ようこそ実力至上主義の教室へーIn this deceitful world, even bigger lieー (OOSPH)
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Anmeldung ~ 1 Semester Zwischenprüfung
Prolog


Willkommen im Klassenzimmer der falschen Luxusfähigkeitsvorherrschaft


この世界は偽りにあふれている

 

人は善意にも悪意にも関係なく

自分を含めたすべてのものを偽る

 

どうして偽るのか

 

真実を明かされるのが怖い

 

せっかくできた繋がりが

ほどけていってしまうのが恐ろしい

 

良くも悪くも人は誰もが

自分を、他人を偽り続けていく

 

この世界は偽りがあるのだからこそ

皮肉にも成り立っている、成り立ってしまっている

 

真実から目を背けることが正しい生き方なのだと

誰もがこぞってそれが正しいのだと人は誤解してしまった

 

誤解は広まり、いつの間にか

それが真実なのであるのだと考えてしまう

 

この偽りにあふれた世界に真実などあるのか

 

世界は偽りによって成り立ってしまっているのか

 

どうせ偽りにあふれて真実を見失ってしまったのなら

いっそその真実をさらに覆い隠してしまおう、さらなる偽りをもって

 

さあ、始めよう

 

この偽り多き世界にさらに大いなる偽りを

 

・・・ ・ ・・・

 

ある場所

 

その一室にて

私は目を覚ます

 

初めて青空を見たのはいつぶりだろうか

 

この大空を生まれてみたのはごく最近

 

僕はとあるきっかけで

こうしてこの外の世界に出られた

 

その際に俺は初めて大空というものを見た

 

まったく信じられない

 

こんなにも美しい青空のもとが

よもや偽り多き世界にまみれているなど

 

しかし外に出てしばらく

この世界の事情を調べてみたが

 

それは紛れもなくその通りなのかもしれない

 

だが、だからと言って

それを覆す様なことはしない

 

できないというのが正しいだろうか

 

何しろもうこの世界は偽りにまみれている

まさにそれが当たり前のようにこの世界は

 

偽りに覆われているのだから

 

もはや偽りを示すこと

そのこと自体が真実かのように

 

世界は浸透してしまっている

 

私は、僕は、俺は、おいらは、あたしは・・

 

この偽りに浸った世界に

この俺が、僕が、私が、おいらが、あたしがさらに与えよう

 

俺という虚飾を

 

僕という虚勢を

 

私という嘘を

 

おいらという虚言を

 

あたしという虚構を

 

この偽り多き世界に

さらに大いなる偽りを

 

そして

 

俺、僕、私、おいら、あたし、そのすべての望みをかなえるために

 

今日がその第一歩だ

 

高度育成高等学校

 

おいらが通うことになる学校

 

ここを俺の、僕の、私の、おいらの、あたしの始まりの場所としよう

 

俺が求めるのは本当の実力とは何かという答え

 

僕が求めるのはたっくさんの友達

 

私が求めるのは何物にも干渉されない暮らし

 

おいらが求めるのは真の平等

 

あたしが求めるのは人とは何か

 

すべての初めてをこの高度育成高等学校にて始めよう

 

俺の、僕の、私の、おいらの、あたしの可能性を確立的にするその瞬間の時の

 

俺はそのために勝つ

 

僕はそのために協力する

 

私はそのために練る

 

おいらはそのために行く

 

あたしはそのために言う

 

すべては俺の、僕の、私の、おいらの、あたしの望みのために

 

すべては俺の、僕の、私の、おいらの、あたしの可能性のために

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この偽り多き世界に

俺という、僕という、私という、おいらという、あたしという大いなる偽りを

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

       




Möglichkeit


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Willkommen im Schulleben einer traumhaften Hölle

Frieden und Hölle sind in der Linie


ある教室

 

一人の少年が窓際の自分の席で

 

図書館で借りてきたのだろう本を読みこんでいると

 

「綾小路君、ちょっといいかしら?」

 

隣から誰かが話しかけてきた

少年は不意にその隣の方を見ると

 

そこには容姿が整っている美少女と呼ばれても

おかしくない一人の女子生徒が話しかけてきたのだった

 

「なんだ」

 

少年は本を開いたままその少女のほうに目を向ける

 

「少し時間をもらえないかしら」

 

「まったく

 

 相変わらずお前は人の都合を考えまないな

 

 まあここで、お前に対して嫌だといっても聞き入れるつもりはないんだろ?」

 

少年が諦めたようにつぶやくと

少女は分かっているならいいと言っているかのようにうっすらと笑みを浮かべているのがわかる

 

「わかっているなら話が早いわ」

 

「わかっているのと納得しているのとでは意味が違う

 

 現にあなたのやり方に納得しているクラスメートは一人もいない」

 

反論する少年だが

 

「納得してもらおうだなんて思っていないわ

 

 あなたはただ私に協力してくれるのかどうかを聞いているのよ」

 

「協力?

 

 笑わせるな」

 

すると少女の右隣に先ほど話していた少年と

同じ容姿の少年が顔を寄せるように近づいてきた

 

その少女の座っている机に勢いよく自分の左腕をたたきつけて

 

「お前が勝手に一方的に協力しろといっただけだろう

 

 私はお前の協力者になっているつもりはない

 俺自身はそもそもお前に協力するつもりはないぞ」

 

「あいにくだけどその意見は聞いていないわ

 

 私が聞きたいのははいかイエス、それだけ」

 

「なんとまあ理不尽な選択肢だな

 

 そんなのどっちをとっても同じじゃないか」

 

少女の隣の席に座っている少年が少女の言葉に突っ込みを入れる

 

「そう、いうならば

 

 あなたに選択肢はないということよ」

 

「気に入らねえな

 

 お前のそういうところ

 俺は気に食わねえな」

 

「はあ・・・・

 

 このまま無駄に水掛け論を続けていっても

 無駄に時間が過ぎていくだけというものだな」

 

すると隣に座っていた少年が

読んでいた本をパンと音を立てて

 

立ち上がって少女の方を向く

 

すると少女に不満を言っていた少年は

納得いかない様子の表情を見せながら少女から離れていく

 

「話を聞こう

 

 判断するのはそれからでも遅くない」

 

少年がそういうと

少女はさっそくと言わんばかりに話を始めていくのだった

 

どうしてこのようなことになったのか

それには少し時をさかのぼっていく必要がある

 

まず、少年と少女が出会ったのはこの高校に入学するときのことだ

 

・一・

 

「今日から高校生か・・・・」

 

「まさか入学できるだなんて思わなかったよね・・・・」

 

「別に俺はあそこから離れればどうでもいい」

 

「そうだよね、一番はやっぱり・・・・」

 

「あら? ねえみんな、あそこ見て」

 

「うん?」

 

仲の良い少年少女のがなるべく周りに気を使ってか

あるいは変に目立ちたくないのかわからないがそんなことを言っていると

 

不意に席に座れていないお年寄りの姿が見えた

 

六人は全員がそのお年寄りの方を見る

 

「無理もない

 

 この入学シーズンだ

 むしろそれを了承で乗り合わせたのならば

 

 あのおばあさんには悪いが自業自得だ」

 

「俺も同感だな

 

 大体譲ってほしいなら譲ってほしいと

 素直に言えないから余計に状況が悪くなってる

 

 自分のまいた種だな」

 

「運が悪いとしか言えないね・・・・」

 

六人のうち、三人がその老婆に対して辛辣な言葉を投げかけると

 

「ちょっとそこのあなた!

 

 おばあさんに席を譲ってあげようと思わないの!?」

 

その声に六人は思わず声のした方を向く

そこにはOL風の服装をした女性が一人の学生に怒鳴っている

 

「実にクレイジーな質問だね

 

 なぜ僕がそこの老婆に席を譲らないといけないんだい?」

 

「あなたの座っているそこは優先席よ

 

 お年寄りに席を譲るのは当然でしょ!」

 

「理解できないねぇ」

 

「んな・・・!」

 

するとそこに

 

「あ、あの・・・

 

 私もお姉さんの言うとおりだと思うな」

 

一人の女子校生が座っている男子高校生に言う

 

だが何を言っても男子高校生は聞く耳も持たず

結局老婆が彼女をいさめたが、それでは申訳がないと考えたのか

 

乗客に向かっておばあさんに席を譲ってほしいと呼びかける

六人のうちお年寄りを辛辣に言っていた三人はやれやれといった具合で

 

気にも返さなかったが

 

「あ、あの・・・・」

 

その六人のうちその三人とは別の

もう三人のうちの一人の少年が立ち上がる

 

「よろしかったらどうぞ

 

 もうすぐ降りますし、迷惑でなかったら」

 

「迷惑だなんて

 

 ありがとうございます」

 

とお年寄りに席を譲ってあげると

その少女が代わりにお礼を言う

 

老婆もお礼を言いながらそこの席に座る

 

「へえ、やさしいじゃん」

 

「ううん、そういうわけじゃないよ

 

 ただあの子の必死の思いに心が打たれただけだよ」

 

「ふうん、まそういうことにしといてあげる」

 

こうして六人が話していた通り

目的の場所につくことになったのだった

 

「おー改めてみてみると壮観だな」

 

「ここが僕が今日から通うことになる学校だね」

 

「さあて、それじゃあさっそく行ってみますか」

 

と歩を進めていく六人だったがそこに

 

「ちょっと」

 

一人の少女に声をかけられる

 

「うん?

 

 確か隣に座っていた・・・・」

 

「そこのあなた

 

 どうしてあの時席を譲ったの?」

 

少女は問いかける

六人に向かって話しかけているようにしては

 

不適格な表現をつぶやいて

 

だがそれを何事もなくその問いに答える

 

「別に・・・・

 

 ただ目的地が近かったから

 意地を張って座っててもしょうがないと思っただけだ

 

 あんたこそあの時席を譲ってあげるつもりはなかったのか?」

 

「私はあくまで席を譲ることに意味があると思わなかった

 

 だから譲るつもりはなかった、それだけのことよ」

 

少年の問いに少女は答える

 

「納得できないな」

 

「あなたに納得してもらおうと思っていないわ」

 

「まあ私も納得しようとも思わない」

 

「そう」

 

はあ、とため息をつくのが聞こえる

 

「あなたのような人間とは

 極力かかわりたくないと思うわね」

 

「私は別にどちらでも

 

 もしもこの世に、袖振り合うのも

 多生の縁の言葉通りの展開があれば

 

 その時私はお前との出会いにため息をつくだろうな」

 

二人はそんなことを話しながら同じタイミング

なおかつ距離を置いて入学する学校の門をくぐっていくのであった

 

・・二・・

 

「ここがDクラスか

 

 なんとも騒がしい」

 

「全員が入学式で浮足立っているのだろう

 

 まったく、何が面白いんだか」

 

「群れることは悪いことではないが

 やっぱりここは慎重になって選ぶべきだね」

 

「しかしそれでもここまで関係がはっきりしていると逆に感心する」

 

「人間っていうのはそう言うもの、かもね」

 

「しかし・・・・」

 

六人のうち一人が教室を見渡す

 

男子、女子それぞれ

あるいは混同していくつかのグループが形成されているのがわかる

 

それを見ていた六人は一人はあきれ、一人はやや羨ましそうに

六人は六人それぞれ違う表情をでその様子を見ていくのであった

 

「こうしてみていると友達っていうのはいいものだね」

 

一人がいった

 

「人間っていうのはすべての動物の中でも

 まさに多くの歴史の中で数々の文化を築いた

 

 だけどそれは人間はすべての生き物の中で

 優れた団結力をもっているんだって思うな

 

 だからこそ人間は団結してできないことをやる

 一人では難しいと思うことをやり遂げて見せてしまうんだから

 

 そうだって思わない?」

 

と一人の少年に声をかける

 

「俺はそうは思わん

 

 そもそもそんなもの

 生きていく上で必要だと思わない」

 

と一人の少年がその問いに否定的にとらえる

 

「そもそも人間がすべての生き物の中で

 優れた団結力を持っているのだとするなら

 

 なぜこの歴史の中で多くの戦争が起こっている

 

 逆に人間ほど互いに理解することができない生き物はいない

 

 もしも友情や愛情なんて言うものが大切だというなら

 どうして動物の多くはつがいで行こうとしない?

 

 獅子は狙ったメスのパートナーの雄を倒しその間に設けた子供を

 殺されたというのにメスはなぜその自分の子供を殺した相手を受け入れるというのだ

 

 所詮、この世は弱肉強食だ

 

 弱い奴は強いものに食われて糧にする、それが世界の定理・・・」

 

「確かにライオンはそうだけど

 

 でも鳥は一生その相手と一緒にいるし

 その子供だって巣立ちを迎えるまで大切に育てる

 

 それこそ猛吹雪の中でも猛暑の中でもね

 

 それってこの世界においては何万分の一の可能性で起こる

 

 いうならば奇跡なんだよ

 

 その奇跡をこうして身近で体感できるなんて素晴らしいことだって僕は思うな」

 

「奇跡?

 

 くだらない

 

 人の繋がりほどもろいものはない

 

 そんなものを大切に思っている奴ほど

 その相手に足元をすくわれていくのだ

 

 石田三成が徳川家康に関ヶ原の戦いにおいて

 負けたのも味方だと信じていた小早川秀秋に裏切られたのがきっかけだ

 

 誰かを信頼するからこそ誰かに裏切られるもだ」

 

「裏切られないためにも信頼が必要なんじゃないか」

 

「信頼しているという確信ほど信頼できないものはない」

 

二人の少年が水掛け論を繰り返している中

一人机に座っている少年はそんな二人に対してため息をつく

 

「ねえ私もそうやってぼーっと座ってないでさ

 

 俺に何か言ってやってよ、私の意見を聞かせて」

 

「別に

 

 私はただ平穏に過ごせれば文句はない

 

 他人がどうなろうともあくまで

 それは他人のもたらした結果だ

 

 私の結果になるわけでもない」

 

「私は相変わらずだな

 そんなに俺や僕の言うことに納得できないか?」

 

「そもそも納得したいとも思わない」

 

三人の少年が向き合っていると

 

「まあそれはそれでいいでしょ

 

 私も僕も俺も自分が正しいと思ってる通りに動けば

 

 大事なのはあくまで何かをするのかしないのかの違いだって思うし」

 

その六人の中で唯一の女子が三人の意見を丸く収める

 

「まあ誰の意見が正しくて間違っているかなんて

 それこそ些細な問題でしかありませんゆえに

 

 それよりも大事なのはそれを踏まえて

 これからどうしていくのかということですよ

 

 まずはこの高校でどのように過ごしたいのかですよ」

 

「そりゃあまあ、自由に過ごせれば・・・・」

 

「誰にも干渉されなければ・・・・」

 

「平穏無事でいられれば・・・・」

 

どこか大人びた少年の言葉に

少年たちはそれぞれの意見を述べた

 

「さてと

 

 そのためにはどうするのか・・・・

 

 まずはそこからだね」

 

「誰から仲良くなり始めていこうかってことだけど・・・・」

 

「それならば私からまず行かせてもらう

 

 もしかしたらさっそくあたりが来たかもしれないからな」

 

「私?

 

 それっていった・・・・」

 

少年が座っている少年に話しかけようとすると

 

「まったく

 

 入学早々ため息が出るわね

 

 関わりたくないといった相手と

 まさかおんなじクラスだったなんて」

 

不意に少年は話しかけられる

その話しかけられた方にいたのは

 

ここに来るまでのバスの中で隣になった少女だった

 

「確かに

 

 おまけに隣の席か・・・・」

 

少年はため息交じりに言う

 

「まあこうして出会ったのも何かの縁

 

 仲よくとまではいわないが、挨拶ぐらいはしておこう

 

 私は綾小路 清隆、よろしく頼む」

 

「出会っていきなり自己紹介?」

 

「まあそういうな

 

 これからこの三年間同じクラスなんだ

 

 その間、お互いに名前が

 知らないというのはいろいろと不便だろう」

 

「私はそうは思わないわ

 

 少なくともそんなことに意味があるとは思えないもの」

 

「意味なんて初めからない

 

 意味を求めること自体が意味のないこと・・・・

 

 私個人はそう考えている」

 

「それで私が納得するとでも?」

 

「そもそもお前に納得してもらおうと思っていない」

 

綾小路 清隆・・・・・・

 

そう名乗った少年に対して

少女はあきれを覚えたのか再度ため息をつく

 

「・・・・堀北 鈴音よ」

 

少女、堀北 鈴音は早めに済まそうと思ったのか

それとも煩わしく感じたのか手っ取り早く名前を名乗った

 

「あなたのような人間は好きになれないわね」

 

「まあ別に私も誰かに好かれたいと思ってもいないが・・・・

 

 面を向かって言われると逆にすがすがしいものだ」

 

綾小路は落ち込んでいるのか

どうかもわからないほどの無表情でつぶやく

 

しばらくするとその教室に一人の女性が入ってきた

 

「新入生諸君

 

 私はこのDクラスを担当することになった

 茶柱 佐枝だ、日本史を担当している

 

 学年ごとのクラス替えは存在しない

 

 よって三年間私が担任としてお前たちとともに

 学んでいくことになると思う、よろしく

 

 では入学式の前にお前たちにまず

 この学校の特殊なルールについて

 書かれた資料を配らせてもらう

 

 まあすでに入学案内とともに配布しているがな」

 

そう言って教師、茶柱 佐枝に言われ

綾小路はその資料に目を通していった

 

その後茶柱先生からそれぞれ学生証が配られていく

 

この学生証があれば敷地内にある施設を利用したり

商品を購入できたりすることもできると説明されていく

 

施設の中にある機械に通すか

提示することで使用が可能となる

 

ちなみに1ポイントにつき1円の価値がある

 

なおポイントは毎月一回ずつ振り込まれていく

 

振り込まれるのは月々10万ポイントと

いわれると周りが激しくざわつき始めていく

 

すなわち、今も来月も10万ポイントが振り込まれるということだ

 

「この学校では実力で生徒を測る

 

 入学を果たしたお前たちには

 それだけの価値と可能性がある

 

 そのことに対する評価みたいなものだ」

 

なおポイントは卒業とともに回収され

さらに現金に換金することもできないので

 

ため込んでいても意味はないともいう

 

茶柱先生はカツアゲをしないようにと釘を刺すと

それではよい学生ライフを送ってくれたまえ、と退室するのであった

 

周りの者たちは月々実質10万も送られてくると知り浮足立っていく中

 

綾小路は一人学校における特殊な校則の書かれた資料を読み返していた

 

「思ってたよりも堅苦しいところではなさそうだね」

 

「ああ

 

 話を聞く限り

 厳しいところがあると考えたが・・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

見ると机に座っている綾小路の周りには五人の少年少女が集まっている

 

うち少年二人と少女は

話を聞いてどこかうれしそうに見える

 

だが残る二人の少年はどこか浮かない表情をしている

 

「僕はどうにも逆に優遇されすぎている気がするね」

 

残った二人のうち一人が口を開く

 

「さっきの茶柱先生の説明も

 どこか含みのある言い方だったし

 

 それに注意事項といったくせに

 注意したのはカツアゲとかいじめのことだけ

 

 確かにそれもひどいことだけれどほかにも

 呼びかけるところもあると思うんだけれど」

 

「俺もおんなじだな

 

 そもそもこのシステムに関しては

 どうにも穴が多すぎるようにっ見える

 

 その穴をこの学校が気が付いていないとは思えん

 

 私はどう思う?」

 

そう言って机に座っている少年に話しかける

 

「別に

 

 基本問題を起こさなければ

 まさしく問題はないだろう

 

 私はただ、何事もなく迎えられれば問題はない」

 

「相変わらずだな」

 

そんなことを言っていると

 

「みんな、少し話を聞いてもらってもいいかな?」

 

クラス全体に景気の良い声が響く

その男子生徒は好青年という言葉が似合う

 

髪も染めていない

不良らしさも感じられない

真面目という言葉が似合う印象を受ける

 

「僕らは今日からおんなじクラスになる

 そこで今から自発的に自己紹介をしていこうと思う

 

 みんなでこれから仲良くやっていけたらって思うんだ

 

 入学式まで時間もあるし、どうかな?」

 

「さんせーい

 

 私たちまだ、お互いの名前とかわかんないし」

 

男子生徒の呼びかけに一人の女子生徒が賛同すると

それぞれ迷っていた反応を見せていた生徒たちが次々と賛同していく

 

「わあ・・・・

 

 あの人、人をまとめるのがうまいんだね」

 

「まさにイケメンってやつだな」

 

少年と少女がクラスに呼びかけた男子生徒を素直に称賛する

まず先にその彼が自己紹介をした、平田 洋介というらしい

 

そのあと端から順番に自己紹介していくことになる

その際に自己紹介に緊張して言葉が回らない女子生徒がおり

 

その女子生徒に向かって一人の女子生徒に声をかけにいく

 

「ゆっくりでいいよ、慌てないで」

 

その声に少年は感心する

 

「すごいあの子・・・・

 

 あの女の子のことを理解して

 それに合った呼びかけをしてる」

 

「偶然じゃねないのか?」

 

その女子生徒は井の頭 心というらしいが

六人は彼女よりも、彼女を励ました女子生徒の方に関心を向けていた

 

「俺は山内 春樹

 

 小学生の時は卓球で全国に

 中学時代は野球部でエースで背番号は4番だった

 

 けど今はインターハイでけがをして今はリハビリ中だ」

 

よろしくぅ、と締めて見せた山内 春樹と言う男子生徒

 

それを見て机に座っている少年を

含めた三人の少年があきれたようにため息をつく

 

「インターハイは高校の体育大会

 だから中学生が出られるわけないだろう・・・・」

 

「お調子者って感じかな・・・・」

 

「いや、ただのバカだ・・・・」

 

ひどい言いような三人の少年に

残る二人の少年と少女は複雑な反応を示す

 

すると

 

「じゃあ次は私だねっ」

 

次に自己紹介するのは

六人全員が先ほどの井の頭に

ゆっくりでいいよと呼びかけた女子生徒だった

 

「私は櫛田 桔梗といいます

 中学からの友達は一人もこの学校に

 進学していないので独りぼっちです

 

 だから顔や名前を早く憶えて

 友達になりたいって思っています」

 

さらに言葉を続けていく少女、櫛田 桔梗

 

「私の最初の目標として

 ここにいる全員と仲良くなりたいです

 

 みんなの自己紹介が終わったらぜひ

 私と連絡先を好感してください」

 

笑顔で言い切る櫛田を見て

六人はそれぞれ思うところがあるように言う

 

「なるほど

 

 誰とでもすぐに打ち解けられるタイプだな」

 

「彼女の明るさが場の雰囲気をよくしてくれてるのがわかるね」

 

「・・・・・・・・・・」

 

二人の少年と少女が櫛田をたたえていると

 

「それから放課後や休日はいろんな人とたくさん遊んで

 たくさんの思い出を作りたいので、どんどん誘ってください

 

 ちょっと長くなりましたが以上で自己紹介をを終わります」

 

と締めくくって平田が次の相手に進めていくが

 

「自己紹介なんてやんねえよ

 餓鬼じゃあるめえし

 

 やりたい奴だけやれ」

 

その次の相手

髪を真っ赤に染めあげたいかにも

不良という感じの男子生徒は食って掛かるように言う

 

「もちろん強制はしないよ

 

 でも、クラスのみんなで

 仲よくしていくことは悪いことじゃないと思うんだ

 

 不愉快な思いをさせたのなら謝りたい」

 

平田がそういうとそのそばにいる

女子がその赤髪の少年を睨みつけ

 

「自己紹介ぐらい、いいじゃない」

 

「そうよそうよ」

 

と抗議するが逆に赤髪の少年をはじめ

多くの男子生徒の反感を買ったようだ

 

「うっせえ、こっちは仲良しごっこするためにここに入ったんじゃねえ」

 

そう言って赤髪の少年をはじめ

多くの生徒たちが教室を出ていってしまう

 

堀北もまたゆっくりと立ち上がって去っていく

 

「どうする?」

 

「僕は別にどっちでもいいかな」

 

「俺はあの赤髪の奴に賛成ってわけじゃねえが・・・・

 

 別に必要はないと思う、私と僕も同じ考えだ・・・・

 

 おいらとあたし、我はどうだ?」

 

「おいらは残る

 

 仲良くなりたいとは思わないがクラスのことを

 知っていくことは今後の役に立つと思うからな」

 

「私も残る

 

 みんなと仲良くしていきたいと思うし」

 

「・・・・・・・・・・」

 

六人の意見は半々である、いや一人無口で意見が読み取れないが

 

「私は僕と俺と同じ意見だ

 

 では私は先に行っていよう

 

 せっかくだしこの学校のことも知りたいしな・・・・」

 

「じゃあ、あたしたちはあとから行くね」

 

と三人も教室から出ていってしまうのだった

 

残った三人は残った生徒たちを見つめている

 

「僕がいけないんだ

 

 相手のことを考えずに・・・・」

 

「そんなことない、平田君は悪くないよ」

 

「そうだよ、あんな人たちほっといて続けよう」

 

そう言って残った者たちで続けていく

 

「俺は池 寛治

 

 好きなものは女の子で

 嫌いなものはイケメンだ

 

 彼女は随時募集中なんで、よろしく!」

 

続けて自己紹介した男子生徒

その紹介の仕方に対しての女子生徒たちの反応は

 

「すごーい、池君かっこいー」

 

棒読み、それはまさに一目瞭然である

 

「マジ?

 

 や、俺も悪くないって自分でも思ってんだけどさ」

 

だがこの言葉から彼自身

女子生徒たちの反応の意味が分かっていない様子

 

からかわれているという自覚がないのだ

 

「あいつも馬鹿だな」

 

「悪い人じゃないみたいだけど・・・・」

 

「・・・・・・・・・・」

 

と次に自己紹介の番が回ってきたのは

 

「私の名前は高円寺 六助

 

 高円寺コンツェルンの一人息子にして

 いずれはこの日本社会を背負って立つ人間になる男だ

 

 以後お見知りおきを、小さなレディーたち」

 

先ほど電車でお年寄りに席を譲らなかった男子生徒

 

その自己紹介の仕方にクラスメイトはまるで変人でも

見ているのかのようにその男子生徒を見つめてはいるが

 

当のその男子生徒、高円寺 六助は気にするそぶりも見せていない

 

「ああいうわが道を行くタイプって案外いるんだな」

 

少年のうち一人が言う

 

「ええっとそれじゃ、次は

 

 そこの君、お願いできるかな?」

 

「え?」

 

平田が指を刺したその先には

二人の少年はおらず、一人の女子生徒がいた

 

「え、ええっとその・・・・

 

 あ、あたしは綾小路 清隆です

 

 こうして皆さんに会えたこと

 あたしは、うれしく思います

 

 みんなと仲良くなれたら、うれしいです」

 

女子生徒がそういうと、教室がシーンと静まり返る

 

「え、ええっと・・・・」

 

失敗した!

 

そう思った少女だったが

その手を握った者がいた

 

「綾小路ちゃん!

 

 よろしくお願いします!!

 

 むしろ俺の方から

 仲良くしてくださいです!!!」

 

それは先ほど、女子からの苦笑をもらった池であった

 

「よ、よろしく・・・・」

 

「あ、あとついでに俺の彼女になって・・・・」

 

「こら、池!

 

 綾小路さんが困ってるじゃない」

 

「あ、私は佐藤 麻耶

 

 入学式終わったら一緒に遊ばない?」

 

すると今度はその池をはねのけて

何人かの女子生徒が少女のもとに駆け寄っていく

 

その様子を見つめる二人の少年

 

「大変な人気ぶりだな・・・・」

 

「・・・・・・・・・・」

 

一人は感服するように言い

もう一人は表情がうかがい知れない

 

すると

 

「っ!」

 

少年は不意に何かを感じて

その感じた方を見るとそこにいたのは

 

「・・・・・・」

 

櫛田だった

 

「あの女子生徒、確か・・・・

 

 櫛田といったか、今のは一体・・・・」

 

「・・・・・・・・・・」

 

違和感を覚えた少年だったが

今はその疑問を置いておいて

 

もうすぐ入学式が始まるのでそっちに行ったのだった

 

・・・三・・・

 

「入学式が終わったか・・・・

 

 それで次はどうする?」

 

「僕は帰りたい

 

 この学園にある寮を見てみたいし」

 

「俺も僕に賛成だ

 

 カフェだのそんなの

 俺は興味はないしな」

 

「おいらはこの学校の施設を見てみたい

 

 こんなに大きいと迷いそうだしな」

 

「ええっと、あたしは

 みんなに呼ばれちゃってるから・・・・

 

 そろそろ行くね」

 

「・・・・・・・・・・」

 

五人の少年と一人の少女が雑談をしている

 

「まあそれぞれがそれぞれで行けばいいだろう

 

 私も少し気になるものがあるからな

 それじゃあ後で漁の方に戻っていこう」

 

と六人はそれぞれ行動を起こしていくのであった

 

「コンビニか・・・・」

 

とそのうち一人の少年がコンビニに寄る

 

「通ったこともないが・・・・

 

 別に特に興味のあるものはないな」

 

中に入って商品などを見て回る

だが特にめぼしいと思うものはない

 

「またしても嫌な偶然ね・・・」

 

少年は声をかけられて

不意にその方に目を向けると

 

そこにいたのは堀北であった

 

「お前もここに用事か?」

 

「ええ、必要なものをね」

 

そう言って堀北はいくつかの商品を

手に取ってかごに収めていっている

 

「そういえばあの時疑問に思ったのだけれど

 

 あの時あなたも教室から出ていったみたいだけど」

 

「ああ、見ていたのか

 

 私は別に自己紹介をすることに

 必要性を感じないと思ったそれだけだ・・・・」

 

堀北に負けず劣らず、やや冷ややかにいう少年

 

「自己紹介をしたからと言って

 仲良くなれるという確証はないわ

 

 むしろ自己紹介をして何か確執が生じるかもしれない

 

 それなら最初っから

 何もしなければ問題は起こることはない、違う?」

 

「なるほど

 

 確かに確立という意味では

 そういうことも言えるな

 

 だがそれは逆を言えば何をしなくとも

 どちらの確率があるともいえると思うが」

 

「あなたの言う確率がどうやって導き出されたものなのかは知らないけど

 

 少なくともあなたはその確率を否定した

 だからあの時出ていった、そうでしょ?」

 

「まあな・・・・

 

 否定をするつもりはない」

 

「そもそも私は友達を作ろうとは思わない

 

 その必要もないと思ってる

 だから自己紹介に参加しなかった、ただそれだけのことよ」

 

「なるほど・・・・

 

 まるで自分はほかの奴と違うとでもいいたげだな・・・・」

 

綾小路は含みのある言い方をする

 

「そうだと結論してる」

 

「そうか・・・・

 

 まあ私にはどうでもいいことだ

 少なくとも私は君という人間が少しわかった

 

 あくまで少し、な・・・・」

 

綾小路はそう言ってうっすらと笑みを浮かべる

 

「あなたは何なの?

 

 あなたは私に一体何を求めているの?」

 

「何も・・・・

 

 ただひとつ言わせてもらうなら

 君という人間に少し興味がわいた

 

 ただそれだけのことだ」

 

と腕を組みながら言う

 

「私はあなたに興味はない

 

 あくまで私があなたに

 話しているのはただの社交辞令のようなものよ

 

 本来ならあなたのような人間とは二度とかかわるつもりはないわ」

 

「私は別に君にそんなことを期待などしていない

 

 私が君に抱いている期待は別にある、それだけだ・・・・」

 

綾小路の言い方に堀北は気に入らないと

訴えるように彼の顔をじっと見つめている

 

すると

 

「っせえな、ちょっと待てよ!

 

 今探してんだよ!!」

 

レジの方から怒鳴り声が聞こえる

 

前方を見てみると二人の男が

レジの方で言い合いをしているようだ

 

「あの彼はあの時の・・・・」

 

前にいるのは自己紹介の際に

それに不満を言って教室を出ていった赤髪の少年だった

 

「まったく、もめごとなんて迷惑な話ね」

 

「だが放っておけばさらに面倒なことになるかもしれん・・・・」

 

そう言って綾小路はその赤髪の少年のもとに行く

 

「あの、ちょっといいかな?」

 

「ああ?

 

 なんだお前」

 

そこにいた綾小路は

先ほど堀北と話していた時とは

 

明らかに雰囲気が変わっている

 

堀北自身はそれに驚いているが

かといってそれほど気にしてもいない

 

「綾小路 清隆

 

 一応、君とおんなじクラスなんだ」

 

そういうと赤髪の反応から

少し落ち着いたものに変わっていく

 

「そ、そうか?

 

 あれ、でもお前みたいなのいたっけ?」

 

「まあそれはともかく、どうかしたの?」

 

「あ、ああ・・

 

 学生証忘れたんだよ

 

 これからはあれが金の代わりになることを忘れてたんだ」

 

よく見てみると彼は制服だが手ぶらの様子から

一度寮に戻ったのがわかる、その時に忘れたのだろう

 

「あのね、もしもよかったら

 僕が立て替えてあげよっか?

 

 取りに戻っていくのも大変だと思うし・・・・」

 

「・・・あ、ああ

 

 悪いがそうさせてもらうぜ」

 

そう言って綾小路は自分の学生証をレジの機械に通す

 

それを見て綾小路はなるほどと言わんばかりに学生証を見る

 

「・・・須藤だ

 

 悪い、世話になった」

 

「よろしく須藤君」

 

そう軽い挨拶をかわすと

須藤はさらに綾小路にお湯を入れていくように言って出ていく

 

それを見てあきれたような反応を見せるのは

 

「初対面からこき使われてるわね」

 

「まあ別に、そういうのは気にしないし

 

 ええっとこれはこうでいいのかな?」

 

綾小路は迷うように指を動かして

お湯を入れるためのスイッチを押した

 

「彼の風貌に恐怖している、という感じではないわね」

 

「恐怖?

 

 怖いってこと?」

 

「普通の人なら彼のような人は怖がって近づかなくなるものよ」

 

「ふうん、そうなんだ

 

 僕は別に怖いって感じることはないけど

 

 そういう堀北ちゃんはどうなの?

 

 須藤君のこと、怖がってるようには見えないけど・・・・」

 

「そういうのは自分が身を守るすべをもっていない人の時よ

 

 少なくとも私は彼がもしも暴力的な措置をとってきたら

 私は退けられる、だから怖いとは思わないそれだけのことよ」

 

堀北がそういうと

 

「ふうん

 

 つまり堀北は

 何か荒事の心得でもあるのか?」

 

「え?」

 

また雰囲気が変わるのを感じた堀北だが

特に気にすることもなくただうなずくことにした

 

「そうなのか、何を習ってるんだ?」

 

「それよりも早く買い物を済ませるわよ

 

 ほかの生徒の迷惑になるから・・・」

 

と早々に買い物を済ませて

コンビニから出ていく二人

 

綾小路は須藤に頼まれたカップ麺のみを持っている

 

「しかし妙な話だ・・・・

 

 実質10万円なんて大金を

 生徒に持たせて学校に何のメリットがあるのか・・・・」

 

「そうね・・・

 

 敷地内にある設備だけでも十分多くの生徒は集まるわけだし

 無理して学生にお金を持たせるなんて、必要性があるとは思えない

 

 学生本来の目的である勉強が疎かになってしまうことだって十分にあるはずなのに」

 

「・・・・・・もしかしたらこの学校は

 

 私たちのことを試しているのかもしれないな・・・・」

 

「え?」

 

綾小路の言葉に堀北は

思わず彼の方に目を向ける

 

「この一か月において私たちが

 どのようにポイントを使うか

 

 あるいはどう過ごしていくのか・・・・

 

 学校はもしかしたらそういうところを見ているのかもしれない

 

 今のところは憶測にすぎないが、いくら何でもこの生徒に

 甘すぎるこのやり方は、普通の学校の待遇としてもあまりにも甘すぎる」

 

「・・・・・・・」

 

すると綾小路は何かの視線に気が付く

 

「おい、綾小路!

 

 なにぼさっとしてるんだよ!!」

 

その正体は綾小路の持っている

カップ麺を待ちわびている須藤であった

 

須藤は綾小路にカップ麺を渡すと

須藤はそこでカップ麺を開け始める

 

「ここで食べるのか?」

 

「ああ?

 

 こういうのは外で食べるのが世間一般の常識だろ?」

 

それを聞いてあきれるような反応を見せる堀北

 

「私は帰るわ

 

 こんなところで品位を落としたくないし」

 

「ああ、んだと!?」

 

堀北の態度が癪に障ったのか

つかみかからんとしていた

 

「てめえ、女のくせに生意気な態度取りやがって!」

 

「女のくせに、時代錯誤もいいところね

 

 彼とは友達にならないことをお勧めするわ」

 

そう言ってその場から離れていく堀北であった

 

「なんだよあの女は」

 

「さあ・・・・

 

 それでは私もそろそろ失礼しよう

 

 私のほうもほう用事は大体すんだからな・・・・」

 

そう言って歩き出していく綾小路

 

「待てよ綾小路!

 

 お前もあの女の肩を持つのかよ!!」

 

「そういうわけではない・・・・

 

 ただせっかくこの学園で過ごすことに

 なるのですから、この学園のことも知っておきたいと思ている・・・・

 

 ただそれだけだ・・・・」

 

須藤の返答に綾小路は無気力に答える

 

「んだよ!

 

 あの女といい、綾小路といい・・」

 

その声が後ろから聞こえ

綾小路はため息をつくのだった

 

・・・・四・・・・

 

学生寮に入っていくいくつかの人影

 

「確か俺がもう戻っているはずだ・・・・」

 

そう言ってカギとおんなじ番号の部屋を開ける

 

そこにはすでに四人の少年と一人の少女がいた

 

「戻ってきたようだな私

 

 そっちで面白いものはあったのか?」

 

「ああ・・・・

 

 それらしいものをすでに・・・・」

 

「僕も一応いろんなところ回ったけど

 

 得に気にするところはないように思えるんだよ」

 

「まあ、この学園は不良みたいなやつも

 入学できてるみたいだし、特に気にすることはないだろ

 

 それよりも本当にこの学校なら

 おいらは誰にも何も干渉されなくなるのか?

 

 どう思う?」

 

「でも学校の規則にそう書いてあるし

 大丈夫ってことだよきっと

 

 つまりあたしは自由!

 

 もうあいつの監視とかも気にする必要もなし!!

 

 イエーイ!!!」

 

「・・・・・・・・・・」

 

六人の男女がそれぞれの反応をしめす

 

「しかし・・・・

 

 あいつがそれを黙っているとは

 到底思えません、今後もそこを警戒しておきましょう」

 

「ようし、明日からどんな日々が送れるんだろうな」

 

「俺は別にどっちでもいい」

 

「まあ基本、何にも気にする必要はないな」

 

「うん!

 

 今から楽しみだな」

 

「・・・・・・・・・・」

 

こうして六人の男女は明日が待ち遠しいと

いわんばかりに目を輝かせていたのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここからが私の・・・・」

 

「ここからが僕の・・・・」

 

「ここからが俺の・・・・」

 

「ここからがおいらの・・・・」

 

「ここからがあたしの・・・・」

 

「「「「「学園生活の始まりだ!!!!!」」」」」

 

「・・・・・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

       




Das Schulleben ist ・・・・・・


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Beide der Klasse in der D-Klasse

Jedes Verhalten


「あれからもう二日か・・・・」

 

「最初はやっぱり勉強方針の方みたいだね」

 

「つまらない」

 

「おいらも俺に同感」

 

「ま、まあ放課後になったら

 きっと楽しいことだってあるって」

 

「・・・・・・・・・・」

 

入学式から二日間

最初の方は勉強方針等の説明ばかり

 

多くの者がこのフレンドリーな

この学校風景に拍子抜けしただろう

 

中でも須藤はもはやだれがどう見ても

わかるほどにいびきをかいて眠っている

 

「哀れね」

 

そんなところに話しかけてくるのは

隣の席の女子生徒、堀北 鈴音だった

 

「放課後になっていきなりそれか・・・・」

 

「まあ大方誰かに誘ってもらいたいとか

 声をかけてもらいたいとかそんなことでも考えているんでしょ」

 

「別に私はどっちでもいい・・・・

 

 むしろ誰にも何も言われない環境が

 私にとっては好都合というものだからな・・・・

 

 そういうお前はどうだ?

 

 まさか、三年間友達も作らずに一人で過ごす気か?」

 

「ええ、私はむしろ一人が好きだもの」

 

綾小路の答えに堀北は間髪入れずに即答するのだった

 

「あなたこそ私のことより自分のことを考えた方がいいんじゃない?」

 

「フフフフフフ・・・・

 

 なるほど、そういうことか・・・・」

 

綾小路は含みのある様子でつぶやくように言う

堀北はそれがどうにも気に入らないのかじっと睨みつける

 

「はあ・・・・

 

 私って本当に相手を怒らせるのが得意だよね」

 

「そんなつもりはない・・・・

 

 あくまで個人的な興味だよ・・・・」

 

一人の少女が少年に語り掛ける

 

「あ、あの

 

 綾小路さん、だよね?

 

 よかったら一緒に食堂に行かないかな?

 

 これからみんなで親睦を深めていこうと思って」

 

その少女に声をかけてきたのは

入学式の日に率先して自己紹介を始めた少年

 

平田 洋介だった

 

堀北は驚いたように目を見開く

平田に声をかけられたことではない

 

それよりも驚いたのは

 

「うん、あたしからもお願い

 

 あたしもみんなと一緒になりたいもん」

 

綾小路のいた席に座っていたのは

先ほどとは別人ともいえる少女

 

そう、少女だった

 

「私も行く!」「私も私も」

 

するとさらにそこに女子生徒が集まっていく

 

堀北はまるで信じられないものを見つめ

驚きを隠せない表情で少女を瞬きしていた

 

「意外なものを見たような表情だな・・・・」

 

堀北は声をかけられ

隣の方の席をじっと見つめてみる

 

「あ、あやの・・・・ええ・・・!?」

 

「フフフフフフ・・・・」

 

反応が面白かったのか

綾小路は笑みを浮かべていた

 

「あんまりわからないことで頭を使うなよ

 

 大事な時に命取りになるぞ?」

 

「・・・・・・・」

 

堀北はどこか警戒したように綾小路を見つめる

 

「あなた・・・・一体・・・」

 

「お前が知る必要はない・・・・

 

 どうせそこまでたどり着けん」

 

そう言ってハトが豆鉄砲を食らったような表情の

堀北を気にすることなく、そのまま教室を出ていく綾小路

 

「さて・・・・

 

 私も食堂に向かうか・・・・」

 

そう廊下を歩いていると

 

「あ、あの・・・」

 

不意に後ろから一人の女子生徒が話しかけてきた

 

「ええっと、綾小路君だよね?」

 

「・・・・・・確か、櫛田 桔梗だったな

 

 おんなじクラスで一人長い自己紹介してたからよく覚えてたよ」

 

綾小路は話しかけてきた女子生徒

櫛田の方を見て静かに笑みを浮かべながら言う

 

「覚えててくれたんだ」

 

「ある意味、印象深かったからね・・・・」

 

櫛田に背中を向けて顔の部分のみを櫛田に向けて話しかけている

 

「それで、私に何か用事かい?」

 

「実は・・・少し聞きたいことがあって

 

 その、ちょっとしたことなんだけれど綾小路君と

 さっきの綾小路さんとどういう関係なのかなっと思って」

 

「ふうん・・・・

 

 そんなことを聞いてどうしたいんだ?」

 

櫛田の問いに問いで返す綾小路

 

「あ、うん

 

 その、一日でも早くクラスのみんなと仲良くなりたいし

 みんなで一人一人連絡先を聞いて回っているところなの

 

 でも綾小路さんの方が人気があって、話しかけずらくって」

 

櫛田はどこか悲しそうに話をしていく

 

「綾小路さん事態はいい人だっていうことはわかるの

 

 だからまず、綾小路さんからお友達になりたいと思って」

 

「なるほど・・・・

 

 でもそれだったら私じゃなく本人に聞いてみたらいいんじゃない?」

 

櫛田の問いに綾小路はただそう冷淡に答える

櫛田はそう言われて言い返せないのか黙り込んでしまう

 

「まあ別にお前の力に

 なれないこともない・・・・

 

 私の方から彼女の方に声をかけてみるよ」

 

「本当に!?」

 

「そうと決まれば食堂に行ってみよう

 

 彼女は平田に誘われて食堂に行っているはず

 

 話の輪に積極的に加わってみるのも悪いそれではなかろう

 

 ちょうど私もそこに向かうところだ、お前さえよければ一緒に行くか?」

 

「うん!」

 

そう言って綾小路は櫛田とともに食堂に向かっていくのであった

 

・一・

 

食堂では学年や男女など

様々なグループが構成されている

 

その中には当然平田と綾小路ら

複数人のグループが集まっている

 

「そっか・・・・

 

 平田君って小学校のころから

 サッカーやってたんだ・・・・」

 

「うん、それでこの高校でもサッカー部に入ってみようと思ってるんだ」

 

「あたしは料理部に入ってみようと思ってるんだ

 

 お菓子作りとかそういうの得意なんだ」

 

「へえ、篠原さんお料理するんだ

 

 ねえねえよかったらあとで教えてくれない?」

 

「いいよー

 

 綾小路さんは?」

 

「うーん、あたしは部活はやってなかったかな

 

 得意なことはできるけどなんでもできるわけじゃないし・・・・

 

 軽井沢さんは?」

 

「え、あーうん、私は部活とかは別にいいかな

 

 特に入りたいって思う部活はないし・・」

 

そんな彼女のもとに二人の人影が近づいていく

 

「あ、私・・・・」

 

「あたし、彼女が用事があるらしいよ・・・・」

 

二人の人影は一人は櫛田で

もう一人は堀北と話をしていた綾小路であった

 

二人の綾小路ははたから見ると耳打ちを

しているかのように話しかけているので

 

はたから聞いている面々は内容が聞き取れない

 

「それじゃあ失礼・・・・

 

 楽しいおしゃべりをさくような真似をして悪いが・・・・

 

 彼女が是非ともみんなの輪に加わりたいと言っているんだ・・・・

 

 よかったら彼女の方も加えてあげてもらえないかな・・・・?」

 

「あ、確か・・・・

 

 櫛田さん、だったよね」

 

「あ、あの・・・

 

 わ、私、一日も早くクラスのみんなと

 仲良くなりたいと思ってるんだ、それでね・・・」

 

「いいよ、むしろ大歓迎!

 

 こちらこそお願い櫛田さん!!」

 

こうして櫛田もまたおしゃべりに参加することになった

 

「よろしく綾小路さん」

 

「・・・・・・うん、こちらこそよろしく櫛田さん」

 

櫛田がそう話しかけてくるのに

どこか妙な雰囲気を感じ、やや間を開けて答えた

 

「あ、そうだ!

 

 よかったら綾小路君も・・・ってあれ?」

 

櫛田は自分と一緒に来た綾小路も

おしゃべりに参加させようとする櫛田だったが

 

そこに彼の姿はなかったのであった

 

「綾小路・・・君・・・?」

 

どうにも腑に落ちなかったが

櫛田は気にすることなくおしゃべりに身を投じていくのであった

 

そのころ

 

「部活ね・・・・

 

 この高度育成学校の部活というのが

 どんなのかぜひとも見てみたいところだが・・・・」

 

するとそこにアナウンスが流れていく

 

<本日、午後五時より

 第一体育館の方にて、部活動の説明会を開催いたします

 

 部活動の所属を希望する方は、第一体育館に集合してください

 

 繰り返します、本日・・・・・>

 

そんなアナウンスが流れてくる

 

「おや・・・・

 

 ちょうどいいところに・・・・」

 

「綾小路君!」

 

「・・・・・・うん・・・・?」

 

アナウンスを聞いてその中にあった

第一体育館に向かおうとする綾小路に

 

話しかける一人の女子生徒がいた

 

「堀北か・・・・

 

 どうしたんだい・・・・?

 

 お前もここの部活動に興味があるのかい・・・・?」

 

「別に部活動に興味なんてないわ

 

 でもあなたを探していた・・・」

 

「おや・・・・?

 

 ひょっとして私と友達になりたい、なんてわけがないか・・・・

 

 それで私に何のようだい・・・・?」

 

「あなた、何者なの・・・」

 

堀北が問いかける、が

 

「・・・・・・そんな程度じゃ私のことを知るのは無理だね・・・・

 

 まあ別にその疑問にどうこう言う必要もなかろう・・・・

 

 私はここの部活動に興味がある

 君も入るとまではいかずとも見ていくだけでもよかろう・・・・?

 

 そうすればもしかしたら

 君の求めている答えにたどり着くかもしれないよ・・・・?」

 

「・・・・・・・」

 

綾小路の物言いに納得のいっていない様子の表情を見せる堀北

 

「綾小路君」

 

「うん、なんd・・・・」

 

返事をしようとした綾小路に向かって

ブンっとチョップをふるっていく堀北

 

その繰り出しは予備動作が少なく

脇腹に向かって放たれたそのチョップは

 

吸い込まれるように綾小路に放たれていったが

その一撃が綾小路の脇腹に突き刺さることはなかった

 

なぜなら

 

「っ!」

 

「へえ~・・・・

 

 実に見事な一撃だね・・・・

 

 何か習っていたのかい・・・・?」

 

堀北の腕を見事に綾小路がつかんでいたからだ

 

綾小路はつかんでいた腕をそのまま離すと

堀北は思わず彼から距離をとってしまう

 

「フフフフフフ・・・・

 

 そんなに露骨に警戒するなんて

 まるで私にとって食われるとでも思ったか・・・・?」

 

その反応に特に興味を示すことなく

綾小路は含み笑いを浮かべてつぶやくように言う

 

「それじゃあそろそろ失礼しよう・・・・

 

 部活動の説明会に興味があるからね・・・・」

 

「待って!」

 

すると堀北は思わず綾小路を呼び止める

 

「うん・・・・?」

 

「・・・・私も行くわ

 

 あなたほど、得体のしれない人間はそういない

 

 だから私が近くで見張らせてもらうから」

 

堀北がそういうと綾小路は特に興味がなさそうにため息を一つつきただ

 

「好きにするといい・・・・」

 

そう言って彼女に背を向けて

第一体育館の方へと向かっていくのであった

 

堀北も急いでその後を追っていくのだった

 

・・二・・

 

「ほほう・・・・

 

 思っていたより多いな・・・・」

 

第一体育館にやってきた綾小路はあたりを見舞わしていく

 

「あなたはどの部活動に興味があるの?」

 

「・・・・・・いいや・・・・?

 

 私自身部活動自体に入ることに興味はない・・・・

 

 ただこの学園に何か有名な部活動でもあるのかと思ってね・・・・」

 

「見たところどの部活も高いレベルのようだけど」

 

あたりを見通していく堀北

何やら気になる部を探しているようだが

 

「興味のある部活は見つかったのかい・・・・?」

 

「いいえ、気にしないで」

 

そう言っている堀北の表情は

どこか残念そうな表情を見せている

 

しばらくすると前に一人の女子生徒と

部活動の代表の生徒たちが前の壇上に並んでいく

 

「一年生の皆さんお待たせいたしました

 

 これより部活代表による入部説明会を始めます

 

 私はこの説明会の司会を務めています、生徒会書記の橘といいます

 

 それではまず・・・」

 

壇上にいる生徒たちは次々と自分の部活のことを

紹介、またはアピールしていき入部希望者を増やしていこうとする

 

「やれやれ・・・・

 

 思ったよりも興味のあるものはないな・・・・」

 

「しょうがねえと思うぞ

 

 どれもこれもありきたりな自己紹介だ・・・・」

 

すると少年の横に別の少年が来た

 

「俺・・・・?

 

 来ていたのか?」

 

「ああ、部活動っていうのが

 どんなのがあるのかって思ってな

 

 だが見てみたところそれほど関心のあるやつはねえ

 

 時間の無駄だったな・・・・」

 

「そうだな・・・・」

 

二人の少年が話しかけていると

堀北と一緒に来た方の少年がその堀北の様子がおかしいのに気が付いた

 

見ると壇上の上にいる一人の男子生徒が上がっていた

 

一年は何なんだとその男子生徒を見つめている

 

「私は、生徒会会長を務めている

 

 堀北 学と申します」

 

そう自己紹介をすると同時にあたりが静まり返る

 

「生徒会もまた、上級生の卒業に伴い

 一年生からから立候補者を募ることになっています

 

 特別立候補に資格ありませんが

 もしも立候補を考えているものが居るのなら

 部活への所属は避けていただくようお願いいたします

 

 生徒会と部活の掛け持ちは、原則受け付けていません」

 

生徒会長と名乗る男子生徒のその発言力に

その場にいた一年は瞬く間に黙り込んでしまう

 

二人の少年はそのすごみに思わず生徒会長を見つめている

 

「それから・・・私たち生徒会は

 甘い考えによる立候補を望まない

 

 そのような人間は当選することはおろか

 学校に汚点を残すことになるだろう

 

 わが高校の生徒会には、規律を変えるだけの権利と使命が

 学校側に認められ、期待されている

 

 そのことを理解できるもののみ、歓迎しよう」

 

そこまで言って生徒会長は壇上を降りていき

まっすぐそのまま体育館を出ていくのであった

 

「堀北・・・・ひょっとしてあの人は・・・・」

 

「へえ、思ったより捨てたものじゃないな

 

 この学園というのは・・・・」

 

二人の少年は生徒会長の出ていった方を見つめている

 

その後説明会も終わり

入部希望に対する説明をしたのち

 

その場で受付が開始される

 

「・・・・・・・」

 

「堀北・・・・?」

 

少年の一人が堀北に言うが

堀北に少年の声が聞こえているようではない

 

「お、綾小路じゃねえか

 

 お前も来てたんだな」

 

声が聞こえてその方を見てみると

そこには声をかけた須藤、ほかにも池と山内がいる

 

「あ、須藤君も来てたんだ」

 

するとまた別の少年が現れて三人のもとに駆け寄る

 

「あれ?

 

 二人って確か池君と山内君だよね

 

 もう仲良くなったんだ・・・・」

 

「お前もなんか部活に入るのか?」

 

「ううん、僕はただの見学

 

 須藤君はひょっとして?」

 

「ああ

 

 俺は小学校んときからバスケ一筋でやってきたからな

 

 ここでももちろんバスケに入るぜ」

 

「へえ~、須藤君っていい体つきしてるから

 運動ができるとは思ってたけれど

 

 バスケが本命なんだ・・・・

 

 池君と山内君は?」

 

「俺たちはあれさ

 

 楽しそうだから来たって感じ?

 

 あとは、運命的な出会いがあることを期待しているってのもある」

 

「うんめーてきな出会い?」

 

綾小路が聞き返すと池は誇らしげに言う

 

「俺の目標はDクラスで一番に彼女を作る

 

 それが俺の目標だ

 

 だから出会いを求めているのさっ」

 

その発言に理解がおいつかないのか

首をかしげるしぐさを見せる綾小路

 

「それにしてもあの生徒会長すげえ迫力だったよな

 

 なんか場を支配するって感じ?」

 

「だな

 

 一言も話さずに全員黙らせるなんてふつう無理だよな」

 

「そうだね・・・・」

 

すると

 

「あ、そうそう

 

 実は昨日、男子用のライングループチャット作ったんだよ」

 

池はそう言って携帯を取り出した

 

「せっかくだからお前もやらない?」

 

「え、僕も・・・・?」

 

「当たり前だろー

 

 俺たち同じDクラスなんだからさ」

 

そういうと

 

「ほほう、いいじゃないか僕・・・・

 

 ぜひお呼ばれされてもらうといい・・・・」

 

「「「うわあああ!?」」」

 

「ち、ちょっと私・・・・」

 

急にぬるっと現れた少年に

三人は大声を出して驚いてしまった

 

「いきなり現れないでよ私

 みんなびっくりしてるじゃない・・・・」

 

「びっくりしたのは私の方さ僕・・・・

 

 お前もここに来ていたなんてさ・・・・

 

 それよりも、さっきも言ったがお呼ばれされてもらうといい

 

 もしかしたら今後の学校生活において役に立つかもしれないだろ・・・・」

 

「う、うん・・・・

 

 でも僕にできるかな・・・・

 

 こういうの初めてだし・・・・」

 

「できるにきまってるだろ・・・・

 

 私が言っているんだ

 僕にできないわけがないさ・・・・

 

 むしろこれは僕だからできることだって思うね・・・・

 

 だから、この話を受けてもらうといい・・・・

 

 私の望みをかなえていくためにもね・・・・」

 

「・・・・・・うん・・・・」

 

はたから見てみると二人の少年が

お互いに耳打ちをしているように見える

 

「ええっと、その・・・・

 

 よろしくお願いします」

 

と少年が三人のもとに行って

深々と頭を下げるのであった

 

それをうっすらと

笑みを浮かべて見つめていた少年は

その一部始終を見つめてたのちそのまま去っていくのであった

 

「やれやれ・・・・

 

 どうしたもんかね」

 

すると三人の少年のうち

真っ先に出ていっていた少年が

帰り道を歩いているとそこに一人の女子生徒がいた

 

「あ、あの・・・」

 

櫛田だ

 

「櫛田か・・・・

 

 誰か待ってるのか?」

 

「うん・・・・

 

 実はね綾小路君のこと待ってたんだ・・・・

 

 ちょっと頼まれてほしいことがあって」

 

櫛田はそう言って綾小路を上目遣いで見つめる

 

「ったく・・・・

 

 なんだよ用事って・・・・」

 

綾小路はめんどくさそうに返すのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

       




Was ist eine Mädchenanfrage?


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Männliches Tier, ich habe dich warten lassen.

Freundschaft


「綾小路君

 

 ちょっとお話があるんだけれど・・・いいかな?」

 

綾小路に話しかけてきたのは櫛田

 

「・・・・・・なんだ?」

 

「え、ええっとね・・・

 

 ここじゃなんだし、場所変えない?」

 

櫛田の提案に綾小路はとりあえず承諾し

 

一通りのない場所にまで

ついていくとそこにあったベンチに並んで座る

 

「・・・・・・そんで、話って?」

 

「う、うん・・・

 

 あのね、綾小路君はさ

 堀北さんのことどう思ってる?」

 

そんなことを聞いてくる

 

「別に・・・・

 

 俺自身はあいつに興味があるわけじゃねえし

 

 そもそも、お前自身なんでそんなこと聞くんだ?」

 

「え、えっとね・・・

 

 私はやっぱり、クラスのみんなと

 仲良くなりたいって思ってるんだ

 

 それで堀北さんとも仲良くなりたいって

 何度も声をかけているんだけれどどうにもうまくいかなくって・・・

 

 そ、それでね綾小路君にも協力してもらえないかなって思って」

 

櫛田は綾小路に寄り添って見上げるようにお願いをするが

 

「断る

 

 第一俺がお前に協力する意味が分からん

 

 そもそもお前自身があいつと仲良くなろうと思っても

 結局は相手の気持ちが向いていなければ何の意味もありゃしない

 

 だいたい、仲良くなりたいから仲良くなりたいなんて

 そんなことが現実にできるんだったらそれこそ今の世の中はましになってるはずだ

 

 現状それができないからこそ争うし、ぶつかるし、殺しあう

 

 人間も畜生と何も変わりはしない、いや、人間自身も畜生なんだよ」

 

綾小路はうっとおしそうにそう冷たく櫛田に言い放つ

 

「そうかな?

 

 ちゃんと向きあえばきっと仲良くなれるよ

 それにね、私は綾小路君とも仲良くなりたいんだよ?」

 

そう言って綾小路の手をぎゅっと握りしめる

 

「ふう・・・・

 

 別に俺はお前と特別

 仲良くなりたいとは思わない

 

 まあせいぜい、あきらめずに挑戦してみることだな」

 

「どうしても・・・ダメ?」

 

櫛田は訴えるが綾小路は変わらず

 

「それはあくまでお前と堀北の問題だ

 俺が口出しをしていいことにはならない

 

 どのみち俺はお前の力にはなれん・・・・

 

 悪いがお前の力で頑張ってくれ」

 

そう言って立ち上がって

櫛田に背中を向けて寮に戻っていくのであった

 

・1・

 

「・・・・・・・・・・」

 

図書館において本を見ている綾小路

 

「ふうん・・・・

 

 教科書以外の本なんて

 見たこともなかったが・・・・

 

 案外こういうのも悪くないな・・・・」

 

本を見ながらそんなことをつぶやくと

 

「まったく・・・・

 

 どうしてこうにも

 嫌な偶然は重なってしまうのかしら・・・・」

 

そこに堀北が通りがかった

 

「おや・・・・?

 

 堀北じゃないか・・・・

 

 こんなところに何のどうだい・・・・?」

 

「別に用事なんてないわ

 

 ただ静かな場所を探していただけ」

 

「ふうん・・・・

 

 それで普段は人のにぎわうことのない

 この場所に来たというわけなのかい・・・・」

 

「ええ

 

 それに前に来た時

 気になる本を見たからそれを借りにね」

 

堀北はそう言って綾小路に背中を向けておくに行こうとすると

 

「読書が趣味なのかい・・・・

 

 思っていたより趣味があったんだね・・・・

 

 その趣味を通じて仲のいい友達でも作ればいいだろうに・・・・」

 

「おあいにく様

 

 私は別に友達を作りたいと

 思ったことはないし一人をさみしいと思ったことはない

 

 そもそも趣味を通じて仲良くなれるなんて確率があるとも限らないでしょ」

 

「ふうん・・・・

 

 まあそれは別にお前の自由だ・・・・

 

 私が強制することじゃないからね・・・・

 

 私だって別にクラスとなじみたいわけじゃない

 あくまで誰かにとやかく言われるのが嫌なだけさ・・・・」

 

「まあもっとも

 私があなたと仲良くできないという確かな理由が一つある

 

 私はあなたという人間が理解できない

 理解できないものをどうにかしたいとも思わない

 

 それが理由よ」

 

「まあ、私のことをどう思おうとお前の自由だからね・・・・」

 

そう言って読書を再開する綾小路

その彼の方を向くことなく奥に行く堀北であった

 

・・2・・

 

教室に六人の人物が

一つの机に六人の人物が集まっていた

 

「ふうん・・・・

 

 つまり、私は堀北ちゃんに

 警戒されてしまっていると

 

 まあ、私の性格からしてあり得るけどね」

 

「そういや櫛田ってやつが

 その堀北と仲良くなりたいって言ってやがったな・・・・

 

 クラスのみんなと仲良くなりたいって言ってやがったが・・・・」

 

「まあいいじゃねえか俺

 

 そいよか今日はさプールってのがあるんだろ?

 

 どうしたらいいと思う?」

 

「ま、まあ参加は自由っていうし

 無理して入る必要はないと思うけど・・・・」

 

「・・・・・・・・・・」

 

すると教室の扉がガラッと開くと

 

「おはよう山内!」

 

「おはよう池!」

 

満面の笑みであいさつを交わす池と山内

 

「いやー、今日の授業が楽しみで全然眠れなかったぜ」

 

「なはは

 

 この学校は最高だよな

 まさかこの時期から水泳があるなんてさ!

 

 水泳って言ったら女の子、女の子といえばスク水だよな!」

 

そんな話を大声で言っている

 

それを見て女子たる少女は

ドン引き気味ほかの女子生徒も同様であった

 

「おーい、博士!

 

 ちょっと来てくれよ!!」

 

「フフッ、呼んだ?」

 

そう言って太目の男子生徒が

池達の元に歩いているのだった

 

「博士、女子の水着ちゃんと記録してくれよ?」

 

「任せてくだされ

 

 体調不良で授業を見学する予定ンゴ」

 

「記録?

 

 なにさせるつもりだよ」

 

「博士にクラスの女子のおっぱい大きい子ランキングを作ってもらうんだよ

 

 あわよくば携帯で撮影とかもな」

 

「・・・おいおい」

 

あまりの発言に男子たる須藤もやや引き気味である

少年たちはそれを見て、三人は理解できないと首を振り

 

残る二人のうち一人の少年はドン引き気味

残ったもう一人の少年の方はそもそも表情が読めない

 

すると

 

「ずいぶんと楽しそうな話をしているじゃない

 

 あなたもあの中に入ってきたらどうかしら?」

 

そこに現れたのは堀北であった

 

「堀北か・・・・」

 

「輪に加わりたいなら入れてって言って入れてもらえればいいじゃない」

 

「お前だって何も思わないわけじゃないだろう・・・・

 

 はっきり言ってあの会話の内容に入っていこうと思わん・・・・」

 

「まああなたの言っていることhさもっともだけれど

 

 そういうのでもいいから会話の輪に入ってみるのは

 仲良くなるきっかけになると思うのだけれど」

 

「だったらお前が行ってみるか・・・・?」

 

「いや」

 

「私も同じだ・・・・」

 

そんな会話を繰り広げる綾小路と堀北

 

「おーい、綾小路!」

 

池がそう言って綾小路を手招きする

 

「お前も参加しn・・・」

 

「断る」

 

「・・まだ話途中なのに!?」

 

池の言葉を最後まで聞くことなくバッサリと断る

 

「俺にはそう言うのがよくわからん・・・・」

 

「何言ってんだよ、プールっていえば女の子

 女の子って言ったら水着、水着と言ったらお尻とおっぱいだぜ」

 

「・・・・・・言いたいことは分かるが共感はしたくないな・・・・」

 

あきれた様子でため息をつく

 

「じゃあさじゃあさ、綾小路はさ

 ぶっちゃけ誰が好みだと思うんだ?」

 

「好み以前の問題に

 俺はクラスの女子ともろくにしゃべったこともないんだが・・・・」

 

「俺は絶対に、長谷部だって思うぜ」

 

胸を張って言い切る池

それに続いて言ったのは

 

「俺は佐倉が一番大きいと思うぜ」

 

山内だった

 

会話についていけない綾小路

 

その様子を見四人の少年と一人の少女

 

「俺も大変だね・・・・」

 

「あはは・・・・」

 

机で本を見ている少年の言葉に少女は

ドン引きとあきれのこもった笑いを浮かべるのであった

 

・一・

 

プール

 

そこでは池と山内の二人が落ち込んでいた

 

その理由は

 

「どうやらお目当ての女子は不参加のようだな」

 

「大体あんな話を大声でしているから

 変に警戒されるんだよ、まったくもう」

 

「まあかくいう俺は不参加だが・・・・

 

 しっかし驚いたな、まさかあたしは

 ともかく私もあそこに参加しているとはな・・・・」

 

「・・・・・・・・・・」

 

池と山内の話の中にあった長谷部と佐倉が見学組に入っているようである

 

「池、悲しんでる場合じゃないぜ

 

 なんてったってまだたくさんの女子たちがいるっ!」

 

「そ、そうだな

 

 確かにそうだ

 

 俺達にはまだ希望がある」

 

「「来い女子!!」」

 

急に顔を上げては笑顔になり

手を取り合っていくのであった

 

「池君と山内君は面白いね

 

 さっきまで落ち込んでと思ってたら

 急に元気になって、二人とも元気なんだね」

 

するとそこに現れたのは

 

「本当だね、二人とも何話してるの?」

 

「う、うおお!?」

 

水着に着替えた櫛田ともう一人の少女であった

 

水着姿の櫛田は制服姿でも

はっきりとわかるほどの妖艶な体のラインが浮き彫りになっている

 

男子の大半は櫛田のボディラインにどうしても目をやってしまう

 

「それにしても広いねこの学校のプール

 

 こんなに広いなんてあたしびっくりした」

 

「う、うん、そうだね」

 

少女がプールの方を見て言うと櫛田がそう返してくる

 

「それにしても綾小路さんってスタイルいいんだね

 

 スレンダーで余計な肉が付いていないって感じがする」

 

「えー櫛田ちゃんだって

 

 胸も大きいしウェストだって細いじゃない」

 

そんな会話をしている櫛田と少女

 

「「うおお!!」」

 

二人の方を見て興奮冷めやらない池と山内

 

「・・・・・・・」

 

一方成り行きで櫛田と少女とともに

やってきた堀北自身はその様子にあきれている

 

「ほほう・・・・

 

 お前も参加するんだな・・・・」

 

そういうと男子更衣室の方から

一人の男子生徒が歩いてくる

 

「お前の性格からして

 てっきり参加しないものだと思っていたけど・・・・」

 

その男子生徒は、綾小路であった

 

堀北は綾小路の体をじっと見つめていた

 

「おや・・・・?

 

 どうかしたのかな・・・・?

 

 私のことをじっと見つめて・・・・」

 

「綾小路君、あなたやっぱり何か習っていたでしょ」

 

「別に・・・・

 

 運動はできないわけじゃないが

 だからと言って抜群というほどでもないよ・・・・」

 

「それにしては前腕が発達してるし

 背中の筋肉も、普通じゃないわよ?」

 

「フフフフフフ・・・・

 

 やっぱりお前は武道の心得があるんだね・・・・

 

 しかし、これはあくまで生まれ持って得たものさ

 ただ私の今までの日々が自然とこの体を完成させた・・・・

 

 それこそ、地獄のようなね・・・・」

 

「地獄のような日々、ですって?」

 

「詮索されるのは好きじゃない・・・・

 

 話せるのはここまでだよ堀北・・・・」

 

「そう・・・」

 

すると

 

「ねえねえ堀北さん!

 

 堀北さんは水泳って得意なの?」

 

櫛田と出てきた少女の綾小路が

堀北に向かって話しかけてきた

 

「得意でも不得意でもないわ」

 

「そうなんだ

 

 でも堀北さん運動できそうだよね

 

 足とかキュッとしまってて

 体つきの方もバランスが取れてるみたいだし」

 

「ありがとう」

 

自分の体のことを褒められて

堀北は少し困惑しながら早々に話を切り上げていく

 

「綾小路さんってすごいなぁ

 

 私も堀北さんと仲良くなりたいのに」

 

「ううん、大したことなんてしてないよ

 

 あたしはただ思ったことを話しただけだよ

 櫛田さんも思ったこと我慢しないで素直に言えばいいんだよ」

 

少女の綾小路がそういうと

櫛田の表情が一瞬だけ曇ったように感じた

 

するとそこに

 

「よーし、お前ら集合しろー!

 

 見学者は16人か、まあいい」

 

水泳の教師が一同に呼びかけていく

 

「早速だが準備体操が終わったら実力が見たい

 

 男女別50m自由形だ、一位には特別ボーナス

 5000ポイントを支給する、遅い生徒は補修だ

 

 今泳げなくても夏までには泳げるようにしてやるぞ!

 

 あとで絶対に役に立つからな!」

 

教師の言葉に綾小路は何かを感じる

 

「後で役に立つ、ね・・・・」

 

そのつぶやきは結局誰の耳にも入らなかった

 

「女子は人数が少ないから、5人を二組に分けて

 一番タイムの早かった生徒の優勝にする

 

 男子はタイムの早かった上位五名で決勝をやる」

 

と説明していく

 

男子16人と女子10人が参加し

まず初めに女子の方から始めていく

 

「櫛田ちゃん櫛田ちゃんはあはあはあ・・・・・」

 

池はどうやら櫛田に骨抜きにされてしまった様子

 

「なあ綾小路!

 

 櫛田ちゃんくっそかわいいよな!?

 

 おっぱいもすっげえでかいし」

 

「へえ・・・・」

 

おそらくこの場にいる男子のほとんどの視線を集めたのは櫛田だろう

 

堀北自身も顔たちは整っているのだが人とかかわろうとしない性格が

災いして人気自体は低め、同じくスタートラインに立った櫛田に持ってかれている

 

かの櫛田は応援している男子に向かって笑顔で手を振る

 

「みんな、目に焼き付けろよ!

 

 今日のおかずを確保するんだっ!!」

 

「「おう!」」

 

男子の異様な結束に

綾小路はついていけていない様子で

やれやれと言った感じで手を頭に抱えるのであった

 

まあ最も平田のみは女子をそんな目で見ていないようだが

 

「おお~・・・・」

 

綾小路はその見事な泳ぎっぷりに静かだが素直に感心する

 

続いて第二レースにおいては少女の綾小路の姿もあった

 

彼女は男子の目を特に気にすることなくそのままスタートして見せた

 

「「うひょおおおおお!!!!!」」

 

だが男子たちの方はそんなものに

目もくれずに女子の水着姿に興奮していた

 

記録の方は水泳部の小野寺が26秒と一位

女子の綾小路の方は堀北と同じ28秒だが

わずか0、3秒の差で堀北の勝ちであった

 

ちなみに櫛田は31秒台

 

「まったく・・・・

 

 随分とはしゃぎすぎじゃないか・・・・?」

 

「あはは・・・・

 

 こんなに広いプールで泳げるなんて

 初めてだからちょっと楽しくなっちゃった」

 

「あまり目立つようなことはしないでくれよ・・・・」

 

「それは私の頑張り次第かな?

 

 頑張ってね」

 

「はあ・・・・」

 

少女と少年は耳打ちするようにそんな会話をする

その後少女は女子のもとに向かっていくと今度は堀北が来た

 

「ずいぶんと仲がよさそうね

 

 あの女の子の綾小路さんと」

 

「何をムキになっているんだ・・・・?

 

 勝ったんだから張り合うこともないだろう・・・・」

 

「私のことよりあなたの方はどうなのよ」

 

「知らん・・・・

 

 上位になるつもりもないが

 ビリになるつもりもないよ・・・・

 

 面倒なのは嫌いだからね・・・・」

 

「そうなの、まあせいぜい頑張るのね」

 

そう言って堀北は女子のところに戻っていくと

 

「あ、堀北さん」

 

女子の綾小路に話しかけられた

 

「堀北さんって泳ぐのすっごく得意なんだね

 

 あたし、びっくりしちゃった」

 

「そう、ありがと」

 

そう言って会話を切ってしまう堀北に

やや困惑するように苦笑いを浮かべるのであった

 

綾小路は第一コースの方に立ち

ホイッスルとともに飛び込んでいく

 

結果は隣にいた須藤のぶっちぎりの勝利だった

 

25秒台とかなりのいい記録だ

ちなみに綾小路は28秒台と良くも悪くもない結果だった

 

「おーまあまあじゃない?」

 

「あたしははしゃぎすぎだ・・・・」

 

女子の綾小路と男子の綾小路が

すれ違いざまにそんな会話をしていく

 

次は平田が行くことになって

女子から黄色い声援が響いていく

 

きれいなフォームに力を入れすぎないほどの

程よい力で水をけって華麗な泳ぎを見せていく

 

「ふうん・・・・

 

 思ってたよりも速いね・・・・」

 

池が平田のタイムを聞いてくる

聞いたところによると26秒13とのこと

 

それに対して須藤は水泳は遊びと

言っていたのにいつの間にかむきになっている

 

一方の平田は女子に囲まれている

 

「あの泳ぎのフォームも

 形になっていたし水をうまくけってたし

 

 すごいよ平田君」

 

「え、そ、そうかな?

 

 ありがとう」

 

女子の綾小路に素直に称賛されて

少し照れ臭そうに頬をかく平田

 

「ちょっと綾小路さん

 

 平田君に色目使わないでよ!」

 

すると一人の女子が食って掛かる

 

「ご、ごめん・・・・

 

 あたしはただ素直にほめただけだから

 そういうつもりじゃなかったんだけれど・・・・」

 

「ちょっと!

 

 綾小路さんをいじめないでよ!!」

 

「何よ!」

 

いつの間にか女子が二手に分かれてしまい

それを平田と女子の綾小路がいさめていくが

 

それを止めたのは

 

「やめたまえ、私をめぐって争いをするのは

 

 私はみんなのものなのだよ

 

 仲良く見ていたまえ

 

 真の実力者が泳げば、どうなるのかを」

 

高円寺であった

 

彼の発言によって騒がしかった女子が

瞬く間に静かになって、乾いた返事とともに

 

そそくさと女子の控えのところに座っていくのであった

 

「おお、高円寺君もいい体つきしてるね

 

 泳ぎは得意なの?」

 

「フフフ、この私にできないものなどないさレディー

 

 まあそこで見ていているがいいさ」

 

普通に接する女子の綾小路

高円寺はそのままスタートのところに行く

 

「な、なあ・・・

 

 なんで高円寺の奴、ブーメランなんだよ・・・」

 

「さ、さあ・・・」

 

池と山内はそんなことを言っていた

 

そしてスタートすると男女ともに驚愕の声が上がる

 

さらに驚愕したのは生徒たちだけではなく

 

「23秒22・・・・だと!?」

 

「フフフフフ

 

 いつも通り私の腹筋、背筋

 大腰筋は好調のようだ、悪くないねぇ」

 

高円寺はそう言って上がって髪をかき上げて余裕の笑みを浮かべる

 

その表情に疲れというものは感じさせない

 

「すごいよねあの高円寺くんって人

 

 これ大会だったら新記録ものかも」

 

「さすがの私もあれには驚きだね・・・・」

 

綾小路は高円寺の高スペックに素直に驚きを見せていたのであった

 

女子の綾小路が男子の綾小路の隣に座り込む

 

「それで?

 

 結果私は上位五位にも

 ビリにもならなかったってことか」

 

「別に運動は嫌いではないが

 競い合うことはそれほどに興味はないさ・・・・

 

 別にそれほど関心もあるわけじゃないしね・・・・」

 

二人の綾小路は話をしていると

そこに声をかけてくるものがいた

 

「二人は仲がいいんだね

 

 同姓同名みたいだし気が合ってるのかな?」

 

「あ、櫛田さん」

 

「おや・・・・?

 

 わざわざここまで来てくれるとはね・・・・」

 

櫛田であった

 

「楽しみだね二人とも

 

 高円寺君とか須藤君とか

 すっごい速かったもんね」

 

「そうだね」

 

「まあ私としては見ているだけの方が楽だし

 選ばれなくてせいせいしているけれどね・・・・」

 

すると女子の綾小路が口を開く

 

「それにしてもこのプールって広いよね

 

 あたし、こんなに広いところで泳ぐのなんて初めて」

 

「そうだね

 

 私も最初見たときびっくりしちゃった

 それにしても綾小路君って泳げるんだね」

 

「普通だよ・・・・

 

 運動自体にも興味があるわけじゃない・・・・」

 

「そうなの?

 

 でも綾小路君も綾小路さんも

 体つきはしっかりしているよね?

 

 なんだか須藤君よりもしっかりしているように見えるけど・・・」

 

櫛田はまじまじと綾小路の体を見つめる

 

「別に大したものじゃないさ・・・・」

 

とやや静かに答えていく男子の綾小路

 

すると

 

「うおおい!

 

 綾小路何やってんだ!!」

 

どうやら話し込んでいる間に

高円寺の圧勝で幕がおりたらしい

 

すると池が鬼のような形相で男子の綾小路に詰め寄っていく

 

「なんだ・・・・?

 

 別に何もやって・・・・」

 

「やってたじゃねえかよ

 

 いいからちょっとこっち来い」

 

と男子の綾小路を連れ出す池

 

「櫛田ちゃん人気だねー」

 

「え?」

 

女子の綾小路は櫛田と仲良く話している

男子の綾小路に池が嫉妬しているのだと思ったが

 

池から発されたのは意外な言葉だった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「綾小路ちゃんは俺が狙ってんだから邪魔すんなよな!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「・・・・・・え!?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

       




Hä! Was?


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「桔梗ちゃん

 帰りにカフェに寄っていかない?」

 

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 あ、でもちょっと待ってね

 

 もう一人誘ってみるね」

 

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「堀北さん

 

 よかったら一緒にどうかな?

 

 これから友達と一緒にカフェに行くんだ」

 

「興味ないから」

 

堀北だった

 

そして堀北は櫛田の誘いに

間髪入れずに断わりの話を入れる

 

「そっか・・・じゃあ、また誘うね」

 

「櫛田さん・・・」

 

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「もう私を誘わないでくれる?

 

 迷惑なの」

 

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「また誘うね」

 

そう言って誘ってくれた友達のもとに行くと

 

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「私はどうやら堀北ちゃんに興味があるんだね」

 

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「そうか?

 

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 まあ別に仲良くなりたいとも思わないけどな」

 

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「・・・・・・・・・・」

 

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 残念ながら私にできることはない・・・・

 

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 行ったって聞かないからね、ああいう人間は・・・・」

 

「それは、そうだけど

 

 でもやっぱり僕としては

 みんなで仲良くやっていきたいって思うんだ

 

 僕は絶対にこのクラスでいじめを起こさせたりしたくないし」

 

「いじめ、て・・・・

 

 急に飛躍しすぎだな

 

 だがまあ、確かにありうるかもしれないな」

 

すると平田の横から少年が話しかける

 

「まあ堀北自身がその気がないのなら

 今言ったところで意味はないだろう・・・・

 

 何かきっかけが必要かもね・・・・」

 

「きっかけ?

 

 どんな風な?」

 

「残念だがそれに関しては答えかねる・・・・

 

 何か堀北自身の心身に大きな影響を及ぼせる何かが起こらないとね・・・・」

 

そういうと少年の綾小路は立ち上がって平田の横を通り過ぎていく

 

「まあやってみるだけやってみるよ・・・・

 

 君だって部活やクラスのことで大変かろう・・・・?

 

 あんまり煮詰めない方がいい・・・・

 

 でないと君自身が倒れてしまうかもしれないからね・・・・」

 

「う、うん

 ありがとう」

 

と教室を出ていく少年の綾小路

それについていくように先ほど

平田の横から話しかけてきた少年も

 

ついていくように出ていくのであった

 

「きっかけ、か・・・・」

 

洋介は考え込むようにつぶやくが

その彼の肩にポンっとやさしくたたいた者がいた

 

それは

 

「よかったらちょっと付き合わない?」

 

女子の綾小路であった

 

・一・

 

そのころ

 

「おい綾小路

 

 正直に言え、言ってくれ」

 

「・・・・・・・・・・

 

 なんだいきなり・・・・?」

 

少年は学校から出ていくとそこに

池、山内、須藤の三バカが待ち伏せしており

 

今絶賛、尋問中であった

 

「俺たち友達だよな

 三年間苦楽を共にする仲間だよな?

 

 だったら俺より先に彼女できたなんて抜け駆けはしないよな?」

 

「・・・・・・話が見えないが・・・・」

 

すると池は綾小路の首を

ホールドしひそひそと話しかけていく

 

「プールの時に言ったじゃねえかよ

 

 綾小路ちゃんは俺が狙ってるんだって

 それなのにお前その綾小路ちゃんだけじゃなく

 堀北とも仲良くおしゃべりしやがって

 

 どういうことか説明しろ」

 

「・・・・・・はあ・・・・」

 

めんどくさそうにため息をつく綾小路

 

「それでお前はどっち狙ってんだよ

 

 堀北か?、堀北だよな?」

 

「なぜ堀北を強調するんだ・・・・?」

 

なぜか堀北であってほしいという表情を見せる池に

綾小路はまたもめんどくさそうな表情を浮かべていく

 

「俺は嫌だねああいう女は」

 

「そうだよなー

 

 付き合うんだったら

 自然と話せる相手がいいよな

 

 櫛田ちゃんとか綾小路ちゃんみたいに」

 

「頼むから櫛田の方に移ってくれ・・・・」

 

綾小路はつぶやくように言う

 

「俺は断然櫛田ちゃん狙いだな

 

 綾小路ちゃんもかわいいと

 思うけれどやっぱ胸が小さいし」

 

「そりゃ俺もおんなじ意見だけどさ

 

 でも綾小路ちゃんはさ、なんか人間的な

 魅力な感じがしてなんか好感が持てるっていうかさ」

 

そんな議論をしていく池と山内

 

「須藤はどうよ

 

 バスケ部にもかわいい子とかいるだろ?」

 

「あ?

 

 俺は別に・・

 

 つーか新入部員にんな余裕ねーよ」

 

須藤はそっけなく答える

 

「まじかよ・・・」

 

「とーにーかーく!

 

 彼女ができたら隠さず報告すること!

 

 いいな!

 

 絶対だぞ!」

 

「・・・・・・騒がしいねまったく・・・・」

 

耳をふさぐようなしぐさを見せる綾小路

 

「そういや綾小路ちゃんって

 平田とも仲いいんだよな

 

 くーいいなーイケメンは!

 

 でもまあ、平田にはもう彼女いるし

 俺にももちろんチャンスあんだろ!」

 

「ああ・・・・

 

 そういえばそんなこと言ってたっけ・・・・?

 

 確か、軽井沢って子とだったね・・・・」

 

綾小路はそんな会話をしていく

 

「やっぱエッチとかしてんのかなー」

 

「そりゃしてんだろ!

 

 あーうらやましい!」

 

それを聞いてややあきれたような表情を見せていく

 

「まあいいさ・・・・

 

 別に私自身は堀北とそんなに親しいわけでもないし・・・・

 

 残念ながら君たちの満足のいく話は残念ながらできないね・・・・

 

 それじゃあ私自身は失礼させてもらうよ・・・・」

 

そう言って手を振って去っていく綾小路

 

「なんかあいつ、変わってるよな?」

 

「だな」

 

三バカはそんなことを言っていた

 

・1・

 

そのころ別の場所では

 

「・・・・・・・・・・」

 

綾小路が歩いているとそこには櫛田がいた

 

「待ってたんだよ綾小路君

 

 ちょっと話がしたくって・・・」

 

「お前確か友達とカフェに行ったんじゃねえのかよ・・・・」

 

うんざりした様子で櫛田と話をする綾小路

 

「この前の話なんだけれど・・・」

 

「はあ、確か堀北と仲良くなりたいんだって?

 

 前に相手にその意思がないと

 何やったって意味ないって言ったろうが」

 

やや突き放し気味に言う

 

「でもこのままだと堀北さん

 独りぼっちになっちゃうよ

 

 それを黙ってみているなんて私にはできないよ」

 

「だからってなんで俺なんだよ・・・・」

 

引き下がらない櫛田に綾小路はやや困惑気味である

 

「だって綾小路君・・・・堀北さんと仲良く話してるし」

 

「席が隣なだってだけだ

 

 別に仲がいいわけでもない」

 

「そうかな?

 

 でも堀北さんだって

 綾小路君以外の人と話したところ見てないし・・・」

 

「口開いたら辛辣な言葉のオンパレードだけどな」

 

綾小路は話を切り替えるために一旦単話を区切った

 

「教室で堀北に釘を刺されていたろう

 

 次は何言われるのかわかったもんじゃねえぞ」

 

しかし櫛田は綾小路の手を握って上目遣いで見つめる

 

「だめ・・・かな?」

 

「俺じゃ力にはなれねぇ

 

 平田あたりにでも頼んでみたらどうだ?」

 

よく見ると櫛田の目元には涙が浮かんでいる

 

「わかった・・・

 

 ごめん・・・なさい・・・

 

 綾小路君のこと・・・考えずに・・・

 

 無理にお願いしちゃって・・・」

 

声がぐずり始める

綾小路は不意に周りから何やら妙な目で見られているのを感じ始めた

 

「お、おい泣くなよ泣かないでくれ

 むしろ泣きたいのはこっちだよ・・・・

 

 わかったわかった!

 

 俺もできる限り協力するから、これでいいだろ?」

 

「ほんとに?

 

 ありがと綾小路君」

 

綾小路が慌てて承諾すると

先ほどまでの泣き顔が嘘のように

 

かわいらしい笑顔を浮かべていた

 

それを見て自分は騙されているのでは

と思い込んでしまうもとりあえずそれは置いておいた

 

「それで?

 

 具体的にはどうすりゃいいんだ?」

 

櫛田の考えを聞いてみることにする綾小路

 

「やっぱりまずは堀北さんの笑っている顔を見てみたいな」

 

「笑っている?

 

 堀北がか・・・・?」

 

綾小路は櫛田の作戦自体は悪くないと踏んだが

問題はあの堀北がどうやったら笑顔になるかである

 

「考えとかあるのか?」

 

「それは・・・綾小路君に会ったら一緒に考えてみようかなって思ってて・・・」

 

櫛田はそう言うとてへっとグーで自分の頭をこつんと小突く

その表情にあきれを覚えた綾小路はしばらく黙り込んでしまう

 

「そんで堀北をどうやって誘い出してみるんだ?」

 

「とりあえず放課後綾小路君が堀北さんに声をかけて

 場所はそうだな・・・バレットとかどうかな?

 

 あそこだったら人が多いから誘いやすいかもだから」

 

「うーん、どうだろうな

 

 あいつ見た感じ騒がしいところが

 苦手っぽいし、逆に静かなところがいいんじゃないか?

 

 しかし放課後だとどこも人が多いと思うしな・・・・」

 

「そうだね」

 

考え込む二人

 

「そうだ!

 

 櫛田の友達に協力を頼んでみたらどうだ?

 

 櫛田が直接頼んでみたら断りを入れられそうだし

 まずどこかの席に座っていてもらってそれから自然な感じで

 入れ替わってそれから見たいな感じでさ・・・・」

 

「そっか・・・

 

 綾小路君って頭いいんだね」

 

櫛田が屈託のない笑顔で綾小路を称賛する

 

「まあそう簡単に言ったらいいんだがな・・・・」

 

「でもきっと大丈夫だよ綾小路君の考えた作戦だったら」

 

その言葉にうれしさよりも困惑を覚える綾小路

 

「しっかしまあそう簡単にはいかないだろうな

 

 あいつは誰に対しても遠慮しねえし・・・・」

 

「でも堀北さんって綾小路君とよく話してるよね?」

 

「席が隣ってだけだろ」

 

「そうかな?

 

 堀北さんはたぶん綾小路君のこと信頼していると思うけれどな」

 

なぜか根拠のない信頼が構築されて行っている

感じがしてならないように思う綾小路だった

 

「ただの偶然だろうが」

 

「でも人の出会いっていうのはいっつも偶然だと思うけど

 

 そしてその偶然の出会いがやがて

 友情、愛情・・・恋人そして家族になっていくんだって私は思うんだけれどな」

 

「へえ・・・・」

 

櫛田の言葉に不思議と納得を覚えてしまう綾小路であった

 

・・2・・

 

「ねえ、平田君・・

 

 なんで綾小路さんが一緒なの?」

 

「う、うん・・・

 

 一緒にクラスの今後のこととか

 相談に乗ってもらおうと思ってね・・・」

 

平田ともう一人女子生徒が来ており

二人と向かい合うように少女の綾小路が座っていた

 

「フフフフフフ・・・・

 

 平田君と軽井沢さんが

 付き合ってるって噂、本当だったんだね

 

 男の子たちがうらやましいってつぶやいてたよ?」

 

綾小路が二人に言う

 

「え・・・それ本当に」

 

「ほらやっぱりばれてたみたい

 

 あたしらが付き合ってること」

 

そう言って平田の腕を組む軽井沢

 

「平田君も軽井沢さんも

 学校生活を満喫してるみたいだね」

 

「そうでもないかな

 

 あたしとしては

 もっとポイントが欲しいって感じかな

 

 10万じゃ全然足りないよ・・」

 

「僕はちょっと怖いかな

 このままの生活を続けていたら

 

 卒業した時困るんじゃないかなって」

 

軽井沢と平田はそれぞれの意見を述べる

 

「やっぱり人によって感覚っていうのは違うんだ・・・・」

 

その様子を見てなるほどと考える綾小路

 

「綾小路さんはどう思う?

 

 10万ポイントって多い?、少ない?」

 

「うーん

 

 どっちでもないかな

 

 だってまだ実感がないし・・・・」

 

綾小路の意見に平田は同意の言葉を投げかける

 

「そんなことないって

 

 あたしとしてはここに入学できてよかったって思ってるし」

 

「だけどどうにも腑に落ちないんだよね

 

 だっていくら何でも自由すぎるっていうか

 いくら校風が自由だって言ってもいくら何でも学校の対応がなさすぎるって思うし

 

 もしかしたらあたしたちも知らない何かのルールがあるんじゃないかな・・・・」

 

綾小路は疑問の言葉を言う

 

「どういうこと?」

 

「もしかしたら学校は試しているのかもしれない

 

 私たちがこの10万ポイントをもって

 そのうえでどんな学校生活を送っていくのか

 

 そのうえであたしたちのことを測っているのかもしれない・・・・

 

 二人も知ってるでしょ?

 

 この学校の施設内にはいたるところに監視カメラがある

 

 あのカメラはいじめとかカツアゲとかそういうのから

 目を離さないためだってみんなは思ってるみたいだけれど

 

 あたしはもっと別の理由があるのかもしれないって・・・・」

 

綾小路の言葉に思わず聞き入る平田と軽井沢

 

「別の理由・・・・?

 

 それっていったい・・・・」

 

平田は恐る恐る聞くのだが

 

「・・・・・・さあ?」

 

「「え!?」」

 

綾小路のあまりにも素っ頓狂な返答に

二人は思わず変な声を上げてしまうのであった

 

「あたしだってそれについて確信があるわけじゃないしね

 

 でもきっと私の推測があっているか間違っているかはすぐにわかると思う

 

 来月くらいにね」

 

そう言って立ち上がって去っていく綾小路であった

 

「いったい何が言いたいのよあいつは・・」

 

「・・・・・・・」

 

軽井沢はわけわかんないと言わんばかりに

去っていく綾小路を睨みつけていたが

 

平田の方は驚きと関心が入り混じった表情を見せていたのであった

 

・・二・・

 

翌日の放課後

 

一人の少年のもとに

別の少年が現れる

 

「俺じゃないか・・・・?

 

 どうしたんだいこんなところまで・・・・」

 

「私にじゃねえ

 

 堀北に用事があんだよ」

 

そんなやり取りをかわすと

やってきた少年は机に座っている少年にバトンタッチをする

 

「堀北・・・・

 

 話がある・・・・」

 

「私自身はないわ

 

 話しかけないでくれる?」

 

堀北は歯に衣を着せずに言う

 

「ああ、少し付き合ってほしいんだけどさ・・・・」

 

「・・・・何が狙い?」

 

「・・・・・・私が誘ったら狙いがあるとでも思っているのか・・・・?」

 

「突然誘われたら疑問を抱くのは当然の流れじゃないかしら?

 

 それに、あなたは今の今までそんなそぶりを見せもしなかったくせに」

 

堀北は追及を始めていくが

綾小路は少々間を開けて言う

 

「・・・・・・まあ残念ながらお前に用事があるのは私ではない」

 

すると堀北の後ろから誰かが歩み寄ってきた

 

「ちょっと付き合ってもらいたいところがあるんだが

 

 少しの時間でもいい、ついてきてもらえないか?」

 

「っ!」

 

不意に話しかけられ後ろを振り向くと

そこにいたのは紛れもない綾小路だった

 

だが先ほどまで話し込んでいた綾小路とは

雰囲気が何か違うように感じ、警戒心をあらわにする

 

「あなた何者・・・?

 

 さっきまで隣に座ってたと思うんだけれど・・・」

 

「それは私のことか・・・・?」

 

すると隣の席に座っていたのは

紛れもない綾小路だった、容姿が全く一緒だった

 

だがまとっている雰囲気が違う

 

だが堀北はあえてその疑問を置いておこうとし

二人はただうり二つなのだと答えをとりあえず出す

 

堀北は落ち着きを取り戻すように一息つく

 

「それで、私に何の用かしら・・・」

 

動揺を悟らせないように後ろの綾小路に話しかける

 

「別に

 

 学校のことをいろいろ回っていくついでに

 今人気のカフェがあったんだが

 

 いかんせん女子の割合が高いから

 男一人だとなんだか行きずらくってさ

 

 少しついて言ってもらいたいって思ってな・・・・」

 

「ああ、あそこね

 

 でも確かにあそこは

 女子の割合が多いとは思うけれど

 

 だからって男子だって利用していると思うけど」

 

「まあ確かにそうなんだけどさ・・・・

 

 でも要るっつってもカップルや

 仲のいい男女ばっかりでさ

 

 男一人で行ってるってことはないって思うんだが」

 

そういわれると堀北は考えるそぶりを見せる

 

「あなたの意見にも一理はあるわ・・・」

 

「興味はあるんだよ、一緒に行ってくれるだけでいいから」

 

「だったら二人で行って来たら?」

 

「男だけっていうのはいずらいだろう・・・・」

 

「断るって言ったら?」

 

「それはそれで別にいいさ・・・・・・

 

 俺自身はお前のプライベートに干渉するつもりはない」

 

「・・・・わかったわ、確かに男だけじゃ利用しにくいっていうのは本当のようだしね

 

 でもあんまり長い時間は取れないわよ」

 

「それでいいさ・・・・」

 

こうして綾小路はもう一人の綾小路の方に

一礼するとそのまま教室を出ていってしまうのであった

 

なんやかんやあってカフェについた二人

 

「すごい人数ね」

 

「やっぱりにぎやかだな・・・・」

 

放課後に初めて利用する二人はその騒がしさに圧巻される

 

「でもどこも空いていないように思えるけど・・・・」

 

「そうだな・・・・・・お!

 

 あの席が空きそうだぞ」

 

と二人の女子生徒が席を立って話をしながら出ていく

 

堀北と綾小路はその席に座り込む

 

「それにしてもまあ

 

 随分と騒がしいもんだな・・・・」

 

「・・・・・・・」

 

堀北は無表情というかどこか冷たい印象を持つ

 

やはり騒がしいところが嫌いなのだろうか

 

すると後ろの席の女子二人がドリンクをもって立っていく

 

それと同時にそこに来客してきたのは

 

「あ、綾小路君!

 

 それから堀北さんも、偶然だね」

 

櫛田だった

 

「・・・・・・そうだな」

 

どこかうっとおしそうにつぶやく綾小路

 

「二人もここを利用するの?」

 

「偶然だよ、お前こそ今日は一人なのか?」

 

「うん、今日はちょっと・・・」

 

「私帰るわ」

 

「・・・・・・っておい!

 

 まだ席に着いたばっかりだろ」

 

「櫛田さんがいるなら私は必要ないでしょ?」

 

「ちょっと待てって

 

 俺と櫛田はクラスメイトってだけだっての」

 

「それは私とあなたの関係も同じよ

 

 それに・・・

 

 貴方達のやり方が気に食わない」

 

堀北は意味深に聞いていく

まるで二人の狙いにきづいたかのように

 

「え、い、いやだな

 

 何のことかさっぱり・・・」

 

ここで櫛田がそう発言すると

堀北はふうとため息をついて言う

 

「さっき私たちが座る前に、ここにいた二人は同じクラスの女子だった

 

 そして隣にいた二人もそう

 

 これがただの偶然?

 

 それに放課後になって、私たち二人は寄り道もせずにここに来たのよ?

 

 彼女たちがどれだけ急いだとしてもついてせいぜい1、2分

 

 まだ帰るには早すぎる

 

 違う?」

 

「・・・・・・・・・・」

 

素直に感服の表情を見せる綾小路

 

「お前ほかのクラスメイトと交流してないのに

 よくもまあそんなこと覚えてるもんだな」

 

「別に大したことじゃないわ」

 

「え、ええっと・・・」

 

櫛田は困惑の表情を浮かべて

綾小路に救いの手を求めるのだが

 

綾小路はそれをうっとおしく感じつつ言う

 

「ったく、だから無理だって言ったのに・・・・」

 

「その発言は自白と受け取らせてもらうわ」

 

「ご、ごめんなさい・・・

 

 でも私は本気で堀北さんと友達になりたいの」

 

櫛田は間髪入れずに堀北に言う

 

「あの時も言ったでしょ

 

 私のことは放っておいてほしいのよ

 

 私は別にクラスに迷惑をかけるつもりはない、それじゃダメ?」

 

「・・・でもだからって独りぼっちで過ごすなんて寂しいよ

 

 私はみんなと仲良くなりたいって思ってるのに」

 

「あなたのその発言を否定するつもりはないわ

 

 でも私は一人は寂しいと思ったことはないわ

 

 何より私はそれで周りを巻き込むのは間違ってる」

 

「で、でも・・・」

 

「それに仮に仲良くなることを強いたとして私が喜ぶとでも?

 

 そんな強制されてできた関係に本当の意味で友情や信頼関係が生まれると思う?」

 

堀北の言うことは間違っていない

それゆえに櫛田もそれ以上言い返せない

 

「今まではっきりと伝えなかった私にも落ち度はある

 

 だから今回の件は責めないけれど

 もしまた次におんなじことをしたら容赦はしないわ」

 

そう言って一口も飲んでいないカフェラテのコップをもって立ち上がった

 

「私ね、堀北さんのことがどうしても放っておけないの

 

 なんだか、初めて会った気がしないっていうか・・・

 

 だ、だから堀北さんの力に少しでもなれたらいいな、なんて思ってる」

 

「これ以上は時間の無駄よ、悪いけれど私は帰らせてもらうから・・・」

 

やや語気を荒げて堀北は容赦なく言葉を遮った

 

それに対して思わず言葉を飲み込む櫛田

 

「堀北の言うことはもっともだな・・・

 

 俺も今回櫛田に協力させてもらったが

 このやり方がうまくいかないのは分かってた」

 

「だったらなんで協力することを了承したの?」

 

「別に大した理由はない

 

 俺だって作戦自体には乗り気じゃなかったが

 櫛田の心情そのものには理解できる部分はあった

 

 だから櫛田の期待に少しでも応えてやろうと思っただけだ・・・・」

 

櫛田は不意に綾小路の方を見る

 

「別に無理に彼女の気持ちを

 受けいれろとは言わない

 

 だが櫛田は本気でお前と向き合おうとしている・・・・

 

 その気持ちだけでも受け入れてやったらどうだ」

 

「あなたの言いたいことは分かる

 

 でも過剰な機会なんて逆に相手の反感を買うだけ

 

 仮に私があなたのことばを受け入れた

 としても所詮は押し付けられただけのもの

 

 その関係は長続きなんてしないわ」

 

「だからと言って!

 

 櫛田の気持ちを踏みにじってもいい理由にはならないだろ!

 

 お前のその生き方はいずれお前自身を破滅させるぞ!」

 

「平気よ

 

 私はこの九年間この生き方を貫いているもの

 

 いいえ、幼稚園のころからだからもっと長いわね」

 

堀北はそんなことを何のためらいもなく言い放つ

 

「櫛田さん、あなたが私に無理にかかわらなければ

 私は何も言わないわ、約束する

 

 貴方はバカじゃないのだから、この発言の意味が分かるかしら」

 

堀北はそこまで言うとそれじゃ、と一言かけて去っていくのであった

 

「やっぱり失敗したな

 

 あいつは孤独になれすぎている

 そんな奴と心を通わせるのは簡単じゃない」

 

櫛田はすとんとその場に腰を下ろす

 

「ううん、確かに友達になることはできなかったけど・・・でも

 大切なことを知ることができたから、それだけでも私は十分だよ

 

 だけどごめんね、私のせいで堀北さんに嫌われるような真似、手伝わせて」

 

「別に俺は気にしてねえよ

 

 俺自身はあいつのこと嫌いだし・・・・」

 

とりあえず櫛田とおんなじ席に座る綾小路

 

「ね、ねえ綾小路君・・・

 

 綾小路君自身はどう思う?

 

 堀北さんの言うことが正しい?

 

 私は間違ってるのかな・・・」

 

「堀北の言うことは確かに正しい

 だがだからと言ってお前のやり方が間違っているっていう事じゃない

 

 でも櫛田が堀北と向かい合おうとしているのは分かるが

 お前も俺もあいつのことを理解しているっていうわけじゃない

 

 まずは堀北のことを理解することから始めていったらどうだ?」

 

「・・・そっか、そうだよね・・・

 

 私どこか堀北さんのことをわかって

 あげようとすることを忘れていたのかもしれない・・・」

 

「相手を理解しきるのは簡単なことじゃねえ

 

 むしろどの生き物にも簡単にできるわけじゃない・・・・」

 

綾小路の言葉に櫛田はやや悲しそうな表情を見せていく

 

「堀北さんと友達になること・・・できないのかな」

 

「あいつにはあいつなりの考えがあるんだろう

 

 こうなっちまったら割りきるしかない」

 

「そんなこと・・・簡単にはできないよ・・・」

 

「俺には理解できない

 

 堀北にこだわらなくても

 お前にはたくさん友達がいるだろう」

 

すると櫛田は綾小路の方を見る

 

「私、自己紹介の時にも言ったよね

 

 私はいろんな人と友達になりたいの

 自分のクラスもよそのクラスも含めて

 

 でもこんな調子じゃ、そんな目標達成できないよね」

 

「今は森の中に息をひそめる小さな動物のようにまってるしかない

 

 そうすればいずれチャンスは向こうから来るさ・・・・」

 

そう言って櫛田に背を向けてカフェをあとにする綾小路

 

すると

 

「綾小路君!」

 

櫛田が後ろから呼びかけてきた

 

「今日はありがとうね!」

 

「・・・・・・・・・・」

 

櫛田の言葉に綾小路は一瞬歩を

止めたがすぐに歩き出していくのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあ・・・・

 

 柄にもないことをしてしまったな・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

       




Unverständlich


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Der menschliche Alltag ist vorbei

Zweifel


「・・・・・・・・・・」

 

とある日の授業風景

 

一人の少年が自分のクラスの授業風景を見つめている

 

「ぎゃはは!

 

 ばっかお前それ面白すぎだって」

 

一方では池と山内が大声で談笑し

 

「ねえねえ、カラオケ行かない?」「行く行く!」

 

一方では女子のあるグループの会話が聞こえてくる

 

「最初のころは悩みどころだったのに、打ち解けたら一瞬だな・・・・」

 

綾小路が不意にそんな言葉をつぶやくと

 

「綾小路君こそそれなりに充実しているんじゃない?」

 

隣で黒板と机を交互に見て、書き写しながら話しかけていく堀北

 

「まあ否定はしないが・・・・

 

 打ち解けているかはわからんよ・・・・」

 

黒板を見つめながら綾小路は答える

 

授業が後半に差し掛かってきたとき

 

「うーっす」

 

須藤が堂々と入ってきた

 

「おせーよ須藤

 

 あ、昼飯喰いに行くだろ?」

 

自分席に着くと池と山内とともに話に入っていく

 

「やれやれ、自由なのも考えものだな・・・・

 

 普通だったらチョークの一つでも飛んでくるものだろうに・・・・」

 

「注意しても無駄だってあきらめられてるんじゃないの?」

 

「なるほど・・・・」

 

その会話を最後に授業に意識を集中する二人

授業が終わるとやがて周りは色物話に移っていく

 

「うへえ・・マジでもう彼女ができたのかよ

 

 すっげえ・・・」

 

池からそんな話が飛び交っていく

 

綾小路からしてみれば別に気にするほどのものでもない

 

だがその中には女子の綾小路に関する評判も

入ってきているのがわかり、ややげんなりしているのがわかる

 

この場に本人がいないゆえに堂々と話の中に入っていけるのだろう

 

「その顔、嫌いね」

 

堀北はそれをよからぬことを考えていると受け取ったのか

辛辣な言葉を言い放ちつつ、どこかに去っていくのであった

 

「やれやれ・・・・

 

 どうしたものだろうか・・・・」

 

それを見て厄介な問題を抱え込んでいってしまったと考え込むのだった

 

・一・

 

三時間目 社会

 

「静かにしろ!

 

 今日こそ真面目に授業を受けてもらうぞ」

 

「どういうことっすか!

 

 佐枝ちゃんセンセー」

 

入ってきて早々厳しい態度をとる担任の茶柱

 

「これより小テストを行う

 

 答案を配るので後ろに配っていってくれ」

 

と答案用紙を配っていく

 

「ええ~聞いてないよ~」

 

「安心しろ

 

 今回のテストはあくまでも今後の参考用だ

 

 成績表には反映されることはない

 

 ノーリスクだから安心しろ

 

 ただしカンニングは当然厳禁だ」

 

そう言ってすべての生徒に答案がいきわたったのを

確認してはじめという合図とともにテストが行われていく

 

「(なるほど・・・・

 

  私の予想は大体が当たっていたということか・・・・

 

  厄介なことをしてくれるなこの学校も・・・・)」

 

綾小路はそう言ってテストの問題に

目を通していきペンを動かしていくのであった

 

・・二・・

 

「やれやれ・・・・

 

 やはりこの学校は一筋縄ではいかないようだね」

 

「でもどうしよう、このことをみんなに伝える?」

 

「伝えたって無理だろ

 

 質の悪い冗談だって笑い飛ばされるのがおちだ・・・・」

 

「まあ逆にこの話をして理解のありそうなやつは

 このクラスじゃ、堀北、櫛田、平田ぐらいな気もするな」

 

「堀北さんは聞く前に断られそうだけどね・・・・」

 

「・・・・・・・・・・」

 

またも六人が集まって話をしている

 

「私は最後まで伝えないことにしておくよ

 

 彼らのような性格は一度、絶望というものを

 知ってからの方が理解するのが早いだろうさ」

 

「うーん・・・・

 

 私の言うことに反対するわけじゃないけど

 現状そうせざるを得ないかもしれないよね

 

 残念だけどここは私の意見を主張するかな・・・・」

 

「へえ、珍しいね

 

 あたしが私の意見に渋々とはいえ

 主張するなんて、何か心変わりでも起こった?」

 

「ああ、それなんだけどさ実は・・・・」

 

そこまで言うと六人のもとに誰かが走っていく

 

「綾小路いい!!!」

 

「来た・・・・!」

 

それは池だった、さらにその場にはすでに女子の綾小路のみしかいなかった

 

「ってあれ!?

 

 綾小路ちゃん!?」

 

「あ、池君

 

 ええっと、あたしに何か用事?」

 

「あ、いやその

 

 用事があったのは綾小路は綾小路でも、その・・・・」

 

「ええっと・・・・」

 

とりあえず動揺しているふりをする綾小路

 

「あ、あの綾小路さん!

 

 よ、よよよかったら俺とどこかに行きませんか!!」

 

「・・・・・・え?」

 

突然そんな話をされてさらに動揺する綾小路

 

「ええっと、どうしてあたしなんかと・・・・?」

 

「い、いやその

 俺自身その綾小路ちゃんと

 よかったら友達になりたいっていうか、そんな感じで・・・・」

 

「そのくらいなら別にいいけれど・・・・」

 

「あ、ああありがとうございます!」

 

と勢いよく頭を下げる池

 

「ふふふ

 

 池君って面白いんだね」

 

「い、いやーよく言われます」

 

照れ隠しで言う池だが

これはほめているのではないということには皮肉にも気が付いていない

 

「池ってマジで綾小路に夢中だよな」

 

そこに山内と須藤がやってきた

 

「まあ堀北よりはましだな

 

 あいつは性格がきつすぎる」

 

須藤はコーヒーを飲みながら言う

 

「俺はやっぱり付き合うんだったら

 明るくって会話が自然と続くような子がいいな

 

 綾小路ちゃんはそれに加えて優しくって魅力もあるし」

 

池が綾小路の方をちらちらと見ながら言う

これには正直さすがの綾小路も困惑気味である

 

「俺は断然櫛田ちゃんだな」

 

山内は堂々と言う

 

「櫛田ちゃんか~、確かに櫛田ちゃんも捨てがたいよな」

 

「お前綾小路ちゃんを狙ってたんじゃねえのかよ

 

 だったら綾小路ちゃんとだけ仲良くしてろって」

 

「なんだと!

 

 そういうお前こそこの前綾小路ちゃんもいいなっつってたじゃねえかよ!」

 

なんと無意味な争いが繰り広げられていく

 

「そういや聞きたかったんだけどよ

 

 綾小路とあの男の方の綾小路って

 苗字だけじゃなくって名前も一緒だよな

 

 よく話したりしているところも見るけどどういう関係だ?」

 

「う、うん・・・・

 

 ここに入学する前のバスで

 あってそこで仲良くなったの

 

 同姓同名だってわかってなんだか親近感があって」

 

「そうなのか

 

 かーうらやましいぜ

 俺もその時一緒にいたらなー」

 

池が少年の綾小路の方に対抗心を燃やしていく

 

「そういえば三人とも

 今日やった小テストの問題、どうだった?」

 

「もち全問正解だぜ」

 

「嘘つけよ、面どくせえって

 匙投げてたの俺見てたぞ」

 

「でもさ、あんなのできるわけねえよ

 特にあの数学のあの問題、できるわけねえっての」

 

「まあそれは俺もそうだけどさ」

 

テストをまじめにやってないと

告白しているようなものである

 

「綾小路ちゃんは?」

 

山内が不意に訪ねていく

 

「できたと思うよ

 

 でもさすがに池君と山内君の言う問題は分からなかった」

 

やや含みのある言い方で答える綾小路

 

「だよなー、でもまあ別にいいよな

 先生もあの結果は成績に入らないって言ってたし」

 

「成績表には、だけどね・・・・」

 

そのつぶやきは三人の耳には聞こえなかった

 

「それじゃああたしはもう行くね

 

 友達との約束があるんだ、それじゃあまた明日学校でね」

 

と三人に手を振って笑顔で走り去っていく綾小路だった

 

「うーん、やっぱ綾小路ちゃんは

 かわいいよな俺やっぱこの学校にはいってよかったー」

 

池は去っていく綾小路を見てそうつぶやくのであった

 

・・・三・・・

 

「「「「「はあ・・・・」」」」

 

五人の少年少女は

ケータイを見てため息をつく

 

『今日、櫛田ちゃんたちと一緒に遊びに行くんだ、お前も絶対に来てくれよ』

 

そこには池からそんなメールが届いていた

 

『俺、綾小路ちゃん攻略するから、割って入るなよ by池様』

 

『俺は断然櫛田ちゃんだぜ、邪魔だけはすんなよ by山内』

 

『というわけでお前に俺たちのキューピットをお願いしたい』

 

『よろしく』

 

授業中に届いたこのメールを授業が終わったのち

頭を抱えるように見つめ返していたのであった

 

「ど、どうしようこれ・・・・」

 

「とりあえずあたしが行くことは確定だね

 

 櫛田ちゃんからも一緒に行こうって誘われてるわけだし」

 

「まああたしの性格から相手の想いを踏みにじるのは難しいだろうね・・・・」

 

とりあえず六人は今後の対策を練っている

 

「それじゃあ、私、僕、俺、おいら、我

 誰か一人でもいいからついてきてもらえないかな?」

 

「僕パース

 

 めんどくさーい」

 

「俺も断るぜ

 

 あの櫛田って女は

 どうにもどこかきな臭い」

 

「おいらはこいつらの

 テンションについてけないや・・・・」

 

「・・・・・・・・・・」

 

「やれやれしかたないねえ・・・・

 

 私が行ってあげるよ・・・・

 

 どうせただの暇つぶしさ、終わったらとっとと帰るよ・・・・」

 

そう言って机に静かに座っていた少年が

どっこいしょっと言わんばかりに立ち上がっていく

 

その後、池と山内と待ち合わせの場所において

二人の綾小路が合流することになるのであった

 

「おお、来た来たーってうおい!

 

 なんでそっちの綾小路までいんだよ!!」

 

「別に暇だったからいいだろう・・・・

 

 それよりも櫛田って女の子はまだ来ていないのか・・・・?」

 

「ああ、なんでも別のクラスの友達に、少し用があるってあるとか言ってたな

 

 櫛田ちゃんってよそのクラスでも人気者だから」

 

「ま、まさか・・・・お、男友達じゃないよな?」

 

「安心しろ山内、女の子だ」

 

「よしよし」

 

「いや、男友達ぐらいは別にいてもいいんじゃ・・・・」

 

「何言ってんだよ、本命の女の子がほかの男の子と仲よくしてたら悲しすぎるぜ」

 

そんな会話を続けていく二人に

女子の綾小路はただ力なく笑い、少年の綾小路はめんどくさそうに頭を抱える

 

「そういやお前って堀北とよく話してるよな?

 

 ひょっとしてさお前ってああいうのが好みなの?」

 

「好みという意味はよくわからないが・・・・

 

 まあそうだね、興味があるという感じかねぇ・・・・」

 

「うおっ! まじか!?

 

 お前ってああいう性格きついのが好みなのかよ!」

 

なぜかハイテンションになる池に

どうしてそうなっているのか理解できずジト目で池を見つめる

 

女子の綾小路は男子の綾小路を引きお寄せ手小さな声で言う

 

「池君が聞いているのは

 私が堀北さんを狙ってるんじゃないかってこと

 

 そういう意味じゃなくって好みの異性としてね」

 

「好みの異性・・・・?

 

 よくわからないが別に間違ってないからいいじゃないか・・・・」

 

「そういうことじゃなくって・・・・・・はあ・・・・」

 

どうせ湯明するのかわからなくなった女子の綾小路に

男子の綾小路はさらに首をかしげているとそこに近づく一人の人物

 

「遅くなってごめんね

 

 お待たせっ!」

 

「うおお、待ってたぜ櫛田ちゃ・・・・ん・・・」

 

山内は急に語尾を低くする

なぜならその後ろから平田と軽井沢の姿が見える

 

「あ、平田君に軽井沢さん

 それと松下、森さんだったよね

 

 どうして一緒に?」

 

「うん、途中で一緒になったから

 せっかくだから誘ってみたんだ

 

 ええっと、ダメだったかな?」

 

女子の綾小路の方はううん、別にいいよ的な返事をする

そのセリフの途中ぐらいで男子の綾小路の方は池に腕で首を回される

 

「うおーい、どうすんだよ

 

 せめて平田だけでも追い返す方法はないのかよ」

 

池が綾小路にそんな協力を求めてくる

 

「素直に平田に帰ってもらえばいいじゃないか・・・・」

 

「ばっか、んなことしたら

 軽井沢やほかの女子はもちろん

 櫛田ちゃんだって自然に帰っちまうだろう!

 

 だったらせめて櫛田ちゃんが平田に惚れるという

 アンラッキーイベントを発生させないように協力してくれ」

 

「平田は軽井沢と付き合ってるんだろう・・・・?」

 

「そんなのあてになるかよ

 

 彼女がいるから大丈夫なんて、保証ねえだろ

 軽井沢みたいな中古汚ギャルと

 プリティー天使の櫛田ちゃんと比べたら

 

 誰だって櫛田ちゃん選ぶだろっっ!」

 

「ふーん・・・・」

 

男子の綾小路は池の拘束から離れて

軽井沢と櫛田の間、すなわち平田の前に立つ

 

「え、ええっと・・・・?」

 

「な、なによ・・・?」

 

「綾小路・・・君・・・?」

 

そのまま体制をゆっくりとおろしていき

櫛田と軽井沢の顔にゆっくりと近づけていく

 

あまりのすごみに思わず身を引いていってしまう

軽井沢と櫛田だったが、それに気づいたのかそうでないのか

 

二人に比べると反応は目立たないが

ややそのすごみにひいていた平田が口を開く

 

「あ、あの綾小路君・・・・

 

 どうかした・・・・?」

 

「・・・・・・うん・・・・?

 

 ああごめんごめん、脅かしてしまったかな?」

 

そういうとゆっくりと視線を元に戻していく綾小路

 

櫛田と軽井沢の二人は自分たちがかわいいと言われたものの

その表情に照れや嫌悪感というものは全く感じていない様子だ

 

「実は私は君の彼女とこうして話すのは初めてだからね・・・・

 

 少しだけ興味があったっていうのが正しいかな・・・・?」

 

「・・・・・・・」

 

そう言って軽井沢の方をしばらく見つめていたが

すぐに女子の綾小路に声をかけられて彼女の方に視線を移す

 

女子の綾小路は軽井沢さんを怖がらせちゃダメと言わんばかりに首を横に振ると

少年の綾小路はそれに渋々従うように頭を額に当てて一息つくのであった

 

「そ、それじゃあさっそく行こっか

 

 あんまりここで集まってたら迷惑だと思うし」

 

「そ、そうだな、それじゃあ行きますか」

 

「よっしゃ、考えてみりゃ

 より取り見取りってことだぜ

 

 ま、俺は断然櫛田ちゃんだけどな」

 

「おれはもっち綾小路ちゃんだぜ

 

 あっちの綾小路には負けねえぜ」

 

「おう!」

 

謎の掛け声とともに手を取り合う池と山内に

二人の綾小路はやれやれといった感じで見つめている

 

ちなみにその後まずはカフェに行こうと言い出した

 

二人の綾小路は男子と女子のグループに分かれた

面々の後ろの方でややその様子を見つめているのだった

 

現在平田は池と山内に軽井沢とどうして

付き合っているのかと問いただされている

 

そこに間髪入れず軽井沢が平田の腕に抱きついた

 

「あ、そうだ

 

 綾小路君・・・」

 

すると先ほどまで池と山内と話をしていた櫛田が

男子の綾小路の方に話しかけてきた・・・・・・

 

「この前はありがとう!」

 

「うん・・・・?」

 

「おい、綾小路!

 

 どー言うことだ説明しろ!」

 

櫛田にお礼を言われ空気を抜いただけのような声を出すと

池と山内が男子の綾小路の方に詰め寄っていくのだった

 

「ああ、あれね・・・・

 

 前にさ、櫛田の頼みごとを聞いてあげたんだよ・・・・

 

 その前に平田にもおんなじ奴に

 対しての頼み事をされてたこともあったんだけど・・・・

 

 ぶっちゃけめんどくさいから櫛田に丸投げにしちゃったんだけど

 肝心なところで下手売っちゃってね、余計にこじれてしまったんだったね・・・・」

 

すると綾小路は手で顔を追って笑みを浮かべる

 

「でも今思い返したらさぁ・・・・

 

 もしもあの時、俺と一緒に行って

 ちょっとあいつを突っついてやれば

 もしかしたら何かが見えたかもしれなかったかもな・・・・

 

 もしそうなら、惜しいことをしたもんだ・・・・」

 

不気味な笑みを浮かべる男子の綾小路に

引き気味の男女両方のグループ全員

 

それを両方見て、片手で頭を抱えてる女子の綾小路であった

 

「あ、ああところで

 行く場所とかは決まってるの?

 

 こうしてぶらぶら歩いてるけど」

 

だがすぐに切り替えて目的地の話題に入っていく

 

「ええっとそのほら、俺たちはまだ入学してそんなに立ってないし

 この学校の敷地内にある施設を回っていってみようかなって思ってるんすけど」

 

池がしどろもどろに答えていくと

 

「ねえねえ松下さん、森さん

 

 二人はどこかに見に行ったりしたの?」

 

櫛田が池と山内と話しつつ

女子二人にも話しかけていく

 

「え?

 

 あ、えーっと、どうかな

 

 映画館には一回行ったかな

 

 ね?」

 

「うん

 

 学校が終わってから二人で」

 

「そうなんだ!

 

 私も行きたいなって

 思ってたんだけれどまだなんだよね

 

 軽井沢さんたちはデートで何か特別な場所には行ったの?」

 

その櫛田の手腕には綾小路たちは素直に感服した

 

そのおかげでどこか分裂しかけていた

わだかまりが少しずつだがまとまり始めていくように感じた

 

そのかいもあってかそれなりに楽しめたようで

現在はカフェで楽しそうに談義としゃれこんでいる

 

すると女子の綾小路がこの話題を出していく

 

「そういえばこの間のテストの結果はどうだった?」

 

「一応頑張ってみたけど自信なしー」

 

「私はできた方かなって思うけど

 難問か解くのが難しい問題があって・・・」

 

「でも別にできてなくてもいいんじゃない?

 

 だってせんせー言ってたじゃん

 成績には含まれないって、だから気にしてなーい」

 

「そうだよね、だったらちょっと気楽じゃない?」

 

「でもそれだったらどうして先生はあの時急に

 テストをやろうなんて言い出してたんだろう

 

 いくら月一でも何の連絡もなしにテストをするなんて

 まるで何か意図があるようにしか思えないよ・・・・」

 

「成績とは別の何かの意図、確かにそれもあるかもね」

 

そんな話をしていく一同

すると平田は静かに本を読んでいる男子の綾小路の方に話しかける

 

「綾小路君はどう思う?

 

 この前のテストはどういう意図があるのかって・・・・」

 

平田がそう聞いてくると

男子の綾小路は本から目を離し一同の方を見ていく

 

「ああ、あれね・・・・

 

 あのテストでは成績じゃない別の何かが評価されているのは

 わかってるんだけれどさ、その何かの評価は分からないんだよね・・・・」

 

「成績じゃない別の評価?」

 

「なるほど、その評価のためにあのテストを僕たちにやらせた

 

 綾小路君はそう考えているんだね、でもどうして綾小路君はそう思うんだい?」

 

平田は恐る恐る聞いていく

 

「私がその予想にたどり着いたのは

 テストの時に茶柱が成績表には反映しないという言い回しをしていた時さ・・・・

 

 それは言い換えれば、この学校には成績以外に

 反映される何かがこの学校にあると考えるのが自然さ・・・・

 

 そしてその何かが本当に生徒の今後に影響しないなら

 そんな言い回しをわざわざ告げたりなんてしないだろう・・・・

 

 それが何の評価で、私たちの今後の何に影響するのかはさすがに私もわからんがね・・・・」

 

その発言に妙な関心と嫌な不安が湧き出していく面々

 

「や、やめろよつまんない

 冗談言って俺たちのことからかうのはさぁ

 

 綾小路、性格悪いぜ・・・・」

 

「失礼だね・・・・

 

 私は性格が悪いなんて言われたことなんてないよ・・・・

 

 人が悪いとは言われたことはあるけどね・・・・」

 

「もっとひどいわ!」

 

「あと私は・・・・

 

 嘘はつくけど冗談は嫌いだよ」

 

「嘘はつくのかよ!

 

 ってかどう違うんだよ!

 

 もう突っ込み切れねえよ!」

 

あの池が突っ込みに回り

異様に疲れたのか息切れを起こしている

 

「ああ、評価っていえばさ・・・・

 

 そこの彼女、確か軽井沢って言ったかな・・・・?

 

 君は平田のどこを評価して付き合い始めたのかな・・・・?」

 

「ふえ?

 

 そ、それは・・」

 

急にそんなことを聞かれてしまい返答に困ってしまう軽井沢

 

「も、もちろんよ

 

 あたしは平田君はイケメンでかっこいいし

 優しいし運動もできるしみんなをまとめられるし

 

 何よりみんなのこともしっかり考えてくれてる

 いえばきりがないけれど、これがあたしの評価よ

 

 これでいい?」

 

軽井沢はどうにかして引きずり出したという感じで言葉を続けていく

平田は照れ臭そうにし、女子は少し興奮気味に男子はぐぬぬと顔をしかめている

 

だが綾小路はそのどちらの反応とも違った

なぜなら綾小路は軽井沢に対してこういった

 

「ふふーん・・・・

 

 君の言ったその評価は果たして

 本当に君が彼を選んだ理由になるのかな・・・・?」

 

「え・・?」

 

綾小路は立ち上がりながら軽井沢をじっと見つめ

軽井沢も普段見せている強気の態度を見せることなく彼を呆然と見つめる

 

しかしすぐに綾小路は軽井沢から意識を離した

 

「まあだからと言って

 君たち二人の仲をどうこうするつもりもないよ・・・・

 

 むしろ私は君に少しだけ興味がわいてきたね・・・・」

 

「ち、ちょっと・・・・」

 

女子の綾小路が男子の綾小路をいさめようとする

 

「まあそういう話は別に機会にさせてもらおう・・・・

 

 私も平田に少し頼まれごとを受けているからな・・・・

 

 まったく、どうしてこうにも面倒ごとばっかり

 引き受けていってしまうもんなんだろうかな・・・・」

 

だがそれを気に留めることなく

そのまま一同と別れていく男子の綾小路だった

 

「な、なんだよあいつ・・・」

 

「さ、さあ・・・」

 

「なんか怖いよね・・・

 

 あっちの綾小路・・・」

 

「そ、そうだよね・・

 

 なんだかまるで私たちの心を

 見透かされてるって感じがしたよね・・

 

 軽井沢さん、大丈夫だった・・?」

 

「あ、う、うん・・」

 

「だけどあの綾小路君

 気になること言ってたよね・・・

 

 あの時の小テストは成績以外の場所で

 評価されていくって、あれってどういう意味だろう・・・」

 

「綾小路君自身もわからないって言ってた・・・・

 

 だけどもしも彼の予想が当たっていたら

 今後の僕たちにとって大きな課題になっていくかもしれないね・・・・」

 

一同はそんなことを述べる中

 

「はあ、やれやれ・・・・

 

 私ったら容赦ないんだから・・・・」

 

女子の綾小路は頭を抱えながらつぶやくのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

のちに彼らはこの時の綾小路の言葉の意味を

身をもって理解することになることをこの時は知らなかったという ・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

       




Ich werde es nicht bereuen.


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Willkommen in der Welt der Fähigkeit, in den Himmel zu kommen

Sag die Wahrheit


「まったくもう私ってば

 

 もう少し相手を怖がらせないようにしてってば」

 

「仕方ねえよ

 

 何しろ私はもっとも

 最悪な位置に位置してるんだからな」

 

「まあ逆に俺だったら

 

 何か言う前に

 とっくに引き上げてたがな」

 

「ねえ、教室がなんだか騒がしくなってない?」

 

「本当だね・・・・

 

 一体何が起こってるんだろうね・・・・」

 

「・・・・・・・・・・」

 

六人は急いで教室に入っていくと

そこから聞こえてきた声はあまりにも騒がしかった

 

「ええっ

 

 それ本当なの!?」

 

「まじまじ!

 

 俺どうしよう・・・」

 

「どうせ後で反映されるっしょ」

 

何かが起こっているのは明白だった

 

すると池が綾小路たちに気が付く

 

「あ!

 

 綾小路ちゃん達はどうだった?」

 

「どうだったって何が?」

 

そして池は告げた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ポイントが振り込まれて・・いないんだよ!

 

 それもみんな!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え・・・・?」

 

女子の綾小路は思わず

男子の綾小路の方を見ると

 

男子の綾小路は学生証を操作していた

 

「本当だ・・・・

 

 振り込まれていないみたいだね・・・・」

 

そう静かにつぶやくとその後ろから

二つののぞき込む影が現れたのだった

 

「あ、ほんとだ

 

 ポイントが全然増えてない・・・・

 

 振り込まれるのって確か今日だよね?」

 

「どうなってんだこりゃ?」

 

「・・・・・・・・・・」

 

それを見てうっすらと笑みを浮かべるのは

端末を操作している方の綾小路である

 

「ふふーん・・・・

 

 ひょっとしてこれは・・・・

 

 私の予想が当たってしまったってことかな・・・・?」

 

するとそこに

扉が開いて茶柱先生が入っていく

 

「全員座れ!

 

 これより朝のホームルームを始める」

 

そう言われていそいそと自分の席に

座っていくクラスメイト達であった

 

するとクラスメイトのうち一人の男子生徒が手をあげる

 

「あの、一ついいですか?

 

 今朝確認したらポイントが振り込まれていないんですけど

 毎月一日に支給されるんじゃなかったんですか?」

 

「本堂、前に説明をしただろう、その通り

 

 ポイントは毎月一日に振り込まれる

 

 今月も問題なく振り込まれたことは確認されている」

 

「え、でも・・・・振り込まれてなかったよな?」

 

本堂という生徒と山内、池らが顔を見合わせていく

 

「・・・・お前たちは本当に愚かな生徒たちだな」

 

すると急に怒りか悦びかわからぬ不気味な気配をまとう茶柱

 

「愚か?

 

 っすか?」

 

その彼女の言葉に間抜けに聞き返す本堂

 

「座れ、本堂

 

 二度は言わん」

 

「さ、佐枝ちゃん先生?」

 

その声色に思わず腰が引けて座り込んでしまう本堂

 

「ポイントは振り込まれた

 

 これは間違いない

 

 このクラスだけ忘れられた

 という可能性もない

 

 ここまで言ってもわからんか?」

 

茶柱は意味深に生徒たちに語り掛けていく

 

「フフフフフフ・・・・

 

 そういうことか・・・・」

 

綾小路の静かな笑みに

堀北が一瞬気づき、彼の方を見るが

 

すぐに視線を茶柱の方に向ける

 

「どうやらクラスの中で気づいたのは

 どうやらほんの数人のようだな

 

 まったく嘆かわしいことだ」

 

突然の出来事にあたりがシンと静かになる

 

「・・・先生、質問いいですか?

 

 腑に落ちないことがあります」

 

平田が挙手をする

 

「振り込まれなかった理由を教えてください

 

 出なければ僕たちは納得ができません」

 

その問いにゆっくりと答えていく茶柱

 

「遅刻欠席、合わせて98回

 

 授業中の私語や携帯を触った回数391回

 

 ひと月で随分とやらかしたもんだ

 

 この学校では、クラスの成績がポイントに反映される

 

 その結果お前たちは振り込まれるはずだった10万ポイントすべてを吐き出した

 

 それだけのことだ

 

 入学式の日に直接説明したはずだ

 

 この学校は実力で生徒を測ると

 

 そして今回、お前たちは0という評価を受けた

 

 それだけにすぎない」

 

茶柱は何の感情も込めていない冷たい声で説明していく

 

「そんな、僕たちはそんな話、説明を受けた覚えはありません・・・・」

 

「逆に聞こう

 

 お前らは説明されなければ理解できないのか」

 

「当たり前です

 

 振り込まれるポイントが減るなんて話は聞かされてなんていませんでした

 

 説明さえしてして貰えていたら、みんな遅刻や私語なんかしなかったはずです」

 

「ほう、それは不思議な話だな平田

 

 確かに私は振り込まれるポイントが

 どのようなルールで決められているかを説明した覚えはない

 

 しかし、お前らは学校に遅刻するな、授業中に私語をするなと

 小学校、中学校で教わってこなかったのか?」

 

「それは・・・・」

 

「身に覚えがあるだろう

 

 そう、義務教育の九年間

 嫌というほど聞かされてきたはずだ

 

 遅刻や私語は悪だと、そのお前らが

 いうに事欠いて説明されてなかったから納得できない?

 

 通らないな、その理屈は

 

 当たり前のことを当たり前にこなしていたなら

 少なくとも0ポイントになることはなかった

 

 すべてお前たちの自己責任だ」

 

その言葉に誰も反論できない

当然だ、茶柱の言うことは正論なのだから

 

「高校一年に上がったばかりのお前らが

 何の制約もなく毎月10万も使わせてもらえると本気で思っていたのか?

 

 日本政府が作った優秀な人材教育を目的とするこの学校で?

 

 ありえないだろ、常識で考えて

 

 なぜ疑問を疑問のまま放置しておく?」

 

あまりの正論に平田は口惜しそうな

表情を見せるがそれでも茶柱先生の方を見る

 

「では、せめてポイントの増減の詳細を教えてください・・・・

 

 今後の参考にします」

 

「それはできない相談だ

 

 人事考課、つまり詳細な査定の内容は

 この学園の決まりで教えられないことになっている

 

 社会も同じだ、お前たちが会社に出て、企業に入ったとして

 詳しい人事の査定内容を教えるか否かは企業が決めることだ

 

 しかし、そうだな・・

 

 私もお前たちのことが憎くて冷たく接しているわけじゃない

 

 あまりに悲惨な状況だ、一つだけいいことを教えてやろう」

 

薄い笑みを見せる茶柱先生

 

「これを機会に私語を改め・・仮に今月マイナスを0に

 抑えたとしてもポイントは0ということだ

 

 裏を返せば、どれだけ遅刻や欠席をしても関係ないという話

 

 どうだ、覚えていて損はないぞ?」

 

「っ・・・・」

 

平田の表情がより一層暗くなっていく

 

ほとんどの生徒がその意味を理解できていない

いな、理解できてはいるが素直に呑み込めない

 

だが茶柱はそんな生徒たちの様子を

まるで予想していたかのように見つめる

 

そこにチャイムが鳴って、ホームルームの時間が終わりを告げる

 

「どうやら無駄話が過ぎたようだ

 

 大体理解できただろう

 

 それでは本題に移ろう」

 

手にしていた筒から紙を取り出し

それを広げて黒板に張り付け磁石で止める

 

「これは・・・各クラスの成績、ということ」

 

半信半疑ながらも堀北はそう解釈する

 

Aクラス 940

 

Bクラス 650

 

Cクラス 490

 

Dクラス   0

 

「ねえ、あれを見てどう思う?」

 

「ああ・・・・・・きれいにそろいすぎているね・・・・」

 

不意にそんなやり取りが一つの席から聞こえた

堀北は不意に隣を見たが変わったところもなかったので

 

意識を再び黒板の方に向けていく

 

「お前たちはこの一か月間、学校で好き勝手な生活をしてきた

 

 学校側はそれを否定するつもりはない

 

 遅刻も私語も、すべては最後に自分たちにツケが回ってくるだけのこと

 

 ポイントの使用に関してもそうだ

 

 得たものをどう使おうとそれは所有者の自由

 

 その点に関しても制限をかけていなかっただろう」

 

「だからって、こんなのあんまりっすよ!

 

 これじゃ生活できませんって!」

 

今まで黙って聞いていた池が叫ぶ

山内にしてはもはや言葉にもなっていない

 

「よく見ろ馬鹿ども

 

 Dクラス以外は、全クラスがポイントを振り込まれている

 

 それも一か月生活するには十分すぎるほどのポイントがな」

 

「な、なんでほかのクラスはポイントが残ってんだよ

 

 おかしいよな・・・」

 

「言っておくが不正は一切していない

 

 この一か月、すべてのクラスが同じルールで採点されている

 

 にもかかわらず、ポイントでこれだけの差が付いた

 

 それが現実だ」

 

「なぜ・・・・ここまでクラスのポイントに差があるんですか?」

 

平田もポイントの数字の違和感に

気づいたようで恐る恐る茶柱先生に訪ねていく

 

「それはお前たちがどうしてDクラスに選ばれたのか」

 

「どうしてって、そんなの適当なんじゃねえの?」

 

「そうだよね?

 

 普通、クラス分けってそんなもんだよね?」

 

各々それぞれ近くの友人と顔を見合わせあっている

 

「この学校では、優秀な生徒の順にクラス分けされている

 

 優秀であれなあるほどAクラスへ

 

 逆にダメな奴ほどDクラスへ、とな

 

 ま、大手集団塾でもよくある制度だな

 

 つまりここDクラスは落ちこぼれが集まる最後の砦ということだ

 

 つまりお前たちは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最悪の不良品ということだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その言葉に堀北の表情がこわばった

 

「しかし逆に感心したぞ

 

 一か月の間にすべてのポイントを

 吐き出したのは歴代のDクラスでもそういない

 

 お前たちが初めてだな」

 

茶柱がわざとらしく拍手をする

 

「このポイントが0である限り、僕たちはずっと0のままということですね」

 

「ああ

 

 このポイントは卒業までずっと継続する

 

 だが安心しろ、寮の部屋はただで使用できるし

 食事にも無料のものがある

 

 死にはしない」

 

それを聞いて喜ぶ生徒は一人もいない

当然だ、今まで贅沢三昧してきて急にそれを我慢しろというのだから

 

「・・・つまりこれから俺たちはほかの連中に馬鹿にされるってことかよ」

 

須藤は不機嫌そうに自分の机をける

 

「ほほう、お前にも対面を気にすることがあるんだな、須藤

 

 だったら頑張って上のクラスに上がれるようにするんだな」

 

「あ?」

 

「クラスのポイントは何も毎月振り込まれる

 プライベートポイントと連動しているだけじゃない

 

 このポイントの数値がそのままクラスのランクに反映されるということだ」

 

茶柱の言葉の意味

 

つまりもしもここで残っているポイントが

500ポイントだったらDクラスからCクラスに昇格していた

 

大まかに例えるとそうである

 

「さて、もう一つお前たちに伝えなければならない残念な知らせがある」

 

そう言って黒板に追加されるように張り出された一枚の紙

 

そこにはクラスメート全員の名前がずらりと並び

さらにその横には数字が記載されている

 

「この数字が何か、馬鹿が多いこのクラスの生徒でも理解できるだろう」

 

そう言って生徒たちを見渡していく

 

「先日やった小テストの結果だ

 

 そろいもそろって粒ぞろいで

 先生はうれしいぞ

 

 中学で一体何を勉強してきたんだ、お前らは?」

 

そう言って茶柱の見せた表にあるテストは

そのほとんどがおよそ60点前後の点数しか取れていないのが見てわかる

 

「それにしても運がよかったな

 もしもこれが本番だったらこのクラスから

 7人の退学者が出ることになっていたぞ」

 

「た、退学?

 

 どういうことですか?」

 

「なんだ、説明していなかったか?

 

 この学校では中間テスト、期末テストで一科目でも

 赤点を取ればそのものは即退学となることが決まっている

 

 今回のテストで言えば32点未満の生徒は全員が対象となる

 

 この中にいるその該当者はこの赤線より下の七人全員だ」

 

「「「「「「「は、はあああああああ!?」」」」」」」

 

その言葉に驚愕の声を上げたのはその該当する7人

 

「ふっざけんなよ佐枝ちゃん先生!

 

 退学とか冗談じゃねえよ!!」

 

「私に言われても困る

 

 学校のルールだ、腹をくくれ」

 

不満が大きいのか阿鼻叫喚の声が教室中に響き渡る

 

「それからもう一つ!

 

 付け加えておくが国の管理下にある

 この学校は高い進学率と就職率を誇っている

 

 それは周知の事実だ

 

 おそらくこのクラスのほとんどの者にも

 目標とする進学先、就職先を持っていることだろう」

 

茶柱先生が最初の部分を強めの口調に行って

騒いでいた七人の生徒たちを黙らせて説明していく

 

「が・・・・世の中そんなうまい話はない

 

 お前らのような低レベルな人間がどこにでも進学

 就職できるほど世の中甘くできているわけがなかろう」

 

その言葉が教室中に響き渡っていく

 

「つまり希望の就職、進学先が叶う恩絵を受けるためには

 Cクラス以上にあがる必要がある・・・ということですね?」

 

「それも違うな平田

 

 この学校には将来の望みをかなえてもらいたければ

 Aクラスに上がるしか方法はない

 

 それ以外の生徒には、この学校は何一つ保証することはないだろう」

 

「そ、そんな・・・・聞いてないですよそんな話!

 

 めちゃくちゃだ!」

 

そういうのは幸村という眼鏡をかけた生徒だが

そんな彼の返答などどこ吹く風に茶柱は話を進めていく

 

「どうやら浮かれた気分は払しょくされたようだな

 

 お前らの置かれた状況の過酷さを理解できたのなら

 このながったるいHRにも意味はあったかもな

 

 中間テストまではあと三週間、まあじっくりと塾考し

 退学を回避してくれ

 

 お前らが赤点をとらずに乗り切れる方法はあると確信している

 

 できることなら、実力者にふさわしいふるまいをもって挑んでくれ」

 

そう言ってちょっと強く扉を閉める茶柱

教室には頭を抱える赤点組の面々がいたのであった

 

・一・

 

「ポイントが入らないって、これからどうするんだよ」

 

「私昨日、残りのポイント全部使っちゃったよぉ・・」

 

休み時間、生徒たちのテンションは瞬く間に下がっているのがわかる

 

そんな彼らをじっと見つめる六人の人物

 

「やれやれ、大騒ぎだね・・・・」

 

「先のこと考えてないからこうなるんだよ」

 

「まあ、さすがにこれは想定していなかったが・・・・」

 

机に座っている一人の少年と

その少年の前あたりにいる二人の少年が言う

 

「・・・・ふざけんなよ

 

 なんで俺がDクラスなんだよ・・・・」

 

すると眼鏡をかけた幸村という男子生徒が

その額には汗も薄らと浮かんでいるのがわかる

 

「っていうか、そもそも私達好きなところに進学できないわけ?

 

 じゃあ、この学校に入った意味ないじゃない!」

 

やがてその場が荒れ始めんとしていく

 

「混乱する気持ちはわかるけれど

 いったん落ち着こう」

 

その流れを察した平田が、周り制そうと立ち上がる

 

「落ち着くってなんだよ

 

 お前も悔しくないのかよ

 落ちこぼれだの欠陥品だの言われて!」

 

「今はそう言われても、力を合わせて見返してやればいいじゃないか」

 

「見返す?

 

 そもそもこっちはクラス分けの時点で納得いってねーんだよ!」

 

「気持ちは十分わかってる

 

 でも、今ここで愚痴を吐いたって始まらないだろう?」

 

「なんだと?」

 

今にも一触即発の勢いが出てきたが

その二人の間に割って入った人影がいた

 

「落ち着いてよ二人とも

 

 きっと先生は私たちを奮い立たせるために

 あえて厳しめに言ったんじゃないかな?」

 

それは櫛田だった

 

平田に詰め寄った幸村も思わず半歩下がった

 

「それにさ、まだ入学して一か月だよ?

 

 平田君の言うようにこれからみんなで頑張ればいいじゃない」

 

「それは・・・・確かに言っていることは間違いではないが・・・・」

 

幸村の怒りはもう半分近く雲散しているのがわかる

 

「そ、そうだよな

 

 焦ること、ないよな?

 

 幸村も平田も頭冷やせって」

 

「・・・・悪い、冷静じゃなかった」

 

「いいよ

 

 僕だってもう少し言葉を選ぶべきだったんだ」

 

どうやら櫛田の存在がうまい具合のカンファレンスになったようだ

 

「やるじゃないかあの櫛田って子・・・・

 

 あの場を見事に抑えてしまうとはね・・・・」

 

「でもだからって現状が変わるわけでもないし・・・・

 

 でも問題はポイントがどのように変動されていくのかってところだよね・・・・」

 

「この先生活を改めてもポイントが増えることも減ることもない、か・・・・

 

 普通に聞いたら、みんな余計に生活態度を改めないと思うが・・・・」

 

「ったく、随分と厄介な問題だな」

 

「櫛田ちゃんがどうにかこの場を収めてくれたけど

 やっぱり何らかの対策は練っていかないとだめだよ・・・・」

 

「・・・・・・・・・・」

 

すると六人のもとに堀北がのぞき込むように入ってきた

 

「何をしているの?」

 

「うん?

 

 ポイントの詳細を割り出せないかと考えててね」

 

そこにいた六人の人物は堀北が向いた時には

すでにおらず残っていたのは一人の少年、綾小路であった

 

「現段階で詳細を割り出すのは難しいんじゃない?

 

 それに、あなたがそれを調べたところで解決するとは思えない

 

 このクラスは単純に遅刻や私語をしすぎたのよ」

 

「うーん確かにそうかもだけど・・・・

 

 でもだからってそれで終わりっていうこともないと思うけどね」

 

その口調はどこか幼さがあるが

同時になにか冷静というか思いやりのない声色が見て取れる

 

すると

 

「堀北ちゃんも納得してないんだ

 

 自分がDクラスに入れられたこと」

 

「・・・・なんでそんなことを聞くの?」

 

「だってさっきの話の時、堀北ちゃん

 すっごく怖い顔してたもん、さっきの幸村君って男子と同じようなね」

 

「そうだったらなに?

 

 むしろこの状況に納得している人の方は少ないでしょ?

 

 入学する前に説明があったならともかく

 この段階で言われても納得なんてできない」

 

堀北はそう言うと少年は急に彼女の方に顔を近づける

その雰囲気はどこか変わっているのは堀北も感じていた

 

「多分茶柱先生が説明したって状況は変わらなかったと思うぞ・・・・?

 

 お前だってわかってるはずだ

 相手と仲良くするために自己紹介したり

 お互いのことを理解してもそれでお互いが

 仲良くなれるとは限らない物なんだってさ・・・・」

 

「・・・・っ!」

 

不気味な笑みを浮かべて堀北の顔に近づく綾小路

 

「理屈では同じさ・・・・

 

 仮に最初っから説明したところで

 君たちがそれを素直に受けいれてくれるとは思い難い・・・・

 

 それどころか、自分たちそれぞれの都合のいいように解釈して

 今までのようにそれぞれがそれぞれの思うような生活を送っていただろうさ・・・・

 

 つまり説明していたとしてもいなかったとしても

 おそらく結果は違っていただろうが状況は変わらなかったろうさ・・・・

 

 頭のいい君ならどういうことかわかるだろう・・・・?」

 

「・・・・確かに言っていることはそうかもしれない・・・

 

 仮に説明をしても、その話の真偽を確かめるすべはないから・・・」

 

堀北がそういうと綾小路はゆっくりと顔を離していく

 

「だったらこんなところで現実から目を背けている暇はない

 

 今やるべきことはこの現実にどう向き合い、なおかつどうするのか・・・・

 

 少なくともそういうところだろうさ・・・・」

 

そう言って自分の席に座り直す綾小路

 

「しっかし学校もとんだ甘い餌をつるしてくれたもんだね・・・・

 

 まあ私自身はそんなにポイントを使ったこともないしね・・・・」

 

「そういえば綾小路君は先月どのくらいポイントを使ったの?」

 

「そうだね、大体二万くらいか

 ほかの奴と違って余計なものに使ってないからね・・・・」

 

そう言ってポイントをほぼ失ってしまった池や山内の方を見る

 

「気の毒だと思う反面、自業自得ともいえるね・・・・」

 

不意にそんな声が隣に聞こえて

堀北は綾小路の方を見たが特に変わったこともなかったため目をそらす

 

「みんな、授業が始める前に少し真剣に聞いてほしい」

 

まだ騒然とする中で平田は教壇に立ち生徒の注目を集める

 

「今月僕たちはポイントをもらえなかった

 

 これは、今後の学校生活においても非常に大きいく付きまとう問題だ

 

 まさか卒業までに0ポイントで過ごすわけにもいかないだろう?」

 

「そんなの絶対いや!」

 

悲鳴のように叫ぶ女子生徒に

平田は優しく頷いて同調する

 

「もちろんだよ

 

 だからこそ、来月は必ずポイントを獲得しなければならない

 

 そしてそのためにはクラス全体で協力しなきゃならない

 

 遅刻や授業中の私語はやめるようにお互いに注意するんだ

 

 もちろん、携帯を触るのも禁止だね」

 

「は?

 

 なんでそんなことお前に指示されなきゃならねえんだ

 

 ポイントが増えるならともかく、変わらないなら意味ないだろ」

 

「でも、遅刻や私語を続ける限り僕たちのポイントは増えない

 

 0から下がらないだけで、マイナス要素であることには間違いないんだから」

 

「納得いかねーな

 

 真面目に授業受けてもポイントが増えないなんてよ」

 

一人不満を漏らしているのは、須藤だった

 

「学校側からすれば、遅刻や私語をしないのは当たり前の話ってことなのかな?」

 

「うん、櫛田さんの言う通りだと思う

 

 出てて当たり前のことなんだよ」

 

「それはお前らの勝手な解釈だろ

 

 それにポイントの増やし方がわかんねーんじゃやるだけ無駄だろ

 

 増やし方を見つけてから言えよ」

 

「僕は、何も須藤君が憎くて言っているわけじゃないんだ

 

 不快にさせたなら謝りたい」

 

不満を漏らす須藤に対しても平田は丁寧に頭を下げる

 

「だけど須藤君、いやみんなの協力がなければポイントが得ることができないのは事実だ」

 

「・・・お前が何やろうと勝手だけどよ

 

 俺を巻き込むんじゃねえよ!」

 

そう言って教室を出ていってしまう須藤

 

「須藤君ほんっとに空気読めないよね

 

 遅刻だって一番多いしさ

 

 須藤君がいなかったら少しぐらいポイント残ってたんじゃない」

 

「だよね・・もう最悪

 

 なんであんなのと同じクラスに」

 

そんな声が聞こえ始めていくと

平田は教壇を降りて、綾小路と堀北のもとにやってきた

 

「堀北さん、それから綾小路君もいいかな

 

 放課後、ポイントをこれ以上減らさないためにも

 どうしていくべきか話し合いたいんだ

 

 是非二人にも協力してほしいんだ」

 

「なんでそれを俺たちに?」

 

綾小路の雰囲気がまたも変わっていく

 

「もちろん全員に声をかけるつもりだ

 

 だけど一度に全員に声をかけても

 きっと半数以上は話半分に聞いて真剣に耳を傾けてはくれないと思うんだ」

 

平田がそう教えていくと

 

「もちろん、あたしも協力す・・・・」

 

「ごめんなさい、話し合いは得意じゃないの」

 

「無理に発言をしなくても構わない

 

 思いつくことがあったらで構わないし

 その場にいてくれるだけても、十分だから」

 

「申し訳ないけれど

 私は意味のないことに付き合うつもりはないから」

 

「これは、僕たちDクラスにとっても、最初の試験だと思う

 

 だから・・・・」

 

「断ったはずよ

 

 私は参加しない」

 

強くも冷静な一言で

平田の立場を斟酌しつつも堀北は拒絶を示す

 

「そ、そうか

 

 ごめん・・・・もし気が変わったら、参加してほしい」

 

残念そうに引き下がる平田を、もう堀北は見ていなかった

 

「綾小路君は、どうかな?」

 

すると綾小路の傍にいた女子の綾小路は参加を表明しようとしたが

机に座っていた綾小路がその服をグイっと引き寄せて有無を言わせずに答える

 

「君の気持ちを尊重したいが・・・・

 

 残念だが今のところ君のこの提案が

 完全にいい手だとは残念ながら思えない・・・・

 

 参加自体はパスだね・・・・」

 

「・・・そうか、でも協力したいという意思があるだけでも十分だよ

 

 気が向いたらいつでも言ってね」

 

平田は特にとよく言うことなくあっさり引き下がった

 

「私は平田君に協力するつもりはないの?」

 

「平田のやり方は残念だが

 答えのわからない問題を答えを見ずにやるのと一緒だ・・・・

 

 ましてや平田の方法はただのその場しのぎでしかない・・・・

 

 私はまずは一同を納得させるための答えを探してみるほかあるまい・・・・」

 

「僕も私と大体同じかな

 

 現に納得していない生徒は須藤君以外にもいるみたいだし・・・・」

 

「ああ、なるほど・・・・」

 

そう言って一同は一斉に堀北の方に目線をやる

 

「平田も偉いよな

 

 ああやって行動を起こすんだから

 

 落ち込んでもおかしくないのに」

 

「それは見方一つね

 

 安易に話し合いをもって解決する問題なら苦労しないわ

 

 頭の悪い生徒が束になって話し合いをしても

 むしろ泥沼にはまって余計に混乱するだけよ

 

 それに私にはこの今の状況を素直に受け入れることなんてできない」

 

「ああ?

 

 それはどういうことだ?」

 

堀北はその問いに答えることなく、それ以降黙り込んでしまうのであった

 

・・二・・

 

放課後

 

朝の告知通り平田は教壇に立ち

黒板を使って対策会議の準備を始めていた

 

平田の探求心のすごさがうかがえる参加率だ

 

だが残念ながらその場に須藤や堀北をはじめ

数人の男女が参加していなかったのが見える

 

「あたしはここに残るのか?」

 

「うん、平田君がどう出るのかを

 聞いておかないといけないって思って・・・・」

 

「それじゃあ僕も行きますか・・・・

 

 あまりここにとどまっているとかえっで目立ってしまうしね」

 

そう言って綾小路のうち女子の綾小路以外がその場から出ようとするが

 

「綾小路ぃ~~~~・・・」

 

そこにぬっと出てきたのは何やら今にも死にそうな顔をした山内だった

 

「何かおごってくれ~、たのむぅ~」

 

そんな彼に向かってパアンという景気のいい音が響く

 

「人にたかろうとするんじゃねえ」

 

「頼むよお、だ、だったらこのゲーム機

 20000ポイントで売ってやるから」

 

「いらね、ぶっちゃけまったくほしくない」

 

「そこを頼む!

 

 今にもポイントが何もなくって死にそうなんだよ~」

 

「死ぬことはまあないだろうが・・・・

 

 とにかく、ない袖は振らん、以上」

 

こうして綾小路は祈願する山内を

無視して教室を出ていこうとするのだが

 

「ええっと、いいの山内君のこと?

 

 なんだか大変そうだよ?」

 

「・・・・・・・・・・」

 

その前に今度は櫛田が現れて

綾小路はげんなりした表情を見せる

 

「お前こそ人の心配してていいのか?

 

 女ってのはいろいろと金がかかるもんだって

 軽井沢だのそういった女子は言ってたぜ?」

 

「うーん、まあ、今のところは、かな

 

 でもそれでも半分くらいは使っちゃったかな

 

 この一か月自由に使いすぎてた来たから

 ちょっと我慢するのは大変だね

 

 綾小路君の方は大丈夫なの?」

 

「・・・・・・全部とまではいかねえが

 

 俺自体はほとんど使ってねえよ

 ポイント払ってまで欲しいと思うものもねえし

 

 まあそういうお前の方は交友関係のこともあるだろうが・・・・」

 

「そっか・・・

 

 つまり綾小路君は友達がいないから

 そんなにポイントを使うことはないと・・・」

 

櫛田がそんなことを言うと

パアンというまたも小気味よい音が教室に響き

 

額を本気で痛そうに抑えている櫛田と

人指し指をピンっと伸ばしている綾小路がいた

 

「事実だけれどはっきり言われていい気分じゃねえな」

 

「いたたた・・・

 

 ひどいよ綾小路君、女の子を殴るなんて」

 

「お前の額をはじいてやっただけだろうが

 

 誤解を招くような言い方はやめろ」

 

痛そうに額を抑えて

綾小路を恨めしそうに見つめる櫛田

 

はたから見るとかわいらしいが

綾小路自身はそれを見てややあきれ気味だ

 

「え、えっと櫛田さん、ちょっといいかな?」

 

「軽井沢さん、どうしたの?」

 

「実はあたしさ、ポイント使いすぎちゃってマジ金欠なんだよね

 

 今、クラスの女子からも少しずつポイント貸してもらってるんだけれど

 櫛田さんにも助けてもらいたいって思って、ほんの2000ポイントでいいの

 

 だからお願い!」

 

頼みこむような態度とは思えない態度でポイントを催促する軽井沢

 

「うん、いいよ」

 

櫛田は少しも嫌がるそぶりを見せず

軽井沢の援助を快く承諾するのであった

 

「さんきゅ~

 

 やっぱ持つべきものは友達だね

 

 そんじゃ、よろしく~

 

 あ、井の頭さーん・・」

 

軽井沢はそう言って

井の頭という女子生徒のもとに行く

 

「あれ絶対に戻ってこないパターンだろ・・・・」

 

「困ってる友達がいたら放っておけないし

 

 軽井沢さんも交友関係が広いから

 ポイントなしじゃ大変だと思うもん」

 

「だからって10万をほぼ使い切るっていうのは問題あるだろ・・・・」

 

「あ、でもポイントってどうやって渡せばいいのかな?」

 

「軽井沢から番号の書いた紙、もらっただろ?

 

 携帯でそれを打ち込めば譲渡できるはずだ」

 

「学校側はちゃんと、生徒たちのこと配慮してるんだね

 

 軽井沢さんみたいに困った人を助けられるように

 こんなシステムまで用意しているんだから」

 

「助け、か・・・・

 

 そんな単純な言葉で済ませられるとは思えんがな・・・・」

 

櫛田の言葉に綾小路は何かを考えるようなそぶりを見せる

 

するとそこに

 

『一年Dクラス、綾小路 清隆君

 

 一年Dクラスの綾小路 清隆君

 

 至急、職員室まで来てください

 

 繰り返します・・・・』

 

そんな放送が盛大に流れていく

 

「先生からの呼び出しだね」

 

「ったくお前といい堀北といい、この学校は

 どうしてこうも面倒ごとばっか持ってくるんだか・・・・」

 

そう言って職員室にまで向かっていく綾小路だった

 

・1・

 

「お前らも来たのかよ・・・・」

 

「そりゃまあ綾小路 清隆って言われたらね・・・・」

 

「まあいざってときはいつもの手を使えばいいんだよ」

 

「しっかし茶柱先生は何の用でおいらたちを呼び出したのやら」

 

「何にも悪いことはしてないつもりなんだけどな・・・・」

 

「・・・・・・・・・・」

 

そこに歩いているのは

五人の少年と一人の少女の六人

 

職員室の前まで来て

そこでコンコンと扉をたたく

 

「失礼します!

 

 茶柱先生に呼ばれてきましたけど・・・・」

 

周りを見渡すがそこに茶柱の姿はいない

 

「あれー?

 

 いない・・・・」

 

そんな綾小路のもとに一人の女性が近づいていく

 

「ええっとそこの君

 

 佐枝ちゃんに何か用事?」

 

「用事っていうか、むしろ僕が呼ばれたっていうか・・・・」

 

セミロングで軽くウェーブのかかった髪型の今どきの大人って感じの人だ

 

「どうやらちょっと席を離してるみたい

 

 中に入って待ってたら?」

 

「じゃあ、そうさせてもらいまーす」

 

そう言ってその女性にその待ってもらうために

先生たちの邪魔にならない場所に案内してもらう

 

「私は星之宮 知恵っていうの

 

 Bクラスの担任を務めてて

 佐枝ちゃんとは高校時からの友達なんだ」

 

「Bクラス・・・・・・ですか・・・・?」

 

ぶっちゃけどうでもいい情報なので

とぼけたようにつぶやいていくのだった

 

「ねえねえ、佐枝ちゃんにはどういう理由で呼び出されたの?」

 

「僕にもわかんないんだー

 

 だから急に呼び出されてちょっと混乱してるの」

 

「そうなんだ

 

 理由も告げずに呼び出したの?

 

 そういえばまだ君の名前を聞いてなかったよね?

 

 君の名前は?」

 

じろじろと綾小路を観察するように見つめる星之宮先生

 

「綾小路です、綾小路 清隆」

 

「綾小路君かぁ

 

 なんて言うか、かなりかっこいいじゃない~

 

 モテるでしょ~」

 

そう言って体をくねくねさせながら迫ってくる星之宮先生

 

それに対して特に抵抗するわけでもないがちょっと困惑気味になる綾小路

 

「ねえねえ、もう彼女とかできた?」

 

「えーっと・・・・・・そういうの僕、よくわかんないから」

 

あからさまに嫌な顔をしてみるが

星之宮先生はそれすらも楽しそうに迫っていく

 

「そうなんだー?

 

 私がもしおんなじクラスにいたら

 絶対放っておかないのにー

 

 ひょっとしてうぶってわけでもないでしょー?」

 

あんまりにもしぶといので少し無理やりにでも引き離そうかと思ったその時

 

「何やってるんだ、星之宮」

 

そこに現れた茶柱先生が手にしていたクリップボードでスパン、と

響きの良い音をさせる、頭をしばかれていたそうに頭を押さえてうずくまる星之宮先生

 

「いったぁ

 

 何するの!」

 

「うちの生徒に絡んでるからだろ」

 

「佐枝ちゃんに会いに来たっていうから、その間相手してただけだってばぁ」

 

「放っておけばいいだろ

 

 さてと、待たせたな綾小路

 

 ここじゃなんだ、生活指導室まで来てもらおうか」

 

「ったく、なんで呼び出されたのか分からずにここに来させられるわ

 ここに来たら変な女に絡まれるわ、散々だぜ全く・・・・それで?

 

 おいらは何かしたのか?

 

 これでも一応学校に目を付けられるようなことはしてないぜ」

 

「そういうのは良い、とにかくついてこい」

 

なんだよと思いながらも

茶柱先生についていく綾小路

 

すると

 

「あのー茶柱せんせー?

 

 星之宮せんせーも付いてきてるけど・・・・」

 

茶柱先生はそう言うと綾小路の後ろにいた少年の横に

星之宮先生がおり、それを見て鬼の形相で彼女を睨みつける

 

「お前はついてくるな」

 

「そんな冷たいこと言わないでよ~

 

 聞いても減るものじゃないでしょ?

 

 だって佐枝ちゃんって個別指導とか絶対しないタイプじゃない?

 

 なのに、新入生の綾小路君を

 いきなり指導室に呼び出すなんて・・・・何か狙いがあるのかなぁ?って」

 

そのやり取りを一つの視線がじっと見つめているのがわかった

 

「もしかして佐枝ちゃん、下克上とか狙ってるんじゃないの?」

 

その言葉に誰かがうっすらと笑みを浮かべるのがわかった

 

「馬鹿を言うな

 

 そんなこと無理に決まっているだろ」

 

「ふふっ、確かに

 

 佐枝ちゃんにはそんなこと無理だよね~」

 

含みのあるセリフをつぶやいて、今だにその後をついていく星之宮先生

 

「ついてくるな!

 

 これはDクラスの問題だ」

 

「え?

 

 一緒に指導室だけど?

 

 ダメなの?

 

 ほら、私もアドバイスするし~」

 

するとそこに

 

「失礼します星之宮先生

 

 生徒会の件でお話があります」

 

薄いピンク色の髪をした美人の女子生徒が星之宮先生に話しかけてきた

 

「ほら、お前にも客だ

 

 さっさと行け!」

 

とクリップボードで星之宮先生のお尻を叩く

 

「もう~しょ~がないな~

 

 またね、綾小路君っ

 

 じゃあこっちで話をしましょうか、一ノ瀬さん」

 

そう言って一ノ瀬と呼ばれた女子生徒とともに

自分の机のもとに向かっていくのであった

 

「あれが一ノ瀬さんか・・・・

 

 本年度の新入生で主席で入学したっていう」

 

「あたしってそういうことも知ってるんだな」

 

そんなことを言っていると茶柱先生がクリップボードで

こっちにこいと言わんばかりについついと突っついてくる

 

「それで・・・・・・なんなんだ

 俺を呼んだ理由っていうのは」

 

「うむ、それなんだが・・・・話をする前にちょっとこっちに来てくれ」

 

何やら生徒指導室にある丸時計をちらちらと確認しつつ

指導室の奥にある扉を開けてそこに綾小路をいざなっていく

 

コンロややかんなどが置かれていることからそこは給湯室のようだ

 

「おいおいおい、俺にお茶くみでもしろってのか?」

 

綾小路は部屋の様子を見て不満そうに言う

 

「余計なことはしなくていい

 

 まだってここに入っていろ

 

 いいか、私が出てきてもいいというまでここで物音を立てずに静かにしているんだ

 

 破ったら退学にする」

 

「なんて無茶苦茶な

 

 そもそもあんたは何がしたくって・・・・」

 

そう言い切る前に茶柱に無理やり部屋に入れられて扉を閉められた

 

「んだよったく・・・・」

 

「まあ待て俺・・・・

 

 ここは言うとおりにしてみようじゃないか・・・・」

 

そこにはいつのまにか六人の人物が入っていた

話をしている二人の少年のほかに三人の少年に一人の少女

 

しばらく待っていると指導室の扉が開く音が響く

 

「よく来た、入れ

 

 それで、私に話とはなんだ?

 

 堀北」

 

どうやら入ってきたのは堀北のようだ

 

「率直にお聞きします

 

 なぜ私が、Dクラスに配属されたのでしょうか」

 

「本当に率直だな」

 

「先生は本日、クラスは優秀な人間から順にAクラスに選ばれたと仰いました

 

 そしてDクラスは学校の落ちこぼれが集まる最後の砦だと」

 

「私が言ったことは事実だ

 

 どうやらお前は自分が優秀な人間だと思っているようだな」

 

そんな会話をしていく二人

 

「堀北の奴も呼ばれていたのか・・・・?

 

 いや、あの様子だと堀北の方が話があって

 茶柱に話の場を設けるためにここに呼ばれたって感じか・・・・」

 

「ふふーん・・・・

 

 ひょっとして茶柱先生の狙いは・・・・」

 

不気味な表情を浮かべた方の少年は

不敵な笑みを浮かべて聞く耳を立てている

 

「入学試験の問題は殆ど解けたと自負していますし

 面接でも大きなミスをした記憶はありません

 

 少なくともDクラスになるとは思えないんです」

 

堀北が不満の声を上げていく

 

「入試問題は殆ど解けた、か

 

 本来なら入試問題の結果など個人に見せないが

 お前には特別に見せてやろう

 

 そう、偶然ここにお前の答案用紙がある」

 

「ずいぶんと用意周到ですね

 

 ・・・・まあこのような場を設けるくらいですから

 私を納得させるために用意してきたと言っているようです」

 

「これでも生徒の性格はある程度理解しているつもりなんでな

 

 堀北 鈴音

 

 お前の入試結果はお前自身の見立て通り

 今年の一年の中では同率で3位の成績を収めている

 

 一位二位とも僅差

 

 十分すぎる出来だな

 

 面接でも、確かに特別注視される問題点は見つかっていない

 

 むしろ高評価だったと思われる」

 

「ありがとうございます・・・・ではなぜ?」

 

「その前に、お前はどうしてDクラスであることが不服なんだ?」

 

「正当に評価されていない状況を喜ぶものなどいません

 

 ましてやこの学校はクラスの差によって将来が大きく左右されます

 

 当然のことです」

 

「正当な評価?

 

 おいおい、お前は随分と自己評価が高いんだな」

 

茶柱先生は堀北に向かって失笑に近い笑みを向ける

 

「確かにお前の学力は優れている、それは認めよう

 

 確かにお前は頭がいい

 

 だけどな、学力に優れたものが優秀なクラスに入れると誰が決めた?

 

 そんなこと我々は一度も言っていない」

 

「それは・・・・世の中の常識の話をしているんです」

 

「常識?

 

 その常識とやらが今のダメな日本を作ったんじゃないのか?

 

 ただテストの点数だけで人間を評価し、優劣を決めていた

 

 その結果無能な人間が上で幅を利かせて本当に優秀な人間を蹴落とそうと躍起になる

 

 そして、結局最後に行きつくのは世襲制だ」

 

茶柱先生のそんな説明を聞いていて六人は頭を抱える

 

「確かに勉強ができることは一つのステータスだ

 

 それ自体を否定するつもりはない

 

 しかし、この学校は本当の意味で優秀な人間を生み出すための学校だ

 

 それだけで上のクラスに配属されると思ったら大間違いだ

 

 この学校に入学した者には、それを一番最初に説明しているはずだがな

 

 それにもし仮に学力だけで優劣を決めているのなら

 須藤たちのような奴らが入学できると思うのか?」

 

「っ・・・」

 

黙って会話を聞いている六人

 

「そして、正当に評価されていない状況を喜ぶ者はいない?

 

 そういった決めつけた発言をするのは早計というものだ

 

 Aクラスともなれば

 学校から受けるプレッシャーは強く下のクラスからの妬みも強い

 

 その日々思いプレッシャーの中で競争させられるのは想像以上に大変なものだ

 

 それに、中には正当な評価を受けなかったことを良しとする変わり者だっている」

 

「冗談でしょう?

 

 そのような人間、私には理解できません」

 

「そうかな?

 

 低いレベルのクラスに割り当てられて

 喜んでいる変わり者がもしもDクラスにいたとしたら?」

 

その言葉に六人のうちあるものはやや不満げに

あるものは静かにため息をするような仕草を見せる

 

「説明になっていません

 

 私がDクラスに配属されたかどうかの

 事実かどうか採点基準が間違っていないかどうか

 

 再度確認をお願いいたします」

 

「残念だがお前がDクラスに配属されたことはこちらのミスではない

 

 お前はDクラスになるべくしてなった

 

 言えることはそれだけだ」

 

「・・・・そうですか

 

 あらためて学校側に聞くことにします」

 

それを聞いて六人のうち何人かが

あきれを交えたため息を静かについた

 

「上に掛け合っても結果は同じだ

 

 それに悲観する必要もない

 

 朝も話したが、出来不出来次第でクラスは上下する

 

 卒業までにAクラスへと上がれる可能性は残されている」

 

「簡単な道のりとは思えません

 

 未熟なものが集まるDクラスがどうやってAクラスよりも

 優れたポイントをとれるというのですか

 

 どう考えても不可能じゃないですか」

 

それを聞いた綾小路はもっともだとつぶやく

 

「それは私の知ったことじゃない

 

 その無謀な道のりを目指すか目指さないかは個人の自由だ

 

 それとも堀北、Aクラスに上がらなければならない特別な理由でもあるのか?」

 

「それは・・・・今日のところは、これで失礼します

 

 ですが私が納得していないことだけは覚えておいてください」

 

「わかった、覚えておこう」

 

そう言って椅子を引く音が響く

 

「ああそうだった

 

 もう一人指導室に呼んでいたんだったな

 

 せっかくだしお前に合わせておこう、お前にも関係のある人物だ」

 

「関係のある人物・・・?

 

 まさか・・・・兄さ・・・」

 

「出てこい綾小路」

 

茶柱先生がそう言って扉に向かって言うと

そこから一人の少年が現れるのだった

 

「待たせたn・・・・ぶっ!」

 

「待たせすぎだ!

 

 こっちとらずっと息ひそめて待ってんだぞ、ったく」

 

茶柱先生の口元をぎゅっと握って不満を口にする

 

「よさないか俺・・・・

 

 私としてはおかげで面白い話が聞けたよ・・・・」

 

「待ってる間お茶、ごちそうになったしね」

 

さらにその奥から二人の少年が出てきた

 

「あ、綾小路君・・・・聞いていたの今の話?」

 

「ああ、さっきのね・・・・

 

 ここに待ってるのも退屈だったから

 君のことを脅かしてあげようと思ったんだけど・・・・

 

 なんだかおもしろい話をしているからさ

 面白そうな話には黙って聞く耳を持つことにしたんだよ・・・・」

 

「まったく、悪趣味だな

 

 私は給湯室で待っていろとは言ったが

 だからと言って盗み聞きは感心しない」

 

「何を白々しぃ・・・・

 

 あえて聞かせるためにセッティングしたくせに」

 

堀北自身も仕組まれていることに気づき、ご立腹の様子だ

 

「・・・・先生、なぜこのような事を?」

 

茶柱先生はそう言うも茶柱はさっさと綾小路に意識を向ける

 

「お前たちが上のクラスに上がるために

 必要なことだと判断したからだ

 

 さて、綾小路、お前たちを指導室に呼んだわけを話そう」

 

話題を切り出す茶柱先生

 

「私はこれで失礼します・・・」

 

「待て堀北

 

 最後まで聞いておいた方がお前のためにもなる

 

 それがAクラスに上がるためのヒントになるかもしれないぞ」

 

出ていこうとする堀北だったが

茶柱がそう言い放ち、椅子に座りなおす

 

「手短にお願いいたします」

 

茶柱先生はニヤニヤと笑いながら手に持っていたクリップボードに視線をやる

 

「綾小路、お前はなかなかにユニークな奴だ」

 

「ユニーク?

 

 いきなりこんなとこに呼び出して

 散々待たせて揚句に挙げた言葉がそれかよ」

 

「まあ待て俺・・・・

 

 ここは私に任せてもらおう・・・・

 

 それで・・・・?

 

 私に対して何を言いたいのかな・・・・?」

 

「まあ別に大したことではないが・・・」

 

クリップボードから取り出したのは

堀北のと同じ、入試のテストの結果だ

 

「入試の結果をもとに、個別の指導方法を思案していたんだが

 お前のテストの結果を見て興味深いことに気が付いたんだ

 

 最初は分からなかったぞ、こうして見比べてみなければ私も気が付かなかったよ」

 

そう、茶柱の出したその答案用紙は綾小路のものだ

 

「堀北、ここにあるのはこいつの入試の結果だ

 

 ついでに今回の小テストの結果、何か気づかないか?」

 

「何と言われても、見ても別にそれほどすごいとは・・・・っ!」

 

堀北は何かに気が付いたようだ

 

「この点数、数字が規則的に変動してる・・・」

 

「そうだ、国語33点、数学44点、英語55点、社会66点、理科77点

 

 加えて小テストの方は国語を中心に数字を変動させている

 さらに驚きなのはその数字は見事に赤点のボーダーラインを下回っていない

 

 まるでこの点数なら赤点になることはない、そう予測していたかのようにな」

 

堀北はそれを見て思わず綾小路の方を見る

 

「へえ・・・・

 

 どうやら先生は思ってた以上に勘が鋭い人のようだ・・・・」

 

「ほう?

 

 その口ぶりはどうやら図星ととらえていいな?

 

 テストの点数を意図的に操作したことを」

 

「フフフフフフ・・・・

 

 先生は少し私のことを買いかぶりすぎですよ・・・・

 

 私が点数操作をしたとして

 これが赤点にならないのかどうかなんて保証はない・・・・

 

 遊びにしてもぎりぎりの賭けになるじゃないか・・・・」

 

互いににらみ合う茶柱先生と綾小路

 

「遊びか、まったくお前は実に憎たらしい奴だな

 

 確信に至る証拠ならばいくつかある

 

 まずはこの数学の問い5、この問題の正解率は学年では3%だった

 

 が、お前は間の複雑な照明式も含めて見事正解にたどり着いている

 

 一方でこの問い10は正解率76%、赤点組でも正解した者は多かったというのに」

 

「なるほど・・・・

 

 理屈としては筋は通っているけど・・・・

 

 残念ながら私が意図的に点数操作したという証明にはならないし

 なぜ私がそんなことをしたのかという答えにもならないでしょう・・・・」

 

「ほほう、随分と自分の意見に自信があるのだな

 

 だがこのような遊びを続けていても将来苦労するだけだぞ?」

 

「あいにく私は、将来には興味がない・・・・

 

 私がここに入学したのは将来のこととは別の理由さ・・・・」

 

綾小路はそう言って背もたれに背中を預けていく

だが茶柱は今度は堀北の方に視線をやる、どうだ?と言わんばかりに

 

「あなたは・・・・遊びでこんなわけのわからないことを?」

 

「君には関係のないことだよ堀北・・・・

 

 私は天才でも君みたいに秀才でもない・・・・」

 

「天才でも秀才でもないか

 

 だがこれほどに見事な構築は

 並みの高校生にできるものでもあるまい」

 

茶柱はさらに堀北をあおるように言うが

その茶柱の口元にまたも手が当てられる

 

「とにかく

 

 俺がこの点数に

 なったのはただの偶然だ!

 

 余計な詮索はやめろ

 俺は詮索されるのが嫌いなんだ」

 

「っ!

 

 ならなぜお前はこの学園に入った?

 

 高円寺のように自分はAでもDでも

 大した問題ではないというのなら、その理由とはなんだ?」

 

意味深に告げる茶柱先生

またも突っかかろうとする綾小路だが

それを座っている綾小路がいさめていく

 

「あなたこそどうしてそこまでしてそんなことにこだわるのかな・・・・?

 

 あなたがもしもその理由を話してくれる

 というのなら答えてあげても構いませんよ・・・・」

 

「ならば聞かせてやろうか?」

 

そう言って互いににらみ合いその場が

凍り付くような雰囲気になっていくのがわかる

 

「フフフフフフ・・・・

 

 どうやらあなたという人は

 随分と人をいらだたせるのが好きなようだ・・・・

 

 しかし、まあそれを今ここで口論しても仕方のないこと・・・・

 

 それはまたの機会に話しておくとしましょう・・・・」

 

「賢明だな・・」

 

「まあ別に、俺は俺の望む平穏が送れるのならば

 その時はその時で俺の好きにさせてもらうとしよう・・・・」

 

「まあこの学校はあくまで生徒の意思を尊重する

 

 今回はここまでにしておくとしよう、

 これからの学生生活を満喫してくれ」

 

そう言って立ち上がる茶柱と綾小路

 

「ねえ、茶柱先生・・・・」

 

扉から出ていきかけたその際に綾小路は茶柱先生に問いかける

 

「ひょっとしてさ・・・・

 

 今いるDクラスの中で

 一番上に上がりたがってるのはさ・・・・

 

 先生なんじゃない・・・・?」

 

「っ!」

 

その言葉に茶柱は不意に体を震わせたが

特にその問いに答えることもなくただ

 

「悪いがこれから職員会議だ

 

 積もる話はまた次の機会だ」

 

とうやむやにするように答える茶柱先生であった

 

「ねえ私

 

 今のってどういうこと?」

 

「さあね、フフフフフフ・・・・」

 

少年の問いに対しても

茶柱のようにうやむやにして答える少年だった

 

「待って綾小路君!」

 

だがそんな際に堀北が綾小路のもとにやってくる

 

「さっきの点数・・・・本当に偶然なの?」

 

「はあ~、堀北ちゃん

 

 その話だったらもう終わったはずだよ」

 

「でも・・・・綾小路君にはどこかわからないところがあるし

 

 さっきの会話の内容からAに上がることに興味はなさそうだし・・・・」

 

「堀北ちゃんこそAクラスに並々ならぬ思いがあるって感じだけど?」

 

「・・・・いけない?

 

 進学や就職を有利にするために頑張ろうとすることが」

 

「僕にはそれが一番の理由にはならないみたいだけど?」

 

「・・・・気に入らないわねその言い方

 

 なんだかまるで私の考えを読み透かしているようなその物言い

 

 じゃあ聞くけれど、私がAクラスであることにこだわる理由は?」

 

堀北は綾小路の隣に立って問いかけていく

 

「認められたい人がいるんじゃない?

 

 そしてその人は今もこの学校にいる、そういったところかな?」

 

「・・・・・・・」

 

「さっき茶柱先生が僕を読んだ際に不意につぶやいた、兄さん・・・・

 

 つまりこの学校には君のお兄ちゃんがいる、そしてそのお兄ちゃんって

 

 今の生徒会長さん、っていうところかな?」

 

綾小路のその推測に思わず息をのんでしまう堀北

 

「だって僕だってあの時、生徒会長の演説の場にいたんだよ?

 

 あの時の堀北ちゃんの反応からの大体の推測だけれど・・・・

 

 堀北ちゃんは本当は、お兄さんに認められたいんじゃない?」

 

「・・・・貴方・・・本当に何者なの・・・・・・・?」

 

堀北のそんな問いに対しても

綾小路は気にすることなく言葉を続ける

 

「ふふーん・・・・

 

 やっぱり図星だったんだね、その反応・・・・」

 

すると綾小路の雰囲気がまたも変わった

 

「さて、それでこれから堀北はどうするのかな?」

 

「まずは学校側の真意を確かめる

 

 私がなぜDクラスに配属されたのか

 

 もし、茶柱先生の言うように私がDだと判断されたのだとしたら・・・

 

 その時はAを目指す

 

 いいえ、必ずAに上がって見せる」

 

「しかしそれは簡単な道のりじゃない・・・・

 

 何しろうちのクラスは問題児だらけだからね・・・・

 

 遅刻、さぼり癖、授業中の私語、テストの点数・・・・

 

 それらの課題をクリアして、やっとプラスマイナスゼロだ」

 

「・・・・わかってるわよ」

 

綾小路自身も何も考えていないわけではない

 

確かにこのまま学校のルールを守ればポイントが減ることはある程度防げる

 

だが問題はどのようにすればポイントがプラスされるのかということ

 

もしもポイントが変動しないものならば

Aクラスがわずかにポイントが減ることはない

 

何かポイントを増やす効率的な何かがあるなら

それはおそらくほかのクラスにも適用されるものだろう

 

「私はこの学校がこのまま静観し続けるとは思えないわ

 

 ずっとこのままだっていうなら競争の意味はないもの」

 

「確かにそうだね・・・・」

 

堀北の考えはある程度理解できる

 

学校側が入学一か月でAクラスの逃げ切りを許す、ということはないだろう

 

おそらくどこかでポイントが増減する機会が訪れると堀北は確信しているのだ

 

「もしもこの状況をどうにかできる方法があれば

 どうにかしてみたいと思わない?」

 

「思わない、その方法が見つからなければ何をやっても意味はないからね・・・・」

 

「そうね・・・・でもだからって手をこまねいているつもりもない」

 

堀北はなおも詰め寄っていく

 

「そもそもこれは個人でどうにかできる問題じゃない・・・・

 

 須藤が言っていただろ

 

 自分か改善してもクラス全体がマイナスならどうにもならないと・・・・」

 

「違うわね

 

 正しくは、個人ではどうにもならないけれど

 個々が解決しなければならない、非常に厄介な問題よ

 

 一人一人がやらなければ、スタートラインにも立てないもの」

 

「だが決して楽な道じゃない・・・・」

 

「そうね、解決する問題は三つ

 

 遅刻と私語

 

 そして中間テストで全員が赤点をとらないこと・・・・」

 

「確かにそうだが、やはり目下の問題は中間テストだね・・・・」

 

綾小路ははあー、とため息をつく

 

小テストでやって分かったことだが

いくつかはどう考えても高校生が解けるレベルの問題ではないが

 

大半は難しいと言えるものではない

だがその問題でも赤点をとる生徒が七人もいる、頭を抱えるのも必然だろう

 

「そこで・・・・綾小路君に協力をお願いしたいの」

 

「協力?」

 

堀北の言葉に反応したのは女子の綾小路であった

 

「別に協力ぐらいするのは構わないけれど

 

 どうしてそういう話になるの?」

 

「断りたいの?」

 

「逆に聞くけど、どうして貴方はあたしが協力すると思うの?」

 

「喜んで協力するとまで思ってなかった

 けれどまさか断られそうになるなんてね

 

 でももしも本気で断ろうというのなら、しようがないわね・・・」

 

堀北はそこまで言うと綾小路に手刀を繰り出してきた

 

「口で言ってもわからないなら体で覚えてもらうってわけ?

 

 それはさすがに無理があるでしょう・・・・」

 

「やっぱりあなたって何か習っているでしょ」

 

「だったらどうだっていう話だけれどね!」

 

「別に無理やり従わせるつもりなんてないわ

 

 私はただ、どうしたらあなたを納得させてなおかつ協力してくれるのか

 

 まずは一度シンプルな方法で行かせてもらおうと思っただけよ!」

 

手刀を受け止められて互いに距離をとっていく堀北と綾小路

 

「まあまてあたし、ここは一度乗ってみるのもいいだろうさ・・・・」

 

すると女子の綾小路の後ろから現れたのは

ぬっと不気味な表情を浮かべた少年の綾小路が出た

 

「あなたは、私に乗るってどういうこと?」

 

「だって君の口ぶりから推測するにさ・・・・

 

 この状況を打開する方法があるってことでいいんだろ・・・・?」

 

「・・・・ええ、そうよ」

 

「君に協力してみるのも面白そうだが・・・・

 

 その前に君はなぜほかの者に頼ろうとしない・・・・?

 

 私以外にも使える奴なら案外いると思うがな・・・・」

 

「それじゃあなんで茶柱先生はわざわざあなたのことを私に教えてくれたのかしら?

 

 もしも茶柱先生にとって、あなたの協力を得ることがAクラスに上がる近道なら

 むしろほかの誰でもないあなたの力を得ることの方が有利だと私は判断するわね」

 

「ほほう・・・・

 

 どうやら君は私が思っている以上に優秀だね・・・・」

 

すると少年の綾小路は後ろの方を向く

堀北は不意にまた彼の雰囲気が変わったことを感じた

 

「そんなことは聞いていないわ

 

 私に協力してくれるか、私が聞いているのはそれだけよ」

 

堀北は言うが綾小路はこう返答する

 

「あなたにはあなた自身が気が付いていない欠点がある・・・・

 

 その欠点に貴方が気が付かない限り

 あなたが何をやったって、あなたの思い通りにはいかないわ・・・・」

 

「私に欠点・・・・

 

 そんなものあるわけ!」

 

綾小路の返答に堀北はそう言うと

 

「だったら、あなたに協力はできないわね・・・・

 

 貴方は自分の欠点に気づいていないし、向き合おうともしてない

 なによりもその欠点こそが、あなたがDに送られた理由なのよ

 

 そんなあなたに協力するなんて私は面白そうだって思ってもあたしは嫌

 

 絶対に嫌」

 

そう言ってすっかり暗くなった廊下の中へと消えていく綾小路であった

 

「私に欠点・・・?

 

 私はあくまで私が正しいと思ったことをするだけ・・・

 

 絶対にAに上がって、兄さんに認められるんだから・・・・」

 

堀北は一人そうつぶやくのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フフフフフフ・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

       




Ein Mädchen, das seine Fehler nicht kennt


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Sammle in der Hölle, yo, roter Punkt Prequel

Lerneinheit für den roten Punktsatz


「さあて・・・・

 

 どうしたもんかね・・・・」

 

「あれからもう一週間が立とうとしているんだね・・・・」

 

「クラスの方は何人か授業態度を

 あらためている奴は何人かいるが・・・・」

 

「須藤の奴だけが相変わらずだな・・・・」

 

「しょうがないよ、何しろクラスにポイントが

 プラスされるという明白な答えがない以上

 

 矯正することは難しいと思うよ」

 

「・・・・・・・・・・」

 

六人はそんなことを考えていると

 

「まあまずは・・・・

 

 彼女のお手並みを拝見させてもらおうか・・・・」

 

そう言って隣で静かに黙々とノートをとっている堀北に目をやる

 

「それではこの部分を・・・・

 

 綾小路、読んでみろ」

 

「はい」

 

こうして授業は静かに終わりの時を迎えていく・・・・・・

 

「ずいぶんと悩んでいるようだね堀北・・・・」

 

「何のこと?

 

 私は別に悩んでいることなんてないわ・・・・」

 

「ノートを書き写しているスピードが若干遅くなっていたよ・・・・」

 

「若干、あいまいなものね、そんなものじゃ私が何かを悩んでいるという証拠にはならないわ」

 

「そうか・・・・」

 

「まったく言いがかりにもほどがあるのね」

 

互いにほんのたわいもないやりとりを交わす堀北

 

「私に貴方の言う欠点なんてない、絶対にね・・・」

 

堀北はそんなことを綾小路に向かって言うが

綾小路はそれに対してやれやれと言わんばかりの反応を示す

 

授業が終わり、お昼休み、各々が昼食をとらんと立つと平田が口を開く

 

「みんな、もうすぐ茶柱先生の言っていたテストが近づいている

 

 赤点をとれば、即退学だという話は、全員が理解していると思う

 

 そこで、参加者を募って勉強会を開こうと思うんだ」

 

平田はそう言ってクラス一同に呼びかけていく

 

「もし勉強を疎かにして、赤点をとったらその瞬間退学

 

 それだけは避けたい

 

 それに勉強することは退学を阻止できるというだけじゃない

 

 ポイントのプラスにもつながる可能性がある

 高得点をクラスで保持すれば査定だってよくなるはずだよ

 

 テストの点数がよかった上位数人で、テスト対策に向けて用意をしてみたんだ

 

 だから、不安のある人は僕たちの勉強会に参加してほしい

 

 もちろん誰でも歓迎するよ」

 

平田は不意に自分を睨んでいた須藤に気が付き、やさしく微笑んだのだが

 

「・・・ちっ!」

 

すぐに目をそらし腕を組んで目を閉じる須藤

 

「今日の5時からこの教室でテストまでの間

 毎日二時間やるつもりだ、参加したいと思ったら、いつでも来てほしい

 

 もちろん、途中で抜け出しても構わない

 

 僕からは以上だ」

 

平田がそういうと赤点組七人のうち四人が平田のもとに行くが

もともと平田のことをよく思っていない須藤、さらに池と山内の三バカだ

 

「・・・・・・・・・・」

 

仮面をかぶった綾小路はそんな三人をじっと見つめていたのであった

 

・一・

 

「綾小路君、よかったらお昼、付き合ってもらえないかしら」

 

隣にいた堀北が綾小路に話しかけてきた

 

それを見て女子の綾小路は機嫌を悪くしたようにその場を去っていくのだった

 

「おいあたし!

 

 どこに行くんだよ」

 

「あたしは今の堀北さんには協力しない・・・・・・ただそれだけよ」

 

「あ、おい!

 

 ったく・・・・」

 

そのままどこかに行ってしまった女子の綾小路を

まったくとあきれたように見つめる綾小路たち

 

「それで・・・・?

 

 何を企んでるんだ・・・・?」

 

「別に何もないわよ、ただお昼をおごらせてあげるってだけ」

 

にらみ合う不気味な表情の綾小路と堀北

 

「まあいい、付き合うくらいならば別にいいよ・・・・」

 

「お昼、ごちそうになる!」

 

「それじゃあ、来てもらえるかしら・・・」

 

そう誘っていく

 

「まったく素直に話せば、そうやって疑われることもないだろうに・・・・」

 

「人の好意を信じられなくなったら人間はおしまいよ」

 

「前に人が突然、誘われたら疑問に感じるって言わなかったっけ?」

 

「・・・・何のことかしら」

 

堂々ととぼける堀北に二人の綾小路はやれやれといった感じでついていく

 

食堂につくと、そこに並べられたのはなんと高額のスペシャル定食だった

 

「それじゃあ、いただきまーす!」

 

と食べ始める言動が幼い感じのする綾小路

一方の堀北は不気味な表情の綾小路の方を見ている

 

「それで、そっちの綾小路君は何も食べないの?」

 

「私はものを食べるということに興味がない・・・・

 

 僕におごってくれるだけ十分だよ・・・・」

 

堀北はやや怪しげに不気味な表情の綾小路の方を見つめる

 

「早速だけど話を聞いてもらえるかしら?」

 

「何かな・・・・?」

 

不気味な表情の綾小路は待ってましたと言わんばかりに

堀北に対して不気味に表情をうっすらと笑みを浮かべさせた

 

「茶柱先生の忠告以降、クラスの遅刻は確かに減り私語も激減したわ

 

 大半のマイナス要素だった部分は消せたといっても過言じゃない」

 

「まあそうだね・・・・・・まあもともと難しいことじゃない・・・・」

 

茶柱先生の忠告以降、平田の呼びかけが功を制したのか

以前よりも授業態度が確かに大いに減ったと感じられた

 

「次に私たちがするべきこと

 それは二週間後に迫っているテストでより良い点数を取るための対策よ

 

 さっき、平田君が行動を起こしたようにね」

 

「勉強会ねー

 

 確かにそれだったら赤点対策はできると思うけど・・・・」

 

「目下の問題は須藤や池、山内の三人か・・・・」

 

「そうね、勉強会に関して消極的な彼ら三人は今後の一番の課題ね」

 

「さすがにわかっているようだね・・・・

 

 しかし現状どうするのか考えているのか・・・・?」

 

「本来なら赤点をとってしまうかもしれないと知ったら

 慌てて勉強しようと考える、退学がかかっているならなおさらにね

 

 でも現状、それでも勉強会に参加しようとしないどうしようもない生徒がいるのも事実」

 

「うわー・・・・・・堀北ちゃん容赦ないー・・・・」

 

「事実を事実として述べただけよ」

 

「しかしこの学校は外部から出られないし

 同時にここには塾のような施設もない・・・・

 

 やはりここは勉強のできる生徒に授業以外で教わるほかないってことか・・・・」

 

不気味な表情の綾小路の言葉に堀北は言葉を続ける

 

「平田君が積極的に勉強会を開いてくれるようだからね

 

 でもさっき話に出ていた通り須藤君たちはそれに積極的じゃない」

 

「まあ、あの三人は平田をよく思ってない・・・・

 

 平田が先導する勉強会には参加しないだろうさ・・・・」

 

「つまりこのままだと彼らが赤点をとる可能性は大きい

 

 Aに上がるためには、マイナスポイントをとらないのは大前提で

 プラスになるポイントを集めることが必要不可欠でしょう?

 

 私はテストの点数がプラスに結び付く可能性もあるとみているわ」

 

「だろうね・・・・

 

 そうでなければポイントの仕組みの際に

 小テストの結果のことまで教えたりしないだろう・・・・

 

 少なくともそこに関しては私も推測の域だ・・・・」

 

するとスペシャル定食を食べ終えた幼さの残る綾小路が堀北を見る

 

「ひょっとして・・・・・・堀北ちゃんも平田君みたいに勉強会を開くってこと?

 

 須藤君、池君たちに施しをするっていう」

 

「ええ

 

 そう考えてもらって構わないわ

 

 意外と、思うでしょうけど」

 

「まあ確かに、思ったよりも単純だったからね・・・・

 

 しかしまあ、私だっておそらく同じ方法を言うと思うけどさ・・・・」

 

二人の綾小路は堀北の提案に聞き入っている

 

「しかし簡単じゃないよ・・・・

 

 何しろあの程度の問題で赤点をとる奴らだ

 人並み以上に勉強が嫌いだろうしねぇ・・・・

 

 しかしどうやって集められるのかな・・・・?

 

 初日でクラスメイト達と距離を置いた君が・・・・」

 

「だから、あなたに協力してほしいのよ

 

 貴方、彼らと親しいはずでしょ」

 

「え?

 

 ・・・・・・それって、ひょっとして・・・・」

 

「彼らはあなたが説得すれば話は早い

 

 友達、というありがたい存在だから問題はないはずでしょ?

 

 そうね、図書館に連れてきて

 

 勉強そのものは私が教えるから」

 

「おいおいおい・・・・

 

 君から見て彼らと私、僕が親しいというなら

 そう簡単にはいかないと思うがね、ましてや彼らの君への評価は低い・・・・

 

 そう簡単にはできないことだぞ・・・・」

 

「できるできないじゃない やるのよ」

 

無茶ぶりを展開する堀北

 

「そんな簡単に行くとは思えないよ僕も私に賛成」

 

「食べたわよね?

 

 私のおごりで

 

 お昼、スペシャル定食、おいしそうに食べてたわよね」

 

「僕・・・・」

 

「ふぇ!?」

 

「つまりもうあなたは私の協力を断る立場にない、そういうことでしょ」

 

「あいにく私は何も食べていない、よってそれに協力する義理はない・・・・」

 

「彼を止めなかった時点で貴方も同類よ」

 

「そう返してきたか・・・・」

 

「それじゃあ改めて聞くわ

 

 協力するか? あるいは私を敵に回すか?」

 

「私を脅しているつもりか・・・・?」

 

「つもりじゃないわ、どうだと受け止めてもらって構わないわ」

 

じっと見つめる不気味な表情の綾小路と堀北

そのやり取りを見つめながら空になった皿を見て

ズーンという効果音が聞こえるかもしれないほどに落ち込む幼い感じの綾小路

 

「そういえば、あなたは櫛田さんと結託して

 嘘で私を呼び出したこと、まだ許したつもりはないのだけれど?」

 

「ああ、そういえばそんなことあったか・・・・

 

 しかしあれは私ではない別の綾小路だったはずだが・・・・」

 

「あら?

 

 貴方だって多少なりとも関与したのでしょ

 

 だったら同罪ともとれるじゃない」

 

「あーそれはそうかもしれないねえ・・・・」

 

「その件を許してほしかったら私に協力しなさい」

 

このまま討論してもしょうがないと考えたのか

ふう~っとため息をついて話を切り上げるのだった

 

「まあいい、その代わり少し手を加えさせてもらうよ・・・・

 

 何せ彼らを動かすには私や僕では難しいと思うからな・・・・」

 

「いいでしょう、それじゃあこれ私の携帯番号とアドレス

 

 何かあったらこれで連絡してきなさい」

 

そう言って連絡先を交換する堀北と綾小路であった

 

・・二・・

 

「さあて・・・・

 

 どうしたものか・・・・?」

 

「まあ難しいだろうね

 

 何しろあの三人が

 勉強会一緒にしないかって言われて

 素直に首を縦に振るとは思えないしね・・・・」

 

二人の綾小路は話をしている

 

「ぶっちゃけ親しいって言ってたけれど

 あの三人のことと個人的な付き合いなんてないし

 

 僕が言ったって門前払いだよ・・・・」

 

「そうだね・・・・

 

 こういう役目はあたしの役目だろうが

 あたしはあくまで堀北への協力には消極的だ・・・・

 

 私が言ったところでどうにもならないだろうさ・・・・」

 

「そうだねー

 

 あーあ、僕もあたしみたいに

 みんなから好かれてたらいいのにー」

 

「まあ別に誰にどう思われているのかっていうのに興味はないからね・・・・」

 

すると不気味な表情の綾小路は

顎に手を当てて何かをひらめいたように言う

 

「そうだ・・・・

 

 Dクラスにはあたしと同じように

 周りからの信頼の厚い子がいるじゃないか・・・・」

 

「それって誰のこと?」

 

「僕はもう少し相手の顔や名前を覚えるように努力しな・・・・

 

 櫛田だよ、あの三人も櫛田の言葉なら素直に聞いてくれるだろうさ・・・・

 

 堀北の名前を出してもあの三人、特に須藤は来ないだろうし・・・・

 

 だったらここは人望のある櫛田に頼んで三人を勉強会に連れて行ってもらおう・・・・」

 

「櫛田・・・・・・? ああ・・・・

 

 あたしや堀北ちゃんと並んで結構な速さで泳いでいたあの子だね」

 

思い出したように幼い感じのする綾小路

 

「でも櫛田ちゃんって確かいろんな人と一緒にいるから

 どうやって話をする機会を得ればいいんだろう?」

 

「確かに私も少しぐらいしか

 話をしたことがないからな・・・・

 

 どうしたものなのだろうか・・・・」

 

悩む二人の綾小路のもとにもう一人

 

「お、俺と僕じゃねえか・・・・

 

 一体何やってんだこんなとこで・・・・」

 

どこか動物的な雰囲気の綾小路が通りがかる

 

「「・・・・・・・・・・」」

 

「あ?

 

 なんだよ・・・・?」

 

すると二人の綾小路は通りがかった動物的な雰囲気の綾小路に詰め寄る

 

「俺、確か櫛田とよく接していただろう・・・・?」

 

「それで協力してほしいんだけれど・・・・」

 

「え、え、なんだよ?」

 

二人の綾小路の説明を受ける動物的な雰囲気の綾小路

 

「櫛田を使って三バカを勉強会に誘うぅ?」

 

「そうだよ俺!

 

 もう僕たちにはこれしかない!!」

 

「私も口惜しいがあの三人を普通に勉強会に誘っても

 来てくれるとは思えん、大方一夜漬けでもすればいいと

 言われて門前払いされるのがオチだろうさ・・・・

 

 発案者である堀北にやらせてもおそらくおんなじ結果だ・・・・

 

 そこで提案するのは櫛田を介して勉強会に誘うと思ってね・・・・」

 

ある程度の説明をする二人の綾小路

 

「断る!

 

 俺はそもそもあの櫛田って女が好きじゃねえし

 堀北に対してもおんなじ意見だ、俺が協力する意味もねえだろ!!」

 

そう抗議する動物的な雰囲気の綾小路が言うが

 

「ちなみに言っておくが堀北は俺と櫛田と結託して

 自分を誘い出したことを許していないそうだ・・・・

 

 直接関与していない私だって詰め寄らたんだ

 協力した俺に関してどんな風にされるのかね・・・・」

 

「もしそうだったとして堀北ぐらいどうにでもなるだろう」

 

「そういう問題じゃないの

 

 実は僕、堀北ちゃんのおごりで高額のスペシャル定食を食べちゃったから・・・・

 

 協力せざるを得なくなってしまって・・・・」

 

へへへと笑ってごまかしつつ言う幼さの残る綾小路

 

「僕は本当に目先の欲望に目がねえな!

 

 だから周りからガキ呼ばわりされるんだよ!!」

 

「だって、前からずっと食べてみたかったんだもん」

 

「それで、俺は協力するのかい・・・・?」

 

不気味な表情の綾小路は

動物的な雰囲気の綾小路はため息をつく

 

「わーったよ、やりゃいいんだろやりゃ・・・・

 

 ったくなんでこういう時に限ってあたしは非協力的なんだか」

 

頭をガシガシと掻きながら向かっていくのであった

 

「私ってさ、どうして堀北ちゃんにそこまで入れ込むの?

 

 だって俺の言った通り堀北ちゃんを敵に回しても

 特に問題らしい問題はないと思うんだけれどもねぇ~」

 

「だってその方が面白そうだと思っただよ・・・・

 

 フフフフフフ・・・・」

 

・・・三・・・

 

「くそ、俺はどうしてこうも運が悪いのやら・・・・」

 

動物的な雰囲気の綾小路はため息をつきながら櫛田を探す

 

「ぶっちゃけなんで俺が堀北なんざに協力しなけりゃならなきゃならねえんだよ

 

 そしてあたしが非協力的なせいで

 なんであの女を探さなきゃならなくなるんだよ・・・・

 

 まあ見つからないんなら、見つからないでいい

 いっそ今日はこのまま帰らせてもらって・・・・」

 

「あれ?

 

 綾小路君?」

 

「・・・・・・え?」

 

動物的な雰囲気の綾小路は恐る恐る綾小路

 

そこにいたのは

 

「ここで何しているの?」

 

彼の探し人であり、一番会いたくない人物、櫛田であった

 

「なんで寄りにもよっているんだよー・・・・」

 

櫛田に聞こえないように言う動物的な雰囲気の綾小路

 

「ええっと、もしかしてお邪魔だった?」

 

「・・・・・・そんなことねえよ、むしろ探したぜ櫛田」

 

「え?

 

 綾小路君が私を?

 

 珍しいね綾小路君から私に用事だなんて」

 

嫌がるそぶり一つ見せず、笑顔で綾小路に話しかける

その様子は次の言葉をわくわくした子供の用に綾小路の言葉を待っていた

 

「実は、さ、櫛田に協力をお願いしたいんだが・・・・」

 

「協力?

 

 私に一体何を協力してほしいのかな?」

 

かくかくしかじかと動物的な雰囲気の綾小路は

先の二人の綾小路から聞いていた話を大まかに櫛田に説明していく

 

「まあとにかくだ、でもまあ別にお前が嫌だっていうなら別にいいんだぞ・・・・」

 

「ううん、いやだなんて思わないよ

 

 困っている友達を放ってなんて置けないし

 それにこの機会に堀北さんとも仲良くなれるかもしれないし

 

 だから私も手伝うよ」

 

櫛田が快く承諾したのを見て

動物的な雰囲気の綾小路はげんなりする

 

「まあやる気があるんなら別にいいけどな」

 

「それにね・・・私うれしかったんだ」

 

櫛田は壁にもたれかかって軽く廊下をけった

 

「赤点をとったらすぐに退学なんて酷い話だよね

 

 せっかく友達になったのにそんなことでお別れになっちゃうのってすっごく悲しいよね?

 

 そんなとき平田君が勉強会を開くって聞いてすごいなって感心したの

 

 でも堀北さんは私よりもずっと周りをちゃんと見ていたんだっていうか

 須藤君たちのことも見ていたっていうんだからすごいなって思ったの

 

 堀北さんもクラスのことを、友達のことをちゃんと考えててくれたんだなって

 だからもし私が堀北さんの、クラスのみんなの役に立てるんだったら何でもするよ」

 

櫛田は笑顔で答えるが

 

「堀北がクラスのために・・・・?

 

 まったく笑い話だな・・・・」

 

動物的な雰囲気の綾小路はつぶやくのであった

 

「ただ、その代わりってわけもないんだけれど

 

 私もその勉強会に私も参加させてほしいの」

 

「うーん、別にいいと思うぞ

 

 堀北の奴が何を言うのかわからねえが・・・・」

 

「ありがとう綾小路君、一緒に頑張ろうね」

 

笑顔を向けてくる櫛田だが

綾小路はやや複雑な心境である

 

「それで、勉強会はいつから?」

 

「あ、そういや聞いてねえけど・・・・

 

 でもたぶん早くても明日ぐらいにはなるんじゃねえのか?」

 

うーんと考え込むように答える綾小路

 

「そっか

 

 じゃあ今日のうちに、みんなに声かけなきゃいけないね

 

 それじゃあ明日、話をしておくね」

 

「まあ頼むわ」

 

「あ、そうだ・・・・

 

 よかったら綾小路君、連絡先交換しない?

 

 何かあったとき連絡できるようにしておきたいし

 

 それにもうクラスで

 連絡先交換してないのは綾小路君と堀北さんだけなんだよね」

 

それを聞いて、静かに驚きの心境を表すがなんとも言えない

 

「はあ、別にいいよ・・・・

 

 あた、女の綾小路の方で教えてもらうし・・・・」

 

「ああ、そういえば綾小路君、綾小路さんとも仲が良かったっけ

 

 ねえ綾小路君、綾小路君は堀北さんと綾小路さん、どっちが好み?」

 

「は?

 

 なんでそうなるんだよ・・・・

 

 あたs、綾小路とはそういう仲じゃねえし

 堀北だって付き合うなんてことには絶対にならねえよ」

 

「でもクラスの女子の間では、結構噂になってるよ?

 

 綾小路さんっていろんな人と交流してるけど

 綾小路君たちと話してる時だけ様子が違うし

 

 堀北さんだってクラスの中では

 綾小路君以外とあんまり交流していないみたいだし」

 

それを聞いて何やらどっと疲れたような表情を見せる

 

「とにかく、あたs、綾小路とはそんなんじゃねえし

 堀北とだって付き合うなんてこと自体ない話だ」

 

「そっか、じゃあさ綾小路君って気になる人とか・・・」

 

「いない!」

 

こうして櫛田の協力を成立させた動物的な雰囲気の綾小路であった

 

・・・・四・・・・

 

「どうやらうまくいったみたいだね・・・・」

 

「さっすが俺だね

 

 櫛田さんと一番仲がいいだけのことはある」

 

「だーかーらー!

 

 俺はあの女が嫌いなの!!

 

 できればかかわりたくないの!!!

 

 其れなのに私と言い、僕と言い・・・・」

 

「まあ、腹に一物抱えてんのは

 おいらも一緒だし、気持ちはわからなくもないぜ

 

 あたしの方はどうだよ、相変わらず堀北には非協力的な姿勢か?」

 

「今のところは・・・・・・ね」

 

「・・・・・・・・・・」

 

すると陽気な電子音が響いて携帯をのぞいてみる

 

『山内君、池君、からはオッケー出たよ(^_^)b」

 

「「おお・・」」

 

不気味な雰囲気の綾小路と幼い印象の綾小路が

櫛田からの連絡を見て好反応を見せる

 

『今、須藤君にも連絡しているけど好感触っぽい(^_^)』

 

さっそく不気味な印象の綾小路が堀北に連絡を入れるが

俺とあたしはどうにも乗り気ではないというのがうかがえる

 

「お風呂に入ってくね・・・・」

 

そう言って女子の綾小路は浴室に向かっていくのであった

 

するとそこに電話がかかってきた、相手は堀北だ

 

「もしもし・・・・?」

 

「・・・・さっきメールを見たわ、どういうことか説明してほしいのだけれど」

 

「メールの通りだよ、櫛田に手伝って

 須藤たち三人を呼び出してもらったのさ・・・・

 

 おかげで三人とも勉強会に乗り気になってくれている・・・・」

 

「どうして櫛田さんに手伝わせたのかと聞いているのよ!

 

 私はあなたにお願いしたはずなのだけれど!」

 

「悪いがそんなことは聞いていない・・・・

 

 私は確かにお願いされたが私一人の力でやるという了承はもっていない

 現に櫛田が協力してくれたおかげで私が集めるよりもはるかに効率よく集まる・・・・」

 

「でも私だってそんなことを許可した覚えはないわ

 

 それに彼女は赤点組には含まれていないし・・・」

 

「だったらなおさらだ・・・・・・彼女にも勉強会を手伝ってもらえばいいだろう・・・・

 

 ぶっちゃけ私や君が手伝うよりも、周りからの信頼の厚い櫛田がいれば効率よかろう・・・・」

 

「・・・・気に入らないわね

 

 私の許可をとってからするべきじゃない?」

 

「もし私が許可を求めたとしてお前は了承するのか・・・・?

 

 ならばいっそ君の許可を入れない方が効率の良い方だと思うがね・・・・」

 

「ぬう・・・」

 

堀北自身返答に困っているのがわかる

堀北自身もわかっているのだ、自分よりも櫛田に

やらせた方がいいということがわかっているのだ

 

だがそれをプライドが邪魔しているのだ

 

その結果がこの反応である

 

「こうやって討論している時間も私達にはない・・・・

 

 君だってそれは分かっているだろう・・・・」

 

そう伝えると針北にはまだ何か引っかかっているようで

少しの間だけ間が空き、しばらくしてから言葉が返ってくる

 

「・・・・わかったわ

 

 背に腹は代えられないもの

 

 でももう一つ、櫛田さんに勉強会に参加させること

 

 これもどういうことなのか説明させてもらえないかしら?」

 

「・・・・・・ああ、それね・・・・?

 

 さっきも言ったが櫛田の了承に

 あの三人が快く受けているんだ・・・・

 

 だったらその櫛田自身がいなければ

 三人はがっくりして結局勉強会は進まなくなるだろう・・・・

 

 だから櫛田の条件をのんだ・・・・・・そういうことだよね・・・・俺?」

 

不気味な雰囲気の綾小路の返答に

動物的な雰囲気の綾小路ははいはいといった感じで手をひらひらと動かす

 

「とにかく!

 

 櫛田さんが勉強会そのものにかかわること

 私は絶対に認めない、こればっかりは譲れないから」

 

「ひょっとしてまだあの時のことを怒っているのか・・・・?」

 

「それとこれとは無関係よ

 

 彼女は赤点組じゃない

 

 余計な人を招き入れるのは手間と混乱を生むだけ、そう判断しただけよ」

 

堀北はそう言い切るのだが

綾小路自身もまだ引くつもりはない

 

「一体君はどうして櫛田のことが気に入らないんだ・・・・?」

 

「貴方は自分のことを嫌っている人間を傍においてもなんとも感じないの?」

 

「うん・・・・?」

 

綾小路は堀北の返答に違和感を覚える

 

「さっきも言うがあの三人は櫛田の呼びかけに応じたんだ・・・・

 

 もしもその場に櫛田がいないとわかって帰ったらどうするのだ・・・・?」

 

「・・・・ごめんなさい、テスト範囲の絞り込みに思ったより時間をとられているの

 

 まだかかりそうだからそろそろ切るわね

 

 じゃ、お休みなさい」

 

「あ、おい・・・・っ」

 

携帯を一方的に切られてしまうのだった

 

「・・・・・・櫛田が堀北を嫌っているか・・・・

 

 私にはそうは思えないがな・・・・」

 

「でもこのままだと最悪堀北ちゃんが離脱する可能性も・・・・」

 

「そうなったら勉強会がなおのこと進まなくなっちまうぜ」

 

「・・・・・・・・・・」

 

三人の綾小路が考え込むように腕を組み

その彼らを無機的に見つめる仮面をかぶった綾小路

 

「まあ俺もどこかあの櫛田ってやつは妙に胡散臭い感じがしてるからさ・・・・

 

 堀北が櫛田を嫌ってるっていうのは納得がいくが

 その逆っていうのはどうにも理解が及ばねえなまったく・・・・」

 

そう言ってベッドに座って

壁にもたれかかる動物的な雰囲気の綾小路

 

「もしかしてさ、堀北ちゃんと櫛田ちゃんって

 実は昔からの知り合いなんじゃないかな?」

 

「待て待て待て

 

 確か櫛田は中学からの友達はいないって言ってただろ?」

 

「・・・・・・友達、はな・・・・」

 

すると仮面をかぶった綾小路から声が漏れる

 

「ほほう・・・・

 

 まさか我が発言するなんてね・・・・

 

 でも確かに中学からの友達はいないが

 同じ中学の出身の子がいないとは言っていない・・・・

 

 もしもその友達ではない、中学の出身の奴が堀北だとすると・・・・

 

 もしかしたら堀北自身もそれを感じているのかもしれないな・・・・」

 

「でも櫛田ちゃんは堀北ちゃんとも仲良くなりたいといってたけど・・・・」

 

「もしかしたらそれは櫛田がDクラスに送られた理由なのかもしれないな・・・・」

 

好戦的な表情の綾小路が不意につぶやく

 

「Dクラス・・・・

 

 不良品の集まりねぇ・・・・」

 

不気味な表情の綾小路は不意につぶやく

 

「まあ櫛田のことはどうでもいいだろ

 

 目下の問題は勉強会の方だぜ、どうすんだよ」

 

「櫛田に電話しろ!」

 

好戦的な表情の綾小路が

動物的な雰囲気の綾小路に向かって携帯を投げつけるように渡す

 

「なんで俺なんだよ!」

 

「お前以外に櫛田と接点の深い奴いねーんだよ!

 

 いいから櫛田に連絡を取れっての!」

 

好戦的に迫られて蛇ににらまれた蛙のように詰め寄られる

 

「くそう・・・・」

 

渋々櫛田の番号に連絡を入れる

数回のコール音とともにガチャっという音が聞こえ

 

「もしもーし」

 

櫛田の声が聞こえるが

同時に風の音が聞こえる

 

「ああ、えっと・・・・

 

 悪い、髪を乾かしてたのか?」

 

「あ、ううん大丈夫だよ

 

 ちょうど終わったから」

 

つまりはふろ上がりである

だが別にだからと言って不誠実な妄想はしている様子はない

 

「うーん、今日せっかく協力して

 もらった件についてなんだが・・・・

 

 一応堀北と話をしていたんだけどよ・・・・」

 

「・・・そうなんだ、それでどうだった?」

 

少しだけ沈黙が起こったのが気になったが

反応を見る限り特に雰囲気が変わっている様子はない

 

「櫛田が参加すんのは認められないって、断固言われちまってさ・・・・」

 

「そっか・・・

 

 やっぱり堀北さんに私のこと反対されちゃったんだ」

 

櫛田ががっかりした様子なのは声色を見て感じられる

 

「まあ俺としてはさ・・・・

 

 やっぱり手伝ってくれた分さ

 お前にも力になってもらいたいと思ったんだけどよ」

 

「まあそうだよね

 

 私堀北さんに嫌われてるみたいだし・・・」

 

シュンとした櫛田が想像できるのが恐ろしいところ

 

「しっかし、どうしたもんだろうな

 

 堀北の力じゃ須藤たちを集められるとも思えないしさ」

 

「確かにそうだね・・・」

 

動物的な雰囲気の綾小路の言葉を否定しない櫛田

 

「ねえ、堀北さんはどう断ったの?

 

 私が須藤君たちを集めたこと?

 

 それとも、勉強会に呼びたくないって言われた?」

 

櫛田が問いかけていく

 

「・・・・・・さっき話した時は後者だけだったが

 

 心情的には両方なのかもしれねえけどな・・・・」

 

「あははは、だよね

 

 堀北さんって人を寄せ付けない感じがするじゃない?

 

 だからそんなこともあるかなーって」

 

「・・・・・・櫛田がよっぽど堀北のことがわかってるんだな

 

 しっかしこのままだと手が詰まっちまうのも事実だしな・・・・」

 

うーんと考える動物的な雰囲気の綾小路

 

「そうだね

 

 みんなには私も参加するからって理由で納得してもらったし・・・

 

 私も誘った手前、参加できなくなった理由に嘘がつけないじゃない?

 

 今から断りのメールを受けたら、多分堀北さん、本当にみんなに嫌われちゃうかもね・・・」

 

すると不意に動物的な雰囲気の綾小路は脳裏に口角を上げているのが脳裏に浮かんだ

 

「そうだ!

 

 その件だけどさ、私に任せてもらえないかな」

 

「うん?」

 

「明日、全員を堀北さんのところに連れていくよ

 

 もちろん、私もね」

 

「無理やり参加するっていうことかよ・・・・

 

 でも確かに現状どうにかする方法がないのも事実だしな

 堀北とはもう話すらならねえし、納得させられる方法もねえしな」

 

「そうでしょ」

 

そこは嘘でも肯定してほしくなかったと思う綾小路だった

 

「・・・・・・わかったよ

 

 ただ、やっぱり何が起こっても俺じゃフォローしきれないかもしれないぞ・・・・」

 

「大丈夫、それじゃあまた明日」

 

そう言って通話を切る櫛田と綾小路だった

 

「で、結局、櫛田に案件を任せることになったわけか・・・・」

 

「まあ櫛田ちゃん来ないと勉強会を始められないし・・・・」

 

「しっかしどうしたもんかな・・・・

 

 こんな時あたしだったら仲介に回れるのに」

 

「まあここは私と俺が付いて言って

 様子を見に行ったらいいじゃねえか」

 

「だからなんで俺が!?」

 

好戦的な雰囲気の綾小路の言葉に

動物的な雰囲気の綾小路が勢いよく突っ込むのであった

 

しかし結局参加する羽目になってしまったのは言うまでもない

 

・・・・・五・・・・・

 

「それで、結局櫛田さんは来ることになったってことね」

 

堀北は不機嫌なようすで話しかける

 

「・・・・・・一応櫛田には伝えておいたが

 

 やはり櫛田のおかげで集まっている以上、櫛田もその場にいなければ成り立たないだろう・・・・」

 

「昨日も言ったはずよ、櫛田さんの勉強会の参加を認めない」

 

「もう遅いよ、櫛田にも伝えておいたが、どうにも無理やりにでも参加するつもりらしい」

 

動物的な綾小路は不意に櫛田を見る

すると櫛田はそれに気づき、ウィンクで返す

 

それをみてうんざりした様子で彼女から目をそらした

 

その後図書室の一角で二人の綾小路は堀北とともに到着を待つ

 

「連れてきたよー」

 

そこに櫛田の声が聞こえて

その後ろには池と山内、須藤の三人がいた

 

「櫛田ちゃんから勉強会開くって聞いてさ

 

 やっぱ入学したばっかで退学なんてしたくないしな

 

 よろしくな!」

 

するとそこにもう一人男子生徒の姿もいた

 

「おや・・・・?

 

 君は確か沖谷君と言ったね・・・・

 

 記憶が正しければ君は赤点組じゃないはずだが・・・・?」

 

「あ、う、うん

 

 そうなんだけれど・・・・その、テストなんだけれど

 赤点ギリギリだったから心配で・・・・ダメ・・・・だったかな?

 

 平田君のグループ、女の子が多いから入りにくくって・・・・」

 

おどおどしながら答える男子生徒、沖谷

 

「まあいいんじゃねえの?

 

 赤点組だけが赤点をとるって

 可能性があるわけでもいないんだしさ」

 

「うん、堀北さんもいいかな・・・?」

 

櫛田は堀北に問いかける

 

「そうね、綾小路君の言うことももっともね

 

 赤点の可能性がある以上、放っておくわけにはいかないもの」

 

「う、うんっ」

 

嬉しそうに席に座る沖谷

 

「櫛田さん、綾小路君から聞かなかったのかしら?

 

 あなたは・・・」

 

「じ、実はね、私も今回のテスト、とっても不安なんだ」

 

「あなたの成績は言うほど悪くはなかったはずだけど」

 

「でも綾小路君が言った通り赤点組以外のみんなが

 赤点をとらないとも限らないし

 それに勉強を教えてあげる人が多いと勉強会もスムーズにいくと思うし」

 

櫛田は人差し指でかわいく頬を掻く

 

「私だってクラスのみんなの力になりたいし

 私だってクラスの中から退学者なんて出したくないもん、だからお願い」

 

それを見ていた二人の綾小路

 

「なるほど・・・・

 

 沖谷君を利用して

 自分が勉強会に参加させる理由を作った・・・・」

 

「おまけに堀北は沖谷の参加を認めた矢先による切り返し

 

 なかなかに図太い策略だな」

 

すると

 

「・・・・好きにしなさい」

 

「ありがと」

 

仕方ないといった感じで堀北は了承し

櫛田はそれを聞いて笑顔でうなずくのだった

 

「ところでさ、32点未満は赤点つってたけど、32点じゃアウトってことか?」

 

「未満、つまり32点はギリギリセーフだって

 

 須藤、お前大丈夫か?」

 

それを聞いて二人の綾小路と堀北も思わず頭を抱える

 

「さて、それじゃあ始めるけど

 私が教えるからには最低でも50点はとってもらうわよ」

 

「げぇ、それってその分大変ってことだよな?」

 

「ぎりぎりのラインを越えるように勉強に励むのは危険よ

 

 赤点を楽に越えられるようでなければ、もしもの時に困るのは貴方達よ」

 

堀北の言うことはもっとも

それゆえに教えられる側はみんな渋々頷いていく

 

「今度のテストで出る範囲はある程度こちらでまとめてみたわ

 

 テストまで残り二週間ほど、徹底して取り組むつもりよ

 

 わからない問題があったら、私に聞いて」

 

「・・・おい、最初の問題からわからねえんだけど」

 

いきなり須藤からの質疑が出る、その部分を読んでみる

 

「ふふーん、連立方程式の問題だね・・・・」

 

「高校生の問題としては無難なとこだな」

 

すると

 

「うげ、俺もわかんねえ・・・・」

 

池の方からもそんな声が聞こえる

 

「沖谷君は分かる?」

 

「えっと・・・・」

 

一方の沖谷の方は求め方をだんだんと理解していく

 

「うんうん、あってるあってる、それで?」

 

櫛田の方も見事な教え方で沖谷の勉強を見ている

 

「はっきりいわせてもらうけど

 この問題は中学1、2年生でもやり方次第で十分に解ける問題よ

 

 この程度で躓いていたらそれこそ赤点回避なんて無理な話よ」

 

「俺たちって小学生以下・・・?」

 

「でも堀北さんの言う通り、ここで躓いてたらまずいかも

 

 小テストに出た数学の最初の問題はこれくらいの難度だったけど

 最後の方の問題は難しくって私わからなかったもん」

 

「いい?

 

 これは連立方程式を用いることで簡単に答えを求めることができるの」

 

堀北は教え込んでいくが理解に及んでいるのは沖谷と櫛田ぐらいだった

 

「れ、れんりつ、ほーてーしき・・?」

 

「・・・・・・まさかそこから?」

 

あまりのことに動物的な雰囲気の綾小路も思わず情けない声を上げる

 

「だーやめだやめ

 

 こんなことやってられっか」

 

開始してものの数分でリタイア宣言する須藤

つられるように池と山内もシャープペンシルを放り投げる

 

「待ってよみんな

 

 もうちょっと頑張ってみようよ

 

 解き方を理解すれば、あとは応用だからテストまで生かせるはずだし・・・」

 

「・・まあ、櫛田ちゃんが言うんなら、頑張ってみてもいいけどさ・・・

 

 というか、櫛田ちゃんが教えてくれたら、俺もうちょっと頑張れるかも」

 

「え、えと・・・」

 

すると堀北のほうに耳打ちをする綾小路

 

「堀北・・・・

 

 あんまり黙ったままだとそれこそ

 彼らはいつまでたっても勉強しない・・・・

 

 あまりこの状態が長く続くのは好ましくないよ・・・・」

 

「わかってるわよ・・・」

 

そう言われて口を開く堀北だが

その前に行動を移したのは

 

「ここはね、堀北さんの言うように、連立方程式を使った問題なの

 

 だから、私がさっき口にしたのを一度式として書いてみるね」

 

その様子を黙ってみている二人の綾小路と堀北

 

「君は櫛田のやり方、どう見るのかな・・・・?」

 

「確かに櫛田さんの教え方は称賛に値するわ・・・

 

 でも沖谷君はともかく、そもそも基本がわかっていない

 須藤君たちにして見れば余計に混乱するだけよ」

 

「まったくだな、これじゃあ勉強会じゃなくて居残り授業だな」

 

三人は双会話していく、そして堀北の指摘通り

 

「・・・で、答えがこうなるの

 

 どうかな?」

 

櫛田自身は丁寧に教えているが、当の本人は

 

「・・・え、これで答えだせるのは?

 

 なんでだよ?」

 

「う・・・」

 

そう、赤点組は勉強についていけていない

 

「これは・・・・

 

 根本的な部分から見直した方がいいのかもしれないね・・・・」

 

「まったく、ここまでひどいと逆に見事なものね・・・」

 

「おい、堀北・・・・」

 

すると堀北のつぶやきが聞こえたのか須藤が堀北を睨みつける

 

「んだとてめえ、俺らに言いたいことでもあんのか!」

 

「この程度の問題にもついていけないなんて将来どうしていくつもり?

 

 考えるだけでもぞっとするわ」

 

堀北の言い方が癪に障ったのか須藤は勢いよく机をたたく

 

「いいたい放題言いやがって

 

 大体勉強なんざ将来何の役にも立たねえんだよ!」

 

「勉強は将来役に立たないですって?

 

 そう言い切る根拠は何かしら」

 

「こんな問題なんざ解けなくたって別に何ともねえよ

 教科書に無駄に齧り付いてるくらいならバスケやって

 プロ目指した方がよっぽど将来役に立つぜ」

 

「それは違うわ、こういった一つ一つの問題を解けるようになって初めて

 今までの生活にも変化が生じてくる

 

 つまり、勉強していればもっと苦労しなかった可能性がある、ということよ

 

 結局のところ自分に都合のいいルールを求めているだけ

 貴方はそんないい加減な気持ちでバスケに取り組んでいたんじゃないの?

 

 本当に苦しいと部分には勉強のように背を向けて逃げていたんじゃない?

 

 練習に対しても真摯に取り組んでいるようには思えないし

 

 なにより周囲の輪を乱すような性格

 

 私が顧問だったらレギュラーには絶対にしないわ」

 

須藤は立ち上がって堀北に詰め寄っていく

 

「須藤君!」

 

堀北の胸倉につかみかからんとする須藤の腕が

堀北の胸の前でピタリと制止するのであった

 

なぜなら

 

「・・・・・・・・・・」

 

「てめえ・・」

 

動物的な雰囲気の綾小路が須藤の腕をつかんで制止させていた

 

だが堀北はそれでも繭一つ動かさずに須藤を冷めた目で見ている

 

「私はあなたには全く興味がないけれど、見ていればどんな人間かは大体わかるわ

 

 バスケットでプロを目指す?

 

 そんな幼稚な夢が、簡単に叶う世界だとでも思っているの?

 

 あなたのようにすぐに投げ出すような中途半端な人間は、絶対にプロになんてなれない

 

 仮に慣れたとしても納得のいく待遇になると思えない

 

 そんな現実味のない職業を志す時点で、あなたは愚か者よ」

 

「ぐううう・・」

 

須藤はその堀北の言い方に

綾小路の手を振りほどき、カバンに教科書や筆記用具を詰め込み始める

 

「もういい、やめだやめ!

 

 わざわざ部活休んでまで来てやったってのに完全に時間の無駄じゃねえか

 

 こんなの、ただ苦労するだけxじゃねえか!」

 

「おかしなことを言うのね

 

 世の中に苦労しないでなれるものなんてないのよ」

 

そう言って椅子を乱暴にどかして図書室をあとにしてしまう

 

「おい須藤!

 

 堀北、いくら何でもあのいい方はないだろう!!」

 

「本当のことを言っただけよ

 

 だいたいこんな常識的なことがわからないなんて

 自分はやる気がないと公言しているようなものよ

 

 退学がかかっているのに

 

 学校に対する執着心なんてかけらもないんでしょ」

 

「どうにもおかしいと思ったんだよ、お前みたいなのが急に勉強会なんて

 

 どうせ俺たちが勉強できないからってバカにするためなんだろ!

 

 お前が女じゃなかったらぶんなぐってるところだぜ」

 

「それは自分が殴る勇気がないのを性別のせいにしているだけでしょ」

 

須藤に続いて山内も片づけを始めていく

 

「おれもやーめた、堀北さんさそういう上から目線から物言うのはっきり言ってむかつくから」

 

池もさじを投げ始める

 

「勉強なんて徹夜でもすればなんとかなるし、俺もやーめた」

 

「面白いことを言うのね

 

 自分で勉強ができないから、ここにきているんじゃないの?」

 

「っ・・・」

 

やがて二人は片づけを終えて立ち上がる

すると最後まで残っていた沖谷も流され始めていく

 

「み、みんな・・・・」

 

「行こうぜ、沖谷」

 

沖谷はとうとう流れに逆らえず

急いで片付けて一緒に出ていってしまうのであった

 

「あたしの言うとおりになっちまったな・・・・」

 

「・・・・・・・・・・」

 

その場に残ったのは二人の綾小路と櫛田、堀北のみだった

 

「・・・堀北さん、こんなんじゃ誰も一緒に勉強なんてしてくれないよ・・・?」

 

「そうね、私は間違ってた

 

 もし、今回あの人たちに勉強を教えてうまく赤点を回避できたとして

 またすぐに同じような窮地に追いこまれる

 

 そうなればまたこの繰り返し、そしてやがては躓く

 

 これは実に不毛なことで、余計なことだと痛感したわ」

 

「・・・・堀北さん、それって、どういう・・・?」

 

「足手まといは今のうちの脱落してもらった方がいい、と言う事よ」

 

堀北はそう結論付ける

 

「そんなのって・・・ね、ねえ綾小路君、綾小路君たちも何か言ってよ」

 

「無駄だ櫛田・・・・

 

 今のこいつに何を言っても聞きやしないよ」

 

「堀北がそう決めたなら、もうそれでいいだろうさ・・・・」

 

「綾小路君・・・」

 

「俺が何とかしてみたところで

 もうあいつらは聞く耳なんかもちやしない

 

 残念ながら俺にできることはここまでだ・・・・」

 

「・・・そう、わかった」

 

櫛田は表情に影を落として

カバンをもって立ち上がる

 

「私は何とかする

 

 してみせる

 

 こんなに早くみんなと別れるなんて絶対に嫌だ」

 

「櫛田さん

 

 本気でそう思っているの?」

 

「・・・いけない?

 

 須藤君や池君たちを見捨てたくないって思っちゃ」

 

「あなたが本心からそう言ってるなら、私は構わない

 

 でも、私にはあなたが本気で彼らを救いたいと思っているようには思えない」

 

「何それ

 

 意味わかんないよ

 

 どうして堀北さんは

 そうやって敵を作るようなこと、平気で言えちゃうの?

 

 そんなの・・・私、悲しいよ」

 

櫛田はうつむきながらそう告げるがすぐに顔を上げる

 

「・・・じゃあね二人とも、また明日」

 

とうとう最後の砦であった櫛田も去ってしまい

こうして結局最初の二人に戻ってしまうのであった

 

「櫛田が離脱した以上・・・・

 

 俺がもう出る幕はもうねえ・・・・

 

 それじゃあ、俺はこれで抜けさせてもらうぜ・・・・」

 

そう言って動物的な雰囲気の綾小路も出ていくのであった

 

「終わったわね・・・」

 

「そうだね・・・・」

 

静かにつぶやく堀北と

不気味な雰囲気の綾小路だった

 

「それで、あなたも私のやり方に言いたいことでもあるかしら?」

 

「別にないよ・・・・

 

 君がそう結論したのなら

 私は否定はしない、肯定もしないがな・・・・」

 

「これからどうするつもり?」

 

「どうもしないさ・・・・

 

 私は私でどうにかやってみるさ・・・・」

 

「あなたも案外お人よしね

 

 これから退学する者たちのために

 まだ何か無駄な労力をしようというの?」

 

「そういうんじゃない・・・・

 

 私はあくまで彼らを切り捨てたいわけではない・・・・」

 

「でもあなたにできることはあるのかしら?

 

 中途半端な新設を施すほど残酷なことはないわよ」

 

「そうだろうね・・・・

 

 君の言うことは正しいさ・・・・

 

 だからこそ私は君の言うことを否定はしない、否定はね・・・・」

 

そう言って数歩歩いて立ち止まる不気味な雰囲気の綾小路

 

「堀北、何度も言うが私は君の考えを否定するつもりはない・・・・

 

 勉強嫌いな彼らに手を焼くくらいなら確かにそう判断するのもわからなくもない・・・・

 

 だが私は、彼らの後ろにある背景を想像してみるのも正解だと思うけどね・・・・?

 

 ただ単にバスケのプロを目指すだけならわざわざこの学校を選択する必要はない・・・・

 

 ならばなぜここを選んだのか、それを考えれば君の見方も少しは変わると思うけどね・・・・」

 

「・・・・興味ないわね」

 

堀北の返答に綾小路はそうかとつぶやいて去っていくのだった

 

堀北はしばらく教科書に目を通してから、帰路につくのであった

 

・・・・・・六・・・・・・

 

先に図書室をあとにした動物的な綾小路

その道中で一人の人物に会うのだった

 

「その様子、どうやらうまくいかなかったようね・・・・」

 

それは六人の綾小路のうち、唯一の女子の綾小路であった

 

「ああ、おおむね予想通りだ・・・・」

 

「それで、堀北さんはどうだった?」

 

女子の綾小路の返答に動物的な雰囲気の綾小路は

何も言わずにただ首を横に振るのであった

 

「・・・・・・どうやら堀北さんはまだ気が付けていないようね・・・・」

 

「なあ、あたし

 

 やっぱここは堀北に直接言った方がいいんじゃねえか?

 

 ああいうタイプは自分の欠点なんて見ようともしねえぞ」

 

「ダメよ俺

 

 仮に教えたって彼女はきっと

 それを受け流してしまうわよ

 

 教えるにしてもそれを受け止める

 きっかけを生み出さないとならないわ

 

 あたしとしてはこの勉強会でどうにか

 彼女がそれに気が付いてくれればッて思ったけれど・・・・」

 

「そうか・・・・

 

 私の方はどう見ていくんだろうな・・・・」

 

「私もきっとその時をうかがっている

 はずだと思うんだけれども・・・・

 

 残念だけれど今日のところはここまでね・・・・」

 

考え込む二人の綾小路

 

すると会談の方から誰かが歩いていく声が聞こえる

 

「うん・・・・?」

 

動物的な雰囲気の綾小路が音のする方に行く

 

おそるおそる会談の踊り場を見てみると

そこには後ろ姿だったが知り合いの姿がいた

 

「あれは・・・・・・櫛田・・・・?」

 

別に隠れる必要はないと思うが

なぜか隠れてしまう綾小路であった

 

「ちょっと、なんで隠れてるのよ・・・・」

 

「なんとなくな・・・・」

 

そう言って櫛田の様子を見ていたその時

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー・・・・・・ウザい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこに聞こえたのはいつもの櫛田ならぬ声色だった

 

「マジでウザい、ムカつく

 

 死ねばいいのに・・・」

 

ぶつぶつと呪文を唱えるように暴言を吐く櫛田

 

「自分がかわいいからってお高くとまりやがって

 

 どうせアバズレに決まってんのよ

 

 あんな性格の女が、勉強なんて教えられるわけないっつーの」

 

暴言を吐いている相手は堀北のようである

 

「あー最悪

 

 ほんっと、最悪最悪最悪

 

 堀北ウザい堀北ウザい、ほんっとウザいっ」

 

もはや遠目から見れば櫛田とは思えない声があたりに響く

 

「あれが櫛田かよ・・・・

 

 不満爆発だな・・・・」

 

「でもあの様子、相当たまってるのね・・・・

 

 なんだか随分前から不満があったように・・・・」

 

すると不意に二人は考え込む

 

「ずいぶん前からって、ひょっとして櫛田さんは

 この高校に入る前から堀北さんに不満を持ってたってことじゃない?」

 

「どういうことだ?」

 

女子の綾小路の言葉に動物的な雰囲気の綾小路が聞く

 

「我の推測、堀北さんと櫛田さんがおんなじ中学の出身だっていうあれ

 

 あの推測がもしかしたら当たっているのかもしれないっていうことよ・・・・」

 

「なるほど・・・・」

 

二人がそんな話をしていると

 

「誰?」

 

「「っ!?」」

 

後ろから櫛田が声をかけてきた

 

「感づかれたか・・・・

 

 あたし、ここから離れる」

 

「ええ」

 

と二人の綾小路は急いでその場を離れていくのであった

 

櫛田は二人のいたところにつくがそこに二人の姿はなかった

 

「・・・っ!」

 

櫛田はいらだったようにその場で舌打ちをするのであった

 

・・・・・・・七・・・・・・・

 

綾小路の自室において

六人の綾小路は集まっていた

 

「ふふーん・・・・

 

 なんとなくきな臭いと思ってたけど

 そんな一面があったなんて驚きだね・・・・」

 

「僕、ちょっと櫛田ちゃんの印象が変わったかも」

 

「まあ俺はもともと、あの女は好かなかったからな」

 

「そういや我は櫛田と堀北の因縁に薄々感づいてたんだよな

 

 どうしてそんなことがわかったんだよ?」

 

「・・・・・・・・・・」

 

仮面をつけた綾小路は答えない

 

「ったく、また無口になりやがって・・・・

 

 これで俺自身でもあるんだが、なんとも言えねえな・・・・」

 

「うん・・・・?

 

 あたしは何をやっているんだい・・・・?」

 

あたしは何やら端末をいじってる

 

「これ見てよ・・・・」

 

少し腹立たしそうに

ほかの五人に端末を見せる女子の綾小路

 

「うわ・・・・

 

 悪い噂っていうのは瞬く間に広がっていくんだね・・・・」

 

「いじめて、確かこの学校はいじめはご法度でしょ?」

 

「まああんな対応されたら誰だって怒るもんでしょ」

 

「どうすんだよ?

 

 このままだとさらにまずいことになるぜ」

 

「まったくもう、なんでこうも馬鹿な事ばっかり・・・・」

 

その内容は堀北調子乗ってるから堀北いじめやろうぜ的な内容だった

 

当事者である池達のみならずなぜか佐藤という女子も加わっている

 

堀北のことをどれだけ周りの堀北への第一印象が最悪であると結論付けている

 

「おまけになんでかあたしも誘われてるし・・・・」

 

「ほっとけほっとけ、どうせ最初は無視する程度だろ・・・・」

 

「でもこれが激化したら陰湿なものになっていくのは目に見えてるでしょ・・・・」

 

「まあとりあえず既読を無視するとして、どうするんだ?」

 

好戦的な雰囲気の綾小路が

ほかの面々に話題を振っていく

 

「フフフフフフ・・・・

 

 ここは私に任せてもらおう・・・・

 

 こうなったら観点を変えて

 まずは堀北の厚生に励もうじゃないか・・・・」

 

「私、あなたで大丈夫なの?

 

 堀北さんの欠点はあなただって気づいてるはずでしょ」

 

女子の綾小路は不気味な雰囲気の綾小路は言うのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「堀北 鈴音・・・・

 

 ぜひとも君を私の方に引き込んであげようじゃないか・・・・

 

 フフフフフフ・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

       




Teufel, die sich vom Grund des Höllenkessels bewegen


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Sammle in der Hölle, yo, roter Punkt Zweiter Teil

Ein Idiot


「力があるのにそれを使わないのは、愚か者のすることだ」

 

・一・

 

「愚か者ね・・・・

 

 確かにそうかもしれないね・・・・」

 

何気に外に出てきたのは

不気味な表情を持つ綾小路だった

 

「うん・・・・?」

 

エレベーターを降りると不意に話声が聞こえた

それに気が付いた綾小路は声のする方に行って様子を見ることにする

 

すると

 

「・・・・鈴音

 

 まさかここまで追ってくるとはな」

 

そこにいたのは堀北だった

だが彼女に詰め寄るようにもう一人の影が見える

 

だが服装からして男子であることはわかった

 

「もう、兄さんの知っているころのダメな私とは違います

 

 私は絶対に兄さんに追いついて見せます」

 

「追いつく、か」

 

堀北の姿が見え、物陰からその様子を見る

 

「Dクラスになったらしいな

 

 お前は何も変わっていない

 

 お前はただ単に俺の背中を見ているだけで

 お前自身の中にある欠点にまだ気が付いていない

 

 どうやらこの学校に来たのは間違いのようだな」

 

「それは・・・」

 

堀北は不意に女子の綾小路に言われたことを思い出す

 

ーあなたにはあなた自身が気が付いていない欠点がある

 

 その欠点に貴方が気が付かない限り

 あなたが何をやったって、あなたの思い通りにはいかないわー

 

だがそれを心の中で必死に振り払う

 

「・・・・何かの間違いです

 

 すぐにAクラスに上がって見せます

 

 そうしたら・・・」

 

「無理だな

 

 お前ではDクラスにはたどり着けない

 

 それどころか、クラスも崩壊するだろう

 

 この学校はお前が考えているほど甘いところではない」

 

「絶対に・・・・絶対にたどり着いて見せます・・・」

 

「何度も言わせるな、お前には無理だ」

 

やがて綾小路からも見えるようにその人影が姿を表す

 

それはかつて部活の説明会にて

演説していた生徒会長、堀北 学であった

 

彼はやがて堀北に詰め寄り

その手首を壁にたたきつける

 

「どんなにお前を避けたところで、お前は俺の妹であるという事実は変わらない

 

 Dクラスになった妹、それが知られれば恥をかくことになるのはこの俺だ

 

 今すぐにこの学校を去るがいい」

 

「で、できません・・・っ

 

 私は、絶対にAクラスに上がって見せます・・・!」

 

「聞き分けのない妹だな」

 

「兄さん・・・・私は・・・」

 

「お前には上を目指す力も資格もない

 

 それを知れ」

 

堀北に向かって掌底を打とうとする兄を見て

堀北は直感的に危険を感じて目をつぶるが

 

いつまでも衝撃が来ない

 

堀北は恐る恐る目を開くと

 

「・・・・っ!」

 

「ふふーん・・・・

 

 やっぱりそうだったんだ・・・・

 

 しかし、あんまり過激な行動は感心しないね

 いくら妹さんでもこんなところで暴行なんて

 

 いろいろ問題だろう、生徒会長殿・・・・?」

 

そこには自分の兄の右手をつかんで

技を制限する不気味な雰囲気の綾小路があった

 

「あ、綾小路君!?」

 

「悪いけれど私は彼女に用があってね・・・・

 

 いくら兄妹水入らずのやりとりでも

 こういうのは見過ごせないね・・・・」

 

「ほう、その口ぶりからすると鈴音の知り合いのようだな」

 

「まあそんなところさ、とりあえず彼女をつかんでいるその腕・・・・

 

 離してもらえるかい・・・・?」

 

「それはこちらのセリフだ、その手を離せ」

 

生徒会長のすごみの聞いたにらみでも

不気味な雰囲気を揺らぐことなく無表情で見つめている

 

「やめて・・・・綾小路君・・・」

 

「ほほう・・・・

 

 君のそんな声を見せるとはね・・・・」

 

そう言ってゆっくりと生徒会長のつかんでいた腕を離すと

 

そこに突然、すごい速さの裏拳が飛んできた

 

「おっと・・・・」

 

それを見て表情を崩すことなく難なくかわす

 

さらに今度に素早いけりが繰り出されるが

 

「おお、今のは危なかったねぇ・・・・」

 

そんな口調を言いながらも表情を崩すことなく難なくかわした

 

それを見てわずかに疑問の表情を見せ

呼気を吐くと右手をまっすぐ、開いた状態で伸ばしてくるが

 

それを右手の裏ではたくようにして流した

 

「ほほう、いい動きだな

 

 まさか立て続けにかわされるとはな

 

 それに、先ほどの行動から見ても

 俺が何の技を繰り出すのかもよく理解している

 

 何か習っていたのか?」

 

生徒会長はようやく攻撃をやめると

綾小路は音を立てて、首を鳴らす

 

「いろいろさ、何しろ物騒だからね・・・・

 

 地獄のようなこの世界を生き抜くのも簡単じゃないからね・・・・」

 

「お前もDクラスか

 

 確か、綾小路と言ったな・・・・」

 

生徒会長は構えを解き、眼鏡をなおす

 

「そういえば今年、理事長直々の推薦によって入学したという

 

 異例の新入生がいると聞いていたが、もしやそれはお前のことか?」

 

「え・・・!?」

 

兄の言葉を聞いて

妹の堀北は思わず綾小路を見る

 

「さあねぇ・・・・

 

 別に興味もないからさ・・・・」

 

当の綾小路は特に意に返すことなくそう告げる

 

「鈴音、まさかお前に友達がいたとはな・・・」

 

「彼は・・・ただのクラスメイトです」

 

堀北は弱弱しくも、そう答えるのであった

 

「相変わらず、孤独と孤独をはき違えているようだな

 

 綾小路、お前のような奴がいるなら少しは面白くなるかもしれないな」

 

「それはどうも・・・・」

 

不気味な雰囲気の綾小路の様子にも

特に動揺することなく彼の横を通り過ぎていく

 

「上のクラスに上がりたかれば死に物狂いで足掻け、それ以外に方法はない」

 

そう妹に告げて去っていく兄

 

堀北は兄の姿が見えなくなると壁際に座り込んでうつむいてしまうのだった

 

「余計なことをしてしまったかな・・・・?

 

 まあ、私としては君の意外な一面を見れて少し高揚したよ・・・・」

 

「貴方、何者なの・・・

 

 入学試験と小テストの点数の時と言い

 さっきの兄さんの話に合ったものと言い

 

 私にはあなたのことが全く分からない・・・」

 

まだ先ほどの出来事のおかげで弱弱しい様子を見せる堀北

 

「そうだろうね・・・・

 

 あえてそうするためにふるまっているのだからね・・・・」

 

「・・・・そんなあなたがどうしてここに

 

 さっき私に用事があるって言ってたし・・・」

 

堀北にそう言われると思い出したように目を見開く

 

「ああ、そうそう・・・・

 

 よかったら少し話をしようと思ってね・・・・

 

 さっそくだけれど付き合ってもらうよ・・・・」

 

「・・・・?」

 

そう言って場所を移動する二人

 

ベンチに座っている堀北に

綾小路は自動販売機の方を向く

 

「何か飲むかい・・・・?」

 

「結構よ・・・」

 

「おやおや・・・・

 

 どうやらいつもの調子に

 戻り始めてきたようだね・・・・

 

 さっきまでは弱弱しくって

 私にその気があれば抱きしめてあげたくなるほど魅力的だったのに・・・・」

 

堀北は綾小路の発言ににらみを利かせるが

彼は特に気に留めることなく彼女の傍らに立つ

 

「さあて・・・・

 

 それじゃあ本題に入ろうじゃないか・・・・

 

 君は本当に今のままでいいと思っているのかい・・・・?」

 

そう言って前に立つ不気味な雰囲気の綾小路

 

「そんなことを聞くために私に会いに来たというの?

 

 もともとは私が開くといった勉強会なので

 貴方だって億劫に感じていたのに、気にしているの?」

 

「そうはいかないね・・・・

 

 私だってこの状況は面白いと思えるほど

 性格も人も悪くないし、悪人でもないしね・・・・」

 

「私は慣れているから別に気にしていないわ

 

 それに大半の赤点組は平田君が拾い上げた

 

 彼も勉強はできるし、人付き合いだって得意みたいだし

 少なくともボーダーラインをクリアさせてくるはずよ

 

 だけど私は赤点保持者に時間を割くだけ無駄だと判断した

 

 卒業まで同じようにテストは繰り返される

 

 そのたびに赤点をとらないようにカバーするなんて、愚の骨頂よ」

 

「現状赤点組のうち須藤たち三人は平田のことをよく思っていない・・・・

 

 つまりあいつらは平田が開催する勉強会に参加するとは到底思えん・・・・」

 

「それは彼らが判断するのであって、私には関係のない話ね

 

 それに、退学が迫れば、四の五の言ってられないでしょうし

 

 それでも平田君すり寄れないなら、退学してもらうだけ

 

 確かに私はDクラスをAクラスに引き下げることを目標にした

 

 でも、それは私自身のためであって、誰かのためなんじゃない

 

 ほかがどうなろうと関係ないわ

 

 むしろ、今回の中間テストで赤点組を切り捨ててしまえば

 残ったのは必然的にましな生徒だけになるでしょう?

 

 上のクラスを目指すこともたやすくなる

 

 願ったりかなったりね」

 

「そうだね、君の言っていることは間違っていない・・・・

 

 退学の件に関しては赤点をとってしまうような奴が悪いだろうさ・・・・

 

 でもさぁ、私は本当にそれでいいと思っていないんだよね・・・・」

 

綾小路の発言に堀北は彼を見る

 

「どういうこと?

 

 まさか、クラスメイトを見捨てるような人間に

 未来はないなんて言うつもりじゃないでしょうね・・・」

 

「違う・・・・」

 

「じゃあなぜ?

 

 赤点組を救うメリットなんて、何もありはしないわ」

 

「でもデメリットを防ぐこともできるだろう・・・・?」

 

「・・・・デメリット?」

 

「だってさあ・・・・

 

 遅刻や授業中の手遊び一つでマイナスポイントをつけるような制度だ・・・・

 

 もしかしたらクラスから退学者が出れば・・・・

 

 どのくらいのマイナスなるのかな・・・・?」

 

「それは・・・」

 

「まあ言いたいことはわかるさ・・・・

 

 可能性としては捨てきれないだろう・・・・

 

 もしも赤点が七人も出ればどれほどのマイナスになるだろうねえ・・・・?」

 

「で、でも遅刻や私語によるマイナスは0以下にはならないわ

 

 むしろ今の状態であればこそ、勉強のできない生徒を排除した方がいい

 

 ほぼダメージはないのと同じじゃない?」

 

「そんな保証がどこにあるんだ・・・・?

 

 もしかしたら見えなくどこかで

 マイナスが付加するかもしれないじゃないか・・・・

 

 そんなリスクを放置すること自体が危険だろう・・・・?」

 

「そ、それは・・・」

 

「君だって本当は気が付いているんだろう・・・・?

 

 だからこそ君は勉強会を開いたんじゃないのかい・・・・?

 

 赤点組なんて最初から見捨てればいいんだからさ・・・・」

 

不気味に笑顔を浮かべながら綾小路は堀北に顔を近づけていく

 

「そうだったとしても、赤点組を

 切り捨てた方が、将来的にクラスのためになる

 

 これから先ポイントが増えてきた時

 彼らを切り捨てなかったことを後悔するのは嫌でしょう?」

 

「本当にそう思っているのかい・・・・?」

 

「ええ、むしろ必死に彼らを救おうとするあなたの考え、理解に苦しむわ」

 

そう言ってベンチから立ち上がり寮に戻ろうとする堀北だったが

不意に手をつかまれてしまい、そのまま背中を壁にたたきつけられる

 

必死にもがくが両腕も壁に抑えられて抵抗が効かず、身をよじっていくが無駄な抵抗だ

 

「やっぱり君なんかに私を理解しきるなんて無理だね・・・・

 

 そんな程度の解釈で本気で君はこの先乗り越えていくつもりかい・・・・?」

 

「で、でもこの問題は私達二人だけで解決できることじゃない

 

 結局この答えを知っているのはあくまで学校だけ、押し問答になるだけよ」

 

「ずいぶんと饒舌だねぇ・・・・

 

 ここまでよくしゃべるとは思わなかったよ・・・・」

 

「そ、それは・・・・貴方がしつこいから・・・」

 

「だったら私のこの拘束を振り解けばいい

 

 君は女性とはいえ武道を心得ているんだ・・・・

 

 簡単だろう・・・・?」

 

堀北は反論しようとするが言葉が出てこない

否定の言葉も出ない、彼女自身はどうしてそうなのかがわからない

 

だが綾小路は堀北の顎を上げ

もう少しでキスをしてしまうのかも

知れないほどに顔を近づけていった

 

「それじゃあさ・・・・

 

 たとえとして入学式の時のバスのあれをおぼえているかい・・・・?」

 

「あの老人に席を譲らなかったあの時のこと?

 

 あれは・・・」

 

「あの時あたし、ううん女の綾小路は迷わず席を譲った・・・・

 

 でも私はあれが本当に正しかったのかと言えばどうなのかがわからなかったさ・・・・」

 

「・・・・あの時言ったはずよ

 

 私は老人に席を譲ることに意味がないと思った

 

 そうしたところで何のメリットもない、ただ労力と時間を浪費するだけ・・・」

 

「ふふーん・・・・

 

 つまり君はあくまでも損得で行動することを趣旨としているってことだね・・・・」

 

「・・・・それはいけないこと?

 

 人は多かれ少なかれ、打算的な生き物よ

 

 商品を売ればお金をもらうし、恩を売れば恩で返すし

 

 お年寄りに席を譲ることで社会貢献という愉悦を得る、違う?」

 

「だろうねぇ・・・・

 

 私もむしろそれが人間だって思うしね・・・・」

 

「・・・・だったら・・・」

 

「君は所詮物事を主観で見ている・・・・

 

 言ってみれば物事を狭い視野で見ているんだ・・・・

 

 怒りと焦りは目を曇らせていく・・・・

 

 今の君のようにね・・・・」

 

「・・・・貴方、そこまで私のことを言う資格があるとでも・・・?」

 

「逆に聞くけどさ・・・・

 

 今の君こそどうこう言える資格があるのかい・・・・?

 

 だったら教えてあげよう・・・・

 

 君が気が付いていない堀北 鈴音という人間の欠点をね・・・・」

 

そう言って堀北の腕と顎から手を離し堀北は地面に崩れ落ちる

 

「君は他人の能力を低く見ている・・・・

 

 足手まといと決めつければそいつを寄せ付けずに突き放す・・・・

 

 そうやって相手を下に見るその姿勢こそが君がDクラスに送られた理由だ・・・・」

 

「・・・・そんな、私はただ・・・」

 

「例えば君が勉強ができないという理由で切り捨てようとしている須藤・・・・」

 

「彼と私が同じような人間だとでもいうの・・・」

 

「そうだねぇ・・・・

 

 勉強に関してなら彼は君には一歩も二歩も後れを取ってる・・・・

 

 仮に猛勉強したとしても学力では君には遠く及ばないだろう・・・・

 

 学力ではね・・・・」

 

堀北は顔を上げて立ち上がっていく

 

「机の上では君の方に分がある

 でもこの学校は普段の生活態度すらも

 クラスの成績に当てているほどに厳しい・・・・

 

 そんな学校が、知識面のみで成績を決めると思うか?」

 

「え・・・?」

 

「もしもこのテストが知識面ではなく

 運動能力を見るためのテストだったら・・・・?

 

 きっと結果は違っていただろうさ・・・・」

 

「それは・・・・」

 

「まあ君だって運動ができることは

 水泳の時間でもしっかりと見せてもらった・・・・

 

 でも須藤だって運動面では非常に優れているじゃないか・・・・

 

 其れに関しては君だってあの場にいたからわかっているはずだ・・・・

 

 それに知識面、運動能力のほかにも例えば対話能力が求められるものがあったら?

 

 池や山内は軽いがその面では非常に優れている・・・・

 

 逆に君のような対話能力の低い君は

 知識面と違ってクラスの足を引っ張ってしまうかもだろう・・・・

 

 ではその君は無能だというのか・・・・?

 

 答えは違う・・・・

 

 人間ていうのは誰にでも特異不得意があるものなのさ・・・・」

 

堀北は何も言えない

何か言おうとしても喉元に引っかかって何も言えない

 

だがそれでも口を開く

 

「・・・・でもそれはあくまで机上の空論でしょう?」

 

「その通りさ・・・・

 

 ないものに手を伸ばしても

 なにもつかめるわけがない・・・・

 

 だったらあるもので予想するしかないだろう・・・・

 

 そこでもう一つ、思い出してもらおう

 茶柱先生が指導室に呼び出した際に言った言葉・・・・

 

 ’学力に優れたものが優秀なクラスに入れると誰がきめた‘ってさ・・・・

 

 つまりこれを聞いていれば

 この学校は学力以外のものを求めていると予想はつく・・・・」

 

堀北は感じている

 

まるでこの場を綾小路という人間によって

制圧されていくのが感じられていき、右往左往していく

 

「確かに赤点を切り捨てなかったことを後悔することもあるかもだろう・・・・

 

 だがそれは逆も然りさ・・・・

 

 彼らを切り捨ててのちの後悔することだってあるかもしれないだろう・・・・?」

 

だんだんと認めていく、認めざるを得ない

彼は、綾小路という人間は自分の中にある物差しで決して測れる人間ではないと

 

「・・・・そうかもしれないわね・・・」

 

「うん・・・・?」

 

「あなたの話はおおむね正しい

 

 あなたの言葉に不覚にも引き込まれた、それほどに説得力があった

 

 口惜しいけどそこは認めてあげる

 

 でも、あなたはどうしてそこまで私に固執するの?

 

 あなたがこの学校に来たその真意は何?」

 

「・・・・・・ふふーん・・・・

 

 どうやら冷静さまではかけてはいなかったようだね・・・・」

 

「そうよ、人を説く以上

 説く人物にも説得力がなければ

 ずるがしこい理論も破綻する・・・・

 

 それで私を納得させなければ、私を引き込めないわよ」

 

堀北も綾小路という人間に引き込まれないように必死にあらがう

 

「教えて、あなたは何のためにここに来たの・・・?」

 

「・・・・・・・・・・」

 

しばらく黙り込んでいる綾小路だったが

すぐに堀北の方を向いて彼女の耳元に近づく

 

「私は知りたいんだよ・・・・

 

 この世界において求められている一番の課題・・・・

 

 この世界で求められている真の実力・・・・

 

 この世界における本当の平等をさ・・・・」

 

「本当の実力と、平等・・・?」

 

「私は知りたい・・・・

 

 私だけじゃない・・・・

 

 僕も、俺も、おいらも、あたしも我も・・・・

 

 それを知り、取り込むことで私は私の求める何かが手に入るかもしれない・・・・

 

 だからすぐに知りたい、君の考える実力と一緒にね・・・・」

 

堀北は綾小路から少し離れ、その発言をする彼の目を見る

その目はまるで未知に飛び込むことに興奮する得体のしれない何かのように

 

「ねえ・・・・・・堀北・・・・

 

 堀北の思う実力って何なのかな・・・・?」

 

「・・・・・・・」

 

堀北はやがてまたも妙な感覚に見舞われる

まるで何かに包まれて彼に引き寄せられていく感覚だ

 

だが堀北はその感覚に見舞われながらも笑顔を見せる

 

「だったら教えてあげるわ

 

 そのために私はまずやるべきことをやる

 

 あなたが言うように彼らを残しておくことが

 この先有利になるというなら、私はそれにかける

 

 あなたの言うその賭けにあえて乗ってあげる」

 

「・・・・・・フッ、フフフフフフ・・・・

 

 はーっはっはっはっはっはっはっ!!!!

 

 いい返事じゃないか、ならばお前の実力が

 私の満足のいく答えになるかをみせてもらおう・・・・

 

 堀北 鈴音!

 

 お前の実力を見せてみるがいい!」

 

「ええ、これで契約成立ね・・・」

 

まるで面白い玩具を見つけたような笑い声を上げる綾小路

堀北も笑顔を崩さずにそんな彼から目を背けなかったのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「堀北 鈴音・・・・

 

 私とともに地獄まで付き合ってもらおう・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

               




Ein Mädchen, das mit Dämonen in der Hölle kontrahiert


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Sammeln Sie in einer fremden Straße, rotes Punktpaar !

Hell-Vertrag


その日の夜

 

堀北は不気味な雰囲気の綾小路に連れられて

彼の部屋に連れられて行く、今後のことを話し合うためらしい

 

「一応聞いておくけれど、何かしようとしたら・・・」

 

「そんなに警戒しないでくれ給えよ・・・・

 

 どうせだったら落ち着いて話せる場所の方がいいだろう・・・・?」

 

そう言って綾小路の部屋の前につく二人

不気味な雰囲気の綾小路はカードキーを通して扉を開ける

 

「入りなよ・・・・

 

 ほかの奴にも面を通しておきたいからさ・・・・」

 

「ほかの奴・・・?」

 

扉を開けて堀北を先に入れて

扉を閉めつつその中に入っていくと

 

奥から人の気配を感じた

 

そこにいたのはなんと

 

「あ、私が帰ってきt・・・・・・って堀北ちゃん!?」

 

「どういうことだよ!

 

 なんで堀北がここに・・・・」

 

「ふふふふふふ・・・・

 

 偶然外で会ってね・・・・」

 

六人の雰囲気が違う綾小路たちであった

堀北はなぜここに六人が集っているのかにも疑問を覚えたが

 

それは片隅においておき、彼らのもとにゆっくりと近づいていく

 

するとその六人の中で唯一の女子の綾小路が

ゆっくりと堀北のもとに近づいていく

 

「ここに来たということは・・・・

 

 貴方なりの答えは見つかった?

 

 よかったら聞かせてもらえないかな」

 

「ええ、あなたの言う通り私には欠点があった・・・

 

 でも私はだからと言ってその欠点は簡単に克服できるものじゃない・・・・

 

 だったらその欠点を踏まえたうえで私は私自身のために動く・・・・

 

 もしも他人をうかつに見捨てずにそれが私の有利に

 進められるというのなら、私は彼らを救う努力をする

 

 あくまで打算的だけど、これが私なりの答えよ」

 

「ふうん・・・・」

 

女子の綾小路は鋭い目つきで堀北を見る

堀北もその目つきに臆さないようにじっと彼女を見る

 

すると彼女はふっと笑みを浮かべる

 

「ま、いっか

 

 あたしは堀北さんがしっかり

 自分を見据えててくれているなら

 

 それ以上は何にも言わないよ

 

 それじゃ、これからよろしくね堀北さん」

 

「え、ええ・・・

 

 よろしく・・・」

 

急に雰囲気の変わった女子の綾小路の反応に

堀北はペースを乱されて思わず返事をしてしまうのだった

 

「さあて・・・・

 

 それじゃあ堀北・・・・

 

 あらためて赤点組である須藤たちの

 救済のために動かせてもらうことになるけど・・・・

 

 まずは・・・・・・いや聞く必要もないね・・・・

 

 どのみちあの三人を引き込んであげないと始まらないし・・・・」

 

「あの書き込みのことも考えると難しいかもね・・・・

 

 下手したら無視を決め込むかもしれないよ?」

 

「書き込みって・・・?」

 

「気にするな、大した問題じゃねえ」

 

堀北には例の、堀北いじめようぜの書き込みについては触れられていない

 

「まあここはもう一度櫛田の力を借りて・・・・」

 

「待て」

 

「・・・・・・なんだい・・・・?」

 

不気味な雰囲気の綾小路の言葉を

動物的な雰囲気の綾小路は遮った

 

「俺は櫛田の手を借りることに反対だ

 

 あの女は信用できない

 おそらくだがあの女は近いうちに俺たちの敵になる

 

 引き込んでいくのは危険だ」

 

「あたしも俺に賛成・・・・

 

 あたしにも彼女の腹の底がつかめないと感じたから」

 

「前々から櫛田を嫌ってた俺はともかく

 櫛田と仲よくしていたあたしがそういうとはな

 

 しかし現状、櫛田を通してでねえとあいつらは呼び込めないぜ

 

 どうするんだよ・・・・」

 

「フフフフフフ・・・・

 

 ないものに頼れないなら

 あるものでどうにかしようじゃないか・・・・

 

 ねえ堀北・・・・」

 

不気味な雰囲気の綾小路に呼ばれて

思わず彼の方を見てしまう堀北であった

 

「須藤君を君が説得するんだ・・・・」

 

「何を言っているのよ、彼は私とは・・・・」

 

「大丈夫、須藤君とはあたしが通しておくから

 

 今の堀北さんならきっと彼を納得させられるってあたしは信じてる・・・・」

 

「綾小路さん・・・」

 

力強い笑顔を向けられて

不思議と自身の湧いてきた堀北は

 

力ある頷きで返すのだった

 

「さてと・・・・

 

 それでは行動に移ろう・・・・

 

 勉強をやること自体は難しいことじゃないからさ・・・・

 

 須藤を引き込めればあとは簡単だ・・・・

 

 やってくれるね俺にあたし・・・・」

 

「ちょっと待てよ!

 

 俺は別に勉強会には・・・・」

 

「いいじゃない、少しぐらい付き合ったって・・・・」

 

「・・・・・・あたしまでそういうのかよ」

 

不気味な雰囲気の綾小路の言葉に反論する動物的な雰囲気の綾小路だったが

人間的な女性の綾小路に言いくるめられてしまい、渋々了承するのであった

 

「・・・・・・・」

 

その光景にどこか異様さを感じている

見た感じ六人は仲の良いグループのように見えるが

 

その会話はまるで個人が独り言を言っているような会話であると感じていた

 

すると

 

「・・・・・・君も気が付いたか・・・・」

 

「っ!?」

 

堀北の左隣にいた

仮面をかぶった男子生徒が話しかけてきた

 

「・・・・・・君が感じているそれは決して気のせいではない

 

 そもそも人間というのは目で見た者は信じられても

 自分の身に感じているその感覚に対してはどうしても信じ切ることができない

 

 だが人間とてほかの動物が持ち合わせている危機感知能力を失っているわけではない

 

 時には目で見ているものだけではなく

 自分が感じたと思うことを信じてみるのも間違いではないことだってある

 

 君がそうだと感じたことは間違いであっても気のせいであることは決してない

 

 それを覚えておくのだ・・・・」

 

「あ・・・」

 

そう言って再び黙り込んでしまった仮面をかぶった綾小路であった

 

「目で見ているものだけでなく

 自分が感じたものが気のせいであることは決してない、か・・・」

 

そんなことをつぶやくと

 

「さて・・・・

 

 大体のプランは整ったね・・・・

 

 それではさっそく明日結構してみるとしよう・・・・

 

 それじゃあ・・・・・・よろしく・・・・」

 

「ええ

 

 それじゃあ堀北さん

 頑張ってね」

 

「・・・・ええ」

 

こうして改めて

赤点組の救済を開始するのであった

 

・1・

 

翌日の放課後

 

「須藤君たち、ちょっといいかな・・・・?」

 

さっそく女子の綾小路が三バカに接触した

 

「あ、ああ綾小路さん!?

 

 俺らになな何の用っすか!」

 

池は大げさに動揺している

 

「ちょっと三人とお話があるんだ

 よかったら放課後、いいかな?」

 

「い、いいいいっす!

 

 お前らもいいよな!!」

 

「も、もちろんだぜ!」

 

「お、おう・・」

 

池の返事に山内も有頂天になって返事し

須藤はほかの二人と違ってとりあえずのように返事をした

 

「それじゃあさっそく来てもらえるかな」

 

そう言って三人に来てもらえないかと誘い

三人はそれぞれの反応で話を受けるのであった

 

「何あいつ・・・何しようっての・・・?」

 

その様子を見ていた影がいたことに気づかずに

 

「な、なあひょっとして綾小路ちゃん俺に気があるんじゃねえの!?」

 

「何言ってんだよ寛治、綾小路ちゃんは俺に話があんだよきっと」

 

「めんどくせえな、俺たちに何の話があんだよ・・」

 

須藤が女子の綾小路に尋ねていく

 

「ごめんね三人とも

 

 話をしたいのはあたしじゃないんだよ」

 

「へ・・・って!?」

 

「「うええ!!」」

 

池と山内はひどく驚く

 

なぜならその前には不気味な雰囲気の綾小路と堀北の姿があったのだから

 

「おやおや・・・・?

 

 何を驚いているんだい・・・・?

 

 堀北はただ単に君たちに話が合って

 彼女を通して君たちを呼んだだけだろうに・・・・」

 

「お、おおお、俺たちに!?」

 

「ななな、何の用でしょう

 俺たち何かしました」

 

もはやびびりまくって対象の堀北もあきれの様子を見せる

 

「落ち着いて、堀北さんの話を聞いてあげて・・・」

 

女子の綾小路に言われ、二人は少し気が楽になったのか

表情から少し緊張感が抜けていくのがわかった、そして堀北が切り出していく

 

「単刀直入に聞くわね

 

 貴方達はこのまま平田君の勉強会に参加するつもりはないの?」

 

「え?

 

 べ、勉強会?

 

 いや、だって勉強とかだるいし

 平田モテすぎでむかつくし・・・

 

 テスト前日に詰め込んだらなんとかなるかなって

 

 中学だってそれで乗り切ってきたし」

 

池の言葉に山内も二度三度頷いた

 

「貴方達らしい予想通りの考え方ね

 

 でも、そのやり方では貴方達はむしろ

 退学になる可能性の方が高いわ」

 

「相変わらず何様なんだよお前は」

 

須藤がにらみを利かせて堀北に言う

 

「私が一番に心配しているのはあなたよ須藤君

 

 貴方は二人と比べても退学への危機感がなさすぎる」

 

「そんなのてめえにはかんけえねえだろ

 

 勉強なんてテスト前にやりゃ十分だろ」

 

「おい、須藤・・・」

 

突っかかっていく須藤をなだめる池

 

「ねえ須藤君、よかったらもう一度勉強会に参加してもらえないかな

 

 今度はあたしも手伝うから・・・・

 

 もしも一夜漬けをしたとして、それでだめだったら

 須藤君の大好きなバスケットだってできなくなっちゃうんだよ」

 

「そ、それは・・・そうだけどさ・・

 

 でも俺は少なくともまずはこの女のあの時の暴言に対しての謝罪が先だ!」

 

そう言って堀北に対して敵意むき出しの言葉を吐き捨てる

 

だが堀北が口にしたのは謝罪の言葉ではない、代わりに言葉を続けていく

 

「私はあなたが嫌いよ須藤君」

 

「んな!?」

 

堀北のその言葉は今のこの状況を悪化させてしまうもの

だが須藤に何も言わせることなく言葉を続けていく

 

「でもね、私とあなたがお互いに嫌いか

 どうかなんて言うのは今の状況では些細な問題でしかない

 

 私は私のために勉強を教える、あなたもあなたのために勉強すればいい

 

 違う?」

 

「・・・そこまでしてAクラスに上がりたいのかよ

 

 嫌いな俺を誘ってまで」

 

「ええ、そうよ

 

 そうでなきゃあなたとこうやって話なんてしないわ」

 

堀北のその一言一言に対して

須藤は苛立ちを重ねていくのがわかるが

 

綾小路たちはあくまで様子を見る

 

「俺はな、バスケの練習で忙しいんだよ!

 

 いくらテスト期間中だっつってもな

 ほかの連中は休んでるつもりはねえ

 

 お前なんかのために時間を割いてる余裕なんざねえんだよ」

 

須藤はあくまで勉強会に参加しない意思を見せていく

だが堀北の表情には余裕がある、須藤のこの反応は想定の範囲内であるかのように

 

「あの時の勉強会で私は少しやり方を変えてみようと考えたの

 

 貴方達は基本的な問題はおろか、基礎すらもできていない

 たとえるならば貴方達は大海に放り出された蛙のようなもの

 

 どこに行けばいいのかもわからず、ただ右往左往しているようなもの

 

 それに須藤君のように趣味に充てる時間を

 削られることがストレスになる人のことも考慮して

 

 この問題を一気に解決する方法を思いついたの」

 

「へえ、そんな方法があるのかよ

 

 だったら教えてもらえませんかね」

 

鼻で笑う須藤

 

「簡単よ、今からのこの二週間

 真面目に授業を取り組めばいい」

 

これには三バカは驚きを隠せない

 

女子の綾小路も驚きの様子を見せたが

不気味な雰囲気の綾小路は感心したような表情を見せる

 

「今から心を入れ替えて

 死ぬ気で授業を受けなさいと言ったのよ」

 

「ふ、ふざけんな、そんなのでうまくいくわけ」

 

池は意見するが

 

「あら?

 

 何か問題があるかしら?

 

 学校の授業は休みを挟んでもおよそ六時間

 勉強会のために一、二時間放課後に時間をむげにさくよりも

 

 はるかに効率がいい、だったらそれを有効活用すればいい

 

 そうすれば放課後に時間を当てていく事もないから趣味に充てる時間だって作れる」

 

「なるほど・・・・

 

 確かにそれなら勉強する時間も

 趣味に充てる時間も割くことはない

 

 でも、そううまくいくの?」

 

女子の綾小路が聞く

 

「そ、そうだぜ、授業内容なんてついていけねえし・・・」

 

「そうでしょうね

 

 だったら授業の合間の休み時間を利用して

 短い勉強会を開けばいいの、要約していくと・・・」

 

堀北はもってきていたノートを開いてそこにかかられている仕組みかを説明する

 

一時間の授業が終わったら、すぐに全員で集合し、わからなかった部分を報告していく

 

そしてそのわずか十分間の間に、堀北がそれに対する答えを教える

 

そしてまた次の授業へ、このローテーションを放課後まで続けていく

 

だがこれは簡単なことではない

授業にロクについていけない彼らが

この短い時間で学習できる保証がないのだから

 

「うう、混乱してきた

 

 こんなのうまくいくのかよ」

 

池達も薄々それが大変な事だと気が付いている

 

「そうだよ、休み時間じゃ勉強会に充てる時間よりも短いし

 

 わからなかった部分の解説とかはどうするの?」

 

「問題ないわ

 

 私がその授業中、すべての問題に対しても

 わかりやすく解答をまとめておくから

 

 それを綾小路君と綾小路さん

 そして私のマンツーマンで教えればいい」

 

「なるほど・・・・

 

 確かにそれなら10分という時間を有無駄なく消化できるねぇ・・・・」

 

堀北は二人の綾小路の方に目を向けていく

 

「二人とも、お願いできるわね」

 

堀北の問いに二人はうなずく

 

「けどやっぱり・・高校の勉強難しいしさ

 

 間に合うと思えないぜ」

 

「でも一時間で学ぶ授業の内容は、意外と少ないものよ

 

 ノートで写すだけでもせいぜい1、2ページ分よ

 

 その中からテストに関係されているだけのものに絞り込めば

 1ページにも満たない知識を詰め込むだけで済む

 

 どうしても時間が不足する場合にだけ、昼休みを利用する

 

 私は問題の内容を無理に理解させるつもりはない

 

 ただできるだけ頭に叩き込んでほしいだけ

 

 大事なのは授業の時は先生の声

 黒板に書きだされる文字のみに集中すること

 

 ノートをとる作業はいったん忘れなさい」

 

「つまり、ノートをとるなってことか?」

 

「実は書きながら問題や答えを覚えていくのは案外難しいものなのよ」

 

「確かにね・・・・

 

 ノートに書き写すことに集中しすぎて

 肝心の内容の暗記が疎かになるだろう・・・・

 

 そうするとただノートを書き写すだけの

 ことに貴重な時間を使ってしまうからねぇ・・・・」

 

つまり堀北はもう放課後に勉強させるつもりはもうなと言う事であった

 

「まあ物は試し、否定する前に実践してみればいいのよ」

 

「・・・やる気になんねえな

 

 そんなもんやったって、俺はお前みたいながり勉とは違うからよ

 

 そんな簡単な、裏技みたいに勉強ができるとは思えねえ」

 

堀北なりに三人に配慮した方法だが

まだ肝心の須藤が首を縦に振らない

 

「馬鹿ね」

 

「ああ?」

 

「勉強なんて地道に時間をかけて覚えていくほかに上達する方法なんてないわ」

 

堀北はそれでも自分の姿勢を崩さない

 

「だったらなおさら・・」

 

「じゃあ聞くけれど

 

 あなたが情熱を注ぐバスケットには近道や裏技があるの?

 

 あるなら教えてもらえる?」

 

「んだと!

 

 そんなもんあるわけねえだろ

 

 何度も何度も地道な練習を重ねることで、初めてうまく・・・なん・・だよ・・・・・はっ!?」

 

須藤はそこまで言ってハッとするように息をのむ

 

「そうよ、地道に積み重ねていく以外に上達なんてしない

 それは勉強のみならずバスケでもほかのことでも一緒

 

 あなたがもしも赤点をとれなければあなたの大好きな

 バスケットを続けていく事はできなくなってしまう

 

 貴方は好きな事のためなら全力で頑張れる人

 その情熱を今回勉強に回していってほしい、それだけよ」

 

堀北は堀北なりに須藤にあゆみ寄っていく

須藤もその様子に驚愕するがそれでもやはりうんは言えないようだ

 

「・・・やっぱり俺は、納得がいかねえよ」

 

須藤はそこまで言ってその場を去っていこうとするがそこに

 

「そういえば・・・・

 

 君は彼氏はいなかったよね・・・・」

 

「・・・・・・え?

 

 いきなり何を言って・・・・」

 

「もしも次のテストで50点以上を取れたら彼らの望みをかなえてあげられたらどうだい・・・・?」

 

「ちょっと何言って!?

 

 あたしは・・・・」

 

「なんだって!?

 

 そういうことだったら!

 

 俺とデートしてください!

 

 51点取りますから!」

 

「いやいや俺が!

 

 俺とデートを!

 

 俺は52点取りますから!」

 

すると池が反応し、その次に山内も反応する

女子の綾小路は不気味な雰囲気の綾小路の真意に気づき

 

彼を睨みつける

 

「堀北が作ったチャンスだ・・・・

 

 それを君が使わないでどうする」

 

「あ・・・・」

 

そう言われて女性の綾小路はしぶしぶのることにした

 

「そんな急に言われても困るよ・・・

 

 私、テストなんかで人を判断なんてするつもりは・・・

 

「いいじゃないか・・・・

 

 勉強を頑張ったご褒美を彼らにあげるという形で・・・・」

 

すると

 

「・・・・・・あたしね、何事にも真剣に

 とりくめる人、努力する人は素晴らしいって思うんだ

 

 あたしも何事も努力をして頑張ってそれで今のあたしがあるの・・・・

 

 だからみんなが嫌いなことにも頑張って努力できる人、すてきだって思います」

 

「うおおおおお!!!!!!

 

 やる!

 

 やるやる!

 

 やります!」

 

ぶっちゃけどうでもいい奴が釣れたので

それを無視して不気味な雰囲気の綾小路は須藤と堀北に言う

 

「須藤・・・・

 

 これは好機だよ・・・・

 

 君だってこのまま堀北に馬鹿にされっぱなしも嫌だろう・・・・?」

 

そう言われると須藤は堀北の方を見る

 

「・・・そうだな、てめえよりいい点とまでは無理でも

 

 俺だってやればできるんだってことをてめえに見せてやるぜ」

 

と堀北に宣戦布告するように言うのであった

 

「別に何でもいいわ、やる気になってくれたのならね」

 

堀北はあきれながらもまずは関門を突破するのだった

 

そして、そんな様子を見つめる一つの影が

 

「堀北の奴・・・

 

 調子に乗りやがって・・・

 

 思い知らせてやる!」

 

櫛田はそう言って堀北達の元に向かおうと

するが不意に服を引かれ戻されるのであった

 

「にゃあっ!」

 

「悪いな・・・・

 

 こんなところで邪魔されたくないんだよ」

 

櫛田を引き戻したのは動物的な雰囲気の綾小路だった

 

「綾小路君!?

 

 あ・・・」

 

櫛田はハッとして彼を見る

その鋭い雰囲気を戻すことなく

 

綾小路を睨みつける

 

「さっきの言葉・・・・

 

 ひょっとして聞いた・・・・?」

 

「聞いたな、でも別に聞いたからって何だってんだ?」

 

すると櫛田は綾小路のネクタイを引っぱって言い張る

 

「あんたこそあたしの邪魔しないでくれる?

 

 あんたが堀北のことをどうしてかばうのか知らないけど

 どうせあんたなんて散々利用されて使い捨てられるだけよ」

 

「堀北が俺をどうしようがなんかに興味はねえよ

 

 俺はあくまで俺の都合で動かせてもらうだけだ」

 

「あんたの意見なんて聞いてない・・・

 

 これ以上何か言っても時間の無駄だから放してもらえる?」

 

「そうだな・・・・」

 

そう言って櫛田の襟をつかんでいた手を離す

すると櫛田はすかさず動物的な雰囲気の綾小路の手を取り、自分の胸に押し付ける

 

「んなっ!?」

 

「油断したわね、これでもうあんたは詰んだ

 

 もしも私の邪魔をするんだったらあんたにレイプされそうになったって

 学校に訴えさせてもらう、この通りあんたの指紋も付いたから証拠もある

 

 裏切ったら許さないから・・・」

 

櫛田はそう言って鋭い眼光で動物的な雰囲気の綾小路を睨む

 

「ち・・・・

 

 私とあたしから櫛田が邪魔に

 入らないように頼まれていたんだが・・・・

 

 逆にまさか俺が攻略されるなんてな・・・・」

 

「・・・フフフ」

 

すると急に櫛田は無邪気な笑顔を向けてきた

 

「私と綾小路君、二人だけの秘密だね」

 

「ああ、そうだな・・・・

 

 俺とお前の二人だけの秘密、だな」

 

綾小路はそれでも臆することなく言葉をつないでいく

すると櫛田は綾小路の耳元に顔を近づけてつぶやいた

 

「私、あんたみたいな奴、嫌いだから・・・

 

 調子に乗らないでくれる?」

 

「調子になんて乗ってねえよ

 

 俺も・・・・・・お前が大っ嫌いだからな」

 

そう言って互いに距離をやっていく二人

 

櫛田は興が覚めたのかまっすぐ寮に戻っていく

 

「・・・・・・・・・・」

 

動物的な雰囲気の綾小路はそんな櫛田をじっと睨みつけながら

二人の綾小路と堀北、三バカのもとに急ぐのであった

 

・・一・・

 

その後

 

勉強会はまあ活気にあふれているとまでは言わないが

それでも思っていた以上に進んでいるのはわかった

 

三バカもそれぞれの目標のためになれない勉強を続けていく

 

前にやった時に比べれば自分の時間に

割く余裕ができているので心に余裕ができ始めているようであった

 

綾小路たちはあくまで堀北のやり方をゆっくりとみていく事にした

 

「思ってる以上に順調に進んでるみたいだね・・・・」

 

「そうだね・・・・」

 

不気味な雰囲気の綾小路のつぶやきに

小さく答えると女子の綾小路は動物的な雰囲気の綾小路を睨むように見る

 

「な、なんだよ・・・・」

 

「俺、貴方櫛田さんに弱み握られたって?

 

 どうするの!

 

 櫛田さんをなるべく堀北さんから引き離す手はずだったのにぃ!」

 

「し、仕方ねえだろ・・・・

 

 まさか俺だってあの女があんなことするなんて・・・・」

 

「まったくもう・・・・

 

 大体俺は考えなしに行動しすぎ!

 

 何でもかんでも無鉄砲すぎだよ!!」

 

「そういうのは得意じゃねえんだよ!」

 

「俺はあたしでしょうが!」

 

「何の話をしているんだい・・・・?」

 

するとそこに不気味な雰囲気の綾小路と堀北が二人に話しかけてきた

 

「あ、ああ・・・・

 

 私に堀北さん、びっくりさせないでよ」

 

「そういやもうすぐお昼だよな

 

 堀北はお昼どうすんだ?」

 

「そうね・・・」

 

「綾小路くーん

 

 よかったらお昼、一緒に食べよー?」

 

とそこに現れたのは櫛田だった

 

「うげ、櫛田・・・・

 

 どうすんだよ二人とも・・・・」

 

「俺が行ってらっしゃい」

 

「堀北は・・・・」

 

「悪いけれど私用があるから・・・」

 

そう言って去っていく堀北であった

 

「まあこうなるわな・・・・

 

 それじゃあ私も失礼するよ

 私もやらなきゃいけないことあるしさ・・・・」

 

「あたしは平田君のところに行くね

 

 平田君の方はどうなのかも聞いておきたいし・・・・」

 

と不気味な雰囲気の綾小路と女子の綾小路はその場から去っていき

残ったのは櫛田と動物的な雰囲気の綾小路の二人だけであった

 

「ぐぬぬぬぬぬぬ・・・・

 

 何気に俺に押し付けていきやがったな・・・・

 

 ようしそれじゃあ俺も・・・・」

 

「あーやーのーこーじくーん、今日はちょっとお話があるんだー

 

 付き合ってくれるよねー」

 

「・・・・・・畜生・・・・」

 

なんとか離脱しようと試みる動物的な雰囲気の綾小路だったが

櫛田につかまって昼食に付き合わされる羽目になってしまったのであった

 

ちなみにその様子をうらやましそうに見つめていたもの多数

 

「おいおい・・・・

 

 ここって絶対に男が来るとこじゃねえよな・・・・」

 

櫛田に連れられて行ったそこは女子のグループの比率が多く

とてもではないが男がいて居心地のいいというと少し抵抗がある

 

「でもなれれば平気だよ、高円寺君はよく利用しているみたいだし」

 

櫛田の指さした先にいたのは

 

「高円寺くーん、はい、あーん」

 

「はっはー!

 

 やはり年上の女性は気づかいがいいねぇ」

 

たくさんの女性に囲まれて食事をとっている高円寺の姿があった

 

「うわー・・・・

 

 なんでかうらやましくねー」

 

「ま、まあ高円寺君の家ってすごく有名だからね」

 

その光景に対して何の言葉も出ない動物的な雰囲気の綾小路

 

「まあ現実を見れば、むしろ純愛で付き合うっていうのが珍しいのかもな」

 

「全部の女の子がそうだとまでは

 言わないけれどそうなのかもしれないね」

 

「あー、もう女は嫌だ」

 

「綾小路君ってひょっとして女の子苦手?」

 

「誰のせいだよ、誰の・・・・」

 

櫛田を睨みつける動物的な雰囲気の綾小路に対して

櫛田はごまかすように笑うのだった

 

「さあてと、綾小路君は堀北さんともう一回勉強会を始めたんでしょ?

 

 よくここ最近休み時間須藤君たちと一緒にいることが多いよね」

 

「まあだいたい予想はされてるか・・・・

 

 まあそうだな、あたし、女の綾小路が手を引いて

 堀北が三人にぶつかっていってそれでなんやかんやあって

 

 勉強会っていうか授業の見直しをしているというか・・・・」

 

「そうなんだ、でもなんだかうらやましいな

 

 やっぱり綾小路君って堀北さんのこと・・・好きなんだ」

 

それを聞いて椅子から倒れそうになる

 

「は、はああああああ!?

 

 なんでそうなんだよ!」

 

「だっていつもよく一緒にいるじゃない」

 

「俺はできればお前とも堀北ともかかわりたくないっての!

 

 むしろ堀北と一緒にいるのは私、じゃないあっちの綾小路の方で!」

 

必死に弁明する動物的な雰囲気の綾小路の様子を見て不思議と笑みを浮かべる櫛田

 

「なんだか綾小路君の意外な一面を見た気がするな

 

 綾小路君ってどこか人を寄せ付けない感じがあるけど

 こうして話をしてみると案外かわいいところがあるんだね」

 

「かわいいってお前・・・・

 

 男がそんなこと言われてもうれしかねえよ」

 

櫛田の物言いに獣のように食って掛かる綾小路

 

「でも綾小路君も意外に女の子たちから注目されてるよ?」

 

「意外には余計だっつの、っていうかぶっちゃけ興味ねえし」

 

「でも女子が作ったイケメンランキングでは5位にランクインしてるんだよ?

 

 ちなみに一位はAクラスの里中君で、二位は平田君で、三位と四位は・・・」

 

ぶっちゃけ聞かされてもだから何だという感じで頬杖をして

うんざりした感じで聞き流す動物的な雰囲気の綾小路

 

「ちなみに、根暗そうなランキングでも上位に入ってるよ」

 

「余計な情報ありがとうな・・・・」

 

「でも私はそうには見えないけれどな~」

 

櫛田は携帯を操作しほかのランキングも見せてくれたが

ぶっちゃけどうでもいいので少し強引に話を切りあげさせた

 

「私は綾小路君は悪くないと思うよ」

 

「さっき嫌いつってたやつが何言ってやがる・・・・」

 

と蛇のように鋭く櫛田を睨みつける

それを見て思わず驚きの様子を見せるが慌てて言葉を続けていく

 

「しっかしこんなランキングなんざ作って何が楽しいのかね」

 

「でもこういう人がいるんだよっていう意味では

 注目の的にはなるんじゃないかな、何事にもきっかけは必要だし」

 

櫛田はそんな眼光に臆しながらも言葉を続けていく

 

「そもそも綾小路君はすっごく損してるんだよ

 

 だって綾小路君、私から見てもイケメンだと思うよ

 やっぱり平田君に比べると個性がないというか、積極性がないというか・・・」

 

「別に俺は三バカのように平田と張り合うつもりはねえよ

 

 大体俺は堀北のように友達が必要ないとまでは言わねえが

 多く作りたいとも思わねえ、彼女作んのだって興味もねえしな」

 

めんどくさそうに突き放す言い方で答える綾小路

 

「じ、じゃあ綾小路君は、どんな中学時代を過ごしてたの?」

 

「そんなのいちいち話す必要あんのか?」

 

「・・・まあ別にないけれど・・・」

 

「だったら話はここまでだ、以上」

 

「・・・ちっ・・・」

 

一瞬舌打ちが聞こえたが別に今更気にすることではないと考え受け流す

 

「そもそもな、てめえのことを嫌いだっていうやつに

 なんで人の過去のこととか話さねえといけねえんだよ」

 

「ま、まあでももしかしたらお互いに知らない何かを知れると思うし」

 

「知りたいとは思わねえし、教えようとも思わねえな」

 

「あははは、でもそうだね・・・綾小路君の言う通りかも」

 

互いににらみ合っていくように見つめる双方

 

「それじゃあ本題に入らせてもらうね・・・

 

 綾小路君はもしも私と堀北さん、どっちかの味方に

 つくとしたら、綾小路君はどっちを選ぶのかな?」

 

「俺はどっちの味方にもなるつもりはねえよ」

 

「中立ってことかな?

 

 でも世の中都合よく中立を通せるほど単純じゃないことだってあると思うよ

 

 戦争反対を掲げる人だっていつ渦中巻き込まれるか分かったものじゃないでしょ?」

 

「なるほどな・・・・

 

 だが結局力は力でしか示せない

 あくまで力のあり方はそれぞれってだけだ」

 

「そうかもね・・・

 

 でもいつか中立を貫き続けていく事はできないよ

 

 私ね、もしも堀北さんと私が対立してしまったら

 綾小路君にはね、私の味方になってくれたらいいなって思ってるんだ」

 

「・・・・・・まるでで近いうちに堀北に戦争でも仕掛けるって言いたげだな」

 

「例えばだよ、私ね綾小路君のこと、期待もしてるんだよ」

 

「期待だと、俺から見ればお前も堀北も俺のいる土俵にいない

 

 俺のことを理解しきれていないのに期待なんざ向けられてもな」

 

櫛田は笑顔を浮かべたまま、首を横に振る

 

「じゃあ、堀北さんよりも早く

 綾小路君のことを知らないとね・・・」

 

「できるもんならな・・・・」

 

そう言って立ち上がる動物的な雰囲気の綾小路

 

「あれ?

 

 綾小路君、お昼ごはん食べないの?

 

 もうすぐお昼休み終わっちゃうよ」

 

「俺は別にいいよ、俺はな・・・・」

 

そう言って櫛田に後ろ手に手を振りつつ

去っていく動物的な雰囲気の綾小路に対し櫛田は首をかしげるのであった

 

・・二・・

 

図書館

 

「・・・・・・・・・・」

 

「へえ・・・・」

 

「・・・・・・・」

 

二人の綾小路と堀北はじっと見つめている

 

その原因は

 

「なんでお前もここに・・・・」

 

「私だってクラスのみんなの力になりたいもん」

 

動物的な雰囲気の綾小路の隣にいた櫛田であった

 

「なんで櫛田さんを連れてきたのよ・・・・」

 

「んなこと言われたってどうすんだよ・・・・」

 

女子の綾小路と動物的な雰囲気の綾小路が小声で言い合っていく

 

「ちょうどいい・・・・?

 

 彼女にも手伝ってもらおうじゃないか・・・・」

 

「え!」

 

「あ、綾小路君!?」

 

不気味な雰囲気の綾小路の言葉に

櫛田は喜びの反応、堀北は驚愕の反応を見せる

 

「櫛田だって堀北ほどでないにしろ

 成績においては非常に優秀だしさ・・・・

 

 ぶっちゃけ私達だけではこの勉強法は手に余る・・・・

 

 引き入れても問題はないと思うよ・・・・」

 

「ありがとう、綾小路君!」

 

「ち、ちょっと待って勝手に決めないd・・・」

 

「じゃあさ・・・・

 

 この効率の悪さを

 どうやって回していくのか・・・・

 

 ほかに方法はあるのかい・・・・?」

 

「・・・・それは・・・」

 

実は現状、授業内容をいくつか絞って

どうにかしているのだが、ぶっちゃけ堀北は

問題の絞り込みもそのまとめもすべてになっている

 

綾小路たちとともにほかの三人に教えている

 

だがそれゆえこの勉強会においての要である堀北への負担が一番大きい

 

綾小路たちもある程度手伝っているが

それでも三人分まとめるのにはなかなかいかない

 

ゆえにここで人員が増えるのは堀北にとっても願ってもないことだ

 

「・・・・わかったわ、特別に参加を認めてあげるわ」

 

「うん、ありがとう堀北さん」

 

そのことに喜ぶ櫛田

三バカの方も歓喜に満ち溢れる

 

女子の綾小路はやれやれといった感じで席に座り

動物的な雰囲気の綾小路は嫌そうにしながらも同席するのであった

 

「ところでさ、お前櫛田ちゃんと一緒に来たよな」

 

「・・・・・・それがどうかしたのかよ」

 

「まさかお前、ここに来るまでに櫛田ちゃんと二人っきりだったってのか~」

 

山内が動物的な雰囲気の綾小路を睨みつける

綾小路の方はだんまりを決め込むのだが

 

「うん、二人でお昼ごはんを食べてたんだ」

 

櫛田が代わりに答えてしまうのだった

 

それを聞いて池と山内は動物的な雰囲気の綾小路をまるで親の仇のように睨みつける

 

「はいはい二人とも

 

 勉強会を始めましょ」

 

女子の綾小路がそういうと二人は

デレデレと返事して勉強会を開始するのであった

 

「勉強会始めてさ改めて思ったけど

 地理って結構簡単なんだな」

 

「化学もい思ったほど難しくない」

 

池と山内がそんなことをつぶやく

 

「それはたぶん暗記問題が多いからじゃない?

 

 英語や数学は基礎ができていないと解けない問題が多いし」

 

「油断は禁物よ

 

 時事問題が出ることも十分考えられるわ」

 

「じじい・・問題?」

 

「時事問題

 

 近年に起こった政治や経済における事象ことよ

 

 何が言いたいのかというと教科書に載っている問題だけが

 出題されるとは限らないということ」

 

「うげ、そんなの反則だろ!」

 

「それを兼ねの勉強よ」

 

「急に地理が嫌いになってきた・・・」

 

「確かにその可能性もあるがそれは別に気にすることもあるまい・・・・

 

 それを気にしすぎて拾えるとことを拾い損ねればそれこそ大損だろうしね・・・・」

 

不気味な雰囲気の綾小路の言葉に三バカは

やや不安を見せながらもとりあえずはそれに同調する

 

「ところでもうそろそろ引き上げた方がいいんじゃねえか?」

 

動物的な雰囲気の綾小路のいう通り時間は刻一刻と過ぎていく

 

「まったく、どこかの誰かさんが遅れてきたせいで時間が大いに削られたから」

 

「・・・・・・こっちは櫛田に絡まれてたんだ」

 

「ご、ごめん、でもその代わり私もできることはやるよ

 

 それじゃあ、私から問題、帰納法を考えた人は誰でしょーか?」

 

「あ、確かさっきの授業で言ってたぜ、確か・・・」

 

シャーペンを回しながら考え込む池

 

「確かあれだよな、なんかものすっごく腹の減りそうな名前の・・・」

 

「フランシスコ・ザビエル・・・みたいな感じの名前だったよな」

 

須藤はそんなことを言う、すると

 

「わかった!

 

 フランシス・ベーコンだ!」

 

「正解っ」

 

「よっしゃ!

 

 これで満点確実だな」

 

「それはないと思うぞ」

 

動物的な雰囲気の綾小路がそんなツッコミを入れる

 

「だけどあんまり詰め込みすぎないようにしてね

 

 体調を崩して学校を休めば、勉強する時間も取れないし」

 

女子の綾小路が一同に気づかいの言葉をかける

 

「大丈夫よ、この三人なら」

 

「さっすが堀北ちゃん

 

 俺らのこと信頼してくれてるんだな!」

 

「君たち・・・・

 

 馬鹿は風邪をひかないという言葉を知っているかい・・・・?」

 

「「「・・・んな!?」」」

 

不気味な雰囲気の綾小路の言葉を聞いて

堀北の言い方の意味を察し、声をそろえてショックを受ける三バカであった

 

すると

 

「うるせーな静かにしろよ!

 

 集中できねえじゃねえか」

 

隣の机に座っていた男子生徒が言う

 

「あ、ああ悪い悪い

 

 えーっとしたかフランシス・ベーコンだったよな

 

 帰納法を設定した奴の名前、憶えてて損ないよな」

 

「貴方は確かCクラスの・・・・」

 

女子の綾小路はその男子生徒を見てつぶやく

 

「お?

 

 綾小路ちゃんじゃねえか

 

 ってことはこいつらはDクラスか、お前も不運だよな

 こんな欠陥品共のことも見てやらないといけないなんてさ」

 

その男子生徒はどうやら女子の綾小路と面識があったようあった

だがその言い方が癪に障ったのか、須藤は立ち上がってその生徒に突っかかる

 

「てめえ、何がおかしいんだよ!」

 

「あー悪い悪い、あんまりにもおかしな光景だったからこらえきれなくってさ

 

 まあ一応自己紹介しておくか、俺は山脇、Cクラスだ」

 

すると女子の綾小路になれなれしく肩に手を置き

ほかの面々を小バカにしたように見渡していく

 

「しっかし綾小路ちゃんも大変だな

 

 こんな底辺の奴らにいろいろと教えてやらなきゃなれねえんだからな

 

 いっそお前がおんなじCクラスだったら俺が手とり足取り教えてやんのにな」

 

「悪いけれど、仮に私がDクラスじゃなかったとしても

 貴方のような人とおんなじクラスなんて絶対にお断りよ」

 

「おいおい、随分ときつい言い方だね~

 

 でもさ、こんな奴らのために時間をむげにする義理だってねえんじゃねえか?」

 

「んだと!」

 

須藤は机をたたきつけて立ち上がる

 

「おいおい、本当のことだろうが

 

 ってゆうーかこんなところで俺を殴っていいのか?

 

 暴力行為が発覚したらポイントをいくつ減らされるか・・・・

 

 ああそうか、お前らはもう減らされるポイントもないんだったっけ?」

 

「てめえ!」

 

思わず手を出しそうになる須藤

 

「やめなさい須藤君、彼の言う通りよ

 

 ここで騒ぎを起こせば、どうなるのかわからない

 

 最悪退学させられることだって、あると思った方がいいわ

 

 そしてあなたの方も、私たちのことをどう言おうと構わないけれど

 私からしてみればCクラスも自慢できるようなクラスではないと思うわね」

 

「C~Aクラスなんて誤差みたいなもんだろ?

 

 お前らだけはある意味別次元ってとこだろうさ?」

 

「ずいぶんと自分たちに都合のいいもの指値

 

 私から見ればAクラス以外は団子状態よ」

 

堀北のその言葉に山脇はへらへら笑っていた顔をこわばらせて

女子の綾小路に置いていた手を離して、堀北を睨みつける

 

「てめえ、不良品の分際で

 顔がかわいいからって何でも許されると思うなよ?」

 

「脈絡もない話をありがとう

 

 私は今まで自分の容姿を気にかけたことはなかったけれど

 貴方に褒められたことで不愉快に感じたわ」

 

「っ!」

 

山脇は姿勢を上げる

 

「お、おい

 

 よせって

 

 俺たちから仕掛けたなんて噂が

 広まったら龍園さんに何言われるか・・・」

 

Cクラスの生徒が慌てて彼を抑える

 

「今度のテスト、赤点をとったら退学って話は知ってるだろ?

 

 お前らから何人退学者が出るのかな?」

 

「心にもない心配をありがとう

 

 でも、私達より自分たちのクラスの心配でもしたらどう?」

 

「くくくくっ、冗談はよせよ」

 

「俺たちは赤点をとらないために勉強してるんじゃねえ

 

 もっといい勉強をとるために勉強してんだよ

 

 お前ら不良品と一緒にするな

 

 大体、お前ら、フランシス・ベーコンだの帰納法だのって、正気か?

 

 テスト範囲外のところを勉強してなんになんだよ」

 

「「「「「・・・・え?」」」」」

 

「もしかしてテスト範囲もろくにわかってないのかよ?

 

 やっぱり不良品だな」

 

「いい加減にしろよこら!」

 

須藤はそう言って山脇の胸倉をつかみ上げる

 

「お、おいおい、暴力ふるう気か?

 

 お前らマイナスくらうぞ?」

 

「そんなもん関係ねえんだよ!」

 

と須藤の手が勢いよくふるわれて行こうとしたその時

 

「いい加減にしろ!」

 

その怒号に図書館にいたほかの面々や、堀北達の目線もその視線の方に行く

 

「ったくもうすぐ授業が始まっから

 迎えに来てやろうと思ってここに来たのに

 

 一体何やってるんだお前ら」

 

「おいら・・・・」

 

そこにいたのは好戦的な表情を浮かべた綾小路だった

 

堀北自身も彼と面識はあるもののあまり話したことはない

だが少なくとも彼の放っているさっきにも似たオーラがあたりを静粛させていくのがわかった

 

「須藤、お前の気持ちもわからくもねえが

 あんな安い挑発に乗ってるんじゃねえよ

 

 堀北もだ、須藤に便乗して状況悪化させてんじゃねえぞ」

 

「わ、悪い・・」

 

「ごめんなさい・・・」

 

あまりの迫力に須藤も堀北も思わず謝まってしまう

 

「お前らもお前らだ

 

 喧嘩だったら代わりにおいらが買ってやる

 授業始まるまでには終わらせてやるぞ、ああ!?」

 

「ひ、ひいいいい・・・・」

 

山脇たちはそのオーラに畏れて

自分たちの持ち物をほったらかしにして走り去っていくのであった

 

「ったく・・・・

 

 私も俺、それからあたし

 そろそろ時間だ、戻るぞ」

 

「おいら、あんまり騒いだら目立つだろうが・・・・」

 

「知らねえよ

 

 喧嘩を売ってきたやつが悪いんだろうが」

 

好戦的な雰囲気の綾小路はうっとおしそうに山脇たちの持ち物を見る

 

「ちょっとそこの君?」

 

そんな彼に話しかけていくひとりの影が

 

「おや・・・・?

 

 君は確か職員室で見た・・・・」

 

「一之瀬さん」

 

「友達を助けたるためとはいえ

 もう少しほかの人のことも考えてもらえないかな

 

 ここで勉強しているのは君たちや山脇君たち以外にもいるんだし」

 

一之瀬と呼ばれた少女は好戦的な雰囲気の綾小路に向かって言う

 

その綾小路は困惑してほかの綾小路に目線を移すが

不気味な雰囲気の綾小路と女子の綾小路は一之瀬が正しいと言わんばかりに頷き

 

動物的な雰囲気の綾小路はとにかく終わらせると言わんばかりに睨みつける

 

「えっと、その・・・・・・ごめん・・・・」

 

「おお、意外に素直だね・・・

 

 ま、まあわかってくれたならいいよ

 次から注意してくれればいいからね」

 

意外なまでに素直に謝罪したことに驚きながらも

笑いながら少々注意を促す程度で済ませるのであった

 

「それからそこの君も勉強したかったらおとなしくやろうね、それじゃ」

 

と颯爽と去っていく一之瀬であった

 

「彼って案外ものわかりがいい方なのね・・・」

 

「まああいつ根っからの悪い方じゃないし・・・・

 

 まあどっちにしろさっきの一之瀬の言う事の方が正しいことに変わらないし・・・・」

 

好戦的な雰囲気の綾小路はややしょんぼりとしてしまうのだった

 

「・・・・・・ところで山脇君・・・・妙なこと言ってたよね」

 

「うん、テスト範囲外って・・・言ってたよ、ね?」

 

「・・・・どういうこと?」

 

互いに見合っていく面々

 

「ひょっとして・・・

 

 クラスによってテストが違うってことなのかな?」

 

「それは考えにくいわね・・・・学年で統一されているはずよ」

 

やがて顔が真っ青になっていく一同

 

「もしも範囲が違っているのがこの社会科だけだったらいいのにね・・・・」

 

不気味な雰囲気の綾小路がさらに不安をあおる

 

堀北達は急いで職員室に向かっていくのだった

 

・・・三・・・

 

お昼休み終了まであと10分

 

堀北達は職員室で茶柱先生を訪ねる

 

「先生、急ぎ確認したいことがあります!」

 

「なんだ騒々しい、ほかの先生が驚いているぞ

 

 私に用事があるのなら手短に頼むぞ」

 

茶柱先生は堀北達の方に向かずに何かをうつしていた

 

「先週茶柱先生から伺った中間テストの範囲ですが、それに間違いはありませんか?

 

 先ほど、Cクラスの生徒からテスト範囲が違うと指摘を受けましたので」

 

堀北がそこまで言うと茶柱先生のペンを動かす腕が止まった

 

そして、返答する

 

「・・・・ああそうだった、中間テストの範囲は先週の金曜日に変わったんだったな

 

 すまない、お前たちに伝えるのを失念してしまっていたようだ」

 

「「「「「な・・・・・!?」」」」」

 

そう言って茶柱先生はノートに五科目分のテスト範囲と思われる部分を書き出し

ページを切り取ると堀北へと渡す、その内容を見て堀北を含めた一同の表情をゆがめる

 

そこはすでに授業に習っていた場所だが勉強会を開く以前の部分が大半で

面々はもちろん、平田達ですらもほとんど手を付けていない

 

「礼を言うぞ堀北、お前のおかげでミスに気づくことができた」

 

「ちょっちょっと待ってくれよ佐枝ちゃん!

 

 そうはいっても遅すぎるって」

 

「何を言っている、まだ一週間もある

 その一週間を使って勉強すればいいだろう?」

 

茶柱先生はそこまで言って立ち上がって去っていこうとするが

それでも納得のいかない一同は引き下がらない、しかし

 

「これ以上いたところで事態は変わらない

 

 それくらいは分かるだろう?」

 

茶柱がそういうと堀北は重々しく口を開く

 

「・・・・行きましょう」

 

「で、でも堀北ちゃん!

 

 こんなの納得できないって!」

 

「先生の言うことはもっともよ

 

 こんなところでくすぶっているより

 この新しいテスト範囲の勉強を少しでも早く始めた方がいい」

 

「けど!」

 

堀北自身ももちろん納得している様子はない

だが茶柱先生の言うことももっともでここにいても何にもならない

 

須藤たちも渋々そこから出ていく

 

ただ数人を除いて

 

三人の綾小路は職員室を見ていた

茶柱先生、ほかの教職員、その中には偶然Bクラスの担任の星ノ宮先生とも目が合った

 

彼の方を見て微笑みながら手を振る、その反応を見てさらに疑問が残る

 

茶柱先生事態もテスト範囲の伝え忘れたというのに焦っている様子もない

ほかの教職員たちも先ほどのやり取りは聞こえていたはずなのに何の反応もない

 

綾小路は目を閉じる

 

ほかの教職員たちはその様子を不思議そうに見つめる

 

・・・・・・・

 

ー茶柱はテスト範囲の変更を伝え忘れたのに・・・・

 

 特に慌てている様子はない・・・・・・つまりはどういうことか・・・・ー

 

ーつまりこれは茶柱先生はそれを仮に伝えなくとも

 打開できる方法があると言う事なのかもしれないね・・・・ー

 

ーでもどういうことなんだろうー

 

ーひょっとして裏技があるとか?ー

 

ーあったとしてそれはなんだー

 

ー残念ながらもっと記憶をさかのぼっていく行く必要があるー

 

ーそういやこのポイントってのはさ

 

 買えないものはないんだよなー

 

ー茶柱先生も言ってたはずだー

 

ーつまりこれってあれも可能ってことか・・・・ー

 

ーでもちょっと待って、だったら茶柱先生は・・・・ー

 

ーだが現状を打開する方法はこれしかないー

 

ー受け入れるほかないだろう、そう・・・・ー

 

ーーーーーーーーーーーーーーこれが答えだーーーーーーーーーーーーーー

 

・・・・・・・

 

「なるほどね・・・・

 

 私としたことが盲点だったよ・・・・」

 

そう言って職員室を出ていく綾小路であった

 

すると外で待っていた一同に出迎えられる

 

「ずいぶんと遅かったわね

 

 あんなことを聞かされた後なのに」

 

「聞かされたからさ・・・・

 

 それで君たちはこれからどうするのかな・・・・?」

 

「これから私達と平田君たちで協力して

 この残った一週間で急いでこのテストの範囲を復習しようって話をしていたの」

 

「今日の俺はむかついてんだ

 

 Cクラスの奴らにも茶柱の奴にも・・

 

 こうなったらこの勢いで勉強会なんて軽くこなしてやるよ!」

 

「「おう!!」」

 

三バカも先ほどまでの勉強会に対して代わり映えするほどの熱意を見せている

 

「と言う事で綾小路君にも協力してもらいたいと思って・・・」

 

「・・・・・・悪いけれど・・・・

 

 私はその勉強会だがしばらく抜けさせてもらうよ・・・・」

 

「・・・え?

 

 何を言って・・・」

 

「・・・・・・なあにすぐに戻ってくるさ・・・・

 

 すぐに・・・・・・ね・・・・」

 

「何を言っているの、まだあなたには協力をしてもらわないいけないわ

 

 そういう取引のはずよ」

 

堀北は突っかかるが

 

「忘れてはいないよ・・・・

 

 でも私は人にものを教えるというのは得意じゃないからね・・・・

 

 その点は君たちに任せることにするよ・・・・」

 

そう言って教室に先に戻っていく不気味な雰囲気の綾小路であった

 

「そういや綾小路ってテストどのくらいだったっけ?

 

 確かよくも悪くもなかったような・・・」

 

「だからと言ってこのまま無断で抜けさせるわけにはいかないわ

 

 昼休みに彼を捕まえてでも参加させる、もう私達には時間がないのだから」

 

「でも本当にそれだけなのかな?

 

 綾小路君はひょっとして別の考えがあるんじゃないかな」

 

「別の考え?」

 

櫛田の言葉に堀北は去っていく綾小路の方を見るのであった

 

・・・・四・・・・

 

昼休み

 

綾小路は堀北につかまる前に急いで教室を出ていく

 

「どこに行くんだろ?」

 

いつの間にか堀北のもとに来た櫛田が堀北に問いかける

 

「さあね、私としては抜けた彼を見張っていく余裕はないわ

 

 お昼も取らないといけないし範囲の見直しの方も仕上げないといけないしね」

 

「でも綾小路君だってこのままだってまずいっていうのは分かってると思うよ?

 

 でもそれを踏まえて綾小路君はお昼の勉強会の参加を見送った・・・ってことはないかな?」

 

「どういうこと?」

 

「つまり綾小路君はこのお昼休みでこの状況を

 打開する方法があるってことじゃないかな?

 

 この昼休みにおいてその方法を模索しようとしてるとか?」

 

櫛田の言葉に堀北は顎に手を当てて考え込むような仕草をとる

 

「そうね、昼休みはまだ時間もある

 

 少しぐらい様子を見てもいいかもね」

 

「うん!」

 

と言う事で教室を出ていった綾小路の後を追っていく堀北と櫛田

 

しばらく廊下を歩いていると綾小路の姿を見つけると

不意に身を隠す櫛田と櫛田にひかれて艫に身を隠されてしまう堀北

 

「ちょっと・・・

 

 私達が隠れる意味があるの?」

 

「あははは、なんとなくなんとなく」

 

こうしてしばらく様子を見ていく二人、すると

 

「お待たせ!」

 

女子の綾小路が不気味な雰囲気の綾小路の綾小路と合流する

 

「ようし・・・・・・それじゃ行こうかい・・・・」

 

「先に僕が食堂で待ってるはずだから」

 

そう聞いてお互いに頷き急いで食堂に向かう

櫛田も堀北の手を引きつつ二人を追いかけていく

 

食堂につくと二人の綾小路は券売機を

買っていく生徒たちをじっと見つめている

 

すると二人の綾小路は異様なまでの量の無料の総菜を食べている人物と接触する

 

「おほはははへ、ふはひほほ」

 

「ものを口に入れたまましゃべらないの!

 

 それで、取引に応じそうな人はいた?」

 

「んん!

 

 あの人がビンゴだよ・・・・」

 

その正体はどこか幼い雰囲気の残る綾小路だった

その彼は口に入っていたものを呑み込んでとある男子生徒に目をつける

 

どこか暗い雰囲気の男子生徒、見かけない顔なのでおそらく上級生だろう

 

櫛田と堀北も食堂に到着してしばらく様子を見る

 

「何をするつもりなの・・・?」

 

「あ、動き出したよ」

 

すると三人のうち二人の綾小路がその先輩に接触する

 

「あのーすいません、先輩・・・・・・ですよね?」

 

「・・・え? そうだけれども」

 

急に声をかけられて困惑した様子で返す先輩

 

「そのネクタイの色、三年ですね」

 

「う、うん、そうだけれど」

 

「僕は一年Dクラスの綾小路っていうんだけど

 

 先輩もDクラスだよね」

 

「え!?

 

 どうしてそんなことが・・・」

 

自身のクラスを当てられ驚愕する先輩は思わず聞いてしまう

 

「だってこの学校だとポイントなしで食べられるのは限られるし

 

 それって無料の山菜定食だよね、おいしくないほどじゃないけれど味っけないんだよね・・・・」

 

トレーの上に載っているメニューを見て言う幼い雰囲気の綾小路

 

「そ、そうなんだ

 

 それで俺に何かよう?」

 

先輩は恐る恐る聞いていく

 

「ちょっと先輩に聞きたいことがあるんだ

 

 それなりのお礼もするから聞いてもらえないかな?」

 

「・・・お礼?」

 

要件を言う幼い感じの綾小路は

先輩の耳元に顔を近づけてつぶやく

 

「おととしの一学期の中間テストの過去問を持っているなら

 

 見せてもらいたいんだ

 もしくはその過去問を持ってる人がいたら

 僕たちに譲ってもらえないかなと思って」

 

「そ、そんなのできるわけ・・・」

 

「別に問題ないでしょ?

 

 過去の問題を有益に利用することは

 この学校のルールに反することじゃないでしょ?」

 

「そうだとしても、なんで俺なんかに・・・」

 

「だって先輩はポイントがなくて困ってるんでしょ?

 

 じゃなきゃこの山菜定食を食べてるわけないもんね

 

 そういう人こそ逆に話を聞いてくれると思ってね・・・・」

 

「・・・わかったけどただでは無理だぞ」

 

「わかってる、それなりのポイントを支払うよ」

 

「俺はもってないけど・・・持ってる奴に心当たりはある

 

 そいつなら快く協力してくれるだろう

 

 だから3万ポイント、それで手を打とう」

 

「無理だね、そんなに持ってないもん」

 

「今いくら持ってるんだ?」

 

「・・・・・・端数を切って、2万だね」

 

「じゃあ・・・1万5千ポイントで手を打とう」

 

「ふうん・・・・?」

 

「知らない俺に過去問を積み込むくらいだ、よっぽど焦ってんだろ

 

 この学校は赤点をとった生徒には容赦なく退学を突き付ける

 

 俺のクラスメートも、それで何人もいなくなった」

 

「そうだろうね

 

 ・・・・・・オーケーオーケー、それでいいよ」

 

「交渉成立だな、それじゃあまずはポイントを先に振り込んでもらう」

 

「それでいいよ、でももう一つ・・・・

 

 もしも約束を無碍にするようなことをしたら、その時はしかるべき処置をさせてもらうね」

 

その幼い雰囲気の残る綾小路の笑顔が不気味に歪んでいるように見え

先輩は思わず身を引いてしまうものの、どうにかして言葉を続けていく

 

「・・・わ、わわわわかってる、ポイントの譲渡に関しては嫌でも記録に残るし

 

 ましてや後輩から巻き上げたなんて噂が広まりでもしたら、それこそ俺はただじゃすまないし」

 

「これだけのポイントを上げるからにはもう一つお願いしたいものがあるんだ

 

 入学直後にやったっていう小テストの解答も、よかったら見せてもらえないかな」

 

「わ、わかった、ただしそれに関してはあったらの話だ

 

 まあ、お前の心配も無用だと思うけどな」

 

こうして取引を成立させる幼い雰囲気の綾小路であった

 

「ありがと」

 

そう言ってその場を去っていく綾小路

先輩の方もやや居づらくなったのか席を立って去っていくのであった

 

「どうやらうまくいったみたいだね」

 

「あとは先輩からの報告を待つだけだね・・・・」

 

「フフフフフフ・・・・」

 

三人はそう言って食堂をあとにし始める

 

櫛田と堀北はその様子を不思議そうに見ていた

 

「綾小路君、あの先輩と何の話をしてたんだろう?」

 

「端末を操作しているところを見ると、ポイントを譲渡させていたように見えたけど」

 

すると二人の肩に手が置かれる

二人は驚愕して後ろを向くとそこにいたのは

 

「さっきから何をこそこそしているのかな・・・・?」

 

不気味な雰囲気の綾小路であった

 

「あ、ああ綾小路君・・・

 

 こ、これはその・・・」

 

「ちょうどいい・・・・

 

 ちょうど二人と話をしようと思っていたんだが・・・・」

 

「話・・・?」

 

二人は外に連れ出されると中庭のベンチに

幼い雰囲気の綾小路と女子の綾小路が隣り合って座っていた

 

「ええっと、綾小路・・・君・・・?」

 

「あ、櫛田ちゃんに堀北ちゃんだ!

 

 まったくもう二人が全然来てくれないからすっごくもどかしかったよ」

 

「まったくね、二人とも尾行するならもっとうまくやらなきゃ」

 

どうやら二人にも気づかれていたようである

 

「じゃあ単刀直入に聞くわ、貴方達、食堂でさっき先輩と何か話をしていたわよね

 

 それもポイントで何かを取引していたように見えていたけれど、何を企んでいるの?」

 

「企んでるってひどいな、僕だって次のテストの対策を僕なりに練ってるんだよ」

 

「テストの対策?

 

 さっき先輩と何か話してたのと関係あるの?

 

 ポイントを払ってように見えてたけど、何を頼んでたの」

 

「過去問よ、先輩に過去問を見せてもらうように頼んでたの」

 

「過去問ですって?」

 

「いいのそれって・・・いくら何でもまずいんじゃ・・・」

 

「僕はそうは思わないね

 

 だってもし学校がそれを認めてなかったら

 当然最初にそれを説明してるはずだもん、それに

 あの先輩はそのことに対して特に何の反応もなかった

 

 生徒同士で取引をすることは珍しいことじゃない、ってね」

 

「え・・・?」

 

「どうしてそう言い切れるの?」

 

「特別驚いてた様子もないし、僕がその話をしたときすぐに聞き入れた

 つまりあの先輩がこの取引に応じたのは今回が初めてじゃない

 

 それに普通は一年の時の中間テスト答案用紙なんて持ってないでしょ

 

 でもそれを今でも持ってるってことはいつこんな

 取引に応じられるようにしてるってことじゃない?」

 

幼い雰囲気の綾小路の言葉に堀北も櫛田も目を丸くしてしまう

 

「綾小路君って思い切ったことをするんだね」

 

「まあ保険ってやつだ・・・・

 

 どのみち時間もないしね・・・・」

 

「だけども、この方法が最善だとはとても言えないわ

 

 いくら過去問を手に入れたとしても

 今年のテストと内容が違う可能性だってあると思うし」

 

「確かにそうかもしれないけれど

 

 同時にその逆の可能性になるとも思えない

 

 その根拠は前の小テストがヒントになったしね」

 

「ヒント?」

 

「二人だって妙だと思ったでしょ?

 

 あの小テスト、いくつか高一でまだ習うとは思えないほどに難しい問題が混ざってたの」

 

「確かにいずれも高校一年生で習うレベルだとは思えなかったとは思ったけど・・・」

 

「あー、私は最後の問題は問題文すらもわからなかったな~・・・」

 

「あれは中間にあったのは高校二年レベル、最後の部分は高校三年生レベル

 

 あれは少なくとも予習していないと一年じゃ解けない

 じゃあなんでわざわざそんな一年の大半にはとけるはずのない問題ってこと

 

 じゃあなんでそんな問題を放り込んだのか?

 

 堀北ちゃんはわかるでしょう、学校は何を狙っているのか」

 

「・・・・まさか学校が求めているのは学力以外で別の狙いがあるってことなの?」

 

「そういうことだよ・・・・

 

 じゃあもしも過去の小テストで、今回とおんなじ問題が出題されていたらどうかな・・・・?」

 

「・・・なるほど、過去問を覚えていれば全問正解になる」

 

するとそこに端末にメールが届き、綾小路は端末を開く

 

「まあ答えは確認してからでも遅くないじゃないか・・・・」

 

そう言われて堀北はしぶしぶ、櫛田はわくわくしながら覗く

 

「どう?」

 

「・・・・・・同じだね・・・・

 

 一語一句たがわないねぇ・・・・

 

 一昨年のテストと私達の受けたテストは同じ内容ってことだ・・・・」

 

「まさかこんなことが・・・」

 

過去問の問題と小テストの問題を見比べて

堀北は同様の反応を見せていくのだった

 

「すごい!

 

 じゃあこの過去問を見せれば次のテスト対策になる

 

 須藤君やクラスのみんなにも教えてあげよう」

 

「ううん、それは資料としてまとめてからでも遅くはないと思うよ

 

 今これを渡してしまうと逆に彼らの意欲をそいでしまう

 

 もしもこれが有効的だったらなおさらね

 

 それに堀北の推測のように中間テストも小テストも

 同じ問題とは限らない信用しきるのも問題だからさ

 

 まあこれはあくまで保険ってことだよ」

 

二人は綾小路の言葉に不思議と納得する

 

「今から私と堀北で過去問をまとめていき・・・・

 

 終わり次第すぐにねたばらしをするのさ・・・・

 

 そしてそんなときに一昨年とほぼ同じ答えだって

 ことを教えたら・・・・・・みんなどう思うだろうね・・・・?」

 

「どうって・・・・あ!」

 

「みんな必死に机に齧り付いて過去問を暗記する!」

 

「まあそういうことさ・・・・」

 

納得する櫛田と堀北

 

「それに前日に指定すれば気のゆるみなどで意欲がそがれることもない」

 

「そうだよ、それに把握すること自体は難しいことじゃない

 

 僕の狙いはあくまでいい点を取らせることよりも

 赤点をとらせないようにすること自体が目的だからね、あんまり欲張ると墓穴を掘るし・・・・」

 

幼い雰囲気の綾小路は覚えがあるのかそう言ったのちほかの綾小路にジト目で睨まれる

堀北自身はそれを聞いて、納得したのかそれ以上が何も言わなかった

 

「ね、ねえ・・・綾小路君達はいつから過去問を手に入れようと思ってたの?」

 

「茶柱先生が中間テストの範囲が間違ってるって聞かされた時からだよ

 

 でもそれが有効的であると考えていたのは可能性の段階では

 中間テストの話をされた時から、少し想定してたし」

 

「そんな前から・・・!?」

 

「あの時の茶柱先生の言い方は実に独特でね・・・・

 

 だって担任なんだし須藤たちの成績や学習態度は把握しているはずだしさ・・・・

 

 にもかかわらず・・・・・・退学者を出さずに

 乗り切れる方法があると確信をもって話をしていたんだ・・・・

 

 つまり・・・・・・赤点を回避する確実な方法があることを示している・・・・」

 

「それが・・・この過去問の存在?」

 

堀北も櫛田も目の前にいる三つの人影をじっと見つめていた

 

「綾小路君・・・・貴方はいったい何者なの!?」

 

「君に話す理由はない・・・・

 

 ただ言えることはもうテストまでに時間はないし・・・・

 

 それまでに最小限の方法で乗り切る方法を探した・・・・・・それだけさ・・・・」

 

「ふうん」

 

すると女子の綾小路は櫛田に声をかける

 

「ねえ、この過去問だけれど

 よかったらこれ櫛田さんが見つけてきてくれたことにしてくれる?」

 

「え、いいけれど・・・綾小路君たちはそれでいいの?」

 

「むしろこれは君に適任だと思うね・・・・

 

 君やあた、綾小路や君はクラスのみんなから信頼されてる・・・・

 

 私や堀北よりはずっといいとおもうし」

 

「何気に私を含めないでくれるかしら・・・」

 

「じゃあ君がやってみる・・・・?」

 

「お断りよ」

 

「じゃあ今日の放課後から過去問をまとめていくの手伝ってくれる・・・・?

 

 勉強会と同時進行しないといけないけどまあ君なら大丈夫だろう・・・・」

 

「そのくらいならいいわ、あなたのその方法が本当に

 このテストを乗り切っていく可能性があるというのならね

 

 ただし、これでもしうまくいかなかったらわかってるわね・・・?」

 

「はいはい・・・・」

 

そう言って不気味な雰囲気の綾小路は

堀北の鋭いにらみなどどこ吹く風の様子で後ろ手を振る

 

「・・・わかった、綾小路君達が言うなら」

 

「まあこれで貸し借りなしね」

 

「ええっとそれって・・・何のこと?」

 

「何でもないわよ」

 

「フフフ・・・私と綾小路君たちの秘密だね」

 

「堀北ちゃんもいるけどね」

 

「あ、そうだったそうだった・・・ウフフフ・・・」

 

櫛田は幼い雰囲気の綾小路と女子の綾小路に微笑みかけるのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これが、私の・・・・」

 

「これが、僕の・・・・」

 

「これが、俺の・・・・」

 

「これが、おいらの・・・・」

 

「これが、あたしの・・・・」

 

「「「「「FINAL ANSWER!!!!!」」」」」

 

「・・・・・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

        




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Ich werde gehen, mein Mann und der mittlere Test!

Warme Innovation


中間テスト前日の放課後

 

ホームルームを終えて茶柱先生が退室すると

いよいよ櫛田が行動を起こす

 

「みんなごめんね

 

 帰る前に私の話を少し聞いてもらってもいいかな?」

 

櫛田の呼びかけにその場にいた一同が彼女を見る

 

その様子を事情の知っている綾小路と堀北が静かに見守る

 

「明日の中間テストに備えて、少し力になれることがあるの

 

 それで今からプリントを配るね」

 

櫛田はそう言ってクラス全員にプリントをいきわたらせる

 

「テストの・・・問題?

 

 もしかして櫛田さんが作ったの?」

 

クラスの女子の一人が驚いた様子で聞き返す

 

「じつはこれは過去問なんだ

 

 昨日の夜堀北さんと一緒に

 三年の先輩に教えてもらったのをわかりやすく直したの」

 

「過去問?

 

 え、え?

 

 これ、もしかして結構使える問題?」

 

「うん

 

 実はその先輩が一昨年に受けた中間テスト

 これとほぼ同じ問題だったんだ、だからこれで勉強すれば

 きっと明日の本番で役に立つと思うの」

 

「うおお!

 

 マジかよ!

 

 櫛田ちゃん、堀北ちゃんサンキュー!」

 

感激して過去問用紙を抱きしめる池

 

「なんだよ、こんなんがあるなら無理して勉強する必要なかったんじゃん」

 

山内がそうこぼす

 

「はい、須藤君もこれで勉強頑張ってね」

 

「おう

 

 助かったぜ」

 

須藤もうれしそうに過去問を受け取る

 

「ようし、このことはほかのクラスには内緒だぜ!

 

 全員で高得点とってびびらせようぜ!」

 

池が調子のいいことを叫ぶ

 

「櫛田さんのおかげでどうにかうまくいきそうね」

 

櫛田が堀北のもとに来た際に堀北がそう声をかけた

 

「でも一番は綾小路君のおかげだよ」

 

「そうね、さすがの私も過去問を利用するなんて考え方はなかった

 

 それをまさかこうにも導き出していくなんてね」

 

と二人はこの陰の功労者である堀北の隣の席の人物をちらりと見つめる

 

「でもこれでどうにか乗り切れそうだね」

 

「そうね、最初は前日なんて大丈夫かなって思ったけど

 彼らの反応を見てもあなたの判断は正解だったと思うわ」

 

「あとの問題は明日があの過去問とおんなじ問題がたくさん出てきたら

 

 みんなきっとすっごい点をとっちゃうね」

 

「まあ全く出てこない可能性も捨てきれないけれど

 

 そういう意味ではこの二週間は無駄ではなかったはずよ」

 

そう言って三バカを見つめる二人

 

「大変だったけど楽しかったよね」

 

「まああの三人が楽しかったのは

 櫛田と一緒に勉強できたって点だけだろうね・・・・」

 

そういうのはこの功績の陰の功労者たる綾小路だ

机に座っているのは不気味な雰囲気の綾小路である

 

「テスト本番で頭が真っ白にならないことを祈るだけね」

 

「まあそればっかりは彼らの今夜の頑張り次第だね・・・・

 

 あの過去問だって使い方次第でうまく使えれば逆だってあり得るさ・・・・」

 

そう言って周りを見つめる不気味な雰囲気の綾小路

 

「それじゃあ私はそろそろ戻らせてもらおうか・・・・

 

 私だって何もしないってわけにはいかないからね・・・・」

 

そう言って立ち上がって家路に着こうとする不気味な雰囲気の綾小路

 

すると

 

「待って綾小路君」

 

「うん?」

 

「本当に今日までありがとう

 

 貴方がいなければ、きっとこのテスト期間は乗り切れなかった」

 

「そのお礼は私じゃなくて櫛田に言うべきだね・・・・

 

 私はあくまで私の都合で動かせてもらっただけさ

 君にお礼を言われる筋合いなんてどこにもないよ・・・・

 

 まあ私もそれなりに楽しめたよ・・・・

 

 そういう意味では私も君たちにお礼を言わせてもらうよ・・・・

 

 感謝する・・・・」

 

そう言って堀北に後ろ手に手を振ると櫛田の方に来ると

今度は動物的な雰囲気の綾小路が入れ替わるように現れた

 

「さて、俺はお前にぜひとも聞いておきたいことがある・・・・」

 

「何かな?

 

 綾小路君」

 

「お前が俺のことをどう思っていようが別にどうでもいいが

 それでもやっぱり一つだけすっきりさせておきたいことがあんだけどよ」

 

そう言って櫛田を睨むように櫛田のまぶしい笑顔を見つめて聞いた

 

「お前は堀北が嫌いなのか?」

 

「え・・・!?」

 

突然の問いに堀北は思わず二人の方を見る

 

「それを聞いてどうするの?」

 

「さっきも言ったろ、俺は疑問をすっきりさせておきたいだけだ

 

 それに別に難しいことじゃねえ、ただはいかいいえで答えればいいだけだしな」

 

「・・・うーん、まいったな」

 

櫛田はアハハと笑い、しばらく間を置くと答えた

 

「答えは・・・はいだよ

 

 私は堀北さんのことが大っ嫌い」

 

そう堀北の方を向けて答えるのであった

 

「やっぱりね、薄々感じていたわ・・・」

 

「どう?

 

 私のこと突き放す?」

 

「・・・・いいえ、逆にすっきりしたわ

 

 むしろこれでやっとあなたと気兼ねなく付き合っていけそうね」

 

堀北は面と向かって大嫌いと言われたにも関わらず

その反応は意外にもすがすがしいものであったという

 

・一・

 

そして運命のテスト当日が来た

 

「欠席者はなし、ちゃんと全員そろっているみたいだな」

 

茶柱先生が不敵な笑みを浮かべながら教室に入ってきた

 

「さあお前たちにとっても最初の関門やってきたわけだが、何か質問はあるか?」

 

「何もありません、ただ僕たちはこのテスト期間に

 おいて培ってきたすべてを出し切り、テストに臨むだけです」

 

「ずいぶんな自信だな平田」

 

そういうと茶柱先生はトントンとプリントの束をそろえて配りだす

 

一時間目のテストは社会

 

「今回のテストと7月に実地される期末テスト

 

 この二つで誰一人赤点をとらなかったらお前ら全員をバカンスにでも連れて行ってやろう」

 

「バカンス?」

 

「フフフフ・・・・青い海に囲まれた島で夢のような生活を送らせてやるぞ」

 

そういったその時

 

「みんな・・やってやろうぜ!」

 

「「「「「「「うおおおおおおお!!!!!!!」」」」」」」

 

池のセリフにクラスメイトの咆哮が響く

 

「うるさいね・・・・

 

 たかがそんなところに行って何が楽しみなのやら・・・・」

 

「貴方って案外そういうところ鈍いのね」

 

どうして男どもが叫んでいるのか

理解できない不気味な雰囲気の綾小路に堀北は冷静な指摘をするのだった

 

まあなんやかんやあって教師の合図とともにテストは開始される

綾小路自身はすぐに問題を見ずに目を閉じて何かを感じるように静かになる

 

まあテストに集中している面々はそんなの気にしていないのだが

 

二時間目に国語、三時間目に理科と続いていくが

調べたとおりの過去問とほぼおなじ問題が並んでいる

 

四時間目に数学、こちらもそれなりに進んでいき

 

ついに休み時間を迎えていく

 

「いやー過去問や勉強会でやったとことおんなじだったし」

 

「楽勝だったぜ!」

 

勉強会に参加した面々は堀北の机を囲んで最後の仕上げにかかっている

 

「須藤君はどうだった?」

 

櫛田は不意に須藤に声をかけるが須藤はプリントに目を通している

 

「須藤君?」

 

「・・・わりぃ、今忙しいんだよ」

 

見ているのは英語の過去問だ

 

「ね、ねえ須藤君・・・・

 

 ひょっとして勉強してない、とかじゃないよね・・・・」

 

「わ、わりい・・

 

 実は過去問やってたら

 寝落ちしちまって英語だけやってねえんだよ・・」

 

女子の綾小路の問いに須藤はそう答える

 

「「「ええ!?」」」

 

「くそ、全然答えが頭に入んねえ・・」

 

須藤は焦るように言う、無理もない英語は特にそう簡単にできる内容ではない

 

ましてや残された10分弱でどうにかなるものではない」

 

「須藤君落ち着いて

 

 焦ったらそれこそ余計に覚えられなくなるわ」

 

「そうね、須藤君、点数の振り分けは高い問題と答えの極力短いものを覚えましょう」

 

堀北が須藤の助力を申し出る

 

「わ、わりぃ」

 

それでどうにか点数の低い問題を切り捨てて

高得点でなおかつわかりやすい部分を責めていく

 

「ね、ねえ大丈夫かな?」

 

櫛田は綾小路に尋ねる

 

「英語は日本語と違って基礎ができていないとまさに呪文のように見えるし

 

 おまけにスペルだの似たような法則だのと言った部分もあるから・・・・」

 

「だよな、俺も英語には苦労したぜ」

 

不安そうに見守るが無情にも時間は過ぎていき、チャイムが鳴る

 

「それでもやれるだけのことはやりましょう

 

 あとは忘れないうちに、覚えている問題から解いていって」

 

「ああ・・」

 

こうして最後の英語のテストが始まろうとしているのだった

 

・・二・・

 

こうして最後のテストが終わり

面々は須藤のもとに集まっていた

 

「な、なあ大丈夫だったか?」

 

池が不安そうに声をかける

 

「わかんねえ・・・やれることはやったけどよ・・」

 

「大丈夫だよ、今までの勉強会だって頑張ってたんだし」

 

「くううう、やらなきゃいけねえとわかってたのに何で寝ちまったんだよ俺」

 

頭を抱えて自分にいら立つ須藤に堀北が歩み寄る

 

「須藤君」

 

「・・・なんだよ、またなんか嫌味でもいうつもりか?」

 

「確かに過去問をやらなかったのはあなたの落ち度よ

 

 だけど貴方はこのテストまでの勉強期間

 貴方は貴方なりにやれることをやってきた

 

 手を抜かなかったことだって一緒に勉強してたからわかってるつもりよ

 

 貴方は精いっぱいの力を振り絞って

 ここまでやってきた、貴方はそれに胸を張ってもいいと思う」

 

「慰めのつもりか?」

 

「私は事実を言っただけよ

 

 今までの須藤君を見れば、どれだけ勉強することが

 大変だったかっていうのは理解できるもの」

 

その光景にほとんどの者が驚きを見せている

 

「まあ何を言っても何も変わらない

 

 結果を待ちましょう」

 

「・・・そうだな」

 

「それから・・・・一つだけ

 

 貴方に言っておきたいことがあるの」

 

「あ?」

 

「貴方に謝っておきたいことがあるの」

 

「謝るって?」

 

「前に私はあなたにバスケットのプロを目指すというあなたを否定したこと・・・」

 

「あ・・」

 

「私ははっきりいってあなたがどれだけバスケットに情熱を注いでいるのかを理解していなかった

 

 でも私はあなたがバスケットにどれだけ真剣に取り組んでいるのを知った

 そのあなたがプロになることの難しさ、生活していく事の大変さをわかっていないはずがない」

 

堀北はややたどたどしく言葉を続けていく

 

「日本人だって、たくさんプロの世界で戦っている人は多くいる

 

 その中には当然世界で戦おうとしている人たちだっている

 

 貴方だってそうなんでしょ?」

 

「ああ、もちろんだ

 

 周りがどう思おうと俺はバスケのプロを目指す

 

 それが俺がやり遂げるって決めたことだ」

 

須藤はそう言うと堀北はさらに続けていく

 

「・・・・私は自分以外のことを理解する必要はないと思ってた

 

 だから私はあなたのことを少しも理解しようともせず、あなたを侮辱した

 

 でも今思えば間違っていたのは私の方だったのね、バスケットでプロを目指すことが

 どれほど大変なのかを全く理解できていない人間にその人の努力を馬鹿にする資格なんてない

 

 須藤君だって今回の勉強会で培った頑張りをバスケットに活かせば

 きっとあなたは間違いなくプロになれるかもしれない、私は少なくともそう感じた」

 

堀北そう言ってゆっくりと頭を下げる

 

「だからこれだけを言わせて・・・・あの時はごめんなさい」

 

そう言って堀北は教室をあとにした

 

「堀北が・・謝った・・・!?」

 

「信じられねえ・・・!」

 

池と山内はその光景が信じられないようで目を大きく見開く

 

一方の須藤は堀北の去った方をじっと見つめていたのだった

 

「・・・堀北の奴・・なんかかわいい・・・・・」

 

と何とも須藤らしからぬ言葉を言うのだった

 

その様子を無表情に見つめているのは女子の綾小路だった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「須藤の奴・・・・・・大丈夫かね・・・・」

 

「こればっかりはね」

 

「堀北も須藤もあれに気が付いてるか・・・・?」

 

「気が付いてねえだろうな・・・・」

 

「その時はあたしたちにできる限りのことをしましょう・・・・」

 

「・・・・・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

        




Fallstrick


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Der Beginn der Evolution von der Schädigung zum Menschen

Ergebnis Ankündigung


「さあて・・・・

 

 いよいよ結果発表か・・・・」

 

「一応今回も点数操作したしね」

 

「しかし、須藤の奴が英語をやってないなんてな・・・・」

 

「まああいつもあいつなりに頑張ったんだろうさ・・・・」

 

「あとはこの結果次第ね・・・・」

 

「・・・・・・・・・・」

 

するとそこに茶柱先生が入ってくる

 

「先生

 

 本日採点結果が発表されると伺っていますが、いつですか?」

 

「そう気負いするな平田

 

 あれくらいなら余裕のはずだろ?」

 

「・・・いつなんですか?」

 

「フフフフ、今からだ

 

 放課後からでは、いろいろと手続きが間に合わないこともあるからな」

 

その言葉に一部の生徒は敏感に反応する

 

「・・・どういうことですか?」

 

「まああわてるな

 

 まずは結果を発表する」

 

そう言って生徒の名前と点数の一覧が載せられた白く大きな紙が張り出される

 

「正直驚いているぞ

 

 まさかお前たちにこれほどの高得点をとるとはな」

 

そして全部の紙が張り出され、須藤とほかの二人は必死に自分の点数を探し

 

「よっしゃあああ!!」

 

思わず、須藤は立ち上がって叫ぶ

 

池と山内も同時に立ち上がって喜ぶ

 

「見ただろ先生!

 

 俺たちだってやるときはやるってことですよ!」

 

池がどや顔を決める

 

「ああ、お前たちの頑張りは素直に認めている

 

 しかし同時に残念でもある・・」

 

そう言って茶柱先生は無情にもペンで線を引く

 

「あ・・?」

 

須藤はその様子に気の抜けた声を漏らす

 

「お前は赤点だ、須藤」

 

「は、はあ・・!?」

 

悦びから一転、騒然となっていく教室

 

「ふ、ふざけんなよ、なんで俺が赤なんだよ!」

 

「そのままの意味だ、お前は英語で赤点をとった

 ここまでと言う事だ」

 

「何言ってんだよ!

 

 だって赤点は31点だろ!

 

 俺の点数は39点、クリアしてるじゃねえか!」

 

「だれがいつ、赤点は31点だといったんだ?」

 

「いやいや、先生言ってたじゃん!」

 

池が慌てて叫ぶ

 

「今回の赤点のボーダーラインは40点未満

 

 残念だがあと一点足りなかったということだ」

 

「よ、40!?

 

 そんなの聞いてねえよ!」

 

「そもそもお前は赤点の判断基準を取り違えている

 

 ならばここで改めて赤点の判断基準を教えてやる」

 

茶柱先生は黒板に簡単な数式を書いていく

 

「前回も今回も赤点基準は各クラス毎に設定されている

 

 その求め方は平均点割る2

 

 その答え以上の点数をとること

 

 今回の平均点は79.6、それを2で割ると39・8になる・・」

 

つまり今回の赤点のボーダーラインは39・8点以下となる

 

「これで、須藤が赤点であると言う事は証明されたということだ」

 

「嘘だろ・・・俺は・・俺が、退学、なんて」

 

「短い間だったがご苦労だったな

 

 放課後退学届けを出してもらうことになるが

 その際には保護者も同伴する必要もある

 

 この後私から連絡しておく」

 

放心状態になる須藤を見ても何気ない報告のように勧めていく姿を見て

Dクラスの者達はこれが本当のことなんだと実感していく

 

「残りの者達はよくやった

 

 文句なく合格だ

 

 次のテストでも赤点をとらないよう精進してくれ

 

 それでは、次だが・・」

 

「待ってください!

 

 本当に須藤君はこのまま退学になるんですか!?

 

 救済措置はないんですか!?」

 

平田は勢いよく立ち上がって言う

 

「ない、赤点をとればそれまで

 

 須藤は紛れもなく退学だ」

 

「・・・須藤君の答案用紙を見せてもらえないでしょうか?」

 

「見たところで採点ミスはない

 

 まあ、抗議が出るのは予想していたよ」

 

と茶柱先生は答案用紙を平田に見せる

平田は見ていくがその表情は暗くなっていく

 

「・・・採点ミスはない」

 

「納得してくれたならホームルームはこれで終わりだ」

 

茶柱先生は無情にもそう言い放つ

 

「須藤、放課後会議室にこい

 

 以上だ」

 

「・・・・先生、少しだけいいでしょうか」

 

そこに堀北がすっと手を上げる

その様子に周りは静かに驚いていく

 

「ほう、珍しいな堀北、お前は積極的に挙手するとは」

 

「今しがた、先生は、前回のテストは32点未満が赤点だと仰いました

 

 そしてそれは、今の計算式によって求められた

 

 前回の算出方法に間違いはありませんか」

 

「ああ、間違いはない」

 

「それでは一つ疑問が生じます

 

 前回のテストの平均点を計算したところ、64・4でした

 

 それを2で割ると、32・2になります

 

 つまり32点を超えているんです

 

 にもかかわらず赤点は32点未満だった

 

 つまり小数点を切り捨てている

 

 今回の求め方と矛盾しています」

 

「た、確かに、前回の通りなら、中間テストは39点未満が赤点になる!」

 

堀北の言う通りなら須藤はまさに紙一重で回避したことになる

 

「なるほど

 

 お前は須藤の点数がぎりぎりになることを見越していたのか

 

 どうりで英語の点数のみが極端に低かったわけか」

 

「堀北・・」

 

そう、堀北の成績はほかの成績では満点の成績をとっている

だが英語は半分少しと極端に低い、つまり点数操作をしていたのだ

 

「お前、まさか・・」

 

そう、堀北は赤点の判断基準に気づいていたのだろう

だからこそ英語の点数を極端に低くしたということなのだ

 

「もし私の考えが間違っていると思うなら

 前回と今回で計算方法が違う理由を教えてください」

 

だが現実は残酷だった

 

「・・・・残念だがお前の計算方法は一つ間違っている

 

 赤点を導き出す際に用いる点数、小数点は四捨五入で計算される

 

 前回のテストは切り捨てで32点で扱われ

 今回のテストは繰り上がって40点で扱われる

 

 それが答えだ」

 

「っ・・・」

 

「お前も内心、小数点以下が四捨五入だと気が付いていたはずだ

 まあもっとももう一人、気が付いた者もいたようだが

 

 それでも可能性を信じて進言してきたんだろうが・・・・残念だったな

 

 ではそろそろ一時間目が始まる、私も準備があるから行かせてもらうぞ」

 

再び静粛に包まれる教室、堀北ももう何かを言う材料もない

茶柱先生はそのまま教室をあとにしていくのであった

 

「・・・・貴方も気が付いていたのね

 

 赤点のボーダーラインの判断基準に」

 

「・・・・・・ぎりぎりの賭けだったよ・・・・

 

 何しろこの手は下手をすれば自分が退学になる恐れもあったからね・・・・」

 

だが結局その賭けは大きく外れてしまうのだった

 

「なんでだよ・・・なんで俺なんかのために・・」

 

「あくまで私は私のために行動しただけよ、でもそれも結局無駄になったけどね」

 

須藤は堀北に弱弱しく声をかけるが堀北自身も力なく腰を下ろす

 

「まだ終わりじゃない・・・・」

 

すると女子の綾小路は立ち上がって教室を出ていく

 

「綾小路・・?」

 

「・・・・っ!」

 

堀北はその彼女の行動に何かあると踏み急いであとを追いかけて行く

 

一方綾小路は職員室に向かっていた茶柱先生のもとにたどり着く

 

「茶柱先生!」

 

呼びかけられ茶柱先生は彼女の方を向く

 

「なんだ綾小路、もうすぐ授業が始まるぞ?」

 

「・・・・・・先生、あたしの話を聞いてください」

 

「・・・・別にいいがあまり時間は取れないぞ」

 

「それで構いません・・・・」

 

「聞くだけ聞いてやる、なんだ?」

 

「先生の考える、人間とはどのようなものですか?」

 

「ずいぶんとぶっ飛んでいるな、私がそれに答えてどうする?」

 

「どうするのかは聞いてからでも遅くありません」

 

「私なりの見解で言えば、人間とは愚かな存在さ、互いに互いを蹴落としあっていく」

 

「あたしもそう思います、人間はこの世界にいるすべての生き物の中で、最も愚かだと」

 

「それで?

 

 それを聞いてお前はどうする?」

 

「一週間前に先生があたしたちの前でテスト範囲が変わったことを告げて

 貴方はその時こう言いました、

 

 伝えるのを忘れていた、と

 

 そのせいであたしたちは実質ほかのクラスよりも告知されたのは

 一週間にも及ぶ大きなズレが生じました」

 

「それがどうした?」

 

「あの時にもしもあたしたちがCクラスの生徒から

 テスト範囲の変更のことを聞いていなければきっと

 今日のような結果にはならなかった、それどころか

 もっとひどい結果になっていたのかもしれません」

 

「なるほど、私の連絡が行き届かなかったことに納得がいかないといいたいのだな」

 

「人間は確かに愚か者です

 

 でも同時に自分の愚かさを見つめなおして

 

 前に進んでいく力を持っています」

 

「何が言いたい」

 

「少なくとも愚かじゃない人間はいない

 

 むしろ愚か者だからこそ人は進み続けていく事ができるとあたしは

 このテスト期間のうちにいろんな人たちの姿を見てあたしはそう感じました」

 

「・・・・そうか」

 

「あたしは須藤君が赤点になる確率に目をつむった愚か者です

 ゆえに先生がテスト範囲の変更を伝え損ねた愚かな失態を責めるつもりはありません

 

 しかし、あなたのその愚かな失態のせいで一人の人間のこれまで積み上げてきたものが

 崩れ去っていこうとしています、それを見過ごすことができるほどあたしは愚かではありません」

 

「お前は何を私に求める?」

 

「あなたの愚かな判断によって引き起こされた

 この結果を学校側に適切な処置を申請します」

 

「意味はないと言ったら?」

 

「それを決めるのは貴方ではない」

 

「お前の言い分は確かに正解の一つかもしれん

 だがだからと言ってそれをおいそれと受け入れるわけにはいかん

 

 須藤は退学、現段階ではこの結果は覆らない

 

 あきらめるんだな」

 

茶柱はそこまで言うと、女子の綾小路は影を落として含みあるように言う

 

「あたしはこの気持ちをうまく言えないけれど・・・・

 

 あたしはやっぱり、あなたのような人間が嫌いだ・・・・」

 

そう言って顔をあげる女子の綾小路

 

「貴方は言葉の中にいつも含みを入れて話してる

 

 現にあなたはこういった

 現段階では覆らない、と

 

 それはつまり覆る方法が失われたわけじゃないという意味にもとらえられる」

 

「綾小路、私はお前のことを個人的に買っている

 

 過去問を入手する方法は正解の一つだがそれ自体は誰にでもたどり着くが

 それをクラス内で共有しテストの平均点を底上げしたのはお前が初めてだったぞ

 

 そこにたどり着くまでのロジックにこそ私は価値があると思う、実に見事な手腕だ」

 

「あたしはあくまであの状況を乗り越える最善の方法をとった、それだけです」

 

「そうか・・・・だがお前ははんだんを見謝った

 

 お前だって本当は赤点のボーダーラインにはいきついていたのだろう?

 

 だがお前はその可能性にほんの少しだけ目をつむった、その結果がこれだ

 

 いっそもうあきらめて須藤のことは切り捨ててしまえばどうだ?

 

 その方が後々楽になるかもしれんぞ?」

 

「それはいくら何でも早計です

 

 だって茶柱先生だって本当はそれを望んでいないはずです

 

 望んでいなくとも、貴方はこの状況をどうにかするカードを用意しているはず

 

 そのカードは・・・・・・これですね!」

 

そう言って取り出したのは学生証だ

 

「どういうつもりだ?」

 

「須藤の残りの一点、あたしのポイントで買わせてもらえませんか!」

 

「つまりこの私にポイントで須藤の残りの一点を売れということか?」

 

茶柱先生はそれを聞くと高らかに笑う

 

「っはははは!!!

 

 やはりお前は面白い奴だな

 

 まさか点数をポイントで買い取ろうとはな」

 

「先生は仰いました、この学校の中でポイントで買えないものはない

 

 中間テストもその点数もまた、学校の中のものに入る、違いますか!?」

 

「なるほどなるほど、確かにその考え方もできなくはない

 

 だが、あくまでそれがお前の今の手持ちのポイントで買えるとは限らんぞ?」

 

「じゃあ聞きます、その一点はどれほどのポイントで売れますか?」

 

「そうだな、私も鬼ではないが同時に教師としての立場もある

 売ってやることはできなくもないがそう簡単には売らせてやるわけにはいかん

 

 そうだな・・

 

 10万だ・・」

 

「っ!」

 

「特別に今この場で10万ポイントを支払ってくれるなら、売ってやろう」

 

「・・・・・・やっぱり、あたしは貴方が嫌いだ・・・・」

 

そう言って学生証を握る手を強くしていく

無理もない10万など最初に払われたのと同じ額だ

 

それ以来ポイントは払われていない上に

過去問の取引等で大幅にポイントを大幅に減らした今の彼女にとても払えるものではない

 

だがそこに

 

「・・・・待ってください」

 

堀北が二人のもとに飛び出していく

 

「堀北さん・・・・」

 

「ほほう、今の話を聞いていたのか堀北」

 

堀北も自分の学生証を取り出す

 

「私もその一点を買うためのポイント、払わせてもらいます」

 

そういうと茶柱先生は二人の学生証を取り上げる

 

「ふむ、10万ポイントに届いているな

 

 承諾した、須藤からはお前たちに伝えておけ」

 

「いいのですね?」

 

「私は鬼ではないといったはずだ

 

 それに約束を無碍にしては示しもつかんしな」

 

「あ、ありがとうございます」

 

女子の綾小路がそう言ってお礼を言うと

そのまま教室に戻っていくのであった

 

「堀北、お前から見てあいつはどうみる」

 

「・・・・まだわかりません

 

 と言うより彼、いいえ今は彼女と言うべきでしょうか

 

 彼女はあえて自分という存在を他人に理解させないようにしているように感じます

 

「そうか、だがある意味それはあいつ自身にとっての防衛手段なのかもしれないな」

 

「私はあくまで私の考えでこの先を切り抜けていきます

 

 彼女を理解していく必要はありません」

 

堀北はそう言うと茶柱先生はフフっと笑った

 

「今のお前のその考えは、もしかしたら今後に大きく影響していくかもしれないぞ」

 

「あくまで最優先は、Aクラスに上がることですから」

 

「だが過去にDクラスが上に上がったことはない

 

 お前たちは今回のテストでポイントをある程度入手したが

 それでもほかのクラスに比べてみるとそれは遠く及ばない

 

 その状況でもお前は上を目指すのか?」

 

堀北はそれでも茶柱先生から目をそらさない

 

「確かに現状ではDクラスがAクラスに上がっていくのは難しいでしょう

 

 貴方は私達Dクラスを不良品だといいました

 ですがだからと言って使えないというわけではありません」

 

「ほほう、どういうことだ?」

 

「いくら周りに不良品と呼ばれても

 それはほんの紙一重の差でしかありません

 

 ほんの少し変化を加えれば、使いどころはある

 

 私はそう考えます」

 

「なるほど、まさかお前がそこまで言うとはな」

 

茶柱先生はそう言うと面白そうに笑みを浮かべる

 

「ならばせいぜい頑張ってみるがいい

 

 私は担任としていく末を見守らせてもらう」

 

そう言って職員室に戻っていく茶柱先生だった

 

・1・

 

学校の中庭

 

放課後のそこには二人の少年少女が話をしていた

 

「どうやらうまくいったようだね・・・・」

 

「うん、私の言ったとおりだったね

 

 これで須藤君も退学にならずに済んだよ

 

 でもびっくりだね、まさか私が須藤君を助けるなんて」

 

「いいや・・・・

 

 私はあくまで実験をしただけさ・・・・

 

 何せ私達はこの学園のルールに関しては無知だからさ・・・・」

 

「それでもいいよ、あたしも須藤君が部活を

 休んでまで勉強頑張ってたの知ってたもん

 

 それなのに結局その頑張りが報われないなんてあたしは嫌」

 

「須藤が英語で赤点をとったのは自業自得と言うもの・・・・

 

 少なくとも彼が赤点をとったことに関して何らかの感情を

 抱いていくのはまったくもって無駄なものと言うものだろう・・・・」

 

「だけど、須藤君だってそれはわかってた

 

 だから休みの時に必死に取り返そうと勉強してた

 

 少なくとも努力を全くしていないわけじゃない」

 

「今の世の中が認めているのは結果さ・・・・

 

 どんなに頑張っても努力しても結果がだめだったらすべてが水泡になる・・・・」

 

「そうだね・・・・

 

 もしもあの時堀北さんが助けてくれなかったら

 きっとあたしは須藤君を助けられなかった・・・・

 

 あたしは、堀北さんのことが嫌いだった・・・・

 

 どこか他人の頑張りを軽率に見てるって感じがしてたから・・・・

 

 でも今はあたし、堀北さんのことが少し好きになった」

 

「少し・・・・・・ね・・・・」

 

「あくまで堀北さんの本質は変わってない

 

 でも堀北さんは自分の愚かさをしっかりと理解し始めてる

 

 あとはそれで堀北さんがどうやって歩いていくのか、興味があるんだ」

 

女子の綾小路がそういうと不気味な雰囲気の綾小路は興味ありげに彼女を見る

 

「ふふーん・・・・

 

 それってひょっとして

 動物にしつけを施すような感じかい・・・・?」

 

「失礼でしょ!

 

 あたしと私を一緒にしないで!」

 

不気味な雰囲気の綾小路のたとえに憤慨する女子の綾小路

 

「フフフフフフ・・・・

 

 ますます彼女に興味がわいてきたね・・・・

 

 私としてもいい玩具として楽しめるかもね・・・・」

 

「はあ・・・・

 

 貴方を見ていると本当にあたしと私が

 おんなじだとは思えなくなるわよまったく」

 

ベンチの背もたれにもたれて後ろの方を向く不気味な雰囲気の綾小路

 

「ねえあたし・・・・

 

 あたしはこの学園で

 あたしの求めている答えは見つかると思うかい・・・・?」

 

「うーん

 

 よくわかんない・・・・

 

 でも今のままだと何とも言えないかな」

 

女子の綾小路はそう言うと空を見上げる

 

「ねえ私・・・・

 

 あたしたちってこうして

 こんなにもきれいな青空の下にいるって思うと

 

 なんだかすごいことだって思わない?」

 

「そうだね・・・・

 

 私の知っている世界は

 果てしなく真っ白な空間だけだったからね・・・・」

 

「そうだね」

 

すると不気味な雰囲気の綾小路が何かに気が付く

 

「楽しいおしゃべりに割り込むのは

 無粋と言うものじゃないのかい・・・・?

 

 堀北・・・・」

 

「・・・・別にそんなのじゃないわ」

 

堀北は急に声をかけられたことに驚いたものの

別にこそこそするつもりもないのでそのままやってきた

 

「あ、堀北さん」

 

すると女子の綾小路は堀北に話しかけていく

 

「あの時はありがとう!

 

 堀北さんが来てくれたから

 須藤君の退学を阻止することができたよ!

 

 ありがと」

 

「勘違いしないで、あくまで私は私のためにやったことよ」

 

そう言って堀北はそっけなく返す

 

「フフフフフフ、素直じゃないんだね」

 

「今のが私の本音よ

 

 それに他人に自分のことを理解させようと

 していない貴方にだけは言われたくないわよ

 

 でも、あなたのあれは盲点だったわ

 

 まさかテストの残りの一点をポイントで買うなんて発想

 

 思いつきもしなかったわよ」

 

含み笑いをする女子の綾小路に堀北は睨むように言う

 

「まああたしだってこのまま終わらせたくないって思ってたし・・・・

 

 それに、あたしね堀北さんがあんなこと言うなんてびっくりしたと同時にうれしかった」

 

「え・・・?」

 

「今まで他人の気持ちを理解しようとしなかったあなたが

 嫌いだって言ってた須藤君に態度は変わらなかったけどしっかり謝罪して

 

 須藤君が赤点だって気づいた時もあんなに必死になって須藤君を助けようとした

 

 堀北さんは確実に変わってきてる、あたしはそう感じた

 

 だから私はそんな堀北さんや須藤君の頑張り、その両方の助けになりたかった

 

 ただそれだけだよ・・・・」

 

女子の綾小路がそういうと堀北はしばらくじっと見つめる

 

「でもやっぱり驚いたな

 

 まさか須藤君のためにあえて点数を下げるなんて

 下手したら自分が赤点になるかもしれない危ない橋を渡ったんだもん

 

 ひょっとして堀北さんは、須藤君のことを認めてくれたのかな?」

 

そこまで言うと堀北はチョップをくらわせる

女子の綾小路はその場所を抑えながらも笑顔を絶やさない

 

「ごめんごめん、ちょっとからかいすぎちゃった

 

 でも堀北さん、貴方たちはまだまだこれからだよ

 

 あくまでこれは上に目指すための第一歩なんだから」

 

「わかってるわ

 

 その時まで手を抜くつもりはないわ

 

 と言う事で貴方にも手伝ってもらうからね」

 

そこまで言うと目の前に現れたのは

 

「ふふーん・・・・

 

 私に協力を依頼するとはね・・・・

 

 ひょっとして・・・・・・茶柱に何か言われたのかい・・・・?」

 

不気味な雰囲気の綾小路であった

 

「関係ないわ

 

 ただ、あの時私に協力するって約束を

 このごたごたで不意になんてさせたくないだけよ

 

 貴方が手を抜いたおかげで上に

 上がるチャンスが失われでもしたら

 迷惑こうむるのは私の方なんだから釘をさしておくだけよ」

 

堀北はそっけなく返し、不気味な雰囲気の綾小路の元を離れていく

 

「貴方にもしっかり協力してもらうから、それ以上のことはないわ」

 

「フフフフフフ・・・・」

 

去っていく堀北を面白い玩具を見つけた

子供のように見つめる不気味な雰囲気の綾小路であった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱり彼女は面白いね・・・・」

 

「くれぐれも遊んだりしないでよね、私」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

        




Alle Ergebnisse sind in Ordnung


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Eine Feier nach dem Betrug

Eine Party


「乾ぱーい!」

 

池が缶ジュースを手に取り、叫んだ

 

「・・しっかしよかったな須藤、退学が取り消しになってさ」

 

「そうだな、しっかし綾小路の奴どこにいったんだろうな

 

 池ちゃんと誘ったのか?」

 

「あの後以来一度も見かけてないんだよな

 

 部屋に行っても誰もいないみたいに返事がなかったしさ」

 

「っていうかあいつってさ、なんか変な感じするよな

 

 表向きただの暗いやつ見たいっていうかそこからは踏み込ませない感じがすんだよな」

 

この場にいない綾小路の話題に入りかける

 

「ところでさ櫛田ちゃん!

 

 櫛田ちゃんは綾小路のことどう思ってんの?」

 

「え、うーん

 なんだか距離があるっていう感じがするけど

 

 少なくとも悪い人じゃないと思う」

 

「くー櫛田ちゃんに褒めてもらえるななんて、うらやましいぞ綾小路」

 

口惜しそうなそぶりを見せる池

 

「まあいろいろあったけどなんだかんだ勉強会やっといてよかったよな

 

 もしやってなかったら池と須藤は絶対アウトだったし」

 

「ぎりぎりだったお前にだけは言われたくねえよ」

 

「俺が本気を出せば満点の一つや二つとれるっつーの」

 

「これも堀北さんのおかげだよね

 

 池君たちに勉強を教えてくれてたんだもん」

 

その場に参加していたのは、どう考えても来ないイメージのある堀北だった

 

だが彼女はあくまで輪に加わろうとせずに、静かに小説を読んでいた

 

「わ、私はただ退学者が出るとDクラスの評価が下がると考えたからやっただけよ」

 

「フフフ、堀北さんったら素直じゃないんだから」

 

「事実を述べてるだけよ」

 

なんだかんだここにきているだけ堀北は変わり始めているのがわかる

 

「まあなんだ・・・案外いい奴だよな、お前」

 

須藤は照れ臭そうに言う

 

「須藤君の言うとおりだね

 

 綾小路君から聞いたよ

 須藤君の退学を阻止するために

 茶柱先生に話をつけたんだって?」

 

「うお!? まじで!

 

 そうだったのか、いやー俺堀北ちゃんのこと誤解してたぜ」

 

「え、ちょっと待って・・・」

 

「謙遜しなくていいって、な?

 

 須藤」

 

須藤に話をつけたのが堀北と言う事実になっていることに

驚きを隠せない堀北だったが、話を早々に切り上げるために口を開く

 

「でも、中間テストを乗り越えただけで浮かれない方がいいわよ

 

 次に待っているのは期末テスト

 

 今回よりもさらに難易度の高い問題が予想されるわ

 

 それに、ポイントを得るためのプラスになる部分がまだわかっていないし」

 

「うげー、またいつか地獄のような勉強会が始まるのか・・最悪だぁ」

 

池はそう言ってばったりと倒れこむ

 

「そうならないように、今から勉強しようって考えにはならないの?」

 

「ならない!」

 

即答する池に堀北はあきれのため息をつく

 

「この学校ってまだよくわからないよね

 

 クラス分けとか、ポイント制度とか」

 

「でも今回のテストでポイントは少しでも入ったんじゃねえのか?」

 

山内はそう言うが

 

「ねえ堀北さん、ポイントを入手するのって難しいかな?」

 

「少しでもいいからポイント入っててほしい!」

 

「そうだったとしても、しばらくが節約が必要になるでしょうね

 

 確かに点数自体は上がったけれども結局ほかのクラスとは雲泥の差

 

 少なくとも貴方達の満足するほどのポイントは振り込まれないと思うわよ」

 

それをきいてがっくりする三バカ

 

「ってことは来月は節約生活か・・とほほ・・・」

 

「まあ節約技術を身に着けられると思ってあきらめるのね」

 

「でもきっとこのままみんなで頑張っていけば

 近いうちにきっとポイントも入ってくるよ

 

 ね、堀北さん?」

 

「さあね」

 

「大丈夫だよ

 

 だってもうここにいるみんなとこの場にいない綾小路君

 みんなで協力して一番上のAクラスを目指していこうよ」

 

「Aクラスって・・マジで言ってんの?」

 

「もっちろん

 

 ポイントを増やすってことは

 必然的に上位を目指すことでもあるし」

 

「でもAクラスは難しいんじゃね?

 

 だって頭いい連中ばっかなんだろ?

 

 そんな奴らに勉強で勝つなんて、絶対無理っしょ」

 

弱気になっていく三バカ

 

「それだけとは思わないけれど

 

 ・・・堀北さんはどう思う?」

 

「確かに勉強面だけが求められるとは思わないわ

 けど勉強ができないと話にならないのも現実ね」

 

三バカは目をそらして口笛を吹く

 

「今はまだまだかもしれないけれど

 一緒に頑張ればうまく行くよ」

 

「根拠はあるのかしら?」

 

「根拠っていうか・・・ほら、一本じゃ折れない矢も

 三本集めれば折れにくくなるっていうじゃない」

 

「少なくともここにいる三人ではすぐに折れるわね」

 

「で、でもほら三人寄れば文殊の知恵っていうし」

 

「貴方達のテストを合計して一人分足らずだけどね」

 

櫛田があげるたびに三人の表情がほころび

堀北が下げるたびに三人の表情に影が入る

 

「でも反発しあってても得はないじゃない?

 

 仲良くしておいた方が絶対にいいよ」

 

「・・・・まあ確かにそれは間違ってはいないと思うけれど」

 

「でしょ?」

 

これにはさすがの堀北も反論のしようがなかった

 

「と言う事で、改めて三人には協力してもらいたいな」

 

「「喜んで!!」」

 

池と山内は即答で手を上げる

 

「ま、まあ堀北がどうしてもっていうなら手伝ってやれねえことは、ないぜ」

 

須藤は照れ臭そうに言うが堀北は容赦しない

 

「悪いけれど現時点で須藤君に頼ろうとは思わないし

 手伝ってもらいたいとも思わない

 

 そもそも、須藤君が戦力になるとは考えにくいもの」

 

「ぐ・・・いくらなんでもその言い方ねえだろ・・」

 

「私は事実を言っただけよ」

 

須藤はやや怒りを見せるがつかみかかろうとはしていない

 

「むかつく女だぜ、お前は」

 

「誉め言葉として受け取っておくわ」

 

「・・・かわいくねえな」

 

「とか言ってさ、ほんとはどうなんだよ~?」

 

池がからかうように言うと

須藤はものすごい形相で池にヘッドロックを決める

 

「いだだだだだ!!!!!

 

 や、やめてくれぇ!」

 

「余計なこと言うからだごらぁ!」

 

「わあああああ悪かった悪かったって

 

 ギブギブギブゥ~・・・」

 

見事に須藤に締められる池であった

 

「まあ協力してくれるというならば軽はずみな覚悟はよしておくのね

 

 ここは実力至上主義、きっとこれから激しい競争が待ってるはず

 

 そんな気持ちで協力されてもらっても足手まといになるだけだから」

 

「まあ任せとけって、バスケと喧嘩には自信があんだ」

 

「・・・・期待できないわよ」

 

堀北の言葉に須藤は肩を下ろす

 

「じゃあさ、堀北さんは綾小路君ならどう?」

 

櫛田が堀北に寄っていく

 

「綾小路君なら頼りになると思うけどな

 

 私から見てもそう感じるし、

 それに堀北さん、綾小路君以外と全然話してるところ見たことないし・・・」

 

「うお!?

 

 やっぱ二人ってそんな関係?」

 

その話に一番食いついたのは須藤である

 

「別に貴方達が思っているような関係じゃないわ

 

 それに彼はどちらかと言うとそこが知れない

 

 彼を協力者として全面的に信用するのは危険よ」

 

「うーんでもさ、綾小路の今回のテストってそんなに良かったっけ?」

 

「覚えてねえけど、そんなに良くはなかったと思うけどよ」

 

「ぐ、思わぬところに強敵が・・」

 

なぜか握りこぶしを作る須藤

 

「もしかしたら私達の中でもっとも

 不良品たる存在は彼なのかもしれないわ・・・」

 

「そうかな?

 

 私はそんなふうには思わないけれど・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・1・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある場所

 

そこでは一人の人物が

何かをいじくっている

 

そこに訪れる一人の人物

 

「私、祝勝会の参加を断ったんだって?」

 

「ああ・・・・

 

 騒がしいのは苦手だからね・・・・」

 

やってきたのは女子の綾小路で

彼女があっていたのは不気味な雰囲気の綾小路であった

 

「そういえばさ・・・・

 

 今回の中間テストの結果・・・・・・見たかい・・・・?」

 

「ええ

 

 ほかのクラスもポイントが上がってきてた

 

 多分ほかのクラスにも同じかあるいは

 似たような答えを見つけたのかもしれないね」

 

「おそらくだが担任が普通に知らせたんじゃないかい・・・・?

 

 うちのクラスは茶柱先生が伝え忘れたっていうのが原因だし・・・・」

 

「まったくだね・・・・

 

 でも、どうやらほかのクラスには

 強力な指導者、リーダーがいるように感じるね

 

 もっと情報を集められればいいんだけれど」

 

「私とあたし・・・・・・我・・・・

 

 残念ながら生徒と言う立場上集められるものはどうしても限られてくるだろうね

 この学園のルールもどうしても手に入りにくいのが現状だからね・・・・

 

 どうやらこの学校は情報規制も徹底しているようだ・・・・」

 

「まあ今回は堀北さんや櫛田さん

 平田君たちの頑張りのおかげでどうにか乗り越えられたね」

 

「それはどうだろうね・・・・

 

 櫛田はまだ信用できないし

 堀北はあくまで欠点を自覚しただけでしかないしさ・・・・

 

 これが今後に響かなければいいんだけれどね・・・・」

 

そういうと何かをいじっていた手を止める不気味な雰囲気の綾小路

 

「今後っていえば・・・・

 

 彼の方も心配よね」

 

「彼・・・・?

 

 ああ須藤か・・・・

 

 確かに彼のあの性格は

 後々今後の私達に不利益な何かをもたらすかもしれないね・・・・」

 

「根は悪い人じゃないのは分かるんだけれども

 

 やっぱり偏見は大きいと思うけれども、あの時

 須藤君の退学がぎまったときにほっとした声が聞こえたもの

 

 やっぱり内心彼におびえてる子が多いのよね」

 

「まあ別にどうでもいいことだ・・・・

 

 私には私自身の目的がある・・・・

 

 ゆえにあくまでそれを優先させる・・・・

 

 それだけだ・・・・」

 

「まあそれは、そうだけれども・・・・」

 

すると不意に笛の音が聞こえてきた

 

「我だね・・・・」

 

するとそこに仮面をかぶった綾小路が

その口元に笛を当てて二人のことにやってくる

 

「・・・・・・・・・・」

 

笛を口元から離し

二人をじっと見つめる

 

「そう、もうみんな戻っているの?

 

 それじゃああたしも戻りますか」

 

「そうだね・・・・

 

 私はこの学園でのこれからの

 生活が楽しみになってきたよ・・・・

 

 この学園には私にとって実に

 面白そうな玩具がぞろぞろそろっている・・・・

 

 堀北も面白そうだが・・・・

 

 やはり私が最も欲しいものは彼女以外いない・・・・

 

 手に入れるのは難しいのかもしれないけど

 だからこそ私は彼女を手に入れて引き入れてみたいね・・・・

 

 やっぱりこの学園は退屈しないね・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱりここに来てよかったよ・・・・

 

 フフフフフフ・・・・

 

 ハハハハハハ・・・・

 

 あーっはっはっはっはっはっはっ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

        




Ein lustiges Studentenleben


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Prologue

Monologue


人と触れ合うのが苦手だ

 

人の目を見て話すのが苦手だ

 

人が集まっているところで過ごすのが苦手だ

 

いつからかそれらを苦手と思うようになったのか

それはもう覚えていない

 

私は本当は分かっている

人は一人では生きられないことを

 

どれだけ孤独を愛そうとしても

私は私だけで生きていく事など到底できはしない

 

だから私は

一つの決断にたどり着いた

 

それは偽りの仮面をかぶって

本当の自分を隠して生きること

 

その時だけ私は

私じゃなくなって

私になることができる

 

この真っ暗な寂しい世界の中で

生きていく事ができる

 

世界はきれいなことばかりじゃない

 

そんな当たり前のこと

誰もがわかっていながら

それでも心のどこかできれいな世界を望んでいる

 

ちょっとした矛盾

 

誰か・・・誰でもいいから教えてほしいことがあるの

 

みんなも私と同じように

誰かの前では偽りの仮面をかぶっているの?

 

それともみんなは分け隔てなく

本当の自分を見せているの?

 

人とのつながりを持たない私には

その答えを知る方法がない

 

だから今日も一人きり

 

私は一人で大丈夫

 

私は孤独で大丈夫

 

私は・・・

 

私は・・・心の底から

心を通わせることができる人が欲しい

 

そして今日も私は

一人静かに目を伏せ続ける

 

・1・

 

女子寮

 

とある部屋において

目覚ましの音が響き

 

一人の少女が

ゆっくりと体を起こしていく

 

少女は不意に窓の方を見る

 

特に何も言うべきところのない

済んだいい青空が映っているのがわかる

 

少女はとにかく身支度を整えるために

ベッドから出ていこうとすると、不意に聞こえる

 

それは鳥の鳴き声ではないが

同じようにすんできれいな音だ

 

少女は不意にその音に惹かれていき

 

ゆっくりとベランダの方に行き

カーテンを開けて窓からのぞき込んでいく

 

音はどうやら男子寮の方角から聞こえている

 

向こうで吹奏楽部が朝の練習でもしているのだろうか

 

そんなふうに考えていたが

少女は不思議とその音色に惹かれていた

 

自分が今抱えている問題がその音を聞いている限り

忘れさせてくれそうか感じがしていき、不思議と元気が出てきた

 

ずっと聞いていたい

 

少女は不意に思ったが

そうはやはり行かないようだ

 

その音色はしばらくして、止まってしまう

 

少女は残念に思ったが

だからと言ってずっと聞いていてはだめだと

自分をどうにか納得させていき

 

あらためてベランダとカーテンを閉めて

身支度を整えていき、準備を進めていくのであった

 

しかし

 

この時少女の周りで

あのような事が起ころうなどと

 

少女も当事者の方も

気が付いていなかったのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

        




「・・・・・・・・・・」

仮面をかぶった綾小路が
ゆっくりと笛を下ろしていく

「その笛、気に入ったんだね

 我」

その彼に話しかけるのは
人間的な雰囲気を持つ女子の綾小路

「寝覚めは良くなるけど

 ほかの奴も気づいちまうんじゃねえか?」

寝起きのようにやってきたのは
好戦的な雰囲気の綾小路

「それで?

 今日はどうすんだっけ?」

動物的な雰囲気の綾小路が話しかけていく

「確か今日はほかのクラスの指導者・・・・

 つまりリーダーのことを調べていくんだっけ、私?」

幼い雰囲気の綾小路が訪ねる

「そうだよ・・・・

 この前の中間テストで
 ほかのクラスのポイントもそれなりに伸びた・・・・

 このことから察するにおそらく
 それぞれのクラスにはそれだけの結果が残せる
 リーダー的人物がいるはずだと踏んでいてさ・・・・

 やっぱり王手をかけるには玉をとらないとだろ・・・・

 それで私とあたし、我で引き続き調べていこうと思う・・・・

 僕と俺、おいらは引き続きクラスの方を頼むよ・・・・」

と不気味な雰囲気の綾小路が呼びかけるが

「待ってくれ私!

 悪いけどさ、おいらと変わってくれねえか?」

「うん・・・・?」

好戦的な雰囲気の綾小路が挙手する

「一人、心当たりがあるんだ・・・・

 おいらに調べさせてもらえないか?」

「・・・・・・構わないよ・・・・

 おいらがそこまで言うなら変わってあげようじゃないか・・・・

 フフフフフフ・・・・

 やっぱりこの学校は退屈しないね・・・・」

こうして身支度を整えていく六人であった













・・・・・・・・・・


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Une vague comme un enfer ouvre soudainement le rideau

Importance


ここは高度育成高等学校

 

あらゆる最新設備を完備し

どのような進学、就職に対しても100%答えてくれるという

 

夢のような学校だが

その本質は実力がものを言わせる実力至上主義の学校である

 

この学校に入学をしている者たちはそれを知って

まあいろいろな行動をなさっている様子であるのだが

 

まあほとんどの者はそれなりに学生生活を楽しんでいる様子である

 

まあその中には独自に動いている者もいるのだが

 

「・・・・・・・・・・」

 

ある場所に歩いていたのは

仮面をかぶって素顔の見えない男子生徒であった

 

その腕には何やら棒状の何かを挟み込むように抱えていて

その手には何やら紙のようなものをもって確認するように見ていた

 

「・・・・・・ふう、さすがにAクラスの情報は

 徹底されていますね、さすがに我の力ではそう簡単にはいかないようですね・・・・

 

 どこかで情報を提供してくださる方がいらっしゃればいいのですが・・・・」

 

すると少年の目の前を

人影が通り過ぎていく

 

「・・・・・・うん?」

 

仮面をかぶった男子生徒は気になったが

何やら彼女が走ってきた方から何やら怒り声が聞こえてきた

 

仮面をかぶった男子生徒は気になり

越えのした方に向かっていくのだが

 

そこにはもう人の姿はいなかった

 

「・・・・・・どうやら

 ここで何かが起こっていた様子・・・・

 

 ほかの方々に報告をするべきでしょうか・・・・」

 

考え込むが今は気にすることではないと判断し、そこから去っていく

 

・1・

 

翌日の教室

 

「私、何を見てんだ?」

 

「ああ・・・・・・残高照会さ・・・・

 

 これを見れば今のクラスポイントや

 プライべートポイントを確認することができるのさ・・・・

 

 何しろこの学校ではポイントで買えないものはないからね・・・・

 

 逆を言えばポイントがあればあるほどこっちが有利になる・・・・

 

 須藤のテストの点数のことも考えてもさ・・・・」

 

「そうだね・・・・

 

 今後の対策のためにもやっぱり

 どうにかプライベートポイントが欲しいね

 

 でもそのためにはクラスポイントを増やさないとね」

 

三人の綾小路がそんな雑談をやっていると教室の扉が開く

 

「おはよう諸君

 

 今日はいつにもまして落ち着かない様子だな」

 

チャイムとほぼ同時に教室に入ってきた茶柱先生

 

「佐枝ちゃん先生!

 

 俺たち中間テストでポイントが上がったはずなのに

 どうして振り込まれていないんすか」

 

「ああ、そういうことか」

 

「そりゃ俺たちほかのクラスに比べてみたら

 ポイント自体は低いかもしれないけどさ

 

 だからってポイントが振り込まれていないのはどうかと思うんすけど」

 

池は口を噤んで言う

 

「そうか、実はそのことで皆に伝えておきたいことがある

 

 少しトラブルが起こり、1年へのポイントの支給が遅れている

 

 トラブルが解決次第、ポイントは改めてふりこまれる」

 

「マジで!?」

 

「学校側の不備なんだから、なんかおまけとかないんすか?」

 

生徒たちは次々と不満を口にしていくが

茶柱先生は特に気にすることなく冷淡に言う

 

「そう責められても困る

 

 学校側の下した判断だ、私にはどうすることもできん

 

 もう少し待っていればポイントは振り込まれるだろう

 

 ポイントが残っていれば、だがな」

 

茶柱先生は意味深にそう告げるのだった

 

・・二・・

 

「どうやらこのポイントは平等にポイントが

 振り込まれていく形式になってるみたいだね・・・・

 

 それにどうやらマイナスポイントもなさそうだ・・・・

 

 一つ疑問が解消されたね・・・・」

 

「そういやほかのクラスのことを

 調べに言ってるおいら、あたし、我から何か聞いてないのか?」

 

「三人とも収穫なし、誰がリーダーでどのように

 動いているのかがわかれば攻略も簡単なんだけどね」

 

三人の少年がそんな雑談をしているとそこに声をかけるものが現れる

 

「まったく、せっかくのお昼休みだっていうのに

 誰にも誘われないなんて哀れなものね綾小路君」

 

それは堀北であった、堀北が話しかけたのは

不気味な雰囲気を漂わせている綾小路であった

 

「そういう君こそ随分と一人ぼっちが様になってきたんじゃないか・・・・?」

 

「ええ、おかげさまで」

 

皮肉を込めたつぶやきを受け流す堀北

 

「そいよか今回の結果は・・・・

 

 君にとってはどのようなものになった・・・・?」

 

「残念だけれどまだまだね

 ポイントが増えたとはいえそれでも結果は暫定Dクラス

 うえをめざすためには何としてもポイントを増やす手立てを見つけないと」

 

堀北はそう言ってお弁当を開くと

 

「うわあー

 

 堀北ちゃんお弁当作ってきたんだ」

 

いつの間にか不気味な雰囲気の綾小路はいなくなり

代わりにどこか幼さの残る子供っぽい印象の綾小路が現れる

 

「え、ええ、食堂で食べるとポイントがバカにならないし

 それにコンビニだったら無料で配布される材料があるから」

 

「そういえば堀北さん

 須藤君の一点を買うために

 

 一緒にポイント振り込んでくれたんだっけ・・・・」

 

堀北は特に何も言わずにお弁当を探り始めていく

 

「それにしても堀北ちゃんってお料理上手なんだね

 

 勉強も運動もできてその上器用なこともできるなんて・・・・」

 

「別にこのぐらい普通よ

 

 お料理なんてレシピやサイトを見れば

 作り方を覚えるのは難しいことじゃないもの」

 

「そうなんだ・・・・」

 

まじまじとお弁当を見る幼い雰囲気の綾小路

 

「僕も作ってみよっかな・・・・

 

 堀北ちゃんがそういうなら」

 

「ええ、そうしてもらったら助かるわ

 

 どこかの誰かさんにスペシャル定食を奢ってあげる必要もないもの」

 

そう言われて心当たりのある綾小路は、うぐっと確信を刺されてしまう

 

「今日も食堂言って無料の山菜定食たーべよ・・・・」

 

「そうよ、これを機に節約術でも身に着けておくのね」

 

がっくりと肩を落とす幼い雰囲気の綾小路にも容赦なく言い放つ堀北であった

 

・・・三・・・

 

放課後は突然訪れる

 

「・・・・・・結局今日も収穫なしか・・・・

 

 まあまだ調べに入って間もないし、今は慌てる必要は・・・・」

 

動物的な印象を持つ綾小路はそんなことを言っていると茶柱先生が須藤を呼び止める

 

「須藤、お前に少し話がある、職員室まで来てもらおうか」

 

須藤はさっさと部活に向かおうとしていたのでその言葉に苛立つように受けごたえする

 

「なんなんすか

 

 俺これからバスケの練習が」

 

そう返す須藤だが、茶柱は続ける

 

「顧問にはすでに話をつけてある

 

 まあ来る来ないはお前が決めてもいいが

 あとで責任はとらん」

 

その言いようは警告のような脅迫のように言う

 

「な、なんなんだよ・・・すぐに終わるんだろうな?」

 

「それはお前の心がけしだいだ

 

 こうしている間にも時間は過ぎていくぞ」

 

須藤はそう言われて露骨に舌打ちし

茶柱先生の後ろについて教室をあとにしていく

 

「おいおい須藤の奴、何かやらかしたのかよ」

 

そんな声が聞こえてくる

 

「・・・・・・どうやらこのクラスの団結力は

 まだまだだっていうことかね、まあ群れを束ねるには

 やっぱり中心になるリーダーが必要だが、平田ではどうにも頼りねえしな・・・・」

 

「何を一人でむなしく分析をしているのかしら」

 

そう言って帰り自宅をしている堀北が話しかけている

 

「このクラスでは須藤の奴が退学になってくれた方がいいと

 言っている奴がどこかちらほらいるのが気になってんだよ・・・・

 

 お前はあいつのことをどう思ってんだ?」

 

「さあ、私としては彼の存在がこのクラスのためになるのかどうか

 

 その答えはまだ未知数であるとしか言えないわ」

 

堀北は淡々とつぶやいていく

 

「私が気になっているのはポイントの振り込みが遅れているということね」

 

「ああ・・・・

 

 確か今朝茶柱が言っていたあれか・・・・」

 

動物的な雰囲気を持つ綾小路は急になりを潜め

不気味な雰囲気の綾小路にいつの間にか変わっていた

 

「ええ、そのトラブルが学校全体によるものなのか

 それとも生徒間によるものなのか、もしも後者なら・・・」

 

「堀北には悪いがおそらく後者の可能性があるね・・・・

 

 須藤が茶柱に呼ばれていたことがもしもそれとつながっていれば・・・・」

 

それを聞いて堀北は不安をぬぐうように歩いていく

 

「できればその予想、外れてくれているとうれしいわね・・・」

 

そうつぶやいて綾小路から離れていく堀北

 

「そういえばさ・・・・

 

 あれから少しは他人と接しようと思ったことはないのかい・・・・?」

 

そう言われて止まるものの不気味な雰囲気の綾小路の方には向かずに言う

 

「興味がないもの、私が興味があるのは

 どうしたらクラスポイントが上がるのかだけだもの」

 

「そうか・・・・

 

 まあそれならそれでもいいよ・・・・」

 

特に態度を崩さずに答えたのが

気になったのか堀北は不意に彼の方を向く

 

「まったくなんなの

 

 貴方は一体何がしたいのかしら」

 

「別に・・・・・・私は私なりにこのクラスのことを考えてるのさ・・・・」

 

「日和見主義って言ってる人が何を言っているのかしら」

 

堀北は座っている不気味な雰囲気の綾小路を

見下ろすようにつぶやいていくのだった

 

「ずいぶんと饒舌になってきたものね」

 

堀北は皮肉を込めて言う

 

「別にそれは元からさ・・・・

 

 ただ話す相手がいないだけでね・・・・」

 

「そうね、せいぜいあなたと仲がいいのは

 私が知る限りでも櫛田さんぐらいだものね」

 

「冗談はやめてくれ・・・・

 

 俺はもう、あいつとかかわりたくはない」

 

すると急に動物的な雰囲気の綾小路が現れて

堀北の横から話しかけてくるのであった

 

「まあ、人間好き嫌いと言うものはあるしね

 

 表面上だけでも仲良くする必要があるんじゃない?

 

 私だってあなたのことはどうにも疑わしいけれど

 こうして普通に会話できているのだから、気にすることはないと思うわ」

 

「てめえ・・・・」

 

堀北の言い方に握りこぶしを作り、プルプルとふるわせていく

 

「まあそういうこと

 

 他人が他人を嫌いだっていうと気にするほどのことでもないけれど

 他人に自分が嫌いだと言われれば思うところがあるでしょ?」

 

「ふふーん・・・・

 

 まさか俺を試すなんてね・・・・」

 

不気味な雰囲気の綾小路の言葉に動物的な

雰囲気の綾小路は口惜しそうに表情をゆがませる

 

「まあ簡潔に言えば、私と櫛田さんは水と油のようなものよ

 

 決して交わることはないわ」

 

「だったら堀北ちゃんが油だよね

 

 いっつも機嫌が悪そうなのが

 煮立ってる感じがするからさ」

 

堀北はその言葉が聞こえたのかやや機嫌が悪くなっていくのがわかる

 

「ところで・・・・

 

 君と櫛田ちゃんはひょっとして

 昔からの知り合いなのかい・・・・?

 

 君は彼女が自分を嫌っていることに

 薄々感づいていたんだし、もしかしてと思うんだけど・・・・?」

 

不気味な雰囲気の綾小路が話を切り出していく

 

「さあ

 

 少なくとも私は彼女を知らないわ」

 

堀北はそう返す

 

「そんなに気になるなら彼女に直接聞いてみたらどうなのよ?」

 

「いいや・・・・

 

 別に興味はないよ・・・・

 

 私の興味は別にあるからね・・・・」

 

そう言って立ち上がって堀北の横を通り過ぎていく

 

「何も聞かないのかい・・・・?」

 

「貴方が何に興味を抱いているのかなんかに私は興味ないもの」

 

「そうか・・・・」

 

そんなやり取りを交わして教室を去っていく不気味な雰囲気の綾小路であった

 

・・・・四・・・・

 

「・・・・・・現状Dクラスのクラスポイントは87ポイント・・・・

 

 上に目指すにはやや物足りませんが

 プライベートポイントに還元すれば大きくはありますね・・・・」

 

そう言って部屋の前まで戻ってきたのは

仮面をかぶった男子高校生であった

 

するとそこに

 

「あ、あの・・・」

 

櫛田が恐る恐る話しかけてきた

 

「そこは確か、綾小路君の部屋ですよね・・・・

 

 綾小路君に何か用事でしょうか?」

 

「・・・・・・櫛田嬢、ですね・・・・

 

 用事も何も、我がその綾小路君ですが・・・・」

 

「ええ!?

 

 あ、綾小路君だったの!

 

 仮面をしてるからわからなかったよ」

 

櫛田は驚きの表情を見せると申し訳なさそうにいう

 

「・・・・・・まあそれはとにかく、我に何か用事ですか?」

 

「うん、実は・・・」

 

すると櫛田の後ろから一人の男子生徒が現れる、その男子生徒は

 

「綾小路ぃって誰だお前!

 

 見かけねえ顔だな、誰だ!!」

 

須藤だった

 

「・・・・・・・・・・」

 

返答が面倒臭くなったのか櫛田に説明するように言う

 

「えっとね須藤君

 

 この人綾小路君だよ」

 

「あ、綾小路だったのかよ・・

 

 ってかんでそんな仮面してんだ?」

 

「・・・・・・いろいろと事情がありましてね・・・・

 

 それより、お二方は我に何か用事があるのでしょうか・・・・?」

 

須藤はそうだったと言わんばかりに表情を切り替える

 

「実は俺さ、今日担任に呼び出されてよ

 

 それで、その・・・実はよ・・俺、もしかしたら停学になるかもしれねえんだ」

 

「・・・・・・停学・・・・ですか・・・・・・・・・・?」

 

須藤が重々しく言葉を紡いでいく

 

「ひょっとして、先生の悪口を言っちゃったとか?」

 

櫛田がそう予想するが須藤は首を横に振る

 

「いってねえよ」

 

「・・・・・・もしや女子の胸倉をつかみ恫喝なさったとか・・・・?」

 

「それもちげえっての」

 

すかさず否定する須藤

 

「あれだよ綾小路君

 

 先生に殴るけるの暴行を加えた上に唾を吐きかけたんだよ」

 

「・・・・・・櫛田嬢は恐ろしいことを考えますね・・・・!」

 

「あははは、さすがに須藤君もそんなことはしないよね」

 

櫛田の予想にさすがの須藤もものすごく引き気味であった

 

「・・・・・・須藤殿、よろしければ須藤殿の言葉で教えてもらえませんか・・・・?」

 

「あ、ああ、実は俺、先週Cクラスの連中を殴っちまってよ

 

 それでさっき停学にするかもって言われてよ・・

 

 今、その処分待ちなんだ」

 

「先週・・・・?」

 

櫛田は須藤の言葉を呑み込めないのか返答ができない

一方の仮面をかぶった綾小路は何かを思い出すように顎に手を当てる

 

「殴ったって・・・それ、え、どうしてなの?」

 

「ち、違うんだよ!

 

 喧嘩を吹っかけてきたのは向こうの方だよ

 俺はただそれを返りうちにしてやっただけなんだよ

 

 そしたら今日そのことで呼び出されたんだけど

 そこで聞いた話だと俺の方から喧嘩を売ってきたことになっちまってて・・」

 

仮面をかぶった綾小路は話の内容は大体理解できたようだが

やや頭の整理が追い付いていないのか興奮気味のように思える

 

「・・・・・・須藤殿、落ち着いてことの経緯をお話しください・・・・」

 

「綾小路君の言うとおりだよ、須藤君、落ち着いて話して・・・」

 

二人に言われて須藤は冷静さを取り戻していくが

 

「わ、悪い、ちょっと取り乱した・・」

 

軽く深呼吸してことの経緯を話していく

 

「実は俺さ、顧問の先生から、夏の大会で

 レギュラーとして迎え入れるっつー話をされたんだよ」

 

「すごい、レギュラーに選ばれるなんて」

 

「ま、まだ決まったわけじゃねえよ」

 

櫛田に褒められてやや照れ臭そうにする須藤

 

「ま、まあ話を戻すんだけれどよ

 

 一年でレギュラー候補に選ばれたのは俺だけでさ

 

 その時からもっとレギュラーを目指してやるって思って

 いつも以上に練習に打ち込もうって思った矢先だったんだ

 

 あいつら・・・同じバスケ部の小宮と近藤が俺を特別棟に呼び出したんだ

 

 無視してもよかったんだが、あいつらとは

 部活中にいろいろと言い合ってたからもういい加減けりをつけてやろうと思ったんだ

 

 そしたらあいつら、石崎ってやつを連れて脅してきやがったんだ

 痛い目見たくなけりゃバスケ部をやめろってな

 

 そんでそれを断ったら殴りかかってきたから返りうちにしてやったってことだ」

 

「・・・・・・なるほど・・・・」

 

須藤はあらかたの経緯を離し

仮面をかぶった綾小路はなるほどといった感じで考え込む

 

「でもさっき茶柱先生から話を聞いた時には

 喧嘩を仕掛けたのは須藤君の方になってたってことなんだね」

 

櫛田の言葉に須藤はあきれながらも頷く

 

「でもそれだったら須藤君は悪くないよね」

 

「だろ?

 

 マジでわけがわかんねーよ

 

 教師の奴も信じもしねーし」

 

「ねえ綾小路君、よかったら一緒に茶柱先生に報告しようよ

 

 須藤君は悪くないって」

 

櫛田は綾小路に言うが

綾小路は再び須藤の方に声をかける

 

「・・・・・・その話を聞いて、学校はなんと・・・・?」

 

「来週の火曜日まで時間をやるから

 俺の話が本当ならそれを証明してみせろって

 

 無理なら俺が悪いってことで夏休みまで停学

 その上クラス全体のポイントもマイナスだってよ」

 

須藤は頭を抱え込んでいってしまうのだった

 

「俺は・・・どうしたらいいんだよ」

 

「須藤君は嘘をついて先生に訴えていくしかないと思う

 

 だって仕掛けてきたのは向こうなのに須藤君の方が疑われていくなんておかしいよ

 

 綾小路君もそう思っ・・・て・・・!?」

 

櫛田は綾小路の方を見て絶句している

なぜなら仮面をかぶった綾小路のいたところには

 

「櫛田・・・・

 

 悪いけれどこれはそんな簡単な話じゃないよ・・・・」

 

不気味な雰囲気の綾小路が立っていたのだから

 

「うお!?

 

 綾小路?」

 

「大体この件を学校側は信じていない・・・・

 

 いくら人望のある櫛田だろうと

 無実を訴えたところで学校は聞く耳なんて持たない・・・・

 

 せいぜいポイントを減らされるのが嫌だから

 虚偽を言っていると思われて却下されるだけだろうさ・・・・」

 

「それは、そうかもしれないけれど・・・」

 

「そもそも今回の件は仕掛け側を探せば終わる話じゃない・・・・

 

 この件でどっちが悪かろうとなかろうと詮無きことだ・・・・

 

 向こうだってどっちみち三人がかりで

 向かっていったんだ何らかの処分を受けるだろうさ・・・・

 

 結局須藤が仕掛けた証拠も仕掛けられた証拠もない以上

 それが意味する意味はたったの一つだけ・・・・

 

 どのみち須藤はこのままだと何らかの処分を受けることになるということさ・・・・」

 

「・・・っておおい!

 

 なんでそうなるんだよ!

 

 仕掛けられたのは俺なんだ

 これは正当防衛だろうが!」

 

須藤は不気味な雰囲気の綾小路につかみかからんとするが

額を指で小突かれしまい、止められてしまうのであった

 

「んぐぐぐ・・」

 

須藤が急いで離れて落ち着きを取り戻していく

 

「ねえ・・・どうして須藤君が処分を受けちゃうの?」

 

「だってさ・・・・

 

 須藤君の状態を見ても目立った怪我がない

 つまり相手は無抵抗だったってことだろう・・・・

 

 一番に大きいのはそこだろうさ・・・・

 

 だって日ごろから確執があったなら

 危険な目に合うことは予知、予想できていたってことだ・・・・

 

 正当防衛っていうのは急迫不正の侵害に

 対して権利を防衛するためのやむを得ない行為・・・・

 

 まあまとめたら今回完璧に正当防衛を該当させることは難しいだろうさ・・・・」

 

不気味な雰囲気の綾小路の説明に須藤も櫛田もどうにもついていけていない

 

「・・・で、でもよ

 

 向こうは三人がかりだったんだぞ

 どう考えたってこっちが危なかったろうが」

 

「残念ながらそれでどうにかできるかは微妙なところだろうさ・・・・

 

 まあもっとも・・・・

 

 それでどんな判断を下せるのかは学校側も難しいんだろうねえ・・・・

 

 だからこそ君に猶予を与えたんだろうさ・・・・」

 

不気味な雰囲気の綾小路はそのように考える

 

「おそらく現時点で学校側が重点的に見ているのは

 須藤とCクラスの彼らのけがの状態と言うことだろうね・・・・」

 

それを聞いた櫛田が口を開く

 

「そっか・・・それで殴っちゃった須藤君を罰する、そういう方針をとってるんだね」

 

「被害者の証言には大きな証拠能力がある・・・・

 

 先に訴えたもん勝ちだ・・・・」

 

「そんなの納得いかねえよ

 

 被害者は俺なんだ、責任取れとか冗談じゃねえ

 

 もしもそんなことになったらバスケのレギュラーどころか

 今度の大会にだって出られねえ!」

 

壁に拳をたたきつける須藤

 

「とにかく、Cクラスの人に正直に話すように言おうよ」

 

「無理だね・・・・

 

 そもそも多少のリスクを背負う形に

 なってまでも須藤をはめたようなことをしたんだ・・・・

 

 話をしたところでとぼけられれば終わりさ・・・・」

 

「くっそがぁ・・・絶対に許さねえ・・」

 

須藤の怒りは表情から見てもわかるほどに浮き彫りになってきている

 

「だったら答えは単純さ・・・・・・まずは証拠を探さないとね・・・・

 

 確実な証拠を見つければ彼らも何も言えなくなるだろうさ・・・・」

 

「そうだね・・・須藤君が悪くないっていう証拠にできる物があれば・・・」

 

すると須藤は口を開く

 

「あ、あのさ

 

 もしかしたら俺の勘違いかもしれないんだけどさ・・

 

 実はあの時、誰かが俺たちのやり取りを見ていたように感じたんだ」

 

それを聞いて須藤を見る二人

 

「目撃者がいたかもしれないってこと?」

 

「ただ何となく感じたってだけだから、確証はねえ」

 

「だがそれは逆に危険かもしれないね・・・・

 

 目撃した場面によっては

 逆に君を追い詰める結果になる恐れがあるねえ・・・・」

 

不気味な雰囲気の綾小路の言葉に表情をさらに曇らせる須藤

 

「くそ・・

 

 ・・・俺はどうしたら・・」

 

それを見た櫛田が口を開く

 

「つまりまとめるなら方法は大きく分けて二つ

 

 一つは、Cクラスの人たちに嘘を認めさせること

 

 本当は須藤君が悪いってわけじゃないって認めさせるのが一番だと思うし」

 

「でもさっき綾小路が言った通り

 あいつらがそんな簡単に話してくれるとも思わねえし」

 

「そもそも嘘をついたなんて学校側に告げれば

 自分たちだって無事じゃすまなくなるんだしね・・・・

 

 自分から自白なんてしないだろうさ・・・・」

 

そして櫛田がさらに続ける

 

「じゃあ、やっぱりもう一つの目撃者を捜すことだね

 

 もしも須藤君が言ったとおりに目撃者がいれば

 きっと真相究明の力になってくれるはずだよ」

 

「まあ現状それが有効打だろうさ・・・・」

 

だが須藤の表情はどうにも浮かない様子

 

「探すっつっても、具体的にどうやって探すつもりだよ」

 

「地道に聞いていくしか、ないよね」

 

「まあもっとも・・・・

 

 それで名乗ってくれればいいけれどね・・・・

 

 見ていたのが喧嘩のどの場面で会っても

 その人が離れた人は少なくともそういう荒事になれた人間じゃない・・・・

 

 須藤が表面上しかしらない人が目撃者ならいくら

 人望の厚い櫛田の願いでもそう簡単に名乗ってくれるとも・・・・

 

 思えないけれどね・・・・

 

不安をあおってくる綾小路の言い方にさらに浮かない表情になる須藤

 

「・・・・・・私、そこまですよ・・・・

 

 あまり彼らに余計な不安を与えてはなりませんよ・・・・」

 

するとそこに先ほど仮面をかぶった綾小路が現れる

 

「おやおや・・・・?

 

 普段無口な我が出るなんて珍しいこともあるもんだね・・・・」

 

「・・・・・・困っている御仁を放っておけるほど

 

 我は冷たい人間ではありませんゆえに・・・・

 

 事情はおおむね理解しております、まずは多くの者に協力を・・・・」

 

「ま、待ってくれよ綾小路!

 

 できればこの件は誰にも言わねえでほしいんだ」

 

須藤は訴える、だが

 

「それは無理だね・・・・

 

 仮に私や櫛田がそれを了承しても

 少なくとも学校側からいずれ通達されるだろうさ・・・・

 

 そうなれば多かれ少なかれ多くの関係者の耳に入る・・・・

 

 黙り続けていくのは難しいものだろうねえ・・・・」

 

「そんな・・・いやだ、そんなの俺は嫌だ・・」

 

「・・・・・・須藤殿・・・・」

 

「俺には・・・俺にはバスケしかねえんだ

 

 バスケができなくなったら、俺にはもう何も残らねえんだ・・

 

 なあ、助けてくれよ綾小路・・・俺はどうしたら・・」

 

いつもの態度から嘘のように弱気になっていく須藤

 

それをみた仮面をかぶった綾小路は声を上げる

 

「・・・・・・わかりました・・・・

 

 できる限りの協力とご尽力をさせていただきましょう・・・・」

 

「・・・あ、綾小路・・?」

 

と須藤を安心させるように肩にそっと手を置いた

 

「・・・・・・ここはお任せください・・・・

 

 貴方の抱いているそのお気持ちを知って放っておくなどできませんよ・・・・

 

 我は知っていますよ、貴方は決して自分からしかけていく方ではないことを・・・・」

 

「綾小路君・・・」

 

須藤をゆっくりと落ち着かせる綾小路

 

櫛田はその様子をじっと見つめている

 

「・・・・・・ただし一つだけ、お約束をしてください・・・・

 

 須藤殿はこの件に、なるべくかかわらないでほしいのです・・・・」

 

「な、何言ってんだよ

 

 そんなお前に押し付けるようなこと・・」

 

「ううん、綾小路君の言うとおりだよ

 

 当事者である須藤君が動いたら学校が余計な疑いを持つかもしれないし

 

 それに須藤君を助けたいって気持ちは私もおんなじだよ

 ここは私や綾小路君に任せて、どこまでできるかわからないけれど精一杯やって見せるから」

 

須藤は申し訳なさそうにするが

同時に自分が動いても厄介なことになりうることも理解しているので

 

「・・・わかった、できればお前らに迷惑かけたくないけど任せることにする」

 

須藤はそう言って、二人に頭を下げた

 

「今日は悪かったな、急に押しかけちまって」

 

「・・・・・・お気になさらないでください・・・・」

 

「櫛田もまたな」

 

「うん、ばいばい須藤君」

 

と須藤は数部屋隣の自分の部屋に戻っていくのであった

 

「まったく・・・・

 

 我は相変わらずだね・・・・

 

 そうやって後先考えずに人を助けようとするんだからね・・・・」

 

「・・・・・・甘いの、でしょうね・・・・

 

 まったく・・・・・・我ながら無責任なものですね・・・・」

 

二人はそんな会話をすると

 

「ううん、綾小路君のそれ、私は正しいと思うな」

 

櫛田が話しかけてきた

 

「おや・・・・?

 

 櫛田はまだいたのかい・・・・」

 

「綾小路君ともう少し話をしておきたいと思って・・・」

 

櫛田はそう言って二人の綾小路をまじまじと見る

 

「別にいいけれどさ・・・・

 

 私に話をしても力になれるかは別だよ・・・・

 

 現に今のままではどうにもならないしね・・・・」

 

「でもなんとかしたい、そういう意味にもとれるよね」

 

「・・・・・・どうしても彼のようなものを、我は放っておけませんから・・・・」

 

「そっか」

 

櫛田は嬉しそうに笑顔を見せる

 

「その気持ちをもっと表に出せば、クラスに溶け込めるかもしれないのに」

 

「あいにくと私はそう言うのに興味はないからね・・・・

 

 それに私は表立って行動するより裏で支える方が性に合ってるしね・・・・」

 

そう言って不気味な雰囲気の綾小路はそう言って手すりの方に背を当てる

 

「・・・・・・櫛田嬢は協力なされるので・・・・?」

 

「もちろんだよ、困ってる人がいたら助けるのは当たり前だもん

 

 綾小路君は・・・どうかな?」

 

「・・・・・・櫛田嬢の言う事は正しいと思いますよ・・・・

 

 しかし、いずれにせよこの件をどうにかするには我らだけでは及ばないでしょう・・・・」

 

「じゃあもう少し人数を増やしてみよう・・・・

 

 こういう件なら堀北や平田が適任だろう・・・・

 

 まあ、須藤は平田を嫌ってるから

 必然的に堀北になってしまうかもだけどね・・・・」

 

そう言ってやや不安そうにする櫛田

 

「堀北さん、協力してくれるかな・・・」

 

「須藤のことはともかく

 クラスの評価が落ちるかもしれないとなればある程度力にはなるだろう・・・・

 

 まあ力になるイコール協力してくれるかはわからないけどね・・・・」

 

不気味な雰囲気の綾小路はそう答える

 

「そっちの綾小路君は、協力してくれるよね?」

 

櫛田はそのことを聞いてくる

 

「いいよそのくらいなら・・・・

 

 それにこの件ではおそらく

 別の何かが動いているようにも思える・・・・

 

 それを知りたいと思ってね・・・・」

 

「別の何か・・・?

 

 この件は須藤君と小宮君達の他に

 誰かが動いていると考えてるの?」

 

櫛田は綾小路に聞く

 

「まあ可能性は否定できないってだけさ・・・・

 

 何しろ今回の件は須藤とその三人の関係と言い

 その三人と須藤の状態といいややできすぎたようにも思えてさ・・・・」

 

「そうなんだ・・・」

 

すると隣の仮面をかぶった綾小路が話しかける

 

「・・・・・・Cクラスの方々がそう簡単に自白をするとは思えません・・・・

 

 やはりここは無難にいるかもしれない、目撃者捜しをした方がいいかもしれません・・・・」

 

「そうだね、でも目撃者がいるのかどうかもまだわからないし・・・」

 

「・・・・・・実は我は、その目撃者と思わしき人物をお見かけしたのです・・・・」

 

それを聞いて櫛田は仮面をかぶった綾小路に詰め寄る

 

「それ本当なの!?

 

 どうしてそのことを言わなかったの!」

 

「・・・・・・お見かけしたとはいえほんの一瞬でした・・・・

 

 特別棟の方から走り去っていくのを不意に見かけただけで

 顔や背格好等は分かりません、わかっているのは女子と言う事だけ・・・・」

 

「そうなんだ・・・でもそれだけでも十分な収穫だよ

 

 明日から探しに行こう」

 

「まあまずは堀北と話をしてみてからでも遅くないだろうさ・・・・

 

 まずはそこからだね・・・・」

 

そう言うことで方針が決まったのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・困っている人がいたら助けるのは当たり前、ですか・・・・」

 

「櫛田の言葉かい・・・・・・君の生き方を体現しているようじゃないか・・・・」

 

「・・・・・・そうですね・・・・まったく、我ながら甘いものです・・・・・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

        




「まったく、想像はしていたけれど
 やっぱり上に目指すにはまだまだね」

堀北がそう言って歩いていると

「おまけにあの様子、須藤君が何かを起こしたのは必然ね

 まったくどうにかして彼のような
 人間を更生させられればいいのだけれど」

すると不意に目の前に見知った顔が歩いてきた、その相手は

「あー・・・・

 情報を集めてくると言っても
 どうしたらいいものかね・・・・

 無理言って私から変わって
 もらったが何にもわからないな」

好戦的な雰囲気の綾小路が何やらつぶやいている

「何を一人で寂しくつぶやいているのかしら?」

「あ、堀北」

話しかけていく好戦的な雰囲気の綾小路

「ったく相変わらず歯に衣着せぬ言い方するな」

「あなたこそこんなところで何をしているのかしら?」

「別に大したことねえよ

 ただ前の中間テストのポイントのあれで
 気になることがあってさ、それなりにいろんなこと調べてるんだよ」

「そう、まあはたから見ると特に意味があるとも思えないわね」

堀北の言い方にげんなりするのだった

「それよりもさ・・・・

 今日のあれは何だったんだろうな?」

「須藤君が呼び出されたこと?」

 さあ、少なくともいいことではないでしょうね」

と去っていく堀北であった

「かわいくねえ女だな」

「・・・・聞こえてるわよ」













・・・・・・・


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Brat de Week Point

La différence entre la victime et l'auteur


翌日

 

綾小路の述べたことはやがて現実になった

 

「今日はお前たちに報告がある

 

 先日学校でちょっとしたトラブルが起きた

 

 そこに座っている須藤とCクラスの生徒との間でトラブルがあったようだ

 

 端的に言えば喧嘩だ」

 

やがて茶柱はその後須藤とCクラスがもめたこと

責任の度合いによっては須藤の停学、クラスポイントの削減が行われていく事

 

すべてが赤裸々に語られていく

 

「その・・・結論が出ていないのはどうしてなんですか?」

 

平田が質問を投げかける

 

「訴えはCクラスからだ

 

 一方的に殴られたらしい

 

 ところが真相を確認したところ

 須藤はそれを事実ではないといった

 

 喧嘩を売られたのは自分の方なのだとな」

 

「そうだよ、俺は何にも悪くねえよ!」

 

必死の形相で言い放つ須藤だがクラスメイトの視線は冷ややかなものである

 

「しかし、それを決定づける証拠がない、違うか」

 

「それは、そうだけどよ・・」

 

「つまり今のところ真実が分からない

 

 だから結論が保留になっている

 

 どちらが悪かったのかでその処遇も対応も大きく変わるからな」

 

「んなこと言われても、どうすりゃいいんだよ」

 

「残念だが今は何とも言えん、須藤が仕掛けたという証拠がない以上

 

 須藤の意見には残念ながら信ぴょう性がないのも事実だ

 

 まあ須藤が言うCクラスとのやり取りを

 偶然目撃したという目撃者がいれば話は別だが

 

 このクラスに目撃をしたものはいないのか?」

 

茶柱先生はそう求めるが答える生徒はいない

 

「さすがにそう簡単にはいないか・・・・」

 

「・・・・・・・・・・!」

 

不気味な雰囲気の綾小路が不意にある生徒が目に留まる

 

だが話は進んでいく

 

「残念だな須藤、このクラスには目撃者はいないようだな」

 

「・・・そんな」

 

疑いの目をする茶柱先生に須藤は表情を曇らせていく

 

「学校側としては目撃者を捜すために

 今各担任の先生が詳細を話しているはずだ」

 

「はあ!?

 

 ばらしたってことかよ!」

 

それを聞いて驚愕し叫ぶ須藤

 

「あ、ああ・・・そんな・・」

 

力なく座り頭を抱えていく須藤

 

「やはりこうなったか・・・・」

 

不気味な雰囲気の綾小路は須藤の様子になんとも思わぬように見つめる

 

「とにかく話は以上だ

 

 目撃者のいるいない

 証拠があるないを含めて最終的な判断が来週の火曜日には下されるだろう

 

 では、これでホームルームを終了する」

 

茶柱先生はそう告げて出ていく

 

「あ、ああ・・

 

 うわあああ!!」

 

須藤はそんな声を上げて教室を飛び出していってしまった

 

「須藤の奴、大丈夫かよ」

 

池がそんな須藤の様子を聞いていくが

 

「自業自得じゃね?

 

 っていうかこのままだと須藤のせいで

 また今月も0ポイント生活送らなきゃいけなくなるぜ?

 

 そっちの方が死活問題だっての」

 

やがて収拾がつかなくなっていく教室だったがそこに立ち上がったのは

 

「ねえみんな

 

 少し私の話を聞いてもらってもいいかな?」

 

櫛田であった、櫛田がこの状況を逆に好機に変えんと行動を開始する

 

「確かに先生の言う通り須藤君は喧嘩をしたかもしれない

 

 でもね、須藤君は巻き込まれただけなの」

 

「巻き込まれたって、櫛田ちゃんは須藤の言い分を信じるわけ?」

 

櫛田は昨日須藤から聞かされた話をクラスメートに話していく

だがほとんどのものがまだ疑わしい表情の生徒たちがほとんどだ

 

「改めてきくね

 

 もしこのクラスに、友達に、先輩の中に見たって人がいたら教えてほしいの

 

 いつでもでも急いで、お願いします」

 

櫛田が言うと不思議と雰囲気が変わっていく

だがだからと言って結果が良い方向に変わるのかと言えば難しいもの

 

「でも櫛田ちゃん

 

 その須藤から聞いたって話、俺信じられないよ

 

 結局それってさ自分をどうにか正当化しようと出まかせ言ったんじゃねえか?

 

 だってあいつ中学時代喧嘩ばっかやってたって言ってたし

 相手の殴り方とか痛い箇所とか楽しそうにレクチャーしたしさ」

 

山内のその言葉を皮切りに次々と須藤への不満の声が上がっていく

 

「私、前に廊下ででぶつかったほかクラスの子の胸倉とかつかんでたの見たよ」

 

「俺は食堂で無理やり割り込んで

 注意されて逆切れしてるの見たことあるぜ」

 

櫛田の言葉は残念ながら届き切らなかった、そう思ったその時

 

「僕は信じたい!」

 

平田が声を上げる

 

「ほかのクラスの人が疑うならまだ僕も理解できる

 

 でもおんなじクラスの仲間を最初に疑うのは間違ってると思う

 

 こういう時に協力してあげるのが仲間なんじゃないかって思う」

 

「あたしもさんせー」

 

平田がそう訴えると平田の彼女である軽井沢も声を上げた

 

「だってもしも濡れ衣だったら問題でしょ?

 

 無実で犯人にされるなんて、相手側に馬鹿にされるじゃない

 

 やっぱりDクラスは、見たいに言われるのみんなだって嫌でしょ」

 

軽井沢の声に女子も多くの者が賛同していく

 

「うちのクラスのまとめはこの三人でいいといえるが・・・・

 

 これはいかんせん一時的なものだね・・・・」

 

「まあいいんじゃねえか

 これで小うるさい声も沈まんだろ」

 

こうして中心人物の三人は声を上げていく

 

「私、友達に当たってみるね」

 

「じゃあ僕も仲の良いサッカー部の先輩たちに聞いてみるよ」

 

「あたしもいろいろ聞いてみよっかな」

 

こうして櫛田、平田と軽井沢のおかげで

須藤の無実を証明するための場が発足したようだ

 

「うまくいったみたいだね」

 

「俺たちはどうするんだ?」

 

「私も私なりに動いてみるよ・・・・

 

 僕も俺もあとは好きにしたまえよ・・・・」

 

そう言ってフェードアウトしていく不気味な雰囲気の綾小路

 

「それじゃあ俺も、あとはゆっくり様子見とさせてもらおうか・・・・」

 

・・一・・

 

「・・・・・・様子見のつもりだったのに・・・・」

 

動物的な雰囲気の綾小路はつぶやきながら周りを見渡す

そこに集まっていたのは櫛田、堀北、池、山内に今回の事件の当事者たる須藤だ

 

「あきらめなさい、櫛田さんに誘われてホイホイついていくのがいけないのよ」

 

「俺は池と山内に無理やりここに連れてこられた気がするんだが?」

 

「残念だけどその意見は却下されるわね・・・・」

 

うえーと机にうつ伏す動物的な雰囲気の綾小路

 

「まあそんなことより・・・

 

 貴方はどうしてこうにも問題ばっかり持ってくるのかしら」

 

堀北は綾小路の様子を無視し、須藤にあきれたように言う

 

「ま、まあ仕方ないし友達として助けてやるよ須藤」

 

一番に須藤を悪者扱いした池が態度をころっと変えている

 

「悪い、でも俺は無実なんだ

 

 なんとかしてCクラスの連中が犯人だって証明してやりたいんだ」

 

須藤は必死に頼み込むが堀北は須藤に言う

 

「申し訳ないけれど、私は今回の件、協力する気にはなれないわね」

 

堀北は須藤の救いの手をあっさりと振り払う

 

「今私達で重要なのは、失ったクラスポイントを

 一日でも早く取り戻してプラスに転じさせること

 

 でも、あなたの一件でおそらくポイントはまた支給されることはなくなる

 

 早い話が貴方はそのことに水を差した、それだけよ」

 

「そりゃそうかもしれねえけど

 マジで俺は悪くねえんだって!

 

 あいつらの方が仕掛けてきたから抵抗しただけだ!

 

 それのどこが悪いんだよ!」

 

「良い悪いの問題じゃないわ

 

 貴方は今回の件、どちらが仕掛けてきたのか

 どうかに焦点を絞ってるようだけど

 

 所詮それは些細な問題でしかない、そのことに気が付いてる?」

 

「なんなんだよそれ・・

 

 全然意味わかんねえよ!」

 

「だったらなおさら、貴方に協力できないわね」

 

とトレーを持ち上げて、机を立っていく

 

「待ってくれよ!

 

 俺たちは仲間じゃねえのかよ!」

 

「私はあなたのことを奈邪魔だと思ったことはないわ

 

 ましてや、自分の愚かさを何も理解できていないような

 あなたのような人間の傍にいるだけでも不愉快なのよ、それしゃ」

 

と去っていく堀北であった

 

「んだよあいつ!

 

 くそお!」

 

と机に拳をたたきつける須藤

 

「まあ、俺たちでやるしかないよな」

 

「おお、山内、それでこそ友達だぜ

 

 ついでに綾小路も期待してるぜ」

 

須藤は綾小路を見て言う

 

「山内のついでってのが気なるがまあ別にいい・・・・

 

 だが俺はあくまで須藤、お前を助けるんじゃなく

 この騒動を収めるのが最優先だからな、結果的に

 須藤に何らかの処分が下ったとしても、それでどうにかなるならそうするぞ」

 

須藤はやや思うところがありそうだが

綾小路の鋭い眼光に何もいえなくなる

 

「でも逆を言えば、その結果で須藤君が助けられるならそ助けるってことでいいんだよね」

 

「まあ、それができればの話だがな・・・・」

 

「ま、まあとにかく綾小路も協力してくれるってことだよな・・ぶっちゃけ

 綾小路ってなんだかよくわからないところもあるけれども・・まあいないよりはましか」

 

池はそう結論付ける

 

「しっかし堀北も冷たいよな

 

 テストの件で協力してから少しは仲良くなれたと思ったのに・・・」

 

池はややイラっとしたふうに遠くにいる堀北を見る

 

「なあ綾小路、あいつ今どういう状態?」

 

「俺に聞くな、俺はあいつの取扱説明書じゃねえ」

 

うんざりしたように言う動物的な雰囲気の綾小路

 

「でも堀北さんだってAに上がりたいんだったら

 須藤君を助けた方がプラスになるのに、どうして」

 

「そりゃ、須藤のことが嫌いだからじゃね?」

 

様々な憶測が飛び交っていく様子に

動物的な雰囲気の綾小路はあきれたようにため息をつく

 

「やっぱりそうなのかな・・・」

 

「もしかしたら須藤を助けたことがプラスになっても

 須藤を助けた後にマイナスになる、そう考えてんじゃねえか?」

 

櫛田の言葉に動物的な雰囲気の綾小路はそう言った

 

「どういうこと?」

 

「簡単さ・・・・・・堀北は現状のことはもちろんだが

 堀北が見ているのはもっと先のことも見据えているんだろうよ」

 

「どういうこと?」

 

「あいつは須藤を助けないつもりなんじゃねえ

 ただ今の時点の須藤を見て、須藤をこのまま

 助けることがクラスにとってプラスにならないと考えてるんだろうよ」

 

「だーもう、意味が分かんねえ、どういうことだよ」

 

須藤はつかみがかるが、動物的な雰囲気の綾小路は特に姿勢は崩さない

 

「堀北が言ってたじゃねえか

 

 お前はお前自身の愚かさに気が付いていないって

 

 それに気が付かない限り、協力はできない、してもそれが

 クラスにとってプラスにならない、むしろマイナスになる

 

 そういうことなんじゃないかって話だ」

 

「なんだよ、俺は何にも悪くねえ、悪いのはあいつらの方だろ」

 

「まあ堀北も堀北なりに何か対策があんだろう

 

 多分堀北自身も俺とおんなじような意見だ

 須藤を助けるのではなく、あくまでクラスのダメージを減らすという方向でな」

 

「つまり、俺のことはどうでもいいってのか」

 

「まあまあせめてやんなよ須藤

 

 しっかし綾小路って堀北のことになると饒舌になるよな

 

 ほんとにお前らって仲がいいよな」

 

「はあ・・・・

 

 ぶっちゃけもう女はうんざりだ・・・・」

 

池の茶化すような言動に動物的な雰囲気の綾小路は

あきれたように顔に手を当ててため息交じりに言うのであった

 

「目撃者が名乗り出てくれれば一気に解決すると思うけど」

 

「多分そううまくはいかないだろうさ・・・・」

 

とそこに不気味な雰囲気の綾小路が通りがかっていく

 

「何しろ課題は堀北が匙をねげるほどに山積みだからね・・・・

 

 仮にその目撃者が見つかったとしても

 そいつが協力してくれるとは思えないしね・・・・」

 

「どうしてだよ・・・?」

 

池はその不気味な雰囲気に押されていくが恐る恐る聞いていく

 

「目撃者自身の情報がないのさ・・・・

 

 その目撃者がだれなのか、わかっているのは

 現時点では女子であると言う事だけだしね・・・・

 

 例えばほか学年の者だったら協力してもメリットもないし

 もっとも最悪のケースはその目撃者が相手と同じCクラスだった場合さね・・・・

 

 その学園はクラスによるヒエラルキーで成り立っている

 もしもそうだったら自分のクラスを陥れるなんてしないさ・・・・

 

 まあもっともいずれも仮定の話だがね・・・・

 

 仮にCじゃなくともどこまで目撃したのかで結果は変わる・・・・

 

 いずれにせよ難しいものになっていくだろうねぇ・・・・」

 

そう言って何かをつまむ不気味な雰囲気の綾小路

 

「まあどっちにしろ見つからなきゃ始まらねえだろ」

 

「そうだね、あ、ちょっと待って

 仲のいい先輩を見つけたから、ちょっと聞いてくるね」

 

櫛田はそう言って席を立つのだった

 

「ああ、櫛田ちゃん

 

 かわいいよな」

 

池はそんなことを述べる

 

「俺、マジでこくろうかな櫛田ちゃんに・・・」

 

「何言ってんだよお前には綾小路ちゃんがいるだろ」

 

「いやいや、俺の中では櫛田ちゃんの株が上がりまくってんだよ」

 

そんなやり取りにうんざりするように見つめる動物的な雰囲気の綾小路

 

「もしも俺が櫛田ちゃんと付き合えたら・・むふふ」

 

そのセリフからロクな妄想をしていないと予想する

 

「こらあ!

 

 俺の櫛田ちゃんで勝手に妄想するなよ」

 

「いやあ・・(デレデレ)」

 

「何を想像してんだよ!」

 

山内が池につかみかかる

 

「どんなのって、そりゃ櫛田ちゃんがいろんなかっこして俺にご奉仕して、むふふ・・・」

 

「・・・・・・その言葉で大体どんなシチュエーションか予想できるのかが情けない・・・・」

 

もはやあきれを通り越して情けない

 

「くそう、だったら俺だって」

 

何やら張り合う山内

動物的な雰囲気の綾小路はまたも机にうつ伏す

 

「やっぱ高校生活の華は女子だと思うんだよ

 

 そろそろ真面目に彼女ほしいよな

 

 夏に彼女がいれば、一緒にプールなんかにも行けちゃうってか!

 

 最高だな!」

 

「櫛田ちゃんが

 彼女になってくれたら最高なんだけどな・・・・彼女になってくれたら最高なんだけどな」

 

「これが大事なことなので二回言いましたってか・・・・

 

 ぶっちゃけあきれしか浮かんでこねえな・・・・」

 

うつ伏したまま言う動物的な雰囲気の綾小路

 

「でも櫛田ちゃんかわいいからさそろそろ彼氏ができそうじゃないか・・・・?」

 

「それを言うなって山内

 

 けど、まだ男の気配はないぜ、大丈夫だ」

 

それを見て不気味な雰囲気の綾小路が興味ありげにいう

 

「ふふ、知りたいかお前ら」

 

「何か知ってんのか池?」

 

仕方ないなと言った様子で池は携帯を取り出す

 

「じーつは、友達同士登録してると位置情報がわかんだよね~」

 

携帯を操作しながら言う

 

「ふふん、俺こうやってたびたび確認してるから

 

 休日からも

 

 そんで偶然を装って話しかけたりしてさ

 

 彼氏の有無を確認しているわけよ」

 

「なるほど・・・・

 

 フフフフフフ・・・・」

 

「やめとけ私

 

 一歩間違えたら警察沙汰だぞ」

 

何やら面白い遊びを思いついたような不気味な雰囲気の綾小路に

動物的な雰囲気の綾小路が即座にツッコミを入れるのであった

 

「けど現実的に櫛田ちゃんは厳しいよな・・俺たちが落とせるレベルじゃないし

 

 もう1ランクくらい下げるのもやむなし、か・・・?」

 

「そだな・・・・とりあえず彼女になってくれるなら、ブスじゃなきゃいいや」

 

「並んで歩くことを考えたら70点くらいはつけられる子っじゃないとなあ」

 

そんな様子に動物的な雰囲気の綾小路は付き合ってられないという表情を見せる

 

「綾小路だって彼女ほしいよな?」

 

「俺は当分、女はこりごりだ・・・・」

 

周りの女性があまりにも我の強いものが多いせいで

やや女性不振に陥ってしまった様子の動物的な雰囲気の綾小路

 

「おい、そっちの綾小路に聞くけれど堀北とは何にもないんだよな!?」

 

須藤は箸をつけながらそう言うのであった

 

「フフフフフフ・・・・」

 

「な、なんだよ・・・なんなんだよその笑いは!」

 

不気味な雰囲気の綾小路の含み笑いに須藤は激しく取り乱す

 

「なあに・・・・

 

 最初のころは無理だと言っていたのに

 今ではすっかり骨抜きなっているなんてね・・・・

 

 人間の心と言うのは実に不思議なものだと思ってね・・・・」

 

「・・・そ、そりゃ最初のころは無理だって思ってたけどよ・・

 

 で、でもあいつだって思ってたほど悪い奴じゃないって思ってるしよ」

 

須藤はどこか照れ臭そうに口を紡ぐ

 

「まあ堀北だってかわいいと思うけどさ・・なんか詰まんなさそうじゃん?

 

 絶対にどっか出かけに誘っても付き合ってくれなさそうだしさ」

 

「ふふふ、わかってねえなお前らは」

 

何やら脱線して堀北を支持する須藤と

櫛田を支持する池と山内の討論が始まる

 

「普通の奴なら断っても彼氏にならオッケーするにきまってんだろ

 

 そして普段ほかの男には絶対に見せない顔を見せるんだよ」

 

「なるほど・・・・なんかそう考えるとありな気がしてきたな」

 

山内がそう言って堀北のそんなことを想像する

 

「しかし、その須藤の夢中になっている堀北は、須藤を見捨てたみたいだけどな」

 

「うぐ・・・それはそうだけどよ、ああ、なんか複雑だぜ」

 

「まあ俺としては、櫛田ちゃんを狙うライバルが一人でも減ってくれれば言う事ないけどさ」

 

池はあくまで本命は櫛田で、本人曰く70点の女の子を捜すつもりらしい

 

「じゃあさ、綾小路は誰が好きなんだよ

 

 須藤は堀北で、山内は櫛田ちゃん

 

 ちゃんとライバルのターゲットは調べとかないとさ」

 

「俺は別にいいや・・・・

 

 当分女とはかかわりたくねえ・・・・」

 

「私はそうだね・・・・

 

 君たちの言う好きな人とは

 少し違うかもしれないけれどさ・・・・

 

 気になる子はいるかもね・・・・」

 

動物的な雰囲気の綾小路はうんざりするように答えるが

不気味な雰囲気の綾小路は顎を指でなぞりながらそう告げる

 

「おお、マジかよ綾小路!」

 

「教えろよ綾小路、早く早く、早くうう!!!」

 

「嫌だね・・・・

 

 君たちに話せばいろいろと面倒なことになりそうだしさ・・・・」

 

「思わせぶりな態度をかましやがって!

 

 でも一番の候補は堀北と櫛田じゃねえの?

 

 ぶっちゃけその二人以外に綾小路と話してる女子いねえし」

 

池と須藤はじっと不気味な雰囲気の綾小路を凝視する

 

「「ぜってえに負けないからな!!」」

 

宣戦布告される不気味な雰囲気の綾小路だが

二人、いや三人の反応をまるで面白いものを

見つけたように笑みを浮かべるのであった

 

「まあとにかくここにいる全員気になる女子がいるってことでいいんだよな?」

 

「そういう・・ことだよな・・・」

 

「でもほらさ、夏はバカンスに連れてってくれるって

 佐枝ちゃん先生言ってたじゃん、俺、ぜってーにその時に彼女を作って見せるぜ

 

 本命は櫛田ちゃん!

 

 もしくはまだ見ぬかわいい子!」

 

「俺も俺も!

 

 最低でも彼女はゲットしてやる・・・・そんでラブラブな高校生活を送るっ」

 

「・・・その時になったら、堀北にいつ告るか・・」

 

そんなことを言う三人

 

「そりゃ無理だな

 

 少なくとも茶柱は連れてってくれないと思うぞ」

 

すると今までうんざりしていた様子の動物的な雰囲気の綾小路が言う

 

「なんだよ綾小路、だって佐枝ちゃん先生がテストの時に言ってたじゃん」

 

「あれは一学期の中間と期末で誰も赤点をとったものが居なかったらの話だろ

 

 須藤、赤点とったじゃん」

 

「「あ・・」」

 

「うう・・!」

 

池と山内は須藤を睨む

 

「「須藤おおおおおお!!!!!!」」

 

「どわあああ!!」

 

池と山内の威圧に押されて

さすがの須藤も抵抗するすべはなかったのであった

 

「やれやれ・・・・」

 

・・二・・

 

放課後

 

聞き込みチームは平田と櫛田のチームの二手に分かれていく

 

しかし全員がそう、動いてくれるわけではない

 

「私、帰るわね」

 

「え、堀北さん本当に帰っちゃうの?」

 

現に堀北も須藤の件には、非協力的な姿勢である

 

「ようし、獲物に忍び寄る動物のごとく

 

 静かに抜き足、差し足、忍び足・・・・」

 

動物的な雰囲気の綾小路は静かに戦線離脱を試みるが

 

「あーやーのーこーじー君!」

 

教室を出る前に櫛田に声をかけられる

 

「あー悪いけど俺は今日は用事あるから・・・・」

 

どうにか振り切ろうとするが

 

「協力、してくれるよね?」

 

「・・・・・・いやだから・・・・」

 

「お願い」

 

「・・・・・・・・・・」

 

櫛田のあまりの押しの強さに首を縦に振ってしまうのだった

 

「・・・・・・ああ、なんか俺って最近押しが弱い気がするな」

 

「いいじゃない、なんだかんだ綾小路君も悪い気はしてないでしょ?」

 

「相手がお前じゃなかったらな!」

 

「あははは」

 

まあなんやかんやあって三バカと合流する動物的な雰囲気の綾小路

 

「ね、ねえ、綾小路君、一つお願いがあるんだけれど

 

 私もう一度、堀北さんに協力してほしいと頼みたいんだ」

 

「まあ確かにあいつなら戦力にはなると思うが・・・・

 

 少なくとも今のアイツに何言っても意味はないと思うぜ」

 

「でもそれでも何とか説得すればきっと協力してくれると思うよ」

 

「そうか・・・・?」

 

うまくいくという確証はないが

かといって櫛田を止める権利もないので止めることはしなかった

 

「それじゃあ二人はここで待ってて」

 

「「オッケー!!」」

 

櫛田の言葉に池と山内は上機嫌に返事する

 

「それじゃあ綾小路君、行こ」

 

「絶対うまくいかねえと思うがな・・・・」

 

手を引かれながらもそんな事をつぶやいていくのだった

 

そして学校と寮の丁度間くらいで堀北を見つける

 

「堀北さんっ」

 

櫛田は堀北に声をかける

 

「・・・・何かしら」

 

堀北自身口調こそいつもと変わらないが

まさか追いかけてくるとは思わなかったのか驚いた様子だった

 

「須藤君の件、堀北さんにも協力してもらいたいなって・・・ダメかな?」

 

「その話なら断ったはずだけど?」

 

肩をすくめて言う堀北

 

「でも、これはAクラスを目指すために必要な事だって思うし・・・」

 

「Aクラスを目指すために必要な事、ね」

 

納得のいかなそうに言う堀北は

櫛田の言葉に耳を貸そうとはしない

 

「私は別に貴方が須藤君のために奔走することを

 悪いとは言わないし、止めるつもりもないわ

 

 でも少なくとも私はそれにはまだ協力するつもりはないわ」

 

「まだってことは、今は協力できないってことか?」

 

動物的な雰囲気の綾小路はそう言うと堀北は彼の方を見る

 

「私には私でやることがある、それだけよ」

 

そして堀北は二人に背を向けて言う

 

「もし今仮に須藤君を助けたことで今の彼ではまた同じことを繰り返すだけ

 

 そもそも貴方は今回、須藤君が被害者だと思っているようだけれど私の考えは違う」

 

「え・・・?

 

 だって須藤君は被害者、だよ・・・?

 

 だって、濡れ衣を着せられて困ってるんだもん」

 

櫛田は堀北の言葉の意味が分かっておらず、困惑する

 

「そうかもな・・・・

 

 確かにお前の言うことはもっともだ・・・・

 

 確かに今回の件がCクラスに仕向けられたものだったとしても

 須藤はどのみち、加害者である、ということだな堀北」

 

「綾小路君まで・・・

 

 だって須藤君はどう考えても被害者じゃない!」

 

堀北は動物的な雰囲気の綾小路の言い方にふうっとため息をついて絵

 

「そもそもどうして須藤君が今回の事件に巻き込まれたのか

 

 その根本を解決しない限りこれから永遠に付きまとう課題だってわかってる?

 

 少なくとも私はその問題が解決しない限り協力する気にはなれない

 

 まあ詳しい説明は綾小路君に聞いてみれば?

 

 少なくとも彼は私の考えていることはある程度理解してると思うから」

 

堀北はそう言って去っていくと

櫛田はしばらくして、どういうことかわかる?と訴えるように動物的な雰囲気の綾小路の方を向く

 

「須藤君も、加害者・・・?

 

 そう・・・なの?」

 

櫛田はそう訴えると、動物的な雰囲気の綾小路はやれやれと言わんばかりに口を開く

 

「堀北の考えに賛同してるってわけじゃねえが

 

 確かに今回の件は須藤にも比がある

 

 お前だって普段のアイツを知ってんだろ?

 

 気に入らなければ誰が相手でも暴言を吐いたり、横暴な態度だったり

 

 確かにあいつがレギュラーに選ばれたことは素直にすごいと俺も思う・・・・

 

 それに驕って傲慢にふるまっていたら当然アイツを快く思わない奴だっている

 

 そんなの懸命に練習している奴からしてみたら嫌味にしか聞こえないからな

 

 さらに須藤は中学時代から喧嘩ばかりしてるっていう噂があるのがその証拠だ

 

 調べによれば須藤とおんなじ中学の奴はいない、でもそんな話が知れ渡ってる

 

 そう言うことだ・・・・」

 

須藤を見た周りのイメージは最悪、と言う事だ

 

「つまり今回の事件は起こるべくして起こった

 

 俺も堀北も少なくともそう思ってる

 堀北が須藤も加害者と言ったのはそれが理由だ」

 

「普段の行いや積み重ねが・・・こういう事態を招いた・・・ってことなんだね」

 

「そんな態度をとり続けていたら当然トラブルは起こる

 

 だが今証拠がない以上、ものをいうのは日ごろのイメージ、つまり心証だ

 

 わかりやすい例で説明するならば

 殺人事件が起こったとしよう、容疑者は二人

 

 一人は真面目に生きてきた全量な人間

 もう一人は今でこそ真面目だが過去に人を殺したことのある人間

 

 お前はどっちを信じる?」

 

櫛田は重々しく答える

 

「・・・真面目に生きてきた人、だね

 

 普通に考えれば」

 

「真実はそうじゃないかもしれねえ

 

 だが、判断材料が少なければ少ないほど

 周りの心証で判断を下さなければならなくなることもある

 

 だが堀北が最も許せないのは

 結局須藤は自分は悪いという自覚を持っていないことだ」

 

そう言ってやや疲れた様子で顔を手に当てる

 

「そういうことか・・・」

 

櫛田は納得がいったように一人小さく頷いた

 

「堀北さんは、須藤君にそれを気づかせたいためにあえて協力しないってこと?」

 

「自分の罰せられる立場にあることを自覚してほしいんだろうさ」

 

話は理解した櫛田、だがだからと言って納得している様子はない

 

「でもだからって見捨てるなんて納得いかないよ

 

 もしそんな風に不満を抱いているなら

 せめて直接言ってあげなきゃだめだと思う」

 

「いったところで須藤がそのことを受け入れなければ意味がない・・・・

 

 多分堀北は、きっかけを待っているんだろうさ

 須藤がそのことを知りなおかつ自分の比を素直に認めてくれるようにな・・・・

 

 それに堀北自身は須藤に協力はしないとは言っていたが

 この件を解決しないとは言っていない、あいつもあいつなりに

 どうにかしようとしてるんだろうが、今は手探り状態なんだろう・・・・」

 

櫛田はやはり納得がいかない様子であるが

その彼女に動物的な雰囲気の綾小路は言う

 

「お前はお前が正しいと思ったことをやればいい・・・・

 

 堀北の考えは少なくとも俺は正しいと思っているが

 だからってお前の考えが間違ってるっていうわけじゃない・・・・

 

 少なくとも俺はそう思ってる」

 

「・・・うんっ」

 

櫛田は動物的な雰囲気の綾小路にそう言われて屈託のない笑みを浮かべる

 

「ところで堀北さんの考え、須藤君に話した方がいいと思う?」

 

「いいや、さっきも言ったが話したところで須藤はきっと

 素直に受け止めることはできないだろう、もう少し熟考させた方がいい

 それに自分で気づいて初めて得るものもあるだろうしな、もう少しまとう」

 

「・・・そっか

 

 わかった、綾小路君の言うとおりにするね」

 

櫛田はうーんっと背伸びをして動物的な雰囲気の綾小路を見る

 

「やっぱり綾小路君は、堀北さんの考えが分かっちゃうんだね

 

 なんだかうらやましい」

 

「あくまで同じ考え方なだけだ・・・・

 

 俺はできることならお前ともあいつとももうかかわりたくない・・・・」

 

そう言って動物的な雰囲気の綾小路は先に向かっていく

 

「素直じゃないんだな、綾小路君は・・・」

 

そう言って一緒に池達の元に戻っていく

 

「あれ、結局堀北の説得はだめだったん?」

 

「ごめん、なんとか粘ったんだけれど」

 

「櫛田ちゃんは悪くないよ、それに俺たちも協力するしさ」

 

「ありがと池君、山内君」

 

櫛田の様子に二人はデレデレである

 

「じゃあまずはどっちから行こうか」

 

櫛田の言葉に動物的な雰囲気の綾小路は提案する

 

「俺はまずBクラスから当たった方がいいと考える」

 

「どうしてBクラスなの?」

 

「一番目撃者がいてほしいのがBクラス・・・・・・それが俺の願望さ」

 

「あの、簡潔すぎてよくわからないよ・・・」

 

「それじゃあ説明するが

 

 BクラスにとってDとC

 どっちのクラスが自分たちを脅かす可能性があるんだ?」

 

「もちろんCクラスだよね

 

 でもそれだったらAクラスだって・・・」

 

「Aの連中にとって自分たちより下のクラスの奴らが

 起こした問題なんて大した問題じゃないだろうしな

 

 ましてや一番底辺のDクラスのことなんて感心すらもないだろう」

 

それを聞いて三人は不思議と納得するように頷く

 

「ようしそれじゃあBクラスにレッツゴー!」

 

「お前はバカか!」

 

動物的な雰囲気の綾小路は櫛田にデコピンをくらわせる

 

「うにゃー!」

 

櫛田はびっくりして猫のような悲鳴を上げる

 

「何するの~」

 

櫛田が額を抑えながら動物的な雰囲気の綾小路を見つめる

 

「あのな、今回は普通に友達を作りに行くのとはわけが違うんだ

 

 うかつに他のクラスに飛び込むんじゃない」

 

「そ、そうなの?」

 

動物的な雰囲気の綾小路は櫛田に話しかけていく

 

「Bクラスに知り合いはいるのか?」

 

「いるけれど、仲良くなったっていうのはほんの数人だけれど」

 

「まずはそいつらに絞って話を聞こうか」

 

極力ほかのクラスに今の問題のことを

知られるわけにはいかないと考えている動物的な雰囲気の綾小路なのだが

 

「でもそれじゃ手間がかからねえか?

 

 もういっそぱって引いた方が楽だって絶対」

 

池が反論する

 

「私も行け君の考えに賛成かな

 

 Bクラスに聞くのはいいと思うけど

 やっぱり聞けるときに多くの人に聞いた方がいいと思う

 

 そうじゃないとタイミングが合わなくて目撃した人に話がいかないかも」

 

「・・・・・・そうか、まあ確かに俺も本音を言えば慎重すぎると思ったし

 

 それじゃあ櫛田、お前の判断に任せてもらっていいか?

 

 この中でほかクラスとも知り合いが多いのは櫛田だから話も話しやすいと思うし」

 

「ありがと綾小路君」

 

櫛田は笑顔で答えるのであった

 

・・・三・・・

 

「さあて・・・・

 

 うまく何か情報が入ってくればいいんだが・・・・」

 

Bクラスの中に入って普通に溶け込んで話を聞いている

 

だがそれを見て何やら悔しそうに見ている池と山内

 

「あいつらぁ、俺の櫛田ちゃんに気やすく話しやがってぇ」

 

その言葉を聞いてあきれの様子を見せる動物的な雰囲気の綾小路

 

「慌てるなよ池、俺たちは櫛田ちゃんと

 おんなじクラスなんだ、少なくとも俺たちが有利なんだ!」

 

二人の様子を見ながら動物的な

雰囲気の綾小路はBクラスの面々を見つめている

 

「Aの次にいるBクラスっていうから

 優等生の集まりって言う感じと思っていたが

 

 思ってたよりも自由なんだな、この雰囲気からして

 ここのリーダーさんは随分と優れた手腕を持ってるってことか・・・・

 

 さあて、誰がBクラスのリーダーなのかね・・・・」

 

そう言ってゆっくりと入り口から離れていく動物的な雰囲気の綾小路であった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちなみに、残念ながら期待通りの情報は入ってこなかったのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

        




「しっかし見事なもんだね

 動物で例えるなら別のクラスの奴は
 ほかの群れみたいなもので、それが来たら
 人間だって何らかの反応を見せるのに

 櫛田の奴は見事なもんだな
 まあだからこそ今回のは残念だったが」

そう言って歩いていると

「おーい、綾小路くーん」

遠くから櫛田が話しかけてきた

「噂をしたらなんとやらだ・・・・」

「こんなところで何をしてるの?」

櫛田は何気に聞いてきたが
当の綾小路本人はかかわりたくないので

とりあえずしかめっ面を見せる

「もう、どうしてそんなにいやそうな顔をするの?」

「お前にかかわりたくないからだっつの、何度も言わせてくれるなよ」

「えーそれはひどいな」

「お前だって本当はかかわりたくないんじゃないのか?

 あの時俺のこと嫌いだって言ってたじゃねえか」

「でもだからって突き放すのは違うんじゃないかなって思うし」

「俺にはよくわからねえな

 どうして俺や堀北みたいに内心嫌ってる奴とも
 仲よくしようなんて思うんだよ、好きは好きで
 嫌いは嫌い、俺はそれでいいんじゃねえかって思うぞ?」

「でももしかしたら嫌いって思ってた人が
 実は意外な一面があるんじゃないかなって思うし

 それにね、私は綾小路君にあの時言ったよね
 私はこれでも綾小路君に期待してるって」

「・・・・・・ああ、そういや

 そんなことを言っていたな」

「あの時の言葉も本心だよ

 だからこれからもそう言う顔しないで
 仲良く接してくれると嬉しいな、堀北さんのように」

そう言うと動物的な雰囲気の綾小路はため息をついて言う

「俺は堀北のことを何とも思ってねえよ

 俺はお前の味方になるつもりも
 堀北の味方になるつもりも毛頭ない

 俺が言うのはそれだけだ」

「あくまで中立ってこと?」

「俺は面倒ごとが嫌いなんだよ

 とにかくそういうことだから、じゃあな」

そう言って去っていく動物的な雰囲気の綾小路であった

「・・・なんかむかつく・・・」

櫛田のつぶやきは風の音に消えて誰にも聞こえなかったという





















        


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Bon sang, il y avait un témoin surprenant Prequel

Motivation à couper


翌日

 

そこでは櫛田や平田たちが

情報交換の最中であった

 

六人の少年少女たちは集まっていた

 

「そっちの方はどうだい・・・・?」

 

「収穫は0みたいだね・・・・」

 

「平田の方もあの様子だとあたりはないようだな」

 

「・・・・・・・・・・」

 

「果たしてこのまま静かに事が

 終わってくれればいいんだけれど・・・・

 

 そうはいかないわよね、須藤君はまだ来てないみたいだし・・・・」

 

「・・・・・・・・・・」

 

仮面をかぶった綾小路は席の後ろの方を見ている

 

「どうしたの、我?」

 

「・・・・・・いいえ、なんでもありません・・・・」

 

「おいらもどうしたの?

 

 いつもだったら饒舌なほどに口開くのに」

 

「・・・・・・なんでもねえよ・・・・」

 

六人の少年少女の内、好戦的な雰囲気の少年と仮面をかぶった少年はどこか上の空だ

 

「しっかし

 

 本当にCクラスの奴らが悪いって証明できんのかな・・・」

 

「目撃者さえ見つかれば不可能じゃないと思うよ池君」

 

「・・つーかさ、そもそも本当に目撃者なんているのかよ

 

 須藤がなんとなくいたと思ったってだけだろ?

 

 やっぱり嘘なんじゃねえのかってしか思えねえよ」

 

「だけど僕らが疑ってたらいつまでも進展なんてしないよ」

 

「それはそうだけどさ・・・

 

 でももしこれで須藤が悪いって結論になったら

 せっかく増えたポイントはまた全部没収されるよな?

 

 こんなんじゃいつまで立っても小遣い0

 

 其れで遊びまくるなんて夢のまた夢だぜ」

 

「だったらまたためればいい、まだ入学して三か月なんだ」

 

平田の言葉に多くの女子が賛同する

 

「でも俺はポイントも大事だと思うんだよ

 

 だってそれがみんなのモチベーションにつながるじゃん?

 

 だから何としてもクラスポイントを死守したいんだよ

 

 それがたとえたったの87ポイントでもさ」

 

「池君の言うことももっともだけれどポイントに固執しすぎて本質を見失うのは危険だ

 

 そのためにも僕たちは疑いをかけられている仲間を助け出さないと」

 

平田の発言は確かに善意そのものだがそれがかえって池に嫌悪を抱かせていく

 

「もしも仮に・・須藤が悪かったとしてもかよ」

 

池のつぶやきにも平田はしっかりとうなづく

そのまっすぐな意思が伝わったのか池は気圧されたように下を向く

 

「平田君の言うことはもっともだと思うけれど

 ポイントが欲しいっていうのは私も賛成かな

 

 ほかのクラスはおしゃれな服とかアクセとか買ってる子いるし

 

 それに比べてこっちは殆どどん底じゃん?」

 

軽井沢がそんなことをぼやいていた

 

「なんで俺、最初からAクラスじゃなかったんだろ

 

 もしそうだったら今頃すげえ楽しい高校生活送れてたろうにな」

 

「あたしもAだったらな

 

 友達といろんなとこ遊びにいけるのに」

 

気が付いたらその場はないものねだりの場へと変わっていくのがわかる

 

「なんか一瞬でAクラスになれるような裏技とかあったら最高なのにな

 

 クラスポイント貯めていくなんて難しすぎっしょ」

 

池がそんなことをぼやいていたそこに

 

「そんなお前にいい方法を教えてやる

 

 実は一気にAクラスに上がる方法はある」

 

茶柱先生がそう言って話しかけてきた

 

「うお!?

 

 びっくりした・・って今なんて?」

 

思わず椅子から転げ落ちそうになった池が体勢を立て直して聞き返す

 

「クラスポイントがなくてもAクラスに上がる方法はあるといったんだ」

 

その言い方に堀北も思わず読書を中断する

 

「まったまた~、そんなこと言って俺をからかうつもりなんでしょ?」

 

さすがの池も疑り深く茶柱先生に言う

 

「実は本当にこの学校にはそう言った特殊な方法も用意されている」

 

だがその茶柱先生の様子からふざけている様子はない

 

「嘘をついている可能性、あると思う・・・・?」

 

「思わないよ・・・・

 

 少なくとも彼女はこれまで

 嘘はついたことはない・・・・

 

 あくまで伝え忘れたか

 含みを入れているだけだ・・・・」

 

「確かにそうね・・・」

 

池もそれを感じていたのだろう、態度が変わり始めていく

 

「そ、それでは先生、その特殊な方法とは・・・?」

 

恐る恐る聞いていく池

 

池のみならず多くの生徒たちが聞き耳を立てる

 

「入学式の時にも言ったがこの学校ではポイントで買えないものはない

 

 つまり個人のポイントを使って強引にクラス替えができるということだ」

 

そう言って不意に堀北と綾小路の方を見る茶柱先生

 

現にその方法で須藤の赤点を回避した事実があるのだ

 

「ま、マジすか!?

 

 何ポイントでそんなことができるんすか!?」

 

「・・・・2000万ポイントだ、それだけあれば好きなクラスに上がれる」

 

それを聞いてずこっとコントのように椅子から転げ落ちる池

 

「にせんまんぽいんとって・・無理に決まってるじゃないですか!」

 

池の言葉に同調するように教室が大きく響くまでのブーイングが起こる

 

「だが無条件でAクラスに上がれるのだ、このくらいが妥当だろう

 

 仮に桁を一つ消しただけで、3年の卒業間近にはAクラスは100人を超える

 

 そんなAクラスには何の価値もない」

 

茶柱先生はバッサリと言い放つ

 

「じゃあ聞きますけど・・過去にクラス替えに成功した生徒はいるんすか?」

 

当然の質問が投げかけられてきた

 

「残念ながら過去にはいない、理由は火を見るより明らかだろう

 

 入学時から仮にポイントを維持し続けていったとしても最低360万ポイント

 Aクラスのように効率よくポイントを増やしていったとしても400万に届くかどうかだ

 

 普通にやっても絶対に足りないようになっている」

 

「そんなのできないのと一緒じゃないすか・・・」

 

「だがあくまで不可能に近いのであって不可能じゃない

 

 この違いはお前が思っているよりも大きいぞ池」

 

その話に対してうげーと投げやり気味になっていくクラスメート

100、200のポイントを欲するクラスの者達にとって2000万ポイントなど夢のまた夢

 

一気に興味が失せていく面々だったが

 

「私からも一つ質問させてもらってもいいでしょうか」

 

堀北はそんな中で挙手し質問する

 

「学校が始まって以来、最高でどれだけのポイントをためた生徒がいるんですか?

 

 よろしければお聞かせ願います」

 

「中々にいい質問だな堀北

 

 あれは3年ほど前、卒業前にBクラスにいた生徒だったか

 

 一人の生徒が1200万ポイントをためていたことが話題になった」

 

「せ、1200万!?

 

 それもBクラスの生徒が!?」

 

「しかしその生徒は2000万ポイントを貯められなかった

 

 なぜならその生徒はポイントをためるために

 大規模な詐欺行為を行っていたせいで退学となった」

 

「詐欺?」

 

「入学したてで知識の浅い一年生を次から次へとだましポイントをかき集めた

 

 2000万ためてAクラスに移動するつもりだったんだろうが

 学校側がそんな暴挙を許すわけもない、当たり前だ

 

 着眼点は悪くはなかったが、だからと言って

 ルール違反を犯したものを見過ごすわけにもいかないからな」

 

結局その話のせいでさらに到達することは不可能に近くなってしまうのだった

 

「つまり、犯罪まがいな方法とっても1200万が限界ってことか」

 

「あきらめておとなしくクラスの総合ポイントで上を目指すしかないようね」

 

わざわざ挙手したのがばからしく思ったのか本を再び読み始める堀北

 

「まあ仕方がないな、お前たちはまだ部活でポイントを獲得した者はいないしな」

 

茶柱先生のつぶやきに池が飛びつく

 

「それってどういうことっすか」

 

「部活の活躍や貢献度に応じて個別にポイントが支給されるケースがある

 

 例えば書道部の人間がコンクールで賞をとれば

 その賞相応のポイントが与えられるといった具合にな」

 

それを聞いて仰天するクラスメートたち

 

「ぶ、部活で活躍したらポイントがもらえるんですか!?」

 

「そうだ、おそらくこのクラス以外ではしっかり伝達がすんでいるはずだ」

 

「ちょ、ひどいっすよそれ!

 

 もっと早く教えてくれないと!」

 

「そもそも部活動は本来ポイントをもらうためにやるものではない

 

 仮にこのまま私が伝えることがなくとも影響はないはずだ」

 

悪びれる様子もなく、茶柱先生は言う

 

「いやいやそんなことないですって・・・」

 

「もし仮にその理由で入部したところで賞を

 とったり試合で活躍するだけの約束を出せるとも?」

 

「それは・・そうかもしれませんけど・・・!」

 

池はそれでも可能性はあるといい放つが

茶柱先生の言うことももっともだろう

 

だが平田は不意に納得したように言う

 

「でも今にして思えば、もっと早くに見抜けていたかもしれない」

 

「どういうこと?」

 

「入学したての時にプールの授業で言ってたじゃないか

 

 その時1位になった生徒に5000ポイントを支給するって

 

 あれはこういったことを読み切るための布石だった

 

 そう考えれば十分現実味のある話じゃないかな」

 

平田の言葉に、池は覚えてるわけねえよと頭を抱える

 

「かー、ポイントもらえんなら書道でも手芸でも

 なんでもやってたかもしんねーのにい」

 

茶柱先生からの話を聞いて笑みを浮かべるのは不気味な雰囲気の綾小路と

幼い雰囲気を持つ綾小路であった、彼はすぐに堀北に話しかける

 

「ねえ堀北・・・・

 

 これで君にも須藤を助ける理由・・・・

 

 できたんじゃないかい・・・・?」

 

「どういうこと?」

 

「だって須藤君はさ、一年でレギュラー候補に選ばれるほどにバスケがうまいんだ

 

 部活動の結果によってポイントが振り込まれるんだったらさ

 彼を救う価値は出てきたってことじゃない」

 

堀北は二人の綾小路の方を見る

 

「そ、それはそうだけど・・・」

 

だがやはり堀北はまだ協力するのか迷っている様子

 

「確かにクラスポイントも大事だけど

 だからってプライベートポイント自体がお飾りってわけじゃないでしょ

 

 現に中間テストの時はそのおかげで須藤君の赤点取り返せたでしょ?」

 

「でもだからってここにいる全員が誰かのために身銭を切るとは思えないけど」

 

「だったら自分がある程度ポイント持ってればいい・・・・

 

 他人がだめなら自分でどうにかする

 すべを持ってればどうにかなるかもしれないじゃないか・・・・」

 

堀北にゆっくりと顔を寄せる不気味な雰囲気の綾小路

 

「君だって認めてるんだろ・・・・?

 

 須藤がバスケに対してどれだけ真剣で

 そのためにどれだけ頑張ってきたのかをさ・・・・」

 

そう言うと不気味な雰囲気の綾小路はゆっくりと顔を離すと

堀北はしばらく考え込む仕草を見せるのであった

 

・一・

 

その後も様々なクラスを回っていったが結局収穫はなしであった

 

「今日もダメだったね・・・」

 

ベンチにおいて途中合流した須藤も交えて話をしていた

 

「どうだった?

 

 なんか進展したか?」

 

「全然ないって

 

 須藤、目撃者なんて本当にいたのかよ」

 

池がやや疑いの目で須藤に聞いていく

 

「お、俺はただ気配がしたって言っただけで」

 

「え・・・そうなの?」

 

「確かに須藤君はいた気がするとは言ってたね」

 

「だったらそんなの須藤の願望が生み出した幻想じゃ・・」

 

池がそこまで言うと須藤にヘッドロックをくらわされる

 

「ぎゃああ!!!」

 

池と須藤を無視して考え込む櫛田と山内

 

櫛田は不意にひらめいたように言う

 

「少し方向を変えた方がいいかもしれない

 

 例えば目撃者を目撃した人を探すとか、綾小路君の他に」

 

「目撃者を見た人を探す?」

 

「事件当日、特別棟に入っていく人を見ていないか探す、そう言うことだね?」

 

「うん、そうかな?」

 

櫛田の言うことは確かに悪くはないが

 

「・・・・・・それは難しいでしょう・・・・」

 

と後ろに仮面をかぶった綾小路が現れる

 

「「うわあ!?」」

 

櫛田と池は突然現れたことに驚き

須藤と池もそれに反応してその方向を向く

 

「・・・・・・あの時特別棟から走り去っていく人影を見かけたとき

 ほかに感じた人気はありません、ましてやあの時間帯に特別棟を利用する者はいないでしょう

 

 そもそも須藤殿をはめるのでしたらそんな人がいる

 可能性のある場所を選ぶことはしないと思いますが・・・・」

 

「確かにね、だからこそ須藤君を特別棟に呼んだんだろうし・・・・」

 

「かー、また振り出しかよ・・・」

 

頭をガシガシと掻く須藤だが

仮面をかぶった綾小路が不意に口を開く

 

「と言うより、君は何しにここに来たんだよ?

 

 君は確かほかクラスの情報を集めてたんじゃなかったっけ?」

 

「・・・・・・皆様に一つ、気になることがあったので報告の方を・・・・」

 

そう言って一同を見ていく

 

「・・・・・・今回の件で、おひとり気になる女性がいるとのことで

 

 一応お伝えして置けたらと思いまして、ここにはせ参じてきました・・・・」

 

それを聞いて一同は仮面をかぶった綾小路に詰め寄る

 

「まじでいってんのか!

 

 それでいったい誰なんだ・・!?」

 

「・・・・・・確かに我もその者に気になると思っていたのですが

 いかんせん信ぴょう性に欠けて、しかしここに来る前に堀北嬢にお会いしまして

 

 実は彼女も我と同じ人物のことがきになっていたようで

 その話を聞いて確信に至ったのでそのことをお伝えしろと

 

 我に言伝を堀北嬢に頼まれまして・・・・」

 

「ほ、堀北が!?」

 

須藤は堀北が協力してくれたことに驚き

今は彼の言う目撃者を問いただすのを聞く

 

「堀北がだれが目撃者だって?」

 

須藤やほかの面々も聞き入っている

 

「・・・・・・佐倉 愛里という女子です・・・・」

 

その名前を聞いてピンと来たのは

 

「佐倉さんて、確か後ろの席の・・・」

 

櫛田のみであった、ほかの三人は顔を見合わせている

佐倉って誰だっけと言う感じである

 

「・・・・・・我はかねてより彼女は何かを知っているのではないかと

 思っていたのですが、堀北嬢が同じ意見を言ってくれるまでまだ半信半疑でした」

 

「どうしてそんなことが?」

 

「・・・・・・櫛田嬢が教室で事件の目撃者についてお話をされていた時

 

 多くの方々が櫛田嬢に注目していた中、彼女のみ顔をうつむけていました

 自分に無関係ならばそんな反応はしない、それが堀北嬢の結論と根拠です・・・・」

 

「我ってさ、案外そういうところよく見てるよね・・・・」

 

「・・・・・・これもまた我の習慣のようなもの、なのかもしれませんね・・・・」

 

そう言ってかぶっている仮面を手で覆う綾小路

 

「つまりその佐倉って言うやつが目撃者の可能性があるってことか」

 

「・・・・・・実は堀北嬢が我に会う前に彼女に会っていたそうです・・・・

 

 認めるような発言はしなかったようですがその様子から確信に至ったようです・・・・」

 

「なるほどね、私の話を聞いて堀北ちゃんなりに動いてくれたわけだ・・・・

 

 意外にかわいいところもあるんだね」

 

幼い感じを思わせる笑いで同じような雰囲気を持つ綾小路がクスクスと笑う

 

「堀北が、俺のために・・」

 

須藤は別のところで感動していたのだった

 

「・・・・・・何はともあれ堀北嬢も今回の件を

 放っておくわけにはいかないと考えたのでしょう・・・・」

 

「堀北さん、あの時はなんだかんだ言っても、須藤君のこと放っておけないんだね」

 

「まあおかげで一歩進めたのは事実だね」

 

「でもさ、なんで堀北は綾小路に伝言なんて?」

 

池がそう言うと須藤がやや睨みつけるように見てきたが

仮面をかぶった綾小路はやれやれと首を振って顔を上げて言う

 

「・・・・・・おそらく今まで非協力的な態度をとっていたので

 今更素直に協力をするのが、お恥ずかしかったのでしょう、あくまで予想ですが・・・・」

 

「へえー、堀北ちゃんってツンデレなのな」

 

「・・・・・・ツンデレ、と言うのはよくわかりませんが

 あくまで我の解釈ですので・・・・」

 

これでまた須藤の表情が緩んだのでとりあえず

ひと段落したと息を漏らす仮面をかぶった綾小路

 

「しっかし、ここ来て堀北ちゃんの印象が変わったよな」

 

「ねえねえ池君」

 

不意に幼い雰囲気をまとう綾小路が話しかける

 

「それ、本人の前で言わない方がいいよ

 

 照れ隠しに技決められるよ、武道習ってるから」

 

「え?

 

 マジ?」

 

池はそう言って顔を引きつらせていくのだった

 

「ま、まあでもさよかったじゃん須藤

 

 Dクラスの生徒なら絶対証明してくれるぜ!」

 

「まあいたのはうれしいけれどよ・・・佐倉って誰だ?」

 

須藤はそんなことを聞いていく

 

「ほら、須藤の後ろの席の」

 

「いや確か、左斜め前だよ」

 

「二人とも違うよ・・・須藤君の右斜め前の子だよ」

 

櫛田が不機嫌そうに訂正する

 

「うーん・・・やっぱ全然覚えてねえな」

 

あまりの認識の薄さに二人の綾小路はあきれた様子を見せる

 

「そう言えば池君たちが入学したときに

 女の子のおっぱいの大きさを話してたときに名前出してなかったっけ・・・・?」

 

さすがにこれで引っかかるかはわからないが一応引き出してみようとする

 

「「ああ、あの地味な眼鏡女子の・・」」

 

「「・・・・・・・・・・」」

 

引き出せてしまった

 

「池君も山内君も、そんな話してたの」

 

「あ、いや違うんだよ櫛田ちゃん

 

 けしてやましい気持ちって言ったわけじゃなくって

 

 ほら、背の高い男子とかってざっくりとしたイメージで覚えたりするじゃん?

 

 それと同じようなもんで・・・」

 

慌てて弁明する池だが、櫛田の反応を見て遅いような気がする

 

「違うんだよおお!!!

 

 あんな地味な子、全然好きじゃないし!

 

 勘違いしないでくれええ!!!」

 

そんな無駄な弁明を無視して進めていく

 

「あとは佐倉さんがどこまでしっているのか、ってところだけど」

 

「・・・・・・申し訳ありませんがそこまでは私も堀北嬢もわかりかねると思います・・・・」

 

「じゃあ佐倉の部屋に言って聞いてきたら?」

 

「いきなり大勢で押しかけたら逆に警戒されると思うけどね」

 

それに佐倉は話を聞く限り人と接するのが苦手な人間

ゆえにいきなり親しくもない相手に話しかけられると口ごもってしまうだろう

 

「そう言えば櫛田ちゃん、佐倉ちゃんと話したことは?」

 

「実はあんまりないんだ

 

 連絡先だって聞いたけど

 それ以外では話したことがないというか

 話しかけようとしてもすぐに逃げ出してしまうというか」

 

櫛田の話からしても佐倉は異様なまでに人にかかわるを避けているのがわかる

 

「堀北みたいなタイプってことか?」

 

「確かに他人とのかかわりを持たないという意味では同じかもだけど

 

 堀北ちゃんはあくまで望んで他人とかかわらないんだよ・・・・

 

 佐倉ちゃんはたぶんだけれど、他人とかかわるのが怖いんだと思う」

 

池の言葉に幼い雰囲気の綾小路が言う

 

「でもおかげで希望が見えたぜ、これも堀北のおかげだな」

 

須藤はへへへと指で頬を掻きつつ照れ臭そうに言う

 

「多分綾小路君の推察通りかなって思う、人見知りだなって感じがしたし」

 

櫛田も幼い雰囲気の綾小路の言葉に同調する

 

「しっかしもったいないよな、これが」

 

そう言って山内は胸元に手をもっていってわさっと動作を見せる

 

「そうそう

 

 ほんとにおっぱいだけはすごいでかいんだよ

 

 あれでかわいければな」

 

「池君、もう一度自分の犯した失態思い出してみよっか・・・・」

 

そう言って櫛田の方を向けると櫛田は苦笑いをしているのがわかる

それをみてしまったといったふうに口をふさぐように手を覆う

 

「ところで佐倉ちゃんってどんな子だったっけ、覚えてる?」

 

「・・・・・・自分の席で極力静かに自分の机で

 うずくまっているのしか見たことがありません・・・・」

 

「っていうか俺、佐倉の顔ってどんなだっけ?」

 

山内はそう言って思い出すような仕草を見せる

 

「・・ってあれ・・・?

 

 確か山内、お前佐倉に告白されたって言ってたよな?」

 

池がそう言うと、山内は目をそらす

 

「あ、あれー?

 

 そんなこと言ってたっけ?」

 

そうすっとぼける様子に面々は

 

「いつものほら吹きかよ・・・」

 

「う、嘘じゃねえし、勘違いだし

 

 佐倉じゃなくってよく似た別の女子だし

 

 ってあ、悪い、メールだ」

 

そう言ってケータイをわざとらしく操作する

 

「山内君の嘘はともかく

 

 まずは佐倉ちゃんにいろいろ聞く方がいいと思うけど・・・・」

 

「じゃあまずは私一人で聞いてみるね

 さっきも綾小路君がいってたけど

 

 あんまり大勢で話しかけても警戒すると思うし」

 

「これでうまくいかなかったらもうお手上げだけどね・・・・」

 

「・・・・・・・・・・」

 

とにかく櫛田が佐倉に対してコンタクトを試みるのであった

 

・・二・・

 

「・・・・・・へえ・・・・

 

 やっぱりあの女何か知ってたんだね・・・・」

 

「って私も気づいてたなら

 伝えるなりしてよまったく・・・・」

 

「こいつにそんなもん求めるなよ

 

 俺が言えたわけでもないがな・・・・」

 

「結局ほかクラスのリーダーもまだよくわかってねえみたいだし・・・・」

 

「でもいくつか候補がいるけどね・・・・」

 

「・・・・・・・・・・」

 

教室において六人が集まっていた

 

「しっかし暑いね・・・・」

 

「これが夏ってやつなんだろ」

 

「まあ防暑対策してっし大丈夫だろ・・・・」

 

そんなことを言っていると

 

「綾小路さん、おはよう」

 

平田が声をかけてきた

その先にいたのは人間的な魅力を持つ少女

 

女子の綾小路がいた

 

「昨日櫛田さんから聞いたんだけれど、目撃者が見つかったんだって?」

 

「うん、佐倉さんだよね、あたしもぼk、綾小路君から聞いたよ」

 

そう言ってまだ通ってきていない佐倉の席を見る

 

「あたしも佐倉さんとは数えられるくらいの数だけど

 

 いずれも話す前にどこかに走っていっちゃって・・・・」

 

「僕も挨拶をするくらいだね

 

 僕自身も孤立してる彼女をなんとかしないけど

 やっぱり異性だと強引に誘うってわけにもいかないし

 

 でもだからって軽井沢さんにお願いするのも

 それはそれで問題が起こりそうだし・・・・」

 

「あー確かにあの二人性格が正反対だしね・・・・」

 

平田の言葉に納得する女子の綾小路

 

「僕らは今は櫛田さんからの報告を待とうと思う」

 

「それはまあいいけれど・・・・・・あたしに話すのはどうして?」

 

平田が自分の意見を女子の綾小路に話した理由を聞く

 

「綾小路さんは堀北さんともつながりのある綾小路君とも仲がいいから、かな?

 

 堀北さんは僕が知ってる限り、綾小路君以外と話しているところは見たことないし」

 

「ああ、なるほど・・・・」

 

それを聞いて納得と複雑な表情を浮かべる

 

「あ、あの綾小路、さん・・・・

 

 綾小路さんがよかったらなんだけれど

 よかったらみんなでどこかに遊びに行かないかな?」

 

平田がそんなことを言う

 

「あたしはいいよ、みんながよかったらだけど」

 

笑顔で答える女子の綾小路

 

「もちろんだよ、みんなもきっと喜ぶと思うし」

 

平田が快い言葉を言う

 

「うん、ありがとうね」

 

すると不意に女子の綾小路が聞く

 

「でも軽井沢さんはいいの?」

 

「ん?

 

 ああ、大丈夫だよ?」

 

意外にあっさりな答えであった

 

「・・・・・・フフフフフフ・・・・」

 

その様子を笑みを浮かべて平田の様子を見つめていたのだった

 

・・・三・・・

 

放課後

 

ついに櫛田は行動を開始する

 

「佐倉さんっ」

 

「・・・な、なに・・・?」

 

櫛田に話しかけられると

佐倉は少し驚いたように

小さく弱弱しい声で返事をする

 

「ええっと、佐倉さんに聞きたいことがあるんだけど・・・いいかな?」

 

「ご、ごめんなさい、私・・・この後予定あるから・・・」

 

ばつの悪そうな返しの様子に、佐倉の性格が現れている

 

「時間はとらないから?

 

 大切なことだから話をさせてほしいの

 

 須藤君が事件のことについて、もしかしたら佐倉さん

 何か知ってるんじゃないかなって・・・」

 

「し、知らないです

 

 さっき堀北さん達にも言われたけど

 私は全然知らないです・・・」

 

弱弱しくもきっぱりと断る佐倉

櫛田もその様子にできれば引き下がりたいが

 

友達を助けるために引き下がらないようにする

 

「もう・・・いいですか、帰っても・・・」

 

その様子に佐倉が何かを隠しているのはと思える

 

「ほんの少しだけでもいいから、時間とれないかな?」

 

「ど、どうしてですか?

 

 さっき何も知らないって、言いましたよね・・・」

 

佐倉はあくまで消極的だ

 

「・・・私、その・・・ごめんなさい「」

 

そう言ってかたくなに櫛田を拒絶する佐倉

 

その様子を堀北と綾小路が見つめていた

 

「厳しいわね

 

 彼女が説得に失敗するようだと」

 

「堀北の言うことはもっともだね・・・・

 

 この場で櫛田以上にあの子に

 話せる人物はいないだろう・・・・

 

 それに、櫛田は一つミスを犯した・・・・」

 

「ミス・・・?」

 

「この場で櫛田があの子に話しかけたからさ・・・・

 

 櫛田はクラスの中でも注目の的だ

 そんな彼女が話しかければ必然的に注目は集まる・・・・

 

 佐倉は見ての通り人付き合いが苦手だ

 恐れてるといってもいいだろうさ・・・・

 

 この櫛田と佐倉と注目しているこの状況のせいで

 佐倉はなおのこと話しずらくなっているのだろうねぇ・・・・

 

 これは櫛田自身にとっても誤算だったろうさ・・・・

 

 連絡先を交換しているんだからもっとスムーズにいけると

 思い込んでいたんだろうがここまで拒絶されるとも思わなかったんだろうね・・・・」

 

櫛田と佐倉の様子を見てそう推測する

 

「しかし、どうするつもりなの?

 

 櫛田さんでダメだったら少なくとも

 このDクラスで彼女以上に佐倉さんを説得できる相手はいないわよ」

 

「そうだね・・・・」

 

堀北に対して不気味な雰囲気の綾小路は言う

 

すると

 

「・・・・・・人はだれしもパーソナルスペース、またはパーソナルエリアと言う

 いうなれば『他人に近づかれると不快に感じる空間』を持っている・・・・

 

 文化人間学者エドワード・ホールは

 そのパーソナルスぺースをさらに四つに細かく分類した

 

 その一つに密接距離と呼ばれるゾーンがあり

 

 近接相と呼ばれる相手を抱きしめられるほどの距離に他人が踏み込んだ時

 当然人は強い拒絶感を示す

 

 されど恋人や親友であればその距離は不快とは感じない

 

 櫛田嬢の場合相手の薄い相手の近接相に踏み込んでも

 たいていの場合、嫌がれることはない・・・・

 

 いうなれば、相手にそのパーソナルエリアを

 発動させない魅力があるといえるだろう・・・・」

 

仮面をかぶった綾小路はそんなことを独り言のようにつぶやく

 

「・・・・・・しかし・・・・

 

 あの佐倉って子はその櫛田に露骨に拒絶感を示した・・・・

 

 いや・・・・・・逃げようとしているのかもね・・・・

 

 彼女は最初に予定があると言っていたのにもう言うっていない・・・・

 

 それが証拠だ・・・・」

 

そのひとりごとに合わせるように不気味な雰囲気の綾小路が続ける

 

だがこの言葉は櫛田にももちろん、隣にいる堀北にも聞こえていない

 

それよりも気にされているのは

櫛田から距離をとるように荷物をまとめて立ち上がる佐倉だ

 

「さ、さよなら」

 

佐倉はうまく話を切り上げられないと判断し、その場から離れようとするが

携帯をいじっていた本堂とぶつかってしまい、手に持ったデジカメを落としてしまう

 

「あっ!」

 

佐倉の手から投げ出されたカメラが床に激突して激しい音が響く

本堂はごめんごめんと意識を佐倉から携帯に移し、教室を出ていく

 

佐倉は慌ててデジカメを拾いあげると操作をしていく

 

「嘘・・・映らない・・・」

 

そうつぶやいて口元に手を当ててショックを受けた様子を見せる

電源を何度も押しているが映る気配がない

 

「ご、ごめん

 

 私が急に話しかけたから・・・」

 

「ち、違います・・・不注意だったには、私ですから・・・さようなら」

 

そう言って佐倉は教室を飛び出していく

櫛田は罪の意識からが呼び止めようとするが

 

仮面をかぶった綾小路が彼女の肩に手を置いて引き留める

 

「・・・・・・今はそっとしておきましょう・・・・」

 

櫛田はうんと元気がないように仮面をかぶった綾小路の言葉通りにする

 

「くっそ、せっかく目撃者が見つかったと思ったら・・・なんなんだよあの女」

 

須藤は足を組んで椅子にもたれかかって深いため息とともに吐き捨てる

 

「でもまだ佐倉さんの口から見たって聞いてわけじゃないし、責めるのはやめようよ」

 

「そのぐらいわーってるよ、わかってるけどよ・・」

 

「ある意味彼女が目撃者でよかったかもしれないわよ須藤君」

 

「ああ?

 

 どういう意味だよ?」

 

「今のままでは彼女はきっとあなたの目撃者として証言はしてくれない

 

 となるとこのままこの事件はあなたが起こした身勝手なものとして処理される

 

 結果Dクラスへの影響は免れないけれど、幸いにして今でよかったのよ

 

 暴力に嘘の証言

 

 学校を巻き込んでの騒動が100や200のペナルティで効くとは思えないもの

 

 今ある87ポイント失うだけで済むと思えば、ラッキーだったともいえるわ

 

 貴方の無実の訴えも学校側は無視できないから退学にされることはないはずよ

 

 もっとも責任の割合はCクラスよりも大きいでしょうけど」

 

堀北はまるで胸の内に秘めた思いを吐き出すように一気にまくしたてる

 

「なんだよそれ・・・俺は無実だ!

 

 殴ったのだって向こうからだ、だから俺が殴ったのは・・・」

 

「正当防衛、とでも言うつもり?

 

 残念だけれど正当防衛はそんな甘いものじゃないわ」

 

堀北ははっきりと須藤に言う

 

「ねえ、綾小路君」

 

櫛田が仮面をかぶった綾小路に話しかける

 

「綾小路君は須藤君の味方だよね?」

 

「・・・・・・どうしてそのようなことを・・・・?」

 

「だって、なんだかみんなの須藤君を助けようって

 気持ちが薄れていっているように気がして・・・」

 

「・・・・・・そうですね・・・・」

 

仮面をかぶった綾小路は教室を見渡していく

 

「まあこれは仕方ないかもね・・・・」

 

不気味な雰囲気の綾小路がそうつぶやく

教室を見ても目撃者である佐倉が否定しているのでは進展のしようがない

 

「もう完璧な解決策が見つかるとは思えないし、あきらめようぜ須藤」

 

池もその言動からやる気がなくなっていきつつある様子だ

 

「なんだよお前ら・・・協力してくれんじゃねえのかよ」

 

「だって・・なあ?」

 

残ったクラスメイトも池のつぶやきに賛同していく様子を見せる

 

「残念だけど、今のままでは打開策はほぼないとしか言えないわね」

 

クラスから孤立している堀北の言葉を誰にも異議を申し出ることはなかった

 

「なんでだよ・・・なんで俺がこんな目に・・」

 

「本当に気が付いていないのね、原因は自分にもあるんだって言うことに・・・」

 

「は・・・そう言う意味だよそりゃ・・?」

 

須藤は追い詰められていきながらも必死で抑えている

 

「君は赤点をとったときにおとなしく退学していた方がよかったんじゃないか?

 

 君の存在は実に美しくないからね」

 

高円寺が言った

 

「・・・んだと?

 

 もう一度言ってみろよおい!」

 

「何度も言うなんて非効率だね

 

 まあ、君が物分かりが悪いと自覚して言ったのであれば

 特別にもう一度だけレクチャーしてあげても構わないよ?」

 

それを聞いて須藤はとうとう限界を迎えて立ち上がる

 

「そこまでだ二人とも!」

 

だがそんな二人の間を仲介に入る平田

 

「須藤君、今ここで問題を起こしたらそれこそ君の立場は悪くなる

 

 高円寺君もそんないいかたをしたら須藤君が怒るのも当然だよ」

 

「それは君の勘違いだ

 

 なぜなら私は何も間違ったと思うことはしたことがないからね」

 

「上等だぁ、ぼこぼこにして土下座させてやるよ!」

 

「やめるんだ!」

 

平田は止めようとするが須藤はとうとう高円寺に手を出さんとしたが

彼に振るわれんとしたその手は高円寺に届くことなく寸でのところで止められる

 

「あ、綾小路・・」

 

「気持ちはわからないけどここはこらえて

 

 今ここで騒ぎを起こしたらさらに学校からの心証が悪くなる

 

 だからここはこらえて・・・・」

 

女子の綾小路が須藤の拳を寸でで止めて言い聞かせる

 

「・・・ちっ」

 

須藤はそう言うと教室を出ていきその向こうから吠えるような声が響く

 

「高円寺君

 

 無理に協力をしろとは言わない

 

 でもだからって須藤君を攻め立てるのは間違ってる」

 

「さっきも言っただろう、私は生まれてから一度も

 間違ったことなどしていないと、さあてそれではここで失礼するよ

 

 デートの時間だからね」

 

あまりのまとまりのなさが見て取れる

 

「彼は全然成長しないわね」

 

「どんな人だって成長するのには時間がかかるものよ

 

 彼もまだ成長の途中なのよ、でもだからこそここで止めたらいけない」

 

「そうだね

 

 堀北さん、もうちょっと優しい言い方もあったんじゃないかな・・・?」

 

「打っても響かない相手には容赦しないことにしてるの

 

 彼は百害あって一利なしよ」

 

「・・・・・・打って響く相手にも容赦なく響かせ続けるくせに・・・・」

 

「何?」

 

「ううん、なんでも・・・・」

 

堀北ににらまれて口をつぐむ幼い雰囲気の綾小路

 

「綾小路さん、貴方はさっき成長には時間がかかるって言ったわよね

 

 でも私がいま求めているのは私達がAクラスに上がるために必要な戦力よ

 

 今育ってないなければ何の価値もないわ」

 

「そうかもね・・・・」

 

堀北の言葉ももっともと考え、特に言い返すこともしない

 

「私、もう一度佐倉さんを説得する

 

 そうすれば、きっとこの悪い流れも変わるはずだし」

 

「私はそうは思わないわ、もし仮に証言してくれたとしても効果は薄いでしょうね

 

 学校側もきっとDクラスから突然湧いて出た目撃者の存在を疑うはずよ」

 

「疑うって・・・嘘の目撃者だって思うってこと?」

 

「口裏を合わせて証言させてきたと学校側は考えるはずよ

 

 絶対の証言にはならない」

 

「そんな・・・だったらどんな証拠が確実なの?」

 

「ほかクラスか他学年で事件が起こる前から一部始終を見ていて

 学校側からも信頼の厚い目撃者がいれば可能ね

 

 でもその人物は存在しないわ」

 

「それじゃあ・・・今回の事件でどうやっても須藤君を無実にするのは」

 

「そもそも喧嘩を吹っかけられてそれを受けた時点で

 どちらか一方だけでもおとがめなしにすることはできないのよ

 

 Cクラスだってそれを覚悟のうえで仕掛けてきたと思うし・・・・」

 

「まったく難儀なものだね・・・・

 

 せめてこの事件が教室で起こったことだったらさ・・・・」

 

すると不気味な雰囲気の綾小路が

そんなことを言い、堀北と櫛田はその彼の方を見る

 

「どういうこと?」

 

「おや・・・・?

 

 櫛田は気が付いていないのかい・・・・

 

 ここやほかの教室には生徒の監視を

 するためのカメラが設置されてるんだよ・・・・

 

 ほらあそことあそこ・・・・」

 

別々に指をさしたそこには

それぞれ監視カメラが付いていた

 

「おそらく学校側が生徒がいつ問題を

 起こすかを常にあれで見てるんだよ・・・・

 

 でないと毎月毎月的確な査定ができるとも思えないしね・・・・」

 

「うそマジで!?

 

 全然気が付かなかった・・・」

 

池や大半のクラスメートがカメラをまじまじと見る

 

「私も気が付かなかった・・・カメラがあったなんて・・・」

 

「意外と気づかないものね

 

 まあ私も最初のポイント発表の時までは気が付かなかったから」

 

「へえ、そうなんだ・・・・

 

 僕からしたら自然だと思ったけど・・・・」

 

幼い雰囲気の綾小路がそこまで言うと

女子の綾小路と不気味な雰囲気の綾小路に抑えられる

 

「まあとにかく・・・・

 

 証拠がない以上は何もできることがない・・・・

 

 目撃者の佐倉もあの様子だからね・・・・

 

 私も失礼させてもらおうか・・・・」

 

「待って」

 

不気味な雰囲気の綾小路は不意に堀北に呼び止められる

 

「よかったら一緒についてきてこらえるかしら・・・」

 

「・・・・・・・・・・」

 

それを聞いて不意に背を向けたまま堀北の方に目をやる不気味な雰囲気の綾小路

 

「少し相談したいことがあるのだけれど」

 

「別に構わないよ・・・・」

 

その表情は堀北からは見えないが

どこか思惑通りと笑みを浮かべているように見える

 

「おいおい、あの堀北が綾小路を誘った・・・?

 

 須藤だってあんなきつい言い方されたのに」

 

池はその様子を驚いたように見つめる

 

「それはないわね」

 

「・・・・・・・・・・」

 

堀北の否定に特に何も言わずに

無表情を貫く不気味な雰囲気の綾小路

 

「なあ堀北・・・・

 

 せっかくだし少し行ってみたいところがあるんだけど・・・・

 

 よかったら一緒に来てもらえないかな・・・・?」

 

「・・・・あまり時間をかけないでよ」

 

「フフフフフフ・・・・

 

 焦らなくったって手間はとらせないよ・・・・」

 

そう言って先に教室を出ていく不気味な雰囲気の綾小路と

それに急いでついていく堀北、さらにその場には

 

女子の綾小路と幼い雰囲気の綾小路が消えていたのだった

 

・・・・四・・・・

 

「ここって特別棟・・・」

 

堀北が綾小路に連れられてきたのは

家庭科室や視聴覚室などの特別な授業を行うための場所

 

「涼しいとは思っていなかったけど

 それでも思っていたよりも暑いわね」

 

堀北がそんなことを言うが

当の綾小路自身は特に変わった様子は見せない

 

「それで、どうして貴方はここに私を連れてきたのかしら?

 

 目撃者は見つかったし、打つ手だってもうないのにこれ以上何をしようと言うの」

 

「だって現場百篇って言うじゃないか・・・・

 

 ここに来れば何か見つかるかもしれないしね・・・・」

 

「じゃああなたには須藤君を無罪にする方法があると思ってる?」

 

「ないと思うよ・・・・

 

 彼を無罪にする方法は、ね・・・・

 

 そのくらい私にも無理なことぐらいわかってるさ・・・・」

 

「じゃあ貴方は何のためにこの事件を解決しようとするの?」

 

「それを聞いて・・・・

 

 君はどうするつもりかのかな・・・・?」

 

不気味な雰囲気の綾小路がそう言うと

堀北は、はあっとため息をついて言う

 

「そうね、貴方の個人的な考えなんて私には関係のないことね

 

 何をしようにもあなたの自由だしね」

 

「まあそう言うことで・・・・」

 

「でもあくまでそれは私自身にも言えることよ

 

 私も私なりに自由にさせてもらうわよ」

 

「まあせいぜい頑張ってみるんだね・・・・

 

 あくまで私は君の意見自体を否定するつもりはないからね・・・・」

 

そう言ってあたりを見回っていく不気味な雰囲気の綾小路

 

「ここにはどうやら監視カメラはないみたいね」

 

「そうだね・・・・」

 

「それさえあれば確実な証拠が手に入ったのにね

 

 貴方のあては外れたようね・・・」

 

「まあ確かにね・・・・」

 

堀北の言葉に対しても特に何も反応を見せることはない

 

「思えばこの学校はさ・・・・

 

 監視カメラがあるのは教室とか一部の施設内だけだったね・・・・」

 

不気味な雰囲気の綾小路はそんなことを聞いていく

 

「ほかに設置されていないのはトイレと更衣室ぐらいかしら」

 

「まあ設置されてたらそれはそれで問題だろうけどね・・・・」

 

「・・・・まあ今更残念がることでもないわね

 

 監視カメラがあったら

 学校側も最初から今回の件を問題になってしていないわけだし」

 

堀北はどこか期待を持っていた自分を恥じるように首を振る

 

「それで、何か策でも浮かんだ?」

 

「フフフフフフ・・・・

 

 それはあくまで君の役目だ・・・・

 

 須藤を助ける云々はとにかく

 Dクラスにとってプラスになるように動いてくれればいい・・・・

 

 それが自然に君にとっても利益になるだろうさ・・・・

 

 それがわかってるからこそ

 我に言伝を頼んで櫛田達に伝えたんだろ・・・・?」

 

堀北は綾小路の指摘にややどこか気に入らないと言わんばかりに見つめる

 

「まさかあなた・・・

 

 私を利用するつもり・・・?

 

 まさかそんな話をするためにここに?」

 

「確かに君の功績は大きい・・・・

 

 だが彼女はあの調子だし

 仮に証言してくれたとしても・・・・

 

 それが逆に君たちを追い詰める

 ことになるかもしれないしね・・・・

 

 それに手はないかと探るのもいいだろ・・・・?」

 

堀北はあきれた様子を見せながらも自分の考えを口にする

 

「須藤君本人には確かに気に食わない部分は多々ある

 

 だけど彼に科せられる責任の割合を軽くしたいとは思っているわ

 

 ポイントを残せるのならそれに越したことはないし

 

 Dクラスの印象を悪くするのも損だしね」

 

堀北の言葉に不気味な雰囲気の綾小路は特に何も言わない

 

「でも状況ははっきり言って最悪よ

 

 佐倉さん以上の奇跡の目撃者を捜しだすのは不可能ね

 

 残っている方法はCクラスに嘘を認めさせるだけど、うまくいくと思う?」

 

「無理だね・・・・

 

 この状況でなおさら自供なんてしないだろう・・・・」

 

だがはっきり言って堀北はもう打つ手がない様子だ

 

「それにしてもここには人の気配がないね・・・・」

 

「無理もないわよ、この特別棟は部活でも使用しないもの」

 

「確かにこんなところ・・・・

 

 誰かに呼び出されない限りは来ないだろうね・・・・」

 

この蒸し暑い空間に好きで来る者はいないだろう

堀北自身もややまいってきたようにも見える

 

「ふう、さすがにこれ以上とどまっているとさすがに参ってしまいそうね」

 

堀北は不意に不気味な雰囲気の綾小路の方を見る

 

「そろそろ出た方がいいわね・・・

 

 これ以上ここにいても時間が無駄に過ぎていくだけよ」

 

堀北に言われて不気味な雰囲気の綾小路は彼女の方を向く

 

「そうだね・・・・

 

 フフフフフフ・・・・」

 

何かを企んでいるように笑みを浮かべる不気味な雰囲気の綾小路

 

「何を企んでいるの?」

 

「別に・・・・・・ちょっとした好奇心だ・・・・」

 

二人はそう言って引き返していこうとするが

 

「うん?」

 

「どうしたの?」

 

禄かを曲がろうとすると

不気味な雰囲気の綾小路が帆を止める

 

「だれかいるみたいだね・・・・」

 

ゆっくりと近づいていく気配にゆっくりと近づいていく

 

「おっと・・・・

 

 佐倉か・・・・」

 

「ふえ!?」

 

その相手は見知ったというか先ほど知った相手であった

 

「・・・あ、えと・・・?」

 

その相手、佐倉は不気味な雰囲気の綾小路のことをやや怖がるように見る

 

「ご、ごめんなさい

 

 じ、実は私その・・・」

 

佐倉は何やら言いたそうだが

綾小路の不気味な雰囲気に圧されてしまっているようだ

 

「おや・・・・?

 

 ケータイを片手に何をやっているのかな・・・・」

 

「え、ええっとその・・・し、写真を・・・ちょっと・・・・・・」

 

佐倉はそう言って少しずつ話していく、すると

見るに見かねたのか堀北が前に出て話をしていく

 

「え、えと・・・」

 

「佐倉さん、少し聞いてもいいかしら」

 

堀北自身も佐倉の不審な点を見逃せなかったようだ

前に寄っていく堀北におびえるように後退する佐倉

 

すると

 

「・・・・・・堀北嬢、そこまでに・・・・

 

 彼女が怖がってしまっております・・・・」

 

「あ・・・」

 

堀北の後ろから彼女の肩に手を置いて下げるように引き寄せる

堀北自身もそれがかえって相手を話しずらくしてしまったことに気づく

 

「あ・・・」

 

佐倉は不意に目の前にいた綾小路の雰囲気が変わったように感じた

いつの間にか仮面をかぶっているということもあるが先ほどまでの不気味な雰囲気が消え

 

どこか安心させてくれるようにも感じるのだ

 

「・・・・・・佐倉 愛里嬢、でしたね・・・・」

 

「は、はい!」

 

その彼に話しかけられて不意に吃驚したように返事する

 

「・・・・・・貴方が目撃者目撃者だとしても

 無理をしてまで名乗り出る義務はありません・・・・

 

 そんなことしてまで証言しても結局何の意味もありません・・・・

 

 もしも何かに悩んでおられるのならお申し付けください

 及ばずながら我もお力になりますゆえに・・・・」

 

「貴方何言って・・・」

 

堀北は反論しようとするがすぐに止められる

 

「あ、ありがとう・・・ございます・・・

 

 でも、大丈夫ですから・・・」

 

佐倉はあくまで相手に心を開かないようにする

 

「・・・・・・怖がらせてしまい申し訳ありませんでした・・・・

 

 ただ、我はあなたの味方であるということだけを

 覚えていてほしかっただけですので・・・・」

 

そう言われて佐倉は小さく返事をして去っていくのであった

 

「あれが最後のチャンスだったのかもしれないわよ?

 

 おそらく彼女は、事件のことが気になってここに来たんだろうし」

 

「・・・・・・だからと言って無理に頼み込んでも仕方がありません・・・・

 

 それに、彼女が仮に協力しても証拠能力としては心もとない

 堀北嬢もそれは分かっているはずです・・・・」

 

「それは、そうだけど」

 

仮面をかぶった綾小路にそう言われて堀北も強くは言わない

今のままでは追及しても意味のないことも理解しているからだろう

 

「・・・・・・それともう一つ・・・・

 

 どうやらここにはお客人がもう一人いらっしゃるようだ・・・・」

 

「え?」

 

そう言って仮面をかぶった綾小路の視線の先を堀北が見ると

そこから一人の少女が姿を見せる、その少女とは

 

「ねえ君たち、そこで何してるの?」

 

ストロベリーブロンドの少女だった

 

「・・・・・・彼女は確かBクラスの・・・・

 

 一之瀬 帆波嬢と言う少女でしたね・・・・

 

 今年の入学試験を首席でご入学なされたとか・・・・」

 

仮面をかぶった綾小路はそうつぶやく

 

「ごめんね、急に話しかけて

 

 ここに二人だけで向かっていくのを見たからちょっと気になって

 

 ひょっとして、お二人はここで何か秘密のお話でもしてたのかな?」

 

「・・・・・・当たらずも遠からず、ですね・・・・」

 

「ちょっと・・・」

 

ストロベリーブロンドの少女、一之瀬の問いに

仮面をかぶった綾小路はそう答えるが、やや誤解を招きそうだったと感じ

 

堀北は慌てて弁明しようとするが

 

「ふうん、まあそうだよね

 

 デートだったらこんなところに来ないよね」

 

その前に一之瀬は大体理解してくれたようだ

 

「・・・・私達に何か用かしら」

 

堀北は警戒心を解くことなく一之瀬に問いかける

 

「用事自体はないよ・・・

 

 ただここで何してるのかなーって」

 

「・・・・・・それは話す必要が・・・・?」

 

仮面をかぶった綾小路は最低限の発言しかしない

 

「うーん、露骨に警戒されているかぁ

 

 ところで君たちってDクラスだよね?」

 

「・・・・・・知ってるので・・・・?」

 

「そっちの女の子はテスト期間の時に一度会ったよね

 

 話はしなかったけど、そっちの君は・・・・よくわかんないや・・・」

 

仮面をかぶった綾小路を見て頬を指で書きながら苦笑いにする

 

「・・・・・・ああ、そう言えばあの時

 

 あんたに注意されちまったんだったな」

 

すると急に口調が変わって仮面を外す、すると

 

「あの時はその・・・・・・悪かったよ・・・・」

 

その素顔はなんと好戦的な雰囲気の綾小路であった

 

「ああ、君あの時図書室での喧嘩を収めてた」

 

一之瀬もその顔を見て綾小路を思い出す

 

「まああの時は素直に謝ってくれたみたいだし、気にしないでいいよ・・・

 

 そう言えばDクラスの方ってなんだか大変みたいだし

 そのことでここに来たのかなって思ったんだけれど・・・」

 

「もしそうだったとして、貴方に何の関係が?」

 

「・・・・確かに関係はないけれど

 

 でも、あの後クラスのみんなから聞いてちょっと疑問に思ったから

 

 それで一度様子を見ようと思ったら偶然ここにきた君達を見かけてね

 

 よかったらだけれど、事情を聞かせてもらえない?」

 

「うーん・・・・」

 

好戦的な雰囲気の綾小路は考え込む仕草を見つつ堀北を見つめる

 

「ダメかな?

 

 ほかのクラスのことに興味を持ったら」

 

「おいらは別にいいけど・・・・」

 

「裏があるようにしか思えないわね」

 

綾小路の言葉を遮るように堀北が口を開く

 

「裏って?

 

 暗躍してCクラスやDクラスを妨害する、みたいな感じの?」

 

心外だなあ、と言いたげな表情を見せる一之瀬

 

「おいらは別に教えてもいいと思うぞ

 

 どのみちほかのクラスにもいきわたるだろうしさ・・・・」

 

「あいにく私は他人の興味本位に付き合うつもりはないわ」

 

堀北は勝手にしてと言わんばかりに少し距離を置く

 

「先生や友達からは喧嘩があったくらいにしか聞かされていないんだ

 

 よかったら詳しく話してもらえないかな?」

 

「ようし・・・・」

 

こうして好戦的な雰囲気の綾小路は事の経緯を詳しく話す

 

「・・・・そっか、そんなことがあったんだ

 

 それでその目撃者のことを聞きにBクラスにまで足を運んでいたんだね

 

 ねえ、これって結構大きな問題なんじゃない?

 

 どっちかが嘘をついてる暴力事件ってことでしょ?

 

 真相をはっきりさせないとまずいんじゃない?」

 

「それで現場であるここまで来たってわけだ

 

 収穫はゼロ、っていうほどでもなかったが・・・・」

 

後半はやや小声で言い、一之瀬にも堀北にも聞こえなかったようだ

 

「君たちはその須藤君、だっけ、クラスメイトの彼を信じてるんだよね

 

 友達だろうし当然と言えば当然だろうけれど

 Dクラスにとって今回の騒動は冤罪事件なんだね」

 

一之瀬はそのつぶやきを気にすることはなく、話を続けていく

 

「もしその須藤君が嘘をついていたとしたら君たちはどうするの?

 

 無実どころか、有罪確定の証拠が出てきたと仮定してね」

 

「もちろん正直に申告するわ

 

 その嘘は後々、必ず自分の首を絞める結果に繋がるから」

 

「そうだね、私もそう思う」

 

そこまで言うと堀北はもう話すことはないとわざとらしくため息交じりに言う

 

「もういいかしら、知りたい情報は知れたはずよ」

 

すると一之瀬の次の言葉は意外なものであった

 

「あのさ、もしもよかったら私も協力しようか?

 

 こういうのは人手が多い方がいいと思うし」

 

なんと協力してあげるという申し出であった

 

だがおいそれと話せることでもない

 

「どうしてそう言う流れになるのかしら?」

 

「こういう事件はいつ誰に起こるかわからないものだし

 

 この学校はクラス同士で競わせているからこそ、トラブルの危険性をいつも孕んでる

 

 今回はその最初の事件のようだしさ、だから嘘をついちゃった方が勝っちゃったら

 大問題だよ、それと話を聞いちゃった以上、個人的に見過ごせないっていうのもあるかな

 

 BクラスとかDクラスに関係なく、ね?」

 

一之瀬はそう答えた

 

「それに私達Bクラスが協力して商人に

 なることができれば信ぴょう性はぐっと高くなると思うよ

 

 まあ逆も然りで、Dクラスにも被害を受けてしまうかもしれないけど・・・」

 

一之瀬の言うことももっとも

ゆえに堀北もすぐには答えを出せない

 

「おいらは悪い提案だとは思わない

 

 ぶっちゃけおいらたちだけじゃ

 須藤の無実、いや須藤から仕掛けてきたわけじゃない

 証拠を手に入れられるのははっきり言って0%に近い

 

 少なくともここでBクラスであるあんた達の協力を得られることは

 良くも悪くも大きな意味を持つことになるだろうけどな」

 

「たとえ偽善だって思われても仕方ないかもしれない

 でもだからってそんな重いものを背負う必要はないしね」

 

「まあおいらは別にいいけど・・・・

 

 問題は・・・・」

 

好戦的な雰囲気の綾小路は不意に堀北の方を見る、すると

 

「わかった、ここは素直に協力をお願いさせてもらうわ」

 

堀北がそう言うと好戦的な雰囲気の綾小路は

堀北と一之瀬に気が付かれないように不敵に笑みを浮かべる

 

「決まりだね

 

 えーっと・・・」

 

「堀北 鈴音よ」

 

協力関係として認めたのか素直に名乗る堀北

 

「よろしくね堀北さんに

 

 それから綾小路君だっけ

 

 二人ともよろしくね」

 

こうしてBクラスとの協定関係を結ぶことになったのだった

 

「それと話の補足をさせてもらうけど

 

 実は目撃者はこちらで見つけられたわ

 

 ただ、残念なことにその目撃者はDクラスの生徒だったけどね」

 

あちゃー、と言って一之瀬は残念そうに頭を抱えるようにして残念そうに息を吐く

 

「まあ、ほら、それでも目撃者であることに変わりはないし

 

 ほかに目撃者がいないとも言い切れないわけでしょ?」

 

「それについては残念ながら可能性は低いだろうな

 

 少なくともこの特別棟は授業の時でもない限り

 ここに望んで足を運ぶことはないと思うぞ」

 

確かに、とまたも頭を抱える一之瀬だった

 

「それにしても須藤君ってすごいよね

 一年生でレギュラーになるかもしれないんでしょ?

 

 それって実はすごいことだよ、今は少し足を引っ張ってるかもだけど

 後々クラスの財産になるかもしれないよ、だってこの学校は部活や慈善活動なんかも

 評価してくれてるから、もしも須藤君が大会に出て活躍すれば須藤君にもポイントが

 支給されるし、クラスのポイントにもつながるんだからさ」

 

「そうだろうな、だから何とかしてやりたいと思ってんだけどな・・・・」

 

すると堀北は驚愕の表情を浮かべる

 

「え、ちょっと待って、部活で活躍するともらえるポイントって

 プライベートポイントだけじゃなかったの!?

 

 茶柱先生だってそう言って・・・」

 

「それは平田の推測での話だろう

 

 茶柱先生は部活に貢献すればポイントが入ると言ったけど

 それがプライベートポイントだけとは言ってなかったろう・・・・」

 

「ひょっとして、堀北さんは知らなかったの?」

 

そこまで言うと不服そうに綾小路を睨みつける堀北

 

「どうしてそれに気が付いていたのなら、教えてくれなかったのかしら・・・」

 

「聞かれなかったし・・・・」

 

堀北はその受けごたえに握りこぶしを作って綾小路に振るわんとしていた

 

「君たちって案外仲がいいよね」

 

「別に普通だろ、ぶっちゃけおいらと堀北は席が隣ってだけだからな・・・・」

 

好戦的な雰囲気の綾小路の言葉に一之瀬は不意に笑みをこぼす

 

「それにしても君たちの担任って変わってるよね

 

 そんな大事なことを生徒に伝えないなんて」

 

「どういうこと?」

 

堀北は一之瀬の言い方い何かが引っかかった

 

「実はこの学校じゃ担任の先生の評価はね

 卒業時のクラスで決まるっていう話なんだ

 

 うちの担任の星之宮先生がさ、Aクラスの担任になれば

 特別ボーナスが出るから頑張りたいって、口癖のように言ってたし」

 

「担任の先生に関してはそっちの環境がうらやましいわね」

 

「おいらはどっちもどっちだな・・・・」

 

Bクラスへの担任は二人でそれぞれ違うようである

 

「一度しっかり話し合った方がいいかもね」

 

「敵に塩を送られるとは思わなかったわ」

 

「もうこれは戦う以前の問題じゃない?」

 

別クラスながら心配する一之瀬

 

「担任だけでもBクラスと交換してほしいものだわ」

 

「嫌多分、別の意味で苦労すると思うぞ・・・・」

 

げんなりと答える好戦的な雰囲気の綾小路

 

「いやー、それにしても暑いねここ」

 

一之瀬はそう言ってハンカチで汗をぬぐう

 

「まあだからって四六時中冷房効かせてるのも問題だろ

 

 ぶっちゃけ健康にも地球にも優しくねえし」

 

「あはははは、確かにそうかもね」

 

一之瀬は笑いながら綾小路の方を見る

 

「今のどこに笑う要素があったのかしら・・・」

 

「別に笑わせたつもりもないが・・・・」

 

「そうだ、せっかく協力関係になったんだし

 物事を円滑に進めるためにも二人の連絡先、聞いてもいいかな?」

 

堀北は目線で訴える、私は嫌だからあなたが交換しなさい、と

ぶっちゃけ好戦的な雰囲気の綾小路はそれを見てややあきれた様子を見せる

 

「おいらでよければ頼む、連絡くれたら対応するから」

 

「うん、わかった」

 

こうして半ば強制的だが連絡先を交換する綾小路であった

 

・・・・・五・・・・・

 

「さてと・・・・

 

 Bクラスの方は一之瀬に任せておくとして

 おいらたちはこれからどうするつもりだ?」

 

「そうね、まあそのこともかねて少し話がしたいのだけれど・・・」

 

堀北がそう言うと好戦的な雰囲気の綾小路はため息をついて言う

 

「まあいっか、まあよくねえけど・・・・」

 

と言う事で自室に堀北とともに入っていく綾小路

 

「お邪魔します」

 

そう言って入っていくとその部屋の奥にはすでに何人かの影が見えた

 

「へえ~・・・・

 

 まさか君の方から来てくれるとはね・・・・」

 

「これからの相談のために立ち寄っただけよ」

 

部屋にいたのは四人の男女

堀北とともに入ってきたのを入れて六人全員がそろう

 

「それにしても、いつ見ても異様なものね

 

 学校では特に違和感を覚えないけれどここに入ってくるどうにもね」

 

堀北はそろった六人の綾小路を見回して言う

 

「そうだね、まあこの部屋に入ってきたのって

 堀北ちゃんが最初なんだもんね、まあまだ気が付いてないみたいだけど」

 

「別に貴方のことについては特に知りたいと思わないし、知りたいとも思わないけれど」

 

幼い雰囲気の綾小路に対していつも通りの対応で話していく堀北

 

「それじゃあ須藤君の件、貴方達はどう考えているのか改めて聞かせてもらうわ

 

 それと櫛田さんたちがどう動いているのかも教えてもらうわ」

 

「それだったらこんな遠回しな方法じゃなくて

 櫛田らに直接聞けばいいだろうがよ」

 

「私自身はあくまで彼を認めていない

 

 あくまでこれはクラスのために仕方なく手を考えているだけ

 

 遠慮なく言うなら、見放してもいいとさえ思っている」

 

「へえ、中間テストのときはあたしに協力して須藤のためにポイントを払ったのに?」

 

「それはそれ、これはこれよ

 

 今回の件は奇跡的に無実を勝ち取れたとしても

 それで結局彼は次に同じ問題を起こさないとは思えない

 

 言ってみれば彼に救いを与えることは逆効果にもなりえないのよ」

 

「情けは人の為ならず、か・・・・」

 

六人を見渡していく堀北、すると口を開くのは三人

 

「まあ私は今回の件で須藤を無実にするのは難しいと考えてる・・・・

 

 あくまで私達はいかにDクラスへのダメージを軽くするかに焦点を絞ってる・・・・」

 

「僕も同感だね・・・・

 

 何しろ今回の件は須藤君に不利な状況だしね」

 

「俺もだな・・・・

 

 目撃者である佐倉もあの様子じゃ協力しねえ

 

 確実に無罪を勝ち取るのは不可能と言ってもいい

 

 まあ多少ばつが当たるのをあいつに覚悟してもらうしかねえだろうな」

 

堀北はその発言に不服そうながらもどこか納得したような顔をしている

 

「やっぱり貴方達もそのことに気が付いていたのね

 

 この件で完全な無実を勝ち取るのが難しいことも

 須藤君の欠点が招いたことだっていうことも・・・

 

 そうでなければ罰を与えるなんて考えにはならないもの」

 

「まあ普通に考えれば行きつく答えだしな・・・・」

 

堀北の言葉に好戦的な雰囲気の綾小路が言う

 

「私はそうは思わないわ

 

 だって池君達や櫛田さんは全く気が付いていなかった

 

 須藤君の訴えを信じ、彼のため、クラスのために嘘から救おうとしているだけ

 

 どうしてこの事件が起こったのか、事態が

 切迫しているか、その根本を全く理解していない」

 

苦楽を共にするクラスメートにも容赦のない堀北

 

「まあ池や山内は理解が及ばないし・・・・

 

 櫛田はお人よしだからな・・・・

 

 いや・・・・

 

 もしかしたら櫛田には別の思惑があるのかもしれないがね・・・・」

 

「そこまで言うならなぜあなたは櫛田さんのお願いを聞いているの?」

 

「無理やり連れだされてるだけだっての」

 

「どうかしらね、いやだったら無理にでも否定すればいい

 

 でもあなたはそうしていない、これって矛盾じゃない?」

 

堀北は詰め寄るように六人に寄っていく

 

「私にはあなたたちと言う人間がまだわからない

 

 過去問を手に入れたりポイントを使って点数を買うことを思いついたり

 でも私が一番気に入らないのは、それを他人の手柄にしているというところよ」

 

だが六人は特に気にすることもない

 

「堀北さん・・・・

 

 別に貴方があたしのことをどう思おうと勝手だけど

 あんまり買いかぶるようなことだけはしないでよ

 

 あたしたちはあくまで今ある手でどうにかする方法を見つけるだけ

 

 それ以上に求めているものはないわ」

 

女子の綾小路が各々の考えを代弁するように言う

 

「私はあなたたちほど未知数で不確定要素が満載の人間を知らない

 

 ある意味一番計算しがたい人物・・・・

 

 いいえ、あえてそう言うふうにふるまっているのかしら」

 

「そうだったとして・・・・

 

 私はそうですと答えてくれると思うかい・・・・?」

 

不気味な雰囲気の綾小路の言葉に堀北は彼を訝しむように見つめる

 

「そう言うところ、まったくもって不快な存在よ、貴方は・・・」

 

堀北がそう言うところでも不気味な雰囲気の綾小路は続けていく

 

「君に理解できない存在なんて私以外にもいるじゃないか・・・・

 

 まるで私が珍しいというような言い方はよしてくれよ・・・・

 

 それを言うんならあの高円寺のほうが勝ると思うがね・・・・」

 

そう言ってその部屋を出ていこうと堀北の横を通り過ぎていく

 

「彼はあなたが思っているよりもわかりやすいわ

 

 ただ性格に問題があるだけで、むしろそれすらも単純明快よ」

 

それを聞いてゆっくりと拍手をする不気味な雰囲気の綾小路

 

「君って絶対に茶柱とおんなじタイプだね・・・・

 

 教師に向いているんじゃないか・・・・?」

 

そう言って不気味な笑い声を上げながら部屋を後にするのだった

 

「まあなんにしても、Bクラスも協力してくれんなら

 

 今はそれを飲むのに越したことはない、なにせもう手は残っていないしな・・・・

 

 明日さっそくいろいろと行動起こしてみるほかねえだろ、今のところはな」

 

動物的な雰囲気の綾小路の言葉に、堀北は不服ながらも頷いて了承するのだった

 

・・・・・・六・・・・・・

 

「そういやこの寮は四つに分かれてんだよな・・・・

 

 この一つの量は男子女子に分かれているが

 クラスで分かれてないんだよな、三年間変わらず」

 

部屋から出てきた好戦的な雰囲気の綾小路はそんなことを思い返すように言う

 

すると管理人室の前には昨日改めて知り合った少女の姿があった

 

「ありがとうございます

 

 よろしくお願いいたします」

 

管理人と何か話をしていたようで何かお礼を言っていた

 

「あ、綾小路君

 

 おはよう」

 

「お、おう一之瀬か・・・・」

 

話しかけられたのでとりあえずあいさつを交わす

 

「ずいぶん朝が早いんだね」

 

「今日はちょっと目が早く覚めてな・・・・

 

 そういや一之瀬は管理人と一体何を話してたんだ?」

 

「実はねうちのクラスのから何人か、寮に対する要望みたいなのがあって

 

 それをまとめた意見を管理人さんに伝えてたところなの

 

 水回りとか、騒音とかね」

 

「へえー、そんなことをお前が?

 

 普通こういうのは個々で対応するもんじゃねえのか?」

 

するとそこに

 

「おはよう一之瀬委員長」

 

二人の女子生徒が一之瀬に声をかけてきた

 

「委員長?

 

 なんだそりゃ・・・・

 

 そもそもクラスにはそんな

 役職的なものなんてないんじゃねえか?」

 

不意にその様子に疑問を浮かべる好戦的な雰囲気の綾小路

 

「うん、私学級委員をやってるんだ」

 

「へえ・・・・・・ひょっとしてDクラス以外にはあるってことか?」

 

好戦的な雰囲気の綾小路はそう聞きだしていく

 

「Bクラスで勝手に作っただけだよ

 

 役職が決まっているといろいろ楽だと思うし」

 

「なるほど・・・・

 

 っていうことはひょっとしてほかにも役職とかあるのか?」

 

「形式上はね

 

 副委員長とか書記とかね

 

 文化祭とか体育祭とかそう言うときに便利だし

 

 その場その場で決めてもいいんだけれど

 それでトラブルになったら大変だしね」

 

その話を聞いて素直に感心した表情を浮かべる

 

「・・・・・・思わぬ収穫があったようだな・・・・」

 

そんなことをつぶやいた

 

「何か言った?」

 

「え、ああ・・・・

 

 統率取れてるんだなって思ってよ・・・・」

 

素直に感じてことを言って、ごまかすように言う

 

「別に変に意識してるわけじゃないよ?

 

 みんなで楽しくやってるだけだし

 

 それに少なからずトラブルを起こす人もいるしね

 

 苦労することもあるんだから」

 

「それも含めてBクラスのいいところって感じか?

 

 そう言うことを言いながらも随分と楽しそうだ」

 

好戦的な雰囲気の綾小路はそんな返しをする

 

「ところで綾小路君ってさ

 

 綾小路君っていつもこの時間で起きてるの?

 

 思えばこの時間帯で見たことないし」

 

二人で登校しながら何気ない話をしていた

 

「仮に早く起きて早く起きてもしょうがねえしな

 

 ぶっちゃけ、それぞれ準備済ませたら適当にぶらぶらしてる」

 

「へえ、案外早起きなんだね」

 

学校に近づいていくと生徒の数が増えてくる

すると一之瀬の周りに生徒が集まってきている

 

「おはよう一之瀬!」

 

「おはようございます一之瀬さん!」

 

その光景に不思議と納得を覚える好戦的な雰囲気の綾小路

 

「やっぱり人気なんだな、あんた」

 

「そんなことないよ、委員長としていろいろ相談ごとに乗ってるから」

 

その言葉に謙遜ではなく本心で答えるように言う

 

「そう言えば綾小路君は夏休みのこと聞いた?」

 

「夏休み?

 

 なんだそれ・・・・?」

 

「・・・・え?」

 

一之瀬は不意に綾小路の方を見る

 

「い、いや夏休みっていうのは八月から大体一か月くらいある長い休みのことで・・・」

 

「へえ~、そんなものがこの学校にあるのか」

 

「い、いや、この学校だけじゃないし

 そもそも中学校にも小学校とかにもあるよ?」

 

「・・・・・・え?

 

 そうなの・・・・?」

 

「・・・・・・・」

 

それを聞いて一之瀬は不意に噴き出してしまう

 

「ぷっ、あっはっはっはっはっ!!!

 

 綾小路君って面白いね、夏休みを知らないなんて

 と言うより中学校通ってたら普通に知ってると思うけど」

 

「え、おいらまさか、すっげえ恥ずかしいこと言った・・・・?」

 

なぜ笑われているのかわからないが

ものすっごく恥ずかしいことのようだと理解した

 

「ま、まあ夏にやってくる長い休みだって覚えておけばいいよ

 

 実はその夏休みにね、バカンスがあるっていう噂なんだ」

 

「ああ、そういや茶柱がそんなこと言ってたな・・・・

 

 そういやそのバカンスって、クラスで別なのか?」

 

「ううん、一年全員で行くらしいよ

 

 学校の主催でね・・・」

 

それを聞いて不意に疑問が浮かび上がっていく好戦的な雰囲気の綾小路

 

「ただのバカンスじゃ・・・・・・ねえよな」

 

「私もそう思ってるんだ、ひょっとしたらそこが

 一つのターニングポイントだって思ってるんだ」

 

「そうだな、もしかしたらそのバカンスの時に

 クラスポイントが変動する可能性がある、一之瀬はそう考えてるんだな」

 

「うん

 

 中間テストや期末テストよりも

 ぐっと影響力のある課題みたいなのがあるんじゃないかな

 

 そうじゃないとAクラスとの差ってなかなか埋まっていかないからね

 

 私達もじわりじわり離されていっちゃってるし」

 

一之瀬の言葉に同調するように考え込む仕草を見せる

 

「そういや、あんた達BクラスとAクラスとの差はどのくらいだ?」

 

「今Bは660ちょっとだから、もう350近く離されてるね」

 

「そうか・・・・」

 

そのBクラスのポイントのうまい下げどまりに静かに感心する

 

「まあテスト以外にクラスポイントを増やす方法がなかったから

 どうしても少しずつ目減りしていくのは避けられないよね

 

 Aクラスだって最初はそうだったし」

 

「それでもうまくポイントを増やしているようだけどな」

 

そんな会話を続けていく二人

 

「そんなことないよ、私やみんなが頑張ってくれたからこその結果だよ」

 

「でも現に慌ててないよな」

 

「気にはしてるよ?

 

 でも巻き返すチャンスはこれからだと思うから

 

 それに備えて気持ちだけは作ってるつもり」

 

「先を見据えることは悪いことじゃないと思うが

 

 まあそう言うのはあんたたちのようにまとまりがなっている

 クラスだけだろうな、うちのクラスはあの事件のせいでもうばらばらさ・・・・」

 

「ま、まあお互いに頑張ろうよ」

 

「それはあくまで堀北や平田、櫛田の役目だ

 

 おいらはあくまでその指示に従うだけさ

 

 まあもしもそのバカンスがあんたの予想通りなら

 どのみち、ろくなことにはならないだろうな」

 

その先に待っている面倒ごとのことを考えて

頭を抱える好戦的な雰囲気の綾小路なのだった

 

「まあどっちにしても本当に南の島でのバカンス

 だったら、それはそれですごく面白そうだよね」

 

「さあ・・・・」

 

「・・・・あれ?

 

 うれしくない?」

 

一之瀬は急に反応の変わった好戦的な雰囲気の綾小路の顔色を見る

 

「ひょっとして、旅行嫌い・・・?」

 

「そもそも旅行なんて言ったこともないよ

 

 外国に行ったことは、あるけどよ・・・・」

 

顔に影を落としてぎゅっと言う音が響くように握りこぶしを作る

 

「ど、どうしたの?」

 

「・・・・・・なんでもない」

 

何かこみあげてくるものを抑えるように

一之瀬の問いにそっけなく答える好戦的な雰囲気の綾小路

 

「ね、ねえ、よかったらでいいんだけれど・・・

 

 綾小路君に聞いておきたいことがあるんだ」

 

やや気を使いつつも自分の疑問をぶつけんとする一之瀬

 

「私達ってこの通り、四つのクラスに分けられたよね?

 

 これって本当に実力順なのかな?」

 

「うーん・・・・

 

 それについてはおいらもまだよくわからない

 ただ一つ言えるのは入学試験の結果によるものじゃないってことだけだ」

 

好戦的な雰囲気の綾小路は少し自分をごまかすように

一之瀬の疑問に対して考え込むような仕草を見せると

 

「総合力、っていう可能性は?」

 

そう言うふうに答えていく

 

「うーん、私も最初はそうだと思ったんだけど

 

 それだと下位のクラスは圧倒的に不利になるんじゃない?」

 

「あんたはどういうふうに考えてるんだ?」

 

一之瀬は腕を組んでうなる

 

「個人戦ならともかく、これはクラス単位なんだよ?

 

 純粋に優秀な人間をAに集めちゃったら、殆ど勝ち目はないんじゃない?」

 

「だからこそ、ポイントが大きく開いてんだろ?

 

 あんたの考えは違うのか?」

 

好戦的な雰囲気の綾小路は一之瀬に問うと

一之瀬は自分の考えを話し始めていく

 

「現段階でAからDクラスに差があるのは事実だけど

 それは些細な事で埋まっていくだけの何かが隠されてるんじゃないかな?」

 

「・・・・・・その根拠は?」

 

「あはははは、あるわけないじゃない

 

 なんとなくだけどそう思うだけ

 

 いや、そうでないと厳しいって言った方が的確かもしれないけどね

 

 勉強できる子、スポーツが得意な子が

 Dクラスにもいるってことは、いろんな対策も練れるし」

 

「なるほどな・・・・」

 

一之瀬の意見に対して不思議とその可能性もあると片隅に置いていく

 

「・・・・・・ところで、このことをおいらに言ってもよかったのか?」

 

不意にそんなことを聞く好戦的な雰囲気の綾小路

 

「ん?

 

 何が?」

 

「今みたいな考え方をほかクラスの俺に話して

 下手をすれば自分たちの首を絞める行為になるかもしれないのに」

 

すると一之瀬は笑みを浮かべて答える

 

「私はそうは思わないな

 

 意見交換で得る物も多いし

 

 それに今は協力関係にあるんだから全然問題なしなし」

 

それを見て好戦的な雰囲気の綾小路は一之瀬と言う相手の何かをつかめたようだ

 

「まあおいらは堀北にくらべれば、特に優れるってわけでもねえしな」

 

「まあ、私が勝手に話してることだし、気にしないでいいよ

 

 むしろ活かせるっていうならどんどん活かしてくれたらいいし」

 

すると一之瀬は不意に何かを思い出したように動きを止めた

すると先ほどまでの笑顔が嘘のような真剣な顔で好戦的な雰囲気の綾小路を見る

 

「あのさ・・・・参考までに聞いてみたいことがあるんだけれど、いいかな?」

 

先ほどまでと変わって身を固くする好戦的な雰囲気の綾小路

 

「聞くだけ聞いて、それで答えられることなら答えてやるが」

 

聞く姿勢を持つ好戦的な雰囲気の綾小路

 

「綾小路君ってさ、女の子に告白されたことってある?」

 

この問いに想像はしてなかったのか間の抜けた表情を見せる

 

「え、あ、いや、えっと・・・・」

 

その様子に一之瀬は何か失礼なことをしたのかと思い弁明する

 

「あ、ああごめん、なんでもないよ」

 

だがすぐに浮かない表情を見せる、まるで悩みを抱えているかのように

 

「ひょっとしてさ、告白されたとかそう言う感じか?」

 

「え?

 

 あーうん

 

 そんな感じかな」

 

好戦的な雰囲気の綾小路はとりあえず一つの可能性を指摘する

一之瀬の反応を見て、そうなのだと確信するのであった

 

「あのね、よかったらなんだけれど今日の放課後少し時間をもらえないかな?

 

 そのことでちょっと悩んでて、忙しいのは百も承知なんだけれど・・・」

 

「別にいいさ、あの時のお詫びもかねてできる限り協力する」

 

「あの時のお詫びって、テスト勉強の時のこと?

 

 だからあの時のことはもういいんだって・・・」

 

「おいらはそう言うのは口ではっきり言うよりも

 行動で示して初めて意味のあるものだって思ってる

 

 だから少しでもあんたの力になれるなら

 おいらはできる限りのことはやりたい

 

 そうしなきゃ、どうにも虫が悪くてさ」

 

「ふふ、綾小路君って案外しっかりしてるんだね

 

 ありがと」

 

一之瀬は笑顔を見せてお礼を言う

 

「それじゃ、放課後・・・・玄関で待ってるから」

 

「お、おう」

 

こうして二人はそれぞれのクラスに戻っていくのであった

 

・・・・・・・七・・・・・・・

 

「へえ・・・・

 

 それはうらやましいねえ・・・・」

 

「勘弁してくれよ

 

 おいらはあくまで

 できる限りのことをしてやりたいだけだ」

 

「しかし、話によるとどうやらBクラスのリーダーは

 その一之瀬っていう女で間違いだろうよ、これは言い収穫だ

 

 あとはいかにして一之瀬をとるかだろ、どうする?」

 

動物的な雰囲気の綾小路がそう言うと

好戦的な雰囲気の綾小路がそれに反論する

 

「おいらは、もう少し待っててほしい

 

 一之瀬がこの件に協力してくれるっていうなら

 それを逆手にとって追い詰めさせるような手はしたくねえ」

 

「私も意見は賛成だ・・・・

 

 まあ私の場合は手を広げていくっていう考えだがね・・・・」

 

「まあ別に俺はそれでもいいけどよ

 

 その一之瀬って女は信用できるのかよ?

 

 櫛田の件もあるし、裏で何やってるのか・・・・」

 

「まあ一之瀬さんが何か仕掛けてくるつもりなら

 仕掛けてきた時に仕掛けていけばいいって思うけど」

 

女子の綾小路が一之瀬のことについて述べていく

 

「一之瀬さんの評判ははっきり言っていいわ

 

 Bクラス内でももちろん、先生からの評判もいい

 

 困ってる人にも手を指し伸ばしてくれたりもしてる

 

 おまけに人当りもいいうえに美人で容姿も優れてる

 

 彼女をとるのは現時点では無理よ、俺・・・・」

 

「そのために私、あたしと我で情報を集めているのだろう、俺・・・・」

 

「わーってるよそのくらい

 

 っていうか今から一之瀬の指定したそこにいくんだよな?

 

 とーぜん行くんだよなおいら?

 

 いつもいつも俺を櫛田の奴を押し付けてくれやがって」

 

「も、もちろんだ

 

 おいらが受けたんだから

 おいらが責任もっていってくるよ」

 

そう言って出ていく好戦的な雰囲気の綾小路

 

「それで、そっちの方はどうなの?」

 

「私はもうこれ以上

 行動を起こすことには意味はないと思うから・・・・

 

 そろそろ切り上げさせてもらうよ・・・・」

 

「僕も私に賛成だな」

 

「俺もだ、これ以上証拠も目撃者捜しも、もう無意味だろうよ」

 

「・・・・・・・・・・」

 

すると仮面をかぶった綾小路が黙って出ていく

 

「我?」

 

女子の綾小路はその様子を見つめていた

 

一方

 

「うわあ、すごい人だかりだな・・・・」

 

そのおかげで一之瀬の姿を見つけられるのだった

 

「あ、綾小路君、こっちこっち」

 

一之瀬も好戦的な雰囲気の綾小路に気が付き声をかける

 

「しっかし朝も思ったが一之瀬は人気者だな

 

 うちのクラスの櫛田といい勝負だな」

 

「あはははは、そんなことないってば

 

 あ、それよりも朝のことなんだけれど」

 

一之瀬に連れられて学校の裏側を通る

そして最終目的地は体育館裏であった

 

「さてと・・・」

 

一之瀬は呼吸を整えて好戦的な雰囲気の綾小路の方に向く

 

「実は私・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここで告白されるみたいなの」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・は?」

 

間の抜けた声で答える好戦的な雰囲気の綾小路に

一之瀬はあるものを見せる、それはラブレターだ

 

好戦的な雰囲気の綾小路はその文面を

じっくりと見て一之瀬の顔を見つめる

 

「大体は分かった、それでおいらにどうしてほしいんだ?」

 

「私ね、こういうのには疎くって・・・

 

 どう接したら相手を傷つけずに済むのか

 

 仲のいい友達でいられるのかがわからないから・・・

 

 それでどうしたらいいのかなって助けてほしいと思って」

 

「それでなんでおいらなんだ?

 

 Bクラスの誰かに頼めばいいんじゃないか?」

 

「実はその私に告白する子、クラスメートなんだ」

 

それを聞いてなるほどと言った具合にふむと声を出す

 

「今日のことはできる限り秘密にしたいの

 

 そうじゃないとこれから先、気まずくなりそうだし

 

 綾小路君だったら、誰かに言いふらしたりしなさそうだから」

 

「まあ経緯は分かった・・・・

 

 それでおいらにどうしてほしいんだ?」

 

「う、うん・・・」

 

一之瀬は少し口ごもり、言う

 

「実は綾小路君に、彼氏の振りをしてほしいの

 

 色々調べたら、付き合ってる人がいるのが一番相手を傷つけないで済むって・・・」

 

「そういうことか・・・・」

 

「お願い、できないかな・・・」

 

本気で困っている様子を見せる一之瀬

その様子をみた好戦的な雰囲気の綾小路は言う

 

「断る」

 

「え・・・?」

 

それは協力しないという返事だ

 

「お前は相手のことを考えてるように思っているようだが

 

 所詮それは自分がなるべく傷つかないようにしてるだけ

 

 言うならばそれはただの自己満足、お前自身がそれに気が付いてないだけだ」

 

「そ、そんなこと・・・!」

 

「いいや、そうだ!

 

 そもそもな告白なんていうのはな

 お前が思っているようなほど生半可なものじゃない

 

 告白する方だってなどうやったら告白できるのか

 必死に考えて考えて、でもいざってときは勇気が出なくって

 

 それでもあきらめずに決意を決めてこうしてこの手紙を送ったんだ

 

 それなのにお前はそんな彼女の気持ちを無視して、逃げようとしている

 

 これが自己満足でなくてなんて言うんだ」

 

「・・・・あ・・・」

 

「いいか、相手を傷つけないで済むことなんて

 絶対にあるわけないんだ、だったらせめてお前は

 相手の気持ちに精一杯答えてやれ、それで傷つけることになっても

 

 少なくとも俺を使ってあいつに嘘をついて傷つけるよりはよっぽどましだ」

 

一之瀬は綾小路の言葉に不思議と聞き入っていた

 

「いうなればこれは戦いと一緒さ・・・・

 

 誰かを傷つけるのを怖がってたら

 自分が大切だって思うものを傷つけちまう

 

 どっちみち傷つくなら立ち向かって傷つけ、そら・・・・」

 

「・・・・あ!」

 

するとそこに一人の女子生徒がやってきた

 

「あ、あの一之瀬さん・・・・その人は?」

 

その場に現れたその女子生徒は綾小路の好戦的な雰囲気に警戒心を表す

 

「か、彼はDクラスの綾小路君で、その・・・」

 

「ただの友達さ・・・・

 

 ちょっとした相談に乗ってあげただけだよ」

 

好戦的な雰囲気の綾小路は一之瀬に耳打ちをする

 

「あとはあんたと彼女の問題だ

 

 彼女の気持ちにぶつかっていきな」

 

「綾小路君・・・」

 

彼はそう言って一之瀬の元から離れ

その女子生徒の隣を何も言わずに通り過ぎていくのであった

 

その後女の子は一之瀬に告白した

一之瀬はあくまで友達として好きなんだと

彼女なりの言葉でその女子の気持ちにこたえるのだった

 

女の子はこれからも友達でいてくれると聞き

一之瀬はもちろんと答え、女の子はそのことにお礼を言い

 

涙を浮かべながらも走り去っていくのであった

 

「ぶつかってきたんだな、あんたなりに・・・・」

 

「あ・・・」

 

一之瀬のもとに好戦的な雰囲気の綾小路が訪ねてきた

 

「綾小路君の言うとおりだった、私は気が付いたら千尋ちゃんの気持ちを

 受け止めようとしないで傷つけない方法だけを考えて逃げようとしてたんだ

 

 確かに私が間違ってた」

 

恋愛って難しいんだね、とつぶやき一之瀬は

好戦的な雰囲気の綾小路の隣に並び手すりに腰かけた

 

「これからも私と千尋ちゃんは、友達でいられるかな?」

 

「それについてはおいらは答えられない・・・・

 

 あくまであんた達二人しだいだ」

 

「そうだね・・・」

 

一之瀬は好戦的な雰囲気の綾小路の方を向く

 

「今日はありがとう

 

 変なことにつき合わせちゃって」

 

「おいらはあくまでおいらにできることをやっただけさ」

 

「そうだね

 

 私、綾小路君に相談してよかった」

 

「悪かったな、恋愛ごとなんてわからないくせに偉そうなこと言って」

 

一之瀬はそれを聞いて、またおかしいことを聞いたように笑う

 

「ううん、綾小路君が謝ることなんてないよ」

 

一之瀬は両手を空に向けて伸ばし、一之瀬は地面に降りる

 

「私最初に綾小路君を見たときは素直だけど

 ちょっと乱暴な人だって思ってたけど

 

 意外にやさしいんだね」

 

「意外は余計だ」

 

「今度は私が、綾小路君に協力する番だね」

 

一之瀬は改めてDクラスに協力する意思を固くするのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一之瀬 帆波、か・・・・

 

 Bクラスのリーダーとして

 どのようにふるまうのか見せてもらうぞ・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

        




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Bon sang, il y avait un témoin surprenant Deuxième partie

Examen


状況は果たしてどのように転がっていくのか

 

・一・

 

「・・・・・・・・・・」

 

不気味な雰囲気の綾小路は

コーヒーを飲みながらあるものを操作していた

 

それはパソコンだっ

 

何を見ているのかはよくは分からないが

 

そこに電話がかかる

画面を見て意外そうに見つめて

 

電話に出る

 

「ごめんね夜遅くに、まだ起きてた?」

 

「・・・・・・何のようだい・・・・?」

 

「実は前に佐倉さんのデジカメを壊しちゃったじゃない?

 

 急に話しかけて吃驚させちゃったせいでもあるし

 カメラを修理に出すのについていってあげようと思って」

 

「その口ぶりからすると君はあの後も佐倉と話をしたのかい・・・・」

 

不気味な雰囲気の綾小路は珈琲を飲んで一息つく

 

「まあ大体予想が付いたがまさかそこまで人と話をするのが苦手とはね・・・・

 

 それで君は彼女に同行することになったわけか・・・・?」

 

コーヒーの器を置いて改めて聞く不気味な雰囲気の綾小路

 

「少し迷ったみたいだけれど、明後日でいいならって」

 

「そうか・・・・

 

 よほど彼女にとってカメラは大切なものなんだね・・・・」

 

椅子の背もたれにもたれて言う

 

「だがそれならばどうして私にそのことを?

 

 二人の方が話しやすいと思うがね・・・・」

 

「うん、その事なんだけど・・・

 

 実は綾小路君にはもう一つ大切な用事の方をお願いしたくて」

 

「ふーん・・・・

 

 ひょっとして須藤の件かい・・・・?」

 

「うん、お願いできないかな?

 

 多分佐倉さんは何か知ってるって

 感じがするから放っておけなくって」

 

しばらく考え込んで返事を言う

 

「構わないよ・・・・

 

 ちょうど私用で家電量販店に行こうと思っててね・・・・

 

 どこまでいけるかはわからんがね・・・・」

 

もう一度コーヒーをすする不気味な雰囲気の綾小路

 

「ねえ綾小路君、さっきから何飲んでるの?」

 

「別に、眠気覚ましのコーヒーさ、ちょっと調べものをしていてね」

 

不気味に笑みを浮かべながら答える綾小路

 

「調べものか、でも夜はしっかり寝ておかないと体に毒だよ?

 

 綾小路君って見てるだけでもなんだか不健康そうだし」

 

「一言多いね・・・・」

 

櫛田の指摘に不気味な雰囲気の綾小路は短く返す

 

「それにしても櫛田は行動力がいいんだね・・・・

 

 もうそこまで来ているなんてさ・・・・

 

 ただでさえまとまりのなっていないDクラスが

 形を成しているのは君や平田の活躍があってのものだと感心するね・・・・」

 

素直に櫛田の行動力を称賛する不気味な雰囲気の綾小路

 

「別に特別なことはしてないよ

 

 私は私がやらなきゃって思ったことをしてるだけだよ」

 

「それだってすごいことだと思うよ・・・・

 

 特に私のような存在からしてみればね・・・・」

 

そう言ってまたもコーヒーを口に入れる

 

「それを言うなら私なんかより堀北さんの方がすごいよ

 

 勉強もできるし運動もできるから、どうしてDクラスにいるのかなって」

 

「ああいうのは特別じゃなくって特殊っていうんだよ・・・・」

 

「そんなこと言うと堀北さん怒るよ?」

 

「ずっと不機嫌そうだから今更怒ってもなんとも思わないよ・・・・

 

 むしろ彼女の機嫌のいい時の方がまれだよ・・・・」

 

そんなことを平気で言う不気味な雰囲気の綾小路は大物である

 

「そもそもああいう性格面の問題がDクラス行きの原因じゃないかね・・・・?」

 

「でも綾小路君とは普通に話してるよね?」

 

「あれで普通・・・・・・ねえ・・・・」

 

不気味な雰囲気の綾小路はコーヒーのカップを置く

 

「まあ堀北とはまだまだ壁を感じるのが正直な感想だが・・・・

 

 今のところ私と堀北の関係はそれでいいと思うけどね・・・・」

 

「ふうーん」

 

少し疑いながらも、面白がるような声が聞こえる

 

「もう話すことがなくなってきたね・・・・

 

 いいや・・・・・・ないね・・・・」

 

「そ、そう・・・だね・・・」

 

「だね・・・・」

 

不気味な声による言葉に、さすがの櫛田も会話が途絶えてしまう

 

「そろそろ切るよ・・・・

 

 まだ調べものがあるんだ・・・・」

 

そう言って携帯を耳元から離そうとするが

 

「あ、あのね・・・」

 

「ん・・・・?」

 

櫛田の方から何やら声が聞こえるが

どうやら躊躇しているようだが、櫛田らしくない

 

「もし、もしね?

 

 私がね・・・その・・・」

 

沈黙と長くない言葉、そして

 

「・・・ううん、なんでもない」

 

「・・・・・・そうかい・・・・」

 

結局櫛田は話を切り上げてしまうのであった

 

「それじゃあ明後日、よろしくね」

 

それだけ言って通話を切る櫛田

 

不気味な雰囲気の綾小路は携帯を再び充電し

残ったコーヒーを飲み干していくのだった

 

「・・・・・・やれやれ・・・・

 

 どうしてこうにも面倒な事ばっかり起こるのやら・・・・

 

 それもこれも我が後先考えずに手を指し伸ばしたりするから・・・・

 

「・・・・・・我がどうしたと・・・・?」

 

するとその後ろに仮面を外した綾小路が声をかける

仮面の素顔は残念ながら、影に隠れて見えないが

 

不気味な雰囲気の綾小路は特に気にすることなく声を聴く

 

「そこにいたのかい我・・・・

 

 まさか私と夜のおしゃべりでも

 しようなんてわけじゃないだろ・・・・?」

 

「・・・・・・先ほど櫛田嬢の話していた

 佐倉嬢の件なのですが、我に任せてもらえませんか・・・・?」

 

「ほほう・・・・

 

 君がそこまで入れ込むなんてね・・・・

 

 何か気になることでも・・・・?」

 

「・・・・・・はい・・・・

 

 ただそれが須藤殿の件と関係あるのかはわかりませんが・・・・」

 

しばらく黙り込んでいた不気味な雰囲気の綾小路はしばらく黙り込み

 

「・・・・・・いいだろう・・・・」

 

了承するのであった

 

・・二・・

 

日曜日 ショッピングモール

 

「現地で待ち合わせか・・・・」

 

「・・・・・・櫛田嬢にはそれなりに考えがあるのかもしれませんね・・・・」

 

二人の綾小路がベンチで待っていた

 

「それじゃあ私はここで失礼させてもらうよ・・・・

 

 さっきも言ったが家電量販店で興味のあるものがあるんだ・・・・

 

 本来はついでのつもりだったが

 こういうことなら我に任せておくのもよかろう・・・・

 

 それじゃあ後は任せるよ・・・・」

 

そう言って不気味な雰囲気の綾小路は先に

家電量販店の方へと向かっていくのであった

 

「・・・・・・さて・・・・」

 

残った仮面をかぶった綾小路は一息つくと

そこに待ち合わせ相手の姿見えたので立ってその場所を伝える

 

「あ、綾小路君」

 

櫛田が満面の笑みを浮かべて近づいてきた

 

「・・・・・・おはようございます、櫛田嬢・・・・」

 

櫛田が目の前に来たと同時に丁寧にお辞儀する

 

「えーっと、待たせちゃった?」

 

「・・・・・・いえ、我も先ほどついたばかりですので・・・・」

 

そんな軽い言葉をかわしていく

 

「そういえば、休日に会うのって初めてだね」

 

「・・・・・・そう言えばそうですね・・・・」

 

不意にそんなことを思い返す

 

「・・・・・・櫛田嬢、貴方はこの大空を

 初めて見たときのことを覚えていますか・・・・?」

 

「え?

 

 どうしたの急に?」

 

そんなことを聞いてくる仮面をかぶった綾小路

 

「・・・・・・我はこの大空を初めて見たとき

 

 不思議と涙が出ました、青く染まり

 そこに色づくような白く様々な形の雲が浮かんでいて

 

 まるで別の世界に飛び込んだような感覚に見舞われました・・・・

 

 あの時の感覚は今は感じなくなりましたが、不思議と忘れられません・・・・」

 

「フフフ・・・

 

 綾小路君って案外、ロマンチスト?

 

 でもなんだかそう言うのってわかる気がするな

 確かに天気がいい日に空を見上げて空を見上げると

 

 なんだか不思議と感動するよね」

 

櫛田は仮面をかぶった綾小路の言うことに

笑みを浮かべながら受けごたえをしていく

 

「それにしても綾小路君って

 

 案外独特なセンスだよね」

 

櫛田は綾小路の服装を見てそうつぶやく

 

「・・・・・・ああ、申し訳ありませんが

 我は流行と言うものに疎いものでして

 

 其れで動きやすい服装にしたのですが・・・・」

 

「うん、似合ってるよ」

 

「・・・・・・ありがとうございます・・・・」

 

櫛田が言いたいのは地味な格好でしか似合わないというもの

しかし格好に関して特に執着のない綾小路は特に無反応で返す

 

「綾小路君って案外図太いよね

 

 案外誰かに何を言われても動じないというか・・・」

 

櫛田はまじまじと仮面をかぶった綾小路を見る

 

「それで、佐倉さんは?」

 

「・・・・・・まだ見かけておりませんね・・・・」

 

不意にこれから会う佐倉の話になる

 

「・・・・・・しかし、どうして我を誘ったので・・・・?」

 

「実は綾小路君も誘ってくれないかって佐倉さんにお願いされたんだ」

 

「・・・・・・佐倉嬢が・・・・?」

 

仮面をかぶった綾小路は顎に手を当てて

考えるような仕草を見せるのであった

 

無理もない、佐倉との接点は殆どないのだ

どうして誘われるのか理解できるわけがない

 

「ひょっとして佐倉さんって

 

 綾小路君のことが気になってるんじゃないかな」

 

櫛田のセリフに対して特に反応を見せることはない

 

「とにかく待っていよっか」

 

「・・・・・・いえ、どうやら待つ必要はないようですよ・・・・」

 

仮面をかぶった綾小路は不意に

ベンチに座った一人の女子の姿を見つめる

 

「・・・・・・佐倉嬢、でよろしいですね・・・・?

 

 どうやらお待たせしてしまったようで申し訳ありません・・・・」

 

「ふ、ふえ!

 

 そ、そんな、こちらこそ・・・影が薄くて・・・」

 

「・・・・・・いいえ、お気になさらず・・・・」

 

「うわー、私わからなかったな・・・」

 

櫛田が言うのも無理はなかった

 

なぜなら今の佐倉の服装は

サングラスとマスクで顔を隠して

帽子を深くかぶって、顔を隠している

 

「少し不審者っぽいですかね・・・」

 

「・・・・・・いずれにせよ、逆に目立つと思いますが・・・・」

 

「そう、ですよね・・・」

 

そう言ってマスクだけを外してこちらを見る

 

「それじゃあ、デジカメの修理に行くことになるけど

 ショッピングモールの電気屋さんでいいんだよね?」

 

「・・・・・・それでよろしいかと・・・・

 

 あそこではデジカメ等の修理もなされていたと・・・・」

 

「すみません・・・こんなことに付き合わせてしまって・・・」

 

佐倉は申し訳なさそうに頭を下げるのだった

 

・・・三・・・

 

「ええっと確か

 

 デジカメとかの修理は

 カウンターでやってたよね・・・」

 

三人でショッピングモールの家電量販店にまでやってきた

 

「すぐ直るかな・・・」

 

佐倉はデジカメを不安げに握りしめる

 

「・・・・・・写真を撮るのが趣味とおっしゃっていましたね・・・・

 

 そのカメラはとても大事なものであると感じます、お好きなのですね・・・・」

 

「う、うん

 

 ・・・変かな?」

 

「・・・・・・いいえ、そんなことはないと思います

 

 何かに夢中になることはとても大切なことだと我は思いますよ・・・・」

 

「うん」

 

「あ、あったよ

 

 あそこで修理を受け付けてくれるとこ」

 

櫛田が指さしたところに修理のための受付のカウンターがある

 

「あ・・・」

 

「・・・・・・っ・・・・!」

 

佐倉の雰囲気が変わったのを

仮面をかぶった綾小路は感じた

 

佐倉の様子が変わったのを感じて

彼女の視線の先にいるカウンターの店員を見る

 

「・・・・・・あの男、佐倉嬢を見る目がいささか不快ですね・・・・」

 

仮面越しに店員の男性を見る目が異様に鋭い

 

「あ、綾小路君?」

 

櫛田は綾小路の雰囲気が変わったのを感じて声をかける

 

「・・・・・・櫛田嬢、よろしければですが

 

 佐倉嬢についていてあげられませんか

 傍にいてさしあげるだけでもいいので・・・・」

 

「え、あ、うん・・・いいけれど・・・」

 

「ふえ、あ、あの・・・」

 

急にそんなことを提案されて

佐倉は仮面をかぶった綾小路の方を見る

 

こうして佐倉に同行して

デジカメの修理を頼みこんでいく

 

だがその店員の反応ははっきり言うと

とても褒められたものではないであろう

 

さっきから佐倉を見つめる目がいやらしい

 

はっきり言うと女子が相手にしたくない相手だろう

 

普通の女子でもきっと不快に思うこの店員だ

人見知りな佐倉ではきついだろう、そして不意に

 

必要な書類を書くように頼み込んでいく

 

佐倉のペンを持つ手が震えていく

 

「・・・・・・佐倉嬢、ペンをお譲りください・・・・」

 

「え?」

 

佐倉に優しく声をかけて彼女からペンを譲ってもらった

 

「・・・・・・修理が終わればこちらまでご連絡ください・・・・」

 

「ちょ、ちょっと君!?

 

 このカメラの所有者は彼女だよね?

 

 いくらなんでも・・・」

 

「・・・・・・メーカー保証は販売店も購入日も問題なく証明されております・・・・

 

 法的な問題はどこにもないと思われます、購入者と所有者が

 異なっていても、特に問題視するところはないように思われますが・・・・」

 

そう言って書類に早めに必要事項、名前と寮の部屋と番号を記載する

 

「で、ですが・・・」

 

「・・・・・・それとも・・・・

 

 彼女でなくてはならない理由が他にあるのですか・・・・?」

 

綾小路のかぶっている仮面越しから見える鋭い眼光に店員はやや圧され気味になる

 

「・・・わかりました・・・大丈夫です」

 

店員はやがておしまけて、仮面をかぶった綾小路の申し出を受けるのだっつぁ

 

「なんだか、すごい店員さんだったね・・・」

 

「う、うん・・・」

 

櫛田と佐倉は二人で先ほどの店員の話をしていた

 

「・・・・・・あの店員は、佐倉嬢のことを

 まるで狙っていたかのように見つめていましたね・・・・」

 

「じ、実は前に話しかけられたことがあって・・・

 

 それで一人で修理に行くのが怖くて・・・」

 

櫛田は何かに気が付いたように仮面をかぶった綾小路の方を見る

 

「ひょっとして綾小路君、それで?」

 

「・・・・・・あの店員が佐倉嬢の携帯番号を

 聞くときに異様な変化を感じたので、それに・・・・

 

 女子と言うのはやはり、その手のことを明かすのに抵抗があったのではと・・・・」

 

綾小路の仮面越しに見える目は不思議と優しそうに見えた

 

「あ、綾小路君・・・ありがとう

 

 すごく、助かった・・・」

 

「・・・・・・では、連絡が来ましたら

 我がじかにお伝えいたしますので・・・・」

 

佐倉は嬉しそうに頷く

 

「よく見てるんだね

 

 佐倉さんのこと」

 

「・・・・・・正確にはあの店員ですがね・・・・

 

 あの女子を嘗め回すような雰囲気は見た瞬間より感じましたので・・・・」

 

「へえ・・・すごいね」

 

櫛田は素直に仮面をかぶった綾小路を称賛する

 

「櫛田さんも、一緒についてきてくれて、ありがとう」

 

忘れずに櫛田にもお礼を言う

 

「ううん、こんなことでいいんなら力になるから

 

 それにしても佐倉さんって、本当にカメラが好きなんだね」

 

「あ、いえ・・・小さい頃はそうでもなかったんですけど

 

 中学生になる前くらいかな

 お父さんにカメラを買ってもらってから、ドンドン好きになっちゃって

 

 ・・・って言っても、とるのが好きなだけで、全然詳しくないんだけど・・・」

 

「・・・・・・我はそうは思いません・・・・

 

 今の世の中、好きなことに夢中になっていくのは

 難しいものですから、それでも貫けることはすごいことだと思いますよ・・・・」

 

「そう言えば佐倉さんってよく景色をとってるんだよね

 

 誰かと一緒に撮ったりとかしないの?」

 

「ふえっ!?」

 

櫛田の問いに佐倉はびっくりしたように後ずさる

 

「・・・ひ、秘密」

 

不意に仮面をかぶった綾小路の方を見る

 

「その、は、恥ずかしいから・・・」

 

佐倉がおどおどとそう答えた

 

「・・・・・・答えられぬなら無理にお答えしなくても結構です・・・・

 

 別に今日はそのような事のために貴方を訪ねてきたわけではないので・・・・」

 

「う、うん・・・

 

 ごめんn・・・っ!?」

 

佐倉は不意にある場所によって

また先ほどのように勢いよく目を見開く

 

「どうしたの佐倉さん?」

 

「ま、前の方に、その・・・」

 

「・・・・・・・・・・」

 

仮面をかぶった綾小路は佐倉の目線の先を見るとそこにいたのは

 

「ふふーん・・・・

 

 思ってたよりも高額だね・・・・

 

 どうしたものかね・・・・」

 

不気味な雰囲気を醸し出している一人の少年がいた

 

佐倉はどうやらその不気味な雰囲気に

あてられてしまい、おびえてしまったようだ

 

「あれって、綾小路君だよね・・・」

 

「え?

 

 でも綾小路君は・・・」

 

佐倉は隣にいた仮面をかぶった綾小路の方を見るが

そこに彼の姿はなく、佐倉はあれ?、っと目をぱちぱちとさせていく

 

「・・・・・・私、ここで何をしているのですか・・・・?」

 

「おや・・・・?

 

 誰かと思えば我じゃないか・・・・

 

 ここに来たということは佐倉への話はもう済んだのかい・・・・?」

 

不意に話しかけてきた仮面をかぶった綾小路に気づき

彼の方を見つめる不気味な雰囲気の綾小路であった

 

「・・・・・・佐倉嬢との話は

 今のところ第一段階はクリアと言ったところです・・・・」

 

「そっか・・・・

 

 思ってたよりも速かったね・・・・」

 

不気味な雰囲気の綾小路は

仮面をかぶった綾小路の方を見ずに何かを見ている

 

「・・・・・・何か欲しいものでもあるので・・・・?」

 

「まあそうだね・・・・

 

 しっかしポイントがないというのはいたいもんだね・・・・

 

 クラスポイントもそうだけど

 やっぱりプライベートポイントがないとかなり不利だね・・・・」

 

「・・・・・・これは・・・・?」

 

仮面をかぶった綾小路は不気味な雰囲気の綾小路の見ているものを見る

 

「・・・・・・これを使って・・・・?」

 

「まあそう言うことさ・・・・

 

 まあまだ手が出ないけどね・・・・」

 

「・・・・・・なるほど・・・・」

 

不思議と納得する仮面をかぶった綾小路

 

「・・・・・・これを使えば、私の作戦がうまくいくと・・・・?」

 

「まさか・・・・

 

 あくまで作戦を立てるのは堀北さ・・・・」

 

「・・・・・・そうでしたね・・・・」

 

「まあ必要になる時にはどうにかするさ・・・・

 

 いずれこの手を使うときは来る・・・・」

 

「・・・・・・それでは我はここで・・・・

 

 櫛田嬢と佐倉嬢を待たせているので、それを聞けただけでも・・・・

 

 それでは・・・・」

 

そう言って仮面をかぶった綾小路は戻っていく

不気味な雰囲気の綾小路は不敵な笑みを彼に向け店の奥に消えていくのだった

 

「・・・・・・お待たせいたしました・・・・」

 

「あ、綾小路君

 

 今までどこにいたの?

 

 あとあっちに別の綾小路君が見えたみたいなんだけど・・・・」

 

「・・・・・・気のせいでしょう・・・・」

 

櫛田は仮面をかぶった綾小路の言い方に妙に引っ掛かりを覚える

だがその際に錯乱の横顔を見て、何か考えるような仕草も見せた

 

「ええっと?

 

 ・・・佐倉さん、私とどこかで見たことある?」

 

「え?

 

 い、いえ

 

 ないと思います、けど」

 

「ご、ごめん

 

 なんとなく佐倉さん見てたら

 どこかで会ったことがあるような気がして

 

 あ、もしよかったらでいいんだけれど

 眼鏡をはずしてもらってもいいかな?」

 

「ええ!?

 

 そ、それはちょっと・・・!

 

 眼鏡をはずすと見えなくなっちゃうから・・・」

 

佐倉は手を胸のあたりで組んで首を横に何度も振る

 

「・・・・・・櫛田嬢、あまり踏みこみすぎると

 本来の目的が果たせなくなってしまいます、ここは佐倉嬢に合わせて・・・・」

 

「・・・そうだね」

 

仮面をかぶった綾小路の提案に櫛田も同意して頷いた

 

「あ、あの・・・今日はありがとうございました

 

 すごく助かりました」

 

「いいよいいよ、別にお礼を言われるほどのことじゃないし

 

 それに佐倉さん、よかったら普通に話してくれないかな?

 

 だって私達は同級生なんだから、敬語なんて変でしょ?」

 

櫛田の言葉は理解しているようだが

佐倉には勇気のいることのようなのでどうしても動揺する

 

「意識、してるつもりはないんですけど・・・変、ですか?」

 

「悪いとは言わないけれど、私は敬語じゃない方がうれしいな」

 

「あ・・・う、うん・・・わかり・・・わかった

 

 頑張ってみるね」

 

佐倉は少しずつ進みだしていこうとするその様子を

綾小路は仮面越しにその様子を優し気な視線で見つめている

 

「あ、でも無理はしないでいいからね」

 

「だ、大丈夫

 

 ・・・私も・・・から・・・・・・」

 

櫛田も前に少し強引に行き過ぎたと思っていたのか

櫛田は適度な距離感で佐倉と少しずつ親しくなっていく

 

「それじゃあ、また学校でね」

 

そう言って櫛田が去っていこうとすると

 

「あのっ・・・!」

 

佐倉が今までのイメージが嘘なほど

張った声で櫛田を呼び止めていくのだった

 

「そ、その・・・須藤君の、ことなんだけど・・・よかったら・・・」

 

またも間が空いてしまったが佐倉は意を決したように口を開く

 

「・・・須藤君のこと、わ、私でも協力できるかもしれない・・・」

 

佐倉はそう告げる

 

「それって、佐倉さんは須藤君達の喧嘩を見ていたってこと?」

 

「うん・・・

 

 私、偶然見てた

 

 本当に偶然なんだけれど・・・信じられない、かな」

 

「ううん、だって佐倉さんが勇気を出していってくれたもん

 

 でも無理をしてまで名乗り出てもらわないでいいよ

 別に恩を着せるために遊んだわけじゃないからね」

 

櫛田の言葉に佐倉はうまく答えられないようだ

 

「本当にいいの?

 

 無理、してない?」

 

櫛田の問いかけに佐倉は申し訳なさそうに頷いた

 

「大丈夫・・・多分、黙ってたら後悔、すると思うから

 

 私もね・・・クラスメイトを困らせたいわけじゃないの

 

 だけど、目撃者として声を上げたら

 どうしても目立ってしまうから・・・それが嫌で・・・ごめんなさい」

 

佐倉はそう言って謝る

 

「ありがとう佐倉さん

 

 これで須藤君も喜ぶよ」

 

佐倉の手を取る櫛田に、笑顔の櫛田を見つめる佐倉

 

「・・・・・・これで第一段階完了、と言う事ですね・・・・」

 

その二人の様子を見てそうつぶやく仮面をかぶった綾小路であった

 

・・・・四・・・・

 

「・・・・・・佐倉嬢は証言をしてくださると約束してくれましたね・・・・」

 

「うーんでも私としてはもう少し仲良くなりたかったっていうのが残念かな?」

 

佐倉と別れた後、仮面をかぶった綾小路は櫛田とともに帰路についている

 

「・・・・・・そう言えばあの時・・・・

 

 櫛田嬢は佐倉嬢の眼鏡をはずそうとなされていましたね・・・・

 

 あれはどのようなお考えがあってのことで?」

 

「うーん、なんとなく似合わない感じがしたんだよね

 

 佐倉さんと眼鏡が結び付かないって言う感じと言うか・・・」

 

「・・・・・・おそらくですが

 櫛田嬢の予感は当たっているものと思われます

 

 服装はと言うものは大体、そのものの性格を表しています

 

 佐倉嬢は人見知りの上に協力目立たないようになさっていました・・・・

 

 服装そのものは佐倉嬢の見たとおりの性格通りであると我も思います・・・・」

 

「たしかに、意識しておしゃれをしているとも思えないし

 

 だけどどうしてそんなことを聞くの?」

 

櫛田が綾小路の言葉に不意に聞き返す

 

「・・・・・・あのメガネのみ、どうにも服装にあっていません・・・・

 

 おそらくあれは目が悪いからしているというわけではありません

 おそらくはそれとは別の意味でしているのかもしれませんね・・・・」

 

「目が悪いからしているのとは別の理由?

 

 それっていったい・・・」

 

「・・・・・・おそらくですが、佐倉嬢は

 何らかの理由で自分を隠しているのかもしれません・・・・

 

 そうでなくては佐倉嬢が度が入っていない

 メガネをしている理由がありませんゆえに・・・・」

 

「伊達メガネってことか・・・

 

 でも確かにおしゃれだったら

 眼鏡だけなんて普通はしないもんね・・・」

 

櫛田は仮面をかぶった綾小路の言葉に考え事をしていく

 

「・・・・・・ここからはあくまで推測ですが・・・・

 

 もしや佐倉嬢は己自信を隠すために眼鏡をしているのかもしれません・・・・」

 

「つまり、佐倉さん自身は何かを隠したくって伊達メガネを?」

 

「・・・・・・普段の佐倉嬢を見ていても

 極力前かがみになっていたり、他人と目を合わさんとしています・・・・

 

 ただの人嫌いと言うわけでもない、とすれば

 もしや素の自分を見せたくないという思いから来ているのやもしれません・・・・」

 

ーあるいはもしかしたら、自分と同じなのかもしれないー

 

「やっぱり綾小路君を連れてきて正解だったね

 

 相手のことをよく観察してる気がする」

 

「・・・・・・いえいえ、櫛田嬢がうまく自然に会話を

 つなげていってくれたからこその成果ですゆえ・・・・

 

 我がすごいと言われるものではありませんよ・・・・」

 

櫛田の称賛を称賛で返す仮面をかぶった綾小路

 

「それからね・・・」

 

すると不意にキャッチが入る

 

「・・・・・・佐倉嬢・・・・?」

 

櫛田は綾小路の反応が気になって

彼の手に持っているものをのぞき込もうとするが

 

その前に声をかけられる

 

「・・・・・・櫛田嬢・・・・

 

 今日はここまでにしてもらえますか・・・・

 

 佐倉嬢が証言してくれると堀北嬢に伝えねばなりませんので・・・・」

 

「あ、うん、それじゃあまた明日ね・・・」

 

こうして櫛田と分かれると、仮面をかぶった綾小路は通話に出る

 

「・・・・・・もしもし・・・・?」

 

「・・・・・・」

 

応答して数秒、返答は聞こえなかったが

 

「・・・あ、あの・・・佐倉、です・・・」

 

「・・・・・・ええ、どうかしたので・・・・?」

 

ようやく佐倉の返答が来るが

特に気にすることでもないので何も言わない

 

「き、今日は、付き合ってくれてありがとう」

 

「・・・・・・いえ・・・・

 

 大したことではありません・・・・

 

 むしろこれで佐倉嬢のお力に

 少しでもなれたなら、我としても幸いです・・・・」

 

「うん・・・」

 

佐倉はどうやらどのように会話を続けていくか迷っている様子

 

「・・・・・・いかがなされました・・・・?」

 

「えっと・・・」

 

またも無言が続く

 

「・・・き、今日のことで・・・

 

 何か、思ったこと・・・なかった?」

 

佐倉はそんなことを聞いてくるが

アバウトで不明瞭な言葉のため何を求めているのかわからない

 

「・・・・・・今日のこと、ですか・・・・?

 

 何かあったでしょうか・・・・?」

 

あらためて聞き返すが、それもかなわず

 

「ううん、ごめんね、なんでもないの・・・おやすみなさい」

 

そう言って通話は切れてしまうのであった

 

「・・・・・・・・・・」

 

仮面をかぶった綾小路は考えるしぐさを見せる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・やれやれ、面倒なことにならなければいいのですがね・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

               




「・・・はあ・・・」

佐倉は綾小路との通話を切ると
前かがみになって考え事をするような仕草を見せる

「・・・・・・」

佐倉は今日、カメラを私に行った時に
あったあの店員のことを思い出していた

体を抱えるように腕を回し
小刻みにふるわせていく

おびえているようだ

「・・・う、うう・・・」

しかし

佐倉は助けを求めたくとも
求められない、彼女の性格もあるが

何より下手に誰かに話したら
目立ってしまうかもしれない

彼女の抱えている秘密

それは何なのかわからない

「・・・・・・」

だが少なくとも自分の身が危ないことは
彼女自身も気が付いている、だがどうすればいいのか

それが分からない

誰かに相談すればいいのだろうが
人見知りの激しい彼女には難しいものだ

その彼女の不安に押しつぶされそうになった
その心は、彼女が朝起きたときに不意に聞こえた

あの笛の音のみだった




















       


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Shura et Shura, leurs spéculations respectives

Approche


「いよいよ残る一日・・・・

 

 準備の方はあらかたすんでいる・・・・

 

 だがどうしても必要なものがそろえられない・・・・」

 

「うーん・・・・

 

 どうしたらいいんだろう・・・・」

 

「やっぱりポイント持ってる奴に借りるしかないか・・・・」

 

「今のDクラスにそんなポイントを持ってる奴なんて・・・・」

 

「あー思ってたよりも手間取りそうね・・・・」

 

「・・・・・・・・・・」

 

六人の少年少女が雑談をしている

 

「ところでおいら・・・・?

 

 一之瀬の方はどうなったんだい・・・・?」

 

「ふえ!?

 

 さ、さあ、何にも聞いてねえが・・・・・・うん?」

 

好戦的な雰囲気の綾小路が何かに気が付いた

 

それは掲示板の張り紙だった

 

「これは・・・・!?」

 

それは須藤の事件についての情報を持つ生徒を募集する張り紙だった

 

「ふふーん・・・・

 

 これは親切な奴がいたもんだ・・・・」

 

「・・・・・・しかしいったい誰が・・・・」

 

「そんなの決まってるじゃない、ほらきた・・・・」

 

女子の綾小路が指さしたその先から現れたのは

 

「おっはよー綾小路君」

 

一之瀬であった

 

「あ、一之瀬さん!」

 

「おはよーってあれ?

 

 綾小路・・・・さん・・・?

 

 綾小路君にあいさつしたつもりだったんだけど・・・・」

 

「まあそれはともかく

 

 この掲示板張ったのって・・・・?」

 

一之瀬に張り紙を見せる

 

「おーこれはいい手だね」

 

「一之瀬さんじゃないっていうことは・・・・」

 

すると

 

「・・・・あ、いたいた

 

 おはよう神崎君」

 

一之瀬が一人の男子生徒を呼び止める

 

「この張り紙って、神崎君が?」

 

「ああ、金曜日のうちに用意して張っておいた

 

 それがどうかしたのか?」

 

「ううん、ただやっぱり神崎君なんだなって思っただけ

 

 やっぱり神崎君って頭いいよね」

 

「綾小路か、こうして話すのはしばらくぶりだな」

 

「あれ?

 

 二人って知り合いだったの?」

 

「うん、一之瀬さんよりもちょっと後だけどね

 

 まあその時は二、三お話ししただけだけど」

 

「ふうーん

 

 まさかあのあがり症の神崎君がね~」

 

「それは別にいいだろう・・・」

 

神崎と呼ばれた男子生徒は恥ずかしそうに顔をそらす

 

「まあそれより、何か有力な情報はあった?」

 

「いくつか入ってはきたが、残念ながらどれも有益だと思える情報はない」

 

「そっか

 

 じゃあこっちの方も見てみるね」

 

「一之瀬さん、掲示板って?」

 

一之瀬はケータイを女子の綾小路に見せる

 

「実は学校のHPにも掲示板があってね

 

 そこで情報提供を呼び掛けているの

 

 学校での暴力事件について目撃者がいれば話を聞かせてもらいたいってね」

 

「なるほど・・・・」

 

画面をまじまじと見つめる女子の綾小路

 

「でも有力な情報をくれた人にはポイントを支払うってあるけど・・・・」

 

「あ、ポイントのことなら気にしなくていいよ

 

 私達が勝手にやってることだから

 

 それに今の手ごたえだとちょっと新しい情報は難しいかもね・・・・あ」

 

「どうしたの?」

 

「書き込み、2件ほど、メールが来てる

 

 えーっと・・・」

 

一之瀬は携帯の画面を確認する

 

「こんな感じなんだけど」

 

携帯を相手に見えるように見せていく一之瀬

 

「例のCクラスの一人、石崎君は中学時代相当なワルだったみたい

 

 喧嘩の腕も結構立つらしくって地元じゃ恐れられてたんだって

 

 同郷の子からのリークかな」

 

「なるほどな」

 

神崎はそうつぶやく

女子の綾小路の方もふむふむと掲示板を見る

 

「神崎君はこれ見てどう思った?」

 

「もしかしたら須藤にやられたのはわざとなのかもしれないな

 

 三人が須藤を罠にはめるために動いたと考えれば自然と話はつながる」

 

「うん、そうなんだよね

 

 あとはこの情報の裏付けがしっかり取れたら

 須藤君の無罪に一歩繋がるかもね、綾小路さんはどう思う?」

 

「おそらくそれでもまだ弱いと思う

 

 よくても多分半々だね、何しろ一方的に

 殴ったっていう事実が重くのしかかっていくと思うし」

 

一之瀬もそうだねと言って顎に手を当てて考え込む

 

「やはり例の目撃者にかけるしかない

 

 そうすれば6:4、あるいは7:3まで持っていけるかもしれない

 

 それで目撃者の方はどうだった?」

 

「櫛田さんが頑張って話をしてるけど

 

 まだ何とも言えないみたいで・・・・」

 

佐倉の名前を伏せて、そう答えていく

 

「そっか・・・

 

 何か事情があるのかな・・・」

 

一之瀬はどうしたらいいものかと考え込んでいる

 

「さすがに別の目撃者に関しての報告はないね

 

 もう残ってる時間は短いけど

 やっぱり情報が来てくれることにかけるしかないね」

 

「ありがとう一之瀬さん、下手したら

 Cクラスに目を付けられるかもしれないのに」

 

「大丈夫大丈夫

 

 もともと私達はCクラスにもあとAクラス

 その両方から狙われることになるわけだし」

 

「一之瀬の言うとおりだ

 

 俺たちには何も問題はない

 

 それに、ルールに基づいての競争なら望むところだが

 今回はそのルールの外、許していい行いじゃない」

 

一之瀬も神崎もともに学校側と同級生と、正々堂々と戦わんとしていた

 

「それじゃあ、情報くれた子にはポイント振り込んであげないとね

 

 あ、でも相手は匿名希望か・・・・どうやってポイント譲渡すればいいんだろう?」

 

すると一之瀬の後ろからぬっと出てきたのは

 

「ちょっといいかな・・・・?」

 

「うわああああ!?

 

 だ、誰!?」

 

不気味な雰囲気の綾小路であった

 

「私は綾小路だよ・・・・

 

 それよりもちょっと貸してくれるかね・・・・?

 

 これでも私は機械には強いからさ・・・・」

 

「う、うん・・・」

 

一之瀬の学生証を借りて

ポイントの譲渡を教えていく

 

「こうやってポイントの差金画面を開いて

 この画面の左上に自分のID番号が見えるだろう・・・・?」

 

一之瀬は最初動揺していたが

丁寧に教え込んでくれるので聞き入っている

 

「えーっと・・・」

 

一之瀬はある程度理解すると

いよいよ実践しようとしていくと

 

差金画面が開かれると一之瀬は不意にあ、っと声を漏らし

 

学生証を不気味な雰囲気の綾小路から取り上げる

 

「えーっと確かこのID番号をこうすればいいの?」

 

「そのID番号から一時的なトークンキーを発行できる・・・・

 

 それを対象に伝えれば入金のリクエストが来るはずだよ・・・・」

 

「うん、覚えた

 

 ありがと綾小路君」

 

「それじゃあ先に行くよ・・・・

 

 そろそろ時間だ・・・・」

 

「うん」

 

一之瀬と神崎が自分のクラスに向かって歩き出していくのであった

 

「・・・・・・・」

 

「どうしたの神崎君?」

 

「・・・・いや、なんでもない」

 

神崎は去り際に不気味な雰囲気の綾小路を見る

不思議と彼は笑っているように見えたのだった

 

・一・

 

「おっはよー綾小路君!」

 

櫛田が元気に挨拶をするが

対象は櫛田の方を向かずに携帯をいじっていた

 

「あれ?

 

 何やってるの?」

 

「ああ・・・・

 

 一之瀬が言っていた

 情報提供のための掲示板さ・・・・

 

 私の方からも何かないと思ってね・・・・」

 

櫛田はふうんと綾小路の携帯の画面をのぞき込む

 

「そう言えば、昨日家電量販店にいたみたいだけど

 

 何か探していたの?」

 

「そうだよ・・・・

 

 まあポイントがないから

 見るだけに終わってしまったがね・・・・

 

 まあもっとも手に入れる方法はもう見つけたけどね・・・・

 

 フフフフフフ・・・・」

 

不気味な笑みを浮かべる綾小路に

やや櫛田は乾いた笑いを浮かべる

 

「ねえ綾小路君、よかったらまたいつか遊びに行こうね」

 

「・・・・・・そう言うのは誰もいないときに言ってくれないかね・・・・」

 

すると櫛田は綾小路の隣人に気づいて、ごめんねーと言いながら去っていく

 

「休日は櫛田さんと一緒だったの?」

 

聞いてきたのはその隣人、堀北だった

 

「ちょっとした用事で出かけていただけさ・・・・

 

 一緒に出掛けていたわけじゃないよ・・・・」

 

「そう」

 

「うん・・・・?」

 

綾小路は堀北の方を見ると

堀北の表情は見たことのないものになっていた

 

「どうしたんだい・・・・?」

 

「どうした、とは?」

 

「言いたいことがあるなら言えばいいじゃないか・・・・」

 

「別に言いたいことなんてないわ

 

 ただ言わせてもらうなら

 随分勝手に動くようになったなと感心していたのよ

 

 私が頼むときは渋るくせに、櫛田さん相手だとすんなり承諾するのね

 

 その違いは何なのか、冷静かつ慎重に分析していたところよ」

 

堀北がそこまで言うと不意に後ろに誰かが立つ

 

「・・・・・・違いなんてありませんよ・・・・

 

 それに正確には誘ってくださったのは櫛田嬢ではありませんので・・・・」

 

不意に話しかけられて吃驚した様子で勢いよく振り向く堀北

 

「・・・・・・堀北嬢、昨日もお話ししましたが

 佐倉嬢は証言してくださると仰ってくださいました・・・・

 

 堀北嬢にはそれをもとにできる限りの手立てを考えていただきたいのです・・・・」

 

「そのくらい分かっているわ」

 

仮面をかぶった綾小路の言葉に堀北はややそっけなく突き放すように言い放つ

 

すると仮面をかぶった綾小路の後ろに近づいてきたのは

 

「堀北さんもあんな表情をするんだね、なんだか新鮮だね」

 

「新鮮ねえ・・・・

 

 特に何も変わらなかったと思うけど・・・・」

 

「あれは間違いなく、どうして私を誘ってくれなかったのって感じの表情だよ」

 

「・・・・・・堀北嬢がそのような心情を・・・・?」

 

「堀北さんも気が付いてないんだと思うよ

 

 きっと友達と話したり過ごしたりする

 時間の楽しさにに気が付いたんじゃないかな?」

 

「まさか・・・・

 

 君だって彼女が君に良い感情を

 持っていないのは知ってるだろう・・・・?」

 

「違うって綾小路君、堀北さんは綾小路君に

 誘ってもらえなかったことが嫌だったんだよきっと」

 

「「・・・・・・それはないね(でしょう)・・・・」」

 

櫛田の言葉に声をそろえて否定する二人の綾小路であった

 

・・二・・

 

ホームルーム後

 

職員室の前で茶柱先生を呼び止める櫛田

そのそばには佐倉の姿もある、教室では目立ってしまうため

 

ホームルーム後、人通りのほとんどない職員室前で呼びかけたのは

人見知りな佐倉に配慮したものである

 

「目撃者?

 

 須藤の事件のか?」

 

「はい

 

 こちらの佐倉さんが事件の一部始終を見ていたんです」

 

櫛田がやや後ろにいた佐倉をそっと誘う

 

「須藤たちの喧嘩を見ていたそうだな」

 

「・・・はい、見ました」

 

佐倉は茶柱先生に凝視されてどうしても身を引いてしまいそうになる

 

「話は分かった

 

 だが、それを素直に聞き入れるわけにはいかないな」

 

茶柱先生の言葉に櫛田は慌てて聞く

 

「どういうことですか?」

 

「佐倉、どうして今になって証言した

 

 私がホームルームに報告した際に

 名乗り出ればよかっただろう欠席していたわけでもなかろう」

 

「そ、それは・・・その・・・

 

 私は、人と話すのが、得意じゃないので・・・」

 

「得意じゃないのに今になって話すのはおかしいと思うがな?」

 

茶柱先生は佐倉に追及していく

 

「でも先生、佐倉さんは・・・」

 

「今私は佐倉に聞いているんだ」

 

茶柱先生の鋭く、怒気のこもった声で櫛田を鎮圧する

 

「えっと・・・クラスの、が

 困ってるから・・・私が証言することで

 助かるなら・・・そう思ったから・・・」

 

佐倉は小さく縮こまりながらも自分の心情を語っていく

 

「・・・・なるほど、お前なりに勇気を振り絞ってのことだったんだな?」

 

「はい・・・」

 

「私も担任としてお前の性格は分かっているつもりだ

 

 だからお前がこうして名乗り出てくれたなら

 私も当然の義務としてそれを学校側に伝える用意がある

 

 だがだからと言って学校側がそれを素直に聞き入れ

 須藤が無罪になることは残念ながらないだろう」

 

「ど、どういうことですか?」

 

「本当に佐倉は目撃者なのか?

 

 Dクラスがマイナス評価を受けるのを恐れて

 でっち上げた嘘なんじゃないかと学校は思い込むだろう」

 

「そんなの、いくら何でもひどいですよ!」

 

「ひどい?

 

 本当に事件を目撃しているなら初日に申し出るべきだ

 

 期限ぎりぎりになって名乗り出られても怪しむのが自然だ

 

 ましてやDクラスの生徒であるとくればなおさらな

 

 疑うなと言う方が無理がある、少なくとも私はそう思う

 

 都合よく同じクラスの生徒が人気のない校舎にいて偶然一部始終を目撃した

 

 出来すぎだ」

 

茶柱は言い放つ

 

「出来すぎか・・・・・・確かにね・・・・」

 

そこに不気味な雰囲気の綾小路が姿を見せる

 

「あ、綾小路君!?」

 

「茶柱の言うことはもっともだよ・・・・

 

 佐倉が事件を目撃していた

 これは第三者から見ればできすぎている・・・・

 

 私も第三者ならばきっと茶柱と同じ意見だったろうさ・・・・

 

 公正な判決を下そうと考えるなら目撃証言としては弱いだろう・・・・

 

 でもだからって彼女の意見を嘘だと決めつけるのは早計だと思うが・・・・?」

 

「・・・・そのくらいは分かっている

 

 一応受理はしておくことにはしよう

 

 それともう一つ、場合によっては審議当日

 佐倉には話し合いに出席してもらうことになるだろう

 

 人見知りなお前に、それができるか?」

 

含みを込めた言葉で佐倉に言いよる茶柱先生

 

「嫌なら嫌で構わない、自体と言う事にしておく

 

 ただしその際には審議に参加する須藤に伝えておくように」

 

「佐倉さん・・・、大丈夫?」

 

「う、うん・・・」

 

佐倉は返事をするが、自身はなさそうである

 

「・・・・・・茶柱先生、失礼を承知で

 一つ我から提案させていただきたいことがあります・・・・」

 

その場に突然現れた仮面をかぶった綾小路が茶柱先生に言う

 

「・・・・・・その当時の審議ですが・・・・

 

 我々の方でも参加させていただきたく存じます・・・・」

 

「ふえ・・・!」

 

「私からもお願いします」

 

仮面をかぶった綾小路の提案を受けてもらいたく

頭を下げる二人、すると茶柱先生は答える

 

「須藤が了承するならば許可しよう

 

 だが、公平を促すため最大二人までの同席

 それ以上は残念ながら承諾はできない、誰を出席させるかは

 お前たちの方で任せる、よく考えて決めておくように」

 

と職員室に入っていく茶柱先生

教室に戻って堀北にこのことを報告する

 

「まあ、当然と言えば当然ね」

 

「ごめんなさい・・・私が、もっと早く名乗り出ていたら・・・」

 

「確かに事態は少し変わったかもしれないけど

 それほど大きな違いはなかったでしょうね

 

 目撃者であるあなたが同じDクラスだということが運の尽きね」

 

「フフフフフフ・・・・

 

 まさか君が誰かをかばう

 ような言い方をするなんてね・・・・

 

 君なりの慰めかい・・・・?」

 

「違う、私はあくまで私のために動いてるって言ったでしょ」

 

不気味な雰囲気の綾小路の言葉にやや怒って否定する堀北

 

「それと櫛田さん

 

 その同席する役目だけど

 私と綾小路君に出席させてもらえないかしら

 

 貴方なら佐倉さんの支えになることは十分理解はしてる

 でもこれは討論、そうなってくると話は変わっていく」

 

「・・・そうだね、確かに私だとその部分じゃ力にはなれないと思うし・・・」

 

「・・・・・・私もそれで構わないよ・・・・」

 

こうして話がまとまっていく

 

「佐倉さんもそれで構わないかしら?」

 

「・・・わ、わかった」

 

佐倉はまだ自信が持てないようでそう返事をするのであった

 

・・・三・・・

 

「ねえ綾小路君・・・

 

 どうして私までここに来る必要が?」

 

「君も出席する以上君も一緒に

 これからのことを話し合っていくのは大事だろう・・・・

 

 当日にかかっているのは君の能力だからね・・・・」

 

「私に全部任せるつもり?

 

 まったく・・・

 

 日和見主義も度が過ぎれば押しつけがましいわね」

 

「そうかい・・・・?」

 

不気味な雰囲気の綾小路は堀北を連れて櫛田と須藤たちのもとに来たのだった

 

「いよいよ明日だね・・・須藤君の無実を証明できるかな?」

 

「あったりまえだろ櫛田

 

 はめられたのは俺なんだ

 無実なのは当然だろ、な、堀北」

 

堀北に意見を求めるが堀北は黙って昼食のパンをとっている

 

「どうなんだよ?」

 

須藤は空気を読まずに堀北の顔を覗き込む

 

「汚い顔を近づけないで」

 

「・・・うぐ、汚くなんかねーよ・・・」

 

堀北の直球に須藤はひどくショックを受ける

 

「まったく、どうして貴方は簡単に無実を

 証明できると思っているのが不思議でならないわ

 

 対抗する材料が集まってきたとはいえ

 状況的にもまだこっちが確実に不利なのよ」

 

「真実を知る目撃者

 敵の過去の素行の悪さ

 

 それだけで十分だっての

 

 ったくわりぃ奴らだぜ」

 

「素行が悪いのはお互い様だろう・・・・」

 

不気味な雰囲気の綾小路がそう言うと

須藤はうぐ、っと口をつぐんでしまうのだった

 

「あ、おいちょ、まだ読んでる途中なんだよ!」

 

「いいじゃんかよ

 

 俺だって金半分だしてんだからさ

 

 あとで渡すって」

 

池と山内が漫画の週刊誌をとりあっている

 

「まったく・・・・

 

 金がないって言ってるくせに

 よくもまあそんなのが買えるものだね・・・・」

 

「なんだよ綾小路!

 

 そんなこと言うんだったらぜってぇに読ませねえからな」

 

「どうぞ・・・・

 

 私は漫画よりは小説の方が好きだからね・・・・」

 

笑いながら二人の会話をあおっていく不気味な雰囲気の綾小路

 

「あれ・・・?」

 

櫛田は不意に二人の見ている

週刊誌の表紙を見て何かを考えこむ仕草を見せる

 

「・・・もしかして・・・」

 

「・・・・・・櫛田嬢・・・・?」

 

「あ、ううん、何でもない

 

 ちょっと引っかかったのことがあって」

 

櫛田はそう言って何かを調べ始めるのだった

 

・・・・四・・・・

 

綾小路の部屋

 

「須藤君は相変わらずだね・・・・

 

 まだ自分が不利なのは変わらないっていうのに

 これはもう、馬鹿を通り越して大物だよねまったく・・・・」

 

「ぶっちゃけあの時同席を提案しないと

 まずいことになっているのは間違いないと思うし・・・・

 

 まあどんな意見を述べるのかは堀北に任せればいい・・・・

 

 今の時点ならばそれで問題はないと思うけれどね・・・・」

 

六人のうち二人の少年がそんな会話をしていると

 

「・・・・・・・・・・」

 

仮面をかぶった綾小路は不意に部屋を出ていく

 

「我?

 

 どこに行くの?」

 

「・・・・・・・・・・」

 

女子の綾小路の問いに答えずに

ただ部屋を出ていくのであった

 

その後部屋から出てきた仮面の綾小路は

鍵を閉めたのち、エレベーターの方へと向かっていく

 

「・・・・・・・・・・」

 

エレベーターが来たがそこには招かれざる客がいた

 

「あら?

 

 綾小路君?」

 

それは堀北だった

 

「・・・・・・・・・・」

 

仮面をかぶった綾小路は黙ってエレベーターの10階のボタンを押す

 

「・・・・・・お買い物をなされていたのですね・・・・」

 

不意に声をかけられたものの

特に驚くこともなく答える堀北

 

「ええ、材料がそろそろ足りなくなってきてね」

 

とビニール袋を上げて綾小路に見せる

 

「・・・・・・なるほど・・・・」

 

それ以降は特に会話をすることはなかったが

今度は堀北が不意に声をかけてきた

 

「それで?

 

 貴方は何で女子寮のところまで行くつもり?」

 

堀北の問いに仮面越しに堀北の方を見る綾小路

 

「答えないつもり?」

 

堀北はにらみを利かせるが

少なくとも不審者を見つめるものではない

 

「普通だったら不審者として疑うところだけれど

 貴方は少なくともこんな無意味なことをする人じゃない」

 

「・・・・・・何が言いたいので・・・・?」

 

やや凄みの聞いた声だが

堀北は動じずに続けていく

 

「佐倉さんに会いに行くんじゃないの?」

 

「・・・・・・いいえ・・・・」

 

仮面越しに見つめるその目は

堀北の反応を見つめていたが

 

「まあ別にいいわ

 

 貴方がどこに行こうと何をしようともね」

 

やがて目的の階に来たので降りていくのであった

 

 

 

 

「・・・どうぞ」

 

「・・・・・・失礼いたします・・・・」

 

ある部屋の中に入っていく綾小路

その部屋は堀北の指摘通り、佐倉の部屋だった

 

「・・・・・・それで、我に話というのは・・・・?」

 

「あの・・・綾小路君が前に、言ってたこと覚えてますか・・・

 

 私が目撃者だったとしても名乗り出る義務はないって言ってたこと

 

 無理に証言したことに意味はないって」

 

「・・・・・・特別棟で話した時のことですね・・・・」

 

綾小路の言葉に佐倉はうなずく

 

「・・・私・・・やっぱり不安です・・・・・・」

 

「・・・・・・人前で証言することに対して、ですか・・・・?」

 

「昔っからダメなんです・・・人前で話すことが苦手で・・・明日

 先生たちの前であの日のことを聞かれたら、ちゃんと答えられる

 自信がなくって・・・それで・・・」

 

佐倉はテーブルに額を打ち付けて小さな声で口を開く

 

「うう・・・どうして、私はこんなダメな性格に生まれてきちゃったんだろ・・・」

 

自分を恥じる言葉が綾小路の耳にも届く

 

「・・・・・・佐倉嬢、余りご自分を責めてはなりませんよ・・・・」

 

仮面越しに佐倉に気遣うような視線を向けて佐倉に優しく声をかける

 

「・・・ふぇっ!?」

 

佐倉はその言葉を聞いて顔を真っ赤にして勢いよく顔を上げる

 

「ご、ごごご、ごめんなさいっ!」

 

慌てて頭を下げる佐倉

 

「・・・・・・お気になさらぬよう・・・・

 

 それにしても佐倉嬢はどうして我に声をかけたので・・・・?」

 

あえて話題を変えて、意識を変えようと質問をする

 

「そ、それは・・・

 

 あ、綾小路君からはどこか

 安心できるって感じがしたから・・・」

 

佐倉の返答に首をかしげる綾小路

 

「・・・・・・安心できる、ですか・・・・?」

 

「私そう言うのがなんとなくわかるんです・・・

 

 どう、伝えらればいいのか、わからないけど」

 

佐倉自身もそう言うのはうまく伝えられないらしい

 

「男の人はその・・・優しそうな人も、急にその、怖くなったりするから・・・」

 

佐倉はどうにかして伝えようとするも

どうしてもどう伝えればいいのかわからずに、口ごもってしまう

 

「見たことや感じたことをそのまま話せばいいってわかってるんです

 

 だけど、それがどうしても

 イメージできなくって・・・どうすれば積極的に話せるんでしょうか?」

 

佐倉は綾小路に問いかける

 

「・・・・・・どうしても無理だというならそれでいいと思いますよ・・・・?」

 

「・・・怒らないんですか・・・?」

 

「・・・・・・強要したところで

 意味のないことだとは、最初に言いましたから・・・・」

 

仮面越しになるべく優しい目つきで佐倉に話しかけていく

 

「あの・・・

 

 綾小路君はどうするのが一番だと思いますか・・・?」

 

「・・・・・・申し訳ありませんが

 佐倉嬢のその問いには答えかねます・・・・」

 

綾小路は佐倉の問いにそう返す

 

「そうですよね

 

 こんなこと急に言われても困りますよね・・・ダメだな、私

 

 こんなだから友達が一人もできないんでしょうね・・・」

 

佐倉は再び、自分を責めるようなことを言い始める

 

「・・・・・・友達というものは、自然にできる物だと我は思いますよ・・・・」

 

「え・・・?」

 

「・・・・・・まあ言うならば友達が欲しいからと

 あれこれ難しく考えることはありません・・・・

 

 むしろ自然に、自分から歩み寄っていけば

 自然と相手と親しくなれる物だと我は思います・・・・

 

 自分からでも相手からでも、あ、このお相手となら大丈夫・・・・

 

 たったそれだけのことでもいいのですよ

 佐倉嬢は先ほど我のことを安心できると感じた・・・・

 

 それだけでも、友達になるきっかけとしては十分ですよ・・・・

 

 その証拠に、貴方はこうして我と己なりに向き合って話しています・・・・」

 

仮面をかぶった綾小路は佐倉の肩にそっと手を置いた

 

「・・・・・・佐倉嬢は、我が友達ではいけないとお思いですか・・・・?」

 

佐倉は不意に首を勢いよく横に振る

 

「・・・そんなことはありません

 

 むしろ私こそ・・・綾小路君と友達で・・・いいのかなって・・・」

 

「・・・・・・我はそんなこと思っていませんよ・・・・

 

 我は、佐倉嬢が我をどのように感じているのかが

 佐倉嬢自身のお声で、お言葉でお聞きしたいのです・・・」

 

「・・・わ、私は・・・私も、うれしいです・・・

 

 こんな私に、親身になってくれて、友達だって、言ってくれて・・・

 

 ありがとう・・・」

 

佐倉は自然と笑顔を浮かべて答えていく

 

そんな佐倉を見て仮面でおおわれているが

その仮面からのぞかせる瞳が不思議と笑みを浮かべているようにも見える

 

「綾小路君、今日は私なんかに会いに来てくれてありがとう」

 

「・・・・・・いいえ、大したことではありません・・・・

 

 こんな我でもお力になれるのならばいつでもお声をおかけください・・・・」

 

仮面をかぶった綾小路の言葉に不思議と佐倉は笑みを浮かべる

だがやはりどうしても先行きが不安なのが見て取れている

 

「・・・・・・佐倉嬢、この後のご予定は・・・・?」

 

「この後ですか・・・?

 

 いえ、特には・・・」

 

佐倉は恐る恐る答えていく

 

「・・・・・・よろしければ、少し外をご一緒に歩いてみませんか・・・・?」

 

それを聞いた佐倉は

 

「はう!?」

 

勢いよく立ち上がって膝をぶつけてしまった

 

「・・・・・・佐倉嬢!?」

 

「いたたた・・・だ、大丈夫ですから・・・」

 

慌てて駆け寄る綾小路に大丈夫と訴える佐倉だが

涙を流して激痛に耐えているのは誰が見ても明らかである

 

「・・・あ、あの・・・

 

 出かけるのはいいですけど、どこに行くかは決めているのですか?」

 

ぶつけた際にとんだ眼鏡をかけなおしながら問う佐倉

 

「・・・・・・いえ、特には決めていません

 

 あくまで我は佐倉嬢に合わせたいと思っていますので

 佐倉嬢がお決めになってくださって結構です、嫌ならばそれで構いません・・・・」

 

すると佐倉は遠慮がちに答える

 

「もしよかったら・・・行きたいところがあるんです・・・そこでもいいですか?」

 

「・・・・・・先ほども申した通り

 佐倉嬢のいきたい場所で構いませんよ・・・・」

 

佐倉の望みに、仮面越しに優しく返す綾小路だった

 

・・・・・五・・・・・

 

「・・・・・・ここは確か部活動を中心に行っている施設ですね・・・・」

 

その場所に気て仮面をかぶった綾小路は正直驚いている

佐倉は性格上こういうところには来ないと思っていたからだ

 

「いつか行ってみたいって思ってたんですけれど

 一人で来るとどうしても目立ってしまうから・・・」

 

「・・・・・・確かにこの場に一人でくれば

 部活に興味のある者と勘違いされる恐れもありますし・・・・」

 

二人でそのあたりをぶらぶらと歩いている

 

「あ、あの、綾小路君はどうしてこんなにも親身になってくれるんですか?」

 

「・・・・・・その答えには、少し答えかねますね・・・・」

 

あえて言うならばと言葉を続けていく綾小路

 

「・・・・・・ただ我は佐倉嬢のお力に

 少しでもなれるのならばと思った次第です・・・・

 

 それに我は佐倉嬢のことを少しでも知りたいと思いました・・・・

 

 そうすれば少しでも、佐倉嬢の助けになれればと思い

 こうして外に出て気分が少しでも晴れていただけばと思っただけですよ・・・・」

 

佐倉はその言葉に疑問があるのか、懐疑的な態度を見せる

 

「でも綾小路君には、周りにたくさんお友達がいますよね?」

 

「・・・・・・お友達、ですか・・・・?」

 

「えーっと・・・

 

 堀北さん、櫛田さん、池君、須藤君、山内君・・・」

 

佐倉は名前を上げていく

 

「・・・・・・その方たちは確かに親しくはさせてもらっていますが・・・・

 

 佐倉嬢の言うような友達、と言うのとは少し違うかもしれませんね・・・・

 

 佐倉嬢から見ると、我と彼らは仲がいいと感じますか・・・・?」

 

綾小路の問いに佐倉は黙ってうなずく

 

「私は、友達を作るとか、そう言うのが苦手だから・・・ちょっと羨ましいなって

 

 だからさっき綾小路君に友達だって言ってもらえたのだって初めてだから・・・」

 

「・・・・・・いえ、最初にお声をかけた櫛田嬢は・・・・?」

 

すると佐倉はどこか自嘲気味にいう

 

「櫛田さんにはいつか謝らないといけません

 

 声をかけてくれたのも最初に誘ってくれたのも櫛田さんだったのに

 私、優生が出なくって・・・・どうしても答えられなくって

 

 情けないです、私にも話しかけてくれたのに」

 

櫛田はまたも自分を責めていく

 

「・・・・・・佐倉嬢、あまり多くのことを気にしていては

 それこそ余計に己自信を責めていく事になっていくと我は思いますよ・・・・」

 

「え?」

 

仮面をかぶった綾小路は佐倉に話しかけていく

 

「・・・・・・明日のことについても同じです・・・・

 

 須藤殿のため、櫛田嬢のため、クラスのため

 一度その考えをすべて捨てて、ある一つに絞っていくと良いと思います・・・・」

 

「え・・・?

 

 ある一つ・・・って?」

 

「・・・・・・事件を目撃したという真実を話す

 佐倉嬢自身のために証言なさればいいと我は思います・・・・

 

 佐倉嬢はどこか自分自身を大切にするということができていなく感じます・・・・

 

 自分自身の問題を何でも一人で抱え込んでしまう傾向があります・・・・

 

 誰かのために動くにはまずは己自信のために動くことから始めてみませんか・・・・?」

 

不意に佐倉の頬に優しく触れていく

 

「・・・・・・本当のことを自分のために話す

 

 それで須藤殿が少しでも救われるのならば

 それで十分だと我は思いますよ・・・・」

 

あくまで須藤やクラスのためでなく

佐倉自身のために、その言葉に佐倉はどこかすっきりしたように感じた

 

「・・・綾小路君、ありがとう」

 

佐倉は笑顔でそう答えるのであった

 

・・・・・・六・・・・・・

 

「我の奴、一体どこに行ってんだ・・・・」

 

外では動物的な雰囲気の綾小路が外を歩いていた

 

「あ、綾小路君」

 

「うん・・・・うげっ」

 

声をかけられた方を向くと

そこには彼ができることなら

 

かかわりたくない人物、櫛田だった

 

そして周りには池たち三人もいる

 

「櫛田ちゃんが何か進展があるって言ってたら

 綾小路の姿が見えたから、声をかけようって櫛田ちゃんが」

 

「実は綾小路君やみんなにも見てもらいたいものがあるんだけど・・・」

 

そう言ってケータイを操作し

ある画面を一同に見せていく

 

「これなんだけど」

 

それはブログのようだった

 

見たところ作りが凝っていて

個人用と言うよりも業者が手掛けるような本格的なものだ

 

「あ、この子、雫ちゃんだ!」

 

「雫?」

 

「グラビアアイドルだよ

 

 ちょっと前までは少年誌にも出てたことあるんだぜ」

 

「グラビアアイドル?

 

 なんだそりゃ・・・・?」

 

動物的な雰囲気の綾小路の言葉にあたりはシンと静まり返る

 

「・・綾小路、それはいくら何でも冗談きついぜ?」

 

「雫ちゃんはおろか、グラビアアイドル自体も知らないなんて・・・」

 

「え?

 

 ひょっとして俺、とんでもなく恥ずかしいこと言った・・・・?」

 

「・・・マジかよ」

 

三バカは信じられないといった具合に綾小路を見る

 

「ま、まあそんなことより

 

 この子、どこかで見たことない?」

 

「いや、雫ちゃんだろ?」

 

「よく見て」

 

櫛田が顔の部分をアップさせていくと

 

「・・・・・・こいつ、佐倉か!?」

 

「へ?」

 

「やっぱり、そうじゃないかなって思ったの」

 

「ちょっと待ってちょっと待って?

 

 もう一度言ってくれないか?」

 

「だからこの雫ちゃん、佐倉さんだよ」

 

「いやいや、雫ちゃんが佐倉だなんて

 さっきの綾小路の爆弾発言並みにあり得ないっしょ」

 

信じられないと笑う二人

 

「綾小路はともかく、櫛田ちゃんまでそんなこと言うなんて」

 

「そもそも眼鏡だってかけてないし、髪型も違うぜ」

 

「俺としてはそう言う見分け方の方が爆弾発言だろ・・・・」

 

動物的な雰囲気の綾小路は櫛田の携帯を借りていくつか操作していく

 

「あの佐倉が、雫ちゃん・・嘘だあ

 

 だって雫ちゃんこんなにも明るい感じがするぜ?」

 

「うん!?

 

 これを見てみろ!」

 

綾小路は一同に声をかけてある画像を見せる

 

「この写真のこの背景、どこかで見たことないか?」

 

「どこかって・・・・あれ?

 

 なんかこの部屋、どこかで見たことが・・・」

 

「ああ、ここ、この学校の寮だよ!

 

 私の部屋もだいたいこんな感じだし」

 

それを聞いて三人も思い出したようにまじまじと画像を見る

 

「じ、じゃあやっぱ佐倉は雫なのか・・・全然ぴんとこねー」

 

「櫛田はいつ気が付いたんだ?」

 

動物的な雰囲気の綾小路は櫛田に問う

 

「池君達が前に週刊誌読んでるのを見て、思い出したんだ

 

 それ以前にも佐倉さんってどこかで見たことがあるなって感じてたから」

 

「まさか俺らのクラスにグラドルがいたなんて!

 

 かーなんだか興奮してきた!」

 

ハイテンションで叫ぶ池に櫛田はやや引き気味である

 

「でも確か雫って人気で始めた後

 急に姿を消しちゃったんじゃなかったっけ」

 

山内がそんなことを言うと

動物的な雰囲気の綾小路はそれが気になり始めていく

 

「ね、ねえ綾小路君、今からちょっと二人っきりで話せないかな?」

 

「あ?

 

 なんで俺と・・・・」

 

「佐倉さんのことでちょっとね・・・」

 

「・・・・・・わーったよ」

 

そう言って櫛田を連れて人気のないところに行く

 

「あ、こら綾小路!

 

 櫛田ちゃんをどこに連れていく気だ!!」

 

「佐倉のことで話があんだとよ」

 

池の追及にそう答える綾小路だったが

 

「怪しいぞぉ、もし告白したら許さないぞ!」

 

また疑り深いようだ

 

「・・・・・・ったく、そもそもよくもまあこの状況で

 そんなのんきな考えにいきわたるもんだな、ったく・・・・」

 

そして誰もいないところに着く二人

 

「・・・・・・なるほどな、つまりあいつが

 目立たないようにしてたのはそう言うことなんじゃないかってことか」

 

「うん、佐倉さんがアイドルをやってるってわかって、少し納得した部分があるの」

 

二人は佐倉のことについて話をしていた

 

「・・・佐倉さんはアイドルをやっている時が嘘の顔なんじゃないかな

 

 うーん、嘘っていうか、もう一人の自分を創り出しているっていうか・・・」

 

「なるほどな・・・・

 

 ある意味お前と一緒ってこったな」

 

「綾小路君、一言多いよ

 

 でも、佐倉さんはそうやることで

 笑顔を作っているんじゃないかなって」

 

櫛田が言うと不思議と説得力があるように思う動物的な綾小路

 

「だとしたら佐倉が証言に立つのはまだ、抵抗があるのかもな・・・・

 

 そうしたら良くも悪くも目立っちまうし・・・・」

 

櫛田はそれを聞いてやや焦りのようなものを覚える

 

「明日の放課後までには佐倉さんを何とか説得してみる?」

 

「・・・・・・いや、そうするとかえって

 抵抗を覚えるかもしれねえ、佐倉に合わせるしかねえ

 

 それに佐倉だってこのままじゃいけないって思うのは本心だろうし

 それに無理強いすればそれこそ佐倉の証言は無意味になっていくだろうよ」

 

動物的な雰囲気の綾小路は言う

 

「そうだね・・・綾小路君の言葉、信じてみるよ」

 

櫛田は笑顔そう言って答える

 

「さて、明日をどうにか乗り切っていけば何とかなるだろう

 

 あとは堀北がうまくやってくれるかどうか、だな・・・・」

 

「大丈夫だよ、堀北さんなら」

 

そうか、と言って櫛田と別れようとするが

櫛田は不意に綾小路の腕を引いて止める

 

「・・・・・・まだ何かようか?」

 

「ねえ、綾小路君・・・

 

 あの時電話で話した時のことだけど・・・」

 

櫛田の雰囲気がどこか変わっているのを感じる

 

「電話・・・・?

 

 ああ、なんかあの時何か言おうとして

 途中でやめたっていうあれか?

 

 そう言うのはこの件が片付いてからでいいだろ?」

 

「・・・そうだよね、お話は須藤君の件が片付いてからでもいいよね

 

 ごめんね綾小路君、急に呼び止めたりして、それじゃあまた明日ね」

 

そう言って綾小路の腕を離す櫛田

綾小路はそれを見て寮の方へと戻っていくのであった

 

「待って」

 

不意にそんな声が聞こえて振り向くと

櫛田が不意に距離を詰めており、そこからつま先を立てて

踵を浮かせて、綾小路の胸に手を当てて耳元に口を近づけて言う

 

「もし綾小路君がお願いを聞いてくれたら・・・私の大切なものあげるから」

 

それを聞いて綾小路は本能的にぞっとした感覚に襲われていく

 

櫛田はその後、元通りの笑顔を見せてその場を去っていくのであった

 

彼はその姿を見て、櫛田に向かって言い放つ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「天使の仮面をかぶった、悪魔め・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・七・・・・・・・

 

「へえ・・・・

 

 まさか佐倉が、えーっと・・・・・・なんていったっけ・・・・?」

 

「グラビアアイドルだ・・・・」

 

「そうそう・・・・

 

 そのグラビアアイドルっていうのは

 分からないけどさ・・・・

 

 調べてみる価値はありそうだね・・・・」

 

そう言ってパソコンを起動させていく

 

「・・・・・・・・・・」

 

「我?

 

 どうしたの?」

 

それに対して終始無反応を貫く

仮面をかぶった綾小路に女子の綾小路が聞く

 

「・・・・・・いえ、何も・・・・」

 

仮面をかぶった綾小路の返答に女子の綾小路は首をかしげるが

 

「うげ・・・・」

 

不気味な雰囲気の綾小路が雫のホームぺージを開くと

その不気味に歪んだその表情をさらに不気味にしかめていく

 

「どうしたの私?」

 

「これを見てみなよ・・・・」

 

それはどうやらコメントや感想などを

打つところのようであった、最初は先ほどの

彼の反応の意味が分からなかったが、読み上げていくたびに

それを見ていた一同の表情がこわばっていくのであった

 

「うえ~・・・・

 

 よくもまあこんなことを

 ネットに書けるもんだよね

 

 匿名であるとはいえさ

 

 しかもこの部分ってどういうこと?」

 

「案外近くにいるってことじゃねえのか?」

 

「・・・・・・・・・・」

 

それを見て握りこぶしを作る仮面の綾小路

 

その仮面越しに見えるその瞳は

どこか口惜しそうな、怒っているようなものだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・っ・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

        




外にあるバスケットの練習場

須藤は一生懸命練習に励んでいた

やがて、練習を切り上げて
帰る準備をしていくが

「好きこそものの上手なれ、とはよく言うもんだな・・・・」

「あ?」

須藤は不意に声のした方を向くと
そこにいたのは動物的な雰囲気を持つ綾小路だった

「綾小路じゃねえか

 こんなところで何やってんだ?」

「たまたま近くを通っただけだ・・・・」

須藤は綾小路の方に走っていく

「ふうん、っていうか声をかけてくれよ

 ここに来たんだったらさ」

「練習の邪魔をしたら悪いと思ってな・・・・」

「け、そうかよ

 まあ邪魔されるよりはましか」

「そう言えばお前は小学生のころから
 バスケットをやっていたんだったな・・・・

 俺はお前がうらやましいよ
 俺はむしろ何かに夢中になったことがないからな・・・・」

「そうなのか」

須藤は驚いたようなことを言うが
特に気にすることなく去っていく

「まあ別に、俺だって好きでバスケやってんだ

 お前も何か好きなことがあったらそれをやってみろよ

 んじゃな」

と寮に帰っていく須藤であった

「好きな事・・・・・・か・・・・」




















       


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Les gens veulent, la vérité et les mensonges

Au moment de la délibération


「さあて、いよいよ審判の時が来た・・・・

 

 すべてに決着をつけるための第二段階と行こうじゃないか・・・・」

 

不気味な雰囲気の綾小路の言葉に

ほかの五人はゆっくりと頷くが、ただ一人

 

仮面で顔を覆った綾小路は声を上げる

 

「・・・・・・私、一つだけいいでしょうか・・・・」

 

「なんだい・・・・?」

 

「・・・・・・佐倉嬢の件、我に任せてもらえますか・・・・?」

 

「・・・・・・別に構わないが

 討論に出られるのは二人でうち一人は堀北で決定している・・・・

 

 残念ながら、ここにいる全員が出られるわけじゃないよ・・・・」

 

「・・・・・・わかっています・・・・

 

 討論に出るのは私で構いません・・・・

 

 ですから、その・・・・・・佐倉嬢のことは我に任せていただきたいのです」

 

その言葉に不気味な雰囲気の綾小路はしばらく考え込むようなそぶりを見せる

 

「・・・・・・いいだろう・・・・

 

 佐倉の件・・・・・・我に任せておこう・・・・」

 

こうして意見が一致にするのであった

 

仮面をかぶった綾小路は佐倉の様子を見に行くと

やはりどこか緊張している様子がうかがえるのだった

 

「・・・・・・佐倉嬢

 

 ご均等なされている様子ですが、大丈夫ですか・・・・?」

 

「あ、綾小路君

 

 ・・・大丈夫、だよ」

 

そうは言うがどこか落ち着いている様子はない

 

「こんな私でも、休んだらいけないと思って・・・」

 

「・・・・・・・・・・」

 

佐倉自身も有力な証言を持つと自覚しているからこそ

注目されていく中、それでも登校することにしたのだろう

 

仮面をかぶった綾小路はあくまで佐倉の意思を尊重することにした

 

「・・・・・・佐倉嬢・・・・

 

 申し訳ありませんが我は今日の討論に参加することはできません・・・・

 

 ですが、昨日も言いましたが佐倉嬢自身のために

 証言してください、我が言う事はそれだけです・・・・」

 

「・・・うん

 

 ありがとう、綾小路君・・・」

 

仮面をかぶった綾小路はそうですかと言って佐倉の元を離れていくのであった

 

仮面越しに見えるその目はどこか優しい感じがし

佐倉も不思議とそれを感じ取っていたのであった

 

・一・

 

放課後のチャイムが鳴ると同時に

堀北と須藤は外に出るのだった

 

「いよいよよ、須藤君

 

 心の準備はいい?」

 

「ああ・・・いいぜ

 

 俺は最初っから準備はできてんだ」

 

目を閉じて気を落ち着かせるように深呼吸をする須藤

 

「お前には散々バカにされてきたが、俺は俺だ

 

 言いたいことははっきり言うぜ」

 

「仮にやめなさいと言っても聞くつもりもないでしょう

 

 勝手にしなさい」

 

「へ、相変わらず偉そうな女だぜ」

 

そう言って互いににらみ合う須藤と堀北だが

その互いの表情に敵意のようなものは感じられない

 

「へえ・・・・

 

 随分と仲が良くなったんだね・・・・

 

 準備は万端と言ったところかい・・・・?」

 

二人のもとに現れたのは

不気味な雰囲気をまとわせた綾小路

 

その後ろには櫛田と佐倉、仮面をかぶった綾小路が来た

 

「頑張ってね堀北さん、須藤君」

 

櫛田の呼びかけに堀北は応えずに

須藤は軽くガッツポーズを作って応えた

 

「・・・・・・佐倉嬢、我はここで

 櫛田嬢と戻らせていただきます・・・・

 

 ご健闘をお祈りします、皆様方・・・・」

 

やや緊張気味だが佐倉は口をふるわせながらも答える

 

「うん・・・大丈夫

 

 ありがとう・・・」

 

まだ佐倉は緊張が解けていないようだが

仮面の綾小路は残念ながら何もできることはないと悟り

 

櫛田の隣にまで引く

 

「それじゃあ、さっそく行きましょうか」

 

堀北の声とともに須藤と綾小路がともに場所に向かっていく

 

この件には互いの担任教師も同席するので

茶柱先生もまた同伴することになる、するとそこに

 

「やっほー

 

 Dクラスの皆さんこんにちは~」

 

Bクラスの担任である星之宮先生だ

 

「なんだかすごいことになってるんだって?」

 

するとさらにその後ろから姿を現したのは

 

「何をしている」

 

「ありゃ、もう見つかっちゃった」

 

茶柱先生が星之宮先生の頭を小突く

 

「お前がこそこそ出ていくときは

 大体私に後ろめたいことがある時だからな」

 

それを聞いて、ばれちゃった?、てへと舌出してウィンクする星之宮先生

 

「私も参加しちゃダメかな?」

 

「ダメに決まっているだろう

 

 今回の件にはBクラスは何一つかかわっていないだろうが」

 

「わちゃ、でもまあ、大体一時間で結果も出ると思うけど」

 

「はいはい、そこまで・・・・

 

 部外者はさっさと退散しなさい・・・・」

 

と綾小路に言われて、いじわるぅと

言わんばかりに見つめながら職員室に入っていくのであった

 

「それでは行こうか」

 

「職員室で行うわけではないんですね」

 

「ああ、この学校には特殊なルールは複雑に存在するが

 今回のようなケースでは問題のあったクラスの担任と

 その当事者、そして生徒会との間で決着がつけられる」

 

「生徒会・・・・・・ねえ・・・・」

 

綾小路は不意に堀北の様子を見る

堀北の表情が硬くなっていくのがわかる

 

「もしもそうだったらまずいかもねぇ・・・・

 

 どうする堀北・・・・?」

 

須藤は理由もわからずにはてなマークを

浮かべるように首を傾げ、茶柱は含みのある笑いを浮かべていた

 

「・・・・大丈夫、今更退くつもりはないわ」

 

堀北は余計な心配はいらないと言わんばかりに綾小路を見つめるが

どうにも不気味な雰囲気の綾小路の表情はどこか浮かないように見える

 

やってきた場所は生徒会室

 

茶柱先生がノックをして入り

それについていくように三人も入っていく

 

そこにはCクラスの三人と眼鏡をかけた男性がいる

おそらくはCクラスの担任だろう、向かい合っての席にいる

 

さらにその長机を挟んだ場所には堀北にとって

これ以上ないほどの想定外の相手が座っていた

 

「遅くなりました」

 

「まだ予定時刻になっていませんので大丈夫です」

 

「面識は?」

 

茶柱の問いにその場にいた

Dクラスの生徒は全員首をかしげる

 

「Cクラスの担任の坂上先生だ

 

 それから・・」

 

部屋の奥にいる男子生徒に注目を集める

 

「彼はこの高度育成高等学校生徒会の会長だ」

 

茶柱先生に言われた生徒会長、堀北兄はDクラスの生徒たちの方を見る

 

しかしそれほど興味がなかったのかすぐに書類の方に目を通していくのだった

 

堀北妹は兄を見つめていたが、自分のことなど気にしていない様子を見て

すぐに目を伏せ、Cクラスの生徒たちと向かい合う位置の席に座っていく

 

その左隣に須藤、右隣に綾小路、さらに隣に茶柱先生が座る

 

「では是より、一週間前に起こった暴力事件について

 生徒会及び事件の関係者、担任の先生を交えて審議を執り行いたいと思います

 

 侵攻は私、生徒会書記、橘が務めます」

 

と会長の右隣に付き従うようにして立っている少女が言う

 

「まさかこの規模のもめごとに生徒会長が足を運ぶとは

 珍しいこともあるのだな、いつもは橘だけのことが多いだろうに」

 

「日々多忙故、参加を見送らせていただく議題はありますが、原則立ち会いますよ」

 

「あくまでも偶然、と言うことか」

 

茶柱と堀北兄はそんなやり取りを交わすと

橘は堀北兄に言われて事の経緯を説明していく

 

「うむ・・・・」

 

不気味な雰囲気の綾小路の表情は

どこか余裕がないようにも見えている

 

そして隣にいる堀北妹の方を見ると

兄を前にして放心状態になっているようだ

 

だが今は様子を見ることを決め、しばらく静観していくことにする

 

「・・・・以上のような経緯を踏まえ

 どちらの主張が真実であるかを見極めさせていただきたいと思います」

 

説明を終えて橘書記はDクラスの方へと視線を向ける

 

「小宮君達バスケット部二名は、須藤君に呼び出され特別棟に行った

 

 そこで一方的に喧嘩を吹っかけられて

 殴られたと主張していますが、それは本当ですか?」

 

「そんなわけねえだろ

 

 呼び出されたのは俺の方だ!」

 

須藤は間髪入れずに否定する

 

「では須藤君にお聞きします

 

 事実を教えていただけますか?」

 

「俺はあの日、部活の練習を終えたら小宮と近藤に特別棟に呼び出されたんだ

 

 うっとおしいとは思ってたけど

 日ごろからこいつらの態度にはムカついてたから

 

 もうはっきりさせようと思って出向いてやったんだよ」

 

須藤がこうやって歯に衣着せぬ物言いにも何の反応も見せない堀北妹

 

「それが嘘です

 

 僕たちが須藤君に特別棟に呼び出されたんです」

 

「ふざけんなよ小宮

 

 てめえらが俺を呼び出したんだろうが」

 

「身に覚えがありません!」

 

「ふざけんなあ!」

 

須藤は思わず机をたたき

その音が部屋中に響き、静粛が起こる

 

「今はあくまで双方の話を聞いているだけですのでお静かにお願いいたします須藤君

 

 小宮君も途中で口を挟むような行為は慎んでください」

 

「ちっ」

 

「双方ともに呼び出されたと主張しており、食い違っています

 

 ですが共通することもあります

 

 須藤君と小宮君、近藤君の間にはもめごとがあったんですね?」

 

「もめごとと言うか、須藤君がいつも僕たちに絡んでくるんです」

 

「絡む、とは?」

 

「彼は僕らよりもバスケットがうまいことを鼻にかけてくるんです

 

 僕たちだって負けないように懸命に練習しているのを

 馬鹿にされるのは気持ちの良いものではないので

 そう言う意味では度々ぶつかっていました」

 

あくまで双方の話を聞き入っていく綾小路

 

「ふざけんな!

 

 絡んできてんのはそっちじゃねえか!

 

 人が練習してるときにわざとぶつかってきたりして邪魔しやがってよ」

 

須藤はそう反論する

 

「両方の言い分がこれでは、今ある証拠で判断していかざるを得ませんね」

 

「僕たちは須藤君にひどく殴られました、それも一方的にです」

 

確かに顔には傷がついている

だがその傷に違和感を覚える綾小路

 

だが隣の少女はまだ立ち直っていない

 

「嘘だ!

 

 先に仕掛けてきたのはそっちだろうが」

 

このままでは逆にこちらを追い詰めていく事になる

 

「堀北・・・・」

 

綾小路は堀北妹に声をかけるが心ここにあらずだ

 

「Dクラス側から新たな証言がなければ

 このまま侵攻しますがよろしいですか?」

 

橘書記が問いかけるが堀北妹は無反応だ

 

「どうやら議論するまでもなかったようだな」

 

ここで初めて生徒会長が口を開いた

 

「どちらが呼び出したにせよ、須藤が一方的に相手を殴ったという事実は

 けがの状態から見ても明らかだ、それを基準に答えを出すしかあるまい」

 

「ま、待てよ!

 

 そんなの納得できるかよ!」

 

須藤は弁明のつもりで発した一言に

相手の担任が微笑みを浮かべたのが分かった

 

「力の差がある相手に正当防衛でも主張するつもりか?」

 

「んな・・・

 

 んなの、向こうは三人がかりだぞ」

 

「だが、実際にけがをしたのはCクラスの生徒だけだ」

 

だんだんとこちらが一方的に打ちのめされていくのがわかる

 

「はあ・・・・

 

 まったく何が余計な心配はしないでだよ・・・・」

 

小声でそう言うと、堀北妹の下っ腹を思いっきりつねった

 

「ふえ!?」

 

堀北妹は普段は上げないような声を上げて

立ち上がるがそれでも綾小路の手は止まらない

 

「ちょ、まっ、なっ、やめっ」

 

しばらくして手は離される

堀北妹は乱れた服装を直しつつ

 

綾小路の方を見るが、綾小路は

人差し指を唇に当てて、静かにと言うような動作を見せる

 

「・・・・・・どうやら戻ってきたようだね・・・・」

 

「っ!」

 

堀北妹の反応を見て綾小路は元の堀北妹に戻ったのだと確信する

 

「このまま一方的にやられるのは

 はっきり言って好ましい展開ではない・・・・

 

 今こそここで君が戦わないと

 君がここに来た意味がないだろう・・・・

 

 君はそれを望むのか・・・・?」

 

「え・・・」

 

堀北妹はそう言われて事態を把握していく

 

それを見ていた茶柱は特に何も言わずに笑みを浮かべている

 

「・・・・失礼いたしました

 

 私から、質問させていただいてもよろしいでしょうか」

 

「構いませんか?」

 

「許可する

 

 だが次からはもっと早くに答えるように」

 

堀北妹はゆっくりと椅子を引き立ち上がる

 

「先ほど、貴方達は須藤君に特別棟に呼び出されたと言いましたが

 須藤君は一体だれを、どのような理由で呼び出したんですか?」

 

今更なんでそんな質問を、と小宮達は顔を合わせる

 

「答えてください」

 

堀北妹は追撃するように一言付けたした

橘書記もそれを認め、説明を求めた

 

「僕たちを呼び出した理由は知りません

 

 ただ、部活が終わって着替えている最中に

 今から顔を貸せって言われて・・・

 

 俺たちが気に入らないとか、そんな理由じゃないでしょうか

 

 それが何だっていうんですか」

 

「では、どうして石崎君もいたのでしょうか

 

 彼はバスケット部員ではありませんし、無関係のはず

 

 その場にいるのは不自然だと思いますが」

 

「それは・・・用心のためですよ

 

 須藤君が暴力的だというのは噂に聞いていましたから

 

 体格だって、俺たちよりも大きいんです、それが普通でしょう」

 

「つまり暴力を振るわれるかもしれない、そう感じていたと?」

 

「そうです」

 

発言が思った以上にスムーズに行く双方の会話

 

「なるほど、それで中学時代喧嘩が強かったという

 石崎君を用心棒代わりとして連れて行ったんですね

 

 いざと言うときは対抗できるように」

 

「自分の身を守る、ただそのためだけですよ

 

 それに、石崎君が喧嘩が強いことで有名なんて知りませんでした

 

 ただ、頼りになる友達なので連れていっただけです」

 

場がだんだんと変わっていくのが分かっていく

 

「実は私は多少、武道の心得があります

 

 だからこそわかるのですが、複数の敵と相対した

 場合の戦いは乗数的に厳しく難しいものになります

 

 喧嘩慣れしている石崎君を含め貴方達が、一方的にやられたことが腑に落ちません」

 

「それは、僕たちに喧嘩の意思がなかったからです」

 

「喧嘩が起こる要因は、自分と相手の『エネルギー』がぶつかり合い

 その間合いを超えたときに発展すると客観的に見ています

 

 相手に戦う意思がない場合や無抵抗な場合

 三人がそこまでけがをする確率は非常に低いはずです」

 

堀北妹はルールや根拠に基づく客観的な意見を述べ

それに対して小宮達は実際の証拠と言う武器で対抗する

 

「その一般的な考えが、須藤君には当てはまらないということです

 

 彼は非常に暴力的で、無抵抗なことをいいことに、容赦なく殴りつけてきたんです」

 

そう言って自分たちのけがを見せてくる

堀北妹の言い分がどれだけうまくともそのけがと言う証拠は協力だった

 

「以上でDクラスの主張は終わりか?」

 

堀北兄の口からか放たれるのは

その程度の発言しかできないのなら

最初からしない方がましだ、と言わんばかりの冷たい一言

 

だがそれでも堀北妹には手はまだ残っている

 

「・・・・須藤君が相手を殴りつけたことは事実です

 

 しかし先に仕掛けてきたのはCクラスです

 

 その証拠に、事件の一部始終を目撃した生徒がいます」

 

「では、Dクラスから報告のあった目撃者を入室させてください」

 

そう言って入室してきたのは

いまだに不安げで落ち着かない様子に佐倉だった

 

「一年Dクラス 佐倉 愛里さんです」

 

「目撃者がいるというので何事かと思いましたが、Dクラスですか」

 

Cクラスの担任は眼鏡を吹きながら失笑する

 

「何か問題でもありますか、坂上先生」

 

「いえいえ、どうぞ進めてください」

 

互いの目線を交差させる双方の担任

 

「では証言をお願いしてもよろしいでしょうか、佐倉さん」

 

「は、はい・・・

 

 あ、あの・・・その・・・」

 

佐倉はやはり踏み出せないのか言葉が続いてこない

 

「佐倉さん・・・」

 

堀北も思わず声をかけるが当の佐倉には届いていない

だが、綾小路はあくまでその様子を見守っているだけ

 

「どうやら、これ以上は時間の無駄のようですね」

 

「何を急いでいるんですか坂上先生」

 

「そりゃそうでしょう

 

 このような無駄なことで、私の生徒が苦しんでいるんですよ?

 

 彼らはクラスのムードメーカーで

 多くの仲間たちに心配をかけたことを気にしています

 

 バスケットだってひたむきに励んでいる

 

 その貴重な時間が奪われているんです

 

 担任として、それを見過ごすことはしたくないのでね」

 

「そうですね

 

 確かにその通りだ」

 

茶柱先生は相手の言い分を聞き、納得したように頷いた

 

「確かにこれ以上は時間の無駄、とするしかないでしょう

 

 佐倉、もう下がっていいぞ」

 

興味が失せたというように佐倉に退室を命じる

 

生徒会側の人間も、遅延は勘弁願いたいのか止めなかった

 

結果はもはや、Dクラスの敗退で決定していくような雰囲気になる

 

佐倉は自分の弱さを悔いているように耐え切れずに強く目を閉じ

須藤と堀北ももう佐倉は無理だと感じ、あきらめかけている

 

すると佐倉は目を開いて顔を上げた

 

「私は確かに見ました・・・!!!」

 

佐倉がそう発言したのを聞いて

綾小路は不気味なほどに笑みを浮かべた

 

「最初にCクラスの生徒が須藤君に殴りかかったんです

 

 間違いありませんっ!」

 

佐倉は普段の彼女からは考えられないような声で証言する

 

「すまないが、私から発言させてもらってもいいだろうか」

 

挙手したのはCクラスの担任だ

 

「本来、極力教師は口をはさむべきではないと理解しているが

 この状況はあまりに生徒が不憫でならない、生徒会長、構わないかな?」

 

「許可します」

 

「佐倉君と言ったね

 

 私は君を疑っているわけではないんだが、それでも一つ聞かせてくれ

 

 君は目撃者として名乗りを上げたのが

 ずいぶん遅かったようだがそれはどうしてかな?

 

 本当に見たのなら、もっと早くに名乗り出るべきだった」

 

茶柱先生と同じ部分を指摘する

 

「それは・・・その・・・巻き込まれ、たくなかったからです・・・」

 

「どうして巻き込まれたくないと?」

 

「・・・私は、人と話すのが、得意ではないので・・・」

 

「なるほど

 

 よくわかりました

 

 ではもう一つ

 

 人と話すのが得意でないあなたが、週が明けた途端

 目撃者として名乗り上げたのは不自然じゃありませんか?

 

 これではDクラスが口裏を合わせて貴方に

 嘘の目撃証言をさせているようにしか思えない」

 

「そんな・・・私はただ、本当のことを・・・」

 

「いくら話すのが苦手だとしても、私には君が

 自信をもって証言しているようには思えない

 

 それは本当は嘘をついているから

 罪悪感に苛まれているからではないのかな?」

 

「ち、違います・・・」

 

「私は君を責めているわけではないよ

 

 おそらくクラスのため、須藤君を救うため

 嘘をつくことを強いられてきたんじゃないのかな?

 

 今正直に告白すれば、君が罰せられることはないだろう」

 

この執拗な心理攻撃にさすがに見かねた堀北が手を上げる

 

「それは違います

 

 佐倉さんは確かに対話をするのは得意ではありません

 

 しかし、その事件を本当に目撃した生徒だからこそ

 こうしてこの場に立ってくれているんです

 

 そうでなければ頼まれたとしてもここに立っていたのかどうか

 

 堂々と発言させるだけでよいのなら

 ほかの代役だって立てられたと思いませんか?」

 

「思いませんね

 

 Dクラスにも優秀な生徒はいる

 

 それは堀北さん、君のような生徒です

 

 佐倉さんのような人物を立てることで

 本当の目撃者であるとリアリティを持たせたかったのではないですか?」

 

坂上先生は不敵に微笑んで腰を下ろそうとすると

 

「証拠なら・・・あります!」

 

佐倉のその訴えに、坂上の腰が途中で止まる

 

「もうこれ以上はよしたまえ

 

 本当に証拠があるなら、もっと早い段階で・・・」

 

すると佐倉はバンっと数枚の小さな

長方形の紙のようなものをたたきつけるように置く

 

「それは・・・?」

 

Cクラスの担任の表情が固まっていく

 

「私が、あの日特別棟にいた証拠です・・・!」

 

橘書記が佐倉の傍によって、軽く断りをいれて紙に手を伸ばす

 

それは数枚の写真だった

 

「・・・・会長」

 

写真を見た橘書記は、堀北兄にその写真を提出する

しばらく見ていた堀北兄は面々にも見えるように写真を広げる

 

「私は・・・あの日、自分をとるために人のいない場所を探していました

 

 その時に撮った証拠として日付も入っていますっ」

 

広げられた写真を一枚一枚見つめていく面々

これには今まで被害者の顔をしていたCクラスの表情も変わっていく

 

「これは何で撮影したものだね?」

 

「デジタル・・・カメラですけど・・・」

 

「確かデジカメは容易に日付の変更ができたはずだ

 

 パソコン上で日付のみ操作してプリントアウトすれば

 事件当時の時間帯を再現できる、証拠としては不十分です」

 

「しかし坂上先生

 

 この写真は違うと思いますが」

 

堀北兄は下に重なっていて見えなかった写真を見せる

 

「こ、これは・・・!?」

 

それはこれ以上ないタイミングを抑えた、喧嘩騒動を表す一枚がそこにはあった

 

それは夕暮れに染まる校舎、その廊下

 

須藤が石崎を殴った直後と思われる場面の写真だった

 

「これで・・・私がそこにいたことを、信じてもらえたと思います」

 

「ありがとう、佐倉さん」

 

堀北は安どの様子を見せるが

綾小路の方はまだ浮かない表情を見せている

 

「なるほど

 

 どうやらあなたが現場にいたことは本当のようだ

 

 その点は素直に認めるしかありません

 

 ですが、この写真ではどちらが仕掛けた者かはわかりません

 

 貴方が最初から一部始終を見ていた確証にも至りませんし」

 

Cクラスの担任のいうとおり

これではどちらが先に仕掛けてきたのかが分からない

 

 

「・・・・どうでしょう茶柱先生

 

 ここは落としどころを模索しませんか?」

 

「落としどころ、ですか」

 

「今回私は、須藤君が嘘をついて証言したと確信しています」

 

「てめ・・・」

 

「須藤・・・・!」

 

須藤はとびかからんとするが

綾小路の不気味なまでにこわばった声に思わず制止し

 

おとなしく座っていく

 

 

「いつまで続けていても話し合いは平行線でしょう

 

 私達は証言を変えませんし、あちら側も目撃者と口裏を合わせて諦めない

 

 つまり、相手が嘘をついていると応酬してやまない

 

 この写真も決定的証拠としては弱い

 

 ・・・・そこで、落としどころです

 

 私はCクラスの生徒がにも幾ばくかの責任はあると思います

 

 三人いたことや、一人は喧嘩慣れしている

 過去を持っているそうなので、それは問題でしょう

 

 そこで須藤君に二週間の停学、Cクラスの生徒たちに一週間の停学

 

 それでいかがでしょうか?

 

 ばつの重さの違いは、相手を傷つけたかどうか、その違いです」

 

そう告げる坂上先生だが、須藤は納得がいかないようだ

 

「ふざけんなゴラ!

 

 冗談じゃねえぞ!」

 

「茶柱先生、貴方はどう思われますか?」

 

坂上先生は茶柱先生に意見を求めていく

 

「結論はすでに出たようなものでしょう

 坂上先生の提案を断る理由はありません」

 

妥協点としては申し分ない内容だ

堀北は一度天井を見上げる、もうここまでねと言わんばかりに

 

堀北もわかっていたのだ、むしろここまで妥協できただけでも立派だ

 

「・・・・・・もうここまで・・・・

 

 そう言いたげな表情だね堀北・・・・」

 

「・・・・・・・」

 

そこに綾小路が話しかけてきた

 

「そう言うあなたこそ、何か手があると?」

 

「・・・・・・ないね・・・・

 

 むしろ私は坂上の提案を受けるのがいいと思う・・・・」

 

その言葉に坂上は薄く笑って眼鏡をくいっと上げる

 

「そもそも須藤の無実を証明する証拠ははなから存在しない・・・・

 

 そもそも場所はあの時間帯誰も利用しない特別棟

 もっと多くの奴らが見てくれている可能性のある

 教室やコンビニなら、まだ何とかなっただろうさ・・・・

 

 だが場所が場所、こればかりはどうしようもない・・・・」

 

堀北は綾小路の目を直視する

それは見下しているというよりは関心の見えぬ不気味なものだった

 

「そもそも私はね、こんな話し合いに意味なんてなかったと思ってる・・・・

 

 どれだけ訴えてもCクラスは嘘だと認めないし、須藤も同じく認めない

 佐倉の活躍のおかげで同じ土俵には立てたがそれまで、結局は平行線だよ・・・・

 

 むしろ本来は一か月になるはずだった停学が二週間まで落ちたんだ・・・・

 

 Dクラスの生徒としてはむしろよく頑張ったと認めてくれたわけだしね・・・・

 

 私も同じ意見だよ、Dクラスの生徒としてはよくやった方だと思う・・・・」

 

堀北の耳元に顔を近づけて耳打ちをする

 

「・・・・っ!」

 

堀北の目が不意に見開いた

 

「・・・・・・私はあくまで君の意見に従うよ堀北・・・・」

 

「・・・・・・・」

 

堀北は綾小路の方を睨みつける

だが、そうも言ってはいられない

 

なぜならまだ、自分にはやらねばならぬことが残っているから

 

「ではDクラスの代表の堀北さん

 

 意見をお聞かせください」

 

綾小路の話を聞いて、それをそのまま

受け取って余裕の表情で意見を求めてきた

 

「わかりました・・・」

 

堀北はゆっくりと顔を上げた

 

「堀北!」

 

須藤は叫ぶように言うが

堀北は己が下した結論を口にしていく

 

「私は今回、この事件を引き起こした

 須藤君には大きな問題があると思っています

 

 なぜなら、彼は日ごろの自分の行いを

 周囲への迷惑を全く考えていないからです

 

 喧嘩に明け暮れていた経歴

 気に食わないことがあればすぐに声を上げ、手を上げる性格

 

 そんな人が騒動を起こせば、こうなることは目に見えて明らかだったからです」

 

「てめっ・・!」

 

「あなたのその態度が、すべての元凶であるとと言うことを理解しなさい」

 

須藤は意見しようとしたが

堀北はさらにそこに気迫をもって須藤を睨みつけた

 

「ゆえに私は、当初から須藤君を救うことには消極的でした

 

 無理に手を差し伸べたところで、彼はまた同じことを

 繰り返すことは分かっていたからです、そのことについて私は反省が必要と考えます」

 

「よく正直に答えてくれました

 

 これで決着が付きそうですね」

 

「ありがとうございました

 

 それでは着席してk・・・」

 

「ですが、それはあくまで過去の自分を見つめなおすという意味での反省です

 

 今回の事件に関しては・・・・私は須藤君に何ら非はないと思っています

 

 なぜなら、この事件は偶然起きてしまった不幸な出来事ではなく

 Cクラス側が意図的に仕組んだ事件であると確信しているからです

 

 このまま泣き寝入りする気は毛頭ありません」

 

堀北は橘書記の言葉を遮るように

やや威圧的ともとれる態度でそう答えた

 

「・・・・どう言うことだ?」

 

堀北兄はその時、妹に初めて目を向ける

堀北妹はそのまなざしをしっかりと見つめ答えていく

 

「理解していただけなかったのなら、改めてお答えします

 

 私達は須藤君の完全無罪を主張します

 

 よって、一日たりとも停学処分は受け入れられません」

 

「はは・・・・何を言うのかと思えば

 

 意図的な事件?

 

 どうやら会長の妹は不出来としかいいようがありませんね」

 

「目撃者の証言通り須藤君は被害者です

 

 どうぞ、間違いのない判断を」

 

「被害者は僕たちです生徒会長!」

 

Cクラスの生徒も声を張り上げて主張する

 

「ふざけんな!

 

 被害者は俺だ!」

 

それに感化されて須藤も主張していく

 

互いに異議ありの繰り返しは何の意味もないことは誰もが理解している

 

「そこまでだ

 

 これ以上この話し合いを続けても時間の無駄だろう」

 

生徒会長、堀北 学はこの泥仕合のような嘘の押し付け合いを一瞥する

 

「今日の話し合いで分かったことは、互いの言い分は常に真逆

 

 どちらかが非常に悪質な嘘をついているということだけだ」

 

そして堀北兄は双方を睨みつけるように見渡す

 

「Cクラスに聞く

 

 今日の話に嘘偽りはない

 そう言いきれるのだろうな」

 

「も・・・もちろんです」

 

「Dクラスはどうだ」

 

「俺は嘘なんてついてねえ

 

 全部本当のことだ」

 

「では、明日の四時にもう一度再審の席を設けることにする

 

 それまでに相手の明確な嘘、あるいは自分たちの非を

 認める申し出がない場合、出そろっている証拠で判断を下す

 

 もちろん、場合によっては退学と言う措置も視野に入れる必要がある

 

 以上だ」

 

堀北兄は結論を下し、この審議を収めた

 

「まずまずの成果だね・・・・

 

 これで第二段階は終了だね・・・・」

 

不気味な雰囲気の綾小路はそうつぶやく

 

「そんなのんきなことを言っている余裕があるの?

 

 猶予は実質あと一日しかないというのに」

 

「一日あれば十分さ・・・・」

 

すると坂上先生はDクラスの方を見て冷たい言葉を言い放つ

 

「君たちがどのような方法を使ってくるのかは知らないが

 関係のないクラスメートを巻き込んでまでこのような事態を招いた

 

 その事実はいずれ君たちだけの問題じゃ済まなくなることは分かってるんだろうね」

 

「知らないねそんなの・・・・

 

 だって私達は嘘をついていない・・・・

 

 あくまでそれを主張するだけだよ・・・・」

 

「その余裕がいつまで続くかね」

 

坂上先生はそれだけ言い放って

わざとらしく嘘の目撃者なんてひどすぎるなどと

こちらをあおっていくような言葉を言いつつ、生徒とともに去っていく

 

「ずいぶんと思い切ったことを言ったが、勝算はあるのか綾小路」

 

「知らないね・・・・

 

 あくまでそれを決めるのは彼女だからね・・・・」

 

「相変わらず嫌な性格してるわね・・・・

 

 まあどっちにしても、引き下がるつもりはありませんよ、茶柱先生」

 

「思いだけでどうにかなる問題ではないことはお前たちにも十分理解できているはずだ

 

 下手をすれば余計な傷口を広げる結果になるかもしれんぞ?」

 

「私はあくまで負けるつもりはありません

 

 では、私はこれで失礼いたします」

 

「フフフフフフ・・・・」

 

堀北が立つのと同時に

綾小路は不気味な笑みを浮かべて供に出ていく

 

須藤はそれを見て、慌てて追いかけるように出ていく

 

ひとり残った佐倉はそこで静かに泣き続ける

坂上先生の一言が彼女に次々と突き刺さってきたのだ

 

むしろ今までこらえてきただけでも頑張った方だ

 

そんな彼女にハンカチが差し出される

 

「・・・・・・大丈夫ですか・・・・?」

 

そこにいたのは仮面で顔を隠した綾小路であった

 

「綾小路君・・・」

 

佐倉の涙をそっと吹いてあげる綾小路

仮面越しのその瞳はどこか優し気に感じたが

 

佐倉はそれでもどこか浮かない様子だ

 

「・・・私が最初から名乗り出ていたら大丈夫だったんだよね・・・

 

 それなのに、私に勇気がないからこんなことになっちゃった・・・」

 

「・・・・・・もし佐倉嬢が最初に名乗り出ていたとしても結果は変わらずでしょう

 

 その時は相手は須藤殿と同じクラスメートであると強く攻めていたでしょう・・・・

 

 我はむしろ、佐倉嬢は良く戦った方だと思いますよ・・・・」

 

「でも・・・」

 

すると佐倉をそっと優しく抱きしめる

 

「・・・・・・自分を責めないでください・・・・

 

 むしろ佐倉嬢がこうして名乗り出たからこそ

 こうして、審議の結果が持ち越しになったのですから・・・・

 

 佐倉嬢がいなければきっとDクラスは敗北していたでしょう・・・・

 

 それを食い止めただけでも、佐倉嬢の貢献は大きいと我は思いますよ・・・・」

 

「綾小路君・・・」

 

佐倉は彼の胸の中で声を殺して、泣いた

綾小路は静かに彼女に胸を貸してやるのだった

 

「・・・・・・佐倉嬢、もう動けますか・・・・?」

 

佐倉はそれに答えずに立ち上がろうとするが

まだどこか足元がおぼつかない部分があるようだ

 

綾小路は彼女を見捨てずに

あくまで彼女が動けるようになるのを待つことにする

 

すると

 

「まだいたのか?」

 

部屋の奥から堀北兄が現れる

 

「・・・・・・失礼、彼女は少しショックで動けないようなので

 

 もうしばらく、ここにいる許可をお許しいただきたく思います・・・・」

 

「好きにするがいい

 

 今日はもう、この部屋を使うことはない

 だが、あまり長居はしてくれるなよ」

 

堀北兄も佐倉の様子を見て理解したのか

そっけなくも佐倉を優先してくれた

 

「それで、お前は?」

 

「・・・・・・綾小路 清隆・・・・

 

 我とこうして会うのはこれが初めてですね・・・・」

 

綾小路の名前を聞いて驚いたようなやや睨むように言う

 

「なるほど、その佐倉に証言させる後押しをしたのはお前か」

 

「・・・・・・我はあくまで、彼女のお力添えをしたのみ・・・・

 

 この場に立つ決意をしたのは間違いなく彼女の意思です・・・・」

 

「だが、あくまで状況は平行線だ

 

 何かが変わったということはない」

 

「・・・・・・確かに、佐倉嬢の働きがなくては

 おそらくDクラスはこうして同じ土俵に立つこともできなかったでしょう・・・・」

 

「なるほど」

 

会話を続けていく双方

綾小路の仮面より覗く瞳は鋭く相手を睨みつけているように見える

 

「それから佐倉」

 

まだ多少のショックの残っている佐倉に話しかける堀北兄

 

「綾小路の言う通り、お前の証言と咲子の写真は

 審議に出すだけの証拠能力は確かにあった

 

 だがその証拠をどう評価しどこまで信用するのかは説明力で決まる

 

 だがそれもお前がDクラスの生徒である

 ということでどうしても下がってしまうものだ

 

 どれだけ事件当時のことを克明に語っても

 100%受け入れることはできない

 

 今回、お前の証言が『真実』として認識されることはないだろう」

 

堀北兄の言葉に何とか反論しようとするが

もともとの性格と先ほどのショックのせいでうまく言葉がつながらない

 

「わ、私は・・・ただ、本当のことを・・・」

 

「説明しきれなければ、ただの戯言だ」

 

堀北兄の威圧感のせいで言葉が続かない

 

「・・・・・・我は信じます・・・・

 

 他人に注目されるのが苦手な彼女が

 こうして勇気をもってこの場に赴いたのです

 

 その言い方は、彼女のその精一杯の勇気に対して不敬かと思われますが・・・・」

 

「俺はあくまで事実を述べただけだ

 

 確かにお前の言うこともわかるが

 あくまで佐倉はDクラスの敗北を先送りにしたのみでしかない」

 

「・・・・・・まだ敗北したと決まったわけではありません・・・・

 

 今より明日のこの場におけるまでの時間が残っております・・・・

 

 その十分な時間をもって我は彼女がもうしたことが

 決して戯言ではないと証明しましょう

 

 我、いえ我らのすべての力をもって・・・・」

 

「ほう、つまりお前はすでにそれを証明する手立てを用意していると」

 

「・・・・・・ええ、まあそれはあくまであなたの妹君のお役目・・・・

 

 しかし、それでもって必ずや、佐倉嬢の勇気が

 決して無駄ではないと証明して見せましょう・・・・」

 

堀北兄はそれを聞いてほう、と笑みを浮かべながら

傍についている橘書記とともに部屋を後にしていくのだった

 

「・・・・・・佐倉嬢、お顔を上げてください・・・・」

 

「だって・・・私のせいで・・・っ・・・・・・」

 

「・・・・・・佐倉嬢は誰かに責められることはしていません・・・・

 

 貴方は真実を述べた、それだけではないですか・・・・」

 

「・・・でも・・・っ・・・・・・」

 

「・・・・・・佐倉嬢、もう泣くのはおやめになってください・・・・

 

 貴方は何も悪いことはしていない

 貴方はあなたがやるべきことをやったのみ・・・・

 

 そのことでご自身をお責めにならないでください・・・・」

 

佐倉の前に立ち彼女と同じ視線になる

佐倉はそれに気づき、思わず顔をそらす

 

「でも・・・私は・・・何の役にも立たなかったし・・・・・・?」

 

あまりに自分に自信の持てない発言を繰り返す佐倉に

綾小路はやや強引に佐倉を自分の方に向かせて言う

 

「・・・・・・我はあなたを信じます・・・・

 

 たとえ回りがどれほどあなたを責めようと

 あなた自身があなた自身を信じられなくなくなったとしても・・・・

 

 最期のその時まで、我は友人として仲間としてあなたを信じる・・・・!」

 

佐倉は不意に綾小路の目を見る

仮面越しに見えるその瞳は鋭いが怖い感じがしない

 

「・・・・・・約束いたします、佐倉嬢の身に

 何かがあったとするならば、我が必ずお力になりましょう・・・・

 

 それとも、やはり我では頼りありませんか・・・・?」

 

仮面をかぶった綾小路の言葉に佐倉は何も反応しなかった

ただ不思議と、綾小路の言葉に安心と重みを感じていたのだった

 

・・二・・

 

「ごめんね、私泣いてばっかりで・・・」

 

佐倉は綾小路とともに歩く

その表情は恥ずかしそうながらも笑みを浮かべていた

 

「ありがとう綾小路君

 

 思いっきり泣いたらすっきりしちゃった」

 

「・・・・・・男子たるもの女子に

 胸を貸してさしあげることは誉れ高き事・・・・

 

 それに、人は涙を流すことで少しずつ進むことができます・・・・

 

 無理にため込ませるよりは、貴方のためになると思っただけでしよ・・・・」

 

「綾小路君って、やっぱり優しいね」

 

「・・・・・・我はあくまで我が正しいと思ったことをやっただけですよ・・・・」

 

佐倉はどこか、嬉しそうに綾小路にほほえみかけていた

 

「・・・私うれしかった、私を信じるって言ってくれたこと」

 

「・・・・・・我だけではありません

 

 堀北嬢も須藤殿も、クラスメイトの方々も信じていると思いますよ」

 

「うん・・・

 

 でもね、綾小路君はまっすぐに伝えてくれたから・・・」

 

佐倉は残った涙をぬぐおうとハンカチを取り出すが

不意にそれは綾小路に渡されたものだったことに気が付く

 

「あ、あの・・・

 

 綾小路君、これ・・・」

 

佐倉は綾小路にハンカチを返そうと突き出すと

 

「・・・・・・よろしければ、差し上げますよ・・・・」

 

「え?」

 

「・・・・・・貴方は前にこんな自分が嫌だと仰いました

 

 それは逆にとらえれば、そんな自分を変えたいとも言えます・・・・

 

 その気持ちがあるなら貴方は変われます

 しかし無理に変わろうとすれば逆効果です・・・・

 

 ゆっくりと時間をかけて変わっていきましょう・・・・

 

 その時が来るまで今日のようなことがまた起こるかもしれません・・・・

 

 その時は、そのハンカチでまた涙を拭えばいい・・・・

 

 貴方があなたが変われたと思ったその時お返しいただければいいです

 その時が来るまでは、どうかあなたが持っていてください・・・・」

 

「あ・・・」

 

その瞳はどこか気遣っているように見えた

 

「綾小路君」

 

すると不意に佐倉は綾小路に話しかけていく

 

「あ、あのね私・・・」

 

玄関までそろそろと言うところで佐倉は話しかける

 

「・・・・・・いかがなされましたか・・・・?」

 

「・・・う、うん、あのね綾小路君

 

 あとでいいんだけれどよかったら

 また私の話、聞いてもらってもいいかな?」

 

佐倉がそう言うと綾小路は

 

「・・・・・・構いませんよ、こんな我でよろしければ・・・・」

 

「うん・・・」

 

そうして二人は別れていくのだった

そのころ別の場所では、堀北とともに出ていた

不気味な雰囲気の綾小路の前に二人の人物が姿を見せる

 

「やっほ

 

 ずいぶん遅かったね」

 

それは一之瀬と神崎だった

 

「おや・・・・?

 

 私達のことを待っていてくれたのかい・・・・?」

 

「どうなったのかなって思って」

 

一之瀬は彼の不気味な雰囲気に圧されずに話しかける

 

「堀北・・・・

 

 説明してあげなよ・・・・」

 

「はあ・・・」

 

綾小路に押し付けられて

あきれながらも堀北は説明をしていく

 

「そっか、Dクラスはあくまで、無罪を主張するんだね」

 

「向こうはあくまで須藤を停学に追い込めば勝ちだからね・・・・」

 

その説明に二人はどうにも納得がいかない様子

 

「相手を殴ったという事実は消しようがない

 

 それよりもせっかく目撃者の裏付けと咲子が出てきて

 相手に譲歩させたんだ、そのタイミングで受け入れ妥協するべきだった」

 

「でも綾小路君の言う通り

 停学を受け入れるのはDクラスの負けみたいなもの

 

 須藤君は停学になるような生徒と判断されて

 素行不良ととられてレギュラーが白紙になるかも」

 

「そうとも限らないだろう

 

 確かに心証は悪くなるかもしれないが

 どちらにも責任があったとわかれば

 学校側もそれに考慮した査定に変わるはずだ

 

 しかし、明日須藤の責任割合が増えれば、それすらも危うくなる」

 

それぞれの意見を述べる一之瀬と神崎

 

「まあそうだろうね・・・・

 

 私なんてそもそもその答えには

 今日の討論が始まる以前に気が付いてたしね・・・・」

 

「だったらなぜ、止めなかったんだよ」

 

「私はあくまで今日の話し合いを止めることの方がいいと考えた・・・・

 

 神崎の言う通り完全無罪を勝ちとることは実質不可能だからね・・・・」

 

綾小路の言葉に堀北はやや顔をゆがめる

 

「それでも戦うんだ?

 

 新しい証拠も証言もないのに・・・」

 

「あくまでその判断はうちの大将の判断さ・・・・

 

 そしておかげで第二段階はうまくとまでは

 いかないが予定通りの結果に終わったよ・・・・」

 

不気味な雰囲気の綾小路はにやりと笑みを浮かべる

 

「予定通りって、もう有力な手掛かりが手に入るとも思えないと思うけど」

 

「そうだな、探すのは簡単だが見つけるのはそう簡単じゃない」

 

不気味な雰囲気の綾小路は二人の方をじっと見つめる

 

「フフフフフフ・・・・

 

 あくまでまだ協力してくれるんだね・・・・」

 

「まあ乗り掛かった舟だしね

 

 それに前にも言ったでしょ

 

 嘘は許せないって」

 

それを聞いて笑みを浮かべる綾小路は目を閉じた

 

堀北とBクラスの二人は不思議そうに見つめる

 

・・・・・・・

 

ーどうするんだい・・・・

 

 状況はかなり悪い・・・・ー

 

ーそうだね・・・・

 

 あるはずのない証拠

 目撃者はクラスメート・・・・ー

 

ーやっぱりあの時、素直に提案を受け入れればー

 

ーでもそれを決めたのは堀北ちゃんでしょ?ー

 

ーまあそうさせたのはこっちだけどな

 

 でも、どうにか先延ばしには成功したー

 

ーでもこっからどうすんだよ?ー

 

ー次の審議までに新しい証拠を見つけるのか?

 

 それも無理だろー

 

ーいいえ、もう審議はさせないわ

 

 その方法はすでに考えてる、あとは次の手に移るのみよー

 

ーあとは賭けだがこれならうまくいく、そうー

 

ーーーーーーーーーーーーーーこれでチェックメイトだーーーーーーー

 

・・・・・・・

 

しばらくすると綾小路は目を見開いて三人を見る

 

「ねえ一之瀬に神崎・・・・

 

 君たちがまだ協力してくれるっていうんなら

 私の提案を飲んでもらってもいいかな・・・・?」

 

不意にそんなことを二人に述べていく

 

「提案って・・・・どういうこと?」

 

「残念ながらもう話し合いをすることに意味はない・・・・

 

 もし仮に新しく目撃者が出できたとしてももう

 十分すぎるような証拠能力はもうない、だったらもう・・・・

 

 無罪を勝ち取ることはできない・・・・

 

 だったらいっそのこと無罪を手にする手を捨てればいい・・・・」

 

「貴方何を言って・・・・ってまさか!?」

 

「フフフフフフ・・・・」

 

綾小路はまず一之瀬に頼んで前から手に入れたかったものを

手に入れるために協力してほしいと頼み込むと、一之瀬は表情は少し硬くなる

 

「・・・・うーん、それはちょっとハードな提案だね」

 

やや渋ってしまう様子を一之瀬

 

「まあ無理もないだろうね・・・・

 

 しかしこの作戦は残念だが私や堀北

 仮に協力者全員を合わせても難しい・・・・

 

 まあ無理だったら無理でいいけど・・・・」

 

「あ、ううん、そのお願い自体は一応何とかはなるよ

 

 Dクラスの現状もわかってるしそれが有効だとも・・・・でも

 理由を聞かずにっていうのはちょっと都合がよすぎるんじゃない?」

 

「・・・・・・それじゃあもう少し話をしよう・・・・

 

 納得できないならそれでよし

 納得してくれるなら協力してくれるね・・・・?」

 

とさらに話をしていく不気味な雰囲気の綾小路に

その話を聞く一之瀬と神崎、そして堀北は不思議と納得いった

 

「君たちならこの作戦のリスク・・・・

 

 有用性は理解できるだろ・・・・?」

 

「確かに・・・・でもすごいね綾小路君

 

 そんなこといつの間に考えてたの?」

 

「君たちとここで会う前に堀北が提案した作戦さ・・・・

 

 ただどうしても手が出なくて一度却下してたのさ・・・・」

 

「っ!」

 

堀北は不意に彼の方を見るが

彼は今は一之瀬の方を見ていたのだった

 

「そうなんだ、すごいね二人とも

 

 私もあそこに行ったのに全然意識してなかったよ

 

 蚊帳の外と言うか、想像の範疇になかった」

 

一之瀬達にはしっかり狙いと効果は伝わったようだが

表情はまだ硬い、まだ考え込んでいる様子

 

「確かにその発想は私もびっくりしたし

 効果も、多分見込めると思うけど、そんなのってあり?」

 

一之瀬は神崎に視線を移す

意見を求めているようだった

 

「確かにこの方法はお前のモラルには反するかもしれないな、一之瀬」

 

「うん、そうだね・・・・でも・・・確かにたった一つの方法かも」

 

「確かにそうだな、確かにこれなら活路を開けるかもしれない」

 

「私もそう思うよ、でもやっぱり・・・」

 

一之瀬にはどこか悩みが見えるが

 

「何を迷う必要がある・・・・?

 

 相手だって嘘をついているんだ・・・・

 

 目には目を歯には歯

 嘘には嘘をぶつければいいだけだ・・・・」

 

不気味な雰囲気の綾小路は表情を動かさずに言うと一之瀬は、うんと頷く

 

「そうだね、綾小路君の言うとおりだよ

 

 でも、それって実現可能なのかな?

 

 頼まれたそれが手に入るとも思えないけど・・・」

 

「ちゃんと調べてきたさ・・・・

 

 心配はいらない

 さっき確認してきたからね・・・・

 

 だよね堀北・・・・?」

 

「・・・・ええ、そうね」

 

堀北はどこか腑に落ちない様子ながら

言っても無駄と考えて返事をする

 

「これでやっと一つの心配が消えた・・・・

 

 いよいよ明日で決着をつけさせて貰うとしよう・・・・

 

 私は先に戻るよ

 くだらない時間つぶしのせいでいろいろ疲れたからね・・・・」

 

そう言って一人部屋の方に戻っていく綾小路だった

 

「ねえ神崎君・・・

 

 ひょっとして私達ってとんでもないことになってきてるんじゃない?」

 

「そうだな」

 

「Cクラスと差をつけるためにやったのに

 気が付かないうちに自分たちを追い込む事態になってきてるんじゃ・・・」

 

「かもしれないな」

 

「参ったなあ

 

 まさかDクラスに彼みたいなのが

 いるなんてね、完璧計算外だよ」

 

そう言って綾小路の去っていった方を見つめる

 

「彼ってさ、いったい何者なのかな

 

 堀北さんは知ってる?」

 

堀北に聞いていくが

堀北は首を横に振る

 

「知らないし知るつもりもない

 

 私はあくまで私のためにやるだけよ・・・」

 

と堀北も寮の中へと入っていくのであった

 

一之瀬と神崎と別れた堀北は

自分の部屋に行かずに、ある部屋に向かっていく

 

その前には尋ねたかった相手の姿を見る

 

「貴方、さっきのはどういうつもり?」

 

堀北がそう話しかけていくと

不気味な雰囲気の綾小路は堀北の方を向く

 

「何のことだい・・・・?」

 

「貴方のさっきの言い方

 一之瀬さんの意識を私に向けさせようとしてたわよね

 

 まさか、私を隠れ蓑にでもするつもり?」

 

「ひょっとして・・・・

 

 一之瀬に話した例の作戦のことかい・・・・?

 

 でも君だって作戦そのものは思いついてたんだろ・・・・?」

 

「・・・・ええ、確かに・・・

 

 作戦そのものは私も思いついてた・・・

 

 でもだからって!」

 

「堀北・・・・

 

 これは今後のDクラスのためにも必要なことだよ・・・・」

 

「え?」

 

不気味な雰囲気の綾小路はそう言うと堀北が首をかしげる

 

「今のDクラスは問題が山積みだ

 

 その第一に結束力のなさ・・・・

 

 その証拠に今のクラスメートに須藤君を

 本気で救いたいと思っているものはほとんどいない・・・・

 

 みんな平田がまとめることで

 どうにか保っているだけの表面張力・・・・

 

 もう少しまとめ上げられるにはやはり

 人をまとめ上げられる強い存在が必要・・・・

 

 私はそう考えている・・・・」

 

「いっている意味が分からないわ・・・

 

 確かにDクラスの結束力は心もとないし

 平田君はあくまでクラスをまとめているだけ

 

 それはいうなれば形を無理やり作ってるだけで

 すぐに何かのトラブルですぐに崩れてしまう・・・

 

 そこは私もわかるけど、あなたのその言い方と

 これまでの行動、まるでそのまとめあげる存在を

 

 私に担わせようとしているように聞こえるけど・・・」

 

堀北は疑わしそうに不気味な雰囲気の綾小路を睨みつけると

 

「その通りだよ堀北・・・・」

 

「え・・・?」

 

不気味な雰囲気の綾小路は堀北の方を向いて言う

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「君が平田とともにDクラスをまとめ上げる存在になるんだ・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

        




佐倉が雫だと言う事が分かってしばらくした後のこと

「しっかしまさか綾小路

 グラビアアイドルのことしらねえなんてな」

「ぶっちゃけ興味ねえからな」

池と綾小路が話をしていた

「ようし!

 それじゃあこの俺が
 グラビアアイドルを知らない
 悲しいお前にその良さをたっぷり教えてやる」

「いや、いい・・・・」

「遠慮すんなって

 俺のおすすめを教えてやるよ」

「いやちょっとまっ・・・・」

こうして池にさんざん話しかけられたが
ぶっちゃけおっぱいが大きいだの尻のことだの

動物的な綾小路にとって参考にはならなかったという



















      


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Le ciel a conduit, une seule solution

Règlement


学校までの並木道

 

その場所にて

ひとりの女子生徒が

 

手すりに腰かけながら

ある生徒が来るのを待っていた

 

するとその生徒の姿が見えた

 

「へえ・・・・

 

 こんなところで誰かと待ち合わせかい・・・・?」

 

「ええ、おはよう綾小路君

 

 貴方を待っていたのよ」

 

「ふふーん・・・・

 

 そうなのかい・・・・」

 

特に何も気にすることなく

不気味な雰囲気の綾小路は学校に向かっていく道を歩いていき

堀北も黙ってその後を追うように歩いていく、もっとも目的地が同じだけなのだが

 

「今日ですべてを決めるのよね」

 

「ああ・・・・」

 

「私ははっきり言ってこの作戦がうまくいくとは思えない・・・

 

 だけどそれも元をたどれば私自身の責任でもある」

 

「あの時坂上の提案を飲んでおけばよかった・・・・

 

 そう考えているのかい?」

 

考えたくはないけど、と堀北は前置きして続けていく

 

「もしもこれで須藤君に重い罰が下されたら

 私達Dクラスにとっても無事にすむ問題じゃないわ」

 

「ほう・・・・

 

 君のような人でもそんな弱気なことを言うこともあるんだね・・・・」

 

「貴方の作戦には不安があるけれど、かといってほかに方法もない

 

 こうなったら賭けに出るしかない、私もそう思ってるから」

 

「私達二人だけがやる作戦じゃない・・・・

 

 一之瀬の協力もあるんだから何とかなるだろうさ・・・・」

 

そう言うと不意に堀北は立ち止まって彼に背中越しに言う

 

「ねえ・・・」

 

「うん・・・・?」

 

不気味な雰囲気の綾小路は

堀北の方に少しだけ顔を向ける

 

「・・・・いいえ、今はいいわ

 

 もしもこの件が片付いたらその時に・・・」

 

「・・・・・・そうか・・・・」

 

堀北の言葉にそう答えて

学校の方への道へと向かっていくのであった

 

・一・

 

「さあ・・・・

 

 いよいよ勝負の時だ・・・・」

 

「しっかし驚いたね

 

 まさか一之瀬さんが協力してくれるなんて」

 

「まあ、櫛田に比べればまだ信頼できるか」

 

「一之瀬 帆波ねえ・・・・

 

 もしかしたらあいつは

 Dクラス最大の難関になるかもしれねえな・・・・」

 

「別クラスだから敵に回すなっていうのは無理だし、ところで我は?」

 

女子の綾小路が聞くと

不気味な雰囲気の綾小路はある場所に指をさす

 

そこには

 

「あ、あの・・・おはよう、綾小路君・・・」

 

「・・・・・・おはようございます・・・・」

 

佐倉は口ごもりながらも

仮面をかぶった綾小路に挨拶を交わすと

 

綾小路は軽く挨拶をした

仮面越しに笑っているように見えて

 

不思議と佐倉も少し笑顔になった

 

仮面をかぶった綾小路はほかの面々の元に戻っていく

 

「ずいぶん仲良くなったねぇ・・・・」

 

「・・・・・・ただ、挨拶を交わしただけですよ・・・・

 

 彼女も必死に変わろうとしている

 我はその力になってあげたいだけです・・・・

 

 ただ・・・・」

 

仮面越しにどこか不安そうにも見える瞳を見せる綾小路らのもとに

 

「珍しいわね・・・

 

 佐倉さんが自分から挨拶するなんて・・・」

 

「そうだね・・・・」

 

堀北が来ると六人いた少年少女は

不気味な雰囲気の綾小路一人になっていた

 

「彼女、無理をしていないといいけれど・・・」

 

堀北は不意にそんなことを言う

 

「へえ・・・・

 

 堀北も変わったね・・・・

 

 他人のことを気遣うなんてね・・・・」

 

「そんなのじゃないわよ」

 

「・・・・・・我は少し、佐倉嬢が

 無理をしているように見えます・・・・」

 

不気味な雰囲気の綾小路の机側の方から

仮面をかぶった綾小路が話しかけてきた

 

「そうね、そっちの仮面の綾小路君の言う通りよ

 

 多分だけれど彼女は、相当の無理をしてるわ」

 

「無理・・・・?」

 

「身の丈に合っていない行動をすれば転びかねないということよ」

 

堀北の言葉には不思議と説得力があったように感じた

 

「君が言うと不思議と説得力があるね・・・・」

 

「その言葉、覚えておきなさい・・・」

 

不気味な雰囲気の綾小路の

つぶやきに対して堀北は報復宣言をするのであった

 

・・二・・

 

「・・・・・・それでは予定通りに仕掛けるのですね・・・・」

 

「ああ・・・・

 

 今日はおそらく審議は思わぬ形で終わるだろうさ・・・・」

 

そう言って二人の少年はそれぞれ分かれていく

 

不気味な雰囲気の綾小路は教室を出て

仮面をかぶった綾小路はしばらくその場に残っていると

 

「あ、あの・・・」

 

するとその彼のもとに話しかけてきたのは佐倉だった

 

「・・・・・・佐倉嬢、お帰りですか・・・・?」

 

「綾小路君・・・

 

 今日で決まるん、だよね」

 

「・・・・・・ええ、良くも悪くも今日で決まりますよ・・・・」

 

仮面をかぶった綾小路の言葉に佐倉はやはりどこか不安がある様子

 

「大丈夫、かな・・・」

 

何か思うことがあるように、佐倉は目を伏せて小さくつぶやいた

仮面をかぶった綾小路は佐倉の様子がおかしいことに気が付き始める

 

「・・・・・・いかがなさいましたか・・・・?」

 

「え?」

 

「・・・・・・今日は佐倉嬢が証言するわけではありません・・・・

 

 それなのにどうして、そんなに体を震わせているのですか・・・・?」

 

仮面をかぶった綾小路は心配そうに佐倉に問いかける

 

「・・・みんなが頑張ってるから、私も頑張ろうと思って」

 

まるで自分に言い聞かせるように言葉にする佐倉

 

「・・・・・・佐倉嬢、貴方いったい何をしようと・・・・」

 

「私ね・・・今日をもって変わろうと思って

 こんな私からさよならをするんだって、これを機に

 

 そのためにやることを・・・今からするの」

 

そう言うがどこか答えが明確になっていないと

綾小路は感じていた、仮面をかぶった綾小路は彼女に問いかける

 

「ま、またね、綾小路君」

 

と飛び出そうとする佐倉に向かって

 

「・・・・・・佐倉嬢

 お待ちください・・・・!

 

 あなたにお話ししたいことが・・・・」

 

慌てて佐倉を引き留めようとするが

 

「今日はこれから用事があるの、それじゃあ」

 

と教室を出ていってしまう佐倉であった

 

「・・・・・・堀北嬢のお言葉・・・・

 

 もしかしたらその通りなのかもしれませんね・・・・」

 

気になった綾小路は

佐倉が出ていってしばらくたってから

 

後を追って出ていくのであった

 

 

 

「それで?

 

 あいつらは来ると思うか?」

 

「来るさ・・・・

 

 何しろ相手はあの櫛田なんだからね・・・・・」

 

特別棟にある人物たちを待ち続けているのは

動物的な雰囲気の綾小路と不気味な雰囲気の綾小路だった

 

「ったくそれで俺を使ったわけか・・・・

 

 悪いがもうここで引き上げさせてもらうぜ

 いい加減あいつとの変な噂を立てられたら迷惑だしよ」

 

「お疲れ・・・・」

 

そう言って引きあげていく動物的な綾小路

 

「さあて・・・・

 

 どうやら来たようだね・・・・」

 

そこに現れたのは石崎達Cクラスの三人だ

その会話の内容から櫛田に呼び出されて浮かれているようだ

 

「・・・・・・やっと来てくれたね・・・・

 

 待ちくたびれて立っているのが疲れてきたところだったよ・・・・」

 

そう言うと三人が見上げる階段の上から

不気味な雰囲気の綾小路が立っているのだった

 

「・・・・お前、なんでここに!?」

 

先に声を上げたのは石崎だった

 

「櫛田なら来ないよ・・・・

 

 俺、いや私が櫛田に頼んで

 君たちにここに来るようにしたんだよ・・・・」

 

すると石崎は不機嫌そうに彼のいるところにまで上がっていく

 

「ふざけやがって

 

 これは一体何の真似だ!」

 

「だってこうでもしないと君たち来ないでしょ・・・・

 

 こういう場所だったらお互いに腹を割って話せると思ってね・・・・」

 

「腹を割って話すだと?

 

 悪いが俺たちがお前に話すことなんて何もないね」

 

石崎は暑さのせいで機嫌が悪そうに答えていく

 

「どうあがいたって真実は隠せねーんだよ

 

 俺たちは須藤に呼び出されて殴られた

 

 それが答えだ、それ相応の罰を受けるのは当然だろ!」

 

「そんな無駄な時間を割くつもりなんてこっちもないよ・・・・

 

 DクラスもCクラスも主張を

 曲げるつもりはないんなら議論したって意味はないさ・・・・」

 

「だったらなんだよ

 

 今から俺たちを拉致って会議に参加でもさせるか?

 

 あるいは大勢で囲んで暴力で脅してみるか?」

 

「それも無駄なことだね・・・・

 

 所詮そんなのその場しのぎだし

 何より、ばれたら余計に立場悪くなるしさ・・・・」

 

不気味な雰囲気の綾小路はそう言いながらも

余裕の表情を決して崩していく様子はないように見える

 

「気に入らねえな、何やっても無駄だってわかってんのにその余裕な感じが!」

 

石崎は綾小路に向かっていこうとするが

 

「いいのかな?

 

 このまま引き上げてしまって」

 

「そうだよ、おとなしく

 観念した方がいいと私も思うな」

 

そこにCクラスの面々を待っていたように

軽い足取りで現れていくのは二人の女子生徒

 

「あ、綾小路に一之瀬!?

 

 綾小路はともかく

 どうして一之瀬がここに!?」

 

これにはCクラスの三人は驚きの様子を見せる

 

「どうしてって?

 

 私もこの件に一枚かんでるから、とでも言っておこうかな?」

 

「そう言うこと、一之瀬さんにも手伝ってもらってたの

 

 しっかし一之瀬さんも有名人だね

 まさかCクラスにも名前が知られてるなんて」

 

「Cクラスとは何度かいろいろあってね」

 

「ふうーん・・・・」

 

そのやり取りに興味があるように

ゆっくりと階段から降りていく不気味な雰囲気の綾小路

 

「今回はBクラスは何の関係もないだろ!

 

 引っ込んでろ・・・」

 

弱弱しくもCクラスの三人は一之瀬に啖呵を切って退けようとする

 

「確かに関係ないけどさ、でも嘘で他人を巻き込むのは見過ごせないんだよね?」

 

「・・・・俺たちは嘘はついていない

 

 被害者なんだよ俺たちはっ、ここに呼び出されて須藤に殴られた

 

 それが事実だ」

 

「やれやれ、どこまでもしぶといのね

 

 貴方達はもうここにきた時点でもう詰んでるのに気が付いてないの?」

 

女子の綾小路の言葉に大きく体を震わせていく

 

「今回の事件、貴方達が嘘をついたこと

 

 最初に暴力をふるったこと、全部学校はお見通しなのよ?」

 

「は?

 

 ンなわけねえだろ

 

 いくらお前が証言してもあてにはならねえんだよ

 

 須藤から喧嘩を振ってきたんだからな、なあ?」

 

石崎だ同意を求めるとほかの二人も同意する

 

「この学校が、日本でも有数の進学校で

 政府公認だってことは知ってるよね?」

 

「当然だ、俺らはそれが狙いで入学したんだからよ」

 

「だったらもう少し頭を使わないと

 

 君たちの狙いなんて、最初っからバレバレなんだよ?

 

 綾小路さんが言ったようにね」

 

一之瀬は追及しながらも、この状況を楽しんでいるように見える

 

「だっておかしいと思わなかったの?

 

 今回の事件を知ったときの学校の対応」

 

「あ?」

 

「貴方達が須藤君に殴られたって訴えられたときに

 どうしてその須藤君はすぐに処分されなかったのか

 

 およそ数日間の挽回のための数日間の好機を与えたのか?

 

 どうしてだと思う?」

 

「そりゃあいつが、嘘ついて学校側に泣きついたからだろ

 

 建前上猶予を与えないと訴えたもの勝ちになってしまうからな」

 

「あたしじゃそうは思わない

 

 本当の狙いは別にある、あたしはそう考えてる」

 

石崎達三人は暑さにより苛立ちのせいで理解が及ばない様子

 

「あーくそあちぃ!

 

 わけわかんねえよ」

 

まるでこの様子を予知していたように

不気味な雰囲気の綾小路は笑みを浮かべている

 

「もう行かせてもらうぜ、こんなところにいたら茹で上がっちまう」

 

「いいのかい?

 

 もし君たちがここを離れたら

 多分一生後悔することになるよ?」

 

「さっきからなんなんだよっ」

 

Cクラスの三人はいらだった様子で

一之瀬と女子の綾小路の方に向く

 

「どうやらわかってないみたいだね?

 

 さっき一之瀬さんが言ってたじゃない

 学校側は全部お見通しなのよ、嘘をついたのが貴方達だって言うことにね」

 

それを聞いて意表を突かれたようであり、互いの顔を見合わせていた

 

「笑わせんなよ

 

 俺たちが嘘をついてる?

 

 それを学校側が知ってるだと?」

 

だまされると思うなよと言うように鼻で笑う

 

「そうよ、貴方達はずっと掌の上で踊らされていたのよ」

 

「そんなウソが通じると思うなよ!

 

 一之瀬を抱き込んだ程度で俺たちを欺けると・・・」

 

「実は、確実な証拠もあるんだよね」

 

石崎の言葉を遮るように一之瀬が言う

 

「だ、だったらその証拠とやらを見せてみろよ・・・!」

 

石崎は動揺せずにそう告げるが

すでに自分たちがつられていることに気が付いていない

 

「この学校のいたるところに監視カメラがあるのは知ってるよね?

 

 教室や食堂、コンビニなんかにも設置されてあるの、なんとなく見たことあるでしょ?

 

 私達の不断の行いをチェックすることで不正を見逃さないようにしてる措置なんだよ」

 

「そ、それがどうしたっていうんだよ」

 

そしてここで一手を打つ

 

「それじゃあ

 

 あれは何かな?」

 

そう言って女子の綾小路は指をさす

石崎達はその先を見ていくと、三人は驚愕の表情を見せる

 

「え・・・!?」

 

そこにあったのは監視カメラだった

 

「ダメだよ三人とも

 誰かをはめるんだったらカメラのないところでやらないとね」

 

「ば、な、なんでカメラなんか!?

 

 嘘だろ!?

 

 だって、ほかの廊下にはカメラなんてなかったよな!?

 

 ここだけ設置されてるなんておかしな話だろうが、なあ!?」

 

石崎は後ろを振り返ると、ほかの二人も同意する

 

「俺たちをはめようったってそうはいかねえぞ、あれはお前らがとりつけたんだ!!」

 

「だってこの特別棟では理科の実験で使われる

 劇薬があるんだよ、安全のためにカメラをつけてるのは当然じゃない」

 

それでも疑うならと別の方にも指を向けた

 

「カメラはあそこ一台じゃないよ」

 

よく見ると反対側にもカメラが起動している

 

「もし仮に私達が君たちをはめるために

 このカメラを用意したならあっちの方にまで気を回すかな?

 

 そもそも監視カメラなんて

 卒業するまで学校から出られないのにどうやって用意するの?」

 

確実に網の中に獲物を追い込んでいく

 

「そ、そんな馬鹿な・・・・そんな

 俺たちはあの時確認した・・・はず・・・・・・・」

 

「本当に確認したの?

 

 ひょっとしてそこって二階か四階じゃなかったの?

 

 現にここにはカメラは仕掛けられてるしね・・・」

 

三人は暑さによるものとは別の汗をかいているのがわかる

 

「まあ、貴方達がさっき監視カメラを確認したって言った時点で

 自分自身でぼろを出したようなものだけどね・・・・

 

 だって普通に考えてそんなの気にしないもの・・・・

 

 それを言うってことは自分たちが

 犯人だって言っているようなものだしね」

 

やがて網の中で身動きがとりずらくなっていく獲物

 

「じゃ、じゃあ・・・・あの時のも、まさか・・・」

 

「あの手のカメラでは音声までは記録できてないだろうけど

 君たちが先に殴りかかった決定的瞬間は間違いなく映ってるよね」

 

一之瀬がそこまで言うと

女子の綾小路が目線で不気味な雰囲気の綾小路に引き継がせていく

 

「ひょっとしたら本当に猶予を与えられたのは

 須藤の方じゃなく君たちの方なのかもしれないね・・・・

 

 君たちに本当のことを話してくれると考えて

 生徒会長自らが嘘がないかを確認してきたんだろうさ・・・・

 

 思えばあの時からすべて見抜かれていたって思うけど・・・・?」

 

不気味な雰囲気の綾小路はゆっくりと三人に問いかけていく

三人はその雰囲気に圧されていく、表情がだんだんと青ざめていく

 

「そんな・・・こんな、聞いてねえよ・・・!

 

 もうおしまいだ!」

 

小宮は壁にもたれかかって壁にもたれかかってぐったりと膝を折り

近藤も頭を抱えていく、だがそれでも抵抗する者が一人いる、石崎だ

 

「やっぱり納得いかねえよ

 

 もしも監視カメラに映像が残ってたんなら

 お前らは何もしなくても無実を証明できるってことだろ

 

 なんでわざわざ俺たちに教えなくても話し合いでわかってたはずだ

 

 ってことはやっぱりお前らが仕組んだんじゃねえのかっ!?」

 

「無実なんて何をもって無実によるものだろう・・・・

 

 この事件が起こった時点で双方が痛みを負うことは確定してるんだしね・・・・

 

 事情がどうあれ須藤は君たち三人を殴ったそれは変えられないだろうね・・・・

 

 まあカメラの映像によって須藤が先に仕掛けたもの

 じゃないと証明できれば処罰も最大限軽くなるだろうさ・・・・

 

 まあ私としてはそれで構わないが

 須藤自身はそれでは困るみたいだしね・・・・

 

 なんてったって悪い噂が広がれば

 彼の今後に響くかもしれないしね・・・・」

 

石崎の顔から滝のように朝が流れていく

 

「な、なんだよ

 

 それはつまりお前らだってカメラの映像は困るんじゃねえか?

 

 だったら俺たちはそのまま突き進むだけだ

 須藤が停学になればそれで勝ちなんだからな」

 

「だろうね・・・・

 

 困っちゃうね・・・・

 

 まあ別にそれでもいいよ・・・・

 

 何しろそうしたら君たちは退学になるんだしさ・・・・」

 

その言葉に三人は思わずぎょっと目を見開く

 

「君たちがもしも監視カメラの映像を確認することになったらさ・・・・

 

 君たち三人がかりで嘘ついて学校中を振り回していったってことになる

 

 その結果で須藤は停学になっても

 君たち三人はその代償で退学になってしまうってことだろうさ・・・・」

 

「な・・・!」

 

「じゃ、じゃあ、どうして学校は・・・・俺たちが嘘をついたって言ってこないんだよ」

 

弱弱しく近藤が、救いを求めるように言う

 

「学校側はあたしたちを試しているのよ

 

 あたしたち生徒間でこの問題を解決できるのか

 どんな結論を導き出すのかを試してる、そう考えれば

 今回の件のすべてのつじつまが合う、そうは思わない?」

 

「・・・なんで、こんな・・・俺、退学なんて絶対いやだぜ・・・!」

 

「な、なあ石崎

 

 今からでも遅くない、嘘だったって言いに行こうぜ!

 

 俺たちから言えば、学校側も許してくれるかもしれねえ!」

 

「くそぉ・・・・ふざけんな・・・

 

 自分から嘘を認めろってのか?

 

 それで処罰されるくらいなら、最悪玉砕覚悟で挑んでやるよ・・・!

 

 須藤もおしまいだ!」

 

石崎はもう、やけくそ気味だ

するとその彼の額に指が突き付けられる

 

「んがっ!」

 

「自滅してくれるなら別にいいけどさ・・・・

 

 そう言うのはもう少し人の話を聞いてからでも遅くないだろう・・・・?

 

 君たちに教えてあげるよ

 CクラスとDクラス両方を救う方法は一つだけある・・・・」

 

「そ、そんな方法あるわk・・・!」

 

「簡単よ、事件そのものをなくしてしまえばいいのよ」

 

石崎の言葉を遮るように女子の綾小路が続けて話す

 

「訴えを取り下げればいいのよ

 

 そうすれば学校側も無理にカメラの映像を

 持ち出して判決を下すことはないし、訴えがなければ

 処罰を受けることはないし、仮に映像を持ち出さそうになったらそうになったら

 アタシたちDクラスも援護する、だって映像を論点に出されたらこっちも処分を

 うけることになってしまうからね

 

 ようはCクラスとDクラス

 この二つのクラスが結託して学校側に対抗することができる

 

 映像だけじゃ見えてこない嘘を、学校側も追求しきれないでしょ?」

 

二人の綾小路はゆっくりと三人に詰め寄っていく

 

「ち、ちょっと待ってくれ・・・

 

 一本、電話をさせてくれ・・・」

 

と携帯を取りだす石崎だが

その手を女子の綾小路がつかんで止めさせる

 

「自分のことを自分で決められないんじゃ、話にならないわね

 

 貴方達、覚悟をしておいた方がいいわね

 今すぐに学校側に映像の確認をしてもらうように申請してもらおう」

 

女子の綾小路は三人の逃げ場を確実になくしていく

 

「こいつらの提案を受けよう石崎!」

 

「ま、待てよ

 

 あの人に確認しねえと・・・・やべえだろっ」

 

「もう俺たちの負けだって!

 

 退学は嫌だろ!

 

 頼むよ、石崎っ」

 

「・・・・くっ・・・!

 

 わかった・・・・取り下げる・・・取り下げれば、いいんだろ・・・!」

 

こうして三人全員が折れ、提案を受けるのであった

 

「それじゃあすぐに生徒会室に行こう・・・・・・私もついてくからね・・・・」

 

こうして三人を連れて生徒会室に連れていく不気味な雰囲気の綾小路であった

 

・・・三・・・

 

「いやーすっきりすっきり!

 

 ありがとね手伝ってくれて」

 

「ほとんどは一之瀬さんが仕切ってたでしょ?」

 

「あはははは、そうかな

 

 でもこれで一件落着だね」

 

残った二人は脚立を用意して

特別棟に戻ってきたのだった

 

「しかし昨日ポイントを貸してくれって

 言われた時はどうするのかって思ってたけど」

 

そして監視カメラを見る

 

「まさか、監視カメラを設置する目的だったとはね」

 

「・・・・・・ええ、まさか監視カメラが売ってあるとはね

 

 はっきり言ってどこまで持つのかわからなかったけど

 この蒸し暑い特別棟のおかげで判断力が低下してる今の彼らなら

 何とかごまかせるとしか思わなかったけど、まさかここまでなんてね」

 

そう言って脚立を監視カメラの設置場所の方につけていく

 

「もしかしたら綾小路君達がCクラスに上がる日が来たら

 もしかしたら案外手ごわい相手になるかもしれないね」

 

「まあそんな日が来たら、ね・・・・」

 

女子の綾小路は一之瀬をじっと見つめる

 

「・・・・・・もしかしたら一之瀬さん・・・・

 

 その言葉に一番当てはまるのは、貴方なんじゃないかな・・・・」

 

そうつぶやいて取り外し作業にかかっていく

 

「もしも君や堀北さんがBクラスだったら

 きっと頼もしいことこの上なかったかもしれないのに」

 

「そう」

 

外したカメラを一之瀬に渡していく

 

「あ、そうだ・・・・

 

 借りたポイントのことだけど

 あとでクラスのみんなと相談させてもらえないかな」

 

「いいよ

 

 卒業までに返してくれたらそれでいいよ

 

 それで次はどうしよう?

 

 生徒会室の前で待つ?」

 

「そうね・・・・」

 

作業を終えて脚立を降りていく女子の綾小路

 

「そうだ、一つ綾小路さんに伝えておきたいことがあるんだけれど・・・」

 

「ごめん一之瀬さん、悪いけれどちょっと急ぐから」

 

作業を終えてすぐに走り出していく綾小路

 

「え!?

 

 ちょっと待って!

 

 っていうか綾小路さん早い!」

 

急いで玄関に向かっていき靴を履き替えていく

 

「ちょっと待ってってどうしたの急に!」

 

一之瀬も息を切らしていたが

体力の方はまだ残っているようだ

 

「ごめん、ちょっと気になることがあって」

 

「気になることって何なの!?」

 

綾小路は一之瀬とともに外に走り出していくのだった

 

・・・・四・・・・

 

家電量販店の搬入口のある場所

 

そこでは店員と佐倉が向かい合って口論しているようだった

 

「も、もう私に連絡してくるのはやめてください・・・!」

 

「どうしてそんなことを言うんだい?

 

 僕は君のことが本当に大切なんだ・・・

 

 雑誌で君を初めて見たときから好きだった

 

 ここで参加した時には運命だと感じたよ

 

 好きなんだ・・・君を思う気持ちは止められない!」

 

「やめて・・・やめてください!」

 

佐倉がそう言ってカバンの中から手紙の束を見せてきた

 

「どうして私の部屋を知ってるんですか!

 

 どうしてこんなもの、送ってくるんですか!」

 

「・・・決まってるじゃないか

 

 僕たちは運命の赤い糸で結ばれているからだよ」

 

佐倉は弱弱しくも必死に抵抗しているのがわかる

 

「もうやめてください・・・迷惑なんです!」

 

その証拠にその男の一方的な愛情を拒絶するように

手に持った手紙の束を地面に向かってたたきつける

 

「どうして・・・どうしてこんなことするんだよ・・・!

 

 君のことを思って書いたのに!」

 

「こ、来ないで・・・!」

 

男は距離を詰め、今にも襲い掛からんような勢いで歩みだし

佐倉の腕をつかむと倉庫のシャッターにたたきつけるように押し付けた

 

「今から僕の本当に愛を教えてあげるよ・・・そうすれば雫ちゃんも、わかってくれる」

 

「い、いや、離してください」

 

そう言って佐倉に向かって手を伸ばそうとしたその時

突然何者かにその腕をつかまれて、慌ててその方向を見る

 

「・・・・・・申し訳ありませんが、そこまでにしてもらえませんか・・・・?」

 

「へっ!?」

 

そこにいたのは仮面をかぶった綾小路であった

 

「・・・・・・あまり感心しませんね・・・・

 

 仮にも男子たるものいたいけな女子と無理やり関係を迫ろうとは・・・・」

 

「ちょ、ち、違う

 

 これは違うっ!」

 

「・・・・・・違うですか・・・・

 

 しかし、そう言うわけにもいかないようです・・・・」

 

そう言って佐倉が地面にたたきつけた手紙を拾って内容を見ていく

 

「・・・・・・なんともひどい内容だ

 自分の気持ちを一方的に押し付けて相手のことなど何も考えていない・・・・

 

 はっきり申し上げると、下劣この上ないものですね・・・・」

 

不意に仮面をかぶった綾小路の店員を見る目が鋭くなっていくのが感じられる

 

「ち、違うんだ

 

 ただ、そう

 

 この子がデジカメの使い方を

 教えてほしいって言うから

 個別に教えてたっていうか

 

 それだけなんだよ」

 

「・・・・・・あくまで言い逃れをするつもりですか・・・・?」

 

あまりのその威圧感に店員は思わず

シャッターに背中を勢いよく当てる

 

「・・・・・・少しでも反省の色を見せれば

 今回のことは見逃して差し上げようと思いましたが・・・・

 

 見たところ貴方は反省どころか

 自分の罪から逃げようとしている・・・・

 

 貴方には己の罪をはっきりと自覚させる必要があるようだ・・・・」

 

「は、ははは

 

 何のことかな

 

 いや、ほんと

 

 僕全然知らないんで・・・」

 

「・・・・・・逃げようと言うのなら無駄ですよ・・・・

 

 先ほどの現場は写真に収めました、このように物証もある

 残念ながら罪を犯した貴方に逃げる場所などどこにもありませんよ・・・・」

 

「あ、あああ・・・」

 

するとそこに一人の女子生徒が駆けつけてきた

 

「何か嫌な予感がしたと思ったから駆けつけてきたけど

 

 どうやら的中してしまったみたいだね、我・・・・」

 

「・・・・・・あたし・・・・」

 

「あ、あああ・・・」

 

店員は逃げだそうとするが警備員に囲まれてしまう

その間に一之瀬が歩いてきて店員に言う

 

「女の子に乱暴して逃げようだなんて虫が良すぎるんじゃないかな?」

 

こうして警備員によって店員は取り押さえられてしまう

 

「うあああ、ちっくしょおおお!!!」

 

どうして自分がこうなってしまうんだと問いかけるがごとく叫ぶ店員

 

だがその問いに綾小路も一之瀬も、佐倉だって答えるつもりはない

所詮は自分自身のまいた種、言うならば自業自得なのだから

 

「・・・・・・なんとか間に合いましたね・・・・」

 

佐倉は気が抜けたのか

腰を抜かして地面に座り込みそう

になったのを慌てて腕をつかんで体を支えた

 

「・・・・・・・・・・」

 

仮面をかぶった綾小路は佐倉の方を見る

佐倉を見るその目はどこか怒っているように見えた

 

「綾小路、君・・・どうして・・・」

 

「・・・・・・あなたの様子がどうにもおかしかったので

 失礼を承知で、あとをつけさせていただきました・・・・」

 

佐倉の方を向かずに佐倉の問いに答える綾小路

 

「私ってやっぱり全然だめだね・・・

 

 結局一人じゃ、何もできなかった・・・」

 

「・・・・・・いいえ、我には佐倉嬢の覚悟・・・・

 

 それはしっかりと伝わってきました・・・・」

 

そう言って佐倉の方を向く

 

「ねえねえ、君たちに一つ聞きたいんだけれど

 

 さっきの怪しげな人誰?

 

 どうしてさっきの人佐倉さんのこと雫って呼んでたの?」

 

そこに一之瀬が戻ってきてそんなことを問いかける

 

「・・・・・・ええっと・・・・

 

 話すと長くなるので少し間接にまとめさせてもらいますが・・・・」

 

綾小路は説明に戸惑ってしまうが

佐倉はそんな彼を見て、大丈夫だよと言うように頷く

 

「・・・・・・こちらにおられる佐倉嬢は

 中学のころ、アイドルなるものでして

 

 雫と言うのはその時に使っていたいわばペンネームのようなもので・・・・」

 

「ええ!?

 

 アイドル!?

 

 すごっ!

 

 芸能人だね!

 

 握手して握手!」

 

それを聞いて握手を求める一之瀬の

襟元を引いて落ち着くように言う仮面の綾小路

 

「・・・・・・あまり佐倉嬢を脅かさないでいただきたい・・・・」

 

「あ、あはははは、ごめん

 

 怖がらせちゃって・・・」

 

「い、いえ、そんなことないですよ

 

 それに芸能人って言ってもテレビとかは出てないですよ」

 

「それでもすごいよ!

 

 アイドルなんてなろうと思ってもなれる物じゃないし!」

 

一之瀬はまた興奮気味になってきたのでまた収めていく綾小路

 

「いつから気づいてたの・・・?

 

 綾小路君」

 

「・・・・・・気づいたのは我ではなく櫛田嬢です・・・・

 

 我もほかの者から、貴方のことをお聞きしまして・・・・」

 

佐倉の問いにそう答える綾小路

 

「でも、もしかしたらそれでよかったのかも・・・

 

 自分を偽り続けるのって大変だから・・・」

 

そう言って眼鏡をはずす佐倉

 

「・・・・・・あなたの勇気は見事ですが

 それでも我は、貴方を叱らなくてはなりません・・・・

 

 覚悟は見事ですが、だからと言ってなんでもかんでも

 一人で頑張るのは、正しい選択ではありませんよ、ましてや

 今日のように、危険な場に飛び込んでいくのははっきり申し上げて無茶です・・・・」

 

「う、うん・・・そうだね・・・ごめんなさい」

 

佐倉の顔は不思議と笑みを浮かべていた、目の端に涙を浮かべながらも

 

「綾小路君は・・・私のこと、やっぱり変な目で見ないんだね・・・」

 

「・・・・・・はい・・・・?」

 

「・・・ううん、なんでもない」

 

綾小路に問いかけない代わりに

佐倉はちょっと嬉しそうに微笑んだ

 

「明日から眼鏡と髪型変えていったら、みんな気づくかな・・・」

 

「・・・・・・それどころかパニックになるかもしれませんよ・・・・」

 

そんなことを笑いながら話していく二人

 

「わあ!

 

 すっごくかわいい!

 

 眼鏡とかで全然印象が違う!」

 

一之瀬は携帯の画像を見て何やら興奮している

どうやら、雫のことを調べていたらしい

 

「・・・・・・自分を偽り続けるのは大変、ですか・・・・」

 

佐倉が先ほど言っていた言葉を復唱していた

 

「ごめんね

 

 ずっと黙ってて」

 

「・・・・・・いいえ、謝らずとも結構ですし

 離さなくてはいけないことでもありません・・・・

 

 誰かに相談するのがあなたにとって難しいものだともね・・・・

 

 ですが、今回の件でもっと相談しあえる関係になれたと思います・・・・

 

 この先も悩むこと迷うことがあれば相談なさってください・・・・

 

 我や堀北嬢ならば、きっとお力になれるでしょう・・・・」

 

一之瀬はその言い方に疑問を

抱いたのか仮面の綾小路に耳打ちをする

 

「どうしてそこに櫛田ちゃんが入らないの?

 

 櫛田ちゃんなら気軽に相談してくれると思うけど」

 

「・・・・・・・・・・」

 

あくまで何も答えないようにする綾小路

 

「・・・・・・とにかく、まずは自分が

 信頼できると思うお人を作っていく事から始めましょう・・・・」

 

「私も、困ったことがあったら相談に乗るね」

 

一之瀬は佐倉に向けて言った

 

「そう言えば、自己紹介してなかったっけ

 

 私はBクラスの一之瀬 帆波

 

 よろしくね佐倉さん」

 

差し伸べてきた手を、佐倉は少し迷いながらも握って応えた

 

「あ、そうそう

 

 綾小路さんに話すつもりだったけど

 この際綾小路君に話しておこうかな?」

 

「・・・・・・話、とは・・・・?」

 

一之瀬は真剣な表情で話し始めていく

 

「今はこんなことを言うべきじゃないかもしれないけど・・・・今回の件には黒幕がいるの」

 

「・・・・・・黒幕・・・・?」

 

一之瀬の言う黒幕、その単語を聞いて彼女を見る仮面の綾小路

 

「実は以前にね、BクラスもCクラスの生徒ともめたことがあってね

 

 その時はこんなふうに学校を巻き込んだものじゃなかったんだけどね

 

 その時のその騒動を裏で糸を引いていたのが、龍園 翔君」

 

「・・・・・・龍園 翔・・・・?

 

 彼のことは何度かお聞きしたことがありますが

 それほど目立った噂はまだ耳にしておりません・・・・」

 

「知らなくても無理はないよ

 

 彼自身は目立った行動はとっていないから」

 

一之瀬のその龍園と言う人物の話をするときの表情は

いつもの明るいそれとはまったく真逆なほど重く険しい

 

「龍園君はね、私が一年生の中で最も警戒している生徒の一人なんだ

 

 須藤君を嘘つきに仕立て上げたことも

 Bクラスと揉め事を起こしたのも全部彼の仕業だと思う

 

 自分の利益のためなら他人を陥れ傷つけることを迷わない人物

 

 ・・・・相当手ごわいよ」

 

「・・・・・・先ほど申し上げていたBクラスとCクラスの揉め事・・・・

 

 それについては、ご解決なされることができたのですか・・・・?」

 

「何とかね

 

 でも勝負としては勝ったって言えるのかはどうか・・・

 

 でも今回大っぴらに仕掛けてきたってことは

 学校の仕組みを理解し始めたからかもしれない

 

 お互いに気を付けた方がいいかもしれないね・・・」

 

「・・・・・・龍園 翔・・・・」

 

仮面をかぶった綾小路はその人物の名前を再び口にする

 

「何かあればいつでも協力するから、その時は相談してね」

 

「・・・・・・ええ、覚えておきましょう・・・・」

 

綾小路はしばらく険しい顔で一之瀬を見つめていたのであった

 

・・・・・五・・・・・

 

審議開始10分前

 

堀北と須藤は生徒会室にて着席しており

その場には橘書記しかおらず、先生たちもいない

 

「やべえ、緊張してきた・・・」

 

「わかったからその貧乏ゆすりをやめなさい」

 

今日の審議にてすべての決着がつく

須藤に注意を促した堀北自身も緊張が走っている

 

昨日の作戦が果たしてうまくいくのかどうか

 

堀北自身ははっきり言ってこの作戦が成功するかどうか

それについては残念ながらうまくいくものとは思っていない

 

本心では後悔の念もある

 

昨日あの時の提案を飲んでおくべきなのかと後悔していた

 

どうしてあの時むきになってしまったのか

それはあの時彼が耳打ちで語ってきたあの言葉のせいなのかもしれない

 

その時堀北は不意に考えた

実はあの時、彼にうまく誘導されてしまったのでは

 

もしかしたらそのために彼は

もう行動を起こしていたのではないか、と

 

そんなことを考えていると

そこに生徒会長が入り、次に二人の人物が入ってきた

 

「おや

 

 昨日の男子はいないようですね」

 

Cクラスの担任の坂上先生と

Dクラスの担任の茶柱先生だった

 

「綾小路はどうした堀北?」

 

「彼は不参加です」

 

「不参加?」

 

茶柱先生は怪訝そうに昨日彼の座っていた彼の席を見つめる

 

「ま、まあいてもいなくても同じですから」

 

堀北自身は気が付き始めている

自分自身が彼と言う存在に近づくほど

 

彼の得体の知れなさが逆に彼自身の存在を大きくしていることに

 

そんな自分をごまかすように堀北はそう告げる

 

「まあいい、決めるのはあくまでお前たちだからな」

 

あとはCクラスの生徒が来れば審議の開始だ

堀北自身はあくまで深く考えないようにする

 

始まってもやるのはあくまで追求と追撃

相手もまた同じことを考えているだろう

 

そしてそこにCクラスの三人が入っていく

 

「ぎりぎりだったな」

 

坂上先生はほっと溜息をつく

 

「ではこれより昨日に引き続き審議の方を執り行いたいと思います

 

 着席してください」

 

すると石崎が口を開く

 

「あの・・・・坂上先生」

 

「どうした」

 

様子がおかしいのは周りにいた誰にでも理解できた

 

「・・・・この事件の訴えですが、取り下げさせてもらえませんか」

 

「んな・・・・いきなり何を言い出すんだ」

 

その言葉に坂上先生も驚きを隠せない

 

「それは和解したい、あるいはしたということか?」

 

堀北兄が理由を問いただす

 

「僕たちは気が付いたんです、今回の件でどちらが悪いとかそう言うことではないって

 

 この訴えそのものが間違いだったと気が付きました

 だから訴えを取り下げさせてほしいんです」

 

「訴えを取り下げる、か」

 

茶柱先生はうっすらと笑みを浮かべていく

 

「何がおかしいのですか、茶柱先生」

 

それを見て苛立つ様子で睨みつける坂上先生

 

「いや失礼、まさかこのような展開になるとは想像していなかっただけですよ

 

「先生方や生徒会の人たちにはお時間をとらせて申し訳ないと思っています

 

 でも、それが僕たちの考えで出した結論なんです」

 

堀北はその様子に驚きと安どの様子を見せるが

あくまでそれを表に出すことなく、気丈にふるまう

 

「こんなの、こんなの認められるわけがないでしょう!

 

 彼らは何も悪くない、すべては一方的に暴力ををふるってきた須藤君が原因です!」

 

坂上先生は怒りで身を忘れているのか、Dクラスの二人に問いかけてきた

 

「・・・・何をした

 まさか訴えを取り下げなければただでは済まさないとでも脅したのか?」

 

「は?

 

 ふざけたこと言うなよ!

 

 俺は何もしてねえぞ!!」

 

「そうでもなければ、彼らが訴えを取り下げるなどと言うはずがない!

 

 本当のことを言え!

 

 今ならば許してやる、言え!」

 

「やめてください坂上先生・・・・僕たちは

 何を言われても訴えを取り下げます、考えを変えるつもりはありません」

 

石崎達がそう言うと、坂上先生は理解できないと

ふらふらと椅子に腰かけていくのであった

 

「訴えを取り下げるというならそれを受理しよう

 

 確かに話し合いの最中において

 審議を取り消すことになるケースは稀だが起こりうることだ」

 

堀北兄は冷静にこの事態を進めていく

 

「待てよ

 

 勝手に訴えといて

 勝手に取り下げるなんてわけわかん・・・」

 

須藤は反論しようとするが、それを堀北が止める

 

「堀北?」

 

「ここはおとなしくしてて」

 

そして堀北は口を開く

 

「訴えを取り下げるというならこちらは戦う意思はありません

 

 受け入れるつもりです」

 

堀北はそのように応える

 

「しかし規定に乗っ取り

 審議取り下げにはある程度諸経費として

 ポイントを収めてもらう必要があるがそれに異論はないか?」

 

Cクラスの生徒はそれを聞いて驚きを見せるが、それでも

 

「わかりました・・・・お支払いします」

 

「では話し合いは終わりだ

 

 これで審議を終わりにさせてもらう」

 

こうしてこの審議はあまりにもあっけない幕引きとなった

 

「須藤君

 

 これで貴方は停学処分はなくなった

 

 学校側も問題児としては扱わないはずよ

 

 部活動の方も、これから問題なくできますよね?」

 

不敵な笑みを向けていた茶柱先生にそう確認をとる

 

「もちろんだとも、だがもし次にお前たちが問題を起こせば

 今回の件が引き合いに出されることは忘れるな?」

 

茶柱先生に念を押されて須藤は不満そうながらも頷く

 

須藤からしてみれば結果はどうあれこうして再び

バスケットを続けられることの方がうれしいのだろう

 

坂上先生はCクラスの生徒とともに足早に退室していく

 

「とりあえずよかったと言っておくか、須藤」

 

茶柱先生が須藤に向かってそう言い放つ

 

「へへ、当然だぜ」

 

「まあ私個人としては

 お前は罰せられるべきだったと思っているけどな」

 

茶柱先生は須藤を断罪するように、厳しい言葉を投げかける

 

「今回の事件は、そもそもお前の日ごろの行いが招いたことだ

 

 事件の真実や嘘なんて些細なことで

 大切なのは事件そのものを起こさせないことだ

 

 今回の件でそれがいやと言うほどわかっただろう」

 

「う・・・」

 

「だが自分の比を認めるのはカッコ悪い

 

 だから態度だけは偉そうにしている

 

 強がっている

 

 それは別にいい

 

 だがそれでは本当の仲間などできるはずもない

 

 今のままではいずれ堀北もお前に見切りをつけて、離れていくだろう」

 

「・・・それは・・・」

 

須藤は不意に堀北の方を見る

 

「自分の過ちを認めることもまた強さだぞ、須藤」

 

須藤はそう言われるとうなだれるように椅子に座り込む

 

「わかってんよ・・・

 

 そもそも俺がしっかりしてれば

 俺が相手を殴りさえしなきゃ

 こんな大事になることはなかった

 

 本当はもうわかってたんだよ」

 

須藤は強がりながらもゆっくりと話を続けていく

 

「バスケも喧嘩も、自分が満足するためだけに突っ走ってきた

 

 けど、今はもうそれだけじゃないんだよな・・・

 

 俺はDクラスの生徒で、俺一人の行動がクラス全体に影響を与える

 

 それを見を持って体験したぜ・・・」

 

須藤はゆっくりと頭を上げて、茶柱先生と堀北の方を見る

 

「もう、俺は二度と問題を起こさねえよ先生、堀北」

 

残がを告げるかのように言う須藤だが

 

「安易な口約束はやめた方がいい

 

 お前はまたすぐに問題を起こす」

 

「っ・・!」

 

茶柱先生はそんな彼の言葉を否定するのだった

 

「お前はどう思う堀北

 

 須藤は問題を起こさない生徒になると思うか?」

 

「いいえ、思いません」

 

堀北自身も同じ意見だと述べる

だが堀北は続けて言葉をつげる

 

「でも・・・・今日、確かに須藤君は進歩しました

 

 自分がしてしまった間違いに一つ気が付いたんです

 

 だからきっと明日の貴方は、今日よりも成長しているはずよ」

 

「お、おう・・」

 

「良かったな須藤

 

 堀北はまだお前を見放していないらしい」

 

「いいえ、もう見放しています

 

 これ以上離すところがないだけです」

 

「んな、なんだよそれ!」

 

須藤は頭を掻きむしった後、重いものを振り切ったような笑顔を作った

 

「それじゃ、また明日な堀北」

 

そう言って須藤は廊下を走り去っていく

 

「それでは私もそろそろ退室させてもらってよろしいでしょうか」

 

「待て、堀北と少し話がしたい

 二人は先に出ていてもらえるか?」

 

茶柱先生に言われて

二人は先に生徒会室から退室していく

 

「堀北、お前にいくつか聞きたいことがある」

 

茶柱先生は堀北の方を見て腕を組みながら興味深そうに聞いていく

 

「なんでしょうか」

 

「どうやってCクラスに訴えを取り下げさせるように仕組んだ?」

 

「それはご想像にお任せいたします」

 

堀北はそう言って追及を逃れようとする

 

「では質問を変えよう

 

 Cクラスを退けさせた作戦を考えたのは誰だ?」

 

「・・・・どうしてそんなことが気になるんです?」

 

「この場にいないあいつのことが少々気がかりでな」

 

堀北はその言い方から

茶柱先生の言うあいつがだれなのか、想像が付いた

 

「認めたくはありませんが

 茶柱先生の言う彼・・・・綾小路君は優秀かもしれません」

 

今回の作戦を提案した彼、綾小路の名前を出す

 

「そうか、まさかお前が素直に認めるとはな」

 

「・・・・驚くほどのことではないでしょう?

 

 茶柱先生は最初に彼と私を引き合わせた

 

 彼の持つポテンシャルの高さを見抜いての行動だったのですね?」

 

「ポテンシャルの高さ、ね・・」

 

「彼と言う存在はいまだに不可解な部分が見えますが」

 

堀北は本気で理解できない様子だった

 

「まああいつに思うことはいろいろあるだろうが

 もしもお前がAクラスに上がろうと思っているなら

 私から一つだけアドバイスを送っておいてやろう」

 

「アドバイス、ですか」

 

「Dクラスの生徒たちは大なり小なり欠点、この学校の言葉を借りるなら

 不良品の素質を持った人間たちが集まる場所、それは十分に理解しているな?」

 

「自分の欠点を認めるつもりはありませんが、理解はしたつもりです」

 

「ならば、綾小路の欠点はなんだと思う?」

 

茶柱先生は問いかける

 

「それについてはすでに彼自身から聞いています

 

 彼自身はその欠点を理解しているようでしたし」

 

「ほう?

 

 では聞こう・・

 

 お前の思うやつの欠点はなんだ?」

 

「それは、事なかれ主義です」

 

堀北はそう答えるが

不思議と自分自身で納得のいかない違和感を覚えていた

 

「事なかれ主義、か

 

 お前は普段の綾小路を見てそう感じたのか?」

 

「いえ・・・

 

 前に彼自身が、そう言っていましたから」

 

すると茶柱先生は小さく鼻で笑って、硬い口調でこう言った

 

「堀北、今のうちに綾小路と言う人間をできるだけ把握して置け

 さもなくては手遅れになるぞ、なぜならお前はすでに奴の術中に

 

 はまっているようなものだ」

 

「どういう意味でしょうか」

 

堀北が理解できないと言ったふうに答える

 

「お前も気づいているが綾小路は優れたポテンシャルを持っている

 

 ではなぜ綾小路はその実力を隠していると思う?

 

 今回の件でも表立って行動せず

 あくまでお前に前に立たせようとするのはどうしてだと思う?」

 

「それは・・・」

 

堀北は不意に考えるような仕草を見せる

 

確かに茶柱先生の言う通り彼の行動には

どうにも不可解な部分が多すぎるように思える

 

入学試験の問題をまるで点数を操作したり

中間テストといい今回といい、彼の行動理由が分からない

 

堀北はさらに綾小路と言う人間が分からなくなってきた

 

「これは私個人の見解だが、さっきも言った通り

 Dクラスの生徒は大なり小なりの問題を抱えた不良品だ

 

 そして今のDクラスで最も不良品たる存在・・

 

 それは綾小路だ」

 

「彼が、一番の不良品、ですか・・・」

 

「機能が高い製品ほど扱いが難しい

 

 使い方を一つ間違えれば

 自分たちの首も絞めることになる」

 

「・・・・先生は、彼が最も不良品たる部分を理解していると?」

 

「まずは綾小路と言う人間を知れ

 あいつが何を考え、何を軸に行動しているのか

 

 どんな厄介な欠点を持っているのか

 

 そこに必ず奴と言う存在の本当の姿が見える、かもしれんぞ」

 

茶柱先生はそこまで言って退室していく

堀北は不思議と彼女の言葉に意味があるように思っているのだった

 

・・・・・・六・・・・・・

 

生徒会室の前にまで現れるのは

不気味な雰囲気の綾小路、遠目から

Cクラスの面々が出てきたことは確認していたので

 

それを確認して生徒会室のもとにまで行くと

その次に部屋から出てきたのは須藤だった

 

「綾小路!」

 

「やあ・・・・」

 

須藤は綾小路のもとにまで歩いてきた

 

「その様子・・・・

 

 どうやらうまくいったみたいだね・・・・」

 

「何が何だかわかんねえけど

 堀北が何かしてくれたんだよな?」

 

須藤のその言葉に笑みを浮かべて頷く

 

「やっぱりな

 

 あいつは俺のためにやってくれると思ってたぜ」

 

嬉しそうに笑みを浮かべて答える

 

「それじゃあ俺は先に帰ってるからよ

 

 また今夜にも祝勝会やろうぜ」

 

「そうだね・・・・」

 

そう言って走り去っていく須藤を

特に何も言わずにその背中を見つめていた

 

すると今度出てきたのは

生徒会長である堀北兄とその書記だった

 

生徒会長は綾小路の姿を見つけると

彼のもとに近づいてきた

 

「お疲れさまとでも言っておこうか・・・・?

 

 生徒会長殿・・・・」

 

軽く声をかける綾小路に

生徒会長は彼の前で足を止めた

 

「Cクラス側からの申し出により訴えを取り下げることを認めた」

 

「そうかい・・・・」

 

生徒会長とその書記、不気味な雰囲気の綾小路は互いに見合っていく

 

「昨日佐倉のもとに現れた男が言った

 佐倉が嘘つきではないと証明する方法か

 

 Cクラスが訴えを取り下げたとなれば自然とその話は広まる

 

 そうなれば必然、噂もたつだろう

 

 嘘をついていたのは須藤でも佐倉でもなく、Cクラスだったのだと」

 

「提案したのはあくまで君の妹だよ・・・・

 

 私自身はあくまでそれに協力しただけのことさね・・・・」

 

「実に感心しました、答えを聞いてみれば実に単純ですが納得しました」

 

橘書記はパチパチと拍手を送る

 

「橘、書記の席が一つ空いていたな」

 

「はい、先日申し込みのあったAクラスの一年生は一次面接で落としましたので

 

 それがどうかしたのですか?」

 

橘書記は生徒会長がそのことを聞いていた意図が読めずに思わず聞き返すと

 

「綾小路、お前さえよければ初期の席を譲っても構わん」

 

それを聞いて橘書記は驚きの様子を見せる

 

「せ、生徒会長・・・・本気ですか?」

 

「不服か?」

 

「い、いえ

 

 生徒会長が仰るのなら私に依存はありません・・・」

 

「もう一度聞く、綾小路

 

 生徒会には言ってみる気はあるか?」

 

それを聞いて考えるしぐさを見せるが

 

「・・・・・・悪いけどメリットを感じないね・・・・

 

 私はあくまで私の都合で動いているだけだし・・・・

 

 それに君のその言い方にはどこか引っかかりがある・・・・

 

 その理由はあえて聞かないがそれが

 私にとって有益にあるとも限らない・・・・

 

 だからその話は断らせてもらうよ・・・・」

 

その言葉を聞いて橘書記はさらに驚く

 

「あ、貴方、会長からの申し出を断るんですか!?」

 

「さっきも言ったが私はあくまで私の都合で動いてる・・・・

 

 それに何より私は生徒会そのものに興味がないしね・・・・」

 

「そうか、まあ今はそれでいい

 

 綾小路、私を失望させてくれるなよ」

 

そう去り際に告げる生徒会長

 

「・・・・・・フン・・・・

 

 もとより君の期待になんて興味がないよ・・・・」

 

その会長の背中に向かってそう告げる綾小路

 

「おや・・・・」

 

すると目の前に堀北と茶柱先生が現れ

茶柱先生は軽く綾小路を見て笑みを浮かべて

 

特に言葉をかけるわけでもなく去っていく

 

「まったく・・・・

 

 せっかくリスクを回避できたというのに

 随分と浮かない表情をしているようだね・・・・」

 

堀北はそう言われると綾小路の方を睨みつけるが

すぐに落ち着きを取り戻して不気味な雰囲気の綾小路の方を見る

 

「ひょっとして・・・・

 

 作戦は失敗してしまったのかい・・・・?」

 

「そんなの、言わなくてもわかってるでしょう」

 

「だろうね・・・・

 

 これでうまくいかなかったら

 君はそんなふうに強気な態度は見せないだろうに・・・・」

 

「ねえ綾小路君

 

 一体何を企んでるの?」

 

「企んでる・・・・?

 

 私はあくまでこの状況を打開する手はずを整えただけだ・・・・」

 

「あなたの狙いは作戦そのものじゃないお

 その作戦を誰が立てるものだったのかっていうところにあった

 

 そもそもこの作戦だってあの時あなたにあの言葉を

 耳打ちされなければ、私はあの時あんなことを言うことはなかった

 

 まんまと私を誘導してくれた、そう言うことじゃないの」

 

「あああれね・・・・

 

 あれはあくまで意見を述べただけさ・・・・

 

 すべては偶然の上に成り立ってるそれだけさね・・・・」

 

「・・・・貴方、何者なの?」

 

「そんなつまらないことを聞いて

 君はどうするんだい・・・・?」

 

堀北のにらみにもその不気味な態度を崩すことなく話していく綾小路

 

「つまらないって・・・・そんなの・・・」

 

すると不気味な雰囲気の綾小路は

腕を前に出して堀北の言葉を中断する

 

するとそこに一人の男子生徒が

姿を現し二人の前で立ち止まる

 

「カメラを仕掛ける、か

 なかなか面白いことしてくれるじゃねえか」

 

男はあくまで二人の方を見ずに話しかけていく

 

「貴方は?」

 

その男子生徒にも堀北は動じずにそう問いかける

 

「今度は俺が相手してやるから、楽しみにしてな」

 

男子生徒はただそう言って去っていくのだった

 

「・・・・・・あれが龍園 翔、か・・・・」

 

不気味な雰囲気の綾小路は

その男子生徒の姿をじっと見つめてつぶやくのだった

 

 

 

「さあて・・・・

 

 そろそろ戻らせてもらうとしよう・・・・」

 

そう言って不気味な雰囲気の綾小路は

堀北に背を向けて歩き出そうとしたが

 

堀北に腕をつかまれて止められてしまう

 

「待って!

 

 話はまだ終わっていないわ」

 

「・・・・・・やれやれ・・・・」

 

そう言って仕方なく足を止めて堀北の方を見る

 

「貴方は約束したわよね?

 

 Aクラスに上がるために協力するって」

 

「そうだよ・・・・

 

 だからこそ私は今回の件に協力したじゃないか・・・・」

 

「私が聞きたいのはそう言うことじゃない

 

 貴方が何を考えているのかを知りたいの」

 

「他人の事情なんて自分には関係のない・・・・

 

 君自身がそう言ったはずだったと思うけれど・・・・?」

 

堀北と綾小路は互いににらみ合っていく

 

「確かにその通りよ・・・

 

 でもあなたの行動にはどうにも不信なことが多すぎる」

 

「だったらなんだい・・・・?

 

 不審な点があるっていうんなら

 協力は受けられないとでもいうかい・・・・?

 

 まあ私はそれでもかまわない・・・・

 

 私自身AクラスだのDクラスだのに興味はない・・・・

 

 私はあくまで静かに過ごしたいだけさ・・・・」

 

それでも堀北は退こうともしない

 

「まさかと思うが・・・・

 

 茶柱に何か言われたのかい・・・・?」

 

すると堀北は少し驚くが

表向き動揺は見せないように意識する

 

「ふふーん・・・・

 

 まったく面倒なのに目をつけられたね・・・・」

 

だが不気味な雰囲気の綾小路はまるで

見透かしていると言わんばかりの言葉を述べる

 

「ねえ堀北・・・・

 

 前に私が今回の件を

 君がやったように誘導した時に言った例の件・・・・

 

 覚えているかい・・・・?」

 

「ええ・・・

 

 覚えているけど・・・」

 

「私が今回須藤を助け

 それが堀北が提案したことにした理由・・・・

 

 それは簡単だよ・・・・

 

 君がクラスの中心人物として

 動いてもらうためには多かれ少なかれ

 君を支持してくれる人間が必要だ・・・・

 

 彼は君のことを意識しているようだし

 彼は運動能力も優れているんだ・・・・

 

 全く役に立たないということもないだろう・・・・」

 

堀北は彼の言葉を聞いていた

 

「その意図もよくわからないわ・・・

 

 どうして私を指定するの?

 

 クラスの中心になれる人だったら

 櫛田さんや軽井沢さんがいるじゃない」

 

「確かにあの二人は一見すると

 クラスをまとめているように見えるね・・・・

 

 でも軽井沢さんはあくまでクラスのリーダーである

 平田の彼女であるという影響力が強いだろうさ・・・・

 

 櫛田に関しては・・・・・・ひょっとしたら君が一番

 その理由を知っているんじゃないかな・・・・?」

 

櫛田のことを言われて

不思議と納得がいくのはやはり自分もどこかで

その理由に気が付いているからなのかもしれない

 

「それで

 

 どうやって貴方は私を

 リーダーにしようとするの?」

 

「君が今はそれを知る必要はない・・・・

 

 あくまでそれは君自身がなすことであり

 私はそれをサポートしていくだけだからね・・・・

 

 Dクラスの中心として活動するためには

 やはり周りの信頼や特筆される何かが必要だ・・・・

 

 そうでなくては私の力のみでなしえた信頼なんて

 瞬く間に崩れ去っていってしまうものだからね・・・・」

 

堀北は彼の言うことに反論はしない

 

「貴方の考えは分かった

 

 私をどうするのかっていうのも

 

 でもそれでもあなたの行動には不可解な部分が多いわ」

 

「そんなことに意味はないよ・・・・

 

 私はあくまで私の都合で動かせてもらうからね・・・・」

 

そう言って堀北に背を向けて今度こそ去っていくのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あまり詮索されると困るんだよ・・・・

 

 君にも茶柱にもね・・・・・・ふう・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

        




Nuisance au diable


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