問題児たちと天空の御子が来るそうですよ? (皐月の王)
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キャラ設定+プロローグ

どうも皆さんお久しぶりです

皐月の王です、受験がいそがしいですが筆が乗りましたw

新しい問題児作品です。楽しんでください


名前:八神 天音

性別:女性

年齢:16

種族:人間

特技:運が絡む系統の遊びと賭け事全般とゲーム

概要

現在のいずれの世界の日本から「箱庭の世界」問題児の1人で16歳の少女

 

 

 

頭脳明晰で能力も高く、状況の変化を読み取るのが上手だ。感性が豊かであり文武両道でありさらに負けず嫌いで向上心もある。何よりもゲーム好きであり世界でも有名なゲーマーである、自分の楽しみを邪魔する者には容赦をせず楽しみを邪魔されたら標的を変えて攻撃してくる。(敵味方は区別ついているが、周りは気にしない)

 

『自分の生きたいように生きることが出来る。環境と才能に恵まれ、自由に生きていくことができる人』

 

所持ギフトは『大いなる天空の御子』と『記されし神英の軌跡』

ギフトカードは、金色&紺色である。

 

父のギフトと母の血筋により生まれた

極めて純度の高い先祖帰りの少女でその力は問題児の中でも屈指の肉体と霊格を持っている。

 

ギフト説明

『大いなる天空の御子』

天空神の力の光、神雷、雨の力を扱え、天をかけることが出来

る、強靭の肉体と霊格を持っている。

 

『記されし神英の軌跡』

天音のもう一つのギフト

とある東洋の叙事詩に登場した英雄、神が持つとされる、武器、武具、武芸を使え、武器、武具に関したらオリジナルを使えると言う破格のギフト。また武芸と武器の属性で太陽の炎も扱えるようにもなっている。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「うっ・・・寒いなぁ、この時期のスカートは本当に寒いよ」

 

季節は冬、時刻は7:30。少女は学校行く為に歩いている。少女の容姿は整っている、服装は白いワイシャツに黒いカーディガンと黒いブレザー、スカートも黒である。ワイシャツには赤いリボンをつけている。髪は金髪で瞳は青色で耳にはヘッドホンを着けていた。しばらく歩いていると後ろから声を書けられた

 

 

「天才ゲーマーおはよう!」

 

後ろから声をかけられる。少女はヘッドホンを着けてはいるが聞こえていたようで振り返り

 

「うん、おはよう、あと天才ゲーマーは辞めて、親に内緒なんだから」

 

そう、少女の名前は八神 天音。その手の界隈ではそれなりに有名な人物である。そんな天音は溜息をつきながら言う

 

「それにしても相変わらず元気だね、私は寒くてそれどころじゃないけど」

 

「いやいやー私も寒いんだよ?でも今日は昼までだからねぇ」

 

「終業式だもね」

 

「いよいよ冬休みだもん!」

 

「そうだね、退屈な日々になるよ」

 

天音達は学校に行き、終業式を終え帰路に着く。天音は帰りにゲームセンターに寄っていた。彼女は制服からフード付きのパーカーに着替えて、フードを深くかぶった。彼女は世界でも有名なゲーマーだハンドルネームはY

 

「クソ、Yと当たるなんてな運が無さすぎる!」

 

青年は悪態をつきながら必死に抵抗するが

 

「……よし勝った」

 

健闘虚しく天音の前に敗れ去る、しばらく格ゲーの対戦でひたすら遊んで時間だけが過ぎていく

 

「(あー、やっぱりつまらないなぁ……お父さんが言っていた世界があるなら行ってみたいなぁ)」

 

天音は心底そう思った、今という現実がつまらないと、友達や親に恵まれているが、それ以上に刺激が無い。生きていく上では、適度の刺激が欲しいものだが、今の生活には刺激のしの文字も無い、平和な日常は彼女にとったら日常(ノルマ)こなして

 

「はぁ……まぁお父さんの言う世界は、お伽話なんだろうなぁ」

 

天音は大きくため息をついて、鞄を持ち、寒い道を歩く、頬に冷たいものが落ちてくる

 

「うわ……雪が降ってきた、急いで帰ろ」

 

天音は足速に家に帰る、息は白く染まり、体は芯まで冷える、彼女は、そんな雪に少し嬉しそうに走る、坂上にある自宅に着く

 

「ただいまー」

 

「おかえりなさい。ココア入れているから、飲んだら着替えなさい」

 

自宅に着くと母が出迎えてそう言う

 

「ココア!?ありがとう!いただきまーす」

 

天音は無邪気の子供のように喜んで飲む

 

「ふー、冬休みだねぇ……暇だなぁ」

 

「何か言った?」

 

「何もないよお母さん、はいこれ通知表だよ」

 

通知表は殆どが5で美術だけが4である

 

「やっぱりお父さんの子だね賢いわ」

 

母は上機嫌でいう、天音は苦笑いをしながら

 

「じゃあ私部屋に行くね、ご飯の時にまた呼んで」

 

「わかったーよー」

 

そう言い、階段を上がり自室に入る。

ベットに寝転がり、iP〇oneを見る時間は15:45だった。外はさっきより雪の勢いを増している

 

「明日はどうしようかなぁ……」

 

ふと机の上を見ると封筒が置かれていた、サイズ的に手紙だろうか?天音は手に取ると

 

『八神 天音殿へ』

 

と書かれていた。天音はその手紙を持ち母に問いかける

 

「ねぇーお母さん私宛に手紙来てたの?」

 

しかし、答えは予想外だった

 

「手紙?知らないわよ?」

 

それを聞くのと同時に心臓の音がが高鳴るのを感じた、あるはずのない手紙が自分の机にあり、母はそれを知らない、誰にも見られず気付かれずにこの手紙を置くだなんて、何処の愉快な人がしたのだろうか、考えるだけで心が踊る。

 

「密室投射……心が踊るじゃない」

 

口角を上げ嬉しそうに笑う。天音はパーカーを脱いで、もう一度制服を着る。そして、iP〇oneをポケットに入れる。予備のバッテリーは元からポケットに入れてる、iP〇oneにヘッドホンをつけて曲をかけ、1度目を瞑り、目を開け、手紙の封を切り、内容を見る

 

『悩み多し異才を持つ少年少女に告げる。その才能(ギフト)を試すことを望むのならば、己の家族を、友人を、財産を世界の全てを捨て、我らの“箱庭”に来られたし』

 

読み終えると同時に浮遊感が襲う。下を見ると、急転直下、上空4000メールほどの位置で投げ出されていたのだ。目の前に広がるは完全無欠の異世界だ

 

「はっ……ハハハハ、すごいすごい!こんなの初めてだよ!」

 

万感の思いを感じながら落下して行く

 

 

 

 



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YES! ウサギが呼びました!
箱庭に行くゲーマー


現在進行形、上空4000mから、天音を含めた3人と一匹は落下中である

 

「楽しいけど、このままじゃ……」

 

下に湖がある、天音は冷静に考えた

 

「(私は大丈夫だけど、ほかの3人と一匹が危ないよね?……なら助けるしか)」

 

天音は加速し、猫といる少女を抱き寄せ、もうひとりの、少女の腕をつかみ

、更に加速して、少年に向け光の鞭を飛ばし、引き寄せ着地する

 

「ふぅ……なんとかなった」

 

「「あの、放してくない?(くれませんか?)」」

 

猫を連れた少女と髪の長い少女が言う

 

「あっ……ごめん!うわ君もごめん解くの忘れてた」

 

少女達を放して少年につけた光の鞭も解く

 

「ああ、大丈夫だぜ、でもその前に」

 

「「「助けてくれてサンキュ(ありがとう)」」」

 

2人の少女と少年がお礼を言う、天音は頬を赤らめ

 

「き、気にしなくていいよ!当然の事をしただけだし」

 

「でも、信じられないわ!まさか、いきなり、空中に投げ出されるなんて」

 

「ああ全くだクソッタレ。あのままじゃ湖に落ちてびしょ濡れ一直線だ。石の中に呼び出される方がよっぽとマシだ」

 

「石の中に呼び出されては動けないでしょう?」

 

「俺は問題ない」

 

「そう。身勝手ね」

 

「三毛猫は大丈夫?」

 

『ニヤゃー(助けてくれてなけりゃ水に濡れてたで……)』

 

「それにしても此処……どこだろう?」

 

三毛猫を抱えた少女が言う。

 

「さあな。世界の果てっぽいものが見えたし、どこぞの大亀の背中じゃねぇか?」

 

此処は確かに天音達が知る世界ではなく異世界だ天音はヘッドホンを首にかける。ヘッドホンをつけた少年が顔を向ける

 

「まず間違いないだろうけど、一応確認しとくぞ。もしかしてお前達にも変な手紙が?」

 

「そうだけど、まずは"オマエ"って呼び方訂正して。ーーーーー私は久遠飛鳥よ。以後気を付けて。それでそこの猫を抱き抱えている貴女は?」

 

飛鳥は猫を抱えた少女に質問をする。

 

「……春日部耀。以下同文」

 

「そう。よろしく、春日部さん。さっき助けてくれた貴女は?」

 

耀が自己紹介を終えると次は天音の番だ

 

「私は八神天音よろしく。八神でも天音でもどっちでもいいよ」

 

手堅く、普通に自己紹介を済ませた

 

「分かった」

 

「分かった、よろしくね八神さん。最後に野蛮で狂暴そうなそこの貴方は?」

 

「見たまんま野蛮で狂暴な逆廻十六夜です。粗野で凶悪で快楽主義と三拍子そろった駄目人間なので用法と用量を守った上で適切な態度で接してくれ」

 

「取扱説明書をくれたら考えてあげるは十六夜君」

 

「面白い自己紹介だね。天音ですよろしく十六夜君」

 

「おう、よろしくな天音、後、今度作っとくから覚悟しとけ、お嬢様」

 

心からケラケラ笑う十六夜

 

傲慢そうに顔を背ける飛鳥

 

我間せず無関心を装う耀

 

やりとりで楽しそうに笑う天音

 

メンバーは個性が豊かな人々だ

 

「で、呼び出されたのはいいけどなんで誰も居ねぇんだよ。この状況だと、招待状に書かれていた箱庭とかいうものの説明する人間が現れるもんじゃねぇのか?」

 

「そうね。なんの説明も無いままでは動きようがないもの」

 

「………。この状況に対して落ち着き過ぎているのもどうかと思うけど」

 

「全くだよ、でも慌てても仕方ないだろうしね」

 

「仕方ねぇなぁ。取りあえず、そこに隠れている奴に話を聞くか?」

 

十六夜の言葉に反応して振り返る。

 

「なんだ、貴方も気づいていたの?」

 

飛鳥も気づいていたようだ

 

「当然。かくれんぼじゃ、負けなしだぜ。天音と春日部も気づいてんだろ」

 

「風上に立たれたら嫌でもわかる」

 

「まぁ、出るタイミングを伺っているまではわかってたけど、殺気だったら出てこられないんじゃ……」

 

軽薄そうに笑う十六夜の目は笑ってない。天音を除く3名は理不尽な招集を受けた腹いせに殺気を込めた冷ややかな視線を気配の方にむける

 

「や、やだなぁ皆々様。そんな狼みたいな顔で睨まれると黒ウサギは死んでしまいます? ええ、ええ、古来より孤独と狼はウサギの天敵にございます。そんな黒ウサギの脆弱な心臓に免じてここは一つ穏便に御話を聞いていただけたら嬉しいでございますヨ?」

 

現れたのは、ミニスカートにガーダーソックスを履き、うさ耳を生やした15~16歳位の少女だった。だが3人の反応は

 

「断る」

 

「却下」

 

「お断りします」

 

「あっは、取り付く島もないですね♪」

 

バンザーイと降参のポーズをとるが、その目は冷静に4人を品定めしているようにも見える

 

「まぁまぁ、話くらいは聞こうよ。ここがどういう場所で、私達がなぜ呼ばれたのかも気になるしね。黒ウサギさん説明お願いできる?今の私達の状況も知りたいし」

 

「おお!……問題児様方の中にも常識と良心のある方がいらしたのですね!」

 

「うんうんよしよし。苦労するだろうけど、説明頑張ろうか」

 

3人とは違い天音は黒ウサギを支援した、そしてそんな天音に感動し涙を流す黒ウサギの頭を撫でて優しくそう言う。黒ウサギは天音の優しさに更に感動していた。

 

「それじゃあ気を取り直して説明お願い、黒ウサギさん」

 

「はい!任せてください! 張り切っていっちゃいますよ!」

 

 黒ウサギは両手を胸の前でぐっと握り、やる気に満ちた顔で天音にそう言った。こほんと咳払いをし、天音達に両手を広げて笑顔でこう言った。

 

「ようこそ、『箱庭の世界』へ! 我々は御四人様にギフトを与えられた者達だけが参加できる『ギフトゲーム』への参加資格をプレゼントさせていただこうかなと召喚いたしました!」

 

「「「「ギフトゲーム?」」」」

 

「そうです! 既に気づいていらっしゃるでしょうが、御四人様は皆、普通の人間ではございません! その特異な力は様々な修羅神仏から、悪魔から、精霊から、星から与えられた恩恵でございます。『ギフトゲーム』はその恩恵を用いて競いあう為のゲーム。そしてこの箱庭の世界は強大な力を持つギフト所持者がオモシロオカシク生活出来る為に造られたステージなのでございますよ!」

 

両手を広げて箱庭をアピールする黒ウサギ。天音達は興味深そうに話を聞く、神や悪魔や精霊や星といった物まで出てくるスケール、興味がわかないわけがない。

 

「まず、初歩的な質問からしていい? 貴方の言う我々とは貴方を含めただれかなの?」

 

「YES! 異世界から呼び出されたギフト所持者は箱庭で生活するにあたって、数多とあるコミュニティに必ず属していただきます」

 

「嫌だね」

 

「属していただきます! そして『ギフトゲーム』の勝者はゲームの主権者が提示した賞品をゲットできるというとってもシンプルな構造となっております」

 

「……主権者(ホスト)ってなに?」

 

「様々ですね。暇を持て余した修羅神仏が人を試すための試練と称して開催されるゲームもあれば、コミュニティの力を誇示するために独自開催するグループもございます。

特徴として、前者は自由参加が多いですが主権者ホストが修羅神仏なだけあって凶悪かつ難解なものが多く、命の危険もあるでしょう。しかし、見返りは大きいです。主権者次第ですが、新たな恩恵を手にすることも夢ではありません。後者は参加のためにチップを用意する必要があります。参加者が敗退すればすべて主権者のコミュニティに寄贈されるシステムです」

 

「後者は結構俗物ね……チップには何を?」

 

「それも様々ですね。金品・土地・利権・名誉・人間……そしてギフトを賭けあうことも可能です。新たな才能を他人から奪えばより高度なギフトゲームに挑む事も可能でしょう。ただし、ギフトを賭けた戦いに負ければ当然――ご自身の才能も失われるのであしからず」

 

「そう。なら最後にもう一つ。ゲームそのものはどうやって始めるの?」

 

「コミュニティ同士のゲームを除けば、期日内に登録すればOK!商店街でも商店が小規模のゲームを行っているのでよかったら参加してください」

 

「……つまりギフトゲームとはこの世界の法そのもの、と考えてもいいのかしら?」

 

お? と驚く黒ウサギ。天音も飛鳥と同じ疑問を思い浮かべていた

 

「ふふん? 中々鋭いですね。しかしそれは八割正解二割間違いです。我々の世界でも強盗や窃盗は禁止ですし、金品による物々交換も存在します。ギフトを用いた犯罪などもってのほか! そんな不逞の輩は悉く処罰します。しかし!先ほどそちらの方がおっしゃった様に、ギフトゲームの本質は勝者が得をするもの!例えば店頭に置かれている商品も、店側が提示したゲームをクリアすればただで入手することも可能だと言うことですね」

 

「そう。中々野蛮ね」

 

「ごもっとも。しかし"主催者"全て自己責任でゲームを開催しております。つまり奪われるのが嫌な腰抜けは初めからゲームに参加しなければいいだけの話でございます」

 

黒ウサギは一通りの説明を終えたと思ったのか、一枚の封書を取り出した。

 

「さて皆さんの召喚を依頼した黒ウサギには、箱庭の世界における全ての質問に答える義務がございます。が、それら全てを語るには少々お時間がかかるでしょう。新たな同士候補である皆さんを何時までも野外に出しておくのは忍びない。ここから先は我らのコミュニティでお話させていただきたいのですが……よろしいですか?」

 

黒ウサギが天音達に確認を取るように聞いて来る。そんな中、十六夜が手を挙げた

 

「待てよ。まだ俺が質問してないぜ?」

 

その声は威圧的でいつもの軽薄な笑顔が無かった。

 

「……どういった質問でしょう?ルールですか?それともゲームそのものですか?」

 

「そんなのは"どうでもいい"。腹の底からどうでもいいぜ、黒ウサギ。ここでお前に向かってルールを問いただしたところで何かが変わるわけじゃねえんだ。世界のルールを変えようとするのは革命家の仕事であって、プレイヤーの仕事じゃない。俺が聞きたいのは……たった一つ、手紙に書いていたことだ」

 

十六夜が目を細めて、天音達三人を見まわし、天幕に覆われた都市を見上げる。そして、何もかも見下すような視線で一言尋ねる

 

「この世界は……"面白いか?"」

 

『家族を、友人を、財産を、世界の全てを捨てて箱庭に来い』

 

手紙にはそう書いてあった

十六夜の質問に黒ウサギはニッコリ笑いながら宣言する。

 

「YES。『ギフトゲーム』は人を超えたものたちだけが参加できる神魔の遊戯。箱庭の世界は外界より格段に面白いと、黒ウサギは保証いたします♪」

 

説明を聞いて楽しそうだと思ったがそれより天音が先に疑問に思ったのは黒ウサギの反応だ、十六夜がコミュニティに入らないと言っただけでのあの必死の形相・・・何かしらの大きな理由があるのかもしれない。

だがギフトゲームの話と箱庭の話が

話に聞いた世界だと分かり、天音は心を踊らせる。




次回は少し空くかもです



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神を試す少年と少女

本当に次から開きます!

考査とか受験でですがw


「ジン坊ちゃ―ん!新しい方を連れてきましたよ―!」

 

黒ウサギが元気一杯に手を振りながら一人の少年に近づく。見た感じ小学校5年から中学校1年くらいだろうダボダボのローブに跳ねた髪の毛が特徴的の少年だ

 

「お帰り、黒ウサギ。そちらの2人が?

 

「はい、こちらの御四人様が――」

 

ジン言った人数と黒ウサギの言った人数が会ってない。黒ウサギが確認する

 

「……え、あれ?もう御二人いませんでしたっけ?ちょっと目つきが悪くて、全身から"俺問題児!ってオーラを放っている殿方と良心のあったあの人は?」

 

「ああ、十六夜君と八神さんのこと?彼らなら『ちょっと世界の果てを見てくるぜ!』と言って駆け出して行ったわ。あっちの方に」

 

あっちの方に。と指さすのは上空4000mから見えた断崖絶壁。

飛鳥の言葉に黒ウサギがウサ耳を逆立てる。

 

「な、なんで止めてくれなかったんですか!」

 

「『止めてくれるなよ』と言われたからよ」

 

「なら、どうして黒ウサギに教えてくれなかったのですか!?」

 

「『黒ウサギには言わないで』と言われたから」

 

「嘘です!絶対嘘です!実は面倒くさかっただけでしょう御2人さん!」

 

「「うん」」

 

打ち合わせをしたかのような息の合い具合がいい。黒ウサギは前のめりに倒れ、ジンはというと顔面蒼白になって叫ぶ。

 

「大変です!世界の果てにはギフトゲームのために野放しになっている幻獣が!」

 

「幻獣?」

 

 

「は、はい。世界の果てには強力なギフトを持った幻獣がいます。出くわしたら最後、人間じゃ太刀打ちできません!」

 

「あら、なら彼らはもうゲームオーバー?」

 

「ゲーム参加前にゲームオーバー?……斬新?」

 

「冗談を言ってる場合じゃありません!」

 

ジンは必死に事の重大さを訴えるが、二人は肩をすくめるだけだ。黒ウサギはため息を吐きつつ立ち上がった。心無しか怒っているように見える

 

「…ジン坊ちゃん。申し訳ありませんが、御2人様のご案内をお願いしてもよろしいでしょうか?」

 

「わかった。黒ウサギどうする?」

 

「問題児を捕まえに参ります。ついでに――――"箱庭の貴族"と謳われるこの黒ウサギを馬鹿にしたこと、骨の髄まで後悔させてやります!」

 

その瞬間、黒ウサギの青い髪が桜色に染め上げ、外門の柱に水平に張り付くと

 

「一刻程で戻ります!皆さんはゆっくり箱庭ライフを御堪能ございませ」

 

淡い緋色の髪を戦慄かせ踏みしめた門柱に亀裂を入れる。全力で跳躍した黒ウサギは弾丸のように飛びさり、あっという間に3人の視界から消え去った

 

ーーーーーーーーーーーー

 

天音と十六夜は森の中を走っていた。

常人のそれより否、人間にとっては有り得ないほどの圧倒的なスピードで二人は走る。

 

「ヤハハハハ、結構早く走れるんだなぁ天音!」

 

「そっちこそ!私と同じスピードで走る人なんて初めてだよ、でも全力じゃないんでしょ?」

 

「やっぱわかるか。まぁもっと速く走ることはできるぜ、そういう天音もそうだろう?」

 

「勿論!行けるよ!」

 

と喋りながら走っていると滝が見えてきた

 

「ふーん、良い景色じゃねぇか」

 

「世界の果てはまた絶景だねぇ」

 

二人はその景色を見ながら感嘆の声を漏らす、森に囲まれた湖とそこに落ちている滝が幻想的な風景を作り出していた。その景色を眺めているそれほどに見応えのある景色だった

 

「ここに人間が来るのは何年ぶりだぁ、さぁ人間共よ試練を選べ!」

 

巨大な蛇が湖から出てきた。通常、このようなことが起こればたいていの人は腰を抜かしてしまうだろう。しかし、その蛇の前にいるのは常識が一切通用しない問題児と同じく常識の通用しない少女。驚くことなく

 

「そうかじゃあ俺を試せるか、試させろ!」

 

「あっ……出遅れた」

 

十六夜が蹴り抜いた、その巨躯は十六夜の蹴りにより飛ばされる

 

「はぁ、十六夜手を出すのが早いよ!私も試したかったのに」

 

「ヤハハ、こういうのは早い者勝ちだろ?」

 

「それはそうだけど」

 

「この辺のはず……」

 

声の方向に向くと、髪の色が桜色に変色した黒ウサギが立っていた

 

「黒ウサギ?髪の色が違うように見えるけけど」

 

「あれ、おまえ黒ウサギか?どうしたんだその髪の色」

 

「もう!一体どこまで来ているんですか!」

 

「世界の果てですよー」

 

「世界の果てまで来ているんですよ、っと。まぁそんなに怒るなよ黒ウサギ」

 

十六夜は小憎らしい笑顔を向ける。

天音はむぅーっと膨れてる。黒ウサギの心配は杞憂に終わったようだ、違うところは半刻前は濡れていないが、現在は濡れている事だ

 

「しかし、いい脚だな。遊んでいたとはいえ短時間で俺達に追いつけるとは思わなかった」

 

「ほんとにすごいよねぇ」

 

「む、当然です!私は箱庭の貴族と謳われる優秀な貴種です黒ウサギ……え?」

 

黒ウサギは首を傾げる。

 

「(黒ウサギが半刻以上もの時間追いつけなかった!?)」

 

ウサギは箱庭の世界、創始者の眷属である。その力は生半可な修羅神仏では手は出せない程だ。その黒ウサギに気づかれることなく姿を消し、半刻程追いつかせなかった人物が目の前にいる。

 

「まあ、ともかく!十六夜さんたちが無事でよかったデス。水神のゲームに挑んだと聞いたのでキモを冷やしましたよ」

 

「「水神?ーーーーーーああ、あれのこと?」」

 

え?と硬直する黒ウサギ。天音と十六夜が指さしたのは川面にうっすらと浮かぶ白くて長いモノだ、黒ウサギが理解するよりも早く

 

「まだだ…まだ試練は終わってないぞ小僧ォ!!」

 

天音達が指さしたそれは、身の丈30尺強はある巨躯の大蛇。黒ウサギはひと目でわかった

 

「蛇神……!って何をどうしたらこんなにも怒らせられるのですか!?」

 

「なんか偉そうに『試練を選べ』とか上から目線で素敵なことを言ったからよ、俺を試せるかどうか試したんだ。まぁ結果は残念なやつだったが」

 

『貴様ら……!付け上がるなよ人間風情が!我がこの程度のことで倒れるものか!!』

 

蛇神の甲高い方向がひびきわたる、牙と瞳を光らせる。巻き上がる風が水柱を上げ立ち昇る。周りはねじ切れた木々が散乱している。あの水流に巻き込まれたら、人間の体は考える間もなく千切れる飛ぶだろう

 

「十六夜さん!天音さん!さがって!」

 

黒ウサギは二人を庇おうとするが、十六夜の視線が鋭くそれを阻む

 

「何言ってやがる。下がるのはテメェだ黒ウサギ。これは、俺の喧嘩だ、手を出したら潰すぞ」

 

本気の殺意を込めた声音だった、天音は

 

「ううん、違うよ十六夜」

 

「はぁ?何言ってんだ」

 

十六夜の"俺の喧嘩"だというのを否定した天音、天音そのまま言葉を続ける

 

「これは、私達の喧嘩だよ!」

 

天音が言ったのは、十六夜だけではなく、自分もその喧嘩に入っているという宣言だ

 

「はっ!おもしれぇじゃねぇか天音!」

 

『心意気は買ってやる。それに免じ、この一撃を凌げば貴様達の勝利を認めてやる!』

 

「寝言は寝てから言えよ。決闘は勝者を決めて終わるんじゃねぇ、敗者を決めて終わるんだよ!」

 

その傲慢なセリフに黒ウサギも蛇神も呆れて閉口した、天音だけが心底楽しそうに笑みを浮かべる、その笑は獰猛なのかもしれない

 

『フンーーーーその戯言が貴様ら貴様の最後だ!』

 

蛇神は雄叫びに応えて嵐のように川の水が巻き上がり、竜巻のように渦を巻いた水柱は蛇神の丈より遥かに高く巻き上がり、何百トンのも水を吸い上げる。竜巻は3本唸りをあげ生物のように迫る、その力は時には生態系を崩す力を振るう"神格"のギフトを持つものだ。

 

「十六夜さん!天音さん!」

 

黒ウサギが叫ぶがもう遅い。竜巻く水柱は川辺をえぐり、木々をねじ切り、十六夜達を呑み込む……

 

「ハッ!しゃらくせえ!!」

 

十六夜は激流の中腕を振るうい、嵐を薙ぎ払う

 

「嘘!?」

 

『馬鹿な!?』

 

驚愕する二つの声それは最早人智を越えてた超越した力である……しかし、十六夜の近くにいた天音の姿が無いの黒ウサギが気づく、遅れて放心していた蛇神も気づく

 

「まぁ、なかなかにすごかった……よ!」

 

足に集約した雷がとてつもなく轟き、大地を踏み砕く爆音と共に蛇神の胸元を蹴りあげる、雷は蛇神を撃ち抜き蛇神は空中に打ち上げられ、川に落下する、衝撃で川が氾濫し、水で森が浸水する。さらに濡れる天音と十六夜。黒ウサギはそれを見てその雷が

 

「あれは!神雷!?しかも……あの方と酷似しています……十六夜さんもそうですが、天音さんも何者なのですか……」

 

その時黒ウサギは思い出す。彼らを召喚するギフトを与えた"主催者"の言葉を『彼らは間違いなく、人類最高クラスのギフト保持者よ、黒ウサギ』

 

 

 

 




感想お気に入り楽しみにしてます!


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新たな目標

そろそろ開く開く詐欺と言われそう……

気分で書いているので不定期です!


黒ウサギは内心の興奮を抑えきれずにいた、彼らを召喚するギフトを与えた人の言葉はリップサービスか何かだと思っていた、信用できる相手だったが、眉唾の言葉だと思っていたのに。

 

「(信じられない……だけど、もしも本当に人類最高クラスのギフトを所持しているのなら……コミュニティ再建も夢物語じゃない!)」

 

「どうしたのさ?そんなにボーッとして……耳引っ張るよ?」

 

「おい、何ぼーっとしてんだ、胸とか脚とか揉むぞ?」

 

「え、きゃあ!」

 

感動も束の間、背後に移動した二人に襲われそうになっていた、黒ウサギはそれを押し退け飛び退く

 

「な、ば、おば、貴方方はお馬鹿ですか!?二百年守ってきた黒ウサギの貞操に傷をつけると!?」

 

「二百年守ってきた貞操?うわ、ちょう傷つけたい」

 

「耳もアウトなんだ……」

 

黒ウサギの貞操を狙った賊は星の数ほどいるが、身に擦り合うほどの距離で反応できなかった相手は居なかった

 

「ま、今はいいや」

 

「それもそうだね」

 

「さ、作用ですか」

 

天音は若干残念そうに言う、黒ウサギはヤハハと笑う期待の新星は天敵かもしれないと一瞬遠い目をするのであった。

 

「と、所で、十六夜さん、天音さん、その蛇神様はどうされます?と言うか生きてます?」

 

「さぁ?生きてるかどうかは天音に聞いてくれよ」

 

「殺していはないよ。戦うのは楽しかったけど、殺したら面白くないじゃん。"世界の果て"の滝を見に来ただけで殺しの目的なんて無いし、見たら箱庭に戻るよ」

 

「なら、ギフトだけでも戴いておきましょう。ゲーム内容はどうであれ、勝者は十六夜さん達です。蛇神様も文句はないでしょう」

 

「あん?」

 

「神仏とのギフトゲームは基本的に3つから選ぶんですよ。"力"と"知恵"と"勇気"ですね、力比べなら相応の相手が用意されるのですが、十六夜さん達は御本人を倒されましたからきっとすごいのが戴けますよー」

 

黒ウサギが小躍りでもしそうなありどりで大蛇に近寄る

 

「待って黒ウサギ」

 

それを天音が静止する、十六夜は黒ウサギの前に立つ不機嫌そうな顔だ

 

「な、なんですか、天音さん十六夜さん。十六夜さんは怖い顔されてますが何か気に障りましたか?」

 

「……別に。お前のいうことは正しいぜ。勝者が敗者から得るのはギフトゲームとしては間違いは無く真っ当なんだろうよ。だから不服はねぇーーーーーけど黒ウサギ、オマエ、なにか決定的なこと隠してるよな?」

 

「なんのことです?箱庭の話ならお答えすると約束しましたし、ゲームの事も……」

 

「だけど、私達を呼び出す必要があったことは言わなかったよね?どうして私たちを呼ぶ必要性があったの?」

 

表情を表に出さなかったが、黒ウサギの同様は激しかった。天音の質問は黒ウサギが隠していたものだからだ

 

「それは……言った通りです。天音さん達にオモシロオカシク過ごしてもらおうと」

 

「ああ、そうだな。俺もはじめは純粋な好意か、もしくは与り知れない誰かの遊び心で呼び出されたんだと思ってた。俺は大絶賛"暇"の大安売りしていたわけだし、天音やほかの二人も異論が上がらなかったってことは、箱庭に来るだけの理由があったんだろうよ。だからお前の事情は気にならなかった、だけどな、俺には必死に見える」

 

「十六夜がコミュニティに属さないって言った時の黒ウサギが必死だった、もしかして黒ウサギのコミュニティは弱小コミュニティか、何らかの影響で衰退したコミュニティなんじゃないの?だから私たちを呼んで強化を測った、十六夜がコミュニティに入るのを拒んだ時の黒ウサギの必死さに納得出来る。でしょ?十六夜」

 

「ああ、それで合点がいく訳だ、100点満点だろ?」

 

「っ………!」

 

黒ウサギは内心痛烈に舌打ちした。この時点でそれを知られるのはあまりにも致命的だ。苦労の末に呼んだ挑戦力、手放すことだけは絶対に避けたかった。

 

「んで、この事実を隠していた事だから、俺達にはまだほかのコミュニティを選ぶ権利があると言う判断が出来る」

 

「………」

 

「沈黙は是だよ?黒ウサギ、この状況で黙ってたら、悪化するだけ。じゃないとほかのコミュニティに行く可能性だってある」

 

「いえ、待ってください!!」

 

「待ってるから包み隠さず話せ」

 

十六夜と天音は川辺にある岩に腰をかけ話を聞く体制になる。しかし黒ウサギにとっては現在のコミュニティの状態を話すのはリスクが高すぎる。

 

「(せめて気づかれたのが、加入承諾とってからなら……)」

 

加入受諾後なら、そう簡単に脱退は出来ない。なし崩しのコミュニティの再建を手伝ってもらうつもりが、くじ運が悪かった、相手は世界屈指の問題児集団なのだから。

 

「………話せば、協力して頂けますか?」

 

「ああ。面白けばな」

 

「………」

 

ケラケラと笑う十六夜、黙って聞く天音、二人とも目が真剣だ、黒ウサギはようやく自分の目が曇っていたことを気づく、黒ウサギの話を聞くだけの二人の少女とは違い、軽薄そうな少年と、好奇心のある少女の瞳は"箱庭の世界"を見定めることに真剣だったのだと

 

「………分かりました。それではこの黒ウサギもお腹を括り、オモシロオカシク、我々のコミュニティの現状を語りましょうじゃないですか」

 

咳払いをして語り出す

 

「私達のコミュニティには名乗るべき"名"がありません。よって呼ばれる時はその他大勢の"ノーネーム"と言う蔑称で称されます」

 

 

「その他大勢……名無しねぇ……」

 

「その他大勢扱いかよ。それで?」

 

「次に私達にはコミュニティの誇りである旗印もありません。この旗印というのはコミュニティのテリトリーを示す大事な役目もになってます」

 

「国旗なようなもの?」

 

「そう言う解釈で構いません」

 

「ふぅん?それで?」

 

「"名" と "旗印" に続いてトドメに中核の仲間達は一人も残ってません。ギフトゲームに参加できるだけのギフトを持っているのは123人中、黒ウサギとジン坊ちゃんだけで、あとは10歳以下の子供ばかりなのですよ」

 

「崩壊寸前一歩手前だね!」

 

「ホントに崖っぷちだな!」

 

「ホントデスネー♪」

 

天音と十六夜の言葉に笑う黒ウサギだが、ガクリと膝をついて項垂れる。口に出すと、自分達のコミュニティが末期なのだと再確認させられる

 

「で、どうしてそうなったんだ?黒ウサギのコミュニティは託児所でもやっているのか?」

 

「いえ、彼らの親も全て奪われたのです。箱庭最大の天災ーーー"魔王"によって」

 

「「ま、………魔王!?」」

 

適当に相槌を打っていた二人が初めて声を上げる

 

「魔王!なんだよそれ、魔王って超越かっこいいじゃねぇか!」

 

「うん!箱庭にはそんな面白そうで素敵なネーミングで呼ばれる者もいるの!?」

 

「え、ええまあ。けど十六夜さんたちが思い描いている魔王とは差異があるかと」

 

「けど魔王なんて名乗るんだから強大で凶悪で、全力で多々潰しても誰からも咎められないような素敵にゲスい奴なんだろ?」

 

「ま、まぁ多方面から感謝されると思いますが、倒せば条件次第では隷属も可能です」

 

「「へぇ?」」

 

「魔王には "主催者権限"とい箱庭における特権階級を持つ修羅神仏で、彼らにギフトゲームに挑まれたら最後、誰も断ることは出来ません。私達は"主催者権限"を持つ魔王のゲームに強制的に参加させられ、コミュニティは……コミュニティとして活動していくために必要なすべてを奪われました」

 

比喩にあらず、黒ウサギ達のコミュニティは地位、名誉、仲間も、全て奪われた。残されたものは空き地だらけとなった廃墟と多くの子供たちだ。十六夜は同情する様子もなく、岩の上で足を組み直し、天音は何か考えているように見える

 

「けど名前も旗印も無いと、領土が主張出来ない、新しく作ったらダメなの?」

 

「か、可能ですが、改名はコミュニティの完全解散を意味します。しかしそれはダメなのです!私達は何よりも……仲間達が帰ってくる居場所を守りたいのです!」

 

「………」

 

仲間の帰る居場所を守りたい。それは初めて黒ウサギが口にした本心だった。"魔王"とのゲームによって居なくなった仲間たちの帰る場所を守るため、彼女たちは周囲に蔑まれても、コミュニティを守る誓を立てたのだ。

 

「そして、いつの日か魔王から名と旗印を取り戻しコミュニティの再建を果たしたいのです!そのためには十六夜さん達の様な強いプレイヤーに頼るほかありません!お願いします!私達に力を貸してください!」

 

深く頭を下げ懇願する黒ウサギ

 

「(ここで断られたら………私達はコミュニティはもう……)」

 

黒ウサギは唇を強く噛み後悔する。初めから話せばよかったと。

 

「いいな、それ」

 

「………は?」

 

「HA?じゃねぇよ、強力すると言ったんだ。もっと喜べ黒ウサギ。天音はどうするんだ?」

 

「どうするも何も、私は元からそのつもりだったけど。それに目的が出来たくらいかな、魔王から名前と旗印を取り戻す」

 

「ああ、協力する理由には上等な部類だ精々期待してろよ黒ウサギ」

 

「名も旗印も取り戻すから」

 

黒ウサギはその答えに、嬉しくて感極まり髪の色が桜色に変わり言う

 

「ありがとう、ございます!」

 

その表情は満面の笑みであった

 

 




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白き夜の魔王

日が暮れた頃に噴水広場で合流し、話を聞いた黒ウサギはウサ耳を逆立てて怒っていた。話によるとフォレス・ガロのリーダー接触して喧嘩を売ってしまったらしい。現在は黒ウサギが質問と説教の大嵐を起こしているそして

 

「「「ムシャクシャしてやった。反省してます」」」

 

「黙らっしゃい!!!」

 

誰が言い出したのか、まるで口裏合わせていたのかのような言い訳に激怒する黒ウサギ。

 

「別にいいじゃねえか。見境がなく選んで喧嘩を売ったわけじゃないんだから許してやれよ」

 

「十六夜さんは面白ければいいと思っているかも知れませんが、このギフトゲームで得られるものは自己満足だけなんですよ?この"契約書類"を見てください」

 

"契約書類"とは"主催者権限"を持っていない者たちが"主催者"となってギフトゲームを開催するのに必要なギフトである。そこにゲーム内容、チップ、賞品が書かれていて"主催者"のコミュニティのリーダーが署名することで成立する。

天音は持ってきたiP〇oneの様子を確かめていた、動くが電波が届いておらず、音楽や思い出の写真を見るだけの端末となってしまってた

 

「(………まぁ、ここでの思い出を記録できるかな)」

 

そんな事を、端末を見ながら、考える。そんな中話は進んでいく

 

「はぁ、仕方がありませんね。まぁ、いいです。 フォレス・ガロ相手なら十六夜さんと天音さんがいれば楽勝でしょう」

 

「何言ってんだ。俺は参加しねえよ」

 

「あら、分かってるじゃない」

 

「え?どういう事?」

 

「だ、駄目ですよ!御三人はコミュニティの仲間なんですからちゃんと協力しないと」

 

「そういうことじゃねぇよ黒ウサギ」

 

十六夜が黒ウサギを制す

 

「これはなこいつらが"売って"ヤツらが"買った喧嘩"だなのに俺と天音が手を出すのは無粋だぜ?」

 

 

「あら、分かってるじゃない」

 

「なるほど……飛鳥、耀、頑張ってね」

 

「うん、頑張る」

 

「ありがとう、八神さん必ず勝つわ」

 

「……。ああもう、好きにしてください」

 

振り回され続けて疲弊したのか肩を落した。椅子から腰を上げた黒ウサギは、横に置いてあった水樹の苗を抱き上げる、これは蛇神とのギフトゲームで得た戦利品だコホンと咳払いをした黒ウサギは気を取り直し、全員に切り出した

 

「そろそろ行きましょうか。本当は皆さんを歓迎するために素敵なお店を予約して色々とセッティングしていたのですけれど、不慮の事故続きで、今日は流れとなってしまいました。また後日……」

 

「いいわよ、無理しなくて。私達のコミュニティって崖っぷちなんでしょう?」

 

驚いた黒ウサギはジンの方を見た。彼の申し訳なさそうな表情を見てすべてを悟った。ウサ耳まで赤くした黒ウサギは恥ずかしそうに甘た間を下げた。

 

「も、申し訳ございません。皆さんを騙すのは気が引けたんですが……黒ウサギ達も必死だったのです」

 

「もういいわ。私は組織の水準なんてどうでもよかったもの。春日部さんは?」

 

「私も怒ってない。そもそもコミュニティがどうの、というのはどうでも……あ、けど」

 

「どうぞ、気兼ねなく聞いて下さい。僕らに出来ることなら最低限は用意します」

 

「そんな大それたものじゃないよ。ただ私は……毎日3食お風呂付きの寝床があれば、と思っただけだから」

 

ジンの表情が固まる。この箱庭で水を買うか数kmも離れた大河から汲んでくるしかない。その苦労を察したのか耀が取り消そうとしたが、その前に天音が言う

 

「ジン君だっけ?水なら、私と十六夜が蛇神から水樹を貰ってきたけど」

 

「はい!天音さんと十六夜さんがこんな大きな水樹を手に入れてくれまそたので、これで水を買う必要がなくなりますし、水路を復活させることもできます!」

 

一転して明るい表情になる。これには飛鳥も安心したような顔を浮かべた

 

「じゃあ、今日はコミュニティに帰る?」

 

「あ、ジン坊ちゃんは先にお帰り下さい。ギフトゲームが明日なら

"サウザンドアイズ"にギフト鑑定をお願いしないと。水樹のこともありますし」

 

「"サウンドアイズ"?コミニティの名前か?」

 

「YES。サウザンドアイズは特殊"瞳のギフトを持つ者達の群体コミュニティで、箱庭の東西南北・上層下層の全てに精通する超巨大商業コミュニティです。幸いこの近くに支店がありますし」

 

「ギフト鑑定というのは?」

 

「勿論、ギフトの秘めた力や起源などを鑑定することデス。自分の力の正しい形を把握していた方が、引き出せる力はより大きくなります。皆さんも自分の力の出処は気になるでしょう?」

 

同意を求める黒ウサギだが、4人は複雑な表情で返す、いや天音はヘッドホンを耳にかけている。思う事はそれぞれあるのだろう。だが拒否の声は上がらず、5人はサウンドアイズに向かう

 

サウンドアイズに向かってる最中町の様子を眺める。日が暮れて月と街灯ランプに照らされている並木道には桜の木があり飛鳥は不思議そうに眺め呟く。

 

「桜の木……ではないわよね?花弁の形が違うし、真夏になっても

咲き続けるはずがないもの」

 

「いや、まだ初夏になったばかりだぞ。気合いの入った桜が残っていてもおかしくないだろ」

 

「……?今は秋だったと思うけど」

 

「サンタさんが来る季節だから冬だと思うけど」

 

ん?っと噛み合わない会話をする四人は顔を見合わせ首を傾げる。黒ウサギが笑って説明しようとすると

 

「多分、私達は異なる時間異なる世界から来たんじゃないかな?だから季節観が違うし」

 

「なるほど、だから季節がちがうのかーってヘッドホンしてるのに聞こえるのか?」

 

「まだ曲かけてない……」

 

「うぅ~、セリフを取られました。はい、その通りです。天音さんが言う通り皆さんは、別の時間軸から呼ばれました。元いた時間軸で歴史や文化、生態系など所々、違いがあるはずですよ」

 

落ち込みながらも黒ウサギは説明する

 

「パラレルワールドか?」

 

「正しくは立体交差並行世界論というものですけど、説明はまたの機会に」

 

黒ウサギの説明が終わると"サウザンドアイズ"の支店に到着、今まさに店の店員が暖簾を下げるところだった。

 

「まっ」

 

「待ったなしですお客様。うちは時間外営業はやっていません」

 

「なんて、商売っ気のない店なのかしら」

 

「全くです!閉店時間の五分前に客を締め出すなんて!」

 

「文句があるなら他所の店へどうぞ。あなた方は今後一切出入りを禁じます。出禁です」

 

「出禁!?これだけで出禁とか御客様舐めすぎでございますよ!?」

 

キャーキャーと騒ぐ黒ウサギ。天音はその様子を見てため息をついていた

 

「(日を改めてというやつかな……閉店なら仕方ないよね)」

 

そんな事を考えていると

 

「いぃぃぃぃぃやほおぉぉぉ!久しぶりだ黒ウサギィィィィィ!」

 

着物を着た真っ白の髪の幼女が黒ウサギにボディーアタックして転がりながら、街道の浅い水路に着水

 

「おい、店長。この店にはドッキリサービスがあるのか?俺も別バージョンで是非」

 

「ありません」

 

「なんなら有料でも」

 

「やりません」

 

十六夜の表情は真剣そのもの、店長の目も冷静。黒ウサギに飛びついた(強襲した)白髪幼女は黒ウサギの胸に顔を埋めてなすり付けてる。

 

「し、白夜叉様!?どうしてこんな下層に!?」

 

「黒ウサギが来る予感がしたからに決まっとるだろうに!フフ、フホホフホホ!やっぱり黒ウサギは触り心地が違うの!ほれ、ここが良いかここが良いか!」

 

「ち、ちょっと、離れてください!」

 

白夜叉を無理やり引きはがし、頭を掴み投げ飛ばす、投げ飛ばした先に十六夜がおり、白夜叉を足で受け止めた。

 

「てい」

 

「ゴバァ!お、おんし、飛んできた美少女を足で受け止めるとは何様だ!」

 

「十六夜様だぜ。以後よろしくな和装ロリ」

 

ヤハハと笑い自己紹介をする十六夜。一連の流れを呆気に取られていた飛鳥は、思い出したように白夜叉に話しかけた

 

「貴女はこの店の人?」

 

「おお、そうだとも。この"サウザンドアイズ"の幹部様で白夜叉様だよご令嬢。仕事の依頼ならおんしの年齢の割に発育がいい胸をワンタッチ生揉みで引き受けるぞ」

 

「オーナー。それでは売り上げが伸びません。ボスが怒りますよ」

 

どこまでも冷静な声で女性店員が釘を刺す。

 

「まあいい。話があるなら店内で聞こう」

 

「よろしいのですか?彼らは旗も持たない"ノーネーム"のはず。規定では」

 

「"ノーネーム"だと分かっていながら名を尋ねる、性悪店員に対する詫びだ。身元は私が保証するし、ボスに睨まれても私が責任取る。いいから入れ」

 

む、っと拗ねるような顔をする彼女からすればルールを守っただけであるからだ。そして黒ウサギ一行は和風の中庭を進み、縁側で足を止める。障子を開けて招かれた場所はお香の様なものが焚かれており、風と共に5人の花をくすぐる。

 

「改めて、私は、四桁の門、三三四五外門に本拠を構える"サウザンドアイズ"の幹部白夜叉だ。黒ウサギとは少々縁があってな。コミュニティが崩壊してからもちょくちょく手を貸してやっている器の大きな美少女と認識しておいてくれ」

 

「はいはい、お世話になっております本当に」

 

投げやりに受け流す黒ウサギ。その隣で耀が小首を傾げて問う

 

「その外門って何?」

 

「箱庭の階層を示す外壁にある門ですよ。数字が若いほど都市の中心に近く、同時に強力な力を持つ者達が住んでいるのです」

 

此処、箱庭の都市は上層から下層まで七つの支配層に分かれており、それに伴ってそれぞれを区切る門には数字が与えられている。外壁から数えて七桁の外門、六桁外門、と内側に行くほど数字は若くなり、同時に強大な力を持つ。四桁の外門ともなれば、名のある修羅神仏が割拠する完全な人外魔境だ。黒ウサギが描いた図を見た4人は

 

「……玉ねぎかしら?」

 

「いえ、超巨大バームクーヘンでは無いかしら」

 

「そうだな。何方かと言えばバームクーヘンだな」

 

「バームクーヘンにしか見えない」

 

うん、と頷き合う4人。身も蓋もない感想にガクリと肩を落とす

 

「ふふ、うまいこと例える。その例えなら今いる七桁の外門はバームクーヘンの一番皮の薄い部分にあたるな。更に説明するなら、東西南北の四つの区切りの東側にあたり、外門のすぐ外は"世界の果て"と向かい合う場所になる。あそこはコミュニティに属してはいないものの、強力なギフトを持ったもの達が住んでおるぞーーーその水樹の持ち主などな」

 

白夜叉が指すのは滝の蛇神であろう。

 

「して、いったい誰が、どのようなゲームで勝ったのだ?知恵比べか?勇気を試したのか?」

 

「いえいえ。この水樹は天音さんと十六夜さんがここに来る前に蛇神様を素手で叩きのめしましたのですよ」

 

自慢げに黒ウサギが言うと、白夜叉は声を上げて驚いた。

 

「なんと!?クリアではなく直接的に倒したとな!?ではその二人は神格の持ち主か?」

 

「十六夜さんはそうは思いませんが、天音さんは神雷らしきものを使用していたのですが、神格かどうかはわかりかねます」

 

「ところで、白夜叉。あんたの口振りからしてその蛇と知り合いみたいだが、どうなんだ?」

 

「知ってるもなにも、あれに神格を与えたのは私だぞ。もう何百年にもなる話だがの」

 

小さな胸を張り、豪快に笑う白夜叉。だがそれを聞いた十六夜は物騒に瞳を光らせて問いただす

 

「へぇ?じゃあお前はあの蛇より強いわけだな」

 

「当然だ。私は東側の"階層支配者"だぞ。この東側の四桁以下では並ぶものはいない、最強の主催者だ。」

 

"最強の主催者"ーーーーーーその言葉に、天音以外の3人は一斉に目を輝かせる。

 

「そう………。ではつまり、貴女のゲームをクリア出来れば、私達のコミュニティは東側で最強のコミュニティという事になるのかしら?」

 

「無論、そうなるのかのう」

 

「そりゃ景気のいい話だ。探す手間が省けた」

 

「………3人とも止めておいた方がいいよ」

 

ただ天音だけは、真剣な表情で現状を過ごしている、その声は真剣そのもので冷たく、警告に近く、そこには好奇心旺盛姿は無い。その目は輝いておらず、現実を見ている。

 

十六夜達は闘争心むき出しで立ち上がり白夜叉を見る

 

「抜け目が無い童たちだ。依頼しておきながら私にギフトゲームを挑むと?」

 

「え?ちょ、ちょっと御三人様!?」

 

「よいよ黒ウサギ。私も遊び相手に飢えている」

 

「ノリが良いわね。そう言うの好きよ」

 

「ふふそうか。しかしゲームの前に確認しておくことがある」

 

白夜叉は着物の裾から"サウザンドアイズ"の旗印の紋が入ったカードを取り出だし、壮絶な笑みで言う

 

「おんしらが望むのは"挑戦"かもしくは、"決闘"か?」

 

その瞬間、白夜叉の部屋が崩壊し別のところに投げ出させる。投げ出されたのは白い雪原と凍る湖畔そして水平に太陽が廻る世界。

 

「今一度名乗り直し、問うかのう

私は"白き夜の魔王"―――太陽と白夜の星霊白夜叉。 おんしらが望むのは試練への"挑戦"か?それとも対等な"決闘"か?」

 

 

 

 

 

 

 




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PS邪ンヌが来ないよ……


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自身の恩恵

今回はとても長いです。めっちゃ疲れた


「なるほどね、水平に廻る太陽……"白夜" と "夜叉" あの水平廻る太陽やこの土地は、貴女を象徴とするもので……東側最強は伊達ではないみたいだね」

 

「如何にも。この白夜の湖畔と雪原。永遠に世界を薄明に照らす太陽こそ、私がもつゲーム盤の一つだ」

 

「これだけの莫大な土地が、ただのゲーム盤!?」

 

「如何にも。して、おんしらの返答は?"挑戦"であるなら、手慰み程度に遊んでやる。ーーーだがしかし"決闘"を望むなら話は別だ。魔王として、命と誇りをかけて戦おうではないか」

 

もし決闘を挑めば命はない、それほどに実力の差は一目瞭然であるが、十六夜達は自分達がが売った喧嘩を、このような形で取り下げるにはプライドが邪魔をしていた

 

「私は、試練をお願いするよ」

 

「ほう?そういえばおんしだけは私に挑もうとはしなかったな?理由を聞いても良いか?」

 

白夜叉が不敵に天音に問いを投げる

 

「少しでも勝ち目があるのなら、挑んでたかもしれないけど……挑んでも勝ち目なんてこれっぽっちもないと感で感じたから」

 

「ほう、直感で勝ち目が無いと悟るか、いや、それほどの直感は侮れんな……」

 

「参った。降参だ、白夜叉」

 

「ふむ?それは決闘ではなく試練を受けるということかの?」

 

「ああ、これだけのゲーム盤を用意できるんだからな。アンタにはその資格がある。ーーーーいいぜ。"試されてやるよ"魔王様」

 

苦笑と共に吐き捨てるような物言いをした十六夜を、白夜叉は堪え切れず高らかに笑い飛ばした。プライドが高い十六夜にしては最大の譲歩なのだろうが『試されてやる』とはかわいい意地の張り方だといって白夜叉は笑う。

 

「く、くく・・・・・して、他の童達も同じか?」

 

「・・・・ええ、私も試されてあげてもいいわ」

 

「右に同じく」

 

「も、もう!お互い相手を選んで下さい!天音さんは違いますが"階層支配者"に喧嘩を売る新人と、新人に売られた喧嘩を買う"階層支配者"なんて、冗談にしても寒すぎます!それに白夜叉様が魔王だったのはもう何千年も前のことじゃないですか!!」

 

「何?じゃあ元・魔王様ってことか?」

 

「はてさてどうだったかな?」

 

ケラケラと悪戯ぽく笑う白夜叉。ガクリと肩を落とす黒ウサギと4人。その時、山脈の遠くから甲高い声が聞こえた。いち早くその声に耀は反応した。

 

「何、今の鳴き声。初めて聞いた」

 

「ふむ、あやつか。おんしら三人にはうってつけかもしれんの」

 

「グリフォン!?嘘っ・・・本物!?」

 

「如何にも。あやつこそ鳥の王にして獣の王 "力" "知恵" "勇気" の全てを備えた、ギフトゲームを代表する獣だ」

 

白夜叉がグリフォンを手招きするとグリフォンは白夜叉に近づき深く頭を下げた。

 

「され、肝心の試練だがの。おんしら3人とこのグリフォンで"力" "知恵" "勇気"

のいずれかを比べ合い、背にまたがって、湖畔を舞う事ができればクリア、という事にしよう」

 

『ギフトゲーム名:"鷲獅子の手綱"

 プレイヤー一覧 逆廻 十六夜

         久遠 飛鳥

         春日部 耀

・クリア条件 グリフォンの背に跨り、湖畔を舞う。

・クリア方法 "力" "知恵" "勇気" の何れかでグリフォンに認められる。

・敗北条件 降参か、プレイヤーが上記の勝利条件を満たせなくなった場合。

 

 宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、

ギフトゲームを開催します。

       "サウザンドアイズ"印』

 

「私がやる」

 

読み終えると、ピシ!と指先まで綺麗に挙手したのは耀だった。

 

『お、お嬢・・・・大丈夫か?なんや獅子の旦那より遥かに怖そうやしデカイけど』

 

「自信があるようだがこれは結構な難物だぞ?失敗すれば大怪我ではすまんが」

 

「大丈夫、問題ない」

 

耀の目は真っ直ぐにグリフォンを見ている。その目は探し続けた宝物が目の前にあるような子供の目である

 

「OK。先手は譲ってやる。失敗するなよ」

 

「気を付けてね、春日部さん」

 

「楽しんで頑張って来て」

 

「うん。頑張る」

 

呆れたように苦笑いを浮かべ十六夜と飛鳥と天音は耀を応援する。

 

鷲と獅子。猛禽類の王と肉食獣の王。数多の動物と心を通わせた彼女だが、それはあくまで地球上に生息している相手に限った話 "世界の果て"で黒ウサギ達が出会ったユニコーンや大蛇など生態系を逸脱した、幻獣と呼び称されるものと相対するのは、これが初めてなのだ、慎重に声をかけた

 

「えっと初めまして、春日部耀です」

 

『!?』

 

ビクンッ!!とグリフォンの四肢がはねた。その瞳からは警戒心が薄れた

 

「ほう……あの娘、グリフォンと言葉を交わすか」

 

「私と誇りを賭けて勝負しませんか?」

 

『・・・・何・・・・!?』

 

グリフォンの声と瞳に闘志が宿る。

 

「貴方が飛んできたあの山脈。あそこを白夜の地平から時計回りに大きく迂回し、この湖畔を終着点と定めます。

その間に背に乗った私を振るい落せば貴方の勝ち、落とせなければ私の勝ち……どうかな?」

 

耀は小首をかしげる。確かにその条件なら力と勇気の双方を試すことが出来る。だがグリフォンは如何わしげに大きく鼻を鳴らして尊大に問い返す

 

『娘よ。お前は私に"誇りをかけろ"と持ちかけた。確かに娘一人振るい落せないならば私の名誉は失墜するだろう。だが娘よ誇りの対価としてお前は何を賭す?』

 

「命を賭けます」

 

即答だった。余りに突飛な返答に黒ウサギと飛鳥から驚きの声が上がった

 

「だ、駄目です!」

 

「か、春日部さん!?本気なの!?」

 

「貴方は誇りを賭ける。私は命を賭ける。もし、転落して生きていても私は貴方の晩御飯になります。それじゃ駄目かな?」

 

『………ふむ』

 

耀の提案に黒ウサギと飛鳥はますます慌てる。それを白夜叉と十六夜が制す

 

「双方、下がらんか。これはあの娘から切り出した試練だぞ」

 

「ああ。無粋なことはやめとけ」

 

「黒ウサギ、飛鳥、白けること言わないで」

 

「そういう問題ではございません!同士にこんな分の悪いゲームをさせるわけにはーーー」

 

「大丈夫だよ」

 

春日部が振り返り向きながら飛鳥と黒ウサギに頷く。その瞳には何の気負いも無い。勝算ありと言う表情だ。グリフォンはしばし考える仕草の後、頭を下げて背中に乗るように促した

 

『乗るがいい、若き勇者よ。鷲獅子の疾走に耐えれるか、その身で試して見せよ』

 

耀は、グリフォンに跨り手綱を握っていた。

 

「始める前に一言だけ・・・私、貴方の背中に跨るのが夢の一つだったんだ」

 

『ーーーそうか』

 

「決闘前なのに、楽しそう……」

 

グリフォンは決闘前に何を口走ってるのやらと苦笑する。前傾姿勢を取り、大地を踏み抜くように薄明の空に飛び出した。大地から離れて数十M。グリフォンの持つ鷹の翼は大きく広げたまま固定されている。驚いたことに、グリフォンの翼は推進力にして飛んでいるのではなく、踏みしめているのだ

 

「凄い………!貴方は空を踏みしめて走ってる……!!」

 

『娘よ。もうすぐ山脈に差し掛かるが……本当に良いのか?この速度で向かえば』

 

そう、その速度で向かえば、氷点下の風がさらに冷たくなり、体感温度はマイナス数十度、グリフォンは速度を少し緩め、疾風の如く翔るグリフォン、白夜の地であるこの地は総じて気温が低い。衝撃と温度差、人間が耐えれるものでは無い。春日部は微かの笑顔と挑発で返す

 

「大丈夫。それよりもこのままじゃ、私が勝つよ?貴方こそ本気で来ないと」

 

『……よかろう。後悔するなよ娘!』

 

次の刹那、大気が揺らいだ。今度は翼を用いて旋風を操る。遥か彼方にあったはずの山頂が瞬く間に近づく。頂から急降下する際、グリフォンの速力は倍に近しいものに迫る。グリフォンは必死に振り落とそうと旋回を繰り返す。地平ギリギリまで急降下して大地と水平になるように振り回す。それが山場だった。山脈からの冷風も途絶え、残るは純粋な距離のみ、湖畔の中心まで疾走したグリフォン。耀の勝利が決定したその瞬間ーーーーーー耀の手から手網が外れた。

 

『何!?』

 

「春日部さん!?」

 

安堵の声を漏らす暇も、賞賛をかける暇もない。耀は慣性にのまま落ちていく。助けに行こうとした黒ウサギを十六夜が掴む。

 

「は、離し――」

 

「待て!まだ終わってない!」

 

焦る黒ウサギと止める十六夜、ふわっと、春日部耀の体が翻る。慣性を殺すような緩慢な動きはやがて落下速度を衰えさせ、遂には湖畔に触れることなく飛翔する

 

「「「「「………は?」」」」」

 

その場の全員が絶句する先程までそんな素振りを見せなかった、耀が湖畔の上で風を纏って浮いている。

 

「やっぱりな。お前のギフトって、他の生き物の特性を手に入れる類だったんだな」

 

軽薄な笑みに、むっとしたような声音で耀が返す。

 

「……違う。これは友達になった証。けど、いつから知ってたの?」

 

「ただの推測。お前、黒ウサギと出会った時に“風上に立たれたら分かる”とか言ってたろ。そんな芸当は人間にはできない。だから春日部のギフトは他種とコミュニケーションをとるわけじゃなく、他種のギフトを何らかの形で手に入れたんじゃないか……と推察したんだが、それだけじゃなさそうだな。あの速度で耐えられる生物は地球上にいないだろうし?」

 

『見事。お前が得たギフトは、私に勝利した証として使って欲しい』

 

「うん。大事にする」

 

「いやはや大したものだ。このゲームはおんしの勝利だの。……ところで、おんしの持つギフトだが。それは先天性か?」

 

「違う。父さんに貰った木彫りのおかげで話せるようになった」

 

「木彫り?」

 

『お嬢の親父さんは彫刻家やっとります。親父さんの作品でワシらとお嬢は話せるんや』

 

「ほほう………彫刻家の父か。よかったらその木彫りというのを見せてくれんか?」

 

頷いた耀は、ペンダントにしていた木彫りの細工を白夜叉に渡す。

白夜叉は渡された手の平大の木彫りを見つめて急に顔を顰める。天音、十六夜、飛鳥も隣から細工を覗き込んだ

 

「複雑な模様ね。何か意味があるの?」

 

「意味はあるけど知らない。昔教えてくれたけど」

 

「……これは」

 

白夜叉だけでなく、天音、十六夜、黒ウサギも鑑定に参加する。表と裏を何度も見直し、幾何学線を指でなぞる。

 

「材質は楠の神木……?神格は残っていないようですが……この中心を目指す幾何学線……そして中心に円状の空白……もしかしてお父様の知り合いには生物学者がおられるのでは?」

 

「うん。私の母さんがそうだった」

 

「生物学者という事は、系統樹を表しているのかな……どう思う白夜叉?」

 

「おそらくの……ならこの図形はこうで……この円形が収束するのは……いや、これは……これは、凄い!本当に凄いぞ娘!!本当に人造ならばおんしの父は神代の大天才だ! まさか人の手で独自の系統樹を完成させ、しかもギフトとして確立させてしまうとは!これは正真正銘"生命の目録"と称して過言ない名品だ!」

 

「系統樹って、生物の発祥と進化の系譜とかを示すアレ?でも母さんが作った系統樹の図は、もっと樹の形をしていたと思うけど」

 

「うむ、それはおんしの父が表現したいモノのセンスが成す業よ。この木彫りをわざわざ円形にしたのは生命の流転、輪廻を表現したもの。再生と滅び、輪廻を繰り返す生命の系譜が進化を遂げて進む円の中心、すなわち世界の中心を目指して進む様を表現している。中心が空白なのは、流転する世界の中心だからか、世界の完成が未だに視えぬからか、それともこの作品そのものが未完成の作品だからか。うぬぬ、凄い。凄いぞ。久しく想像力が刺激されとるぞ! 実にアーティスティックだ!おんしさえよければ私が買い取りたいぐらいだの!」

 

「ダメ」

 

耀はあっさり断って木彫り細工を取り上げる。白夜叉はお気に入りのおもちゃを取られた子供のようにしょんぼりとした

 

「で、これはどんな力を持ったギフトなんだ?」

 

「分からん。今わかるのじゃ異なる種族との会話と友になった種からの特有のギフトを貰えるというぐらいだ。これ以上詳しく知りたいのなら店の鑑定士に頼むしかない」

 

「え?白夜叉様でも鑑定できないのですか!?今日は鑑定をお願いしたかったのですけど」

 

「よ、よりにもよってギフト鑑定か。専門外どころか無関係もいい所だがの」

 

「(……耀のギフト "触れた種の特有のギフトを得る" のではなく"友になった種から特有のギフトを貰える" だったのか……いやーすごいギフトだなぁ)」

 

天音は楽しそうに、心底楽しそうに見ていた。白夜叉はゲームの賞品として依頼を無償で引き受けるつもりであった。

 

「どれどれ………ふむふむ……うむ、三人ともに素養が高いのは分かる。しかしこれではなんとも言えな。おんしらは自分のギフトの力をどの程度に把握している?」

 

「企業秘密」

 

「右に同じ」

 

「以下同文」

 

「ノーコメントで」

 

「うおおおお?いやまあ、仮にも対戦相手相手だったものにギフト教えるのが怖いのが、話が進まんじゃろ」

 

「(……分かるには分かるけど、イマイチ理解できていないようで、多少は理解出来ている)」

 

天音は自身のギフトについて考える。

不明瞭なところもある自身のギフトを

 

「ふむ、何にせよ"主催者"として星霊の端くれとして、グリフォンの試練を見事クリアしたおんし達に"恩恵"を与える。ちょいと贅沢な代物だが、コミュニティ復興の前祝いとしては丁度好かろう」

 

白夜叉が柏手を打つ。すると4人の眼前に光り輝く4枚のカードが現れる。カードにはそれぞれの名前と、体に宿るギフトを表すがしされていた。

 

コバルトブルーのカードに逆廻 十六夜・ギフトネーム"正体不明"

 

ワインレッドのカードに久遠 飛鳥・ギフトネーム"威光"

 

パープルエメラルドのカード

春日部 耀・ギフトネーム"生命の樹"

"ノーフォーマー"

 

ゴールド&ゲーテのカード

八神 天音・"大いなる天空の御子 "

"記されし神英の軌跡"

 

「ギフトカード!」

 

「お中元?」

 

「お歳暮?」

 

「お年玉?」

 

「贈り物の引換券?」

 

「ち、違います!というかなんで皆さんそんなに息が会っているのです!?このギフトカードは顕現しているギフトを収納できる超高価なカードですよ!耀さんの"生命の目録"だって収納可能で、それも好きな時に顕現できるのですよ!」

 

「つまり素敵アイテムってことでオッケーか?」

 

「だからなんで適当に聞き流すんですか!あーもうそうです、超素敵アイテムなんです!」

 

黒ウサギに叱られながら4人はそれぞれのカードを物珍しそうに見つめる。

 

「我らの双女神の紋のように、本来はコミュニティの名と旗印も記されるのだが、おんしらは"ノーネーム"だからの。少々味気ない絵になっているが、文句は黒ウサギに言ってくれ」

 

「ふぅん………もしかして水樹って奴も収納できるのか?」

 

何気なく十六夜は黒ウサギの持つ水樹にカードを向ける。すると水樹は光の粒子となってカードの中に呑み込まれた。見ると十六夜のカードは溢れるほどの水を生み出す樹の絵が差し込まれ、ギフト欄の"正体不明"の下に"水樹"の名前が並んでいる。

 

「おお?これ面白いな。もしかしてこのまま水を出せるのか?」

 

「だ、駄目です!水の無駄遣い反対!その水はコミュニティのために使ってください!」

 

チッ、とつまらなそうに舌打ちする十六夜。黒ウサギはまだ安心できないような顔でハラハラと十六夜を監視している。

 

「そのギフトカードは、正式名称を"ラプラスの紙片"即ち全知の一端だ。そこに刻まれるギフトネームとはおんしらの魂と繋がった"恩恵"の名称。鑑定はできずともそれを見れば大体のギフトの正体が分かるというもの」

 

「へえ?じゃあ俺のはレアケースなわけだ?」

 

ん?と白夜叉が十六夜のギフトカードを覗き込む。そこには確かに "正体不明"の文字が刻まれている。ヤハハと笑う十六夜とは対照的に白夜叉は表情は劇的だった。

 

「……いや、そんな馬鹿な」

 

白夜叉は驚き十六夜のギフトカードを取り上げる。その雰囲気は尋常じゃない。

 

「いいやありえん、全知である“ラプラスの紙片”がエラーを起こすはずなど」

 

「何にせよ、鑑定は出来なかったってことだろ。俺的にはこの方がありがたいさ」

 

十六夜がカードを取り上げる。だが、白夜叉は納得できないように怪訝な瞳で十六夜を睨む。白夜叉は"ラプラスの紙片"に問題があるという結論の方が納得出来た。

 

六人と1匹は暖簾の下げられた店前に移動し、耀達は一礼した。

 

「今日はありがとう。また遊んでくれると嬉しい」

 

「あら、駄目よ春日部さん。次に挑戦するときは対等の条件で挑むものだもの」

 

「ああ。吐いた唾を飲み込むなんて、格好付かねえからな。次は渾身の大舞台で挑むぜ」

 

「いつか、勝てるようになったら、改めて、挑ませてもらうよ」

 

「ふふ、よかろう。楽しみにしておけ。………ところで」

 

白夜叉は真剣な顔で黒ウサギ達を見る

 

「今さらだが、一つだけ聞かせてくれ。おんしらは自分達のコミュニティがどういう状況にあるか、

よく理解しているか?」

 

「ああ、名前と旗の話か?それなら聞いたぜ」

 

「なら、“魔王”と戦わねばならんことも?」

 

「聞いてるわよ」

 

「……では、おんしらは全てを承知の上で黒ウサギのコミュニティに加入するのだな?」

 

「そうよ。打倒魔王なんてカッコいいじゃない」

 

「"カッコいい"で済む話ではないのだがの………全く、若さゆえなのか。無謀というか、勇敢というか。まあ、魔王がどういうものかはコミュニティに帰ればわかるだろ。それでも魔王と戦う事を望むというなら止めんが………そこの娘二人。おんしらは確実に死ぬぞ」

 

予言するかのように断言する。二人は一瞬だけ言い返そうとしたが、魔王と同じく"主催者権限"を持つ白夜叉の助言は威圧感があった

 

「魔王の前に様々なギフトゲームに挑んで力を付けろ。小僧ともう一人の小娘はともかく、おんしら二人の力で魔王のゲーム4は生き残れん。嵐に巻き込まれた虫が無様に弄ばれて死ぬ様は、いつ見ても悲しいものだ」

 

「……ご忠告ありがとう。肝に銘じておくわ。次は貴女の本気のゲームに挑みに行くから、覚悟しておきなさい」

 

「ふふ、望むところだ私は三三四五外門に本拠を構えておる。いつでも遊びに来い。………ただし、黒ウサギをチップに賭けてもらうがの」

 

「嫌です!」

 

「つれない事を言うなよぅ。私のコミュニティに所属すれば生涯を遊んで暮らせると保証するぞ?三食首輪付きの個室も用意するし」

 

「三食首輪付きってソレもう明らかにペット扱いですから!」

 

「そう言えば、私あのギフトゲームに名前なかった……」

 

「そう言えばそうだったな」

 

ヤハハと笑う十六夜とため息をつく天音がそこの居た。




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ノーネーム

投稿し始めて1週間!


5人は半刻ほど歩いたあと、ノーネームの居住区画の門前についた、門を見上げると、旗が掲げてあった名残のような見える。

 

「この中が我々のコミュニティでございます。しかし本拠の館は入口からさらに歩かなければ無いので、御容赦下さい。まだこの近辺は戦いの名残がありますので」

 

「魔王との戦いの名残?」

 

「は、はい」

 

「丁度いいじゃねぇか。噂の魔王って素敵なネーミングセンスな奴との戦いの傷跡が見れるなんてな」

 

「箱庭最悪の天災が残した傷跡見せてもらおうかしら」

 

先程の一件があり、飛鳥は期限が悪かった。プライドが高い彼女にしてみれば、見下され他という事実が気に食わないのだろう。黒ウサギはためらいつつ門を開ける。門の向こうからは乾ききったかぜが吹き抜ける、砂塵から顔をかばう4人、視界には一面の廃墟が広がっていた。

 

「っ、これは……!?」

 

街並みの傷跡に息を呑む飛鳥と耀、目を細める十六夜と天音。十六夜は木造の廃墟に歩み寄り囲いの残骸を手にとる。少し握ると、木材は音を立て崩れ去る

 

「………おい、黒ウサギ。魔王とのギフトゲームがあったのは…… "何百年前の話だ?」

 

「わずか、3年前でございます」

 

「この街並みが、三年前?、心が震えるよ……これが三年前?どんな力がぶつかりあったら、こんなにも風化した街並みが三年前に出来るの!?」

 

そう、ノーネームのコミュニティはまるで何百年の月日を経て滅んだように崩れ去っていた。その風景は、とてもじゃないが三年前まで人が住み賑わっていたとは思えない有様だ

 

「……断言すぜ。どんな力がぶつかりあっても、こんな壊れ方はありえない。この木造なんて崩れ方なんて、膨大な時間をかけて自然崩壊したようにしか見えない」

 

十六夜はありえないと結論付けながらも、心地いい冷や汗を流す。飛鳥と耀も廃屋を見て複雑そうな感想を述べて

 

「ベランダのテーブルにティーセットがそのまま出ているわね。これじゃまるで、生活していた人間がふっと消えたみたいじゃない」

 

「……生き物の気配も全くない。整備されなくなった人家なのに獣がよって来ないなんて」

 

二人の感想は、十六夜の声より遥かに重い。

 

「……魔王とのゲームはそれほどの未知の戦いだったのございます。彼らがこの土地取り上げなかったのは、一種の見せしめでしょう。彼らは力を持つ人間が現れると遊び心でゲームを挑み、二度と逆らえないように屈服させます」

 

大掛かりなギフトゲームの時に、白夜叉見たくゲーム盤を用意するのはこれが理由だ。力のあるコミュニティと魔王が戦えば、その傷跡は醜く残る。魔王はあえて楽しんだのだ。黒ウサギは感情を殺した瞳で街を進む。飛鳥も、耀も、複雑な表情で続く、ただ十六夜は目を輝かせ、不敵につぶやく

 

「魔王ーーーか。ハッ、いいぜいいぜ。イイなおい。想像以上におもしろそうじゃねぇか……!」

 

天音も心地いい冷や汗を感じながら、つぶやく

 

「魔王……心が踊る」

 

ーーーーーーーーーーーー

 

ノーネーム・居住区画、水門前

 

五人と1匹は、廃墟を抜け、徐々に外観が整った空き家が立ち並ぶ場所に出る。5人はそのまま居住区を素通りして、水樹の苗を貯水池に設置するのを見に行く。貯水池には先客がいて、ジンとコミュニティの子供たちが清掃道具を持って水路を掃除していた。

 

「みなさん!水路と貯水池の準備は整ってます!」

 

「ご苦労様ですジン坊ちゃん♪皆も掃除を手伝ってくれましたか?」

 

ワイワイと騒ぐ子供たちが黒ウサギの周りに集まる

 

「黒ウサギのお姉ちゃんおかえり!」

 

「眠いけど、手伝ったよ!」

 

「ねぇねぇ、新しい人達って誰!?」

 

「強いの!?カッコイイ!?」

 

「YES!とても強くて可愛い人達ですよ!皆に紹介するから一列に並んで下さいね」

 

パチンと黒ウサギが指を鳴らす。すると子供達は一糸乱れぬ動きで横一列に並ぶ。

 

「(まじでガキばっかりだな。半分は人間以外のガキか?)」

 

「(実際に目の当たりにすると、想像以上に多いわね、これで六分の一なのよね)」

 

「(……。私、子供嫌いなのに大丈夫かなあ)」

 

「(皆元気良さそう! 楽しみだなぁ!)」

 

約1名内心とても楽しみにしている。

 

「右から、逆廻十六夜さん、八神天音さん、久遠飛鳥さん、春日部耀さんです。知っての通り、コミュニティ支える力のあるギフトプレイヤー達です。ギフトゲームに参加出来ない者達はギフトプレイヤーの私生活を支え、励まし、時に彼らのために身を粉にして尽くさねばなりません」

 

「え?別にもっと気楽にでも」

 

「駄目です。それでは組織が成り立ちません」

 

天音の申し出は黒ウサギのこれ以上ない厳しい声音で断じる。今日1日で一番真剣な表情と声だった

 

「ソウデスカ……」

 

天音は圧倒され残念そうに引き下がった。たった一人でコミュニティを支えて来たものだけがわかる厳しさは、自分たちが思い以上に遥かに重いものだうと天音は思った

 

「此処にいるのは子供達の年長組です。ゲームには出られないものの、見ての通り獣のギフトを持っている子もおりますから、何かの用事を言い付ける時はこの子供達を使ってくださいな。皆もそれでいいですね?」

 

「「「「「よろしくお願いします!」」」」」

 

キーン、と耳鳴りがするほどの大声で20人前後の子供たちが叫ぶ。

4人は音波攻撃のような感覚を受けた

 

「はは、元気がいいじゃねか」

 

「そ、そうね」

 

「(………。本当にやっていけるのかな、私)」

 

「皆元気がいいね……子供はそうじゃないと!」

 

ヤハハと笑う十六夜と天音、ほかの二人はなんとも言えない複雑な表情だ。その後、水樹を植え、貯水池に水を流した、貯水池はちょっとした湖位あった、水樹の前は龍の瞳と言うものがあったらしい。水樹を植えると大波のように勢いよく激流となり貯水池を埋めていった。そして屋敷につく頃には既に夜中になっていた。月明かりでシュルエットで浮き彫りになる本拠はまるでホテルのような巨大さである。その大きさに天音と耀は感嘆したように呟く

 

「大きなホテルみたい……大きのはわかってたけどここまでとは」

 

「うん、近づくと一層大きいね。何処に泊まればいい?」

 

「コミュニティの伝統では、ギフトゲームに参加できるものには序列を与え、上位から最上階に住むことになってますが、今は好きなところを使っていただいて結構でございますよ。移動も不便でしょうし」

 

「あそこの別館は使っていいの?」

 

飛鳥は屋敷の脇に建つ建物を指す。

 

「あれは子供達の館です。本来は別の用途があるのですが、警備の問題で皆此処に住んでいます。飛鳥さんが120人の子供と一緒のやかt」

 

「遠慮するわ」

 

飛鳥は即答する。苦手では無いが大人数を相手にするのは御免なのだろう。4人は箱庭やコミュニティの質問などはさて置き『今はとにかくお風呂に入りたい』という強い要望の下、黒ウサギは湯殿の準備を進める天音は面白そうという理由でついていき、しばらく使われてなかった大浴場を見て、黒ウサギと天音は青ざめた

 

「一時間だけ待って!すぐに手入れするから!」

 

「一刻ほどお待ちください!すぐに綺麗にしますから!」

 

と二人は叫んで掃除に取り掛かった、凄惨な姿の大浴場を使えるようにするため。1時間にも及ぶ大掃除は終結し

 

「湯殿の準備出来ました!女性様方からどうぞ!」

 

「ありがとう。先に入らせてもらうわよ、十六夜君」

 

「俺は二番風呂が好きだから特に問題ねぇよ」

 

ーーーーーーーーーーーー

 

女性四人はは大浴場で体を洗い流し、湯に使ってようやく人心地ついたように寛いでいた。大浴場の天井は箱庭の天幕と同じだ。黒ウサギは上を向き、長い1日を振り返るように両腕をあげて背伸びした。

 

「本当に長い1日1日でした。まさか新しい同士を呼ぶのにこんなにも大変とは、想像もしておりませんでしたから、あと、天音さん掃除お手伝いしていただいてありがとうございます」

 

「それは私達に対する当て付けかしら?」

 

「いいよいいよ、早く入りたかったし」

 

「滅相もございません!」

 

バシャバシャと湯に波を立て、慌てて否定する黒ウサギ。耀は隣でふやけたようにうっとりした顔で湯に浸かっている。

 

「このお湯……森林の中の匂いがして、すごく落ち着く」

 

「そうですねー。水樹から溢れた水をそのまま使っていますから、浄水ですらこのままのでも問題ありません」

 

天音は天井を見て、今日1日を振り返ってた、終業式に行き、ゲーセンに行き家に着いたら、不思議な手紙で異世界、そこで出会った、十六夜、飛鳥、耀、黒ウサギ。皆異なる世界からこの世界に来た、説明のあとは十六夜と世界の果てに行って、ギフトゲームをした……他にもあるが、人生でも色濃く残る1日であったのだろう

 

「ところでところで御三人様。こうして裸のお付き合いしているんですし、よかったら黒ウサギも御三人様のことを聞いていいですか?趣味や故郷など」

 

「あら、そんなもの聞いてどうするの?」

 

「それはもう、黒ウサギは御三人様に興味津々でございます」

 

嬉々とした笑顔で質問する黒ウサギ。それは裏も他意もない言葉だったが、二人は気が乗らなかった。そう言うのも手紙には『家族を、友人を、財産を、世界の全てを捨て、箱庭に来い』と書かれていたからだ、その捨ててきたものを顧みるような真似はなるべくしたくないと、天音は

 

「そうだね、私の趣味はゲームで故郷は四季折々でいいところだったよ」

 

「趣味はゲームだったんですか!どのようなゲームをなされていたんですか?」

 

天音は自分がやっていたゲームのジャンルを答える

 

「えーと、パズルゲームやRPG、格闘ゲームに音楽ゲーム、シューティングゲーム、トランプやホラーゲーム」

 

「ほとんどのジャンルのゲームをなされていたんですね……」

 

「そうだね、あとはゲームの世界大会とかも出たかな」

 

「そうなんだ、それでどうだったの?」

 

耀が興味ありげに聞く

 

「もちろん優勝だよ!ゲームの大会出ていて、お金も稼いでいたかな」

 

3人は面白そうに聞いていた。

 

「それで、私が呼び出される前は、冬休みに入ってクリスマス直前だったんだ、このくらいかな、私の話は、ほかの二人は?」

 

天音は話を切り上げ二人に振る

 

「そうね、これから一緒に生活する仲だもの。障りのない程度なら構わないわよ」

 

「私はあまり話したくないけど、質問はしたい。黒ウサギに興味ある。髪の色が桜色になるなんてカッコイイ」

 

「確かにカッコいいよね黒ウサギの髪」

 

「あやや、黒ウサギってカッコイイですか?」

 

「それなら、私も気になっていたところよ。ならお互い情報交換、ということでいいかしら」

 

娘4人はしばし、湯に浸かり歓談を続けるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 




次回!天音のギフトの一端が見れる "かも" 知れません!

お楽しみにください!


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対魔王宣言

飛鳥、耀、ジン、そして黒ウサギと十六夜と天音と三毛猫はフォレス・ガロのコミュニティの居住区を訪れる道中、六本傷の旗が掲げられたカフェテラスで声をかけられた。

 

「あー!昨日のお客さん!もしかして今から決闘ですか!?」

 

三毛猫がニャー、ニャーと言う、内容が伝わったのか、ウェイトレスの猫娘が飛鳥達に一礼する

 

「ボスからもエールをたのまれました!私達のコミュニティも連中の悪行にはアッタマ来てた頃です!二度と不義理な真似が出来ないようにしてやってください!」

 

ブンブンと両手を振り回しながら応援する鉤尻尾の猫娘

 

これは誤字ではないですが誰かしら返事を書かないと後のの台詞は不自然です→「おお!心強い御返事だ!」

 

満面の笑みで返す猫娘。だかしかし、声を潜めてヒソヒソと呟く。

 

「実はみなさんにお話があります。フォレス・ガロの連中、領地の舞台区画では無く、居住区画でゲームを行うらしいですよ」

 

「居住区画で、ですか?」

 

答えたのは黒ウサギ。初めて聞く言葉に飛鳥は尋ねる

 

「その舞台区画とは何かしら?」

 

「名前からして、ゲームを行う為の専用的な区画じゃないかな?」

 

「天音さんがおっしゃった通りです。各コミュニティが保有するギフトゲームを行うための土地のことです。白夜叉様の様に別次元にゲーム盤を用意出来る方々は極めて少数派なのでございます。しかも!傘下に置いているコミュニティや同士を全員ほっぽり出してですよ!」

 

「………それは確かにおかしな話ね」

 

「でしょ!?なんのゲームかはわかりませんが、とにかく気おつけてください!」

 

熱烈なエールを受け、一同はフォレス・ガロの居住区画へと歩を進める

 

「あ、皆さん!見えてきました……けど、」

 

黒ウサギは一瞬目を疑った。他のメンバーも同様だ。それは居住区がジャンルの様に豹変していたのだから。ツタの絡むもんより、鬱蒼と生い茂る木々を見て耀は呟く。

 

「虎の住むコミュニティだしな、おかしくはないだろ」

 

「ありえない話じゃないけど、少し様子が変じゃない?」

 

「おかしいです。フォレス・ガロのコミュニティの本拠は普通の居住区だったはず……それにこの木々まさか」

 

天音はその木々に手を伸ばしみる

 

「何これ……生物のように脈打ってる……」

 

「やっぱりーーーーーー鬼化してる?いや、まさか」

 

「ジン君。ここに契約書類が貼ってあるわよ」

 

『ギフトゲーム名:"ハンティング"

プレイヤー一覧:久遠 飛鳥

        春日部 耀

        ジン=ラッセル

・クリア条件 ホストの本拠地に潜むガルド=ガスパーの討伐。

・クリア方法 ホスト側が用意した特定の武具でのみ討伐可能。

      指定武具以外は"契約"によってガルド=ガスパーを傷つけることは不可能

・敗北条件 降参か、プレイヤーが上記の勝利条件を満たせなくなった場合。

・指定武具 ゲームテリトリーにて配置。

 

先生 上記を尊重し、誇りと御旗の下、“ノーネーム”はギフトゲームに参加します。

"フォレス・ガロ"印』

 

「ガルドの身をクリア条件に……指定武具で打倒!?」

 

「こ、これはまずいです!」

 

「このゲームはそんなに危険なの?」

 

「ゲーム自体は単純です。ですか、このルールに問題があります。これでは、飛鳥さんのギフトで操ることも耀さんのギフトで傷つける事も出来ない事になります……!」

 

「どういう事?」

 

飛鳥の疑問に天音が答える

 

「 "恩恵" では無く "契約" で身を守っているの。多分フォレス・ガロのリーダーさんは、自身の生命をクリア条件に入れることによって、飛鳥と耀の恩恵を克服したという事……」

 

「"恩恵" では無く "契約"で身を守ることは、神格ですら手が出せません!」

 

「すいません、僕の落ち度でした。初めに契約書類を作った時にルールをその場で決めておけばよかったのに……!」

 

ルールを決めるのが "主催者" である以上、白紙のゲーム受諾は自殺行為に等しいものだ。ギフトゲームに参加した経験が無いジンは、ルールが白紙のゲームに参加する愚かさがいかに恐ろしいか分かっていなかった。

 

「敵は命がけで出来レースを五分に持ち込んだのか……観客にしてみれば面白くていいけどな」

 

「気軽に言ってくれるわね……条件はかなり厳しいわよ。指定武具が何も書かれていないし、このまま戦えば厳しいかもしれない」

 

彼女が挑んだゲームに責任を感じているのだろう。厳しい表情で契約書類を覗き込んでいる。それに気づいた、耀と黒ウサギは手を握り、天音は側で励ます。

 

「だ、大丈夫ですよ!契約書類には『指定』武具としっかり書いてあります!つまり最低でも何らかのヒントが無ければなりません。もしヒントが提示されなければ、ルール違反でフォレス・ガロの敗北は決定です!この黒ウサギがいる限り、反則はさせませんよ!」

 

「大丈夫。黒ウサギもこういってるし、私も頑張る」

 

「絶対飛鳥達なら勝てるから、完膚なきまでに勝ってきて!」

 

「……ええ、そうね。むしろあの外道のプライドを粉砕するためには、これくらいのハンデが丁度いいかもしれないかもしれないわね」

 

愛嬌たっぷりに励ます黒ウサギ、やる気を見せる耀、檄を飛ばす天音。飛鳥も三人の檄で奮起する。これは売った喧嘩で買われた喧嘩、勝機があるのなら、諦めてはいけない。

 

その陰では

 

「この勝負に勝てないと俺の作戦は成り立たない。負ければ俺はコミュニティを去る。予定に変更はないぞ。いいな御チビ」

 

「………分かっています。絶対に負けません」

 

参加者三人は門を開けて突入した。

 

「行ったね……」

 

「そうだな」

 

二人は三人の背中を見送ってた、天音は耳に入ったことを聞く

 

「そう言えば、ジン君と何を話してたの?」

 

「ああ、男同士の話だぜ、まぁ面白くなるからこのギフトゲームが終わったらわかるから楽しみにしとけ、天音」

 

十六夜はヤハハと笑う、天音はクスクスと笑い

 

「じゃあその話、楽しみにしてるよ」

 

心底楽しみしている表情だ、誰の目にも見て取れるような笑顔だ。二人は雑談を交わしながら時間を潰す、だが二人にとっては、有意義な時間であった。互いの呼ばれる前の話など色々と知った。門前で待っていた黒ウサギ、十六夜、天音の元に

 

「ーーーーーー………GEEEEEYAAAAAAaaa!!!」

 

獣の咆哮が届く。森に忍び込んだ野鳥達は一斉に飛び立ち、一目散に逃げ出す

 

「今の凶暴な叫び声は……?」

 

「ああ、間違いない。虎にギフトを使った春日部だ」

 

「あ、なるほど。ってそんなわけないでしょ!?幾らなんでも今のは失礼でございます!」

 

ウサ耳を立てて怒り十六夜の頭めがけ黒ウサギはハリセンでツッコミを入れる

 

「じゃあジン君だね」

 

「ボケ倒すのも大概にしてください!!」

 

今度は天音にハリセンでツッコミを入れる。

 

「でも、今の咆哮といい、舞台といい、前評判より面白いゲームになってるじゃねえか。見に行ったらまずいのか?」

 

「事前に取り決めにない限りは駄目です。お金をとって観客を招くギフトゲームも存在しますが」

 

審判権限(ジャッジマスター)とそのお付きってことにすればダメなの?」

 

「駄目なのですよ。ウサギのステキ耳はここからでも大まかな状況がわかってしまいます。状況が把握出来ないような隔絶空間でもない限り、侵入は禁止です」

 

チッ、と舌打ちした十六夜は手の中で蠢く樹を縦に引き先ながら呟く。天音は大きくため息をして

 

「「………貴種のウサギさん、まじ使えない(使えねぇ)」」

 

「御二人さんせめて聞こえないように言って下さい!本気で凹みますから!」

 

状況がわかる黒ウサギは内心ハラハラする。だが中に入れない以上、天音と十六夜は状況を知ることが出来ない。ただ仲間の勝利を信じるだけだった。しばらく時間が経つと、何かが燃える煙が見えた、ゲームが終了したのはそれから間もなくであった。

 

ゲーム終了と共に木々は一斉に霧散した。樹によって支えられていた廃屋は倒壊していく音が聞こえて、黒ウサギ、十六夜、天音は一目散に走り出す。

 

「そんなに急ぐ必要はねぇだろ?」

 

「大ありです!黒ウサギの聞き間違いで無ければ耀さんはかなりの重症です……!」

 

「黒ウサギ!早くこっちに!耀さんが危険だ!」

 

風より早く走る3人は瞬く間にジン達の元に駆けつけた。廃屋に隠れていたジンは三人を呼び止める為に叫ぶ。黒ウサギは耀の容体を見て思わず息を飲んだ

 

「すぐにコミュニティの工房に運びます。あそこなら治療器がそろ……」

 

「いや……ここで治す!」

 

雰囲気の変わった天音はギフトカードを取り出し言う

 

「天音さんのギフトには治療系が無かったはずです!?いったい何で治すのですか!」

 

「まかせて、絶対に助けるから……日輪よ(カヴァーチャ)……」

 

ギフトカードが光り輝く、その光は、黄金で黒ウサギも知っている。その太陽の如き光は耀を包むように光が集まる

 

「……具足となれ(クンダーラ)!」

 

耀を神々しく染め上げ、黄金の鎧をまとわせる。

 

「まさか!スーリヤの恩恵の鎧を持ってるなんて!?でも名前が異なります!」

 

天音はふぅと息をつき

 

「黒ウサギ耀を居住区の部屋で寝かせてあげて今すぐ!」

 

「わ、わかりました!」

 

天音の凄みのある言葉で鎧をつけた耀を抱え黒ウサギは本拠に帰る

 

「やっぱり天音はおもしれえ、俺並みでよ、黒ウサギも"ノーネーム"の中じゃ明らかに別格だ」

 

十六夜の興味の対象は同郷の天音とコミュニティの黒ウサギだ

 

「黒ウサギのあれが、恋愛感情ならわかるが肝心のリーダーがこれじゃあな」

 

ジンの方を見ると頭を下げていた

 

「ジン君なんで頭を下げているの?」

 

「だって、僕は結局……何も出来ずじまいでした」

 

「だが、お前は勝っただろ?」

 

十六夜の言葉は皮肉でもなく、嘲りでもなく、賞賛でもないが、かと言って慰めでもない。不思議そうに顔を上げるジン、十六夜は続けて補足した

 

「お前達が勝った。なら、御チビにも何らかの要因があったんだろ。春日部が生き残ったのは御チビが適切な処置を施したからだ」

 

「は、はい」

 

「ならそれでいいじゃない。初めてのギフトゲームはどうだったの?楽しめた?」

 

「いえ……」

 

苦い顔で首を振る。勝利を飾ったが、ジンにとってデビュー戦は危機の連続ばかりで華やかさとは程遠い。内容は幼いのもあるだろうがそれを差し引いて自身の無力さを痛感している

 

「昨夜の作戦……僕を担ぎ上げて、やっていけるでしょうか?」

 

「他にも方法はないと思うけどな。御チビが嫌だとおっしゃるのなら、止めすデスヨ?」

 

ジンは首を振り

 

「いえ、やっぱりやります。僕の名前を全面に出す方法なら、みなさんの被害を軽減できるかも知れません、僕でも風避けにはなれるかもしれない」

 

「……まだ作戦は知らなけど、頑張ってねジン君」

 

天音はジンを応援する、十六夜は本当に面白いところに来たと哄笑を必死に噛み殺していた。そしてフォレス・ガロに奪われていた、旗を持ち主に返還し、十六夜が言う

 

「知ってるだろうが、俺達のコミュニティは"ノーネーム"だ。魔王に奪われた名と旗印、それらを自らの手で奪い返すために今後も魔王とその傘下と戦う事はあるだろう。しかし、組織として周囲に認められないと、コミュニティは存続出来ない。だから覚えておいてほしい。俺達は、 "ジン=ラッセル の率いるノーネーム" だと。そして名と旗印を取り戻すその日まで、彼を応援してほしい」

 

「(随分と饒舌だこと)」

 

途中で合流した飛鳥が笑いを噛み殺す。天音も同様だ、普段の彼を知っているのならこの演説はムズ痒いものだ。ジンは複雑な表情でたっていたが天音に背中をたかれハッとする。

 

「ジン=ラッセルです。今日から聞くことも多くなると思いますが、よろしくお願いします」

 

衆人から歓声が上がる。激励の言葉を贈られた彼らの作戦は、一先ず成功を果たしたのだ

 

「(本当に、面白い事になりそう)」

 

天音はこれからのことを楽しみにしてるといった表情だった

 

 




後半急ぎすぎておかしくなってますがご了承ください!


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実力試し

その後、本拠に戻った十六夜、飛鳥、天音、ジンは耀の容体を確認するため、耀の部屋に行く。見舞いのあと談話室のソファーで寛いでいた十六夜は

 

「春日部の傷は完治で休めば元気になるか……流石不死の英雄が身にまとっていた鎧だな」

 

「はい、それを出したのが、天音さんです。傷が完治したのを見届け鎧をまた収納しました。あと天音さんのアドバイスで増血を施しました」

 

『耀は出血が激しかったから、輸血か増血しないと行けないじゃないかな?』

 

とアドバイスをして天音はソファーで座りながら音楽を聞き目を瞑っていた。小さく寝息を立てているようにも思える

 

「輸血となると専用のコミュニティに依頼しなければなりません」

 

「金がかからない方法があるならそっちでいいだろ。それで、例のゲームはどうなった?」

 

十六夜と黒ウサギは本拠の三階にある談話室で、仲間が景品に出されるゲームのことを話をしていた、天音は目を瞑っていながらも耳に内容を挟んでいる。申請から戻った黒ウサギは十六夜にその事を問われると、一転して泣きそうになる

 

「ゲームが延期?」

 

「はい………申請に行った先で知りました。このまま中止の線もあるそうです」

 

黒ウサギは口惜しそうに顔を歪め落ち込んでいる。十六夜は肩透かしを食らったようにソファーに寝そべった。

 

「なんてつまらない事をしてくれるんだ。白夜叉に言ってもどうにかならないのか?」

 

「どうにもならないでしょう。どうやら巨額の買い手がついてしまったそうです」

 

十六夜の表情は目に見えて、不快感を露にする。1度はゲームの商品として出したものを、金を積まれたっという理由で取り下げるのはホストとしていい事ではない。十六夜は盛大に舌打ちをした

 

「チッ。所詮は売買組織かってことかよ。サウザンドアイズは巨大なコミュニティじゃなかったのか?プライドは無いのかよ」

 

「仕方ないですよ。サウザンドアイズは群体のコミュニティです。白夜叉様のような直轄の幹部が半数、傘下のコミュニティが半数です。今回の主催はサウザンドアイズの傘下のコミュニティ "ペルセウス" 。双女神の看板に傷が付くことも気にならないほどのお金やギフトを得ることが出来れば、ゲームの撤回ぐらいやるでしょう」

 

達観したような物言いの黒ウサギだが、悔しさで言えば、十六夜の何倍も感じているはず、だが冷静で入れたのは、箱庭においてギフトゲームは絶対の法律だからだ。勝利者は得ることが出来、敗者は奪われ、所有されてしまう。その仲間を集めるのは容易じゃない。

 

「……?」

 

天音は窓の方に気配を感じ、目をゆっくり開く、その目は眠たそうが、すぐに目を擦り、ヘッドホンを外しゆっくり窓の方に向かう

 

「気づかれたか」

 

「君は?」

 

「私はレティシア=ドラクレア……今は人に所有されるみだが、ノーネームのメンバーだったものだ」

 

その見た目は美人で、プラチナブロンドの様だ、天音は見たことのないような美人を目の前に、可愛いといい抱きしめたくなったが、グッと堪え、錠を開けてレティシアを招き入れる

 

「私の名前は八神天音。新しいノーネームの一員です。よろしく、レティシア」

 

「うむ、黒ウサギは今いているか?」

 

「すぐそこに居るよ」

 

一方黒ウサギは

 

「それはもう! スーパープラチナブロンドの超美人さんです。指を通すと絹糸見たいに肌触りが良くて、湯浴みの時に濡れた髪はが星の光でキラキラするのです。加えて思慮深く、黒ウサギより先輩でとても可愛がってくれました。

近くにいるのなら、せめて1度お話したかったのですけど………」

 

レティシアについて熱く語っていた。天音は黒ウサギに

 

「黒ウサギ、それってレティシアのことでしょ?」

 

それを聞いた黒ウサギは

 

「なぜそのお方のお名前を!?」

 

黒ウサギが天音の方を見る、そこには黒ウサギの先輩のレティシア=ドラクレアが居た

 

「だって、今招き入れたし、言ってた特徴と一致したから」

 

「嬉しいことを言ってくれるじゃないか黒ウサギ」

 

驚いた黒ウサギは急いでレティシアに駆け寄る

 

「レ、レティシア様!?」

 

「様はよせ。今の私は他人に所有される身分だ。 "箱庭の貴族" ともあろうのが、モノに敬意を払っていては笑われるぞ」

 

「こんな場所からの入室で済まない。ジンに見つからずに黒ウサギと会いたかったんだ」

 

「そ、そうでしたか。あ、すぐにお茶を淹れるので少々お待ち下さい!」

 

久しぶりに会えた仲間と会えたことが嬉しいかったのか、黒ウサギは小躍りするように茶室へ向かう。

 

「いつから気づいていたんだよ?天音」

 

「黒ウサギが 『ゲームの撤回ぐらいやるでしょう』って言ったあたりに気づいた」

 

十六夜の存在に気づいたレティシアは十六夜の視線に小首をかしげる。

 

「どうした?私の顔に何かついているか?」

 

「別に前評判通りの美少女だと思って、目の保養に観賞してた」

 

十六夜の真剣な回答だったのだが、レティシアは心底楽しそうな哄笑で返す。口元を押さえながら笑いを噛み殺し、なるべく上品に装って席についた。

 

「なるほど、君が十六夜か。白夜叉の話通りに歯に衣着せぬ男だな。しかし観賞するなら黒ウサギも負けてないと思うのだが。あれは私と違う方向性の可愛さがあるぞ」

 

「あれは、愛玩動物なんだから、弄ってナンボだろ」

 

「ふむ、否定しない」

 

「確かにね」

 

「否定してください!」

 

紅茶のティーセットを持ってきた黒ウサギ口を尖らせ怒る。温められたカップに紅茶を注ぐ際も不機嫌だ

 

「レティシア様に比べれば世の女性の殆どが鑑賞価値のない女性でございます。黒ウサギだけが見劣る訳ではありません」

 

「いや、全く負けちゃいないぜ?違う方向性で美人なのは否定しねぇよ、好みでいえば、天音と黒ウサギがタイプだからな」

 

「っ……。あ、ありがとう……」

 

「………そ、そうですか」

 

不意打ちの言葉に思わず耳まで紅くなる二人。黒ウサギは賛辞や愛の言葉は星の数受けてきたが、十六夜の言葉は不自然なほどまで耳に残り、天音も言われていたが、黒ウサギ同様に耳に残る

 

「……黒ウサギ。まさか私は無粋な事をしたか?」

 

「滅相もございません!して、どのようなご要件ですか?」

 

慌てて話題を戻す。レティシアは他人に所有される身分。その彼女が主の命も無く来たということは、相応のリスクを背負って来たということだ。ならばただ会いに来ただけのはずが無い。それならジンにも顔を見せていただろう。ジンに聞かれてはまずい話をしに来たと推測するのが、レティシアが苦笑して首を振る

 

「用件って程じゃない。新生コミュニティがどの程度の力を持っているのか、それを見に来たんだ。ジンに会いたくないというのは、合わせる顔がないからだよ。お前達の仲間を傷つける結果になってしまったからな」

 

思い出す、予想はしていたがあの木々が鬼化していたのはレティシアの仕業だった。鬼種の中でも個体が最も少ない一つとされる吸血鬼の純血。その生態は十六夜、天音の知るのとさほど変わりない。大きな相違があるのなら、互いの世界における吸血鬼の思想だろう。箱庭の創始者の眷属であるウサギが "箱庭の貴族" と呼ばれるのと同様に、箱庭の世界でのみ太陽の光を浴びれる彼らは、 "箱庭の騎士" と称される。彼らがもたらす恩恵は儀式を省き互いの体液を交換し合うことで、鬼種化を成立させることが出来る。この恩恵を受けた者は吸血鬼として食人の気を持つが、純血以外の吸血鬼に血を吸われても、鬼種化することは無い。

よって血に飢えた者は独自にギフトゲームを開催し、チップの代わりに吸血を行う。箱庭で人と吸血鬼が共存できるのは互いにルールを尊重しているからだ、太陽の光を浴び、平穏と誇りを胸に生活し箱庭を守る姿から吸血鬼の純血は "箱庭の騎士"と呼び称される存在になったのだ

 

「吸血鬼?なるほど、だから美人設定なのか」

 

「吸血鬼だから美少女なんだ」

 

「は?」

 

「え?」

 

「「いや、いいから続けて(続けてくれ)」

 

十六夜と天音はヒラヒラと手を振る

 

「実は黒ウサギ達が "ノーネーム"としてコミュニティの再建を掲げたと聞いた時、なんと愚かな真似を……と憤っていた。それがどれだけ茨の道か、お前がわかっていないと思えなかったからな」

 

「……」

 

「コミュニティを解散するように説得するため、ようやくお前達と接触するチャンスを得た時……看過できない話を耳にした。神格級のギフト保持者が、黒ウサギの同士としてコミュニティに参加したとな」

 

黒ウサギの視線が、天音と十六夜の方に移る。おそらく白夜叉にでも聞いたもだろう。四桁外門に本拠を持つ "階層支配者"の白夜叉が、最下層である七桁の外門に足を運んでいた理由は、秘密裏にレティシアを此処まで連れてくるためだった。

 

「そこで私は一つ試して見たくなった。その新人達がコミュニティを救えるだけの力を秘めているのかを」

 

「結果は?」

 

黒ウサギが真剣な双眸で問う。レティシアは苦笑しながら首を振る

 

「生憎、ガルドでは当て馬にもならなかったよ。ゲームに参加した彼女達はまだまだ青い果実で判断に困る。……こうして足を運んだはいいが、さて。私はお前達に何と言葉をかければいいのか」

 

自分でも理解出来ない胸の内にまた苦笑する

 

「違うね。アナタは言葉を掛けたくて古巣に足を運んだじゃない。古巣のな仲間が今後、自立した組織としてやっていける姿を見て、安心したかっただけだろ?」

 

十六夜の言葉に首肯するレティシア。しかし目的は果たされずに終わった、二人は飛鳥と耀は人間の中ではずば抜けた才能の持ち主だ。だがいかんせん原石。仲間の将来を安心して託すには至らない。だが解散するように説得するには遅すぎた、それはもう手遅れだ。

危険を冒してまでレティシアの目的中途半端で進行しているのだ。自嘲が拭えないレティシアに天音が提案する

 

「その不安をぬぐえる簡単な方法があるよ」

 

「なに?」

 

「簡単な話だよ、レティシアは "ノーネーム"が魔王を相手に戦えるかが不安なのなら、その身で力を試せばいいんだよ、どう?いい案だと思うけど、元魔王様?」

 

天音の意図を理解したレティシアは一瞬唖然とした、十六夜は

 

「先に言われたか……そういう事だ元魔王様簡単だが思いつかなかっただろ?下手な策を弄さず実力を測れる」

 

レティシアは弾けるような笑い声をあげて、涙目になりながら立ち上がる。

 

「ふふ……なるほど。それは思いつかなかった。実にわかりやすい。初めからそうしていればよかったなあ」

 

「ちょ、ちょっと御三人様?」

 

「ゲームのルールはどうする?」

 

「どうせ力試しだ。手間暇かける必要は無い。双方が共に一撃ずつ撃ち合い、それを受け合う」

 

「撃ち合って、立っていたほうの勝ちだね、いいね実にわかりやすいよ」

 

笑を交わし、天音とレティシアは窓から中庭に同時に飛び出た。開け開かれていた窓は二人を遮ることなく通す。窓から十間ほど離れて中庭で向かい合う二人は天と地に位置していた。

 

「レティシアも空飛べるんだ、翼で飛んでいるの?」

 

「ああ。翼では飛んでいないんだ、制空権を支配されるのは不満か?」

 

「別に、ルールには書いてないし。この力試しに制空権は有無は私には意味は無いよ」

 

肩を竦め煽るように挑発する天音、レティシアはその態度をまず評価する、ギフトゲームにおいて、相手が未知数なのは基本だ、相手が見せる未知数に自信が持つギフトで如何に対抗するかを競うことこそギフトゲームの真髄であえり醍醐味なのだ。

 

「(なるほど。気構えは十分。あとは実力が伴うか否か……!)」

 

満月を背負うレティシアは微笑と共に黒い翼を広げ、己のギフトゲームを取り出した。金と紅と黒のコントラストで彩られたギフトカードを見た黒ウサギは蒼白になって叫ぶ

 

「レティシア様!?そのカードは」

 

「下がれ黒ウサギ。力試しとはいえ、これが決闘であることには変わりがない」

 

ギフトカードが輝き、封印されていたギフトが顕現する。光の粒子が収束して外殻を作り、突然爆ぜたように長い柄の武具が現れた

 

「互いにランスを1回投擲する。受けては止められねば敗北。悪いが先手は譲ってもらうぞ」

 

「いいよ、お好きにどうぞ」

 

投擲用に作られたランスを掲げる

 

「ふっーー!」

 

レティシアは呼吸を整え、翼を大きく広げる。全身をしならせた反動で打ち出すと、その衝撃で空気中に視認できるほどの巨大な波紋だ

 

「ハァア!」

 

怒号とともに放たれた槍は摩擦で熱を帯び、流星の如く待機を揺らして天音の元に迫る、天音は

 

「そら!」

 

足でその勢いを完全に殺し、槍を空中に待機させるようにリフティングであげて

 

「今度はこっち!」

 

蹴り抜いた

 

「「ーーーーは?」」

 

黒ウサギとレティシアは素っ頓狂な声を上げる、現在の全霊を込めて投擲したランスをいとも簡単に止められ、投擲時より早く大気の壁を易々と突破する速度で、蹴りにより、砕け散り、散弾銃にように第三宇宙速度で迫る。いくら吸血鬼の純血種の彼女でもこれをまともに食らえばひとたまりもない

 

「(これほどか……)」

 

着弾する間際、黒ウサギが

 

「レティシア様!」

 

レティシアに狭る鉄塊を黒ウサギは全て払い落とした。レティシアは驚愕しながら黒ウサギを抱きとめ、翼をたたんで落下する。

 

「く、黒ウサギ!何を!」

 

レティシアが声を上げる、それは黒ウサギの手に握られたレティシアから取ったギフトカードに対する講義だ。

黒ウサギは抗議に乗らずレティシアのギフトカードを見つめ震える声で向き直る

 

「ギフトネーム・ "純潔の吸血姫"……やっぱり、ギフトネームが変わっている。鬼種は残っているものの、神格が残っていない」

 

「っ……!」

 

さっと目を背けるレティシア。歩み寄る天音は

 

「もしかして、レティシアのギフトって吸血鬼のギフトしか」

 

「……はい。武具は多少残してありますが、自身に宿るギフトは……」

 

天音はガッカリした風にため息をする。相手は弱りきっていた、そんな状態で相手にされたのが不服だった

 

 

「白けるよ、思ったより力がこもってないわけだ……他人に所有されたらギフトまで取られてしまうものなの?」

 

「いいえ……魔王がコミュニティから奪ったのは人材であってギフトではありません。武具などの顕現しているギフトと違い "恩恵"は様々な要因から受けた奇跡、魂の一部。隷属させた相手から合意なしにギフトを奪うことは出来ません」

 

それはレティシアが自らのギフトを差し出したということだ。レティシアは苦虫を噛み潰したような顔で目をそらし黒ウサギも苦い顔で問う

 

「レティシア様は純血の鬼種と神格の両方を備えていたために "魔王"を自称できるだけの力は持っていました。今の貴女はかつての十分の一にも満ちません。どうして……」

 

「それは……」

 

「まあ、話があるなら屋敷に戻ってこいよ」

 

十六夜が屋敷から言う、このまま立ち話もあれだと十六夜の配慮だ

 

「……そう、ですね」

 

レティシアと黒ウサギは沈鬱そうに頷き、屋敷に戻るのであった

 

 

 




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ペルセウスのリーダー

少し無茶したかった後悔はない(無茶はまだまだこれからw(


中庭から屋敷に戻ろうとする黒ウサギ達三人。異変が起きたのはその時だった。顔を上げるのと同時に遠方から褐色の光が三人に差し込み、レティシアは叫ぶ

 

「あの光……ゴルゴーンの威光!?まずい、見つかった!」

 

焦燥の混じった声と共に、レティシアは光から庇うように二人の前に立つ

光の正体を知る黒ウサギは悲痛の叫びを上げて遠方を睨んだ

 

「ゴルゴーンの首を掲げた旗印……!?避けてください!レティシア様!」

 

黒ウサギの叫びも虚しく、褐色の光を全身に浴びたレティシアは瞬く間に石像となった。十六夜は異変に気づき出てくる。光が差し込んだ方角から、翼の生えた空駆ける靴を装着した騎士風の男達が大挙して押し寄せてきている。

 

「いたぞ!吸血鬼は石化させた!すぐに捕獲するぞ!」

 

「例のノーネームもいるようだがどうする!?」

 

「邪魔するようなら構わん、斬り捨てろ!」

 

空を駆ける騎士達の言葉を聞いた十六夜は不機嫌そうにかつ獰猛に笑う

 

「参ったな、せっかく出てきたのに生まれて初めておまけ扱いされたぜ。手を叩いて喜べばいいか、怒りを顕にして潰せばいいか、どっちがいいよ?」

 

「と、取り敢えず本拠に逃げてください!」

 

石になったレティシアの事は気になるが今はそれどころじゃない。ペルセウスの所有物のレティシアが主の命令も無く出歩いていたのは庇えない。何より"ペルセウス"は"サウザンドアイズ"の幹部コミュニティ、万が一揉め事を起こしたらただでは済まない。黒ウサギは慌てて、十六夜と天音を本拠に引っ込むと、空の軍団の中から三人が降り立ち、レティシアを取り囲む。天音達は扉の内側から様子を伺っていた。

 

「これでよし……危うく取り逃がすところだったな」

 

「ギフトゲームを中止してまで用意した大口の取引だ。台無しになれば、"サウザンドアイズ"に我ら"ペルセウス"の居場所がなくなっていたな」

 

「それだけじゃない、箱庭の外と言えど、交渉相手は一国規模のコミュニティだ。もしも奪われでもしーーー」

 

「箱庭の外ですって!?」

 

黒ウサギの叫びに、運び出そうとしていた男達の手が止まる。邪魔者と認識していた"ノーネーム"の叫びに明らかな敵意を込め見る。だが黒ウサギにはその視線なんて気にしている余裕は無い

 

「一体どういう事です! "箱庭の騎士"は箱庭の中でしか太陽の光を受けられないのですよ!?その吸血鬼を外に連れ出すなんて!」

 

「我らの頭領の取り決めた交渉。部外者は黙ってろ」

 

騎士は突く放すように語り、翼の生えた靴で空を舞う。空にはまだ百に匹敵する軍勢が"ノーネーム"の本拠の上に間に待ち構えている。本来ならば本拠への不当な侵入はコミュニティの侮辱行為だ、世間体的にはよろしくない。信頼が命の商業コミュニティである "サウザンドアイズ"ならこんな暴挙をすることはないのだろう、明らかに"ノーネーム"と見下した行為だ。

 

「こ、この……!これだけ無遠慮に無礼を働いておきながら、比例を詫びる一言もないのですか!? それでよく双女神の旗を掲げていられるものですね!」

 

「ふん。こんな下層に本拠を構えるコミュニティに例を尽くしては、それこそ我らの旗に傷がつくわ。身の程を知れ "名無し"が」

 

「なっ……なんですって……!!」

 

黒ウサギの堪忍袋が爆発する。レティシアの扱い、コミュニティの侮辱行為と暴言の数々に限界を迎える。怒りに震える黒ウサギを見下す騎士達のはその姿を鼻で笑う。

 

「フン、戦うつもりか?」

 

「愚かな。自軍の旗も守れない、名無しに我らに敵じゃない」

 

「恥知らず共め。我らが御旗のもとに成敗してくれるわ!」

 

そう言うと、旗印を掲げ、陣形をとるように広がる。しかし、黒ウサギはらしくない物騒な笑顔で罵る

 

「ふ、ふふ……いい度胸です。多少は名のあるギフトで武装しているようですが、そんなレプリカで強くなった気でいるのですか?」

 

「何!?」

 

黒ウサギは髪を桜色に染め上げ、高く舞い上がらせて威嚇する

 

「ありえない……ええ、ありえないですよ。天真爛漫にして温厚篤実、献身の象徴とまで謳われた "月の兎" をこれほどまで怒らせるなんて……!」

 

百もの空を駆ける騎士達は黒ウサギの放つ威圧感にたじろいだ。黒ウサギは右手を掲げると刹那、空気が裂けるような甲高い音が響き渡る。雷鳴のような爆音が周囲一帯を支配し、右手には閃光のように輝く槍が掲げられている

 

「雷鳴と共に現れるギフト……まさかインドラの武具!?そんな話はルイオス様から聞いていないぞ!」

 

「インドラの武具で槍ということは……ヴァサヴィシャクティ……でも私の知るのと違う?それに黒ウサギは箱庭創始者の眷属って……じゃあインドラもその一人……」

 

「本物のはずがない!どうせ我らと同じレプリカ!」

 

稲妻の迸る槍を逆手に構えた黒ウサギは、

 

「その目で真贋を見極められないならーーーーその身で確かめるがいいでしょう!」

 

熱膨張した空気が、雷鳴を轟かせる。同時に、黒ウサギの髪がプリズムを放ち、緋色から蒼に染まる。インドラの槍を黒ウサギが天に向かって打ち出しうとすると、それと同時に十六夜が、

 

「てい」

 

「フギャ!」

 

後ろからウサ耳を力いっぱい引っ張る。すっぽ抜けたインドラの槍は雷鳴と共にあさっての方向に飛び、箱庭の天井に着弾する。解放された稲妻と熱量が数kmに亘って天幕を照らした。

 

「お、ち、つ、け、よ!白夜叉と問題を起こしたくないんだろ?つか俺達が我慢してやっているのに、一人でお楽しみとはどういう了見だ」

 

「フギャア!!?って怒るところそこなんですか!? い、痛い、本当に痛いですよ十六夜さん! い、いい加減にしてください!ボケていい場面とそうでない場面をわきまえてください!今はあの無礼者共に天誅を!」

 

「みんな帰ったよ?」

 

「え?って逃げ足早すぎでしょ!?」

 

びっくりしながら空を見ると、まるで最初からいなかったように星空が広がる。黒ウサギに敵わないと判断するや否や、すぐさま退却したのだ。しかし、黒ウサギの目は誤魔化せない

 

「いえ、違う……あれはまさか、不可視のギフト!?」

 

「ハデスの隠れ兜かな。ペルセウスの逸話の不可視の兜……ヘルメスの空を駆ける羽のサンダル……でもあれは靴だった」

 

「しかし、箱庭は広いな。空飛ぶ靴に透明になる兜が実在してるんだもんな」

 

感慨深頷く二人をキッと睨みつける。しかし、十六夜はウサ耳を放し、首を横に振る

 

「気持ちはわかるが今はやめておけ。俺はいいけど"ノーネーム"と、 "サウザンドアイズ"が揉めたら困るんだろ?」

 

「そっ……それは、そうですが」

 

「詳しい話を聞きたいなら順序を踏むもんだ。事情に詳しいそうな奴が他にいるだろ?」

 

はっと思い出す。レティシアを連れてきたのは白夜叉なのなら、詳しい事情を知っているのかもしれない。

 

「ほかの連中も呼んでこい」

 

「で、でも昼間の事もありますし」

 

「だったら、ジン君と飛鳥だけでもいいと思う」

 

「ああ、どうもきな臭い。最悪その場でゲームもありえる、頭数はいた方がいいだろ」

 

ーーーーーーー

 

ジンは耀の様子を見ておくということで、メンバーは十六夜、飛鳥、天音、黒ウサギで行くことになった。しばらく歩き "サウザンドアイズ"の門前に着いた四人を迎えたのは無愛想な女性定員だった。

 

「お待ちしておりました。中でオーナーとルイオス様がお待ちです」

 

「黒ウサギ達が来る事は承知の上、ということですか?あれだけの無礼を働いておきながらよくも……」

 

「黒ウサギ、話し相手を間違えないで」

 

天音にさとされ店内に入る。中庭を抜けて離れの家屋に向かう。中で迎えたのは、白夜叉とルイオス、ルイオスは黒ウサギを見て盛大に歓声を上げる

 

「うわお、ウサギじゃん!うわー実物初めて見た!噂は聞いていたけど、本当に東側にウサギがいるなんて思わなかったよ!つーかミニスカにガーターソックスって随分エロいな!ねー君、うちのコミュニティに来いよ。三食首輪付きで毎晩可愛がってやるぜ?」

 

ルイオスは地の性格を隠す素振りも無く、黒ウサギの全身を見渡しはしゃぐ。このあと、ノーネームと白夜叉で黒ウサギの美脚をネタに黒ウサギが弄られたのは言うまでもない。黒ウサギの衣装は白夜叉が開催する審判の格好を今の服にすると賃金を三割増しにするというものだった、その後は白夜叉と十六夜が親指を立てて意思疎通していた。

 

「あの……御来客の方も増えたので、よろしければ店内の客間に移りましょうか?見れば割れた食器の破片も散らかってますし」

 

「そ、そうですね」

 

一度仕切り直すことになった一同は "サウザンドアイズ"の客間に向かうのであった。座敷に招かれた四人は "サウザンドアイズ"の幹部の二人と向かい合う形で座る。長机の対岸に座るルイオスは舐め回す視線で黒ウサギと何故か天音も見る、黒ウサギは悪寒を感じながら、天音は目を瞑り正座で静かにしている。黒ウサギは白夜叉に説明を続けた。

 

「ーーーー "ペルセウス"が私達に対する無礼を振るったのは以上の内容です。ご理解いただけたでしょうか?」

 

「う、うむ。 "ペルセウス" の所有物・吸血鬼が身勝手に "ノーネーム"の敷地に踏み込み荒らした事。それらを捕獲する際における数々の暴言と暴挙。確かに受け取った。謝罪を望むのであれば後日」

 

「結構です。あれだけの暴挙と無礼の数々、我々の怒りはそれだけは済みません。 "ペルセウス"に受けた屈辱は両コミュニティの決闘をもって決着をつけて然るべきかと」

 

両コミュニティの直接対決。それが黒ウサギの狙いだった。レティシアが敷地内で暴れ回ったのは捏造だ。彼女を取りもどすためにはなりふり構っている暇はない。

 

「"サウザンドアイズ" にはその仲介をお願いしたくて参りました。もし "ペルセウス"が拒むようであれば "主催者権限"の名の下に」

 

「いやだ」

 

唐突にルイオスは言った

 

「……はい?」

 

「いやだ。決闘なんて冗談じゃない。それにあの吸血鬼が暴れ回ったって証拠があるの?」

 

「それなら彼女の石化をといてもらえば」

 

「駄目だね。アイツは一度逃げ出したんだ。出荷するまで石化はとけない。それに口裏を合わせないとも限らないじゃないか。そうだろう?元お仲間さん?」

 

嫌味ったらしく笑うルイオス。筋が通ってるだけに言い返すことが出来ない。

 

「そもそも、あの吸血鬼が逃げ出した原因はお前達だろ?実は盗んだんじゃないの?」

 

「な、何を言い出すのですかッ!そんな証拠がいったい何処に」

 

「事実、あの吸血鬼はあんたの所にいたじゃないか」

 

黙り込むしかない、それを言われたら言い返すことが出来ない。黒ウサギの主張もルイオスの主張も第三者が居ないという点は同じなのだから。

 

「どうしても決闘に持ち込みたいというならちゃんと調査しないとね。……最もちゃんと調査されて一番困るのは全くの別の人だろうけど」

 

「そ、それは……!」

 

黒ウサギは白夜叉に視線を移す。彼女の名前を出されては手が出せない。この3年間、 "ノーネーム"を存続できたのは彼女の支援があったからだ。

 

「じゃ、さっさと帰ってあの吸血鬼を外に売り払うか。あれも見た目は可愛いしその手の愛好家には堪らないだろう?」

 

そのあとルイオスの挑発で商談相手の人物像を言う、案の定、黒ウサギはウサ耳を逆立て叫ぶ

 

「あ、あなたという人は……!」

 

天音も握る拳に力が入る、だが頭だけは冷静にと考える

 

「しっかし可哀想なやつだよねーアイツも。箱庭から売り払割れるだけじゃなく、恥知らずな仲間の所為でギフトまでも魔王に譲り渡す事になっちゃったんだもの」

 

「………なんですって?」

 

声をあげたのは飛鳥だ。彼女はレティシアの状態を知らなかったから驚きも大きい。黒ウサギは声をあげなかったものの、その表情ははっきり動揺が浮かんでいる。天音も内心は動揺していた

 

「報われないやつだよ。 "恩恵"はこの世界で生きていくのに必要不可欠な生命線、魂の一部だ。それをバカで無能な仲間の無茶を止めるために捨てて、ようやく手に入れた自由も仮初のもの他人の所有物と言う屈辱にも耐え駆けつけたのに、その仲間はあっさり自分を見捨てやがる!目を覚ましたこの女は一体どんな気分になるんだろうなぁ?」

 

「……っ!」

 

天音は何か活路はないかと考える、黒ウサギの顔色は蒼白だ、見るに堪えない。

 

「ねえ、黒ウサギさん。このまま彼女を見捨てて帰ったら、コミュニティの同士として義が立たないじゃないかな?」

 

「………?どういう事です?」

 

「取引しよう。吸血鬼を "ノーネーム"に戻してやる。代わりに君が欲しい。君は生涯、僕に隷属するんだ」

 

「なっ、」

 

「一種の一目惚れって奴? それに "箱庭の貴族" と言う箔も惜しいし」

 

飛鳥はこれには堪らず長机を叩いて怒鳴り声をあげた。

 

「外道とは思っていたけど、ここまでとは思わなかったわ!もう行きましょう黒ウサギ!こんな奴の話を聞く義理は無いわ!」

 

「ま、待ってください!飛鳥さん!」

 

黒ウサギの手を握って出ようとする飛鳥。だが黒ウサギは座敷を出ない。黒ウサギの目は困惑している。この申し出に彼女が悩んでいるのは明白だ。

 

「ほらほら、君は "月の兎" だろ?仲間のため、煉獄の炎に焼かれるのが本望だろ?君達にとっても自己犠牲ってやつは本能だもんなぁ?」

 

「……っ」

 

「どうしたの?ウサギは義理とか人情とか好きなんだろう?自己犠牲ヨロシクで帝釈天に売り込んだんだろ!?

………そうだな、じゃあ黒ウサギが来ないなら、君と吸血鬼の交換でもいいよ」

 

そういい、ルイオスは天音の方に指を指す

 

「はい?」

 

「なっ、」

 

黒ウサギと飛鳥は絶句する

 

「君も中々に可愛いし、三食首輪付きで毎晩可愛がってやるぜ?君だって考えてるんだろ?黒ウサギの代わりになってもって」

 

「……っ!」

 

言われた瞬間、天音は黒ウサギの代わりになってもいいかもしれないと考えていた

 

「(……レティシアをあそこまで尊敬する黒ウサギ……離れ離れにしたくない……だけどコミュニティを……)」

 

「どうしたんだよ?顔に書いてあるぜ、黒ウサギの代わりでもーーーー」

 

「 "黙りなさい"!」

 

ガチン!とルイオスの下顎が閉じ、困惑する。見かねた飛鳥の力が原因だ。

 

「貴方は不快だわ。そのまま "地に頭を伏せてなさい"!」

 

混乱するように口を押さえたルイオスは体を前のめりに歪める。だがしかし、命令に逆らって体を起こす、何が起こったのか理解したルイオスは強引に言葉に紡ぐ。

 

「おい、おんな。そんなのが通じるのはーーー格下だけだ、馬鹿が!!」

 

激怒したルイオスが取り出したギフトカードから、光と共に現れる鎌。鎌は飛鳥に向かって振り下ろされる、それを天音が槍で防ぐ

 

「ペルセウスのリーダー、飛鳥二人とも落ち着いて……ここは白夜叉のお店、話し合いで解決できないのなら」

 

天音は受け止めた槍を収める。

 

「今日は互いに不問にしましょう。……あと、先程の話ですが、お時間ください」

 

「ま、待ちなさい黒ウサギ!貴女、この男の物になってもいいの!?」

 

「………仲間と相談するためにも、天音さんにそんな真似は……」

 

「黒ウサギそれは、私の……」

 

天音は言葉に詰まらせる、天音はノーネームから黒ウサギが離れるべきではないと、黒ウサギがノーネームにいてレティシアもノーネームに戻る方法を考えている、だが現状そうの方法は天音がルイオスの物になるしか

 

「オッケーオッケー。こっちも取引ギリギリ日程……一週間だけ待つ、黒ウサギでも天音ちゃんでも両方来てもいいんだよ?」

 

さらに挑発する、黒ウサギはそれだけを口にして足早に座敷を去る。飛鳥はその後ろを追いかける。天音はうなだれる、十六夜は

 

「白夜叉は恵まれてるな、気難しい友人とゲスい部下に恵まれて中々にできない体験だぜ?」

 

「全くだの。羨ましいなら変わるが?」

 

「いや、遠慮しておく。……ところで"ペルセウス"のリーダーってお前か?」

 

「あぁ?そうだけど、今更何聞いてんの?」

 

先のこともあり不機嫌なルイオス。十六夜は落胆したように溜息をつき

 

「名前負けしすぎ、期待した俺が馬鹿だった」

 

「はっ。今なら安い喧嘩で買うぜ?」

 

「(喧嘩……直接対決……ギフトゲーム!)」

 

天音は数分前の話を思い出す。コミュニティの決闘その話を

 

「天音、俺は先に行くが、お前はどうするんだ?」

 

「うん……白夜叉に質問してから、追いつくよ」

 

「うん?私に質問か?答えられる範囲で答えるぞ」

 

白夜叉は胸を張って言う、天音は小さく口角をあげ

 

「少し場所変えてくれる?」

 

「いいじゃろ」

 

天音と白夜叉は座敷を離れ、家屋に移動する

 

「で、質問とは何じゃ?二人きりなるという事は、それ相応の質問なんだろう?」

 

「まぁ、大層なものじゃないけど、ペルセウスのリーダーには聞かれたくなかったからね」

 

「ほう?それは何じゃ?」

 

白夜叉は面白そうに天音に聞く、天音は悪い笑みで

 

「"ペルセウス"がギフトゲームを受けなければならない方法は無い?」

 

「ほう?いいところに目をつけたな天音。そうじゃな、教えてやる、"ペルセウス"に挑める方法をな」

 

白夜叉も楽しそうに笑う

 

 

 

 

 

 

 



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ペルセウスへ挑む為

本編10話目突入!


天音が白夜叉から "ペルセウス"にギフトゲームを挑める方法を聞いて支店を後にして、十六夜達のあとを追いかけて歩いていた。すると、

 

「む、無駄って……どうしてそこまで言われなきゃいけないのですか!!」

 

黒ウサギの叫び声が聞こえる、天音は走り出し、黒ウサギ達に追いつく

 

「コミュニティにとって、仲間は大事です。何物にも勝る、コミュニティの宝でございます。ましてや魂を削ってまでコミュニティの窮地に駆けつけたレティシア様を見捨てては、我々の義が立ちません!」

 

「だけどそれは貴女が身代わりになる事じゃない!そんなの無意味だわ!」

 

「仲間の為の犠牲が無意味なはずが!」

 

「夜中に叫ぶな喧しい」

 

十六夜に押されてガツン!と女性二人の頭がヘッドバットする

 

「「〜〜〜〜〜〜〜っ!」」

 

「お互いの言い分は理解した。理解した上で言わせてもらうと、黒ウサギ。お前が悪い」

 

「ど、どういうことですか!?」

 

「手紙の一件もそうだけどな。レティシアは "ノーネーム"の本拠に来たとき、もう覚悟していたはずだ。あの目が、お前に助けを求めている目だったか?」

 

「そ、それは……いえ、助けを求めてないから助けないのは詭弁でございます!」

 

「それはそうかもしれないけど。場合によるよ」

 

「戻ってきてたか、天音」

 

「天音さん今までどこに」

 

「そうよ、八神さんどこにいたの」

 

天音が戻ってると知ると何処に行ってたかを尋ねるが、天音は

 

「白夜叉と話してただけ。それより話の続き、レティシアがギフトを失った事を黙っていたのは、黒ウサギに身代わりになって欲しくなかったからじゃないの?」

 

レティシアはギフトが失った事を知られたく無かった様子だった。それはレティシアの想いが黒ウサギの重荷になる事を避けたかったからにほかならない。

 

「そうだな、あとお嬢様も言い方が悪い。もっとソフトに自分の気持ちを伝えろよ。『私、黒ウサギの事が心配で堪らないの!お願い、私のそばに居て!』ーーーーとか」

 

「そうなの?飛鳥」

 

「そ、そんなつもりで引き止めていたわけじゃないわ!」

 

だが完全にハズレではないのだろう、耳まで真っ赤になった飛鳥を見て黒ウサギはやや気まずそうに頭を下げる

 

「も、申し訳ありません。気持ちは嬉しいのですが、その黒ウサギにそういう趣味は……」

 

「何故そこで煽るようなことを」

 

天音は口元を抑え笑いをこらえる

 

「ここぞとばかりに曲解かしら?ええ、いいわ天音さん共々受けて差し上げてよこの駄ウサギ!」

 

叫びながら、天音の耳と黒ウサギの耳を掴んで引っ張る、黒ウサギはあられもない悲鳴をあげ、天音は痛い痛いと連呼する。女性3名は戯れて少し落ち着いたのか、同時に大きなため息をつき呟く。

 

「………心配したのは本当よ。だって貴女泣きそうな顔してたもの。天音さんもね。貴女も、黒ウサギの代わりになろうと思ってたでしょ?」

 

「……まぁね、正直に言うとあの時はそう考えたね。黒ウサギがあそこまで尊敬する人だったら私が行ってでもって」

 

「こ、こちらこそ申し訳ありません。冷静さを失ってました。天音さんも心配をおかけしました」

 

今後どうするにしても、ジンや耀とも話をしなければならない。四人は今一度 "ノーネーム" の本拠に戻った、しかし、十六夜は天音の言葉に違和感を感じた

 

「(『あの時はそう考えていた』あの時は……じゃあ今は何らかの打開策を見出したのか?白夜叉と話してきたといい何を考えているかスッゲー気になる!)」

 

十六夜は口角を釣り上げ歩を進める。本拠に着いて、"サウザンドアイズ"で出来事を話した。予想通りに耀もジンも黒ウサギを引き止めた。ジンはコミュニティのリーダーとして耀は新たな友人として引き止めた。互いにカッとなり、さらに飛鳥も参戦し大惨事になった。全員頭を冷やすため謹慎という形になった。そして傍観していた天音と十六夜は外に出ていた。

 

「で、何かあるんだろ? "ペルセウス"がギフトゲームを受けなければならない方法とかな」

 

「どうしてそう思うの?」

 

「本拠に戻る前に、『あの時はそう考えていた』と言っただろ? 今は黒ウサギの代わりに行く考えは少なくとも無いと考えられてな。それに、白夜叉に何かを聞いて活路を見出したと分かる。そこでギフトゲームが出てくるのかと、黒ウサギが『コミュニティの決闘で決着をつけるべきかと』と言っていたからな、お前もそこから考えたんだろ?」

 

天音は息を呑む、あの一言でここまで察しられるとは思ってもみなかった。天音は笑い答える

 

「そうだよ、力のあるコミュニティは自分達の伝説を誇示するために、伝説を再現したギフトゲームを用意することがあるらしいんだ、特定条件を満たしたプレイヤーにのみ、そのギフトゲームを挑めるらしい。それも、伝説と旗印をかけてね」

 

「なるほどな。なら時間との戦いだな、その条件も聞いてきてるんだろ?」

 

十六夜は獰猛な笑顔で天音に問う

 

「勿論、クラーケンとグライアイの打倒だよ、どっち行きたい?」

 

「クラーケンだな!楽しそうだし、じゃあ行くか」

 

「そうだね!」

 

「あの何処に行かれるのですか?」

 

後ろから声が掛かるそこには狐耳の女の子がたっていた。十六夜と天音は

 

「「ちょっくら箱庭で遊んでくる」」

 

と言い本拠を飛び出した、期限は5日、それまでに挑戦権を得る為に。

 

ーーーーーーーー

 

そして三日後

 

「はぁ……まだ蛇神様の方が幾分かマシだった……十六夜も帰ってるだろうし私も急がないと」

 

道を疾風より早く駆ける、本拠の目の前で止まる、そこには十六夜が待っていた

 

「俺の方が速かったみたいだな、戦利品はあるよな?」

 

「勿論、十六夜もちゃんと持ってるよね?」

 

「勿論持ってるぜ、じゃあ行くか」

 

天音と十六夜は黒ウサギの部屋に向かう

 

「クラーケンの手応えはどうだった?」

 

「そこそこ面白かったが、蛇の方がまだマシだった、そっちは?」

 

「同意見だよ、でもなんとか間に合ったね」

 

「だな」

 

黒ウサギの部屋の前につき、十六夜は黒ウサギの部屋の扉を蹴破る

 

「邪魔するぞ」

 

「お邪魔しまーす」

 

「い、十六夜さん! 天音さん!」

 

「もう、どこに行っていたのこんな時に!」

 

「鍵開いていたのに」

 

黒ウサギの部屋には、黒ウサギだけじゃなく飛鳥と耀も居た。

 

「少し野暮用でね、お土産もあるし」

 

耀は不思議そうな眼で大風呂敷を見る

 

「その大風呂敷に何が入ってるの?」

 

「ゲームの戦利品という名の土産だ見るか?」

 

少しだけ二人は大風呂敷を広げ耀に見せる。すると耀は表情が変わる。大人しくて表情の変化に乏しい耀が今は目を見開いて瞳を丸くしている。

 

「ーーーー……これ、どうしたの?」

 

「お土産だよ」

 

「?どうしたの三人とも」

 

今度は飛鳥が覗き込む、はじめは何が入っていたのかが理解出来なかったが。理解すると同時に小さく噴き出す。笑いをこらえるように口元を抑え、半笑いのまま十六夜と天音に話しかける

 

「もしかして、貴方達、手分けして取りに行っていったの?」

 

「最初は黙っておくつもりだったけど、十六夜にバレちゃって時間も無いしでね」

 

「二人で行ってきたんだ」

 

「ふふ、なるほどね。だけどねぇ二人とも、こういう楽しそうなことは次から声をかけること。いいわね?」

 

「次は声かけるぜお嬢様」

 

「うん、次は声をかけさせてもらうよ」

 

三人は悪戯ぽく笑を交わし、大風呂敷を黒ウサギの前に出す

 

「逆転のカードは持ってきたぜ。これでお前も天音も "ペルセウス"に行く必要は無い。あとは黒ウサギ、お前次第だ」

 

「まさか、あの短時間で、本当に?」

 

「そうだよ、ゲームより時間が無いのが問題だったけど、なんとかなったよ」

 

肩を竦めて微笑む天音と軽薄そうに笑う十六夜、だが口にするほど楽な戦いでは無かったはずだ。

 

「ありがとう……ございます、これで胸を張って "ペルセウス"に戦いを挑めます」

 

「礼を言われることじゃねぇさ。むしろここからが面白いからな」

 

「(コミュニティに来たのが、皆さんで本当によかった……!)」

 

大風呂敷を抱きしめてそう思う。中を確かめる必要は無い。黒ウサギには中身がなにかはわかっていた。黒ウサギは四人の顔を見渡し

 

「ペルセウスに宣戦布告します。我等の同士・レティシア様を取り返しましょう」

 

ーーーーーーー

 

「我々、ノーネームはペルセウスに決闘を申し込みます!」

 

「何?」

 

ルイオスの表情が変わる。予想外の言葉に眉を顰めながら

 

「何?そんなつまらないこと言いに来たの?決闘ならしないって言ったじゃん」

 

ルイオスは拍子抜けしたように、つまらなそうに言う。彼は自分達が戦っても負ける事などありえないと思っているが、それでも "箱庭の貴族"。インドラの武具を所持したウサギがいる以上迂闊にゲームを受けるのは危険だ。それに名無しと対等な決闘をするなんて既に屈辱だ

 

「それが用件ならとっとと帰れよ。あーマジうぜぇ。趣味じゃねぇけど、あの吸血鬼で鬱憤でも晴らそうか」

 

そんなルイオスに黒ウサギはあるものを見せる。"ペルセウス"の旗印が描かれた宝石を。

 

「こ、これは、ペルセウスへの挑戦権を示すギフト……!?まさか名無し風情が、海魔とグライアイを打倒したというのか!?」

 

ルイオスの側近の男が驚きの声を上げる。困惑する、 "ペルセウス" 一同。本来なら、挑戦権を得たコミュニティが出た場合、本拠に通達が行くはずなのだが、数日の書類はルイオスの部屋で山積みになっているのだから。

 

「あぁ、あの大タコか?確かに面白かったがあれなら蛇の方がマシだったぜ?」

 

「うん、グライアイも蛇神の方がまだマシだった」

 

首をすくませる十六夜と天音。あの宝玉はペルセウスの伝説に登場する怪物達をギフトゲームで打倒すると得ることが出来るギフトだ。二代目以降から無くそうとしていた矢先のこの事態だ。ルイオスの不快感は絶頂だ

 

「ハッ……いいさ、相手してやるよ。元々このゲームは思い上がったコミュニティに身の程を知らせてやる為のもの。二度と逆らう気が無くなるぐらい徹底的に……徹底的に潰してやる」

 

「我々のコミュニティを踏みにじった数々の無礼。最早言葉は不要でしょう。"ノーネーム"と"ペルセウス"。ギフトゲームによって決着をつけさせていただきます」

 

『ギフトゲーム名:“FAIRYTAIL in PERSEUS”

 ・プレイヤー一覧 逆廻 十六夜

          久遠 飛鳥

          春日部 耀

          八神 天音

 ・"ノーネーム"ゲームマスター ジン=ラッセル

 ・"ペルセウス"ゲームマスター ルイオス=ペルセウス

 

 ・クリア条件 ホスト側のゲームマスターを打倒

 ・敗北条件  プレイヤー側ゲームマスターの降伏・失格

        プレイヤー側が上記の勝利条件を満たせなくなった場合

 

 ・舞台詳細 ルール

  *ホスト側ゲームマスターは本拠・白亜の宮殿の最奥から出てはならない

*ホスト側の参加者は最奥に入ってはならない

 

*プレイヤー達はホスト側の(ゲームマスターを除く)人間に姿を見られてはいけない

 

*失格となったプレイヤーは挑戦資格を失うだけでゲームを続行できる

 

宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗の下、"ノーネーム"はギフトゲームに参加します。

 

"ペルセウス"印』

 

現れた契約書類を読むと視界が代わり白亜の宮殿の門の前に居た。

 

「姿を見られれば失格、か。つまりペルセウスを暗殺しろという事か?」

 

白亜の宮殿を見上げ、心を躍らせる様な声音で十六夜がつぶやく。

 

「伝説通りならルイオスは宮殿の最奥で睡眠中。最もそこまで甘くないだろうね」

 

取りあえず必要なことはジンを連中に見つけられないようにしないと行けないということだ。

 

「YES。そのルイオスは最奥で待ち構えているはず。それにまずは宮殿の攻略が先でございます。伝説のペルセウスと違い、黒ウサギ達はハデスのギフトを持っておりません、不可視のギフトを持たない黒ウサギ達には綿密な作戦が必要です」

 

今回のギフトゲームは、ギリシャ神話のペルセウスの伝説を一部倣ったものだ。宮殿内の最奥まで"主催者"側に気づかれず到達しなければ、戦うまでもなく失格だろう。

 

「見つかった者はゲームマスターへの挑戦権を失ってしまう。同じく私達のゲームマスタージン君が最奥に辿り着けずに失格の場合、プレイヤー側の敗北、なら大きく三つに分かれて役割を分担が必要になるわね」

 

飛鳥の隣で耀が頷く

 

「うん。まず、ジン君と一緒にゲームマスターを倒す役割。次に索敵、見えない敵を感知して撃退する役割。最後に失格覚悟で囮と露払いをする役割」

 

「春日部は鼻が利く。耳もいいし、不可視の敵は任せるぜ」

 

「分かった」

 

「黒ウサギは審判としてしかゲームに参加する事が出来ません。ですからゲームマスターを倒す役割は十六夜さんか天音さんにお願いします」

 

「なら、私は囮と露払いかしら?」

 

飛鳥が不満そうな声を漏らす、だが飛鳥のギフトがルイオスを倒すに至らないことは知られている事だ。何より飛鳥のギフトは複数人を相手する方が発揮できる。しかし分かっていても不満なのは不満だ。少しすねた口ぶりの飛鳥に天音が言う

 

「ごめんね飛鳥。譲ってあげたいけど、この勝負(ゲーム)は勝たなきゃ意味が無い。あのゲームマスターを倒すのは私か十六夜が適任なんだよ」

 

「ふん、いいわ。今回は譲ってあげる。ただし、負けたら承知しないわよ」

 

飛鳥の言葉に天音は任せてと言う。

 

「皆様に一つご注意があります」

 

黒ウサギが神妙な面持ちで話しかけてくる。

 

「いえ、ルイオスさん自身そこまで強くありませんが、問題は彼が所持するギフトです。黒ウサギの推測が正しければ彼のギフトは」

 

「隷属させた元・魔王様」

 

「そう、元・魔王……え?」

 

十六夜の補足に黒ウサギは一瞬言葉を失う

 

「神話通りならゴーゴンの首は戦神アテネに献上されたはずだ、だからこの世界にないはず。にも関わらず、奴は石化のギフトを使っている。ーーー星座として招かれたのが、箱庭の"ペルセウス"。ならさしずめ奴のギフトは」

 

「アルゴルの悪魔だね十六夜」

 

「そういう事だ」

 

「……まさか、箱庭の星々の秘密に……?」

 

「まぁな、星を見上げっときに推測して、ルイオスを見た時にほぼ確信した」

 

「右に同じく、さほど難しくないパズルだよ」

 

「もしかして、十六夜さんも天音さんも意外に知能派でございます?」

 

「何を今さら、俺は根っからの知能派だぜ。黒ウサギの部屋もドアノブを回さずに扉を開けたしな」

 

「それは蹴破っただけじゃない」

 

「いえ、そもそもドアノブは付いていませんでしたから。扉だけです」

 

冷静にツッコミを入れる黒ウサギ。

十六夜はそれに気づき補足する。

 

「そうか。でも、ドアノブが付いていても、ドアノブを回さないで開けれるぜ」

 

「じゃあその方法を参考のためにご教授頂こうかな?十六夜」

 

「ああ良いぜ。見てろよこういうのは……」

 

ヤハハと笑いなが十六夜は宮殿の門の前に立つ。

 

「こうやって開けるに決まってんだろ!」

 

十六夜の蹴りが白亜の宮殿の門を破壊する




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作者は豆腐メンタルです、質問等の際は優しくお願いしますw


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VSペルセウス

飛鳥と二手に分かれた十六夜達は、飛鳥と対照的に息を殺し状況を伺っていた

 

「……飛鳥は上手くやってるみたいだね」

 

「うん、1階から水の音と男の悲鳴が聞こえる」

 

宮殿の柱陰に隠れ、耳を澄まして周囲の気配を探る耀、少しの間と共にピクリとも反応する耀

 

「人が来る。皆は隠れて」

 

耀は緊張した声で警告する。いかに見えないといえど、物音と匂い迄までは消せない。耀の高性能の五感は不可視のギフトに対抗する唯一の対抗手段だ。獣のように腰を落とした耀は、見えない敵に奇襲を仕掛け、後頭部を強打する。騎士は何故居場所がバレたのか分からずに気絶する。倒れた騎士から兜が落ちる。

 

「この兜が不可視のギフトで間違いなさそう」

 

「ホレ、御チビ。お前が被っとけ」

 

「わっ」

 

十六夜が兜を拾い上げてジンの頭に乗せようとすると

 

「連中が不可視のギフトを使っているのを限定しているのは安易に奪われないためだと思う。最低でもあと一つ贅沢を言えば三つ欲しいかな」

 

「なるほどな、おい、御チビ。作戦変更だ。俺と春日部と天音で透明になっているやつを叩く。ギフトを渡せ」

 

「は、はい」

 

ジンが十六夜に手渡す。兜を付ける前に、耀に確認する。

 

「前哨戦をちまちまやっていても埒が明かない。本命はルイオスだ。春日部と天音には悪いけど」

 

「気にしなくていいよ」

 

「うん、大丈夫」

 

フルフルと頭を振る耀と楽しそうに言う天音、天音もルイオス戦での戦力の一部だが、必要とあらば春日部と似た役割も担うつもりだ。

 

「悪いな、いいとこ取りみたいで。これでもお嬢様や春日部、天音には感謝してるんだぞ。今回のゲームなんかは、ソロプレイで攻略出来そうにないし」

 

「だから気にしなくていい」

 

「埋め合わせは任せるね十六夜」

 

天音はイタズラぽく埋め合わせを要求する。思わず哄笑をあげそうになるが、今はそんな場合じゃない。

 

「御チビは隠れておけ。死んでも見つかるな」

 

「はい」

 

十六夜の姿が消える、天音は物陰に隠れる、ルイオス戦の予備戦力と言うのあって春日部と同じ役割を担うつもりだが見つかる確率は下げておきたいのだ

 

「いたぞ! 名無しの娘だ!」

 

「これで敵の残りは三人だ!」

 

「よし、その娘をとらえろ!人質にして残りを炙り出せ!」

 

耀に襲いかかる騎士達、それを姿を消した十六夜が白亜の宮殿の外まで殴り飛ばす。

 

「邪魔だ!」

 

殴り飛ばされた騎士達は悲鳴をあげながら壁を幾層も突き破り、揃って第三宇宙速度で吹き飛ばされていく

 

「相変わらずすごいなぁ」

 

天音はその様子を見ながら言う。十六夜が味方でよかったと心底思ってる

 

「どうだ、春日部。分かるか?」

 

「ううん……飛鳥が暴れている音や、ほかの音が大きすぎてちょっと……わ!?」

 

「耀!?」

 

突然、前触れもなく耀が吹き飛んで壁に叩きつけられる。十六夜は即座に反対方向に蹴りを入れるが空をきるだけだ。おかしいのは "春日部耀の五感を以てしても接近に気づけなかったことだ"

十六夜にしても、そんなに近くに人が居るのに居る人間を感知出来ないのは不自然だ

 

「十六夜!レプリカじゃなくて本物を」

 

天音はすぐに察した、春日部が反応出来なかったのと、その距離で感知出来なかった十六夜を見て、一つの可能性を導き出した

 

「そのようだな、春日部!一度引くぞ!」

 

倒れた春日部を抱き上げる。だが姿が見えない敵は、それを見計らったように十六夜を襲う。姿の見える耀を抱きあげれば、自然と十六夜の位置を把握出来てしまう。巨大な鈍器らしいもので横薙ぎに飛ばされる十六夜は兜を抑えながら痛烈に舌打ちする

 

「危ねぇなおい!兜が取れるところだったぞクソッタレ!カウンターでも入れてやろうかと思ったのにほんとに感知出来ねぇ」

 

「十六夜、私に任せて」

 

天音が言う、天音の瞳には策ありと言う色を浮かべている

 

「なんだ天音、方法があるのか?」

 

「うん。十六夜達は隠れてて、あとルイオス戦任せるね!」

 

天音は物陰から飛び出る、十六夜達と入れ違いになるように、天音は部屋の中央、吹き抜けになっているところで陣取る

 

「十六夜は耀を連れて少し奥の通路まで戻ってて」

 

「ああ、面白そうなものが見れなくて残念だが良いぜ!」

 

「(あいつなんのつもりだ?だがここで潰しておく!)」

 

目に見えない的は標的を天音に切り替える、その瞬間天音は言う

 

「ハデスの隠れ兜ってさ、透明になるギフトであって透過になるギフトじゃないよね?」

 

右手をあげると、手の上……いや吹き抜けのところから雨が降り注いでくる。この雨で、天音の居る付近は濡れる、当然仕留めようと近くにいた騎士も濡れる、さらに続ける

 

「水はね純水じゃないと電気を通すんだって、雨が純水な訳ないよね?」

 

「(まさか!こいつ!)」

 

騎士は周りを見る、濡らして足音音を出させるための雨じゃなく、濡らして感電させるための雨だった

 

「じゃあ……死なない程度にLet's Party!」

 

右足をあげ神雷を出し濡れてる地面に落とす、水を伝い、見えない騎士を撃ち抜く

 

「ぐああああああ!?!?」

 

思わず絶叫をあげる騎士。目には見えないが絶叫をあげれば分かる。天音は叫び声がするところ目掛け蹴りを入れる。鎧を砕く手応えもバッチリあり天音は虚空の存在の騎士を感じ取り兜を剥ぎ取り言う

 

「少し無理やりすぎたけど、これでいいかな……はぁびしょびしょだよ……」

 

そんなことを呟きながら十六夜達を呼び戻す、水は電気分解して後処理をした

 

「手に入れたみたいだな天音、すごい音が鳴ってたが……何で濡れてんだよ何したんだ?」

 

「それは内緒だよ、私には挑戦権無いし、ジン君の分と十六夜の分があれば十分でしょう」

 

天音は十六夜に兜を渡す

 

「ああそうだな、サンキュな天音」

 

「どういたしまして、耀 大丈夫?あんなもので殴られてたけど」

 

天音は鈍器を見ながらいう

 

「大丈夫、天音は十六夜の護衛お願い、ここは私に任せて」

 

「分かった!急ごう十六夜!」

 

「ああ!」

 

二つ目の不可視のギフトを手に入れ、天音が先陣を切り、騎士を薙ぎ払い、3人は宮殿の最上階に着く、最奥は闘技場のように簡素な造りだ

 

「十六夜さん、天音さん、ジン坊ちゃん………!」

 

最上階で待ってた黒ウサギは安堵したように三人の姿を確かめて息を漏らす。

眼前に開けた上空には膝まで覆うロングブーツから対の光る翼で空を飛んでいるルイオスが居た

 

「ふん。ほんとに使えない奴ら、今回の一件でまとめて粛清しないと。まあでも、これでもコミュニティが誰のおかげで存続できているか分かっただろうね。何はともあれようこそ白亜の宮殿・最上階へ、ゲームマスターとして相手しましょうあれ?この台詞言うの初めてかも?」

 

それは全て騎士達が優秀だったからだ。今回のように準備が伴わない、突然の決闘でなければ、十六夜達の目論見通りに事は進まなかっただろう

 

「ま、不意を打っての決闘だからな。勘弁してやれよ」

 

「フン。名無し風情を僕の前に来させた時点で重罪さ」

 

ルイオスはギフトカードから炎の弓を出して構える。

 

「炎の弓?ペルセウスの武器で戦うつもりは無い、という事でしょうか?」

 

「飛べるのにどうして同じ土俵で戦わなきゃいけないのさ。それにメインで戦うのは僕じゃない。僕はゲームマスターだ。僕の敗北はそのまま"ペルセウス"の敗北になる。そこまでリスクを負う様な決闘じゃないだろう?僕の代わりに戦うのはコイツさ」

 

ルイオスは首のチョーカーについてる装飾を引き千切ると投げ捨て、獰猛な表情で叫んだ

 

「目覚めろ。アルゴールの魔王!」

 

光が褐色に染まり、四人の視界を染めていく。白亜の宮殿に共鳴するかのような女の声が響き渡った

 

「GYAAAAAAAAAAaaaaaaa!」

 

現れた女の発する声は中枢を狂わせるほどの不協和音で人の言葉とは程遠いものだ、女は拘束ベルトを引きちぎり、半身を反らし更なる絶叫をあげる

 

「ra、GYAAAAAaaaaaa!!」

 

「な、なんて絶叫を」

 

「避けろ!黒ウサギ!!」

 

えっ、と硬直する黒ウサギ。頭上めがけ岩塊が山のように落下する、が岩が跡形もなく爆発する、よく見る矢が命中し岩を砕いていた

 

「大丈夫!?黒ウサギ、ジン君」

 

黒ウサギは天音の方を見る、天音の手には弓が握られていた、弦は青く光り弓の放つ所は筒のような装飾が施されている。黒ウサギはそれが神格の武具だとわかる

 

「神格の武具!?他にもあるのですか!?その弓はまさか」

 

「飛べない人間は不便だよね。落ちてくる雲も避けれないんだから」

 

「石化のギフト……ね……」

 

天音は肩をすくませながら、弓を直す

 

「今頃君たちの仲間と部下どもは石になってるだろうさ。ま、無能にはいい体罰さ」

 

十六夜達が石になっていないのは、ルイオスの遊び心だろう、ようやっと訪れた初めての挑戦者。すぐに終わらせては勿体無い。吐く軽口より、内心の闘志は遥かに高まっているのだろう

 

 

「目論見が外れたな。レティシアが戻れば魔王に対抗できると思ったんだろうが、肝心のレティシアは使えない。どうする、例の作戦止めるか?」

 

「……ですが、僕たちにはまだ十六夜さんと天音さんの2人がいます。貴方達が本当に魔王に勝てる人材だと言うのなら、この舞台で僕達にそれを証明してください」

 

「OK。よく見てな御チビ」

 

「じゃあ私は観戦でもしてよ、挑戦権無いからね、頑張って十六夜!」

 

「おう!任せておけ」

 

十六夜は余裕そうに右手をあげて言う

 

「はっ!名無し風情が、後悔するがいい!」

 

いざここに、十六夜とルイオス&アルゴールの魔王との戦いが始まった。

十六夜は真正面からアルゴールとぶつかり合う。押し合いになったのは僅か一瞬。アルゴールは耐え切れず押し切られ、その場でねじ伏せられる。

 

「ハハ、どうした元・魔王様!今のは本物の悲鳴みたいだったぞ!」

 

獰猛な笑顔でねじ伏せ、さらに腹部を幾度も踏みつける。それだけで闘技場に亀裂を発生させ白亜の宮殿を砕く程の力だ。ハルパーを片手に疾駆するルイオスを下半身を捻った勢いで蹴り上げる、第三宇宙速度以上で吹き飛ばしたルイオスに十六夜は跳躍して一瞬で追いつき

 

「どうした?翼があるのに不便そうだな?」

 

「貴様っ!」

 

怒りに任せハルパーを振りかざすが、十六夜は受け止め、地面めがけ投げ飛ばす、ルイオスはアルゴールと重なるように叩きつけられた、二つの呻き声、ルイオスは

 

「き……貴様、本当に人間か!?いったいどんなギフトを持ってる!?」

 

「ギフトネーム・ "正体不明" ーーん、悪いなこれじゃわからないか」

 

 

「……もういい、アルゴール。宮殿の悪魔化を許可する!奴を殺せ!」

 

ルイオスの命令に従うようにアルゴールは絶叫する。すると黒いしみがアルゴールを中心に広がり、あたりからいろんな魔獣を生み出す。

 

「確か伝承じゃゴルゴーンにはそんな力あったな」

 

「そうだ!これが数々の魔獣を生み出したゴーゴンの特性!お前の相手は魔王とこの宮殿そのものだ!逃げ場はないものと知れ!」

 

「そうかい……ならこの宮殿ごと壊せばいい話だな?」

 

 

「「え?」」

 

ジンと黒ウサギは嫌な予感がした。天音の行動は早く、二人を抱き抱える。十六夜は無造作に拳を振り下ろし宮殿に叩き込む。闘技場が崩壊し瓦礫は四階を巻き込んで三階まで落下する。その様を、天音に抱き抱えられた状態で黒ウサギとジンは息を呑む、翼を持つルイオスも同様だった。闘技場には常時防備結界がはられているそれこそ、山河を打ち砕く程の力がなければ……

 

「……馬鹿な、どういう事だ、奴の拳は山河を撃ち砕くほどの力があるのか!?」

 

「どうした?もうネタ切れか?」

 

ルイオスは悔しそうな顔を浮かべるがすぐに真顔に戻った。

 

「もういい、アルゴール。終わらせろ」

 

石化のギフトを解放した。星霊・アルゴールは謳う様に不協和音と共に、褐色の光を放つ。これこそアルゴールを魔王に至らしめる根幹。天地に至るまで全てを褐色の光で包み、灰色の世界へと変えていく星霊の力、褐色の光に包まれた十六夜は真正面から捉え

 

「……ゲームマスターが狡い真似してんじゃねぇ!!!」

 

その光を踏み潰した、アルゴールの放つ光をガラス細工の様に砕いたのだ

 

「ギフトを破壊した!?黒ウサギあれほどの力を持ってギフトの破壊はできる?」

 

「有り得ません!あれだけの身体能力がありながらギフトを破壊するなんて!」

 

「(そういう事か、ギフトカードがエラー起こしたのではなく、十六夜のギフトが査定を壊したのか……だけどそれを両立する魂……矛盾だけど存在している。まさに……"正体不明")」

 

天音は冷や汗を書きながら十六夜の方を見る。

 

「さぁ、続けようぜゲームマスター。次はどんな手を使うんだ?」

 

「もうこれ以上のものは出ないと思います。アルゴールが拘束具で繋がれてる時点で察するべきでした。ルイオス様はアルゴールを支配するにはまだ未熟すぎるのです」

 

ルイオスは悔しそうにした俯く。

 

 

「ああ、そうだ。もしこのまま負けたら……お前達の旗印。どうなるかわかってんだろうな?」

 

「な、なに?」

 

「このゲームでお前たちの旗印を手に入れたら、今度は旗印を盾にもう一戦申し込む。そうだな、次は"ペルセウス"の名前を頂こうか」

 

ルイオスは恐怖に顔を歪め怯える。

大方、"ノーネーム"になった自分たちを想像したんだろう。

 

「その二つを手に入れたあと"ペルセウス"が2度と箱庭で活動出来ないように、徹底的に、徹底的だ、泣こうが怒ろうが、喚こうが、コミュニティの存続が出来ないようにな」

 

「や、やめろ……!」

 

ここで負ければ旗印が奪われる。そうなれば "ペルセウス" は決闘を断ることをできない。今の状況で戦うなど不可能だ。ルイオスは自身のコミュニティが崩壊の瀬戸際に立たされているのに気づく

 

「そうか。嫌か。なら方法はひとつしかないよな?」

 

一転して凶悪さが消えにこやかな笑顔で言う

 

「来いよ、ペルセウス。 命懸けで俺を楽しませろ」

 

獰猛な快楽主義者は両手を広げゲーム続行を促す、自ら招いた組織の危機にルイオスは覚悟を決めて叫ぶ

 

「負けてたまるか!奴を倒すぞ アルゴオォォォォォル!!」

 

二人を下ろした天音は、小さく口角を上げ、小さく呟く

 

「……ゲームセット、今度は戦う時は私ね」

 

そう言いレティシアの石像を慎重に回収した。

 

 

 

 

 

 




モンハンワールド楽しすぎて更新遅れる可能性あります


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エピローグ

「「「「じゃあこれからよろしく、メイドさん」」」」

 

「「「え?」」」

 

“ペルセウス”とのギフトゲームが終わり、レティシアを助けて目を覚まして問題児達が言ったのはこの一言だ

 

「え?じゃないわよ今回のゲームで活躍したの私たちだけじゃない?あなた達はくっ付いてきただけだもの」

 

「うん、私なんて力一杯殴られたし、石になったし」

 

「あ、それ私も」

 

「つーか挑戦権持ってきたのおれだろ?」

 

「その挑戦権の情報ともう一つの挑戦権は私だよ?」

 

「というわけで所有権は3:3:2:2で話は付いた」

 

「何を言っちゃってんでございますかこの人達!?」

 

最早ツッコミが追いつかず黒ウサギは混乱する、同様にジンも混乱する

そんな中、当事者であるレティシアは冷静だった

 

「んっ………ふ、む。そうだな。今回の件で、私は皆に恩義を感じている。コミュニティに帰れたことに、この上なく感動している。だが、親しき仲にも礼儀あり、コミュニティの同士にもそれを忘れてはならない。君達が家政婦をしろというのなら、喜んでやろうじゃないか」

 

「レ、レティシア様!?」

 

黒ウサギの焦りは今までにないくらいだ、尊敬していた先輩をメイドとして扱わなければならないことになるなんて

 

「私、ずっと金髪の使用人に憧れていたのよ。私の家の使用人ったらみんな華も無い可愛げの無い人達ばかりだったんだもの。これからよろしく、レティシア」

 

「よろしく……いや、主従なのだから『よろしくお願いします』の方がいいかな?」

 

「使い勝手がいいのを使えばいいよ」

 

「そ、そうか。……いや、そうですか? んん、そうでございますか?」

 

「黒ウサギの真似はやめとけ」

 

ヤハハと笑う十六夜。意外と和やかな四人を見て、黒ウサギは力無く肩を落としながらうなだれるのであった

 

 

それから三日後の夜。

子供達を含めた“ノーネーム”総勢一二七人+一匹は水樹の貯水池付近に集まり、ささやかながら料理が並んだ長机を囲んでいた。

 

「だけど、どうして屋外の歓迎会なのかしら?」

 

「うん。私も思った」

 

「黒ウサギなりに精一杯のサプライズってところじゃねえか?」

 

「明日から頑張らないとね」

 

「無理しなくていいって言ったのに……馬鹿な娘ね」

 

「そうだね」

 

飛鳥の苦笑に耀も苦笑で返す。

 

「それでは本日の大イベントが始まります!みなさん、箱庭の天幕に注目してください!」

 

黒ウサギに言われて天幕を見ると大量の流れ星が流れていた。

 

「この流星群を起こしたのは他でもありません。我々の新たな同士、異世界からの四人がこの流星群の切っ掛けを作ったのです」

 

「「「「え?」」」」

 

「箱庭の世界は天動説のように、全てのルールが此処、箱庭の都市を中心に回っております。先日、同士が倒した“ペルセウス”のコミュニティは、敗北の為に“サウザンドアイズ”を追放されたのです。そして彼らは、あの星々からも旗を降ろすことになりました」

 

天音達四人は驚愕する、完全に絶句した。

 

 

「……なっ……まさか、あの星空から星座を無くすというの!?」

 

「今夜の流星群は“サウザンドアイズ”から“ノーネーム”への、コミュニティ再出発に対する祝福も兼ねております。星に願いをかけるもよし、皆で鑑賞するもよし、今日は一杯騒ぎましょう♪」

 

飛鳥の驚きに黒ウサギは笑みを浮かべて返す。天音はいいことを思いついた表情を浮かべる

 

「こいつはいい目標ができたな」

 

「十六夜も?実は私もなんだ」

 

「じゃあ二人で言ってみようぜ」

 

「良いよ」

 

「目標でございますか?なんでございますか?」

 

「「あそこに私達の(俺達の)旗を飾る」」

 

今度は黒ウサギが絶句する。しかし弾けるような笑い声をあげる。

 

「それは……とてもロマンがございます」

 

「でしょ?」

 

「はい!」

 

その道はまだまだ険しい。奪われたものをすべて取り返しその上でコミュニティをさらに盛り上げる。ほかの二人は反対しないだろう、そんな予感があった。すべてを捨ててここに来たそれに見合う対価はまだ始まったばかりだ

 

 




次回から第2巻

フラグも立てていきたいなぁw


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第1回コラボ 第一話

今回は初コラボです!

お相手は竜宮小僧さんです

作品名は『問題児達と孤独な少女が異世界から来るそうですよ?』

皆さん楽しんでいってください



「よーし、今日も頑張って行きますかー」

 

ノーネーム本拠のとある一室、現在のその部屋の主:八神天音はカーテンを開き背伸びをしてそう言う。箱庭に来てペルセウスとのギフトゲーム1週間と5日が経過した。少女は他のメンバー、十六夜、飛鳥、耀と合流して朝食を摂る。そして今日の予定は

 

「暇だから街に行くか」

 

と十六夜の一声で、街の散策に決定した。思えば箱庭に来てまともに街を散策していないのだ

 

「やっぱり色々あるね」

 

「そうね、思えばこの街を見て回るのは初めてかしら?」

 

「うん、ガルドとのギフトゲームやペルセウスとのギフトゲームあったし、それ以降もコミュニティの運営のために色々ギフトゲームやお手伝いしてたしね」

 

「たまにはいいじゃない?色々観光しても」

 

問題児四人は、問題を起こしつつ箱庭の街を楽しんだのであった、途中黒ウサギに怒られたが、ガイドに抜擢したりと、改めて箱庭の観光する良いきっかけになった。

 

そしてノーネーム本拠に戻り、天音と十六夜はノーネームの書庫で本を読み漁る。最近の主なサイクルがこれだからだ。

 

「今日はここまでだな、とりあえず読み切れていない本は持って読もうぜ」

 

「了解っと、じゃあこの位かな」

 

十六夜と天音は本を持ち本拠に戻り、少しして夕食を食べて。お風呂に入り、自室に戻り、読書の続きをする

だけど今日は少し変だ、まだ眠たくなる時間じゃないがまぶたが重く、体もだるく感じる。

 

「もう少し……読みたいのに……」

 

強烈な睡魔に逆らえず、意識を手放す天音

 

 

天音視点

 

いつも通りに、過去を見返すような夢を見る。 "私" の過去ではなく "私に至る" まで紡がれてきた、先祖の記憶。

だが今日は様子が変だった。直後影が広がり自分を侵すように侵食する

 

「な……にこれ!?動けない!?」

 

力に限り抵抗するが、動けず、どんどん影がさらに私を侵食する、私を消さんがために、経験を記憶を今の八神天音を消すためにまるで影は"お前は一生孤独だ"と言わんばかりに。私は恐怖する。こんな事は初めてだ、怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い。だけど、光が見えた、それだけで切り替えができる、あれが出口だとするのなら、飛び込むだけでいいはず。

 

「届け………届いて!」

 

動く手を無理矢理伸ばす、その場所に逃げ込むために。

 

ーーーーーーーーー

ーーーーーーー

ーーーーーー

ーーーーー

ーーーー

 

目が覚める、光に照らされ、眩しくて目が覚める。体は特に怪我も無い、いやそれが当たり前だ、なんせ夢を見ていたのだから。だが

 

「怖かった……なんだったのさ……あれは」

 

あの影には何かを感じた、最近疲れていたと言うのもあるが、それにしても何時も以上に夢見が悪いと来たものだ

センチメンタルにでもなっているのだろうかと考えてしまう。

 

「それにしても……おかしい、私は当てられた部屋のベットで寝てたはずなのに……」

 

気がつくとノーネームの本拠の外の農園の近くの木の下で横になっていた。

 

「誰かのイタズラにしては、粗末なものだけど……どういう事だろう?夢遊病の気でもあったのかな?それに……違和感を感じる」

 

見慣れた建物の筈なのに、どこか違うような気がする。でも動かない事には始まらない。体を起こして立ち上がる、いつも以上に体が重く感じる、眠る前にだるくは感じていたが、夢見が悪いとこうもなるのかな?

 

「とりあえず……中に戻ろう」

 

私は頭を振り、本拠に足を進める。

いつものように歩く、今回はヘッドホンが無い。少し違和感があるが大丈夫

何事も無く、本拠に入る。

中は特に何の変哲もない変わらない。

私は少し考えすぎたのかもしれない。そう思うとお腹が少し空いた気がした。食堂へ向かい、扉のドアノブに手をかけたその瞬間

 

「どこから入ったの貴女?ノーネームのメンバーじゃないよね?」

 

後ろから声が掛かる、聞きなれない声。ゆっくり声の方に振り返る

服装は黒のワンピースでタイツを履いていて、髪は大体膝丈まであるのかな髪型はポニーテイルぽいね髪の色は白銀かな……そんな思考は、まっさきに破棄した、彼女が伸ばす影……その感覚は覚えてる。忘れるわけがない……あの影を私をあの影を消そうと、その感じがした頃には体が動いていた

 

「っ!」

 

右手から雷撃を出す……それを目の前の少女は

 

「ッ!影玉」

 

自らの影を球体にして、雷撃を向かい撃つ。互いの攻撃は互いの攻撃を相殺する

 

「(咄嗟事とは言え攻撃しちゃったけど、少し吹っ飛ぶ程度の手加減はしたけど、それを簡単に相殺するなんてね……)」

 

天音は冷静に状況を考えるが少女が言葉を紡ぐ

 

「攻撃するということは、敵ってことで良いんだよね?」

 

少女は影を迸しらせながら、敵意を出して

 

「敵なら容赦する必要、ないよね?」

 

衝突は最早避けられ無いものとなった

 

 

 

 



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コラボ第2話 vs影の少女

少女の行動は早かった。瞬時に私を影で縛り上げてきた。いい気はしない、あの感覚を無理やり思い出させられている気がしてならない。影は私を縛ったまま投げ飛ばす

 

「ッ……」

 

この程度の衝撃なら普通に耐えれる、だが少女は倒れた私に瞬時に攻撃を仕掛ける。影を突き立て刺しに来る。でもやられてばかりじゃない。私はその突き立ててきた影を掴んだ、一か八かだったけど掴めた

 

「……今度はこっちの番」

 

思いっきり影を引っ張り上げる少女の使う影は今は自身の影らしい、少女の体は見た通りに軽く来ると思ったけど彼女も耐えている。

 

「こ、こいつ……!!」

 

すごい形相でこっちを睨みつけてくる。攻撃したとはいえ殺意全開すぎやしませんかね、私は日輪の意匠が凝らされた槍を取り出し、光を纏わせ影を切り離す

 

「影玉!」

 

彼女は自身の影じゃなく、本拠の影を使うようだ。彼女より大きい本拠の影だ威力も上がってるだろう……私は近くの家具でそれを防ぐ。だがそれは失策だった、自らの視界をも防ぐことになるのだから

 

「…ここまでだよ。デストリア・効果・全破壊!」

 

少女が叫ぶ。直後周りが壊れて行く。このままでは私は死ぬ………とまでは思わない。だけど、ただでは済まないのはなんとなく分かる。こんな所で死ぬわけに行かない、私が知らないノーネームメンバーに仲間殺しなんて汚名着させるわけにも行かない。そして私は小さく言葉を紡ぐ、私が持つ最強の護りを

 

日輪よ(カヴァーチャ)具足となれ(クンダーラ)

 

私はかの英雄が纏いし黄金の鎧と耳輪を身に着ける。自分に着けるのは初めてかもしれない。彼女の攻撃は凄まじいものだった本拠の入口を吹っ飛ばしてしまった。これは、黒ウサギが見たら怒るだろう。

 

「さあ、これで、勝った?」

 

「まだまだよ、と言うかこんなに派手に壊してどうするのさ」

 

彼女は仕留めた気でいたのだろう、私に背を向けていた、私の声に反応して振り返る。その少女は驚愕の表情をしてる。

 

「なっ!あれを受けて、生きている!?」

 

「そりゃ生きてるよ、でも肝は冷えたよ。その力は世界すら壊せるかもしれないけど、"神々ですら破壊困難"な鎧をその程度で壊せるわけないでしょ?あんまり舐めないでよね」

 

一歩で距離を詰め、放心している少女を右手で腹部を殴る。勿論手は抜く少し吹っ飛ぶ程度には。既に壊されていた入口を抜け、外へと飛んで行く

 

「ケホッ…ケホッ…!」

 

正直に言うと感心している。ノーネームにまだこれほどの人材が居たなんて、黒ウサギはなんで黙っていたんだろう?少女はゆっくり立ち上がりニヤリと笑い

 

「君となら、本気で殺し合いができる。」

 

そう呟いた、私は殺し合いなんかする気なんて毛頭ないが手が出てしまった、まずこの子を止めないと

 

「まっ、待ってさっきのは……!」

 

言葉は届いていない、立ち上がり駆けてくる。悪夢の影は彼女のものだ。影の形を刃に変えて、切り込んでくる

吸血鬼の様な羽を作り、そして空から。

 

「もっともっと楽しませてよ。君の本気を見せて。」

 

まだ本気じゃないでしょ?と言わないばかりの表情で襲い来る。

 

「この!戦闘狂……!」

 

悪態をつきながら対処する。夢見が悪いと、体がだるく重く感じ、苛立ちが表面に出てくるのが自分でもわかる。そして何より彼女の実力がかなり高いという事だ、耀や飛鳥より強い、厄介この上ない

 

「貴女の本気こんなもじゃないよね!侵入者さん!」

 

槍を振るい影の刃を迎え撃っている、鎧はとっくにしまってある。全ては捌ききれない、足や、頬、腕を切られてゆく、防御に回して攻撃しても、思うように決まらない、いつも以上に集中が出来ていない。

 

「チッ!」

 

私は距離を置き、槍を消していう。

 

「……私の心を……」

 

苛立ちを含んだそれは、攻撃的な言葉を以て

 

「滾らせるな!」

 

発せられた。

 

右手に炎を纏わせアッパーするように炎を走らせる。少女はそれを躱す、そんなのは分かり切った事だわざと避けさせた。上体を立て直すと同時に畳み掛ける。連打、連打、連打 顔以外をひたすら連打する。再び少女を上に殴りあげ、拳を握り振り下ろし叩きつけた。クレーターが出来上がる、私は少女に近づき言う

 

「戦闘狂なのは君の個性かもしれないけど、相手を観察することも大切だよ、戦ってわかった、本来の戦い方もしてない、その場の勢いだけ、気持ちに体が悪い方向でついていった、君さ、格上相手にこんな戦い方寿命縮めるだけだよ冷や冷やするよ全く」

 

ため息をついて冷静になるように努める。彼女には私はどう写っているのだろうか?少し恐怖している瞳だ、私は鏡を見ることなくわかる、多分冷たい瞳なのだろう、それも最初だけだろう、途中から呆れながら言ってるのもわかる。良くないと頭を再度振り

 

「やりすぎたことは、謝るし先に手を出したことも謝罪するよ」

 

微笑み手から光を出し、彼女を癒す、彼女は気持ちよさそうに目を瞑る、その僅かな時間に、聞き覚えのある少年の怒号が響き渡り、体に衝撃が走る

 

「テメェ!凪咲に何しやがった!」

 

姿を見て困惑する、十六夜がすごい剣幕で私を蹴り抜いた、来るはずのないいや、予期しない一撃は、骨にヒビを入れ、口が鉄の味の液体で染まる

 

「十六夜………どうして……!?」

 

一撃をモロに貰ったが、意識を集中し聞く、帰ってきた返答は、予想外だった

 

「お前、なんで俺の名前を知ってる?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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コラボ第3話 和解とお別れ

第1回コラボ最終話です!


十六夜が私のことを知らない………笑えない、逆に震えるよ……だけど、十六夜は操られているわけでも記憶を操作されてる感じじゃない。明確に意思があり、後ろの少女 『凪咲』と対峙してた私を敵として認識している。

 

「何があったの!?凪咲さん」

 

「これをやったの貴女なの?」

 

出入口から、飛鳥と耀も出てくる、疑問は確信に近づく、そうか……見慣れたノーネームの本拠、見慣れたいつものメンバー、ただ一人 『凪咲』と言う少女を除いて。ここの箱庭は、私の知る箱庭と異なる箱庭というわけか。合点がいって悪夢を思い出す

 

"お前は一生孤独だ" 嗚呼まさに一生じゃないにしろ、ここに私の味方はいない

 

「そう見たいだぜ、お嬢様、春日部、俺達の仲間に手を出したんだ覚悟してもらわないとな」

 

「ええそうね、凪咲さんを傷つけた貴女を捨て置くわけにはいかなわいね」

 

「覚悟してね」

 

あはは……やっぱり理解しても堪えるものがある…… 体は動くし……致命傷になり得たのは十六夜の一撃だけ。でも私は戦いたくない。見知った顔の相手を殴り飛ばすなんてことは……

 

「行くぞオラ!」

 

十六夜は第三宇宙速度で迫り右腕を振りかぶる。考える暇なんてない

 

「当たるわけには行かない……」

 

「"そこを動くな"!」

 

回避行動を取ろうとすると動けなくなる。これは飛鳥の威光。私にはさほど効果は無いけど、確実に一瞬は止まる、回避行動出来ず十六夜の一撃を貰う

 

「ッ!………」

 

咄嗟に後ろの飛び、威力を逃すが飛んだ方向に

 

「はぁ!」

 

グリフォンの旋風を足に纏わせ重さを像にして蹴りこんでくる耀

 

「なんの!」

 

私はギリギリで受け流す。

 

「容赦がないね全く……」

 

「手を抜く必要性が何処にあるんだよ!」

 

「そりゃそうだね」

 

戦う気は無い、だから受け流す、だけど怒ってる十六夜の攻撃は私の反応を超えた、腹部を強打し、止まったところを耀が旋風のギフトで舞い上がらせて、十六夜が殴りに来る。回避行動の余裕は無い。防御だ、腕を交差させ防御する。山河打ち砕くであろう一撃は重く地面に叩きつけられる

 

「グッ……!」

 

吐きそうになる、嗚咽をする、息ができない……頭で分かってても、辛い……知ってる人に知らない人扱いされ、殴られるのは辛い、小さな傷は増えてきてるけど、致命的な一撃は最初の一撃だけ。だけど自分でもわかるように、精神的にも、さっきの戦いのダメージがないわけでもない。でもそんなのがどうでもよくなることがひとつある。凪咲という少女が思い詰めた様子でこっちを見ている。まるで自分のせいでこうなったとでも言いたげな、私は知ってる、あの悪夢は彼女の悲鳴そのものだ "お前も一生孤独だ"は彼女が孤独だったからだ、理不尽に振り回された、かよわい少女の悲鳴……私なんかが想像出来ないものを味わったに違いない。だから私は伝わらなくとも、彼女に伝えなくては

 

「君は……何も悪くない……ただ間が悪かっただけ……巡り合わせが良くなかっただけ……もう十分不幸だったでしょ?抱え込まなくとも……こんなにも思ってくれる人がいるじゃん、頼ればいいんだよ……」

 

「ねぇ様子おかしくない?春日部さん」

 

「うん、凪咲と戦ったんだったらもっと、攻撃してくると思ったけど、あの人私たちとは戦いたくないみたい」

 

「ええ、そう思うわ、なにか理由が」

 

飛鳥と耀がそんな事を話してる。考えてくれてるのかな……でも

 

「そんなの関係ねぇ、凪咲に手を出したんだ……俺からしたらそれだけで倒す理由があるんだよ!そっちの理由なんて知ったことか!」

 

「ッ!」

 

会話に気を取られ一瞬のスキを生み出してしまった。十六夜から意識がそれてた、無防備に近い形で腹部の鳩尾に拳が深く突き刺さる。その一撃でも私は膝から崩れ、意識が途切れそうになる、十六夜の後ろから

 

「十六夜ダメ!その人は!」

 

その先から意識が途切れる。

 

夢を見た、いつもの先祖の夢と元の箱庭の夢を、嗚呼随分懐かしく思えるものだった。大切な場所、大切な人達、大切な時間。文字通り宝なのだろう。

 

目が覚めると、白銀の少女が私の手を握り眠っていた。

 

「……苦労していたんだね、凪咲さん」

 

ふと手が伸び優しく頭を撫でていた。きっと妹がいたらこういうものだろうかと考えながら

 

「……目が覚めた?」

 

少女が目を覚ました、私はびっくりして撫でるのをやめてしまう。

 

「うん、本当にさっきはごめん、体が咄嗟に反応したとはいえ攻撃してしまって、貴女を傷つけてしまった本当にごめんなさい」

 

私は彼女に謝罪する、これは大事なことだ、彼女は目を丸くして

 

「あ、謝らないでください、私のせいで貴女がこっちに来て、そして……」

 

「傷つけてしまった?それ以上は言わなくてもいいよ、"私"はこういうのは確かに慣れてないけど、周りに味方がいないのは経験と記憶があるし……あ、今の無しね」

 

「その、ありがとう、ございました、あの時、あんなふうに言ってくれて」

 

その意外な言葉を受けて私は笑う

 

「大丈夫だよ。ただ思ったことを言っただけだから、貴女は気にしなくてもいいんだよ」

 

私はそう言った、そうあの時、伝えなきゃと思って言った、ただそう思って

 

「私、みんなに、言ってないんです自分の過去の全ても、感じてきた孤独も、言ったら、みんないなくなっちゃうって思ったら、怖くて何も言えなくて今は優しいみんなも、変わってしまうかもしれないって思ったら、何が正解なのかも分からなくなって」

 

私は黙って聞いた、私が思うに正解なんてきっと無い。彼女の不安は周りを大切に思ってるからこそのものだろう。それとまた一人になることが怖いんだと思う。私は微笑んで優しく頭を撫でながら

 

 

「大丈夫だよ、十六夜や飛鳥達がその程度で離れたりしないよ。私が夢で、感じた孤独は君のほんの一部なのかもしれない。だけど、君も十六夜や飛鳥達を知り尽くしていないでしょ?知ったら離れるとか、知らないままならいられるとかじゃなく、本当に彼女達を君が信じて、自分を見つめられるかだよ。君の目は、迷惑かけたくないと心で言ってその実、みんなから逃げてるだけ。自分がどうでもいいと思ってる人に他人が守れるはずがない。少し難しかったかな?まぁふとした時に思い出してくれたらいいよ」

 

話終えると丁度いい感じに

 

「目が覚めたか?」

 

「目が覚めたようね?」

 

「目覚めたみたい」

 

十六夜達が入ってくる。私は申し訳なさそうに目を逸らす、すると凪咲さんがひとつひとつ十六夜達に説明してた。互いの勘違いから始まった戦い。そして私が別の世界の箱庭のノーネームメンバーだと言うこと

 

「とまぁ、私の不注意と体調管理不足からの余裕のなさで騒いでしまったみたい。ごめんねみんな」

 

「ええ、私も凪咲さんのところしか見てなかった訳だから、謝るのはこっちもだわ、ごめんなさい」

 

「うん、ごめんなさい」

 

「………まぁ……悪かった」

 

「ううん、大丈夫だって、こっちでは十六夜と凪咲が付き合ってるんだね、いやーお熱いねぇ」

 

「ッ!なんでそれを!」

 

「見れば分かるよ、と言うかわかりやすい」

 

凪咲は顔を真っ赤にしながら慌てる

 

「じゃあそういうお前は、そっちの俺とどういう関係なんだ?」

 

十六夜が私とこっちの箱庭の十六夜がどういう関係か知りたいみたい……どういう関係と言われても、

 

「うーん、仲間で友人だよ、本当だよ?」

 

その直後、体が軽くなり、光の粒子のように溶けていく。それはまるで消滅……いや違う。引き戻されてるのかな

 

「嗚呼、夢の終わりか……良くも悪くもいい経験だったよ……でもこの消え方は嫌だなぁ、体の感覚とかも消えそうな感じ……でもこれを自らの意思でできたら……」

 

そんなことをブツブツいいながらベットから出て立って言う

 

「とりあえず、異世界交流はここまでみたいだね。凪咲は周りを見ること、十六夜は凪咲を泣かせない事。……そんなんかな? じゃあね、寂しがり屋の影使い凪咲今度会う時が楽しみだね」

 

「待って!名前は!」

 

凪咲が私の名前を問いかける、そう言えば名乗ってなかった。私は某仮面ラ〇ダーの決めゼリフぽく

 

「私は通りすがりのノーネームメンバー八神天音!それじゃあバイバイ」

 

そして意識が途切れ目の前が白くなる

 

 

 

「……私の部屋だ……」

 

「あ、起きましたか!?天音さん!」

 

目を覚ますと、近くに黒ウサギが居た

安堵の表情をしている

 

「どうしたのさ黒ウサギそんなに慌てて?」

 

「どうしたもこうしたもないですよ!天音さんどんなに呼びかけてもピクリとも反応しなかったんですよ!?皆さんは書庫で治す方法を探してます!皆様を呼んできます!」

 

脱兎の如く、黒ウサギは慌ただしく出ていった

 

「……帰ってきたんだ……よかった……記憶とか消えなくて」

 

あんな貴重な体験忘れたくはない、けど精神的には参った面もある

 

このあと三人にいや黒ウサギやレティシア達に話を聞いたら、私はまる二日眠りっぱなしだったらしい。

 

「もう大丈夫なのかよ、天音」

 

「うん、大丈夫だよ。心配かけてごめんね?」

 

「ああ、そうだな大分心配したぜ」

 

ヤハハと笑う十六夜、私も可笑しくて笑っていた。私だけが体験した異世界の箱庭、また何時か会えると思う。凪咲にその日が楽しみだ

 

「心が踊る」

 

 

 



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あら、魔王襲来のお知らせ?
北からの招待状


北側生誕祭編突入


少女は夢を見る。まるで遠い日の戦争の日々を、互いは何時からか宿敵のような関係だった。決まりを破り敵を討つべく弓を引く一人称視点、戦車が動かなくなってその矢を受ける一人称視点。邪龍と相対する一人称視点。辿ってきた道、血が、全て見ろと、全て記憶せよと、全て身体に染み込ませろと。自分のいた世界では見ることの無かったもの……軌跡が

 

ーーーーーーーーーー

 

「……(最悪……何あれ?いや知らないわけじゃない、だけどあれは)」

 

箱庭に来て1ヶ月が経った、天音は十六夜、ジンとでノーネームの書庫にいた。最近の生活サイクルは毎朝早くに本拠を出て、帰ってきては未読の書籍を漁る日々、十六夜も同様だ、ジンはそれの案内等を行っていた。人並外れた体力を持つ天音と十六夜だが眠気には勝てない

 

「………ん………御チビ、天音、起きてるか?」

 

「………くー………」

 

小さく寝息を立てるジン

 

「………(まだ、眠たい)」

 

「二人とも寝てるか………まぁ俺のペースに合わせて本を読んだんだから当然だな……」

 

天音は十六夜に体を預けるように寝ている、十六夜も同様に天音にもたれるように寝ている。3人が健やかな寝息を立てていると、飛鳥達が慌ただしく階段を降りてくる

 

「十六夜君!天音さん!何処にいるの!?」

 

「……飛鳥?……どうしたの……」

 

「………うん?ああ、お嬢様か……」

 

とうつらうつら頭を揺らして二度寝をしようとする二人に飛鳥は散乱した本を踏み台にして、膝蹴りで強襲

 

「起きなさい!」

 

「させるか!」

 

「グボハァ!?」

 

飛鳥の蹴り対して十六夜はジンを盾にした。盾にされたジンは見事に側頭部を強襲、三回転半して吹き飛ばされる。

 

「ジン君がぐるぐる回って吹っ飛びました!?大丈夫!?」

 

「側頭部に飛び膝蹴りを食らって大丈夫な訳ないと思うな」

 

ジンに駆け寄るリリ、顔色一つ変えず合掌する耀、ジンを吹き飛ばした飛鳥

 

「十六夜君、天音さん、ジン君!緊急事態よ!二度寝してる場合じゃないわ!」

 

「そうかい。取りあえず、側頭部にシャイニングウィザードは止めとけ。俺はともかく御チビの場合は命に関わ」

 

「って僕を盾に使ったのは十六夜さんでしょう!?」

 

「意外にタフだね、ジン君」

 

本の山から起き上がるジン。生きていたらしい

 

「大丈夫よ。だってほら、生きてるじゃない」

 

「デッドオアライブ!?というか生きてても致命傷です!飛鳥さんはもう少しオブラードにと黒ウサギからも散々」

 

「ジン君喧しい」

 

天音はジンめがけて本を投げつける。

その本はジンの頭にクリティカルヒット。しかも角だ。ジンは先ほど以上の速度で後ろに吹き飛び失神する

 

「それで?人の快眠を邪魔したんだ。相応のプレゼントがあるんだろうな」

 

睡眠を邪魔されて不機嫌な十六夜。

対して飛鳥はそんな不機嫌な十六夜を無視して話を進める。それもそのはず二度寝できなかったのは飛鳥も同じなのだから、だが十六夜と天音は知る由もない

 

「いいからコレ読みなさい。絶対に喜ぶわよ」

 

不機嫌な表情のまま十六夜は手紙を読む。天音も目を擦りその手紙を覗く

 

 

「双女神の封蝋……白夜叉から?」

 

「何々?北と東の"階層支配者"による共同祭典"火龍誕生祭"の招待状?」

 

「そう!よくわからないけどきっと凄いお祭りだわ。十六夜君も天音さんもわくわくするでしょ?」

 

「おい、ふざけんなよ。こんなことで人の快眠邪魔して側頭部にシャイニングウィザードを決めようとしたのかよ!?それに、なんだよこのラインナップ!?北側の鬼種や精霊達が作り出した美術工芸品の展覧会および批評会に加え、様々な"主催者"がギフトゲームを開催。メインは"階層支配者"が主催する大祭を予定しておりますだと!?クソが!少し面白そうじゃねえか、行ってみようかなオイ♪」

 

「確かに面白そう!精霊かぁ見てみたいな!」

 

獣のように体をしならせ飛び起き、颯爽と制服を着込む十六夜と天音。

天音はヘッドホンを首にかけ、曲を切り背伸びをする

 

「ま、待ってください!北側に行くにしてもせめて黒ウサギのお姉ちゃんに相談してから、ジン君も起きて!皆さんが北側に行っちゃうよ!」

 

「……北?…北側だって!?」

 

気絶していたジンが「北側に行く」の言葉で飛び起きる。

 

「ちょ、ちょっと待って下さい!北側に行くって本当ですか!?」

 

「ああ。そうだが?」

 

「何処にそんな蓄えがあると思ってるんですか!?此処から北側までどれだけあると思っているんです!?リリも、大祭の事は皆さんには秘密にと――――」

 

「「「「秘密?」」」」

 

重なる四つの疑問符。硬直するジン少年。失言に気づいた時は時すでに遅し、振り返ると、邪悪な笑みと怒りのオーラを放つ耀、飛鳥、十六夜、天音の四大問題児

 

「そっか。こんな面白そうなお祭りを秘密にされてたんだ、私達。ぐすん」

 

「コミュニティを盛り上げようと毎日毎日頑張ってるのに、とっても残念だわ。ぐすん」

 

「コミュニティの為に骨身を削ってるのに残念だよ。ぐすん」

 

「ここらで一つ、黒ウサギ達に痛い目を見てもらうのも大事かもしれないな。ぐすん」

 

泣きまねをしながらニヤリと笑う十六夜達。ジンは汗をダラダラにながし青ざめる少年。ジンは問題児達に拉致され問題児一行は、東と北の境界壁を目指すのであった

 

「黒ウサギのお姉ちゃぁぁぁぁぁん!大変ーーーー!」

 

「リリ!?どうしたのですか!?」

 

「飛鳥様が十六夜様と耀様と天音様を連れて…………あ、こ、これ、手紙!」

 

『黒ウサギへ。

北側の四〇〇〇〇〇〇外門と東側の三九九九九九九外門で開催する祭典に参加してきます。貴女も後から必ず来ること。あ、あとレティシアもね。

私達に祭りの事を意図的に黙っていた罰として、今日中に私達を捕まえられなかった場合"四人ともコミュニティを脱退します"。死ぬ気で探してね。応援しているわ。

P/S ジン君は案内役に連れて行きます』

 

「………、」

 

「………?」

 

「ーーーーー!?」

 

たっぷり黙り込むこと三十秒、黒ウサギは手紙を持つ手を震わせ悲鳴のような声を上げるのであった

 

「な、ーーーー……何を言ちゃってんですかあの問題児様方あああああーーーー!!!」

 

黒ウサギ達は忘れていた、彼らは世界屈指の問題児集団だったのだと

 



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白夜叉のところに行こう

モンハンワールド楽しいけど、爆撃機が良い具合に邪魔しに来るw


「噴水広場の近くに来ると思うのだけど……二一〇三八〇外門のある悪趣味なコーディネートは、いったい誰がしてるの?」

 

飛鳥は不快そうに外門に視線を向ける。外門と箱庭の内壁の繋ぎ目で石柱には、巨大な虎の彫像が掘り起こされており、門の上部には今は亡きコミュニティ "フォレス・ガロ" の虎の旗印がある。

 

「箱庭の外門は地域の権利者がフロアマスターの提示するギフトゲームをクリアすることで、コーディネートする権利を得ます。一種のコミュニティの広告塔の役割もあります」

 

「そう……それであの外道の名残が残っているのね」

 

不機嫌そうに髪をかきあげる飛鳥。気を取り直し

 

「それで、北側までどうやっていけばいいのかしら?」

 

飛鳥は以前に黒ウサギから貰った深紅のドレススカートを着用している。飛鳥自身も普段着にドレスはどうかと思ったが慣れればそんなものだ。箱庭では突拍子もない姿をしている者もいるのだから。本人も違和感を感じなくなってきたのだ。その隣の耀は小首をかしげながら

 

「んー北にあるんだから、兎に角きたに歩けばいいじゃないかな?」

 

無計画にも程がある耀の提案を聞いた一同は苦笑する。耀の服装は召喚された時と代わり映えせず、シャツ・ジャケット・ショートパンツ・ニーハイソックス・ブーツと全く色気がない組み合わせだ唯一お洒落にあとはブーツのアンクレットだ黒ウサギから貰ったギフトらしい。その耀の隣で十六夜がジンに問う

 

「で、我らのリーダーは何か言い案はないのか?」

 

ニヤニヤと見下ろす十六夜は着古した紺の制服とヘッドホンを首にかけたまま、天音も服装は黒いワイシャツに黒いブレザーの制服にヘッドホンを首にかけた状態だ二人は、一二を争う簡素な服装だ。ジンはダボダボのローブを着たままため息をつく

 

「予想してましたけど……もしかして、北側の境界壁までの距離を知らないもですか?」

 

「知らないけど、そんなに遠いの?」

 

天音は怪訝な表情で返す。ジンは頭が痛そうに抱える

 

「……なら説明する前に聞いておきますね。この箱庭の世界が恒星級の面積だという話は知っていますか?」

 

 

「……?え、恒星?」

 

素っ頓狂な声を上げる飛鳥、表情を変えないまま瞬きを三回する耀、首肯する十六夜と天音。十六夜は眉を顰めながら聞く

 

「それなら黒ウサギから聞いた。けど箱庭の世界は殆どが野ざらしにされているって聞いたぞ。大小あるがこの都市以外にも街はあると」

 

「有りますよ。しかしそれを差し引いても、箱庭都市はこの世界最大規模の都市。箱庭の世界の表面積を占める比率はほかの都市とは比べ物になりません」

 

「比率?」

 

ジンの勿体ぶった話し方に飛鳥達は不穏な気配を感じる。

 

「仮に、箱庭の世界の表面積が太陽と同等と仮定した場合は地球の一三〇〇〇倍バカバカしいよ」

 

天音は口に出しながらも馬鹿らしいと肩をすくめる

 

「まさか、恒星の1割位を都市部が占めている……なんて馬鹿なことは言わないだろうな?」

 

「さ、流石にありえませんよ。比率と言ってもその数字は極小数になります。この場所から北側の境界壁までは少し北寄りなので大雑把なら………980000Kmぐらいかと」

 

「「「「うわお」」」」

 

四人は同時に様々な声音で。嬉々とした、唖然とした、平淡な声を上げた。

 

~その頃のコミュニティ~

 

「食堂にはいなかったよ!」

 

「大広間、個室、貴賓室、全部見てきた!」

 

「貯水池付近もいないっ!」

 

「お腹すいた!」

 

「それはまた後でな。……金庫の方は?」

 

「コミュニティのお金に手を付けていません。皆さんの自腹では境界壁まで向かうことができませんから、外門付近で捕まえれることが可能です!」

 

「なら、黒ウサギは外門へ向かえ。

捕まえれなくとも"箱庭の貴族"のお前なら境界門の起動に金はかからない。私は"サウザンドアイズ"の支店に向かう。招待状の贈り主が白夜叉なら無償で北の境界壁まで送り届ける可能性もあるからな」

 

黒ウサギとレティシアは行動を確認し合い、頷き動く

 

「あの問題児様方………!今度という今度は絶対に!絶対に許さないのですよ!」

 

黒ウサギの目にはかつて無いほどの怒りの火花が散っていた。怒りのオーラで髪を淡い緋色に染め、土埃をあげ爆走する

 

〜end〜

 

「いくらなんでも遠すぎるでしょう!?」

 

「遠いですよ!箱庭の都市は中心を見上げた時の遠近感を狂わせるようにできているため、肉眼で見た縮尺との差異が非常に大きいんです!」

 

「なるほど、呼び出された時、箱庭の向こうの地平線が見えたんだね。縮尺そのものを誤認させるようなトリック

があったわけだね」

 

そう彼女らが召喚された時、箱庭の都市の縮尺を見間違ったのは巨大だけでは無く、一見してして巨大な外観を持つ箱庭の都市だがよく見るとより一層巨大な都市なのだ

 

「そう。なら仕方ないわ。 "ペルセウス"のコミュニティへ向かった時のように、外門と外門を繋いでもらいましょう」

 

「……それはもしかして "境界門"のことを言っているのですか?もしそうだとしたら断固却下です! あれは起動にするのに凄くお金がかかります! "サウザンドアイズ"発行の金貨で一人一枚!五人で五枚!コミュニティの全財産を上回ります!」

 

皆様は子供達を餓死させるつもりなのですかーッ!! と黒ウサギがいたのなら怒られるだろう。ジンに反論され苦々しい表情で黙り込む四人

 

「………980000Kmか。流石にちょっと遠いな」

 

軽薄そうな笑みを浮かべる十六夜だが流石に打つ手がない様子。無駄な散財は避けるべきだ、だが如何に彼らでも地球の二十五個分も歩くわけも行かない

 

「今らな笑い話で済みますから……皆さんも、もう戻りませんか?」

 

「断固拒否」

 

「右に同じ」

 

「以下同文」

 

「絶対拒否」

 

肩を落とすジン。あんな愉快で素敵な挑発的な手紙を残してきた以上、彼らも引くに引けない

 

「思ったんだけど、この手紙出したの白夜叉でしょ?なら路銀くらい出してくれてもいいのにね」

 

「「「………あ」」」

 

天音の言葉に3人は勢いよく立ち上がり言う

 

「そうよ!どうしてそれが出てこなかったのかしら!そうと決まれば行くわよ!」

 

「おう!こうなったら駄目で元々!"サウザンドアイズ"へ交渉に行くぞゴラァ!」

 

「行くぞコラ」

 

「ちょ、ちょっと待ってよーーー」

 

ハイテンションな十六夜と飛鳥に続き耀はその場のノリに合わせて声を出す。ジンは十六夜はダボダボのローブをを掴まれ首を絞めながら、天音は目を丸くして遅れながら追いかけた。

 

 



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北の支配者

五人は "サウザンドアイズ"の支店の前で止まる。桜並木の街道に立つ店前を掃除していた割烹着の女性店員に

 

「お帰りください」

 

「まだ何も言ってないよ」

 

苦笑いしながら言う天音。そう彼らは門前払いを受けていた。どうも問題児達は女性店員に嫌われている節がある。きっとファーストコンタクトに失敗したのだろう。ギフトゲームで得た金品はこの店で捌いて貰っている。

 

「そこそこの常連客なんだし、もう少し愛想良くしてくれてもいいと思うのだけど」

 

口を尖らせ講義する飛鳥

 

「常連客というものは店にお金を落としていくお客様を言うのです。何時も何時も換金しかしない者はお客様では無く、取引相手と言うのです」

 

「それもそうね。じゃあお邪魔します」

 

何気なく店に上がりこもうとする飛鳥達に大の字で塞がる店員

 

「だからうちの店は"ノーネーム"はお断りです!オーナーがいる時はともかくいmーー」

 

「やっふぉおおおおおお!ようやく来よったか小僧どもおおおおおお!」

 

和装の白髪の少女こと手紙の送り主白夜叉が荒々しく登場する。十六夜は土煙を払い女性店員に呆れながら言う

 

「ぶっ飛んで現れなければ気が済まねえのか、ここのオーナーは」

 

「…………、」

 

痛烈に頭が痛そうに頭を抱える女性店員。耀は招待状を白夜叉に見せた

 

「招待、ありがと。だけどどうやって北側に行くかわからなくて……」

 

「よいよい、全部わかっとるよ。まずは店に入れ。条件次第では路銀は私が支払ってやる。……秘密裏に話しておきたいこともあるしな」

 

目を細める白夜叉、最後の言葉だけには真剣な声音が宿る。

 

「それは楽しいこと?」

 

「さて、どうかの。まあおんしら次第だな」

 

意味深に話す白夜叉。四人はジンを引きずりつつ、嬉嬉として暖簾をくぐる。中庭からざしきに招かれた

 

「さて、本題に入る前にジンよ。おんしに聞きたいことがある。"フォレス・ガロ"とのギフトゲーム以降おんし達が魔王に関するトラブルを引き受けるとの噂を耳にしたのだが、真か?」

 

白夜叉は厳しい表情を浮かべ、ジンを見据え問う、それに飛鳥は

 

「ああ、その話なら本当よ」

 

飛鳥は正座したまま首肯する。白夜叉が小さく頷くと、視線をジンに移し再度問う

 

「ジンよ、それはコミニティのトップの方針か?」

 

「はい。名も旗印が無い僕たちにはこうしてコミュニティの存在を広めていくしかありませんから」

 

「リスクは承知の上なのだな?」

 

「覚悟の上です。それに仇の魔王からシンボルを取り戻そうにも、今の僕たちでは箱庭の上層に行くことができません。ですから僕たちの名と旗印を奪った魔王に出向いてもらい迎え撃つつもりです」

 

「無関係な魔王と敵対するかもしれんがそれでもか?」

 

「それこそ望むところだろ。倒した魔王を隷属させ、より強い魔王に挑む……さらに打倒魔王を掲げてる、箱庭世界でもこんなにもかっこいいコミニティは無いだろ」

 

上座から前傾に身を乗り出しさらに切り込む白夜叉に十六夜は茶化して言う。だが、目は笑っていない

 

「ふむ」

 

しばし瞑想すると、呆れた笑みを浮かべ

 

「そこまで考えとるなら良い。これ以上の世話は老婆心というものだろう。では、打倒魔王を掲げたコミュニティに東のフロアマスターとして正式に依頼をしよう。よろしいかな、ジン殿?」

 

「は、はい!謹んで承ります!」

 

子供を愛でるような物言いでは無く組織の長として言い改める白夜叉

 

「まず、北のフロアマスターの一角が世代交代した。急病で引退とか。まぁ、亜龍にしては高齢だったからのう。寄る年波には勝てなかったと見える。此度の大祭は新たなフロアマスターである、火龍の誕生祭での」

 

「「龍?」」

 

龍の部分に十六夜と耀が反応した。キラリと光る期待の眼差しだ。

 

「ところでおんしら、階層支配者についてどのぐらい知っておる?」

 

「私は全く知らないわ」

 

「私も全然知らない」

 

「俺はそこそこ知ってる」

 

「右に同じく、簡単に言うと、下層の秩序と平和を見守る守護者ですよね」

 

階層支配者とは下層の秩序と成長を見守る連中で箱庭内の土地の分割や譲渡、コミュニティが上位に移転できるかを試すのにギフトゲームを行うなどの役割がある。そして秩序を乱す、天災・魔王が現れたら率先して戦うといった義務がある。それと引き換えに主催者権限が与えられてるそうだ。

 

「しかし北は鬼種や精霊、悪魔といった種が混在した土地なので、それだけ治安が良くないのです。そのため、マスターは複数存在します」

 

「けど、そうですか。"サラマンドラ"とはかつては親交はあったのですが、頭首が替わっていたとは知りませんでした。今はどなたが頭首を?やっぱり、長女のサラ様か、次男のマンドラ様が」

 

「いや。末の娘のサンドラだ」

 

その名前にジンが身を乗り出して驚く。

 

「サ、サンドラが!?そんな、彼女はまだ十一歳ですよ!?」

 

「ジン君だって十一歳で私たちのリーダーじゃない」

 

「それはそうですけど……いえ、ですが」

 

「なんだ?御チビの恋人か?」

 

「ち、違います!」

 

ヤハハと茶化す十六夜と飛鳥に怒鳴るジン、天音が続きを促す

 

「それで私達は何をすればいいの?」

 

「そう急かすな。実は今回の生誕祭だが、北の次代マスターであるサンドラのお披露目も兼ねている。しかしその幼さゆえ、東のマスターである私に共同の主催者を依頼してきたのだ」

 

「あら、それはおかしな話ね。北のマスター達は他にもいるのでしょ?ならそのコミュニティにお願いして共同でしたらいいのに」

 

「うむ。まぁ、そうなのだが」

 

白夜叉が歯切れ悪く話す。ポリポリと頭をかいて言いにくそうにしてると十六夜が助け船を出す

 

「幼い権力者を良く思わない組織がある……とか、在り来たりにそんなところだろ?」

 

「まぁ、そんなところだ」

 

十六夜のセリフに肯定も否定もしない白夜叉。飛鳥の表情は不愉快そうに歪んでいた。瞳は目に見えるほどの怒りと落胆の色が浮かんでいる

 

「そう……神仏集う箱庭の長たちでも、思考回路は人並なのね」

 

「うう、実に手厳しい。だが全くもってその通りだ。実は東のマスターである私に共同祭典の話を持ちかけてきたのも、様々な理由があってだ」

 

「待った、白夜叉その話はまだ長くなる?」

 

天音がなにかに気づいたらしく話を制す

 

「ん?そうだな、短くとも後1時間ぐらいかの」

 

 

「それはまずいかも。……黒ウサギ達に追いつかれるかも」

 

 

 

耀の言葉で十六夜と飛鳥も気づいたらしく少し慌てる。ジンも気が付き立ち上がる。

 

「し、白夜叉様!どうかこのまま」

 

「飛鳥!」

 

「わかってるわよ!ジン君『黙りなさい!』」

 

天音は飛鳥の名前を呼び指示する飛鳥もそれを理解しギフトでジンの口を無理やり閉じる

 

「白夜叉!今すぐ北側へ向かってくれ!」

 

「構わんが内容を聞かずによいのか?」

 

「構わねぇ!事情は追々話すし、何よりそっちの方が面白い!保障する!」

 

十六夜のセリフに白夜叉はニヤリと笑う。

 

「そうか。面白いか。いやいや、それは大事だ!ジンには悪いが面白いなら仕方ないのぉ?」

 

白夜叉は悪戯ぽい横顔に、声にならない悲鳴をあげるジン。暴れるジンを抑える天音と十六夜。白夜叉が両手をパンパンと二回叩く。

 

「これでよし。北側へ着いたぞ」

 

「「「「………………は?」」」」

 

ジンを縛り上げながら素っ頓狂な声を上げる四人。北側までの距離は980000Kmと言うばかげた距離をいまの僅かな柏手で? ……と言う疑問は一瞬で過ぎ去り、四人は期待を胸に店外へ出た

 

 

 

 




もうすぐでお気に入り100人になります!
皆様ありがとうございます!


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赤壁と炎とガラスの街

もうすぐお気に入り3桁!皆様ありがとうございます!
これからもよろしくお願いします


四人が店から出ると、熱い風が頬を撫でた。いつの間にかに移動した支店からは街の一帯が展望できる。しかし眼前の景色はよく知る街ではない。

 

「赤壁と炎と……ガラスの街……!?」

 

飛鳥は大きく息を呑む。胸を躍らせるように感嘆の声を上げる。東と北を区切る、天を衝くほどの壁が境界壁だ。鉱石で彫像されたモニュメント、ゴシック調の尖塔群のアーチ、巨大な凱旋門、色彩鮮やかなカットグラスで飾られた歩廊。

 

「凄い……!980000Kmも離れてるだけでこんなにも違うなんて、東とはまた違った文化がある、あっあそこに歩くキャンドルがある!」

 

「ふぅん。厳しい環境があってこその発展か。ハハッ、聞くからに東側より面白そうだ」

 

「……むっ?それは聞き捨てならんぞ小僧。東側だっていいものは沢山ある。

おんしらの所の外門が寂れているだけだわい」

 

拗ねるように口を尖らせる白夜叉、飛鳥は美麗な街並みを指差し

 

「今すぐ降りましょう! あの歩廊に行ってみたいわ!」

 

「そうだの。まぁ、続きは夜に話そう。それまで、遊んでくるとよい」

 

白夜叉は袖から取り出したゲームのチラシを四人に渡す。四人はそれを覗き込むと

 

「見ィつけた―――――のですよおおおおおおおおおお!」

 

ドップラー効果の聞いた絶叫と爆撃のような着地。その声に跳ね上がる一同。大声の主は我らが同士黒ウサギ

 

「ふ、ふふ、フフフフ……!ようぉぉぉやく見つけたのですよ、問題児方……!」

 

淡い緋色の髪を戦慄かせ、怒りのオーラを振りまく黒ウサギは帝釈天の眷属より、仁王のそれである

 

「行くよ!飛鳥ッ!」

 

「逃げるぞッ!」

 

「逃がすかッ!!」

 

「え、ちょっと!?」

 

天音はすぐさま飛鳥を抱きかかえて高台から飛び降りる。十六夜も続くように飛び降りた

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

天音と飛鳥と十六夜は赤いガラスの歩廊に入り、人混みに紛れて黒ウサギから身を隠していた。三人が隠れたのは、店と店の間にある横道。赤レンガの壁際から顔を覗かせ周囲を伺う

 

「……いないかな?」

 

「ええ、多分。だけどこんなに早く追いつかれるなんて………」

 

「黒ウサギを焚きつける餌としては冗談でも効果抜群だったことだな」

 

安全を確認して飛鳥は大通りに出てスカートを靡かせるようにステップして振り返る

 

「さて、それじゃあ散策開始しましょう。エスコートお願いできるかしら天音さん十六夜君」

 

「私でいいなら僭越お受けしますよお嬢様」

 

「それでは僭越しながらエスコートの真似事でもさせてもらいますお嬢様ーーそうだな。まずはこの赤い歩廊を散歩かな。商店街のようだし、ご当地品や限定ものを物色して回るのも観光の醍醐味って奴だ」

 

「そうだね、あの歩くキャンドルが店で売ってるかもしれないし」

 

「そう。物好きな二人が言うのであればそうなのでしょう行きましょう二人とも、歩くキャンドル見たいわね」

 

「そうだな……お嬢様と天音が欲しいなら、その辺から二体とってもいいが?」

 

「そんなのダメだよ」

 

「あら、そんなのルール違反だわ」

 

二人の少女は首を横に振り最高の悪戯っぽい笑みで

 

「欲しいものは、ギフトゲームで挑んで勝つ」

 

「それが箱庭のルールでしょう?」

 

「はは、そりゃそうだな」

 

にこやかに宣言する二人の少女と、哄笑する少年は嬉々とした表情でガラスの歩廊を散策する

 

散策して数時間が経つ。丁度正午をすぎて1時間というところだろう。飛鳥は煉瓦とカットガラスで彩らてた赤窓の歩廊の真ん中にある。龍にモニュメントの前で休憩していた疲れたわけではなくじっくり見るためだ

 

「凄く綺麗な場所。私の故郷にはこんな場所無かったわ」

 

「私の故郷にもこんなの無いよ、綺麗だね」

 

天音は龍のモニュメントをiP〇oneで写真に収め言う。十六夜は周りをグルグル回って眺めていた

 

「へぇ……こんなに大きなテクタイト結晶、初めて見た」

 

「テクタイト結晶?ガラスではなく?」

 

「テクタイトは天然のガラスの一種だよ。隕石の衝突で生まれたエネルギーと熱量によって合成された稀少鉱石だったよね十六夜」

 

「ああ、その通りだぜよく知ってたな。有名なのはドイツのネルトリンガー・リースに降った隕石とかだな」

 

「ドイツの……隕石?でも箱庭の世界に隕石なんて降るのかしら?」

 

「ああ、俺も疑問に思ってた。色からしてモルダバイトの類似品だと思うのだが」

 

「十六夜このモニュメントに看板あるよ」

 

天音の言葉で看板に気づいた十六夜は看板に目を落とす

 

『出展コミュニティ "サラマンドラ"

タイトル:霊造のテクタイト大結晶によって彫像された、初代頭領 "星海龍王"様 製作者・サラ』

 

と書かれていた

 

「霊造ってことは……オイオイ、人為的に造り出したテクタイト結晶ってことか?」

 

「天然ものでは無くて?」

 

「うん。製作者は人間じゃないみたいだけど……この彫像の製作者はサラっていう人だね、面白そうじゃんジン君が知ってそうだったし機会があったら会いたいね」

 

天音と十六夜の横顔を珍しそうに見つめた飛鳥はポツリと声が漏れる

 

「前々から思ってたけど……天音さんと十六夜君はどうしてそんなに博学なの?」

 

「そう?博学というより雑学程度だよ」

 

「ああ右に同じく俺も雑学程度だ。……お、歩くキャンドル発見!」

 

二足歩行で歩くキャンドルスタンドを見つけた十六夜は、飛鳥を置いて軽快走って行く。慌てて追いかける天音と飛鳥。歩くキャンドルスタンドも美術展の作品らしく、首から "ウィル・オ・ウィスプ "という看板を下げていた

 

「二足歩行のキャンドルスタンドに浮かぶランタン……ならカボチャのおばけはいないのかしら?ハロなんとかと言うお祭りに出てくる妖怪なのだけど、天音さん、十六夜君は知ってる?」

 

「「ん?」」

 

突然の飛鳥の言葉に足を止める二人

 

「オイオイ、箱入りが過ぎるぜお嬢様。カボチャの怪物といえばジャック・オー・ランタンのことだろ?今どきハロウィンぐらいは知っとけよ」

 

「それは無茶がすぎるよ十六夜。飛鳥が来た時代は戦後まもない時代。日本にハロウィンが広く認知され始めのは一九九〇年代。最古でも八〇年代だよ」

 

「そう…… 天音さんと十六夜君の時代には、もうハロウィンは珍しいものでは無いのね」

 

「まあな。お嬢様はハロウィンみたいなお祭りが好きなのか?」

 

「好きという程のものじゃないわ。ただ幼い頃に小耳に挟んだ時は………とても素敵な催しものだと思ったの」

 

飛鳥の表情を見ながら天音は飛鳥の話を思い出す。飛鳥は財閥の令嬢で両親は居なく威光の力のせいで隔離のような形で寮制の学校に閉じ込められていた。飛鳥にとって外の世界と文化には強い憧れのようなものがあるのだろう

 

「私………箱庭に来て本当に良かったわ。こんなに素敵な場所に来ることが出来たもの。噂のハロウィンは体験できなかったけど………実家で飼い殺される人生よりよっぽど期待もてるもの」

 

「………そうかい。そりゃ何よりだな」

 

くるくるりと回る飛鳥をみて天音は言う

 

「ならさ、私達でハロウィンしようよ」

 

「え?」

 

「そう言えば、お嬢様、ハロウィンが元は収穫祭って知ってたか?ノーネームの裏手の莫大な農園跡地は知ってるだろ?そこが復活すればコミュニティも大助かりだと思うんだが」

 

「え、ええそれは知ってるわ、それと天音さんのハロウィンをしようはどうな繋がるの?」

 

「元は収穫祭のハロウィン、ノーネームの裏手に莫大な農園跡地、つまりいつか私達で、私達のハロウィンをしようよという提案なんだけど。どうかな飛鳥?」

 

「私達のコミュニティで……ハロウィンのギフトゲームを主催する、ということ?」

 

「ああ。箱庭で過ごす以上、やっぱり "主催者"は経験しておかないとな」

 

十六夜の言葉に瞳を輝かせる飛鳥は感嘆の声を上げる

 

「素晴らしい提案だわ! それならコミュニティも助かるしとても楽しそうだわ!」

 

「そうだねとにかく、そのためには色々なゲームに勝たないとね」

 

「勿論。こんなに大きなお祭りなんだもの。凄いギフトが貰えるゲームがあるはずよ」

 

「YES!祭典では創作系のギフトを競い合う二大ギフトゲームが進行地なのですよ!」

 

「創作系?なにか作るの?」

 

「はいな。耀さんの持つ生命の目録のように人造、霊造、神造、星造、を問わず、様々な創作系ギフトを持つ者達が参加できるギフトゲームなのでございます♪」

 

「よく分からんが、凄いギフトが貰えるのか?」

 

「それはもう!新たにフロアマスターとなったサンドラ様から直々に恩恵を与えられるとなるとよっぽどのことでございます!今から白夜叉様のところへ向かうのですがその前に黒ウサギニオトナシク捕マッテクレマスヨネオサンガタ?」

 

「「「勿論、断る!」」」

 

瞬間十六夜が歩廊にクレーターを作る脚力でスタートダッシュ。天音と飛鳥は逆方向に逃げるが、空から舞い降りてきたレティシアに飛びつかれて捕まる

 

「きゃ!」

 

「あ!」

 

「フフ。観念してもらうぞ、天音、飛鳥」

 

翼をたたみ微笑みながら二人を抱きしめるようにぶら下がる、二人は参ったと降参するように手を上げる。天音は最後に

 

「十六夜が最後だから!簡単に捕まったらダメだよ!」

 

「了解!任せておけ!」

 

そう言い、十六夜は逃げ黒ウサギはそれを追いかけるのであった。




どのタイミングで十六夜と天音をくっつけるか悩んでいる人ですどうしよう…

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ラッテンフェンガー

コラボの方がシリアスだ……なかなかネタに走れないww


レティシアに捕まった天音と飛鳥は十六夜達とは反対側の歩廊を歩いていた。走り回って小腹がすいた三人は

出店でクレープを買っていた。飛鳥はそれを珍しそうに見つめ、レティシアと天音はかぶつきながら、そんな飛鳥を不思議そうに見る

 

「飛鳥は食べないの?クレープ」

 

「飛鳥はこう言った食べ物はしならないのか?」

 

「ええ、この温かい皮に包んで、中身は冷たい洋菓子。とても美味しそうなだけど……そのまま齧るりつくというのは少し品が無いわ。どう頑張っても口周りが汚れるもの」

 

「飛鳥と似たようなことを言ってフォークとナイフで食べてた人がいたような……」

 

天音は昔に見たテ〇ルズシリーズのちびキャラのエピソードを思い出していた。

 

「私はこの温かくて柔らかい皮を噛み破いた時に溢れる赤くて甘いドロリとしたソースが、口の中で滑りながら広がる感触は好きなのだが」

 

「レティシアが言うと洒落にならない……」

 

「吸血鬼に言われるとゾッとするわね」

 

似たような感想を述べる二人。天音は苦笑しながらクレープをまたひとくち食べる。飛鳥も意を決して大きく口を開齧り付くーーーだが思いきりが良すぎたクレープの皮の下からバナナとチョコレートムースが派手に溢れてきて口の周りにべっとりとつく。その感触に一瞬不快に思うが口に広がる甘味は悪くないと思う

 

「………美味しいわ」

 

「ほら、飛鳥、口周りにクリーム付いてるよ」

 

天音はポケットからハンカチを取り出し飛鳥の口周りを拭う

 

「あ、ありがとう天音さん」

 

驚いたのか顔を少し赤らめ礼を言う飛鳥

 

「それは良かった。コレぐらいの食べ物で二の足を踏まれたのであれば、南側には絶対に行けないからな」

 

「そ、そう。そんなに凄いの?南側の食事は」

 

「すごいなんてもんじゃないぞ。向こうの料理はとにかくワイルドなんだ。以前に "六本傷"の旗を掲げてるコミュニティの店に入ったのだが、アレは凄かった。斬る!焼く!齧る!の三工程が食事だと説明された時はさすがの私も頭を抱えたよ」

 

遠い目をするレティシア。思い出して小さく身震いした。その姿に苦笑する飛鳥

 

「そりゃ、頭を抱えるでしょうよ……」

 

それを聞いた天音はそれを想像して遠い目をする。

 

「レティシア。あれは……何?」

 

飛鳥が指さす方向にはとんがり帽子のの手のひらサイズの精霊がいた

 

「あれは、精霊か?あのサイズが一人でいるのは珍しいな。 "はぐれ" かな?」

 

「"はぐれ"?」

 

「ああ。 あの類の小精霊は群体精霊だから。単体で行動しているのは滅多に無いんだ」

 

背後から飛鳥と天音の影がかかったのか、とんがり帽子の精霊は驚いて飛鳥達がに振り返る。精霊と二人の視線が自然に交差する。

 

「「「……………」」」

 

途端「ひゃっ!」と愛らしい声を立てて逃げ出す帽子の精霊、天音はクレープを食べきり、飛鳥はクレープをレティシアに預け

 

「わっ、あ、飛鳥!」

 

「残りはあげるわ!ちょっと追いかけてくる!」

 

「私も!」

 

嬉嬉として帽子の精霊を追いかける飛鳥を追いかける天音、レティシアは困ったように笑その背中を見送る

 

しばらくして疲れた帽子の精霊を肩乗せた飛鳥と天音は街道を歩いていた、飛鳥がクッキーを割って分け与えていた

 

「はいコレ。友達の証よ」

 

そのあと飛鳥と精霊は仲良くなり自己紹介もした精霊は

 

「らってんふぇんがー!」

 

「………ラッテンフェンガー?」

 

天音は考え込む、ラッテンフェンガーはドイツ語でネズミを捕る男の名前はだ目の前の精霊がハーメルンの笛吹きに関係あるのか考える。深く考えても仕方ないと割り切り、飛鳥とラッテンフェンガーと名乗る精霊とで洞穴にある展覧会を見て回る事にした。

巨大なペンダントランプがシンボルの街だけあって、出店物には趣向を凝らしたキャンドルグラスやランタンに、大小様々なステンドグラスなどが飾られていた。飛鳥と天音は境界壁の中にある展示会場の岩棚や天井を見渡し、感心したようにつぶやく

 

「凄い数…………こんなに多くのコミュニティが出展しているのね」

 

「飛鳥、これなんか特に凄いよ」

 

天音が展示物を手に取る、綺麗で細工凄いものだ。そして製作者を見る

 

「製作・ "ウィル・オ・ウィスプ"……飛鳥これって」

 

「ええ、あの歩くキャンドルを作ったコミュニティじゃない」

 

巧緻な細工で施された紋様は、旗印をモチーフにしたようなものだろう。燃え上がる炎の印を刻んだ展示物には炎そのものに特別な力があるのだろうか。まるで篝火のように三人を温かく引き寄せるような気持ちにさせる。

 

「(コミュニティの旗印があるのと無いのでは、作品の表現も違うのね……)」

 

やや憂鬱そうな瞳でため息を吐く飛鳥。その指摘は正しい。彼ら "ノーネーム" がこういった芸術の祭典に出展すると、圧倒的な不利を背負うことが多々ある。自己を主張するファクターが個人の名前と技術だけでは、第一印象も違うというものだ。

 

「(将来的に立派な "主催者" を目指すなら、やっぱり旗印が無いと締まりが無いわ。ーーーーーー是非とも魔王から取り戻さないと)」

 

小さく拳を握り気合を入れ直す飛鳥。三人は数多の展示品を見て回る。展示会場は境界壁を洞穴のように掘り進めた回廊にあった為、奥は薄暗く外の光は届かない。しかしそれも、展示品の輝きを浮き彫りにする為の演出なのだろう。暖かい灯火を持つキャンドルスタンドやランタン、それらに照らされたものは、目を見張るほど美しいステンドグラスの数々は、外で見る物よりずっと美麗にはえてみえた。その後三人は大きな空洞に出る。会場の中心に当たる場所だろう。開けた場所出た飛鳥と天音は周囲の雑踏を見渡すことなく、大空洞の中心に飾られたものに目を丸くして驚く

 

「あれは………!」

 

「紅い………紅い鋼の巨人?」

 

「おっき!」

 

大空洞の中心に飾られた、紅い鋼で巨人。その全長がとにかく派手で馬鹿でかいのだ。紅と金の華美な装飾に加え、目測でも身の丈三十尺はあるだろう

 

「す、凄いわね。一体どこのコミュニティが………?」

 

「あすか!らってんふぇんがー!」

 

とんがり帽子の精霊は瞳を輝かせ飛鳥の肩から飛び降りる。展示品の看板には確かに

 

『製作・ラッテンフェンガー 作品名・ディーン』と記されていた。

 

天音は驚き目を見開き、飛鳥は驚いたように声を上げる

 

「まさか、貴女のコミュニティが作ったの?」

 

えっへん!と胸を張る帽子の精霊。どうやらそのようだ。飛鳥はもう一度 『ディーン』と名付けられた鉄人形を見上げる

 

「そう……凄いのね、 "ラッテンフェンガー"のコミュニティは」

 

にはは、とはにかんで笑うとんがり帽子の精霊。天音は直後の異変を勘づいた。灯火を一吹きで全ては消し去り、飛鳥は小さな悲鳴をあげる。他の客も同様に声を上げる混乱が波紋のように浸透する

 

「どうした!?あかりが消えたぞ!」

 

「気をつけろ!悪鬼の類かもしれない!」

 

「身近にある灯り点けるんだ!」

 

大空洞の最奥に不気味な光が宿ったのは、その瞬間だった。

 

『ミツケタ………ヨウヤクミツケタ………!』

 

怨嗟と妄執を交えた怪異的な声が大空洞で反響する。飛鳥と天音は危機感を感じ取りながらも、声の位置から犯人の居場所を特定しようと必死に周囲を見渡すだが反響して居場所が分からない。飛鳥はため息をして

 

「この卑怯者! "姿を隠さず出てきなさい"!」

 

飛鳥の威光の力が働く。しかし犯人からの反応が無い。代わりに五感を刺激する笛の音色と、怪異的な声がひびきわたる

 

『ーーー嗚呼、見ツケタ……! "ラッテンフェンガー" ノ名ヲ騙ル不埒者ッ!!』

 

その大一喝は大空洞を震動させ、一瞬の静寂を呼び、直後ザワザワと洞穴の細部から何千何万匹という赤い瞳の大量の群れが襲いかかってくる途端誰かの絶叫

 

「ね、ネズミだ!?一面すべてがネズミの群れだ!」

 

地面を覆い尽くすほどの大群、見渡す限り全てがネズミだ

 

「で、………出てきなさいと言ったけど、幾ら何でも出てきすぎでしょう!?」

 

「これは本当に出てき過ぎだよ!?」

 

精霊含めた三人は背を向け一目散に逃げ出す。ほかの衆人も同様であるこのままでは大惨事間違いないだろう。悟った飛鳥は踵を返し一人、ネズミの波に立ち向かう

 

「も、もいいわ!"自分達の巣に帰りなさい"!」

 

飛鳥の大一括。しかしネズミの群れは止まる気配を見せず突進する。支配することが出来ず焦る飛鳥。ネズミの群れは飛鳥に向かって跳び掛かる。が

飛鳥にたどり着く前に強烈な風圧が来るその風圧は圧倒的な力でネズミを吹き飛ばす。

 

「仲間に手を出すなんて、小動物でも許せないね……」

 

日輪の意匠が凝らされた槍を手にもう一人の少女、天音がネズミ達に立ちはだかる

 

「天音さん……!」

 

「飛鳥は先に逃げて、この位私一人でどうにでも……」

 

「だめよ!一人だけ置いていけないわ!」

 

「で……でも……迷ってる暇はないか……迎撃しながら逃げよう!」

 

「それでいいわ!」

 

我先にと逃げようとする衆人が悲鳴でひしめき合う。

 

「どけぇぇえ!」

 

「きゃあ!」

 

「ど、どうなってるの!?」

 

「お、俺が先だ!邪魔すんじゃねぇ!」

 

「"いいから協力しあって逃げなさい"!」

 

「「「「分かりましたッ!!!」」」

 

飛鳥の怒りと焦りから出た大一喝混乱は一瞬にしてしずまり一斉に飛鳥に敬礼。一転して一糸乱れぬ動きで洞穴を爆走する。天音と飛鳥は最後尾でネズミを大行軍から逃げのびつつ進んでいた

 

「(支配するギフトが無くなったわけじゃない………! ならどういうことなの………!?)」

 

ネズミ達は一心不乱に飛鳥を追い詰めようとするが

 

「ふぅー」

 

天音が手に炎を出し息を吹きかける、炎は三つに分かれネズミに着弾する、展示品に気を使っているから大火力は使えない。

 

「飛鳥、このネズミひょっとしたらその精霊狙ってるのかも!」

 

「この子が狙われてる!?」

 

飛鳥は気づくネズミたちが頭上から降りかかってくることに、この精霊を方から下ろせば助かるしかし、怯え震えている幼い姿を振り落とすなど飛鳥の誇りが許さない

 

「服の中に入ってなさい。落ちてはダメよ!」

 

飛鳥は意を決してネズミたちで埋まった地面を全力で走る、天音もその跡を追いかける、天音と飛鳥は足などの露出しているところを噛まれる手足は所々出血する。

 

「(あと少し出口までそう無いはず!)」

 

必死に走る飛鳥、ネズミを度々迎撃する天音、しかし次の瞬間、影が這いより、無尽の刃が迸る、刃の竜巻は、ミキサーのように魔性の群れを飲み込みこり裂いていく

 

「ーーーネズミ風情が、我が同胞に牙を突き立てるとは何事だ!?分際を痴れこの畜生共ッ!!」

 

その声には聞き覚えがあった愛らしい少女から、妖艶な香りを纏う女性へと、メイド服は深紅のレザージャケットに変わり、拘束具を彷彿とさせる。影を操っていたのはレティシアだった。

 

 

「術者は何処にいる!?姿を見せろ!往来の場で強襲した以上、相応の覚悟はあるのものだろう!!ならば、我らの御旗の威光、私の牙と爪で刻んでやる!コミュニティの名を晒し、姿を見せて口上を述べよ!」

 

レティシアの一喝が洞窟に響くが誰一人として返事を返すものはいなかった。気配も無い、閑散とした静寂を満たす。

 

「貴女、レティシアなの?」

 

「ああ、それより、飛鳥、天音。何があったんだ?多少数がいたと言え、ネズミ如きに遅れをとるなんてらしく無いぞ」

 

飛鳥の質問にレティシアは普通の口調で答える。

 

「面目もありません、それにしても」

 

「……。こんなに凄かったのねレティシア」

 

小首をかしげてるレティシア。多分飛鳥と天音は褒めているのだろう。レティシアもそれを理解すると

 

「あ、あのな主殿。褒められるのは嬉しいがその反応は流石に失礼だぞ。私はこれでも元・魔王で純血の吸血鬼!誇り高き"箱庭の騎士"だ!神格を失ってるとはいえたかだか、ネズミごときに遅れをとるはずがない」

 

拗ねたように言うレティシアはまるで子供のようだ。

 

「ハハ確かに……」

 

「あすかっ!」

 

キュポンッ!とさっきのとんがり帽子の黄色い精霊が出て来て飛鳥に抱きつ

「あすか!あすかぁ!」

 

「ちょ、ちょっと」

 

精霊は今にも泣き出しそうな、だけど嬉しそうな声を上げて飛鳥に抱き付いている。よく分からないけど懐かれている

 

「やれやれ。日も暮れて危ないし、今日の所はその精霊も連れて帰ろう」

 

「そ、そうね」

 

「うん」

 

天音は一人考えていた、ネズミが飛鳥のギフトが通用しなかったこと、しかし衆人には効いた、ネズミが飛鳥より格上とは考えられないなら考えられるのは、術者が、飛鳥より格上だという事。ラッテンフェンガー……ネズミ捕りの男……ハーメルンこの北側に関係あるのだろうかと




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お風呂と芽生える気持ち

両儀式宝具2なったぜ
新年初星5だった


「お風呂へ駆け足ッ!今すぐです!は、なんです?生傷?そんなものはお風呂に入れば治ります!さっさと身を清めてください!お店が汚れてしまいます!」

 

"サウザンドアイズ"の店に着くなり女性店員は飛鳥と天音の姿を見るや否や、形相を変えて大一喝。半ば無理やりな形で飛鳥と天音を風呂場まで連行した

 

「………。まあ、確かに汚れていたのは確かだものね」

 

「泥にネズミの返り血……想像するだけでも嫌だね……」

 

だが二人はこの扱いに、曲がりなりにも乙女の天音と飛鳥は少しだけ傷ついた。嘆息を漏らしながらも、掛け湯を繰り返し、身を清める。すると生傷がみるみる治癒し始めた。

 

「凄いわね、サウザンドアイズのお風呂は」

 

「うん、水樹の浄水とは比較にならないよ」

 

天音は今日は心の底から楽しかったと思った。誰彼構わず自由に走り回り、初めての文化を見る事が出来た。箱庭に来て、無口で動物とお話ができる可愛い友人や、正義感があり行動力のあるお嬢様の友人や、弄りがいのある、元気な友人や、………。最近無意識に目で追いかけてしまう少年。その少年、逆廻十六夜。

 

「(ダメだ……何故か十六夜の事を考えてしまう。気づけばたまに探してるし)」

 

頭まで湯船に浸かる。今の天音の顔は耳まで真っ赤だろう。だが天音には何でそうなっているのかが理解出来ていない、いや理解しようとしていない、理解したらいいどうなるのか自分で分からないからもあるだろうが、今の状態が、好いているというのもある。

 

「(……分からない。この胸を締め付けられるものが)」

 

彼女がこの思いに気づくのはまだ先にの話なのかもしれない。ただ芽吹いた思いは、すぐに開花するだろう。天音はゆっくり目を瞑る。そして浮上し、顔を出すと、目の前には頭からお風呂の床に刺さってる黒ウサギがいた。

 

「ど、どういう状況?」

 

わけがわからず、呟く天音。黒ウサギはお構い無しに

 

「き、傷は大丈夫でございますか?細菌は問題無いですか?乙女の肌に痕が残るようなものは御座いませんか?痩せ我慢していませんか?本当に大丈夫ですか?」

 

「だ、大丈夫よ。湯船に浸かったらすぐに治ったわ」

 

「大丈夫だよ……このくらい」

 

無遠慮な程に身体をまさぐられるが、やましい気持ちがないと分かるだけに突き放せない。その後白夜叉が変態発言により風呂桶を二発いや天音も含め三発食らうハメになったりした。そしてお風呂から出て

 

「ふーさっぱりした」

 

「あら、そんな所で歓談中?」

 

そこには女性定員とジンと十六夜がいた。十六夜達も浴衣を着ており色は青色だ。

 

「……おお?コレはなかなかいい眺めだ。そう思わないか、御チビ様?」

 

「はい?」

 

「黒ウサギやお嬢様の薄い布の上からでもわかる二の腕から乳房にかけての豊かな発育は扇情的だが相対的にスレンダーながらも健康的な素肌の春日部や天音、レティシアの髪から滴る水が鎖骨のラインをスゥッと流れ落ちるさまは自然に慎ましい誘導するのは確定的にあ」

 

スパァーン!!

本日2度目の快音・・・耳まで紅くした飛鳥と、うさ耳まで紅くした黒ウサギがお風呂桶を十六夜の顔面めがけ投げつけた、速いつっこみだった

 

「変態しかいないのこのコミュニティは!?」

 

「白夜叉様も十六夜さんもみんなお馬鹿です!!」

 

「ま、まあ、二人とも落ち着いて」

 

飛鳥と黒ウサギは怒っている。レティシアはそれを宥めてる。天音は数秒プルプルと震えた後脱力しため息をつき、一言

 

「やっぱり小さいよね……」

 

「まだ、成長期だよ」

 

珍しく耀が天音を慰める、天音は

 

「飛鳥より歳上なのにあんなにも差が……」

 

「……ま、まだ成長………」

 

ノーネーム女性二名は互いに慰め合う。そして部屋を移動して皆が神妙な顔になり、白夜叉が言う

 

「それでは皆の者よ、今から第一回、黒ウサギの審判衣装をエロ可愛くする会議を」

 

「始めません」

 

「始めます」

 

「始めません!」

 

当然のごとく白夜叉の提案は却下され、さらに悪乗りをする十六夜に速攻で断る黒ウサギ、やりとりに呆れながら聞いている

 

「ま、衣装は横に置いておいてだな。実は明日から始まる決勝戦の審判を黒ウサギに依頼したい。訳はおんしらが起こした騒ぎで"月の兎"が来ていると公になってしまっての。明日のギフトゲームで見られるのではないかと期待が高まっているのじゃ。噂が広まれば隠すわけにも行くまい。黒ウサギには審判・進行役を依頼したい」

 

「分かりました。明日のゲームの進行と審判黒ウサギが承ります」

 

白夜叉はうむうむと頷き

 

「感謝するぞ。それでは審判衣装じゃがシースルーの黒いビスチェスカートを」

 

「着ません」

 

「着ます」

 

「断固着ません!いい加減にしてください!!」

 

定番のようなやり取りをまた見ていた天音は、天井を見ながらボーッとして

 

「明日は何時に起きよう……」

 

わりとどうでもいいことを考えていた。

 




リリカルなのはの方まともにかけるか不安になってきた(早い)


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ウィル・オ・ウィスプスと耀

FF15ロイヤルパック買うしかないね、いつ買おうかな……



日が昇りきり、決勝戦の開幕を心待ちにする人々が今か今かとそわそわしている。天音もその一人だった

 

「すごい賑わいだね」

 

現在耀を除いた面々ははバルコニーの特等席で見ている、隣の飛鳥は落ち着きがない

 

「どうした、お嬢さま。落ち着きないぞ」

 

「昨日の話を聞いて心配しない方がおかしいわ。相手は格上なんでしょ?」

 

昨日の話、耀が白夜叉に自分の対戦相手を聞いた話、コミュニティの名前は、"ウィル・オ・ウィスプ"と"ラッテンフェンガー"……六桁の外門、一つ上に本拠を置くコミュニティのようだ。さらにラッテンフェンガーはドイツ語で"ネズミ捕りの男"……ネズミ捕りの笛吹き道化……ハーメルンの笛吹き道化が相手かもしれないと、十六夜反応した、天音は夕暮れの一軒を思い出していた。ハーメルンの笛吹きは天音達がが召喚される前に負けた魔王の下部コミュニティだった物の名前でそしてネズミ撮りの男、グリム童話の魔書にあるハーメルンの笛吹きをさす隠語である、隠語の理由はグリム童話の道化師がネズミを操る道化師とされていたからだ、そしてそこから推測するのに火竜生誕祭に魔王の残党のコミュニティが忍び込んでいる可能性が高いという事だ。ただルールで主催者権限を持ち込めないようにしているのである程度安心が出来るが、どのようなことになるかは未だわからない。魔王のこともあり、さらに相手が格上であり、飛鳥は心配で気がかりだ

 

「白夜叉から見て、春日部さんの優勝は?」

 

「ない」

 

即答する白夜叉、苦虫を潰した顔をする飛鳥……それを見て天音は

 

「大丈夫だよ、飛鳥、審判権限を持っている黒ウサギが取り仕切っているゲームでは殺しは御法度だから、耀にも無理しないように言ってあるし。大事には至らないはずだよ」

 

天音は飛鳥を心配させまいと言うが、天音自身も昨日の話が気になっているようだ

 

『長らくお待たせいたしました!火龍誕生祭のメインギフトゲーム・"造物主達の決闘"の決勝を始めたいと思います!進行及び審判は"サウザンドアイズ"の専属ジャッジでお馴染み、黒ウサギがお勤めさせていただきます♪』

 

「うおおおおおおおおおおお月の兎が本当にきたあああああああああああああ!!」

 

「黒ウサギいいいいいいいい!お前に会うために此処まで来たぞおおおおおお!!」

 

「今日こそスカートの中を見てみせるぞおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

凄まじい情熱を迸らせる観客、黒ウサギも笑顔だがへにょりとうさ耳を垂れさせている。天音は苦笑いでハハハと笑うだけだ

 

「………随分人気者なのね」

 

「そういえば白夜叉、黒ウサギのミニスカートを見えそうで見えないスカートにしたのはどういう了見だオイ。チラリズムなんて古すぎるだろ。昨夜語り合ったお前の芸術に対する探究心はその程度のものなのか?」

 

「そんな事を語っていたの?」

 

飛鳥は馬鹿じゃないの?といった感じで十六夜と白夜叉を見ている。天音は本気でため息をついて呆れていた。

 

しばらく十六夜と白夜叉は己のロマンと己の宇宙とか探求心や神秘性とかを語っていた。スーカートの中身とかで

 

「白夜叉様……?何か悪い物でも食べたのですか……?」

 

「見るな、サンドラ。馬鹿がうつる」

 

『そりゃそうでしょうよ』と天音は言いたかったかったが、あえて言わなかった、と言うか言っても無駄だと悟っていたのかもしれない。

 

そして決勝戦が始まった

ギフトゲーム名は"アンダーウッドの迷路"というもので、大樹の根の迷路より野外に出る。最初は耀が風の流れを読み、相手の炎を最低限の風でそれを誘導し避けていた、次に三つ放つが鷲獅子のギフトを使わずに回避した、出口目指して優位にゲームを進めていたが、ウィル・オ・ウィスプ所属のアーシャという娘の補佐についていたジャックが不死のギフトを持っており、そのジャックが轟々と燃え盛る炎の壁を作り出し耀の足止めとなった。そう、ジャックの正体は"生と死の境界線に顕現せし大悪魔" ウィラ・ザ・イグニファトゥスの大傑作。世界最古のジャック・オ・ランタン。それが彼の正体であった。アーシャが先行し、耀に残された道はジャックの破壊……だがジャックは不死、今の耀では勝てない、耀も勝てないと判断し、ゲームを降参し、軍配は"ウィル・オ・ウィスプ"に上がった

 

 

 

「負けてしまったわね、春日部さん」

 

「そうだね。だけど心が踊ったゲームだったよね」

 

「ま、そういうこともあるさ。気になるなら後で励ましてやれよ」

 

飛鳥は気落ちして、十六夜は軽快に笑っている。天音は面白いものを見たという感じではしゃいでいた

 

「シンプルなゲーム盤なのにとても見応えのあるゲームでした。貴方達が恥じることは何も無いです」

 

「うむ。シンプルなゲームはパワーゲームになりがちだが、中々堂に入ったゲームメイクだったぞ。あの娘は単独の戦いより、そちらの才能があるかもしれん」

 

サンドラと白夜叉は耀の戦い方を称賛している。敵の挑発を受け流し、逆に相手の冷静さを奪い、最低限のやり取りでもっと効果的な情報を獲得し、それを生かしていた。口にするのは簡単だが行うのはなかなかに出来ることじゃない。

 

「中々に凄いじゃん、耀ちゃんは、1度はギフトゲームでぶつかってみたいものだね。うん?空から黒い紙?」

 

天音は空から落ちてきた、黒い紙を手に取り、書いてある文字を読む

 

『ギフトゲーム名:"The PIED PIPER of HAMELIN"

 

・プレイヤー一覧:現時点で三九九九九九九外門・四〇〇〇〇〇〇外門・境界壁の舞台画

         区画に存在する参加者・主催者の全コミュニティ。

・プレイヤー側・ホスト指定ゲームマスター:太陽の運行者・星霊 白夜叉。

・ホストマスター側勝利条件:全プレイヤーの服従・及び殺害。

・プレイヤー側勝利条件:一、ゲームマスターを打倒。

            二、偽りの伝承を砕き、真実の伝承を掲げよ。

 

 宣誓、上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。

                       

     《グリムグリモワール・ハーメルン》印』

 

天音は瞬時にもう一度空を見上げる。同じ黒い紙が何枚も何枚も落ちてきてる。そして観客の誰かが悲鳴のように叫ぶ、天音は空を睨みつけるように見上げる、その口元は少しつり上がっているが

 

「魔王が………魔王が現れたぞオオオォォォォ―――――!」

 

 

 




遂に魔王降誕

因みに私は魔人降誕と言うBGMが好きです←どうでもいいw


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VS黒死斑の魔王 第一戦

威力描写調整が難しい……いろんなものを参考にしてるけど、うーん、指摘してくださいw


最初の変化は本陣営のバルコニーからだ。突如として白夜叉の全身を黒い風が包み込み、彼女の周囲を球体に包み込んだ

 

「な、何ッ!?」

 

「白夜叉様!?」

 

サンドラは白夜叉に手を伸ばすが、バルコニーに吹き荒れる黒い風に阻まれる。黒い風は勢いを増し、白夜叉を除く全ての人間をいっせいに押し出す

 

「きゃ……!」

 

「飛鳥、掴まって!」

 

空中に投げ飛ばされた飛鳥を天音は抱き抱え、着地する。

 

「ちっ。"サラマンドラ" の連中は観客席に飛ばされたか」

 

十六夜が言う通りにサラマンドラ一同は観客席、ノーネーム一同は舞台に。十六夜は舞台袖から出てきたジン達を確認し、黒ウサギに振り向く。

 

「魔王が現れた。………そういう事でいいんだな?」

 

「はい、そういう事でございます」

 

黒ウサギが真剣な表情で頷くと、メンバー全員に緊張が走る。阿鼻叫喚が渦巻く会場の中心で、軽薄な笑みを浮かべてる十六夜だが、その瞳は何時もの余裕が見られない。真剣な瞳で黒ウサギに視線を向け

 

「白夜叉の"主催者権限"が破られた様子はないんだな?」

 

「はい。黒ウサギジャッジマスターを務めてる以上、誤魔化しは利きません」

 

「じゃあ連中は、ルールに則った上でゲーム盤に現れてるわけだね。流石は魔王だね」

 

「ああ、俺の期待を裏切らねえぜ魔王様は」

 

「どうする?ここで迎え撃つ?」

 

耀がここで迎え撃つか尋ねる答えは

 

「ああ。けど全員で迎え撃つの具合が悪いぜ。それに"サラマンドラ"の連中も気になる。アイツらは観客席に飛ばされたからな」

 

「では黒ウサギがサンドラ様を探しに行きます。その間は十六夜さんと天音さん、レティシア様の三人で魔王に備えてください。ジン坊ちゃん達は白夜叉様をお願いします」

 

「分かったよ」

 

レティシアとジンが頷く。対照的に飛鳥の顔が不満の色に染まる

 

「ふん………また面白い場面を外されたわ」

 

「そう言うなよお嬢様。 "契約書類"には白夜叉がゲームマスターだと記述されている。それがどんな影響を与えるか確かめねえと」

 

天音は思考を巡らせていた。契約書類には

『※ゲーム参加諸事項※

・現在、プレイヤー側ゲームマスターの"参加条件がクリアされていません"。

ゲームマスターの参加を望む場合、参加条件をクリアしてください。』

 

つまりここで言うプレイヤー側のゲームマスターは白夜叉、その白夜叉がゲームの参加条件を満たせてないということだ

 

「(どういう方法で星霊たる白夜叉を封印したんだろう、参加条件と白夜叉……説明が足りない気がする、だけどそれは憶測の範囲……考えるのは、魔王と星霊の白夜叉を封印することが出来る理由とルール。魔王の情報がない以上分からない)」

 

「見ろ!魔王が降りてくるぞ!」

 

上空から人影が落下してくる。十六夜は見るや否や両の手の拳を強く叩き、レティシアと天音に振り返って叫ぶ。

 

「んじゃ行くか!黒いヤツと白いヤツは俺が、デカイのと小さいのは任せたぞ天音、レティシア」

 

「了解した主殿、行くぞ天音」

 

「了解、十六夜もしっかり」

 

十六夜は舞台会場を踏み砕く勢いで跳躍する。

 

「レティシア、私は外から援護する、サポートは任せて、戦況を見て私も内に入るから」

 

「了解した、頼んだぞ主殿」

 

レティシアと別れ、時計塔のようなところで陣をとる。ギフトカードから、ペルセウス戦の時に出した弓を出し深呼吸し、弓を構える

 

「BRUUUUUUM!!」

 

「くっ……!」

 

陶器の巨兵は全身の風穴から空気を吸い込み、四方八方に大気の渦を作り上げていた。翼を広げて空中を舞っているレティシアにとっては、敵の起こす乱気流に引き寄せられ思うように動けない。そんな彼女を見て斑模様の少女は無機質な瞳で

 

「………貴女、本当に純血のヴァンパイア?もういいよシュトロム。その子いらない」

 

「手厳しいな!これでも精一杯戦ってるつもりだが……!」

 

金の髪を靡かせ、苦々しい声で返す

 

「(シュトロム……"嵐"か。ならばあの巨兵は天災に関する悪魔の類…!)」

 

かつての力を失ったレティシアだが、彼女には数多のゲームを乗り越えた経験がある。魔王とのゲームは些細な情報でも有益だと、彼女は知ってる。とりわけ名前はクリアに必要な情報に成りうると心得ていた

 

「本命を探すから、殺そ」

 

無情にも死を宣告する少女。それが合図だったのだろう。シュトロムと呼ばれた陶器の巨人は吸収した瓦礫をの山を圧縮し放とうとする……が

青い光の一射、シュトロムに着弾しシュトロムは爆発する。

 

「今だ!」

 

その隙にレティシアはリボンを取り外し、少女の姿から女性の姿、本来の姿へと戻り、金と黒で装飾されたギフトカードから長柄の槍を出し、疾風の如き一刺しで少女の胸を突く。

 

「やったか!?」

 

「やってないわ」

 

レティシアの突き出した槍は少女の身体を持ち上げただけにとどまり、槍の尖端は胸部に当たって拉げていた。少女はその手から黒い風を発生させレティシアを捕縛する

 

「(な………なんだ、この奇妙な風は!?)」

 

それは数多のギフトゲームを経験した彼女の知識にすらない不気味な風だった。黒く、温く、不気味な風。蠢く様に生物的な風は、徐々にレティシアの意識を蝕む

 

「痛かったわ。凄く痛かった。だけど許してあげる。………あ、あと前言撤回。貴女はいい手駒になりそう」

 

くすり、と笑う白黒の斑の少女。蝕むう様にレティシアの全身を覆う黒い風。そのままにしておく天音では無かった。その瞳は普段の青色ではなく金色になり、手に持つ神弓の真名を解放する

 

炎神の咆哮(アグニ・ガーンディーヴァ)

 

再び弓を引き矢を放つ、青い光に炎が纏い、矢はライフル弾を超える速度で少女に飛来しする

 

「くっ!」

 

少女はレティシアを解放しそれを防御で防ぐ、衝撃と威力で後方に弾き飛ばされる。少女は怪訝な表情をしてに飛んできた方向を見るが少女は目を見開いた。さっきの矢よりも速い速度、第三宇宙速度を超える速度で現れ槍を構えていた。

その槍の形状を見て忌々しものを見るような表情を浮かべる。天音は槍に光を纏わせ、少女を薙ぎ払うように槍を振るう。あまりにも速い速度で現れ不意に近い一撃は少女を捉え凄まじい勢いで街中に叩きつける。

 

「大丈夫?レティシア」

 

「ああ、助かった主殿」

 

叩きつけられたところから、黒い風を纏い少女が浮上してくる。

 

「今の光、……貴女何者?」

 

「私?人間だけど、何者って聞かれてもねぇそれぐらいしか返す言葉もないし」

 

天音は槍を右手で持ち少女に向けている。すると少女の後ろから紅い閃光が飛ぶ、少女は黒い風でそれを受け止める。

 

「………ようやく現れたのね」

 

上空にある光はペンダントランプだけではなく、轟々と燃え盛る炎の龍紋を掲げた、北側の"階層支配者"ーーーーーーーサンドラが、龍を模した炎を身にまとい見下していた。

 

「待っていたわ。逃げられたのではと心配していたところよ」

 

「……目的はなんですか、ハーメルンの魔王」

 

「あ、それ間違い。私のギフトネームの正式名称は "黒死斑の魔王"よ」

 

「………。二十四代目 "火龍" サンドラ」

 

「自己紹介ありがとう。目的は言わずともわかるでしょ?太陽主権者である白夜叉と星海龍王の遺骨。つまり、貴女のつけている龍角が欲しいの」

 

「流石は魔王を名乗るだけはあってふてぶてしい。だけどこのような無体秩序の守護神は決して見過ごさない。我らの御旗の下、必ず誅してみせる」

 

「そう。素敵ね、フロアマスター」

 

サンドラは天音とレティシアの近くに来て言う

 

「改めて名乗ります、サラマンドラのリーダーを務めます北側の階層支配者、サンドラです、一緒に戦ってはもらえないでしょうか?」

 

サンドラ、フロアマスターからの直々の頼みだ、それを断る技量を持ち合わせていない天音は快く快諾する

 

「私で良ければ、ノーネームの八神天音、よろしく」

 

「ノーネーム!?ジン君のところの!?」

 

「うん、そうだよ」

 

「なら、尚更お願いしますね!」

 

「了解、サンドラ」

 

轟々と荒ぶる火龍の炎と神雷、黒々とした不気味な暴風がぶつかり合う。三つの衝撃波は空間を歪め、強大な力の本流は境界壁のペンダントランプを余波で砕く。その残骸は両者の戦いを彩るか如く煌めきを放ちながら霧散した。

サンドラが炎で攻撃し、天音が神雷で攻撃する。斑の魔王はそれを黒い風で遮断する。天音が槍で光を纏いそれを引き裂くと風は霧散する。

その時だけスキが生まれ、サンドラの炎が命中する。がその傷は瞬時に回復する。

 

「(このままじゃ埒が明かない……)」

 

そんな時、違う方向から雷鳴と黒ウサギの声が聞こえた

 

「“審判権限”の発動が受理されました!これよりギフトゲーム"The PIED PIPER of HAMELIN"は一時中断し、審議決議を執り行います!プレイヤー側、ホスト側は共に交戦を中止し、速やかに交渉テーブルの準備に移行してください!繰り返します――――――」

 

そこには"擬似神格・金剛杵(ヴァジュラ・レプリカ)"を掲げた黒ウサギがいた

 

 

 

 

 

 




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対等に持っていくために

今月以内に原作2巻頑張って終わらせてやる(フラグ)


ーーーーーーー境界壁・舞台区画。大祭運営本陣営、貴賓室。

 

「ギフトゲーム“The PIED PIPER of HAMELIN”の審議決議、及び交渉を始めます」

 

厳かな声で黒ウサギが告げる。十六夜達の対面には、白黒の斑のワンピースを着た少女が座り、その両隣に軍服のヴェーザーと白装束のネズミが座っている。

 

「(ふぅん?両隣の二人が "ラッテン(ネズミ)" に"ヴェーザー河" あと天音が倒した巨人が "(シュトロム)" だっけ?なら残りの一人は……いや、後でいいか)」

 

ジンに付いてきた十六夜は思考を止める。招かれた部屋は豪華な装飾が施されていた。本来招かれるはずだった来客はゲーム外にいたらしく不在になっている。対等のゲームを定めるための交渉に謁見の間で行うわけにも行かず、貴賓室を使うことになった。

 

「まず"ホスト側"に問います此度のゲームですが」

 

「不備はないわ」

 

斑の少女は黒ウサギの声を遮るように吐き捨てる

 

「今回のゲームに不備・不正は一切ないわ。白夜叉の封印もゲームクリア条件の全て調えた上でのゲーム。審議を問われる謂れはないわ」

 

静かな瞳とは正反対に少女はハッキリと言う

 

「受理してもよろしいので?黒ウサギのウサ耳は箱庭の中枢と繋がっております。嘘をついてもすぐわかってしまいますよ?」

 

「ええ。そして、それを踏まえた上で言うけど私たちは今、無実の疑いでゲームを中断させられてるわ。貴女達は神聖なゲームにつまらない横槍を入れている。言ってることは分かるわよね?」

 

涼やかな瞳でサンドラを見つめる少女。対照的にサンドラは歯噛みした

 

「不正が無かったら主催者側に有利な条件でゲームを再開させろ……と?」

 

「そうよ。新たにルールを加えるかどうかの交渉は後にしましょう」

 

「……わかりました。黒ウサギ」

 

「は、はい」

 

黒ウサギが耳を動かし暫く沈黙が続く。その間に十六夜は小声でマンドラに

 

「なあ。どの程度ならゲームに不正に該当するんだ?」

 

「………。そんなことも知らずに同行したのか、貴様」

 

「私も気になる」

 

「お前もか……」

 

大事なことを知らずに審議の場に居ている二人にため息をと舌打ちをして説明する

 

「貴様らも知っているだろうが、ギフトゲームは参加者側の能力不足・知識不足を不備としない。この場合はクリアに "ハーメルンの笛吹き" の伝承の知識が必要でも、 "知らぬほうが悪い"となる」

 

「そりゃ理不尽だ」

 

「じゃあ今回不備があるとしたら白夜叉の封印だよね? "参加"を明記しておきながら、参加出来ないという事だよね」

 

「ああ、これは看過出来ん。そこには明文化された要因が必要のはず」

 

「しかし記されていたのは『偽りの伝承をを砕き、真実の伝承を掲げよ』この一文のみ、か」

 

そこで3人の会話が途切れる。黒ウサギはしばし瞑想した後気まずそうに

 

「箱庭からの回答が届きました。此度のゲームに不備・不正はありません。白夜叉様の封印も、正当な手段で造られたものです」

 

「当然ね。じゃ、ルールは現状維持。問題は再開の日取りよ」

 

「日取り?日を跨ぐ?」

 

サンドラは意外な声を上げる。周りの人間も同じだ明らか劣勢である参加者側に時間を与えるというのだからだ。状況的には今すぐ再開されてもおかしくない状況だったのだから

 

「ジャッジマスターに問うわ。再開の日取りは最長で何時頃になるの?」

 

「さ、最長ですか?ええと、今回の場合ですと一か月ぐらいでしょうか」

 

「じゃ、それで手を」

 

「待ちな!」

 

「待った!」

 

「待ってください!」

 

ノーネームの面々は同時に声を上げ

その声はこの上なく緊迫してる

 

「何、時間を与えてもらうのが不満?」

 

「いや、ありがたいぜ?だけど場合による。俺は後でいい。御チビ、先に言え、天音もいいだろ?」

 

「うん、良いよ」

 

「はい。主催者側に問います。貴女の両脇に居る男女は"ネズミ"と"ヴェーザー"だと聞きました。そして、もう一体が"(シュトロム)"だと。なら貴女は"黒死病(ペスト)"ではないですか?」

 

「ペストだと!?」

 

一同が驚愕し、斑の少女を見つめる。

黒死病とは十四世紀から始まる寒冷期に大流行した、人類史最悪の疫病である。敗血症を引き起こし、全身に黒い斑点が浮かび死に至る。

グリム童話では "ハーメルンの笛吹き"に現れる道化が斑模様であった事。そして黒死病が大流行した原因である、ネズミを操る道化であったこと、以上の二点から"百三十人の子供は黒死病で亡くなった"という考察が存在した

 

「そうか、だがらギフトネームが"黒死斑の魔王(ブラック・パーチャー)"!」

 

「ああ、間違いない。そうだろ魔王様?」

 

「……ええ。正解よ」

 

涼やかな微笑みで斑の少女ーーーー否、ペストは頷いた

 

「御見事よ、名も知らぬ貴方。貴方の名前とコミュニティの名前を聞いても?」

 

「"ノーネーム"のジン=ラッセルです」

 

コミュニティの名を聞いたペストは驚きで少し目を見開いた

 

「覚えとくわ。……だけと確認が遅かったわね。私達はゲーム再開の日取りを左右できると言質を取ってるわ。勿論、参加者の一部に病原菌を潜伏させている。ロックイーターのような無機生物や悪魔でもない限り発症する、呪いそのものを」

 

その言葉でさっきのゲームが日を跨ぐ意味がわかった。もしも彼女の呪いが黒死病と酷似するというならば、発症は最短で二日、一ヶ月も経てば力無きものは死滅する。今まさに戦わずして参加者側は敗北しようとしていた

 

「ジャ、ジャッジマスター!彼らは意図的にゲームの説明を伏せていた疑いがあります!もう一度審議を、」

 

「ダメだよサンドラ、それの説明する責任は彼女らには無いんだよ、下手をしたら、また彼女らに有利な条件を課せられない、そうなったら勝てる見込みが下がるだけ」

 

サンドラは天音の言葉を聞き悔しそうに受け入れる

 

「此処にいる人たちが参加者側の主戦力と考えていいのかしら?」

 

「ああ、正しいと思うぜ」

 

斑ロリもといペストの言葉にヴェーザーは答える。

 

「なら提案しやすいわ。ねえ、皆さん、ここにいるメンバーと白夜叉。それらが"グリムグリモワール・ハーメルン"の傘下に降るなら、他のコミュニティは見逃してあげるわよ?」

 

「なっ、」

 

「私は貴方達のことが気に入ったわ。サンドラは可愛いし。ジンは頭良いし」

 

「私が捕まえた赤いドレスの子も良い感じですよマスター♪」

 

ネズミが愛嬌たっぷりに言うとノーネームの面々の顔が強張る

 

「なら、その子たちも加えてゲームは手打ち。参加者全員の命と引き換えなら安い物でしょ」

 

微笑みを浮かべ首を傾げるペスト、だが言葉の意味は従わなければ皆殺しと言う意味を持つ。一同はその笑に戸惑う。しかし、十六夜、天音、ジンは違った

 

「これは白夜叉様からの情報ですが。貴方達“グリムグリモワール・ハーメルン”はもしや新興のコミュニティでは無いでしょうか?」

 

「答える義務はないわ」

 

「新興のコミュニティだから優秀な人材が欲しい。どうだ?違うか?」

 

「…………」

 

「そのタイミングでの沈黙は"そうだよ"って言っているようなものだよ?」

 

「だから何?私達が譲る理由は無いわ」

 

「いいえ、あります。何故なら貴女達は僕たちを無傷で手に入れたいはずですから。もしも、一か月も放置されたら、きっと僕たちは死んじゃう……だよねサンドラ」

 

「え?あ、うん」

 

突然話を降られて地の返事で返す。

ジンは続ける

 

 

「"死んでしまえば手に入らない"。だから、貴女はこのタイミングで交渉を持ち掛けた。実際に三十日が過ぎて優秀な人材を失うのを惜しんだんだ」

 

断言として言い切るジン、今回に限って自信が合った。だがペストはそれでも

 

「もう一度言うわ、だから何?私達にはゲームの再開を決める権利があるわ、1ヶ月じゃなくとも二十日後にすればいいだけよ。それなら、病死前の人材を得ることはできるわ」

 

「なら、発症したものを殺す。」

 

声の主マンドラに全員が振り向いた。マンドラの瞳は真剣そのものだ

 

「例外は無い。縦令サンドラだろうと"箱庭の貴族"であろうと私であろうと殺す。"サラマンドラ"の同士に、魔王へ投降する脆弱なものはおらん」

 

絶句する、縦令ブラフだとしても過激な発言だ、だが十六夜は閃きマンドラに続く

 

「黒ウサギ。ルールの改変はまだ可能か?」

 

「へ?………あ、YES!」

 

十六夜が何を考えているの理解したらしく黒ウサギはウサ耳を伸ばして答える。

 

「交渉しようぜ、魔王様。俺達はルールに“自決・同士討ちを禁ずる”を付け加える。だから、ゲーム再開は三日後にしろ」

 

「却下、二週間後よ」

 

即決を下される。理想的な期間は謎解きを加えて1週間以内だ。十六夜は他に材料が無いかと見渡し、黒ウサギと目が合った

 

「今のゲームでは黒ウサギお前の扱いはどうなってんだ?」

 

「黒ウサギは大祭の参加者でありましたが審判の最中だったので十五日間ゲームには参加出来ないことになってます。…………主催者側の許可があれば話は別ですが」

 

「よし、それだ。魔王様、黒ウサギは参加者じゃないからゲームで手に入れられないが、参加者にすれば手に入る。どうだ?」

 

「………十日。これ以上は無理」

 

「ちょ、ちょっとマスター!“箱庭の貴族”に参戦許可を与えは………!」

 

「だって欲しいもの。ウサギさん」

 

素っ気ない返事で返すペスト。十日。あと少し、あと少しで五分にまで持っていける。しかし交渉材料が見当たらない。全員が思考を最速で張り巡らせてる中、一人の少女はジンに確認をとる

 

「ジン君ゲームに期限をつけて、負けたら的の総取りを覚悟する、1週間はギリギリ死者が出ない瀬戸際、あとはわかるよね?」

 

「はい、今後の症状でのパニックを想定した場合、精神的にも体力的にもぎりぎり耐えれるところですね、僕らはそれ以上は耐えれない、だから全コミュニティは無条件降伏を呑む」

 

それを合図に天音は言う

 

「ゲームに期限をつけます!」

 

「何ですって?」

 

「ゲームに期限を付ける。再開は1週間後……ゲーム終了はその二十四時間後。そしてゲーム終了と共に主催者側の勝利とする」

 

ゴクリと黒ウサギや、サンドラ達の息を呑む音が貴賓室に響く

 

「本気?主催者側の総取りを覚悟するというの?」

 

その問にジンが答える

 

「はい。一週間は死者が出ないギリギリのライン。今後現れる症状、パニックを想定した場合、精神的にも肉体的にもギリギリ耐えられる瀬戸際。そして、それ以上は僕たちも耐えられない。だがら、全コミュニティは、無条件降伏を呑みます」

 

ペストは思案した。これは両者にとって得な話である。今後の準備や謎解きの時間が欲しい参加者側と優秀な人材を無傷で確保したい主催者側1週間+二十四時間と言うタイムリミットは理想的な期限だが

 

「(……気に入らない)」

 

一見すれば合理的だが、何もかも参加者側の目論見通りになっているのが気に入らなかった。

 

「ねぇ、ジン。もしも一週間生き残れたら貴方は私に勝てるの?」

 

「勝てます」

 

脊髄反射のような回答、ジン自身、考えて答えたわけじゃない。内心肝が冷えてる。しかしそれでも、自分の同士が勝つと疑っていなかった。

 

「そう、よく分かったわ………宣言するわ。貴女は必ず―――――私の玩具にすると」

 

不機嫌な顔が一転してニッコリと笑うしかし、その瞳は壮絶な怒りを浮かべていた。激しい黒い風が吹き抜け参加者側が顔を庇う中主催者、黒死斑の魔王は消えた。

 

舞台は整った、謎を解き魔王を打倒するだけになった……が……ノーネームのメンバー二人が黒死病により倒れた。倒れたメンバーは、春日部耀と八神天音だ

 

 

 

 




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クーフーリンオルタでねぇあと5000円で諦めよう…


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倒れた天空の御子

追加5000円の結果……プアーサー来ました!(`・∀・)ノイェ-イ!


黒死病により倒れてしまった天音はまた一人夢を見る。見るのはやはり戦いの記憶、この世に落とせぬ物ないと言われる弓を持つものと、計略により不死たらしめるよろいを失い、槍を貰い受けたもの。ぶつかり合う二人、戦うたびに互いが分かる、だが戦わなければ成らない。決着は槍を貰い受けた者の戦車が動かなくなるそこまでのはずだった、内通者によってその者は馬車から落ち、車輪を動かそうともがく彼に対して弓を構えた。それは古代〇〇〇での戦士の道義に反するものであったが、今やらなければその者を倒せる機会を失ってしまう。その者も弓を構える際に微笑んでいた。無論、弓を引く者への嘲笑ではなく、ルールを破ってまで己を倒すことへの喜びであった。弓を引いた者はそうしてまで宿敵の打倒を成し遂げ、彼は安堵した。しかし同時に生涯に渡って『悔恨』を抱くことなった。

あの日引いた弓の結末に、"人として"、"戦士として"未練を残すがゆえに―――叫んだ、

 

『俺はーーーこんな勝ち方などしたくはなかった』

 

そして、さらに奥……別の者は、息子によって稲妻を奪われ、地に叩きつけられた。叩きつけた人物は、邪龍と対峙する。

 

夢はここで終わる。熱により目が覚めるが、意識ははっきりとしないし、頭は霞がかかったような感じに鈍い

 

「(そう言えばたおれたんだっけ?)」

 

交渉から六日たった今日だ、今日の夕方にはゲームは再開される。夢のせいで自分がどうなってたかをド忘れする

上体を起こして部屋を見る。本が何冊も重なっている。黒ウサギに無理を言い持ってきてもらったのだ。寝てないとダメと言われたが天音は首を縦に振らず黒ウサギが折れて持ってきてもらったものなのだが、やはり発熱より長くは読めないが、あらかた読んで、白夜叉の封印した謎までは解けた、いやペストが黒死病の魔王と知り、黒死病の本とハーメルンの本を見て確信していたのだが、黒死病で倒れ、隔離されているので伝えようがなかったのと、倒れたあとに確証したのだから、誰も来ない部屋でどうしろとと言う状況だ

 

「(十六夜は謎解けたかなあ………)」

 

ふと十六夜の事を思い浮かべる。

まっさきにこういう時に十六夜が近くにいたらいいなぁと天音は思った。でもそれは甘えかなあと思う天音も居た。ゲームに期限を言い出したのは天音だ。いくらジンと相談した結果だとしても、あの場で言い出したのは自分だその自分が黒死病によって倒れたとなれば、情けない話だと思う

 

「(……)」

 

天音は近くにある本を再び読む。

ペストが白夜叉を封印した謎は、太陽に関係していた。黒死病が最も猛威を奮って八千万人の死者を出したのは、十四世紀から始まる太陽が氷河期に入り世界そのものが寒冷に見舞われた、白夜叉は太陽を運行を司る力と箱庭の太陽主権を持っている。太陽の属性もだ。それらを当てはめると。太陽が力が弱まっていたとされる年代記をなぞってゲームのルールが作られていた。

そしてハーメルンの碑文が一二八四年に対し黒死病の大流行が始まったとされたのが、一三五〇年のことだ、そうつまり時代が合わない。

ハーメルンの碑文は

 

ーーーー 『一二八四年ヨハネとパウロの日 六月二六日 あらゆる色で着飾った笛吹き男に一三〇人のハーメルン生まれの子供らが誘い出され、丘の近くの処刑場で姿を消した。』

そう本来のハーメルンの碑文にはネズミを操る道化師は出てきていない、ハーメルンの笛吹きにネズミとネズミを操る道化師が現れるのは、黒死病の最盛期である一五〇〇年代からのことだ。これでラッテンと黒死病を表すペストは外される。偽りの伝承は

ネズミを操る道化が描かれているものだ、砕くというのだから、街で見たステンドグラスを砕くのだろう。

 

「(どう伝えれば……)」

 

再び微睡が来る、抗ってみるが、意識は落ちる。

 

ーーーーーーー

 

その頃十六夜は謎と対峙しながら歩いていた。八割から九割は謎を解いていた、だが決定的なものを見落としている感じがあった

 

ラッテン=ドイツ語でネズミの意。ネズミと人心を操る悪魔の具現。

ヴェーザー=地災や河の氾濫、地盤の陥没などから生まれた悪魔の具現。

シュトルム=ドイツ語で嵐の意。暴風雨などによる悪魔の具現。

ペスト=斑模様の道化が黒死病の伝染元であったネズミを操ったことから推測。黒死病による具現。

 

・偽りの伝承・真実の伝承が指す物とは、一二八四年六月二十六日のハーメルンで起きた事実を右記の悪魔から選択するものと考察される

 

「あーくそ、大体の考察は終わってるのに、だけどそこからの解釈が分かれちまう」

 

後一歩、あと一手が足りない、答えは直ぐそこなんだが、いまいち届いていない感じだ、それと同時に、ある一人の少女のことが気になってる。

 

「天音……大丈夫か?少し気になったし行ってみるか、そのあとで春日部の見舞いにでも行くか」

 

彼にとって八神天音と言う少女は、いつも隣にいて、面白く、興味の対象だった。この箱庭において初めて自分とタメを張れる実力の持ち主に出会えた。それが彼女だ。倒れたと聞いた時、春日部同様心配したが、それとは違う感じもした。

 

「まだ寝てるだろうから、お忍びで行きますか」

 

十六夜は天音が隔離されているの部屋に入る。天音は、すうすう っと眠っている、布団の上には本か置かれており、直前まで読まれてた感じだ

 

「自分が黒死病にかかってるのに無理して謎解きか、思ったより心は大丈夫のようだな」

 

小さく十六夜は笑う、椅子を近くに起き謎ときのためにハーメルンの本を再度確認し出す。ページを読む手が止まる、袖を天音に掴まれたからだ、十六夜は天音の方を見る、寝返りうってこっちの方を向いていた、額は発熱による汗で濡れていた。十六夜は髪を反対の手で分けてあげた、握る手は少し強くなった

 

「そんなに握られたら本読めねえよ」

 

小さく笑いながら呟く、天音まだ眠ってる。寝言なのだろうが、十六夜はハッキリ聞こえた。

 

「……十六夜……近くに居て……」

 

十六夜は少し固まった、今までそういう経験がないというのもそうなんだが、気になってる人物にそれをしかも弱々しい今にでも消えそうな感じの状態でだ、何時もの、十六夜が知りうる限りの天音からは考えられない声と言葉だった。新たな一面を知れたと、同時に顔が熱くなるのを感じる、鼓動は早くなる、その言葉を聞いて嬉しい気持ちになったのもある。

 

「ああ、良いぜ。魔王との戦いが始まるまでそばにいてやるよ」

 

そう言い、天音を眺めた。天音の手を握り

 

ーーーーーーー

 

天音は目を覚ます。暖かい手の温もりと安心感からだ、何となくその人物が誰なのかは分かる。

 

「……十六夜?」

 

「お、起きたか?大丈夫か天音」

 

十六夜の顔は若干赤く見えた天音は

 

「え?あっ!十六夜黒死病大丈夫!?移ってない!?」

 

「おいおい、いきなり騒ぐなよ、辛いんだろ?」

 

十六夜は心配する天音を諭すように宥める

 

「十六夜様はこの通り健康体そのものですよ。それに俺はいいもの見れたぜ」

 

「……え……それって私の寝顔?」

 

「よくわかったな」

 

「むぅ……」

 

天音は口を膨らませ怒ったようにする。

 

「まぁまぁ、そう怒るなよ」

 

「それより、謎解きはどう?」

 

十六夜はそれを聞かれ答える。

 

「まぁ、大体の考察は終わってるのに、だけどそこからの解釈が分かれちまうんだ」

 

ラッテン=ドイツ語でネズミの意。ネズミと人心を操る悪魔の具現。

ヴェーザー=地災や河の氾濫、地盤の陥没などから生まれた悪魔の具現。

シュトルム=ドイツ語で嵐の意。暴風雨などによる悪魔の具現。

ペスト=斑模様の道化が黒死病の伝染元であったネズミを操ったことから推測。黒死病による具現。

 

・偽りの伝承・真実の伝承が指す物とは、一二八四年六月二十六日のハーメルンで起きた事実を右記の悪魔から選択するものと考察される

 

「ここまでは、分かってるんだ、こここまでは」

 

「うん、黒死病って何時くらいから流行ったんだろうね」

 

「あ?それは、十四世紀に寒冷期に入って……まて、ハーメルンの碑文に書かれてる年代は?」

 

十六夜はなにかに気づき天音にハーメルンの碑文の年代を聞く

 

「気づいた?合わないんだよ、ハーメルンの碑文の年代は一二八四年、黒死病の大流行した時代は一三五〇年以降の話なんだよ」

 

それを聞いた十六夜はすべてに合点が行った、十六夜は獰猛な笑を浮かべ言う

 

「そういう事か!黒死病が大流行した寒冷の原因は……太陽が氷河期に入り世界そのものが寒冷期に入ったからだ、つまり太陽の力が弱まったという事それが白夜叉を封印したルールの正体か!なら、連中は一二八四年のハーメルンじゃなく……ああクソッ!完全に騙されたぜ"黒死斑の魔王!お前たちは童話上の"ハーメルンの笛吹き"ではあっても"本物のハーメルンの笛吹きじゃなかったってことか………!!!」

 

バタン!とドアを勢いよく開け飛び出す、その際に振り返り言う

 

「天音のおかげで謎が解けた!あとは任せておけ!しっかり休んどけよ!」

 

そう言い彼は黒ウサギたちのところへ行く。天音はそれを見送った。だがさっきとは違う。意識ははっきりとしないし、頭は霞がかかったような感じに鈍かったさっきとは違い、

意識ははっきりしており、頭は透き通る様に鮮明だ思考も良好。黒死病に感染しており状態は最悪だが、精神的状態は良い。

 

「(……しっかり休んどけか……悪いけど、ゆっくりも寝てられないよ)」

 

天音は制服に着替え、ドアを開け決戦のために街に行く。

その瞳は金色にも見えた

 

 

 

 




今回は少し無茶も入ってます。ご了承ください!

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VS黒死斑の魔王 ラストゲーム

原作2巻次回がラスト!


ゲームが再開されると同時に激しい地鳴りが起こる。宮殿は光に呑み込まれ、激しいプリズムと共に参加者のテリトリーを飲み込む。見上げれば、見たことも無い別の街並みが広がっていた。

 

「なっ……何処だ此処は!?」

 

参加者の誰かが驚愕の声を上げる。見渡せば数多の尖塔郡のアーチは劇的に変化し、木造の街並みに姿を変えている。黄昏時を彷彿とさせるペンダントランプの煌めきは失せ、パステルカラーの建築物が一帯を作り替えている。ステンドガラスの捜索側に回っていたジンは叫ぶ

 

「まさか、ハーメルンの魔導書の力………ならこの舞台はハーメルンの街!?」

 

「何!?」

 

マンドラはその声に振り返る。そのあいだも混乱は広がりを見せ士気高く飛び出した参加者は出鼻をくじかれる。

 

「こ、ここはどこだ!?」

 

「それに今の地鳴りは!?」

 

「まさか魔王の罠か!?」

 

「うろたえるな!各人、振り分けられたステンドグラスの確保に急げ!」

 

マンドラが声を上げ参加者たちに一喝する。

 

「しかし、マンドラ様。地の利も無く、ステンドグラスの配置もどうなっているのかも分からないままでは、」

 

「安心しろ!案内役ならば此処にいる!」

 

そう言ってマンドラはジン君の方を掴む。

 

「知りうる限りで構わん。参加者に状況を説明しろ」

 

「け、けど、僕もそんなに詳しいわけでは」

 

「だから知りうる限りで構わんと言っただろうがッ。貴様が多少情報を持っていることは知りわたっている。貴様の言葉なら信用する者もいるだろう!とにかく働き出さねば二十四時間などすぐに過ぎ去るぞ!」

 

マンドラの言葉にジン君は反論を呑み込む。泳いだ視線は自然に十六夜を探す。十六夜ならば、ハーメルンの地理にも詳しいはずだからだ。しかし見つからない。そして時間制限がある以上、一分一秒を争うのも事実。ジンは意を決して捜索隊の前に立つ。

 

「ま、まずは教会を探してください!ハーメルンの街を舞台にしたゲームなら縁のある場所にステンドグラスが隠されているはずです!"偽りの伝承"か"真実の伝承"かは、発見した後に指示を仰いでください!」

 

ジンの一声で捜索隊が一斉に動き始めた。再び街全体を揺り動かす地鳴りが起きたのは、その直後だ。

 

ーーーーーーーー

 

「………街が変わった?建築様式はルネサンス調、なるほど仕込んだ他わかるというわけね。地殻変動そのものを起こすなんて、凄いね全く」

 

天音は街で高いところから、ハーメルンの街を一帯を見下ろす。直後、再び街全体を揺り動かす地鳴りが起きた

 

「うわっ!?すごい揺れだ……多分十六夜と誰かだろうけど……誰だろう」

 

建物が揺れの発信源の方を見る。ヴェーザー河の近く、十六夜と棍にも似た巨大な笛を持つ軍服の男ヴェーザーがぶつかり合っている。

 

「十六夜……!」

 

天音は今にでも十六夜のところに行き一緒に戦いと思ったが……踏みとどまる。十六夜ならヴェーザーを倒すだろうと思い、十六夜に任せ天音はもう一つの音……雷鳴が轟く場所へと向き飛び出す。

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

「私達が、 "主催者権限" を得るに至った功績。この功績には私が……いえ、死の時代に生きてきた人の怨嗟を叶える、特殊なルールを敷ける権利があった。黒死病を世界中に蔓延させ、飢餓や貧困を呼んだ諸悪の根源ーーーーー怠惰な太陽に、復讐する権限が………!!!」

 

感情をあまり表に出さないと思われていたペストは、初めて激怒の口調を強めた、彼女は八〇〇〇万の怨嗟の声に応えるため、神々の箱庭の太陽に挑むのだという。その決意に応えるかのように黒い風は勢いを増し荒れ狂う。黒ウサギは舞い上がる髪を抑えながら、荒れるペストを見定める。

 

「太陽に復讐とは……流石魔王。大きく出たものでございます。太陽の主権を持っている白夜叉様を狙った理由は、そこにあったわけですか」

 

「ど、どうする?」

 

「どうするも何もかも。こちらの力が一切通じないのでは打つ手も何も御座いません」

 

黒ウサギの言葉にサンドラは一層蒼白になる。それでは二人に勝ち目はない。黒ウサギには策が一つあるのだが、それには十六夜の力が必要だった。だが十六夜は神格を得たヴェーザーとぶつかり合っている

 

「(十六夜さん………!まだ片付かないのですか……!?)」

 

状況を把握してる分歯がゆい、彼の性格上格下に遊ぶことは無い。全力でヴェーザーを倒したあと嬉々として魔王に挑むと思っていた。だが彼に相手ヴェーザーは神格を与えられていた。それが原因で作戦が先延ばしになっているのだ。

 

「天音さんが居たら……状況が変わるのに……!」

 

サンドラはここにいない天音の名をにする。黒ウサギは頭に?を浮かべサンドラに尋ねる

 

「サンドラ様天音さんが居たら何かあるのでございますか?」

 

「はい、一週間前の話です。私と天音さん、レティシアさんでペストと応戦してました。その時、天音さんの攻撃だけが、まともに通りあの黒い風も霧散させ、そのスキに私が攻撃してました」

 

その話を聞いて黒ウサギは驚く、だがその天音は今は黒死病で倒れてしまっていて、ここに来ることは無い。

 

「………さ、ゲームを再開しましょ。貴女達二人は特に大事な駒だもの。タイムオーバーのその瞬間まで、たっぷりと遊んであげる」

 

先の熱を消したペストは悠々と構えて薄く笑う。黒ウサギとサンドラは戦慄とともに、絶望のゲームが再開されようとした。その時黒ウサギの耳には聞こえていた、誰かがここに来ることに

 

「ならさ、そのゲーム私の混ぜてもらうよ……!」

 

雷が轟き、ペストに落ちる。ペストは黒い風で球体のように包みそれを防ぐ。直後その球体に一本の白い線が入り、球体は霧散する。ペストは瞬時に誰かが分かる、その直後、日輪の意匠が凝らされた光槍により、地上に向け叩きつけられた。数多の建造物を粉々にしながら吹き飛ぶペスト。黒ウサギとサンドラはその声を聞いたことがある、そして目を疑うそこにいる人物は、黒死病に感染して来れないはずの八神天音がそこにいるのだから。

 

「はぁ……っぅ……!」

 

天音はふらふらと二人のいる屋根に降りる。槍を杖にしてもたれかかるように立ってる。黒ウサギは大声で怒る

 

「何してるんですか天音さん!?天音さんは黒死病にかかってるんですよ!?なのに無理して戦いに来るなんて!」

 

彼女の怒りは最もだ。天音は黒死病に感染して状態は最悪だ、だがその状態で天音は魔王とのゲームに臨んでいる。サンドラも同意見だった

 

「黒ウサギの言う通りです!休んでてください!来てくれたのは嬉しいですが、今の」

 

「黒ウサギ……サンドラ……策は何か無いの?私はやれるよ……!」

 

熱がある顔で問う天音。槍を杖にして辛そうだ。だが、目だけは死ぬどころから、闘志がみなぎってる。その目を見た二人は何も言えない。いや今ここで何を言っても無駄だと悟る

 

「あります、本来は十六夜さんの力が必要でした。ですが、天音さんがいる今なら作戦を開始することができます。天音さん、サンドラ様、作戦の発動には少し時間がかかります、もう少し待ってください。それと天音さん、あの方の槍は出せますか?」

 

サンドラにはその質問の意味がわからなかった、天音は言葉の意味は理解し

 

「大丈夫、自分で出せる。黒ウサギ見せるよ、神々の王の慈悲を」

 

そう言い、天音は黒い風を纏ながら出てくるペストと向き合う。

 

「あら、いつぞやの。その様子じゃ黒死病で満身創痍って感じだけど?」

 

「生憎とまだ少し余裕があるものでね……せっかくの魔王とのゲーム、心が踊って休んでられないってものだよ!」

 

傷を癒し服のほつれをただしペストは天音を見定め、黒い風で攻撃する。天音は前髪から雷撃の火花を散らし、神雷を出し相殺する。サンドラは龍炎を放つ、ペストは黒い風で球体のように自分を包み遮断する。天音はそれを見て、光を拳に集め球体めがけ放つ光は球体を砕きペストの姿が顕になる。天音は槍で攻撃を仕掛けるが、躱され裏拳の要領で殴られ凄まじい勢いで吹っ飛ばされる。直後黒ウサギは金剛杵で接近戦を仕掛ける

 

「今度は貴女が相手?」

 

「太陽とは行きませんが、月の兎も中々ですよ」

 

「そうとは思えないけど」

 

ペストは少し距離を置き、黒い風の衝撃で攻撃する。黒ウサギはそれを横に避け屋根へ着地し、再びペストへ強襲する……がペストはそれを読んでいたかのようにひらりと躱し、手を黒ウサギの目の前に突き出す

 

「私の相手は務まらなかったわね」

 

王手、ペストは黒い風を放とうとする。いくら月の兎でもこの距離では回避は不可能……が

 

「!」

 

速く鋭い紅い閃光がペストに迫る、ペストはその危険を察知しギリギリで躱す、その光は街の外れに着弾し着弾点一帯を消し飛ばし炎が燃え上がる

 

「大丈夫?黒ウサギ」

 

片目が紅く光る天音がたっていた。紅い光り収まり元の青色に戻る。

 

「は、はい大丈夫でございます」

 

黒ウサギ、天音、サンドラは屋根の上でペストと対峙する

 

「あきらめが悪いのね」

 

ペストは両手から黒い風の衝撃を放つ、天音は槍に光を纏わせその光を斬撃として放つ。黒い風は霧散したが衝撃は生き残り三人を別の建物の屋根に吹き飛ばす。

 

「ッ!……黒ウサギ時間もういいじゃないの!?」

 

天音は黒死病にかかりながらも善戦しているが、時間が長引くほど宜しくはない。催促し黒ウサギを見つめる。見つめ返す黒ウサギの瞳にも強い光が宿っていた。黒ウサギは耳で十六夜の勝利、飛鳥がラッテンを倒したのを確認した。

 

「時は満ちました!今から魔王を討ち取ります。今から魔王と天音さんとサンドラ様を纏めて月に招待します♪」

 

白黒のギフトカードの輝きとともに急転直下、周囲の光は暗転し星が巡る。温度は急激に下がり、大気が凍りつくほどの過酷な環境が天音達を襲う。激しい力の奔流が収まり、瞳を開けて天を仰ぐ。天には箱庭の世界が逆さまになって浮いていた。各所に散々する月の神殿を見てペストは蒼白になり叫ぶ。

 

「チャ……"月界神殿(チャンドラ・マハール)"!軍神(インドラ)ではなく、月神(チャンドラ)の神格を持つギフト……!」

 

「YES!このギフトこそ、我々"月の兎"が招かれた神殿!帝釈天様と月神様より譲り受けた "月界神殿"でございます!」

 

「三十八万kmも離れたら魔書の効果も範囲外みたいだね……決着をつけよう黒死斑の魔王(ブラック・パーチャー)!」

 

ペストは二人がやられた時点で時間稼ぎをやめ、皆殺しにするつもりだった。だがそれよりも早く、黒ウサギは勝負を仕掛けた。ペストは黒い風を放出させる

 

「貴女さえ倒せば」

 

対象は天音だ、黒ウサギはその前に立ち叫ぶ。

 

「太陽に復讐を、でございますか?ならばこそ、この輝きを乗り越えてごらんなさい!」

 

黒ウサギがマハーバーラタの紙片を掲げる。溢れた輝きは太陽の黄金の輝きで、黒ウサギを神々しく染め上げる。黄金の鎧を纏い迫る死の風は太陽の光に焼かれ、一瞬で霧散する

 

「そ、そんな……!?」

 

動揺してるスキに飛び金剛杵で黒ウサギはペストを攻撃する、ペストは大きく後退する

 

軍神(インドラ)月神(チャンドラ)太陽神(スーリヤ)……!護法十二天を三天まで操るなんて……この化物!!!」

 

「黒ウサギだけだと思っておいででしたら大間違いですよ?」

 

サンドラはペストが見せた隙に龍炎で拘束する。

 

「今です!天音さん!」

 

黒ウサギが横に避ける。避けた先には似た太陽の光を放つ黄金の鎧を纏う天音が立っていた。槍を前に祈るように持ち言葉を紡ぐ

 

「神々の王の慈悲を知れ……」

 

直後彼女の纏う黄金の鎧は光の粒子となり消える。直後光は日輪の意匠が凝らされた槍に纏い巨大化しする。穂先だけで天音自身の身の丈にを越す大きさだ。

 

「絶滅とは是、この一刺」

 

凄まじい神雷が槍に降り注ぎ、槍からも放たれる。天音は低く構え槍を放つ体制に入る。そして神をも滅ぼすと言われる光槍が放たれる

 

「終わらせる、『日輪よ、死に随え(ヴァサヴィシ・ャクティ)』!! 」

 

槍は天雷を束ねペストを撃ち貫く。死神が死の恩恵を与えるというのであれば軍神が勝利をもたらす武具がこの槍なのだ。天雷は勢いと力を増し、千から万、万から億、衰えること無く、ペストを灼き尽くす

 

「そして……私は、まだ……!」

 

轟と響きを上げ、軍神の槍は圧倒的な熱量で魔王を共に爆ぜる。天音はそれを見届け

 

「 ……是非もなし」

 

一言呟く、体力は元から黒死病で消耗していて、熱もあるということと、緊張の糸が切れ、天音はうつむけに倒れ意識を手放した。

 

そして魔王とのゲームは集結した。




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いよいよ原作2巻も終幕ですw


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エピローグ

原作2巻終了でございます!


ゲーム開始から十時間後、勝負は参加者側の勝利に終わった。被害者は無くゲーム終了を迎えれた。サンドラは魔王とのギフトゲームを被害無くクリア出来たことに嬉しく感じていた。ゲーム終了後、白夜叉も封印から解放され、祝勝会を兼ねた生誕祭の続きを行うことになった。

そして、現在はその祝勝会の真っ最中なのだが………………

 

「…………、」

 

「…………何か言うことあるか?」

 

現在、天音は十六夜の説教を受けている。魔王を討ち果たした後、天音は気を失った、精魂果て眠るようにだ、十六夜と飛鳥が駆けつけた時には黒ウサギに抱き抱えられていた。十六夜は黒死病にかかってボロボロなのに何してんだと低く言い、飛鳥は

 

『天音さん黒死病にかかってるの!?』

 

と驚く始末だった、黒ウサギはどちらかと助けられた身だからそこまで強く怒れないのと自身も強く止めれなかったという事で、怒れないでいたが。天音が目を覚まし十六夜は天音を正座させて今に至る。

 

「………ええと、この度は心配させてすいませんでした」

 

「ああ、全くだ、黒死病にかかってるのに魔王と戦ったみたいだしな、それに俺はしっかり休んどけと言ったよな?」

 

「はい……」

 

「休む何処とか、戦いに行くとはどういう了見なんだ?天音」

 

「ええと、気分が良くて、意識もはっきりして頭もよかったから……」

 

十六夜はそれを聞いて、呆れたように大きくため息を付き言う

 

「謎だ、普通そこまで考えれて、自分が黒死病にかかってるのに動き回るなんてなあ、無事だからいいけどなあ」

 

十六夜はかわいそうな子を見るような目で天音を見ながら言い続ける。

 

「でも、本当に何ともなくて良かったぜ」

 

十六夜は心底良かったという表情で言う。天音はその言葉を聞いて顔が赤くなり、鼓動が早くなるのが分かる。そして気づいた、天音は十六夜の事が好きなのだと。咄嗟の時や普通の時でも十六夜がそばに居たらと思うことが多々増えてきたことに思い返せばいっぱいあったと。天音は納得した感じで嬉しそうに微笑んだ。

 

「心配かけてごめんなさい。それと心配してくれてありがとう、十六夜」

 

「ああ、あんまり無茶すんなよ?」

 

「善処する」

 

「する気ねえだろ」

 

ヤハハと笑う十六夜、ハハハと笑う天音。そして十六夜は今回の魔王襲来の話をする

 

「以上でこれが今回のゲームの真相だ」

 

今回の一件がサンドラを除くサラマンドラ全員によるやらせだったこと

笛吹き道化のステンドガラスが一三〇枚以上あったそれなのにあったということは意図的に見落としたということだろう。今回は死人が出なかったということで万々歳な話だが、

それは、黒死病の中でも天音が戦地に出向き、黒ウサギが早くに勝負を仕掛けたからだ。もし天音が大人しくしていたら、時間稼ぎを狙った作戦から皆殺しに切り替え、ペストが何かをしでかすかもしれない可能性だってあった。

 

「うん、それで、その話を聞いて十六夜はどう思う?」

 

「別にどうもしねーよ。別にとやかく言うつもりはねーし、"サラマンドラ"も俺達"ノーネーム"も得したんだ。俺は水を差す必要は無いと思うが天音は?」

 

「そうだね、みんなが無事で祝勝会してるのに態々白けることする必要性がないものね」

 

天音は肩をすくませ言う

 

「そう言えば、十六夜は祝勝会でなくていいの?」

 

「あ?まぁ何だお前一人だと心細いだろうなぁと言う俺の配慮だ」

 

「そっか、じゃあ居てもらおうかな」

 

二人は笑いながら、祝勝会を部屋から見た。

 

それから、一週間後。天音達は境界壁コミュニティに帰ってきて、早速農園跡地に向かった。そしてメルンの力で農園を元に戻せるかもしれないと飛鳥達と子供たちは心を踊らせる様にメルンの活躍を見に来ていたが

 

「むり!」

 

農園を見るなりメルンは首をブンブン振りながら言う。

 

「………無理?」

 

「むり!」

 

即答だった、水が枯れ、土壌が廃れ、砂と砂利しかない土地を前に、メルンは一目でも匙を投げた。

 

「ごめんなさい。期待させるようなこと言って」

 

「き、気にしないでください。また機会がありますよ」

 

「そうだよ、飛鳥。また次のギフトゲームで勝てばいい」

 

しょんぼりと落ち込む飛鳥を、耀と黒ウサギが励ましている。そんな中、十六夜と天音は冷静に農園の土に触っていた。

 

「おい、極チビ」

 

「ごくちび?」

 

「そ。"極めて小さいメルン"略して極チビ。それより、もしも、土壌や肥しになるものがあったら、それを分解して土地を復活させることは出来るか?」

 

十六夜の意見にメルンは考えるような仕草をする。ゼロからじゃなく、土壌を復活させるための素材が他にあると言うならばあるいは

 

「できる!」

 

「ホント!?」

 

「かも!」

 

ガクッ、と飛鳥はやや右肩下がりに気が抜けるしかし、可能性は無いわけじゃない、試してみる価値は十分にある。飛鳥はギフトカードを出しディーンを召喚する

 

「ディーン!すぐに取り掛かるわよ!年長組も手伝いなさい!」

 

「「「「分かりました!」」」」

 

「DeN」

 

ディーンと年長組ははりきって農園復活の仕事を始めた。天音は背を伸ばし、ヘッドホンから流れる曲を聴き、空を見上げる。周りの声は十分に聞こえ、飽きないこの世界に新たな出会いに感謝して。ポケットにあるペンダントを見ながら呟く

 

「お父さん、お母さん。私はここに居るよ、この楽しい世界に」

 

天音はそう言い、手伝いを始めるのであった。

 




これにて原作2巻終了でございます!

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コラボ第2弾 1話 血を受け継ぐ者と出会うそうですよ?

コラボ第2弾です!

お相手は、僕がハーメルンで書くきっかけになった憧れの人
ほにゃーさんです! コラボ作品は「問題児たちと血を受け継ぐ者が異世界に来るそうですよ」です

不束ものの自分ですが精一杯頑張ります!


魔王襲来の北側から帰ってきて二週間経過した日、天音は黒ウサギと共に倉庫の整理と使えるギフトの選定を行っていた。

 

「いやー大助かりですよ!ダメ元でお願いしたら引き受けてくれるなんて思っていませんでしたから」

 

「苦労ばっかりかけるわけにも行かないし、いざという時の何があるかを把握しておいた方がいいでしょ?ダメ元って何よ!」

 

天音は笑いながら怒り耳を力いっぱい引っ張る

 

「痛い痛い痛い痛いですよ!す、すいませんでした!」

 

「じゃあ、整理の続きするよ」

 

「YES……」

 

黒ウサギは涙を目に浮かべ作業に戻る、天音も同様に作業する。天音は自分のお気に入りの曲をくちぶさみながら

 

「あの日々には戻れない、時は強く 哀しく強く、ただただ進んでゆくだけ "Restart" ♪」

 

「いい歌ですね、天音さん。曲名をお聞きしてもいいですか?」

 

黒ウサギに聞こえていたらしい、天音は

 

「これが終わったら教えてあげるよ」

 

天音は口笛を吹きながら作業を続ける。作業はそれから半時間行われ、飛鳥、耀、十六夜も参加し始めた。そんな時、天音はソフトボールくらいの球体を見つけるそれにはボタンがあり、『ここ押せ』と矢印があり、張り紙で危険と書かれてる

 

「うん?何これ?」

 

「おっ?どうした?」

 

「ここを押せと書かれた球体ね」

 

「同時に危険と張り紙が書かれてる」

 

問題児四人は10秒間だけ考えて各々結論を出す

 

「「「「……よし押してみよう」」」」

 

簡単だった、押すなと言われて素直に押さない問題児なら黒ウサギは苦労はしなかった、だがそれを押すからこそ問題児なのだ。ポチッと天音は押すが………

 

シーーーーーーン

 

「何も起きない?」

 

「よし、ただの玩具か?」

 

十六夜と天音はしばしそのボールもどきを見る、後ろから黒ウサギが来て

 

「先程から何をしてるのですか?」

 

「あ?何もしてないぜ?なぁ天音、お嬢様、春日部」

 

「「「たしかに何もしてない(わ)(よ)」」」

 

「あ、怪しすぎましますよ……」

 

「もう一度押そっと」

 

ポチッと天音はもう一度押す、黒ウサギはポカンとし焦る

 

「何してるんですか!?」

 

「ここを押せと書かれてた」

 

「危険とも書いてますよね!?」

 

「書いてるな」

 

ギャーギャー騒いでいると、天音、黒ウサギ、十六夜の足元に大きな魔法陣が現れる

 

「「なんか出た!?」」

 

「これは!?転移の魔法陣……!」

 

倉庫を覆い尽くすほどの白い極光が溢れる。それが終わり、飛鳥と耀が再び目を開けると、そこには天音と十六夜と黒ウサギの姿は無かった。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「……光が収まった…」

 

3人が目を開けるとノーネームの本拠の外にいた。

 

「なんだ、少ししか移動してないのな」

 

「あーつまらない」

 

「勝手にギフトを起動しないでください!このお馬鹿様!」

 

黒ウサギはハリセンを取り出し十六夜と天音の頭を叩く。

 

「それにしても、本当に良かったです。転移先が"ノーネーム"の本拠地で」

 

「と言うと?」

 

「このギフトは転移用のものですが、製作者の遊び心なのか、ランダムなんですよ!狙った場所に行ける確率なんて一割程度らしいんですよ!

転移場所から近かったり遠かったり、最悪、異世界に飛ばされることもあります」

 

「「狙った場所に一割で行けるなら十分じゃね(よね)?」」

 

「話聞いてましたかこのお馬鹿様方!?」

 

再びハリセンが炸裂する。すると天音は気づく

 

「飛鳥や耀ちゃんが居ない」

 

「ほんとだな、あいつらは巻き込まれなかったのか。まぁ距離が近いし見に行くか」

 

「そうですね、ご心配をおかけしないためにも倉庫に戻りましょう」

 

3人が倉庫に戻ろうとした瞬間声が掛かる。

 

「黒ウサギ、十六夜そんなところで何してるんだ?そこのやつは知り合いか?」

 

その声の主を見ると底には、黒い長ズボンに黒いシャツ、黒いコート全身真っ黒の銀髪の男が立っていた。天音達は頭に?を浮かべる。

 

「ノーネームに居たか?あいつ」

 

「居なかった気がするけど」

 

「確かにいませんでした」

 

3人で話をして十六夜が小石を拾い、挨拶と言わんばかりに

 

「俺と黒ウサギの名前をなんで知ってる?誰だか知らねぇが、とりあえず捕まえてやるか!」

 

そう言い、石を第三宇宙速度で足元に投げる。第三宇宙速度で投げられた石は男の足元を目掛けて飛ぶ。

そして、巨大な土煙を上げる。

 

「十六夜……流石にやりすぎじゃなない?」

 

「ヤハハ、悪い悪い」

 

石を投げられた男は大丈夫か黒ウサギと天音は安否が気になる。

 

「容赦ないな!そっちの十六夜は」

 

上空からの声、男は黒い羽を生やし上空にいた。天音はその発言に驚く

 

「(そっちの十六夜?彼は十六夜の事を知ってる……黒ウサギの名前も言っていた……うん?まさか)」

 

「悪魔かなにか?あの羽見たことねぇか?どっかで見たことがある気がするんだが」

 

十六夜はそのに羽に既視感を感じていた黒ウサギも天音同じく既視感を感じていた。

 

「あの羽レティシアの羽にそっくりだよ!」

 

そんなことを話してると、男は羽を広げたまま降下して来る。天音は十六夜を下げて前に出る。勿論武器など出さず戦闘する気がないことを示しながら。

 

「先に謝ります、十六夜が急に攻撃してごめん」

 

天音は頭を下げて謝る。すると男は

 

「俺はなんともないから気にするな、それにお前ら別の箱庭の人間だろ?」

 

「別の箱庭だと?」

 

十六夜は怪訝な顔をして、天音はなんとなく分かった顔して、黒ウサギは何かを察した

 

「十六夜さん、先程ギフトの説明しましたよね、異世界に行く可能性があるギフトだと」

 

「そういう事か、なるほどな、通りで俺と黒ウサギの名前を知ってるわけだ」

 

納得いったように笑う十六夜、天音は苦笑い、黒ウサギはウサ耳をへにょらせた。

 

「天音さん、どうするんですかこれ………」

 

「知らないよ……なるようになるよ」

 

騒ぎを聞きつけて、他のメンバーが出てくる。

 

「おい!なんの騒ぎだ修也」

 

「修也君何があったの!?」

 

「修也大丈夫!?」

 

「大きなクレーターができてますよ!」

 

お馴染みのメンバーが出てきて想像通りの反応をする

 

「「「十六夜(さん)と黒ウサギが2人!?」」」

 

「とりあえず、話は中でするから、来いよ3人とも」

 

銀髪の男こと修也に招かれた天音達はノーネームの本拠に入るのであった

 



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コラボ第二弾 2話 異世界のノーネームと交流だそうですよ

異世界の十六夜には
「」の前に十と
黒ウサギも同様に兎と書いています


「まずは自己紹介からだな。俺は月三波・クルーエ・修也だ。そして、知ってると思うが」

 

「逆廻十六夜だ」

 

「久遠飛鳥よ」

 

「……春日部耀」

 

「黒ウサギです」

 

「コミュニティのリーダーのジン=ラッセルです」

 

あの後、"ノーネーム"本拠の大広間に通され、全員との顔合わせとなった。

 

「私は八神天音、八神でも天音でも呼びたいように呼んでくれたらいいよ、あとは知ってると思うけど」

 

「逆廻十六夜だ」

 

「黒ウサギです」

 

天音達も自己紹介を済ませる。すると向こうの飛鳥達が質問してくる

 

「あら?向こうの私達は来てないの?」

 

「うん、気になった」

 

「じゃあその辺を合わせながら、事の発端を話します」

 

黒ウサギは項垂れながら事の顛末を話す

 

10分後……

 

「という訳です」

 

十「おいおい、そっちの俺は何やってんだよ?」

 

「じゃあそっちの十六夜に聞くけど、面白そうなものがあります、押せと書かれてます、でも危険と書かれてます、結論は?」

 

十「押す!」

 

「さすが俺だな!」

 

三人は息があったようにハイタッチをする、黒ウサギは天音の肩を掴みブンブンと振る

 

「そのせいで異世界に来てしまったのですよ!?どうするんですか!?」

 

黒ウサギの言い分もその通りだ、帰る手立てが今はわからない、あのボールは今は機能していない、天音は黒ウサギの肩に手を置き言う

 

「黒ウサギ」

 

「なんですか?」

 

「こうなったのは私の責任だ、だが私は謝らない」

 

「何言ってるんですか!?ふざけないでください!」

 

凄まじい勢いで天音の頭をハリセンで叩く、天音は頭から煙を出しながら倒れる。

 

十「ヤハハそっちの俺、天音は面白いやつだな!」

 

「ああ、面白いからって手を出すなよ?そっちの俺」

 

笑いながら話す十六夜s

 

「そっちの耀は修也さんに随分懐いているね?」

 

「修也は私の彼氏だもん」

 

「そ、そうなんだ」

 

天音達は別の箱庭のノーネームの恋愛事情を知ることになるとは思っていなかったのか面食らっていたがその後、女性陣営と男性陣営で分かれる形になりそれぞれの話をしていた。黒ウサギ達は黒ウサギ達で苦労話をしている。天音は耀の話を聞いた

 

「ということがあったんだよ」

 

「なるほど、それはたしかに怒るね、うんうん」

 

「ボロボロになってるのに魔王と戦おうとした時はもう怒るしかなかった」

 

耀は怒りのオーラを出しながら言う。

天音は『こっちの耀はおっかないなぁ』と思いながら苦笑いしか出来ないでいた。天音は耀の話に相槌うつが、どちらかと言うと天音も怒られた側なのだ。

 

「そっちの十六夜君はなにかしでたかした?」

 

「うーん、ヴェーザーとの一戦で片腕を潰されてたかな、でも本人は楽しめたらしいから、私は何も言えなかったかな……と言うか怒られたの私だし」

 

「天音はなにか無茶でもした?修也見たいに」

 

そっちの耀に言われ、天音は頬をすこしかき自分がした無茶を言う

 

「黒死病に感染してるのにペストと戦いました……」

 

それを聞いたそっちの耀と飛鳥はそりゃ怒られるられるだろうと言う顔をした。

 

「で、天音さんはなんでそんな無茶を?」

 

「その時は、黒死病がかかっていたんだけど、意識ははっきりしていて、頭は透き通る様に鮮明だ思考も良好だって、気分も良好だったんだよ。それに魔王とのゲーム、心が踊って休んでられないってものだよ」

 

耀は少し呆れた表情で、飛鳥は十六夜に少し似てると思った。十六夜達は十六夜達で盛り上がっていた。途中『ヘタレ』という単語と『バカゲーマー』という単語が出てきた。天音はどちらも当てはまる気がして気が気じゃなかった

 

「天音さんは、そっちの十六夜君のこと好きなの?」

 

「へ?」

 

そっちの飛鳥に言われ固まる、自分の顔が熱くなるのはすぐわかる

 

「天音、わかりやすいね」

 

「ええ、面白いくらいわかりやすい反応ありがとう」

 

「そりゃどうも!」

 

膨れる天音がそこにはいた。すると向こうから声が聞こえた

 

「異世界での自分の恋愛事情は楽しんだ。それ以上に気になることがある。お前ら、強いのか?」

 

言うかもしれないとは予感していた言葉だった

 

十「ああ、強いぜ。少なくとも、お前らより経験はしているぜ、ゲームの数ならな」

 

「はっ!おもしれぇ随分素敵なこと言ってくれるな、俺」

 

「全く、面白いこと言うね、そっちの十六夜もこっちの十六夜も」

 

天音も立ち上がる。その声音は心底楽しんでる感じだ。

 

「み、皆さん!落ち着いてください!異世界と言えども、同じ"ノーネーム"の同志じゃないですか!そんなにやる気にならないでください!」

 

兎「YES!こっちの黒ウサギの言う通りでございます!皆さん、仲良くしましょう!」

 

「………わかったよ」

 

「分かっていただけてよか」

 

「だからさ、仲良く喧嘩しようぜ!そっちの俺!」

 

十「その喧嘩乗った!」

 

「「ええ―――――!?」」

 

同時に黒ウサギがハモる。向こうのメンバーはジンと黒ウサギ以外やる気満々だ。

 

「な。何でですか!?」

 

「「仲良くしろと言うから、仲良く喧嘩すればいいという結論に至った!割れながらいい発想だ!」」

 

「「なんでそういうことに行き着くんですか、このお馬鹿様!」」

 

勢いよく黒ウサギ達は十六夜達の頭にハリセンを叩き込む。

 

「そうだな、このままじゃ引くに引けないな、ならここは一つギフトゲームで勝負をつけるなんてどうだ?」

 

「それでいいよ、でもこっちは3人で内顔見知りが二人でしょ?なら各ノーネームが代表を決めて一騎打ちなんてどう?」

 

「ああ、それでいいぜ」

 

今ここに異世界のノーネームの同士とのゲームが始まろうとしていた。

 

 




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コラボ第2弾:3話 修也と天音の一騎討ちだそうですよ?

『ギフトゲーム名:異世界の者との一騎討ち

 

"ノーネーム"側プレイヤー 八神天音

 

"ノーネーム"側プレイヤー

月三波・クルーエ・修也

 

勝利条件:相手を倒すまたは降参させる

敗北条件:審判が試合続行不可能と判定または降参

 

失格条件:相手の殺害

 

宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗の下、両コミュニティはギフトゲームを行います。

 

                               

"ノーネーム"印

                               "ノーネーム"印』

 

"契約書類"を制作する。互いの代表はクジで決め、この二人になった。

 

「天音さん頑張ってきてください!」

 

「折角クジで決まったんだ、負けんなよ?天音」

 

「うん、分かってるよ、行ってくるよ二人とも」

 

黒ウサギとはハイタッチ、十六夜とは拳を合わせて、中央まで行く。そこには向こうノーネーム代表の修也が立っていた。

 

「よお、天音。お前の相手は俺だ」

 

「そうみたいだね、私としても、せっかくだから修也と戦ってみたかったかな」

 

天音と修也は互いに握手を交わす。

その後距離を取る

 

兎「では、月三波・クルーエ・修也VS八神天音スタートです!」

 

合図と共に白い槍と太陽を模した黄金の槍がぶつかり合い、大気が揺れる。ぶつかり合いは天音が少し押してる。

 

「その槍……一級品だね!結構折るつもりでぶつかったんだけど、無傷じゃん」

 

「そっちの槍もな。俺の槍とぶつかってヒビすら入らないとは恐れ入るぜ」

 

再び距離をとる二人、修也は銃のようなものを出し、天音に向け発砲する。天音は槍で弾こうとするが、目を見開き回避に切り替えた。

 

「ただの銃じゃないね……」

 

天音は心地いい冷や汗を浮かべながらその着弾地点を見る。銛が、地面に突き刺さり、紙面を抉る。

 

「よくこいつの威力を見切れたな」

 

修也は銃をしまい、紅い液体の入った瓶を取り出す

 

「それは?」

 

「ああ、これは幻獣の血だ、それに俺は吸血鬼だ」

 

そしてその血を飲み、素早く移動し天音の背後をとり槍を突き出す、天音は瞬時に対応しそれを受け流す

 

「さっきより速くなった……厄介だ!レティシアの羽に似てると思ったらまさか吸血鬼だなんてね!」

 

「へぇーよく見てるな!ついでだからいいもの見せてやるよ!」

 

槍に風が集約されて行く、不規則までの風の動きは槍の矛先に集まり放たれるのを待つ、そして槍に集まりし風は修也の手により放たれる、それは巨大な風の槍となりて天音を襲う

 

「………日輪よ具足となれ(カヴァーチャ・クンダーラ)

 

天音は小さく言葉を紡ぐ。風の槍は天音に命中したように見える。風の槍の影響で砂埃が舞っている。煙が晴れるとそこには黄金の鎧を纏った天音がそこにいた。篭手とレガースには棘があり、マント?のようなものはもふもふしてそうで肩には装飾品がある、黄金の耳飾りと紅い宝石の首飾りをつけていた。

 

「良い一撃だったよ修也。だけどこの鎧を突破する事はそれじゃ不可能だよ!」

 

天音は右手を天に掲げる、手には紅い光を見るその光は電撃で光っていた、修也は異変に気づく頭上を見上げると、天音の手の電撃と同じ色の大きな槍が何本も展開されていた、天音はそれを叩きつけるように手を振り下ろす。槍は地面に着弾し大爆発を起こす、それはドーム型の爆炎となる

 

「天音派手にやるな」

 

「いやいや派手すぎます!」

 

「修也!!!」

 

そっちの耀が修也の名前を叫ぶ、爆炎は風にかき消され服の両裾が破けた状態で修也が勢いよく出てくる、槍は高密度に圧縮された風が纏っておりそれを天音に叩き込む。天音は槍で防ぐ地面はビヒ割れ、沈む

再び距離をとる、修也は血の入った小瓶を再びだし飲む。

 

すると修也の体から雷が迸る

 

「幻獣の血を飲んだら、その特性も得るの!?」

 

天音は驚きながら、鎧を解く、そしてもう一つの武器を出す、かの軍神の武器と言われる。金剛杵だ

 

兎「金剛杵!?しかもオリジナル!?修也さん!気おつけてください!あの人の正体はひょっとすると!」

 

「やはり感づきましたか、そっちの黒ウサギも、ですが近くにいる私は未だにどうなのわからないのですよ」

 

こっちの黒ウサギが言う。天音が放つ神雷や武具とかは黒ウサギを眷属とする者に酷似してるが、異なっても見える。

 

「相手が誰だろうと、今はゲーム中だ!」

 

修也は突っ込む天音も受けて立つように突っ込む、最初は互角に見えたが、徐々に天音が押し始めた

 

「穿て"軍神槍・金剛杵"!」

 

天音は金剛杵の神格を解放する、修也は

 

「我が血よ!我が名のもとに従え!我が命を守りし盾となれ!」

 

血を操り、金剛杵を防ぐ、すべてを防ぎきれたわけじゃなくヒビが全体に入り、盾は砕けた。そのタイミングで修也は再び風の槍を作り出し今度は地面に向かって放つ

面に激突した風の槍は地面を抉り、そして、砂煙を巻き起こす。さっきのよりも威力が強まったそれは砂煙が観客の、十六夜達も襲う。

 

十「修也のヤロウ!やりすぎだぞ!」

 

「ゲホッ!ゲホッ!もう無茶苦茶じゃない!」

 

「……二人が見えない」

 

天音は警戒していた金剛杵を直し、槍を構え警戒していた。

 

「(なにかしてくるはず……警戒しない訳にはいかない)」

 

煙が晴れると、そこには先の傷とかがなくなった修也が立っていた

 

「決着つけようぜ、天音」

 

「なにかしてきたみたいだね……良いよ、これで」

 

天音片目が紅くなり閃光が走る

 

「真の英雄は目で穿つ!梵天よ地を覆え(ブラフマーストラ)!」

 

光景的には目からビームが出てるようだが、修也はその危険性を察知し防御体制をとる

 

「我が血よ!我が名のもとに従え!我が命を守りし盾となれ!」

 

血の障壁を造りだし、天音の攻撃を受け止める、が持ったのは数秒足らず、障壁は溶けるように壊される、だが修也は間一髪躱す。

 

「障壁に当たったから、効力が弱くなった……いやまだ扱い切れてないかな…それでも防ぐなんてね」

 

天音は心底感心した感じでいう。修也は天音と言うまだ見知らぬ強敵に出会い、感極まって

 

「は、はは、ははははははははははは!あはははははははははははは!」

 

高笑いした、天音は疑問に思い

 

「え?どうしたのさ笑いだしたりして?」

 

「いや何、お前みたいに強いのと戦うのは楽しくてな。お前と戦うのは楽しいが、そろそろ終わりにしよう」

 

「さっきので、結構決めるつもりだったけど、あれじゃ決め手にならないなら!」

 

天音は後方に飛び高く飛び上がる、修也は風と雷を槍に集約させ

 

「我が血よ。我が名のもとに従え。その血に流れる力を槍に纏わせよ!」

 

互いの大技の準備が出来る。

 

「くらえ!血の風雷槍(ブラッティ・エアロサンダースピア)

 

梵天よ、我を呪え(ブラフマーストラ・クンダーラ)!」

 

太陽の炎を纏った光槍と風の刃を纏った雷の槍がぶつかり合い。巨大な爆発を引き起こした。

 

 

 

 



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コラボ第二弾 最終話 決着と異世界からの帰還だそうですよ?

遅れてすいません!
ほにゃーさんとのコラボも最終話です
ほにゃーさんこの度はコラボありがとうございます!


ぶつかり合う"梵天よ我を呪え"と"血の風雷槍"。爆炎の中天音は見る、爆炎を"梵天よ我を呪え"を突き破り槍を血で真紅に染めた修也の姿を、天音は正直に言うとあれで倒せると。

 

「天音ッ!!!!」

 

防ぐ手立てはある。鎧だ。大英雄の鎧を出せばダメージは最小限に抑えることが出来る。そのあと返す刀で一撃を叩き込めば決着はつくだろう。だが、それをすれば決定的なものに敗北するよ感があった。何かないかと頭をフル回転させる、そしてその末に……一通りの思考を破棄する。天音は今この瞬間あれこれ考えるのは馬鹿らしい(わたしらしくない)と一蹴する

 

「ハッ!何私らしくないことを………せっかくだし……新技とまだ使ってない武器試す」

 

修也は翼を展開し再び槍に血を纏わせ、天音が居る上空より上に上り詰め槍を放つ。天音の一呼吸起き……夢の感覚を思い出す、自分が光の粒子になるあの感覚を……修也は天音がなにか据える前に仕留めたい。さっきの技…… "梵天よ我を呪え" あの一撃は凄まじいものだったと思う、左腕は大火傷で体中もあちこちが痛い。一方の天音は服は所々ボロが見えるが大したダメージはない。

 

「落ちろ!血走・血濡れの槍(ブラッド・オブ・スピア)!」

 

修也の渾身の真紅の槍の一薙が天音に迫る、天音は目を開く。自身の存在をギフトの主を考え、行けるはずだと。

 

「今!」

 

薙ぎ払いは天音に命中…………はせず天音の体は光の粒子と化す

 

「なっ!?」

 

修也は驚きの声をあげる、確かに攻撃は命中したはずだった、だが天音の体は粒子となりすり抜けた。修也が後ろ見ると、天音の姿そこにはあった。だがその天音は頭から血を流し、肩で息をしていた

 

「(なんて……負担よ……そして完全じゃない、攻撃はまともに入ってるし……だけど)」

 

確信を得た天音、これを使えれば、戦略の幅が広くなると。そして、天音の手には月のような黄金と青の弓が握られていた雷光を迸らせ、目もくらむ極光が支配する。その弓は天音がいや、かの英雄が借り受けた弓のもう一つのものだ、炎神の咆哮とは異なるもう一つの神弓

 

「君が落ちろ!『月天の天穹(チャンドラダヌス)』」

 

火天のもう一つの神弓と言われている。だが諸説によると月天の持物だと言われている。それから放たれる雷光の矢は放たれると着弾と共に爆発する。距離は零距離、天音もその爆発に巻き込まれてしまう。ドサッという音が2回。ボロボロで気絶している修也とボロボロで座り込んでいる天音が居た

 

「修也!!」

 

兎「修也さん!!」

 

向こうの耀と黒ウサギは修也に近づき

 

兎「月三波・クルーエ・修也、戦闘続行不能!八神天音の勝利!」

 

そして異世界での決闘は八神天音の勝利で幕を下ろした。その後本拠に戻り手当を受けた

 

「イテテ、もっと優しくしてよ十六夜」

 

「あ?十分優しいだろ?まぁ面白いくらいボロボロになってな」

 

こっちの十六夜はヤハハと笑いながら天音の手当をする。修也の方は耀と黒ウサギに手当をしてもらっていた

 

「で、強かったのかよ?修也は?」

 

十六夜は天音に戦った感想を尋ねる

天音は修也の方に目にやり

 

「強かったよ……吸血鬼のギフトの応用や槍術も凄かったと思う。流石ノーネームの主要人物だよ」

 

「ヤハハそうみたいだな、お前がここまでボロボロにされるなんてな」

 

「……新技を試した反動みたいなものだよ。次やる時は完璧に仕上げるもん」

 

天音はぷいと十六夜から顔を背ける

 

「皆さん!」

 

その時、ジンが慌てる

 

兎「どうしました、ジン坊ちゃん?」

 

「うん!実は転移用ギフトなんだけと、さっきまた起動したんだ」

 

「ほ、本当でございますか!?」

 

「うん!ちゃんと、元の時間軸に戻れるような設定だから、これで帰れるはずだよ」

 

天音と十六夜は少し残念そうな表情を浮かべる

 

「そろそろお別れ見たいだな」

 

修也達が天音達に歩み寄る。

 

「うん、修也すごく強かったよ」

 

「天音、負けた相手に言われると正直、嫌味でしかないぜ。しかもお前まだまだ底を見せてないだろ?」

 

「アハハ、何のことかな?そっちこそなにか隠していたんじゃないの?」

 

「さぁどうだろうな。でも、楽しかったぞ」

 

「こっちも楽しかったよ、今度戦う時はもっと驚かせてあげる」

 

「ああ、また会おうな」

 

「それでは、黒ウサギ達は帰ります」

 

兎「はい、お互い頑張りましょう」

 

「YES!」

 

「それじゃあ」

 

「「「「「じゃあね (じゃあな)(さようなら)(…さよなら)(さよならです)!」」」」」

 

光があたりを包み込み、天音たちの視界を覆い尽くす

 

 

 

 

 

 

光が終わるとノーネームの倉庫にいた。

 

「天音さん!十六夜君!黒ウサギ!どこいってたのよ!というか天音さんキズだらけじゃないの!?」

 

「何があった?」

 

「ヤハハ異世界の箱庭行ってきたぜ」

 

その言葉を聞いて二人はポカンとしている。

 

「信じられませんでしたが、本当のことなのですよ」

 

黒ウサギは無事帰って来れて一息ついていた。

 

「あっそうそう、向こうの耀いじりがいがあったよ」

 

「それは興味深いわね、ぜひとも聞かせてもら得ないかしら?」

 

飛鳥は興味深々に話を聞こうとする、耀は複雑な表情になり

 

「ちょっと待って……気になるだけど言わないでほしい」

 

異世界の箱庭で何があったかは知らない耀だが天音の発言だけでいじられるようなことがあったのだと悟る耀。それは気にはなるが他には知られて欲しくないという気持ちもあった

 

「そうだね……じゃあ異世界の箱庭の土産話を本拠でしようかな」

 

「それでいいじゃないか」

 

「あら、気がきいた提案ね」

 

「うん気になる」

 

「それでは私はお茶を用意します」

 

こうして4人は本拠に向かう。天音は1度立ち止まり空を見上げ

 

「また会おうね、修也。今度は正真正銘本気で戦おう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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そう……巨龍召喚
南側の招待


原作三巻開幕です


――――― "黒死斑の魔王(ブラック・パーチャ)"との戦いから1ヶ月。天音達は今後の活動方針を話し合うために本拠の大広間に集結していた。大広間の中心に置かれた長机には上座からジン、天音、十六夜、飛鳥、耀、黒ウサギ、メイドのレティシア、年長組のリリの順番で座っている。

"ノーネーム"では会議の際、コミュニティの席次順なのが礼式らしく、天音が次席に座っているのは水神打倒による水源確保 "ペルセウス"戦での活躍、ペスト撃破、その他の活躍などから次席が妥当だろうと満場一致で決まった。だが当の本人は

 

「ねえ、十六夜変わってくれない?なんかここに座るの場違いな気がしてならないんだけど」

 

「何言ってるんだよ。お前が座らなきゃ誰が座るんだよ?」

 

「十六夜だけど」

 

「ヤハハ。寝言は寝てから言え」

 

十六夜は笑いながら天音に指を指し

 

「いいか?ヘビとの戦いで水源を確保した、ペルセウスとのギフトゲームが出来たのは天音が白夜叉から情報を聞いてそれで挑めるようになったしな。結果を見ればレティシア奪還に繋がる。そして魔王のペストの撃破だこれで俺達"ノーネーム"の知名度も上がった。それ以外にもお前がコミュニティにしたことを考慮すれば次席が相応しいという訳だ。俺よりいい席に座ってるんだ。そこはお前の席だぞ」

 

「十六夜君の言う通りよ。天音さんはコミュニティの為によく頑張ってるわ。感謝しきれくらいにね」

 

「うん、だから、天音には次席がふさわしい」

 

「YES!天音さんはもっと堂々と胸を張っていいのですよ!」

 

天音もそこまで言われてクズクズ言う人物では無い。みんながそう言うのならばと言う面持ちで天音は座る事を決める

 

「私も人のこと言えないけどさ、ジン君。少し緊張し過ぎじゃない?」

 

「あ、当たり前ですよ。だってここは旗本の席なんですから」

 

ギュッとローブを掴んでいうジン。コミュニティのリーダーであるジンが旗本の席に座るのは当然の事だ。しかし、また上座にに座る事が出来るのは前提として、"コミュニティの為に試練に参加できるもの"という常識がある。それに加え組織の貢献・献身・影響力などが求められる。それがジン本人は特に戦果を上げてないと言うジンの引け目の原因でもある。

 

「ジン君、私達"ノーネーム"はジン君があってのこその"ノーネーム"だよ。俺達の戦果は全てジンの名前に集約され広まる。これはお前の戦果だ。それに、ペストとの交渉や、ステンドグラス捜索の時には活躍してたしね。ジン君、君が思うより活躍してるし、皆が認めているんだよ。それにそこは君の座るべき場所だよ」

 

「YES!天音さんの言う通りです!事実、この1ヶ月間で届いたギフトゲームの招待状は、すべてジン坊ちゃんの名前でございます!苦節三年……とうとう我々のコミュニティにも、招待状が届くようになりました。それもジン坊ちゃんの名前で!だから堂々と胸を張って上座にお座り下さいな!」

 

「黒ウサギ……天音さん……分かりました! 今日集まってもらった理由は先ほど黒ウサギの紹介がありましたがギフトゲームの招待状の件です。これは皆さんのお陰です。まずはお礼申し上げます」

 

ジンは頭を下げ礼の言葉を述べた

 

「そして、招待状三枚の内一枚は貴賓客としての招待状です。"ノーネーム"としては破格の待遇です」

 

「それで?今日集まった理由はその招待状に付いて話し合うためかしら?」

 

「それもありますが、その前にコミュニティの現状をお伝えしたいと思っています。……黒ウサギ、リリ。報告をお願い」

 

「分かりました」

 

「う、うん。頑張る」

 

そう言ってリリは割烹着の裾を整えて立ち上がる

 

「えっと、備蓄に関しては問題ありません。最低限の生活を営むだけなら二年は持ちます」

 

「へえ?なんで急に?」

 

「1ヶ月前に十六夜様達が戦った"黒死斑の魔王(ブラック・パーチャ)"が推定五桁の魔王に認定されて規定報酬の桁が跳ね上がったからです。白夜叉様からの依頼で戦った事もあり、規定の報酬の桁が跳ね上がったと白夜叉様からご報告がありました。これでしばらくは、みんなお腹一杯食べられます」

 

リリ嬉しそうにパタパタ尻尾を振りながらはにかんで喜ぶリリ。隣に座っていたレティシアは眉をひそめ窘める

 

「こら、リリ。はしたないぞ」

 

「え……あ、す、すみませんっ」

 

リリは自分の発言が露骨だったと気づき、狐耳を真っ赤にして俯いて。自慢の二尾もパタパタと大慌てである。

 

「"推定五桁"ということは、本拠を持たないコミュニティだったんだ?」

 

「は、はい。本来たった三人のコミュニティが五桁認定されることはそう無いみたいですけど、"黒死斑の魔王(ブラック・パーチャ)"が神霊だった事や難度も考慮したことらしいです」

 

「なるほどな、それで報告は以上なのか?」

 

「あ、いえ。五桁の魔王を倒す為に依頼以上の成果を上げた十六夜様達には金銭とは別途にギフトを授かることになりました」

 

「あら、それは本当?」

 

「YES!それについては後から通達があるのでワクワクしながら待ちましょう!」

 

へえ、と十六夜から喜色の籠った声が上がった。他の二人も同様だ、天音だけは予想だけはしていた。いつか話していた魔王の隷属化の話じゃないかと、だが確証を得られていないという事で頭の片隅にとどめといた。

 

「それではリリ。最後に、農園地区の復興状態をお願い」

 

「は、はい!農園の土壌はメルンとディーンの働きのおかげで全体の四分の一はすでに使える状態です。これでコミュニティ内のご飯を確保するのに十二分の土地が用意できました。田園に整備するにはもうちょっとかかりそうですけど、根菜類などを植えれば数か月後には期待が出来ると思います」

 

はしゃぐリリを見て、飛鳥が得意そうに言う

 

「メルンとディーンが休まず頑張ってくれたんだから、復興なんてあっと言う間よ」

 

ふふんと、笑う飛鳥

 

「特にディーンは働き者で飛鳥さんがゲームに出場しているとき以外はずっと土地の整備をしてくれて!メルンが分解した廃材や若木なんかも休まず混ぜてくれて本当に助かりました!」

 

「ふふ。喜んでもらえたようで何よりよ」

 

「人使いが荒いともいうけどな」

 

気分よく微笑む飛鳥の隣で茶化す十六夜。天音は空気が悪くならないうちに

 

「それでどうその農園でなにかするの黒ウサギ?」

 

「そ、そうです!今回の本題なんですが農園区に特殊栽培の特区を設けて、霊樹や霊草を栽培しようと思うんですよ!」

 

「特区?」

 

「マンドラゴラとか?」

 

「マンドレイクとか?」

 

「マンイーターとか?」

 

「ユグドラシルとか?」

 

「YES!って最後の二つおかしいですよね!?マンイーターなんて子供たちには危険ですしユグドラシルなんてそんなもの手に入りませんよ!!それにマンドレイクやマンドラゴラみたいな超危険即死植物も黒ウサギ的にアウトです!」

 

「「「「じゃあ妥協してラビットイーター」」」」

 

「何ですか!その黒ウサギを狙ったダイレクトな嫌がらせは!!」

 

「つまり主達には農園に相応しい牧畜や苗を手に入れてきて欲しいのだ」

 

話が進まないのを見かねて天音達に率直に告げるレティシア

 

「牧畜?ヤギとかヒツジとか牛などの?」

 

「そうだ。都合がいいことに南の"龍角を持つ鷲獅子連盟(ドラコ・グライフ)"から収穫祭の招待状が届いているのだ。連盟主催ということもあり、種牛や珍しい苗を賭けるもの出るはずだ。コミュニティの組織力を高めるには、これ以上無い機会だ」

 

なるほどと頷く問題児四名

 

「今回は前夜祭からの参加を求められたものです。旅費と宿泊費は主催者が全て請け負うという"ノーネーム"の身分では考えられないVIP待遇。場所も南側境界壁にも負けない美しい河川の舞台"アンダーウッドの大瀑布"。皆さんが喜ぶこと間違いございません!」」

 

黒ウサギが自信満々で答えるそこでジンがわざとらしく咳をする。

 

「方針については一通り終わりました。……しかしこの収穫祭は前夜祭を入れると二十五日間にもなります。そこで問題がひとつあります」

 

「問題?」

 

「先程言った通り前夜祭合わせて25日間。約1ヶ月もかかります。この規模のゲームはそう無いので最後まで参加したいのですが。長期間主力が居なくなるのはよくありません。なのでレティシアさんと共に一人は残って……」

 

「「「嫌だ」」」

 

十六夜、飛鳥、耀の三人は即答だった。思わず息を呑むジン、問題児四人は当たり前のようなことを言ったかのように平然としている。

 

「ジン君、私は残ってもいいけd」

 

「天音さんには前夜祭を含めて最後まで参加してもらいます」

 

「ゑ?」

 

天音は頭に?を浮かべてる、問題児三人も同様の反応だ

 

「実は"主催者"側からの要望で八神天音さんには参加してほしいとのことです。何でも"主催者"はかつて天音さんのお父様に命を救われたとのことで、そのお礼を申し上げたいとか。それと、ゲストとして参加もして欲しいとか」

 

「父さんに?」

 

天音は不機嫌な表情になる。目に見えて不機嫌分かる。

 

「(あの人一体箱庭で何してたのよ……そして今は……)」

 

天音気づくと拳を強く握っていた

 

「じゃあ、天音は最後まで参加するんだな」

 

「はい、で、残りの皆さん何ですが、日数を絞るというのはどうでしょう?」

 

「というと?」

 

「はい、前夜祭を二人、オープニングセレモニーからの一週間を全員で、残りの日数を二人。このプランでどうでしょうか?」

 

 

「それだと一人最後まで参加できることになるよね?それはどうするの?」

 

「それは――――」

 

席次順と言うおうとするジンだが思いとどまる。箱庭のコミュニティとしては常識かもしれないが外界から来た三人の常識とは限らない

 

「じゃあさ、ゲームで決めたらいいじゃないかな?誰が何日行くかを」

 

「「「「ゲーム?」」」」

 

十六夜、飛鳥、耀、ジンの四人が天音の意見に耳を傾ける

 

「今日から前夜祭までの期間で一番多くコミュニティに貢献できた人が最後まで参加。後の二人も実績順みたいな感じで前夜祭から参加かオープニングセレモニーからの参加かを決めるなんてどうかな?」

 

「お、いいじぇねえか!面白そうだぜ!」

 

「いいわ。それで行きましょう!」

 

「うん。………絶対に負けない」

 

三人は承諾する。全員の条件は同じ、五分と五分である。こうして問題児は収穫祭に参加すべくゲームを開始するのであった




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天音の試練と新技の可能性

皆さんおまたせして申し訳ございません


―――そして現在の戦果成績は、意外なことに十六夜の成績は低迷しているのだ。それもそのはず、 "ノーネーム"の評判が広がるということは同時に、十六夜の戦歴が広がってることも意味していた。彼が戦ってきた敵を考えれば参加を断られるのも仕方ない事だ。元魔王にして最強種の星霊・アルゴール。"黒死斑の魔王"の側近にして神格保持者であった悪魔・ヴェーザーと人智を超えた敵を打ち負かしてきた十六夜の自力は最下層に存在していいものではない。 "主催者"も大敗すると知って参加させるわけにも行かないのだ。十六夜自身もそんな弱腰な "主催者"のゲームには興味も無かった。そんな中、十六夜は、白夜叉が用意してくれたギフトゲームを受けるべく世界の果ての滝に足を運んでるとのことだ。

 

一方何もすることもない天音は白夜叉に呼び出しをくらっていた。どうせ暇なので良いかと思い天音は足を運んでいた

 

「(それにしても珍しい、白夜叉が私を呼びつけるなんて……いや珍しいというか、私はまだそこまで白夜叉を知らないし、珍しいなんて言えたものじゃないか)」

 

はぁ、とため息をつき、歩いて行く。しばらく歩くと、白夜叉が居る"サウザンドアイズ"の支店に入る

女性店員は天音が姿を現すと

 

「お待ちしておりました、オーナーが奥で待っております」

 

と言った。天音はその言葉を聞き、一礼して白夜叉が待つ部屋に入る。

 

「来たか、天音、今日はおんしにある事をしてもらうつもりで呼ばせてもらった」

 

白夜叉が言う机の対岸に座り話を聞く

 

「それで、私がやる事って?」

 

「そうじゃな、試練じゃ、おんしだけするのを忘れとったから今から執り行うのだ。覚悟しておけよ……

とまでは言わん。推定五桁の魔王を倒したおんしの実力は知っておる。それにおんしは暇じゃろ?」

 

暇……と言われた天音は苦笑いする。確かに今の自分は特にすることは無い。するとしても読書位だろう

 

「わかった、その試練受けるよ、それで、その試練は何なの?」

 

天音は試練の内容を問う。白夜叉はギフトカードを取り出し、あの日のゲーム盤に天音を招待する。

 

「そうじゃな、私と手合わせせぬか?全力で来ても構わんぞ?」

 

余裕そうな笑みで白夜叉は天音を挑発する。手合わせと言っときながら全力で来ても構わないというのだ。

 

『ギフトゲーム名:"白夜の試練"

 プレイヤー一覧 八神 天音

         

・クリア条件 プレイヤーが白夜叉を認めさせる

・クリア方法 ギフトを使いホストマスターを認めさせる

・敗北条件 プレイヤーの降参か、プレイヤーが上記の勝利条件を満たせなくなった場合。

 

 宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、

ギフトゲームを開催します。

                            "サウザンドアイズ"印』

 

「ほれほれ、どうした?来ないのか?それじゃあゲームが面白くならないぞ?」

 

「にゃろう……上等!」

 

天音は姿勢を低くし、地面を砕く程の勢いで地面を蹴り白夜叉に突貫する。白夜叉は扇子をピシャリと閉じその突貫をわざと紙一重で躱す、天音は読んでいたのかすぐ様蹴りを入れようとするが、白夜叉は片手で止め、思いっきり叩きつける

 

「っ……ハッ!!」

 

息が詰まる、背中を思いっきり打ったことで体が酸素を求める。だが白夜叉はそんなことをさせない。すぐ様天音を投げ飛ばす。

 

天音は凄まじい速度で地面を転がり、バウンドした所で体制を立て直ししゃがみながら踏みとどまる

 

「……流石、東側最強のフロアマスター、認めさせるがクリア条件……あーどうすれば!生半可な事じゃ『まぁ、おんしなら出来るわな』とか言い出しそう!」

 

深呼吸して言う。格上の白夜叉、恩恵も実力も未知数、いや未知数なのはこれからゲームでまだ出会うかもしれなプレイヤーだってそうだ。だが目の前の元魔王は違う。白夜叉は仏門に下る際に神格を得て自身の力を抑えている。天音はそれを聞いてる……だからこそその力を抑えた状態でも勝てないと思う天音だ

 

「(らしくない……と……でもこのままじゃ条件満たせないな……よし……たしてみるかな……私の限界……行ってみるかな!)」

 

天音は再度、姿勢を低くする、先ほどと違うのは "光"と"雷"を体に纏わせているのだ、白夜叉はそれを見て、愉快そうに

 

「ほう。面白そうじゃな、来るがいい!天音おんしの力この白夜叉に見せてみろ!」

 

「(もっと深く……もっと近づく…引き出せ……更に奥のものを……!)」

 

 

直後だった、それは雷の如く、一瞬で白夜叉の背後をとる

 

「!?私の背後をとるじゃと?じゃが甘い!」

 

白夜叉は攻撃する、だが天音の体は粒子の如く消え去る、ありえないものを白夜叉は見たように驚く

 

「なんじゃと!?空間跳躍か!?」

 

「(まだ……体……持って!まだねをあげないで……!)」

 

これをしている天音は体中が痛むのを歯を食いしばり、移動し白夜叉の再び背後に現れ

 

「受け取れ、白夜叉ぁあああああああ!!!」

 

凄まじい速度と光と雷が集約された一撃が白夜叉の眼前にせまるが

 

パァン!!!

 

何かが弾ける音が響き渡る。その音の正体は天音だ、天音の纏っていた物は炸裂音と共に消え去る、天音は気にすることなく白夜叉に振り下ろされる。白夜叉は炸裂音に気を取られたのと、不意打ちに近い一打故にガードをした、光と雷は消え去っても速度まではまだ死んでいなかった、加速していた拳は白夜叉をガードの上から叩きつけ、地面に叩きつける。

 

地面に叩きつけられた白夜叉は

 

「なかなかに効いたぞ、天音!やるじゃないか……流石じゃ……どうしたおんしその血は!」

 

空中では血塗れの天音が浮いていた、天音は肩で息をしている。だが表情は崩れていない。

 

「やっぱり…まだこれは実用段階には早いか……加減を間違えてしまう」

 

「全く無茶をする奴だな、ゲームは天音……おんしの勝ちだ。私の部屋に行こう怪我の治療をする」

 

「りょ…了解です」

 

天音はよろよろとしながら、地面に着地し、白夜叉は自分の部屋に戻し、女性店員を呼び手当て。そして白夜叉は

 

「私の試練を乗り越えたのだ、星霊として主催者として恩恵を授けないとな」

 

そう言い白夜叉は翠と蒼のブレスレット

 

「ブレスレット?白夜叉一体何?」

 

「 それは、天馬のブレスレットじゃあ。周りの状況を把握しやすくなるものじゃな。聴力補助と感覚の強化を施してくれる。おんしにはぴったりじゃろ」

 

白夜叉は胸を張って言う。天音はふむと頷き、ブレスレットを付ける

 

「うん……うわ…声が凄い聞こえる、人の気配も凄い気持ち悪い……慣れるまでが大変そう……」

 

「ハハハハ、そうじゃろうな。今日の用事はこれで終わりじゃ。傷の手当ても終わっとるな。」

 

「そうだね、店員さん、手当てありがと」

 

「いえ、オーナーの支持ですから」

 

天音は女性店員にお礼をいうが素っ気なく返された天音はハハと笑いノーネームの本拠に帰る。

 

十六夜達は既に本拠の大広間に集まっていた。そう三人の戦果を審査するためだ。

 

「よう、天音どこに行っていたんだ?そんな包帯そんなに包帯をつけて、服装も変わっているし」

 

「ああ、白夜叉と少しゲームをまぁ試練を受けて新技の反動で……」

 

「また無茶したと?」

 

「ええ……うんまぁ大丈夫!」

 

何が大丈夫か分からない雰囲気になったが、ジンが咳払いして話を始める

 

「細かい戦果は後に置いておくとして。まずは、飛鳥さんの戦果は牧畜を飼育するための土地の整備と山羊十頭を手に入れたそうです。飼育小屋と土地と準備が調いだ次第ノーネームに連れてくるいていです」

 

「ふふ。子供たちも『山羊が来る』『乳がいっぱい来た』『チーズが造れる』と大はしゃぎだ。派手な戦果では無いがコミュニティとしては大きな進展だ」

 

飛鳥は後ろ髪を掻き上げてどんな物よ!っと言いたげな顔をしてる。レティシアは耀の報告書をめくり続ける

 

「次は耀の戦果だが……ふふ、これはすごいな。"ウィル・オ・ウィスプ"からわざわざ耀に再戦の為に招待状を送ったそうだ」

 

「"ウィル・オ・ウィスプ"主催のゲームに勝った耀さんは、ジャック・オー・ランタンが制作する"炎を蓄積"出来る巨大キャンドルホルダーを無償発注したそうです」

 

「これを地下工房の儀式場に設置すれば、本拠とは別の別館にある"ウィル・オ・ウィスプ"製の備品に炎を同調させることが出来きる」

 

「なのでこれを機に、竈・燭台・ランプといった生活必需品を"ウィル・オ・ウィスプ"に発注することになりました。少し値が張りますが本拠内は恒久的に炎と熱が使えること考えると、大きな戦果と言えます」

 

「いや意外だったぜ。中々大きい戦果を挙げたみたいじゃねえか」

 

「上から目線ね…………それで、十六夜君はどんな戦果を挙げたのかしら?」

 

飛鳥の言葉に十六夜はにやりと笑う。

 

「なら、今から受け取りに行くか」

 

「何処に?」

 

「“サウザンドアイズ”にだ。黒ウサギも向かってるらしいし、ちょうどいい。主要メンバーには聞いておいて欲しい話だからな」

 

「まさか一日に二度も行くなんて」

 

白夜叉の所に居れば良かったと小さく呟き大広間を出て、全員で"サウザンドアイズ"に向かった。

 

「「黙れこの駄神ッ!」」

 

白夜叉に案内されて店に入り白夜叉の私室に向かう時、黒ウサギの声と聞き覚えのない声が聞こえた、そして水流と轟雷で吹っ飛ぶ白夜叉を見て天音達ご一行は何事かと思い全員で覗くとそこには着物とは言えない着物を着た黒ウサギと女性がいた。因みに白夜叉は天音にキャッチされた。

 

「………二人とも取り敢えず着替えたらいいよ。黒ウサギもびしょ濡れなんだし」

 

「何ッ!!?黒ウサギが濡れ濡れだと!!?」

 

―――――ズドオォォォン!!!と追撃の轟雷が白夜叉とそれをキャッチしていた天音を貫いた

 

そしていつもの衣装に戻った黒ウサギとまともな着物に着替えたが座った。黒ウサギは反射的とは言え白夜叉の追撃に天音を巻き込んだことを天音に怒られていた。天音に轟雷はダメージはなかった。そして話を聞くと女性は天音が随分前に倒した蛇神が人間に変幻した姿らしい。天音はそれを聞いて目をそらす、白雪姫は詰め寄り「この間はよくもやってくれたな小娘」と言い大きな胸部を押し付ける。天音は精神的にダメージを負っていく。黒ウサギが間に入り白雪姫と天音を引きはがす。白雪姫はゲームに敗れた為ノーネームに隷属することになったらしいし。神格もちを隷属化出来たのは大きな戦力増強と言える。そして本題の十六夜が受け取りに行くと言ったものはゲームでの報酬でその

報酬は

『―― 二一〇五三八〇外門の利権証

――

※階層支配者は本書類が外門利権証である事を保証します。

※外門利権証の発行に伴い、外門の外装をコミュニティの広報に使用する事を許可します。

※外門利権証の所有コミュニティ右記の"境界門"使用料の八〇%を納めます。

※外門利権証の所有コミュニティに右記の"境界門"を無償で使用を許可します。

※外門利権証は以後" "のコミュニティが地域支配者である事を認めます。

"サウザンドアイズ"印』

 

十六夜と白雪姫と白夜叉は平然としてるそれ以外は固まって言葉が出ない。自体を認識できたジンは驚きで未だ固まっている。黒ウサギは大喜びしている。飛鳥と耀は十六夜と喜ぶ黒ウサギを見ている。何処か遠い場所の事のように見つめ続けていた。

 

 

 



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少女の異変

遅れて本当に申し訳ございません!


ーーーーーーその日の夜。"ノーネーム"では小さな宴の席が設けられていた。普段振る舞われない様な料理を数々並べ、年長組と共に乾杯をした。

黒ウサギが腕を振るった川魚は、表面を軽く焼いてから油で上げたものに、とろみのある餡をかけた料理とテーブルに並んだ。黒ウサギ自身のかなりの力作だった物らしい。主力陣は勿論、子供たちにも好評な料理だったが、十六夜がなにか言いそうになったが、天音が咄嗟に別に食べ物を入れ黙らせていた。そんなおもしろおかしい宴は終わり、その後、天音と十六夜はテラスへ出て夜風に当たっていた。天音は背をテラスの手すりに預け空を見上げて、十六夜は手すり方を向き手すりに腕を乗せている。心地良い風が吹いている、静かで穏やかな夜の世界。そんな中、十六夜は疑問を天音にぶつける。

 

「なあ、天音聞きたいことがあるんだ。答えたくなければ、答えなくていい……お前は何故無茶ばかりするんだ?」

 

十六夜は気にかかるのかそんな事を尋ねた。その表情は表向きは茶化しているように見えるが、そうじゃないというのが目に見える。

 

「ええと……それは……」

 

天音自身がどう答えたらいいのか分からない。なぜ自分はそういう事をするのか……ただ体が動いたから。新しいことが出来るから試したから。そんな領域なのかも知れないが、ふと考えると自分でも分からない。元からそんな人物だったのだろうか?それとも、ギフトの影響を受けているのだろうか?それは天音自身も分からないが、言われて違和感を覚える。

 

「(あれ?私はあんな感じだっけ?無茶ばかりするような……)私にもよく分からない……かな?」

 

違和感は違和感で考えるしかないと、諦めた。十六夜は少しため息をつき

 

「そうか、まぁ分からないなら仕方ないな。だけどな。あんまり無理するなよ?春日部やお嬢さま、黒ウサギだって心配するぜ?」

 

ヤハハと十六夜は笑う。天音もクスクスと笑い

 

「十六夜は心配してくれないの?」

 

少し悪戯ぽく言う天音。しかし十六夜の反応は

 

「心配するに決まってるだろ」

 

当然のように、真面目な表情と声音で天音の方に顔を向け言う。天音はそれを聞き、その表情を見て驚いた。少しの空白の間で顔を赤くして俯きながら

 

「あ…ありがと」

 

十六夜はその様子を見ながら、少し恥ずかしかったのか頬をポリポリとかき、天音の頭をポンポンと叩き

 

「まあそういう事だ。あんまり無茶ばかりするなよ天音」

 

十六夜は笑いながら、テラスから室内に戻る。 天音はその背中を見送る。声をかけそうになるが、その声を奥に押しとどめ。静かに見送り、再び星空を見て呟く

 

「……どうなったんだろ?私」

 

少し考えて、気にするのはまぁいいかと感じではぁと溜息をつき、自室に戻る。確かな違和感を感じながら……

 

ーーーーーーーーーーーー

 

翌日。

 

「十六夜ーヘッドホン見つかった?」

 

「いや、見つかんねーよ」

 

昨晩の入浴のあとからヘッドホンの行方が分からない。

 

「十六夜……こんなに探しても出ない何て」

 

「ああ、出てこねぇ。これだけ捜しても出てこないということは、隠した本人にしか分からない場所にあるんだろう。状況証拠として一番怪しいのは春日部だが……」

 

「耀ちゃんはそんな事は……」

 

「まぁ落ち着けよ。アイツはそういう事が出来るやつじゃない」

 

仕方ないなと十六夜は溜息をつき。順番を譲るしかないと言う。

 

「仕方ないな、春日部に順番譲るか」

 

「いいの?」

 

「そう判断したし、先に行かせる。それともなんだ?一緒に行きたかったのか?」

 

ヤハハと笑う十六夜。天音は少し顔を赤くしてうんと言う。そして十六夜が来た時に見物に行くことになった。

 

「どうしたんですか、それ」

 

黒ウサギは目を丸くし、それを指差す。

 

「頭の上に何かないと髪が落ち着かなくてな。そりより話がある」

 

十六夜は本拠に残りヘッドホンを探す旨を春日部達に伝える

 

「………本当にいいの?」

 

「仕方ねえさ。アレがないとどうにも髪の収まりが悪くていけないんだ。アレがないと困るんだ」

 

春日部は目をパチパチと瞬きをしてしばらくして、ふと小さな華が咲いたように微笑みで十六夜に礼を述べた

 

「ありがとう。十六夜の代わりに頑張ってくるよ」

 

「ああ、別にいいって。俺が挙げれたはずの戦果代わりに挙げてこい。ついでに、友達一〇〇匹作ってこいよ。南側は幻獣が多くいるみたいだしな。俺としたらそっちの期待が大きいぜ」

 

そして、天音達五人と一匹は"境界門"の前に着いた。飛鳥達は門柱に刻まれた虎の彫像を凝視し、溜息をつきた。

 

「この収穫祭から帰ってきたら、いの一番にこの彫像を取り除かないと」

 

「ま、まあまあ。それはコミュニティの備蓄が十分になってからでも、」

 

「何言ってるのさ黒ウサギ。この門はリーダーのジン君を売り出すために重要な拠点になるから。まずはジン君の全身の彫像と肖像画を用意……」

 

「お願いですからやめてください!」

 

ジンが青くなって叫ぶ。幾ら何でも恥ずかしすぎるのだろう。天音は残念そうにため息をつく。

 

「じゃあ………黒ウサギを売り出しましょう」

 

「それだ!」

 

「それだじゃありません!!!黒ウサギを売りに出さないでください!!!」

 

スパン、と軽めに黒ウサギは天音と飛鳥にツッコミを入れる。飛鳥はむぅっと口を尖らせた。耀は小首を傾げ

 

「じゃあ……黒ウサギを売りに出そう」

 

「何で黒ウサギを売るんですかああああああああ!!!」

 

スパァーンっと会心のツッコミが耀に炸裂する。心の叫びとともに。十六夜が欠けても三人が問題児である事は変わらない。溜息をつきつつ、三枚の招待状を取り出す

 

「我々がこれから向かう場所は南側の七七五九一七五外門。"龍角を持つ鷲獅子"が主催する収穫祭でございます。しかしそれとは別に、舞台主である巨軀の御神木"アンダーウッド"の精霊達からも招待状が来ております。両コミュニティには前夜祭のうちに挨拶へ向かいます。それだけ気に留めといてください」

 

「了解」

 

「うん」

 

「分かったわ」

 

「皆さん、外門のナンバープレートはちゃんと持ってますか?」

 

天音達は手に持ってる鈍色のナンバープレートを見る。ここに書かれた数字が"境界門"の出口となる外門に繋がっているのだ。

 

耀はナンバープレートを見つめた後、本拠の方を見た。

 

「どうしたの?」

 

「うん、ちょっと………十六夜の事が気になって」

 

「そうね…まさか、十六夜君がヘッドホン一つで辞退するなんてね」

 

「YES。あれほど楽しみにしていましたのに」

 

「あの十六夜が目の前の楽しみを投げ出してまで探すんだから……きっと大事なもののはずだよ」

 

「………見つかるといいね」

 

耀のその言葉に同意して三人は頷く

"境界門"の準備が整ったのは直後だ。

 

 




恋愛描写?アレが思うように書けないです……


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アンダーウッド

遅れて誠に申し訳ございません

後書きに質問があるので出来ればコメント下さい!


「わ、…………!」

 

「きゃ……!」

 

丘陵に吹き込む風に悲鳴をあげる飛鳥と耀。多分に水分を含んだ風に驚きながらも、吹き抜けた先の光景に息を呑む

 

「…………す、凄い!なんて巨大な水樹…………!?」

 

丘陵に立つ外門を出た天音達は、すぐに眼下を覗き込む。彼女達の瞳に飛び込んだのは、樹の根が網目模様に張り巡らせた地下都市と、清涼とした飛沫の舞う水舞台だった。

 

「飛鳥、天音、下!水樹から流れた滝の先に、水晶の水路がある!」

 

耀が今までにないぐらいの歓声を上げ飛鳥と天音の袖を引く。巨軀の水樹から溢れた水は幹を通して都市へ落下し、水晶で彩られた水路を通過して街中を駆け巡っている。水路は加工された翠色の水晶で出来ていた。飛鳥と天音は何処かで見た記憶がある

 

「(………あら、あの水路の水晶……翠のガラス?確か北側でも)」

 

「(テクタイト結晶?北側でも見かけたよね……確かサラマンドラの……)」

 

「飛鳥、天音、上!」

 

えっ?と二人は上を見上げる。飛鳥は上下に忙しないと思ったが、すぐに考えが変わった。

遥か空の上に、何十羽という数の角の生えた鳥が飛んでいた。唖然と見上げる飛鳥、苦笑いをしている天音、耀は熱っぽい声を上げながら鳥の群れを見つめている。

 

「角が生えた鳥………しかもあれ、鹿の角だ。聞いたことも見たこともない鳥だよ。やっぱり幻獣なのかな?黒ウサギは知ってる?」

 

「え? え、ええまあ……」

 

「ちょっと、見てきていい?」

 

珍しく熱い視線を向ける耀。

 

「待って耀あれはペリュトンだよ」

 

「ペリュトン?」

 

天音の言葉にハテナを浮かべる。天音はペリュドンの説明をする。

 

「そうペリュトン、アトランティス大陸に棲んでいたとされる怪鳥の一種だよ。地中海でも目撃例があるみたいで。鳥の胴体と翼、雄鹿の頭と脚を持った姿をしていて、自身の影を持っていないんだけど、光を浴びると人間の形の影ができるらしいんだ。一説では故郷から離れた場所で息絶えた旅人の霊だと言われてるんだよ」

 

「そうなんだ」

 

「でも問題はここからなんだ。ペリュトンは、先天的に影に呪いを持っているんだよ。自身の本来の影を取り戻すことができるために人間を狙っている。影を得れば、また影が無くなるまで人は襲わない。また群れで人間に襲い掛かるとされている」

 

天音の説明に耀は少し震える。第一幻獣の秘密が殺人種で呪いを持っているのだから震えるのも致し方ない

 

「もし、私がその幻獣からギフトを貰ったらどうなってた?」

 

「考えない方がいいよ、仮に私が知らなくても、黒ウサギが全力で止めていただろうしね。だからペリュトンと関わらない方が一番なんだよ。気おつけてね」

 

「うん、気を付ける」

 

『友よ、待っていたぞ。ようこそ我が故郷へ』

 

巨大な翼で激しく旋風を巻き上げて現れたのは、サウザンドアイズのグリフォンだった。巨大な頭を寄せると、耀も応えるようにグリフォンの喉仏を優しく撫であげた

 

「久しぶり。此処が故郷だったんだ」

 

『ああ。収穫祭で行われるバザーには "サウザンドアイズ"も参加するらしい。私も護衛で戦車を引いてやって来たのだ』

 

見るとグリフォンの背には試練の時よりも立派な鋼の鞍がと手綱が装備されていた。グリフォンは黒ウサギ達にも視線を向け、翼を畳み前足を折る

 

『"箱庭の貴族"と友の友よ。お前達も久しいな』

 

「YES!お久しぶりなのです!」

 

「お、お久しぶり……でいいのかしら、天音さん、ジン君?」

 

「多分あってると思うよ」

 

「き、きっと合ってますよ」

 

言葉の分からない三人はその場の雰囲気でとりあえずお辞儀をする。グリフォンは嘴を自分の背に向け一同に乗るように促す。

 

『此処から街までは距離がある。南側は野生区画というものが設けられているからな。もし良ければ私が背で送っていこう』

 

「本当でございますか!?」

 

喜びの声をあげる黒ウサギと、言葉は分からず首を傾げる飛鳥とジン。天音はグリフォンの仕草から

 

「飛鳥。グリフォンは多分背中に乗れって言ってるのかも」

 

「天音さん分かるの!?」

 

「いや、何となくニュアンスで」

 

「ありがとう。よかったら名前を聞いてもいいかな?」

 

耀はグリフォンから一歩距離を置き深々と頭を下げたあと名前を聞く

 

『無論だ。私は騎手より"グリー"と呼ばれている。友もそう呼んでくれ』

 

「うん。私は耀でいいよ。それでコッチが飛鳥と天音とジン』

 

『分かった。友は耀で、友の友は飛鳥、天音、ジンだな』

 

バサバサと翼を羽ばたかせて承諾する。その間に事情を説明された飛鳥とジンは頭を下げてグリフォンの背に跨る。天音は自力で飛べるので、背には乗らなかった。

 

『それにしても彼奴らめ、収穫祭中は外門に近づくなと警告をしたというのに。よほど、人間を殺したいと見える。普段なら哀れな種と思い見逃すが、今は収穫祭がある。再三の警告に従わないなら…………耀達には今晩、ペリュドンの串焼きを馳走することになるな』

 

ニヤリ、と大きな嘴で笑うグリー。翼を羽ばたかせて旋風を巻き起こすと、巨大な鍵爪を振り上げて獅子の足で地面を蹴った。"空を踏みしめて走る"と称されたグリフォンの四肢は、瞬く間に外門から遠のいていく。

 

 

 





PS:アナザーコスモロジー使いたいが難しすぎ


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空中散歩と深まる違和感

二年近くお待たせしました!
不定期更新ですが頑張っていきます!


「おっと」

 

「わ、わわ」

 

空を踏みしめて走ると言われたグリフォンの足は、瞬く間に外門から遠退く。耀と天音は慌てて毛皮を掴み並列飛行をする。グリフォンのグリーの速度は並大抵ではなく、付いて行くのは生半可な苦労ではない。それでも耀は何とかついてきている。天音はグリーの速度にぴったり合わせ飛んでいる。

 

『やるな。全力の半分ほどしか速度を出してはいないが、二ヶ月足らずで私についてくるとは』

 

「う、うん。黒ウサギが飛行を手助けするギフトをくれたし、天音が練習に付き合ってくれたからね」

 

「YES!耀さんのブーツには補助のため、風天のサンスクリットが刻まれております!」

 

「練習も頑張ったもんね」

 

背後で声を上げる黒ウサギと隣で言う天音。そんな余裕があるのは二人だけ。激しい風圧を全身に受けたジンは、飛び立ってすぐに飛ばされ危うく落下しそうになっている。命綱が伸びて宙吊り状態になっている。飛鳥はジンのようにならない様に歯を食いしばって手綱を握りしめている。ジンのようになるのはプライドが許さないのか必死だ。振り返りその様子を見た天音は慌てて耀に伝える。

 

「よ、耀!後ろ後ろが!」

 

「グ、グリー。後ろが大変なことになってる。速度を落として」

 

『む?おお、すまなかった』

 

「もうちょい続いてたら……猫の命も危なかったかも……」

 

人であそこまでなっているのだから、耀の三毛猫は本気で命の危機だっただろう。

 

グリーは一気に速度を緩め、街の上空を優雅に旋回する。肩で息をしていた飛鳥は少し余裕が出来たのだろう。そっと背中から顔を出し眼下の街を見た。天音と耀も上空から街を見下ろす。

 

「わあ……掘られた崖を、樹の根が包み込むように伸びているのね」

 

「すごい……こんな地下都市始めてみた……」

 

半球体状に広く掘り進まれた地下都市は、樹の根の広がりに合わせて開拓している。所々人為的な柱も存在しているが、多くは樹の根と煉瓦のようなもので整備されている。天音それを見てただただ圧倒されていた。

 

「"アンダーウッド"の大樹は樹齢八千年とお聞きします。樹霊の棲み木としても有名で、今は二千体の精霊が棲むとか」

 

『ああ。しかし十年前に一度、魔王との戦争に巻き込まれて大半の根がやられてしまった。今は多くのコミュニティの協力があって、ようやく景観を取り戻したのだ』

 

魔王との戦い。それを聞いた天音の表情は少し変わる。一ヶ月前の戦いを思い出したのだ。死人が出た戦い、黒死病で苦しみ、コミュニティの為に散っていった話も聞いた。魔王の襲来と戦いは無傷で終わるものではないと、天音の中に刻まれていた。

 

ほかの面々も顔を見合わせる。グリーはそれに気づくことなく、旋回を続け、ゆっくりと街を下っていく。

 

『今回の収穫祭は、復興記念を兼ねたものである。故に如何なる失敗も許されない。"アンダーウッド"が復活したことを、東や北にも広く伝えたいのだ』

 

強い意志がグリーから伝わって来る。グリーは網目模様の根っこをすり抜け、地下の宿舎に着いて耀達を背から下ろす。天音も着地する。すると彼は大きく翼を広げて遠い空を仰いだ。

 

『私はこれから、騎手と戦車を引いてペリュドン共を追い払ってくる。このままでは参加者が襲われるかもしれんからな。耀達は"アンダーウッド"を楽しんで行ってくれ』

 

「うん、分かった。気をつけてね」

 

言うや否や、グリーは翼を広げて旋風を巻き上げながらさっていく。

 

「じゃあ、私達も見てまわろうか」

 

「そうだね」

 

天音たちが移動しようとした時、宿舎から知った声が掛かった。

 

「あー!誰かと思ったらお前、耀じゃん!何?お前らも収穫祭に、」

 

「アーシャ。そんな言葉遣いは教えていませんよ」

 

賑やかな声のする方に目を向けると、そこには"ウィル・オ・ウィスプ"の少女アーシャと、カボチャ頭のジャックが窓から身を乗り出し手を振っていた。

 

「ジャックさんお久しぶりです」

 

「アーシャ……君も来てたんだ」

 

「ヨホホ、お久しぶりですね天音さん。お身体は大丈夫そうですね」

 

「まあねー。コッチにも色々と事情があって、さっと!」

 

窓から飛び降りてくるアーシャ。後ろで手を組みながらニヤリと笑う。

 

「ところで耀はもう出場するギフトゲームは決まってるの?」

 

「ううん、今着いたところ」

 

「なら、"ヒッポカンプの騎手"には必ず出場しろよ。私も出るしな」

 

「……ひっぽ……何?」

 

「アレのことだね。そうでしょ?黒ウサギ、ジン君」

 

「YES!ヒッポカンプとは別名"海馬(シーホース)"と呼ばれている幻獣で、タテガミの代わりに背ビレを持ち、蹄に水掻きを持つ馬です!」

 

「半馬半魚と言っても間違いではありません。水上や水中を駆ける彼らの背に乗って行われるレースが"ヒッポカンプの騎手"というゲームかと思います」

 

天音の確認に、黒ウサギとジンが丁寧に答え、教えてくれる。耀は何度か頷き、両手を胸の前で組み、強く噛みしめる。半刻もたたないうちに幻獣の情報が聞けたのだ。その反応を見て天音も微笑む。来てよかったと

 

「……そう。水を駆ける馬までいるんだ」

 

「前夜祭で開かられるギフトゲームじゃ一番大きいものだし、絶対に出ろよ。私が作った新兵器で、今度こそ勝ってやるからな!」

 

「分かった。検討しとく」

 

そんな会話を他所に、天音は空を見上げる。地下から見上げる遠い空を……前日言われたことがまた頭に浮かび気を取られる。

 

(何が、そうさせるのだろう……私には……"わからない")

 

そんなことを思いながら皆についていく少女がそこにはいた。



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収穫祭の主催者に

その後"ノーネーム"一同は、"ウィル・オ・ウィスプ"と共に貴賓客が泊まるための宿舎に入った。土壁と木造宿舎なのだが、思いの外しっかりと建て付けにしてあった。

 

土造りなのに空気が乾燥がしないのは、水樹の根が水気を常に放出しているからだろう。所々に浮き出た水樹の根は談話室で椅子のように扱われており、それに座った耀が大きく息を吐き、アンダーウッドの感想を言う。

 

「……凄いところだね」

 

「ええ。大自然的というのかしら。北側は建造物が多いのに対して」

 

「ここは環境に合わせて過ごしている感じだよね!」

 

「YES!南側は箱庭の都市が建設された時、多くの豊穣神や地母神が訪れたと伝わっています。自然神の力が強い地域は、生態系が大きく変化しますから」

 

「そうなのね。でも、水路の水晶は北側の技術でしょう?似たような物を誕生祭で見たわ。ねぇ?天音さん」

 

「うん、テクタイト結晶の彫像だよね。あれはすごかったね」

 

へ?と耳を傾ける黒ウサギ。その隣に座るジャックが答える。

 

「よく分かりましたねぇ。飛鳥嬢と天音嬢の言う通りです。十年前の魔王襲撃から此処まで復興できたのも、その技術を持ち込んだ御方の功績だとか」

 

「そ、それは初耳でございます。一体何処の御方が?」

 

黒ウサギを含め、一同は顔を見合わせる。ジャックはカボチャ頭の顎っぽいところに手を当てて説明する。

 

「実はアンダーウッドに宿る大精霊ですが……十年前に現れた魔王の傷跡が原因で、未だ休眠状態にあるとか。そこで"龍角を持つ鷲獅子"のコミュニティアンダーウッドとの共存を条件に守護と復興を手助けしているのです」

 

「その"龍角を持つ鷲獅子"で復興を主導している人が、北側出身の人だということ?」

 

「はい。その方のおかげで、十年と言う短い月日で再活動の目途が立てられたと聞き及んでおります」

 

「……そうですか……凄い御仁でございますね」

 

黒ウサギは胸に手を当てジャックの言葉を噛みしめる。おそらく、自分たちの境遇と重ねているのだろう。

 

「ヤホホホホ、我々はこれより"主催者"に挨拶に行きますが…・よろしければ、"ノーネーム"の皆さんもご一緒にどうです?ここで会ったのもなにかの縁ですし」

 

「そうですね。荷物を置いてきますから少しだけ待っていてください」

 

陽気に笑って承諾したジャックは、アーシャと共に宿の外で待つ。荷物を宿舎に置いた"ノーネーム"一同はジャックとアーシャに連れられ、収穫祭本陣営まで足を運び出す。

 

 

壁際の螺旋階段を登りながら上を目指していく。深さは約20mくらいだろう。壁伝いに登るとなればいささか距離がある。しかし、メンバーは億劫な顔はすること無く、初めて見る景色に瞳を輝かせ、楽しんでいた。収穫祭ということもあり、で店からは食欲をそそるいい薫りが漂って来る。

 

天音と耀は六本傷の旗が飾られているで店に、瞳を奪われた。

 

「……あ、黒ウサギ。あの出店で売ってる"白牛の焼きたてチーズ"って」

 

「"黒牛の焼きたて串焼き"って」

 

「ダメですよ。食べ歩きは"主催者"への挨拶が済んでからゆっくり……」

 

「「美味しいね」」

 

「御二方いつの間に買ってきたんですか!!?」

 

二人は黒ウサギのツッコミを意に介さず、二人は自分が買った食べ物を食べる。一口齧ると、ジューシーな肉汁が溢れてくる。香ばしい肉の香りと塩胡椒の味がマッチングして最高だった。

 

「……一口欲しいの?耀」

 

「うん」

 

迷いが無かった。一切の迷い無く、即座に頷く耀。天音は肉汁が零れないように紙を受け皿にして

 

「はい、あーん」

 

口の中に肉を入れる。耀は噛みちぎり、味わって食べる。

 

「美味しい?」

 

「うん、美味しい。天音も」

 

天音も耀からチーズをもらい食べる。単品でも食べても飽きない味だ。

 

「このチーズ美味しい……美味しいね!」

 

「よかった」

 

耀は少し嬉しそうに微笑みチーズを食べるのに専念する。横で耀と天音が食べてるものを見ている飛鳥とアーシャは物欲しそうにしていた。串焼きはあの二切れある。その前に耀が

 

「……………匂う?」

 

「匂う!?」

 

「匂う!?今、匂うって言った!?普通そこは食べる?って聞くはずじゃない!?」

 

「だってもう食べちゃったし」

 

「しかも空っぽ!?」

 

「残り香かよ!?どんなシュールプレイ!?」

 

「え!?あの一瞬で食べたの!?」

 

天音が貰った時はまだ残っていたが、次にはもうなくなっていると来た。驚く他ない。

 

「二人とも食べる?」

 

「お、いいのか?いいたくぜ」

 

「ありがとう天音さん。いただきます」

 

アーシャが食べ、飛鳥も食べる。二人とも服を汚さないように慎重に食べていた。

 

「ヤホホホホホ!賑やかな同士をお持ちで羨ましい限りですよ、ジン=ラッセル殿」

 

「はい。でも、賑やかさでは"ウィル・オ・ウィスプ"の方が上だと思います」

 

「ヤホホホホホホ!いや、まったく恐れ入ります!」

 

どの集団より賑やかに、楽しみながら進む一同は、網目模様の根を上がり地表に出る。大樹を見上げて先を見る……。まだまだ登らないと行けないし、まだ地表に出てきたばかりだ。

 

「ジャックさん。この樹は何メートルあるんですか?」

 

「500ⅿと聞いてますよ。御神木の中では一番大きい部類に入るかと」

 

「黒ウサギ、私達が向かう場所ってどのあたり?」

 

「中ほどの位置ですね」

 

250mが目標地点だ。跳べば一瞬で着く。跳ぶのにも加減が欲しいくらいだ。残りの250mを徒歩で行くと考えると自ずと出る答えが、

 

「飛んで行ってもいいかな?」

 

「私もいいかな?」

 

飛べる組みは最短で行きたいとなる。天音と耀は面倒そうだなぁという表情を隠す素振りを見せることなく言う。

 

「二人ともいくらなんでも自由度が高すぎるわ」

 

「ヤホホ!ご心配なく。エレベーターがありますから、さほど時間もかかりませんよ」

 

ジャックは詳しい説明をすることなく、先に歩みを進める。太い幹の麓まで来ると、ジャックは木造のボックスに乗り手招きをする。

 

「このボックスに乗ってください。全員が乗ったら閉めて、ベルを二回鳴らしてください」

 

「わかった」

 

言われたとおりに全員が乗るをを待ち、木製ボックスにあるベルの縄を二回引いて鳴らす。

 

「わっ!」

 

「上がり始めたわ!」

 

「反対の空箱に注水して引き上げているんだ……凄い!」

 

「ヤホホ!原始的な手段ですが、足で上るよりよほど速いですよ」

 

エレベーターはものの数分で目的の階層に到着した。幹の通路を歩くと、収穫祭の主催者である"龍角を持つ鷲獅子"の旗印が見えた。

 

「七枚の旗?七つのコミュニティが主催してるの?」

 

「残念ながらNOです。"龍角を持つ鷲獅子"は六つのコミュニティが一つの連盟を組んでると聞いています。その中心の大きな旗は連盟旗です」

 

「連盟?何のために組むの?」

 

「用途は色々ありますが、一番は魔王への対抗するためですね」

 

「つまり、連盟加入コミュニティが魔王に襲われた際に助太刀に行けるようになる感じ?」

 

「YES!更に連盟加入コミュニティなら魔王のギフトゲームへ介入することも可能です」

 

連盟の旗、龍角を持つ鷲獅子を中心に

 

"一本角"

"二翼"

"三本の尾"

"四本足"

"五爪"

"六本傷"

 

六枚の旗印が飾られていた。六つのコミュニティの連盟それが龍角を持つ鷲獅子だろう。天音は旗印を見上げていた。連盟……ノーネームもこう言う組織になれば対魔王……引いては旗印を奪った魔王と戦いやすくなるのだろうかと……

 

そんなことをふと考えている天音を他所に、ジンとジャックは本陣入口の受付で入場届を出していた。

 

「"ウィル・オ・ウィスプ"のジャックとアーシャです」

 

「"ノーネーム"のジン=ラッセルです」

 

「はい、"ウィル・オ・ウィスプ"と"ノーネーム"の…あ、もしかして、"ノーネーム"の久遠飛鳥様でしょうか?」

 

樹霊の少女が飛鳥を見て声を上げる。

飛鳥はその通りだと頷く。

 

「私、火龍誕生祭に参加していた"アンダーウッド"の樹霊の一人です。飛鳥様には弟を救っていただいたとお聞きしたのですか」

 

飛鳥は思い出したように声を上げた。黒死斑の魔王との戦い、その時に助けた少年の姉が目の前の人というわけだ。

 

「やはりそうでしたか。その節は弟の命を救っていただきありがとうございました。おかげで、コミュニティ一同、一人も欠けることなく帰って来られました」

 

「そう、それは良かったわ。なら、招待状を送ってくれたのは貴女たちなのかしら?」

 

「はい。大精霊(かあさん)は今眠っていますので。他には"一本角"の新頭首にして"龍角を持つ鷲獅子"の議長でもあらせられる、サラ=ドルトレイクからの招待状と明記しております」

 

それを聞いたノーネームのメンバーは一斉に顔を見合わせ驚く。

 

「サラ……ドルトレイク?」

 

「どこかで聞いたことが……」

 

飛鳥と天音が考える。姓に聞き覚えがあるからだ。

 

「まさか、"サラマンドラ"の……?」

 

「北で見たテクタイト結晶の?」

 

 

「え、ええ。サンドラの姉であるサラ様です。まさか南側に来ていたなんて………もしかしたら、北側の技術を流出させたのも」

 

「流出とは人聞きが悪いな、ジン=ラッセル殿」

 

聞き覚えのない言葉に驚き一斉に振り向く。途端、熱風が大樹を揺らした。激しく吹きすさぶ熱と風の発生源は、空から現れた女性が放つ二枚の翼だった。

 

「久しいな、ジン。会える日を待っていた。後ろの"箱庭の貴族"殿とは、初対面かな?」

 

「サ、サラ様!」

 

「この人が、北のフロアマスターのお姉さん……」

 

天音は呟くようにその言葉を出した。




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挨拶を終えて・黒ウサギの過去

サラは一同の顔を一人一人確認すると、受付の樹霊の少女に笑いかけた。

 

「受付ご苦労だな、キリノ。中には私がいるからお前は遊んでこい」

 

「え?で、でも私がここを離れては挨拶に来られた参加者が、」

 

「私が中にいると言っただろう?それに前夜祭から参加するコミュニティは大方出揃った。受付を空けたところで誰も責めんよ。少しくらい収穫祭を楽しんでこい」

 

「は、はい!」

 

キリノと呼ばれた樹霊の少女は嬉しそうな表情を浮かべ、一礼をして収穫祭に向かっていく。

 

「ようこそ、"ノーネーム"と"ウィル・オ・ウィスプ"。下層で噂の両コミュニティを招く事が出来て、私も鼻高々と言ったところだ」

 

「噂?」

 

「ああ。しかし立ち話も何だ。中に入れ。茶の一つも淹れよう」

 

サラに招かれ、一同は貴賓室に足を運ぶ。招かれた貴賓室の窓から外を覗くと、大河の中心になっており、網目模様の根に覆われたアンダーウッドの地下都市が見えた。

 

「では改めて自己紹介させてもらおうか。私は"一本角"の頭首を務めるサラ=ドルトレイク。聞いた通り元"サラマンドラ"の一員でもある」

 

「じゃあ、地下都市にある水晶の水路は、」

 

「勿論私が作った。アンダーウッドで使われている技術は私が独自に編み出したもの。流出させた訳では無いぞ」

 

その言葉を聞いたジンは胸をなで下ろす。一番聞きたかったことだったのだろう。

 

「それでは、両コミュニティの代表者にも自己紹介を求めたいのだが……ジャック。彼女はやはり来ていないのか?」

 

「はい。ウィラは滅多なことでは領地から離れないので、今回は参謀の私が」

 

「そうか。北側の下層で最強と謳われる参加者を、是非とも招いてみたかったのだがな」

 

「北側最強?」

 

天音と耀と飛鳥が反応する。隣に座るアーシャが自慢そうに話す。

 

「当然、私たち“ウィル・オ・ウィスプ”のリーダーの事さ」

 

ウィル・オ・ウィスプのリーダー、ウィラ=ザ=イグ二ファトゥス。蒼炎の悪魔と言われし生死の境界を行き来し、外界の扉にも干渉することが出来ると言うわれる大悪魔。それがウィル・オ・ウィスプのリーダーだ。

 

「それにしても、創元殿の御息女、天音様にこのような形で会えると思っては居なかった」

 

「様はやめてくださいよ!私は私で、父は父です!私のことは普通に天音でお願いします!」

 

畏まった風に言われた天音は慌てて言う。こう言うのには慣れていないのと、明らかに相手の方が立場が上なのだ。

 

「そうか。では、収穫祭に特別ゲストとして参加してくれた事感謝する。天音」

 

そう言うと、サラは手を差し出し、握手を求める。

 

「こちらこそ、招待していただきありがとうございます!」

 

天音は招待してくれたことに礼をいい、その握手に応じる。屈託のない笑みを浮かべたサラは収穫祭の感想を求めた

 

「それで、収穫祭の方はどうだ?楽しんでもらえているだろうか?」

 

「はい。着いたばかりで多くは見れてはいませんが、活気と賑わいがあっていいと思います」

 

「それは何より。ギフトゲームが始まるのは三日以降だが、バザーや市場も開かれる。南側の開放的な空気を少しでも楽しんでくれたら嬉しい」

 

「ええ、そのつもりよ」

 

飛鳥は笑顔で答える。耀は目を輝かせながらサラの龍角を見つめている。

 

「どうした?私の角が気になるのか?」

 

「うん。凄く、立派な角。サンドラみたいに付け角じゃないんだね」

 

「ああ、コレは自前の龍角だ」

 

「だけど、サラは"一本角"のコミュニティだよね?二本あるけどいいの?」

 

「大丈夫じゃないかな?じゃないと……例えば翼が四枚ある種族なんてどこにも行けないじゃん?」

 

「あ、そっか」

 

サラはその話に苦笑しながらも

 

「"龍角を持つ鷲獅子"の一因は身体的特徴でコミュニティを作っている。しかし、頭に着く数字は無視しても構わない。後はコミュニティに応じて役割が分けられるかな。"一本角"と"五爪"は戦闘、"二翼""四本足""三本の尾'は運搬、"六本傷"は農業・商業全般。これらを総じて"龍角を持つ鷲獅子"連盟と呼ぶ」

 

「そう」

 

耀は短い返事をして連盟旗を見上げる。

 

「収穫祭では"六本傷"の旗を多く見かけることになるだろう。今回は南側特有の動植物をかなり仕入れたと聞いた。後ほど見に行くといい」

 

天音はその言葉を聞いて、ふと黒ウサギの方を見る。少し見たあと、思い出したようにサラに

 

「特有の植物の中にラビットイーターってある?」

 

「まだその話を引っ張りますか!?そんな愉快に恐ろしい植物が存」

 

「在るぞ」

 

「在るんですか!?」

 

次は耀が目を輝かせながら更に問う

 

「じゃあ……ブラックラビットイーターは、」

 

「だからなんで黒ウサギをダイレクトに狙うのですか!?」

 

「在るぞ」

 

「在るんですか!?一体の何処のお馬鹿様が黒ウサギをダイレクトに狙う恐ろしいプラントを!?」

 

「発注書ならここにあるが」

 

サラの机の上に置いてあった発注書を黒ウサギは素早く取り内容に目を通す。天音はこっそりと覗き見る

 

『対黒ウサギ型プラント:ブラック★ラビットイーター。八〇本の触手を淫靡に改造す

 

グシャ!

 

途中まで読み黒ウサギは発注書を握り潰す。

 

「………フフ。名前を確かめずとも、こんなお馬鹿な犯人は世界で一人シカイナイノデスヨ」

 

ガクリと項垂れ、しくしくと哀しみの涙を流す黒ウサギ。大河に向かって魂の叫びを上げる彼女の背に、悲哀が集まる。やがて黒髪は緋色に変幻させ立ち上がる。

 

「……サラ様、収穫祭にご招待いただき誠にありがとうございます。我々は今から行かねばならない場所ができたので、これにて失礼いたします」

 

「そ、そうか。ラビットイーターなら最下層の展示場にあるはずだ」

 

「ありがとうございます。それでは、また後日です!」

 

「え?ちょ、待って……黒ウサギ!?」

 

ノーネーム一同の首を鷲掴みにし、一目散に飛び去る。行き先は最下層だろう……

 

 

 

 

 

 

ズドォォォォォン!!!

 

雷鳴が轟き、迸る雷鳴が全長5mの食兎植物が穿たれる。カオスプラントは緋色に髪を染めて怒る黒ウサギの前に無残に潰えた。

 

「……もったいない…」

 

耀は溜息をつきながら言う

 

「お馬鹿言わないでください!こんな自然の摂理に反した植物は燃えて肥しになるのが一番なのでございます!」

 

フン、と顔を背ける黒ウサギ。その後は日が暮れるまで収穫祭を見学し楽しんだ。バザーや市場を見て回り、民族衣装を試着したりなど、大いに楽しみ過ごした。苗や牧畜はギフトゲームの賞品を手に入れてからでいいだろうとなり保留に。いくつかのゲームに参加登録をし終えた頃には、夕焼けに染まる空を見上げて黒ウサギが呟く。

 

「そろそろ、宿舎に戻りましょうか」

 

「そうだね、そろそろ戻ろうかな」

 

一同は螺旋状に掘られた壁を登り、宛てがわれた宿舎に行く。

 

「思ったより、ゲームが少ないね」

 

「YES!本祭が始まるまではバザーや市場が主体となります。明日は民族舞踏を行うコミュニティも出てくるはずなのです」

 

黒ウサギは何時になくハイテンションでウサ耳を左右に揺らす。何時も以上にハイテンションな黒ウサギ。思い返すと最初からアンダーウッドに来るのを楽しみにしていたように見える。

 

「ねえ、黒ウサギ。もしかして前々からアンダーウッドに来たかったの?」

 

「え?ええと、そうですね。昔お世話になった同志が南側の生まれだったので、興味がありました」

 

「同士?それって」

 

「はい。魔王に連れ去られた一人で、幼かった黒ウサギをコミュニティに招きいれてくれた方でした」

 

その言葉に天音達三人は顔を見合わせる

 

「黒ウサギはノーネームの生まれではないの?」

 

「はい。黒ウサギの故郷は東の上層にあった"月の兎"の国だったとか。しかし絶大な力を持つ魔王に滅ぼされ、一族は散り散りに。頼る宛もなく放浪としていたところを招き入れてくれたのが今の"ノーネーム"なのです」

 

言葉を失う天音達。故郷を二度魔王に奪われたという事だ。彼女の献身は月の兎という以上にその体験からなのかもしれない。

 

「黒ウサギを同士として受け入れてくれた恩を返すため……絶対にノーネームの居場所を守るのです。そして天音さんや耀や飛鳥さん、十六夜さんみたいに素敵な同士が出来たと、皆に紹介するのですよ!」

 

黒ウサギは気合を入れるように両腕に力を込める。

 

「そう……。ならその日をとても楽しみしてる」

 

「私も楽しみだね!是非ともゲームしてみたいよ!」

 

「私もよ。……ところでその、黒ウサギの恩人というのはどんな人だったの?」

 

その時の黒ウサギの瞳は過ぎ去った日々を顧みているのだろうか、遠い日を見ているようになる。しかし笑みを浮かべ恩人の名を呟く。

 

「彼女の名前は金糸雀様。我々のコミュニティの参謀を務めた方でした」

 




次回、天音に異変が……!


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襲撃と侵食

気づけば時が経つ……もう二年が経って、三年目まで見えていた……ひょえぇぇ



遅れてすいませんでしたぁぁぁぁ!!!


その後、天音は深く眠っていた。呼ばれる時間までは猶予があったからだ。天音はここ最近休んでいるはずなのに精神的には疲労し続けていた。その理由は、夢である。別に悪夢を見ているという訳では無いのだが、その夢の感覚が、次第に"自分がかつて体験したもの"と感じるようになり、更に無意識にその夢で見た人物の所作をしてしまうようになっていたからだ。

 

まともに自分を認識していないと、境界が分からなくなるかもしれないと言う恐怖とそれでも明るく振る舞わないと、貢献しなければと言う思いが、彼女を精神的な疲弊へと押し込んでいた。

 

今回の眠りも例外は無く、神話の一端を見る。己が体験として……

 

(今回……も……か)

 

天音が見ている……いや、体験しているのは正午の沐浴だった。太陽神に対しての礼拝。それを行っていた。

 

そんな時、バラモンの僧が訪ねてきて、黄金の鎧を要求してきた。天音はこの逸話を知っている。だが、天音にはどうすることも出来ない。

 

話は進み、やがては自分の体に小剣を突き立てる。

 

(痛い!痛い!痛い!あっ……があああああ!!!痛い痛い痛い痛い!!!)

 

激痛が襲う。体と一体化している鎧を剥がそうと言うのだから、その苦痛は約束されたものだ。だが、天音にその激痛を感じなければならない理由は無い。ただただ、実体験のように見せつけられるだけ。思考も、感情も、その時の空気も、その全てが自分を塗りつぶさんと天音に見せつけてくる。

 

(やめ……!やめ……て!私を……!飲み込ま……いで……!)

 

(それは、無理な相談だ)

 

真っ暗闇な空間に放り出される天音。激痛は不快な感覚は未だに残り続けるが光景を見なくて済んだ分幾分かマシである。

 

ただ、願いを拒否したであろう声の主であろう人物が、天音を覗き込む形で見下ろす。

 

その人物は黒髪に一部が金髪ので白い無精髭を生やしている、真紅の瞳の男が立っていた。

 

「それは無理な相談だ。八神 天音」

 

「ど、どういう事……?貴方は……」

 

「俺の名前はどうでもいいだろ。答える……義理はある、必要もあるかもしれないが、答えない」

 

男は嫌そうな顔をして天音の腹部を踏みつける。そこは、夢で小剣を刺していた所である。

 

「――――――!!!」

 

天音は声にならない声を上げて悶える。

 

「随分と侵食されてんなぁ。まぁ、オレの力で使えるようになって、弊害なくスムーズに侵食されるよな。思春期の女子には厳しいだろうな。まぁ、オレには関係は無いな……お前の問題だし」

 

足を退けたあと男は背を向けその場から消える。それと同時に天音は沈んでいく。恩恵が天音を飲み込まんとして。天音には音も、感覚もどんどん鈍くなり何も感じなくなって行くのを感じる。

 

(助けて……たすけて……タスケテ……黒うさぎ、飛鳥、耀……十六夜……)

 

耐えきれず夢の中ですらも目を閉じる。諦めた時

 

『行かんな、これでは。オレでは役不足かもしれんが、遅らせることが出来るだろう』

 

そんな優しい声が聞こえないはずの天音の耳に、入る。

 

―――――――――――――――

 

現在、アンダーウッドは襲撃を受けていた。黒ウサギは地下の巨人を相手して、耀と飛鳥は地表に出てきて巨人の対応をしていた。耀はヘッドホンの事が気になっていた。理由は簡単、そ十六夜のヘッドホンが自分の鞄にから出てきてしまったからだ。耀からしたら自分が嵌めたとなってしまう。耀はそんなことをする人物では無い。

 

飛鳥はディーンで巨人の対応をしている。耀はその様子を見て驚愕していたが、もう一つ大事なことに気づく。

 

(天音が……見当たらない!?)

 

真っ先に前線に出てきてもおかしくないであろう人物の八神 天音の姿がその場に居なかったのだ。黒ウサギと地下で対応するのであれば、最初の合流時に居たはずだと。

 

「飛鳥!天音が出てきてない!」

 

「天音さんが!?」

 

それを聞いて飛鳥も驚く。だが、巨人が群がってきて、手を回す余裕が無い。

 

「っ!春日部さん!天音さんの捜索をお願いするわ!」

 

「で、でも!」

 

先程、耀は巨人に自分が知りうる最重量の動物の攻撃をしたが、蝿を払うように弾かれ、その一撃は、風とかで勢いを殺さないと話にならないレベルだった。すぐさま合流できたから飛鳥との合流ができたが、あれが飛鳥に当たればと思った時には蒼白になっていた。それゆえの離れられないと

 

「今自由に動けて頼りになるのは貴女だけよ!こっちは大丈夫だから!」

 

「っ!直ぐに見つけてくる!」

 

耀は飛び出した。天音を探し出すべく。それと同時に嫌な予感が頭から離れないでいた。天音が巨人に殺られてしまって居たらと。そんなはずないと直ぐに一蹴するが、耀は知っている。天音がここ1ヶ月、ろくに休めていないということに。睡眠は取れているが、表情は来た時よりも少し暗く、遠い目をすることがあったり、何処か消えてしまいそうな空気を感じたりと。その度に相談に乗ろうとしたが、何を言っても大丈夫と帰ってくるだけ

 

(私は……そんなに頼りない?そうかもしれないけど……!)

 

耀に取って、天音は黒ウサギや飛鳥、十六夜と同じく箱庭に来てからできた同士で友人だ。それだけではなく、命の恩人でもある。"フォレス・ガロ"とのゲームで重症を負った耀に惜しみなく、自身の最強の鎧を傷を治す為だけに一時的とは言え貸した。その鎧の温かみは今でも覚えている。それ故に、単なる友人、同士では収まらない感情を持ち

 

(私は……天音の力になりたい。天音が辛そうにしてるなら、その力になりたい!)

 

その一心で天音を探す。持てる動物の力、犬の嗅覚、鷹の瞳、グリフォンの旋風を駆使して、戦場を翔ける。天音を見つけるべく。そして見つける。天音はぐったりと眠った状態で巨人の手の中に収まり、今まさに握りつぶされようとされている瞬間だった

 

「天音!天音から離れて!」

 

耀は無我夢中でグリフォンの烈風を纏い、像の質量を以て空中から奇襲を仕掛ける。完全に不意を突いた一撃だが、巨人はよろける所か、微動打にしなかった。

 

「………っ………!」

 

焦りが胸を締め付ける。飛鳥の心配もあるが、目の前の仲間が何も出来ずに握り潰される。そんな最悪な光景が頭に浮かぶ。

 

そんな思考を知ってか知らずか、周りを飛ばれることを嫌がった巨人は蝿を払うように腕を振るう。耀は咄嗟にガードするが、そのまま大河の水面を何度もバウンドして対岸に飛ばされる。衝撃を風圧で和らげ無傷だが、助けに行くには絶望的な距離になる。更に濃霧が場を支配する。一寸先すら見ることが困難な程の濃霧だ。これでは鷹の瞳も嗅覚も阻害される。

 

「あ……天音……!」

 

時間が経てば経つほど嫌な想像しかあまたを過ぎらない。頭を振り、無我夢中で旋風を使い少しでも視界を確保し、天音の元に向かう。そして、シルエットが見える。巨人が両手を使い天音を握り潰そうとしているのが見えた。

 

「あっ……ああ……!」

 

間に合わない。辿り着いても、助けることが出来ない。そんな絶望が、耀を支配する。

 

「天音ねぇぇぇぇぇ!!!」

 

らしくない耀の叫び。普段の彼女からは考えられない焦燥感と絶望を含んだ叫びが届いたのか……巨人は炎に包まれた。

 

「え?」

 

そして周りにいるであろう巨人も一瞬の内に血飛沫をあげて倒れたり、燃えて焼死体へと姿を変える。そして、その人物が、耀の隣に立つ。

 

黄金の槍を左手に持ち耀の左手隣に立つ金髪の少女。『ノーネーム』の次席に座す者であり、1か月前の魔王とのゲームで魔王を討った人物が立っていた。その少女を見て耀は安堵の表情を浮かべ、思わず息を吐く。

 

「よかった……無事だったんだ」

 

そう、声をかける。これで、巨人族を押し返すことが出来き、アンダーウッドを守ることが出来るとほっとするが

 

「ああ、問題無い。いや、この肉体の主的には現在進行形で問題しかないか……だが、今はそれを話す時ではない。現状を打開が最優先だ。動けるな?」

 

耀は固まる。そして言葉が出ていなかった。目の前に居る人物は、耀に取って大切なもの友人で命の恩人であり、耀が力になりたいと思っている人物だ。だが、雰囲気が口調が気配がその人物と一致しない。

 

「あ……貴女は……誰……?」

 

震える声で耀は質問をする。助けたかった人物であってくれと祈るように、しかし

 

「名乗る程の者では無い。……だが、それでは不義理になるな。この娘に起こっている恩恵(ギフト)による侵食を抑えている、恩恵(ギフト)の影法師とも言える者だ」

 

無情にも現実を突きつけられ、天音の安否を間接的にも否定され、苦しむ原因を知ることとなる。




ここからが正念場です!

お気に入り、感想お願いします!それではまた次回お会いしましょう!


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例外の恩恵

この勢いであと何回投稿できるか……頑張るんだよ!


「ど……言うこと……恩恵に侵食されるって……」

 

耀は影法師を名乗る天音に聞く。しかし、

 

「話すのは良いが、先ずは仲間の安否で安全確保が重要では無いのか?」

 

そう言うとゆっくりと浮き上がり、光と炎を纏った槍で

 

「ふっ――――!」

 

霧の一角を切り裂いて見せた。

 

「行くぞ」

 

影法師は先に進む。同じ声のはずなのに、その声は別人に感じる。知っている人物が変わり果てたと感じて胸が苦しくなる。だが、耀はその後ろをついて行く。

 

立ちはだかる巨人を意図も簡単に槍術で淀みなく一瞬で蹂躙する。耀はそれに再度驚く。

 

(天音の強さは知っているけど、ここまで練り上げられた感じじゃなかった……)

 

そして、ある程度進むと、無傷の飛鳥を見つける。

 

「飛鳥………!」

 

「か、春日部さん………きゃっ!」

 

勢い余って飛鳥に飛び込む。ディーンから降りていたため落下による怪我はないが、尻もちを着く。

 

「よかった……!飛鳥は凄い……あの状況で無傷なんて」

 

「当然よ……と言いたいけれど。私の力で倒したわけじゃないわ」

 

「え?」

 

「周りを見れば分かるわ」

 

飛鳥の思い声に促され周囲を確認する耀。薄くなった霧が隠されたモノを露わにする。眼前にあるのは皆殺しにされた巨人族の死体だ。しかも、どの死体も同一の殺害方法で死んでいるのだ。耀はその光景に息を飲んだ。天音を探しに行ったと言えどそう時間は掛かっていない。

 

「お怪我はありませんか?」

 

「ぇ……え?」

 

ハッと我に返り、警戒心を高めるが

 

「警戒する必要は無いだろう。彼女が巨人族を鏖殺した人物だ」

 

影法師が言う。その人物は純白で美しい白髪を頭上で纏めている黒い髪飾り。静謐さを放つ白いドレススカートと、精緻な意匠が施された白銀の鎧を身にまとい、顔の上半分を隠す白黒の舞踏仮面をつけていた。全身を巨人族の血で染め上げているが。

 

無事を確認したその騎士は三人を一瞥してその場から立ち去る。

 

「彼女は……強いわよ」

 

飛鳥はそう告げた。プライドの高い飛鳥が無条件で認めざるを得ない程の圧倒的な実力者というのは、耀は対面しただけで理解した。

 

「それよりも無事でよかったわ、天音さん。怪我は無い?」

 

「あっ……飛鳥……」

 

飛鳥は気を取り直したように天音に聞く。耀は飛鳥を止めようとしたが既に遅かった。だって

 

「大丈夫だ、問題は無い」

 

「え?……は?」

 

いつもの天音の答え方、口調、雰囲気が違うことに、飛鳥の思考がどういう事か受け止められずに居た。何があったのかと、

 

「……お前は何か重要な物を確認をしたいのでは無いのか?」

 

そういうのと同時に安全を知らせる為の鐘が鳴らされた。

 

「疾く急ぐが良い。それを確認しないことにはお前の次の行動が決まらないのでは無いのか?」

 

「っ!ごめん、飛鳥!後で説明する!」

 

耀は急いで旋風を巻き上げて宿舎に向かう。影と飛鳥はそれを見送る。そして

 

「答えなさい!貴女は何者なの!?私の友人の姿を模している訳?それとも恩恵で乗っ取っているの!?」

 

鬼気迫る表情で飛鳥は問いただす。しかし、影法師は何の弁明も話しもしない。

 

「っ!『答えなさい』!!!」

 

『威光』のギフトを使い強制する。影法師は表情を変えることなく口を開く。

 

「今それについて話している時間があるのか?」

 

そう言い『威光』を振り払う。

 

「っ!」

 

「今は、負傷者や仲間の安否の確認が優先されるべきでは無いのか?」

 

「――だから!その仲間の天音さんに何をしたのか、聞いているのよ!いいから『答えなさい』!!!」

 

再度『威光』を叩きつける。先程以上に強い思いが乗った『威光』は影法師に強く伸し掛る。同じように払うことが出来るであろうその『威光』飛鳥は無理矢理でも通す気迫だった。その目を見て

 

「なるほど、それ程までに思われているのか……。それ程の気迫、この肉体の主に対する思いを見せられては答えない方が失礼千万だな。謝罪の意を示す」

 

『威光』を払いつつも頭を下げる。その姿勢に飛鳥は動揺した。それはあまりにも紳士的に返された返答だったからだ。

 

「だが、詳しく話すにはここに集っている仲間の前で話さなければならないのも理解していただきたい」

 

「え、ええ。それでいいわ。その方が皆にも情報が行き渡るしね。それで話してくれる?」

 

「では、簡易的に話すとしよう。彼女は八神 天音は恩恵の侵食を受けている。このまま侵食が進めば、力を行使するだけの人形になる。俺は助けを求める声に反応した、恩恵に記された人物の影だ」

 

飛鳥はそれを聞き絶句する。恩恵による侵食。そんなの聞いたことの無い話だと、そして、そんな状態に気づけなかった自分が情けないと。

 

「仲間思いのお前達に気にするなと言っても無駄かもしれないが、そこまで気負うのはお門違いだ。何せ、本人ですら違和感を感じていなかったのだからな」

 

そう言うと、天音は歩き始める。

 

「話は一旦終わりだ。すべきことをするぞ」

 

「……分かったわ」

 

飛鳥は悔しさを滲ませ、影法師のあとを着いていく。その後は互いに分かれて、天音は救助を飛鳥は耀の下へ向かう。

 

「た、助けていただきありがとうございます!」

 

「礼には及ばない。そんなことより、早く子供を連れて救護所へ行くといい。いつ、第二陣が来てもおかしくは無い」

 

「は、はい!分かりました!」

 

影法師は救助を終えて瓦礫に腰をかける。

 

「未だ目覚めはしないか、お前と相対する事が出来れば向き合い方を伝えることは出来るが……。それでは意味が無い」

 

『存外冷てぇなぁ。我が孫は』

 

男の影が影法師の前に立つ。影法師はその影を見据えながら話す。

 

「感嘆の言葉が出る。俺に対して祖父を名乗る器量があるとは。それほどの器量がありながら、あのような選択を取ったのか理解し難い」

 

男の影は大きため息をつきながらも少し笑みを浮かべ

 

『……言ってくれるじゃねぇか。さすがアイツの息子だな。それで意味は無いって?』

 

「言葉通りだ。この程度の障害を乗り越えられない人物に俺達の恩恵を使う資格は無いという事だ。乗り越えるのは本人次第だろうよ。であれば、その機会を作るのが俺の役目だ」

 

『いいや、十分親切だとは思うぜ?寧ろ俺としてはノーヒントでもいいと思うし、背負うもんが背負うもんだからな。それはソレとして、もがき苦しんで抗う姿を見るのは好きだからなオレは』

 

人影は獰猛に口角を吊り上げて話す。影法師は肩を竦めてそのまま立ち上がり、歩き出す。

 

『何処へ行くんだよ』

 

「この彼女の仲間の下だ。外野もいるようだが、全くの無関係という訳でもなく、交流があるようだ。いい機会だ」

 

そう歩みを進め、黒ウサギや耀、飛鳥のところに向かう。

 

その頃、耀と飛鳥は黒ウサギとジンと三毛猫、そしてウィル・オ・ウィスプのジャックとアーシャが集まっていた。耀の戦果、飛鳥と望んでギフトゲームで勝利した話などしていた時だった。

 

三者三様に謝る。飛鳥は友人の耀を気遣い、耀は自分が悩んでいたから飛鳥を巻き込んだと謝り、黒ウサギは自分の過度な期待が壁を作ってしまったと。そして、そのタイミングで

 

「なるほど、いい仲間を持っているな。これほどの仲間に恵まれるとなると、人柄が良いか幸運か、それとも運命か。どちらにせよ宝には違いない」

 

聞き覚えのある声が全員の耳に入る。ジンは喜ぶが、黒ウサギは警戒心を高める。ジャックもそんな黒ウサギを見て警戒するが、すぐ様、耀と飛鳥が止める。

 

「待って!黒ウサギ!ジャック!」

 

「待って……欲しい」

 

「どういうつもりかは存じ上げませんが、仲間があんな状態にされて黙っているほど黒ウサギは穏便ではありませんよ?天音さんをどうしたんですか!!!」

 

黒ウサギの髪はピンクに変色しその激情を表現する。片手には疑似神格・金剛杵が握られている。

 

「え?どういうこと!?黒ウサギ!」

 

「ジン坊っちゃま、悪い知らせですが、天音さんは何者かに乗っ取られているようです!何者ですか!私達の仲間にそんなことをする輩は!!!」

 

「だから待ちなさい!黒ウサギ!!!」

 

飛鳥の怒号が黒ウサギの耳がキーンとなる。それはそうだろう。飛鳥は黒ウサギの耳元で叫んだのだから。

 

「な、何をするんですか!あ、飛鳥さん!耳がキーンとなるじゃないですか!」

 

「いいから……話を聞いて欲しいのよ。ほら、見るためにきたわけじゃないでしょ?」

 

飛鳥が先を促す。それに応えるように天音は話し始める

 

「さすが、あの男の眷族だな。一目見て気づくとは」

 

影法師は黒ウサギへの賞賛を送る。そしてジャックとアーシャも様子が変だと気づく。

 

「なぁ、あの金髪様子が変じゃないか?」

 

「ええ、それにこの気配只者じゃないですよ」

 

警戒心を高める二人を他所に話を始める。

 

「自己紹介をする時間はないから省かせて貰う。そこの眷族がそろそろ勘づいている頃合だろうからな」

 

黒ウサギはその言葉を聞き、感じる気配を首を横に振って驚いていた。

 

「そんな!あの方と似た気配が天音さんから!でも、あの方とは少し違う!」

 

「詮索は無用だ。俺は彼女の恩恵の影、1部に過ぎん。だが、こうして彼女の体を借りているには理由がある。そこにいる二人には軽く話してる」

 

そういうと耀と飛鳥を見る。耀は悲しげに拳を握り、飛鳥は悔しさを滲ませていた。

 

「そ、それで貴方様がなんで天音さんの体を……」

 

「彼女が恩恵に侵食されているからだ」

 

黒ウサギの疑問にバッサリと答える。それを聞いた飛鳥と耀以外が理解できないと固まる。

 

「お、恩恵による侵食とは有り得ません!恩恵とは様々な修羅神仏から、悪魔から、精霊から、星から与えられた特異な力。様々な形に変幻し、生命に宿ることでその恩恵となる力を発揮するものです!その恩恵に侵食されるなんて!」

 

「事実だ。彼女は己が恩恵を使うことで、深く結びつき、我々の生きた世界の記録を実体験として夢で見続ける。それも、名を馳せた英雄や神仏の記録だ。それ故に自身と我々との境界を見失った。ここだけ聞くと心だけの問題。だが、それを得て、彼女は凄まじい速度で技量を上げ新たな力を振っている。覚えがあるのでは無いのか?」

 

そう聞かれると覚えがあるのは黒ウサギだ。ペルセウスとのギフトゲームの時には弓を出してはいたが、魔王との一戦の時は、槍を巧みに扱い、弓矢を放ち、そして最後には軍神の槍をも顕現させ魔王を討伐した。それはそれほどの技量がないと出来ないということだ。

 

「そんなことがあるのかよ!」

 

「本来なら有り得ないと言わざるを得ませんが、現に彼女がそうなっているのでしたら事実でしょう……」

 

ジャックの言葉が重く感じる。

 

「で、では天音さんは何故相談をしなか……」

 

「彼女を知るお前たちが、それを出来ると思っているのか?」

 

それを言われて黒ウサギは黙る。言い返せなかった。天音は無茶をするし、意外にも抱え込む質である。

 

「ど、どうしたら、元に戻せるんですか?」

 

「今の状態からか?」

 

「はい!」

 

ジンは質問をする。すると、

 

「俺から彼女に戻るのにそう時間はかからない。俺の時間稼ぎもここまでだ。俺は侵食を遅らせるために出てきたのにすぎん」

 

「え?」

 

「だが、俺から彼女に戻れば侵食を進行する」

 

「止める手だては……無いの?」

 

耀は泣きそうな顔で聞く。

 

「それは彼女が乗り越える他あるまい。乗り越えることが出来なければ、ただ望まれたように力を振るう戦闘人形になるだろう」

 

そう締めくくると同時に

 

「第2陣が来たか」

 

そうつぶやくと

 

「大変です!巨人族がかつてない大軍を率いて……アンダーウッドを強襲し始めました!」

 

直後、地下都市を震わせる地鳴りが一帯に響く。

 




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アンダーウッド防衛戦 決着

襲撃の報告を聞くのと同時にその場に居る全員が樹の根を飛び出し目にした光景は、半ば壊滅状態になっている"一本角"と"五爪"の同士たちだった。影法師だけは動揺することなく、その様子を見る。

 

影法師が状況を把握に務めている最中、琴線を弾く音が響く。耀は聞き覚えがあるのか顔を上げる。

 

(この音……濃霧の時と同じ……!)

 

先程の戦闘を思い出すが、それを伝える暇は無かった。琴線が二度三度重なり、音色の数だけ最前線の仲間が倒れていく。耀やその場にいるメンバーの意識すら奪われそうになる。

 

「これ以上は……看過出来んな」

 

そう呟くと、影法師は槍をギフトカードから取り出し、単独で飛び出す。

 

「ま、待ってください!」

 

ジンの制止も間に合わず影法師は戦場に向かう。目的は、首謀者を捕えることが出来ればいいが、主な狙いは戦線の維持である。

 

直後、影法師が向かったであろう方向から凄まじい轟音と火柱が立ち上る。それは一度ではなく二度、三度と。三度の火柱によって巨人100体が消し炭へとなる。

 

「貴方は、先程の……」

 

「ああ、戦線維持の為の救援だ」

 

群がる巨人族、現状、仮面の騎士もサラも耳に入る音色で力を出し損ねているという状況だ。それは影法師も例外じゃない。

 

「不快な音だが、その程度の音で俺の戦意を削ぐと考えられているのなら……それは早計な事だ」

 

そして影法師は仮面の騎士と並び立ったかと思うと、ギフトカードを取り出し一言呟く。

 

「日輪よ、具足となれ」

 

ギフトカードは太陽の如き黄金の光を放ち、影法師を守る鎧へと形作る。意識が奪われそうになる恩恵を鎧の恩恵によって軽減する。そして、耀達がいる方向を一瞥し

 

「琴線の音は彼等が何とかするだろう。俺の役割は、それまでの時間稼ぎと迫り来る敵の対処だ」

 

黄金の鎧を身にまとい、黄金の槍を握り構える影法師。仮面の騎士と背中合わせで立つ。そんな時

 

「名前を伺っても良いでしょうか?背を預けるもの同士、これから競い合うとなっても名前を知っておくべきかと」

 

「確かに一理ある。少し複雑だがこの肉体の主の名は本人の意識が戻り次第で頼む。俺の名は……そうだな、"槍兵(ランサー)"とでも呼んでくれ」

 

そう答える影法師こと槍兵は少女の体で槍を構える。名を聞いた仮面の騎士も武器を構え

 

槍兵(ランサー)ですか……私の名は"顔亡き者(フェイス・レス)"と言う。背中は任せても?」

 

「ああ、構わない。好きに動くといい」

 

そのやりとりと共に二人は飛び出す。槍兵の槍の一振は巨人の命を意図も簡単になぎ払い、フェイス・レスの斬撃も同様に巨人を討つ。先程の戦線維持がやっとの事だったが、槍兵が加わり、かなり余裕が生まれる。

 

それと同時に、耀達は動いていた。耀達の作戦は奇襲である。耀が遥か上空、高度1000mで機を伺う。ジン達が巨人達を何らかの方法で混乱させて、大きく混乱した所に所に、奇襲を仕掛けるというものだ。

 

(この位置なら奇襲にもってこいだ。これで、ジンの言う混乱が本当に起こるのなら……。こんな時に、十六夜と天音なら……)

 

二人のことを考える耀。普段ならこんな時の大役は十六夜か天音の二択だ。しかし、十六夜はこの場にいないし、天音は影法師こと槍兵が主導権を握り、現在、地上で仮面の騎士ことフェイス・レスと背中併せで戦っている。それは上空からでも様子を視認できる。音で苦しそうなフェイス・レスのフォローを顔色一つ変えずに黄金の鎧を纏いて巨人を屠る金髪の少女。

 

自分とかけ離れた力を持つ二人なら奇襲なんてせずに正面から叩きのめしているだろうと思うと、緊張してくる。自分には出来るのだろうかと。自分もこの作戦を成功させたら、彼らのように笑えるだろうかと思い、

 

「あはははははははははははははははははははははははははははははははうんこれはない」

 

予想以上に恥ずかしかったのか首を横に振るう。いくらテンションが高くてもこれは出来ないと、誰もいない上空で恥ずかしさで耳まで顔を赤く染めながらに首を横に振るう。向いていないと溜息を着いた時にふと思い出す。いつか天音と話した際に言っていたことを

 

『何か上手くいった時ってね、得意な表情というか笑っちゃうんだよね。なんて言うかさ「してやったぜ!」とか「これが私だ!」とか。まぁ、世界大会でテンション上がってしちゃって恥ずかしかったけど』

 

「ふふっ」

 

その話を思い出して密かに笑う耀。自然と緊張は薄れ、リラックス出来ていた。そしてそのまま自然に集中する。先程の緊張が嘘のように頭がクリアになり、自分でも驚くくらいに脱力もできている。そんな中、地上で漆黒の風が起きる。耀はそれがジンの使用したギフトだと気づく。その風が圧縮され人型へと変化していく。そして、圧縮された空気は一気に放出し爆ぜた。そして、そこから現れたのは

 

「何処に逃げたの、白夜叉ああああああああ ああああああああああッぁぁぁぁぁぁぁぁ ぁぁぁぁぁ!!!」

 

戦場とは無関係に駄神の名を叫びながら、一撃で、100の巨人族を薙ぎ払うペストだった。

 

ジンの狙いはこれだった。

 

ケルト神話群に記されし、巨人の逸話。その中のダーナ神話群の巨人族の闘争を記した史実には黒死病を操る事で巨人族を支配していたと。治療法が確立されていない病を操るのは支配体系の一つである。ジンはそれを見越していたのだった。

 

「出てこい、出てこい、出て来なさい白夜叉ッ!よくも元魔王の私に、あんな下劣でイヤラシイ服装の数々を!」

 

「ウオオオオオオオオオオッォォォォォォ――――!」

 

「五月蠅いわ、この木偶の坊!」

 

地上では隷属されたペストが巨人族相手に大暴れをしている。混乱という名目では達成出来ていると言えるだろう。耀は一瞬呆気に取られそうになったが、大きく息を吸い込んで吐き、集中力を高める。更に引き出す力は嗅覚、鷹の瞳だけではなく超音波によるソナーの索敵である。嗅覚、視覚が狂わせられようともぶつかり合う音に波は狂わされることは無い。

 

(……!見つけた!)

 

感知するのと同時に『生命の目録』の力を解放し、流星の如く流れ落ちる。針の穴を通すかのような正確さで豊穣と天候の神格を持つ『黄金の竪琴』を持つ敵に迫る。

 

「今だ――!」

 

濃霧を突っ切る流星は、逃亡者から『黄金の竪琴』を奪い去る。迎撃されないように上空へ逃れ、自分の勝ち取った戦果を腕の中でしっかりと抱きしめる。成功したのを確信する頃には

 

「ふふっ!」

 

自然と小さい笑いが零れていた。

 

そして、その瞬間にアンダーウッドのでの戦いの勝敗が決まる。

 

 

――――――――――――――――――――

 

次の日の朝。耀達を迎えたのはフェイスレスと槍兵だった。フェイスレスは精錬された物腰と静謐な純白の鎧を纏って彼女たちを待っていた。槍兵は天音の何時もの姿をとっていた。槍兵は何も話さず、ただただ立っていた。

 

(……そろそろか)

 

ふっ、と笑を零しながら、彼女達のやり取りを見ていた。

 

クィーンハロウィンの恩寵を受けし騎士、それを仲介したのは"ウィル・オ・ウィスプ"本来なら異世界からの召喚は断るようなことだが、ジンが日用品の類を"ウィル・オ・ウィスプ"製にする契約をすることで、お友達料金ということでという事で話はついていた。

 

「ですが、一つ問題があります。厳密には"クイーン・ハロウィン"の力で召喚するのではなく、星の廻りを操って因果を変える。つまり、耀さんが初めからヘッドホンを持ち込んでいたという形での再召喚。なので耀さんの家にヘッドホンがないと成立しないのですが……」

 

「……大丈夫。家に十六夜のと同じメーカーのヘッドホンがある。それに父さんはビンテージ物だって言ってたから、十六夜もあれならきっと喜んでくれる」

 

「あら、けれどそのヘッドホンはお父様のものなのでしょう?」

 

「それは大丈夫父さんも母さんも行方不明のままだから」

 

サラリと己の身の上を言う耀。しかし、両親を亡くしている飛鳥は俯く。

 

「ご、ごめんなさい。そうとは知らずに」

 

「ううん。私も話してなかったし……それに私達四人とも自分の事話したがらなかったから。知らないのも当然だと思う」

 

「……ええ。その通りね」

 

耀は一度、槍兵と飛鳥を見てから言う。

 

「だから、ヘッドホンを渡す機会に四人で話したいな」

 

「それ、良いわね。異邦人四人でお茶会なんていいかも知れないわね」

 

そんなやり取りを見てなお、何も言わずに見届けていた。一同は黄道十二宮螺旋階段を上り、地表に出る。

フェイス・レスが用意した"黄道の十二宮"陣があり中央に耀を座らせ、フェイス・レスは"クイーン・ハロウィン"の旗印が刻まれた剣を取り出す。すると太陽の光が地面に描かれている十二宮の紋章輝かせ始めた。

 

「ねぇ、黒ウサギ、どうしてハロウィンと太陽と“黄道の十二宮”が関係あるの?」

 

ハロウィンとは元々、一年間の周期を二分化して行われる祭事であり、周期が変わる時、異世界の境界が崩れる。さらに、ケルト民族は独自の太陰暦を持つ程高度な天文学を修めていた。ただケルト民族がどんな宇宙観を持っていたかのかは本人のみぞ知る。それ故にハロウィンはその数少ない文化の名残を残す祭事となっていた。

 

そして黄道とは"太陽が通過する軌跡"を指し、十二宮とは太陽の軌道上に存在する星座のことを言う。箱庭内では十二宮の星座を幾つ支配しているかで、太陽の主権を決める程重要なものである。

 

飛鳥はこの説明を黒ウサギとジンから聞く。そして飛鳥は

 

「あの人……人間なの?」

 

フェイスレスを見ながらに尋ねる。

 

「YES!様々な武具で身を固めておりますが、人間で間違いはありません。それも、皆さんに匹敵するほど、強大な才能の持ち主でしょう。"ウィル・オ・ウィスプ"が北側の下層で最強のコミュニティというのは、あながち間違いでないでしょう」

 

「そう」

 

黒ウサギの言葉に飛鳥は相槌を打つ。そしてしばらくの時間が経った。

 

耀の頭にはネコ耳ヘッドホンが着いていた。

 

「可愛い!そのヘッドホンすごく可愛いわ、春日部さん!」

 

飛鳥は瞳を輝かせて耀に飛びついた。

 

「か、可愛い?」

 

飛鳥の言葉に意味が分からない耀はヘッドホンを頭から外し見る。見た瞬間サッと顔を青ざめた。

 

「な、なんで!?ちゃんと炎のトレードマークも付いてるのに形が変わってる!?」

 

飛鳥にもみくちゃにされながら困惑する耀。

周りはなんとも微妙な表情でネコ耳ヘッドホンを見つめていた。

 

「あのネコ耳を、十六夜さんに贈るのですか?」

 

「さ、さぁ?耀さんが判断するんじゃないかな?」

 

「ヤホホ………でも意外と喜ぶのではないでしょうか?」

 

そんな無責任な笑いを声を上げ近づく三人。

その後、フェイス・レスが耀のギフトを見たいと言い、耀がペンダントを渡す。フェイス・レス曰く、耀のギフト"生命の目録"は"他種族のギフトを戴く"だけではないと言う。

 

「"目録"からのサンプリング、“進化”と“合成”をするのが本来の役割のはず。気を付けて。本来ならばそのギフトは人間の領域を大きく逸脱した代物ですから」

 

そう言うとフェイス・レスはアンダーウッドの地下都市の崖を飛び降りて姿を消す。

 

それと同時に、槍兵が膝を着く。それを見た耀達が走りよってくる。

 

「大丈夫ですか!?」

 

「……大丈夫!?」

 

「ああ、心配ない。俺の維持が限界を迎え、主導権が本来の持ち主に戻るだけだ」

 

槍兵は息を吐きながらに言う。

 

「つまり、槍兵さんが……」

 

「気にする事はない。元より、本来こうして話す機会も、戦う機会も無かった。彼女が仲間に恵まれていると言うのをこの目で見ることが出来ただけでも、俺も恵まれているというものだ」

 

耀と黒ウサギに支えられ、壁に背を預けながらに言う。

 

「ありがとうございます。貴方が前線を支えてくれたおかげで被害が抑えられました」

 

「それは当然のことをしたまでだ。……態々口にするまでも無いが……天音を頼む」

 

それを聞いたノーネームの面々は

 

「当然よ!」

 

「……言われるまでもない」

 

「もちろんでございます!」

 

「はい!」

 

全員が好意的な返事をする。それを聞いた槍兵は目を瞑り

 

(天音、お前と言葉を交わすこともできなかったが……どうか幸運を)

 

そしてゆっくりと目を瞑る。それと同時に力が抜けそのまま座り込む。天音はまだ眠り続ける。

 

 




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エピローグ

お待たせしましたー


「……」

 

天音が目を覚ますと宿舎に寝かされていた。上体を起こし顔に手を当てて思い返していた。意識が沈む感覚、体に刃物を突き立てられた激痛と感覚。男の言葉。

 

『随分と侵食されてんなぁ。まぁ、オレの恩恵で弊害なくスムーズに力を引き出しているんだから……当然だな』

 

天音はこの言葉の意味を理解した。その直後さらに、恩恵の底に意識が1度沈められたのだから。その感覚は天音を蝕むのに十分であり、感覚を思い出すだけで体が震える。

 

(止まれ…止まれ、止まれ!)

 

両手で体を抑える。震えを無理矢理押さえつけて思考を止めようとするが、震えは止まることは無い。ただこの部屋にいるのは、己が強大な恩恵に押し潰されようとしている少女のみだ。

 

(ダメだ……このままじゃ……!)

 

眠っている間、恩恵の誰かが侵食を食い止めててくれた間の出来事は把握出来ている。それ故に自分が動かないと行けないというのは重々理解していた。

 

(動かないと……!)

 

急いでベットから出ようとすると

 

「そんな顔色が悪い状態でどこに行くつもりだよ天音。何時もの余裕が無い酷い顔だぞ」

 

天音が声のするほうを見ると宿舎の入口には見覚えのある金髪の少年が立っていた。

 

「い、十六夜!?」

 

「おう、他の誰に見えるよ」

 

笑いながらに十六夜が入室してくる。見知った顔を見て天音はホッとする。でもそれと同時に自分の胸の内を隠すように言われた言葉に噛みつく。

 

「十六夜にしか見えないけど……。それはそれとして、酷い顔って何さ。確かに最近は夢見が良くなかったかもだけど、酷い顔って言われるほどじゃないと思うんだけど」

 

強がって反発してくる天音に十六夜は肩をすくませながら、なにか言おうとしたが、踏み出せず

 

「まぁ、悪かった。そんなに怒んなよ」

 

茶化すように誤魔化した。無論何があったのかは既に黒ウサギから聞いている。巨人族の襲撃、"顔亡き者"やジャック達との共闘。そして……天音の現状についても。十六夜は薄々何かが天音の身に起きていると言うのは感づいてた。普段の十六夜なら踏み込んでなんて無いふうに話をしただろう。

 

だが、出来ないでいた。

 

「それで、気分はどうだよ?こっちに来たら寝てるもんだからよっぽど騒いで疲れたと思ったんだけどな」

 

天音は十六夜の様子を見て、

 

(良かった……バレてないんだ……。皆にも心配かけたくないし、隠し通せたら良いんだけど)

 

と思った。

 

「うん……観光は楽しかったよ。そのあとは、夢を見ていて……気がついたらベットで寝てた」

 

「呑気だな。じゃあ、外の事は知らない感じなんだな?」

 

二人の間に沈黙が生まれる。十六夜は知っているかもしれないと言う思考があり、天音は知っているけど眠っていたため知っているとは言えないからである。

 

「まぁ、簡単に言うと巨人族の襲撃があったらしいぜ。それを皆で協力して退けたらしいんだよな」

 

「…そんな時に……私は……!」

 

天音は強く拳を握る。そう、そんな時に天音は意識が浮上すること無く、意識の底に沈んでいたのだから。恩恵の侵食を食い止めた人物が表面化したから大きな被害が出なかったが、もしも表面化しなかったら、今以上の被害が出ていたことは明らかであり、天音自身の命にも関わってきただろう。

 

「まぁ、被害は最小限に抑えられてたんだ。そこまで気に病む必要はねぇ。襲撃がこれで終わりとも思えないしな」

 

直後

 

――目覚めよ、林檎の如き黄金の囁きよ――

 

不吉な声が2人の耳に入る。そして黄金の琴線が弾く音が響く。

 

詠唱は続く

 

――目覚めよ、林檎の如き黄金の囁きよ

 

目覚めよ、四つの角ある調和の枠よ。

 

竪琴より夏も冬も聞こえ来る

 

笛の音色より疾く目覚めよ、黄金の竪琴よ――――!

 

十六夜と天音はすぐ様、外に出る。異変は詠唱だけでは無い。

 

「この詩はまずい!確か巨人族から奪った竪琴は……!ああ!クソが!やられた!!」

 

「どういうこと十六夜!?」

 

「ああ!あの竪琴はなぁ!」

 

『如何にも。貴様の想像通り、あの竪琴は"来寇の書"の紙片より召喚されたトゥアハ・デ・ダナンの神格武具。敵地にあって尚、目覚めの歌で音色を奏でる神の楽器だ』

 

「トゥアハ・デ・ダナンって確かケルト神話の!」

 

「ああ!大地母神ダヌーを祖神とする神々の一族。ダーナ神族とも呼ばれる奴らだ。巨人がそれだとすると……!」

 

天音とは十六夜は互いに背を預けて警戒する。

 

『急くな、創元の娘とその同士よ。今宵は開幕の一夜。まずは吸血鬼の姫―――"魔王ドラキュラ"の復活を喜ぶがいい!!』

 

「魔王ドラキュラ!レティシアに何を!」

 

天音は聞き返すのと同時に、夜空が2つに裂け暗雲に飲み込まれ雷光が走る。そして割れた空から

 

「まさか……あれが…!!」

 

『そう。神話にのみ息衝く最強の生命体――龍の純血種だ!!!』

 

常識外れの雄叫びがアンダーウッドの総身を揺り動かす。

 

「龍…!これが龍!!」

 

十六夜はかつてない威圧感に戦慄し

 

「……」

 

天音は言葉が出なかった。巨龍が雄叫びをあげる度に落雷が降り注ぎ、地下都市を覆う根は一瞬にして焼け落ちる。それだけではなく

 

「巨人族もこっちに向かっているぞ!」

 

「ええい!この非常事態にわらわらと現れたやがって……!!」

 

罵声が飛び交う中、巨龍の雄叫びと稲妻が激しくなる。一層大きな雄叫びが震撼させると、巨龍の鱗が雨のように降り注ぎ、1枚1枚が巨大な亀や大蛇となり街を襲い始めた。その光景を見た天音の胸は早鐘を鳴らす。そして……駆り立てられるように、強迫観念に押されたように。圧倒的な速度を持って街に飛び込む。

 

「っ!待て天音!!」

 

十六夜の静止も振り切り、街に降り立つ。そして…巨人族、亀や大蛇と対峙する。

 

その時黒い封書が舞い降りる。

 

『ギフトゲーム名:"SUN SYNCHRONOUS ORBIT in VAMPIRE KING"

 

・プレイヤー一覧

 ・獣の帯に巻かれた全ての生命体。

 ※但し獣の帯が消失した場合、無制限でゲームを一時中断とする。

 

・プレイヤー側敗北条件

 ・なし(死亡も敗北と認めず)

 

・プレイヤー側禁止事項

 ・なし

 

・プレイヤー側ペナルティ条項

 ・ゲームマスターと交戦した全プレイヤーは時間制限を設ける。

 ・時間制限は十日毎にリセットされ繰り返される。

 ・ペナルティは"串刺し刑" "磔刑" "焚刑"からランダムに選出。

 ・解除方法はゲームクリア及び中断された際にのみ適用。

 ※プレイヤーの死亡は解除条件に含まず、永続的にペナルティが課せられる。

 

・ホストマスター側 勝利条件

 ・なし

 

・プレイヤー側 勝利条件

 一、ゲームマスター・"魔王ドラキュラ"の殺害。

 二、ゲームマスター・"レティシア=ドラクレイア"の殺害。

 三、砕かれた星空を集め、獣の帯を玉座に捧げよ。

 四、玉座に正された獣の帯を導に、鎖に繋がれた革命主導者の心臓を撃て。

 

 

宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。

                             "       "印』

 

それは魔王のギフトゲームであり、そのゲームマスターは天音が危惧したレティシア本人でもあった。




天音の最新バージョンイメージイラストをAiで作りました。作者は絵は描けないのです!


【挿絵表示】


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次回より原作4巻!


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恩恵に沈む少女

アンダーウッド 西南の平野に天音は降り立ち巨人族、大蛇、巨亀と対峙する。龍角を持つ鷲獅子も決死の覚悟をもって戦っているが混乱している状態では指揮系統も連携も無いに等しい。

 

(状況は良くない。連携も何もあったもんじゃない!)

 

天音は拳を握りながら地面を軽く蹴り、巨人に一気に距離を詰めて蹴りを放つ。巨人は凄まじい勢いで建物や同族を巻き込みながら吹き飛んでいく。幻獣達は天音の姿を見て驚く。天音は

 

「今のうちに陣形を立て直したりしてください!」

 

雷光を纏い天音は迫り来る魔獣、巨人との戦闘を始める。

 

『アイツは確か名無しの!』

 

『だが!あの強さは異常だぞ!』

 

神雷を放ち、光を変幻自在に鞭のようにして斬り裂いたり、レーザーのように撃ち抜いたりと多彩な戦法で戦場を駆け巡る。しかし、

 

(体が……重い……!いつも以上に動けない…!!)

 

精神的に疲弊している天音にとって今のコンディションは最悪である。精彩を欠いた動きで、勢いも平時の6〜7割程しかない。本調子から遠い状態なら決定的な隙が生じてしまう。

 

『む!危ないぞ嬢ちゃん!!』

 

「っ!」

 

「ウォォォォォオオオオオ!!!」

 

巨人が投げた鎖が幾重にも重なり天音の自由を奪う。そしてそのまま剛力の勢いにものを言わした叩きつけが天音を襲う。一度、二度、三度と地面にたたきつけられる。その度に地面に亀裂がはいり、轟音が響き渡る。幻獣は天音が挽肉になった事を疑わなかったが、次の瞬間には鎖が融解し

 

「ふっ!!」

 

鎖の束から槍を持った天音が飛び出し、鎖を持っていた巨人を仕留める。多少の出血が見られるが、戦闘続行には支障はなさそうである。そのまま天音は槍を握り魔獣と巨人族を相手にする。弓に持ち替えたり、剣を出したりして戦線を押し上げようと奮戦する。しかし、次第に意識が遠のいていく。

 

槍、剣を振るう度、弓を引く度、それは顕著に出てくる。そして鎖と重しがつけられたように徐々に体が重く感じ、意識が沈んでいく。

 

(ダメ……この感覚…!また……!!)

 

天音は頭を抑えてふらつく。そして巨人族が杖から放つ雷撃が天音を穿つ。俯き両膝を着く。天音の意識は再び恩恵の底に沈む。

 

ゆっくりと天音は立ち上がり、槍の一振眼前の巨人と魔獣の命を薙ぎ払った。

 

その場にいる誰もが理解が出来なかった。物量で押されていた少女が急に吹き返し巨人族と魔獣を一瞬で薙ぎ払ったのだ。技のキレが増したなんて生易しいものではない。そこからはほぼ単独で天音は巨人をなぎ払い、巨亀を射抜き、大蛇を蹴り穿つ。最初はその惨状を少しでも抑える為に動き始めたものだが、その現状はただ目に映る敵対者を効率よく屠っているに過ぎない。その動きに淀みはなく、無駄が無く、洗練されているものだった。

 

その動きを見る十六夜は拳を強く握りしめていた。迫り来る巨人族を投げ飛ばしながらも天音を見て

 

(本気でこのまま行けば……話に聞いた通りになるってか……槍兵ってやつが言っていた力を振るうだけの……!)

 

強くなったことは仲間としては喜ばしいことこの上ないことだが、その弊害がある以上喜ぶことは出来ないし寧ろ戦って欲しくないと十六夜は思った。だが、状況がそれを許さない。

 

(……クソが)

 

十六夜は東南平野の加勢に入る。現状それが最善だと本人が1番理解しているからだ。だからこそ、龍角を持つ鷲獅子の現状の体たらくにはひとつ文句が言いたくもなる。もっとやる気を出せば天音はと考えて頭を振る。

 

(例えそうでも……お人好しのお前なら前線に出るよな。んな事は分かってる!)

 

十六夜は巨人族と向き合い

 

「悪いが、少し付き合ってもらうぜ?ケルトの巨人族、収穫祭の妨害の件と個人的な八つ当たりも含めてな!!」

 

獰猛に吠えて十六夜も戦闘を本格的に開始する。

 

報告を受け戦場を見ているサラは呆けていた。

 

「黒ウサギ殿……なんだ、アレは」

 

一大事に何を呆けていると言われればそうなのだが、普段は毅然とした立ち振る舞いをする彼女が呆けるにも理由がある。

 

東南の十六夜と西南の天音により巨人族の進行を食い止め戦線を押し上げるどころか殲滅せんとする勢いで形勢をひっくり返そうとしていたのだ。

 

天音は先程の戦いでも話を聞いていたが、十六夜は全く初めて見聞きするものだ。その目で二人の戦いを見るとまさに一騎当千の強者である。だが、サラが黒ウサギの方を見ると辛そうな顔をしていた。その視線の先は西南、天音のいる方だ。その戦い方、武器の持ち替えを見る度に想起されるのは神話の英雄の技量。が槍兵が言う通りにこのままじゃ進めば、感情持たぬ戦闘人形となると……。

 

(天音さん……!槍兵さんは乗り越えるしかないと仰っていましたが!何をどう天音さんが乗り越えたら大丈夫となるのですか!?)

 

解決策を言ったようで要約すると本人次第だ。ただ、黒ウサギは見ているしかない現状がどうにかしたいと十六夜を頼る形で、今回の件を話した。

 

その時の十六夜は大きなため息をつき、顔を手で抑えて天を仰ぎ

 

『厄介なことになりやがったな……。腹になにか抱えてんなぁって思ってたけど、思ってたより重症だな!!』

 

笑いながらに言っていたが、目だけは笑っていなかった。そんな事を思い出しながらも黒ウサギは槍兵の言葉を思い出す。

 

『……天音を頼む』

 

あの場の全員が聞いた言葉。天音の仲間であるノーネームに託された言葉。そんな風に言われたら何を悲観する必要がある。何を迷う必要がある。出来ることなんて分かりきっているのだ。だったら、それをすればいいと黒ウサギはふと吹っ切れた。

 

(そうです!!天音さんが乗り越えて解決するなら!黒ウサギ達が支えればいいのです!!その為に槍兵さんは黒ウサギ達に託したはずです!!)

 

黒ウサギは奮い立ち1歩前に出てサラに言う。

 

「審議決議が受理される時刻は間もなくです。それを知らせますので、サラ様は都市内の魔獣掃討作戦に加わり指揮を!」

 

「うむ。心得た」

 

黒ウサギは自身のギフトカードから疑似神格・金剛杵取り出した。そして髪を緋色に変えて立つ。ヒョコヒョコとウサ耳を揺らした黒ウサギアンダーウッド全域に宣言する。

 

「"審判権限"の発動が受理されました!只今から"SUN SYNCHRONOUS ORBIT in VAMPIRE KING"は一時休戦し、審議決議を執り行います!プレイヤー側、ホスト側は共に交戦を中止し、速やかに交渉テーブルの準備に移行してください!繰り返し……!」

 

黒ウサギが審議決議の宣言をしている最中、巨龍は咆哮をあげて動き出した。雷雲を撒き散らしアンダーウッドへと急降下し始めたのだ。身動ぎひとつで大気を震撼させる。巨龍はただ動いただけに過ぎない。審議決議が受理されている以上、危害を加えようとする行動に意味が無いからだ。だが、それだけで戦場の全てを空へと巻き込んで吹き飛ばした。敵味方の概念なく等しくその場にいる全てを空へ余波だけで吹き飛ばした。

 

「馬鹿な……こんなことが!?」

 

サラは軋む大樹に縋り付きその光景を見る。視界に移るのは巨龍と巨龍によって巻き上げられた瓦礫の残骸と悲鳴をあげて落下する仲間と巨人族のみである。

 

その時、落下する瓦礫に紛れて何かが光り輝くと、仲間を助けるように空中に光のネットが広範囲に展開された。

 

時はほんの少し巻き戻り、巨龍が動きその場の全員が空中に投げ出された時に戻る。天音も例外なく空中に投げ出される。そしてそのタイミングで天音の意識が戻ったのだ

 

「っ!?うっ……おぇっ……!!」

 

急に意識が戻ったのと、今まで沈んでいたと言う事実で思わず吐きそうになる。一寸の先にもう戻れないんじゃないかと言う不快感と恐怖が天音を確実に蝕む。だが、そんな感傷に浸っている状況じゃないというのを理解させられる。

 

「皆……!!」

 

瞬時に天音は頭を働かせる。1人でも多く仲間を助ける為に。しかし、そんな便利な技量も武具も思い至らない。しかし、ゲーマーとしての天音が思いつく。乾いた笑いを漏らし

 

「……助からなくても、文句なしだよ」

 

天音は自身の力の光を瞬時に集約させ

 

「届け……!!」

 

それを自身を中心に網目状に光を展開し、瓦礫と巨人族、魔獣を除いて引っかかる様に展開する。そうして、ゲームは一時的に休戦へと至る。




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