ゲート 遠山桜 彼の地にて、咲き誇れり (翠色の風)
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新年の初夢でみた話を文章に起こしました。
これは緋弾のアリアというよりも同作者の作品である『やがて魔剱のアリスベル』の短編である『パンスペルミアの追撃者』に出て来た未来のキンジが主役です。
これから新刊が出るたびに矛盾点などが出てくるだろうとは思いますが、ある程度は目を瞑って下されば助かります。
「……なあ、獅堂先輩。俺の聞き間違いだと思うがもう一度言ってくれないか?」
俺こと遠山キンジは現在大学に通う傍ら、公安0課という少々特殊な課に所属する至って平凡……とも平穏……とも言えないがまあ充実した生活を送っていた。
だがある日そんな毎日がこの電話にて終わったのだ。
『なんだ。お前その年で遠くなったのか?もう一度言うぞ。お前は自衛隊と共に特地に行ってもらう。さすがに特地ってなんだとは言わないだろな?原因である『銀座事件』にはお前も参加しただろ?』
「あ……ああ」
流石に国に雇われている者としてそれは知っている。
それにこの話題はTVのどのチャンネルに変えてもその話題しかないからな。
そうそれは唐突だった。
銀座に巨大な門が現れ、そこから物語に出てくるようなモンスターを引き連れた中世の軍隊が出てきて市民を襲ったのだ。
それに対し、自衛隊、そして公安の一部が鎮圧。
相手が豚のような人間……いわゆるオークと呼ばれるような空想なものまで現れており、その戦力が未知数な為俺も含めた公安0課も出撃。
獅堂先輩は突撃してくるワイバーンを片手で叩き落し、年下でありながら先輩の可鵡韋はオーク相手にノチゥと呼ぶ経穴を突くことによって激痛を負わす技で地に沈めていた。
可鵡韋曰く、オークも人間も変わりないですねと言った時は冷汗が出たもんだ。
まあ0課の働きは文字通り一騎当千の活躍で多くの将を捕縛する事ができた。
その結果、相手の軍隊は死傷者6万に達し、さらにその後も門から軍が進行してそれを迎撃、相手の被害は倍の12万人まで達していた。
その後のことは下っ端の俺は聞かされていないが、相手との交渉が必要な事は明白。
その為には向こうの土地の調査が必要なのだ。
その予想は当たり、今TVで総理の記者会見が流され、門の抜けた先を特地としそこに自衛隊を派遣する事を発表したのだ。
『捕虜として捕らえた奴らの言葉がこっちとは違うっつうことで通訳がいるんだよ。言語学者が翻訳はもう済ませている。お前だったら捕虜から発音を聞けば後は
最初にも言ったが俺が所属する0課は少々特殊な課なのだ。
俺はまだ使ってないが、職務上の殺人が容認された公務員。
もっぱら国難に対応する『国の懐刀』の役割を担っている。
そしてその職務上、戦闘は避けることはできない。
その為、公安0課は1人1人の戦闘力が高いのだ。
例えば今電話している獅堂先輩は『マル条』と呼ばれる超人だ。
その能力は先天性筋形質多重症……まあ簡単に言えば人より筋力が高いのだ。
数値にして256倍、そこら辺の人物どころか拳銃すらも通じない人物なのだ。
そして限定的にであるが俺も……
そして先ほどの獅堂先輩が言った『猾経』はそんな俺が使える技の1つだ。
過去に任務上仕方なく数時間で一言語すら覚えれる、記憶定着術のそれを使わざるをえない状況になったことがあった。
その時に獅堂先輩にこの技がバレ、上にもバレてしまっている。
まさかそのせいでこんな指名を受けるなんてな。
その時のことを思い出し聞こえないようにため息を吐いた後、懸念事項であることを確認する。
「はあ……大学の方はどうしたらいいんだよ。その任務どう考えても一日、二日で終わら無いんだろ?」
『だから俺は言っただろ中退しちまえって。……休学扱いだ。そこらへんのことはもう済ませている。取りあえず遠山、お前はこれから捕虜がいる場所に行って言葉を覚えろ。その後は自衛隊の深部情報偵察隊と共に特地に潜入。そこからはむこうの指示に従え。他の命令が下れば随時指令を出す』
「了解」
そう言って俺は通話を終了させ、再び大きなため息を吐いた。
どうやらまた俺はめんどくさい事に指名されたらしい。
国からのため逃れようもないし時間もない。
これも国に雇われたせいか。
取りあえずはリサに連絡を入れて、言語を覚える間に装備とかの準備をしておいてもらおう。
これからの事を考え三度大きなため息を吐いた俺は、スマホを操作しつつ指令を受けた場所に向かうため自室から出るのだった。
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01
命令が下って2週間がたった頃、とうとう特地へと赴く日になった。
この日までに俺のメイドであるリサが準備してくれたものを確認する。
まずは移動用にGSX1300Rハヤブサを一台、銃弾に関しては自衛隊のモノを使う為ないが、火炎弾や音響弾、閃光弾など特殊加工された銃弾である武偵弾が9パラと.50AE弾がそれぞれ3セットずつに大学の勉強関係一式だ。
さらにどこから聞きつけたのかベレッタから送られたようでタングステン弾も用意されていた。
「相手は中世相当の時代だぞ……過剰戦力だろ」
弓や剣が主武器な時代に銃弾だけでも圧倒的なのにそれ以上の威力があるものや火炎弾や閃光弾などの相手にとって未知な道具だらけだ。
……改めて考えるが自衛隊だけで十分な気がしてきた。
俺が行く意味があるんだろうか?
「入門の準備が終わりました。向こうへ到着次第、狭間陸将へ面会を願います」
「分かりました」
手続きを終えた後に、警備担当にそう伝えられ向こうに着いた後のスケジュールを組み立てつつバイクを吹かす。
やがて重厚な門が開き、中からギリシャやローマの建築物を彷彿とさせる入り口が現れた。
近くの警備に視線を送ると首を縦にうなずいたため、先の見えない門の向こうへ俺はバイクを走らせるのだった。
暗闇の中を突き進む。
その暗さはライトをつけても先が見えない。
「これはしばらくかかりそうだな。なら今のうちに、やっておくか」
そう思った俺は頭の中に思い描く。
白雪を……理子を……レキを……リサやベレッタ、関わった女性を。
そしてアリアを。
それにより、自身の血流がゆっくりとだが真芯へと集まっていく。
……ここでは語ってなかったが俺も限定的ではあるが超人の仲間になることができる。
それを俺はヒステリアモードと呼んでいる。
『ヒステリアモード』
正式名にして『ヒステリア・サヴァン・シンドローム』。
βエンドルフィンという神経系伝達物質量が常人の30倍分泌することにより起こる遺伝体質だ。
それらは中枢神経系を劇的に亢進し、判断力、論理的思考力、さらには反射神経もが常人のソレを凌駕する。
ここまでなら得しかない能力に思えるが、このβエンドルフィンは分泌条件に問題があるのだ。
βエンドルフィンは恋愛時脳内物質。
つまり性的興奮がこのヒステリアモードの引き金なのだ。
そのせいで色々と不都合もあるのだが、それに関してはまたおいおい語ろう。
ともかくヒステリアモードになった俺の頭は冴え始めた、その証拠にこの2週間のあらゆる出来事を録画された映像を見るように思い出せる。
それを使って、これからするのは猾経という記憶定着術。
人間はあらゆることを記憶しており、きっかけさえあれば全てを思い出すことができる。
猾経とはそのきっかけを意図的に作り、思い出しやすくするものなのだ。
最初の頃は瞑想するかのように目を瞑って集中しなければいけなかったそれは、何回も使ったおかげなのか今では片手間にできるようになっている。
バイクを直進させながら、さっそくきっかけを作るために捕虜との会話を思い出す。
異国の言葉を、その言葉の意味を。
2週間かけて見聞きしたそれらを思い返していく。
ちなみにこの猾経、ご先祖さまによって日本での使用は禁じられている。
今までは海外で使っていたが、今回も日本じゃなくて異世界だ。セーフ、セーフ。
猾経によってあらかた異世界語を身につけると、前方に光が射し始めた。
「出口か」
まず初めに見えたのは澄みきった青空にどこまでも続く草原だった。
少なくとも東京のど真ん中にはない景色。
そしてそこに似つかわしくないモノと匂い。
嗅ぎなれた硝煙と鉄臭い血の匂い。
そして百や二百では足りないワイバーンの死体が地面一杯に転がっていた
ああ、確かに俺は異世界に来たんだな。
確かな実感と共にバイクを進めるとすぐに近代的な建物が見えてきた。
そして付近には迷彩服をきた人物たちもいる。
「すいません。本日付けでこちらに所属することになりました、公安の遠山です。こちらに到着したら狭間陸将に会うように言われたんですが」
そう言って通された部屋へと赴くと、扉の前には『ノック不要入室許可』と書かれた張り紙があった。
だが初対面で張り紙通りの行動はマズイと思った俺は、念の為ノックをし入室すると、執務机に座る壮年の男性と報告のためか書類を持つメガネをかけた若い男性がいた。
それを見て一度出直すべきかとも思ったが、二人は視線を合わせるとメガネの男性のほうが横へズレこちらを見る。
問題ないと判断した俺は敬礼をし、そのまま二人へ挨拶をする。
「本日付けでここに配属しました、公安の遠山です」
その言葉に壮年の男性はうなずき、メガネの男性の方は驚いたかのように目を見開かせていた。
「うむ、上からは聞いている。私は特地方面派遣部隊指揮官の狭間 浩一郎だ。そして彼は柳田二等陸尉だ」
「よろしくお願いします。さっそくなんですが、私はどこに配属になりますか?」
「ああ、君には異世界の人との通訳を頼みたい。なので深部情報偵察隊の第三偵察隊に配属してもらう。詳しくは檜垣三等陸佐の所へ行って、詳しい事を聞いてくれ」
「分かりました。では私はこれで失礼します」
挨拶もそこそこに、檜垣三等陸佐の場所を教えてもらった俺はその場を後にする。
どうやら偵察は翌々日らしく、配属先隊への挨拶などのやるべきことを思い浮かべると偵察まであわただしくなりそうで思わずため息が漏れるのだった。
「遠山でしたか、ずいぶん若いですね」
「ああ、彼の年齢は19歳だそうだ」
「な!?本当に彼は公安なんですか!?」
「……『公安0課』『哿』を知っているか?」
「どちらも都市伝説の類ですよね。殺人許可証をもつ超人の公務員の集まりである『公安0課』。そして『哿』は……確か素手で銃弾をいなし、止め、あるいは等速で投げ返すっていうあの『不可能を可能にする男』のことですよね?」
「……彼がその『公安0課』所属で件の『哿』だと言えば、君は信じるかね?」
「陸将も人が悪い。彼がまさかそんなマンガみたいな存在なんて」
「…………」
「え……本当に?」
「これは過去に彼を分析したものだ。諜報担当によれば彼に敵対した者、そのほとんどが彼の仲間になっている。そして公安0課には彼よりも戦闘力が高い者がいると報告も受けている」
「まさか……」
「ああ、そのまさかだ。お前も心の準備だけはしっかりしとけよ。彼が動けば私達の仕事が一気に増えるぞ」
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