黒猫とマタタビ。 (ゆかめ)
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いち。

新参にわかPです。初投稿です。文才ないです。駄作ですが暇つぶしにどうぞ。


しほすき。


昼休みが終わり、午後の最後の授業が始まり数十分。ペンを走らせる音と中年の男性教師の穏やかな声音が教室内に響く。

 

「あー...眠い。」

 

教師に聞こえぬよう思わずそんなことを小声で呟いた。

俺達は今年中学3年で、受験シーズン真っ只中である。今は必死にノートをとるのが普通なのだ。しかし、自分で言うのもなんだが聞いてるだけで内容は理解できるくらいには頭の出来は良いし、進学先も行きたいところがあるわけでもないので、必死に勉強する意味が無いのである。我ながらやる気の無さだけはこのクラスで一番の自信がある。

と、下らないことを考えていると授業終了のチャイムが鳴った。

授業が終わり脱力してる奴や、帰りに何処かに寄ろうと友達と談笑している奴らを視界に入れつつ教材をまとめて教室を出る。俺?俺が通る通学路は一緒に帰るような奴なんていない。別に悔しくないし。友達自体はいるから平気だし。登校した時にごく稀に挨拶するくらいの仲の友達いるし。...それって友達なのか?

自分で言ってて悲しくなったのでここらでこの話はやめておく。

 

「今日の夕飯何にしよっかなー...」

 

我が家は両親共に夜遅くまで働いているので基本的に自分で作って自分で食べる。まあ簡単なものしか作れないからインスタントに頼ることも多々あるが。

食べたいものを思い浮かべながら靴を履き替え校舎を出る。

 

「...ん?」

 

学校が大分離れて小さくなった頃。

ふと、ウチの学校の制服を着た女子生徒が視界に入った。

見覚えがないがおそらく下級生だろう。ウチの中学はスクールバッグにつける校章が学年ごとに違うからそこで判断した。そもそも知り合いなんてまともにいないから見覚えがあるない以前の問題だけどな!...さっきからなんで自虐してるのだろうか。

 

「...どうしよう」

 

どうやら困っているようだ。正直買い物をしにスーパーに寄らなきゃなのでスルーをしたいところではある。しかし、女の子を放っておくのは男のプライドが...

なんて、下らない葛藤をしていた時、ふと思い出す。

 

(まてよ...?あの子どっかで...)

 

さっきは見覚えがないとか言ったがよく見るとなんだか見たことのある顔だと思い始めてきた。ていうか、こんなにジロジロ見てるけどバレてないよね?距離かなり離れてるし平気だよね?

 

記憶を必死にたどること数分。

 

(...確か最近テレビに出てたよな?でも...うちの学校に有名人いるなんて知らなかったぞ...)

 

そもそもまともな知り合いが(ry。

非常に整った顔立ち。若干ウェーブがかった長くて艶のある茶髪。中学生とは思えないスタイル。そしてこれまた歳に合わない大人っぽい落ち着いた雰囲気。

 

(最近テレビで見たぞ...新人アイドルの...なんとか沢さんだ...!!)

 

ダメだ。名前が全く思い浮かばない。「沢」がつくのは覚えてるんだが...。まあそれはそれとして、最近勢いづいている新人アイドルが困った表情を浮かべながらスマホを弄っている姿を見て放置することが出来るだろうか?もちろん答えはNoだ。

ということでアホみたいに時間かけた末に声をかける。

 

「...何か困ってるみたいだけど...大丈夫?」

 

話しかけてから気づく。失敗した。それも二千年に一度くらいのレベルの失敗である。なぁにが「なにか困ってるみたいだけど...大丈夫?」だよ。自分の顔面が絶望的なのを忘れてた。有名人に話しかけたいっていう下心で頭がいっぱいだった。よく考えたらキモい男が可愛い女の子に話しかけてる時点で色々やべーじゃん。周りの帰宅中の女子生徒がこっち見てコソコソ喋ってるし。やめろ!これは見せ物じゃないんだぞ!あなた方の目へのダメージを減らす意味でも見るのをやめることを強く推奨します。くっ...

 

「───っ」

 

ほらー固まっちゃったじゃーん。あまりの顔面偏差値の低さに固まっちゃったじゃーん。この世の終わりみたいな表情してるよこの子。...生まれてきてごめんなさい。

とはいえ、このまま固まったままなのも不味いので現状をどうにか変えなければ。

 

「あー...いきなりごめん。余計なお世話だったかな。じゃあ...俺はこれで。」

 

「三十六計逃げるが勝ち」だ。逃げるは恥だが(おそらく)役に立つ。ほらそこ、話しかけといて逃げるのはズルいとか言わない。仕方ないやん、俺にはまともなコミュニケーション能力が備わってないんだもの。ここからどうしろってんだ...。さよなら俺の青春...!!さよなら俺のリア充ライフ...!!

まあ、有名人とお近づきになれるなんて微粒子レベルでしか考えてなかったからいいんだけれど。あ、微粒子レベルでも考えちゃダメですかそうですか。

と、脳内でゴタゴタと下らないことを考えながら背を向けた時、件の女子生徒がこんなことを言った。

 

「あの...名前...教えてもらってもいいですか?」

 

(えぇ〜...)

 

公開処刑でもなされるんですか?

学校中に変な噂でも流されるのだろうか、もっとひどい仕打ちを受けるかもしれない...やってしまったか。

これから来るであろう拷問に頭を悩ませていると俺が口を開かないことにはっとしたのか、再び新人アイドル(?)が口を開く。

 

「...お声をかけて頂いたということは相談に乗ってもらえるのかと思いました。赤の他人のままというのも変かと思ったので...」

 

と、目を泳がせながらそんなことを言った。なんだか取り繕ってるけどテンパってるのが隠せてない、可愛い。落ち着いた雰囲気だったからこんな表情するとは思ってなかった。まあ、人は見かけじゃないっていうからね。決めつけるのは良くないか。ていうか、大丈夫なの?こんなのに悩み話しちゃうの?何もしないけど何されるかわからないよ?普通初めて会った人にこんなに心開けないよ?俺だったら速攻で声張って助けを呼ぶね。初対面で明らかにやばめの見た目してる男が話しかけてくるとかそれなんて悪夢?

それはともかくとして、悪意はなさそうだし(ていうか無いと信じたい)、名前を伝えなければ。黙ってるのもアレだしね。

 

「お、俺は凪。神山凪(かみやまなぎ)、3年。良ければ君の名前も教えてくれる?」

 

やっべぇー。途中から異性に自分から話しかけたことを思い出して緊張してしまった。会話からデュフデュフ聞こえそうな勢いじゃん。どもってんじゃん、キョドってんじゃん、デュフってんじゃん!...デュフってるってなんだよ。

 

「.....」

 

...ああ、そうか。この子新人とはいえアイドルだし、まあまあ人のいるここで名前を出すのは不味いか。...よし。

 

「ああ、無理には聞かないよ。ごめんね?...それで、何に困ってたのか聞いてもいい?」

 

俺にしてはだいぶ頑張ったのではなかろうか。歳の近い異性にこんな優しい言葉をかけたのは今日この時が初めてだ(これが優しい言葉なのかどうかと言われると微妙な所だが)。誇っていいぞ新人アイドル(?)君。うれしさよりも俺の心が傷ついた割合のほうが高いのは触れないでおく。

 

「えっと...連絡先、交換しませんか?」

 

おい。

 

.........おい。

 

冷静になるんだ、俺。

 

何をトチ狂ったんだこの子は。喜んで教えますはい。...ってそうじゃなくて、流石にまずいだろ。一応人目もあるのに。いや、そこじゃなくて...危機感ないのか?...じゃなくて、なんで連絡先なんだ、必要ないだろ、絶対。

 

「...っ!すいません、忘れてください。...失礼します。」

 

そう言って少し早歩きでこの場を離れる新人アイドル。

そうだよな、混乱してたんだよな、良かった。...なんだろうこの虚しい気持ち。上げて落とされたこの感じ。しかもいろいろ手遅れ感が否めない。まあ異性と話せたというだけで大分頑張ったし、この会話に意味はあったと思うぞ、俺は。...コミュ障とか言わないで、自覚してます。

 

「...結局悩み解決してなくね?」

 

まあ、危機感を感じて逃げたんだろう。きっとそうだ。...悲しす。

 

「...ま、いっか。」

 

気を取り直して買い物をするためにスーパーに歩き出し、すぐ隣にある公園の時計に目を向けた。

 

 

肉の半額セール始まってるじゃねえか!

 

 

 

─────

 

 

「ドラマ...ですか?」

 

新人とはいえ、アイドルとして活動してきてそれなりに名前が知られることが増えてきた頃。レッスンルームでレッスンをしていた私の元にプロデューサーさんが来てそう告げた。

 

「ああ、最近勢いづいてきたこのタイミングでドラマのヒロイン役を貰ってさ。恋に悩む女子高生役なんだが...俺なりに考えた結果志保が適任だと思ったんだ。」

 

この人は本当に私が適任だと思っているのだろうか?自分でも感じているが、私は決して表情豊かではないし、柔らかな笑顔をしたりもしない。

それこそ、所さんや佐竹さん等、私より適任の人が沢山いるというのに。しかし、任されたからにはしっかりとこなさなければならない。少し懐疑の目を向けつつ答える。

 

「私が恋に悩むヒロイン...?まぁ、やれる限りのことはしてみます。よろしくお願いします。」

 

「おう。頼んだぞ!じゃあ、俺はこのあと環に付いていかなきゃだから、よろしくな。何か困ったらすぐ言ってくれよ?志保は素直じゃないんだから。」

 

私がムッとした表情を向けるが、プロデューサーは「ははは」と笑い流してレッスンルームを出ていってしまった。

 

...恋、か。

 

私は出来ることはしっかり取り組むべきだと思っている。特に演技には人1倍力を入れているつもりだ。その役の気持ちになり考え、演じることが多いのだが、私は恋をした経験なんてないし、アイドルをやっているうえで恋愛なんて必要ないと思っている。765プロダクション自体は別に恋愛禁止と言っている訳では無いが、やはり世間で認められているかといえばそうではない、むしろ風当たりは悪いだろう。そういうこともあり、恋愛をしているアイドルなんて見たことがない。出来る限りやってみるとは言ったものの、どうしたものか。

困ったらなんでも言ってくれ、とプロデューサーは言ってはいたが、正直、どこか頼りないのだ、あの人は。

この前だって...いや、それはともかく。

あーでもないこーでもないと頭を悩ませたが、結局この日中には答えが出ることはなかった。

 

 

─────

 

 

翌日。答えの出ないまま時間だけが過ぎていく。気がついたらもう下校である。仕方が無い、シアターの人に聞いてみようかとも思うが同じアイドルに聞いても意味があるとも思えない。

 

「...どうしよう。」

 

あれよあれよと考えながら下校している時、無意識にそう呟いていたらしく後ろから声がかかった。

 

「...なにか困ってるみたいだけど...大丈夫?」

 

振り返ると、そこには、私と同じ学校の制服を着た男子生徒が立っていた。下を向いていた目線を、振り返り相手の顔に向ける。

すると、

 

「───っ」

 

どうしてだろうか。身体が動かない。目の前の人から目が離せない。冬のはずなのに、顔が熱い。身体が熱い。

人形のように精巧な少し幼さの残る顔立ち。平均よりやや低いが、しっかりした身体。そしてなにより目を惹くのは病的なまでに白い肌と透明感のある白い髪。その容姿はまるで─────

 

───絵本の中から飛び出してきた王子様のようで。

 

そのすべてから目が、耳が、身体が、抗うことが出来ない。

全てを一瞬にして奪われたかのような感覚が私を襲う。

しかし、ここで少し冷静になった頭で考える。わたしの男性のタイプはもっと渋い大人の男性である。

確かにこの容姿はどんな人でも1度は振り向くだろう。しかし、何故ここまで...

少し冷静になったとはいえ頭はまだまとも考えることも出来ないはずなのに、勝手に自分の口が動き出し、背を向けた彼を呼び止めるかのように言葉を紡ぐ。

 

「あの...名前...教えてもらってもいいですか?」

 

...私はなんてことを口走ってしまったのだろうか。冷静になったなんて全くの嘘だった。基本的に私は他人に興味が無いし、いきなりここまで心を開いたりなんてしたことがない。善意から話しかけられたとはいえ、赤の他人に私の問題を押し付けるなんて都合のいいことをしたりしないし、こんなこと言ったりしない。一体どうしてしまったというのだろうか。

...兎に角、上手く誤魔化さなければ。

 

「...お声をかけて頂いたということは相談に乗ってもらえるのかと思いました。赤の他人のままというのも変な話かと思ったので。」

 

もう少しやんわりと誤魔化そうと思ったが、無意識に言葉がきつくなる。というか、何故私は悩みを聞いてもらおうとしているのだろうか。さっきから考えていることとやってることが全く一致しない、体がいうことを聞いてくれない。

何が楽しいのか、彼は私に生暖かい視線を送ってきた。彼に見られていることを意識すると、またしても身体が熱くなるのを感じる。誤魔化すために私が表情を引き締めたのに気づいたのか、眉を少し八の字にして困った笑顔を見せた後、彼は口を開いた。

 

「お、俺は凪。神山凪(かみやまなぎ)、3年。良ければ君の名前も教えてくれる?」

 

凪。神山凪。目の前の彼の名前が透き通った声と共に頭の中を駆け回る。3年生ということは、歳上だということだ。いや、今はそうじゃないだろう。やはり今日の私は、どこかおかしい。

 

「.....」

 

私はまたしても彼に目を奪われ、思わずぼーっとしてしまった。

はっと我に返ると彼はまたしても困った表情を浮かべていた。

 

「ああ、無理には聞かないよ。ごめんね?...それで、何に困ってたのか聞いてもいい?」

 

気を使わせてしまった。それにしても、こんなことになって今更ながら正直に話していいのかと疑問に思う。顔を知られてないということはアイドルであることから話さなければならないだろう。それに恋について悩んでいるだなんてアイドルという立場から言ったら誤解されそうだ。なにより一番不安なのはこの人にこの事を話したら、根拠はないがもっと私が可笑しくなってしまう気がするのだ。

頭を悩ませていると、またしても勝手に口が開いてしまう。

口を閉じようと必死に脳から指令を送るが、抵抗むなしく声が発せられる。

 

「えっと...連絡先、交換しませんか?」

 

そろそろ本当に不味い。熱でもあるのだろうか。赤の他人で、ましてや異性にいきなり連絡先を交換しないかなどと言うなんて、もはやナンパではないか。もうこれ以上話しているともっと可笑しくなりそうなので、ここから早急に立ち去らなければ。

 

「...!すいません、忘れてください。...それではこれで。」

 

かなり無理やりだが、これでいいだろう。背を向け、少し早歩きで帰路につく。彼が見えなくなったところで頭を振り、思考を切り替えようとする。

しかし、

 

「神山...先輩。」

 

頭から離れない。顔が、表情が、声が、彼の雰囲気が。

だが、これからシアターに行き、大事な仕事の話がある。流石に気持ちを切り替えなければならないだろう。

再び頭を振り、仕事のことで無理やり頭の中から彼を追い出す。

 

 

.....明日には忘れられるだろうか。いいえ、忘れよう。頼むから忘れていますように。

祈るように明日の自分に押し付け、今度こそ思考を切り替えシアターに向かった。

 




志保に先輩って呼ばれたい人生だった。ミリオンの小説もっと増えないかなぁ。


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に。

まさか1話書いて辞めるとは自分でも思わなんだ。


朝。そう、朝である。それも火曜日の朝である。...いや、別に曜日とか関係ないんだけども。とにかく朝が弱い俺にとって平日の朝ってだけで辛いから、「月曜日よりマシだな。」なんて考え方出来ないし。...朝から必死こいて誰に説明してるんだ俺は。

 

「...起きよう、うん。いつもこんな感じで時間ギリギリまでベッドの中で粘っててもどうせ遅刻しそうになって焦るだけって俺は学んだんだ。」

 

学習できる俺、えらい。...まさかとは思うが、むしろ15年間生きてきて今更覚えたのかなんて野暮なこと言うやつは居ないよな?

 

「っといかんいかん。俺としたことがまたしてもくだらない事考えて時間潰すところだった。」

 

くだらない事考える癖を何とかする方が先決な気もするが、それはこの際置いておく。クローゼットから制服を取りだして着替え、部屋を出る。

 

「ん?おお、おはよう。もうそんな時間か。...って、いつもより早いじゃないか。珍しいこともあるもんだな?」

 

「おはよ。...いい加減俺も学習したんだよ。なんてったって天才だから。」

 

新聞を読んでいた親父と挨拶をかわす。新聞を読む日とテレビでニュースを確認する日がある親父だが、今日は新聞の気分のようだ。

 

「あんたが天才ならあんた以外の全人類はきっと神様かなんかでしょうね。...馬鹿なこと言ってないで顔洗ってきなさいバカ息子。」

 

久方ぶりに早起きをしてテンションが少しばかり高くなっていたところに、母上から容赦ない言葉の矛が飛んできた。

 

「おまっ、言っていいことと悪いことがあるだろ!馬鹿っていったな!しかも2回も!実の息子になんてことを!」

 

およよ、とわざとらしい泣き真似をしながら洗面所に向かおうと方向転換して歩き出すと、後ろから「フッ」と鼻で笑われた。解せぬ。

 

顔を洗ってリビングへ戻ると、テーブルに朝食が並んでいた。朝食らしくトーストとベーコンに目玉焼き。実に俺好みでテンション上がる。

 

「「「いただきます。」」」

 

3人一緒に食べ始める。普段はギリギリまで寝ているので、起きてきたら基本的に両親は既に家を出ているため実に1年くらいぶりの3人揃っての朝食である。まあ別にだからどうというわけではないが。

 

「ごちそうさま。...さて、今日はもう学校向かうわ。いってくる!」

 

「あら、出るのも早い。いってらっしゃい。」

 

「ああ、いってらっしゃい。」

 

基本的に食事中は無言で食べ進めるタイプの我が家は会話があまり発生しないのだ。別に仲悪いとかじゃないからね?

一足早く食べ終えた俺は、なんとなく出来るだけ早く学校へ向かいたくなったため家を出る。とはいえ走ったりはしない。焦る必要はどこにも無いからね。

 

「...っと。」

 

横断歩道で赤信号を確認し、立ち止まる。ポケットからスマホを取りだし、通知が溜まっているRINEを確認する。友達(ネ友)へ軽く返信し、スマホをしまい込む。

 

「....ん?んん?」

 

信号を渡り学校への道を進んでいると少し前を歩く1人の女子生徒が目に入った。あのウェーブがかった茶髪、間違いない。昨日俺が無謀にも話しかけてしまった...あのー、えーっと、そう。なんとか沢さんだ。

結局なにも力になってあげれなかったしもう一度声をかけるべきか?昨日の光景を見られている時点で今更誰に何言われても変わんないし。いや、悪口はあまり言われたくないけども。

 

「あー...っと、そこの君。昨日少し話した神山だけど。...大丈夫だった?」

 

メタル凪だけど。...謎の電波を受信してしまった。それはさておき結局勢いで話しかけたが名前がわからないことに声をかけてから気がついた。だがもう引き返せない。久しぶりに朝早く家出てナンパまがいのことしてて泣きそう。何度も言うけどナンパじゃないからね?いやマジで。

 

「...っ!!あっ、ええと、その....」

 

「ああ、ごめんね?まだ名前も知らないから。って、そこじゃないか。はは」

 

くっ...沈黙に耐えきれない陰の者特有の無理やりな場繋ぎをしてしまった...!!そもそも余計なお節介だったのだ。ここはこのまま無かったことにしてここを立ち去るのが吉か。

 

「...北沢です。北沢志保、2年です。歩きながら話すには少し長くなりそうなので、お昼休みにお時間頂いてもいいですか」

 

おおう、昨日とは打って変わってすごくクールな返しされた。まあ昨日は誰が見ても錯乱してるなって感じたしこっちが素なのかな。何はともあれ嫌がられなくてよかったぁ。本心はどうであれ、せっかく頼られてる(?)んだから期待には応えたい。

 

「もちろん。...じゃあ購買横の自販機で待ち合わせでいいかな?多分下級生が上級生の教室に急に来たら変に注目されちゃうだろうし。逆も然りで。...きいてる?」

 

アイドルということをしってるのは他の生徒の中にも何人かはいるだろうから、変に周りの目を集めるのは良くないしね。我ながら賢い判断だと思う。賢いのハードル低いなおい。というかこの子、ボーっとしてる?体調が優れないのだろうか。え?俺と顔合わせたから体調が悪くなりましたって?やかましいわ。

 

「...っ、ええ。それではよろしくお願いします。」

 

言い切ってスタスタと校門を通っていく北沢さん。...ふぅ。ここまで俺は「誠実で人当たりが良さそうな優しそうな先輩」を必死こいてたのだが、出来ていたのだろうか...。初対面(正確に言えば昨日からだけど)の男の先輩に接点ないのに急に話しかけられたら絶対怖いよね。これで家族とかネ友に話す時のテンションで接したら絶対逃げられる。通報手前まで行くかもしれない。まあ北沢さんと長い付き合いになるわけでもないだろうし、個人的には疲れるが、取り繕ってでも丁寧に対応すべきだろう。そもそも俺が勝手に首突っ込んだ上に怖がらせちゃマズいしね。

 

「(何はともあれ、今日もボッチとして学校生活を満喫しますか。...泣きてえ。)」

 

泣きてえよほんとに。誰か、僕と契約して友達になってよ。いや契約なんてしなくていいからリアルの友達ください。切実に。

 

─────

 

教室のドアを開け中に入ると、いつもの如く何人かのクラスメイトが一瞬こちらに目を向け、すぐに興味をなくしたように視線を外す。特に女子によく見られる。陰口言われてそうでこわひ。そんな中、一人だけ俺に視線を合わせたままこちらに向かってくる奴がいた。

 

「おは~。神山昨日の宿題終わってる?写させてくんね~?俺に残された救いはお前しかいないんだ。助けてくれよ神様仏様神山様~!...神だけに。」

 

「......」

 

クソ寒いダジャレで思わず固まってしまった。

 

「...一応聞くけど、自分でやるっていう選択肢はなかったのか?まあ別に貸してやるけども。」

 

「助かるぅ~。やっぱ頼れるのはお前だけだぁ!良い友達を持ったぜ俺は。」

 

「聞けよ」

 

こいつは笹木 圭(ささきけい)。3年に上がってから時々こうして宿題を写させてほしいとせがんでくる、この学校で唯一と言ってもいい俺と会話してくれる同級生である。宿題たかられていいように使われてるって?...友達って言われたし。俺たちマブだし。ホントだし。ぐすん。

 

「てか!俺昨日みちゃったんだよ!あれはどういうことか説明しろ神山ぁ!」

 

「え、ちょ、なに?つーか落ち着け、揺らすな。首とれる。」

 

「お前、昨日の下校中に下級生ナンパしてたろ?しかもあの北沢さん!急に大胆なことしてて俺びっくりして何も無いとこで躓いちまったよ!しかもあっちもあっちで別れ際満更じゃなさそうな顔してたし!」

 

「ナンパじゃねーよ。...困ってそうだったから声かけただけ。つーか知り合いなの?」

 

「はぁ?お前北沢さんのこと知らねーの?仕方ないから教えてしんぜよう」

 

満更じゃなさそうに、それでいてウキウキした様子の笹木に嫌な予感がしたが、既に遅かった。

 

「え、いや、やっp「まず北沢さんはアイドルなの。最近じゃテレビにも少しずつだが出るようにもなった新人アイドル!あの765プロダクションに所属してて、それからなんと言ってもあの演技力!表情や体の細かい動作から繊細な演技をするって評判なんだぞ!それから────」

 

「」

 

は、早口すぎる...!!てかいつも俺とこんなに会話しないだろ。いつもなら宿題借りてサッとフェードアウトしてくのに。よっぽどアイドル好きなんだな...。あと北沢さんって765プロだったんだ。アイドルあんま詳しくない俺でも知ってる事務所じゃん。そもそも北沢さん新人アイドルなんでしょ?最近テレビに少しでてきたくらいの知名度なんでしょ?なんでそんな詳しいの。ガチの古参ファンなのか?しかも昨日のことばっちり見られてるし。それに加えて案の定誤解されてるし!もう何が何だかわかんねぇや!

 

「─────ってわけ。おい、聞いてたか?」

 

「いや...色々ツッコミたいとこあったんだけど、ひとつ聞かせてくれ。笹木お前昨日どこで俺の事盗み見てたんだよ」

 

「人聞き悪いこと言うな!普通に近くに居たわ!つーか盗み見なんて言うけどな、校門の端でであんな事やってたらいやでも目に付くわ!周りの女子が色めきだってたぞ。けっ、これだからイケメンは」

 

「それは俺がイケメンだから色めきだってたんじゃなくて気持ち悪くてどよめいてたんだぞ。そこんとこ間違えんな。」

 

「はぁ...行き過ぎた謙遜は皮肉に聞こえるぞ。」

 

「??」

 

思ったよりも俺の行動はまわりにしっかりと見られていたようだ。そりゃそうだよな。いつもぼっちの奴が急に下級生の女子に話しかけてんだもん。みんな胡乱な目で見てたに違いない。つーか俺がイケメンとかいう誰がどう見てもお世辞だと分かることを言っていたが、俺知ってるからな?お前がバレンタイン12個貰ったの知ってるからな?友達いなくても周りが話してるのが聞こえてくるくらいその話題聞いたんだからな。お前が顔面良くてユーモアがあってよくモテるの知ってるんだからな?女子とかちょいちょい話してるし。ちくしょう、神様は不公平だ。

 

「まぁそれは置いとくとして...実際のところ、どうなんだ?手応えあんのか?大っぴらに禁止されてはなさそうだけど、アイドルだし恋愛はタブーなんじゃねえの?それともそんなの神山にかかればちょちょいのちょいってことか?」

 

「何を誤解してんのか知らねーけど昨日は本当に下心で話しかけたわけじゃねえよ。困ってそうだったから声かけた。それだけ。それ以上もそれ以下もない。おーけー?」

 

「...まあそこまで言うならひとまず信じてやろう。そもそもうちのクラスの男子も女子もお前がいる手前そんなにでかい声で言ってないが、昨日からお前と北沢さんのことで話題持ちきりなんだぞ。お前と普段会話してる奴が俺くらいしかいないから俺に話聞けって押し付けられたんだよ。まあ俺も気になってたしそれはいいんだけど。...そのうちお前男子から刺されたりしないように気をつけろよ?」

 

「悪かったな友達いなくて。なんも面白いことなんてねーから周りにしっかり伝えておいてくれ。あと恨まれる覚えなんか俺にはないからな。みんな気になるなら話しかけりゃいいのに。」

 

「そんな肝座ってるやついねーよ...。ま、いいや。後でまたなんかあったら聞かせろよな!」

 

「はいはい。なんもねーけどあったらな。」

 

朝からドッと疲れた。何この質問攻め。つーか下級生一人に話しかけただけでこんなに大事になんの?まあアイドルだったからしゃーないとこもたしかにあるけども。...さすがに昼休みに悩みを聞くなんて爆弾投下したらろくでもないことになるのは目に見えていたので大人しく隠すことにした。うん、賢明だ、俺。つーか浮かれてたとはいえ、助けになりたいという気持ちの他に有名人と話してみたいと多少の下心があったこと、正直北沢さんに失礼だな。こういう所改めないとだな。

 

朝から色々とありすぎて早く登校して来たことを若干後悔しつつ、少しでも疲れを取るため、授業が始まるまで仮眠をとることにした。

 

─────

 

そして迎えた昼休み。クラスメイトがテーブルをくっつけ弁当を広げるのを視界に入れた俺は、これ以上自分が悲しい思いをしないように、そしてなにより約束に遅れないために購買へ向かうことにした。

 

階段を下り、購買に到着する。適当にパンとおにぎり、そして炭酸飲料を購入して自販機横の椅子に座り込む。

 

このままここで食事をしてもいいのだが、正直人がよく通るので視線が痛い。北沢さんと合流したら人気のない場所まで移動してから食べるべきだろう。...あれ?なんか北沢さんを人気のないところに連れ込んで飯食おうとしてる奴に見えない?これ平気か?おれはかんがえるのをやめた。

 

「...あっ」

 

そうこうしているうちに、北沢さんがこちらに気づいて近づいてくる。改めてみるのクッソ美人だな。...ほんとに年下?

 

「...おっ、来たね。昼食はもう食べた?...ってこんなに早く食べられないか。ここに集まっておいてなんだけど、良かったら他の場所に移動しない?ここじゃ人の視線も気になるし。」

 

「はい。ですが、いつも教室で昼食をとっているので、人気のない場所が分からないのですが...良ければ案内していただいても?」

 

ふむ。人気のないところが知りたいとな?任せなさい、なんてったって俺は生粋のぼっちだからね。それくらい熟知しているんだよ。...悲しいことに。

 

「ん、ああ、そっか。じゃあ、そうだな...屋上なんてどうかな。あんまり知られてないけど、実は屋上って閉鎖されているように見えて、入れるんだよね。」

 

「それは...問題になりませんか?あとから先生方に見つかったら...」

 

「ちょっとくらい平気だよ。...そろそろ行こう。人が増えてきた。」

 

「えっ...ちょ、ちょっと...!!」

 

階段を上り、屋上まであと少しのところで、後ろから動揺した声が聞こえてきた。

 

「あ...あの....う、腕を...!!」

 

「ご、ごめん、いきなり掴んだりなんかして。どうにも人の視線が気になっちゃって...」

 

「い、いえ...少し驚いただけですから。」

 

周囲の人からの目線を集めていることに気づき、直ぐに人の視線から逃れたいという欲求から、思わず彼女の腕をひっぱり歩き出していた。...うん、待って欲しい。そのスマホを頼むから置いてくれ。話せばわかる。俺も焦ってたんだ。昨日と同じように周りに見られながら会話するのキツかったんだ。

 

少し気まずくなってしまったが、無理やり空気を断ち切る為に屋上の扉に向き直り、ドアを思い切り押す。少ししか扉は開かなかったが、人が通るには十分だろう。

 

「めちゃくちゃ扉重いんだけど、こうやって開くんだよね。...さて、行こっか。」

 

2人で屋上に入り、扉を閉めた。

 




なんだか長くなりそうなので中途半端ですが切りました。それと、2話を投稿するにあたって1話も少し修正しました。...4年前の僕には志保が黒髪に見えていたようです。失礼いたしました。


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