リリカルな戦闘民族 (ドラゴンボールZ×リリカルなのは) (顔芸の帝王)
しおりを挟む

第一話 新たな世界へ

皆さん初めまして。顔芸です。
今作は、リリカルなのはとドラゴンボールのクロス作品です。

【注意事項】
・登場人物と時間軸については、なのは勢はA'sの少し前から、DB勢はたったひとりの最終決戦後のバーダック達になります。
・バーダック達の初期の強さについてですが、なのは世界の目線では最高ランク魔導師ぐらいなイメージです。もちろんバーダック達も成長しますが、DB無双を期待されている方は不快に感じるかも知れませんので注意してください。
・一部公式の設定で不透明な部分は自己解釈しています、ご注意ください。
・キャラ崩壊はなるべく抑えていきたいと思っていますが、DB勢のキャラの中には登場シーンが少ないためになかなかキャラが定まらず不快に感じる場合があるかも知れません。ご了承ください。

…これぐらいでしょうか。長々と申し訳ありませんでした。
処女作ですので至らない部分等あると思いますが、読んでくださると嬉しいです。よろしくお願い致します。



時はエイジ737年、惑星ベジータの上空で孫悟空の父バーダックはフリーザ軍に最後の抵抗を見せていた。彼は満身創痍の状態にも関わらず、何人もの兵士を打ち倒し、遂には帝王フリーザの目の前に姿を現した。そして今まさに、己の力の全てを込めて攻撃を仕掛けようとしていた。

 

「これで全てが変わる…この惑星ベジータの運命…この俺の運命…カカロットの運命…そしてっ!貴様の運命も!」

 

「これで最期だぁーーーっ!!!」

 

バーダックの手からフリーザに向かって青い光が放たれる。これが当たれば流石のフリーザとてタダでは済まない。

…そう思っていた。

 

「ホッホッホッホッホッ!!」

 

しかしフリーザは高笑いを始めると、指先の光球が急激に膨らんでゆく。その大きさはあっという間に自身の乗っていた宇宙船をも上回るほどになり、バーダックの渾身の一撃はあっさりと光球に飲まれてしまう。

 

「なっ…何!?」

 

そしてフリーザの指先から光球が放たれ、凄まじいスピードでバーダックに迫る。

 

「がぁぁぁぁぁぁぁっ…!」

 

元から満身創痍な上に、全力の攻撃を放った後のバーダックに攻撃を避けるだけの体力は残っていなかった。その光球はバーダックを、味方のはずの大勢の兵士を、そして惑星ベジータをも飲み込んでゆく。

 

 

(カカロットッ…サイヤ人の…惑星ベジータの仇を…お前が討つんだ…!)

 

 

 

「カカロットよぉぉぉぉっ!!」

 

 

 

薄れゆく意識の中、死を覚悟したバーダックは自分の息子に自らの遺志を託し、その一生を終えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ…もう…私ったら大事なこと忘れてたよ…」

「ごめん…僕ももう少し早く気がつけば…」

「ううん、ユーノ君のせいじゃないよ」

 

二人は大急ぎで山を駆け下る。今日はフェイトとアルフの契約記念日を祝うため魔法で花火を上げに来ていたのだが、あろうことか結界を張るのを忘れてしまい魔法とは縁のない多くの一般市民に花火を見られてしまったのだ。

 

「とにかく急いで帰ろう。魔法の使用云々の前に、勝手にあんな大きな花火を勝手に打ち上げたら怒られるからね…」

「う、うん…そうだね」

その時だった。彼女のデバイスの突然レイジングハートがなのはに語りかける。

 

『マスター、この近くに瀕死の人間の反応があります』

「えっ!?瀕死って…どういうこと!?まさか遭難者さんとか?」

「いや…山っていってもこんな小さい山で遭難ってことは…」

「とにかくほっとけないよ!いってみよう!レイジングハート、案内お願い!」

『yes. my master』

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う、ぐっ…クソ…」

 

バーダックは呻きながらゆっくりと目を開く。

起き上がって周辺を見渡そうとするが、体が悲鳴をあげていて思うように動くことができない。

 

「こ…ここは…どこだ?」

 

仰向けのまま何とか首を動かし周囲を見渡す。辺りは薄暗く、周りは木々が生い茂っている。

 

(俺は確か…惑星ベジータの爆破に巻き込まれて…何故俺は生きてる?惑星ベジータは無事だったのか?……いや、木や空の色が惑星ベジータとは違う…まさか別の星まで流れちまったのか?)

 

しばらくそんなことをぼんやりと考えていたが、出血は止まらず段々と痛みが増していく。

 

「グッ…身体がっ…!へっ…せっかく生き延びたってのに…結局、死んじまうのか…」

 

強烈な痛みによってまた意識が薄れていく。しかし意識が飛ぶ間際、二人の子供の声がうっすらとではあるが耳に入ってきた。

 

 

「ユーノ君…この人ひどい怪我を……あのっ、大丈夫ですか!?」

「今治療しますから…少しの間耐えてください!」

 

(なんだ…?誰か…そこにいるのか…)

 

そこでバーダックの意識は途切れた。

 

 




今回は第一話でしたが…かなり短かったと思います。
ですが、二話からは本格的に物語に入るので、もう少し長く書けると思います。
あとなのはが花火を上げる話は、コミックを読んでないと分からないかも知れません。一応山にいる経緯はまとめたつもりでしたが、分かりづらかったら申し訳ないです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二話 目覚め

「ユーノ君…この人大丈夫かな?」

「うん。気を失ってるみたいだけど、とりあえずは大丈夫かな。それよりもなのは…」

「どうしたの?」

「この人の着てる服、海鳴の人とは随分違うみたいだけど…?」

「うん…ボロボロだからよく分からないけど、こんな服は見たことないよ…」

「やっぱりか…もしかしたらこの人、次元漂流者かも…」

「次元漂流者?」

「うん。たまにいるんだ。次元震とかが原因で元の世界から不可抗力で転移してしまう人のことだよ」

「次元震ってことは…もしかしてあの事件が関係してるのかな。そうだとしたら悪いことしちゃったかな…」

「うん。その可能性もあるね…とりあえずリンディさんに相談してみようよ。ここから普通の病院まで行くよりも早いし、本当に次元漂流者だったら一番手っ取り早く解決できそうだしね」

「うん。分かった!ちょっと待っててね…今呼んでみるから…」

 

 

 

 

 

 

〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

しばらくすると、なのはから連絡を受けたクロノがなのは達の元へとやって来た。

 

「遅くなってすまない」

「ううん、こっちもごめんね…せっかくフェイトちゃん達の記念パーティだったのに…」

「こればかりはしょうがないさ…仕事だからな。とにかくこの男の事は任せてくれ。なにか分かったらそちらにも連絡する」

「ありがとうクロノ君…」

「し、仕事なんだから当然だ。それよりもうだいぶ暗くなってる。君たちも早く帰った方がいいんじゃないか?」

 

 

「あっ!そ、そうだった…またお兄ちゃんに叱られちゃうよ…じゃあクロノ君またね!」

「ああ。気をつけてな」

 

 

(…さて、僕もこの人を連れて行くか…それにしてもかなりの怪我だな。一体何があったんだ…?)

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…それじゃあ検査と治療は任せたよ」

「はい。結果がわかり次第また報告します」

「うん。頼んだよ。…さて艦長に報告に──

「お疲れ様クロノ。何か問題はなかったかしら?」

「艦長、丁度よかったです。今の所は問題見られません。ただ…明らかに普通ではないです。尻尾が生えている所を見て、最初は使い魔かと思ったのですが魔力は0。そしてあの異様に鍛えてある身体と命に関わる大怪我…正直、普通の人間だという方が難しいかと」

「そうね…彼、一体何者なのかしら」

「魔力が無くて尻尾が生えてる…うーん、案外普通の動物で、猿の近類とかだったりして…」

「…エイミィ、それ間違っても本人の前で言うなよ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

『これがこの星の…最期の眺めになりますね…』

 

 

 

『ほら見てご覧なさい!ザーボンさん!ドドリアさん!こんなに美しい花火ですよ!ホッホッホッホッ…!』

 

 

 

 

 

 

 

「くっ…クソっ…フリーザ!?」

 

 

 

辺りを見回すと、どうやら病室のようだった。

しかし部屋に窓は無く、広さもさほど広くはない。どちらかと言えば隔離室という表現が適切だ。

 

(何かの施設のようだが…異星人にでも捕まっちまったか?)

 

警戒心を強めるバーダック。体の痛みはほとんど無くなっていたが、それでも万全には程遠い状態。そのため下手に暴れる訳にもいかず、身体だけを起こして状況の変化を待つことしかできなかった。

 

そしてしばらくすると、緑の髪の女性と黒髪の子供が部屋に入って来た。武器などは持っておらず、こちらを攻撃してくる気配はなかったのだが、まるで…というより事実なのだが、自分が起きた事を見計らったようにやって来た事が彼の不信感を募らせた。

 

「目が覚めたみたいですね」

「…誰だ」

 

目を細めてそう吐き捨てる男を前に、少しでも警戒を解こうとリンディは柔らかな声で語りかける。

 

「そんなに警戒しなくても大丈夫ですよ。私はリンディ・ハラオウン。隣に居るのが執務官のクロノ、そしてここは時空航行船アースラです」

(時空航行船だ…?こいつ何を言ってるんだ…?)

「…やっぱり何を言ってるのか分からないって顔ですね。わかりました。今から詳しく説明しますね」

 

 

 

 

 

 

 

 

「…つまり俺は元の世界から別の世界に飛ばされてきたと?」

「絶対とは言い切れないが…その可能性が高い」

「そう。ですから貴方のいた世界の事や…貴方本人についても教えて欲しいのです。もし貴方の世界が私たちの管理内の世界なら早く帰れるかもしれないですから」

 

 

信頼できるかどうかは微妙だった。それも当然の事で、自分は死んだと覚悟したと思った矢先、実は自分は生きており、さらには異世界に飛ばされましたと告げられたのだ。はいそうですかと素直に信じられる方がどうかしているというものだ。

それにサイヤ人であるバーダックにとっては、初めて出会った相手が無条件にこちらを助けるというのは信じられない話だった。

 

しかし、そんな義理は無いと突っぱねた所で状況が好転する訳でもない。結局、バーダックは最低限の状況だけを話すことに決めた。

 

 

「断る…と言いたい所だが仕方ねぇ。少しだけ教えてやる。お前ら…惑星ベジータやフリーザという名前を知っているか?」

「惑星ベジータにフリーザ…?いいえ…聞いたことがないわ」

「…俺はバーダック。惑星ベジータに住んでいるサイヤ人だ。そこでさっき言ったフリーザってのと戦ってる内にいつの間にかあの場所に来ていた…それだけだ」

「そ、それだけって…あの…もう少し詳しく…」

「………」

 

(これは…無理に聞き出すのは悪手かもしれないわね…)

 

「あ、あぁ…気を悪くしたらごめんなさいね?無理強いするつもりはないんです。誰にだって話したくない事の一つや二つありますから。それに私たちとは初対面の相手な訳ですし。とりあえず貴方のいた世界のことは調べておきます。それじゃ私たちはこれで…」

 

すっかり重い雰囲気になってしまう室内。そんな空気を察したのか、それともプレッシャーに耐えかねたのかリンディは一時退却を試みる。

 

しかし、それよりも先にバーダックの身体は我慢の限界を迎えていた。

 

まるで漫画の効果音をそのまま取り出したかのようなギュルル〜という腹の虫の断末魔が、狭い病室に響き渡った。

 

 

 

「………」

 

 

 

 

「あらあら…ふふっ、気が利かなくてごめんなさいね。今料理を作ってますから、あなたも一緒に食べに行きましょう」

 

(クソッタレ…空腹には勝てねぇか…)

 

 

なんとも節操のないサイヤ人特有の腹の虫に若干の怒りを覚えつつも、今は素直にリンディの後に続くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

「おい…」

「何でしょうか?」

「…なんだこの服は?」

 

バーダックが着るようにと渡された服は濃い緑のシャツと黒のチノパン、いわゆる地球人の普段着である。

 

「何って…この世界では普通の服なんですが…」

「俺の戦闘服はどうした?」

「あんなボロボロなの着れませんよ。とりあえず特殊な服みたいですから捨ててはないですけど。せめて修理するまでは我慢してください」

「…チッ…仕方ねえ。着てやるから待ってろ」

「…随分と横暴な態度ですね…トラブルを起こさなければいいんですが…」

「大丈夫よ。それよりあの人の言ってたフリーザって人の事…もう少し詳しく聞きたいわ。せめてもう少し心を開いてくれれば良いんだけど…」

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

バーダックが食堂の前に着くと、腰まで伸ばした金髪の少女とオレンジ色の髪に獣の耳の生えた女性にに鉢合わせた。

 

「あっ…どうも」

「お、あんたが昨日救助されたっていう次元漂流者かい?」

「………」

「あ、あの初めまして…私はフェイト、フェイト・テスタロッサです。こっちは使い魔のアルフです。あの…貴方の名前は…」

「チッ…ガキは嫌いなんだ…寄ってくるんじゃねぇ」

「えっ…あ、あの…ごめんなさい」

 

バーダックはそう吐き捨てると、さっさと先に食堂に入ってしまった。

 

「な、なんだアイツ…!感じ悪いやつだな!」

「私、なのはみたいにしようと思ったんだけど…初めから馴れ馴れしすぎたかな…」

「フェイトが気にすることないよ…!あいつが性格悪いだけだから!」

「…バーダックさん、もう少し愛想良くしてくれると助かるんだけど…」

「知るかよ。俺はガキが嫌いなんだ。…特に馴れ馴れしい奴はな」

(…随分気難しい人みたいね)

 

後でフェイトには事情を説明せねばと気苦労を重ねるリンディを尻目に、バーダックは一人思考を巡らせていた。

 

(なんとなく状況は掴めて来たが…仮に元の世界に帰った後はどうするか…惑星ベジータはもうねぇが…フリーザはやはり俺がぶっ倒さねぇと気がすまねぇ…)

 

目障りな自分達を消し去って高笑いする仇の姿を思い浮かべると、ふつふつと怒りがこみ上げて来る。

 

「皆さん、お待たせしました〜!あっ、貴方が次元漂流者の方ですね?私はエイミィ・リミエッタです。エイミィって呼んでくださ──

 

「………」

 

彼女なりに場を和ませようとしたのだが、帰ってきたのはバーダックの冷たい視線のみ。そそくさと退散するしかなかった。

 

「アハハ…私は後で休憩とりますので、どうぞごゆっくり〜」

 

 

 

 

 

 

「…随分と豪勢じゃねぇか。お前らいつもこんなもん食ってんのか?」

「そういう訳じゃないさ。昨日少しお祝い事があったんだ。残り物の食材ではあるがそれでもここまで豪華なのは希だよ」

「そうですよ。それもこれもフェイトさんとアルフさんのおかげなんですから、感謝してくださいね?」

「そ、そんなリンディさん…」

「………」

 

「あら、みんな揃ったみたいだし…さぁ、食べましょうか」

 

「「いただきます」」

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

「お味はどうでした?」

「…まぁまぁだな」

「そ、そりゃどうも。褒め言葉として受け取っておきますね。…それと一つ聞いていいですか?」

 

「あなたって人はどんだけ食べてるんですか!?」

 

結局並べられた料理だけでは足りず、追加で数十人分の料理を平らげたため、バーダックの前には彼の頭よりも高い皿の塔がいくつもそびえ立っていた。

 

「…今回は数日何も食って無かったからな」

「それにしたってこの量は常人の数十倍はあるぞ…どういう身体の構造なんだ…」

「これでも満腹じゃねぇんだ…なんならもっと食ってやってもいいんだぞ」

「あはは…悪い冗談はよしてくださいよ。まさかこれ以上食べられるわけ…」

「………」

「…食べれらたとしても勘弁してください。このペースで食料を食べられたらその内アースラで餓死者が出そうだわ…」

 

頭を抱えるリンディ達。しかし当の本人はどこ吹く風。適量食べただけだと言わんばかりにを全く気にしていないようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからしばらくして、バーダックは休憩室で一人体を動かしていた。

リンディに少し休んだら艦長室に来て欲しいと頼まれたため、病室には戻らず食堂近くの休憩室で一人腹ごなしをしていたのだ。

すると、聞き覚えのある声で背後から話しかけられた。

 

「あ、あの…!」

「…なんだ?」

「…み、水も飲まずに物凄く食べてたから…お水をと思って…これを…」

「………」

「あ、あとさっきはごめんなさい…私、最近まで友達とかもほとんど居なかったから接し方とかも分からなくて、それで…」

 

喋るにつれてフェイトの声はどんどん細くなってゆく。そんな様子に痺れを切らしたのか、バーダックはフェイトからコップを奪うと一気に飲み干した。

 

「ったく…だからガキは嫌いなんだ」

「………」

「…バーダック」

「えっ…」

「…俺の名前だ」

 

そう告げるとフェイトの表情がぱぁっと明るくなる。

 

「バーダック…バーダックさんですか…」

(…変なガキだ。名前を言っただけだってのに)

 

 

ぎこちない二人を陰から見ていた一同は安堵の表情を浮かべる。

「…とりあえずトラブルにならなくてよかったですね」

「ふふっ…大丈夫だったでしょ?アルフさんも少しは彼の事見直したかしら?」

「ぐぬぬ…で、でも私はまだあいつの事は信用してないからな!」

(バーダックさん、気難しい人だけど…どうやら悪い人ではないみたいね)

「あ、そうだ…バーダックさん、さっき提督がそろそろ艦長室に来て欲しいって…」

「…その必要はねぇ。…おい!そこに居るならさっさと来い」

(ゲッ、バレてる…)

「へっ…覗きとは随分いい趣味してやがるじゃねぇか」

「なっ…」

「そ、そういうつもりじゃないわよ!?ただ貴方がなかなか来ないから様子を見に来ただけで…」

「そ、そうだ!私はフェイトが心配だから監視をしに来ただけだ!」

(アルフ…それじゃ言い訳になってないよ…)

「…御託はいい。それより、俺に聞きたいことがあるんだろ?」

 

バーダックとリンディの表情が真剣なものに変わる。

 

「…えぇ。さっきも言ったように、貴方のプライベートな部分を無理に詮索するつもりはないわ。ただ今のままでは貴方の世界について分からない事が多すぎるし、何より貴方にあれほどの怪我をあなたに負わせたフリーザって人のことについて聞かせて欲しいの」

「…君は僕達のことはあまり信用してないのは分かるし、その気持ちはむしろ当然だ。管理局と聞くだけで拒絶する人もいるぐらいだからね。だが管理局も不可抗力で飛ばされて来た次元漂流者に理不尽なことを強いるほど、冷血な集団じゃないことは分かって欲しいんだ」

「………」

 

黙り込むバーダックを息を飲んで見守る一同。そんな彼らの誠実な想いが少しでも届いたのか、バーダックもようやく腹を決める。

 

「…少し…少しだけだが、お前達になら話してやろう。ただし、このことは気安く他人に話すんじゃねぇぞ。分かったな…?」

そう言うとバーダックは自らの壮絶な出来事を少しずつ話し始めるのであった。




めでたく2話が投稿出来ました。
それにしてもテンポが悪い…結構書いた割に話が進んでないです()
三話目も比較的すぐあげられると思います。…ただ一応次回は戦闘回の予定なのでいつも以上に読みにくいかもしれないです。ごめんなさい<(_ _)>

次回も期待せずに待っていていただけると嬉しいです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三話 実力

※台詞の前に名前があると違和感があるというご意見を頂いたので、今回からは試験的ではありますが名前無しで行きたいと思います。
貴重なご意見ありがとうございました<(_ _)>


※追記
上記の件ですが、1、2話目も同じように編集させていただきました。


「俺たちサイヤ人が住んでいた場所は惑星ベジータという星だ。俺たちサイヤ人は戦闘民族としての強さを活かしてフリーザの下で傭兵として働く代わりに科学技術や食料支援を受けていた」

「サイヤ人?フリーザ?なんだいそりゃ?」

「あぁ、そういえばその辺りは私とクロノしか聞いてないわよね。サイヤ人はバーダックさんの種族のことで、フリーザって言うのはバーダックさんの世界の大半を支配していた人で、…バーダックさんに怪我を負わせた人のことみたいよ」

「そういうことだ。一部の幹部連中以外はフリーザに感謝し忠誠を誓っていた。…だがフリーザは俺たちを裏切った…!…おそらく俺以外のサイヤ人は僅かな例外を残して根絶やしにされたはずだ」

「そんな…酷い…」

「でもあなた達サイヤ人は戦闘民族と呼ばれるほどの力があったのよね?それは全員がやられてしまうほどにフリーザ達が強かったと言うことかしら?」

「それもあるが、あの場にいたサイヤ人の大半は種族としての強さに溺れていた腑抜け共ばかりだったからな。…エリートの連中もあの時動かなかった所を見ると先に殺されたのかもしれねぇ。…それよりお前ら、フリーザの事を聞いてどうするつもりだ?」

「…君から話を聞いた話が本当なら、フリーザはとんでもない犯罪者だ。管理局としても放っておくわけには…」

「へっ…そりゃ無謀だな」

「…それはどういう意味だい?」

「そのままの意味だ。お前らがどんなに戦力を整えた所で奴には傷一つ付けられねぇ」

「そ、そんなことどうして分かるんだよ!」

 

アルフはいの一番にバーダックに反論する。口には出さないが、リンディ達三人も信じられないという表情をしている。それも当然の話で、管理局はいくつもの世界を事実上統治し、当然それに見合った戦力も持ち合わせている。フリーザの様な犯罪者との戦いにも何度も勝利してきた。そしてクロノやフェイト達自身も、子供ながらに幾度も戦闘経験がある実力者。勝てるかどうかはともかく、傷一つ付けられないとまで言われればそれなりにムッとくるものがある。

 

「…君はもしかして僕達が子供だからと思って魔導師を甘く見ていないかい?」

「ほう…言うじゃねぇか。確かリンディの話じゃお前はこの船の切り札らしいな。…いいだろう。そこまで言うならてめぇらを試してやる。…おいフェイト…!お前もだ」

「えぇ!わ、私も!?」

「リンディに聞いたが、お前も並の魔導師よりできるらしいじゃねぇか」

「そ、そんな…」

「二対一ということか…随分と舐められたものだな…」

 

動揺するフェイトとは対照的に、クロノは表面では冷静さを保ちつつも、内心すっかりその気になっているようだった。

 

「はぁ…すっかりやる気ね。仕方ないわ、それなら訓練室を使ってちょうだい」

こうしてバーダック達は互いの試金石として模擬戦を始めることとなったのであった。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

「…さて、流れで戦うことになってしまったが…」

「ま、まずいよクロノ…!バーダックさんって魔力0なんだよ?それに昨日まであんなに重症だったのに…」

「いや…それは大丈夫だ。非殺傷設定にしておけば大怪我することも無い。それに多分あの人は…」

「何をブツブツ話してやがる。とっとと来やがれ!」

 

修理済みの戦闘服に着替え終わったバーダックが声をあげ、その声を聞いた二人は武器を構える。

 

「じゃあ行かせてもらう…多少の怪我は覚悟してくれよ!」

 

クロノはそう言い放つと、バーダックに向かって速度重視の魔法弾を連続して放つ。

 

(まずは小手調べだ。どう動く?)

 

だがバーダックはその場から動かず、魔法弾はそのまま直撃する。

 

「つまらん技だな…小手調べのつもりか?」

(…バリアも無しでダメージ0か…いったいどうなってる…)

 

 

「エイミィ、彼の魔力値は?」

「魔力値…0です…いくら非殺傷設定だからってクロノ君の攻撃が直撃してもダメージが無いなんて…」

 

 

「ならこれはどうだ!」

クロノが間髪入れずに砲撃を行う。

ブレイズキャノンと呼ばれるこの技は、高い威力を持ちながらチャージ時間の短縮に成功したクロノの得意技の一つだ。

 

(今度かなり威力があるな。…だが遅すぎる!)

 

ブレイズキャノンが当たる直前、バーダックが二人の視界から消える。

 

(クッ…消えた!?いや高速で動いたのか!それなら───)

「…クロノ後ろ!」

 

クロノの背後に回り込んだバーダックが回し蹴りを放つ。バーダックのスピードに反応できなかったクロノには防ぐ術が無い───と、誰もがそう思った。

 

「な、何!?」

 

突然バーダックの体が光の鎖によって自由を奪われる。

 

「…どうやら僕を甘く見たようだね。君みたいに直線的な接近戦を仕掛けてくる相手への対策だ。…これで勝負ありだ」

 

クロノがバーダックに杖を突きつける。

 

「…なるほどな…ガキの癖になかなかやるじゃねぇか。…だが甘く見ていたのはてめぇのほうだ」

 

そう告げると同時に突然バーダックが光に包まれると、縛りげていた鎖が砕ける。

 

「なっ……!バインドが…!」

「だりゃァァァァァァ!」

 

完全に不意をつかれたクロノにバーダックの攻撃を避ける術はなく、ノーガードの腹部に拳がめり込む。

 

「がっ…くっ…!」

「クロノ!」

 

気絶こそしなかったものの、そのまま地面に膝を付くとクロノはその場から動くことができなかった。

 

(ば、馬鹿な…)

「…さぁ次はてめぇだ。フェイト」

(バーダックさんはクロノがすぐにやられるぐらい強い人だ…私だけじゃ勝てるか分からない…けど、なのはも頑張ってるんだ!私もやれることはやらなくちゃ!)

「…いきますっ!」

 

そう言い放つと、フェイトはバーダックを自慢の速度で撹乱する。彼女の持つ金色の髪と魔力光が作り出す残像は、さながら稲妻のようである。

 

(速い…!速さだけならクロノ以上か)

「そこっ!バインド!」

 

再び光の鎖がバーダックに巻き付く。

 

「チッ…小賢しい…!」

 

バインドは当たったものの、すぐに破壊されてしまう。

 

(くっ…駄目…私のバインドじゃほとんど時間を稼げない…!)

 

次の瞬間、バーダックに動きを読まれ先回りされてしまう。それに気が付いた時には既にバーダックの腕が避けられないほどこちらに迫っていた。

 

(まずっ…!)

 

しかし、魔法弾が背後からバーダックに直撃し、そのスキをついてフェイトはバーダックから距離を取る。

「もう立ち上がって来たか…」

「ハァ…ハァ…僕にも…執務官としての意地がある!そう簡単にやられてたまるか!ブレイズ…キャノン!」

 

「…バルディッシュ…お願い…!サンダー…スマッシャー!」

 

二 人の呪文がバーダックを挟みこむように放たれる。

 

(回避は…間に合わないか…!ならばコイツを受けて見やがれ!)

 

バーダックは両手をそれぞれのフェイト達に向けると、両手から別方向に気功波放つ。

息子の技を彷彿とさせるその砲撃は、両側から放たれる魔法に初めは押されていたが、二人よりもパワーに優れたバーダックの気功波がグイグイと押し始める。

 

「なっ…砲撃!?くっ…駄目だ…押される…!がぁっ!」

「くぅ…ああっ!」

ダメージの大きいクロノが先に押し切られると、それに続いてフェイトも吹き飛ばされる。

それを確認したバーダックは徐々に力を弱めた。

 

「三人共、これで戦闘終了よ。お疲れ様」

リンディの制止の声が部屋に響く。こうして三人の模擬戦は終わった。

 

(こいつら、ガキの癖にとんでもねぇ奴らだ…同い年なら並の最下級戦士以上かもしれねぇ)

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

「フェイト!本当に大丈夫かい?」

「うん。ちょっと痛いけどバーダックさんが加減してくれたから…」

「ほ、本当かい?ならいいんだけど…」

「クロノも大丈夫?思いっきりお腹にパンチ受けてだけど…」

「大丈夫…とは言えないな…バリアジャケットを着ていたのにまだ痛みが響いてるよ。それにあの砲撃や動き…彼の扱う”気”のことは聞いていたけど、魔力も無しにあんな事をするなんてね。サイヤ人か…まったくとんでもない人と出会ったもんだな」

 

「バーダックさん、どうでした?魔導士との初対決は?」

「…こいつらは肉体的に脆すぎるのが欠点だが…正直思っていたよりも出来るみてぇだな。経験を積めばフリーザの側近ぐらいなら倒せるかもしれん」

(ほっ…怒られなくてよかった…)

 

フェイトからは思わずため息こぼれる一方で、クロノやリンディ達の表情は複雑なものだった。

 

「…それで…フリーザ本人には私たちは通用しそうかしら?」

「…ハッキリ言って無理だ。認めたくはねぇが…奴の力は俺よりも圧倒的に上だ。俺を簡単に殺れるぐらいの実力がなけりゃ、いくら数を揃えても焼け石に水だ」

「そ、そんなに強いのか…?フリーザってのは…」

「話を聞く限りじゃ正面からぶつかっても勝敗は見えてる。何か作戦を考えないと…」

 

直接戦った訳ではないものの、フリーザの強さは身にしみて感じたはずの一同だったが、それでも戦う意思は削がれていないようだった。そんな様子に純粋な疑問を抱かずにはいられなかった。

 

「…あいつは世界を越える力なんて持ってねぇはずだ。…別にお前らが無理に戦うことはねぇだろうが。フリーザは俺が倒す。お前らは俺を元の世界に戻すだけでいい」

「で、でもバーダックさん一人でそんな…!」

「そうだ!今だってあいつの方が強いって言ってたじゃないか!」

「そうね…できる限り私たちも協力するから、無理は禁物よ。バーダックさん」

 

(……変な奴らだ)

 

出会って間もない自分にここまで肩入れするフェイト達に疑問を感じつつも、不思議と悪い気はしなかった。

 

「あぁ、そうそう…貴方にもう一つ言って置くことがあったの」

「…なんだ」

「貴方が来る前に少し大きな事件にフェイトさん達も巻き込まれてしまって、実はその裁判をするために本局に行かなければならないの。…だから申し訳ないけど貴方の世界の捜索はその後になってしまうと思うわ。その間の生活なんだけど、貴方が最初に漂着した場所…地球と言うんだけどそこでいいかしら?」

「場所なんぞどこでも…ん…?お前今何て…」

「え?貴方の世界の捜索は…」

「その後だ!」

 

 

「貴方が最初に漂着した場所…地球と言うんだけど…」

 

 

「地球…だと!?」

 

バーダックは耳を疑った。地球と言えば息子カカロットを送り出した星だ。

 

「どうしたんだい…?」

「地球という星…聞いたことがある」

「「えっ?」」

 

バーダックの思わぬ発言に、驚くフェイト達。

 

「へっ…地球か…興味が湧いてきたぜ…」

 

こうして地球へと旅立つことになったバーダック。

この地球への旅立ちが、バーダックを大きな事件に巻き込んでいくことになるのだが、今のバーダックにそれを知る術はなかった。




皆さんこんにちは。顔芸です。
二話目の後書きで三話目はすぐできると言いましたが、書き上げるのに3日もかかってしまいました。ごめんなさい。それにしても戦闘シーン…難しいですね…次回は大きな戦闘はない予定なので、次こそは早くあげられるように頑張ります。チープな文章ですが、今後も呼んでくれれば嬉しい限りです。
ではこれにて。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四話 サイヤ人地球へ

リンディ達が裁判を終えるまで、地球で暮らす事になったバーダック。すぐにでも地球に行きたいと言い出したバーダックの要望通り、翌日の午後には地球に送り出すことになった。

 

 

 

「…という訳で、少しだけでいいから彼の案内をしてあげて欲しいのだけど…」

「大丈夫です。その日は学校もお休みなので。…実を言うとちょっと気になってたんです。あの人最初に見た時大怪我してたから…」

「そう…ありがとう。ちょっと気難しい人だけど…悪い人じゃないから大丈夫よ」

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

「…じゃあ最後にもう一度確認するよ。基本的にはあの世界では人目に付く場所で空を飛んだりといった魔法…君でいえば”気”を使うことは禁止だ。あと通信機を渡しておくから、何か分からない事や問題があったら必ず僕達に連絡を取ってくれよ。それから…」

「…その話はもう5回は聞いた。いい加減しつこいぞ」

「君は問題を起こしそうだから心配なんだ。それにただでさえ今は忙しいんだ。こんな時にこれ以上面倒事を増やされても困る」

「………」

「それと貴方には通信機の他にマンションを用意したから、そこで生活してくれ。場所は地球にいる案内人に伝えてある」

「ほう…寝床まで容易するとは随分と気前がいいじゃねぇか」

「…管理局が住む場所も用意せず時空漂流者を一人にする訳にはいかないだろ?というか寝泊まりする場所を考えずに行くつもりだったのか…全く貴方という人は…」

「けっこういい物件だから、期待していいですよ?」

「バーダックさん、次に会う時は貴方に勝てるように頑張ります!」

「そりゃ無理だな…まぁせいぜいクロノや犬女と無駄な努力をするんだな」

「だ、誰が犬女だ!私にはアルフっていう名前が…」

「へっ…誰とは言ってねぇぞ」

「なっ…ぐぬぬ…」

 

皆に悪態をつきながら、バーダックは転送ポートに入る。

 

「そろそろ時間ね…じゃあ転送するわよ」

 

エイミィが機械を操作すると、バーダックの足元が光り始め、転送が開始される。

 

「あばよ。世話になったな」

 

去り際に短くそう呟くと、バーダックはアースラから消え、地球へと向かった。

 

「全く…素直じゃないねぇ…」

「バーダックさん…また会えるかな…」

「ええ…きっと…今度はなのはさんと一緒に…ね?」

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

バーダックが目を開けるとそこは木に囲まれた山奥だった。どこにでもある景色ではあるのだが、どうにも既視感がある。

 

(ここは……記憶が曖昧だが俺が最初に流れ着いた場所だな…)

 

「あの…バーダックさん…ですよね?」

 

背後から声を掛けられ振り向くと、栗色の髪を二つに結んだ少女が立っていた。見たところ年齢はフェイトと同じぐらいなのだが、子供らしからぬ妙な落ち着きのあった。

 

「はじめまして…でいいのかな?私、高町なのはです。こっちは友達のユーノ君」

「どうも、ユーノ・スクライアです」

「…お前らがリンディ達の言っていた案内人か?…よく覚えちゃいねぇが世話になったらしいな」

「あぁ、覚えてたんですね。リンディさんやフェイトから話は聞いています。ええっと…まずは家まで案内するので一緒に行きましょう」

「…ああ」

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

「あの…バーダックさんって魔導師なんですか?模擬戦でクロノ君とフェイトちゃんに勝ったって聞いたんですけど…?」

「別に魔導師じゃねぇよ…そういうお前も、フェイトには勝ったらしいじゃねぇか」

「あ、あれはたまたまです!私なんて魔法も最近覚えたばかりだから、知識も無いしコントロールだって…」

「…それでフェイトに勝ったんだろ?なんなら今度試してやろうか?」

「あ、あはは…お手柔らかにお願いします…」

 

 

 

 

 

 

「…ここか?」

「はい。地図だとここなんですが…」

「急ごしらえの割にいいマンションだね…」

 

確かにリンディは「期待していい」と言ってはいたが、バーダックもまさかここまでの高物件だとは思わなかった。

建物の大きさもさる事ながら部屋数も多く、バーダックが一人で住むにはあまりにも不釣り合いであった。

「あ、そうだ。バーダックさんって通信機持ってるんですよね?これ私の番号です」

 

そう言ってなのはは番号の書かれた小さな紙を手渡した。

 

「困った事があったら私に言ってくださいね。家も近いですから」

「あ、そうだなのは、この後の魔法の特訓、バーダックさんに見てもらったらどうだい?」

「あ、そうだね!…バーダックさん、もし時間があれば行きませんか?」

「特訓…?もしかするとお前、結界とかいう奴は使えるのか?」

「結界ですか?結界なら私もユーノくんも使えますよ」

「そうか…よし…なら仕方ねぇ…行ってやるか」

 

仕方ないといいつつもバーダックは内心満更でもなかった。アースラではあまりパワーを出す訳にもいかず、地球でも激しい修行は出来ないと思っていたが、結界があるなら話は別だ。以前のように暴れられる上、魔法が使えるスパー相手まで付いてくるのだから。

 

(へっ…やはり地球に来て正解だったな…)

 

(…なんか悪寒がするなぁ…)

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

「…この辺りならいいかな。それじゃあ今から結界を張りますね」

そう言ってなのはは結界を張る。

「…何か変わったか?」

 

魔力のある人間は感覚で分かるらしいが、バーダックには張る以前との違いがわからなかった。

 

「ええ。今この辺り一体に結界が張られてますよ。見えないのは無理ないです。そもそも魔力のない人にまで見えてしまったら意味がありませんからね」

「そういう物か。まぁ結界があるなら好きにやらせてもらうぜ」

 

そういうとバーダックは上空へ飛んでいき、拳にエネルギーを溜め始める。

 

「ああ、でもいくら結界と言っても限界があるから…

「こいつは準備運動だ!でりゃぁぁぁぁぁ!」

 

バーダックが上空に放ったエネルギー弾は、数秒の内に凄まじい速度で上昇し、大爆発を起こす。

そしてエネルギー弾はかなりの高さまで飛んだはずだったが、地上にまで爆音と爆風が届き、辺りの草木を揺らす。

 

「い、今一体何を…」

(凄い…今の砲撃ははなのは並の威力だ…!でもやっぱり魔力が無い…一体どうやって…)

 

そんな事を考えている間に、バーダックはどんどん気を解放し始める。

 

「あっ!バーダックさん、これ以上強力なのはダメですからね!おーい!聞いてますかぁー!」

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

あれからユーノに自重するように言われたバーダックは、気を限界まで高めた超スピードのシャドウに切り替えていた。

なのは達は最初物珍しいそうに見ていたが、ジロジロと見られるのを嫌ったバーダックに怒鳴られると、慌てて自分の特訓に戻った。

 

しばらくして休憩を取ったバーダックは、なのはの特訓に目をやる。それは、バーダック達サイヤ人のものとは異なり、テキストやら魔導書を見ながら知識や呪文のコントロールを学ぶものだった。

 

「そうそう。魔力の収縮を制御して思い切り放出しつつ、外には逃がさない感じで…」

「う、うん…」

 

そんな掛け合いを聞きながら、バーダックはこの地球について考えていた。

 

(…この星が俺の世界の地球ならカカロットがいるはずだ。…だが今の俺にはスカウターが無い。何かスカウターの代わりになるような道具や技があれば…)

 

そんな事をぼんやりと考えていると、練習を終えたなのは達がやって来た。

「バーダックさん、飲み物あるのでどうぞ」

 

バーダックが無言で受け取ると、なのはもその場に座り込む。

 

「…おい、一つ聞いてもいいか」

「はい、なんでしょう?」

「…最近地球に宇宙船が来なかったか?」

「えっ、宇宙船ですか?…地球にそんなのが来たら大騒ぎですから来てないと思いますけど…」

「そうか…ならいい」

 

突然突拍子も無い事を言われ、からかわれているのかと思ったが、バーダックの表情は真剣だった。

 

「あの…何か重要なことなんでしょうか…?もし何かお手伝いできることがあれば…」

「…大したことじゃねぇ。まだ赤ん坊だが俺のガキが乗ってるかもしれねぇってだけだ」

「そ、それかなり重要なことじゃないですか!もしかして地球に地球に来てるかもしれないんですか?」

「…さあな。地球に一人で送り出されたという話は聞いたが、この世界の地球かどうかもわからん」

「なっ…赤ん坊を一人で送り出したんですか!?」

 

まるで鬼の様な仕打ちになのはとユーノは唖然とする。

 

「俺達のサイヤ人は戦闘力が全てだ。俺のガキは戦闘力が低かったからな。弱い野郎は子供でも容赦なくほかの星へ送り込まれる」

「…そんな…いくらサイヤ人だからって…子供にまでそんなこと…!」

「…俺達サイヤ人は常に戦いの中に身を置いてきた種族だ。そんな中でカカロットの様な最下級戦士なんてのはすぐに殺されるのが関の山だ。…まだ辺境の星に送る方が生き延びる可能性あるんだよ。実際、俺のガキは地球に送り込まれていなければ今頃死んでるはずだ」

「でも…」

 

バーダックの話を聞いた二人は衝撃を受けた。バーダック達サイヤ人がどんな種族かはリンディに聞いていたが、まさか赤ん坊にまで残酷な仕打ちがされているとは思わなかったのだ。

 

「…それにきっとアイツは生きてるはずだ」

「どうして…分かるんですか?」

「お前ら、俺が未来を見たと言ったら笑うか?」

「み、未来が見えるんですか!?」

「確か魔導師にもそういうレアスキルを持ってる人はいるけど…」

「…まぁ正確には見せられたという方が正しいがな。…あの野郎、頭でも打ちやがったのか、与えられた命令を無視して地球人と暮らしていやがった。…全くサイヤ人の癖に甘い野郎だ」

 

文句を言いつつも、バーダックは少しだけ笑みを浮かべていた。

 

「そうなんですか…!それを聞いてちょっとだけ安心しました…」

 

なのははホッと胸を撫で下ろす。

 

「そういう事だ。それになんと言ってもアイツは俺のガキだからな。そう簡単にはくたばらねぇはずだ」

「…でもそれが運命だとしても寂しいですね…本当ならまだまだ親に甘えたい時期なのに…」

「………」

 

「なのは。そろそろ門限も近いし帰ろう」

「…あ…ほんとだ。……今度こそ間に合わせないとね…」

「なら俺も勝手に帰らせて貰う。世話になったな」

「あ、いえ…誘ったのは私達ですから。今日はバーダックさんに見てもらうって言って来たのに結局流れちゃいましたから、時間があればまた付き合ってくださいね」

「…考えておいてやる」

そういうとバーダックはなのは達に別れを告げて帰路に付いた。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「ねぇ…ユーノ君…」

「なんだい?」

「バーダックさんの事なんだけど…私、少し心配なんだ…」

「リンディさんから聞いたフリーザっていう侵略者の事かい?」

「それもあるんだけど……バーダックさんって自分の子供も行方不明で、住んでた故郷も一族も奪われちゃったんだよね…」

「うん…本人はさらっと言うけど…きっと大変な出来事だったんだろうね…」

「元からなのかもしれないけど、バーダックさんってあんまり笑ったりしないし、訓練してる時もなんだか凄く必死な感じで、初めて会った時のフェイトちゃんみたいに凄く無理してるみたいに見えたんだ…だから余計なお世話だって言われちゃうかもしれないけど、私達に出来ることはしてあげたいって思うの…」

「うん…そうだね…僕もそう思う。…僕達でゆっくりでもいいから彼の傷を癒せるように努力してみようよ」

「…うん!ありがとうユーノ君!」

 

二人は少しでもバーダックの助けになろうと決意し、帰路につくのであった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

家に帰り着いたバーダックは、窓から空を眺めつつこの世界での出来事を振り返っていた。

 

思い返してみると、この世界にやって来てから知り合った人間は、バーダックがこれまで関わってきた人々とは違っていた。

利益もないのに当たり前のように見ず知らずの人間を助けたり、他人の出来事にいちいち一喜一憂する。こんな人間は今まで出会って来なかったし、自分でも今までその事を疑問に思うことはなかった。

バーダックはそんな彼らを甘い奴らだと思う反面、ほんの少しではあるがこんな人間達も悪くないと思い始めていた。

 

 

(全く…奴らの甘さが移ったか…)

バーダックは自分の中で新たな感情が芽生えるのを感じながら眠りに着くのであった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ここは…何処だ…?

…確か俺達はフリーザの攻撃に巻き込まれて……」

…そうだ…グッ…────は…────はどこだ…!?」

 

男は傷だらけの状態だったが、首を上げて辺りを見渡すと、すぐ近くに目的の人物は倒れていた。

 

「だ、大丈夫か…!?今そっちへ行くぞ…」

 

そう言って男は這いつくばりながらももう一人に近付くが、痛みで意識が薄れて上手く進むことが出来ない。

「…グッ…クソ…意識が……」

ここまでかと思っていた矢先、近くで声が聞こえてきた。

 

「た、大変や!こんなところで人が倒れてるで!…しかもこっちは赤ちゃんやないか…!」

「二人共ひでぇ怪我だ…おいシャマル!」

「分かってるわ。今治療するから…!」

 

 

こうしてとある車椅子の少女一家に助けられた男たち。この出会いが、少女やバーダックにどんな影響を及ぼすのか。

 

この時点では誰にも分からなかった。

 




どうも顔芸です。
はい。結局今回も遅くなってしまいました…ごめんなさい… 
その代わりと言ってはなんですが、若干文字数が増しました。次回からは最低でもこれぐらいで行こうと思います。
それにしてもバーダックのキャラって難しいですね…。多分原作と比べて最初から丸くなってると思う方もいると思いますが、あんまりつっけんどんだと話が進まないので大目に見てくださると嬉しいです。

それと、前話の最後から今回の出発までの間の話は、書いてもよかったのですが、私の文才ではあれ以上書くとグダグダになってしまうので止めました。
大まかな出来事としては、出発までの間にフェイト達とちょっとした交流と、リンディがなのは達にバーダックについて詳しく説明するぐらいです。
ただ、頭の中ではなんとなく決まっているので、要望があったり、話が一段落着いたら書こうと思います。

最後にラストの会話ですが…勘のいい方は誰だか分かると思いますが、あの方を出そうと思います。出来るだけ読みやすく努力したいと思いますが、それに伴って場面転換が多くなり、ただでさえ読みにくいものが更に読みにくくなってしまったらごめんなさい。
それでは。


※追記
バーダックが気を知っているのは何故かという趣旨のコメントを頂いたので、ここで解説しておきます。
ドラゴンボールの世界では、悟空たちが使うエネルギーの事を「気」と呼んでいます。しかし、気は「戦闘力」「エナジー」「妖気」など、作中で様々な呼び方をされています。フリーザ軍系列の人々は、主に「戦闘力」と呼んでいましたが、戦闘力と言うとクロスオーバーでは曖昧な表現になってしまう上に、今回の最後に登場したキャラクターも、元フリーザ軍系列でありながら気という呼び方をしていた事を踏まえ、今作ではバーダックも気と呼んでいる設定にしました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第五話 もう一つの出会い

ここから一応本編という感じになります。



バーダックが地球に来てから、半年ほどの月日が流れた。辺りはすっかり冷え込んで時折雪がちらつく季節になったが、バーダックは相変わらず打倒フリーザを目標に一日の殆どを修行に費やす生活を送っていた。しかし、徐々に変化してきたこともある。

 

「どうした!動きが鈍ってるぞ!もうへばったか!?」

 

バーダックは地上から放たれる無数の光弾を空中で避け続ける。攻撃を仕掛けているのはなのはだったが、息が上がっている彼女に対して、バーダックは汗一つかいていない。

 

「まだまだ……そこっ!ディバイン…バスタァー!!」

「…!!」

巨大な光がレイジングハートから放たれる。先程の小さな魔法弾で牽制してからの砲撃は、隙の大きい彼女の技を最大限に活かした戦い方と言える。

しかし戦闘経験豊富なバーダックが、これしきの細工を見切れないはずもなく、身体を反らし紙一重で回避されてしまう。

 

(こいつ…また威力を上げやがったな)

「うう…また避けられちゃった…」

「…とりあえず休憩にするぞ」

 

最近のバーダックの日課は、もっぱらなのはの魔法の練習に付き合うことである。最初は自分の修行のついで程度だったが、なんだかんだで最近では彼のちょっとした楽しみでもある。

 

「…はぁ…はぁ…バーダックさん速くて…全然当たらないよ…」

「…当然だ。前より全体的には多少強くなってるが、お前の攻撃は直線的で発射までの時間も長い。弾幕で動きを制限したつもりだろうが…その程度の技だけじゃ俺には当たらん」

「うーん…この前のバインドも千切られちゃったし…やっぱり威力だけじゃ駄目なのかな…もっと威力を下げてでも発射速度とかも考えた技の方がいいんでしょうか…?」

「…お前が何をしようが勝手だが、はっきり言ってそんな中途半端な技なんて戦場では通用しねぇ。ユーノの奴も言ってたがお前の技は威力だけはあるんだ。中途半端な事をするより、今の技に合った戦い方をした方がマシだと思うがな。…まぁその辺りはお前の赤い玉っころと相談して決めるんだな」

「あはは…レイジングハートですよバーダックさん…

でも戦い方はとっても参考になりました!…次こそはバーダックさんに一撃加えられる様に頑張ります!」

「ふんっ…まぁそれは無理だろうがせいぜい努力することだな」

「はい!次にフェイトちゃんやユーノ君に会うときに胸を張れるように頑張ります!…だから…時々でいいのでこれからも特訓に付き合ってくれませんか?」

「…まぁ気が向いたら…考えておいてやる」

「ふふ…ありがとうございます!」

(全く…相変わらず殊勝なガキだ)

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

時を遡ること半年前、バーダックが地球での生活を初めていた裏で、もう一つの運命を変える出会いが起こっていた。それは偶然の出会いではあったが、奇しくも彼らは互いに自らの運命に翻弄される者同士であった。

 

 

「…ふぅ…とりあえず二人共回復できたわ」

「こ…これは一体…」

男は驚愕する。先程まで痛みと出血で意識が朦朧としていたはずだったにも関わらず、今では傷はすっかり癒え、体力も完璧とまではいかないがすっかり動けるようになった。

「…そうだ…俺よりも赤ん坊の方を…!」

「大丈夫。もう治療済みやから安心してええですよ」

 

車椅子の少女が指を指した方を見ると、その赤ん坊は金髪の女性の腕に抱かれていた。

 

「…それよりお前…何者だ?」

 

もう一人の赤毛の少女が男を鋭い目で睨みつける。無理もない事だが、どうやら警戒されているようだ。

 

「その格好…この辺りの人間じゃないな?一体お前らどっから来たんだ?」

(どうなってる…確か俺達は惑星ベジータの爆発に巻き込まれて…そうだ、他の連中はどうなったんだ…?)

「おい、お前…聞いてるのか?」

「あ、ああすまんな……その前にここは何処だ?状況が全く飲み込めないのだが…」

「質問に質問で返すなよ…。まぁいいや…ここは地球の海鳴市って所だ」

「地球…?」

(そんな辺境の星にまで流れ着いたのか…)

「あぁ…その反応だとやっぱり時空漂流者か…うーん…何処から説明すりゃいいんだ…」

 

ヴィータが頭を抱えていると、はやてが提案する。

 

「…とりあえず二人共ウチで休んでいきませんか?」

「いいのかはやて?」

魔法で治ったって言うてもさっきまで大怪我しとったんやから…それに家ならゆっくり事情も聞けるやろ?」

「…はやてがいいなら私たちは構わないけど…」

 

意外な提案に男は迷ったが、自分だけならともかく今は赤ん坊を連れている上に、陽も沈みかけていたため彼女らの提案に乗る事にした。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

こうして車椅子の少女…八神はやての厚意を受けて、男は八神家へとやって来た。

 

(一体何が起こってるんだ…確かこいつらは地球と言っていたな。地球と惑星ベジータはかなり離れているはずだ。そんな所まで宇宙を漂っていたということか…?…駄目だ…フリーザの攻撃の後の出来事がどうしても思い出せん…)

 

「ここが私達の家です。えーっと……あっ、そう言えばお互い名前聞いてませんでしたね。私は八神はやて言います。こっちの二人はシャマルとヴィータ。二人共私の家族です」

「…俺はパラガス。こっちの赤ん坊は息子のブロリーだ。…それよりよかったのか?見ず知らずの俺達を…」

「いいんですよ。この家は広いですし、何より賑やかなのは好きですから」

「………」

そう言うとはやては玄関のドアを開ける。

「ただいま〜!」

 

玄関を開けると桃色の髪を後ろで束ねたの女性と、一匹の大型の犬が待っていた。

 

「お帰りなさいませ、主はやて。…そちらはお知り合いの方ですか?」

「うーん…そういうわけやないんやけどな。実はスーパーから帰る時に偶然傷だらけで倒れてるのを見つけたんよ。シャマルが魔法で一応治してくれたんやけど…どうもシャマルとヴィータが言うには時空なんとか…って言う迷子らしいんや」

「もう日も沈みかけてたし、魔法に関係することなら警察に行くわけにもいかないから…とりあえずウチに来てもらう事にしたの」

「そうでしたか…玄関で長話もなんです。とにかく部屋にお入りください」

「せやな。私もご飯作らないとあかんし。パラガスさんもゆっくりしていってな」

「あ、ああ…」

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

その後、パラガスは部屋を一つ借りると、ブロリーを布団に入らせた。彼女達の言う通りブロリーはしっかりと治療されており、気持ち良さそうに寝息を立てながら眠りについていた。

 

(…しばらくは起きなさそうだな。とりあえずは無事で何よりだった。…奴らには感謝せねば)

 

しばらくブロリーを見守ると、はやて達の待つ部屋に向かった。

パラガスが部屋に着くと、ヴィータ、シャマル、ザフィーラが座り、すぐ横のキッチンでははやてとシャマルが土鍋を運んでいた。

 

「あっ、パラガスさん丁度よかった。丁度お鍋ができたところですから、座ってください」

 

言われた通りパラガスが席に着き、ガスコンロに火が灯ると、ヴィータが口を開く。

 

「んであんた…パラガスとか言ったな。アンタこの辺りの人間じゃないだろ。一体何者だ?」

「…疑ってかかるようで申し訳ないのだけれど、傷とか尻尾を見るとなんというか…普通の人とは違うわよね…」

「…ああ。そのあたりも話そう。…お前達には恩があるからな」

 

パラガスはサイヤ人や惑星ベジータでの出来事、…そして自分と息子についての話した。話を聞いた一同は、流石に衝撃を隠せないようで、特にはやては強いショックを受けていたようで、悲しげな顔のまま俯いてしまう。

 

「そんな…それだけの理由で二人は…」

「…お前のような子供にする話ではなかったな…すまん」

「いいんです。ただもし家族の誰かがそないなったらと思うと私…」

「はやて……」

「はやてちゃん…大丈夫よ」

「…主、話もいいですが早く鍋を食べてしまわんと煮崩れしてしまいますぞ」

「そ、そうだはやて、早く食べよう!」

「…せやな…。パラガスさんも居ることや。美味しい内に食べんとな…!」

 

表面上とはいえ元気を取り戻したはやてを見て、シグナムは念話を飛ばす。

 

(…ザフィーラ、気を遣わせてすまんな)

(構わん。これも主のためだ。…それより…)

(ん…どうした…?)

 

「…お前達はこんな棒を使って食べるのか…?随分と食べにくいが」

 

ザフィーラの視線の先には、箸を上下逆さまに握りしめた男の姿があった。

 

「ふふふっ…パラガスさん、それ持ち方逆ですよ」

「シャマルったら…笑ったら…あかんよ…ぷっ…」

 

笑いを堪える二人だったが、いい大人が大真面目に箸を間違えて持つというシュールな光景に笑いがこみ上げてしまう。

 

「あっはっはっは!なんだよその持ち方!全然違うぞ!」

「フッ…お前も最近まで間違えていたではないかないか」

「…うるせー!それを言うな!」

「「「あははははは!」」」

 

「……」

 

家族が集まり他愛も無い話で笑い合う。そんな光景をパラガスは戸惑いながら見つめるのだった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

夕食を終えブロリーの様子を見に部屋に戻ると、ブロリーは夕食前と同様にスヤスヤと眠っていた。

 

(…とりあえずはブロリーはしばらく大丈夫だな。それにしてもおかしな事もあるものだ…まさかこんなことになるとは……だが…どんな事があっても俺は奴を…)

 

パラガスは、自分達が助かったことを再認識し安堵すると共に、ベジータ王への復讐を誓いながら眠りに就くのだった。

 

しかし、それからの二人の生活の激的な変化が、それを許さなかった。

そして同時に、サイヤ人の闘争と殺戮の生活とはかけ離れた、暖かな家族の生活が二人の心を大きく変えていく。

 

 

 

 

~~~

 

 

 

 

「まずはベビー用品を買いに行かんとな。それからパラガスさんの服も…」

「いや俺は…」

「遠慮なんかしなくてええんですよ?」

「そうですよ。…それに今の服で外歩いたら目立ってしまいますよ?」

「ん…そ、そうか…」

 

 

 

~~~

 

 

 

「この服のブロリーちゃん可愛いですね!」

「うん、これは買って正解やね!」

「……」

「…なんや、ヴィータも抱っこしてみるか?」

「えっ!?…じ、じゃあちょっとだけ…」

「はい。気をつけて抱っこしてね…」

「あーうー」

(……か、可愛い…な)

 

 

 

「…慣れない服だからか着づらいな」

「安心しろ。すぐに慣れる」

(犬のお前が言っても説得力ないぞ…)

 

 

 

 

 

〜〜〜

 

 

 

 

 

 

「パラガス、いきなりで悪いが私と勝負するつもりはないか?」

「ん、なんだ藪から棒に…」

「前に言っていたが、お前は戦闘民族なのだろう?…その実力が見たくてなってな」

「いいだろう…俺も闘いは嫌いではないからな…だが怪我しても知らんぞ?」

「フッ…大した自信じゃないか。私を甘く見るとどうなるか教えてやる…」

「サイヤ人は戦闘種族だ…なめるなよ…」

 

「…お前達、程々にしておけよ…」

 

 

 

 

〜〜〜

 

 

 

 

「今日はスーパーの帰りに借りてきた映画を皆で見るで!」

「はやてはやて!今日は何借りて来たんだ?」

「今日はこれや。結構前に話題になったアニメなんやけどな、私もまだ見てないしブロリーも居るからアニメの方がいいかなーと思ってな」

「ええっと……雪の山のガウシカ……面白そうだし早く観ようよ!」

「せやな。じゃあ皆を呼んできてくれるか?」

 

 

 

~~~

 

 

 

『腐ってやがる…!早すぎたんだ…』

 

「…ねぇ皆、この声なんかパラガスさんに似てない?」

「そう言われればそんな気も…」

「いや、結構似てるぞ」

「似てる…てかアタシには全く同じように聞こえる気がするんだけど…」

「…そんなに似ているか?」

「ああ…お前の兄弟とかじゃねーのか?」

「…そんな訳あるか」

 

 

 

 

~~~

 

 

 

 

「フンフ~ン♪」

「…なぁはやて…なんで今日の夕飯はシャマルが作るんだ?」

「ごめんなヴィータ。この前シャマルと一緒に図書館に行ったら料理の本があってな。それを見たら変なスイッチが入ってしもうて、今日は私が料理しますー言うて聞かなかったんよ」

「そんなぁ…」

「まぁ今回は本を見て作っているんだ。大丈夫だと信じよう…」

「…なぁザフィーラ、シャマルの料理はそんなにその…不味いのか?」

「…お前も食べれば分かる」

 

 

 

 

~~~

 

 

 

 

「皆〜出来たわよ〜!今日はアスパラとブロッコリーの塩ゆでパスタよ!」

「見た目は…大丈夫そうだな…」

「油断するなよヴィータ…問題は味だ…」

「…シャマル…私は本の通りやと信じてるで」

「だ、大丈夫ですよ…!今回は本を見て作ったんですから!」

「…とにかく食べてみるとするか」

「頼むぞーシャマルー…」

「…ど、どうかしら…」

「うっ…こ、これは…」

「おえっ…な、なんじゃこりゃ!」

「…シャマル…お前本当に本の通りに作ったのか?」

「もちろんよ!…ただちょっとお塩を入れすぎちゃったから砂糖で中和を…」

「なっ…お前…」

「ブロリーの離乳食が羨ましくなってきた…」

「…シャマルはもう少しお料理勉強せなあかんな…」

「うぅ…あ!でもパラガスさんは美味しそうに食べてるわよ!」

「…まぁ絶品…ではないが普通に食えるな」

「うぅ…パラガスさん…ありがとう…また作りますから…」

「やめろバカ!というかパラガスも余計なこと言うな!」

「いやそう言われてもな…」

「…お前、今までよほど不味い物を食っていたんだな」

「パラガス…無理をする必要はない」

「…腹壊しても知らねーぞ」

「もう!三人共そこまで言わなくてもいいじゃないのよ!」

 

 

 

 

 

~~~

 

 

 

 

見ず知らずの異星人にも関わらず暖かく迎えてくれた八神家一同。ここでの生活は、どんな些細な出来事も二人にとっては新鮮で暖かく、そして優しさに満ち溢れていた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

ある夜、パラガスはベランダで星を眺めながら一人考え込んでいた。そんな様子を見て、シグナムとシャマルが声を掛ける。

 

「…パラガス…何か考え事か?」

「ああ…少し今後の事でな。いつまでもここに厄介になる訳にもいかん」

「…でもパラガスさんの故郷の星は…」

「ああ。分かっている」

「ではどうするつもりだ?」

「…最初は俺達を抹殺しようとした王の息子へ、一生掛けても復讐するつもりだった。だがお前達と暮らすブロリーを見て考えが変わってな…あんなに楽しそうに笑っているブロリーを見たのは初めてだ。もし俺が復讐に乗り出せば、お前達に受けた愛情など忘れ、たちまちブロリーは血と戦闘を好むサイヤ人に立ち戻るだろう。…そんな風にはなって欲しくない。…ブロリーにはサイヤ人としてではなく、地球人として生きてほしいのだ」

「地球人として生きる…か…」

「そうだ。俺は過去に何人もの宇宙人を殺めてきた。…中にはお前達の様に幸せに暮らしていた家族も居たのかもしれん。今さら後悔してもどうにもならんが、思い出す度にやるせない気持ちになる。…ブロリーにはそんな思いをしてほしくないのだ」

「パラガスさん…」

「…似ているな…私達と」

「お前達と…?」

「…前に闇の書の事は話したな。私達は闇の書の主となった者に従い、闇の書を完成させる為に戦う。それだけの存在だった。今までの主は私達を道具として扱い、時には私達を闇の書の糧にすることもあった。私達はその事に何の疑問も抱かなかったし、かつての主を否定するつもりもない。だが私達は戦う為に生まれてきたにも関わらず、主はやての元で静かに暮らすことが…今までで一番幸せを感じられるのだ。…今のお前やブロリーもそうだ。サイヤ人として生まれてきたにも関わらず、地球人のように生きることを望んでいる。だからお前達もきっと…」

「……」

「…ともかく…だ。お前達の今後に私達がとやかく言う気はない。新しい土地に赴くも良し、…主が許可するならここに居てもいい」

「そうやでパラガスさん」

 

いつの間にかブロリーのお守りをしていたはやて達も集まって来た。

 

「過去に何があろうと、私達が出会ったのは地球人として生きようとしてる今のパラガスさんや。…だから、そんなに気に病まんでウチでゆっくりして行ってええんですよ」

「はやてちゃんの言う通り、すぐに出ていく必要なんてありませんよ。ブロリーちゃんもきっとそれを望んでるわ。…それに私の料理食べてくれるのはパラガスさんしかいないし…」

「こうして出会ったのも何かの縁だ。我らに出来る事なら力になろう」

「そうだ。だから困った事があったら…っておい、やめろって…!」

 

綺麗に締めようとしたヴィータだったが、おぶっている ブロリーが、ヴィータの三つ編みを楽しそうに引っ張る。

 

「痛い痛いっ!ホントにやめろってブロリー!千切れちゃうだろ!?」

「あはははっ!ヴィータはブロリーにすっかり気に入られてしもうたな!」

 

(…本当にこの世界に来れてよかったな…ブロリー…)

 

パラガスは騎士達と同様、はやて達やブロリーがずっとこんな風に生きていけるように強く願った。

 

 

…しかしそんな願いも虚しく、平穏な日々はもうすぐ終わり、禁断の魔導書「闇の書」を巡る戦いの日々が始まろうとしていた。

 

後にこの戦いに巻き込まれていく三人のサイヤ人。それは偶然か。それとも戦闘民族としての宿命か。

 

運命の輪が紡がれる時、鍵は一人の少女に委ねられ、新たな戦いが始まろうとしていた。




どうも。顔芸です。
今回は予定通りパラガス回になりましたが、いかがだっでしょうか?
…一応最初は名前を伏せていましたが…前回でなんとなく察した方もいるかと思います。

さて、ここからはいつもの伝説の超言い訳タイムです。

まずはやての関西弁ですが…私は関西の人間ではないので、不自然な箇所があるかもしれません。コメント等で指摘をしていただけれると有難いです。

もう一つはパラガスのキャラですが…最早これはタグにキャラ崩壊をつけるべきかもしれませんね。
一応映画で息子思いな面を垣間見る部分があったので、悪堕ち前は息子思いのサイヤ人という設定です。
クズ親父ぃや血祭りLoveなブロリーを期待していた方、申し訳ございません…。

こんな出来ですが、次回も見てくださると嬉しいです。
それでは。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第六話 戦いの火蓋

なのはと修行を終えた後、バーダックいつものように一日の修行を終え、行きつけの業務用スーパーで食料を大量調達し帰宅していた。時刻は7時50分。窓から外を眺めると辺りは既に暗闇に包まれ、その中で星々とビルの光が美しく輝いている。

しかし、そんな景色とは逆にバーダックの表情はいつにも増して厳しいものだった。

 

(…なんだこの感覚は…?大気の揺れの様な物を感じる…こんなことは初めてだが…嫌な予感がしやがる)

 

そんな時だった。突然アースラから通信が入る。

 

「…俺だ」

「あっ!バーダックさん!?…よかった…あの、突然こんな事を聞いて申し訳ないんだけど、今なのはさんの様子は分かる?」

 

どうやら緊急事態の様で、リンディの声にはいつもの落ち着きが感じられない。

 

「…さあな。今朝少し会っただけだ。…その後の事は知らねぇな」

「そう……実は少し前からなのはさんと連絡が取れないの。おかしいと思って局の方で調べたら、広域結界が張られていて…状況から見て戦闘に巻き込まれている可能性が高いの」

「………」

「フェイトさんとアルフさん…それからユーノ君が向かってくれてるけど…敵の情報が分からないから安心とは言えないわ…」

「…それで俺にどうしろってんだ」

「時間が無いので単刀直入に言います。…この前アースラで見せた貴方の力で皆を助けてあげてくれませんか…?」

「………」

「魔力を持たない民間人の貴方にこんな事を頼むのは間違ってるのかも知れません。ですが今あの子達の助けに動けるのは…バーダックさん、貴方しか居ないのです」

 

それを聞いたバーダックは渋い顔をする。

バーダックは元々他人から命令されて動くのが好きなタイプではない上に、フリーザとの一件で他人に従うことに強い不快感を持つようになっていた。

断る。そう言おうとした瞬間───

 

 

 

 

〜〜〜

 

 

 

 

「…フリーザが…フリーザが裏切りやがったんだ…」

 

それは忘れもしない惑星ミートでの出来事。気難しいバーダックの数少ない仲間達は、自分の手の届かない場所で死んでしまった。

 

「サイヤ人の…ち、力を…奴らに見せつけて…や…れ…」

 

トーマ達の姿がなのは達と重なる。

 

また自分の手の届かない場所で死んでいくのか?

 

もう一度あんな不甲斐ない想いを繰り返すのか?

 

そんな事はさせたくない。させるつもりもない。

 

それに何よりも…

 

 

 

 

〜〜〜

 

 

 

 

 

「…お願いします、バーダックさん…!」

「うるせえ!!…俺に命令するんじゃねえ!」

「……!」

「…だが最近はいい加減ガキの相手も飽きてきたところだ。肩慣らしには丁度いいだろう……行ってやるから場所を教えやがれ」

「…!ありがとうございます。…とりあえず私が結界の場所まで案内します。だけど魔力を持たない貴方だけでは結界の中には入れないから、この通信機を通して一時的に結界内に入れるようにこちらで補助します」

(…そんな機能が付いていたのか。…通りでやたらデカイ訳だ)

 

そして着なれた戦闘服に身を包むと、バーダックはベランダに立つ。

 

「…場所はどこだ」

 

「まずは結界の近くまで移動します。そこから南西に進んでください」

 

バーダックは白いオーラを纏い、猛スピードで暗闇へ飛び立つ。未知の敵との戦いを予感させる出来事に、常人ならば不安と恐怖に押しつぶされそうなものだが、この男は不敵な笑みを浮かべていた。

 

(…何よりもサイヤ人が戦闘と聞いてじっとしてるわけねぇだろうが…!…そうだろ…トーマ…!)

 

 

 

 

***

 

 

 

 

アルフとの連携で、一時的にヴィータを押し返したフェイトだったが、援軍が来てからは数の上での優劣が逆転し、苦境に立たされていた。

 

「大丈夫、フェイト…?」

「私は大丈夫。バルディッシュも本体は無事……私が前に出るから…その間に…やってみてくれる…?」

 

「どうしたヴィータ。油断でもしたか?」

「うるせぇ、こっから逆転するとこだったんだよ!」

「そうか。それは悪いことをしたな。…それと落し物だ。破損も直しておいた」

 

なのはとの戦闘で落とした赤い帽子を、ポンとヴィータの頭に乗せる。

 

「…ありがと…シグナム」

「あまり無茶はするな。お前が怪我でもしたら、我らの主が心配する」

「…分かってるよ」

「シグナム、本当に俺は戦わなくていいのか?」

「あぁ。お前を抜いても数の上では互角だ。一対一ならばベルカの騎士に…」

「負けはねぇ!」

 

そう言い放つと二人はフェイト達に向かって接近していった。

 

(…それにしても相手はまだはやてと同じぐらいの子供ではないか。サイヤ人の俺が言えることではないが、いくら強いと言っても心苦しいものがあるな…)

 

そう思いつつも、パラガスは冷静に戦況を観察する。

 

(ザフィーラの相手は…尾の生えた女か…あいつも守護獣とかいう奴なのか?実力はほぼ互角だが…相手は結界を破壊しようとしている分ザフィーラが有利だな。ヴィータの方は……あの少年、防御と回避はなかなかだが…ヴィータならば問題は無いだろう。ヴィータが最初に交戦していた子供は動く気配はなしか…問題はシグナムだが…)

パラガスがシグナムの方角を見ると、そこにはフェイトをビルの中へ吹き飛ばし、降伏勧告を行う彼女の姿があった。

 

「終わりか?…ならばじっとしていろ。抵抗しなければ命までは取らん」

「…誰がっ!」

「ふっ…いい気迫だ。…私はベルカの騎士、ヴォルケンリッターの将シグナム。そして我が剣、レヴァンティン。…お前の名は?」

「…ミッドチルダの魔導師…時空管理局嘱託…フェイト・テスタロッサ。…この子はバルディッシュ。」

「テスタロッサ…それにバルディッシュか……行くぞ!」

「くっ…!」

 

フェイトはまだ戦意を削がれてはいないようだったが、誰が見ても実力の差は明らかだった。

 

(…あの子供は特に強い力を持っていそうだから心配していたが…杞憂だったか。…まぁシグナムならば初めから心配などいらな……っ!?)

 

シグナムの勝利を確信したその時、上空から強い気を感じたパラガス。シグナムが再びフェイトに攻撃を仕掛けようとした瞬間、パラガスが大声が叫ぶ。

「シグナム!避けろっ!!」

 

シグナムがはっとして振り返ると、巨大な青い光が目前まで迫っていた。

 

「くっ…砲撃…!?」

 

間一髪で攻撃を回避したシグナム。すぐに光が放たれた方向に目を向けると、一人の男が佇んでいた。

 

「…今のを避けるとはな……ただの女じゃねぇって訳か…」

 

「ば、バーダックさん!!どうして…」

「なっ…バーダック……だと!?」

「パラガス、奴を知っているのか!?」

「奴は…俺と同じサイヤ人だ…!」

「何だと!?」

「ん…パラガスだと…?その名前は聞いた事があるぞ。…確か王に処刑された野郎だな?」

「…そんな事は今どうでもいい!…一応聞いておくが…一体俺達に何の用だ?」

「へっ…とぼけやがって。サイヤ人の同士の用事と言えば…決まってんだろうが!」

「なるほどな…シグナム!こいつは俺が相手をする!お前らはさっさと蒐集を済ませてしまえ!」

「分かった!無理はするなよ!」

 

フェイトとの戦闘に戻るシグナムを見届けると、目の前の男に視線を移す。久しく見ていなかった同族の姿に一瞬懐かしさを覚えたが、感傷に浸っている場合ではない。

 

「…まさか俺の他にこの世界に来ていたサイヤ人がいるとはな……何故あいつらを襲う?単に戦闘を楽しむためじゃねぇだろ?」

「………」

「ふっ…だんまりか。それならそれでいい。…てめぇもサイヤ人なら、少しは俺を楽しませてみやがれ!」

 

そう言い放つと、バーダックはパラガスに突進する。

 

(…っ速い!)

 

バーダックは突撃のスピードを殺さずに右フックを叩き込む。パラガスは肘を曲げてなんとかいなすが、抑えきれずに吹き飛ばされてしまう。さらにバーダックは追撃し、今度は左のストレートがパラガス顔面に叩き込まれる。

 

「ぐっ…くそ…」

「どうした!その程度か!」

「っ…はぁ!」

 

今度はパラガスが右のストレートを放つが、その拳は簡単に見切られ、逆にその腕を掴まれ背負い投げの要領で投げ飛ばれる。パラガスはすぐに体制を立て直したが、そこにバーダックの強烈な回し蹴りを胴体に受け、またも吹き飛ばされる。

 

立て直す機会すら与えない怒涛の攻撃を繰り出すバーダックだったが、パラガスもまたサイヤ人。今度はしっかりと受け身をとり上空へ退避し、すかさず地上に向けてエネルギー弾を放つ。

 

「フン…つまらん技だ。埃を巻き上げるだけか」

 

バーダックに命中したエネルギー弾は巨大な爆発音と共に黒煙立てるが、バーダックにほとんどダメージはない。バーダックはすぐに煙を振り払い回り込もうとするが、パラガスもそれを予測しており、上手くバーダックの視界から逃れる。

 

(…奴はどこだ?…くそっ…スカウターがねぇんじゃ場所が分からねぇ…)

(クソッ…噂には聞いていた通りだ。下級戦士の戦闘レベルを遥かに上回っている…!)

「おいどこだ!逃げ回ってねぇで出てきやがれ!」

(だがやはり奴は気が読めないようだな……ならばっ…!)

「チッ…何処に行きやがった……まさか逃げやがったか?」

 

 

その時だった。突然背後のビルから強い波のような気配を感じた。

 

「っ…後ろかっ!」

 

バーダックが振り向いた瞬間、ビルの壁を突き破り緑色の強力なエネルギー弾が迫る。

回避は無理だと判断したバーダックは、咄嗟に腕を振りかぶり上空に跳ね返す。結果的に先程の第六感とも言える感覚に助けられた訳だが、バーダック自身この一連の流れに違和感を覚えていた。

 

(なんだ…この感覚は?気配とはまた違う感覚だ…だがこれで奴の位置は分かった!)

 

同じ頃、パラガスも自分のエネルギー弾が弾き返された事に困惑していた。

 

「なっ…弾かれただと…!?…ならばもう一度撃つまで!」

 

自らの位置がばれた事を察したパラガスは位置を変えて再び上昇する。

ビルの高さを越えて視界が開けると、遠くのビルの屋上に小さく人影が見えた。こちらに気付いている様子はなく、攻撃するには絶好のチャンスだった。

 

「しめたっ!そこだっ!」

 

このチャンスを逃す手はないと思ったパラガスは即座に威力を込めたエネルギー弾を放つ。しかし、咄嗟の判断でエネルギー弾を放ったため、彼は二つの重大なミスを犯す。一つは彼がエネルギー波を撃った場所にはバーダックはおらず、すぐ後ろに回り込まれていた事。

もう一つはパラガスがエネルギー弾を放った先に見えた人影は、戦闘不能のなのはだったのだ。

 

「…っ!しまったっ!」

「えっ…?」

 

なんとか命中前に気が付いたものの、突然背後から迫るエネルギー弾を普通の人間が、ましてや負傷しているなのはが避けられるはずがない。

 

「なのはっ!」

 

ユーノ達もその様子に気がつき助けに向かおうとするが、とても間に合う距離ではない。

 

…ただ一人を除いては。

 

「クソッタレ…間に合うか…?」

 

凄まじいスピードでエネルギー弾を猛追する。そしてなんとかエネルギー波よりも先になのはの元にたどり着き、半ば体当たりのような形でなのはを抱えこむ。

しかし攻撃を避ける時間は無く、攻撃はバーダックに命中し、二人の居たビルの上半分は緑の光に包まれ粉々に吹き飛ぶ。

 

「なのはっ!バーダックさん!…どいてっ!!」

フェイトがシグナムを振り切り、倒壊したビルに駆け寄る。

あの威力の攻撃を受ければ、致命傷は避けられない。誰もがそう思ったその時、煙の中から声が発せられる。

 

「…随分とサイヤ人らしい事してくれるじゃねえか」

 

それと同時に巻き起こった一陣の風が、辺りの煙を全て消し去った。その中から現れたのは左腕に傷を負ったバーダックと抱き抱えられたなのはの姿だった。

 

「あれ…私…?」

「…怪我はしてねえだろうな?」

「はい、ありがとうございます…って、私は大丈夫ですけどっ…バーダックさん腕が…!」

 

攻撃を受けた肩の辺りの肉が抉れ、少量ではあるが、肘の辺りまで血が流れていた。

 

「この程度でどうにかなるかよ。…それにしてもあの野郎…俺以外を狙って来やがるとはな…へっ…なかなか粋なことするじゃねえか」

 

言葉とは裏腹にバーダックは憤怒の表情を浮かべていた。

 

「…次は自分で避けろよ。いいな!」

「あっ、バーダックさん!」

 

そう言い放つと、青い気を纏いながら、一気にパラガスの元へ近づいて行った。

 

「どうしよう…フェイトちゃん達は凄く苦戦してる……バーダックさんにも怪我させちゃったし…このままじゃ…」

 

その時、壊れかけていたはずのレイジングハートが自らアクセラレーション状態となり、なのはに一つの提案をする。

 

『マスター。スターライトブレイカーを打ってください』

「そんな…無理だよ!…あんな負荷のかかる魔法…レイジングハートが壊れちゃうよ!」

『私は貴方を信じています。ですから、貴方も私を信じてください』

 

デバイスの構造などの知識は殆ど無いなのはだったが、大きくひび割れた所を見れば、これ以上の魔法の使用は無茶であることは明らかだった。しかし、レイジングハートは自分の為に無茶を承知で道を切り開こうとしてくれている。だからこそ、今はその勇気に応えたかった。

 

「…わかった……レイジングハートが信じてくれるなら…私も信じるよ!」

 

なのははレイジングハートを空に向け発射準備を始める。

それと同時にバーダック以外の念話を使える三人に結界を破壊するという旨を伝える。

 

「なのは…大丈夫なのかい?」

「大丈夫…スターライトブレイカーで撃ち抜くから!…レイジングハート、カウントを!」

『All right』

 

 

 

 

***

 

 

 

 

なのはを庇った際に傷を負ったバーダックだっだが、それでもパラガスとの戦闘力の差は圧倒的だった。なんとかシグナム達が蒐集を終えるまでは耐え抜こうと奮戦するパラガスだったが、バーダックの猛攻に耐え切れずついに膝を付く。

 

「…ぐっ…ここまでか」

「………」

 

バーダックがとどめの一撃を与えるために歩み寄る。

 

「エリートサイヤ人と聞いて期待したが…所詮はこの程度か。これでは準備運動にしか──ん…?あの光は…」

 

振り返ってみると、ビルの屋上から見覚えのある桃色の光が放たれていた。

 

「ふっ…そうか…アレをやる気だな…」

「け、結界を破壊する気か?」

「…てめえも冥土の土産に見ておくんだな…あのガキの魔法…威力だけはとんでもねえからな…」

 

スターライトブレイカーの発射準備が整い、なのはがレイジングハートを大きく振りかぶる。

 

「全力全開…!スターライト…ブレイ──

 

その時、信じ難い出来事が発生した。突如なのはの身体を女性の腕が背後から貫いたのだ。正確に言えば背後に人はおらず、胸の辺りから腕が飛び出ているという状態で、物理的に背後から突き刺されたわけではないため出血などはしていないが、明らかに異常な出来事だった。

 

「なっ…」

 

流石のバーダックも、体の内側から腕が飛び出るという尋常ではない光景に言葉を失う。

 

(…あれはシャマルか!よし…ならば…)

 

バーダックはすぐになのはの元へ飛ぼうとするが、パラガスに行く手を阻まれる。

 

「…行かせんぞ!」

「邪魔するな!このくたばり損ないがっ!」

 

 

 

 

***

 

 

 

 

シャマルにリンカーコアを掴まれたなのはだったが、なんとか収縮した魔力を保っていた。とはいえこのままリンカーコアを奪われては結界を壊すことなど出来ない。

 

(…撃たないと…今撃たないと皆が…!)

 

レイジングハートのカウントは既に0を過ぎている。意識が薄れ始め、普通ならまともに砲撃など撃てる状態ではなかったが、最後の力を振り絞りなんとかスターライトブレイカーを発射する。

 

「スターライト…ブレイカァァァァァァァー!!!」

 

なのはが全力で放ったスターライトブレイカーは、轟音と共に凄まじいエネルギーを放出し、硬いはずの結界をまるでガラスのように叩き割ってしまう。

結界が破壊されるのとほぼ同時に蒐集は終わったようで、なのはから腕を引き抜くとなのははその場にバタリと倒れてしまう。

 

「なのはっ!なのはっ!」

 

フェイトがすぐに駆け寄り声をかけるが、起きる気配はない。

 

「結界が抜かれた!離れるぞ!」

「…心得た」

「まてシグナム!パラガスが…パラガスがやられてるぞ!」

「あいつは私が回収しておく。お前達は先に行っていろ。」

「分かったわ。一旦散って、いつもの場所でまた集合しましょう!」

 

ヴィータ、シャマル、ザフィーラは手はず通りにバラバラにその場から撤退する。

シグナムも傷だらけのパラガスを救出し、すぐに撤退を試みる。

しかし、強い視線を感じて振り向くと、男がこちらを睨みつけていた。

 

「…来ないのか?」

「俺は死にかけの雑魚をいたぶる趣味はねえんだよ」

「…っ…この借りはいずれ返す…覚悟しておけ」

そう言い捨てるとシグナムは上空へと飛び去って行った。

 

(…へっ…面白くなって来やがったぜ…!)

 

飛び去る騎士達を見て今後の行方に不安を募らせる一同だったが、バーダックだけは一人不敵な笑みを浮かべ、彼らとの再戦に心を踊らせるのであった。




どうも顔芸です。
今回から本格的にA'sの時系列になっていきます。
前回の話から少し時間が飛んでいますが、この間の八神家での出来事は、次回かその次に書く予定です。
苦手な戦闘回でしたが…楽しんでいただけたら幸いです。

それと最近まで気が付かなかったんですが、いつの間にか評価を3件も付けていただいてました!気づくのが遅れて申し訳ないですが、とても嬉しかったです。ありがとうございました<(_ _)>
これからも引き続き読んでくださると嬉しいです。
それではまた。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第七話 廻る運命

パラガス…おい!パラガス…!

 

聞き覚えのある声で目を覚ますと、ヴォルケンリッターの四人が心配そうにこちらを見ていた。

 

「…ここは…?」

「よかった…!目が覚めたみたいね」

最初は状況が読み込めず錯乱しているパラガスだったが、気絶していた自分、騎士達と落ち合うと決めた公園、そしてはやて意外の八神家全員を見て状況を思い出す。

「ああそうか……俺はバーダックに負けて……そうだ、あいつらは?」

「ああ、もう大丈夫だ。追跡も振り切った」

「…そうか。…どうやらお前達の足を引っ張ってしまったようだな…すまない…」

「謝る事は無い。お前があの男を引き付けてくれなければ蒐集も上手く行かなかっただろう」

「そうだよ!それにパラガスは万全の状態じゃ無かったんだ!しょうがねえよ…」

「やっぱりアレは止めた方がいいんじゃないかしら…?いくらあなたでも負担が大きすぎるわ。」

「大丈夫だ。…それにアレが無くても俺では奴には勝てなかっただろうからな」

「お前ほどの奴がそこまで言うとはな…バーダックだったか?奴はそんなに強いのか?」

「ああ。奴はサイヤ人の中じゃ有名な奴でな。最下級戦士として生まれながら数々の実戦で力を付け、その実力はベジータ王に匹敵…あるいはそれ以上とも呼ばれていた男だ。直接戦ったのは初めてだが…あれは噂以上の戦闘力だ。…奴が管理局に居るとなると…蒐集は簡単にはいかんな…」

 

パラガスの言葉に全員が静まり返る。

 

「…考えていても仕方ない。あまり遅いと主も心配する。今は早く帰るとしよう」

「そうね…ブロリーちゃんもきっと待ってるわ…。早く帰ってご飯にしましょう」

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

戦闘で負傷したなのはを医療班に引き渡した後、フェイト達四人はアースラの到着を待っていた。

「…助けに来てくれてありがとうございます。それから…こんな形になってしまいましたが、お久しぶりです。バーダックさん」

「…助けたつもりはねえ。それより…なのはどうなったんだ?」

「医療班の人の話だと、なのはの外傷はそんなに酷くなかったんですが…魔導師の力の源のリンカーコアを奪われてしまいました。多分なのは自体は明日には目を覚ますと思うんですが、しばらくは魔法が使えない状態になります…」

「…なるほどな」

「そういえばバーダックさんはこの後どうするんですか?」

「お前らはどうするんだ?」

「私達はこれから本局に行きます。なのはの事も心配だし、バルディッシュの修理とか今回の報告とか色々ありますから…」

「…なら俺も本局とかいう場所に行く。…いくつか知りたい事もあるしな。それにあのガキが居ねえならここにいる意味もない」

「あれ〜?アンタがなのはの事心配するなんて珍しいじゃん?」

「……そんな訳あるか。結界が使える奴がいないんじゃ修行が出来ねえから仕方なく行くだけだ」

「またまた〜そんな事言っちゃって〜」

 

そんな掛け合いを見たフェイトは小さな笑みを浮かべる。

 

(バーダックさんは相変わらずだな……でもちょっと優しくなったかも…)

「…そんな減らず口を叩けるならあいつの代わりに修行に付き合って貰おうじゃねぇか…せいぜい犬鍋にされねぇ様に気をつけるんだな」

 

そう言ってバーダックは指をバキバキと鳴らすバーダック。普通なら冗談で済みそうなものだが、バーダックの目は笑っていなかった。

 

「ちょ…犬鍋って…勘弁しておくれよ…」

(優しくなった……のかな?)

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「…あれ…ここは……」

 

なのはが目を覚ますと、そこは見慣れない病室だった。

部屋の雰囲気や窓から見える景色を見ると、地球ではない事が分かる。しばらくぼんやりと外を眺めていると、すると部屋の扉が開き、クロノ、フェイトの二人が現れる。

 

「あっ!クロノ君!フェイトちゃん!」

「なのは…よかった…」

「大丈夫そうで何よりだ。…来たばかりですまないが、僕は少し用事があるから行かせてもらうよ。フェイト、あとは頼む」

「えっ…あ、うん」

 

「………」

「………」

 

残された2人に気まずい雰囲気が漂う。よく考えてみれば、こうして落ち着いて二人が会うのは半年ぶりだ。何を話していいのか分からなくなる。特にフェイトはこういう事には慣れていない。しばらく互いに押し黙っていたが、なのはは小さく微笑むと、ゆっくりと話し始める。

「ごめんね…せっかくの再会がこんなで…腕の怪我、大丈夫?」

「う、うん…こんなのは全然平気…。それよりなのはが…」

「私も全然平気。フェイトちゃん達のお陰だよ。元気元気!」

そう言って笑って見せるなのは。しかし、フェイトの表情はぎこちないものだった。

「フェイトちゃん…?」

心配したなのはが立ち上がろうとするが、足元がおぼつかず転びそうになる。

「なのはっ!」

慌ててフェイトが支えに入る。

「あはは…ごめんね?まだちょっとフラフラ…」

「なのは…」

「フェイトちゃん。助けてくれてありがとう。それから…また会えて嬉しいよ」

「うん…私も、なのはに会えて嬉しいよ」

そう言って二人は見つめ合うと、あえなかった半年を取り戻すかの様に、互いをぎゅっと抱きしめる。二人はしばらく抱き合っていたが、お互いに段々と恥ずかしさがこみ上げてくる。そんな空気に耐えられなくなったなのはが話を切り出す。

「そ、そうだ。ユーノ君達やレイジングハートはどこかな?」

「あ、そうだった。クロノが体調がよかったらレイジングハートを見せるから下に来てくれって言ってたよ。皆も多分そこに…それよりさっきふらついてたけど大丈夫?」

「うん。これぐらい大丈夫だよ」

「そっか…。じゃあ行こう。なのは」

 

 

 

***

 

 

 

クロノと合流したなのは達が部屋に入ると、ユーノ、アルフ、そして意外な人物が待っていた。

「なのは!フェイト!」

「アルフさん!ユーノ君も!…あ!バーダックさんまで!」

「なのは!久しぶり!」

「なのは…無事でよかったよ」

「全く…手間かけさせやがって…」

「みんな…」

久しぶりの再開を喜ぶなのはだったが、ふと横を見ると損傷したバルディッシュとレイジングハートがある事に気付く。

「レイジングハート…いっぱい頑張ってくれてありがとうね…」

「バルディッシュ…ごめんね…私の力不足で…」

「……破損状況は…正直あまり良くない…今は自動修復をかけてるけど、基礎構造の修復が済んだら一度再起動して、部品交換しないと…」

「こいつらのデバイスをここまで破壊するとはな……あいつら…なかなかやるじゃねえか」

「あ、その事なんだけどさ。あの連中の魔法ってなんか変じゃなかった?」

「あれは多分…ベルカ式だ」

「ベルカ式?」

「その昔、ミッド式と魔法勢力を二分した魔法体系だよ」

「遠距離攻撃や高範囲攻撃をある程度度外視した分、対人戦闘に特化さた魔法で、優れた術者は騎士と呼ばれてるんだ」

「…確かにあの人、ベルカの騎士って言ってた…。」

「最大の特徴は、デバイスに組み込まれたカートリッジシステムって呼ばれる武装。儀式で圧縮した魔力を込めた弾丸をデバイスに組み込んで、瞬間的に爆発的な破壊力を得るんだ」

「…危険で物騒な代物だな…」

「なるほどね…」

「…それにしてもお前達魔導師ってのはカートリッジがなんだのなんちゃら式だの面倒なことをするもんだな。聞いていても訳が分からんぞ」

「…勘やイメージだけで砲撃やら飛行をする君と一緒にしないでくれ。…そう言えば君と戦ったっていうサイヤ人も気を使って戦うのかい?」

「えーーっ!さ、サイヤ人!?…ってことはバーダックさんと…」

「…そういえばなのはには言ってなかったね。バーダックの話じゃ、あの男もサイヤ人らしいよ。」

「…当然あいつが使っているのも〔気〕だ。戦い方も俺と同じように格闘戦やエネルギー弾を使ってくる。」

「そうか…理由は分からないが、面倒な奴が仲間に加わったな…」

「でもバーダックはそいつより強いんだろ?」

「…今はな。だがサイヤ人ってのは戦闘を重ねたり死にかけるすると戦闘力がぐんと上がるんだ。」

「…ん?実践を重ねてるやつの方が強いのは当たり前じゃないか。」

「経験を積んで強くなるって意味じゃねえ。肉体の強靭さや気の限界値…お前らで言えば魔力そのものが上がるようなもんだ。」

「…へえ…サイヤ人ってのは凄いねえ…」

「君たちはそんな反則技まで持っていたのか…」

「…つまり今回俺と戦って死にかけたあいつは、次に会う時はより強くなってる訳だ。…無論負けるつもりはねえがな」

「…君もしかしてこれからも戦うつもりかい?」

「当然だ。あの野郎…俺に傷を付けやがったからな…。お前らが止めても勝手にやらせてもらうぜ。」

「はぁ…全く君は……でも今は一人でも戦力が欲しい時だ。よろしく頼むよ。…ああそうだフェイト。そろそろ面接の時間だ。それから……なのは。君も…ちょっといいか?」

「私も?いいけど…」

「君たちは適当にくつろいでいてくれ。色々と準備が終わったら、また声をかける」

そう言うと三人は提督の居る部屋へと向かって行った。

 

 

 

***

 

 

 

リンディ達が今回の事件解決への準備を待つ間、バーダック達は近くの自販機までやって来ていた。アルフが買った飲みものを渡そうとすると、バーダックが難しい顔で考え事をしていた。

(…何だったんだ…あの時の違和感は…)

「バーダックどうしたんだい?さっきから難しい顔して……はい。これあんたの」

「…ああ」

その時通りかかったエイミィから声を掛けられる。

「ユーノ君、アルフ、バーダックさん」

「エイミィか、どうしたんだい?」

「レイジングハートとバルディッシュの部品、さっき発注してきたよ。今日明日中には揃えてくれるって」

「本当ですか!ありがとうございます!」

「…それとね…さっき正式に今回の件がウチの担当になったの。」

「え?でもアースラは整備中じゃ…?」

「そうなんだよね…。多分その辺は艦長に何か考えがあると思うんだけど…」

「…おい。ちょっといいか?」

「バーダックさんどうしたの?」

「…お前ら三人少しそこに並んでみろ」

そう言うとバーダックは三人に背を向ける。

「え?急にどうしたんだい?」

「…並べば分かる」

三人は不思議そうに顔を見合わせると、バーダックの言う通りに並ぶ。

「ほら。並んだよ」

「………左からアルフ、ユーノ、エイミィだな。」

「えっ!?ど、どうして分かったんですか?」

「…俺にもよく分からん」

「なんだいそりゃ…」

「…ん…この近づいて来る奴はクロノだな?」

「嘘!?そんな事まで分かるの?」

そして数十秒後、バーダックの言った通りにクロノがやって来た。

「遅くなってすまな──」

「バーダックさん凄い!どうやったんですか?」

「…俺にも分からんと言っただろ。これは説明できるもんじゃねえんだ」

「あんた…クロノと口裏合わせてるんじゃないだろうね?」

「……盛り上がってる所すまないが、艦長が呼んでるから来てくれないか?」

「あ、ああ、ごめんねクロノ君?じゃあ皆、行こっか。」

(…何故俺がこんな技を……だがこれは使いようによっては便利な技になる…)

 

バーダックは自分でも気が付かない内に気を読む事を覚え始めていた。この技術が後にバーダックを助ける事になるのだが、それはまだ先の話である。

 

 

 

***

 

 

 

なのは達を強襲した翌日の朝、パラガスは庭で一人修行を重ねていた。

(もっと…もっと強くならねば…!…奴には対抗できん!)

その傍らでブロリーはパラガスを食い入る見つめていた。

(…やはりブロリーもサイヤ人か…戦闘行為自体には興味があるようだな。)

「あれ、パラガスさんおはようございます。もう起きてはったんですか?」

「ああ、はやてか。おはよう。」

「今温かい飲みもの入れますんで中に入ってください」

「ああ。ありがとう。」

パラガスはブロリーを抱き上げ室内に入る。

「また修行ですか?やるなとは言いまへんけどあんまり無理したらあきまへんよ?」

 

そう言いつつリビングで眠っていたシグナムとザフィーラにシーツをかけていた。

 

「…ああ。程々にしておくよ」

「はい。これホットミルクです。温まりますからどうぞ。ブロリーちゃんはこっちな。…今朝ごはん作りますんで座っといてください」

(……相変わらず優しい子だ)

しばらくするとシグナム達も目を覚ます。

「あ、ごめんな。起こしてしもうたか?」

「あっ…いえ…」

「ちゃんとベッドで寝やなあかんよ?そんなんじゃ風邪ひいてまう」

「す、すみません…」

少したじろぐシグナムを見てはやては少し微笑む。

「シグナム、また昨夜も夜ふかしさんか?」

「あぁ…その…少しばかり…」

「そうか…あんまり無理せんようにな?…はい。ホットミルク。あったまるよ」

「…ありがとう…ございます…」

 

そう言って受け取るシグナムは、普段は見せないとても柔らかな表情をしていた。

 

「すみません!寝坊しました〜!」

 

そんなゆったりとした空気を壊すように、シャマルが部屋に駆け込んでくる。

 

「おはようシャマル」

「おはようございます…あぁ!ごめんなさいはやてちゃん!」

「ええよ〜そんな急がんでも」

それに続いてヴィータも寝室からやって来る。

「おはよ〜」

「おお…めっちゃ眠そうやな…」

「眠い…」

「もう…顔洗ってらっしゃい…」

「ウーアッー」

「ミルク飲んでからに…って痛い痛い痛い!ブロリー髪の毛引っ張るなよ!もう、何度言ったらわかるんだよお前は!」

「あははは!やっぱりヴィータはブロリーに気に入られてしもうたな!」

いつもと変わらない、八神家の日常。惑星ベジータでは決して得ることができなかったものがここにはあった。…そんな暖かさを感じる度に、パラガスは嬉しさの半分、呪われた運命がはやてにつきまとっていることに悔しさとやるせなさを覚える。

 

(…何故…何故よりによってこいつらなんだっ…)

 

 

 

***

 

 

 

 

それは偶然の出来事だった。

いつものように病院での検査を終えたはやては、パラガス、ブロリーと一緒に医師の話を聞きに行った騎士四人を待っていた。

「シグナム達遅いな…どうしたんやろか…?」

「俺が探してこよう。ブロリーを頼めるか?」

「ありがとうパラガスさん。じゃあお願いします。」

 

 

〜〜〜

 

 

(ん…?あいつらの気は病院の外か…。どうしたんだ?)

 

そこでパラガスは聞いてしまった。闇の書の呪いではやての命がもう長くはない事。自分たちが騎士として現れた事で、呪いをさらに進行させてしまっている事。…そしてはやての命を助ける術がある事も。

 

「はやてを…はやてを助けなきゃ!シャマルっ!シャマルは治療系得意なんだろ!?そんな病気くらい…治してよ!!」

「…ごめんなさい…私の力じゃ…どうにも…」

「なんでだ…なんでなんだよ!!うっ…うっ…」

 

悲しさと悔しさで、ヴィータが嗚咽をもらす。

 

「…シグナム」

「我らが出来ることはあまりに少ない…だが…」

「…やるしかない。そうだろう?」

「パ、パラガスさん!?」

「お前…!いつの間に…」

「悪いが話は聞かせてもらった。…俺にも手伝わせてくれ」

「……気持ちは嬉しいが蒐集はそんなに生易しいものではない…。悪い事は言わん。蒐集は私達に…」

「はぁぁッ!!」

 

その時、パラガスの目付きが変わり、体中から深碧の気のオーラが勢いよく湧き上がる。

 

「あまり俺を見くびるなよ?それにお前らの許可がなくても勝手にやらせてもらう。…サイヤ人は目的の為なら手段を選ばんからな」

「パラガス…お前…」

「心配する事はない。なに、五人で集めれば案外早く終わるさ。…だからお前もいつまでも泣くな」

「うっ…うっ…パラガス…」

「パラガスさん…ありがとうございます…」

「…だが良いのか?お前は地球人として生きることを望んでいたはずだ。…蒐集に参加するという事は、お前の嫌っていた戦いを求めるサイヤ人に戻ることになるのだぞ?」

「…そうかもしれんな…。だがそんな事ははやてを見捨てる理由にならん。自分のために恩人見捨てるのは、今の俺が最も忌み嫌う事だ」

「…分かった。…お前の想いはしかと受け取った…。では改めて頼む。…我が主を助けてくれ…パラガス」

 

 

***

 

 

(……あれからもう数ヶ月か…。シグナム達やはやての為、ブロリーの未来の為、負けるわけにはいかんな…)

 

「おい。パラガス」

「ん、ザフィーラか」

「…今日は私とヴィータとお前で蒐集に出かける。頼むぞ」

「…ああ。分かっている」

 

パラガスは笑顔のはやて達やブロリー達を見て拳を強く握りしめる。

そして、彼は穏やかな未来の為、今日も戦地へと赴くのだった。

 




どうも顔芸です。
今回は戦闘後とパラガスが蒐集に参加する経緯のお話でした。
なんだか最近パラガスが主人公みたいになって来たのは多分気のせいですハイ。…これからはもうちょいバーダックの出番を増やしたいと思います。というか必然的に増えると思います。
あとサイヤ人組の現在の気の理解度についてですが…

バーダック→なんとなく気の存在に気付き始める。人の探知も少しなら可能。
パラガス→バーダックよりも気については理解が深い。ここではナメック星でのベジータぐらいなつもり。
私の中ではこんな設定です。公式にその辺の発表がないので、オリジナル要素といえばオリジナル要素です。

…今回はこんな所でしょうか。
これからも読んでくださると嬉しいです。
それでは。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第八話 再戦

バーダックやなのは達を含むアースラスタッフは、リンディによってとある一室に集められていた。アースラは比較的アットホームな雰囲気の職場ではあるが、今回は重要なロストロギアに関する事件ということもあり、張り詰めた空気が漂う。

 

「…さて…私達アースラスタッフは今回、闇の書の捜索及び魔導師襲撃事件の捜査を担当する事になりました。ただ、肝心のアースラが使えない都合上、事件発生地の近隣に臨時作戦本部を置くことになります。分割は、観測スタッフのアレックスとランディ、ギャレットをリーダーとした操作スタッフ一同。司令部は私とクロノ執務官、エイミィ執務官補佐、フェイトさん。以上三組に別れて駐屯します」

 

スタッフの配置を言い終えると、リンディの表情が柔らかいものになる。

 

「…ちなみに司令部は…なのはさんの保護を兼ねて、なのはさんのお家のすぐ近所になりま〜す!」

「えっ…ウチの近所って…ほ、本当ですか!?」

「ええ。ちょうど大きな部屋がなのはさんの家の近くに借りていたから、そこに引っ越すことにしたの。」

「やったぁー!!これでいつでもフェイトちゃんと会えるね!」

「う、うん。そうだね…」

 

無邪気に喜ぶ二人を見て、アルフ達やスタッフ一同も思わず頬が緩む。…一人の例外を除いて。

 

「…おいリンディ…まさか借りてある部屋ってのは…」

「あれ?言ってなかったかしら。バーダックさんの住んでるマンションよ?」

「………」

 

バーダックは顔をしかめたが、そう簡単に嫌とは言えなかった。そもそもバーダックはあの部屋に住んでいるだけであって、バーダックの所有物ではない。リンディ達が借りている場所に住んでいる、いわゆる居候状態なのだ。

 

「そんなに嫌そうな顔しないでください。…まぁバーダックさんがどうしても嫌だって言うなら他の場所を考えますけど…残念ね〜。司令部を置くにあたって機器の持ち込みをするから、その時に結界を使ったトレーニングルームを持ち込もうと思ったんだけど…」

「…っ!…仕方ねえ。好きにしやがれ」

「うふふ…ありがとうバーダックさん」

(バーダックさんが買収されてる…)

(あいつ…単純な奴だねぇ…)

 

こうして、半ば強引にバーダックの許可を得たリンディ達は、闇の書事件解決に本格的に動き始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

バーダックがリンディを説得してから数日後、予定通り本部が設置され、ほとんど物も無く静かだったバーダックの部屋は、フェイト達やその関係者で賑わっていた。

「いやーすまないねバーダック。あんたの部屋にみんなで押しかけるみたいになっちゃってさ」

「…全くだ。迷惑極まりないぜ。…まあ今の所は飯と修行用の結界で許してやるがな。……それよりなんだその姿は」

「ふっふっふっ…これぞ新形態子犬フォーム!どうだ、かわいいだろ?」

「…そりゃよかったな」

 

そう言いつつも、バーダックの冷ややかな視線から微塵も興味が無い事がひしひと伝わって来る。

 

「…あんたは相変わらずだねぇ…。真面目な話、この姿の方が魔力の消耗が少なくていいんだ。それにフェイトの友達の前ではこの方が都合がいいしね」

「ほう…便利なもんだな」

 

そんな会話をしつつも、バーダックは奥の部屋へと去っていく。

 

「また修行かい?好きだねえ…」

「…悪いか。夕飯になったら呼べ」

「はいはい、分かったよ」

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

その後、バーダックが修行を終えトレーニング室から出ると、クロノとエイミィが難しい顔でモニターを見つめていた。

 

「…また作戦会議か?」

「あ、バーダックさんお疲れ様。冷たい飲みものが冷蔵庫にありますんで、よかったらどうぞ」

「…それで、状況は?」

「…正直、あんまり良くないですね…。今までより遠くの世界で、昨夜も魔導師が十数人、魔力の高い野生動物体も十体以上の被害が出てるんです」

「奴らは何故そんな事をする?」

「バーダックさんも、襲われた魔導師がリンカーコアを奪われているのは知っていますよね?今回の事件の元凶の闇の書は、魔導師の魔力の根源になるリンカーコアを喰って、そのページを増やしていくんです」

「全ページの666ページが埋まると、その魔力を媒介に真の力を発揮する。…次元干渉レベルの巨大な力をね…」

「それで、本体が破壊されるか所有者が死ぬと白紙に戻って、別の世界で再生する…」

「様々な世界を渡り歩き、自らが生み出した守護者に守られ、魔力を喰って永遠を生きる。…破壊しても何度でも再生する、停止させる事の出来ない危険な魔導書だ」

「…それでお前達はどうするつもりなんだ」

「僕達に出来るのは、闇の書の完成前の捕獲…それにはまず、あの騎士達を捕獲して、主を引きずり出さないといけない」

「…要するにぶっ倒せばいいわけだな?わかりやすくて助かるぜ」

「…まあ、物騒な言い方をすればそういう事になるな。…なのはやフェイトが動けない今、君の力が頼りだ。よろしく頼む」

「…へっ…言われなくてもやってやるよ」

 

そう言ってバーダックは静かな笑みを浮かべると、再び修行へと戻って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

とある世界、ヴィータ、ザフィーラ、パラガスの三人は今日もはやてを救うために蒐集活動を行っていた。相手取るのは体長数十メートルの巨大な竜。かなりページを稼げそうな相手だが、当然それ相応のリスクを背負うことになる。

 

「グオオオオオオッ!!」

 

自分の力を誇示するが如く雄叫びを上げると、目の前に立ちふさがるパラガスに対して凶悪な鉤爪を振りかざす。しかし腕を上げた時には、既にターゲットの姿はない。巨竜がその事実に気付いた時には、彼の拳が自らの腹部にめり込んだ後の事だった。巨竜は先程の激しい咆哮が嘘のようにその場に倒れ込んだ。

 

「よし…ザフィーラ、蒐集を頼む」

「ああ…任せろ」

「…やっぱパラガスはつえーな。魔力もねぇのにあんなでかいヤツを一撃で倒すなんてすげーじゃんか」

「まぁ、魔力がないと言ってもそれに代わる力はあるからな」

「確か気…だったか?デバイスも無くてあんなに力を出せるとは…なかなか便利なモンだな」

「そうでもないさ。…魔力と違って気はほとんどの場合、単純な破壊にしか使えない力だからな。…それにこの力のせいでブロリーは…」

「………」

「…まぁ、そんな力でもお前達の助けになるならいいさ」

「パラガス…お前…」

 

少し重くなった空気を断ち切るように、ザフィーラが提案する。

 

「…そろそろ行くとしようか。夕食までにはまだ時間がある。まだ戦えるか?」

「当たり前だ!一日でも早くはやてを助けないといけないんだからな」

「…そうだな」

 

守護騎士プログラムである彼女は、普通の人間よりも心も体も強靭なものだが、それにも限界はある。殴られれば痛みを感じるし、切られれば血も出る。悲しい事があれば涙が出て、大事な人が苦しんでいれば自分の胸も痛む。

力強く返事をしたヴィータではあったが、その声からは僅かではあるが覇気が薄れ始めていた。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

バーダックは今日も一人トレーニングルームに篭もり修行を行っていたが、その内容はいつもとは違っていた。今までは肉体的な修行にほとんどの時間を費やしていたが、パラガスとの戦闘を通じて新たな気の可能性を知ったバーダックは、気を読んだり出力を上下させる修行を行っていた。

 

(…気にこんな使い方があったとは盲点だった。だが理屈さえ分かってしまえば簡単なもんだ。それにこの修行のせいか心なしか気の消費も抑えられてきている。…こりゃかなりの進歩だな。…ん、もうこんな時間か)

 

ふと時間を見ると時刻は7時半を過ぎており、もうすぐ夕食の時間だった。普段なら既に食べ始めている頃だが、今日はフェイトとアルフが修理したバルディッシュを受け取りに本局に行っているため、少し遅めの夕食となった。

バーダックは先に食べてしまいたかったが、リンディ曰く「ご飯はみんなで食べた方が美味しい」らしい。初めはくだらないホラ話だと一蹴したが、なんでも科学的に証明されているらしい。そんな事で飯が美味くなるならば、待たない理由などなかった。

 

(…そろそろ奴らも帰ってくる頃だ。…今日はこの辺りで切り上げるとするか)

 

そう思いバーダックが部屋を出た瞬間、部屋中に警報が鳴り響くき、リンディから声がかかる。

 

「これは…!」

「バーダックさん!例の騎士達とサイヤ人を発見したわ。すぐにクロノと一緒に向かって貰えますか?」

「…ああ、任せろ!…へっ…やっと来やがったか」

「すぐになのはさん達にも向かってもらいますから、それまでなんとしても足止めしてください!」

「へっ…誰に物言ってやがる。あいつらが来る前に終わらせてやるよ」

 

バーダックは思いがけずやって来た再戦の機会に、心を踊らせ戦場へと向かうのだった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

「くっ…管理局か…」

 

同時刻、蒐集を終えたヴィータ、ザフィーラ、パラガスの三人は管理局の武装局員によって包囲されていた。

 

「でもこいつら大したことない。…返り討ちだ!」

(…確かにこいつらは手こずるような相手では無い…だが…)

 

その時、パラガス達を囲んでいた武装局員が一斉にその場を離れる。

 

「えっ…」

「上だ!」

「スティンガーブレード!エクスキューションシフトッ!」

 

詠唱が終わると同時に、パラガス達の頭上に無数の青い剣が突き立てられる。

 

「でやぁっ!」

 

クロノの奇襲攻撃に、ザフィーラはすかさずバリアを展開させ攻撃を防ぐ。

 

「…くそっ…効いてないか…」

「この程度でどうにかなる程…我らは弱くない!」

「よし、これなら───

 

反撃を開始しようとしたその時、三人の背後から突然声がかかる。

 

「…ようパラガス。久しぶりだな」

(こいつ…いつの間に…!)

「…てめぇは…!この前はよくもパラガスを…!今度は私が相手を…」

「待てヴィータ!…こいつは俺に任せろ」

「で、でもよ…」

「…俺一人では役不足な事は分かっている。…だが恐らくこの後も奴らの援軍が来る。そいつらと戦う前にお前が消耗したら為す術がない。…それまではザフィーラと一緒に戦うんだ」

「どうした!怖気付いて逃げ出す参段か!?」

「…その必要はない。お前はここで私に倒されるのだからな!」

 

そう言い放つとパラガスはバーダックに向かい突進する。

 

「はああああッ!」

 

パラガスの右拳がバーダックの顔面に放たれる。しかし、バーダックはパラガスの手首を掴み、ギリギリで拳の勢い止める。

 

「ぐっ…ぐぐっ…!」

「…ほう…言ってくれるじゃねぇか!」

 

バーダックがもう一方の腕でパラガスを殴り返し、地面に叩きつける。

 

「パラガスッ!あの野郎…!」

 

激昂したヴィータがバーダックに向かおうとするが、ザフィーラがそれを静止させる。

 

「落ち着けヴィータ!奴はあの程度でやられる奴じゃない!…それよりあれを見ろ」

「あ、あいつら…!」

 

ザフィーラが示した方向を見ると、バリアジャケットを身にまとったなのはとフェイトがこちらに向かって来ている。それを見たヴィータは武器を構えるが、予想に反してなのは達は近くのビルに降り、対話を求めてきた。

 

「私達はあなた達と戦いに来たわけじゃない。…まずは話を聞かせて!」

「闇の書の完成を目指してる理由を…!」

「…あのさ…ベルカのことわざにこういうのがあんだよ。"和平の使者なら槍を持たない"ってのがな」

 

それを聞いたなのはとフェイトだったが、いまいちピンと来ないようで、互いに顔を見合わせる。

 

「話し合いをしようってのに武器を持って来る奴がいるかバカって意味だよ!バーカ!」

「なっ!い、いきなり有無を言わさずに襲いかかって来た子がそれを言う!?」

「…それにそれはことわざではなく、小話のオチだがな」

「う、うっせえ!いいんだよ細かいことは…!それにお前らの仲間の一人はがっつり戦いを仕掛けてきたぞ!」

 

その発言を肯定するかのように、タイミング良くバーダックがパラガスに盛大に回し蹴りを食らわせる。

 

「あ、あの人はその…ちょっと血の気が多いというかなんというか…」

 

その時、シグナムが外側から結界を突き破り、なのは達の前に降り立つ。その様子にバーダック達も気が付き、戦闘が止まる。

 

「…シグナム!」

(…ついに全員現れやがったか……いや…この間なのはからリンカーコアを奪った野郎が居ねえ。…またどこかに潜んでいるのか、それとも…)

「…バーダック、一つ聞きたい事がある」

「…なんだ」

「何故奴らの味方をしている?…お前程の奴がなぜ管理局に手を貸すのだ」

「…俺は管理局に手を貸しているつもりはねえ。…俺が手を貸すのは俺の信じた奴だけだ」

「仲間の為…という訳か。…出来ればお前とは別の形で出会いたかったよ」

 

そういうとパラガスが気を解放し、体に緑色のオーラを纏う。

 

「へっ…サイヤ人らしくねぇ事いいやがって…」

 

それに応えるように、バーダックの身体からもから青いオーラが吹き上がる。

 

「いくぞっ!パラガス!!」

「来い!バーダック!!」

「でりゃああああ!!」

「はあああああああっ!!」

 

同時に突き出された二人の拳は激しくぶつかり合い、凄まじい衝撃波と轟音を立て、再び二人の戦いが始まった事を周囲に知らしめる。

 

(くっ…あのバーダックってやつ…パラガスのパワーに正面から渡り合えるなんて…)

(バーダックさんも頑張ってるんだ…私だって!)

 

しばらく対峙したままだったなのは達も、バーダックとパラガスに焚き付けられたように戦闘を始める。

 

「へっ…結局やるんじゃねーか」

「私が勝ったら話を聞かせて貰うよ!いいね!?」

「やれるもんなら…やってみろよ!」

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

色とりどりの美しい魔法弾が交錯する中で、バーダックとパラガスの拳が一際大きな轟音を響かせる。

 

「そこかっ!」

 

当たると確信して放った一撃だったが、パラガスの一撃は虚しく空を切る。

 

(っ!消えた!?)

「こっちだぁっ!」

 

勢いよく振り下ろしたバーダックの肘が、パラガスの脳天に直撃する。

 

「ぐはぁっ!」

 

物凄い勢いで真下に吹き飛ばされると、パラガスの叩きつけられたビルが粉々に倒壊する。

最初は互角の戦いを見せていたパラガスだったが、僅かに戦闘力が勝るバーダックに徐々に押され始めていた。

 

(…やはり以前よりもパワーが増してやがる。だがまだ負けるような相手じゃねえな)

(くっ…以前死にかけた時にかなりパワーアップしたはずだが…それでも奴には及ばんか…。それにこいつ…気が読めるようになったのか…このままでは…)

 

その時だった。耳をつんざくような雷鳴が響き渡り結界が壊れ始める。

 

「な、なんだ!?」

(これは…!今しかない!)「はぁっ!!」

 

バーダックがその事に気を取られている間に、パラガスが気功波を放つ。

 

「しまっ…」

 

大した威力の無い技だが、撤退するには十分な時間稼ぎになった。

 

「バーダック!…この勝負は預けたぞ!」

「くそっ…!待ちやがれ!」

 

パラガスを追おうとした瞬間、結界を突き破った巨大な稲妻が頭上に降り注ぐ。

 

「…っ!!」

 

流石のバーダックにも避ける時間は無く、稲妻はバーダックに直撃すると、巨大な爆発を引き起こし眩い光で辺りを包み込んだ。

 

「はぁ…危なかった……」

「ありがとうアルフ。おかげで助かったよ」

『なのは、フェイト、アルフ、そっちは大丈夫!?』

『う、うん。ありがとうユーノ君…こっちは全員……あれっ…バーダックさんは?』

「そ、そういやあいつどこに…」

 

なのは達の脳裏に嫌な予感がよぎる。

 

「まさかあいつモロに食らったんじゃ…」

「そ、そんな!結界を破るまでに逃げる時間はあったはず…!」

「と、とにかく探してみよう!もし直撃してたら大変だよ!」

 

思い過ごしであってくれと願いつつ急いで爆心地へ向かうと、まさにちょうど落雷が落ちた場所にバーダックがうつ伏せで倒れていた。

「嘘っ…!バーダックさん!大丈夫ですか!」

「ど、どうしようフェイト…!」

「は、早く医療班を…!リンディさん聞こえますか!」

 

その時、意識がないと思っていたバーダックから声が聞こえる。

 

「……うっ……く…くそったれが…」

 

すると慌てふためくなのは達を他所に、バーダックはあっさりと起き上がる。

 

「…くそっ…思ったよりすげえ威力だったな…っと、お前ら何してんだ…鳩が豆鉄砲食らったみてえな顔しやがってよ」

「えっ…!だ、だってバーダックさん今あの攻撃を生身で受けたんですよ!?…」

「…何を言ってやがる。あれぐらいで死ぬやつがあるか。…とは言えドドリアの攻撃ぐらいの威力がありやがったな。おかげで意識が飛びかけたぜ…」

 

そう言うって軽く汚れを払うと、何事も無かったかのようにバーダックは一人で歩き出す。

 

「…早く帰るぞ。お前らのせいで俺はまだ飯を食えてねえんだからな」

「ああ!ちょっと待ってください!バーダックさん!バーダックさんったら!」

「…やれやれ…心配して損したよ…」

 

三人は無事でよかったと思う一方、彼の信じられない頑強さに、唖然としてかける言葉が見つからなかった。

 

 

 

 




どうも顔芸です。
今回はリンディ達の引越しパートでしたが、ちょっと無理やりだったでしょうかね…?

それと数日前、なんとこの作品の評価に色が付きました!
いやー嬉しいですね!しかも黄色ですよ黄色!
…まぁ今後落ちるかも知れませんが…。
評価を入れてくださった皆様、ありがとうございました。
今後も楽しんでいただけるように努力しますので、今後も読んでいただけると幸いです。

さて、話の展開についてですが、前話で戦闘だったのにもう二回目の戦闘?と思った方もいるかもしれません。
そうなんですよね…。ホントはもう少しバーダックの日常パートも入れたかったんですが、いろいろあって端折ってしまいました。ですが、本編でも番外編でも一応どこかでは入れたいと思っていますのでもう暫くお時間を…

まだまだいい訳したい事は山ほどありますが、今回はここまでにしたいと思います。今回も読んでいただきありがとうございました。
それでは。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第九話 仲間

守護騎士達との戦闘の後、リンディ達の待つ司令部へ戻ったなのは達はバーダックの件を含めた今回の戦闘報告をする。

 

「…で、何事も無かったかの様に戻って来たと。…全く君はどういう体をしてるんだ…」

「…鍛えていればあのぐらいは当然だろうが。それにあの程度でくたばってたらフリーザにはとても勝てねえからな」

(本当に鍛えてどうにかなるものかしら…?)

「…そんなことはどうでもいいだろ。それより話を戻したらどうだ」

「そ、そうね。…ええっと…彼らが何故闇の書の完成を目指してるのか…だったわね」

「ええ…どうも腑に落ちません。彼らは自分の意思で闇の書の完成を目指してるようにも見えますし…」

「ん?それってなんかおかしいの?闇の書ってのもジュエルシードみたく、すごい力が欲しい人が集めるものなんでしょ?だったら…その力が欲しい人の為にあいつらが頑張るのもおかしくないと思うんだけど…」

「第一に闇の書の力はジュエルシードみたいに自由な制御のできるものじゃない。完成前も完成後も、純粋な破壊にしか使えない。…少なくとも、破壊活動以外に使われたという記録は無いんだ」

「そっか…」

「それからもう一つ…あの騎士達……闇の書の守護者の性質だ。彼らは人間でも使い魔でもない、闇の書に合わせて魔法技術で作られた擬似人格。主の命令を受けて行動する。…ただそれだけのプログラムに過ぎないはずなんだ」

 

それを聞いたフェイトが悲しげな表情を見せる。

 

「……あの…人間でも使い魔でもない擬似生命って言うと…私みたいな…」

 

そう言いかけたフェイトの言葉をリンディが慌てて否定する。

 

「違うわ!…フェイトさんは、生まれ方が少し違っただけで、ちゃんと命を受けて生み出された人間でしょ?」

「検査の結界でもちゃんとそう出てただろ。変なことを言うもんじゃ……」

 

「…おい…それはどういう事だ?」

 

 

バーダックの一言にリンディ達ははっとする。バーダックはフェイトの生い立ちについては何も知らなかったのだ。

 

「あっ……そ、それはねバーダックさん…」

 

上手く誤魔化そうとするリンディだったが、それを見たフェイトは首を横に振った。

 

「…いいんですリンディさん。いずれは話さなきゃと思ってましたし、一緒に戦ってくれてるのにバーダックさんだけずっと知らないなんて悪いですから」

「…フェイトさん……」

 

フェイトはバーダックに自分の生い立ちについて少しずつ話し始めた。

 

 

 

 

〜〜〜

 

 

 

 

「───ということなんです…」

 

フェイトはバーダックに自ら過去を話したが、話が終わる頃にはすっかり俯いてしまっていた。それも仕方のないことだった。例の事件から既に半年が経ち、優しく接してくれる人が大勢いると言っても、フェイトはまだ9歳。小学生が背負う運命にしては、あまりにも重すぎる。

 

「………」

「あ、あのバーダックさん?」

「…なんだ」

「あの…ごめんなさい…こんな話をしてしまって…」

「なんでてめぇが謝る?聞いたのは俺だ。…それに話を聞く限りお前に非はないだろうが」

「そうかも…しれませんけど…」

(チッ…全くこいつらは…いちいち喜んだり悲しんだり面倒な奴らだ)

「…わかった。この話はもういい。…クロノ、闇の書の守護者の話を続けろ」

「…ああ。守護者達は闇の書に内蔵されたプログラムが、人の形をとったもの。闇の書は、転生と再生を繰り返すけど、あの四人は、ずっと闇の書と共に様々な主の下を渡り歩いている」

「意思疎通の対話能力は、過去の事件でも確認されてるんだけど、感情を見せたって例は一度もないのよ」

「…闇の書の蒐集と主の護衛。彼らの役目はそれだけですものね」

「でもあの帽子の子、ヴィータちゃんは怒ったり悲しんだりしてたし…」

「シグナムからもはっきりと人格を感じました。…成すべき事があるって…。それから、仲間と主のためだって…」

「主のため…か」

「…まぁその辺りは捜査にあたっている職員からの情報を待ちましょうか」

「転移頻度から見て、主がこの付近に居るのは確実ですし、案外先に主が捕まるかもしれません」

「あ〜そりゃわかりやすくていいね〜!」

「そうね!闇の書の完成の前なら、持ち主も普通の魔導師だろうし…」

「それにしても、闇の書についてもう少し詳しい情報が欲しい所だが……今は考えていてもしょうがないか」

「そうね。それにもういい時間だし、夕飯にしましょうか」

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

バーダックがベランダで一人星を眺めていると、こそこそとフェイトが近寄ってきた。バーダックはフェイトが何を言おうとしているのかなんとなく察したが、あえて自分からは話しかけなかった。二人はしばらく無言でいたが、フェイトがぽつりと話しはじめる。

 

「バーダックさん…あの…星…見てるんですか?」

「…そうだ。それがどうかしたのか」

「ああ…ええっと…そのですね…」

「…言いたいことがあるなら早く言いやがれ」

「うっ…」

 

どうやら図星だったようで、フェイトはうなだれる。しかしすぐに覚悟を決め、震える声でゆっくりと話し始めた。

 

「……バーダックさん…わ、私がその…作られた人間だって聞いて…どう思いましたか…?」

「…事実を聞かされただけだ。どうもこうもあるか」

「そう…ですか…そうですよね…」

 

口では納得したような事を言っているが、フェイトの表情は暗いままだった。

 

「お前がどう生まれようがそんな事はどうでもいいし興味もねぇんだよ。…重要なのはその後だろうが」

「…えっ」

「…お前は他人にどう見られてんのかを気にしてるようだが、そんなもん気にする必要はねぇ。言いたいやつには勝手に言わせておけばいい。自分が自分の生き方を見失わなければそれで十分だ」

 

そうフェイトに語りかけるバーダックは、普段は見せない昔を懐かしむような遠い目をしていた。

 

「バーダックさん……」

「…だからその…なんだ、面倒だからいちいち余計な心配をするな!」

 

フェイトにじっと見られていると、真面目に彼女を励ました事が急に小っ恥ずかしくなり口ごもってしまう。そんな風に狼狽えるバーダックを見て、フェイトは思わず吹き出してしまう。

 

「うふふっ…バーダックさんが慌ててるの珍しいですね…」

「う、うるせえ!さあもういいだろ、さっさとどっかに行かねえとぶん殴るぞ!」

「あ、ああごめんなさい…!じゃあこれで…」

 

そう言ってそそくさとドアへ向かうフェイトだったが、途中でバーダックの方を振り向く。背を向けて立つ彼の背中からは、どこか寂しげなオーラが漂っていた。

 

「あ、あのバーダックさん!…ありがとうございました…。私、なのは達以外の人にこんなこと知られたら嫌われるんじゃないかってすごく怖かったんですけど、バーダックさんには理解してもらえて…あの…すごく…嬉しかったです。それと相談した私がこんなこと言うのは変かもしれませんけど…もし私が助けになれる事があれば言ってくださいね。私にできる範囲なら協力しますから…」

「…てめぇに助けられるほど落ちぶれてねえよ」

「そ、そうですか……あの…それじゃあおやすみなさい…バーダックさん」

 

「…………」

 

フェイトの居なくなった部屋は静寂を取り戻し、バーダックは再び空を見上げる。無数の星々を見て思い出すのは、フェイトと同じ歳の頃の仲間達との思い出だった。

 

 

 

 

~~~

 

 

 

 

 

 

「このガキ!俺たちの言うことが聞けねえってのか!?」

「そうだ!何度も言わすんじゃねえ!この木偶人形が!」

「なんだと!たかが最下級戦士の分際で調子に乗りやがっ……ぐはぁっ!」

 

そう言ってバーダックに殴りかかろうとした男に、背後から回し蹴りを入れる子供が居た。

 

「トーマ!それにお前らまで…!」

「へっ!エリートだからって調子に乗りやがって!バーダック!ひと暴れしてやろうぜ!」

「…へっ…余計なことしやがって…てめぇら死んでも知らねえぞ!」

「…このガキ共!…おいお前ら!同族だからって手加減することはねえ!やっちまえ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…くそっ…やっぱりエリート共は強えな…」

「パンブーキン、アンタは油断しすぎなんだよ。一番攻撃食らってたじゃないか」

「チッ…うるせぇ。俺には俺の戦い方ってもんがあんだよ」

「…てめぇらなんで割り込んできやがった。お前らには関係ないだろうが」

「そんなことねえさ。…あいつらは俺も前から気に入らなかったんだ。生まれた時に少し強からってだけで威張りやがってよ!そいつに喧嘩売ってる仲間がいたら助けるのは当然だろ?」

「…てめぇらに助けられるほど落ちぶれてねえよ」

「何意地張ってんだい。私たち五人でかかってやっと引き分けだったくせに」

「…うっせえ。クソ、強くなって見返してやる」

「そうだな……大事なのは生まれじゃなくてその後だ。下級戦士だって強くなれるって所をエリートの野郎どもに見せてやろうぜ!」

 

 

 

〜〜〜

 

 

 

 

 

「……………」

 

幼い頃から生死を共にしてきた仲間達はもう居ない。だが、バーダックはこの世界で新しい仲間と出会うことができた。フェイト達の存在は、バーダック自身も気付かなかった心の穴を満たしていくのだった。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

管理局の追跡を振り切り帰宅したシグナム達だったが、家に帰るとはやてとブロリーの姿は無く、机には夕食と書き置きが残されていた。なんでも、今夜夕食に誘った友達がいつまでも帰らないシグナム達を見かねて自宅に誘ってくれたらしい。

 

「…主の様子はどうだった?」

「はやてちゃん今日はすずかちゃんのお家にお泊まりするから心配要らないって……あとブロリーちゃんも一緒だから、パラガスさんに伝えて欲しいって言ってたわ…」

「そうか。…はやてには寂しい思いをさせてしまったな…」

「ええ…そうですね」

「…それにしても、お前を助けたという男は一体何者だ?」

「わからないわ……少なくとも当面の敵ではなさそうだけど…」

「パラガス、お前はどうだ?」

「…俺もわからんな。一度あったことのある奴ならば気でわかるはずだが、あんな気は初めてだ。…だが敵ではないと決めつけるのは少し早計かもしれんぞ」

「…どちらにせよこれで管理局の連中もますます本腰を入れてくるだろうな」

「…もう時間もあまりないのにあの砲撃でだいぶページも減っちゃったし…」

「一刻も早く闇の書の真の保有者になってもらわねば…」

「…そうね……どんな事があっても必ず…」

「…………」

 

そう言って天を見上げる二人の眼差しからは、何を犠牲にしてでもはやてを助けるという強い意思が感じられた。

 

(…こいつらに比べて俺には覚悟が足りなかったのかもしれん。…シグナム達がはやての為に命を削るならば…俺がそれを守ってやらねばな)

 

「シグナム……少し話がある。…すまんがシャマルは少し外してくれ」

「えっ?……いいですけど…じゃあ私、夕食の準備してますね」

「ああ。頼んだ」

 

そう言ってシャマルが部屋から出ると、二人の目つきが少し鋭くなる。

 

「……どうやら重要な話の様だな」

「…ああ。管理局に居るあのサイヤ人…バーダックの事だ」

「…あいつか」

「今回は闇の書の力や仮面の男のおかげでなんとか撤退できたが、奴がいる限り次も上手くいくとは限らん…それに時間が限られている以上、もうページを減らして闇の書の力を使うこともできない…。だが奴はサイヤ人の中でもずば抜けて高い戦闘力を持っている。…今の俺ではある程度は抑えられても到底勝ち目がない。…もし次また奴らに出くわしてしまえば最悪の事態になるかもしれん」

「………」

 

シグナムもその事は理解していた。管理局魔導師だけならば振り切れても、次またバーダックがやって来れば、全員が上手く逃げられる可能性はほとんどないのだ。

 

「…だが俺に策がある。今奴を倒せる唯一の策が…な」

「そんなものが…」

 

パラガスは力強くそう告げる。だがこの策というのは、高いリスクを背負う事になる。

そのリスクをシグナムは勿論の事、パラガス自身の想像をも超える物なのだが、この時彼らにそれを知る術はない。

 




こんにちは。顔芸です。
今回はバーダックの過去の回想がありましたが、あの辺は資料がないので完全に私の妄想ですが、今後公式でも掘り下げてくれるといいなーなんて考えてます。

それと余談ですが、最近皆さんからたくさんコメント頂けて嬉しいです。返信が遅くなってしまうかも知れませんが、しっかりと読ませて頂いてるということをこの場でお伝えしておきます。

次回も見てくださると嬉しいです。
それでは。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十話 新たな思惑

シグナム達との2度目の戦闘から数日経った日、バーダック、フェイト、なのは、アルフの四人は、昼食の材料を買いに行ったエイミィの帰りを待っていた。 その時修行の為に戦闘服を着ているバーダックを見たなのはに、ふとある疑問が浮かぶ。

 

「ねえバーダックさん。ちょっと気になったんですけど…」

「なんだ」

「バーダックさんってどうしていつも尻尾を腰に巻いてるんですか?」

「…いきなり何を言ってやがる」

「あ、そうそう。それ私も気になってたんだよ。あんたみたいに尻尾が生えてる使い魔は見たことあるけど、腰にに巻いてるやつは初めて見たからさ」

「…サイヤ人は尻尾を握られると力が出なくなる。それこそ立っていられないぐらいにな。だから大体のサイヤ人は捕まれんように腰に巻いてんだ」

「そうなんですか…バーダックさんにも弱点があったんですね」

「へえ…そりゃいいことを聞いたねえ…ええいっ!」

 

そう言うと子犬状態のアルフがバーダックの尻尾に思い切り噛み付いた。

 

ほうは!こへへうこへはいはほ!(どうだ!これで動けないだろ!)

「…言い忘れたがその弱点は克服可能だ。余程のバカ以外は全員鍛えてある」

 

バーダックは冷たく言い放つと、アルフの頭を鷲掴みにする。

 

「…今度はてめぇの尻尾で試してみるか。うっかりもげちまっても文句言うんじゃねえぞ」

「あはは…な、何を言ってんだい。ちょっとしたジョークじゃないか。そんなに本気にならなくても…」

(アルフ…今のはどう考えても自業自得だよ…)

 

その時、絶体絶命のアルフを救う救世主が現れる。

 

「たっだいまー!牛丼買って来たよ!」

「やっと帰ってきやがったか」

 

バーダックが牛丼に気を取られている内にアルフは脱出する。

 

「ナイスだよエイミィ!」

「チッ…命拾いしたな」

 

そう言いいつつ既にバーダックの興味はアルフには無く、淡々とエイミィから大量の特大牛丼を受け取る。

 

「バーダックさん相変わらずすごい量食べるんだね…見てるだけでお腹いっぱいになっちゃいそう…」

「ホント…あんなの見せられるこっちの気持ちも考えて欲しいもんだね…」

 

バーダックの相変わらずの食事量に呆れつつ、なのは達も食事に移るのだった。

 

 

 

〜〜〜

 

 

 

 

「そういえば艦長はもう出かけちゃった?」

「うん。アースラの武装追加が済んだから試験航行だって」

「武装って言うと…アルカンシェルか。あんな物騒なもの…最後まで使わずに済めばいいんだけど……あれ?そういえばユーノ君はどうしたの?」

「ユーノ君はクロノ君にお願いされた調べ物を探しに本局へ行ったみたいですけど…」

「クロノ君に頼まれたってことは…今頃ユーノ君無理難題を押し付けられてるんだろうな…かわいそうに…」

「そのクロノ君もいないですから、戻るまではエイミィさんが指揮代行だそうですよ?」

「お〜責任重大だねぇ」

「…ははは…確かにねぇ…まあでもそうそう非常事態なんて起こるわけが…」

そうエイミィが言いかけた瞬間、緊急事態を示すサイレンが鳴り響き、部屋の空気が一変する。

「う、嘘!?み、みんな、とりあえず管制室に!」

 

 

 

〜〜〜

 

 

 

管制室のモニターを見ると、そこには蒐集を行う騎士達とパラガスが映し出されていた。

「文化レベル0…人間は住んでない砂漠の世界だね…。結界を張れる職員の集合まで最速で45分か……うう…マズイな…」

「そんな奴らを待つは必要ねえ。…この俺が片付けてやる」

「エイミィ、私とアルフも行くよ」

「……うん…お願い!なのはちゃんはバックスで待機で!」

「分かりました」

「皆お願いね!絶対逃がさないで!」

 

 

 

***

 

 

 

蒐集を行うシグナムとパラガスの前に現れたのは、大型の蛇のような怪物だった。その体長は裕に100mを超え、今までの蒐集対象の中でも最も巨大な相手だった。

「くっ…ヴィータが手こずる訳だ」

「…長引かせればこちらが不利になるだけだ。シグナム!一気に決めてしまうぞ!」

「ああ。分かって…」

 

その瞬間、シグナムの背後に無数のワイヤーの様な尻尾が迫る。

 

「くっ…!させるかっ!」

 

数本はパラガスが撃ち落としたものの、回避した残りの尻尾がシグナムを拘束し、体中を締め上げる。

 

「ぐっ…しまった……がぁぁぁぁっ!」

「シグナム!クソッ…こいつ…!」

パラガスが助け出そうとしたその時、上空から無数の光の槍が降り注ぎ、怪物の体に突き刺さる。パラガス達が上を見上げると、そこには魔法陣を張っているフェイトとバーダックの姿があった。

 

「…ブレイクッ!」

 

フェイトがそう叫び腕を振り下ろすと、突き刺さっていた槍が全て爆発する。分厚い皮膚は簡単に打ち砕かれ、怪物は呆気なくその場に倒れ込む。

「…なかなかやるじゃねえか」

「あ、ありがとうございます。バーダックさん」

『ちょ、ちょっとフェイトちゃん!助けてどうするの!捕まえるんだよ!』

「あっ…ごめんなさい…つい…」

「へっ…そんなもん気にする事はねえ。どうせ遅かれ早かれアイツはぶっ倒すつもりだったからな。順番が少し変わっちまっただけだ」

 

そんな事を話していると、怪物が倒されたことによって解放されたシグナムとパラガスがやって来る。

 

「…礼は言わんぞ。テスタロッサ。…蒐集対象も潰されてしまったしな」

「ま、まぁ悪い人の邪魔が私の仕事ですから…」

「そうか…悪人だったな、私は。…テスタロッサ、それにバーダック。預けた決着はできれば今しばらく後にしたいが、お前達からこのまま簡単に逃げられるとは思えん。…逃げられないのなら…戦うしかないな」

「…はい。私もそのつもりで来ました…!」

「へっ…当然だ…!」

「…くっ…戦うしかないのか…!」

 

そう言うと四人は戦闘態勢に入る。

 

「…フェイト!…負けるんじゃねえぞ」

「はい…!必ず勝って見せます!」

 

「パラガス…!ああは言ったがあまり無理はするな」

「…善処しよう」

 

しばらく膠着状態が続いていたが、パラガスの突撃を皮切りに、他の三人も一気に動き出す。

 

「はあぁぁぁぁっ!」

 

砂を巻き上げながら滑空し、パラガスがバーダックに正面から肘打ちを放つ。

 

「遅い!」

 

バーダックは突っ込んでくるパラガスに右拳を合わせる。しかし、捉えたと思った姿は残像で、バーダックの拳は空を切る。

「何っ!?」

 

その瞬間に背後に回り込んだパラガスは、バーダックの後頭部に肘打ちを叩き込む。

 

「でりゃあぁ!」

「ぐっ…!」

 

よろめいたバーダックに対し、パラガスはすかさず腕を突き出し気功波を放つ。その威力は凄まじく、砂の地面が数百メートル先まで吹き飛ぶ。しかし、パラガスが上を見上げると、一瞬のうちに気功波を回避したバーダックがこちらを見下ろしていた。

 

「くっ…やはり簡単にはいかんか…」

(あの野郎……想像以上にパワーを上げてやがる……どうやら本気でやる必要があるみてえだな)

「はあぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

バーダックが雄叫びをあげると、青いオーラが身体中から吹き上がり、爆発的に気が上昇する。

 

(ぐっ…奴にはまだあんなに余力があったのか…!)

 

バーダックが構えた瞬間、パラガスの視界からバーダックが消える。

 

「……くっ!」

 

バーダックは超スピードでパラガスの懐に潜り込むと、上を見上げているパラガスの顎を跳ね上げる。

 

「ぐはぁっ!…クソッ!」

 

パラガスはダメージを受けながらも、負けじとバーダックの顔面に拳を叩き込むが、バーダックは上体を反らして回避する。その反動を活かして、今度はパラガスの腹部に強烈なアッパーカットを叩き込む。

 

「くっ…ごぁ……っ……」

 

かなりのクリーンヒットだったが、パラガスは悶えながらもなんとか堪える。

 

「今のを耐えるとはな。腐ってもサイヤ人という訳か…」

「…この程度で倒れていたらあいつらに合わせる顔がないからな」

「へっ…それでこそサイヤ人だ!…行くぞ!」

「…こんな所で…終わるわけにはいかんのだ!」

 

互いにそう言い放つと、二人の体は眩い光に包まれ、その後の戦闘は更に激しさを増していくのだった。

 

 

〜〜〜

 

 

一方、シグナムとフェイトもバーダック達と同様に互角の戦いを繰り広げていた。互いに腕や脚から血が流れ、いつ勝負が付いてもおかしくない状況だった。

 

(…ここに来て更に速い…。目で追えない攻撃も出てきた…早めに決めないと不味いな…。シュテュルムファルケン…当てられるか?)

 

(強い…!クロスレンジもミドルレンジも圧倒されっぱなしだ…。今はスピードで誤魔化してるけど……まともに食らったら叩き潰される…!)

「これで決めるぞ!テスタロッサ!」

「くっ…やるしかないかな…」

 

二人は武器を構え、互いに相手に向かって突っ込む。赤紫と黄色の魔力光が交わり、再び高速戦の火蓋が切って落とされようとしていた。

 

 

〜〜〜

 

 

「はぁ…はぁ…チッ…手こずらせやがって……」

「ぐっ…うう……」

 

激戦を繰り広げていたバーダックとパラガスだったが、ついに決着が付こうとしていた。パラガスは今までの戦闘の中でも最も善戦していたが、バーダックのエネルギー弾の直撃を連続で受け、ついにバーダックの目の前で倒れ込んだ。

 

「…普通ならぶっ殺しちまう所だが…お前からはいろいろと聞き出さねえといけねえからな。このまま大人しく────

 

その時だった。少し離れた場所で戦っているはずのフェイトの気が急激に落ち込んでいくのを感じた。普通の攻撃を受けただけではこうはならない。最悪の事態が彼の頭をよぎった。

 

「クソッ!あのバカ野郎が!」

 

この状況で気が消えかかる原因は一つしかない。バーダックは悪態をつきながらもフェイトの救出に向かうのだった。

 

 

~〜〜

 

 

フェイトにとって、また戦っていたシグナムにとっても、それは突然の出来事だった。突然音もなく仮面を付けた男が現れると、フェイトを背後から急襲し、リンカーコアを抜き出したのだ。

 

「貴様っ…!!なんのつもりだ!」

 

シグナムは、お互いに消耗した所を狙って自分たちを襲撃したのだと思い、男に剣を向ける。だが、次に男から出た言葉は意外なものだった。

 

「…さぁ…奪え」

「なっ……!」(そ、そうか…こいつがシャマルの言っていた男か…!)

「これで早く闇の書を完成させるのだ…」

「…………」

 

シグナムは迷っていた。フェイトの良質なリンカーコアは是が非でも手に入れたいが、この男の素性や目的がわからない以上、むやみに言いなりになるのは危険だ。それに、これではフェイトを騙し討ちしてリンカーコアを奪い取ったようなものだ。誇り高いシグナムにとって、仮面の男の行動は許し難いものだった。しかし──

 

(……私は何を迷っているんだ…主のためならば騎士の誇りすら捨てる…そう決めたではないか…!)

「…何を迷っている…さぁ、早く奪うのだ」

「…わかった…お前の提案に乗らせてもら──」

 

シグナムがリンカーコアを受け取ろうとしたその時、一瞬にして仮面の男の背後に人影が現れ、その頭部を背後から両手でがっちりと掴む。

 

「…おっと…死にたくなかったら動くんじゃねえぞ。」

「…くっ…!貴様…!」

「バーダック!」

「バ…バーダック……さ…ん…」

「てめぇがクロノの言っていた仮面の男か。…まさかこんな場所にまで来やがるとはな…」

「ぐ…ぐっ……」

「…今すぐそいつを放しやがれ。…少しでも魔法を使う素振りを見せたらてめぇの頭をこのまま握り潰す」

 

バーダックの手に徐々に力がこもると、ミシミシと頭蓋骨が嫌な音を立て、仮面の男は堪らずうめき声をあげる。

 

「ぐっ…ああああっ……」

「さっさとしやがれ!」

(くっ…仕方ない…ここは奴の言う通りに……)

 

仮面の男がフェイトから腕を引き抜こうとした瞬間、追いかけてきたパラガスの研ぎ澄まされたエネルギー弾がバーダックに襲いかかる。バーダックはギリギリで回避するが、エネルギー弾は尻尾に命中し、根元から千切れてしまった。

 

「くっ…尻尾が…」

「はぁ…はぁ…言ったはずだ!こんな所で終われんとな!」

 

バーダックはなんとか命中は回避したものの、仮面の男から手を離してしまう。

 

「さぁ…早く奪え…!」

(これも主の為……すまんな…テスタロッサ…)

「それでいい…必ず闇の書を完成させるのだ…」

 

そう言ってシグナムにリンカーコアを渡すと、仮面の男はすぐにどこかへ転移してしまった。

 

「パラガス!こちらも撤退するぞ!行けるか?」

「あ…ああ…なんとか…大丈夫だ…」

「くっ…このまま逃がすと…」

 

バーダックは逃げる二人を追いかけようとするが、ぐったりと地面に倒れているフェイトが目に留まる。安全な場所ならまだしも、先程のような巨大な怪物がうろついている砂漠にこんな状態のフェイトを一人にしておくわけにはいかなかった。

 

「…クソッタレが…!」

バーダックがフェイトに近づくと既に意識は無く、苦しそうな表情を浮かべていた。

「おい!しっかりしやがれ!……無駄か」

 

そんな様子を見て追っては来れないと判断したシグナムは、去り際にバーダックに声をかける。

 

「バーダック!…言い訳はできないが、テスタロッサにはすまないと伝えてくれ」

 

そう言い放つと、二人はどこかへ飛び去って行った。

「…クソッ…!」

 

敵を目の前にしながら逃がしてしまった事と、フェイトを助けてやれなかった悔しさで、バーダックは拳を強く握りしめる。フェイトのリンカーコアを奪われてしまった事で、闇の書完成がまた一歩進んでしまった。この先バーダック達は、闇の書の完成を防ぐことができるのであろうか。




どうも。顔芸です。
最近自分の語彙力の無さを痛感させられます。一応毎回同じような表現にならないように気を使ってはいるのですが…。

それと現時点ではあまり必要ないかもしれませんが、ここでバーダックの設定について書き忘れていた事を書かせていただこうと思います。今作のバーダックは、「銀河パトロールジャコ」に収録されている、「DRAGONBALL 放たれた運命の子供」の設定は基本的に適用しません。ただ、アニメ版で不透明な点は部分的に適用する場合があります。例えば、ジャコの方で登場したギネは登場しませんが、ギネという名前だけは今作でも登場する…という感じです。…いわゆるご都合主義ってやつですね。

次回はいよいよ闇の書事件の核心に迫って行きます。
それまでに私も精神と時の部屋で語彙力向上を図って来ますので、次回も見てくださると嬉しいです。
それでは。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十一話 進行

砂漠地帯での戦闘の後、バーダックはリンカーコアを奪われたフェイトをアースラに送り届けた。命に別状はなかったが、リンカーコアが酷いダメージを受けてしまったため、しばらくは魔法がほとんど使えない状態だった。さらになのはの時と同様意識は回復しないままで、目が覚めるのは明日以降になってしまうらしい。

地球の時間で午後5時を回ろうとしていた頃、その結果をリンディはバーダックに伝えるため食堂に向かった。するとやはりバーダックは一人食堂の椅子に座り、難しい顔をして考え込んでいた。

 

「あ、バーダックさんやっぱりここにいらしたんですね。…何か考え事ですか?」

「…何…大したことじゃねえ…それより何の用だ」

「フェイトさんの様子を伝えようと思って来たんです。命に別状はないんですけど、やっぱりなのはさんの時と同じで魔力は使えなくなっていて、意識も多分明日にならないと回復しなさそうです」

「…そうか」

「…それとエイミィから話は聞きました。フェイトさんを助けてくださったそうで…本当にありがとうございます」

「…勘違いするな。俺はあの胡散臭い野郎をとっ捕まえようとしただけだ。それに…」

(ん…?)

「…結局リンカーコアは奪われていたんだろうが」

「…バーダックさん…?」

「…なんでもない。他に用事はあるのか?」

「ああそうでした。これから事件についての会議を開くんですが、今回の戦闘の状況も聞きたいのでバーダックさんにも来て頂こうと思ったんです。闇の書について新しくわかった事もあったみたいですので、今から一緒に来ていただけませんか?」

「…そういうことなら行ってやる。案内しろ」

そう言って立ち上がると、バーダックはリンディの後に続いて会議室に向かって行った。

 

 

〜〜〜

 

 

「あ、バーダック!」

リンディに連れられて会議室の前に来ると、なのはとアルフ、それから猫素体の女性と鉢合わせになった。

「あ、あのバーダックさん尻尾が取れちゃったって聞いたんですけど大丈夫なんですか!?」

「別に構わん。またそのうち生えてくる」

「そ、そうなんですか…?それならいい……のかな?」

「…それよりそいつは誰だ?」

「ああ。そういえば貴方とは初対面だね。私はリーゼロッテ。一応今回の事件解決の手伝いをしてるんだ。よろしく頼むよ」

「…ああ」

「リーゼロッテさんはグレアム提督の使い魔さんで、クロノ君のお師匠さんなんですよ。」

「…………」

「……バーダックさん?どうしたんですか?」

「…なんでもない。それよりとっとと会議を始めろ」

「そうね。こんな所で長話もなんだからとりあえず部屋に入りましょうか」

(…まさか……いや…考えすぎか…?)

 

リンディがそう言うとなのは達は部屋に入って行く。そんな彼らの後ろ姿をバーダックは刺すような目つきで見つめていた。

 

〜〜〜

 

 

会議室に入りしばらすると、クロノ、エイミィ、アレックスの三人も加わり、会議が開始された。

 

「もう知っている人もいるでしょうけど、フェイトさんは…リンカーコアに酷いダメージを受けてるけど、命に別状はないそうよ」

「私の時と同じように、闇の書に吸収されちゃったんですね…」

「アースラの稼働中でよかった。なのはの時よりも救援が早かったから」

「…だね」

 

フェイトの無事を改めて確認し、安堵の表情を浮かべるなのは達だったが、エイミィは下を向いたままだった。

 

「…なのはちゃん達が出動した後、駐屯所の管制システムがほとんどダウンしちゃって……それで指揮や連絡が取れなくて…ごめんね…私の責任だ…」

 

過剰に自分を責める彼女を見て、ロッテはエイミィをフォローする。

 

「…んなことないよ。エイミィがすぐシステムを復帰させたからアースラに連絡が取れたんだし…仮面の男の映像だってちゃんと残せたじゃんか」

「…でもおかしいわね。あの機材は管理局で使っている物と同じシステムなのに…それを外部からクラッキングできる人間なんているものなのかしら…」

「そうなんですよ!防壁も警報も全部素通りで、いきなりシステムをダウンさせるなんて……」

「…ちょっとありえないですよね」

「ユニットの組み換えはしてるけど…もっと強力なブロックを考えなきゃ…!」

「…それだけ凄い技術者が居るって事ですか?」

「もしかして組織立ってやってんのかもね…」

「それだけじゃない。アルフ達の話も状況や関係がよく分からないんだ」

「ああ。私が駆けつけた時には、もう仮面の男や守護騎士達も居なくなってて…バーダック、あの時一体何があったんだい?」

「…俺が最初に見たのはあいつがちょうどリンカーコアを奪われていた時だ。それまでの状況はわからん。…だが一つわかったのは騎士共と仮面の野郎は仲間じゃねえってことだ」

「えっ…それって……」

「あいつらの言動からして、あれは仲間というよりあくまで協力者という関係だ。闇の書を完成させるまでは協力しているが、それ以降はどう動くかわからんぞ」

「…闇の書の完成後に奪うつもりなのかしら…。でもそんな事をしてどうするつもりなのかしらね…。あれは主以外の人間では使えないし、仮に使えたとしても闇の書の力は純粋な破壊にしか使えないはずだけど…」

 

リンディの言葉に、一同は黙り込んでしまう。

 

「…今は考えていても始まらないわね。…アレックス!アースラの航行に問題は無いわね?」

「大丈夫です。問題ありません」

「それでは予定より少し早いですが、これより司令部をアースラに戻します。各員は所定の位置へ!…っとその前になのはさんはお家に帰らないとね?」

「あっ、はい…でも…」

「フェイトさんのことなら大丈夫。私たちでちゃんと見ておくわ」

「…はい…お願いします…!」

「それとバーダックさん、アースラに残る私達の代わりに、フェイトさんを見守ってあげて欲しいのですが…」

「…仕方ねぇ。面倒だが飯と修行の場所があるならば構わん」

「うふふ…捜査に協力してもらってる訳ですから、もちろんそこは安心してもらっていいですよ?」

 

こうしてリンディの誘いに乗ったバーダックは、実に半年ぶりにアースラで寝泊まりする事になった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「フェイトさん少しうなされてるみたいね…。大丈夫かしら…?」

「うなされているならそのうち起きるってことだ。それに命に別状はないんだ。お前らは無駄に心配しすぎなんだよ」

「そうかもしれないわね。…でもそう言うバーダックさんもだいぶ前からここに居ますよね?」

「…勘違いするな。俺はあんな不意打ちでやられやがったこいつに怒鳴りつけてやろうと思っただけだ」

「うふふ…そうですか。ではそういう事にしておきましょうかね…」

「…フン…俺はもう行くぞ」

「ええ。フェイトさんが起きたらまた声をかけるわね」

 

 

〜〜〜

 

 

「うっ…うん…」

「目が覚めたかしら?」

 

フェイトはゆっくりと体を起こして辺りを見渡すと、病室の様な部屋で、目の前にはリンディとぐっすりと眠っているアルフが居た。

 

「アルフにリンディ提督…?あれ…?ここは…」

「ここはアースラの艦内。あなたは砂漠での戦闘中に背後から襲われて意識を失ってたのよ。リンカーコアを吸収されちゃってるけど、すぐに良くなるそうだから心配ないわ」

「そうだったんですか…。私、やられちゃったんですね…ごめんなさい…」

「管理局のサーチャーでも探知できなかった不意打ちだったのよ。仕方ないわ」

「あっ…そうだ!バーダックさんは…!?」

「彼なら大丈夫よ。…ちょっと尻尾が切れちゃったみたいだけど…。」

「そ、それって大丈夫なんですか!?」

「うーん、実のところ私もよく分からないけど、また生えてくるそうだから心配ないそうよ」

「そ、そうなんでしょうか…?」

「心配ないわよ。彼は強いもの。…それより彼、あなたの事随分心配していたみたいよ」

「バ、バーダックさんが……ですか?」

「うふふ…ちょっと信じられないかしら?」

「いえ…そんなつもりはないんですけど…」

「砂漠での戦闘中も自分の戦いを中断して駆けつけてくれたみたいだし、アースラに運び込まれてからもずっと気にかけてて、さっきまでこの部屋にも様子を見に来てたのよ?」

「そうなんですか…私、やっぱり迷惑を…」

「そんなことないわ。さっきも言ったけどあれは仕方ないことよ。それにバーダックさんを含めて皆心配はしたけど、迷惑だなんて全然思ってないわ」

 

そう言ってリンディはフェイトの手を優しく握る。

それはまさに子を心配する親の仕草そのものだった。

 

「あっ…」

「ああ!ごめんなさい、嫌だったかしら?」

「いえ…あの…嫌とかではなくて…」

「さっきまで少しうなされてたみたいだったから…でも貴方が無事でよかったわ。」

「すみません……ありがとうございます…」

 

頬を赤らめるフェイトを見て、思わずリンディの表情から笑みがこぼれる。

 

「そうだ。お腹空いたでしょう?今食事と飲み物を持って来るわね。何がいい?」

「えっと……おまかせします」

「わかったわ。少し待っててね」

「あ、ありがとうございます…」

 

リンディは笑顔でそう言うと部屋を出る。こんな些細な優しさでも、かつて母親に裏切られたフェイトにとってはとても新鮮で、甘酸っぱいものだった。

 

「…あの人なら…リンディ提督なら…私の二人目のお母さんになってくれるのかな……?」

 

隣で眠っているアルフの頭を撫でながらポツリと呟く。今はその答えは出なかったが、フェイトは改めて自らの幸せを噛み締めるのであった。

 

 

〜〜〜

 

 

リンディが部屋から出ると、バーダックが壁にもたれかかって待機していた。

「あっ、バーダックさんちょうどよかった。ちょうど今フェイトさんが──」

「知っている」

「えっ…?」

「話し声が聞こえたんだよ。…てめぇ…余計な事を吹き込みやがって」

「あら聞いてたんですか?事実なんですからいいじゃないですか。そんなに恥ずかしがらなくてもいいと思いますよ?」

「…またふざけた事を…」

 

機嫌を損ねてしまったのか、バーダックはフェイトの部屋とは反対方向に歩いていく。

 

「あ、ちょっとバーダックさん?フェイトさんに顔出さなくていいんですか?」

「…気が変わったんだ。それに少し用事もあるからな」

バーダックは背を向けたままそう言うと、足早にどこかへ向かっていった。

「はあ…全くあの人は…頑固というか素直じゃないというか…。それにしても用事って何なのかしら?」

リンディは少し疑問に思ったが、最終的に彼の照れ隠しだろうと判断し、気に止めることはなかった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

砂漠地帯での戦闘の翌日の早朝、騎士達とパラガスは本格的に介入してくるようになった仮面の男について話し合っていた。

「…助けてもらった…ってことでいいのよね…?」

「少なくとも奴が闇の書の完成を望んでいることは確かだ」

「完成した闇の書を利用しようとしているのかもしれんな」

「ありえねえよ!完成した闇の書を奪ったって、マスター以外には使えないじゃん!」

「闇の書が完成した時点で主は絶対的な力を得る。脅迫や洗脳の類いに効果があるはずもないしな…」

「…俺はあの男の誘いに乗るのは気が進まんな」

「だが今我々にできることは闇の書を完成させるしかない…」

「まあ…家の周りには厳重なセキュリティを張ってるから、万が一にもはやてちゃんやブロリーちゃんに危害が及ぶことはないと思うんだけど…」

「念のためだ。シャマルはなるべく主のそばを離れん方がいいな」

「うん…そうね」

「…ねえ。闇の書を完成させてさ……はやてが本当のマスターになったらさ、それではやては幸せになれるんだよね…」

「なんだいきなり」

「闇の書の主は大いなる力を得る。守護者である私たちは、それを誰より知ってるはずでしょ?」

「そうなんだよ……そうなんだけどさ…私はなんか、大事な事を忘れてる気がするんだ…」

(……大いなる力か)

大いなる力。その言葉に自分の息子の辿った運命を思い浮かべるパラガス。はやても自分たちと同じ運命を辿るのではないかと思い悩んだが、闇の書の完成以外にはやてを救う方法など無かった。

 

 

 

〜〜〜

 

 

 

 

「うっ…うん……」

 

カーテン越しに差し込む朝日によってはやては起床する。しかし、いつもなら自分の隣でまだ寝ているはずのヴィータがおらず、お気に入りのぬいぐるみだけが残されていた。

(ヴィータ今日は起きるの早いなあ。ブロリーはもう起きてるかな…?)

 

そう思い隣のベビーベッドに目をやると、ブロリーももぞもぞと動きはじめていた。

 

「今日は私が寝坊してもうたな。ブロリー待っててな。今ベッド出してあげるから───

 

そう言って車椅子に手をかけた瞬間、急に胸が締め付けられるように痛みだす。今までで感じたことのない凄まじい痛みに、呼吸をすることも難しくなる。

 

「くっ…あ……なん…やこれ……苦し………」

 

段々と視界がぼやけ、意識が薄れていく。そしてはやては胸を押さえ込み、その場に倒れ込んでしまった。

 

 

〜〜〜

 

 

シグナム達が謎の仮面の男に頭を悩ませていると、隣の部屋からガタンと何かが倒れる音が聞こえ、その直後ブロリーの泣き声も聞こえ始めた。ハッとした五人はすぐにはやての寝ている部屋に向かう。

 

「はやて!どうしたんだ!」

 

寝室のドアを開けると、異様な光景が広がっていた。ブロリーは今までにないほど泣きわめき、ベッドの側には車椅子ごと床に倒れ痛みに悶えているはやての姿があった。

 

「はやて!はやてっ!」

「はやてちゃん大丈夫!?しっかりして!」

 

ヴィータとシャマルが声をかけるも、はやては僅かに呻くだけで反応がない。

「ど、どうしよう…このままじゃ…!」

「落ち着けヴィータ!シグナム、とりあえず救急車を呼べ。それからあまり主を動かすな」

「わかった!」

「お、おう…そうだよな…」

(…はやてのこの苦しみ方は普通ではない…もうこんなに侵食が進んでしまったのか…!)

 

彼らの表情からは、焦りや悔しさなど、様々な感情が浮かんでいたが、今は苦しむはやてを見守る事しかできず、部屋にはブロリーの泣き声だけが虚しく響いていた。




どうも。顔芸です。
少し投稿が遅れてしまい申し訳ないです。ちょっと私生活がゴタゴタしていたので普段より一日遅れになってしまいました。…まあ正確に投稿頻度は決めていなかったのですが…。
では言い訳はこれぐらいにして本編の方のお話を少し…。
…正直今回の話はイマイチだと思う人も多いのではないでしょうか?文の長さの割に進展がないですし、全話のコメントに返信させていただいた時に、しばらく出ていなかったブロリーを出す予告をしておきながら、結局蚊の涙ほどしか出番が作れませんでした。うーん…これは由々しき事態ですね…ごめんなさい…。次回こそは本当にもう少し出番を増やせるように努力したいと思います。
こんな雑な作品&性格で申し訳ないですが、次回も見てくださると嬉しいです。
それでは。




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十二話 嵐の前

「もう…みんなして大事にするんやから…ちょっとめまいがして胸と手がつっただけって言うたやんか」

 

心配する騎士達とは裏腹に、病室のベッドではやてはすっかり元気を取り戻していた。

 

「でも…頭打ってましたし…」

「何にせよはやてちゃんが無事でよかったわ。それとせっかく来てもらったから、少し検査をしてしまいましょうか。その前にシグナムとシャマルさんちょっと……」

「はい。なんでしょうか…?」

 

二人は石田先生に呼ばれて部屋を出ると、ヴィータが心配そうに声をかける。

 

「はやて…ほんとに大丈夫か?」

「心配してくれてありがとうなヴィータ。でも大丈夫!もうすっかり元気やから安心してええよ」

「なら…いいんだけどさ…」

「あーうー」

さっきまで半べそをかいていたブロリーも、元気な様子を見てはやてに手を伸ばす。そんな様子を見たはやては、パラガスからブロリーを受け取ると、優しく頭を撫でてやる。

 

「ブロリーも心配させてごめんな。お詫びに帰ったらおいしいご飯いっぱいつくるから期待しといてな!」

「あうあー!」

 

ご飯と聞いたブロリーは、もはやお約束になりつつあるヴィータのおさげをグイグイと引っ張って喜びを表す。

 

「痛い痛いって!だから引っ張るなっての〜!」

「あはは!やっぱりヴィータは気に入られてるなぁ」

「………」

 

ここが病室という事を除けば、普段の生活と何一つ変わらない光景が広がっている。しかし、はやての呪いの進行がかなり進んできている事は、素人目にも明らかだった。

 

(今は明るく振舞ってはいるが、あの痛がり方はどう考えても異常だ…。残された時間はあと僅かということか…。それまでになんとしても闇の書を完成させなければ…!だがそれには奴らが───

 

──さん?パラガスさん?」

 

はやてが自分の名前を呼んでいる事に気が付き、ハッと我に返る。

 

「あ、ああ。すまない」

「パラガスさん大丈夫ですか?なんかすごく怖い顔してたみたいでしたけど…。」

「ハハハ…実は最近寝不足でな。ついウトウトしてしまっただけだ」

「そうですか…それならええんですけど…」

(いかんいかん…唯でさえ最近は家を空けてしまっているんだ。これ以上はやてに余計な心配をさせてはいかんな)

 

はやての心配そうな表情を見てパラガスは話題を変える。

 

「…それにしても地球の病院は随分と至れり尽くせりなんだな」

「パラガスさんの住んでた所の病院は違ったんですか?」

「ああ。売店やら食堂なんてなかったぞ。本当にただ治療のスペースがあるだけという感じだったな」

「おいおい…そんなんで大丈夫だったのか?」

「サイヤ人は病気にならん奴がほとんどで、怪我もメディカルマシンですぐに治ってしまうからな。入院する奴がほとんどいなかったんだ」

「…改めて聞くとサイヤ人ってのはすげー種族だな…」

「まあそういう訳でここの設備には少し興味があってな。少し見てまわるからしばらく休んでいるといい」

「そうですか。多分、検査は半日ぐらいかかってしまいますから、私が言うのも変ですけどパラガスさんもゆっくりして行ってください」

 

はやてはそう言ってにっこりとパラガスに笑いかける。普段なら大人びた子供だと感心するところだが、はやての辛い現状を思うと、複雑な感情がこみ上げてくるのだった。

 

 

 

***

 

 

 

(……チッ…あれから進展はなしか…)

 

バーダックは昨日の会議の時に生じた疑念を解決するために自分なりに探りを入れていたが、結局確信に至る事はできずにいた。

 

(確信はねえがあの猫女…どうもきな臭い…だが今のところ気が似ている事以外に怪しいところはねえ。…やはり俺の思い違いだったのか?)

 

あれこれ考えながら廊下を歩いていると、不意に背後から声を掛けられる。

 

「あ、バーダックさん。ちょうどよかった。」

振り返るとそこにはクロノとエイミィ、そしてリーゼロッテの姿があった。

「…なんの用だ。」

「今から無限書庫で闇の書の調査をしているユーノに近況を聞きに行くんですが、貴方もどうですか?」

「…そうか。なら案内しろ。」

魔法について詳しくないバーダックにとってはあまり無限書庫の情報に興味はなかったが、現状の調査に行き詰まっていた上に、目の前に疑惑の人物がいる以上断る理由がなかった。

「あれ?以外ですね。バーダックさんそういうのあんまり興味無いと思ってたんですけど。何か気になる事でもあったんですか?」

「…別にそういう訳じゃねえ。ただの暇つぶしだ。」

バーダックはそう言うと疑惑の人物をチラリと見つつ、クロノ達の後に続いて目的の部屋に向かっていった。

 

〜〜〜

 

その後バーダック達は無限書庫のユーノから闇の書の情報を得ることができた。ユーノは闇の書の起源や性質や現時点でできる対策を見つける事ができたが、破壊や封印の方法などはまだ分からないようだった。

 

「───現時点でわかった事はこれぐらいかな。それにしても流石無限書庫。探せばちゃんと出てくるのが凄いよ。」

「私的には君が凄いよ。このまま管理局に欲しいくらい」

 

ユーノの凄まじい捜索能力に、一緒に調査に当たっているリーゼアリア驚愕していた。

 

「じゃあすまんがユーノ、アリア、もう少し調査を頼むよ。」

「うん。わかった。」

「はいよ〜」

 

そう言って通信を切ると、クロノがエイミィに声をかける。

 

「エイミィ、今仮面の男の映像を出せるか?」

仮面の男という単語に、バーダックもピクリと反応する。

 

「おっけー。…はいどうぞ」

「何か考え事?」

「…まあね」

「この人の能力もすごいと言うか…結構ありえない気がするんだよね。フェイトちゃんとバーダックさんの居た世界となのはちゃんの居た世界まで最速で転移しても20分はかかりそうな距離なんだけど、なのはちゃんの新型バスターの直撃を防御、長距離バインドをあっさり決めて、それから約9分後にはフェイトちゃんに忍び寄って背後から一撃…」

「かなりの使い手って事になるねぇ」

「…そうだな。僕でも無理だ。ロッテはどうだ?」

「うーん…無理無理…。私、長距離魔法とか苦手だし…」

「アリアは魔法担当、ロッテはフィジカル担当で、きっちり役割分担してるもんね」

「…昔はそれでひどい目にあった…」

「その分強くなったろ?感謝しろっつーの」

そんな師弟の掛け合いをよそに、バーダックは一人考えを巡らせていた。

(……勘違いであって欲しかったがやはりこいつらが怪しいか…ギル・グレアムとかいう奴についても探りを入れてみるか)

「あれ?バーダックさん難しい顔してどうしたんですか?」

「…気のせいだ」

 

***

 

「入院……?」

「…ええ、そうなんです…。あっ、でも検査とか念のためとかですから心配ないですよ」

「それはええねんけど…私が入院しとったら皆のご飯は誰が作るんや?」

 

はやての思いもよらない発言に、騎士達は困惑する。

「そ、それは……まあなんとかしますから…」

「そうそう!大丈夫ですよ…!たぶん…」

「うーん…ちょっと心配やなあ…」

 

改めて考えてみると、いかに自分達がはやてに支えられているか実感させられる。

 

「でも今回ばっかりはどうにもできひんな…ほんなら私はのんびり三食昼寝付きの休暇をのんびり過ごすわ。……あっそうだ!すずかちゃんがメールくれたりするかも…!」

「ああ。それなら私が連絡しておきますよ。」

「…うん。お願いな…。」

「では、戻って着替えと本を持って来ます。本に何かご希望はありますか?」

「んー?何にしようかな…?あっ、そうだ。ほんならアレがええな」

 

はやてはとある一冊の本をリクエストし、その本と着替えを取りに騎士達とパラガスは一度家に帰ることになった。しかし、ブロリーはなかなかはやてから離れようとせず、病院に戻るまでの間、はやてに預かってもらうことになった。

 

「すまんなはやて。手間をかけさせてしまって」

「別に構いませんよ。この子は大人しいですから全然手がかかりませんし」

「それじゃあはやてちゃん、すぐに戻って来ますから待っててくださいね」

そう言い残すと、騎士達とパラガスは病室を後にする。残されたはやては、ブロリーを寝かしつけようと頭を撫でる。

「今日はブロリーにも迷惑かけてしもうたし、ご飯の約束も守れなくてごめんな。せやけど退院したら必ず────

 

そう言いかけた時、再びはやての胸に今朝の締め付けられるような痛みが襲いかかる。

 

「くっ…痛っ……」

しばらく痛みは続いていたが、今回は数分で痛みが引いてきた。ふとブロリーの方を見ると、心配そうに自分の顔を覗き込んでいた。

「あーうー…」

「ごめんなブロリー…もう大丈夫……大丈夫やからな…」

 

はやては自らの体を蝕む病魔の存在を否定するかのように、ぎゅっとブロリーを抱きしめるのだった。

 

***

 

砂漠での戦闘から三日後、フェイトは魔力は使えないものの、体調はすっかり回復したため再び学校へ登校する事になった。事件の調査は武装局員を増員して、追跡捜査をメインに行う事になったため、フェイト、アルフ、バーダックの三人はアースラを降り、なのはと共に呼び出しがあるまで地球で待機という事になった。

 

「あっ、そろそろ学校に行かないと…。」

「うん!気をつけてね!」

「…せいぜい奴らには気をつけるんだな」

「はい。行ってきます」

フェイトは元気よく家を飛び出すと、迎えに来たなのはと共にバス停へ向かって行った。アルフはフェイトを送り出した後にバーダックを見ると、また何かを考え込んでいるようだった。

 

「バーダック、あんたここの所ずっと何か考え込んでないかい?悩んでるなら誰かに相談してみたら──

「…おいアルフ。お前ギル・グレアムとかいう奴を知ってるか?」

「ああ。グレアム提督は管理局のお偉いさんの一人でリーゼ達のご主人様だよ」

「…直接会ったことは?」

「私は会ったこと無いけど、リンディ提督やクロノなら知ってるんじゃないか?それとフェイトも一度会ってるはずだよ。ほら、この前本局に行った時になのはとフェイトが面談しに行ってただろ?あの時の人だよ。…それがどうかしたのかい?」

「…いや、なんでもない。忘れろ。」

「そ、そうかい?なら良いんだけどさ…。」

「…少し修行をしてくる。何かあったら呼べ。」

そう言い残すと、バーダックは奥の部屋へと消えていった。

(あいつ…一体どうしたんだ…?)

アルフは少々疑問に思いながらも、なんとなく聞いてはいけないような気がしたため、しばらくはそっとしておく事にしたのだった。

 

***

 

「うーん…やっぱりやる事が無いと退屈やな…。今日は何しようか…」

その時、コンコンとドアをノックする音が聞こえる。

「はーい。どうぞ。……あっ!パラガスさん!」

「はやて調子はどうだ?」

「うん。おかげさまで健康そのものです。今日はどないしたんですか?」

「ああ…実はな……」

 

〜〜〜

 

「全く…困ったな…。」

「パラガスさんどうしたんですか?」

パラガスの腕には、珍しく駄々をこねているブロリーの姿があった。

「いや…昨日はやてと離れてからずっとこの調子でな…。これから蒐集に行かねばならんと言うのに…。」

「そうなんですか…困りましたね…。」

いつまでも駄々をこねるブロリーにパラガスは頭を悩ませていたが、そんな様子を見たシグナムが提案を出す。

「パラガス。それなら今日は休んで主の所に連れて行ってやれ。」

「だが…」

「いいんだ。お前には最近負担を掛けてばかりだからな。少しは休んだ方がいい。主もきっと喜ぶだろうしな。」

「…そうか…なら今日はそうさせてもらうとするか。」

「ああ。それがいい。何かあればシャマルを通して連絡するから安心して行ってこい。」

 

〜〜〜

 

「───という事があってな。すまんがしばらく一緒にいてやって欲しいんだが…。」

「もちろんええですよ。私もちょうど退屈してましたから。ほら、ブロリーおいで!」

ブロリーははやてに抱きかかえられると、先程まで機嫌が悪かったのが嘘のように泣き止む。

「ふふふ、よしよし。ブロリーはかわええなぁ。」

「…そう言えばはやて、少し気になったことがあるんだが…。」

「なんですか?」

「この本の『くりすます』というのはなんだ?最近街でもよく見かけるんだが…」

「ああ。クリスマスって言うのはですね、うーん…どこから説明したらええんやろうか…起源とかそういうのは私もよく分からないんですけど、日本では大事な人や家族と楽しく過ごす日なんですよ。あ、あといい子にはサンタさんが来てプレゼントを持って来てくれるんです」

「ほう…なるほどな…」

「……去年までは私ずっと一人やったけど、今年はみんながおるから私も凄く楽しみにしてたんです。…それまでにはなんとか退院したいんですけど…」

 

はやては少し寂しそうな表情で小さく呟く。そんな様子を見ていたたまれなくなったパラガスは、はやての手強く握り語りかける。

 

「大丈夫だはやて。きっとその頃には体調も良くなる。お前はいい子だからな。それぐらいの願いはサンタが叶えてくれるさ」

「ふふっ…そうですね…そう思うとクリスマス楽しみやなぁ…」

(…そうだ。俺たちが…俺がはやての願いを叶えてやらねば…)

パラガスはこみ上げてくる感情を抑えながら、はやての幸せを強く願うのだった。




どうも。顔芸です。
ついに最終決戦が近づいて来ましたね。
これからは戦闘シーンが増えるため、更新が少し遅くなることがあるかもしれませんが、最低でも四日以内更新を目指して頑張りたいと思います。

それとは全く関係ないですが、今回の最後にクリスマスの話を書いている時に、なのはのドラマCDでサンタクロースの話題が出た時、小五のなのはが数年前から当たり前のようにサンタの真実に気づいていた上に、それまでクリスマスを知らなかったフェイトも、クリスマスの話を聞いて一瞬でサンタの真実に気づいた事にショックを受けたのを思い出しました。
小五まで信じていた私の純情を返して欲しいです。

それではまた次回も読んでくださるとありがたいです。
それでは。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十三話 クリスマス・イブ

「ん…もうこんな時間か」

パラガスがふと時計を見ると、時刻は12時を少し回っていた。

「パラガスさんはお昼どうするんですか?」

「ああ…そう言えば何も考えていなかったな…まあ病院の飯も食ってみたかったからちょうどいい。適当なものを買って来るとするよ」

「そうですか。それじゃあブロリーちゃんは見ときますから」

「すまんな。じゃあ行ってくる」

そう言ってパラガスが部屋を後にする。外に出て売店に向かおうとしたその時、シャマルが息を切らせて駆け込んで来る。

「パラガスさん!はぁ…はぁ…」

「ど、どうしたんだ。そんなに急いで…」

「大変なの!この後管理局魔導師のなのはちゃんとフェイトちゃんの二人がお見舞いに来ちゃうの!はやてちゃんのお友達だから!」

「なっ…!ど、どうするんだ!」

「はやてちゃんの魔法資質は詳しく検査しない限りはバレたりしないから、とりあえずは私達が見つからなければ大丈夫なはずだけど…」

「そ、そうか…」

「だけど私達がはやてちゃんと一緒の時は絶対に見られちゃダメ。…もし見られたりしたら…」

「ああ。分かっているつもりだ。昼食の後、俺達は席を外すとしよう」

「ええそうね…何事もなければいいんだけど…」

 

 

***

 

 

今夜のフェイト達の夕飯では、今日のお見舞いの話で持ちきりだった。

「それでね、とっても優しそうだったんだよ?」

「そりゃよかったねえ。それでいつ頃退院できそうなんだい?」

「まだ正確には決まってないんだけど、クリスマスまでには退院したいって」

「事件が解決したらはやても誘ってパァーっとやろうよ!」

「そうだね。バーダックさんはどこか行きたいところとかありますか?」

「興味ねえな。……飯次第では考えてやってもいいが」

 

いつものように悪態をついているが、バーダックは皿の塔を一つ作ったところで食事を止める。

 

「はぁ…全くあんたは相変わらずだねぇ。……あれ?そんな事言う割に今日はあんまり食べてないけど。具合でも悪いのかい?」

(…充分食べてる気もするんだけど…感覚が麻痺してきたのかな…?)

「そういう訳じゃねえ。…今日はやる事があるだけだ」

そう言い残すとバーダックは席を立ち、奥の部屋へと消えていった。

「バーダックさん…やる事ってなんだろう…?」

「どうせまた修行だろ?基本的にあいつの生活は食ってるか修行してるかだから」

 

 

〜〜〜

 

その夜、バーダックはリンディから預かった通信機でとある人物と連絡をとっていた。

「君の方から僕に通信なんて珍しいな。一体どうしたんだい?」

「…あの猫女について聞きたい事がある」

「猫女…?ああ、リーゼ達のことか」

「単刀直入に聞くぞ。…あいつらとその主はお前から見て信用に値する奴らか?」

「…………」

「…………」

二人の間に重い空気が流れる。そしてクロノはゆっくりと口を開き始めた。

「リーゼ達もグレアム提督も僕の恩人だ。もちろん信用しているさ」

「………」

「……だけど言いたい事はわかった。君は仮面の男の事を言いたいんだろう?」

「…察しがいいじゃねえか」

「…この際だから貴方には言いますけど、僕も同じことを考えてました。こんなこと考えたくはなかったけど、リーゼ達が仮面の男だと仮定すると全て辻褄が合うんですよ。だからグレアム提督の動向を密かに調べてみたんだが……。やっぱり闇の書を追っていたみたいなんだ」

「へっ…こりゃ決まりだな」

「…僕からも君に一つ頼みがある。この件は僕に任せてくれないか?もちろんいくら提督やリーゼ達だからといって野放しにしておくつもりはない。だから…」

「構わん。好きにしろ」

「そうか、ありがとう。…ただ証拠を抑えないとどうにもならないからまた戦闘になるかもしれない。それは覚悟しておいてくれ」

「…ああ。頼んだぞ」

そう言ってバーダックは通信を切ると、窓から空を見上げる。

(裏切りか…。チッ…嫌な野郎を思い出させやがって)

 

過去の苦い記憶が蘇り、バーダックは僅かな不安を抱くのであった。

 

***

 

 

「あっ、おかえりバーダック。…奴らは見つかったかい?」

「…駄目だな。俺の力ではまだ気を高めている奴か人が少ない中でしか特定できない。これ以上探しても無駄だな」

「うーん…そう上手くはいかないか…。まぁ残念だけど今日はクリスマスイブだし仕事の事は忘れてフェイトが戻って来たらパァーっとやろうか!」

「あいつは今日も病院か?」

「ああ。はやてが今日退院できないからそれのお祝いだっさ」

「…またか。ここ最近ずっとじゃねえか。全く…飯を待たされるこっちの身にもなりやがれ」

「なんでもはやての他にブロリーっていう親戚の赤ちゃんと会うのも楽しみにしてるみたいだ。かわいいらしいから私も会一度ってみた────」

 

アルフがそう言いかけた時、バーダックは血相を変えて声を張り上げる。

 

「おい!お前今なんて言った!」

「い、いきなりどうしたんだい!?親戚の赤ちゃんが───」

「違う!そいつの名前だ!」

「ブ、ブロリーのことかい?」

(間違いねえ…!サイヤ人の名前だ。しかも聞いたことがあるぞ……っそうだ!ブロリーと言えば処刑されたパラガスのガキじゃねえか!)

「そいつは病院にいるんだな!」

「あ、ああそうだけど…」

バーダックはすぐに戦闘服を着込むと、ベランダのドアを開ける。

「本当にどうしたんだバーダック!」

「奴らの居場所がわかったんだ!お前もすぐに来い!」

そういい放つとバーダックは一気に気を高めて病院に向かって飛んだ。

 

(クソッタレが…まさかそんな所にいやがるとはな…!)

 

***

 

バーダックが飛び立つ少し前、はやての病室は騎士達となのは達が意図せず出会ってしまい修羅場と化していた。事情を知らないはやてやすずか達を除き、ほぼ全員が引きつった表情をしていた。パラガスも例外ではなかったが、ここは念話を使える三人に任せ、自分は余計な事をせずに黙っている事にしていた。

そしてしばらくしてなのは達がはやてに別れを告げ病室を出ると、シグナムがゆっくりと口を開く。

 

「今夜隣のビルの屋上で奴らと話をつける事になった。…覚悟はしておいてくれ」

「…ああ。分かっている」

 

シグナムは深刻そうな表情でそう呟く。その声を聞き、パラガスはやるべき事をやらなければならない時が来たのだと再認識する。…それが取り返しのつかない行動だとしても。

 

 

***

 

 

「病院はあれか、さて、どうやって奴らを見つけるか……ん?」

バーダックが病院に近づこうと降下を始めた時、隣のビルから感じたことのある気をいくつか感じる。屋上に近づくと、なのは達と騎士達が対峙しているのが見えた。

「…あそこか」

パラガスは体を捻り向きを変え、ビルの屋上へと降り立つ。

「あっ!バーダックさん!」

「やはりお前も来たか。…お前もここに来てしまった以上、このまま帰す訳にはいかん。悪いがここで果ててもらうぞ」

 

シグナムはいつも以上に殺気立った視線をバーダック達にぶつける。ベルカの騎士達にこんなことを宣告されれば誰もが震え上がりそうなものだが、とんでもないバトルジャンキーなこの男は、小さく笑みを浮かべるとシグナム達を睨み返す。

 

「へっ…今までこそこそと逃げ回ってやがった奴がよく言うぜ。上等だ。その言葉、そっくり飾り紐でも付けて返してやるよ」

「バーダックさん!煽っちゃだめだよ!なんとか説得を…」

「…バカかお前は。…奴らの目を見てみろ。説得が通用するように見えるか!」

騎士達の目に光は無く、その虚ろな瞳からは強い覚悟と悲しみが滲み出ていた。

「主の為ならば、騎士の誇りすら捨てると決めた…。もう…後には引けんのだ…!」

「…もう少し…もう少しで…はやてが元気になって私達のところへ帰って来るんだ…。もう少しなんだからっ……邪魔すんなぁぁぁぁ!」

 

「……待てヴィータ!」

 

武器を構え突撃しようとするヴィータを、パラガスが静止させる。

「お前達が手を汚す事は無い。今回は俺一人で終わらせる」

「な…何言ってんだ!バーダックに勝てなかったお前が一人で勝てるわけねーだろ!」

「そうですよ!気を遣わなくていいですから無茶な事は…」

「いいんだ。それにお前達ははやての未来は血で汚さないのではなかったか?」

「そ、それは…」

「分かってくれ。こういう事は既に汚れた者がやるべきなんだ。…今回の事は、お前達の誓いの外の事だと思え」

「でも…一人じゃいくら何でも…!」

シャマルの言葉を余所に、パラガスはバーダック達の前に立ちふさがる。

「お前達の相手はこの俺がする。…こんな事は償いにはならないだろうが、せめて痛みを感じないよう一瞬で終わらせてやる。」

「私達は負けない…!絶対に勝ってあなた達を止めてみせます!」

「今度こそ…今度こそ絶対に私達の話を聞いてもらいますから!」

 

バーダックは一応戦闘態勢を取りつつも、パラガスの無謀な行動に疑問を抱いていた。

 

(…なんだ…こいつの異様な自信は…?まだ力を隠してやがったのか?それとも他の連中を逃がすための嘘か…?)

「ふっ…バーダックよ。腑に落ちないという顔だな。大方他の連中を逃がすための嘘とでも思ったのだろう?」

「……!」

 

パラガスに思考を見抜かれ、バーダックの顔つきがより厳しいものに変わる。

 

「へっ、お前達はいつも逃げ回っていたんだ。そう思うのは当然だろうが!」

「…そうやって笑っていられるのも今のうちだ。…これを見るがいいっ!はあぁぁぁぁぁぁっ!」

パラガスはこめかみに青筋を浮き立たせ、かざした手にチカラを込める。するとパラガスの手のひらに白く眩い光を放つ光球が出現する。

「っ!ま、まさか…!」

「はぁっ…はぁ…はぁ…よ、ようやく分かった様だな…!」

「バーダックさん!あの光は一体───」

フェイトがそう言いかけたところで、パラガスは空に向かって勢いよく投げる。光球はあっという間に見えなくなり、辺りは静寂に包まれる。そして、パラガスは天に向かって大声を張り上げる。

 

 

 

 

「弾けてっ!混ざれ!」

 

 

 

 

そう言い放ちグッと拳を握りしめると、乾いた破裂音と共に辺り一帯に強烈な閃光が放たれる。

「くっ…!一体何が…!」

やがて光が収まると、フェイト達はゆっくりと目を開け空を見上げる。すると先程は握りこぶし程の大きさしかなかった光球が、凄まじい大きさになって頭上で輝いていた。無数の星々と共に白く妖しい光を放つその姿は───まるで満月のようだった。

「あ、あれって…月?」

「バーダックさん!あの光は一体…」

「クソッ……そう言う事だったのか…!」

(あのバーダックさんが焦ってる…一体何が…)

 

ドクン。

先程から空を見上げたまま動かないパラガスから心臓の音が鳴り響く。

ドクン。ドクン。

「これ…もしかして心臓の音!?」

「お、おいパラガス…!どうしたんだよ!」

「パラガスさん!一体何を…」

ヴィータ達も声を掛けようとパラガスに駆け寄るが、パラガスのおぞましい表情を見て血の気が引いていく。人間には出せないような呻き声を発し、目は全て赤く染まり、半開きになった口からは犬歯が飛び出ている。

「こ、これって…!」

「おいっ!パラガス!しっかりしろっ!」

シグナムは意識を回復させようとパラガスの肩を掴む。そんな様子を見たバーダックが声をあげる。

「馬鹿野郎が!死にたくなかったらそいつから離れやがれ!」

「くっ…ヴィータ!シャマル!一度離れるぞ!」

「お、おう!」

「パラガスさん…」

そして一同がビルから離れたその時、辛うじて人間の姿を保っていたパラガスが恐竜のような叫び声をあげると、一気に数十メートルに巨大化し、身体中から体毛が生え、顔は人間の物からゴリラのような異形の物へと変化する。

「う、嘘…!?」

「どうなってるの……!」

「こ、これが…パラガスの言っていた策か…!」

「クソッタレが…!まさか奴がパワーボールを使えるとは…!」

 

自ら大猿と化し、最後の勝負に出たパラガス。流石のバーダックもこの状況には焦りを隠せない。果たして、バーダック達に勝機はあるのだろうか。

 




どうも。顔芸です。
更新がまた遅くなってしまいすみませんでした。
一応来週からはまたスケジュールに余裕がありそうなので、次こそは早く上げられるように頑張ります。

今回はパラガスが大猿に変身しましたが、彼は今作ではパワーボールを使える設定です。ベジータ曰く限られたサイヤ人にしか使えないらしいですが、映画では下級戦士のターレスも使ってましたね。うーん…パワーボールを使える条件はなんなんでしょうね。

さて、いよいよ最終局面です。私も気合い入れて頑張りますので、次回も読んでくださると嬉しいです。
それでは。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十四話 二つの覚醒

パラガスが大猿になった事により形勢は一気に逆転し、バーダック達は追い詰められようとしていた。

 

「はぁ…はぁ…バーダックよ…尻尾をなくしてしまったのは失敗だったな!」

(こいつ大猿になっても理性を失わないのか…!クソッ…厄介な野郎だ!)

「バーダックさん!私達はどうすれば…!」

「…大猿は俺が片付ける…!」

「そ、そんな…いくらバーダックさんでも無茶ですよ!」

「…確かにまともに戦ったら勝ち目はねえだろうな。…だが大猿には弱点もある。それを上手く使えば…」

「で、でも!」

「…それに敵はあいつだけじゃねぇようだぞ」

「そう言うことだ!」

バーダックがそう言った瞬間、ヴィータが背後からなのはを急襲する。

「くうっ…!きゃあっ!」

なのははバリアを展開するが、耐えきれずに吹き飛ばされてしまう。

「なのはっ!…あっ…くっ…」

さらになのはに気を取られていたフェイトに上空からシグナムが切りかかる。

「…やはりあいつだけに責任を押し付ける訳にはいかない。お前達の相手は私たちがさせてもらうぞ!」

(くっ…やっぱり強い…!でも今負けるわけには…!)

「おい!お前ら絶対に負けるんじゃ───」

そう言いかけた時、背後から大猿が殴りかかる。バーダックは手を交差させ攻撃を防ごうとするが、大猿の巨体から繰り出される攻撃を防ぐことはできず、ビル群に叩きつけられてしまう。

「バーダックさん!」

「どこを見ているっ!」

「くっ…!」

ついに様々なな想いや思惑が交錯する中、戦いの火蓋が切って落とされた。バーダック達は、闇の書の完成、そして大猿と化したパラガスを止めることが出来るのであろうか。

 

 

〜〜〜

 

 

「くそっ…あの野郎なんて馬鹿力だ…!」

バーダックは半壊したビルの残骸の中からゆっくりと起き上がる。

(やはり正面からでは駄目だ…。一度奴の視界から外れて───)

「そこかっ!」

バーダックが動き出そうとした時、バーダックの脳天に巨大な拳が振り下ろされる。

(くそっ…速い!)

バーダックは攻撃を避けつつパラガスの側面に回り込もうとするが、パラガスは素早く上体をそらし、バーダックに蹴りを叩き込む。

「があぁぁっ!」

今度は受け身を取ることができずに地面に打ち付けられる。そしてパラガスは立ち上がる前にバーダックの足を掴むと、体を回転させ空中へ投げ飛ばし、口にエネルギーを溜め込む。

「くっ…!なんとか体勢を…ぐっ!」

バーダックは全身から気を放ち、自身のスピードを相殺し体勢を立て直す。しかしそれと同時にパラガスの口から高威力のエネルギー波が放たれる。

「これで終わりだっ!」

「なっ!くそっ…!」

凄まじいスピードでバーダックに迫るエネルギー波だったが、バーダックは寸前で回避する。そして背後のビルにエネルギー波が直撃すると、辺り一体が光に包まれ、凄まじい音と爆風を発生させる。

「…あの短時間の溜めでこの威力か…クソッタレ…」

「どうした!逃げるので精一杯か!」

(…くそっ…早く尻尾を切らねぇと体が持たねぇ…だが奴は理性がある上に気を読みやがる…下手な小細工は通用しねぇ…)

「…分かっているぞ。俺の尻尾を狙っているんだろう!無駄なことはやめろ!理性のある俺の尻尾を切るのは絶対に不可能だ!」

「…お見通しって訳か…。へっ…こりゃ骨が折れるぜ…」

バーダックは己の不利を悟りながらも、勝機を掴むべくパラガスへの突撃を敢行する。しかしバーダックは忘れていた。彼らの敵はパラガスだけではないという事を…

 

 

***

 

 

「シグナム達どうしたんやろな…」

すぐに戻ると言っていたのだが、ブロリーをはやてに預けて病室を出ていってから既に数時間が経過していた。

「あーう…」

「大丈夫やでブロリー。もうすぐ皆揃って帰って来るから。だからなんも心配することなんてない。…なんも心配することなんてないからな」

 

はやては自分自身にも言い聞かせるようにぎゅっとブロリーを抱き寄せる。

 

「せや、ブロリーお腹空いたやろ?売店にご飯買いに行こか」

 

先程まで不安そうな表情を浮かべていたブロリーだったが、ご飯と聞いた途端に目を輝かせて喜ぶ。

 

「ふふっ、ちょっと待っててな。今準備を───」

その時だった。はやての周囲に突然不気味に光る魔法陣が広がり、二人を包み込む。

「な、なんや…これ…!」

この部屋にいてはならない。そう本能が訴えるが、足の不自由なはやてが逃げ出せるはずがなかった。

「ブロリー大丈夫や!私が…私が守るからな…!」

なんとかブロリーだけでも守ろうとブロリーに覆い被さる。しかし部屋は眩い光に包まれ、無慈悲に二人を病室から連れ去ってゆくのだった。

 

 

***

 

 

バーダックとパラガスの戦いは熾烈を極めていた。大猿と化したパラガスに対しバーダックは上手く立ち回り、徐々に攻撃を加えていた。しかし、圧倒的な戦闘力を持つパラガスにバーダックは徐々に追い込まれていた。

(…くそっ…全く隙がねぇ…)

「しぶとい奴だ……だが息が切れ始めた様だな…!」

(くそっ…こうなりゃ一か八かやってみるしか───!?)

「どうした!来ないならこちらから行くぞ!」

「ま、待てパラガス!」

「へっ…!そう言って逃げ出すつもりか!そうはさせんぞ!」

「馬鹿野郎!気を感じてみろ!…この気は仮面の奴らの気だ。…それにお前の仲間の気が…」

「ま、まさか……シ、シグナムとシャマルの気が…くそっ!」

「あっ!待ちやがれ!…くそっ…どうなってやがる…!」

バーダックはは飛び去るパラガスを追いかけ、フェイト達の元へと急ぐ。全く予想していなかった出来事に、酷く不吉な予感がバーダックの背筋を伝うのだった。

 

 

***

 

 

「うっ…こ、ここは…」

はやてが目を開けると、そこには自分を見下ろすなのはとフェイトがいた。その足元には倒れ込むザフィーラと、空中に磔にされているヴィータの姿もあった。

「ヴィータ!ザフィーラも…!な、なのはちゃん…フェイトちゃん…?何なん…何なんこれ…!」

「君は病気なんだよ。闇の書の呪いって病気。」

「もうね、治らないんだ」

「闇の書が完成しても助からない」

「君が救われる事はないんだ」

「うっ…うう…」

 

薄々自分でも気付いていた事だったが、まだ小学生のはやてが面と向かって死を宣告されて辛くない訳がなかった。

 

「そんなん…そんなんええねん…。ヴィータを離して…!ザフィーラに何したん…!」

「この子達はね、もう壊れちゃってるんだ」

「とっくに壊された闇の書の機能を、まだ使えると信じ込んで無駄な努力を続けてた。…あのパラガスとか言う人間も含めてね」

「無駄ってなんや!シグナムは…シャマルは…!」

「…後ろ」

 

フェイトが指を指す方向を見ると、そこには二人が消えてしまった事を突き付けるかのように、シグナムとシャマルが着ていた衣服だけが無造作に置かれていた。さらにその背後では、パラガスが初めに着ていた衣服を纏った怪物が街を暴れ回っている。

 

「嘘……こんなこと……」

「壊れた機械は役に立たないよね。だから壊しちゃおう。…まぁ、その赤ん坊ぐらいは助けてあげてもいいかな」

 

二人はそう告げると、ヴィータの喉元に魔力の刃を突き付ける。

「やめて…やめてぇぇぇぇぇぇっ!」

「止めて欲しかったら」

「力ずくでどうぞ」

「なんで…なんでこんなん…!」

「…はやてちゃん。運命って残酷なんだ。」

「駄目!やめて…やめてぇぇぇぇぇっ!」

はやての必死の訴えも虚しく、ヴィータとザフィーラの姿は轟音と光の中へと消え去ってゆく。

 

「うっ…うう…っ…うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

そして仮面の男達の思惑通り、闇の書の覚醒が始まる。髪は銀色に染まり、身体は成人のものへと変化する。さらに漆黒の翼とバリアジャケットを纏い、つり上がった赤眼からは一筋の涙が流れていた。その堕天使を彷彿とさせる姿に、最早はやての面影はなかった。

「…よし。これでいい」

「はやてちゃん!」

「はやてっ!」

ここで本物のなのはとフェイトがバインドから脱出しはやてに駆け寄るが、二人はその姿を見て遅すぎた事を悟る。

「…また…全てが終わってしまう。一体幾度こんなことを繰り返せばいい…」

「はやてちゃん…」

「我は闇の書。我が力の全てで…主の願いをそのままに……。…デアボリック・エミッション…」

そう呟くと、闇の書は右手に魔力を収縮させていく。その時丁度バーダックとパラガスがフェイト達と合流する。

「おいお前ら!」

「あっ!バーダックさん…!それと…パラガスさんですよね?」

「ああそうだ。それよりこれはどういう事だ!シグナム達はどうした!?」

「お、落ち着いてください!それよりもうすぐ空間攻撃が来ます!今すぐ防御を…!」

「あっ…フェイトちゃん!闇の書さんの足元に居る子、ブロリーちゃんじゃない!?」

「ほ、本当だ!今あんな所に居たら…」

「っブロリー!今行くぞ!」

「あっ!パラガスさん待って!」

「追いかけるな!あいつは簡単にくたばる奴じゃねぇ!それより自分の身を守れ!」

「…闇色に染まれ」

 

闇の書が拳を握り締めると、落雷のような轟音を響かせ辺り一体に黒い魔力爆発がなのは達を包み込む。そんな様子を仮面の男達は離れた場所から監視していた。

 

「まさかあんな化物が現れるのは計算外だったが…ここまでは上手くいったな」

「ああ。それよりも持つかな…なのは達」

「暴走開始の瞬間までは持って欲しいな…」

作戦がひと段落し安堵したその時、男達は急に出現したバインドによって拘束されてしまう。

「くっ…これはっ…!」

「…ストラグルバインド。相手を拘束しつつ、強化魔法を無効化する…あまり使い所のない魔法だけど…こういう時には役に立つ…」

「がっ…ぐううぅっ!!」

クロノが杖を回転させると、変身が解かれ仮面が剥がれ落ちる。仮面の男達の正体を見たクロノの表情は複雑なものだった。

「クロノ…!このっ!」

「こんな魔法…教えてなかったけどな…」

「一人でも精進しろと教えたのは君たちだろ……アリア、ロッテ…」

 

〜〜〜

 

 

なんとか空間攻撃から脱出し、ビルの陰に隠れた三人だったが、フェイトを庇ったなのははダメージを受けてしまっていた。

「なのは…ごめん…。ありがとう、大丈夫?」

「うん…これぐらい大丈夫…。それよりバーダックさん、パラガスさん達は…」

「…奴らの気を感じる。まだくたばってはいねぇようだな」

「そうですか…よかった…」

(…だがあの野郎…今ので尻尾を無くしやがったな…。気がガクンと落ちてやがる…)

「…それと丁度お仲間か二人来やがったぞ。」

「なのは!フェイト!」

「あっ、ユーノ君!アルフさん!」

「よかった…皆無事で──」

アルフがそう言いかけた時、突然周囲に突風が吹き付ける。

「くっ…これは…!?」

「前と同じ閉じ込める結界だ!」

「やっぱり私たちを狙ってるんだ…!」

「今クロノが解決法を探ってる。援護も向かっているんだけど、まだ時間が…」

「それまで私たちでなんとかするしかないか…。」

「それで、具体的に奴を倒す方法はあるのか…?」

「それもクロノが調べてるんですけど…。前にも言ったように、単純な破壊では意味がないんです。」

「…だが逃げ回っている訳にもいかねぇ。へっ…今は奴をぶん殴って眠らしちまうしかねぇだろ?」

「…まぁそういう事になりますが…」

「ならこんな所に隠れてねえでとっとと打って出るぞ。…お前ら、返り討ちにされて面倒を増やすんじゃねぇぞ」

「そういうあんたも調子に乗ってやられないようにね…!」

「大丈夫です。今度は前のような失敗はしませんから…!」

「うん…なんとかしてはやてちゃん達を助けよう!」

「…よし。行くぞ!」

バーダックの一声で、全員が一斉に闇の書へ向かって行く。

 

だがこの時バーダックはまたも重大な事実を見落としていた。それもそのはず、今その力の持ち主は小さく弱い。だが、度重なる偶然の積み重ねが、内に秘めた悪魔の力を呼び起こそうとしていた。




どうも。顔芸です。
それにしてもはやてがリーゼ達に追い詰められるシーンは何度見ても心が痛いですね。特に私は八神家大好きなので初めて見た時は精神ダメージがでかかったです。

さて本編ですが、今回はラストの文が全てですw
察しの良い方はなんの事か分かると思います。
それと前話で戦いの火蓋が切って落とされたと書いたはずが、書いてみたら戦闘少なめの回になってしまいました。次回からは今度こそ戦闘回になるはずです…。

今回はこんな所でしょうか。次回も読んでくださると嬉しいです。
それでは。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十五話 終わりの始まり

バーダック達が闇の書と交戦している頃、闇の書の空間攻撃からブロリーを庇おうとしたパラガスは尻尾を失ってしまい、人間の状態に戻ってしまっていた。

 

「くっ…尻尾を持っていかれたか……そうだ!ブロリーは…?」

 

パラガスが辺りを見渡すと、ブロリーは屋上の端まで吹き飛ばされ、うつ伏せに横たわっていた。

 

「ブロリーっ!」

 

パラガスがすぐに駆け寄ったその時、パラガスは恐ろしさのあまり背筋が凍りつく。目の前に居るのは紛れもなく最愛の息子。しかしブロリーの姿は既に人間の物ではなかった。全身から体毛が生え、肢体は赤子のものとは思えないほど筋肉が膨張している。しかし、パラガスが最も恐れたのはブロリーから溢れ出す桁外れのエネルギーだった。大猿になった事による戦闘力の上昇を考慮しても、明らかにサイヤ人の戦闘レベルを上回っていた。

 

「…あ…ああ……!」

 

あまりの戦闘力にパラガスは絶句しその場に立ち尽くしてしまう。

(馬鹿な…こ、こんな事が…)

しばらく立ち尽くしていたパラガスだったが、大猿の叫び声でハッと我に返る。

「し、しまった…!大猿化の前に尻尾を切るべきだった…!」

しかし時すでに遅し。パラガス一人では完全に大猿になってしまったブロリーを押さえつけることなど不可能だった。

 

 

〜〜〜

 

 

「でりゃぁぁぁぁっ!」

バーダックの拳が闇の書の頭部に向けて放たれる。それに対し闇の書は魔力障壁を生成し、バーダックの拳を弾く。

だが、バーダックの攻撃によって生まれた隙を突きユーノがチェーンバインドで闇の書を拘束する。

「…砕け」

闇の書が小さく呟くと、補助魔法を得意とするのユーノのチェーンバインドですらガラス細工のように一瞬で砕け落ちる。しかし、なのは達もこの程度は予想の範囲内。さらにその隙を突きなのはとフェイトが追い討ちをかける。

「今だ…!ファイア!」

「ディバイン…バスターッ!」

「…盾」

左右から急速に迫る呪文を目にしても、闇の書の表情に焦りはない。両手を勢いよく左右に振りかざすと、二人の魔法ですら呆気なくかき消されてしまう。それどころか、闇の書は攻撃を防ぎながらなのは達に反撃を仕掛ける。

「…穿て。ブラッディダガー」

闇の書の周囲に朱色の苦無が出現し、蜘蛛の巣のような不規則な軌道でバーダック達に襲いかかる。それらはかなりのスピードで接近してきたが、紙一重のところでなのは達は障壁、バーダックは気合砲で命中を防いだ。

 

「…強い…なのはと同時に攻撃しても防がれるなんて…」

 

なのは達が息をつく間もなく、闇の書は次の呪文の詠唱を開始する。

 

「咎人達に…滅びの光を…」

闇の書がかざした先に、桃色の魔力が収縮されてゆく。

「星よ集え…全てを撃ち抜く光となれ…」

「あれは…まさか…!」

「スターライト…ブレイカー…?」

「まずい…皆離れて…!」

(いや…これは逆に好機だ…今しかねぇ!)

 

先程から闇の書に攻撃を仕掛けてはいるが、殆どが魔力障壁によって防がれてしまっている。バーダック達の攻撃は全力攻撃ではないが、あれだけあっさりと攻撃を防がれてしまう以上、正面から攻撃するだけではこちらがジリ貧になるのは必至だった。バーダックは闇の書が発動の遅いスターライトブレイカーを詠唱している今こそが攻撃のチャンスだと考えたのだ。

 

「バーダックさんも一度退避してください!あれを至近距離で食らったら防御の上からでも落とされます!」

「なら奴が技を出す前にぶっ倒すまでだ!」

バーダックは掌にエネルギーを素早く収縮させ闇の書の背後に回り込む。

「その技を使ったのは失敗だったな!」

「…!」

流石の闇の書もバーダックの反撃は予想外だったようで、闇の書は思わず驚いた表情を見せる。それを見たバーダックは奇襲が成功したことを確信し、エネルギー弾の発射体勢をとる。闇の書もスターライトブレイカーの詠唱を中止し障壁を展開しようとするが、既に手遅れであった。

「こいつで終わりだっ!」

バーダックが技を繰り出そうとしたその時、なのはの叫び声がバーダックの動きを止める。

「バーダックさん!うしろっ!!」

「…何!?」

バーダックが振り向くと、緑色のエネルギー波が高速で迫っていた。バーダックは紙一重で回避するものの、凄まじい余波によって吹き飛ばされてしまう。

「ぐっ…くそっ…!」

 

バーダックが体勢を立て直してエネルギー波が発射された方角を見ると、そこには居るはずのない大猿が雄叫びをあげながら無差別に街を破壊していた。

 

「なっ…大猿だと…!」

「バーダックさん!どうしてまたあの怪物が…!パラガスさんはあの姿から戻ったはずじゃ…」

その時、大猿の方角から一人の男がこちらにやって来る。

「お前達、大丈夫か!」

「あれっ!?パラガスさん!」

「あっ…こいつ!」

 

事情を知らないアルフはパラガスを見て警戒態勢をとる。

 

「あ、アルフさん待ってください!パラガスさんは今は…」

「信用のない俺が言える立場ではないが…今はお前達と戦うつもりは無い」

「…本当だろうね…」

「そんなことよりパラガス!あの大猿はなんだ!」

「…あれは俺の息子、ブロリーだ」

「なっ…!」

「えっ…」

「あれが…ブロリーちゃん…?」

「…ああ。サイヤ人は尻尾さえ生えていれば赤子でも大猿になる。…だが問題はそんなことではない。バーダック、お前なら分かるだろうが…ブロリーの戦闘力は…」

「…なるほどな…こりゃ王がビビるわけだぜ…」

「どういう事ですか…?」

「…今一から説明している時間はない。要するにブロリー…あの大猿はとんでもない戦闘力があるという事だ。…俺やバーダック以上にな」

「そんな…バーダックさん以上…」

パラガスが説明し終わると、大猿がこちらに向かって倒壊したビルの屋上部分を投げつけてきた。原始的な攻撃だが、大猿が行えば並みのエネルギー波よりもずっと速く強力な技である。

「はあっ!」

咄嗟にパラガスがエネルギー弾を放ち、投げつけられたビルを粉砕する。

「…言い忘れていたが今のブロリーには理性がない。ただ目に見える物を破壊し尽くす怪物だ」

「…そうか…あの子は私と同じなのだな…」

 

ブロリーの攻撃によって吹き飛ばされていた闇の書もなのは達の背後にやって来る。

 

「闇の書さん…!」

「ブロリーの相手は俺とバーダックがする。お前達は闇の書を…はやてを頼めるか?」

「はい…!必ず助け出して見せます!はやてちゃんも…ヴィータちゃん達も!」

「…ああ、頼んだぞ」

そう小さく呟くと、バーダックとパラガスは今のブロリーに向き直り構えをとる。

「…バーダック。理性がないといってもブロリーの戦闘力は桁外れだ。気を抜くなよ」

「へっ…てめぇも息子だからって手を抜いて殺されるんじゃねぇぞ。」

「グオォォォォォッ!」

「行くぞっ!」

 

大猿の雄叫びを合図に戦闘が再開され、なのは達が一斉に動き出す。ブロリーの暴走によってさらに悪化した戦況に、バーダック達はどう戦って行くのだろうか。

 

***

 

一方本局では、クロノによってグレアムとリーゼ達への尋問が行われていた。

 

「11年前の闇の書事件以降、提督は独自に闇の書の転生先を探していましたね…。そして見つけた…現在の主、八神はやてを」

「……」

「しかし、完成前の闇の書と主を抑えてもあまり意味がない。主を捕らえようと、闇の書を破壊しようと、すぐに転生してしまうから。だから監視をしながら闇の書の完成を待った。…見つけたんですね。闇の書の永久封印の方法を…!」

「…両親に死なれ体を悪くしたあの子を見て、心は痛んだが…運命だと思った。孤独な子であればそれだけ悲しむ人も少なくなるからな。」

「あの子の父の友人を語って生活の援助をしていたのも…提督ですね?」

 

そういうとクロノは、はやてからグレアムに送られていた手紙と写真を取り出す。写真にははやてと騎士達、それにパラガス親子の幸せそうな姿が写っていた。

 

「…永遠の眠りにつく前くらいは…幸せにしてやりたかった……偽善だな」

「封印の方法は…闇の書を主ごと凍結させて、次元の狭間か氷結世界に閉じ込める。…そんなところですね?」

「…そう。それならば闇の書の転生機能は働かない…」

「これまでの闇の書の主だって、アルカンシェルで蒸発させたりしてんだ!それと何も変わらない!」

「…クロノ。今からでも遅くない。私たちを解放して…!」

「その時点では闇の書の主は永久凍結をされるような犯罪者じゃない…違法だ!」

「そんな決まりのせいで!悲劇が繰り返されてんだ!クライド君だって…あんたの父さんだってそれで…!」

「…ロッテ」

クロノの甘いとも取れる発言に怒りを示すロッテをグレアムはなだめる。

「…クロノは一時の感情で物事を考えるほど子供ではない。何か考えがあるんだろう?」

「…まず法以外にも提督のプランには穴があります。まず、凍結の解除はある程度力のある魔導師であればそう難しくないはずです。どこに隠そうと…どんなに守ろうと…いつかは誰かが見つけて使おうとする。怒りや悲しみ、欲望や切望が、封じられた力へ導いてしまう…少なくとも、騎士達と共に生活をしていたあの二人は何かしらの行動を起こすはずです」

「………」

 

クロノの発言に、グレアム達は反論することができなかった。

 

「現場が心配なので…すみません、これで失礼します。」

「クロノ!」

「…はい。」

「アリア、デュランダルを彼に」

「父様っ…!」

「そんな…」

「私たちにはもうチャンスは無いよ。持っていたって役には立たん」

 

アリアはデュランダルを取り出すと、渋々クロノに差し出す。

 

「氷結の杖、デュランダルだ。どう使うかは君に任せる。有効に使ってくれ」

「…お気遣いありがとうございます。提督のプランが無くても、必ず闇の書の暴走を食い止めて見せます」

「…何か策があるのか?」

「いえ…具体的な永久封印の方法については何も…ですが、今回はなぜか上手く行くような気がするんです。…悲しい運命なんて捻じ曲げてしまうような協力者達がいますから」

「…なのは君達の事か?」

「…それともう一人。どんなに過酷な運命を突きつけられても、決して諦めなかった人がいます。…雲を掴むような話ではありますが、今回は彼らの強い精神に賭けてみようと思います」

「……そうか」

「では…今度こそ失礼します」

 

クロノは足早に部屋を出ると、急いで現場へと戻って行った。

 

「…父様…これでよかったのですか?」

「…私も賭けてみたくなったんだよ。クロノにあそこまで言わせた、なのは君達やあのバーダックという男にね…」

グレアムは吹っ切れた表情でリーゼ達にそう告げ、クロノ達の勝利を切に願うのであった。




どうも顔芸です。
今回は一応戦闘回でしたが…本格的に戦闘回に入るには字数的に無理がありました…。
次回こそ本格的な殺戮ショーです。果たしてバーダック達は生き延びる事ができるのでしょうか。戦闘回は相変わらず苦手なのでいつもより更新が遅れてしまいかもしれませんが、次回も読んでくださると嬉しいです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十六話 仲間と道具

「くそっ…!この野郎!」

 

バーダックは次々に振り下ろされる拳をなんとか回避してゆく。パラガスが大猿になった時とは違い、ブロリーには理性が無いため攻撃は単調であるが、パワーやスピードがパラガスとは桁違いであり、バーダックは防戦一方になっていた。

 

「そこだぁっ!」

 

パラガスが背後から連続エネルギー弾を発射し、バーダックを援護する。

 

「…効いたか…?」

 

エネルギー弾が巻き上げた土煙が段々と晴れてくる。パラガスはブロリーの反撃を警戒していたが、煙の中から現れたブロリーはパラガスの攻撃など意に介さず、バーダックを攻撃し続けていた。

 

「なっ…ダメージどころか注意すら引けんとは…バーダック!絶対に当たるなよ!」

「くっ!分かってる!」

 

バーダックは相変わらず攻撃を避け続けていたが、最初のパラガスから受けたダメージもあり、段々と集中力が切れ始めていた。

(一度奴の視界から外れねえと埒が明かねえ…!だがこの野郎…くっ…俺ばかり狙ってきやがって…!)

「グオオオオオオッ!」

 

バーダックが回避した拳が背後のビルに直撃し、大量の瓦礫が飛散する。普段のバーダックにとっては他愛もない出来事だが、今のバーダックはブロリーの執拗な攻撃によって集中力を欠いている状態であった。そんな中、バーダックは自らの上半身ほどのコンクリート片を回避するために、ブロリーから一瞬目を離してしまう。

 

「…しまった!」

バーダックが目を離したのは確かに一瞬だった。しかし、このレベルの戦闘において僅かでも隙を見せれば致命傷は免れない。

ブロリーはバーダックを鷲掴みにし、狂ったように何度も建物や地面に叩きつける。コンクリートに激突するたびに、辺りにバーダックの叫び声が辺りに響く。そしてしばらくバーダックを叩きつけた後、今度はバーダックを握り潰そうと両手でバーダックの体を締め付ける。

ブロリーの凄まじい握力によって、バーダックの体からミシミシと嫌な音が発せられる。

 

「があぁぁぁっ!」

「バーダック!このっ…!」

パラガスは尻尾を引きちぎろうと、ブロリーの背後に回り込み、綱引きの要領で逆方向へ思い切り引っ張る。

(よし…!このまま一気に引き抜いてやる!)

「ガァァァァッ!」

 

いくらブロリーに意識がないと言っても、弱点の尻尾を握られてはパラガスの行動を見過ごすはずがなく、尻尾を左右に大きく揺らし振り落とそうとする。

(くっ…!流石に抵抗するか…だがもう少しで尻尾を───)

 

しかし、なかなか尻尾を離さないパラガスに対し、ブロリーは脳天に拳骨を叩き込む。尻尾に気を取られていたパラガスが避けられるはずもなく、鈍い音を立てて地面に叩きつけられてしまう。

 

「…今だっ!はぁぁぁぁっ!」

「グォォォォ…!」

しかし、ブロリーがバーダックから片手を離した隙に、一気に気を放出しブロリーの手中から脱出する。ブロリーが怯んでいる間にバーダックは地面に伏しているパラガスを連れ出し、少し離れたビルの陰に隠れた。

「はぁっ…はぁっ…くそっ…始める前から分かっていたが…俺たちの攻撃も全く通用しない上に動きも読まれている…万事休すか…」

「馬鹿野郎…戯言を言ってる暇があったら一つでも策を考えろ!」

「分かっている…!そう言うお前には策はあるのか?」

「…まあな。いいか、よく聞いてろよ。今度は俺が───」

バーダックはパラガスに淡々と策を説明してゆく。それは策と言うにはあまりにも簡素なものだったが、今考えられる中では最も現実味のある作戦であった。

 

「内容は分かったが…囮になるのはダメージの少ない俺の方がいいのではないか?」

「…いや、奴はなぜか俺ばかり狙ってきやがる。注意を引くなら俺の方がいい。…それに気のコントロールはお前の方が得意だろうが。」

「それはそうかもしれんが……いや、今はお前の策を信じるとするか…」

「ああ…。お前も絶対にしくじるんじゃねぇぞ」

 

バーダックは真紅の鉢巻をギュッと締めなおすと、ビルの陰から飛び出し大声をあげてブロリーに突貫する。ブロリーはすぐにバーダックに気付き、口からエネルギー波を放ち迎撃する。

 

(よし…上手く注意を引いているようだな…)

 

バーダック達の作戦はこうだ。まず先程から優先的に狙われているバーダックがブロリーを引き付ける。その隙にパラガスが気を集中させ、刃物のような鋭いエネルギー弾を生成する。後はブロリーに悟られない内にエネルギー弾で尻尾を切ってしまうというものだ。言うだけなら簡単な作戦だが、この作戦には大きな問題があった。まず、囮となるバーダックの体力が大きく削られてしまっていることだ。しかも、パラガスの攻撃を当てるにはブロリーを一定の場所に留めておく必要があるため、バーダックは大きく飛行して逃げる事は避けなければならない。つまりバーダックは先程よりも体力を消費した状態で、ブロリーの近接攻撃を回避し続けなければならないのだ。

 

(頼むぞ…!なんとか耐えてくれ…)

「だりゃあぁぁぁぁ!」

 

バーダックはブロリーのエネルギー波を回避し、ブロリーの懐に飛び込むと、タイミングよく拳や蹴りを回避してゆく。しかし、傷を負ったバーダックには限界があり、すぐに動きに余裕がなくなってくる。

 

(こいつでどうだっ!)

 

バーダックはブロリーの攻撃がわずかに大振りになった瞬間に小さな気弾を投げつける。大した威力のない技だが、的確に目を狙ったことにより一時的にブロリーの視界を奪うことに成功した。

 

「グオォォォ…!!」

(よし…!そのまま怯んでろ…!)

 

バーダックはブロリーの動きが止まることを期待していたが、予想に反してブロリーはその場で狂ったようにエネルギー弾を乱射し始める。一瞬で周辺は更地となり、余計に手が付けられない状態になってしまう。

(クソッ…パラガスの野郎はまだか…早くしやがれ!)

 

これ以上は持たない。そう思った矢先、エネルギー弾の準備が完了し、パラガスから指示が飛ぶ。

「よし、完成したぞ!避けろよバーダック!」

「分かってる!早く撃っちまえ!」

「はあぁぁぁっ!」

 

パラガスは大きく腕を振りかぶり、尻尾へ向かって放つ。別世界のとある武道家の技によく似たそれは、横方向に弧を描きブロリーに急接近する。

「「当たれっ!」」

これを外せばブロリーを倒すのは絶望的。パラガスは全神経を集中させエネルギー弾を操作する。そして見事に尻尾を切断する────はずだった。

「なっ…!」

 

自衛の本能か、それとも全くの偶然か。ブロリーはまるで回避するかのようにエネルギー弾が当たる直前に大きく跳躍する。

 

「クソッタレ…!」

バーダックはエネルギー弾が外れたと思い再び攻勢に出ようとしたその時、パラガスは叫び声を上げて腕をグッと引き寄せる。

「まだだっ!はあっ!」

すると一度は回避されたエネルギー弾が急旋回し、再びブロリーに向かって飛んでいく。そして───

 

 

〜〜〜

 

 

「ふう…やっと終わったか…全くとんでもねぇガキだ…」

 

パラガスのエネルギー弾は見事にブロリーの尻尾を捉え、先程まで凄まじいパワーで暴れ回っていた大猿は、パラガスの腕の中ですやすやと眠っていた。

 

「お前まで巻き込んでしまってすまなかったな…。それにしてもなぜブロリーが結界内に…」

「俺も見たわけじゃねぇが、さしずめあの猫…仮面の男の仕業だろうな」

「まあ、そう考えるのが妥当だろうな。一体何の目的で…そうだバーダック!はやてやシグナム達は一体どうしたんだ!それにあの黒い女は…」

「俺も詳しい事は知らねぇが、お前と戦っている時に仮面の男が騎士共を蒐集して闇の書を完成させたんだろうな」

「なっ、なぜそんなことを…」

「考えてもみろ。奴らはお前達の助けになるような事ばかりしていただろ。理由は知らねぇが闇の書を完成させようとしていたはずだ」

「それが解せんのだ。闇の書は完成した本人にしか力を引き出せないはず…赤の他人の奴らが協力する義理などないはずなのだが…」

「…お前達…やはり知らなかったようだな」

「…どういう事だ?」

「いいか。今の闇の書を完成させてもお前達の期待しているような事にはならねぇ。大猿になった俺達のようにただ破壊を続ける…それだけだ」

「なっ…!ど、どういう事だ!」

 

思わぬ発言に困惑するパラガス。そんな様子を見かねたバーダックは、自分が知る限りの情報をパラガスに伝えた。闇の書の悪意ある改変、現在の闇の書の特性、そして避けられないはやての死。バーダックの言葉に、パラガスは言葉を失ってしまう。

 

(そうか…これがあの時のヴィータの言っていた…)

 

〜〜〜

 

「…ねえ。闇の書を完成させてさ……はやてが本当のマスターになったらさ、それではやては幸せになれるんだよね……」

「なんだいきなり」

「闇の書の主は大いなる力を得る。守護者である私たちは、それを誰より知ってるはずでしょ?

「そうなんだよ……そうなんだけどさ…。私はなんか、大事な事を忘れてる気がするんだ…」

 

 

〜〜〜

 

 

(…そうか…あれはそう言う意味だったのか…)

「俺が知ってるのはこれぐらいだ。…さて、俺はもう行くぞ。お前はどうするんだ?」

「………俺も行く。絶望的ではあっても、今立ち向かわなければ可能性を捨てる事になる。ブロリーを危険に晒す事になるかもしれんが、ブロリーもそれを望んでいるはずだ」

「へっ…それでこそサイヤ人だ」

バーダックはパラガスの期待通りの言葉を聞き小さく笑みを浮かべ、戦闘の光が見える方角を見上げる。

「あいつら随分遠くへ行きやがったな。よし…行くぞパラガス!」

「ああ!」

バーダックとパラガスはこうしてなのは達の元へ向かう。二人は度重なる連戦で体は疲弊しきっていたが、一点の曇りもない戦士の眼差しで戦地を見つめていた。

 

 

闇の書を相手に苦戦を強いられている二人。そんな時、エイミィから二人に通信が入る。

『なのはちゃん、フェイトちゃん!クロノくんから伝言、闇の書に…はやてちゃんに投降と停止を呼びかけてって!』

「はい!わかりました!」

 

そう言うと二人は早速闇の書に念話を飛ばす。

 

『はやてちゃん、それに闇の書さん!止まってください!ヴィータちゃん達を傷つけたのは私達たちじゃないんです!』

『シグナム達と私達は…!』

 

言葉が届いたのか、闇の書の動きが止まる。

 

「我が主は、この世界が…自分の愛する者達を奪った世界が…悪い夢であって欲しいと願った。我はただそれを叶えるのみ…。主には、穏やかな夢の内で永遠の眠りを…」

闇の書はそう呟くと足元に漆黒の魔法陣を出現させる。

「そして…愛する騎士達を奪ったものには…永遠の闇を…!」

「闇の書さん!」

「お前も…その名で私を呼ぶのだな…」

「えっ…」

 

その時、足元からコンクリートを突き破りワイヤーのようなものが体に絡みつき、二人を吊し上げる。

 

「うっ…くっ!」

「私は、主の願いを叶えるだけだ。」

「願いを…叶えるだけ?そんな願いを叶えて、はやてちゃんは本当に喜ぶの!?」

 

なのはは拘束されながらも、強い眼差しで闇の書を見据えて異論を叶える。

 

「心を閉ざして何も考えずに、主の願いを叶える道具でいて…あなたはそれでいいの!?」

「我は闇の書…ただの道具だ。」

「だけど…言葉を使えるでしょ!?心があるでしょ!そうでなきゃおかしいよ…本当に心が無いんなら、泣いたりなんかしないよ!」

 

なのはの言葉通り、闇の書は表情こそ変わらないものの、その目からは一筋の光が頬を伝っていた。

 

「その通りだ!」

 

なのは達の元にたどり着いたバーダックとパラガスが、気功波でなのは達の拘束を解く。そしてパラガスはなのは達の前に立ち、闇の書に訴えかける。

 

「俺は魔法やお前の事はよく知らんがな…はやての事はよく知っているつもりだ!はやては俺たちがどんな種族か知っても決して突き放そうとはしなかった!病気で自身が辛くなっても泣き言一つ漏らさずお前達のマスターで…家族であろうとしたんだ!だから…お前の事も絶対に暖かく迎えてくれるはずだ!」

「パラガスさん…」

「…受け入れてもらわなくてもいい。私は道具。この涙は主の涙だ。悲しみなど…無い」

「悲しみなど無い…?そんな言葉をそんな悲しい顔で言ったって…誰が信じるもんか!」

「あなたにも心があるんだよ…!悲しいって言っていいんだよ!パラガスさんの言う通り、はやてちゃんはそれに答えてくれる優しい子だよ!」

「だからはやてを解放して武装を解いて!お願い!」

(これは私の武装を解くための言葉…ではないのか…私も、こんな身の上で無ければこの者達と……)

 

なのは達の澄んだ眼差しに闇の書は一瞬心が揺らぐが、すぐにはっとして冷静に戻る。

 

(…私は何を考えているんだ。私は主の願いを叶える道具。それで良いのだ…それに…)

 

その時だった。突然地響きが発生したかと思うと、周辺の地面から無数の巨大な火柱があがる。

 

「あっ…!」

「な、なんだ…!?」

「思ったより長く持ったが…ついに崩壊が始まったか。私ももうすぐ意識を失う。そうなればすぐに暴走が始まる。意識のある内に、主の望みを叶えたい」

そう言うと闇の書はなのは達に魔法攻撃を仕掛ける。

凄まじい速度攻撃だったが、なんとか全員が上空へ回避し難を逃れる。フェイトはすぐに体勢を立て直すとバルディッシュを握りしめ反撃に出る。

「このっ…駄々っ子!言う事を…聞けっ!」

「待てフェイト!奴は何かするつもりだ!…クソッ…!てめぇも言う事を聞きやがれ!」

「…お前達も、我が内で眠るといい」

 

闇の書がそう呟くと、近接攻撃を仕掛けたフェイトと止めに入ったバーダックに異変が起こる。

 

「えっ…!何…これ…」

「ぐっ…意識が……!」

「フェイトちゃん!バーダックさん!」

 

二人の体が光に包まれて数秒後、その場から二人の体は消え、闇の書の中へ吸収されてしまった。突然の出来事に、残された二人は呆然と立ち尽くしてしまう。

 

「全ては…安らかな眠りの内に…」

「そ、そんな…」

「バーダック…!」

シグナム達だけでなく、バーダックとフェイトまでも闇の書へと吸収されてしまった。なのはとパラガスは、この状況を打破することができるのか?そして、失った仲間や家族を取り戻す事はできるのであろうか…?

 




どうも。顔芸です。
更新遅くなってしまい申し訳ないです。いやー大猿の戦闘シーンが難し過ぎて苦戦してしまいまして…。分かりづらいところや変なところがあるかもしれませんので、違和感があれば遠慮なく報告していただけるとありがたいです。

話は変わりますが、今のドラゴンボールってバーダックの超サイヤ人3なんて居るんですね…。私はヒーローズやってないので凄くびっくりしましたよ…。バーダックが人気なのは嬉しいですが、あれは流石にやりすぎな気がしますね(笑)

次はもう少し早く更新するつもりでいるので、次回もまた読んでくださると嬉しいです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十七話 夢の終わり、旅の終わり

気がつくとバーダックはベッドで横になっていた。目を開けて確認しようとするが、凄まじい眠気と倦怠感に襲われ、目を開けることすら億劫になってしまう。

 

(なんだ…俺は確か…)

 

バーダックは少しずつ今の状況を整理しようと頭を回転させるが、寝起きの頭では数秒前に考えていた事すらすぐに忘れてしまい、全く考えがまとまらない。

 

(俺は何をしていたんだ…?)

 

暫くするとバーダックは人が集まってくるのを感じる。他人に寝ている所を見られるなど落ち着かないことこの上ないが、今回は不思議と落ち着いて眠っていることができた。

 

「全く…こいつは────だな。」

「ああ。ちょっと───」

(ん…この声は確か──)

どこか懐かしさを醸し出す声に、バーダックは思わず耳を澄ます。そしてもう少しで声の主の正体が掴めそうになったその時だった。

 

「バーダック!いい加減起きな!」

 

「うおっ!」

突然耳元で銅鑼を叩きつけたような特大の声が響きわたる。バーダックはたまらず飛び起き辺りを見回す。

「やっと起きたか。今何時だと思ってんだ!」

「なっ!お、お前ら…」

 

まるで母親のような小言を言った人物を見て、バーダックは驚愕する。

 

「トーマ…それにセリパ…なのか?」

「…それ以外に誰だって言うんだよ。」

「はぁ…こりゃダメだね…ほら、アンタ達も食ってばっかいないで言ってやってよ!」

 

セリパが声を発した方向を見ると大柄な二人の男、パンブーキンとドテッポが肉を貪っていた。

 

「ん…やっと起きたのか。まったくお前って奴は自分から呼び出しといて寝坊しやがって…まぁその間に飯を食えたからいいけどよ。なぁドテッポ?」

「………」コクン

(パンブーキンにドテッポまで…どういう事だ…?)

「ほら、待っててやるからお前もとっとと食うもん食って準備しちまえよ」

「…あ、ああ」

 

バーダックは状況が飲み込めずにいたが、言われるままにパンブーキン達の食事に混ざる。

 

「カカロットの奴今頃どうなってるかな…?」

「そうだな…案外俺たちより強くなっちまってるかもな」

「へへっ…流石にそりゃねぇだろ?」

「どうかな。あいつは最下級戦士だがなんたってこいつのガキだからな。全くありえないとは言い切れんぞ?」

「そうかもね…フフッ…会うのが楽しみになってきたよ」

「会うだと?お前ら地球に行くつもりか?」

「「「「……………」」」」

バーダックの一言に四人は突然言葉を失ってしまう。

「…おいトーマ、こりゃ重症だぜ…」

「ああ…そうみたいだな…」

「な、なんだお前ら…」

 

相変わらず事態を飲み込めずに困惑するバーダックに、セリパが背後からゲンコツをお見舞いする。

 

「っ…!な、何しやがる!」

「バーダック〜!お前って奴は〜!」

 

セリパは金切り声を上げてバーダックに詰め寄る。

 

「アンタが行くって言ったんだろうがっ!寝坊するだけじゃ飽き足らず約束事も忘れたのかい!?だいたいアンタは───」

「分かった!分かったから落ち着けっての!」

 

バーダックの静止に、セリパは不満げな表情を浮かべながらも一度引き下がる。ちょっとしたコントのような出来事にパンブーキンとドテッポは笑っていたが、トーマは少し心配しているようだった。

 

「お前本当に大丈夫か?あのカナッサ星人の術がまだ効いてるんじゃ…」

「…気にするな。少し寝ぼけていただけだ。」

「そうか。それならいいんだが…」

(クソッ…どうなってるんだ。今までのは夢…だったのか?)

 

バーダックは多くの謎に疑問を抱きながらも、久々の仲間との再開に安らぎを覚えるのだった。

 

 

〜〜〜

 

 

(やはりおかしい…)

 

バーダック達は地球に向かうために宇宙ポッド向かう事になったのだが、建物を出た瞬間に事態の異様さに気がつく。

そもそも殺されたはずの四人がこうして生きている事も十分におかしいのだが、仮に今までの出来事が夢であったならばここは惑星ベジータでなければ辻褄が合わない。しかし屋外に広がっていた景色には全く見覚えが無い。地球と惑星ベジータが混ざったようなおかしな景色にバーダックは困惑したが、他の四人はここにずっと前から住んでいたかのように街へと繰り出していく。

 

(落ち着いて考えろ…!俺は確か闇の書の女と戦って………そうだ!奴は確か…!)

 

『お前達も…我が内で眠るといい』

 

(なるほど…そう言う事か…)

「どうしたバーダック?さっきからボーッとしちまって?」

「おいトーマ…」

バーダックはついに夢の核心に迫ろうとしていた。果たしてバーダックは夢を終わらせる事ができるのであろうか…

 

 

***

 

 

その頃現実世界では、なのはと闇の書の接戦が繰り広げられていた。

なのはは隠していたエクセリオンモードも使用するが、闇の書の高い戦闘力にじわじわと追い込まれつつあった。

 

「きゃあっ!」

 

闇の書の攻撃を防ぎきれず、なのはは海面ギリギリまで吹き飛ばされてしまう。

 

「なのは、大丈夫か!やはり俺も…」

「ダメですよ…!パラガスさん怪我してるし、ブロリーちゃんを抱えながら戦うなんて無理です!」

「だがこのままでは…」

「一つ覚えの攻撃が通ると思ったか。」

「通す!レイジングハートが力をくれてる!命と心を賭けて答えてくれてる!泣いてる子を救ってあげてって!」

「なのは…お前…」

「アクセルチャージャー起動!ストライクフレーム!」

 

なのはが闇の書にレイジングハートを向けると、桃色の魔力光が先端部分と側面に現れる。

 

「エクセリオンバスターACS!」

「…っ!」

「ドライブッ!」

 

なのはは闇の書に向かって真っ直ぐに突き進む。闇の書は猛スピードで突貫してくるなのはを避ける事はできず、バリアを展開してなのはを停止させようと試みる。凄まじい音を立ててレイジングハートとバリアは激しくぶつかり合い、周辺一帯に火の粉が飛び散る。

 

「届いてっ!」

 

しばらく互いの力は拮抗していたが、なのはの願いに応えるようにレイジングハートが僅かにバリアを貫く。

 

「っ!まさか!」

「ブレイク……シュートッ!!」

 

なのはのエクセリオンバスターがゼロ距離で放たれる。強烈な音と共に巨大な光が闇の書を包み込む。

 

(くっ…凄まじいパワーだ!これなら…!)

(ほぼゼロ距離…バリアを抜いてのエクセリオンバスター直撃…!これでダメなら…)

『マスター!』

「えっ…」

 

辺りを包んでいた光が消えると、そこには平然とこちらを見下ろしている闇の書の姿があった。自分の最高レベルの魔法を受けてもほとんど外傷すらないことに心が折れそうになる。

 

「…もう少し頑張らないとだね。」

しかし、なのはは自らを奮い立たせると、再び強大な敵に向かってゆくのであった。

 

***

 

 

「おいトーマ、これは夢なんだろ?」

「はっ?どうしたんだ一体?」

「俺の知ってる記憶と辻褄が合わねぇんだよ。俺はこんな惑星は知らねぇし、何よりお前らもう死んだはずだ」

「突然何を…」

「俺はもう行くぞ。外に出てあいつをぶっ飛ばしに行く」

「………」

 

四人は否定も肯定もせず、ただ黙ってバーダックの言葉を聞く。

 

「どうすればここから出られる?お前ら何か──」

「…バーダック」

 

その時、トーマがバーダックの言葉を遮って話を切り出す。

 

「お前、ずっとここにいる気はないか?」

「…なんだと?」

「夢でもいいじゃないか。ここならばお前も俺たちも永遠に生きられる」

「そうさ。ここにはフリーザも居ないし、アンタの息子や会おう思えばアンタの新しい仲間にだって会える」

「この世界なら飯も食い放題だしな。それに強い奴らとも戦い放題だ!」

「………」

「なぁバーダック、そうしようぜ。お前もそれを望んでいるはずだ。なんたってここは────」

「…断る。ここがどんな世界だろうと、俺は夢の中に留まるつもりはねぇ」

「…なぜだ。ここに居ればずっと理想の未来が待っているんだぞ…?」

「…未来ってのは誰かに与えられる物じゃねぇ。自分の力を信じて勝ち取る。…俺の知っているお前らもそう言う奴だったはずだ!」

「………」

「第一にこんなのが理想の未来だと…?ふざけるなよ…腑抜けた偽物のお前らと永遠に生活するなんぞ…夢でなくとも願い下げだ!」

 

バーダックは怒りを顕にしてトーマ達を怒鳴りつける。それに対しトーマ達は少しの間黙っていたが、すぐにトーマは達は小さく笑うと、意外な言葉を口にする。

 

「……ふっ…そうか。変わらんなお前は。」

「やっぱりアンタは頭が硬いというか、頑固というか…」

「なっ…」

「なら早く行ってやれよ。待ってる奴がいるんだろ?」

「…どういうつもりだ…」

「俺達はお前が望んだ夢。お前がここから出たいというなら叶えてやるのが筋ってもんだろ?」

「トーマ…お前…」

「…と言ってもアタシ達もどうやって戻るかは知らないんだけどね」

「へっ…何、適当に暴れ回ってやればどうにかなるさ」

「そりゃいいね!ならアタシ達も──」

 

セリパがそう言いかけた瞬間、トーマ達の体がキラキラと輝き始める。そしてその光に呑まれるように、四人の体は足先から実体を無くしてゆく。

 

「お前ら…体が…!」

「…どうやら時間のようだな。いいかバーダック、お前に夢から覚めたいという意志があれば絶対にここから出られるはずだ。…俺たちが消えかけてるのも恐らくお前の意志が関係してるんだろう」

「………」

「ふっ…シケたツラするんじゃねぇよ。お前らしくもねぇ。」

「フリーザの奴は気に食わないけど、アタシ達は戦いの中で死んだんだ。サイヤ人として悔いはないさ」

「そういう事だ。ドテッポもそうだろ?」

「………」コクン

 

こうして話している間にも四人の体はどんどん薄くなってゆく。声も段々と小さくなり、今にも消え入りそうになっている。

 

「…今度こそ本当に時間のようだな。頼んだぞバーダック。お前は俺達の誇りだ!奴らに…サイヤ人の強さを…見せつけてやれ…!」

「トーマ…!」

「ふっ…できれば…見たかったな……お前が…戦う所…を……」

 

トーマは最期の力を振り絞りそう言い残すと、他の三人と同様に光の粒子となり空に消えて行く。バーダックはその様子を、ただ静かに眺めている事しかできなかった。完全に四人の光が無くなりふと四人がたっていた足下をみると、いつの間にか無くなっていた赤いバンダナが残されていた。

 

「………」

 

バーダックはそれを無言で拾い上げると、いつものように頭に強く縛り付ける。こうしていると四人が殺されたあの時を思い出す。寂しさは全く無いと言えば嘘になるが、だからといって感傷に浸るつもりも無かった。そんなことよりもやるべき事がバーダックにはあるのだ。

再び空を見上げると、青い空に黒い小さな点がある事に気がつく。

 

「あれが出口なのか…よく分からんがまぁいい…行くぞっ!」

 

バーダックは勢いよく点に向かって飛び立つ。すると近づくにつれ点はどんどん大きくなり、その正体が明らかになる。

 

「これは…!」

 

点だと思っていたそれは数十メートルの穴で、黒く見えていたのは外の景色であった。しかし、穴はバリアのようなもので遮断されており簡単には外に出してくれそうに無かった。

 

「へっ!ならぶっ壊すだけだ!でりゃああああっ!」

バーダックはありったけの力で拳を突きつける。するとバリアだけでなく今までいた地上や空までもがバラバラと崩れてゆく。そして周りの世界が完全に崩れ去ると、バーダックが殴りつけた場所から眩い光が溢れ、バーダックを包み込む。

 

「くっ…!があぁぁぁっ!」

バーダックはあまりの眩しさに思わず目を瞑る。しばらくは目を開く事ができなかったが、段々と光は弱くなっていったためゆっくりと目を開く。

 

「…バーダック…さん?」

すると隣には同じく闇の書に吸収されていたフェイトが立っていた。

「…フェイトか。お前も出られたようだな」

「はい…なんとか。バーダックさんも無事でよかったです」

「フン…お前に心配されるほど落ちぶれてねぇよ」

「ふふ…そうでしたね」

「バーダックさん!フェイトちゃん!」

 

こちらに気づいたなのは達四人とも合流するが、一同にゆっくりと再会を喜ぶ時間は無く、アースラのエイミィから通信が入る。

 

「みんな気をつけて!闇の書反応消えてないよ!」

バーダックは海上の闇の書に目を向ける。

「下の黒い淀みが暴走が始まる場所だから、クロノ君が着くまでむやみに近づいちゃダメだよ!」

「はい!」

「それにしてもでかいな…これから一体どうなるんだ…」

「へっ…ぶっ飛ばしがいがありそうで結構なことじゃねぇか。とりあえず一発…」

「バーダックさん、せめてクロノ君が来るまで待ってくださいね…」

「そうだぞバーダック。血気に逸るのはサイヤ人の悪い癖だ。」

「…冗談だ。言われなくても分かってる」

「本当かい…?イマイチ信用ならないね」

「おい…お前ら俺をなんだと…」

「あはは……あれ…あの光は…」

ユーノが数百メートル離れた空に銀色に輝く光を見つける。よく目を凝らして見ると数人が立っているのが分かる。

「あれってもしかして…!」

「ああ…シグナム達の気だ!」

一同はすぐに駆け寄ると、そこにはヴィータを抱きしめるはやてと騎士達の姿があった。

「はやてちゃん!」

「はやて!それにお前達…!」

「なのはちゃんにフェイトちゃん、それにパラガスさんとブロリーにも…ほんとごめんな…うちの子達が色々迷惑かけてもうて…」

「ううん!」

「私も平気だよ」

「私が言う事でもないかもしれへんけど皆無事で何より…ってパラガスさんとブロリーと…それからその後ろの方すごい怪我しとるやんか!」

「ああ…まぁ色々あってな。だがこの程度ならなんでもないさ。それとこいつは…」

「…バーダックだ」

「あ、ああどうも。私八神はやてです。今回はバーダックさんにもご迷惑を…」

 

はやてが謝罪をしかけた時、本局からやって来たクロノが話の間に割って入る。

 

「すまないな、水を差してしまうんだが…時空管理局執務官のクロノ・ハラオウンだ。時間が無いので簡潔に説明する。あそこにある黒い淀み…闇の書の防衛プログラムがあと数分で暴走を開始する。僕らはそれを何らかの方法で止めないといけない」

 

クロノの深刻そうな表情に、先程とは打って変わって一気に場の空気が張り詰める。

 

「停止のプランは現在二つ。一つ、極めて強力な氷結魔法で停止させる。二つ、軌道上に待機している艦船アースラの魔導砲、アルカンシェルで消滅させる。…これ以外に他にいい手はないか。闇の書の主とその守護騎士に聞きたい」

 

クロノの問いかけに、まずシャマルが答える。

 

「えぇっと…最初のは多分難しいと思います。主の無い防衛プログラムは魔力の塊みたいなものですから。」

「凍結させてもコアがある限り再生機能は止まらん。」

「アルカンシェルも絶ッ対ダメ!こんな所でアルカンシェル打ったらはやての家まで吹き飛んじゃうじゃんか!」

「そ、そんなにすごいの…?」

「発動地点を中心に百数十キロ範囲の空間を歪曲させながら反応消滅を起こさせる魔導砲…ていうとだいたい分かるかな?」

「ええっ!あのっ…!私もそれ反対!」

「同じく絶対反対!」

「…僕も艦長も使いたくないよ。でも、あれの暴走が本格化したら被害はそれよりはるかに大きくなる」

「うう…そっか…」

「バーダック。お前のフルパワーならどうだ?今のお前なら相当威力のあるエネルギー波でもある程度範囲を絞って撃てるだろ?」

「いやパラガスさん…流石にそれは無理が……と言いたい所ですが、この人の場合はできてもおかしくないですね」

「ああ。今のこいつならば小型の星ぐらい吹き飛ばせるだろうからな」

「ほ、星って…ちょっと大げさな気もするけど…」

「…で、本人としてはどうなんだい?」

「さあな。粉々に吹き飛ばす事はできるかもしれんが、闇の書ってのは再生機能があるんだろ?」確実に消し飛ばせるかどうかは俺にも分からん」

「うーん…ちょっと確実性にに欠けるわね…」

「他に何か案は無いか?」

「…すまない。あまり役に立てそうに無い」

「暴走に立ち会った経験は我らにもほとんど無いのだ」

「でも…なんとか止めないと…はやてちゃんのお家が無くなっちゃうの嫌ですし…」

「いや…そういうレベルの話じゃないんだがな…」

「あー!なんかごちゃごちゃ鬱陶しいなぁ!」

 

なかなか結論の出ない会議についにアルフが痺れを切らす。

 

「皆でズバッとぶっ飛ばしちゃう訳にはいかないの!?」

「あ、アルフ…これはそんなに単純な話じゃ…」

「ズバッとぶっ飛ばす…」

「ここじゃ被害が大きくて撃てへん…」

「でも…ここじゃなければ…!」

「「「あっ…」」」

ここで小学生三人に凄まじい案が浮かぶ。それはこの歳ならではのぶっ飛んだ作戦だったが、成功すれば被害をゼロに抑えられる夢の作戦でもあった。

「…実に個人の能力頼りでギャンブル性の高いプランだが…まぁ、やってみる価値はある…!」

「それじゃあ…!」

「ああ。これで行こう」

「おいちょっと待て」

「…どうしたのバーダックさん?」

「この作戦の前にお前らに聞いておきたい事がある」

そう言うとバーダックははやてと守護騎士達の方に向き直る。

「ん…なんだ一体」

「確かさっき防衛プログラムは魔力の塊だと言っていたな」

「ええ。言いましたけど…」

「…俺の勘違いじゃなければあの防衛プログラムからは微かに気が出ている。これはどういう事だ?」

「えっ…!?闇の書から気って…そんなまさか…」

「パラガス、お前は感じるか?」

「…言われてみれば確かに出ているな…」

「妙だな…闇の書にそんな力は備わっていないはずだが…」

「あっ!もしかしてあれじゃねーか!?ほら、蒐集を始めたばっかの頃にさ!」

「あっ…そうよ!きっとそれだわ!」

「どういう事だ…?」

「実は蒐集を始めた時ばかりの時、パラガスさんが提案したんです───」

 

〜〜〜

 

『なぁ、蒐集ってのは魔力がある生物でないとダメなのか?』

『ああそうだが…』

『突然どうしたんですか?』

『いや、俺の持ってる力は蒐集できないのかと思ってな。』

『ええっと…確か「気」でしたよね…?うーん…やって見た事はないですが…』

『なら物は試しだ。ちょっと俺から蒐集してみてくれ。』

『ええっ!だ、ダメですよパラガスさん!気持ちはありがたいですけどこれ凄く辛いんですよ?』

『いいからやってみろ。ページは稼げる時に少しでも稼いだ方がいいんだろ?それに危険ならすぐに止めれば大丈夫だ。』

『それはそうですけど…』

 

〜〜〜

 

「…という訳でダメ元でパラガスさんから蒐集しようとしたんです」

「そ、それはちょっと無茶なんじゃ…」

「いや、結論から言うと蒐集自体はできた」

「ええっ!?…それは本当か?」

「ああ。正直私たちも驚いた。元々魔力を吸収するように作られた物が全く別のエネルギーを吸い取ったのだからな」

「だけど、結局パラガスがすげー疲れただけでページにはならなかったんだ。蒐集したのはその一回だけ」

「特に闇の書に変化も見られなかったのですっかり忘れてたんですけど…」

「だが今になって気が感じられるという事は防衛プログラムに何らかの影響が出ているかもしれない」

「防衛プログラムのバリアは魔力と物理の複合四層式…のはずなんやけど…これだと変わってしまってるかもしれへんな…」

「すまん…俺が余計なことをしたばかりに…」

「今更悔いてもしょうがない。あまり気に病むな」

「…これでまた不確定な要素が増えてしまったが…とりあえず今の所はプラン変更は無しだ。皆、それでいいか?」

 

クロノの問いかけに全員が首を縦に振る。するとその時エイミィから通信が入る。

 

「とりあえずまとまったみたいだね。闇の書の暴走開始まで残り二分だよ!そろそろ準備お願い!」

「あっ…せやシャマル、なのはちゃん達の治療お願いできるか?」

「はい。もちろんですよ」

 

シャマルはにっこりと微笑むと、魔法の詠唱を開始する。

 

「静かなる風よ…癒しの恵みを運んで…!」

「えっ…?」

 

シャマルが詠唱を終えると、五人の体が柔らかな緑の光に包まれる。するとたちまち傷は癒え、なのはとフェイトは傷ついたバリアジャケットも元通りに修復されてゆく。

 

「凄いです…!」

「ありがとうございます、シャマルさん!」

「シャマル、いつもすまんな」

「いえ…私の本領は癒しと補助ですから。ですがバーダックさんはダメージが大きかったので回復しきれていないかもしれませんが…」

「構わん。何もしないよりはずっとマシだ。…一応礼を言うぞ」

「ふふっ…どういたしまして。あっ、それとパラガスさん、ブロリーちゃんはどうするんですか?」

「ああそうだったな。うむ…確かにこのままでは戦いづらいな…」

「それなら私が預かっておきます」

「はやて…大丈夫なのか?」

「はい。私はパラガスさんみたいに近距離でパンチやキックはしませんから」

「そうか…なら頼むぞ」

 

はやてはパラガスからブロリーを受け取ると、優しく抱きしめて頭を撫でる。

 

「ごめんなブロリー…辛い思いさせてしもうて…。今度は私がちゃんと守るからな…」

 

眠っているブロリーが返事をすることは無かったが、はやての問いかけに応えるようにはやての服をギュッと握りしめる。

 

「ふふっ…これが終わったら今度こそ一緒にご飯食べような?」

 

その時だった。ついに闇の書の暴走が本格的に始まり、無数の触手状のバリケードが海面から飛び出す。触手と言えば聞こえはいいがその一本一本が龍の尾ほどのサイズであり、これだけで闇の書の凄まじい力が読み取れる。

 

「始まる…!」

 

程なくして防衛プログラム本体も海中から姿を現す。幾多の生物を強引に組み合わせたような体の頭に、女性の体が埋め込まれている。その怪物の体の一部には、大猿の物と思われる腕や足も組み込まれていた。そして完全に地上に現れると、防衛プログラムは女性の悲鳴を彷彿とさせる不気味な叫び声を上げる。その姿は禍々しさを通り越し、神々しさすら覚えるものであった。

夜天の魔導書を呪われた闇の書と呼ばせたプログラム、通称、闇の書の闇。管理局を、一般人を、そしてサイヤ人をも巻き込んだ事件の最後の戦いが今始まろうとしていた。

 

 




どうも、顔芸です。
今回はいつもに比べて本編が倍近くになってしまいましたが、今回は何を書くかほとんど決まっていたのでスラスラ書き進めることができました。

さてここからは内容についてですが、まずバーダックの夢についてですが、予想通りでしたでしょうか?最初はなのは達も出そうと思ったのですが、今回はあくまで失った幸せの夢という事にしたかったので、登場するのはトーマ達のみになりました。それと書いていて思い出したのですが、悟空が超神水を飲みに行くアニオリで闇の書の夢と似たようなシーンがありましたね。

さらにもう一つ、今回明かされた気の蒐集は完全にオリジナル要素です。正直これはやりすぎたと反省してます。…と言ってもこれは前々から考えていたことでして、七話で伏線を張ってました。ホントにちょろっとしか発言してないので、ここまで忘れてなかった人は本当に凄いと思います。

そしていよいよ次が最後の戦闘回です。戦闘シーンは苦手なのでクオリティーは保証できませんが、頑張って書きますので読んでくださると嬉しいです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十八話 決戦

「とうとう出やがったな…!」

「皆!予定通りに頼むぞ!」

ついにバーダック達の前に現れた防衛プログラム。幾つもの悲しみの歴史に終止符を打つため、今ここに最終戦の火蓋が切って落とされたのであった。

 

「まずはアタシ達だ!あのウザいバリケードを破壊するよ!チェーンバインドッ!」

「ストラグルバインド!」

 

最初に動いたのはサポート班のアルフとユーノ。二人は闇の書の周囲の海面から伸びるバリケードにバインドを巻き付ける。

 

「バインドには…こういう使い方もあるってことさっ!」

 

本来相手の動きを封じるために使用される技だが、二人はバインドを手足のように操りバリケードを寸断してゆく。さらにもう一人のサポート班のザフィーラもそれに続く。

 

「決まれっ!鋼の軛…!でりゃぁぁぁっ!」

彼が叫び声を上げると、魔法陣から白い魔力光が放たれる。ザフィーラはそれを鞭のように巧みに操ると、アルフとユーノが取りこぼしを残らず切り捨ててゆく。こうして丸裸になった闇の書本体になのはとヴィータが攻撃を仕掛ける。

 

「ちゃんと合わせろよ!高町なのは!」

「ヴィータちゃんもね!」

「フン…!鉄槌の騎士ヴィータと、鉄《クロガネ》の伯爵、グラーフアイゼン!」

『Giganto form』

「轟天爆砕!」

ヴィータがグラーフアイゼンを豪快に振り上げると、先端部分が信じられないほと巨大化する。そのサイズは大猿を上回る大きさを誇る防衛プログラムのさらに二倍程の大きさだ。

 

「ギガント…シュラーーークッ!」

 

ヴィータはその凄まじい大きさのハンマーを防衛プログラムに叩きつける。しかし、物理と魔力の合わさったヴィータの必殺技を持ってしてもバリアを一枚破るのが精一杯だった。しかし、攻撃はヴィータ一人で終わる訳ではない。

 

「高町なのはとレイジングハートエクセリオン…行きます!」

 

ヴィータに続き、間髪入れずになのはが攻撃に移る。だが防衛プログラムもチャージタイムの長いなのはの技を黙って見過ごす訳が無く、バリケードから魔法弾を発射し迎撃を試みる。

 

「エクセリオン…バスターァァッ!」

しかし、なのはの強烈な一撃に魔法弾は呆気なくかき消され、桃色の光はそのままバリアを吹き飛ばしてゆく。

 

「次!シグナムとテスタロッサちゃん!」

 

「剣の騎士…シグナムが魂…炎の魔剣レヴァンティン!刃の連結刃に続く…もう一つの姿…!」

シグナムが剣と鞘を合体させると、レヴァンティンは弓へと変貌を遂げる。そしてシグナムが弦を力強く引くと、周囲に勢いよく炎が立ち上る。その姿はまさに烈火の将と呼ぶにふさわしいものであった。

「駆けよ!隼っ!」

シグナムの放った鋭い一撃はバリアを紙のように貫通し、余波によってバリアを打ち砕いた。

 

「フェイト・テスタロッサとバルディッシュザンバー…行きます!」

 

フェイトがバルディッシュを天に掲げ、魔力を集中させる。

 

「撃ち抜け!雷刃!」

フェイトが黄金色の大剣を振り下ろすと、再生しかけていたバリケード諸共、防衛プログラム最後のバリアもあっさりと破られる。

(よし…!このまま本体に攻撃を…!)

フェイトは最後のバリア打ち砕いた勢いをそのままに本体に攻撃を仕掛ける。

「えっ…!これはっ…!」

 

しかし、フェイトの攻撃は本体には通らず、本来なら存在しないはずのバリアによって弾かれてしまう。

 

「違う!四層式じゃない!」

「くっ…!やはり蒐集した気の影響が出ているか…パラガス!バーダック!」

「ああ!任せろっ!」

「へっ…やっと俺の番か。待ちくたびれたぜ」

今までのバリアよりも数段強力な気の障壁。しかし二人は臆することなく攻撃態勢に入る。

「これがサイヤ人の力だ…!デッド…パニッシャァァッー!」

「見てろよトーマ…!でりゃああああっ!!」

青と緑の光が海面を切り裂きながら防衛プログラムに向かって突き進む。

「オオ…オオオォォォ…!」

防衛プログラムは二人の攻撃を押し返さんと悲鳴のような声を上げる。エネルギー弾はバリアと衝突し、しばらく膠着状態が続いていたが徐々に二人の攻撃が押し込まれてゆく。そしてバリアがバーダック達に押し負け歪な形に変形した瞬間、二人は一気に気を込め威力を倍増させる。

「今だぁぁっ!」

「はあぁぁっ!」

 

エネルギー弾は見事にバリアを破壊し、更には闇の書本体の一部の破壊に成功する。

 

「よし…バリアは全て破った!はやてっ!」

「彼方より来たれ…宿木の枝。隠月の槍となりて打ち貫け!石化の槍…ミストルティン!」

はやての詠唱が終わると、白銀の光柱が闇の書に突き刺さる。するとたちまち防衛プログラムの体は石像へと変貌し、更にはその一部が崩れ落ちる。

「よし…!このまま…」

 

しかし闇の書の驚異的な再生能力によって、今までのダメージや石化もすぐに元通りに修復されてしまう。欠損した足はより強靭なものとなり、傷口のあった背中部分からは大猿の首が皮膚を突き破って生え始めていた。

 

「うわっ…なんだいありゃ…」

「なんだか凄い事に…」

「やっぱり並の攻撃じゃ通用しない…ダメージを入れてもすぐに再生されちゃう!」

「だが攻撃は通ってる!プラン変更は無しだ!行くぞ…デュランダル!」

「Okay boss」

 

クロノは慌てるエイミィを諭すと、グレアムから預かったデュランダルで凍結を試みる。

 

「悠久なる凍土…凍てつく棺の地にて…永遠の眠りを与えよ…」

 

クロノが詠唱を始めると、防衛プログラムを周囲の海面ごと凍りつかせてゆく。

 

「凍てつけっ!」

『eternal cofin』

究極の氷結魔法が防衛プログラムを完全に凍りつかせ、全く身動きが取れない状態になる。

「…あいつもなかなか出来るじゃないか。」

「へっ…パラガス、驚くのはまだ早いようだぞ。」

「行くよ!フェイトちゃん、はやてちゃん!」

「「うん!」」

『starlight Breaker.』

「全力全開!スターライト…」

「雷光一閃!プラズマザンバー…」

「(ごめんな…おやすみな…)響け終焉の笛…!ラグナロク…」

 

「「「ブレイカーァァァァッ!!」」」

 

極限まで高められた三つの魔力が同時に放たれる。防衛プログラムは最期まで抵抗したが、耐えきれずに光に飲まれてゆく。この圧倒的な威力の魔法の前にはさしもの防衛プログラムも防ぎきれない────誰もがそう思っていた。

 

「あれ…?本体コアが無い………」

「シャマルさん!本体のコアは…」

「それが見当たらないの……っ!まさか!」

 

徐々に煙が晴れ、防衛プログラムの姿が見え始める。そこにはバラバラになった怪物達の残骸が浮かんでいた。

「みんな気をつけてっ!防衛プログラムはまだ────」

 

シャマルがそう言いかけた瞬間、辛うじて胴体と繋がっていた大猿の頭から轟音を立ててエネルギー波が発射される。防衛プログラムの最後の足掻きとも取れる攻撃の矛先は────

 

「えっ…」

 

 

──皮肉にもはやてに向けられていた。

 

 

「おい!まずいぞ…!」

「はやてちゃん!避けてぇぇ!」

「主っ!」

「はやてっ!」

しかし、戦闘経験がほとんどないはやてに突然の攻撃を回避するのは無理があった。まして今は慣れない力を使って判断力が低下している状態。はやては回避どころか防御すら出来ずに光に呑まれてゆく。

 

(私…死んでしまうん……?)

 

はやての脳内を走馬灯が駆け巡る。

 

(せっかくみんなで家に帰れそうやったのに…)

 

思い出すのは騎士達との穏やかな日々。

 

(やっぱりあの人達の言う通りやったんか…?)

 

『君はもう助からない』

『はやてちゃん…運命って残酷なんだ』

 

それははやてを絶望の淵へと追い込んだ二人の言葉。その言葉通り、運命は無慈悲にもはやての命を奪い去ろうと迫る。

 

(それでも嫌や…こんなところで終わりたくない…)

 

それは少女の小さな願い。今その願いを聞き届ける者は────

「誰か…助けてっ…!こんな運命…“ 壊してっ!”」

「うっ…うああああぁぁぁぁっ!」

 

「嘘…はやて…ちゃん…」

「はやてっ!はやてぇっ!ううっ…クソッ…!あの野郎!」

「落ち着けヴィータ!あれを見てみろ!」

「えっ…あっ…!」

 

聞き覚えのある泣き声に目をやると、防衛プログラムの攻撃を受けていたはずのはやてが、緑のバリアを纏い佇んでいた。

 

「これは一体…」

「はやてちゃん大丈夫!?怪我は──」

『皆!防衛プログラムがまた再生しちゃいそうだよ!誰か攻撃を…』

 

エイミィの通信で一同ははっとして視線を移すと、防衛プログラムは既に再生を始めていた。

 

「俺がやってやる。この状態なら俺一人で十分だ!」

そう言うとバーダックは右手に全てのエネルギーを集め、エネルギー弾を生成してゆく。

「はあああぁぁぁぁぁぁぁっ…」

バーダックが気を高めると、彼の周辺に電流が流れ大気が震え始める。

 

「行けっ!バーダック!」

「お願いバーダックさん!」

 

「これで最後だあぁぁぁぁっ!」

 

バーダックの渾身の力を込めたエネルギー弾は海を引き裂きながら対象に向かって突き進んで行く。そして防衛プログラムの胴体部分に命中すると、内側から凄まじい大爆発を引き起こす。弾け飛んだ肉体の内側からは美しい七色の光が発せられ、溜め込んでいた魔力が吐き出された事を示していた。

 

「きゃあっ!な、何…?」

「くっ…!やりすぎだバーダック!こっちにまで余波が…」

バーダックの規格外の威力の技に近くにいたパラガス達は狼狽えていたが、離れた場所で待機していた転送班の三人はしっかりとコアを捉えていた。

 

「…今度こそ本体コア露出……捕まえた!」

「よし!長距離転送!」

「目標軌道上!」

 

三人がコアの位置を確認すると、防衛プログラムの残骸の上部に巨大な魔法陣が現れる。

 

「「「転送ぉぉっ!」」」

 

三人が声を合わせて言い放つと、一瞬にしてコアを宇宙空間まで移動してしまう。すると先程までの戦闘が嘘のように辺りには静寂に包まれる。

 

「終わった…のか…?」

「…僕達にできることは全てやった。後はアースラから連絡を待つだけだ。」

 

そして上を見上げると、遥か上空で強烈な光が放たれ、アルカンシェルが発射された事が分かる。辺りには重苦しい空気が漂っていたが、しばらくするとエイミィから明るい声で通信が入る。

 

『みんなっ!もう大丈夫!防衛プログラムの完全消滅を確認したよ!本当にお疲れ様!』

「はぁ…終わったか…」

 

エイミィの通信を聞いた一同は、思わず安堵のため息を漏らす。

 

「そうだはやてっ!はやては大丈夫なのか!?」

「うん。大丈夫やでヴィータ。…この子が守ってくれたからな」

「ブロリーちゃんが…?じゃああの緑のバリアって…」

「あれはブロリーが作ってくれたんよ。あれが無かったら私は今頃ここにおらんかったと思う」

「そうでしたか…ブロリーが…とにかく、ご無事で何よりです」

「ふふっ…みんなありがとうな…」

 

 

〜〜〜

 

 

「…バーダックさん、お疲れ様です。その…」

「全く…お前は相変わらず手間を掛けさせやがって…」

「…そ、それは…ごめんなさい…」

「…だがまぁ…さっきの攻撃はなかなかだった…お前にしては良くやったな、フェイト」

「…あっ…はいっ!」

 

「やれやれ…相変わらず不器用な奴だ……」

 

そんな様子を見ていたパラガスがポツリと呟く。

 

「アンタもそう思うかい?」

「ん…お前は確か…アルフだったな。今あいつはお前達の所にいるのか?」

「ああ。…と言ってもほとんど修行だとか言って部屋にこもってるけどね」

「そうか…まぁなんだ…俺が言う事でもないかもしれんが悪いヤツじゃないんだ。できれば良くしてやってくれ」

「へへっ…言われなくても分かってるよ。ちょっとぶっきらぼうなとこもあるけどいざと言う時は頼りになる奴だからね。それよりそろそろアースラに行かないかい?私もう疲れちゃってさ…」

「ハハ…そうだな。じゃああいつらにも声を───」

その時、パラガスの声をかき消すようにヴィータ達が大声を上げる。

「はやてっ!」

「はやてちゃん!」

 

声の方を振り向くと、そこには気絶してシグナムに抱えられたはやての姿があった。

 

「どうした!」

「急に主が倒れてしまってな…闇の書の侵食は止まっているはずなのだが…」

「…前のように苦しんでいる様子はない。単に慣れない事をして疲れたんだろう」

「そうか…なら良いのだが…」

「とにかくすぐにアースラに行こう。あそこならある程度検査もできる」

「ああ…よろしく頼む」

 

こうしてバーダック達と防衛プログラムとの戦いは終わりを迎えた。しかしまだ事件の全てが解決した訳ではない。新たな始まりを迎えるために、バーダック達は区切りをつけなければならないのであった。

 




どうも顔芸です。
今回はA's最終戦でしたがいかがだったでしょうか?正直なところ、私は敵が防衛プログラムだったので、今までで一番書くのに苦労しました(笑)そのためバーダック達の動きが一段と想像しづらいところがあったかもしれません。もし気になる点やおかしな点がありましたら遠慮なくコメントして頂けると嬉しいです。

それと全く話は変わるのですが、今年はDBとなのはの両方で劇場版があるみたいですね!いやー今から楽しみです!皆さんも是非映画館に足を運んでみてはいかかでしょうか。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十九話 意思

アースラに到着したバーダックははやての無事を確認した後、窓際で一人地球を眺めていた。

 

「…………」

「こんな所にいたのか」

「…クロノか。何か用でもあるのか?」

「闇の書…いや、夜天の魔導書について進展があった。なのは達にも報告をするから少し来てくれないか?」

「…分かった」

 

バーダックはクロノと共に歩き出す。しばらくは無言でいた二人だったが、道中でクロノが話を切り出す。

「…そう言えば君にはもう一つ話しておく事があった。」

「あの猫女のことか?」

「ああ。グレアム提督とあの二人は別の方法で闇の書の封印を考えていたんだ」

 

クロノはざっくりとグレアム提督の作戦を伝え、彼らに悪意は無かった事を話した。

 

「…なるほどな」

「まぁその氷結魔法は君が見た通り大して防衛プログラムの動きを止めることはできなかったんだがな」

「それで奴らはどうなるんだ?」

「…正当な理由があったとはいえ彼らのした事は立派な犯罪だ。具体的には分からないがこのまま何も無いという事は多分ない」

「そうか…ならいい」

「………」

「…まだ言いたい事でもあるのか?」

「いや、そういう訳じゃないんだが…なんというか意外と冷静なんですね」

「なんだ、俺が奴らをどうにかするとでも思ったのか?」

「そこまでじゃなくても少なくとも愚痴ぐらいは言うと思ってたんですけど…」

「…私利私欲のために動いていたなら殺していたかもしれねぇがな。それにもう終わった事をいちいち掘り返していたら面倒だろうが」

「…君がそんな風に思っていたとは意外だったよ。まぁこちらとしてもその方がありがたいしな。…っと話している間に着いてしまったな。この部屋だ」

 

二人が部屋に入るとそこにはなのは達四人が椅子に座って待っていた。

 

「あっ…クロノ君にバーダックさん」

「待たせて済まなかったな。それで話なんだが…」

 

 

〜〜〜

 

 

「夜天の書の破壊…?」

「どうして…?防衛プログラムは破壊したはずじゃ…」

「これは夜天の書の管制プログラムからの進言だ。」

「管制プログラムって…なのは達が戦ってた銀髪の?」

「ああ。防衛プログラムは無事破壊できたんだが、夜天の書本体はすぐにプログラムを再生してしまう。夜天の書が存在する限りどうしても危険は消えないんだ。…だから防衛プログラムの破壊されている今のうちに自らを破壊するよう申し出た」

「そんな…」

「でもそれじゃあシグナム達も…」

 

フェイトがそう言いかけた時、ちょうどやって来た本人達がそれを否定する。

 

「いや、私達は残る」

「シグナム…!」

「防衛プログラムと共に我ら守護騎士プログラムも本体から解放したそうだ。」

「それで…リインフォースからなのはちゃん達にお願いがあるって…」

「お願い…?」

「それからパラガスさんからもバーダックさんにお話があるって…」

「俺にか?」

「ええ。なんでも二人で話したい事があるって…」

「…まぁ面倒だが行ってやるか。」

そう言ってバーダックは席を立つと、パラガスの待つ部屋へと向かって行くのであった。

 

***

 

バーダックが教えられた場所に向かうと、備え付けの椅子に腰掛けたパラガスが待っていた。

 

「来たか」

「…一体何の用だ」

「…まぁ立ち話もなんだ。そこに座ってくれ。」

 

バーダックは言われた通りパラガスの向かい側に座ると、パラガスはゆっくりと口を開き始める。

 

「少しお前に聞きたいことがあってな。」

「…………」

「夜天の魔導書の破壊の事はもう聞いたか?」

「…ああ。確か破壊しねぇとまたあの化け物が蘇るんだったな」

「その通りだ。明日の午後には決行するらしい」

「………」

「なぁバーダック、本当にこれでよかったと思うか?」

「…何が言いたい?」

「俺はあいつが…リインフォースが自身の破壊を申し出た時、何も言ってやれなかった……俺には直接的なリスクは無い上に魔法プログラムの事は全く分からない。そんな俺が覚悟を決めたあいつに生きろと言うのは無責任な気がしてな…」

「………」

「だができることならあいつにも生きて欲しい…バーダック、俺はどうすればいいのだ…」

「…そんなことは俺が言う事じゃねぇ。自分で考えろ」

「……そうかもしれんな。変な事を言ってすまなかった」

「…だが一つ教えてやる。いいか、死ぬってのはそこで終わることじゃねぇ。そいつの願いや意志を一人でも継ぐ奴がいる限り終わる事はねぇんだ」

「意志…」

「状況から言って奴を生き残らせるのは無理があるのはお前も分かるだろう。だがどうしても奴を終わらせたくねぇなら……後は分かるな?」

(リインフォースの願いや意志…そうか…!)

「…ああ。おかげでするべき事が分かった。感謝する」

「フン…気が済んだならとっとと行きやがれ」

「あ、ああ分かった。…お前も何か困ったことがあれば遠慮なく言えよ」

 

(全くあの野郎…この世界に来てすっかり毒されやがったな…だがこれで奴も少しは安心して逝けるだろう……この俺のようにな)

 

彼は意思を継ぐ者の大切さを誰よりも強く感じていた。それは彼もまた、かつて自らのを意志を託した人間であったからである。

 

 

***

 

 

翌日の夕方、バーダックは一足早く約束の高台にやって来ていた。早めにやって来たため先客はいないだろうと思っていたが、リインフォースはすでに到着し、街を見下ろしていた。

 

「…お前か、バーダック」

「随分とお早い到着じゃねぇか」

「私が消えるのが遅くなれば主の侵食が始まってしまうからな。それとバーダック、昨日はパラガスに助言をしたそうだな。私からも礼を言う」

「フン…一体何の事だ」

「あいつも騎士達と共に私の意志を継ぎ…主はやてを幸せにすると言ってくれた」

「…………」

「そしてお前にも頼みたい。この先もし主はやてに危険が迫った時、助けが必要になった時…主はやての力になってはくれないか?」

「そういう事は騎士共かパラガスに頼みやがれ。……まぁ、気が向いたら考えてやらんこともねぇがな」

「フフッ…ありがとう。それで十分だ」

 

そんな会話をしているとなのはとフェイト、それに守護騎士達もやって来る。しかし、リインフォース以外の全員がどことなく暗い顔をしていた。

 

「…ああ…来てくれたか。」

「リインフォースさん…」

「そう呼んでくれるのだな。」

「貴方を空に還すの…私達でいいの?」

「お前達だから頼みたいのだ。お前達おかげで私は主はやての言葉を聞くことができた。主はやてを喰い殺さずに済み、騎士達も生かすことができた。…本当に感謝している。だから最期は…お前達に閉じて欲しい」

「シグナムさん達に聞きました…はやてちゃんとお別れしなくていいんですか?」

「主はやてを悲しませたくないのだ。」

「でもそんなの…なんだか悲しいよ…」

「お前達にもいずれ分かる。海より深く愛し、その幸福を守りたいと思えるものに出会えたらな…」

「リインフォースさん…」

「さて、そろそろ始めようか…夜天の魔導書の…終焉だ」

 

〜〜〜

 

リインフォースはなのはとフェイトが生成した魔法陣の中に入ると、静かに目を閉じる。その表情には昨夜のような悲痛なものではなく、清々しさと喜びに満ちていた。

 

『Ready to set.』

『get set.』

「ああ…短い間だったがお前達にも世話になった。」

『don't worry.(お気になさらず)』

『Take a good journey.(良い旅を)』

「ああ…ありがとう。」

 

その時だった。リインフォースは聞こえるはずのない声に自らの名を呼ばれパッと目を開ける。

 

「リインフォース!みんなっ!」

「あれは…」

「はやてちゃん…!」

 

そこには必死に車椅子を進めながら叫ぶはやての姿があった。

 

「あかん!リインフォース止めてぇっ!破壊なんてせんでええ!私がちゃんと抑える!大丈夫や!だからこんなんせんでええ!」

「主はやて…良いのですよ」

「良いことない…良いことなんかなんもあらへん!」

「…今まで長い時を生きてきましたが…最後の最後で私は貴方に綺麗な名前と心をいただきました。騎士達も貴方のそばにいます。何も心配する必要はありません。」

「心配とかそんな…」

「ですから…私は笑って逝けます。」

「うっ…話聞かん子は嫌いや!マスターは私や!話聞いて!私がきっとなんとかする…!暴走なんかさせへんって約束したやんか!」

「その約束はもう立派に果たしていただきました。主の危険を払い、主を守るのが魔導の器の務め。貴方を守るための最も優れた方法を、私に選ばせてください。」

「せやけど…ずっと悲しい思いしてきて…やっと…やっと報われたんやないか…!」

「私の意思は…貴方の魔導と騎士達…それからあの男が引き継いでくれました。私はいつも貴方のそばにいます」

「そんなんちゃう…!そんなんちゃうやろ!リインフォース!」

「駄々っ子はご友人に嫌われます。聞き分けを。我が主。」

「リインフォース!あっ!」

 

リインフォースに駆け寄ろうとしたはやてだったが、車輪が段差に引っかかり前のめりに転倒してしまう。

 

「なんで…これからもっと幸せにしてあげなあかんのに…」

はやては地面に這いつくばりながらリインフォースを見つめる。リインフォースはそっとはやての頬に手を差し伸べると、微笑みながらはやてを諭す。

 

「大丈夫です。私はもう…世界で一番幸福な魔導書ですから。」

「リインフォース…」

「主はやて。一つお願いが…」

「えっ…?」

「私は消えて…小さく無力な欠片へと変わります。もし良ければ、私の名はその欠片では無く、貴方のいずれ手にする新たな魔導の器に送ってあげてくれませんか?祝福の風…リインフォース。私の魂はきっとその子に宿ります。

そう言い残しリインフォースは再び魔法陣の中心に立つ。

 

「ううっ…リインフォース…」

「主はやて…守護騎士達…異世界の戦士達…そして小さな勇者達。ありがとう…そして…さようなら…」

「あっ…」

リインフォースはそう告げると光の粒子となって天に昇って行く。そしてその光も見えなくなると、代わりに金の首飾りがはやての目の前に舞い降りる。それは動くことも無ければ言葉を発することもなかったが、はやては胸元でぎゅっと握りしめるのであった。

 

 

***

 

 

リインフォースの最期を見届けたバーダックは、家でソファーに腰掛けいつものように星を眺めていた。現在の時刻は時刻は5時を少し回ったところ。普段ならまだトレーニングをしている時間だが、流石のバーダックも疲れが出たようで今日はトレーニングルームにすら入らなかった。そんな時、別室からやって来たフェイトがバーダックに話しかける。

「あの…バーダックさん」

「…なんだ。」

「隣…いいですか?」

「…好きにしろ」

バーダックがぶっきらぼうにそう言うと、フェイトは隣にちょこんと腰掛ける。

「あの…今日なのはとも話したんですけど、私管理局の仕事続けようと思うんです。今回みたいな事を少しでも早く止められるように…」

「…そうか」

「それでその…バーダックさんはこれからどうするんですか…?」

「…俺はここに永住するつもりはねぇ。だからひたすら元の世界を探す」

そう言うとフェイトは明らかに寂しそうな顔をして肩を落とす。

「そうですか…そうですよね…」

(またこれか…相変わらずガキは面倒だ)

以前フェイトが自分の生い立ちを話した時のように沈んでゆくのを見て、心の中でため息をつく。

「まぁ、元の世界に見つかるまでは…少しなら管理局の手伝いをしてやってもいいがな」

「あっ…!ほ、本当ですか?」

「少し…少しだけだ…!完全に奴らに付くわけじゃ……っておい、何しやがる…」

 

フェイトはぱぁっと明るい表情になると、バーダックの胸に飛び込む。

 

「フフッ…ありがとうございます…バーダックさん。お礼にしばらくこうしてますね…」

「チッ…何がお礼だ…ふざけたことを…」

 

珍しく甘えるフェイトを見ていると自らの息子のことが思い出される。

(そう言えば俺のガキは抱いてやった事は無かったな…)

バーダックは愚痴を言いつつもフェイトを引きはがしたりはせずに、フェイトの頭にやんわりと手を乗せ、しばらく物思いにふけるのであった。

 

「おい…いつまでそうしてやがる。いい加減離れろ」

 

バーダックはフェイトが自ら離れるまで待っているつもりだったが、いつまでたっても動かないフェイトを見かね声を上げる。しかしそれに対して返答が無かったため耳をすませると、フェイトは気持ちよさそうに寝息を立てていた。

 

(チッ…この野郎…手間をかけさせやがって…)

バーダックは仕方無くフェイトを抱き抱え寝室まで運ぶ。その間もフェイトは全く起きる気配がなく、とても静かに目を閉じていた。

 

(…本当によく寝てやがるな)

 

戦いの中に身を置いてきたバーダックにとって、子供が自分の腕の中で眠りにつくことなど今までには無かった。バーダック自身もそんな事になるとは予想もしていなかったし、したいとも思わなかった。だが、今こうしてフェイトを抱き抱えていると不思議と心が安らいだ。

 

「…元の世界に戻る方法でも考えるか」

 

フェイトをベッドに寝かせると、バーダックは小さく呟いて部屋を後にする。口に出さなければ元の世界に帰る気が無くなってしまいそうだったからだ。

 

(チッ…毒されたのは奴だけじゃねぇって事か。全く…)

 

こうして闇の書巡る戦いは幕を閉じた。しかし、新たな未来はまだ切り開かれたばかり。きっと彼はこれからも戦いの中で生き続けるのだろう。しかし、フリーザとの戦いの時のように“ たった一人”ではない。彼の周りには大切な仲間達がいるのだ。そんな未来に少しだけ希望を抱きながら、バーダックは再び星を眺めるのであった。




どうも。顔芸です。
今回はなんだか打ち切り漫画の最終回みたいな終わり方になってしまいましたが、実はエピローグ的なのがもう一話あります。正確に何話で終わらせるという計画は立ててなかったのですが、ちょうど20話完結になりそうです。

次回はいよいよ最終回ですので、また読んでいただけると嬉しいです。
それでは。






目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十話 大団円

「バーダックさん、お疲れ様でした」

「…エイミィか」

「それにしてもバーダックさん早かったですね。お昼頃までかかると思ってたんですけど」

「前にパラガスがいろいろと話しているからだろう。それにしても奴らなんで今頃になって事情聴取なんてしやがるんだ…」

「それはバーダックさんが活躍したからですよ。本局でも魔力を持たない民間協力者が凄い戦果を挙げてるって結構噂になってるんですよ」

「チッ…全く面倒な奴らだ…」

 

五月某日、バーダックは事情聴取を受けるために本局にやって来ていた。あれから民間協力者としてアースラに留まっていたバーダックは行く先々で大きな戦果を挙げ、管理局でもちょっとした有名人になっていた。

 

「まぁまぁそう言わずに…今日はフェイトちゃんの入局の日ですから、どの道本局には来ないといけなかったんですよ」

「そういやそのフェイトはどうしたんだ?入局の手続きだけならもう終わってもいい頃だろ」

「今日は入局の手続きの他にデバイスの調整がありますからね。でもそろそろ来る頃だと思いますよ。…あっ、噂をすればなんとやらですね」

 

エイミィが見ている方向に目を向けると、なのはとフェイトが歩いているのが見えた。しばらくすると向こうもこちらに気がついたようで、小走りでこちらに駆け寄って来た。

 

「こんにちは!エイミィさんにバーダックさん!」

「なのはちゃん久しぶりだね!あっ、制服届いたんだ〜!二人ともかわいいねぇ〜!」

「えへへ…そうですか…?」

「ふふっ…ありがとうエイミィ」

 

二人の姿は普段着ではなく、上着はパリッとしたジャケット、スカートも局員のものと同じタイトスカートを着用していた。本来なのはの世界では九歳が着るような服ではないのだが、大人びた二人が着ると案外様になっていた。

 

「うーん、まだなんか緊張します…」

「すぐ慣れるよ。これからちょくちょく着ることになるからね。」

「先輩、こっちもできました!」

 

そんな会話をしていると、マリーがはやてや騎士達を連れてやって来た。はやて達もそれぞれ制服を着込み、すっかり管理局に馴染んでいた。

 

「どうもですー…あっ!バーダックさん!」

「はやてか、久しぶりだな」

「久しぶりどころじゃないですよ…なのはちゃん達は来てくれるのにバーダックさんちっとも来てくれへんからいつまでもお礼が言えないまんまで…」

「別に礼などいらん。それよりお前達管理局に入るのか?」

「ああ。クロノ執務官がそう取りはからってくれたのでな」

「今回の事で管理局には迷惑かけてしまいましたし、せっかくあの子がくれた力ですから」

「…そうか」

「バーダックさんは管理局入らないんですか?」

「…俺はそう言うのは性に合わねぇんだよ。それに俺はお前達と違って魔力がねぇからな。入ろうと思っても無理だろ」

「そんなことないですよ。実際パラガスさんも入れましたし…」

「なっ…!あいつ管理局に入るつもりか!?」

「ああ、その通りだ。」

 

バーダックが驚きの声を上げると、背後からパラガスに声をかけられる。振り返って見るとそこには管理局の制服を着たパラガスがこちらに笑いかけていた。

 

「あっ、パラガスさんお疲れ様です。制服のサイズはどうでしたか?」

「うむ…丈はいいのだが如何せん肩周りや太股がきつくてな…」

「どれどれ……うわっ、パンパンじゃないですか…よく履けましたねこれ…」

「シャマル…お前もそう思うか。やはりあとでサイズを変えてくるよ。…それよりバーダック、久しぶりだな」

「パラガス…まさかお前が管理局とはな…」

「意外だったか?まぁ俺はこの世界で生きる事にしたからな。そうなるといつまでも無職ではやて達に迷惑をかける訳にもいかんと思ってな」

「あれ?パラガスさん魔力無いのにどうやったんですか?」

「本来なら魔力を持たない人間は試験を受けられないそうだが…その辺りはレティが話をつけてくれた。魔法の知識もシグナム達に教えてもらってな。使えるわけではないが一応知識としてはお前達と同等ぐらいのつもりだぞ」

「なるほど…そうだったんですか。」

 

そんな雑談をしていると、マリーの通信機にデバイスの調整完了の知らせが届いた。

「あっなのはちゃん、レイジングハートの再調整と補強終わったって!それとシュベルトクロイツのバージョン8が来てるみたいだからそっちは私が取って来るね」

「はい!ありがとうございます!」

「マリーさんおーきにですー」

「そうだ、預けたブロリーを引き取って来なければ。俺も少し行って来る」

 

こうしてなのは達部屋を出ると、今度はシグナムがバーダックに話しかける。

 

「バーダック、私と少し話さんか?」

「別にかまわねぇが…何か用でもあるのか?」

「いや、そう言う訳ではないが…よく考えてみるとあまり話していなかったと思ってな」

「…そうかもしれねぇな」

「まずはヴォルケンリッターの将として改めて礼を言わせてくれ。お前が居なければ主はやての命を絶ってしまうところだった」

「…だから礼はいらねぇって言っただろうが」

「そう言うな。私が言わないと気が済まないのだ」

「…そうかよ」

「ところで話は変わるんだが…」

「ん…?」

 

「先程デバイスの調整が終わったところなんだが…私と少し手合わせしてはくれないか?」

 

手合わせの話題になると、シグナムの表情がにこやかになり声色も明るく変わる。

 

「なんだと…お前…最初からそのつもりだっただろ…」

「ふふっ…いいではないか。お前も戦いは嫌いではなかろう。それとも負けるのが怖いか?」

「ほう…言ってくれるじゃねぇか…大事なデバイスがぶっ壊れても知らねぇぞ?」

 

(全く…シグナムもバーダックもとんだバトルマニアだ…)

 

バーダックはシグナムに焚き付けられ模擬戦を行うことになった。そんな様子を見ていたヴィータ達は苦笑いを浮かべるのであった。

 

***

 

(話には聞いてたけど無限書庫ってこんなに広いんだ…)

 

レイジングハートを受け取ったなのはは、ユーノの仕事場である無限書庫に立ち寄っていた。長年放置されていた無限書庫を整理するため多くの局員が飛び回っていたが、膨大な資料や本を前に苦戦しているようだった。

 

「あっユーノ君!」

「あれ、なのは?」

「今お仕事忙しいかな?」

「うーん…まぁぼちぼちかな…それより今日はどうしたんだい?」

「今日はレイジングハートのフレーム再強化と微調整が終わったから受け取ってきたの」

「それ少し前もやってなかった?」

「なんでもピーキーだし性能が独特だから調整が一苦労なんだって」

「ああそっか…カートリッジシステムも入ってるもんね」

「もしよかったら手伝うよ?お昼いっしょに食べたいし」

「ありがとう…正直助かる…」

 

〜〜〜

 

「…………」

(…ユーノ君?)

なのはがしばらく仕事を仕事を手伝っていると、ユーノが少し暗い顔をしている事に気付いた。

「どうしたのユーノ君…?暗い顔してるけど何かあった?」

「ああごめん…ちょっと時々考えちゃうことがあってさ…」

「考えちゃうこと…?」

「なのはも今じゃ立派な魔法使いだけど…もし去年の春僕がなのはと出会ってなかったら魔法と出会うこともなくて…そしたらなのは達や僕はどんな生活をしてたのかなって…」

「ユーノ君…」

「バーダックさんやパラガスさんだって運良くこっちの世界に来られたから助かったけど…状況を聞く限りもしこっちの世界に来られなかったら……なんていろんな“もしも”を考えると少し怖くなるんだ」

「うん…そうだね…私もそう思う……でも私は魔法に出会えて本当によかったと思ってるよ。ユーノ君を助けられる力があって、フェイトちゃんとも心を交わし合うこともできたし、闇の書解決のお手伝いもできてはやてちゃんとも友達になれて…本当によかったと思ってるの。みんなあの日ユーノ君に会えたからだもんね。それにユーノ君には教えてもらいたいことたくさんあるし、今もいっしょに居られるのがすごく嬉しいから!」

 

そう言ってなのはは屈託のない笑みを浮かべる。そんな顔を見ていると、ユーノも改めてなのはとの出会いに感謝するのであった。

 

「うん…そうだね…なのはの言う通りだ。僕もなのはに出会えて──」

 

ユーノがそう言いかけた時、ポケットの中の携帯が軽快な音楽で着信があったことを知らせる。

 

「はいもしもし……ええ大丈夫ですけど…はい……えっ?分かりました。それじゃあすぐ行きます。」

「ユーノ君誰から?」

「シグナムさんから。なんか練習用の結界を張れないかって連絡が来たんだ。なのはも一緒に来てくれない?」

「うんいいよ。でも急にどうしたんだろう…」

 

こうして二人は事の全容を把握しないまま、シグナム達の元へと向かうのであった。

 

***

 

「バーダックよ…がっかりさせてくれるなよ?」

「へっ、そうやって笑っていられるのも今だけだ!」

「バーダックさんと張り合った実力…試させてもらいます!」

「ふっ…お手柔らかに頼むよ」

 

「えっ…なにこれ…?どういう状況?」

なのは達がシグナム達の元へやって来ると、バトルジャンキーの四人が二組に別れて火花を散らしていた。

「あっ、なのはちゃんにユーノ君。なんか最初は調整後の慣らしって話だったんだけど…どういう訳か模擬戦になっちゃったみたいで…」

「なのはとヴィータもどうだ?」

「アハハ…私は今日は遠慮を…」

「アタシもパス。無駄な戦いは腹が減るだけだしな」

「…と言って主やブロリーの前で負けるのが嫌なだけだったりはしないか?」

「な、なんだとこのヤロー!やったろうじゃねぇか!」

まんまとシグナムに乗せられたヴィータは、何故かなのはに掴みかかる。

 

「ええっ!わ、私!?」

「そうだ!ととっとやるぞ!」

 

こうしてやる気のなかった人間まで巻き込み、慣らしという名の模擬戦が開始されるのであった。

 

***

 

「それにしても若い子達は元気ねぇ…」

 

クロノから模擬戦を聞きつけたリンディとレティは、優雅にコーヒーを飲みつつバーダック達の戦闘を別室から見ていた。

 

「そうねえ…とは言ってもあの二人はあんまり若くなさそうだけど」

「あの二人は別よ。なんでもサイヤ人って初老ぐらいまでは老けないらしいわよ?」

「えっそうなの?…ちょっと羨ましいわね」

「それはそうと今回の事件ってさ、第一級ロストロギア関連事件なのに終わってみれば死者0人。おまけにレア能力持ちの魔導師一人と即戦力レベルの配下四人、さらに未知の力を持った戦士まで仲間に引き入れて…リンディ提督はどんな奇跡を使ったんだって噂になってるわよ」

「あらまぁ……でも奇跡かどうかはわからないけどあの子達は本当に頼もしいわ。あの子達が大きくなって部下や教え子を引き連れて一緒に事件や捜査に向かって行くようになったら…世界はもう少し平和で明るくなるかもね」

「それはいいけど…今現在の訓練室がかなり危なくない?」

 

〜〜〜

 

 

「こいつでまとめて吹っ飛ばしてやる!お前らも会わせろよ!」

「「はい!」」

「や、止めろバーダック!それ以外気を高めるなぁ!」

「なのはちゃんとテスタロッサちゃんもこれ以上は───」

「こっちも準備完了や!私にも空間攻撃Sランクの意地がある!」

「は、はやてちゃん!?」

 

バーダック達四人はパラガス達の心配を他所に特大攻撃の準備に入る。

 

「…ユーノ」

「結界展開完了。大丈夫、訓練室は壊れない」

 

「これで最後ぁぁぁぁぁっ!」

「ディバイン…バスタァァッ!!」

「ファイアァァァァッ!」

「これでどうやぁぁっ!」

 

「お、終わった…」

 

二人の叫び声とパラガスの断末魔と共に訓練室は光と轟音に包まれてゆく。しばらくして視界が晴れると、そこには髪やバリアジャケットがボロボロになっている皆の姿があった。

 

「えへへ…やりすぎちゃった…」

「そうだね…」

「私もちょっとやりすぎてしもた…」

「はぁ…やっぱりこうなるのか…」

「全くお前達は危機管理能力が無さすぎる…」

しばらくすると、外でブロリーを預かっていたマリーが駆け寄って来た。

「皆さん大丈夫ですかー!?」

「ああ…なんとかな。」

「あーうー…」

ブロリーもボロボロな一同を見て心配したのか、はやて達に手を伸ばして声を上げる。そんな様子をみたはやてはブロリーを抱き抱えると優しく声をかける。

「大丈夫やでブロリー。ちょっとやりすぎちゃっただけやからな。ほら!私もこんなに元気や!」

「あーうー!」グイグイ

「痛い痛いっ!だから髪を引っ張るなっての!もう一歳になったんだからいい加減覚えろって!」

「「「ははははははっ!」」」

 

 

 

そんな微笑ましい様子に全員が揃って顔をほころばせる。今回はバーダックもその例外ではない。一同は明日も明後日も十年後もこんな笑顔でいられるように、未来へと向かって行くと心に誓うのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




どうも。顔芸です。
今回が最終回でしたがいかがだったでしょうか?
どうまとめていいか分からずに書くのに苦戦してしまい時間がかかってしまいました…

内容についてですが今回は闇の書事件から半年後のお話でした。
いろいろとツッコミどころは多いと思いますが、最後なので強引に詰め込んでしまいました。

今回初めての投稿だったので至らない部分もあったかもしれませんが、最後まで読んでいただいた方やコメントや指摘をくださったには本当に感謝しています。
また私が投稿した時は見てくださると嬉しいです。









はい、紛らわしい言い方でごめんなさい。A's編が終わっただけです。
DB風に言うなら、「最終回じゃないぞよ。もうちっとだけ続くんじゃ」ってやつですね。

次回からはsts編になります。
A'sよりもキャラや設定が多いので上手く書けるかは分かりませんが、大して期待せずに待っていてくださると嬉しいです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Sts編
第一話 再会


※今回からSts編になります。皆さんご存知かとは思いますが、前話から10年後のお話で、時系列的にはStsの数日前から始まります。
ここからは設定が多く分かりづらい箇所も多くなってしまうかもしれませんが、単語の解説等は基本的には省略していきますのでご了承ください。


「はぁ…」

 

 

管理局内のロビーで小休憩を取っていたフェイトは、長い金髪を揺らし小さくため息をこぼす。そんな様子を見かねたなのはは、顔をのぞき込みながら彼女に問いかける。

 

 

「どうしたのフェイトちゃん?さっきからため息ばっかりついてるけど…何か心配事?」

「うん…そんな事はないんだけど…はぁ…」

 

そんな事はない。そう言いつつも今日の彼女はどこか上の空で、窓の外をじっと眺めたままだった。

 

「…もしかしてバーダックさんの事?」

「うん…あの人が……あっ…」

「ふふっ…図星だね。やっぱりそうだったんだ」

「ははは…まぁそう…なのかな。でもどうして?」

「そりゃ分かるよ。だってフェイトちゃん、あの話を聞いてからずっとあの調子なんだもん」

「そ、そんなに顔に出てたかな?」

「出てる出てる。シグナムさん達も心配してたよ」

「そ、そうだったんだ…ごめんね…心配かけちゃって…」

「気にしないでいいよ。でもなんでそんなに悩んでたの?もしかして久しぶりに会うから緊張してるとか…」

「そういう訳じゃ…いやそれも少しはあるけど、久しぶりに会えるのは楽しみだし、強くなった所も見てもらいたいんだけど…」

「だけど…?」

「ほら、あの人ってあんまり局とか好きじゃないからもしかして…」

「ああ…そっか。もしかしたら断っちゃうかもって事か…」

「うん…」

「大丈夫だよ!はやてちゃんも必ず説得するって意気込んでたし…それにバーダックさんなんだかんだで優しいし!」

「うん…そうだよね…あの人ならきっと…」

 

そう呟くフェイトはまだ少し上の空であったが、再び窓の向こうを眺めつつ再会を待ち望むのであった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「こっちだ!早くしろっ!」

「くっ…う、腕が…」

「援護!援護はまだか!?」

 

とある世界、局員達はガジェットと呼ばれる兵器に急襲されていた。局員達は陣形を組んで応戦していたが現在この部隊にはBランク以上の魔導師がおらず、大量のガジェットに徐々に追い詰められていた。

 

「うっ…うう…」

「おい!しっかり───ぐはぁっ…!」

 

ガジェットの執拗な攻撃に局員達は次々と地に伏してゆく。戦闘を続けている者も限界は近く、明らかに攻撃の質が下がってきていた。

 

「隊長!こっちはもう持ちません…!」

「くそっ…ここまでなのか…!」

 

次々に襲いかかって来るガジェットを見て誰もが死を覚悟した───その時だった。

 

「な、なんだ!?」

 

ドンッという爆発音が聞こえたかと思うと、目と鼻の先まで迫っていた大量のガジェットの半数以上が粉々に粉砕されながら吹き飛ばされていく。

 

「チッ…このガラクタ共、どこにでも湧きやがって…」

「あ、あなたは…」

「喋っている暇があるなら吹き飛ばされねぇようにしゃがんでろ!」

 

男はそう一喝すると、残ったガジェット達に手をかざす。

 

「…くたばれっ!」

「なっ…!?」

 

一瞬の出来事だった。翳した手の平から眩い光が見えたと思った刹那、山のようにいたガジェット達は全て消滅したのだ。辺りに残されていたのは僅かなガジェットの残骸と、風圧によって大きく抉られた地面だけであった。

 

「…全く、手応えのねぇ連中だ」

「すごい…」

「どうなってるんだ…」

「おい、お前が隊長か?」

「は、はい!」

「…他の管理局の部隊が来るまで待っていてやる。またガジェットが来たら呼べ」

「りょ、了解です!」

 

突然の出来事に唖然としていた部隊長であったが、少しづつ落ち着きを取り戻し改めて男を見る。男の頬には十字の古傷があり、目付きは狼のように鋭い。体は羽織っているボロボロのマントで殆どが隠れているが、それでも肉体が鍛え上げられているのがはっきりと分かる。

 

「あの…つかぬ事をお聞きしますが…もしかしてあなたは…バ、バーダックさんでしょうか?」

「…だったら何だって──

「や、やっぱり!あっ申し遅れました。私この隊の部隊長を務めている〇〇〇〇です。この度は危ないところを助けていただきありがとうございました!」

「…礼はいい。それより何故俺のことを…」

「強力な敵のいる任務の時にふらっと現れて敵を蹴散らして行く人がいるって噂が広まってるんです。ここ最近じゃ局員で知らない人は殆どいないと思いますよ。なんせ管理局の上の方でも貴方のことを探してるとか…」

「チッ…相変わらず面倒な連中だ。これからミッドチルダに行くって時に…」

「これからミッドに行かれるんですか?」

「ああ。呼ばれて仕方なくだがな。全く…急に呼び出しやがって一体何の用だ?」

 

 

バーダックは空を見上げて小さく呟く。しかし、面倒だと言いつつも言葉とは裏腹に彼の声色は明るいものであった。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

バーダックを呼びつけた人物である八神はやてとその一家は、自宅で彼の到着を心待ちにしていた。

 

「バーダックさんは来てくれはるかな…?」

「きっと大丈夫だ。あいつは何だかんだで約束は守る男だからな。だがあの話を受けるかどうかはなんとも言えんがな…」

「…だな。あいつ十年前もこういうのは嫌だって言ってたしな」

「だが奴の力は本物だ。もし我らと共に戦ってくれるのならこれ程心強いことはない」

「はやてちゃん、バーダックさんってどんな人なんですか?」

「そっか。リインはバーダックさんに会うの初めてやもんな。ブロリーは小さい頃会ってるんやけど覚えてない?」

「…記憶にないな」

「うーん…そうやなぁ…なんて説明すればええんやろ…第一印象で言うたら、ちょっと怖い人って感じやな」

「怖いと言うより、愛想が無いって感じかしら?」

「自分にも他人にも厳しい男なのだろう。寝ても覚めても鍛錬に明け暮れていた」

「そんでもってアイツはシグナムやフェイト以上の生粋のバトルマニアだからな。なのはやフェイトはよく付き合わされてボロボロになってた」

「うう…やっぱり怖い人ですぅ…」

 

シグナム達が好き放題に話したおかげで、リインの中でのバーダックのイメージはとんでもない怪物になってしまった。

 

「こらこら、皆言い過ぎや。せっかくこれから来てくれるんやから滅多なこと言ったらあかんよ。…まぁ否定はできないんやけどな」

「…なんだか会うのが怖くなってきたです…」

「心配ないで。確かにちょっとぶっきらぼうな人やけど…根は優しい人や」

「そ、そうなんですかぁ…?」

 

そんな会話をしていると、不意に玄関のチャイムが部屋中に響きわたる。はやて達はバッと立ち上がると、小走りで玄関に向かって行く。

 

「はーい!今出ます!」

 

そう言いながらはやては勢いよく扉を開ける。するとそこには懐かしい姿があった。服の上からでも分かる鍛え上げられた筋肉、ツンツンと一部が重力に逆らう髪、まさしくあの男であった。

 

「いらっしゃいバーダックさん!わざわざ来てもらってありがとうございます」

「…はやてか。少し見ない間にでかくなったな」

「ふふっ…とりあえず立ち話もなんですから上がってください」

 

バーダックははやてに言われるまま室内に入ると、そこにはシグナム達八神家一同が揃って出迎える。その中には、数年前には見なかった顔もいくつか混ざっていた。

 

「なんだ…全員いやがるのか」

「久しぶりだなバーダック。数年ぶりだな」

「…そんなに会っていなかったか?」

「そうだよ…ったくお前アタシ達が呼ばないと永遠に来ねぇんじゃねぇか?」

「用事もねぇのに来る奴がいるか。それよりそのガキは…」

「ブロリーです…」

「ほう…こいつも前より随分でかくなってやがるな」

「それだけ月日が経ったということだ。戦闘力の方もなかなかだぞ。戦ってみるか?」

「へっ…おいパラガス、しばらく見ねぇ間に親バカが進んだんじゃねぇか?」

「そんな事は無い。実際パワーだけならば俺よりも数段上だ」

「本当か?」

 

バーダックはシグナムの方を向きながら尋ねる。

 

「ああ。私も時折見ているが信じられん力を秘めている。まぁ、コントロールの方はまだまだだがな」

「(やはり天才児という噂は本当だったか…)それともう一人その小さいガキは何者だ?」

「は、はい!わ、私はユニゾンデバイスのリインフォースⅡ《ツヴァイ》ですうっ!あのっ…よろしくお願いしますっ!」

(…!こいつが…)

 

懐かしい強敵の姿が蘇る。十年前の姿や雰囲気からは随分変わっていたが、よく見ると随所に面影が見られる。

 

「あの…バーダックさん?」

「…なんでもねぇよ。知ってるだろうが俺がバーダックだ。面倒だから忘れるんじゃねぇぞ」

「は、はいですっ!」

(フッ…このチビがあいつか…こっちは随分と縮んだじゃねぇか)

「おっと…話が逸れたな。それで?俺に何の用だ」

「…ええ。用事というより今回は是非お願いしたいことがあってお呼びしたんです」

 

バーダックが本題に入ろうとすると、はやては達は真剣な表現を浮かべる。そんな様子を見たバーダックも今回の件の重要さを感じ取り、睨むような鋭い目付きではやてを見つめ返す。

 

「…一応聞くだけ聞いてやる」

「バーダックさんは四年前ミッドチルダで起こった大火災…覚えてますか?」

「大火災…?あの空港が丸ごと潰れたやつか」

「そうです。それで…ああいう事件は本来ならミッドチルダの管理局部隊が動く事になってるはずなんです。それなのにあの時実際に救助に当たったんは初動の陸士部隊と災害担当、それからたまたま居合わせた私やなのはちゃんやフェイトちゃんなんです」

「………」

「この時みたいな災害救助は勿論、犯罪やロストロギアの対策も、何につけても地上の管理局部隊は行動が遅すぎるんです」

「…何が言いたいんだ?」

「あの時思ったんです。私が部隊を指揮して成果を挙げれば、上の方も少しは変わるかもしれへんって…そして今回、やっとその夢が実現できたんです。正式な部隊名は時空管理局本局、遺失物管理部…通称“機動六課”」

「おい…まさか…」

 

 

 

「バーダックさん。貴方の力を私達に貸して欲しいんです」

 

 

 

 

 




どうも顔芸です。
今回Sts編を書くにあたってアニメやwikiを見返したのですが…とにかく設定が多い!皆さんにすればそうでもないのかもしれませんが、私の脳ミソでは明らかにキャパオーバーです。

…さて、そんな事はさておきバーダック達の現在の状況について書いておこうと思います。

バーダック・・・闇の書事件解決後はしばらくフェイト達と行動を共にしていたが、リンディが艦長職を退いてからは元の世界に帰るため一人旅に出る。なのはが負傷した時などには駆けつけた事もあったが、基本的にはあまりフェイト達と会うことはなかった。彼女達との関わりで少し丸くなったが、相変わらず粗雑な性格。

パラガス・・・はやて達と共に管理局の仕事に従事し、頑強な肉体と高い戦闘能力で様々な事件の解決に当たってきた。そのため階級は魔力を持たない戦闘員としては異例の3等空尉。(ヴィータと同階級)
性格も今ではサイヤ人の凶暴さはすっかり抜けきり、戦闘以外では気のいいおじさんである。

ブロリー・・・DB本編では破壊の限りを尽くす悪魔と成り果てていたが、こちらの世界では凶暴性も抑えられ、はやて達と共に穏やかな日々を過ごす。性格は極めて物静かで穏やか。純粋にはやて達の助けになりたいという思いからエリオと同じ短期訓練校に通っていたが、今現在は特に面識はない。同年代の普通の人間どころか同じサイヤ人と比較しても破格の戦闘力を誇り、今回六課での活躍が期待されている。しかし何やら悩みを抱えているようで…
階級はエリオやキャロと同じく3等陸士。

こんな感じです。パラガス親子は随分とキャラが変わっていますが、平和に生きられたらこんな感じだったのではないかと思います。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二話 試験

「バーダックさん。貴方の力を私達に貸してくれませんか?」

「……」

 

 

バーダックは目を瞑り、何か考え込んでいる。思い空気の中、はやて達は生唾を飲んで彼の回答を待った。

 

 

 

「…悪いが断らせてもらう」

「…そうですか」

 

小さくそうつぶやくはやて。しかし諦めた訳ではない。真剣な表情を崩さずに話を続ける。

 

「…やっぱり管理局で働くのは抵抗がありますか?」

「…管理局でなくともだ。俺はもうどこかの組織に入るつもりはねぇ」

「ええ。私達も無理にバーダックさんを管理局に引き込もうなんて考えてません。あくまで管理局ではなく私が指揮する六課の協力者になって欲しいんです」

「…だとしてもだ。何故俺である必要性がある?確かに戦闘ではそこらの連中に負ける気はしねぇ。だが俺にはお前らのように魔力はねぇし、パラガスのように知識もねぇ。六課は遺失物の管理が仕事なんだろ?だったら俺よりも適任の奴なんぞいくらでも居るだろうが」

 

バーダックはもっともな意見を述べるが、はやては首を横に振って話を続ける。

 

「…それがそうでもないんです」

「どういう事だ?」

「AMFと言う言葉…聞いたことはありませんか?」

「AMF…そう言えば前に局の野郎がそんなような事を言っていたな…」

「AMFは平たく言うと魔法を無効化するバリアのようなもので、これがあると魔法攻撃が効かなくなる上に飛行や防御にも影響が出てしまうんです。厄介な事にこのAMFはほぼ全てのガジェットドローンが標準装備されています」

(そうか…それで奴らはあそこまで苦戦していやがったのか…)

「そしてこのガジェットドローンは私達が追っているロストロギア、レリックの収集を主な目的として作られています。つまり、私達は必然的にガジェットと多く戦う事になります」

「なるほど…それで魔力に頼らない俺を戦力に加えようって事か。だがそれならパラガスやブロリーで十分じゃねぇのか?」

「最近になってガジェットドローンの数も性能もどんどん上がっている。その内俺たちだけでは手に負えなくなるかもしれんのだ…」

「…お願いしますバーダックさん!バーダックさんの過去を考えれば無理なことを言ってるのは承知の上です!それでも…今は貴方の力が必要なんです!」

「バーダック、俺からも頼む」

「アタシもだ!」

 

そう言ってはやては深々と頭を下げ、シグナム達もそれに続く。その声色は真剣さがにじみ出ていた。

 

バーダックは迷っていた。はやて達の事は信用しているし、今の話を聞く限りは手伝ってもいいと考えていた。一方で過去のフリーザとの一件が、管理局のような組織に手を貸すことを拒む。

 

「…バーダックさん!」

 

そんな時だった。先程まではやての陰に隠れていたリインが声を上げる。

 

「あ、あの!今度の六課を設立するのに何年もいろんな人にお願いしたりはやてちゃん凄く頑張ってたのです!それにバーダックさんを六課に迎えるのはいろんな人に反対されましたけど…あなたを知ってる人はみんな来て欲しいって言って言ってたです!」

「リイン…」

 

「だからお願いです…!今は…今だけは…

 

 

 

 

 

 

 

「はやてちゃんの力になってください!」

『主の力になってはくれないか?』

 

 

 

 

 

 

(……!!)

 

 

 

偶然か、それとも必然か。必死に頼み込むリインの姿に、今は亡きのあの人物が重なる。交わした言葉は僅かだが、その言葉はしっかりと胸に刻まれていた。

 

「…チッ…上の連中が反対しているなら他の奴に頼めば良かったんじゃねぇのか?」

「うっ…そ、それはそう言う意味ではなくてですね…あ、あの…」

 

墓穴を掘ってしまったと感じたリインはアワアワとしていたが、彼の言葉は意外な物だった。

 

「…一年」

「えっ…」

「一年だけだ。仮にそれ以上六課の期間が延びても手は貸さんぞ」

「い、いいんですか!?ありがとうございますです!はやてちゃん!聞きましたか!?」

「うん…!しっかり聞いたで!ありがとうなリイン。バーダックさん、本当にいいんですか?」

「くどいぞ。…一年だけだ」

「(フフッ…こういうとこは変わってへんな)そうですか…ありがとうございます!」

「…話はもう終わりか?」

「あっ、待ってください!お礼と言う程のものではありませけど、ウチで夕飯食べて行きませんか?」

「あっ!それなら私が作──

「……シャマル、今日は私が作るからええよ」

「そうだ!お前が作ったのなんか食わせたらせっかくはやてとリインが説得したのに無駄になっちゃうじゃんか!」

「むっ、ヴィータちゃん!それは言い過ぎよ!私だって少しは成長したんだから!」

「…シャマル、今回ばかりは自重しろ」

「うっ…シグナムまで酷い…パラガスさん!何か言ってあげてください!」

「シャマル、試食なら今度俺とブロリーが付き合ってやるから」

(俺も食うのか…)

「…もういいです…どうせ私なんて…」

「ご、ごめんなシャマル!それじゃあ今度私と一緒に作ろうな?」

 

 

(面倒な事になりやがった…)

 

 

段々と収集がつかなくなって行く状況に呆れるバーダック。ため息をついて一人ベランダに出ると、暖かな風が彼の体に吹き付ける。優しい包み込むようなそれは、まるでこの男の新たな門出を祝福するかのようであった。

 

「フッ…安心しろ。約束の分ぐらいは面倒見てやる」

 

バーダックは空に向かって小さく呟くと、再び柔らかな風がバーダックを包み込むように吹き付けるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

翌日、バーダックははやてに連れられ、管理局の訓練施設にあるヘリポートにやって来ていた。眼前には実際に試験を行う広大なビル群広がっており、すぐ側には小型のヘリコプターが配置されていた。

 

「はやて…今日は一体何をするつもりだ?」

「実は今日機動六課に誘う予定の二人の魔導師ランク昇格試験があるんです。それをバーダックさんにも見てもらおうと思って」

「…そんなもの別に俺が判断しなくてもいいんじゃねぇだろ」

「ふふっ…今日はそれだけやないんですよ?今日は────」

 

「…バーダックさん?」

 

はやてが説明しようとした時、後ろから声を掛けられる。聞き覚えのあるその声に振り向くと、そこには一人の女性が立っていた。

 

「やっぱり…バーダックさんだ…!」

「お前…フェイトか?」

「はい…!お久しぶりです!」

 

バーダックが驚くのも無理は無い。彼が最後に見たのはフェイトがまだ中学生だった頃。バーダックの中では戦闘以外ではあどけながった少女だったフェイトだが、今では容姿端麗な女性へと成長していた。

 

「はやて、バーダックさんがここに居るってことは…」

「せや。勧誘成功や!」

「そうなんだ……あっ…あの…私も機動六課に配属になるので…またよろしくお願いしますね」

「…前みたいに手間を掛けさせるんじゃねぇぞ?」

「大丈夫です。あれから強くなりましたから!」

「フッ…それならいい」

 

数年ぶりの再会にしては味気ない会話ではあるが、それでも二人は笑みを浮かべていた。

 

「おっと…そろそろ時間やな。それじゃあ感動の再会も済んだことやし、目的地に移動しよっか。二人共このヘリに乗ってな」

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

ヘリに乗り込んだ三人は、試験会場の上空で候補である二人の様子を確認していた。青とオレンジの対照的な髪が特徴の二人。モニターに映る表情からは緊張している様子は見られず、実力が発揮できないという事はなさそうだ。

 

「スバル・ナカジマとティアナ・ランスター…?この二人が候補の魔導師か?」

「はい。二人ともなかなか伸びしろがありそうな子なんです」

「今日の試験の様子を見て、いけそうなら正式に引き抜き?」

「うん。直接の判断はなのはちゃんにおまかせしてるんやけどな」

「なのはだと…?あいつが判断するのか?」

 

思わぬ所で思わぬ人物の名前が挙がり、思わずバーダックははやてに尋ね返す。

 

「そうです。なのはちゃんは凄いですよ?本局武装隊のエースオブエース航空戦技教導隊の若手ナンバーワン」

「今のなのはを管理局で知らない人は居ないと思います」

「あいつがか…?確かにガキの頃から他の連中よりも力はあったが…信じられねぇな…」

「まぁ…バーダックさんが知ってる頃のなのはちゃんを考えればそうかもしれませんね」

「おっと…そんな事言ってる間に始まりそうやな」

「さて…お手並み拝見っと」

 

スタートの合図と同時に二人は隣のビルへと駆け出していく。流れに乗ったままティアナは拳銃型のデバイスから射出したアンカーを利用し屋上へ、スバルは窓ガラスを突き破ってビルへと転がり込む。スバルは内部のターゲットの破壊、ティアナは屋上からターゲットを狙撃するようだ。二人はあっという間に数十体のターゲットを破壊すると、止まることなく次の目的地へと駆けていく。

 

「うん。いいコンビだね。確かに伸びしろがありそう」

「せやけど難関なのはこれからや。特に狙撃型の大型オートスフィアが出てくると受験者の半分は脱落することになる…」

「その前のターゲットの配置もそのまま突っ込んだら集中砲火を受けるようになってるから、まだ油断は禁物だね」

 

そんな二人の心配を他所に、二人は流れるようなコンビネーションで次々とターゲット達を撃破していく。このまま行けば時間的にもかなり余裕がある…そんな時だった。彼女達が撃破し損ねた攻撃機がスバルを背後から狙い撃つ。離れた位置から見ていたティアナは、スバルに回避を促し自らはいち早くそれに気が付き魔法弾で反撃に出る。その内の一発が監視用のサーチャーに命中し、映像が途切れてしまった。

 

「ん…?なんや…?」

「サーチャーに流れ弾が当たったみたいだったけど…」

「一応何かあるとあかんから近くまで行ってみようか」(…さて、こいつらはどうするか)

 

バーダックはサーチャーからの映像が途切れる寸前、ティアナの身に起きた出来事を見逃さなかった。このピンチを二人はどう切り抜けるのか、バーダックは期待を胸に途切れたモニターを見つめるのであった。

 

 

 

 

 

〜〜〜

 

 

 

 

 

一方別の場所から試験を見ていたなのは達もサーチャーの異常に気が付き、その対応に当たっていた。

 

「トラブルかな…リイン、私も一応様子を見に行くね」

『はいです。お願いします』

『マスター、私もセットアップしますか?』

「そうだね。念のためお願い」

「なのは…俺はどうすればいい?」

「うーん…ブロリーちゃんは…」

「前にも言ったが…ちゃんは止めてくれ」

「あっ、そうだったね。それじゃあ…」

「六課に入れば俺は部下だ。呼び捨てでいい」

「そう?でも呼び捨てだとなんだか変だからブロリー君って呼ばせてもらうね」

「…分かった」

(ふふっ…ちょっと前まで子供っぽかったのに…しっかりしてる)

 

 

 

 

 

〜〜〜

 

 

 

 

 

その後の試験の内容は凄まじいものだった。まずはティアナのフェイクシルエットとスバルのウィングロードを駆使して狙撃型スフィアを撃破。その後スバルが負傷したティアナを背負いゴールまで突き抜けたのだ。…止まることなど全く考えずに。

その後なんとかなのはの魔法で二人は激突を免れたが、近くで見ていたリインは黄色い声を張り上げて二人を叱っているようだった。

 

「ふう…なんとか無事でよかったなぁ…」

「あれ?あの子なんか泣いてるみたいだけど…」

「実はあの子な、四年前の空港火災の時になのはちゃんが助けた子なんよ。ちなみにフェイトちゃんはあの子のお姉ちゃんを助けてるんよ」

「そうなの?女の子を助けたのはよく覚えてるけど…」

「そうそうその子や。部隊は別なんやけど今は二人揃って管理局員やってるんよ」

「そうだったんだ…」

 

そんな会話をしているうちにヘリが着陸し、スバル達が駆け寄って来る。三人がヘリから降りると、なのはが驚きの声を上げる。

 

「ああっ!バーダックさん!」

「ふふっ、予想通りの反応やね」

「久しぶりだな。おっと…今は高町一等空尉様だったな」

「うう…からかわないでくださいよ…というかここに来てるってことはバーダックさんも六課に?」

「なんだ、邪魔だとでも言いたげだな」

「とんでもないですよ!皆バーダックさんを待ってたんですから!」

 

「あの…バーダックさんって…もしかして最近噂になってる…というかなのはさんのお知り合いだったんてすか?」

「うん。私がまだ小学生の頃に一緒に戦ってくれたんだよ」

「そ、そうだったんですか…」

 

そんな会話をしていると、なのはの背後に控えていたブロリーがはやてに尋ねる。

 

「そういえばはやて、アレはやるのか?」

「おっと、そうやった!ヘリに乗る前に説明しよう思ってたのにすっかり忘れてもうたな」

「そういや何か言ってやがったな。それで?何をさせようってんだ」

「ふっふっふ…ズバリ!今日はバーダックさんにも試験を受けてもらいます!」

「そ、そうだったの!?私聞いてないんだけど…」

「そりゃそうや。バーダックさんを説得したのは昨日やし、受けてくれるかも分からんかったしな」

「…今のをやればいいのか?」

「それでもいいかと思ったんですけど…バーダックさんがやってもあんまり意味が無さそうなんで今回はある魔導師と模擬戦をしてもらいます」

「魔導師…なのはか?」

「ええっ、き、急に?」

「いいえ。なのはちゃんよりもっと適任の魔導師がいます。そうやねブロリー?」

「えっ、まさか…」

 

はやてと本人以外は心底意外そうな表情を見せる。それもそのはず、ブロリーはまだ10歳。サイヤ人特有の成長ペースも相まって背丈はヴィータより少し大きい程度。そんな少年にこの男の相手をさせるなど普通に考えればありえない事である。

 

「パラガスの倅か…というかこいつは魔導師じゃねぇだろうが」

「一応管理局的には魔導師ってことになってるんですよ。確かに魔力のない魔導師というのも矛盾してる気はするんですが…」

「…まぁいい。それならとっとと始めるぞ。…ブロリー、お前もサイヤ人なら俺を少しは楽しませて見やがれ」

「…ああ」

 

はやての思わぬ発言で、突如開始されることになった模擬戦。本来ならば出会うことすら無かった二人の戦いが今始まろうとしていた。

 

 




どうも、顔芸です。

今回はバーダック説得の回でしたがいかがでしたでしょうか。十年前のバーダックなら即効で蹴ってしまいそうな案件でしたが、少し丸くなったので断りきれませんでしたね。

それと今回はブロリーの目立った登場回でした。 書いていて気づいたんですが、ブロリーって暴走してない時はほとんど喋ってないんですよね…そのため今作では映画で親父ぃにコントロールされている性格に近いイメージで行きたいと思います。もし違和感があるようならば遠慮なく指摘していただけると嬉しいです。

それと次回はブロリーの初戦闘回になります。
個人的には夢のカードなのでより力を込めて書こうと思いますのでまた読んでいただけると嬉しいです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三話 片鱗

唐突に開始されることになったブロリーとの模擬戦。バーダックは久しぶりのサイヤ人同士の闘いに、思わず口元が緩みそうになる。対してブロリーの表情に笑みは無く、かと言って怒りや緊張している様子でもない。ただ無表情でバーダックを見つめ返している。

 

「あの…なのはさん、私達はどうすれば…」

「せっかくだから見ていくといいよ。今後あの人と一緒に戦うこともあるかもしれないからね」

「それにしてもはやて、どうして今になって試験を?バーダックさんの実力はもう測るまでもないんじゃ…?」

「それはそうなんやけどな。いくら強いと言っても体面っちゅうもんがある。局員でもない人間をいきなりはいそうですかって入れる訳にはいかんから…というのもあるんやけど、実はこの試合にはもう一つの目的があるんや」

「もう一つの目的…?」

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

「どうした!来ねぇならこっちから行くぞ!」

「…そうしてくれ」

「チッ…なんだそりゃ…後悔するなよ!」

 

バーダックはそう言い放つとブロリーに正面から一気に間合いを詰め、右拳でストレートを放つ。

 

(………)

 

それに対しブロリーは左肘を曲げてバーダックの攻撃を逸らすと、間合い更に詰めながら反対の腕でバーダックを殴りつける。しかし既にそこに居たのはバーダックの残像のみで、ブロリーの拳は空を切った。

 

「………!」

「へっ…なかなか出来るじゃねぇか」

「…今度は俺から行くぞ」

 

短い立ち回りであったが、互いに思うところがあったようで二人の表情はより真剣な面持ちへと変化する。

 

「でりゃぁぁっ!」

「…!」

 

今度はブロリーが先に仕掛ける。一気に懐まで飛び込むと、嵐のような連打でバーダックの顔面や胴体を狙い撃つが、バーダックはスウェイのみで全ての攻撃を回避していく。

 

「そこだぁっ!」

「グッ…」

 

ブロリーの攻撃が僅かに大振りになった隙に回避に徹していたバーダックから拳が飛び、ブロリーの顎が大きく跳ね上がる。

 

(チッ…もっと避けるつもりだったが…)

(強い…親父の言った通りだ…)

 

バーダックは間髪入れずにブロリーを蹴り上げると、そのまま空中戦へと突入していく。それと同時に二人の姿は消え、周辺には低い破裂音だけが響いていた。

 

「い、今何が…」

「全然目で追えない…」

 

観戦していたスバルとティアナは二人の動きのスピードに唖然としていたが、他の四人は目で追えているようで、会話にも余裕が見られた。

 

「はわわわ…バーダックさん強いですう…」

「…やっぱりバーダックさんは速いね…私達と一緒だった時より動きがさらに鋭くなってるんじゃないかな」

「バーダックさんも凄いけど…ブロリーってあんなに強かったの?」

「えっ、そ、そうやで。毎日パラガスさんやシグナム達にしごかれてだからなぁ」

「それにしたってあんなに…ブロリーってまだ10歳じゃ…」

「………」

 

「はぁぁぁっ!」

「ちぃっ!」

 

互いに放ったエネルギー弾がぶつかり合い爆発する。それにより発生した煙の中でも、二人は打ち合いを続ける。

 

「でやぁっ!」

「見えてるぞっ!」

「ぐうっ…」

 

一見互角に見える戦闘だが、やはりバーダックが一枚上手のようで明らかにブロリーが押され始めていた。煙が晴れる頃には、ブロリーの着ていた制服は所々穴が開き始めていた。

 

「…まだやるか?」

「フッフッフッ…」

(なんだ…さっきとは雰囲気が…)

 

段々と劣勢になって行くブロリーだったが、突然不自然に笑い始める。まだ実力を隠しているのかとも思ったが、どうも様子がおかしい。

 

「…終わりだ」

「なっ…!」

 

ブロリーは笑いながら右手にエネルギー弾を生成する。その大きさはピンポン玉程度の物だったが、バーダックはそのエネルギー量に驚きを隠せなかった。

 

「ば、馬鹿野郎!ここいら一体を吹き飛ばすつもりか!」

「フッフッフ…」

 

バーダックの制止も聞いている様子は無く、ブロリーはエネルギー弾を投げつけようと腕を振り上げる。

 

(くっ…下にはあいつらがいやがる…上に弾き飛ばすしか───

 

 

 

 

「そこまでっ!」

(はっ…!?お、俺は…)

「バーダックさん、実力は十分見させてもらいました。結果は…文句無しの合格です。ブロリーもお疲れ様。体は大丈夫やったか?」

「あ、ああ…」

「でも服がボロボロになってしもたなぁ…」

「…すまない」

「気にせんでええよ。制服で戦ってもらったのは私の判断ミスやしな。私は新しいのを用意してから合流するからブロリーは先になのはちゃんと一緒に候補生二人を連れて本部の方に行っててくれるか?」

「…分かった」

 

ブロリーはそう言うと少し暗い表情で地面へ降下してゆく。バーダック達三人も乗って来たヘリに乗り込み最初の場所へと戻っていく。

 

「…バーダックさん、急にこんなこと言って申し訳なかったです」

「別に構わねぇよ。それより何か言いたい事があるんじゃねぇのか?」

「…はい…実はですね…」

 

そう言うとはやては心配そうな声で打ち明け始める。

 

「ブロリーの事なんですけど…あの子、戦闘中に時々自我が無くなってる時があるんです。多分さっきも…」

「だろうな。さっきのアイツは気が相当上がっていやがった。あれを打っていればこの辺りは更地になってただろうな」

「そ、そんな強力な技を…」

「はやて…お前はブロリーがどんな存在なのか知っているのか?」

「…はい。昔パラガスさんに聞きました。でもそんなのは関係ありません。ブロリーは私の大事な家族の一人ですから…!それに一応さっきみたいに私らが声をかければ正気に戻るみたいですし、自覚もあるみたいで本人はコントロールしようと頑張ってはいるみたいなんですが…どうも感情が昂った時に暴走してしまうようで…」

「なるほど…だがあいつが本気で暴走し始めたらどうするつもりだ?」

「そこでお願いなんですが…ブロリーが暴走しないように鍛えてあげてくれませんか?」

「…そんなことだろうと思ったぜ…さっきの試験もこれが目的だったって訳か。全く少し見ねぇ間に強かになりやがって…」

「ハハハ…まぁそう言うことになりますね…」

「心配しなくてもバーダックさんならきっと大丈夫ですよ」

「フェイト…てめぇも人事だからって勝手なことを…本人が嫌がるかもしれねぇぞ」

「そんな事無いですよ。今までブロリーに気の修行が出来たのはパラガスさんだけやったし、パラガスさんがバーダックさんの事話してた時もいつか会ってみたいって言ってましたから」

「…そうは見えなかったが?まあ六課の仕事なら仕方ねぇ。金は要らねぇが寝床と飯だけは忘れんじゃねぇぞ」

「ふふっ、そこは心配せんでええですよ」

 

ブロリーの特訓を引き受けたバーダックは厄介事を押し付けられたような口ぶりだったが、案外楽しみにしているようでその表情は明るかった。

 

(ふふっ…バーダックさん…前より少し優しくなった…かな?)

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

地上本部に戻ったスバルとティアナは試験の結果を待つ間、はやてとフェイトから六課への勧誘を受けていた。

 

「…でスバル・ナカジマ二等陸士、それにティアナ・ランスター二等陸士」

「「は、はい!」」

「私は二人を機動六課のフォワードとして迎えたいと考えてる。厳しい仕事にはなると思うけど…濃い経験は積めると思うし、昇進機会も多くなる…どないやろ?」

「あっ…ええっと…」

 

思ってもいなかった六課への勧誘に二人は困惑していた。それもそのはず、機動六課と言えばエリートばかりを集めた新設部隊。今まで遠い世界だと思っていた場所から突然勧誘が来て驚かないはずがなかった。

 

「スバルは高町教導官から直接教えてもらえるし、執務官志望のティアナには私でよければアドバイスとかできると思うんだ」

「と、とんでもないです!というより恐縮ですというか…」

 

そんな中、忘れかけていた試験の結果を持ったなのはがやって来た。

 

「ごめんね?取り込み中だったかな…?」

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

「…ブロリーか」

 

同時刻、部屋の外でフェイト達を待つバーダックに小さな影が歩み寄る。その表情やオーラには子供特有の明るさは無く、冷たさすら感じる大人びたものだった。

 

「バーダック…さん…」

「さんはよせ。俺には普段通り話せばいい」

「…バーダック、お前に頼みがある」

「…修行の事か」

「…知っていたのか。なら──」

「その前に聞かせろ。何故俺にそんな事を頼む?」

「お前も気付いていただろうが…さっき戦った時俺は理性を失いかけていた。このままではいつか俺は皆を破壊してしまう。だから俺は…この力を制御できるようにならなければいけないんだ」

「…本当にそれだけか?」

「………」

「パワーのコントロールならばパラガスでも十分教えられるはずだ。手合わせならばパラガスの他にシグナム辺りにでも頼めばいい。なのになぜわざわざ俺の所に来る必要がある?」

 

バーダックの問いに対しブロリーは黙り込んでしまう。確かに彼のの言う通りだ。ブロリーの周りは優秀な人物ばかり。それをわざわざ初対面に等しいバーダックに頼む理由などどこにもないのだ。

 

「…分からない…分からないが…お前の噂を聞き、手合わせをしてふと思ったんだ。お前の下でなら上手くいく…と…」

「…分からないか…へっ…曖昧な答えだがまあいい。暇つぶしにはなりそうだしな。その代わり俺の修行はてめぇの親父ような甘いもんじゃねぇからな。途中で音を上げるんじゃねぇぞ」

「ああ…!」

 

こうして二人は修行をつける事、受ける事を互いに了承する。これが今後の六課の運命を大きく動かす事になるのだが、今はそれを知るものは誰もいなかった…

 

 




どうも。顔芸です。

今回の内容は……とその前に皆さんに知って欲しい重大な事が…

今回のからしばらくの間、次話の更新ができません。楽しみにしてくださっていた方には申し訳ないですが、家の諸事情により半年は更新できないと思います…ごめんなさい…





















「嘘です!!諸事情で半年間更新できないなんて全て嘘です!上に書いたのは廃墟なんです!上記にあるのは全て、視聴者さんを騙すためにうp主が作った見せかけの文章なんです!」


はい。ごめんなさい。全て嘘です。
私から皆さんに贈る申し訳程度のエイプリルフールネタです。
2行目の文章で察せた人は凄いと思います。

内容についてですが、今回はブロリーの戦闘がありましたが、基本的にはつなぎのお話だったのでちょっと短めでした。次回からはまたいつもと同じぐらいになると思います。

今回のあとがきでは何の見どころもない最下級のネタを書いてしまいましたが、幻滅せずにまた読んでいただけると嬉しいです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四話 初日

隊長室で設備などの最終確認を行っているはやてとリインの表情は、いつにも増してにこやかなものだった。それもそのはず、今日ははやて達が待ちに待った機動六課結成の日。そんな日を祝うかのように天候も快晴で、柔らかな太陽の光が窓から差し込んでいる。

 

「ふふふ〜このお部屋もだいぶ隊長室らしくなって来たですね!」

「ふふっ…そやね。リインのデスクも丁度ええのがあってよかったな」

「ぴったりサイズですー!」

 

そんな会話をしていると部屋の呼び鈴が鳴らされる。はやてはどうぞと声をかけて入室を許可すると、そこにははやてと同じ制服に身を包んだ三人が立っていた。

 

「失礼します」

「あっ、みんなお着替え完了やな!」

「こっちの制服姿も素敵です!」

「ふふっ…ありがとうリイン。それとほら、言われた通りバーダックさんにも着てもらったんだけど…どうかな?」

 

フェイトにそう言われた二人は改めてバーダックの姿を見つめる。光沢のある革靴に、パリッとした真新しい制服。これだけ見れば初々しい新社会人そのものなのだが、それに対して制服の上からでも分かる鍛え上げられた筋肉と、不機嫌そうな表情を浮かべる顔、さらにバーダックの普段の無骨な性格が見事なまでにスーツとはミスマッチだった。

 

「ぷっ…くくく…ちょっと面白いです…!」

「こらリイン!笑ったら失礼……ぶっ…」

「そう言うはやてちゃんも笑ってるですよ…!」

「ふ、二人ともその辺で…」

「この野郎…ふざけやがって…」

 

笑いを抑えられない二人を見て露骨にへそを曲げるバーダック。実はここに来る前にもなのはとフェイトに笑われていたのだ。

 

「あ、ああごめんなさいバーダックさん。変とかそういうんじゃないんよ。ただちょっと普段とギャップがありすぎてその…」

「フン…なんとでも言いやがれ」

「ご、ごめんなさいです…」

「ま、まぁバーダックさんには公式の場でだけ着てもらえればいいですから…」

「そうだね。それに何回か着てればそれなりに…」

 

笑ってしまった事を申し訳なく思っているのか一同は必死でフォローを試みていた。そんな折、なのはの声を遮るようにして真面目な声と共に薄紫の髪をした青年が入室して来た。

 

「失礼します……あっ!高町一等空尉にハラオウン執務官。ご無沙汰しています」

「ええっと…」

「もしかしてグリフィス君?」

「はい。覚えていていただいて光栄です」

「うわ〜!久しぶり!というかすごく成長してる!」

「うん。前見た時はブロリーと同じぐらいだったのに…」

「そ、その節はお世話になりました。あの、こちらの方は…」

「前に話した事あったかな?この人はバーダックさん。形式上は嘱託魔導師って事で六課のお手伝いをしてもらう事になってるの」

「あなたがバーダックさんですか…!あっ、申し遅れました。グリフィス・ロウランです。ご活躍はかねがね伺っています」

「ロウラン…?もしかしてレティの…」

「はい。レティ・ロウランは私の母です」

「そうか…お前も六課で働くのか?」

「グリフィスは私の副官で交替部隊の責任者なんですよ」

「運営関係もいろいろと手伝ってくれてるですよ!」

「ほう…まぁしっかりやれよ」

「はい!…あっ、報告があるのですがよろしいでしょうか?」

「うん。どうぞ」

「フォワード四名を始め部隊員とスタッフは全員揃いました。今はロビーに待機させています」

「そっかあ。以外と早かったなぁ。ほんなら早速みんなにご挨拶しに行こうか!」

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

「───それでは、長い挨拶は嫌われるんで…以上ここまで。機動六課課長及び部隊長、八神はやてでした」

 

はやての部隊長挨拶が終わると全員の手を叩く音がロビー全体に広がる。はやてが明るく聡明な人物であるおかげか、拍手を送るスタッフ達の表情はどれもにこやかだった。そして拍手が終わるとすぐにスタッフ達は自らの持ち場へと向かって行く。スバル達フォワード四人も教官であるなのはの下へと集合し訓練場へと足を運ぼうとしていた。

 

「おいなのは?」

「あっ、バーダックさん。どうしたんですか?」

 

そんな折、なのはは不意にバーダックから声をかけられる。

 

「今から訓練に行くならこいつも連れて行け」

「ブロリー君をですか?でもブロリー君の訓練はバーダックさんがするんじゃ…」

「とりあえず今日は現状の力を見るだけだ。何、邪魔はしねぇから安心しろ」

「まぁブロリー君なら足手まといにはならないからいいですけど…」

「なら決まりだ。お前らもよろしく頼むぜ」

「「「「は、はい」」」」

「あ、あの、こちらこそお願いします。“ブロリーさん”」

「…ん?」

 

スバルが気遣いで言った言葉が引っかかるようで、ブロリーは思わず聞き返す。

 

「…なんでさん付けなんだ?」

「えっ…それは…ブロリーさんは年下かもしれませんけど上司ですから…」

「…俺は三等陸士だぞ」

「ええっ!?」

「う、嘘…」

「三等陸士って事は…」

「僕達と同じ…」

 

スバルとティアナはバーダックとの模擬の一件で、エリオとキャロもブロリーがシグナム達と親しく話している所を見たためにブロリーを上司と勘違いしていたようだ。ましてや六課にはヴィータという実例がいるため、上司だと思い込むのはある意味当然だった。

 

「だから俺の事は呼び捨てでいい。むしろ俺の方が敬語を使うべきだな」

「そ、そうで……じゃなかった…そうなんだ。じゃあこれからはブロリーって呼ばせてもらうね」

「ああ。そうしてくれ」

「…それと私とスバルの事は今まで通り呼び捨てでいいわ。今まで上司だと思ってた人に敬語使わせるなんてなんだか罪悪感あるし…」

「そうか。ならそうさせてもらう」

「あはは…それじゃあ誤解も解けたみたいだし、改めて訓練場に行こっか」

 

 

 

 

〜〜〜

 

 

 

 

「ところでバーダックさん、さっき言ってた現状の力を見るって…具体的には何をするんですか?」

「…確か今日はガジェットとか言う奴との戦闘訓練だったな。ならそのままやらせればいい」

「でも…正直ブロリー君の戦闘力じゃ相手にならないと思いますよ」

「その点は問題ねぇ。むしろその方が───

 

バーダックそう言いかけた時、大きなスーツケースを片手にこちらに一人の女性が駆けてくる。

 

「なのはさーん!」

「あっ!シャーリー!」

「ご無沙汰してます!ええっと…そちらの方はもしかして噂のバーダックさんですか?」

「そうだよ。今日はブロリー君の訓練で一緒に来てるの」

「そうでしたか!初めまして。メカデザイナー件六課の通信主任をします、シャリオ・フィニーノ一等陸士です。他のみんなからはシャーリーって呼ばれてます。よろしくお願いしますね」

「ああ……おっと…奴らもランニングから帰って来たようだな。それじゃあとっとと始めるか…」

 

そう言ってバーダックは五人の表情を見るが、ブロリーは勿論の事、スバル達四人にも疲れは一切顔に出ていなかった。そんな様子を見たなのはは、シャーリーの自己紹介が終わると早速訓練を開始する。

 

「あ、あの…ここで訓練をするんですか?」

「ふふっ…シャーリーお願い」

「はーい!」

 

シャーリーは新人達に見せるのが嬉しいのか元気よく返事をすると、ホログラムのキーボードを操作していく。

 

「機動六課自慢の訓練スペース。なのはさん完全監修の陸戦用空間シュミレーター…ステージセット!」

「うわぁ…!」

「す、凄い…」

(ほう…便利なもんだな…)

 

ステージセットの声とともにシャーリーがボタンを押すと、海上に浮かぶ人工的な更地に十数メートルのビル群が現れる。思いもよらない出来事にフォワード達やバーダックも思わず感嘆の声を上げる。

 

「フォワードの四人は指定した位置で待機ね。ブロリー君は…」

「こいつは後でいい。まずは四人でやってくれ」

「分かりました。それじゃあ早速皆、早速行こうか」

「「「「はい!」」」」

 

六課での初めての訓練に、四人は期待と緊張を入り交じらせながら訓練スペースへと歩みを進める。

そんな様子を副隊長二人とパラガスも隊舎の上から見下ろしていた。

 

「そろそろ訓練始まるようだが…お前達は参加しないのか?」

「四人ともまだよちよち歩きのひよっこだ。ブロリーもバーダックが面倒みるんだ。アタシが教導を手伝うのはもうちょい先だな。パラガスだってそうだろ?」

「まぁそうだな。一応俺も教導は頼まれたが…なのはは優秀な教導官だ。負担をかけすぎない程度に手伝ってやればいいさ」

「そうそう。それに自分の訓練もしたいしな…私は空でなのはを守ってやらねぇといけねぇ」

「ああ…頼んだそ」

「ヴィータ、俺で良ければ訓練に付き合うが…どうする?」

「そうか。んじゃ頼むよ」

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

「…よし…みんな聞こえる?」

「はい!大丈夫です」

「それじゃあ早速ターゲットを出して行こうか。まずは軽く八体から」

「動作レベルC…攻撃精度Dってところですかね…」

「うん。そのぐらいかな。さて、私達の仕事は捜索指定ロストロギアの保守管理。その目的のために私達が戦うことになる相手は…これ!」

 

なのはが指をパチンと鳴らすと、フォワード四人の前に魔法陣が現れ、そこからガジェットドローンが出現する。

 

「自立行動型の魔導機械。これは近づくと攻撃してくるタイプね」

「では…第一回模擬戦訓練…ミッション目的は逃走する八体のターゲットの破壊、または捕獲を十五分以内に完了すること」

「「「「はい!」」」」

「よし…それじゃあミッション…スタート!」

 

なのはの掛け声と共にガジェットは蜘蛛の子を散らすように飛び去って行く。

 

「よし!エリオ!早速追いかけるよ!」

「は、はい!」

「あっ!ちょっと待ちなさい!…ああもう!スバルったら!」

「あ、あの…私はどうすれば…」

「私達はとりあえずビルに上がって待ち伏せするわ。ここはそんなに広い場所じゃないから待っていれば必ず向こうからやって来るはずよ」

「りょ、了解です!」

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「…うん。ミッション完了!みんなお疲れ様!初めてにしてはみんなよく動けてたよ」

「はぁ…はぁ…あ、ありがとうございます…」

 

その後スバル達四人はなんとか時間内に八体全ての撃破に成功した。中盤ではガジェットドローンの素早く不規則な動きやAMFに苦戦していたが、全員が知恵を使いなんとか切り抜ける事ができた。

 

「それにしてもみんなよく動きますね」

「危なっかしくてヒヤヒヤだけどね…」

「へっ…よく言うぜ。お前の方がよっぽど無茶なガキだった癖によ」

「あはは…そ、それを言われちゃうと反論できないんですけど…」

「まぁいい…それはそうと今のやつをこいつにもやらせていいか?」

「大丈夫ですよ。みんなにはその間ちょっと休憩してもらいますから」

「ターゲットのレベルはどれぐらいにしますか?」

「そんなもの全て最大だ。どのレベルがどの程度の強さなのか俺には分からんしな」

「さ、最大ですか!?それは流石に…」

「大丈夫だよシャーリー。むしろブロリー君ならこれぐらいじゃないとダメだよ」

「そうですか…?まぁ…お二人がそう言うなら…」

「バーダック、俺も同じことをすればいいのか?」

「ああ。だがお前には少しばかり条件を付けさせてもらう」

「条件…?」

「まず飛行と格闘は使うな。全て気功波だけで倒せ。それと気功波を追尾させるのも無しだ。後は好きにしろ」

「…それだけでいいのか?」

「…おっと忘れてたぜ。制限時間は五分だけだ。それ以内に全てぶっ倒せ」

「分かった。行ってくる。スバル達が戻ったら教えてくれ」

 

ブロリーはそう言うと淡々と隣のビルへと向かって行く。既に本物のガジェットドローンと戦闘経験があるためか、ブロリーには焦りや緊張は見られなかった。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜

 

 

 

 

 

「いいか。そろそろ行くぞ」

「…ああ」

「それじゃあ改めて確認するね。制限時間五分以内にターゲット八体を全て撃破すること。それから飛行、格闘、追尾する魔法…じゃなかった、気功波は禁止」

「…大丈夫だ」

「よし…それじゃあミッション…スタート!」

 

先程と同様なのはの一声でターゲット達が一斉に飛び出していく。そのスピードは先程よりも明らかに速かった。

 

「ぼ、僕達が戦った時よりずっと速い!」

「あれで本当に戦えるんですか…?これじゃあ下手すると本物のガジェットドローン以上の性能かもしれませんよ?」

「…大丈夫だよ。ほら、もう追いつき始めてる」

「えっ…」

「あっ…!」

 

ガジェットドローンは魔法弾で弾幕を作りながら凄まじいスピードで逃げ続ける。しかし、ブロリーはそれ以上の駿足でガジェットドローンを追い立てる。迫り来る魔法弾も全て腕で弾き飛ばし、じりじりと目標に迫って行く。

 

「凄い…一体どうやって…」

「まぁ…バーダックさんと戦ってたのを考えれば分かる気もするけど…」

「でも難しいのはここからだよ。バーダックさんはどう思う?」

「…あいつの潜在能力は天才的だ。パワー、スピード、タフネス、荒削りではあるがどれを取っても並の魔導師程度とじゃ比べるまでもねぇ」

「そ、そうなんですか…」

「…だが奴には致命的な弱点が一つだけある」

「致命的な弱点…?」

「それって…」

 

 

 

 

 

 

 

「でりゃああああっ!」

 

ブロリーは走りながらエネルギー弾を両手に作り出すと、ガジェットドローンに向かって投げつける。しかし、その攻撃は単純で直線的なため簡単に回避されてしまう。

 

「ふんっっ!」

 

だがそんな事はお構い無しにエネルギー弾を放ち続ける。右手のエネルギー弾を投げつけた後、着弾の前に左手のエネルギー弾を放つ。その間に右手に新たなエネルギー弾を作り、またそれを投げつける。この一連の動作を繰り返しながらブロリーはガジェットドローンを追い続ける。気がつけばブロリーの放つ弾幕は八体のガジェットの物よりも厚くなっていた。

 

「ちょっと…これどうなってるのよ…」

「煙でよく見えないよ…」

 

戦闘の様子を見ている者の反応は様々。驚きの声を上げる者、口を開けてただ見ている者。しかし、バーダックとなのはの二人だけは難しい顔で戦闘を見つめていた。

 

(チッ…こりゃ予想以上に骨が折れそうだ…)

 

下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるとはまさにこの事。しかもブロリーの場合は至近弾でもガジェット程度なら吹き飛ばしてしまう。

 

(これで終わらせる…!)

 

ブロリーは足を止めると、エネルギー弾を作りながら大きく腕を振りかぶり、残りのガジェットドローンに向かって投げつける。エネルギー弾は凄まじいスピードで目標に迫り───

 

「くうっ!か、風が…!」

「…シャーリー、ターゲットの様子はどう?」

「ぜ、全機消滅…ミッションクリアです」

「一応ミッションはクリアだけど…これは…」

 

ミッションはきっちりとこなしたものの、ブロリーの通った場所は完全に廃墟と化していた。地面は抉り取られ、ビルは今にも崩れ落ちそうだ。

 

「じ、弱点って言うのはこういう事だったんですね…」

「みんなはこんな事ないように気をつけてね」

「は、はい…多分できませんけど…」

(力のコントロール…)

「…キャロ?」

「あっ、はい!了解であります!」

 

「バーダックさん、ブロリー君帰って来ましたよ」

「来たか…おいブロリー、てめぇは余計なエネルギーを使いすぎだ。辺りを見てみろ。穴だらけじゃねぇか。いくら動きを制限していたとはいえ論外だ」

「…すまない」

「おいシャーリー、さっきの奴をもう一体出せ。いいか、エネルギーをコントロールするってのはこういう事だ」

 

そう言ってバーダックは腕を逃走するガジェットに腕を突き出す。そして次の瞬間、指のつけ根の周辺から小さな光が一直線に放たれる。その光は稲妻のように素早く、ガジェットに避ける暇すら与えずに機体を貫いていった。

 

「最低でもこれぐらいはできるようになりやがれ。強い相手ならともかく、ガジェット程度の奴にこんな事をしていたらやってられねぇだろうが」

「…善処する」

 

ブロリーはそう言って申し訳なさそうに頷く。その姿は先程暴れ回っていた戦士の面影は無く、年相応の素直な表情の少年であった。

 

「よし…ならいい。今日は一日これの特訓だ!みっちり叩き込んでやるから覚悟しやがれ!」

 

(ふふっ…なんだかんだバーダックさん楽しそう…これなら大丈夫そうかな?)

 

 

こうしてバーダック達の六課での日々が始まろうとしていた。初日から順調…とはいかなかったが、今日の出来事は充実した日々を予感させるには十分であった。

 

 

 




どうも、顔芸です。
少し忙しかったので更新がいつもより遅れてしまい申し訳ないです。
その代わりと言ってはなんですが文字数は若干多めになりました。

内容についてですが、今回は初めてのガジェット戦でしたので少し苦戦してしまいました。
それと今回からなのはのブロリーの呼び方は君付けにしようと思います。というのも最初はエリオと同じ年齢なら呼び捨てでもいいかと思ったのですが、なのはさんって子供の頃に出会ってる人には呼び捨てしてなかったんですよね…実際書いてみても個人的には君付けの方がしっくり来ましたのでこちらで行こうと思います。

次話も今回と同じぐらいかかってしまうかもしれませんがまた読んでくださると嬉しいです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第五話 希望と溝

「はい。みんなお疲れ様。今日は初めての訓練だったからみんな思う所は色々あると思うけど、明日も朝から訓練だからしっかり休んでおくように。…それじゃあ以上!」

 

「「「「ありがとうございました!」」」」

 

新人四人ははきはきとした声で挨拶を行う。表情には疲れの色が見えてはいたが、目の輝きは朝と変わらず輝きを放っている。

 

「皆いい感じに疲れてますね〜。でも全体的にはよかったんじゃないですか?」

「うん。四人ともまだまだだけど、やる気と負けん気は十分だから大丈夫。四人とも立派な魔導師にしてみせるよ」

「それは何よりですね…あっ!すみません、私はこれでみんなのデータを持って帰らないといけないのでこれで失礼します」

「了解。みんなのデバイス、期待して待ってるね」

「任せてください!四機とも立派に仕上げて見せますよ!」

 

シャーリーは元気よく返事をすると、駆け足で隊舎へと戻って行った。なのはがその後ろ姿を見送っていると、バーダックもブロリーの訓練を終えてなのはの元へとやって来た。

 

「…そっちも終わったか」

「バーダックさんお疲れ様です。ブロリー君はもう帰ったんですか?」

「ああ。ついさっきな」

「あっ、忘れてた!バーダックさん、この後お時間あったりしますか?」

「…俺に用でもあるのか」

「私じゃないんですけど話をしたい人がいるんですよ」

「話…?一体誰が───

 

「なのは、バーダックさん」

 

なのはの意外な発言に首を傾げていた時、隊舎から聞き慣れた声とともに一人の女性が駆けてくる。

 

「フェイトちゃんお疲れ様。約束通り話はしたけど…」

「…お前か」

「バーダックさん…あの…」

「…チッ…仕方ねぇ…用事があるならさっさとしやがれ」

「あ…は、はい!」

 

(ふふっ…フェイトちゃん嬉しそうだな…)

そう言って一人足速に隊舎へと歩いて行くバーダックを追ってフェイトも駆けてゆく。そんな微笑ましい様子に、なのはは思わず顔が綻ぶのであった。

 

 

 

 

 

〜〜〜

 

 

 

 

 

「あー…疲れた…」

 

日も沈みかけた夕闇の中で訓練を終えた五人は一人を除きぐったりと肩を落としながら隊舎へと戻っていた。

 

「なんとなく予想はしてましたけど…凄くハードでした…」

「今までもそれなりに鍛えてきたつもりだったけど、まだまだ甘かったって事かしらね……それにしてもブロリー、アンタは随分元気そうね…」

「体だけは鍛えているからな」

「鍛えてるってあんたねぇ…まぁいいわ。それよりこれから私達は食事に行くんだけど、ブロリーも来ない?」

「…悪いが少し用事がある。だから今日は遠慮しておく」

「そうなの?それなら仕方ないか…それならまた今度だね」

「…ああ」

 

ブロリーは小さく返事をすると一人自室へと向かう。その道中、修行中にバーダックに言われた事が頭をよぎっていた。

 

 

『…いいかブロリー、はっきり言っててめぇの今の状態でエネルギーを抑え込むなんてのは無理だ。だからまず強くなれ。その巨大なパワーを自在に操れるようになるんだ』

 

 

今のブロリーは大きな力を行使すると理性が失われてしまい、逆に理性が失われても大きな力が湧き出てしまう。そんな自分を抑えるために今までしてきた修行は、瞑想や少ないパワーで戦うといった“力を抑えて戦う”事だった。だが最早それも限界。溢れ出すパワーを完全自分の物にしなければ暴走は止められないのだ。

 

 

(…強くなる…か…これで本当に俺は…)

 

「あっ、ブロリーじゃねぇか」

 

そんな事を考えていると、不意に背後から声を掛けられる。振り返ると、そこには仕事中のパラガスと、講演に出掛けたはやてとリイン以外の八神家の面々が揃っていた。

 

「…皆揃ってどうしたんだ?」

「今から皆で食事に行こうと思ってな。ちょうどお前を探していたところだ」

「はやてももうすぐ帰って来るだろうから先に──

「…悪いが今日はあまり食欲が無い。皆だけで食べてくれ」

「で、でもブロリーちゃん、仕事が本格化すればなかなか全員で集まれる機会もないし、少しぐらい食べないと体調崩しちゃうわよ?」

「…大丈夫だ。食事はちゃんと取る」

 

そう言うとブロリーはシグナム達に背を向けて歩いて行ってしまう。

 

「お、おいブロリー!少しぐらい───

「…止めておけヴィータ」

「でもよ…」

「あれは我らがどうこう言って解決するものではない。それに今のあいつの気持ち…ただ主のために戦ってきたお前にも分かるはずだ」

「分かってる…分かってるけどよ…」

「ヴィータちゃん…」

 

背を向けて歩いて行くブロリーを見つめることしか出来ず、ヴィータは思わず肩を落とす。去って行くブロリーとの距離は、まるで八神家とブロリーの距離感を表しているようであった。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

「ふふっ…こうして二人で話すのもなんだか久しぶりですね」

「………」

 

隊舎の屋上で二人は言葉を交わす──と言ってもフェイトの問いかけにバーダックが生返事をするだけのものだったが、フェイトの表情はにこやかで、バーダックも無表情ながら嫌がる様子は見せずに受け答えをしていた。

 

「そう言えば今日は何をされてたんですか?」

「ただパラガスのガキの面倒を見ただけだ」

「ブロリーの様子はどうでしたか?あの子ならバーダックさんが鍛えればきっと凄く強くなると思いますけど…」

「潜在能力は高いが…どうだかな」

「何か気になるところでもあるんですか?」

「俺が強くなれと言った時…あの野郎困ったような顔をしてやがった」

「えっ…でもブロリーも修行には積極的だったんですよね…」

「確かにそう聞いちゃいるがな。俺も詳しい事は知らん。…面倒だが少し手を打つ必要があるかもしれねぇな…」

「ふふっ…なんだかんだ言って優しいところは変わらないですね」

「…勘違いするな。昔のてめぇのようにうじうじされても困るからだ」

「ふふふ…そうですか…そういうことにしておきますね」

「…そんなことより用事ってのはなんだ?」

「い、いえ…実はその…これといった用事は無くてですね…」

「…なんだと」

「その…ただなんとなく話をしたかっただけで…」

「…そんなくだらねぇ事ならなのはかはやてにでも頼みやがれ」

「二人とはこうして呼び出さなくてもいつも話してますからいいんですよ。…それとも私とじゃ嫌でしたか?」

「俺は面倒が嫌いなんだ」

「………」

「…だが今日は来ちまったからな。話があるならもう少し付き合ってやる」

「そうですか…ふふっ…ありがとうございます」

 

相変わらずなバーダックを見て思わず笑みを浮かべる。バーダックもいつもの難しい表情が変わることは無かったが、心底嫌な訳でもないようだった。しかし、その心中ではブロリーの修行について一抹の不安が芽生え始めていた。

 

 

 

***

 

 

 

「あっ、はやて!パラガス!」

 

食事をとっていた守護騎士四人の元に、仕事を終えた二人がやって来る。

 

「あっ、みんなでお食事か?」

「はい。色々打ち合わせがてらに」

「二人はご飯たべたのか?」

「俺はこれからだ」

「私もまだやで。それにお昼抜きだったからもうお腹ぺこぺこや」

「なんだはやてもか。実は俺もなんだ」

「それは大変でしたね。急いで注文してきましょう。パラガス、お前の分も頼んでいいか?」

「ああ、ありがとう。頼むよ」

「私もお茶貰ってきますね」

「二人ともおおきにな。…あれ…そう言えばブロリーは…」

「あっ…」

「そ、それはですね…」

「…そっか…分かったで」

 

はやての思わぬ質問にシャマルとヴィータは言いよどむ。そんな様子を見てはやては何かを察したのか、小さなため息をついて肩を落とす。

 

「すまんなはやて…ブロリーが手を煩わせてしまって…」

「そんな…謝らんといてください。悪かったのは私ですから…」

「はやては悪くねぇよ!…かと言ってブロリーが悪いって訳でもねぇけどさ…」

「…ありがとうなヴィータ。でも私がきっかけを作ってしもたのは事実や。そこはちゃんと理解しとかんと…」

「はやてちゃん…」

「…さぁ、食事時にあんまり暗い話をしたらあかん。ブロリーならきっと大丈夫や」

 

そう言いつつもはやての表情は明るいとは言い難いものだった。八神家とブロリーの間には何があったのか。そしてこの小さな溝が、今後どんな影響を及ぼすのか。周囲の人間はもとより、今は八神家の面々にも予知することはできなかった。

 




どうも。顔芸です。

更新が遅れてしまい申し訳ないです。
実は今週は引越しがあったのでなかなか手がつけられませんでした。
今までも同じような言い訳をしていたと思うのですが、大体は今回の引越しの準備だったりしました。とりあえず完了したので今まで通り…とはいかないかもしれませんがもう少しマシな頻度で上げられると思います。

内容についてですが、時間がかかった割に字数が少なく分かりづらいかもしれません…
ただ一応重要な伏線ですので、今後の展開に期待していただけると嬉しいです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第六話 故郷

バーダックが壁を見上げると、時計の針は7時50分丁度を指していた。

小さく息を吐きながら、バーダックはロビーの椅子からゆっくりと腰を上げる。本来ならブロリーと共に鍛錬に勤しんでいるはずの時間だが、今日は六課の部隊長、八神はやてに直接の呼び出しを受けていた。

 

 

『あっ、あのバーダックさん!』

『…何がこんな夜中に騒々しい』

『急なお願いで申し訳ないんですけど、明日の朝8時に隊舎の前に来てくれませんか?というか絶対来てください!』

『あぁ?一体何を───

『すみません!今少し忙しいので私はこれで!』

『お、おい!……何だったんだ今のは…』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(アイツは何を焦ってやがったんだ?チッ、また面倒事じゃねぇだろうな…)

 

「あっ、おはようございます」

 

心中ではそんな事をぼやきつつも時間通りに隊舎の前に来てみると、自分を呼び出したはやてと車のキーを手にしたフェイトが待っていた。

 

「昨日は急に呼び出してしまってすみません」

「それで用事ってのはなんだ。その様子だとどこかへ行くみてぇだが…」

「はい。行き先は聖王教会。そこでバーダックさんには私と騎士カリムに会ってもらいます」

「カリムに…?バーダックさんとはあんまり接点なさそうだけど…」

「詳しいことは移動しながら説明します」

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

「でりゃあっ!」

「ん…!」

 

掛け声と共に放たれた拳がパラガスの頬を掠める。ほんの少し触れた程度だったが、パラガスの目袋にはくっきりと赤い線が描かれ、血が溢れ出していた。

 

「…はっ…親父…!」

「避け損ねたか…」

「…すまない…俺のせいで…」

「そんな顔をするな。この程度、何でもない」

 

そう言ってパラガスはブロリーの頭にポンと手を乗せ、長い黒髪を揺らす。しかし、ブロリーの暗い表情は変わる事は無く、俯いたまま黙り込んでしまう。

 

「そうだな…少し休憩にするか」

 

そう呟くとパラガスはその場に座り込み、青く澄み切った空を眺める。ブロリーもそんな姿に釣られて空を仰いだ。

 

「ブロリー、この数日でまた強くなったな。気のコントロールも上達しているぞ」

「親父、俺は──

「…自分の力の事が心配か?」

「………」

「心配する事はない。お前ならばそのパワーを物に出来るようになる。なんだってお前は俺の息子なんだからな」

「親父…」

「俺とて少なからずこんな時期はあった。焦らずともいい」

 

パラガスはそう言って下を向くブロリーの肩に手を当てる。しかしブロリーは相も変わらず腑に落ちないと言った表情だった。

 

「…さて、気分転換にスバル達の様子でも見に行くか。お前も行くか?」

「…ああ」

 

 

 

 

〜〜〜

 

 

 

 

 

「みんなお疲れ様。それじゃあ少し休憩したらみんなの新しいデバイスを──あっ、二人ともお疲れ様」

 

「おっとすまんな…こっちも休憩中だったか」

「あっ、ブロリーに…パラガス三等空尉!」

「お疲れ様です!」

 

ブロリーの父親と言えど、今は彼らの上司。フォワード四人はパラガスを見るやピシリと敬礼する。

 

「はっはっは!俺にはそんな風に改まらなくていいぞ。それよりもなのはの訓練はどうだ?」

「あはは…な、なんとかついて行けてます…」

「ふっ…ならいい。その調子で頑張れよ。ん…?スバル、そのデバイスはどうしたんだ?」

「ああ…実はさっき無茶させちゃって…」

 

スバルは煙を上げる愛機を抱えながら申し訳なさそうに呟いた。デバイスを持たないパラガスだが、魔導師にとってデバイスがどれだけ大切な物かは理解していた。

 

「だからこれから新しいデバイスを皆に渡そうと思ってたところなんです」

「そうだったのか…」

「二人も休憩中だったら一緒に行きませんか?」

「いや、俺は…」

「分かった。では見せてもらおうかな」

「親父…いいのか?」

「ブロリー、最近のお前は根詰めて修行しすぎだ。それに今後スバル達とも共に戦う事になるのだ。勉強も兼ねて今回は見学と行こうじゃないか」

「…分かった」

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

「八神はやて様とバーダック様ですね。お待ちしておりました」

 

二人が門の前にたどり着くと、面倒な手続きなどは無くすぐに教会の奥へと通された。協会とは思えない程の重厚な設備を横目に、二人は無言のまま淡々と足を進める。昨夜は何かに追われるように慌てている口ぶりかと思えば、今朝は冗談混じりの会話をし、今は無言のまま神妙な面持ちで歩みを進めている。

この少女の変わりようについてバーダックはしばらく考えていたが結局答えは出ず、はやてに直接問いかける。

 

 

「おい…いい加減に話しやがれ…」

「気付いてはりましたか…やっぱり聡いですね」

「フン…あんな不自然な態度を取っていたら誰だって気が付くぜ……それで結局なんだ?フェイトにすら言えない程の事か?」

「それは少し語弊があります。この件はフェイトちゃんだからこそ言えない事なんです」

「…どういう事だ…?まるで分からねぇぞ」

「心配しなくてもそれもこの後──

「はやて様、こちらでございます」

「あっ、ありがとうございます」

 

はやては使用人に軽く会釈をすると大きな木製の扉を叩く。すると、柔らかな女性の返事とともにドアが開かれた。

 

「いらっしゃいはやて!」

「カリム!久しぶりやなぁ!」

「あっ、後の方はもしかして…」

「そう。前にも話したバーダックさんや。今は嘱託職員という形で六課に協力してくれてるんよ」

「そうなの…初めましてバーダックさん。私聖王教会騎士を務めているカリム・グラシアです。」

「…バーダックだ。こいつの言う通り今は部隊の手伝いをしている」

「あなたの事ははやてから聞いています。今後とももよろしくお願い致しますね。さぁ、立ち話はこれぐらいにしてどうぞこちらに掛けてください」

 

 

 

 

 

「ごめんな。すっかりご無沙汰してもうて…」

「気にしないで。それよりも部隊の方は順調かしら?」

「うん。カリムのおかげでな」

「ふふっ…ありがとうはやて。そういう事にしてくれるとお願い事もしやすいかな」

「なんや、今日はお願い事でも……っと、そうやったな」

 

はやての言葉に二人の表情が一気に引き締まる。バーダックもその空気を察したのか瞑っていた目を開く。

 

「これを見て欲しいのだけど…」

 

しかし、カリムが語ったのは新型ガジェットと、一昨日発掘されたレリックについての情報。これはガジェットとの戦闘にも関わるため十分過ぎるほど重要な事案であったが、バーダックにとってはそこまで気にかかるものでは無かった。

 

「…この話のために俺を呼んだのか?」

「…いいえ。バーダックさんに聞いて欲しいのはここからです」

「はやて、ここは私が話すわ」

 

カリムはバーダックの目をしっかりと見据えると、ゆっくりと口を開き始めた。

 

「…貴方や同族のパラガスさんやブロリーが元の世界からやって来てから十年近くの時が流れました。その間にあなた方は多くの戦闘を繰り返した。…その気という未知の力で。魔力しか知らないこの世界の人間…特に魔法に関わる知識のある人間にとって、それは魔法と肩を並べる…あるいはそれ以上の可能性を秘めたものなのです」

 

「貴方は知らないでしょうが様々な場所で秘密裏に気の研究が行われていました。でも結局研究はどれも失敗続き。それどころか気は魔法ほど応用が効かないという事も分かって今では研究も下火になった…」

「…何が言いたい?」

「これを見てほしいんです」

 

カリムは引き出しから小さな箱を取り出すと、バーダックにそっと差し出す。

 

「これはレリックを調査中の局員が破棄された研究所から偶然見つけたものです。落ち着いて見てください」

「なっ、こいつは…!」

 

箱を開けて中身を見るや否や、バーダックは思わず目を見開く。

 

「こいつは…スカウターじゃねぇか…!」

「スカウター…?」

「こいつは相手の戦闘力を割り出す機械だ。他にも通信機能なんかが備わってる。…こいつは壊れているみたいだがな」

「つまり…貴方の世界の道具で間違いないという事でよいのでしょうか?」

「ああ。形なんかは多少違うが間違いねぇ」

「ということは考えられる事は二つ…一つはこちらの世界で偶然似たものが生み出された。もう一つは…」

「バーダックさんの故郷の世界と繋がる人間がおるってことやな」

「こいつは俺達が使っていたものと瓜二つ…いや、全く同じだ。模造品なんて事は絶対にねぇ」

「つまりスカウターを付けた貴方の一族がこの世界にやってきていると…?」

「どうだかな。…俺達サイヤ人はほとんどが死に絶えた筈だ。今更他のサイヤ人の奴が来る確率なんてほとんどねぇと思うがな」

「…すみません、辛いことを思い出させてしまって…」

「もう十年も前のことだ。いちいち気にするな」

「コホン…この機械がなんでこの世界にあるのか気になるとこやけど…今はこれ以上の事は分からんなぁ…」

「そうですね…それでは──

 

カリムが話し始めたその時、はやてとバーダックの通信機からアラート音がけたたましく鳴り響く。突然の出来事だったが、はやては慌てること無く状況を整理し、なのは達と連絡を取る。

 

「なのは隊長!フェイト隊長!パラガスさん!それからグリフィス君!協会騎士団で追ってたレリックらしきものが見つかったんや!場所はエイリム山岳丘陵地帯をリニアレールで移動中───

「よし…行くか…!」

「ちょっ…バーダックさん!?いつの間に着替えたんですか!?と言うかその戦闘服はどこから…」

「下に着込んでんだよ。全くお前らは便利でいいもんだぜ…さて…なのは達の気を追っていくか…」

「ま、待ってください!まだ飛行許可は出てませんし現場にはなのはちゃん達が…」

「知るか。そんな理由で久しぶりの戦闘をみすみす見逃せるか」

「はぁ…こういう時のあなたを止めても無駄なのは分かってます。止めもしませんし飛行許可も取っておきますから…」

「へっ…よく分かってるじゃねぇか」

「そのかわり…無茶な事はしないでくださいよ」

「フン、悪いようにはしねぇよ」

 

本当に分かっているのかと問いただしたくなるような生返事を返しつつ、近くの窓から勢いよく飛び出して行く。飛行しながら周辺の気を探ると、馴染みのある気が一つ見つかった。

 

(なのはよりもフェイトの気が近い。とりあえずはここに行くか……へっ…こっちに来て初めて戦った時を思い出すぜ)

 

慌ただしい六課の初出動に、バーダックの中に懐かしい記憶が蘇る。それに久しぶりの実戦という事もあり、彼は心を踊らせ現場に向かうのであった。

 

 




どうも、顔芸です。
今回は皆さんの大好きなあのアイテムの登場です。まぁ気を読めるバーダック達にとってはもういらない子扱いですが…
それとどうでもいいですけどスカウターって壊れる時に耳元で爆発するなんてよく考えるととんでもない機械ですよね。

更新ですが、何だかんだで前と同じぐらいになってしまいました…来週はGWですのでもう少し早く上げられるように頑張りたいと思います。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第七話 裏側

バーダックがフェイトの気を辿りながら現場に向かっている頃、隊舎から出動したなのは達は一足先に現場に到着しようとしていた。そんな時、管制から新たな情報がなのはの元へ飛び込んできた。

 

 

「なのはさん、パラガスさん!今の通信聞いてましたかい?」

「ああ。飛行型のガジェットの群れか…狙いはおそらくレリックだろうな」

「ヴァイス君!パラガスさん!私はフェイト隊長達と合流して空を抑えるよ!」

「了解!なのはさん、お願いしますよ!」

「なのは、それならブロリーを連れて行け。こっちのサポートは俺とリインでなんとかする」

「分かりました。ブロリー君!行ける?」

「…大丈夫だ」

 

ブロリーは短く返事をすると、淡々とヘリ後部のハッチへと歩いていく。その面持ちはまるで何年も戦ってきた戦士のようで、とても10歳の少年が戦場に向かうものには見えなかった。

 

(うん。ブロリー君は大丈夫そうかな。後は…)

 

なのははブロリーとは対照的に不安げ表情でこちらを見ている新人四人に向けて声を上げる。

 

「大丈夫だよ。確かにみんなはまだまだ成長段階だけど、私はみんなならできると思ってるし、できないと思うならここにも連れて来てないよ。それに今はパラガスさんが残ってくれるから。…じゃあちょっとだけ出てくるけど、皆も自信を持ってズバッとやっつけちゃおう!」

 

なのはの激励を受けたティアナ、スバル、エリオの3人はキリッと引き締まった顔付きに変わる。しかしキャロだけはまだどこか落ち着かない表情で下を向いていた。そんな様子を見てなのはは何か察したのか、キャロの頬に手を添えて優しく語りかける。

 

「あっ…」

「…キャロ。そんなに緊張しなくても大丈夫。離れてても通信で繋がってるから1人じゃないよ。それに…キャロの魔法はみんなを守ってあげられる優しくて強い力なんだから…ね?」

「なのは隊長……はい!頑張ります!」

「うん。何かあったらすぐに連絡してね。すぐに駆けつけるから」

 

なのはの言葉でキャロはなんとか元気を取り戻し、それを見た他のメンバーも微笑ましい様子に思わず頬が緩む。そんな暖かい雰囲気のメンバー達をブロリーだけは複雑そうな表情で見つめていたが、この場にそれに気が付く者は本人を含めて誰もいなかった。

 

 

 

***

 

 

 

「へっ…ぞろぞろいやがるぜ」

 

バーダックとフェイトが目的地付近に到着すると、遠くの空が無数の飛行タイプのガジェット達で溢れていた。並の魔導師なら一目散に逃げ出すような状況だが、この二人に焦り全く見られない。その理由は単純明快。この二人が圧倒的に強いからだ。さらにその時、ダメ押しの援軍の二人がバーダック達と合流する。

 

「バーダックさん、フェイトちゃん」

「なのはと……それにブロリーまでいやがるのか。チッ…これじゃあすぐに終わっちまいそうだぜ…」

「いいことじゃないですか。それにしてもフェイトちゃんとバーダックさんと同じ空で戦うのってすごく久しぶりですね」

「そうだね。三人が揃うのはもう十年近く前かも…」

「そっか…なんかつい最近のような気がしてたけど…もうそんなに経つんだ」

「十年前…か」

「うん。ブロリーもはやてちゃんやパラガスさんに抱かれて戦場に来ちゃった事もあったんだけど…流石に覚えてないよね」

「…ああ。全く記憶にない」

「ふふっ…そうだよね。それじゃあ今度みんなで集まれたらその話をしよっか。もちろんバーダックさんもね?」

「おい…俺まで巻き込むんじゃ…」

 

バーダックがそう言いかけた時、前方のガジェットから放たれた光がバーダックの肩を掠める。

 

「…やっと気付きやがったか。さぁ…!少しは俺を楽しませて見やがれっ!」

 

そう言ってガジェットに突っ込むバーダックを皮切りに、三人も分散しながらガジェットの撃墜に取り掛かるのであった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

「エリオ君!」

「でりゃあぁぁぁっ!」

 

キャロの強化魔法を受けたエリオのストラーダが巨大なガジェットを両断する。それと同時にガジェットの反応は全て消滅し、奪われていた車両のコントロールも取り戻すことができた。

 

(なんとか終わったな…危なっかしい場面はあったが、流石はなのはの教導を受けているだけあると言ったところか…)

 

現場を見ていたパラガスは問題が発生すれば手助けするつもりだったが、今回はその必要はなかった。自らの力で任務を完了した新人達の様子を満足気に見ているとはやてから通信が入る。

 

「パラガスさん。レリックの護送はスターズにやってもらうんで、パラガスさんは現場に待機してもらってライトニングと現地の職員に事後処理の引き継ぎをお願いします」

「ああ。任せておけ」

「それから例の機械…スカウターの件なんですが…」

「ああ。後で見させてもらうよ。そうだな…今夜にでもバーダックを連れて顔を出すようにするよ」

「了解です。…あのパラガスさん」

「ん?なんだ」

「もし…可能ならば…ブロリーも連れて来てくれないでしょうか?」

「ブロリーか…分かった。必ず連れていく」

「あっ…嫌そうだったら無理に連れてこなくても…」

「大丈夫だ。はやてが来て欲しいと言えばあいつも来るさ。…いつもながらすまんな」

「いえそんな…そもそも私が原因の一端でもあるわけですから…それじゃあとりあえずこれで…」

「…ああ。また夜にな」

 

パラガスはそう言って通信を切ると思わず小さなため息をつく。あの明朗快活なはやてがブロリーの事になると途端にしおらしくなってしまうのだ。ブロリーがきちんとはやての元に来るのか来るのかという心配もあったが、今はただ二人が会うことで何か解決の糸口になればと願うばかりであった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

その夜、パラガスはバーダックを連れてはやての部屋に向かっている…はずだったが、パラガスは隊長室とは逆の方向に歩いていた。

 

「おいパラガス、はやての所に行くんじゃ無かったのか?」

「ああ。だがその前に少しブロリーを呼びにな」

「ブロリーだと…?あいつはサイヤ人だがスカウターの事なんて知らねぇはずだろ?」

「別にスカウターの件でない。まぁそのなんだ…少し色々あってだな…」

「…何でもいいが早く終わらせろよ。俺はとっとと訓練に行きてぇんだ」

「分かった分かった…そんなに手間は掛けさせんよ」

 

急かすバーダックを宥めつつ、気を頼りにブロリーの元へと向かうと、そこには自室で瞑想する少年の姿があった。

 

「おお、ここに居たかブロリー」

「親父…それにバーダック…どうしたんだ…?」

「ブロリー、今からはやての所に行くぞ」

「随分急だな…」

「ああ、お前に話があるそうだ。…行くのは嫌か?」

「いや…はやてが呼んでいるなら行く」

「ん…そうか」

 

いつもならブロリーは何かと理由を付けてはやて達と会うのは避けてしまうのだが、今日はあっさりと首を縦に振ったためどう説得しようかとあれこれ考えていたパラガスは思わず妙な返事をしてしまった。

 

「どうしたんだ親父…?」

「いや、何でもない。はやてを待たせているからすぐに隊長室に行くぞ」

「分かった」

 

 

 

 

 

〜〜〜

 

 

 

 

 

三人が隊長室にやって来ると、はやての他にヴィータとシャマルが室内の長椅子に腰掛けていた。

 

「おっす…」

「待たせたなはやて…ん、ヴィータとシャマルも居たのか」

「お二人共お待ちしてました。あっ、ブロリーも来てくれたんやな!」

「…はやてが呼ぶなら俺は来るぞ」

「ふふっ…ありがとな」

 

「…それで…例のスカウターは持ってきてるのか?」

「はい、ここにあります。それと実は昼間に技術部の人に調べてもらったんですけど、どうも故障の原因は配線が切れてるだけみたいやったんで直してもらってあります」

 

そう言うとはやては引き出しから小さな箱を取り出して二人の前に差し出す。パラガスはそれを手に取って裏表を一通り見ると、慣れた手つきで耳元に装着する。

 

「やっぱりパラガスさんが付けると様になってますね」

「ふふっ…ヴィータちゃんとは大違いね」

「うっせー!いいんだよこんなの似合わなくたって…」

「外見はほとんど同じか…ふっ…なんだか懐かしいな…ん…?これは…」

「どうした?」

「バーダック、お前気を落としてそこに立ってみろ」

「別に構わねぇが…ほらよ」

 

「戦闘力15000か…もう少し上げてみろ。ゆっくりやれよ」

 

バーダックは目を瞑ると気を集中させる。すると機械音を鳴らしながらスカウターの示す値が上昇していく。

 

「…なぁはやて、15000って高いのか?」

「さぁ…私もその辺はよう分からんからなぁ…二人は知ってるか?」

「…俺は知らない…あの機械自体見るのは初めてだからな」

「私もです…それにしても一体どういう仕組みなのかしら…」

 

不思議そうに二人を見つめる三人をよそに、バーダックは気を高め続ける。

 

「…今どのぐらいだ?」

「21000を少し超えた辺だ。もう少し上げてみろ」

「馬鹿かお前は。これ以上上げたらぶっ壊れるだろうが」

「いいからやってみろ。俺の予想が正しければ多分大丈夫だ」

「チッ…どうなっても知らねぇぞ」

 

バーダックが懸念するのも無理はない。スカウターの計測限界はせいぜい21000~22000程度。パラガスの思わぬ提案に、バーダックは若干不安を抱いたがパラガスの言う通りに気をさらに上昇させて行く。

 

「…今度はどのぐらいだ?さっきよりはかなり上げたはずだが…壊れてはいねぇようだな…」

「…35000だ」

「なっ…35000だと…?どうなってやがる…」

「おいおい、2人だけで話進めんなよ」

「パラガスさん、バーダックさん、どういう事なんですか?」

「…このスカウターが測れる戦闘力というのはせいぜい20000より少し上ぐらいが限界のはずなんだ」

「えっ…でも確か今35000って…」

「…ああ。どうやらこのスカウター…俺達が向こうにいた頃のものより格段に性能が向上しているようだな…」

 

ヴィータ達はいまいち事態を飲み込めていない様子だったが、はやては何かを察したようだった。

 

「という事は…」

「はやて…明日にでもこのスカウターの作られた場所を調べてもらってくれ。元に戻らなくても構わん」

「分かりました。また技術部の所に持って行きます」

「おいおいちょっと待ってくれよ…アタシには何が何だかさっぱりわかんねえぞ…」

「ええかヴィータ。さっきも言ってたけどパラガスさん達が向こうの世界に居た時のスカウターはここまで高い数値は計測できなかったんや。つまりこれは最近になって作られた物って事になる」

「そ、それは分かるんだけどよ…それがなんだって言うんだよ?」

「科学者達が同じ目的の機械を作ったとしても、全く同じ物ができることなどほとんど無いだろ?」

「うん…?まぁそうだろうな……ってことはやっぱりこの機械ってパラガス達の知り合いが作ったって事か…それでその知り合いって──」

 

「…フリーザッ…」

 

バーダックは怒りを抑えながら小さく憎き相手の名前を呟く。

 

「おいおい…!確かフリーザってブロリー達の故郷をめちゃくちゃにしやがった奴だよな…」

「落ち着けバーダック…あくまで今はスカウターが発見されただけだ。それにもしフリーザ本人が来ているのなら奴の気を感じるか既に暴れているはず…おそらく研究者か兵士の誰かが来ただけなのだろう」

「…チッ…俺はもう行くぞ」

「えっ…行くってどこへ…」

「修行だ。奴が来ているかも知れねぇのにこんな場所で喋っていられるか」

「お、おい待て!ひとまず落ち着けと言っただろうが!バーダック…!」

 

バーダックは目的を言い捨てると速足で部屋を出ていってしまう。パラガスもそれを追いかける形で部屋を後にしてしまった。そんな様子を見た残されたヴィータ達は呆気に取られ、隊長室は数秒間の静寂に包まれたのであった。

 

 

「はやてちゃん…これってもしかして…」

 

「…私達の取り越し苦労だったらええんやけどな…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「博士…お茶をお持ちしました」

「ああ、ありがとう。そこに置いておいてくれ」

「最近はあまりお休みになっていないようですが…あまり無理はなさいませんように…」

「心配ない。…生きて動いているプロジェクトFの残滓に未知の力を使う男達…さらにはその力を使う者達が私の下にやって来るとは…くくっ…最近はやたらと魅力的な素材や技術が次々に舞い込んできてね…寝ようとしても頭が冴えてしまうんだよ」

「…その異世界の者達ですが…本当に我々の近くに置いてよかったのでしょうか…?」

「そう心配する事は無い。少なくともあの約束がある限りはこちらに牙を剥くことは無いだろうからね…」

「…そうですか。博士がそう仰るなら私は従うだけです」

「さて…研究を続けるとするか…全く…魅力的な素材がありすぎるのも困ったものだ…ふっ…ふっふっふっ…はっはっはっはっ…」

 

「失礼しますよ」

「ん…あぁ君か。僕に何か用でもあるのかい?」

「いえいえ…頼んだものは順調かと思いましてねぇ…」

「心配しなくてもいい。直に私の野望は完遂されれば…君の願いとて案外簡単に叶うだろうからね」

「ホッホッホ…そうですか。楽しみに…していますよ」

 

 

 

六課の裏で暗躍する影に生きる者達。彼らがミッドチルダに関わる者達の運命を大きく捻じ曲げる事になるなど、管理局やバーダック達は勿論、当人達にも予知する事はできなかった。




どうも顔芸です。

今回思い切って戦闘シーンをカットしてしまいましたが、書き終わってからまずかったかな〜と今更ながら思ってます。
今回の戦闘は原作とほぼ同じなのと、もう七話になるのになかなか話が進まないことを危惧してのことだったのですが…

内容についてですが、今回は裏で暗躍する人物が僅かに登場した回でした。勘のよい皆さんには簡単に分かってしまうかもしれませんが、一応コメント欄ではネタバレは避けるようにお願いします<(_ _)>


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第八話 進展

「はぁぁっ!」

 

追いかけてきたパラガスを追い払い、訓練場で一人拳を振るうバーダック。偶然にも自分の元に現れたスカウターによって薄れていた憎しみと痛みが蘇る一方で、本当にフリーザが来ているのかという疑念も生まれていた。

 

(本当にフリーザの野郎が来てやがるのか…?さっきは奴の名前でカッとなっちまったが…考えてみればパラガスの野郎の言う事も一理ある。スカウターは奴だけの物じゃない上に気も感じねぇ……だが本当に奴が来ていたとしたら──

 

 

そこまで考えたところでバーダックはハッとして拳を止める。

 

(チッ…何を無駄なこと考えてるんだ俺は。奴が来てようが来てなかろうが…いずれ俺がとどめを刺す事には変わりねぇんだ…!俺の今やるべき事は強くなる事…だよな…お前達)

 

バーダックは一瞬空を見上げると、僅かに芽生えた迷い打ち払うように、再び拳を振るうのであった。

 

 

 

 

~~~

 

 

 

 

「はぁ…なんだかえらい事になってしまったなぁ…」

 

技術部にスカウターを渡し終えたはやては、ブロリーを連れて隊舎の前を歩いていた。先程の喧騒が嘘のように、コンクリートに波が打ち付ける音だけが辺りに響いていた。

 

「はやて…親父から聞いた。俺に話があるのか?」

「うん…そうやな…でもそんなに堅苦しいことを話そ思ったわけやないんよ」

 

はやては穏やかな口調でそう話すと、近くにあったベンチに腰を下ろす。それに倣ってブロリーも隣に座りると、はやては再びブロリーに語りかけ始める。

 

「修行とか仕事は順調か?なんか困った事は無いか?」

「…なんでそんな事聞くんだ?」

「だってブロリー、最近元気なさそうに見えるんやもん」

「…!(そんな風に見えていたのか…)」

 

はやての思わぬ発言に驚くブロリー。そんな風に見えているとは思わなかった。同時にはやて達や父親に心配をかけてしまったと思うと、申し訳ない気持ちが溢れてくる。

 

「誰に似たんかブロリーは辛い事とか隠してしまうからなぁ…なんか困った事とかあったら遠慮なく言ってええんよ?」

「心配しなくていい。修行で少し疲れているだけだ」

「そうか…?それならええんやけど…あっ、ほんなら今度──

 

そう言いかけた時、はやての携帯が軽快な音楽で着信を知らせる。発信元は先程スカウターを預けた技術部からだった。

 

「もしもし。私やけど…」

『夜分すみませんはやて部隊長。先程のスカウターの件なのですが──』

「…はやて、心配をかけてすまなかった。これからはもっと頑張るから安心してくれ」

「えっ…あっ、ブロリー!」

 

仕事の電話だと察したブロリーはそう言い残すと一人何処かへ歩いて行ってしまう。はやては引き止めたい衝動に駆られたが、あの大人びた背中をなんと言って止めればよいのか分からず、ついには声を掛けることが出来なかった。

 

 

(違う…違うんやブロリー…私は遠慮して欲しいんやなくて──

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

六課の初出動から一週間と数日、はやて達の心配をよそにスカウターに関わるような事件が起こることはなく、今日もいつもと変わらず全員が各々の仕事に向かっている。しかしそんな中でも今日は変わった事が一つある。それを見るためにパラガスは訓練場へと足を運んでいた。そして訓練場の目の前にやって来ると、パラガスの眼前に現れたのはいつもの廃ビルではなく木々が青々と茂る森だった。

 

(今日は森林か。それにしてもよく出来ているな……っと関心している場合ではないな。さてと、あいつらの気は…)

 

気を頼りに森を進むと、そこにはなのは達の訓練に必死で付いていく新人達の姿があった。

 

「くっ…しまっ──」

「ほら!そうやって動いちゃうと後が続かない!」

 

「まずは動き回って狙わせない……それから攻撃の当たる位置に長居しないこと」

「「はいっ!」」

 

今日から始まった個人スキルの練習。ヴィータやフェイトも教導に参加し、以前よりもさらに高度な訓練が行われていた。

 

「いいか。防御ごと潰す打撃はアタシの専門分野だからな。ぶっ叩かれたくなかったらしっかり守れよ!」

「はい!」

「よしそれじゃあ……あ、パラガスじゃねぇか」

「あっ、パラガスさん!お疲れ様です!」

「お前が一人でここに来るなんて珍しいな。どうしたんだ?」

「時間があって少し様子を見にな。邪魔だったか?」

「いや、そういう訳じゃねぇんだけど…これから昼休憩だから午後まで訓練はねぇぞ」

「ん…そうだったのか。なら今日は諦めるとするか…」

「そういやなんか今日はやてと用事があるんだったな」

「ああ。午後にナカジマ三佐のところに行くことになってな」

「えっ、父のところに行くんですか?」

「そうだ。何か伝言はあるなら伝えておくが…」

「あ、いえ大丈夫です。一応個人的に連絡は取り合ってるので…」

「そうか…分かった。という訳だヴィータ。今日は少し様子を見たら戻るよ」

「ふーん…まぁ別に構わねぇんだけどさ……折角来たならブロリーの様子も見てってくれよ。あいつとバーダックの訓練最近すげーハードみたいでさ…あの二人はケロッとしてるからなんか止めづらいし、第一言って素直に止めるような性格じゃねぇし…はぁ…バーダックの奴はともかく、ブロリーはちょっと心配なんだよな…」

「俺がなんだって…?」

「だからお前は…ってうわっ!お、お前いつの間に…」

 

突然背後から現れたブロリーにヴィータは思わず体を反らす。

 

「今さっきだ。バーダックに休んで来いと言われたから休みに来た」

「そ、そうか。そんじゃあアタシはなのは達を呼んでくるから…」

「いや、俺が呼んで来る。ヴィータは待っててくれ」

「ん…そうか?じゃあ頼むよ」

「ああ…すぐ戻る」

 

そう言うとブロリーはふわりと宙に舞い上がり、なのは達を探しながら飛んで行った。

 

「…ほらな。あいつそこまで戦いは好きじゃねぇはずだし、スバル達よりずっとキツイ訓練のはずなのにこの調子だ。へばるどころか息を切らした所もほとんど見せねぇんだ。本当に疲れてねぇならいいんだけど…あの時なねなのはみたいになっちまうんじゃ…」

「そうだな…いくらブロリーが強くてもあいつはまだ子供だ。あまり無理をするようならなんとかしなければな…」

「あの、なのはさんに何かあったんですか?」

「えっ、ああ…その…あれだ、大した事じゃねぇんだ。忘れてくれ」

「は、はぁ…分かりました…」

(危ねぇ…なのはから言うなって止められてるんだった…)

 

うっかりなのは負傷事件を口に出しかけてしまうヴィータだったが、スバルは忘れてくれという言葉を素直に受け取り、これ以上は追求しなかった。しかしヴィータは安堵する一方で、密かにある決意を固めるのであった。

 

 

 

(いざとなったら私が守ってやるんだ…なのはもはやても…そんでブロリーも…)

 

 

 

 

***

 

 

 

 

個人スキルの訓練が始まってからさらに一週間後、六課のメンバーは六課自前のヘリで任務に向かっていた。機内にはサイヤ人の三人に加え、隊長を含めたスターズとライトニングの六人。さらにはシグナムとヴィータを除いた八神家の面々に、機首を握るヴァイスや犬形態のザフィーラを含めれば計十一人の大所帯だ。これだけの人数が乗っていても流石は最新型のヘリ。一人一人がそれなりのスペースを取ることができていた。

 

「はやて部隊長、もうじきヘリが到着しますよ」

「そうか。ほんなら改めて今の状況と任務のおさらいや」

 

そう言うとはやてはテキパキと言葉を並べていく。今まで出どころの分からなかったガジェットドローンの製作者、ジェイル・スカリエッティという男についてや、今回の任務の目的と担当箇所。出発前に全員が聞いている情報だったが、戦闘になる可能性が高い任務のため、殆どが真剣に耳を傾けていた。

 

「後は…あっ、そうや。これは隊長達以外にはまだ話してなかったな…みんなにも念のため話しておくか…」

「もしかして…例の魔導師大量失踪の事?」

 

大量失踪という言葉に一同の表情が強ばる。今まではやての言葉を流して聞いていたバーダックも、はやてに向き直って耳を傾ける。

 

「失踪事件…ですか?」

「そう。しかも失踪する人には規則性があって、ある程度実力のある魔導師ばかりが失踪してるんや」

「そうなんですか…?でも…僕達の周りではそんな話は全く聞きませんけど…」

「うん。今のところ管理局の職員が被害にあったって話は出てないんだ。今失踪が相次いでるのは…次元犯罪者や違法魔導師と言った法を犯す魔導師達ばかり。どこかにまとまって身を潜めているのか…あるいは──

 

フェイトがそこまで話したところではやて達は新人達の表情が不安そうな表情を浮かべ始めている事に気が付き、諭すように声をかける。

 

「まぁ今回の任務とは直接は関係ないからそんなに気に病まんでもええよ?」

「うん。この世界でも失踪者が出てるから一応伝えただけ。私もガジェットはともかくとして、失踪者まで関わってくる可能性は低いと思うよ」

「は、はい…」

 

なだめるフェイト達を横目に、小さな声でバーダックは本音を呟いてしまう。

 

「へっ…どうだかな。こう言う時に限ってとんでもねぇ野郎が出てくるもんだ」

「ちょ…ちょっとバーダックさん…脅かすようなこと言わないでください…!せっかくはやてちゃん達がフォローしてるのに…いいですか?それ思ってても皆には言っちゃ駄目ですからね…!」

「事実を言ったまでだ。嘘は言って──

「事実でも言っちゃいけない時はあるんです!分かりましたか バ ー ダ ッ ク さ ん ?」

「お、おう…」

 

さしものバーダックもなのはの怒りの片鱗を垣間見て、今回は引き下がる事を決める。こういう時の妻──もとい女性に弱いのは、サイヤ人の特性なのかもしれない。

 

「全くもう…パラガスさんもそう思いますよね…?」

「ん…?あ、ああ…そうだな…」

 

突然話を振られたパラガスは、一応肯定しつつも生返事を返してしまう。そしあこのままでは自分ももとばっちりを食らうと思ったのか、すぐに話をすり替える。

 

「そ、それはそうとなのは。さっきから気になってたんだがそのスーツケースはなんだ?」

「これですか?これは今回の仕事着です」

「あ?なんだそりゃ?俺はそんなもん聞いて───

「ふふっ…ちゃんとお二人の分も用意してますから心配しなくても大丈夫ですよ?」

 

「そうだったのか…わざわざすまんな」

「いえ…用意したのははやてちゃんですから」

「そうだったのか…言ってくれれば自分で用意したのだが…聞いたかバーダック。お前も礼を言っておけよ」

 

(嫌な予感がしやがるぜ…)

 

 

 




どうも顔芸です。
今回せっかく書き溜めて早めに投稿しようと思ったのに結局書き直して一週間以上かかってしまい申し訳ないです。話の落とし所がわからぬぅっ!

それと今回は話の進め方について一つだけアンケートを取ります。
なお、コメント欄で回答していただくのは規約違反ですので回答はメッセージ等でお願いします。またこれによって話の内容が変わることはありません。


現在よりも日常パートは…

①もっと入れた方がよい
②今より少なくしてサクサク進めて
③今のままででえじょうぶ。

番号のみでも大丈夫ですのでお時間あれば回答よろしくお願いします<(_ _)>


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第九話 介入

今回ロストロギアを含めた骨董美術品のオークションが行われるのは、この広いミッドチルダでも有数の高級ホテル、“ホテル・アグスタ”。悠久な樹海の中に建てられたこのホテルには、所謂上流階級と呼ばれる人間達が都会の喧騒を避けて休暇を過ごす場所だ。そんな場所で警備をするのだから、それなりの服装をしなければ確実に浮いてしまう。そのため六課の館内警備の人間は全員フォーマルな衣装を身に付けていた。無論それはこの男も例外ではなく…

 

 

「くっ…はやての野郎…一度ならず二度までも…」

「ふっ…そう腐るなバーダック。なかなか似合っているぞ?」

「ケッ…つまらねぇ世辞を言いやがって…」

 

そう愚痴るバーダックの服装は黒のシャツにダークレッドのスーツ、首元には洒落た黒の蝶ネクタイというどこぞのハリウッド俳優のような出で立ちである。本人は今すぐにでも普段の服装に戻りたい様子だったが、比較的ワイルドなイメージの色合いが功を奏したのか、黙っていればかなり自然である。

 

「あっ、バーダックさん着てくれてる!」

「ふふっ、似合ってるやないですか」

 

明るい声に振り向くと、そこには煌びやかなドレスを身にまとった隊長三人衆の姿があった。

 

「てめぇら…また俺にこんな格好を…」

「まぁそう言わずに…今度はお世辞じゃなく本当に似合ってますよ?」

「そうそう。バーダックさんから文句が出ないようになんたって今回は三人で選んだんですから」

「三人だと…?まさかフェイト…」

「は、はい…わ、私も選びました…」

「………」

「特にフェイトちゃんはバーダックが着るからって自分の以上に念入りに選んだんでたからなぁ~」

「ちょ、ちょっとはやて…そう言う事は…」

 

フェイトがはやてのからかいに顔を赤らめながら小さな抵抗を見せる一方で、バーダックは歯牙にもかけずにムッとした表情で反論を述べる。

 

「…そこまでするなら俺を外の警備にすりゃよかっただろうが」

「うーん…まぁそれでもよかったんですけど、屋内の警備なら魔法使わんでも戦えるバーダックさん達の方が向いてますし、仮に屋内で戦闘が起きたら人命に直接関わる事態になりかねませんから、できるだけ戦いに慣れた人がよかったんです。…まぁ一番の理由はフェイトちゃんのドレス姿を見て──

「わーっ!も、もういいから!ほ、ほらそろそろオークションが始まるから早く持ち場に行かないと…」

 

そう言ってフェイトはあたふたしながら笑みを浮かべたはやてを押してゆく。そんな微笑ましい様子をなのはとパラガスの二人は笑顔で見つめていたが、当の本人は難しい顔付きで小首をかしげるばかりであった。

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

(ここは…何処だ……?)

 

 

気が付くと知らない街の道路に一人佇んでいた。街と言っても建物はいつ崩れてもおかしくないほどに破壊されており、まるで戦争でも起こったようだった。人の姿は見受けられず、生物の気も感じない。そして自分が何故こんな場所に居るのか、自分が今まで何をしていたのか…果ては自分の名前すらはっきりと思い出せない。

 

(一体何が…分からない…何も……)

 

しばらくは当てもなく街を歩いていたが、結局記憶が蘇る事は無かった。しかし記憶を失ったとはいえ明らかにこの状況はおかしい事ぐらいは分かる。そしてなんとか今の状況だけでも把握しようと、手頃なビルの屋上から辺りを見渡してみる。空には不気味な灰色の曇が広がり、遠くには同じようなビルが建ち並んでいるばかりで、手がかりになるような物は何も無かった。高い場所に登った程度で思い出せるなら最初から記憶を失ったりしない……そう思い地上に降りようとしたその時、脳内に電撃が走った。

 

 

「違う…俺は…この街を知っている……ミッ……ド…チル…?……ミッドチルダか…!…まさかっ…!」

 

 

そう呟くと躊躇いなくビルを飛び降り、全速力で道路を駆け抜ける。決して今の状況が理解出来た訳では無く、何処に向かっているのかもあやふやだった。ただ何か取り返しのつかない何かが起きてしまったような…そんな胸騒ぎだけが自らの足を動かしていた。

 

「親父っ…!はやて…!リイン…!シグナム…!ヴィータ…!シャマル…ザフィーラ…!」

 

気がつけば譫言のように大事な人の名前を口にしながらひたすらに走る。走る。走る。走る。

 

 

 

 

「はぁっ…!はぁっ…!はっ…ここは…」

 

 

 

 

どのぐらい走っただろうか。気が付くと彼はとある家の玄関先にまでやって来ていた。いつの間にか空を覆っていた雲は消え、周囲からは人の気が溢れ建物も元通りの状態に戻っている。

 

 

(今までのは…夢だったのか?)

 

 

ブロリーは思わず胸を撫で下ろす。悪い夢だ。最近修行ばかりしてあまり寝ていなかったせいだろう。はやて達を心配させてもいけない。今日は早く休もう。

そんな事を考えながらドアに向かう。今は一秒でも早く聞き慣れた声が聞きたかった。

 

 

 

「はやて……ただい……ま…?」

 

 

 

そう言いながらドアノブに手を乗せた時だった。見てしまった。気がついてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自身の手が真っ赤に染まっている事に

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「かはぁっ……!はぁっ…はぁっ…はぁっ……」

「うおっ…!?びっくりした…」

「大丈夫か?随分うなされていたようだったが…」

「ヴィータ…シグナム…?俺は……」

「お前が通信に出なかったから様子を見に来たんだ。そしたらお前が地面にぶっ倒れてて…」

「そうだったのか…すまなかった…」

「別に私に謝んなくていいけどよ…お前は最近根詰めて訓練しすぎだ!皆心配してんだから程々にしとけよ…?」

「…気を付ける。俺が寝ている間に何か異常は無かったか?」

「その事なら大丈夫だ。それよりお前は念のため少し休んでいろ」

「だが…」

「あくまで見張りだけだ。何かあればお前にもすぐに連絡する」

「…分かった。じゃあ何かあったら呼んでくれ」

 

そう言うとブロリーは素直に休憩室へと向かって行く。その背中には明らかな披露の色が見えた。

 

「いいのかよ…ずっと休ませなくて…」

「あいつは辛いことは隠したがるからな。これぐらいに言っておかなければ無理にでも仕事をするかもしれん」

「なるほどな……ホントこういうところははやてそっくりだ」

「まぁそれが良いところでもあるのだがな…それよりあのブロリーがうなされるとは相当な悪夢を見たんだろう。お前何か心当たりはあるか?」

「さあな…だけどあの真面目なブロリーが仕事中に突っ伏して寝るなんて訓練でよっぽど疲れてんだ。こりゃ本格的にどうにかしねぇといけねぇかもな…」

 

ひとまずブロリーの無事に安堵の表情を浮かべる二人であったが、同時に心配事も増えてしまうのだった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「ねぇティア…」

 

 

(最初の出動の時…それなりに上手くいった。でも…ただそれだけ。毎日の訓練もあんまり強くなってる気がしない。でも私の周りには天才の同僚や優秀過ぎる隊長達ばかり。今でも疑問に思ってる…なんで私がこんなところに居るのか…なぜあの人は私を部下に選んだのか…)

 

 

「ティアってば!」

 

「えっ…あぁ…」

「さっきからぼーっとしてるみたいだけど…具合でも悪いの?」

「ごめんごめん…少し考え事をしてただけよ。それで何の話だったっけ…」

「今日は八神部隊長の守護騎士団全員集合だねって話だよ」

「あーそうだったわね。そう言えばアンタその辺詳しかったわよね?」

「うん…って言っても父さんやギン姉から聞いたことぐらいだけど…八神部隊長の使ってるデバイスが魔導書型で、それの名前が夜天の魔導書って事と…それと副隊長達とシャマル先生とザフィーラ、リイン曹長は八神部隊長個人が保有する特別戦力だって事。パラガスさんとブロリーは八神家に居候してる親子…らしいんだけど、ほとんど家族みたいな感じらしいから、家族全員揃えば無敵の戦力なんだって…」

「ふうん…まさにエリート一家って感じね…」

「ティア…?なんか気になるの?」

「別に…」

「そう…じゃあまた後でね」

 

そう言うと二人は念話を切り再び仕事へと戻る。この時ティアナの表情は浮かばないものだったが、着々と戦闘開始の準備が進んでいるのであった。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

ホテル・アグスタ周辺の薄暗い森の中に大小二つの影があった。一人は栗色のコートを着た大柄の男。もう一人は薄紫の髪にフードを被った幼い少女である。

 

「…いいのか?お前の探し物はここには無いのだろう…?」

「うん…でもドクターのおもちゃがこっちに向かってるって…」

 

少女がそう言いかけた時、ドクターと呼ばれた男…スカリエッティから通信が入る。

 

「ごきげんよう…騎士ゼスト…ルーテシア」

「ごきげんよう…」

「…一体何の用だ」

 

嬉々としてでは無いにしろ挨拶を返すルーテシアに対して、ゼストの方は辛辣な言葉をぶつける。

 

「相変わらず冷たいねぇ…まぁいいさ。レリックではないんだがあのホテルに興味深い骨董が一つあるんだ。少し協力してもらえないかい?」

「断る。レリックが絡まぬ限り、貴様らとは互いに不可侵を守ると決めたはずだ」

「ルーテシアはどうだい?頼まれてくれないかな?」

「…いいよ」

「ふっ…優しいな…ありがとう。今度お茶でも奢らせてくれ。君のデバイスに私が欲しい物のデータを送ったよ」

「…うん」

「それともうもう一つ…君に協力したいという者が居てね…今そっちに向かっているんだが…」

「協力者…?」

「ああ。君の力を疑っている訳じゃないんだが…どうしても今回協力したいそうでね」

「でもドクター…そんな気配は全然……」

「へへへっ…待たせちゃったかな…?」

「…っ!?」

(こいつ…いつの間に近付いて…)

 

突然背後から聞こえた不気味な声に二人はばっと振り返る。するとそこには全身にローブを纏った老人らしき姿があった。身長はゼストどころかルーテシアよりも小さく、フードを深く被っているため顔は僅かしか見えないが、異常に細い黄土色の腕や独特の声がただの人間ではない事が分かる。

 

「貴様…何者だ…」

「この男の言う通りさ…心配しなくても君達の邪魔はしないよ」

「…解せんな。一体何が目的だ?」

「…しつこいヤツだね。本当に協力してやるだけだよ。…まぁ強いて言うなら今回は偵察が目的かな?」

「………」

 

ゼストとルーテシアは信用ならないという表情だったが、このまま問いただしたところで無駄だと判断する。

 

「…私達の邪魔をしないのであれば勝手にするがいい。ルーテシア、お前もそれでいいか?」

「うん…」

「そりゃどうも。さて…じゃあぼちぼち早速始めようかな」

 

 

そう言うと老人は掌から大きな水晶玉を取り出し、ゆっくりと手をかざす。すると水晶は禍々しい光と強烈な風を放ち、それに伴って今まで見えなかった老人の顔が顕になる。体に対して明らかに大きい皺だらけの頭に備わった今にも飛び出しそうな巨大な眼球は、明らかに人間とはかけ離れている。そんな異形の姿を見て驚きを隠せない二人を尻目に、老人は両腕を高く掲げると目を細めてにんまりと笑みを浮かべる。

 

 

 

 

「さて…僕の…このバビディ様の力を見せてやるとするか…」

 

 

 




どうも顔芸です。
今回は一人目の敵が明らかになりました。皆さんの予想をいい意味で裏切れたら嬉しいですが、勘のいい方は前話ぐらいで気づいているかもですね…

もう一つ前回のアンケートですが、協力してくださった方ありがとうございました<(_ _)>以外にも3のそのままでという方が多かったです。

次回は二度目の戦闘回の予定ですが、前回はほとんどカットだったので実質Sts編初めての戦闘回になりますね。また読んでいただけると嬉しいです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第八話 亀裂

広大な森林の中で静かに動き出した怪しげな魔導師達。しかしそれを見逃すほど六課の警備は甘くない。

 

 

「…っ!クラールビントに反応…!」

「こっちも捉えました…!けどこれって…」

 

 

管制室のモニターに魔力反応を示す無数の点が表示されてゆく。その数は以前のハイジャック事件を上回るほどだったが、局員達の視線は別の場所にあった。

 

「ガジェットの後方にかなり大きな魔力反応が二つ…!しかもその内の一つはSランク並です!」

 

「いえ、この反応…それだけじゃないわ…複数の魔導師がガジェット達に混ざってこっちに向かってる…!」

「えっ…!それってもしかして…」

「話は後よ!私はシグナム達前線チームに伝えるから、みんなははやてちゃん達に連絡を!」

「り、了解しました!」

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

バビディ達が動き出す少し前、一人廊下を歩いていたバーダックは、付近の異様な気を感じ取り一人佇んでいた。

 

(さっきから漂っているこの気は何だ…決して強くはねぇが普通の人間のモノじゃねぇ。へっ…こりゃ本当に一波来るかもな)

 

バーダックは目を閉じて感覚を研ぎ澄ませながら過去の記憶を辿って行くが、結局気の主の手がかりになるような考えが出ることはなかった。

 

(…パラガスの野郎にも聞いてみるか。あいつもこの気は感じ取っているはずだ)

 

そう思いポケットの通信機を手に取った瞬間、まるで待っていたかのように通信機の無機質な音が鳴り響いた。

 

「…なんだ」

「こちらはやてです。バーダックさん、今管制から通信が入ったんですけど、結構な数のガジェットがこっちに向かってるそうです…!」

「…そうか」

「オークションの方はとりあえず中止はせずに時間を延ばして様子を見る事にします。とりあえずバーダックさんには───

「任せろ。目に見える奴らは全て叩き落としてやる」

「ちょ…まだ私は何も…!バーダックさんには──

「よし…行くか…!」

 

はやての次の言葉を察したバーダックは素早く通信を切断すると、戦場へと駆けてゆくのであった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

「でやぁぁっ!」

 

ヴィータが上空に投げた鉄球をガジェット達に向かってフルスイングで叩きつける。魔力を帯びたそれらは寸分違わぬ精度で目標に向かって行くが、ガジェット達はまるで生きているかのような滑らかな動きで難なく回避してしまう。付近で警備に当たっていたシグナム、ザフィーラ、さらに小休憩を取っていたブロリーも戦っているが、通常より高い回避性能と数の多さには手を焼いているようだった。

 

「こいつら…さっきまでと動きが全然違う…!こりゃ機械の動きじゃねぇぞ!」

「ヴィータ、おそらく相手は召喚師だ。となれば会場に回り込まれるかもしれん。お前は新人達の方に行け!」

「そうは言ってもよ…ここだってアタシ達四人で精一杯だ!今一人でも欠けたらここを突破されるぞ…!」

『その事なら心配いらんで』

「は、はやて!」

『今バーダックさんが勝手に……コホン。じゃなくて向かってくれたからとりあえず大丈夫。せやからそっちに余裕が出来たら来てくれればええよ。新人達への連絡も私がしとくから、ヴィータ達は戦いに専念してな』

「わ、分かった!」

「了解しました…我が主」

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

シグナム達が奮戦している一方で、新人達の守るホテル正面では一方的な戦闘が繰り広げられていた。それもそのはず敵は新人達四人に対して、多数のガジェットに加えて謎の魔導師集団がスバル達に襲い掛かっていた。

 

 

「ほらほらどうしたぁ!天下の管理局員様が情ねぇな!?」

「くっ…でぇやああっ!」

「おらぁ!後ろががら空きだぞクソガキ!」

「えっ…うわっ…!」

「エリオ!このっ!」

 

 

(くっ…まさかこんなに強い魔導師が来るなんて…意地張って援軍を頼まなかったのは失敗だった…私達だけじゃこれ以上はもう…)

 

 

「きゃあっ!」

「へへっ…!捕まえたぜ嬢ちゃん…」

「キャロ!」

「うぅ…ごめんなさい…」

 

ティアナが援護を頼もうとしたその時、すぐ近くで後衛を担当していたキャロがバインドを掛けられてしまう。

 

「こりゃいいぜ…!俺程度の魔導師が六課の魔導師を拘束できるなんてな…流石はバビディ様だぜ…!」

(バビディ様…?聞いた事のない名前だけど…)

「おいお前ら!このガキの命が惜しければその場から動くんじゃねぇぞ!」

「くっ…卑怯な…!」

「へっ…何とでも言うがいいさ。とにかくお前らは──

 

人質を取り得意げになっている男の顔面に、突如強烈な横蹴りが飛ぶ。男は顔の形が変形したままそのまま奥の林まで滑空していった。

 

「なっ…」

「ば、バーダックさん!?」

「全く手間掛けさせやがって…いくら数が多いとはいえこんなカス共に遅れを取ってんじゃねぇ!」

「あっ…その…ごめんなさい…」

 

そう辛辣な言葉を並べつつも、バーダックはキャロのバインドを引きちぎると、新人達を庇うように男達の前に立ちふさがる。

 

「おいオッサン…誰がカスだって…?」

「てめぇら以外に誰がいるってんだ」

 

バーダックの煽りで怒り心頭な男達は、一斉に魔法弾を放つ。それらはバーダックの身体に命中すると、周辺の地面ごと吹き飛ばす程の爆発を引き起こした。

 

「バーダックさん!」

「はっ、馬鹿め!モロにくらいやがった!」

「たまたま不意打ちが決まったからっていい気になってるから…だ…ぜ…?」

 

「…下らねぇ技だな。埃を巻き上げるだけか」

「な…何だと…」

「そんなバカな…俺達の全力の技を…」

「どうした?もう怖気付いたのか?」

「ひ、怯むなお前達!俺達はバビディ様に力を授かったのだ!」

「そうだ…!俺達全員で掛かれば倒せるはずだぜ…!」

「へっ…その割に腰が引けてるじゃねぇか!そっちが来ねぇなら…こっちから行くぞ!」

 

そう言い放つとバーダックは男達へと飛びかかり、攻撃を加える。常人には全く目で追えない程の速度で懐に飛び込み、的確に人間の弱点を突く…口で言うのは簡単だが、この一連の動作をここまで高いレベルで行う事が出来るのは限られた人間だけである。

 

「す、凄い…」

「バーダックさんって…こんなに強かったんだ…!」

 

荒っぽい攻撃でありながら攻防一体の隙のない動きを、新人達はしばらく唖然として見ていた。

 

(これが…本物の…エリートの動き…!すごい…凄いけど…負けられない…!)

「スバル、エリオ、キャロ!ガジェットはまだ来てるんだから!私達も戦うわよ!」

「は、はい!」

 

こうして先程先程まで防戦一方であった新人達も、バーダックの援護によって一転して攻勢に出るのであった。

 

 

 

 

 

~~~

 

 

 

 

 

「でりゃあっ!」

 

「う…うぉぉ…」

 

「はぁっ…はぁっ…そんな…ここまで力の差が……ぐうっ…!」

 

初めは数十人は居たはずの男達だったが、ものの数分の間にその殆どがバーダックによって撃墜された。最後まで抵抗らしい抵抗を見せていた者の一人もついに打ち倒され、残るはリーダーと思われる男と、僅かな取巻き達だけとなっていた。その内の一人も現在バーダックに首を絞められダウン寸前の状態だ。

まさに神業と呼んでも良いレベルの戦いを見せたバーダックだったが、表情はいつも以上に厳しい物だった。

 

「貴様…!一体何者──

「てめぇらの問答に答える義理はねぇ。それより…そのスカウター…どっから持って来やがった」

 

バーダックは男達の顔を指差しながら鬼気迫る表情で声を張り上げる。そう、あろうことか男達の耳元には見慣れたあの機械が装着されていたのである。

 

「ス、スカウターだぁ…?この機械の事か?」

「それ以外に何がある。まさかてめぇフリーザの手下か…?」

「し、知らねぇよそんな奴…!お、俺達はバビディ様にこれを…」

「バビディだと…?知らねぇ野郎だな…」

「ほ、本当だ!他にも知っている事は全部話す…!だから離してくれ…!もう息が…」

「…ほらよ。それとこいつは礼だ。貰っておけっ!」

 

男を解放した瞬間、バーダックは首元に手刀を食らわせる。男は失神すると、そのまま泡を吹きながら地に伏した。

 

(チッ…一体どうなってやがる…まぁいい。とにかく今は…新人共の様子も見てやらねぇとな…)

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「お前ら!大丈夫か!」

「ヴィータ副隊長!それにブロリーも!そっちは大丈夫だったんですか!?」

「ああ。数は凄かったがあらかた片付けた」

「…こっちも大丈夫です。あと少し残党はいますが…」

「そうか…よし!それなら一気に片付けるぞ!」

 

ヴィータの一声で各員が再び戦闘態勢に入る。その中で新人達の司令塔であるティアナは、思い詰めた表情でガジェットに対峙していた。

 

(…ヴィータ副隊長の方もかなりの数のガジェットが来ていたはずなのに…魔力リミッターがかかってる副隊長二人とザフィーラ…それにまだエリオやキャロと同い年のブロリーだけでこうもあっさり……でも…それでも負けられない…!ランスターの弾丸は…ちゃんと敵を貫けるって証明するんだ…!)

 

『ちょ、ちょっとティアナ!六発リロードなんて無茶だよ!』

「大丈夫です……撃てます!」

 

管制からの静止を無視し、鋭い眼差しでガジェットに標準を合わせる。

 

「行ける…行ける!私は…行かなくちゃいけないんだ!」

 

半ばやけくそじみた言葉を叫びながら、ティアナは次々にトリガーを引いていく。次々に発射される弾丸は的確にガジェットを捉え、今までに無いほどの凄まじい戦果を挙げて行く。

しかし実力を超えた力を行使する事は、時に自己や仲間までも危険に晒す事もある。

 

「えっ…」

 

ウィングロードを使い囮となっていたスバルの背中に橙色の弾丸が迫る。辛うじて命中前に気付いたが時既に遅し。彼女は思わず顔を腕で覆う。

 

「でりゃあぁぁぁぁっ!」

 

痛みを覚悟したスバルだったが、ギリギリのタイミングで現れたヴィータが弾丸をあさっての方角へ弾き飛ばす。

 

「ティアナ!てめぇ…ヘマした上に味方撃ってどうすんだ!」

「あっ…ああ…」

「ヴィータ副隊長!あ、あの今のは私が………ってああ!後ろっ!」

 

スバルの指さした方向は、先程弾丸を弾き飛ばした方向。その先にはあろうことかガジェットの残当を狩っているブロリーが背を向けて立っていた。

 

「ブロリー!後ろ───」

 

しかしヴィータの叫び声も意味を成さず、ブロリーの背中に魔法弾が突き刺さり、大きな爆発を引き起こす。

 

「ブ、ブロリー…ブロリーっ!」

「あ、ああ…」

 

(チッ…また面倒な事になりそうだ…)

 

まさかの出来事に顔面蒼白のヴィータに、立ち尽くすティアナとスバル。そんな様子を上空から見下ろすバーダックは、ブロリーの様子以上に、僅かに亀裂が入り始めた六課の様子に一人眉を顰めるのであった。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

「た、ただいま戻りました…バビディ様…」

 

負傷しながらもなんとかバーダックの追跡を振り切った数人の魔導師達は、バビディの前で膝をつき、戦闘の報告を行っていた。

 

「は、初めはこちらが優勢だったのですが…バーダックという男の強さが凄まじく、我ら以外は全員が落とされました…!」

「………」

「あ、あの…バビディ様…?」

 

先程から一言も言葉を発しないバビディの様子に、困惑する部下達。そんな様子を目にしたバビディは、仕方なさそうにゆっくりと口を開く。

 

「…そんな事はとっくに知ってるよ。ボクが見てないとでも思ったのかい?…それで?なんでお前らはここに戻って来てるんだ?」

「そ、それは…」

「ボクはガジェット共と一緒に戦えとは言ったけど、おめおめと逃げてこいなんて命令はしてないんどけどな?」

「…はっ…!も、申し訳ございません!」

「おい…もうその辺にしておけ。仮にもそいつらはお前の部下だろう?」

 

バビディのあまりの言い草に、そばで見ていたゼストが止めに入る。ルーテシアはバビディに少し怯えた様子で、ゼストのコートを握りしめている。

 

「…君らは目的が達成できたからいいだろうけど、ボクはロクに偵察出来てないんだ。それにボクの駒をどう扱おうがボクの勝手だろ?」

「うっ…」

 

バビディは不機嫌そうに文句を垂れながら、跪く部下の傷口を蹴り付ける。

 

「…まぁいい。ボクは優しいから君らにまた命令を与えてやるよ。最後の命令だからよーく聞いてろよ?」

「さ、最後…?」

 

 

にたりと気味の悪い笑みを浮かべると、地面に這い蹲る男に指を指して叫んだ。

 

 

「死んでボクを楽しませて見ろっ!」

 

「えっ…それは………ぎゃあぁぁぁっ!」

 

 

初めは意味が分からず困惑する部下達であったが、すぐにに激しい頭痛に吐き気に襲われ、奇声を発しながら地面をのたうち回る。

 

「貴様…何を…!」

「へへっ…面白いだろ?…でもまだまだ。ここからが楽しいんだ」

「ぐぅぅぅ……た、助け…」

 

必死に命乞いをする部下の声など全く聞かず、最後の仕上げとばかりに指をピンと立てる。するとその直後、男達の頭はどんどん膨れ上がり、限界を迎えた頭部は様々なまるで針を刺された水風船のように炸裂した。

 

「へっ、ポンッだってさ。いつ聞いてもいい音だよね…」

 

あまりの凄惨な光景に、ルーテシアはその場に座り込んでしまう。

 

「大丈夫かルーテシア…!…貴様…!」

「なんだい…?文句でもあるのかい?」

「…貴様が部下を殺すのは勝手だが…もう二度と我らの前に現れるな!」

「分かった分かった…随分と嫌われたね。はぁ…早くまともな部下が欲しいもんだ…」

 

 

バビディはそう呟くと、森の奥深くへと消えてゆく。その様子を二人は黙って見ている事しかできなかった。

 




どうも。顔芸です。

最近は暑くなって来たせいか夏バテ気味ですが、なるだけ更新頻度は落とさないようにしたいです…

内容についてですが、バビディのキャラが定まってない気がしてならないです…。もっとバカっぽいキャラでしたっけ…?

それと次話あたりから若干展開が変わって来ます。それに加えてそろそろ頭を冷やす回が近付いて来たので皆さんに受け入れてもらえるか正直怖いですが、また読んでくださると嬉しいです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第九話 才能

「こ、これは…」

「結構凄いことになってるみたいやなぁ…」

「…これは片付けが大変そうだな」

 

屋内の警備に当たっていたはやて達四人が外に出ると、多数のガジェットの破片と穴だらけの地面が目に飛び込んで来る。唖然としている四人の前に、いつも通りの仏頂面のバーダックが現れる。

 

「…やっと終わった様だな」

「バーダック、ガジェット以外の敵にも攻撃を受けたと聞いたが…」

「大した事ねぇ奴らだったがな。だがあの顔はどこかで見覚えが……っとそうだなのは、新人共がお前が来るのを待ってるぞ。さっさと行かなくていいのか?」

「あっ、そうだった…!ごめんはやてちゃん、そう言う訳だから私ちょっと行って来る!」

「了解や。あっ…そういや私もブロリー達の所に行かないと…」

「ならば俺も行こう。すまんがフェイト、この辺りは任せたぞ」

「ふふっ…そう言う訳でフェイトちゃん、私らもちょっと外すからその間頑張ってな」

「えっ…う、うん。大丈夫だけど…」

 

そう言い残して二人はヴィータ達の元へと歩いてゆく。

はやての『頑張って』という意味ありげな言葉をフェイトが理解するのは、もう少し後になってからの事であった。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

「あっ、ヴィータ、ブロリー!お疲れ様。このあと調査班を手伝ったら───ヴィータ?」

 

なのは達と別れたはやてとパラガスの目の前に現れたのは、いつも通りの無表情なブロリーと、落ち込んだ表情のヴィータだった。

 

「どうしたんヴィータ?」

「あっ、はやて…実は…」

 

 

 

 

~~~

 

 

 

 

「なるほど…弾き飛ばしたティアナの攻撃がブロリーにな…」

「すまねぇブロリー…私がちゃんと確認しとけば…」

「気にするな。あの状況じゃ確認する事は難しかったんだ。それにあれぐらいの攻撃なら大丈夫。この通り怪我もない」

「でも…」

「ヴィータ。いつまでも過ぎたことを悔やんでも仕方ない。今回は大事に至らずに済んでよかったと言うことにしよう」

「う、うん…」

 

ヴィータはまだ割り切れない顔をしていたが、はやてになだめられしぶしぶ首を縦に振る。

 

「話は変わるがヴィータ。お前ガジェットと一緒に襲撃してきた奴らを見たか?」

「ああ。アタシ達が最初に戦ってた場所にはいなかったんけど、新人達の方にはめちゃくちゃ居たぞ。あと襲ってきた奴らなんだけどよ…あいつらどうも変なんだよ」

「変って…何がや?」

「うーんなんて言ったらいいんだろ……やたら殺気立ってて目的が見えねぇんだ。普通に考えればここを襲うって事はロストロギアが目的なはずだろ?ガジェットを作った奴らの手先ならなおさらだ。それなのにあいつら新人達を必要以上に追い詰めててさ…」

「確かに…ロストロギアが目的なら、手段と目的が逆転してるなぁ…」

「ヴィータ。他に手がかりになりそうな物はなかったか?」

「…ああ。これはバーダックから預かった物なんだけど…ほら。これだ」

「これって…!」

「またスカウターか…」

 

予想外の品を見せられ一同は目を丸くする。はやても驚きつつもスカウターを手に取ると、裏返したりスイッチをを押しながら細部にまで

 

「やっぱり前と同じ物みたいやな…」

「そうみたいだな…これは襲って来た奴らが付けていたのか?」

「あいつの話じゃそうらしい。全員が付けてた訳じゃないみたいだけどな。…あっ、そうだ。あともう一つ、襲って来た奴らは全員頭に変な印がついてたんだ。こう…アルファベットのMみたいな…」

「頭に刻印…考えられるのは宗教的な物か、仲間同士の証といったところだが…はやて、心当たりはあるか?」

「直接見ないことにはなんとも言えませんけど…そんな刻印は聞いたことないです。…せやけど執務官のフェイトちゃんなら何か知ってるかも知れへんな…帰ったら皆を集めて話を聞いてみましょう」

「そうだな…だが今はこの現場を片付けてしまわんとな。疲れてなければでいいんだが…ブロリーとヴィータも手伝ってくれるか?」

「うん。アタシは大丈夫だ」

「俺も大丈夫───」

「ブロリーは無理すんなよ。お前ちょっと調子悪そうなんだから…」

「いや…俺は別に…」

「いーんだよ!疲れてるお前がいても足引っ張るだけなんだ!いいか、ちゃんと休んでろよ!」

「あ、ああ分かった…」

 

ヴィータは声を張り上げてそう告げると、パラガスを連れてどこかへ歩いてゆく。迫力のある少女の声に、少し唖然とするブロリー。そんな様子を見て、はやてからクスクスと小さく笑う。

 

「ふふっ、気を悪くせんといてなブロリー。あれもヴィータなりの優しさなんや」

「そう…なのか?」

「そうや。ブロリーが小さい頃からヴィータはずっと弟みたいに気にかけてるんやで?」

 

 

 

 

(俺を…か…)

 

 

 

 

 

~~~

 

 

 

 

 

 

「フェイト…」

 

 

はやて達がヴィータと合流した頃、バーダックの元に一人残されたフェイトは、長い金色の髪で熱を帯びた顔を隠しながらバーダックの隣を歩いていた。

 

(ま、まさか急にこんな事になるなんて…もしかしてはやてはこれを見越してあんな事を…そ、そもそも別に私達はそんな関係じゃ───)

「おい聞いてるか…?」

「えっ…は、はい。なんでしょうか…?」

「…お前顔がやたら赤いぞ?」

「へっ…?あっ、そ、そうですか?い、いつも通りだと思います……よ?」

 

バーダックは思った事を口にしただけなのだが、フェイトは自らの思考を見透かされたようで口が上手く回らず、顔の熱がさらに上がって来るのを感じる。

 

「…ならいい。それでさっき言った連中の事だが…」

 

真剣な声色で話し始めたバーダック。フェイトもそれに気付き、今まで俯いていた顔を上げ耳を傾ける。

 

「あの連中の顔…ここに来る途中お前らの言っていた行方不明の犯罪者だ」

「本当ですか!?」

「ああ。写真は少ししか見てねぇが多分な」

「…でもおかしいですね。彼らは基本的に密輸が主な犯行ですから本来ならこんな派手な行動はしないはずなのに…」

「それからバビディって名前に心当たりはあるか?奴らの話じゃどうもそいつが親玉らしい」

「バビディ…ですか?うーん…そんな名前は聞いたことが…すみません…」

「とにかく今夜皆を呼んでみましょう。なのはやはやて達なら何か知ってるかもしれませんから」

「…そうだな」

 

 

言葉とは裏腹に苦虫を噛み潰したような顔を見せるバーダック。そんな中、先程新人達の元へ向かったなのはが二人の名前を呼ぶ。

 

 

「フェイトちゃん!バーダックさん!」

「お前は…」

 

「お久しぶりです。バーダックさん」

 

 

振り返ってみると。いつも以上ににこやかななのはの隣に、丸眼鏡と上質なスーツを身につけた金髪の青年が立っていた。青年は微笑みながら会釈をするが、肝心のバーダックは眉を潜めたまま微動だにしない。

 

「…あの…バーダックさん…?」

「お前…どこかで会ったか?」

「…はぁ…そんなことだろうと思いましたよ…僕です僕!ユーノ・スクライアです!」

「ああ…お前か…!お前も随分とでかくなってやがるな…」

「…貴方は変わってないですね…」

「わざわざ人間の格好で来やがって。分かりづらいだろうが」

「そ、そうですよね…すみません……って、こっちが本来の姿ですってば!」

「…そうだったか?…まぁどっちでもいいだろうそんな事」

(そ、そんな事って…)

 

本気で間違えたのか、はたまた面白半分なのか。バーダックの変化の少ない表情からは読み取る事ができない。どちらにせよこの男にとって人間かイタチかという問題は些細な事のようで、さっさと話を変えてしまう。

 

「それで、今日は何か用でもあるのか」

「いえ、今日は少し講演を頼まれたんですよ。ここに来たのもバーダックさんの顔を見に来ただけです」

「講演…?」

「ユーノ君、今は無限書庫の司書長をしながらロストロギアの研究もしてるんですよ」

「ほう…ついこの間までガキだったと思えば…随分と偉くなったもんだ」

「…まぁ講演と言ってもオークションの前座みたいなもんですし、研究も司書の仕事の傍らにやっている半分趣味みたいなものですから…」

「それでも凄いよ!あんなに広いの無限書庫を管理しながら研究もしてるんだもん」

「はは…ありがとうなのは。武装隊のエースで教導官も兼ねてる君に言ってもらえると嬉しいよ」

「ふふっ…それって皮肉?」

「あははは…そんなことは──

 

「…バーダックさん。そろそろはやて達と合流しましょう」

「…なんだ急に。別に急ぐ必要は──」

「じゃあなのは、私達は先にはやて達のところへ行ってるね」

「あっ…う、うん…」

 

 

冗談を交えながら子供のような笑顔を見せる二人。そんな二人を見た察しの良いフェイトは、バーダックの腕を引いて別の場所へと歩いてゆく。

 

 

「おい。一体どういう事だ。急にそそくさしやがって

「…分かりませんか?」

「…何がだ」

「ふふっ…分からないならそれでいいです」

「チッ…なんだそりゃ…」

 

いつもなら質問には素直に答えるフェイトのあやふやな言葉に戸惑いを見せるバーダックだった。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「──という訳であ今日は午後の訓練は無しね。いい?みんなにとっては休むことも大事な仕事の一つなんだし、それに明日からはまた訓練があるから今日はしっかり休むように」

 

「「「はいっ!」」」

 

 

仕事を終えた六課のメンバーは、隊舎に戻るとそれぞれ自らの仕事へと戻っていた。新人達も例に漏れず、なのはの言葉通り自らの部屋へと戻っていた。一人の例外を除いて…

 

 

 

 

~~~

 

 

 

 

隊舎の屋上で一人、大仕事の後にも関わらず黙々と修行を行う男が一人。六課の面々がこの場所に戻って来た時にはまだ日が出ていたのだが、現在は太陽も地平線にその姿を隠し、僅かに残った光だけがバーダックの身体を照らすのみである。

 

(教会の連中が見つけた物に続けて二つも…こりゃもう偶然なんかじゃねぇ。俺の居た世界に…サイヤ人かフリーザ軍に関係のある奴が確実に一枚噛んでやがる…。クソッタレ…一体誰が…)

 

 

「あの…バーダックさん!」

「お前は…」

 

 

自らの名前を呼ぶ真剣な声に振り向くと、そこには今まであまり関わる事の無かった新人の一人、ティアナ・ランスターの姿があった。

 

「一体何の用だ。なのはに休めと言われたんじゃねぇのか?」

「…バーダックさん。今日のあなたの戦いを見ました。貴方の使う力の事は分かりませんが…とにかく凄かったです」

「………」

「執務官になると決めた時、弱音は吐かないと決めていたのですが…正直、貴方みたいな才能のある方が協力しているのに…どうして私なんかを六課に呼んだんだろうって思ってしまいました…」

「…御託はいい。用があるならさっさと言いやがれ」

 

 

ティアナの真剣な表情に加え、彼女の今日のミスショットを知っているだけに、バーダックの表情も自然と険しくなる。

 

 

 

 

 

 

 

「…では、単刀直入に言います。私に…ティアナ・ランスターに修行をつけてはくれませんか…!」




どうも。顔芸です。

まずは…更新が遅れてしまい申し訳ありませぇん!
言い訳をさせてもらうと、実はしばらく風邪で寝込んでました。普段めったに風邪などは引かないせいもあり、ここ数日は結構グロッキーでした。もうリンパ腺が痛くて痛くて…


まぁそんなどうでもいい事は置いておいて、今回は前話の事後処理の回+久しぶりのユーノ君でした。
公式でカップルなのかハッキリしない彼の今作でのなのはとの関係ですが、アニメと同じく煮え切らない感じです。
話が少し逸れるのですが、アニメでユーノ君と再会した時、声色が子供の時みたいに明るくなってますよね。分かんねーよって方はぜひまたアニメを見直して見てくださいね。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十話 過去の傷跡

「私に…ティアナ・ランスターに修行をつけてはくれませんか…!」

「断る。俺は面倒が嫌いなんだよ」

「…お願いします…!私は…どうしても強くならないといけないんです!」

 

速攻で拒否したバーダックだったが、必死に説得を試みるティアナ。その様子を見る限り面白半分で特訓を申し出た訳ではないようだ。

 

「…一応聞いとくが、わざわざ俺に頼む理由はなんだ?」

「私には…貴方やなのはさんのような才能がありません。スバル達と比べても私が一番凡人で…今回もそのせいで酷いミスショットを…」

「フン…あれは才能とは関係ねぇ事だろうが…それにお前にはなのはの奴が付いてるだろ。それともあいつじゃ不足だってか?」

「そ、それは…」

「…何にせよ修行は付けねぇ。理由もなしに面倒を請け負うほど俺はお人好しじゃねぇんだよ。…さて、今夜は用があるんだ。俺はもう行くぞ」

 

 

バーダックはいかにも面倒だという雰囲気を醸し出しながら室内へと戻ろうと歩を進める。これで諦めるだろうと踏んでいたバーダックだったが、これが逆にティアナの心に火をつけてしまう。

 

 

「…私に…」

「…?」

「私に才能が無いからですか…!?ブロリーと違って私は鍛えるだけ無駄だと言うんですか!?」

 

 

こちらを刺すような目でこちらを見据えながら、先程よりも強い声を上げるティアナ。普段は真面目な性格なティアナが感情を顕にしたのには流石のバーダックも一瞬動揺を隠せないようだったが、すぐに目を細めて睨み返すと───

 

 

 

 

「…だったらどうする?」

 

 

 

そう一言だけ言い残すと、唖然とするティアナに背を向けて部屋を去ってゆく。今のティアナにはバーダック引き止める事も言葉を返すことも、ましてやこの言葉の裏に隠された意味など理解できるはずもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

「…来たか、バーダック」

「あっ、バーダックさんお疲れ様です。すいません、疲れてるとこ呼び出してしまって…」

「…別に構わねぇよ」

 

 

密輸団の襲撃とその頭部に刻まれた刻印、そしてバビディと呼ばれる人物など、とにかく今回の事件は謎が多すぎた。今後戦闘を繰り返す上で、敵の目星すらついていないのでは分が悪い。はやてはそんな状況を避けようと、バーダックとパラガス、さらに各部隊の隊長四人を集め少しでも情報を集めようとしていた。

 

 

「さて…これで全員やな。それじゃあ早速始めようか」

「あっ、はやて。その前になのはに聞きたいことがあんだけどさ…いい?」

「…?別に構へんけど…」

「ヴィータちゃん…もしかしてティアナの事…?」

 

(…!)

 

 

先程の出来事でティアナを気にかけていた事もあり、ティアナの名前が出るとバーダックはその黒い眼をなのはに向ける。

 

「ああ。訓練中から気になってたんだけどさ…強くなりたいなんてのは若い魔導師なら誰でも思うことだ。だけどあいつの場合は時々度を超えてる。ここに来る前になんかあったのか?」

「…うん…ティアナはね…」

 

 

なのはは悲しげな表情でぽつぽつと話し出す。物心つかない内に両親を亡くした上に、たった一人の家族である兄も任務中に命を落とし、天涯孤独の身となった事。さらにはその兄の最後の仕事すら無意味だと蔑まれた事。どれも十代の少女には耐え難いものであり、ティアナが強さに執着するには十分すぎる出来事であった。

 

 

「…そんなことが…」

「あいつもなかなか…重いものを背負っているのだな」

「うん…でもだからって無茶するのを見過ごす訳にはいかないよ…」

 

「………」

 

全員が複雑そうな表情を見せる中、バーダックは僅かに顔を顰めながら先程の出来事を思い返す。

 

 

 

 

『私に修行を付けてくれませんか…!』

 

 

『私に才能が無いからですか…!?』

 

 

『…だったらどうする?』

 

 

 

(チッ…焚き付けたのは不味かったか…)

 

 

 

「…バーダックさん?」

「…なんでもねぇ。話を続けろ」

「それはじゃあティアナの事も気になりますけど…とりあえず今日の襲撃について話を戻しましょうか。何か心当たりはある人はおるか?」

「うーん…そもそもどうして急に正面から襲撃なんて…普通に考えれば正面から突っ込んで来るような真似はしないはずなんだけど…」

「何か特別な理由があるという事か…?」

「新人達の中に恨まれてる奴でもいたとか?でもあいつらは現場に立つのはほとんど初めてなはずだし…」

 

「…主、それについて私に少し心当たりが」

「シグナム…?」

「最初にガジェット達と戦っていた時、途中から急にガジェットの動きが格段に良くなりました。…恐らくより我々の注意を引くために、ロストロギアに引き寄せられたガジェットを強引に有人操作に切り替えたのだと思われます」

「…まさか」

「そガジェットの操作もバビディという人物が行ったのかは分かりませんが、もし同じ発想で密輸団の人間を差し向けたのなら…」

「人間の有人操作…つまり…」

「洗脳…か」

 

 

パラガスの呟いたただならぬ単語に場の空気が重くなる。

 

 

「そういや奴ら言ってやがったな…バビディ様に力を貰ったと…」

「確かに新人達はかなり追い詰められてたし…それによく考えてみりゃ密輸をやる奴らにしてはそこそこ魔力があるみてぇだったしな…」

「無謀な襲撃に刻まれた刻印…そして己の限界以上の力…そして襲撃前に突然失踪した事を考えると、確かに洗脳なら奴らの不自然な行動にも合点がいきますね」

「でも本当に洗脳だとしたら、バビディは相当な力を持ってる事になるわ」

「そうやな。あれだけの人数を同時に操れるとしたら相当な使い手のはずや」

「しかしなんでよりによって密輸団なんぞ選んだんだ?俺がバビディの立場ならもっと使えそうな奴を選ぶがな」

「憶測だが…捨て駒として使っていたか、術に制約があるかだろう。…まぁそもそも本当に洗脳かどうかも憶測の域を出ないのだがな」

「でも密輸団の連中は殆ど捕まえたんだ。事情聴取すりゃもう少し情報が出るだろ」

「そうやな。私も明日留置所に行って話を聞いてくるつもりや。あともう一つ…スカウターについてなんやけど…」

「二度もこの世界で見つかったんだ。最早偶然という事はあるまい。俺達の世界の人間…それもフリーザ軍に関係する人間が来ている可能性が高い」

「バビディはフリーザ軍とは関係ないんですか?」

「どうだろうな。俺達が居た頃はそんな奴は居なかったが、あれから十年も経っているからな…」

 

 

(十年か…もうそんなに時間が経ちやがったのか…)

 

 

十年。それは決して短い時間ではない。バーダックが出会った頃はまだ幼かった少女達は今では立派な局員となり、かつては戦闘民族らしく星の制圧を行っていた男もすっかりこの世界に帰化している。

だが、あの日の出来事だけはバーダックの頭から離れなかった。血塗られた仲間達や自分達を嘲笑うフリーザの顔を思い起こす度に怒りと悔しさがこみ上げて来る。

 

(クソッ…あれから十年も経ちやがったってのに…俺は一体何を…)

 

 

「おいバーダック。聞いてるか?」

「…バーダックさん?」

 

パラガスの呼び声で我に返ると、フェイト達が心配そうに顔を覗かせていた。

 

 

「さっきから上の空みたいですけど…どこか具合でも悪いんですか…?」

「…そんなんじゃねぇよ。それで何の話だ?」

「バビディの話だ。俺達の居た世界でその名前を聞いた事はあるか?」

「へっ、あるならとっくに言ってるぜ。…俺はもう行くぞ。これ以上話しても憶測の域を出ないんだろ?」

「えっ…?まぁ確かにそうですけど…この後何か用事でもあるんですか?」

「…大した事じゃねぇがな」

「それなら別に構いませんけど…」

「…ああ」

 

バーダックは珍しくか細い声で返事をすると部屋を後にする。そんな様子を見たパラガス達は思わず首を傾げ顔を見合わせる。

 

 

「バーダックの奴どうしたんだ…?」

「ちょっと気落ちしているようにも見えたけど…」

「なぁパラガスさん、さっきティアナの話してる時ちょっと思ったんやけど…バーダックさんって昔何があったん?」

「…いや…俺は当時奴とは面識は無かったからな。その辺りの事情はよく知らんのだ」

「フェイトちゃんはどうや?一緒に暮らしてた時なんか言ってなかったか?」

「えっ…ああ…ううん…バーダックさん自分の事はほとんど話さないから…」

「もしかしてあんなに修行してるのって…ティアみたいに過去と関係があるのかな…?」

「どうだろうな。もしかするとここ数年の───

 

 

 

 

(そっか…私、バーダックさんの事…何も知らなかったんだ…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

はやて達と別れたバーダックは、なのはから聞いたティアナの気を頼りにティアナの元へと足を運んでいた。

 

(…チッ…俺はどうしちまったんだ…)

 

足を運んでいると言っても嬉々としてとして向かっている訳では無く、その歩みからは迷いが見受けられる。そんな中、不意に背後から聞き覚えのある声がバーダックの耳に飛び込んで来た。

 

 

「バーダックさんも来たんですか」

「…誰だ」

「忘れちまいましたかい?ヘリの操縦をさせて貰ったヴァイスですよ」

「…お前か。こんな場所に何の用だ?」

「ええ。ちょいとティアナの様子を見にきたんですが…バーダックさんは違うんで?」

「フン…一緒にするな。俺は偶然通りかかっただけだ」

「フッ…そうですか」

「そうだ。…文句あるか」

「いえ、そう言う訳では…」

「……それで?様子はどうだったんだ」

 

(ハハ…本当になのはさんやフェイトさんの言う通り気難しい人だ。…素直じゃないところもまさに聞いた通りだな…)

 

ヴァイスは予想通りのバーダックの発言に心中で呆れつつも、彼の秘めた暖かさを感じられた。

 

「それがですね…アイツ帰って来てからずっと自主練習しっぱなしでしてね…さっき声を掛けては見たんですが、大丈夫ですからの一点張り…」

 

ヴァイスは一つため息をつくと、愚痴をこぼすような口調で話を続ける。

 

 

「あいつ、自分には才能が無いと思い込んでるんですよ。そりゃ正直な話、確かになのはさん達に比べれば魔力は少ないし、単純な戦闘のセンスだけなら他の新人達の方があると思いますよ。でも、アイツの目指してる執務官の中にはもっと魔力値の低い奴もいますし、第一あいつには高い指揮官の才能が───」

 

「…関係ねぇよ」

「えっ…?それって…」

「奴の目指してるのはエリートだった兄貴だ。速い話、なのは達の訓練とは目指すものにズレがあるって事だ」

「…つまり、なのはさんの訓練だけじゃ上に行けないと?」

「少なくともあいつはそう思ってるんだろ。…こりゃ一荒れ来るかもな」

(一荒れ…?)

「…さて、もう俺は戻るぞ。面倒は御免だからな」

「あっ…!バーダックさん!」

 

 

意味深な言葉を残し、バーダックはさっさと隊舎へと引き返してしまう。ヴァイスはその言葉の意味するところを尋ねたい衝動に駆られたが、結局最後まで彼を引き止める言葉は思い浮かばなかった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

同時刻、話を終えたなのはとフェイトは遅めの夕食を取っていた。いつもなら会話の弾むところなのだが、今日ばかりは互いに口数が少ない。

 

 

 

「ねぇフェイトちゃん」

「………」

「…フェイトちゃん?」

「あっ、ごめんなのは。何かな?」

「さっきからボーッとしてるけど…大丈夫?疲れてたりする?」

「ううん。そう言う訳じゃないんだけど…ちょっと考え事」

「…バーダックさんの事?」

「う、うん…まぁそんな感じかな…」

「そっか…実は私もね、ちょっと考えてたんだ。さっきは言わなかったんだけど、最近気になる事があってね」

「気になる事…?」

「訓練中のティアナの目がね…時々、バーダックさんと重なる時があるの」

「ティアナの目…?」

「なんて言うのかな…強い意思と決意の中に、悲しさが混じってるような……上手く言えないんだけど…」

「なのはの言いたい事、なんとなく分かるよ。私もバーダックさんが時々遠い目をしてるの…何回か見たことあるから」

「…ねぇ…やっぱりバーダックさんにも家族とか友達が居たのかな…?」

「…ずっと前にね、パラガスさんが私に言ったんだ。故郷が滅びても俺にはブロリーが居る。…だがあいつには仲間も…家族も…大切なものは何も…残らなかったって。あんなに訓練を続けてるのも、もしかしたらそのせいなのかな…」

「………」

「なのは…私は…バーダックさんに…何をしてあげられるのかな…」

「フェイトちゃん…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーあ…暇だな…」

「全くだぜ。あー暴れてぇなぁ…」

 

 

薄暗い部屋の中心にはテーブルが置かれ、四人の屈強な戦士がそれを囲んでいる。しかし机の上には彼らとは対照的な可愛らしいデザートが並んでおり、異質な雰囲気が漂っていた。

 

 

「気晴らしにその辺の山の一つでも吹っ飛ばしに行っちゃうか?」

「バカ。そういうのは隊長に止められたばかりだろ」

「そうだけどよ…任務もなけりゃ暴れるどころか外に出るのも禁止されてよ。これじゃあ向こうに居た頃と大差ねぇぞ」

「ホントだぜ。折角スカリエッティちゃんの新型スカウターも完成したってのに…」

「そう言うな。今食ってるチョコレートパフェは向こうじゃ食えなかっただろ?それに暴れる機会ならその内嫌でも来るだろうしよ」

「そりゃそうだけどよ…」

「まぁ、気長に待とうぜ?その間に新しいスペシャルファイティングポーズでも考えて───

 

 

 

管理局設立以来最大の脅威がもうすぐ動き出そうとしている。しかし、今この世界でその事実を知るものは誰もいない──

 




どうも。顔芸です。
更新がかなり遅れてしまいました…申し訳ないです。
言い訳の方は活動報告の方でさせてもらったので敢えてここには書きません。次こそは早く更新したいのですが、とにかく時間がねぇ!

話は変わりますが、DBの映画…まさかのあの人でしたね(笑)
でも一番驚いたのは親父ぃが予告に出てた事です。あれはびっくりしすぎてリアルに声が出てしまいました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十一話 匹夫の勇

今日もバーダックはいつも通りに修行に励む。並の人間なら動けなくなるような重りを身に付け、腹筋や腕立てといったトレーニングを何千回とこなす。異常に思われるかもしれないが、この男にとっては日課の一つであり、行わない方が珍しいのだ。しかし、ここ数日は教え子であるブロリーが居ない。以前の一件を心配したはやてが今日は休ませるようにとバーダックに頼んだのだ。ブロリー自身もはやてに心配を掛けたくないとあっさり了承したようで、特に揉めたりと言う事は無かったようだ。そんな折、バーダックの元にパラガスが訪れる。

 

「お前か…一体何の用だ」

「お前、新人達の模擬戦の話はもう聞いたか?」

「模擬戦…?ああ、昨日なのはが言ってやがったやつか」

「なんだ…知っていたのか。それならなぜこんな場所に居る?もうすぐ始まってしまうぞ」

「馬鹿かお前は。模擬戦ぐらいいつもやってるんだ。わざわざ見に行く物でもねぇだろうが」

「そうでもないぞ。新人達にとって今日の模擬戦は合格が出れば次のステップに進める大事な一戦だ。いつも以上に力の入った戦闘になるだろうよ。…だがまぁ…お前も修行で忙しそうだしな。うむ、仕方ない。俺一人で楽しんで来るとするか」

「………」

 

パラガスの焚き付けるような台詞が少々鼻についたが、いつも以上の戦闘が見られる。そう言われてはサイヤ人の血が騒がないはずがない。

 

「…いいだろう。多少の暇つぶしにはなるだろうからな。今回はてめぇの罠にまんまとかかってやる」

「ふっ…それでいい。ならとっとと行くぞ」

 

 

こうして訓練場へと向かう事になった二人だったが、この後ある意味いつも以上の出来事が二人の目の前で起こることになるのだった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

二人が訓練場にやって来ると、そこには四人の新人達と模擬戦の相手を担当する隊長二人に加え、ヴィータとブロリーの姿があった。

 

「バーダックに…親父か…」

「あっ、バーダックさんにパラガスさん!」

「おはようございます!」

「お二人も見にいらしたんですね」

「ああ。今日は暇だったからな」

「それよりなんだブロリー、てめぇも来てたのか。今日は休むんじゃなかったのか?」

「別に体調が悪い訳じゃない。それに今日は見ているだけだ」

「ところでフェイト、なのは達はもう出たのか?」

「ええ。ついさっき準備に。スターズの模擬戦も私が引き受けるつもりだったんですけど、なのはがどうしてもって…」

「アイツも最近訓練詰めだからな。本当は少し休ませてぇんだけど…」

「うん。なのは、部屋に戻ってからもモニターに向かいっぱなしなんだよ」

「そうなんですか…?」

「なのはさん私達のためにそんなに…」

「…おい、始まるぞ」

 

 

そんな事を話している内に、スバル達の模擬戦が開始されようとしていた。戦闘を一瞬でも見逃すまいとしているバーダックだったが、その表情は曇っていた。その理由は無論ティアナである。ここに向かっている最中から考えていた事だが、戦闘前のティアナの目を見て確信した。

 

 

(あの野郎…何をやらかすつもりだ…)

 

 

その後の戦闘は酷いものだった。ティアナの無謀な近接戦闘がなのはの逆鱗に触れ、スバルはバインドで拘束、ティアナも誰も傷付けたくない、失いたくないという想いも虚しく、悲しげな表情のなのはにあっさりと撃墜された。

そんな様子を様々な表情で見上げるヴィータ達。その中を、バーダックは一人何も語らずに去るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ…」

 

訓練場の後片付けを終え、なのはは一人隊舎へと戻る。時刻は既に9時過ぎ。とっくに日は落ち、街頭と月明かりだけが足下を薄ぼんやりと照らしている。普段人前ではどんなに疲れていてもその事を顔に出さないのだが、今日はため息を零さずにはいられなかった。どうすれば良かったのか。何が駄目だったのか。これから何をしてあげられるのか。そんな自問自答を繰り返すばかりだった。

 

そんな折、幸か不幸かバーダックと鉢合わせた。

 

「あっ…バーダックさん…」

「………」

 

なのははスバル達の模擬戦の後フェイト達の元へ戻ったが、そこにバーダックの姿は無かった。パラガス曰く、ティアナが墜された後いつの間にか姿を消していたらしい。バーダックは何も語らないが、何を言おうとしているのかなのはには想像が付いた。

 

バーダックは今まで出会って来た誰よりも修行に人生を費やしていた。穏やかに生きられるはずだった時間の全てを鍛錬に費やし、時には体を限界以上に酷使し、死んでしまうのではという状況を数え切れないほど経験してきたのだ。そんな生き方を、ひいてはバーダックという人間そのものを、ある意味今回の模擬戦で否定したのだ。

 

「バーダックさん、私…間違ってるんでしょうか?」

「…なんだ突然」

「私、真剣にティア達の事を考えて、無謀な事をしなくても戦えるように鍛えてるつもりでした。でもみんなにはそれが伝わってなかったみたいで…」

 

しおらしく言葉を紡ぐなのは。いくら実力者と言っても彼女とてまだ19歳の少女。信頼している二人からあんな視線を向けられたのは堪えたのだろう。

 

「バーダックさんって、トレーニングは人一倍ハードですよね。バーダックさんからしたら、やっぱり私の考えは綺麗事なんでしょうか?」

「フン…だろうな。俺がアイツらの立場ならてめぇをぶん殴ってる所だ」

「うっ…」

「全員がお前やフェイトのように才能がある訳じゃねぇ。血の滲むような努力をしてお前らに追いつこうとする人間は大勢いるんだ。その努力を、お前は踏みにじった訳だ」

「わ、私そんなつもりじゃ…!」

「お前にそのつもりがあろうがなかろうが、アイツらはそう感じた筈だ」

 

容赦なく言い放たれ、なのはは言葉に詰まってしまう。彼女達がそんな風に思っているとは考えもつかなかった。それでもなのはには譲れない想いがある。

 

「それでも私…ティアのやり方には賛同出来ないです。皆の強くなりたいって気持ちが真剣なものだって事は分かります。でも…私みたいな辛い思いはして欲しくないんです!そのためなら私、皆から嫌われても…」

「……」

 

魔法どころかまともな生活すら保証できないと告げられた時の恐怖や苦しみ。そんなものは彼女達に味わって欲しくなかった。しかし、それは同時にバーダックの命を削る生き方を否定する事にもなる。それもなのはにとっては承知の上だった。

 

「フン…全く手間取らせやがって」

「えっ…」

 

しかし、予想に反してバーダックの反応は意外な物だった。怒りや落胆と言った表情ではなく、まるで初めからこうなる事が分かっていたようだ。

 

「結局、俺がなんと言おうが最初から腹は決まってんじゃねぇか」

「あ…」

「お前があの時の事を黙っている理由は知らねぇが、格好つけてねぇでとっとと腹割って話せばいいだろうが」

「バーダックさん…」

「誰に似たか知らねぇが、あいつら相当頑固な奴らだ。こうでもしなきゃ長引くだけだぞ」

 

「そう…ですよね。何だか自分の過去を話すのって気が引けるけど、そんな事に拘ってる場合じゃないですよね…!ありがとうございます、バーダックさん。おかげで進む道が見えました」

 

先程とは打って変わって晴々とした表情を取り戻していた。そんな様子に単純な奴だと毒づくバーダックだったが、彼女はニコリと微笑んでいた。

 

「…そうだ。お前は、それでいい」

「バーダックさん?それって───

 

バーダックのどこか哀愁のある表情と、小さく呟いた意味深な言葉に困惑するなのは。その意味する所を尋ねようとしたその時、隊舎のスピーカーから緊急事態を示すアラートが鳴り響いた。

 

「こいつは…」

「アラート…!バーダックさん!とりあえずはやてちゃんの所へ!」

 

 

 

 

 

 

感傷に浸る間もなく、二人ははやての居る司令室へと急ぐ。到着するとはやてや管制官達の他に、モニターを確認するフェイトとブロリーの姿があった。

 

「おお、バーダックさんになのは部隊長。とりあえず隊長二人はは揃ったみたいやな」

「それで、状況はどうなってんだ」

「東部海上に複数のガジェットドローン二型が旋回飛行中…近くにレリックの反応はないんですが…スピードは以前よりかなり速くなってます!」

「近くにはレリックどころか海上施設も船もない…まるで撃ち落としてくれって言ってるようなもんや…」

「ガジェットの数からして、本気で戦うって感じじゃない。多分、こっちの動きとか航空戦力を探りたいんだと思う」

「せやな…本当はこの程度なら超長距離攻撃で一発なんやけど…」

「…それだと奴らの思う壷って訳か」

「うん。だからなるべく奥の手や新しい情報は出さないで、今まで通り迎撃に出て片付けちゃうのがいいかな」

 

この判断に全員納得したようで、なのはの言葉に異を唱える者はいなかった。しかし、はやてが出撃する人間を指名しようとしたところで、意外な人物が声を上げる。

 

「ほんなら出撃してもらうのは、なのはちゃんにフェイトちゃん、それからヴィータに───」

「はやて、俺に行かせてくれないか」

「えっ……ブロリー?」

「相手はAMFを使う可能性が高い。気を使える誰かが行くのがいいはず。それなら一番経験の浅い俺が一番いいんじゃないか?」

「でもブロリーはバーダックさん達に比べたら新しい戦力や。それに今は体調だって…」

「今まで何度もガジェットとは戦って来た。敵も俺の情報はもう知っているはずだ。それに、体ももう大丈夫だ。…俺も腐ってもサイヤ人だからな」

 

しばらく考え込むはやてだったが、今回はブロリーも簡単には折れなかった。

 

「絶対にはやて達に迷惑を掛けたりはしない。だから頼む。俺に行かせてくれ」

「……分かった。でもヴィータ達と一緒に行ってもらうで。それから約束や。無茶な事は絶対しないって約束できるか?」

「…ああ。約束する」

「よし…ええ子や。そういう訳でなのはちゃん、申し訳ないんやけどフェイトちゃん。ブロリーが一緒でもええか?」

「私は大丈夫だよ」

「うん。むしろブロリーの実力ならこっちも助かるよ」

「…二人共ありがとうな」

 

はやては申し訳なさそうにしながらなのは達を見送ると、若干不安そうな表情で自らの席へ戻る。隣のリィンはそんな様子を見てか、心配そうに顔を覗き込む。

 

「はやてちゃん、よかったんですか?ブロリーちゃんはしばらく休ませるって…」

「…多分ブロリーは修行の成果を試したいんやろうな。でもブロリーの言ってる事は正論や。体調も…多分もう良くなってるはずやし、なのはちゃん達が一緒なら安心できるから」

 

微笑みながらそう告げるはやて。しかし、心の内ではブロリーとの部下としての関係と、大切な家族の一人としての関係によって小さな迷いや葛藤が生まれ始めていた。

 

(本当はパラガスさんかバーダックさんに行ってもらうのが一番だったのかも…でも…普段頼み事なんてしないブロリーが折れなかったんや。…そうや…私に出来ることなら──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻、とある港で薄紫の髪をなびかせながら、ルーテシアは遠くの空を見上げる。その表情には喜怒哀楽が無く、何を考えているかは分からない。その後彼女は無表情のまま目の前にモニターを出現させると、とある人物に連絡を入れる。

 

「おや…君から連絡くれるとは…嬉しいじゃないか。ゼスト達はどうしたんだい?」

「今は別行動中。遠くでドクターのおもちゃ飛んでるみたいだけど。…レリック?」

「だったら君に真っ先に報告しているさ。何、ちょっとした実験だよ」

「…レリックじゃないなら私には関係ないけど……もう一つだけ聞いていい?」

「ああ。言ってごらん」

「ドクターのおもちゃの周りに協力者だって言ってたバビディって人が近くにいるみたいだけど…」

「なんだ気付いてたのかい。実は今回は彼の頼みでね。管理局の戦力を間近で見たいそうだ」

「……そう。ならいいけど」

「くくっ…彼が怖いかい?」

「………」

「ふっふっ…大丈夫。少し変わってはいるが君らに危害を加えたりしないように言ってある」

「…うん。ありがとうドクター。それじゃあ頑張ってね」

「ああ。ありがとう。優しいルーテシア」

 

 

優しげな言葉を掛けるスカリエッティの声を聞き終えると、少女は再び空を見上げる。星々がよく見える澄み渡った空とは対照的に、彼女の表情には陰りが現れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

管制室でのやりとりから数分後、六課の前線メンバーは屋上のヘリポートに集合し、なのはからスターズとライトニングへ指示が伝えられる。そして

 

「…それからティアナ。ティアナは出動待機から外れててね」

「…っ!」

「今日は魔力も体調も万全じゃないだろうし…」

 

 

練習で撃墜され、半日目が覚めなかった人間を前線から外す。普通に考えれば普通の事だ。しかし、今のティアナにはそんな事を考えられるほど余裕は無かった。

 

 

「…言う事を聞かない奴は…要らないって事ですか…!?」

 

 

憤りを感じさせる声。普段真面目なティアナの明確な反抗に、スバル達も驚きを隠せない。しかし、管理局のような大組織において勝手に動くような人間が不要である事など至極当然の事である。

 

 

「…自分で言ってて気付かない?それ、当然の事だよ」

「現場での命令や指揮には従ってます!訓練だって手を抜かずに…でも、私はそれ以外の努力まで指示通りじゃなきゃ駄目なんですか!?実際、バーダックさんなんて私とは比にならないぐらい訓練してるのに───」

 

 

ティアナは溜まっていた物を吐き出すように言葉をぶつける。なのはは何も言わずにただ聞いていたが、彼女の言葉は止まりそうもない。見かねたシグナムがティアナの元へ歩き出した────その時だった。隣で見ていたバーダックが腕を上げ制止させる。

 

 

「お前…何を…」

「………」

 

 

バーダックは何も言わずに二人の間へ割り込むと、ティアナに鋭い視線を向ける。

 

 

「バーダックさん…?」

「…お前、そこまでして…こいつらに刃向かってまで力が欲しいのか」

「っ……それは……」

 

 

今この瞬間自分がなのは達に逆らっている事を改めて突きつけられ、ティアナの良心が痛む。しかし、それ以上に強くなりたいという意思は固かった。

 

 

「…………勿論です。どうしても…どうしても力がいるんです!だから───」

「ティア…」

「…いいだろう。てめぇにその気があるなら…ついて来やがれ」

「えっ…」

「お、おい!何考えてんだバーダック!いくらお前でも勝手にそんな事…!ほら!なのはも見てねぇでなんか言ってやれ!」

「……バーダックさん」

「…なんだ」

「私達はもう現場に行かないといけません。ですから、それまでティアナの事……お願いします。…ヴィータちゃん。ほら」

「お前まで何を…」

 

 

困惑するヴィータを他所に、通じるはずの無い念話をバーダックに送りながら、なのははヘリへと歩いて行く。

 

 

 

(バーダックさん……信じてますからね)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…で、何度も聞くけど本当に大丈夫かよ?」

 

先程の判断が腑に落ちないヴィータは、少し頬をふくらませながらなのはに問いかける。

 

「うん…バーダックさんなら大丈夫だよ。…多分」

「た、多分ってお前なぁ…」

「まぁまぁ…なのはの言う通り、きっと大丈夫だよ。ヴィータだってバーダックさんの事、信用してない訳じゃないでしょ?」

「う…そりゃそうだけどさ……お前は心配じゃねぇのか?特に修行の事に限っては何するかわかんねぇぞ」

「…実は私ね、模擬戦が終わった後バーダックさんと話したの」

「な、そうだったのか?」

「うん。その時ね、絶対怒られると思ったの。私が否定したティアナのやり方は普段のバーダックさんそのものだったから……でもそんな事なかった。私の考えてる事を伝えたら『それならいい』って…」

「それって…どういう事だ?」

「よく分からないけど、あのバーダックがこういう事を自分から言い出したんだから、考えがあるんじゃないかな?」

「はぁ…だといいけどな…」

 

不安を拭いきる事のできないヴィータだったが、今は杞憂であることを願うしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おぉ、あれが話に聞いていた新型のガジェットか」

「ふーん…前よりは少しはマシに動けるようになったみたいだね。でもボクはあんなガラクタには興味ないんだ。……おいお前、もう少し場所を変えるぞ」

「貴様!私に気安く命令するな!私に命令できるのは────

「あー分かった!分かったっての!……ふん、全く扱いづらい奴だなお前は」

「だから私を部下のように呼ぶな!私とて…私とて好き好んで貴様などと組んでいる訳ではないのだぞ…!」

「はぁ…とにかく行くぞ。奴らはもうそこまで来てるんだからね」

 

 

 

 

 

 




どうも。顔芸です。

まずは恒例になってきたお詫びです…本当はもっと早く上げたかったのに結局盆明けになってしまいました…すみません。


話は変わるのですが、最近新しい映画の影響もあって書いている途中でふと思うことがありまして、劇中のパラガスの戦闘力ってどの程度だったんですかね。今は9000ぐらいが定説らしいのですが、個人的にはブロリーになぶられてた事を考えるともう少しあってもいいかなーなんて思ったりしてます。
とはいえ判断材料が少なすぎるのでなんとも言えないのですが…



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十二話 凡才の苦悩

『なのは隊長、敵ガジェットの飛行区域から10キロ圏内に入りました』

 

「了解。…よし。そろそろ行こうか。敵はそこまで強くないけど、油断しないようにね」

 

(…体の調子はいい。力のコントロールも…前よりは出来ている。今日はいつも通りに戦って帰るだけだ。心配する要素は何も無い。…それなのに……それなのにこの胸騒ぎはなんだ……?)

 

 

「分かってるっての。ほらブロリー、そろそろだぞ。準備しとけー」

「………」

「…ブロリー?」

「…ん?…ああ。」

「おい、さっきからボーッとしてるけど大丈夫か?」

「…大丈夫だ」

「ブロリー、本当に大丈夫?大した相手じゃないし、無理する事はないんだよ?」

「ありがとう。だが本当に俺は───」

 

 

その言いかけた時だった。雷に打たれたように、脳内に衝撃が走る。ブロリーはその場から勢いよくと立ち上がると、そのままヘリの外へと飛び出す。

 

 

「お、おい!急にどうしたんだよ!」

 

 

追いかけてきたヴィータの制止も振り切り、ヘリから離れて気を探る。

 

 

(何処だッ……気を消して逃げたか?いや、逃げられるほど時間は経っていない。そもそも気をコントロール出来る奴なんて俺の知る限りごく少数のはず……)

 

 

「臆病者が!出てこい!近くに居るのは分かってるぞ!」

 

 

「へへへっ…お前の後ろだよ」

「!?」

 

不気味な嗄れ声が背中から這うように耳に入って来る。すぐに振り向くと虫のような異形の顔を持つ小人と、ローブに身を包んだ大柄な男が立っていた。

 

「ブロリー!大丈夫か!?」

「こいつらは……?」

 

後を追ってきたヴィータ達も、謎の二人が放つ異様な気配を察したようで、すぐに臨戦態勢を取る。

 

「…誰だお前は?」

「なんだその目は?まだボク達何もしてないだろ?」

「ここは飛行禁止区域です。…抵抗しなければそちらにも弁解の機会があります。大人しく投降してください」

「フン…飛ぶことも自由に出来ないなんて、ここは不自由な世界だね」

「…そんなことをてめぇらと話すつもりはねぇ。大人しく投降すんのか、アタシらに叩きのめされるのか、さっさと選びやがれ!」

 

普段と同様に強気に出るヴィータ。しかし、簡単に勝てる相手ではない事はすぐに理解できた。それはなのは達も同様で、すぐに念話を飛ばし合う。

 

『皆、気を付けろ!こいつら只者じゃねぇぞ!』

『うん。あの水晶玉がデバイスみたいだけど…あんなのは見たことないよ…』

『それより見て!あの服のマーク…!』

『…!じゃあこいつが…!』

 

 

 

 

「そう。ボクが大魔導師バビディ様さ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヘリポートでの騒動の後、バーダック達二人は黙ったまま早足で隊舎の外へと向かっていた。バーダックが寡黙な人間である事はティアナも知っていたが、今回はいつも以上に空気が張り詰めていた。そんな雰囲気の中に身を置いていると、僅かな畏怖の感情が湧き上がってくる。

 

 

(兄さんや訓練校の教官、そして六課の隊長達……実力のある魔導師は何人も見てきた。全員私より才能があって…星や宝石みたいに輝いて見えた。…でもこの人は違う。なんて言えばいいか分からないけど…とにかく根本的に私達とは…………ってああもう!今更何を怯えてんのよ私は…この人について行けば強くなれるかもしれないんだから…!)

 

 

「おい…聞いてるか……おい…!」

「…っ!は、はい!」

「全く…ボーッとしやがって」

「す、すみません……あれ?ここは…」

 

 

てっきり訓練場に向かうのかと思いきや、バーダックが足を止めたのは隊舎から少し離れた何も無い場所。呆気に取られるティアナだったが、白く輝く街頭とコンクリートにぶつかる波が頭を冷やしてくれる。

 

 

「あの…これは一体…」

「お前、どうしても力が欲しい…そう言ったな?」

「…はい。そのためならどんな辛い訓練でも乗り越えるつもりです。それに…執務官の夢は捨てられません。でも、その為に命を賭ける事はできます!……もしそのせいで命を落とすような事があっても───」

「フン…心意気は結構だが、てめぇが命を賭けても執務官の夢とやらが叶う前に無駄死にするのがオチだぜ」

「なっ…!」

「…自分でも薄々気が付いてるんじゃねぇのか?こんな事をしても才能の差は埋まらない、まして執務官になんぞ近づけねぇってな…」

「くうっ…!」

 

 

行き場を失ったティアナのやり場のない激情は、自身の拳を血が滲むほど強く握らせる。この湧き上がる怒りや悔しさは、バーダックに対して向けられた物ではない。バーダックの言葉に反論できなかった惨めな自分に対してだった。そして、それらは彼女の内に秘めていた思いを吐き出させてゆく。

 

 

 

「…ええそうですよ!!私の事は私が一番よく分かってるんですっ!私なんかがいくら努力したって、命を賭けたって!貴方やなのはさんやスバル達には追いつけない!そんな事!とうの昔に分かってましたよ!だけど…だけど死ぬ思いでやるしかないじゃないですか!!なのに…!その努力までしちゃいけないって……私はどうすればいいんですか!?」

 

 

よほど溜め込んでいたのだろう。息を切らせながらありったけの言葉をぶつける。そんなティアナに対してバーダックは

 

 

 

「…一度だけ───」

「えっ…」

「一度だけ昔話をしてやる。…やたらと言いふらすんじゃねぇぞ」

「え…ええっと…はい…」

 

 

 

「遠い世界の人間の話だ。そいつらは人生の殆どを戦闘に費やす種族。必然的に戦闘力こそが人間の価値を決める。そしてその価値のない人間……つまり才能の無い無力な奴らは強い者に従い、時にはゴミのように扱われる。だがそれでも弱い奴らから反乱が起こる事はなかった。それほど両者には差があったのだ」

 

 

「……だがそんな落ちこぼれ達の中でも、限界以上の訓練や実践でエリート達に近付こうとする奴、あるいは越えようとする奴らも居た。…今のお前はそいつらと同じだ。その連中の一体何人がエリート達に匹敵する強さを得られたと思う?……数千人の内たったの数人だ。それ以外の奴らは殆どが道半ばで死んでいった……」

「し、死んだって…どうして…」

「当然だ。自分より強い奴を越えるにはそいつ以上に命を削らねぇといけねぇんだ。…いいか。今てめぇがやろうとしてるのはそう言う事だ…!」

「あっ…うっ……」

 

 

命なんて惜しくないと口にするのは簡単だった。実際、先程までのティアナであれば迷わず言い放っていただろう。しかし、バーダックによって語られた生々しい現実がティアナの決断を躊躇させ、同時に冷静さをも取り戻させた。

 

 

(……ああそうか。やっと分かった…この人やなのはさんの伝えたかった事が…)

 

「……バーダックさん。貴方が何を言いたいのかやっと分かりました」

「……なんだと?」

「私、今まで努力すれば執務官になれるって思ってたんです。だからどんなに辛い訓練でも耐えられる自身はあった……。だけど、それで周りが見えなくなってたんです。自分の目標の為にスバルやブロリーを危険に晒して、それを許してくれた二人や皆に甘えて、隊長達にも私の我が儘で迷惑かけて……改めて口に出してみると私ってどうしようもないですね…」

 

「………」

 

「さっきの話も…私に現実を教えようとしてくれたんですよね…。確かに私にとって執務官は憧れです。でも…もう大丈夫です。私の無茶で皆を危険に晒すぐらいなら…執務官は諦め───」

 

 

「チッ…全く!てめぇという奴はどうしてすぐ諦めるんだ!甘ったれてんじゃねぇぞ!」

「えっ……?」

「いいか。てめぇは自分を追い詰めて鍛えてるつもりなんだろうが…実の所は何でもかんでも端から諦めてやがるんだ。確かに才能の無い奴は人一倍体を張らなけりゃならねぇ。だがお前のあの時の行動は、本当に強くなるための努力か?自分は弱い、才能がない。だから執務官になるには無謀な戦いをするしかない…そんなヤケクソじみた努力だっだろう」

 

(そうだ…私は…!)

 

「そんな後ろ向きの努力は全く役に立たねぇ。努力したつもりにはなるだろうが、最後は惨めに自滅するだけだ。本当に強さを手に入れたいなら、やるべき事は自分の才能を悲観する事じゃねぇはずだ。………それに、だな」

 

バーダックは小さく咳払いをすると、少々歯切れが悪そうに話を続ける。

 

「なのはの奴はまだガキだが……まあ、魔導師としても教導官としてもそこらの連中よりは実力はある。だからその…なんだ。もう少し信頼してやってもいい」

 

「は、はぁ…」

 

「……それはともかくだ。俺の言いたい事は言った。今後どうするかはお前が決めろ。お前がどう行動しようが、俺はいちいち咎めたりしねぇ。…まぁ、そこの茂みに隠れてる奴らはどうか知らんがな」

「えっ…?それってどういう…」

「おいお前ら、いい加減出て来い…!とっくにバレてるぞ」

 

 

すると、近くに植えられている垣根がもぞもぞと動き出し、新人の三人がひょっこりと顔を出す。

 

 

「…盗み聞きとは随分行儀がいいじゃねぇか」

「あはは…き、気付いてたんですね…」

「フン…気がダダ漏れなんだよ。気付いて当然だろうが」

「す、すみません…どうしてもティアナさんが心配で…」

「…まぁいい。後は好きにしろ。…もう面倒を起こすんじゃねぇぞ」

「あっ、バーダックさん…!」

 

背を向けて隊舎へ戻るバーダックをティアナは呼び止めようとするが、バーダックが振り向くことは無かった。

 

「バーダックさん行っちゃいましたね…」

「私達が盗み聞きしてたから怒らせちゃったのかな…?「邪魔しちゃってごめんねティア…」

「あ、謝らないでよ…私は別に気にしてないし──」

「でも…」

 

「いや…そうではないさ」

 

 

申し訳なさそうに謝罪する三人の背後から、聞きなれた声が聞こえてくる。振り返ると、パラガスが街路樹に背中を預けて立っていた。

 

 

「あ、あれ!?パラガスさん!」

「いつからそこに?」

「ん…?お前達が来たすぐ後だが……」

「よくバーダックさんに気付かれませんでしたね…」

「フッ…まぁ伊達に歳を食ってる訳じゃないという事だ。…それよりさっきの話だが、あれは別に怒ってる訳じゃないぞ」

「そうなんですか?」

「ああ。あいつは昔から誰に対しても無愛想な奴なんだがな。珍しく慣れないことをして照れているだけだ───っと、これも今はどうでもいい話だな」

 

パラガスは改めてティアナに向き直ると、真剣な面持ちで口を開く。

 

「ティアナ、奴と話して何か進展はあったか?」

「はい。その…今は言葉では上手く言えないんですけど……」

「…そうか」

「でも、なのはさんには幻滅されちゃいましたよね…私が出動待機に回されたのもきっとそのせいで───」

「ティアさん!違うんです!」

「えっ…?」

「うん。なのはさんが怒ってたのはね────」

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう…だったんだ」

「…うん。だからなのはさんの事、悪く思わないで欲しいなって…」

「初めから思ってないわよ。そもそも、今回は私が色々こじらせたのが原因なんだし…」

「ティア…」

「なのはさんが帰って来たら一緒に謝りに行こう!ティア!」

「…そうね。ちゃんと謝ってまた頑張らないと…!」

 

 

(…うむ。一時はどうなるかと思ったが、どうやら一区切り付いたようだな。…となれば、部外者はとっとと去るとするか)

 

「あっ…パラガスさん!」

 

 

無邪気な笑顔を見せる四人を見届け、一人戻ろうとするパラガスだったが、それに気が付いたティアナが呼び止める。

 

「ん…どうした?」

「あの…後で一つ伺いたい事があるんですけど…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なっ…!こいつ…アタシらの念話を…!」

「それに…やっぱりこいつって…!」

 

 

「フン。やっと分かったか。まぁ、念話を盗み聞くぐらいボクにとっては朝飯前だけどね。それより、お前達ボクを捕まえるんだって?馬鹿なことは止めて───」

 

 

気味の悪いにやけ顔を浮かべながら煽るような口調で話すバビディだったが、この程度の安い挑発に乗せられるほど浅はかではない。

 

「…素直に従う気はないみたいですね。…そっちの貴方はどうなんですか」

「お、おいお前達!ボクの話を最後まで聞けー!」

「…つーかてめぇは誰だ?こいつと一緒って事はまた操られて───」

 

「…フッフッフッ…よくぞ聞いてくれた!私は宇宙一のエリート部隊───」

 

ふざけているとしか思えないポージングをとりながら堂々と名乗りを上げる───と思われた時、男の動きがピタリと止まる。

 

「っと…忘れていた。今は名前は明かしてはならんのだったな…」

 

「え、ええっと…」

「一体何なんだよ…」

「とにかくだ!私も貴様らのお縄になるつもりは無い。どうしても捕まえたければ実力で私を倒すのだな」

「チッ…やっぱりそう言うと思ったぜ!そもそもてめぇら!目的は一体なんだ!」

「何、ちょっとした偵察さ。お前達機動六課のね」

 

(私達の…情報…?スカリエッティと手を組んでいるならそんな情報はとっくに掴んでるはず…それなのにどうして…)

 

「腑に落ちないって顔だね。へへっ、教えてやるよ。正直、僕が気になってるのは六課というよりサイヤ人の連中なんだよね」

 

「………!!!」

「なっ…!」

「てめぇ!それはアタシらしか知らないはずだ!な、なんでてめぇがサイヤ人の…ブロリー事を知ってんだ!答えろ!」

「そこまで教える義理は無いね。…それからお前さ」

 

 

冷たく言葉を言い放つと共に、巨大な眼球がヴィータを睨み付ける。一体バビディが何をしようとしているのか。どういう技を使うのか。情報らしい情報が一切ない中で、ブロリーの本能だけが瞬時に危険を察知した。

 

 

「ヴィータ!避けろ!」

「避けろって…な…に……を…?」

「お前、さっきから生意気だよ。特にボクに対する口の利き方がさ」

「あっ…がぁぁ……」

「ヴィータちゃん!?」

 

 

しかし、折角のブロリーの注意喚起も虚しく、突如ヴィータは首を絞められたように悶えだす。すぐに駆け寄ったなのはに抱かれなんとか落下は免れたが、全く呼吸が出来ていない状態だった。

 

 

「ヴィータちゃん!しっかりして…!」

「へへッ…かかったね…!今日は偵察だけのつもりだったけど、気が変わっちゃったな〜」

「貴様…!ヴィータに一体何をした!」

「そんな事悠長に聞いてる場合か?後少しでそいつは死ぬぞ〜?こんな風に…ね!」

「うぅ…ぐぁぁぁ……」

「くっ…このっ!」

 

 

バビディが拳を握るたびにヴィータが苦しそうな悲鳴を上げる。術の元凶を断とうとフェイトがバビディに脱兎の如く飛びかかる。しかし、バビディに向けられたはずのその一撃は隣にいた男にあっさりといなされてしまう。

 

 

「…くっ!」

「こいつは気に食わんが…これも命令だからな。邪魔させる訳にはいかん」

「命令…一体誰の…?」

「貴様が知る必要は無い。ふんっっ!」

「くっ…かぁぁぁぁぁ……」

 

男の拳が鈍い音を立ててフェイトの腹部にめり込む。飛びそうな意識を必死に保ちながら反撃技を繰り出す。

 

「フォトン……ランサーッ!」

(速い…!だが……ぬるいわ!)

 

無数の金色の槍を凄まじいスピードで男に放つ。しかし、全て片手の風圧でかき消されてしまう。

 

「へへっ!ほらほら早くボクを止めないとこのガキが死ぬぞ〜?」

(まずい…早くしないと…ヴィータが…!)

「さて…どうやって殺してやろうかな?頭を吹き飛ばすか?それともこのまま窒息させて────」

 

 

 

高笑いをあげるバビディの眼前に、深碧の光が横切った。そしてその刹那、背後で爆発が引き起こされる。その威力たるや凄まじく、海は大きく引き裂かれ、空間も大きく揺さぶられる。

 

 

「ゲホッ…ゴホッ……ブ、ブロ…リー…?」

「馬鹿な……あんなガキにこれ程のパワーが…」

「ブロリー…ちゃん…?」

「お、お前…今…何をしたんだ…?」

 

 

敵味方問わず驚愕したブロリーの攻撃。しかし、一同の視線の先には、先程の大人しい少年の姿は無かった。

 

 

 

 

 

 

「虫けらめ……殺してやるぞ……!!」

 

 

 

 

 

 

 




どうも。顔芸です。
更新がまた遅くなってしまい申し訳ないです。オラに時間を分けてくれぇーっ!



話は変わりますが、リリカルなのはでおなじみの水樹奈々さんがDBの新作映画に出演するみたいですね。微妙な縁を感じるような……なんて少し思ってしまいました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十三話 空白の時間

『バーダックさん…絶対また会えますよね?』

 

『フン…どうだろうな』

 

『ちょっとバーダック!しばらく会えないんだから、また会えるぐらい言ったらどうなんだい!』

 

『バーダックさん!私、次に会うときはバーダックさんと渡り合えるくらい強くなりますから!』

 

『…簡単に言ってくれるじゃねぇか。…だがまぁ…それなら考えてやってもいい』

 

『ふふ…それじゃあ約束ですからね…!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(…随時昔のことを思い出しちまったな)

 

 

「ここに居たか。バーダック」

「パラガス…一体何の用だ」

「いや…お前にしてはずいぶん甘いと思ってな。ティアナも不思議がってわざわざ尋ねて来たぞ?」

「…!くそったれ…てめぇ聞いてやがったな」

「フッ…そう怒るな。偶然聞こえてしまっただけだ」

「…チッ…気を消してやがった癖に…白々しい野郎だ。今はてめぇの無駄話に付き合う気分じゃねぇ。とっとと失せろ」

「まぁ聞け。…真面目な話だ。お前、まだあの時の事を引きずっているのか?」

「………」

「お前に責任は無い…とは言わんが、あれはお前だけの責任では無い。確かに俺も含めてなのはには皆で負担を掛けてしまった事は事実だ。だが、お前が無理矢理修行の相手をさせていた訳ではない。強くなる事や戦うことはあいつ自身も望んでいた事だろう?」

 

先程とは違う真剣味のある声が周囲の空気を静かに震わせる。そんな空気を察し、バーダックはひと呼吸おいてから小さく言葉を発してゆく。

 

「…確かに強くなる事はあいつが望んだ事だ。だがな…あいつは地球人なんだ。どんなに魔力が強かろうがそれは変わらねぇ。…お前も見ただろう。あの時のボロ雑巾みてぇなあいつの姿を────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

高町なのは撃墜───

偶然にも当時ミッドチルダを訪れていたバーダックに、その話が飛び込んで来たのはそう遅いことではなかった。

 

「あの馬鹿野郎が…!」

 

日は既に落ちていたが、かつて共に戦った仲間の気を頼りになのはの元へと向かった。そして目的の病院までたどり着くと、バーダックを待っていたパラガスと鉢合わせる。

 

「バーダック!来たか!」

「おい、なのはの奴はどうなった!?」

「詳しい事は歩きながら話す。とりあえず本人の所まで行くぞ」

 

 

 

 

〜〜〜

 

 

 

「まさかこんな形でお前と再会する事になるとはな…」

「それで…?あいつの容態は…」

「とりあえず一命は取り留めた。が、正直ダメージは深刻だ。医者の話だともう空は……いや、歩けるようになるかもわからんそうだ。…それからヴィータとフェイトの二人はかなり精神的に参ってるようでな…」

「どういう事だ?」

 

パラガスは小さくため息をつくと、物憂げな表情で語り始める。

 

「今回のなのはの重症の原因は………疲労だ」

「疲労だと…?」

「ああ。無茶な訓練や度重なる事件で慢性的に疲れが溜まっていたようだ。お前も知っていると思うが、フェイトやヴィータは直接なのはを襲撃した過去がある。それぞれ理由があったにせよ、原因を作ってしまった事に責任を感じているようだ。特にヴィータは一緒に任務を行っていながら守ってやれなかったと酷く落ち込んでいてな…」

(疲労……か)

「っと…着いたぞ。ここがなのはの病室だ」

 

 

引き戸をゆっくりと開きながら、二人は病室へ足を踏み入れる。そこでバーダックが見たなのはの姿は、二年ぶりの再開を果たすにはあまりにも凄惨なものだった。肢体のほぼ全てに巻かれた包帯と繋げられた大量の医療機器が事の重大さを物語っており、会う度にそっけない態度をとっていたバーダックも、今回ばかりはかける言葉が見つからなかった。

 

 

「…あっ…バーダック…さん……」

 

 

バーダックの気配を感じたのか、眠っていたなのはがゆっくりと目を開ける。

 

「来てくれたんですね……ありがとう…ございますっ…うっ…」

「…!馬鹿野郎が。無理に身体を動かすな」

 

律儀に起き上がろうとするなのはを止めると、そのボロボロの身体をベッドの上にそっと寝かせる。

 

「すみません…バーダックさんは元の世界を探さなくちゃいけないのに…迷惑かけちゃって…」

「…謝るな。そんな事、てめぇに心配される覚えはねぇ」

「にゃはは…よかった…いつものバーダックさんだ…」

「………」

 

 

バーダックの知る以前の強く活気に満ち溢れていた姿と比べ、ベッドに横たわり作り笑いを浮かべるなのはの姿はひどく華奢で小さく見えた。

 

 

「…バーダックさん。私ね、病院の先生にもう空は飛べないかもって言われちゃったんだ」

 

「………」

 

「それどころか、もう歩けないかもって…」

 

「………」

 

「バーダックさん…私…私…!」

 

必死に涙を堪えていたなのはだったが、しゃくりあげた拍子に一粒の雫が頬を伝うと、もうその後はとどめがなかった。その姿にいつもの大人びたなのはの面影はなく、どこにでもいる年相応の少女の姿だった。

 

「ありがとうバーダックさん……もう大丈夫…」

 

ひとしきり泣いた後、なのはは目を擦りながらぺこりと頭を下げる。そんな建気な姿に、バーダックの心は締め付けられた。

 

 

「待っててくださいね…怪我なんてすぐ治して、また空に戻ったら…あの時の約束も守りますから」

「…約束?」

「ほら…強くなってまた戦うって…前のお別れの時に…」

(……!)

 

 

バーダックは重症を招いた疲労の責任の一端が自らにあることは十分に理解していた。しかし、サイヤ人として生きてきたバーダックに、気の利いた言葉が掛けられるはずがなかった。

バーダックはそんななのはの姿に対してかける言葉が見つからず、何もしてやれない自分が憎らしかった。そして同時に、この時ばかりは自身がサイヤ人である事を悔やんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いいか。今のあいつらは優れた魔力のおかげで普通の人間より高い戦闘力を持ってる。それどころか下級戦士のサイヤ人なら歯が立たない程にだ。だがな、なのはを含めてここにいる連中の純粋な身体能力なんぞ、俺達からすりゃハッキリ言ってカスみてぇなもんだ。なのはの場合は特にだ。…もう言いたい事は分かるな?」

「なのは達と俺達は姿は似ていても全く別物の種族…という事か?」

「そうだ。サイヤ人は土手っ腹に穴が開こうが全身の骨が折れようがすぐに回復できる。だがあいつらはどうだ?魔法という盾がなけりゃ、吹けば飛ぶような戦闘力しかねぇんだ。そもそも、あいつらは俺達のような血に飢えた種族じゃねぇ。俺は…そんな奴らにサイヤ人の常識を押し付けちまった。その結果があれだ」

 

 

自嘲気味に話すバーダックの表情からはいつものような鋭さは影を潜めており、彼の心境を雄弁に物語っていた。

 

 

「お前がそこまで思案していたとはな。…闘いの好きなお前がここに来てから一度もブロリー以外と組手をしなかったのはそれが理由か」

「フン…もう気は済んだだろ。とっとと失せやがれ」

 

 

 

 

 

 

 

(バーダック…確かにお前の言う事は正しい。俺も八神家の者には平和に暮らしてほしいと思っている。…だがそうやって仲間達から遠ざかり…お前はいつまで孤独なサイヤ人でいるつもりだ…?お前は…あいつらを置いてどこへ向かうつもりだ…俺達の星はもう無いんだぞ?)

 

 

同じ仲間を持つサイヤ人だからこそ痛いほど理解出来るバーダックの心境。しかし、理解出来るが故に気安く励ますことなど出来るはずがなかった。

 

 

パラガスは仕方なく一抹の不安を残しながらもこの場を後にしようとしたその刹那─────

 

 

 

 

「!?おいっ!パラガス!今のは…!」

「なっ…!そんなバカな…」

 

 

 

 

 

巨大な気が二人の身体を駆け巡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へ、へへっ…とんだ局員だね…!今のが市街地なら更地になってるよ…!」

 

 

「ブロリー…?だ、大丈夫───

「だあぁぁぁぁぁっ!!」

「ひっ…!お、おい!僕を守れ〜!」

 

 

フェイトの言葉も意に介さず、バビディに飛びかかるブロリー。しかし、そこへ男が割って入り動きを止める。

 

 

「こいつは気に食わないが、これも命令だ」

「チィッ…雑魚は引っ込んでろっ!」

「うおっ!?このガキ…!」

 

ブロリーの攻撃によって男は海面ギリギリまで吹き飛ばされるが、体勢を整えると同時に光弾を放つ。

 

「フン…こんなものっ!」

「なっ…ブロリー!?」

 

避けるどころか正面切って突っ込むブロリー。当然攻撃は命中し、辺りに噴煙が巻き上がる。

 

 

「自分から当たりに来るとは…馬鹿な奴───

「ふははっ!殺してやるぞ!」

「なっ!馬鹿な!?」

 

 

灰色の煙を引き裂いて現れたのは無傷のまま突撃を止めないブロリー。面食らった男はすぐに防御を固めるが、小柄な身体から放たれたとは思えないほどの破壊力を秘めた拳を防ぐことで精一杯だった。

 

そして突如開始された二人の戦闘を外野から見ている両陣営の魔導師達。こちらもそれぞれ思惑を抱えながら行動に移ろうとしていた。

 

 

 

『おい!聞こえるか?もう偵察は終わりだよ。そいつの相手はもういいぞ!』

『くっ…好き勝手言いおって…!このガキを突き放すまで待て!』

(チッ…あんなガキに苦戦するなんて…と言いたいところだけど、正直こいつの潜在能力は正直予想以上だ。だがこいつはもしかすると────

 

 

 

 

 

 

 

 

(今の内にバビディを捕まえに…!でもブロリーのあの無茶苦茶な戦い方…早く止めないとまずいかもしれない。かといってヴィータを抱えてるなのはは動けないし…クッ…どうする…?)

 

「ゴホッ…はぁ…はぁっ…なのは…フェイト…」

「ヴィータちゃん!大丈夫?今は無理しないで身体を…」

「アタシは大丈夫だ…それよりブロリーを止めねぇと…」

「でも今ブロリーはあの男を押してるし…バビディも捕まえないと…」

「あいつらはまた捕まえりゃいい。でもブロリーはダメだ…!あのまま放っておいたらここらを破壊し尽くすまで暴走し続けちまう…。早く正気に戻してやらねぇと……!」

 

「…わかった。でもヴィータちゃん、無茶はダメだからね?」

「へっ、わかってるての!」

「でもどうする?幾ら何でもあの戦闘に割って入るのは…」

「とりあえずあの男を追い払おう。バビディの言ってた通り二人の目的が本当に偵察なら、危険を冒してまで戦おうとはしないはず…」

「分かった。なら私があの男の注意を引くから、その間に二人はブロリーをお願い」

「ああ。…待ってろよブロリー…今戻してやるからな…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻、異常な気を感じ取った二人は、はやての居る管制室にたどり着くとやはり騒然としており、現場の様子が容易に想像できた。

 

「はやてちゃん!二人が来たですよ!」

「あっ…二人共ええ所に!実は少し前から現場と通信が取れんようになって…恐らく戦っている相手に妨害されてるんやと思うんですが…二人も何か感じますか?」

「なのは達の近くにあまり良くない気が二つ…それに──

「ブロリーの気が異常に膨れ上がってやがる。お前の言う通り誰かと戦っているようだが…」

「ブロリーが…!?それじゃあ皆は……早く増援を…!」

「落ち着け。一緒に居るのはなのは達だ。そう簡単にどうにかなったりはせん。それにここからでも気は読める。だから今は様子を───」

 

「何を悠長な事言ってやがる!」

 

はやてを落ち着かせようと説得するパラガスに、後ろで控えていたバーダックの怒号が飛ぶ。

 

「てめぇもブロリーの気を感じただろ!本当にあのエネルギーを使って暴れ回ったら、いくらなのはやフェイトでも死ぬぞ!」

 

「そんな事は分かっている…だが仮に戦っているのがバビディだったとして、奴の能力は洗脳の可能性が高い…!中途半端な戦力で向かえば最悪の事態も有り得るのだ。相手の出方が分からん以上、ここの戦力をそう簡単に減らすわけにはいかん!」

 

「だからあいつらを見捨てるのか!なら俺は───」

 

その時、サイヤ人二人はピタリと言葉を止めると、なのは達の居るであろう方角に体を向ける。

 

「二人共…どうしたですか…?」

 

「ブロリーの気が…戻った…」

「えっ…ほ、ほんまですか!?」

「ああ…それに邪悪な気も消えている…ブロリーが倒したのか?」

 

急激に変化する状況に困惑する一同。そこに、先程まで音信不通だったフェイト達から通信が入って来る。

 

『はやて!皆!聞こえますか?』

「フェイトか!?そっちはどうなってる!」

『数分前にバビディを名乗る魔導師と正体不明の男と交戦。拘束はできませんでしたが、なんとか追い払う事はできました』

「…それでブロリーはどうなった?」

『それが…ですね…』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───ここは…どこだ…?

 

 

暗い。寒い。痛い。……憎い。

 

 

一体何が…?

 

 

…分からない…何も…

 

 

 

「はあぁぁぁぁっ!」

 

「くたばれっ!」

 

 

 

誰だ…お前は…?

 

 

この痛みは…お前のせいか?

 

 

「ぐっ…かはぁっ…」

 

 

…フッ…フハハハハッ……!楽しい。もっと苦しめ…。俺を楽しませろ…。カカロットォォッ!

 

 

 

「──い!ブロ──しっかり────!」

 

 

 

…今度は誰だ。また俺を殺しに来たのか?

 

いいだろう。邪魔するならお前も────

 

 

 

「ブロリッー!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!?はぁ…はぁ…はぁ…はぁっ…」

 

 

「ブロリーちゃん!」

「気を確かに持って!」

「俺は…うっ…」

「ブロリー!」

 

意識を取り戻して最初に目に入ったのは、心配そうにこちらを覗き込むヴィータ達の姿だった。見慣れた顔に安心する一方で、彼女のバリアジャケットには所々傷がついていた。

そして同時に頭を揺らされるような感覚に襲われ千鳥足になってしまう。そのまま倒れ込みそうになったところで咄嗟にヴィータが肩を担いで身体を支える。

 

 

「おい、大丈夫か!?」

「ヴィータ…か?」

「ああそうだ!ってかもう喋るな!」

「俺は…また暴れて…?」

「っ…それは…後で話す。だから今は…」

「…すまない。俺が不甲斐ないばかりに…」

「謝るなよ……謝っちまったら…お前が悪いみたいじゃねぇかよ…」

「…とにかく今は戻って連絡しよう。きっと皆心配してるだろうから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──という事なんです…』

 

「…状況は分かった。ガジェットとの戦闘はできそうか?」

「うん。そっちは多分大した相手じゃないし、ブロリー以外はまだ戦えるから」

「そうか…。でも気ぃつけてな?」

「ありがとう。戦闘が終わったらまた連絡するよ」

 

通信を切ると、はやて達は全員の無事にひとまず胸を撫で下ろす。そこへ、一人神妙な面持ちのバーダックが声を上げる。

 

 

「おいパラガス。一つ聞きたいことがある。…ブロリーのあの戦闘力…お前もサイヤ人なら心当たりがあるだろう。…あれは──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「伝説の超サイヤ人…そう言いたいのだろう?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




投稿が遅くなってしまい申し訳ないです。本当は十一月の頭には上げようと思ったのですが、色々修正していたらこんなに遅くなってしまいました。
次はなるだけ早くアップできるように頑張ります。

もう一つ、内容に関してお願いです。現状正体を伏せている敵に関しては、ネタバレは避けていただけると有難いです。…まぁ大抵の方はもう察しがついているのかもしれませんが、一応そのような形でお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十四話 伝説への序曲

「…来たな」

 

 

夜空に紛れた大きな影が、けたたましいローター音を響かせながら近付いて来る。機体はそのままバーダック達の目前に降り立つと、扉が開きなのは達が姿を現した。

 

「お前達…よく帰って来た」

「はい。無事に…とはいきませんでしたが、作戦はなんとか遂行できました。ブロリーもこの通り、命に別状はありません」

 

なのははパラガスにそう告げると、隣で心配そうにこちらを見つめていたはやてに抱えていたブロリーを手渡した。

 

「なのはちゃん…他の皆も迷惑かけてすまんかったな…」

「ううん、大丈夫。今回の事は残念だったけど、はやてちゃんが謝ることないよ?」

「でも…」

「とにかく今はブロリーを休ませてあげて。大した怪我はしてないけど、相当疲れてるみたいだから」

「せやな…二人共ありがとう。ほんならシャマルのとこに預けてくるから。ヴィータも一緒に来てくれるか?」

「うん…分かった」

「………」

 

 

僅かに苦しそうにも見えるブロリーの寝顔を見ながら、二人は医務室へと足を運ぶ。そんな様子を心配そうに見守る中で、バーダックの視線だけは憂慮以外の感情が含まれていた。

 

 

「あの…バーダックさん、ティアの事は──

「…俺は言いたい事を言っただけだ。あいつが何を思ってるかは知らん。後はお前がなんとかしやがれ」

「はい…!ありがとうございます…!」

「あ、あの…すみません、ちょっといいでしょうか…?」

「シャーリー?どうしたの?」

「じ、実はですね…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ええっ!?昔の事話しちゃったの?」

「す、すみません!私、皆があんまり不器用だから見てられなくて…。あっ、でもティアにはまだ言ってないですよ…?」

「うーん…そういう問題じゃないんだけど…」

「…安心しろ。ティアナには俺が話しておいたからな」

「ちょ、ちょっとバーダックさんまで…!」

「…別に減るもんじゃねぇんだ。話しても構わねぇだろう。それにあの野郎なかなか頑固な野郎だからな。あれぐらいの薬が丁度いいだろう」

「そ、そうですよなのはさん!これを教訓にして皆が成長したと思えば…」

「それは…そうかもしれないけど…うーん…」

 

いまいち腑に落ちないなのはだったが、過ぎたことをいつまでも嘆いても仕方ない。今のなのはにはもう一つ、教導官としての仕事が残っているのだ。

 

「それじゃあ私、ティアの所に行ってきます」

「フン…もう面倒は起こさねぇようにして来いよ。…それと後で会議室に来い。お前らに話すことがある」

「…バビディの事ですか?」

「いや、正直奴の事は俺達にも分からん。それは寧ろお前達に聞きたいぐらいだ。…話とはブロリーの事だ。本来お前達にはもっと早く話しておくべきだったのかもしれんが…」

「…分かりました。話が終わり次第そっちへ行きますね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全員揃ったみたいやな。パラガスさん、お願い出来ますか?」

「ああ。皆分かっていると思うが、今回集まってもらったのはブロリーの件についてだ。が、その前に…まずは皆に謝らせてくれ。俺の倅が迷惑を掛けてしまって申し訳ない…。特に今回任務に当たった三人には───

 

「おいおい、律儀なのはいいけどさ、アタシらの間で今更そんなこと謝るなよ」

「そうですよパラガスさん。それに今回の戦いだって、結果的にはブロリーのお陰で勝てたんですから」

「…そう言ってくれるのは有難いのだが、素直に喜んでばかりもいられんのだ」

 

 

戦場に出た三人はは申し訳なさそうに頭を下げるパラガスを慰めるが、パラガスは重々しい表情を崩さない。そして、隣に座っていたバーダックに視線を送ると、バーダックはゆっくりと口を開き始めた。

 

 

「俺達サイヤ人の間に、真しやかに噂されていた伝説がある」

「一千年に一度現れる、どんな天才でも越えられない壁を越え、あらゆる種族の戦闘力を超越すると言われた破壊と殺戮を好む宇宙一の戦士……超サイヤ人の伝説…」

「超…サイヤ人…?」

 

 

バーダックの語った超サイヤ人の伝説は、漠然としている上に何処か神話じみていて、子供でも信じるか分からないレベルの内容だった。しかし、バーダックやパラガスの表情から、それがが決してデタラメでは無いことはすぐに理解できた。

そして同時に、今この話をするという事は──

 

 

 

「…つまり、ブロリーがその超サイヤ人かもしれんと言いたいのか?」

「お、おい!ちょっと待てよ!」

 

冷静に聞き返すシグナムに対して、ヴィータの声には憤りが混ざっている。

 

「アタシ達はあいつが赤ん坊の頃からずっと一緒に暮らしてきたんだ!破壊と殺戮を好むなんて、ブロリーはそんな奴じゃねぇよ!」

「そうですよ!私もヴィータちゃん程じゃないですけど、ずーっと一緒に暮らしてきたですよ!?」

「…俺もそんな伝説をそっくり信じてる訳じゃねぇ。だが、さっきのブロリーの気はそれだけ異常だったんだ。実際に戦闘に立ち会ったお前なら分かるだろう」

「それは…!」

 

「あの…バーダックさん」

 

終始黙り込んでいたはやてが、二人を仲介する形で会話に割って入る。

 

「バーダックさんの言う通り、確かにあの子は昔から強大な力を持っていました。でもヴィータの言ったように、私もあの子が残忍な戦士だとは思えないんです」

「お前の言う”異常な気”以外に何か理由でもあるのか?」

「…それについては俺から説明しよう。俺達サイヤ人が満月を見ると大猿に変化するのは知っているな」

 

「はい。あの時はびっくりしました…」

 

「あの状態になると、一部の者以外はサイヤ人の本能が増大し、自我を失ってしまう。…例え普段どんなに優しく、穏やかな者でもだ」

 

「仮に超サイヤ人が大猿のようなものの一つだとしたら…普段のブロリーの性格に関わらず、伝説通りの戦士に変わってしまうだろう」

 

徐々に現実味を帯びてくる超サイヤ人の伝説に、一同押し黙ってしまう。

 

「…机上の空論なのは分かっている。だが、それ程先程のブロリーの気の高まり方は尋常でなかったのだ」

「あの、デバイスみたいな物で暴走を止めるとかはできないんですか?」

「俺達の世界の技術力のある異星人ならそういう技術を持つ者もいるのかもしれんが、この世界は”気”についてまだ理解が薄い…恐らく難しいだろうな」

「そうですか…」

「…超サイヤ人はあくまでただの伝説だ。何をもって超サイヤ人とするのか。そもそも本当にそんなものが存在するかどうか、それすら分からん代物だ。だがあいつは今現実にここに存在していて、いつ暴走するか分からないサイヤ人だ。この先ブロリーをどうするか、選択を間違えば取り返しのつかない事になる事を…肝に銘じて置くんだな」

 

 

まだ十歳のブロリーに対して、バーダックの言葉は酷にも思える苛烈なものだった。しかし、同時に的を射ているその言葉は、はやて達に反論することを許さなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んっ……結局こんな時間になってしもうたな」

 

 

事務仕事を始めてから数時間、ようやくはやては仕事を終え、自室へと歩を進めていた。手の上には先に寝てしまったリインが心地良さそうに寝息を立てていた。そんな彼女の幸せそうな表情は、大きさや性別に違いはあれど、出会った頃のブロリーの姿を思い出させる。

 

 

「すぅ……すぅ……んんっ…もう食べられないですよ…」

(ふふっ、ほんまによく寝てるなぁ)

 

(そう言えば、あの子もこんな風に寝てたなぁ…。あの子はリインとは違って、奥手で物静かな子やったけど、皆に優しくて、よく笑った顔を見せてくれた。でも今は…)

 

ふと頭の中を一つの考えがよぎる。笑顔を見せなくなったのは自分のせいなのでは…と。

 

「ブロリー…」

 

私の事は本当はどう思っているのか。このままであの子は幸せなのか。沸き上がる様々な考えに、はやては人知れず自問自答を繰り返すばかりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ドクター。準備は殆ど整いました」

「ふむ…後はアレを手に入れるだけか。まぁこちらには十分な戦力がある。気長に待つとしようか」

「…それについてですが…よろしいのですか?あのバビディという魔導師、高い魔力に強力なレアスキル。正直、我々の手に余るのでは?」

「大丈夫さ。彼の戦闘能力自体は大したものではない。それに、あの男一人なら、対処する手段はいくらでもある」

「ドクターがそう仰るなら従いますが…」

「それより、もう一人はどうだい?何か要求してきたりは?」

「いえ…特には。最初の約束さえ違えなければ協力すると…」

「…不老不死か。随分と無茶な要求をしてくれたものだ」

 

「ですが、バビディより態度は柔和です。利害が一致する内は信用できそうです」

「…そうか。だが一応警戒しておいてくれ」

「了解しました」

 

 

 

 

 

(信用できる…か。どうかな。あの男は…私と同じ匂いがするからね)

 

 

 

 




どうも。顔芸です。
時間が空いてしまった上にあんまり展開の進まない話で申し訳ないです。次回からは急展開…とまではいきませんが、あの子の登場回を予定してます。

話は変わりますが、いやー映画良かったですね。ネタバレになるので内容はあまり言えませんが、とにかくすごかった(語彙力)
劇中でのチライとブロリーが会話シーンで、おこがましいかもしれませんが、目をつぶって聞くとフェイトとブロリーのようでなんとなく縁を感じてしまいました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十五話 休暇

どうも。顔芸です。
結構書き溜めていたのですが、結局時間がかかってしまいました。すいません…

ですが、字数はいつもの倍ぐらいですので、楽しんでいただけると嬉しいてす。


「エリオ!行くよっ!」

「はい!」

 

思念通話で瞬時にコンタクトを取った二人の少年少女は、巻き上がる土煙の中から同時に飛び出してゆく。鋼鉄の拳と瑠璃色の槍が、バーダックの身体に肉薄する。

 

「遅いっ!」

 

しかしどちらも軽くあしらわれ、攻撃したはずの二人は逆に体勢を崩されてしまう。

 

「どうした!四人がかりでこの程度か?」

「くっ…!まだまだぁ!」

 

 

 

「うん。四人共だいぶ様になって来たね」

「ああ。でもいくらなんでもまだちょっと無茶なんじゃねぇか?30分以内にバーダックに一発当てろだなんてさ…これ、一応今の段階の見極めテストなんだろ?」

「その事なんだけどね、確かに皆にはああ言ったけど、今回は目標達成と合否は別にしてあるんだ」

「ふーん…」

「それに…今のあの子達なら…」

 

 

 

 

 

 

「くっ!もう一回…!」

 

『スバル!落ち着きなさい!ヤケになってもあの人に攻撃はあたらないんだから!』

『う、うん…ごめんティア…!』

「幻術であの人の注意を引くから、アンタは一度下がりなさい!」

 

(相手は素の力も経験も全て上…おまけに近接も砲撃も得意分野…まるで隙がない)

 

「そこっ!」

「チッ…また幻術か…!だが俺には通用しねぇぞ!」

 

(おまけに気を読まれるせいで、幻術もすぐに見破られてすぐに消される。それでも──

 

冷静さを取り戻せば取り戻す程に、相手との戦闘力の差を痛感してしまう。それはティアナ以外の三人も同様だった。

 

『エリオ君!大丈夫?』

『うん。でも、同時に攻撃しても掠りもしないなんて…!』

『もうあんまり時間もない…ティア…どうする?』

『…一つ作戦があるわ』

『ほ、本当ですか!?』

『ええ。上手く行けば一発ぐらいは当たってくれるかもしれない。私の幻術を使うんだけど、これは私ひとりじゃ成功しないの。だから皆、今から私の指示通り動いてくれる?』

 

『『はいっ!』』

『うん!』

 

『…ありがとう。それじゃあスバルは───

 

 

 

 

 

 

 

「おりゃぁぁぁっ!」

 

「はぁっ…はぁぁっ!」

 

残り時間は既に一分を切っているが、前線の二人は休むことなく攻撃を仕掛け続けている。一見すると攻撃の手を緩めていない様にも見えるが、バーダックは二人の僅かな戦い方の変化を感じ取っていた。

 

(この二人…少し前からやたら注意を引こうとしてやがる。…何か狙ってやがるな)

 

『二人共!そろそろ行ける!?』

『うん…!いつでも大丈夫!』

『僕も大丈夫です!』

『オッケー…!それじゃあ行くわよ!』

 

「クロスファイア……」

 

 

 

「っ!?なんだ…?」

 

 

異様な気配を感じて辺りを見回すと、武器を構えた幻影達が周囲の林から次々飛び出して来る。

 

「こいつら…いつの間に」

 

「シューーート!」

 

ティアナの声と共に放たれた無数の弾丸達は、まるで豪雨のように全方向から一気にバーダックに襲いかかる。

 

「チッ…あの中に本物を混ぜたって訳か…だが…!」

 

バーダックが感じ取れるのはあくまで気弾のみ。人間が実体か幻術かどうかは判別できるが、魔力弾を使っている限り、弾丸が実体なのかどうかは肉眼で判断しなければならない。

しかし、だからと言ってこの程度の弾幕で攻略できる程この男は甘くはない。五感を研ぎ澄ませ、迫り来る弾丸を軽々と見切っていく。

 

 

「見切られるのは分かってたわ!キャロ!」

「フリードッ!お願い!」

「チッ…炎だと!?邪魔だっ!」

 

タイミングよく放たれたキャロの攻撃だったが、即座に反応したバーダックの気合砲によって受け流されてしまう。だが意味がなかった訳ではない。一瞬ではあるが炎で視界を奪われたバーダックは、先程より明らかに表情を曇らせていた。

 

(こいつら…考えやがったな。だが回避さえ出来れば問題は───

 

「「はあぁぁぁぁっ!」」

 

その時だった。バーダックの視界に、こちらに突っ込んで来るスバルとエリオの姿が映る。

 

(なっ!?こいつら…!この弾幕の中を突っ込んで……という事はこの攻撃は───

 

この弾丸の雨の中では、味方であるスバルやエリオも近づけない。その固定概念がバーダックの判断を遅らせた。

まさか近距離戦を挑んで来るとは思ってもおらず、彼は完全に虚をつかれた形となった。

 

「チッ…やるしかねぇかっ!おりゃぁぁっ!」

 

渾身の力を込めた二人の攻撃と、バーダックの鉄拳のによって周囲に粉塵が巻き上がる。それと同時に模擬戦終了の合図が鳴り響き、これが最後のチャンスであった事を告げる。

 

「やったの…?」

 

しかし、煙の外で待つ者の期待とは裏腹に、煙の中から出てきたのは、平然と立っているバーダックと、膝をつくスバルとエリオの姿だった。

 

(くっ…駄目…だったわね…)

 

「はい。みんなお疲れ様」

「な、なのはさん…あの…私…」

「ティア。よく頑張ったね」

「ありがとうございます…でも攻撃は…」

 

 

「…まさかこの俺が不覚を取るとはな」

「バ、バーダックさん…!」

「もしかしてその傷…」

 

バーダックの頬には大ダメージ…とは言い難いものの、しっかりと攻撃の跡が残っていた。

 

「攻撃が…」

「当たってる…!?」

 

「…そういう事だ」

「おめでとう。みんなの努力、ちゃんと届いたよ」

 

なのはに告げられた言葉でようやく現実味が湧いてきたのか、四人の表情がほっとした表情を見せる。

 

「やったねエリオ君!」

「うん!これもティアさんの作戦のおかげだね!」

「えっ…わ、私は別に…」

「もう…こんな時まで謙遜しなくていいのに!」

 

「ああ。今回の作戦にはアタシも感心した。バーダックが幻術の弾丸を目視以外で察知できない事を利用して、前衛が注意を引いてから幻術と実弾を混ぜた一斉射撃…と思わせて、実は弾は全て幻術。そこに二人が同時に攻撃を仕掛ける…か。それにしてもよく戦闘中に思いついたな」

 

「いえ…本当はセオリー通りに動いて勝てるのが一番なんですけど…戦闘力が違いすぎて、今の私達じゃ無理だって思ったんです。それならどうにかして隙を突きたいって考えたんですけど、小手先の技が通用する相手じゃない。なら戦闘スタイルやポジションは崩さないで、私達が有利な戦い方をしようって考えてたんです」

「うん!いい判断だと思うよ!ティア、よく頑張ったね。他のみんなも頑張ったね」

「あっ、ありがとうございます…!」

「それでね、実はこれが第二段階終了の見極めテストだったんだけど…三人は見ててどうでした?」

「俺は関係ねぇだろう。お前らで判断しろ」

「それじゃあフェイト隊長、ヴィータ副隊長、判断お願いします」

「うん。私は合格かな」

「あたしも同じだ。まっ、あれだけ練習して問題があるようならやべーしな。だけど慢心はすんなよ。明日からはセカンドモードをメインにした訓練だからな」

「はい!って…明日?」

「そっ。明日だ」

「みんな入隊してからずっと訓練だったでしょ?だから、今日は一日お休み。街にでも出て遊んで来るといいよ」

 

久しぶりの休日らしい休日に無邪気に表情を輝かせる四人。こういった一面を見ていると、若くして戦う道を選んだとはいえエリオやキャロは勿論、スバルやティアナもまだまだ遊びたい盛りなのだと改めて感じさせられる。そんな彼女達の雰囲気を察してか、バーダックは一人無言のままこの場を去ろうと歩き出す。

 

「あっ…バーダックさん!」

「あの…今日はありがとうございました。それにこの前の事も…」

「…ティアナ」

「は、はい!」

「…もう面倒をかけるんじゃねぇぞ」

「は、はい…ありがとうございます…?」

 

皮肉にも取れる意味深な言葉を残すと、バーダックは今度こそ訓練所を後にする。

 

「あの…今のってどういう…」

「ふふっ、今のはあの人なりの激励なんだよ」

「そうなんですか?」

「うん。私が小さい頃からずっとああなんだ。普段はぶっきらぼうで優しさを表面に出す人じゃないけど、本当は少し不器用なだけで、私達の事をちゃんと気にかけてくれる人なんだよ」

「あの…フェイトさん。前から気になってたんですけど…」

 

 

「フェイトさんって、バーダックさんとはどういうご関係なんですか?」

 

(キャロ…!)

(この子…聞にくい事をズバッと言うわね…)

(でもちょっと気になるかも…)

 

「えっ…!ええっ…!?」

 

いきなりの爆弾投下に目を丸くする一同。中でもフェイトの慌てぶりは凄まじく、いつもの色白な顔が真っ赤に染まってゆく。

 

「ご、ご関係も何も、別にキャロが思ってるような風じゃないんだよ!?一緒に戦った仲間っていうか…そんな感じの…そ、そもそもバーダックさんとは歳も離れてるし…あっ、でも私は全然気にしないんだけど……って違う!そうじゃなくて…!」

 

「そうなんですか…フェイトさんバーダックさんの事よく楽しそうに話してましたから、私てっきりお付き合いとかしてるんだと思ってました」

 

「お…お…お付きって…違うよ!?違うからね!ほ、ほら!なのは達も何か言ってよ!」

「ははっ、よせよフェイト。もうバレたって」

「えっ、それじゃあやっぱり…」

「も、もうヴィータ!今そういう冗談言わないで…!」

 

あたふたしながら同僚達に助けを求めるフェイトだったが、二人はこの状況を楽しそうに見ているばかり。結局この後、フェイトは誤解を解くために多大な労力を費やすことになるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ…」

 

若い隊員達が行き来する六課のロビーで、パラガスは目が痛くなるほど文字のびっしり詰まった報告書に目を通していた。アグスタで捕らえた魔導師や、バビディの正体、スカウターと思われる装備の解析結果など、その内容はレリックの一件に関わる重要な手がかりになりそうなものばかり。しかし敵の足取りを掴むには至らず、核心に迫れたとは言えなかった。

 

(あれから地上での目立った戦闘も無し…か。それ自体は良い事ではあるが、奴らの手がかりも得られていない。それにブロリーの事も──

 

「あっ、パラガスさん」

「おお、シグナムにシャマル。ん…?今日はヴィータも一緒か」

「ああ。今日は新人達の訓練は休みなんでな」

「そうか…そう言えばそんな事を言っていたな」

「それよりどうした?難しい顔をしていたが…」

「何か悩み事なら、私達に話してくださいね?」

「いや…何でもない。大丈夫だ」

 

口先ではそう言いつつも、パラガスは書類から目を離さずどこか上の空。そんな様子に痺れを切らしたヴィータが不機嫌そうに顔を覗き込む。

 

「おい、パラガス」

「ヴィ、ヴィータ…?」

「そうやって一人で抱え込もうとするの、止めろよな。そんな事してもいい事なんて何も無いのはお前も分かってんだろ?」

 

一瞬呆気に取られたパラガスだったが、ヴィータの棘のある言い方も、自分を気遣っての事だと分かっている。

 

「…そうだな。だが、本当に大したことじゃないんだ」

「…本当だろうな?」

「ああ。心配をさせてすまなかった。ふっ…お前は優しいな」

 

パラガスは笑顔を見せながら、ヴィータの頭をくしゃくしゃと撫でる。

 

「お、おい…」

「ヴィータ。ありがとうな。お前の気遣い、嬉しかったよ」

「あーもうっ!分かった分かった!分かったから撫でるなって…は、恥ずかしいだろ…」

「おっと、すまなかったな」

(クソ…アタシが初めに心配してやったはずなのに……だけどそういう所、ブロリーとそっくりだな…)

 

「さて、ヴィータちゃんのかわいい所も見れたし、朝ごはん食べに行きましょうか!」

「なっ…かわっ…」

「ふっ…主にも見せたかったな」

「う、うっせー!お前ら覚えてろよ!」

 

 

(…こんなやり取りももう何度目だったか。この平和な日々は…俺が守らねばな)

 

「おいパラガス、お前も来るんじゃねーのか?」

「…ああ。今行くさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

「それにしても、新人達はだいぶ成長したのではないか?」

「そうでもねぇさ。まだまだ危なっかしくて、実戦じゃ見てられねぇよ。なぁなのは?」

「確かにまだ荒削りな所はあるけど、四人共根を上げずに頑張ってるし、このまま行けば絶対いい魔導師になるよ」

「そうね。それにヴィータちゃん的にも今日のテストは合格なんでしょ?」

「…次第点だけどな。まぁ何にせよ、あいつらの訓練が無い分今日はゆっくり朝飯が食えそうだ」

「確かに…いつもは時間が無いからって急いで食べてるもんなぁ」

「折角の機会だ。お前達も少し休んだらどうだ?」

「それじゃお言葉に甘えて…と言いたい所なんだけどさ、今日ナカジマ三佐の所の部隊の戦技指導があんだよ。全く…教官資格なんか取らなきゃよかった…」

「私も大丈夫ですよ。出動さえなければある程度休めますし」

「そうか。殊勝なのはいいが無理はするなよ。…ところで一つ聞きたいんだが…」

「はい…?」

 

 

 

 

 

 

『フェイトさんって、バーダックさんとはどういうご関係なんですか?』

 

(考えたことなかった…一緒に戦った仲間?一緒に暮らした家族?で、でも…お、お付き合いとかそういうんじゃ…うん、ないない…そもそも向こうが私の事どう思ってるのか分からないし…)

 

 

 

 

「フェイトは何かあったのか?さっきからため息ばかりついて箸が進んでないじゃないか」

「あはは…あれはですね…」

「ふっふっふっ…私は分かったで。あれは悩める乙女の顔や」

「まぁ、そんなとこだな」

「ふふっ…やっぱり。面白いもんが見れそうやな。ここは私が一つ…」

 

 

 

 

「あっ、バーダックさん!」

「!?」

 

大袈裟に声を上げると、フェイトの体が小さく跳ね上がり、あたふたと周囲を見渡す。しかしどこを探しても目的の人物は見つからず、代わりに目に入ったのは、ニヤニヤとこちらを見つめるはやて達の姿だった。

 

「へへ、なかなかいい反応だったな」

「いやぁ、朝からええもんが見れたなぁ〜」

「は、はやてっ…!そ、そういうんじゃないから…」

「ふふっ…そんなに顔赤くして言っても説得力ないで?」

「えっ…!?いや…これはその…」

「でもフェイトちゃん。人生は何があるか分からへん。真面目な話、何か話したい事があるならちゃんと話しておいた方がええよ。相手がバーダックさんなら尚更や」

「はやて…」

「それに…バーダックさんって案外優しい所あるから、早くしないと誰かに取られて───

「〜〜っ!も、もう!はやてのバカ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「エリオ君、あそこのお店美味しそうだよ!」

「うん。僕もらーめんって食べた事ないんだよね。そろそろお昼だし入ってみようか?」

「ねぇねぇ、ブロリー君はどうする?」

 

(さて…どうしたものか…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「休暇?」

「そうや。今日スターズとライトニングの皆は休みやから、一緒に街へ気分転換してきたらどうやと思ってな?」

「はやて…俺は大丈夫だ。それに二人だって俺がいたら嫌だろう」

「そんなことないよ。その証拠にもう二人には伝えてあるんや。二人とも一緒に行こうって言ってくれてたで」

「だが…」

「そんなに気張ることやないよ?ちょっと気分転換するだけや。今日は仕事のことは忘れて、行ってくるとええよ。な?」

「むう…」

 

 

 

 

 

 

 

 

(ああは言っていたが、この前の事を心配したんだろうな。また心配をかけてしまったか…)

 

「ブロリー?」

「ん…ああ。どうした?」

「今難しい顔してたから…何か心配事?」

「いや…そういう訳じゃない。それよりすまなかったな…はやての提案とはいえ、今日は二人の邪魔をしてしまって…」

「邪魔だなんて…!全然そんなことないよ」

「うん。ブロリー君って私達と同い年だけど、今まであんまり話す機会なかったから、こうやって話せて嬉しいよ!」

「そ、そうか…ありがとう」

(そういう意味では無かったんだが…)

「それでお昼の時間だけど…ここはどうかな?」

「ラーメン屋か…そう言えば最近食べていなかったな」

「ブロリーはラーメン食べた事あるの?」

「ああ。ラーメンは俺の育った世界の料理だからな」

「あっ、そうだったんだ。食べたことある人が一緒なら安心して入れるね」

「うん。それじゃあここにしよっか」

 

朱色に塗られた暖簾をくぐると、活気に満ちた声と共に芳しいスープの匂いが三人を包み込む。店員に案内された席に着くと、看板料理の写真が大きくプリントされたメニューに目を通す。

 

「美味しそうだけど…いっぱいあって迷っちゃうね…」

「そうだね…あっ、僕はこれにしようかな」

「じゃあ私もエリオ君と同じのにしようかな。ブロリー君はどうするの?」

「そうだな…ん?これは…」

 

 

「はい。お冷どうぞ。ご注文はもうお決まりですか?」

「すまない、その前に一つ聞きたいんだが、この三十分で食べれば全員分タダになるというのは本当か?」

 

ブロリーが指を指したのは通常の五倍はありそうなどんぶりに、具と麺が山のように盛られた特大ラーメンだった。

 

「はっはっはっ!僕、こういうの頼むのは初めてかな?これはねぇ、君のような子が食べ切れる量じゃないんだ」

「そ、そうだよ。私達もお給料ちゃんと貰ってるから、無理して気を使ってくれなくても大丈夫だよ?」

「この子の言う通りだ。せめてこれはもっと大きくなってから──

「そうなのか…そんなに量があるとは思えないが…」

「そ、そんな訳ないだろう?並のフードファイターじゃ完食すらできないんぐらいなんだよ!?」

「むう…まぁ駄目なら仕方ないな。それならこのページの料理を一つずつ頼む」

「なっ…ふ、ふざけてるのかね君!?そんな無茶苦茶な量頼んで食べられる訳ないだろう!」

「はぁ…じゃあ何をどのぐらいなら頼んでいいんだ?」

「…よし分かった。そこまで言うならもう止めないさ。ただし!もし時間内に食べきれなかったら、お金はきっちり貰うからね!?そこは承知しておくんだよ!」

 

(絶対ハッタリだ。あんな子供があの量を食べ切れる訳が無い。…だがあそこまで言われちゃこっちにも意地がある。絶対に俺のラーメンで驚かせて───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、ありがとう…ございました…」

 

 

サイヤ人の食事情を知っている者ならば、ブロリーが無事に時間内に食べ切れたかどうかは語るまでも無いだろう。店員の力のない挨拶を背に、三人は店を後にする。

 

 

「ふう…なかなか美味かったな」

「う、うん。そ、そうだね…」

「少し急いで食いすぎた気もするが…時間を過ぎても困るしな」

「あ、あの…お腹大丈夫?」

「ああ。これぐらい食べれば夜までは持つぞ」

((そういう心配意味じゃなかったんだけど…))

「ね、ねぇ、ブロリーって結構食べる方だって言われない?」

「まぁ…確かに人よりは少し多く食べている自覚はあるが…親父はもっと食うぞ?」

「ええっ!?パラガスさんもなの!?」

「ああ。普段は抑えてるけどな」

「そうなんだ…あっ、という事はバーダックさんも…」

「ああ。あいつもよく食べるな。サイヤ人というのは皆そうらしい」

「ふふっ、でも店員さん凄く驚いてたね」

「そりゃこんなの見せられたら誰だって驚くよ。しかも僕らが食べ終わる前に食べちゃったんだから」

(…親父がなんで自重しているのか分かった気がする)

 

「ねぇ、この後どうしようか?」

「うーん…特に決まった予定はないから───

 

その時だった。ブロリーの身体にが異質な気を捉える。知っている者の気ではなかったが、直感的にこれは普通ではないと身体が訴えた。

 

「っ…!?二人共待て…!」

「ブロリー?」

「どうしたの…?」

「一瞬だが地下から人間の気を感じた…」

「えっ…それって…」

「地下…?下水の工事をやってるとか?」

「それは分からないが、発している気が弱すぎる…放っておけば恐らく命に関わるぞ…」

「えっ…!」

「とにかく行こう!こっちだ!」

「あっ、ブロリー!」

「エリオ君!私達も!」

「うん!」

 

(クッ…あまりに気が弱すぎる…!これは死にかけているかもしれない…)

 

三人は人混みをかき分け、気の主を探してひた走る。そして三人が辿り着いたのは、人気のないビル同士の隙間の奥だった。

 

「ここだ…この辺りに気の持ち主が──

 

そう言いかけた時だった。足元のマンホールがゴトゴトと揺れ始める。まるでホラー映画のシチュエーションのような出来事に三人は思わず身構える。

 

(そうだ…あまり考えていなかったが、俺達はこいつの正体を知らない。油断するのはまずいな…)

 

「エリオ、キャロ。…開けるぞ」

 

二人が首を縦に振るのを確認すると、ブロリーはゆっくりとマンホールを持ち上げる。すると暗い下水道に光が差し込み、徐々に気の主の姿が明らかになってゆく。

 

「こっ…これは…!?」

「キャロ!すぐはやて達に連絡を!」

「う、うん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

機動六課隊舎の屋上。心地よい海風が吹き抜けるこの場所は疲れを癒すには最適なのだが、隊舎の中にきちんとした休憩室があるため昼間でもここに出入りする者はあまりいない。しかし、だからこそバーダックのようなタイプの人間が考え事をするには最適の場所なのだ。

 

「……」

 

バーダックはいつものように何をするでもなく、ただ対岸の景色を見据える。沿岸部に広がる美しい街並みから連想させる言葉は、”平和””未来”。どれも自分とは正反対の言葉だった。

 

(俺は…何の為にここに居る…?)

 

自分は戦闘民族サイヤ人である。それはただ種族の上でという意味だけでなく、心や行動理念もその一部に含まれている。常に戦いの中に身を置き、敵を打ち倒し、さらなる強さを求める。それこそがサイヤ人の生き方であり、そこに善や悪といったものの介入する余地はない。

 

 

しかし、彼女達と出会ってから彼の生活は一変した。惑星ベジータでは経験したことのない穏やかな日々。戦うことはあるにはあったが、サイヤ人達とは違い彼女達は大切なものをを守るために戦場に立つのだ。

 

普通なら相容れないであろうサイヤ人とこの世界の人々。そんな中に身を置き彼女達を見守る事を悪くないと思う自分も確かにいる。しかし彼はパラガスのように器用ではない。サイヤ人としての自分が、地球人に帰化する事を拒んだ。

 

「サイヤ人にもそれ以外にもなりきれねぇとはな。…我ながら情けねぇ話だ」

 

自嘲気味につぶやくバーダック。その声にいつもの覇気や鋭さは無い。そんな折、タイミングを見計らったかのように背後の扉がゆっくりと開かれた。

 

「あ…やっぱりここでしたか」

「…お前か。何か用でもあるのか?」

「い、いえ、そういう訳じゃないんですけど、今日はここで待機なので風にでも当たろうと思って…すみません、お邪魔でしたか?」

「…好きにしろ」

「は、はい!じゃあお言葉に甘えて…」

 

 

そう言ってフェイトはバーダックの隣に立つと、気付かれないようにチラチラと横目で表情を伺う。いつも仏頂面で口数も少ないバーダック。フェイトも決して積極的とは言えない性格のため、二人きりになっても会話が弾むような事は決して多くない。しかし、フェイトにとっては、そんなピリピリとした空気感すらもバーダックの不器用さを感じられるようで心地よいものだった。

しかし、今回だけは少々状況が違う。

 

『フェイトさんって、バーダックさんとはどういうご関係なんですか?』

『早くしないと誰かに取られて───』

 

(っ〜〜!!違う違う!そういうことじゃなくて…!)

 

「…おいフェイト」

「は、はい!」

「はぁ…用事があるならさっさと言ったらどうだ」

「えっ、あっ…あの…すみません…ええっとですね…」

 

(こういう所は昔と変わらねぇな…)

(ど、どうしよう…何を言おうかまだ決まってないけど……よし、とりあえずここは無難に…)

 

「あ、あの…バーダックさん、前からずっと気になってたんですけど、その赤いバンダナいつもつけてますよね?その…何か思い出とかあるんですか?」

 

「……!」

 

「あっ、いえ!?別に深い意味はないんですけど、私もなのはと友達になった時にリボンを交換した事があって、バーダックさんもそういう思い出とか……あっ……」

 

 

しまったと思った時には遅かった。他愛のない事を聞いたつもりだったが、バーダックの過去の事を失念していたのだ。

 

(そうだ…バーダックさんは故郷を無くしてるんだ…家族も友人も…みんなバーダックさんを残して…もしあのバンダナがそういう大切なものだったら…)

 

「あの…ごめんなさい…私…」

「はぁ…別に気にしてねぇよ。もう昔の話だ」

 

口ではそう言っているものの、どことなく悲しさとは違う、何か昔を懐かしむ様な雰囲気をまとっていた。何か言わなければとフェイトが言葉を紡ごうとした──その時だった。

 

「…!全体通信…?キャロからだ…」

「こちらライトニング4!緊急事態につき、現場状況を報告します!」

 

緊急事態を知らせる警報と共に、キャロの深刻そうな声がデバイスから聞こえてくる。

 

この出来事が多くの者の思惑を動かす出来事になるのだご、この時にそれを知る者は誰一人居なかった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十六話 予感

ブロリー達が現場での対応に追われている頃、ほかの隊員達もそれぞれ行動を開始していた。中でも隊舎に残っていたなのは、フェイト、シャマル、リイン、バーダックの五人はいち早く現場に到着し、前線メンバー達と合流を果たした。

 

 

「みんな、検査終わったわ。大丈夫、命に別状はないし危険な反応もないわ」

 

シャマルの言葉にほっと息をつく一同。しかし、これで危険がすべて除かれた訳ではない。むしろここからが危険を伴う任務なのだ。

 

「それにしてもさっきはびっくりしたね…まさかこんなに小さな子が出てくるなんて…」

「ああ。気を感じた時から妙だとは思っていたが、まさかレリックを持っていたとはな」

 

あの後三人が目撃した光景は、あまりに異常なものだった。薄暗いマンホールから這い出てきたのは、赤と緑のオッドアイが特徴の小さな女の子。それもエリオ達どころの年齢ではなく、見た所まだ4~5歳程であった。さらにそれだけではない。彼女に足枷の様に繋がれた箱の中からは、現在捜索中のレリックが発見されたのだ。

 

「あんまり考えたくないけど、状況から言って普通の子…じゃないよね」

「それにこの足に付けられていた鎖…この繋ぎ方から察するに、多分引きずってたケースは一つじゃない…なのはさん、これは──」

「うん。多分まだ地下水路に封印されてないケースが残ってると思う。このケースと女の子はヘリで搬送するから、とりあえずスターズとライトニングはこっちで現場調査。それから、ブロリーも皆と一緒に調査に当たってもらえる?」

「ああ。分かった」

 

「なのはちゃん、この子ヘリまで抱いて行ってもらえる?」

「分かりました」

 

そう言って抱き上げると、少女の衰弱具合がより色濃く伝わって来る。体温はまるで死体のように冷えきっており、現代人が着ているとは思えないようなボロ布の服からは血の滲んだ素肌が顔を覗かせていた。何より時折見せる苦しそうな表情を見ればこの子の生きてきた環境は容易に想像できた。

 

(まだこんなに小さな子が…どうして…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

様々な理由から現在は人の住んでいないこの区画。廃棄されてから間もないため、荒れ果ててはいるものの殆どの建造物はその形状を保っている。

そんな廃棄都市区画のビルの屋上、ローブを纏った二人の男が空を見上げながら、ここを通過するであろう機体を待っていた。

 

 

 

「クソッ、まだヘリは来ねぇのか。奴ら俺達を騙してるんじゃねぇだろうな」

「その内嫌でも来る。…少しは落ち着いたらどうだ」

「チッ…お前は腹が立たねぇのか!折角自由になったと思ったら、こそこそ隠れながらあんな連中に良いようにこき使われてよ!」

「…仕方あるまい。それがあの方の望みなのだからな。それに、時が来るまで管理局に…もといサイヤ人共に正体を悟らせないというのは、あの方本人のご意思だ」

「そんな事は分かってる!…クソッ…何だってあの方は今回に限ってこんな回りくどいやり方を…」

 

不満を漏らす二人だったが、耳元の通信機に入った通信が会話を断ち切った。

 

『お二人共、配置にはついていただきましたか?』

「ああ。いつでも大丈夫だ」

『分かりました。それでは改めて目標をお伝えします。あなた方には管理局のヘリの撃墜、その後マテリアルの回収をしていただきます。ああ、それから仮に撃墜できなかった場合でも、近くに妹達を控えさせていますのでご安心ください』

「…それは頼もしい。そうしてくれれば我々も安心出来るというものだ」

「…とはいえくれぐれも油断はされぬようにお願いします。今回の目標は特に重要なマテリアルの回収になりますので」

「分かった。善処しよう」

「それでは…あなた方の幸運を祈っています」

 

 

 

「クソッタレ、何が油断されぬようにだ!舐め腐りやがって!」

「当然だ。実力を悟られぬように動いて来たのだからな。わざわざ先に攻撃させる所を見ると、端から何かあれば我々を見捨てて逃げ帰るつもりなのだろう。私達が捕まった所で奴らの足はつかないからな」

「それで?また苦戦するフリでもしときゃいいのか?」

「いや、今回は暴れて構わんそうだ。それに相手は脆弱な”羽虫”だ。…あっさりと終わらせてしまえばいい」

「へっ…そりゃいい。せいぜい憂さ晴らしさせてもらうとするか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「バーダックさん、この件どう思いますか?」

「そのガキの弱り具合からして、レリックを封印するまでの間相当長い間水路を歩いていたらしいな。…これを見逃すほど奴らは馬鹿じゃねぇはずだ」

「それじゃあやっぱり…」

 

『敵ガジェット来ました!地下水路に複数のグループで16…いえ20!』

『海上方面もです!現在12機隊列が5グループ!まだ増えてます!』

 

「噂をすれば…ですね」

 

『スターズ2からロングアーチへ!こちらスターズ2。会場演習中だったけど、ナカジマ三佐が現場に向かう許可をくれたんだ。それからもう一人…頼もしいな助っ人だ』

 

『108部隊のギンガ・ナカジマです。別件で捜査中だったのですが、そちらの事例と関係がありそうなんです。参加してもよろしいでしょうか?』

 

『おお、ギンガ!是非お願いや。よし…ほんならヴィータはバーダックさんとリインの二人と合流。協力して海上の南西方向を制圧。なのは隊長とフェイト隊長は北西部から。それからヘリの方はパラガスさんが向かってくれてるから、今はヴァイス君とシャマルに任せてええか?』

「お任せあれ!」

「しっかり守りますね」

『ありがとうな。最後にギンガは地下でスバル達と合流。途中、別件の事も聞かせてな』

『はい!』

 

「よし…フェイトちゃん行こう!」

「うん。あ、あのバーダックさん…」

「あぁ?なんだ?」

 

「い、いえ。その…ご武運を」

「なんだ…?急に改まりやがって…まぁいい。お前も下手こくんじゃねぇぞ」

「こっちはリインが付いてますから大丈夫ですよ!バーダックさんの事も私がしっかり守って──ひゃあっ!?ちょ、ちょっと何するですか!」

「てめぇの後に付いてったんじゃ日が暮れちまうからな。目的地までは俺が運んでやる」

「だからってそんな風に掴まなくても…というかリインはそんなに遅くないですよ!」

 

ガッシリと握りこまれたバーダックの手の中で、リインは必死に腕を振って反論する。しかし、抵抗虚しくバーダックは淡々と離陸の準備に入って行く。

 

「よし。先に行くぞ」

「は、はい…」

「ちょ…人の話を…!」

「リインちゃん…頑張ってね」

「シャ、シャマルまでそんな…ってきゃあぁぁぁっ!せめてもう少しスピードを落とすですよぉぉぉ!」

 

(リイン…大丈夫だよね?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ギンガ、さっき言ってた別件って言うのは?』

『はい。初めは突然トラックの積み荷が突然爆発したという通報を受けて現場に向かいました。その後周辺を調べてみると、複数のガジェットの残骸と…壊れた生体ポッドがあったんです。丁度…5〜6歳の子供が入るくらいの大きさでした。そしてそこから何か…重いものを引きずって歩いたような跡があって、それを辿ろうとした際に連絡を受けた次第です』

『そうか…やっぱり今回の件関係はありそうやな』

 

『それからこの生体ポッド…少し前の事件でよく似たものを見た覚えがあるんです。…おそらく、人造魔導師計画の素体培養器』

『…まさか』

『あくまで推測ですが、あの子は人造魔導師の素材として作り出された子供ではないかと…』

 

 

 

「スバルさん、人造魔導師って…」

「優秀な遺伝子を使って、人工的に生み出した子供に、投薬とか機械部品の埋め込みで後天的に強力な力を持たせる。それが…人造魔導師」

「倫理的な問題は勿論、今の技術じゃどうしたって色々無理があるし、コストも合わない。だからよっぽどどうかしてる連中じゃない限り手を出したりはしないはずなんだけど…」

「まぁ、俺にはこんな事件を引き起こしている時点で、どうかしてるとしか思えないがな」

「そんな奴らにケースを渡さないようにしないとね…とにかく今は早くギン姉と合流しよう」

「…!敵の反応ありました!小型ガジェット6機、来ます!」

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

「…片付いたか」

「そうみてぇだな。準備運動は出来たか?」

「フン…こんなガラクタ共、何体壊しても準備運動になる訳がねぇだろう」

「はは…そりゃ頼もしいな」

(それにしてもこいつ…やっぱ強ぇ。素の戦闘力もとんでもなく高い上に、砲撃が使えるからほぼ全てのレンジで弱点らしい弱点もない。戦闘スタイルも一見荒っぽく見えるけど、決して力任せじゃなく最小限のエネルギーと動きで効率よく戦ってる。サイヤ人ってのはこんな奴らばっかなのか…?)

「それで…次はどうすんだ?」

「ん…あ、ああ。予想以上に早く終わったからな。他のフォローに回って──

「待つですよヴィータちゃん!あれを見てください…!」

 

 

 

 

「増援…!?しかもすげぇ数だ…あいつら強引にここを突破するつもりか…行かせねぇぞ!」

「チッ、面倒だ。こいつでまとめて落としてやる」

 

先頭の編隊の中心部にエネルギー弾を投げつけるバーダック。すぐさま回避行動を取るガジェットだったが、光弾から広範囲に巻き起こる爆発が逃れる事を許さない。

 

「よし…上手く範囲に入った!これで数はかなり減ったはず…」

 

喜んだのも束の間、光の中から現れたガジェット達はその数を殆ど減らしておらず、次々に散開してバーダック達を取り囲む。

 

「あれは…幻影…!」

「だけど実機も混ざってるとなると…無視は出来ねぇ」

「フン…なら全て叩き落とすだけだ。行くぞ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バーダック達が再び交戦状態に入った頃、なのは達もまた実体のない敵との戦闘を余儀なくされていた。

 

「幻影と実機の構成編隊…!」

「防衛ラインを割られない自信はあるけど…これじゃあキリがないね」

「それに、これだけ派手な引きつけをするって事は…」

「うん。多分地下かヘリに主力が向かってる」

 

幻影が混ざっている以上、当然見た目ほど大した戦力ではないのだが、対処に時間がかかる分現在の状況では全て実機の部隊よりも遥かに厄介な相手だった。

「…なのは、ここは私が抑えるから、ヴィータかバーダックさんと一緒に行って」

「フェイトちゃん!?」

「いくら二人でも、普通に戦ってたんじゃ時間がかかりすぎるし、限定解除すれば広域殲滅でまとめて落とせる。それに…なんだか嫌な予感がするんだ」

「でも…」

 

『二人共割り込み失礼!フェイトちゃん、悪いけどその案は部隊長権限で却下します』

「はやて…!」

「何か作戦が?」

『クロノ君から私の限定解除許可を貰う事にしたんよ。だから空の掃除は私が引き受ける』

「でも、はやてちゃんの限定許可は2回しか…」

『…分かってる。でももしヘリが狙われてるなら、すぐにでもヘリを守りに行かないといかへん。パラガスさんの到着が間に合うかは微妙やし、何より使える能力を出し惜しみして、後で後悔するのは嫌やからな』

「…分かった。はやてがそう言うなら私達はその通り動くよ」

「ヘリの方は私達に任せて!」

 

ヘリへと向かう二人を見届けると遥か遠くの敵を見据え、愛機シュベルトクロイツを振りかざす。

 

「…よし。任されたからには失敗はできひん。久しぶりの遠距離攻撃魔法…いってみようか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれで最後です!」

「よし、あれは私が行く!」

 

最早通常のガジェットが何機現れた所で六課で過酷な訓練を受けてきたスバル達の敵ではなかった。

何十機といた一団も瞬く間に数を減らし、最後の一機もスバルの拳によって無力な鉄屑に変えられようとしていた。

 

「どおりゃあぁっ!」

 

うなり声と共に鈍い金属音が辺りに響き渡り、再び静寂を取り戻した水路が一時的ではあるがこの戦いに終止符が打たれた事を告げる。

そんな中、一部の者には聞き覚えのある女性の声が五人の耳に飛び込んできた。

 

「お待たせ!みんな大丈夫!?」

 

スバルと同じ色の髪を靡かせながら現れたのは、合流予定だったギンガ・ナカジマその人だった。

 

「ギンガさん!」

「ギン姉!」

「よかった…みんな無事みたいね」

「なのはさん達に鍛えてもらってるんだもん。これぐらいどうってことないって!」

 

「そっちの二人は…はじめましてね。いつもスバルがお世話になってます」

「ちょ、ちょっとギン姉!」

「いえ、とんでもないです!僕達の方がいつも助けてもらってます!」

 

「それからブロリー君、久しぶりね」

「あれ?ブロリーってギン姉と会ったことあったの?」

「いや、会った覚えはないが…」

「覚えていないのも無理ないわ。もう何年も前だもの。ほら、父さんって昔からはやてさん達と知り合いだったでしょ?そのツテで少しだけね。まぁブロリー君はまだ小さかったから覚えてないと思うけど…」

「へぇ…そうだったんだ…」

「それにしても随分大人っぽくなったわね。前に会った時はもっとわんぱく少年って感じだったんだけど」

 

(…!)

 

「へぇ…私も大人っぽいってイメージが強かったから、ちょっと意外です」

「私、ちょっと興味あるかも…」

「僕も聞いてみたいです!」

「へへっ、後でその辺は詳しく聞かせて貰おうかな。ねっ、ブロリー?」

 

「………」

 

「あの…ブロリー?」

「あっ…いやすまない。…それはまた今度な」

「そうね。今は早くレリックを探さないと…みんな、行きましょうか」

 

 

(私…何かまずいこと言っちゃったかな…?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何だと?一体何事だこれは」

 

ロストロギアの回収から広範囲に及ぶ戦闘へと状況が変わった事により、その情報はすぐに地上本部局員達の知るところとなった。無論その報は首都防衛隊トップであるレジアス・ゲイズ中将の耳にも入り、彼の一室からは憤慨の混じった低い声が響き渡っていた。

 

「本局遺失物捜査部、機動六課の戦闘。そのリアルタイム映像です」

「長距離砲撃だと…撃っているのは誰だ?」

「確定はできませんが、恐らく六課の部隊長かと。魔導師ランクはSSです」

「ん…?地上部隊にSSだと?聞いておらんぞ」

「彼女の所属は本局ですから」

「フン…海の連中が考えている事が透けて見えるわ。それで?その部隊長というのは…」

「…八神はやて二等陸佐です」

「何…八神はやてだと!?あの八神はやてか!」

「はい。例の闇の事件の八神はやてです」

「中規模次元震の根源…!犯罪者ではないかっ!」

「八神二佐らの執行猶予期間は既に過ぎていますし、グレアム提督の件も不問という事にはなっています。ですから…」

「同じ事だ!犯した罪が消えるものか!」

「…問題発言です。公式の場ではお控えください」

「分かっておる…!クソッ、忌々しい。海の連中は危険要素を軽視しすぎている。それに六課と言えばただでさえ得体の知れない力を持った連中を抱え込んでいるらしいではないか」

 

「得体の知れないと言えばもう一つ…以前送られてきた差出人不明のメッセージがまた届いております」

「またあの悪戯か。あんな物は無視しておけと言った筈だが?」

「私も初めはそうするつもりでしたが…今回のメッセージは内容がかなり具体的でして…」

「…見せてみろ」

 

 

それまで吐き捨てるような口調で話していたレジアスだったが、メッセージを見た途端、思わず目を見開いて聞き返す。

 

「こっ…これはっ…おい!機動六課の戦闘員のランクは!?」

「研修を兼ねた新人達を除けば、最高で八神はやてのSS、全員がAAランク以上です。とはいえリミッターが掛けられている隊員も居るようですが…」

「そんなものいざ危うくなれば何時でも解除できる。こいつはそれを知っていてこんな物を送り付けて来たのか…?」

「すぐに六課に連絡しますか?」

「いや待て。…このまま様子を見る」

「しかしそれでは…」

「どんな手を使うか知らんが、言葉通りの実力かどうかこの目で確かめねばならん。それに、何か不手際があれば本局や教会の連中を叩く良い材料にもなる」

「…承知しました」

 

 

僅かに不服そうな秘書の目も気にせず、レジアスは再びモニターに視線を向ける。しかし、食い入るように見つめる彼の眼には、もう機動六課の姿は映ってはいなかった。

 

 

 

 

(AAランク以上の魔導師を撃墜予告…馬鹿な。そんな事が出来るはずが無い。出来るはずが───)

 

 

 




どうも顔芸です。
平成の内にと思っていたのですがギリギリで過ぎてしまいました。

今回は新たな二人が登場しましたが、皆さん何となく察していますでしょうか…?
この前の彼らはキャラが強すぎて即バレそうでしたから…()


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十七話 実力者たち

「フェイトちゃん!あそこ!」

「よかった…ヘリはまだ無事みたいだね」

 

敵の襲撃の前になんとか辿り着いた二人。敵戦力が先に到着している事も視野に入れていただけに、何事も無く飛行している機体を見てひとまず安堵する。

 

『二人共戻って来てくれたのね…!はやてちゃんから話は聞いてるわ。なんとか無事に戻れるように頑張りましょう』

「はい、必ず私達が守って見せますから!」

『なのはさん達二人が居ればまさに百人力!俺も安心して操縦できるってもんです』

(そう…だといいんだけど)

 

フェイトが言い淀んだのは、先程から頭を駆け巡る不吉な予感が関わっていた。普段の彼女は根拠の無い予言や感など、所謂スピリチュアル的な物に頼ったりしないのだが、今回ばかりは明らかに空気感の違いを感じ取っていた。そこはかとなく息苦しくなり、高まる心拍数に意識が向いてしまう。

これまで危険な状況に何度も立ち向かって来たが、こんな感覚は初めてだった。

 

(…大丈夫、落ち着こう。今は近くになのはも居るし、他のみんなもそれぞれ動いてくれてるはず)

 

しかし、予感というものは悪いものに限って当たってしまうもの魔の手はすぐそこまで忍び寄っていた。

 

『っ!九時の方角に飛行体反応2!魔力反応はありません!』

「魔力がない…?まさかっ…!」

 

それ以上の言葉を紡ぐ時間は無かった。放たれた光線は瞬く間にヘリの周辺一体を飲み込み、生存者の存在を許さない。

 

「へっ…終わったか。口程にもない連中だったな」

 

男の一人は既に勝利を確信し、吐き捨てるように呟く。

 

「……!いや、スカウターに反応がある。奴らはまだ──

 

男達の目の前に現れたのは、杖を振りかざしこちらを見据える魔導師の姿。攻撃を受けたにも関わらず体には傷一つ無く、反撃の様相を呈していた。

 

「…こちらスターズ1。ぎりぎりセーフで防衛に成功!」

「なのは、あの二人…前にバビディと一緒に居た男と同じ…!」

「うん。絶対にここで捕まえる!」

 

 

「なんだと…?今のは当たっていたはずじゃ…?おい、どうなってやがる」

「…先程までは戦闘力数千程度だったが、あの二人の戦闘力が一万近くまで上昇している」

「なっ、一万だと…?そんな馬鹿な…」

「…どうやら我々は奴らを見誤っていたようだな」

 

砲撃を防いだ二人は素早く展開し、敵を挟み込む形で包囲する。

 

「…公務執行妨害、及び殺人未遂の現行犯で逮捕します。抵抗した所でそちらにに勝ち目はない」

「貴方達にはレリックの件を含めて聞きたいことが山ほどあります。覚悟…しておいてくださいね」

 

奇襲を受けたにも関わらず、素早く攻撃に転じて有利な状態に漕ぎ着けた二人。長年共に戦ってきたからこそ成せる、これ以上無いほどのコンビネーションだった。

しかし───

 

「フッ…ハッハッハッハッ!」

「…何が可笑しい」

「いや、あまりに好都合だったものでな」

「好都合…?」

「この状況からレリックを奪いに行けると思っているのですか?」

「分からねぇか?俺達はな、レリックを奪いに来たんじゃねぇんだよ」

「じゃあ何を…」

 

「何、大した事ではない。お前達を…殺しに来ただけだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…あいつらはこの下か。反応からするに地下百メートルってとこだな」

「でもどうするですか?ここの地下水路はかなり入り組んでますから、合流するには時間が…」

「簡単な事だ。邪魔な物があればぶっ壊してやればいい」

「ま、まさか…地面を突っ切るつもりですか?嘱託扱いとはいえバーダックさんは一応局員なんですよ!?公共物をむやみやたらに壊したりしたら……ヴィータちゃんも止めてくださいです!」

「へっ、奇遇だな。アタシも同じ考えだったんだ」

「ヴィータちゃんまで…」

「大丈夫。この辺りは廃棄都市区間だ。多少荒っぽく扱っても問題はねぇって。…それに、あんまり悠長な事は言ってられねぇしな」

 

初めは迷っていたリインだったが、隊員達の無事が最優先であるという想いは彼女も同じ。嬉々として賛成はしかねる様子ではあるが、最終的には首を縦に振った。

 

「決まったな。ならとっとと行くぞ」

 

そう告げるとバーダックは拳を地面に突き立てる。するとコンクリートの地面はたちまち崩落し、地下へと続く大穴が姿を現した。

 

「はわわ…地面が…」

「よし…後は降りるだけだ。行くぞ!」

 

ヴィータの一声で飛び立つと、三人は闇の中へと降下していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

「クソ…こりゃ不味いな…」

 

 

アギトは焦っていた。地下で戦闘を繰り広げていたルーテシア達を助けに来たところまでは予定通りだったのだが、想像以上の戦力の前に苦戦を強いられていた。

 

「貴方達に勝ち目はないわ!諦めて投降しなさい!」

「うるせぇ!そんなこと死んでもするか!」

 

(…と強がっちゃ見たものの、ルールーもアギトももう限界だ…。適当にあしらって逃げるつもりだったのに、こいつら思ったよりやりやがる。特にあの黒髪のガキが強ぇ…まさか肉弾戦でガリュウと互角以上に渡り合えるなんて…チッ、レリックがこっちにある内に早く退散したいってのに…)

 

そしてさらに彼女達の不運は続く。

 

「なっ…今度は上空から魔力反応…しかもデケェぞ!」

 

彼女がそう叫ぶと同時に、頑丈なはずの天井が一気に崩落してゆく。

そして瓦礫の中から姿を見せたのは、明らかに戦闘慣れした二人に加え、さらには自分と同じユニゾンデバイスまで従えていた。

 

「ヴィータ副隊長!それにそれにリイン曹長に…バーダックさんまで…!?」

「何とか間に合ったみたいですね」

「ああ。おめぇら怪我はねぇか?」

「はい、何とか大丈夫です」

 

スバル達は援軍を喜んでいたが、アギト達ににしてみればたまったものではない。先程から既に数的不利、戦局も劣勢であったというのに、ここに来て完全に希望が絶たれてしまった。

 

「…今度ばかりは本当に勝ちの目はないわ。だから悪いことは言わない。早いとこ観念なさい」

「くっ…誰がそんな──

「おいテメェら。俺はガキを小突き回す趣味はねぇ。…だがそれ以上に面倒が大嫌いなんだ。命乞いすらできねぇ姿になる前にとっとと投降するんだな」

 

(くっ…ここまでなのかよ…!)

 

「アギト…ごめんね。私のせいで…」

「な、何言ってんだルールー!まだきっと手は…」

 

そんな絶対絶命の状況の中、不意に怪しげな声がルーテシア達の頭の中を駆け巡る。

 

「お嬢様〜、私の声が聞こえますか?」

(ゲッ…この声は…)

「…クアットロ…?」

『何やらピンチのようですが…お邪魔でなければお手伝い致しましょうか?』

 

アギトには明るい声色の裏に潜む不気味さがひしひしと伝わっていたのだが、今は素直に施しを受けるしかなかった。

 

『…お願い』

『分かりましたわ〜。…では今からクアットロの言う通りの言葉をあの赤い騎士に…』

 

「おい、降伏するのかしねぇのか。黙ってないで何とか言ったら───

 

痺れを切らしたヴィータが上げた声を遮るように、ルーテシアがゆっくり口を開く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「逮捕はいいけど」

 

 

 

 

「大事なヘリは」

 

 

 

 

「放っておいていいの?」

 

 

 

 

 

「「なっ…!」」

 

彼女が敢えて手の内を明かしたのは、自分達を撹乱するためだという事は分かりきっていた。しかしヘリは本当に危機に瀕しているかもしれない。予てから危惧していた事だが、それでも動揺は隠せなかった。

 

「主力はヘリの方か…!」

「大丈夫…向こうにはなのは隊長達が…」

「ロングアーチ!ヘリはどうなってる!堕ちてねぇよな!?」

『それが…さっきからジャミングが酷くて…向こうの状況が全然分からないんです!』

「クソッ…」

 

慌てふためく六課の面々などお構い無しに、ルーテシアは追い討ちとばかりに衝撃の一言を突き付ける。

 

 

 

 

 

 

 

「貴方はまた…護れないかもね」

 

 

 

 

 

 

「っっ!!」

 

(また護れない…なのはの事か…?ふざけんな…向こうにはなのはもフェイトもシャマルも…はやてだって近くに居るんだぞ…!)

 

「てめぇ…!この野郎───

 

怒りに任せて掴みかかろうとしたその時、歩み寄る彼女よりも先に食ってかかった者がいた。

 

「ぐっ…ううっ…」

「ブ、ブロリー!?」

 

何の躊躇もなく首根っこを掴み上げると、そのまま絞め殺す程の勢いで手に力を込める。

 

「おいてめぇ!ルールーから手を離せっ!」

 

こんなことをされてアギト達が黙っているはずもなく、すぐさまブロリーに攻撃を仕掛ける。

 

「邪魔だっ!!」

 

しかしブロリーは一瞬のうちにアギトを叩き落とし、ガリュウの腹部を抉るように蹴りつける。

 

「かはっ…そ、んな…」

 

先程までとは比較にならない強烈な攻撃によって、一撃の内に戦闘不能に陥る両者。先程まで接戦であった事が嘘のような呆気ない決着に、その場の誰もが驚きを隠せなかった。

 

「答えろ…何を企んでいる…?言わなければこのまま殺してやるぞ!」

 

これ程首を締め付けられては喋りたくても喋る事など出来ないが、そんな判断すら出来ない程に彼は激昂していた。

そのあまりの豹変ぶりにスバル達も声が出ず、初めは同様に怒りを顕にしていたヴィータもすっかり冷静になってしまい、ブロリーを止めに入る。

 

「お、おい…もうその辺にしとけ…死んじまうぞ!」

「落ち着くですよブロリー…!」

 

しかし、彼女らの声と反比例するかのようにブロリーの腕は徐々に力を強めてゆく。ルーテシアの小さく華奢な首はギシギシと音を立て始め、今にもひしゃげてしまいそうだった。

 

「う…あぁぁ…」

 

小さな手を使って必死に逃れようとする彼女の姿は、もはや戦う意志など感じられなかった。

そんな彼女の涙を見ようとも、ブロリーの非情な攻撃は止まることを知らない。それどころか、人間が苦しむ様を見て快楽に浸っているようにすら見える。

 

「そこまでよブロリー君!もうその子は戦えないわ!」

「お願い…正気に戻って!」

「ブロリー!」

 

いくら声をかけても静まる気配のないブロリーの怒りに、ヴィータ達は焦燥に駆られて始める。しかし、こんな状況の中、焦りを感じつつもバーダックは冷静さを保っていた。

 

 

(どうも嫌な予感がしやがる…このガキ共は明らかに不利な立場だったはず。ならさっき言った言葉は?ただの負け惜しみと言えばそれまでだが…まだ増援がいるのか…?だとしたら不味い…戦闘が始まってから十分近くは経っている。少なくともこの近くに来ていても不思議じゃねぇ…!気を探れば近くに──

 

 

 

バーダックが気を探ろうとしたその刹那、背後の暗がりから巨大な影が弾丸の如く飛び出して来た。

 

「どぉぉりゃゃゃあぁぁっ!!」

 

全員が気付くよりも速く、ブロリーの背中に向かって猛進し、そのまま反対側の壁まで蹴り飛ばした。

 

(速い…アタシですらほとんど見えなかったぞ…!それに不意打ちとはいえブロリーを吹っ飛ばすなんて…)

 

歴戦の騎士であるヴィータでさえその技が蹴りであることどころか、影の正体が大男であることすら気が付けなかった。それ程に速く、重い一撃だったのだ。

 

 

「ごほっ…ごほっ…」

「おいおい大丈夫かい?やべぇ状況かもとは聞いてたが、3人ともグロッキーじゃねぇか」

「はぁ…はぁっ…貴方が、クアットロの、言ってた人…?」

 

 

「その服と機械…この前の奴の仲間か!」

「この前…?あぁ、隊長の事か」

「隊長…?」

「隊長を知ってるって赤いガキ…って事はあんたがヴィータちゃんか〜」

「ちゃ、ちゃん…?」

「戦闘力は…っと……ほーう。流石副隊長を務めるだけあるじゃないの」

「そ、そんな事はいい!お前らは一体何者だ!何故レリックを集める!?」

「ふっふっふ…聞いて驚け!俺達は天下の───

 

男は奇妙なポージングを取りながら、独創的すぎる自己紹介を始めようとした──その時、

 

「お、おいバカ!何考えてんだ!」

 

先程男が飛び出して来た場所から、しゃがれた声が大男に待ったをかけた。一同声の方に向き直ると、そこには声の主が駆け寄りながら必死で男を止めに入ろうとしていた。

顔を隠した出で立ちは同じだが体格は対照的で、エリオ達よりも身長は小さく、お世辞にも戦闘向きの体型ではないように見える。

 

「なんだよ〜折角人がカッコつけてたってのによ」

「なんだよじゃない!正体をを明かすなってあれほど言われたばかりだろうがっ!」

「おっと、そうだったな。忘れてたぜ。サンキューサンキュー」

「全く…隊長があれだけ言ってたってのにお前って奴は…」

「そう怒るなって〜。今度パフェ奢ってやるからよ!」

「言ったな!絶対だぞ!絶対だからな!」

 

「エリオ君…あの人達…」

「う、うん。ちょっと変わってるよね」

「ねぇ、あの人達敵なんだよね…?」

「そりゃそう…なんだと思うけど…」

 

先ほどの戦いは何だったのかと問いただしたくなるような緊張感のない雰囲気に自然と口が開いてしまう。

 

「くっ…やってくれたな」

「ブロリー君!怪我は?」

「あぁ…大丈夫だ」

(ブロリーは正気に戻ったみたいね…とりあえず安心だわ)

「おぉ〜流石にまだまだ元気そうだな。まぁ腐ってもサイヤ人だしな」

(奇襲が失敗してもこの余裕…この程度は予測済みってことかよ…)

 

とはいえ依然として数の上では圧倒的に有利。相手のペースにさせないためにも、強気な姿勢だけは崩さない。

 

「…これで分かったでしょう?不意打ちでも貴方達だけじゃ私達には勝てない」

「おいおい冗談だろ?そこのサイヤ人達ならともかく、それ以外の奴らが戦力なんかになると思ってんのか?」

「くっ…言ってくれるじゃねぇか。それなら一発…!」

「待てヴィータ!」

「あぁ!?なんだよこんな時に!」

 

男達が来てから寡黙を決め込んでいたバーダックだったが、ここに来て口を開く。

 

「お前は新人共を連れてなのは達の所へ行け。…はっきり言ってお前じゃ到底勝ち目はない」

「なっ、お前まで…」

「お前が弱いと言ってる訳じゃねぇ。だがこいつ…何者か知らねぇが気の大きさが今までの奴らとは桁違いだ。…特にあのでかい方はな」

「お前はどうすんだ。まさか一人でこいつらと…」

「冷静に考えてみろ!あのガキの言うことが本当なら、ヘリの方にはもっと戦力が向かってるかもしれねぇ。なのはとフェイトだけで対処できる保証はない以上、お前達だけでもとっとと向かうべきだ」

「なーにこそこそ話してんだ?まさか逃げ出す算段じゃないだろうな」

「へっ…てめぇの方こそさっきから無駄口ばかり叩きやがって。不意打ちでガキ一人吹っ飛ばしたのがそんなに嬉しいか、あぁ?」

「お〜、なかなか言ってくれるじゃないの。やる気十分って所かい?なら早速───

 

 

(…来る!)

 

 

 

「行かせて貰うぜぇっ!とぉぉりゃぁぁっ!」

 

クラウチングスタートのポージングから、一直線にバーダックへと突進、そのまま激しい打ち合いが繰り広げられる。

 

「ほらほらどうしたぁ〜!?もっと抵抗してくれなきゃ面白くないぜ!」

「へっ…ならコイツをくれてやるっ!」

 

バーダックは迫り来る拳を払い除けると、無防備の腹に拳を抉り込む。

 

「どおぉぉぉっ!?」

「馬鹿が。油断しすぎだ」

(よし…バーダックさんの本気の一撃…これは効いた!あの強打を受ければどんな相手だって──

「へっへっ…まだまだ元気そうだな!良かったぜぇ!」

「なっ…」

 

ヘラヘラと笑いながら男は仕返しとばかりに同じ攻撃を腹部に叩き返す。適当に振ったように見えたがその威力は絶大で、鈍い音と共にバーダックの背中がくの字に折れる。

 

「バーダック!」

「そ、そんな…あの攻撃が効いてないの…!?」

「チッ…やってくれるな…」

「おお、いいねいいね!こりゃあ本当に楽しめそうだ!」

「お前ら何してる!さっさと行け!」

「くっ…行くぞ!」

「でも副隊長!」

「ここはあいつを信じるんだ…!今はレリックを守り抜いてなのは達の所へ…」

「おっと、そう簡単に逃げられる訳ないだろ?」

 

今度は小男が彼女らの行く手を阻む。

 

「へっ、奪えるもんなら奪ってみろ!」

「そうか?それじゃあ遠慮なく頂くとするか」

「あ、あれ?ケースが…!」

「消えた!?」

 

しっかりとケースを抱え込んでいたはずのキャロだったが、一瞬のうちにケースは跡形も無く消えてしまい、あろう事か目の前の相手の手の中に収まっていた。

 

「そんな…!レリックが…」

「くっ…このっ、返しやがれ!」

 

素早く武器を振り回すが、攻撃は当たる気配すらなく虚しく空を切る。

 

「へへっ、お前らじゃ一生かかっても無理無理!」

 

(さっきの大男のスピードも半端じゃなかったけど…こっちは動いた事すら分からなかった…!ここまで次元が違うのかよ…!?)

 

「おい!もうここに用はない!とっとと帰るぞ!」

「なんだよ〜これからが楽しい所だってのに。もうちょい遊んでからにしねぇか?」

「そう言う事してるとまた隊長に怒られるぞ。それに、コイツらとはその内嫌でも戦う事になるんだからな」

「仕方ねぇな…。聞いたか?そう言う訳だから続きはまた今度だ」

「な、何を…」

「おーい、見てるんだろ?迎えに来てくれ〜」

 

男が叫ぶと、コンクリートを水のようにすり抜け青い髪の女が現れる。

 

「何度見ても気色悪い魔法だな〜そのテープなんちゃらとか言うのは」

「ディープダイバーっす!…てかあんたらなら自分で逃げれるんじゃねーすか?」

「硬いこと言うなって!この通りレリックも手に入れてやったんだからよ〜」

(ぐっ…運ぶこっちの身にもなれっスよ…)

「へへへっ、それじゃあお前ら、せいぜい頑張れよ!」

「あっ、待て!」

 

苦虫を噛み潰したような顔のヴィータ達を嘲笑いながら、三人は地中へと消えていく。

 

「そうだ…最初の三人は…!」

「いないわ。恐らく戦いの最中に先程の女が逃がしたのね…」

『こちらロングアーチ!ヴィータ副隊長聞こえますか!?』

「ああ。すまねぇ…こっちは最悪だ。敵に逃げられた上にレリックまで…」

 

 

『それより大変なんです!なのはさん達が…!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そらよっ!」

「ぐっ…」

「さっきまでの勢いはどうした?戦闘力も下がってきているぞ」

「調子に…乗るなっ!」

 

フェイトがバルディッシュを振りかざすと、無数の鋭利な弾丸が出現し、敵を貫かんと飛翔する。しかしその殆どは明後日の方向に飛んでいき、当たりそうになった弾も苦もなく躱されてしまう。

 

「へっ、当たらねぇな!そんなつまらねぇ技に頼る様じゃ、いよいよ万策尽きたようだな」

「それは…どうかなっ!」

 

再び別方向に武器を振るうと、外れたと思われた弾丸達が、方向を変え再び急襲する。流石にこれは予測できなかったのか、男は避ける事が出来ずに爆発に巻き込まれる。

 

(よし…どうだっ!)

 

油断した所に寸分の狂いもなく技が命中し、確かな手応えもあった。しかし、煙の中から現れたのはバリアに身を包み、傷一つない敵の姿だった。

 

「効いて…ない?」

「この野郎…やってくれるじゃねぇか。そんなに死に急ぎてぇなら…今すぐに殺してやるぜっ!」

 

「まずっ…防御が間に合わな──

 

咄嗟に受け身で防いだものの、ほとんど無防備な所にエネルギー波をまともに受けてしまい、アスファルトの地面に叩きつけられてしまう。

 

「うっ…」

 

『フェイトちゃん!』

「…私は大丈夫だから。なのはは自分の戦いに集中して』

「大丈夫って…その傷…!」

 

攻撃が命中したであろう右腕は肩から肘の辺りまで出血し、力なくだらりとたれ下がっている。さらに不運にもダメージは脚部にまで及んでおり、それはスピードを信条とする彼女にとっては致命的であった。

 

(限定解除してもここまで一方的にやられるなんて…)

 

「そうだ、死ぬ前にいい事教えてやる。お前達が逃がした連中だが、今頃はもう堕とされているだろうぜ」

「なっ…」

「俺達はレリックに興味はないが、戦闘機人共は相当ご執心のようだからな。まぁどうせすぐにあの世で会えるんだ。そう悲観することもねぇだろ」

 

皮肉のこもった言葉を吐き捨てると、エネルギーの溜まった手を向ける。先程までより明らかに力のこもったそれは、弱りかけの命を刈り取るには充分すぎる威力。もはや彼女には一刻の猶予もなかった。

 

(バーダックさん…すみません…私…!)

「フェイトちゃん!避けてっ!」

「消し飛べっ!」

 

幼なじみの叫び声が僅かに聞こえる中、迫り来る光に飲み込まれた所で彼女の意識は途絶えた。




どうも顔芸です。
毎度毎度書いてる気がしますが遅くなってしまいすみませんでした!今年は…今年は忙しいんですわ…(言い訳)

そこで少しお知らせ(というか一方的なお願い)なのですが、これから先、後書きやコメント返信は少なめで行きたいと思います。というのも実はこれの内容を考えるのに、無駄に気の利いたことを書こうとしてるため結構時間を取られてまして、考えてるうちに寝落ち…なんて事も何回かありました。その割に大したことは書けてないので、そんな事ならいっそ本編を書く時間に当てたい…という事で、今までより後書き、返信は簡略化という方向で行きたいと思います。

ただ頂いたコメントや評価は必ず見させて頂いてますので、気軽に書いて頂けると励みになります。今後とも読んで頂けると嬉しいです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十八話 正体

(ごめんなさい…バーダックさん)

 

そんな言葉が無意識に頭の中を駆け巡る。あきらめようなんて気は毛頭ない。そんな事をすればなのはを見捨てる事になってしまう。しかし頭では分かっていても絶望的な状態を前にどうすることも出来なかった。

 

(約束守れない…かも…)

 

人間としての本能が無意識に目を閉じさせ、全身の筋肉が萎縮する。しかし、いつまでたっても来るはずの痛みがない事に困惑しつつ瞼を開くと、目の前に馴染みのある背中があった。

 

「バ、バーダック…さん…?」

 

「全く…手間をかけさせやがって…」

「なっ、てめぇは…!」

「貴様は地下に向かったはず…何故こんな場所に…」

「フン…知るかよ。てめぇらがチンタラやってっからだろ?」

「ククッ…愚かな。こいつらを助けに来たつもりか?貴様が来た所で死ぬ時が少しばかり延びるだけだ」

「…随分と大口叩くじゃねぇか。だったらかかって来いよ!」

「言われなくともそのつもりだ!」

 

互いに戦闘態勢を取り直し、今まさに戦いの火蓋が切って落とされる──そう思われた時だった。

 

『お二人共、もう結構ですよ』

「なっ…」

 

彼らの仲間からだろうか。通信があったようだがどうにも様子がおかしい。目の前の二人は先程の強気な態度が嘘のように怯えているよう様子が伺えた。

 

「ご、ご心配には及びません!あんなゴミ共すぐに片付けて見せます!」

 

『既に有力な他の局員が向かっているそうです。いくらあなた達でも正体を隠しながら戦うのは難しいでしょう』

「し、しかし…」

 

 

『私の言う事が聞けないのですか?』

 

 

「っ…!り、了解致しました。…おい、戻るぞ!」

「お、おう」

「…貴様ら、命拾いしたな」

「なんだ!今更臆病風にでも吹かれたのかよ!」

「なんとでも言うがいい。次に会う時が貴様らの…最期だ!」

 

男が腕を振り抜くと、周囲に強烈な風が吹き荒れる。大した威力はないものの、こちらが一瞬怯んだ隙に間に二人は遥か彼方へと飛び去っていた。

 

「逃がさねぇぞ…フェイト、お前は残って──

 

振り返り目に入ったフェイトの姿は、予想よりも酷いものだった。ざっと見ただけでも出血している箇所が多数見受けられ、特に腕の怪我は重傷で指先から血液が滴っており、力が入らないのかだらりと垂れ下がっている。今の所意識はしっかりしているが、この分では倒れるのも時間の問題だった。

 

「バーダックさ…ん…」

「お、おい!」

(クソッ…早く奴らを追わねぇと…)

「わ…私は大丈夫です。それよりも早く、あいつらを…」

 

この間にも敵はどんどん遠ざかっている。このままでは折角の機会を逃すことになってしまう。しかし、フェイトの大丈夫という言葉とは裏腹に彼女の血液はとどまることを知らずに彼女の腕を伝う。

 

悩んだバーダックだったが、彼が最後に下した決断は───

 

 

「クソッ…おいなのはっ!」

「は、はい!」

 

近くのなのはを呼ぶと、バーダックはフェイトの肩を担ぎゆっくりと降下する。

 

「フェイトちゃん!」

「なのは、バーダックさん…ご、ごめんなさい…私のせいで…」

「…少し黙ってろ」

 

まずは出血を何とかしなければならないが、バーダックは勿論、なのはも治癒魔法を使うことは出来ない。バーダックは何も言わず自らのバンダナを手に取ると、傷口に巻き付ける。

 

「バーダックさん、それ…!」

「今はこれしかねぇんだ。我慢しやがれ」

「そうじゃなくて、それって大切な物じゃ…」

 

普段から肌身離さず持っていた赤いバンダナ。物に頓着のない彼が大切にしている所を見れば、語らずともどれだけ大事な物かは理解出来た。

 

「変な気を使うんじゃねぇ。…別に大したモンじゃねぇよ」

「そう…ですか」

「奴らの気は…チッ、もう追えねぇな。…おいロングアーチ、そっちでも確認できないのか?」

『すみません、既に転移されてしまっています。これ以上は…』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人は親から生まれる。

 

男でも、女でも。

 

生まれた場所が何処であろうと。

 

どんなに優れた人間でも、どんな悪人でも。

 

ずっとそう思って生きてきた。別に強い信念があった訳じゃない。ただ世界の理の一つとしてそう思っていただけ。

 

だから自分の生まれを知った時は衝撃を受けた。

 

でもそんな事よりもっとショックだったのは、母さんの中で私はただの駒、それどころか娘を語る忌々しい存在でしかなかったという事。

 

…いや、本当は薄々気付いていたのかもしれない。でも頑張っていれば、言う事を聞いていれば、また昔のように笑顔を見せてくれると信じていた。信じたかった。信じるしかなかった。

 

でも現実は残酷。虚しい希望にいつまでも縋っていられるほど甘くはない。

 

母さんの欲しかった物は、私には絶対手に入れられない物で。

 

私が取り戻したいと思っていた物は、元々私のものなんかじゃなかった。

 

 

私はどうしたらいいか分からなかった。

この先どうなるのか、何を頼りに生きていけばいいのか…何も見えなかった。

 

 

そんな抜け殻だった私だけど、存外その後の暮らしは楽しいことが沢山あった。新しい家族ができて、沢山の友達ができて、戦いの中で分かり合えた人達がいた。

 

 

だけど一人だけ──未だに分からない人がいる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『息子の誕生祝いだと?へっ…下らねぇ冗談だ』

 

『未来を予知…?』

 

『お前らには呪われた未来しかないぞ!我が一族と同じように…滅び去るのみなのだ!』

 

『■■■!どうしたんだ一体…!ここで何があった!』

 

『■■■■だ…■■■■が裏切りやがったんだ…』

 

『何故だ!何故俺達を…!』

 

『奴らに…■■■■の強さを…』

 

『クソッ…■■■■様は本当に俺達を…』

 

『俺が…この俺が…』

 

 

 

 

 

『未来を…変えてみせるっ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んん………えっ…あれ?」

 

気がつくと先程の声は消え、代わりに病室の天井が視界に入ってくる。

 

(今の…夢…?)

 

一度深呼吸をしてから夢の内容を思い出そうとしたが、断片的にしか記憶がなく、なんの夢だったのかは分からない。そして腕の痛みが夢よりも昼間の戦いを思い起こさせた。

 

(そうだ…私、あの後治療を受けてそのまま…)

 

ふと怪我をした腕に目をやると、見覚えのある布が手首に巻かれていた。

 

(赤い生地だからよく分からないけど、多分血が付いちゃってるよね…)

 

物への執着が殆どないバーダックが、ただ一つ肌身離さず身に付けていた特別な品。この一見襤褸切れにしか見えない物を何故あれ程大事にしているのかは分からなかったが、それほど大事な物を自分の為に使ってくれた事が嬉しく思う一方、使わせてしまったという罪悪感が頭を巡った。

 

「はは…こんなんじゃあ力になるどころか…足手まといもいいとこだよ…」

 

ポツリと口から出た自虐めいた言葉を口にすると、自分がますます情けなく思えて来る。そんな時、病室のドアをノックする音が部屋に響いた。

 

「おいフェイト、起きてるか?」

「バ、バーダックさん…!お、起きてます!」

 

突然やって来た事に驚き慌ててしまったが、そんな事はお構い無しとばかりに彼は扉を開いた。

 

「バーダックさん…」

「…怪我はどうなんだ」

「は、はい。ちょっと痛いですけど、私は大丈夫です。それよりも皆は…」

「他に大した怪我した奴はいねぇよ。レリックの方も外箱は奪われたが、ティアナの奴が機転を利かせたお陰で無事だ」

「そう…ですか」

 

全員の無事を聞きホッとする一方で、隊長の一人でありながらこんな事になってしまった事が無様で仕方なかった。

 

「私以外は…みんなしっかり自分の仕事ができたんですね」

 

「………」

 

「私は駄目だなぁ…こんな大事な時に怪我なんかして…おまけになのはやバーダックさんにも迷惑かけて…」

 

「………」

 

「強くなるって約束も…結局…守れな…くて…」

 

あぁ、本当に最低だ。よりにもよってこの人の前で泣いてしまうなんて。

 

「フン…馬鹿野郎が」

 

彼はがっしりと頭を掴みながら、こちらをぐいっと覗き込む。

 

「一度負けたぐらいでウジウジしやがって。お前がそんな事でどうすんだ」

「ご、ごめんなさい…」

「いいか。人間手痛い経験をした奴の方が強ぇんだ。十回負けようが百回負けようが、最後の最後に勝てばそれでいいんだ」

「最後の最後に…勝つ…」

「そうだ。だからてめぇも次は絶対に叩きのめすぐらいの気概でいやがれ。…それから…フェイト」

「は、はい!」

「てめぇは約束…破っちゃいねぇよ」

「えっ…あ、あの…」

そう小さく呟くと、照れ臭かったのか聞き返す間もなく部屋を後にしてしまう。

 

(何度負けても…か)

 

本当に厳しい人。多分私がいくら甘えても、彼は優しい言葉なんて掛けてはくれないだろう。でも…とやかく言ってもあの人は私を助けてくれた。頑張れと言ってくれた。

 

そんな彼の心に応えたい。感謝の気持ちよりも、今はそんな想いが私の心に湧き上がっていた。

 

 

(私…貴方の期待に答えて見せます。絶対に…!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

頭をもたげながら、一人考えを巡らせるパラガス。突如徒党を組んで襲撃して来た犯罪者、バビディと名乗る魔導師、レリックを携えボロボロの状態で発見された少女、海上のガジェット掃討作戦の時から現れ始めた強力な気を放つ男達…。

ここの所色々と考え込む事が多くなっている事は前々から自覚していたが、一局員としても、八神家の一員てしても、ぼうっとしてなどいられなかった。

 

(今回の敵…まさかよりによってフェイトが…)

 

「随分と考え込んでるみてぇじゃねぇか」

「ん…バーダックか」

「すっかり局員が板に付きやがって。たまにはサイヤ人らしく体を動かしたらどうだ」

「…そう呑気な事も言ってられんのだ。そんな事より丁度いい所に来た。お前の話を聞きたいと思った所だ」

「昼間の奴らの事か?」

「…ああ。あれは明らかに俺達と同じ気を使っていた。それになのはの話じゃスカウターも付けていたらしい」

…っと、確かお前は直接戦ったのだったな。単刀直入に聞くが、奴らの実力はどう見る?」

「そうだな…フェイト達と戦った二人、奴らは2万は超えてるだろうな」

「二万…」

「…だが問題はそいつじゃねぇ。初めに会った方だ」

「地下でレリックを奪おうとした奴らか。…それで強いのか?」

「そうだな…軽く見積もっても5万ってとこだ」

「なっ…ごっ、5万だと…!」

 

戦闘力5万強。かつてサイヤ人の頂点に君臨していたベジータ王の戦闘力が1万、エリート戦士でもその半分程度という事を鑑みると、5万という数字はかなりの脅威だ。

 

「そんな奴がスバル達と出くわしたら…」

「スバル達だけじゃねぇ。他のどの局員でも同じ事だ。奴が本気になれば苦もなく殺されるだろうな」

「一体、奴らは何者だと言うんだ…」

「それだ…」

「ん…?」

「何故奴らは正体を隠す?あれだけの戦闘力があるんだ。やろうと思えば局と正面からぶつかれる筈だ」

「それは、監視の目を避けてレリックを探すのには都合が良いとしか…」

「なら全員が顔を隠しているのが自然だろ。しかも気を使う連中はことごとく正体を隠してやがる」

「つまり正体はバラしたくないが、俺達の誰かに顔を知られている…という事か」

「何か…嫌な予感がするな。外れてくれれば良いのだが…」

 

未だに敵の正体さえ掴めないまま、状況だけは刻一刻と変化してゆく。裏で何かが起こっているという不気味な雰囲気に既視感を覚えつつも、今の彼らにできる事は何も無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ…やっと戻ってこれたぜ。早く部屋に戻ってパフェでも食いてぇな〜」

「おい、今日は俺の分つまみ食いするなよ!」

「へいへい、わかってるわかってる」

 

薄暗い基地の中には不釣り合いな、男達の能天気な掛け合いが響く。そんな堅物のトーレは心底呆れているらしく、ため息をつきながらなのは達と戦った二人に愚痴をこぼす。

 

「全く…平和な奴らだ。お前達の世界の奴らは皆こうなのか?」

「…一緒にするな。特選隊の奴らが異常なだけだ」

「実力はホンモノなんっすけどね〜。どうしてこうも能天気なのか…」

(…セインがそれを言うのか)

「そんな事よりセインちゃん、ケースの中身の確認してくれる?」

「ん、はいよ~」

 

セインは近くにケースを置くと、能力を器用に使い箱を開ける。

 

「じゃじゃーん!」

 

景気よく蓋を持ち上げたセインだったが、中身を見るや否や一同はすぐに表情を曇らせた。

 

「おい、何にも入ってないじゃないか!」

「セインちゃん!貴方まさか…」

「わ、私はちゃんと運んだぞ!」

 

セインは慌ててモニターを映し出すと、どうだとばかり解析した画像を指さした。

 

「ほれこの通り!それにこいつらが付けてるスカウターとか言うのも、ドクターが改造してレリックを見つけられるようになってんだ。お前らも見ただろ?」

「あ?そんな機能付いてたっけか?悪いな、戦闘力しか見てなかったぜ」

「こ、この…」

 

しかし、映し出された画像ではレリックの反応はきちんとケースの中にある。そんな中まじまじと画像を見つめていたトーレが、局員の一人の帽子の中に反応がある事に気が付いた。

 

「チッ…お前らの目は節穴か!ここだ!」

「えっ…これってまさか…!」

「…してやられたという訳か」

「あーあ。骨折り損だったな」

「おい、何を他人事のような事を言ってる…お前達がきちんとスカウターで確認していれば…」

「あぁ?俺達のせいだってのかよ」

「そうっすよ!そりゃあ…私だって判断が甘かったかもだけど…アンタらはスカウターで確認する時間があったんだ!」

「仕方ないだろ!こっちはまだそういうのに慣れてないんだ。スカウターには元々こんな機能ついてなかったんだよ」

「…どうだかな。何にせよ、部下がこれではお前達の主も底が知れるな」

「貴様…我々はともかくあの方の中傷は許さんぞ!」

「ちょ…ちょっとトーレ姉様、それ以上は…」

 

止めるクアットロの声も聞かず、トーレは厳しい言葉をぶつけ続ける。

 

「我々は遊んでいるのではない!だから私は反対だったのだ!こんなどこの馬の骨とも知れん奴らの手を借りるなど…」

「てめぇ…こっちが下手に出れば付け上がりやがって…」

 

 

 

「何を…しているのですか?」

 

 

 

一触即発の状況の中、冷ややかな雰囲気の声色が互いの会話に割って入った。

 

「こ、これは…」

 

ナンバーズの一同は驚きや不信感のこもった目でその人物を見る一方、男達は声の主に気が付くとすぐに地面に膝を付き頭を垂れる。

 

「…私の部下が何か不都合な事でも?」

「フン…白々しい。どうせ聞いていたのだろう。いいか、我々の協力者で居たいなら次からは死ぬ気で任務を遂行するんだな。…お前達、行くぞ」

「あ、待ってくださいよ!」

 

言葉を吐き捨て去ってゆく彼女らの背中をあからさま気に入らないと言った表情で見つめる四人。プライドの高い彼らにとって、あれだけ言われて何も言い返せないのは屈辱以外の何者でもなかった。

 

「よろしいのですかい!?あそこまで言われて黙ってるなんて…」

「落ち着きない。ドドリアさん」

「不老不死なら力ずくでこの地を支配してからでも良いではありませんか!」

「………」

「っ…貴方様は…何を恐れていらっしゃるのですか!?」

 

 

 

 

「私が…恐れるですって…?」

 

 

 

 

「お、おいザーボン!」

「あっ…これは…その…」

 

先程までの柔和な声が嘘のように、場を一気に凍りつかせるような冷徹な声が体を貫いた。視線を合わせている訳でもないのにも関わらず、声を聞いた瞬間から手足がガクガクとと震え、身体中から嫌な汗が吹き出してくる。

 

「…まぁいいでしょう。私とてこの状況は気に食わないですからねぇ。ですが心配はいりませんよ。時が来れば全員が知ることになる…」

 

 

 

 

 

 

 

「この私…フリーザの力を…ね」

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十九話 予言

先の戦闘から数日の後、なのははシグナムとブロリーを連れ聖王教会へと向かっていた。一番の目的は救助した少女の今後について教会側と話し合うこと。そしてもう一つ、もし可能ならば直接彼女から話を聞くことだ。

教会とはある程度繋がりのあるシグナムはともかく、ブロリーは選出されたのは特別な理由が……あった訳ではなく、ある程度歳の近い人間がいた方が心を開いてくれそうだという単純なものだ。

 

「ブロリー君もシグナムさんもすみません、お忙しい中付き合わせちゃって…」

「構わんさ。私なら聖王教会に顔が利くし、車もテスタロッサからの借り物だ。それで…」

 

シグナムは僅かに表情を曇らせながら言葉を紡ぐ。それもそうだ。あんな状態で発見され、まして親の愛を受けずに生まれてきた子供。守護騎士プログラムという出生の都合上、親子関係という物に疎いシグナムでも、あの子がどんな心持ちでいるかは想像に難くない。

 

「…何らかの区切りがついたとして、あの子はどうなるのだろうな」

「…当分は私達か教会に預けるしかないでしょうね。長期の安全確認が取れてからでないと」

「その子は…そんなに危険なのか?」

「まだ分からないが、もし本当に人工的に生を受けた存在なら…本人の意思に関わらず、周囲に危害を加える可能性がある」

「そう…か」

(ブロリー…お前…)

 

『騎士シグナム!聖王教会のシャッハ・ヌエラです!』

 

どこか悲しげに窓を見つめるブロリーの心を汲んでいる暇も無く、突然向かっていた教会から通信が入る。

 

「どうしましたか?」

「すみません、こちらの不手際がありまして…検査の合間にあの子が姿を消してしまいました…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

「申し訳ありません…私がしっかりと見ていれば…」

「状況はどうなってますか?」

「特別病棟とその周辺の封鎖、避難は既に完了しました。今の所内外部からの怪しい反応もありません」

「そうですか…ブロリー、気で居場所は分かるか?」

「俺は親父達のように細かい場所までは分からないが…微かに気は感じる。方角は…あっちだな」

「この子、探索型のスキルを?」

「正確には少し違いますが…まぁその認識で大丈夫です」

「よし…なら手分けして探しましょう。私はブロリーと建物の外を左回りで探しますから、シグナム副隊長はシスターシャッハと建物の中をお願いします」

「「了解しました」」

 

こうして始まった捜索だったが、ブロリーの探知のお陰もあり、意外にもすぐに彼女は見つかる事になる。

 

「ブロリー君、どうかな?」

「気が近い。この辺りに居るはず……なのは、あれを見ろ」

 

ブロリーが指さした場所を見ると、綺麗に手入れされた垣根の向こうで、黄金色の丸い頭がヒョコヒョコと動いている。二人はすぐに姿の確認できる位置まで回り込んでみると、歩き疲れたのだろうか、なのはが贈ったウサギのぬいぐるみを大事そうに抱きしめながら地面に座り込んでいた。

 

「あ、そこにいたの」

「…!」

 

少女は声を掛けられると、こちらを警戒してすぐに立ち上がる。と言っても敵対するという雰囲気はなく、急な出来事にただただ怯えている様子だった。

 

「なのは…」

「大丈夫。私に任せて」

 

そんな様子を見かねたなのはは、優しく語りかけながらゆっくり彼女に近づいて行く…そんな時だった。

 

「逆巻け!ヴィンデル・シャフト!」

「えっ…」

 

鋭い声の主はシスター・シャッハ。少女に近付いた事を危険だと判断したのか、突如背後の建物から飛び出すと、なのはと少女の間に割って入り少女と相対する。

 

「大丈夫ですか!」

「あ…あぁ…」

 

危機を察知してから臨戦態勢まで、その間約一秒弱。一介の騎士として、この反応スピードは誇って良いレベルだ。しかし…

 

「う…うぇ…」

 

一介の母親としては落第点もいい所である。

 

「うぇ…っくっ…」

 

あんなにギュッと抱きしめていたぬいぐるみすら手元から離してしまい、自身も腰が抜けて地面に腰を落としてしまう。

突然の事に声すら出せずにいる彼女を見て、いよいよシャッハも良心が痛んだ。

 

「あ、あの…ええっと…」

「ごめんね…?ビックリしたよね」

 

困惑する彼女を他所に、なのはは泣きそうな少女をそっと撫でながら、ぬいぐるみを拾い服の砂を払ってやる。すると幾らか落ち着いたのか、目に涙を溜めながらもなのはの目をじっと見据え、話を聞く意思を見せた。

 

『緊急の危険は無さそうです。ありがとうございました、シスターシャッハ』

『は、はい…』

 

(なのはさん…余裕あるなぁ…)

 

いくら子供といっても事情が事情。ましてや子育てどころか未婚の彼女に母親として云々などと言うのは酷かもしれないが、いきなり子供を泣かせてしまった後に見せられたなのはの母性溢れる対応は、確実に彼女の将来への不安を募らせてしまった。

 

「はじめまして。私、高町なのはって言います。こっちは…」

「…ブロリーだ」

「あなたのお名前も教えて欲しいな」

「……ヴィヴィオ」

「ヴィヴィオか…ふふっ、かわいい名前だね。ヴィヴィオはどこかに行きたかったのかな?」

「ママ…いないの」

「……!」

 

彼女の言葉に胸が詰まった。おそらく彼女の言う”ママ”はもうこの世の人ではない。仮に生きていたとしても、その人物はヴィヴィオの母親ではなく、元になった人物の母親。

しかしその事実を突きつけるには、彼女はまだ幼すぎる。

 

「…それは大変。それじゃあ一緒に探そうか」

 

敢えて明るいトーンで語りかけるなのは。その言葉にヴィヴィオはコクリと頷いた。

 

 

 

 

 

 

(今はこれで…いいんだよ…ね)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いつもの様に鍛錬を終え、食堂に向かう。ここに来てからはほぼ毎日このルーティンワークを繰り返す。食券とかいう面倒なシステムにも慣れた物だ。

 

現在の時刻は二時少し前。ピークを過ぎた食堂は閑散としていて、調理を担当している人間以外の局員の姿は殆ど見受けられない。…それを狙って来ているのだから当然と言えば当然なのだが。

 

しかし、今日は見慣れた人影が一つ、黒の制服に腰まで届きそうな金色の髪…間違いなくフェイトの姿だった。

 

「あ、バーダックさん」

「お前…こんな所で何してんだ」

「いえ、体もだいぶ良くなって来ましたし、今日は自分でできる事はやってみようかな…と」

 

口ではそう言ったものの、正直体は万全には程遠い。しかし、皆が事件解決に向けて動いている中、隊長である自分だけが寝てなどいられなかった。

 

「バーダックさん、今日は牛丼バケツ盛り…」

「………」

「…が三杯ですか」

 

正しくバーダックの為に生み出されたような料理。頼む人間がサイヤ人の他に居ないことを考えると事実そうなのかもしれないが、ここまで来ると普通の人間は見るだけで胸焼けを起こしてしまいそうだ。

 

「それじゃあ私も同じのにしようかな。すみません、私も牛丼でお願いします」

「はいよ。盛り付けるだけだからここで待っててね」

「はい、わかりました」

「それにしてもフェイトさん、よくアレ見た後に同じ物食べる気になるねぇ。あたしゃ見てるだけで満腹になっちまうよ」

「アハハ…ま、まぁ私は慣れてますから」

「そんなもんかねぇ…」

 

先程から一向に衰えない彼の早食いっぷりを見る限り、彼は自分の食欲のせいで周囲の人々を困惑させているなんて微塵も思っていないのだろう。

内心そんな事を考えている内にフェイトの分が盛り終わり、彼がお椀…もといバケツを一つ空にした所で彼女はバーダックの向かい側に腰をかけた。

 

「バーダックさん。私が見てあげられなかった間、エリオとキャロの引き受けて貰ったこと…改めてお礼させてください。ありがとうございます」

「フンッ…そう思うならさっさと怪我を直して、俺の面倒を減らして欲しいもんだ」

「アハハ…すみません」

「…まぁ、奴らも前よりはマシになって来たがな。特にチビ二人はやけに張り切ってやがったぞ」

「エリオとキャロが…ですか」

「大方理由は分かるがな。だが行き過ぎればティアナの二の舞になる。それを抑える意味でも今日はキツく絞ってやったが、後でお前からもなんか言っとけ」

「わかりました。…ありがとうございます」

「………」

 

こんな掛け合いももう何度目だろうか。そんな事を考思いながら、視線を逸らすバーダックをフェイトはにこやかな表情で眺めていた。

しかし、この後はやて達と共に教会に大事な用事があるため、後ろ髪を引かれる思いではあるが早く昼食を済ませ合流しなければならない。

そんなフェイトの思いを知ってか知らずか、一つの慌ただしい声が食堂にやって来た。

 

「バーダックさん、フェイトさん!」

「…騒々しいぞスバル」

「あ、すみません…ってバーダックさんどんだけ食べてるんですか!?」

「あぁ?なんだ急に。それに量に関しちゃお前も大概だろうが」

「いくら私でもそんなには食べませんよ…」

「それで、そんなに慌ててどうしたの?」

「あ、そうだった。フェイトさんはまだ食べてる途中だから…バーダックさんでいいか。ちょっと来てください!」

「な、何だってんだ」

「来れば分かりますから!」

 

初めは拒否したものの、しつこく頼み込んでくるスバルに渋々ついて行くバーダック。

 

「フェイトさんも後で来てください!2階の休憩室ですから!」

「う、うん」

 

静かな午後に訪れた突然の嵐に困惑するフェイト。まさか、この後驚愕の事実を突きつけられる事になるとは、この時はまだ知る由もなかった。

 

 

 

(…というか、バーダックさん食べ終わるの早すぎだよ…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『…で、バーダックさんを連れて来たと』

『あはは…そういう事になるかな…』

『このバカスバル!』

『うっ…』

『ヴィヴィオをあやせそうな人を連れてきなさいって言ったでしょ!?』

『でもティアが誰でもいいって言うから…』

『だからって…よりにもよってなんでバーダックさんなのよ!余計に泣いちゃうでしょうが!』

『ティアさん、それだいぶ失礼ですよ…』

『でも確かにそうかもだよね…』

 

バーダックが連れてこれた部屋には、なのはのスカートにしがみついて駄々をこねる子供と、それに困惑するなのはとその取り巻き達の姿だった。

 

「いっちゃやあぁぁぁだぁぁぁぁぁ!」

 

「…で、俺にこれをどうしろって言うんだ」

「アハハ…もしかして泣き止ませたりとか…できないかなって…」

「…黙らせればいいのか」

「ちょ…なんで指鳴らしてるんですか!?」

「安心しろ。痛みを感じる前に──

「そ、そんなのダメに決まってるじゃないですか!」

「だったら俺にこんな事を頼むんじゃねぇ!」

 

物騒な事態は回避したものの、状況は一向に好転すりどころか、先程よりも悪化しているようにさえ思える。

子供は雰囲気を読み取るのが得意だというが、ヴィヴィオはバーダックの不機嫌そうなオーラを感じたのか、余計に泣き出してしまう。

 

「やぁぁぁぁぁぁぁぁだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

(クソッタレ…段々腹が立って来た)

 

元々子供が嫌いなバーダック。特に融通の効かない、まさしく今のヴィヴィオの様な子供は大嫌いだった。

 

(チッ…もうどうにでもなれ…!)

「あっ、ちょっとバーダックさん…」

 

「おい…」

「あう…?」

「さっきからぎゃあぎゃあ喚きやがって。…確かヴィヴィオとか言ったな」

「おじさん…だあれ?」

「…バーダックだ」

「ばーだっく…?」

「それで…てめぇはなんで泣いてんだ?こいつを困らせたいのか」

「ううん…」

「だがこいつは困ってるぞ」

「うぅ…」

 

ヴィヴィオ自身、子供ながらにそれは分かっていた。自分が駄々をこねてなのはを困らせている事も、なのはがどうしても行かなければならない事も。

それでも一緒にいて欲しかった。ここで離れてしまったら、もう二度と会えないような気がしたから。

 

「いいかよく聞け。そういう時はいいやり方がある」

「えっ…」

「約束を取り付けちまえばいい」

「やくそく…?」

「お前が大人しく待ってる代わりに、こいつに我儘を言えば良いって事だ」

「う…ん?」

「ヴィヴィオ、何か私にして欲しい事ない?お仕事に行かないでって言うのは困るんだけど…もしヴィヴィオがいい子に待ってられたら、ヴィヴィオのお願い聞いてあげられるから」

「じゃあ…」

「ん?」

「じゃあ帰ってきたら…ずっと一緒に居てくれる?」

「ふふっ…それなら大丈夫だよ。ヴィヴィオが寝るまでずっと一緒に居ようね」

「うん…」

 

まだ納得しきっている訳ではないようだが、それでも先程のわんわんと泣きじゃくっていたのが嘘のように、今はなのはを見送ろうとしていた。

 

「それともう一つ、約束ってのは絶対に破るな。それが大事な奴としたもんなら尚更だ。もし破ったら、そいつはぶん殴られても文句は言えねぇ。…それ以前にまた泣き出しやがったら…なのはがやらなくても俺が殴ってやるからな」

「うう…それはいや…」

「フン…だったら、大人しく待ってるんだな」

「うん…」

 

相変わらずの口の悪さはともかく、バーダックの知られざる手腕に唖然とする四人。ある意味戦闘能力を見せられた時よりも驚いていた。

 

「す、すごい…」

「なんか…バーダックさん、お父さんみたいですね…」

「あんな一面があったなんて…」

「フェイトさんが前に言ってた事、今分かった気がします…」

「ふふっ…そうでしょ?」

「あっ、フェイトさん…!はやて部隊長まで…」

「急いで来てみたんやけど、もう私達の助けはいらなかったみたいやなぁ」

「というかフェイトさん、もう出歩いても大丈夫なんてすか?」

「うん。戦線復帰はもう少し時間がかかるかもだけど、これぐらいは大丈夫だから。ごめんね、二人には特に心配かけちゃって…」

「いえ…僕達は大丈夫ですから」

「フェイトさんはゆっくり療養してください」

「…ありがとう二人共。とっても心強いよ」

 

本来、局員ではなくもっと安全な道に進んで欲しかったと常日頃から思っていたフェイトだったが、今のヴィヴィオ同様、一回り逞しくなった二人を見れた事は純粋に嬉しかった。

 

「バーダックさん、ありがとうございました」

「ったく…連れてくるのは勝手だが、こっちにまで面倒押し付けるんじゃねぇ」

「そんな事言うて、案外こういうの得意なんやないですか?」

「ふざけるな。次こんな事頼みやがったら首の骨をへし折ってやるからな」

「またまた冗談を…」

「………」

「…冗談ですよね?」

「頼むにしても、こういうのはガキの居るパラガスにだな…」

「それを言ったらバーダックさんだってお子さんがいるじゃないですか」

 

その時だった。ピキッと空気にヒビが入る。実際に聞こえた訳ではないが、明らかに空気が変わったのは確かだ。

 

「…奴らに関しちゃ俺は何もしてねぇよ。それよりも教会に行くんだろ?こいつの気が変わらねぇ内にさっさと行くぞ」

「あ、そうですね。それじゃあ早速教会に───

 

「あー…ごめんなのは、ちょっと私疲れてるみたい。さっきのもう一回言ってくれる?」

「えっ…それじゃあ教会に…」

「そこじゃなくて、その前をお願い」

「なのはちゃん何か特別な事言ってたか?」

「その前…あ、バーダックさんも子供いるってとこ?」

 

なのはの何気ない言葉を聞いた途端、目を見開いたままフリーズして動かないフェイト。嫌な予感が二人の脳裏に走る。

 

「ま、まさかとは思うけどフェイトちゃん…知らなかったんか?」

「バーダックさんが…既婚者だったってこと…」

 

「えっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっ!!」

 

 

 

 

 

 

ヴィヴィオの泣き声が小さく感じる程の悲鳴が、この日隊舎中に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「チッ、またこんなもん着せやがって…」

 

例の制服に身を包んだバーダック。初日の事をまだ根に持っているのか、あからさまに不機嫌そうな面持ちではやてを睨む。

 

「一応今日は公式の場ですからね。制服で居てもらわんと…」

「そんな面倒な場所に何故俺を駆り出したんだ。てめぇらで勝手に会ってくりゃいいだろ」

「まぁまぁ、そう言わんでください。会うって言うてもクロノ君とカリムだけですから」

「フン…まぁいい。それよりも、あいつはさっきから何をやってんだ?」

 

 

「こどもがひとり…こどもがふたり…」

 

 

「…誰のせいやと思ってるんですか」

「…俺のせいだってのか」

「どうしてフェイトちゃんにだけ言わなかったんですか?私とユーノ君には初めて会った時に話してくれましたよね?」

「聞かれなかったからだ」

「はぁ…そんな事だろうと思いましたよ」

「たかがガキの一人や二人…いくら何でもあそこまで驚く事はねぇだろ」

「そういう事じゃなくて…はぁ…もういいです」

(…訳の分からん奴らだ)

「…っと、カリム達はこの部屋やな」

 

約束の部屋の前に辿り着いた一同だったが、フェイトの意識は何処かへ飛び立ったまま。普段の彼女からは想像できない腑抜けた表情が事の深刻さを表していた。

 

「どうでもいいが、あんな調子で話ができるのか」

「それもそうですね…ほらフェイトちゃん!そろそろ戻って来て!」

「…はっ…!な、なのは?」

 

(こりゃ思ったより重症やなぁ…)

 

一抹の不安を抱えつつもはやては部屋の扉を叩く。すると、どうぞというカリムの凛とした声が返ってくる。

 

「ようこそお越しくださいました」

「管理局地上部隊機動六課部隊長、八神はやてです」

「同じく、スターズ分隊隊長の───

 

全員見知った顔ではあるが、形式上の挨拶を交わす。

 

「…とまぁ、堅苦しい挨拶はこの辺にして、普段通りに話しましょうか」

「久しぶりだな、バーダック」

「お前…クロノか」

「おいおい、まさか忘れてたんじゃないだろうな」

 

元々大人びていた彼だが、以前よりもどこか態度に余裕が感じられる。この10年で、彼は本当の意味で大人の雰囲気を纏うようになっていた。

 

「いや、あのいけ好かねぇガキが十年で変わるもんだと思ってな」

「口の悪さは相変わらずか。君は変わらないな。…それにしても十年か…早いものだな」

「フン…ジジくせぇ事言いやがって」

「ハハハ…あれから十年、こっちも色々あったってことさ。今じゃ僕にも子供が二人───

「こ…ども…?」

 

 

『クロノ君!』

『な、なんだ、急に念話なんて…』

『今その話題は厳禁や!』

『はやてまで…一体何だって言うんだ…?』

 

困惑する彼だったが、結局二人のプレッシャーに押され、訳も分からぬまま話題を変えざるをえなかった。

 

「そ、それじゃあこの辺で閑話休題。はやて、頼むよ」

「コホン、それじゃあまずは…」

 

一度咳払いをした後、先程と打って変わって彼女の表情が真剣な物へと変わる。余程重要な話なのか、窓のカーテンを全て締め切り、照明も小さなものを残して全て電源が切られた。

 

「まずは先日の敵の動きについてのまとめと、六課設立の裏表について、それから…今後の具体的な話や」

「おい待て、本当の理由だ?ロストロギアを探すことじゃねぇってのか」

「レリックの対策、及び独立性の高い少数部隊の実験…無論これらも目的の一つではある。だがあくまでこれは表向きの話だ。六課設立の真の理由…それは、騎士カリムの能力が関係してくる」

「能力…?」

「実際に見てもらった方が早いでしょう。…プロフェーティン・シュリフテン」

 

カリムは古びた札の束を手に取り、小さく詠唱を開始する。すると何の変哲もなかった紙達が黄金に輝き始め、彼女を中心に円を描き出した。

 

「これは最短で半年、最長で数年先の未来を詩文形式で書き出し、預言書の作成を行う事の出来る能力…」

 

(未来を予知…か。クソッ、思い出したくもねぇ)

 

「二つの月の魔力が上手く揃わないと発動出来ないという制約上、ページ作成は年に一度しかできません。肝心の内容も世界に起こる事件をランダムに書き出すだけ。文章自体も古代ベルカ語で、解釈によって意味の変わる事もある難解な文章。解釈ミスを含めれば、的中率は割とよく当たる占い程度。…つまり、あまり便利な能力ではないんです」

 

自嘲気味にそう呟くカリムだったが、根拠のない占いよりかは圧倒的に信憑性のある物であるという事は、バーダックを含めこの場の誰もが確信していた。

 

「…預言書か。出した予言が覆った事はあるのか?」

「…いいえ。預言を聞いた事によって危機を回避できた、という事はあっても、預言そのものが覆ったという事はありません」

「…そうか」

「意外だな。君はこういう類の物は話半分に聞くタイプだと思っていたんだが」

 

思いの他カリムの話に興味を示したバーダック。そんな様子を物珍しそうに見つめる一同の中、ハッと何かを思い出したなのはが声を上げる。

 

「そうだ…!バーダックさん、昔、未来予知ができるって言ってましたよね?」

「バーダックさんが…?」

「未来予知…」

「まさか…本当ですか!?」

 

この手のレアスキルとは無縁だと思われていたバーダックが持っていたまさかの能力に、驚きと疑念の声が上がった。

 

「…昔の話だ。この世界に来た時にはもう見えなくなってたしな。それに、あれは元々俺の能力じゃねぇ。…今回の件に関係することは何もねぇよ」

「そうですか…」

「それより話を戻せ。わざわざ俺達を呼びつけたんだ。よっぽどの事が書いてあるんだろうな」

「…はい。では読み上げます」

 

 

 

 

 

無欠の帝が夢見た夢の大地

 

 

悪しき魔導と悪魔の剛力が大地を蹂躙し、一切の夢もただ凍てつくばかり

 

 

神をも震わす力に、数多の欲望も為す術もなく崩れ落ち

 

 

正義が消え去った後、忘れ去られた舞台で伝説は終焉を迎える

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

謎めいた文と不吉な単語。抽象的な物が殆どだが、少なくとも明るい未来では無いことは分かる。

 

「正義…仮にこれが管理局の事を指すのだとしたら…」

「それって…まさか…」

 

「…管理局システムの…崩壊や」

 

質量兵器が無秩序に拡散し、力無き者は全てを奪われる。管理局の消滅は、そんな旧暦の時代の無法地帯の再来を意味する。

 

「神をも震わす力…何らかのロストロギアか、それとも新兵器か…」

「確かな事は分かりません。しかしこの預言が出始めてからすでに数年経っています。そう遠くない内にその力は牙を剥いてくるでしょう」

 

重い空気が場を包む中、バーダックが呟いた。

 

「フン…下らねぇ」

「バーダックさん…?」

「要するに、いつものように敵が来るってだけじゃねぇか」

「それは…そうかもしれないですけど…」

「こういう時の為にお前らは色々準備してきたんだろう?だったら、どんな化け物が来ようが全力で叩き伏せるだけだろうが」

「いっそ開き直ってしまえと言うことか。全く、君らしい意見だな。だが…」

「怯えて縮こまってしまうよりは、よほどいいのかもしれませんね」

決意に満ちた若き戦士達。相手取るのは底の知れない力、先の見えない恐怖。しかし、彼らの眼には恐れの色は無い。それはバーダックの言葉に奮い立ったからか、それとも彼女達の強い心がそうさせるのか──

 

 

 

──或いは、相手を知らぬが故の安易な心持ちからか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

西の海に沈みかけた太陽の光が部屋を照らす中、すっかりご機嫌になったヴィヴィオと、それを見守るブロリーの姿があった。

最近は思いつめた表情をすることが多かった彼だが、子供の無垢な笑顔を見ていると、それだけでも口元が緩む。

「みてみて!かけたよ!」

「ん、これはなのはと…俺か。よく描けているな。次はエリオとキャロを…ん?」

 

先程まで隣で会話をしていた筈の二人だったが、どうやら寝てしまったようだ。

 

「二人とも寝ちゃったね…」

「あぁ。毎日訓練で疲れているからな。しばらくは向こうで遊ぼうか」

「うん。それじゃあ次はあの本が──

(ヴィヴィオ…か)

 

 

『あの子は人造魔導師の素材として作り出された子供ではないかと…』

 

『何らかの区切りがついたとして…あの子はどうなるのだろうな』

 

(…俺には、人造魔導師の事はよく分からない。でも…ヴィヴィオも俺と同じなんだ。望まなかった力に振り回されて、知らぬ間に周囲を傷つけてしまう)

 

 

「………」

「…どうしたの?」

「ん…?」

「なんか怖い顔してた…」

「すまない、何でもないんだ。…よし、絵本か」

 

 

(この子も…いつか自分を恨むようになるのか。…この俺のように)

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。