デンドロ傀儡師伝 (カオスセイバー)
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〈Infinite Dendrogram〉の二次創作ブームに乗って書いてみた。書き留めはない。


 ◻2043年某日

 

 今、俺は左手一本でとあるダイブ型ゲーム機を持っている。

 あまりゲームをする方ではないのだかたまたま見た広告に書いてあった(うた)い文句にやっても良いかなと望みを懸けてこの〈Infinite Dendrogram〉をすることにした。

 このゲームを始める理由は交通事故により右腕がなくなったことが原因だ。

 子供の頃に見た操り人形の人形劇に感動した子供がその後人形に糸を付けて遊ぶのはよくあることだろう。ただ、普通と違ったことはその子供には傀儡師としてかなりの才能が有ったことだろう。

 かなりの練習を重ねて中学生の頃には文化祭で人形を使った一人芝居をして話題を呼びテレビに出演し高校卒業後は操り人形を専門に使う人形劇団に入団して順風満帆な人生を送っていた。

 しかし、交通事故に遭い右腕の切断を余儀なくされた。

 以前と同じ様に人形を操ることが出来なくなり失意のドン底に落ちた状態で見た〈Infinite Dendrogram〉の広告にリハビリよりもゲームに手を伸ばしたのは現実を見れない俺の心の弱さ故だろう。

 

 

 ◇

 

 

「ようこそ、いらっしゃーい」

 気が付くと洋館の執務室の様な場所にいた。

「えっと、此処は?」

「ここはねー、〈Infinite Dendrogram〉の中だよー」

 呆けていた俺の疑問に答えたのは机の向こうで椅子に座ってベストを着た猫だった。

 確かについさっき片手で苦労しながらヘルメット型のゲーム機を被りスイッチを入れたが本当に此処はゲームの中なのか。

 二、三年前に何度かしたVRゲームと比べたら雲泥の差でログインしただけでも電卓とスパコン位の差を感じることができるしそれだけに今のアバターの右腕の欠損がよりはっきりと感じる。

「どうかしたのー」

 そんな俺の様子に何か感じたのか猫が話かけてきた。

「いや、凄いリアルだと思ってね、腕が無いのまで完全に再現されてるしね。そう言えば君の名前は?」

「僕はねー。管理AI13号のチェシャだよー。現実と変わらないリアルな感覚はこのゲームの売りの一つだからそう言って貰えると嬉しいよー。後腕が無いのは前もって入力されたデータから出力されるけどもしかしてバグってたりするー?」

「いや、少し前に事故で腕がなくなったからこのゲームだったらと思ったんたけど……「じゃあ、生やしてあげる。とーりゃー」えっ⁉」

 少し気分が下がり気味な俺の言葉に被し気味に猫こと管理AI13号のチェシャが気が抜ける掛け声を上げると光の粒子の様なものが集まり右腕の形になっていく。

「こ、これは」

 出来上がった失う前とほとんど変わらない右腕に開いた口が塞がらない。

「少し脳の記憶を見てそこから再現してみたんだけどどうかなー?」

 脳の中身を見るとかかなりやばいんじゃないかとか色々と思う所はあるが今の気持ちを言い表すと。

「最っ高だよ」

 改めて再現された右手を見て動かしてみるが失う前と同じように思った通りに動いていく。

「どう気に入ったー」

「ああ、さっきも言ったが本当に最高だよ。所で現実の俺には右腕が無いのに動くものなのか?」

「気に入ったなら良かったよー。ここは現実じゃなくてゲームの中だからねー。それに君は元々無かったわけじゃないから問題なく動かせるしその気になれば翼や尻尾なんかの体に無い部位を生やしたなんかも出来るよー」

「流石に翼は苦労しそうだか飛べるのか?」

 それで飛べるなら生やしてもいいかもしれないな。

「そのままじゃ無理だよー。元々体に存在しない部位は最初はうごかすのも大変だしねー。でもステータスが高くなったら出来るかもー」

「それじゃ、止めようかな」

 前にテレビかなんかで胸囲が二メートル以上あれば飛べるとか言ったからステータスが上がって練習すれば自力でも飛べるかもしれないけど俺の目的はそれじゃないから他の人が飛んでいたら眺めてようかな。

「それじゃー。チュートリアルを初めていいなかー?」

「わかった、よろしく」

 その後は描画選択はリアルにして名前は傀儡師から取ってマリオ・ネット、決して赤い配管工ではない。アバターはリアルをベースに欧米風に少し弄り髪を茶色、瞳は緑に変えて木をイメージしてみた。

 アバターを決定したら無料で貰える配布アイテムと五千リルに武器は修学旅行でクラスもしくは学年に一人は買うであろう木刀にした。ちなみに俺は買った。懐かしい。

「最後に所属国家を選んでね」

 空中に現れた地図から光の柱が立ち七つの国家が表示される。

「なぁチェシャ、俺さぁリアルで傀儡師してるんだけどこっちでも同じように傀儡師をしたいんだけどそれならどこが良いかな」

 映像だけで説明のない七つの国家からどれを選んだら良いかわからないので一先ず管理AIたるチェシャに要望を伝えつつ聞いてみた。

「それならー。レジェンダリアに現実のとは少し違うけどそのままずばり傀儡師ってジョブがあるからそこがいいんじゃないかなー」

 レジェンダリアの映像は大きな木を中心とした街並みが広がりエルフなんかのザ・ファンタジーな世界観が広がっていた。確かにここは良い木材が沢山ありリアルでは操るだけだったがこっちでは自分で人形を作るのも良いかもしれない。

「わかった。レジェンダリアにするよ」

 所属国家を決めてさあ出発となってこのゲームオリジナルのエンブリオの移植をうっかり忘れそうになるトラブルがあったがそれも無事に終わりいよいよチュートリアルも終わりだ。

「あはは、ごめんねー。まだ始まったばかりで慣れてないんだ」

「いや、いいよ。これはこれで面白かったよ」

「そう言ってくれると助かるよー。それじゃあレジェンダリアの首都である霊都アムニールに送るよー」

 そこでチェシャは一度言葉を切りいままでの人懐っこい笑顔から真剣な顔つきになる。猫だけど。

「これから何をするのも君の自由だ。

 君の手にある<エンブリオ>と同じ。これから始まるのは無限の可能性。

 <Infinite Dendrogram>へようこそ。“僕ら”は君の来訪を歓迎する」

 直後に景色が一変した。

 執務室の様な部屋から管理AIのチェシャや家具、更には壁や天井、床まで無くなり頭上には青い空、眼下には先程見たレジェンダリアの首都である霊都アムニールが小さく見える。

 そして重力に従って落ちて行く感覚にたまらずに叫んだ。

「いぃぃぃ、ヤッホーーーー‼」

 結論。初めての紐無しバンジーは超楽しかった。



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1話 霊都門前

短いですがどうぞ。


 ◻霊都アムニール マリオ・ネット

 

「いやぁ、超楽しかった」

 チュートリアル終わってからの突然の紐バンジーもしくはパラシュートのないスカイダイビングは激突寸前にあれ? これ着地はどうすんの? と思い肝が冷えてきた所で急ブレーキがかかりふわりと着地した。楽しかったが流石にギリギリまでブレーキがかからないのはビビったわ。

 ただ、空から落ちる時に感じた風の感覚に目に映る人が行き交う景色、話し合う声の音と香る自然の匂い。まだ降り立っただけなのにそれだけで既存VRゲームより凄い。むしろ、ここは異世界ですと言われた方がまだ信じられるかもしれない。

 なくなった筈の右腕が存在し自由に動くことだけがこの世界がゲームであることを俺に主張しているが事故のこと忘れてしまえばこここそが現実になってしまいそうだ。

 とりあえず時間をみつけて今度リアルでスカイダイビングに行ってこよう。ちょっとあの落ちる感覚はもう一度味わいたいしさっき見た国家の映像じゃ飛行機は無かったからこっちでは出来なさそうだ。

 一先ず思考をまとめてから始める前に読んだ取説に書いてあったメニューを開き中を一通り見てからマップを表示する。

 開かれたマップには今いる霊都アムニールと周辺の情報が表示されるが肝心のジョブの取り方が分からない。

「これってチュートリアルで説明しないいけないんじゃないか?」

 【傀儡師】になりたいとチェシャに言った時にジョブについて説明してもらったが就いていないとモンスターを倒しても経験値が貰えずにずっとレベルが零のままだと言っていたが肝心のジョブの就き方については説明は無かった。

 てっきりメニューでジョブに就けるかと思ったがこのままではジョブに就けない。つまりニートだ。五月蝿いわい。

 このままでは(らち)が明かないのでとりあえず人に聞いてみるとしよう。

「すみません、よろしいですか?」

 辺りを見渡すと後ろに霊都の門らしき物がありそこに見張りらしき鎧を着た兵士が両脇に一人ずつ立っていたので片方に話し掛けてみた。

「はい、なんでしょうか」

 ちなみに話し掛けた兵士は耳の尖ったエルフらしき美人の女性である。もう片方は人間の男性だが他意はない。ないったらない。

「ジョブに就きたいんですがどうしたらよろしいですか?」

「ああ、マスターの方ですね」

 エルフの女性は俺の左手を見て何か納得したようだった。

「良いですよ。ジョブはジョブクリスタルに触れることでそれぞれのクリスタルに対応いたジョブに就けるのですがどのジョブに就くのですか?」

 へぇ、一つのクリスタルで全部は就けないのか。そうなると国や地域毎に固有のジョブとかあるんだろうな。

 いや、チェシャはレジェンダリアには【傀儡師】がとか言ってたからあるんだろ。その方が国毎に特徴が出来てゲームらしいな。

「【傀儡師】のジョブです」

「あら、珍しいわね」

「珍しいですか?」

「気分を悪くしたらごめんなさいね。マスターの方は【戦士】とか【魔術師】が多かったらついね」

 確かに特に成りたいのがなければ開始直後の今はプレイヤーいやマスターはゲーマーが多いだろうから分かりやすい【戦士】や【魔術師】は多いかもしれない。

「それで【傀儡師】は人形ギルドと劇団ギルドの両方の管轄だからどちらかに行けば大丈夫だけど【傀儡師】専門なら劇団ギルドで人形作りと兼務したかったら人形ギルドをお勧めするわ。場所はー」

 一応女性に両方の場所を教えて貰いマップと照らし合わせて確認する。

「教えてくれてありがとございます。えーと」

「あら、名前言ってなかったわね。シルフィ・ウッドライト。【精霊騎士(エレメンタルナイト)】のシルフィ・ウッドライトよ」

「【精霊騎士】?」

 おお、なんか凄そうなジョブだな。

「その顔は【精霊騎士】が気になるって顔ね。いいわ、教えてあげる」

 シルフィさんは俺の心を読んだのか自分のジョブについて説明しだした。

「【精霊騎士】は【精霊術師(エレメンタラー)】と【騎士(ナイト)】の二つのジョブを上限まで上げると就けるジョブで後衛としては【精霊術師】の前衛としては【騎士】の両方の能力を持つ万能型のジョブで更には【魔剣士】とは違い【騎士】としての騎乗能力も有るから一人で何役もこなせる素晴らしいジョブだけど考えてジョブを構成しないと器用貧乏に成ることだけは注意しないといけない少し難しいジョブでもあるわね」

 ここまで一気に喋ったシルフィさんは何か期待している様子でこちらを見ているが個人的に途中から酸欠にならないかと気が気でなかったが大丈夫なようだ。

「もし【傀儡師】が合わなかったら【精霊騎士】も考えてみます。シルフィさんありがとございます」

「えぇ、流石に【傀儡師】とは合わないと私も思うからもしもの時は候補に入れてくれると説明したかいがあるわ。

 それと私のことはシルフィだけでいいわよマスターさん」

 シルフィさん改めてシルフィにマスターさんと言われて俺も名乗っていないことに気付き慌てて名乗る。

「俺はひが、じゃなくてマリオ・ネットです。シルフィ改めて教えてくれてありがとう」

「えぇ、気をつけてね」

 うっかりリアルの名前を言いそうになるのを直して頭下げてシルフィにお礼を言い俺は教えて貰った人形ギルドに向かった。




本当はちょろっとだけのつもりが気付いたらまったく関係無いジョブの話をしてたんだ。な、何を言っているかわからないかも知れないが催眠術だとか超スピードだとかそんなチャチなもんじゃあ 断じてねえもっと恐ろしいものの片鱗を 味わったぜ…



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2話 人形ギルド

 問題なく人形ギルドに着いた後はそのままジョブクリスタルに触れると現在就けるジョブの一覧が表示されそのまま【傀儡師(マリオネッター)】を選択して【傀儡師】に就く。

 ステータスにてジョブに就いているのを確認するとレベルは1になっていたのでついでに【人形師】にも就いてサブに回し少しでもステータスを上げておく。

 とりあえず〈Infinite Dendrogram〉の【傀儡師】がどんなものか確認しないとリアルとの違いによってはジョブ構成は別にして傀儡はジョブ無しの片手間な感じでもいいだろう。

「お前さん、ちょっといいかの?」

「えっと、俺ですか?」

「そうじゃよ。お前さんじゃ」

 呼ばれたらしく振り向いてみると杖を持ったお爺さんがいた。

「お前さん今、【傀儡師】に成ったばかりだろう」

「そうですが何か?」

 今から実際に傀儡を動そうと思っていた所に水を指されて少し言葉に棘がふくまれているが勘弁してほしい。

「何、儂は【魔導傀儡師(マリオネットウィザード)】のジョン・レグイザモじゃ。

 お前さんは中々見所が有りそうじゃから儂が師匠として色々教えてやろう思ってな、どうじゃ弟子にならんか?」

「よく俺が【傀儡師】に成り立てだってわかったな」

「これでも【傀儡師】になってウン十年で何人も弟子にしとるからな、それにそんなに楽しそうにジョブクリスタルに触れるのはだいたい上位のジョブになるか初めてのジョブのどっちかじゃ」

 お爺さんもといジョンさんの指摘にそんなものかと思いながら弟子入りについて考えてみる。

 思うにこれはジョブ毎にあるチュートリアルなのではないだろうか。見たところジョンさんはかなり出来る感じがするし行きなりそんなレベルの高そうな人が絡んで来るならそうに違いない。

 発売されたばかりのこのゲームにはまだ攻略サイトもない現状チュートリアルをしないと分からない情報もあるだろうから受けた方がいいかも知れない。

「分かりました、俺はマリオ・ネット。ジョンさん、俺を弟子にしてください」

「よかろう。それと儂のことは師匠と呼ぶように、では付いてこい」

「はい、師匠」

 

 ◇

 

 ジョンさん改め師匠に連れて着いた場所は同じ人形ギルドの中にある体育館の様な場所だった。体育館と違いを挙げるなら床が板ではなく地面であることと壁際に弓道に使う的みたいなものがあることだろう。

「早速じゃが、【傀儡師】について教えてやろう」

「よろしくお願いいたします師匠」

「ではまず前提として【傀儡師】は傀儡を使って戦う戦闘系のジョブであるのじゃがマリオは操り人形を使ったことがあるかの?」

 師匠は腰のポーチ型のアイテムボックスからリアルにもありそうな一般的な木の操り人形を取りだしこちらに差し出してきた。

「はい、あります」

 そう言って俺は差し出された人形を受け取り十字に交差した木片から伸びた糸を取りゆっくりと動かしていく。〈Infinite Dendrogram〉のアバターでは初めて人形を動かしたが感覚的にはリアルより少し動きが鈍く駄目とまでは言わないが思った様に動かせない。これは〈Infinite Dendrogram〉のゲームとしての限界なのかそれとも今のステータスよりもリアルのステータスが高い為上手く動かないからなのか後者ならレベルを上げれば解決するかもしれないが前者だったら妥協すべきか……。

「マリオもうよいぞ」

「あ、はい」

 考えながら人形を動かしていたら師匠からストップがかかったので動きを止める。

「お主中々の腕じゃのう。とてもジョブに就いたばかりとはおもえんわい」

「一応向こうの世界でも少し嗜んではいました」

「少し嗜んだだけでそれだけ出来るもんか。過ぎた謙遜はもはや嫌味じゃわい。

 まぁ、出来る分にはよしとするとしてお主は【傀儡師】についはどれ程知っとるかの」

「まったく知りません!」

「バカもん。見栄を張って嘘を言うよりましじゃが威張って言うことじゃないわい」

 はっきり答えたら怒られた。解せぬ。

「【傀儡師】とは特殊装備品である傀儡を使い戦うジョブじゃな。ステータスはDEXとMPがメインで後は程々じゃな。取り敢えず実演してやるから見ておくがよい」

 そう言って先程人形を取り出したポーチとは別の腕輪型のアイテムボックスらしきものから一体の人形を取り出した。

「……綺麗」

「そうじゃろう」

 取り出された人形は先程の物とは違い高さ百七十センチ程のマネキンみたいで赤い髪と赤い瞳、凛とした表情は額にある赤い宝石と球体関節で無ければ一目では人であると判断してしまいそうだ。

「こやつは昔儂が遺跡で発見した未完成の煌玉人【紅榴の炎繰者(ガーネット・マニュピレイター)】じゃ。

 【傀儡師】が使う専用の物ではないが性能はピカイチじゃ、と話が逸れたが【傀儡師】はスキル《傀儡繰糸》を使い人形を動かすのじゃ。このようにな」

 師匠のそれぞれの指から半透明の糸状の何かが伸びると【紅榴の炎繰者】に接続される。

『コンニチハ』

「うおっ‼ 喋った」

 喋るとは思っていなかった俺は多いに驚いたが【紅榴の炎繰者】はそんなことは気にもせずカタコトの挨拶の後に丁寧な動作でお辞儀をする。その動きは自然で淀みない。

「普通の傀儡人形は喋らんがこやつみたいに発声装置があるとそいつを起動させれば話すことも出来るぞ。

 そして【傀儡師】系統の《傀儡繰糸》と並ぶもう一つの代表的なスキル《技能再現》じゃがこのスキルは自身が使えるアクティブスキルを人形に行使させることも出来るスキルで【傀儡師】は基本メインに【傀儡師】系統でサブに他の戦闘系を入れて戦うジョブじゃな」

 今までの説明と実際に師匠が動かすのを見て俺は昔の忍者マンガのMA○UTOの傀儡の術に近いと思った。

「実際にマリオにもやって貰おうかの、ほれ」

 そう言って師匠は先程操り人形を取り出したアイテムボックスからマネキンの様な人形を取り出した。

 取り出された人形は手入れはしっかりとしてあるがあちこち傷のある年季のある人形だった。

「そいつは練習用の人形じゃがレベル五十以下で使う分には問題ないからそいつで慣らしてから人形を買えばよかろう」

「はい、ありがとうございます師匠」

 さっそく俺は人形を動かしてみようと両手を前にだす。

「おい、どうしたのじゃ?」

 両手を前出して十数秒程俺が動かないのを見て師匠が不振がって俺に声をかける。

 それに対して俺は真剣な顔で言った。

「師匠、糸が出ません」

 俺の発言に師匠はずっこけた。

「あいたたた、すまんうっかりしとったがスキルは声に出せば発動するぞ」

「《傀儡繰糸》」

 後で聞いてみたが慣れて感覚を覚えたら言わなくても発動出来るらしい。

 俺のそれぞれの指から師匠と同じ様に半透明の糸が伸びて行き人形に接続される。

「うわっ、結構難いぞ」

 糸が接続された時点で大体の動かし方がイメージ出来たので取り敢えず右手を挙げ様としたら人形はバランスを崩し倒れてしまう。その後も立たせようと悪戦苦闘しながら動かすがもがくだけで上手く立ち上がらなかった。

 五分位した所で急な倦怠感と共に糸が消え人形が動かなくなってしまう。

「あれ、はぁ……なんで……はぁ」

「MP切れじゃな、ステータスを見てみ」

 言われてステータスを見てみるとMPの数値が零になっていた。

「《傀儡繰糸》はMPを常時消費して発動しておるからMPが枯渇すると自動的に消えてしまい更に命に関わる。

 それとこれを使え」

「おっと」

「MPポーションじゃ。使うが良い」

 渡されたガラスの瓶の中身を飲むと少しずつだがMPが増えていくのがステータスから読み取れた。

「さっきは敢えて止めなかったが今後は自らのMP量をしっかりと把握してスキルを使うのじゃぞ」

 確かに簡単な演劇ならまだしも戦闘や動きの早い演劇中にステータスを見ながらでの操作は厳しいだろう。

「では、MPが回復しだい練習を再開せい」

「はい師匠」

 余談だかしっかりと人形を動かせる様になるまで十回程MP切れ気絶したがそれでも師匠はかなり早い方だと言われた。



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3話 闘技場

 サブタイで分かる人がいるかも知れませんがあの人の登場です。


 ◻霊都アムニール 闘技場

 

 師匠に弟子入りしてからリアルで三日たった。

 何度かMP切れで気絶しながら何とか人形を動かせる様になったころ(MPを把握したとは言ってない)に突然師匠が闘技場に行ってこいと言い出した。

 師匠曰く(いわく)ある程度自衛出来るよう戦闘の手解きを受けてこいとのこと。俺自身人形の動きに取り入れられないかと昔合気道をしたりしていたので体を動かすのは嫌いではない。すでに話は通してあるとのことだったのでさっそく闘技場にやって来た。

 ちなみに現在の俺のレベルはずっと人形の操作しかしていなかったために未だにレベルニのままだ。

「すみません」

「はい、なんでしょうか」

 闘技場入って直ぐに受付があったのでとりあえず声をかける。

「人形ギルドから来たマリオ・ネットです。

 ジョン・レグイザモ師匠からこちらに来るように言われて来たのですが何か伺ってませんか?」

「はい、少しお待ち下さいね」

 受付嬢さんは手元にあったバインダーらしき物の上から紙をめくっていく。

 その速度は中々の物でシュババババと効果音をつけても違和感がないだろう。

「人形ギルドからマリオ・ネットさんですね。

 確かに戦闘指南の依頼が来ていますので今から担当者をお呼びいたしますので少々お待ち下さい。……えっと、どうかいたしましたか?」

 紙をめくる速度に圧倒されて変な顔をしていたのか受付嬢さんが心配そうに尋ねて来た。

「ごめんなさい。

 あんまりにも紙をめくるのが速かったので見入ってしまいました」

「ああ、そうでしたか。これでも上級ジョブの【高位受付嬢】でスキルも《書類把握》、《要所把握》の両方を高レベルで持ってますからこれくらいは余裕ですよ」

 ドヤ顔の受付嬢さんに俺は「おぉー」と言いながらパチパチと拍手する。

 【高位受付嬢】ってそんなジョブまであるのか何か凄く強そう。小並感。

「えぇと、では担当者を呼んで来ますね」

 照れているのか少し顔を赤くした受付嬢さんは席を立ち奥の方に去って行った。

 先程のドヤ顔と合わせて素晴らしい人だった。また機会があったらベタ褒めしよう。

「マリオ・ネットさん、お待たせしました」

 それから五分程たって受付嬢さんが二人の男性を連れてやって来た。

「こちらの方が指南役の闘士でグラデ・イエッタさんです」

「おう、俺が熟練の【剛闘士(ストロング・グラディエーター)】のグラデだ。よろしく」

「はい、【傀儡師(マリオネッター)】のマリオ・ネットです。よろしくお願いいたしますグラデさん」

 挨拶と同時に手を差し出したグラデさんにこちらも簡単な自己紹介をして握手をする。

「最低限の礼儀さえ弁えときゃもっとフランクで構わねぇぞ。

 それと今そこにいる奴も指導してんだが良かったらこいつも一緒に指導しても構わねぇか?」

 そう言って指差した方にはグラデさんと一緒に来たチュートリアルの時に見た初期装備の一種類を着たプレイヤーっぽい人は糸目のそこそこイケメンで左手には俺と違い宝石の様な物ではなくタトゥーの様なものがある。

「大丈夫ですよ」

「おお、良かった良かった。おいフィガロ、お前も挨拶しろ」

「えっと、【闘士(グラディエーター)】のフィガロ。よろしく」

「ああ、さっきも言ったが【傀儡師】のマリオ・ネットだ。マリオと呼んでくれ」

 フィガロの挨拶は少しぎこちない感じがしてきてあまりオンラインのゲームの経験がないのかもしれない。

「よっしゃ、じゃあ訓練場に移動するからついて来い」

 そう言って移動し始めるグラデさんに俺とフィガロは付いていった。

 

 ◇

 

「フィガロはどうして【闘士】になったんだ?」

 移動の間にどうせだからとフィガロに話かけてみた。と言うか思い返すとゲームを初めてリアルで三日、ゲーム内では一週間以上経っているがその間にしたことは門で【傀儡師】に成れる場所を聞いて後はずっと人形を動かす練習しかしていない。俺自身は人形を動かすのは凄く楽しく問題は無い流石に他のプレイヤーと一切交流が無いのはどうかと思うしまだエンブリオが第一形態にも進化していないのでその辺りの情報収集も兼ねて仲良くなるためにとりあえず当たり障りのないことから聞いてみることにした。

「ここの闘技場で決闘を見て僕もあんな風に決闘してみたいと思って【闘士】になったんだ」

「そうか。そういう憧れたものを始める気持ちはよく分かるよ。それとその左手のマークってなに?」

「これはエンブリオが孵化した時についたっぽくてね僕は【闘士】になって直ぐに孵化したけど見た感じは孵化している人は結構まばらだったと思うよ」

 エンブリオの孵化には条件があるのかな。確かプレイヤーの行動パターンとか人格から形成されるとかなんかニュースでやってたからその読み取りで単純に時間差が出来るのかな?

 そうやってフィガロと話ながらまだ孵化しないエンブリオについて考えていたらいつの間にか【闘士】のジョブに就いて訓練場に着いていた。超能力とか超スピードとか(ry

 グラデさんに連れられて来た訓練場は思っていたより小さくリアルの教室より少し大きい位で拍子抜けしてしまった。

「思ってたより小さいんですね」

「ここは複数ある小訓練場で主に隠れて新しい技の特訓とかにつかうんだよ。もっと大きな訓練場もあるがたまたま空いてたからこっちしたんだ」

 曰く大きな国には形態は違えど決闘ランキングがあるらしくそこで上位にいるために特訓の内容を隠すのは普通のことらしい。後で聞いたが決闘ランキング以外にも倒したモンスターを競う討伐ランキングと組織の規模? を競うクランランキングがあるとのことだった。

「よしフィガロ。すまんが先にマリオを指導してから見てやるからそれまでちょっと待っといてくれ」

「はい」

 その後はフィガロに見られながらとりあえず木剣を渡されて握りや振り方を教えてもらいながらグラデさんに打ち込んでいくが流石は現役の闘士だけあってこちらからの打ち込みは全て軽く受け流され時たま飛んでくる攻撃は当たる直前で止めてもらえるが防御出来なかった時の肌に触れる風は中々肝が冷える。

 他にも防御の仕方や足の動かし方等を簡単に指導を受けた。

 途中フィガロを指導するため離れる時が有ったがその時は教えられた動きを反復したりした。

「よし、お前らここら辺りで模擬戦してみっか」

 指導が始まって一時間程経った時にグラデさんが言った。

「とりあえず此処は結界は無いから先に一撃入れた方が勝ちな」

 言われて俺とフィガロは小訓練場の中央で対峙する。

「俺が手を振り下ろすのが合図だからな」

 グラデさんが右手を挙げて様子を見る。

 俺とフィガロは手に持った木剣を構える。

「そんじゃま、始め」

 振り下ろされると同時にフライング気味に俺はフィガロに向かって飛び出した。

 合計レベル三の俺と【闘士】レベル十を超えるフィガロではステータスはフィガロの方が高くエンブリオの補正値も加味すれば先に一撃入れるだけなら先手必勝が一番勝率が高い筈。

「おおっと‼」

 しかしステータス差かそれともフィガロ自身のセンスか初撃は防がれ続く二撃目、三撃目も防がれていく。

 その後何度か打ち合い俺の持つ木剣が弾かれ胴体に一撃貰いフィガロの勝ちで模擬戦は決着がついた。

「おうマリオ、大丈夫か」

「ええ、でも思ったよりは痛くないな?」

 設定で痛覚はオフにしてあるがダメージを受けると不快な衝撃があるとか言う話だったがそれも思った程ではなかったのでそれをグラデさんに言ってみた。

「闘技場にある練習用の武器には打ち所が悪く死んだりしないように《ダメージ軽減》のスキルが付与されてんだ」

 普通は防具に付与されるスキルだがスキル付与の練習にこういうダメージ抑える武器を見習いに作らせ闘技場が買い取っているらしい。

「それでマリオどうする?」

 グラデさんがこちらをニヤニヤ見た後にフィガロの方を向く。

 それにつられてフィガロの方を見るとフィガロは少しつまらなさそうながっかりした表情をしていた。

 最初の奇襲染みた初撃には驚いた表情をしていたが段々と表情が微妙に成っていったがそこまでがっかりしなくてもいいんじゃないか。こちとらレベル三でゲームで実戦もまだでリアルは平和な日本で喧嘩なんか片手で数える程しかない相手何期待しとんじゃワレェ。

 だからと言ってこのまま引き下がるかと言われたら言語道断。闘うことは専門外だがあんなつまらなさそうな顔で終らすなど傀儡師として人を笑顔にするものとして絶っ対に我慢ならん。

「フィガロ。もう一度手合わせしてくれないか?」

「うーん、いいよ」

 出来るだけ冷静に言ったがフィガロの気のない返事は俺自身のボルテージを更に上昇させていく。

「くくく、じゃあ始めるぞ」

 グラデさんは俺の心境を理解しているのか凄く愉しそうだ。

「二回目始め」

「死にさらせぇ、ワレェ‼」

「え、なんでぇ⁉」

 ちなみにその後十回程木剣で殴られた後木剣をわざと弾かせてそのまま懐に入り合気道の投げで一回勝ったがそれから数十回フィガロにボコられた。

 ちなみにそのお陰か最終的に《剣術》と《回避》のスキルを習得した。




 折角だから出したかったんや。後悔はしていないが強さをどれぐらいにするかは迷った。


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4話 一狩り行こうぜ 師匠編

 待っている人がいるとは思えませんが一応言い訳。データが一度飛んで意気消沈してました。
 許してね。


 □【闘士】マリオ・ネット

 

 人形ギルドに戻って来た。

 あの後フィガロにボコボコにされ(被害妄想)更にグラデさんが合気道の投げ技を見て面白い技だなと模擬戦を強制されボコボコにされた(被害妄re)。

 だがボコボコにされた(被害re)お陰でフィガロの時に《剣技能》と《回避》をグラデさんにはボコボコにされた(被re)後で《スラッシュ》と《バッシュ》を教えて貰い《バッシュ》のみ習得出来た。

 習得したスキルの効果は《剣技能》と《回避》はそれぞれ剣を装備した時に与ダメージ上昇と回避行動中にAGI上昇で共通してモーションアシストというか大雑把にどう動けばいいのかが頭に浮かぶ。

 グラデさんにこの事について聞いたがティアンも普通にあるらしく更にスキルレベルが上がればより難しい動きもアシストされるらしいが曰くアシストなく自分で動ける様になってからが一流と言うことらしい。

 プレイヤーの補助のためのアシストをNPCであるティアンも受けられることに若干(じゃっかん)の疑問を覚えながらそんなものだろうと深く考えず流す。

 《バッシュ》の方は切るのではなく叩きつける攻撃でレベル1で通常攻撃の一、一倍で説明ではそこそこのノックバック効果にSP消費も少なくクールタイムも短い使い勝手の良いスキルだ。

 そうして人形ギルドに戻って受付の人に師匠の場所を聞いて訓練場に移動する。

「師匠、只今戻りました」

「うむ、ご苦労」

 訓練場の隅に少し寂しそうに座っていた師匠にこえをかけると鷹揚に頷かれた。

 そういえばゲーム内で一週間以上この訓練場で傀儡の練習をしていたがこの場所を他の人が使っているのを見たことがないが今の師匠の寂しそうな表情と関係あるのだろうか? もしかしたら時期的に新人が入ってこないという可能性もあるかもしれないが。

「マリオよ、戻って来てそうそうじゃがお主に問題がなければ今から街の外に出て傀儡を使った実戦を行おうと思うのじゃが良いか」

「すみません師匠。

 一度向こう側に戻らなければいけないので三十分から一時間程待って貰えないでしょうか」

 戻って来て早々に次の訓練が始まりそうだが少し前からシステムアナウンスで尿意の警告が出ていて報告だけして一度向こうに戻る予定だったので師匠に断りを入れる。

「マスターは別の世界に飛ばされる存在じゃったな。

 儂はまだここにおるから戻ってきたら街の外に行くとしよう。ああ、それと闘技場で【闘士】のジョブを取ったと思うが戻ってきたら【傀儡師】に戻しておくように」

「了解です、師匠」

 そう言って俺はログアウトした。

 

 

 ◇

 

 

 リアルでの用事を済ましてゲームに戻りジョブを変更して師匠と霊都アムニールを出て近くの森に出た。今ここ。

 アムニールを出て直ぐは整備された街道を歩いていたが然程もしない内に街道をそれて森の中に入っていった。

 途中師匠から森の中歩く注意点等いくつか教わったがその中に一つ面白い物があった。

 アクシデントサークル。

 レジェンダリア固有の自然現象で自然魔力が一定以上の濃度に達すると自然そのものがランダムに魔法を発動させてしまう現象だ。

 多少の水やそよ風位なら問題ないが火や攻撃魔法が出てくればただでは済まないだろう。

 しかし、レジェンダリアの街や村などには自然魔力を吸収、あるいは拡散する設備があるため発生しないけれど、街の外では起こり得るが今回師匠は周囲の自然魔力を拡散させるアクセサリーを付けていて少なくとも今回の外出でアクシデントサークルが起こることはないだろう。

「ここらへんで良かろう」

 そうやって暫く師匠から講義を受けながら歩いていると開けた広場の様な場所に出た。

「では今から【傀儡師】の実戦訓練を行う」

 そう言って師匠はアイテムボックスから人形を一体とお灸の様な物を取り出した。

 お灸は緑色で小皿の上に乗っており師匠はそれに火を付けて無造作に地面に置く。

 人形の方はこの間見せて貰った【紅榴の炎繰者(ガーネット・マニュピレイター)】ではなく別の人形だ。

 木で出来たその人形は俺が師匠から貰った人形よりも洗練されているのが一目で分かる。

 俺の練習用の人形は簡素で何も着ておらず顔にも何も掘っていないのっぺらぼうなのにに対して師匠の取り出した人形はローブの様な服を着てしっかりと顔が掘ってあり目も絵ではなくガラス玉の様な物が入っている。

 更に使われている木材も練習用の人形と比べて艶があり頑丈そうで何故か両手だけが別の木材に手の甲に赤い宝石がセットされている。

「今置いたこの香はじゃの効果は低いが周囲の低レベルのゴブリンを引き寄せる匂いを出すアイテムで匂い自体ゆっくりとじゃが広がり少しずつゴブリンをおびき寄せて実戦訓練を積むのに使われるアイテムじゃの」

 つまりお灸の方はテ〇ルズシリーズのダークボ〇ルのゴブリン版みたいなアイテムということだろう。

「所で師匠、そちらの傀儡人形は?」

「こいつは【傀儡人形ウィザードロイドNo24チャーリー】じゃな。

 儂のジョブ【魔導傀儡師(マリオネットウィザード)】用に調整された傀儡人形じゃな」

 師匠の説明によるとこの【傀儡人形ウィザードロイドNo24チャーリー】こと通称チャーリーは【魔導傀儡師】が使う戦闘用傀儡人形で腕の部分が杖としての機能を持つのでそれように別の木材が使われている。No24は改造や調整、新規の作り直し等々師匠がいままでにオーダーメイドした傀儡人形がチャーリーで二十四代目ということらしい。

 ちなみこの間見せてもらった【紅榴の炎繰者】を使わないのかと聞いてみればあれは【傀儡師】が使う専用の人形でないこともあり性能は高いがメンテナンスや修理が大変なこともあり基本的に切り札扱いで普段はチャーリーを使っているのだそうだ。

「うむ、そろそろじゃな」

 師匠はそう言ってスキル《傀儡繰糸》を発動してチャーリーを起動すると同時に頭上に【リトルゴブリン】と表示されたモンスターが一体茂みからでてきた。

 その後、師匠が何度か戦いながら傀儡師の戦い方についてレクチャーを受ける。

「ではそろそろおぬしも一度戦ってみよ」

「了解です、師匠」

 同時に現れた五体のモンスターを軽くあしらった師匠に言われてアイテムボックスから人形を取り出し《傀儡操糸》を使い人形を起動させる。

 俺の使う人形は師匠に最初に貰った初心者用のもので代々受け継がれているのか年季が入っておりあちこちに補修の後が見受けられる。その両手にはそれぞれ剣と盾が装備されている。

 ちなみにこの装備も先程ギルドを出る前に師匠から渡された初心者用の装備である。

「キキッ」

 起動した人形に素振りをさせたり調子をみていると早速【リトルゴブリン】が出てきたの人形を動かして対峙する。

 人形を【リトルゴブリン】の正面に配置して俺自身はその後ろに半身を隠す位置に立ち相手が常に見える状態にする。

「ギャー」

 こちらの存在に気づいた【リトルゴブリン】が声を挙げて威嚇しながら手に持ったナイフを掲げてこちらに走って来る。

 それに対し俺は人形を操り剣の柄を盾にぶつけて音を出して注意を人形の方に向けるよう仕掛ける。

 これは師匠が先程複数のゴブリンと戦う時に音鳴らしたり不思議な踊り(MPは減ってなかった)で注意を引き付けていたのできっとこのリアルなゲームではスキルがなくともヘイトを集められるのだろう。

 後で聞いたが踊りの方はヘイトを人形集めるスキルだった。

 そうこうしているうちに【リトルゴブリン】が人形に攻撃し始めたので取り敢えず盾で防がせながら合間に剣を振らせていくが体が小さくそれなりに動きが早いせいかそれとも俺の操作が甘いせいかそれなりに防御は出来ているがなかなか攻撃が決まらない。

 このままでは埒が明かないので防御はしっかりとした上で敢えて注意を惹くように大振りで剣を振らせて【リトルゴブリン】の注意を人形に引き付けて俺はゆっくりと立ち位置を変えていく。

 そして【リトルゴブリン】の斜め後方に陣取ると人形に一際大振りかつ俺自身のいる方向に避けるよう剣を振らせる。

「後ろからストンピング‼」

 こちら一切気づいていない【リトルゴブリン】は人形の攻撃を避けた瞬間にこちらが発した奇声に驚き硬直したところを後ろから踏みつけてそのまま押さえつける。

 そしてギャーギャー喚くのを無視して俺は人形の剣を首に突き刺して止めをさし【リトルゴブリン】を光の塵に変え後には装備していたナイフだけが残った。

「師匠、終わりました」

 追加のモンスターが来ないことを確認してドロップされたアイテムを拾い師匠の下に向かうと何故かため息をつかれた。解せぬ。

「マリオよ。【傀儡師】は人形を操り戦う性質上STRやENDが他のジョブよりも上りにくいと説明したな」

 それから師匠に今回の戦闘にダメ出しされた。

 曰くただでさえ【傀儡師】はSTRやENDが上りにくい上に装備もしっかりと整えておらず合計レベル三の状態で人形を操ったままモンスターに接近して戦う等不死であるマスターであっても危険であるということを十分位かけてこんこん説明された。

 確かに初めての戦闘で気が高ぶっていたのかもしれない。防御して攻撃する地味な戦いかたに焦れて奇策に走ってしまったし闘技場で覚えた《バッシュ》も使わなかったなど抜けている所もありこれでは怒られても仕方ないだろう。

 ダメ出しを受けている間も何度かモンスターが現れたがそのことごとくは片手間に師匠の操るチャーリーに瞬殺された。

「今回はこのくらいにしておくが気を付けるようにの。

 それじゃあ訓練つづけるかのう」

「了解しました、師匠」

 そして師匠に見守られながらアイテムの効果が切れるまでモンスターと戦い続けた。



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5話 一狩行こうぜ パーティー編1

 師匠と森での訓練からゲーム内で四日がたった。

 この四日間俺はずっとデンドロの中にいた。

 通常なら不可能だがデンドロ内で六時間睡眠を取ったならリアルで二時間寝たのと同じ状態になるらしく片腕を無くして自宅療養(一人暮らし)なのもあって食事とトイレ以外はずっとデンドロにログインしっぱなしだったのだ。

 その間にしたことは先ず最初の一日目は他のプレイヤーと一緒にパーティーを組みレベル上げをして次の日はレベル上げの途中で人形の耐久度を回復させる手段が無いことに気付き師匠に相談した所【人形師(パペッター)】のスキルに《緊急修繕(エマージェンシーリペア)》という特定のアイテムを使って耐久度をある程度まで回復出来るスキルがあるとのことなのでそのスキルの習得に一日かかった。

 習得方法はひたすら人形のパーツに傷を付けて修繕するの繰り返しで朝から初めて十時間程で習得出来た。

 三日目は闘技場に行き一日戦闘について指導してもらった。

 今回は剣以外の槍や弓、斧等色々な武器の扱いを指導して貰い訓練用のホムンクルスと戦ったりもした。

 ホムンクルスは【錬金術師】が作る人型モンスターで訓練用のホムンクルスは召喚した相手に襲い掛かる仕様で他にも一時間で光の塵へとなる。

 三日目が終わって合計レベルは一九で内訳は【傀儡師】が一一、【人形師】が三、【闘士(グラディエーター)】が五である。

 

 

 

 

 □霊都アムニール近郊 【傀儡師(マリオネッター)】マリオ・ネット

 

 

 そして今日は師匠との訓練の次の日に一緒にレベル上げをしたメンバーでそれぞれクエストを受けて移動中である。

「ウェイン、そっちはまだ時間かかるの!」

「もうちょっと!!」

「コリエシュート」

 現在森の中で【ゴブリン】の集団と遭遇して交戦中である。

 その数は十二でこちらの人数の倍いるため苦戦を強いられている。

 突然だがここで自分たちより多数いるゴブリンの集団と戦うイカれたメンバーを紹介しよう。

 先ずは俺ことマリオ・ネット。

 【傀儡師】で剣と盾を装備した人形で防御主体で戦っているぜ。ちなみに最初に「ウェイン~」と言っているのも俺だ。

 次に俺が呼びかけたウェインことサー・ウェインだ。

 彼は【剣士(ソードマン)】で【日聖剣 ガラディーン】という剣のエンブリオでメンバーの中で一番のダメージとして頑張っているぜ。ただし、その分被弾が多いがな。

 三番目は「コリエシュート」と言った危ない彼はダイ・フラ。本当はDrei Uhrと書くらしいが音的には一緒だから気にするな。ちなみに名前の意味はドイツ語で三時を意味する。

 彼のジョブは【格闘家(グラップラー)】でサブジョブに【料理人(コック)】をつけている。ここまで来れば分かるだろうが彼は某海賊漫画のファンで好きなキャラのロールプレイをしていて戦闘は蹴りだけで例えゴブリン相手でも性別女性と分かれば蹴らなかった時は呆れを通りこして尊敬の念を覚えた。

 今は後衛の女子二人の護衛として抜けたゴブリンのオスを相手取っている。

 エンブリオについては戦闘用ではないので後で説明しよう。

 四番目はパセリ。

 彼女はなんとウェインの現実世界で幼馴染みらしい。言葉の端々に彼に対する好意が伺える。ウェイン爆発しろ。

 ただしウェインはなんと鈍感系のようで彼女の好意に気づいてない模様。

 そんな彼女は【司祭(プリースト)】として主にウェインの回復を担当している。

 エンブリオは【運搬木馬 トロイ】と言って木で出来た馬のエンブリオで輸送特化のチャリオットなので戦闘ではなくパセリの盾扱いだ。

 最後はブリーザと彼女のガードナーの【微風妖精 シルフィード】ことシルフィだ。

 ブリーザは【従魔師(テイマー)】で相方のシルフィをスキルで強化して戦うぞ。

 シルフィは微風妖精の名前通り風魔法を使って後ろから援護してくれている。

 この五人と一体で戦っているが実はそこそこ余裕があったりする。

 正面から戦えば数の少ないこちらが不利だが前もって自分たちよりも多くのモンスターと遭遇して戦うときの作戦を練っていたのもあり楽勝とはいかないがこのまま行けば被害なく倒せそうだ。

「マリオさん。殲滅完了二匹追加お願いします」

 パセリから報告を聞き足止めしていた【ゴブリン】の内二体をウェイン達がいる方に誘導して残りをまた足止めする。

 俺達の作戦は俺がモンスターを足止めしてその内の二匹位をウェイン達の方に送りだし倒したらまた送り出すの繰り返しである。

 火力があるウェインにモンスターを倒させパセリが回復、ブリーザとシルフィは後ろから風魔法による妨害とダメージをダイ・フラには俺を抜いて後衛に近づくモンスターの処理をして貰い全体で囲まれないように下がりながら戦闘している。

 多くのモンスターを相手取る関係で俺に結構負担がかかっているが積極的に倒す必要はなく防御に徹しながら囲まれないように下がっているので大丈夫だし後ろからブリーザのシルフィから魔法による援護もありどうにかなっている。

 とは言えこれも俺が【傀儡師】で戦っているのがある程度ダメージを無視して戦える人形だからというのも大きいだろう。普通の戦闘系のジョブで戦っていたら恐らく回復が間に合わなかっただろう。

 それでも人形の耐久値はかなり減っている。《緊急修繕》のスキルを手に入れ人形の回復手段があるとはいえこのスキルは非戦闘時に工房や施設以外の場所でアイテム使いある程度耐久値を回復させるスキルなので気を付けないと気づいたら破損なんてこともあるだろう。

 となんやかんやで苦戦はしたものの誰一人死亡することなく戦闘は終わり近くにあった開けた場所で休憩している。

 このリアルなゲームは休憩中の奇襲はよくあることだから気を抜きすぎないよう師匠にも口酸っぱく言われたがここでまだ紹介していないダイ・フラのエンブリオ【簡易竈 ヘスティア】の出番である。

 このエンブリオはTypeキャッスルで建物、この場合は竈のエンブリオでスキルに一定範囲内の戦闘行為の無効化と敵意ある生き物が近寄り難くなる効果があるため俺たちは思い思いに休憩を取っている。

「さっきのはヤバかったわね」

「そうですねパセリちゃん。こっちより数が多い強そうなゴブリンを見たとき駄目かと思いました」

「そうよね正直マリオさんがいたから生き残れたって感じはあるよね」

「おい、パセリ。ほとんど倒したのは俺なんだから俺を誉めてもいいんじゃないか」

「うっさいわねバカ。

 マリオさんが足止めしてたから安全に戦えてたんだからあんたももっとマリオさんに感謝しなさいよバカ」

「バカって言った方がバカなんだぞバーカ、バーカ」

「なんですって!?」

 スキルを使い人形の耐久値を回復させている横でウェインとパセリの二人が騒いでいるが前回パーティーをを組んだ時もこんな感じだったのでリアルでもこんな感じなのだろう。

 仲の良い友人はいたが幼馴染的な存在はいなかったのでちょっと羨ましい。

「マリオさん、何してるんですか?」

「装備の手入れだね。それよりあっちは放っておいていいの」

 じゃれあっている二人を見つめながら装備のの手入れをしているとパセリと話していたブリーザがこっちによってきた。

「あの二人の邪魔をするのはどうかなと思って。

 それよりデンドロって変な所凝ってますよね。今のマリオさんみたいに装備の手入れだったり移動も基本的徒歩で下手したら移動だけでゲームが終わっちゃいそうだったりしますもん」

「確かにデンドロはリアルだけどこのゲームはそれが売りだし少し位の不便は仕方ないね」

 移動に関してはネットに載っていた情報では現時点では騎乗出来るガードナーかチャリオットでなければ長距離の移動はキツイらしく空に至っては飛行能力があるエンブリオで飛行していたらドラゴンに撃墜された話が上がっていたりする。何それ物騒。

「マ、マリオさん左手」

 唐突にブリーザが焦った様な声をあげたので見てみれば左手の甲に付いたエンブリオの卵が輝いていた。

 どうでもいいがエンブリオの孵化はゲーム内時間で二、三時間位長くても一日もあれば第一形態へ進化するらしいが俺はリアル時間でも四日ちょっとゲーム内でなら二週間近く立っており正直進化しないバグなのじゃないかと思い始めたところだった。

 そして光が収まると左手には髪の長い乙女と糸車の形をした紋章があった。

「マリオどんなエンブリオなんだ」

「ちょっとウェイン失礼じゃない」

 さっきまで言い争っていた二人も他人のエンブリオの孵化が気になるのかこちらにやって来る。

「まぁ、待て。

 今から確認するから」

 俺はステータス画面から〈エンブリオ〉を選択してウィンドウを表示させる。

 

 

 

 【運命乙女モイライ】

 

 TYPE:メイデンWithテリトリー

 

ステータス補正

 

 HP補正:E

 MP補正:E

 SP補正:E

 STR補正:G

 END補正:G

 DEX補正:D

 AGI補正:E

 LUC補正:G

 

 『保有スキル』

 《命で紡ぐ糸(クロートー)》Lv1 パッシブスキル

 常時自身のHPとMPとSPの上限の1割を吸収し貯蓄する。

 また保有するHPとMPとSPを指定した数値分をスキルに投入可能。

 

 《命の糸で踊りなさい(ラケシス)》Lv1 アクティブスキル

 《命で紡ぐ糸(クロートー)》で貯めたHPとMPとSPを人形一体に注ぎ非人型範疇生物にする。

 一秒に付きHPとMPとSPを各一を消費しHPが零になったら元の人形に戻る。

 

「メイデンWithテリトリー?」

 効果は良く分からないがそれよりもメイデンのほうが気になる。

 チュートリアルで聞いたものとは違うようだが。

「あっ。聞いたことあります。

 確かレアなカテゴリーで少女の姿ともう一つのカテゴリーにハイブリットらしいですよ」

 自分から少女が出てくることになんとも言えない感じがするが取り敢えず呼び出してみよう。

「出てきてモイライ」

 左手を前に突き出し呼びかけると紋章から一人の少女が出て来る。

「お初目にかかります。わたくしはマスターの〈エンブリオ〉、TYPE:メイデンWithテリトリーの【運命乙女 モイライ】と申します。今後ともどうか良しなにですわ」

 その少女いやこの世界で180オーバーとリアルよりも背を高くした俺と比べても少し低い位の女性は全体的に細く体のラインがで出る確かマーメイドドレスを着ている。

「わぁ、綺麗。ねぇ、モイライさん? お姉さまって呼んでいいですか」

「うふっ。えぇ、いいですわ。お好きに呼びなさい」

 何故かパセリがいきなり俺のエンブリオをお姉さま呼びしているが背が高く顔も北欧系のカッコイイ顔だちにドレス姿は確かにお姉さまと呼びたくなる気持ちも分からなくもない。

「マスター。

 最初にお願いがありますわ。よろしくて」

 パセリの方からこちらを向いたモイライが申し出て来る。

「おう、いいぞ」

「ではマスターにわたくしの名前を付けて頂きたいですわ」

「えっ、なんで? モイライが名前じゃないの?」

 お願いを了承してみれば名付けをお願いされた。

「モイライはエンブリオとしての名前ですわ。

 それに元々モイライは三柱の女神の総称ですから出来ればわたくし自身のを表す名前が欲しいですわ」

「なるほどね、分かった考えるからちょっと待って」

「よろしいですわ」

 前にギリシャ神話の演劇をやった時に調べたことがあったがモイライはスキルにあったクロートー、ラケシスとアトロポスの三柱の女神の姉妹を合わせてモイライと呼ぶので確かに彼女自身を表す名前は必要かもしれない。

「おう、料理が出来たぜ」

 話がひと段落した所でダイ・フラが料理を持って来た。

 ミートソースのスパゲッティは中々食欲をそそる香りを醸し出している。

「所でそちらの美しいお嬢さんはも食事はいかがですか」

「はい、喜んでいただきますわ」

「ではこちらをどうぞ。それともしよければこのあと俺とデートはいかがですか」

「申し訳ございません。わたくしはマスターのエンブリオですから他の殿方との逢瀬はお断りいたしますわ」

 いきなりダイ・フラが人のエンブリオを口説いて断られている。ざまぁ。

 彼はロールプレイの一環でちょくちょく断られる前提で口説いているらしい。

 そして俺たちは回復も兼ねて皆で食事を頂いた。




 エンブリオやキャラの紹介は後書きに書くかそれように一話書くのとどっちがいいですか?


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6話 一狩行こうぜ パーティー編2

 ガラル地方のチャンピオンになったので更新です。

 それと活動報告に〈UBM〉案の募集を行っていますので興味があれば見てみ頂けると嬉しいです。


 □【傀儡師(マリオネッター)】マリオ・ネット

 

「そういえば俺たち何処に向かってるんだ」

 食事も終わりそろそろ移動しようかというタイミングでウェインがいきなり聞いてきた。

「ウェイン、出発する前に何処に行くかは皆で話し合ったのに聞いてなかったの。バカ」

「べ、べつに只の確認だよ、パセリはいつも口煩いな」

「ウェイン「まぁ、待って」」

 別に放置してもいいがダイ・フラの食事でバフが乗っているので時間がもったいないから俺が仲裁と説明を勝手でよう。

「今から行くのはもう少し先にある国有林だな」

「つまり森ってことか」

「そうだな。そこに木材を採取しに行く」

 今から行くのは国内に幾つかあるレジェンダリアが管理する森の一つだ。

「木材ってこの辺にある木じゃ駄目なのか?」

「基本的に木を伐採するにはちゃんとしたギルドに所属した上で資格が無いと伐採出来ないしそれに今から取りに行くのはモンスタードロップの木材だしね」

 そう今回の目的の木材は【ヤングツリートレント】のドロップアイテムの【トレントの幼木】だ。

 トレント系のモンスターからドロップされる木材は質が良く魔法に対する適正が高いこともあり魔法発動用の杖に使われるらしくMPを消費して発動する《傀儡操糸》とも相性がいいらしい。

 なのでそのトレント系のドロップの中でも性能は低いが作った装備に装備制限が掛からない【トレントの幼木】を使って初心者用且つ自分用の戦闘傀儡を作る材料を取りに行くのだ。製作費は師匠持ち。

 そして【ヤングツリートレント】がいる場所こそが国有林で木に擬態して普段ほとんど動かないトレント系のモンスターを種類ごとにある程度一定範囲内に集めて纏めて管理して育成することでドロップの木材を需要の一定数確保しているそうだ。

 今から行く【ヤングツリートレント】のいる場所はまだ弱いからいいが成長した亜竜級や純竜級とかいう強さになると管理するための【造林技士(フォレストテクニシャン)】と伐採するための【(ウッドカッター)】に上級職に付いた合計レベル三百以上のティアンが国から派遣されて常駐しているらしい。

 今の知識は師匠からの受け売りだし、国有林の範囲もここ辺りまでと大雑把に決めてるある程度で今から行く場所の【ヤングツリートレント】はトレント系最弱で対策アイテムも師匠から預かっているので特に問題なかろう。

「と、言うことで問題ないかな」

「おう、分かったぜ」

「では、行こうか」

「へ?」

 俺とウェインが話している間に他の皆は既に準備が出来ておりかく言う俺も何時でも出発出来る状態だ。

「ほら、早くいくわよ」

「お、おう。すぐ準備する」

 パセリに言われて慌てて準備するウェイン。

 準備自体はアイテムボックスに物を入れるだけなのですぐに終わるだろう。

「あの、マスター」

 呼ばれて振り向くと其処には俺のエンブリオ(女性型なのでこう言うと恥ずかしいが)の【運命乙女 モイライ】が何か言いたそうにしていた。

「名前」

 違った言いたそうではなく言おうとしていただった。

 取り敢えず休憩中に考えた名前を告げてみることにする。

「あー、君の名前はアクロラとかどうかな」

 余り自分のネーミングセンスはいいと思ってないので伺い気味に聞いてみる。

「アクロラ」

 小声で俺が考えた名前を呟くと少しうつむいてから顔を上げる。

「モイライの三女神の名前からですかね」

「そうだな」

 アクロラの由来はモイライの三女神アトロポス、クロートー、ラケシスの頭文字から付けた物だ。

「いい名前ですわ。これからわたくしはアクロラと名乗りますわ」

 どうやら気に入ってもらえたようだ。

 自分のパーソナルから生まれた存在に名前をボロクソ言われたらちょっと立ち直れなかったかもしれない。

「マリオさん、準備出来ましたよ~」

 どうやらウェインの準備も終わったらしくブリーザが声をかけてきた。

「分かった行こうか、アクロラ」

「はい、マスター」

 

 ◇

 

 それから移動して俺たちは国有林に到着した。

 途中で何度か戦闘はあったりしたがそれ自体は問題無かったが別の問題が発生した。

「なぁ、マリオが迷わなかったらもっと早かったんじゃないか?」

「俺だってここに来るのは初めてなんだから仕方ないだろ」

 そう道に迷ったのだ。ドヤァ。

 師匠から預かった地図をインストールしたマップを見ながら移動していたのだが途中で道を間違えたらしく迷ったのだが幸い目的地のすぐ近くにまで来ていたこともありブリーザのシルフィに飛んで貰って何とか場所を確認して国有林の受付の小屋に到着した。

「じゃあ、ちょっと受付に言って来るから待ってて」

 皆に一言行ってから小屋に行く。

「ごめんください」

「はーい、今行きます」

 小屋の戸を叩いて声をかけると中から女性の声が聞こえてきた。

「はーい、どちら様ですか」

 そう言って出てきたのは眼鏡を掛けた女性のエルフだった。

「人形ギルド所属の【傀儡師】マリオ・ネットです。

 ここで【トレントの幼木】を手に入れる様に師匠から言われて来たのですが、これ紹介状です」

 自己紹介をしてから師匠から預かった紹介状と思われる封筒を渡す。

「へぇ、人形ギルドの新人なんて久しぶりね」

「前は結構来てたのですか?」

「えぇ、人形ギルドのジョン・グレイザモ氏といえばスパルタで有名な人で自分が気に入った人しか弟子にしないし自分で使う人形なら自分で素材を集めてこいって初心者用の人形を持たせて何年か前はよく新人を送り込んでいたわ。あと【傀儡師】は戦闘職だとよく言い張っていたわね」

 師匠がスパルタとか初めて聞いたギルド内ではあまり師匠以外と話をしないというか受付に事務員っぽい人がいる以外ほとんど人を見かけないな。

 それよりも目の前のエルフさん(そういえば名前聞いてない)は気になることを言った。

「【傀儡師】って戦闘系のジョブじゃないんですか」

 そう、初めてデンドロにログインした日に師匠から【傀儡師】は戦闘系のジョブと聞いたのでしっかりと動かせる様になってからは戦闘でレベルを上げていたのだが。

「そうね、厳密には戦闘系のジョブではなく【俳優(アクター)】や【探偵】みたいなその他にあたるわね」

「そうんなんですか。

 ところでトレントの狩りは大丈夫ですか」

 ギルドの新人は長く来ていないとか師匠の話とか色々聞いてみたいことはあるが今はパーティーで来ているので話はまた今度にしよう。

「えぇ、大丈夫よ。

 五体も狩れば素材的には十分だと思うけどこの手紙には今後使うから十以上二十未満程狩るように書いてあるから頑張ってね。

 それと最後に帰る前に何体倒したか報告してね。

 森の管理に必要だから」

「わかりました」

 許可も貰ったので皆の所に戻る。

「オッケー貰ったから今から行けるけど大丈夫?」

「「おう」」

「「はい」」

「もちろんですわ」

「♪~」

 全員から返事があったので俺はアイテムボックスからモノクルを取り出す。ちなみに最後に返事をしたのはブリーザのエンブリオのシルフィだ。

「マリオさんそのアイテムは?」

「これは【看破のモノクル】というアクセサリーだね。

 このアクセサリーを着けるとスキル《看破》が使えるようになるよ」

 厳密には《看破》のレベルがプラス一されて汎用スキルなので使い続けるとスキルレベルが上がりそのままスキルを習得出来るそうだ。

 師匠が貸してくれたアクセサリーだがかなり高価何じゃ……。

「なんに使うんだ」

「トレント系のモンスターは《擬態》っていうスキルを覚えてて普通の木に成りすまして近くを通った獲物に襲い掛かるんだ」

「つまりそのアクセサリーがあればトレントかどうか見分けられるんですね」

「その筈」

「おいおい、その筈ってどうしてだよ」

「師匠の話だと《看破》のスキルレベル一でも普通の【ヤングツリートレント】の《擬態》は見破られるらしいけどスキルの判定にスキルレベルとステータス差も考慮されるみたいだからレベル高めの奴にはスキルが効かないかもしれないから期待しすぎないように」

「そうなんですね。

 それでこれから皆でモンスターを探すんですか?」

「その通り。アクセサリーが一つしかないから此処に来るまでと同じように俺が先頭でその後はウェイン、パセリ、ブリーザ、ダイ・フラの順で一塊で移動でいいかな」

 皆から了承を貰って移動を開始する。

 国有林の中はここに来るまでに通った森と然程代わり映えしなかった。

 モンスターを探しているので皆静かだ。

「ストップ」

 前もって決めていた合図を出し立ち止まる。

「居たのか」

「ああ、前方の方に一体いる」

「どれですか?」

「あれだがわかるか」

 そう言って俺が指し示したのは他の木と変わらない普通の木だ。よく見れば周りの木より若い木かなと思う程度だ。

「全然わからねえな。で、このまま倒しちまうのか」

「それでもいいがモンスターの強さがわからないから一応周りを確認して他にモンスターがいない確認してからにしよう」

 それから辺りを探りモンスターが他にいないの確認する。

「俺が正面から引き受けるからウェインが後ろから回ってざっぱりやってくれ」

「おう、分かった」

 ウェインが移動したのを確認して俺たちも移動する。

「ダリ・フラ。モノクル貸すから最初の攻撃を頼めるか」

「任せろ」

 ダイ・フラに【看破のモノクル】を渡す。

「どれがモンスターか分かるか」

「おう、バッチリ【ヤングツリートレント】と表示されてステータスも見えるぜ」

 俺が見たときもステータスは表示されていたしその数値通りなら倒すのは難しくないだろうがどうせなら簡単な方が良いだろう。

「じゃあ、行ってくるわ。猛進・猪鍋シュート」

 準備が出来たのか漫画の技名を叫びながら跳び蹴りをかます。

 《看破》がないので何れ程ダメージがあるか分からないが零ではなかろう。

「俺たちも行くぞ」

「「はい」」

 戦闘が始まり【ヤングツリートレント】が動き出したのでパセリとブリーザに指示し前に出る。

「させないよ」

 動き出し初撃を与えヘイトが乗ったダイ・フラに枝を振り回し【ヤングツリートレント】の攻撃を俺は人形で受け止める。

「以外と軽いな」

 受け止め帰ってきた衝撃はそれほどでも無かった。しっかりと構えていればまず受け止められるだろう程度ではあるがそのまま反撃するには辛そうだがそこは仲間に任せよう。

「《ハイキック》」

「シルフィ、《エアカッター》」

 スキルによる上段蹴りと魔法による風の刃がモンスターの体力を奪って行く。

「大きいの来るぞ」

 枝を大きくしならせるモーションでそれは強力な攻撃を予感させる。

「《ヒートブレード》ハッアァァァ」

 しかしその攻撃は放たれる事はなくモンスターの後ろで機を伺っていたウェインが絶妙なタイミングでエンブリオのスキルで炎熱属性が付与された剣を突き刺す。

「うおっおおおお」

「Toooooooo」

 突き刺した剣を叫び声と共に振り上げ切り裂くとモンスターもまた声を上げてそのまま光の塵と化してドロップアイテムを残して消えた。

「どうだ、見たか」

 ラストアタックを決めてウェインはご機嫌だ。

「ナイス、ウェイン」

 俺が片手を挙げて近付くとウェインは嬉しそうな顔をして。

「イエーイ」

 ハイタッチに応じてくれた。ここで応じて貰えず何こいつみたいな顔をされたらかなり凹む。

「やるじゃないか」

「あんたにしてはよくやったんじゃない」

「格好良かったですよ」

「いやー、照れるよ」

 皆から褒められて満更でもなさそうだ。

 ドロップもしっかり【トレントの幼木】が手に入ったので万事順調このまま狩って師匠の紹介状に書いてあった二十本集めるとしよう。




 今後後書きにその話に出た単語やジョブの説明を入れていくので興味があれば読んでみてください。

・料理のバフ 【料理人(コック)】系統のジョブはスキルにより作った料理に応じて食べた時にバフが付く様になっている。通常はメインジョブにしていないとスキルは使えないがダイ・フラのエンブリオのヘスティアはスキルに【料理人】系統のスキル限定でサブに回していてもスキルが使えるようになる。

・アクロラ 【運命乙女 モイライ】の名前。最初は頭文字だけ取ってアクラにしようと思ったが原作に出てくるアクラ・クヴァスターと被るので没になりアクロラになった。

・【造林技士(フォレストテクニシャン)】 森を整備するジョブ。植物の鑑定や森の中での活動にプラス補正を受けるスキルを習得するジョブ広範囲の植物や木の成長を促す。

・【(ウッドカッター)】 木を切ることに特化したジョブ。斧技能や採取した木を早く乾燥させるスキルがある。他にも木のモンスター特攻やトレント系限定でドロップの品質が良くなったりする。

・【傀儡師】 実は戦闘系のジョブではなかったのだ。べ、別に作者のガバじゃないよ。ホントだよ。

・【看破のモノクル】 装備すると《看破》のスキルレベルが1上昇するアクセサリー。類似品に【鑑定のモノクル】や【騎馬民族のお守り】がある。お値段五十万リルなり。

・《擬態》 自らを周囲の風景などに溶け込ませ見つかりにくくするスキル。副次効果として看破されるまでは名前も表示されない。


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