転生したが世界と義姉がドS過ぎて辛い (さら@骸教 )
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プロローグ

「ああ、帰りたいー」

 

現在、私は上司である帝国最強の異名を持つエスデスという名前からしてドSの将軍が北の遠征を行っている間貯めた書類整理等を不眠不休でやっているのだが全然、終わらない。

 

あの人どんだけの書類貯めてるんだよ。馬鹿なの?死ぬの?いや、あの人が死ぬ未来が見えない。

 

全く転生させて貰ったのはいいんだけど性格変わっちゃうのとまさかこんな世紀末な世界に転生しちゃうのと上司である義姉が地上最強のドSだったのが予想外だった。

 

「そうだ、エスデス将軍がいないしまたサボっちゃおう」

 

「サボってどうするつもりだ?」

 

「甘いもの食べに行きます。疲れたときの甘いものはめっちゃ美味しいんですよねー」

 

「本当にサボるのか?」

 

「当たり前ですよー。あのドSクレイジーブラックなエスデス将軍がいないんですよ。だったら行くしかないでしょ」

 

「ほう、いい度胸だ」

 

「へ?」

 

変に思い振り替えるとそこには白い軍服を着た水色の髪をした女性………え?え、え、エスデス将軍が目の前にいた。

 

とりあえず、冷や汗をかきながらも何事もなかったように元の姿勢に戻って書類仕事に戻った。

 

「おい、ミズチ」

 

「はい?エスデス将軍どうかなさいましたか?」

 

「お前さっきサボるとかなんとか言ってなかったか?」

 

「マッサカーソンナコトイウワケナイジャナイデスカー。アハハハハハ」

 

「そうか、それじゃあ追加の書類持ってきたぞフフフ」

 

無理やり作り笑いを浮かべる私にエスデス将軍はドSっけ混じりの楽しげに笑い声をあげながら新たなる大量の書類を私の机の上に置いてくる。

 

鬼、悪魔、外道と心のなかで叫びながらふと疑問に思ったことを不満そうな口調で尋ねる。

 

「いつの間に帰ってきたんですか?通達来てなかったんですけど」

 

「それはお前に伝えない方が帰ってきたときの反応見たときに面白いからに決まっているだろう」

 

うわー性格悪

 

「何か言ったか?」

 

「いえ、何でもないです。ところでいつもの三獣士の皆さんはどうしたんですか?帰ってきたのなら書類仕事を手伝って貰おうと思ったのに……」

 

三獣士、その実力は下手な将軍を上回ると言われているエスデス将軍直属の三人の部下のことである。一応、立場上私の方が上らしいのでいたらこの書類仕事の半分以上を北の遠征のご褒美にしてあげようと考えたのにいないと押し付……手伝って貰えないじゃん。

 

「アイツらなら別任務だ。少し大臣に相談されてな」

 

「へぇ、そうなんですか。北の遠征から帰ったあとなのに大変ですねぇ」

 

国を腐らせている原因であるオネスト大臣からの相談って所詮、邪魔者の始末とかそこら辺だろうな。

 

この国は良い行いをするより悪い行いをした方が報われやすいそんな国だからこの国の中枢を担っている大臣に取り繕った方がいいのは確実、実際に能力がない人でも取り繕って良い身分になった者もいるのも確かだしね。

 

まぁ、エスデス将軍はそんなこと関係なく、ただの利害関係の一致の観点から大臣と関わっているんだけど。

 

「それと帝都に私直属の帝具持ちの治安維持部隊を作ることになった。お前にそこの副隊長を任せようと思う」

 

「わかりました。それだけですか?」

 

まったくこの人は仕事ばかり持ってきてと適当に返事しながら作業を進めていく。

 

「それと私は北の遠征で疲れたし、久々に二人でなにか甘いものでも食べに行かないか?」

 

「やったーエスデスお姉ちゃん大好き」

 

私は先程とうってかわりエスデス将軍に笑顔を向ける。

ドSな義姉だがこういうところがあるから嫌いになれないと…いうかむしろ大好きだ。

 

実際にエスデス将軍は訓練中はドS過ぎて並大抵の者は死にかけるが休憩中などはしっかり休ませるし、きちんと働いたものにはきちんとした褒美を与える。

 

飴と鞭のようにそこら辺きちんとメリハリをつけるということが部下から慕われ、尚且つ強い軍隊を作れた理由なのだ。

 

ん?私は一応、エスデス将軍の右腕ってことで訓練には兵の直接参加しないし、大体が特典を貰ってるからそこんところは大丈夫だったと言いたいんだけどエスデス将軍が私専用の訓練を作ったりして軽く死にかけました。

 

目隠しでガチ武装した兵たちと実践的な組手させられたときは生きた心地しなかったよ。

 

しかも、途中で手加減しているとは言えエスデス将軍乱入してきたしね。

 

本人曰く全然余裕そうだから入った。後悔はしていしていないと宣っていた。

 

解せん。

 

「書類仕事が終わったら連れてってやるから頑張れ」

 

「その前に帰ってきたのなら手伝ってくださいよ。元々、これ私の仕事ではないんですよ。これなら私も北の遠征に連れてって貰った方が良かったですよ」

 

あまり人の命を奪うことはしたくないがこんなところで書類仕事をやるよりはましだと思ってしまう辺り私の思考もこの世界に染まりつつあるのかもしれないと思うが別に自責心があるわけではない。

 

ここは弱肉強食の世界、戦場で弱い心を見せた瞬間に死ぬ。この世界では慈悲もなく、情けもかけずにロボットのように目の前の敵の息の音を止めることが生き残ることができる。

 

「お前がいたら戦場の醍醐味を楽しむ前に敵を殲滅して終わってしまうだろう」

 

エスデス将軍のように戦場に楽しみを求める絶対的強者がたまにいるわけだが私はそれをよく思っていない。

 

楽しむということは良く言えば心に余裕があるということだが悪く言えば慢心してるということだ。

 

戦場では何が起きるか分からない。此方が圧倒的な力によって100%勝てると思っていても想定外のなにかが起こることによって覆ることだってある。

 

人の命はゲームみたいに何回やっても生き返れるわけではなく、一度きりの命だ。それを慢心によって失ってしまえば元も子もないだろう。

 

「私はエスデス将軍と違って戦場で楽しむ余裕なんてありませんからね。そんな貴族の狩の気分で戦場に赴いているといつ命を狩られてもおかしくありませんよ……」

 

私は普通の人間には捉えきれない瞬の速度でエスデス将軍の背後に移動して寸止めの手刀を入れて『こんな風にね……』と言いたかったが寸前のところで後ろにバク転をして回避する。

 

私はさっきまでいた場所に棘のように鋭い氷を出現させた不敵な笑みを浮かべているエスデス将軍を恨めしげに睨み付ける。

 

「ちょっとたまにはかっこつけさせてよ!しかも、その氷完全に殺す気だったよね。当たったら死んでたよね!!」

 

「フッ、当たり前だ。私の妹ならこのくらい避けきれないとな。それにしてもさっきの奇襲は良かったぞ。流石は戦場の『氷狼』と呼ばれてるだけはあるな。並みの兵なら接近を気づく間もなく死んでいただろう。それにしてもこうしていると久々にお前と手合わせしたくなった。よし訓練場に行くぞ」

 

「え?アノ~マダショルイシゴトがノコッテマスヨー」

 

「そのなの後でも良かろう。さっさと行くぞ」

 

エスデス将軍は私の首根っこを掴んで、運んでいくがこう気分が乗っているエスデス将軍を止められないことは義妹である私が何より知っている。そして、このあと味わうことになる訓練という名の地獄を思いながら調子を乗るのは控えようと思うのであった。

 

 

 

PS・訓練は厳しかったけど終った後にアイスを買ってくれたエスデスお姉ちゃんに惚れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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新しい部下の面々が濃すぎるけどやっぱり姉が破天荒過ぎて辛い

エスデス将軍帰還から二週間後ぐらいの頃、私は現在、お墓参りに来ていた。

 

あのあと任務中だったエスデス将軍の兵の中枢である三獣士たちが全員死んだのだ。

 

全く三獣士たちは結局、役に立たなかったな。私の仕事をリヴァはたまに手伝ってくれたけど夜食として持ってくる料理は激マズだったし、ニャウの部屋は女性の皮が飾ってあって薄気味悪いし、書類仕事を手伝わないし、同じくダイダラも書類仕事を手伝わないし、脳筋で私に何度も試合しようってうるさかったし三人とも嫌いだったから逆にいなくなって清々する……なんて言えたら楽だったのにな。

 

三人とも悪いところがあっても楽しい人たちだったから馬鹿みたいに思い出もあるしやっぱり辛い。

 

仲間の死は慣れない。それはエスデス将軍だってそうだ。切り替えてはいるが瞳に寂しさを滲み出ていた。

 

「リヴァ、ニャウ、ダイダラ、お前たちは負けた……。つまり、弱かったということ。仕方のない部下どもめ……仕方ないから私たちが敵をとってやろう」

 

「ええ、そのときまでゆっくり待っててくださいね」

 

そのしんみりとしてしまったお墓参りの帰り道、ふと隣を歩いていたエスデス将軍が言葉を繋いだ。

 

「そう言えば新しい帝具使いの部下は今日、到着か……」

 

「そうなっていますね」

 

「大臣曰く六人いるらしいが全員癖が強いか身分の低い者らしい……そこでだ、実力を図るデモンストレーションがしたい」

 

「はぁ……なんか嫌な予感がするんですが」

 

エスデス将軍が浮かべる獰猛な笑みを見て、私は長年の経験から冷や汗が流れる。

 

この人が私にこのような笑みをするときは大体ろくでもない事が起こるときである。

 

「フッ、お前には…………をしてもらう」

 

ほら、まためんどくさいことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帝都宮殿内にある塔のような建物に召集を受けた六人の帝具使いとエスデス将軍が集まっていた。

 

帝具使いの面々を紹介すると帝国焼却部隊の所属の覆面に拘束具を身に纏った内気の大男、ボルス。

 

帝国海軍所属の黒髪の青年、ウェイブ。

 

お菓子を食べている帝国暗殺部隊所属の肩にかからないくらいの黒髪に黒いセーラー服を着たマイペースな少女、クロメ。

 

帝都警備隊所属の両腕が機械化された緑色の髪をポニーテールにした女性、セリューと犬みたいな外見の生物型の帝具魔獣変化『ヘカトンケイル』。

 

眼鏡をかけ、白衣を着た科学者のオカマ、Dr.スタイリッシュ。

 

作っている笑顔がどこか胡散臭い金髪の美青年、ラン。

 

うん、本当に癖が強そうな同僚たちだなと隠れて見ていた私は思う。

 

それにしてもエスデス将軍が皆の実力を図りたいために私が仮面を着けて賊を演じて帝具使いの六人と戦うなんて正直帰りたい。

 

だが、帰ったら他の同僚たちに気づかれないようにずっとこちらを見ているエスデス将軍に捕まって拷問コース行き間違いなし……うん、やるしかないか。やるからにはマジで悪役になるからな。

 

私は手をOKマークにして準備OKの合図を送るとエスデス将軍は不敵な笑みを浮かべて、演技を開始した。

 

「どうやらここにネズミが一匹迷いこんでいるみたいだな。隠れてないで出てこい」

 

私はその声を聞いて仮面を着けてエスデス将軍達の前に現れる。

 

「フフッ、流石はエスデス将軍、私の気配に気づくとは流石帝国最強と呼ばれているだけありますね。でも、私の存在に気づけないとはそこにいる部下たちはまだまだ未熟者みたいですね。その程度の実力で帝都を警備するとは飛んだお笑い草ですよ」

 

「お前は何者…」

 

ウェイブが問いかけている間に私は彼の頭を掴んで地面に小さい穴が空くぐらいの威力で叩きつけて、口を押さえながらただただクスクスと笑い声をあげて答えてあげる。

 

「そう言って答える馬鹿はいませんよ。そんなことを聞くために口を動かしている暇があるのなら体を動かしたらどうですか?私を捕まえられれば幾らでも聞き出せますよ」

 

「フフッ、いい機会だ。アイツを捕まえてお前達の実力を私に見せてみろ」

 

「了解です。正義の鉄拳をくらえーっ!!」

 

物凄い形相になったセリューがコロと共に此方に向かって突っ込んでくるが私は軽くその機械化された腕から放たれる拳を避けて首に手刀を入れて気絶させる。

 

コロが巨大化して唸り声をあげるが私は気絶したセリューを人質として前に出して、無理矢理黙らせて彼女をコロの方に置いた。

 

「これで二人目ですね。人質をとる方法でも良かったんですけどそれじゃあまりにつまらな過ぎるのでそれはやめときます。あと、コロちゃんでしたっけ?そこを一歩でも動くと彼女の首が飛ぶことになるので注意してくださいね……っと」

 

不意を突いたクロメの刀が襲うが私はそれを難なく回避して、その回避した勢いを利用して回し蹴りを畳み込むが小柄な体に似合わず頑丈みたいで本気でないとは言え

うまく受け身をとって攻撃を防いだ。

 

「へぇーなかなかやりますね。でも、不意討ちはどうかと思いますよ」

 

「…先に不意討ちをして、人質をとろうとした奴に言われたくない」

 

「フフッ、確かにそれもそうですね。どちらかが死ぬか生き残るかわからない戦場にルールを求めること自体間違っていますしね。じゃあ、今度は此方から行きましょうか」

 

私は手負いのクロメに向かって剣を抜いて斬りかかるがクロメはそれを見事にいなしながら隙を伺っている。

 

やはり帝国暗殺部隊は暗殺以外も戦闘面で優秀だなと思っていると上空からエスデス将軍が無数の氷の刺を出現させて、此方に落としてきた。

 

「ちょっ……エスデス将軍!?」

 

数分無数の氷の刺を全部避けきった私は一回ため息をついた後で皆がいる前で演技とかもう関係なく、その氷の刺を降らしてきた張本人にぶちギレた。

 

「何でエスデス将軍、貴女まで参戦しているんですか!?そんなの聞いてないし、貴女が参戦したら実力を見る前に終わってしまうでしょ!!しかも、やるのならもっと手加減してくださいよ。危うく死んでましたよあれ!!」

 

「見ているだけでは暇だからな。遂攻撃してしまった。だが、私が参戦しないとは一言も言ってないだろう?それにミズチ、お前があの程度では死なないことはもうわかっている。死なないなら手加減はしているだろう?」

 

「いくら死なないとしても限度があるわ!!それに死なないとしても当たらなければだから!!当たったら普通に死ぬからぁ!!」

 

もう素が出て、完全に作っていたキャラが崩壊した私がエスデス将軍が親しそうに話しているのを見て事情を知らない周りの面々はポカーンとした表情を浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

 

 

 

「ごほん、エスデス将軍の命とは言え先程は皆さんを試すような真似をして申し訳ありません。私の名前はミズチ、この警備隊の副隊長になることになりました。どうぞ、よろしくお願いします」

 

「いえいえ、私たちのためにわざわざありがとうございます」

 

私が自己紹介するとセリューが丁寧に感謝を述べる。うん、基本セリューは良い人みたいだな。戦っている時の顔めちゃめちゃ怖かったけど。

 

「どうだ?私の自慢の部下は強かっただろう?」

 

「はい、俺なんてあっという間に倒されましたし」

 

「それはそうだ。ミズチはそこら辺の並大抵の将軍よりも強い。それこそ戦がつまらなくなるほどにな」

 

「そんなにお強いのに将軍にならないのですか?」

 

自慢そうに言うエスデス将軍にランが疑問そうに尋ねるが私はあっさりと『ええ』と肯定をする。

将軍になったら軍を新しく率いないといけなくなり、統率するのが大変だし、私は生まれつき転生したお陰か身体能力とかは優れていたけどリーダーとしての器ではないと言うことはハッキリと分かっている。何故なら……

 

「将軍になるとブラックになりそうで色々とダルいですし……まぁ、エスデス将軍から離れられると思うと全然ありですけど

 

「何か言ったか?」

 

「いいえ、それよりスケジュール的にそろそろ陛下を謁見しに行かないといけない時間ですよ」

 

「い……いきなり陛下と!?」

 

「初日から随分飛ばしてるスケジュールですね」

 

私の声を聞いて周りは驚きを見せるがエスデス将軍の破天荒ぶりに慣れていない限り当たり前の反応だろう。

 

私も幼いときから色々と振り回されたものだ。二人で内緒に危険種を狩りに行こうとかね。あのときは危険種としては上から二番目に危険とされる特級危険種を狩って持ち帰ったけど『子供が何してんだ!?』っておじさんに二人で拳骨されたっけ。

 

うん、これから振り回されるであろう皆に同情するしかないな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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過去を思い出して辛い

陛下との謁見が終わり私たちの警備隊の名前はイェーガーズと決まった。

 

某巨人の歌の歌詞に似てるなと思ったのは内緒である。あ、その某巨人の歌を内の警備隊の歌にしてしまえばと名案を思い付いたがイェーガーズのテーマ曲作ったとか言ったらなんか冷たい目で見られそうだからやめておこう。

 

「あ、ウェイブくん、ほうれん草は一番最後。すぐしなっとなっちゃうからね」

 

「あ、はい」

 

「ボルスさん、カタイシダイの解体終わりました」

 

「うん、ありがとうねミズチちゃん。それにしてもカタイシダイは鱗が硬くて捌くのが難しいとされている魚なのにすごいね」

 

「確かにすげぇや。俺の地元にもこんなに綺麗に捌ける人そういなかったぞ」

 

「まぁ、炊事は長年やってたからこれくらい当然ですよ」

 

現在、私とボルスさんとウェイブはウェイブが持ってきた海の幸を使って料理をしている。

 

一応、副隊長だけどフレンドリーにいきたい私は普段の口調で接してOKと言ってあるので皆普段の口調で接してくれている。うん、やっぱり堅苦しいよりはこっちのほうが楽で良い。

 

「じゃあ、カタイシダイの刺身出来たんで運びますね」

 

「うん、お願いね」

 

私は皆のもとにカタイシダイの刺身を持って行くとセリューがエスデスと談笑し、クロメは猫じゃらしみたいなものを持ってコロと遊んでおり、Dr.スタイリッシュは執事服に着替えたランに見とれていたりとそれぞれ楽しんでいた。

 

「隊長はご自分の時間をどう過ごされているんですか?」

 

「狩りや拷問、またはその研究だな。ただ今は……恋をしてみたいと思っている」

 

テーブルで広がるエスデス将軍の甘い話に思わず吹きそうになった。恋?あのエスデス将軍が恋だと!?ムリムリ、あんなドS姉の恋人は危険種としては最強ランクに位置付けられている超級危険種に決まっている。

 

でも、ここで笑ったら殺されると思った私は表情筋を固定して料理をランに渡して、難なくその場から立ち去った。

 

その後、調理場に戻った私はボルスさん、ウェイブに心配されるほど笑っていた……けれど今回はエスデス将軍は来ない。

 

ははは、後ろからエスデス将軍が来ると思ってた諸君に言っておく。いつも私がエスデス将軍にバレるわけがなかろう。フラグではないからなと思いつつ調理場に戻る。

 

「でも、なんか俺ボルスさんが優しい人で安心しましたよ」

 

「ううん、私…は優しくなんかないよ……」

 

急にトーンを変えて答えるボルスさんに私はまったくボルスさんほど優しい人そういないぞとため息を吐いた。

 

ボルスさんは確かに帝国焼却部隊、数々の罪人や伝染病にかかった村々を焼き払ってきたが、それは自分勝手に判断してやったことではなく、命令に従ってやったことだ。

 

普通の一般人なら命令に従っただけなので罪悪感すら抱かないのが普通だ。そうまるで私がさっき捌いたカタイシダイに罪悪感を感じないみたいに……だが、ボルスさんは罪悪感を抱いている。

 

その処刑した人々に申し訳ないと思っている時点でボルスさんは優しすぎるんだよね。

 

「はぁ、そんな気にしなくてもいいですよ。ボルスさんがしてるのは自己評価です。ですが、そんな自己評価が自分の価値を決めるわけではありません。エスデス将軍が帝国最強と認められ、呼ばれるようになったのと同じで自分の価値を決めるのは結局、他人なんですよ。だから、そんなに自分に負い目を感じる必要はありませんよ」

 

「そうですよ。ボルスさんが優しいのは俺たちが保証しますから」

 

「二人とも……ありがとう」

 

マスクで顔を隠されているがボルスさんの表情が少し和らいだように見えたのは恐らく気のせいではないだろう。

 

まったく私も優しいな……いや、優しいというよりそんな暗い感じで作ったら飯が不味くなるからという理由もあるわけだが、兎に角、元気になってもらえたらそれは何よりだ。

 

「じゃあ、残りの料理を仕上げちゃいましょうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私たちが作った料理でディナーを楽しみ終わり、片付けが終わった後会議でエスデス将軍から回収された帝具の適正を持つ人間を探すための武闘大会を行うと言われる。

 

武闘大会、それを聞いただけであの初めて武闘大会に出場した出来事を思い出す。

 

 

 

 

あれは現在からかなりの前の出来事、私がまだ武官になるってことすら考える前……私の故郷が北の異民族に襲われて壊滅し、たまたま生き残った私たちが狩猟生活で暮らしていた頃にエスデス将軍が賞金も出るそうだし、武闘大会に出てみないかと言われて賞金が出るならと武闘大会に出たのだった。

 

武闘大会に出るということは私たち以外にも強者が出場するということと少年バトルマンガ的な発想をして、相手が強かったらすぐに降参しようと考えていたが一回戦の相手を蹴り一発で瞬殺してしまい拍子抜けしてしまった。

 

しかも、この大会で一番の優勝候補をだ。私は楽そうで安堵していたんだが戦いを求めていたエスデス将軍はつまらなそうな表情をしていた。

 

だが、エスデス将軍の準決勝の相手のその頃の私と同じくらいの黒髪を結った女の子が強かった。強かったがすぐに降参してしまった。恐らく強かった故の降参であろうが私との決勝戦前にそれはやめてほしかった。なぜなら、めちゃめちゃ機嫌が悪くなっているから。

 

「ミヅチ、お前絶対に降参はするなよ」

 

「ハイハイ、降参はしませんよ」

 

石畳を敷き詰めたバトルフィールドで対面していた私は恐い顔をして言うエスデス将軍に私は苦笑を浮かべて答える。

 

だるかったがやらないとどうせこの武闘大会が終わった後にも続きだと言って勝負を仕掛けてくるだろうから仕方ないと思って闘いに挑んだ。

 

「はじめっ!!」

 

審判の声と共にエスデス将軍が急速で私に急接近し、ラッシュをかけるが私はそれをエスデス将軍の僅かな隙が見えるまでいなしていき、その僅かな隙を見つけた時に石畳をエスデス将軍に向けて蹴り飛ばした。

 

この大会では武器の利用は禁止されているが誰もフィールドを利用してはいけないとは言っていない。

 

蹴りによって細かく割れた瓦礫がエスデス将軍の元に飛散し、その隙をついて攻めに転じる。だが、エスデス将軍はそれでも楽しんでいるような笑みを浮かべながら私の攻撃を最小限の動きで回避して、間合いを取ってきた。

 

「石畳を飛道具にするとは流石だな」

 

「それを難なく防いだ姉さんが言いますか? まったくだから姉さんとは戦いたくないんですよ」

 

「私はお前と戦うことは好きだけどな」

 

そう軽口を叩きながら私とエスデス将軍との闘いを再開し、それから一時間以上経って流石に身も心も疲れた私はギブアップ宣言をして武闘大会はエスデス将軍の優勝で終わり、その夜、帝都の郊外にあるキャンプでエスデス将軍と共に夕食を作っていた。

 

「はぁ、疲れた」

 

「まったくあんなことで疲れるとはお前も情けないな。私はほとんど疲れてないぞ」

 

「はいはい、姉さんは人間型超級危険種だから疲れてないのは知ってましたよ。まったく危険種限定の武闘大会に出た方がいいんじゃないですか?」

 

普通に私は冗談で言うとエスデス将軍はふと考えて、それも面白そうだなと言っていたのを聞いて、マジかと若干引いてしまった私は悪くない。

 

「どうも」

 

そんなところに珍しく訪問者が現れた。キノコを持ったエスデス将軍と準決勝で闘った相手である黒髪の女の子が笑顔で訪ねてきたのであった。

 

「そうか……そういうことか。武闘大会という生易しい場所でなく夜の荒野でとことん戦いたいんだな」

 

「うーん、残念だけど違うわ。貴方と友達になりにきたの。一緒にお食事でもどう?」

 

「すぐに降参する奴を友とする気はないぞ」

 

「まぁ、そう言わないであげてもいいと思うんですけど」

 

「ミヅチは黙ってろ。これは私とアイツの問題だ」

 

「はいはい」

 

頑固なんだからとエスデス将軍の側にいた私は呆れ気味で耳だけ傾けながら料理を作っていくとドゴーンと破壊音が鳴り響き、何事だと思ってその音のした方を見るとあの黒髪の女の子が大岩を粉砕していた。

 

「私たちの年頃でここまでできる女の子ってそういないでしょ。話が合うと思わない」

 

「ちょっと料理の前で……」

 

私が最後まで言う前にエスデス将軍が立ちあがり、声をあげて自身の背丈の七、八倍ありそうな大岩を飛び蹴りで粉砕した。

 

「どうだ、私の方がすごいだろ」

 

「そうね、流石だわ」

 

「……戦闘意欲を削ぐ奴だな。岩を壊したくらいで強さは計れないとか乗ってこいよ」

 

「あの~姉さん」

 

その時、私はどういう顔をしていたのだろうか。笑顔を作ってたと思うが料理の前に土煙を起こした張本人に包丁を持ってぶちギレていた。

 

「料理の前で土煙を起こすって私はおかしいと思うんですよね~。なんか言い訳でもありますか?」

 

「私はただアイツに自分の力を示しただけだ。何を謝る必要があるんだ?」

 

「お姉ちゃん、今日のご飯抜きでもいいのかな?」

 

「ほう、やれるものならやってみろ」

 

「ええ、言われなくてもやってやりますよ」

 

その言葉によって第二ラウンドが始まり、それが収まるまで女の子は私たちの試合を楽しそうに眺めていた。結果として今度勝ったのは包丁を武器として持っていた私であり、謝らせて勝者の私の意向によってこの女の子と一緒にご飯を食べるということで纏まった。彼女が持ってきた選り取り見取りのキノコを使い、今回の夕食はキノコをメインとした鍋が出来上がった。

 

グツグツと温かくて美味しそうなキノコ鍋を三人で囲んで食べながら色々と談笑していた。

 

「そっちは狩猟民族、こっちは殺し屋か。なるほど、その強さ納得だわ」

 

「あー通りであそこまで強かったのですか。それじゃああのギブアップも納得ですね」

 

殺し屋とは隠密に人を殺す稼業、要するに目立たなく、無駄な争いを避けて、依頼をこなす必要がある。

 

あのギブアップもそのような稼業に通ずる思考によってしたものなのであろう。

 

「私は納得していない。だが、正体を明かした上で持ち込みのキノコを進めるあたりいい度胸している」

 

「変な細工はしてないわよ。まず、私が食べて見せたでしょ」

 

「まぁな、私たちは食えないものは匂いや一口目で分かる」

 

「それにしても今まで食べたことのないような味だけど美味しいわねこの鍋」

 

「狩猟生活だと毎日ありきたりな食事になって飽きてしまう可能性もありますしね。色々と私たちで意見だしあって工夫しているんですよ」

 

「ふーん、二人とも仲がいいのね。羨ましいわ」

 

女の子は羨ましそうな表情を浮かべるがこの戦闘狂姉と一緒にいることは思ったより大変なんだぞ。ドSだし、頑固だし、戦闘狂だしね。でも、嫌いとは思えないんだよね。なんだかんだでこの姉は私を大事にしてくれてるから。

 

「それでお前はこのあとどう生きるつもりなんだ?」

 

「稼業を継ぐわ。私暗殺が結構好きだもの」

 

「そうか、兎に角、私は命のやり取りができる場所がいいな。仕官を持ち掛けられた。確かに狩り場を変えるのも悪くないと思う」

 

黒髪の少女とエスデス将軍物騒過ぎるだろと一般人的感性を持っている私からしたらかなり引いていた。あ、二人が私のことをじっと見てくる。これは私も言えということなんだろう。まぁ、減るものではないしそんなことしなくても普通に言ったのだが。

 

「私は兎に角、楽でお金を稼げる仕事に就きたいですね。だから、姉さんの言うように仕官することも悪くないと思っています」

 

まだ、ブラックだとは知らなかった私は二人にそんなことを言うが、そんな過去の私に溜め息が出そうになってくる。まぁ、それを聞いた少女は妖艶な笑みを浮かべた。

 

「素敵ね。でも、ついてきてくれる恋人はいるのかしら?」

 

「いない、そんなものまったく興味ない」

 

「へぇ、じゃあ、貴女は?」

 

本当に興味なさそうに答えるエスデス将軍から今度は私に尋ねてくる。エスデス将軍と同じで興味のない私は適当に答えた。

 

「私ですか?あいにく私も特にはないですね。まぁ、まだ素敵な人に会ってないからでしょうか?」

 

「へぇ、じゃあ、私がその素敵な人にになってあげようか?」

 

「え?」

 

黒髪の女の子がそう言ったかと思うと私の唇に彼女の唇が合わさった。しかも、これは所謂恋人同士がやるようなディープキスであり、思わず動揺してしまった私はそのまま動けないでいるとキレたエスデスの包丁を彼女に向けて突きだした。

 

「貴様何をしている!?」

 

「あら、お義姉さんからの邪魔が入ってしまったわね。それじゃあまた会いましょう」

 

だが、それは髪を掠めるに留まり名残惜しそうな表情を浮かべながら黒髪の女の子はそのまま逃げ去っていった。そのあと、私はエスデス将軍から警戒を怠ったとして大説教という本気でエスデス将軍と闘うわ、ファーストキスを奪われ、説教されるわとかなりの厄日になってしまった。思い出すだけで疲れがどっと込み上げてきた。そう言えば彼女も暗殺者をしていると言っていたがまだ生きているのだろうか。それとも死んでいるのだろうか。いや、こんなこと考えるだけ無駄なことだなとエスデス将軍の話に再び耳を傾けるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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エスデス将軍に恋人ができて辛い?

「…というわけでイェーガーズの補欠となったタツミだ」

 

「というわけでじゃないですよ!!私に残ってる書類仕事を無理矢理やらせた挙げ句に市民を拉致ってきたんてすか!?」

 

現在、私はセリューが回収したという帝具の使用候補を探す武闘大会で無理矢理市民を拉致ってきたことを誇らしく語るエスデス将軍に怒っていた。

 

「大丈夫だ。暮らしに不自由はさせないさ。それに部隊の補欠にするだけじゃない…感じたんだ。タツミは私の恋の相手にもなるとな」

 

あ、エスデス将軍の目が乙女チックになってる。これはマジで恋をしてるな。この人間型超級危険種に恋という感情は無縁だとは思っていたが一応、生殖活動という本能は生き残っていたらしい。

 

「じゃあ、なんで拘束してるんですか?」

 

「愛しくなったから無意識的にカチャリと」

 

呆れ気味で椅子に拘束されている少年、タツミを横目に聞くがエスデス将軍はキョトンとした表情でそう答えられて私は頭を抱えたのは言うまでもないことだろう。

 

「ペットじゃなく正式な恋人にしたいなら違いを出すために外されては?」

 

「ふむ、確かにそうだな。外すか」

 

流石イェーガーズの良心、ランだ。エスデス将軍を瞬時に諭すとは…とりあえず、これからエスデス将軍の扱いはランに任せよう。取り扱い説明書はないが私よりうまく取り扱ってくれそうだし。

 

「そう言えばこのメンバーのなかで結婚してる者は?」

 

それ聞くのか、勿論、私はこの人生で恋する余裕なかったし、元々男だし結婚なんてもっての他でウェイブくんは普通に彼女いなさそうだし、クロメは歳的に結婚はないし、Dr.スタイリッシュは絶対ないと思うし、セリューも仕事一筋感があるから恋人いなそうだし、ランさんはモテそうだしいそうだな。次にボルスさんは…と思っているとボルスさんだけがそこで手を上げた。

 

まぁ、不思議なことではない。ボルスさんは見た目こそ怖いが中身はとても良い人だ。結婚しててもおかしくないだろう。あと、ウェイブとセリューはあからさまに驚くのはやめて差し上げろ。

 

「ボルスさん、そうなんですか!?」

 

「うん、結婚六年目、もう良くできた人で私にはもったいないくらい」

 

セリューの質問にマスク腰でもわかる頬をぽっと赤くしたボルスさんは照れを隠さずに答える。なんか一瞬、Dr.スタイリッシュみたいに喋り方がオカマっぽくなったところに吹き出しそうになったが誰もそこに突っ込まないので必死に堪える。

 

でも、良かった。ボルスさんには帰る場所があって…ボルスさんは帝都の焼却部隊出身、見せしめの為に罪人や疫病が流行って無実な村の人も生きながらにして焼き殺した経験を持っていることだろう。かつて首斬りザンクという一日に何十もの斬首刑を遂行した首斬り役人がいて、終いには首斬りを癖になってしまうほど狂ってしまった。斬首刑は一瞬だが焼却刑は一瞬では終わらない。要するに刑を執行している間ずっと苦しそうな悲鳴が聞こえるというわけだ。ボルスさんは優しい。その優しさ故に心が壊れそうになってしまうことだってあったはずだ。恐らく一人では狂ってしまっていたのかもしれない。でも、その大切な人がいるからこそボルスさんはそんなことをさせられても平気なのだろうと思う。

 

「ボルスさんは良い奥さんを持ったんですね」

 

「うん、今度ミヅチちゃんにも紹介するね」

 

「はい、そのときはよろしくお願いしますね」

 

ボルスさんの奥さんどんな人だろう。ボルスさんみたいにマスクを被っていたりして仮面夫婦ならぬマスク夫婦……うん、今のはなかったことにしよう。私は何も思ってない。くそ滑ったとも思ってない。

 

「気に入って貰ったところ悪いんですが俺は宮仕えするする気は全然ないというか…」

 

「ふふっ、言いなりにならないところも染めがいがあるな」

 

「人の話聞いてくださいよっ!!」

 

タツミがそう困惑した表情で言うがエスデス将軍は微笑みを浮かべるだけで思わず彼もツッコミを入れる。

 

「とりあえず、同情します」

 

「いや、同情するなら助けてくださいよっ!!」

 

うん、私もいつもエスデス将軍にいつもツッコミ入れる係りだからね。それにしてもこのタツミという少年、なかなかやり手のツッコミですね。あ、待てよ、ここでタツミがイェーガーズに入ればエスデス将軍はタツミに夢中で機嫌がよくなる。そして、そのまま結婚して子作りに入って暫くエスデス将軍が育児に集中するから暫く職場に来なくなる。

 

「よし、貴女もイェーガーズの一員です。頑張りましょー!!」

 

「なんかさっきと態度が違くないですか!?」

 

「あはは、恐らく気のせいですよ」

 

私は()()()()()飛びきりの笑顔で会話をしていると帝国の調査員によってイェーガーズの会議室の扉が開かれた。

 

「エスデス様、ご命令にあったギョガン湖の周辺の調査が終わりました…」

 

「…このタイミング、ちょうどいいな。お前たち初の大きな仕事だぞ」

 

お、皆の目線が変わったな。ちょっと頼りなかったウェイブですら頼りがいのある目線に変わっている。さて、これで皆の本当の実力が見えるわけか。少し楽しみではあるな。あのときは余興でしかなかったから皆も本当の実力を出せなかっただろうし。

 

「ギョガン湖に山賊の砦が出来たのは知っているな」

 

「勿論です。帝都近郊における悪人たちの駆け込み寺…苦々しく思っていました。」

 

「うむ、ナイトレイドなど居場所が掴めない相手は後回しにしてまずは目に見える賊から潰していく」

 

こう見るとやっぱりエスデス将軍は優秀なんだよな。ただ、ドSだけが欠点であるだけでまぁ、そこも通してお付き合い頑張れと私は心の中で思っているとボルスさんが手をあげて質問する。

 

「敵が降伏してきたらどうします?」

 

「降服は弱者の行為……そして、弱者は淘汰されるのが世の常だ」

 

「まぁ、有益な情報を持っていなそうですし、どうせ捕まえても死刑になると思われるような奴等ばっかなので殺してしまっても構いませんよ」

 

「あはっ…あははっ、悪を有無を言わさず皆殺しに出来るなんて……私……この部隊に入って良かったです」

 

それを聞いてセリューは笑い声をあげながら満面の笑みを浮かべる。正直私には何を言っているか分からないがとりあえず、異常であることは分かる。彼女は元々、帝都警備隊であった父親を悪人に殺されたことによって悪を憎み正義に狂っている。

 

悪とはなんだろうか?正義の反対が悪なのだろうか?いや、正義の反対は私は別の正義だと思っている。悪人は必ずしも自分の行動を悪と感じて行動しているだろうか。人は悪どい行為でも自分を正当化、つまり、その行為を正義と見なすことによって悪事を働いているんだと思う。だから、本来悪と言うものは存在しない。自分の正義とは異なる正義を悪と読んでいるだけだ。憎しみに果てはない。いずれ、彼女の正義は彼女に仇なす正義を食らいつくしてしまうだろう。

 

セリューにはそんな危うさを感じる。他人なら放っておくがもうセリューはイェーガーズの仲間だ。後々、それを直していく必要性があるだろう。私のためにも彼女自身の為にもね。

 

「それでは出撃!行くぞタツミ」

 

「え……俺も?」

 

「補欠として皆の動きを見ておくのはいいことだぞ」

 

「ええ、動きを見ていくことによって新たなことの気づきになるかもしれませんしね。見てて損はないと思いますよ」

 

「まぁ、見た動きを完全にコピーをするお前にとっては絶対損なんてないがな」

 

「まぁ、そうですね」

 

そう私は一度見た動きならコピーできてしまうチート能力を持っている。だが、このチート能力を持ってしてもエスデス将軍はその動きに簡単に対応してしまうため模擬戦で闘い勝つ確率は五分五分である。お前が言うなと思われそうだが言わせて欲しい。そんなのチートや。チーターや。兎に角、頑張るかぁ死なないように……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は現在、エスデスと何故か手を繋ぎながらイェーガーズの戦いぶりを見ていた。

 

ここに連れてこられた時は俺がナイトレイドに所属していることがバレたかと思ったがただのイェーガーズの勧誘で補欠としてエスデス以外のイェーガーズのメンバーの戦いぶりをじっくりと観察していた。

 

イェーガーズの面々は誰もが物凄い実力者だと言うことが分かるがその中でも水色の長い髪をポニーテールにしたTシャツ、ハーフパンツとラフな格好に軍服の上着を腰に巻いたエスデスの妹である女性、ミヅチの実力は圧倒的だった。

 

刀を使用しながらも敵の死体を盾にしたり、相手の武器を奪って投擲次々に敵を倒していくその戦いぶりはまるで草食動物を狩る狼のように正確無比で弱肉強食を体現していた。

 

「すげぇ……」

 

「ミヅチの奴、かなり手加減してるな」

 

「え?」

 

エスデスの声にあれで全力じゃないのかと俺は疑問の声を出してエスデス将軍の方を見ると妹のことを誇らしく思っているのかかなり自慢気そうな表情で説明してくれる。

 

「イェーガーズのメンバーの実力を見たいからいつもの戦闘スタイルではなく、帝具を使わずに細かな戦闘に動きを見させる戦闘スタイルになっている。タツミ、ミヅチの動きをよく見とけよ」

 

「…ちなみに本気を出したらどうなるんですか?」

 

「ああ、アイツが本気を出せば単純な殲滅になる。模擬戦争訓練をやったときによく聞くのだが大半の者がミヅチが攻めてきたのを理解するより先に前に死を理解するらしい。気配と殺気を消して何処から途もなく殺しにかかってくる。どちらかと言うと暗殺者のそれに近いがそれより問題なのがミヅチの私をも凌ぐ身体能力と野生だな」

 

「野生?」

 

「ああ、ミヅチは視覚、嗅覚と聴覚、危機察知能力などが人並みを優に越えている。ミヅチが持っている見た動きを完全にコピーする能力もそれが相まってだろう。まぁ、要するにミヅチは人間の域を超えた人型超級危険種って言っても変わりない。何せ私と互角の実力を持っているんだからな」

 

ナイトレイドのボスであって元将軍であるナジェンダからエスデスよりも厄介な相手になる可能性もあると聞いていたがエスデスから聞く限りかなりの実力者だと言うことがわかる。だが、話してみた感じボスが言った通りエスデスよりはかなりまともそうな人だ。ってかなんだか俺と同じように苦労人の臭いがしたし。

 

「タツミ、お前は私が育てる。タツミの潜在能力を見るに…タツミ次第だが上手くいけばミヅチや私と同じレベルになるかもしれんな」

 

「なんだか……いやに優しいんですね」

 

「実は私もこんな気持ちになるのははじめてなんだ。これが人を好きになると言うことか…悪くない」

 

もしかしたら、これは俺が説得して上手くいけば味方になってくれるかもしれない。今までの行いを考えると許せないが味方になってくれるのならかなり心強いし、味方への被害もかなり減るし、さらにミヅチさんだって仲間になってくれる確率だってある。でも、そんなに上手く行くわけないか……でも、試してみたいことには始まらない。

 

それなら今夜説得してやるとタツミは拳に力を入れて決意するのであった。

 

 

 

 

 

 

 



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