけど、これも現実なので仕方ないですね。蔑まれるより数倍マシですし。

 

「さて、あの問題児の話は脇に置くとして、連絡は以上だ。皆、充実した夏を過ごすように。」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

~???side~

 

 

 

 

 

「ねぇ、一校の事件聞いたかしら?」

 

「一校?なんかテロリストが暴れたって話なら聞いたけど。

 それがどうかしたし?」

 

 唐突にふられた話の真意がいまいち分からない。

 

「もうすぐ九校戦だからライバルに何かあったら消化不良じゃない?

 ・・・と言うのは建て前で、関係者におもしろい名前があったからちょっと意見交換会でもしようかと思って。」

 

 おもしろい名前?隼人とかが討伐軍に参加してたのかな。

 

「テロリスト討伐は十文字家が主導でやったんじゃないの?

 てか誰だし。名前は?」

 

「比企谷八幡。」

 

 ヒキオ!?あ、そういえば一校行くって結衣が言ってたっけ。てかテロリスト討伐とか何やってるし。

 

「ヒキオが関わってるとは思わなかったけど、ヒキオって実践できるし?

 あいつ結構ヘタレだったと思うんだけど。」

 

「それがね、彼学年次席で入学してるらしいのよ。」

 

「はぁ!?なにそれあり得ないし。」

 

 あいつの血筋は噂で聞いているけど、学年次席はそんな程度で簡単に取れるものではない。今年の学年が特別レベルが低いと考えるのは楽観的が過ぎる。まさか実力を隠してるとは思わなかったし。

 

「先のテロリスト討伐も十文字家主導ってことにしているけれど、実質メインで動いて部隊を率いたのは1年生だったらしいわね。そのうち一人が比企谷君よ。」

 

「・・・やけに詳しいじゃん。どこ情報?」

 

「・・・実はうちの妹が事件に巻き込まれたみたいでね。八幡君とも行動を共にしてたみたいだし。なんでも彼、擬似的な飛行魔法の真似事が出来るらしいわ。つくづく驚きね。」

 

 ・・・なんか私の知ってるヒキオじゃないみたい。どこのスーパーマンだし。

 

「てか、いろは大丈夫・・・か。あの子あーしより実践強いし。」

 

「そんじょそこらのテロリストじゃ遊び相手にもならないでしょうね。才能だけなら私より上ですから私もうかうかしてられないわ。」

 

 数年前私が年上なのを良いことに本気を出しても大丈夫だと思って模擬戦で酷い目に会わされたのは記憶に新しい。正直ほぼ全力で対処して紙一重の差だったし、次戦ったらどうなるか分かったものじゃない。

 

「まぁ、いろはの事は良いとして、その感じだとヒキオは九校戦で会いそうだね。

 一言文句言ってやるし。」

 

「謝罪もした方が良いかもしれないわよ?貴女の思い人、どうやら一校でもちょっかいかけてるらしいから。」

 

 ・・・・・・隼人。

 

「・・・とりあえず挨拶には行くし。」

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 夏休み。それは夏期に訪れる長期休暇であり、学生全てに平等に甘受を許された休む権利だ。

 だが、学生の本分は勉強にある。毎日の様に勉学に励み疲れた体を癒した後、また勉学へと励むそのための充電期間とも言えるこの休日はもはや休息を行う義務と言っても差し支えないのではないだろうか?

 人間、休めるときに休んでおかなければならない。

 誰かの格言だったか忘れたが、この言葉には人生の真理が浮き彫りになってるのではないだろうか。

 なればこそ、休息をもっとも効率的に行う睡眠はこの夏休み期間に十全に行うことは義務だと断言できるのは確定的に明らかであり、このまま睡眠を続行することこそが我々の正義である。

 さぁ、働かない全ての者達に告ぐ。我々のせーいぎのためにー!!

 

「なーにぶつぶつ言ってるのお兄ちゃん。

 ほらさっさと起きて準備しなよ。九校戦の会場入り明日なんでしょう?ほら、水波ちゃんがほとんど準備してくれたんだよ?最終確認ぐらい自分でしないと愛想尽かされちゃうよ?」

 

 水波に愛想尽かされるとか朝っぱらからなんて脅しを掛けてくるんだマイシスター。

 

「朝じゃなくてもうお昼だよ。ごみいちゃん。

 なんでこう上がった好感度を容赦なく下げにくるのかな・・・。

 私達も準備あるんだからお兄ちゃんにいつまでも付き合ってられないんだからね?」

 

 朝から容赦のない罵倒で俺のライフは致命傷である。・・・今度水波にプリンでも買って帰るか。

 だが、俺にも言い分はあるのだ。ただだらけてると思ったら大間違いである。

 

「そうは言うがな、妹よ。今は何月だ?」

 

「今日から8月かな?今日も暑くなりそうだね。」

 

「夏休みの開始はいつだった?」

 

「七月の半ばだったと思うけど?」

 

「俺がその間に学校に行った日数は?」

 

「普段よりも行ってたんじゃない?というか昨日まで土日含めて皆勤賞じゃないかな?お兄ちゃんとは思えないよ。」

 

 そう、そうなのだ。俺はこの2週間ほど夏休みにも関わらず学校に出突っ張りだった。そりゃあもう練習付き合ったり練習付き合ったりCAD作ったり調整したり作戦練るの手伝ったり殺す気か!!てか最後の1年の仕事じゃなくね!?

 とまあ、お陰で夏休みの最高に怠惰な生活の予定はおじゃんである。八幡激おこ。

 

「だからこそ俺はこのまま惰n「はいはい頑張ったね格好良かったよお兄ちゃん。じゃあ荷物の確認お願いね?」

 

 八幡そろそろ泣くからね?

 

「はぁ、わかったよ。

 てか、小町。準備って何?」

 

「総武中の九校戦見学合宿。去年お兄ちゃんも行ったじゃん。部屋に籠もってろくに競技見なかったみたいだけど。」

 

 ・・・・・・あー。そんなんあったなー。完全に忘れてたわ。

 

「私達もお兄ちゃんと同日に現地入りするから用意しないといけないの。だからお兄ちゃんの用意まで面倒見切れないんだから。」

 

 そう言って部屋を出て行く小町。ああは言いつつも俺のスーツケースの中はこのまま出ても問題なさそうな状態に見える。俺の妹はツンデレだったか。

 

「お兄ちゃん、私を勝手にツンデレにしないでよ。気持ち悪いなぁ。」

 

 お願いだから心の声にまで罵倒しないで、小町ちゃん。

 

 

 

 




役者はこれで揃ったはず・・・。
やっと本格的に九校戦に入れます。

本格的に競技が始まると登場キャラクターが一気に増えます。
分かりにくかったり疑問があったりしたときは是非とも感想欄にてコメントをお願いします。
普通に感想をいただいても作者が泣いて喜びますので、よしなによしなに。


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九校戦編8

感想の優しいコメントに甘えて色々エピソード追加してたら予想外なことになったタコが通ります。別名読多裏闇でございます。

遅くなった原因ですが、本文を読んでいただけたら察していただけると思います。
一応あとがきに書かせていただきます。


 

~真由美side~

 

 

 

 七草家。

 元々は三枝を名乗る魔法師の家系であり、第三研究所から第七研究所へ移ったものの発展を続けている魔法師社会の名門中の名門。

 現在も研究所に連なる魔法師の総称であるナンバーズの統括組織”十師族”に所属しており、その方面でも高い影響力を持つ魔法師社会において実質的実権を握ってる一派閥。

 これが私が生を受けた”七草家”の世間からの認識。

 

 まぁ、実際の所は大きく差はないのだけどね。

 

 十師族の中でも筆頭扱いにされがちな家ではあるし相応の影響力もある。ついでに言うならば、私の父親は狸だって言われるほど狡賢いと思われているけれど、私から見てもその通りだし。

 まぁ、父親の愚痴は置いておくとして、目下の問題は私の家がそういった意味で社会的に少しややこしい家だって事。

 ”家の用事”と名の付くものは影響範囲が広いためややこしかったり重要度が無駄に高かったりで何かと振り回されがち。しかも、事前に予定が聞かされてない場合もしばしば。今日もそういったゴタゴタのせいで足止めを食らってしまった。

 

「今から九校戦に向かうっていうのに・・・。」

 

 今日は九校戦の会場に向かう日。もちろん朝から準備をして予定通りならもう既に九校戦へ向かうバスは発車していなければいけない時間。現状、みんなを待たせているバスへ向かって移動中。

 待たせてしまってるのは申し訳ないけれど、今回の場合はある意味仕方ない・・・のかな。

 というのも家を出る直前に”老師”こと、九島烈が面会に来た。アポ無しで。

 魔法師社会の重鎮が来ていて挨拶も無しに行くわけにもいかず、家を出ようとしたところ父親に呼び戻され少しお茶会の様なものに巻き込まれた。来た名目は「九校戦に向かう途中、近くまで来たから少し話がしたい」らしいのだけど、話の内容が私の学校の近況を聞くことがメインでいまいち要領が掴めず仕舞い。

 狸親父にも何が目的でいらっしゃったのか聞いてみたけれど、真意は見抜けなかったみたい。

 おかげでよく分からない時間でみんなを待たせてしまったのは心苦しいけれど、こういう時の"十師族の家の都合”は便利な言葉なので体良く言い訳に使わせて貰う事にしましょう。

 ・・・にしても、老師は妙に達也君と八幡君の話に食いつきが良かったわね。八幡君はまぁ、家の都合もあるし老師も色々ご存知なのかもしれないけれど、達也君にも反応してたのが少し気になる・・・。

 

「お嬢様、到着いたしました。」

 

 首を捻ってる間に集合場所まで到着してたみたいね。

 

「ありがとう。じゃあ行ってくるわね。」

 

「お気をつけて行ってらっしゃいませ。」

 

 運転手さんに一言掛けて少し小走りでバスに向かった。

 

 

 

 

 

 バスの前には見覚えのある二人、八幡君と達也君。点呼の為に外で待っていてくれたみたいだけど、私が遅れたのは一時間強。それに真夏とくれば普通ならば遠慮したい仕事。

 事前に連絡していたのだからバスの中で待っていてくれればいいのに、律儀と言うか何というか。流石に申し訳なくなってくるわね。

 

「ごめんね達也君、八幡君も。私一人のせいで随分待たせちゃって。」

 

「いえ、事情はお聞きしてますので。急に家の用事が入ったとか」

 

 そう言って点呼に使ってるタブレットに出席の印を入れる達也君。そして、隣で欠伸をする八幡君。

 待っててくれたのは嬉しい気もするのだけど出会い頭に欠伸って・・・。

 ・・・というか、八幡君はなんで外にいるの?

 達也君は点呼の為だって分かるけど、八幡君まで外で待つ必要ないでしょうに。

 

「暑かったでしょう?中で持っててくれても良かったのに。」

 

「大丈夫です。まだ朝の内ですし、この程度の暑さは、何ともありません。」

 

 しれっと

 

「あら、そうなの?でも汗・・・はあんまりかいてないのね。」

 

「流石に汗を乾かす程度の魔法は俺でも使えますから。

 それに、途中からは八幡のお陰でその手間もありませんでしたからね。」

 

 八幡君のおかげ、ね。十中八九魔法でしょうね。

 

「それが八幡君が一緒に炎天下で待ってる理由?選手でもあるのだからあまり体力を消耗するのはおすすめしないけど?」

 

「なんというか、おいてこうとしたら追い出されたというか、自分で出てきたと言うか・・・。」

 

 いまいち要領を得ないわね・・・。

 

「まぁ、良いわ。それについては後で聞くとして・・・。

 ところで、これ、どうかな?」

 

 待たせてしまったのは悪いことしたと思うし、八幡君の件は後で詳しく聞く事にして・・・。せっかくサマードレスを着てきたんだから感想くらい欲しいのよね。

 実を言うと、この服は少し冒険気味・・・というかちょっと気合いを入れて着てきたから、感想でも貰わないと割に合わないのよね。

 いえ、別に誰かに感想が言って欲しかったとかじゃなくて、照れて慌てる顔が見たかったからで・・・って誰に言い訳してるのよ、私は。

 

「とても良くお似合いです。」

 

「そう・・・?アリガト、達也君。

 ・・・あら、八幡君は感想言ってくれないの?」

 

 ・・・達也君はストレートに来るから心臓に悪いわね。それより、一番反撃したい相手がノーリアクションってどういう事よ!?

 

 

「あ、俺にもきいてたんすか?」

 

「むしろこの流れでなんで聞かれてないと思ったのよ!?」

 

 

 あーもう!なんでこう毎回毎回・・・!

 

「話しかけられたら基本的に反応しないのはぼっちの本能です。

 てか、俺の感想とか誰得なんすか。

 ・・・後、俺以外に話しかけてたのに反応して”あ、君じゃなくて・・・”って言われたらいたたまれなくなっちゃうでしょ。」

 

 この子はなんでこう確率の一番低い地雷を確定で踏むと言ってのけるのかしら・・・。

 ・・・まぁ多分、今まで踏んできたのでしょうね。

 

「・・・このタイミングで話から除け者にする程、薄情者にしないで欲しいんだけど?

 で、どうなの?感想は?」

 

「え、いや・・・その。」

 

 ふふーん、慌てちゃって。こういうところは可愛いのだけどね。

 

「・・・ストレスが溜まってるのですね。

 八幡、会長はお疲れのようだ。十師族の用事ともなれば気疲れも多いのだろう。

 バスで休ませてやってくれ。」

 

 え?ちょっと待ってどういうこと!?

 

「ちょっと達也君!?

 何か勘違いしてない?

 ・・・って八幡君はどこに行こうとしているのよ」

 

 しれっと達也君の後追いをしようとした脱走者の首根っこを掴む。

 

「いや、俺エンジニアスタッフなんであっちの・・・。」

 

「選手でもあるでしょ?まだ感想も言って貰ってないし。

 それに追い出された理由、詳しく聞かせて貰いたいのよね?」

 

 逃がさないわよ?

 

 

~ほのかside~

 

 

 

 

 七草会長が遅れると連絡が来たのが、出発時間の約15分前です。

 達也さんが点呼確認、八幡さんが連絡関係の統括を行っていたようで、八幡さんの方からアナウンスがありました。

 ・・・ですので、これは不幸な事故だったとしか言えません。

 

「七草会長は家の都合で到着が遅れるとのことです。

 現地へは車で向かうので先に出発して欲しい、と連絡を受けています。

 というわけで直ぐに出発しますんで準備お願いします。」

 

「ちょっと、会長を置いていくの!?」

 

「え、いや会長が先に行っててくれって言ってるんですが・・・。」

 

「少し待てば良いだけでしょう?何を勝手に置いていこうとしているのよ!」

 

 おそらくは七草会長のファンの方だと思う先輩が、会長を置き去りにする悪者かのような言い回しで文句を言い始めたのが発端で会長を待つかどうかの話し合いが始まり、結果として待つことでまとまってしまった事から、ある意味置いていこうとした人でなしの様な空気が発生してしまいました。

 八幡さんも決まった件を伝えるために連絡するとバスを出てそのまま帰ってはこず、外で会長の到着を待っていたようです。

 この様な空気で居るのが嫌だったのでしょう・・・。

 その後も八幡さんは会長に連れられて(あれは連行な気もしますが)バスに乗ってきました。多分ですが達也さんと一緒にエンジニアスタッフ用のバスに乗りたかったのだと思いますが、会長に捕まったんでしょう。

 まぁ、八幡さんの事ですから私が心配しなくてもこういった事は自分でなんとかしてしまいそうですよね。それに八幡さんの事を思うのなら今の私の仕事は・・・。

 

「なんで八幡さんやお兄様がこの暑い中外で待たされなければならないのですか・・・。」

 

 この不機嫌オーラ全開の深雪を止めることだよね・・・。

 

「・・・ええと、深雪?お茶でもどう・・・?」

 

「ありがとう、ほのか。でも、ごめんなさい。まだそんなに喉が乾いてないの。

 私はお兄様達みたいにこの炎天下、わざわざ外に立たされていたわけではないから。」

 

 ・・・不可抗力にも程があるよ。

 この流れは何を言ってもあの話に直結しそう・・・。これは私では手に負えないよ!

 助けてしず・・・く・・・?

 

「・・・むぅ。」

 

 雫、まだむくれてたの・・・。

 

「さっきの件は今後の八幡さんの行動で見返せるって話になったじゃない?」

 

 というのも、この深雪の不機嫌オーラは本日2度目。

 一度目は八幡さんが出て行った後すぐ。車内の空調から一時は”暖気”が出る事態が発生するほどの不機嫌オーラがバスを包み雫と二人で宥める事になりました。

 ですが、途中から雫も毒舌モード全開になり、実質的には私がフォローする構図が完成。

 ・・・正直、生きた心地がしませんでした。

 最近の雫、八幡さんの事になるといつもの冷静さがどこかに飛んじゃうなぁ・・・。

 その、不平不満の応酬に最初にくってかかろうとした上級生がしびれを切らして反論するように立とうとした場面がありましたが、一言目を発する前に小さな悲鳴と共に着席。

 立とうとした先輩の方を見てたから角度的に見えなかったけど、私の後ろに女王様が居たのは間違い無いと思います。ちょっと寿命が縮んだよ!

 愚痴を言い合った末、八幡さんの実力ならば”文句を言えば言うほど後から後悔することになる”という結論でとりあえず平穏が戻りました。私、頑張りましたよ・・・達也さん、八幡さん。

 今、深雪が不機嫌なのはそれ以降のバスの外で一時間ほど締め出されてた件で蓋をしたはずの不満が再発したみたい。八幡さん、出来れば早めにこっちに帰ってきて欲しいのですが・・・。

 

「・・・八幡、会長にデレデレし過ぎ。」

 

「あ、そっちで怒ってたの?

 てっきりさっきの事で怒ってたのかと思ってた。」

 

 一通りうなった後に出てきた雫の文句は予想以上に可愛いものでした。

 ちょっとむくれてる、何これ可愛い。

 不満なオーラこそ出てるけど、どっちかというと拗ねてる感じ。

 

「あれに関しては怒ってはいるけど、何も出来なかった私も同罪だと思う。

 それに、結局ただのやっかみ。八幡の実力を目の当たりにして、後で恥ずかしい思いをすればいい。

 それよりも八幡はなんで会長の隣に座ってるの?八幡の席は私の隣のはず。」

 

 「・・・あら、八幡さん。帰ってきてないと思ったら会長と一緒に・・・。

  それにあのサマードレス・・・。」

 

 あれ、深雪の不機嫌オーラが収まってる・・・?

 八幡さんの恋人探しの方が優先度高いのかな・・・?

 何はともあれ、八幡さんファインプレーですよ!!

 

「深雪的には良いの?八幡さん大人気だけど。」

 

「八幡さんが認められてる証拠ですもの。まぁ、問題がある様な人は許さないけど、会長だからそこまで気にしなくて大丈夫よ。

 家柄もあるから急に話が進んだりもしないと思うし。」

 

 あぁ・・・、言われてみれば十師族だからその辺り大変そう・・・。

 そういう意味では雫は少しだけ有利・・・なのかな?雫の家も相当だけど。

 

「八幡年上好き・・・?でも、シスコンだったはず。八幡は妹しかいないって言ってたし・・・。

 ・・・やっぱり胸なのかな?・・・・・・八幡の馬鹿。」

 

 雫、迷走してない・・・?

 深雪は八幡さんの観察に忙しそうだし・・・。

 八幡さんは会長となんか楽しそうだし・・・。

 ・・・一人で処理しきれないよ。

 

 達也さん助けてー!!

 

 

 

 

 

 

 




バス編上、終了です。

バス編って分けて書かれるものなんですかね・・・?
どうにかまとめようとしたらむしろ増えるコレが読多裏闇クオリティ。(しろめ

感想色々頂いております。ありがたいです。
今後も色々ツッコんで頂けると、とてもとても助かります。(大事なことなので(ry


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九校戦編9

バス編が3話も続くと流石にまずいと思ったからやった。後悔をしていない。

と言うわけでバス編下です。


 

 

「・・・結局何がしたかったんだ?会長は。」

 

 バス前での強制連行により会長の隣に座らされて(本来そこに座る予定だった市原先輩は通路に敷設されていた補助シートをわざわざ出して座っている)サマードレスの感想やら、外で待っていた間魔法を使いっぱなしだった件でのお説教も含めて散々玩具にされたあげく、追い出された経緯などを聞かれ配慮が足りなかったかもしれない、と頭を下げられたり。

 暇つぶしの玩具にされるわどこかの副会長に睨まれるわで既にゲッソリである。

 八幡もうおうち帰りたい。・・・帰っても小町も水波も居ないんだった・・・詰んでたわ。

 で、当の本人である会長はというと夢の中である。

 そう、散々人で遊んだあげく疲れて寝てしまったのである。子供かよ・・・。

 まぁ、結果として解放はされたから良しとするか。

 俺は早々に撤退を決め、バスの後方へ移動しようと移動中にそれは起きた。

 

「危ない!!」

 

 なんだ・・・?言い方の切羽詰まり方が尋常じゃない。

 叫び主の視線の先を追うと反対車線に走る自動車がブロック塀を乗り越え空高く舞い上がる光景が広がっていた。ちょっ!!マジかよ。

 対向車線から乗り上げて飛んできているため、進行方向には俺達のバスがある。このままでは直撃コースである以上間違いなく危険だ。本来ならば。

 まぁ不幸中の幸い、ここには魔法技能師が多数いる。対処を間違わなければ大惨事には・・・。

 

「吹っ飛べ!」

「消えろ!」

「止まって!」

 

 洒落にならなくなってきた。元々洒落にしては笑えない部類だったが。

 本来、”魔法を使う”とは何らかの対象の情報を書き換えることで、現実世界の事象がその情報の状態に置き換えられていく、という現象を引き起こす事を指す。

 言わば魔法師は世界の情報という名のプログラムを書き換えて、プログラム通りに動いていた現実世界の理を故意に変更する力を持つ、世界から見たらハッカーの様な存在だ。

 ここで問題なのはそのハッカーのプログラム書き換えは基本的に1つの対象に対して一人のみであることだ。

 考えてみて欲しい。何かを動かすプログラムの微調整を多人数が思い思いの方法で書き換えたとする。それも、お互いに連携を取らずに。そんなことをすればどうなるかは考えるまでもない。プログラムがまともに動かなくなるのだ。

 魔法にも似たような性質がある。同じ対象に複数の人間が同系統の魔法を作用させたり、魔法の処理が終わっていないものに同じ様な魔法をかけると本来かかっていた魔法もあとからかけた魔法も効力が薄くなり、本来の働きをしなかったり、事象改変そのものが作用しなかったりする。状況的な類似点から擬似的なキャストジャミングなどと言われている。

 一応、物体の事象を書き換える力が強い人間が無理やり押し通して魔法を作用させる事も出来るが、それこそ圧倒的な差がないと話にならないし、ひとりならまだしも複数人で魔法の掛け合いが始まったら手に負えない。 なにせその人数分の干渉力を力業で吹き飛ばさなければならないからだ。

 

 現在進行形でこっちに転がってきている車だった物はそういった地獄絵図が完成していた。

 パニックを起こした生徒がどうにか車を止めようと魔法を使い、互いに干渉しあってろくに働かず、魔法が使いにくい空間だけを生成して車はほぼ何も作用されずそのまま突っ込んでくる。はっきり言ってヤバ過ぎる。

 せめてもの救いはとりあえず対処には時間がある事。いや、正確には”作って貰った時間”だが今のうちに動かないと本格的に詰む。

 まずは・・・。

 

「雫、魔法のキャンセルだ。」

 

 あえて雫の視界を塞ぐように立って次の手を準備しつつ説得する。

 

「え、でも・・・。」

 

「話してる時間がないんだ。頼む!」

 

「わ、分かった。」

 

 雫が魔法をキャンセルし始める。

 ふぅ、これでかなり楽になる。

 魔法の事象干渉は魔法資質が高いほど高くなりやすい。このバスには魔法師社会において日本の高校生の上澄みが乗ってる。そいつらがよってたかって魔法をぶつけているものに事象干渉で勝て、とか無理ゲーだ。深雪でも手を焼く案件レベルだろう。

 雫が抜けた分だけでもかなり状況は楽になった。俺も仕事が減るしな。

 さて、そろそろ・・・。

 

「八幡さん!!」

 

 向こうもまとまったか。

 

「あいよ。深雪、3秒後だ。」

 

 そう言いつつ圧縮してあったサイオンをバスの中にいる魔法を今行使している奴らに叩きつける。完全ではないが大ざっぱな術式解体(グラムデモリッション)をぶつけ、一時的に魔法を定義破綻させとりあえず黙らせる。

 後は残ったサイオンの嵐、本来なら時間とともになくなっていくものだがそんなことを言っている暇がない。 車はまだまだ元気にこっちに突っ込んできてるからな。

 達也がどうやらサイオン吹き飛ばそうとしているが、それ、軍事機密指定の魔法だろうが。

 現状魔法を妨げているのは事象干渉が無いただのサイオンの嵐と中途半端に定義されて放置されたサイオン情報体。

 事象干渉は消したため領域干渉はない、ならば後は車にへばりついた無用なサイオンを吹き飛ばすだけだ。

 オレはCADの引き金を引く。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

~摩利side~

 

 

 

「危ない!!」

 

 その叫び声と共に始まった交通事故騒動は混乱を極めていた。

 突然の事にパニックになった何人かが魔法を放ち車の周囲は魔法の相克が発生し続けている為、有効な魔法を撃つことを封じられている。

 現状に有効な魔法は私にはない。魔法のキャンセルを呼びかけるものの、アドバイスを聞く余裕があるならそもそも魔法を無秩序に撃ったりはしない。

 そうなると現状を対処できる人間は少ない。

 

「十文字、押し切れるか?」

 

「防御だけなら可能だが、サイオンの嵐が酷すぎる。

 消火までは無理だ。」

 

 火事も併発している自動車を防御したとしても、近距離で火災や爆発が起きれば二次災害は必至だ。

 

「私が火を!」

 

 その司波の提案に十文字が頷く。

 とは言え、このサイオンの嵐でまともに魔法が使えるのか?

 

「八幡さん!!」

 

 比企谷?

 このタイミングで比企谷を呼ぶ理由が分からず比企谷の方を見ると恐ろしい量のサイオンが特定の生徒に向けて発射される。術式解体か!!

 

「あいよ。深雪、3秒後だ。」

 

 まるで呼ばれる事が分かっていたかのような会話で目的だけを言い合う。そして拳銃タイプのCADを自動車へ向け放ったのは”壁”だった。

 自動車へ向けて発射された壁は無秩序に散ったサイオンを押しのけるように進み、車をも貫いた。結果として生み出されたのは余分なサイオンが押しのけられた空間。事象改変が行われる前のような、”魔法を使う上では全く問題がない空間”だった。

 いきなり壁が出てきたときには何かと思ったが、あれはサイオンで出来た壁なのだろう。それで余剰なサイオンを押しのけることで無秩序のサイオン流を押しやって魔法が撃てる環境を無理矢理作ったわけだ。

 まるで消しゴムのようだな。

 そして、示し合わせたように司波が魔法を撃ち消火を行う。車の温度を常温に下げ、生存は絶望的ではあるが運転手を殺さない魔法選択は非常に鮮やかな手際だ。十文字も車体を停止させる壁を使って車を強制停止、こうして交通事故は未然に防がれた。

 

 

「みんな、大丈夫?」

 

 事故が防がれて少し時間をおき、現在は事故状況を保存するためにエンジニアチームが事故車両の撮影などを行っている。こちらはその間に真由美が生徒の統率をはかってる状況だ。

 

「十文字君、ありがとう。いつもながら見事な手際ね。」

 

「いや、消火が迅速だったから、止めるのに集中出来た。

 それに、あの状態であれば俺でなくとも対処が可能な状態だった。出来ることをやっただけに過ぎない。」

 

 確かに、魔法はクリーンな状態で発動できていたが、あの質量物を切迫した状態で止める胆力を持っているのが普通だと考えるのはどうかと思うぞ十文字。

 

「それでもよ、おかげでバスは無傷なんだから。

 それに深雪さん、すばらしい魔法だったわ。」

 

「光栄です、会長。ですが、無理な魔法行使にならなかったのは、八幡さんが阻害している魔法式を消し去ってくださったからです。

 そうでなければどんな無理な魔法行使になるか、自分でも少し怖いです。

 八幡さん、ありがとうございました。」

 

「いや、今回の一番の功労者は市原先輩だからな?

 バスが減速魔法で止まってなかったらぶつかるのほぼ確定だったからな?」

 

 ・・・気が付かなかった。

 確かに、あのスピードのバスが停車するのにブレーキだけでは難しい。補う形で減速魔法が働いていたのは間違いないだろう。

 だが、あの切迫した状況でそれを理解出来る才能は末恐ろしいものだった。

 

 その後は真っ先に状況を引っ掻き回した花音を叱責したことを含め全体的に反省会が開始。周りも司波を称える声や森崎を励ます声などが響く。

 だが、どうにも真由美の表情が優れない。何かを懸念しているような表情で後ろの席を見ている。なんだ?

 声をかけようと思ったところで真由美が動いた。

 

「八幡君大丈夫?さっきから顔色が悪いわ。」

 

 最初は心配するにしても何故ここまで深刻な表情をしているのか疑問に感じたが、比企谷の先程の行動を思い起こして考えの甘さに後悔した。

 恐らくは、同じ無系統魔法を使用するが故の気付きだったのだろう。私は無系統魔法への造詣が深くないし、普段、使用する機会も滅多にない。だが、それを”異常に使用することの危険性”は魔法に携わる人間として理解している。

 そもそも、体内サイオンは現代魔法において重要視されない。

 何故ならば無系統魔法の様に体内のサイオンをそのまま使うのでも無い限りは起動式を立ち上げる以外で使用されないものだからだ。

 現代における魔法は高速化が進み魔法を行使するスピードが1秒を切る。そして、基本的に体内サイオンが消費されるのはその魔法を撃つための処理に当たる部分であり、昔のような長い詠唱があるわけではない為サイオンを消費し続ける時間が短い。

 起動式自体のサイオン消費は微々たるものであり、継続的に消費する状態は所謂常駐型魔法くらいのものだ。そして、前述の通り常駐型魔法はサイオン効率も悪くあまり好んで使う人間は少ない。何より高速化された現代魔法においては、もう一回同じ魔法を行使し直した方が速く効率も良い場面の方が多い。

 だからこそ、考えが及ばなかった。

 術式解体ですら一発で並の魔法師の一日の消費量に匹敵するサイオン消費量と真由美は言っていた。なら、”自動車一台を覆い尽くすのに必要なサイオン量”はどれくらいになるか。

 ・・・背筋に寒いものが感じられた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

~真由美side~

 

 

 最初の感想は感動。

 その後の印象は驚愕。

 時間をおいて考察を始めた段階でそれは疑惑と焦燥感に変わる。

 それが八幡君の魔法を見た私の心の推移。

 

 今の私の心はしっちゃかめっちゃかで正直まともに思考がまとまってる自覚はない。それ程までに衝撃的な出来事だった。交通事故騒動が終わって、その後の対応をした記憶はあるものの、どこか事務的で生徒会長としての体裁をなんとか整わせたに過ぎない物だった。

 状況の変化に心がまるで追いついていない。いえ、正確には、八幡君の魔法に驚きすぎて他のことが手についていない感じだ。

 言い方に語弊はあるけど、ただ事故が起きただけだったら恐らくは私は取り乱すことも、まして、"生徒会長として統率をとることをリンちゃんに促される”様な失態も犯さなかったでしょう。

 それ程までに八幡君の魔法は凄かった。凄くて、びっくりして、何より怖かった。

 最初の多人数を同時に狙い撃つ術式解体はどちらかと言えば私の使うサイオン粒子塊射出に近いものだけれど、私のように起動式を狙い撃ちして構築を阻害するのではなく魔法式その物を吹き飛ばしていたため圧力は桁違い。

 本来の全て吹き飛ばすものに比べて確実性は欠けるものの術者を乱して魔法を維持できなくさせる、という方針で魔法を停止させている。

 私のをスナイパーライフルだとしたら、術式解体は大砲。今やったのは散弾って所かしらね?

 これに関してはかなりのレアスキルではあるものの再現可能な人間は居なくはない。術式解体が使える術者なら十二分に可能性があるレベルのもの。

 問題はこの次。

 あの壁はサイオンで出来た壁。それも、事象改変に付随されたサイオン情報体を押しのけるほどの圧力をかけても形状を維持できる強度を持った壁。

 それを車にぶつけることで箒で掃くように不要なサイオン情報体を除去する。その性質は”吹き飛ばす”というよりは"押しのける”に近いもの。

 ちょっと十文字君の魔力防壁に近いものを感じたけれど、事象改変を伴わない魔法処理はイデアを経由しないので、自分のサイオンでまかなわないといけない点からも魔法師の負担は段違い。

 私だったら壁の生成すらままならないわね。

 だからこそ、純粋にすごいと思った。そしてその行程のレベルの高さに驚き、その異常さに戦慄を覚えた。

 そして、問わなければいけない。いえ、場合によっては責任を取らなければならない事にもなりうる。

 今回の事件、起こった事象におけるそのほとんどの責任を下級生に押し付けてしまった。それは私達の命を彼らに背負わせてしまったのと同義。

 それによって起こってしまった問題を私は知る義務がある。

 だからこそ問いかけた。なのに・・・。

 

「・・・ただの乗り物酔いっすよ。

 さっきの事故で派手に揺れましたんでそのせいですかね?」

 

 あぁ、もう!この子は!

 ちょっとくらい素直にものを言う事出来ないの!?

 

「さっきの魔法、ものすごい量のサイオンが使われてたわよね?それに術式解体も何度も使ってた。

 並の魔法師だったら魔法力枯渇で魔法師生命に影響が出かねないレベルよ。

 大丈夫なの?」

 

 ごまかしも嘘も許さない。

 そう、目で訴えると視線がおろおろし始める。この期に及んでまだ誤魔化すのね・・・。

 再度追求を強めようと思っていたところ、周りが静かになっている事に気が付いた。流石に生徒会長がわざわざ下級生を追求していたら目立つわよね・・・。

 まぁでもこれは結果オーライ。この件では逃がすわけにはいかないもの。

 

「心配なさらなくても大丈夫です、会長。」

 

「深雪さん?」

 

 そういえば八幡君に何かあれば真っ先に気が付いて世話を焼きそうな子が全く動いて無かったわね。

 ・・・きっちり隣に座って世話をいつでも焼けるようにスタンバイしてるけど。

 

「八幡さんは魔法発動の効率化が非常に上手く、通常の魔法師よりも少ないサイオン消費量で魔法を撃てるのです。それに加えて魔法操作技術も卓越しておりますから無属性魔法でも必要最低限でかつ無駄の一切無い魔法が放てます。

 ですので、あの程度のこと八幡さんのお力を持ってすれば造作もない・・・。」

 

「おい、俺がチート人間みたいになってるだろうが!

 流石にあんだけサイオン使ったら疲れくらいはするっての!・・・あ、やべ。」

 

 深雪さんの言うことは多分嘘じゃないみたいだし、そこは一安心だけど・・・語るに落ちたおバカさんが釣れたわね。さぁ、どう料理してくれようかしら?

 

「成る程ねぇ。

 深雪さん?八幡君の事、介抱お願いね。それはもう盛大に。

なにせ、凄 い 乗 り 物 酔 い で、体調が悪いらしいから。」

 

「はい!?・・・あ、いや、確かにすげー疲れてますけど2,3時間寝れば問題な・・・。」

 

「お任せ下さい会長。」

 

 心配させた罰よ。盛大に世話を焼かれるが良いわ。

 

 

 




 バス編の大筋は終わったよ。
 まだ降りてないけどな・・・。

 バスから降りるのも下手くそなのかよって煽られる日も近そうです。読多裏闇です。
 一応バス編下をお送りしてています。とりあえずこの後はさくっと終わらせて次にいくつもりだったんですが、なんかちらっと書きたいことを今思いついた次第です(←良いですか、こうやって唐突に文章が増加して亀速度になるんですよ。テストに出ません。

 思いつきは面白くなりそうなら組み入れますが状況次第ですね。(などと、このパターンで思い付いたもの全て叩き込んでいる作者が供述しており、余罪の追求を(ry


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九校戦編10

バス編下が終わった後に始まるものを何か知っているか?
・・・バス下車編が始まるのだ。(震え声

やはりバスから降りるのも下手くそだったらしいです。


 

 

~達也side~

 

 

 

「魔法による自爆攻撃、ですか・・・。」

 

「これに関しては八幡も同意見だ。

 移動中に少しだけ"話した"だけだがこれ以上露骨になってくると対処の必要が出てくるかもしれない。」

 

 現在、目的地の九校戦会場にたどり着いた俺達は荷物の搬出をしつつ先程の事件についての考察を深雪に説明していた。今回に関しては事故そのものが起こされた事実よりも、何を目的に事件を起こされたかが不明な部分の方が厄介の為対処が難しい。

 まぁ、黒幕の情報が多少あるだけでもマシな方か。

 

「にしてもさっきの八幡は何故あんな無茶をしたんだ?俺が対処を用意してるのは分かってた筈なんだが・・・。」

 

「・・・やはり少し無茶をしていたのですね。八幡さんが隠そうとしている感じだったので笑い話にしましたが。

 その事については話さなかったのですか?」

 

 笑い話?隠す?

 無茶やったあげく、またなんかやらかしたのか、あいつは。

 

「サイオン消費のせいで寝てたんじゃないのか?もう起きているようだが。

 流石にあれだけ消費したら周りの人間が黙ってないだろう?」

 

「はい。会長に指摘されて誤魔化すのを手伝いました。

 あまり大事にしたくないみたいでしたので。実際の所八幡さんの病状は問題ないのですか?問題があればお兄様が飛んでくると思っていたので大丈夫だと思っていたのですが。」

 

 大事にしたくない、か。

 素直に俺が吹き飛ばしたら発生しなかった問題じゃないのか?どうせ、”使用に制限がある”から気にしたんだろうが、有事に使えない技術など無いも同然だろうに。

 

「八幡については問題ない。言ってしまえばちょっと全力疾走して疲れてるという状況だ。

 あいつのサイオンコントロールならそれこそ"俺の半分程度の使用量”で同じ処理が出来るからな。

 あいつに比べたら俺の魔法は力業だよ。無属性魔法は特に顕著にな。」

 

「お兄様で力業なら私の魔法は子供の癇癪か何かですか。

 まぁ、八幡さんがご無事の様ですし、後は八幡さんにお任せしましょう。」

 

 任せる・・・?

 

「そう言えば、八幡は何をしてるんだ?雫とほのかも乗っているみたいだな。

 起きているならバスから降りた方が休めるだろうに。」

 

「雫とほのかには八幡さんがまだ寝てらしたので、見ていて欲しいとお願いしたんですよ。特に雫は八幡さんが目を覚ますまで梃子でも動かない感じでしたし。」

 

 雫が・・・?・・・成る程。

 

「八幡が心配をかけて、世話を焼いていると言うことか。

 あいつも隅に置けないな。」

 

「そういった面もありますが、今回はもっと重傷です。」

 

 重傷ときたか。とは言っても雫は何も怪我はしていないし、今回の八幡の行動において雫は迷惑を一切かけてない。・・・読めないな。

 

「そんなに深刻になる事案はなかったと思うんだが・・・?」

 

「・・・お兄様、もう少し女心も勉強なさった方が良いと思いますよ?

 それに、八幡さんのお身体に問題がないなら八幡さんが慰めて・・・いえ、完全に落として終わりでしょう。」

 

 

 暗に八幡よりも女心が分かってないと言われてしまい、そこはかとないダメージを受けた達也はこれ以上の追求をしなかった。

 

 

 

 

 

~雫side~

 

 

 

 

『並の魔法師だったら魔法力の枯渇で魔法師生命に影響が出かねないレベルよ。』

 

『流石にあれだけサイオン使ったら疲れくらいするっての!』

 

 頭の中でこの言葉が反響しっぱなし。

 サイオンを消費しすぎた事によって魔法力を枯渇し、魔法師の能力を失った例は実際にあるし、そんな事は魔法に携わる人間の中では常識。

 八幡の魔法は凄い。本気を出していない普段の魔法ですら私より洗練されてるのがありありと伝わってくる。

 だから今回も凄い以上の感想がなかった。

 反省こそしたけど、二度と失敗しないように頑張ろうと思ってた。八幡に追いつくんだって。

 だからこそ会長の指摘に愕然とした。

 八幡は凄い?失敗したら次に生かせばいい?

 

 何をのんきな事言ってるの!!?

 

 この交通事故は授業でもましてや遊びでもない。現実に起こった間違いなく危険な事故。

 次があるなんて誰も保証してくれないし、そもそも魔法はそんな安易な気持ちで扱っていたらいつか大きな怪我をするような危険な技術。それを扱う人間だってどれだけ魔法に長けていても人間でしかない。

 もちろん八幡だって例外なく人間。私と同い年の男の子。

 たとえ魔法の天才でも万能の超人じゃない。

 私の今日の失敗はそんな天才の道に影を落とすような事。いえ、もしかしたらもう、重大な何かを壊してしまったのかも・・・。

 

「んんー?あー?あー・・・寝てたのか。」

 

 八幡が起きた。

 見たところ元気そうだけど・・・。

 

「八幡さんおはようございます。

 深雪に頼まれて見てたんですよ。

 因みにバスはもう到着してますよ。といっても到着したのは10分前くらいですけど。」

 

「マジか。

 悪いな迷惑かけたみたいで。」

 

 迷惑って・・・。

 

「八幡は迷惑かけてない!

 ・・・迷惑かけたのは私だから。」

 

「は?迷惑?

 かけられたか?」

 

 多分八幡は本気で迷惑だと思ってない・・・。でも、私が失敗して八幡が割を食う事になってしまったのは事実だから。

 

「私のせいで八幡が無茶しなきゃいけなくなった・・・。」

 

「あれは連帯責任だろ。

 たとえまったく関係無くても連帯責任押しつけられるんだ。こういうときに押しつけれなくてどうする。」

 

 連帯責任って・・・。それでも私が迷惑をかけたことに変わりはないよ。

 

「でも、もしかしたら魔法力を失うかもしれないって・・・。」

 

「いや、ねえから。

 そんなことまでして俺が頑張るわけねえだろ?俺だぞ俺。

 それに雫のおかげで楽できたしな。」

 

「嘘。さっき疲れたって言ってた。普段あれだけ術式解体連発したり常駐型魔法使ってもケロッとしてる八幡がサイオンの使いすぎで疲れるのはよっぽどの事だと思う。

 ・・・。」

 

 術式解体(グラムデモリッション)は一回撃つのに普通の魔法師が一日に使う量と同じレベルのサイオン消費が発生するって達也さんが言ってた。八幡はそれを基礎単一系の魔法でも撃つくらいの気軽さでポンポン撃ってる。あまりに気軽に撃つから会長さんが呆れてたとか深雪が言ってた。

 それくらいサイオンに余裕がある八幡が今回は寝なきゃいけないくらい疲れてる。

 それは無茶しなきゃいけない状態になったからだと思う。

 

「いや、俺の指示通り魔法をキャンセルしてくれたじゃねえか。

 お陰で魔法が終了条件を伴って完了したおかげで、雫の分の残留するサイオン情報体はほぼなくなったし事象干渉力も無くなった。

 雫の分も吹き飛ばそうとなるともう少し強度が必要になったから、明日の朝までぐっすりコースだったな。・・・いや、そっちの方が良かったんじゃね?今夜のパーティーとやらふけれるじゃねえか。」

 

 無茶した方が良いとかしれっと・・・。でもほんとに無理してないみたい。

 え、ということは。

 

「パーティーをサボるのは流石にまずいと思う。

 ・・・あの、じゃあ私は八幡に迷惑かけてないの?私のせいで競技に影響出たりとか・・・。」

 

「パーティーをふけれなかった事以外では全く何も問題ないな。むしろ適切に動いて二次災害を回避したまである。」

 

 要するに・・・勘違いで心配して、慌てて詰め寄って、挙げ句に慰められてる・・・んだよね。

 ・・・・・・成る程これが八幡の言ってた黒歴史。これは死ぬほど恥ずかしい。

 何より黒歴史になっていることが八幡にバレてるっぽいのが尚の事恥ずかしい。

 

「えっと、さっき失敗って言ってたのもあの状況じゃ別に珍しいミスじゃない。何よりその後ちゃんと対処してるからな。

 ・・・あーそれと、まぁなんだ、心配かけて悪かったわ。」

 

 頭を撫でられてる・・・。・・・・・・・・・頭、撫でられてる。

 恥ずかしいから止めてほし・・・・・・い、はずなんだけど、今恥ずかしくて顔が見れないから撫でられておいてあげる。

 ・・・いや、流石にこの理屈はおかしいよ。でも、他に言い訳思いつかな・・・言い訳じゃなくて・・・。

 ・・・・・・だめ、思考がまとまらない。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

~ほのかside~

 

 

 

 恋に落ちるには唐突だ、とかある時恋に落ちる、みたいな話はよく聞きますが私は”恋はある時を切っ掛けに気がつくもの”だと思います。

 一目惚れににしても、気がついたら好きになってたにしても何かのきっかけを区切りにその恋に気がつくのだと思います。

 ですけど、人が恋に落ちる現場はなかなか遭遇出来ません。恐らくは自分が落ちるときくらいでしょう。

 私の場合はきっとあの入試の時が切っ掛けなんじゃないかなって思ってます。あの無駄のないきれいな魔法に圧倒され、美しいと見惚れてしまったあの時。

 私はそういう意味で恋に落ちる経験があります。

 なので、見た瞬間はっきり分かりました。

 

 雫が恋に落ちた瞬間を。

 

 雫は頭を撫でられて、赤い顔を見られないように抵抗せず撫でられっぱなし。

 雫、可愛い。何というか抱きしめたくなるっていうか・・・。もう、反則的に可愛いです。

 にしても、この雫を引き出した八幡さんも凄いです。

 少し気になってる八幡さんを、傷つけてしまったと思って落ち込む雫を慰めて、更には挽回した部分をほめて、失敗していないとフォローしたあげくお礼を言って頭を撫でるとか・・・。

 端から見てたら恐ろしいほどのジゴロの手口ですね。

 そもそも雫は八幡さんの事を好意対象としても目標としても見ていたから、ある意味憧れの人の才能を潰してしまったかもしれないって思ってもの凄い罪悪感だったんだと思う。

 実際、八幡さんが寝てしまってから顔色も悪いし時折震えてた。私と深雪がフォローしてたけど効果は薄くって。

 にも関わらず、八幡さんが励ましたら先程の悲壮感はどこかに行ってしまって、どころか恋する乙女をモノにしてますね・・・。

 誰が人と話すの苦手なぼっちですか、詐欺ですよ。

 でもこれで、いまいち自覚してなかった雫は気持ちを気付いたんじゃないかな・・・?

 今まで何回か振ってみたけどいまいち釈然としてなかったからこれは良い切っ掛けだよね。

 よし、これは雫の親友としてアシストしなくっちゃ。八幡さんの実家は結構ややこしい事があるみたいですけど、北山のおじ様なら多分なんとかしてくれそうだし、雫はこう見えて結構乙女な所があるから一途にアプローチするんだろうなぁ・・・。

 なにより八幡さん自身がなかなか大変そうな性格だし・・・。

 あと、北山のおじ様はかなりの親バカだから総出でアシストしてきそうな気がする・・・。

 八幡さんも血筋だけなら一級品だから釣り合いは取れてるし、そう言う意味では結構障害は少ないのかな・・・って雫がそろそろ限界かな?

 頭を撫でられてる雫が助けて欲しそうにこっちを見てる。

 

「八幡さん、そろそろ雫が恥ずかしさで死んじゃうので、頭を撫でるのは二人きりの所に行ってからにしてください。」

 

「あ、わりい。落ち込み方がうちの妹そっくりだったもんでな・・・。」

 

 そう言って居座りが悪そうに視線を漂わせた後「じゃあ、先に行ってるわ。」とさっさとバスを降りてしまう。残された雫はまだ再起動に時間がかかりそう。

 とりあえず、今夜の話は長くなりそうかな?

 

 

 




 バスから降りれました。これは快挙です。(レベルの低い快挙もあったものです。

 作者的には九校戦の本格的な部分はここからガツガツやっていくところです。
 キャラが一気に増えますので分かりにくかったり描写が甘かったりしたら容赦なくつっこみや質問をお願いいたします。


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九校戦編11

珍しくコンスタントに投稿できてるけど熱でもあるのか?

昨日友人に聞かれた質問でございます。読多裏闇です。

コンスタントに投稿できていることに私もびっくりしているのですがなんとか元気にやっております。(おい

ここのところは筆がのってきてる(滑ってる?)のでそこそこ投稿できています。
楽しんで頂ければ幸いです。


~深雪side~

 

 

 

 言霊・・・ではありませんが、お兄様と話した予想は現実のものになったみたいですね。

 

「ねぇ、雫?

 なんで九校戦のパンフレット逆さに見ているの?」

 

「え・・・?あ。」

 

 凄くベタな事してるわね・・・。

 バスを降りて部屋に入った後、普段冷静な雫には珍しく落ち着きがない。事前に調べてきた九校戦の情報を見ているかと思ったらページをめくる速度が読んでいる速度じゃないし、唐突にベッドに倒れ込んで枕に表現しきれない何かをぶつけているような蛮行(奇行?)を行ったりとなかなかに大変そう。

 ここ数ヶ月の付き合いで雫たちの人となりを見てきて、色々な事が分かってきました。

 ほのかは素直でまっすぐで優しくて、比較的見た目通りの女の子。少し信頼が重いところがあるみたいだけど、裏を返したら一途とも取れるし、そういった所もほのかの魅力ね。

 逆に雫は見た目とはかなり違って強い情熱も持っているし、負けず嫌いな面もある。クールで言葉数が少ないから少しかっこいい印象もあったけれど、ほのかが言うには恋愛観は凄く少女らしいみたい。

 まぁ、コレについては今の光景で確信が持てたけれど。

 

「ねぇ、ほのか。

 何があったのかはなんとなく予想は出来てるのだけど、状況が予想を超えていて・・・説明お願いしてもらっても良い?」

 

「えっとね・・・ざっくり言うと。

 八幡さんの事好きになっちゃったけど、さっき八幡さんに迷惑かけたり勘違いしたりで合わす顔が見つからなくて・・・ってわたわたしてるのに、この後パーティーあるから顔を合わすのは確定で・・・。要するに、感情を持て余してる恋する乙女(可愛い)って感じかな?」

 

 細かいことは分からないけど状況が簡潔に理解できる説明ね。

 苦笑いを含むほのかの説明に物申したいのか雫が色々言っているけれど自分でも支離滅裂なのを理解しているのか、尻すぼみになってしまう。

 うーん、単純に往生際が悪いだけの様な気もするけど・・・。

 

「雫的にはどうなの?

 状況の推移次第によっては親戚になるから、出来れば詳しく聞きたいのだけど。」

 

 雫がフリーズしたわ。

 結婚をほのめかす話は少し刺激が強かったみたい・・・。

 ・・・けれど、何事も結構はっきりとしている雫にしては珍しい狼狽え方ね。

 

「ねぇ雫?自分の気持ちに整理をつけて貰えないとフォローのしようがないのだけど・・・?」

 

「・・・・・・フォローしてくれるの?深雪。」

 

 あら、びっくりした顔してるわね・・・。何故かしら?

 別に雫の恋を邪魔しようとかは今の所考えてないけし、そんな素振りも見せた覚えはないと思うのだけど?

 

「私、雫の気持ちを否定する様なこと言ったかしら?」

 

「言ってないけど・・・・・・。

 邪魔されるかもしれないとは思ってた。」

 

 思われるような事したかしら・・・?

 

「・・・理由に心当たりがないのだけど、何故そう思ったの?」

 

 

「え、深雪って八幡の事好きなんじゃないの?」

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・えっと。

 

「ごめんなさい。その発想がなかったから返答に詰まったわ。」

 

「深雪は八幡か達也さんが好きで、どっちが本命かなって思ってたんだけど。

 まぁ、達也さんは兄妹だから常識的観点から見たら八幡かなって・・・違うの?」

 

 ・・・私ってそんなふうに見られてたのね。

 

「誤解よ。

 私が八幡さんと付き合おうなんて恐れ多い。

 もちろん、八幡さんの為にならない様な人は私の全身全霊をもって排除するつもりだけど。

 それも八幡さんが望まない事はしないことが前提条件よ。」

 

 まさか、こんな事で雫が悩む原因になるなんて思わなかったわ・・・ってさっきからの奇行の説明になって無いじゃない。

 

「私の件はこれで誤解は解けたわよね?

 それで、さっきからうなってたのは何が理由なの?」

 

「うっ・・・・・・、自分の感情の整理に時間がかかったのと・・・。

 ・・・・・・・・・今までなかなかに大胆な事してた気がすると思って今更ながら悶絶してた。」

 

 成る程。往生際が悪いんじゃなくて自分の気持ちを認めた結果恥ずかしくなってしまったのね。

 

「さっき"邪魔されると思ってた”って言ってたけど、その言い分だと自分の気持ちには自覚はしていたのね?」

 

「いや、あの、その・・・。

 自覚というか、判断しかねてたって感じというか・・・。

 初めてのことで戸惑ってたというか・・・。」

 

 可愛らしいわね。ちょっと応援したくなってきてしまいそう。

 

「でも、悶絶する様なあれこれも八幡さんが相手なら有効だと思うわよ?

 実際、八幡さんは真っ直ぐストレートに好意を伝えても罰ゲームで告白された、とかの可能性を考えてしまう様な人だから、八幡さんが逃げる余地を残さないほどの勢いじゃないとスタートラインにすら立てないわよ?」

 

「・・・・・・うん。名前を呼ぶだけであれだけ逃げ回るくらいだからそれは分かる。」

 

 ちょっと冷静になってきたわね。

 何気にスタートラインには立ちたいと言ってしまってるのは気がついてないみたいだけど。

 

「今、明確に好意を持って八幡さんへと接してる学校関係者は居ないと思うからこのアドバンテージは生かした方が良いと思うわよ?

 最近は会長が結構攻めてきてるし、もし会長が自分の気持ちに素直になったら・・・。」

 

「・・・それ、洒落になってないよ。八幡会長にデレデレしてたし。

 深雪、協力してくれるの?八幡さんの事。」

 

「雫の味方になれるかは分からないけど、友達の恋の応援くらいはするわよ。

 私はあくまでも八幡さんの味方だけれど。」

 

 それに、八幡さんのフォローで手一杯だから、どこまでアシスト出来るか疑問なのよね。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

~雫side~

 

 

 

 私は比較的、パーティーというものになれている。

 私の家がそういった催しを開催することも多々あるし、参加したことも少なくない。

 もちろん作法は一通り叩き込まれたし、参加するのにわざわざ構えるようなこともない。

 ・・・はずなんだけど。

 今回ばかりはそうもいかなかった。確かに、場慣れはしてるけど、憧れの九校戦の前夜祭ともいえるパーティーで凄く楽しみにしていたのが一つ。

 そして、今から八幡に会うのだろうと考えるといつも通りの顔が出来るか心配なのが一つ。

 そんなこんなで、かなりの決意を持って会場入りをしたのに当の八幡はというと・・・。

 

 壁際の目立たない位置どりを確保して飲み物片手に大あくびしていた。

 

 一気に力が抜けた。そうだよ、どれだけ構えても八幡は八幡。むしろ、こういったパーティーに参加しに来てるだけマシって考えるべきだった。

 それに、隣に達也さんも居る。隣の給仕さんと話してるけど・・・ってあれはエリカ?なんで給仕してるんだろう。・・・考えてても無駄だし話しかけよう。

 ほのかを誘って達也の方へ向かう途中、八幡が女の子2人と離れていくのが見えた。

 しかも、うちの制服じゃない。あの赤を基調とした制服は三校の・・・。

 ・・・・・・・・・あれ、誰?

 とりあえず、達也さんと気がついたら隣にいる深雪に詳しく聞かなくちゃ。

 

 一先ず話しかけて先程までエリカが居た件について聞いたところ、どうやらバイトとしていつものみんなが来てるみたい。あと、私の知らないクラスメイトも居るみたいだけど、それは追々紹介してもらおう。

 それよりも・・・。

 

「あそこで八幡と話してるの、誰?」

 

 思いの外低い声が出た。私ってこんなに嫉妬深かったっけ?

 

「あの二人は一色家の愛梨さんと三浦家の優美子さんよ。」

 

 一色家に三浦家・・・。

 

「あれ、愛梨さんだったんだ。久しぶりだったから分からなかった・・・。

 それと、三浦家ってあの?」

 

「ええ、その三浦家よ。」

 

 一色家は次女のいろはさんと知り合いみたいだからそこの繋がりかな・・・?三浦さんは分からないけど。

 

「えっと、一色家に三浦家、一応雪ノ下家と葉山家もかな?八幡さんって大物の知り合い多いね。

 それに、何かと関わりが多いみたいだし・・・。とてもぼっちとは思えないよ。」

 

 本当に。自称ぼっち詐欺だよ。

 

「まぁ、ここまで大物の知り合いが多いのは出身校が魔法先取りの実験校だったというのが大きな理由を閉めているだろうな。

 名前くらいは聞いたことないか?千葉市立総武中学校だ。」

 

「あの進学校のですか?

 魔法の先取り教育の話で、少し受験しようかな?って話が出ました!

 ・・・偏差値が高過ぎで諦めたんですが。」

 

「ほのかなら多分いけてた。私はギリギリだったから怪しいけど。

 そっか、頑張って入ってたら八幡と会えたんだ。」

 

 ちょっと勿体ない事をしたかも。

 

「三浦優美子さんはその当時のクラスメイトよ。

 愛梨さんは直接の面識は無かったみたいだけど、何かご用事があるみたいね?」

 

 別の学校で、九校戦で、わざわざ呼び出して会話をする・・・。

 ・・・・・・・・・むぅ。

 

「やっぱり気になる?」

 

「え、いやその・・・。

 ・・・・・・気にはなる。八幡の周りはいっつも女性が居るから正直気が気じゃない。」

 

 しかも出てくる人が魔法師社会の重要人物だらけ。そろそろプレイボーイを名乗れるんじゃないかな?

 ・・・・・・多分本人は名乗る気皆無だけど。

 むしろ、彼女は凄く大事にしそう。妹さんとか凄く手厚く保護してる印象だし、身内贔屓の典型みたいな性格してるよね。

 

「驚いたな。

 ここまではっきり八幡への好意を言うようになってるとは。

 何かあったのか?」

 

「そうなんですよ、達也さん!!

 八幡さん、バスの時の件で落ち込んでた雫を慰めて、その後頭撫でたり誉めたり・・・。

 完全に手玉にとられた雫もタジタジで・・・。」

 

 ちょっ!?ほのかそれはこんなところで話して良い話題じゃない!!

 

「ほのか、概ね概要は分かったし、祝福したい気持ちは伝わったがそこまでにしてやってくれ。

 ・・・雫がそろそろ限界だ。」

 

「お兄様。先程も言いましたが、もう少し女心をもう少し察してあげてください。

 それはフォローではなく、追い討ちです。」

 

 ・・・深雪のそれも追い討ちなんだけどね。

 というか、こっちがこんなに大変な目に遭ってるのに八幡はあんなに楽しそうに・・・。

 やっぱり、行こう。敵情視察は重要だよ。

 女は度胸ってお母さんも言ってたし。

 

 

 

 

 




次は少し俺ガイル成分が強くなります。原作を知っていると少し楽しめるのでは無いでしょうか?

最近コメントを頂いたものを読み返してると一部消えているのを見つけました。端には「運対」の文字が。
私としましては批判も重要なご意見だと思ってますので気にしていなかったのですが、まさか運営様がご覧になっているとは・・・。
つきましては、この小説に関して、ご意見は基本的に制限しておりませんので容赦なく書いていただければと思っております。(自動削除機能なのだとしたら概ね消される前に一回は読んでるのでおそらく大丈夫です。
以上、私見でした。


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九校戦編12

 ハーメルンでの投稿を始めて1年が経ちました。私はまだ生きております。読多裏闇です。

 昨日でジャスト1周年を迎え、投稿しなければ・・・と思って遅刻する程度の能力。やはりタコなのは相変わらず。

 少しあきましたのは、今回の内容を読んでいただけたら分かるかと思うのですが、内容が入りきらない問題が発生したためです。
 ですので、なんか尻切れトンボっぽい感じになってますが、お察し頂ければ幸いです。


 

 

 パーティー。

 この言葉は社会の物差しである。

 例えば、だ。クラスメイトの一人が『今日、うちでクリスマスパーティーやるから参加したい人居ない?』と言ったとしよう。これならばおそらく社交的な人間だな、程度の印象を持たれるだけだろう。だが、これが『今日、うちパーティーなんだけど、来ない?』だとどうだろうか。

 なんか、”ちょっとうちはパーティー馴れてます”感というか、”わざわざクリスマスとかハロウィンとか理由付けなくてもパーティーとかちょくちょくやってますよ”的雰囲気が出てしまう。

 そして、こうした微妙な価値観の差がレッテルや疎外感を生み、結果として"あの人はそういうお家の子だから”といった遠慮という名の迫害を生むのだ。

  にも関わらず、そういった多数派正義の名の下に少数を虐げる人間は掌を回すのも得意だ。

 今まで迫害した側の人間であっても、逆に社交界的なパーティーなどに出る様な事態となれば手のひらを華麗に返してその迫害した人間を頼り始める。環境的なアウェーをどうにかするべく、自分から弾いた存在をさも自分の輪の中にいる人間かのように接し始め、この場において自分が不相応であるという現実から目を逸らす為に利用する。

 客観的に見ればどちらの方が大人の対応が出来てるかなど一目瞭然だが、割を食ってるのは得てして爪弾きにされた方という典型だ。

 この様にただの”パーティー”という言葉一つだけでも、格差という社会の縮図が浮き彫りになるのだ、これが実際のパーティー会場ならばどれほどのものになるか、俺は想像するだけでも恐ろしい。

 パーティー馴れした者は自分のフィールドだし、そうでないものは恥を忍んで強者の傘に収まるのも生き残る選択としてはありだろう。

 だが、この傘に入れるものもそういった強者にコネクションを持つカースト?上位に居る強者の特権であり、弱者にその術はない。

 この教訓から学ぶべきは、この様な催しは強者やカーストトップ集団の為にある物であり、弱者は近づくだけで火傷しかねない危険な場所であるという事だ。

 君子は危うきに近寄らないし、触らぬ神に祟りはない。

 先人の残したありがたいお言葉から我々は学ばねばならないのだ。

 故に弱者代表かつ、ボッチストでもある俺は同じ愚を犯してはならない。そう、絶対にだ。

 だからこそ・・・!!

 

「俺は部屋に・・・。」

 

「戻れません。諦めてください。」

 

 先人の教えは生かされなかったらしい。こうやって歴史は繰り返すのか・・・。

 

 九校戦の懇親会が始まり、各校の九校戦出場選手が続々と会場入りをする中でには当然のごとく一校生も居る。一校は前年、前々年の優勝校でもあり注目度はもっとも高い。リサーチや値踏みも多く、入った瞬間には会場の視線を全てかっさらったと言って良いだろう。

 中でも注目を集めているのは、十師族でもある七草会長を筆頭とした3年のエース達に加えてその容姿で男共の視線を独占している深雪だ。

 容姿淡麗、物腰も柔らかく、仕草は気品に満ちている。文句のつけようがない美少女が、同じくイケメンである達也の世話を焼いている。嫉妬の視線こそ達也に注がれるもののどちらかと言えば納得の光景故に羨望の視線の方が強い。

 因みにだが、俺はそのような視線から逃れるべく、端っこの目立たないベストポジションを獲得し時間つぶしを敢行したが、世話焼きの鬼である深雪はそれを許さない。落ち着いた頃に颯爽と世話を焼きに現れ、達也も俺のポジションに参加して端っこで深雪の世話焼き空間が完成した。更には専属ウェイトレスならぬ給仕員として何故かここでバイトしていたエリカが現れて世話焼きアイテムを供給し始めたため退路が完全に消失。

 結果として、美男美女と美人ウェイトレス(エリカは十二分に美少女として認識されている)+ぼっちによる顔面偏差値高過ぎ空間が生成されるに至った。・・・俺という不必要なおまけも付随しているのだが。

 お陰で目立つわ、見られるわ、"おめえ場違いだろ”ヘイトを全部俺がかっさらうわ。

 ・・・・・・八幡もうおうち帰りたい。帰れないけど。

 そんなこんなで俺は、”俺は貝だ。人知れず何も考えぬ貝なのだ。”などと視線を無視するべく悟りの境地に入らんとしていた。

 

「ヒキオ。」

 

 だが、注目度は収まるどころか増すばかり。一校生は深雪と話したいが達也とは間が持たないので近寄れず、他校の人間も深雪には流石に気後れするのだろう。

 

「ちょっと、ヒキオ。」

 

 結果として高嶺の花の様に遠巻きに眺めている構図が固定化され、むしろ注目度は増し増しである。更に、それは場違い故に目立ってしまってもいる俺も目立つと言うことになる訳だが・・・てかなんかさっきから目線が多くなってる気がする・・・。

 

「あの、八幡さん?呼ばれているのでは?」

 

「は?」

 

 マジかよ。俺だったのかよ。

 なんかさっきから目線に殺気混じってるなって思ってたんだよな・・・。

 

「いや、呼ばれてんの俺じゃないと思ったわ。

 ・・・ん?お前、あーしさんか?」

 

「・・・無視とか何様だし。

 てか、ヒキオとかあんたしか居ないでしょ。」

 

 居るかもしれないじゃんヒキオさん。

 なんて考えてたら靴を蹴られた。地味に痛かったです。

 ・・・というかなんであーしさんがここ居るんだ?

 

「確か、三浦優美子さん・・・ですよね?」

 

「そっちは司波さんだよね。話したこと無かったけど、去年の文化祭来てたっしょ?」

 

 それ、実質初対面じゃね?コミュ力高過ぎかよ・・・。

 

「貴方が比企谷八幡さんですね?」

 

「ひゃい!?・・・・・・えっと、どちら様です・・・?」

 

 三浦の隣に居た女子に話しかけられた。てか近い近い近い!!下から上目遣いでのぞき込むな!!

 

「一応、同じ学校に所属していた時期もあるのだけど、貴方にとってはほぼ初対面でしょうね。私は一方的ではあるものの知ってはいるのですけどね。」

 

 ・・・分からん。小学校だったら覚えてねえし、中学だとしても総武中学校はマンモス校だ。雪ノ下じゃあるまいし全員なんて覚えてられない。

 まぁ、ボッチだから覚える機会もねえけどな。あれ、なんか目から汁が・・・。

 

「私は一色愛梨。いろはの姉って言った方が伝わるかしら?」

 

 いろはの姉ちゃんかよ。雰囲気違い過ぎねえか?

 

「なるほどね。普段はおどおどした感じというのはコレね。」

 

「・・・あいつ、姉ちゃんにまで何チクってんだよ。」

 

 さっきの上目遣いわざとかよ。・・・間違いねえ、一色の姉ちゃんだわ。

 

「でさ、ちょっとヒキオ借りたいんだけど?」

 

「ヒキオ・・・というのは八幡さんの事ですか?

 でしたらはい、構わないですよ。」

 

 会話の切れ目を見計らって深雪に話を付けるあーしさん。

 え、俺の意志は・・・無視ですね、分かります。

 てか、三浦と一色の組み合わせ・・・なんか違和感あるな。

 

 

 

 顔面偏差値高過ぎによる高視聴率空間から脱した後、どの様な環境に置かれるか知っているか?

 ・・・高視聴率空間が待ってるんだ。

 それもそのはず、顔面偏差値が高い空間に容赦なく踏み込めるのはそれ相応の偏差値を持つ猛者、それも他校の生徒と来れば異質さはかえって増しているまである。

 結論として高視聴率なのは変わらないのに状況の異質さからかえって目立つ空間におかれる運びとなったのだ。

 てーか、一校は敵と話してるから視線が痛くなるのは分からんでもないが、赤い服の連中が一部殺気投げてくるのはなんでだ?

 あ、そういやあーしさんと同じ学校だったわ。

 ・・・俺、今日生きて帰れっかな。

 

「てか三浦、三校行ってたんだな。

てっきり葉山追っかけてくるのかと思った。」

 

「あーしもそうしようか考えてたんだけど、流石にパパに止められたんだよね。

 まぁ、家の事もあるし、魔法科高校には行くの確定だったから、実家に近いとこにしたわけ。」

 

 まぁ、娘が男追っかけて進学決めようとするのは父親の心証穏やかとはいかんだろうな。それに、現在進行形で世間評判がヤバい家の奴だし。

 

「で、一色さん?はなんの用ですかね?一色の関係で苦情っすか?」

 

「あら、いろはの貴方に対する印象は高評価よ?父も気に入っているみたいだし、見たところ私としても今のところ悪印象は無いわね。」

 

 初対面でガッツリ値踏みされてやがる・・・。てか、一色家って俺を過大評価するのが流行ってるのか?

 

「会って早々そんな事分かんのかよ。それに、良い印象持たれるようなことをした記憶ねえぞ?」

 

「確かに、終始脅えているというか腰が引けている感じがあるけれど、ほぼ初対面の女性と会話しているこの状況ならある意味正しい反応でしょう。貴方から見れば私は素性こそ分かっているものの、警戒するに値する存在でしょうから。変に馴れ馴れしい方より何倍も好感が持てるわね。」

 

 ポジティブシンキング過ぎねえか?

 

「はぁ、それはまぁいいんだが・・・。

 文句じゃないなら何の用があって来たんだ?」

 

「挨拶に。

 いろはがお世話になってるのだから、挨拶くらいはしておくのが筋でしょう?」

 

「あーしはその顔合わせお願いされた感じ。

 それに、あーしも話もあるから。」

 

 話、ね。まぁ三浦の話は内容がある程度想像つく。話しかけてくるのも分からなくはない。

 問題は一色さんか。妹が世話になっている程度でここまで目立つアクション取る理由が分からん。

 

「俺はなんもしてないぞ?

 むしろ、小町達がそっちの家じゃ世話になってるくらいだ。」

 

「それはいろはのお友達に対しての当然の対応です。

 最近話をするとよく話題に出てきてますから、仲良くしてもらっているのでしょう。

 特に水波さんと・・・貴方の話題が多いですね。」

 

 なんで俺なんだよ。どんな黒歴史暴露されてるか分かったもんじゃねえ・・・。

 だが、殺気から・・・いや、さっきから感じる赤い服を着た奴らからの殺気に気がついてない訳ではないだろう。というか俺が現在進行形で針のむしろだからマジ怖い。

 その中でわざわざ波風立てながら俺に話しかけるほど空気が読めないわけではないと思うんだが・・・。

 

「深く考えてるわね。

 ・・・本当にいろはが言っていた通り。本来疑問に思わない様な部分まで考察して与えられてない情報をさも最初から知っていたかのように導きだす。特に、相手の真意を読み解く事にかけては天才だと聞いています。

 今は、私の行動一つ一つを吟味して違和感がある部分を洗い出してるのかしら?」

 

「流石に過大評価過ぎませんかね?てか、誰だよその超人じみた奴。

 単純に空気読んでるだけだっての。ボッチなめんなよ?読めないと死ぬんだからな?」

 

 空気の読めないボッチはただのボッチだ。

 ・・・それってどっちにしろボッチじゃね?いや、ぼっちにも練度っていうものがな。

 訓練されたプロボッチは高い練度を持ち、本を読めば行間まで読める程の読み取り能力を・・・・・・なんか虚しくなってきたわ。

 

「そうかしら?ある種、ここまで関連性がある人間を相手に裏がある可能性を考え続ける慎重さは十二分に評価されるべきだと思いますけど・・・」

 

「あの、一色さん。少し良いかな?」

 

 話を少し遮る様に入ってきたのは一色さんと同じ赤い制服。おそらく先程から殺気をとばしていた輩のひとりだろう。葉山系のイケメンだな。

 

「あら、なんでしょうか?

 今、お話中なのが見て分かりませんか?」

 

「そのお話相手について少し、ね。

 何故一校生”なんか”と話をしてるんだい?

 ”うちの”エースである一色さんが敵に会いに行ったって”三校の”チームメンバーが動揺してるよ?」

 

 めっちゃ俺が部外者なの強調してくるな・・・。いや、部外者なんだけど。

 ていうかなかなかいい殺気飛ばしてくんな・・・。ブルっちまうぜ。

 

「確かに、この後競い合うライバルではありますね。ですが、敵ではないですよ?」

 

 いや、その理論はこいつには通らんだろ・・・。

 

「一色さんは優しいね。

 でも、そう簡単に割り切れるものではないと思うんだ。

 それよりもどうかな?あっちで話でも・・・。」

 

「貴方、十師族?百家?

 何かの優勝経験は?」

 

 え、えげつねぇ・・・。

 

「え・・・いや、特にそういったものでは無いですけど・・・。」

 

「では時間の無駄ね。

 今は見ての通り話し中なの。無駄話に付き合う気はないわ。」

 

 おそらく同級生なんだろうけど、名前すら覚えられてないな・・・。哀れ。

 てか、話してる内容は本質を突いてるが論点がズレてるせいで収拾がつかなくなってるな・・・。

 

「いや、ですから!」

 

「あーあのさ、多分勘違いしてると思うんだが。良いか?」

 

 誤解を解かねえと話にならん。

 

「俺と一色、と三浦もか。は、おまえらが考えている関係じゃねえから安心してくれ。

 昔、一色家に迷惑かけた事があってな、その件での報告しに来てくれたみたいなんだわ。多分だが勘違いした奴が結構いて、おまえが代表で聞いてこいって、貧乏籤引かされたんだと思うんだが勘違いだから気にするなって言っといてくれないか?」

 

「・・・そ、そういうことなら。」

 

 野次馬代表で来たはずが思わぬダメージを負ったが、致命傷になってないことを願うばかりだ。

 そして、気まずいながらも撤退の理由が見つかったイケメン君は、そそくさと三校の集まりに戻った。ご愁傷様である。

 

「あの手の馬鹿はウチの学校ではもう居ないと思ってたけど、まだ居たんだね。

 わざわざ罵倒されに来るとかマゾ?」

 

「気持ち悪い事を言わないでください、優美子。」

 

 マジか。これ平常運転なのかよ。この調子で男袖にしまくるとかガチ怖え・・・」

 

「ヒキオ、声に出てるから。」

 

 やっべまたやらかしてたか。心の声ダダ漏れ過ぎませんかね?俺。

 

「てか、あそこまで言わんでも良いんじゃねえか?流石に不憫すぎるって言うか・・・。」

 

「確かに、本来ならそうでしょう。それは私が”一色家”という立場でないならの話ですが。」

 

 地雷源はここだったか・・・。てか、その結婚観は流石にすれすぎだろ。

 

「・・・いや、今時政略結婚なんて時代錯誤過ぎないか?

 それに、その手の政略結婚は家のお偉いさんが決めることで自分で決める事じゃないだろ?」

 

 一色の親父さんがそんな事言うとは思えんしな・・・。今時あそこまで親バカな親も少ないし。

 

「魔法師家系なら珍しい事じゃありませんよ?貴方の言い分も確かにその通りでしょう。父も結婚相手にとやかく言うことはないと思います。

 ですが、私は自分の成長のために家の力を容赦なく利用して生きてきています。それについては一切後悔はしていませんが、家を離れることも多かったので家族には心配も迷惑もかけたと思っています。」

 

 あぁ、成る程。

 

「何より、これほど研鑽を重ねた上で、私の能力では”それなりに優秀な魔法師”となるのが限界だと考えれば、後私がこの魔法師社会に貢献できることは私の血を次世代へと繋ぐことでしょう。

 であるならば、私にとって重要となるのは優秀な魔法師の血筋である事や、一色家を将来魔法師社会に貢献できる家に出来る力を持つ相手となります。

 一色家としての優秀な魔法師はいろはが居ますからね。」

 

 こいつは確かに一色の姉ちゃんだわ。何かを決めたときに芯の鋭さがマジでそっくり。流石は姉妹って感じだわ。

 

「それより、先程の発言はなんですか?一色家に迷惑?冗談じゃありません。

 これ以上の諍いは貴方に迷惑がかかるためこらえましたが、現実はまるっきり逆ですよ?

 これが、いろはが言っていた自己犠牲をいとわない解決手段ですか?」

 

 じとーーーって見てらっしゃる。

 

「いや、ああでも言っとかないとこっちにヘイトが増えるからな?俺、闇討ちに遭っちゃうからな?

 リスク分散だ。

 ダメージコントロールだ。」

 

「ヒキオ・・・。あんた、まだそんな感じなんだね。いろは達の苦労が伺えるし。」

 

 いや、なんで一色が出てくんすかね・・・。

 

「確かに彼の周りの人は心労に絶えなさそうですが、私としては評価が上がりました。

 貴方は守るものの為に土壇場で命をベットする事を躊躇わない人なのでしょう。

 姉としても安心して妹を任せられます。」

 

 任せるって何をだよ。

 

「買いかぶりの見本市見てる気分だな・・・。

 聞けば聞くほど俺とはかけ離れていくぞ。」

 

「別に、手放しで高評価を出しているわけではないのよ?

 自己評価の低さは改善すべき点でしょうし、他にも改善すべき点もあるでしょう。

 それでも、評価すべき点は評価されるべきです。

 九校戦での活躍を楽しみにしていると言うことですよ。」

 

 なんで対戦相手の学校に応援されてんの俺・・・。

 

「いや、あんた敵だろうが。他校の応援してて良いのかよ。」

 

「構わないわよ?どうあれ正々堂々とした試合なら構わないの。

 どうせなら妹の将来の旦那様になるかもしれない人なのだから、強いほうが嬉しいわね。

 残念ながら男女が対戦する機会はないから、私自身がそれを確かめることが出来ないのが残念ですけれど。」

 

 やる気満々かよ、怖えよ。

 ・・・てか、さっき不穏な言葉が聞こえた気がする。

 

「ちょっとまて、旦那ってなんだ。」

 

「そのままの意味よ。一色家は恩を忘れるほど恥知らずではないの。いろはが受けた恩は確かなもの。あの子が受けるかもしれなかった心の傷から救ってくれたのはほかでもない貴方。

 であるならば、そういった形での恩返しもあって良いと思いませんか?

 貴方の生い立ちのから考えても一色家という後ろ盾は有益に働くと思うし、あの子も自分を助けてくれた王子様を憎からず想ってるでしょう。」

 

 いやいやいやいや。話の展開ぶっ飛びすぎかよ。

 

「王子様とかあり得ねえよ。てか、俺はほとんど何もしてねえっての。

 それに、一色の気持ちとか色々無視しすぎだろ!!」

 

「いろはなら問題ないと思いますよ?

 それに気持ちを蔑ろにするつもりはないけれど、姉として妹の幸せのための道をつけるためにその幸せのメリットを示すくらいはしても良いでしょう?それが一色家としての恩を返す機会になるなら尚良しね。」

 

 ちょっと暴走してね!?三浦助け・・・って笑ってやがる。味方無しか。いつも通りだわ。

 ・・・いつも通りだわ。

 

「貴方も九校戦に参加しているということは魔法資質も十二分ということ。家柄も本来ならば十二分だったのだし、一色家としても十二分に有益な話です。出来れば前向きに考えてくれると嬉しいわね?」

 

 おかしい。何がおかしいって唐突に妹をどこかの馬の骨にくれてやるお嬢様がいらっしゃることだが、そもそもこの話になること自体がおかしい。

 まぁ、一色家が雪ノ下関係の状況をややこしくした要因であるのは否定しきれないし、責任を感じてくれてるんだろうが、いかんせんやりすぎだ。まぁ、一色が嫌がったらおじゃんの話だし気にしなくて良いか。

 

「ですので、いろはと婚約者の立場になってみてはどうかしら?父へは私から話を通しておきますよ?」

 

「いや、だからちょっとおちつk・・・」

 

 

「ねぇ、八幡。今の話、どういうこと?」

 

 

 後ろで制服の裾を摘まんでる誰かが居る。

 とても軽く。そう、とても軽く摘ままれてる筈なのに身動ぎしたら首を取られるような錯覚を覚えるのは何故だろう?

 ・・・てか、なんでただのパーティーでこんなに寿命が縮まなければいけないんだよ。

 

 

 

 




 7000字越えててこの尻切れトンボ感。

 あーちゃん大暴走回ですら8000でまとまったのに・・・。
 次話については早めに投稿しようと思います。(尻切れトンボはなんとかしたい。


 さて、話は変わりますが、一周年記念と言いますか、そろそろ書きたい欲の限界を越えてきましたので、近々新作を投稿しようかと思っております。
 読んでやろうじゃあねえか、という心の広い方がいらっしゃいましたら是非読んで頂けたらと思います。


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九校戦編13

遅 く な り ま し た 。

理由は察しの良い方なら想像がついているかと思いますが、後書きにしましょう。


~雫side~

 

 

 私の家はそこそこ大きな資産家の家で、所謂富裕層のゴタゴタやお家騒動、政略結婚などの話についてはそこそこ耳年増な所がある。

 実際、そういった場面に遭遇したことも珍しくないし政略結婚をした知り合いも何人か知っている。

 それ故にある程度の力を持った家が何かを望んだり、家が公認で物事にあたるということがどれほどの影響力を持つのかはよく分かってるつもり。

 こういった家の意向にその家の子女の望みが大きく影響するのは珍しくないし、実際に"自分の娘が取引相手に嫌悪感を持ったが故に取引が無くなった”なんて話は御伽噺でもなんでもなく現実に起こる事。

 事実、うちの家に遊びに来てたほのかに失礼を働いた取引先の人間にパパが怒って、その関連会社と取引を打ち切った事があったし。

 だからこそ、目の前で話してる内容は看過出来ないし、そこまで話が進んでることに恐怖した。

 旦那様?王子様?婚約者?

 盗み聞きの趣味は無いからさっさと話に加わりたいんだけど、漏れ聞こえてくる内容が穏やかじゃない。

 話してるのは一色愛梨さんだからこの話は一色家の中でもかなり発言が重い内容になるし、そもそもこんな話が出てる段階でほぼ一色家公認の婚約者も同然。

 ・・・なんか、出てくる単語が想像の斜め上過ぎて一周回って冷静になってきちゃった。

 とりあえず、このまま放置したら外堀を埋められて八幡の関係は手が出せない状態にされかねない。八幡がいかに元師補十八家の家だとしても現役の師補十八家が相手だと分が悪いと思うし。

 それに一色さん。この人、必要だと感じたことなら一切手段を選ばないタイプだと思う。野心家の経営者みたいな眼をしてるし。

 この人は明確な敵。手を抜いてたら呑まれかねない。

 とりあえず、まずは。

 

「ねぇ、八幡。今の話、どう言うこと?」

 

 八幡にお話をしてからかな。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

~愛梨side~

 

 

 

 

「ねぇ、八幡。今の話、どう言うこと?」

 

 先程に続いて2回目の招かれざる乱入者。

 魔法科高校の生徒は全体的に礼節という物を学び直すべきではないかしら?・・・あら?この顔確か・・・。

 

「もしかして北山雫さん、かしら?」

 

「うん久しぶり。

 多分うちのパーティーに参加していただいた時以来だから数年ぶり。」

 

 とても久しぶりですが、一校に通っていたのですね。

 にしても雫さんはこういった場面で空気が読めないような人ではない筈。何よりそういった躾はしっかりと受けていることでしょう。少なくとも話し中に横入りをする様な印象はありません。

 となれば何を目的にこの様な・・・。

 

「北山さんはどういったご用件なのかしら。

 見ての通り今比企谷さんとお話中なので後にしていただければ助かるのですが?」

 

「そうしたいのは山々だけど、聞き流すにしては大き過ぎる内容が聞こえてきたから。

 で、八幡?八幡に婚約者が居るのは初耳。

 詳しく聞きたいんだけど。」

 

 ・・・あら、そう言うこと。比企谷さんも罪作りな方ですね。

 まさか雫さんともそういったご関係だったのは予想外です。

 

「・・・いや、居るわけないでしょ?

 俺の家はそんなもの決めるほどデカくねえし、俺の婚約者とかどこの拷問だよ。」

 

「・・・そっか。

 なら、なんで婚約者なんて話題が出てたの?」

 

「いや、一色さんの冗談だよ。

 一色家はどうにも俺に恩を着てると勘違いしてるみたいでな・・・。正直律儀すぎるし、俺は妹たちの相談に乗っただけだから気にしなくて良いんだが・・・。」

 

 ・・・なるほど。比企谷さんをうまく誘導して私の今までの話を冗談という事に仕立て上げたわけね。

 比企谷さんとの接した長さの差で響いていますね。

 いろはの為にも道筋くらいは引いておきたいのですが、こうなってしまうと押し通すのは難し・・・・・・なるほど、その挑発的な目。私を、いえ、私たち一色家を明確な敵と捕らえているのですね。

 北山家は大きな資産家の家で、魔法師業界の影響力を持つ。

 うちとも十分張り合える、という訳ね。

 

「そうは参りません。それに勘違いでもありませんよ。

 先程も申しましたが、恩を忘れるほど一色家は恥知らずではありません。

 それに、先程の事も冗談では・・・。」

 

「それは本人の居るところで話すべき内容。

 それに、その話を進めていいのは八幡の事が好きな人だけ。」

 

 ・・・手強いわね、北山さん。

 その論調で攻められるとあくまでも当事者ではない私の言は弱くなる。

 けれど、比企谷さんの反応を見る限りまだ気持ちは伝えていませんね。ならば、そこが弱点と・・・。

 

「はいはいそこまで。

 愛梨、流石に今回は愛梨の負けっしょ。馬に蹴られに行くのは感心しないし。」

 

 優美子がこっちを見て首を振ってる。どうやら私が言う内容を察して止めに入ったって所かしら。

 いろはの為なら少しくらい馬に蹴飛ばされても気にしませんが・・・まぁ、確かにあまり行儀の良い言い回しでは無いでしょうか。

 

「・・・はぁ。分かりました。今回は引き下がりますが、先程の事は冗談のつもりはありません。

 少し考えてみてくださると嬉しいです。」

 

「は、はぁ・・・。

 ・・・まぁ、いつも通り早口で振られてキモがられて終わりだろ。てか、わざわざ振られに行けって事か?

 ・・・拷問にも程があるだろ。」

 

 北山さんが少し睨み気味な目線を向けてきますが、引いてあげているのです。これくらいはさせて貰えなければ引くに引けません。

 にしても、いろはもなかなか難儀な方に想いを寄せてしまったわね。ここまでの流れから遠慮で私の発言を否定する人は居なくは無いですが、おそらくこの方は”巻き込まれた事件を妹たちに請われて解消しただけ”程度にしか考えていないのでしょう。自分が起こした行動がどれだけの価値があるのか正確に把握出来ていないタイプですね。

 それに北山さんはかなり露骨にアプローチしているように見えます。これにも気がついていないのではなく、考慮に入れてないといった感じでしょうか?かなり謙遜するタイプ・・・ではなく自己評価が異常に低いのですね。他人が向ける好意を肯定できないレベルともなると重傷ですね。

 何が彼をここまでにしてしまったのでしょうか・・・?

 

「あー、三浦。

 話って言うと葉山の事だろ?」

 

「あ、うん。

 隼人、そっちでどう?」

 

 少し考え事をしている間に話の内容が変わりましたね。

 優美子の想い人である葉山家の御曹司。いろはが言うには良い話は聞いていないですが、訳ありと考えて良いのでしょうか?

 優美子も面倒な方に引っかかってしまったものですね。

 

「結論から言えば気にしなくて良い。

 卒業間近の頃から状況が継続しているだけだ。」

 

「それ、ヒキオとゴタゴタしてるって事だよね?

 前も言ったけど隼人の事はあーしに・・・。」

 

「雪ノ下が一枚噛んでんだから三浦家が介入するのはやべえだろ。

 それにああなってるのは葉山家絡みだろ。

 ”葉山家から葉山だけ引っこ抜きたい”なら今変に刺激しない方が良いと思うぞ?」

 

 優美子は葉山隼人さんをどうにか婿養子として引き抜こうと考えています。これについては優秀な魔法師を護るという観点から一色家にも協力を要請され、お父様も状況次第では協力する事になっています。

 ですが、現在その話は立ち消えしかかっている。

 というのも、葉山隼人本人が以前とは違う無鉄砲かつ愚かしい行動を取り始めたからです。

 生まれは変えることが出来ず、それによって生まれる不幸に手を差し伸べる事は通すべき正義。ですが、それは愚か者に適応できる程安い物ではありません。

 両家は一応保留としていますが、優美子は今の葉山隼人から何かを感じ取ったのかどうにかしようともがいています。

 

「・・・何か困った事になったら言って。あーしに出来ることなら何でもやるから。

 今の隼人はなんかおかしいから。」

 

「まぁ、状況が動いたら連絡入れるわ。

 ・・・ん?」

 

 話が終わった頃を見計らったかの様に照明が絞られていきます。

 司会進行の方から来賓の挨拶がある放送が流れ、壇上に次々と魔法師社会の著名人が顔を出し、挨拶を述べていきます。

 そこで事件が起きました。

 進行を受けて登場するはずだったのは魔法師社会の重鎮でもある九島烈。

 ですが、実際に登場したのはドレスに身を包んだ女性。

 何らかの事故でしょうか?

 

「・・・事故?」

 

「何かの事情で来れなかったとか?」

 

 他の皆さんも同じ様な見解の様ですね。

 

 

「は?後ろに居るだろ?てか、何やってんだあのおっさん。」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 来賓紹介とか聞いている人間がほぼ居ない無駄イベント挟むくらいならパーティーそのものの時間を短くするべきではないだろうか。

 事実、誰も得をしないのだ。

 聞く方も、来賓に話を聞く間時間を拘束されるわ、会ったことも無いような人の応援メッセージなど「あ、ありがとうございます。」と、どもりながら礼を言うのが関の山だ。

 話す方も仕事がただ増えるだけでろくに感謝もされなければ”早く終わらないかなー”的な目線で眺められるのだ。ある種の拷問である。

 

 だが、だからといって壇上の上で女の人に隠れて登場は奇を狙いすぎじゃね?

 

 てか、かえって目立つだろ。

 話をまともに聞いてもらうためのユーモアか何かなの?八幡高度すぎて理解できないわ。

 だが、隣から聞こえてくる内容はまるで後ろのおっさんが見えてないかのような会話。

 

「は?後ろに居るだろ?てか、何やってんだあのおっさん。」

 

「え、後ろ?」

 

 まーじで見えてないの?・・・あ、そう言う。

 精神干渉魔法か。会場全体とか派手な事しやがる。

 とりあえず雫達の分くらいは吹っ飛ばす事にして自分の周りに軽く領域干渉を張る。これで見えるだろ。

 俺のこの行動に周りの人間がこっちを見るのとほぼ同時に女性が壇上を降りはじめ、後ろからこの悪戯の主犯が現れた。

 

「まずは、悪ふざけに付き合わせたことを謝罪する。」

 

 そういって語り出しすこの悪ふざけの犯人、九島烈。

 

「今のは魔法というより手品の類だ。

 だが、手品の種に気付いた者は私の見たところ6人だけだった。」

 

 視線が見破ったと想われる人間達へ向けられる。てか、俺を見んじゃねえ・・・。

 

「更にこのうち一名はこの魔法に対して正しく対処もしてみせた。

 大変素晴らしいことだ。

 だが・・・。」

 

 

「もし私がテロリストで、毒ガスなり爆弾なりを仕掛けたとしても、それを阻むべく行動を起こせるのは6人だけであり、この相手に先制を許した状況で後手に回らず行動を起こせるのは対処まで終えた1人だけだという事だ。」

 

 

 会場がざわつく。

 視線がおっさんと、おっさん曰わく正しく対処できたであろう俺を行ったり来たりする。

 止めてぇ、こっち見ないでぇ・・・!!

 

「魔法を学ぶ若人諸君。

 魔法とは手段であって、それ自体が目的ではない。」

 

「私が今用いた魔法は規模こそ大きい物の、強度は極めて低い。

 だが、君達はその弱い魔法に惑わされ、私を認識できなかった。」

 

「魔法力を向上させるための努力は決して怠っていけない。

 しかしそれだけでは不十分だという事を肝に命じてほしい。

 使い方を誤った大魔法は、使い方を工夫した小魔法に劣るのだ。」

 

 

「魔法を学ぶ若人諸君。私は諸君を工夫を楽しみにしている。」

 

 

 会場に拍手が鳴り響く。

 追加で視線もこっちに来る。

 ・・・帰りたい。

 

「八幡凄い。老師に誉められるなんて。」

 

「いや、あれは勘違いだっての。

 俺は雫達にも見える様にしようとしただけだし。」

 

 結果的に正しい対処になっただけだっての。

 

「ですが、真っ先に魔法を見抜きそれを無力化しました。

 私は気付きも出来なかったですから・・・。」

 

「単純に相性だろ。

 俺はああいった魔法が効きにくいからな。伊達に分析系の家系じゃねえって事だから気にしなくて良いだろ。

 それに、これだけ人数居て俺以外に5人だろ?偶然の産物なんじゃねえの?

 てか、そろそろ失礼するわ。俺、ここに居たら30秒で死ぬ。」

 

 こんな針のむしろ空間死ぬわ。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

~老師side~

 

 

 

 スピーチが終わり、自室に引き上げ先ほどの悪ふざけを思い出す。

 先程の悪戯は言わばテストを兼ねたものであった。

 確かに、伝えた思いは本心ではあるがそれ以上に今の子供達がどの程度対応できるかを見たい側面が大きかった。

 結論から言えば6人が正確に私を捕らえいつでも動ける状況にあったのはこの年代である点を踏まえれば上々な成果と言えるだろう。

 だが、今回のテストはもう一つの意味を含む。

 四葉のせがれ達の力量をはかる。まぁ、ちょっとした力試しのような物だった。

 七草や十文字の子らはこの2年でよく見ておる。この程度見破ってくるのは予想しておったし、一条のせがれも予想通り見抜いてきた。

 だが、最初に見破ってきたのは四葉のせがれ2人だった。

 深夜の息子は魔法を受けた上で直ぐに気がつき、こちらを捕らえてきた。

 

 そして、沙夜の息子はそもそも”最初から見失っておらなんだ”。

 

 理由は判らんが、魔法の影響を全く受けずに此方を見てきたことには驚いた。

 魔法の手応えはあった。更には沙夜の息子が魔法に気がついたのは他者を見て、といった具合。

 恐らくは魔法に対して何らかの耐性を持つか、あるいは”魔法の介入を無視して私を捕らえる手段を持つ”か。

 ・・・なるほどのう。将来が楽しみな若造じゃないか。

 

 

 

 

 




 早く投稿したいとはなんだったのか。

 さて、言い訳になりますが、新作書き始める→ワールド設定書き始める→15000次超える(説明回かよ1話目から)→めっさ削ってまとめる。

 といういつも通りのタコ作者が居たのもあるのですが、大部分は課題に追われておりました。なかなかリアルが爆ぜてくれないので大忙しです。

 とまぁ、雑魚はいつも通りですがとりあえず後数話で九校戦は始まりそうです。
 始まるまでがながいのは作者補正です。勘弁してください。


 さて、例の新作です。艦これ物でございます。
 私個人としましては「夕立が、可愛いんです。」って想いを投げた結果むやみに重たいワールド設定とキャラクター背景が生成された迷作となっております。(名作とは程遠いです。)よろしければ突っ込み批判、ご指摘、やらかしてるぞタコ作者などをこちらにも頂ければと思っております。

↓とりあえずURL貼ってみましたが見れるんでしょうか?見れなさそうなら消します。
https://syosetu.org/novel/180853/


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九校戦編14

時間の有限性に物申したくなる程度の雑魚さは健在です。読多裏闇です。

寒さは佳境を迎えてますが、皆さんはいかがお過ごしでしょうか?私はテスト用紙と命の削り合いをしておりました。(単位的意味で。

察しの良い読者様方は予想通りかと思われますが遅くなった理由はそのあたりです。何卒ご容赦を。


 

 

~ほのかside~

 

 

 女が三人も集まれば姦しい。なんて使い古されたフレーズですが、事実2人しか集まってなくても十分に姦しい、どころか喧しいなんて事は珍しくないので、ある意味凄く秀逸な指摘なのかもしれません。

 それが3人どころか九校戦参加予定の一年生女子のほぼ全員が同じ空間に居るのですから騒々しいのはある意味予定調和なのかな?

 そう言ってお湯をすくって顔を濯いでいるここはお風呂。正確には温泉なのですが、軍の施設である九校戦会場の地下に温泉施設があり、入って良い許可まで出たのは驚きました。

 そして許可を取り付けたエイミィに誘われる形で温泉を満喫しています。

 

「そう言えば三校に一条の跡取りが居たよね?」

 

「なんか深雪の事熱いまなざしで見てたよ?」

 

 そう言って話を切りだしてきたのはエイミィ。みんながお湯に浸かって雑談に花を咲かせていた中での何気ない一言。

 年頃の乙女がこんなにおいしいネタを出されれば瞬く間に妄想の花が広がるのは必然で以前から知り合いで、実は一条君が深雪の事が好きなのでは?なんてレベルで飛躍し始めました。

 

「深雪、どうなの?」

 

 こういったときに雫は妄想を膨らませず冷静に事実を確認しようとします。今回も例に漏れず当事者に即質問。周りから見たらクールなんだけど、好奇心を抑えられずすぐに質問してるだけなんだけどね。

 

「真面目に答えさせてもらうけど、一条君の事は写真でしか見たこと無いわ。会場のどこにいたのかも気がつかなかった。」

 

 この回答には乙女回路の介入する余地が無く妄想の投げつけ場所を失ってみんなは鼻白んでいました。

 しかし、ここでブレーキをかけれるほど乙女の妄想力は伊達ではありません。

 

「じゃあ、深雪の好みってどんな人?やっぱりお兄さんみたいな人が好みかい?」

 

 そう言って追撃を入れたのは里美スバル。ボーイッシュな見た目の子で口調も行動も男性的な部分も多くて、こういったときに思い切りの良い事をよく言うタイプの子。

 スバルだからこそ容赦なく聞けてますが、私には聞きたい欲はあっても、聞く勇気が持てない質問でした。

 

「何を期待しているのか知らないけど・・・・・・私とお兄様は実の兄妹よ?」

 

 深雪は冷静を通り越して呆れた顔をしつつ答えました。ですけどそれ、気持ちについては否定してないような・・・。

 

「いや、でも普段からあれだけイチャイチャしてるの見るとやっぱりさぁ?」

 

「イチャイチャって・・・。

 まぁ、昔はお兄様が好きだった時期が無いではないけれど、少なくとも今は違うわよ。」

 

 爆弾発言過ぎるよ!!

 

「え、えっ!!?どういうこと?深雪詳しく!!」

 

 深雪が参戦したら敵いっこないよ!?

 ただでさえ達也さんは深雪に甘いのに・・・。

 この爆弾発言どころか核爆弾とも言うべき発言に色めき立ったみんなは深雪に詰め寄った。

 

「単純にお兄様以上の男性がこの世に存在すると全く思えなかったのよ。ほら、親戚のお兄さんが無性にカッコ良く見える時期ってあるじゃない?それと同じよ。

 だけど、それはあくまで私の思いこみと我が儘。そう諭してくれた人が居て目が覚めたから、今は兄として敬愛してるだけよ?」

 

「そんなものかな・・・?実の兄妹だとハードルがちょっと高くない?」

 

 エイミィのある意味もっともな指摘に再び集まる深雪への視線。

 

「だから、恋じゃなくて憧れとか親愛の延長線上にあるような想いなのよ。

 恋を知らないが故の暴走って感じかしら?今思い出しても少し恥ずかしいわね。」

 

 そう言ってはにかみながら笑う深雪の言葉を額面通り受け取れないのは私が疑り深いのかな。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 参加することに意義がある。

 使い古されたイベント参加強要の謳い文句だ。

 そもそもの学校行事は授業であり、基本的に参加する事が推奨されるのは学校という組織に所属している以上仕方がないことである。だが、それ自体に意義があるかは個々人によって様々であり”学校に所属する人間としての義務を全うする意義”はあっても、参加した内容に意義があるなどと、やる前から確定など出来るわけがない。

 だが、この言葉の一番の問題は”参加することの意義”の存在は示しても、”参加しないことに意義がない事”は証明していないにも関わらず、そこに触れていないという点だろう。

 さも「こっちは意義があるんで、こっちに意義無いです。」的な都合がいい印象操作を感じずにはいられない。参加するだけで意義があるなら参加しないというある種の貴重な体験にも意義はあると俺は説いたい。

 だからこそ俺は今激しく後悔している。

 国立魔法大学付属第一高校における体育祭、通称「九校戦」は参加人数に縛りがあり参加は任意。

 公然と参加しない意義を唱え家で夏休みライフを満喫できた筈なのだ。

 だが、結果はどうだ?

 新人戦は出せる限界まで参加強要。

 挙げ句にエンジニアまでこなす最もハードな参加者といっても過言ではないこの状況。

 ブラックにも程があるだろう!?

 だからこそ、本格的に忙しくなる新人戦開始までは断固としてホテルの部屋を出ないと・・・。

 

「八幡早くしないと席なくなっちゃう。」

 

 あれ、俺なんで外にいるんだろう・・・。新人戦までは引きこもるつもりだったのに。

 オカシイナー。

 

 俺の籠城計画は朝食の誘いという搦め手を用いた謀略によって逃げ道を封鎖され、挙げ句準備を手伝いに来た世話焼き役(要するに深雪)に二度寝を封殺されあっけなく瓦解。

 今は雫に手を引かれ(必死に手を離すように言ったが「逃げるからダメ」と離してくれなかった)深雪に背後を監視されつつバトルボードの予選会場にドナドナされている。

 九校戦は毎年全国中継されるほどの人気なイベントで一般観覧券も毎年完売する程だ。

 それ故に人が多い。

 それも、今から見に行くのはバトルボードでも前回優勝のうちの風紀委員長様が出る試合。注目度に比例して人が多いのは仕方がない。

 仕方がないのは、分かっているのだが・・・。

 

「・・・よし、人多いし席取れないのなら帰ろうそうしよう。」

 

「エリカ達が席取りしてくれてるみたいだからそこまで急がなくても大丈夫なのは間違い無いですが。

 ・・・八幡さん、流石に先輩方の競技を全く見ないのはどうかと思いますよ?」

 

 席確保済み・・・だと・・・。

 

「・・・ごめん、ちょっと急ぎすぎたかも。

 後八幡往生際が悪い。今日は八幡に解説してもらうつもりだったから来てもらわないと困る。」

 

 何それ聞いてない。

 

「それ、達也の方が適任だろ。」

 

「達也さんにもお願いしてる。

 けど、達也さんが戦術面とか魔法の有効性や判断とかは八幡に聞いた方が良いだろうって。」

 

 達也め余計なことを・・・。

 そんな最後の足掻きも虚しく開場近くに到着した。席の場所は予め聞いていたのだろう迷い無く進む雫を阻めるものは無いかに思われた。

 

「八幡遅い。」

 

 唐突に現れた少女に抱きつかれるまでは。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

~??side~

 

 

 

 私の中学校は進学校。

 入試の難易度もさることながら中での勉強のレベルも高く、しかも中学受験になるのでハードルも高くて基本的に入るのが難しいです。

 それと同時にこの学校はとても特殊な事を先進的に取り組んでいることで有名です。

 それが『魔法』。

 本来は高校生から本格的に学ぶ事が出来る技術で、それを中学生から学べる様にする試験校、らしい。

 まぁ、細かいことはこの際どうでも良くて、重要なのは私はその学校に行きたくて、どうにか入学に漕ぎ着けられたってこと。

 本来だったら中学受験までして行く学校の事を”細かいこと”で片付けたらいけないんだろうけど、私にとって重要なのは学校そのものじゃなくて会いたい人がいたから。

 その人に会った時にはその人の事を多くは知れなかったけど、少なくとも通ってる学校は分かったから対等に話せるようになるためにどうしても同じ学校に行きたかった。

 そして入学式と同日にその人に会いに行った時の顔は今でも忘れない私の初勝利の思い出。

 

 だけど、そこはそう簡単な世界じゃなかった。

 

 魔法関係者とそれ以外の確執、魔法関係者の中でも表立って大きな派閥がいくつかあって水面下の精神攻撃は数知れない。敵と味方の読み合いが横行し立ち位置を間違えると火の粉が飛んでくるのも時間の問題という始末。

 しかもその攻撃対象の筆頭に私が会いたかった人が含まれていた。

 最初こそ、恩返しのチャンスだと思ってた。私を孤立から救ってくれたみたいにどうにか力になれないか考えてみたけど、あまりにも私はその世界の事を知らなさすぎた。

 悔しくて、でも諦めきれなくて。

 がむしゃらに色々やって、色々な偶然や伝手を辿ったらそれが実り、私は魔法特進クラスの候補生になった。

 元々入学段階で魔法資質を見られてて、資質あると判断されたのが入学に貢献していたと後から先生に聞かされた。

 だから今、こうして九校戦見学の合宿に参加できてるのは私の頑張りの成果とも言える。

 魔法特進クラス候補生の希望者は本来3年で行くはずのこの合宿を2年の時に参加できる特権がある。師匠も「ああいった魔法の資質を競う競技を見ることは一番良い勉強になるから参加してくると良いよ。」ってお墨付き貰ったし。

 だが、一番の目的はあの人の競技を見ること。

 そしてもしかしたら会えるかもしれない。そう思ってその人の学校の優勝候補が出る試合を同じ行動グループの先輩方と見にきたら探し求めていた人を発見。

 だけど、おかしい。

 あの恥ずかしがり屋で寄っていったら逃げる様な人がなんで女の人に手を引かれてるんだろう?

 それに凄い美人も連れてかなり目立ちまくってる。

 ・・・・・・これは詳しい話を聞かなきゃいけない。

 それに手を引いている人は間違いなく敵。なら、イニシアチブは取っとかないと・・・。

 

「八幡遅い。」

 

 色々な鬱憤と牽制を込めて、私は八幡に抱き付いた。

 

 




よーし。やっと出せたー。

感想欄にてこの新キャラについて話が出る前からこの流れ自体は考えていたのですが、私としましても書きたかったネタなのでやっと、という思いがあります。
登場をお待ちの方にも楽しんで頂けたら幸いです。


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九校戦編15

ワタシマダエタッテナイヨ。

 いっちょ前にスランプ拗らせたタコが居るらしいな?読多裏闇です。
 恐ろしいほど文章が形にならず時間がかかりました・・・。(忙しかったのもありますが、時間を作ってもまとまらず・・・。
 如何せんスランプのようなものは初体験なので戸惑っておりました。
 ですので煮詰まってる可能性がなきにしもあらずですが、その際は感想にて容赦なくご指摘をば。


~いろはside~

 

 

 

 無自覚な天然ジゴロほど傍迷惑な存在はなかなか居ません。何故ならば、それに振り回された被害者が量産された挙げ句、全員が幸せになる手段が存在しないからです。これが意図的なものならば改善を促したり、状況を利用すればライバルを減らすことも可能ですが、無自覚な人は改善も難しく、無自覚なのは”女子から見たら分かりやすい”のでジゴロであることを暴露してもそもそも知っているので嫌って離れたりもしません。結果、被害者は増えるばっかり。

 

 ですが、その程度ならば案外居ます。ええ、その程度ならば!!

 

 言ってしまえば”もの凄い鈍い人”でしかないこういった人は大なり小なり居ますし、後から考えてみれば思わせ振りな台詞を誤って言ってしまっている、なんて事は集団生活をしていたら全く起きないと言える程ではないので、程度の差はあってもそこまで稀少な人ではありません。

 ですがその傍迷惑を超えて尚、更に迷惑この上ない人種が居ます。それが。

 

 自分に好意を向けられていると”認識した上”で、それを純粋な好意ではなくなんらかの意図を持っての物(例えば悪意的何かとか)や好意を向けている行為ではなく偶然やってしまった内容で、自分の自意識過剰だと自己完結してアプローチに気がつかないんじゃなくて自分に向けられているものではないと勝手に納得する。

 なんて思考を標準装備した天然ジゴロです。

 

 まぁ、先輩なんですけど。

 これがもう”難攻不落の城が如き”なんて物じゃ生易しい代物で、暖簾に腕押しは押さなかった事になり、糠に釘を差しても意味がないどころか穴すら消失してしまっている勢いなので、洒落になりません。

 まぁ、このレベルまで行くと概ね脈なしって諦めるのが普通なのでしょうけど、何故か先輩は諦めが悪・・・・・・いえ、もう素直に言いましょう。愛が重い人に好かれやすい体質のようで、諦めも悪ければ油断もならない人が多いです。

 ・・・まぁ、かく言う私もその一人なのですが。

 現在、私が知る限りライバルになりうる、と言うか好意を寄せてるのは"例の2人”を除けば小町が言ってた先輩のクラスメイトさんと、生徒会長さん、それと油断ならない後輩でしょうか。

 水波も小町も妹の範囲超えてる感じするけど、多分重度のブラコンで通る範囲内だと思う・・・・・・・・・多分。

 第一高校の人は分からないけど、私的要注意人物だと思っているのが後輩の鶴見留美。去年・・・具体的には雪ノ下先輩達と一悶着あった後の1年で一番の脅威だった新入生。

 今では2年生となって先輩が卒業したためそこまで諍いは起きていませんが、先輩が居たときは水面下での勢力争いに気が抜けませんでした。

 留美の怖いところは行動力と思い切りの良さ。

 先輩と同じ学校に行くために両親を説得して中学受験をパスしてくる程の行動力はそこらの小学生ではなかなかみせられないでしょう。

 この行動力はとてつもない脅威で、私が踏もうとしていた段階を勢いで突破されたことが何度あったことか・・・。

 そう、それ程の脅威だと知っていたのに・・・!

 

「油断したね、いろは。」

 

 水波に私の心情を正確に当てられ後悔による現実逃避から帰還する。

 現在私達は九校戦見学の自由行動中。よって予選にあたる競技を見に班にて移動中です。

 メンバーは私、小町、水波と2年の特別参加枠で参加している鶴見留美の4名。このメンバーは事前に決めた班でこの合宿では常に行動を共にする予定です。なにせ、部屋まで一緒なので。

 そして面子が面子なので見る競技の偏りもお察し。まぁ、先輩目当て100%と言っても過言ではないですから必然的に見に行くのは一校関係。

 今回も一校関係者の試合ならもしかしたら先輩と会えるかも、くらいの考えでここに見に来ています。

 結果から見たら先輩はあっさり見つかりました。

 

 問題は先輩の隣に居る2名の女性でしょう。

 

 片方は深雪先輩なのでまぁ順当です。従兄妹ですしあの方のブラコンさは小町からよく聞いてますし、小町のブラコンさを見ればこの状況は想定範囲内です。

 問題は”先輩と手をつないで歩いている方”。

 おそらくは前に小町が言っていたクラスメイトとか言う危険人物でしょう。見たところクール系の美少女で、あの先輩のガードを崩して手をつないでいる所から見てもかなりの強敵。

 贔屓目に見ても洒落になっていません。

 救いがあるとすれば後輩こと留美ちゃんとキャラが被ってる感じがする事かな?

 などと悠長に戦力分析していたのが運の尽き。この光景に不快感を持つのがもう一人いるのを完全に忘れていました。

 気がついたら隣に居たはずの留美ちゃんが先輩に向けて突撃を敢行している。出遅れた・・・!!!

 隣の小町はこの状況を楽しんでいで、分析に勤しんでいます。水波は先輩のフォローが出来るように構えているのでしょう。・・・味方が居ませんね。このままでは不味いです。

 

「なんでルミルミがここに居るんだ?」

 

「ルミルミじゃない、留美。

 合宿だよ?」

 

 なに抱き合ったまま普通に会話してるんですか。まぁ、妹に構ってるのと同じ感じなので先輩のガードが甘いです。

 しかも、あの感じは先輩分かってて抱きつかれてますね。死角から飛び込んだ留美ちゃんを真正面から受け止めるって後ろに目でもついてるんですか?しかも驚いてなさそうだし。深雪先輩達は驚いて固まってますが、多分”見えなかった”からびっくりしてるんでしょう。

 ってそんな悠長な事してる場合じゃなかった。

 

「先輩なににやついてるんですか、キモいです。

 中学生に抱きつかれて鼻の下伸ばすとか犯罪ですよ?通報しましょうか?」

 

「はっ!?い、いや落ち着け。人をさもロリコンの様に扱うんじゃねえ!!」

 

 慌てすぎですよ、ロリコン先輩。

 にしても後ろから見てたからこそ分かることですが、明らかに死角から意識の隙間を縫うように飛び込んだ留美ちゃんをどうやって察知したんでしょうか・・・。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

~小町side~

 

 

 

 留美ちゃんもなかなかやるなぁ。お兄ちゃん相手だとそれくらい押せ押せじゃないと気にもしてくれないから有効だけど、妹カテゴリに一度はめられちゃうとそれを理由にかわしちゃうから見かけよりも前途多難なんだよね。

 それはともかく。

 隣でわちゃわちゃやってるところに、クラスメイトさんが参戦する前にちょっと視察が必要だよね?

 

「はじめまして!!比企谷小町と言います!!

 兄がお世話になってます。」

 

「八幡の妹さん・・・?

 こちらこそはじめまして。北山雫です。」

 

 凄く丁寧に挨拶された。所作もすごく綺麗だし良いとこのお嬢様なのかな?

 

「さっき兄と手をつないでましたけど、もしかしてお付き合いしてたりします・・・?」

 

「っ!?ま、まだそういう関係じゃないよ。

 さっきのは八幡を逃がさないように連行してただけで・・・。」

 

 結構可愛らしい人だったよ・・・。見た目クール系だからギャップ凄いなぁ。

 それに”まだ”ってことはかなり好意を自覚してて、アプローチもそこそこやってる感じっぽい。これは本格的にいろはちゃんピンチかな?

 

「連行って、まーた部屋にでも籠もろうとしてたんですか・・・?。ほんとごみいちゃんなんだから。」

 

「説明しなくても分かるんだ。流石妹さん・・・。」

 

「あ、妹さんとか他人行儀なんで是非とも小町と呼んでください!!

 私も雫さんって呼んでも良いですか?」

 

「うん。よろしく小町ちゃん。」

 

 よし、概ね分かったかな。時間稼ぎして貰ってた深雪お姉ちゃんに合図だけして、と。

 そういって性格診断を打ち切る。

 今やってた事はお兄ちゃんのお姉ちゃん候補になりそうな人全員にやっています。深雪お姉ちゃんと話し合って”二度と失敗しないように”するために。今回は突発的だったけど深雪お姉ちゃんが気を利かせて時間を稼いでくれた感じ。あんなでもうちのお兄ちゃんだからこれ以上失敗するのは妹として見逃せない。

 とりあえず雫さんは問題なさそう。後々観察は必要かもしれないけど、当座お兄ちゃんの敵にはならないと思う。

 にしても、また美人釣り上げてきたね・・・お兄ちゃん。刺されないか心配だよ・・・。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

~留美side~

 

 

 

 

「渡辺先輩にかかってるベクトルが全部固定値になってるな、全体を一つのオブジェクト扱いで移動魔法かけてるのか。」

 

「ボードを含めた全体を一つのオブジェクトとして成り立たせてるのは、硬化魔法を利用した相対位置の固定か。なかなかおもしろい使い方だな。」

 

  八幡の解説は目的と理由があってなんのための魔法なのか分かりやすいし、結果から話をしてくれるから観戦しながら聞くのに必要な部分に注目しやすくてとても助かる。

 目下の問題は八幡の隣を油断ならない人達が占拠してる事だけど。

 

「そんなに羨ましそうに見るなら抱きついた勢いのまま隣に座れば良かったんじゃない?」

 

 うっ・・・。

 小町先輩は、相変わらず私の考えを見透かしたような発言をする・・・。

 というのも、今バトルボードの競技を見ている席は3列に分かれていて、前列に八幡とその両隣にいろは先輩と手をつないでた雫さんって人、それと深雪さんと達也さん。その後ろに私達を含めた数人が分かれて座ってる。私は八幡のすぐ後ろで隣に小町先輩が座っています。

 この席順に座るにあたって、八幡はなんの疑問もなく後ろの端っこに座ろうとしたけど、周りがそれを許さず、解説役としていろは先輩と雫さんが強制的に引っ張り出し、中央に連行しました。この際、八幡の隣に座るポジション争いに似た水面下の攻防が発生する筈だったのですが、エリカさん?と言う方が私を雪ノ下先輩の妹と勘違いしてきました。私的には馴れてますが、正直不快この上ないのと、諸事情により”ポジション争いに参加できそうにない”ので全力で軽蔑の眼差しと文句、ついでに殺気もぶつける等を口実に逃げてきました。

 

「まぁ、恥ずかしいのは分かるけど、ここまで押したんだったら勿体ないよ?」

 

 つ、追撃が痛い。

 なんでここまで見透かされるのかな・・・。

 まぁ、指摘の通り私は逃げるというか、クールダウンの為にポジション争いを辞退しています。理由は簡単、今日八幡に不意打ちで抱きついてしまった事についてです。

 むかっとしてやったとはいえ、普通に奇襲して抱きついただけならここまで恥ずかしい事はなかったんだけど、奇襲したはずが何故かバレて、しかもスピード的にかわしたら私が怪我する可能性を考えた上で受け止めて貰って。バレて地味に恥ずかしいのを会話で誤魔化してたのに、最後には「てか、いきなり飛び込んで来たら危ないっての。てか、縮地の応用か?何教えてんだよあの坊主・・・。」とか言いながら頭ぽんぽんするのは反則だと思う。いろは先輩が介入してきてきた時は不本意ながら少し助かった。

 おかげでイニシアチブ取るとか以前の問題で落ち着くのに時間がかかっちゃった。

 

「・・・もう冷静になったから大丈夫。さっきのは不意打ちだったから。」

 

「不意打ちしにいったのに返り討ちにあってるから不意打ちなのかは微妙だよね。

 にしても、妹ポジション脱却は遠そうだね。」

 

 小町先輩の指摘はなんでこう的を正確に射抜くのだろう?

 八幡は基本的に女の人と接触することから全力で回避する。接触せざる得なくてもそれが好意的な行動では絶対無いと言い切る。あくまでも必要性にかられて仕方なくだと信じて疑わないし、しなくて済むなら裏技を使ってでも回避する事が"相手側の女の人にとっても望ましい”事だと本気で思ってる。

 だから、女の人が抱きついてきそうになったら逃げる

 なのに私は受け止めた。

 これは怪我の防止もさることながら、八幡にとっての妹ポジションの人はそういった邪な考えが起きる範囲外って扱いだからだと思う。

 要するに女として見られてない。凄く不本意ながら。

 

「去年はまだ小学校卒業からすぐって扱いで逃げられたけど、今年からはその言い訳は通用しない。

 近いうちに絶対ぎゃふんと言わせてみせる。」

 

 そもそも2歳しか変わらないんだから子供扱いは失礼だよ。

 

 

 

 

 

 




頭抱えるくらいなら上げちまえ精神で完成してます。

一回上げてしまえばなんとかなると信じたい。


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九校戦編16

次話を書いてると気がついたらえらく先の内容が書き上がる病気に名前を付けたい。

そんなことやってっから投稿遅いマンが生成されるのですがね・・・。


~真由美side~

 

 

 

「まずは予定通りだな。」

 

 そう言って本日の総括をした摩利に集まる視線は暖かい。

 九校戦一日目の全ての演目が終了し、選手も全て撤収した今はもう8時を回った頃。夕食を終えて生徒会関係者で一日目の所感を含めたミーティングと言う名のダベり会が始まっていた。

 本日の演目はスピードシューティングの予選と本戦、バトルボードの予選が行われており、スピードシューティングでは私が優勝。摩利も予選を危なげなく突破している。

 これは作戦スタッフが優勝を目指して立てた予定通りの結果のため、連覇に一歩近づいたと考えても良いでしょう。予定は未定ではあるものの、摩利の”予定通り”と言う表現も言い得て妙って感じかしらね。

 

「まぁ、こっちについてはこのままで良いとして・・・、問題は男子か。

 服部がなんとか勝ち残ってるが、ヒヤッとしたぞ。」

 

 男子の戦績はスピードシューティング優勝とバトルボードの予選突破で決して悪くはない。だけど、バトルボードの選手であるはんぞーくんがなんとか滑り込んだものの、危なっかしい試合運びで見ている側には非常に心臓に悪いものだった。

 

「CADの調整があってなかったみたいです。試合が終わってからずっと木下先輩と二人で再調整してましたけど・・・。」

 

「まだ終わってないようですね。」

 

 りんちゃんが情報端末で機器の稼働状況を確認したところ、現在も作業中みたい。

 木下くんは三年のエンジニアで、男子のエンジニアを多数担当しているものの、その腕は並に足が出た程度。一校の3年ならば自力で調整する人間も少なからず居るものの、全員にそれを求めるのは酷な為”調整が出来る”というだけでも十二分に戦力。・・・なのだけど。

 2年、1年のエンジニアチームメンバーは比較的優秀な人材が多く、特に1年の”あの2人”は私から見ても超高校級と言っても差し支えない腕を持っている。

 木下くんのスキルはエンジニアチームとしては十二分と言えるし、エンジニアチームとしては2年目で経験もある事も踏まえれば参加自体は納得なのだけど・・・、どうしても比べてしまうのは人間の性でしょうね。

 

「まぁ、本人が納得するまでやらせてあげるしかないでしょうね。」

 

「いえ、会長。今日すぐに、とは行かないかもしれませんが多分なんとかなると思います。

 さっき比企谷くんに"夕食そっちのけで作業してるので夕食を持って行ってあげてほしい"ってお願いしておいたので、多分、力になってくれると思います!」

 

「木下は下を見るときはアレだが、自分より優れている人間には腰が低いからな・・・。」

 

 エンジニアチームの中は思いの外殺伐としている、というのはあーちゃんがこの前嘆いていた愚痴から判明している。いかに能力を見せつけてもやり方がやり方だったため感情的に認められない人も一部居る、とのこと。

 言うには、八幡くんと達也くん両方を認められない人と、達也くんだけが認められない人が居る感じみたいね。

 まぁ、これはエンジニアチームに限った話ではないけれど。

 

「にしてもあーちゃん。後輩を顎で使うなんて、成長したわね~。」

 

「ふぇっ!?そ、そんなつもりじゃ・・・!!」

 

 などと、あーちゃんをからかいつつ、ふと朝方の疑問を思い出した。

 

「そういえば深雪さん。スピードシューティングの予選、居なかったみたいだけど他の競技見に行ってたの?」

 

 私のスピードシューティングの予選は午前中で、深雪さん達はクラスメイトと見にくると聞いていた。別に予選だし、本戦は見に来てくれたみたいだから正直どうでも良いと言えばどうしても良いのだけど、来ると聞いていただけに疑問に思ったのだ。

 

「すいません、会長。

 見に行くつもりだったのですが、八幡さんを起こすのに手間取りまして・・・。」

 

 深雪さんは会場から居るか居ないかの判断が出来たことに驚いてるみたいだったけど、話の本筋じゃないから質問は遠慮してくれたみたい。まぁ、達也くん辺りが見抜いてそうではあるから既に”私の魔法”(マルチスコープ)は知っているのかもしれないけど。

 ってそんな事より、ちょっとまって。

 

「起こすのに手間取る・・・ってもしかしてどこか調子悪いの!?」

 

 このタイミングでの体調不良は看過できない。

 平然と九校戦に臨んではいるものの、あのバス事故は昨日の出来事。本来なら競技に影響が出たってなんの不思議もない状況だし、はんぞーくんも直接ではないにしても影響してるように見えた。

 みんな少なからず悪影響を受けてるだろうし、私はそれを無視できないし、してはいけない。

 幸い、今年の一年生は心の芯が強い子が多そうだから、影響は少ないと思うけれど、それはこの状況を手放しにして良い理由にはならない。

 幸いなことに新人戦は四日目だから、クールダウンの期間を設けれるのは助かるわね。

 だけれど、一番の功労者にして”被害者”とも言える八幡くんは今回の件で無理を強いてしまった責任は、ちゃんと取らないといけない。

 

「調子は・・・おそらく大丈夫だと思います。お疲れだったのは間違いないでしょうから全く関係がないとは言い切れませんが。

 ですが、お兄様も「一晩ぐっすりと寝れば問題ない。」と言っておられたので、単純に忙しいという現実から逃避したかったのではないかと・・・。」

 

「じゃあなに?お休みが欲しい為に、お昼まで寝ようとしてたって事?」

 

「お昼まで、と言いますか・・・放っておいたら一日部屋で惰眠を貪りかねませんので、雫と阻止しに行った・・・というのが正解でしょうか?」

 

 流石にそこまでは・・・ってあれ、摩利もあーちゃんもなんでそんなに納得顔なの?

 流石にそこまではやらないと思って懐疑的な目を向けているのはどうやら私だけみたい。

 何、この微妙な疎外感。

 

「真由美は根がお嬢様だからな。ちょいちょいこういうとこズレてるというか・・・。

 ・・・悪い悪い、そう睨むな真由美。」

 

「世間知らずで悪かったわね!!

 というか、八幡くんは嫌そうな顔こそするものの仕事に関しては真面目に取り組んでるじゃない。結構マメなところもあるみたいだし、そんな日長一日ダメ人間みたいな生活・・・。」

 

「しますね・・・。」

「しそうだな・・・。」

「するんじゃないでしょうか・・・。」

「するでしょう。」

 

 ・・・おかしい。なんでこうも食い違うのかな?

 

「そもそもですが、一日寝て過ごす、という行為そのものがそこまでダメ人間の誹りを受けるほどの行動ではないかと。」

 

「まぁ、家でなら少しは分からなくはないけど、出先に来てまでやる・・・・・・のね・・・。

 というか、八幡くん相手に常識は通用しないんだったわ・・・。」

 

「まぁ、真由美の常識は”一般から見たら健全すぎる”っていうのもあるとは思うが、比企谷の労働に対する逃避観念も大概だからなぁ。」

 

 本当に八幡くんは私の想定をこうも崩してくるのかしらね。良い意味でも悪い意味でも。

 というか、九校戦が始まってから八幡くんに振り回されっぱなしなのだけど?

 心配させるし、怒らせるし、心配させるし、心配させるし!!

 ・・・なんかちょっとムカついてきたわね。どうせ当の本人はこっちの心配やらなにやらしてるのにまっっっっっっったく気がついていないんでしょう?

 しかも指摘したらしたでひねくれた暴論で有耶無耶にして真面目に対応しないし・・・。

 かと思えば寝こけて競技も見に来てくれないと。

 ・・・いいわ、そっちがその気ならこっちにも考えがあるんだから・・・!

 

「木下くん、多分明日は出突っ張りよね?そうなると明日のクラウドボールのエンジニア担当、変わって貰わないといけないんじゃない?」

 

「木下くんはサブですが、確かにメイン一人だけでは負担が大きいかと。クラウドボールは1日の試合数がもっとも多い競技ですから、誰か代役を立てるべきでしょう。」

 

 りんちゃんのもっともな正論。私的には"有り難い正論”ね。

 

「なら、八幡くんにお願いしましょう。明日はオフだし、元々そういう話は出てたし?」

 

 元々、八幡くんのエンジニア担当決めの時、一番スケジュール管理が難しかった。

 理由は単純。本人も競技に参加する為、新人戦の日程内では完全オフの日がほぼ無いから。競技も2種類で出突っ張りに加えてエンジニアもとなるとどう組み合わせても被る部分が出てくる。

 本来なら競技のみでバックアップは他にして貰うべき状況だけど、調整技術も上級生顔負けともなれば、遊ばせておくなんて言語道断と言うのが首脳陣の見解。

 この状況では新人戦でのエンジニア担当は難しいとして、本戦の担当にする話が出るまでさして時間がかからなかった・・・のだけど。

 一年生に上級生の、本戦のCADを任せるのはリスキーだという意見も根強く、その話は立ち消え、結果として新人戦は分刻みのスケジュールを強いられる結果となった。

 本来ならばこんな無茶苦茶は通らないはずなのだけど、全体のスケジュール管理をしているりんちゃんが「本来ならば容赦なく見直しを指示するところですが、比企谷君が出場する日に限りしっかりとしたサブエンジニアが担当してさえいればどうにかなります。・・・・・・どうにかなってしまいます。」という暗に"この歩くチートに不可能はない”宣告の下にこの無茶苦茶が通されることになった。

 まぁその結果として、第一候補の一つだった私の担当エンジニアの話が流れてしまったし、丁度良い機会だしやって貰いましょうか。

 

「サブとはいえ、昨日の今日で大丈夫なのか?

 まぁ、最悪真由美は自力で出来るとして他の選手もだろう?」

 

「比企谷くんの腕でしたら問題ないと思いますよ?

 恥ずかしい話ですが、どの選手での調整でも比企谷くんと司波くんのどちらがピンチヒッターとして調整をしたら今の調整以上の結果を示せると思います。

 比企谷くんに至ってはこれでメインはハードの方らしいですから、調整は苦手らしいですよ?」

 

 苦笑いする一同の中、とても良い笑顔が一名。ブレないわね・・・深雪さん。

 

「というわけで深雪さん。八幡くんへの連絡、お願いね?」

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

~服部side~

 

 

 

 魔法師の資質は魔法力だけで決まるものではない。

 春から夏にかけて俺が一番考え、理解しようと研鑽し、それを己自身で示すべく結果で証明していこうと努力してきた言葉だ。

 だが、実際の所はどうだろう?

 昨日の事故では対処するどころか、これ以上現場を荒らさないように静観する事しか出来なかった。

 桐原には”下手に手出ししない事が出来ただけ、まともな判断力が残ってた”と言われたが、そう簡単に割り切れるものではない。

 事実として、下級生である司波さんや比企谷は最善以上の対応をしてみせた。

 どころか、実質的に指揮を執って解決したのは彼女達である事も鑑みれば、全ての責任と俺達全員の命を全て委ねてしまったも同然。上級生であり、生徒会所属という場合によっては他生徒の盾となるべき立場でもある俺達を客観的に見れば怠慢も良いところだろう。

 だが、それよりも重要な問題がある。

 俺の魔法資質から見てもあの事件で出来ることは多い。

 実際、三年生の大多数よりも出来る仕事は多かっただろう。

 にも関わらず、あの状況、あの現場において事故対処に最善な行動をとって動けるのは結局あの二人だったのではないだろうか?

 吹き荒れるサイオンを吹き飛ばせる術者も、それを見越して最善の魔法式を放てる術者も。個人技能の差はあるだろうが、彼女達の行動に迷いは一切無かった。

 確実に必要な手を誰よりも早く行い、必要な連携をしっかりと周りと共有した上で、最善の手段と結果を得る。これは魔法師の理想だ。

 あの場に彼女達が居なかったとして俺に同じ行動をとることが出来たか?固まって静観することしか出来なかった俺に。

 要するに俺は彼らより1年も長く専門的な魔法知識を学んだ上で、資質や能力だけでなく魔法師としての資質をも下回っているという事だ。

 これでのうのうと笑っていられるほど、俺は図太くはない。焦りも感じるし自信だって喪失する。開き直れたら楽なのだろうが、それは諦めと同義だと思う。

 

 などと考えて、競技がおろそかになっている現状こそ、下級生に顔向け出来ないのだからどうにかしなければいけない。

 

 自分は間違いなく焦っているのだろう。この焦りでこの予選ではミスの連発だった。普段出来ることすら出来ていない体たらくに自分で自分に腹が立つ。

 CADの調整があっていないのは事実だが、これはほぼ俺の側の責任だと言える。言ってしまえば今まで積み上げて調節してきた道具を今まで通り使っていない・・・いや、使えていないのだから調整している木下さんには過失は皆無だろう。

 切り替えなければならない。前に進むための必要なプロセスだ。だが、どう納得したら良いのかさっぱり分からない。

 木下さんにも迷惑をかけてしまっている。「調整があっていないならこちらにも責任がある」と付き合って下さっているが、本来なら匙を投げられても不思議ではない。

 どうにか・・・しなければ・・・。

 

「あー、すみません。

 中条先輩にご飯持ってってくれって頼まれたんで持ってきたんですけど、どこおけばいいですかね?」

 

 軽いノックの後に顔を出したのは比企谷だった。

 

「あー、そう言えばそんな時間だね。

 服部くん、食事休憩を挟もう。ここまで来ると焦っても仕方がないだろうし、じっくりやろう。」

 

「すいません。お手数おかけします。」

 

 そう言って頭を下げることしか出来ない。

 

「そうだ、比企谷君。少し相談に乗ってくれないかな?」

 

 仕事は終わったと、比企谷は退出しようとしたところを木下さんが引き止める。

 

「はい?相談ってCAD調整の事ですか?」

 

「正直行き詰まっているというか、以前の調整に微調整する程度では手に負えなさそうになってきててね。

 恥ずかしながら、俺の技量では明確な原因の特定すらままなってないのが実状なんだ。」

 

「違います、木下さん!!

 木下さんの調整に問題があるのではなくて、俺が・・・。」

 

「本来はそこも含めて俺の仕事なんだよ、服部君。

 そしてそこまで調整出来るのがベストなんだが、俺の技量じゃ探り探りの消去法になってしまう。

 基本的にこういったことに近道は無いものではあるけれど、アドバイスか何かあると助かるんだよね、どうかな?」

 

 正直、藁にでも縋りたい気持ちは俺にもある。だが、また、頼ってしまうのか?

 それで彼らの先輩として厚顔無恥に過ごして良いのか?

 

「あーいや、正直アドバイスとか柄じゃないですし、偉そうに何か言えるほど凄くないんでアレなんですが・・・。

 服部先輩は何がしたいんですか?」

 

「・・・それはどういう意味だ?」

 

 

「いや、達也と模擬戦した時より弱くなってそうなんで、九校戦にまで来て何やってんのかな、と。」

 

 

 ・・・俺が、あの時より弱くなっている?

 

「ちょ、ちょっと比企谷君!?」

 

「いや、木下先輩も思ったでしょう?この会場に来た段階で調整なんて99%終わってるものが、今になって根本から見直しになるなんて普通ではあり得ないって。

 それが起きるとしたら使い手側に問題があるって。」

 

 確かに正論だ。完膚無きまでに正しい。

 今日の不甲斐なさを考えればこんな言葉が出るのも分からなくはない。

 だが過去の、"奢り上がった昔の俺以下と言われるのは納得がいかない。”

 

「・・・撤回しろ比企谷。

 確かに今日の俺は不甲斐なかったかもしれない。だからと言って"ただ上辺だけで判断して見下す”様なあの頃の俺とは違う!」

 

「ですが、結果としてうまくいかなかったから今ここで缶詰めしてるんですよね?

 何を根拠に判断すればいいんですかね?」

 

 

「試合の結果で証明してやる。

 二度とそんな暴言など吐けないようにな。」

 

 

 絵に描いたような挑発。

 以前の俺はこんなものに噛みついていたと考えると恥ずかしいな。

 

「ちょ、ちょっと!!喧嘩は・・・。」

 

「大丈夫ですよ、木下さん。

 喧嘩してるんじゃなくて比企谷なりの発破なんです。少なくとも俺はそう受け取りました。」

 

 比企谷の弁は正論でもあり、暴論でもあるが、そこに腹が立つのは図星を突かれているからだ。

 自覚してるのならばそれ正さず放置するのは怠慢だし、実際今回の件もそれにあたるだろう。

 現時点で負けているのは素直に認めなければならない。だが、年長者としての意地もある。ただの敗者として心乱されて終わってはそれこそ笑い種だ。

 

「発破なんて綺麗なもんじゃないですよ。ただ煽っただけですからね。

 それに、服部先輩が不調で取りこぼしたらしわ寄せが新人戦に来るじゃないですか。

 どうせ会長は優勝する気満々だから、事と次第によって手が抜けなくなるんで困るってだけです。」

 

「おい、これだけ煽っておいて手抜きは俺が許さん。

 俺は俺として、結果を残してからお前の競技を見に行ってやるから覚悟しておけ。」

 

 めんどくさそうに目をそらしているが、気持ちで負けていた俺には良い薬になった。

 つくづくどちらが年上なのか分からないが、この恩は結果で返さないといけない。

 そう話がまとまった所で木下さんに通信が入る。

 

「はい、木下です。会長、どうかされたんですか?・・・はい、ちょっと今日中となると厳しいです。・・・はい、あーそうしていただけると助かりますが、大丈夫なのですか?・・・・・・あーなる程そういうことなら心配はなさそうですが、構わないんですか?・・・分かりました。」

 

 相手は会長の様だがこんな時間に、となると俺の調整の件か・・・。

 

「比企谷君済まないね。明日代わって貰うことになってしまって。」

 

「・・・・・・はい?

 何のことですか?」

 

「いや、さっき会長からクラウドボール女子本戦のサブエンジニアを俺から比企谷君に交代するって連絡が来たんだよ。多分明日は服部君のCADの調整を詰めないといけないからって気を回して貰ったみたいだね。

 ・・・聞いて無いのかい?」

 

 どうやら初耳だったらしい。「今日明日ってどうなんだよ。てか、何故虚空から仕事が増えるんだ?時間外労働手当出るんだろうな?」とか意味不明な愚痴をブツブツ呟いている。

 

「選手の情報を渡すから少し待っててくれ。

 ざっくりだけど選手の特徴も説明する。まぁ、釈迦に説法の内容になりそうだけどね。」

 

 そう言って比企谷に諸々の話を始める木下さん。比企谷も諦めた表情でそれに、応じる。

 結局迷惑をかけてしまった事実に変わりはない。ならば、その苦労に見合ったもの持って帰るのが俺に出来る精一杯の誠意だろう。

 やってやる。

 

 

 




はんぞーくんについてここまで書くことになるとは思ってなかった・・・。
だが思いついてしまったものは仕方ないので書いてしまう・・・。

亀速度投稿で申し訳ありません。
速いときはザクザク書けるのですが、書いてる場所が見当違いになる希有な病気にかかっているので気長に付き合ってやってください。



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九校戦編17

平成の間に投稿したかったのですが叶わぬ夢だったようです。

安定の読多裏闇クオリティーですので察していただけると。


 

 

~いろはside~

 

 

 

 

 先輩が卒業した影響で先輩を取り巻く複雑な状況が落ち着き、学校に残っている魔法師関係のややこしい人間はほぼ卒業して居ないので学校も平和ですし、先輩周りのゴタゴタも沈静化。

 とは言ってもそれは学内に限っての話。

 先輩と関わるのを目的にしている私や留美ちゃんとかは、私達が居ない間に何かしらあるんじゃないかと気が気じゃありません。

 先輩トラブルに愛されていますし、そういうときは誰かしら助けてるし、すぐに無自覚で誑し込むし・・・。

 まぁ、そういう意味で何かしら起きるだろうなって思ってたら案の定。学校に反魔法政治団体が紛れ込んでたりした時は心配通り越して呆れました。

 そして、九校戦でも何かしら巻き込まれているみたいです。

 これは昨日競技を見ている時に雫先輩から聞いた話なのですが、なんでも会場に向かう途中で交通事故に巻き込まれたとか。

 先輩が適切な対処をしなかったら怪我人が出てもおかしくなかったそうで・・・。今度は何に巻き込まれてるんですか・・・先輩・・・。

 雫先輩とは実質ほぼ初対面でしたが、お互いの状況はすぐに察したので特に大きな問題もなく話せました。一応、昔会ったことがあるのも効いている気がします。・・・朧気にしか覚えてないですけど。多分会った当時小学生になったかなってないか位だったし。

 その時に聞いた内容がこれです。最近先輩の話で穏やかなの記憶にないですね・・・。

 この時期、このタイミング、この場所で起こる偶発的な交通事故。

 しかも反対車線から中央分離帯を乗り越えてのってなると偶然で片づけられるレベルを普通に越えてるでしょう。一応パパには連絡入れておいたけど、この辺は軍の管轄だから深入りはまず無理みたい・・・。

 まぁ、流石にこの警備厳重な会場内で何かしでかせるとは思えないし、多分大丈夫だと思うんだけど・・・。

 まぁ、心配だよね。だって先輩こういうときほぼ確実に巻き込まれ主要メンバーに入ってるし・・・。

 

「いろは、来たみたいだよ?」

 

 水波の視線の先を追うとこっちに手を振っている深雪先輩達が歩いてくるのが見える。 

 私が何故物思いに耽ってたかと言えば、単純に暇だったのが大きい。昨日、九校戦を一緒に観戦する話が持ち上がって待ち合わせをしていたのが実状。

 先輩達を待たせるわけにはいかないので少し早めに待ち合わせ場所に来たものの、手持ち無沙汰になっちゃいましたし。

 というかあれ?

 

「あの、先輩が居ないみたいなんですが?」

 

「八幡さんは今日、臨時でエンジニアを担当することになってもう会場入りしてます。

 女子クラウドボールなので出来れば観戦しようと思ってるけど、問題ない?」

 

 凄い。あの先輩がまともにお仕事してるよ。

 

「あ、はい。大丈夫です、深雪先輩。元々クラウドボールは行きたいって話になってたので。

 というか臨時エンジニア・・・ですか。

 エンジニアってそんな簡単に交代できるものなんですか・・・?」

 

「それは私も聞いてみたんだけど、サブだから何かあったときのフォローがメインでそこまでの仕事はないって言ってた。」

 

「会長はご自分で調整なさってますからサブとはいえ八幡さんの調整が実質メインになるでしょうし、普通に出突っ張りになるんじゃないかしら?

 多分優勝は確実だと思うからクラウドボール女子本戦優勝のメインエンジニア扱いでしょうね。」

 

 うわ・・・、先輩を独占する気満々じゃないですか・・・。

 というか優勝確実ってそんなに凄い人が会長なの・・・?あれ、何か見落としてる気がする・・・。

 まぁ、そうやって談笑に花を咲かせていても仕方ないので会場に向かうことに。

 行き先は勿論先輩がエンジニア担当することになっている女子クラウドボール。一校優勝確実って言われている七草真由美先輩の試合。

 あ、そうだった。真由美さん出るんじゃん。そりゃあ優勝確実も納得・・・ん?

 

「ねぇ水波。去年のクラウドボール優勝って確か・・・。」

 

「七草真由美さんだよ、七草家の。

 ・・・それがどうかしたの?」

 

「だよね・・・。真由美さんだよね・・・。それで、一校で優勝確実な会長って事は・・・。」

 

「・・・・・・いろは、まさか。今の今まで第一高校の会長と七草先輩が繋がってなかったの?

 いろは、七草先輩と面識あったんじゃなかったっけ?」

 

 そうだよ!!真由美さんとは家の都合もあって普通に何度も顔を合わせたことがある超顔見知り。というかほとんどタメ口で話せるから、普通に友達と言っていいレベル。

 そういえば前にあったとき会長なるかもって言ってた気がする・・・。

 ・・・え、じゃあ・・・あ。・・・・・・ちょっと待って・・・!?

 

 

「え、先輩、真由美さんにまで手を出したんですか!?

 てか、真由美さん参戦って・・・!?」

 

 

 まずい。まずいまずいまずいまずいまずい。

 とーーーってもヤバい。と言うか洒落になってない。

 そこそこに長いつきあいもある真由美さんの人となりはある程度知ってる。あの小悪魔めいた微笑みの下にどれほどヤバい修羅場馴れした顔が潜んでるのか、私はよくよく知っています。

 真由美さんは自分の価値というものがどれほど武器になるか、とてもよく分かってる人。それに、その武器の振るい方も。そんな人が敵に回ればどうなるか・・・。

 ・・・何かしら対策をしないと手遅れになる。

 どうにか・・・しないと・・・。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

~真由美side~

 

 

 

 私の八幡君への印象は一言で言うと”油断ならない男の子”。

 高い能力を保持しているにも関わらず、表向きにはそれを示さず、誇りもしなければ誇示もしない。

 およそ持つべきものが持つ驕りや、持っていてしかるべきプライドは欠片もないのに、弱者然としたプライドだけは一丁前。

 嘘はつくし、誤魔化すし、自信もやる気も感じられないのに、口だけはくるくると回る。

 

 でも、必要だと判断した時には持てる力を惜しみなく使うのよね。

 

 バス事故の時が一番印象に残ってるものの、ブランシュ事件では裏で一番動いたのは八幡君だったみたいだし、要所要所での動きはプロ顔負け。

 さらに言えば労働することは惜しむけど、能力は惜しまない。事実、風紀委員の仕事では術式解体(グラムデモリッション)も得意の重力魔法も惜しみなく使って違反者を一人も逃してない。

 仕事からは逃げようと全力になるけど、する事が確定してしまったらむしろきっちりとやるし、その仕事の出来は文句の付けようがない。

 にも関わらず、その功績を誇らない。

 ただの面倒臭がりならば、自分のやった行動から利益を主張してサボるのが常套手段だし、能力が高ければそれを振りかざして楽をするための環境を作ってしまう。出来ない人間が居れば忌避したり、それによって何らかの問題が降りかかれば相応の悪感情が出たっておかしくない。

 けど、バス事故では一番の被害者なのに被害を増やした人間に文句も言わなければ、貧乏くじを引いたことにも文句を言わない。

 正直ここまでチグハグな人間は私も見たことがないし、アイデンティティの所在がよく分からない。

 何より彼の目的がまず意味不明。

 彼が求めていると公言している内容と、行動と、資質が全部あさっての方向を向いているし、矛盾を指摘しても真面目に聞いてるのか怪しい。

 なのにやることに決まった事には真摯な対応で真面目に取り組むし・・・あーもう!!

 八幡君が何考えてるかほんっっっっっっとうに分からない!!

 

 いっそのこと問い詰めてやろうかしら?とまでは言わなくても、なんとなく面白くなくて呼び出してしまったんだけど・・・、よくよく考えたら仕事を回して良いほど彼は暇じゃないわよね。

 新人戦は過密スケジュールで、不可能を八幡君個人の能力頼みでまかなってるとか・・・。

 自分の準備とかで忙しかったから詳細は聞いてないのだけど、りんちゃんが自信ありげに八幡君の2種目優勝を確実視していたから無茶を可能にする何かがあるんでしょうね。

 それならピンチヒッターとして少しくらいお手伝いお願いしても良いかなって思ってたんだけど・・・。

 今、結構なレベルで後悔してる。

 

「は、八幡君!?その顔・・・っていうかその目どうしたの!?」

 

「はい?あー、ちょっと寝てなくて。

 流石に全員分の競技用のCADデータをまともに理解しようと思ったら一晩かかりました。」

 

 忙しい所に仕事投げちゃったのも有るけど、まさか徹夜までするなんて思ってなかった・・・。

 

「ちょっと待って、全部見たの?クラウドボール出場選手のCADデータを3人分も?」

 

「見ないと本人にあった調整とか無理でしょう?」

 

「いえ、確かにそうだけど・・・。」

 

 本来、CADの調整といってもレベルはあるし段階もある。

 とりあえず魔法が打てるプログラムを本人が魔法を撃てる程度に調整するのと、本人が魔法を使うのに不都合がないレベルで調整するのとでは天と地ほどの差がある。

 それ加えて今から行うのは魔法師同士がその魔法力の差を競い合う九校戦ともなれば魔法発動のコンマ1秒を争う世界になってくる。そこにエンジニアが与える影響が大きいのは考えるまでもない。

 だけれどこれは九校戦開催前の数ヶ月を使って準備されるもので、直前にどうのこうの言う様な物じゃない。

 表向き魔法がとりあえず使える程度の調整なら学生レベルの技術を持つエンジニアには普通に出来るし、今回八幡君にもピンチヒッターとしてメインエンジニアに何かあった場合の為に最低限のそれが出来る人間に一応居て貰うべき、という考えの下白羽の矢が立っている。

 あーちゃんの言だとそのレベルであっても他のエンジニアの完成品に勝りかねない仕上がりになるらしいから、これだけでも役割としては十二分過ぎる。

 お願いしたのも所謂サブエンジニアという立場で、そもそも木下くん自体がサブエンジニアなのだからピンチヒッターとは言え本当に保険でしかないのだけど・・・。

 八幡君の口振りではCADの調整の方針から内容まで全部理解した、と言ってるみたいなんだけど・・・まさかね?

 それだと九校戦準備で数ヶ月分の内容を一晩で把握したっていうことなのだから、出来たのなら驚き通り越して正直呆れるんだけど・・・。はぁ・・・、同じ高校生なのか正直自信がなくなるわね。それに後輩だし。

 だけれど。

 

「八幡君あなたね・・・。自分の体の事も少しは考えて行動してくれない?

 サブなんだし、昨日の今日なら最悪調整さえできれば十分以上の仕事って言うのは察せると思うんだけど・・・。

 ・・・とは言え、今回ばかりはいきなり任せて説明不十分だった私の責任か。」

 

 八幡君としても予定外の仕事だから無理せざる得なかったわけで、それを依頼してしまった私の責任、なんだけど。

 でも流石にエンジニアの数ヶ月分の作業を結果だけを見るとはいえ、一晩で把握しきるなんて暴挙をする想像なんてできるわけ無いじゃない!?

 言葉だけで見れば完成品のデータからどういった起動式か読みとるだけだけれど、十全な調整をしようと思ったら生データからその人間の癖からどう入った経緯でそこに至ったかの足跡も読みとっていく必要があるし、これは解釈の部分もあるから元のエンジニアから”直接引継を行っても”異なった結果を出すことだってある。

 そもそも基礎単一系でも3万字を超える代物をCAD全体とか読みとるだけで何時間かかるやら・・・。

 普通に考えたらそんな物理的に不可能な作業だし、やらなくて良いと考えそうなもの・・・・・・あー成る程。やれそうだったからやる必要があると思っちゃったんだ。

 そうよね、この自称ぼっち君は妙なところで真面目だものねー。

 

 こ の 歩 く 非 常 識 め ! !

 

「いや、説明なら深雪から受けましたよ。

 まぁ、仕事がサブだけなら俺も朝まで快眠するんですけど、サブだけじゃないでしょう?

 昨日の今日で会長のメインエンジニア代行ってなると流石に手が抜けないでしょ。まぁ、徹夜したのは俺の要領の問題なんでアレですけど。

 一応、全員分の調整はできるようにはしましたが、流石にそれだけじゃ徹夜はしねえっすよ。」

 

 ・・・あれ?私の想像した回答と違うのだけど・・・?

 とりあえずこの口振りだったら3人分の内容をメインで出来る程把握した訳じゃないみたいだし、そこまで超人じゃなかったのはちょっと安心、というかほっとした感じだけど・・・って。

 なんかそれ以上に聞き捨てならない内容が無かった?

 

「・・・ちょっと待って。私のメインエンジニア?

 聞いてないのだけど・・・?」

 

「深雪が

 『七草会長は自分で調整なさってるので、ちゃんとしたエンジニアの補助が出来るのは八幡さんだけなので実質的にメインエンジニアになると思います』

 って言ってたんですけど違うんですか?

 ・・・マジかよ、俺寝れたじゃん。」

 

 確かに私は素人と大差がない程度の技能だし、エンジニアがメインの人に見て貰うべきなのは間違いないけれど、実質メインエンジニアは言い過ぎでしょう!?

 ・・・いや、大会規定での扱いはそうなるんだったかしら?いえ、そうじゃなくて・・・。

 

「えっと、いきなりメインエンジニアって言われても全部見て改善して貰うわけにはいかない・・・というか、物理的に無理でしょう?

 普通に補助ってことで良いかしら?今から起動式とか触っても対応できないだろうし。」

 

「あー、ならそういう感じで良いんじゃないですかね?まぁ、多分出来なくはないですけど。

 さっき和泉先輩から七草会長全般任せるって言われたんで、俺的にも仕事少なくなって大助かりです。

 後、眠いですし。」

 

 ・・・確かに私の落ち度で無為な労働を強いてしまったのはなんかこうもしれっとサボれる宣言されるとなんか癪ね・・・。

 とは言え今から大きく弄られても競技に支障が出るだろうし・・・。

 むぅ・・・。

 

「・・・ねぇ、さっきの出来るって私の調整が出来るって事よね?

 それって競技に支障がでないってこと?」

 

「はい?

 いや、一通り見たんで普通に調整は出来るってだけですけど・・・てか、別に仕事無いんですよね?

 それならいっそのこと寝てても良いんじゃ?」

 

「あら、サブとはいえ調整はして貰うわよ?

 それに競技に支障は出ないんでしょう?」

 

 また面倒そうな顔してるわね。せっかく準備したんだから、普通は無駄にしたくないと思うでしょうに。ここまでやる気がないのもどうなのかしら・・・?

 まぁそれは良いとして、元々見て貰っちゃう事も考えてたからちょっと楽しみではあるし、調整って言っても競技に支障は出ないって”言い切った”し。

 ならお仕事とまでは言わなくても、ちょっとだけ私の優勝するところを特等席で見る時間を取ってくれても良いんじゃないかな?

 

「まぁせっかく頑張ってくれたんだし、お姉さんが連覇するのをちょっとだけ手伝ってくれない?」

 

「・・・まぁ仕事なんでやりますよ。」

 

 もう、ほんと素直じゃないんだから。

 




七草会長が暴走するので描写しきるのに手間取る程度の能力。

次話は今回のわちゃわちゃを書いた際に発生した残骸を再構成してますのでややこしかったら質問投げてください。概ね私がやらかしてるのでしっかり補完していきたいと思います。

評価ボタン押してくださる素晴らしい方が驚くほど多く、3桁に乗りました。(ありがたやありがたや

UAとかお気に入りとかも現実なのかにわかに信じがたいほど多くなっており正直驚きで言葉にならないです。
これからもノリと勢いと言う感じではありますが妄想を叩きつけますので、お付き合い下さい。


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九校戦編18

新人戦が遠いのですが、九校戦って前座長すぎませんか?(設定盛りすぎマンのせいですねすみません。

とは言っても日程的にはもう2日切ってるのでなんとか・・・。


 

~雫side~

 

 

 

 七草真由美先輩は私が通う第一高校の生徒会長で、実家も十師族の中でも有力な“七草家”。家や肩書きだけでなく実力も全国随一のもので、九校戦では2競技優勝を確実視されている文句なしのエース。

 また、優秀な魔法師は比較的整った顔立ちになりやすい傾向がある、とされるこの社会の例に漏れず美人かつメリハリのある体つきで、正直羨ましいと思ってないとは口が裂けても言えない。胸も、大きいし。

 美人度合いだけで見ても七草会長以上の人は深雪くらいしか思いつかないし、深雪に至っては美人すぎて気後れするレベルだから考慮に入れるだけ無駄だと思う。

 そんな容姿端麗、文武両道を地で行く一校きっての美少女生徒会長が名指しでエンジニアに指名したのが八幡だって昨日深雪に聞いたときには純粋に八幡の凄さを再認識した。(深雪はピンチヒッターの件を七草会長のメインエンジニア扱いと伝えている)

 前々からその実力は認められているものの、今回はピンチヒッターとはいえ名指しの起用。

 メインエンジニア代行かつ昨日の今日で任されたともなると、そういった問題に対処できるだけのポテンシャルを認められたも同然。

 こういったピンチヒッターはベテランが任されるのが一般的。そこに一年生が呼ばれてる段階で間違いなく凄いんだけど・・・。

 なんかこの指名、実力以外の部分が凄くある気がする。

 決まったとき同じく達也さんもオフだったのに話題にも出ず七草会長の一存で決定しちゃったみたいだし、やっぱり八幡狙いなのかな・・・。

 

「あの、雫先輩。真由美さん・・・七草会長って学校ではどうなんですか?」

 

 そう言って話しかけてきたのは一色いろはさん。昨日は八幡の関係で色々あったけど、一応は知り合いだったのもあって昨日のうちに打ち解けた。

 そう言えば今はみんなで七草会長のクラウドボールを見に来てるけど、なんか道中百面相してたっけ。

 

「どう、と言われてもすごく優秀な生徒会長だけど・・・?」

 

 質問の意図がよくわからない。

 百面相してた理由に関係してるのかな?

 

「すみません。言葉が足りなかったですね。

 真由美さんと先輩がなんか仲が良いって聞いたんですけどその辺りを詳しく聞きたくて・・・。」

 

「仲・・・は良いのかな?

 なんか会長の玩具にされてる感じなのはよく見るよ。

 お気に入りの後輩って感じかな。」

 

 「イヤな予感的中・・・。」ってうめきながら若干空を仰いでるいろは。まぁ、何となく気持ちは察せられる、というか私も危機感はあるんだけど、私の想定より嘆き方のレベルが高い・・・。

 多分一色家だから、以前から知り合いなのかな?

 まぁでも、そんなことよりも重要なことあるよね。

 

「いろははいつから八幡が好きなの?」

 

「・・・ストレートに来ますね。」

 

「もはや今更かなって。

 それに、いろはは腹芸得意そうだからこうした方がイニシアチブとれると思った。」

 

 ちょっと明け透け過ぎたかな?でも、これくらいの方がいろはの微妙な堅さがとれると思うし、このままいこう。

 

「なんか余裕があって羨ましいです。

 それに、結構大胆なのもびっくりしました。先輩とよく手とか繋げましたね?」

 

「手をつなぐ・・・?あ、昨日の八幡を連行したときの事?

 あれは手をつなぐって言うよりは逃げられないように捕獲してただけで・・・。」

 

「それでも先輩相当逃げると思うんですけど・・・?どんな手品使ったんですか?」

 

 ずいーーっと詰め寄ってくるいろは。

 別に手品どころか種も仕掛けもなく、逃げないように捕まえてただけなんだけど・・・。

 こうやって詰められると言い訳し辛い。・・・言い訳なんて必要ないんだけど。

 

「それより、質問の答えがまだだよ?」

 

「むぅ・・・。分かりました。

 私も話すのでさっきの話は後で詳しく聞かせて貰います。

 そうですね、どこから話せば良いんですかね・・・。」

 

「八幡に雪ノ下さんの事を聞いたときに選挙の話は聞いたけど、関係ある?」

 

「え、先輩そんな事もう話してるんですか!?

 先輩あんまり自分の事とか語らないのに・・・。」

 

 自分の事を語らない・・・。言われてみれば確かに八幡の話って雪ノ下さんの話以降ほとんど聞いてない気がする。でも、雪ノ下さんとかの話はあっさり話してたよね・・・。何でだろう?

 

「この話は私達全員の前で話してるから、八幡の友達はほぼ全員知ってるよ?」

 

「先輩の・・・友達?しかもこの話しぶりはそこそこ人数居そうですね・・・。

 というか、先輩がみんなの前で過去話って・・・。

 何ですかその恐ろしく違和感ある図は・・・。」

 

 ここまで懐疑色に染まりきった目線も珍しいよね。

 ここまで言わせる八幡って・・・。

 

「そんなに変なことなの・・・?」

 

「そんな事出来るなら万年ぼっちぼっちって連呼してないと思います。

 あ、もしかして最近自分の事ぼっちって言ってないんですか?」

 

「いや、言ってるけど・・・少なくとも今の八幡は友達は多いほうだと思うよ?

 よく話す人だけでも私、ほのか、深雪、達也さん、レオ、エリカ・・・8人?

 それに、同じクラスだったら実習の時、質問とかよくされてるよ?

 ・・・話しかけられるのは苦手そうだけど。」

 

 未だにクラスメイトでも、名前呼ばれたらビクッってしてるから苦手なんだなって思う。

 

「私の知ってる先輩じゃない・・・。

 ・・・・・・・・・・・・違いますね。先輩の周りが悪すぎなんです。理解しない拒絶する吊し上げる地獄絵図でしたし、影響力も凄かったですしね・・・。それに、先輩も悪くなっても改善する気がないから・・・。

 まぁでも、今の先輩目の腐り方が少しマシになったので裏が取れたのは結構安心しました。」

 

「なんか端々に不穏な言葉が混じってたけど、そんなに凄かったの?」

 

「それはもう色々と・・・。」

 

 それからいろはが話した総武中学での出来事は今の八幡からは想像を絶する酷い物がいくつもあった。中には雪ノ下家との抗争という名の一方的な攻撃なんかもあったみたいで、当時の怒りもあってかいろはの言葉の熱も強い。

 それと同時に一校での八幡の話にも話が飛んで、私の話に興味を持ったのか中学生が話に入ってた。ぼっちだったかもしれないけどモテてはいたんだね、八幡。

 

「・・・あ、真由美さん出てきましたね。」

 

 この発言を期に話は中断になってみんなの視線が会場に向けられる。

 

「準備体操始めたね。クラウドボールは体を結構動かすし納得だけど・・・なんで八幡が背中とか押してるんだろう?私の手握るのにあんだけ嫌がったのに・・・。」

 

 終始にこやかな七草会長とたどたどしくも準備体操のお手伝いをしてる八幡。普通、気になってない男の子にそんなことは頼まないし、頼まれても断ると思うんだけど。

 

「・・・あの感じは嫌がってるけど結局やらされてるパターンですね。先輩、断固拒否とかする割には押しに弱いんですから。

 これ、間違いなく真由美さんの術中じゃないですか・・・。」

 

 などと愚痴る私達に知ってか知らずかそのまま順調に準備体操を終えて始まる第一試合が開始。

 七草会長の試合運びは文句無しで、相手を圧倒。フルセットどころかまともにゲームを終わらせる前に食らいつくのに精一杯だった対戦相手はサイオン枯渇で途中棄権。

 見るからに絶好調と言わんばかりの会長は終始笑顔。休憩中はずっと八幡と楽しそうにお喋りをしていた。

 ・・・なんか会長のファンと思われる団体の辺りから殺気のような目線が送られてる気がするけど、八幡無事に帰れるかな?

 クラウドボールのインターバルは15分なので直ぐに次の試合があるけど、余力は残ってるのはありありと伝わってきてるし優勝は間違いなしだと納得出来る試合だった。

 問題が発生したのは第二試合。

 第一セットが終わった後、七草会長が血相変えて八幡に詰め寄っている光景が見られた。

 試合運びは順調そのものだし、むしろ調子が出てきたのかさっきの試合よりも魔法が速いような感じがした程。詰め寄っている理由がよくわからない。

 

「七草会長どうしたんだろう?問題があるようには見えなかったけど・・・。」

 

「そうですね。強いて言うなら調子が良すぎる感じがしたような気がしますけど、あんなに切羽詰まった詰め寄り方をする理由はよくわからないですね・・・。

 水波、何か知ってる?」

 

 水波さんは確か八幡の再従妹だったっけ。いろはは詰め寄られた理由が八幡にあるって決めつけてるから聞いたみたいだけど、必ずしも八幡が理由とは・・・限らないと言えないのには八幡も反省すべきだと思う。

 

「えっと、多分ですけど、競技が進むにつれて疲れて調子が落ちることはあっても上がることはない筈なのですが、七草会長の魔法は第一試合に比べて明らかに効率が良かったです。

 第一試合の後に八幡兄様がCADを調整なさって、調子が落ちるどころか効率が上がったので驚いたのではないかと?」

 

「あ、そっか。今日いきなりの調整だったから起動式を変更したりすると競技に支障が出るだろうし、最低限の調整しかしてないのかな?

 となると先輩、アレンジしちゃったとか?」

 

「流石にそこまではわかりませんけど、八幡兄様ならアレンジせずに処理効率を上げる方法をご存知なのかもしれません。」

 

 アレンジせずに魔法の発動効率や速度を上げる・・・。

 確かに八幡や達也さんが調整したCADは同じ魔法でもしっくりくるし効率もスピードも段違い。

 あの差を初見で体感したのなら起動式をアレンジしたと勘違いしても不思議じゃない。

 

「多分それで間違いないと思う。実際に八幡や達也さんが調整したCADを使ってみれば違いがはっきりと分かるよ。

 プロと遜色ない・・・達也さんに至ってはプロよりもしっくりくる仕上がりになって手元に帰ってくるから。」

 

「聞けば聞くほど高校生である事に疑問を感じますね・・・。

 あ、でも調整に関しては達也先輩の方が凄いんですね。

 最近先輩の話題って人間離れした内容が多かったのでなんて言うか・・・ちょっと安心かもです。」

 

 何となく、いろはの意見も分かる。気を抜いたら置いて行かれるんじゃないかってとても心配になるし。

 だけど、八幡が調整が苦手なんじゃなくて達也さんが異常に得意なだけな気がする。八幡本人にスキルの高さの自覚がないのと、八幡の普通は高校生の普通の域を逸脱してるから・・・。

 これで、自称”得意分野じゃない”扱いなんだもんね。

 

「八幡のメインはハード方面だよ。実際、九校戦の為だけにCADを自作してたから。

 だけど、調整分野でもエンジニアチームではトップクラスだと思う。」

 

「・・・自作の競技用CADをハードからって、高校行事の域を越えてないですか?」

 

「その疑問はこの一ヶ月でどこかに行っちゃったよ?

 いちいち驚いてたらキリがない。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




3日目はスルッと終わる筈なんだ。(フラグ

お気に入り3000件とか現実に起こるのですね。正直ありがたすぎて未だに実感沸きません・・・。
相変わらずの不定期投稿ですが楽しんでいただけたら幸いです。

質問含めていつでもお待ちしております。設定盛りすぎて伝わりきってない説は多分にございます。是非是非。


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九校戦編19

忙しいときに限って書くのが難しい部分が多い気がするのは私だけでしょうか?
まぁ、難解にしてるので100%私が悪いのですが。


と言うわけで大変長らくお待たせししました。


 

 

 

 俺はジンクスという言葉が嫌いだ。

 人間は思い込みや決めつけによってあらゆるジンクスをさも予言のように扱い、それに逆らう人間をさも悪かのように忌避してきたが現実にはそんなものまやかしにすぎない。

 曲がり角で女の子とぶつかってもロマンスが発生するには条件として『ただし、イケメンに限る』がついて回るし、食パンが落ちたらバター面が下になるのは確率論的に正しい事だと論文によって証明されている。

 『俺、この戦いが終わったら結婚するんだ。』等、悪者キャラが良いことを言ったら死ぬなどの所謂"死亡フラグ"でさえ、今から殺すキャラに少しでも良いところを見せたいという作者の愛から生まれた幻にすぎないのだ。

 だからこそ、我々は有り得ない予知に振り回されてはいけない。

 全ての事象は俺達が決めてたどり着いた帰結であり、自らが干渉していないことは偶然でしかないのだ。そしてその偶然すらも誰かが動かした必然でしかない。・・・まぁ、人の心が分かる訳じゃないから実質偶然とも言えるが。

 だから何かが起きたってジンクスを無視した誰かのせいであるなんて事は絶対無い。

 もちろんとある人間がいつもと違う行動、そいつらしくないことをしたとしてもそれによって良くないことが起きるなんて事は眉唾だ。もしも、そうもしもの話だが、普段から怠け者な人間が寝不足を理由に部屋での休息を許可されて公認的に惰眠を貪ったからといって、それによって何かしら悪いことが起きるなんて事があっても俺のせいではない。そう、ないのだ。

 

『八幡、少し来てくれ。渡辺先輩が競技中に事故にあった。

 おそらくだが何らかの妨害工作が行われたと考えられる。検証がしたい。』

 

「おい、事故ってなんだよ?てか、妨害工作?

 洒落にしては笑えねえんだが・・・。」

 

 昼過ぎとは言え寝起きドッキリは心臓に悪いんだぞ?・・・まぁ、されるの初めてだから初めて知ったんだが。

 確か今日は昨日の徹夜が原因で今日はゆっくりと寝るようにって会長に凄い剣幕で念を押されたから、これ幸いと夕方まで惰眠決め込もうと思っていたのもあって、今は既に九校戦3日目の昼過ぎ。

 このまま熊のように冬眠できないかと考えていた所に掛かってきた達也からの連絡だ。

 正直無視して寝たかった。いや無視しようとしたんだが、達也が”つながらない電話をもう一度掛け直すことは滅多にない”。

 得てしてそう言ったときは重要案件であることが多い。・・・ついでに面倒事であることも多い。もうやだ、寝たふり出来ねえかな・・・バレるんだけど。なんて考えつつ取った電話は、案の定の面倒事。しかもかなりヤバめだし。

 

『わざわざお前を叩き起こしてまでこんな不謹慎な洒落を言う趣味はない。

 人間、らしくない事をすると何かしらしっぺ返しがくると言われるが、公認サボりのしっぺ返しは思いの外大きかったな。』

 

 再度言うが、俺はジンクスが嫌いだ。

 勿論俺と今回の事故に因果関係は無いだろう。無いはずなんだが・・・なんか俺が悪いみたいじゃないですかね?

 さも俺が疫病神かのように誰かを不幸にしてしまった様な、そんな罪悪感を植え付けてくるから本当に嫌いだ。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

~幹比古side~

 

 

 

 達也は第一高校において有名人だ。

 二科生にして初の風紀委員であり、その実力は結果が示している。上級生を含めた一科生をその実力で検挙し、襲撃一歩手前の様な乱闘にも涼しい顔で対処したらしい。その実力は上級生にも伝わっており、学内でも発言権が強い生徒会長や風紀委員長といった大物に目をかけて貰らっている事を学校内で知らない者は居ないだろう。

 更にはその実力を買われ、魔法大学附属高校において最重要イベントとも言える九校戦にてエンジニアとして出場する権利を勝ち取った。歴史上初の快挙であると学校がざわついたのは言うまでもない。

 言うまでもない事だが達也は凄い。

 そんな存在と同じクラスで、なおかつ友人になれたのは僕の長くない人生において数少ない幸運だろう。達也から学べることは多いし、今後僕が前に進むための何かをもしかしたら持っているのかもしれない。そう思わせてくれる何かを達也は見せてくれたし、何より可能性を提示できると先日の暴漢騒ぎの折り達也は明言した。鵜呑みには出来ない。だが、達也がなんの意味もなく暴言を吐く人間でないのは短いながらの付き合いで僕は知っている。

 あの時は怒鳴り返してしまったが酷い失敗だった。あの指摘は僕を思ってのことでなければ、余計でしかない指摘だ。わざわざ友人を煽る為だとしたらやり方が低俗過ぎる。少なくとも僕の知る達也はこんな無駄な行動をしない。

 僕の為の助言を友人として言ってくれたのなら、怒鳴ってしまった僕の方に余裕がなさすぎる。為にならない事かもしれないにしても、友人の助言を聞き入れる心の余裕もなしに誰が前に進めるのか。

 次こそは真摯に受け止めよう、そう考えていた折り達也からメールで助力を乞う連絡が来た。せめて自分に出来る事をしよう、そう心に誓って指定された場所に向かった。

 

 

 

 

 

 そうして呼ばれた場所はモニター室のような部屋。おそらくはエンジニアの調整用の作業室の一つと思われる部屋。中には呼び出した達也と五十里先輩と千代田先輩、そして比企谷八幡が居た。

 呼ばれたのは僕と柴田さんで渡辺先輩の事故に精霊魔法が使用された可能性が高いことから、精霊魔法師である僕と精霊を知覚することが出来る柴田さんが呼ばれた様だった。

 その後の説明や考察は殆どまとまった内容の整理に費やされており、達也の考察を聞きつつおかしな部分の洗い出しをする形で話が進んだが、そもそもその場で思いつくようなレベルの考察を達也が推論で提示するわけもなくほぼ達也への質問大会といった様子。僕の仕事は専門家として粗が無いかの確認といったレベルで考察そのものには力になれなかった。

 唯一達也へ有効な議論をしていたのは比企谷八幡で、一番の問題となった大会委員によるCADの細工についての考察を議論を開始したときには達也がこの場に呼んだ理由が大いに分かった。

 細工のタイミングと出来る範囲、それによってもたらされる効果と現実味。特に"それをして得をする人間が特定できない事を前提で次に取る手段とその対策"の話が始まった辺りで視野の広さに舌を巻く。

 普通なら犯人探しから始まる筈の議論をすっ飛ばし、現実的に今必要な事を先に考える。出来ないことを考えずに出来ることを考えることがいかに難しいかをを知っているだけに尚更だ。

 今も考察を重ねながら話についてこれていない柴田さんへの説明を交えつつ議論を深めている。

 

「・・・凄い。流石は学年次席って事なのかな。」

 

 無意識に心の声が漏れていた。返事が来る想定はしてなかったが、予想外の所から返事が返ってきた。

 

「それはかなりの勘違いを生んでしまうよ?」

 

 五十里先輩が苦笑いでこちらを見て言った。どういう意味だろうか?

 

「比企谷君は学年次席ですが・・・?」

 

「いや、そうじゃなくて。

 彼を学年次席の基準にしてしまうと彼と同じ肩書きを持つ人は悲鳴を上げるんじゃないかな?少なくとも僕は遠慮したいね。」

 

「比企谷君が優秀なのは分かります。ですが、わざわざ注釈を入れるほどなのですか?」

 

 五十里先輩は暗に比企谷君は化け物だから比べないで欲しい、といっている。五十里先輩自身も理論では毎年トップをとる程の秀才の筈だし、そこまで言わせる理由が分からなかった。

 

「私は啓の方が凄いと思うんだけど、あいつ実技も私と同じかそれ以上だから上級生の威厳もへったくれも無いのよね。

 模擬戦で摩利さんに黒星一歩手前まで追い込んだって言うんだから、本当に化け物よ。」

 

 千代田先輩がおよそ人間に向けないような目を比企谷君に向けつつそう補足した。五十里先輩は上級生として負けていることを恥じつつも実力をしっかりと受け止めているのに対して、千代田先輩は年齢関係なく能力を基準に見ているようだった。見るベクトルは違うものの、結論は同じ。新入生には破格過ぎる評価だ。

 

 

「・・・あの、聞こえる距離で人間を化け物扱いするのはやめて貰えませんかね?陰口は隠れてやるもんっすよ?」

 

 

 達也と考察にいそしんでいた比企谷君が居心地悪そうな雰囲気でこっちを見ていた。その言い方だとまるで隠れてだったら陰口たてられて良い様に聞こえるんだけど・・・じゃなくて!!

 

「いや、比企谷君違うんだ!!陰口のつもりじゃなくて・・・。」

 

「幹比古の言うとおりだ。漏れ聞こえてきた内容的に八幡を評価してのものの様だぞ?」

 

 決して悪意が無いことは伝わったのか達也がフォローしてくれる。正直途中から比企谷君が居ることを忘れ気味だっただけにありがたい。

 

「申し訳無い。少し表現が悪かったね。

 まぁ、実際に学校で5本指に入りかねない実力を持つ新入生ってなると、そういった表現したくもなる気持ちを汲んで貰えるとありがたいかな?」

 

 謝罪を交えたうまい言葉運びと、落ち着いた対応でそう補足する五十里先輩。比企谷君も怒っている印象はないのでおそらくは大丈夫だろう。

 にしても"学校でも5本指に入りかねない"・・・か。ここまで言わせる比企谷君はどれだけ凄いのか。というよりは、この短い付き合いでは正直測りかねるものの、どうにも見た目の印象と評価が噛み合わないのは何故なのか。

 先程の議論で知識と思考力の高さは分かる。学年次席も納得だと心から思った。だが、強者の貫禄や持つ者が出す風格が全くなく、前情報無しでは小者にしか見えない。というか、今日のこれがなければ学年次席である事に懐疑的だった自分がいる。

 正直友人に抱いて良い思考ではないけど、どうにも腑に落ちないのだ。

 それは達也にも言える。

 あの実力。あの能力。あの実績。これで二科生(劣等生)なら誰が優等生なのか。

 対して、その実力は示すものの、風格も貫禄もプライドすら感じられない学年次席。

 チグハグにも程がある。非常に失礼ではあるが、二人の立場が逆の方がまだ納得できるんじゃないだろうか?

 

「ここの所の俺への過大評価ヤバすぎない?こっちは苦手分野を必死に誤魔化してるだけだってのに・・・。」

 

「苦手って・・・実際苦手分野なんてあるの?」

 

「そりゃありますよ。むしろ色々致命的な部分が足りてなかったりしますからね。

 正直次席って聞いたときはここの教師の目は節穴かと思ったくらいです。

 さも俺が凄いかのように言われて違和感しか感じないんですが、本当にすげえ奴って言うのは深雪みたいなのを言うんですよ。」

 

「比べる対象が高過ぎで大差がない様に見えるのは僕が凡人だからなんだろうね。

 人の弱点を、特に魔法に関しての弱点を暴くのはあまりマナーがよいとは言えないから詳しくは聞かないとしても、達也君や八幡君にも弱点があるって事実は少し安心できるかな。

 あまり万能すぎると手伝えることが無くなってしまうからね。」

 

 五十里先輩の暗にそろそろ話を切り上げるべき、という意図を汲んで話自体は早々に打ち切られた。

 その後もう一度比企谷君に謝罪したが、「ヒキガエル扱いに比べれば数倍マシ」という謎の理論で謝罪を受け入れて貰った。・・・昔の渾名なのかな?色々大変だったのは伝わったよ。

 ついでに達也の計らいで八幡と呼ぶ許可も得られた。今後色んな意味で交流を深めていければと思う。

 友人としてもそうだけど、達也が言うには僕が抱える問題の解決策に比企谷君・・・いや、八幡の力が役に立つらしい。

 九校戦で忙しい彼らの仕事を増やすのは本意ではないので、今は脇に置くにしてもどこかで協力をお願いしてみよう。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

~???side~

 

 

 

 交通事故に見せかけた自爆突攻に、試合中に何らかの介入をして優勝候補2人を危険に追い込む妨害工作。

 随分と派手に暴れてるんだね、お姉さんびっくりしちゃった。

 正直やり方も方法も原始的だし無駄にアナログなのは職業柄かなぁ。まぁ、足がついたところで私には関係ないから良いんだけど。

 後はこのまま一校が大人しくなってくれたら楽でいいんだけど、真由美ちゃん達は優秀だからしれっと優勝しそうだなぁ。

 まぁ、優勝自体は多分避けられないだろうし、なったらなったで問題ないかなー。"私の目的はほぼ完遂してる訳だし。"

 後は経過観察だけ・・・と言うかそれがメインなんだけど、もうこっちは何もする必要はないからね。変に暴走されて誰かさんが怪我したら面倒なくらいかな?

 まぁ、もう私がどうこうできる段階は超えちゃってるし、後はどんな蛇がでるかを期待して待ちましょっか。

 今度はどんな風にお姉さんを楽しませてくれるのか、期待してるからね?

 

 比企谷君。

 

 

 

 




次は待望の九校戦4日目になる予定(フラグ

やっと新人戦が幕を上げます。やっとってーか遅えよって声が聞こえるのも納得の遅さ(始まるまで20話って・・・自分で書いてて引くわ・・・。

とりあえず書きたかったところにかなり入っていくので謎の複雑さが唐突に生成されなければ楽しく筆が進むかと思いますので気長にお待ちください。

また、毎度恒例ですが感想質問ツッコミご指摘疑問いつでも募集中です。感想欄にガツガツ書いていただければ対応するので是非是非お願いします。




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九校戦編20

たいっっっっっっへん遅くなりました。


 

 

~雫side~

 

 

 

「何度も言っていると思うが、その件は俺がライセンスを取ってからな。」

 

 また断られた。

 

 私がこうやって達也さんをエンジニアとしてヘッドハンティングしようとするのはこれが初めてじゃない。  

というのも、前々から凄いとは思っていた達也さんの調整の腕が本格的に凄いと気がついたのは九校戦の練習が始まってから。達也さんが持ってきたCADの練習用の試作プログラムを使った段階から異常さにびっくりした。

 だって、自分のCADより使いやすい試作品っておかしいよね。

 私のCADだって、パパが雇ったプロの魔工師に私専用にチューニングして貰った一点物。その人ともそこそこ長い付き合いだし私のこともよくわかってる人だからそう簡単に上回れる物じゃない。

 私のパパは私の魔法の為になることなら結構我が儘を聞いてくれる所がある。何より、パパの”優秀な人間好き”は娘の私がよく知ってるし、八幡にしても達也さんにしてもパパのお眼鏡に叶うのは保証できると思う。

 そう思って何度か”うちで雇われない?”とアプローチをかけてるんだけど・・・なかなか首を縦に振ってくれない。

 うちなら必要な機材や伝手も用意できるから達也さんとしてもメリットは大きいと思うんだけど・・・ライセンスを取ってからの一点張り。

 確かにライセンスの有無は重要だけど、達也さんの腕なら変なライセンス保持者より余程信用できるから気にしなくて良いと思う。特に、うちで雇うということは個人契約になるから文字通り”腕さえあれば”が通ってしまうし。

 

「それより、八幡は呼ばなくて良かったのか?雫が呼ぶのを止めたと聞いたが。」

 

「凄く寝不足な顔してたし、昨日のうちにハードの確認終わったから今日する事無いって言ってたから。

 ダメだった?」

 

 八幡は昨日徹夜で会長のCADのデータ見てたとかで、夜見たときには顔色が悪くてゾンビかと思うレベルだった。

 そんな中、何をやっているのかと思えば私達のCADの最終チェックとハード上の問題点の確認で、終わった後机で泥のように寝ているのを起こして部屋まで連れて行ったのが昨日の夜。正直大丈夫なのかなって思ったけど、八幡が言うにはただの寝不足らしくて寝れば大丈夫って言ってた。だからほのかの調整の時まではゆっくりして貰った方がいいかと思ったんだけど・・・やっぱりちょっとは見て欲しかったとも思ったり。

 我が儘だよね。

 

「いや、八幡の分の仕事に関しては終わっているし、此処から先は俺の仕事だからな。

 だが、見ていて欲しかったんじゃないのか?」

 

「うん。

 だけど、ただでさえハードワークな八幡を無理させてまで言う我が儘じゃないと思う。」

 

 我が儘で体調を崩して、八幡の競技に影響が出たらいけないし、何よりも八幡にはもう私が勝つためのものは全部用意してくれた。

 だから、私に出来るのは結果で感謝を伝えること。

 

「八幡が起きたら良い報告がしたいから、バックアップよろしく。達也さん。」

 

「任された。最善を尽くそう。」

 

 憧れの舞台で憧れのポジション。

 欲しい結果と、それを伝えたい人もいる。

 

 私の夢の幕が上がる。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

~真由美side~

 

 

 

 

 能動空中機雷(アクティブ・エアー・マイン)。

 この雫さんが披露した新魔法の解説をリンちゃんから聞いた時、その高度さとやっていることの異質さに驚きを通り越して呆れている自分がいる。

 おかしな事、凄すぎること、常識が覆される瞬間。この春からの短い間でどれだけあっただろうか。

 特に筆頭の八幡くんは今回のスピードシューティングではサブエンジニアとして参加しているので、今回のは達也くんの功績。文句なく凄いし、そもそも新種の魔法が九校戦で開発された、なんてそんなに簡単に起きて良い物じゃない。

 確かにそういったケースは無くはないものの、九校戦も今年で10年目。

 学生が思いつくような物はあらかた出尽くしているし、新種の魔法といっても何かの類似が殆どで、既存の物を改良したのがせいぜいといったところ。

 だけれどこれは完全に新たな可能性を示す新種魔法と言っていいもの。そもそも0から起動式を作ってる段階で学生としてはオーバースペックな部分もあるのに、完全に新しいアプローチともなれば同学年でどれだけの人間が出来るのやら・・・。

 達也くんに言っても謙遜するんだろうな。自信満々な所とか全然想像つかないし。そつなくこなして当たり前の結果を当たり前に受け入れて自分で納得しておしまい、ってなる未来が容易に想像つくわね。

 まぁ、とはいえどことなく何かやらかすと思って構えてたから新しい魔法くらいじゃお姉さん驚かないんだから。

 

 なんて、思ってたのが数時間前。驚かないつもりでいようなんて、彼等を舐めすぎだったわね。

 

 

「あれ、もしかして、汎用型CADじゃない?」

 

「・・・いや、真由美。照準補助がついているんだからそんなわけ・・・無いだろう?」

 

 摩利、否定するならもう少し自信を持って否定しなさいよ。

 って言いたいのは山々だけれど、言葉を濁したくなる摩利の気持ちも分からなくはないのよね。

 

 リンちゃんの能動空中機雷(アクティブ・エアー・マイン)の説明から数時間後。もうすでにスピードシューティングの準決勝が始まっていた。

 ここからは個人ではなく対戦形式。戦法によってはそれ専用に対応する必要があるので番狂わせが起きやすい難しい試合でもある。

 当然ながら雫さんも対応して、戦法を少し変えているみたい。

 

 というかそもそもCADを変えてるみたい。

 

 CADには照準補助システムという物がある。

 これは、言わば魔法を撃つときの的に当てやすくするための装置の事で、便利な反面いくつか制約がある。

 その一つが基本的に”特化型CADにしか組み込めないもの”とされている事。

 理由は単純。そもそも”汎用型CADに組み込むようにつくられていない”から。

 そもそも汎用型と特化型ではシステムが全くといっていいほど違う。例えば汎用型を一般的な乗用車とするなら、特化型はレーシングカーや戦車、重機などを扱う工事車両といった一部の専門的な所で扱う車両のような扱いになる。

 汎用型はその名の通り汎用性が高くて普段のように用途が限定的ではない場合は有効だけど、こういった既にやることが決定した競技などでは使う魔法が固定化できるから特化型を使わない理由が特にない為、選手は特化型CADで出場する場合が多い。

 そして、照準補助システムは特殊車両のクレーンやレーシングカーの空力を良くするための後ろについた羽なんかのオプションに当たるもので、一般的な乗用車につければ何かしら不具合がでるか、意味を成さない結果となるのは想像に堅くない。

 更に、そもそもくっつける想定がないから互換性がないので、繋ぐことその物が無理だと考えて問題はない・・・筈だったのだけど。

 

「流石ですね会長。

 あれば汎用型CADに照準補助を付けたデバイスです。

 これはオリジナルではなく1年前にドイツで発表された新技術らしいのですが。」

 

「リンちゃん。確かにその補足は大事だけど、やってることの異常性を擁護しきれていない事実は変わらないわよ。」

 

 去年の技術をまともに技術転用できる高校生がいかに異常であるか達也君は理解してるのかしらね?現に市販化されていないあたり超最先端技術と言って差し支えないわよ?

 

「というか競技の為にわざわざCADを一つ組んだのか?市販されてないだろ?あんなゲテモノ機体。」

 

 言われてみれば・・・くっつけるプログラムに目がいっていたけどあれ、どう見ても自作CADよね。見た所無理やりくっつけた感じではないし・・・まさか。

 

「・・・ねぇ、リンちゃん。

 あんなゲテモノ機体を作りそうな子に心当たりがあるんだけど?」

 

「おそらく想像している通りの人物だと思いますよ。

 あのCADは比企谷君と司波君の合作です。」

 

 やっぱり・・・!!

 な に が 、働きたくないよ。自分で仕事増やしてるじゃないの。しかも一つでもあったら悲鳴を上げる様な物を普通の仕事に上乗せしてやってるのよね・・・。これについては達也くんも同罪か。

 全部終わったら慰労も兼ねてとっちめてやるんだから。

 

「因みにですが、司波君はまだ隠し球を持っているので、これくらいで驚いていたら心臓が持ちませんよ?

 比企谷君に関しては彼自身の競技が残ってますからね。」

 

 予想外を提供できる人間本人が、予想外な行動を取らないわけがない。

 イヤな信頼ね・・・。

 

「しかし、この試合の流れでは北山の勝ちは揺るがないな。

 確かもう片方の準決勝は両方うちだったよな?」

 

「はい。この試合で北山さんの勝利が決定した段階で上位3位独占となります。」

 

「こう言ってはなんだけれど、達也くんや八幡くんが担当した選手の相手は不憫に見えてくるわね。

 あのデバイス、そんじょそこらの下駄じゃ利かないほどの上げ底よ?

 正直同じ土俵かどうか心配になってくるレベルね。」

 

 2人が返答を苦笑いでしか返せていない辺り、この問題はなかなかに深刻ね。

 

 

 

 

 




新人戦始まりました。遅くなり申し訳ないです。

わりとガチに忙しかったので時間がとれず、台風のおかげで時間が急遽発生して書いたのですがそれが今話とほぼ同時投稿される21話目になります。(白目

書いてる途中で間に色々差し込む必要が出たためこの話は次話より後にかかれた物になりますねw

これの投稿後に次話をどっせーいするのでそちらもよろしくお願いします。


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九校戦編21

2話連続投稿となってます。一応話数をご確認ください。


 

 

 

 昨日の渡辺先輩の事故がもたらした影響は大きかった。

 怪我をした渡辺先輩本人は全治一週間かつ、10日間の運動禁止。同時にこれ以降の競技は出場を辞退せざるをえない状況。渡辺先輩の怪我についてもそうだが、先輩はバトルボードとミラージバットに出場する予定でかつ優勝候補。このまま棄権で終われば一校の総合優勝はかなり難しいだろう。

 当然一校としては対応を考えなければならない。

 まず一番の問題は本戦ミラージバット。バトルボードについてはどうしようもなく結果はどうあがいても覆らない。だが、ミラージバットについては対応できないわけではない。故に交代選手を立てる事は必然な流れで、渡辺先輩本人も交代選手選出の話し合いには積極的に参加していたらしい。だが、問題は補欠を用意していなかったことだ。作戦スタッフとしても渡辺先輩が抜ける事態など万に一つも考えていないのだからある意味当然と言える。

 故に急遽人員を補充する必要があり、そして選ばれたのが深雪だ。

 新人戦をキャンセルする事になるが、深雪ならば本戦でも優勝できる。それが起用の決め手だったらしい。

 この深雪が新人戦ミラージバットの出場辞退し、本戦ミラージバットに出場する話は既に各所で噂になっていた。昨日の夜に発表になったので本来なら噂の進行の早さに戦く事になるのだが、それもその筈。この選手変更の情報をニュースとして運営の広報が大きく取り上げたのだ。

 大会運営側としても昨日の事故によって起きる悪いムードを残したくなかった所に注目選手によるメンバー変更のニュースが舞い込み、これ幸いと派手に宣伝したんだろう。良い迷惑だ。

 だが、世間には”健気に先輩の代わりを勤める一年生”と映る為、有効な話題のすり替えでもあるし、深雪の容姿は折り紙付き。これほど便利なカンフル剤も無いだろう。

 お陰様で深雪の知名度は競技が始まってないにも関わらず高い。元々歩けば振り返られる超絶美人で視線を浴びるのはデフォルトだとしても、噂話がセットともなれば深雪としても鬱陶しいのだろう。ストレス解消の為、朝会った深雪はいつもにもまして世話焼きレベルが高かった。

 そんなこんなで今日は九校戦4日目。新人戦の初日である。

 俺自身は今日の競技に出る予定はないが、エンジニアで朝から晩までスケジュールが埋まっている。

 

 というか、今日から新人戦終了まで俺に休みはない。死ぬ。マジで死ぬ。

 

 えっと、たしか・・・。

 確か、今日はほのかのバトルボードだろ?

 明日は雫のピラーズブレイクと、俺がピラーズブレイク出ないといけないだろ?

 明後日も同じくピラーズブレイクだから雫はおそらく決勝行くし調整はあるとして、ほのかのバトルボード決勝もあるから調整ももちろんある。

 そしてその後はモノリス地獄と。

 なんでこんな無茶苦茶スケジュールになってんだ?正直朝から終わりまで動きっぱなしじゃねえか・・・。過労死するわ!!って言いたいんだが、アレ?なんでこんな事になってんの?

 確か、深雪や雫達の希望を聞いた我が儘スケジュールを市原先輩が実現可能かジャッジするって言ってて、俺の練習見に来たりCAD調整を見に来たりした結果そのまま採用されたんだっけ。なるほど分からん。

 人事関係をやってる作戦本部が言うには選手として忙しい新人戦を外して上級生の調整をする案があったが色々あって無理になったとか言ってたが、現実出来るので大丈夫だろうとのお達しだ。だが、正直出来るかもしれんがやりたくない。というか働きたくない。

 通ったときは仕事多くね?って思ったんだよ?思ったんだけど・・・減らすとすれば筆頭が雫のピラーズブレイクって話が出て色々あって流れた。まぁ、同じ競技だから外すならそこなのは分かる。・・・だが、あの捨てられた子犬みたいな目に耐えれる奴は居ないだろ。少なくとも八幡には無理でした。だって男の子だもん。

 とはいうものの物量だけで見れば無茶苦茶ではないか・・・。移動も最小限だしピラーズブレイクはすぐ終わる競技だし、会場を大きく移動する流れにはなってないみたいだから大丈夫だろう。たぶん・・・めいびぃ。

 まぁ、達也みたいに隅から隅まで微調整できるほどの腕はないから直前に出来る事なんてたかがしれてるし、やれることはほぼ行く前に終わらせてる。必要なものはあらかた渡したし、戦術も手伝ったからもう俺に出来ることほぼない。よって、サブに入ってくれてる中条先輩に概ね任せて良いんだが・・・流石に丸なげってのも気が引ける。・・・てか「先輩に仕事押しつけました」とか後で何いわれるか分かったもんじゃねえ。

 まぁ、モノリスコードは適当に流せば良いとして、調整デスマーチをどう乗り越えるか・・・。

 

「はぁ、働きたくない。」

 

「お前はまだそんなことを言っているのか・・・。」

 

 ん・・・?どっかで聞いたことがあるぞ、この独身女せ・・・。

 

「・・・すまない。なにやら不穏な気配を感じてな。

 私の勘違いだとは思うのだが、なにやら私を貶めるような事を考えてなかったか?」

 

「い、いえしょんなことあるわけ無いじゃないですか。平塚しぇんしぇい。」

 

 み、見えなかった。

 気がついたら俺の耳のすぐ横を拳が通過していた。す、鋭くなってやがる・・・。

 

「そうか、ならいい。

 ところでなんでこんなところで油を売っている?今日から新人戦だろう?」

 

「それはこっちの台詞ですよ。何故先生がこんなところに?」

 

「愚問だな。合宿の引率に決まっているだろう。

 とは言っても自由行動だからな。私も目立った仕事がない。」

 

 あーそういや小町達来てたな。昨日会わなかったから忘れてたが。

 担任ならそりゃ来てるか。

 

「楽そうで何よりですね。

 こっちは油売ってるんじゃなくてバトルボードの調整担当なんで向かってるところですよ。」

 

「む、調整担当?

 お前、学年次席だったのに出場しないのか?」

 

「・・・誠に遺憾ながら出場しますよ。

 なんの因果がエンジニアと選手両方なんです。」

 

 恩師に立派な社畜になりましたと報告する罰ゲームはこう言うのを言うんだろうな・・・。

 

「どんなスケジュールになってるんだ・・・。本来なら両立なんてあり得んだろうに。

 まぁいい。それでお前はどれに出るんだ?」

 

「出るって競技ですか?」

 

「選手名簿を全て見るほど時間が無くてな。この数日もお偉いさんとの諸々でろくに競技が見れていない。

 せめてお前の競技ぐらい見て帰らんと割に合わん。」

 

 割に合うとかそういう問題なのか?てか、見に来られてもなにもな・・・。

 

「いや、良いですよ見に来ないで。たいして見れるものじゃないでしょうし。」

 

「どうせ言わなくても調べていくんだ。手間を省かせろと言っている。

 それともなにか見られて困るようなことをするのか?」

 

「いや、しませんけど・・・あーはい分かりましたよ言います。言わせていただくので勘弁してください。

 はぁ、ピラーズとモノリスです。」

 

 すぐ人を殺せる目で見るの止めてくれませんかね?ちびっちゃうので。

 はぁ、適当に手を抜こうと思ってるのにどんどん外堀が埋められていく・・・。

 

「随分と花形競技だな。まぁ、次席入学者ならその人選は普通か。」

 

「良い迷惑っすよ。」

 

「今はそう感じるかもしれないが、それはしかるべき評価をされているという事だ。胸を張るといい。

 比企谷、お前が正当な評価に慣れていないのは分かる。だが、正当な評価を受け入れられないのは評価をする人間を蔑むのと同義だ。

 新たな環境で新たな問いを得たんだ。お前なりの答えを出すしかないだろう。」

 

 先生かよ。・・・先生だったわ。

 ほんと格好良すぎでしょ。文句も言えねえじゃねえか。

 

「まぁ、やるだけやってみます。」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

~ほのかside~

 

 

 

 雫の優勝で幕を閉じたスピードシューティング。

 それだけじゃなく首位3位を独占する結果になったので一校は今お祭り騒ぎになっています。

 達也さんのエンジニアとしての腕が認められる結果となり、私も嬉しいです。

 一校的には最良の滑り出し。新人戦で同じく1日目の私も続かないといけません。

 ここで負けたら勢いを殺してしまいますし、とても責任重大です。

 私の出るバトルボードの出場選手は私を含めて2人。もう一人は雪ノ下さんで、既に午前のレースで準決勝に駒を進めています。

 私以外は全員結果を残しています。私はこの後のレースですが絶対失敗できません。

 達也さんが雫達を優勝に導いてくれたのに私がもし失敗したら私のせいで八幡さんの腕が悪いと思われてしまうかもしれませんし、作戦を考えるのを手伝ってくれた達也さんにも顔向け出来ない・・・。

 だから、負けられない。そう、絶対失敗しちゃダメ。

 ・・・ってさっきも同じ事考えてたよね。

 えっと、要するに勝たなきゃいけないからえっと・・・。

 

パンッ!!!!!!!

 

「きゃあっ!!」

 

 え、何!?何が・・・。

 目の前には両手を合わせた八幡さんと心配そうに見ている中条先輩。

 えっと・・・猫だましされた・・・?

 

「やっと帰ってきたか。

 一点を見つめてぶつぶつ言ってるからなんのホラーかと思ったぞ。」

 

 え、そんな事やってたの私!?完全に変な人だよ、それ・・・。

 

「いや、面白いから写真撮ったんだが達也に見せて良いか?」

 

 写真・・・?え、写真!?

 

「だ、ダメです!!消してください!!」

 

 あんな姿を達也さんに見られたら死んじゃう!!

 

「・・・比企谷くん、その冗談はさすがに悪質すぎますよ?

 写真なんか撮ってなかったじゃないですか。」

 

 ・・・え?

 

「えっと、どういう・・・?」

 

「・・・まぁ、そんだけ騒げる元気があれば競技も大丈夫だろ。

 さて、遠からずバトルボードの、ほのかの予選な訳だが。達也程の出来映えじゃないがCADは調整済み、直せるとこはやれるだけやってみるから触って感触確かめてくれ。」

 

「あ、はい。・・・大丈夫そうです。」

 

 ・・・あ、そっか。私の緊張を解すためにあんな嘘を。

 よくよく考えれば八幡さんがそんな事する訳ないのに、一瞬びっくりして信じちゃうくらい緊張してたんだ。こんな状態だったら予選どころじゃない。

 けど、あんな言い方しなくても・・・。

 パソコンに向かう八幡さんを後ろから眺めてなんでああいう言い方になったのか考えてみる。八幡さんは無意味に誰かを傷つける人じゃないし、冷静になって考えれば冗談なのは分かりきってる。

 私の緊張を解すだけなら他にもやり方があると思うし。じゃあなんで・・・。

 

「光井さん。イヤならイヤだと素直に言えば良いのよ?

 そこの男の冗談は悪質極まりないのだから。」

 

 そう言って八幡さんを批判するのは雪ノ下さん。緊張で居たことにすら気がついてなかった・・・。

 雪ノ下さんのレースは終わってるし、ここにいる意味はないと思うんだけど・・・?

 

「そこの男が不埒な事をしでかさないか監視しに来たの。案の定趣味の悪い事をしていたけれど。

 光井さん。悪いことは言わないから、今から担当の変更を願い出るべきじゃないかしら?」

 

 顔に出ていたのでしょう。此処に居る理由を言いつつそう言ってくる雪ノ下さん。

 にしてもまた、悪口ですか。

 わざわざ出向いてまで言ってくる程の何かがあるんでしょうか。

 

「冷静になってみれば冗談なのは分かりきってます。

 それをわざわざ目くじら立てて文句を言わなくて良いと思います。」

 

「親しき仲にも礼儀あり。まぁ、彼に親しいと言える友人が存在するかは甚だ疑問なのは脇に置くとしても、言って良い冗談と悪い冗談があるわ。

 今回は後者に当たると思うのだけど?」

 

 ・・・確かにあまり良い冗談ではないです。ですがきっと、何かしら理由あっての物だと思います。

 問題はその理由が私には分からないのですが・・・。

 

「悪かったな、冗談が下手で。

 友達が居なかったから冗談言い慣れてねえんだよ。」

 

「下手どころか聞くに耐えないわ。エンジニアの仕事は選手のサポートであって足を引っ張ることでは無いはずよ?」

 

「そりゃごもっともだな。

 じゃあ残りは中条先輩に任せて撤退することにするわ。

 ほら、雪ノ下。ほのかの邪魔をする存在が消えるんだ。雪ノ下の監視も必要ないだろ。

 それとも”他の選手を冷やかしに来ることが選手としての仕事”なのか?」

 

 キッ・・・と睨むように八幡さんを見つめる雪ノ下さん。

 「おぉ、こええこええ。」と言いつつ部屋を出ていこうとする八幡さん。

 この時はっきりと分かった。雪ノ下さんをこの部屋から追い出すためにわざわざこんな言い方をしたんだ。

 雪ノ下さんが噛みついてくるように、退出を誘導するために。

 これは、私の為だ。

 緊張して自分で手一杯になってる私が不甲斐ないから、あんな事言わせてしまったんだ。

 

 パチンッ!!

 

「うぅ・・・、ちょっと強くしすぎました。けど・・・目はばっちり覚めました!!」

 

「み、光井さん!?いきなりどうしたんです!?

 ほっぺがちょっと赤くなってますよ!?」

 

 気付けにって思って自分のほっぺをパンってやったらちょっと力んじゃった。

 中条先輩が心配そうに見てます。

 八幡さんも雪ノ下さんもびっくりして固まってる・・・。けど、八幡さんが出ていく前に気がつけて良かったです。

 

「緊張吹き飛ばそうと思って。ちょっとヒリヒリしますけど・・・大丈夫です!!

 それより、八幡さん!!」

 

「ひゃ、ひゃい!?」

 

 深雪直伝。八幡さんは押しに弱いからどうしても話を聞いて欲しいときは少し強引目に、だっけ。

 

「作戦の最終チェックとか私一人だと抜けちゃうかもしれませんし、確認手伝ってください!!」

 

「お、おう。」

 

 そして。

 

「という訳で雪ノ下さん。今から集中したいので席外してもらっても良いですか?」

 

「・・・貴女はそれで良いの?」

 

「もちろんです。八幡さんは私のメインエンジニアですから。」

 

 私が自分で動かなきゃ。

 私が動かないと八幡さんがやってしまう。

 それじゃダメ。

 これは私の競技で、八幡さんにおんぶに抱っこだったら達也さんにも笑われてしまう。

 

「・・・そう。」

 

 そう言い残して雪ノ下さんは部屋を後にしました。

 その後を追うように八幡さんが部屋を・・・って。

 

「八幡さん、どこへ行くんですか?」

 

「え、いや、作戦の確認は中条先輩とやるので十分だろ。

 俺のがやるべき作業は終わってるし、雪ノ下の言い分も間違いじゃあない。となると俺が出ていくのが筋で・・・。」

 

「緊張を解すための冗談なのは分かってるので良いんです!!

 それより、さっきの緊張しっぱなしの時の調整だとズレちゃうかもしれないですし、最終確認お願いしますよ、八幡さん。」

 

 ため息一つついてそれでもちゃんと作業をしてくれる八幡さん。私の為に泥まで被ってくれようとした八幡さん為にも負けられない。

 

「私、絶対優勝します。雪ノ下さんには絶対負けません。」

 

 

 

 

 




こちら連続投稿の2つ目でございます。ワンチャン前の話飛ばしてる説ある方はご確認をば。

新人戦がちゃんとはじまったよ・・・。新人戦のネタ一杯あるよ!!
・・・長くなりそうアルよ。

と言うわけですでになりつつありますが細かいところや面倒な描写が増えかねませんので、質問ドシドシお待ちしております。
感想とかツッコミとか、頂けたら作者ガチで喜びます。
何卒。


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九校戦編22

そろそろ細々してきそう・・・。


 

 

 

~達也side~

 

 

 

 第一高校新人戦バトルボード予選午後の部。

 ほのかのレースは会場に瞬く閃光から始まった。

 これは、ほのかと事前に話し合って考えた作戦で、水面を光学系魔法で発光させ擬似的なフラッシュグレネードの様な物を発生させている。観客も含めて見ている人間からするとたまったものではないが、他の選手はさらにそれどころではないだろう。そういう俺達はきっちりと対応するためにサングラスを付けて備えていたのだが。

 だが、他の選手がそんな準備をしている訳もなく。放ったほのかはもちろん大丈夫だが他の選手は突然のに驚きボードの上に立つのもままならない状況だっただろう。結果として閃光が明けたレース場はレースの体を成しているとは言い難く、ほぼほのかの独走を眺めるだけのものと化している。

 

「ルールには違反してないけど・・・。

 これ、達也さんが考えたの?」

 

「ルールに抵触しない方法は俺が考案したが、閃光魔法を使えないか、と言う案そのものは八幡から出た。

 ”得意魔法を使わない理由がない”と言う発想で生まれた戦術だな。」

 

 そもそもバトルボードは水面以外への干渉で他選手の妨害をすることはルール違反となる。逆を言えば水面を干渉するための物ならそれが妨害になったとしても特に問題にならないと言うことだ。

 過去にもこのルールにおいていろいろな手法が試されたが、際立っては水面を凍らせて妨害するなどの方法があったらしい。だが、これらの重大な怪我が発生しかねないものとして以降禁じられており、それ以降妨害と言っても水面を荒らす様なものが一般的だ。

 だが、今回のほのかの戦術は水面そのものを全て凍らせるなどの明らかな危険行為ではなく、最悪でも選手が自らバランスを崩して水に落ちる程度なので大きな危険にはならない。

 何よりも、その後の作戦に繋がるしな。

 

「・・・ほのかの様子がおかしい。」

 

「何かあったのか?雫。」

 

 ほのかの戦術がほぼ完璧な形でハマり、順調そのものともいえる状況のなか、雫の表情は芳しくない。この戦況が覆るのは普通ではないし、実質勝利が確定して消化試合になりつつある試合で何か問題があるとすれば通常ではないものしかないだろう。

 妨害か・・・?

 

「ほのかは始まる前は緊張するし危なっかしい様に見える。けどいざ始まってしまえば結構図々しいって言うか、肝が据わって来るんだけど・・・いつもより真面目過ぎる様に見える。

 と言うか、ちょっと怒ってる?」

 

「怒る・・・?ここからじゃ流石に表情までは見えないけど・・・。」

 

 深雪の言うとおり流石に距離がありすぎる。表情までは見えない。

 

「何故、そう思ったんだ?」

 

「ほのかがもし九校戦で初めて競技にでるなら、作戦が上手くいったら喜ぶし、表情もゆるむ。

 けど、根が真面目だからミスしないようにしっかりと確認しながら作戦をしっかり全うしようとするから・・・結果的に周りから見てると凄くそわそわしたように見えるんだよね。

 まぁ、そう言う時のほのかは調子がいいから大丈夫なんだけど。」

 

 そう言う観点で見てみれば確かにいつものほのかと少し違う雰囲気がある。失敗がないか一切の油断を許さない様に周りの確認を怠ってない。

 この圧倒的な戦況においていささか前のめりが過ぎる。現状必要な真面目さとは言い難いだろう。

 

「怒ってる・・・にしても競技に持ち込むのは、あまりほのからしくないような・・・。」

 

「うん。だから少し変だと思って。」

 

 おそらくだが、レース前に何かあったのだろう。

 今回、レース前に控え室を覗く予定だったが、スピードシューティングの上位三位独占が会長にとってはあまりにセンセーショナルだったらしく、会長以下怪我で暇な渡辺委員長や作戦スタッフの市原先輩と共に弄り倒される事態に加え、例の”八幡製のCAD”にいたく気に入ったらしく詳しく解説を求められる謎事態が併発。昼食も込みで長話を強いられてしまったため、時間がなくなってしまった。

 何か問題が起きても八幡ならば対処は可能だろうと思っていたのが裏目に出たか?

 いや、確かに八幡ならば問題が発生して何らかの対処をすればほのかが怒るような事態が発生するかもしれない。だが、ほのかの性格的にそのまま怒りが継続するとは思えない。何より控え室には中条先輩が居たはずだ。彼女は普段おどおどしている印象こそあれど、こう言った場面での対応については十分に信用できる。中条先輩は否定するだろうが、本人が思っている以上に彼女は優秀だ。例えそんな事態になるようなことがあったとしても競技に影響が出ないようにフォローしてくれるだろう。

 だからこそ不自然だ。不自然なんだが・・・。

 

「競技に影響が出ているわけで無し、状況が読めない俺達では出来ることは少ないだろうな。」

 

「ほのかと話さないと分からないし、とりあえず終わったら控え室に行こう。」

 

 

 そう言って向かった控え室は有り体に言えば何もなかった。

 勝てたことを素直に喜ぶほのか。

 淡々と撤退準備を進める八幡と、それを手伝いつつほのかを労う中条先輩。

 終いには勝てた事を俺の功績かのように感謝し始めるほのかを見るに、先ほどの杞憂はなんだったのか・・・。

 だが、八幡が雫に何かこそこそと話していることと、八幡の表情を見るに何かはあったのは間違いないだろう。だが、俺に言ってこないと言うことは俺に出来ることおそらく無いのだろう。ならば、とりあえず俺の仕事は・・・。

 落ち着くまでほのかの話を聞くことか。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

~あずさside~

 

 

 

 雪ノ下さんが居なくなってからの部屋は先程ではないにしても少々重い空気でした。

 光井さんは真面目にレースへの準備を進めていますが、真面目過ぎて1ミリの失敗も許さないかのような切り詰めた表情をしています。

 比企谷君もそれを分かっているのでしょう。常時縮こまっていると言うか、光井さんに完全にイエスマンです。

 そういった苦労を乗り越えて実際に始まったレース。私達は選手を送り出した段階で仕事は終わっているのでやっと一息つけるタイミングですが、今回はいつも以上の疲労感がありますね・・・。

 

「お疲れ様でした、比企谷君。

 とりあえず一息ですね。」

 

「ウィッス。

 まぁ、ほのかの場合自力でも予選突破は確実なんで実質俺らお飾り程度の仕事しかできませんけどね。

 ・・・まぁ、別件で疲れましたけど。」

 

「雪ノ下さんの件ですね。

 彼女も悪い子ではないと思うのですが、比企谷君が絡むと・・・。」

 

 実際、彼女のバトルボードの調整を見ている私から見ても、真面目で必要な努力もしっかりとするとても優秀な子なのは分かります。ですが、比企谷君の前だと一変するので不思議です。

 

「いや、そっちは良いんですけどね。

 ほのか、気張りすぎなんで場違い感MAXで、いっそ死んだ方が良いのかと錯覚するところでしたよ。

 意識高い系はぼっちに天敵なんです。惨めになりますし。」

 

 その、意識高い系に嫉妬される程の技量の持ち主が何を言っているのでしょうか・・・。

 まぁ、驕らないところが比企谷君の良いところですか。

 

「CADについては比企谷君も意識が高いのではないですか?」

 

「いや、比べる友達とか居なかったんで、例え意識が高いと認識されたとしてもそれは自意識が高いんですよ。

 自己満足です。」

 

 凄いですね・・・。何をいっても恐ろしいほどの自虐で返ってきます。

 誉めれば誉める程自己嫌悪に陥りそうです・・・。

 ・・・話を変えましょう。はい、そうしましょう。

 

「ほのかさんあの状態で大丈夫でしょうか?競技に影響とか・・・。」

 

「それについては俺らにはどうしようもないんで、雫辺りに任せます。

 まぁ、いうて次の試合は明後日ですし、なんとかなるんじゃないですかね?」

 

 ここのところの付き合いで比企谷君のこういった一見適当そうな言い回しは、大きな問題がないか対処が終わってる場合しか使わない事が分かっていますのでおそらく大丈夫なのでしょう。時たま不思議な発言が出てくるので深雪さんに聞いたところ"言葉を額面通りに受け取らないのがコツ"と伺っておいて良かったです。

 では、私が出来ることはなんでしょうか・・・。

 とりあえず明後日。雪ノ下さんと光井さんがかち合わないように頑張りましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

~将輝side~

 

 

 

 九校戦の下馬評は一校優勝で決まり。

 それが世間の目であり、事実一校の選手メンバーを見ればあながち間違ってるとも言い切れないだろう。

 七草、十文字の血縁者に加えて渡辺選手の実力は折り紙付き、そんなのを相手に勝てると言い切れる奴がいればそれは相当な自信家か周りが見えていない馬鹿だろう。

 だが、一校以外が優勝出来ないと諦めてただ座しているのか、と言われればそんなわけがない。

 確かに彼ら3人の出場する試合では優勝は難しいだろう。だが、それ以外はどうだ?同じ競技でも2位ならば取れるのではないか?

 そうやってどうにか王者を崩すべく知略の限りを尽くしているのだ。

 そしてそれは俺も含まれている。

 俺達三校の先輩方からは「本戦の優勝は御三家が崩せない限り難しいだろう。だからこそ、新人戦が切り札だ。」と言われている。

 先程の言った通り彼ら3人が居ない競技に関しては勝率も飛躍的に上がるし、事実三校にはそれが可能な選手も多数居る。何より彼らは新人戦には出られないのだ。配点が半分とは言え全体で見れば全体得点の⅓にもなる。これは無視できない数字だ。本戦の戦いが難しいからこそ新人戦の点数は三校の総合優勝に直結するだろう。

 更に、今期新人戦に出る面子は例年から見てもかなりの人材が揃っている。俺もそうだが、ジョージ、一色さんや三浦さん。更に四十九院さんなどの古式に秀でた人まで居る上、他にもとがった才能を持つ人材が多い。

 これならば、と実際に思っていたし、事実総合優勝は届かずとも新人戦優勝は固いと高を括っていた部分が無い訳ではない。

 だからこそ、新人戦1日目を終えての現実の厳しさを思い知った。

 いや、想定の甘さ・・・か。

 

「将輝、一校のエンジニアのデータが手に入ったよ。」

 

「早かったなジョージ。

 ・・・司波達也、か。」

 

 三校の一年は今日の結果を受けての対策ミーティングが終わったのは今から2時間ほど前。想定よりも芳しくない戦績、思ったよりも上位進出が多いどころかスピードシューティングに至っては首位を独占されてしまっている。

 この状況に危機感を覚えるのは勿論として、早急に対応を考えなければならない。

 まず重要なのは押されている理由だ。

 いかに一校とは言え毎度優秀な人間が入学するわけではないし、こちらとて”当たり年"と言われる程度には良い人材が揃っている。となればそれ以外に理由が無ければ説明が付かない。

 この問題は比較的早い解決を得た。

 

 汎用型デバイスに照準補助をつける最新研究成果の利用。

 そして、明らかに市販されていないCADによる超高効率な魔法行使。

 

 じっくりと考えるまでもない。使っているデバイスの性能が違いすぎる。

 九校戦の試合は競技の規定でデバイスにある程度の制限を設けている以上、デバイスそのものにある種の限界がある。にもかかわらず圧倒的な技術格差を感じるのならば答えは簡単だ。

 エンジニアの実力が違いすぎる。

 それも凄腕なんて表現では可愛すぎるほどの、”化け物”と言って差し支えないほどの実力だ。

 ミーティングではその危険性を示唆する程度しかできなかったが、これに関しては作戦どうこうでどうにかなる話ではない。

 せめて相手だけは知っておこう。

 そう言ってジョージこと”吉祥寺真紅郎”は化け物の調査に向かい、その結果を食事中の話題として提供してくれた。

 

「名前こそ調べられたけど、情報が少なすぎてろくなものが集まらなったけど、すこし興味深い情報が手に入ったよ。

 彼、どうやら二科生らしい。」

 

「二科生・・・と言うと一校の補欠枠、だったか?

 おいおい、何かの間違いじゃないのか?」

 

 エンジニアの資質は魔法力に直結すると言って差し支えない。

 確かに努力で伸ばせる範囲が大きい分野ではあるし、競技などは運動能力やセンスがものを言う部分も多いだろうが、だからといって最低限の魔法力はあってしかるべき。

 魔法力と魔法への理解はある程度比例するものだし、そもそも理解できない魔法は扱えないのが基本だ。

 もちろん資質に欠ける人間が”魔法への理解”を要求されるエンジニアが務まるとはとうてい思えない。

 と、考えるのが普通だが。

 

「僕もそう思って何度も確認したさ。

 でも間違いない。それどころか理論方面ではダントツのトップらしいよ。

 エンジニアを任されたのはこの辺りが加味されたのかな?」

 

「だとしたらそれを評価した人は慧眼だな。文句なく最高のエンジニアだ。

 実際、そいつ相手には舐めてかかったら足元を掬われるだろう。」

 

 そう言いつつ、一校新人戦のエンジニアスタッフの一覧を眺めていくともう一人一年でエンジニアを担当している人間が居るらしい。

 エンジニアを一年がやっている段階で上級生より魔法への造詣が深いと言ってるのと同然だ。

 

「比企谷・・・八幡か?

 こいつも一年でエンジニアを担当してるみたいだが?」

 

「女子バトルボード担当してるみたいだね。

 試合の映像は見たけど腕はいいと思う。それにあの作戦がエンジニアからの助言だとすれば・・・。」

 

「相当に食わせ物の可能性がある、か。」

 

 一校新人戦バトルボードのフラッシュ戦術は全校で今一番の話題だ。

 スピードシューティングで首位独占されたことについては大きな問題だが、どうあがいても変えられない結果である以上、明後日にあるバトルボード決勝へ向けての対策の方が急務だ。

 終わったことより目下の大問題。今は各校のバトルボード関係者は一校対策で大忙しだろう。

 

「比企谷八幡も要注意なのは間違いないね。

 今更エンジニアチームをどうこうできる訳じゃないし作戦で上手く埋めないとジリ貧になりかねないk・・・。」

 

「あら、比企谷さんの写真ですね。

 彼はまだ競技に出ていなかったと思いますが、今から対策ですか?」

 

「一色さんは彼を知っているのかい?」

 

 どうやら俺の見ていた資料が後ろから見えたのだろう。

 しかし一校の技術スタッフと一色さんになんの関係が・・・。

 

「彼、妹の学校の先輩なのよ。

 加えて一色家の恩人でもあるわ。」

 

「もしかして一昨年辺りに少し騒ぎになったあれか?

 あれは確か・・・。」

 

「うん。

 一色家当主が一個人へ直々に感謝を述べたって少し話題になったよね。

 その彼が一校で技術スタッフをやってるのか。魔法的素養も高かったんだね。」

 

 魔法業界の人材発掘はナンバーズに所属する人間では重要課題。あの一色家の行動はそう言う側面もあったのかもしれないな。

 

「・・・ちょっとまって、技術スタッフ?それって調整エンジニアチームの事ですか?」

 

「そうだ。これは一校の新人戦エンジニアチームのリストだ。

 さっきの凄腕エンジニアをジョージが調べてくれたんだ。」

 

 

「でしたらその情報、間違っていませんか?

 比企谷さんは選手の筈ですよ?」

 

 

 ジョージの情報が間違っていた・・・?いや、そんな杜撰な調査をしないのは俺が一番よく知っている。ならば・・・。

 

「・・・何故、選手だと分かったんだ?」

 

「新人戦に次席入学者を出さない理由ってあると思います?」

 

 ・・・成る程。違いない。

 

「・・・今、一応再確認してみたけど女子バトルボード、光井選手の担当エンジニアは間違いなく比企谷八幡だ。

 それどころか本戦のエンジニア担当もしている。

 本戦女子クラウドボール七草真由美。エルフィン・スナイパーの担当エンジニアじゃないか!!

 司波達也に気を取られすぎて見落としていたよ・・・。」

 

「となると、比企谷さんは新人戦に出ない?一校は次席を出さずとも勝ち抜けると判断したのかしら・・・?」

 

 いや、一校スタッフがそんな甘えた事を考えるわけがないだろう。・・・ならば答えは単純だ。

 

 

「エンジニア担当と選手を両立出来る奴・・・と言うことなのだろう。

 にわかには信じられんがな。」

 

 

 一度クールダウンをしようと見渡せば、いつの間にか三校の食事スペースは全体が静まりかえっていた。無理もないだろう。三校の中でも有名どころが3人並んで議論しており、内容が余りに不穏なものだからだ。

 

「とりあえずそいつが選手として出てくるとしても、実力が分からない以上、目下問題は司波達也だろう。

 今後はその辺りの情報を密にやっていくしかないだろうな。」

 

 そう、どちらにしてもやることは変わらない。可能な限り皆を補助し、俺は勝つだけだ。

 

 

 

 




本格的に一条が参戦。

暴れるんだろうなぁ・・・。(かってに走られて困ってる作者←

そろそろ八幡本人の大仕事も入りますし、いやーやっぱり暴れるんだろうなぁ・・・。



毎度の事ながら感想とか感想とか感想とか感想。後、質問とかツッコミとかツッコミとか・・・とかとか諸々を募集しております。


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九校戦編23

お・・・そく・・・なりました・・・。(がくっ

いつも通り言い訳につきましては後書きにて。(いつも通りになっててすみません。


~エイミィside~

 

 

 

 女が群れる動物なのはいつの時代でも変わらない。

 集団が形成されればグループが出来るのは当然の摂理だし、基本的に単独行動を好む女子は少数派だと思う。

 私自身も誰かしらと話をしながら行動したいし、一人で居ると・・・なんかそわそわするのは分かる。まぁ、例に漏れず私も普通の女子ってことなのかな。

 だから、新人戦1日目が終了しての夕食時に本日出場選手で好成績な人達に女子が群がるのはもはや予定調和と言って良いと思う。そして集まっていく人間もセンセーショナルな人に集まりワイワイ騒ぐのが目的である以上集まる先はある程度決まってくる。

 見渡せば深雪を筆頭にほのか達を囲んだグループと雪ノ下さんを中心のグループが形成されて、みんなでワイワイやっている。深雪はまだ競技に出てないのに中心になってる辺り流石の求心力って感じだけど、今日に関してはほのかは九校戦全体注目の的だったから、ほのかが深雪と一緒にいる以上輪に拍車がかかってる。

 雪ノ下さんも危なげなく勝ち進んでたし、普段はB組では中心人物。人が集まってくるのもよくわかる。

 私としてもこのワイワイに参加して喜びを分かち合ったりして明日への活力にしたい・・・と思ってるんだけど・・・。 

 ・・・現実は少し外巻きに眺めてる私。

 

「どうしたんだい、お嬢さん?浮かない顔だね。」

 

 そんなおりに気取ったように話しかけるのは里美スバル。

 サバサバした性格で空気も読めるある種のムードメーカーな彼女は少し孤立した様に映る私に気を使ってくれたのだろう。

 

「ちょっとね・・・。

 ねぇ、なんで深雪達と雪ノ下さんって仲悪いのか知ってる?」

 

 この問いで全てを理解したのかスバルは苦笑いしつつあの"不自然なほどに"二分化された集団に目を向ける。

 女は群れる。基本的は小グループがあちこちに形成される形で。

 今回の様に今の話題の中心人物が居る場合も、それら全員を中心に大きな集団を作るのが一般的なんだけど・・・まれにそう言う形にならない場合がある。

 それが、複数の中心人物同士が仲が悪い場合。

 確かに規模が大きいパーティーではあちこちで集団が形成されるけど、今此処にいるのは一校の九校戦関係者だけ。それも全員ではないので人数もたかがしれてるのに、その状況での二分化。

 これは立ち位置をミスると後々ややこしくなるのは明確だよね・・・。

 

「いや、直接的な理由までは分からないかな。

 基本的には比企谷君を雪ノ下さんが毛嫌いしててそれに怒ってるって言う構図だけど・・・それは知っているだろう?」

 

「そうだけど、昨日まではここまでじゃなかったよね?」

 

「それについてはさっき聞いてきたよ。なんでもほのかの競技前に一悶着あったみたい。

 比企谷君の対応に問題提議してエンジニア担当を外す提案をしたとか・・・。」

 

 そこまで毛嫌いするって凄いなぁ・・・。

 でも、細かい点で比企谷君にツッコミ入れたい事があるのは分からなくないし、何よりアンチ多いんだよね・・・。うちのクラスは特に雪ノ下さんと仲が良い人多いからヘイト高いし。けど、深雪はともかく雫やほのかは基本的に公平だし比企谷君のダメな部分もしっかり指摘してるのは知ってる。

 あぁもう。正直何信じたらいいのか分からない。

 

「・・・スバル。一人ご飯は寂しいから付き合って。」

 

「ハハハ・・・。了解。」

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 物事における"通称"はその物の体を表す上で有益なものだ。

 そもそもが伝わりにくかったり、名称が長く不便な場合に使用され、コミュニケーションを円滑に導く便利なツールでありそれはパンピーの会話を円滑なものへと変えるだろう。

 では、何故円滑な名称が必要なのだろうか?

 それは世の中のパンピーが多数ある会話を少しでも多く話共有するための最適化が産んだものに他なら無い。常に誰かしらと会話し、コミュニケーションを図り情報を共有する彼らにとって分かりやすく伝わりやすい事は必要不可欠なのだろう。

 だが、その円滑さを必要としない人間も居るのだ。

 そう、ぼっちである。

 我々ぼっちはそもそも円滑さを求める程会話をしない。コミュニケーションも取らないし、省略しなければ話しきれないほど話す話題もない。

 

 よって"ぼっち"にとって”通称”は不要だ。

 

 重ねて言うようだが、会話の円滑さなど考えるまでもなく不要である事など確定的に明らかであり、コミュニケーションなんか何それ食えるの?を体現するぼっちには無用な文化形態と言っても過言ではないのだ。

 故に通称を使用しない事も含め通称に踊らされる様な、「ここではこうも呼ばれてるから・・・」等のレッテル張りに踊らされる事態も勿論あってはならない。そう、あってはならないのだ。

 

「だからこそ、いいか?俺は制服で出る。」

 

「諦めて着て下さい。

 八幡さんの和装姿なんて滅多に見れないのですから、ほら早くなさって下さい!!」

 

 現在の種目。男子アイスピラーズブレイク予選第一試合。

 その通称を"ファッションショー"と名付けた人間は夜道を歩くときは気をつけろ。

 そんな呪詛を唱えながら控え室では深雪による強制着付けによって試合に出るはずだった制服を引っ剥がされ何故か紋付き袴に換装されつつある俺は現実逃避に忙しい。

 本来ならば断固拒否のこんなコスプレに袖を通す羽目になったのは今日の朝、試合の一通りの準備を終わらせた俺に大荷物を抱えた深雪が現れた。中には紋付き袴と筆跡に見覚えがある手紙。

 

「ピラーズブレイクに着る衣装がないと伺ったので送っておきます。

 試合、楽しみにしているわね?

 貴方の叔母より。」

 

 ナニユウトリマスノン・・・。

 何故、衣装の話が出たのか、犯人を見ると・・・やだ、良い笑顔。

 手紙をみる感じからして、リアルタイムで見ているであろう親バカ丸出しの叔母に着ていないのがバレればどのような反撃が来るのか分かったものではない。何故かこういうときに手段を選ばない人なのだ。

 こうして完全に退路が断たれたのである。

 

「さて、着付けが終わりました!!」

 

 げっそりとしている俺に何故かテンションMAXな妹様はいつの間にか取り出したカメラで激写を開始した。

 ・・・いや、ちょっとまて。

 

「うぉおい、何撮ってんだよ。ぼっちの写真になんの価値がある!!」

 

「叔母様に送らなければいけませんし、小町ちゃんにも送らないと・・・。

 というわけで、必要なんです。ほら、シャキっとなさって下さい!!」

 

 強く言われると反射的に従うぼっちの性がここまで憎くなったのは初めてである。

 

 その後、撮影会は深雪が満足するまで行われ、終わって出てきた頃には俺は灰のようだったと後から雫に言われた。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

~真由美side~

 

 

 

 新人戦アイスピラーズブレイクは今年の九校戦でも全試合見ようと思っていた種目で、個人的に凄く楽しみにしていた。私自身はピラーズブレイクに出場したことはないけれど、戦略や魔法技能、技術がしっかりと浮き彫りになる非常に難しい競技なのは分かっているつもり。

 そこに何故か私が注目している人間が一気に集中しているのだから見ないわけには行かないでしょう。

 深雪さんは見るまでもなく優勝は確実だと思うけれど、それでも彼女は一魔法師としても目が離せない。それをあの達也君が調整している。もう何が飛んできたって不思議じゃないと思ってる。そして同じく達也君がエンジニアとして入っている他選手や八幡君がエンジニア担当をしている雫さん。これに至っては達也君以上に何が出ても不思議じゃない。

 既に一発派手な事をバトルボードでやらかしてるのもアレだけど、八幡君にとってピラーズブレイクはエンジニアだけじゃなく”自分が出る種目でもある”。種目への理解度に深さは折り紙付きでしょう。

 そんな波乱を孕むアイスピラーズブレイク予選。トップバッターはその波乱その物の八幡君な辺り、運が良いというか、持ってるというか・・・。

 ほんと、何してくれるのかしらね。

 

「そう言えば会長、比企谷君の練習は見に来ていませんでしたよね?」

 

 そう言って話しかけてくるリンちゃんとはピラーズブレイクを摩利と共に見に来る約束をしていた為今は摩利を含めて3人で八幡君の予選を見に来ている。

 試合はもうすぐ開始。遠からず八幡君も入場してくるでしょう。

 

「忙しかったのもあるけど、何回かチラッと見てはいたのよ?でもタイミングが悪くって一回も試合風景が見れてないのよ。」

 

 八幡君のピラーズブレイクはどうなるのかとてもとても気になった。けれど、ネタバレの様な気がするからあんまり深くは見なかったのもあってついぞ試合風景が見れない結果になってしまった。

 

「内容を把握していないのでしたらそうなるのも当然でしょう。」

 

「随分と勿体ぶるな。なんだ、そんなに凄い事やらかすのか?」

 

 リンちゃんがいたずら好きの子供のように勿体ぶるのは、相当面白いか虫の居所が悪い時。

 長い付き合いなので結構茶目っ気があるのは知ってるけれど、ここまで勿体ぶるのは初めてかもしれない。

 

「おそらく、アイスピラーズブレイクの歴史に大きな変革がもたらされるでしょう。

 ついでではありますが、会長が練習を見れなかった理由も同時に分かるかと。」

 

 そんな不穏さしか増えない雑談は会場の歓声でかき消された。選手が入場してきたみたい。

 八幡君は・・・あら。

 

「あれは・・・紋付き袴か。目つきも相まってどっかのヤクザかと思ったぞ。

 あいつがあんなものを着るとは思わなかったな。」

 

「ふふっ・・・くっ・・・っ。

 あれ、絶対深雪さんに着せられたのよ。八幡君が自発的に着るなんて有り得ないもの・・・ふふっ・・・。」

 

「まぁ、変なものを着るよりは似合っている・・・と言っていいのでしょうか?

 趣味が分かれそうではありますね。」

 

 八幡君は終始苦虫を噛み潰しきった顔をしているせいでヤクザ度がどんどん増してるし、リンちゃんも若干近付きがたいといった感想みたいね。と言うか普通に怖いもの。

 まぁ、挙動不審だから私はそこまで怖く感じないけれど。

 

「もう、これ見れただけで十分満足したけれど、ここからが本番ですものね。」

 

「はい。試合が始まります。

 ですから会長、委員長。試合から絶対目を離さないで下さい。」

 

「え、それはどういう・・・」

 

 その質問の答えは試合開始のブザーにかき消されて帰ってこなかった。

 いえ、実際には同時に返す必要すらも失った。

 何故なら答えはもう既にあったから。

 

 会場に響く試合終了のブザーという形で。

 

 




主人公が動いてるのに主人公自身をほぼ描写しないタコが居るな?←

遅くなりました。タコ作者です。
今回の遅くなった原因なんですが・・・びっくりするほど忙しくて・・・。(就活関係が。
とりあえず構想はあるのに書く前に死ぬ状態でした。私は、元気です。(遠い目

久々ですので訳分からんわ!とかツッコミとかツッコミとか、とかとかをお待ちしております。
お待ち、しております。


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九校戦編24

今回は比較的早く書けました・・・。


~平塚side~

 

 

 

 

 あいつは批判されることでしか目立てないのか?

 いや、今回ばかりは批判のみ、とは言えないか。

 

 比企谷の競技が開始すると間もなく試合終了のブザーが鳴り響き、それによって現場が包み込んだのは混乱だった。

 無理もないだろう。今から競技が始まると思ったら唐突に試合が終わったのだ。見ている側は肩すかしを食らったようなものだ。それ故に終了ブザーは”誤報”だと会場のほぼ全ての人間が思ったことだろう。

 ブザーがなった極数秒間は。

 この会場の混乱は段階を経て理解と疑問が重なり、私の目から見ても運営側ですら混乱しているように映った。だが、明確に。揺るがぬ結果として"勝者が比企谷である"という現実が示されている現場に、勝敗を判定する立場として運営は対処しきれずにいた。

 

  この、”綺麗なまま、ただ空中に浮き上がった氷”にどう言った理由で勝敗を伝えるのかを。

 

 

「平塚先生。これ、お兄ちゃんが勝ってるっぽいのは分かるんですけど、いまいち勝った理由が分からないんですけど・・・。」

 

 運営を哀れんでいたところで同じ競技を見ていた教え子の一人でかつ、この問題を起こした張本人の妹が理解しきれない疑問を投げてきた。見る人間が被ったので見に来ているであろう比企谷の妹の所属するグループと合流しておいたのだ。自分の兄の仕出かした事とはいえ、解説がないならある意味当然の疑問か。

 

「お前の兄、比企谷は勝ったんじゃなく、相手を負けさせたんだ。」

 

「・・・あー、なるほどそう言うことですか。

 先輩らしいって言うか、出来ることも凄いですけど」

 

 一色は察したらしいが最後まで解説するとしよう。

 

「アイスピラーズブレイクの勝利条件は相手の氷を全て破壊すること。

 逆に言えば全ての氷が破壊されると負ける。

 だが、競技である以上破壊にルール上の定義として、”この状態になったら破壊された”とする判定が存在する。」

 

「・・・もしかして、空中に浮いてる氷って破壊された扱いだったりします?」

 

 この段階で概ね察したらしい。流石は実の妹だな。

 

「その通りだ。正確には地面を離れてはいけない、と言うルールだが。

 元々は”自分の氷を利用して相手の氷を砕く魔法”で使用した氷が破壊されていない氷として扱わない様にするために出来たルールだが、目を付けるところが良いというか、目敏いというか・・・。」

 

「ですが、判定がなかなか出ませんね。

 八幡兄様が勝利なのは間違いないのですよね?」

 

「桜井、それはおそらくだが・・・今回の敗者判定したのが機械だったせいだろうな。人間では氷が浮いてるかどうかを確認するのは難しいからな。

 そこで事実確認と諸々が手間取っているのに加えて、前代未聞な結果だからな。発表に準備が要るんだろう。」

 

 全会一致で運営に対する同情の中、勝敗判定の放送が始まった。

 

『大変長らくお待たせいたしました。

 只今の試合は相手の氷を全て破壊判定状態に追い込んだとして第一高校、比企谷選手の勝利です。

 九校戦の歴史上、例のない勝利方法であったため判定が遅れたことに心よりお詫び申し上げます。』

 

 働きたくない、頑張りたくない、さっさと終わらせて帰りたい。

 この魔法はそういう不真面目さから生まれたであろう事が容易に想像がつく身として、これによって波及する問題に頭を悩めている人達を哀れに思う。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

~鈴音side~

 

 

 

 

『大変長らくお待たせいたしました。

 只今の試合は相手の氷を全て破壊判定状態に追い込んだとして第一高校、比企谷選手の勝利です。

 九校戦の歴史上、例のない勝利方法であったため判定が遅れたことに心よりお詫び申し上げます。』

 

 想定していた通りであり、予定通りである結果であるものの、もたらされる結果は劇薬が過ぎるのではないでしょうか?

 そう思ってはいたものの、”歴史が変わる瞬間に立ち会えるかもしれない”という欲に勝てなかった結果がこの運営からの放送。

 この放送と放送までに説明した勝敗の理由に関しての補足で会長、委員長は状況を把握しつつも、納得しきれない顔をしている。

 

「確かに、これで目を離してはいけない理由と、私が八幡君の練習風景を見れなかったのも分かったわ。試合時間数秒じゃ構えてないと見れないし。

 けど、防御を捨てての速攻で魔法の範囲は氷全て。相手の情報強化とかの対抗魔法の前に勝負を決めてしまう・・・そんなの”言うが安し”の典型よ?」

 

「情報強化なんかは事象改変を伴わないから魔法発動が圧倒的に早い。圧倒的なスピードでもない限り無茶した分だけ出遅れるだけだぞ?リスキー過ぎる上に、一回限りの作戦だ。

 読まれたら以降使えないからな。」

 

 当然の様な指摘の嵐ですが、この場で出てくるような指摘は私でも思いつきます。

 

「当然、と言いますかこれで終わるのならば私はこの戦術を止めていますし、使うにしても切り札として温存する事を指示します。

 かく言う私も同じ様な指摘をして、比企谷君に説明をされて納得したので大きな口では言えないのですが・・・。

 まず第一に、この戦術が良くできているところは”情報強化を用いない選手”は基本的に対応不能であるという点です。」

 

 アイスピラーズブレイクにおいてなんらかの防御手段は必須ではあるものの、方法は様々。氷自体を移動、ないし魔法による改変によって相手の魔法の発動条件を満たせなくさせたり過剰に攻めることで相手に攻撃の隙を与えない戦略も珍しくない。

 実際、ここの所の試合は最初に速攻の攻撃魔法で氷の数的有利を取ってから防御する戦略が多く、今回の比企谷君の相手選手もそのパターンであった。完全に良いカモと言ったところでしょう。

 それに加えてあの魔法発動スピード。早打ちに秀でてない選手ならばデバイスの差もあって勝負に土俵にすら立てない可能性もあるでしょう。

 

「確かにそうだが、比企谷の発動スピードあって初めて成り立つ戦術だ。

 にしたって速いな・・・。汎用型であの魔法発動とは。」

 

「それは違うわ、摩利。魔法を撃ったのは右手に持ってるCADじゃなくて左手の袖に入ってる奴よ。

 恐らく特化型なんじゃないかしら?」

 

「正解です。今持ってるCADはブラフらしいですよ。

 正直、あの速度なら騙し討ちなどせずとも良いと思うのですが、「もしかしたら使うかもしれない。」との事です。」

 

 にしてもよく気がつきましたね、会長。これが愛のなせる技、なのでしょうか?本人は絶対認めないでしょうけど。

 

「それで、リンちゃん。どうせ情報強化されても大丈夫な秘策があるんでしょう?」

 

「もちろんです。それが2つ目の理由ですね。

 比企谷君は"情報強化等で防がれる前提"でこの戦術を考えていました。言い換えれば今回試合は彼にとっては前座で終わってると言えます。

 参考までにですが、彼の練習試合での勝率は深雪さん以外に全勝です。」

 

「・・・逆に言えば、司波はあれに勝つのか。いや、種が割れているならなんとかなるのか?」

 

「勝敗に影響していない、とは言いませんが。実際の試合を見た者として言えるのは、そんなに甘い物ではなかった、とだけ伝えておきます。

 なにせ、深雪さんは有効エリア全域に領域干渉を仕掛けたようなものですから。」

 

 信じられないものを聞いて無言で是非を問うこの光景も、九校戦が始まってからかなりの回数を重ねてきていますね。もちろん嘘偽りはないのですが。

 

「八幡君は今に始まった事じゃないけど、深雪さんも深雪さんで大概ねぇ・・・。逆にそこまで言う深雪さんの試合も気になるわ。

 予定通りみにいきましょうk・・・。」

 

「すみません、第一高校の生徒さんでしょうか?」

 

 突然会長に話しかけたのは見知らぬ女性。恐らく年も変わらない・・・もしかしたら年下かもしれませんね。

 

「はい、そうですが。

 どうかなさいましたか?」

 

「突然ごめんなさい。さっきの試合を見ていたんですけど、なんかごちゃごちゃ揉めててどうなったのかよく分からなくて・・・。」

 

 なるほど、確かにかなりごたついていたのでついていけていない人も多いでしょう。

 制服なので目に留まったのでしょうか。

 

「なるほど、そうでしたか。

 試合そのものの詳細は省きますが、勝敗は第一高校の比企谷八幡君が勝利した形ですね。

 勝敗が特殊なものとなったので運営の対応が遅れてしまったようです。」

 

「そうだったんですか。ご丁寧にありがとうございます。

 そっかぁ。比企谷君頑張ってくれてるんだ・・・。」

 

 比企谷君と面識がある・・・?

 

「比企谷君と面識があるんですか?」

 

 会長も同じ疑問を持ったようですね。

 

「比企谷君は後輩だったんですよ。

 そこまで親しかった訳ではないんですけど、色々事情があって。

 今日は第一高校に入学したって聞いたのでもしかしたら・・・って思って見に来たんですよ。

 もしかしたら重い物を背負わせてしまったかもしれないので・・・。」

 

 訳ありな事情がありそうな比企谷君の知り合いの女性、ですか。しかも比企谷君の先輩で、見た目は会長とは方向性が違う美少女ですね。口振りから深い仲ではない風ではありますが、明らかに因縁が深そうな辺り・・・なかなか面白s・・・いえ、大変な事態ではないでしょうか?

 ここで逃がすのは惜しいですね。助け船を出しましょう。

 

「よろしかったらこの後、この試合の解説込みで見て回りませんか?次、比企谷君の従兄妹が出る試合をみる予定なのですが。」

 

「せっかくですけど、ごめんなさい。

 この後中学時代の恩師に合う予定なので・・・。」

 

「そうですか・・・それではまたの機会に。」

 

 丁寧にお礼をしつつ別れる。逃がした魚は大きいかもしれません。

 

「・・・そう言えばお名前を聞き損ねましたね?」

 

「そ、そうね。聞いておけば良かったかもしれない。

 なんか、またどこかで会いそうな気がするのよね・・・。」

 

 その理由がまだ自覚しきれていない辺りこの先の道は険しそうですね。

 

 

 

 




ここにきてキャラクター増やしていくぅ・・・。
まぁ、そろそろ色々準備しないとね?
さて、心理描写を今回は入れていませんが、誰か伝わるでしょうか・・・?




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九校戦編25

おそ・・・く・・・なり・・・ました・・・。

本日は連続投稿になっておりこちらが最初です。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

~雫side~

 

 

 

 昨日までのアイスピラーズブレイク種目最速記録は本戦で千代田先輩が出した記録。

 これは本大会どころか歴代大会の最速記録で、一校全体でも盛り上がるビッグニュースになった。

 だけれど、大会が終わって千代田先輩と話したとき、嬉しそうであると同時に少し安心した顔をしていたのが、私には印象に残ってる。

 そしてここにいるメンバーでこの気持ちを共有できる数少ない私にこう呟いた。

 

「大会最速記録は”今このタイミング”じゃないと一生取れないから出せて良かったわ。

 まぁ、数日だけの最速だけど。」

 

 千代田先輩は分かっていた。正確には一校のピラーズブレイクに関わる人間全員は千代田先輩の見せた最後の意地に賞賛し、同時に今年度新人戦で起こる事態に達観した目線を向けていた。

 そうと言わせるほどの圧倒的な速度で。

 初見殺しであって、なのに分かっていても対応が難しくて。

 場合によっては勝負の土俵にすら上がらせて貰えない。

 八幡の凄さを実際に試合という物差しで測るとこれほどまでに差が付くのだと、おそらくみんなは思ってる。けど八幡の本当の凄さはそこじゃない。

 確かに八幡の魔法は凄い。けれど真似できない程じゃない、準備さえすれば。

 八幡の魔法は技術が凄いんじゃなくて発想が凄い。

 魔法という概念では才能という壁でこういった事例はいくらでもあるけど、八幡の場合は才能ではなくルールの穴をついた競技そのものの否定と言って差し支えないから、相手は想定できてないし、状況によっては刃向かう事すら許されない。

 

 普通に考えて、行動する前に勝利宣言されたらどうしようもないよね。

 

 各校のピラーズブレイク関係者は今対応に大忙しなんだろうけど、こんなの下準備も無しに出来るものじゃないし、たまたま対応出来る選手がたまたま当たるのを祈るくらい。

 それくらい大きな影響を与えて、なんなら、現行のルールじゃ競技が成り立たなくなる一歩手前な所業を仕出かした本人は。

 

「あー脱ぎてぇ。この袴目立って死ぬわ!

 あーけど脱いだら着れねえし・・・。」

 

 自分の服に文句付けて周りの視線にビクビクしてる。

 

「八幡。多分目立ってるのは袴じゃなくてさっきの試合のせいだよ?

 大会最速記録を分単位で更新してるんだから。」

 

 うん。凄くめんどくさそうな顔してるね。

 

「俺からしたらむしろ、今まで誰もやらなかったのが信じられねえ。

 追加で言うならそれを予想して対応を準備してないのも謎なんだよなぁ。」

 

「普通そんなギャンブルみたいなプレー学校側に止められるから当たり前だよ?

 それに、氷全体に魔法をかける術式をあんな速度で撃てる八幡は十分凄いよ。」

 

 頭をかきながら「出来る奴結構居ると思うんだがなぁ」とか言ってるけど、実はあながち嘘でもない。八幡と同じ事を、八幡程の速度じゃなくても良いからやってって言われたら私は出来る。私はあんまり早打ちはとくいじゃないけど、練習して一回騙し討ちするくらいなら、たぶん出来ると思う。問題は、失敗した後の事が全然出来そうにないから私には向いてない。

 けど、九校戦に参加するような人達がそれ専用に練習してたら話は別。

 八幡と同じレベルの事をやれる人は少なからず出てくると思う。”相手の氷を全て破壊する魔法”を全体にってなると、ほぼ無理だけど”取りあえず上に浮かせるだけ”だから。

 なのに、今まで誰もやらなかった。

 先入観って本当に怖い。

 

「まぁ、俺の話はまぁいい。ただの初見殺しだ次からは通用しないだろ。

 CADの調子はさっき確かめて貰ったし大丈夫っぽいが、他なんかあるか?」

 

 雑談をしてるけど一応今は私のピラーズブレイク第一試合の直前。CADの事前チェックは、八幡の試合もあってギリギリになるかと思ったけど、試合が数秒で終わったからゆっくり出来てしまった。

 だとしても雑談し過ぎてちょっと気を抜きすぎてたかも。

 あ、そうだ。

 

「八幡。最初の2人で練習した時の質問、覚えてる?」

 

「あぁ。

 正直、俺には絶対出来ない選択だから純粋に凄いと思うぞ。あのタイミングであんなこと言えるのは。」

 

 そう、私は今回の九校戦でとても大きな我が儘とかなり無理難題な大言をしてる。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

<雫 Recollection>

 

 

 

 

 九校戦のメンバーに選ばれて、更には2種目も出場できて。

 そしてちょっとだけ我が儘を言ったら、八幡が叶えてくれた。でも、無理させちゃったからお返しは結果で返さないといけない。

 そんな決意とやる気に満ち満ちている今はもう直ぐ夏休みが見えてくる夏真っ盛り。授業も粛々と終わって今から九校戦の練習がメインの時間。選手は担当エンジニアに上手く分かれて戦術や調整の相談を行うべく色々なところに散っている中、今日はアイスピラーズブレイクの初ミーティング。

 担当は八幡。私の得意なこととか、出来そうな戦術は事前に伝えているけど細かいところとかはこれからな感じ。

 八幡だからきっと私の思いのよらない戦術を考えてきたり、びっくりすることを提案される。

 そんな風に考えてたから、これはある意味想像にしていない質問だった。

 

「雫はどこまで勝ち上がりたい?

 いや、この聞き方だと語弊があるか・・・。」

 

 えっと、普通は優勝目指すよね?ふざけて聞いた内容には見えないけど、質問の意図がよくわからない・・・。けど、補足されて何が言いたいのかはっきり分かった。

 

「要するにアレだ。”雫は深雪に勝ちたい”か?」

 

 びっくりした。

 みんな心のどこかでは思っていても現実的じゃないとある種、諦めている内容だったから。

 確かに深雪が目標だし、深雪に勝てれば言うことはない。だけれどみんなそんな事は口が裂けても言わない。・・・ううん、違う。言えない。

 それ程までに圧倒的な差を感じて口に出すことは自分の実力も分からない恥ずかしい人間の様な、そう言った類の発言。深雪との差はそれ程までに大きい。

 だけど「はいそうですか」とは言いたくない。

 そんな密かに思ってた野望、野心を見抜かれたみたいな、そんな気分もあったけど、それ以上に。

 

 八幡は私が深雪に勝てるかもしれないって考えてくれてるのにびっくりした。

 

 勝てるわけがないなら質問もしないし、そもそも話題にすら出さないと思う。けど、その可能性があるから私の目的を聞いてくれている。

 入学して今までで一番嬉しい事かもしれない。

 

「勝てる、と思う?」

 

「・・・正直難しいだろうな。少なくとも俺には無理だろうし、エンジニアは達也だからなおのこと。

 だけど、メタはって対策して騙し討ちしたら・・・まぁ、驚かせるくらいは出来るんじゃね?」

 

 今はまだ難しい・・・か。

 でも、”出来ない”じゃないんだね。普通だったら絶対に無理って言われるだろうし、普通の神経ならそう解答が帰ってくるのが自然なんだろうけど、出来ないとは言われなかった。それだけで十分恵まれてるし、正直に現実を言ってくれた八幡には感謝・・・かな。

 だけど、やっぱり。

 はい、そうですか、はやっぱり嫌。

 悔しい部分もあるけど、それでも八幡が可能性を否定しなかったんだったら、手段はきっとある。

 だったら・・・!

 

「・・・驚かせるくらいは、出来るんだよね?」

 

「雫次第だが・・・まぁ、出来なくはないんじゃないか?」

 

「じゃあ、目標は深雪に”もしかしたら負けるかも”って思わせる事にする。」

 

 結構な大見得だとは思う。実際に深雪の練習は見てないし、どれくらい凄いのかは分からないけど、それでも競うことは止めたくない。

 

「大きくでたな。

 まぁ、やるだけやってみるか。」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「まぁ、準備はしたしメタも張ったから勝てなかったらエンジニアの技量差だ。

 達也と俺ではレベルが違うからな。」

 

「達也さんが凄いのは分かってる。

 けど、八幡。あのときの言葉は嘘じゃないし、これだけお膳立てして出来なかったら私の技量不足。」

 

 実際、対深雪の為だけにCAD一つ作ってくれてるし、これ以上甘えられない。

 

「ん・・・まぁ、一応前哨戦だが、油断しないようにな。無いとは思うが模倣犯対策もしっかりしとけよ?」

 

「大丈夫、そう簡単に八幡の真似とか出来る人いないよ。ちゃんと用心もするし。」

 

 八幡は本当に過保護。この過保護を受けて育ったのなら小町ちゃんがあそこまでお兄ちゃん子になるのも頷ける。

 と言いつつも、もうすぐ試合が始まる。八幡も時計をみつつ、私の一番ほしい言葉をくれた。

 

「まぁ、・・・なんだ。

 とりあえず頑張れ。」

 

「うん、頑張る。」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

~??side~

 

 

 

 

「そんな事言われても知らないって。私は必要な情報は渡しましたよ?

 ・・・はぁ、まぁ、私の仕事はしましたので以降はそちらの方でどうにかなさって下さい。

 それでは。」

 

 この携帯も廃棄だなー。まぁ、元々その予定だったけど。

 そう思いつつこれ以上の連絡を遮断するために物理的に電源を外す。これであいつ等とはもうおさらばだね。

 私の計画に必要だったから少し利用した組織で、正直どうなろうが知ったことではないけど、正直無頭竜(ノー・ヘッド・ドラゴン)には少し同情するかな?

 犯罪シンジケートだし、求められた情報的に九校戦で賭とかしてたんでしょうけど、想定外の出来事が多すぎる。何より一条将輝を筆頭に置いた三校がリードどころか表彰台レベルの成果がほとんどない。

 今年の一校が特別優秀?一条将輝が鍛えた子達より?そんなわけ無いよねぇ。

 となれば一条将輝と同等以上のドーピングが必要。そんな都合良い存在想定する方がどうかしてるよ。

 彼らにとって比企谷君っていう存在は、些か刺激が強すぎたみたいだね?

 結構お尻に火がついた感じを受けたし、派手な妨害とか来そうかなぁ。まぁ、止める気もないけど。この分だと一校は目の敵にされちゃうかな?みんな比企谷君の巻き添えになるんだから救われないね。

 それにしても本当に見てて飽きないなぁ、比企谷君は。ピラーズブレイクでは死ぬほど目立ってたしバトルボードのフラッシュもそうだよね。

 枠にはまらないし、空気も読まないし、型破り。

 そのまま世界も壊しちゃうんだろうなー。

 壊して、壊して、焼け野原にして。みんな助けたフリをして自己満足に浸るんだ。

 

 ほんとに凄い。凄いけどほんと、そういうところ本当に嫌い。

 

 この九校戦だってそうだよね?

 発想は凄いけどその凄さに誰もついてこれてない辺り傑作だよ。みんな必死で頑張ってるのに一人だけおままごとやってるんだもん。才能を誇らない天才と同列に比べられる凡人達は不憫この上ないし、正しさに縋ろうにも結果が伴ってしまっては逃げ道もない。

 比企谷君が今までしてきた自己満足は”見かけ上正しくないからこそ”許されてたのにね。

 まぁ、私は良いと思うよ?またそうやって一人で、独りで全部やっちゃえばいいんだよ。

 独りで全部出来るんだもんね?だって効率がいいんでしょ?

 全部独りで、なんでも出来ちゃうんだもんね。

 

 ほんと、そういう所。お姉さん、大っ嫌い。

 

 

 

 

 

 

 




遅くなりました。

設定の再確認とか物理の確認とかやり始めて止まらなくなった雑魚でございます。
まとめているうちに2話になったので連続でどっせーい致します。


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九校戦編26

連続投稿となっておりこちらは本日2話目になっております。

読み損ねてる説ある方は1話戻って頂ければ。


 

~いろはside~

 

 

 

 先輩の”多方面に悪影響与えまくって、来年大丈夫なのか不安になる”試合が終わったものの、今年の新人戦は予定通り進行します。

 うちのグループとしても第一目的(先輩の競技)が達成したので次の予定が決まっていなかったのもあり、少し休憩を挟んで雫先輩の競技を見に行くことになりました。

 因みに、平塚先生は人と会う約束があるとかで離脱して行きました。お仕事でしょうか?大変ですね。

 一応候補として、ピラーズブレイクの他にお姉ちゃんがクラウドボールに出てる筈なんだけど、九校戦に来る前に「私の魔法はいつだって見れるのだから、もっと色々なものを見てきなさい。」って暗に来るなと釘を刺されてしまった手前行きづらい・・・。

 とりあえず決勝くらいは見ようかな?とは思ってるけど、率先しては行けないよね。

 となるとそれまでは平行してやってるピラーズブレイクを見る事になるけど、先輩の試合は後は午後だけ。なので、先輩がエンジニアをやっている雫先輩の試合を見ることに。

 ついさっきまで試合やってたのにエンジニアって大丈夫なんでしょうか・・・。まぁ、瞬殺だったのでそこそこインターバルはあるんですけど。

 そんな心配をしつつ会場に向かうと見知った顔を見つけた。

 

「あれ、お姉ちゃん。この時間クラウドボールじゃなかったっけ?」

 

 私の姉こと、一色愛梨と、十七夜さんと四十九院だったかな?が一緒に行動してるみたい。

 私のお姉ちゃんは超が付くほどの努力家で、凄く才能があるけど、他人にも厳しくて自分にはもっと厳しいからいつも何かしら頑張ってるどこに出しても自慢できるお姉ちゃん。自分に厳しすぎて自己評価まで辛口なのがたまに傷だけど。

 実は会うのが1ヶ月ぶりくらいだけど、まぁ、いつものお姉ちゃん・・・だよね?

 

「あぁ、いろは。そう言えば見に来てるんだったわね。

 私の事なら試合まで少し時間があるのと、準決勝は早かったから。

 ところで、この方向ということは今から見るのはピラーズブレイクかしら?一校の。」

 

 うわぁ、あっさりとした物言いで瞬殺してきたって言ってるよ。我が姉ながらエグい・・・。

 だけどうーん?ちょっと元気ない?

 

「そのつもり。

 ・・・お姉ちゃんなんかあった?」

 

「なんでも・・・って貴女相手に誤魔化しても無意味ね。

 詳しい話は会場についてからにしましょうか。

 一校のピラーズブレイクよね?私達も今から見に行くつもりだから。

 それで構わないかしら?」

 

 お姉ちゃんが小町ちゃん達に一緒に行動するか許可を取りますが、勿論OKが出る。その後は小町ちゃん筆頭に自己紹介が始まって終わる頃には会場に到着。とりあえず席を確保です。

 道中に、小町ちゃんが先輩の妹って聞いたときに凄く驚いて、予想以上に狼狽してた感じから、悩みの種が少し予想が付いたかも。

 

「もしかして、お姉ちゃんの悩み先輩の事だったりする?」

 

「先輩、と言うのが比企谷八幡さんの事を指してるならその通りね。

 彼、いったい何者なの?」

 

 先輩、お姉ちゃんに人外扱いされてますよ。

 でも、そこまでかなぁ・・・魔法自体は簡単だし・・・。

 

「何者って・・・私が知ってる事はお姉ちゃんと大差がないレベルだよ?

 それに、やることが斜め上だったり下だったりするけど、無茶苦茶はしない人だし・・・。」

 

「あの・・・兄がまた何かご迷惑を・・・?」

 

 流石はブラコン。先輩の話は聞き逃さない・・・。

 

「いえ、迷惑ではありません。もし、迷惑に感じるのならば、それはこちらの技量不足と対応力不足ですから。」

 

「・・・お姉ちゃん。先輩について一番詳しいであろう人こと妹の小町ちゃんがいるし、疑問は解消しておいた方が良いと思うよ?

 多分、そのペースで驚いてたら身が持たないから。」

 

 やってることは普通の事だけど、やり方が異常極まりない先輩は普通の神経の人間には劇薬過ぎるし、お姉ちゃんは王道に頑張るタイプだからショックも大きいよね。

 私でもまだなれないし。

 

「いろは、その物言いは流石に失礼よ?」

 

「否定出来てないし、動揺もしてる。

 それに先輩の事なら気を使わないで良いよ、みんな馴れてるから。

 後、小町ちゃんは心の機微に敏感だから嘘とか誤魔化しは通用しないし。変に取り繕わない方がかえって誠実じゃないかな。」

 

 お姉ちゃんの小町ちゃんへの評価が数段階引き上げられる。小町ちゃんが「流石は先輩の妹」みたいな評価を受けてそう。まぁ、実際に凄いけど。あの兄にしてこの妹だよね、主に性格面が。

 

「技量不足、化け物扱い・・・ってなると朝にあった試合ですよね。

 あれ、普段からやってる騙し討ちだし、お兄ちゃんが凄いんじゃなくて性格悪いだけだと思うんですけど・・・。」

 

「まぁ、実際に使ってた魔法は目くじら立てる程凄い魔法じゃなかったよね。それこそお姉ちゃんの方が早く撃てない?」

 

「撃て・・・無くはないわね。練習ありきではあるけれど。

 完全に初見殺しになってしまうものの、不可能じゃない。」

 

 その発想がなかったって顔をしてたけど、少し冷静になったみたい。

 

「いろは。やっぱり貴女は天才ね。」

 

「・・・脈略が意味不明なんだけど。」

 

 うちの姉は何かにつけて私を天才扱いする。でも実際に凄いのはお姉ちゃんで、出来ることも魔法もお姉ちゃんの方が上。明らかに1才の差では埋まらない技量差があるから天才はむしろお姉ちゃんなのではないかと常々思っているんだけど・・・。

 

「天才の所行を目の当たりにして、その価値を分かってもこれだけ冷静に構えられる。

 現に私は浮き足だってしまっていた。私もまだまだね。」

 

「いや、それは単純に見慣れてるだけだと思うよ?

 先輩の無茶苦茶はいつものことだし。」

 

「あの、もしかして兄を天才と言いましたか・・・?そんな過大評価はダメですよ!!

 さっきのアレも多分手抜きが生み出した産物ですから・・・。」

 

 え、何それ聞いてない。

 

「手抜き、ですか。

 あれだけの実力を見せてなお、手を抜く余裕があると?」

 

「そうじゃなくて・・・。多分、試合を長くするのが面倒くさいからさっさと終わらせよう、って感じだと思うので、それをさも凄い事みたいに扱われるとなんか妹として申し訳なくなってくると言いますか・・・。

 ごめんなさい。あんな兄で・・・。」

 

 お姉ちゃんは真面目だし、手を抜くっていう発想が無いから寝耳に水って感じ。久々に見たよ、お姉ちゃんの呆けた顔。

 まぁ、でも九校戦にきて手を抜こうなんて考える方がおかしいよね。先輩らしいけど。

 と、呆れているうちに選手入場のアナウンスが流れました。

 お姉ちゃんの表情が少し気になりますが、私が言っても無理しちゃうし・・・って思ってると四十九院さんがこっちにウインクしてきてくれた。お任せできそう。

 となればちゃんと見学しないといけませんが、先輩は・・・まぁ居ませんよね。バックに引っ込んでるのでしょう。

 登場した雫先輩は、わぁ・・・振り袖きれい。今年の一校は和服が多いのは合わせたのかな?先輩も紋付き袴だし。

 例年ピラーズブレイクはファッションショーさながらの様々なコスプレがあるから見てて楽しいです。まぁ、実際にやるとなるとなかなかエグい魔法競技らしいですけど。

 それはともかく。

 

「先輩、どんな事やらかすのかな?

 あの、バイザー凄い怪しいけど。」

 

 振り袖に目を覆うバイザー。見た目がシンプルだし、和装のアイドルとかがマイクとかのヘッドセットつけたらあんな感じなりそうかな?

 ほとんどメガネと大差ないけど、メガネかけてるの自体が結構マイナーだし・・・。間違いなく先輩の入れ知恵だと思う。

 

「いろは、やらかす前提なのは流石にひどい物言い過ぎない?

 八幡兄様は別にいつもいつも・・・何か問題を起こしてる・・・訳じゃないよ?」

 

 水波、せめて最後まで自信を持って発言しようよ・・・。

 

「お兄ちゃんトラブルを生み出すことに関しては天才だから水波ちゃんでも擁護しきれないよね。

 あのバイザーは分かんないけど、家で見た事あるからCADの一部じゃないかな。

 照準補助とか?」

 

 そういった雑談を遮るように響き渡る試合開始のブザー。

 水波がなにか言おうとしたものの、試合が始まるので諦めたみたいだし、試合に集中しよう。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

~達也side~

 

 

 

 新人戦アイスピラーズブレイク第一試合。

 第一高校では女子は3名の選手が出場しており、既に1名が第二試合に駒を進めている。

 残り2試合も面子としても決勝リーグ進出の可能性は高いし、初戦から取りこぼすことはないだろう。

 俺がエンジニアとして担当するのはそのうち二人で、残りは深雪のみ。だが、八幡が担当する雫は八幡が競技に出る関係上サブが必須。その為現在は雫の競技を端から見ている。

 

「流石に雫は仕上げてきてるな。共鳴点を探し出す術式もしっかりと機能している。」

 

「そこに関してはかなり達也を頼ったからな、そりゃあ上手くいくだろうよ。」

 

 今回、八幡と俺で魔法式の制作、及びCADのアレンジなどは協力して行っている。当日の調整こそ分担しているものの、作戦から起動式アレンジまで基本的にほぼ全てが合作と言っていい。

 

「あそこまでストレスが無い共振破壊を実現しているのは間違いなくあのバイザーの恩恵だと思うぞ?

 アレンジこそ手伝ったが、共鳴点を生み出してそれを最短で導き出し、情報強化をよける方法まではじっくり考えれば出来ることだ。それを”ユーザーにあった出力方法にする”までは頭が回らなかったからな。」

 

 今年の新人戦アイスピラーズブレイクは予想に反して、いや、予定通り初手での早打ちを警戒する各校選手がいかに初手を防ぐか、そしてそれに対応できない選手が身を切って早打ちをしてくるか、等の冷静さを欠いた試合が多発していた。

 特に、その影響は一校選手相手には過剰に見られており、結果として相手が勝手に自爆するように誘導されているかのようだ。

 実際は、八幡試合のインパクトが強すぎて過剰対処から来る疑心暗鬼だが、アイスピラーズブレイクの様に”本来は冷静に対処をする”競技においては思考リソースに大きな負荷をかける結果になる。

 事実、八幡より「試合では俺と同じ速攻をする奴が居る前提で試合に臨め」と言うオーダーが徹底されているため、一校に騙し討ちは通らない。どころか、明確な隙となり先手をとれる状況が多く、男子女子共に第一試合は苦もなく勝ち進んでいっている。

 

「しかし、八幡の試合が影響して楽な試合運びになっているな。少し考えれば付け焼き刃で真似できるものでも過剰に警戒するものでも無いと気が付きそうなものだが。」

 

「まぁ、今々だからな。しばらくは混乱してるだろうけど、続いても今日いっぱいだろう。

 明日には冷静な相手しか残ってないだろうし、バイザーは明日用に隠し球でも良かったか。

 明らかに素でやっても余裕っぽいし。」

 

 現在雫は普段使いの汎用型CADとバイザーの様なメガネを着用して試合に臨んでいる。

 正確にはバイザー型のCADの補助器具だが、中身は照準補助どころかただの小型コンピューターでしかなく、機能としてもCADが自動で入力するような変数を補助するためのものだ。

 

「あのバイザーは雫の魔法を撃つ時のストレスを軽減することに付随した、体力面でのサポートも含まれているんだから使用しない手はないだろう。

 実際、魔法力も使わなければ、判断の指針にするための物だしな。」

 

「まぁ、雫が好きな方で良いか。大差ないのは事実だしな。」

 

 あの、バイザー自体はCADの一部ではあるものの、本当に映像補助が付いたコンピューターに過ぎない。事実としてやっていることは相手の氷を視覚上で色分けしているだけなので魔法にもほぼ干渉していないのだ。

 そもそも、ある種無意味に見えるこのバイザーを作ったのには俺の起動式の問題点を指摘するところから始まった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

<達也 Recollection>

 

 

 

 

 

「今の魔法、共鳴点を探すときの周波数調整の開始周波数がかなり違うんだが、なんでなんだ?」

 

 雫のピラーズブレイクの起動式を完成させ、テストを込みで使ってみたところ使用感やタイムも含めて良好。これで概ね完成として最終調整に入ろうというタイミングで、八幡からの提案でこの起動式を用いずに自力で共振破壊をした場合のデータを取る事になり、その後に出た八幡の台詞がこの質問だった。

 最初こそ質問の意図が読み切れなかったが、雫の解答でこの疑問の価値の大きさがよく分かった。

 

「なんとなくこの辺りかなってところから始めてる。・・・何か問題あった?」

 

「あぁ、問題大ありだ。

 俺らが作った起動式側の、な。」

 

 雫のこの解答はCADにおいて自動検出させる予定だった氷の共鳴点に当たりをつけることが可能という事実で、それが可能ならばこの術式を使う上で重要な才能を無視した起動式を渡すことになる。

 実際に、ある方向に高い資質を持つ魔法師はその系統に対する感受性が高い事が多い。

 例えばほのかなどは光井家の得意とする光系統の魔法が得意であると同時に、光に対して高い感受性を持つ。

 この場合、雫の魔法が母親から受け継いだ事もあって、振動系統や物体の固有振動数に関して感受性が高い可能性がある。

 

「雫、一応確認なんだが、雫はなんとなくではあるものの物体の共鳴点が読み取れるんだな?」

 

「ぴったりは無理。大ざっぱになら分かるけど、でもそれを実践でやるより八幡と達也さんが作ってくれた起動式でやった方が多分スムーズに魔法が撃てると思うんだけど・・・。」

 

「いや、そんな便利な事が出来るなら話が結構変わるんだよ。」

 

 現在の共鳴点を探し出す術式では一般的な氷の共鳴点の範囲を基準に少し下の振動数から段階的に上げていくことで振動数を探す。

 ほぼ全自動的に行うとはいえやっている内容は総当たりで共鳴点を探している状況だ。氷の共鳴点次第で共振破壊が完了するまでの時間に差がでるし、氷の状況によって有利不利が出てくる状況だ。

 確かに誤差とは言えるものの当日は多ければ3、4試合同じ事を繰り返す可能性があり、1戦毎に12本で同じ作業を繰り返す。効率化できるのに、こしたことはない。

 

「現状の魔法が氷の共鳴点を虱潰しに探してる状況で、雫がそれに大雑把な当たりをつけることで短縮が可能になる。魔法式の手順に含めることが出来れば氷一つにかける時間ムラが少なくなる。

 だが、問題点は自動化するにあたって別の変数が増える事になる。その点をどうするか・・・。」

 

「氷の共鳴点を読み取る精度にもよるけど、共鳴点毎にグループ分けして起動式分ければ良いんじゃね?」

 

「一回ごとに起動式を変えるのは負担が大きいぞ?」

 

「なら先にグループ分けをしておいて共鳴点が近い奴を同じ起動式でまとめりゃ楽になるが・・・あー最初の情報強化撃ちながら共鳴点読み取れば無駄がないか。

 雫、12本の氷の共鳴点をざっくり見つけるのにどんくらい時間かかる?」

 

 そこからの修正と完成までの時間は早かった。

 雫が共鳴点を見分ける時間とそのムラを調べ本来の共鳴点との誤差を調べたところ、高い制度で読みとれている事が分かり、多めの誤差見込みを入れてもかなりの時間短縮になることが分かったこと、12本の共鳴点を読み取り、それを視線操作可能なコンピューターに記録する時間が、情報強化を行う時間と大差がない事が分かり、負担も大きくないこと。むしろ、試合時間の減少や効率的な魔法運用がストレスを少なくしており快適さは増している。

 俺が個人で作ればこうはならなかっただろう。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 現在、雫は初手での迎撃用の情報強化を撃ちながらバイザーに相手の氷の共鳴点を読み取って適合する魔法式毎に色分けして視覚的に分けている。

 雫はその色分けを数字によって管理し、それを元にCADの起動式番号を選択すればバイザーによって色分けされた対応氷を対象に共鳴点を探す目印になる。

 後は相手の行動を見ながら必要な起動式を選ぶだけとなる。

 極論、覚えてしまえば良いだけではあるが、あらかじめ調べておいて記録しておくことで無駄なく起動式を選択でき、一目で確認できると雫には好評だった。

 この成果は非常に満足がいくと同時に、俺の今年の大きな反省だ。

 

「オートで固有振動数を割り出すことに固執しすぎたのが原因だが、起動式の件は助かった。

 汎用性を考えすぎて個性を犠牲にするなんてあり得ないからな。」

 

「汎用型の起動式作れる方がすげえんだから気にするなっての。

 俺だけだとあの起動式すら完成するか怪しいぞ?

 それに、本来ならば照準補助をつければ勝手にやってくれるような予備機能が付いたタダのメガネだぞ?あれ。」

 

 その眼鏡を九校戦に出す判断が出来る事が十二分に凄いことではあるが、八幡は認めないだろうな。

 

「現実はそうだが、雫にとっては最善の装備だ。

 しかしよく気がついたな?」

 

「共鳴点の事か?

 それなら単純だ。俺が共振破壊するとしたら雫みたいなやり方するなって思っただけだ。

 達也もそうだろ?」

 

「俺は共振破壊を起こせるほどの出力が出せないだろう。

 スピードはもっと壊滅的だ。」

 

 暗に肯定しつつ、出来ないが故に思いつかなかった事にも恥じつつも、出来るのならばそうすると共有する。

 雫の得意魔法であり、共鳴点を探して破壊する技術は雫には及ばないだろう。

 だが、共振破壊によって氷を壊すなら八幡の方が速いだろうし、共鳴点を発見するだけならば俺も雫よりも速い。

 

 何故なら、俺達にとって共鳴点は探すものではなく視るものなのだから。

 

 

 

 

 

 

 




どっかでやった連続投げです。別にお家芸でも何でもありません。(雑魚の証明でございます。

少々不思議な書き方になってしまっているかもしれませんので、違和感ツッコミご質問はもちろん、感想もどしどしお待ちしております。

感想下さい。(切実


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九校戦編27

私は、帰って来たーーー。(土下座

長らくお待たせしました。進路関係諸々片付けて新生活準備してたら灰になりました。
これが雑魚です。←


 

 

~栞side~

 

 

 

 

 認められたい相手と”対等である”のには、どうすればいいのか。

 その相手と同じ事が出来る事を証明し続ければいい?

 それとも相手に出来ないことを出来るようになればいい?

 

 そんな馬鹿なことばかり考えて、自己嫌悪に潰れて自滅したのが昨日の事。

 自分の人生を呪って、自己嫌悪して。絶望に打ちひしがれて悲嘆にくれて、いろんな人に心配と迷惑をかけながらもなんとか潰れずに戻ってこれた。

 私が抱く”一色愛梨”への依存度の高さが滲み出てる・・・は流石に自虐が過ぎるわね。

 少し整理してみましょう。

 まずは私が折れかけたのは私の弱さ故のものだとしても、それ程の衝撃を生み出したのはもちろん第一高校。

 本線の成績から首位を獲得し独走するのは例年通りではあり、諦めの中にも納得を伴った物だった。

 その流れが大きく変わったのは新人戦。

 全体的な順位が高めなのはそれこそ例年通り。むしろ成績だけ見れば男子は不振気味だった事を鑑みて本来なら他校にとってのチャンスと認識されるが・・・女子側は悪夢そのものだった。

 スピードシューティング女子表彰台独占。

 バトルボード予選のフラッシュ戦術。

 ”楽観的な思考”なんて言葉脳の片隅にも浮かばないほど主導権を奪われた各校は対応に奔走することを強いられる。スピードシューティングは終わってしまった競技故に最悪無視で良いとは言え、分かる人間には分かる明確なエンジニア格差。これはエンジニアの能力である以上他の競技に影響する。

 私は実力の差に絶望したけれど、実際に対面する選手の心理的負担は身を持って実感した。出来ればチームメイトには同じ轍を踏んでほしくないわね。

 また、バトルボードは本線が残ってる以上、更に悲惨。

 常識というものを投げ飛ばしたかのような戦術に対面していない他校ですら浮き足立っていたみたい。

 結果として第一高校がもたらした衝撃は非常に大きく、私同様自滅する選手が見受けられるほど。まぁ、私の様な精神的に追いつめられてしまうのは流石に稀でしょうけど。

 その反響が収まらないまま迎えた新人戦2日目。

 

 昨日の型破りがインパクトの強い初見殺しではなくこの学校のデフォルトである事を知る。

 

 クラウドボールこそ比較的平和で順調に愛梨が勝ち上がったものの、ピラーズブレイクはそうはいかなかった。女子バトルボードのエンジニア担当があろう事か男子ピラーズブレイクに出場したかと思えば、大会最速記録で決勝に駒を進めた。

 エンジニアが出場しているのも非常識だけど、結果はもっと非常識。それに女子側も危なげ無く駒を進めている。内容も脅威で、司波深雪選手の優勝は恐らく揺るがないでしょうね。

 こうして2日目を終えてみれば第一高校の一年選手達がいかに非常識かが伺える。

 ”一校の脅威は一個人で対応出来るレベルを越えている。俺達が一丸となって対処しなければならない”。

 これは昨日の最終ミーティングで一条君が強く主張した言葉だけど、その言葉の重みを噛み締めさせられるわね。

 

 まぁ、今目下の問題は別にあるにだけどね。

 

 自己考察からしても今年の第一高校は他校への悪影響が酷すぎる。

 事実私も痛い目を見たし、大なり小なり意識せざる得なくなっている状況とは言え、愛梨すらも影響を受けてしまっている。・・・いえ、愛梨故に、かしらね。

 対面した選手が戦力差や結果を受け止められず、視野狭窄に陥る中で私や他校のその他大勢とは違い愛梨は第三高校のエース。強者のプレッシャーで臆するタイプじゃないし、不調でもない。だけれど愛梨は”ある人種”に遭遇するとどうにも浮き足立ってしまう悪癖がある。

 彼女の妹がそうであって、どうやらその思い人もそれに類する人種で、あの司波深雪さんも同類でしょう。

 愛梨は天才に影響されやすい。

 正確には過剰にリスペクトしがち、なのだけどどうにもそわそわしてしまうことが多い。今回は比企谷選手の試合と司波深雪選手の試合、この2試合を見て以降どうにもらしくない表情をしている。

 元々「天才の思考を考察し、もたらされる恩恵を読み取って人類の発展に生かすのは凡人の義務」という座右の銘のような発言をしていた辺り天才への想い?は強い。

 いつもだったら私がフォローを入れたり、私との会話をして平静を取り戻すけれど、どうにも昨日の今日だから気を使われているみたいね・・・。

 九校戦が始まる前までの私にとって、愛梨は私の人生の恩人であり、私を地獄から救ってくれた英雄でもあった。だから、フォローしていると言うよりは補佐のイメージが強かったし、私自身は愛梨が望む高みへの努力に必死だった。実家という枷を壊して連れ出してくれた愛梨に報いて、二度と同じところに戻らないっていう脅迫観念に突き動かされる生活をしていたけど、今は愛梨を対等の友人として愛梨の力になりたいと思う。

 それが自分自身に絶望する悲劇のヒロイン気取った馬鹿な私を、直接ではないけれど”友達でライバル”だと言ってくれた愛梨に出来る精一杯の誠意でしょうし。

 

「愛梨、大丈夫?」

 

「・・・大丈夫よ。クラウドボールだって優勝したでしょう?」

 

「愛梨はポーカーフェイスは得意だけど、嘘は下手ね。

 気を使ってるのでしょうけど、無理に取り繕う必要はないわよ。

 それに"苦もなく"氷炎地獄(インフェルノ)が撃てるような相手に勝てるって言うほど自信家じゃないからそこまでのメンタルダメージはないもの。」

 

 気を使う理由は何となく察してる。

 昨日の私の状況もさることながら、私はアイスピラーズブレイクの選手でもあるから変な気負いをさせたくないという事なんでしょうけど、まぁあんな反則みたいな存在を意識してもなんの価値もないもの。

 

「・・・彼女は確かに別格ね。本当の化け物よ。

 天才ではなく、化け物。ただの才能の押しつけでしかないわ。

 勝てる、なんて無責任な事は言わないけれど、貴女なら一矢報えると私は信じているわよ?」

 

「過剰評価、ではあるけど私も何もせずに殺されるつもりは無いから安心して?

 それよりも問題なのは貴女よ、愛梨。

 貴女がここまで思い詰めるなんて尋常じゃないと思うのだけど?」

 

 聞いてる体はしているけど理由はほぼ明確。

 

 一校のおかしすぎる戦法の数々や常軌を逸した魔法力。

 到底高校生とは言えない技術力やそれを平然と駆使する同い年の高校生。

 

 この全てはとある人物達に直結する。あのエンジニア担当でしょうね。

 片方は選手でもあるけど。

 

「失礼ね。私にだって悩み事くらいあります。

 ・・・では気を使わず聞くけれど、自分の競技とエンジニアとしての調整、この2つを1日のうちに繰り返す事って可能だと思う?

 同じ、両立をしている栞としての意見が聞きたいわ。」

 

 普通の神経ならば才能の差を自覚して諦めるけれど、愛梨は天才に対して真摯に向き合うし挑むことを諦めない。だからこその疑問で、だからこその問い。

 なにより、愛梨は天才と言う存在に敏感すぎる。今回は整理しきれないほど色々なものを視てオーバーヒート気味なんだと思う。

 なら、話を聞くべきなのはライバルたる私の仕事ね。

 

「論外・・・と言いたいところだけど、そうね。絶対に不可能、とは言わないわ。

 事前のCAD調整に絶対の自信があって、当日も不測の事態が起きないと言い切れて、競技にも影響がでないほどの圧倒的な実力を”調整する余力を残した上で”やってのける。そんな存在だったら出来ると言って良いんじゃないかしらね。

 後、補足しておくけれど私の両立と彼の両立は完全に別物ね。」

 

「・・・本戦のエンジニアと両立するだけでも十二分に凄いはずなのだけれどね。

 それですら先輩方に止められたのを実力で認めさせたのだし。」

 

 実際に私は彼と同じエンジニアと選手の両立をしているけれどそれは、私の競技が前半であらかた片付くことと本戦の、それもほぼ最終日に近いミラージバッドのエンジニア担当でかつ1人だけという制約があっての事でこれでも少し無理気味だと私自身は思っている。

 この段階であの比企谷選手が常軌を逸した離れ業に近い無茶をやっているとしか常人の目には映らないのがはっきりと分かるでしょう。

 

「私個人から言わせて貰えばこのスケジューリングをした一校の人間は無能だと言いたいところだけれど・・・。

 一概にそうとは言い切れない実力が示されてるから難しいところね。」

 

「あの魔法発動速度、ね。

 うちは一条君の発破もあってかそうでもないけれど、全体的に浮き足立ってるから本来の実力を半分も発揮出来ていない選手が多数出ていたみたいだから完全に第一高校の術中ね。

 ギャンブルに近い戦術だけど、これによって第一高校全体の勝率が数割上がった・・・少なくとも今日中は確実に勝ちにいけるようになったのだからその成果は計り知れないわね。」

 

 前向きに話そうとしたけれど想定以上に状況が酷すぎて上手くいかないわね・・・。

 考えの整理にはなったから前には進んだでしょうけど・・・そもそもこう言うことはあまり得意ではないし・・・。

 

「二人そろって何を暗くなっておる?

 今度は愛梨にも御祓いが必要かの?」

 

「空気悪くなってるからもう少し楽しそうに食べな。

 てか、ほとんど手、つけてないし。」

 

 そういえば食事中なのを忘れていたわね・・・。

 そんな私の心を見透かしたような四十九院沓子と三浦優美子の二人が食事のトレーをもってあきれた声でコメントしつつ同じテーブルに合流した。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

~沓子side~

 

 

 

 第三高校に入学して出来た友人は真面目が過ぎて肩の力の抜き方が下手な人間を寄り集めたかの様なメンバーで今でこそ見慣れたものの、最初はずいぶんと偏屈じゃのう、と半ば呆れることも少なくなかった。

 けどまぁ不器用なりに可愛げもあるしちょこちょこガス抜きさえしていれば良き友人になるのは間違いない、と半ば保護者気取りで居ったのじゃが想定外の事態で栞が折れてしまった。

 とは言え重傷とまではいかないと思ったし大丈夫かと思ったら栞の復帰と同時に愛梨も不調と来た。

 保護者気取りは荷が勝ちすぎだったかのう・・・?

 とは言えこのまま放置するのも・・・と考えて居ると栞が愛梨を慰め始めた・・・が、一緒に暗くなってどうするんじゃ。

 

「いろはにかっこつけてしもうた手前、どうにかせんといかんしのう・・・。」

 

「沓子、いろはにあったし?

 そう言えば来てるって聞いてたし。どうだった?」

 

 心の声が漏れておったか。

 

「今日のピラーズブレイクを一緒に観戦しとったのよ。

 愛梨が言う天才的なオーラは確かに感じんじゃが・・・いろはの友達周り全員大概じゃったぞ?

 特に小町、あやつは特級でヤバい。あくまでも私の勘じゃがの。」

 

「私的にはただのブラコンって印象なんだけど、ヒキオがアレだし沓子の勘は馬鹿に出来ないっしょ。

 で、いろはに愛梨がどうにかするって見栄でも張った?」

 

 全力であさっての方向を見たけどまぁお察しじゃろうな。

 

「・・・てか、ここでぐだってても向こうどんどん煮詰まるだけっしょ。」

 

 そう言って愛梨のテーブルに向かう優美子。仕方ない、腹をくくるとするかのう。

 

「二人そろって何を暗くなっておる?

 今度は愛梨にも御祓いが必要かの?」

 

「空気悪くなってるからもう少し楽しそうに食べな。

 てか、ほとんど手、つけてないし。」

 

 本当にろくに手をつけとらん・・・。

 

「して、愛梨よ。比企谷とかいうのは直接対戦するわけでなし、エンジニア担当として相手するのはむしろ私なんじゃが何でそんなに唸っとるんじゃ?」

 

「ブロック表見る限りピラーズブレイクもヒキオの担当に当たるのあーしじゃん。

 決勝の事はあがってから考えればいいっしょ?」

 

 その指摘通り優美子はピラーズブレイクに出場しており、明日は比企谷選手がエンジニア担当の北山雫さんと当たる事になる。優美子は今日も危なげなく勝ち上がっているため、明日の予選最終戦は目下話題の人物と対戦となる。

 優美子抜きにこの話をするのはある意味お門違いとも言えようか。

 

「実際のところ、エンジニア相手に出来ることはあまりないのだから気にするだけ無駄・・・ではあるけれど、どうしても気にはなってしまうわね。」

 

「考え過ぎ・・・と言うよりかは考えんでいい事を考えすぎじゃの。

 後、コレは勘に過ぎないんじゃがの。あの比企谷とかいうの、危なっかしい何かを感じるのよ。」

 

 私の勘はよく当たるものの、過程が中抜けになるから上手く説明が出来ないのが難題じゃのう。

 

「ヒキオが何かやらかす、ってこと?」

 

「いや、どっちかというとなんかしくじりそうな予感がするんじゃ・・・。

 なんでじゃろうな?」

 




期間があいてるのに新キャラ描写で難しくてグダついたタコがおります。
私です。

本当に長らくお待たせしました。

タイミング悪く新キャラ描写でしたが、内容的に3校ポジションからの今の九校戦が描写できたので整理は出来たかと。
出来てるよね・・・?

私がわちゃわちゃしてる間に魔法科高校のアニメ2期の話が出て(正直諦めてたのでうれしい限り)俺ガイル終わって、最終章アニメ決定して・・・とイベントだらけですね・・・。いや、めでたい。(いや書けよ俺

さて、長くなりましたが何が言いたいのかと良いますと。

「一色いろは誕生日おめでとうございます!(1日遅刻)」




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九校戦編28

ブランクが開いた影響で周辺情報の整理に時間がかかってる奴がおるな?(要するに雑魚でございます。




 

 

 

~森崎side~

 

 

 

 気に入らない。

 本当に気に入らない。

 今年の新人戦の成績は好調この上ない。だが、そのほとんどは女子の成績が反映された結果であり、男子はほぼ貢献していないに等しい。

 現在それでも、首位の座を保っていられているのは女子の成績のおかげであり、足を引っ張っているのは俺達だ。女子の成績は現状1競技以外全て優勝、もしくは現在進行形で勝ち進んでいる。対して俺達男子は唯一俺が早打ちで準優勝だったがそれでも三校に負けているし、ピラーズブレイクの比企谷が勝ち進んでいるものの、他はほぼ予選落ちで表彰台争いにすら参加できていない。

 今年は三校に一条将輝が居るのもあって新人戦は三校注意なのは新人戦開始前から分かっていたことだが、一条将輝が出場していない競技ですら優勝をかっさらわれている。

 いや、そもそも優勝争いすら出来ていない段階で三校以前の大問題なんだが。

 ここまで女子の成績が好調だと、その立役者が目立つのは至極当然。それがどのような立場だったとしても些細な問題だ。

 

「司波君、雫のあれって共振破壊のバリエーションだよね。起動式は司波君がアレンジしたって聞いたよ。」

「雫がスピードシューティングで使った魔法も司波君のオリジナルだったんでしょ?」

「氷炎地獄(インフェルノ)をプログラム出来たのも司波君だからですよね!」

 

 結果として夕食時に女子メンバーに囲まれ、ちやほやされる司波達也が完成するわけだ。

 この流れ自体は気に入らないが・・・気に入らないのは間違いないとしても間違った流れではない。事実として司波達也が女子を好成績へ導いたのは事実なのだろう。だが、それを「はいそうですか」と認めることは絶対にあってはならない。

 

「いいなぁ・・・・・・あたしも司波君に担当して貰えれば優勝できたかも・・・」

 

 気に入らない。あぁ、気に入らないとも。

 女子が好成績なのは良い。同じチームとして誇らしいし、祝福すべき事だ。

 俺達が不甲斐ないのも一万歩・・・いや十万歩譲って良いとしよう。今後挽回していけばいいし、ポイントの配分の大きいモノリスコードも残っている。

 だが、それを"司波達也の功績"と思考停止で言い切るのは違うだろう。

 これは司波達也を二科生と見下した上での発言じゃない。

 実際にブルームとウィードなんてものは、ただの名札の一部でしかないのは入学して数日で身に染みて理解している。事実として司波達也は今日に至るまで実績を積み上げ続けており、下手な一科生よりも有能であることを生徒会をはじめとした第一高校に証明し続けている。

 そんな奴と俺がやってきた事を見比べれば出てくるのは失笑でも上等な部類だろう。

 

 教員推薦枠での風紀委員に選ばれて数日で所属する前に取り消される奴。

 

 これが俺の現在の評価であり、俺の失敗と阿呆さが招いた結果だ。

 あの取り消しは比企谷との交代と書類上は示されているが、司波達也を風紀委員に所属させるための方便なのはいうまでもない。

 そしてその選択は実績を持って証明された以上、俺が何をいったところで負け犬の遠吠えだ。

 それでも・・・いやだからこそか。

 

 "司波達也が担当すれば勝てる"なんて考えは断じて。絶対に認めるわけにはいかない。

 

 俺の入学したての無様は誇りと驕りを取り違えた馬鹿の所業だ。

 これは擁護のしようがないし、する必要もないだろう。だが、それは、誇りあるべき存在がのうのうと生きて良い免罪符にはなり得ないし、なってはいけない。

 ブルームとウィードの差は実力だ。

 それ故にブルームにはそれ相応の実力を証明する義務がある。

 現在、その義務を男子メンバーは一切果たせていない上、ウィードである司波達也は文句のつけようがない成果を示し続けている。

 そしてその優勝に全て貢献し、現状の競技で担当者全員が事実上無敗である担当エンジニア”司波達也”への評価が大きく見直されるのも仕方がないことだろう。

 だからこそ気に入らない。あぁ、気に入らないとも。

 

 ウィードに自分達の不甲斐なさの尻拭いをさせている俺達の不甲斐なさが血反吐が出るほど気に入らない。

 

 ”司波達也が担当すれば勝てる”とは"実力では勝てない"と公言しているも同義だ。

 それをただただ受け入れる事に疑問すら抱いていないなど論外だ。

 ブルームだのウィードだのは名札に過ぎなくとも、結果として学校側に優等生として学校に認められた”権利者”である事実は変わらない。恵まれた授業を受ける権利を与えられた存在であることは紛れもない事実だ。

 立場には責任があり、権利者には相応に行使しなければならない義務がある。

 

 それ故に俺達は怠惰に状況を甘受する資格はないし、座して食い下がりもしない無能に成り下がる権利などあるわけがない。

 

 例え入学時の実力を測っただけの結果だとしても、この胸のエンブレムは軽くはない。

 ブルームである俺達にはブルームであるが故の実力を示さないといけないんだ。

 だからこそ結果を出さなければいけない。いや、意地でも実力を示めしてやる。

 そう・・・。

 

「ブルームがウィードより優れた存在であることを証明してやる・・・!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

~達也side~

 

 

 

 

 

「第三高校1年、一条将輝だ。」

 

「同じく第三高校1年の、吉祥寺真紅郎です。」

 

 この”招かれざる客”が現れたのは深雪のピラーズブレイクへの会場へ向かう通路。

 こちらが存在を認めた所での挨拶から察するに待ち構えていたのだろう。視線も些か挑発的で友好的とはかけ離れている。

 まぁ、学校行事に近いイベントとは言え敵同士なのだから、これが普通とも言えなくはないか。

 

「第一高校1年、司波達也だ。

 それで、『クリムゾン・プリンス』と『カーディナル・ジョージ』が試合前に何の用だ?」

 

 害意は感じない。

 敵意ともとれかねないが、どちらかというと闘争心をもってこちらと相対している印象だ。

 これが深雪へのものだったなら排除しにかかるところだが・・・何故かその視線は俺に向いている。

 ・・・理由には皆目心当たりがないが。

 

「ほう・・・俺のことだけでなく、ジョージのことも知っているとは話が早いな。」

 

「しば・たつや・・・聞いたことが無い名です。ですが、もう忘れることはありません。おそらくは九校戦始まって以来の天才技術者。

 試合前に失礼かとも思いましたが、僕たちは君の顔を見に来ました。」

 

 案の定、俺の客のようだがやはりわざわざ俺の顔を見に来る意味が分からない。

 無名でただのエンジニア相手にするには”破格”の対応といわざる得ない。

 いや、”破格”ではなく”過剰”の部類か。

 

「若干十三歳にして基本コード(カーディナルコード)の一つを発見した天才少年に『天才』と評価されるとは恐縮だが・・・確かに非常識だ。

 深雪、先に準備しておいで。」

 

「分かりました。」

 

 現状の最優先事項は深雪の次の試合だが、もう少し相手が必要そうでもあるし、何故か深雪の機嫌が良い。

 お互いに自分勝手この上ない会話をしているものの、明確な敵としてと互いを見定めている。

 好敵手には力不足ではあるがそう言ったものと相対する心境を感じられた。

 まぁ、プリンスの方はどうやら深雪にアテられたらしく無意識に目で追っていたのがたまに傷だが。

 

「・・・『プリンス』、そっちもそろそろ試合じゃないのか?」

 

 どうやら一条将輝は深雪にも用があったみたいだがこのタイミングで、しかも兄の前で目移りするのはどうなんだ?

 などと胸中突っ込みを入れているともう一人が話の軌道を修正した。

 

「僕たちは明日のモノリスコードに出場します。

 君はどうなんですか?」

 

「そっちは担当しない。」

 

 時間が惜しいし、何より懇切丁寧に返してやる必要も感じない。結果的に端的な会話となる。

 

「そうですか・・・残念です。いずれ、君の選手と戦ってみたいですね。無論、勝つのは僕たちですが。」

 

 どう解釈しても喧嘩を売っているとしか解釈出来ないが・・・そもそも喧嘩を売りに来ていたのを思い出した。

 

「時間を取らせたな。次の機会を楽しみにしている。」

 

 喧嘩を売って一方的に立ち去るあいつ等を無言で見送る・・・予定だった、が言われっぱなしは癪だと感じる様になったのは誰の影響だろうか。

 

「ずいぶんと過分な評価を受けているが、警戒する相手を間違えているぞ。」

 

 おそらくは親友を遠まわしに侮られた、と感じたからなのだろう。

 気がついたら口をついて出ていた。

 

「・・・比企谷八幡の事ですね。もちろん彼も君と同様に警戒していますよ。

 ですが、私的な意見としては貴方の方が脅威だと感じています。

 比企谷八幡と違いエンジニアを専任する君の調整にミスはないでしょう。

 それに、彼が出場する競技は将輝とぴったり被っていますからね。」

 

 足を止めて振り向きながらの研究者らしい細かな説明。

 額面通りしっかりとした警戒をしているのだろう。

 どうやら”脅威度”の観点を見誤っているようだが。

 

「一条将輝ならば勝てる、か。

 傲慢だな。」

 

「ジョージの言葉を傲慢にさせないのは俺の責務だ。

 だが、他ならぬお前の忠告だ。心に留め置くことにしよう。」

 

 そう言い残し去っていった。

 

 

 

 

 

~真紅郎side~

 

 

 

「ジョージ、司波達也はああ言ってたが、どう思う?」

 

「むしろこの忠告をする余裕があること自体が脅威と言えるよ。しなくて良い忠告をわざわざする無価値さを分からない彼じゃないだろう。

 だけどそれが比企谷八幡を侮って良い事にはならないのは間違いない。至極当然の指摘をされて乱される事自体、彼の術中だ。

 方針は変えなくて良いと思う。」

 

「とは言え司波達也の件で俺が介入できる部分はほぼないからな。

 急遽モノリスコードのエンジニア担当に抜擢でもされれば話は変わってくるが・・・。」

 

「それは、おいおい考えるとして、少なくとも本題を見失わないようにはしようか、将輝。」

 

 既に微妙な目つきでこっちを見ている人間がいることを遠回しに将輝に伝える。

 

「そうだぜ将輝。俺の応援に来たんじゃないのかよ?」

 

 そう、あの司波達也への宣戦布告は試合を見に行くついでで、本来の目的は同級生のピラーズブレイクの試合を応援に来たのだ。それもこの試合は第三高校にとても大きな意味を持つ。

 相手は第一高校で、あの”比企谷八幡”だ。

 

「悪い悪い。だが、これは信用の裏返しだと思ってくれ。

 お前ならアイツに目にもの見せられると思っているからこその態度だ。」

 

 将輝の言う言葉に嘘はない。

 彼は第三高校の中でも魔法の発動スピードに定評があり、移動系統が得意な魔法師でもある。第三高校全体で比企谷八幡を相手にピラーズブレイクを挑み、あのスピードについてこれる魔法師で、中でも対応以外も出来る余裕のある数少ない人間だ。

 十分に勝機はあるだろう。

 

「いや、スピードにはついていけるが、おそらく勝てないだろうな。

 意地でも瞬殺は避けるつもりだが、あいつにはそこから先がある。

 俺の読みは外れてそうか?」

 

 そう言って僕へ補足を願う目を向ける。

 

「・・・確かに、ただの早打ちギャンブルが一校のエースを張れるわけがありません。

 ですが、それはまだ手の内が見えていないに過ぎないだけ。

 十分対応出来る可能性はあると思うし、勝負を捨てるのには時期尚早だと思いますよ?」

 

「だからこそ、だ。

 三校が優勝するにはピラーズブレイク優勝は必須だろ?

 なら将輝が確実に勝てるように俺はあいつの手の内を暴きにいく。」

 

 確かに、その意見は正しい。

 手の内さえ知っていれば対応できる精度が格段に違う。有名故にある程度の手の内が予想される将輝と状況が並ぶならば将輝に負けはない。

 

「分かった。君が暴いた手の内から将輝が勝てる手段を絶対に提示してみせるよ。

 だから安心して全力を出してきてくれ。

 別に僕の仕事を減らしてくれてもいっこうに構わないからね?」

 

 そして我が意を得たと言わんばかりに試合会場に向かい、試合が始まる。

 

 結果は善戦するも敗退。

 今までの比企谷八幡の瞬殺記録に抵抗し一歩先を見るに至った。

 そして、意地で見せた足掻きを見ていなければ、将輝でも”もしかしたら”があり得たと言える程の情報を勝ち得てきた。

 「なんとか仕事はしてきたつもりだぜ、後は任せるわ。」と試合後に告げた彼こそが今日のMVPだろう。

 

 見ててくれよ、絶対に将輝は勝たせてみせる・・・!!

 

 

 

 




細かい試合内容は次回になります。
こっからは試合ラッシュになりそうですが、ちょこちょこ本筋を挟めたらと思います。

時系列がややこし気味になる予想が立つので質問ツッコミお待ちしてます。


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九校戦編29

大変、長らく、お待たせ、致しました・・・。

タコ作者、一応生存しています。

大学院がね?あまりにもね?忙しくてね・・・?(逝く




 

 

 人とは失敗をする生き物であり、失敗を知っている生き物である。

 世の人間は数々の失敗を繰り返しながら体験をし、学習をすることで成長を重ね、その自らの経験を元により良い成果を得るべく改善を繰り返していく。もちろん彼らの行動は洗練されていくが、同時に一切の失敗を排除することが出来ないことも、経験として身に着けていっているのだ。

 だが往々にして人間は失敗をただ認めることができない。

 敗北や失敗を誤魔化したいし、否定したいし、正当化だってしたい。

 失敗する事から恐れ、待避もするし。

 失敗を誤魔化すために無かったことにしようとし、もみ消すのは至極当然のことであり珍しい事などではない。

 これは人間が過去から現在にかけて、長い歴史によって証明し続けてきた真理だ。

 これは成功者にこそ顕著で失敗が世間的にも自分の価値観的にも許されない彼等はあらゆる力を使ってでも失敗を認めない。だが、それは彼等、成功者が数々の苦しみのすえに獲得したものがあるからこそ起こりえた主張。いささか暴力的であっても成功者故の正当な主張といえなくもない。

 見方を変えれば正しさを主張せざる得ない立場であり、主張出来る立場だからこそ許されたスタンス。

 だが弱者は違う。

 何故なら間違いを正しさで塗り替えるほどの力があるわけではないからだ。

 彼等なりの正義と矜持が実力を持って示されているものであっても、強者が振るう力という権利を受け止められるほど一般人は強くないし、持たざる自分に不平をどうしても受け入れられない。

 結果として”持つものは持たざる者に奉仕する義務も提供しなければならない”という法律はないが、持っている人間が力を保持することを力の独占や力を持つ人間の怠慢として批判するのが持たざる者の常套手段となるのが実情という勝ちすぎても負けすぎても罰ゲームなクソゲーな世界が完成するわけだ。

 だが現実を見れば、持たないものが一人で何かをほざいたところで、それはただの負け犬の遠吠えでしかなく、さしたる意味がないという事に変わりはない。

 目に見える格差は文句では埋まらないし、同じ言葉であれば強者の弁の方が強いのは明確だ。また、持たざる者は持たざる者故に失敗に対して取り得る手段も少ない。

 不平を叫び文句を並べても失敗が自力で取り繕える範囲を超えれば、もみ消せる権力もないし、失敗を受け止められるのは己のメンタルのみで、取り繕うにも実力ありきなのでどうしたって限界はある。ではどうするか?

 

 徒党を組んで分散し問題自体を曖昧にしてしまえばいい。 

 

 これは自分の責任ではなくみんなの責任だ。

 みんなも失敗しているから失敗して当然だ。

 みんなの代わりに先に失敗しておくことでみんなのために尽くした俺は英雄だ。

 そんな自己正当化で自分を守り失敗の責任を希薄化して、分散して、責任を取ることから逃げるのだ。出来る人間は一部の天才であって自分達は違う。そんな劣等意識を共有して自分達を正当化し集団という一つの世界で自尊心を保つ。

 だから、多少の失敗をしてもみんなが居れば大丈夫。

 助けてくれるし弱音も聞いてくれるし、場合によっては手伝ってくれる。

 そうやって弱い者が集まったり、強いものにくっついたりして集団に責任を添加して責任を曖昧にして問題を回避するのだ

 

 だからこそ、ぼっちは失敗に対して臆病だ。

 

 失敗すれば全部自分で受け止めるしかない。だって独りしか居ないから。

 失敗したことをどうにかするのも自力だ。だって独りしか居ないのだから。

 そんな全部自力になると分かってるからこそ、ぼっちは準備に余念がない。失敗しても誰も助けてくれないのだから当然の行動だ。失敗しない準備もするし、失敗のリカバリーも予め設定しておく。失敗しても・・・何ならば失敗前提の準備だってするのがプロのぼっちだ。

 だから、いやだからこそこの状況は困惑せざるを得ない。

 

「それにしても出来過ぎよね。八幡君の策が全部見事にハマってるし。」

 

 俺のピラーズブレイク2日目の待合室でそう呟いた会長の発言を聞いて感じる居心地の悪さが半端無さ過ぎはしないだろうか?

 現在のピラーズブレイクは男女ともに比較的順調。男子が勝ち上がってるのは俺だけだが女子は全員勝ち上がっているし、俺のこの試合で一校男子側は決勝進出者が決まる。3ブロックの優勝者が決勝ラウンドを戦う形になるが、このままいけばほぼ間違いなく今勝ち残っている全員が決勝に行くことになるだろう。

 解せぬ。

 

「結果から見ればそう映りますが、出来過ぎなのは相手側の自滅面ですね。昨日の試合は男子女子ともに一校とそれ以外の一部を除いてまともな試合になっていないものが多数見受けられました。

 観客としては派手で分かりやすい試合運びが多い様に映りますが、見る人間が見ればただの無鉄砲ですから昨日の試合は魔法師の地力を問われる物になった様に見えます。」

 

「そう考えると今残っているのは相当な猛者か、ラッキーに愛された奴と言うことか。

 どちらにしてもイニシアチブを労せずして握っているに等しい。いや主役じゃないか、比企谷?」

 

 そういって俺の競技前の待機室に出向いた先輩方(七草会長、渡辺委員長、市原先輩)は本人そっちのけで言いたい放題である。

 冷やかし通り越してあおりが始まってるな?

 

「新人戦ですし大方緊張かなんかでミスったんじゃないすか?ミスりすぎな気がしますけど。

 まぁ、魔法科高校の生徒とはいえ数か月前までは中坊なんですから、そんなものといえばそんなもんなんかもしれないっすね。」

 

 確かに騙し討ちとはいえここまで上手くいくもんかよ・・・。

 そもそもとして俺がやった初見殺し戦術は市原先輩の言うような自滅を目的としたものではなかったのだ。もちろん模倣犯を想定した対応法はチームに説明したがここまで蔓延することは考えていなかった。昨日の2回戦で俺の戦術にも対応してくるだろうし今日にいたっては手の内全部持ってかれて決勝に行けるか行けないか・・・くらいで負ける想定をしていたのに。

 現実はそこまで甘くなかった。

 

「またそんな言い方して・・・。

 とはいえ今日は昨日と違って相手が冷静でしょうから、気を引き締めないと・・・と言いたいところだけど、このまま行けば優勝間違いないでしょうし、リンちゃんが言う奥の手もまだ見てないしね?

 否が応でも今日の主役になるからそんな軽口叩けるのも今のうちよ?」

 

 へー、俺優勝するのか。そりゃ目立つし主役かの様な扱いになるだろうな・・・なぜに俺が優勝する前提になった?

 

「なぜそんなさも当然の事実かのように虚言を吐いてるんですか・・・。妄想も大概にしないと駄目っすよ。

 俺が優勝とか締まらないですよ。」

 

「ずいぶんな言い草だな。何か根拠があるのか?

 自分が負ける理由を説明させるというのも締まらないがな・・・。」

 

「単純な話ですよ。

 決勝にほぼ100%一条将輝が出てくるということ、そして次の対戦相手が三校で、おまけに達也から「一条が敵情視察に来たから気を抜くな」というメールがさっき来たので相手がこっちを舐めてかかる事が期待出来そうにない。

 これだけ揃えば根拠としては十分です。今年の男子ピラーズブレイク優勝は三校ですよ。」

 

 これだけ提示できれば現実を見てあらぬ期待や存在しない希望を、押し付けられたりしないだろう。それより問題は相手だ。さすがに想定よりもぐちゃぐちゃし過ぎで昨日は手の内を見せ損なってしまった。

 決勝ラウンドは行っちまいそうだなぁ・・・。面倒くさいなぁ・・・。

 

「そうやって負けを宣言されてしまうと作戦スタッフとしてはいろいろと物申したいところですが、相手が一条選手であることを加味すると楽観的な意見が出せないのも事実でしょう。

 逆に言えば不安要素はそこ以外無いので2位以上は確保してほしいですね。」

 

 決勝ラウンドには行けと暗に脅された件。

 

「まぁ、期待しないで見てて・・・いや時間の無駄ですし他の奴の応援でもしててください。」

 

 というか、主役とか勘弁してほしいわ。そういうのはあっち(一条将輝)の領分だろうよ。

 

「人生っていう俺が主役のはずの物語ですらろくに歩めて無い奴なんで人様に見せられるもんじゃないんですよ。」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 人間は想定通りに物事が進みすぎるとそわそわする生き物である。

 それが十全に準備を重ねるぼっちともなれば行動は常に失敗前提。失敗に失敗を重ねつつもどうにかこうにか事前準備で乗り越えるのがぼっちというものだ。

 だが現状はどうなだろうか?事前準備の最初のタスクすら使われず思い描いた妄想が独り歩きしてしまっている。

 正確には現状は想定よりも上手くいきすぎな部分が多く一周回って想定外になりつつあったが、こういった競技に伴う作戦が相手に有効に働いたパターンだと作戦通り、又は想定通りと表現するべきか。

 だだ現実はどうだ?何故か徒党を組んで俺を攻略するような空気感で進行している上に、対戦相手のあの雰囲気は完全に勝負を捨てて俺を削りに来てる感じだし・・・。

 

 おい対戦相手一同。勘違いしてないか?

 俺は強者じゃなくてただのぼっちだぞ?

 

 まぁ、対戦相手の勘違いも遠からず俺の器が知れるだろうが、上手くいき過ぎている現状を一切の心配なく座視して見れるのは強者の心理で、一般人は何かしら見落としや失敗がないかかえって心配になるのが基本だ。負ける事において百戦錬磨。他の追随を許さない圧倒的なエリート敗者たるぼっちならばなおさら、というものだ。

 だからこそ試合開始と同時に自分の魔法が情報強化によって阻まれたとき自分の魔法が阻まれたにもかかわらずなぜか安心してしまった。

 

 よかった、やっとこの魔法をちゃんと終了条件を伴って最後まで完了できる・・・。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

~真由美side~

 

 

 

 ほぼほぼ捨て台詞のように自虐を言いながら競技に向かう八幡くんを見送り、暗い雰囲気と紋付き袴の後ろ姿から「任侠映画のヤクザ?」かと思いつつも控室のモニターから観戦を始めた。

 相手は八幡くんが言うように第三高校。昨日の対戦相手と違い過剰に警戒している風でもなく落ち着いている様に見える。・・・この感じは見覚えがあるわね。

 自分の勝利よりもチームでの勝利の為に捨て身で攻めに来る。後先考えない手段で相手の手の内を暴きに来る、そういうタイプの選手がああいった雰囲気をまとっていた。

 去年、私も似たような集団戦術をされた記憶があるので対戦する上で難しい相手になるのがよく分かる。勝つ気がないから隙が出来にくいし攻勢に出るのは削るためだからひたすら遠回りしながら勝たないといけなくなる場合が多くて・・・でいろいろな意味で消耗する相手。

 とはいえ気付いたところで既に後の祭り。もう八幡くんは競技場で対戦相手と向かい合い開始のブザーが鳴り響いていた。

 

「止められた!!」

 

 最初の攻防はいつも通りの八幡くんの早打ちに相手側相手側の選手が対応し、12本の内自陣側手前の4本(相手選手の目の前の2×2)に情報強化を間に合わせて浮遊から阻止する事に成功するとこからスタート。

 八幡くんの魔法発動速度と戦術に対応できる選手が予選段階では対戦相手として出てくるのか正直微妙だったところもあって、正直なところ決勝までは瞬殺だと思われていたからこそ、摩利の反応も理解できる。

 この時点でこの大会では八幡くんの初動に対して初めて対処できた対戦相手となる。当然ながら過去2回の対戦にはない変化から対戦相手にここからの巻き返しに期待する流れになったはずで、次のアクションを注視する流れになる・・・はずなのだけど。

 

 巻き返される未来が全く想像できないのよね。

 

 実際に八幡くんのキャストスピードに間に合わせる事を昨日の今日で現実化することはすごい事なのにも関わらず、見ている私たちが八幡くんが負けるビジョンが欠片たりとも浮かんでこない。

 魔法師だからこそ分かる。相手選手が守り切った4つを除いて浮き上がった”氷が未だに魔法の制御下から離れていない”という事実が。そしてその氷がもう既に新たな事象改変を受けつつあるという事実が、八幡くんの勝利を疑う余地を全て奪い去ってしまっている。

 

「比企谷君の魔法は一見すると初手の速攻によるギャンブル戦法ですが、速攻での勝利は本来の魔法式の前半部分でしかありません。」

 

 八幡くんのが浮き上がらせた氷は、浮き上がらせられなかった残りの氷の上に集合し一つの大きな塊となった。元が直方体の氷だからまるで大きな氷の塊が切り出す前の形に逆再生されていってるみたいに見える。

 

「前半の魔法で全ての氷を持ち上げた場合はその後の処理を行わず魔法式は終了しますが、全ての氷が浮き上がらない状態になった場合後半の魔法式が処理され、一定の高さまで浮き上がった氷を浮き上がらなかった氷の上に収束魔法によって一塊にまとめて・・・。」

 

 後はもう予想通り。巨大な氷の塊が重力の赴くままに残りの氷に落下し質量に任せて残りの氷を破壊した。

 

「魔法制御を手放すことによって起きる重力落下によって残りの氷を破壊します。」

 

「速度重視の情報強化は視認に頼りがちだ。だから自陣手前側に偏ったのは分かるが・・・まるで相手の行動の全てを先読みしたような魔法だな。あいつはいつから預言者になったんだ?」

 

「私も初めて見たときは私もそう感じました。同時にそんなに都合よく行かないのではないかと危惧を抱きましたが、何も知らない選手が適切に、かつ有効的に対処した場合に起きる事への対処な点。そもそもとして情報強化以外の対処を許していないからこそ本来ならば夢物語でしかないものが成り立ってしまう。

 新入生の戦い方ではありませんね。」

 

 実際、八幡くんが立てた予測に相手が合わせたように綺麗に策が嵌っている光景を見ればそういった意見が出るのはうなずける。

 やる事全て先回りして対策済みなんてやったらそう思われても仕方ないけれど、言ってしまえば予想と先読み。ただ内容が”先読みという点においては”些か高度なだけ。

 本当だったら対戦相手にはいろいろな選択肢があるはずなのに、その選択肢を1つに絞る手段があって、それを実践する実力があっただけ。

 それも、九校戦参加選手レベルならば基本的な部分は再現可能なレベルななもの。

 ただ思いついたから実践できている。

 ただ”誰も思いつかなかったから猛威を振るっている”。

 

 だからこそ、違う。

 ”八幡くんがただすごい”なんてことは絶対に違う。

 

 これは八幡くんがすごいんじゃない。いいえ、すごくはあるのでしょうけど、どちらかといえば対戦相手・・・いえ、こういった手法を”思いつけなかった”私たち全体が怠慢だったから、対応を考えてなくて後手後手になってしまったから、八幡くんの想像を超えられなかったから、彼が勝って・・・いえ、ただただ思惑通りに進んでしまっている。

 

「まぁ、とりあえず決勝ラウンドは確定だな。」

 

「予定通りに、ね。」

 

 




もう1話出来かけなんで遠からず・・・。

試合の"流れ"は説明したけど、魔法の処理とかの説明が中途半端なんでね?

書きます。(書いてます。


サボってた間にイベントだらけだったあたり、タコですがまた読んでやってください
(俺ガイル終わるし俺ガイル(アニメ)終わるしm、魔法科終わるし(始まったけど)アニメやってるし・・・


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九校戦編30

今回は解説回となります。
ですが、魔法の解釈が矛盾なく読み取ると恐らくこうなる、というものになりますのでその点留意して楽しんでいただけると幸いです。


~達也side~

 

 

 

 ”現代魔法と古式魔法の優劣はCADの有無だ”などという的を得ているようで見当違いな発言が流布される程度にはCADと言う存在が社会に与えた影響は大きい。

 昨今の魔法師と言う存在はCADを用いて魔法を扱う人間

 確かに現代魔法は古式魔法と比べて優秀な部分が多い。

 だが、魔法発動を現代科学の結晶である電子計算を組み込むことで安定かつ高速化する現代の魔法の杖を単純に"現代魔法が優れている”で片付けるのは、いささかお粗末な理論と言わざる得ないだろう。

 何より"何故、優秀なのか"の点への説明が薄すぎてCADが魔法においての万能の神具かのような理論ではお笑い草だ。

 では、CADが魔法師にもたらした一番大きな恩恵とは何か。

 

 "魔法式を作る速度"である。

 

 魔法師のCAD操作の基本は3段階。

 

1.CADを自分のサイオンを用いて操作し必要な起動式を選択する

2.CADが計算、処理を行った起動式を受け取り魔法演算領域にて魔法式へと変換する。

3.魔法式を元に魔法を放つ。

 

 古式魔法はこの起動式の構築をすべて”人力”で行っている事が速度において現代魔法と大きく差が出ている原因だ。魔法的な演算処理とは言え、コンピューターで行うレベルの計算を暗算で行っているに等しくどうしても差が出てしまうのは仕方がないだろう。

 また、起動式を魔法式に変換する際に”変換しやすい形”で起動式を構築できるかどうかが魔法師側の技量になっている点も速度低下の原因になっている。

 CADは機械故にプログラム上の問題がなければ最適な形での起動式を出力する事が可能な為、そのCADの調整が合ってさえいればそこに魔法師の技量が介在せず、安定かつ最適な起動式で魔法を放てる。

 これが現代魔法が古式魔法より優れている、と言う勘違いを生み出した原因だ。こうやって速度という一点で見れば優劣があるように見えるが、勿論現代魔法にも問題はあるし古式魔法にも現代魔法では表現しきれない優れる点がいくつもある。

 その最たる例として言えるのが「現代魔法は良くも悪くもプログラム的な魔法になる」というものがある。人間らしい"曖昧さ"を機械では数字として処理しなければいけない。

 言い換えれば、古式魔法は機械的処理を挟まないが故に人間固有の程度解釈による処理が出来る点で秀でていると言え、「風を吹かせる」等の魔法を現代魔法で表現すると多段階かつ複雑なものになるか別の現象を利用した間接的な魔法にした方が表現しやすいと言う回りくどいものになってしまったりする。

 

 閑話休題(それはさておき)。

 

 今回古式、現代魔法の特徴について考えてしまったのはこの「現代魔法は良くも悪くもプログラム的な魔法になる」という性質が、八幡にとってあまりにも都合が良すぎる事を再認識したからだ。

 事実、あいつはこの段階においても事前準備をスケジュール通り繰り返しているだけだからな。

 

「達也、あの魔法どういう処理形態になってるんだい?」

 

 幹比古のこの質問が出たのは八幡のピラーズブレイクの試合終了間際。浮かせた氷を上から落として破壊した瞬間だった。今は深雪のピラーズブレイク決勝進出が確定し(八幡の試合が見たいが故にゴリ押しだった)よって次の試合までの時間がかなりあいてしまい手持ち無沙汰となったのもあって少し八幡戦を見ることにした。

 まぁ、余裕をもっているのは八幡の試合がすぐに終わる、というのもあるが。

 

「普通に持ち上げの後に氷をまとめて落としただけでしょ?

 何か変?」

 

「幹比古が気になっているのは終了条件についてだろう?」

 

 エリカが疑問に感じるのは魔法師であっても不思議ではない。

 本来魔法師はCADに記述した起動式を中心にして変数を変えることで魔法を処理する為終了条件等の処理は記述しておいたものをそのまま使うのが基本だ。細かいプログラム処理までしっかり理解できていない場合も珍しくない。起動式における終了条件の意味を正確に理解できていないのも学生としてはむしろ普通といっていいだろう。

 特にこの質問は起動式記述がちゃんと理解出来ている魔法師でもちゃんと考察しなければ気が付かないところなので幹比古の優秀さがよく分かる。これはある意味古式魔法師故の気づきといえるか?

 

「みんなが知っている通り魔法式を構築するための起動式は対象物の指定、魔法のプロセス、事象改変の影響の調整などの他に、魔法の終了条件を記述する必要がある。

 今回の場合は魔法を浮かせる工程、その後浮かせることが出来なかった氷の上に氷を集める工程を挟み、集積した段階を終了条件として事象改変を終える様にプログラムされている。

 だが、昨日までの試合ではそもそもとして全ての氷が浮き上がってしまっている為、本来ならば終了条件を満たすことが出来ない。」

 

「氷を集める場所が指定できないから、だよね。残っている氷の上で集積するっていう定義式だったら変数がそもそも入力されないってことだし。

 終了条件が枝分かれする事はないから、魔法の発動途中に定義破綻して魔法が・・・あ。」

 

 説明を引き継ぎつつ考察して気が付いた様だな。

 流石だな。

 

「幹比古は察したみたいだが、魔法は定義破綻して”その後の処理を行えず”終了する。

 終了といっているが所謂定義破綻による進行不能だから、魔法発動失敗という状況だ。

 途中、しばらく空中に浮いているのは座標入力が行われるまでの時間に遊びを持たせているせいで浮いているだけで入力が無ければ強制終了する。

 もちろん今回の場合は全て氷が浮いていれば変数が入力されることはないので強制終了することは変わらない。」

 

「じゃあ、わざと失敗するように魔法撃ってるってこと!?

 しかも、相手が魔法を妨害することに”失敗して”ちゃんと魔法が動いたら魔法が失敗するようになってるって事よね?」

 

「ほぼほぼ正解だ。

 正確には「終了条件を満たさない可能性がある不完全な起動式をあえて使っている」だな。」

 

 「性格悪そうな魔法・・・。」というエリカのコメントは比較的的を射ていると言えるな。

 そもそもとしてCADによる現代魔法は決められた工程を一本道で処理する。

 起動式に記述された魔法を枝分かれや分岐をせずに基本的に全ての工程で実行して終了条件を伴って完了するものだ。何らかの条件付けを行うのも次の工程へ向かうための条件等の場合のみだ。

 八幡の場合では特定の高さまで氷が上昇した段階で氷そのものが収束する座標を自動で決定し次の工程に移行する。基本的に複数の終了条件を持った魔法は記述出来ないとされている。

 例外として言えるのは常駐型魔法だ。

 常駐型魔法は現代魔法におけるプログラム的な性質を大きく活用出来る面があり、魔法を常に制御下に置くことで特定条件によって発生する事に対して魔法的に対処するプログラムを走らせ続けることが出来る。簡単に言えば、プログラムの条件式や性質が使えるということだ。

 例えば雫が使った能動空中機雷(アクティブ・エアー・マイン)では「仮想エリアで個体物を関知した場合に術者がトリガーを引けば検知範囲の物体に振動を与える」という状況によって処理が変わるという定義式で、FLTで作った汎用的飛行魔法ではサイオン補充効率が規定値を下回ると1/10Gで軟着陸するように術者のサイオン量に応じて処理が変わる様に定義式が設定されている。

 

「知っての通り、通常の魔法は常在型魔法とは違い後から変数を入力することで魔法の性質を変更したりする場合魔法を一度キャンセル、又は事象経変の処理中に終了条件を無理やり変更して再度発動しなおす必要がある。

 八幡の魔法の場合は全ての氷が浮いた場合と浮いていない場合を状況に応じて処理を変える必要があるんだが正常な動作で行うには常駐型の魔法を選択する必要がある。

 だが、八幡の戦術と常在型魔法の相性が悪いのは釈迦に説法だろう。」

 

「常在型魔法の欠点はサイオン消費量もさることながら魔法式の規模と制御にかかる負担が大きすぎてスピードが出しにくい。

 確かに古式の魔法も制御を手放さないものが多いからスピードが出にくいからすごくよく分かるよ。」

 

 古式魔法は状況に応じて適宜対応する魔法が多く、常駐型魔法や複数の系統を複合した魔法が多い。複雑な処理を挟みあいまいな表現を許容するため制御の負担が大きく現代プログラムの記述が難しいのに加え、状況に応じて術式を調節出来る点が結果スピード面では重石となっている。

 こういったスピードを重視する競技では向いていないと言えるだろう。

 

「本来ならば撃つ度にキャンセルすればいい話だが、毎回するのが面倒でこういったやり方をしているのだろうが・・・メリットもある。」

 

「普通に手抜きに見えるんだけど・・・?」

 

 エリカの疑わしい目は八幡の普段の行いだろうな。

 

「本来魔法は処理が終了した段階で干渉力を失う。八幡魔法が移動魔法の処理だけの場合だと、氷が一定の高さに持上がったのち魔法が終了してそのまま落ちる。

 だからこれまでの試合で魔法が終了したのちに浮いているのは"八幡が勝敗を明確にするために終了条件を変えてあえて浮かせている"と周りは解釈したはずだ。」

 

 これこそがこの手法の悪質な部分といえる。

 魔法そのものは集まる座標という変数魔法を進行するために必要な情報が無いため処理が続行できずどこかしらでキャンセルしなければならないがスピードが早すぎて誤報を疑われない様に”運営が勝利判定が出るまで氷を浮かせ続けている”かの様に見せている。

 もちろんどこかで進行不能なこの魔法はキャンセルする必要があるが、勝利判定が出た後ならばキャンセルしても疑われない。

 毎回魔法を氷が上った直後に自発的にキャンセルしていては"その先の処理を行わないようにしている"と感づかれかねない。

 

「他の選手ももし持ち上がらない氷が発生した場合”持ち上げた氷を攻撃手段に用いる”予想はしていただろうが、その為には浮かせた術式から攻撃用の魔法を選択し直す隙が出来るはず、と予想したはずだ。」

 

 事実として今回の選手はその隙をついて相手の氷を脅かすことで八幡の集中力を削ぎに行こうとしていた。八幡が何らかの魔法を追加でキャストする兆候があればいつでも対処できるように構えつつの魔法で、カウンターとしては満点だと言っていいだろう。

 だからこそ、”八幡の魔法に有効的な対応を考えて実行に移せるだけの技量”があったからこそ、致命的な一撃となったともいえる。

 

「相手選手には持ち上げる魔法を八幡が維持し続けているだけにしか映らないからその魔法がそのまま攻撃用の魔法も工程に含まれているとは思わず、虚を突かれたようになってしまっていた。

 八幡の魔法に対応できるキャストスピードがある選手でも既に発動して処理中の魔法に魔法をキャンセルして間に合わせるのは至難の業だ。」

 

「見事に不意打ちを一切労力を払わずに行った・・・という事になるね。

 にしてもよくそんなプログラムの穴をつく様な事思いつくね。」

 

「どちらかというと、思いついても普通はやらない手法なんだがな。」

 

 こと、これに関しては苦笑いしかできない。

 ああいう処理にした”技術者的理由”は分かるんだが、正直邪道過ぎて技術者はほとんど見てて顔をしかめるだろう。言ってしまえば作動失敗する前提のプログラムを実践で使っているようなもので素人が組んだ”無駄が多いし間違っているけれど、とりあえず動作はしている”プログラムを容赦なく使っているに等しい。

 手段を選ばないと言えば聞こえは良いがバグの不正利用のようなものなので俺から見ても、もっとほかの手段があったろう?と思わなくはない。

 まぁだが”この条件”での最高効率はこれだ、と言われれば否定できない部分もあるところが八幡らしいと言えるだろうか。

 

 

 

 

 

 




ややこしいだろうなぁ、と思いながら投げました。
質問補足等怒濤に出ることが予想されるので感想にてどしどし送ってきてください。
同様に感想、批判、ツッコミ、指摘お待ちしております。作者が泣いて喜びます。

さて、そろそろ大駒動かしたいなぁ。


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