ああ勇者よ、死んでしまうとは何事ですか。 (シズりん)
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プロローグ

ヘタレ勇者の大冒険Take2です。

前回の話しとは多少ことなります。


…ス様。

 

お目覚めください、ルビス様。

 

 

永い…永遠にも感じる凍てつく時のなかで、私に呼びかける者がいた。まだ覚醒し切らないままに瞳を開けるとそこには小さな小さな風の精霊がフヨフヨと羽ばたいている。

 

「ルビス様の選定された勇者が間も無く16になろうとしています。勇者の目覚めの時がきます。」

「そうですか。もうそんなになるのですね…人間の成長は早いものです。」

 

勇者は力を受け継ぐものが16になると勇者としての成長が始まる。

人類最強の力を最初から与えないのには訳がある。強大すぎる力は時として毒にもなり得る。正しい力の使い方を知る前の幼子に与えてしまうと力におぼれ勇者と言う名の魔王を作りかねない。例え本人がそうはならなくとも悪意を持った者が幼子のうちに洗脳するなんて事があるかも知れない。

だから私はある程度分別のつく年齢から勇者としての成長が始まり、旅の中で多くを学び経験しながら人類最強の勇者へと至るようにしたのだ。

その勇者が今まさに覚醒を果たそうとしている。

 

 

時を超えて異界からやってきた先の勇者が大魔王に敗れ三百年。彼は歴代の勇者の中でも特に優れた資質を持っていた。しかし大魔王が現れた時には既に全盛期をとうに過ぎていた彼は善戦も虚しく終には敗れてしまった。

 

大魔王はまず勇者の遺物である王者の剣を粉砕しようと手にしました。魔王は凄まじい力を発揮した王者の剣に対し存外脅威に感じていたのかもしれません。

しかし叩いても投げてもかじっても粉砕できないことにヤケを起こし意地になっている彼に敗れた腹癒せもかねて

『ぷーくすくす!』

って笑ってやったら大魔王は涙目になって怒り出し、私を石像に封じやがりました。随分と大人気ない方ですね。

結局彼は3年もの月日をかけてなんとか王者の剣を破壊しました。

ドヤ顔を向ける彼に

『ヘッ』

と冷たい目で鼻で笑ってやると

さらに彼は逆上し、なんと人々から光を奪い次第に聖地アレフガルドは絶望が支配する暗黒の世界へと至った。

小さい男ですね。

 

しかしそんな大魔王にも誤算はありました。

勇者を追うように時を超えてやってきた少女セニカとの間に生まれた光。まだ脆弱でたどたどしい微かな光。

でも私には分かる。この光はいずれ世界中の人々の希望になると。

私は光がより強く輝く日を待ち続けました。

 

そうしてついに待ち望んだ日がやって来たのだ。

 

長い年月封じられていた今の私には大した力はない。でもせめて彼の子孫…輝く希望の光の旅立ちくらいは立ち会いましよう。

きっとどこか遠くで彼も見守っていることでしょう。

 

私は勇者の母親に入り込むと、彼女が読んでいた古の冒険の書を閉じ、そっと本棚にしまう。もう彼女の先祖…ローシュの冒険ではなく、今日この日この瞬間から新しい希望の冒険の書が始まるのだから。

 

 

「起きなさい、起きなさい私の可愛いぼうや(勇者)。今日はお前が初めてお城に行く日でしょう。」

「……」

 

ゆさゆさと揺すって起こすが返事がない、ただのしかばねのようだ。

 

「ちょっと、早く起きなさいってば!あなたは今日王様に旅立ちの挨拶をしてお父さん(オルテガ)の敵討ちの旅にでるんでしょ!?」

 

今度は布団を剥ぎ取るように強めに起こすと、勇者は布団を取られまいとしがみつきながら

「あと5分…」

とかのたまいやがりました。

 

ヤバイです、この子ダメな子だ。

 

私は瞬時に悟りました。しかしそんなダメな子でも勇者は勇者。私はあの手この手で勇者を起こそうとしました。

 

「ほら、旅立ちのときくらいシャキッとしないと精霊ルビス様のご加護が「ブッ!!」…」

 

こ、こいつ寝ながらオナラしやがりました。しかも私の話しをしている時に。

さすがの私もイラっとして近くに置いてあった棍棒で軽く顔面を叩いてやりました。

 

ガガガガガガーン!!

 

なんとそれは痛恨の一撃となり勇者は死んでしまったのです。

 

 

 

 

 

くらい闇の中に立ち尽くす彼に私は話しかける。

 

「ああ勇者よ、死んでしまうとは何事ですか。」

「いやぁ、ただ部屋で寝てただけなんすけどねー。」

 

顔面をさすりながら語りかけた私に返答する勇者。間違っても私が殺してしまったなんて言えません。

 

「仕方ありませんね。今回だけは生き返らせてあげますから今度からは命を大切にして旅をするのですよ?」

 

おかしいなと納得のいかない様子の勇者をさっさと生き返らせて、再び母親に入り込む。そして旅支度を済ませた勇者が家の扉を開けると眩いアリアハンの太陽の光が、まるで勇者の旅立ちのスポットライトを当てるかのように射し込んだ。

 

「よし!じゃあ俺行くよ母さん。」

「必ず生きて帰るのよマコト。」

 

こうして勇者マコトは、私のほんの少しの希望と期待、そして大きな不安を抱えてアリアハンの城へと旅立つのだった。

 

 

 

 

 

 

続くかは不明

 

 

 




クスッと笑っていただけたら幸いです。

なお作者は未だドラクエIIIをやったことないのでドラクエあるあるネタやウィキペディア次第で進みます。


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旅立ちは朝が似合う

勇者マコトがアリアハンのお城へと歩いていく。

 

胸を張って意気揚々と歩く後ろ姿は、全人類の希望を一身に背負っているに相応しい逞しく頼もしい…

のですが、どこか不安なのでもう少しだけ近くで様子を見てみよう。私はお城で働く従者の女の子に入り込み、勇者が現れるのを王室の前で待つことにした。

 

勇者マコトの家から王室まで普通に歩けば二、三時間程度。

入城の際に手続きがあるかもしれない。お城までの道すがらアリアハンの街の住民から旅立ちに向けての送り出しや、涙なみだの昔馴染みの友人達との別れを惜しんでいるのかもしれない。

それは分かる。

馴染みある人達との別れが辛いのも分かるつもりです。

 

しかし

 

遅すぎやしませんか。

私が勇者を見送ったのはたしかに希望の1日の始まりを告げる朝日が昇る時間帯だったはずです。

それがお昼はおろか城門が閉まる6時になっても現れず、夕食の支度や就寝準備にてんてこ舞いとなり、中々借りた身体から抜け出すタイミングが見出せず、結局お城の従者としてのお仕事から解放された時は既に10時を回っていました。

それでも勇者は来ないのだ。

いったい勇者は何処へ…ハッ!もしかしてマコトは誰にも告げずに旅立ったのでは。

勇者がいくら父の仇とはいえ魔王討伐の旅に出るのです。アリアハンの王もそんな勇者を手ぶらで出すハズがありません。暫くは苦労しない程度の支度金や装備を用意するなどの忖度をすることでしょう。勇者…マコトはきっとそんな気遣いをさせまいと独り静かに旅に出たのかもしれません。

私はそんな優しさを持った青年に成長した勇者に目頭が熱くなりました。

もう何も心配はいらない。私はアレフガルドの地で彼が訪れるのをただ待てば良い。

私は霊体に戻りアレフガルドへと帰る道すがらトンデモナイ光景が横目に入った。

なんと勇者は自分の部屋のベッドでスヤスヤと寝ているのだ。

この私が10時過ぎまで働かされたと言うのに、勇者マコトは既に夢の世界にいるのだ。

私は部屋の隅にある棍棒を手に取りました。

勇者にお説教をするために…

 

 

 

暗い闇の中に立ち尽くす勇者マコト。

何が起きたのか分からないでいる彼は首を傾けている。

「あぁ…勇者マコトよ死んでしまうとはほんっっっとうになさけない。ちょっとそこに正座しなさい!」

「あれルビス様。もしかして俺また死んだんすか?」

私の声にまるで悪びれる様子のない勇者は渋々と正座する。

 

「あなた今日は旅立ちの日でしょう?あなたの冒険の書を更新いたしますので、今日一日のお祈りをしてください。」

「そうですね…先ずは目覚めっすかね。旅立ちの日に相応しくルビス様が夢に現れました。おかげで身の引き締まるようなシャキッとした朝を迎えることができました。」

 

シレッと嘘を吐くあなたは、あれほど苦労して起こした私の頑張りを夢だった事にして無かったことにしようと、そう言うのですね。

まぁ私も精霊です。言わば女神です。多少の事は目を瞑りましょう。

 

「続けてください。」

「はい、先ずはアリアハンの王様に出立の挨拶に行く道すがら昔馴染みの友人に会いました。そいつはツカサと言ってアリアハンでも有名な武道家なんですよ。」

「なるほど。いくら勇者と言えど一人では厳しいと踏んで強力な仲間を集めようって事ですね?自分の力を過信しない謙虚な姿勢は立派です。」

彼を少し見直しました。

だがそんな私の気持ちを嘲笑うかのように勇者は答えた。

「そうなんですよ。アイツどこで聞いたのかバラモス討伐の旅にオレも連れてけってきかなくて。」

「ふふふ、仲間に愛されているのですね。」

「ハハ、どうすかねぇ。まぁ断りましたけど。」

「え?断ったんですか?」

「はい。オレ最初からパーティメンバーは女の子って決めてましたから。」

「…。」

「そしたらアイツ、涙目になってしがみついてくるんですよ。」

 

目の前の勇者(クズ)は目に涙を溜めて笑っている。

なんでしょうか、無性に腹が立ちます。

 

「あまりにシツコイから合コンをセッティングしてくれたら考えてやるーって言ったらすっ飛んで行きましたよアイツ。」

「…」

「それにしてもツカサのやつ、あんなできる奴とは知りませんでしたよ。まさか合コンにルイーダさんとこの娘さんのリッカちゃんまで来るなんて思わなかったもんなぁ。本当に今回は大当たりだったな。あ、そうだ。今度人数増やしてまたやる事になってるんですけどルビス様もどうすか?女神なんてやってると出会いとか無いんじゃないすか?ルビス様も良い男ゲットできるかもしれないですよ?」

「よ…」

「よ?」

「余計なお世話よーー!!!」

 

ズガァァァァン!!

思わず顔面にグーぱんを入れてしまいました。

私に男がいるとか居ないとかどうでも良いじゃないですか!

私だって好きで……

おっと話が逸れました。

ようするに今日この勇者(クズ)は私が入る人間を間違えたため人間の王族の給仕にてんてこ舞いになっている間、女の子達と遊んでいたということだ。そして普通に家に帰って寝たと。

 

頭の上に星を回しながら気を失っている勇者にため息が出ました。

 

仕方ありません。そっと生き返らせておきましょう。

そしてもう少し監視が必要だと言うことが分かった1日目でした。

 

 

 

 

続く?



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女神だって時には遊ぶ

「何か言いたいことはありますか?」

「ごめんなさい。」

 

普段太々しい勇者も流石にしおらしい。

そうでなくては私も困る。何故ならば私は勇者とともにアリアハン城の地下牢に閉じ込められているのだ。勇者マコトの所為で。

 

私は深いため息を吐くと今日1日を振り返る。

 

 

 

 

 

トントントン!

木製の扉を叩くと軽快な音を立てた。

中からへ〜いとだるそうな声とともに勇者マコトが現れた。

 

「げっル、ルビすさぶぁ…モゴモゴ」

お母様も後ろにいるのにも関わらずいきなり正体をバラそうとするマコトの口を塞いだ。

「あら、あなたは…。」

「お久しぶりですおばさま。マコちゃんの幼馴染のルビ……ルビアです。」

 

自分でも安易過ぎるネーミングセンスかと思ったけど『そうそうルゥちゃんね、おばさんど忘れしてたわぁ』と、愛称まで作って話を合わせた。

そう言えばローシュも適当なところがあった。その子孫である彼女が適当なのも頷ける。と言うことは勇者マコトがこんなヘッポコなのも…その先を考えるとヘコむから辞めました。

 

「で?ルビ…ルビアは朝っぱらから何しにきたんだよ?」

うまく幼馴染に合わせてくれる勇者。ニヤリと笑って親指を立てているところをみると私の意図はある程度忖度してくれたようだ。

「マコちゃん、今日…は!王様のところに行くんでしょう?私も一緒に行こうかと思って。」

は!を強調しながらも、まさしく女神の微笑みで答える私に勇者はどこ吹く風だと言わんばかりに

「魔王バラモス討伐に女はあぶねーって言ったのに、仕方ない奴だなぁ。ほら今日もバラモス討伐に行くぞルビア」

 

パーティメンバーは女の子って言ってたのはどの口でしょうか。

しかもあなた、昨日は女の子と遊んでただけですよね。

かくして私達はマコトに手を引かれアリアハンのお城へと向かうことになりました。

 

 

アリアハンのお城への道すがら、家が見えなくなったとたんに勇者はニヤニヤしながら話しかけてきた。

「それにしてもルビス様、わざわざ僧侶の服まで着て気合い入ってるじゃないすか。」

「私のことはルビアと呼びなさい。バレたら大騒ぎになるじゃない。それと敬語もいらないわ、私の力でアリアハンの人々に私は教会の神父とシスターの娘で、あなた達の幼馴染って記憶を操作してあるから。」

「おお!凄え徹底ぶりだな。女神とは言ってもやっぱり女の子なんだな。そんなにしてまで合コンに行きたかったなんて。」

「ちっがうわよ勇者(バカ)!!」

「あ、お前いま勇者にバカって当てやがったな!」

「解りづらい突っ込み入れてないでお城いくわよ!」

「えーマジで行くの?勝てるわけないじゃん、相手は魔王だぜ?」

 

ぶーぶー文句を言う勇者を縄でぐるぐる巻きにしてお城へと歩く。道すがら会うたび会うたびに

「ルゥちゃんいつも大変だねぇ」

と街の人達に同情されました。そんな細かいところまで記憶操作した覚えはないのにだ。つまりマコトは普段からこんなヘッポコだと言うことか。まだ出発もしていないのに早くもお先が暗い。

 

 

それにしても昨日給仕の女性に入った時も思ったのだけど、どうして人間の王族ってのはこんなに無駄に煌びやかな住まいにするのでしょうか。天井は高くシャンデリアが眩しい。あまりに広過ぎて何処に何があるのか全く分からない。隙間風も冷たい石造りの壁には松明がゆらゆらとしている。照明は既にあるのだから松明は要らないでしょうに。まぁバカと成金は高いのがお好きと言いますから、女神としては馬鹿だなぁって心の中で笑ってあげる程度にしてあげましょう。

 

「そうかマコトよ、遂にお主も16になったか。お前の亡き父オルテガにも立派になった姿を見せてやりたかったものだ。オルテガは我がアリアハンで1番強く優しい戦士であった。そのオルテガが兵士長を辞職して世界を救う為に旅に出たいと申し出があった時わしは…」

 

永遠と続く王様の長い話し。

なんで偉い人ってこう話しが長いのでしょう。隣の勇者(マコト)は器用に傅きながら寝ているわよ。

かれこれと2時間以上話しをしたところで王様の話しは終わり、次は勇者旅立ちのセレモニーが始まった。アリアハンが全面的に勇者をバックアップすると言うことの現れでした。

そしていよいよ出発のその時、王様から私たちの旅立ちへの餞別といったところであろう、宝箱を渡されました。

 

勇者(マコト)は宝箱を開けた。

マコトは棍棒と旅人の服、そして50ゴールドを手に入れた。

横で見ていた私は表情に出さずに心の中でショッボって思うに留めたのにマコトはしっかり言葉にして吐いた。

 

「おいおい王様、いくらなんでもこれはしょぼ過ぎやしませんか?仮にも一国の王が勇者に魔王討伐の命を出したんだぜ?それがなんだ棍棒って!!その辺の木を切っただけの武器じゃねーか!!それに50ゴールドってなんだよ、子供の小遣いだってもう少しあるわ!ケチにも程があるわ、このハゲ。」

 

ツカツカ歩み寄り王様の首元をグワングワンしながら詰め寄る勇者。私はつい笑ってしまった。そうよね、やっぱりそう思うわよね。

 

しかし当然の如く怒り出した王様は私たちを地下牢に閉じ込めたのだ。

 

 

「ちょっとどうすんのよこの状況。」

「全くもって申し訳ない…って言うかお前だって笑っていたじゃねーか!」

「笑ってない。」

「嘘付けー!」

 

確かに敬語は要らないとは言いましたが精霊に対する尊敬の念まで要らないとは言ってません。私は王様に貰った棍棒を手に持つと彼に滲み寄る。

「どうやらまたお仕置き部屋に行きたいようねマコちゃん…」

「待て待てルゥ!俺はアリアハンを出る前から3回も死にたくねー!」

 

ギャーギャーと牢屋の中で騒いでいると、ガチャガチャと重い鎧の足音を立てて数人の兵士がやって来ました。

「お前ら王様にたてついたらダメだろう。オルテガ様も草葉の陰で泣いてるぞ。」

 

どうやら彼はオルテガさんの弟子であった方で次の兵士長と言う事ですが、この勇者(バカ)と一緒にされるのは心外です。

 

「ほら二人とも出て良いぞ。」

「え?良いんすか?」

「王様からのご命令だ。城門が閉まる頃には出してやれとな。ほら、訓練用のどうのつるぎをやるから今日は二人とも帰りなさい。」

 

そう言って私たちを地下牢から解放してくれた。

城門が閉まると言う事は時刻はまもなく6時。夜の入り口です。

どっと疲れが出た私たちがトボトボ歩いていると夕飯の買い物帰りの勇者のお母様に会いました。

 

「あらあなた達まだこんな所にいたの?」

こんな所と言う言葉がサクッと胸に刺さりました。

「もう遅いから続きはまた明日にして今日はもう帰って来なさい。ルゥちゃんも今日はウチにお泊りしなさい。」

「「はい…」」

 

こうして私たちは、2日目もまたアリアハンから一歩も出ることなく1日を終えるのだった。



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ルイーダ酒場は大繁盛

最低な目覚めを経験しました。

 

昨日なし崩し的に勇者の家に泊まったのですが、勇者のイビキや寝相の悪さに悩まされ今日はロクに眠れていない。

幸せそうな顔で寝言を言う勇者に少しだけイラっとした私がデコピンをかましたのは、ささやかな仕返しと言うものです。

 

寝直すことも出来ず諦めて1階に降りていくと勇者のお母様が『あらルゥちゃんおはよう、随分と早起きさんね。』と挨拶をしてくれた。早起きも何も眠れてません。

しかしそこにいたのはお母様だけではなかった。

記憶操作によるものではあるが、名目上私の父と母たる神父とシスターがまだ早朝にもかかわらず勇者の家に居ました。3人とも目の下にクマを作って…。

あまり会っているとボロが出そうなので避けていたのですが、そんな私の事情など知るはずも無い彼らは向こうの方から近付いてきたのだ。

そしてそんな2人は私に言葉による痛恨の一撃を放つ。

 

「ルビア昨夜はどうだった?ちゃんと上手くできた?ああ、早く孫の顔が見たいですなぁ。」

「本当ですね。男の子でも女の子でも良いから元気な孫が欲しいですわねぇ。」

3人が身の毛もよだつような恐ろしい話しをしている。メダパニでも食らったのでしょうか。精霊と人間の間に子供が出来るのかって問題もあるが、まず第1に私たちは全くそんな関係ではありません。辞めてください、それは神に対する冒涜です。女神ですが自殺したくなります。しかし3人の幸せそうな笑顔を見ると女神としては強く否定し幸せに水を差すような事をしたくない。

そんな最悪な状況を助けてくれたのは、私のあとから1階に降りて来た女の子サキだった。

彼女はマコトの妹で、兄と違い才能溢れる少女です。

私の見立てでは特に魔法力に優れ、いずれは賢者も夢ではない、そんな少女なのですが、勇者(マコト)は妹だけは絶対に連れて行かないと言っています。自分だけではなく妹まで旅立ってしまっては母とジジイの面倒を見る者がいなくなると。

彼もたまには良いことを言いますね。若干シスコンを疑ってしまいますが。

そんな見目麗しい少女は

 

「昨夜は2人は何もなかったと思う。第1ヘタレの兄貴がルゥ姉に手を出せるわけないじゃん。」

 

何もないのは当然です。勇者はのび◯くんも真っ青なほどベッドに入った途端にイビキをかいていましたから。

それにしても、もう少し上手い言いかたありませんか?

って言うか、貴女も目の下にクマを作っているところを見ると一晩中壁に聞き耳を立てていたようですね…3人もまさか一晩中?これ以上考えると女神にあるまじき思考に至りそうなのでやめときます。

3人はサキさんの言葉にあからさまにテンションを下げ、あくびをしながら降りて来た勇者に

 

「「「「「おはよう、ヘタレ」」」」」

 

5人は口を揃えて勇者に挨拶した。

 

 

 

 

 

午後になると私たちはルイーダの酒場に来ました。

美しく聡明な精霊である私は気付いてしまいました。

残念ながら勇者は変えられませが、パーティメンバーがしっかりしていれば良いのです。勇者がヘッポコでも仲間が強ければ…。

 

初めて来た人間の酒場はまだ昼間だと言うのに大盛況でした。マコトが言うには酒場の女主人であるルイーダさんが美人で、ホールスタッフをしている娘のリッカちゃん共々アリアハン中の男性から大人気なのだとか。さらにランチもやっており、これがまた美味しいから客が入るそうだ。

 

私たちは適当なテーブル席をとると適当に注文する。それがルールだと言うのだから仕方ありません。メニューを見ても人間の料理なんて分かるはずもなく、私は適当に注文しました。

 

「ルゥ、お前が注文している間にパーティメンバー募集をかけておいたぜ。」

「忘れてなかったんですね、感心しましたよ。」

「お前オレを馬鹿にしてないか?」

「…そんなことありませんよ。」

 

ちょっと間があいてしまった返答にマコトは納得いかないって顔をしている。さすがはヘボでも勇者、まさか私の心を読むとは侮れません。

しばらくするとルイーダさんから呼び出しがかかりました。マコトが出した条件に合致する仲間が集まったとのことです。

 

マーニャLv1 僧侶 ♀

ミネア Lv1 僧侶 ♀

 

「見ろよ2人は姉妹なんだぜ、どうだ可愛いだろうルビア」

 

ガーン!!

グーのパンチで勇者の顔面をなぐってしまいました。

「痛えなぁ何すんだよ!」

「何すんだよじゃありませんよ、バカなんですかあなたは。何で2人とも僧侶なんですか!私含めて僧侶3人じゃ明らかにパーティのバランスが悪いじゃないですか!!」

「フッ問題ない。」

 

妙に勇者が自信満々に答えるので私はルイーダさんに頼んでマコトの出した募集要項を拝見させて頂きました。

 

 

若く可愛い女の子求む。

職業レベルは問いません。楽しいアリアハンライフを供に送りませんか?

 

「バカ!!」

募集の紙を破り捨てました。

 

「何ですかこの募集要項は、それにアリアハンライフって何よ!あなたは魔王討伐の旅に出るんでしょうが!!」

「えー2人とも可愛いんだから別に良いじゃん。」

 

とことんダメな勇者です。

そんな私の逆鱗をさらに逆なでしたのは姉妹でした。

 

「ちょっとルビア、あなたマコトと幼馴染だからって調子に乗るんじゃないわよ。私たちはこの仮の世界ではレベルは低いけれど本当の世界ではそれはもう凄く強い踊り子と占い師で…」

「あなたたちの異世界話しなんてどうでも良いわー!この厨二病姉妹が!!」

 

私はモンバーバラ姉妹から契約書を奪い取ると破り捨て、パーティを解消して2人を追い出しました。

そんな私に勇者は

 

「安心しろよ、お前が1番可愛いって。」

 

ウインクまでして言った。私がそんな理由で怒っていると本気で考えているのでしょうか。全くもってこの男は…

 

「それにそんなに怒ってばかりいるとシワになるぜ。」

 

決めました。この男には一度キツいお説教が必要なようです。私はアリアハンの王様から戴いた棍棒を笑顔で振り上げました。マコトは悲鳴をあげながら逃げ出しましたが、彼は知らないようです。

 

精霊からは逃げられません。

 

ガァァァァン!!

今日もとても良い音が鳴り響きました。

 

 

 

暗い闇の中で立ち尽くすマコトに私はいつものセリフで語りかける。

 

「ああ勇者よ死んでしまうとは何ごとですか。」

「…今回はお前に殺されたんだけどな。」

今回だけではありませんがね。

「コホン!あなたは何故私が怒っているか分かっていないようですね。」

「分かってるって、ちょっとふざけたダケじゃねーか。それにルビア、お説教だけで毎回こんな所によぶなよな。」

どこまでも不敬な勇者です。

この死の境界にいるときはルビアではなく精霊ルビスとして話しているつもりなのですが…きっと彼には伝わらないでしょう。

私は深くため息を吐くと彼に半ば懇願するように話しかけた。

 

「分かっているのなら明日からはもう少し真面目にやっていただけますか?」

「まかせとけって!」

 

…軽いその返事が不安で不安で仕方がないのですが、私はそっといつものように勇者を生き返らせるのだった。

 

 

 

結局3日目も何の収穫もないまま終了です。私の本体はいつになったら石像から解放されるのでしょうか。



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天国の沙汰も金次第

「なぁ考えたんだけど、無理にパーティメンバーを探さないでこのまま2人きりで旅に行かないか?」

「え?それって…」

 

あくる日の朝

家を出ると彼は開口一番に口にした。

ヘタレヘタレと思ってはいましたが、まさかそんな言葉が勇者から聞けるとは思いもしませんでした。

私のような精霊からすれば人の人生は瞬く間に終えて逝く。私はいつも見送る側です。

死を見送るのは慣れる事はありません。それが深く関わりを持った者なら尚更です。だから私は必要以上に人と関わることを避けてきた。

しかし女である以上たとえヘタレ勇者でも、好意を寄せてもらえるのは嬉しいものです。

 

「…おいルビア聞いてるか?」

「え?なぁにマコト♡」

私は精一杯優しく返事した。

 

「何?じゃねーよ!金が無いっていってんだよ金が!王様はケチで50ゴールドしかくれないし、お前が説教とか言ってオレを殺すから25Gしかねーんだよ。これでどうやって仲間を雇うんだよ!!」

「え?仲間ってお金がかかるの?」

「当たり前だろ、どこの世界に魔王を倒すから旅費は実費で付いてきて下さいって言って来る奴がいるんだよ、バカなのかお前は」

「…」

「それになんで生き返らせるのに半分も持ち金を奪うんだよお前は。」

「わ、私がお金なんて取るわけないでしょ!神父が手数料に取っているんじゃないの?」

「それだよそれ!お前は仮にではあるけど神父とシスターの娘って事になってるんだろ?」

「ええ、それがどうしたの?」

「分からねーのか?娘のお前がオレを殺したくせに、その親である神父が金を取ってんじゃねーってはなしだ。完全にマッチポンプじゃないか!!だいたいお前僧侶なんだからザオリクとか使えばいいじゃねーか!」

「私レベル1だしまだ覚えていませんよ?」

「は?お前一応精霊だろ?何でザオリク覚えてないの?」

「一応はよけいです。仕方ないじゃないですか、私が普通にパーティ組んだら経験値がほとんど私に入ってしまうんだから。マコトがレベル上がらないじゃないですか。」

勇者は白い目で私の方を見てボソッと使えねーって言った事、ちゃんと聴こえていますよ。これは貸しにしておきます。

そのあともぷりぷりと怒る彼は、今から教会に言って取り返しに行くと息巻いている。結局私が期待していたような甘い話しなんて微塵もなく、ヘタレはどこまでいってもヘタレなのだと知りました。

 

 

 

バン!

勢いよく教会の大扉を開いた勇者マコトは、勢いそのままに私の仮とはいえ父である神父の元にずかずかと歩み寄る。

 

「おおマコト君、今日は朝から元気が良いな。」

「あ、おはようございます神父さま。」

神父を前にし急降下したテンションで頭を下げる勇者は本当に情け無い。

きっとこのまま何も言えないのだろうなとは思っていましたが、本当に何も言えなくて笑ってしまいます。

「神父さまだなんて他人行儀な、私のことはお義理父(とう)さんと呼んでくれて良いのだぞ。」

神父の有無を言わさぬ物言いにさすがの図太い勇者も若干ひきつっています。

しかしこのままでは私も被害を被るお話になりそうなので今回は助けを出すことにします。

「お父さん違うのよ、今日は別のようできたのよ。ね、マコちゃん?」

「そうなのかい、では何のようだ?毒の治療か?呪いか?それともわ、た、しブゲッ!!」

 

思わず手が出てしまいました。

でも今の場合は私は悪くないと思います。

 

 

 

「何?生き返らせたときのお金を返してほしい?」

意識を取り戻した神父にヘタレすぎて物を言えない勇者の代わりに事情を説明して返金を求めました。

「いくらルビアの頼みでもそれは無理だよ。教会に入る寄付金は全て精霊ルビス様への捧げものなんだ。2人とも壁にあるルビス像を見なさい。慈愛に満ちた美しい笑顔ではないか。」

「…詐欺だなイッ!!」

 

神父の見えないところでマコトのお尻をつねってやりました。

 

「とにかくルビス様に納めたものを回収はできんよ。しかしまぁそうは言っても可愛い娘のハネムーンがお金の無い旅路というのも心苦しい、だがパパはお前がいつか嫁に行くときのために貯めておいたお金があるのだ。それを持っていくといい。」

「お父さん」

取り敢えず乗っかって父の胸に飛び込んでみました。そんな事くらいで勇者との旅路の路銀を出してもらえるのなら安いものですから。

もし神父さんが死んだら特上の天国に送ってあげますからね。

 

私を抱きしめながら神父はマコトにお金を渡す。

 

「…って、1ゴールドしか増えてないじゃねーか!」

次の瞬間マコトが叫びました。

私は振り返ってマコトの手のひらにあるものを見て驚愕しました。

26ゴールド。

つまりマコトから取りあげた寄付に1ゴールドしか載せて無いのだ。

 

 

もうどこから突っ込めばいいのか分かりませんが、取り敢えずこのバカ神父(オヤジ)に強烈なアッパーを見舞い私たちは教会をあとにした。

 

 

もう今日はさすがの私も疲れました。勇者とともに赤い夕日の中勇者の家路へと歩く2人の影が物悲しいです。

 

こうして私たちの旅は4日目もまたアリアハンから出ることも無く得るもののないまま1日を無駄にしました。

 

 

 

続く?



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初の戦闘

「ところであんた達、魔王討伐の旅はやめたの?」

 

朝、マコトの家でいつものように朝ごはんを美味しく戴いているとマコトのお母さん、アンルシアさんが尋ねてきました。

 

「お母さん的にはいくらオルテガ(お父さん)の敵討ちとは言え魔王討伐なんて危ない真似してほしくはないわ。」

 

いくら勇者の家系だとは言ってもやはり母親は子供が心配なのでしょう。私は胸が締め付けられました。勇者に定められし者はその力を以って魔王を討ち破り、人類に希望の光をもたらすのが当たり前だと思っていました。力がある者は弱き者を守るものだと…

しかし人類最強の力を有する勇者といえど1人の人間なのだ。

親もいれば妹もいる。彼は勇者ではあるけれど、昔時空を超えてやってきたローシュやセニカとは違うのだ。血が繋がっているだけの年若い男の子、そんな義務はないのだ。

私は精霊ルビス

人の世に光を照らす女神。

ですがその平和は1人の勇者の犠牲によってもたされるものであってはならない。もし彼が旅を辞めると言うなら私は…

 

「でもねマコト、お母さんは辞めないで欲しいって気持ちもあるの。ウチはやっぱり勇者の家系なのよ…。」

「オレ辞めないよ母さん、オレはルビス様に定められた勇者だ。今は準備しているだけだ、ほら行こうぜルビア。」

 

そう言ってマコトは私の手を取り街へと繰り出しました。

 

「なんだよ…まさかお前までオレが旅を辞めるって思っていたのかよ。」

街に出るなり訝しむ顔で勇者を見る私に不満そうなマコトが言いました。言っては申し訳ないけれど、私はてっきり『じゃあ辞めようかなぁ』なんて答えるものばかりと思っていました。

 

「オレだってオヤジの敵討ちもそうだけど、世界から魔王の脅威を退けたい気持ちだって一応はあるんだ。」

 

少し彼を見直しました。やはり彼にも勇者の魂か引き継がれていました。

 

「それにあのまま家にいたら本当にお前と結婚させられそうだしな。」

「なんですってー!私のなにが不満だっていうのですかぁ!!」

「そう言う意味じゃブゲッ!」

ヘラヘラと笑いを浮かべる勇者の顔面を蹴り飛ばしてやりました。

女心の分からないヤツです。

 

 

 

「よしルビア、今日はレーベの村を目指すぞ」

意識を取り戻した勇者はついにと言うべきか、やっとと言うべきなのか旅立ちを決意しました。

これで魔王バラモスを、そしてその先には私の本体を…

あぁなんでしょうこの胸の高鳴り感。囚われの美女を勇者が救い出す…このヒロイン的なシチュエーションに顔がにやけてしまいそうです。

改めて私たちのステータスを確認しました。

勇者マコト Lv1 どうのつるぎ 旅人の服

僧侶ルビア Lv1 布の服 装備できない血糊付きこん棒 ホイミ

2人の所持金 51G

 

旅立ちとしては少し心許ないものがあるのだけれど、マコトに聞けばレーベの村はアリアハンから半日くらいの場所だそうです。

最悪引き返せば良いのですから何とかなる

 

たしかに私もそんな考えがあった気はします。

 

 

 

「ああ勇者よ、死んでしまうとは何事ですか…って言うか、なにカラス相手に全滅してるんですか!!」

「お前だって死んでんじゃねーか!だいたいお前何で精霊の癖に弱いんだよ!」

「仕方ないじゃないですか、私は顕現するのに大量のMPを使用していて大変なんですよ。だいいち戦闘は勇者の仕事でしょ!僧侶は傷を癒すものです。」

「戦えないくせになんでわざわざ顕現してまでパーティに入ったんだよお前は!それなら他のヤツを雇ったほうがマシだ!」

 

1人にしたら旅に出ないでしょあなたは。

それにしてもこの男ムカつきますね。

この死者が最初に訪れる所、『境界』いるときはルビアではなくルビスだと言うのに、勇者は全く敬わない。

しかし残念なことに今回は私も含めて全滅してしまったのだから強く言い返すこともできません。

 

私は少しだけ反省点を振り返ってみた。

アリアハンを出て間もなく私たちはスライムとおおがらすに出くわした。マコトは頭に糞をされたことに怒り、おおがらすに向かった。

そうなると私はスライムとなるわけですが、私のもつこん棒では半分液体で構成されている水性モンスターにはダメージを与えられませんでした。スライムのような敵にはマコトの装備している『どうのつるぎ』のような武器で斬るか、槍で核をつく。又は魔法が適しています。

そこで私は勇者に戦う相手を変えて貰おうと振り向くと…

 

私は目を疑いました。

なんと勇者マコトは既に死んでいました。

あまりの出来事に唖然とし、つい持っていたこん棒を落としてしまいました。

 

 

あの後は本当に大変でした。マコトの棺を引きながらスライムやおおがらすから逃げ出したのですが、そんな重いものを引いて逃げられる筈もなく、結果私たちは全滅したのですから。

 

「ねぇマコト、今度は本当に仲間を探しませんか?2人じゃ無理ですよ。」

「でも、今回の全滅でお金がないんだぜ?」

「それは後で考えましょう。先ずは仲間探しをするってことで。」

「…まぁ仕方ないか、良いぜそれで。」

 

やっとしぶる勇者の説得に成功しました。それにしてもこの弱さ、どうにかならないでしょうか。この子をなんとか一端の勇者に育つように私が導かなければバラモス討伐はおろか、その先までなど一生無理そうで不安です。

ふとマコトの方を見ると何かニヤニヤしている。

まぁなんとなく想像はつきますが。

 

「パーティは女の子限定にはしませんからね。」

先に私が釘を刺しておくと

 

「えーーーー!!!」

 

勇者の絶望の叫びが『境界』に響き渡りました。

 

 

 

 

 

 

つづく

 

 




スライムって…何気に強いのではないかと私思うの。


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しかし毒ばりはもっていない

「あらルビアちゃんおはよう。」

「おはようございますルイーダさん。」

 

朝、仲間募集をかけるために再びルイーダの酒場に行くと女店主のルイーダさんが話しかけてきました。

 

「そういえばルビアちゃんもマコトくんの魔王バラモス討伐の旅に一緒に行くんだって?大丈夫なの?」

「はい、マコちゃんだけじゃ不安ですから。」

 

私の返答に笑うルイーダさんは少しだけ声を潜めて

「いいルビアちゃん?いつまでも幼馴染のままじゃダメよ?女の子も攻めるときは攻めないとマコトくんの心が離れちゃうわよ。そんなルビアちゃんにおばさんが男の子の心をゲットする秘策を教えてあげるわ。」

そう言ってウインクしてみせた。

精霊の私が人間の男の子と?しかも相手はヘタレでヘッポコなマコト?あり得ませんよ、本来ならぷーくすくすくす!って笑っちゃいますよ。やはり幼馴染として顕現したのは失敗だったのでしょうか。

しかしルイーダさんは酒場で多くの男性から言い寄られているのは事実、あくまでも…あくまでも今後の参考として私はルイーダさんの秘伝の技を冒険の書の端っこに赤文字で大事なこととしてメモしました。

 

 

「ところでルビアちゃん早朝から何か用事があったんじゃないの?」

「そうでした。やっぱり2人旅じゃキツいんで仲間を募集しようかなって。ルイーダさんこの募集のチラシを貼らせてもらっても良いですか?」

「もちろん良いわよ、そこの掲示板に貼ってちょうだい。」

 

私はルイーダさんの許可を得て掲示板に仲間募集のチラシを張ろうとするとダダダダダっと走る音とともにスパーン!!と頭に衝撃が走る。

 

「痛っ!何すんのよこのヘタレ!」

相手は言わずと知れるヘタレ…もとい勇者マコト。彼は私の後頭部を叩いたのだ。

「何すんのよじゃねーよ、何だよそのチラシは!!いつの間にかそんなもん作りやがって。」

「いつの間にですって?あなたが凄まじく悪い寝相で気持ちよく寝てる私にラリアットしたのよ!!おかげ様で時間はたっぷりありましたよ。」

この際ですから私の恨み節をぶつけてやりました。

何故か周りからはヒューヒューと囃し立てるような黄色い声援が冷やかしのように飛びますが、なんでしょうか若干不快です。

しかしいくらアリアハンがまだ比較的に平和だとはいえ昼間から酒場にいるような方たちですから無視することにしましょう。さしあたっては精霊である私の頭を叩いた目の前の勇者(バカ)への折檻です。

 

私がこん棒を構えると今度はルイーダさんが慌てて止めに来ました。

 

「2人とも喧嘩はダメよ?」

「「はい、ごめんなさい。」」

「ルビアちゃんも殺人はダメよ殺人は。アリアハンの暇を持て余した奥様方のワイドショーネタにされるわよ。良いの?海の近くの崖に追い詰められちゃうわよ。」

 

何を言っているのかよく分かりませんがそれは嫌です。

 

「それにマコトくん、ルビアちゃんがせっかく書いてくれた仲間募集のチラシの何が気にくわないの?」

そうです。私が夜なべして一生懸命書いた力作に何が問題だと言うのか。私とルイーダさんが勇者を見つめると勇者はチラシをバンッとテーブルに広げた。

「何が気にくわない?ルイーダさん読んでみてくださいよ。」

 

強い仲間急募!

【私たちと魔王を倒しませんか。】

募集要項

強く逞しくてお金を持っている方。戦闘の未経験の方もお金があれば相談に乗ります。私たちパーティを(主に私を)苦労ない旅に連れて行ってくれる方を探しています。

今なら美女と一緒に冒険ができるし、魔王を倒した暁には、勇者を名乗る権利と言う特典付き

 

先着2名様限定

 

 

「…」

ルイーダさんは何も言わずにチラシをたたみました。

「ほらみろ!こんなチラシで来る奴がいるわけねーだろうが!バカなのかお前は!!」

「仕様がないでしょお金が無いんだから。」

「だからってあんなあからさまな募集があるかってんだよ!」

「じゃあグランさんの息子のキーファくんとかは?彼は俺は王子様なんだーって言ってるくらいだから煽てればお金出してくれるんじゃないの?」

「あーアイツはダメだ。最近漁師の息子のセブンと世界を変える石版集めしてるーなんて厨二的なこと言ってやがったし。」

「それは寒いわね。じゃあ戦士のライアンさんは?」

「ダメダメ、あの爺さん最近ではすっかりボケちゃってホイミスライムを友達だと思い込んでいるみたいだし。」

「アリアハンにはロクな人がいないわね…じゃあやっぱり無料(タダ)で来てくれそうなツカサくんだっていいじゃない?」

「だって…アイツを連れて行くとなぁ…」

「そんなに嫌なら途中で捨てちゃえば良いじゃない。それに戦闘のときだって居るだけで壁になってくれるかもしれないじゃない。そうよ弾除けだと思えば良いのよ弾除けだと。」

「…お前本当に女神なのか」

ボソッと言いやがりました。それを言うのならカラスに殺られる勇者もどうかと思いますが。

「じゃあテリーくんは?」

「イケメンはダメ」

一言で片付ける勇者。もうラチがあかない。

2人で頭を抱えて悩む。

 

「よし、やっぱり2人で行こう」

「でもマコちゃん、私たち2人じゃスライムにも勝てないのよ?」

「だから敵に見つからないように隠れながら行こうぜ。」

 

胸を張って言えることではないと思います。

 

「魔王バラモスはどうすんのよ」

「バカだなぁルゥ、バラモスだって同じさ。背後から忍び寄って毒ばりかなんかでプシュッとやればいいんだよ」

「…なるほど要は魔王を暗殺すると言うわけね?盲点だったわ。確かに勇者だからって何も馬鹿正直に魔王と正面から戦う必要ないものね。マコちゃんなかなか頭良いじゃない。未来が明るくなってきたわ。プシュッといきましょうプシュッと」

「今日からオレたちのパーティのさくせんはプシュといこうぜだなワハハハハ」

「そうと決まれば明日からの為に今日はじゃんじゃん飲むわよ!!ルイーダさん、じゃんじゃん持ってきて!」

 

こうして明日から始まる希望の旅の景気付けにアリアハン中の人々と大宴会を開いた。パーティは深夜までつづき16才の勇者と同じ年の幼馴染に設定していた私たちは未成年の飲酒で兵士に捕まり牢屋に入れられた。そしてあくる日にはじめて二日酔いしたことは、そっと冒険の書から削除することにしました。

 

 

 

 

つづく

 




お酒は20歳からです


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蝶のように舞い蜂のように刺すけど歩く音はカサカサカサカサ

『こっちは大丈夫だ。』

 

口パクと身振り手振りで合図する勇者を見て草むらの中を匍匐前進(ほふくぜんしん)する私たちは、人間を襲おうと道端でたむろするスライムの群れをやり過ごす。

 

確かに隠れながら進もうと決めはしましたが、女である私に匍匐前進させるのは配慮が足りないと思う。そんなに腕力があるわけがないじゃないですか。そう言う細やかな気配りができない男の子は絶対にモテないと思います。旅の中で勇者の教育も必要だと認識したのですが、

「おいルゥ、もう少し早く匍匐前進出来ないとモンスターに見つかるだろうが。たいして抵抗になるような胸がある訳じゃ無いんだからさっさと来いよ。」

「ぶっ殺すわよ!!」

もう少しで女神にあるまじき心の中の気持ちを口にしてしまいそうでした。

「いやお前、思い切り言葉に出てるからな?」

勇者が呟いたのですが私は聞こえないフリをしました。

 

背後を見るとスライムたちがまだアリアハンの方を向いて旅人を物色している。私たちは顔をみわせむごんで頷くと、背後からそっと忍び寄りマコトはどうのつるぎで、私はその辺で拾ったひのきの棒でスライムの核をめがけて思い切り突いた。

背後から襲われたスライムたちは『ピギー』とか断末魔の悲鳴をあげながら水へと還っていく。なんか…モンスターとはいえ少し可哀想な気がするのですが

「よっしゃー!!勇者の力を見たか!ヌハハハハ、チョロすぎてあくびが出るぜ。」

よほど自分の敵討ちが出来たことが嬉しいようで高笑いをして喜んでいる。たかがスライム相手によくもまぁそんなに喜べるものだと思いますが、まぁかたちはアレですが私たちパーティの記念すべき初勝利には違いありません。

もう少し喜ばせてあげましょう。

なんて出来た女なのでしょう私。

 

マコトたちはスライムを倒した。

 

「ん?なんだこりゃ。」

スライムを倒した事の喜びが一通りし改めてレーベの村へと行こうとするとマコトがスライムだった水たまりから光るものを手に入れました。

それは4G

きっとスライムに襲われた人が持っていたであろうお金だと思う。

「これはきっとこのスライムが襲った人間の持ち物だったんだろうな。」

「ええ、きっとそうだと思います。」

「スライム程度でも普通の村人たちにとってはモンスターはモンスターだからな…倒せて良かったよ。」

「そうですね。きっと襲われた人も浮かばれることでしょう。」

 

私はそう言って言わば形見の品(4ゴールド)をお財布にしまいました。

「おいルゥ、それって形見の品だろ?貰っちゃっても良いのか?」

「良いんじゃないの?文句を言おうにも当人はもう亡くなっているんですから。死人に口なしってやつです。」

「それってそんな使い方だっけ?」

「もう細かいなぁ、良いマコちゃん私が良い事を教えてあげます。死人にお金は必要ありません。精霊たる私が有効に使ってあげた方が供養と言うものです。」

「…まぁそれもそうか。それにしてもよ、本当に上手くいったな。オレたちには背後から隙を突くのが似合っているのかもな」

 

大笑いしていますが決してカッコいい話しではありません。

しかし確かに初勝利したのですから否定もできませんが…今後も暫くは隠れながら旅をするのが良いかもしれませんね。

 

その後も私たちはコソコソと歩きました。

丘を壁を這うように登り、川を竹筒で息をしながら橋の上のモンスターをやり過ごしました。草の束を頭に括り屈んで歩き、カラスが来たらカカシのフリをして油断を誘い倒しました。

 

何度か戦闘に勝利したマコトはどんどん自信をつけていく。

しかし彼は私の予想の斜め上をいく。自分の戦闘経験や勝利に自信を持つのではなく、景色に一体化して敵に察知されない隠密行動に自信を持っていったのです。

案外彼は盗賊の方が向いていたのかもしれませんね…

流石としか言えない程に残念な子です。

私が思い描いていた勇者の戦闘は蝶のように舞って蜂のように刺す、と言った無駄のない美しい流れによるものだったのですが…

まぁ良としましょう。人には人のスタイルと言うものがありますし。

 

そして日も落ちかけた頃になってようやく私たちはレーベの村へと辿り着きました。なんでしょうこの言いもしれない達成感は。

たかが半日くらいで着くとなり村なのに…涙が出そうです。

 

私たちは7日目にしてようやく最初の目的を達成したのでした。

 

 

 

つづく

 




ようやく動き出す物語…?


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レーベの村

「アリアハンの街からやってきたのかね?ここは知っているとは思うけどレーベという村だよ。何もないところだけどゆっくりしていくといいよ。」

 

私たちパーティが夕暮れ時に村に入ると通りすがりの村人が話しかけてきました。何故私たちがアリアハンから来た事を知っているのか不思議に思っていたのですが、そんな私を見抜いたかのように村人は笑いながら理由を話してくれた。

アリアハンの島から出るには『いざないの洞窟』にある旅の扉から出る必要があるのだそうですが、大陸側から強力なモンスターがアリアハンに流入してこないようにする為、王さまの指示で現在は封印されているとのことでした。

 

「いきなり躓いたな。」

日も沈み宿屋に泊まる私たち。勇者は部屋に入るなり愚痴り出した。

「そうよね。アリアハンの王さまは自分で封印させときながらマコちゃんにバラモスを倒しに行けとか…ないわぁ。」

「本当だよな、あのジジイボケてんじゃねーのか。」

「きっとそうね。ボケてんのよあのジジイ。」

「それにしてもどうすっか。アリアハン島から出るには旅の扉を除くと船なんだけど、漁師の話しじゃ海には強いモンスターがうようよしているらしいぜ。」

「海の上じゃ不意討ちできないから私たちじゃ無理ね。」

頷く勇者。

完全に行き詰まりです。

私たちは気分転換も兼ねて夜の村を散策することにしました。

 

 

「あらあなた達は新婚さん?アリアハンからハネムーンかしら。」

散歩をしていると見知らぬ村のババアがとんでもない事を言ってきました。これは精霊への冒涜と言っても過言ではないレベルです。しかし旅の路銀が乏しい私たちは同じお部屋に寝泊りしているため、変に否定して色々聞かれ、万一にも私の正体が知れたら大騒ぎになります。無念にも否定できない事が口惜しいです。

ババア…もとい、村の女性は私たちをレーベの村中案内してくれました。道具屋や武器屋といった普通のお店しかありませんでしたが。

私が武器屋で可愛くオネダリして買ってもらったブロンズナイフくらいしか成果という成果はありません。

まぁ80Gもする高価なものではあるのでマコトにしては奮発してくれた方でしょう。ババ…村人がたまには奥さんへの贈り物は大切よ〜というアシストもあった事は忘れないでおいてあげます。

そして最後に村はずれにある民家の前で女性は立ち止まり小声で言ってきました。

 

「ここは変わり者のお爺さんが住んでる家なの。」

「変わり者?」

マコトが聞き返すと女性は頷き、更に声を潜めて続けた。

「昔はアリアハンのお城で研究者をしていたらしいんだけどね、どこかで頭でも打ったのか突然『ワシはルビス様の神託を受けたー』とか言って家に籠っちゃってるのよ。」

それを聞いたマコトが私の方に振り向くのですが、見に覚えのないない私は無言で首を振る。

すると中から怒号のような初老の男の声が響き渡る。

 

「誰でござるかー!ワシの家の前で堂々と悪口言っている奴らは!」

村人の女性は飛び上がるように驚き走り去って行った。

「オレはアリアハンから来た勇者マコトで隣にいるのが旅を共にする僧侶のルビアです。」

「…なに、勇者じゃと?」

今度は静かな声で返ってきました。

「ワシはメルビン、かつて勇者じゃったものでござる。」

「おいルゥ、爺さんもかつて勇者だったとか言っているけど勇者ってそんなにいるもんなの?」

「そんな訳ないでしょう。」

扉越しに語る老人はメルビンと名乗りました。ローシュの隠し子?とも疑いましたが名前に聞き覚えがないのできっと只の痛い老人でしょう。

「よいか今代の勇者よ、ワシはルビス様の神託でこの扉を開けた者に東の『いざないの洞窟』の封印を破る『魔法の玉』を授けるように仰せつかっているでござる。よいか勇者よ、鍵は海岸沿いに見える『なじみの塔』にあるからワシにそなたの勇気を見せるでござる。」

 

変な言葉を使うジジイはどうやら扉を開けろと言っているようです。

 

「めんどくさいなぁ…要は扉を開けてくれって話しだろ。ルゥ、お前一応精霊だろ?扉とか開けられたりするか?」

「一応は余計よ。まぁ美しく気高い精霊の私なら扉を開ける為の呪文を知らないでもないわ。」

「おおマジか!さすがじゃねーか、初めてお前が役に立った気がするぜ。」

「マコちゃんあんたねぇ私を何だと思っているの。」

「役立たずのビッチ」

 

イラッ

怒りでまた勇者を殺しそうになりました。

 

「チッ!マコちゃんあなたには一度私の有り難みを見せる必要があるわね。見てなさいよ…『アバカム』!!」

 

ガァァァン!!

 

「クッ、なかなかやるわね。アバカム!アバカム!アバカムッ!」

 

ガンガンガンガン!!

 

「こらこらこら!ワシの家を壊す気か!!勇者よ、そこのアバズレを辞めさせんかー!!」

「何ですって!!誰がアバズレ…「ってアホか!!」」

 

バシン!

 

「いったいわね!何すんのよこのヘタレ!」

「何すんのよじゃねーよ。何がアバカムだよ、ただ蹴破ろうとしてるだけじゃねーか!」

「だってしようがないじゃない!扉が開かないと先に進めないんだからしようがないじゃない!!私嫌だもん、あんな遠くの塔まで行くの。」

「オレだって嫌だ…いい事思い付いたぜルゥ。」

 

ニヤリと笑う勇者。

あぁその顔はきっとロクでもない事を考えている顔ですね。

しかしどこか期待させるのも確かです。

 

パチパチパチ…

マコトは何処からか松明に火を灯し、その炎をそっとくべた。

 

「なるほど、炙り出し作戦ね?マコちゃん冴えてるじゃない。」

「だろ?これなら向こうから…」

 

「やめんかー!!お主は本当に勇者でござるか…って、あれ?」

内側からバンッと扉が開き、中から初老の男性が現れた。

白い髭と錆び錆びの『くさりかたびら』を着た、私の予想通り何ともマヌケそうなジジイ…メルビンが現れました。

「爺さん、本当に燃やすわけねーだろ。」

そう、マコトは扉の前で焚き火に火をくべただけなのです。まぁ2人で煙が扉の隙間からお部屋に入るように風を送りましたけど。

 

「なんじゃ焦ったでござるよ。」

「ハハ、一応勇者なんだからそんな事しねーよ。」

「じゃよな、しかしまぁお主も中々頭を使うようでござるな。これからの勇者は力だけではなく知恵も必要でござる。」

「照れるからやめろよー。」

「なんのなんの、マコト殿は立派な勇者でござるよ」

 

普段褒められる事がないマコトはジジイの褒め言葉だけで得意げになっています。チョロい男ですね。

 

「まぁやり方は変わってはいたが扉を開けさせたのでござるから、約束通りいざないの洞窟の封印を破る魔法の玉をお主に授け…ん?なんか熱いでござ!!」

「おわー!!火が飛び火した!」

なんとマコトの焚き火の炎が飛び火し、メルビンの家は紅蓮の炎に焼かれていた。人間は火を囲ってキャンプファイヤーなるものが好きとは聞いていましたが、家を丸ごと焼くとは中々やりますね。

その後レーベ中が騒然となった。

火は何とか駆け付けた村人たちによって鎮火し大事には至らなかったのですが、私たちはレーベの村を追われ今後出入り禁止になりました。

 

 

仕方ありません、今日の事は無かった事としてそっと冒険の書を消しておく事にしましょう。

 

 

 

 

続く

 

 




良い子は真似してはいけません。ルビスとの約束、ですよ♡


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アリアハン脱出

「ねぇマコちゃん、あのござるはいつまで付いて来る気かしら。」

「さぁ…」

 

私たちはレーベの村を追われるようにアリアハンの東にある『いざないの洞窟』の南にある祠まで逃げ…おっと間違えました。旅を進めたのですが、家を焼け出されたメルビンが私たちの後を付いてきてしまったのです。

 

「ねぇマコちゃんあのお爺さん、仲間になりたそうにこっちをみているんですけど。」

「目を合わせないで放っておけ、爺さんなんかパーティにはいらん。」

勇者は振り向きもせずに答えました。

「なんじゃとー!!お主等はこの憐れな老人の家を灰にしておきながら優しさの一つもかけられんのでござるか!」

「うるせー!モンスターに見つかるだろうが!!」

「そもそもそこがダメなのでござる。なんじゃあのカサカサと歩きモンスターの背後から襲う戦い方は。まったく勇者らしくないでござる。」

「仕方ねーだろオレたち弱いんだから!まだ二人ともレベル5なんだから。」

胸を張って言える事ではないと思います。

「じゃからワシのような元勇者がパーティに入ってやろうと言ってるのでござる」

「戦ってもいないのにHPがオレンジ色なジジイなんていらねーよ!」

「なんじゃとー!」

 

どうしようもない事でギャーギャー騒ぐ二人の姿はとても滑稽ですね。しかしそんなに騒ぎ立てるものだから祠の周囲は…

 

「ねぇちょっとマコちゃんヤバいんですけど。祠がモンスターに囲まれているんですけど。」

私に周囲の状況を聞いて祠の外を見た勇者は青ざめた。

「ほら見ろ!どうすんだよこれ、祠がモンスターに囲まれているじゃねーか!これじゃ不意討ちもできねーよ!」

「大丈夫でござるよ。通常祠には精霊ルビス様のご加護があるからモンスターは入ってこれないでござる。」

「本当なのかルゥ?」

心配そうに私の方を向く勇者に私は笑顔で頷いた。

祠は精霊である私の加護を受けた聖水で清められているから通常モンスターに襲われることはありません。ですがマコトが言うように不意討ちが出来ない以上はどうあってもあのモンスターの大群を相手しなければならないのも事実です。

 

「待ってればそのうち諦めたりしないかなぁ?」

「どうかしら。その前に私たちが飢えちゃうんじゃないですか?」

「二人とも情け無いでござる。あれしきのモンスター如きワシ1人で充分でござる。」

「よし行ってこい」

 

そう言って私たちはメルビンの背中を押しますが、メルビンは踏ん張ります。

 

「なんだよ、爺さん1人で充分なんだろ?ここは任せるから早く行けって!」

「いやいやいや、そうは言ってもパーティなのでござるからここは共に…」

「いやいやいや、メルビンさんを囮にしてその隙に私たちは逃げますから後ほど街で会いましょう…」

「ルビア殿までなんて冷たい…それにマコト殿は勇者でござろうが!仲間を見捨てたなんて知ったら精霊ルビス様もお嘆きになられるでござるぞ?」

「いやいや仲間じゃねーし、それにルビス様もきっと賛同してくれるぜ。」

 

共にメルビンさんの背中を押しながら私は頷きました。

 

そんなやり取りが10分くらい続いたとき、ふと勇者が問いかけてきました。

「なぁルゥ、祠の中ってホイミとか使えんのか?」

「なに?ケガでもしたの?はいホイミ。」

指先から放たれた清らかな光がマコトを包み傷を癒す。

「いやそうじゃなくて、祠の中で普通に呪文が使えるのかなって。」

「使えるわよ?あくまでもモンスターが近付きたくない清らかな聖水で護られているだけで呪文をかき消すような効力はないわ。わりとあたりまえじゃない、バカなの?」

勇者は一瞬だけイラっとした顔をしましたが、何を思いついたのか祠の入り口に立つと両手を外に出し

『メラ』

ポソッと言った。

 

勇者の手から放たれた小さな火球は祠を囲っていたモンスターの一体に命中し、力なく崩れ去った。それを見た勇者は黒い笑いを浮かべ

「ふははは、メラ!メラァ!」

マコトはとても楽しそうにモンスターが近づけないところからメラで攻撃しています。さすがですね。

 

「ほらルゥ見て見ろよ、モンスターがまるでゴミのようじゃないかふははは…」

「ちょっとメルビン、あんたのその武器(たけやり)を貸しなさい。」

私はメルビンから武器を奪い取ると祠の中からモンスターをプスッと突いた。

「ふふふ…」

「ぬははは…」

2人は顔を合わせ無言で頷くと、次から次へと祠の周りのモンスターをメラで焼いたりプスッと刺しました。あまりに簡単に戦える状況がなんだか楽しくなってきたやさき、周囲にいたモンスターたちは散り散りに逃げて行きました。

「全く、なんて情け無い戦い方でござるか。」

メルビンがなんか言ってますが何事も安全第一です。無視してやりました。

 

 

そして安全を確保した私たちは、ついに『いざないの洞窟』の最深部まで辿り着きました。そこには通路を塞ぐような巨大な石の壁が有り、先に進めないようにされていました。

私たちは瞬時にこれがアリアハンの王様が施した封印だとさとりました。その壁の厚さから如何に王様がモンスターを恐れているか知れました。…チキンですね。

 

「さて、これをどうすっかだな。メルビン、あんたコレをどうにかする『まほうのたま』を持っているんだったよな。」

勇者が言うと

「確かにワシは持っているでござるが、コレを使いたければワシを正式にパーティに入れると約束して欲しいでござる。」

とメルビンが答えた。

勇者は腕を組んで悩んでいるようですが

 

・ 仲間にする

・ 何とか譲ってもらうよう努力する

→ 殺して奪う

 

辺りでしょうか。

案の定マコトはどうのつるぎを抜いています。

 

「な、何をする気でござるかマコト殿!」

「うるせー!さっさとそのまほうのたまとやらをよこせ!!」

ギャーギャーと騒ぎ揉み合う2人から黒い球体が私の足元に転がってきました。

私は拾いあげて眺めると、何やらボタンのようなものがあります。なるほど、まほうのたまがどの様なものかは知りませんがこのボタンを押して使うようです。

私はそのボタンにそっと指を添えた…

 

「ね、ねぇマコちゃん、まほうのたまがピッ!とか言ってんですけど。なんか数字がどんどん下がっているんですけど!」

「あ!ルビア殿、退避する前にボタンを押したらダメでござる!!」

「ルゥおまえ何やってんだよ!!」

「怒らないでよわざとじゃないんだから!って言うか球体が熱くなってきたんですけど!なんか光はじめてるんですけどぉ!!」

 

 

ドオオオオオン!!

 

凄まじい光を伴ったごう音がいざないの洞窟の中で鳴り響いた。

 

 

 

 

 

光も通さぬ生と死の狭間『境界』

 

「ああ勇者マコトよ、死んでしまうとは何事ですか…」

 

お決まりの私のセリフに

 

「おまえだー!!!」

「きゃー!ごめんなさい、ごめんなさーい!」

 

真っ暗闇に勇者の叫びと私の嘆きがこだました。

 

 

そして生き返った私たちは再びアリアハン(ふりだし)へと戻されるのでした。

 

 

 

 

つづくかも

 

 

 




いつも読んで?いただきありがとうございます。
キリがいいと言えばキリがいいのですが、コメントを下さった方までいらっしゃるので、細々頑張ろうと思います。

一応予定では前作には書かなかった細かなところまで買いて行く予定ですが、何せ未だ本人はやったことないゲームでウィキペ頼みです。今後とも生暖かい目で応援お願いします。


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カニ鍋は全てを忘れさせる

第2章的な感じです。
新天地に出た2人を待ち受けていたものは…


「噂には聞いていたけど凄えなぁ。」

 

魔王討伐を誓うこと10日目。私と勇者マコトは『いざないの洞窟』を抜け『たびのとびら』で海を越え、遂にと言うかやっとと言うか新大陸のロマリアへとやって来ました。

 

かつて世界の中心と言われていたアリアハンでしたが、島国ということもあるのか王様がへっぽこなのか、新天地であるロマリアはマコトが言うように凄まじい発展を遂げている。

先程から都市があまりに珍しいのかキョロキョロと辺りを見回す勇者があまりに田舎者にみえる。恥ずかしいから少し離れて一緒だと思われないようにしましょう。

 

「なぁルゥそういえば気になったんだけど、あの爺さんはどこに行ったんだろうな?あの爺さんも生き返ったんだろ?」

爺さんとはレーベの村からついて来たメルビンさんのことでしょう。

「あのねマコちゃん、私だって何でもかんでもは生き返らせたりしないのよ?」

「え、そうなの?」

「あたりまえでしょ。死んだ人を全員生き返らせたりしたら人の世界大混乱よ。マコちゃんは世界を救う勇者だから特別なの。一応言っておくけど今後仲間ができたとして、その人が死んでしまったとしても私は生き返らせるつもりはないわ。」

「ふ〜ん、じゃああの爺さん死んじまったんだ。」

 

貴方は特別♡と言っている私の言葉を喜ぶどころかしれっと流しやがりました。少しは女が喜ぶような反応くらいして欲しいものです。

 

「でもまぁ今回は私にも責任がありますからね。今回に限って生き返らせてあげたわ。でもまた付いてこられても面倒だからその辺の石ころ(ホットストーン)に封じ込めといたんですけどね。」

「おいおい、それって大丈夫なのかよ。」

「大丈夫じゃない?それなりに目立つようにはしてあるからそのうちに誰か拾って封印を解くわよ。」

 

マコトは白い目で私をみていますが、のちに彼はホンダラさんとか言う人が拾うらしいのですが、それはまた別な冒険の書の物語なので適当に流しましょう。

 

 

 

「アリアハンから来られたんですか?珍しいですね。あそこは知らないうちに石の壁ができちゃって行き来が出来なくなってしまったんですよねー。」

私たちはロマリアに着くなり先ずは寝所である宿屋を取りに行きました。カウンターにいる女将さんは簡単にロマリアについて説明をしてくれる。そこで私たちがアリアハンから来たことを告げると驚きの表情で言いました。

「最後に来たアリアハンのお客さんは何年前かしら…確かオルテガって名乗ったと思いますが…。」

 

旅先でお父様の名を聞いて少し涙ぐむマコト。少しは可愛いところがありますね。

 

「本当に驚きましたよー。だってオルテガさん、最初はドザエモンかと思いましたよ。」

「え?ドザエモン?」

「はい、なんでもオルテガさんアリアハンの出方が分からなかったらしく、仕方ないので海を泳いで渡ろうとしたらしいんですけど、鎧を着て泳げるはずもなく溺れたそうですよ?それを沖合に漁に出ていた漁船の網にかかったらしいんですよー。バカですよねー。」

 

お腹を抱えて笑う女将さんはふと気付いたように

 

「あら?そういえばお客さん何処と無くオルテガさんに…」

「気のせいです。」

「え、でも…」

「全くの他人ですから。」

 

さっきまで少し涙ぐんでた勇者は今は冷たい目をしていました。

 

 

 

「泳いで海を渡るとかぁ超ウケるんですけど!!鎧を着て泳ぐなんてバカよね?ぷーくすくすくす!!」

ガンッ!!

「って痛い!何すんのよ!」

 

部屋に着くなり堪えてた笑いを吹き出すとマコトが私の頭をぶちました。別に私が悪いわけじゃないのにです。最近は遠慮なく精霊である私をポンポンぶつ勇者に天罰でも落としてやろうか検討中です。

 

「さて、先ずはどうすっかだな。」

「もう夜中だからお城は入れないし、お買い物するにもお店も閉店しているんじゃない?」

「そうなんだよなぁ、でもこのまま寝ちまうのもなんだかもったいないし…少し町の散策でもするか。」

勇者の提案に私ものり夜のロマリアを散歩することになった。

 

意外にも人がいる。

と言うのが最初の感想でした。アリアハンなら犬さえ夜は寝ているのですが、ロマリアはさすがに子供はいないものの割と普通に大人たちが歩いている。その表情は明るい人や青ざめた顔をした人、本当にさまざまです。

理由はすぐに分かりました。ロマリアにはモンスターの闘技場なるものがあるそうです。ようは一種のカジノがあるわけです。

 

「なあ、ちょっとカジノに行ってみないか?」

「えー私ギャンブルは嫌いなんですけどー。」

「まぁちょっとくらい良いじゃねーか。せっかく異国まで来たんだから異文化に触れるのも大切だろう?」

 

最もらしい言い訳をいうマコトは嫌がる私の手を引きカジノへと向かうのでした。

 

 

 

「夜なのに大盛況だな。」

「ええ、食べたり飲んだりも出来るし、これは想像以上ね。」

「お!始まるようだぜ。スライムとキャタピラーの戦いか。流石にこれはキャタピラーだろ。」

「スライムが勝つわよ。」

「は?なんでだよ、普通にキャタピラーじゃねーの?」

「あのスライムレベルが一桁違うもの。絶対スライムが勝つわ。」

「え?おまえ相手のレベルが分かるの?」

「あのねぇマコちゃん私を何だと思っているの?そのくらい余裕よ。」

 

胸を張る私を華麗にスルーしたマコトは早速スライムへと賭けました。持ち金の一部しか賭けないあたり私を信じていないのかヘタレなのか、器がしれますね。

数分後、私の予想通りスライムが勝利し、マコトは歓喜していました。

 

「なあ、これやばくないか?」

「なにがよ。私はギャンブルは嫌いだと…」

「しっ!」

マコトは私の唇に指をあて言葉を遮る。

「良いのか?金があれば狭いベッドを取り合う様に寝なくても良いんだぜ?ダブル…いや、キングサイズだって夢じゃねー。」

ドヤ顔で声を潜めて言う。そこで二部屋取るって発想が無いのがさすがですね。

「…本当はこう言うの良くないとおもうのよ?」

「分かってるって。」

 

そう言ってマコトは次の予想を私に聞きカウンターへと走っていく。

 

 

 

 

 

そして三日が過ぎた

 

 

「ふはははやったぞルゥ、これで1万Gだ。」

「やったわねマコちゃん。今夜は『ぐんたいがに』の蟹味噌ね〜。」

「おお!さらに今日は高級なお酒も入れちゃおうぜ!今夜は2人でカニパーティだぁ!!」

「良いわねぇ!もうカジノ最高!!」

 

宿屋のスイートルームに泊まり贅沢三昧な生活をする

私たちが目を覚まし、目的を思い出すまでさらに三日かかりました。

 

 

 

 

 

つづく




カニ食べたい…


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似て非なる者

私たちこのままじゃダメよ

 

私はこの金の亡者…おっと間違えました。勇者がギャンブルにはまってしまっては世界を救う事ができない。私は清く美しいそして良識ある精霊、勇者を正しい道に導いてあげるために顕現したんじゃない。

私がマコトを元の旅に戻さないで誰ができると言うのかしら。

 

「おいルゥ、心の声がダダ漏れだぞ?それに散々贅沢三昧しているおまえが何を言ってやがる。」

「そんなほほはなひは。わたひたひはまほうを…」

「カニを飲み込んでから話せ!リスみたいに口に詰めて食べやがって!」

「そんな事はないわ。私たちは魔王を…」

「ああそれはもういいよ!」

 

魔王討伐をソレで片付けますか。

私たちはロマリアのカジノ内でカニとお酒を楽しみながら今日も闘技場でお金稼ぎをしています。2人はすでにロマリアで揃えられる装備は全て揃えました。宿屋もスイートに泊まっています。これなら当分の旅費は問題ないでしょう。しかしヘタレなマコトは贅沢な生活から厳しい旅に出るのを嫌がってか中々ロマリアを離れようとしません。

 

「でもよ、遠い異国の地で大成功したんだからもう旅とかよくね?」

「ダメよ!それじゃ私が本体に戻れないじゃない!せめて私を戻して!私を助けて!!」

「…世界とかは良いんだ。」

「そ、そそそんな事はないわよ?もちろんそれもお願いよ。」

「今おまえ〝も〝って言ったか?取ってつけたようにそれもって。」

「言ってない。」

「言っただろーが!」

全くこの勇者はどうでもいいとこだけはしっかりと聞いてやがります。

「良いマコちゃん、私はただでさえこの世界に顕現するのに大量のMPを使っているわけ。だと言うのにマコちゃんがポンポン死んじゃうから私も大変なの!」

「俺が死んでるの…主におまえのせいだけどな。」

「…。」

「って言うか、おまえにもMPなんてあるの?宿屋で寝れば回復すんじゃねーの?」

「私が人間と同じやり方で回復するわけないじゃない。バカなの?」

「おまえッ…」

仕返しとばかりに言ってやると、少しだけイラッとした顔をしていました。

ふふふ、中々味のある良い表情です。

 

そんなわけでロマリアに着いて6日目にして初めて私たちはロマリアのお城へ挨拶に行くことになりました。

 

 

 

「何?アリアハンから来た勇者じゃと?」

 

何でしょうか。玉座に座るロマリア王に私たちは違和感を覚えます。

 

そんな私たちが王室に伺うと王様は私たちに歩み寄って歓迎してくれ…ませんでした。

「すまんのぉ、ワシは勇者を…特にアリアハンから来た勇者を信じきれんのじゃ。」

「勇者を信じられない?」

マコトは王様に勇者を信じられないと言った事がどうしても納得いかないらしくロマリア王に何とか食い下がっています。

私もその理由には興味あります。

他の勇者を名乗る人物と精霊である私が勇者と定めたマコトを同じに見られてはたまりませんから。

そんな私たちに根負けしたかのようにロマリア王は一枚の姿絵を見せた。

そこには1人の屈強な戦士がいました。

となりのマコトが少し涙ぐんでいるので戦士が直ぐにお父様の『オルテガ』だと分かりました。

 

「数年前、この男がアリアハンからやってきたのじゃ。最初は鎧を着て海を渡ろうとするアホだと思ったんじゃが…ん?なんかマコトと言ったか?そなたに似ておるな。」

「気のせいです。」

即答したマコトは涙ぐむどころか大層冷たい目をしていました。

「まぁ良い。その男はダメになった鎧を捨て姿絵のように半裸のような格好をしていたのじゃが、ロマリアの城下町の民には大層好かれておってな、ワシも彼を勇者として迎え入れたのじゃ。」

「それがなんで勇者不信に?」

マコトの疑問も当然だと思います。今の話を聞く限り私もソレが分かりません。

そんな私たちの疑問の顔を一通り見たロマリア王は、深く息を吐き重苦しい雰囲気の中話を続けた。

 

「ワシはあるものを凶悪な盗賊団から取り返してほしいとオルテガ殿にお願いしたのじゃ。」

「ふーん。で?」

「彼はワシの願いを頭を下げて丁寧に断ったのじゃ。彼には魔王バラモスを倒し世界を救うと言う急務があるからと。ワシは心を打たれた。王とはいえワシの個人的な悩みより世界中の人々を優先する…彼は真の勇者じゃったんじゃ。」

「オルテガさんは本当に世界を救おうとしていたんですね?素敵な勇者だと私も思います。」

「そうじゃろう?ルビアちゃんもそう思うじゃろ?」

 

ちゃっかり私をちゃん付けで呼ぶこのジジイは何かいやらしい目つきで私を見ています。気持ち悪いですが彼は一応王様ですからここは我慢です。それよりも隣のマコトが全然私を庇わない事に問題がある気がします。私は王様に見えない角度で彼のお尻を抓ってやると、マコトは飛び上がるように驚きました。いい気味です。

 

「ん?どうしたのじゃ?」

「な、なんでもないっす。それより断られたから勇者不信に?」

「そんな訳でないじゃろ。先程ワシの大切な物を盗んだ盗賊団がいると言ったじゃろ?」

「言ってたっすね。」

「最近部下から盗賊団の首領の情報がワシの所に上がってきたのじゃ。名は『カンダタ』、奴はその筋ではかなり有名な男らしく悪虐の限りを尽くしているようじゃ。窃盗を始め誘拐に殺略…まさに悪の代名詞じゃ。そしてこれがそのカンダタの姿絵じゃ!!」

 

ロマリア王はテーブルに怒りをぶつけるかのようにバンッ!!と姿絵を叩きつけました。そこには…

 

ビキニのパン一に、頭がスッポリかぶりマントの付いたマスク。

…ッ、笑いを堪えるのに必死なんですが例えるなら『覆面パンツ』と言ったところでしょうか。

そして何よりも私の我慢と言う防御力を打ち破ったのはその姿が先に出されたマコトの父オルテガにソックリだった事です。

 

「ふーふー…」

「おいルゥ、涙貯めて笑いを堪えるくらいなら笑えよ。」

「プー!!何この格好!ありえないんですけど!ビキニパンツ一丁に覆面マント、どこに売ってるのよこんな装備!この姿で勇者を名乗るとかちょーありえないんですけど!ぷーくすくすくす!!」

ガツン!!

「痛ッ!笑えって言ったのマコちゃんじゃない!なんでぶつのよ!」

「うるせー!」

笑えと言うから笑ったのに頭をぶつなんて酷すぎよ。本当に一度天罰を落としてやろうかしら。

 

「2人ともケンカはやめるんじゃ。話を戻すがこんな奇特な格好している変質者が何人もいるわけが無い。要するにコヤツは最初からワシの大切な物を狙って勇者と称し近付いてきたのじゃ。」

 

なるほど、ロマリア王はカンダタなる盗賊の首領とマコトの父であるオルテガさんを同一人物と見たようです。

まぁたしかに姿形、服のセンスまでソックリな2人。

それにしても言うに事欠いて変質者とは…ダメです私は再び声を出して笑ってしまいました。

 

「…同一人物かは俺は他人なんで分かりませんが、ロマリア王の大切な物を俺が取り返してきてやりますよ。」

あくまでも他人を強調しますか。

私はお腹を抱えて笑ってしまうとまたぶたれました。

 

「おおそうかそうか!そなたが取り返してくれるか。それなら取り返したあかつきにはそなたを真の勇者と認めよう。」

「…いまいち納得はできないんだけど…そのカンダタは何を盗んだんですか?」

「…じゃ。」

「は?よく聞こえなかったんすけど。」

「王冠じゃ!ワシの王冠を取り返してほしいのじゃ!」

 

そこで私たちは最初に覚えた違和感の正体に気が付きました。そうです、ロマリア王の頭上には王である証の王冠がないのです。

 

「どうしたらいつも頭の上に乗ってる物を盗まれるんだよ。」

「本当よね、どんだけマヌケでも普通身につけてる物を盗られるなんてあり得ないわよね。」

 

私たちは白い目で王様を見てヒソヒソ話していると、ロマリア王は真っ赤な顔になって

 

「早く取り返しに行ってこんかー!!!」

 

私たちを追い出しました。

こうして私たちは盗賊団討伐と盗品の奪取をすることになりました。

 

 

 

 

つづく




カンダタさんとオルテガさん…ソックリすぎてちょーうけるんですけど!ぷーくすくすくす!!


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ガザーブの村

「ぶえっきしょい!!う〜さぶっ」

「何よマコちゃん風邪?バカでも風邪ってひくのね。」

「おまえ最近言いたい放題だな。」

 

私が世界のために顕現すること18日目、私たちはガザーブの村にやってきました。ロマリアでの情報では盗賊団は北に逃げたと言うからですが、どうして逃亡者と言うのは北に行くのでしょうか。どうせ逃げるなら南国の温かい方へ行ってもらいたいものです。

 

「それにしてもなんでこんなに寒いのよ!虫(キラービー)は多いし、何かゾンビみたいな犬(アニマルゾンビ)は腐った臭いがするわで最低よ!!」

「まぁこの辺りになると標高高い山間部だからなぁ、アリアハンとかに比べるとやっぱ寒いよなぁ。」

 

私の愚痴に応える勇者。こんな時に落ち着いている男性はやっぱり頼もしいものですね。鼻水さえ垂らしてなければちょっと見直すところでしたよ。

 

「さて先ずはどうすっかだな。」

「やっぱり先ずは宿屋じゃない?何処にいるかもわからない覆面パンツ(カンダタ)が1日で片付くとも思えないし。」

「何を悠長なことを言っているのだ2人とも!ロマリア近衛騎士たる私がいるのだから早期解決が当然ではないか!先ずは村で情報収集がさき…って聞いているのか2人とも!!」

 

「主人、宿を借りたいんだけど。」

「お客さんかい?よくこんな村まで来てくれましたね。泊まりかい?休憩かい?」

「こ、こら貴様聞いているのか?アリーナ姫さまをこんな所に泊まらせるわけには…」

「泊まりでお願いします。部屋は一部屋で人数は大人2人です。」

「お、おい貴様、私たちの部屋は?」

「ねぇクリフト、この2人完全に私たちを無視しているわよ?」

「私を無視するなーー!!!」

「「チッ…」」

 

私たちは2人して舌打ちしてしまいました。

このうるさい人はクリフトさん。そして女の子は、どうしたらあのロマリア王から出来るのか、可愛らしいお姫さまのアリーナさんです。

2人だと約束を反故にして逃げそうだと思ったらしいロマリア王が付けた助っ人らしいのですが…

適当に約束して逃げる気満々だった私たちの先を読むとは…ロマリア王もなかなかやりますね。

そんなわけで面倒な依頼を受けてしまったマコトは不機嫌です。

でも、クリフトさんとアリーナさんの各部屋と私たちの部屋の3部屋を取ったのですが、ちゃっかり私たちの部屋のぶんもロマリア国で領収書きったこと…私は見逃していませんよ。

部屋をとると私たちは作戦会議とばかりに私たちのお部屋に集まった。

 

「改めて自己紹介します。私はクリフトと申します。職業は僧侶ですが槍が得意なので前衛もいけます。」

「ふ〜ん。」

 

本当に興味なさそうな返事をする勇者は全く聞く気ありませんね。

 

「私はアリーナです。一応ロマリアの姫ですが武道家でもあります。無理言ってついて来てしまってごめんね。」

「大丈夫っすよ!それにしてもお姫さまが武道家だなんて…危ないので戦闘の際は俺の後ろで…ッて痛!!」

「何突然やる気出してるのよ!」

お尻を蹴り飛ばしてやりました。

全くこの男ときたら…

もう一緒に行かざるを得ない状況にあるようなので仕方がありません、私たちも相手に習って挨拶を交わすことにしましょう。

 

「私はルビアです。私も僧侶です。」

「まったく役に立たないけどな。」

ボソリと呟く勇者を睨み付けた。

そんな私を無視してマコトは一歩前に出るとドヤ顔で

「そして俺が勇者「じゅうしゃ」マコトです。」

仕返しをしてやりました。

「…おいルゥ、今お前勇者に違う文字をあてなかったか?」

「気のせいじゃない?」

「嘘つけー!なにが従者だ。おまえなんか元なんとかのくせにまったく役に立たないお荷物じゃねーか。」

「元じゃないわよ!現在進行形よ。INGよ!!謝って、早く謝って!」

 

お互いもみくちゃになって言い争っていると、それをみていたアリーナちゃんが笑い出した。

 

「お二人もそう言う仲なんですね。」

勘違いにしても酷い言われようです。はっきり言って精霊への冒涜と言ってもいいぐらいです。

しかし私は気になるワードを聞き逃しません。

「お二人もって言うことは?」

「はい、私たちも…。ですが身分の差からお父様の許可が下りず…。これはもうお父様をしばき倒してどこか異国に逃げようかと思っていたところにお二人がやって来まして。お父様の大切なものを取り返せば結婚を許してくれるかなって。」

 

なるほど。今回の盗賊団討伐と王冠を奪取した功績をもって結婚の許可を、と言うのですね。

わかります。これ失敗のフラグというやつですね。

となりのマコトなんかもうやる気ありませんよ。

 

「そう言うわけで貴様らを支援するのだからありがたく思え。で?作戦はあるのか?」

「ねえよ。先ずは村の人からカンダタの情報集めだろ。」

「そんな悠長なこと!!」

「じゃああんたはカンダタがどこに潜伏しているか知ってるのかよ。奴らのレベルは?何も知らないで突っ込んで行ったって勝てないかもしれねーだろうが。」

マコトにしては正論ですね。クリフトさんもぐうの音も出ないと言った顔です。

「わ、私がいれば盗賊ごとき大したことはない。私の槍の錆にしてやる。」

「ほ〜う、じゃあ聞くけどクリフト、あんたのレベルは?」

「フンッ、よく聞け私のレベルは5だ!!」

 

胸を張って言うクリフトさん。

そしてそれを聞いたマコトと私は無言でベッドに入り布団を被って眠りにつくのでした。

 

その後もギャーギャーと耳元で騒がれた私たちは眠ることが出来ず、仕方ないので夜のガザーブの村の散策に出ました。

マコトは手当たりしだいの民家にズカズカと入って行って行き、ポカンとした表情の住人をよそにツボを割り本棚を漁り引き出しを片っ端から開けていく。まぁいつものことです。しかし初めてその光景に驚いたクリフトさんは猛抗議をしてきます。

 

「貴様らは勇者一行だろうが!なんで民家の…しかも住人の目の前で物色しているんだ!!」

「いいかクリフト、それはな…」

「それは?」

「そこにツボやタンスがあるからだ。」

「は?」

「ツボとかの中にはたまに『ちいさなメダル』とか各種のたねや、たまにゴールドが入っていたりするんだ。」

「それって泥棒じゃ…」

アリーナちゃんの指摘にマコトは指をあて

「いいか?俺たちは世界を救う為に旅をしているんだ。だから民家から少しくらい拝借したとしても問題ない。」

 

格好つけているつもりなようですが、アリーナちゃん完全にドン引きしていますよ。

そんな中でした。私は一つの宝箱を発見したのです。

「!!ヤバイわマコちゃん。」

「どうしたルゥ?」

すやすやと眠る道具屋さんの家で、それは燦然と輝くかのように私には見えた。間違いなくこれは宝だ。開けなくともわかる。そこには私たちにとってかけがえのない宝がここに眠っていると。

 

ルビアは『どくばり』を手に入れた。

 

「やったなルゥ、伝説の武器ゲットじゃねーか。」

「ええ、これで私たちの旅は安泰になること間違いなしね。」

 

私たちが密やかに喜びを分かち合っているとクリフトさんとアリーナちゃんが大声で騒ぎ、もちろんそんなに騒ぐものですから住人が起きてしまいました。

「ど、ドロボー!?」

「俺はロマリア国のクリフトでーす!!」

「私はアリーナでーす!」

「こ、こら貴様ら私たちの名前を叫んで逃げるな…って早っ!」

 

 

それは見事な逃げ足っぷりです。

武道家のアリーナちゃんも追いつけない。逃げ足で私たちに勝てると思っていたのでしょうかクリフトさんは。

 

私たちは名前を叫びながら真夜中のガザーブを逃げ回るのでした。

 

 

 

つづく

 

 

 

 

 




うふふふ。これで私たちの旅は楽になるわねマコちゃん♡


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脱線そしてまた脱線

「盲点だったよなぁ、まさか『どくばり』が魔法使いにしか装備できなかっただなんてな。」

「本当よねぇ。これじゃあ覆面パンツ(カンダタ)の討伐は厳しいわね…ねぇマコちゃん、あなた魔法使いになったら?」

「おまえ…とうとう勇者を否定しやがったな。」

 

 

パチパチと乾いた音を立てて焚き火が燃えている。

ガザーブの村を追われるように旅立った私たちは、村の北に位置する深い森でキャンプをはっています。

まさか精霊であるこの私が野宿をさせられるとは夢にも思いませんでしたが、まぁ目の前の勇者にそんな甲斐性があるとも思えないので仕方ないのかもしれません。

森の中からはモンスターなのか動物なのか判らない鳴き声が聞こえるんですけど…。この人いざとなったら私をちゃんと護ってくれるのでしょうかとても不安です。

 

「どうすっか。盗賊団の討伐は諦めるか。」

「そうね、別にロマリア王の王冠がなくても世界は困らないものね。『どくばり』が使えない以上、このクエストは破棄しましょう。」

「待て待て待て!それは困る。私たちは偉大なるロマリア王より直々に依頼を賜ったのだぞ?栄誉あることじゃないか。」

「…おまえまだいたんだ。」

「いるわー!!勝手に存在を消すな。」

ロマリアから付いてきてしまったクリフトさんとアリーナちゃんもまたガザーブから逃げ出したのですが、わざわざ同じ方向に逃げて来やがりました。途中2人を巻こうと何度か試みたのですが中々上手くいかず今に至ります。

「そうは言ってもよ『どくばり』が使える魔法使いがいないんじゃ、カンダタと戦って勝てる見込みが無いしなぁ。」

「マコト殿は勇者ではないか。勇者なら勇者らしく正面から堂々と撃ち倒せば良いじゃないか。」

「嫌だよ面倒くさい。」

「全く、勇者の癖になんて情けない。」

 

クリフトさんの言葉には激しく同意しますが、そもそもあなた方のレベルが5しかないのが問題なのですがね。本来ならこのガザーブ付近まで来ることができないような低レベルですから。

 

「貴様は勇者なのに王の頼みを無下にしても良いと言うのか?」

「そんな事言ったってなぁ。だいたいおまえ本当は手柄を立ててアリーナちゃんと結婚したいだけだろ?王様の願いなんてどうでも良いんだろ?なんで俺たちがおまえの為に戦わなきゃならないんだよ。」

「そ、そそそんな事はない!わ、私は…」

「こんな事言っているけどルゥどう思う?」

 

そうですね…。呼吸に動悸、視線の泳ぎ具合。少し体温が上がり頬の紅色具合からみて…

 

「クリフトさんダウトー!!」

 

私はクリフトさんの嘘を指差してしてきすると、彼は顔を手で覆い隠しうずくまった。彼は一応僧侶ですから、正体を知らぬとは言え精霊である私の宣告に自身を恥じたのでしょう。

ああ、私の隠しきれない高貴な…

 

「やっぱな。そんな気がしたんだよ。」

「私は…私はアリーナ姫さまが一番…」

 

あくまでも私の思考を最後まで語らせないマコトは、何が気に入らないのかクリフトさんをまともに相手していない。

そんな2人に声をかけたのはアリーナちゃん。

 

「そういえば魔法使いと言えば昔ロマリア王(お父様)から聞いたのですが、ロマリア領北端にノアニールと言う村があるそうなんですけど、なんでも代々高レベルの魔法使いを多く輩出する村なんだそうよ。」

「高レベルの魔法使い?」

身を乗り出すようにアリーナちゃんの話に喰いつくマコト。なんでアリーナちゃんの話だけはちゃんと聞くのか後で問い詰める必要がありますね。

「うん、本当かどうかは知らないけどノアニールの近くにはエルフの隠れ里があるらしくて…生まれつき魔法の才能に秀でた人が多いらしいんですよ。もしかしたらノアニールの人ってエルフの末裔なのかなって子供ながらワクワクした覚えがあるもの。」

「ふ〜ん…なぁルゥ、本当にエルフなんているのか?」

「いるわよ。まぁエルフは多種族との交流を嫌うからあまり姿を見せないけど。ほら、私の『冒険の書』にもノアニールの事は書いてあるもの。」

「ちょっとそれ見せてみろ。」

「ちょっとマコちゃん、それは人には…あっ!」

 

勝手に私から冒険の書を奪い取る勇者は、ペラペラとページをめくって読み始める。しばらくして首を捻った勇者はおもむろに私にソレを返すと

「字が汚くて読めない。」

と宣いやがりました。

「失礼ね!字が汚いんじゃなくて最近は夜寝る前に急いで書いてるから仕方がないのよ!決して私の字が下手なワケじゃないんですけど!マコちゃんがちゃんと王様や教会で祈らないのが悪いんですけど!!」

「『冒険の書』をルビア殿が?冒険の書は王族や神父が精霊ルビス様に祈りを捧げる事で更新する冒険の記録なはず。神々の書を人間が書けるわけがない。ルビア殿はいったい…」

「クリフトさん…やはり教会に通ずる僧侶である貴方に隠し通すことは出来ないわね。ルビアは仮の名前、私は精霊ルビス。あなた方が崇める精霊ルビスその人なのです。」

「「プッ」」

「…」

クリフトさんとアリーナちゃんが鼻で笑った。

「ちょっとマコちゃん、貴方からも言ってやってよ、私が精霊ルビスだって!!」

「プッ」

「ウガー!!この背教者め!!」

私は勇者の首を絞めガンガン揺さぶると、それを見たクリフトさんとアリーナちゃんが慌てて止めに入りました。

 

「と、まぁルゥはたまに自分が精霊だ女神だなどと痛い事を言うがそっとしてやってくれ。」

納得いかない説明ですが、おまえの正体がバレると大騒ぎになるだろのマコトの一言で私は正気を取り戻しました。

 

「字がアレすぎて読めないけど、やっぱりエルフって魔法使いが多いのか?」

「…アレって何よ。エルフはもともと魔力を扱うのが得意な種族だもの、魔法使いは必然的に多いわね。」

「よしっ!!じゃあカンダタ討伐の為にノアニールに仲間になってくれる魔法使いを探しに行くか!」

 

マコトは重い腰を上げて盗賊団の討伐を決意した…のですが、あくまでも自分のレベルを上げて盗賊団を討伐するって考えがないところは流石ですね。

 

 

 

次の日

深い森を抜け私たちはノアニールの村に辿り着きました。

 

村に入るなり私はこの村全体が何者かによって呪いをかけられていることを直ぐに悟りました。どの様な効力の呪いか判らないので私たちは慎重に村中を調べました。

そしてそれはすぐに判明した。

 

「この村は皆んな昼間から寝てるんだな。」

 

マコトの言う通り、店の店員も民家の住民も…村を散歩する住民までもが静かな寝息をたて眠っているのです。

そして手分けして起きている住民を探し回り、日が沈みかけた頃、勇者がやっと起きている住民を見つけたのでした。

 

「この老人だけがただ1人この村で起きている人だそうだ。」

勇者は少しだけ声のトーンを下げて話した。その理由は老人の話を聞いて納得しました。この村の若い男とエルフの女王の娘が恋に落ち駆け落ちをしたそうです。それに怒った女王はノアニールの村に呪いをかけたそうです。

 

「ワシは…その時駆け落ちをして居なくなった息子を探し回り村を離れていたから呪いから逃れたのじゃ。ワシは何度も何度もエルフの隠れ里に行き謝ったのじゃが…。」

老人はそれ以上語りませんでしたが、勇者には少し思うことがあるのか珍しくエルフの隠れ里へ行って呪いを解いて貰おうと言っている。

 

クリフトさんとアリーナちゃんも形は違えど身分の壁のある恋をしているせいか乗り気です。

 

こうして私たちは

覆面パンツ(カンダタ)を倒す為に必要な『どくばり』を使える魔法使いの仲間をノアニールで探す為に、村に呪いをかけたエルフの女王の所へ向かうと言った訳の分からない旅へと向かうのでした。

 

エルフの女王…あの子頑固だからあまり会いたくないのですが…

 

 

 

続く




早く邪魔な2人を撒かないと…旅費が倍です


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ある日森の中、ポワンちゃんに出会った♪

「…だいたい話しの内容はわかりました。」

 

私たちはノアニールにいた唯一呪いを逃れたお爺さんの情報をもとにエルフの隠れ里へとやって来ました。

私たちはエルフの里に着くと、エルフの女王は人間嫌いという事もありクリフトさんとアリーナちゃんをエルフの里の宿屋に残し勇者と2人で面会することにしました。そしてお使いの小さな女の子に女王の間に通され、マコトがエルフの女王に隠れ里に来た経緯を説明したのです。

 

「ようするに苦戦しそうな敵と戦う為に魔法使いが欲しいと。」

「そうなのよ〜。だからポワンちゃんノアニールの呪いをちゃちゃーっと解いてちょうだい!」

「お断りします。」

 

グッ、即断ですか。

 

「ちょっと!この私が直々にお願いしているのよ?ここは二つ返事で…。」

「なら言わせて頂きますが、貴女はいったい何を遊んでいらっしゃるのですか。そもそも貴女がちゃんとしていれば魔王バラモスごときが世界を恐怖に晒すなんて事は無かったのですよ。それを眺めているだけじゃ我慢できなくなり人間と一緒に行動したがるなんて…いったい何を考えていらっしゃるのですか。」

「ちょっ、ちょっとポワンちゃん?何もそこまで言わなくてもー…」

「いいえ!この際だから言わせて頂きますが、貴女は昔から…」

 

エルフの女王はこれ見よがしに文句やら昔の事をひたすらまくしたてやがりました。

 

そして よが あけた

 

「ちょっと!ちゃんと聞いてますかルビス様!!」

「エルフの女王様…ルゥの奴だいぶ前から寝ていて聞いてないっすよ。」

ちらっと目が合ったマコトが、眠ったふりして女王の口撃をやり過ごそうとする私の意図を汲み取りフォローを入れて、永遠に続くかのような女王の文句を止めてくれました。

さすがはそこそこ付き合いが長くなって来たマコトさんですね。

将来有望な私の従者になる事でしょう。

そんな私の勇者(じゅうしゃ)にポワンちゃんは話を続けた。

 

「あなたは勇者…名前はマコトと言いましたか。ルビス様との旅はどうですか?」

「どうもなにもないっすよー。そこそこもう長い付き合いになるんですけどね、どうも最近こいつは全く使えないんじゃないかって思い始めてまして…。」

イラっ

私が寝ているフリをやめられないと思ってか言うじゃありませんか。

「ルゥのミスのせいで何回も死んでるんすよオレ。」

「あらあら。」

クスクスと笑うポワンちゃん。あなた確か人間嫌いでしょうが、何を楽しそうに談笑してんのよ。早くノアニールの呪いを解きなさいって言うの。

「まぁこの方は案外適当なとこありますからね…さてマコトよ、ノアニールの件ですが、応えは申し訳ありませんがNOです。かの村の男性に私の長女のアンを攫われたばかりか、エルフの財宝『夢みるルビー』まで奪われたのです。娘とルビーを返してもらわない限り呪いを解くことはできません。」

相変わらずこの子は頑固です。2人は愛し合っていたというのだから攫われたのではなく駆け落ちでしょどうせ。

そっとしておいてあげれば良いんですよ。

「しかし直接関係ない勇者に娘を連れもどせって言うのも何ですから私どもエルフから1人お貸しいたします。それで何とか娘を連れ戻してもらえませんか?」

「はぁまあ良いっすけど。」

「ベラ!」

エルフの女王が名前を呼ぶと先程の小さな女の子がやってきた。

「ポワン様、何かごようですか。」

「ベラ、次女のヤクルを呼んでください。」

「ポワン様、ヤクル様は世界樹の護り手として出払っていますが。」

「あら…じゃあ孫のヒメアちゃんは…」

「ヒメア様も次の世界樹の護り手として育てるとヤクル様が連れて行きました。」

「誰もいないのねぇ、困ったわ。」

「あのポワン様、よろしければ私が行きたいのですが…」

「ベラちゃんが?う〜ん…あなたはまだ早い気がするのだけど。まだメラしか使えないでしょう?」

 

しばらくベラと名乗った少女がポワンちゃんに頼み込んで付いてきてくれる事になりました。

そこで眉目秀麗でかつ美しい私は良い事を思い付きました。別にノアニールの呪いを解かなくてもベラちゃんが来てくれるならそれで良いのではないでしょうか。まだメラしか使えないとは言っていましたが、私たちが欲しいのは覆面パンツを倒すために『どくばり』を装備できる魔法使いです。要は人間でなくても装備できさえすれば良いのですから。背後からプスーっとやってくれればいいのですから。

さすが私です。とても冴えてます。

 

「さて、そこで寝ているフリしているルビス様。そう言う訳ですからちゃんとベラの面倒を頼みますよ?」

ギクッ

「ああそれと、このまま逃げ出したらエルフの里の結界を壊した事を含めて多額の請求をしますからよろしく。」

ヒッ、そ、そんなぁ…

「え?こいつ何かしでかしたんですか?」

「…それは後ほど本人から聞いてください。」

 

 

 

こうして私たちはアンと『夢みるルビー』を探すことをエルフの女王(ポワンちゃん)から依頼されました。

 

 

その後私たちは一旦エルフの里の宿屋に行きクリフトさんとアリーナちゃんに合流しました。

 

「何で私たちがこんな面倒くさいことしなきゃなんないのよ!」

「そりゃおまえがエルフの里の結界を壊したからだろ?って言うかおまえ何をした。」

「え?ルビア殿結界を壊したのですか?」

勇者と一緒に私を見るクリフトさんとアリーナちゃんの目が微妙に冷たいものなんですけど。

「あの…あのままだとその…」

「んー?」

か、顔が近い近いです。

「ぐるぐる森の中を彷徨うことになって面倒くさいじゃないですかぁ…」

「それで?」

「そんな遠回りするの嫌だし…疲れるじゃないですかぁ…。」

「ああ、それで?」

「だから結界を根本から完全に解除しちゃえば今後も楽かなーって…その…やりまし…た。」

「このバカがー!!結界ってあれだろ、そうとうの時間や魔力を擁して長年かけて築く守りの要だろうが!何おまえぶっ壊してんだよ!」

「だ、だってクリフトさん達も言ってたじゃない。エルフの里にはロマリア国には無いような凄い武器がたくさん売っているって。だからロマリアに戻って預かり所でお金を下ろしたらまた来ようと思ったのよ!」

「だったら1部分だけ穴を開けとけば良いじゃねーか!」

「だって、なんかあの頑丈な結界を見ていたら私への挑戦にみえたんだもの!」

「このバカ!」

 

ガツン!

またマコトは私の頭をぶちました。

 

 

 

「いいかルゥ、普通によろず屋であんな値段設定するようなエルフだ。どんな請求されるかわかったもんじゃ無い」

「…」

確かにポワンちゃんは世間ズレしているから相場を分かっていないような気がします。

「エルフの女王様の娘アンと『夢みるルビー』は取り戻す。いいな?」

「…はい。」

 

こうして私達はただ覆面パンツを倒すための仲間探しから大きく逸れて多額の負債回避の為に行方不明の娘とエルフの財宝を探すことになりました。

正直、愛し合う2人が逃げたのですからロクなことにならない気しかしますが…。

 

 

 

続く

 




確かに結界を壊したのは悪いと思いますが女王がなんであんな狭い隠れ里にいるんですか。納得いきません。
私の逃げ足をみせてあげるわ!


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愛の逃避行

「あーなんで洞窟の中ってこうジメジメするのかしら!」

 

誰にぶつけるでも無いアリーナちゃんの愚痴に私は頷いた。

 

私たちは一旦ノアニールに戻ると、アンちゃんと駆け落ちした男性の父だと言う、唯一呪いから逃れた老人から2人が逢瀬によく使った泉があると聞いて来たのですが…

何でそれが洞窟の中にあるのよ!

光が届かない洞窟ですから先程アリーナちゃんが指摘したようにジメジメしていて髪はくしゃくしゃになるし、やたらと『ルカナン』を連発する変な犬(バリイドドッグ)に追いかけ回されるわ、目が痛くなるような鱗粉『マヌーサ』を撒き散らす蛾(ひとくいが)がいるし、叩くと胞子『あまいいき』を撒き散らすおばけキノコ(マタンゴ)がうじゃうじゃいる。

そこに付け加えるように弱すぎて話にならない自称槍使いと、パンチやキックと言った近接戦闘なのにやたらミスを連発してくれるお姫様。ベラちゃんはと言えば、エルフの里の外の世界が物珍しいのか、気付けばどっかへふらふらと行ってしまう。極め付けは極度の方向音痴。

 

そしてマコトはか弱い私を全く護ろうとせず、ベラちゃんばかりを気にしている。あとでロリコン認定してやりましょう。

そんなおおよそパーティと呼ぶにはおこがましい程まとまりない様に私のストレスは溜まる一方です。

 

「でもよぉ、いくら逢瀬を重ねた思い出の場所だとはいえ何年も経つんだろ、さすがにもういないんじゃねーか?」

「バカねぇマコちゃん、2人の思い出の場所なんでしょ?いるに決まってるじゃない。そんな事もわからないから彼女ができないのよクスクスゥ。」

「余計なお世話だ!」

「痛い痛い、頬を引っ張らないで。」

 

ギリギリとマコトが私の頬を引っ張りやがりました。

 

「え?お二人ってまだ付き合ってないの?私てっきりお二人も…」

「アリーナちゃんそれはないわ。だってヘタレよ?まぁ…マコトがどうしてもって言うなら…」

「おいルゥ、アリーナちゃんもう行っちゃったぜ?」

 

話を振っておいて先に行ってしまうとか。アリーナちゃんはとんだおてんば姫ですね。

でもアリーナちゃんとクリフトさんが話を区切ってでも走って行ったのもすぐに理解しました。

不快な洞窟の中とはとても思えない、一面に広がる地底湖がそこにはあったからです。

 

「綺麗だな。」

「もうマコちゃんったら…そう言うのは夜に宿屋で言ってちょうだい。」

「地底湖がだからな。」

思いっきり勇者の足を踏んでやりました。

そんなやり取りをしていると向こうでアリーナちゃんが私たちを呼んでいる。何か見つけたようです。

 

 

「ルビアちゃん、これってやっぱり…」

「ダメよアリーナちゃん、現場を保持しなきゃ。」

 

地底湖のほとりに二足の靴が綺麗に並べてあった。それは仲睦まじさを物語るように靴が寄り添っていた。

 

「そしてそばにはコレ(紙切れ)が飛ばないように石を乗せて置いてあった。」

 

私はクリフトさんから紙切れを受け取る。それはアンちゃんと駆け落ちした男性の書いたものだと直ぐに分かった。

 

「ルゥ…なんて?」

「これは手記ね…」

私はおもむろに手記を読み始めた

 

 

 

 

私は運命の出会いをした。

彼女の名はアン。エルフの少女だった。彼女は天女のごとく美しく、私たちはすぐに恋におちた。

私たちは彼女の母に結婚の許可を貰いに行った。そこでまさかアンがエルフの女王の娘だと始めて知った。

やべっ、お姫様じゃん。

テンション上がってきたー。

しかしエルフの女王は人間が嫌いならしく結婚の許可は得られなかった。

 

しかしエルフの女王といえど私たちの愛を引き裂くことは出来ない。

私たちはこの地底湖を住処とし共に暮らし始めた。

やがて1人の娘ができ、その娘が6歳になった時私たち三人は再びエルフの女王に結婚の許可を得に行った。

いくら頑固な女王でも孫が出来れば少しは軟化する…そう思っての事だ。

 

予想通りエルフの女王は娘を見るなり目尻を下げた。

彼女は惜しみなく娘に魔法を教えた。娘はハーフエルフではあるが魔法の素質が飛び抜けているそうだ。女王も娘は必ず最年少記録で賢者になると言い切っていたくらいだ。

これはいける!

私は改めて女王にアンとの事を認めてくれと頼み込んだ。

 

ダメ

即答だよチクショー!

よりにもよってアンと娘だけ置いて1人で帰れとか言いやがった。

それを聞いたアンが烈火の如く怒った。

そしてアンの怒りが娘に影響してか娘の『メラ』が大暴走した。

やっベー!

エルフの居城が燃えちゃったよヤベー!!

 

あ、他の家屋にも引火した。もうダメだ、エルフの王国はもうダメだ。私はアンと娘を連れてエルフの王国から逃げ帰った。逃げる時にアンはせめて今後の生活費の足しにと『夢みるルビー』を盗んできたが、今はそれどころじゃない。先ずは逃げよう。

 

そして時が経ったその後、王国を失ったエルフたちは小さな隠れ里に移り住んだと、そして財宝を盗まれた事に腹を立てたエルフの女王がノアニールの村に呪いをかけた事を風の便りに聞いた。

けど…なんで私が『夢みるルビー』を盗んだ事になってんの?

もうロマリア国にいられない。

私たちは旅に出ることにした。

 

そして私たちはネクロゴンド国に流れ着いた。

人口20万を超すネクロゴンドは軍事大国だ。きっとこれだけ人がいればエルフの容姿をしたアンも娘も少しは紛れるかもしれないとの配慮によるものだった。

娘はネクロゴンド国で『イオ』を覚えた。

嫌な予感は的中した。

 

なんでたかが『イオ』が『イオナズン』を遥かに超えた爆発力なの?ちょっとおかしいでしょこれ。どんなステータスになってるの私たちの娘は。

やっベーネクロゴンド国が燃え盛ってるよ。

軍隊が私の事を追いかけてくるよヤベー!!

 

こうなりゃヤケだ。もうなるようになれ!ポロっと2人の前で呟いたら娘がニコリと笑い『イオナズン』を唱えた。

やっベー!!ネクロゴンド国が滅んじゃったよやっべー!!

 

滅んだネクロゴンドに魔物がドサクサに紛れて忍び込んできたけど私は知らねー。

って言うか人間…もういないけどな。

もうどうしようもないけどな。

 

って言うか誰だよこんな『イオナズン』一発で軍事大国を滅ぼすような娘を育てた親は。

バカだろそいつ。ちゃんと子供くらい育てろって言うんだよ!

 

「おっと、娘の父親、私でした。…終わり。」

 

「なめんなー!!」

私が手記を読み終えると勇者が叫んだ。

 

「ネクロゴンドと言えば魔王バラモスの居城ではないか。ネクロゴンドはバラモス率いる魔物が滅ぼしたとばかり思っていたが…まさか1人の娘に滅ぼされていたとは。」

「きっと3人は追われるように最期を思い出の地で迎えたのね。」

クリフトさんにアリーナちゃんの表情は暗い。しかしマコトは意外にも暗い表情をしていない。

きっと地底湖のほとりに子供の靴がない事に気付いているのでしょう。まぁそもそも靴しかありませんが。

 

 

私たちは『夢みるルビー』と手記を持って再びエルフの女王のもとを訪れた。

 

「私が人間を受け入れなかったらばかりに…アンと孫を失ってしまった…。」

彼女はベラちゃんを始めとした侍女に支えられながら泣いていた。そうです。貴女の頑固が招いた悲劇なのです。

 

「ポワンちゃん…これを機に貴女も少しは他種族を受け入れなさい。一つの事にこだわっていては周りを不幸にするだけです。」

「ルビ…ア様。わかりました。私は娘と孫の死を決して忘れない教訓とし、これからは結界も解きありのままに生きようと思います。」

 

今回はアリーナちゃんとクリフトさんがいる事にルビスとは呼ばない配慮をしてくれたようです。

 

私たちはポワンちゃんから『めざめのこな』を貰いエルフの隠れ里を後にしました。これでノアニールの人々も目を覚ますことでしょう。

 

「それにしてもおまえ今回はやけに冷たいな。アンたちを生き返らせてやればいいのに。」

「前も言ったけど私は誰も彼もを生き返らせるつもりはないわ。って言うかそもそも三人とも少なくともあの場所では死んでないけどね。」

「え、そうなの?だって遺書や靴が…」

「ただの嫌がらせでしょ?あの場所には後悔や恨みと言ったような負の痕跡がないもの。間違いないわ、あそこでは過去に渡って死んだ者はいない。断言するわ。」

「え?じゃあ三人は…」

「ええ生きていると思うわ。そのうちヒョッコリ顔を出すでしょ。それまでは精霊の私に一晩中文句を言った罰として教えてあげないですけど!プークスクスゥ!」

「こいつ…。」

 

白い目で私を見る勇者とアリーナちゃんとクリフトさん。

私たちはノアニールの村に向かうのでした。

 

 




誤字脱字報告ありがとうございます♡


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決戦!覆面パンツ(1)

「ねぇマコちゃん本当に覆面パンツ(カンダタ)と戦うの?魔法使いいないのよ?」

「仕方ねーだろ。ノアニールの村の人たち魔法忘れちゃってたんだし。」

 

私たちは集まって談笑する盗賊団に見つからない位置まで忍び寄ると声を潜め話し、少し前の事を考えた。

 

 

私たちはエルフの女王ポワンちゃんから貰った『めざめのこな』でノアニールの村の人々を眠りから目覚めさせてあげました。村人の会話の内容から彼らは10年近く眠っていたようでした。

彼らは彼らの中で前日まで村に滞在していたらしいオルテガさんの話しをしていました。

マコトはそれを感慨深そうにそれを聞いていたのがとても印象的でした。

 

アリーナちゃんとクリフトさんは主に当時からかぞえ数年前に駆け落ちした村人とアンちゃんの話しにご執心なようで、村を出るときには

「やっぱりちゃんとロマリア王(おとうさま)を説得しよう」

と、クリフトさんと決めたようです。

やはり駆け落ちの終着地に幸せはないと2人も色々考えさせられたようです。

まぁ…誰も三人が死んだとは言ってませんけど。

 

 

何はともあれノアニールにはたくさんの高レベルの魔法使いがいると聞いて来た事を告げたのですが、それはロマリアの都市伝説で普通の魔法使いしかいませんでした。しかも長年寝ていて寝ぼけているのかなんと『メラ』でさえ使える人がいませんでした。

 

仕方なく私たちは再びポワンちゃんの元にベラちゃんを借りに行ったのですが、危ない真似はさせたくないと断られました。相変わらずイケズな女です。

そこで私はせめてエルフの村で買い物をする許可をポワンちゃんから得て、装備を揃える事にしました。

 

「え?ポワンちゃんの勘違いで散々な目にあっていた人間を救ったこの私からお金を取るなんて言わないわよね?」

「ル、ルビス様いくらなんでもそれは…」

「いやーねぇ分かってるわよ、冗談よ冗談。でも安くはしてくれるんでしょ?」

「グッ…分かりましたよ。」

 

ちゃんと格安になる事をポワンちゃんの口から約束をさせました。

「これなんか私の為にあるような装備じゃない。」

私はよろず屋の棚から『天使のローブ』を取った。値段は3000G。

「はい300Gね。」

「ちょ、ちょっとルビス様?」

「なぁに?人間に10年もの間迷惑をかけたポワンちゃん。」

「…なんでもありません。」

「そ?あら『モーニングスター』も『ねむりのつえ』もあるじゃない。あ!この『黄金のティアラ』も可愛いー。そうそう、『いのりのゆびわ』は大量に持っていた方が便利よねー。はい全部で1000Gね。あ、お釣りはいらないわ。それで好きなものを食べちょうだい。」

「…。」

ポワンちゃんはピクピクと怒りを滲み出していましたが、私たちのおかげで娘や孫の事、そして勘違いでノアニールに呪いをかけた事実を突き付けると、彼女は笑顔(いかり)いっぱいで自らのお財布で私たちの支払いをしてくれました。

 

「おいルゥ本当に大丈夫なのか?女王さま明らかに目が笑ってないけど。」

「良いの良いの、偉大なる大精霊である私を救う為なのよ?本来ならエルフの力を持って私を救う義務があるくらいなのだから、このくらいの支援は当然よ。それよりハイ、ちゃんとマコちゃんの分も買っておいたわ。」

 

そう言って私は勇者に『やさしくなれるほん』を投げ渡した。

 

「オレにはこれだけかよ。それよりカンダタはどうすっか。『どくばり』を使える魔法使いはいないし…。」

「マコちゃんはそれ読んで私にもっと優しくしなさい…って言うかカンダタ?誰よそれ。」

「普通に忘れてんじゃねーよ!おまえが散々覆面パンツってバカにしてるヤツだよ!」

「あぁそうだったわね。どうしましょうか…」

「普通に戦えばいいじゃないですか。マコトにルビス様の現在のレベルは18でしょう?この辺りでそのレベルなら普通に勝てると思いますよ?」

私とマコトの会話にポワンちゃんが交じる。

私たちはそれでもいいとして、ノアニールの村で未だ愛の逃避行の話しに夢中になってるあの2人が問題なんですけどね。

って言うか勝つか負けるかではなくて痛いのが嫌だから無傷での勝利を私たちは求めているんですけどね。

しかし目の前の頑固な女(ポワン)にこれ以上頼んでも魔法使いを貸してくれそうにない。まして本人が来るなんてこともなさそうだ。

結局私たちは魔法使いを諦めノアニールにいる2人と合流し、盗賊団の目撃情報をもとにシャンパーニの塔まで来たのです。

 

 

 

「それにしても何を話しているのかしら。さっきから随分と楽しそうに話してるわね。」

アリーナちゃんが言うように盗賊たちはどう見ても緊張感のない緩みきった表情で気を抜いてる。

「アリーナちゃん、男が集まってゲヘヘとか笑っているときってのは大概ロクな話しをしてないのよ。」

私が世間知らずのお姫様のアリーナちゃんに世の断りを教えてあげると

「「異議あり!」」

マコトとクリフトさんが異議を申し立ててきました。

しかし私は異議申し立てを却下します。私の冒険の書(けいけん)じょう大概そんなものです。

彼らの傍らには盗んだであろう財宝があり、その中には黄金に輝く王冠がある。

私たちの目的のブツだ。

 

 

「奴らは完全に油断している、今がチャンスだ。どう言うふうに切り込むか。やっぱり不意打ちは外せないよな。」

「ねぇマコちゃん、私…王冠は盗み返せば良いと思うの。」

「おおなるほど!さすがルゥ、やるじゃねーか。そうだよな、オレたちがロマリア王と約束したのは王冠を取り戻す事で、別に盗賊団の討伐なんて約束してねーもんな。」

「そうよ。目には目を、盗まれたものは盗み返すよ。」

「こらこら、貴様らそれでも勇者一行か?それではまた今後も多くのロマリアの国民が怯えて暮らす事になるではないか。」

 

私たちの希望が見えたとこに水を差すのはやはり空気を読めないクリフトさんです。先ずはこの男を片付けることが最初な気がします。

私とマコトがそっと武器に手をかけたとき、アリーナちゃんが何かに気付いたように話しかけてきた。

 

「ねぇルビアちゃん、クリフトを折檻するのはちょっと待って。それより盗賊団を見て、なんか違和感があるのよね。」

待つだけなんですね?折檻はしても良いと。

「違和感ですか?」

私は改めて彼らを観察する。

彼らの人数は4人、1人は覆面パンツ(カンダタ)。残る3人は子分でしょうか…

「って、何であの人たちフルアーマーなのかしら。」

「なんか問題があるのか?」

「分からない?さすがマコトさん、相変わらずオツムが足りないわねぇプークスクス!」

 

…殴られました。

ジンジンする頭を抑えながら

「あの人たちって仮にも盗賊なんでしょ?覆面パンツは目立つ格好だし、フルアーマーの子分だってあんなの装備していたらガチャガチャ音がするから忍び寄れないわよね。」

「あーたしかに。でもそうなるとますますもってロマリア王の頭の上にあるものをどうやって盗んだんだろうな。よほどのアホじゃなければ普通に気付くだろ。」

「ごめんね勇者さま。うちのお父様(ロマリア王)がアホで。」

「いやいや、アリーナちゃんのお父上だから何か深い理由があるのかもしれないし…な、なぁルゥ。」

 

そこで私にふりますかこのヘタレは。

って言うか私とアリーナちゃんに対する対応の違いがイマイチ気に入らない。

「そうね…。それか盗賊団と言うよりは強奪の方が近いのかもね。見た感じ山賊っぽいし。」

「となるとそれなりに強いかもしれない。やはり正面から闘うのはリスク高いかもな。」

「何を言う、盗賊など我が槍の錆にしてやる。」

「…クリフト、お前は少し落ち着いて行動しろよ。」

「ね、ねぇマコちゃん、私あのフルアーマーの姿を見ていたら何か怖くなってきたんですけど。もう覆面パンツなんて放っておいても良いんじゃないかしら。」

「…ルゥ、お前はもっとやる気だせ。」

 

そのあと私たちは作戦を練り、真正面から戦わずに彼らが酔い潰れたのを見計らって財宝を奪取。可能なようなら盗賊団の捕縛をすることにし、ジリジリと忍び寄るのでした。

 

 

 

 

続く




遅くなりました。卒業旅行やら新入社員研修やらバタバタで…

はい、言い訳です


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決戦!覆面パンツ(2)

「なかなか酔い潰れて寝ないなーアイツら。」

 

私たちは盗賊団と壁一枚隔てたところまで忍び寄りました。

フルアーマーを装備するような人たちではあっても盗賊は盗賊。そんな彼らに気付かれずにここまで近寄れた。アリアハンからずっとモンスターの背後を取るように旅してきた私たちが一番レベルアップしたのは忍び足かもしれません。

そう考えると、日々成長していることに感慨深いものがあります。

 

壁一枚隔てた所で息を潜め彼らが酔い潰れるのを待っていると、彼らの話し声が聞こえてきた。

 

「やっぱ美女と言えばエルフの女王だろ、それは外せねーよ。」

「おまえエルフの女王なんか会ったことねーじゃねーか。」

「ギャハハ!おまえらは空想の女が好きなのかよ、バカだなぁ」

「親分だって年増好きなマニアックな性癖じゃねーすか。オレ知っているんですぜ、親分が毎日欠かさずルビス像に祈りを捧げてるのを。」

「おいおい、精霊ルビスは空想じゃねーだろうが。それに年増を舐めるよ?年増ってのはなぁ…。」

 

 

「おいルゥ分かってるよな、飛びかかるなよ?」

勇者が私の腕をガッチリ掴んで小声で言う。

「分かってるわよ。私を誰だと思ってるの?精霊ルビスよ?言わば女神なの。その寛大で慈悲深い私がいちいち人間たちの悪口に反応するわけないでしょ。」

「…ならその構えたモーニングスターをおろせよ。モーニングスターの鉄球に付いてるトゲが痛いんだよ。」

チッ…最近マコトは何かとめざとくなりました。

だいたい私は精霊よ。世界の創造に関わった大精霊なんだから人間より遥かに長く生きているのは当たり前じゃないですか。その私を年増扱いするとは…この怨み、絶対に忘れません。

その後も盗賊団どもはくだらない話しを続け、それは深夜まで続きました。

 

「アリーナちゃんとクリフトは寝ちまったな。」

「そうね、2人は私たちと違って闇討ちに慣れてないものね。」

「おいルゥ、もう少し言葉を選べよ。闇討ちじゃなくてアレだ、相手の僅かな隙を突いた戦術だ。」

何が戦術ですか。アリアハンからここまで真正面から戦ったのなんて僅かじゃないですか。全くどうして男の子ってのはこう意地っ張りなんでしょうか。

「…おいルゥ聞いてるか?」

「え?」

「え、じゃねーよ。全く…若いのは見た目だけで中身ははやっぱ年増なのか?」

「あ゛?誰が年増ですって?どうやらマコちゃんは一度あの世とこの世の境界(ルビスのお仕置き部屋)に行って話しをする必要がありそうね。」

「待て待て!なんだよルビスのお仕置き部屋って。それにおまえは寛大で慈悲深いんだろ?そのモーニングスターを仕舞えって。」

「大丈夫よ、慈悲深い私はちゃんと峰打ちにするから。」

「モーニングスターの鉄球に峰打ちもくそもあるか!!って暗い笑顔で近づくな!」

 

ブォン!!

私のモーニングスターによる攻撃を身を翻して避けやがりました。さすがはここまで来た勇者と言うことでしょうか。しかし逃がしませんよ!私の次から次へと繰り出すモーニングスターによる攻撃をひょいひょいと勇者はかわす。

ええいちょこまかと!

 

「ちょっとそこのあなた!マコトを押さえつけて!」

ちょうど近くにいた人間に私はマコトの捕獲をお願いしました。

「な、なんだこいつら、何処から現れた!!」

「バカ!おまえのせいで見つかっちまったじゃねーか!」

「あ!また私のことをバカって言った!!」

 

しばらく押し問答が続きましたが、カンダタが騒ぎに気づき現れた事で状況は沈静化した。

 

「なんだてめーらさっきから騒がしいな。」

野太い声に違わぬ隆々とした筋肉の壁をまとった男が現れた。その声、佇まいから彼が歴戦を乗り越えてきた強者であることは直ぐに分かった…のですが…

 

「ウケる!超ウケるんですけど!ロマリア王に見せてもらった姿絵もアレだけど、実物は更に酷いわ!どこに売ってるって言うのよその覆面パンツ!ぷーくすくす!!」

私は堪らず吹き出してしまいました。

すると覆面パンツ(カンダタ)の子分たちも日頃思うところがあったのか一緒になって笑いだした。

私とマコト、更には子分の3人を含めた5人に囲まれて笑われている覆面パンツ(カンダタ)は覆面ごしにも涙目になっているのが分かるから更に笑いのツボをつく。

 

「だ、黙れ貴様ら!!この装備はなぁ、オレがまだガキだった頃に勇者から戴いた由緒ある装備なんだぞ!」

「あ?勇者から?嘘吐け。」

マコトが変態の言葉に直ぐに反応した。

やはり勇者としては、勇者を語る者が許せないのでしょうか。

「嘘じゃねーよ。オレがまだガキの頃、ロマリアにアリアハンから来た勇者が纏っていたんだ。当時まだ弱っちかったオレにその勇者は着ていたこの装備を渡し、『誰にも負けないカッコいい男になれ』と言ってくれたんだ!」

「おい、今何て言った?」

「いやだからカッコいい…」

「そっちじゃねーよ。何処から来た勇者だって?」

「仕方ねーな。もう一度言ってやるからよく聞けよ。貴様のようななんちゃって勇者とは違い真の勇者であるオルテガさんから戴いた最強の装備だ!!」

「ぷー!!ケタケタケタ!!つまりなんですか?この装備の元凶はまさかのオルテガさんと言う事ですか!?どんだけセンスがないのよ?そしてどんだけこの変態装備を周りに拡めようとしているのよ!私長いこと生きてきたけど、こんなに笑わせてもらったの初めてよ。ぷーくすくす…」

 

ガン!!

 

「痛い!何すんのよ!」

「うるせー。」

マコトがまた私をぶちました。いつか絶対に神罰を降してやろう、私は心の中で決意しました。

そんな騒ぎで目を覚ましたのか役立たず2人(アリーナちゃんとクリフトさん)が入ってきた。何はともあれこれで4人対4人です。

 

『ザキ』

クリフトさんは戦闘に入るなり覚えたての呪文を唱えた。

カンダタ子分Aは死ななかった。

逆に返す動作から繰り出したヤリの突きがアリーナちゃんを掠めた。

『ベホイミ』

即座にクリフトさんはアリーナちゃんに回復の呪文を唱え傷を癒す。そして今度はアリーナちゃんが天井近くまで飛び上がり、勢いそのままにカンダタ子分Aに襲いかかる。

が、相手はフルアーマー装備。素手でダメージなど与えられる筈もなく彼女は逆に小指を突き指した。

『ベホイミ』

アリーナちゃんが転んだ。

『ベホイミ』

「「…」」

アリーナちゃんの髪に攻撃が掠め枝毛になった。

『ベホイミ』

「って、アホかーー!!」

堪らず勇者が叫ぶ

「何でかすり傷にもなってない程度のものにベホイミなんか使ってんだよ!自分に使えよ、おまえのHPオレンジ色じゃねーか!」

マコトの指摘の通りです。アリーナちゃんは持ち前の素早さでHPに変動はない。むしろ彼女を庇っているクリフトさんの方が攻撃を受けまくっている。だと言うのにひたすらアリーナちゃんにベホイミを使っているのです。

「しかし姫に傷を付けるわけには…」

「だったらヤラれないように攻撃しろよ!」

マコトの言葉にあまり納得していないような表情で渋々手を敵に向けると

『ザキ』

再び呪いの呪文を唱える。

しかしカンダタ子分Aは死ななかった。

「おのれ、私の必殺の攻撃に抵抗するとは生意気な!『ザキ』」

懲りもせずに呪いの呪文を唱え続ける。

しかしやはりカンダタ子分Aは死ななかった。

その後もクリフトさんは何とかの一覚えと言わんばかりに『ザキ』を唱え続け、とうとうMPが尽きた。

はぁ…あまり言いたくはありませんが本当に使えない男(ヒト)です。

向こうで覆面パンツと戦っているマコトもため息混じりにこちらをチラ見している。どうやら私たちは4人を3人で相手しなければならないようです。

 

勇者は覆面パンツと、アリーナちゃんはカンダタ子分A、役立たず(クリフト)はアリーナちゃんの周りをうろちょろしている。そして何故か私の前にはカンダタ子分BとCがいる。なんで私だけ2人なのよ!

 

「ゲヘヘ役得だぜ、どうせ戦うなら女が良い。しかも飛び切りの美女だぜ!」

美女は否定しませんが、あなた方は先程私を年増扱いした事、忘れていませんよ。

「…あなた方は大きな間違いを犯しました。」

「あ?」

「私は先程あなた方の無礼を忘れていません。この呪文は私の怒りと悲しみの大呪文、受けた者は死ぬ!!」

 

『ザラキ』

 

役立たず(クリフト)とは違う、更に上位の呪文に精霊の力が強力な後押しがつく。

 

カンダタは死ななかった。

カンダタ子分Aは死んだ。

カンダタ子分Bは死んだ。

カンダタ子分Cは死んだ。

 

アリーナは死んだ。

 

「うっ…」

「ひ、姫ー!!」

あれ?今なんか敵に混じって関係ないものが見えた気がするんですけど…

私は恐る恐る振り向くと、アリーナちゃんが紫色の顔で倒れていて、その隣で役立たず(クリフト)が一心不乱に叫んでいる。

 

「…よ、よくも私たちの仲間をヤッたわね、絶対にゆ、許さないんだから」

「バカ!何やってんだよおまえは!!」

「なあああんでよおぉ!おかしいでしょ、ねぇちょっと、おかしいーでしょ!」

「うるせーこの駄女神、おまえこの戦闘ではもう呪文使うな!」

「あ!ちょっと誰が駄女神よ!」

そう言ってマコトは私の『さくせん』を『呪文を使うな』にしました。そうなると私たちは2人+役立たずで戦わなきゃなりません。仕方がないので装備しているモーニングスターを振りかざすと

 

「グワッ」

短い悲鳴とともにグニャっと鈍い感触が手に伝わりました。

見ると頭から血を流して倒れている役立たず(クリフト)がいました。しかもご丁寧にルビアとダイイングメッセージまで遺して…。

 

「お、おまえもう何もすんな!!」

「怒らないでよわざとじゃ無いんだから怒らないで!」

その後やたら過剰に背後を気にしながら戦う勇者マコトは、激戦の末ついに宿敵覆面パンツ(カンダタ)を打ち倒しました。

彼はここまで強くなっていたんだと少しだけ感動してしまいそうです。

 

 

 

光も通さぬ闇の奥深く、生と死の境界(ルビスのお仕置き部屋)

 

「ああ勇者よ死んでしまうとは何ごとですか…」

「…おいルゥ、オレは確かカンダタに勝ったよな?」

「ええ、勇者マコトよ貴方は私の期待どおり見事覆面パンツを討ちました。」

「だよな?そのオレがなんでこんな所(生と死の境界)にいるんだよ。」

「…それは貴方が不甲斐なく死んでしまったから…」

「違うだろ!ちゃんと言え!」

「マコちゃんが『アリーナちゃんと役立たずの棺を連れてロマリアまで帰るのめんどくせぇ』とか言うら…」

「別に声色まで真似なくていい。それで?」

「今回私、あまり役に立ててないじゃないですか。」

「まったくな?それで」

「…だからせめて最後くらい役に立とうと…やりました。でも聞いて?これは『死んでルーラ』って言って、知る人ぞ知る究極の奥義なの。精霊である私がいるからこそできることなの。そうよ本当は感謝されたいくらいだわ」

「このバカが!殺されて持ち金を半分なくして誰が感謝すんだこの駄女神が!」

「あー!!ちょっとまたそれ言った!!」

 

今日も生と死の境界(ルビスのお仕置き部屋)は死の入り口だと言うのに騒がしい。

とにかくようやくにして私たちはロマリア王からの依頼を達成すことが出来、私は私への悪口を中心に『冒険の書』を記すのでした。

 

 

つづく

 




次回、第2章的なロマリア編の最終回です。

よろしければお付き合いくださいね。


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さらばロマリア国

「はいマコトさん、お茶が入りましたわ。」

「ありがとうルゥ。」

ティーカップを口にするマコトくんは

「お湯…なんだけど。」

笑顔で言った。

「あら私ったら…お茶を浄化(二フラム)してしまったのね。」

「ハハハ!また淹れなおせば良いだけさ。ま、これはこれで戴くよ。」

そう言ってマコトくんとルビアちゃんは笑っている。

 

「アリーナ姫!!よくぞご無事で!このクリフト、アリーナ姫が死んだ時には未来(さき)が真っ暗に…」

クリフトが部屋に入ってくるなり私に抱きついてオイオイと泣いている。

「あ、クリフトも生き返れたのね。良かった。」

 

私たちはロマリア国を騒がし続けてきた盗賊団との死闘の果てに命を落としたらしい。その経緯は今ひとつ覚えていないのだけど。

魔王バラモスが現れたのが原因か、または別に理由があるのか定かではないが、世界から精霊ルビス様の恩恵が届きにくくなっているのか最近では神父によるザオリクでもなかなか生き返れないという。

そんな中で2人して生き返れたのは幸運だと思う。

その中で私は不思議な体験をした。死後の世界なんてものは信じていなかったのだけど、死んだ私がいた場所は辺りを見渡せないほど真っ暗な闇の中だった。

そこで私は精霊ルビス様の声を聞いた。

 

彼女は何を以ってひた謝りしているのかは分からないけれど、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいと謝り続けていた。

そして生き返った私が最初に見た姿は、マコトくんに叩かれたであろう大きなタンコブをこさえたルビアちゃんが謝っていた。

その時本当に一瞬だけルビス様と被って見えた。

まぁ気のせいだろうけど。

 

 

そんな事を考えているとルビアちゃんが新しく淹れ直したお茶をマコトくんに渡す。

「ありがとうルゥ…うん、お湯なんだけど。」

「あらぁ私としたことが、ごめんなさい。」

「ハハハ、また浄化(二フラム)してしまったのかい?まぁこれはこれで戴くとするよ。」

 

「何やってるんだ貴様ら!気持ち悪い!!」

その光景を見ていたクリフトが我慢できなくなったのか叫ぶ。

 

「おいおいクリフトくん。君は国王に向かってなんて口をきくのかな?」

「は?誰が国王だと?」

「オレだよオレ。」

「そうよ、マコちゃんはロマリア王から直々に王位を継承したの。そして私が王妃よ。」

ルビアちゃんの話しを聞いて慌てたように私の方を振り向く。

 

「アリーナ姫?」

「クリフト、それは本当の話しよ。ロマリア王(おとうさま)は王冠を取り戻したマコトくんに王にならないかと持ちかけたの。」

まぁたぶん本気ではない。

ほんの少しの間休暇が欲しかっただけだろうと思う。

 

「そう言うわけだからクリフトくん、君は肩でも揉んでくれたまえ。」

「何だと貴様!何故私が…」

「おいおいクリフトくん、オレは王様だよ?お、う、さ、ま。分かる?」

 

怒りでプルプルしているクリフトが気の毒だけど少し面白い。

本当にこの2人は見ていて飽きない。

私も一緒に旅をしたい

この一言が言えたらどんだけ良かったか。

 

「アリーナちゃん。どうしたの?変なものでも食べた?」

私が言葉に詰まらせているとそれに気づいたルビアちゃんが変な慰め方で声をかけてくれた。

私はロマリア国の姫。簡単に国を出て旅ができる立場にはない。

今回ノアニールでのエルフと人間の駆け落ち騒動を見て改めて思ったのだ。

「なんでもないわルビアちゃん。」

そう言って私は笑顔で彼女に応える。

彼女はそれに満足したのか微笑んだ。ほんの少しだけ慈愛に満ちた微笑みで。

 

「クリフトさん、マコちゃんが終わったら次は私もやってちょうだい!」

「かしこまりました師匠!」

ん?今クリフトがルビアちゃんを師匠とか言った?

クリフトはマコトくんの肩揉みを早急に締めてルビアちゃんの背後に立つ。ニヤニヤしながら…

なんだか少しムカつく。

 

「師匠だいぶ凝ってますねー」

「そうなのよ、マコちゃんがヘッポコ勇者だから一緒にいる私も大変なのよ。」

「ところで師匠、カンダタ戦の時に使っていたあの呪文は…」

「カンダタ?誰よそれ。」

「師匠が覆面パンツと呼んでいた輩です。」

「ああ、アレね。」

「そうです。あの戦いで師匠が多数の敵を一度で息を止めたあの呪文は…」

「アレは『ザラキ』よ。」

「『ザラキ』?」

「クリフトさんが使っていた『ザキ』の上位呪文ね。」

「師匠!ぜひ私めに『ザラキ』の伝授を!!私はあの呪文に並々ならぬモノを感じまして。」

 

なるほど、それが目的でルビアちゃんを師匠と呼んでいるのね。

余談ではあるけど、クリフトはこのルビアちゃんから授かった『ザラキ』を生涯にわたって使い続け、後にザラキ神官と呼ばれるようになる。

 

「さて、世話になったな2人とも。」

ひと段落するとマコトくんが言った。ロマリアの王に就いてから今日で3日。ずっといる気かと思っていたら、まさかのマコトくんからの言葉だった。

「世界はまだモンスターに脅かされている。オレは勇者だから行かなきゃならないんだ。」

「マコトくん…」

「そうか…そうだな。貴様は勇者なのだから当然だな。…頑張れよ?」

クリフトが珍しく優しい言葉をかけている。

「マコちゃん、困難に負けず頑張るのよ?」

ルビアちゃんの…あれ?

貴女は行かないの?と聞こうとするとマコトくんが

「お前も行くんだよ!!元何とかさま!」

「ひたい、ひたい、頬をひっはらないで!!」

 

2人のいつものやり取りもこれで最後かと思うと涙が溢れてきた。

「…ッ、わ、私も一緒に…」

そんな私にルビアちゃんは

「アリーナちゃん、その先は言ってはダメよ。それにまた会えるわよ」

そう言って微笑む。

 

そして彼らはいつもの装備に着替えると、何故か窓から次の地へと旅立って行った。

 

 

「…気持ちの良い連中でしたね姫。」

「本当にね。」

「師匠も言っていた通りきっとまた会えますよ。」

そう言って私の肩を抱き寄せた。

「そうね…」

 

私が彼の胸に寄り添うのと同時にバンッ!!と、王室の扉が開いき、何人かの兵隊を連れてロマリア王(おとうさま)がやってきた。

 

「勇者はどこ行った!?」

「お父様、あの2人はもう次の地へと旅立って行ったわ。」

「遅かったか、奴らめまんまとやられたわ。」

「どうしたの?あの2人がなにか?」

「奴らはとんでもない事をして行きおった!!見よ」

そう言って私に見せた物は、ロマリアの王に就いてから3日間の間に贅沢を極めたその領収証。

金額にして30万G。かなりの金額だけど、そもそも自分がカジノに行きたいがために王位を一時とはいえ譲ったのが悪いと思う。

 

「ロマリア国姫アリーナ並びに神官クリフト!2人に勇者一行の確保を命ずる!」

そう言ってお父様は片目を瞑ってみせた。

 

「はい!」

 

私は返事をするとお父様に抱きついた。

 

 

 

 

 

 

「何を見てるんだルゥ」

「ロマリアの王がアリーナちゃんの冒険の書を更新したみたい。」

「ふーん、そんな事まで分かるんだソレ。あの2人はこの先どうなるんだろうな。」

「他人(ひと)の未来だから詳しくは教えられないけど、あの2人は私たちを追って旅たつみたいよ。」

「そうなのか?じゃあまた何処かで会えるかもな。」

そう言って勇者は少しだけ嬉しそうな顔をする。

 

あの2人は旅の途中、ギアガの大穴に落ちてしまい異世界に行ってしまう未来は黙っておくことにした。

 

こうして私たちは1ヶ月近くいたロマリアの地を離れ、新天地を目指し旅をするのでした。

 

 

 

 

つづく

 

 

 




職場って毎週のように飲み会に誘われるの…面倒です。

しかも普通にセクハラ…

気を取り直してまた頑張ります。次はアッサラーム?でしたっけ。


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アッサラーム

ロマリア国を離れること2日、私たちはなんとかアッサラームと言う街にやって来ました。

道中、大きな猿(あばれざる)やら猫の顔した蝙蝠(キャットフライ)やらに散々追い回された私たちは既にヘトヘトです。

 

特にマコトはメス猿の発情に追いかけ回され

「ルビアー!!ルビアさまぁ助けてー!!」

とか涙目になりながら私に助けを乞い逃げる様は、それはそれはもう最高でした。

しっかりと冒険の書に記しておきましょう。

 

 

アッサラームの街はいろんな商店が狭い路地を挟んで所狭しと並んでいました。

多くの人々が店の商品を手に取り品定めをしたり店主との値下げ交渉など、中々に活気のある街のようです。

 

私たちは疲れを癒やす為に宿屋を探して歩いていると1人の女性に話しかけられた。

 

「そこのお兄さん、宿屋をお探しならウチはどうですか?今なら…ぱふぱふがサービスになります。」

「ぱ、ぱふぱふっすか?ど、どうしようルゥ、今日はこの宿屋にしようかなぁ。」

「…。」

そう言って私の方を見る勇者は、今にも鼻血が出そうなほど興奮している。…なんだろう、胸の奥がモヤっとします。

「そんな冷たい瞳をするなよ。」

「…他を探しましょう。」

「そんなこと言っちゃダメよ、お嬢ちゃん。男の子には色々あるのよ。」

呼び込みの女性はワザワザ屈むように胸元を強調させながら妖艶な微笑みを私に向ける。

「お嬢ちゃん?今私を小娘扱いしましたか?」

「あら、違うと言うのかしら?見たところ貴方達はまだそう言う関係じゃないでしょう?それにそちらの男の子は満更でもない様子よ?」

振り向けばマコトが興味津々な様子。

「お、おいルゥ、ギギギとか言う音を立てて振り向くなよ怖えよ!」

などとのたまう始末。

「マコちゃんは勇者だから貴女みたいな牛女にようはありません。そうよねマコ…」

 

そこにはこの世の終わりのような顔をした勇者がいました。

「何ですかその顔は。ちょっとこっちに来なさい。」

 

説教をしてやる。

 

「何ヘコんでんのよ。」

「よく聞けよルゥ。年頃の男子は色々あるんだよ。女っ気のない旅路、たまには息抜きの一つくらい…ってあれ?ルビアさん?瞳が怖いんだけど?」

「女っ気がないだと?目の前にとびきりの美女がいるでしょうが!」

「アホか!お前相手に欲情するわきゃねーだろうが。」

「何ですって!!」

「な、何を怒ってんだよ?」

マコトは小声で精霊相手に欲情なんてできるわけないだろと伝えてくるが、私の怒りは治りません。

「よく言うわよ、宿屋で寝ているとき寝返りをうつフリして私の胸を触ろうとしてるじゃ「ちょっと待て!!す、少し黙ろうかルビア。わかった、わかったからもうやめて。オレのHPはもうオレンジ色だよ。」」

 

辺りにいた女性たちの白い視線に居たたまれなくなったのか、マコトは私の口を涙目になって塞ぐ。これにはさすがの牛女も痛い人を見る目になっていた。

 

 

 

 

「あー酷い目にあった。」

「自業自得よ。精霊である私を救う為の旅なのに牛女に下心をもつからよ。」

「…魔王バラモス討伐が目的じゃなかったっけ?」

「そんな何とかのオマケみたいなモノは余裕でしょ?早く助けて!私を助けてよ!」

「バラモスがオマケって…。まぁそれは置いといて、ロマリアを出るときにクリフトから聞いたんだけど、ずっと南にイシス国ってのがあるらしいぜ。」

「イシス国?」

「ああ、何でも砂漠を越えた先にある国だからアッサラームで砂漠越えの装備を揃えろってアイツが言ってたんだよ。」

「へー、マコちゃんやるじゃない。なんか本当に勇者みたいよ?」

「勇者なんだよ。」

若干拗ねた顔の勇者はともかくとして、私たちの次の目的地が明確になっているのは頼もしい。

私たちはイシス国に向かう為の必需品を揃える為に夜の街に繰り出した。

 

アッサラームは沢山の店が立ち並んでいた。昼間は武器屋が目立っていたのだけど、今は防具屋の方が目立つ。

そして何故か並ぶ商品の値段がマチマチなのが不思議だ。

私たちはどこで買い物をしようかと歩いていると1人の恰幅の良い商人に声をかけられた。

 

「お二人は見たところ旅のお方ですね?イシス国に向かうんですか?」

「あんたは?何故オレたちがイシスに向かうと?」

勇者が警戒しながら商人に応えると、彼は少し慌てたように改めて自己紹介を始めた。

「あ、すみません。私は『トルネコ』と申します。見ての通り商人です。先ほどお二人が大量の水やら食料を買い込んでいたのを見かけたのでそうかなって。」

そう言って大きなお腹を揺らして笑う。

その屈託のない笑いに勇者も警戒を解いた。

「オレは勇者マコト、でこっちが僧侶のルビアです。」

私たちも簡単に自己紹介をしてトルネコさんと話す。

 

彼は旅をしながら自らの店を出す場所を探しているそうです。そして流れ着くように商店が集まるこのアッサラームに来たそうだ。

彼が言うにはアッサラームで買い物をするなら『値引き交渉』が必須なんだそうです。知らずにそのままの言い値で買うととんでもないボッタクリにあうのだとか。

 

「何故オレたちにそれを教えてくれたんだ?」

「私の見立てではお二人が旅慣れた方に見えまして…。私もイシスに行きたいのですが一人では厳しくて…。そこでお二人の買い物に協力するかわりに私もイシスにご一緒させて頂けないかと。」

そう言ってまた笑う。

トルネコさんはよく笑う人だ。

 

「ルゥ、お前はどう思う?」

勇者は私に顔を近づけ小声で話しかけてくる。

「そうね…とりあえずトルネコさんは嘘は言ってないようよ?」

「そんな事分かるのか?さすがは一応元精霊だな。」

「〝元〝じゃないって言ってるでしょうが!」

私は思い切りマコトのつま先を踏み付けてやると、涙目になって飛び上がった。いい気味です。

 

「で、どう値切り交渉すんだ?」

「普通なら他の店は幾らだったとか、纏めて買えば…とか交渉には色々あるのですが…そちらのルビアさんがいれば交渉は楽になると思いますよ?」

そう言って私の方をニヤついた目で見る。

そう、まるで商人の品定めをするかのような目で。

 

どうしよう…

なんか嫌な予感しかしない。ってかトルネコが今は只のエロオヤジにしか見えないんですけど。

 

そんな私の不安をまるで知る由も無い勇者は、アッサラームでの働き具合によってはイシスまで連れて行くと約束をし、勝手にこのエロ商人をパーティに入れるのでした。

 

 

 

つづく




第3章はイシス編になります。
よろしくおねがいします♡


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夜の散歩は命がけ

数十メートル先をキョロキョロと辺りの様子を探りながら歩く男がいる。夜の街の裏路地という場所もあってかどう見ても不審者そのものです。

 

「あの男(ヤロウ)…何が夜の街を散歩してくるー…よ。どう見たってさっきの牛女のとこに行こうとしてるじゃない。」

「まぁまぁルビアさん。マコトくんも勇者とは言っても16歳の男子、たまには目を瞑るのも…」

「あ゛?」

私が振り向くとトルネコさんは言葉を飲み込んだ。

普通に振り向いただけなのにそこまで怖がられると少し傷つくからやめてほしいです。

 

宿屋から歩くこと数分。

ヤツはやはり先ほどの牛女の宿屋の前にやってきた。

 

「あのヤロウ…私に嘘ついてまで牛女のところに行こうだなんて良い度胸してんじゃないのよ。…ブッ殺してやる。」

私が指をバキバキ鳴らしながらマコトの現場を差押えようとすると、トルネコさんはこの期に及んでまだ私を止める。

 

「ルビアさん、大丈夫だから落ち着いてください。」

「何が大丈夫だと言うのよ。今まさに入ろうとしてるじゃない!」

「あの店はですね、実はアッサラームじゃちょっと有名でして、ああやってセクシーなお姉さんがあたかも『ぱふぱふ』と言うキーワードで男性の期待を引いておきながらいざ出てくるのは彼女の父親なんですよ。」

「は?どう言う事よ…ってまさか、男同士で!?」

「いえいえ、ルビアさんがどんな恐ろしい事を想像しているかは聞きませんが、興奮しないでください。あの娘の言う『ぱふぱふ』とは肩たたきの事なんですよ。」

「は?肩たたき?」

「そうなんです。色香に迷った男が部屋に入ると灯りを消されて…暗闇に乗じて父親と入れ替わり肩たたきをするのですよ。」

「…まるで美人局ね。」

「はい、ですから大概の男はガッカリした顔して出てくるのです。ですからマコトくんもきっと…。だからルビアさんは何も心配しないで大丈夫なんですよ。」

 

そう言ってまた大きなお腹を揺らして笑う。

まったく…私がなんの心配をしていると思っているのでしょうか。勘違いもはなはだしい。ですがまぁマコトはあとで境界(ルビスのおしおき部屋)でお説教ですね。私は密かに心に誓う。

 

「それにしても随分とあの店に詳しいわねトルネコさん。」

「いやっはっは!お恥ずかしい。実は私も引っかかったクチで。」

 

どうしようもなくみっともない話しでよくもそこまで笑えるものだと思う。しかしなんだろう、マコトと違って目の前のトルネコが美人局にかかろうとどうでも良いから不思議だ。こう言う感情を人はなんと言っただろう。

まぁ考えても分からないからやめました。

 

そんなわけで私とトルネコさんは砂漠越えの為の買い出しに行くことにしました。なにせトルネコさんは商人、きっとお金も持っているでしょうから。それに本人もイシスまで一緒に連れて行って欲しいと言ったからには相応の謝礼くらいあるのではないでしょうか。

いやでも期待が膨らみます。

 

案の定トルネコさんは店の人との交渉に長けていた。あっちの店では〜だとか、隣国のロマリアでは〜だの、あの手この手で強気な値引き交渉によって破格の値段で装備や武器を買い揃えていく。

 

「トルネコさん、あんた中々使えるじゃない。」

「ありがとうございますルビアさん。ところで…ずっと気になっていたのですがルビスさんの装備しているその法衣って…」

「ああ、これ?これは『天使のローブ』よ。」

「や、やはりですか!!これがあの伝説の『天使のローブ』…。ルビアさんはどこでこれを?」

「これはエルフの里で買った(奪いとった)ものよ。どうよ、私にぴったりの装備だと思わない?」

「エルフの里ですか?それはどこにあるのですか?」

似合うかどうかを華麗にスルーしやがりました。

どいつもこいつも…ため息しかでません。

「…なにトルネコさん、エルフの里に行きたいの?でも多分無理よ?あそこの頑固な女王は人間嫌いだから。」

「そ、そうでしたか…で、でもルビアさんは入れたんですよね?」

「私?私はあの娘(ポワンちゃん)とは昔からの知り合いだから特別なのよ。」

どうよ、正体は教えてあげられないけれど大精霊である私の凄さを思い知るがいいわ。

「そ、そうでしたか。それではルビアさん、もう一度エルフの里に行くってのは…」

「嫌よ面倒くさい。」

「…で、ですよねー。では紹介状を書いていただくってのは。」

「それは構わないけれど、そもそもその紹介状を渡すエルフ自体に会えないと思うから無意味よ。」

ガックリと肩を落とすトルネコさん。しかしあのポワンちゃんが私が一緒ならまだしも、人間を里に入れるとは思えない。

きっと深い森の中を彷徨うだけだろう。

「では今着ているその法衣を売って頂くってのは…」

「100万Gよ。」

「100万!?」

「それはそうよ。この『天使のローブ』はもともと価値の高い装備、そしてそれを他でもないこの私が装備したのよ?何倍も神聖な力が宿るこの法衣はもう天使のローブじゃないわ。そうよもうこれは女神のローブよ!」

「は、はぁ…しかし中古ですからなぁ…」

 

ちゅ、中古!?大精霊であるこの私がまるで中古扱いされているようだ。何だろう、先ほどからストレスが溜まっていく。目の前のトルネコさんに悪気がないから余計にだ。

 

「では…とりあえず『天使のローブ』は保留と言う事で。」

そう言ってまた大きなお腹を揺らす。

「ルビアさん、明日は砂漠入り、今日は宿屋に帰って体を休めましよう。きっとマコトくんももう帰って来る頃ですよ。」

「そう言えば聞いていなかったけどトルネコさんは何でイシスに行きたいんだっけ、やっぱり商売?」

「まぁ商売も理由の一つですが、イシスは最近代替わりしたそうで現在女王が治めているそうなんです。」

「ふーんそれで?」

「しかもその女王が若く美しいのだとか。」

「…それで?」

「いやぁ、やっぱり私も伴侶が欲しくて。どうせなら若くて見目麗しい女性が良いですからな。欲を言えば毎日愛妻弁当なんか作ってくれるなら最高ですな。」

「いや、あんた最低よ。まぁ要するに大精霊ルビスのような完璧な女性が好みと言うことね。」

「いえ、ルビス様は確かに完璧な存在ではありますがお若くはないですからなぁ。私年増はちょっと…」

「…」

 

 

よし明日コイツは砂漠に埋めよう

 

 

それにしても今日は本当にイライラが募る。早く宿屋に帰って寝てしまおう。苛立ちが募る私が宿屋に着くと、ガックリと項垂れている勇者がいた。

顔は月明かりの下でも分かるほどにこの世の終わりのような表情をしている。どうやらトルネコさんの言っていた事は本当のようだ。

 

「あれ?ルゥも出かけていたのか?俺も夜の散歩は疲れたよ」

渇いた笑顔を向ける勇者があまりにも哀れだ。

私は優しく微笑んでマコトに近寄ると…

 

「ゴッドブロー!!!」

 

マコトの顔面に私の溜まりに溜まった怒りのこぶしが炸裂した。

そして境界(ルビスのおしおき部屋)で私は呆然とする勇者にこえをかけるのだ。

苛立ちをマコトにぶつけるのは酷だろう。私自身も何を言ってしまうかわからない。でも最初の言葉だけは決めてある

 

「ああ勇者よ、死んでしまうとは何事ですか」

 

 

 

続く



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砂漠はつづくよ、どこまでも

暑い…

 

何が暑いかというと太陽の光が暑い。その太陽の熱をたっぷり溜め込んだ大地の砂が暑い。その砂塵を吸い込んだ体内が暑い。暑い…暑い、暑い暑い暑い暑い!!

 

「あーもう暑いわね!!」

「おわっ!なんだよルゥ、いきなり叫ぶなよ。」

「だって暑いの!暑すぎなのよ!!」

「仕方ないだろ砂漠なんだから。地図を見る限りあと少しでオアシスに着くからもう少し我慢しろよ。」

「そう言ってもう3日目なんですけどー。」

「おかしいなぁ…。」

 

勇者は地図を逆にして見たり斜めにしたりして見ている。どう見ても典型的な方向音痴だ。この様子ではいつになったらイシスに辿り着けるのだろうか、不安しかない。

 

「ルビアさん、そんなに暑いなら夏用の装備を買ってありますからお着替えになっては?ささ、その天使のローブを私に渡して…」

 

トルネコがそう言って装備袋から取り出しのは『あぶないみずぎ』

私は無言でエロ狸を殴り飛ばした。

 

「それにしても誰よ砂漠なんて作った奴は!」

「大地の精霊…お前だけどな?」

「太陽もギラギラし過ぎなのよ!明かりを照らすだけでいいのよ!」

「光属性の一番上にいるのも確かお前だけどな?」

「…」

「…」

「何よ何よ!!少しくらいは優しくしてくれたって良いじゃない!もっと優しくしてよ、讃えて褒めて崇めて!!そしてもっと私を楽させて甘やかして!!」

「この駄女神が!!何が慈愛に満ちた大精霊だ。何の役にも立ってないじゃねーか!お前ふざけるなよ?お前のせいでパーティ枠一人分使っちゃってんだぞこっちは。他の僧侶が仲間になったらお前なんかとっとと返品してやるとこだ!!」

「わー!!マコトが言っちゃいけない事言ったー!!」

 

ギャーギャーと勇者と喧嘩をしているといつのまにか意識を取り戻したトルネコさんが喧嘩を止めに入る。

 

「まぁまぁマコトくん、少し気持ちを抑えて。ルビアさんをパーティ枠と考えずにペット枠と考えれば良いのですよ。」

そう言って大きなお腹を揺らして笑う。

どうしよう…この人間には殺意しか生まれない。

 

「まぁ冗談はさておき、以前砂漠は昼間ではなく夜間に進むと聞いた事があります。昼間は日陰をつくり体力を温存するのだとか。」

「へー、トルネコは案外博識なんだな。おいルゥ、お前もそれで良いか?」

「私はこの暑さから開放されるのなら何でも良いわよ?」

「よし、じゃあ太陽の位置で方角だけ確認したら夜を待とう。」

 

 

なんて事を確か言ってました。

「寒っ!」

ブルブルとマコトが震えている。まぁそれもそうでしょう。

何せ砂漠の昼間と夜の気温差ときたら半端ない。もう氷点下近くまで下がっているのではないでしょうか。

私の装備は天使の羽で作られたものです。私を暖かく包み込んで…

 

「…いルゥ!しっかりしろ!!」

「はっ!?今私?」

 

どうやらあまりの寒さに私は死にかけていたようです。

それにしても砂漠は過酷な環境です。しかし真っ暗な夜間だからこそ見えるものもある。私たちは遠くに祠の灯りを見つけた。3日ぶりに休めるというのもあり、ついでにイシス城の情報もあるかもしれない。私たちは脇目も振らずに祠へと向かいました。

 

 

その祠は私の目から見ても随分と前に打ち棄てられたようでした。あたりは毒の沼地に囲まれ、明らかに人のいる気配もない。ただ、今私たちに必要なのは昼間の太陽の光を遮る屋根と、夜の寒さから身を守る壁が有れば良い。幸い明かりがついているということはまだ祠には私の加護が機能している証拠。モンスターも寄り付いてこないからゆっくり休めそうです。

 

私たちは内に入ると祠の中を調べた。

案の定、人は誰もいないようだったが何組かのベッドや暖炉があり、かつて誰かが暮らしていたようだった。

私はベッドの横にあるチェストの上にある一冊の日記を見つけた。

 

「ルゥ、そっちはどうだ?何か情報になるものは見つけたか?」

「マコちゃん。そっちは?」

「こっちは全然。それよりそれは?」

「これは多分、以前この祠で暮らしていた人の日記みたい。日付は…やく三年くらい前のもの見たい。」

もしかしたらこれにイシス城の情報があったりしないだろうかという期待を込めて私は日記を手に取り読み始める。

 

 

 

 

私たちは安住の地を求めてイシス国にたどり着いた。

水と緑といった自然溢れるイシス国は言わば資源大国でもある。その勢力は隣のロマリアやポルトガにまで影響を与えるというのだからかなりのものだ。

しかし私は前の地の二の舞は踏まない。

多少不便ではあるがイシス城から遥か東に位置するこの森の中なら誰にも見つかる事なく親子3人で静かに暮らしていけるだろう。

アンと娘の容姿を人混みに隠すのではなく人から離すのが一番なのかもしれない。

 

娘が13歳を迎えたとき、彼女が『メラゾーマ』を既に覚えている事が判明した。

何故父親である私にその事を隠していたのかを尋ねると、彼女は呪文が怖いと感じている事を知る。物心ついた娘が自身の呪文を恐れるだなんてあまりにも可哀想だ。

そこで私は誰にも迷惑にならないよう空に向かって放てば良いと教えた。空なら人はまずいないからだ。

娘は戸惑いながらも空に向かって『メラゾーマ』を放った。

何だかんだ言いながらもせっかく身に付けた呪文を使って見たかったのだろう。

巨大な火球が上空へと昇っていく…のだが、あれ?何で太陽が二つあるの?なんか無性に気温が上がっているんだけど。

 

娘が『メラゾーマ』を放って3日目。

今日の気温はついに50度に到達。暑い。太陽の光を抑えている森の中にあってもこの気温は異常だ。

5日が過ぎたころ、私がイシス城に買い出しに行くと街中で水が干上がったとの噂を聞いた。

たぶん私たちのせいではない。自然のなせる技であろう。

7日目、ついにイシス国の豊かな森の木々が全て枯れた。暑さで水が干上がったせいで地中の水が吸えなくなったせいであろう。

空にはギラギラと輝く太陽が二つ、今日も熱を発している。

 

ここまで来ると流石に私たちも無視はできない。アンも水が飲めずに体調を崩しはじめている。

私は娘に『メラゾーマ』の火球に向かって『ヒャド』を放ってみるよう言った。『メラゾーマ』に『ヒャド』ではまさに焼け石に水ってものだが、まだ娘は『マヒャド』は覚えていないのだから仕方がない。

 

娘が火球に向かって『ヒャド』を放つと、凄まじい風が吹き荒ぶ。考えてみればそうかもしれない。暑いところに寒気を放てば上昇気流が発生する。水のない場所で起きた嵐は『バギクロス』など可愛いそよ風のような凄まじさだ。

 

ヤッベー!何か枯れたとはいえ木々が全て吹き飛んじまったよ。倒壊した建物やらの粉塵が砂となって大地を覆いはじめてるよヤベー!

このままじゃイシス国は緑豊かじゃなくて砂が豊かな国になっちまいそうだ。

でも今更どうにも出来ないけどな。

って言うかもうすでに見渡す限り砂漠しか見えないんだけどな。

 

誰だよ空に向かって放てば誰にも迷惑かけないとか安易な考えを娘に吹き込んだやつ。

そいつバカだろ!ちゃんと娘のステータスくらい把握しておけってんだ。

 

 

おっと、空に放つよう言ったのも、娘を育てた父親も俺でした。

 

 

 

 

「…終わり。」

「またお前かー!!!」

私が日記を読み終えると勇者がさけんだ。

 

以前の手記を知らないトルネコさんは状況を把握出来ずポカンとしているようですが、私たちは知っているのだ。

 

「こ、この世界にはどうやらとんでもない子がいるようね。」

「ああ、この子なら魔王バラモスも倒せるんじゃねーか?」

「バラモスどころかその先も…」

「その先?」

 

私は言いかけて止めた。

まだ成長段階の勇者に旅の目的であるバラモスが実は単なる尖兵でしかない事を知ったら冒険を辞めてしまうかもしれない。

何せマコちゃんは生粋のヘタレだから。

 

「とにかく日記にはイシス城は東に位置するってあるし、日が沈んだら行って見ましょう。」

「なぁルゥ…」

「何よマコちゃん」

「東じゃなくて西だ!!お前バカだろ!ちゃんと読めよ。こんな砂漠の真ん中で迷い子になったら死ぬだろうが!」

 

この偉大なる精霊をバカ呼ばわりする勇者と、全く止めようともしないエロ狸にいつか神罰を与えてやろう。

私は心の中で呟きながら『冒険の書』を更新して明日に備えるのだった。

 

 

 

つづく



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イシス国

「ニャオーン」

「なんかやたらと猫がいる国だなぁ。」

 

勇者が言うようにイシス国の城門をくぐると、あいも変わらず砂だらけなのですが、たくさんの猫たちがのびのびとしていた。

日中嫌というほど温められた砂がまだ温度を保っているから暖かいのでしょう。

猫たちは気持ちよさそうに砂の上を寝転んでいる。

 

そのうちの1匹の黒猫が私の足元に寄ってきた。

 

「あら、さすが猫ちゃんは私の高貴さに本能で気付いて恩恵にあやかりにきたのね。」

 

私が黒猫を抱き抱えようとすると

ガリッ!!

 

「いったい!!この子私を引っ掻いたわよ!」

「お前猫が嫌がることでもしたんじゃねーのか?」

「失礼ね!私のような慈愛に満ちた大精霊が抱き抱えてあげようって言ってんのよ?嫌がられる訳ないじゃない!」

「ワッハッハ!ルビアさん、貴女が美人なのは認めますが、幾ら何でも精霊ルビス様を騙るのはやり過ぎですよ。」

『グフフフ…貴様らは勇者一行だな?わがはいは魔王バラっ!?』

「言ってやるななよトルネコさん。ルゥは自分が精霊だって騙る痛い女の子なんだよ。」

 

そんな事を猫の首根っこをヒョイと摘み上げた勇者(マコト)が言う。

「なあああんですってえぇ!ちょっとマコ…」

 

私に対して不敬を働いた勇者は、私の口に手を当てて小声で「お前自分で正体バラしてどうすんだ」と言う。

まぁ確かに大精霊がいるだなんて知れれば大騒ぎになってしまう事は間違いない。私としてもそれは望むところではない。今ひとつ納得がいかないけれど怒りを納める事にした。

 

「ところで今この魔獣喋らなかった?」

「おいおいルゥ、いくら引っ掻かれたからって猫に対して魔獣って…。それに猫が喋るわけないだろ…」

そこまで話したマコトは猫のあるものに気付いたようにソレをみている。

「この猫首輪してるし飼い猫か?名前も書いてあるぜ?」

「名前?魔獣のクセに生意気ね。で、何て名前なの?この不届き者の名前は。」

「ちょむすけ」

「は?今なんて?」

「この猫の名前はちょむすけって言うらしい。」

「「…」」

 

私と勇者は、首根っこを摘まれて伸びてダラんとしている魔獣を無言で見つめるのでした。

 

 

 

あらためて

私たちはイシス国にやってきました。

イシスは見渡す限り砂漠の中にぽつんと建っているお城しかない。ボロボロに朽ちた巨石が並ぶ城門を潜った先も砂砂砂、ひたすら砂漠化しています。

城下町らしきものもないこのお城が本当に国として成り立っているのか疑問でしたが、城内に入った瞬間に私は考えを改めた。

城内には豊富な水と緑が活き活きとしている。

イシスの国民の大半も城内に各々部屋を持ち、城内で店を開くなどしていた。おそらくはこの国の国王がイシスを立ち去らないで残った国民に対し、お城に招き入れたのでしょう。

かつての経済大国イシスはお城の中と言う狭い空間の中でちゃんと続いているようだ。

 

「さて、先ずはどうすっか。」

「私は宿屋に行きたい。早くお風呂に入って身体中の砂を洗い流したいわ。」

「いやいやマコトくん。先ずはこの国の元首に挨拶ですよ。私の情報によると今のイシス国はとびきりの美女が治めていると聞きますよ。」

「…詳しく。」

 

そう言ってマコトとトルネコがヒソヒソと話しいる。

なんだか面白くない。

 

「って言うかトルネコさん、あんたいつ迄いるのよ!もう約束のイシスに着いたんだからさっさとどこか行きなさいよ!」

「ル、ルビアさんそれは余りに冷たい。私たちはパーティじゃありませんか。」

「誰がパーティよ!ねぇマコ…何よそのダラシない顔は。」

 

見ると鼻の下を伸ばした勇者の間抜け面がそこにらあった。

やっぱその国の元首への挨拶は必要だとか何だとか、今までロマリア国はおろか、自分の生まれ故郷であるアリアハンの国王にさえサッサと会いに行こうとしなかった男が何を言ってるのだと言ってやりたい…。

しかし結局マコトの散々な言い訳を聞いてるのが疲れた私はマコトとトルネコさんのイシスの女王への挨拶を了承した。

王室はとても荘厳で美しい佇まいでした。

真ん中に敷かれた赤いカーペットの上を歩いて女王のもとへと歩くと、何でしょうか結構気持ちがいいも知れない。高揚感に満ちる。

 

私たちを出迎えたモンスターの様な小柄な老人に連れられて通された玉座の間にいたのは言わずと知れた…

 

「馬だな。」

ポツリと呟くとそれにトルネコさんと私が続く

「馬ですな。」

「馬ね。」

 

そこには純白のドレスを身にまとう、馬のお面をかぶったイシスの女王がいた。

 

「ようこそイシス国へおいでくださいました勇者様。私は今代のイシスの女王ミーティアです。」

「俺は勇者マコトです。で、こちらが仲間の僧侶ルビアです。」

「マコト様にルビア様ですね?あの…そちら様は?」

「あぁ、こっちは縁あってイシスまで同行しただけの商人です。」

「ちょっとマコトくん、それは余りに寂しいじゃないですか。私はもう二人を仲間だと…」

「誰が仲間よ。割と二人で楽しくやってるのよ。邪魔だから早くどっかいって!」

 

私の言葉に涙目になるトルネコさんと、それを見ていた女王がクスクスと笑う。

「ところで何でミーティアは馬のお面なんかかぶっているんだ?」

場の空気が女王の笑いで緊張感が霧散したところでマコトが誰もが気になりながら聞けないでいるところをつく。

「これは…ミーティアはお馬さんが大好きでして…。」

「はぁ、好きって言う理由だけっすか?」

「はい。それはもう、本当になれるものなら本当にお馬さんになりたいくらいですわ。」

 

イシスの女王は、ずいぶん変わった感性の持ち主のようです。

とりあえず言えるのは彼女が何を言っているのかわかりません。

それからも私たちの今までの冒険の軌跡に、楽しそうに耳を傾ける女王はお面のせいで分からないけど、きっとマコトに近い年齢の少女なのかも知れない。

なかでも驚かされたのはモンスターみたいな風貌の老人が、従者とばかり思っていたら彼女の実の父親であると知ったときでしょう。

 

そして夜の手前の時間になり私たちがおいとまをしようとしたとき、

 

「見ての通り今のイシス国はかつてのような経済大国ではありません。3年前にイシス国を襲った二つの太陽が現れると言う謎の厄災によりイシスは砂漠の国と化しました。豊かな木々や瑞々しい清流も、今やイシス城のみとなってしまいました。コレを私たちイシスでは『レイダメテスの悲劇』とよんでいます。」

「レイダメテス?」

「はい。私たちの国を壊滅の一歩手前まで追い詰めた厄災…

 

この世界で 平和に 暮らしていた

すべての 生きとし生けるものは

滅亡の危機に さらされた。

今 空には ふたつの太陽が 昇っている。

ふたつめの太陽…… それが現れてから

この世は 地獄と化してしまったのだ。

いまわしき ふたつめの太陽は 自在に空を駆け

大地を焼き 海を干上がらせ

人々を 灼熱の絶望に おとしいれた。

太陽が ふたつになった理由など 知る由もない。

わかっていることは 地上に 生きる者すべてが

滅亡しようとしているということだけだ。

 

…と言う伝承さえ今や国中を巡っています。」

 

マコトも私も固唾を飲み込んだ。この厄災の原因を私たちは知っているからです。まだ半信半疑のトルネコさんはあの日記を信じていない様子だから口にしないようでしたが、私たちが口にしないのはもっと別な理由だ。

魔王バラモスのことだけでも世界は危機にあると言うのに、バラモスが可愛く見えるかのような破壊神(デストロイヤー)までもが世界にいると知れれば、人々が絶望してしまい、ひいては私への信仰心までもが捨て去られかねません。そうなれば私の恩恵は絶たれてしまい、世界は更なる荒廃へと向かうでしょう。

けっか、私たちもまたイシス国を襲った厄災については触れないことにしました。

知らないと言うことも幸せです。

 

長きに渡る会談を終えた私たちが宿屋に帰るさい、女王は私たちに西にあるピラミッドの存在を教えてくれました。モンスター…もとい彼女の父、トロデさんは驚き反対していましたが、女王は国として勇者への支援ができない代わりに、せめてとばかりに豊かな頃の財宝が眠るピラミッドの中の探検を許可してくれたのです。

 

 

深夜

宿屋の部屋で私とマコトは、明日からピラミッドの中の探索をしようと決めたのでした。

 

それが悲劇の始まりとも知らずに…

 

 

 

 

続く

 




ちょむすけ…もうでませんw


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運命の出逢い

「なぁルゥ、オレ考えたんだけどさぁ…このままイシス国で二人で暮らさないか?」

「え?マコちゃん、それって…」

 

女王の間から宿屋の部屋に戻りしばらくすると勇者がポツリと呟いた。

 

「…」

マコトは言ったきり無言。

いつもの彼と違い真剣な眼差しでテーブルの上を眺めている。

辺りは夜、シンとした空気が流れる。

 

「ま、まぁ私としては本体を取り戻さないといつまで顕現していられるか分からないけれど…マコちゃんがどうしてもって言うなら私も吝かでは…って、何見てんのよ。」

 

いつまでも視線が一点から移らない勇者。

私は私たちの現在を思い返す。

 

女王の間で馬女(ミーティア)との謁見を終えた私たちは、せめてもの勇者一行への支援をとイシス国でも高級な宿屋の部屋をふた部屋用意してくれた。部屋の中にもかかわらず水や緑が多く、かなりの上レベルの部屋なことが私にも分かる。

私たちとトルネコさんは其々に分かれ部屋に入りしばらくすると、ルームサービスと言って見たこともない程の豪華なディナーが運ばれてきました。

もちろん全てが女王によるものと言うのだから馬女もなかなか奮発してくれたようです。

つまり目の前の勇者(へたれ)は、私にではなくこの至れり尽くせりの状況に甘え切りたい一心で『このままイシス国で暮らさないか』の発言に至ったと言う訳だ。

ええ、判っていましたよ。マコトがヘッポコなことは。別に期待なんてしていない。してはいないけれどイラッとさせられた仕返しだけはいつかしてやろう。私は心に決めた。

 

 

 

ピラミッド探索を明日に控えた深夜、一人の珍客が部屋の扉を叩いた。眠たいまなこを擦りながら扉を開けるとそこには純白のドレスを身に纏った一人の女の子がそこに立って居たのだ。

長く艶やかな黒い髪。吸い込まれそうな瞳は夜の色をしている。まぁ一般的に言って美少女です。

私はそのまま扉を閉めた。

 

「おいマコト!!どこでまた女をひっかけた!!」

「おわ!何んの事だルビア!と、とりあえずモーニングスターはしまえ!」

勇者は私を救うと言う何よりも名誉な役目があるにもかかわらず、適当に女の子たちと仲良くなろうとするだなんて誰が許しても大精霊である私が赦さない。今日と言う今日は説教をしてやる。そう思いマコトに近づくと、部屋に勝手に入ってきた女の子が慌ててそれを止めに入る。

 

「ミーティアですルビア様、イシス国の女王ミーティアです。」

「あぁん?ミーティア?女王の名前を騙るなんて重罪ね。私がひっ捕らえて高額の報酬を本物のイシスの女王から貰ってやるわ。」

「違います違います、本当にミーティアです。ほら」

 

そう言って懐から馬のお面を取り出し着けてみせた。

 

「おわっ!ルゥ今の見たか?突然ミーティアが目の前に現れぞ?」

「ええ見たわ。ミーティアは大魔法使いなのかしら。室内にルーラで現れたわ。」

「……」

まずいです。少しやり過ぎました。

私たちの細やかな冗談にほんの少しだけ泣きそうになる女王。すると隣の勇者は180度態度を変え、目の前の泣き真似している性格真っ黒な女の肩を持つ。そもそも私に嘘は通用しない。ある程度なら人の考えていることも分かります。そんな私がイラッとしたのは、泣き真似して勇者の同情を買おうとしている女の子(馬女)にたいしてではなく、本気で目の前の女の子(馬女)の気を引くためにこの私を悪者扱いする目の前のヘッポコだ。

 

「で?女王さま程のお方がこんな夜更けに私たちに何の用なのよ。」

突き放すように言ってやりました。

ハッキリ言ってしまえば八つ当たり。大人気ないのは充分承知の上です。しかし彼女はそんな私のイラつきにはまるで気付くそぶりもなく椅子に座ると、テーブルに身を乗り出すように勇者の手を握り

 

「マコトさま、貴方こそはミーティアの運命のお方ですね?」

「はい、そうです。」

ガツン!!

モーニングスターの鉄球でマコトの後頭部を叩きました。

「何を即答してんのよマコト!それにミーティアも何をトチ狂った事言ってんのよ。」

「いえトチ狂ってなどいません。まだ私(わたくし)が幼い少女だった頃、『貴女はいずれ世界を救う者のお嫁さんになる』と女神様の御告げがあったんです。世界を救うと言えばやはり勇者様、ですから私はずっと長いことマコトさまがミーティアの前に現れる瞬間を待ち焦がれていました。」

「はぁ、御告ねぇ。」

マコトは今一神の存在を信用していないような感情の籠らない声で返事を返した。

今貴方の隣にいる私こそが大精霊にして美しい女神ルビスその人だと言うのに何を疑うことがあると言うのか。

「貴女の運命の人が勇者ぁ?誰よそんなふざけた御告げをした女神は。」

「それは…」

「「それは?」」

「それは、かの大精霊ルビス様です。」

「「は?」」

 

思わず私たちは声が重なる。

 

「そ、それは流石に勘違いじゃないかしら。」

「いいえルビアさま、ミーティアは確かにルビス様の御告げを聞きましたわ。毎晩毎晩寝る前に欠かさず祈りを捧げているときに。」

「それっていつぐらいの頃よ。」

「ミーティアがまだ5歳くらいの頃ですから…10年くらい前でしょうか。」

「はぁ?10年前?……あ。」

「おいルビア、おまえちょっとこっち来い。」

そう言って部屋の隅に私を連れて行く勇者は、

「お前心当たりあるな。どういう事か説明しろ。」

白い目でジーッと見つめる勇者が問い詰めてきた。

 

「そう言えばその…10年くらい前に魔王に囚われた私がウトウト眠りにつきそうな所に、毎晩毎晩話しかけてくる女の子がいて…」

「それで?」

「ほら、ねむる直前に話しかけられるのって嫌じゃないですか。」

「あぁそれで?」

「私も早く眠りに就きたいからその…」

「……」

「適当に…答えまし…た。」

ガツン!

勇者が私の頭を叩きました。

「このバカが!どうすんだよこれ。このままじゃオレ、本当にミーティアと結婚させられちまうじゃねーか!」

 

意外です。マコトはむしろ清楚な美少女系であるミーティアならまんザラでも無いと思っていました。

「オレにはやるべき事があるから、ここで旅を終わらせるわけにはいかねーんだよ。」

「…マコちゃん…私感動したわ。そこまで私を救う気持ちが強かっただなんて…。分かったは、ここは私に任せてちょうだい。」

「いや、別にお前の為ってわけでもないんだけどな。」

 

ボソッと呟くマコちゃん。ああ、これが人間の事を勉強していた時に覚えたツンデレってやつね。仕方ないわね。そこまで私の事を想ってくれているのなら今の言葉は聞かなかった事にしてあげましょう。

 

私たちは再びテーブルに着くと馬女(ミーティア)の説得にかかる。

なるべく女心を傷付けない様に計らいながら。

「あのねミーティア、私たちは大きな使命を持って旅をしているの。だから旅をやめるわけにはいかないわ。」

「それは承知してますわ。ですからミーティアも旅に同行させてください。」

「は?ダメよ。ミーティアは何の戦闘職にも就いていないじゃない。この辺りでレベル1からは死にに行くようなものよ。」

私は精霊の眼をもって彼女のレベルを見てから優しく説いた。

「ええ、ミーティアは確かに戦闘は出来ません。ですから馬車馬としてでも良いので連れて行って欲しいのです。」

「馬車馬って…私たち歩きの旅よ?」

それを聞くと馬女(ミーティア)は顔を曇らせた。

 

「何でそんなにまでして私たちと行きたいの?」

いくら御告げがあったと信じ込んでいるにしても少し変だ。ハッキリ言って隣にいる勇者(ヘタレ)は一目惚れなんかされるような男ではない。にも関わらずこうまで食い下がるのには何か理由があるのかも知れない。

私がそんな思いで静かに問うと、彼女は懐から1枚の姿絵をテーブルの上に出した。

そこには身の毛もよだつような笑顔の男性の姿絵があった。

「あの…これは?」

「コレはミーティアの婚約者のチャゴス様です。」

「「うわぁ…」」

 

私とマコちゃんは声をハモらせた。それ程に残念極まる男性です。しかも馬女に聞けば見た目だけではなく中身までもが破綻していると言うのだから救えません。

「おいルゥ。さすがにこれは…何とか運命を変えてやる事できないのかよ。」

小声で勇者が言う。

「そんな事できるわけないでしょう。だいたい何よ運命って。」

勇者は使えねーとボソッと言いやがりました。

しかし確かにミーティアは同じ女として少し気の毒だ。全てが終わったら何かしらを考えてあげてもいいかもしれない。

そんな私の慈悲深い気持ちとは裏腹にこの真っ黒な馬女は

 

「マコトさま、ルビアさまとお別れになってミーティアを選んでくださったらこの『ルビーのうでわ』を差し上げますわ。戦闘効果はございませんが売れば大金になりますわ。」

などと買収にのりだした。

「え?マジで?」

「ちょっと何お金につられてんのよ。」

隣の勇者の食い付きにチャンスを見たのか馬女は攻勢を続ける。

「何なら我がイシス国の秘宝中の秘宝『ほしふるうでわ』もお付けしますわ。これは装備した者の『すばやさ』を格段に上げてくれる神具です。どうですか?ミーティアをパーティに入れていただけますか?」

 

本気で悩む勇者の姿に腹が立つ。まさかとは思うけれど本当に金目の物につられて私を捨てるんじゃ…

 

「すまないミーティア。やはりオレは世界を救わなきゃならないから。今は自分の幸せな未来とか考えられないんだ。」

意外にも勇者はその誘いを断った。

その決意を聞いたミーティアは少しだけ悲しそうな顔をすると、

「仕方ありませんよね。では全てが終わったその時は…いえ、やめときます。マコトさま、ルビアさま必ず魔王バラモスを討ち倒し世界を救ってくださいましね。お約束どおりピラミッドの中の財宝は好きにして頂いて構いません。」

 

そう言い残し彼女は従者を連れてイシス城へと帰って行った。

「意外だったわ。マコちゃんはああいう清楚な女の子が好きだと思っていたけど。」

「まぁ確かにどっかの駄女神よりはタイプだけど?」

「おいマコト、ちょっと表に出なさいよ。境界(ルビスのお説教部屋)で説教してやるわ。」

「待て待て待て、オレたちはやらなきゃならない事があるだろ?お前だって救わなきゃなんだしよ。オレだって出来ればイシスで贅沢三昧してたいよ。でもミーティアは戦えないんだろ?なら断るしかねーじゃねーか。だいたいお前が10年くらい前に適当なこと言ったのが悪いんじゃねーか。」

「……。」

 

おかしいわね。確かに子供相手と適当にあしらったのは確かだけれども、今日彼女を見てそれが全くの的外れってこともないように見受けた。しかし隣のヘタレが相手ってことも無い。

これはどう言う事でしょうか。考えても分からない事は無駄だ。

 

私たちは明日のピラミッド探索のために眠りにつくのだった。

 

それにしても最近本当に疲れます。

 

 

 

つづく




ほしふるうでわがあるとの書き込みを見て追加してみたお話しです。情報ありがとうございます♡


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踊る宝石♡

それは何もない砂漠の真ん中にありました。

かつては鬱蒼と茂ったジャングルの中にあったと馬女(ミーティア)からは聞いていましたが、四角変に切り出された岩石を四角錐に積み上げられた巨大な石像建造物は、不思議と周りの砂漠の風景に合っているように見えました。

 

岩場の隙間からピラミッドへの入り口を見つけると私たちは辺りのモンスターに気付かれないようにピラミッド内部へと侵入しました。

 

ピラミッド内部はただただ薄暗く、随所にある灯火とマコトの持つ松明だけが頼りのようです。

まぁ精霊である私には暗がりなど関係ありませんが。

しかし人の心理的に真っ暗闇と言うのは恐怖の対象なのでしょう。一応勇者らしく先頭を歩いくマコトは、腰が引けてさえいなければそれなりに勇者に見えます。

 

「ルゥ、あまりオレから離れるなよ?」

「何よマコちゃん、暗いの苦手なの?大丈夫よぉ、辺りにモンスターはいないから。」

「え?お前この暗闇の中が見えるのか?」

「見えるわよ?昼間と変わらないくらいには。あなた一度聞いてみたいのだけど私を何だと思っているの?」

「疫病神かなんか。」

「ちっがうわよ!女神よ女神!美しく聡明な大精霊よ!」

「ワッハッハ、ルビアさん、いくら貴女が美女でも精霊を騙っていたらいつか本当にルビス様の神罰にあいますよ。」

女である私のさらに後ろを歩くトルネコさんがあいも変わらず大きなお腹を揺らす。

「今ここでその神罰を見せてやろうかしら。」

振り向いてモーニングスターを振りかぶると勇者が私を羽交い締めにして止める。

「ってかトルネコ、あんたいつまで付いてくるんだよ。目的のイシス国にはついたじゃねーか。」

「そうよ!関係ない人はあっち行って!シッシッ!」

「そ、そんな冷たい事を仰らないでくださいよ。私だってピラミッドの秘宝が気になるんですよ。それにルビアさんの希望通りの装備だって私が購入したのですから、一緒に連れて行ってくださいよ。」

「あ?今朝ルゥに無理矢理装備させられたこれか?」

 

ツバのある独特の茶色い帽子に、ヨレたグレーのシャツ、そして革でできた上着。腰には鞭を装備した勇者が自分を指差して言う。

「そうよ。マコちゃんは知らないかも知れないけど、ピラミッド探索にはピラミッド探索に適した装備と言うものがあるの。それはかつての偉人が装備した由緒正しい装備なの。」

 

私がどれだけ素晴らしい装備であるかを説明するが勇者は何故か白い目で私を見るのでした。

 

 

 

※※※

 

「いいかルゥ、お前は知らないだろうけどな、こういう遺跡ってのは大概盗賊よけの罠があるもんなんだ。だからやたらに触るなよ?」

暗闇の中を松明の炎のみを頼りに空を弄りながら進むマコト。

「知ってるわよそのくらい。私は罠よりマコちゃんのその手が私のお尻を触ったりしないか心配なんですけどー。」

ちらっと振り向き私の目を見た勇者は深いため息を吐き、無言で前を向くと再び歩きだした。

「ちょっちょっと何よその態度は!私のお尻に何か文句があるわケ…!!」

ゾワッとした感覚が背筋を走った。見ればトルネコがニヤニヤしながら私のお尻を触っていた。

ガン!!

「ちょっと何をドサクサに紛れてあなたが私のお尻を触っているのよ!」

マコトならいざ知らず、会って間もないトルネコに触られるのは不快以外なにものでもない。私は制止するマコトを振り切ってトルネコをモーニングスターで殴り倒した。

本来ならマコトが私の代わりに怒っても良い場面だと言うのに、目の前の勇者(ヘッポコ)はパーティーメンバーを攻撃するなと私に怒る。とても心外です。

私はマコトに向かってもモーニングスターを振り下ろすが、マコトは見えないくせに器用に交わす。アタマにきた私は何度かモーニングスターで勇者に襲いかかっていると、カチリと乾いた音が足元から聞こえた。

「おいルゥ、今なんかカチリとか聞こえなかったか?」

「な、なんか聞こえたわよね…。」

 

 

ゴゴゴ…

と、地響きとともに重苦しい音がする背後を見ると、巨大な丸い岩石がこちらにめがけて転がってくる。

「いやぁぁぁぁ!!」

私とトルネコを背負ったマコトは必死になって走り回る。

もう、どこを曲がってどこを登り降りしたかなんて分からない。ただひたすら逃げ回り、なんとか難を逃れることに成功しました。

しかしそんなピラミッドの中で迷子になった私たちを追撃するかのように次から次へと罠が発動。

ようやく罠が落ち着いた時には、私たちのHPはもうオレンジ色です。

 

「あーマジで死ぬかと思ったぜ。」

「本当よね。まったく誰よこの罠考えた人間は。死んだ人でも許さないわ。」

この私にこれだけの事をしてくれた罠を作った人間のことを、泣いて謝っても、たとえ既に死んでいたとしても私は許さない。

 

そんな事を考えながら探索を続けていたら1人の男に出会いました。

私の大精霊の眼で見たその男は、年齢はマコトとそう大して変わらないように見えるところから16か7辺りだろうか。夜の色をした髪と瞳の色をしていた。

背中に背負った2振りの片手剣から見ても分かる戦士、レベルは…

24!?

なんと私たちと同レベルです。私たち勇者一行は私を救う為にモンスターを討ち倒(やみうち)しながら旅をしているから高レベルなのはわかるとして、いくら戦士とは言っても普通に生きてきた人間にしては驚くべきレベルです。

…しかしなんだろう、確かに人間…だとは思うのだけれど、どうにもこの戦士には良くないものが纏わり付いているように見える。それに私の眼を持ってしても良く見通せないのは初めてです。

 

そんな彼は私たちの姿を認めると笑顔で歩み寄ってきた。

 

そんな彼に一歩前に出たマコトが応対した。

剣こそ腰に納めたままではあるが、しっかりと警戒は怠らない勇者の姿に不覚にもちょっとだけ頼もしく見えた。

「オレの名はエスタークだ。見ての通り戦士だ。君たちは?」

「オレはマコト、勇者です。」

するとエスタークと名乗った青年はやはりと笑顔で手を叩く。

「そうかやっぱりか。こんな高難易度なダンジョンに入ってくるくらいだから、よほどのバカでなければ噂の勇者だと思ったぜ。」

「まぁ…どちらかと言えば前者も間違いではありませんけどね。」

私は心の中で一人ツッコミを入れた…のだけれど

ガン!

「おいルゥ、お前心の声がダダ漏れだぞ。」

どうやら声に出てしまったようです。だからと言って何も頭を叩くことはないと思う。

「こっちの僧侶はオレの仲間でルビアで、オレの背後で目を回してるのはトルネコと言う商人だ。まぁ…こちらは仲間かは微妙だけどな。」

「へぇ、ルビアさん…ねぇ。」

エスタークは意味深く私を見たあと鼻で笑いやがりました。なんか鼻に着く男ですね。

「ところでそんな高難易度のダンジョンにアンタは何をしに来たんだ?見たところ1人のようだけど。」

「バカねマコちゃん、今この人自分で言ってたじゃない。『こんな高難易度のダンジョンに入ってくるくらいだから、よほどのバカでなければ噂の勇者だと思ったぜ』とか。この人は戦士であって勇者じゃないんだから必然的にバ…モゴモゴ」

「そうだよなぁルゥ、エスタークさんはきっとバ…バカ強い戦士なんだろうなぁ1人でダンジョンに潜るくらいだし。」

バカと言おうとした私の口を手で抑えつけた勇者は苦笑いをしている。しかし私の言いたいことを理解したようで、エスタークは引き攣った笑いを浮かべてピクピクしている。

なんだろう、この人間には申し訳ないけれど彼が悔しそうな顔をしていると気分が爽快になります。

それにしても

 

「ちょっとマコちゃん、何あんな男に気を遣ってるのよ。」

「お前はバカか?ただでさえモンスターがうようよいるようなダンジョンの中で敵を増やすんじゃねーよ!」

「何よ、あの男のレベルは私たちと同レベルよ?二人掛かりで戦えば余裕よ。」

「…お前まさか1人を相手に2人で戦う気か?」

「そんな訳ないでしょ。マコちゃんの背後にいる重石(トルネコ)を入れて3人がかりよ。」

「汚ねえなお前。モンスター相手なら分かるけど同じ人間に対してそれは卑怯すぎないか?」

「何言ってんのよマコちゃん。戦いはね、勝てばいいのよ勝てば。」

「お前は本当に女神か?」

ボソリと言いやがりました。

「マコトあなたねぇ、私もその内本当に怒るわよ?」

私がマコトの胸元を掴み上げると、黙って私たちのやりとりを見ていたエスタークが突然大笑いをした。

 

「まってくれ2人とも。オレは2人と戦う気はないよ。ピラミッドを一緒に探索しないかと思ってな。」

「あなたと一緒に探索して私たちに何の得があると言うのよ。分け前が三等分になって減っちゃうじゃないの。」

「四当分ですルビアさん。」

ちゃっかり目を覚ましたトルネコが自分の取り分まで乗せて来やがりました。

「まぁそう言わないでくれよ。君たちパーティーの目的はたぶんコレだろ?ソレをやるからさ。」

 

そう言ってエスタークはマコトに向かって何かを放った。

手の上には銀色のカギがあった。

 

マコトは『魔法のカギ』を手に入れた。

 

「何だ只のカギかよ。もっと金銀財宝を期待していたんだけどな。」

「本当よ、これじゃ私がリッチな生活をおくれないじゃない。」

「何だ、2人はそう言ったものを求めていたのか。それならコレもピラミッドで見つけたものだからやるよ。どうぐやに売ればそれなりの額にはなる筈だ。」

そう言ってエスタークと名乗った青年は『ルビーのうでわ』やら何やらと沢山の宝石類を私(パーティー)に貢ぐ。

なかなか見所のある青年ですね。

 

そんな宝石類をホクホク顔で抱える私を横目にマコトは

「エスタークさん、アンタは何を探しているんだ?」

至極当然とも言える質問をする。私はあまり機嫌を損ねて宝石類を返せと言われないでほしいのですが…

って言うかもう返しませんけどね。

 

「オレは…この世の何処かにあると言われている『進化の秘宝』を探しているんだ。」

「『進化の秘宝』?」

マコトは聞いた事もないとばかりに首を傾けるが、私はその不穏なワードに背筋を冷やす。

「ちょっと待って!どこでそんなモノの事を知ったのかは知らないけど、『進化の秘宝』は人が手にするものじゃないわ。」

「へぇ、ルビアは『進化の秘宝』がどんなモノか知っているんだな。オレは最強の戦士になる為に絶対に必要なモノなんだ。」

 

こいつ…初対面の私を呼び捨てにしやがりました。

しかし今はそれどころではありません。

 

「ダメよ。『進化の秘宝』は闇の根源の欠片だもの。力に飲み込まれて暴走するのがオチよ。」

「…それでも構わない。」

 

エスタークは少しだけ悲しそうな瞳をした。

何か訳ありで強さを求めているのだろう。しかし当然女神としてそれは見過ごすことができないものです。

なんとしてもこの青年の考えを変えなければ、きっと人間の世界にとって厄災がふりかかるでしょう。

何に変えても私が人の世界を救ってみせる。それこそが大精霊の責務と言うものだ。

 

「あ、仲間になるのを断ったらさっきの宝石類は返してもらうからな。」

「何言ってるの、私たち仲間じゃない。一緒に頑張りましょうね♡」

「…あっさり買収されてんじゃねーよ。」

 

マコトのツッコミは聞こえないフリをしてあげよう。そもそもあなたが甲斐性なしだから私が苦労の旅をしているのですから。

 

こうして私たちのパーティーに戦士と言う強力な仲間ができたのでした。

 

 

つづく

 

 




新キャラの人間verのイメージはキ○トです。

私の旦那様♡


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神の怒りはいつも理不尽

「くっ…すまないマコト、あとは頼む…。」

 

そうマコトに言い残して崩れ落ちる戦士エスターク。

勇者は囲まれている敵の集団を相手しながら戦士の名を叫ぶ。

これだけの数の敵が相手では私の『バギ』も大した効果は望めない。

もう1人の商人トルネコはハナっから役に立たないのだから、ここで戦力の要であるエスタークに倒れられてしまうのはかなり厳しい。

 

私はすぐさま『ベホイミ』をかけにエスタークに駆け寄ると…

 

「ZZZ……。」

 

気持ち良さげにいびきを立てて眠る戦士がそこにいた。

 

「ちょっとマコちゃん…」

「なんだよルゥ、今戦闘で手が離せないから早くエスタークを『ベホイミ』で回復してくれよ。」

「この人…HP満タンなんですけど。」

「は?じゃあなんで倒れてんだよ。」

「『だいおうガマ』の『ラリホー』が効いてるみたい。ヨダレまで垂らして気持ち良さそうなんですけど。」

「またかよー!!!」

 

マコトが叫び、ピラミッド内にこだまするのでした。

 

 

 

 

 

※※※

 

 

鼻をくすぐられる感覚を覚えた私が目を開けると目の前に心配そうに覗き込む馬女(ミーティア)と目が合いました。どうやら彼女の長い黒髪が鼻にかかっていたようです。

彼女は失礼にも私と目が合うと小さく悲鳴を上げて腰を抜かした。

改めて周囲を見渡せば、隣にマコトにエスタークそして一回りお腹の部分だけ大きな棺に入っているトルネコの遺体があった。

そう、私たちは全滅したわけです。

 

今回はマコトが悪いわけではないから境界(ルビスのお仕置き部屋)には呼ばなかった。だから私だけが先に目覚めたようだ。

私はこんな時まで馬のお面をかぶる危篤なミーティアに早く教会から神父を呼んでくるようにお願いした。

 

程なくするとミーティアとともに神父がやってきた。

神父は既に『ザオリク』はかけたが効果がなかったと言う。

 

「だから何度も言うがルビス様の身に何かあったかは存じませんが女神の恩恵が無くなった今となっては生き返りができないのですよ姫。」

「そんな…ミーティアの運命のお方である勇者様に生き返っていただけなくては私、チャゴス様と結婚させられてしまいますわ。何としても勇者様を生き返らせてください神父様。」

「そう言われましてもなぁ、私としてはチャゴスと結婚してほしいのだが。」

 

などと勝手な事をのたまう馬女と神父を他所に私は仲間3人に生き返りの認可をくだす。すると目を覚ましたかのようにマコトとトルネコは起き上がった。それを見た馬女と神父は2人揃って腰を抜かし暫く放心していましたが、気を取り直した神父は

「おお奇跡だ。我が祈りを聞き入れてくださった偉大なる大精霊ルビス様に感謝いたします。」

「凄い、さすがですわ神父さま。」

「私ほどの毎日欠かさずルビス様への祈りを捧げている信仰心の高い神父なれば、大精霊ルビス様の御姿さえもみえるのです。ほら姫、そちら側にルビス様がいらっしゃって微笑んでいらっしゃいますぞ。」

 

と、私に背を向けどこに向かってか祈りを捧げている。

とりあえずこの神父の祈りは今後もブロックするとしよう。

 

 

 

「くそー。久しぶりの全滅だよなぁ。何が問題だったんかなぁ。」

「そうですなぁ。我々は自分で言うのもなんですがバランス良いパーティーだと思いますよ?」

「ZZZ……。」

マコトの言葉にトルネコが続く。

私はたまらなくなり

「…ねぇマコちゃん、あなた本当に全滅した理由分かってないの?」

「ああ。」

「なら言うわよ。まずトルネコさん!」

私は彼を指差して続ける

「あなた、ちっとも戦えないじゃない!あなたがやっているのは『おどるほうせき』が落とした宝石を拾うだけで、あとは逃げ回っていたんじゃお荷物が1人増えただけじゃない。」

「…確かに。でもエスタークは強かったぜ?」

「そうね、彼は確かに強いわ。私が今まで見てきた中でも飛び抜けていると言っても過言ではないわね。」

 

そう、エスタークは強かった。普通片手剣を持つ戦士のメリットはもう片方の手に盾を装備出来ることにある。つまり戦士は攻守に渡って戦闘の要になる存在です。

しかしエスタークは盾を装備せずに、もう片方の手にも片手剣を装備している。そう二刀流なのだ。防御を考えずにただ攻撃あるのみなんて必ず負ける。

私は普通にそう思っていたのですが、エスタークは本当に強かった。同レベルである私たちよりもはるかに。

しかもモンスターの唱える初級呪文は効かないわ、私の大精霊の眼を持ってしても細部まで見渡せないなんて初めてのこと。

本当に彼は人間なのだろうかと疑うほどです。

 

しかし

 

「なんでこの男はまだ寝てるのよ!しかも『ラリホー』なんていいところ三分の一程度の成功率だってのにこの男は100よ100!!どんなに強くたって寝てばかりいたら負けるに決まってんじゃない!言い分があるならなんとか言ったらどうなの。」

「ZZZ…」

「ふぅん…私への返答なんてイビキで十分だと。」

「まてまてルゥ、指をポキポキ鳴らしてエスタークに近寄るのはやめろ!」

 

 

ガツン☆

 

 

マコトが私を羽交い締めにして止めるので今回だけは『ザメハ』(木槌で顔面を叩く物理攻撃)だけで許してやりました。

 

 

「すまない、昔からどこでも寝られるのが特技で…」

頭をぽりぽりかきながらはにかむエスターク、

そんな特技は聞いたことがありません。

そんなやりとりにひと段落すると勇者が

「で、どうするよこれから。またピラミッドに入るか?とりあえずエスタークから貰ったこの『まほうのかぎ』が戦果でよくね?」

「そうですなぁ私も懐がだいぶ暖かくなりましたし無理には行かなくても良いかと。大事な婚活中の身ですからなぁワッハッハ。」

「オレはまたピラミッドに潜入するべきだと思う。それにオレの目的の『進化の秘宝』をまだ見つけてないからな。」

「そう言えばまえもソレ言ってたわね。でもそれって秘宝とか限らないんじゃない?もしかしたら秘法かもしれないし。」

「…そんな…それじゃオレはどう探せば…呪文なんか使えないから秘法だったら…。」

「まぁそう暗くなるなよエスターク。ルゥの言葉なんか適当に流しとけばいいんだよ。」

「なあぁぁぁんですってええ!!」

 

私は勇者の首をしめてやりました。

慌てた馬女が止めに入るまで。

 

 

結局今日の所は宿屋に帰り、ピラミッド探索の為に装備を見直すことになり解散するのでした。

 

 

 

「なんでみんないるのよ。」

そう、解散したはずなのに私たちの部屋にみんながいる。

「宿屋くらい静かにして欲しいよな。」

マコトも私に同意する。そうよね、1日の最期くらいはゆっくりとしたいものです。

「なんでエスタークが普通にオレ等の部屋にいるんだ?」

「そうよ!早くあっち行って!そして私の部屋から出てって!ほら早く出てって!!」

「ググッ」

エスタークは苦虫を噛み潰したような表情で悔しがる。

「おまえ何か妙にエスタークにキツイよな。おまえ一応元何とか様だろ?良いのか?生きとし生けるものは全て〜とか言われてんだろ。」

「誰よそんな適当な教えを広めたアホは。私自ら地獄に叩き落としてやるわ。」

「…おまえ呑んでるな?」

そりゃお酒も飲みたくなるものです。旅の最中唯一ゆっくりと息を吐ける宿屋だと言うのに、いくら馬女があてがってくれたスイートルームだとしても人口密度がぱない。

それに…

「何でか知らないけどエスタークを見てると不快な気持ちになるのよ。」

「まぁ一応仲間なんだし邪険にするなよ?で、女王(ミーティア)様は何しにこの部屋へ?」

「ミーティアは、勇者様の側におりたくて…。勇者様が棺に入っている姿を見てミーティアはミーティアは…。」

シクシクと泣いて見せしなを作っている。相変わらずあざとい女だと思う。そんな馬女に鼻の下を伸ばしてデレデレするマコトは非常に不愉快だ。まだエスタークの方がマシと言うものです。

 

「で、あんたは?何で神父がここに?」

「失礼な。私はこのイシス国随一の名家であるサザンビーク家のクラビウスであるぞ。たとえそなたが勇者であっても、唯一大精霊ルビス様の御言葉を聞ける神父の中の神父である。そんな私の息子の許嫁であるミーティア女王を……」

話が長いので『マホトーン』で言葉を封じてやりました。

「まぁ…あんたがあのチャゴスの親だということはわかったよ。それじゃあトルネコ、アンタはなんでいる?アンタは別に部屋をとっていただろ?」

「それが聞いてくださいよマコトくん。私のお金が半分になってしまっているんですよ。」

「そりゃ死んだからなぁ。」

「死んだらお金が半分になるんですか?私初めて死んだので知りませんでしたよ。」

「まぁ普通はそんな経験はないよな。」

男3人がどうでもいいような下らない話で盛り上がっている。なんでとかはどうでも良い。ようは大精霊である私への感謝の心をもち、1日3回私に祈ること。そして私がちょーだいと言ったものは私に何も言わず捧げれば良いだけ。

そんな偉大な私を差し置いて男3人が出した結論それは…

 

「案外ルビスってのは守銭奴なのか欲望に忠実な女神なのかもな。」

「お、おいエスターク、あまり女神の悪口をでかい声で言うなよ…」

こちらをチラチラ見ながら大笑いしているエスタークとトルネコを諌める勇者。

しかしそれはほんの少しだけ遅かった。

 

女神の怒りに触れた愚か者たちよ、地獄で震えながら懺悔なさい。

「ゴッドブロォォオ!!!」

ゴッドブローとは大精霊の怒りと悲しみを乗せた必殺の拳、相手は死ぬ!

 

私はギャーギャーと悲鳴をあげながら逃げ回る男達とインチキ神父、私に不快感を与えた女王に神罰を与えるのでした。

 

 

 

 

 

つづく

 



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ピラミッドふたたび

「見たところ勇者様たちの装備に問題はなさそうですね。特にルビアさまの『天使のローブ』に至っては、どこで購入されたものか分かりませんが、この辺りでは間違いなく最高の装備ですわ。」

 

改めて私たちは装備を見直すことになったのですが、人間観察が趣味だと言う馬女は、観察をしまくったおかげと言うか何というか、装備の質まで見てわかるという。

つまり私たちは、問題は装備ではなく私たちの方にあると言うわけです。何となくそうかなぁ〜とは思っていましたが、第三者、しかも戦闘経験などあろうはずもない馬女に指摘されては認めざるを得ない。

 

「やっぱりそうか。オレも薄々は…」

なんて他人事のように言う勇者。あなたの戦闘経験不足が問題な気はしますが、これまであまり正面切って戦ってないのだから多少は仕方がない。男性は女性に否定されることを嫌うと何かの本で見た気がするので触れないでおいてあげよう。

ああ、私はなんて出来た女なのでしょう。

 

そんな私の寛大な気遣いを知りもしない勇者はよりにもよって私に向かって

「ルゥの攻撃手段があまりないのが悪いんじゃねーか?」

などとのたまいやがりました。

 

「ちょっとマコちゃん、それはちょっと聞き捨てならないんですけど。私は僧侶よ僧侶。女神に相応しく癒すのが私の仕事なの。」

「あ?女神?」

「あ、エスタークさんルビアさんのそこは触れないであげてください。女神を騙る痛い女だとマコトくんが言ってまして。」

エスタークの反応にトルネコが応える。誰が痛い女だ誰が。コイツもう一度死を見せてやろうかしら。

 

そんな私よりも早く反応したのはエスターク。

「オレは神や精霊とか言う奴らは嫌いなんだよ。奴らは信じるだけで幸せになれる〜だの、純粋なものの足元を見る、うさんくさい甘言で人の心を惑わし、寄付と称して金集めしている詐欺集団のような奴らだからな。よほど魔族の方が正直者ってもんだぜ。」

「なあああぁんですってぇ!ちょっとアンタ!それはさすがに聞き捨てならないんですけど!魔族なんて人間の心の悪意に巣食うウジ虫みたいなもんじゃない。それが気高くも美しい、高貴な精霊よりマシだなんて頭おかしいんじゃないの?」

 

エスタークの人生に何があったのかは知らないけれど、神に弓引くとはずいぶんと良い度胸をしている。

エスタークは私の言葉にほんの一瞬だけイラっとした表情をするが、すぐさま冷静な表情になり

 

「グヌヌ…だが奴らは口だけで人間を救おうとなんて考えちゃいないじゃないか。奴らの殺し文句はなんであったか…? そうそう、“神はいつでもアナタを見守っていますよ”…、だったか?見守るだけじゃなく実際守れってんだ。」

「ちゃ、ちゃんと大精霊の慈愛に世界は満ちているじゃない。あんたズッとボッチだったから知らないだけじゃないの?プークスクス」

「ボ、ボッチじゃねー!オレはソロで強さを求めていただけだ。だれもオレの強さに肩を並べられる者がいないからな。それに何が大精霊の慈愛だ。だったらバラモス如きなんとかしろってんだ。大方面倒くさいから適当に人間から勇者を作ってソイツにやらせようって感じだろうぜ。あのルビスとか言う名前のグウタラ女神は。」

「な、な…ちょっとマコちゃんアンタ勇者を否定されて…るわ…よ…って、何でそんな白い目で私を見てるの?何でそんなに呆れた目で私を見るの?」

 

隣の勇者に援護をしてもらおうとしたら、なんだか不愉快な目を私に向けているじゃありませんか。

 

「……上等よ、アンタら2人とも表に出なさいよ!大精霊の怒り見せてやるわ!!」

「まぁまぁルビアさん、いくら貴女が僧侶だからルビス様を悪く言われて怒るのは分かりますが、夜中なので抑えて抑えて。それにエスタークさんの言い分も完全に的外れって訳でもないんですから。ここは仲間同士仲良くしましょうじゃありませんか。」

 

トルネコのその言葉ははっきり言って的外れです。

それにエスタークはマコトが勝手に仲間にしてしまいましたが、トルネコは仲間にした覚えはありません。

 

 

そんな私たちのやり取りを見ていた馬女(ミーティア)は、ひとしきり楽しそうに笑った。そして

 

「それで、やはりピラミッドにはまた行かれるのですか?」

などと聞いてくる。

私的には全滅してお金は半分にこそなりはしたけれど、踊る宝石やらから宝石類をたくさんゲットしたし、目の前のボッチ(エスターク)から仲間に入る際に沢山の財宝を私に献上させた。

しばらくの路銀が集まった以上、あまり要はないのですが…

 

「お父様(トロデ前王)から聞いた話では、世界に二つと無い秘宝があると聞いていますわ。先程皆様の装備を見る限りそれを手にしたようには見えませんが。。」

などと、マコトやエスターク、トルネコと言った守銭奴供の興味を引くような事を言うこの女はやはり腹黒い。

 

案の定ボッチ(エスターク)は世界に二つと無い秘宝の言葉に食らいつく。まぁ大精霊である私は彼の求める『進化の秘法』がものじゃない事くらいは知っていますが、ムカつくので教える気はない。

残る2人も別な物を想像しているのでしょう、目を輝かせて行く気満々です。男性は本当に夢見がちですね。仕方がありません。私が冷静に3人を諭してあげましょう。

 

「そうだ勇者様、その世界に二つと無い秘宝を持って帰って来てくださった暁には、ミーティアからこの上ないプレゼントを差し上げますわ。」

私はピタリと動きを止めた。

「この上ないプレゼント?」

「はい、私にソレを持って来てもらえたら、この額で買い取らせていただきます。」

そう言って懐から取り出した四角い箱(電卓)をポチポチと軽快に打ち込んで私にそっとソレを見せた。

 

こっ、国家予算レベルだ…と。

「ほら何をやってんのよ2人とも。宿屋なんかでノンビリしている暇はないわ。早くピラミッドに戻るわよ、ほら早く!」

さすがは元とは言え経済大国イシスです。私とて見たこともないような金額が提示してありました。

 

「ルゥ、おまえ何急にやる気出してんだよ。もう夜なんだから明日でいいだろ?」

「ダメよ!こうしている間に盗賊とかに先を越されちゃったらどうすんの!ほら早く行くわよ!」

「いや『進化の秘宝』程のものが盗賊ごときに見つけられる筈があるまい。それにあれだけのモンスターに罠だ。まず先を越されることもないだろう。今日のところはゆっくり休んで明日にしよう。」

「反論するなボッチ!!アンタなんかマコちゃんが仲間にしちゃったから仕方なく連れて行くけど、本来なら置いて行くとこよ!」

「まぁまぁルビアさん、ところで私は…?あの、数に入ってないようなきがするのですが…。」

「うっさいわね。アンタはイシスに着くまでの仲間よ。もう関係ない人はあっちに行って!!まぁ…モンスターの囮になるんなら?連れて行ってあげても…痛い!!」

 

後ろから勇者が私の頭を叩いた。

「痛いわね、何すんのよ。」

「…おまえ、さっきからなんか怪しいんだよな。なんか隠し事してるだろ。」

そう言ってマコトが私の顔を覗き込む。ちょっと近い近い、顔が近いんですけど。そんな私のドキドキとは裏腹にマコトは冷ややかに

「おまえ、ちょっとオレたちの財布を出してみろ。」

「え?な、何を急に…」

「良いから早くだせ。」

 

 

※※※

 

「何でこれしかねーんだよ!この宿屋だってミーティアが出してくれてるから良いけど、普通の宿屋にも泊まれないじゃねーか!」

「それはその…」

「早く言え」

「あのね…イシスの滞在費はミーティアが持ってくれるって言ったじゃないですか。」

「ああ。それで?」

「武器はポワンちゃんの所(エルフの隠れ里)でほぼ揃ったし、アッサラームからイシスまではトルネコさんが出してくれてるじゃないですか。」

「…続けろ」

「どうせピラミッドで財宝が手に入るなら今あるお金は…使っちゃっても良いかな…ってその…昨夜お酒を飲んで使っちゃっい…ました。」

「このバカが!」

怖い怖いです。勇者が私をモンスターかなんかを見る冷たい目で見ています。

「ルゥ、おまえ1人で行け。」

「うおぉ願いよ!助けて、私を助けてよ。私、今回は頑張るから、全力で頑張るから私を見捨てないで。」

泣きながら勇者の足元に縋りつきました。

すると勇者は深い溜息を吐くと

「まぁ良い、0になったならまた稼げば良いだけさ。」

 

そんな優しい声を掛けてくれたのですが、そんな私たちに冷水をかけた男がいた。

「0なんかではない。その女は我がサザンビーク家が経営する酒場で一番高い酒を飲みまくった挙句、酔って酒場内で『バギマ』を唱えホールを滅茶苦茶にしたのだ。0どころか我がサザンビーク家に借金だってあるのだ。見よ!コレがその念書だ。」

 

 

 

私、ルビアは手持ちのお金以上に飲んだ挙句、店の中を滅茶苦茶にしてしまいました。つきましては、私ルビアと勇者マコトはクラビウス様に弁償金五千ゴールドをお支払いいたします。

 

 

「何でオレの名前があるんだよ!」

「借金をする時は連帯保証人が必要だったのよ。」

 

その後私は勇者に散々怒られた。

 

 

そして夜があけた

 

 

 

「仕方がない。ほら行くぞルゥ。」

「ありがとマコちゃんありがとね。」

「わかったわかったから鼻水をつけるな。しかし…あの広いピラミッドで財宝を探すのはかなり苦労しそうだな。せめて地図でもらあれば良いのにな。」

勇者がポツリとつぶやく。

それに馬女はポンと手を叩き何でもないかのように答えた。

「ありますわよ。ピラミッド内部の地図。」

「え?あんの?地図」

「もちろんですわ。最初にも申しましたけどピラミッドには我がイシス国の財宝が眠っています。あとで必要になるかもしれませんでしょう?ですから財宝の位置や罠の仕掛けた場所も網羅した完ぺきな地図がございますわ。」

「ミーティア…」

勇者が笑顔で馬女に近づく。

何をする気よこの男は。馬女も頬を染め瞳を濡らしている。

何よ何よこの空気は!

私はそっと『バギマ』を唱えようとする

のですが、次の瞬間

 

「そんな物(地図)があるなら最初からよこせー!!!」

勇者は叫び

「いやん」

なぜか怒鳴られているのにハアハア言っている馬女がそこにはいました。どうもこの女もロクなもんじゃないようですね。

 

 

こうして私たちは再びピラミッドを目指すことになりました。

 

 

 

つづく

 




暑い…


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爆誕!トレジャーハンタールビア

「おいエスターク、そっちからも来たぞ。」

「わかってる。それにしても何だこの部屋は。ミイラ男だらけじゃねーか。」

部屋中に現れたミイラ男に私たちは取り囲まれている。最近は背後からこっそり戦わなくても勝てるようになってきた勇者マコトと、戦力は大変優れているが、なぜだか知らないが生理的に受け付けないエスタークがパーティを守りながら応戦しています。

「まさかピラミッドの地下にこの様な危険な場所があるとは思いませんでしたなぁ。」

回復担当の僧侶である私より更に背後に身を潜めている太っちょ(トルネコ)がいう。

「なんでアンタは戦わないのよ。」

「いやいや、私はまだ目的を達していませんからなぁ。ここで死ぬ訳にはいかないんですよ。ワッハッハ」

相変わらず大きなお腹を揺らして笑っています。

目的とか言っているけど、彼は若くて可愛いお嫁さん探しが目的だと言います。こんなピラミッドのような所に若くて可愛い女性が1人歩いているはずが無い。きっとこの人はアホの子なのでしょう。いくら慈悲深い大精霊といえど、トルネコの見当違いなお宝(お嫁さん)探しには何も言ってあげられることはない。

私は私の背後に隠れる痛い商人に憐れみの眼差しを向けてしまいます。

「ルビアさん、そんな熱い眼差しを向けないでください。確かにルビアさんは美人ですが、私の好みは甲斐甲斐しく…」

「こっちから願い下げよ!!」

 

「おいお前ら遊んでないで少しは手伝えよ。マコトが瀕死だぞ?」

エスタークに言われて勇者の方を見ると、HPは既にオレンジ色になっているマコトの姿が大精霊の目に入る。

それに引き換えエスタークはまだまだ余裕があるように見える。この戦士の強さはどうも本当のようだ。

「なになに?とーっても強い戦士様がぁ、私に助けを求めるわけ?クスクスぅ。」

「お、オレはいずれ地獄の帝王になる男だぞ?雑魚モンスターがいくら襲い掛かってこようが負けるはずがないだろうが。オレじゃなくてマコトを助けてやれって言ってんだよヘッポコ僧侶!」

「誰がヘッポコよ!それに地獄の帝王になるって…ちょう痛いんですけどープークスクス!」

「う、うるせえなぁ!良いから早く助けてやれって!」

 

やれやれですね。なんとなく生理的に受け付けない理由が分かった気がします。このエスタークは魔族のようですね。しかしこの世界に何故魔族がいるのでしょうか。魔界の精霊は一体何を…と、一瞬あの嫌なヤツの事を思い出して気分が悪くなるから考えることをやめた。

「おい、本当に早くしてくれ。ここでマコトが死んだらまた全滅だぞ?」

「ちっ…仕方ないわね。」

私の世界に魔族なんて異物が混じっているだなんて身の毛もよだつような気分ですが、今は私の本体を取り戻すことが何よりも大切だ。その私を救い出す勇者がまた死にそうだと言うのだから仕方がない。

 

「マコちゃん良く聞きなさい。今回貴方を助けるのは美しく優しいこの私ですからね?いい?これを機に毎日私に3回は祈りを捧げること。夜のごはんのオカズは私がちょうだい♡って言ったら何も言わずに捧げること。そして夜の宿屋は…」

「おいルゥ、おまえ危ないぞ?」

勇者のボソリと放った一言に目を開けると……

 

「えっ?ちょっと何で私の周りにミイラ男が群がってるわけ?」

さっきまでマコトとエスタークが戦っていたモンスター達が何故か全て私を取り囲んでいるじゃないですか。しかもご丁寧にミイラ男の上位種のマミーまでいる。

「ま、まぁ良いわ。この私自らの手で貴方たちモンスターを闇に返してやるわ。感謝しながら消え去りなさい!!」

 

『二フラム』

 

しかしふしぎなちからでかきけされた

 

「なんでよおおぉ」

「おまえオレの戦い見てなかったのか?どうもこのフロアーは呪文が使えないみたいだぜ。」

「そんな冷静に言ってないで助けてよ!私を助けて!」

「バ、バカルゥ、こっち来んなって。今夜の夜はオレが奢るから向こうへ行ってくれって。」

「嫌よ嫌よ!私が奢るから見捨てないでー!」

 

その後バタバタしながらもマコトとエスターク、そしてちょっとは戦えるらしいトルネコによって私たちはピンチをきり抜けるのでした。

 

 

 

「はぁはぁ…もう嫌。髪はグシャグシャになるし、全身は埃っぽくなるし、やたらアンデッドに囲まれるし。」

「まぁモンスターとは言えアンデッドは死者だからな、大方おまえの自称大精霊様とやらの神気にでも集まって来たんじゃねーか?」

「…魔族なんて人の心の弱みに付け込む寄生虫みたいなもんじゃない!そんな害虫がヒトを虫集めの街灯みたく言わないで!!それよりマコちゃんも早く地図で出口を探してよ!」

「こんなところでケンカすんなよ面倒くさいなぁ。」

 

ぶつぶつとボヤきながら再び馬女(ミーティア)から貰った地図を見る勇者は、ふと一つの疑問に気付きました。

 

「あれ?変だな。」

「どうしたのマコちゃん。頭悪すぎて変になったの?」

 

ガツン!

マコトが私の頭を叩きました。

 

「見ろよこの地図。地下一階には何もないみたいだぜ?」

「それの何が変だっつうのよ。」

「なるほど、確かに変ですなぁ。」

マコトの持つ地図を横いるようにみたトルネコもマコトに同意する。

 

彼らが言うには地下室を作る意味がないのだとか。

地図にも宝を配置したと言う記載はない。地図を見ながら歩いていたマコトが落ちた落とし穴の先、それだけのために地下室が存在するのだ。しかし偉大なる大精霊である私は知っている。時に人間はどうでもいい事に力を入れる事を。どうせ一階を歩いている冒険者をこの呪文が使えないフロアーに落として慌てている様を楽しむだけのために作ったのでしょう。言わば嫌がらせです。

そんな賢い私の推理とは裏腹に勇者はかってな推理を始める。

 

「この地図を見ろよ。一番上階に大きな宝箱の印があるだろ。そこにはこの『まほうのカギ』があったんだろ?エスターク。」

「ああ、それは確かにオレが丸いボタンの仕掛けを解いて手に入れたものだ。」

「ピラミッドの地図上、一番大きな宝箱の印である『まほうのカギ』を持ってミーティアの前にいたにもかかわらず彼女はピラミッドの財宝を見つけろと言う。そこから導き出される答えは…」

「そうか!分かったわ。国家予算クラスの金額で買い取るのが惜しくなったのねあの守銭奴は。」

「ちっげーよバカ!」

この私をバカ呼ばわりする勇者の首を絞めてやりました。

「おまえはマコトを殺す気か?ようするにマコトは『まほうのカギ』より重要な財宝がまだあるのではないかと言いたいのだろ?しかもそれほど重要な財宝なら、この呪文が使えないフロアーこそ怪しいと。」

「ふむふむ、全くわからないわ。」

「…おまえ絶対に知力のステータス低いだろ。」

さっきから何だろう。マコトだけじゃなくエスタークまで。

コイツらいつか覚えていなさいよ。

「確かにこの部屋は怪しい臭いがしますなぁ」

 

くんくんと犬のように鼻を鳴らすトルネコがいう。商人はお宝に対する嗅覚があるとか言っているが、普段が普段なだけにいまひとつ信用はない。

全く…私は男3人の子供のように目を輝かせて宝を探す姿にため息を吐きながら柱に寄りかかると

カチリ

渇いた音が鳴り響き、ゴゴゴゴゴ…と地響きを立てて下へ降りる階段が現れました。

さすが私ですね。

ところが男3人は私を誉めるでも讃えるでもなく、目の前に現れた階段を降りていくではありませんか。少しは私に感謝くらいしてほしいものです。

そんな事を考えながら私も彼らについて階段を降りようとすると中から歓声が聞こえた。何かをみつけたようです。

 

 

 

それは輝く黄金でできていた。人間の価値観などよくわからない私からみてもそれは立派な武器が台座に納められていました。

 

勇者は『おうごんのつめ』を手に入れた。

 

宝を手にした瞬間でした。辺りの空気が一変した。

マコトは身構える。エスタークはさすがは魔族と言うべきか平然と

「これは瘴気だな。かなり濃ゆいぞ。」

なんて言ってのける。

トルネコは瘴気にあてられたのか顔面蒼白だ。それでも普通の人間なら倒れているであろうから、彼も彼で立派なものです。

 

なんて悠長な事を考えている暇なんかない。

隠し回廊の壁がパタンと全てひっくり返り、数えることも出来ない程大量なミイラ男が現れたのです。

 

これにはさすがの勇者も戦士も真っ青になる。

商人は死んだフリをしている。

私は一目散に逃げ出したが、マコトが私のローブを掴んでいる。

 

「ちょっとマコちゃん、離しなさいよぉ…」

「おまえオレを置いて逃げてんじゃねーよ。」

「あなたの献身的な姿、とても素敵よ。ちゃんと未来永劫まで勇者マコトの『冒険の書』を人々に語っていくから離して♡」

「離して♡じゃねー!オレは片時もおまえから離れないからな!」

 

普段なら女の子がドキッとするセリフも、今の状況ではイラっとしかしない。

 

「「「「いやーーー!!!」」」」

 

私たち4人の叫び声は、ピラミッド内部に大量に現れたミイラ男によって埋め尽くされるのでした。

 

 

 

つづく




夏風邪を拗らせて遅くなりました…


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私の国に勇者がやってきました。

「ミーティア、こんな所にいたのか。あまり夜風にあたっていると風邪をひくぞ。」

 

イシス城のテラスから見えるはずもないピラミッドの方を眺めていると背後から話しかけてきた。相手はふりむかずとも分かっている。

イシス国前王であり父のトロデ王です。

私は軽く会釈で応え再び勇者様のいる遠い北の夜空を眺める。

 

「マコトと言ったか?そんなにあの勇者が気に入ったのか。」

 

イシスの女王と言う立場上お断りが出来ない事も分かっています。少なからず政治的な背景も必要なことも理解しているのですが、お父様には申し訳ないのですがミーティアはどうしてもチャゴス様を受け入れられないのです。

そのチャゴス様がミーティアの許婚になったのはまだ何も知らない少女の頃。

あの頃はまだ自分の立場も知らず、毎晩のように泣きながら眠りにつく少女でした。

そんな少女が大精霊ルビス様にすがるように祈りを捧げるのは仕方のないことだったと今でも面白います。

 

毎晩毎晩、本当に何ヶ月にも渡り祈りを捧げた甲斐もあり、ある時一度だけルビス様はミーティアに語りかけてくださいました。

 

「…毎晩毎晩うるさいわね〜。私の睡眠を邪魔しないで!」

「もしかしてルビス様?」

 

 

私は歓喜した。歳を経た信心深い神父様やシスター様なら稀に大精霊ルビス様の御言葉を聞いたと聞いたことがあります。それこそ何年も何年も…長い年月をかけて信仰心を高めていく必要があるのだそうです。それでも大概の場合はルビス様は語りかけてはこない。

我がイシス国ではきっとサザンビーク家のクラビウス様くらいのものでしょう。まぁそれもマユツバものですが。

そんな偉大なる大精霊がミーティアの言葉に応えてくださったのです。

 

「で、何の用よ。貴女の祈りは魂が篭ってるからうるさいのよ。」

「は、はぁ…あのルビス様!ミーティアの…私の運命の人を教えてくださいませんか?」

「はぁ?運命?何よそれ。人間の価値観で私に話しかけないで。」

「も、申し訳ありません。私は…将来を共にするお方をどうしても知りたくて…。」

「…貴女はいずれ世界を救う勇者と結婚すると『冒険の書』にはあるわね。」

 

その御言葉を聞いた瞬間私の心は分厚い雲から陽射しが現れたかのような晴れやかな気持ちになりました。

あのチャゴス様が世界を救う勇者様になるとは到底思えません。要するにミーティアには他に運命のお方がいると言うわけです。

欲を言えば数年前まで近衛兵をしていた幼馴染の、私が兄のようにお慕いしたエイトお兄様だったら素敵なのですが、ワガママばかりを言う訳にはいきません。最優先事項はチャゴス様がミーティアの旦那様ではないことが重要なのですから。

 

「もう用は済んだ?最後にオマケで出会いのキーワードは『馬』である事を教えてあげるからもう語りかけて来ないでちょうだい。良い?私は忙しいの!邪魔をしないでちょうだい!!」

 

そう言ったのを最後にルビス様がミーティアの言葉に返事する事は無くなりました。忙しいとか言う前に寝ていたと言っていたような気がしますが、私にとって最も重要なことを知れたのだから偉大なる大精霊に感謝した。

 

それから数年色々あった。イシス国を襲った災害レベルの猛暑に大干ばつ。そしてそれが去ると同時に現れた凄まじい嵐は、経済大国であるイシスを砂漠へと一変させたり、前王(お父様)から無理矢理女王に即位させられるなど沢山ありましたが、ついに私たちの国に勇者様がやって来た。

 

ミーティアが幼き頃から想像する勇者像とは違いましたけど、それでも運命は運命です。私は一生懸命勇者様に尽くす事をしました。

かつてイシスが経済大国であった頃の成金趣味で造らせたらしい『おうごんのつめ』、ハッキリ言って価値は大してないのですが、ミーティアは国家予算クラスで買い取ると勇者様に伝えました。

勇者様はミーティアを娶る訳ですから、イシス国王になります。つまりは国家予算クラスと言っても過言ではないでしょう。

まぁ…予算ですから国の為に使ってもらわないと困りますが。

私の懸念は勇者様の隣にいらっしゃる見目麗しいあの女性ルビアさまです。女の私からみてもため息のでるほど美しい女性ですが、お二人を見ていると恋人同士って感じではない。

それに私には大精霊ルビス様の御告げもあるのですから、ここは恐れずに攻めに行こう。

 

 

「勇者様たちはご無事でしょうか…」

「そうじゃそうじゃ、ワシはその勇者一行が城下町の酒場にいるのを伝えに来たのじゃ。」

「え?もう帰ってきていらっしゃるのですか?」

帰ってきたのなら一刻もはやくミーティアの元に戻って欲しかったのですが…

私は数人のお供を連れお父様に聞いた酒場へと向かうのでした。

 

 

「今日はじゃんじゃん飲むわよー!カンパーイ!!」

 

 

酒場を開けるとルビアさまがはしたなくテーブルの上に立ち乾杯の音頭を取り、イシス中の国民が居るのではと言うくらい集まって大人たちがそれに応える。

イシスの酒場で大宴会が行われていたのです。

こんな活気溢れる国民を見るのは何年ぶりでしょう。皆が皆、楽しそうにお酒を飲んでいる。

「勇者様。」

私が勇者様のテーブルにつくと、

「お、女王様も来たのか。」

お酒に酔ったのか真っ赤な顔して笑う。

その後ミーティアも飲むか?とお酒を薦めてきましたが、私はまだ17なのでと応えると、勇者様はオレもルビアもエスタークも16だぜと笑う。

エスタークさまはお酒に弱いのか真っ赤な顔でテーブルで寝ている。トルネコさまは、こんな時でも商人の心が抜けないのか、同じくイシスの商人たちと話し込んでいた。

 

そんな私たちの所へルビアさまがやってきました。

「あら、ミーティアも来たのね。今日は私たちの奢りなんだからミーティアも何か飲みなさいよ。」

「いえ、ミーティアはまだ17なので…」

「良いのよ良いのよそんな事。私たちなんか16よ?ほらこの私が許可するわ、貴女も飲みなさい。」

そう言って渡して来たグラスをとり、私は恐る恐るソレを口にした。初めて飲んだお酒はちょっぴり辛く、でもどこか甘さが残るような不思議な味がした。

 

「ところでコレは何の宴会なのですか?」

「何言ってんのよ、私たちがピラミッドで黄金のお宝を見つけたからそのお祝いよ。」

「ああそうなんですのね。じゃあこれはミーティアと勇者様の結婚のお祝いでもありますのね?」

「は?ちょっとアンタ何言ってんの?この『おうごんのつめ』を国家予算クラスで買い取るのよね?」

「ええ、ミーティアと勇者様が一緒になるわけですから私のものは必然的に勇者様のものとなりますわ。これからは大事なお金でイシス国を豊かに導いてもらわないとです。あ、もちろん国王になるわけですから旅はここまでとなりますが。」

「何言ってんの?ねぇちょっと何言ってんの?」

「子供はたくさん欲しいですわ。ちゃんと勇者様に愛していただけるように日々努力をしてきましたから、ご満足いただけたら嬉しいですわ。」

「だ、ダメでしょ。それに魔王はどうするのよ?バラモスを倒さなきゃだし?」

「大丈夫ですわ、私たちの息子か娘がいつか。」

「…じゃああの…お金の方は…」

「?もちろん国を豊かにする為の予算ですから、2人で大切に使わなきゃですわ。」

 

目の前のルビアさまの顔がみるみる青くなっていく。美しいのにとても面白いお方です。そんな彼女に酒場のマスターが「そろそろお会計を」と言って紙を渡した。

ルビアさまはその紙を持つとプルプルしだした。

そしてしばらくすると

 

「ちょっと私お手洗いに〜」

と、何故かいつもと違う声色で言うと、コソコソっと勇者様の所に歩み寄ると何やら小声で話しかけいた。

それを聞いた勇者様は笑顔が一転し、ブーッと飲んでいたお酒を吹き出した。

 

そして寝ているエスタークさまの襟元を掴むと

 

 

ガシャーン!!

 

盛大に窓ガラスを割って2人は外に走り去って行きました。

それを見ていた私を初めとした酒場中の国民はしばらく呆然とし、酒場のマスターの

「食い逃げだー!!」

一言まで何があったのか理解が止まっているのでした。

ようやく頭の回転が追いついたところで隣に立っていたトルネコさまに気づいた。

「トルネコさまは行かないのですか?」

「ええ、私の冒険はここまでですな。私には他にやらなければならない事がありますから。」

「他にやらなければならない事ですか?」

「はい、私には若く可愛く尽くしてくれるお嫁さん探しがありますから。どうですか?ミーティアさんなら完璧なんですが。」

「お断りします。」

 

即答するとトルネコさまはガックリとうなだれた。

 

こうして私たちイシス国から勇者様一行は立ち(逃げ)去りました。

世界は魔王バラモスに脅かされています。きっと彼はまだミーティアの元へは来れないのでしょう。

ですからミーティアは良妻として役目を果たした勇者様の帰りを待つだけ。

大丈夫。私と勇者様は大精霊ルビス様により定められた運命の2人なのですから。

 

彼らのいたテーブルに置いていかれた『おうごんのつめ』が優しい輝きを放っているでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「しばらくイシス国には来れないな。」

「あぁ、きっとオレたちは出禁だろうな。それどころか追ってだっているかも知れない。捕まれば牢屋行きだな。」

「まぁ一応『おうごんのつめ』は置いてきたからソレで何とかなるだろ。」

なんて言って2人の男は笑っている。

「それにしてもマコちゃんはよく馬女(ミーティア)と結婚しなかったわね?あの子と結婚すればマコちゃんは王様よ王様。」

「オレは魔王バラモスを倒さなきゃだぜ?結婚なんてまだまだだよ。」

「お?マコトも女より戦いの道を行くのか?よしオレとどっちが最強になれるか競争だな。」

「いやそこまでは…。だいたい何でミーティアに勇者と結婚するなんて昔言ったんだよ。ルゥが適当な事言うから大変だったじゃねーか。」

「おかしいわね…確かに適当にあしらったけど、嘘をついたつもりもないのよね。」

「使えねーなこの駄女神。」

 

パカン!と良い音を立ててマコトの頭をモーニングスターで叩いてやりました。

酒場のマスターの執拗な追ってから逃げ切った私たちはようやく言葉を交わすゆとりが出来ました。

最初から財宝とはいえ国家予算クラスでの買い取りなんておかしいとは思っていたのよ。全く…これで私たちパーティはロマリア国に続いてイシス国まで追われる身となったわけです。

 

私は大精霊ルビスなのに…どうしてこんな目に…。

 

「おーいルゥ、早く来いよ置いていくぞー!!」

少し前で立ち止まり私が追いつくのを待つ勇者マコトと戦士エスターク。まぁこんな旅も悪くないかと1人笑いながら『冒険の書』を更新すると

「ちょっと待って2人とも」

私は走り寄り、新天地を目指して旅を続けるのでした。

 

 

つづく




次回はいよいよ…


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森の破壊神

第4章
ポルトガ編の始まりです。よろしくおねがいします(о´∀`о)


鬱蒼とお生い茂る木々の隙間から月明かりが辺りを照らす。

どこかエルフの女王(ポワンちゃん)たちが隠れ棲んでいた森を彷彿とさせる神秘的な雰囲気のある森の中。

そんな森の中で頬を撫でる風のなかにほのかに潮の香りが混じる。

次の目的地であるポルトガがすぐそこだと言う事を潮風が教えてくれる。

時折吹く強い風の冷たさをしのぐように身を抱えながら焚き火の炎に枝をくべていると背後から勇者が声をかけてきた。

 

「おやおやルゥ、寒いのかい?」

「あらマコちゃんもう起きちゃったの?たまに吹く強い風がちょっとだけね。」

「まぁポルトガ目前で野宿しているの、おまえのせいなんだけどな。」

「……」

その時マコトのお腹の虫が鳴いた。

 

「あらあらマコちゃんお腹すいたの?そういえばイシス国からここまで何も食べてなかったものね。」

「そうだな。まぁそれもおまえが持ち金全部酒代で使っちまったのが原因なんだけどな。」

 

「「……。」」

 

「このバカが!何で全額飲み代に使ってんだ!」

「だ、だって馬女(ミーティア)が財宝を買い取るって言ったから…しかも一千万Gよ、一千万。そんな金額が手に入るなら……ってつい。」

「どう考えてもおかしいだろそんな金額!!常識で考えろ、この駄女神が!」

「わ、私が人間の常識なんて分かる訳ないじゃない。バカなの?」

 

駄女神と言い放つ勇者にささやかな仕返しをしてやると勇者は私の頭を叩きやがりましま。

 

「全く…確かにお金は欲しいけどミーティアと結婚はできねーよ。」

「あら意外ね。ああいう清楚な感じの女の子が好みだと思っていたんだけど。」

「まぁ好みと言えば好みだけど…おまえそれで良いの?世界とかおまえの本体がどうとか言ってなかったか?」

 

ちらちらと私の方を見るマコト。彼は意外にも本気で世界のことを考えているようで少しだけ見直しました。

そしてダメな方に見直すべき男がもう1人…

 

「なんでまだ寝てるのよこの男は!」

「散々昼間も寝てたのにな。」

 

私とマコトはスヤスヤと気持ちよさそうに寝息を立てる呑気な戦士(エスターク)に視線を移し少し前のことを思い浮かべてため息を吐いた。

 

「進化の秘宝を探すために大陸を渡ろう!」

エスタークが言った一言から始まった。

進化の秘法なんて危険なものをこの男に渡す気はないし、そもそも神々の間にある伝説の秘法を創れる者が人の世界にいるとも思えないのですが、私を救う(ついでに世界を救う)為には海を渡る手段である船はいずれ必要になるはず。

「船と言えば海洋国家ポルトガだろう」

マコトは大したことない知識を披露するけど

いくら私たちが勇者一行だとしても船をポーンと貰えるとは到底思えません。とは言え他に良い案があるわけでもないので、私たちはポルトガを目指すことになりました。

 

途中ロマリア国北西の関所があり、いかつい門兵2人が「ロマリア王の許可が無ければ通せない。」と行く手を遮りましたが、マコトが『だいじなもの』に隠し持っていたアリーナちゃんの♡な姿絵を差し上げたら喜んで通してくれました。

男って…ちょろいわね。

 

そして泣きながら予想以上の抵抗をするマコトの頭をぶっ叩き、引きずるように私たちは新天地ポルトガの地へとやってきたのです。

 

新天地は『さまようよろい』や『ドルイド』と言った強敵が多く、私たちの旅は苦労を重ねるかと思いきや戦士エスタークが思いの外強く、マコトは終始余裕の表情で道を行く。

そんな私たちを恐怖のどん底に落としたのは『マタンゴ』と言うキノコ型のモンスターでした。

奴らの吐く『あまいいき』は『ラリホー』並みの眠気を誘う。

私やマコトは抵抗できるのですが、戦力の要であるエスタークは毎回毎回眠りこけてやがるのです。

 

「今度この男が寝たらモーニングスターか何かで叩き起こそうかしら。」

「やめろルゥ、エスタークが永眠しちまう。」

 

振り上げたモーニングスターをマコトが止めにかかったその時でした。

辺り一面の様子が一変した。

実際に変わった訳ではありませんが、夜の黒い景色が真っ赤に染まったような感覚とでも言うか、とにかく物凄く気分の悪いプレッシャーが私たちを包んだ。

さすがに鈍感勇者のマコトも息を飲んだ。

 

距離はある程度離れている。

ソレは突如姿を現した。

 

緑色の身体は分厚い鱗のようなものがビッシリと埋め尽くしている。

コウモリのような二ついの羽をもち、身体は優に10メートルは越えるだろう。周囲の木々において尚その巨体を際立たせる。

6本の手足を持つソレが夜明け前の森に突如現れたのです。

 

私たちを察知されるかどうかは分からないが、幸いにも最悪逃げ出すことが可能な程度には距離がある。

 

 

「お、おいルゥ、まさかアレが魔王バラモスか?」

マコトが小声で話しかけてきた。

「違うわ。アレはバラモスのように群体じゃなく単体の魔物ね。」

「単体?」

「そうよ。魔物は通常階級が上位に在るものほど致死率が低いから、総じて出生率も低いの。ようは個体数が低いのよ。」

マコトの頭の上に?のアイコンが見えるような気がしますが、今はそれにかまけている暇はありません。

とにかく今の私たちはバラモスどころではないモンスターに出くわしている。息を潜めてやり過ごすしかないのです。

 

そんな私たちの背後から同じく小声でエスタークが話しに混ざる。

「アレは破壊神シドーだ。」

「あら起きたのね?」

「さすがに起きるさ。アレはオレの故郷の邪神の一柱だからな。さすがのオレも今奴と戦って勝てる自信はない。」

「はいはい厨二乙。」

「このクソ女、オレは厨二じゃないと…」

 

悔しそうに歯嚙みするエスタークの顔を見ているとスッとする。

 

「オマエら少し静かにしろって。見つかったらどうすんだ!」

マコトが青い顔して懸命に私たちを黙らせる。確かに今はボッチ(エスターク)に構っている時ではない。

しかし意外と落ち着いているエスタークは

「奴はまだ寝ぼけている。今ならオレらをわざわざ襲いには来まい。このまま静かにやり過ごそう。」

 

そう言って再び寝床に戻り毛布をかぶると3秒後には気持ち良さそうにイビキをかいている。

この図太さは中々のものですね。

やがて邪神はズシン、ズシンと地響きだけを残し何処かへと去って行った。

 

「それにしても…この世界は一体どうなっているのかしら。」

先程の邪神にしても、気持ち良さげに寝ているこの男(エスターク)も。本来居るはずのないモンスターが闊歩している。

「魔王バラモスの影響かもしくは…」

「あら、頭が残念なマコちゃんが何か分かったの?」

「残念とか言うな。だいたいどうなってるも何もルゥ、おまえのせいじゃないのか?」

「なんで私のせいなのよ。」

「だっておまえ一応この世界の神なんだろ?それが遊び呆けているからじゃないのか?」

「神?………!そうよ!私は女神なのよ。偉大なる大精霊なのよ!」

「おまえ、まさか忘れていたんじゃねーだろうな。」

「い、いやぁねー。忘れてる筈無いじゃないハハハ…」

 

乾いた笑いしかでません。

最近ではこの旅も面白おかしく思うようになっていたから。

 

ちょうど東の空が明るみを帯びてきた。

夜明け間近と言ったところでしょう。

 

太陽の光で伸びる影が、次の目的地であるポルトガの位置を教えてくれる。

私たちは海洋国家ポルトガへと辿り着くのでした。

 

 

 

つづく

 

 

 

 




9月はもう少し頑張ろっと


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死の肩叩き

「1、2……ショボいわね。」

「そう言うならおまえもやれよルゥ。」

「い、嫌よ魚釣りなんて。あの虫みたいな餌を触るなんて美しい私に出来るわけないでしょ。」

「じゃあおまえ夜メシ無しな。」

「ごめんなさい、ごめんさーい。私の分もお願いよー!」

「ったく、何で勇者のオレがこんな異国まで来て釣りなんかしなきゃならねーんだ…。」

 

ぶつぶつ言いながら海に糸を垂らすマコトの成果は芳しくない。

となりで妙に静かなボッチ(エスターク)はと言えば、案の定糸を垂らしたまま夢の中です。

 

私たちはポルトガの街の側にある灯台にいる。今朝方3人でどう話せばポルトガ王が船を貸してくれるか色々と作戦を練ったのですが…

「さて、ポルトガに来たのは良いけどどうやって船を借りるか。」

「バカねーマコちゃん。私たちは勇者一行です。魔王バラモスを倒すために船を貸してください。で良いんじゃないの?」

「バカはおまえだ!それだけで借りれるわけがねーだろうが!」

「私を誰だと思っているの?私はルビスよルビス。大精霊自らの願いなんだから答えなきゃ天罰ってもんよ!」

「ほぉ?じゃあおまえは自ら騒ぎの中心になってくれるってんだな?オレとエスタークはその間に船を拝借して逃げろと?さすがは女神だな。自らを犠牲にするなんて。よしそれで行こう。」

「……」

当然後で迎えに来てくれるのよね…と言いかけたけど、マコトがそんな人間でない事はそろそろ気付く。

結局言葉一つで貸してくれるとは到底思えないと言う結論に至り、そうこうしているウチに太陽が西の水平線へと沈んでいく時間になってしまったのです。

宿屋に泊まるお金がない私たちは、灯台近くの空家を見つけ、今夜はここで一晩過ごすことにしたのです。

 

「さてこれからどうすっか。」

「今まではどうしてきたんだ?」

マコトのつぶやきにエスタークが返す。

「今まで船を必要とする機会なかったからなぁ。船自体だって一回しか乗ったことねーし。」

「へぇマコちゃん船に乗った事があるんだぁ、初耳ね。」

「アリアハンで一度だけな。ルゥ、マリベルを覚えてないか?よくセブンやキーファと遊んでいた女の子なんだけど。」

「あーあのツンデレっ子ね。」

「そうそう、そのマリベルの親父さんがアリアハンの網元で一度漁に連れて行ってもらったんだよ。」

意外にも海に出た経験を語る勇者。今一信用は仕切れないものの潮の流れなどの知識を持っているのは少しだけ頼もしく感じます。

 

「まぁこんなところで何日も考えたって答えはでねーし、明日3人でとりあえずポルトガ王に会いに行ってみようぜ。」

「そうだな、マコトの言う通りだ。先ずは当たって砕けろだ。」

砕けてどうすんのよ砕けて。

私はバカ2人との会話に疲れて暖炉そばの椅子に座り息を吐いて改めて辺りを見回した。思えばこの灯台近くの空家は変だ。人が住んでいた形跡がある。空家は家なのだから人が住んでいたって不思議ではないけれど、だったら目と鼻の先にあるポルトガの街に住んだ方がより快適なはずなのに、わざわざこんなところに住んでいたのだ。

 

私はその疑問に気付きもしないバカ2人に投げかけ注意を払うように導いてあげた。

「ねぇ2人とも、この家少し変じゃない?」

「おまえほど変じゃねーよ。」

 

バスッ!!

「ぐわっ!!」

暖炉の上にあった書物をマコトの顔面に投げつけてやりました。

 

「確かに少し変だな。何故人里離れた場所に住んでいたのだろうな。」

「あら気付いていたの?ボッチにしてはやるじゃない。」

「オレはボッチじゃねー!最強くなるために1人(ソロ)で鍛えているだけだ。地獄に帰ればオレを王に迎えたいと言うやからがたくさんいるんだからな。」

「はいはい厨ボッチ乙と言ったところね。」

「ボッチと厨二を交ぜて呼ぶな。」

 

私とエスタークがいつもの言い争いをしていると、顔にぶつかった書物を何気なく読んでいたマコトが絶句していました。

 

「どうしたのよマコちゃん、文字が読めないの?美しく聡明な私が読んであげましょうか?」

そんな私をギロッと睨みながらも勇者は書物を私に渡した。

 

「まさか本当に読めないわけじゃないでしょうに全く…どれどれ…

 

 

私たち親子は色々あってイシスを離れ安住の地をもとめ海洋国家ポルトガへ流れ着いた。もともと身体の強くない妻の体調が良くない。長旅の疲れが出たのだろうか。そこでいろんな国と船による交易を行うポルトガなら私たちが知らないような良薬が手に入るかもしれないとの思いがあってのことだ。

妻に一度実家に帰ってみてはと提案するのだが、「絶対に帰らない!」の一点張り。

こんな所はあの義理母似の頑固っぷりを発揮しなくてもと思わなくもない。

 

私たちは妻と娘、そして娘が何処からか拾ってきたペットの風貌があまりにも目立つことから、人里から少し離れたこの家に暮らすようになった。

最初数ヶ月は普通に幸せを満喫できていた。時折娘も連れて街に出るとポルトガの住人達も娘のあまりの美貌に人だかりができていき、娘は次第にポルトガの住人達の人気者になっていった。

さすがは海洋国家なだけあって色んな人種がいる。

エルフの容姿をした娘であってもこの街なら受け入れてもらえそうだ。

妻の体調が良くなったら街に移り住むのもありかも知れない。

 

そうした平和な日々が暫く続くなか、私は娘の世話と妻の介護で肩コリするようになった。

娘に最近覚えた『ホイミ』をお願いするが、どうしても呪文を使うのが嫌らしい。

そんな娘が甲斐甲斐しくも肩叩きをしてくれると言う。

泣かせるじゃないかうちの娘は。涙が止まらねーぜちくしょう。

きっと将来は妻のような素敵なお嫁さんになる事間違いなさそうだ。

…嫁に出す気ないけどな。

娘は私の背後に立ち肩を叩き始めてくれた。

 

ズガーン!ズガーン!!

ちょっ、ちょっと待て、なんで肩叩きの一撃一撃が『痛恨の一撃』なの?痛っ!いたたたたた!

ちょっ死ぬ、私死んじゃうよ!

天使のような微笑みで私の肩を叩く娘とは裏腹に、明らかに私の肩からなる効果音がおかしいんだけど。

だ、誰か止めてぇ!!

 

あくる日、どうも私の為に肩叩きをした事が嬉しかったらしく娘は今日も肩叩きをすると言い出した。

ごめんなさい。無理だから。私あれ以上娘の肩叩きに耐えられないから。

やんわりと肩叩きを断ると、娘はこの世の終わりのような表情で部屋を出ていく。娘なりに私の為との善意を断るなんて私には出来ない。しかしこれ以上肩叩きを続けていては私の身がもたない。

そこで私は

「肩叩きはする方も大変だろう?おまえのパパを想う気持ちだけで嬉しいよ。」

そう言って頭を撫でてやると少しだけ娘の表情がパッと明るくなり、パタパタと自室に走って行った。

これでいい。娘の好意を無下にせず、やんわりと断った。これで私の命も安泰と言うもんだ。

 

と思ったのも束の間だった。

娘はどこでそんな物を覚えたかは知らないが肩叩きマシーンを造ってきた。

 

え?何これ。

硬き身体は鈍色。

其の者、2本角の兜の奥、紅く光る瞳は1つ。

其の者、左の手には片刃の大剣、右手には無数の棘の生えた鋼棒。

其の者、尾には弓を携え、球型の下半身に脚は無く、魔導乃力で宙を駆ける。

何をどうしたらこんな肩叩きマシーンが出来上がるの?

ガスンガスン!と娘程じゃないにしてもあまりに強烈な肩叩きに私は一瞬だけ三途の河をみた。

これはダメだ、妻の介護の前に私が死んでしまう。

 

真夜中私はそのヘンテコな肩叩きマシーンを海に捨てた。だってしょうがないじゃん、あんなの毎日喰らってたらさすがに死んでしまうし?だからと言って断れば娘も泣きそうだしな。

 

私が海に捨てた3日後だった。海上の交易船が次から次へと炎を巻き上げ沈んでいく。それは港に停泊する船、海上を進む船。漁船から交易船と言った船が次々と海底へと消えていく。

私は嫌な予感がし海を覗くと、紅く光る眼とあった。

 

やっベー!

なんであの肩叩きマシーンが海の底で活動してるの?

マシーンが壊れるんじゃなくて、海の上の船を壊しまくってんじゃん!

これバレたら死刑だろ!

そうでなくてもとんでもない賠償金がくるだろ!

どうすんのこれ、どうしたらあのマシーンが止まるの?

ねぇちょっと教えてくっさい。

ねぇ誰かアレ止めくっさい。

どんどん船が海に消えていくじゃん!

もうこれじゃ海洋国家なんて言えないんじゃないの?

だって海に見える船…1隻も無いしな。

 

って言うか誰だよあんなもの作らせたやつ!そいつバカだろ。止め方を知らないは、目にするもの壊しまくるようなマシーンを作るなって言うんだ!しかも海にそんな危険なもの捨てるんじゃねーっつうの。

 

 

おっと、あの肩叩きマシーンを造らせたのも海に捨てたのもオレでした

 

 

終わり。」

 

「またおまえかー!!」

マコトは私から書物を奪い取ると両手でひきちぎった。

 

「な、なんだこの手記はいったい。」

初めて聞いたエスタークは目を点にしている。地獄の帝王を自称する彼もさすがに驚いている。

しかし私とマコトは識っている…

この世界に災いを振り撒く親娘の存在を。

 

「変だと思っていたんだよな。だってポルトガに来てから一度も海で船を見てないし。」

マコトが呟く。

言われてみればそうだ。仮にも海洋国家をなのる国に一隻の船も見当たらないと言うのは変と言えば変だ。

 

「と、とにかく明日一度ポルトガ王に会いに行ってみようぜ。」

「あぁそうだな。ルゥもそれで良いな?」

「え、ええ…船が有れば良いけどね…。」

 

私の投げかけた言葉に返事を返す者はいない。

3人とも分かっているのだ。きっとこの国もかつての姿は無いのだと…。

 

まだポルトガの街に着く前から絶望感たっぷりの私たちを、静かな夜の闇が包み込むのでした。

 

 

つづく

 

 




さっそく使わせていただきました。キラーマジンガ様♡
Wikiでみたら海の底にいるよう記述だったので…とりあえず帳尻を合わせてみましたw

ネタありがとうございます(о´∀`о)


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チェンジは無効

「なんか…寂しい街だな。」

 

ポルトガの街に着くなりエスタークが呟いた。

彼がそう言うのも無理はない。と言うのも、真っ昼間のメインストリートだと言うのに人が疎らにしかいない。

もっと言えば先ほどから老人から子供まで男性の姿をまるで見ないのだ。やはり海洋国家ともなると男は海に出るのでしょうか。

それとも船を一隻も見ない所から、よその国に出稼ぎに出ているのかもしれない。人の生活とはなんと涙ぐむましい度力の上に成り立っているのでしょう。少しはマコトも男の甲斐性と言うものを私に見せてもらいたい…のですが…間の抜けた表情で大きなアクビをしながら、何のためらいもなく自称地獄の帝王の後ろをのこのこ付いて行く勇者…どうなんだろう…泣けてくる。

いつの日かマコトに子孫ができたら私は彼の子孫にピッタリな名前を送ってやろうと思う。

 

「おいルゥ、ボサっとしてるとおいて行くぞ?」

「ちょっと待ちなさいよ『トンヌラ』」

 

ガツン!

 

「誰がトンヌラだ誰が!」

つい、名前を口にしてしまいました。それにしてもポンポンとよく頭を叩きやがりますね。そろそろ本気で神罰の一つでも落としてやりたい。そんな事を考えながら私たちはポルトガ城へと歩を進めた。

 

「ほーなかなか立派な城じゃねーか。」

城門に着くなりエスタークは見上げながら言う。

たかだか魔物の分際で随分と上から目線でものを言う。私の本体を救い出すのに使えそうだから仲間に入れてるだけだと言うのにだ。

ですが彼が言うのも少し分からないでもありません。往々にして人の王族と言うのは無駄に煌びやかにするのが好きなようですが、これはその中でもなかなかに立派な類いではないでしょうか。

海も見えて眺めも良い。

いつか私も人間に倣って海の近くに『ルビス城』を建てようかしら。密かに楽しみができました。

 

 

「オレたちは魔王バラモスを倒すために旅をしているのですが、ポルトガ王に面会させて頂けませんか?」

マコトがいつもの様に門の前に立つ女騎士に用件を伝えると、彼女らは互いを見合わせ、少しだけ困った様な顔で応えました。

 

「その頭上に輝く蒼い宝玉にその出で立ち、あなた様がたはアリアハンの勇者様ですね?」

「オレの事を知ってんの?」

「ええ、勇者様は私どもポルトガ国でも有名ですから。」

「くわしく。」

 

必要以上に格好つけた表情で話すマコトに少しイラつきました。しかし…

 

「アリアハンから来た勇者様は食い逃げやらその国の姫の○○な姿絵を撮るだのと、とんでもない鬼畜だから気をつけろと…」

 

マコトはだんだんと涙目になっていきました。いい気味ですね。

案の定女騎士たちの批評に涙目になったマコトは、もういいからと頼むようにして話を区切る。

 

「失礼しました。ポルトガ王ですが、現在外出中でございます。」

「え?いないんすか?」

「はい、ポルトガの街に噂の歌姫(ディヴァ)が現れたとかで街中の男どもが…」

そう言って女騎士は何とも表現しがたい表情をする。

歌姫?そんな存在私は初めて聞きましたが、隣にいる2人も知らないと言った顔をしていた。

結局私たちは船を借りるどころかポルトガ王も不在と言う事で出直すことになりました。

そして私たちが再び灯台近くの空き家で夜の団らんを過ごしている時でした。

バンッ!と勢いよく扉が開き、1人の女性が飛び込んで来ました。

深くかぶったフードで顔ははっきりとは分かりませんでしたが、その出で立ちや仕草から女性だと分かる。

フードの隙間から覗く白銀の髪、そしてほんのりと赤みを帯びた澄んだ瞳。そして瞳の輝き具合から彼女がまだマコトとそう変わらない若い年齢だと言う事が読み取れます。

しかし私が何より気になったのは…

 

「あれ?他の人が住んでいたのですね。突然申しわけありません。少しの間だけ匿っていただけませんか?」

彼女は透き通った声で言うと、嫌な予感は的中と言った具合にマコトとエスタークが彼女に駆け寄り即答で了承してしまう。

私の意見は聞かないのかといいたい。

 

それにしても匿うって…一体何に追われているのでしょうか。

私の疑問をエスタークも思っていたらしく、扉を開けて外の様子を見ようとするが、そんなエスタークの袖を彼女はちょこんとと掴み、蚊の鳴くような小さな声で言う。

 

「あの…何をしようとしてるんですか?」

「いや、外の様子を見ようかと。」

「今開けたら私が見つかっちゃうじゃないですか。」

「「そん時はオレがおまえを逃す手助けくらいはしてやるさ。」」

 

そこにマコトが加わり2人は口を揃えて言い放つ。そして互いの視線を交差させて火花を散らす。

確かに女の私からみても彼女は男ウケしそうにみえますよ…ですが、

マコトはこんなにも側に私(大精霊)という正に女神そのものがいると言うのに何だその反応は。それにエスタークおまえもだ。おまえはかりにも魔族だろうが。人の負の感情を餌にするようなウジ虫が一丁前に女の前で格好つけてんじゃないわよ。これは気のせいではありません。明らかに不愉快です。

それに彼女だって…

 

そんな事を考えていると、家の外がガヤガヤと明らかに騒がしくなる。どうやら彼女が追われているのは本当のようです。

それを察知し見つかると考えた彼女は、数日間住んでいた私たちさえも知らなかった隠し扉から裏手に出て、『ルーラ』を使って何処かへと飛び去って行きました。

 

「いやぁ〜良いもん(美女)を見たなぁ。」

「ああ、あれは間違いなく美女だな。オレのセンサーもそう言っている。」

マコトとエスタークがくだらない話をしている。

「ちょっとマコちゃんにエスターク。美女ならここにも居るんですけど?」

そう言うと2人は私に視線を移し

 

「「美女チェーンジ!!」」

声をハモらせやがりました。

「上等じゃない!あんた等2人とも表に出なさいよ。天罰を与えてやるわ。」

「わぁちょっとルゥ、指をパキパキしながら近寄るなって。」

「そ、そうだぞ。キサマ、勇者(マコト)の言う通りだ。それに男にだって選ぶ権利があるのだぞ。」

「言いたいことはそれだけかしら。」

 

悲鳴をあげながら逃げる2人に向かって唱えた『バギマ』。真空の竜巻は、ちょうど扉を開き入ってきた老人を巻き上げた。

 

「あ、ポルトガ王様!!」

周りにいた兵士姿の男や、数え切れないほどの町人(男ども)

の阿鼻叫喚を聞きいて青ざめた私たちの視線には目を回しながら竜巻でぐるぐる回るポルトガ王の姿が目に入るのでした。

 

 

 

 

続く




今回は区切るところが難しくて…中途半端になってしまいました(ーー;)


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ポルトガ一番の料理をもとめて

「するとおまえ達がアリアハンから来た勇者のパーティだと?」

「はいそうです。オレは魔王バラモスに苦しめられている世界中の人々を救うべく、同郷の僧侶ルビアと旅の仲間である戦士エスタークと日夜励んでいるんです。」

 

またマコトも心にも無い事をペラペラと話す。

 

「まぁそんな事はどうでもいい。ワシが知りたいのは主らがあの歌姫と知り合いなのかどうかじゃ。」

 

そしてそれをどうでもいいと言うのもどうかと思う。

 

「歌姫?なんすかそれ」

「知らぬとは言わさぬぞ?歌姫はアレじゃ、世界のいろんな場所に現れては美しい歌声で心を癒してくれる存在じゃ。名前も名乗らず会話をした者もいない。いつの間にか現れては消える…そうまるで女神の如きじゃ。しかもソレが絶世の美女と言われ、あらゆる男の心を鷲掴みしているのじゃ。ワシは彼女こそがあの大精霊ルビス様じゃないかと思うておるのじゃ。」

 

本物…目の前にいますけどね。

 

「とにかくじゃ、主らはその歌姫…いやルビス様と知り合いなのかと聞いておるのじゃ、正直に答えよ。」

「まぁルビス様は知り合いと言えば知り合いかもしれませんが…」

「なんじゃ歯切れが悪い解答じゃのう。よいかルビス様がポルトガに顕現なされた以上、ワシは王として女神に最大級のおもてなしをしなければならぬ。そして出来ればワシの嫁に…」

「ルビス様を嫁にって…正気っすか?」

「ほら聞いたマコちゃん。貴方もちゃんと私に優しくしないとこの先どうなるか分からないわよ?」

「何言ってんだこのビッチ。おまえが寿退社するならのし紙つけて送り出してやるわ!無駄にパーティ枠使いやがって。」

「なああぁんですってえぇ!」

「あ、止めろ貴様!勇者(マコト)を絞め殺す気か!」

「邪魔すんじゃないわよボッチ!!」

「だからオレはボッチじゃなくソロだと何度も言っているだろうが!それに今は貴様らとパーティを組んでるだろうが!」

 

私たちが牢屋内でギャーギャーと騒ぎ出すと、ポルトガ王は慌てて仲裁に入ってきました。なかなかできた王のようです。仕方がありません。ここは出来る女であるこの私が話題を変えて場の空気を変えることにした。

 

「それにしてもポルトガ王様、私を嫁にしたい程の信仰心だなんて…なかなか良い心がけじゃない。さすがに嫁入りはできないけど…そうね、それなら先ずは牢屋(ここ)から出してちょうだい。私をこんな所に入れた事は不問にしてあげるわ。」

「何を言っとるんじゃこの女は。」

「は?だって私(ルビス)を嫁にしたいっていま…。」

「ワシはルビス様を嫁にしたいのじゃ。ワシを殺すようなあばずれのことでは断じてない。」

 

……

 

「おいルゥ、分かってるとは思うけど相手は王様だぞ暴れんなよ?」

「マコトの言う通りだぞルビア、キサマの所為でオレたちは牢屋に入れられたんだからな?この上暴れたら死刑になりかねん。」

「わ、分かってるわよ。アンタ等私を何だと思っているの?……こうなっては仕方がないわね。この場にいる者たちだけに特別に秘密を打ち明けるわ。私はルビス!あなたたちが敬い崇める大精霊ルビスその人なの!!」

「おお……………プッ」

「え?」

まさかこの人間、今鼻で笑いましたか?

「ちょっとマコちゃんからも何か言ってやってよ!私女神よね?大精霊よね………ん?」

「プッ」

「うがー!!!」

 

「と、まぁこの自称大精霊ルビスを名乗る痛い女は放っておいて、ポルトガ王は何故その歌姫がルビスだと思ったんだ?ただ見てくれが良いだけの女ならそこ等中にいるだろう……あとルビア、そろそろ許してやらないと勇者(マコト)が死ぬぞ?」

「当然じゃ。ワシとてただ絶世の美女と言う事だけで歌姫をルビス様だとは思っておらん。お主らはこの国がかつて海洋国家と言われていた事を知っておるか?」

「私女神なのにぃ…私本当に大精霊なのにぃ…。」

「おいルゥ、もう泣き止めって。仕方ないだろ?バレたら大変なんだから…。」

「……ワシの話聞いておるか?まぁ良い。数年前、突然海に現れた強大な魔物がポルトガの船を次から次へと沈めて行きおった。当然ワシ等は軍艦を以ってこれにあたるが全く歯が立たず…結局壊滅させられてしもうたのじゃ。我らは海を捨て陸地に生きる術を探っておるのじゃが…今のままでは長くは保たぬ。そう思っていた所にルビス様が顕現なされたのじゃ。」

「おい2人とも少しはポルトガ王の話を聞いてやれよ、かわいそうじゃないか。」

「だってよルゥ。エスタークも言ってるし少しは機嫌直せよ。夜ご飯奢るからさ。」

「…お酒がいい」

「……おまえ本当はたいして気にしてないだろ。」

 

相変わらず私の内心を読み取る勇者はこんな時だけは鋭い。

そんな私たちを無視してエスタークとポルトガ王は話しを続けました。

 

「なんだと?するとその歌姫が海に現れたその魔物を倒したって言うのか?しかもたった1人で?」

「そうじゃ。ワシはポルトガ中の男が海辺で歌っている歌姫らしき人物がいて集まっていると聞いて駆けつけたのじゃ。すると確かに彼女は静かに、しかし美しく透き通る声で歌っておると件の魔物が水面から現れたのじゃ。真っ赤な目を光らせての。ワシ等は肝を冷やした。ポルトガの地で世界の女神を死なせてしまうかも知れぬと。その魔物がガシャンガシャンと歩み寄ると彼女は一言二言魔物に話しかけておった。距離が離れておったから何を話していたのかは解らぬが、ワシは兇悪な魔物に対しても慈悲を見せていたと思うておる。きっと魔物に対しての祈りのようなものじゃ。彼女は懐から『ひのきのぼう』を取り出してポカンと魔物を叩くと魔物は体中から火を吹き出して海の底に沈んで行ったのじゃ。」

「え?『ひのきのぼう』でポカン?」

 

エスタークでなくとも驚く。海軍を壊滅させ、ポルトガ国を滅亡寸前まで追い込んだ魔物を『ひのきのぼう』一撃で?

私たち3人は息を飲んだ。

 

「何者なんだ歌姫とは。まさか彼女こそが『進化の秘宝』を持っているのでは…」

『進化の秘法』ですけどね。しかしエスタークの指摘もあながち間違いではないように感じる。

 

「要するにアレか。長年苦しまされてきた海の魔物を退治してくれた絶世の美女=ルビス様となったわけっすね?それが何で勇者とはいえオレたちが知り合いだと思ったんすか?」

意外にも冷静なマコトの発言。

確かにそうです。強ければ、美しければ、優しければ大精霊と思われるとは私も随分と安く見られたものです。

 

「言っておきますけどルビス様は世界中の人たちが思っているような人じゃないっすよ?ここだけの話っすけどね、ルビス様は知能が恐ろしく低いんですから。」

「なんだとー!!ちょっとマコト!あんた表に出なさいよ!今日という今日は目にものを見せてやるわ!」

「おわっ止めろルゥ、おまえの事じゃなくて本物のルビス様の話だっつーの。」

こいつ、私が正体をバラせないと思ってか言いたい放題だ。

 

「そうだな、マコトの言う通りだ。それが何でオレたちに関係があるんだ?」

「しらばっくれるんじゃない、先程勇者が知り合いって言っておったじゃろうが。それに魔物を退治したルビス様はワシ等の方にペコペコ頭を下げると走り去っていったのじゃ。ワシ等は先程の理由からルビス様をずっと追いかけたのじゃ。そしてそなた等のいた家屋の中に入ったところをワシ等はしかと見たのじゃ。」

 

「は?オレ等の家に?まさか…」

私たちは無言で顔を見合わせた。私たち3人は誰も声を出さなかったのですが、確かに私たちは一人の女性と出会っている。

フードを深くかぶっていたから顔はわからないが、あの『ルーラ』で飛び去った彼女だろう。しかし彼女は…

 

「そこでじゃ、ワシを殺した罪を不問に処すから主らはルビス様を探し出してはくれまいか。」

「いや、流石にルビス様にだって都合があるでしょうから…」

 

うんうん、私は無言で頷いてみせる。

 

「それもそうじゃな…でさルビス様がいつかまたポルトガの地に来ていただいた時にポルトガ最高の料理でもてなしたいから『くろこしょう』をバハラタで買ってきてはくれまいか?」

「美味しい料理?」

「お主のようなあばずれにではなくルビス様にじゃ。」

「……」

「不満か?本来ならワシを殺した罪で死刑なんじゃが?」

「「「やります!!」」」

 

私たち3人に選択の余地はありませんでした。こんな所で足止めをされる訳にはいかない。最悪『くろこしょう』なんて無視して逃げてしまえば良いのですから楽勝です。ヌルゲーというやつですね。笑いが出てしまいそうです。

チラッと目が合った勇者もニヤっと笑うあたり私と同意見なようだ。さすがですね。

 

こうして私たちは一応バハラタという次の目的地ができるのでした。

 

 

 

つづく

 




こしょう…ラーメンでも食べるのでしょうか…


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穴を掘っていたら魔王に出くわしました。

カンカンと渇いたが洞窟内に響き渡る。

私は昼食の入ったバスケットを片手に長いトンネルを降りていくと、

先程より大きな音を立てて岩をツルハシで削る勇者(マコト)と戦士(エスターク)がいた。二人とも一言も発さずに一心不乱に岩を削る。汗を拭いながら一生懸命働く男性の後ろ姿…なかなか良いものですね。

 

彼らは私の存在に気づくとツルハシを置き近くに座り、そしてムシャムシャとやはり無言で食し、そして再びツルハシを握ると岩壁に向かって打ち鳴らす。

 

陽が西に沈むと辺りのカンカン打ち付ける音は次第に消えて行く。

間も無く二人が帰ってくる時刻です。

私は洞窟の近くに借りた一室で夜ご飯を造って待っていると、大衆浴場で湯浴みを済ませたマコトとエスタークがクタクタになって帰ってきた。

素早く夕飯の支度をし、二人に安い酒と私に高級なお酒を入れ互いにグラスを鳴らし喉を潤す。

 

早々に酒に酔って夢見心地なボッチ(エスターク)を部屋の外に捨てると、同じくウトウトしているマコトをベッドに促し私も床につく…。今日も彼は頑張って働いた。私はそっと彼の頭を撫でるのですが……

 

「って違ーーう!!!」

「何よマコちゃん急に大きな声を出して。トイレに行きたいの?真っ暗だし着いて行ってあげましょうか?」

「いらんわ。そうじゃなくてだなぁ、おまえはおかしいと思わなのかこの現状。」

「何がよ。マコちゃんが昼間働いて私が夜ご飯とかお酒とかお酒を用意して帰りを待つ。何が不満なのよ。」

「酒が2回あるんだが?」

「……」

「そうじゃなくて、オレはなんだ?」

「ヒキニート?」

ガツン!!

「痛ったい」

「ヒキニート言うな。オレは勇者だぞ?魔王バラモスから世界を救う為に旅に出たんだぞ?」

「……はっ!!そ、そうよ!マコちゃんは勇者なのよ。早く私の本体を助けてちょうだい!」

「おまえ…いま完全に忘れていただろ?」

「わ、忘れるわけないでしょこの私が。」

「おまえの目、泳いでるけど?」

チッ、最近マコトはよく見ているわね。いくら私が美しいからって少しは遠慮しながら見てほしいものです。

 

「おまえが考えてる理由、違うからな?」

「なっ!わ、私の思考を読むですって!やるわね。」

「まぁ、そんなのはどうでも良いんだよ。それより何でオレたちはこんな所で重労働してるんだ?」

「そりゃあ……」

 

私はマコトに言われるままに少し前を振り返る。

 

 

私たちはポルトガ王が私の為に最高級のご馳走とお酒を振る舞うために必要な『くろこしょう』をバハラタの商人の店で買い付けて欲しいと言われました。

脅威は去ったとはいえ、かつての海洋国家の名残がかけらもない今のポルトガに私の為に無理をさせたくはない…やんわりと申し出を断ったのですが、世界の大精霊である私の為にどうしてもとポルトガ王は引き下がらず、ならばせめて大切な食材のひとつである『金にも等しいくろこしょう』を遠い異国の地まで買いに行く大変な役割だけは私たちが担いましょうと、私は従者(マコト)と弾除け(エスターク)を連れて旅をしていたのだ。

 

バハラタに行くには海路、またはロマリア領からイシス領へと渡り、さらに険しい山脈を越えなければならないのですが、それは人の身で踏破できるような山脈ではありません。そこで私たちはポルトガ王に山の麓にいる者に手紙を渡せば何とかしてくれるだろうと言われここまで来たのですが…

 

「おいルゥ、だいぶ自分に都合良く解釈しているみたいだがちょっと整理しようぜ。」

「ええ。」

「ポルトガ王は確かに『手紙』を渡せば何とかしてくれるって言ってたよな。」

「そうね、ドワーフの子孫だとか何とか言ってたわね。」

「確かにドワーフっぽい厳つさじゃああるけどよ…あのモヒカおかしいだろ、普通は『手紙』を渡したら凄い勢いで穴掘ってオレたちを山脈の向こうに渡してくれんじゃないの?何でオレたちが一緒になって穴掘ってんの?もう3日目だぜ?」

「そ、そうよね。あのヒャッハーとか言いそうなムキムキのモヒカン男、私たちをこき使いすぎよね。」

 

私たちが自称ドワーフの子孫の文句を言っていると、バンッと勢いよく扉が開き野太い声が鳴り響く。

 

「おまえ等うるせーぞ!!何時だと思ってんだ!!」

「「すいませんすいません。」」

 

当の本人が怒声をあげながら私たちの部屋へと入ってきました。

 

「ところで…なんでコイツは部屋の外で寝てるんだ?」

「その悪魔っ子は『オレはどこでも寝れるのが特技だ〜』とか言うから外に出したの。」

「なんちゅう女だおまえ。まぁそれはさておき、おまえ等の不満も分からんではないが、穴が開通しなきゃどうしようもないだろ。早く通りたきゃ手伝うのは当然だろ。それにポルトガ王の手紙にもそう書いてあるぜ?ほら。」

モヒカン男がピラピラともつ手紙をマコトは奪い取り読む。

 

「なになに…その者等はワシを殺した死刑の執行猶予者である。女神に振る舞うご馳走の為に働かせておる。穴掘りはもちろん、報告に聞いておる巨大な大蛇討伐も好きなように使って良いから穴掘りを完成させるのじゃ?ふざけんなーー!!」

マコトは手紙を破り捨てた。

 

「まぁ手紙にもあるが大蛇討伐はもう終わったから、もう少しで開通の筈だ。文句を言わず手伝ってくれ。さ、わかったら明日も忙しい、早く寝ておけよ。」

 

そう言って彼は再び自室へと戻って行った。

「あのおっさん見るからに強そうな戦士だからな。オレたちの手伝いなんてなくても大蛇を退治したんだな。」

「そうね。楽で良かったわ。」

私たちはお互い安堵すると、再び眠りに就くのでした。

 

そ し て よ が あ け た

 

「なん…だと…」

あくる日ソレを見てエスタークが絶句した。

「あぁ、コレがおっさんが討伐した大蛇かぁ。」

「コレを討伐しただと?人間が?」

「なんだよエスターク、おまえこの大蛇知ってるのか?」

「コイツはオレの世界では神殺しで有名な『オルゴデミーラ』と言う魔王の一柱だ。信じられん…オルゴデミーラを狩ることができる人間がいようとは。」

「あらぁ、自称地獄の帝王サマともあろう者が人間より弱いだなんて…。」

「ふ、ふはははは。オレがオルゴデミーラより弱いなんていつ言った?まだ『進化の秘宝』を見つける前だが、オレより強い者なぞそう何人もおるまい。ましてや自称精霊神なんかには、な!」

 

「「…」」

言ってくれるじゃないこの悪魔っ子が。私がエスタークを折檻しようとしたらマコトが間に入って私たちを止める。

「こんなところでケンカは止めろよ!それより早く開通させようぜ?」

「そうだ!勇者の言う通りだぞ。」

屈強なモヒカン男が騒ぎを聞きつけてか、後ろからやってきた。

 

「アンタがこのオルゴデミーラを倒した戦士か?」

エスタークが言う

「この大蛇はオルゴデミーラと言うのか?残念ながらコレを倒したのはオレじゃねーよ。オレたちは何十人もの冒険者たちとで大蛇の討伐を試みたんだが、その都度全滅。いよいよオレも死ぬのかと覚悟した時な、何処からともなく歌声が聞こえたんだ。」

「歌声?」

「あぁ。オレはてっきりもう死んでいて女神が鎮魂歌を歌っているのかと思ったんだが…その歌声を聞いた大蛇が急にビクつき出したんだ。もともと緑色した顔が真っ青になって逃げ出しやがったんだ。しかも大慌てでな。しかし光を纏うように現れた女神がな、逃げした大蛇の尾を掴んで壁に投げつけたんだ。闘いは一瞬だったよ。壁に叩きつけられた時点で大蛇は目を回していたのだからな。女神は大蛇に強力な『ラリホー』をかけると、数百年は起きないから安心してくださいとだけ言うとペコペコと頭を下げて、『リレミト』で洞窟から立ち去って行ったよ。彼女は名乗らなかったがきっとあれは…いや、気のせいかな。」

そう言ってモヒカン男は硬目をつむる。

それにしても魔界の魔王の一柱を一撃ですか。心当たりがない訳ではありませんが私もマコトも一言も発さない。エスタークはと言えばその女神とやらに興奮気味だ。

 

「ま、まぁ最大の脅威は取り除かれたんならさっさと開通させようぜ。オレたちはこんなところで足留めされてる場合じゃないしな。」

「さすがは勇者じゃねーか、良い事を言う。さぁ、ラストスパートだ!さっさと掘るぞ!」

屈強なモヒカン男の掛け声に始まったラストスパートとやらは、その後3日目にしてようやく開通したのでした。

 

開通し太陽の光を浴びた勇者がちょっとだけ頼もしく見えたのですが、言うと調子に乗りそうだ。これは私の『冒険の書』の中に小さく小さく記録しておくだけにしよう。

 

「おっさん、世話になったな。」

「おっさんは止めろよ、こう見えてオレはまだ若いんだ。それよりおまえさんはこれからどうするんだ?」

「オレはとりあえずバハラタに行ってみようと思う。そうだ、おっさんも一緒に行かないか?アンタほどの戦士なら魔王バラモスの討伐にも力になりそうだし。」

「いや、オレは辞めとくよ。だってオレ…戦士じょなく大工だしな。」

「大工って…あんた村人かよ!!全く…じゃあなおっさん、またどこかで会おうぜ。」

そう言って勇者とモヒカンは固く握手をした。友情が芽生えた美しい瞬間だ。私は二人の出会いを祝福しましょう。

 

「それなら次に会う時まで名前くらい覚えとけ。オレの名はおっさんじゃなくハッサンだ。」

「ああ、覚えとくよおっさん!じゃあな!!」

「だからハッサンだ!全く…オレはもしかしたら貴重な男の出立の瞬間を見ているのかもな。いや、気のせいか。」

 

何やらぶつぶつと呟いては一人物思いにふける大工のハッサンと別れ、私たちは目的地のバハラタを目指すのでした。

 

 

つづく




遅くなりました。ちょっと身内に不幸がありまして…。もう落ち着いたのでボチボチ再開します。


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店の名前はサラボナ

山脈の地下通路の穴掘りという、魔王討伐に必要か?と思うお仕事を終えること3日目、私たちは目的地であるバハラタに来ました。

バハラタはどこの国にも属さない言わば自治都市…いえ自治村です。

 

そんな小さな村ですが多くの人々が賑わいを見せている。

というのもバハラタは立地が良いらしい。近くを流れるガンジスは、生命を育む水に溢れる。その私の如く清らかな水は多くの恩恵をもたらす。なかでも『くろこしょう』をはじめとした良質な香辛料が採れ、各国の要人がわざわざバハラタに買いに出向くほどの人気なのだそうだ。

 

「……店、開いてないな。」

私へのご馳走のために必要な『くろこしょう』の店、意気揚々とやって来た私をドン底に突き落としたエスタークの一言に絶望しました。

 

「ちょっと休みとか困るんですけど、私のご馳走はどうなるのよ!!」

「ルゥ…言っておくがポルトガ王がご馳走するのはおまえにじゃないからな?」

「バカねぇマコちゃん。ポルトガ王は大精霊ルビスにご馳走を献上したいって言ったのよ?私以外にいるわけ無いじゃない!」

「……バカはおまえだ。」

ポソリと呟いた。

しっかりと聞き取ったわよ…。私は来たる日のためにマコトの私に対しての不遜をカウントした。

しかしです、少しくらいは天罰の小出しも悪くはありません。

私は

 

「お店は休みだけど内から人の声が聞こえるわね。マコちゃん、あんた扉をノックしてみなさいよ。もしかしたら売ってもらえるかもしれないじゃない。」

「そうか?まぁ聞いてみるだけならタダだしな。」

 

そう言って勇者は扉を叩こうと手を伸ばした瞬間バンッ!と勢いよく扉が開き勇者の顔面にヒットしました。

グエッと何処から出たのか分からないような小さな声を上げてうずくまる勇者…少しだけ私の気分も晴れると言うものです。

 

「グエッはないわよねグエッは。世界を救う勇者がグエッとか、ありえないんですけど。プークスクス。」

「コイツ!」

「おいおい貴様ら、店の前で夫婦漫才はヤメロよ。人様に迷惑がかかるだろ。」

「悪魔っ子に人様に迷惑とか言われたくないわよ!」

私たちがいつものように会話をしていると

 

 

「あれ、お客さんですか?申し訳ありません。」

内から飛び出して来た若い男はカエルのようにひっくり返っている勇者を助け起す。そんな彼を追いかけるように内からもう一人、こちらはいかにも裕福そうな恰幅の良い…なかなか愉快な姿の中年の男性が現れた。

 

「アンディ早まるんじゃない。おまえが行ったところで返り討ちに遭うだけだ。今は焦らず犯人からの連絡を待とう。」

「それではフローラの身が心配です!きっと彼女は僕の助けを待っているに違いありません!!」

「しかしアンディ、おまえまで奴らに捕まってしまったら…」

「ルドマンさん…。僕はそれでもフローラを助けに行きます。必ず助け出して見せますのでルドマンさんは家で待っていてください!!」

 

そう言ってアンディという名の青年は村の外へと走り去っていきました。何でしょうこの演劇じみた茶番劇は。隣の勇者と目を合わすとマコトも首を振り、無言で関わるなと言っています。

さすがは勇者ですね。大精霊である私と完全に意思の疎通がとれています。

 

しかしヘンテコな髪型の中年は

「あー困った困った。何処かにあのちょー強い盗賊団を倒せる者はいないだろうか…。」

そう言いながらチラチラと私たちの方へ視線を送っています。

私たちは敢えて視線に気付かないフリして聞き流していたのですが、ルドマンさんは引き下がる気は無いようです。

「娘のフローラを救ってくれた者には金にも匹敵する価値の『くろこしょう』無料であげても良いのだけどなぁ。」

チラ、再び私たちの方へ横目を送る。そして『くろこしょう』にピクリと微かな反応を示したボッチ(エスターク)を見た彼は

「何なら娘のフローラの婿に迎えても良いな。そうだな、婿には祝いの品としてポルトガに停泊させてある私の船を進呈するのも良いな。」

 

反応を見てチャンスと思ったのか、そう言って再びチラチラと目線を送る。

 

作戦タイムです。

私たち3人は隅っこでしゃがみ込み小声で話す。

「おいルゥ今の聞いたか?『くろこしょう』だけじゃなくて船まで貰えるみたいだぜ?」

「ちょっとマコちゃん、あんた船より娘さんが欲しいとか言いださないわよね?」

「そ、そんな事ねーって。」

「んー?怪しいわね。マコちゃん、あのルドマンさんを見なさい。あのヘンテコな髪型と自分の足元も見えないようなお腹のあの彼の娘よ?可愛いワケないじゃない。よく考えなさいよ。」

「……それもそうだな。でも…船は欲しいよな。ついでに『くろこしょう』もだけど。」

「船はたしかに必要だがオレは人間相手は嫌だぞ?」

「何でだよ。エスターク、おまえなら盗賊団くらい余裕だろ?」

「余裕だからだよ。オレは最強を手にする為に旅をしてきたんだ。レベルの低い人間なんか相手したらオレが弱くなっちまう。まぁマコト、おまえが相手してくれるなら話しは別だが?」

「痛いのは嫌だからパス。しかしそれだとどうするか…。売ってくれないとなると選択肢は限られちまうしな。」

 

痛いのが嫌と断る勇者もどうかと思うけど、確かに売ってくれないとなると私たちとしても困る。マコトやエスタークの事だ。二人が思い付く選択肢と言えば殺して奪うだとか、『ラリホー』で眠らせて奪い取るだとかきっとそんなところでしょう。もちろん女神としてそれは看過できないものですが…。しかしそれよりもこの屋敷はもっと気になることがある。

 

「おいルビア、キサマさっきから何をスンスン嗅ぎ回っている。キサマは一応女だろうが。はしたない。」

「エスターク、ウチのルゥはいつだってはしたない。」

 

二人とも言いたい放題じゃないですか。しっかりと『ぼうけんのしょ』に記しておきますからな。しかしそれよりも…

 

「コレよ!壁際に飾ってあるこの青いツボから嫌な悪臭がするのよ。」

「あー!!!こらこら!そのツボに触ったらいかん!!」

くっさい悪臭を放つツボに近寄るとルドマンさんは大慌てで私からツボを遠ざける。

「このツボには大昔。私の先祖のルドルフが凶悪な魔物を封じてあるのだ。」

「ほう?なんて魔物なんだ?」

「名前は確かブオーン、山のように巨大で凶悪な魔物だそうだ。」

「ブオーン?最近話しを聞かないと思ったら人間に捕まっていたのか。」

「知り合いか?エスターク。」

「知り合いって程でもないよ。下々の魔物でもそれなりに有名な奴はいるからな。」

「おまえより強いのか?」

「オレの足元にも及ばねえよ!!」

「はいはい、オレは強いんだぞアピールお疲れ様。私たちも忙しいからね、わざわざ封じてある魔物を出すつもりはないわ。」

「そうか、それなら安心だ。まぁこのツボが青いは大丈夫なんだけどな。ワッハッハ!」

 

娘さんが誘拐されたというのに随分と豪快に笑いますね。しかし『くろこしょう』も『船』も手に入らないのならバハラタの村になんか用はありません。私たちは店を出ようとすると再びルドマンさんが呼び止める。どうやら彼は意地でも私たちに娘さんを助けさせたいようです。あの手この手で、もう半日くらい私たちを説得しようとしています。さすがに若干疲れを感じたころ、ルドマンさんは聞き捨てならないことを呟いた。

 

「盗賊団はこの村にいる目立った美女を片っ端からから攫っておるのだ。きっとどこかで入口を見張っているのだろう。我が娘のフローラなんていの一番に攫われたのだ。おお、そう言えば娘の姿絵を持っているのだが見るか?」

そう言って懐から1枚の紙切れを出し私たちに見せる。

すると男二人は姿絵を食い入るようにみた。そこには長い黒髪の可愛らしい女の子がいた。

 

「どうだ我が娘は。可愛かろう?」

「確かに可愛い女の子っすね。これなら盗賊団も誘拐しそうだ。」

姿絵を見るなり随分と態度を一変する勇者が気に入らない。

「ちょっとマコちゃん?とびきりの美女ならここにもいるんですけど?」

「……」

チラッと横目で私を見た勇者は

「誘拐は勇者として見過ごせない!オレは必ずこの悪党どもから女の子達を救い出して見せる。」

「ちょっと!なんか言いなさいよ!」

「おまえは誘拐されなかった。以上。」

「なああぁんですってえ!このぉ!このぉ!!」

 

勇者のクビをしめてグワングワンすると、慌てて私をボッチ(エスターク)が私たちを止めに入る。

騒ぎを聞きつけて集まり出した村人たちにも懇願される形で、断るにも断れず…

 

結局私たちは盗賊団を討伐し、ルドマンさんの娘さんを始めとした村の女の子達を救うことになりました。

 

 

 

つづく

 



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アンディ…永遠に

「えーと…何かしらコレ。」

「……」

 

バハラタを出て間も無く……振り返ればまだ村が見える程に間も無くの場所で一人の青年が倒れていた。私たちは彼を知っている。先程勢いよく村を出て行ったアンディという名の男性です。

盗賊団によって拐われた恋人フローラさんを自らの手で救出すべく静止するルドマンさんを振り切り村を出て行ったあの彼です。

愛する人の為に命を顧みずの行動……女としては憧れるシチュエーションではあります。しかし村人である彼にはフローラさんを救う力が無い。残念ながら彼は目的を果たせずに力尽きたようです。

 

「まぁこの辺りになると『ハンターフライ』や『デスジャッカル』などがいるからな。人間にはちょっとキツいかもな。」

「…オレも人間なんだけど?」

「おまえは勇者だろうが。おまえはノーカンだ。あとそこの自称ナントカもな!」

「誰が自称よ誰が。それよりも早く彼を弔ってあげましょう。腐った死体にでもなったら面倒だし。」

「なんだよルゥ、生き返らせてやれば良いじゃねーか。ケチケチすんなって。」

「ケチとかそう言う話じゃないわよ。何度も言うけど人を生き返らせるのって結構大変なのよ。誰でもお金を払えば生き返れるってなったら人間の世界から争いが無くならないでしょ?どうせ生き返れるからって武力衝突へのハードルが下がるし。それでは人間の道徳心や信仰心が無くなってしまうわ。私にはそんなこと……できない。」

「おお……今日のおまえはまるで本当の女神みたいだな。」

「ふふん、そうでしょそうでしょ…って、私は本物の女神よ!大精霊よ!!」

「でもオレやエスタークは生き返らせたじゃねーか。しかも何度も。」

「あったり前でしょ!マコちゃんは勇者なんだし、ボッチ(エスターク)も一応は貴重な戦力なんだから。人間の道徳心より私の本体を救うのが第一優先よ!」

「魔王バラモスを討伐して世界を救うのが一番じゃないのか?」

「そ、それはもちろんよ!」

「おまえ、今完全に忘れていただろ?」

「そんなことない。」

 

本当にこの勇者は私をよく見ている。まぁ私の美しさを考えれば無理もないでしょうけど。

 

「魔王…バラモス?誰だそれ?」

 

そんな私の気分良い考えを邪魔するエスターク。

 

「そうか、エスタークはバラモスも知っているのか?」

「…いや、聞いた事もないな。魔王クラスにそんな名前のヤツいたかなぁ。」

エスタークはそう言って首を傾げる。

まぁ残念な脳みそしか持たない悪魔っ子の記憶力なんか正直どうでも良いし期待もしていません。そんなことよりより今私がすべきこと…それは目の前で倒れている人間(アンディ)が『腐った死体』になる前に弔(しょぶん)う事です。

私がそっと静かな声で彼への祝福の言葉を唱え、神聖な魔力で彼の魂を浄化しようとした正にそのときでした。大きな声で私たちを呼び止めながら走り来る女性がやってきました。

 

長い黒髪はオシャレな感じに纏め上げ、赤い薔薇の髪飾りをつけている。少しキツめな碧眼、美女系メイクもキッチリとしている。ピンク色のシルクワンピースに短めのスカート。ハイヒールにピンク色のネイルと言った派手めの衣装を身にまとった彼女の手には救急箱が携えられている。

「あの、あなたは?」

私パーティの誰もが思った事をマコトが聞いた。

 

「あぁ私はデボラよ。フローラの姉で、そこのアンディの主人と言うか…まぁ幼馴染ね。そんなことより小魚みたいな顔したあなた、早くそこを退きなさい。」

「小魚ぁ?」

小魚と評価されたマコトは不満そうな顔で道を開ける。それを笑っているエスタークには

「ちょっと虫みたいなあなたも早くどくのよ!」

そう言ってハイヒールをカツーンと打ち鳴らす。

「む、虫ぃ?オレが虫みたいなだと?」

「そうよ、Gじゃあるまいし全身真っ黒な衣装ってどうよ。」

それを聞いて私の我慢も限界です。

 

「プークスクスク!超ウケるんですけど!GみたいだってG。今からボッチ改めGと呼んでやろうかしら。」

「キサマ!!」

「わーちょっと待てちょっと待て!仲間同士で争うなって。」

背に背負った剣に手を掛けたエスタークをマコトが慌てて止めに入る。良い機会だから悪魔っ子にトドメを刺してやろうかと思いましたが、勇者が言うなら仕方がありません。ここは万物の女神たる私の方が大人になりましょう。

 

「アンディはまだ死んでないわ。」

「え?でもさっきからピクリともしないわよ?」

「あー…そいつね、幼い頃から病人やケガ人のフリが得意なのよ。」

「は?何でそんなこと…」

「コイツ昔っから妹(フローラ)が好きでね、少しでも気を引こうといつもこんな感じなのよ。」

「え?じゃあモンスターやら盗賊団にやられたわけじゃないの?」

「おおかた、小川を渡るときに濡れている石に滑って転んだんじゃない?ほら下僕!!さっさと起きろ!!」

 

そう言ってデボラさんがハイヒールのカカトでアンディを踏み付けると、小さな悲鳴をあげた。どうやら彼はまだ死んではいなかったようです。全く人騒がせなものですね。

アンディが生きている事を安心したのか勇者もアンディに軽い口で話しかける。

 

「何だアンタ死んでなかったのか。せっかく代わりにオレがフローラさんを救い出し、恩を着せる事で彼女にでもなってもらおうかと思ったのに。」

「引くわー。どうりでマコちゃんにしてはやる気だと思ってはいたけど、引くわー。」

「おいルゥ、これはアンディを早くケガから回復させるために焚き付けているだけだろうが。エスタークおまえまでそんな目でオレを見るなって。」

デボラさんを含めた全員が勇者に冷たい視線を送る。

まぁ勇者(アホ)は放っておきましょう。それよりもアンディに聞きたいことがあります。

 

「アンディさんはルドマンさんの制止も聞かずに飛び出していましたけど、貴方には盗賊団のアジトの場所を知っているのですか?」

「正確にはわかりませんが、盗賊団は東北の方からやって来ると聞いています。だから…先ずはそっちへ行けばと。。」

「場所を知っているわけではないのね。まぁそんなことだろうとは思っていましたが。」

 

要するにアンディもまた盗賊団の情報はもっていないようです。単に盗賊団が来る方角のみです。

私たちはあまりにも情報がなさすぎます。

 

「私が囮になろうか?」

私たちが思考にふけっているとデボラさんが言いました。

「盗賊団は美女を拐っているんでしょう?私も一度拐われかけたことあるし。」

「そん時はどうしたんすか?」

デボラさんの話に勇者が応える。

「決まってんじゃない。撃退したのよこれで。」

そう言って懐から出した皮の鞭をパシーンと鳴らす。

「なるほど…でもデボラさんが囮だなんて危なすぎる。万一何かあったらルドマンさんに申し訳ないし。」

「あら、小魚みたいな顔している割に優しいじゃない。もしかしてあんた私と結婚したいの?あんたなら考えてやっても良いわよ?」

 

そう言って色目をマコトに向ける。そんなデボラをマコトから引き剥がした私は

 

「そうよ!美女ならここにいるじゃない!絶世の美女が。私が囮になるわ。で、拐われた私の後をつけて盗賊団のアジトを見つければ良いのよ!何だ、もう完璧な作戦じゃない!!これはもう解決したようなもんよ。余裕よ、ヌルゲーってやつよ。そうと決まれば明日早速着飾って決行よ。そうと決まれば今日はジャンジャン飲むわよ!」

 

私のテンションが上がります。

 

「ねえ小魚、この女はいつもこうなの?」

「ウチのルビアさんは…いつもブレない。」

「そう…。」

 

そう言ってデボラさんは目を丸くしていた…

「まぁ良い!デボラさんよりルゥなら心配もない。そうと決まれば明日にはフローラさんを救い出してみせるぜ!」

 

西陽が勇者の蒼い宝玉を照らす。正に勇者が決意をした瞬間でした。

 

 

 

 

 

「…今日はここまでよ。」

静かにそう言うと私は『冒険の書』を閉じた。

「えー、その後勇者様がどうなったか聞きたいわ。」

 

数人の女性たちが瞳を輝かせて私の勇者の冒険譚を聞きたがる。女性はいつでもどこでも恋バナが好きなものです。まぁ恋はありませんが…。

辺りは薄暗い牢屋の中。壁にかけてある松明だけが部屋を照らしている。囚われた女性は数人。なかでも目を惹く女性が二人いた。1人はその容姿からフローラさんで間違いなさそうです。しかしもう一人の方が私には問題にみえる。白銀の長い髪をもち、白く透き通った肌にほんのりと赤みを帯びた瞳をもつ彼女はエルフの姿をしているのですが、何でしょうかそれだけではない。彼女からはエルフとは別の…誰かに似ているのだけど誰だったろう。今一つ思い出せない。私はそんな彼女に見覚えがある。そうポルトガであったあの歌姫(ディーヴァ)とか呼ばれていたあの子だ。

私の目的はあくまでもフローラさんなのですが、私はこの人間に興味が尽きません。

 

「ねえ、私はルビア。あなたお名前は?」

「え?私の名前ですか?私は…」

 

その時でした。ガチャンと鍵の開く音とともに大きな音を出しながら数人の男がやってきた。

「何だ新入り。おまえが上玉を拐って来たって?」

「そうなんですよお頭。なかなかの上玉ですぜ。」

 

そう言って牢屋の前に立ったその盗賊団の頭は……

 

 

 

「……」

「……」

 

「あーーー!!おまえは!!」

「出たわね覆面パンツ!!」

 

 

そう、盗賊団の頭とはロマリアで討伐したあの盗賊団だったのでした。

 

 

 

続く

 

 



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真夜中の女子会

バハラタ村を震撼させていた盗賊団の正体は、なんとロマリア国で討伐したあの覆面パンツ(カンダタ)でした。

相変わらずの装備センスに笑いを堪えるのに必死です。

 

妙に機嫌良さげな声ではあるけれど。覆面パンツは腰が引け気味に言う。

 

「お、おい新入り…おまえよくこの女を拐ってこれたな。この女はな…敵を殺る為に味方ごと皆殺しにするような女だぞ。」

「ッ!そ、そうとは知らず…。ただ真夜中に酔っ払って街中で腹出してイビキかいて寝ていたものでつい…。」

「あ?街中で寝てただぁ?」

何故でしょうか…。前にいるコソ泥より後ろの誘拐された二人の女性から冷ややかな視線を感じるんですけど…。

覆面の上からでも分かる冷ややかな目で私を見下ろした覆面パンツは

「おまえ…女子力低いな…。」

ボソッと言いやがりました。

何ですって…コイツ等あとで覚えていなさいよ。泣いて懺悔したって絶対に赦してやりませんからね。私は密かに決意した。

 

しかしそんな自身を討伐した私よりも覆面パンツは後ろの女性二人に視線を移すと

「それにしても今回はかなりの上玉な女を拐えたな。これは相当な金になりそうだぜ。黒髪の清楚系な女は、正統派美少女として値がつきそうだし、白銀の女は…何だこの女は、見ているだけで心が洗われそうだぜ。もしかしたら精霊神ルビスの転生かなんかじゃねーのか?売るのが惜しくなる気分だぜ。オレは神とかを信じちゃいねえが、この女を見ていると不思議と信じてしまいそうだ。」

 

などと、本人を前に言ってやがります。

 

「何が神を信じるよ!覆面パンツ(へんたい)なんてこっちから願い下げよ!早くあっち行って!早く行って!!へっ!!」

「グッ、何て嫌な女なんだ。まぁ良いおまえは人質だ。おまえがいれば勇者の方から来るな。絶好のリベンジの機会じゃねーか。この世界、舐められちゃ終いだからなガッハッハ。」

変態達は高笑いをしながら別の部屋へと去って行きました。

 

それにしても…確かにフローラさんは清楚系、男性受けの良さそうな女性だ。きっとマコトや…もしかするとボッチ(エスターク)までもが好むタイプかもしれない。私も認めましょう。

しかしです。

しかし本人を他所にもう一人の方の女性をあろうことか私(ルビス)の生まれ変わりとまで言われてしまっては私の立場がない。

ですが覆面パンツがそう言うのも仕方がないかもしれない。ポルトガではフードを深くかぶっていたから目元しかわかりませんでしたが、今回は違う。彼女の素顔は神の器と言われるだけあるエルフの容姿の中でも群を抜いているように思う。しかしなんだろう。以前に会った時にも見えたのだけど、彼女の魂が二重、三重にブレて見える。二重人格?二重存在?とにかく不思議な女性です。しかも片方はエルフの気配ですが、もう一つの…懐かしいと言うか何というか、よく思い出せませんがどこかで会ったことあるような気配をもっていました。

それにしても何か忘れている気がする。ハーフエルフと言うキーワードに何かあった気がするのですが何だったろう。まぁ…きっと大したことない話しだろう。そもそも女神たる私がいちいち人間やエルフの事などわかるはずもない。きっと気のせいだ。

気を取り直して彼女に質問を投げようとすると、一緒に捕まっているフローラさんが話しかけてきました。

 

「先程盗賊の方が言ってましたがルビアさんがいれば勇者様が来るとはどう言う事なんですか?」

「あぁあれ?私たちはね、貴女のお父様ルドマンさんから貴女の救出を頼まれたのよ。そして私は勇者のパーティってわけ。」

「お父様から?」

「大事な娘が拐われたって気が気じゃないみたいで、お店も休業中なのよ。香辛料を求めてバハラタに来たのに買えないとなると私たちも困るの。だから貴女を救おうって話しになったの。それと何て言ったかしら、若い男の子も心配していたわよ?」

「もしかしてアンディですか?」

「そうそうアンディよ。」

「はぁ…」

フローラさんの表情が少し曇る

「あら?アンディとは恋人同士なのではないの?」

「違います。」

 

彼女は即答した。

 

「アンディとそう言う関係にならないようにずっと修道院に入っていたんですけど、数年ぶりに家に帰ってもまだいるし…このままでは本当にアンディと結婚なんてのも実現しちゃいそうだったから、私、結婚に条件を付けようと思ったんです。」

「「条件?」」

私とエルフの女性は声を揃えた。

見れば彼女もフローラさんの話しに聞き入っている。エルフと言えど女性は恋バナが好きなようです。

 

「私ね、お父様に珍しい指輪を二つ買ってもらったんですけど、それを何処かに隠して二つの指輪を揃えた人と結婚しようと思うんです。」

「何でそんな事をするんですか?」

エルフの女性の疑問は至極当然だと思う。嫌なら嫌と言えば良いだけなのだから、何もそんな回りくどいことする必要が無いと思う。でもそんな私の考えをあざ笑うかのように

 

「ダンジョン深くに隠しておけば私より弱いアンディには無理だから。だってアンディっていつもケガしては私に看病させるんだもの。まぁ私もバハラタ近くのダンジョンに指輪を隠している最中に盗賊さんに拐われたのであまり人のことは言えないですけど。」

 

あの死体と見間違うほどの大ケガがいつも?そう言えば確かにフローラさんのお姉さんのデボラさんも手馴れたようにケガしたアンディさんを扱っていたように見えました。彼女の言う通りしょっちゅうケガしているのかもしれませんね。

「だったらちゃんとフってあげたら良いじゃない。その方がアンディさんの為にもなるし。」

となりのエルフも頷いている。

「ダメよそんな事したら。私バハラタでは優しく美しいお嬢様で通っているんですもの。悪い噂が立っちゃったら困るもの。それに最悪良い殿方に出会えなかった時の保険もほしいし…。」

 

「「……。」」

 

フローラさんのまさかの発言に私たちは絶句しました。見た目とは裏腹に黒いですこの娘。

 

「そ、そう…。じゃあ歌姫(ディーヴァ)ちゃん、貴女は何でこんなところに?」

「ディ、歌姫ちゃん?」

「知らないの?世間では貴女はそう呼ばれているそうよ?」

「そ、そうなんですか?まぁいいですけど。私は…生き別れた弟を探して旅しているんです。」

「へぇ〜弟さんを。」

「はい。あの子泣き虫だし弱虫だから…きっと私がいなくて寂しくて悲しくて泣いてると思うんです。世界中であの子が好きだった歌を歌っていれば、いつか再会出来ると思っているんです。」

「泣かせる話しですねディーヴァさん。早く見つかると良いね。」

フローラさんも薄っすらと瞳に涙を溜めている。

「ありがとうございますフローラさん。こちらへはバハラタ近辺で弟を探していたら、彼らが居場所を知っているから付いて来いと言われまして……。」

「まさかそれを鵜呑みにして付いてきたわけじゃないわよね?」

「あの…そのまさかです。」

歌姫は顔を真っ赤にして俯いている。バカと言うか世間知らずと言うか…普通の感性と違うあたりはやっぱりエルフだからでしょう。女王(ポワンちゃん)からして変だし、きっと種族的にオツムが足りないのでしょう。

 

「でもエルフの貴女なら強力な呪文で盗賊団なんて簡単に倒せるんじゃない?少なくとも逃げる事くらいはワケないでしょうに。」

「私、才能がないみたいで…呪文、下手すぎてダメなんです。」

「はぁ!?そんな訳無いでしょ?エルフは魔力に特化した種族なんだから。」

私が答えると彼女は悲しそうな表情で俯いてしまう。どうも大精霊である私が彼女を傷つけてしまったようです。居たたまれなくなった私は、お詫びも兼ねて彼女を大精霊の目でみた。

「あ、あれ?変ね。」

「?」

 

通常大精霊の目で見れば相手のレベルから職業と言ったステータスが見えるのだけれど、歌姫からは何も見えない。私疲れているのかしら。目を擦って見直してみるがやはり何も見えない。となりのフローラさんは普通に見えるのにです。

 

「……まぁそんな事もあるわよね。」

私は一人呟いた。

 

「ところで勇者様、遅いですね。」

話がひと段落したところでフローラさんが言う。確かにもうそろそろ来てもいい頃だろうに。ちょっと遅すぎやしないだろうか。マコトも今頃私がいなくて大慌てしているに違いありません。あまり心配かけてもかわいそうですし、帰ったらたまには優しくあげよう。

そんな考え事をしていると歌姫ちゃんが小さな小さな声で

 

「ルビアさんがいない事に気付いてなかったりして。」

 

なんて事を呟いた。

「ま、まさか。今頃はきっと半ベソをかきながら必死に私を探しているわよ。あの子(勇者)は私がいないと何にもできないもの。」

それを聞くと今度はフローラさんが尋ねてくる。

「もしかしてルビアさんと勇者様はお付き合いされているのですか?」

「いやいやいや、彼が一方的に私を好きなだけよ。まぁ今後考えを改めて私に優しくして、崇めて甘やかしてくれるならちょっとは考えなくも無いけど。」

私が笑いながら応えると、二人の女性は異口同音、口を揃えて「良かった」と呟いた。

何だろう、最近よくわからない感情になります。

 

 

※※※※※

 

 

……どうしよう、マコトが来ないんですけど。

何だかアリアハンで勇者の登城を待っていたときを思い出しました。

待てど暮らせどいつまでたっても来ないあの時の記憶…。ちょっと泣きそうです。

二人もそんな私を気遣ってか、そのことに触れなくなっています。

 

その時でした。

隣で激しい戦闘が始まったようです。耳を澄ませば

 

『ウオラー!!ウチの駄女神返せー!!』

 

マコトの怒号と盗賊たちの悲鳴が聞こえる。駄女神と言う呼び方は少しだけイラッとするけど、勇者が私を助けに来てくれたってだけで胸が熱くなります。

目頭も熱が帯びる。覆面パンツを倒してマコトがこの牢屋に来たら抱きしめてあげよう。もう少しだけ彼に優しく接するのもいいかもしれない。

 

程なくして彼はこの牢のある部屋に入ってきた。今のマコトなら覆面パンツなど取るに足らない相手なのはレベル差で判る。今のマコトはロマリアの頃に比べて十分に強いのです。

 

「あなたがフローラさんですね?ルドマンさんの頼みであなたを助けに来ました。もう安心ですよ。そして……ルゥ、待たせたな。」

 

本当ですよ。ちょっとだけ来ないかもって思っちゃいましたよ私。両手を広げて駆け寄ってくるマコトを迎え入れる。そんな私の脇をヒョイと交わした勇者は白銀の美女、歌姫を抱きしめ

 

「ルビア、もう離さないからな。」

「あ、あの…私ルビアさんじゃ…。」

 

今にも頬ずりをしようとしている。

歌姫もさすがにおどろきとまどっている!

 

「ゴッドブロー!!!!」

 

大精霊の愛と哀しみを乗せた拳が勇者の顔面にめり込む。

 

そして生と死の境界(ルビスのお仕置き部屋)に来た勇者に、私はお決まりの言葉を投げかけるのでした。

 

「あぁ勇者よ、死んでしまうとは何ごとですか」

と。

 

 

 

 

続く

 




歌姫のイメージボイスは能登麻美子さんです(笑)


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金額は1ゴールド

「お父様いま帰りました。」

「おお、帰ったかワシの可愛いフローラよ。」

 

フローラさんの愛らしい挨拶と共にバハラタの村へと帰った私たちは、彼女の家であるお店の扉を開けた。

あのヘンテコな髪型の中年ルドマンさんがすぐ様抱きつき再会を喜び合う姿を想像していたのですが……

お店の中は緊張に包まれていました。偉大なる大精霊である私には何が起きているのか即座に理解しました。

と言うのも……

 

「くっさ!!な、何よこの店、めっちゃ臭いんですけど!!」

「これはもはや魔瘴だな。」

 

私の悲鳴にも近い叫びにボッチ(エスターク)が答える。

そう、私たちはこれが何者の仕業かを知っているのです。私たち勇者一行の視線は壁際にある一つの壺に集まる。

あの澄み切った空のような蒼い壺が、今は炎が吹き出しそうなほど真っ赤になってガタガタと振動を立てている。

ルドマンさんの話しによれば『ブォーン』という名の魔物が封じられているというあの壺です。

濃い魔力が魔瘴と化し、ルドマンさんをはじめとしたアンディさんにデボラさん、そして今入ったフローラさんまでもが息を切らして苦しそうにしている。すみません、言い間違えました。アンディさんは瘴気とは関係なくヘロヘロでしたね。

訂正しておきます。

 

 

「ね、ねぇコレどうする?」

私は小声で仲間2人に話しかけると、勇者はさも当然だと言わんばかりに小声で答える。

「これただ赤いだけじゃねーのか?コレがブォーンとかいう魔物の復活の予兆なんて誰も確信ないんだよな?無視してよくね?」

「珍しく意見が合うわね、そうよね。私たちはあくまでも盗賊団に拐われたフローラさんの救出を頼まれた〝だけ〝だものね?ね?」

「キサマ、それでも元何とかか?情けない。」

「煩いわねボッチ!私は元じゃないわよ現役よ現役!」

「キサマ!オレはボッチじゃないと何度言えば分かるんだ!オレはソロだ。それに今はキサマらのパーティじゃないか。」

 

興奮ぎみに反論するボッチの魔力に反応したかのように赤い壺は更に濃い魔瘴を発する。こうなると普通の人はもう意識を保つことも出来ないようで、ルドマンさん一家+オマケ1人は気を失ってしまった。

 

「コイツ(ブォーン)、オレがいる事に気付いていながら随分と調子に乗って魔力を放出してくれるじゃねーか…グェ!」

黒い笑いを浮かべながら二振りの剣を手にし構えるボッチ(エスターク)の首根っこをグイッと引き寄せた勇者は

 

「余計なことすんなよエスターク。」

「何だよ、マコトはオレがブォーンに勝てないって言うのか?」

「そうは言ってねーけど、魔物の間でもそれなりに有名な奴なんだろ?第一に面倒くさい。今なら誰も見てないしトンズラしちまおうぜ。」

「そうですぜ。マコトのアニキの言う通り、ここは一旦引きましょうぜ。」

 

背後から会話に混ざる…覆面パンツ。

 

「……なんでいるんだよおまえ。」

さすがのマコトも冷静に変態にツッコミを入れる。

「何言ってんすか、あっしも仲間に入れてくださいよ。あっしはアニキの強さに惚れたんです。しかもアニキはあのオルテガさんの息子なんですよね?これは運命の出会いじゃねーですか。」

「そんな運命の出会いならいらねーよ!」

 

そう、マコトにコテンパにやられた盗賊団の首領、カンダタこと覆面パンツは、あろうことかパーティに入りたいとか抜かし、勝手に付いて来ちゃいやがりました。

当然私は反対です。

 

「いらねーよ。第一パーティ枠がねぇよ。そんな大人数の食費とか装備とかを賄う金もねーし。」

「金ならあっしに任せてくだせー。またべっぴんを掻っ攫って金策をしやすから。」

「勇者一行が誘拐なんかできるかアホ!良いか?オレ達パーティが度を続けるには節約しても何とか4人がやっとなんだ。後ろを見ろカンダタ。」

マコトに言われて人数を改めて確認する覆面パンツ

 

勇者マコト

僧侶ルビア

戦士エスターク

歌姫 ?

盗賊 覆面パンツ(カンダタ)

 

「ほらな?人数がいっぱいだ。」

「え?ちょっと待ってください。今私…人数に入っていませんでしたか?」

「何言ってんだ、もうオレたち仲間じゃないか。」

「そんな素敵な笑顔で言われても…。それに私、戦えませんよ?武器も下手だから直ぐに壊してしまいますし、呪文はセンス無いみたいで……。」

「大丈夫大丈夫。歌姫さんはいてくれるだけで癒されますから。存在そのものが僧侶っすよ。」

「マコトのアニキも分かりやすか?あっしは彼女こそが精霊神ルビスの顕現した姿そのものだと思うんすよ。」

「おお!確かに。ルビス様なら大歓迎だな。」

コイツ…本物を目の前にしてよく言う…

「そ、そんな…私がルビス様だなんて恐れ多い…。それに僧侶ならルビアさんがいるではありませか。」

 

蚊の鳴くような小さな声で彼女はそう言い私の方をチラ見した。

ええ、ええそうでしょうよ。私の今の表情はちょっと言葉に出来ないような表情でしょうよ。あとでマコトにはキッチリとお説教をしてやりますとも。

なんて私が考えた矢先に

 

「あー…ルゥはパーティメンバーではペット枠なんで。気にしないで良いっすよ。」

 

何て言いやがります。

 

「なんだとー!!ちょっとマコちゃん、アンタそこに正座しなさいよ。今日という今日はもう許さないんだからね!」

「うわっ、ルゥキレるなって。些細な冗談じゃねーか。」

 

私がマコトに掴みかかろうとしたその時、ボッチがいつになく真剣な声で警告してきた。

 

「おまえ等、夫婦漫才している場合じゃないぜ。壺を見てみろ。既に光を放ちながら明滅を始めやがった。ブォーンの奴、間も無く復活するぜ。一度この店から退避した方がいい。」

「あーら、確か地獄の帝王だとか仰ってたのに、下々の魔物が復活するから逃げるんですかぁ?本当はボッチもビビってるんじゃありませんかぁ?」

「キサマ!誰がビビっているだと?復活したとてこのオレがブォーンに引導をくれてやるわ!だが、ブォーンは山ほどの巨体だ。このままこの店にいると潰されてしまうぞ?」

 

などと、中々に物騒な事を言う。私たちは止む無く覆面パンツとボッチ、そしてマコトの力を借りてルドマンさん一家とオマケを店の外に運び出そうとすると……

歌姫ちゃんが壺の方へと歩いていく。危ないから離れろと私たちは叫ぶが歌姫ちゃんはまるで何事も無いかのように歩み寄る。

なんだろう、私以外だれも気付いていないようですが彼女の雰囲気が少しだけ変わったような気がした。

 

壺はまるで彼女を威嚇するかのように濃い魔瘴を吹き出してなおも明滅を繰り返す。やがて黒い煙まで吹き出し始めた。歌姫ちゃんが壺に顔を近づけ覗き込んだその時だった。

 

壺がまるで何かに気付いたかのようにビクッとしたあとピタリと動きを止め真っ青になった。

先日見たような澄み切った青空のような色ではない。文字通り真っ青です。

そして耳を傾けてみると、微かにガチガチガチと歯を打ち鳴らすような音も聞こえ、しばらくすると壺の上部からピョコンと腕が出てきた。

牛のようなかぎ爪のある手には白い旗が掲げ、中央に『ごめんなさい。千年は静かにします。許してください。』と書かれていた。

 

「あの……こんな事が書いてあるんですけど…」

 

振り返った歌姫ちゃんは、先程までのゆるふわな彼女に戻っていた。

どうも最近気のせいが多いわね。ともかく

 

 

こうしてブォーンの件は、まさかのブォーンが白旗をあげることで片付きました。

 

 

そしてよがあけた

 

 

 

「わっはっは。やあゆかいゆかい。まさかブォーンを倒してくれるとは。さすがは勇者一行だ。」

「いや、オレたちは別に…モゴモゴ」

余計なことを言おうとするボッチ(エスターク)の口を塞ぐマコトは小声で話す。

「おいエスターク、余計な事は言わなくて良いんだよ。もしかしたら『くろこしょう』とか『船』をタダで貰えるかも知れないんだから。」

「マコト…おまえ確か勇者だよな…。おい、キサマはそれで良いのか?仮にも女神なんだろ?」

「良いんじゃない?別に嘘は吐いていないもの。ルドマンさんがかってに勘違いしているだけだし。」

「だよな?やっぱルゥだな。分かってるじゃねーか。」

声を潜めて笑う私たちをボッチが白い目で見ているけれど、悪魔っ子の視線なんか無視です。

それより気になるのは…妙に勇者の近くに寄り添うフローラさんです。しかもマコトのヤツまで鼻の下を伸ばしていやがるのがなお気にくわない。

「ほら、フローラさん。あまりマコちゃんに近寄ると不幸が移るわよ。」

そう言って彼女を引き剥がそうとすると、フローラさんはマコトの腕にしがみついた。

 

「お父様、私、勇者様のお嫁さんになろうかと思いますの。」

「おお!マコトくんか、それは良い。マコトくんは勇者だし、何よりブォーンを倒した者。これで我がルドマン家も安泰と言うものだ。わっはっは!」

「ちょっと!ヘンテコな髪型のジジイ(ルドマン)まで何言ってんのよ!そんなのダメに決まってるでしょ!それに貴女にはそこで転がってるミイラ男(アンディ)がいるじゃない!さっさと離れなさいよっ」

 

力尽くでマコトからフローラさんを引き剥がそうとするが、見た目に反した凄い力でマコトにしがみついている。

 

「嫌です!昨夜勇者様とは何でもないって言ってたじゃないですか!それにアンディは姉さん(デボラ)がいるから大丈夫ですよ。」

「ちょっと何言ってんのさフローラ。アンディはアンタに惚れてんのよ。だから小魚くんは私が…。」

 

そう言って今度はデボラさんまでもがマコトを引っ張りだしました。

 

「おお、マコトのアニキモテモテじゃねーすっか、羨ましいですぜ。」

覆面パンツは余計なこと言わないで良い。この状況はラチがあかない。当の本人たるマコトは鼻の下が床につくほどにだらし無い顔をしている。かくなる上は…私はそっとモーニングスターを振り上げようとすると、私の肩に手を置き、私を引き止める者がいた。

ゆるふわ(歌姫)だった。

相変わらず柔らかな微笑みを浮かべている彼女だけれど、なんだろう…ちょっと雰囲気が違う。先程のブォーンの時程ではないにしても、少しだけ違う。その彼女は

 

「ルビアさん、それは少しやり過ぎですよ。」

「仕方がないじゃない!この親娘3人を止めるにはこれしか無いの!邪魔しないでちょうだい。」

「ダメですよそれじゃ。村で殺人なんて犯したらルビアさんが犯罪者になってしまいますから。」

「じゃあどうすれば良いって言うのよ。」

「この状況をどうにかすれば良いのですよね?お手伝い…しましょうか。」

 

彼女のほんのり赤みを帯びた瞳が怪しく輝いた。

 

『バシルーラ!』

彼女がボソッと呪文を唱えると、空間に大きな歪みが現れた。

そしてその空間にフローラさんを始め、デボラさんにルドマンさん、ミイラ男(アンディ)に、覆面パンツが吸い込まれ、彼等は何処かへと消え去っていきました。

次の瞬間でした。

勇者とは言え人間のマコトには気づかなかったようですが、空間だけではなく、時空、時間軸、そして私の本体のいる彼の地への空間がガタガタと不穏な音を立てて干渉されるのを察知した。

このままではこの次元だけでなく全てが吹き飛んでしまう…私が長い年月を重ねて創り上げた世界が消えてしまうかも知れないと、背筋を冷やした瞬間、

 

「ご、ごめんなさい私…やっぱり呪文が下手で、また失敗してしまいました。すみません、すみません。」

 

彼女はぺこぺこと頭を下げ、無理矢理発動中のバシルーラを止め、自らも『ルーラ』で飛び去ろうとしている。訂正します。文字通り逃げ去ろうとしている。

 

「あ!せめて名前だけでも!」

飛び去ろうとするゆるふわ(歌姫)に勇者が叫ぶが、すでに発動した呪文のさなか、彼女の唇の動きだけでは名前までは聞き取れませんでした。

 

彼女の去った後に残ったのは私たち3人だけ。まぁ『バシルーラ』なら不特定先に強制的に飛ばされるのみ。きっと死んだりはしないでしょう。私たちはとりあえずもぬけの殻となったお店から『くろこしょう』を手にし、再びポルトガへと向かうことにしたのでした。

 

 

 

つづく




休憩時間中にこっそり投稿です♡


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ワシの国に勇者がやってきた。

ポルトガの城内はいつになく慌ただしい。

それもそうであろう。

何せあの勇者一行がやってくれたのだ。

 

初めて会った時、あろうことか国王であるワシを『バギ』で殺すような勇者一行、教会の神父供は近年『ザオリク』が効果を示さないなか、生き返りを受けたワシをみて腰を抜かしておったものじゃ。

 

じゃがそれでも勇者は勇者、我がポルトガの国で死なれるのも困る。そこでワシは良い事を思い付いたのじゃ。勇者一行にポルトガの国では貴重な『くろこしょう』を買い付けてきてもらう事じゃ。

正直期待はしてはおらぬ。

あの感じじゃと逃げ出すのが関の山であろう。

じゃからワシは『くろこしょう』を見事買い付けて来た暁には、ポルトガに残存する貴重な船をやると約束もした。

どうせ無理じゃろうからな。

何せ『くろこしょう』は扱っている店がバハラタにある一件の店しかないと聞く。その金額はと言えばくろこしょう一粒が金一粒に相当すると言うほどの高額。バハラタにたどり着いたところで勇者が買える代物ではないのじゃ。

 

ワシはワシを殺した彼らを処罰もできず、不問にもできないため無理難題を付けて程のいい追放処分にしたわけじゃが……

 

意外にも遣いに出した伝令から、なんと勇者一行が『くろこしょう』を手に入れ、このポルトガの地へと向かっていると言うではないか。

しかも、遣いの伝令からの報告によれば勇者一行の中にあの歌姫…いや精霊神ルビス様もいたと言うのじゃから、嫌でも心が躍ると言うものじゃ。

ワシは自慢のヒゲの手入れをし、何時間もかけて侍女どもにおめかしもさせた。

あとは精霊神ルビス様をお迎えするだけ…なのじゃが…

 

 

来ない。彼らはいつになったらワシの所へやってくるのじゃ。はっ!もしやルビス様もワシと会う為におめかしとかに時間がかかっておるのではまいか。なるほどなるほど、敢えて待たせてワシの器をはかろうと言うのじゃな?

女神は人間を試すからのぉ。

よかろう、ワシの器の大きさを見せて差し上げようじゃないか。

 

 

日が沈み、月明かりがポルトガの街を照らすころになっても勇者一行…いや、女神はやって来ない。さすがのワシも痺れを切らし、彼ら一行に何かあったのではと不安がよぎったそのとき、けたたましい音を立て王室の扉が開き、息を切らせた兵士が入ってきた。

 

兵士はワシの前に傅くと

「王様、一大事でございます。」

息を整えるのも忘れ叫ぶ。

「おちつけ、何があったのじゃ?またあの化け物が海から現れたか?それとも更なるモンスターでも現れおったか?」

勇者一行がポルトガ領内にいるのを知っているワシには余裕がある。正直戦闘など出来はしないが敢えて供にすることでルビス様に我が勇姿を見せれたなら、更に好感度が上がって…やがて二人は…ムフフ。

しかし兵士から出た言葉は

 

「ポルトガの城内にある新造艦を紛失しまして…」

ワシは一瞬、兵士が何を申しておるのか理解できなかった。

「し、新造艦ってワシの公用船か?」

「左様でございます。」

「し、しかしあれは屈強な兵士数十名で警備にあたっておっただろう?それがなぜ…」

「それが、昨晩勇者一行がわたくしども兵士に普段の公務ご苦労さんと言ってバハラタで買い付けてきたお酒を振舞ってもらいまして…。」

「公務中に酒を飲んだのか?」

「いえあの…飲まないなら仕方ないなとか言って勇者一行は我らの前で酒盛りを初めたのです。」

「それで?」

「勇者は絡み酒らしくやたらと酒を勧めてくるわ、女僧侶は何やら凄い宴会芸を披露するわ、戦士は二刀流だーとか言いながら色んな酒を混ぜて飲んでまして…その様が凄いのなんの。初めは真面目に警備していた兵士も次第に参加しだしまして…。」

「大宴会になったと?」

「…申し訳ございません。」

「経緯はまぁ分かった。それよりもう1人おったじゃろう?歌姫が…。」

「いえ、かの歌姫はおられませんでした。その3人だけでございます。」

ワシの情報網に間違いがあったのじゃろうか。最も重要な人物がいないと聞き、落胆の色を隠せない。ワシは王にあるまじき不貞腐れたものいいで兵士に語りかける。

 

「で、それがなぜワシの公用船の紛失に繋がるのじゃ。」

「それが…私どもが起きた時にこんな手紙が…」

 

ワシは兵士から手紙を引っ手繰ると、それに目を通す。

 

 

ポルトガのおうさまへ

から始まるその手紙は…あまりにも字が汚くてよく読み取れなかった。なんとか苦心してようやく理解した内容は、約束の『くろこしょう』は置いておくので船を借りますとの事だった。

本心を言えば今や数少ない船を貸すつもりはなかったのじゃが、一刻も早く魔王バラモスを倒したいと言う勇者の熱い気持ちも分かる。

残存する船の中で一番良い新造艦を持って行ったのはなんだけど、それもバラモスを討った後に勇者に多大な支援を行ったとなればポルトガ国にとっても決して損なことはない。なにより精霊神ルビス様へこれ以上ないくらいの好感度アップじゃ。

 

ワシは勇者の手紙を折り畳み懐にしまおうとした時、ヒラリともう一枚の紙切れが落ちた。

 

 

 

 

※※※※※※※※

 

 

 

少しベタつくけれど潮の香りのする風が心地よい。私たちはポルトガ王より頂いた(かすめ取った)船は、さすが国王が乗るだけあって良い乗り心地です。

こんな豪華な船に乗ると、いつだったか誰かに聞いたように船の先端部に立って両手を広げてみたくなる。あとは素敵な男性がそっと後ろから優しく抱きしめてくれれば良いのだけれど……

私はちらりと目線を移すと、それはもう見事な食事を頬張る勇者の姿と、手摺りにグッタリと寄りかかり、今にも死にそうな顔で、時折海に虹色なアレをブチまけている戦士の姿が視界に飛び込んで来た。

 

はぁ…私は深く大きな溜息を吐くと、それに気づいた勇者が

「おいルゥ食べないのか?全部食っちまうぞ?」

などと、ロマンチックには程遠いことを言っています。まぁマコトに期待するだけ無駄かと思いますが。

私が船の先端部から戻ろうとしたとき、ふと視界に光るものが入りました。

「何かしらアレ。」

「あん?オレには何も見えねーぞ?」

大きな鶏肉を口に頬張ったまま隣に立ったマコトが目を細めている。

 

私は再び光る方角を見ると

ポルトガの国旗を掲げた数十隻の船がこちらに向かってきている。見送りかしら。私はそのことを勇者に伝えると

「えーオレには見えねーぞ?おまえどんな視力してんだよ。」

「バッカねぇ、私を誰だと思っているの?私は大精霊よ?ずっと貴方達人間界を眺めてきたのよ?視力なんか両目ともに100.0に決まっているじゃない!」

「…暇なんだな。」

「なぁんですってぇ!」

「うわっ!いちいち首を絞めるなって!」

「言っておきますけど私が人間界を眺めているのを喜ぶ人だって……あれ、なんか…数十人の魔法使いが甲板の上に立っているんですけど。な、なんか呪文を唱えているみたいなんですけど…」

「いくら王様だって、自分の公用船をかってに使ったくらいで攻撃なんかしてこないだろ。こんなに豪華な食事や装備だって船に入れといてくれたくらいだぜ?アレだ、きっと旅立つオレ等に祝砲かなんかじゃねーか?」

「そ、そうね」

 

…ヤバい。食料やら装備品は私が王様のツケで勝手に買ってきたものだなんて言えない。

 

「おいルゥ、何でこっち見ないんだ?」

「な、なぁにマコちゃん。私の美しい顔がみたいの?」

「良いからこっち向け!」

無理矢理私の顔の向きを変え覗きこむ勇者。

「ん〜?」

「ち、近い近い」

少しの波の揺れで触れてしまいそうなほどに近い勇者のくちびる。それに反して甘さを全く感じない冷たい瞳。

マコトは、それはもう恐ろしい声で囁いた。

 

「おまえ…何か知ってるな。正直に言ってみろ。」

「あの…装備品と食料は私が買いました……王様のお金で。」

「……いくらだ。」

 

私はそっと指を3本立てる。

「3万Gは買いすぎだろ。食いきれねーよ。」

「違うの…あの…30万ゴールド…です。」

「こんの…駄女神がぁ!!!」

「怒らないでよ。ちょっと高級なお酒とか買ってたら…気づいたら凄い金額で。仕方ないから王様宛にツケにしてもらっただけじゃない。」

「それにしたって30はやり過ぎだろ!ただでさえ海から現れた謎のモンスターに壊滅させられた船を造るのに国の税金を投入してるって言ってたのに…ッ!」

 

ドオオオオオン!!

その時、爆音とともに海水が雨のように私たちに降りかかった。

 

「お、おいマジで撃って来やがったぞ。エスターク!全速で離脱だ!」

「ゲロゲロゲロ…」

「うわっ汚ねえ!遂に吐きやがった!おまえ一応地獄の何とかだろうが!船酔いなんかしてんじゃねー!」

「いや、オレも船は初めてで…ウプッ!」

 

尚も続くポルトガ国の船団からの魔法攻撃。

私たちは慌てて逃げ出した。

 

「おお!今ホントにヤバかったぞ!」

「キャー!ちょっと今魔法の弾道が私の髪を掠めたんですけど!ちょっとホントにヤバいんですけど!!」

「ゲロゲロゲロ…」

「おいルゥ!おまえが金を遣ったんだから、おまえがおとなしく投降すれば許してくれんじゃねーか?」

「嫌よ!それにポルトガの王様が、大精霊ルビス(わたし)に最高級の料理を振る舞うって言ってたんだから良いじゃない。ちゃんと目的通りじゃない。」

「それはおまえの事じゃなくて、あの美女にだろ!このぱちモンが!」

「なんですってぇ!誰がぱちモンよ!!」

 

ドオオオオオン!!!

再び魔法攻撃が船のすぐ隣に着弾した。

 

私と勇者は顔を見合わせ

 

「「ごめんなさーい!!」」

「ゲロゲロゲロ」

 

私たちの悲鳴は海に響き渡るのでした。

 

 

 

続く

 




あけましておめでとうございます。今年もよろしくね♡

次回からはジパング編をお送りします(*^o^*)


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ジパング

「お父さん土左衛門がいるよ。」

「おお、三人ともまだ若いのに不憫な。」

 

枝のようなものでツンツンされる感覚で私は目を覚ました。ムクリと起き上がる私に驚き腰を抜かす親子をよそに辺りを見回すと、どうやら私たちは何処かの国の漁村に漂着したようです。

大精霊たる私への細やかな供物を貰っただけだと言うのに、まさか一個師団が総出で呪文をぶっ放してくるとは……ポルトガの王様も器が小さいですね。

 

私は近くで倒れている勇者達に近寄ると、水を大量に飲み込んだお腹を押して『ザオラル』を唱えた。するとピューっと口から海水を吹き出し二人は生き返る。

 

「…ここはどこなんだ?」

目覚めた勇者は開口一番、お腹をさすりながら言う。何度も生き返っている勇者は、なるほど、さすがに慣れた様子です。慌てる事もなく冷静に状況把握をしています。それでこそ私が懸命に導いてきただけはありますね。

もう一人、ボッチ(エスターク)はと言えば、私の蘇生魔法を無効化しやがります。生意気にもこのクラスの魔物となると、呪文無効化の能力を有している者が多い。

これはチャンス……コホン!ここで生き返えりを受けられないのも人間の言葉を借りれば運命なのでしょう。立派なお墓に埋葬してあげよう。

私は彼の亡骸にスコップで砂浜の砂をかけようとすると…

 

「zzz…。」

地鳴りのような豪快な重低音が響く。つまりこのボッチは私の有り難い『ザオラル』を無効化したのではなく、そもそも死んでいるわけでもなくただ寝ているだけだと言うことだ。そう考えると腹が立ってきました。私は装備していたモーニングスターを振り上げると勇者が羽交い締めで止めてきました。

 

「で、結局ここはどこなんだ?」

勇者の問いに、腰を抜かしていた原住民の親子が気を取り直したのか答えた。

「ここはジパングです。貴方がたは外国から来なすったガイジンさんかね?」

「ガイジン?なんかよく分からないけど、オレたちはアリアハンから来ました。」

「アリアハン?知らないなぁ…まぁ何にしても船が難破して大変なめにあったみたいですね。この漁村では何もオモテナシはできませんが私どもの家で今日はゆっくりと休んで行くといい。」

 

そう言って親子は私たちを漁村に迎え入れてくれた。

 

 

 

「何にも無い国だな。」

「ちょっとマコちゃんそれは失礼よ?辺境の地だと私の有り難い教えや庇護も届かない場所もあるのよ。だから文明が少し遅れているんじゃない?」

「…キサマも十分失礼だと思うぞ。」

 

私たちのやりとりを見て村人は大きな声で笑う。

「面白いガイジンさん達だな。改めて紹介しよう。この国はジパングと言って、今はヒミコ様がご統治なさっている。」

「ヒミコ様?」

マコトが聞き返す。

「王様みたいなもんじゃないの?」

それに私が小声で返す。

 

「ヒミコ様は混乱していたジパングを再び纏め上げた凄い女王様なんだ。」

村人はまるで我が事のように自慢気に話し始めた。

 

村人の話によれば、かつてこのジパングには数多の頭をもつ蛇の凶悪な魔物がいたんだそうです。蛇は美しい娘を攫っては食べてしまい、ジパングは混沌としていたんだそうです。

そんなジパングに何処からか一人の怪し気な男が現れたそうです。男はそのいでたちこそちょっとアレですが、それはもうは凄まじい強さで、あっという間に凶悪な蛇の魔物を退治してしまったそうです。

ジパングの人々は男を戦神、荒ぶる神と崇め奉り、このジパングは平和だったそうだ。

 

「その凄い神さまが居なくなったーーーって言うわけか?」

「はい。普段は神殿の奥で寝ているか武器を振り回し鍛錬に励むかしておられたのですが、いつの頃からか、そのお姿をお見せにならなくなりまして……。しかも荒ぶる神さまが居なくなった途端にかつての凶悪な蛇の魔物が復活し、再びジパングを混乱させました。そんなジパングを再び纏め上げたのが…」

「そのヒミコ様ってワケか。」

「はい。」

 

村人の話にいつになくシリアスな顔で受け応える勇者。何でしょう、変なものでも食べたのかしら。とても似合いません。

それにしても私を差し置いて神さま?

 

「この国には偉大な大精霊ルビスの加護はないの?ちゃんと教会で毎日崇めれば見落とすことなんて…」

「大精霊ルビス?あぁ、あの頭のおかしい連中が崇めてた女神か。」

「は?頭のおかしい連中ってどう言う意味よ。」

「このジパングにもたびたび船に乗って外国から宣教使がやって来て教えを広めようとするんだよ。その連中っていうのがまた酷くてな、『あなたの為なんですー!!』とか言って妙な石鹸を買わせようとしたり、『今ならポイントが2倍!』とか訳の分からない事を言っては精霊ルビス信仰に入信させようとする…それはもう頭のおかしな連中でした。」

「……。」

「おいルゥおまえ…」

「い、いやいやいや、私じゃないから。」

マコトが私を白い目で見ている。はっきり言ってトバッチリです。

 

「まぁ要するにこの国は現在では平和ってことだろう?ならオレたちは船に乗って旅を続ければ良いんじゃないか?まぁその荒ぶる神さまってのがまだいるのなら手合わせ願いたいものだが。」

「ハイハイ、戦闘狂乙ね。アンタの頭は脳まで筋肉なの?まぁ次の地へ行くってのは私も賛成だけど。」

「あー…言いにくいんだけど、アンタらが乗っていたあの船な、損傷が激しくて今のままではすぐに沈むぞ?幸いこの村は漁村だし、ジパングは職人が多い国だから修理できる者はいるんだが…金と時間がかかるなぁ。」

「マジっすか。」

私たちはそれを聞いてテンションを下げた。

そんな私たちを見て村人は

「まぁ何にせよ、暫くこの国に滞在することになるワケだから神殿に行ってヒミコ様に挨拶をしておいた方がいい。」

 

そう言って何がそんなに可笑しいのか高笑いをしていた。

 

要するに私たちの船は修理が必要。

そしてそれにはお金と時間がかかる。だから神殿に行ってこのジパングの女王に挨拶に行けと言うわけです。

 

「…おいルゥ、おまえ…金あるか?」

ボソボソと小声で話しかけてくるマコトに私も小声で答える。

「無いわね。全部飲み食いしちゃったもの。」

「つかえねー…」

そんな事言う勇者の頭を無言でモーニングスターのえのぶぶんで叩いてやりました。

そして私とマコトは2人でボッチ(エスターク)をみると、共に深いため息を吐いた。

「き、キサマら、それは幾ら何でも酷すぎないか!?悪魔も時には泣くぞ?」

「まぁ…金は後から何とかなるだろ。とりあえず神殿に行ってみっか。」

「マコちゃん…アンタ…踏み倒す気ね。」

「…。」

マコトは何も応えない。

 

結局ギャーギャー喚くボッチを他所に、お金もないし、特にすることもないので暇つぶしがてらに神殿に私たちは向かう事になりました。

 

 

 

 

つづく




すみません。1月は忙しくて…ハイ、言い訳です。


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それはきっと鏡も割れる。

漂着した漁村を旅立つこと3日目、ようやくにしてヒミコと言う女王のいる神殿へと私たちは辿りつきました。

街の奥にあるそれは一般的にお城と言われるものではなく、神殿と呼ばれる様式の建築物にみえますが、元は荒ぶる神さまとやらが住んでいたらしいので、きっと認識に間違いはないでしょう。

木造でできた神殿は、何本もの巨木を束ねた柱により地上より高い位置にあり、長い階段を登って神殿へと入る。バカと成り金は高いところが好きと言うくらいですから、きっと荒ぶる神さまとやらもロクなもんじゃないのでしょう。

 

神殿の中に入ると、プワァ〜ンとか鳴る不思議な楽器の音色、神殿内を埋め尽くすお香の香り、神殿内で忙しそうに働く者たちと、私は改めてこの不思議な文化を持った国にやって来たのだと実感します。

 

「ルゥ、あんまキョロキョロするなよ。オレまで田舎者だと思われるじゃないか。」

「マコト、こいつの場合は田舎者と言うより挙動不審な痛い女って感じだろ。」

「誰が痛い女よボッチ!!」

「キサマ、オレはボッチじゃないと何度も…」

「おいお前ら煩いぞ。ここは女王ヒミコが在わす厳正な神殿だぞ。静かにしろ!」

 

「ほらルゥ、おまえのせいで怒られちゃったじゃねーか。なんだよ、何か気になる事でもあるのか?」

「何よ、マコちゃんまで私が悪いっての?まぁいいわ。このお香がね…こんなに近くにいるボッチ(エスターク)の臭っい匂いまで分からないほど麻痺させるのよ?」

「あー…おまえの悪魔っ子レーダーのアレか。アレって無いと何か問題でもあるのか?」

「……特にないわね。この悪臭振りまくボッチの匂いから解放されるなら寧ろ喜ぶべきかもね。」

「…キサマッ…さっきから臭いだの何だのと…。」

 

歯をギリギリさせながら私を睨むエスタークの表情は涙目になっていた。

 

「ウケる、超ウケるんですけど!見てよマコちゃん、このボッチ涙目になって怒ってるんですけど!プークスクスクス。」

「キサマッ!もう許さん!!」

 

エスタークがふた振りの剣に手を掛けると、慌てて止めに入る勇者は

 

「エスターク、こんな処で剣を抜くなって。あとルゥ、おまえもあんまりイジメるなよ。」

 

と、下手な仲裁を試みるものだからかえって火がつき再び騒ぎになる。その時だった。イナズマのような怒号が鳴り響いた。

 

「ここは御前であるぞ!!頭が高い控えよ!!打ち首にされたいのか!!!」

そこにはキラーエイプのような女が怒り心頭に仁王立ちしていました。

 

「「ハハァ〜」」

「あっ…」

私とエスタークはどんな失態も必ず許されるという伝説の必殺技を披露すると、マコトは言葉を失っている。アリアハンのような田舎出身の彼には知り得ない奥義です。仕方がありません。優しい私が無知なマコトに教えてあげるとしましょう。

 

「何やってんのよマコちゃん、土下座よ土下座!謝って、ほら早く謝って!」

「お…おまえには元何とか様のプライドとかないのかよ。」

「仕方ないでしょ!見なさいよ、あの女王の姿。あれは絶対キラーエイプかなんかよ。あんなゴツいのを相手になんかできるわけないでしょ!ほら早くマコちゃんも謝って!」

「いやでも…エ、エスタークおまえだって地獄の帝王なんだろ?何で普通に土下座してんだよ。」

「オレは人間にヤイバは向けない…が、オレもあの暴れザルに無抵抗に襲われるのは嫌だからな。」

「いや、土下座しながらドヤ顔されても。」

 

マコトがボソッと突っ込みを入れると、祭壇の方から若い女の笑い声が聞こえてきた。

 

「ふふふ、ガイジンというのもなかなか面白い方たちじゃの。」

「ヒミコ様!」

キラーエイプが祭壇の方に向かって声を上げる。

どうやらゴリ子はジパングの女王ヒミコではないようです。祭壇にある天幕の中から1人の女が現れた。

長い黒髪がツヤツヤと輝く小柄の女は、年齢で言えば私達と同程度に見える。人間の感性は良く分かりませんが、なかなかの美女です。

現に後ろの私の従者(ゆうしゃ)たちは鼻息を荒くしている。絶世の美女なら目の前にいるでしょうが。最近このながれが多い正直面白くない。

これは私への背徳行為としてしっかりと『冒険の書』に記してやりましょう。

 

「いけませぬヒミコ様!この者たちがどれほど危険かもしれませんし、御身ずから御姿を晒すなど…。」

「良いのです。この者たちの姿…とくに頭上に蒼き宝玉をもつその者は、ガイコクで噂になっている勇者と呼ばれる者じゃろう。だから安心して其方は控えよ。」

「し、しかしヒミコ様…」

「妾は控えよと申したのじゃ!」

 

ヒミコの強い口調にすごすごと部屋の隅に小さくなるゴリ子。彼女は年齢のわりにしっかりとした女王なのかもしれませんね。

 

「改めまして、妾がヒミコじゃ。異国のこの地に何用で来たのかの。」

「オレはマコトです。そしてこちらがルビアとエスタークです。オレたちは乗っていた船が難破してしまい…この国に流れつきめした。」

 

私たちを代表して事の経緯を説明するマコト。なかなか立派じゃないですか。そんなにもこの女王にいいところを見せようとしたいのでしょうか。

 

「……なるほどの、壊れた船が直るまで時間がかかり、かつ、直すためのお金がなくて途方に暮れているというのじゃな。ところで改めて聞くが、其方はガイコクで噂の勇者で間違いはないか?」

「オレ等の事を知ってんすか?」

「やはりか!遣ダーマ使に出した斧野芋子の報告にあった出で立ちにソックリじゃからの。」

「はぁ、斧野芋子っすか。」

 

ハッキリ言ってどう噂になっているかは聞かないでいたいものですね。マコトもボッチも微妙な表情ですから、似たような事を考えているのでしょう。

 

「そこでどうじゃろうか。我がジパングを恐怖に陥れている『ヤマタノオロチ』を妾と共に討つのを手伝ってはもらえまいか?」

 

マコトの手を両手で握りしめ懇願するヒミコ。

私は手刀でそれを切り離し、マコトに変わってハッキリと言ってやりました。

 

「悪いんだけどわた…モガモガ」

代弁する私の口に手をあて邪魔する勇者は、ルゥちょっとこっち来いと言って小声で話す。

 

「ちょっと何するのよマコちゃん!」

「おいルゥ、オレたちの置かれた状況が分かってるのか?オレたちの船は壊れているんだ。そしてソレを直すには時間と莫大な金額がかかる。だけどオレたちには金がない。」

「それがどうしたのよ。」

「わからねーか?このままじゃ旅を続けるどころかジパングから出ることもできねーんだよ。それとも何か?大陸まで泳いでみるか?たちまち全滅だぞ。おまえの力で蘇生してもまた溺れて死んでを繰り返すんだぞ?」

 

それを聞いて私は背筋を寒くした。

 

「いいか、オレたちはこのヒミコ様からの依頼(クエスト)を受けます。」

「でも国中を恐怖に陥れるようなモンスターなんて怖いじゃない。」

「バカだなルゥ、捜索に時間がかかってれば先に修理が終わるかもしれないじゃねーか。」

「なるほど…船が直りさえすれば、あとは踏み倒して逃げちゃえば良いって事ね。ついでにあわよくばジパングに滞在中の衣食住も女王もち。」

「…そう言う事。さすがは一番長く一緒に居るだけはあるなルゥ。」

 

私たちは声を潜めて笑い合うと、それを聞いていたボッチ(エスターク)がボソッと

「…おまえ等ほんとうに勇者一行か?」

などと言いやがりました。

 

「と、言うわけでオレたちは必ずやヒミコ様…いや、このジパングの国を救って見せます」

「おお、受けてもらえるか!さすがはガイコクで噂の勇者じゃな。それでは妾も国の政があるゆえずっととはいかぬが暫くはパーティの一員、よろしくお頼みしますね。」

 

そう言ってキラキラとした微笑みを浮かべた。こうして私たちのパーティに女王ヒミコが加わることになりました。

 

 

「それでは私がヒミコ様の影武者を立派にこなしてみせましょうぞ。鏡を見るたびに私はヒミコ様によく似ているので影武者が出来るのではと常日頃から思っていたのです。」

部屋の隅で小さくなっていたゴリ子が声を弾ませて言う。それを聞いて私たちは

 

「「「「それはない。」」」」

 

4人、声を揃える。

どうやら中々相性の良いパーティになれそうです。

 

 

 

続く

 



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魔神の黄昏

「何これ、めちゃくちゃうまい!」

「あらほんと、イケるわね。」

 

「どうやらお気に召したようじゃの。それはジパング特有のスシと言う食べ物じゃ。」

 

私たちは神殿から場所を移し、木造の家にいます。私たちがジパングを脅かすヤマタノオロチの所在をつきとめ、討伐する間に滞在する家屋として女王ヒミコより充てがわれた家です。

 

「すまぬのぉ、本当は同じパーティになったのじゃから妾と共に神殿で寝食を共にしたいのじゃが…侍従がうるそうての。」

「侍従ってあのゴリ…先程の護衛の女性っすか?オレたちは住む所を用意してくれただけでも嬉しいから大丈夫ですよ。なぁ2人とも。」

「そうね。あの無駄に遥か上空に位置するような造りの神殿自体は割と私にピッタリだとは思うけど、いちいち登るの面倒だしね。私は大丈夫よ。」

「まぁバカとルビスは高い所が好きと言うしな。ルビア、貴様はどちらなのだろうな。オレはもともと寝床に拘りはない。たとえこのような見窄らしい小屋でもな。」

「…何よボッチ、私はそんなやすっぽい挑発になんか乗らないわよ。」

「ルゥ、そう言うのならエスタークの首を絞めるのをやめろ。」

 

マコトが私を羽交い締めにして止めるのを見ると、ヒミコはクスクスと笑いだしました。

 

「本当に面白い者たちじゃの。この家屋はの、もともと妾が暮らしておった所じゃ。三年くらい放置しておったからの、所々が傷んでおるのかもしれぬの。まぁ許せ。」

「え?この家屋に女王様が?」

 

何を様づけで呼んでるんですか。私は平気で呼び捨てるくせに…ちょっとだけマコトの態度が気に入らない。

 

「妾はの、女王と呼ばれてこそいるが、本来はジパングの神に仕えるただの巫女じゃ。この喋り方とて侍従に無理矢理の…まぁまだ若輩な小娘である妾を女王に据えようと言うのだから、無理矢理にでも威厳を保たそうとしたのじゃろうな。」

「あー…確かジパングの神さま行方不明なんでしたっけ。」

「……そうじゃの。妾は今はそなたら仲間(パーティ)。わざわざ外国からヤマタノオロチを討ちにやって来た勇者様一行じゃ。そなたらにだけ真実を伝えておいた方が良いのかも知れぬな。」

 

そう言って目を瞑りお茶で唇を潤すと、静かに語り始めました。

 

 

「………と言うわけなのじゃ。」

「そうだったのね…。ミコちゃんも大変ねぇ。」

 

重苦しい雰囲気に私は努めて明るく返してあげましょう。パーティ全体の士気が下がってしまってはこの後に差し支えてしまう。さすが出来る女とマコトも褒めてくれるに違いありません。

 

「……ヒミコ様。」

「なんじゃ勇者様よ。」

「まだ何も話してませんよね。話した程で終わらせないでください。それとルゥ、おまえも普通に乗っかるな。それとヒミコ様だろ。いくらパーティとはいえ相手は女王様なんだから敬えよ。」

「あははは!ナイスな突っ込みじゃ。この方がそなたらのパーティっぽいかと思うての。あぁ、それと妾の事はミコちゃんで構わない。むしろそうして欲しい。四六時中女王でいるのも疲れるのでの。」

「はぁ…ヒミコ様がそれで良いなら。」

「まぁそれは徐々に慣れてくれれば良い。それよりも妾について参れ。」

 

そう言って彼女は私たちを連れて街を出た。

道すがら、彼女にかけよる老若男女のジパングの人たち。この若き女王が国民に愛されていることが分かる。

まるで大精霊たる私のようですね。

私たちは街を出て草原を歩き、小川を渡り小高い山の麓に辿り着く。

 

「ヒミコ様、この山に登るんすか?これだと今日中には都に帰れませんが大丈夫なんですか?特にあのキラーエイ…侍女さんは。」

「大丈夫じゃ。登る訳ではないからの。それにコレは山ではなく前方後円墳と呼ばれる…まぁそなたらガイジンで言うところの墓のようなものじゃ。麓に入口があるから着いて参れ。」

そう言って隠し扉のようなものを開けると階段が現れ、私たちはミコちゃんと共に降りていく。

廻廊にはところどころに松明がかけてあり、暗がりでも視力に影響の無い私以外のマコトたちも難なく狭い通路を歩いていく。

 

「随分潜りましたけど、よくこれだけのモノをジパングの人たちは作れましたね。」

「ジパングはモノ造りの国じゃからな。しかしコレは違う。妾たちが造ったものではない。」

「じゃあ荒ぶる神さまが造ったんすか?」

「それもちょっとだけ違うようじゃ。そら、目的地である玄室に辿り着いたぞ。」

 

そこは墳墓の中とは思えない広い空間だった。

暗くジメジメしたような場所(魔界)の住人であるナメクジ(エスターク)でさえ、その造りには息を飲んでいる。

広い空間の中央部に台座がありそこには一振の剣が突き刺さっている。そしてそれにかけられた花輪をミコちゃんは退けるとあらかじめ用意していた新しい花輪をかけた。

 

「……なんだこの剣は。何処かで見た覚えがある気がするのだが…。」

ボッチが首を傾げている。

台座に掘られた文字は

 

『我が最愛の弟よ、今は静かに眠れ』と書いてあります。

 

「これは?何すかヒミコ様。」

「……妾も実際に見た訳ではないのじゃが、手記によればこの場所に我らがジパングの神は眠りに就いているようじゃ。」

「手記ねぇ…。」

 

はっきり言って手記にあまり良いイメージの無い私は、ソレをミコちゃんから受け取るとマコトやエスタークにも分かるように声を出して読み始めるのだった。

 

 

 

 

長旅のなか、妻がとうとう倒れてしまった。

少し休めば平気よと笑う妻の笑顔が少しだけ痛い。やはりエルフである彼女は森から離れるべきではなかったのだろうか。しかしとうの本人がエルフの隠れ里に戻ろうとしないのだから私にはどうしようもない。

だって頑固なんだもん。エルフの女王みたいに。

 

そしてひとり娘もいつしか14になり、物事の分別を覚えたのか以前よりはだいぶ大人しくなった。私とアンに似て、とても美人に育った。こりゃあマジで将来が楽しみだ。

まぁ…何処から拾ってきたのか分からないが、姉弟のように可愛がっているペットが娘の心の癒しに繋がっているのかもしれない。だから今は無理矢理に放して捨てなくてもいいのかもしれない。

まぁそれ、かなりヤバいやつなんだけどな。

 

しかし娘は最近呪文を全く使おうとはしなくなった。使えないのではなく使わないのだ。いくら聞いても使わない理由を言わないが、父である私には娘がどうして使わないのか分かる。きっと彼女は自分の力が…いや、彼女の中にいる何かに怯えているのだ。

そう、きっと娘の中にはもう1人の彼女がいる。

今にして思えば、確かに幼い頃から娘には二面性があった気がする。自分の力を恐れ、なるべく使わないとする娘と、誰かしら…主に私の負の内心に反応してはとんでもない呪文をぶっ放す娘とだ。

それはまるで私の本当の故郷にかつていたとされる名も忘れ去られた『神魔王』のごとき闇の根源たる力だ。

だが、どちらも私たちの娘である事に違いはない。

そのとんでもない力とて良い事に使えば良いのだ。

…使い所……あればいいのだけどな。

 

しかしさすがは私。一つの名案を思いついたのだ。

私と共に降りてきた弟を頼ろうと。

ヤツはちょっと乱暴で手を付けられないところがあるが、基本的には弱き者に手を出すようなほどのクズではない。娘も弟相手なら遠慮なく呪文を使えるのではないか?そうなれば呪文は使ってはいけないと言う考えもなくなるかもしれない。弟は歴代最強と言われてたくらいだからな。

しかも弟は大の緑好きだ。変な装備やパンツまで緑色に染めてしまうほどの緑が好きなヤツだ、きっと生命力に富んだ緑豊かな自然の中にいるのではないか?

やっべ!私冴えてんじゃん。

緑豊かな自然ならエルフである妻の体調だって回復するかもしれないんじゃないか?

ついでに弟が娘の相手してくれんじゃないの?

やっべ!テンション上がってきた!

まさに一石二鳥…いや、あの変なペットも要済みで捨てられるから一石三鳥じゃね?

やっべ!私やっべ!冴えまくりじゃん!

 

そう思って弟のいるジパングに夢と希望をもって私たち家族はやってきたのだ。

確かに妻の病状が少しだけ和らいだ気がするよ?

手に負えない娘も最強を自負する弟なら、上には上がいる事を知って娘も安心して自分の力を使えるのでは…。しかも弟の方も可愛い姪っ子と一緒に遊んでれば少しは落ち着くかも知れないしな。

よーし、パパ頑張っちゃうからな?早く妻の病を治しておまえに本物の弟か妹を作ってやるからな!

って思っていたのも束の間…

 

どういう状況なのそれ。

 

弟が目に涙をいっぱいに溜めて木にしがみついているんだけど。そして楽しそうに笑いながらそんな弟を引き剥がそうとしている娘……何そのシュールな状況。

しがみつきながら弟が口をパクパクさせて私に何か語りかけている。

なになに?

『兄ちゃん助けてくれ?』

無理!

私は静かに首を横に振ると、弟は真っ青になった。

暫く逃げていた弟は、やがて我慢出来なくなったのだろうか、まだ年端もいかない娘に向かって『マヒャド』『メラゾーマ』『ギガデイン』『グランドクロス』を次々と繰り出した。

バ、バカ!それはやり過ぎだ!おまえは姪っ子を殺す気か!最強を自負する自分のステータスを考えろよ!と思ったんだけどさ…

 

ちょっと待ってくっさい。なんで娘はそんな楽しそうに笑っているの?『マヒャド』って、そんな、気持ち良い〜♡なんて顔で涼しそうにする呪文じゃないっすよねぇ。『メラゾーマ』をフッと息を吹き、放った本人に跳ね返せるような呪文でしたっけ?。『ギガデイン』なんかまるで効いている様子がない。いや、アレはもうダメージ0、完全に無効化してんだろ。『グランドクロス』なんか娘が目を輝かせて見てるんだけど。ちょっ、ちょっとどうすんのこれ。完全に娘が『グランドクロス』を覚えちゃうながれじゃん!

呪文がまともに効果ない事を知った弟は自身に『バイキルト』と『スカラ』を倍がけして斬りかかる弟の刃をパシッとか言って片手で掴んで投げ捨てる娘。ちょっとその効果音おかしいでしょ!

全ての技をことごとく返し、もう何も無いのかと興味を失せたような瞳で弟を見下ろす娘の表情…

怖っ!アレ絶対にヤバい方の娘だろ!

 

私はそっとその場を後にしようとすると突如大地震が起きた。

嫌な予感がして振り向くと案の定今見たばかりの『グランドクロス』を娘が使おうとしていた。『グランドクロス』は究極の呪文と言われる一つ。見よう真似で出来るものじゃない。やはりと言うか当然と言うか娘は失敗した。

だと言うのになんで?

なんで失敗した方の呪文の方がオリジナルを遥かに上回る威力を発揮してんの?

ちょっと待ってくっさい、向こうの方に見えるジパングの霊峰フジヤマ爆発してんじゃん!この引き起こした大地震、ジパングの町中の家屋を潰しまくってんじゃん!

やっべー!なんか街が大火災に見舞われてんじゃん!

やっべー!!霊峰フジヤマから火災流が街に向かって流れてんじゃん!ありゃあもう無理じゃん。もうダメだ。終わった。ジパングの文化レベルがダダ下がりしそうなほど壊滅状態じゃん。

なんか、噴火しているフジヤマから出てきた魔物の中に多頭のドラゴンみたいの見えるけど、どうしようもないよな。だって、呪文収まらないし、ジパングの街が燃え盛ってるし。

目の前の弟…完全にオチてるし。

この子にマトモな呪文を使えるように教育しなかったやつ、絶対バカだろ!

親の顔が見てみたいってもんだ。

 

 

おっと娘の父親、私でした。

 

 

……愛する弟ドレアよ、せめて立派な墓を創ってやるから安らかに眠れよ。

あと、できれば恨まないでね。

 

 

終わり」

 

 

「またおまえかー!!」

私が読み終えると勇者が叫んだ。私も全く同じ意見です。

そんな私たちと違う反応をみせるボッチ。若干震えているようにも見える。

 

「どうしたのよボッチ。」

「…ドレアだと。そうかどうりで見覚えがあるはずだ。まさかダークドレアムがここに眠りに就いていると言うのか。」

「なんだよエスターク、知り合いか?」

「ダークドレアムはオレたちの世界の…この世界で言えばルビス(アバズレ)みたいな存在だ。そしてオレの知る限り最強の魔神だ。それが負けただと…。」

「なんじゃ、エスタークは荒ぶる神の知り合いじゃったのか。」

「そんな存在の死を知ってしまったらショックだよな。まぁそれはそれとしてルゥ、もう一人墓に埋葬されちゃうから、そろそろエスタークの首を絞めるのやめろ。」

そう言って私を引き剥がす勇者。

 

「どちらにしても我らが神が死んでしまったため、フジヤマに封印されておったヤマタノオロチが復活してもうたわけじゃ。ヤマタノオロチを倒さねば我がジパングに平和が訪れぬ。どうかマコトよ、そなたの勇者の力を妾に貸してたもれ。」

 

そう言って鼻の下を伸ばす勇者の手を握り、上目遣いで懇願するミコちゃん。

面白くないけど、ジパングの人々を救わなきゃならないのも事実。

こうして私たちは成り行き上、荒ぶる神とやらの代わりにヤマタノオロチを退治することになってしまいました。

 

 

つづく



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