その先の物語 (人間性の苗床マン)
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全ての始まり
プロローグ


処女作の上に初投稿!
めっさ頑張ります


          

 

私の名前は『リリィ・ドーラ』。

 

特にこれといった家庭事情もない、しがない学生だ。

 

「また月曜日が始まるッ!!リリィに会える時間が短くなるッ!!」と何時ものごとく抱きつきにくる、我が父『リク・ドーラ(・・・・・・)』をこれまた何時ものように回避する。

 

そして、見た目は幼女な母である『シュヴィ・ドーラ(・・・・・・・・)』に手を振って玄関に手を掛ける。

 

「行って…きます…」

「ん…行って、らっしゃい…」

 

 

お互い口数少なく挨拶して歩きだす。

 

 

教室について、ある一人が目に入る。

 

南雲ハジメという男子、我が親友だ。

 

「…おはよう?」

「なんで疑問形なんですかねぇ…」

と返される。

 

「…目の下に、隈がある…から。多分…徹夜?」

「正解ですよぉ…流石親友ってか?」

「ん…ハジメと喋るの、面白いから…」

「素直にありがとうな、リリィ」

「…問題ない」

 

そして

 

「おはよう!南雲君にリリィちゃん。南雲くんはいつもだけど、リリィちゃんもギリギリなんて珍しいね?」

 

何でか私達を気にかける白崎香織(しらさきかおり)さんだ。瞬間的に視線が集まる。私は男子から、ハジメは男女ともに。見た目は控え目に見ても美少女で、ハジメと私が白い目を向けられる要因の一つである。

 

「ん…おはよう」

「あ、あぁ、おはよう白崎さん」

 

そう返すと白崎さんが微笑む。さらに視線が集まり、最早『死線』である。

そこに、三人の男女が近寄ってくる。一人はいい男然とした男子、そしてその親友である男子、そしてこれまた美少女。

 

「南雲君、リリィちゃん。今日も朝から大変ね?」

「香織、また彼等の世話を焼いているのか?全く、本当に香織は優しいな」

「全くだぜ、そんなやる気のないヤツラにゃあ何を言っても無駄と思うけどなぁ」

 

そう言って、マトモに話しかけてきた女子は白崎さんの親友である、八重樫雫(やえがししずく)だ。

白崎さんが可愛い系なら、八重樫さんはスポーティー系の美少女だ。

彼女の実家は道場をやっており、そのためか出で立ちからカッコよさが滲みでている。

 

 

次になんか気障ったらしいセリフで白崎さんに声をかけたのは天之河光輝(あまのがわこうき)。凄まじいキラキラネームであるが、スポーツ万能な上に、成績優秀、容姿端麗の三拍子揃ったイケメンである。ただ、その気障さから私は某天照分霊の狐いわくのイケモンに見えてしまう。

凄まじく自分に足りない身長。それを180㎝も持っているという。そこだけは羨ましい。

 

次に若干投げやり気味に声をかけてきた、坂上龍太郎(さかがみりゅうたろう)。天之川の親友である190㎝も身長のあるマッチョメンである。

その見た目のごとく熱血漢で努力大好きな人間だ。

 

「ん…おはよう、三人とも…それと、リリィは男…ちゃんじゃない…」

「おはよう、八重樫さん、天之河くん、坂上くん。はは、まぁ自業自得とも言えるから仕方ないよ。それと、リリィはその見た目だからね、しょうがない」

 

 

二人で挨拶すると視線が刺さる。八重樫さんも大人気なため、ある意味しょうがないことでもある。

そして、私、リリィは見た目が完全に幼女であることに何時ものように、心のなかで膝を折った。

 

「それが分かっているのなら直すべきじゃないかい?

何時までも香織の優しさに甘えるのはどうかと思うよ?

香織だって君達にばかり構ってばかりはいられないんだから」

 

うん、やっぱりイケモンだ。若干喋りに欲望を感じる気がする。だからかわからないけど、あんまり天之川は好きになれない。

ハジメや私からしたら白崎さんが構ってくるので、なんというかとばっちり感が否めない。

というより、何故白崎さんが私やハジメに気をかけるのかがわからない。

 

そして、直せと言われても、ハジメも私も趣味や楽しいことには命を燃やす方なので、なんともいえない。

 

「……」

「いやぁ~、あははは~」

 

私は無言で、ハジメは笑って流そうとすると、学園の女神様は爆弾を降下させる。

 

「?光輝くん、何言ってるの?私はリリィちゃんや南雲くんと話たいから話しかけてるだけだよ?」

 

死線が突き刺さる。死線は晒されるのではなく放たれた。

そして檜山たちは校舎裏(で処す)計画をたて始めた。

 

「え……ああ、ホント、香織は優しいなよな」

 

イケモンに合掌。こちらのダメージは大きいけど、イケモンも中々だ。

 

ハジメは窓の外の青空を見て現実逃避を始めていた。

 

「……ごめんなさいね?二人に悪気はないのだけど……」

 

ある程度人間関係の分かっているらしい八重樫さんが謝罪する。あぁ、確かに女神だ、うん。

 

私は席に座り異様に体力を使わされたような感じの体の重さからチャイム後にハジメとともに夢の中へ旅立った。

 

そんな二人を見て白崎さんは微笑み、また視線が刺さった。

 

 

          

 

教室内のざわめきに、体を起こす。弁当を取り出す、と言ってもおにぎり2つだけれども。

ハジメも目を覚まし、10秒チャージのゼリー飲料を飲み始めた。

 

 

そして飲み終わり、ハジメが寝ようとする。だが、後ろには女神もとい今は悪魔ともいえる白崎さんが立っている。

ハジメが渋い顔をする。しまったとでも思っているのだろう。そして、こちらにも視線を向けてくる。しまった。

 

「南雲くん、リリィちゃん!珍しいね、教室にいるの。お弁当?よかったら一緒にどうかな?」

 

巻き込まれてしまった。視線がまた刺さる。

そんな中、ハジメが

 

「あ~、誘ってくれて有難う、白崎さん。でも、もうリリィも食べおわったから天之河君達と一緒に食べたらどうかな?」

「同意、食べおわった、から…問題、ない」

 

ハジメとともに抵抗を試みる。

だが、女神には通用しなかった。

 

「えっ!お昼それだけなの?ダメだよ、ちゃんと食べないと!私のお弁当分けてあげるね!」

 

周りのある意味熱い空気に気付いてほしい。

益々上がっていく圧力のなか、イケモンが歩いてきた。

 

「香織。こっちで一緒に食べよう。南雲とドーラはまだ寝足りないみたいだしさ。せっかくの香織の美味しい手料理を寝ぼけたまま食べるなんて俺が許さないよ?」

 

おい、イケモンよ、願望丸出しだぞ。

そう気障な台詞を吐くイケモンを見ていると、女神が

 

 

「え? 何で、光輝くんの許しがいるの?」

 

 

すまない、イケモン、いや天之河よこれは笑う。

 

八重樫さんさえ「ブフッ」と吹き出している。

 

そして、らちがあかないと思ったのかハジメが立ち上がる。お茶を濁して逃走する気なのだろう。私もともに逃げようと立ち上がると、天之河の足元に魔法陣が広がった。

 

 

 

 

 

 

…………え?

 

 

 

 

その魔法陣は輝きを増す。先生の焦った声が聞こえ、側にいた白崎さんを無理やり屈ませたたその時

 

 

 

教室から全ての生徒が消えた。

 

 

それは集団神隠しとして後に世間を大きく騒がせるのだが、それはまた別の話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【『全連結指揮体(アインツィヒ)』より、全『機凱種(エクスマキナ)』に通達。『遺志体(プライヤー)』シュヴィ、『意志者(シュピーラー)』リクの子である、リリィ・ドーラが謎の魔法に巻き込まれ転移した。我ら機凱種はこの魔法陣を解析し、転移場所を特定、リリィ・ドーラの救出に向かう。尚、通信可能な者は『遺志体』シュヴィにこれを報告せよ――――――以上(アウス)

 

 

 

【【【【了解(ヤヴォール)】】】】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――余を弑した、否、敗北させた者の子を連れ出すとはなぁ――――

 

 

――――まぁ、どれでもよい――――

 

――――余が加護を与えよう。気休めにもならぬかも知れぬがな――――

 

――――余はここで見させてもらうとしよう――――

 

――――さぁ、お前(リリィ)はどのような(ゲーム)を余に魅せてくれるのだ?――――

 

 

 

 

 

そして、各々が動き出す

 

 

 




因みに主人公の見た目は、髪と目がリクと同じで身長や顔のつくりはシュヴィです。

リクとシュヴィはしっかりこのあとトータスに送りますのであしからず。


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第一章 異世界召喚とオルクス大迷宮
始まりの一


次話投稿デース!
因みに作者は学生なのでマジの不定期更新。
遅くなるときは遅くなるのでご了承ください。


光が収まり、目を開く。

覆い被さって無理やり屈ませていた香織さんから離れる。

なんか、顔が赤い?ただ、自意識過剰と思われるのはあれなのでスルーする。

思考がハジメと似ている?親友だからね、仕方ない。

 

場所は豪奢な、でも何故か嫌な感じのする絵が飾ってある、巨大な大理石の広間のようだ。「…ここは、どこ…?」と呆然としていると、私達はどうやら広間の最奥の台座のような場所の上にいるらしい。

周りにはハジメを含めたクラスメイト、先生までいる。

どうやら教室内にいた人は、問答無用で全員転移したらしい。

 

ハッとして、皆が呆然としている中、一人思考を走らせる。

 

周囲にいる祈祷師らしき人達。恐らくこの事態を説明できる者達だろう。

 

ハジメも周囲に注意を向けている。流石我が親友、復活が早い。

 

そして、祈祷師らしき人達を観察する。

 

全体的に白く、金の刺繍の施された衣装を身に纏い、傍らに錫杖のようなものを置いている。そして、まるで祈りを捧げるように、両手を胸の前で組んでこちらを向いている。

 

 

その中に一際目立つ法衣と烏帽子を被っている、七十代くらいの老人がこちらに向かって歩いてくる。

 

なんか知らないが、生き生きしている。

 

「ようこそ、トータスへ。勇者様、そしてご同胞の皆様。歓迎致しますぞ。私は、聖教教会にて教皇の地位に就いておりますイシュタル・ランゴバルドと申す者。以後、宜しくお願い致しますぞ」

 

と、一瞬頭に金欠の某女神がよぎったが、目の前の老人は好々爺然とした微笑みを浮かべていた。

 

 

          

 

 

 

現在、私達は場所を移動し、十メートル程のテーブルがいくつも並んだ部屋へ来ていた。

 

ここも中々豪奢な飾りが施されており、客がディナーでも行うような場所なのだろう。

 

イケモンこと天之河達四人組や愛子先生が上座に近いところに座る。

皆は割りと落ち着いている。多分、天之河が声をかけたのと、イシュタルさんが事情を話すと言ったからなのだろう。

 

因みに愛子先生はその間頑張っていたが、涙目だった。

 

全員が着席すると、メイドのような人達がカートを押しながら入ってきた。

男子は皆、そのメイド達を注視している。

自分は父親からも「枯れているのか?」と言われるほど、そういったことにあまり興味がない。

むしろ食い意地が張っている。

興味はカートへ注がれる。内心ウキウキである。

因みにその間、男子に対する女子の視線は鋭かった。

そして、何故か白崎さんは此方を見てニコニコしていた。

 

 

しばらくして、イシュタルさんの話が始まる。

 

 

どうやらこの世界では人間と魔人と亜人がいるらしく、そのうちの人間と魔人が戦争をしているらい。そして魔人が最近、魔物を使役する術を得たらしく、単体の力ではなく数で押していた人間たちは数も追い付かれ始め、窮地に陥っているらしい。

そこで、人々の信仰の中心たるエヒトという神が天之河を召喚、神託によると天之川が勇者らしい。

 

ラノベかな?と思った私は悪くないはず。

 

因みに神託云々の話をしているときのイシュタルさんの顔が恍惚に染まっており、少し怖かった。

 

 

そんな中、愛子先生が立ち上がり

 

「ふざけないで下さい! 結局、この子達に戦争させようってことでしょ! そんなの許しません! ええ、先生は絶対に許しませんよ! 私達を早く帰して下さい! きっと、ご家族も心配しているはずです! あなた達のしていることは唯の誘拐ですよ!」

 

と憤る。

 

ちなみに愛子先生の見た目は私と同じで幼いため、必死さと見た目のギャップで大半の生徒に庇護欲を抱かせていた。

 

それに対してイシュタルさんは

 

「お気持ちはお察しします。しかし……あなた方の帰還は現状では不可能です」

 

 

場が凍る。

そして、愛子先生は叫ぶ

 

「ふ、不可能って……ど、どういうことですか!? 喚べたのなら帰せるでしょう!?」

 

ごもっともだが、それに対してイシュタルは

 

「先ほど言ったように、あなた方を召喚したのはエヒト様です。我々人間に異世界に干渉するような魔法は使えませんのでな、あなた方が帰還できるかどうかもエヒト様の御意志次第ということですな」

 

と宣った。

 

すると、生徒達は勿論取り乱し始める。

 

「うそだろ? 帰れないってなんだよ!」

「いやよ! 何でもいいから帰してよ!」

「戦争なんて冗談じゃねぇ! ふざけんなよ!」

「なんで、なんで、なんで……」

 

それはそうだ。勝手に呼ばれた挙げ句、帰れもしないなんて

 

そんな中、イシュタルさんは「エヒト様に選ばれておいて何故喜べないのか」という侮蔑を瞳の中に浮かべていた。

これが狂信者か、そう私は思った。

神の御心のままに、それ以外を否定しそうだなとも思った。

 

けれど、あまり自分は取り乱さなかった。

何故だろう。あの両親なら、その親バカの力で無理やり次元の壁をぶち破ってこっちに来そうである。

 

そんな混乱の中、おもむろに天之河がドンッと机を叩き、その音で注目を集めると、話始めた

「皆、ここでイシュタルさんに文句を言っても意味がない。彼にだってどうしようもないんだ。……俺は、俺は戦おうと思う。この世界の人達が滅亡の危機にあるのは事実なんだ。それを知って、放って置くなんて俺にはできない。それに、人間を救うために召喚されたのなら、救済さえ終われば帰してくれるかもしれない。……イシュタルさん? どうですか?」

「そうですな。エヒト様も救世主の願いを無碍にはしますまい」

「俺達には大きな力があるんですよね? ここに来てから妙に力が漲っている感じがします」

「ええ、そうです。ざっと、この世界の者と比べると数倍から数十倍の力を持っていると考えていいでしょうな」

「うん、なら大丈夫。俺は戦う。人々を救い、皆が家に帰れるように。俺が世界も皆も救ってみせる!!」

 

と宣った。

「おい」と私は思った。

両親からお伽噺、いやにリアルな、世界に挑んだ幽霊と名乗る人達の話を昔から聞かされていた。そのお伽噺で理解したのは「世界は甘くない」ということ。

全ては単純故に、残酷。その中で幾つもの犠牲が敵味方かまわず生まれるということを。

 

だが、天之川のカリスマ故にクラスメイトはそこに希望を見出だす。女子は天之河に熱い視線を送る。

 

「へっ、お前ならそう言うと思ったぜ。お前一人じゃ心配だからな。……俺もやるぜ?」

「龍太郎……」

「今のところ、それしかないわよね。……気に食わないけど……私もやるわ」

「雫……」

「え、えっと、雫ちゃんがやるなら私も頑張るよ!」

「香織……」

 

例の四人組が賛成し、それが広がって行く。

異論を唱えることなど無理そうだ。

まぁ、言うなれば……

 

仲間は誰も死なせずに勝利する(・・・・・・・・・・・・・・)

 

敵方が、裏切り者が死ぬ?

 

構わない(・・・・)

 

 

でも、絶対に友人だけは守り通す。

 

そう心に誓った。

 

父みたいに言うのなら

 

 

意思に誓って(アッシェント)

 

だろうか?

 

 

 

そして、天之河に悟らせず、話を上手い方向へ持っていったイシュタルさん。いや、イシュタルを心の中で要注意人物(ブラックリスト)に追加した。

 

 

 

 

―――さて、それじゃあ

 

――――誓いの履行(ゲーム)を始めるとしよう

 

 

 

 




今回は主人公は喋りませんでした。

そして、質問にもありましたが、香織は一応ハーレムに入っております。
好意の描写自体初めて書くので、少し雑かもしれません。

それと、主人公くんはただの外道に関しては絶許なのであしからず。

そして、今回も読んでくれてありがとぉ!!

1月12日、矛盾を発見したので修正


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ステータス、異常?

ステータス回です。
タグの通りにバグらせますので、ご期待くださいね!


皆が戦争参加を決意したからには、それ相応の訓練が必要な訳だ。

元々、平和主義を掲げている国の一般国民なので、初っぱなから魔物達と闘えと言われても、普通に無理である。

 

ただ、そこら辺の事情は勿論考えていたらしく、イシュタル曰く、この聖教教会本山がある【神山】の麓の【ハイリヒ王国】という国にて受け入れ態勢が整っているらしい。

 

その王国は聖教教会と密接な関わりがあるらしく、曰く、エヒト神の眷属であるシャルム・バーンなる人物が建国した国らしい。

国の背後に教会があるらしいので、そこで繋がりの深さが窺い知れる。

 

私達は聖教教会の正門前へやって来た。教会は神山の頂上にあるらしく、凱旋門のような門を潜ると、美しい雲海が見えた。

かなりの高度なのに息苦しさなどを感じないのは、恐らく魔法で生活環境を整えているのだろう。

 

私達は太陽の光を浴びて燦然と煌めく雲海の幻想的な光景に、目を奪われながら進んでいく。

 

どこか自慢げなイシュタルの後ろをついていき、柵に囲まれた円形の大きな台座へやって来た。

 

大聖堂で見たのと同じ素材で作られているらしい回廊を進み、促されるまま台座の上に乗る。

 

台座には、巨大な魔法陣が刻まれていた。柵の向こうは、もう雲海なので、皆が中央に身を寄せる。

ただ、周りが気になる人もいるようで、キョロキョロしている人もいた。

 

そして、イシュタルがなにやら呪文を唱えはじめる。

 

「彼の者へと至る道、信仰と共に開かれん、“天道”」

 

途端に、足元の魔法陣が燦然と輝きだす。

すると、唐突に足元の台座がさながらロープウェイのように滑らかに下りだした。

 

しばらくすると、雲海を抜け地上が見えてきた。眼下には大きな町、いや国が見える。山肌からせり出すように建築された巨大な城と放射状に広がる城下町。それがハイリヒ王国の王都のようだ。台座は、王宮と空中回廊で繋がっている高い塔の屋上に続いているようである。

 

 

私はなんとも胡散臭い演出だな、と思った。

空から雲海を割り、現れる様はさながら“神の使徒”。

私達だけでなく、聖教信者が教会の聖職者を神聖視するのも無理もないのかもしれない。

 

私はふと、両親から聞かされていた物語を思い出す。

それぞれが我が創造主が最強と讃え、崇め、最後には星を殺すに至った永遠の戦争が起こったという(いびつ)(ゆが)んだ物語。まぁ、結果は遊戯の神(テト)という存在が不戦勝で勝利して、全てがゲームで決まる、優しい世界へ変わったらしいが。

 

その物語とこの世界を重ねて合わせる。

 

似ている。

 

特に皆が一様に“神の意思(・・・・)”を中心に生きているその光景が。

 

 

私達の帰還も、人々の命運さえも、全てが神の意次第ということなのか、とよぎる不安を鎮める。

そして、今一度心に刻んだ誓いを胸に歩きだす。

 

 

 

          

 

 

 

王城に着くと、すぐに私達は玉座の間に通された。

教会に負けないくらい豪奢な飾りの施された廊下を進む。

途中で騎士のような出で立ちの人や、メイドらしき人とすれ違うのだが、皆一様にこちらを期待をこめた目、畏敬の念を感じる眼差しで此方を見つめる。

 

少しばかりこちらの事情を知っているらしい。

 

少しばかり居心地の悪さを感じながら、集団の真ん中辺りをちょこちょことついていった。

 

しばらくして、より豪奢で美しい意匠の施された両開きの扉の前へと到着した。

 

この先が謁見の間なのだろう。

 

衛兵が私達の到着を確認して、声を張り上げる。

そして、中にいるであろう人の返事すら待たずに扉をひらく。

 

イシュタルはさも当然そうに扉を潜る。

 

扉の先には真っ直ぐ敷かれたレッドカーペット。

その先にある玉砕。そこには王様であろう人が立ち上がって(・・・・・・)待っていた。

 

 

その隣には王妃と思われる女性、その更に隣には十歳前後の金髪碧眼の美少年、十四、五歳の同じく金髪碧眼の美少女が控えていた。更に、レッドカーペットの両サイドには左側に甲冑や軍服らしき衣装を纏った者達が、右側には文官らしき者達が三十人以上ずらっと並んで佇んでいた。

 

 

玉座の手前へ着くと、イシュタルは私達を止め置いた。

そして、イシュタルは王様の隣へ行き、手を差し出す。

 

すると、王様が恭しく手をとり手の甲へ触れないくらいの軽いキスをした。

 

少しの間唖然としてしまった。

これで王様より神に仕えるイシュタルの方が立場が上であることが理解させられた。

 

なんともまぁ、凄まじい光景を見させられ、その意味をりかいさせられ、少し目眩がする。

 

そして、自己紹介が始まった。国王の名をエリヒド・S・B・ハイリヒといい、王妃をルルアリアというらしい。金髪美少年はランデル王子、王女はリリアーナというらしい。

 

 

その後、晩餐会が開かれ異世界料理を堪能した。見た目は地球の洋食とほとんど変わらなかったけれど、たまにピンク色のソースや虹色に輝く飲み物が出てきたりした。でも、どれもとても美味しかった。

 

「……おい、しい…」

「確かに不思議な食べ物もあるけど、美味しいな」

 

と、ハジメと受け答えしながら食べ進める。

 

周りを見ると、白崎さんが王子にしきりに話しかけられていた。本人は困ったような笑みを浮かべていたけれど。

まぁ、王子様はみた感じ十歳前後だし仕方ないのかもしれない。

 

王宮ではその後、訓練の教官の紹介や衣食住の保証の説明がされた。教官達は現役の騎士団や宮廷魔法師から選ばれたそうだ。

 

晩餐が終わり、各自の部屋へ案内された。

天蓋付のベッドは初めてで、少し落ち着かなかった。

 

そして、怒濤の勢いで過ぎていった今日を振り返り、ベッドに入って眠りについた。

 

眠りには案外早く入ることができた。

 

 

 

 

          

 

 

 

翌日から、早速訓練と座学が始まった。

 

まず、集まった生徒達には十二センチ×七センチ位の銀色のプレートが配られた。不思議そうに配られたプレートを見る生徒達に、騎士団長メルド・ロギンスさんが直々に説明を始めた。

 

騎士団長が出てきて大丈夫なのか?と疑問に思ったが、勇者一行に粗相は出来ないと、立場の上の者を連れてきたのだろう。

 

まぁ、メルド団長さん自体もかなり乗り気なのでいいか、と思考を放棄する。

 

仕事を押し付けられた副長さんには心の中で合掌した。

 

「よし、全員に配り終わったな? このプレートは、ステータスプレートと呼ばれている。文字通り、自分の客観的なステータスを数値化して示してくれるものだ。最も信頼のある身分証明書でもある。これがあれば迷子になっても平気だからな、失くすなよ?」

 

と、気さくに喋るメルドさん。戦友となる者達に他人行儀で話せるかとは本人の弁。

 

まぁ、きちきちのお堅い人よりはマシだろう。畏まってしまっては訓練にもあまり身が入らなそうだ。

 

「プレートの一面に魔法陣が刻まれているだろう。そこに、一緒に渡した針で指に傷を作って魔法陣に血を一滴垂らしてくれ。それで所持者が登録される。 “ステータスオープン”と言えば表に自分のステータスが表示されるはずだ。ああ、原理とか聞くなよ? そんなもん知らないからな。神代のアーティファクトの類だ」

「アーティファクト?」

 

と、天之河が聞き慣れない単語に質問する。

 

理解した私達は早速指先を針で少し刺し、垂れた血を少し魔法陣につける。

 

すると……

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

リリィ・ドーラ 17歳 男 レベル:1

天職:幽霊

筋力:1500

体力:∞

耐性:∞

敏捷:3000

魔力:1000

魔耐:∞

技能:機凱種(エクスマキナ)特性【全連結指揮体(アインツィヒ)直下連結】 模倣武装典開 精霊回廊接続神経[魔力の無限補充] 再構築[体] ■■(■■■■■)の加護 ステータス偽装 魔力操作 言語理解

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

一体全体どういうことなのだろうか?

筋力や俊敏、魔力は平均値がわからないから置いておくとして、(無限)ってどういうことなのだろうか?

とりあえずそれは話を聞くことにしよう。

 

何故かバグっているのがあることだし。

 

それに、機凱種。両親の語る物語に登場する機械生命体。

物語に登場した神様、『神霊種(オールドデウス)』すらも倒すことが可能な無限の進化を続ける種族。

 

両親に聞くべき話が増えた。

 

そして、『ステータス偽装』これは有難い。もし、ステータスが異常な場合(既に異常な気もするが)、平均値に合わせたものに偽造できる。いいじゃないですか。

 

天職:幽霊。またもや両親から聞いた物語に出てくる単語だ。恐らく『ステータス偽装』はこの職業の固有技能なのだろう。いい仕事をしてくれた。

 

「全員見れたか? 説明するぞ? まず、最初に“レベル”があるだろう? それは各ステータスの上昇と共に上がる。上限は100でそれがその人間の限界を示す。つまりレベルは、その人間が到達できる領域の現在値を示していると思ってくれ。レベル100ということは、人間としての潜在能力を全て発揮した極地ということだからな。そんな奴はそうそういない」

 

と、メルドさんが説明する。

 

どうやらレベルの上昇でのステータス補正はないらしい。

 

「ステータスは日々の鍛錬で当然上昇するし、魔法や魔法具で上昇させることもできる。また、魔力の高い者は自然と他のステータスも高くなる。詳しいことはわかっていないが、魔力が身体のスペックを無意識に補助しているのではないかと考えられている。それと、後で、お前等用に装備を選んでもらうから楽しみにしておけ。何せ救国の勇者御一行だからな。国の宝物庫大解放だぞ!」

 

まぁ、詳しいことが分かっていたらもっと進撃してるだろう。

 

「次に“天職”ってのがあるだろう? それは言うなれば“才能”だ。末尾にある“技能”と連動していて、その天職の領分においては無類の才能を発揮する。天職持ちは少ない。戦闘系天職と非戦系天職に分類されるんだが、戦闘系は千人に一人、ものによっちゃあ万人に一人の割合だ。非戦系も少ないと言えば少ないが……百人に一人はいるな。十人に一人という珍しくないものも結構ある。生産職は持っている奴が多いな」

 

成る程、つまり幽霊は普通存在しない職業なのだろう。

恐らく自身を誰にも悟らせない(・・・・・・・・・・・)ことに特化した職業であることがあの物語から推測できる。

 

「後は……各ステータスは見たままだ。大体レベル1の平均は10くらいだな。まぁ、お前達ならその数倍から数十倍は高いだろうがな! 全く羨ましい限りだ! あ、ステータスプレートの内容は報告してくれ。訓練内容の参考にしなきゃならんからな」

 

よし、偽造しよう。そうと決まれば職業は魔術師に偽装。

その他ステータスは大体70くらいに偽装する。

技能は魔力操作と言語理解のみの表示へ偽装する。

 

因みに天之河のステータスはオール100であった。

 

うん、偽装最高!!

 

「……ハジメは、どう……?」

 

聞くと、冷や汗を流している

 

覗き見る。

 

察する。

 

「……ごめ、んね……?」

「ううん、謝らないでリリィ。悲しくなってくる」

 

まさかのオール10。

 

完全に、一般人である。

しかも天職:錬成師。メルドさんも絶句。曰く、錬成師は鍜冶師のようなものらしく、もの作りの際に、補正がかかるらしい。

 

檜山大輔(クソヤロウ)が、ニヤニヤとしながら声を張り上げる。

 

「おいおい、南雲。もしかしてお前、非戦系か? 鍛治職でどうやって戦うんだよ? メルドさん、その錬成師って珍しいんっすか?」

「……いや、鍛治職の十人に一人は持っている。国お抱えの職人は全員持っているな」

「おいおい、南雲~。お前、そんなんで戦えるわけ?」

 

と嘲笑する。

 

そして、群がってきた奴らも口々に嘲笑う。

 

そして、愛子先生が注意して、ステータスをハジメに見せる。

 

ハジメ、沈む。

 

愛子先生がまさかの上げて落とした(無自覚)

 

ハジメの前途多難さに、この先フォローを入れてあげようと心から思った。

 

 

 




以上でございやす。
何気に書いてて楽しかった回ですねぇ。
アルトシュ様の加護をどう表記しようとか、どこにクラスタ連結させるかとか、構想が広がって行く感覚ゥ!!

最高ですね、はい。

誤字修正!報告有り難うございます!


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図書館で調べもの、動く両親

はい、ようやくリクとシュヴィ、アインツィヒが動きます!
こうご期待!!


ハジメに貧弱さが突きつけられた2週間後、私とハジメは訓練の休憩時間を利用して図書館に来ていた。

 

ハジメは自分の弱さを知恵でカバーするため、私は少しでもいいから、機凱種(エクスマキナ)という種族について詳しく分かればいいなと。

 

まぁ、ハジメは兎も角、私の探しているものはなかなか見つからなかった。

 

諦めかけて、自分も魔物について少し調べようと机に戻る。

 

すると、机の上に見たことのない本があった。結構厚めで、題名は

 

十六種族(イクシード)大全 著:テト』

 

なんだこれ?

テトって一体?

 

表紙をめくる。

 

「これを読んでいる君は大変面白い状況になってるはずっ!!

これで疑問を晴らせるといいね♪」

 

……エスパーかな?

なんで分かったし。しかも少々胡散臭い。まぁ、読む価値はある。

 

目次を開く。

 

どうやら序列順に書かれているようだ。

 

序列一位の『神霊種(オールドデウス)』から、十六位の『人類種(イマニティ)』までが書かれているようだ。

 

そして、目的のものを見つけた。

 

位階序列十位『機凱種(エクスマキナ)』。

 

本当に見つかった。ありがたいけど、テトとか言う奴の胡散臭さが上がった。

 

説明によると、

 

――――――――――

 

『機凱種』

 

あらゆる攻撃を解析、模倣する種族であり、通常の生命体ではなく、体が機械で構成されている。

連結体(クラスタ)を形成し、集団で行動をとる。

ある遺志体(プライヤー)により心を得ている。

機械故に一度使った戦略は二度と通用しない。

大戦時に神殺しを行えた数少ない種族の内の一つであり、武装はとても強力。

自動修復能力も有しており、全壊しない限りどれだけ傷を負えど回復し続ける。

耐火や防塵、防爆、耐魔力、耐精霊などの様々な耐性を有しており、生半可な攻撃では傷つくことはない。

 

――――――――――

 

………………機凱種強すぎィ!!

 

え?機械なのに心を持っているとか手の付けようがない。

まぁ、下手に手を出さなければいいのかもしれないが。

連結してるということは、例え一体でも喧嘩売ればそのまま沢山の機凱種に囲まれてボコられるということか。

 

耐魔力とかの副次効果も強力で、生半可な攻撃は効かないというチート仕様。そして自動修復。

耐性と体力の無限も納得である。削りようがない。

 

『幽霊』については分からなかったが、十分にいい収穫だった。

 

懐に『十六種族大全』を仕舞い、ハジメのところへ向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「うがぁぁぁあッ!!まだ、リリィは見つからないのかッ!?」

「…リク、心配、しすぎ…リリィなら、大丈夫……」

「そりゃ、俺達の息子だぜ?んなこと分かってる。けどさぁ、心配なものは心配だろ?」

「……確かに、そう、だけど……」

 

全連結指揮体(アインツィヒ)より報告。魔法陣の解析及び模倣完了。世界移動が可能となった。】

 

「よっしゃぁ!!アインツィヒ!!早速行くぞッ!!」

「…リク、興奮しすぎ…」

「久しぶりに息子に会えるッ!!心配した分撫でてやる!!」

「…リク、シュヴィより、子煩悩……?」

 

了解(ヤヴォール)。では、魔法陣は此方で保護する。それでいいか?】

 

「勿論だ!息子よぉぉお!!待っていろぉぉおお!!」

「……ん、行こう?」

 

【了解。今からそちらに向かう】

 

「といっても、直ぐだがな。」

「……実際、《偽典・天移(シュラポクリフェン)》使えば、一瞬……」

「リリィィィィイ!!」

「…早く、行こ…?」

「了解。典開(レーゼン)、座標登録。《偽典・天移(シュラポクリフェン)》」

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

 

「…到着…?」

「観測座標への転移成功。以後、連結体に接続。連絡を行うことにする。」

「…ん、分かった…」

「ふぅ、少し興奮しすぎたな。」

「「…今さら…?」」

「ぐっ、ま、まぁいいじゃんかよ。それよりシュヴィ、観測機飛ばしてリリィを探すぞ。」

「…ん、了解…」

「此方は連結によるアプローチをかけてみよう。遺志体の子であるならば、どこかの連結体に接続されている可能性がある。とりあえず、直属の方から連絡をしてみることにしよう。」

「よろしく頼む、アインツィヒ。」

「…頼んだ、よ…?」

「問題ない。」

 

――――――――――――――――――――――

 

【こちら全連結指揮体(アインツィヒ)、リリィ・ドーラ、聞こえるのならば返答を求む】

 

唐突に頭にそんな声が響く。

 

「…聞こえる、よ…?」

【確認。私の名はアインツィヒという。いまから父母を連れて(・・・・・・)そちらに向かう】

「…………へ?」

 

 

……父母を連れて(・・・・・・)

 

「お父さんと、お母さんが此方に来てるの?」

 

いつになく早口で聞いてしまった

 

【肯定。少しの間そこで待っていて欲しい】

 

「…問題、ない…」

 

まさか、本当に来るとは……

親バカ極まれりだが、やっぱり嬉しい!

思わず笑みが溢れる。

何の歌かわからないけど、鼻歌を歌う。

 

そして、

 

「リリィィィィイ!!」

「ッ!!……リリィ!!」

「……お父さん、お母さんッ!!」

 

「お父さん心配したんだぞぉ!!何時までも学校から帰ってこないと思ったら神隠しなんてぇ!!」

「…リリィ、大丈夫……?」

「…ん、大丈夫!」

笑顔で言う

「「……やっぱり家の息子が一番可愛い!」」

 

「…親子の美しい再会中すまないが私をあまり無視しないで欲しいのだが……」

「「「……あ」」」

 

「…その声、アインツィヒさん……?」

「そうだ、機凱種(エクスマキナ)のアインツィヒ、全連結指揮体だ。よろしく頼む。」

「…よろしく、お願いします…」

「そんなに畏まらなくてもいいぞ?」

「…ん、有難う…」

 

「……それと、お父さん、お母さん。聞きたいこと、ある……」

 

 

 

 

 

このあとめちゃくちゃお話(説明)した。

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

休憩時間が終わり、訓練所へ向かう。

説明してもらったけど、まさかあの物語が実体験だったとは。

 

「…お父さん達、すごいね…」

「いや、そうでもないぞ?ただあのときは、未来のためにがむしゃらに動き回ってただけだし。」

「…結局、勝てなかったし…」

「…それでも、お父さん達、格好よかったよ…?」

「その言葉を聞けただけでも嬉しいさ。」

 

因みに今、お父さん達と一緒に着替えた服で歩いている。

お父さんはフードのついた、全体的に暗い色の獣皮のローブを纏った軽装、幽霊をやっていた時に着ていたものらしい。

お母さんは、耳のような飾りが縫われているローブで、此方も同じく幽霊時代に身に纏っていたものらしく、私も御揃いのを着ている。

 

訓練所についた。

とりあえず、両親のことを報告しなければならない。

 

「あれ?リリィ、その人達って誰だ?」

 

ハジメがやってきて、そう聞いてくる。

 

「…ん、お父さんと、お母さん…」

「…………ん?なんだって?」

「…両親…」

「は、はぁ!?何で居るんだよ!?」

「…文字通り、次元の壁、越えてきた…」

「え、えぇ……」

 

まぁ、ある意味究極の地雷だろう。

 

何故なら、神の御技を模倣し使用したのだから。

一体この国の人(特にイシュタル)は何て言うのだろうか?

 

まぁ、舌戦でお父さんに勝てる人はきっとお母さんくらいだろうから大丈夫かな?

 

この先のことを考えながら軽い足取りで皆の元へ向かって行った。

 

 




文字通りのキャラ崩壊。
うちのリクさんは子煩悩です。

さて、上手く親子の愛情表現を書けたでしょうか?
シュヴィも戦線参加です。
これからもっと内容を濃くしていこう!!

と決意して精進して参ります!!


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ふぁ○きん檜山、対処

魔法?逸らせばいいんだよ。

というわけでリリィが機凱種の武装を展開します。
そしていつの間にかお気に入り150件突入!!ありがとぉ!!
さて、表現力を焚べよ……

因みに更新が遅れた理由には、ちょっとロスリックに王狩り巡礼をしに行ってました。申し訳ないっす。


何日か日が経ち、両親とアインツィヒとともに訓練所へ向かう。

 

そして

 

 

ハジメが囲まれて攻撃を受けているのを目に納めた。

檜山達(クズども)の一人が火球を放ち、ハジメが回避したところに狙いをつけた一人が魔法の詠唱をしている。

 

「ここに風撃を望む、“風「典開(レーゼン)通行規制(アイン・ヴィーク)」球”…ッ!?」

 

お母さんから教えてもらった武装を早速使うことになるとは……

 

通行規制(アイン・ヴィーク)』攻撃を逸らすことを目的とした武装。

【焉龍】アランレイヴとその従龍(フォロワー)崩哮(ファークライ)を逸らし、複数使用することでアルトシュの『神撃』をも逸らす防御武装。

進入禁止(カイン・エンターク)』でも余裕で防げるだろうが、拡散する風圧をハジメに当てるつもりもない。

あれ、でも範囲広げれば風圧も防げるのか……

まぁ、お母さんの世界を救う一手に使われた武装だし親友を救うのにはちょうどいいのかも。

 

因みに今の私の姿はお母さんの武装典開時と同じである。髪と目はお父さんだけど。

 

「何しやがるてめぇッ!!」

 

攻撃を逸らされた斎藤がつっかかってくる。

 

「…親友が傷つけられるのを、防いだだけ、不満……?」

「俺らは訓練してるの、わ・か・る?」

「…一方的な攻撃、訓練、言わない…」

「シュヴィに同意だ、お前らは何をしている?」

「同じく、理解不能」

「ってか、おたくら誰よ?」

「俺はリク・ドーラ」

「…ん、シュヴィ・ドーラ…」

「付き添いのアインツィヒだ」

「ドーラぁ?」

「……」

「シュヴィさんにリクさん!?なにやってるんですか!?」

「いやなに、息子の親友が傷つけられるのは流石に、むしろ見過ごせなくてねぇ」

「…リクに、同意…」

「は?息子?」

「…ん、両親…」

「ハァァァア!?お前なに言ってるんだ?バカじゃねえの?マジありえねぇ~」

「…事実…」

「何やってるの!?」

「…白崎、さん…?」

 

言い合っていると、白崎さんや天之河達がやってきた。

 

「いや、誤解しないで欲しいんだけど、俺達、南雲の特訓に付き合ってただけで……」

「…あれ、特訓じゃない…」

「南雲くんもリリィちゃんも大丈夫!?」

「…被害ゼロ、ハジメは多少…」

 

多少咳き込んでいるハジメに白崎さんが心配そうに声をかける。

 

「大丈夫?それにしては、随分一方的みたいだけど。」

「いや、それは……」

「言い訳はいい。いくら南雲が戦闘に向かないからって、同じクラスの仲間だ。二度とこういうことはするべきじゃない」

「くっだらねぇことする暇があるなら、自分を鍛えろっての」

「…同意…」

 

何気に今回意見が合う天之河と龍太朗。

檜山達に慈悲はいらない。

そして、数多の口撃をくらって退散していく檜山たち、ざまーみろ。

ハジメは白崎さんに治癒魔法をかけられながら、白崎さんに感謝する。

 

「あ、ありがとう。白崎さん。助かったよ。」

 

そんなハジメに白崎さんは笑いかけて

 

「大丈夫だよ!それにしても、いつもあんなことやられてたの?」

 

と、檜山達の逃げていった方向を少し睨む。

 

「い、いや!いつもってわけじゃないから!大丈夫だから、気にしないで!」

「そう?リリィちゃんも大丈夫?何かされてない?」

「…さっき言ったとおり、無傷…」

「それにリリィは二発目を防いでくれたからね!」

「…ん、初めて使ったけど、上手くいった…」

 

と、小さく『通行規制(アイン・ヴィーク)』を典開する。

 

「何?これ……」

「…『通行規制(アイン・ヴィーク)』、攻撃を逸らす武装…」

 

問いかけてきた八重樫さんに答える。

 

「…さすが、リリィだね――早速使いこなせてる…」

「…ん、ありがと…」

 

お母さんに誉められてちょっと嬉しい

 

「あなた達は?」

「リク・ドーラだ。」

「…シュヴィ・ドーラ…」

「アインツィヒと言うものだ。」

 

八重樫さんに聞かれて、両親が答える。

 

「え!?リクさんにシュヴィさん!?」

 

何故か白崎さんが驚いている。

 

「やぁ、久しぶりだね、白崎さん。」

「…久し、ぶり…」

「…知り合い…?」

「う、うん。保護者会の時に偶々知り合ってね?」

「それに、八重樫さんもお久しぶり。」

「え、えぇ。お久しぶりです。」

 

うちの両親は割りと顔が広いのかもしれない。

 

「それより、どうやって来たんですか!?」

「アインツィヒの『偽典・天移(シュラポクリフェン)』っていう、まぁ所謂瞬間移動するための道具だな。」

「因みに期待しているところ悪いが、起点とした魔法陣が一方通行のものだったので、帰還は現在不可能。移動したところでまた別の世界に転移してややこしくなるだけだ。」

「…帰れないのは、残念…」

 

ただ

 

「…やっぱり、来てくれて、ありがとう…」

「……おいシュヴィ、今の録音したか?リリィのレアなデレをッ!!」

「…ばっちぐー…」

「…ブレないね…」

 

その横で、天之川がハジメに小言を言っている。

弱いのは仕方ないからもう少し訓練に時間を充てたらどうだ?

とか、割りと真面目なことを言っていてびっくり。

 

こっちに来てからはしっかりイケメンをしているようだ。

 

 

 

―――――――――――――ーーーーーーーーーーー――――ー――ーー―――

 

 

なんやかんやで訓練も騒動も終了。

そして、夕食直前。メルド団長が注目を集め――

 

「明日から、実戦訓練の一環として【オルクス大迷宮】へ遠征に行く。必要なものはこちらで用意してあるが、今までの王都外での魔物との実戦訓練とは一線を画すと思ってくれ! まぁ、要するに気合入れろってことだ! 今日はゆっくり休めよ! では、解散!」

 

ハジメは相変わらず前途多難そうだ。

 

ホント、がんばってね?

 

まぁ、自分もこの迷宮遠征であんなことが起こるとは思ってなかったわけで、

 

 

 

 

ハジメと共に迷宮下で―――

 

 

 

 

「「ガッデム」」

 

 

 

と揃って呟いたのは悪くないはず――――

 

 

 

 

 

 

 




へい、頑張りました。とても難産でした。
リク達と香織たちをどう絡ませようか頑張って悩みましたよぉッ!!

まぁ、ほとんどロスリック巡礼で脳を浄化しながら書きましたけれど。

次回もどうぞ宜しくッ!!

誤字報告有り難うございます!


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迷宮へれっつごー

ドーモ。ドクシャ=サン。お久しぶりです。

ダクソ3dlc2ゲル爺まで行きましたよ!!
何気にハーフライトがうざかったですw
え?どう倒したって?毒殺だよ(無慈悲)

それでは参りましょう!


そんなこんなでやって来ました、【オルクス大迷宮】その直前の宿屋の町【ホルアド】。

 

どうやら新兵の訓練に使ってる王国直営の宿屋があるらしく、そこに私達は泊めてもらうらしい。

 

因みにお父さんお母さん達もついて来ている。

愛子先生には一応話を通しており、たいそう驚いていた。

 

それ以外はって?

 

OHANASIって素晴らしいよね!

 

まぁ、親しい友人は両親の正体を知っていて、それ以外は愛子先生が雇った監視員的な人だということで通している。

 

結構無理がある気がしたが、意外と通ったのである。

 

部屋はハジメと同室だった。

とりあえず檜山とかと一緒にならなくて良かった。

後で久しぶりにハジメとチェスでもしようかな?

 

因みに明日の迷宮探索は弱い人の事なども考慮して、十二層までしか行かないそうだ。

 

チェスをやって勝利して、明日もやりきるために早く寝ようとハジメと二人、うとうとしていると……

 

 

扉がノックされた。

 

 

ハジメはどうやら檜山達ではないか?と疑ってビクビクしているが、どうやら違うらしい。

 

私が扉を開くと

 

「リリィちゃんに南雲くん、起きてる? 白崎です。ちょっと、いいかな?」

 

なんということでしょう、そこには学園の女神様が。

しかもネグリジェである。

男子達が見たら襲いかかりそうだ。

私も男子だけどね。

なお、ハジメは呆然とした表情で「なんでやねん」と言っていた。

 

誠に同感である。

 

「えっ?」

 

当の本人はまるで気にしていなさそうだが

 

「…ん、なんでもない――――それより、どうした、の…?」

「ちょっとリリィちゃんと南雲くんと話がしたくて……迷惑だったかな?」

「…問題ない…」

「ありがとっ!」

 

と、部屋へ招き入れる。

 

少し警戒心が薄すぎではないだろうか。まぁ、両親にも枯れていると言われる自分と、趣味にのみ全力を注いできたハジメの部屋だからと言ってもここは男子部屋なのに……

 

ハジメと一緒に紅茶モドキを淹れる。

それを、白崎さんに渡す。

 

「ありがとう!」

 

嬉しそうに紅茶モドキに口をつける。

月明かりが白崎さんを美しく照らしているのを見て、確かに天使だね、と感想を抱きつつハジメを見る。

どうやら見惚れているようだ。別に欲情してる訳ではなく、純粋に神秘的な白崎さんに見惚れているみたい。

 

「…話したい、事って、何…?」

 

 

そう聞くと少し表情を曇らせる白崎さん。

さっきまでの笑顔が嘘のようだった。

 

「明日の迷宮だけど……リリィちゃんと南雲くんには町で待っていて欲しいの。教官達やクラスの皆は私が必ず説得する。だから! お願い!」

 

一体どういうことなのだろう。

ハジメとともに首を傾げる。

 

「えっと……確かに僕は足手まといとだは思うけど……流石にここまで来て待っているっていうのは認められないんじゃ……」

「違うの! 足手まといとかそういうことじゃないの!」

 

ハジメが困惑気味に問うと、白崎さんは声をあげて否定する。

 

「…じゃあ、どうして…?」

 

そう問うと、白崎さんは自身を落ち着かせるように胸にてを当てて語りだした。

 

「あのね、何だか凄く嫌な予感がするの。さっき少し眠ったんだけど……夢をみて……南雲くんが居たんだけど……声を掛けても全然気がついてくれなくて……走っても全然追いつけなくて……それで最後は……」

 

「……最後は?」

 

「消えてしまうの」

 

そう語った。

でも

 

「…じゃあ、何で、私も…?」

 

「その夢にね、続きがあってね……そのあとリリィちゃんも出てきて、南雲くんの後を追うように走って行ってね……リリィちゃんも声を掛けても振り向かないで走って行って……」

 

「…行って…?」

 

大体答えは見えている。でも、聞いてみる。

 

「リリィちゃんまで消えてしまうの……ッ!!」

 

なんて、不気味な夢だろうか。

心配であれば、ハジメが出てくるのも解る。

でも、一応ステータスを平均に留めている自分が出てくるのはちょっと恐ろしいものを感じる。

 

「…大丈夫、だよ…?」

「え?」

「…私には、ハジメも、お父さんも、お母さんも、メルド団長も、皆強い人が周りにいるから…」

 

それでも白崎さんはこちらを不安気に見つめてくる。

 

「…それでも、不安なら、白崎さんが私達を守って…?」

「どうし、て?」

「…白崎さんの天職、“治癒師”、だから―――私達が大怪我したら治してくれる…?」

「……うんっ!」

 

そして、その後私達は何気ない会話を交わして白崎さんが部屋に戻るのを見送って、眠りに入った。

 

 

 

 

 

 

 

その、部屋に戻る白崎さんの背中を見つめる誰かがいたこと、その顔が醜く歪んでいたことに私達が気づくことはなかった。

 

 




今回も読んでいただき有り難うございます!

ハジメと香織の出会いのお話は、そもそも不良をリリィが蹴散らしているので、香織にその現場を見られておりません。

香織とリリィの出会いも書く予定ですが、それは番外編になるかも。

次回も宜しくお願いしますね!

誤字修正、報告、本当にありがとうございます!


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迷宮と罠

へい、というわけで本格的にやっていきましょー!

題名の通り、ほんの少し天翼種の要素を出していきます

お気に入り400件超え、だと……
マジ有り難いッス!


次の日、私達は【オルクス大迷宮】の入り口に来ていた。

入り口の周りは商店が建ち並び、大層賑わっている。

入り口はまるで博物館のようで、私の想像していた陰気な迷宮の入り口とはかなり違っていた。

 

まるでライトノベルの世界のような受付窓口に、制服の職員の方々。

ここでステータスプレートの確認を行い、死者確認などを正確に行うそうだ。

無駄な死人を出さない為の措置なのだろう。

 

私達はそんな光景に、それぞれの所感を胸に抱きながらメルド団長の後ろをついていった。

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

迷宮内部は、外の賑やかさとは無縁だった。

壁は松明が無いにも関わらず、ぼんやりと発光している。

 

この迷宮は緑光石と呼ばれる特殊な鉱石の鉱脈を掘り下げて作られているらしい。

 

しばらく進み、周りを物珍しげに見渡していると壁の隙間という隙間から、灰色の毛玉が湧き出てきた。

 

「よし、光輝達が前に出ろ。他は下がれ! 交代で前に出てもらうからな、準備しておけ! あれはラットマンという魔物だ。すばしっこいが、たいした敵じゃない。冷静に行け!」

 

というわけで後衛(という設定)である私は後ろへ下がる。

 

だが、ラットマンというらしい魔物がとてつもなく気持ち悪い。

 

見た目はネズミだが、二足歩行の上にムキムキである。

 

これには流石の八重樫さんも顔が引きつる。

 

前方へ出た天之河と白崎さんとその仲良しさんが間合いに入ってきたラットマンを迎撃。

輝くバスターソードを振るう天之河が数体まとめて葬ったり、それを抜けたラットマンを白崎さん達が魔法で迎撃したり、訓練通りの堅実なフォーメーションで魔物を葬っていく。

 

因みに、天之河の持っている剣は例に漏れなく“聖剣”というアーティファクトらしい。

その性能は、聖なると付くわりには聖光の範囲に入ると敵が弱体化し、自身は常に身体強化されるというかなり嫌らしい仕様である。

 

八重樫さんも前に出ていて、私のような素人目で見ても洗練されている美しいフォームで敵を切り裂いていく。

 

後方支援をしている白崎さん達3人が同時に魔法を放って、ラットマンを燃やしていく。

終には灰となり崩れ落ちるラットマン、同情心が沸いてくる。まぁ、しないけど。

 

メルド団長をはじめとした騎士団の人達も絶句している。

 

まぁ、あっという間に殲滅しちゃったからね。

 

そして、魔石のことを注意され、顔が少し赤くなる白崎さん達。

オーバーキルだから、石すら残らなかったからね。

 

そして、死因でもかなりの高さを誇っているトラップをフェアスコープというものを使い見分けて進んで行く。

 

「よし、お前達。ここから先は一種類の魔物だけでなく複数種類の魔物が混在したり連携を組んで襲ってくる。今までが楽勝だったからと言ってくれぐれも油断するなよ! 今日はこの二十層で訓練して終了だ! 気合入れろ!」

 

と、そこでメルド団長がそう掛け声をあげる。

 

ハジメは今のところ魔物を倒せていない。

パーティーの後ろをついていく寄生型プレイヤーみたいになっているなぁ、と落ち込んでいるのを慰めて前へ進んでいく。

ハジメが騎士団の人達が誘導した魔物を倒し、一緒に小休止をいれる。

 

前を見ると、たまたま此方を向いていた白崎さんと目が合う。

 

ずっと此方をみているので首を傾げると、顔を赤くして目を逸らされる。

謎が深まった。

頭上に?マークを浮かべていると、目を逸らした白崎さんを見て八重樫さんが苦笑いして

 

「香織、何、リリィちゃんと見つめ合っているのよ?迷宮の中でラブコメ何て随分と余裕じゃない?」

 

と言った。

白崎さんは顔を更に赤くして否定する。

 

「もう、雫ちゃん!変なこと言わないで!私はただ、リリィちゃん大丈夫かなって、それだけだよ!」

 

「それがラブコメでしょ?」という八重樫さん。話は切り上げたが目が笑っている。それを見て「もうっ」と拗ねる白崎さん。

 

それを眺めていると、ふと背筋に悪寒が走る。

負の感情丸出しの、粘つくような不快な視線。

今までハジメと共に教室で感じていたソレと同じ類いの視線だが、いつものそれよりも深く、重い。そんな視線。

 

「……リリィ。大丈夫か?」

 

お父さんが小声で聞いてくる。

 

「…大丈、夫―――たぶん…」

 

と返す。

 

この視線が、白崎さんの言っていた嫌な予感の原因なのだろうか。

 

これは本当に是が非でも気を付けなければならなくなった。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

二十階層の探索を再開する。

周りに気をつけて歩いていると、メルド団長達が唐突に臨戦態勢に入る。

 

姿は見えない。けれど、どうやら魔物のようだ。

 

「擬態しているぞ!周りをよ~く注意しておけ!」

 

すると、せりだした壁の一部が変色、変形しながら獣のような姿へ変貌する。そしてゴリラのようにドラミングを始める。

カメレオンのような擬態能力をもったゴリラ型の魔物のようだ。

 

「ロックマウントだ!二本の腕に注意しろ!豪腕だぞ!」

 

と、メルド団長の忠告が飛ぶ。

 

天之川達が迎撃しようとするが足場が悪く、思うように取り囲むことができない。

 

龍太郎が上手く押さえている。

それを理解したらしいロックマウントは大きくバックステップをして、息を吸い込む。

 

そして、

 

「グゥガガガアァァァアアアァァァッ!!」

 

部屋全体を揺るがす咆哮を轟かせた。

 

前衛組の体がダメージはないものの、その咆哮の衝撃で体を硬直させる。

 

ロックマウントの固有魔法“威圧の咆哮”だ。

それをまんまと食らってしまい、隙を見せた前衛組にロックマウントが突撃をかますと思いきや、サイドステップをして、近くにあった岩を見事な砲丸投げフォームで私を含む白崎さん達魔法使い組に投げつけた。

 

迫る岩を前に私達は魔法を発動しようとするが、先頭の白崎さん達女子組が投げられた物を見て、体を硬直させる。

 

なんと、投げられたのは只の岩ではなくロックマウントだったのだ。

 

しかもル○ンダイブのポーズを決めている。

さながら「か・お・り・ちゃ~ん!」とでも息を荒らげながら飛びかかってくるその様に「ヒィ!」と怯えて魔法の発動を中断してしまう。

 

そっちが止まってしまっては此方が放つしかないので、精霊回廊から精霊を吸い上げながら

 

「……走れ、『光槍』……ッ!!」

 

天翼種(フリューゲル)とやらが使っていたらしい魔法の槍を放つ。

 

本来は普通の光の槍となるらしいのだが、何故か私が撃つと黒い光槍となる。

 

お母さんを一度殺したジブリールという天翼種も漆黒の魔法槍を放っていたらしい。

 

因みに、詠唱はオリジナルである。本当は無詠唱で放つのだが、無詠唱でとてつもない威力の魔法が撃てたら怪しまれそうとお父さんに言われて適当につけた詠唱だ。

 

でも戦争だから仕方ないとはいえ、お母さんを一度殺した相手の魔法を使うのはなんか嫌だなぁ、と思ったけれどかなりこの魔法は使いやすく、訓練中もこの精霊魔法を多用していた。

 

そして放たれた漆黒の槍がロックマウントを貫く。

 

此方に助けに入ろうとしていたらしいメルド団長から

 

「ナイスだ!」

 

と称賛をもらったので、頭を下げておく。

 

白崎さん達からもお礼を言われたのだ「問題ない」と返す。

 

そんな様子を見てキレる若者あり。

 

天之河である。

 

未だに少し青ざめている白崎さんを見て、死の恐怖で青ざめていると勘違いしたらしい。

 

流石、正義感と思い込みの塊である。

 

「貴様……よくも香織達を……許さない!

万翔羽ばたき、天へと至れ、“天翔閃”!」

「あっ、こら、馬鹿者!」

 

メルド団長の制止の声も聞かず聖剣を大きく降り下ろす。

 

すると、某約○された勝○の剣の如く纏っていた光のオーラがビームのように斬撃として放たれる。

 

直線上のロックマウントを抵抗も許さず切り裂き、奥の壁を破壊しつくしてようやく静止した。

 

息を吐き、イケメンスマイルでもう大丈夫だ!とでも言おうとしていたらしい天之河はメルド団長からの拳骨を頂くことになった。

 

「この馬鹿者が。気持ちはわかるがな、こんな狭いところで使う技じゃないだろうが! 崩落でもしたらどうすんだ!」

 

そうだそうだー、と心で賛同する。

 

ここは洞窟である。

下手に崩落でもしたら待っているのは死のみである。

 

怒られて落ち込む天之河をやってきた白崎さん達が宥める。

 

すると、白崎さんが崩れた壁の奥を見つめる。

 

「……あれ、何かな? キラキラしてる……」

 

その言葉に、全員が白崎さんの見ている方向を見る。

 

そこには美しい青白い光を湛えた美しい鉱石が花を開くように壁から生えていた。

 

美しく輝く水晶のような鉱石に、女子勢がうっとりとする。

 

「ほぉ~、あれはグランツ鉱石だな。大きさも中々だ。珍しい」

 

グランツ鉱石はどうやら宝石の原石らしく、効能こそないがその美しさから、貴族の婦人やらご令嬢に人気な上に、よく女性へのプロポーズに使われる宝石のベスト3に入るとのこと。

 

「素敵……」

 

と、メルド団長の説明を聞いた白崎さんがうっとりした声をだす。

そして、チラッと此方に目を向けてくる。

何で此方に目を向けてくるのだろうか、そして八重樫さんも何故ニヤニヤしているのだろう。

 

そんな空気の中

 

「だったら俺らで回収しようぜ!」

 

と、唐突に檜山が動き出す。

 

「こら! 勝手なことをするな! 安全確認もまだなんだぞ!」

 

そういうメルド団長の声も聞こえないふりをして。

 

騎士の一人がフェアスコープで鉱石の周りを注視して顔を青ざめた。

 

「団長! トラップです!」

「ッ!?」

 

そんな警告も遅く、檜山が鉱石に触れる。

すると魔法陣が展開し、いつぞやのこの世界に召喚されたときのように輝きを増していく。

 

「くっ、撤退だ! 早くこの部屋から出ろ!」

 

団長の声も遅く、唐突に空気が変わって私達は投げ出される。

 

流石に反応できず、尻餅をついてしまう。

 

周りを見渡すと、私達はどうやら巨大な石橋のど真ん中に転移させられたらしい。

 

橋の両端には、奥へ続く通路と上層へ繋がっているらしい階段が見える。

 

石橋は幅こそ10m近くあるが、手摺もなければ縁石もない。

足でも滑らせればまっ逆さまである。

 

それを確認したメルド団長が表情を更に険しくして、指示を飛ばす。

 

「お前達、直ぐに立ち上がって、あの階段の場所まで行け。急げ!」

 

轟く号令にわたわた動き出す私達。

 

でも、迷宮のトラップがこれで終わるはずもなく、階段の方向に大量の魔物が出現。

 

通路側には魔法陣から一体の巨大な魔物が姿を現した。

 

その魔物を呆然と見つめ、メルド団長が呻くような声をだす。

 

 

 

“まさか……ベヒモス……なのか……”

 

その声はこの状況の中、やけに明瞭に響いた。

 




どーでしょう!
上手く書けましたかね?

奈落まではいけなかったァッ!!
次回にご期待下さい!

そういえば『えりのる』さん、誤字報告有り難うございました!

また誤字があった場合は報告をよろしくです!

それではまた次回で会いましょー!!

ps,モンハンワールド面白すぎィ!


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裏切り、奈落に落つ

MHW見事完結!

現在Bloodborne進めてます。大幅に更新遅れた理由は完全にゲームっす。さーせん(血涙)

そして投下します。

ハジメと一緒に落下させて、物語を進めよう!

というわけで、駄文ですが頑張って描写していきたいとおーもいまーす!(とみっく感)


橋の両サイドに赤黒く輝く魔法陣が現れる。

通路側のものは十メートル近い大きさで、階段側のものは一メートル位だが数が夥しい。

 

小さな無数の魔法陣からは、骨のみの体に剣を持った“トラウムソルジャー”が溢れ出るように出現した。

空洞の瞳から赤黒い輝きが洩れ、その光が辺りを見渡すかのように蠢く。

その数は既に百を越え、尚も増え続けているようだ。

 

でも、それよりも通路側の魔物の方がよほど危険だと直感が感じとる。

魔法陣の大きさと同じように、十メートル近い巨躯の魔物。

見た目はさながら、恐竜時代のトリケラトプス。

しかし、その魔物の目は赤黒い光を放ち、牙や爪は肉食竜のように鋭く、甲殻は鎧のように重厚で、角からは炎が放たれている。

 

メルド団長の言っていた“ベヒモス”というらしい魔物。

ソレは大きく息を吸うと、凄まじい轟咆を上げた。

 

「グルァァァァァアアア!!」

「ッ!?」

 

その咆哮に正気を取り戻したメルド団長が矢継ぎ早に指示を飛ばす。

 

「アラン!生徒達を率いて“トラウムソルジャー”を突破しろ!カイル、イヴァン、ベイル! 全力で障壁を張れ!ヤツを食い止めるぞ!光輝、お前達は早く階段へ向かえ!」

「待って下さい、メルドさん!俺達も残ってやります!あの恐竜みたいなヤツが一番ヤバイのでしょう!?俺達も……」

「馬鹿野郎!あれが本当にベヒモスなら、今のお前達では絶対に無理だ!ヤツは六十五層の魔物。かつて、“最強”と言わしめた冒険者をして歯が立たなかった本当の化け物だ!!さっさと行け!私はお前達を死なせるわけにはいかないんだ!」

 

メルド団長の必死な表情に一瞬怯む天之河。しかし、「見捨ててなど行けない!」と持ち直す。いや、持ち直してしまう。

そんな天之河を撤退させようと再度説得をしようとするメルド団長。

その瞬間、ベヒモスは再度強烈な咆哮を上げ突進してくる。

このままでは騎士団や生徒もろとも轢き殺されて、ただの肉片へと変わって逝くだろう。

 

「「「全ての敵意と悪意を拒絶する、神の子らに絶対の守りを、ここは聖域なりて、神敵を通さず、“聖絶”!!」」」

 

二メートル四方の最高級の紙に記された魔法陣と、四節詠唱からなる三人同時発動の魔法。

たった一分、一回きりのその魔法が絶対の守りとなり、ベヒモスの突進を受け止める。

 

衝突の瞬間、凄まじい衝撃が橋に走りベヒモスの足元が砕け散る。

 

その衝撃は橋全体に大きな揺れをもたらし、転倒してしまう者が相次ぐ。

 

そして、転倒してしまった一人の女子生徒の前に“トラウムソルジャー”が進み出る。それは本来は三十八層に現れる高い戦闘力を持つ魔物で、その骨の手に握られた剣を振り上げる。

 

「あ……」

 

と呟いた瞬間、剣が頭部に向けて降り下ろされる。

 

死ぬッ―――と女子生徒が感じた瞬間、トラウムソルジャーの足元の地面が隆起し、振り上げられた剣の狙いが逸れる。

そして、剣はただ地面を叩くのみとなる。

そのまま隆起した地面は波立ち、トラウムソルジャーを橋の縁に追いやり、奈落へと落とす。

 

その橋の縁には、ハジメが息を乱しながら座り込んでいた。

ハジメは錬成の練度が上がり、錬成の効果範囲が上がり、錬成の連続使用が可能となっていた。

もっとも、錬成は触れた場所から一定範囲にしか効果がなく、トラウムソルジャーの剣の間合いでしゃがまなければならず、ハジメは内心恐怖で一杯一杯だったが。

 

魔力回復薬を飲みながら倒れたままの女子生徒の下へ駆け寄るハジメは錬成用の魔法陣が組み込まれた手袋越しに女子生徒の手を引っ張り立ち上がらせ、呆然としながら、為されるがままの彼女に、ハジメが笑顔で声をかけた。

 

「早く、前へ。大丈夫、冷静になればあんな骨塊どうってことないよ。うちのクラスは僕を除いて全員チートなんだから!」

 

そのハジメの言葉に女子生徒は「うん!ありがとう!」と元気に返事をして駆け出した。

 

それをハジメは見送って、辺りを見渡した。

 

皆は完全にパニックに陥っており、無闇やたらに武器や魔法を振り回している。

騎士アランが纏めようとするも、上手くいっていない。

その間にも、魔法陣からわらわらと、いや、がらがらと増援が送られてくる。

 

「何とかしないと……必要なのは……強力なリーダー……道を切り開く火力……天之河くん!」

 

ハジメは駆け出した。天之河達のいるベヒモスの方へ向かって。

 

ベヒモスは依然、障壁の結界に向かって突進をひたすらに繰り返していた。結界に衝突する度に壮絶な衝撃波が周囲に撒き散らされ、石造りの橋が悲鳴を上げる。結界も既に全体に亀裂が入っており砕けるのは時間の問題だ。既にメルド団長も、(リリィ)も障壁の展開に加わっているが焼け石に水だった。

 

「ええい、くそ!もうもたんぞ!光輝、早く撤退しろ!お前達も早く行け!」

「嫌です!メルドさん達を置いていくわけには行きません!絶対、皆で生き残るんです!」

「くっ、こんな時にわがままを……」

 

メルド団長は苦虫を噛み潰したような表情になる。この限定された空間ではベヒモスの突進を回避するのは不可能に近い。それ故に、逃げ切るためには障壁を張り、押し出されるように撤退するのがベストだ。しかし、その微妙なさじ加減は戦闘のベテランだからこそ出来るのであって、今の天之河達には難しいと言っていい注文だ。

 

その辺の事情を掻い摘んで説明し撤退を促しているだが、天之河は“置いていく”という事がどうしても納得できないらしい。また、自分ならベヒモスをどうにかできると思っているのだのうか目の輝きが明らかに攻撃色を放っている。

 

まだ、若いから仕方ないとは言え、少し自分の力を過信してしまっていた。戦闘素人の天之河達に自信を持たせようと、まずは褒めて伸ばす方針が裏目に出てしまったようだ。

 

「光輝! 団長さんの言う通りにして撤退しましょう!」

 

「……流石、に――キツ、い……」

 

一応、私も結界構築に力を貸している。その上に【進入禁止(カイン・エンターク)】も展開しているけれど、相手の火力が高すぎる。

その上、両親達の正体はまだ明かせない。一部には知られてるとは言え、広まれば間違いなく周囲が混乱に陥る。

 

そして何よりの弊害。使っていて気付いたが――――

 

――――私の武装出力はお母さんよりも、低い。

 

それは、お父さんが人である証。

そして、私がハーフであることによる弊害。

 

疎ましくは思わない。何故なら、これが私が両親の子供である証なのだから。

 

でも、だからこそ、ここでこんなこと(トラップ起動)が起きて欲しくなかった。

 

時間があれば、もっと上手く使えたかもしれない。

お母さんのように、天翼種(フリューゲル)の一撃までとはいかなくとも、このモンスター達の攻撃には耐えられたかもしれないと、しょうがなく、しかし少し遅い後悔の念に駆られる。

 

そんな私の心情を他所に、この脳筋共(天之河、坂上)は―――

 

「へっ、光輝の無茶は今に始まったことじゃねぇだろ? 付き合うぜ、光輝!」

「龍太郎……ありがとな」

 

―――使えないけど、その内【偽典・天撃(ヒーメアポクリフェン)】が火を吹きそうだ。

 

「状況に酔ってんじゃないわよ!この馬鹿ども!」

「雫ちゃん……」

「……ばかやってる、暇あった、ら―――手伝、え……ッ」

 

正直もう絶え絶えで、今にも【進入禁止(カイン・エンターク)】が砕けそうになる。

通行規制(アイン・ヴィーク)】は攻撃を逸らす武装。

この状況とは相性が悪すぎる。

 

周りの状況に軽くキレそうになるもこらえて防御に力を回す。

 

その時、突撃をかまそうとする天之河の前にハジメが飛び込む。

 

「天之河くん!」

「なっ、南雲!?」

「南雲くん!?」

 

 

驚く皆にハジメは必死の形相でまくし立てる。

 

「早く撤退を! 皆のところに! 君がいないと! 早く!」

「いきなり何だ? それより、何でこんな所にいるんだ! ここは君がいていい場所じゃない! ここは俺達に任せて南雲は……」

「そんなこと言っている場合かっ!」

「……ホント、向こうを――手伝って、こい……ッ」

 

本当に今はハジメの言う通り、向こうを手伝って撤退の準備をして欲しいッ!!

 

「あれが見えないの!? みんなパニックになってる! リーダーがいないからだ!」

 

天之河の胸ぐらを掴みながら指を差すハジメ。

 

その方向には、トラウムソルジャーに囲まれて右往左往しているクラスメイト達がいた。訓練の事など完全に頭から抜け落ちたように誰も彼もが好き勝手に戦っている。効率的に倒せていない故に敵の増援により未だ突破できないでいた。スペックの高さが命を守っているが、それも時間の問題だろう。

 

そう、だからこそ―――

 

「一撃で切り抜ける力が必要なんだ! 皆の恐怖を吹き飛ばす力が! それが出来るのはリーダーの天之河くんだけでしょ! 前ばかり見てないで後ろもちゃんと見て!」

 

流石にハジメのその必死さに感化されたのか、クラスメイトのほうを見て頭をぶんぶん振ってから一度頷き、

 

「ああ、わかった。直ぐに行く! メルド団長! すいませ――」

「下がれぇーー!」

 

天之河の台詞を遮り、障壁が砕け散る音と強烈な暴風が私達を襲う。

 

ハジメが壁を錬成し、その奔流を止めようとするが、あっさり砕かれ吹き飛ばされる私達。

 

私達はともかく、メルド団長達は衝撃波の影響で動けそうにない。

 

メルド団長達とハジメの壁に守られていた私達は立ち上がる。

 

「ぐっ……龍太郎、雫、時間を稼げるか?」

 

天之河が問いかける。それに、苦しそうではあるが確かな足取りで前へ出る二人(坂上・八重樫さん)。団長たちが倒れている以上、自分達が何とかする他ない。

 

「やるしかねぇだろ!」

「……何とかしてみるわ!」

 

 二人がベヒモスに突貫する。

 

「香織はメルドさん達の治癒を!」

「うん!」

 

天之河の指示で白崎さんが走り出し、ハジメと私は既にメルド団長達の所にいる。

 

ハジメが壁を作り、私も【進入禁止(カイン・エンターク)】を展開して、少しでも此方側に来る被害を減らす。

 

天之河は、今の自分が出せる最大の技を放つための詠唱を開始した。

 

「神意よ!全ての邪悪を滅ぼし光をもたらしたまえ! 神の息吹よ!全ての暗雲を吹き払い、この世を聖浄で満たしたまえ!神の慈悲よ!この一撃を以て全ての罪科を許したまえ!“神威”ッ!!」

 

詠唱と共にまっすぐ突き出した聖剣から極光が迸り、眼前を貫く。

 

このタイミングまで耐えていた八重樫さんと坂上。

二人ともなかなか限界が近かったのかボロボロになっていた。

 

放たれた光属性の、文字どおりの砲撃は、轟音と共にベヒモスに直撃した。光が辺りを満たし白く塗りつぶし、激震する橋に大きく亀裂が入っていく。

 

「これなら……はぁはぁ」

「はぁはぁ、流石にやったよな?」

「だといいけど……」

 

―――ハジメも同じことを思ったかも知れない。心が読めるわけではないから分からないけど……

 

 

 

 

 

治療を終えたメルド団長達が立ち上がろうとする。

それと並んで、光の砲撃で撒き散らされた粉塵がだんだん晴れていく。

 

そこには……

 

 

 

無傷のベヒモスが立っていた。

 

 

―――さっきの台詞、完全に、ふらぐ……だよ……?

 

 

♛♛♛♛♛♛♛♛♛♛

 

 

 

無傷のベヒモス。ソレは低い唸り声を上げ、天之河を射殺さんばかりに睨んでいる。と、直後、スっと頭を掲げた。頭の角がキィーーーンという甲高い音を立てながら赤熱化していく。そして、頭部の兜全体がマグマのように燃えたぎったり、ベヒモスは突進の構えをとる。

 

「ボケっとするんじゃない!逃げろ!」

 

メルド団長の叫び声に、ようやく無傷というショックから正気に戻った天之河達が身構えた瞬間、ベヒモスが突進を始める。そして、天之河達のかなり手前で跳躍し、赤熱化した頭部を下に向けて隕石のように落下した。

 

天之河達は、咄嗟に横っ飛びで回避するも、その一撃の着弾時の衝撃波をモロに浴びて吹き飛ぶ。ゴロゴロと地面を転がりようやく止まった頃には、既に満身創痍の状態だった。

 

どうにか動けるまでに回復したメルド団長が駆け寄ってくる。他の騎士団員は、まだ白崎さんによる治療の最中だ。ベヒモスはめり込んだ頭を抜き出そうと踏ん張っている。

 

「お前等、動けるか!」

 

メルド団長が叫ぶように尋ねるも返事は呻き声だ。当然だ、先ほどの団長達と同じく衝撃波で体が麻痺しているからだ。内臓へのダメージも相当キツい。

 

メルド団長が白崎さんを呼ぼうと振り返る。その視界に、駆け込んでくるハジメの姿を捉えた。

 

「坊主!香織を連れて、光輝を担いで下がれ!」

 

ハジメにそう指示するメルド団長。

 

天之河を、天之河だけを担いで下がれ。その指示は、すなわち、もう一人くらいしか逃げることも叶わないということなのだろう。メルド団長は唇を噛み切るほど食いしばり盾を構えた。ここを死地と定め、命を賭けて食い止めるつもりだ。

 

そんなメルド団長に、ハジメは必死の形相で、とある無謀な提案をする。それは、この場の全員が助かるかもしれない唯一の方法。ただし、あまりに馬鹿げている上に成功の可能性も少なく、ハジメが一番危険を請け負う方法だ。

 

メルドは逡巡するが、ベヒモスは既に頭を抜き放ち、突進の構えを整えている。再び頭部の兜が赤熱化を開始する。時間はない。

 

「……やれるんだな?」

「やります」

 

「……まって……」

 

「リリィ?」

「……私、も―――手伝う、よ……?」

 

「……危険だよ、それでもいいんだよね?」

「……親友を、助けるのに―――理由は、ひつよう……?」

「ううん、有難う。心強いよ、リリィ。じゃあ、僕達でやろうか!!」

 

その私達の覚悟を見たメルド団長は、「くっ」と笑みを溢す。

 

「まさか、お前達に命を預けることになるとはな。……必ず助けてやる。だから……頼んだぞ!」

「はい!」

「……ばっち、ぐー……」

 

 

メルド団長はそう言うとベヒモスの前に出た。そして、簡易の魔法を放ち挑発する。ベヒモスは、先ほど天之河を狙ったように自分に歯向かおうとする者を標的にする習性があるようで、しっかりとその視線がメルド団長に向いている。

 

そして、完全な赤熱化を果たした兜を掲げ、突撃、跳躍する。メルド団長はギリギリまで引き付けるつもりなのか目を見開いて構えている。そして、小さく詠唱をした。

 

「吹き散らせ“風壁”ッ!」

 

その詠唱と共にバックステップで離脱する。

 

その直後、ベヒモスの頭部が一瞬前までメルド団長がいた場所に着弾した。発生した衝撃波や石礫は“風壁”でどうにか逸らす。大雑把な攻撃なので避けるだけならなんとかなる。ただし、倒れたままの天之河達を守りながらでは全滅していただろうが。

 

再び、頭部をめり込ませるベヒモスに、ハジメが飛びついた。赤熱化の影響が残っておりハジメの肌を焼く。しかし、そんな痛みは無視してハジメも詠唱した。名称だけの詠唱。最も簡易で、ハジメの唯一の魔法。

 

「“錬成”!」

 

石中に埋まっていた頭部を抜こうとしたベヒモスの動きが止まる。周囲の石を砕いて頭部を抜こうとしても、ハジメが錬成して直しているからだ。

 

ベヒモスは足を踏ん張り力づくで頭部を抜こうとするが、今度はその足元が錬成される。ずぶりと一メートル以上沈み込む。更にダメ押しと、ハジメは、その埋まった足元を錬成して固めていく。

 

そこに畳み掛けるように、私も武装を展開する――ッ!!

 

「《典開(レーゼン)》、【通行規制(アイン・ヴィーク)】ッ!!」

 

武装の歪曲作用を利用して、ベヒモスの抵抗をさらに規制する。

 

展開範囲は出来るだけ狭く。この後行われるであろう総攻撃を邪魔しないように。

 

そこまで制限しても、ベヒモスの力は凄まじく、気を抜けば武装、ハジメ共々吹き飛ばされそうになる。

 

 

 

 

 

その間に、メルド団長は、回復した騎士団員と香織を呼び集め、光輝達を担ぎ離脱しようとする。トラウムソルジャーの方は、どうにか数人かの生徒が冷静さを取り戻したようで、周囲に声を掛け連携を取って対応し始めているようだ。立ち直りの原因が、実は先ほどハジメが助けた女子生徒だったりする。地味に貢献しているハジメでった。

 

「待って下さい!まだ、リリィちゃんと南雲くんがっ!」

 

撤退を促すメルド団長に香織が猛抗議する。

 

「坊主の作戦だ!それに、もう一人もそれに乗って作戦の遂行を手伝っている!ソルジャーどもを突破して安全地帯を作ったら魔法で一斉攻撃を開始する!もちろん坊主達がある程度離脱してからだ!魔法で足止めしている間に坊主達二人が帰還したら、上階に撤退だ!」

「なら私も残ります!」

「ダメだ!撤退しながら、香織には光輝を治癒してもらわにゃならん!」

「でも!」

 

なお、言い募る香織にメルド団長の怒鳴り声が叩きつけられる。

 

「坊主達の思いを無駄にする気かッ!!」

「ッ―――!」

 

メルド団長を含めて、メンバーの中で最大の攻撃力を持っているのは間違いなく光輝である。少しでも早く治癒魔法を掛け回復させなければ、ベヒモスを足止めするには火力不足に陥るかもしれない。そんな事態を避けるには、香織が移動しながら光輝を回復させる必要があるのだ。ベヒモスはハジメの魔力が尽きて錬成ができなくなった時点で動き出す。

 

「天の息吹、満ち満ちて、聖浄と癒しをもたらさん、“天恵”」

 

香織は泣きそうな顔で、けれどもしっかりと詠唱を紡いだ。淡い光が光輝を包む。体の傷と同時に魔力をも回復させる治癒魔法である。

 

メルド団長は、香織の肩をグッと掴んで頷いた。香織も頷き、もう一度、必死の形相で錬成を続けるハジメと、武装を出力限界まで振り絞って使用するリリィを振り返った。そして、光輝を担いだメルド団長と、雫と龍太郎を担いだ騎士団員達と共に撤退を開始する。

 

トラウムソルジャーは依然増加を続けていた。既にその数は二百体はいるであろう。階段側へと続く橋を完全に埋め尽くしている。

 

だが、ある意味で、それでよかったのかもしれない。もし、もっと隙間だらけだったなら、無闇に突貫した生徒が包囲され、抵抗する間もなく惨殺されていただろう。実際、最初の百体くらいの時に、それでさえ窮地に陥っていた生徒は結構な数いたのだ。

 

それでも、未だ死人が出ていないのは、ただ騎士団員達のおかげだろう。彼等の必死のカバーが生徒達を生かしていたのだといっても過言ではない。その代償に、彼等はもう満身創痍となっていたが。

 

騎士団員達のサポートがなくなり、続々と増え続ける魔物にパニックを起こし、魔法を使いもせずに剣やら槍やら武器をただ振り回すだけの生徒が殆どである以上、もう数分もすれば完全に瓦解し、壊滅するだろう。

 

生徒達もそれを何となく悟っているのか表情には絶望が張り付いている。先ほどハジメが助けた女子生徒の呼びかけで少ないながらも連携をとり奮戦していた者達も限界が近く、皆泣きそうな表情だった。

 

誰もが、もうダメなのかもしれないと思ったとき――

 

「“天翔閃”!」

 

純白の光の斬撃がトラウムソルジャー達のド真ん中を切り裂き吹き飛ばしながら炸裂した。

 

橋の両側にいたソルジャー達も、その勢いに押し流されて奈落へと落ちていく。斬撃の後は、直ぐに雪崩れ込むように集まったトラウムソルジャー達で埋まってしまったが、生徒達は確かに、一瞬空いた隙間から上階へと続く階段を見た。今までどんなに渇望し、どれだけ剣を振るっても見えなかった希望が見えたのだ。

 

「皆!諦めるな!道は俺が切り開く!!」

 

そんな台詞と共に、再び“天翔閃”が敵を切り裂いていく。光輝が発する強いカリスマに、生徒達が活気づいていく。

 

「お前達!今まで何をやってきた!訓練を思い出せ!さっさと連携をとらんか!馬鹿者共がァ!」

 

皆の頼れる団長が“天翔閃”に勝るとも劣らない一撃を放ち、敵を次々と打ち倒していく。いつも通りの頼もしい声に、沈んでいた気持ちが復活する。手足に力が入り、頭がクリアになっていく。実は、それは香織の魔法の効果も加わっている。精神を鎮める魔法である。リラックスできる程度の魔法だが、光輝達の活躍と相まって効果は抜群に発揮されている。

 

治癒魔法に適性のある者が皆こぞって負傷者を癒し、魔法適性の高い者が後衛に下がって強力な魔法の詠唱を開始する。前衛職はしっかりと隊列を組み、倒す事より後衛の方の守りを重視し堅実な動きを心がける。

 

治癒が終わり復活を果たした騎士団員達も加わり、反撃の狼煙が上がった。チートな皆の強力な魔法と武技の波状攻撃が、怒涛の如く敵目掛けて襲いかかる。凄まじい速度でトラウムソルジャーの軍勢を殲滅していき、その速度は、遂に魔法陣による魔物の召喚速度を超えた。

 

そして、階段への道が開ける。

 

「皆!続け!階段前を確保するぞ!」

 

光輝が掛け声と同時に走り出した。

 

ある程度回復した龍太郎と雫がそれに続き、バターを切り取るようにトラウムソルジャーの包囲網を瞬く間に切り裂いていく。

 

そうして、遂に全員が包囲網を突破した。背後で再び橋との通路が肉壁ならぬ骨壁により閉じようとするが、そうはさせないと光輝が魔法を放ち蹴散らしていく。

 

クラスメイトが訝しそうな表情をする。それもそうだろう。目の前に階段があるのだ。さっさと安全地帯に行きたいと思うのは当然である。

 

「皆、待って! リリィちゃんと南雲くんを助けなきゃ!リリィちゃんと南雲くんが二人であの怪物を抑えてるの!」

 

香織のその言葉に何を言っているんだという顔をするクラスメイト達。そう思うのも仕方ない。何せ、ハジメは“無能”で通っているのだから。

 

それに、リリィはいたって“普通”。特に特化することもなく、平凡を地で行く男の娘という印象だったからだ。

 

だが、困惑するクラスメイト達が、数の減ったトラウムソルジャー越しに橋の方を見ると、そこには確かにリリィとハジメの姿があった。

 

「何だよあれ、何してんだ?」

「あの魔物、上半身が埋まってる?」

「何だ?あの青い円盤?」

 

次々と疑問の声を漏らす生徒達にメルド団長が指示を飛ばす。

 

「そうだ!坊主達がたった二人であの化け物を抑えているから俺達は撤退できたんだ!前衛組!ソルジャーどもを寄せ付けるな!後衛組は遠距離魔法準備!もうすぐ坊主達の魔力が尽きる。アイツらが離脱したら一斉攻撃で、あの化け物を足止めしろ!」

 

ビリビリと腹の底まで響くような鋭い声に気を引き締め直す生徒達。中には階段の方向を未練がましい表情で見ている者もいる。無理もないだろう。ついさっきまで死にかけていたのだ。一秒でも早く安全を確保したいと思うのは当然である。しかし、団長の「早くしろ!」という怒声に未練を断ち切るように戦場へと戻っていった。

 

その中には檜山大介もいた。自分の仕出かした事とはいえ、本気で死の恐怖を感じていた檜山は、直ぐにでもこの場から逃げ出したかった。

 

しかし、ふと脳裏にあの日の、屈辱的な光景が浮かび上がった。

 

それは、迷宮に入る前日、ホルアドの町で宿泊していた時のこと。緊張のせいか中々寝付けずにいた檜山は、トイレついでに外の風を浴びに行った。涼やかな風に気持ちが落ち着いたのを感じ部屋に戻ったのだが、その途中、ネグリジェ姿の香織を見かけたのだ。初めて見る香織の寝間着姿に思わず物陰に隠れて息を潜めて見惚れていると、香織は檜山に気がつかずに通り過ぎて行ったのだ。

 

気になってしまい後を追うと、香織は、とある部屋の前で立ち止まりノックをした。その扉から出てきたのは……リリィとハジメだった。

 

檜山は頭が真っ白になった。檜山は香織に好意を持っている。今もなお。しかし、自分とでは釣り合わないと思っていて、光輝のような相手なら、所詮住む世界が違うのだと諦められた。

 

しかし、ハジメとリリィは違う。自分より劣った存在(檜山は割と本気でそう思っている)が香織の傍にいるのは可笑しいことだと。有り得てはならないと。それなら自分でもいいじゃないか、と端から聞けば「頭大丈夫か?」と言われそうな考えを檜山は本気で持っていた。

 

唯でさえ溜まっていた不満は、すでに憎悪にまで膨れ上がっていた。香織が見蕩れていたグランツ鉱石を手に入れようとしたのも、その気持ちが焦りとなって表へ出たからだ。

 

その時のことを思い出した檜山は、たった二人でベヒモスを抑えるハジメを見て、今も祈るようにリリィとハジメを案じる香織を視界に捉えて……仄暗い、どこまでも歪ん笑みを浮かべた。

 

 

♛♛♛♛♛♛♛♛♛♛

 

 

その頃、ハジメはもう直ぐ自分の魔力が尽きるのを、リリィは自身の武装の限界が訪れることを感じていた。既に回復薬はないし、予備の武装も、使える武装もない。チラリと後ろを見るとどうやら全員撤退できたようである。隊列を組んで詠唱の準備に入っているのがわかる。

 

ベヒモスは相変わらずもがいているが、この分なら錬成を止めても数秒は時間を稼げるだろう。ハジメ達はその間に少しでも距離を取らなければならない。額の汗が目に入る。極度の緊張で心臓がバクバクと今まで聞いたことがないくらい大きな音を立てているのがわかる。

 

ハジメとリリィはタイミングを見計らった。

 

そして、数十度目の亀裂が走ると同時に最後の錬成でベヒモスを拘束する。同時に、一気に駆け出した。

 

ハジメとリリィが猛然と駆け出した五秒後、地面が破裂するように粉砕され、押さえつけていた円盤をも粉砕してベヒモスが咆哮と共に起き上がる。その眼に、憤怒の色が宿っていると感じるのは勘違いではないのだろう。鋭い眼光が己に無様を晒させた怨敵を探し……ハジメとリリィを捉えた。再度、怒りの咆哮を上げるベヒモス。ハジメ達を追いかけようと四肢に力を溜めた。

 

だが、次の瞬間、ありとあらゆる属性の攻撃魔法が殺到した。

 

夜空を流れる流星の如く、色とりどりの魔法の閃光がベヒモスを打ち据える。ダメージはやはり無いようだが、しっかりと足止めになっている!

 

いける!と確信し、転ばないよう注意しながら、頭を下げて全力で走るハジメとリリィ。すぐ頭上を致死性の魔法が次々と通っていく感覚は正直生きた心地が全くしないが、チート集団がそんなヘマをするはずないと信じて駆け抜ける。ベヒモスとの距離は既に三十メートルは広がっていた。

 

思わず、頬が緩んでしまうのがわかる。

 

しかし、その直後、ハジメとリリィの表情は凍りついた。

 

無数に飛び交う魔法の中で、一つの火球がクイッと軌道を僅かに曲げたのだ。……ハジメの方に向かって。明らかにハジメを狙い誘導されたものだ。

 

さらに続いて飛んでくる火球。それも軌道を曲げ、リリィに狙いを定める。

 

(なんで!?)

(……え?)

 

疑問や困惑、驚愕が一瞬で脳内を駆け巡り、ハジメ達は愕然とする。

 

咄嗟に踏ん張り、止まろうと地を滑るハジメとリリィの眼前に、その火球は突き刺さった。着弾の衝撃波をモロに浴び、来た道を引き返すように吹き飛ぶ。直撃は避けたし、内臓などへのダメージもないが、三半規管をやられ平衡感覚が狂ってしまった。

リリィも同じく吹き飛ばされ、額が少し裂けて温いものが顔を伝う。

 

フラフラしながら少しでも前に進もうと立ち上がるが……

 

ベヒモスも何時までも一方的にやられている訳ではなかった。ハジメが立ち上がった直後、背後で咆哮が鳴り響く。思わず振り返ると三度の赤熱化をしたベヒモスの眼光がしっかりハジメ達を捉えていた。

 

そして、赤熱化した頭部を盾のようにかざしながらハジメに向かって突進する!

 

フラつく頭、霞み、血で赭く染まる視界、迫り来るベヒモス、遠くで焦りの表情を浮かべ悲鳴と怒号を上げるクラスメイト達。

 

ハジメとリリィは、なけなしの力を振り絞り、必死にその場を飛び退いた。直後、怒りの全てを集束したような激烈な衝撃が橋全体を襲った。ベヒモスの攻撃で橋全体が震動する。着弾点を中心に物凄い勢いで亀裂が走る。メキメキと橋が悲鳴を上げる。

 

そして遂に……橋が崩壊を始めた。

 

度重なる強大な攻撃にさらされ続けた石造りの橋は、遂に耐久限度を超え、崩落しだしたのだ。

 

「グウァアアア!?」

 

悲鳴を上げながら崩壊し傾く石畳を爪で必死に引っ掻くベヒモス。しかし、引っ掛けた場所すら崩壊し、抵抗も虚しく奈落へと消えていった。ベヒモスの断末魔が木霊する。

 

ハジメとリリィも何とか脱出しようと這いずるが、しがみつく場所も次々と崩壊していく。

 

(ああ、ダメだ……)

(……もう、無理かな……?―――でも……)

 

「……まだ、死ねない―――まだッ!死ねないのぉッ!!」

 

そう思い、心の底から叫ぶ。対岸のクラスメイト達が視界に入る。白崎さんが哭いて飛び出そうとして八重樫さんや天之川に羽交い絞めにされているのが見えた。他のクラスメイトは青褪めたり、目や口元を手で覆ったりしている。メルド達騎士団の面々も悔しそうな表情でハジメ達を見ていた。

 

そして、ハジメとリリィの足場も完全に崩壊し、ハジメとリリィは仰向けになりながら奈落へと落ちていった。徐々に小さくなる光に、最後まで手を伸ばしながら……

 




難産、そして初の一万文字突破ッ!!
遅くなり誠に申し訳ございません!

ところで耐久無限なのに脆くない?
と思う方も多いと思います。

安心してください、仕様です。

修復能力で耐久力マシマシにしているだけであり、表面上の防御力は人間と変わりありません。

でも、ここからが本番となります。
ハジメとの成長、無双の始まりがこの先に待っているんだッ!!(深夜テンション)
今後も私の妄想劇にお付き合いくださって頂ければ嬉しいです!


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奈落の狭間で誇戯と彷徨う

悪意回はありません。
あれは主人公が登場しない回なので、文章力的に完全転載のようになってしまうのでお許し下さい。

著作権法って何処までセーフなんですかねぇ?

それでは頑張っていーきましょー!!

お待たせしました、あの子の登場です!


―――のうのう?汝?大丈夫かの?

 

―――汝、何ゆえに人類種(いまにてぃ)機凱種(えくすまきな)の要素が存在しておるのだ?

 

―――しかも、何か凄まじい神髄の残り香もするのじゃが……

 

―――しかしまぁ、この損傷は少し不味いのぅ……

 

―――どれ?少し治してやろうではないか!

 

―――あれじゃろ?空曰くのちゅーしゃ?とかいう“痛みは一瞬だから”というやつじゃ!

 

 

 

目が覚める。感じる筈の痛みはなく、寧ろすごぶる調子がいいような気もする。

 

「うぬ?やっと起きたかの?」

「……だれ?」

 

そこには神々しい美しさの少女がいた。ところどころ機械的な意匠の施された墨壺のようなものに腰を掛けて浮かんでいる

 

身長的に自分とそう変わらないか、もう少し低いかの少女が此方に話しかけていた。

それよりもッ!!

 

「ッ!!……ハジメはッ!?」

「ちゃんといるぞ、リリィ。」

「……ハジメッ!―――よかっ、たぁ!」

 

親友の無事に安堵する私。

でも、その姿はいつも見馴れていたハジメの姿ではなかった。

髪は白くなり、体も筋肉質に高身長となったハジメがそこにいた。

 

「リリィはこんな姿になった“俺”でもしっかりわかるんだな。」

「……親友、だから、ね?でも―――一人称、含めて、盛大な、イメチェン……?」

「違うからな!」

 

しばらく二人で笑い合う。

 

そして、ハジメに落ちた後の話を聞く。

 

水場に落ちて死を免れたこと、モンスターに襲われ、片腕を失ったこと、敵となるものを全て喰らい殺す覚悟をしたこと、意識が戻らない私を守りながら戦って魔物の肉を喰らい見た目やステータスが大幅に変化したこと、そして其処にいる少女と出会ったこと。

 

「……守って、くれて―――ありがと、ね……?」

「親友を助けるのは当たり前だろ?」

 

フフッと笑い合う。

 

「……のう、汝ら仲がいいのはかまわないのじゃが―――我のこと忘れておらぬか?」

 

「「……あっ」」

 

「……帆楼、本当に忘れられてたのじゃな―――泣くぞ?泣いてしまうぞ?」

 

涙声でプルプルと体を震わせる帆楼というらしき少女。

 

「……帆楼、一応神様じゃぞ(・・・・・)?流石に扱い酷くないかの?」

「……神、様?」

「おお!やっと自己紹介できるのぅっ!、我が名は帆楼っ!

 

 

十六種族位階(イクシード)位階序列一位神霊種(オールドデウス)

 

誇戯(・・)の神(・・)、帆楼なり!」

 

 

「……神霊種(オールドデウス)!?」

神霊種(オールドデウス)?」

 

私は驚愕に目を見開き、ハジメが首をかしげる。

 

「……神霊種(オールドデウス)、所謂、ふっるーい、神様、で―――それぞれが、世界の、法則の一端が、強い信仰で、神髄(自我)を得た存在。でも、神霊種(オールドデウス)は、この世界には存在しない、はず……」

「そこは帆楼にも解らぬのじゃ……。帆楼はの?空と白と共に遊戯(ゲーム)をしていたはずなのだがの?気づいたらここにいたのじゃ。」

「……その、空、と白、さんとは、何を賭けて、ゲームしてた、の?」

「うぬ!空と白とは……ぬ?ん~?何を賭けておったのだ?」

「……神霊種(オールドデウス)だから、もの忘れということは、ない―――というと、やっぱり、盟約に誓った賭けが原因……?」

「ぬぅ……急速に不安になってきたのう……。あの二人(『』)ほど賭けにて恐ろしいのはそうおらぬしのぅ……」

「……そんな、に……?」

「うむ、盟約に誓った賭けにて自白剤を無自覚の内に裏切り者どもに打ち込むからのう……。あれで殆どの種族の首筋に刃を添えおったからのう。」

「……マジ、です、か……?」

「うむ、マジじゃ。」

「それ、スゲェな……」

 

『』(空白)さんパネェ、です。

 

「そういえば汝ら、裏切られて落ちてきたって言っていたのう。ソレが原因かの?」

「……ん」

「ほぉう?」

 

何故か帆楼の額に青筋のようなものが浮かんでいる。

 

「……何で、キレてる、の?」

「そりゃあのう?我が子とも、友とも言える機凱種(エクスマキナ)を傷付けたのだからのう?人の子の因子が混ざっているとはいえ、お主は機凱種(エクスマキナ)に関係している者だからのう?」

「……ん?」

 

……我が子?

 

「ぬ?そういえば言っていなかったのぉ。帆楼は機凱種(エクスマキナ)の創造主なのじゃぞ?凄いじゃろ?」

 

凄まじいとかいうレベルではないのですがそれは……

 

唖然としている此方に頭を差し出す帆楼。撫でて欲しいということだろうか、取り敢えず撫でてあげる。

 

「……ん、凄い……」

「~~♪」

 

嬉しそうなので、これでいいのだろう。犬の耳やら尻尾やらが幻視できる。

 

 

 

♛♛♛♛♛♛♛♛♛♛

 

 

「……ハジメ、これから、どうす、る……?」

 

親友に聞く。方針が決まっているのなら、それに付き従うだけだ。

 

「このダンジョンを探索するしかないだろうなぁ……」

「……やっぱ、り……?」

「まぁ、空を飛べる訳でもないしなぁ……しかも、態々裏切り者がいるところに行くわけがない。」

「……こっち、万全だった、ら、飛べる、のに……」

「なんじゃ?汝、飛べないのかの?」

「……ん、ハーフ、だから、ね……?」

「それならば、帆楼が飛べるようにしてやることもできるぞ?」

「……本、当……?」

「うむ、本当じゃぞ?」

「……他の武装、も、展開可能、に、なる……?」

「なるぞ?」

「……おね、がい……」

 

私は即答した。

 

 

 

♛♛♛♛♛♛♛♛♛♛

 

 

「……ハジメ……?」

「ん?どうしたリリィ?」

「……これで、飛べるよう、に、なる、けど、どうする……?」

「うーん、やっぱり探索はしようと思う。銃の素材があれば採っておきたいし、リリィの体馴らしの為にね?」

「うむ、体馴らしはしておいた方がいいぞ?それと、整備はもうすぐ終わるのじゃ」

了解(ヤヴォール)

 

 

 

「終わったのじゃ!」

 

なにやら巻物を弄りながら、私の体に触れていた帆楼から声をかけられる。

 

「……ん、ありがと、ね……?」

「うむ!どういたしまして、じゃ!」

「……それじゃあ、行く……?」

「あぁ、行こうか!リリィ!」

「……ん!《再構築[体]》。標準武装、典開(レーゼン)……」

 

武装起動の言葉(ワード)を紡ぐ。

周囲の光が輪郭を描き、重なり、武装が投影され、装着される。

服は光の粒子に変換され、虚空に解けて消える。

 

装着された武装はさながら機械の鎧のようで、鋭利な曲線を描いている。

 

右手には龍を模した、巨大な砲門。

左手には輝く紫色の宝石のついた、指貫の長手袋。

頭にはディスクのような観測機が装着され、背中には一対の機械の翼。

 

「……主力武装【偽典・天撃(ヒーメアポクリフェン)】並びに【偽典・焉龍咆(エンダーアポクリフェン)】使用可能……並びに霊骸使用武装【全方交差(アシュート・アーマ)】、【制御違反(オーヴァ・ブースト)】使用可能……」

 

「おぉ……凄いな、これ」

「……ん、体が軽い……」

「リリィもなんかしゃべり方が流暢になったなぁ……」

「……そう……?」

「まぁ、若干だけどな!」

「……ふふ、それじゃあ……」

「ああ!」

「うむ!」

 

 

――――ここから……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「冒険(ゲーム)を始めよう」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




というわけで、今回はここまでっ!
前回が長かった分、今回は短めです。
平均4000文字を目指して頑張っております。

帆楼たんは空と白に名前を与えられ、神髄の性質が変化した後の帆楼たんです。

あと、リリィの左手は後々重要なものになりますので、お楽しみに!


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迷宮を探索しよう!

平均4000文字はいきたい!

そんな願望を持ってひたすら筆を荒ぶらせるッ!

というわけで頑張っていきましょー!


4/4 タグを一部変更


「……ハジメ、どう探索する……?」

「リリィが目覚めるまでの間、少し探索してたんだけど、どうやら下に進むしか道が無いみたいでね?それに、ゲーム脳的に考えてみれば下層には?」

「……何かある……?」

「ああ!」

「ゲームというと、汝らのいた世界にもチェスはあるのかの?」

「……うん、あるよ?両親と、よくやってた……」

「おお!!そういえば汝、ハーフじゃったの!しかし、機凱種(えくすまきな)には生殖機能は無かったはずなのじゃがのぅ?」

「……お母さんが、頑張って造ったって言ってた、よ……」

「おお!?自発的に造り出したのかの!?本気と書いてマジなのかの!?」

「……そう、だけど……」

 

身を乗り出した帆楼にちょっと驚きながら答える。

 

「のうのう!その者に会えるのかの!?」

「……多分、大丈夫だよ……?」

「おぉ!」

 

目を輝かせる帆楼。ちょっと可愛い。

 

「おーい、行くぞー?」

「……りょーかい……」

「うむ!」

 

ハジメの案内のもと進んでいく。

 

「ここだ」

 

ハジメのの案内のもと、目的の場所にたどり着く。

そこは雑な造りの緑光石の明かりさえない階段で、奥へ続く穴は暗闇を湛えている。

まるで、それは大口を開けた化け物の口内のようで、一度入れば二度と出れないような錯覚に陥る。

 

「……それじゃあ、行こう……?」

「あァ、もし俺達を邪魔するものが居るのなら……容赦なく喰らい殺すッ!」

「れっつごー!なのじゃ!!」

 

二人で不敵な笑みを、一柱が天真爛漫な笑みをうかべて、その穴へと躊躇いなく足を踏み入れた。

中はやはりと言っていいほどに暗く、殆ど周りが見えない。

と、そこでハジメは爪熊というらしい魔物から剥ぎ取った毛皮と、錬成した針金で作り上げたリュックから緑光石を取り出した。

仄かな光が辺りを照らした。この暗闇の中で光源を持つのは、魔物に自らの位置を知らせる自殺行為に等しいものだが、ここでは寧ろ光源が無ければ進むことすら危ういものになる。

 

ちょこちょこ物陰に隠れながら進む。

 

「のうのう?近くにおるぞ?」

 

その帆楼の言葉とともに嫌な気配を左側に感知する。

後ろに飛び退いて、その敵の姿を視界におさめる。

それは二メートルほどの体長のトカゲであった。その金色の瞳が此方を睨み付けていた。

 

「……帆楼、ないす……!」

「擬態していたのか!?」

 

その金色の瞳が帆楼の方を向き、光を帯びる。

何か、くるッ!

 

「?」

 

帆楼がコテンと首を傾げる。その姿はとても癒されるけど、戦闘中に癒されている暇はない。

でも―――

 

「……何も起きない……?」

「ぬ?帆楼は何かされているのかの?」

「……多分……」

 

 

「ていっ」

 

 

帆楼が腕を払った瞬間、その金目のトカゲは砕け散った。文字どおりに。

 

「むう……呆気ないのう……」

 

「「お、おう」」

 

思わずハモってしまう。後々ハジメに聞けば、あれは石化能力をもった魔物らしい。

 

確かに概念を石には出来ないだろうけども、容赦ないね―――帆楼……?

 

尚、ハジメは砕け散ったけれどもちょうどいい大きさになった肉片を錬成したパックの中に詰めていた。

 

♛♛♛♛♛♛♛♛♛♛

 

 

結構な時間をこの暗闇の中で彷徨っている。

その間に採掘した鉱石や、魔物の肉もかなりの量になっていた。

 

「よし、拠点造るか!」

「……唐突に、どうしたの……?」

「流石に荷物も多くなってきたしな、一度物を置くことのできる拠点が欲しい」

「……なるほど……」

 

道中の敵はもれなくハジメのドンナーや私の【偽典・森空囁(ラウヴアポクリフェン)】でズタズタにされ、食糧となった。

 

ハジメは適当な壁に手を当てて錬成を開始してその壁に穴を空けていく。

 

そして、三人で入れて少しばかり生活が出来るような広さへと穴を広げていく。

 

そして、その空間の壁の適当な窪みにポーションが沸いてくるらしい石を嵌めて、その下に容器を置いて、拠点の完成。

 

「さて、飯だ!」

「……チキチキ、10秒キッチン……」

「おぉう?10秒で料理するのかの?」

 

「先ず、肉を適量取り出します!」

 

取り出されたのは帆楼に一発ミンチにされたトカゲの肉、ドンナーに弾速で負けた羽を散弾銃の如く射出してくるフクロウの肉、六本の足を【偽典・森空囁(ラウヴアポクリフェン)】で残らず斬り飛ばされた猫の肉。

 

――それぞれの散り様は第三者から見れば涙を誘うものだろう。

なにせ、抵抗すらできずにあっさりとあの世に逝かされたのだから。――

 

「……そして、そこに……」

「“纏雷”!」

「……完成……」

 

出来上がるのは塩すらかかっていない、正真正銘素材本来の味わいが楽しめる(?)肉料理(仮)。

 

「空と白の言っていた兵糧みたいじゃな……」

 

こんがり焼けているものの、結局それだけである。

肉なので栄養はあるだろうけど、確かにこれはゲーマー(ニート)の兵糧である。

 

……ちょっと豪華かな?

 

 

「……食べよ……?」

「よし、いただきます……」

「……うむ、食すとするかのぉ」

 

とりあえず、トカゲ肉をぱくり。

うむ、固い。

味も完全無欠の兵糧だった。

でも、体に少し違和感。

別に痛いというわけではない、何かが充填でもされているような、そんな感覚。

 

「あ、そういえばリリィ?体が痛んだりしないか?」

「……ん?少し違和感はあるけど、問題はないよ……?」

「それならいいんだけど……」

「……何か、まずかった……?」

「いや、俺がこの見た目になったのは魔物の肉を始めて喰った時なんだよ。あの時は体が痛くて痛くて……ってうぉ!?」

「……そういうことは、速く言えェ……」

 

思わず拳を叩きつけそうになるじゃないか。

 

「い、いやぁ、痛んでなさそうだから大丈夫だと思ってねぇ?」

「……むぅ……」

「ごめんって……」

「……許す……」

「味、兵糧じゃのう……」

 

その間、帆楼は遠い目をしながら魔物の焼肉(ゲーマーの兵糧)を食べていた。

 

 

♛♛♛♛♛♛♛♛♛♛

 

 

「よし、ご馳走さまでした」

「……ごちそう、さま……」

「食材に感謝、じゃ」

 

「……そういえば、ハジメ……」

「どうした?」

「……ステータス、どうなった……?」

「お、そういえば見てないな」

「……どうせだから、見よ……?」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

南雲ハジメ 17歳 男 レベル:23

天職:錬成師

筋力:450

体力:550

耐性:350

敏捷:550

魔力:500

魔耐:500

技能:錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合]・魔力操作・胃酸強化・纏雷・天歩[+空力][+縮地]・風爪・夜目・気配感知・石化耐性・言語理解

―――――――――――――――――――――――――――――――

 

因みに、魔物の肉を弊害なく食べることができるのは、胃酸強化という技能のおかげらしい。

 

「リリィはどうだ?」

 

―――――――――――――――――――――――――――――――

リリィ・ドーラ 17歳 男 レベル:23

 

天職:幽霊

 

筋力:2000

 

体力:∞

 

耐性:∞

 

敏捷:5000

 

魔力:6500

 

魔耐:∞

 

技能:機凱種(エクスマキナ)特性【創造主(帆楼)直接連結】・模倣武装典開・精霊回廊接続神経[魔力無限補充]・再構築[体]・■■(⬛⬛⬛⬛◼)の加護・ステータス偽装・魔力操作・夜目・石化耐性・言語理解

―――――――――――――――――――――――――――――――

 

「……エグいな」

「……耐性は、あんまりあてにならない、よ……?」

「そうなのか……」

「……でも、魔力が凄く、増えてた……恐らく、ベヒモスの時の、武装の限界使用が原因……」

「無限に補充されてるのにか……」

「……多分、最大容量の増加……」

「なぁ、ゲームだとさ……力の強いところに争いって集まるよな……」

「……逃げたい……」

「まぁ、一緒に頑張ろう?」

「……やるぞー……」

「帆楼もついてるから、一緒に頑張るのじゃ!」

 

「……ありがとう、二人とも……」

 

 

 

 

 

その後、火気厳禁の油沼のようなものを見つけ、そこにいた気配感知に引っ掛からない鮫は帆楼の指摘のもと、“風爪”と【偽典・森空囁(ラウヴアポクリフェン)】にズタズタにされたあと、精肉されて、あえなく技能追加の食糧へと変貌した。

 

取得した技能“気配遮断”。

 

三人で手をあわせて……

 

「「「ご馳走さまでした」」」

 

さて……奥に足を進めるとしよう―――

 

 




サメさんイベントカット。
まぁ、この三人なら数秒で消し飛ぶでしょうしねぇ。

次回!リク&シュヴィ、香織&雫sideを予定しています!

この先も、この作品にお付きあいしてくださると嬉しいです!

「えりのる」さん!質問に答えて頂き、その上にとても嬉しい言葉をくださり有難うございます!
これからも頑張って書いていこうと思います!

読者の皆様、有難う!


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両親の心、想い願う者達/封印されし月

UA20000キター!


今回は一旦sideをゲーマー夫婦に向けつつ、先へ行きます。

そして、今回は雫の心理描写、ユエとの対面です。

二人とも結構好きなキャラなので、しっかりと書いていきたいッ!

それでは、どうぞ!!


ハジメとリリィが奈落へ落ちたという報告がトラップ手前で離脱できた両親(リクとシュヴィ)の耳に入る。

 

「ほぉう?」

「……ほぉ、う……?」

「【推測】、リリィ・ドーラと南雲ハジメは生徒の内の誰かによる謀略に巻き込まれたのだろう」

「まぁ、うちの息子(リリィ)が簡単に死ぬわけ無いが……あんまり生徒達を信用する訳にはいかなくなったな……」

「……リリィ、リクと、シュヴィの、息子―――ハーフ、回復力チート、だから、だいじょーぶ、でも、ソイツ、許すまじ……」

「【理解】しかし【疑問】、ハーフならば弊害はあるはずだが?」

「リリィの場合、武装出力が低くて、飛行能力が無いのが弊害だ。まぁ、それがどう響いてるかだけどなぁ……」

「……でも、修復力、シュヴィ達と同等―――復帰力、最強……」

「【理解】、そして【報告】、《オルクス大迷宮》内に強大な精霊反応。まだはっきりはしていないが、天翼種(フリューゲル)以上の存在がいる可能性が高い」

「なーんでこんな異世界にも、そんなのが居るんだろうなぁ……」

「……理解、不能……」

「【同意】」

「そういえばアインツィヒ、リリィとの連結状況は?」

「【回答】、あの迷宮は精霊が入り乱れていて、通信は不可能。たが、我ら(エクスマキナ)との連結は確認できる。ただ……」

「ただ?」

どの連結体とも連結はされていない(・・・・・・・・・・・・・・・・)ことも確認された」

「……どういうことだ?」

「【推測】、リリィ・ドーラ自身が独立した連結体(クラスタ)となったか……」

「それか?」

神霊種の介入の可能性がある(・・・・・・・・・・・・・)

「……おい、冗談はよせ、アインツィヒ」

「そう考えれば、迷宮にて確認された強力な精霊反応にも納得できるのだ、意志者(シュピーラー)よ」

「……その可能性は?」

「半々というべきか……この世界では神霊種(オールドデウス)が産み落とされる可能性はほぼ【絶無】。何故なら、この星の精霊量は入り乱れている溜まり場こそあれど、少々少ない。だが、介入がなければ連結体(クラスタ)から独立することも不可能といえる。故に、確率は50%である」

「エヒトとやらは神霊種(オールドデウス)じゃないのか?」

「【否定】、もし神霊種(オールドデウス)であるならば、その神髄の残り香、精霊の痕跡が残るが、それは存在しなかった」

「そうか……まぁ、それは後々に解決するとしよう。それでこの先の事だが―――どうする?」

「【考察】、取り敢えず同行の継続を推奨。生存しているのならば各地を旅する筈、我々は現状身分を明かせず、土地も知らない。観測機を使うという手もあるが、関所がある以上無断侵入は危険。故に、同行を推奨する」

「シュヴィは?」

「……リク、の、判断に、任せる……」

「じゃあ取り敢えずは同行、リリィを発見し次第離脱だ」

「「【了解(ヤヴォール)】」」

 

 

 

♛♛♛♛♛♛♛♛♛♛

 

 

「はぁ……」

 

私、八重樫雫は憂鬱な気持ちに浸っていた。

何故なら、親友の想い人とその親友がクラスメイトの内の誰かの魔法で奈落へ落とされ、その事について誰も詮索出来ないようイシュタルにより箝口令が敷かれたからだ。

その親友も未だに目を覚まさない。

 

「香織、貴女がこの現状を知ったら……怒るのでしょうね?」

 

そう、精神的ショックから己を守るために眠り続ける親友に語りかけ、親友の心の平穏を祈り続ける。

 

 

王国は二人の損失をあまり重く見ていなかった。

片や“無能”のハジメ、初期ステータスオール10の成長速度も脆弱な文字どおりの無能。そして“中途半端”のリリィ、他のクラスメイト達と違い強力な特殊技能もなく、ステータスは平均、精々見たことのないナニカを使うのみ。

この二人の損失を前に、イシュタルと国王はむしろ他の者でなくてよかったと安堵の息を吐いていた。もっとも、それでも二人(イシュタルと国王)はまだマシな方だった。中にはハジメやリリィを悪く言うものさえいた。

 

私も我慢さえしていたが、自分たちを逃がすために残り、そして何者かに落とされてしまった二人を、「まだ、死ねない」とう慟哭を叫んだ友人(リリィ)を、やれ落ちたのが取り柄なしの無能共でよかっただの、神の使徒の癖に役立たずで死んで当たり前だの、まさに死人に鞭を打つ行為に何度となくその激情に駆られそうになったが、それも必死に押さえつけた。

 

勿論あの光輝は怒ったが、それも結局光輝の株を上げるのみに収まってしまった。

 

あの時自分達を救ったのは、あの化け物を押さえ込んでいたのは間違いなく奈落に落ちたあの二人だ。

光輝さえ歯が立たなかったアレをたった二人で足止めして、何者かの魔法の流れ弾で奈落に落ちた。

 

クラスメイトは皆一様にその事について触れようとしない。「もし自分の放った魔法だったら」と思うと恐ろしくなり、話題に出せなくなる。それは、自らが人殺しであると認めてしまうものだからだ。

 

結局、皆は逃げるように二人が勝手にヘマをして死んだことになった。死人に口なしと、二人の自業自得だと、現実逃避した。そうすれば、皆悩む必要はないと。

苦しむ者がここにいるにも関わらず―――

 

 

その時、不意に握りしめていた親友の手がピクリと動いた。

 

「……ッ!?香織!分かる!?聞こえてる!?」

 

必死に呼び掛ける、すると眠っていた親友の瞼が震えながら、少しずつ開いていく。

 

そして、その親友(香織)が目を覚ました。

 

「雫……ちゃん?」

「香織!」

 

ベットから身を乗り出して、目覚めた親友を見下ろす。

親友はしばらく焦点の合わない目でボーっとしていたが、脳が覚醒したのか私に目の焦点が合い、私の名前を呼んだ。

 

「ええ、そうよ!私よ!香織、体はどう?違和感はない?」

「う、うん、平気だよ?ちょっぴり怠いけど、寝てたからだろうし……」

「そうね、五日間も眠っていたんだもの―――怠くもなるわ」

 

そうやって体を起こそうとする親友に手を貸して苦笑しながら眠っていた日数を口から洩らす。

その言葉に親友は反応した。

 

「五日間も?そんなに?何で……私は確か、迷宮に行って―――それで……」

 

徐々に合っていた焦点が散っていき、五日前の出来事を思い出そうとする親友にマズイ!と思い、話を逸らそうと試みるも、遅かった。

 

「それで――――あ……リリィちゃんは?ハジメくんも……」

「ッ!……それ、は」

 

苦しげに、何を言えばいいのか分からなくなっていく私を見て、親友もあの光景(悲劇)が本物であったのだと悟るも、そう簡単に受け入れられはしなかった。

 

「嘘……だよね?そう、だよね?リリィちゃんも、ハジメくんも、私が倒れたあと……助かったんだよね?リリィちゃんは、リクさんの所かな?ハジメくんも図書館か訓練所かな?いるよね?うん、二人に御礼を言わないと……だから離してよ雫ちゃん……ね?」

 

まるで、現実逃避するように一人で喋り出し、私達を守り、散っていった二人を探そうとする親友。

 

私はそんな親友を見て、胸が張り裂けそうになるのを抑えて、真っ直ぐに香織を見つめる。多分、表情は悲痛に歪んでいたのだろうけれど。

 

「……香織、彼らはここにいない―――貴女もわかっているでしょう?」

「やめて―――」

「香織、貴女の覚えてるとおりよ……」

「やめてよ―――」

「リリィちゃんも、南雲くんも……彼らは―――」

「いやッ、やめてよぉ……やめてったらぁッ!」

「香織!二人は死んだのよ!」

「ちがう、ちがう!死んでなんかいない!絶対っ、そんなことないっ!どうしてそんな酷いことを言うの!?いくら雫ちゃんでも許さないよ!!」

 

事実を否定するように首を振りたくって、私の拘束から逃れようとする親友。その親友の言葉が、表情が、私の心をひどく締め付ける。それを必死に耐えて、耐えて、冷えきっている親友の心を少しでも暖めることができるように、その体を抱き締める。

 

「離してッ!離してよぉ!リリィちゃんを、ハジメくんを探しにいかなきゃ!お願いだからぁ……絶対に生きてるんだからぁッ……離してよぉッ!」

 

いつしか、私の胸に顔を埋めて“離して”と叫んで泣きじゃくるだけとなった私の親友。

 

縋りつくようにしがみついて、喉を枯らさんばかりに大声を上げて泣き続ける親友を、私はただひたすら抱き締め続けた。少しでも、その心が癒えることを信じて。

 

 

 

落ち着いたころには蒼かった空は赤みがかかっていて、それが時間の経過を如実に表していた。

泣き叫んでいた親友は今はスンスンと鼻を鳴らしている。

その親友が身じろぎをして、心配になった私は声をかけた。

 

「香織……」

「……二人は―――落ちたんだね……雫ちゃん……ここにリリィちゃん達はいないんだね……」

 

囁くような、消え入るような声で私に話しかける。

私は誤魔化したくない。誤魔化しは一時的な心の癒しにはなる。けれど、その平穏はいつか倍になって重くのしかかってくる。

これ以上親友が傷ついて、壊れていく姿は見ていられない。

 

「そうよ……」

「あの時、私達のうちの誰かの魔法が二人に当たりそうになった……誰なの?」

「わからない……あの時のことは誰も触れようとしないから―――怖いのね、もしも自分のだったらって……」

「そっか……」

「恨んでる?」

 

そう、聞いてみた。想い人を殺された……それは憎悪となっても可笑しくないのだから。

 

「……わからないよ。もし誰かわかったらきっと、恨むとおもうよ―――でも、わからないのなら、それでいいと思う。きっと、私は、我慢できないと思うから……」

 

ポツリポツリと会話を重ねる。

やがて、さっきまで泣き腫らしていた顔に決意を宿して私を見上げた。

そして、親友は決然と宣言した。

 

「雫ちゃん、私、信じないよ。リリィちゃん達は生きている。死んだなんて信じない、絶対に」

「香織……」

 

親友の言葉にまた、心に影が射すのを感じる。

その願望は、きっと叶わないのだから。

でも、親友は私の顔を両の手で頬っぺたを包むと、綺麗な微笑みで私に告げた。

 

「わかってるよ、あの高さから落ちて、生きている訳がないって、そう思うほうが可笑しいって―――でもね、誰も二人が死んだことを確認した訳じゃない……確認してないのなら、可能性(オッズ)はゼロじゃない―――私はそう信じたいの」

「香織……」

「私、強くなるよ……もっと強く、あんな状況に陥っても今度は守れるように―――そして、確かめる、自分の目で。リリィちゃん達のことを……だからね、雫ちゃん―――」

「なに?」

「―――力を貸してください!」

「……」

 

親友の瞳を見る。狂気や現実逃避の色はない。

ただ純粋な、己が納得するまで絶対に諦めないという意志が宿っていた。

こうなれば親友は、私でも、親友の家族でさえ手を焼く頑固者になる。

そんな親友に、少し笑ってから、己の回答を示す。

 

「勿論、力を貸すわ……貴女が納得するまで、とことん付き合うわ!」

「雫ちゃん!ありがとぉ!!」

「何言ってるのよ、親友でしょ?」

 

笑ってそう返す。

諦めなければ可能性はある。なら、親友と信じよう。二人の無事を……

 

「雫!香織はめざ……め……」

「おう、香織はど……う……」

 

泥に汚れた二人が部屋に入ってくる。二人ともあの日から、前以上に訓練に身が入っている。

流石にあの二人を喪ったことに思うことがあるのだろう。

 

だが……

 

「「お邪魔しましたッ」」

 

と、頭を勢いよく下げて扉を閉めて駆けていった。

 

何故?と考えて私の今の状態を確認する。

親友は私の膝の上に座って私と向き合っている。

さらに親友は、私に顔を近づけている上に私も親友の肩を手で持っていた。

 

理解する。百合である、紛うことなき百合である。

 

理解した私は、まだ理解できていない親友を前に深く息をつき―――

 

「さっさと戻ってきなさい!この大馬鹿者ども!!」

 

そう、何時ものように叫んだ。

 

 

♛♛♛♛♛♛♛♛♛♛

 

人間(?)二人、神様一柱の迷宮探索は続く。

あの残念な最期を遂げたサメのいた階層から既に50階層は下っている。

あのサメの肉を食してからはサクサク進んでいた。

気配遮断を使って必要なものは採って食糧になりそうなものは片っ端から刈り取っていった。

 

その間に強力な魔物もいたが、三人のチームプレーであえなくぶっ飛ばされた。

例えば毒の痰を吐くカエル(撒かれた毒は除染液で無力化した上でカエルをドンナー滅多撃ちにした。色は虹色、キモかった)、麻痺の鱗粉を撒き散らす蛾(見た目はモ○ラ、鱗粉は帆楼が風で巻き上げ、本体は【偽典・森空囁(ラウヴアポクリフェン)】で羽根と胴体をサヨナラした)に襲われたが、まぁ、問題なかった。怪我も神水を使えば即治療できるので、すごくサクサク進んでいった。

 

因みに食糧としての味は蛾が上であった。

 

(リリィ)的にはカエルもイケると思ったのだが。

 

途中、デカイムカデや樹木型の魔物のいる何故か地下にある密林地帯を抜た。樹木型の魔物が投げていた木の実は本当に美味しかった。

ムカデは帆楼が涙目で消し飛ばしていた。キモいのは苦手らしい。

なお、この後、樹木型の魔物は果実の味をしめた私達が原因で滅びかけた。

 

そんなこんなで50層くらい踏破してきた。

まだ終わりは無いようだけれど、現在のステータスはこうなった。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――

南雲ハジメ 17歳 男 レベル:49

天職:錬成師

筋力:880

体力:970

耐性:860

敏捷:1040

魔力:760

魔耐:760

技能:錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合][+複製錬成]・魔力操作・胃酸強化・纏雷・天歩[+空力][+縮地][+豪脚]・風爪・夜目・遠見・気配感知・魔力感知・気配遮断・毒耐性・麻痺耐性・石化耐性・言語理解

―――――――――――――――――――――――――――――――

リリィ・ドーラ 17歳 男 レベル:49

天職:幽霊

筋力:2500

体力:∞

耐性:∞

敏捷:6500

魔力:7500

魔耐:∞

技能:機凱種エクスマキナ特性【創造主(帆楼)直接連結】・模倣武装典開・精霊回廊接続神経[魔力の無制限補充]・再構築[体]・■■(⬛⬛⬛⬛◼)の加護・ステータス偽装・魔力操作・夜目・遠見・気配感知・魔力感知・気配遮断・毒耐性・麻痺耐性・石化耐性・言語理解

―――――――――――――――――――――――――――――――

 

私たちはこの階層に来るまでに、それぞれ錬成の練度上昇や、帆楼を監督にした武装展開の速度を上げる鍛練。魔物を標的にした狙撃の練習などをしながら、トントン拍子で進んできた。

そして、私たちは探索していて、不思議な空間を見つけた。

それは、巨大で荘厳な扉。両側に単眼の巨人を模した彫刻が壁に埋め込まれるように鎮座しており、その異質さを一層引き立てていた。

 

この迷宮を探索し続けて培った勘が、この先には私たちの旅路を変える“ナニカ”があると、そう告げていた。

そのためにこの階層を巡って装備を整えて、その空間に突入することにした。

 

「よし、それじゃあ行くぞ?」

「……おっけぇーい……」

「うむ!いざ往かん!」

 

帆楼は巻物を、ハジメはドンナーを、私は巨砲をそれぞれ装備して、ハジメが宣言するように声を張り上げる。

 

「俺たちは!生き延びて故郷に帰る!日本に、家に、家族のもとへ!邪魔するものは何であろうと―――」

 

そして声を揃えて吼えたてる。

 

「「「捻り潰す!」」」

 

何時ものように、不敵な笑みを浮かべてそう宣言した。

 

三人で扉に近づく、その扉もその全容が見えてくる。

近づけば近づくほど、その扉に施された装飾の荘厳さ、美麗さがわかる。

そして、扉の中央には二つの窪みがあり、それを中心に魔法陣が描かれている。

 

「……ハジメ、わかる……?」

「いや、わからねぇな……これは―――魔法については結構勉強したけど、こんな式は見たことない」

「結構古めの扉のようじゃしのう……古の魔法陣ではないか?」

「その線が一番あり得そうだな」

「……そうだね……」

「取り敢えず、いつものように錬成で起動してみるかねぇ」

 

と言って、ハジメが魔方陣に触れて錬成を行う。

 

その瞬間―――

 

バチィィ――――ッ

 

赤い光が扉から噴出し、ハジメの手を灼きながら、ハジメを吹き飛ばした。

 

「ハジメ!?」

「くっそ!痛ぇなぁ!リリィ、ポーションプリーズ!」

「おっ、けぇい!」

「サンキュ!」

 

ハジメにポーション(神水)を投げ渡し、ハジメはそれを飲み干す。

 

すると……

 

オオォォォオッッ!!

 

咆哮が轟いた。

 

咆哮が発せられた方向、すなわち扉を見ると、両側に埋め込まれていた単眼の巨人像が灰色から暗緑色に色づき、周囲の壁を砕きながら本来の魔物の姿へと変貌する。

 

単眼の巨人、その姿はファンタジー系の創作物で定番のサイクプロスまんまである。

 

「まんまだなぁ……」

「……凄まじい、既視感……」

「緊張感ないのぅ……」

 

三者三様の感想を口にしつつ、サイクプロス×2がまるでゲーム内のモンスターの登場シーンでモンスターがポージングするかのように構えようとして……

 

ドパンッ―――

 

重い音とともに、哀れサイクプロス(右)の頭は爆発四散、ショッギョムッジョ。

そんなネタ丸出しな言葉が頭に過る。

 

そして、サイクプロス(左)が単眼ごとぶち抜かれ倒れ往くサイクプロス(右)と、単眼ごとぶち抜いたハジメを戦慄の表情で交互に見る。

 

その隙を私は―――

 

「【制速違反(オーヴァ・ブースト)】」

 

加速して、紫色の宝石がついている指貫の滑らかな手袋に包まれた左手でモツ抜きを敢行、体内のちょうど心臓部にあった魔石を引き抜いた。

そんな穴空きサイクプロスはまたもや戦慄の表情を浮かべて私を見て、倒れ伏す。

 

「容赦の欠片もないのぅ……」

 

帆楼も苦笑いをしているが、普通だと思う。

隙を見せた向こうが悪いのだー。っと、奈落に落ちてからの常識を履行しただけである。

 

「肉は……後ででいいか」

「……魔石、あった……?」

「あぁ、あったぞ」

「……嵌める……?」

「まぁ、扉を開く条件はそれだろうしな」

 

魔石を扉の窪みに嵌め込む。

直後、赤黒い魔力光が魔方陣に走り、なにかが割れるような音が響き、魔方陣の光が消える。

そして、唐突に扉から光の奔流が噴出する。久しく見ていなかった、太陽のような輝きに目を瞬く。

 

ハジメを先頭に扉に近づく。

扉を押し開けて、その中を見る。

そこは、転移してきた時に見た教会の大神殿で見たような大理石のような艶やかな石造りで、幾つもの太い石柱が奥に向かって規則的に並んでいる。

 

そして、その部屋の中心には巨大な立方体の石が置かれていて、外からの微かな光に滑らかな表面が晒され光沢を放っている。

 

その立方体の前面中央になにかが生えていた。

 

「【観測】【解析】」

 

観測機がキュルキュルと音をたててその存在を解析する。

 

視界の端に、解析結果が表示される。

 

――――【対象解析結果:吸血種(ダンピール)

 

「……吸血種(ダンピール)……?」

「ぬ?プラムとやらの同類かの?」

「……そのプラムっていうのは知らないけど、解析結果で判断すると、そうだと思う……」

吸血種(ダンピール)?」

「……うん、吸血種(ダンピール)。所謂吸血鬼……」

「絶対に面倒ごとだ……」

 

 

「……だれ?」

 

 

話し込んでいると、その暫定吸血種(ダンピール)さんの方から声が聞こえる。

 

その方向を向いて、その暫定吸血種(ダンピール)さんの姿を確認する。

 

上半身から下、両手が立方体の中に埋められていて、長い金髪が前に垂れて、その隙間から皆既月食の月(ブラッディムーン)のような紅の瞳が覗いている。

年頃は、だいたい12か13あたりだろうか、随分と窶れている。

 

よくよく見れば、その容姿はそれこそ月のように美しかった。

 

そんな少女を見て、ハジメは……

 

 

 

「すみません、間違えました」

 

「……ちょい、待てぇい……!」

 

 

 

もとの道へ帰ろうとしていた。

 

 

 

 




終わっ、た……
言葉選びに悩みまくりました、はい。
そして始まる高2生活。頑張らなければ……

次回はユエとのお話しです。
他の機凱種武装ももうそろそろ出せればなぁ、と。

指貫の手袋。この伏線回収はもうちょい先です。
わかっている方もいるかもしれませんが、お楽しみに!


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お月様と超越者達

前回の続き!
UA20000突破記念に設定集や番外編でも書こうかなぁと思っている作者某。
今回もユエたそです。ユエたそぐうかわ(錯乱)


「すみません、間違えました」

「……ちょい、待てぇい……ッ!」

 

さらりと来た道を帰ろうとするハジメ。気持ちはわかるけど、迷いの欠片もないねぇ!

 

「待って!……お願い、助けて……っ!」

「嫌です」

「……話くらいは聞いてあげてもいいと思うけど……」

 

「まぁ、リリィも分かってると思うけどな?ここは奈落の底のさらに底だ。そこにこんな厳重な封印施された奴だぞ?絶対にヤバイやつだ。それに……迷宮脱出には役に立たなそうだしな……てなわけで」

 

と、ド正論を告げて踵を返し、足早に去ろうとするハジメ。

私は一度、ハジメの後ろをついていく。その上で、この吸血種(ダンピール)の少女が助けを求める意思を見せるのか、耳を傾ける。何か理由があって助けを求めるのなら、その理由を語るはず。そう信じて。

 

「ちがう!ケホッ……私!何も悪いことしてないっ!……待って!私はッ……」

 

ハジメが扉を閉めかける。けれど、完全に閉めきるより早く、その叫び声が私たちの耳に入ってきた。

 

「裏切られただけッ!!」

 

ハジメの扉を閉めようとしていた手が止まる。

私はその叫びを発した少女に視線を向ける。

帆楼が顔を伏せる。私とハジメも、帆楼も共に一度裏切られた者。私たちは理由もよくわからず、帆楼は定石破りの布石の為に。どうやら、この少女は前者。即ち私とハジメのように、理由もよくわからず、もしくは胸糞の悪くなるような理由で裏切られたのだろう。

 

少女に向けていた視線をハジメに戻す。

どうする?と視線で私に問いかけている。

親友に自らの意思を伝える。

 

「はぁ~」

「……同じ境遇なら、私たちは見捨てる……?」

 

そして、答え合わせ―――

 

「「見捨てれないよね?」」

 

と、頷きあって。

もう一度、扉を大きく開く。

 

吸血鬼少女の前まで歩いていき、話をはじめる。

 

「……裏切られたって、どうして?裏切られたとしても、何で封印されたの……?吸血種(ダンピール)と何か関連があるの……?」

吸血種(ダン、ピール)……?」

「……そう、所謂吸血鬼のこと……」

 

その、吸血鬼という言葉を聞いてピクッと肩を揺らす少女。そして此方を覗く紅瞳はそのままに、少し黙ってしまう。

 

「話さないなら帰るけど?」

 

とハジメが告げる。

その言葉を聞いて、少女が慌てて語りだす。

 

「私、先祖返りの吸血鬼だから……すごい力持ってる……だから国の皆のために頑張ってきた。でも……ある日……家臣の皆……お前はもう必要ないって……おじ様……これからは自分が王だって……私……それでもよかったのに……でも、私、すごい力あるから危険だって……殺せないから……封印するって……それで、ここに封じられた……」

 

もう流石に叫び過ぎたのか、枯れるに枯れた喉でか細く騙る少女。

その話の中には、とても気になるワードがところどころに。

 

「……家臣に、王―――王族だった……?」

「……」

 

コクコクと頷く少女。

 

「殺せないってなんなんだ?」

「……勝手に治る。怪我してもすぐに治る。首を落とされても、その内治る」

「……おぉう……」

 

凄まじい能力だ。回復能力は間違いなく私より上。

ハジメも若干だが、目を見開いている。

 

「……他には……?」

「魔力を直接操れる……陣もいらない」

「二人と同じじゃのう……」

 

私は半機凱種(エクスマキナ)故に魔力(精霊)を直接利用できる。ハジメも魔物の肉を喰らってから、直接操れるようになったらしい。

 

ただ、ハジメは魔法の適性がないため、魔法は陣が必要になるらしい。

 

それを考えると、この少女は凄まじい。魔力を直接操る力。さらに魔法適性。絶対的ではないとしても不死身。この三つは凄まじいアドバンテージとなる。それこそ勇者(笑)と比較にならない程に。

戦力としては最高峰。相手が陣を使って魔法の準備をしている間に根本的に火力が上の魔法を幾つも放てるのだから。

 

「お願い……たすけて……」

 

その、懇願する声を聞いて。

 

「……ハジメ、やるよ……?」

「あーもう、わかったよ!」

 

右手で少女を封じている石に触れる。

 

「【解析】」

 

その石の構造、その全てを把握する。

 

「……基幹術式を確認、術式、及び素材崩壊を開始する……」

 

瞬間、凄まじい抵抗に目を見開く。

すぐさま、周囲の精霊を動力に変換して素材崩壊を優先する。

術式の抵抗ではない。その立方体の素材の抵抗だった。

周囲が精霊の動力変換時の発光で碧光に染めあげられる。

 

「“錬成”!手伝うぞ、リリィ!」

「……さん、きゅう……ッ!」

 

碧に染まった世界に、紅が混ざる。

 

「まだまだぁ!」

「……全力、全開……!」

 

凄まじい碧と紅の輝きが周囲を照らし出す。

 

私は碧、ハジメは紅の輝きを精霊動力、魔力として石に向かって全力で放出する。

 

「帆楼も手伝うぞ!」

 

と、帆楼が私とハジメの背に触れる。

力が増幅されていく。無から有を現出させる神霊種(オールドデウス)の力。それが、私とハジメに更なる力を与えて―――

 

次の瞬間、石がドロッと融解した。そして液状になった石は碧い光を伴って(ソラ)へ還り消えていき、少女の枷となっていた石は消えていった。

 

そして、少女の全貌がさらされる。

 

それなりに膨らみをもった胸部、やせ細ってなお美しさを感じされる肢体。

 

石が完全に消滅して、支えのなくなった少女が床にペタンと女の子座りで座り込む。

立ち上がる力は、どうやらないらしい。

 

ふぅー、と二人で息を吐き、帆楼に差し出されたポーション(神水)を受け取ろうとすると、その手が別の弱々しい力の手に握られた。

 

助け出した吸血種(ダンピール)の少女だった。

此方を真っ直ぐ見つめる紅玉の瞳には、強い少女の気持ちが宿っていた。

そして、小さな、それでも確かな声音で―――

 

「……ありがとう」

 

「……どうい、たしまして……」

 

感謝された。うれしかった。頼もしい仲間と共に助け出した少女のその言葉は、確かに私たちの心を暖めた。

 

ハジメと、帆楼と視線を交わして、笑った。

心から、三人で。

 

 

しかしまぁ、こんな場所に幾年も、それも信頼してきた肉親に裏切られた。

本当に、よく心が壊れなかったなぁと思う。

もし、心が壊れなかったのも再生能力が関わっているのなら、それはそれで恐ろしくなる。こんな何もない空間に一人で―――それでも正気でいることを強制されるのだから。

 

「……名前、なに?」

 

少女に聞かれる。

私は出来る限りの笑顔で自らの名を告げる。

 

「……リリィ・ドーラ、私の名前……」

「ハジメだ。南雲ハジメ。それが名前だ」

「帆楼、(ホロウ)という意味の名を与えられたものじゃ」

 

「リリィ……ハジメ……ホロウ……」

 

そう私たちの名前を反芻する。

 

「……貴女の、名前は……?」

 

そう聞くと、思い直したように私たちにお願いをした。

 

「……名前、付けて?」

「……名前、忘れた……?」

 

そんな問いに、少女はふるふると首を振って。

 

「もう、前の名前はいらない……リリィ達が付けた名前がいい」

「……ん、わかった……」

 

どうしようか、と考える。

月のような少女にあまり変な名前を付けたくないというのもあるし、名はその人を表したものでなければ―――と、思った所で気づいた。月に関する名前はどうだ?と。

 

ハジメと一緒に相談する。

そして、意見を一致させる。

 

「……ユエ、貴女の名前は、ユエ……」

「ユエ?……ユエ……ユエ……」

「……ユエ、ていうのは、ハジメと私の故郷で、“月”を意味する―――初めて見たとき、金色の髪とか紅い目がお月様みたいだと思ったから……ダメだった……?」

「ううん、うれしい……今日から、私はユエ。ありがとう」

「……どうい、たしまして……?」

「どういたしまして」

 

そして、まぁ、今さらなのだが、少女の姿を見て私はいつも私が纏ってるのと同じ見た目のフード付きのローブを作り出す。

 

「……とりあえず、これ、着て……?」

 

差し出されたローブを見て、そして今の自分の姿を見て、ポンッと音を立てるように真っ赤になったユエがローブを抱き寄せて

 

「リリィのエッチ」

「……不可抗力……」

 

言われても仕方ない事だとしても、一応言っておく。

割りと身長はそう大きな開きはないので、そのままローブにすっぽり包まれる。

そんな姿に微笑ましさを覚えていた、その時だった―――

 

 

帆楼がバッと顔を上に向けて

 

「リリィ!ハジメ!上からくるのじゃ!」

 

そして、その叫びと同時に気配感知に凄まじい気配が捉えられた。

 

そして、真上の天井が崩れ落ち、ソレが姿を現した。

黒光りする厚い甲殻、五メートル程の体長に八本の足、四本の鋏の付いた長い腕、そして針の付いた長い二本の尻尾。さながら蠍のような見た目の強い覇気を纏った魔物がそこにいた。

 

咄嗟に腕にユエを抱えて飛びずさった。

その腕にいるユエを見る。あの蠍擬きになぞ目もくれずに、私を見つめていた。

どうやら、私たちに自分の命運を託すらしい。

それに、どうやらユエを連れていくにはコレを倒さなければならないらしい。

帆楼でさえ直前に気づいたということは、気づいたその瞬間に魔物が生成されたのだろう。

ならこれはユエを逃がさないための最後の仕掛け。

なら、その悉くを踏み潰そう!!

 

ユエの口に神水の入った試験管を押し当てる。

 

「うむっ!?」

「……飲んで……っ!」

 

口に押し当てられた物に驚いていたが、私の声を聞いて大人しく中身を飲み込んでいく。

唐突に押し当てられたから若干涙目になっていたが……

 

「……しっかり、掴まっててね……?」

「……んっ!」

 

気味の悪い音を響かせながら寄ってくる蠍擬き相手にハジメと叫ぶ。

 

「邪魔するってんなら……殺して喰うだけだッ!!」

「……とっとと、皆で終わらせる、の……ッ!!」

 

さぁ、最後の砦を打ち砕こう―――

 

 




ユエたそ編まだまだ続くよ!

次回に【偽典・天撃】を使う予定です。
表現できるかな?

さぁて、頑張ろうかッ!!


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焼き尽くす蒼き天蓋

『無双のその先へ』を久しぶりに更新!
そして、帆楼の概念名を間違えていたので直しました!
請希じゃなくて誇戯でした。8巻を見直して、あ”、ってなりました。

今回は蠍擬きさんがダイナミック調理されます。では、どうぞ!


 

向かい合う蠍擬きと私達。

戦いの先手を切ったのは蠍擬きの尻尾の針から射出された紫色の液体だった。

それぞれ飛び退いて避ける。さっきまでいた地面が音をたてて融解していく。融解性の毒液のようだ。

 

その光景を横目に視認しつつ、ハジメは何時ものようにドンナーで、私は【偽典・森空囁(ラウヴアポクリフェン)】で迎撃する。

 

ドパンッ―――

―――シャラン―――

 

激しい音をたてて炸裂するドンナーと、静かな刃を撫でるような音をたてて目標を裂かんと放たれる真空の刃。

 

身長があまり変わらないので背中に抱き付く形で背負っているユエの驚愕が、背中を通して伝わってくる。

 

詠唱なしの真空の刃。見たことのない形の鉄塊から放たれる閃光。

伝えてこそいなかったけれど、ユエも気づいたのだろう。私達もユエと同じように魔力に直接干渉できることに。

 

ハジメは“空力”を使っての跳躍で空中に浮かび、私も機械の翼を広げて空中に浮かぶ。

先ほどから蠍擬きは微動だにしていない。それは、私達の技能である“気配感知”と“魔力感知”で確認したものだ。

 

尻尾が此方を向き、膨らむ。瞬間、毒針が凄まじい速度で放たれる。

それは空中で幾重にも分裂し、散弾のように襲いかかってくる。

 

「……みんな!離れて……!」

 

頷いた帆楼が障壁を張り、その中にハジメも入ったのを確認して

 

「……しっかり、捕まってて……!」

「わかった」

「【制速違反(オーヴァ・ブースト)】ッ!」

 

翼から霊骸を勢いよく射出する。

噴射した霊骸により、針が溶け落ちる。

原型を一応ながら留め向かってくるものは機械の足甲で蹴り飛ばす。

そして、即座に除染液を散布し、霊骸を取り除く。

 

「リリィ!離れろ!」

 

ハジメの方を向くと、道中で作った特殊な手榴弾のピンを抜いて投げたところだった。

すぐさま帆楼の張った障壁内に入る。

 

瞬間、起爆。

爆発と同時に黒いタール状のものが飛び散った。

そして爆炎がそれに引火する。

そう、焼夷手榴弾である。タール鮫のいた所にあったフラム鉱石と呼ばれるらしい鉱石の発する液体が摂氏三千度で燃え盛る。

 

つんざくような蠍擬きの悲鳴が轟く。流石にこれは効いたようだ。精霊の刃をも弾く甲殻は炎にはあまり強くないらしく、暴れまわり、必死に火を消そうとする。

 

ハジメがドンナーをリロードする。

その時には殆どの炎が鎮火され、あちこちから煙を上げている蠍擬きがそこにいた。

 

「キシャァァァァアア!!」

 

咆哮を轟かせ、怒りを露にする蠍擬き。

体全体を使った攻撃方法にしたらしく、四本ある鋏を伸長させ、風を切る音を響かせながら此方に迫る。

 

翼のスラスターを駆り避ける。

その過激な機動にユエが顔を歪めたが、どうにか堪えたらしい。

 

そして、ドンナーの反動で攻撃を避け終えたハジメとともに跳躍し、背中の甲殻に張り付く。

ハジメと共にゼロ距離で攻撃を放つ。

 

スガンッ―――

ドガンッ―――

 

甲殻こそ剥がせなかったが、その巨体を地面に叩きつけることに成功する。

全く傷の入らない甲殻に向けてハジメとともにありったけの砲撃を放つも、皹すら入らない。

 

蠍擬きもやられたままではない、尻尾を掲げ、針の散弾を自らの背甲に放った。

それぞれ脇への跳躍で避ける。

そして、無防備な尻尾へ砲撃を放つも、やはり堅い甲殻に阻まれてしまう。火力が……足りないッ―――

 

ハジメが再び焼夷手榴弾を投げ放つ。

 

どうするべきか、そう思考した瞬間だった―――

 

「キィィィィイイ!」

 

不気味な甲高い咆哮を放つ。

地面が粟立ち、周囲に円錐形の棘が無数に突き出した。

 

「ッ!?―――【進入禁止(カイン・エンターク)】!!」

 

碧光を放つ円状の盾を出現させ、突き出した棘を防ぐ。

が、ハジメは避けきれず、帆楼が張った障壁のお陰でダメージこそないが、大きく吹き飛ばされる。

 

「うぅ、ん」

 

流石にユエも連続した過激な機動に堪えることができなくなり始めたようだ。

 

ハジメが閃光手榴弾を蠍擬きの眼前に投げる。

 

「キィシャァァァァアア!?」

 

此方の動きを目視で把握していた蠍擬きには効果があったようだ。

 

「……堅すぎ、でしょ……っ」

「う、ぅ、何で、逃げないの?」

 

辛そうに顔を歪めるユエが聞いてくる。

 

「……一回、助けるって決めた。ただ強いのが出てきたところで見捨てるほど―――」

 

ユエの目をまっすぐ見つめて言う。

 

「―――この覚悟は、安くない……ッ!!」

 

勝つためなら、どんな手でも使おう。けれど、そこに人の命を天秤にかけるほど、私の心は強くないから……

……助けたいって心は、本物だから!

 

そんな私を見て、ユエは頷いて私に抱きついて―――

 

「リリィ……信じて」

 

そして、私の首もとに噛みついた。でも、私の表皮は現在は金属なので……

 

「……噛めない……堅い」

「……再構築[体]――これで、大丈夫……?」

「ん……」

「……帆楼、障壁頼める……?」

「うむ!がってんしょうち、じゃ!」

 

蒼い輝きを放つ障壁が展開される。

再びユエが首もとに噛みついて、血を吸い始めた。

さっきの“信じて”は、吸血行為に対して、受け入れて逃げないで欲しいということだったのだろう。

安心させるように優しく力を込めて抱き締めると、ピクッと肩を揺らしてユエもさらに強く抱きつき、首に顔を埋める。

 

「キィシャァァァァアア!!」

 

閃光やられから回復したらしい蠍擬きが咆哮を上げ、また地面から無数の棘が突き出してくる。

 

そして、私たちと蠍擬きの間に体を滑り込ましたハジメが―――

 

「仕掛けがわかればこっちのもんだ!」

 

帆楼の障壁を上書きするように石の壁を錬成する。

砕かれようとも再生し続け、その攻撃を帆楼の障壁にすら届かせない。

 

皆が防御に専念していると、首に噛みついていたユエがその口を離す。

熱に浮かされたような表情でペロリと唇を舐めとる。

どういうわけか、血を吸う前より肌が艶々している気がする。

頬は薔薇色に紅潮していて、瞳は暖かい紅色を放っている。

 

そして、私の頬っぺたを撫でて一言。

 

「……ごちそうさま」

「……お粗末さまでした……?」

 

そして、ユエの体から黄金色の魔力が立ち上る。

その輝きが周囲の暗闇を切り裂くように照らし出す。

その神秘の輝きに包まれたユエが、その魔力と同じ黄金色の髪の毛をたなびかせ―――

 

「“蒼天”」

 

瞬間、蠍擬きの頭上に蒼白い炎を湛えた巨大な球体が顕れる。

 

当たってもいないのに、その熱量に悲鳴をあげ、逃げようとする蠍擬き。

けれど、その逃亡は意味をなさなかった。

 

ユエがその白魚のような指が、指揮するように振られる。

すると、その蒼炎の球体は逃げ惑う蠍擬きへと向かい、直撃する。

 

「グゥギィヤァァァアアア!?」

 

断末魔のような悲鳴をあげ、その厄介だった甲殻は殆どを赤熱させ、さらにはドロドロに融解させていた。

 

「……疲れた」

「……お疲れ―――あとは任せて……?」

 

肩で息をしているユエが体を私に預けてきた。

そのユエに労いの言葉をかける。

後は、私で終わらせられる。これだけの隙があれば―――アレ(・・)が使える……っ!

 

「……みんな、下がって―――帆楼、障壁お願い……」

「任せるのじゃ!」

 

ハジメとユエが展開された障壁の中に入るのを確認して……

 

「……再構築[体]……」

 

再び体を機凱種(エクスマキナ)へと変質させる。

 

そして、ソレ(・・)を使えば蠍擬き消しとんでしまう。というより熔け落ちる。

なので、瞬時に加速、四本の鋏のうち二つを掴み引き千切り、眼前に衝撃に備え【進入禁止(カイン・エンターク)】を展開する。

 

そして……

 

「……《典開(レーゼン)》【偽典・天撃(ヒーメアポクリフェン)】……ッ!」

 

収束する精霊、光ごと搾取された精霊は闇色を超え、光を映さぬ夜色へと変わってゆく。

 

「ぬ!?これは不味いぞ!?」

 

その異様な精霊の密度に焦った様子で帆楼が部屋全体へ障壁を展開する。

 

「おいおい……一体なんだってんだッ」

「お主も手伝ってくれないかの!?アレは不味いぞ!今から放たれるのは【偽典・天撃(ヒーメアポクリフェン)】という模倣武装じゃが……威力が全くもって桁違い(・・・・・・・・・・・)なのじゃ!」

 

その言葉に事の重大さを理解したハジメが帆楼の生成した障壁に魔力を込め、支援を行う。

 

そして、黒の暴力が放たれた。

 

 

 

 

――崩壊――

 

 

 

 

まさにその言葉が当てはまる、圧倒的破壊。

黒と紫の暴風が視界を裂き、砕き、悉くを消失させる。

ありとあらゆる天賦の才、強者の傲り、その一切合財を嘲笑い、無へと還す無双の一欠片。

舞い狂う粉塵さえも暴れ狂う精霊の嵐が素粒子へと還す。

その暴威に曝された障壁が悲鳴のような音をたてる。

 

偽典・天撃(ヒーメアポクリフェン)天翼種(フリューゲル)の全力の一撃“天撃”を模倣した武装。

ただ、その模倣の原典はあくまで大戦中期の天翼種(・・・・・・・・)である。

しかし、今リリィから放たれたソレ(・・)はそれを遥かに凌駕する、それこそ天翼種最強個体(ジブリール)の天撃に匹敵する威力であった。

 

その神霊種(オールドデウス)の障壁さえも突破せんと奔る破壊の嵐が晴れ、視界に広がった光景にハジメとユエ、帆楼さえも目を見開いた。

 

豪奢な装飾の施された部屋は最早その面影も、其処に部屋があったという事実さえ疑ってしまうような完全な無。

 

部屋全体に張り巡らされていた障壁は悉く破壊し尽くされ、ただ岩盤が球状に広がっていた。

 

その惨状に固まっている三人に―――

 

「……状況、終了……」

 

そう呟き、こちらに振り向いて微笑む。

 

その微笑みでハッと正気を取り戻したハジメたちは、二本の蠍擬きの鋏を掲げ、こちらにピースサインを向けるリリィに駆け寄って勝利の喜びを分かち合った。

 

 

 

その時、小さく胎動するように輝いていたステータスプレートの文字に気づかずに―――

 

 

 

 

―――技能:戦■(ア⬛ト⬛◼)ノ加護―――

 

 

 

 

 

 

―――――クハッ、戦い(研鑽)の刻は近い―――――

 

―――――さぁ、余に魅せてみよ―――――

 

―――――貴様のその生き様(真髄)を―――――

 

 

 

 




以上です!

いやぁ、まさか書いている途中に私の第二作の『無双のその先へ』がデイリートップ3にランクインするとは……
本当に感無量です。

皆様、ご評価本当にありがとうございます!

さて、どんどんあの神霊種の片鱗が見え隠れ。
本領発揮まであと少し!
天撃の描写は上手くいったでしょうか?お気に召されると嬉しいです!

それでは、また次回に会いましょー!

偽典・天撃の威力低くね? と思った上で指摘もされましたので一部編集いたしました。
【機凱種】さん、ご意見ありがとうございます!


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お話しと目覚め間近

本当に読者様に感無量でございます……

私の小説は私自信の妄想の爆発がもとでしたが、今では読者様と歩む作品になるとは私も予想だにしていませんでした。
本当に感謝の言葉しかありません。

少しばかし辛気くさくなってしまいましたが、これからも私、ユマサアとその作品をよろしくお願いいたします!

皆さまとともにこの作品の更なる発展を目指していきたいと思います!

今回はお話し回と露見して行く【■■ノ加護】という技能。そこらのお話しとなります。
もう感想で先の構想をゲロったりしていますが、どうぞご期待ください!


蠍擬きを消し飛ばしたリリィ達は表にあったサイクロプスから食料となる肉を剥ぎ取って、拠点へと戻ってきた。

 

最上位級魔法を使いへばっていたユエもリリィの血を飲んですぐに復活し、四人がかりで特に苦もなく戦果を拠点に運び込んだ。

 

拠点については近場という意味であの封印部屋を使う手もあったのだか、あの惨状では使えそうもなかったので結局最初に立ち上げた拠点に戻ることになった。

 

そして、拠点に戻ってきたリリィ達はお互いの身の上を語り合った。

 

「……そうすると、ユエってこの中で二番目に長寿……?」

「むぅ、マナー違反……でも、一番さんは誰?」

「帆楼かの?」

「……うん……」

 

その言葉にユエが首を傾げる。それはそうだ、見た目的には帆楼が一番幼く見えるのだから。

ただ、それはハジメ以外の全員に言えることなのだが。

 

「何歳なの?」

「……汝、先刻自らマナー違反と言っていたであろう……まぁのう……少なくとも六千年は生きておるぞ?」

「……ぇ?」

「……流石、神霊種(オールドデウス)……」

 

文字通り桁違いの年齢にフリーズするユエ。

 

因みにユエも他の吸血鬼は滅んでいるし、通常の吸血鬼の寿命は長くとも二百年であることを聞くとかなりのご長寿なのだが、帆楼の桁外れな年齢にそんな思考も彼方へと吹っ飛ばされた。

 

そして、話は続いていく。

 

力の自覚を初めて得た頃の話。

 

王座に就いたときの話。

 

そして、欲に眩んだ叔父に封印された話。

 

肝心の帰還方法は解らなかったが、ユエは接近戦こそ苦手ではあるが、全属性への適性があるらしくハジメが「なんだこのチート集団」と白目を剥いていた―――

 

―――けれど、自分もその一人という自覚はあるのだろうか……

 

自動再生は固有魔法に分別されるらしく、魔力が残存する限り一瞬で塵も残さず消し飛ばされない限り死なないそうだ。

だが、魔力が枯渇している場合は再生されないとのこと。

つまり、蠍擬きが部屋に現れたあの時点で攻撃を喰らっていれば、再生せずに死んでいたらしい。

……本当に助けて正解だった。

 

「……ユエ、この迷宮からの脱出方法―――知ってる……?」

「――わからない、でも……」

 

申し訳なさそうに縮こまるも、少しばかり思い当たる節があるのか話を続ける。

 

「……この迷宮は“反逆者”の一人が作ったと言われてる」

「……反逆、者……?」

「反逆者―――神代に神に挑んだ神の眷属のこと……七大迷宮の創設者たち。世界を滅ぼそうとしたと伝わってる。その住処は各迷宮の最深にあると言われてる―――そこになら地上に繋がる道があるかも……」

「……へ、ぇ……」

「まぁ確かに、迷宮の最深から地上へえっちらおっちら向かうとは思えないしなぁ……地上へのルートを構築していても可笑しくないってことか」

 

見えてきた脱出への道筋―――その事実に少し頬を緩ませるハジメとリリィ。

 

そして、話はハジメとリリィの身の上へと移り変わる。

なぜここにいるのか、なぜ複数の固有魔法を使えるのか、なぜ魔物の肉を食しても無事でいられるのか、その見たことのない武器はなんなのか、なんで人間の筈なのに機械の体なのか、など次々と並べられる質問にリリィとハジメは一つ一つ丁寧に答えていく。

 

二人(ハジメとリリィ)は他の世界からクラスメイトとともにこの世界に召喚されたこと。

そして対魔人の抑止力として訓練を積み、この迷宮へ実戦訓練を行いに入り、仲間だったものに裏切られ、落ちてここに辿り着いたこと。

 

帆楼は純粋に悪戯好きの『』(友人)とのゲームが恐らくの原因でここに飛ばされてきたこと。

 

リリィとハジメの身の上を話していると、ユエが俯いて鼻をすすり上げる。

 

「グスッ……リリィ達、辛い……つらい……私も辛い……」

「……泣かないで……?」

「ほんと、今更どうでもいいし、俺達のために泣かんでもいいぞ?」

「……そもそも、裏切られてなかったら……帆楼とユエに出会ってない……」

「……それはイヤ……」

「……言われてみればそうじゃな……」

「……だから、べつに裏切られたことは、気にしてない……得るものは、多かったから……」

「そうだな……今は、凄く新鮮で、楽しいからな……」

 

そう微笑むリリィとハジメ。

 

「……元の世界には、帰るの……?」

「……ん、それが最終目標……」

「そっか……」

 

再び俯いてしまうユエ。

 

「……私には、もう帰る場所、ない……」

「……」

 

俯いてそう語るユエ。普段はとことん鈍いリリィでも、自分に光をくれた場所が無くなるのを恐れているのだと勘づく。

 

「……なんなら、来る……?」

「ぇ……」

「あ~、まぁ、普通の人間しかいないから人外の上に外国人、果てには異世界人のユエには少し窮屈かもしれないけどなぁ……」

「……うちの両親なら、多分大丈夫……?」

「……まぁ、あの人達は人外に対する理解もあるしな……大丈夫だろう」

「……いいの?」

「……大丈夫。戦争とかもある世界だけど、帆楼も来る……?」

「いいのかの!?」

「……うん、お父さんたちは神様苦手だけど、帆楼なら大丈夫だと思う……ゲーマー気質だし……」

「ほうほう!ゲーマーなのかの!?チェスとかできるのかの!?」

「……できる、というより、お父さんとお母さんはチェスが一番上手い……チェスでは一回も勝てたことない……」

「な、なんかテトみたいじゃのぅ……」

「……テトってこれの……?」

 

懐から『十六種族(イクシード)大全』を取り出す。

そして、前書きにかかれたふざけたような文言に帆楼が顔をしかめる。

 

「……うむ、間違いなくテトじゃな……」

「……どうやって送ったんだろ……」

「……唯一神の権能じゃないかの?」

「……唯一神、マジパネェ、です……」

「……依り代候補(いづな)みたいな口調になっておるぞ……」

 

そんなことを話している内に、ハジメが新しい武器を造り上げる。

 

「よし、できた!」

「……なに、これ……」

「気になる……」

「銃じゃな……」

 

「ハッハー!これは対物ライフル:レールガンバージョンだ!銘をシュラーゲン!流石にドンナーだけだと火力が足りなくなってきたしなぁ、その火力を補う為のライフルだ。弾丸も特製だぞ?」

 

「……素材の既視感が凄まじい……」

「まぁ、あの蠍擬きの甲殻が素材だからなぁ。あの甲殻の鉱石、凄いぞ?」

 

蠍擬きの外郭はシュラム鉱石という特殊な鉱石で形作られていたらしく、魔力との親和性が高い上に魔力を籠めると硬度が増す代物らしい。

 

「いやぁ、本当にいい素材だぞこれ。リリィが鋏二本もいでくれてなかったらこれは絶対に作れなかったッ」

 

そんなに凄い素材なのか、ハジメのテンションが凄まじい。

 

「……どうい、たしまして……?」

「おう!サンキューな、リリィ」

「……ん……」

 

そして、タウル鉱石とシュラム鉱石を組み合わせた弾丸を複数錬成で量産するハジメ。

 

ミリオタの本能が刺激されたのか、とても楽しそうに弾丸を錬成していく。

 

結構凶悪な見た目をしているライフルだが、その威力もどうやらえげつないものになりそうだ。

 

「……そういえばユエ……」

「……何?」

「……食事は大丈夫……?」

「……ん、大丈夫。リリィの血があれば生きていけるっ」

 

妙に弾んだ声音で言うユエ。

 

「……そんなにおいしい……?」

「……ん、瑞々しい果物のジュースみたいだけど、その中にワインやスープみたいな深みがある……」

 

と、味を思い出してか舌舐りをするユエ。若干身の危険をかんじるが、大丈夫だろう……多分。

 

「……とても美味」

「……飲むのは時々でね……?」

「……承諾しかねる」

 

ふっふっふ、と笑うユエに苦笑いを浮かべた。

 

 

 

♛♛♛♛♛♛♛♛♛♛

 

 

 

「そういえばリリィ、汝の偽典・天撃(ヒーメアポクリフェン)。なぜあれほどの威力なのじゃ?」

 

かねてからの疑問。あの火力は異常の一言に尽きる。

 

「……わからない、でも―――」

「―――でも?」

 

「……あれを撃とうとしたとき、左腕に少し違和感があった……よくよく考えたら、左腕の宝石から伸びる紋様の面積が広くなった気がする……」

「……確かにな……」

「……やはり、なにか原因があるのかの?」

「……もしかしたら……」

 

そう言って、懐から取り出したステータスプレートの技能欄を見て、リリィと帆楼が目を見開く。

 

「これはッ!いやそんなことがッ?」

「……おぉ、う……」

 

 

 

 

 

 

 

 

―――技能:■神(ア■トシュ)ノ加護―――

 

 

 

 

 

「アから始まり、その他の文字が該当する神など、一柱しかおらぬではないか……」

 

「……戦神(いくさがみ)、アルトシュ……」

 

「最強の戦神の加護じゃと?しかも、かの天翼種(フリューゲル)の創造主の……」

 

「……威力上昇の原因に間違いない……?」

 

「間違いないじゃろうな……何故あの神、しかも不活性化(・・・・)したとも、討たれたとも言われておる神の干渉……」

 

「……今後も気を付けるべき……?」

 

「……うむ、文字化けがそこまで晴れたのなら、あとは自然に完全発動するまですぐであろう……一応気を付けたほうがよいぞ」

 

「……ん、心得た……」

 

「むーん……汝のところにいると色んな新鮮な出来事がおこるのぉ……」

 

「……ごめん、ね……?」

 

「謝ることではない。寧ろゲーマーとしては面白い限りじゃ!俄然汝に着いていく気が増してきたぞ!」

 

 

そして、小さな二人は楽しい明日を想像し、さらに兵器少年と吸血姫を交えて楽しく語り明かしたのであった。

 

 




書き上げました!

さて、今回は違和感なかったでしょうか?
もしあれば、ご指摘をお願いします。

さて、リリィの無双開始まであと少し!
頑張って書いていきますので、どうぞ宜しくお願いします!!


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覚醒せし無双の御子

マム太郎(♀)強ぇ……
マグマブレスでパーティーが融ける熔ける(誤字にあらず)。

フロンティアも斬裂松ぼっくり追加ですねぇ……なんか翼が赤く光ってましだが、どれほど魔改造されたのか……

今回はヒュドラです。エセアルラウネはどうしたのかって?

……さぁて、今頃首から上が蒸発してビクンビクンしてるのでは?(思考放棄)


そんなこんなでやって来た百階層。

 

途中の階層にて大量の魔物が一斉に襲いかかってきたりもしたが、四人のコンビネーションであえなく殲滅された。

まぁ、殆どがあまりの魔物のしつこさにキレた帆楼による薙ぎ払いだったが。

途中、首から上が消滅してピクピクしている植物の蔓を携えた死体もあったが、まぁなんというか……ご愁傷さまだった。

 

因みに現在のリリィとハジメのステータスは―――

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

南雲ハジメ 17歳 男 レベル:76

天職:錬成師

筋力:1980

体力:2090

耐性:2070

敏捷:2450

魔力:1780

魔耐:1780

技能:錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合][+複製錬成]・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作]・胃酸強化・纏雷・天歩[+空力][+縮地][+豪脚]・風爪・夜目・遠見・気配感知・魔力感知・熱源感知・気配遮断・毒耐性・麻痺耐性・石化耐性・金剛・威圧・念話・言語理解

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

リリィ・ドーラ 17歳 男 レベル:76

天職:幽霊

筋力:4500

体力:∞

耐性:∞

俊敏:8800

魔力:8500

魔耐:∞

技能:機凱種(エクスマキナ)特性【創造主(帆楼)直接連結】・模倣武装典開・精霊回廊接続神経[魔力無限補充]・再構築[体]・■神(ア■トシュ)ノ加護・ステータス偽装・魔力操作[+吸収][+放出][+個別操作]・夜目・遠見・気配感知・魔力感知・熱源感知・気配遮断・毒耐性・麻痺耐性・石化耐性・金剛・威圧・念話・言語理解

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

と言った感じに成長した。

ただ、もう技能はあまり増えないようである。

主級の魔物でもたまにしか取得でなくなった上、道中の魔物では全く技能が増えなくなった。

 

どうやら、強い魔物が弱い魔物を喰らっても技能を簒奪できないように、格上殺し(ジャイアントキリング) をしなければ技能も増えないようである。

 

そして、第百階層へと足を踏み入れる。

 

 

「……ふわぁ……」

「おぉ……」

「……すごい」

「壮大じゃのぅ……」

 

そこは巨大な広間だった。

幾つもの太い螺旋模様の刻まれた支柱が並び、それに蔓が巻き付いて、その年期を感じさせる。

 

柱の並びは規則正しく一定で、それが一層この場所の荘厳さを強調している。

地面も荒れておらず、平らな地面が広がっている。

 

一歩足を踏み込むと、規則正しく並んだ支柱が淡く輝きだし、リリィ達のいる方向から奥へ向かうよう順々に光が灯っていく。

 

警戒しながら足を運ぶも、特に何も起こらず二百メートルほと歩いたところに行き止まりがあった。

 

それは扉であった。全長十メートル位ありそうな巨大で重厚な両開きの扉。美しい彫刻が彫られており、七角形の頂点に何らかの紋様が描かれているのが印象的な扉だ。

 

「……すごい、存在感……」

「これが……もしかして」

「……反逆者の住処?」

「凄い凝った彫刻よのう……」

 

まるでそれはゲームのラスボスがいる部屋の扉のよう。

ダーク○ウル3のア○ール・ロ○ドの暗月警察待ったなしの某神喰らい様の部屋に続く扉のようである。

 

それに、何故か背筋に悪寒が走っている。

この先には何かがある。それも、恐ろしくも希望となりうるであろう何かが。

 

そして、扉の手前まで続いていた支柱の最後の一本を踏み越えたその時、目の前に直径三十メートルを越えるであろう赤黒く光を放つ魔法陣が顕れる。

あのトラップで転移させられた橋で見た、ベヒモスが現れた魔法陣を彷彿させるソレは、あのベヒモスの魔法陣より複雑多岐で緻密な式だった。

 

ドクンドクンと胎動するような音をたて、その光が高まってゆく。

 

「……おいおい、いったい何が出てくるってんだこれ!?」

「……でかすぎ、でしょ……っ」

 

そして、光が限界まで高まり極光が弾ける。

目を覆い、光で目が潰されないようにする。

 

弾けた光が収まったその場所にいたのは、体長三十メートルはある、六つの掲げられた蛇頭に長い首、鋭い牙に爛々と輝く瞳。

例えるならば、神話に登場するヒュドラのよう。

 

「「「「「「クルゥァァアアンッ!」」」」」」

 

不思議な音色の絶叫を放ち、六対の鋭い瞳がリリィ達を貫く。

尋常ではない殺気に気を引き締め直す。

 

そして、赤い魔法陣が刻まれた蛇頭が口を開き、そこから灼熱の息吹が放たれる。

まるで炎の壁のように拡がる吐息(ブレス)

 

全員でその場から散開し、反撃を開始する。

 

ハジメが銃で隙のできた赤頭を吹き飛ばすも、白頭が咆哮をあげ、白い光が赤頭を包むと何事もなかったかのようにその赤頭が再生された。

 

リリィも黒頭を吹き飛ばし、ユエと帆楼が緑頭を吹き飛ばすも、再び白頭が咆哮をあげると瞬く間にその黒頭と緑頭が再生する。

 

“くそっ、埒が明かない!あの白頭を狙うぞ!”

了解(ヤヴォール)

“心得たっ!”

“りょーかいっ”

 

念話で作戦をたて、実行に移す。

 

帆楼が手を薙ぎ、精霊の刃を放つ。

リリィが碧の砲撃を放ち、ハジメも銃弾を放つ。

そして、ユエの炎の槍“緋槍”も放たれ、白頭に迫る。

 

その白頭の前にぬっと顔を出す黄頭。その頭部に刻まれた魔法陣が輝きその頭が肥大化する。

そして、その猛攻を受け止めるも流石に受け止めきれず、その頭が吹き飛ぶ。しかし再び白頭の咆哮。たちまちその黄頭も再生する。

 

「……盾役……っ」

「攻撃に防御に回復、なんともバランスのいいことだなァッ!」

 

再生したそこにハジメは焼夷手榴弾を投げ込む。ヒュドラの頭上で破裂したそれは燃え盛るタールを降り注がせ、その熱に耐えかねた首たちが絶叫をあげる。

 

そして体勢を立て直しもう一度攻勢に出ようとした、その時だった。

 

「いやぁああああ―――ッ!!!」

 

ユエの哀しみに満ちた叫びが響きわたる。

 

「!?……ユエ!?」

 

そういえば先程から全くと言っていいほど黒頭が動いていない。

他の頭は皆攻勢や守勢に出ているというのに。

なら何もしていなかったのか?そんなはずがないだろう(・・・・・・・・・・・)ッ!

 

咄嗟に黒頭に標準を向けその頭を吹き飛ばす。青ざめた表情で倒れこむユエに青首がそんなユエを喰らおうと首を伸ばし大口を開ける。

 

加速減速を繰り返し、他の頭からの猛攻を避け、青頭とユエの間に体を滑り込ませる。その大口が閉じられようとするのと同タイミングであったが故に、その大口に挟まれそうになるのを銃砲のついている右手で防ぐ。

 

そして、左手を握り込み、青頭を殴り付けた瞬間―――

 

 

―――意識が暗転した。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

リリィは気づけば、見たことのない荘厳な神殿に立っていた。

 

辺りは白く輝き、神殿の荘厳さと見事にマッチし神秘的な光景を作り上げている。

 

「……ここは、何処……?」

 

 

――――漸く来たか、我が天敵……その息子よ――――

 

 

響いたその声音に辺りを見回す。

すると、目の前の景色が歪み、荘厳な玉座とそこに尊大に座る巌男が顕れる。

剛毛のような頭髪と顎髭。瞳は黄金色に輝き、その中心に十字架を湛えている。

背にはまるで外套のように広がる十八の白銀の翼。

 

そして、まるで世界そのものを直視しているような感覚に陥る偉容と存在感。

その存在に目を見開いていると。

 

――――フフッ、余の天敵が溺愛するだけあるな……可愛いものだ――――

 

その言葉に気を取り戻し、問うた。

 

「……あなた、は……?」

 

――――もうお前もわかっていよう?――――

 

「……やっぱり、戦神(いくさがみ)アルトシュ……?」

 

――――そうだ……お前の両親に倒させた最強であったもの()……それが余である――――

 

「……何で、あの加護をくれたの……?」

 

――――早速本題か……フフッ、まぁよいだろう――――

 

そう、機嫌よさそうに破顔し、話し始める。

 

――――理由はただ一つ……お前の行く先を見届ける為だ――――

 

――――余はお前の両親に破れた……余を破りし傑物だ、その後を余は消滅することなく眺めていた――――

 

――――そんな中、お前が生まれた……あの二人の笑顔に、余は心打たれたのだ――――

 

――――そして、お前はすくすくと成長していった……そんな時だろう……少し余にも親心というものが芽生えてな――――

 

――――それで異世界に飛ばされたのを見た……所詮塵芥である神を名乗るものにお前がいいように使われることだけは到底赦せなかった――――

 

――――故に、その塵芥に対抗できる術を与えたかった……両親から受け継がれた力だけでなく……余からも――――

 

――――まぁ、なんだ……折角この余に宿りし親心……それに従ったのみだ――――

 

少し恥ずかしげに語るアルトシュに……

 

「……ありがとう……」

 

――――フフッ……本当に可愛い奴よ――――

 

「……本当に、ありがとう……お爺ちゃん(・・・・・)……」

 

そう、微笑みながら返したリリィにアルトシュは……

 

――――フッ、フハッ、フハハハハッ!――――

 

呵呵大笑。空気を、世界を震わせながら笑う。

 

暫くアルトシュは笑い続けた。

そして笑いを収めて……

 

――――お爺ちゃんか……よいものだな――――

 

そして、周囲の明かりが一層強くなり始める。

 

――――嗚呼、もうこんな時間か――――

 

多分話しが出来る時間の限界が訪れようとしているのだろう。

 

――――善き時間が過ぎるのは早いものだ――――

 

「……また、話せる……?」

 

――――あぁ、話せるさ――――

 

――――心の中で余に語りかけよ……さすれば話くらいはできよう――――

 

「……わかった……」

 

――――ではな、我が()よ……これよりは研鑽の戦いだ……気を引き締めろよ?――――

 

「……りょーかい……」

 

――――フフッ、ついでだ……力の使い方を教えることが出来るものを贈ろう……仲良くするのだぞ?――――

 

「……?……わかった……」

 

――――ではな……らしくもないが、この言葉を贈ろう……汝の行く先に、幸あれ――――

 

そして、「もー!何故私がこのようなことをやらねばならないのですかぁー!」という声が耳に入るのとともに、意識が引き上げられた。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

ユエを助けた瞬間、リリィが倒れ込んだ。

 

「リリィ!?」

「ハジメ、待つのじゃ……」

 

慌てるハジメにユエを此方に転移させキャッチした帆楼が額に冷や汗を滲ませながらハジメを制した。

 

「どうして!?」

「落ち着かぬか!見てみよ、ヒュドラがリリィの方を見て怯えておるじゃろう?」

「え?」

 

ハジメがよくよくヒュドラを見ると、「クルルルル……」と喉を鳴らしリリィを威嚇している。

かぶりつけば直ぐにでも殺せるであろうにも関わらず。

 

「……周囲の精霊が騒いでおる……何か起こるぞ、備えよ、ハジメ」

「あ、あぁ……」

 

次の瞬間だった。

 

リリィの懐からステータスプレートが飛び出した。

 

「やはりかッ!」

 

目を見開いている帆楼が目を向けている場所を遠見で見ると……

技能の欄、そのうちの一つが白銀に脈動しながら輝いていた。

 

 

 

――――技能:戦神(アルトシュ)ノ加護――――

 

そして、その横に文字が刻まれる。

 

――――[+天翼種(フリューゲル)化]――――と。

 

 

瞬間、紫の雷光がリリィを包み込む。

そして、その姿が変貌していく。

 

身長が少しばかり伸び、髪の色が白とプリズムのグラデーションへと変化する。

腰からは一対の白銀の翼が生え、黒紫の瞳に紫の十字架が湛えられ、頭に光輝く幾何学模様の輪が形成される。

 

そして、雷光が収まり、機械の鎧を纏った天使が降臨する。

 

リリィの少し散っていた焦点が定まる。肩の辺りが輝き、同じように翼を生やした小さな少女がポスンッと座った。

 

「はぁ~、任されましたよアルトシュ様ぁ……」

 

と、疲れた様子の少女に

 

「……大丈夫……?」

と労いの声をかけるリリィ。

 

「えぇ、気にしないでくださいな……自己紹介です。私の名前はシブリール。天翼種(フリューゲル)最終番個体(クローズナンバー)です」

「……私は、リリィ・ドーラ……よろしくね……」

「えぇ……では早速参りましょうか―――首刈りの時間です♪」

 

右手の砲台を格納し、両手で漆黒の鎌を構える。

そして、その姿が掻き消えた。

 

―――斬ッ―――

 

そんな音とともに白頭の首の横にリリィが現れる。

次の瞬間、白頭の首が根本からずれ、地面に落ちた。

 

「「「「「クルルゥァァァアァァア!?」」」」」

 

遅れて知覚した痛みと喪失感にヒュドラが始めての悲鳴をあげる。

 

「首もとがお留守ですよぉ~」

 

と、気楽な声音で少女が手に握られた剣を投擲する。

その投擲された剣の先にいた黄頭の首もずれて落ちる。

 

「……ハジメ、受け取って……」

 

と、ハジメのいる方に白と黄色の巨大な首が投げ出され、さらに青首も黒首も次いで投げ込まれる。

 

ついには残り一つになる首。ヒュドラは完全に萎縮しきっている。

 

「うおぉい!?」

「リリィ!大丈夫かの!?」

「……ん、大丈夫……お爺ちゃん(アルトシュ)から力、プレゼントされただけ……」

「……あの神がお爺ちゃんとは、世も末よのぉ……」

 

帆楼が遠い目で虚空を見上げる。

 

「……それより、帆楼。障壁を展開して……?」

「お!あれですか!?腕が鳴りますねぇ!」

「……マジかの」

「……マジです……」

「……あいわかった……受け止めることなど出来ぬから、力を上に流す形態にするぞ?」

「……りょーかい……」

 

帆楼が円柱状の上底に穴の空いた障壁を展開する。

顔の引き締まり具合から、全力の障壁であることを理解する。

 

そして、力を収束する。

精霊が光ごと搾取される。濃い精霊の奔流が光とともに流れ、精霊の流れが目視出来るまでに濃くなってゆく。

 

背の翼が光を放出するように形を失い、その光も掲げられた手に形作られていく不定形の槍に吸い込まれていく。

 

頭の光輪が回転を速め、複雑に破綻し、脈動しながら明滅する。

 

脈動は力強く、その脈動で帆楼に抱えられたユエが目を覚まし、リリィを見て目を見開く。

 

「……凄い、力……」

「これ、障壁耐えれるのか!?」

「全力でやっておる!多分(・・)大丈夫じゃ!」

「凄い不安になってきた!」

 

そして、力が臨界まで収束し―――

 

「それでは参りまぁす!」

「……ぶっ飛べ……」

 

 

 

 

 

「「天撃」」

 

 

 

 

 

 

瞬間、その空間から音が、光が境界を失った。

 

認識すら出来ない爆音に膝をついて耳を塞ぐ。

襲いかかる暴風と黒と紫の極光、果てには漏れ出た精霊の奔流に姿勢を低くする。

 

そして、世界に音が戻ってきた。光も収まりようやく状況確認が可能になる。

 

ヒュドラがいた場所はただ深淵が覗いていた。光ささぬ底無しの闇、天井にさえ大穴が空き、放たれた攻撃の威力を物語っている。

 

「……マジですか」

「……リリィ、マジぱねぇ……」

「……いくらなんでも威力高すぎじゃろ……」

 

三者三様の反応を示すハジメたちの前に何時もよりやや低くなった身長のリリィが降り立つ。

 

「……終わった……」

「お疲れ様です!」

 

肩の少女が元気よく答える。

 

「むぅ、それ誰……?」

 

むくれたユエが、ジブリールを指差して問う。

 

「初めまして蚊、私はジブリール。リリィの先輩です♪」

「むぅぅぅうっ!」

 

ジブリールの物言いにさらにほっぺを膨らませるユエ。

 

「……とりあえず、進も……?」

「……あぁ、色々疲れたしな……」

「……本当に汝といると不思議なことが起こるのぉ……」

 

膨れるユエと笑うジブリール。疲れた表情で白目を剥くハジメと遠くを見るように虚空を眺める帆楼を引き連れ、反逆者オルクスの住処へと入っていった。

 

 

 

 




今回はここまで!

お爺ちゃんアルトシュ様はお気に入りです!
原案をくださった【フェイスレス】様、ありがとうございます!

次回、オルクス大迷宮編終了です(多分)。

それではまた次回に会いましょー!!


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貫きし天の一撃/反逆者の居城

本当に応援してくださる方々の言葉が暖かく、嬉しく、モチベーション上がりまくりです!

今回はクラスメイトVSベヒモス編と反逆者オルクスの居城編の合同回です。
クラスメイトVSベヒモスは殆どダイジェストでお送りします。

それでは、どうぞ!


迷宮遠征は続き、光輝たちは遂に第六十五層に到達した。

リクとシュヴィ、アインツィヒも着いていき、息子の手掛かりを探す。

 

そんな時だった、あの悪夢の魔法陣が一行の目前に展開された。

 

再び顕現したベヒモスに、皆が驚き慌てるも、光輝のカリスマによりすぐに正気を取り戻し、ベヒモスとの交戦に突入、接戦を繰り返し遂にベヒモスを追い詰める。

 

そして―――

 

 

「「「「「“炎天”」」」」」

 

 

 

炎の超火力魔法がベヒモスに放たれた。

それはベヒモスの表皮を灼き、肉をも灼いた。

 

そして――――

 

 

「グゥルァアォォォォオ―――……」

 

 

 

体を灼き尽くされ倒れ込むベヒモス。

 

「か、勝ったのか?」

「勝ったんだろ……」

「勝っちまったよ……」

「マジか?」

「マジで?」

 

幾瞬の間、皆で固まってしまう。

そして始めに正気を取り戻した光輝が―――

 

「そうだ!俺達の勝利だ!!」

 

「「「いぃよっしゃぁぁぁあっ!!」」」

 

光輝の勝利宣言とともに、沸き起こる歓声。

 

「香織、どうしたのよ?」

「えっ、あ、あぁ、雫ちゃん―――何でもないよ……ただ、ここまで来たんだなってちょっと思っただけ……」

 

「えぇ、そうね。私たちは確実に強くなってるわ」

「うん……雫ちゃん―――もっと先に行けばリリィちゃんも南雲くんも……」

「それを確かめに行くんでしょ?そのために頑張ってるんだから……」

「えへへ……そうだね」

 

そう笑いあう香織と雫。

 

そこに光輝が笑顔で駆け寄り、声を掛けようとした瞬間だった。

 

 

―――――ォォォオォオオオ―――――

 

地の底から死の音色が響いてきた。

 

 

♛♛♛♛♛♛♛♛♛♛

 

クラスメイトが勝利を喜びあっている中、ゲーマー夫婦(リクとシュヴィ)、アインツィヒは妙な気配に警戒をしていた。

 

「おい、シュヴィ……どうしたんだ?」

「……計測器が、精霊の荒み……観測……」

「やはり当機の異常ではなかったか……一体何故精霊種(エレメンタル)が……」

 

十六種族(イクシード)位階序列第三位精霊種(エレメンタル)。精霊回廊を流れる力そのものである精霊種(エレメンタル)。余程のことでなければ荒むことなど無いはずだ。

 

そして、天之河光輝が白崎香織に駆け寄った次の瞬間、地から響く死の音色と計測器の警報音とともに視界の端に驚愕の文言が表示された。

 

―――精霊反応を確認 【天翼種(フリューゲル)】“天撃”―――

 

―――威力予想……【最終番個体(ジブリール)】クラス―――

 

―――着弾予測、着弾まで約十秒―――

 

―――前方十メートル、半径四メートル―――

 

 

 

 

「……みんなっ……ベヒモスから、離れて……伏せて……ッ!」

 

 

 

シュヴィが叫ぶ。地から響く不気味な音色は皆も聞こえていたらしく、ベヒモスから走って離れて伏せた。

 

 

そして、横たわっていたベヒモスの亡骸を、下から突き上げた黒と紫の光柱が消し飛ばした。

 

流れ出る精霊の奔流が、周囲の悲鳴を掻き消す。

 

そして、光柱が消えたその場所には光の無き深淵がただ口を開けていた。

 

「なっ、な、な……」

 

皆、その光景に強敵を倒した喜びすら忘れ、目を見開いて固まる。もし、あの上にたっていたのならどうなっていたか……想像に難くないだろう。

 

「……ありえるのか、こんなことがッ!二回世界を跨いでも、まだッ!」

 

平和だったあの世界から、少しだけ物騒なこの世界にやって来て見たもの、聞いたもの、実感した事の全ては……

紛れもなくリクとシュヴィ、アインツィヒが前の、更に前の(・・・・)世界で見た、滅びと理不尽の具現、そのものだった……

 

 

/////////////////////////

 

突然の現象に戦慄、当惑しながら勇者(笑)ご一行が王国に帰還し事の成り行きを説明、帝国の使者(王)に勝負を挑まれ惨敗した頃、一人新しく増えた最強の五人組はというと……

 

「……ふわぁあ……」

 

リリィが気持ちのいい深い眠りから目が覚めたところだった。

 

「すぴー……」

 

胸の上でジブリールが丸くなって眠っているのを指でなでる。

 

「…………!?」

 

そして、何故かベッド脇に吊るされているユエが目に入った。

 

「……動けない」

 

体を精霊で編まれたらしい紐でぐるぐる巻きにされ、クネクネ動くユエがそこにいた。

 

「ふわぁ~あ……あ、おはようございますリリィ」

「……ジブリール、アレ(・・)、どういう状況……?」

「……あぁ、あの蚊はリリィの寝込みを狙っていたので―――吊るしました♪」

「……」

「てへ……♪」

「……ジブリール、ないす……」

「お気になさらず~♪」

 

可愛く舌をチロッと出すユエ。ただ、その前のジブリールの報告で可愛さよりも身の危険を感じるが……

 

「んぁ……?なんじゃ?もう朝かの?」

「くぁあ、お?お前らもう起きたのか?」

 

墨壺の上で眠っていた帆楼と、リリィと同じくベッドで眠っていたハジメが目を覚ます。

 

「……ん、おはよう……」

「うむ、おはようじゃ!して、なんぞや?この状況は」

「……何でユエが吊るされてんだ?」

 

「……ジブリール、説明……」

「了解しましたぁ~♪状況確認!リリィが就寝!忍び寄る影!それはなんと(ユエ)ではありませんか!捕縛魔法展開!拘束!私も就寝!―――以上にございます♪」

「…………」

「ユエ……お前……」

 

「ごめーんね♪」

 

可愛く言っても許されません。

 

 

 

 

 

 

ユエを皆でこってり絞り上げた後、反逆者の住処の探索を開始した。

流石にヒュドラと戦った昨日は、疲れでベッドルームを見つけ次第ベッドに飛び込み即眠ってしまったのでマトモな探索は一切していなかった。

 

「……凄い、造り……」

「……なんかよくよく探索してみると、凄まじい造りしてるのがわかるよな……」

 

「これは面白いですねぇ!時間によって月光と陽光のレプリカが切り替わるのですね♪」

「ほぉ、これは中々よいのう……」

「……光が気持ちいい―――偽物だけど」

 

それぞれが反逆者の住処の精巧なオブジェクトに対する感想をもらす。

 

そうして住処の中を探索して行くと、川や畑、滝までもが区画として存在し、果てには家畜小屋まであった。

 

「少しばかり精霊を使ってで調べましたが、魔法でロックをかけられた部屋もそれなりにあります。あと、お風呂らしき区画、トイレ、リビングルームを発見いたしました♪」

「……ジブリール、おめがぐっじょぶ……」

「風呂……だとッ」

「おお!風呂かの!?久しぶりに入れるのか!」

「……ペロリ……」

 

日本人の大好きなお風呂ッ!っと内心はしゃぎながら探索を続ける。

 

「……そういえば、帆楼とジブリールは仲は悪くないの……?」

「えぇ、というより知り合いですし」

「そうよのぉ……後で久しぶりにゲームでもするかの?」

「ほぉう?いいですねぇ……勿論勝たせて貰いますが♪」

「……言うではないか……」

「「ふふふふふ……」」

 

仲が悪くないと言いつつも火花を散らす二人。

知り合いということも含め、世界は広いようで狭いことをリリィは実感した。

 

そして、最強一行は歩みを進め、三階へ到達する。

部屋は一つしかないようで、奥の重そうな扉を開ける。

 

そこは、最早芸術と言っても過言でない程に緻密な幾何学模様が施された直径八メートルほどの魔法陣が中央に刻まれた部屋だった。

 

その魔法陣の奥には椅子に座った一つの骸。

美しい汚れも少ない黒と金の刺繍が施されたローブを纏い白骨化した、まるで何かを待つかのように座り、そのまま朽ち果てた骸骨。

 

「……行く?―――多分、キーポイント……」

「勿論な……前に進めるのなら恐れなんか捨ててやる!」

 

頷き合い、魔法陣に踏み込んだ瞬間、眩い光が部屋を包み込む。

頭の中に何かが入ってくる感覚。

帆楼との出逢い、ユエとの出逢い、アルトシュとジブリールとの出逢いの光景が頭を巡る。

 

そして、光が収まり目を開くと……

 

そこには、見覚えのない黒衣の青年が立っていた。

 

 

 




百回層から六十五階層へプレゼント(物量)

リクとシュヴィの胃痛がマッハで進行。
がんばれ両親!第三章にいけば癒し(息子)が待っている!
ただし、今回の胃痛の原因はその息子である模様。

斬裂松ぼっくり、状態異常がめんどくさい出血になりましたねぇ……
ただ、新しい攻撃や既存の攻撃がいい感じにマッチしててとても面白いです!
是非皆様もMHFをやってみてはどうでしょう!

次回、オスカー・オルクスによる正史の授業!お楽しみに!

昇り上がれモチベ!!
頑張って書き上げてやりますよオルァン!(宣誓)


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“解放者”オスカー・オルクス

爆裂松ぼっくりを久しぶりに狩猟。
流石攻撃全振りマン(仮)松ぼっくりの落とす例のブツの火力高杉ィ!

今回はオーくんによる解説と極楽(お風呂)回です。

それでは、どうぞ!!


 

光が止み、現れた青年。よく見るとその青年は、その後ろにある骸骨と同じローブを纏っている。

 

「試練を乗り越えよく辿り着いた。私の名はオスカー・オルクス。この迷宮の創造者にして、“反逆者”と言えばわかるかな?」

 

その青年、オスカー・オルクスはその名の通り【オルクス大迷宮】の創造者らしい。

 

話は続く。

 

「ああ、質問は許して欲しい。これは唯の記録映像のようなものでね、生憎君達の質問には答えられない。だが、この場所にたどり着いた者に世界の真実を知る者として、我々が何のために戦ったのか……メッセージを残したくてね―――このような形を取らせてもらったのだ。どうか聞いて欲しい……我々は神への反逆者であって世界への反逆者ではないということを……」

 

それは、リリィやハジメが教会で学び、ユエから聞いた反逆者の話とは全くもって異なっていた。

 

狂乱に堕ちた神と、その子孫達の戦いの正史。

 

曰く、神代の少し後の時代。世界は争いに満ち溢れていた。人間と魔人、様々な亜人がしのぎを削り、殺しあっていた。理由は様々、領土拡大、種族的価値観、支配欲など……だがそれよりも、もっと明確な理由がひとつ。

 

その種族は全て“神敵”同士だったのだ。

 

最早遥か昔の話、国はもとより種族も今より細かく別れていた時代……それぞれの国、種族が別々の神を祀りあげ、その神の神託の下に争いを繰り広げていた。

 

そして、その争いの原因……即ち神々の思惑に気付いた者たちがいた。

“反逆者”いや“解放者”という者たち。

その構成員は全員が神の直系の子孫であり、神々の魂胆……即ち「地上の存在を駒に遊戯のつもりで戦争を促していた」その事に気付いたのである。

 

リリィは話を聞きながら漠然と、「この世界の神様って、お爺ちゃん(アルトシュ)の言っていた通り、神霊種(オールドデウス)擬きだったんだなぁ」と思った。

 

帆楼もその話を聞き、どんどん機嫌を悪くしていく。

人間が好きな神様にとってそれは全くもって耐え難いことなのだろう。

 

そして解放者たちは遂に神々の住まう地である“神界”を突き止め、神々を相手に立ち向かおうとした。

 

だが、その目論みは破綻してしまう。

計画は神々に勘づかれ、“解放者”は神敵、“反逆者”としてあらゆる国、世界から追われ、最後にはその数も七人までに減ってしまった。

 

そして、最後の七人は悟った。自分たちでは最早神を討つことは出来ない……と。

 

そして、その七人はバラバラに散って辿り着いた地の果てに試練“迷宮”を作り出し、それを突破した者に自らの力を譲渡しようと……いつか、いつの日か―――神々の遊戯を終わらせることができる日を信じて……

 

 

 

話は終わり、オスカーは穏やかに微笑んだ。

 

「君達が何者で何の目的でここに辿り着いたのかはわからない。君に神殺しを強要するつもりもない……ただ、知っておいて欲しかった―――我々が何のために立ち上がったのかを……君に私の力を授ける。どのように使うも君の自由だ。だが、願わくば悪しき心を満たすためには振るわないで欲しい……話は以上だ。聞いてくれてありがとう。君のこれからが自由な意志の下にあらんことを」

 

そして、脳裏を灼くように何かが頭の中に入ってくる。

少しの痛みはあれど、それは馴染むように脳に広がっていく。

「大丈夫ですか?リリィ」

「……ん、大丈夫……」

「力を譲渡されたようですが……如何なさるのですか?」

「……取り合えずは何もしないよ……?」

「ほうほう?」

「……だってめんどくさいもん……」

「……それはそれでどうなのじゃ?」

「まぁ実際、俺らは元の世界に帰れればいいしな……」

「……神様とか、この世界に、構ってる暇はない……」

「それもそうじゃのぅ……」

「……異論、な~し」

 

「そういえばリリィ、神代魔法ってのが使えるようになったんだけど、お前は?」

「……使える……ハジメはどのくらいできそう……?」

「あー、アーティファクトを作れるかもしれないな」

「……おー……こっちは錬成の適正がないから、それは無理そう……けど、複雑な魔法の付与だけならいける……」

「おお、じゃあ組み合わせ次第では相当な物がつくれるぞ……」

「……はっちゃける……?」

「やるか……」

 

そんな話をしながら皆で映像を流し見をすることで、全員が神代魔法を習得した。

 

「死体はどうする?ぶっちゃけここ俺らが使うからどうしてもいいんだが?」

 

ハジメは慈悲の欠片もなかった。

 

「……骨粉肥料……?」

「川流しはどうです?」

「土にお還り……」

「素直に埋めてやれんのかの?」

 

むしろ帆楼以外、慈悲などなかった。

結局、墓石をつくり、その下に埋めることになった。

 

勿論装備品は拝借(永久)した。

 

 

 

指輪型の鍵を使い、書斎を漁る。

様々な設計図や説明書が積み上げられている。

掃除ゴーレムに疑似天体、作物の育成方法の説明書。

 

そして、目的のものを発見した。

 

「……みっけ……」

「ん?どうした、リリィ?」

「……地上への帰還方法、発見……」

「ぬぁにぃ!?」

「……その指輪を使った転送装置らしい……」

「本当に盗n、んんっ、貰っておいてよかったなぁ」

 

しみじみと呟くハジメに同意する。

 

「おやおやぁ、これは興味深い記述にございますねぇ」

「……どうしたの?ジブリール……」

「あぁ、リリィ―――こちらです、どうやら世界中の迷宮を攻略すれば、その迷宮の創造者の力が譲渡されるらしいですよ?」

 

ふよふよと飛ぶジブリールが、その身長と同じくらいありそうな本を軽々持ち上げ持ってくる。

その項目に目を通すと、他の迷宮の詳細が書かれたものだった。

 

「……ジブリール、ないす……」

「お褒めくださり光栄です♪」

 

「へぇ~、んじゃ、これからの方針はこれらの迷宮の攻略、そして能力の入手、それを用いた帰還だな」

「……りょーかい……」

「うむ!」

「……ん」

「了解しました♪」

 

そして工房へ向かった。

これまた設計図、魔道具企画書、理論書の宝庫だった。

ハジメが目の色を変えて書類に飛び付いていくのを見て。

 

「……どうせだから、少しの間の拠点にする……?」

 

全員一致で可決した。

 

 

 

♛♛♛♛♛♛♛♛♛♛

 

「「……あ”ぁ”―――」」

 

疑似天体が太陽から月へ切り替わり、淡く輝く様を眺めながら風呂に浸かる。

 

「……月見風呂、さいっ、こー……♪」

「風流だなぁ……」

 

洋式風呂でこそあれど、月を見ながらの風呂は日本生まれの二人の心を刺激した。

 

「っていうか、リリィさんや、お前あの時からやっぱり少し背伸びたか?」

 

あの時とは恐らく、初めて天翼種(フリューゲル)化した時のことだろう。

 

「……そう、かな……?」

「んー、まぁ若干だけどな?」

「……自分のことだから、わかんない……」

「まぁ、そりゃあな……」

 

そんな感じでゆっくりして数十分。

 

「リリィ、お前、相変わらず長風呂、すぎぃ……」

「……ハジメ、バテるの早い……それでも日本人……?」

「見た目的に日本人離れしてるお前には言われたくねぇ!……ぅお、マジでヤベェ……先上がるぞ……」

「……ゆっくりしてるね……?」

「風呂を楽しんでこいよ……」

「……言われずとも……♪」

 

現在のハジメこそ日本人離れした風貌をしているのに気づいていないのか?と思いつつ……

 

「……はふぅ……♪」

 

湯を楽しむことにした。

 

 

そして、ハジメが去ってから数分後、なぜか響く足音……

 

「……来ちゃった♪」

「……知ってた……」

 

そう、ユエである。

ジブリールはどうしたのだろうか、まさか突破したのだろうか……無理だ。うん、無理……だよね?

 

「ジブリールは買収済み♪」

「……がっでむ……」

 

一体ジブリールを何で買収したと言うのだろうか。

 

「添い寝権で買った」

「……?」

 

それは何時ものことではないだろうか?

 

「普通の女性の姿での添い寝権で♪」

「……お、おう……」

 

そういえばなろうと思えば大きくなれると言っていた気が……

 

「……帆楼は……?」

「そもそも知らないよ?」

 

……ちょっと帆楼を呼びたくなってきた。

 

「それじゃあ……シようか?リリィ?」

 

両の手を広げて、ユエが此方に入れるようにする。

ユエが嬉しそうに笑ってこっちに来る……

 

……その笑顔に凄まじい罪悪感はあるものの……

 

ユエのてをとって、引き寄せる。

 

そして、背負う(・・・)

 

「……あれ?」

「……帆楼、かもーん……」

 

瞬間、目の前の空間が歪み、手が伸びてきて、ユエの体を掴む。

その手の主が歪んだ空間からぬっと顔を出した。

 

「なにをしておるのじゃ?ユエ……」

「……ひぇ」

 

目が笑っていない帆楼だった。

 

「ジ、ジブリールは?」

「縛って転がしておるが?」

「……流石、神霊種(オールドデウス)……」

 

流石に帆楼の相手は荷が重かったのだろう。

 

「……帆楼、おめがぐっじょぶ……!」

「むふん!当然じゃ!」

「……無念」

「ほぉら、戻るのじゃ~」

 

その日、ご褒美をねだられ、結局添い寝権は帆楼が手にしたのだった。

 

 

 




神ちゃまからは逃げられない(真理)

まだチャンスは沢山あるよ!頑張れユエ!
ジブリールもだんだん属性付与開始。そのうち完全覚醒に突入予定。
帆楼たん、だんだん、しかし着実に外堀を埋めていく。
幼女のおねだり、皆さん拒めます?私は無理です(真顔)

次回は訓練風景とステータス開示!さぁて、バグらせるか……


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両親と少女達/ありふれた新・日常!

Code:Red楽しいですね!
ひたすら殴って殴って殴りまくる、楽しい爆裂劇でした。

今回はゲーマー夫婦サイドと香織と雫サイドの混合。そして、リリィ達の修行風景+αです。

それでは、どうぞぉ!


王国に戻り、今は使われていないリリィとハジメの部屋にやってきたリクとシュヴィにアインツィヒ。

話し合いの内容は、勿論あの精霊反応についてである。

 

天翼種(フリューゲル)の精霊反応か……」

「……それに、天撃……使って、た……それも、最強個体(ジブリール)レベル、の……」

「……本当にこの世界で何が起きているというのだ?あの強大な精霊反応も未だ健在している……」

「アインツィヒ、お前はその強大な精霊反応に心当たりはあるか?」

「解らない……だが、あれほどの反応だ。幻想種(ファンタズマ)、或は神霊種(オールドデウス)の反応である可能性は大いにある」

「……本当、に……ままならない、ね……」

「……本当に、世界は何時も非情で、残酷だ……」

 

そう、沈痛な面持ちで現状に対する怒りをもらす。

 

 

―――コンコン

 

 

扉を叩く音。

 

「あの……リクさん、シュヴィさん、居ますか?」

「あぁ、白崎さんか、入るか?」

「あ、友達もいるんですが、大丈夫ですか?」

「……いい、よ……」

 

香織と雫、理恵と鈴が部屋に入る。

 

「こんにちは、リクさん、シュヴィさん」

「……いら、しゃーい……」

「え、えぇ!?な、何でお二人が!?」

「あぁー!ちみっこリリィちゃんの両親さん!!」

「貴女が言えることじゃないでしょう……?」

 

挨拶する香織に返すシュヴィの姿を見て、驚愕の声をもらす理恵と鈴。その鈴の言い分にツッコミをかます雫。

 

「何の話をされてたんですか?」

「いや、なんでもない……そう言えば、何でこの部屋に来たんだ?」

 

「聞きたいことがあったんです……シュヴィさんたちは、あのベヒモスを掻き消した光を……シュヴィさんたちは知っているんですか?」

「……どうしてそう思った?」

 

瞬間的に顔から笑みを消し、真面目な表情で香織を見るリク。

 

「……あの時、確かに地面から変な音はしました。でも、危険性があるものだなんて誰も気付けませんでしたし、何より階層ごと貫くような攻撃は私たちは知りません。でもあの時、シュヴィさんたちは焦った様子で退避を促しました……」

「……それなら、知ってるのではないか?って訳か……」

「はい……」

「……まぁ、その問いに答えるのなら、アレを、“天撃”を俺らは知っている」

「天撃?」

「……天撃……天翼種(フリューゲル)、という種族……その種族の、全力の一撃……」

「あの“聖絶”だったか?あれなんぞ普通に一発でぶち破られて死ぬぞ?」

「はい……?」

「はぇ?」

 

その言葉に驚愕する雫と鈴。

特に鈴は先のベヒモスとの戦闘で聖絶のお世話になったばっかりなので、にわかに信じられなかった。

 

「アレを止められる防御魔法なんて、森精種(エルフ)久遠第四加護(クー・リ・アンセ)くらいだ」

「……むしろ、それじゃなきゃ……無理……それと、リク……久遠第四加護(クー・リ・アンセ)、防御魔法じゃなくて、空間封印魔法……」

「あー、そうだったな」

「……空間封印?」

「空間をまるごと凍結させてそれを防御にしてるんだよ……それでも突破されることさえある」

「そんな高度なものを、突破……?」

「そういう代物なんだよ……アレは……」

「……どんな防御、でも……無意味……」

「それが、あの光……?」

「一体どんな奴なのよ……その天翼種(フリューゲル)ってのは……」

「……見た目は、天使……」

「やることは悪魔的だから、天使よりも悪魔と言われていた存在だ。因みに全員女性だぞ」

「え、えぇ……」

「悪魔って……」

「……ジブリール、ていう天翼種(フリューゲル)は、殺戮天使っていう二つ名……ある……」

「もはや天使じゃないですね……」

「でも、何で私たちの知らない種族を知ってるんですか?まるで別の世界の話みたいで……」

 

そんなことを言う香織の顔を見て目を見開くゲーマー夫婦。

 

「―――本当に聡いな……君は」

「……すごい、ね……?」

「え、えぇっ?」

 

唐突に誉められて、しどろもどろになる香織。

 

「まぁ、単刀直入に言わせてもらうと、俺らは異世界人なんだわ」

「え?私たちもそうじゃないですか?」

「……違う……シュヴィたちは、元々―――地球じゃない所に住んでた……」

「え?え?えぇ!?」

「そこは、この世界なんて目じゃない程に荒れ果てて、死んでいた……実際に滅んでたしな……さぁて、何処から話すとしようか……?」

 

語られし、旧き神話……大地を裂き、海を揮発させ、終いには星をも殺した神々による悠久の大戦。

その物語が、少女たちに語られたのだった。

 

「「「「……」」」」

 

「と、まぁこんな感じか?」

「……ん、そんな感じ……」

「あとは唯一神となった《遊戯の神》テトが【十の盟約】を制定したくらいだ」

 

「……お伽噺みたい」

「……うん」

 

「まぁ、信じるか信じないかは君たち次第だ。あと、希望を持たせておくと、リリィは今、生きている」

「……え?」

「……それは間違いないんですか?」

 

唐突に放たれた想い人の生存情報に固まる香織と、その情報の真偽を問う雫。

 

「あぁ、こっちで確認済みだ」

 

そして、香織は数瞬の間の固まりから抜け出し、その意味を理解してボロボロと涙を溢し、雫に抱きついた。

 

「しずく、ちゃん……しず、くちゃんッ!」

「あーもう嬉しいのはわかったから泣かないの!でも、まさかあの高さから落ちて生きてるなんてね……運がいいんだか悪いんだか……」

「南雲くんはどうなんですか?」

「それは流石にわからないけど、リリィがいるんだ、しっかり生きてると思うぞ?」

「ほぇえ……こりゃしっかり迎えに行かないとねぇ!ね、カオリン!」

「……うん、うんっ!」

「じゃ、じゃあ、もっともっと訓練して、二人をむ、迎えにいこ?」

「うん!」

 

そんな光景を眺めて、ゲーマー夫婦は……

 

「あんな可愛い娘に好かれるなんて、リリィなかなかやるなぁ……」

「……天性の、たらし……ライバル、増える?」

「……否定できないなぁ……」

 

そんな感想をこぼしていた。

 

 

 

 

♛♛♛♛♛♛♛♛♛♛

 

 

 

 

「ほらほらぁ!まだまだいきますよー!!」

「受け取って」

「……数、多い……」

 

飛んでくる黒い精霊弾と何故かハート型の炎弾。

捌くことはできるが、いかせん数が多く反撃できない。

 

「愛の数だけ増えていく」

 

ふっふっふ、と笑いながら炎弾を放ってくるユエ。

 

「我々の業界ではご褒美です♪」

 

などと、訳のわからないことを言いながら自ら弾幕に突っ込むジブリール。

接近してきたジブリールの斬撃をかわして、鎌から槍へと形を変えた精霊の刃を再び襲いかかってきた鎌の刃に沿わせて、勢いのまま突きを繰り出すも離脱され、離脱と同時に放たれた精霊弾に当たって落ちてしまう。

 

「……あたらない……」

「伊達に長く生きておりませんので♪」

「長寿故の利点……ぶい」

 

戦いが楽しかったのか肌を艶々させるジブリールとピースサインを掲げるユエ。

そして、ジブリールが突如として……

 

「あぁ!これはご褒美を頂かないとぉ!」

「……唐突になに言ってるの……?」

「ッ!……その手があったかっ」

 

まるで天啓が下ったと言わんばかりの表情で言い放つジブリールにユエが目を見開きその言葉に反応する。

 

「というわけでぇ、添い寝権をくださいな♪」

「……所望する」

「……狭い、無理……」

「では一日ごとに交代を~」

「……もう、いい……」

「では今日は私がぁ♪」

「ん、じゃあ明日」

 

どんだけ寝たいのだろうか、私は抱き枕かっ!

と、若干げんなりしつつも了承する。

もしもの場合は帆楼に頼るしかない……なんかいつもごめんね?帆楼……

 

 

 

 

「……どう?動く……?」

「……おぉ、結構いい感じだぞこれ」

 

場面は変わり、ハジメの義手の適合作業を行っている。

ハジメの義手は特殊な鉱石をふんだんに使ったアーティファクトであり、性能面では国宝級である。

義手は銀色の光を放ち、ところどころに黒い線が走っていて複数の複雑な魔法陣が刻まれている。

手の甲あたりには銀色の淡い碧の光を放つ棘のようなものもついている。

魔力を流し込むことでこの義手は動き、触れたものの感触はしっかり脳に届く。

他にも様々な機構が施されており、オスカー作の義手にハジメが欲しいと思った追加機構、さらにハジメが神代魔法で再現した【進入禁止(カイン・エンターク)】と【通行規制(アイン・ヴィーク)】が装着されている。

 

リリィとハジメは訓練に次ぐ訓練の繰り返しと、ヒュドラの肉を食べることで、ここまでのステータスに成長した。

 

――――――――――――――――――――――――――――――

南雲ハジメ 17歳 男 レベル:???

天職:錬成師

筋力:10950

体力:13190

耐性:10670

敏捷:13450

魔力:14780

魔耐:14780

技能:錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合][+複製錬成][+圧縮錬成]・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作]・胃酸強化・纏雷・天歩[+空力][+縮地][+豪脚][+瞬光]・風爪・夜目・遠見・気配感知[+特定感知]・魔力感知[+特定感知]・熱源感知[+特定感知]・気配遮断[+幻踏]・毒耐性・麻痺耐性・石化耐性・恐慌耐性・全属性耐性・先読・金剛・豪腕・威圧・念話・追跡・高速魔力回復・魔力変換[+体力][+治癒力]・限界突破・生成魔法・言語理解

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

リリィ・ドーラ 17歳 男 レベル:???

天職:幽霊/神ノ御子

筋力:――――

体力:∞

耐性:∞

俊敏:35860

魔力:――――

魔耐:∞

技能:機凱種(エクスマキナ)特性・【創造主(帆楼)直接連結】・模倣武装典開・精霊回廊接続神経[魔力無限補充]・再構築[体]・戦神(アルトシュ)ノ加護[+天翼種(フリューゲル)化][+精霊制御][+常時防御魔法展開][+全事象耐性][+精霊魔法]・ステータス偽装・魔力操作[+吸収][+放出][+個別操作]・夜目・遠見・気配感知・魔力感知・熱源感知・気配遮断・毒耐性・麻痺耐性・石化耐性・金剛・威圧・念話・生成魔法・言語理解

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

最早レベルが機能しなくなっていた。

リリィに至っては何故か新しい天職が追加され、筋力と魔力が表示されなくなっていた。

 

「……ねぇ、ジブリール……?」

「はいはい何でございますか?」

「……全事象耐性って何……?」

「ようは外部からの干渉を絶つものですね……例えば精神操作や幻覚魔法が無効になります。あと、神(笑)とかからの干渉も弾きますよ?……アルトシュ様の過保護度合いがわかるものですねぇ……」

「……さすが、お爺ちゃん……?」

「そうでございますねぇ……正直私、必要ありました?」

 

お爺ちゃん(アルトシュ)の過保護っぷりに頭を抱えるジブリール。

 

「……力の使い方、教えてくれたのジブリール……いなきゃわからない……」

「あぁっ!ありがとうございますリリィ!今日は私、おかず無しでご飯を食べれそうです!」

「……ん、じゃあおかず抜きで……」

「えぇ!?じょ、冗談ですからぁ~!」

「ほほう、全事象耐性かの?試してみてもいいかの?」

「……いいよ……?」

「それでは、ふん!」

 

帆楼が淡く輝いた両の手をリリィの胸に当てる。

 

「……?」

 

何かが入り込む感覚がしたあと、逆に反発するような感覚を覚える。

 

「成る程のぉ……リリィ、汝の得になるものは普通に干渉を受け付けるものの、意味のないもの、害あるものは遮断するようじゃの」

「……ほほう……」

「過保護ですねぇ……」

「親バカならずの、爺バカ?」

 

 

 

そんな確認などをしつつ、様々な工程、準備をこなしていく。

ハジメと魔力で駆動する二輪車、四輪車をつくり、精霊をエネルギー変換する機構も取り付けた。

排出される霊骸は機構と武装と繋げることで、そのまま武装の出力として使える優れものだ。

 

あと、魔眼石というものも作った。ヒュドラとの戦いの最中で攻撃を避けそびれたらしく右目が損傷してしまったらしく、その代用らしい。

普通の風景を見ることはできないが、その代わりに色々な関知系魔法を施すことで、視界で魔法の核を確認したり、属性を色で判別できたりする。

あと、この魔眼石は神結晶を使っているので常に青白く光っていて、それを隠すために眼帯を作ったりもした。

 

その結果、ハジメの見た目は一昔前の「ぼくがかんがえたさいきょうのしゅじんこう」状態になった。

 

さらに、今回で更なる威力不足を感じたので新たな電磁加速銃器が追加された。メツェライという砲身回転式の超連射型である。

あと興味本意でミサイルランチャーとロケットランチャーの複合型を作った。銘をオルカンである。

拳銃型のリボルバー式電磁加速銃のシュラークという銃も開発した。ドンナーと対になる銃らしい。

双銃を使った格闘術も戦闘術として使えるようになった。

 

それと、神結晶は蓄えていた魔力が枯渇してしまい、もう神水を抽出できなくなってしまった。

ただ、思い入れの深い石であるのでアクセサリーにして、五人で友情の証ということにした。

 

 

 

 

 

「よし、もうそろそろここを発とう」

「……ん、おっけー……」

「参ろうかの」

「旅ですね!新しい知識もりもりです!」

「楽しもうぜべいべ~」

「……なに言ってるの、ユエ……?」

「何でもない」

「まぁ、気楽に行こうぜ?なんたって俺らは五人で……」

「うん……」

 

 

 

 

「「最強なんだから」」

 

 

 

 

最強と無双と仲間たちの織り成す叙事詩が、今、開幕する。

 

 

 




5000文字いったぜおるぁん!
結構今回は時間がかかりましたぁ!

ただ何時ものようにお楽しみいただけたのなら幸いです!

さぁて、次も頑張っていきましょー!


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ライセン大峡谷にて
峡谷で出会う獣人種


獣耳といえばこの娘である。という作者の持論のもと登場することとなった麗しきケモミミ幼女様。

さぁ、はっちゃけようかッ!


転移魔法陣を起動し周囲を光が満たす。

そして座標が変わる感覚、どこか新鮮さを感じる空気が肺を満たし、いつになく頬が緩む。

視界を満たしていた光が晴れたその場所は……

 

 

洞窟だった。

 

 

一気に表情が抜け落ち、死んだ魚のような濁った目になるリリィとハジメ。

期待していた分、目の前に広がった光景に目のハイライトさんが仕事を放棄する。

 

「……また、洞窟……」

「なんでやねん……」

 

そのうち暗黒面に堕ちるのでは?と思われる程に濁った目になっているリリィとハジメにユエが―――

 

「秘密の通路……隠すのが普通……」

「……確かに、隠してないと普通にバレるね……」

「だからって、なぁ……」

「……期待は、返してほしい……」

 

言われてみればそうなのだが、期待で胸一杯だった二人にそこまで考えは及んでいなかった。

 

そして、秘密の通路を進む一同。途中にトラップや封印が施された扉もあったが、持ってきたオスカーの指輪に反応してどんどん解放されていく。

 

そして、道の先に見えてくる光。

リリィやハジメにとっては数ヶ月、ユエに至っては三百年と見ていなかった陽の光。当然テンションは最高潮に。

帆楼とジブリールはこの世界に来て初めての陽光に少々テンションが上がる。

 

そして、その陽光の下へたどり着いた。

 

そこは渓谷だった。名を【ライセン大峡谷】処刑場所として有名であり、谷底では魔法は使えず、それにも関わらず凶悪な魔物がいくつも存在する悪夢の場所。

 

けれど、久しぶりに陽光を見て、土の匂いを感じたリリィたちにそれは全く関係がなかった。

 

「……やっと、出れた……っ」

「……戻って、来たんだな」

「……んっ、太陽、綺麗」

 

そして―――

 

「よっしぁぁぁぁあ!!戻ってきたぜこのやろぉぉお!!」

「……いえーい……ッ!」

「んっーーー♪」

「空気が綺麗じゃのう……」

「空はやっぱりいいですねぇ♪」

 

喜びを体全身で表し、飛びはね、抱き付き、回る三人と、この世界初の外気に感想をもらす二人。

笑い、くるくる回って幾ばくか経ち、笑いが収まると周囲を魔物が囲んでいた。

 

「……ふざけんなこのやろー……」

「まったく、無粋な奴等だ」

「んっ、ふざけんなー……」

「……確か、魔法は使えない……?」

「ん、分解される」

「……精霊魔法は……?」

「…………」

 

肩に戻ってきたジブリールが無言で、しかしイイ笑顔でその手に精霊魔法で編んだ槍を作り出す。

 

「……おーけー……」

 

ニヤリと笑うリリィにハジメもニヤァと口を歪ませて……

 

「さぁて、それじゃあ蹂躙するかッ!!」

 

何処かで聞いたような台詞で銃を抜いてぶっぱなす。

その炸裂音と共に作り出した精霊槍を投げる。

直線的に黒い閃光が駆け抜ける。そして、着弾。

周囲の岩ごと魔物を消し飛ばす。けっこう加減しても大丈夫そうだ。

 

「ガアアアァァア―――斬―――?」

 

突然、魔物の視界が斜めにずれ落ちる。

そして、魔物は死を自覚する前に絶命した。

 

魔物の群れの後方で、リリィが振り抜いた形で持っていた精霊の鎌を下ろす。

すると、群ていた魔物の首が次々と落ち、絶命していった。

 

「うわぁ……」

 

その光景にガン=カタで敵を蹴散らしながらドン引きするハジメ。

そっちも割りとドン引きできる事態になっているのだが、ハジメはそれを圧倒する規格外を見せつけられ、そのことを忘れて声をもらす。

 

そして間もなく全ての魔物の殲滅が終わった。

 

「……呆気なかった……」

「どいつもこいつも弱いなぁ……」

「……二人が化け物なだけ」

「……否定しない……というか出来ない……」

「まぁ、奈落の魔物が強すぎただけっていう訳か」

「……それで納得……」

 

「それで、どうする?この峡谷登ろうと思えば登れるけど、ライセン大峡谷といえば七大迷宮の一つがあると言われてるだろ?だから樹海に向けて進んでいこうと思ってさ」

「……なる……」

「でも、何で樹海側なのじゃ?」

「……峡谷抜けて、砂漠横断したい……?」

「……嫌じゃな」

「まぁ、そういうことだから樹海側への探索でいいか?」

「……異義、なーし……」

「……おっけー」

「うむ、了解じゃ」

「まぁ私はリリィに引っ付いてるだけなので問題なしですね」

「……それじゃあ、れっつごー……」

「リリィ、バイク乗るか?」

「……ん、精霊駆動のほう……」

「なんで飛べるのにこれ造ったんだ?」

「……臨場感、かもん……」

「いつものノリと勢いか……」

 

ハジメが右手中指に嵌めている指輪に魔力を籠める。

その指輪は“宝物庫”という収納系のアーティファクトで、物の大きさ関係なく収納できる代物である。

そこから二輪駆動車を二つ取り出すハジメ。形は殆ど変わらないが、カラーリングと一部機構が違っていた。

ハジメは全体的に黒いアメリカンタイプ、ところどころメタリックな輝きを放っていて、機構部分は蒼白い光を放っている。

それに対してリリィのものは、全体的にシルバーのスポーツタイプであり、機構からは碧色の輝きが放たれている。ただし、その輝きは霊骸という猛毒なので無闇に放出することはできないが、その霊骸をさらに炉心にかけることで副次動力に変えることのできるエコ車である。

それぞれサイドカーが付いていて、ハジメの方に荷物が、リリィの方にはユエが乗っている。

ジブリールは小さくなってリリィの肩に、帆楼はリリィの背中におぶさっている。

リリィの背中を巡って一悶着あったが、この形に落ち着いた。

 

暫く二輪駆動車を走らせていると、今までの峡谷の魔物とは段違いの威圧を持つ咆哮があたりに轟く。

かなり距離が近く、三十秒もしないうちに会敵するだろう。

そして、その姿が見えてくる。それは先ほど呆気なく蹴散らされたティラノ擬き、その双頭個体だった。

まぁ、それよりも気になるものが跳ねている、否駆けているのだが。

それは、ウサミミだった。ただし、頭からそれが生えているだけでそれ以外は普通に人形の少女だった。

半泣きでべそをかきながら双頭ティラノ擬きから逃げ惑うそれを胡散臭げに見る五人。

 

「……なに、あれ……」

「兎人属?」

「峡谷って兎人族の住処だったか?」

「聞いたことない」

「そもそも何もない此処に棲む理由もありませんしねぇ」

「……犯罪者として落とされた、処刑ウサギ……?」

「あれが悪ウサギ?」

「弱肉強食の世界を見ているようじゃな……」

 

それぞれがその光景に首をかしげながら感想をこぼす。

まぁ、処刑ウサギ云々は興味がないので適当に言っただけだが。

 

双頭ティラノ擬きの攻撃を避けるも余波でゴロゴロ吹っ飛ばされるウサミミ。

なぜかその視線はこちらに注がれている。

再度双頭ティラノ擬きのターン。今度はしっかり避けて岩の陰に隠れる。

視線は未だにリリィたちに注がれたまま。

 

そして猛然と駆け出した……

 

……リリィたちの方へ

 

「だずげでぐだざ~いぃ!ひぃいい!死んじゃう!死んじゃうよぉ!だずけてぇ~、おねがいじまずぅ~!」

 

必死な叫び声だが、リリィたちにとってはただの迷惑である。

 

「……モンスタートレイン……?」

「超迷惑だなあの野郎……」

 

助ける気はゼロである。

まだウサミミはリリィたちに助けを求めるつもりなのかこちらに駆けている。

迷惑極まりないといった表情でウサミミを見て、二輪駆動車のスピードを上げると、いったいどんな涙腺をしているのか気になるほどの大量の涙を溢れさせて、声を張り上げながら駆けてくる。結構な体力である。

 

「まっでぇえ、みずでないでぐだざぁ~い!おねがいでずぅ~!!」

 

どんどんスピードを上げていくも、その瞬間双頭ティラノ擬きは、ウサミミ少女の前を獲物(?)が走っているのに気づく。否、気づいてしまった。

 

「「グゥルァァアア!!」」

 

明確な餌に対する咆哮を上げる双頭ティラノ擬き。

先に目の前の獲物(ウサミミ)を喰らおうと口を開けたその瞬間だった。

 

空を翔る黒い閃光。

それを認識した瞬間、双頭ティラノ擬きは全身に力が入らなくなり、前のめりに倒れ、自らが死した原因もわからぬまま絶命した。

 

「聞こえてないでしょうが、相手はしっかり選びましょうね?獣畜生が♪」

 

黒い閃光。精霊球を放った元凶(ジブリール)が死した双頭ティラノ擬きを見下すように言い放つ。

 

双頭ティラノ擬きが沈みこんだ衝撃でこちらにウサミミ少女が吹っ飛んでくる。

 

そして、二輪駆動車を停めたリリィの足元にすがり付き―――

 

「きゃぁぁああ!!助けてくださいぃぃい!!」

「……鬱陶しい、うざい……」

「辛辣ぅ!」

「面白い……」

 

リリィに罵られ、叫び声を上げるウサミミ少女。

その反応を見て楽しむユエ。

 

瞬間、再び轟く咆哮。ジブリールの精霊球の被害が少なかったもう片方の頭が精霊球でボロボロになった片方の頭を喰らい、瞳に明確な殺意を乗せてリリィたちを睨み付ける。

 

「ひぃぃぃい!こんなときにいづな(・・・)ちゃんはなにやってるんですかぁ!!『飯の匂いがするぞ、です!』とか言ってどっか行っちゃってぇ!」

「……いづな……?」

 

はて、何処かで聞いたような名前である。

 

「うむ?いづなじゃと?」

「はぃぃい、犬人族だと思うんですけど、食いしん坊さんで何処かに走って行っちゃったんですぅ!」

「……凄まじい既視感のある性格じゃのう」

 

再びリリィたちに襲いかかろうとするティラノ擬きに、ジブリールが精霊球を放とうとしたその瞬間……

 

空気が爆ぜた。

 

血のように赤い風が空を斬り、ティラノ擬きの横に着地する。

瞬間、ティラノ擬きの首が落ちた。

「えっ」と声を上げるハジメ。いい加減何度も見せられた物理法則に従わぬ光景を再び見せられ、意識を自然と世界の彼方に投げそうになった。

 

そして、赤い風を纏う存在は―――

 

「しあ、遅ぇぞ、です。何処で道草食ってやがった、です」

「勝手にいなくなったのはいづなちゃんじゃないですかぁ!!」

 

獣耳幼女だった。

東洋の着物のような装束を身に纏っていて、その着物の質感からかなりの身分の者であることが伺える。

 

「餌いっぱいあったぞ、です。とってきたけど、途中で懐かしい匂いがしたから急いで来たぞ、です」

 

右手に束ねられた魚を「しあ」というらしいウサミミ少女に見せる「いづな」と呼ばれる幼女。

 

「うぬ?いづなではないか?」

「っ!帆楼じゃねぇか、です!それにジブリールもいやがる、です!」

「はて?何故この世界に犬っころが?」

「空と白とゲームしたら、この世界に飛ばされた、です」

「……元凶、確定の瞬間……」

「やっぱりあの二人だったのかの……」

「この世界の魚、うめーです。早く帰って食いてぇです」

「……何やってるんですかね、あのお二人様は……」

 

そう言ってぐいぐい「しあ」を引っ張るいづな。

力が強いらしく、ぐいぐい引っ張られるよりは引きずられている。

 

「あぁー!待ってくださいいづなちゃーん!あ、先ほどは助けて頂き有難うございます!私、兎人族のシア・ハウリアと申しますです!取り敢えず、私たちの仲間も助けてください!」

 

その残念ウサミミ少女は神経も図太かった。

 

 

 




いづなたん降臨。
文章書くだけでほっこりするとは……恐るべし幼女ぱぅわーッ!
いづなたん一人で兎人属救えるのでは?と思った方々、いづなたんは基本的に自由奔放です。兎人属の皆さんが暴走(食物関連)を止めれると?無理です(白目)

次回、兎人属編!日常ネタもぶちこんでいきたいです!


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最強たちと初瀬いづなと兎人族

祝!二十話達成!!

ふぅー。やりきった。いづなたん可愛い、これ摂理。

書いてて心が穏やかになるとは……これがロリぱぅわーか(二回目)

何気に天撃もチートですが、血壊も十分チートですよね……



「私の仲間も助けてください!」

「……嫌だ……」

受け入れる訳がなかった。

 

「?なんの話してやがる、です?」

「私たちの仲間を助けてくださいって頼んでるんですよぉ!いづなちゃんも手伝ってくださいぃ!」

「それより飯だ、です。とっとと帰って焼いて食う、です」

「あぁ~!引っ張らないで~!」

 

ズルズルと引き摺られていくウサミミ少女。

そのまま、引っ張って行ってくれると嬉しかったのだが……

 

「……?すんすん……」

 

唐突に立ち止まって首をかしげ、鼻をピクピクさせて匂いを嗅ぐ。

そして、その匂いを追うようにリリィのところに戻ってくる。嫌な予感に額に汗を垂らすリリィ。

 

「おめー、面白い匂いしてやがる、です?人類種(いまにてぃ)の匂い、機凱種(えくすまきな)天翼種(ふりゅーげる)の匂いがする、です」

「……」

「……?一緒に来ねぇのか、です?」

「……うっ……」

 

純粋で澱みのないつぶらな瞳で見つめられ、怯むリリィ。

 

「……くっ、心がッ!」

 

ハジメも胸を押さえて怯む。

 

「来るならはやくしろ、です!飯の時間だ、です!」

 

ふさふさ尻尾をゆらゆらと振って、大きな耳をぱたぱたさせてリリィたちの心を削ってゆくいづな。

 

「「……ぐっ、はっ……」」

 

そしてついに膝を折るリリィとハジメ。

 

「……???大丈夫か、です?」

「……ついてくから、気にしないで……尊死しそう……」

「……心のダメージが痛い……そんな純粋な目で俺を見ないで……」

「?大丈夫ならついてきやがれ、です。帆楼たちも食うか、です?」

「むん、戴くとするかのぅ」

「獣耳無垢っ娘、だと……」

「相変わらずの破壊力ですねぇ……」

 

膝を地面につくリリィとハジメ、戦慄の表情でいづなを見るユエとジブリール、素直に反応する帆楼。

そして、リリィとハジメを屈したいづなを褒める「しあ」。

 

「ナイスですぅ!いづなちゃん!あ、改めまして私は兎人族ハウリアの長の娘、シア・ハウリアと言います!えぇ~と、私たちの状況はですねぇ……」

 

曰く、兎人族の一つ、ハウリア族に、ある日異常な女の子が生まれた。兎人族は基本的に濃紺の髪をしているのだが、その子の髪は青みがかった白髪だったのだ。

しかも、亜人族には無いはずの魔力を有しており、直接魔力を操る術と、固有魔法まで使えたのだ。

 

勿論、一族は大いに困惑した。兎人族として、否、亜人族として有り得ない子が生まれたのだから。魔物と同様の力を持っているなど、普通なら間違いなく迫害の対象となるだろう。

しかし、彼女が生まれたのは亜人族一家族の情が深い種族である兎人族だった。

百数十人全員を一つの家族と称する種族なのだ。ハウリア族は女の子を見捨てるという選択肢を持たなかった。

 

しかし、樹海深部に存在する亜人族の国【フェアベルゲン】に女の子の存在がばれれば間違いなく処刑される。魔物とはそれ程に忌み嫌われていて、一切の例外なく不倶戴天の敵なのである。

国の規律にも魔物を見つけ次第、できる限り殲滅しなければならないと明記されており、過去にわざと魔物を逃がした人物が追放処分を受けたという記録もある。また、被差別種族ということもあり、魔法を振りかざして自分達亜人族を迫害する人間族や魔人族に対してもいい感情など全く持っていない。樹海に侵入した魔力を持つ他種族は、総じて即滅殺が暗黙の了解となっているほどだ。

 

それ故に、ハウリア族は女の子を隠して十六年もの間ひっそりと育ててきた。だが、先日とうとう彼女の存在が帝国にばれてしまったのだ。その為、ハウリア族はフェアベルゲンに捕まる前に一族ごと樹海を出たのだ。

 

行く宛もない彼等は、一先ず北の山脈地帯を目指すことにした。山の幸があれば生きていけるかもしれないと考えたからだった。未開の地でこそあるが、帝国や奴隷商に捕まり奴隷に堕とされてしまうよりはマシだ。

 

しかし、彼等の試みは、その件の帝国により潰えた。樹海を出て直ぐに運悪く帝国兵に見つかってしまったのだ。巡回中だったのか訓練だったのかは分からないが、一個中隊規模と出くわしたハウリア族は南に逃げるしかなかった。

 

女子供を逃がすため男達が追っ手の妨害を試みるが、そもそも温厚で平和的な兎人族と魔法を使える訓練された帝国兵では比べるまでもない歴然とした戦力差があり、気がつけば半数以上が捕らわれてしまった。

 

全滅を避けるために必死に逃げ続けて、ライセン大峡谷にたどり着いた彼等は、苦肉の策として峡谷へと逃げ込んだ。流石に、魔法の使えない峡谷にまで帝国兵も追って来ないだろうし、ほとぼりが冷めていなくなるのを待とうとしたのである。魔物に襲われるのと帝国兵がいなくなるのとどちらが早いかという賭けだったのだが……

 

予測に反して帝国兵は一向に撤退しようとはしなかったのだ。小隊が峡谷の出入り口である階段状に加工された崖の入口に陣取り、兎人族が魔物に襲われ出てくるのを待つことにしたのだ。

 

そうこうしている内に、案の定、魔物が襲来した。もう無理だと帝国に投降しようと試みたが、峡谷から逃がすものかと魔物が回り込み、ハウリア族は峡谷の奥へと逃げるしかなかった。そうやって、追い立てられるように峡谷を逃げ惑い続けて……

 

「……気がつけば、六十人はいた家族も、今は四十人程しかいません……このままでは全滅です……どうか助けて下さい!」

 

先ほどとはうって変わって悲痛な表情に顔を歪めるシアを見てリリィとハジメの返答は……

 

「……えぇぇ……」

「いや、嫌だけど?」

 

「えっ」

 

同情なんてなかった。

 

 

♛♛♛♛♛♛♛♛♛♛

 

 

「え?ちょっ、ちょっとぉ!?」

 

シアの叫び声が響き渡る。

 

「……うるさい……」

「あ、すみません……じゃないですよぉ!え?えぇ!?私美少女ですよ!?美少女のお願いですよ!?そこは普通『なんて可哀想なんだ……俺たちが何とかしてやる!』ってなるルートじゃないんですかぁ!?」

「……自惚れ、ルート作成失敗、乙……」

「そもそもそんなルートねぇよ」

「……助けても、メリットない……寧ろ厄ネタ……」

「それもそうだしな……こっちにも旅の目的があるんだし、厄介事は抱えたくないんだよ」

「えぇー!?」

 

「さかな、うめーぞ、です?はやく帰って食わねぇのか、です?」

「いづなよ、あとで焼いて食べようぞ?」

「がってんです!」

「食い意地も相変わらずですねぇ、犬っころ」

 

「な、なんで、なんでですかぁ……守ってくれると見えましたのにぃ」

「……さっきから言ってる、それって“固有魔法”のこと?」

「ふぇ?あ、はい。“未来視”といいまして、仮定した未来を見ることができる魔法なんです。もしこれを選択したらどうなるのか?みたいな感じで……あと、危険が迫ると勝手に見えます。まぁ、その未来が絶対ということはないんですけど……あ、あぁ!そうです!私役に立てますよ!“未来視”があれば危険も回避できますし、少し前に見えたんです!貴方たちが私たちを助けてくれている姿が!実際、皆さんやいづなちゃんに助けられました!」

 

曰く、未来視とは魔力を消費して仮定した未来を見ることができる固有魔法らしい。任意で発動すれば凄まじい量の魔力を消費するらしく、一回で魔力が枯渇するそうだ。また、自動で発動するときは、直接であろうが間接であろうがシアにとって危険となる状況が急迫した場合に発動し、消費魔力は三分の一程度に収まるらしい。

その任意発動による仮定選択の結果、リリィたちが自分たちを助ける姿が見えたらしく、単身で飛び出してきたらしい。

余程興奮していたのだろうか?こんな場所に単身で飛び込むなんぞ普通はありえない。それより気になるのは……

 

「……そんな魔法を持ってて、なんで帝国にバレたの……?」

「いやぁ……この魔法は一度任意で使うと暫く使えなくて……」

「ほぉう?バレた時は既に使った後だった……と。一体何に使ったんだ?」

「ちょ~~とですねぇ……友人の恋路が気になっちゃいまして……」

「……出歯亀って……」

「バカだな」

「うぅ~、猛省しておりますぅ~」

「……超絶残念うさぎ……」

「なんか……もういいだろ。行こうぜ?」

「あぁ~待ってくださいぃ~!」

 

足にしがみつくも、リリィの脚力は天翼種(フリューゲル)並み、ズルズル引き摺られるだけだった。

そんなシアを見て、ユエが―――

 

「リリィ、連れてこ?」

「……ユエ……?」

「えぇ、と……どうしてだ?」

「樹海の案内に丁度いい」

「……なるほど……」

「!?いいんですか!?ありがとうございます!貴女いい人ですね!最初見たときペッタンこなんて思ってすみまっ

アベシッ!」

 

まぁ自ら進んで案内してくれる亜人族がいるのはありがたいのだが、あまりにも問題を抱えすぎているので、少し心配になる。

 

「大丈夫、私たち五人で最強」

「……それも、そうだね……」

「私と帆楼に犬っころもいますしね大丈夫ですよ!」

「……いづなってやっぱり強い……?」

「うむ、いづなは“血壊”という所謂固有魔法のようなものを使えるのじゃ、一時的に物理限界を突破できるから凄まじい戦力になるぞ?」

「いづなは強ぇーぞ、です!!」

「……なんだ?お前らの世界は物理法則に喧嘩売るようなやつしかいないのか?」

「いえ、人間は普通に物理法則に抗えませんよ?」

「……端的にそれってそれ以外の殆どが物理法則に喧嘩売ってるってことだよな?」

「……♪」

「否定して欲しかった……」

「……はぁ……それじゃあ、行く……?」

「まぁ、しょうがないか……」

「……シア、乗って……?」

「いいんですか!?本当にいいんですか!?」

「……ん、雇う……報酬はハウリア一族の命で……」

「せっかく助けてやるんだ、しっかり案内頼むぞ?」

「あ、ありがとうございますぅ!うぅ、うぅ~よがっだよぉ~、ほんどによがっだよぉ~」

「……ほら、乗って……」

 

ぽんぽんとサイドカーを叩く。

 

「私は?」

 

ユエが聞いてくる。

 

「……シアの膝……?」

「むぅ、わかった」

「リリィの背中は心地よいのぉ……」

「わかりますよ帆楼。華奢なのに暖かくて包み込まれるような感覚っ、最高にございますね♪」

「ほぇ~、そんなに気持ちいいんですか?」

「はい、それはもう天にも昇るような心地よさですよ?」

「ほうほう、今度お願いしたいですぅ……あ、そういえば私は皆さまをなんと呼べばいいのでしょうか?」

「……そういえば、名乗ってなかった……リリィ・ドーラ……よろ……」

「……ユエ」

「南雲ハジメだ。よろしく頼む」

「ジブリールと申します♪」

「帆楼じゃ、よろしく頼むぞ?」

「リリィさんにハジメさん、ユエちゃんにジブリールちゃんに帆楼ちゃんですね!」

「……さんをつけろ、残念ウサギ」

「ふぁ!?」

「それなら私は様ですかね?」

「……帆楼はどうなるのじゃ?」

「……そのままでいいんじゃないかな……?」

「それより早くいくぞ、です!飯が待ってるぞ、です!!」

 

いつの間にかリリィの膝の上に陣取っていたいづながリリィの太ももをぺちぺち叩く。

 

「「何ィ!?」」

「ほほう……犬っころ。いい度胸ですねぇ……」

「……ジブリール、ステイ……」

「わんっ!」

「なんですかこれ?」

「いつもの光景だな」

「……尻尾ふさふさぁ……」

「ほらリリィ、行くぞ?」

「……りょーかい……」

「案内はお任せください!!」

 

そうして一行はシアの案内のもと、シアの仲間たちのもとに向かっていった。

 

 

 




いづなたんを書いていて尊死しそうになった私は悪くないはず(真顔)

色々用事があり更新が遅くなり申し訳ありません!

学生ということもありまして、試験勉強やらをしなければならなく、たまに更新が途切れます。

ご了承下さいね?

今回も読んでいただき、ありがとうございました!


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平和人な兎人族と同族の敵

ありふれの日常が面白いッ!(唐突)

すみません皆様、投稿がかなり遅れました。ここ一週間は中間考査の準備やらがあるので、投稿できても週一くらいになります。

中間考査が終わり次第更新ペースも上げていきたいと思っておりますので、よろしくお願いします!

投稿に使っているスマホも変えまして、慣れるのにも時間がかかりそうですが、頑張っていきたいです。

今回は平和人たちと帝国(無残)のお話。やっちゃえー!極楽浄土に連れてっちゃえー!!




「速すぎですぅ〜!!」

「……この見た目で遅かったら変……」

 

そうバイクをかっ飛ばしながら言うリリィ。

まぁ実際、スポーツバイクの見た目をしながら遅かったら違和感満載である。

 

「いや、でもそれは速すぎだろ?」

 

と、ハジメ。確かに一応人(?)を三人も乗せているのだ、普通なら少し遅くなるだろうがそこは流石万能動力たる精霊、そんなことで減速などしなかった。

 

「……精霊、ちょーぐっじょぶ、まじぱねぇ……」

「まぁ、位階序列は天翼種(わたしたち)より上の三位ですからねぇ……世界の構成因子でもありますし」

「せーれーはすげぇぞ、です!」

 

リリィの声に苦笑いをしながら答えるジブリールと高速で走行するバイクの運転をしているリリィの膝の上でピョンピョンしながら楽しそうに笑ういづな。

獣耳好きのハジメの顔が緩む。

そんなこんなでハウリア族の下へ向かっていると、人の悲鳴のような声と魔物の咆哮が聞こえてきた。

その方向を見ると、怯えるうさ耳を生やした人々が、それを睥睨する体長五メートル程の翼龍がそこにいた。

 

シアが身を乗り出し、声をあげる。

 

「ハ、ハイベリア!?それに、みんなも!?」

「……あれが、シアの仲間……?」

「は、はいぃ!」

 

そうとなれば、やることは一つ……

 

ハイベリアがその顎を開き、ハウリア族の親子を喰らおうとして―――

 

「……墜ちろ……」

 

放たれた黒い光槍に翼を貫かれ、バランスを崩し落ちたところに―――

 

「《典開(レーゼン)》【偽典・森空囁(ラウヴアポクリフェン)】」

 

帆楼の更なる整備により、全てを斬り裂く真空の刃を放てつことのできる武装となった、森精種(エルフ)の魔法の模倣武装が炸裂し、その翼龍の五体を斬り刻んだ。

 

「うっわぁ……」

 

その威力にドン引くハジメ。

 

「流石ですねぇ……」

「秒殺じゃなくて瞬殺……」

「ハ、ハイベリアを、瞬殺……?」

「……まじぱねぇ、です」

「むん、流石じゃの♪」

 

同じくドン引くジブリールとユエに、唖然とするシアといづな、そして満足そうな表情を浮かべる帆楼。

 

「……みんなもできるよね……?」

「「「確かに」」」

「余裕じゃの」

「言われてみればよゆー、です」

「えぇぇ……」

 

言われてみればそうだったという表情を浮かべるハジメたちに疲れたような表情を向けるシア。

 

そして、そんな会話をしているリリィたちの方に一人の兎人族の男性が駆け寄ってきた。

 

「シア!無事だったのか!」

「父様!」

 

濃紺の髪にうさ耳を生やした初老の男性はどうやらシアの父親のようである。

いづなという麗しきけもみみ幼女を見た後にコレは結構キツいものがある。

リリィとハジメが誰得……と肩を落としていると再会を喜びあっていたシアの父親がこちらに向き直った。

 

「リリィ殿にハジメ殿で宜しいか?私は、カム―――シアの父にしてハウリアの族長をしております。この度はシアのみならず我が一族の窮地をお助け頂き、何とお礼を言えばいいか……しかも、脱出まで助力くださるとか……父として、族長として深く感謝致します」

「……樹海の案内との等価交換。気にする必要ない……ね……?」

「あぁ、しっかり案内してくれよ?けれど随分あっさりと了承したな……亜人族だから人間にいい感情はあまり持ってないと思ってたんだが……」

「シアが信頼する相手です。ならば我らも信頼しなくてどうします―――我らは家族なのですから……」

「……とんでもお人好し……?」

「はぁ……そうだな、こりゃあ面倒なことになりそうだ……」

「……ふらぐ……?」

「おい馬鹿止めろォ!」

 

 

 

 

×÷×÷×÷×÷×

 

 

 

 

「おいおい、マジかよ。生き残ってやがったのか。隊長の命令だから仕方なく残ってただけなんだがなぁ~こりゃあ、いい土産ができそうだ」

 

「「ガッデム」」

 

フラグ回収が成された。

 

ライセン大峡谷、その崖を登った先には三十人ほどのカーキ色の軍服に身を包んだ帝国兵がたむろしていた。

それぞれが剣や槍、盾を構えていたが、リリィたちを見て驚いた表情をしたものの、すぐに兎人族の者達に品定めするように視線を向けた。

 

「小隊長!白髪の兎人もいますよ!隊長が欲しがってましたよね?」

「おお、ますますツイテルなァ。年寄りは別にいいが、あれは絶対殺すなよ?」

「小隊長ぉ~、女も結構いますし、ちょっとくらい味見してもいいっすよねぇ?こちとら、何もないとこで三日も待たされたんだ。役得の一つや二つ大目に見てくださいよぉ~」

「ったく。全部はやめとけ。二、三人なら好きにしろ」

「ひゃっほ~、流石、小隊長!話がわかる!」

 

などと好き勝手言っているが……

 

盛った猿のような言動にリリィとハジメは呆れる。

言いたい放題言って騒いで、耳障りで仕方がない。

 

一通りはしゃぎ終えたのか、再度兎人族を見る隊長格が漸くリリィたちに気付いた。

 

「あぁ?お前誰だ?兎人族……じゃあねぇよな?」

「あぁ、しがない人間だ」

 

ハジメが応答する。

それに対して……

 

「はァ~?なんで人間が兎人族と一緒にいるんだ?しかも峡谷から。あぁ、もしかして奴隷商か?情報掴んで追っかけたとか?そいつァまた商売魂がたくましいねェ。まぁ、いいや。そいつら皆、国で引き取るから置いていけ」

「……嫌だけど、諦めて国に帰るなりすれば……?」

「あぁ?……小僧共、口の利き方には気をつけろ。俺達が誰かわからないほど頭が悪いのか?」

「……理解している。その上で対応している……」

 

そして、リリィに引っ付いているいづなやユエ、帆楼を見て一瞬その美しさに呆けるもすぐに下卑た笑みを浮かべ……

 

「あァ~なるほど、よォ~くわかった。てめェが唯の世間知らず糞ガキだってことがな。ちょいと世の中の厳しさってヤツを教えてやる。くっくっく、そっちの嬢ちゃん達、えらい別嬪じゃねェか?てめぇの四肢を切り落とした後、目の前で犯して、奴隷商に売っぱらってやるよ」

 

その言葉に、周囲の気温が幾度か下がった。

勿論中心はリリィとハジメ。

友人を、仲間をそのような目で見て赦すとでも思うか?

 

 

 

 

否だ

 

 

 

 

 

「……そう……つまりは敵……?」

「あぁ!?まだ状況が理解できてねぇのか!?てめぇは、震えながら許しをこッ………………」

 

 

唐突にしゃべる口が止まった隊長格に訝しげな表情を向ける部下と思われる者達。

 

「隊長?おーい?」

 

 

 

 

リリィは、手を振り切った(・・・・・・・)姿勢で静止している。

 

 

 

 

リリィが何をしたのか理解したハジメはいづなの目を手で隠す。

 

「?みえねーです?」

「まぁ、なんというか……ざまぁ&ご愁傷様ですねぇ」

 

ジブリールが侮蔑の笑みを浮かべ、未だに動かない隊長格に視線を向ける。

 

 

そして、次の瞬間―――

 

 

 

 

背後の風景ごと(・・・・・・・)隊長格の首(・・・・・)がズレ落ちた(・・・・・・)

 

 

 

吹き出す血液に濡れた軍人たちは一瞬呆け、次の瞬間阿鼻叫喚の渦に飲まれる。

 

何が起きた、何故死んだ、何故、どうして、何故に唐突に隊長の首が落ちたのだ、と。

 

そこに追い討ちを掛けるように、銃声。

 

 

――――ドパァァアンッ

 

その単音で、六人の隊員、小隊長の首が弾け飛ぶ。

 

一瞬の間、その間に放たれた銃弾は六発。

初弾射出から次弾射出までの間隔が短すぎて単音、単発に聞こえたのだ。

 

「「蹂躙開始」」

 

次々と飛び、弾ける帝国兵の首。

 

悲鳴を上げ、逃げ惑う帝国兵の耳に、この状況にそぐわない飄々とした話し声が聞こえた。

 

「相変わらずチートだなぁ、リリィ」

「……ハジメがそれを言える……?」

「……周りが皆物理法則に喧嘩売ってるからわからんわッ!!にしても弱い、人間相手なら“纏雷”も使う必要なさそうだな」

「……ん、そうだね……」

 

そんな会話をしながら足を逃げ惑う帝国兵の方向へ向ける。

顔を蒼白くして震え上がる最後の生き残りが……

 

「た、頼む!殺さないでくれ!な、何でもするから!頼む!」

「そうか?なら……他の兎人族がどうなったか教えてもらおうか。結構な数が居たはずなんだが……全部、帝国に移送済みか?」

「……は、話せば殺さないのか?」

「お前、自分が条件を付けられる立場にあると思ってんのか?別に、どうしても欲しい情報じゃあないんだし……今すぐ逝くか?」

「ま、待ってくれ!話す!話すから!……多分、全部移送済みだと思う。人数は絞ったから……」

 

“人数を絞った”つまりは殺した、と……

 

再び帝国兵に叩きつけられる強烈な殺気に情けない悲鳴を上げる。

 

「待て!待ってくれ!他にも何でも話すから!帝国のでも何でも!だから!」

 

ドパンッ―――

 

返答はその最後の帝国兵に放たれた銃弾だった。

 

脳髄を撒き散らし倒れる帝国兵、その光景を見て息を呑むハウリア一族たち。

その若干の恐怖を目に浮かべるハウリア達を代表し、シアがリリィたちに問うた。

 

「あ、あのさっきの人は見逃してあげても良かったのでは……?」

「……はぁ……」

「……ひぇっ」

「……アレは敵、一度此方に牙を剥いたなら、情けをかける必要ない……」

「でも……」

「なんで守られているだけのあなた方が口を挟むので?相手を侮り、力量を測り損ね死するのは戦場であれば常套……そんなこともわからない程に甘々なのですか?あなたたちは」

「ジブリールに同意……」

「こればかりは擁護のしようもないしのぅ……」

「まったくだな」

 

ジブリールが眉をひそめ、それに同意するハジメたち。

それを言われてしまえば何も言えないハウリアたちはバツの悪そうな顔をする。

 

「ふむ、ハジメ殿、申し訳ない……別に貴殿方に含むところがあるわけではないのだ。ただ、こういう争いに我らは慣れておらんのでな……少々、驚いただけなのだ」

「ハジメさん、すみません……」

 

謝るカムとシアに気にする必要はないと軽く手を振り、あんな状況の中、何故か無傷だった馬車へと足を進め、ハウリア達を手招きする。

せっかくの冥土の置き土産だ、有効活用しようじゃないか……と。

 

無惨に切り裂かれ、頭部の弾けていた帝国兵の死骸はジブリールの転移魔法によって峡谷の底へと投げ出された。

 

跡に残ったのは崩れ去った森林風景と飛び散った血と血溜まりだった。

 

 

 

 




お仕事完了!

久しぶりにリリィのバグった強さを全面に出しました。
ハジメも結構お久しぶりの活躍ですかね?

押し問答はハジメの方が似合いそう(偏見)

次回も更新は遅れますが、頑張って投稿しますので、よろです!


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ハルツィナ樹海へ

とてつもなく投稿が遅くなり、誠に申し訳ありません。
夏休みに突入するので、それなりには更新ペースは上がると思います。

尚この小説とは関係ありませんが、私、ハジメTS、つまりハジメちゃんなる小説を見たのですが、うん、すごくいい(笑顔)
そんなこんな(?)で投下します、ゆっくり見ていってねっ!


帝国兵と敵対し、蹂躙を経て、リリィたちは中央に亜人の国【フェアベルゲン】を抱える【ハルツィナ樹海】へとやってきた。

 

ハジメの魔力駆動二輪が大型の馬車二台を牽引し、殿をリリィの精霊駆動二輪が務める。

 

数時間馬車の速度に合わせて進み、平原と森林の境界地点へと到達した。

 

「それでは皆さま、中に入ったら決して我らから離れないで下さい。リリィ殿とハジメ殿を中心にして進みますが、万一はぐれると厄介ですからな……それと、行き先は森の深部、大樹の下で宜しいのですな?」

「ああ、聞いた限りじゃあ、そこが本当の迷宮と関係してそうだからな」

「……ゲーム脳的に考えると、大樹の下にでもありそうだね……?」

 

リリィたちが目指すは【ハルツィナ樹海】の最深部に聳える巨樹【大樹 ウーア・アルト】。神聖な場所として有名であり、滅多に人が近づくことはないらしい。カムからはそう聞いている巨樹である。

 

当初、リリィとハジメはこの樹海こそが迷宮なのでは?と考えていたが、その中に亜人が住んでいるとなるとオルクス大迷宮との差が凄いことになる。もしくは亜人族全員がもれなく世紀末なヒャッハーメンズ&ガールズということになる。

まぁ、後者はシアたちの様子を見て「無いな」という結論に至った。

 

その後、気配遮断を使いながら歩みを進めていく。

しばらく歩くと……

 

「「「キィィイイ!」」」

 

目視でこちらを確認したのか、四つの手が生えた猿のような魔物が三匹躍り出た。が……

 

「うるっせー、ですっ」

 

──ドゴンッ

 

耳障りな金切り声に不機嫌になったいづなに踏み潰される。

紛うことなき出オチ。まことに哀れである。

 

「……いづなたん、ないす──今日の食料確保……」

「リリィ、食えるの俺たちだけだぞ?」

「さかなもあるからだいじょーぶだぞ、です!」

 

その後、隠れているつもりの魔物を標的にハジメの新武装『ニードルガン』を試し撃ちしたりしながら進んでいく。

 

暫く進むと、突然索敵のために耳をぴこぴこ動かしていたハウリアたちの耳が一斉にピンッと伸び、へにょりと曲がる。どうやら、めんどくさい事が起こるようである。

 

すると、虎模様の耳と尾を生やした筋骨隆々とした亜人がリリィたち一行の前に立ちふさがった。

 

「貴様等……何故人間といるッ!種族と族名を吐けッ!」

「あ、あの……私たちは───」

 

シアが答えようとして前に出る。

そして、その姿を認めた虎人族が眼を剥いて──

 

「なっ、白髪の兎人族だと!?貴様等ッ……報告にあった亜人族の面汚し、ハウリアかァ!同胞を騙し続け、忌み子を匿い、更には人間を招くだと!?反逆罪だ!最早弁明を聞くまでもないッ!この場で処刑する!総員かッ……」

 

「「……」」

 

───ドパンッ

───パシュンッ

 

紅の閃光と黒の閃光が虎人間の両サイドを掠め、背後の木々を貫いた。

 

「なっ……ぃま、のは……魔法、なのか?しかし詠唱も……」

「……うるさい、とっとと最深部つれてけおるぁ……」

 

リリィがいつもの無表情に、しかしメンチを切るヤクザのような据わった目で告げる。

 

「そーだそーだー、周りのヤツごと頭ブチ抜くぞー?」

「……容赦の欠片もねぇ、です」

 

手の中で銃を弄ぶハジメの無慈悲な威圧と軽口のような宣告に背筋が凍るような感覚に陥る虎人族。

ブラフか?とも考えたが、弄ぶ間にも銃口が向けられるその先には潜伏していた仲間の位置なのだ、その事実に震えながらも声を絞り出す。

 

「なっ、何故最深部なのだ?あの大樹の下に何があるというのだ?」

「……七大迷宮の入口、恐らくあの大樹こそが【ハルツィナ大迷宮】の入口……」

「な、何を言っている?この樹海こそが天然の大迷宮、【ハルツィナ大迷宮】だろう?亜人族以外の者が足を踏み入れれば二度と外へ戻ることの出来ない──」

「それはありえない、第一、ここが大迷宮だとすれば出現する魔物が弱すぎる。大迷宮というのなら、オルクスの奈落のように魔物も化け物揃いのはずだ。それ以上に大迷宮は解放者──いや、お前らに合わせるのなら反逆者、そいつらの遺した試練……亜人族であれば簡単に踏み込めるここは試練として成立しない──そんなものが大迷宮である訳ないだろ?」

 

反逆者の別称、解放者。樹海の魔物が弱いと断ずる異様。そして、異常なほどの威圧──どれもデタラメのようで、しかしながら実感の籠ったその言葉に戸惑いを隠せなくなる虎人族の男。

 

しかし、戸惑っていては話は進まない。そして、話の優位性を持っているのは力量を含めて相手側、そう判断した虎人族の男は口を開く。

 

「……わかった、お前らが国や同胞に手を出さないと言うのなら、大樹の下へ向かうのは問題ないと俺は判断しよう。部下の命を無残に、無意味に散らす訳にはいかないからな」

 

周囲の気配から動揺を感じ取る。先程の態度から簡単に推測する限り、人を本国に招くのは本来ありえないらしい。

 

「だが、一警備隊長の私ごときが独断で下していい判断ではないのも事実……本国に指示を仰ぐ。お前達の話も、長老方なら知っている方もがおられるかもしれない──お前達に、本当に含むところがないというのなら、伝令を見逃し、私達とこの場で待機しろ。いいな?」

 

少し考える。

ここで彼らの忠告を破ればフェアベルゲンに包囲されるのは必至。

忠告を守ればあの大樹の下へ安全に辿り着けるかもしれない。

結局、敵対することになるかもしれないが、一々殲滅しながら進むのも面倒、そして勇者ーズに見つかりたくないというのもあるのであまり波風を立たせたくない。

 

故に、忠告の遵守を選択する。

 

「……いいだろう。さっきの言葉、曲解せず、一句も漏らさずちゃんと伝えろよ?」

「無論だとも。ザム!聞こえていたな!長老方に余さず伝えろ!」

「了解!」

 

こちらがプレッシャーを解いたことで、空気が融解する。

空気が軽くなったことで動けるようになった一部の亜人が臨戦態勢をとるが──

 

「……なにやってるの……?」

 

音も立てず、まるで空間転移したかのように隣に現れたリリィに構えをとった亜人が腰を抜かす。

 

「やめろ!力量差は分かっているはずだ!……そちらもちょっかいを出すのは止めてくれ、心臓に悪い上にこちらも動かざるお得なくなる」

「……ん、了解(ヤヴォール)……」

 

そして、その弛緩した空気に流されるかのようにぴょーんと帆楼といづなが背中とお腹に飛びついてくる。「堅苦しい話が終わったのなら構え」と言わんが如くに。さらにそれに触発されたユエが飛びかかろうとしてジブリールに防がれる。

ナチュラルにイチャつき始めたリリィ達にシアも便乗してハジメに抱きつこうとして反射的に関節技を極められ「ギブ、ギブですぅ」と言った感じで地面を手でタップし

ていた。

 

そんな彼らのマイペース空間に亜人達が呆れた視線を向けるというシュールな構図が成立した。

 

しかし、その次の瞬間、【気配感知】に高速でこちらに迫ってくる何かが引っかかった。

 

再びその場の緊張感が高まっていく。ハジメの極め方がキツくなりシアの肩に電流の如き痛みが走る。

 

そして、霧の奥から数人の亜人と共に一人の老体が姿を現した。

その老体だけ纏う気配が違っていた、王のカリスマと言った感じだろうか。それだけで、この老体がフェアベルゲンの長老と呼ばれる存在なのだろうと直感的に看破する。

流麗に靡く金の髪、知性的な輝きを灯す碧眼、身は細くともその顔に刻まれた深い皺がアクセントとなり威厳のようなものを感じさせる。

そして何より、尖った耳だ。その特徴から彼が森人族(エルフ)であるということを顕著に示していた。

 

その彼が口を開く。

 

「ふむ、お前さんが問題の人間族かね? 名は何という?」

「ハジメだ、南雲ハジメ。こっちはリリィ、リリィ・ドーラだ。あんたは?」

 

ハジメの強い態度にお付の亜人が憤慨するも、彼が片手を上げると鎮まり、彼は答えた。

 

「私は、アルフレリック・ハイピスト。フェアベルゲンの長老の座を一つ預からせてもらっている。短い間かもしれぬが、宜しく頼む」

 

そう、威厳に満ちた表情で言い放った。

 




本当に今回は難産でした。息抜きに別のものでも書きましょうか……
次回更新も何時になるか分かりませんが、出来れば早めに投稿したいと思っております。
待っていただけると、嬉しいです。

今回も「その先の物語」を読んでいただき有難うございました。


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