魔法使いの嫁〜AnotherStory〜 (ケニーF)
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第一章【目覚め】
第一話『扉の向こう』


初投稿のためなれない所もあります。ご了承下さい。


これは、もう一人の魔法使い()の物語

あの春、あの人に合ったその瞬間、僕の人生に小さなひなげしの花が咲いた。

 

 

僕の名前は 南武セト(19)英語風だと セト・南武 だね。

親は5年前に他界し今はこのご時世に珍しい使用人の爺やと一緒に、両親の遺した莫大な遺産とニューヨーク近郊のちょっと広すぎる家に暮している。

父は経済関連の仕事をしていて、その関係で僕ら家族は、僕の小さい頃にニューヨークまでやってきた。

母は翻訳や通訳の仕事をしていて、教育関係の学者でもあった。母はあの有名な『Tレックス・ホームズ』シリーズも手がけている。えっ!聞いたことない?そんなバカな!

話を戻そう。

爺やというのは、母の家にいた人で、お祖母さんに恩があるらしく、親の代から仕えているらしい。

僕はといえば定職につかず、かと言って豪遊もしない小心者で、暇のつぶし方を考えては、爺やに

「そろそろ、定職を考えてみては?」

と言われている。

最近はニューヨークの街中で、日本人相手にボランティア活動をしている。両親の教育のおかげで、英語はペラペラ、日本語もペラペラな訳でまさにピッタリの仕事だろ。

それに、僕は人のいっぱい居る街を見るのが楽しい。不思議と温かみを感じれる気がするんだ。

あの日もそうやって街中でブラブラしていたんだ。

ふと、目の前の路地に黒いローブみたいなのを着た人が通った。いつもなら絶対気にしないような一場面だ。けど僕は後ろからこっそり彼を(彼女かもしれない)つけた。角の多い路地を抜けていくと、突然ローブの人は止まった。慌てて陰に身を隠してゆっくりと覗いてみた、

そこにあったのは壁、、、のはずだった。ローブの人が片手を壁に当て何か唱えているのが見えた。小声だったのでうまく聞こえない、けど身を乗り出して聞き耳をたてる度胸もなっかた。しばらくすると、その人は手を下げてそして、あたかもそこに扉があるかのように壁を押した。

すると、その壁は【開いた】のだ!

自分の目が信じられなかった。もうそこにあるのは壁ではなく、金の彫刻のついた立派なバロック調の扉だった。

ローブの人が扉の向こうに歩いていく。向こう側を見ようと僕は身体を乗り出してしまった。その時、ローブがこっちを振り向いたのだ!それと同時に扉から出てくる凄まじい光も目に入った。あまりの強さに目がくらむ。

「うっ、、、」

その場に僕は倒れ込んだ。

「お、、、い、、、、、にこ、、」

ローブの人が何か言っている。よく聞こえない、、、

体がその場に倒れる。意識もそこで途切れた。




初めての長編作品です。誤字や文法ミスがございましたら、ご指摘頂けると幸いです。


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第ニ話『隣人たち』

さあ!2話に突入して、いよいよ物語が動き出そうとします。


「ううん、」

 

しばらくして目が覚めると、まるで何もなかったかのように、辺りは静まり返っていた。いや、違うね、遠くから街の喧騒が聞こえてきた。

 

(白昼夢?しかしそれにしては妙にリアルだったな。)

 

ううんと唸りながら考え込む、が

 

「まあ考えても仕方ない!何もなかったんだ。」

 

短絡的な考え方だが、一般人の反応としては普通だろう。

しかし、それはそこにいた。

くるりと 方向転換 し、路地を出ようとしたその時だった!

運命の出会いとはこの事を言うのではないかと思うほどだった。目の前を通ったそれは、あまりにも異常で、不思議で、

何より、美しかった。

人の上半身を持ち馬の下半身を持つ、

昔話に出てくるセントールと言うやつだった。

つややかなブロンド髪、バランスの取れた上半身

筋肉美すら感じる馬の下半身、どれを取っても【カノジョ】は美しかった。

僕はハッとした、目があったのだ!

向こうは僕のあまりにもうぶな反応に若干驚いているように見えた。

 

「よ、妖精」

 

かすれた声で僕は言った。

すると彼女はすぐさま返してきた。

 

「あら?私たちをそんな無粋な【呼び名】で呼んじゃだめよ!私はあまり気にしないけど、風の精霊(エアリエル)なんかだったらカンカンよ!」

 

僕は呆然としていた、夢じゃなかった。起き上がった時にぶつけた足の指はまだ痛い。セントールの彼女は続ける。

 

「貴方、今時珍しい【見える人】なのね。フフッ随分と驚いちゃって、まるで、【今の今まで見たことない】って表情してるわね。」

 

いや、今の今まで見たことないんだよ!

言いたいことも聞きたいこともあるけど、言葉にならない。

 

「美しい。」

 

ただ一言そうつぶやいて僕はその場にへたり込んだ。

流石に彼女も気づいたようだ。目を丸くしながら

 

「まさか、本当に【今まで見えなかった】の?」

 

と聞いた。

コクリと僕は頷いた。

彼女はその栗色の丸い目をさらに丸くして僕を見た。

 

「あ、貴女は」

 

やっと落ち着いてきた僕は彼女に聞いた。

 

「あら?人に名を聞くときはまず自分からって言うでしょ」

 

人のような返しだなぁと思いつつ

 

「失礼しました。私の名前はセト・南武です。」

 

いつもの調子に戻ってきた。従兄弟に人前では紳士面してるって言われたけな。

 

「あら、随分あっさりと名乗ったものね。隣人の中には名を聞いただけで相手を縛れるのもいるのに。」

 

あんたが名乗れって言ったんだろうが!心の声を抑えつつ話を聞く。

 

「まあいいわ、私はルーシィ。昔助けてくれた人がくれたあだ名だけどね。貴方はセトね、、、気に入ったわ!いいわ話を聞いてあげる。」

 

(聞いてくれなんて言ってないんだが、、、強引だなぁ)

とは言え聞いてくれるなら話そうと思った僕は今日の一部始終を話しだした。ローブの人、金の彫刻の扉、そしてルーシィとの出会い、その間ルーシィは真剣に聞いてくれた。

 

「、、、と言うことなんです。」

 

ルーシィは少し考えたあと、

 

「原因はその扉の向こうを見たから。って決定づけるにはちょっと曖昧よね〜妖精の塗り薬を使ってる匂い(祝福の匂い)もしないし。、、、あっ!」

 

突然出た大声にビクッとしながら、僕はルーシィの顔を見た

 

「こういう時は、こちらとあちらのどっちにも詳しい人の所に行くのが一番よ!」

 

「どっちにも詳しい?」

 

「そう。名前は ジャック 稲妻ジャック(ジャックザフラッシュ) 探偵よ」

 




ジャックの登場は第三話に持ち越しです。
因みにジャックは小説のキャラクターです。


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第三話『稲妻ジャック』

因みに、この話の時期は本編の一年前です。


「ふ〜ん、、、」

 

「あ、あのー」

 

「ちょっと静かにしてくれる?」

 

「あっ、はい、、、ハァ〜」

 

探偵事務所についてからもう10分は立たされてジロジロ見られてる。ジャックの鋭い目線が痛いほどだ。どうしてこうなったか、順を追って説明しよう。

 

〜20分前〜

 

「ジャック、、、さんですか?」

 

自身たっぷりなルーシィに聞く。誰だか知らない人の名が出てたな。

 

「そう!優秀な探偵よ。場所は知ってるから早速行きましょう!」

 

僕が何か言う前にどんどん話が進んでいく。なんだか、出発前に疲れてしまいそうだ、、、

 

「で、行くってどうやってですか?まさか、タクシーに乗るわけじゃないでしょう?」

 

「皮肉言わないの。簡単よ、わたしの背中に乗ればいいのよ。大丈夫。今回は優しくするわ。」

 

何が何に優しいのだろうか? 

ん?なんだって?誰もそんなんこと言ってないぞ。期待したのは読者の君だけだ。大体、背中だって言ってたろ!

 

「背中って、馬みたいにですか?」

 

「まっそう言うこと。横から乗るのよ。優しく乗ってね。」

 

言われたとおりにルーシィの背中に乗る。ルーシィは僕が乗りやすいようにしゃがんでくれた。しゃがむというのか、膝を折って座ったというのか、、、馬なんか乗ったことないもんだからちょっと苦労したが、なんとか乗れた。すると、ルーシィがちょっと小馬鹿にした感じで言った。

 

「あなた、少しどんくさいわね。」

 

間髪入れずに、僕の大きな声が彼女の耳に届いた。

 

「初めて合う人にそれを言うのか!君は!」

 

若干キレてた。ルーシィは僕が言い返すとは思ってなかったようで、ビクッとして僕を見た。

ハッとして、言い過ぎた事を謝ろうと口を開こうとしたら、

 

「ごめんなさいね。言い過ぎたわ、、、」

 

「あ、、いえ、、、いいんです。ぼくも、、、言い過ぎましたから、、、」

 

謝るタイミングを完全に逃してしまった。ルーシィは暗い顔をしてる。気まずい空気が流れていた。なんとかしようと僕は口を開いた。

 

「そ、それにしても、これ」

 

僕は辺りを見回して言った。

 

「普通の人に貴女が見えないなら、不自然じゃないんですか?」

 

「大丈夫よ。目隠しの魔法があるから。」

 

以外に復活が早いタイプらしく、顔もさっきの明るさが戻っていた。僕はほっと胸を撫で下ろす。

 

「じゃあ、そろそろそのジャックとか言う人の所に行きましょうよ。」

 

「そうね。わかったわ。さあ!行くわよ。しっかり掴まってなさい!」

 

「えっ?掴まるってこのどうt」

 

ルーシィは僕が言い終わる前に地面を蹴って駆け出してしまった。そこから、ジャックの事務所まではあっという間だった。僕は凄い勢いで進む彼女の背に掴まりながら、心の中で

 

(優しい要素どこいったんだよ)

 

と毒づいていた。

 

風を切る音がする。ビル達が遥か遠くへ消えていく。その中で僕の目を引いたのは、光だった。ただの光じゃない、キラキラしてまるで星空のようだった。宙に浮くそれは、あちらこちらにあって、その先までは追えなかった。だってさ、早いんだもん。

 

(あれも魔法なのかな?あとで聞いてみよう。)

 

そんなことを考えていたら、突然流れていた風景がぴたっと止まった。

 

「ついたよ。ここがジャックの探偵事務所のあるアパートよ。」

 

見上げると、、、いたって普通のアパートだった。

てっきり、、、

 

「てっきり田舎の外れの一軒家にでも住んでると思った?」

 

見事的中 彼女は心が読めるらしい。

 

「心が読めるとかじゃないのよ。ただ、あなたがそんな顔してたってだけ。」

 

しっかり心読めてるじゃないですか、やだ~。若干引き攣った顔を元に戻してルーシィの方を見る。

 

「で、どの部屋にその探偵さんがいるんですか?」

 

「彼女に合うにはちょっとコツがいるの。アポなしは特にね。」

 

そう言うとルーシィは、1つの窓の方へ向かっていった。

僕はあたりを見回した。マンハッタンの何処かのようだ。

窓へ向かったルーシィは、

 

「ジャック!いる?」

 

と聞きながら、窓を叩いた。

しばらくすると、ガラッと窓があき、中から人が顔を出した。

 

「はいはい、どなた?ってルーシィじゃない。どうしたの?」

 

「お客さんよ。ほらセト、こっち来て」

 

ご指名を受け急いで窓の方へ行く。

近づいてみてわかった事だが、ジャックと言う人はルーシィとは違ったタイプの美人で、何処か可愛らしさがあった。

ただ、ちょっとガサツに見えた、、、

 

「この子がどうしたの?」

 

子! 子ときたか、、、そんなに子供に見えるか19の僕は!

 

「それがね、ちょっと不思議なのよ。」

 

思い当たる節があるかのようにジャックの顔が曇った

 

「まさか、見えないやつが突然見える様になった。とか?」

 

「そう!さすが探偵ね!そういうの分かるもんなのね〜」

 

呑気にルーシィが感心してるが、そうじゃないのくらい僕でもわかる。ジャックも呆れ気味だった。

 

「違うわルーシィ。」

 

「ヘ?」

 

流石のルーシィも彼女のジャックの顔色が悪いのに気づいたようだ。

 

「今日だけで3人よ。」

 

「誰が、、、!まさか」

 

「そう!見える関係の相談。今日だけで3人!そこの子で4人目よ!」




驚愕の事実が発覚!
待て次回!


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第四話『魔法使いの素質』

セト以外にも!驚愕の事実が発覚する!


「その子で4人目よ」

 

ジャックのはなった言葉はルーシィを驚かせたようだ。

いまいち事の重大さがわからない。そんな僕を置いて話は進む。

 

「4人もいっぺんに、、、そんなことって」

 

「私も分けわかんないのよ。まあ、取り敢えずその子見るから。ほら!君入って。そこの戸から回れるから。」

 

突然声をかけられて反応が鈍ってしまった。

 

「は、、、はい!」

 

と戸を開けようとしたら、ルーシィが声を掛けてきた。

 

「なんかわかるといいね。私はちょっとやりたいことがあるからこれで。それにその家に私は入れないしね。またお迎えに来るからね。この石を持ってて。それを握って地面を蹴って。そしたらすぐ来るから。」

 

唐突なお別れで少しキョトンとしてしまったが、ルーシィは僕に石を渡して何処かへ消えていった。

 

「それではまた。」

 

会釈をして僕は建物に入っていった。

 

######################################

 

そして前回の冒頭に繋がるのである。

 

「やっぱりわからないなぁ。まあそこに座って。話し聞くから。」

 

そんなに見なくても良かったような気もするが、、、

やっと解放されて、ため息をつきながらソファーに座った。

向かい側にはもう一つ部屋があるようで誰かがいるようだ。ゲームの音が聞こえる。ジャックも僕の視線に気づいたようで、ため息をつきながら頭を抑えて言った。

 

「ごめんなさいね。同居人なの。」

 

「いえいえ、一緒に暮らす人が居るってのは、いい事ですよ。」

 

「そうかね?」

 

「少なくとも私には、、、」

 

両親が脳裏に浮かぶ。思いの外顔は暗かったようだ。気を使わせてしまった。

 

「ごめんなさい。余計なこと聞いたみたいね。」

 

「いや、良いんです。それより、、、」

 

話を戻す。

 

「ああ、そうだね。じゃあ、何があったかその一部始終を教えてくれ。」

 

僕は二度目の解説タイムに突入した。

 

「、、、と言うことなんです。」

 

「怪しいわね、そのローブ。他の三人も似たようなこと言ってたわ。」

 

「ローブですか?」

 

「そう。ローブの人間に会ってから変になったって。

けど、100%とは言えないけどね。」

 

「それに君はちょっと違う感じだからね」

 

「違う?何がですか?」

 

「匂いが違うの、貴方は魔術師と言うより魔法使いの匂いがするわ。唯でさえ素質のある人間は珍しいのに、、、しかも、夜の愛し仔(スレイ・ベガ)に近い匂いがするの。」

 

「えっ、、あの、、、魔術師?魔法使い?すれいべが?なんですか?」

 

僕に魔術師と魔法使いの違いはわからないし、すれいべがってのも意味不明だ。どうやら珍しい例のようだが、、、

 

「はぁ〜やっぱりそうなるわよね。ちょっと長くなるけどちゃんと聞いてなさいよ。重要だから。」

 

僕は念を押されてシャキッとする。

 

「はい!」

 

「それじゃあまず、魔法と魔術の違いってのはね、、、、」

 

ジャックの話が始まった。




次回はまほ嫁読んだ人にはほぼどうでもいい話になりそうです。


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第五話『世界の秘密』

正に説明回です。
最後はちょっと動きがあります。


「まず魔法ってのは、、そうだな〜簡単に言うと【奇跡】ってやつかな。」

 

「奇跡・・・?」

 

「そう。世界には(ルール)がある。ちょうど、そのコンピュータのプログラムみたいな感じの。」

 

そう言ってジャックは机の上のパソコンを指した。

(魔法をコンピュータで例えるのか、、、)

 

「魔法使いってのは人間以外の、例えば妖精とか精霊、幽霊や悪魔の力を借りてその(ルール)に干渉して様々な【結果】を起こせるの。

逆に魔術ってのは一種の【科学】で、魔術師は(ルール)を理解し自分の持つ魔力でそれを組み替えたり書き換えたりして魔法使いと同じ様な【結果】を起こすの。」

 

「なんか、魔法使いのほうがいろいろ出来そうですね。」

 

 

「確かに、初めてこの説明を聞くとそう思うかもしれないけど実際は他人の力を借りるものだからそのコントロールは難しいの。ほら、これ見て。」

 

そう言って彼女はパソコンの画像を僕に見せてくてた。

そこには腕から鉱石がまるで生えているような、少し不気味な写真があった。

 

「こ、これは、、、」

 

「ある魔法使いの腕よ。その人は自分の力量以上の事をしてこうなってしまったの。分かった?これが魔法が難しいとされる理由よ。」

 

突然不安になってしまった。さっき僕にもその魔法使いの素質があるとか言ってたような、、、

 

「アハハハ。ダイジョブよ。そんな暗い顔しなくても。ちゃんとした師匠のもとで修行すればこんなの滅多にないわ。」

 

「そ、そうですか、、、」

 

「まあ、ちょっと脅しすぎたわ。ごめんなさいね。それで話を戻すんだけど、もう一つ夜の愛し仔(スレイベガ)についてなんだけど、まああれね特異体質ってやつよ。」

 

「特異体質ですか、なんか体に異変でも?」

 

「あるって言えばあるし、無いって言えばないわね。外見には出ないけど、スレイベガは妖精たちにとって、女王蜂みたいなものなの。」

 

「妖精は働き蜂なわけですね。」

 

「まあ、そういう事。スレイベガは魔力の吸収と生産が早くて、通常の魔法使いより多くの力を持っているの。その力に妖精達は惹かれるのよ。ただ、、、」

 

彼女が言葉を詰まらせた。

 

「ただ?」

 

 

「ただ、、、スレイベガはその驚異的な魔力の生産能力に体が追いつかないでほとんどが早死してしまうの。

更に、妖精に好かれも、彼らの好意が人にとっていいものとは限らない。辛い道を進むのが殆どよ。」

 

「魔力ってあればいいってものじゃないんですね。」

 

「そうよ。だから自分の力量を見極めることが必要なの」

 

「僕にもスレイベガのような力が、、、」

 

「あなたのは何か微妙に違うのよね。確かに魔力の量は下手な魔術師より多いんだけど、スレイベガみたいな感じはしないのよね。まあ比較的妖精もとい隣人達には好まれやすい匂いはするわ。ルーシィが拾ってきたわけだ。」

 

(拾われたのかァァァ!)

 

「感覚での違いですか、、、」

 

「私は魔術師でも魔法使いでもないから、そういうとこ感覚の話になっちゃうのよ。」

 

???僕の頭に疑問符が浮かぶ

 

「どっちでもないんですか?」

 

「ああ、言ってなかったわね。ちょっと特殊なのよ。」

 

言葉を濁されたので、それ以上は聞かなかった。

まあ、なんとなくだがわかってきた。あとは、、、

 

「僕ってこれからどうすればいいんですかね?今まで通りの生活を続ければいいのか、それとも何らかの処置が必要なのか、、、」

 

これが一番の問題だった。わかったところでどう動けばいいのか。他の三人はどうしたのか。気になっているところなわけだ。

しばらく考え込んだあとジャックは口を開いた。

 

「選択肢はいくつかあるけど、おすすめは更に詳しく調べるためにカレッジに行くか、魔法使いのもとを尋ねることね。治したいのであれば、なおさらね。まあ、今のところ害は無さそうだけど、知識は必要でしょ。」

 

「カレッジというのは?」

 

「ああ、魔術師養成学校よ。世界中の魔術師たちが所属していて、情報交換をしたり、弟子をとって教えたりしてるの。」

 

「魔術師養成学校、、、それって僕とはちょっとずれちゃってますよね。」

 

「まあ、そうだけど、魔法に関する情報もいっぱいあるからそこは気にしなくてもいいかも。」

 

迷っていた。確かにカレッジとやらに行けば情報は得られるかもしれない。情報は絶対に必要だ。前にルーシィが名前を聞いただけで相手を縛れる妖精が居るって言ってたしそういう者の対策もしたい。けどこれを治したいとは思わない。むしろもっと魔法を知りたいと思うほどだ。

それならやっぱり、、、

 

「ジャックさん。あなたの知ってる魔法使いの住所を教えてくれませんか?」

 

「分かったわ。それがあなたの決めた道ね。ちょっと待ってて。今渡すから。」

 

ジャックが隣の部屋の引き出しを漁りにいってくれた。

 

「ありがとうございます。」

 

すぐ彼女は戻ってきた。手には紙切れを持っていた。

 

「はい。これ。ずいぶん遠いところの人だけど、信頼に足る人物だわ。」

 

受けっ取った紙を見て僕は目を丸くした。

 

「えっ!イギリス!?」

 

「そう。イギリスの魔法使いの一人彩りの衣(カラーズ)のエルダよ。」




セトはジャックに紹介された女性カラーズのエルダのもとへ向かうため準備を進める。その中で
家にいる爺やにある相談を受ける。
次回 魔法使いの嫁〜AnotherStory〜
「出発」


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第六話『出発』

若干のタイトル詐欺かも、、、
後、物語の時間軸が曖昧になっちゃたので訂正します。
この物語は現在本編の一年前です。


「気をつけてね。エルダには手紙を送っておくから。」

 

「ありがとうございました。次は約束通り貴女の”推し“のサイン付単行本用意しときますね。」

 

「楽しみにしとくわ!」

 

僕はお礼を言ってジャックの事務所を出た。

辺りはすっかり暗くなっていた。

 

(ここに来たのが四時前頃だったから、、、)

 

ざっと3時間はいたようだ。

 

(さて、帰るか。)

 

危うく歩いて帰るところだったが、すぐにポケットの石を思い出した。

 

(そうか、ルーシィが迎えにきて来れるから、、たしか、、、)

 

3時間前の記憶を掘り返しながら、

石を手に握り、地面を軽く蹴った。

 

すると、持っていた石は一瞬光を放ち、次の瞬間には。

 

「はい!おまちどうさま!」

 

目の前にはルーシィが立っていた。二度目の出来事であまりびっくりはしなかったが、正に魔法みたいだった、、、いや魔法だけど。

 

「早いですねぇ」

 

「その石には魔法をかけてあってね、特定の条件下でのみ石のある場所へ瞬間移動できるようになってるの。

それで、、、どうだった?」

 

一番気になるのはやっぱり、、、

 

「結局何が起きてるかはわかりませんでした。代わりに魔法使いを紹介してもらいましたけどね。」

 

ルーシィは少し驚いたような顔をして、

 

「へぇ〜てっきりカレッジに行くのかと思ってたけど」

 

と言ってきた。やっぱり僕の判断は珍しい例のようだ。

 

「他の三人はカレッジに行ったみたいなんですけど、

私の方は魔法寄りらしいので、やっぱり専門家に

聞くのが一番かなと、、、」

 

「まあ、それもそうね、、、それじゃ、帰りましょうか。家まで?それともあの路地まで?」

 

大真面目に彼女は聞いてきた。

 

「家って、、、しらないでしょ。路地まででいいですよ。」

 

「あら。私がなんで午後の時間忙しくしてたと思うの?あなたの家ぐらい調べたわよ。」

 

(怖っ!いくら惹かれるからって、、、怖っ!)

 

「え、えっと〜じゃ、じゃあ家までお願いします。」

 

そう言いながら僕はまた膝を折ってくれたルーシィの上に乗った。二度目ともなるとそう鈍くさくも無くなる。

 

「じゃあ行くわよ!しっかり捕まってね!」

 

「了解!のわッ」

 

再び世界が目まぐるしく変わっていった。そして十数秒後には家の前に着いていた。

 

「はい!到着ぅ〜」

 

「は、はやっ!」

 

「そりゃあセントールですもの!」

 

ルーシィの背から降りながら家を見る。相変わらず二人暮しには広すぎる家だ。

 

「しっかし、おっきい家に住んでるのね〜」

 

ルーシィはただ感心してるようだ。

 

「死んだ両親が残してくれたんです、、、今は従兄弟の資産の一部を任せてますけどね。」

 

「ふーん ま、あなたにもいろいろあるのね。さて、そろそろ私も帰ろうかしら。」

 

「そうですか、、、」

 

「なに寂しそうな顔してるの?今生の別れってわけじゃないんだから。また会えるわよ。」

 

「そうですね!それじゃお気をつけて!」

 

そう言って僕は手を差し出した。

一瞬彼女は戸惑ったが、趣旨がわかったようで、僕の手を握った。

 

(暖かい)

 

「ありがとう。じゃあまたね!」

 

するとルーシィはジャックの家の時の様に何処かへと消えっていた。

僕は家の門を開け、入っていった。なんだか数カ月ぶりに帰ってきた気分だ。

 

「ただいま」

 

だだっ広いエントランスに声が響いた。

声は帰ってこないが、僕の鼻腔を刺激するいい匂いがあった。どうやら奥で爺やが夕食の準備をしてるようだ。

支度を解いて夕食のテーブルへと向かう。見回せば使ってない部屋もあったりして人が住んでなきゃちょっとした幽霊屋敷だろう。テーブルは比較的小さい部屋にあり、いつも僕は爺やと一緒に食べる。父も母も使用人という考えを嫌ってたためか、爺やには家族のように接していた。僕もその影響を受けてか、同じように接している。昔から優しい人でよく昔話を聞かせてくれたっけな。

 

「セト様どうかなさいましたか?」

 

食べながら色んなことを考えていたら爺やに声をかけられた。気づいたら全然食べていない。これじゃあ余計な心配を増やしてしまう。

 

「いや、なんでもないよ。いつも通り美味しいよ。」

 

こう返したものの僕は再び口を開こうとした。すると

 

「それは良かったです。話は変わるのですが、」

 

爺やが話しをしだした。

 

「実は息子から手紙が来まして。」

 

爺やには24になる息子がいる。これまた気のいい人で結婚している。たしか2ヶ月前に子どもが生まれたような、、、

 

「家を手伝ってくれないかということでして、、、それで申し訳ないのですが、しばらくお暇をいただけないかと、、、」

 

なるほど。たしかにはじめての子育ては先達の 手助けがあった方がいい。それに好都合だ。たぶん、、、

 

「爺や。それは別に構わないけど、その手紙には’帰ってこないか?’って書いてあったんじゃないの?」

 

「えっ、、、ま、、まあそうなのですが流石に、、、」

 

僕はすかさずことばをはさむ

 

「いいよ」

 

「えっ!」

 

「いいよ。実は僕も当分この家を開けるんだ。管理はショウ兄もいるし大丈夫だよ。」

 

「そ、そうですか。ありがとうございます。」

 

「いや、別に構わないよ。それで、出発はいつ頃の予定なの?」

 

「一週間後には息子が迎えに来る予定です。」

 

「そうか、分かった。僕もその一週間後には出発する予定だから」

 

そう言うと爺やは不思議そうに僕の顔を覗き込んだ。

 

「そういえば、しばらく帰らないご予定とは一体?聞いてませんでしたよ。」

 

「ああ、そのことなんだけど、、、」

 

僕は頭を掻いた果たして真実を告げるべきか否か。

意を決して口を開く

 

「実は、、、今日、、、笑わないでくれよ、、、よ、妖精を見たんだ。というか見えるようになったんだ。」

 

爺やは顔をしかめた。絶対、頭おかしくなったと思われてる。そうに違いない。そう思って恐る恐る爺や次の言葉を待った。

 

「セト様そのお話はお食事が終わりましたら聞かせていただきます。」

 

帰ってきた言葉はそれだけで、その後はいたって普通の夕食となった。なにかまずいことでも行ったのだろうか、、、食事中爺やはずっと無言だった。

食事も終わり、片付けが済んだ頃僕は爺やに連れられ書斎へ向かった。父の趣味で神話の類の本が多く、母や爺やがよく読み聞かせてくれた。

爺やは机の前の籐椅子に座った。僕も向かい側の椅子に座る。爺やは僕に事のしだいを聞いてきた。僕が説明をすると爺やは何かを考え始めた。無が部屋を支配している。僕が口を開こうか迷っていると、爺やが、話を始めた

 

「昔、、、もう40年も前のことですが、、、」

 

爺やは今52なので彼が10代の頃だ

 

「妖精、、、その名に相応しい者たちを、私は見たことがあります。忘れられない。」

 

衝撃だったそれじゃあ、、、

 

「爺やが見える人だったなんて、、、初耳だよ!」

 

「見える人とは少し違います。おそらくあれは正午の時が見せた夢。」

 

「人に精霊が見える時間、、、」

 

「それはそれは美しいもので、幻として切り捨てることができませんでした。まさか、セト様に見える才がお有りであったとは。」

 

「爺やは信じてくれるの?こんな荒唐無稽な話を」

 

「 私も見たのですから疑うわけがありません。まして貴方を疑うわけがないでしょう?」

 

不意に涙が頬を伝った。最後の家族の言葉が胸にしみた

 

「ありがとう、、、爺や」

 

「さあ、今日はもう遅いです。お休みください。」

 

爺やに促され、僕は寝室へ向かった。




タイトル詐欺ですね。
次回予告
セトは家をでた。向かうはイギリス古より魔法の栄えた地
「彩りの衣のエルダ」


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第七話『彩りの衣エルダ』

ジャックの紹介を受けたセトはエルダのいるロンドンへ向かう

キャラ紹介
~ジャック~
小説版魔法使いの嫁金糸銀糸両編に登場する探偵
この物語は小説の物語の一年前なのでアレはいっしょにいない。
アニメなどのサブカルが好きで、好きな声優もいる。意外に欲につられるタイプ。


「今までお世話になりました。」

 

あれから一週間。あっという間に爺やは荷造りを終わらせ、息子の亮介さんが迎えに来る日となった。夜明け前の午前5時、すでに荷物は車に詰め終わり、家の前に止まっている。

爺やともこれが最後になるだろう。

 

「ああ。今までありがとう。元気でね。」

 

僕がそう言うと爺やは深々とお辞儀して車に乗り込んだ。

亮介さんは僕の方をちらりと見て軽い会釈をしてから車を空港へ走らせていった。

日が昇る。

太陽を背に走る車が見えなくなるまで僕はその場を動かなかった。

 

===========================

「あんなにあっさりしたお別れで良かったのかい?父さん」

 

空港へ向かう車の中。運転手は隣に座る父親に聞いた。

 

「家族というものは互いに言葉が無くとも想い合える。そう言うものだよ。」

 

「古臭い考え方だなぁ」

 

小さなため息が聞こえる。

 

「そうかもな。だがお前ともその位になれるといいな、、、」

 

「うん。楽しみにしてる。」

 

太陽を背に受け車は空港へ向かう。

===========================

 

日が昇る。

互いに新たな人生の1ページを迎えるに相応しい晴天だ。

 

僕が家に入ろうとすると後ろから聞き慣れた声が聞こえた。

 

「あんなにあっさりした会話で良かったの?長い付き合いなんでしょ。」

 

僕は振り向きながら答える

 

「家族ってのは、言葉がなくとも互いを思い合えるものなんですよ。ルーシィ」

 

そこにはあのセントールのルーシィが立っていた。

 

「なんか前時代的ね。嫌いじゃないけど。」

 

「ふ〜ん、それは良かった。で、貴女は何故ここに?」

 

「ああ!そうそう。ジャックから届け物を頼まれたの。」

 

「届け物?ジャックさんから?」

 

僕はあの日の記憶をたぐった、、、

===========================

「そうそう。」

 

事務所を出ようとした僕にジャックが声をかけた。

 

「推し以外に何か必要ですか?」

 

「必要なのは私じゃなくて貴方よ。一週間したらあるものを届けるわ。」

 

「あるもの?なんです?」

 

僕がそう言うとジャックはちょっと悪い目をして言った。

 

「密入国用の特別飛行機のチケットよ!」

 

なぜか楽しそうだ。

 

「えっ!どうしてエルダさんに会いに行くだけでそんな物騒なものが要るんですか?」

 

またしても恐怖を煽られてる気がする、、、

 

「まあまあ、そう怖がらないでよ。非公式の公式だから大丈夫よ。」

 

「非公式の公式?」

 

(矛盾してないか?)

 

「国や世界のトップの更に一部は、魔法の存在を知っている者もいるの。だから非公式の公式。エルダの元でなにかしらの措置を受けたとして、当分帰ってこられないかもしれないでしょ。イギリスの簡易ビザは6ヶ月しか持たないからそれ以上の期間が必要になったとき、いろいろな申請は面倒でしょ?」

 

「まあ、確かにそうですね。」

 

「そこで役立つのがこのシステム。カレッジに登録している魔法使いや魔術師限定で、ビザなしの移動ができるの。今回はちょっと特別だけど、行きと帰りのチケットを私が取っておくわ。」

 

カレッジ特権恐るべし、、、

しかしワープの魔術とかって無いのだろうか?それがあれば飛行機要らないような気もするが、まあ気にしないでおこう。

 

「ありがとうございます。」

 

「一週間で届けるからね。忘れないでよ!」

===========================

完全に忘れていた。

 

「あなた。忘れていたでしょ。」

 

ルーシィ、君の読心術に磨きがかかってるよ。

 

「わ、、、忘れてませんよ!ただ、貴女が届けに来たので驚いただけです。」

 

「ふーん 。私は基本こういう運び屋をしてるの、そういうことではいこれ。」

 

そう言ってルーシィは僕にチケットの入った封筒を渡した。

真っ白な封筒にはいまどき珍しい封蝋がしてある。

 

「ありがとうございます。ジャックさんにもよろしくお伝えください。」

 

「分かったわ。それじゃあね。」

 

そう言って、ルーシィはあの時のように光を放ったと思ったら消えていた。

 

「相変わらず、はしっこい人だ。」

 

さあ僕も家に戻ろう、、、

 

 

一週間。それはソニ○クのように過ぎ去るもの。

僕は今ジョン・F・ケネディ空港の特別ターミナルにいる。あの封筒にはチケットと飛行機の乗り方が書いてある手紙が入っており、その指示どおり行動したらいつの間にか辿り着いていた。しかしトイレが入り口とは、、、

周りに人の気配はなく寂しくアナウンスが響いていた。

 

9と8分の6ターミナルにお越しのお客様にご案内します。

ロンドン行5:30発1便のお客様のご案内を開始いたしました搭乗口4番でお待ち下さい。

 

誰もいないターミナルを進み四番口へ向う。そこから飛行機までは特に何もなく、指定どおり最前列の窓際に腰を下ろした。やはり誰も乗ってこない。 出発してからも人の気配はやはりない。 僕の孤独を満たすものは ポケットに入ったスマートフォンと ウォークマンだけだった。音楽を聴きながらチケットを受け取った次の日を思い出す、、、

 

===========================

 

「自分探しにイギリスへ行く!?しばらく戻らないから家の管理を頼むだぁ!?」

 

「うん」

 

大きな声を出している従兄弟のショウ・シラカワに若干押されながら返す。

 

「爺やも居なくなったししばらく空けることにしたんだ。構わないだろ、ショウ兄さん。」

 

「まあ、構わないが、、、一体何でまた突然?」

 

「色々あってね」

 

流石にショウ兄には魔法使いに会いに行くとは言えない。

 

「しかし、、、まっお前が決めたらな好きにしろ。家のことは分かった。気をつけてけよ。」

 

「ありがとう。切るね」ピッ!

 

あんまり詮索する方ではなくて良かったぁと思いながらもやはり不安だ。机の上のチケットがただの紙切れに見えてくる、、、

 

===========================

 

ロンドン・ガトウィック空港

19世紀まであった荘園が名前の由来の歴史ある空港だ。

頭で予備知識を反芻しながら飛行機から降りる。

いつの間にか誰もいなかった筈の飛行機には客が大勢乗っていた。

あれだけ魔法を見た今でもやはりその強力さに驚かされる。

空港を出てジャックのメモに書かれた住所へ向かう。ロンドン市内からずいぶん行った田舎の方でバスで3時間ぐらいかかった気がする。

 

(ふう、、、)

 

やっとの思いでたどり着いたエルダの家はすぐ近くに小さめな村と森のある場所だった。

空港の周りと比べればずっとおちついた場所で居心地のいい風が吹いている。

メモを片手に目的の家を探すと目の前に大きなバラの咲く庭が見えた。色とりどりのバラはその庭を持つ質素な

家を華やかにしていた。

 

「ここか、、、」

 

扉の前に立ち思わずつぶやきながらノックをする。心地良い木の音がした後、室内から何か小さいものが走り回る音がした。思わず首をかしげているとわきの庭から声が聞こえてきた。

 

「ごめんなさいね。ちょうど庭のハーブを見ていたところなのよ、、、あれ?あなたは村の人じゃなさそうね。」

 

どうやら魔法に携わるひとってのは美人以外いないらしい。

そこに立つ女性はどこか母性すら感じる美しさを持っていた。しかし一番感じるのは僕への警戒心だ。

 

「初めまして。私はセト・ナンブといいます。探偵のジャックさんからエルダさんって人を紹介してもらったのですが、、、」

 

警戒心を解くために口を開いたがなぜか固くなってしまい余計警戒させてしまった気がする。そんな心配をよそに女性はにこやかな笑顔で僕の目をまっすぐ見た。

 

「あら、じゃあなたがジャックの言ってた子ね。ごめんなさい。私はエルダ。巷では彩の衣(カラーズ)って呼ばれているわ。」

 

夏の日差しを受け僕の運命に新たな鼓動がやってくる




奇妙な運命
明かされる謎
そして生まれる新たな謎
セトは真理を求めある決意をする
次回『運命の謎』
謎が生むのは新たな罠


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第八話『運命の謎』

エルダの家に着いたセトはここで人生最大の分岐点に立つことになるが、、、


ネタが続かないときはなかなか進まないですごめんなさい。


「紅茶にする?それともハーブティー?」

 

「あっ、それじゃ紅茶を、、、」

 

まっててと言ってキッチンへ向かうエルダを見ながらエルダさんの家を見渡す。なんか外見よりデカイ?

すぐ目についたのは家を走り回る小さなうさぎだ。どうやら来客を知らせるための物みたいだが可愛らしく、その姿は本物と見間違う程のレベルにいる。これも魔法か、、、

 

「ここに来るまで特に何もなかった?」

 

紅茶を持ったエルダさんがやってきて聞く。

 

「いえ、特に何も、、」

 

咄嗟に嘘をついた。無駄な心配を掛けたくないという思いと面倒くさいと言う思いが僕の心に現れた。

 

「ホント?嘘言わないで!細かいことでもいいからしっかり話しなさい。」

 

突然の厳しい口調のエルダさんに僕は萎縮気味になってしまう、、、

 

「ごっごめんなさい、、、」

 

「どうしたの」

 

「あっ、いや、怒ったのかと、、、」

 

「半分正解。でもそんなに厳しい感じだった?」

 

自覚ないのかぁ〜こりゃきついぜ、、、

 

「そういえば、彼にも言われたな、、、気をつけてるんだけどなぁ。で、なにかあったんでしょ。」

 

あっさり今の会話が無かったことにされた気がする、、、だが

確かに何もなかった訳ではない。ロンドンに着いてから

 

「大したことじゃないんですが、ロンドンに着いてからずっと嫌な感覚がするんですよ。ほんの少しですけど」

 

「嫌な感覚?」

 

我ながらここまで確信の無いものがあるだろうか、、、

 

「なんかこう、、、言い表しにくいんですが、悪意と言うか、なんというか、、、この国に来てずっとなんですよ。妖精のイタズラですかね?」

 

エルダは僕の顔を覗き込みながらふ〜んと言った。

関心とも驚きとも呆れともとれるその声の真意を掴むのは難しい。

 

「やっぱりジャックの言っていた通り、凄い子が来たわね。」

 

「へ?」

 

思っていた反応との違いに思わず変な声が出てしまった。

こいういうのって恥ずかしいよね、、、

 

「そんな小さな物に気づくなんてねぇ。私達みたいにその土地に住んでる人間には到底気づけないようなレベルの物よ。ジャックから聞いたわ、センスのいい子が来るって。まさか卵が来るとわね。」

 

「卵?」

 

竜舌蘭の花(アガヴェ・エクネ)とも呼ばれてるわね。才能を持つ者の中でも、魔力の発現が極端に遅い者をそう呼ぶわ。」

 

「遅い、、、ですか?」

 

何歳で魔力を感知できるのがいいとかはさっぱり分からない。

 

(もっとジャックさんの元で聞いてくるべきだったかなぁ)

 

「ええ、遅いわ。普通なら物心ついた頃には目くらましを掛けてない隣人くらいなら見えるはずだわ。そう言うの今までなかったんでしょ?」

 

思い当たる節は一切無い、、、

 

「はい。あれ以外は今までありませんでした。」

 

「それならやっぱりあなたは特別だわ。まあそっちを詳しく話す前に聞きたいことがあるわ。」

 

「私のファーストコンタクトの事ですね。」

 

この話するの何度目だろう、、、

 

「この話するの何度目だろうって顔してるわね。何驚いた顔してるの。フフ、その位はわかるわよ。こういうのはやっぱり本人から聞くのが一番だから。」

 

読 心 術

 

僕は三度目の解説タイムに入った。話すことは変わらないが、相手の反応は別物だった。詳しく質問を入れ、複雑な表情で話を聞いていた。まさに真剣にというやつだ。

一通り話す頃には僕の喉に渇きがやってきていて、いい加減冷めている紅茶を一口飲みながら、エルダさんの反応を見た。

 

「ウウム、、、」

 

こういう反応もお馴染みとなってきた。しかしなんだか眠くなってきたな。疲れたのかなぁ

 

「ちょっと時間がほしいわ。考えを練る時間が。」

 

「そうですか、、、、、それ、、、じゃ、、、、、僕のしつも、、、んを」

 

疲れとはずいぶん回りがはやいなぁ

一気に眠くなってきた、、、エルダさんが僕の眠そうな顔を覗き込んでいる。

 

「それもいいけどあなた随分眠そうね。話は明日でもできるわ。取り敢えず2階の部屋が空いてるから。」

 

声にエコーが掛かって聞こえてくる、、、

エルダさんに手を貸してもらってなんとかベッドに辿り着いた所で意識が途切れた。

 

 

温かい日差しが顔を差す。目が覚めたら知らない天井だった。

下に降りるとキッチンからエルダさんが出てきたところだった。

 

「よく眠れた?」

 

にこやかな笑顔が気持ちのいい朝をより美しくしてくれる

 

「はい。おかげさまで。昨晩はご迷惑おかけしました。」

 

昨日会話の舞台となったテーブルには二人分の朝食がならんでる。

 

(なんか悪い気がしてきたなぁ)

 

「いいのよ。私もちょっと時間が欲しかったし、何より貴方、来たときすごい疲れ顔だったのよ。」

 

全く自覚がなかったが思えばそれもそうだ。飛行機で長距離を飛び、そこからここまでバスを乗り継ぎ。疲れないわけがない。

 

「ハハハ、、、顔に出てましたか」

 

(ぜんぜん笑えねぇ)

 

「まあ、取り敢えず食べましょう。冷めちゃうわ。」

 

最近はジャンクなものしか食べてなかったせいか、エルダさんの手づくり料理は見た目も味も鮮やかに感じる。

食べながらも昨日の話は続いてく。

 

「少し考えてみたけど、やっぱりそのローブが原因の可能性が高いわ。花が咲くにはそういう魔力的な体験が一番だからね。」

 

確信を持った声で言うエルダさんを見ながら質問を続ける。

 

「とすると、意図されたものだと?」

 

「断言はできないけど恐らくは。」

 

「はあ、、、あとさっき言ってた花ってのはアガ、アガ、、、」

 

「アガヴェ・エクネ?」

 

「そうそれです。そういうことですよね?」

 

「そういえばまだ詳しい話はしてなかったわね。そう、貴方の言うとおりよセトくん。」

 

初めて名を呼ばれた気がする。あれ?いつ名乗ったけ?

昨日の記憶が曖昧でしょうがない。

 

「いいわ。詳しく話しましょう。貴方の人生を大きく変えたその力を。」




運命を変えたその力 竜舌蘭の花(アガヴェ・エクネ)
エルダから説明を受けたセトはあることを希望するが、、、
次回ブッチャー最後の、、、あ!台本間違えた。
オホン
次回『竜舌蘭の花』

さて、どう戦いぬくかな?

誰だ!台本ごちゃまぜにした奴!


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第九話『竜舌蘭の花』

オリ設定の解説回と、、、



「確認だけど。昨日私が行ったこと覚えてる?」

 

昨日といえばおそらく卵発言の後のことだろうなぁ。

 

「魔力の発現が遅すぎるって話ですよね。」

 

エルダさんは うん と頷いて続けた。

 

「具体的に言うと魔力の発現ってのは普通なら生まれた時からしているはずって話なのよ。まあ遅くとも物心ついた頃にはってやつね。」

 

「え、、、それって!」

 

衝撃の事実か!?

 

「やっぱり覚えてないのね、、、物心ついた頃にはの下りは昨日話したわよ。」

 

あれれ?おっかしいぞぉ?

僕の若干間抜けな反応にエルダさん ため息出てるよ、、、

 

「はぁ〜まあそうなるわよね、、、それでね、つまり貴方は遅すぎるわけよ。あなた今いくつ?」

 

「ええと、じきに二十歳です。」

 

「やっぱり遅いわ。まあ過去に報告が無かったわけじゃないけどね。」

 

「前例ってやつですね!」

 

頷くエルダさんを見て希望が湧いてきた。ジャックは脅しまくってたからなぁ。

 

「はっきりした記録があるのは実験だけどね。今やったら虐待レベルのものよ。」

 

「人体実験ってやつですか?」

 

雲行きが怪しく、、、

 

「産まれてすぐほんとに間もない時に、親や魔力から離れた所で成長させるって言う実験。具体的には特殊な結界の中で育てて魔法や魔術、隣人との遭遇を避けるってもの。」

 

「親とも離れるんですか、、、」

 

子どもに選択の余地は無い、、、でもなぜそんな実験を?

 

「才能は親の遺伝が多いからね。接触は避けたいってわけ。それで実験は成功。あえて接触させた24まで一度も才能の発現は無かったそうよ。」

 

続けようと口を開くエルダさんに口を挟みたくなった。

何故、、、

 

「何故、そんな実験をしたんでしょうか?話を聞く限りメリットがないんですけど、、、」

 

「話は最後まで聞くものよ。」

 

その質問はお見通しって感じの口調でエルダさんは言った。

 

「確かにここまでの話だったらメリットは見当たらない。だけど、あなた自身はどうかしら?」

 

(自分自身?、、、アッ!)

 

はっとした僕の顔を見てエルダさんは満足した様子で続けた。

 

「そう。例の隣人に好まれやすい体質、、、夜の愛し仔(スレイベガ)と似た性質の能力。」

 

ジャックからも聞いたがやはり抽象的なところが多い。

 

「そうね、、、果物の熟成ってあるでしょ。採らずに置いておくとどんどん甘くなるって話の。あれと似た考え方よ。外界に晒されない魔力はよく練られ上質な物になっていくの。」

 

なるほど。ようやく魔術師達の目的が分かった。

 

「つまり、、、」

 

「そう!より良い魔力を求めた結果がその実験だったってわけよ。まあ昔は実験なんかしなくても一定の割合で遅咲きの人間はいたようなのだけど、記録は多くないわ。」

 

「結局は謎が多い能力なんですね、、、」

 

過去のことがわかっても、、、じゃあ僕は一体?やはりローブがなにかしたのだろうか?

 

「今回のあなたの場合は昨日も言ったけどローブの人間が怪しいわ。上質な魔力はだんだん周りにも分かるようになるから、何かの実験をしようとしたのかもしれない、、、けど」

 

エルダさんは僕の全身を見ている。確かに僕は何もされてないのだ。

 

「まさに断定はできないってやつね。私も本物の卵を見るのは初めてだからこれって事が言えないの。何か他に聞きたいことある?答えられる範囲なら大丈夫よ。」

 

ジャックのときよりは正確な情報だが、上質な魔力なんて話信じられない。

 

「今まで魔力と縁もゆかりもない生活をしてきた分なかなか信じられないです、、、僕がそんな強力な魔力の持ち主だなんて。」

 

この質問が来るのは分かっていたようだ。ニコッとしながらエルダさんは答えてくれた。

 

「フフ。自覚がないだけよ。なんせいくら隣人が見えたからって短時間で魔力の存在を呑み込みここまで来てしまうんだからね。その異常なスピードの理解はいい証拠よ。」

 

初めて気付いた!そういや僕がここまで来るのに一ヶ月経ってないのか!確かにルーシーと逢った時のことを思い返すと驚かなさすぎに思えてくる。やはりホントの事なんだろう。

 

「思い当たる節があるようだし。納得できた?」

 

「はい。あともう一ついいですか?」

 

「ええいいわよ。」

 

これは僕にとって最重要問題だ。

 

「私はこれからどうしたほうが良いですか?」

 

エルダさんの顔が突然曇った。

 

「あなたは何を望んでいるの?今まで通りの生活?自身の魔力を使う生活?どちらを選んでもそう悪くはないはず、、、」

 

「僕は、、、」

 

そんなの決まっている。

(だいたい普段の生活に戻ったらこの小説終わりだぜ。)

 

「僕は自分のこの力(魔力)使って世界を知りたいです。今までの生活じゃ絶対に得られない何かが欲しいんです!初めて隣人を見たとき、、、その、、、綺麗だったんです。美しいって思ったんです!この不思議な気持ちに正直に生きたいんです。だから…」

 

そこまで話すと間髪入れずエルダさんが返してきた

 

「それだったらカレッジかいい魔法使いを紹介するわ。」

 

「えっ?」

 

意外だった。てっきりこの人自身が受けてくれると思っていたが、、、

そういえばジャックからもらったチケットには手紙がついていた。

 

 

『エルダに会いに行く上で最低限は知っておくこと!トップ4

その1 魔法使いは基本長寿(百年くらいはわけないです)

その2 妖精のことを妖精って呼ばずに隣人とかお隣さんと呼ぶこと。(怒る妖精はほんとにキレる)

その3 魔法使いは別に杖がなくても魔法は使えます。

その4 カレッジにも魔法使いはいます。

それともおまけのその5…』

 

ついさっきまで忘れていたがや~っと思い出した。忙しいからってあの手紙を蔑ろにしてたぁ〜〜!

 

『その5 おそらくエルダは弟子をとりません。』

 

なんじゃそりゃぁぁ!

 




弟子になりたいセトと弟子を取らない一点張りのエルダ
果たしてこの行方は、、、

次回『魔法使いの弟子』


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第十話『魔法使いの弟子』

エルダは何故弟子を取らないのか?
真相が明らかに、、、


「エルダさんは弟子をとらないんですか?僕はてっきり貴方が…」

 

エルダさんの表情はあまりすぐれていない。

その質問が来るのはわかっていたらしいが来てほしくないみたいだ…

 

「え、ええ。私はとらない主義なの。今までも一回も弟子を取ったことはないわ。一緒に暮らすって気はないの。」

 

???僕の頭に疑問符が浮かぶ。

(なんで嘘つくんだ?別に”今はとってない”でいいじゃないか)

 

「嘘言わないでくださいよ。」

 

エルダさんがキッと僕を睨む

 

「嘘?そんなことなでしょ!そんな証拠ないでしょうに。それに…」

 

どうやらあんまり触れて欲しくなみたいだが、これ以上たらい回しはゴメンだ。

 

「僕が泊まったあの部屋。」

 

エルダさんはハッとした様子で開いた口を閉じた

 

「あそこにある物はよくよく見ると女物ばかりです。しかも若い人向けの化粧品もあった。古くほこりかぶってたのもあったけど、どう考えてもあなたの物じゃないんですよ。匂いも違うし。」

 

訝しげに僕の顔を除きながらエルダさんは

 

「匂い?」

 

と聞いた。

そういえば自分でもあまり意識してはいなかったが…

 

「いや、なんていうんでしょうか?感覚的なやつですよ。一番近い表現が匂いなんですよ。」

 

「まあいいわ。けど私に子供がいないとも限らないでしょう!」

 

思いの外『匂い』については深く言われなかった。

 

(感覚的な話は普通なのか、、、?だが今は!)

 

「子供?それこそありえないですよ。失礼ですが貴女、子供いないでしょう?妊娠してない。」

 

「それも匂い?」

 

「嘘の匂いですよ。もし居たとしても養子。だけどさっき人と一緒に暮らす気はないって言ったじゃないですか!もっとありえないですよね。」

 

ぐうの音も出ないようだ。やり過ぎた感はあるがまだ、、、

 

「匂いだけで思い込むのは困るわ!そ、そうよ。そんなの大した証拠にもならないわ!あの化粧品だって昔私が使ったものよ!」

 

反論をするエルダさんに余裕がないのは一目瞭然だ。

申し訳ないとは思っている。こう言うのが情けないし卑怯なのもわかってる。けど…

僕はゆっくりと腕を上げて暖炉の上の写真を指差す。

そこには2人の女性が写っていた。片方はエルダさんでもう一人はもう少し若い。2人には友人というよりは家族のような…そう言う雰囲気のある種の親密さがある。少なくとも僕には…そして

やはり、エルダさんに最後の一撃を与えたようだ。その表情は歪み、目が潤んでるようにも見える。

 

「その写真。気になってたんですよ。子供のいないあなたとまるで家族のように写るその女性…」

 

そこまで言うとエルダさんは手を上げ話を遮った。

 

「分かったわ。それ以上言わないで、、、私の負け。そう、その子は私の弟子だった子。そしてあの忌まわしい戦争で死んだわ。」

 

!!!

わかっていたはずだ。恐らく死んでいる。そんなことはわかっていたはずだ。けど、改めて彼女の口からそれを聞いたとき、僕の心は罪悪感で一杯になっていた。やはり僕は卑怯者だ。

 

「世界大戦ですね…」

 

「当時、魔法使いや魔術師を使った戦術も多かった。私の弟子もある作戦で魔術戦艦の機関室を担当することになったの。出発の日、私は出兵に大反対で、喧嘩腰で半ば追い出すようにしたわ。そしてそれっきり…終戦の直前、その子の上官が報告に来たわ。ドイツの特殊部隊との戦闘中に戦艦は轟沈、あの子は行方不明者になった。ってね。」

 

部屋にシーンとして冷たい空気が流れている、、、

僕の生まれる前のことだ。きっとこの人は後悔苦悩の日々を過ごしてきたのだろう。

 

「僕は。」

 

なんとか頭に浮かぶ言葉を口にする、、、

 

「僕は戦争を知らないで生まれ、育ちました。けど、、、大切な人がいなくなる悲しい気持ちは分かります。」

 

「何を、勝手に、、、分かる。なんて、そんな言葉で言えるものじゃないのよ!」

 

当然だろう。戦争で誰かが死ぬ気持ちなんか分からない。

だけど

 

「僕の両親は5年前、交通事故で突然死にました。はじめ爺やからその事を聞いたとき、何を言ってるのか分かりませんでした。今朝まで一緒だった人が、つい数時間前まで喋ってた人が、しかも実の親が、、、理解には随分かかりましたよ。」

 

「………」

 

エルダさんは無言でこちらを見ている。

不思議な表情だった、、、悲しみと憐れみと同情と怒りとが混ざったような、いやそれとも。

 

「それとこれとは違うわ。」

 

冷たく言い放った。どうしても僕を失望させたいらしい。

そうやって自然に出て行ってくれれば、自分も相手も苦しまないと思っている。そうに違いない、、、

 

「僕は、どこにも行きませんよ。」

 

「…!」

 

「ジャックは、僕が魔法を知りたいと言ったときに、真っ先に貴方を僕に紹介しました。弟子を取らない事知ってたのに。」

 

「あの子らしいわね…」

 

遠い目でエルダさんは返す。

 

「僕の目的は魔法をより知ることです。だから、あなたに教えてほしいんです。僕の生き方を!」

 

これ以上、これ以上

 

「僕はもうひとりはヤダ…わがままだけど、それでも僕はどこにも行きませんから!だから、、、ウッ…ウ…」

 

なんで泣いてるんだろうか、、、ただただ孤独が怖くなってくる。

 

「………あなたってズルイわね。これじゃあ、私は泣けないわ。」

 

「…えっ?」

 

腫れた顔を上げて目を見る。

 

「そんなに無理しなくていいのよ、、、私はあなたに道を示せるかは分からない。けど、もう一回だけ、一緒に弟子(ひと)、暮らすのも悪くないかもね…」

 

「じゃ、じゃあ…グスン」

 

エルダさんは僕の顔をに手をあてながら

 

「いいわ。貴方を私の弟子とします。だから…泣くのはもうよしなさい…」

 

そう言って涙を拭ってくれた。

ああ、あったかい…

「よろ…しくおねがいします。エルダ先生」

 

「こちらこそよろしく。えっと」

 

「セト。でいいです。」

 

「よろしくね。セト。」

 

その日の夜僕は泥のように眠った。

(まだ、ひとりじゃなかった。)

その喜びに浸りながら。




ちょっとゲスいセト君になっちゃいました、、、
子供っぽいのは、、、まぁ言わずもがなですね。

次回「新しい日々」


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第二章【接触編】
第十一話『新しい日々』


前書きに書くことなくなってきたorz


「セト!そろそろおきなさい。朝食できてるわよ。」

 

ドンドンと扉を叩く音が聞こえる。

柔らかい布団。清々しい空気。清らかな朝日。

すべてが僕の新生活を祝福しているようだった。

 

「はい!今行きまぁす。」

 

時計を見ると朝の6時。夜型不健康生活20代にはちょっときつい時間だ…

寝ぼけ気味でそのまま部屋を出ようとすると先生の声が帰ってきた。

 

「着替えるのが先よ。下で顔洗ってその後朝ごはんだからね。着替え大丈夫よね?」

 

もちろんと言いたいとこだが、今日の分はともかく実際着替えは2、3日分しか持ってきてなかった…

なんで持ってこないかなぁ〜

 

「はい!とりあえずは大丈夫です。」

 

寝ぼけがまだ抜けないのか若干変な回答にも思えるが、先生はそのまま下に降りていった。

ゆっくりと体を起こし、着替えて下に降りて顔を洗う

 

(これルーティン決定だなぁ)

 

キッチンへ向かうとすでに食事は昨日のテーブルに並んでおり、先生が待っていた。

 

「おはようございます。先生」

 

「おはよう。セト…フフフ」

 

返事をするなり先生が笑っている。

 

「どうかしました?」

 

「いや。なんてことないけど、また先生って呼ばれるとはねぇ。って」

 

ああ、なるほど…

 

「70年くらい呼ばれてないもんだからちょっと可笑しくてね。」

 

第二次世界大戦からもう70年以上経っている。

アメリカや日本では夏に向けてその話題でいっぱいだろう。

 

「あら。ごめんなさい。早く食べましょう。冷めちゃうわ。」

 

僕は席に付き食器を手に取った。

今日の朝食はスクランブルエッグにサラダ。あっさりめの野菜スープにトーストだ。

 

(なんかこんな時間にちゃんと朝ごはんなのって久しぶりだなぁ)

 

「久しぶりなんでしょ?ちゃんとした朝ごはん。」

 

図星です!

 

「は、はい、、、アハハ…どうしてまた?」

 

「その眠そうな顔が物語ってるわ。日頃の生活のリズムがグチャグチャなのね。けど、弟子入りした以上は、しっかり整えてもらうわよ!」

 

「げっ…」

 

「げっじゃなくて返事は?」

 

「は、はい、、、」

 

トホホ…

そんなこんなで食事も終わり、話題は今日の事へ変わっていった。

 

「食器かたしましょうか?」

 

なめたような皿を重ねながら、僕が聞くと

 

「とりあえず流しに入れておくだけでいいわ。あとでちょっと見せたいしね。」

 

とニコッとしながら先生は返した。

見せたいものとはなんのことだろうか?考えていると、

 

「ところで今日なんだけどね、どっちにするか決めたいのよ。」

 

「どっちと言いますと?」

 

なんかわくわくしてきた。どんなことでも今の僕なら楽しめるだろう。

 

「家や、近いとこの村、それから今後の生活についてを確認するか、」

 

(そいつはいい!)

 

「ちょっと街へ出て諸々を買いに行くか。どうする?」

 

(ウ~ン甲乙つけがたい…)

 

流しの前で考えていると、先生はこっちに来て、

 

「まあ、洗いながらでも決められるわね。」

 

と言い、洗い物へ向かおうとした。

 

「あ!僕やりますよ!これでも家では家事は分担だったんです。」

 

先生はフフッと笑いながら脇に立つ僕を見つめる。

きれいな目だ…ずっと見ていると吸い込まれそうな…

栗色の髪もつややかだ。そもそも先生はそこら辺の女性じゃ勝てない程の美人だ

(ああ…きれいだなぁ…)

 

「食生活の改善は髪質の向上にもなるわよ。で、セト。そんなに見つめないでよ、ちょっと恥ずかしいわ。」

 

「あっ!ご、ごめんなさい!」

 

思わず見惚れてしまった。

しかし僕ってこんなにも表情に出るものなのか、、、

どうりで、爺やが僕の考えることをすぐ当てられたわけだ。

 

「大丈夫よ。それより食器だけどね、手伝ってくれるのは嬉しんだけど、せっかくだから魔法を使って洗おうかなって。ちゃんとしたのはまだ見てないってジャックから聞いたけど?」

 

思えばここまで、ルーシーの使っていたもの以外、つまり人が使う魔法をちゃんと見たことがなかった。

 

「よくまあ、見もしないで弟子入りしようと思ったわね…」

 

先生はハッとしてる僕を見ながら少し呆れ気味になっている。そして流しに向かって手をかざした

 

「それじゃ行くわよ、しっかり見ときなさい。」

 

「は、はい!」

 

「さあ、美しいお隣さんたち、少し力を貸してね。」

 

そう言うと先生はなにかブツブツと唱え始めた。

アメリアで英語を聞いてもう何年も経つが、今更になって聞いたことない単語がいくつも出てきて、何を言ってるからよくわからなかったが、大まかに''水へ働きかけてる“のだけはわかった。

そうこうしていいる内に、不思議な感覚が僕を抜けていった。

暖かく懐かしい、けどまったく新しい…ただ一つ言えることは、気持ちの良いものだということ。

更に、よく見ると先生の周りに光る色のついた糸のようなものがいくつも現れ、彼女を包んでいくのが分かった。

 

「糸?いやこれは…」

 

(むしろ光!)

 

「やっぱり見えるのねこれ。大したものよ。これは私の魔力の結晶とも言えるもの、一種の性質。人によるけど、私の魔力の性質は色や光に関連しやすいわ。」

 

そうしていると、先生は光の糸の一本をそっとつまんで流れから引き抜いた。糸は少し空中を踊ったあと、洗い物へ向かい消えていった。一瞬強く光ったと持ったら消えてしまっていた。先生の周りの気配と糸も消えていた。

 

「まあ、こんなものね!こういうのも久しぶりだわ。」

 

「えっ?もう終わりですか?」

 

水や石鹸に使われた形跡も無いし、食器だって積まさったままだ、、、

 

「あせらないでよく見なさい。」

 

早とちりする僕に先生が釘を刺す。すると

 

カチャ

 

えっ、、、

 

カチャカチャ。ジャー。ガチャカチャ。

 

ひとりでに食器やスポンジが動き出し何もしてないのに水が出てきた。

 

「す、すげぇ…」

 

思わず声を漏らすと、先生はどこか得意そうに

 

「ま、こういうことよ。」

 

と言った。

魔法の凄さはルーシーに見せられていたが、それとは全く違う性質の、いわば【人間の魔法】。

やっぱりきれいだ…

感動している僕に先生が、そうそうと付け加えた。

 

「魔法っていうものは神聖でかつ身近であるものだけど、一番は自分自身で動いて働くこと!こんなことに毎日使っちゃダメよ。今日は特別なだけだからね。」

 

「無駄に使うなと」

 

「そうね。まあ遊び半分で使う方が駄目だけどね。それから…」

 

タッタッタッ!

突然話に割り込んでくる影が現れた。

 

「あっ!この間のうさぎ!」

 

そう。割り込んで来たのは初めて僕がこの家に来たとき家の中を駆け回っていたうさぎのぬいぐるみだった。

近くで見ても良くできているように見えるがどこかデフォルメされており、可愛らしい。

 

「そういえばまだ紹介してなかったわね。この子は来客を知らせたりしてくれる門番のフィル。ある魔法機構(マギウス・クラフト)に作ってもらったものなの。あっ!マギウス・クラフトは魔法使いの技師みたいなものよ。かわいいでしょ。」

 

「はぁ…確かに可愛らしいですね。」

 

とりあえず魔法で動くものなのはわかった。

カワイイのは否定しない。

ん?来客用?

 

「そうね。誰か来たのね。」

 

ドンドン

 

言ってる間に扉をノックス音が聞こえる。

 

ガチャ

 

「どちら様?」

 

そう言いながら先生が扉を開けると、そこには一人の男が立っていた。茶色っぽい髪に眠そうな目。神父のような牧師ような曖昧な服を着ている。

 

「やぁ!エルダさん。お久しぶり!」

 

馴れ馴れしく手のひらを上げながら挨拶をするその男を見た途端、先生の顔がちょっとめんどくさそうになってまたもとに戻り次に笑顔になった。

 

(そんなに嫌いなのかぁ…なんなんだこの人?)

 

「あ、あらサイモン!久しぶりねどうしてこんなとこに?エインズワースはいいの?」

 

「まさか!?そんなかんたんに神のご一筆は得られないよ。今日はちょっと急用でね。合間を縫って飛んできたんだ。なんせこの辺の教会の代表が風邪こじらせちゃってさ…ん?」

 

男は先生の後ろを覗き込む。もちろん目当ては僕だ。

 

「こいつは失礼。お客さんがいたのか。それじゃまた…」

 

「待ってサイモン。いいのよこの子は。」

 

そう言って先生はサイモンと呼ばれた男を引き留めた。

不思議そうな顔をしてサイモンさんが聞く。

 

「いいのって彼は一体?」

 

一拍空いた後に先生は少し声を大きめにして言った。

 

「私の弟子よ。セトって言うの。」

 

「ふぅん。セト君ね。うんうん。弟子ねぇ………へっ?はっ!?で、弟子!?」

 

サイモンさんは3度見してる。

澄ました顔で言った先生をみて。僕をみて…先生をみて…

よほどびっくりしたらしい。

 

「そうよ。弟子。いけない?別に監視してるわけでもないでしょ。それであなた何しに来たのよ?」

 

完全にペースを飲み込まれているこの人は驚いた様子を隠せないようだが、やっと用事を思い出した。

 

「あ、ああ…そ、それでちょっと我々では手が出せない問題がいくつかね…」

 

はぁ…とため息をつきながら先生は扉を大きく開けサイモンさんを迎い入れた。

 

「話は中で聞くわ。ほら入って。」

 

「それじゃ。お言葉に甘えて。」

 

そう言って入ってくれば自ずと先生の後ろにいた僕の前にやって来ることになる。

サイモンさんは僕を多少は不思議がって見てはいたが、

 

「はじめまして。僕はサイモン教会の神父兼牧師だ。ええっと…」

 

サイモンさんは手を差し出しながら困った顔をしている。

 

「私の名前はセト。セト・ナンブです。よろしくおねがいします。」

 

僕はそう名乗りながら笑顔で手を握り返した。




そういえば、前回セトくんはぼっちであることを強調していましたが、正確には親の愛情がって話です。
やっぱり爺やは爺やの立場を崩さなかったんですね。


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第十二話『2つの手紙』

日常編って言っていいのかな〜?
(そもそも魔法使い日常って何?ハリー○ッター読んでもあんまわかんないよ!)


「それで…用事っていうのはこれなんだ。」

 

家に上がったサイモンさんはテーブルの上に5つの手紙を置いた。

別に魔力も感じられないし、ただの手紙のようだ。

先生はその一つ一つを手に取り読み始める。

 

「少し待って。今読むから。」

 

「ああ。構わないよ。今回は厄介なものも多くてね…」

 

「あ、あの…」

 

話が途切れたところでサイモンさんに声をかける。

先生は熱心に手紙を読んでいる。

サイモンさんは正面の先生からその脇に座る僕へと目を向けた。

 

「ん?なんだい?」

 

「サイモンさんもこれ見えるんですか?」

 

最近はあまりに見えすぎて普通になってきたが…家の中にはよくわからない生き物が飛んでいた。羽の生えたカエルのような…トカゲのような…ドラゴンって感じよりサンショウウオって感じのやつだ。きっと妖精…もとい隣人の一種なんだろう。しかも僕の肩がお気に入りらしく、この2日位でよく乗るようになっていた。まあ先生も何も言わないし、かわいいから別にいいが…

そんな生き物を指して聞く。ここに来た時点で彼が見えている可能性は高いが…

 

「ああ!もちろん見えるさ。まあだからって魔法や魔術が使えるわけじゃないけどね。ほんとに見える程度さ。」

 

そう返すサイモンさんの顔は少し寂しそうではあった。

 

「昔からそう言うものはよく見えたんだ。親が熱心な人でね、そう言う意味では彼らには嫌われてはいたが、子供心にこんなに美しいものがみんなに見えないのはもったいない。なんて思ったものだよ。」

 

「怖くなかったんですか?」

 

聞いてから思ったが、変な質問だ。この数週間一度も怖いなんて思ってこなかったのに…突然、他人に見えないことが不気味に思えてきた。

さすがにこの質問には手紙を読んでいた先生も顔を上げた。

 

「怖くなかった。といえば嘘になる。とても不気味ではあったよ。けど僕の住む街には魔法使いが住んでいてね。いろいろ教えてくれたんだ。彼らへの接し方。簡単なおまじない。そうしていくうちに、恐怖を感じることは減ったね。ただ…」

 

彼の表情が少し曇る。

 

「ただ…ごくたまに。どうしようもなく。孤独を感じることはあったよ。」

 

「他人に見えない。これが如何に孤独か…教会へ行くまではそういう日もあったね。その点、君は幸せ者だ。」

 

 

「えっ?」

 

「どういった経緯かは聞かないが、エルダは必ず君の良き理解者になってくれる。」

 

「サイモンおだてても何も出ないわよ…」

 

あれ?ちょっと照れてる?

 

「なぁに。ホントのことを言ったまでさ。ハハッハハハ」

 

笑顔で先生に返すサイモンさんにさっきの曇り顔はなかった。きっと彼が言いたいことはそういうことなのだろう。

 

しばらく雑談をしていると、先生が5つの手紙を読み終わった。

 

「サイモン。あなたの…つまりあなたがた教会からの依頼はわかったわ。前の一件もあるし…そうねこの2件だけ受けてあげる。」

 

そう言って先生は二つの手紙をサイモンさんに渡した。

 

「2つだけかい?まあ…確かに残りの3つは急ぎではないけど…」

 

サイモンさんが先生の受けた依頼を確認しながら続ける。

思っていたほどではなかった。ということだろう…

先生もここは譲る気がないらしい。キチッとした座り方からよくわかる。

 

「こっちもセトがいるしあんまり危険な物事や、遠出するわけには行かないの。」

 

言い訳にされた気もするが本人にその気はないようだ…

 

「あっ…もしかして、僕のせいですかね…」

 

少し心配になった。ゆっくりサイモンさんの顔を見ると、意外にもそこには笑顔があった。

 

「そんなことは断じてない。神に誓ったっていいさ。君のせいなんてことはないよ。そんなに周囲に気を使っておどおどせず、もっと君らしさを前に出していいんだ!そうだろエルダ。」

 

隣に座る先生もまた微笑みながら

 

「そうよ。もともとこれ全部は受ける気はなかったし。あなたが気を使うことでもないわ。」

 

と言って、彼に同意した。その言葉に嘘はなかった。

 

「はい…ありがとうございます。」

 

ちょっと場が落ち着いたところでサイモンさんが椅子を立ち

 

「さて!それじゃそろそろおいとましようかな。それじゃ!手紙の一件頼んだよ。」

 

と言って机の上に先程の二つの手紙を置き出口へ向かった。

 

「そう。気をつけてね。」

 

玄関まで見送りに来た先生が声をかける。

 

(僕も…)

 

「あ…あのー」

 

「ん?どうかしたかい?」

 

「あ、いえ………今日はありがとうございました。」

 

まっすぐとまえをむき、頭を下げた。

 

「ハハ。そんな固くしなくていいよ。こっちこそ。今日は楽しかった。そうだ!最後に君にいいことを教えておこう。」

 

何か思い出したかのようにサイモンさんが止まった

 

「なんでしょう?」

 

「魔法使いとして行くのなら、薬をつくるといい。僕もある魔法使いに助けられててね。魔法使いの作る薬は秘薬と呼べようものとなる。君もきっといい魔法使いになれるよ!それじゃ!」

 

そう言ってサイモンさんは帰っていった。

 

「なんか、明るくていい人でしたね。」

 

「そうかもね。けど胡散臭いのは相変わらずってとこね。」

 

さて…

 

「今日は予定変更!この依頼の話と…取り急ぎあなたに魔法道具が必要になったからそのアポ取りと…これは忙しくなってきたわ!」

 

元気よくしている先生を見ていると、僕自身もなんだか楽しくなってきた。

 

「まあ、まずはこの二つの手紙を説明するわ。」

 

再びイスに戻り先生は手紙を広げだした…




手紙の内容は如何に?!

ちなみに残りの3つの行方は皆さんよくご存知だと思いますよ!


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第十三話『最初が肝心』

なにこの日常ラブコメ漫画みたいなタイトルは。


「これが受けた依頼の内容よ。」

 

そう言って先生は机の上に例の手紙を広げた。

一枚目には

 

『教会関係者の魔法使い失踪。黒き森に単身調査に向かいその後消息不明。行方不明者名「キリド・フェーン」依頼内容:行方不明者の捜索。本案件の責任者「サイモン・カラム」』

 

二枚目には

 

『魔術品販売会において非合法品「ドラゴンの天鱗」が出品。依頼内容:その真偽の調査と確保。本案件の責任者「キリド・フェーン」』

 

とある。

うーむ。わからんワードも多いがそんなに難しいことは書いてなさそうだ。確実に一つわかることは1件目と2件目に関連性がありそうな事だけだ。

首をかしげる僕に先生が解説を入れる。

 

「キリドってのは私の知り合いよ。マギウスクラフトで、前に壊れたフィルを直してくれたことがあったの。今は教会に出入りしていたらしいんだけど。見ての通り行方不明。そんなやわな子じゃないし、無謀なことはしない性格だから何かあると見ていいわ。そして、」

 

一息おいて続ける

 

「その関係ある一件はおそらく2件目の違法取引ね。ドラゴンの素材は取り扱い注意やドラゴンの命に関わるような物も多いから、基本は、カレッジか教会や素材の持ち主本人。つまりドラゴン。あとは管理人からの取引のみが認められているの。で、ここにある魔術品販売っていうのは、そう言うの無視した裏取引で有名なところなの。」

 

いきなり()()()()話だ。先生の話は終わったところで僕も口を開く。

 

「とすると、」

 

「その販売会の調査に絡んでキリドさんなる人は事件に巻き込まれた可能性がある。と?」

 

先生は頷き

 

「そう。そしてその販売会は一週間後よ。調べるにも時間がないし、一回そちらに行ってみるしかない。」

 

といった。

 

「僕も行きます!」

 

こんなにこの世界のことがわかるチャンスはない。しかしおそらく駄目だろう。さすがに素人の僕でもその危険さがわかる。

 

「だめよ!」

 

やっぱりか…これはコッソリ行くしか…

 

「と言いたいところだけど。そういってコッソリついてこられても困るし。私から離れない。絶対言うことを聞く。これを守れるなら来てもいいわ。それでも危険だけどね。」

 

心を先回り、、、

完全に読まれていたが許可はもらえた。

思わずその場でガッツポーズをとっていた。

 

「はい!約束します。」

 

「ホント?まったく…口だけじゃだめよ。」

 

呆れながらも先生はどこか楽しそうだ。やっぱり…

 

「けど行くとなったらいろいろ準備がいるわ!物事はじめが肝心だからね。今手紙で知り合いのマギウスクラフトに貴方に必要なものを頼むわ。明日はその人に合うために、ロンドンへ向かうわよ。」

 

それでもいくらなんでも無理がある!

 

「先生。それだと手紙届く前に僕らそこに行くことになりません?」

 

今日は安息日。集荷は明日だ。しかもここからロンドンまでは随分ある。速達でも明日中は怪しい…

僕の心配は先生には全く意味をなさない。先生はにこにこしながら

 

「それはもちろん、()()()()()()()そうなるわよ。」

 

と言って手紙をサッと書いてしまった。

今まで万年筆も持っていなかった筈なのにいつの間に?!

 

「驚くのはここじゃないわよ。ほら!」

 

先生の言うとおり。驚くのはここからだった。

先生が窓を開け、書いたばかりの手紙を外へ向けたかと思った瞬間

 

バサッ!

 

手紙が鳥になっていた。いや正確には鳥の形になり羽ばたいていった。だ。体は紙のままだったし、生きている訳ではなさそうだ。しかし…

 

「な、なんと、、、」

 

今日は驚かされてばかりだ。

 

「これで今日中には届くわ。それよりも私達にはやることがあるのよ。絶対に外せない大きなイベントが。」

 

???

一体なんのことだろう。村の方の案内や裏の森の探索ではないのは明らかだ。

 

「一体なんのことです?大きなイベントって。」

 

フフフ。先生がまた小さく笑った。初めて会った時より優しく感じる。どこかいたずらっぽさも…

 

「それはもちろん・・・」

 

おお!ここで溜めてきたよ…

 

「セト。あなたの初めての魔法よ!」

 

なるほど!・・・ハッ!

 

「えっ!」

 

「えっ!じゃないわよ。魔法使いの弟子になったんだから当然でしょ。それにその人にあった魔具はその人の魔法見て決めることも多いわ。」

 

確かに弟子である以上当然ではあるが、さすがにちょっと唐突過ぎてびっくりした。だが。

 

(やっとだ!ついに僕も…)

 

その驚きもすぐ大きなワクワクに流されていった。

これで僕も魔法使いへの道を一歩進める!

希望に満ちた僕を先生は包み込むような瞳で見つめていた

 

「何事も最初が肝心。さあ!行くわよ。」




日常ラブコメ漫画要素なかったわ…


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第十四話『結晶の魔法』

魔法使いってのはどうも最初にやることが一緒のようです。(妄想)


人間いろいろな場面で緊張ってのをする。

試験を受けるとき。好きな人に告白するとき。小さい子供だったら注射を打つ時だって緊張する。

そして今、僕は人生最大の緊張を迎えている。

 

「さあ、これを持って。」

 

後を追って隣の部屋に行くと、先生は手にきれいな蒼の結晶を持ってまっていた。

結晶を受け取るとこれがただの石じゃないことが分かった。

「わかる?それは簡単な練習用の石だけど、使用者の魔力に反応して自在に形を変えるのよ。」

 

どういう性質かまでは知らなかったが、触れた瞬間。何かが石へ流れていくのを感じた。この’なにか’が魔力なんだろう。

使用者の魔力に反応する、か。それで…

 

「具体的にどうすればいいんですか?これ。」

 

確かに魔力の流れは感じたが結晶に変化はない…

 

「別段なにかするってわけじゃないんだけど、それを持ったまま好きなものでも思い浮かべてみなさい。その結晶ならその程度でも変化が起きるはずよ。空気は熱い水、自分は圧力、その中で水晶が成長するって感じよ」

 

好きなものって。んな…ちょっとテキトー過ぎやしませんかね?

 

(好きなもの)

 

「楽しかった思い出でもいいわよ。要は印象深い出来物事ってことよ。」

 

「印象深い、、、ですね。」

 

(印象深い、、、好きなこと。なんだっけ)

 

結晶の効果もあってか過去のことが鮮明によみがえっていく、、、

 

 

ずいぶん前だが、家族で旅行に行った。いつだったか覚えてないがまだ僕は小さかった。

 

「ほら。セト。きれいでしょ。」

 

「うん!ママ、これなあに?」

 

「その花はポピーっていうのよ。小さくて、可愛らしい、、、ほんとにきれい。ねぇ、あなた」

 

「ああ、来てよかったな」

 

とびとびの記憶だがそこだけははっきり覚えている。

そういえばあれ以来家族旅行なんて行かなかったな、、、

そう、あそこは、どこか、丘のような、、、アメリカのどこかの花畑での思い出。

最後の父の言葉がなぜかはっきりとよみがえったきた。

 

「そういえば、このポピーの花はヒナゲシとも言ってな、いたわり、思いやり、陽気で優しい、なんて花言葉があるらしいぞ。」

 

「フフッあなたにしては珍しいわね。そんなこと知ってるなんて。」

 

「これは心外だな。一体何だと思ってるのやら。」

 

「けどこの子がそんな風に育ってくれれば、、、」

 

『明るく、元気な子に、、、』

いい子に―――

 ――――――――――――

  ―――――――――――――――――……

 

ドンっ!

 

突然!体に衝撃が走った。

それと同時に何かが体の中へと大量に流れ込んでくる、次第に体が沈み込むような感覚に陥っていき。

何が起きたのか考える間もなく、ぼくは記憶の波の中にもまれて行く。そして、、、

 

―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―

様子を見ていたエルダは驚きを隠せなかった。確かに魔法は奇跡だ。だが決して万能ではない。

 

「まさか、これほどまでとは、、、」

 

目の前に立つセトの手にあったはずの結晶が、どんどん肥大化しているのだ。その上魔法の輝きも増している。

気づけば足元まで結晶が侵食しており、セトに近いところからポピーの形をした結晶が、生えてくる。

こんな異常事態なのにセトは目をつむったまま一向に気づかない。声も何度かかけているが反応がない。

 

「このままじゃ。セト!」

 

エルダは弟子の身の危険を察し、結晶の中心、もといセトのいるところへ慌てて飛び込んだ。

飛び込んだエルダの指先がセトに触れ、彼の体がバランスを崩したその瞬間。

 

「あっ!」

 

彼女の手に電気が流れるような痛みが走った、すさまじいスピードで体から何かが流れ出るような、、、

すると部屋は暗くなり、セトの魔力もパタンと止まって感じられなくなってしまった。

 

バタッ

 

セトの体が崩れ落ちる。急いで駆け寄ると気絶をしているようだ。

 

「こんなことになるなんて、、、」

 

(とりあえず片づけは後にして、セトを部屋に)

 

小柄とはいえもう20にもなる男を女性が運ぶのは重労働だが、

魔法を使おうにもさっきの電撃が原因なのか魔力が安定しない。

仕方なくエルダはセトを抱えてベッドの部屋まで運ぶのであった。

セトが気絶している間何を見ているのかも知らずに、、、、




全部一緒になるとこだった、、、
てかほぼ一緒だね。


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特別編「キャラクター紹介その1」

増えてきたキャラ紹介回~


【名称】(性別)[所属]:説明

 

【セト・ナンブ】(男)[魔法使いエルダの弟子]:日本生まれアメリカ育ちの19歳。今年で20になる。誕生日は 10月25日でさそり座、血液型はO型。好きなものは猫とイチゴ。嫌いなものは虫。

卑怯なことが嫌いと言ういかにも主人公みたいな性格だが、実際は臆病で気弱な奴。優柔不断で女に弱い。涙もろく情に流されやすい、、、こいつ良いとこあるのか?

竜舌蘭の花(アガヴェ・エクネ)という特殊体質であり、とある魔術的体験により魔力を認知することとなった。

現在は探偵ジャックの紹介で魔法使いエルダの弟子として生活している。自身の性質もあって非常に練度の高い魔力を持っておりスレイ・ベガのように妖精たちに好まれやすい。しかし、その為か力のコントロールを上手くできていない。数年前に両親を事故で亡くしており、家族と呼べる人物はいとこのショウ・シラカワと長い間家に使用人として働いていた爺やしかいない。

 

【ルーシー】(女)[???]:大昔に大陸へ渡ったセントールの一族の末裔で、活発的で明るい性格の持ち主。

普段はセントールらしく運び屋をやっているが、ひょんなことからセトと出会う。信仰や呼び名についてはあまり気にしないタイプらしく、セトに「妖精」と呼ばれてもあまり怒っていなかった。アポなしでセトにジャックを紹介したりなど、職業柄顔は広い。セトの魔力に惹かれぎみだが、はたして魔力にだけなのか、、、

 

【ジャック】(女)[なし]:アメリカのマンハッタンで事務所を構えている探偵。表向きの仕事と裏向きの仕事の依頼数は互いに半々だとか。住んでいる事務所は所謂そういう人向けのもので、普通アポなしでは会えない。てか、最近は忙しらしくあまり事務所にいない。探偵らしく洞察力、記憶力、に優れており、まず後先考えないで行動することはない。ただし、アニメが絡むと別である。声優の推しがいるほどのめり込んでおり、それ関係の話となると、前が見えなくなる。ラリーという取り替え子(チェンジリング)の片割れと一緒に暮らしている。

魔法使いの嫁金糸編 銀糸編 の両編に登場する人物

 

【エルダ】(女)[なし、てか所属そのもの]:周囲からはカラーズと呼ばれている魔法使い。見た目は30代前半といったところだが、お約束で顔と年齢は合っておらず、第二次世界大戦中はもう弟子を取るほどだった。

知り合いが多くカレッジや教会から頼みごとを持ち込まれることもしばしば。昔は旅をして回っていたらしいが、今はイギリスの田舎町のはずれに住んでいる。二つ名の通り魔法を使うと周囲に鮮やかな色の糸のようなものが現れる。戦争で弟子を亡くしているためか、新しい弟子を取ることには否定的だった。セトに昔の弟子を重ねて見ている。

魔法使いの嫁銀糸編 の作品「ナチュラルカラーズ」の登場人物

 

【サイモン・カラム】(男)[教会]:教会上層部からあることを命ぜられている、神父兼牧師。宗教的に考えるとふつうあり得ないのだが兼任している。魔法使いと教会の橋渡し的なことをやっていることが多い。喘息のような持病を持っており、ある魔法使いから定期的に薬をもらっている。うさんくさい

 

そういえば、、、ジャックも言ってたけどセトと同じ日に同じ能力を持った人がほかに3人いるらしい、、、




キャラ紹介、、、次はいつかなー
まだまだ増えるしどんどん複雑に、、、


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第十五話『夢追い人』

あんまりオリ設定を増やしたくないので悩みどころ、、、


「私は反対よ!そんなもの行くだけ無駄死にするだけだわ!」

 

女性の声が聞こえる、、、怒ってる?

 

「いつまでもそんなこと言ってられないんですよ。魔法使いが参加すれば戦争もすぐ終わります。この重苦しい生活も終わるんです。だから」

 

もう一人言い争う声が聞こえる。視界がだんだん明るくなってきた、、、ここは

 

(先生の家、、、?)

 

そうだ。ここは間違いなく先生の家だ。

しかも玄関、扉の前だ。だけど…

 

(なんか全部が少し違う…新しいのか?)

 

「先生これは…」

 

僕の先生への言葉は伝わっていなかった。分かる。存在が認知されていない。それに一向にこっちを向かない。

しかも、匂いも変だ。一部のものからは気配も魔力も感じない。まるで…そこに’無い’のに’有る’かのように。

そうこうしているうちにも二人の話は進んでいく。

先生の相手の女性には見覚えがあった。それと同時に確信した。

 

(あぁ、そうか。ここは記憶か。先生の)

 

眼の前にいる今まさに家から出ようとする女性。

あの写真の女性だ。先生の弟子だった。

説得は難航しているみたいだけど。

 

「私は人殺しのための魔法は教えた覚えは無いわ!」

 

「けど…ドイツはすでに魔術師や魔法使いを戦争に投入しています。ここままでは!」

 

「あの司令官の受け売りで、どうにかなるとでも?」

 

「けど、先生」

 

「もういい!」

 

アッ…

今なにか。変な感じがする。その先を言ってはいけない。そんな気がする。

 

「もう。私はあなたの先生じゃない。出ていきなさい。そして、二度とここへは来ないで!」

 

言ってしまった。それは止めることのできない。運命だった。

弟子である女性はショックと言うよりも、ただただ、悲しい顔をして扉を開けた。

いけない。それ以上進めば…その扉を開けてはいけない!

(きっと戻れない。)

だが届かない。僕の声も思いも。

 

「今までありがとうございました。」

 

それだけ言って、たったそれだけ言って女性は扉を開け、

進んでいった。外の光が入って目がくらむ。悲しい背中をしたまま彼女は光の中へ消えていった。

先生の方を見ようとしたが、何故か動けない。外の光はどんどん強くなり、視界がぼやけていく…

 

「光が…ひろがって…」

 

ーーーセー

 

誰かが呼んでいる。

 

ーーーセト!

 

そうか…先生の声だ…

 

「セト!」

 

目の前に木の天井が広がっている。

ぼやけた視界に先生の顔も映っている。

どうやら僕はベッドの上らしい。

先生は心配そうに見ている…

 

(そりゃあ、あんなことがあれば二度目はやだな…心配もするか。)

 

「先生…僕は?」

 

不思議と達観した感じだが、状況が理解できているわけではない。例の水晶持ってからの()()()の記憶は曖昧なままだし。

 

「あなたの魔法が暴走をして、それを無理に止めさせてもらったわ。そうしなければあなたは今頃水晶の中よ。ごめんなさい。」

 

やはり…コントロールできたとは思えなかったし。

 

「謝らないでくださいよ…僕の力不足の結果ですから!」

 

ニコニコして返すとやっと先生の表情が明るくなった。

 

「そういってもらえると少し気が楽になるわ。だけど、流石に危険だった。そこは私のミスよ…」

 

そこまでヤバいのだろうか?

そんな僕の疑問はやっぱり顔にでたらしく。

 

「日本ではこう言うのを百聞は一見にしかずっていうんでしょ。立てる?」

 

そう言って手を差し伸べてくれた。

 

「フフッ。」

 

「ありがとうございます。」

 

先生の手を借りてベッドから起き上がった。温かい手からは優しいものが流れ込んでいた。ん?流れ込む?

 

 

「そういえば…実は。」

 

危うく伝え忘れるところだった。普通忘れるようなものではないんだが…

起き上がったまま。脇の椅子に座る先生を見る。

先生は再び心配そうな顔に戻っている。

 

「どうしたの?」

 

「眠っていた間のことだと思うんですけど…」

 

僕はその奇妙な夢の話をした。悲劇の記憶を。人の記憶を追った夢を。




本来の夢追い人ってのは妄想や夢ばかり見て現実から離れてしまっている人のことを指すようですね。魔法使いも一般人からみたら夢追い人なのかもしれない。


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第十六話『夢。目覚めて。』

人には個性がある。個性は時に自身を殺す。


「そう。見たのね。」

 

先生は静かにそう言った。

すべて話した。夢の中での出来事。見たもの聞いたものすべてを…

先生の反応は思ったよりあっさりしていた。まるでわかっていたみたいだ。

 

「あなたが見たのは私の記憶。間違いないわ。そして…」

 

先生は一息おいて僕へ向き直り、続ける。

 

「そしてそれこそが、あなたの魔力の性質。」

 

「魔力の性質、ですか?」

 

新しい用語登場の瞬間である!

 

「そう。人間の魔力ってね、性格みたいに人それぞれに特徴があるの。」

 

「ある人は、炎に関係していたり、ある人は水、ある人は風、ある人は色…ある人は、、、心」

 

「心…」

 

それで、、、匂いを感じるようになったのはそういうことか。

 

「魔法使いである以上、性質の出現はごく普通のことだわ。おそらく初めての魔法で顕著に出たのね。」

 

まあ、特別心配する必要はなさそうだ。

 

「ただ、問題ないってわけでもないわよ。」

 

心配する必要があるようだ。

 

「私はこの色が性質だから、問題にはならないけど、あなたの場合は心、まして記憶や感情に直接リンクしてしまうとくれば、魔法を使うだけでなく、握手すらも一苦労になりかねないわ。」

 

確かに、現に自分の記憶に捕まりそうになっていたわけだし、、、相手に触れたりするたびに記憶や感情がわかるのは話しづらくてかなわない。

 

「えーっと、、、何かしら対策はあるんですよね?」

 

先生の顔色はすぐれない、、、これはまずいぞ。

 

「うーん。まあもとからあるものだからね…そうそう押さえつけて良いわけでもないし。彼女に追加の依頼が必要ね。」

 

「彼女って誰です?」

 

「えっ?ああほら言ったでしょ。魔法機構(マギウス・クラフト)の」

 

そういえば、今回はその人に合うために魔法を使ったのを忘れていた。

 

「まあ、彼女に言ったからって確実に解決できるかはわからないけどね。」

 

結局は行ってみないと始まらないわけか…

 

「まあ、追加で手紙を送っとくわ。それじゃあそろそろ行きましょう!」

 

???最近どうも忘れっぽい。大きなイベントが重なり過ぎなのかもしれないが、疲れてるのかなぁ…

 

「百聞は一見にしかず。って日本では言うんでしょ。あなたがさっきやった魔法の結果を見に行くのよ。」

 

「あっ。そういえばそうでしたね。わかりました。ん?」

 

起き上がろうとしてるのだが、体に違和感がある。なんか足の上に乗っかって重い。

 

「はっ?なんだよぉ。」

 

みゃ~

 

「・・・ギャッ!」

 

不意打ちにもほどがある、、、なんで今まで気づかなかったんだ…僕の足の上に乗っかっていたのはなぜか’みゃ~’と鳴くサンショウウオだった。いやサンショウウオもどきかな?ぶっちゃけどうでもいいけど。

 

「プッ。なんで今まで気づかなかったのよ。アハハハ。」

 

これには先生も大笑い、って先生がこんなに笑うのはじめてみた。とは言っても付き合いめちゃくちゃ短いけど。

先生がひとしきり笑ってる間に、渦中の生物を持ち上げてどかした。

 

「寝てる人の上に乗っかるなよな。お前。わかってるのか?」

 

にゃあ〜

 

あーわかってないわ、これ。

やっと自由になった足をベッドから降ろす頃には先生も落ち着いたみたいだ。

 

「ハハハ、ハハ、はぁ…もう、久しぶりに笑わせてもらったわ。もう大丈夫ね?」

 

聞きたいのはこっちの気もするが気にせず立ち上がることにした。

先生も立ち上がり、わざわざドアを開けてくれた。

 

「あっ。ありがとうございます。」

 

扉をくぐると何が問題か分かった。

 

「あー。そういう」

 

「わかったでしょ。百聞は一見にしかずってね。」

 

後ろから先生が顔を出した。

 

例の部屋から蒼い塊が溢れていた。ドアからそのまま廊下に流れ出ている…

はぁ〜派手にやっちまったなぁ~

 

「ホント、派手にやったわね。けどこれだけじゃないわ。部屋覗いてみなさい。」

 

嬉々としてそう言う先生。こっちは、ハラハラドキドキだ。

(一体これ以上何をやらかしらというのだろうか…)

不安にかられながら僕はゆっくりと部屋を覗いた




切り方が段々と雑なことになっている気がする


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第十七話『石切蜂』

伸ばして延ばしてのばしまくってやっとの登場!しかし、某大海賊アニメのように出てくるのは後の方なのです(泣)
しかも進んだようで、会話が多いから進まない…少し会話を減らしたほうがいいけど、どうすれば…


蒼い

 

最初の感想は正直それだけだった。

 

部屋には’あの’はなばたけが広がっていた。ひなげしの花でいっぱいの丘。記憶の中の一幕がそのままそこにあった。部屋のものを押しのけて出来上がったその光景は息を飲むものってやつだ。しかもそれだけじゃない。もし花畑だけだったらそんなに驚かなかったかもしれない。

 

「父さん…母さん…」

 

記憶そのまま。あの中で見た両親の姿がそこにあった。

正確には結晶のままだったし、動いてるわけでもない、色も蒼いし。だけど、そうであっても、今にも動き出しそうなほど記憶のそれを忠実に再現していた。

 

「どう?大変なことになってるでしょ、って聞いてる?」

 

目の前の全てに感動して周りに気が向かなかった。自分がやったはずなのに…

足元には道も出来上がっている。

一歩踏み入れてみると、

 

ザクッ

 

土の触感も本物みたいだ!見た目は結晶なのに、踏んだ感触は間違いなく土だ。

気づけば先生が後ろから大きな声で話している。

 

「私があなたの性質が記憶や感情、つまりそれにつながる心だと思ったのはこれが理由よ。私があなたの方へ飛び込んで触れるまでの一瞬ですべてが出来上がっていたわ。」

 

確かに、その証拠に父さんと母さんがいるところは先生がはじめに立ってた場所だ。流石にこれは自分が恐ろしい…

 

「あの、やっぱりこれって普通じゃないんですかね?」

 

「ええ…普通の魔法の域は超えているわ。だってほら、」

 

そう言いながら先生はひなげしの花へ手を伸ばした。

 

プツッ

 

そんな音を立てていとも簡単にひなげしは摘まれた。

 

「ねっ?この音なんか、本物そのもの。それに見て」

 

僕の花の真ん前に蒼く透けてるひなげしがやってくる。

先生の指で支えられたそれは、ほんとに摘まれた花のようだった。軽い手の振動や風で頭をフラフラさせ、花びらは繊細なまでに薄く、ほのかに香りまでする。

もはやこれは結晶じゃない別のものだ。別のなにかになってる。

 

「完全に結晶としての性質を失っている。もはや別物ね。」

 

「すごいですね」

 

「あなたがやったのよ、自覚ないでしょうけどね。」

 

そう言われても…さすがにこれは自覚できないよ。

それで…

 

「それで、、、これどうします?」

 

先生はキョトンとしてこっちを見ながら言った。

 

「どうって、片付けるのよ。」

 

手にはハンマーと箒

(意外と物理的…)

 

「ほら、これで砕いて。」

 

渡されたハンマーは正真正銘ただのハンマー

あー。これは重労働…まあ自分でまいた種なんだけど。

 

「ほら、ぼっとしないで。そんなに硬くないから。」

 

先生はすでに砕き始めてる。

僕も…っ!

 

クシャ

 

ん?

ハンマーを花へ振り下ろすとまるで踏み潰されたようになった。

よく道端でクシャっとしてるあれだ。確かに柔らかいが、柔らかさの方向性が違う。

もしやと思い他の花もやると、同じように潰れただけだ。

 

(そうか。結晶が形を変えた物とおなじ硬さになっているのか。)

 

まあ、さっき先生のやった通りなら確かにそうなのだが…

ということは…

今度は力いっぱい地面にハンマーを打ってみる。

案の定こっちが痛い目を見た…

 

「先生!これ砕けませんよ。地面は硬いし、花は潰れちゃうし」

 

(あっ、潰れる分にはいいのか)

 

先生は手を止め顔を上げた。

 

「砕けるわよ。セト、あなたそれを’’花や地面だと思って’’叩いてるから砕けないのよ。そうね…あなたの魔力が結晶を勘違いさせたって言えば分かるかしら?」

 

うーん。いまいちわからない。

 

「まあ簡単に言えば、それを結晶だと思って砕けばいいの。変化させた当人が勘違いを気づかせなくちゃ。まあ勘違いってのは例えの話だけどね。」

 

結晶と思う。か…

先生はすでに’両親’の結晶を崩し始めている。

いや、人の形を模した結晶ってのが正しい。のか…

そう思って再びさっきの地面に取り掛かると

 

パリンッ!

 

事はあっさり進んだ。そこにあるのは砕けた結晶だけだ。

とは言え部屋中いっぱいの結晶。終わった頃にはお昼はとうに過ぎていた。

 

(ふぅ~)

 

片付いた部屋を眺めながら達成感に浸っていると。

 

「お疲れさま。ちょっと遅いけどお昼にしましょう。」

 

先生が声をかけてくれた。ん?お昼…いつ作ってたんだろう?

 

僕が遅い昼食を取っている間、先生はさっき摘んだ’結晶のひなげし’を追加の手紙と一緒に出していた。

これまた不思議なもので、花は形を崩すことなく封筒に入れられ、また鳥もどきの手紙と飛んでいった。

 

(アレ、早くできるようになりたいなぁ)

 

「そうね、便利だから今度教えてあげるわ。とりあえずあなたの目下懸案事項は魔力のコントロール。物が揃ったらすぐ練習を始めるわよ。」

 

あの〜この家で心のプライバシーは何処に行ったのでしょうかね…

 

「先生!すぐに人の心読んで会話しないでくださいよ。」

 

「えっ!?そんな高等なことしてないわよ。」

 

「えっ!?」

 

「えっ!?」

 

あれまびっくり。

またしても顔らしい少し気を付けてみよう…

 

「あっ。それよりこのあとはどうす…」

 

ドサッ!!!

 

食べ終わった僕の目の前に大きな音と共に本の山が登場した。

 

「そうね。今日はこれ。」

 

「は、はぁ…」

 

「あげるから、自室へ持っていって。簡単なまじないの本と、隣人たちの本。図鑑って言うよりは神話や昔話よりだけどね。あとは、薬草の本。ひとまずはこれでいいでしょう。」

 

これまたいっぱいの教材でございます…

 

「わ、わかりまひた…」

 

「別に今実践って言ってるわけじゃないのよ。下手に、『ちょっと練習。』とか言って知らないとこで魔法を使われたらたまらないもの。」

 

(ハァ…信頼ないな…)

 

翌朝、起床時間6時20分。なかなかいい感じだ。

支度を済ませてダイニングへ向かうと、ちょうど先生が皿を運ぼうとするところだった。

 

「おはようございます。あっそれやります。」

 

「おはよう。ありがとう。じゃあお願いするわ。」

 

朝食の話題はもちろん今日行く所の話だ。

 

「その、アンジェリカさんって人はどんな人なんですか?」

 

「日本では’’百聞は一見にしかず“っていうんでしょ?」

 

「なるほど、わかりました。」

 

納得しきっていない僕を見ながら先生が笑った。

 

「別に悪い人ではないからあってみてのお楽しみってことよ。」

 

家を出て、バスに乗り、列車に乗り換え一時間半…

初めて来たときより随分早くロンドンについた。

 

「やっと着きましたね。」

 

「そうね。あれ?セト、それはどうしたの?」

先生は伸びをしている僕の腰のかばんを指差している。

正確にはストラップみたいにぶら下がってるルビーのことだ。

「これは…母の形見です。事故のとき身につけてたらしくて。ネックレスなんですけどね。」

 

手にとって先生に見せながら話した。

 

「お守り代わりみたいなもんです。」

 

「そっか、ごめんなさいね。」

 

「いえいえ、大丈夫ですよ。」

 

ホントに大丈夫だ、むしろ気づいてくれて嬉しいくらいだ…

 

 

「ここよ。アンジェリカの店は。」

 

先生に連れられたどり着いたそこは、ごく普通の建物だった。街なかにあるなんの変哲も無い。ただ1つ気になるのは、どう見てもやってそうには見えないってことだ。

 

しかしそんなのお構い無しで先生は扉を開けて中へ進んでいった。こっちはキョロキョロしっぱなしだ…

 

すると奥の扉が勢いよく開いて奥から女性が出てきた。

バタン!って大きな音にビクッとなったのは秘密だ…

 

「あらいらっしゃい!速かったわね!」

 

「久しぶりねアンジェリカ!」

 

「ってことはその子が?」

 

先生にアンジェリカと呼ばれた人は、グイッとこっちに顔を寄せて言った。なんか…美人なんだけどそれ以上にカッコイイ感じの人だ…雰囲気がガッシリしてる。アンジェリカさんはそのまま僕に手を伸ばした。

 

「はじめましてセト君。私は魔術機構(マギウスクラフト)のアンジェリカよ。よろしく!」

 

「よ、よろしくお願いします。」

 

手を握り返し、顔を上げると

彼女の瞳に映る自分がひどく小さく見えた。




活動の長期休業に入ります、しばらく掛かりそうなので、まあそんなに期待しないで待ってて下さい!


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第十八話『赤い想い』

タイトルヤバそうですが全くヤバくないですw
アンジェリカさんの旦那さんって意外に元気なタイプかなって思いました



通されたアンジェリカさんの作業場は見たことない道具や材料がいくつもあっていかにもって感じがしていた。

まあいわゆる作業場ってのを見るの初めてだけど…

 

「見るのはいいけどむやみに触るんじゃないよ。」

 

「アッ!はい」

 

キョロキョロしてる僕にアンジェリカさんが声をかけた。

そういや今日は僕がメインで来たんだったよな。しっかりしなきゃ

 

「エルダが寄越した手紙のものはほとんど用意できてるわ。問題は…」

 

彼女の手には例の花があった…

やっぱり一筋縄では行かないらしい。

 

竜舌蘭の花(アガヴェ・エクネ)…下手すれば夜の愛し仔(スレイベガ)より珍しい存在だからね。ここまでの物をほぼ無意識で完成させてしまうほどの魔力を抑え込むのは難しい。いや、できることにはできるけど、かなり制限が強くなってしまう。とりあえずいくつか用意はしてみたから試してみて」

 

アンジェリカさんの手元にはいくつかの指輪があった。

 

「指輪…ですか?」

 

「手は体と外界を繋ぐ重要な部分。そこを押さえれば影響を与えやすい。とはいえそれは普通の話。ちゃんと水に入れないと枯れちゃうような結晶花作るようなレベルにどこまで効くか…」

 

バックを脇において指輪一つ取った。

きれいな銀色で目立った装飾のないシンプルな作りだ。

結構こういうの好きだな。

早速右手の小指に付けてみた…

 

「どう?ちょっと手を貸して」

 

アンジェリカさんが僕の手を見てみるも顔色は良くない。

 

「うーん…普通ならこれで無駄遣いは抑えられるんだけど。

ほんとに雀の涙くらいしか変化がないわね。どうするか………ん?」

 

[この子の魔力は相当のものね…エルダがあんな手紙を書くから期待はしてたけど。正直私の予想を遥かに上回っている…]

 

「アッ…」

 

「なるほど…これが意志とは別に他人の心を読んでしまうって言うやつね。」

 

手が触れただけで今アンジェリカさんが何を考えているのか分かった。彼女の内の声がはっきりと聞こえた。

 

「ご、ごめんなさい!けど、止め方がわかんなくて…」

 

慌てて手を引いたが結局記憶まで覗いてしまった。

 

ーーーーーー

 

「私達の…子供。」

 

「なあアンジー。名前は決めたのかい?」

 

「もう決めてるの。アルシアってどうかしら?」

 

ーーーーーーー

 

『アンジー!今度こそ僕と…』

 

『・・・・』

 

 

『だ、だめかい…?』

 

『フフッ。そんな弱気じゃいいものもだめになるわよ。』

 

『えっ?』

ーーーーーーー

 

幸せな家族だ…

 

「そう。確かに私は幸せものね。」

 

「本当に、ごめんなさい。」

 

「そんなに落ち込まないで。今いいこと思いついたから。」

 

うつむく僕の手を取りながらアンジェリカさんの目線は僕のバックへ移っていた。けどわかるとても優しい匂いがする。ちょっと尖った人かもと疑ったのは間違いだったようだ。

 

「何か…得策が?」

 

先ほどまでの反応では望み薄だが…

 

「ええ。あなたその石はどこで?」

 

彼女が指したのは例の母の形見のルビーだった。

 

「母の形見ですが…それが?」

 

「お母さんお優しい方だったのね。」

 

それを手に取りながら彼女は続けた。

 

「誰かを守りたい。助けたい。このルビーには想いがこもっている。普通のどこでも手に入るルビーだけど。この想いは手に入らないわ。想いは魔力を持って宿っている。これだわ…」

 

「あの…全くわからないんですが。」

 

話しにちょっと置いてかれてるな…

 

「要はこのルビーに込められた力があなたを守ってくれる。これこそ今の貴方に、魔力のコントロールにまだ慣れていない今のあなたにピッタリのものってこと。それに余計な加工もいらなそうね。」

 

死の間際まで母のつけていたあまり飾り気のないネックレス。なんだかんだで手放せず、ずっと持っていた。血を吸った宝石だ。と言われたこともあったが気にならなかった。なるほど。これが愛のなせる技と言うやつか…

アンジェリカさんは僕にルビーを渡してくれた。

 

「ホラッ。これをここじゃなくて、首にかけないさい。心臓の上っていうのは手以上に意味を持つ場所だからね。多分そうしていれば極度に相手の(ナカ)を覗くことは無くなるはず。って聞いてる?」

 

母さん…

 

結局アンジェリカさんの説明はあまり入ってこなかった。僅かな記憶の中で生きる母に想いを馳せることが自分にできる数少ない感謝。なぜだかそう思えてしょうがなかった。手に握るルビーが少し暖かかった。




遅れると行ったなあれは嘘だ![不定期です!


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第十九話『準備万端?』

接触編最終回!あんまりそれっぽい内容でもないですが、一応ココが一旦の区切り。


部屋の外で待っていた先生のとこに顔を出した。

先生はいつの間にか小さい女の子と話をしていた。

一緒に椅子に座ってる。

 

「エルダさんは魔法使い何でしょ?弟子はいるの?」

 

「ええ、ちょうど最近できたわ。」

 

「いいな〜先生なんだ!」

 

無邪気な笑顔を見せる女の子に思わず笑みがこぼれた。アンジェリカさんと同じ雰囲気がする。おそらくさっき観た記憶の娘さんだろう。

 

「先生っていうのも大変なのよ。あっ!セト。終わったみたいね。」

 

僕に気づいた先生は立ち上がって女の子と二言三言交わしてからこっちに来た。

女の子はニコニコしながら別の扉に入っていった。

ん?今僕、地味にスルーされたような…気のせいかな?

 

「早かったわね。それで、どうだった?」

 

「それは…えーと。アンジェリカさん。なんて言えばいいんでしたっけ?」

 

「そうだね〜今回は偶然と言うなの必然ってやつだね。つまりーーー」

 

専門的なことは全くわからない僕に代わってアンジェリカさんが説明してくれた。大雑把に言えば強い想いは物体に力をもたせる。とのことだ。

 

ーーーーーーーー

 

「なるほどね。あのルビーがね、良かったじゃないセト。」

 

「ん?あっハイ。」

 

いけない。ボーッとしてた!

 

「大丈夫?」

 

様子を見ていたアンジェリカさんがニヤニヤしながら言った。

 

「そりゃあ、他人の心を意識しすぎてあれだけ神経すり減ってたんだから疲れが出てくるのも当然ね。これで落ち着くと思うわ。」

 

なるほど。そういうものなのか。てか何故ニヤニヤしてるんでしょうかね〜?

 

「それにしてもあんたたち親子みたいね。」

 

ニヤニヤの理由判明

 

「おっ!親子ですか!?」

 

意外だな…そう見えるものなのか…

 

「もう。何言い出すかと思ったら。茶化さないでよ。」

 

ん?なんだか先生はまんざらでもないご様子…

やっぱりぼかぁ子供なのかぁ〜?

アンジェリカさんも察したようでやっぱりニヤニヤしたまま。

 

「セト君。まあほら。頑張りな!」

 

全くフォローになってないんですが…

 

魔法使いってのはそういうの上手いんじゃないのか?ほら、話術とか色々さ…

 

ーーーーーーーーーーー

 

魔法使いといえば

 

「そういえば。アンジェリカさんも魔法使いなんですか?」

 

「ええ。そうよ。それがどうかしたの?」

 

ちょうど二人もいるし聞いてみたいことがあった。

 

「いや。ちょっと気になったんですけどね。今この世界に魔法使いってどのくらいいるんですか?」

 

先生は僕がこの質問をするのは意外だったようで、ちょっと驚いている。一方アンジェリカさんは納得した顔で見ている。

 

「やっぱり自分のいる立場ってのが気になるんでしょ?」

 

おお!アンジェリカさん大正解〜!

 

「へー。今の子ってそういうこと気になるのね。」

 

先生はあんまり気にしないタイプなのか。

 

「いやいや。エルダ。気にしてないのあなたくらいよ。絶滅寸前の自覚あるのかね。」

 

「えっ!」

 

絶滅…寸前?確かにそこらじゅうに転がってるものじゃないけど。

 

「絶滅ってそんなに少ないんですか?」

 

二人とも頷いている。マジか…

魔法使いが減少の一途を辿る理由…それを先生が答えてくれた。

 

「世界大戦の話は前にもしたでしょ。」

 

それはもうよく覚えている。間違いなく先生の人生を狂わせた出来事だ。

 

「あれでたくさんの魔術師や魔法使いが死んで…ただでさえ生まれる数の少ない魔法使いは極端に減ってしまった。」

 

 

「さらにいえば、魔法使いってのは長生きなせいかどうにも子供を作ろうとしない。これは昔からなんだけど、絶滅への道に拍車かけてるんだよね。」

 

アンジェリカさんが補足を入れてくれた。

結局どこかしこにも戦争の影がちらついている…

 

「そっか…絶滅寸前か。」

 

「ま、そんなに気にするものじゃないわ。そんなの騒ぐのは学者たち位だもの。」

 

まあ確かに日々の生活には関係ないか。

 

「確かに。そうですね。ありがとうございます!」

 

アンジェリカさんはなにか思いついたような顔をしていた。

 

「それじゃ、ありがとねアンジェリカ。そろそろ行くわ。」

 

「ええ。追加の分はあとから送るから。ほらッ。セト君!」

 

そう言って入口の前でアンジェリカさんは大きな袋を渡してくれた。中にはなんか色々入ってる。

 

「ほんとは一個一個説明したいんだけど。珍しく仕事がいっぱいでね。簡単な説明書入れといたわ。何でも学院(カレッジ)御用達の魔法機構(マギウスクラフト)が消えたとかでさ。物騒だよね。」

 

同業者なわけで、娘さんもいるしでやっぱり心配なんだろうな…

 

「その消えた魔術機構を探すために大急ぎであなたのとこに来たのよ」

 

消えた魔法使いキリド・フェーン。それにはおそらく闇取引が関係してる…正直先生が言ったとおり新人の僕が首を突っ込んでいい代物ではない…ただ、興味はある。めちゃくちゃ興味津々だ。闇取引とか興奮するじゃんか!(これだから子供扱いなんだろうな…)

 

アンジェリカさんは驚いた顔して僕を見てる。そりゃあそうだわ…

 

「まさか、噂の市場にこの子連れてくの?初めての家族旅行には向かないわよ。」

 

先生はそんな事は百も承知といった表情だ。

 

「けど、弟子なったばっかりの子を置いて行くわけにもいかないでしょ?この子だってなんだかんだでじき二十歳よ。それに私もいるし。」

 

なんだかんだ…

 

「まあ、それなら止めはしないけど…セト君、気をつけてね。」

 

「はい!今日はありがとうございました!」

 

店を出ると昼過ぎになっていた。近くのレストランで適当に昼を済ませて、僕らは帰路に就いた。

帰りの列車で袋の中を見ると、見たことない素材で出来たものが色々入っていた。

メモによると

・海鋼岩のナイフ

鳴神鳥(サンダーバード)の羽の外套

火山蜥蜴(サラマンダー)の皮のベルト

・蛍石のルーペ

だそうだ。あと下の方にさっきの指輪がいくつか入ってる。

もしもの時の予備だそうだがもしもの時って一体…

 

先生に用途を聞きつつ日暮れ前には家についた。

明日からは忙しくなる。あと実質4日で最低限の魔法のコントロールを身に着けなければならない。販売会は5日後。失踪者も出るような一件だ…慎重にならなくては。

 

僕は不安と期待の混沌の中眠りについた…




アンジェリカさんが絶滅寸前ってワードに興味を持った理由は原作でわかりますよ。(アンジェリカさんは何となく名乗りに捻りを入れたかったって設定です。)

次回からは疾走編です!失踪じゃないです!!w


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第三章【疾走編】
第二十話『罪の取引』


最初のタイトル候補は『潜入×取引×(あともう一個なにか)』でしたが
流石に面白くないのでやめました…
あと私はまだコミックを9巻までしか持ってません。
その先を知らないのでコメでのネタバレはご遠慮ください。またそのせいで、学院編の内容に突入するのは随分あとになる予定です。(しっかり読み込んでから書きたい…)


通りに市が開かれている。さばかれている品はどれも危なそうなものばかりで中には見せかけの偽物もある。

売っている連中も近寄り難いやつばかり。

思わず先生の方へギュッと肩を寄せる。

嫌な匂いがする。嘘と妬みと殺意と…負の感情ばかりが転がっている

ここはイギリスのとっぱずれ。一部ではかのホワイトチャペルからもじって暗く深い街(ディープチャペル)なんて言う人もいる。人口は少なくはないが経済的な周りがなく…貧困層の多い街。そんな街の裏で魔術師たちの妖しい取引が行われている。競売場(オークション)ですら取り扱おうとしない物が出回っているとか、、、

 

3日間行われるこの販売会は非合法とかそういうレベルではない。魔術師たちの警察的なこともしている学院(カレッジ)ですら余程のことでないと首を突っ込まないらしい。

そんで今日は2日目。初日はなんの収穫もなかった。

すでに通りの中程まで来たのだが、今日までの出来事は忙しいって言葉で片付けられるようなレヴェルのものじゃなかった。

例のルビーのおかげで他人に触れただけで記憶やら感情を意図せずして拾うことはなくなったし魔力の方も結晶の一件(あんなに)なることはなくなった。

(ルビーけっこう有能だなぁ〜)

 

おかげでコントロール面ではなんとかなってきたわけなんだ。鼻はむしろ効くようになったけど。

先生が言うには余計な魔力の消費がなくなったからより繊細になったんだとか

問題は’’お勉強’’の方だ…

最初は簡単な睡眠薬やら傷薬も作れなかった。というか効きすぎてむしろ害になってしまう。睡眠薬は少し摂っただけでその場で気絶したように眠っちゃうし。傷薬は傷は治るけどその後が赤く腫れっぱなしでなかなか治らないしで役に立ちそうもないし…

 

ーーーーーー

 

「おっかしいなぁ…容量もやり方もあってるのに…」

 

例のサンショウウオに睡眠薬を嗅がせたらそのまま寝てしまった。飲んでから三十分して効くはずなのになぁ〜しかももう起きてるし…

 

「どう?できた?」

 

先生が様子を見に来てくれた。上手く行ってないのが顔に出てたようでビミョーな顔してる。

 

「どうもこうもこのザマですよ。凄まじく速効性だし、凄まじく効果が短命だし…」

 

「魔力の使いすぎね。まあ何回かやってコツをつかむしかないわ。他のはどう?」

 

魔法の方はけっこう自身がある

火を起こすやつは特に上手くできる。(というよりそれ以外は暴走気味なんだよなぁ)

僕は先生に促されて魔法を使おうとした。両手を胸の前で合わせてからゆっくり開く。ちょうど、ハンドボールを持った感じだ。

 

「さて、ちょいと君らの力を借りるぞ。」

 

目を閉じて、最近知り合った火の精たちを呼び集める。

 

『火起こし?フフッ。僕らの愛しい隣人たちは火も起こせなくなってしなったのかい?』

 

「あんまり馬鹿にするなよ。」

 

『はいはい。まあ良いさ。ほら。』

 

「『ローワンの花 サンザシの葉

恐れを祓え…道を指せ…』」

 

頭の中でイメージする。手元に小さな火の塊が産まれる…それは明るく、自由に動かせて…

 

ボウッ…

 

あんまり大きくはならなかったが手元に火の塊が出来上がった。(実は呪文が中途半端だったのは秘密だ…

というか軽口な隣人の多いこと多いこと…)

 

手のひらに乗せても僕は熱くない。けどちゃんと燃えるし、他の動物は熱そうに避けていく。すでに試してある。

自信満々に先生を見ると。妙なことに、意外そうな顔してる、なにか不味かっただろうか?

 

「セト…その子たちは?」

 

「えっ?」

 

心配する必要はなさそうだ。先生の興味はこの火の精達にあるようだ。

 

「いや、あなたの魔法は見事なものよ。隣人のおかげもあって随分安定してるし。けどその手伝った子たちってもともと火山の子じゃないの?」

 

この辺りにいる隣人じゃないらしい。

そういえばはじめって合ったときに…

 

『僕らは風に乗ってきたんだ。竜舌蘭の花(キミ)の魔力に誘われてね。』

 

なんて言ってたなぁ。

 

「何でも、風の子(エアリエル)と一緒に来たらしいですよ。」

 

「わざわざこんなところまで?よっぽど好かれてるわね。それなら嘘には気をつけなさい。」

 

「嘘、ですか?」

 

まあ確かに嘘つきはナントカの始まりなんて言うし、

 

「隣人たちは嘘を嫌うわ。他人を嘘で貶める人間との契約に信頼性は生まれないってこと。」

 

隣人たちの契約への態度を侮辱してはいけないってことか…

 

「はい!わかりました。それで、このあとは…」

 

いい加減疲れてきた、と言うより脳みそパンクしそうだ…

一回に入ってくる情報量が凄まじい。

 

「お昼挟んだら、庭で薬草についてと隣人との魔法についての指導!まだまだやることはたくさんよ!」

 

こういう時、先生はかなり厳しい…

 

ーーーーーー

 

そんなこんなでかる~くスパルタな数日間を過ごしてきたおかげで、いくらかマシにはなったが…

 

さっきからすれ違う人間から感じるのは妙な匂いばかり、せっかくついた自信が風前の灯火状態だ…

 

「セト、離れないで。」

 

小声で先生が声をかけてくれた。さすが長年魔法使いやってるだけあって先生は汗1つかいてないし、露店の出している商品に目を光らせながらも周りへの警戒も怠ってない。

 

しかし。ほんとにドラゴンの天鱗なんて出ているのだろうか?初日はそんなもの無かったし感じなかった。

不気味な空気の中で不安が渦巻く




セト君は完全初心者なので魔法のいろはを教わっているんですが、けっこう既視感ある内容ですね(汗)
てか進んでねぇ!


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第二十一話『天鱗』

セト君の随分前の設定が息を吹き返しましたw


「なあ、あんた。そうあんただよ。ちょっと見てかねぇかい?」

 

薄汚れた身なりの男が突然脇から手を伸ばしてきた。

ちらっと目をやると、こりゃまあみごとに呪いの品々が揃っていやがる。

 

「ん?私?悪いけど先急いでるから。」

 

そう言って振り払おうとしたら、むりやり腕を掴もうとしてきた!

しかも見かけのわりに素早い。しかも馬鹿力だ。

 

(なっ!こいつ!)

 

「なんだ、ずいぶんたけぇ声の兄ちゃんだな。なぁに大したもんじゃないけどさ。見てってくれよ。後悔はさせねぇぜ。」

 

こういう場で声を出して目立つのは自殺行為だ。

だが男はなんとしても僕の手を商品に触れさせようとしてる。

 

(まずい!なんの呪いだか知んねぇが。触れるのはまずい!振り払わなくては!)

 

バシッ!

「のわっ!」

 

あわやといったところで

何故か弾かれたように男が吹っ飛んで行った。

いや、自分から後ろへ飛んだのか?ただふっとばされたなら腕を離すとは限らない。なんで自分から…って

その理由は自分の手を見れば一目瞭然だった。

 

シューッ シューッ

 

僕の手が蛇になってる…いや、蛇に見える。

感覚は普通の手だが、見た目は腕の太さはある大蛇が袖からのぞいているという感じになってる。

さっすが先生の魔法だ。なぁに別に確認するまでもない。この感覚は先生の魔法だ。

腕を外套の下に隠すと元通りになっていた。

そのまま脇の先生の方へスッと寄ってまた歩き始めた。

 

「セト。離れないって約束でしょ。気をつけて。」

 

小声で先生が忠告する。

 

「すいません。迂闊でした…」

 

「今日は上手く行けば手に入るかもしれないんだから。」

 

そう、先生がピリピリしてるのも当然だ。

さっきから結構道を進んでいるが、昨日に比べて客の反応がおかしい…小さな声でドラゴン。とか鱗って喋ってるし焦っている匂いもする。これは当たりかもしれない。

騒いでる連中は1つの露店に集まっている。見た目はほかと変わりないものだ。

離れているせいで肝心のモノは見えないが、商品を置く布には字が書き込んである。ルーン文字か?

 

「なるほど。セト。あなたが見つけられないのも無理ないわ。あの布は魔力を遮断する魔術が組み込まれている。これで包んで運べば誰にも気づかれないって魂胆ね。」

 

なるほど。頭を使われたわけだ。だが!

 

「けど、あの布の匂いは覚えましたよ。」

 

「えっ!?」

 

「中身の魔力を覚えるのは大変ですけど、外見の布なら…魔術がかかってますからよけいに。」

 

ちょっとだけ偉そうに行ってしまった。まあいっか。先生はびっくりして目を見開いてるし、すこーし自慢気にしてもバチは当たんないだろう。

 

「布の方か…確かにアリね。持ち主はここにいる?」

 

「あたりを探っているんですけど、同じ匂いのやつはいません。おそらく今売ってる男は雇われか、仲間か…まあまだどっかに別のやつがいるのは確実です。」

 

話しながら露店に近づくいてみると、間違いない。虹色に輝く1枚の鱗。魔力封じの透明なケースに入っていてもわかるこの感覚。

 

「これね…」

 

「これですね…」

 

ドラゴンの天鱗…どういったところから取れるかは知らないが、とっても貴重らしい。自身の魔力のみが頼りの魔術師たちにとっては喉から手が出るほど欲しい代物だとか。

 

「なあ…君たちも他のと一緒で見てるだけかい?そんなら買うやつのためにどいてほしいんだが…」

 

売ってる男は比較的若い感じの痩せ気味で小綺麗な感じのやつだ。闇商売(ココ)では多少浮く部類だ。

 

「いくらで売ってくれるんだ?」

 

「えっ!ちょとセト!」

 

見つけてからのことは先生とあんまり話していなかった。最初は出ないだろうって思ってたんだからまあしょうがないね。まあそれもあって勝手に事を進めようとする僕にさすがの先生もけっこう慌ててる。

 

「ん?買う気があるのかい?」

 

「こういう商売で御託はいらんだろう。値段を聞きたい。」

 

「フッ…面白いね!値段は560,300ポンドだ。あんたに買えるようなもんじゃないとお」

 

日本円にして八千万…まあ必要経費だ。

 

「よし買った。支払いは小切手でいいな。」

 

「そうそう。大人しく諦めなさ…はっ?」

 

「えっ!セト?いま買うって?」

 

「もっかい言おっか?買うよ五十六万三百ポンド。小切手でいいかい?」

 

周りも売りても先生もみんなこれには驚いている。そりゃあそうだろう。まだ二十になるかならないかの子供があっさり五十万ポンド以上を出したんだから。こればっかしは両親とショウ兄さんのおかげだ。

 

「あのガキ…買いやがった!本物かもわかんねぇのに!」

 

いや、ほんものだよ

 

「どうすんだ?それ以上出すか?」

 

やめとけ破産するぜ

 

「けどあの余裕の顔見ろよ!いくらまで出せるんだ?」

 

まだ倍は行けるな

 

「どっかの金持ちの御曹司かなんかかよ!?」

 

まあ間違っちゃいないかも

 

これだけ注目を浴びれば…目的の連中もそのうち。

店主に向き直る。まだ少し腰を抜かし気味だが

 

「よ、よし!男は言った事は必ず守るもんだ。売ってやる。小切手は確かに受け取った。いいか?もし騙したらそれなりの報復があるだろうってのだけは覚悟しとけよ。」

 

男は静かに、だが鋭く忠告をした。

 

「無論だ。しかしわかっているな?小切手を偽装したりしてみろ。私は君たちを地の果てまで追い回す。そして…」

 

「わかった、わかった、それも約束しよう。ほら。これが【ドラゴンの天鱗】だ。」

 

例の箱ごと横してきた。まあ、中身が中身なだけあって重くはないがけっこう持ちにくい…

 

「ああ、ありがとう。それじゃ行きましょう。」

 

唖然としてる先生を少し無理矢理連れて店を離れた。

見物客も僕に寄ろうとするものはいなかった。みんな一步二歩と後ずさっていく。

 

「あなた…そんなにお金あったのね。」

 

先生そこ感心しちゃ駄目なとこです。その言い方だとなんか僕が金づるっぽいです…

 

「まあ、いつもあんなバカみたいに使うことは無いんですけどね。先生の役に立つならどうってことないですよ。」

 

だが先生の顔は曇ったままだ…

 

「けど状況は悪くなったかもしれない。」

 

「いや。逆に進展したと思いますよ。明日もう一回ここに来れば、おそらく奴らが出てくるでしょう。」

 

向こうから来てくれるってんなら万々歳だ。

 

「まあそうだけどね…はじめは売れ残ったところを付けようと思ったんだけど…逃げられる可能性も大きかったからよしとしましょう。」

 

僕らはいつもよりは緊張した面持ちで宿へ戻っていった。




次回は怒涛の展開に3日目!その1です!
なおはじめにセトくんに声をかけた男のイメージは当初はジョジョの奇妙な冒険第3部のJ・ガイルでしたが。それじゃああんまりにも不気味なので。ワンピースのヒグマぐらいの薄汚さってことになってます。まあ本編には関係ないですけどねw


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第二十ニ話『吟夜弄夢』

セト君の力の設定が迷走しておりますw
今回のタイトルは僕が作った造語です。
夜に詠い夢を眺め楽しむと言う意味です。
まあ相変わらず本編との関わりは薄いですけどね。


宿についた僕らは戸締まりを確認してから安っい薄っすいベッドの上に座った。

 

「はぁ~~~。」

 

先生がこんなため息つくの初めて見た…

 

「そりゃ、セトが突然あんなことするから。ってアッ!ちょっと!何出してるの!」

 

僕は買ったばっかりの鱗を箱から取り出していた。

こいつはすごい!触れた途端に体に流れてくるこの力。普通に隣人たちから借りるものとはレベルが違う。

全身の神経を撫でられるような、なんかこう、ゾクゾクする感じの一種の性的な快感ある。

あぁ…これはけっこう…

 

「ダメッ!」

 

「あっ…」

 

バシッと先生に取られてしまった。名残惜しそな僕の顔に気づいたのか先生は多少怒った口調だ。

 

「そういうものには一種の依存性があるの。ましてあの場で買ったものを素手で触るなんて。それに今持ってる間、ずいぶん恍惚な顔してたわね。その髪の長さと中性的な顔立ちのせいでほぼ女の子だったわよ。しっかも小さいからよけいにね。」

 

おうおう、後半けっこう好き勝手言われた気がするぞ…

 

「先生、それもう悪ぐ…いや、いいです。」

 

「これは預かっておくわ。」

 

そういって先生は胸もとにかけてあった小さな布袋に鱗を入れてしまった。袋にはルーン文字が書き込んである。

 

「けど、先生。それ僕が買ったんですよぉ」

 

「さっき、私の為になるなら別に良いっていてたじゃない。」

 

「まあ、それはそうですけどもね…ズルイですよ。」

 

先生は呆れ顔だ。

 

「あのねセト、私が自分が快楽に酔いしれるためにあなたから取ったと思ってるの?」

 

「いや。そういうわけじゃ…」

 

ある気もする。言われると反論できない、疲れているんだろうか…自身の先生をそんな目で見るなんて。

 

「もう寝なさい。疲れてるのよ。」

 

先生に言われるままに僕は眠りについた…

 

「っ……んっ。」

 

眠りに…

 

「くっ…あ゛!ハァハァ…んぁっ……!

 

寝れない!てか寝れるわけ無いでしょ!

 

宿の部屋は狭く二人のベッドは、ほぼくっついている。

さすがにこの状況で寝返りを打つ勇気は僕にはないのでスルーしたいんだが。まったく、誰だよ。”快楽に酔いしれるために取り上げたんじゃない”なんて言った人は!

僕は俗にそういう事を知る時期に周りに女性がいなかったけど、さすがに背中の向こう側で何やってるか位はわかる。こころなしか先生のベッドのシーツも動いてる音がする。もう布団を被ってやり過ごすしかない…

少々呆れ気味ながらも顔を真っ赤にしていると、先生の口から漏れる声が変わってきた。

 

「くっ……ハァハァ…うっ!…うぅ」

 

ん?なんだか苦しんでるような…

そうこうしてるうちに先生の呼吸はどんどん乱れていった。なにかおかしいぞ!

 

バサッ

 

慌てて飛び起きて横になっている先生を見る。よく見れば先生は大汗をかいてびっしょりだし息も絶え絶え…

胸もとでは鱗の入った袋が光ってる。

眠っていながらも表情も険しいもので、手は胸を抑えていて苦しそうだ。………?光ってる?

そう、光ってるのだ鱗が。十中八九原因はこいつだろう。

 

大急ぎで先生の首に掛けられた紐をほどいて袋をとった。

そもそも僕が触らないための措置、今となっては僕のカバンの中に放り込んでも大丈夫のはずだ。この小さなカバンは先生のおかげで僕にしか開けられないようになってある。失くす心配はないだろう。

 

「先生!先生!」

 

肩を揺らして無理矢理起こす。このまま寝たままでいるのはまずい気がする。

 

「うっ…ううん………ハッ!あ…あれ?私…?」

 

「先生!大丈夫ですか?」

 

糸が切れたように緊張が解けてゆく…顔色はとんでもなく悪いが無事なようだ。

 

「セ、セト?えっ…あ、ええ。大丈夫よ…はぁはぁ…それにしても…」

 

「先生、うなされてたんですよ。それも尋常じゃなくてそれで…ドラゴンの鱗が光っててええっと…」

 

慌てて言葉に詰まる僕を制する。

 

「そう…それじゃあれは鱗に見せられたのね…心配かけたわね。もう大丈夫よ。」

 

「ハァー。良かった。」

 

そっと胸をなでおろすと先生が手を顔の前に出した。

 

「ねえ。ちょっと近くない?」

 

「へっ!?」

 

状況を見ると僕は仰向けに寝てる先生に覆いかぶさるような姿勢でいる。しかも顔同士が10センチもあいてない。

なんだか、急に恥ずかしくなってきた…

 

「あっ!は、はい…ご、ご、ご、ごめんなさい!今どきますから!」

 

「待って!」

 

突然先生は離れようとする僕を呼び止めた

 

「は、ハイ!なんでしょ…」

 

チュッ

 

????????

頬にあたたかく柔らかいものが触れた

 

「ありが…とうね…」

 

バサッ

 

先生は倒れるように寝てしまった。よほど体力を鱗に持っていかれたのだろう………………

って今の何?えっ?寝ぼけてたの?キスだよねコレ。僕人生でキスされるの初めてだよ。頬であっても初めてだよ!

うん!疲れてるんだ!寝よう!

何が起きたかよくわかんなかったけどとりあえず僕は寝ることにした。

 

ーーーーーー

翌朝

まだ5時前だというのに左足に違和感を覚えて僕は眠りから覚めた。何かが左足の太ももから先にかけて巻き付いている…

朝っぱらからなんなんだよ〜!

布団をめくると…

 

「ニャアァ!」

 

猫の顔した蛇がいた




しっかしこれでエルダに手を出さないセト君は聖人君子ですかねぇ?女性との絡みが彼の今までの人生では少なかったのが理由のひとつなんですかね?

まっ、ぼかぁ官能小説を書くのはうまくないので声の方は許してね…たぶん二度とやんないと思うからw(この為にネット官能小説を漁ったのはナイショ)


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第二十三話『優しいやつは大体が動物に好かれる』

前回の多少は考えたタイトルとは大違い。あからさまにチンパンなタイトルですwてか銀魂じゃあるまいし…




ニャァアン!

 

こういう事ばっかり続くと感覚にぶるなぁ…あんまりびっくりしてない自分がいる。

しかし、頭はねこだが胴体は蛇…どっかで見たような…

そうだ!先生から貰った隣人たちの本に、こんなのいたぞ!

確か名前は…【アイトワラス】いや【サーポパード】だったかな?

サーポパードなら毒持ちの凶暴な性格で何でもすぐ噛む危険な奴って書いてあったはずだけど…

 

件の猫蛇は喉をごろごろ鳴らしていっこうに襲ってくる様子はない。

なんだ、けっこう大丈夫そうだ。

 

「ちょっとお前、どいてくれよ。これじゃベッドから下りれないからさ。」

 

先生を起こさないように小声で言いながら足をすこし左右に揺らすとサーポパードはスルスルと足から離れて行って、部屋の隅にとぐろを巻きはじめた。

ゆっくりベッドから起きてのそばによってみて見るとのんきなもんで、アクビしながらまだ喉を鳴らしている。

 

「お前、どこから入って来たんだ?」

 

なんか餌になるものはないかとバッグを漁りながら聞いてみる。猫は喋れるらしいし、こいつも行けるんじゃないだろうか。

 

ニャア!

 

駄目そうだ…

猫と蛇なら肉食べるのかな?

バッグの中には非常食で入れてた干し肉があった、けど干し肉って凄くしょっぱいんだけど大丈夫かな?

肉を持ちながら迷っているとサーポパードがジーーっとこっちを見ているのに気づいた。

 

「これ、喰えるか?」

 

鼻先に出してやるとしばらく匂いを嗅いで確認してから

 

パクっ

 

手のひらサイズくらいの肉は一口で消え去った…

なんか口の中でモゴモゴやってるよ。

別に一口で食べなくてもいいでしょうに…

だが口をパンパンにさせながらも満足そうな顔で食べてるからこれはこれでよしとするか。

それにしてもけっこうかわいいなぁ。

 

「なあ、お前に名前つけていい?サーポパードじゃ呼びづらいからさ。」

 

種族の名前のまんまってのもなんだし。

そう言って手を近づけるとなんかもうウナウナ言って頬ずりしてくれた。もうOKでいいよね。

 

さーて名前どうすっかな〜

そんなこと考えていたら

 

「う、うーん。」

 

先生が起きた。ってまだ5時30分前なんですけど。どうりでいつも僕が起きると朝食ができてるわけだ…

 

「あっ、お、おはようございます…」

 

あっ…起きたってことはこれ見られるんじゃ…

 

「おはよう。珍しくずいぶん早起き…………」

 

「ど、どどうしました?」

 

振り向くのが怖い…十中八九コイツのこと言われるぞ。

 

ニャァ!

 

(やめろぉぉ!鳴くなぁぁ!)

 

「セト。そこにいるサーポパードはどういうことかしら?」

 

うん。まあそうなりますよね。

 

「え、あ、いや…なんか起きたら足に巻き付いたてもんで。け、けど全然凶暴じゃなかったんで…」

 

あぁ…なんて言えばいいんだこういうとき

 

「それで思ったより懐くうえに可愛く思ってきちゃって餌付けがはじまったと。」

 

「はい…」

 

まったくもってそのとおりでございます。

 

「はぁ…まあここまで懐いちゃ仕方ないわね。いい?餌付けした以上責任持ってあなたが育てるのよ。絶対捨てたりしない!」

 

「は、はい!えっ!?」

 

意外だ。てっきりこっぴどく叱られるかと思ったのに。

振り向くと先生は夜ほどじゃないがやっぱり顔色が悪かった。

 

「昨晩は迷惑かけたみたいだからね、全然覚えてないんだけど…なにか私言ってた?」

 

言ってた、やってた、キスされた、うーんこれ言うべきなのか?

 

とりあえず、自前のバッグとは別の鞄からゆずの蜂蜜漬けを入れた瓶とお湯の入ったヤカンとコップを引っ張り出す。この鞄ってのは先生がこの一件に合わせてくれたトランクケースだハンドバッグタイプのやつで車輪とかはついてない方だ。お湯が出てくる時点でわかるとおりこれただのトランクじゃなくて、とんでもなく中が広い空間になっているって代物なんだ。やろうと思えば家2つ分以上の広さが確保できる。まあそんなに広いと使いにくいから今は宿の1部屋もないくらいだけどね。

今回は中にガスコンロを入れてきた。おかげでお湯が簡単に沸いたってわけだ。

 

「先生、その前に。これ飲んでください。少しはよくなるはずです。ほんとは夜のときに飲んでもらおうと思ったんですけど、すぐ寝ちゃったんで…」

 

蜂蜜漬けを白湯に溶かして先生に渡す。

 

「この香り…蜂蜜と柚子ね。ありがとう。」

 

けっこう僕はこういうのを作るのが好きで、練習の合間を見ては作っていた。

 

「うん。美味しい!」

 

それは良かった。人に振る舞うことはめったにない。こういうのは素直に嬉しいもんだ。だが

 

「あっと…それでさっきの話なんだけど。昨日の夜の…」

 

あぁ…話題帰ってきたぁ。なんでブーメラン式なんだよ!行ったきりになってくれよ!

 

「私なにか変なことしてた?ねぇ、その渋い顔の理由を聞いておきたいんだけど…」

 

「えっと…例の鱗のせいで自慰したりうなされたり…」

 

「えっ?じ…」

 

「鱗を取って起こしたら、大丈夫だって言ったあと僕の頬にキスをしてそのままバタンと倒れるように眠っちゃいましたね」

 

「…………うん。詳しく説明して。」

 

先生…顔赤いです…

 

ーーーーーーーーー

 

「セト。本当にごめんなさいね…なんか、迷惑しかかけてなかったのね…」

 

「あっ…いえ。僕は別に…」

 

キスされたの正直ちょっと嬉しかったし…

 

「鱗の魔力が私の記憶と結びついて夢っていう一種のモニターに映し出した。これがうなされてた原因よ。おかげで大戦中の嫌な夢を見たわ…しかも体力まで持ってかれるし……とはいえ起きてからは…」

 

なんか重い話とただただ気まずいだけの話がごちゃまぜになってきたぞ…

 

「先生!こ、この件はもうお終いにしましょう!サーポパードの件でチャラってことに。ね?」

 

「ありがとう。それじゃお言葉に甘えてそうさせてもらうわ。」

 

気を取り直して身支度を済ませる。今日は取引の3日目。昨日とんでもなく目立った僕らを問題の連中が見逃すはずがない。

 

「いい?セト。今日は昨日のようなことは無し。絶対離れないで。」

 

真剣な面持ちで先生が忠告する。

僕だってさすがにここでドジ踏むわけにはいかない

 

「はい!」

 

ニャァ!

 

「「???」」

 

二人揃って頭に疑問符が…見える。見えるぞ!

僕の腕にサーポパードが巻き付いている。しかも楽しそう…

 

「その子。来るみたいよ。」

 

「もうこれで宿は引き払いますから、トランクの中に入れときます。」

 

「そうね。そうした方がいいわね、それにしても私まだちゃんと見てないわ。少し見せてよ。」

 

そう言って先生が顔を近づけるとサーポパードは別に起こるでもなく鼻を先生の鼻にこすりつけてきた。

 

「まあ!この子、天然のサーポパードじゃない!キメラかと思ったら…本物なんて初めて見るわ…」

 

「貴重なんですか?」

 

「大昔はいっぱいいたけど、こういう類の隣人たちは一般人にも見えてしまうことが多くてね…けっこう狩られてしまったて聞くわ。」

 

腕で喉を鳴らすコイツはレアモノ幻獣らしい。まあ、そんなこと関係ないけどね。命に値段つけるなんておかしい話だからね。

 

ーーーーーーーー

 

「コイツ…名前はピュティアってのはどうです?」

 

トランクの中に“彼女“を誘導しながら先生に聞く。肉投げ入れたらあっさり入ってくれた。

 

「古代ギリシャ、デルフォイの女司祭。なんか結局予備やすさの面では変わってない気もするけど…いいんじゃない?そのうちピュティーって呼ばれそうだけどね。」

 

「アハハハ、そうなったらそうなったまでですよ。よし!お前は今日から【ピュティア】だ!よろしくな。」

 

ピュティアはトランクに入りながらこっちに振り向いて

大きく「ニャア!」と鳴いた。




最近、ホルヘ・ルイス・ボルヘスの幻獣辞典って本が気になる…買っちゃおうかなぁと、けど全図版が載ってるものは日本語訳されてないという噂を…


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第二十四話『ハメルーンの笛吹き』

セト君…君は一体どこまではっちゃけるつもりだい?


やはり嫌なところだ…

3日目。あの通りを先生とともに歩く。陰湿な雰囲気なのは変わらないが、人の視線は違っている。みんながこっちを見る、噂をする。別にそれはいいのだが…

 

「おい!なんであいつら生きてるんだよ!サーポパードはどうした?!確かに部屋は合ってたんだろうな?」

 

「部屋はあってました!あんな獰猛な奴が殺せないなんて…」

 

お ま え ら か

 

端で小声で話す男たちを見やる。フードの下の顔は見えないが、そんなに年が行った感じではない。とりあえずマークはしておこう。

 

「セト、例の布の匂いはする?」

 

先生はこういうのは得意じゃないらしい。こんなに頼ってもらえるなんてちょっと感動なのだが

 

「いませんね…しかも視線やら敵意を向けられすぎてどれが本命かも見当もつかないです。ただピュティアを放したやつは見つけました。」

 

「彼らへは最低限のマークでいいわ。あんまり見てるとまずいからね。」

 

「えぇ。それで今日はどうし…」

 

不意に目の前に人が飛び出してきた。

 

「なあ、あんたよぉ!竜の鱗買ったんだろう?そこでさ~見せてくんねぇか?それをよ〜ちょっとでいいから。」

 

前置き全部省いて吐いたセリフがコレ。

よく見ると昨日の呪具を売りつけようとした男…

呆れたやつだ…

昨日の出来事で誰もあえて近づいていなかったのに。これでまわりの奴らの[僕がボロを出すまで待つ]作戦は頓挫しちまったわけだ。

 

「断る。消えろ。」

 

こんなやつに構っている暇はない。男の後ろには[殺処分行き]と書いてある紙が貼っつけてある檻がいくつか見える。中には牙の生えた鳥やら羽の生えたうさぎ

やら普通なら見かけることのない珍獣が揃ってる。

こんな命を侮辱するような下衆野郎と話す舌は持ち合わせていない。避けていこうとすると先を通せんぼする。今回は先生も対象らしい。相変わらず身なりの割にけっこう軽快だ。

 

「なあよぉ!聞いてんのか?!」

 

またしても腕を掴んできた。さすがに二回目は蛇のあれは聞かないだろうし……ん?蛇?

 

「セト、下がって。私が…」

 

「鱗が見たいんだな?じいさん。こん中だよ。開けてみ。」

 

バンッ!と地面にトランクを置く。先生も察してくれたらしい。下手に魔法使って大騒ぎにするよりも、知り合ったばっかりの番猫(蛇かも)の力を借りたほうが良いだろう。

 

「おぉ!いいね。話がわかるじゃないか!それじゃ」

 

ガチャッ…トランクの金具が外れ蓋が空いていく。

 

シャーーッ!!

 

細長い影が飛び出してきた。

 

「うぁぁ!何だコイツ!」

 

ピュティアはこの男が嫌いらしい。出てきて早々噛み付いてきた。あっ…毒あったの忘れてた。まいっか

 

男は影の正体を理解すると途端に顔を真っ青にして

 

「コレはサーポパードじゃねぇか!なんてもんけしかけるんだ!」

 

大騒ぎだ…これじゃあんまり意味無かったか…

 

「じゃあ取引と行こう。解毒はしてやるから、二度と私たちに近寄るな。鱗も諦めろ。」

 

「わかった!わかったから助けてくれ!サーポパードの毒は十分もしないで死んじまうんだよ!」

 

男は泣きそうな顔で懇願する

 

「解毒薬はこれだ。ほら」

 

ポイッと茶色の小瓶を投げてよこすと男は大急ぎで薬を摂った。これを見て驚いていたのは、ピュティアを放った奴らだ。自分たちのけしかけたサーポパードが手懐けられてた挙句、解毒薬も盗まれ、踏んだり蹴ったりだろう。

薬は若い方の男のローブのポケットに入っていたのでちょっと拝借した。

 

「はぁ、はぁ、はぁ…ビビらせやがって」

 

解毒も済んで再び男は立ち上がった。

 

「約束は約束だぞ。」

 

「ああ!わかってるよ!寄らなきゃいんだ・ろ!」

 

バシッ!

 

不機嫌そうな男は八つ当たりで自分の売り物の牛のようなやつの背中を叩いた…あっ、この牛って…シャイアだ…

 

「おいお前!そいつは【ズラトロク】だぞ!背中なんか叩いたら!」

 

ブモ゛ォォォ!

 

遅かった。ズラトロクは普段は大人しく友好的なのだが、背をたかれるとシャイアのもともとの力の何十倍もの怪力で暴れだすのだ。

流石の先生も色を失っている。

男も大慌てでなだめようとしてるがあとの祭り。蹴り飛ばされてしまっていた。

ズラトロクは他の生物の檻に体当たりをかまして破壊してから通りに土煙を上げて走っていった。おかげで中にいた”殺処分”たちがの後を追うように逃げ出してしまった…

 

「チクショ!なんなんだ今日は!ったくとんだ厄日だ!あぁ…どうすんだよこれ。」

 

ブツブツ言いながら男が起き上がる。顔は真っ青だが無事なようだ。

 

なんで無事なんだ?バカみたいに頑丈だな…

 

「おわりだ…おわった…殺される…」

 

随分と悲壮なこといってるが…

 

「先生?あいつ流石に落ち込みすぎですよね〜ハハハ!」

 

笑い飛ばそうとした僕とは対象的に先生の顔色はすぐれない。

 

「いい?セト。こういう商売には元締めがいるのよ。販売するのはその下っ端。もし下っ端が騒ぎを起こしたら元締めはどう思うでしょうか?ってところよ。」

 

ああ。そう言う…ボスに目つけられたら明日には海の底。

イギリスにだってヤクザ見たいのはいる。

 

「なあ、あいつら捕まえてこようか?」

 

やっぱり我ながら甘い。まあちょっと気の毒には思う。自業自得だけどね…それに彼らを手に入れられるチャンスだ。

 

「あぁ…?できるわけねぇ!あいつらはどうやっても言うこと聞かない凶暴なのだ。それをお前みたいなひょろい奴が捕まえれるわけない!」

 

ひどい言われようだな…

 

「んじゃ、いいか?もしもだぞ。私が捕まえたら、彼らを譲ってくれ。どうせ殺処分なら費用も浮くだろ?」

 

「……………だが、結局おれがやらかしたことは変わんねぇ。飲めないな。」

 

「ん?そりゃあおかしいな。彼らは購入者の私の手元から逃げてしまったはずだが。ねぇ?先生。そうですよね?」

 

「はぁ…あなたってほんとに…えぇ、そうよ。まさか受け取ってすぐに…馬鹿なことしたわねセト。」

 

なんか僕ただの馬鹿になってませんかー!先生ー!

 

「ほ、ほんとにあの面倒なの引き取ってくれんのか?!」

 

男は疑いながらも賭けに出ている。

ここで僕のミスのせいにして、処分品も押し付けられれば自分は助かる。だけど僕がしくじれば終わり。

 

「ああ!やってやるぜ。いいよな?」

 

「ああ。任せる。捕まえたらあとは好きにしてくれ。もう店じまいだ!」

 

そう言って男はとんでもない速さで店を畳んで逃げるように路地へ消えた。

じゃあ、僕も

 

「先生。約束破ってごめんなさい…でも僕彼らを助けてやりたいんです。」

 

「十五分で無理だったら帰ってきなさい。いいわね?」

 

「はい!それじゃいってきます!」

 

まだ土煙は舞っている。魔力を辿ればすぐだろう。僕は急いであとを追いかけた。

 

ーーーーーーーー

 

セトは勢いよく走って土煙の中に消えた。最近自分の甘さが身にしみるように思える。エルダは苦笑しながら。見送っていた。

気づいたら後ろに老人の姿をした男が立っている。

 

「昨日のあれがあったのに行かせてしまってよかったのかい?」

 

一応年寄り口調だが、エルダからすればマヌケなものだ。

 

「いいのよ。私の弟子だもの。」

 

「随分と信頼しているようだが?」

 

「今回の依頼は教会からのものと思っていたけど学院(そっち)のものだったのね。アドルフ。」

 

「えっ!どうしてわかったんですか?今回はちゃんとした変装だったのに…」

 

老人の変装をした男アドルフ・ストラウドは驚きを隠せなかった。

 

「わかりやすいのよ。ただそれだけ。それより学院のあなたが何故?」

 

アドルフは取り直してエルダの方を見る。

 

「今回の一件は特殊なものでして…教会経由にしてもらったんです。」

 

「おおかた、レンフレッドの辺り”魔法使いだけじゃ信用ならない”とか言ってあなた達も駆り出されたわけね。」

 

「御名答…私達は少し魔術師のグループを雇って裏で調査と監視を任されていました。それで、なんとか首謀者もわかったんですが、コレです」

 

そう言ってアドルフは1枚のA4ほどの紙をエルダ渡した。

 

「いいの?」

 

「ここまで来たら協力しましょう。我々は裏からお手伝い致します。…それにしても彼大丈夫ですかね?」

 

「協力ありがとう。ついでにセトの心配もね。けど…ホラ!帰ってきたわ。」

 

見た目はまだ少年といった感じのセトは一輪のアネモネの花を手に歩いてきた。後ろには先程逃げた動物達が隊をなしている。あれだけ怒っていたズラトロクものんきに歩いている。

 

「先生〜!おまたせしました〜!」

 

「まるでハーメルンの笛吹き…」

 

「そんな物騒なものには見えないわよ。あの笛吹男と一緒にされちゃ困るわ。それで、他にある?」

 

アドルフは苦笑いしながら向き直り

 

「余計なお世話でしたね。ご迷惑おかけしました。それじゃ、お互いに頑張りましょう。」

 

変装を整えてアドルフはいそいそと路地へ消えた。

 

ーーーーーーーー

 

「先生!今の誰です?」

 

先生は見知らぬ老人のフリをした男と一緒にいた。

 

「古い知り合いよ。それより、わかったわよ。首謀者の顔。」

 

「こっちも居場所がわかりました。追っかけてる途中でやっと匂いを見つけたんです。街の外れの森の方です」

 

トランクにさっきの商人の男の落としていったものと動物たちを詰めながら、話す。どうやら先生はあの老人風の男に情報を受け取ったようだ。

 

「わかったわ!準備できた?行くわよ。」

 

「は、はい!」

 

街の外れの黒い森。向かう先は光をも飲み込む暗い森。




念の為の確認ですが、このお話は本編の一年前ですからね!


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第二十五話『遭遇』

みんな忘れ気味ですが、今回の目的は行方不明のキリド・フェーンの捜索です。


「あれか?」

 

草木を掻き分けて進むと、小さな小屋が見えた。しばらく使われていない感じだが…

やりばのない怨嗟が舞っているこの森では鼻が全然効かない。中がどうなっているのか全くわからない。

暗い森の中で先生もいないし、正直言えば帰りたい…

 

(やっぱり無理言って一緒に行けばよかったかなぁ…)

ーーーーーーー

 

「やっと場所を聞き出せましたよ!こんなふうに記憶の中を見るのは初めてでしたけど。」

 

「その人の印象に残っているものは引っ張り出しやすいけど、それ以外の記憶は神経を使うものになるわ。体は大丈夫?」

 

僕らの足元にはロープで縛られ気絶した今回の主犯格がいた。

 

やつはマヌケだった。いや、正確にはこの手の仕事が初めてだった。先生が受け取った情報にはコイツが魔術関連の出来事に絡んだことは一度も無かった、とあった。

はじめての仕事がこんな大それたことってのは驚きだが、

先生の分析では知らなかったからこそ菩提樹(リンデンバウム)の恐ろしさに臆することなく実行できたのだろう、とのこと。

まあ初めてだったからこそ闇雲に僕らが森に入って早々に襲い掛かって捕まったワケだが…

 

気絶させてるうちに記憶を見たが、キリドさんを運んでいる記憶もしっかりあった。だが…

 

「体は大丈夫ですけど…それより謎が一つ。コイツ、誰かの指示を受けていたんですよ。」

 

「他に首謀者がいるってことね?」

 

先生の情報ではコイツが主犯とあった。

しかし…

 

「えぇ間違いなく。けど解決した謎も一つ。キリドさんの居場所もわかりましたよ。」

 

「弱々しいキリドの魔力ならこの森の奥から感じていたけど、具体的な位置は?」

 

「ここ真っすぐに行った奥にある小屋です。」

 

指差す方は真っ暗な先の見えないわかれ道だ。

 

「そんなに時間はないわ。したくなかったんだけど、二手に分かれましょう。いい?連中に気づかれないためにも魔法は原則禁止。無理は絶対しない!」

 

「わかってますよ。大丈夫ですって。」

 

僕は右。先生は左の道へと向かった。

 

ーーーーーー

これが数十分前のことだ…

しかし見つけてしまった以上入るしかあるまい…

いざとなったらトランクの中の彼らの力を借りよう。拳を握り直し僕は小屋へ向かった。辺りに気配はない。大丈夫…かな?

 

ガチャッ…ギギギギ!

 

長らく使われていなかった扉は気味の悪い音をたてながら開いた。

 

「だ、誰かいますか?」

 

我ながらバカっぽい質問をした気がする…だが

 

「誰だ!見張りじゃないな?」

 

部屋の隅、その影の中から声が返ってきた。

 

「キリド・フェーンさんですね?助けに来ました。」

 

手元に持った懐中電灯を向けると、眩しそうに目を細くしながら鎖に縛られている若い男がいた。写真で見たキリドさんに間違いなかった。ちょっとやつれ気味だけど…

 

「助けに来た?まだ子供じゃないか!見張りが戻ってくる前に逃げるんだ。鱗の情報もまだ掴めていないんだ。私は帰るわけには…」

 

「鱗なら手に入れました。犯人も捕まりつつあります。もうここにいる必要はないんです。」

 

キリドさんは驚きながらも、ホッとした表情で立ち上がった…縛られていたように見えたがその鎖も解いている。

僕らくる必要なかったんじゃないか?

しかもさっきさらっと子供扱い…

 

「なるほど、それならいつまでも捕まったフリの必要はないな。ウッ…!」

 

「キリドさん!」

 

ふらつく彼を慌てて支える。捕まったふりといえど食事や体の制限はあったのだろう。立っていいるだけで精一杯という状態だ。

 

「肩を。行きましょう。」

 

「済まない…」

 

よたつきながらも小屋を出る。そういえば小屋の中にあったアルミのプレート皿にはパンのかけらと少量の水があった。もしこの数日間そんな食事を続けていたとしたら…無事でいるのが奇跡みたいなもんだ。

 

「よくご無事で。」

 

「彼らは私と他の組織の関連を調べるために始末しなかったようだ。うまく行けば人質としても…とでも思ってたんだろう。ん?」

 

キリドさんの目線が僕の腰のナイフに向く。

 

「金属のナイフかい?護身用ならもっと手入れをしたほうが良いよ。」

 

隣人たちは金属を嫌う。僕は隣人に好まれる。

彼らが集まると目立ってしょうがないのであえて金属のナイフを持ち歩くことにしたのだが、さすが魔法機構(マギウスクラフト)この状況でそこに目をつけるとは…

 

「アドバイスどうも。ここをしのいだらそうさせていただきます。」

 

「君…どうでもいいとか思ってるだろう…」

 

「べつにそんなわ…」

 

ガサッ!

 

「キサマらそこで何してる?!」

 

背後にフードをかぶった男が立ってる。

迂闊だった!鼻が効かないせいで藪から出てきたコイツに気づけなかった。

 

「ん?アッ!テメェ!捕まえといた魔法使いじゃないか!」

 

さらにまずいことにこの暗い森で一発で見抜きやがった…

 

「アハハどうも、、、」

 

キリドさん冗談言ってる場合じゃない!

男は銃を持っている。肩を貸しながら歩いている僕らにどうこうできる状況じゃない。てかよく見るとまだ小屋の前からそんなに進んでないぞ!

 

「脱走は殺すかもしれないって話はしたよな?魔法使い」

 

「そ、そんな話したっけな?あ!ああそういや言ってたね……ありゃ冗談だろ?」

 

「ふん!死ねっ!」

 

このままじゃやられる!銃口はキリドさんをまっすぐ見つめている。集中しすぎたせいか、すべてがゆっくりに見える。引き金が…指に…

 

ドガッ!

 

「ウッ!」

 

思わず目を閉じた僕の耳に銃声より低い鈍い音と男の呻きが聞こえた。

目を開けると何故か男が倒れている。背中に何かをぶつけられた跡があるが…

 

「た…助かったみたいだ…なっ?君。」

 

「えぇ!間に合ってよかったわ。」

 

女性の声が先程男が立っていた少し後ろの暗闇から聞こえる。

 

「だっ…誰だ!」

 

「ひどーい!もう忘れちゃったの?」

 

木々の隙間から木漏れ日がさす。僕らに歩み近づくその影は少しだけ懐かしく思えた。

 




記憶をのくシーンやとっ捕まえるシーンは長いのでカット!
まあはカマセだったわけですw
ちょっと短め〜


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第二十六話『再開と契約』

いっきに進めるぞぉーー!久々のあの娘はクセたっぷりで帰ってきた…


「久しぶりね、セト。まさか忘れたなんて言わせないわよ!」

 

影から現れたのは、丸い栗色の瞳。つややかなブロンド髪、バランスの取れた上半身。筋肉美すら感じる馬の下半身。そう、セントール…ルーシィだった。

 

「ル、ルーシィ!君かい?でもなんで?!」

 

「話はあとにしましょ!さあ早く乗って!追ってはまだいるわよ。」

 

急いでキリドさんを乗せ、僕もまたがる。

 

「セ、セントール?君の知りあいか?」

 

「ええ。ニューヨークで知り合った友人です!」

 

「さあ!掴まってて!」

 

僕らが胴体にしがみつくやいなや景色は走り出した。

一瞬の間の後ぐいんと体が後ろに引っ張られる。

 

グッ…相変わらずひでぇ乗り心地じゃないか!

 

「これは…初体験だ…うっ」

 

キリドさんの顔色がさらに悪くなってる…顔面蒼白だぞ…

 

残像で繋がったように見えた木が再びその手を離した。

すでに森の入口だ。目の前には先生や見知らぬ人たちが数名いる。にこやかな先生に対して他の人たちは揃って腰を抜かしている。

 

「はぁ…はぁ…せ、先生…ふぅ…はぁ。キリ、キリドさんを、おちゅれしました。」

 

後ろでキリドさんはぐったりしてる…

いき…てるな

 

「フッフフフ。うん。お疲れさま、セト。」

 

噛んだの笑われたぞ…

 

「ん!ゲフンゲフン!」

 

「そうね、ルーシィもありがとう。」

 

なんともわざとらしい…

 

「それじゃあキリドさんは私たちが…」

 

「わかったわ。あとは…」

先生に話しかけてきたのはメガネをかけたら学者っぽい男だ。

 

「セト、大丈夫?顔色悪いよ」

 

ひょこっとルーシィが僕の顔を覗き込む。

そういえば彼女が一番の謎だ。パンパンに詰め込まれた出来事にまだ混乱しているが、それだってニューヨークにいた彼女がここにいるなんておかしいのくらいわかる。

 

「ルーシィ…きみは…どうしてここに?」

 

「そうね………………愛。かしらね?」

 

愛、、、熟考して出した言葉は愛。それ誰に向けたものだい?まさか…いや

 

先生がこっちに向かってきた。どうやら話は決着がついたらしい。キリドさんも一緒だ、二人に支えられてるけど

 

「とりあえず、帰るわよ。鱗はあなたがまだ持ってることになったから。」

 

「キリドさんは?」

 

「僕は学院のほうでしばらくやっかいになることになった……そういえばまだ君の名前を聞いていなかったね。」

 

「セトです。セト・ナンブ」

 

「セトくん、助けてくれてありがとう。」

 

そう言ってキリドさんは手を差し出した。

 

「いえいえ、僕はなんにも…」

 

僕もしっかりと手を握り返した。

 

「まさか、エルダさんが弟子をとるとは…ちょっと意外でしたよ。」

 

彼は脇に立つ先生に声をかける。

 

「自分でも驚いているわ。セトに泣き落し喰らっただけな気もするけど…」

 

あははは…思い返すと情けない話だ…

 

「積もる話はありますがそれは後日に。それじゃあまた!」

 

二人の魔術師に支えられながらキリドさんは学院の人たちのもとへ向かっていった。

 

「私達も学院がごまかしてくれてるうちに帰るわよ。」

 

「「はい!」」

 

えっとー…

 

「ルーシィ。君も来るのか?」

 

「言ったでしょ。愛の為に来たって。セトと一緒に行かなくてどうするのよ。」

 

やっぱりその愛の対象は僕ですか…隠さないぶんストレートに来てけっこう恥ずかしい。

 

「まさかそのなりで列車に乗るのか…」

 

シュッとルーシィが縮んだ、いや…足が。人と同じの二足に。けっこうスタイルいいな…美人だし…

 

「これやると一般の人にも見えちゃうんだけど、これでセトと同じ目線ね!」

 

あっそうっすか。どうぞご自由になさってください…

うーん…美人だけどなんかそう言う’好き’じゃないんだよなぁ

 

「何してるの?早く行くわよ。」

 

さっきの魔術師達のおかげか僕らは面倒事には何一つ巻き込まれることなく帰路に着けた。

 

ーーーーーーーー

 

「はぁぁ〜〜〜」

 

やっと家だ!この三日の諸々で疲れてたのに、列車の中の出来事で追加攻撃を受けてヘトヘトだ…

ルーシィのやつ…ベッタベタにくっつくし、胸とかあからさまだし、質問攻めだし…なんかこれだけで三日分の密度だったぞ…

 

「お疲れさま。まあ…大変だったわね。トランクの中身の整理は庭のなんにもないとこでやってね。」

 

「セト!私も手伝うよ! お・ね・が・い もあるし。」

 

はぁぁ…何だこりゃ…

 

庭に出ると結局先生もついてきた。危険なものがあるといけないからってことらしい。ルーシィは自分が見張ってるから大丈夫だと自信満々だったが、先生は僕に色んな意味で危険が増えるから一緒に行く、とのこと…

 

まず開けると蛇の胴体に猫頭【サーパポート】のピュティアが飛び出してきた。そこからは生き物優先で引っ張り出す。

金の角を持った白いシャモア、【ズラトロク】伝説通り雄のみしかズラトロクにならないらしい。

他には翼の生えたうさぎ、【ヴォルパーティンガー】女性にしか見つけられないという伝説だがなんてことない、ただの女好きだ。

他には角の生えたこれまたうさぎ【ジャッカロープ】デマじゃなかったのか…

他には牙を持つ鳥?サイズは九官鳥ほどだが…先生に聞くと見つかっている個体数が少なく名前がまだない鳥らしい。学者たちでは【ファングドバード】の名で通っているとのこと。一応魔力に由来する毒牙を持っている。

そんでもって最後の一匹は最初は気づかなかったが中国神話に聞く【青蛙神(セイアジン)】だ!前足が2本、後足が1本の三本足で、後足はお玉杓子の尾のように中央に付いている。見かけこそ三本足のヒキガエルだが、家に幸運をもたらすと言われる霊獣だ。

あの男二日目と三日目で全然売り物違うじゃないか…

とりあえず動物を出したところで日が暮れかけていた。

他のは明日にしよう…

 

「けっこう珍しいものも多いわね。けど…これ全部飼うわけにはいかないわね。」

 

流石に先生もこの量には引き気味。

 

「とはいえ、そのへんで逃がすわけにも…危険なのもいますし。」

 

ルーシィは楽しそうだ。さっきから青蛙神の背中をツンツンしてる…

 

「このカエルなんか東洋の生き物よ。どうする、セト?」

 

「やめなさいって、仮にも聖獣と呼ばれる生き物だぞ…」

 

「は~い。けどさ。実際問題、どうするの?」

 

うーん…こいつは…

 

「とりあえずはここで飼う。明日以降考えましょう。それでいいわね?セト。その疲れ顔じゃろくな意見も出ないだろうし。日も暮れるし。」

 

「そうですね。なんか面倒なの増やしちゃいましたね…」

 

「あなたが弟子になった時点で面倒事が増えるのは覚悟してたわよ。」

 

ほんとご迷惑おかけいたします……

 

家に戻ろうとすると突然ルーシィが大切なことを思い出したとか言って庭の広い草地に引っ張ってきた。

 

「セト。わ、私ね、セトと一緒にいたくてニューヨークからここまで来たの。ジャックに無理言って手伝ってもらってさ。それでね…」

 

もごもご言い始めた。なるほど読めたぞ〜

世には自分から契約を求める隣人もいると言うが…

 

「契約を求めてはるばると…」

 

「そう!セトと契約を結びたくて…」

 

なんか突然もじもじした感じだなぁ。どんだけ恥ずかしいんだよ!

 

「だ、だめかなぁ?」

 

あ~も〜!こう言うのはズルい…そんなきれいな顔でさ、目潤ませてさ、顔を少し赤くして…か、かわいい。

あっ、負けた…もう断れないぞこれ。

 

「う、うーん…」

 

チラッと先生の方を見る。呆れてそっぽ向いてる…

しかし、契約についてはあんまり知らない。流石にそこまで手が回らなかった。

 

「けど、僕は契約はやり方とかよくわからないし…」

 

ルーシィ。この返しは予想通りのご様子…

にこやかに

 

「大丈夫!私のあとを追って呪文を言えばいいだけだから!」

 

これは腹を括るしかあるまい…

 

「わかった…いいよ。君を僕の使い魔(ファミリア)として。迎えよう。」

 

ルーシィは大喜びで舞い上がってる。

 

「やったぁ!それじゃあ行くわよ。私の全部をあなたに…」

 

「全部?」

 

契約とは慎重に行うものだ、鬱陶しく思われたとしても確認を怠るわけには行かない。

 

「隣人たちは本来死の概念や時間の概念が希薄なの…すべてを結ぶっていうのは、あなたが死んだときに彼女も死ぬってことよ。契約でも最も深い結びだわ。向こうから寄ってくるなんてまず無いわね。けっこう好かれてるんじゃない?」

 

先生が教えてくれた。ルーシィ的には余計なことをってところ見たいだが…

命か…僕のせいで彼女が死ぬ…時間の共有。それは違うんじゃないだろうか

 

「そんなのダメだ!僕のとんでもなく短い寿命のせいで半ば悠久の君の時を左右したくない。」

 

「そんなの気になんかならないわよ!私はあなたを愛してるのよ!時間ごとき、寿命ごとき大したことないわ!それにより深い結びつきはそれだけより強い力を持つわ。メリットは沢山のはずよ!」

 

必死で頼むルーシィだが、こればっかりは譲れない。人間の脆さはよく知っているつもりだ。

 

「さっき君は僕のこと愛してるって言ったよね?」

 

ルーシィは勢いよくうなずく。なんか鼻息荒い……

 

「そんなら1つくらいは愛してる人の“お願い“ってのを聞いてくれないかい?」

 

「そりゃ…聞きたいけども…」

 

そのまま受け入れるのはダメらしい…

しょうがない、ちょっと騙すみたいだが

 

「いやね…僕ってさ自己顕示欲ってのが高いんだよ。だから死んだあとでも誰かに’僕’を知っててもらいたいんだ。それでね、君にその語り部をやってほしいのさ。愛した人のことなら見事に美しく語ってくれるだろうし。その為には君に死なれちゃ困るわけだ。わかるだろ?」

 

なんとも卑怯な…我ながら卑怯この上ない。まあ自己顕示欲高めなのは事実だし。結果的にそうなれば別に嘘ってわけでもない。

これを聞いたルーシィはとんでもなく悩んだ末に口を開いた。

 

「いいわ!そんなに頼りにしてくれるってなら。貴方を後の世でも伝えてあげる。けどそれなら、私が語れるくらい立派な人になってもらわなきゃね!」

 

「努力はするよ…」

 

きっつーーいハードルがおまけで来たがしょうがない。

 

「それじゃあ、ほら手を…」

 

ルーシィはそう言って両手を出した。手が回らなかったとはいえ基礎は理解してる。

 

膝をつく彼女の前で僕も同じように膝を地につけ、額をつけて両手のひらを軽く切ってから合わせた。気づけば、僕らの周りを月明かりのような光が包んでいる。

ルーシィがそっと口を開いた…

 

『「いざや結べ 断たれた緖 欠けた月を満たすように モミを結べ ローワンに火を灯せ 互いの道を忘れぬように  時が二人をわかつまで」』

 

「セト…私に新しい名前をつけて。契約の最後の工程よ。」

 

新しい名前…彼女に………

 

「ルキア…」

 

(ルキア)…まあ、悪くないわね。」

 

なにかが流れていく流れてくる。これが契約なのだろう。

額を離しルキアと目を合わせる。

 

「これからよろしくね。セト」

 

「ああ、これからもよろしくな。ルキア」

 

結びの儀式は終わった。僕ら二人を包んでいた光は消え辺りは夏の夕暮れ空に戻っていた。




つ め こ み す ぎ た
セト君…色仕掛けに引っかかってるよなぁ…
契約の儀式っていつも結婚の誓いを思い出すんですよw


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第二十七話『学院からの魔術師』

いつもの章終わりの処理回パート1
今年もよろしくおねがいします。


朝日が窓からさす。鳥はさえずり、外は夏終りの気持ちの良い風が吹いている。とても気分のいい朝だ。目覚めが顔を蹴られたなんて理由じゃなきゃ…

 

「ルキア!いい加減人のベッドに上がり込むのはやめろ!今日で何回目だ!」

 

ベッドの中から気持ちよさそうな表情でルキアの顔が出てきた。

 

「ん…んにゃ…おはよう〜セト。」

 

「聞いてるのか!?人の話を。」

 

そう言って彼女をベッドから蹴り出す…これもなんだかルーティンになってきたな

 

あれから数日たち比較的落ち着いた生活をしている。比較的だが…

結局トランクの残り物や動物たちや鱗とかの後処理は学院から人が来てからってことになった。

帰ってきた翌日には来た教会のサイモンさんとは違って、担当のアドルフって人はけっこう呑気なようだ。

1週間以上たった今日、やっと来るらしい。こっちは鱗の誘惑と対決させられっぱなしだったのだから取るものは取らないと気が済まない。

 

そういえばサイモンさんが来たときの第一声はボソッと「また増えた」だった。これにはルキアも怒ってた。ただでさえ教会と隣人は仲が悪い。それに追い打ちかけちゃまあしょうがないな…そういや先生も怒ってたな。教会からの仕事だって言って持ってきたのに実は学院からでした。ってのがどうも気に入らなかったらしい。ぶっちゃけ僕はどっちでもいいんだけど…先生的には学院にいいように使われたのが納得いかんと。

まあそんなこんなでサイモンさんはけっこう絞られてから帰っていった。ちょっと…いやかなり可哀想だったので、柚子の蜂蜜漬けを少し譲っておいた。

 

さて、ルキアを引っ張って部屋の外に放ってから着替える。そうしないともう大騒ぎだ…僕の上裸でもうなんかすごいんだもん。人の形になってるのは体力を使うとか、ぶつくさ言う割にはルキアはなぜかセントールの姿をあまりしない。まあ、おおよその検討はついてるが…

 

「セト〜!なんでいつも外に出すの〜!私寒い!」

 

「なんで外に出されるのか自分の胸に聞いてみろ!君は帰ってきた翌日の朝に何をやった?」

 

「……………セトが着替えの途中にベッドに押し倒そうとしました。」

 

「そうだな、それで何か言うことは?」

 

「ごめんなさい。」

 

実はその後二人仲良く先生にこっぴどく叱られたのだが…

 

「先生にも言われたろ?ダメだって。なのに人のベッドに入ってるし。私は床でも大丈夫〜なんて言ったのはどこの誰だった?」

 

ちなみにその時、先生がどうして人と妖精が一線を越えちゃいけないのかってのを教えてくれた。

なんでも、その行為自体呪いの対象になり二人の命が危険に陥ったりすることがあったり、仮に子ができたとしてもほぼ確実に忌み子になったりとまあろくなことが無いだけでなく周りにも迷惑をかけてしまうらしい。

 

着替えも終わり部屋の扉を開けると、泣き出す寸前みたいな顔のルキアがいた…僕がそういうの弱いの知っててやるんだからずるい子だよ…

 

「…ったく。反省ってのをしてくれよ。」

 

「はーい!」

 

反省する気ゼロ…

 

ダイニングに行くと先生がいつものように朝食を出してくれていた。

 

「セト、おはよう。」

 

「おはようございます!」

 

「ねえ、エルダ。私は無視〜?」

 

「朝からお楽しみだったわね。ルキア?お は よ う」

 

「うっ………お、おはようございます…」

 

もうこのやり取りも普通に感じられるようになった。

爺やとはいつも朝の挨拶くらいはしてたのに、なんでこんなに新鮮に感じるんだろう?

そんなことを考えながら席につく。

テーブルの皿は3枚。ルキアも一緒だ。こういう生活をしてると、使い魔と言うよりは家族って感じがする。

 

「二人ともちゃんとコミュニケーションとれてるなら別にいいけど、前も言ったけど節度ってのを考えなさいね。ああそれと、今日は昼前にはアドルフたちが来るわ。セトはあのトランクを降ろしておいてね。」

 

やっとだ…やっと拾った諸々を整理できる。正直言ってあの男の売り物って時点で不気味だし怖いし…なんで持ってきちゃたんだろう。はぁ…

 

食器を片付けながらルキアに頼み事をしておく。

ピュティアのエサの準備だ。サーパポートは雑食で何でも食べるらしいが、鰯でいいんだから楽なもんだ。イギリスでも安い部類だし、下処理もしやすいし(切り身のも多いんだが、いかんせん鮮度が低くてかなわない。)

 

ルキアってけっこう繊細な子で手先も器用。こう言うのは得意らしい。

 

食器洗いやらは僕の仕事。先生は庭のハーブたちの世話を朝一番でやっている。ここに来てやっと日常ってのを謳歌してる気がする。

 

さて、一段落ついて

庭で先生を手伝っていると二人の人間が来た。

例のウサギの人形も走り回っている。

 

「ごめんください。先日ご連絡させていただいた、学院の者ですが。」

 

若い声が聞こえる。この間の森でも聞いた声だ。

匂いも覚えてる

 

「はーい!今行きます。」

 

仮にも学院の代表。どんなのがくると思って扉を開けると、

 

「どうも。学院のアドルフ・ストラウドと言います。よろしくおねがいします。」

 

すっごいバカ真面目なメガネの人が一人。(この人は森にいた人だ。)と

 

「わぁぁ!見てよアドルフ!彼が噂の魔法使い君だろ?本物だ!いや〜本物のアガヴェエクネの魔法使いなんて始めてみたよ!感動だなぁ〜!」

 

すっごいバカっぽいメガネの人が一人だ。

 

この人たちとうまくやってけるだろうか…不安になってきた




思いの外長いから分割するわ…


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第二十八話『拾い物』

ポケモンとかマザー2とかみたいな秩序のある世界で落ちてる物を交番に届けないのはおかしい気がする。
まあゴミ箱の中のバーガーは普通拾わなけどw


学院からの魔術師二人を部屋に通すと、部屋には先生がお茶を用意して待っていた。

はやくね?ルキアもいる…

すでに机の上にはトランクを置いてあり、中には販売会(あの一件)で僕に呪い道具を売りつけようとしたり、鱗を奪おうとしたあの男が落としていった道具があのとき放り込んだまま入っている。

動物たちに被害が出なかったところを見るにおそらくは大丈夫だろうけども、用途のわからないものを持っていてもしょうがない。

発明された時期が新しい魔具では先生もわからないかもしれないし、そういう意味でも学院の人は役に立つはずだ。

 

「初めて会う方もいらっしゃるので、あらためて、私は学院のアドルフ・ストラウドです。よろしく。」

 

彼は僕に手を伸ばしてくれた。魔術師の話を隣人から聞くと毎回ボロクソだったので、これだけ礼儀正しく接する人がいるってのは意外だ。

一方もう一人は我慢できずアドルフさんとの握手を終えた僕に飛びついてこようとした…

 

「セトに近づかないで!ヘンタイ!」

 

ドガッ

 

案の定ルキアのどぎついケリを食らって一声も発することなく伸びてしまった。

彼女、人型でも関係なく蹴りが光ってる…

 

「……………同胞が失礼しました。彼はトーリー・イニス。あんなんですが、根はいいやつなんです。魔法使いが大好きで…まあ…悪気はないんです。すみません」

 

とりあえずアドルフさんが苦労人なのはなんとなくわかったし魔術師にも色々いるのもよくわかった。

実際彼の言うとおりトーリーさんからは悪意の匂いはしない。純粋な興味から来てる行動なのだろう

。だとしたら激しすぎだが…

そのうち’口の中の粘膜の細胞を採取させてくれ’とか言い出しそうだ…

 

「はぁ…私はセト・ナンブと言います。よろしくおねがいします。」

 

「お互い挨拶は済んだわね。それじゃあさっそく鱗の話からはじめましょう。それで…」

 

ーーーーーー

 

先生が取り仕切る感じで話は進み鱗についての長い協議も結論が出た。

ドラゴンの生息地にいる管理人に返すらしいのだが、なんと僕らが行くことになってしまった。

しばらく遠出することもないと思ってたらまたこれだ。

先生はアドルフさんを(鱗を渡しに行く人物として)一番ふさわしいと言っていたがどういう意味なんだろうか…

交通費は出すと言っていたが、鱗の代金は半分しか出せないと言われた…まあこっちが勝手に買ったといえ全額負担してほしいものだ…

動物達については引き取り手が付きそうにもないとのことで、餌代を無理やり学院にもたせてこっちで飼うことになった。先生はすごく嫌そうだったが、主に僕がおねがいしたのもあってしぶしぶ了解してくれた。

ちなみに、僕以上に話の内容がわからないルキアはず~~~っと黙って椅子に座ってた。

 

さて…

 

「それじゃあ、話も一段落したところで、こいつを見てもらってもいいですか?」

 

トランクの蓋を軽く叩く。魔法で内部の広さが自由自在だが、今は普通のトランクと同じ状態になってる。つまりその程度しか入ってないはずだ。

 

カチャ…

 

トランクを開ける。アンジェリカさんからの追加便で届いた呪い封じの手袋をして1つ目の小瓶を取り出す。あの男の物だ、どんな呪がかかってるかわかったもんじゃない。

小瓶は透明で中には白い小さな魚が空を泳いでいる。

 

「これって生きてるんですか?」

 

僕の質問にいつの間にかおきていたトーリーさんが答えた。

 

「最近飼育方法が発見された幻獣だよ。すごく強い幻覚を見せる力があって、相手に食べられたことすら感じさせないまま捕食をする強暴な肉食魚だ。今は狭いとこにいるから小さいけど彼らは住む環境の広さに合わせてサイズを変えるんだ。この部屋で放ったら……」

 

「サメくらいですか?」

 

「いや、そこまでは大きくなれないらしい。おそらく君が両手を広げたくらいはあるだろうね。」

 

ちなみに僕の身長は164cm。19才の日本人男性の身長が170なのでちびな方だ。しかも顔が女っぽいのや、声が高めだったり、先生に髪を切るのを禁止されたのもありよく女扱いされる。

それにしたって160って大きい。そんなんじゃ…

 

「そんなんじゃ、そこらじゅうにもっと居てもおかしくないんじゃないんですか?強暴なら人が襲われる話だって多いはずですよね?」

 

「そう!そこなんだよ!」

 

その質問を待ってた。って感じだ

 

「こいつらが【インドアフィッシュ】と呼ばれるゆえんはそこにある。」

 

インドア…日にでも弱いのだろうか…?

 

「こいつらは強い空気の流れの中では生きていけないんだ。風に吹かれると液状になって溶けちまう。これがわかったのが最近なんだ。」

 

もっと重篤な問題だった。逆にコイツラが絶滅しなかったほうが奇跡だ。

 

「まったく、よく今まで絶滅しなかったもんだよ。まさに奇跡だね。」

 

この人と同じ意見ってのはあんまり嬉しくないな…

 

次に取り出したのはなんか文字が刻んである拳ほどの石の板。

 

「ああ!こいつはただの簡易魔法陣だよ。こいつは…火起こし用だね。陣の上に火が出るんだ。ホラ」

 

ボッと石の上に火がついた。ライターでいいと思うが言わないでおこう。

 

トランクの残りは瓶の中に入ったいくつかの指輪と二つの革袋だけだった。

銀、金、白金…普通に高級な指輪だが、アメジストやルビーがついたものもある。普通のものと唯一違うのはリングの裏にびっちりとルーン文字が書き込まれているってところだ。

 

「こいつは…アドルフ。これって確か…」

 

「えっ?あ…これは!」

 

ん?なんだなんだ…瓶から出してみると確かにやな匂いがする。おそらく呪い付きの物があるのだろう。しかし二人の反応はそれだけではないといった感じだ。

 

「この指輪…こっちで回収させてもらえないか?」

 

一気に真面目な空気になったトーリーさんがいくつかの指輪を指す。見た目は他と変わらない、匂いは…多少危険な気もするが、対処できる範囲だ。

 

「別に構いませんけど…ねえ先生?」

 

先生の表情は二人と同じく固めになってた。

 

「これが、魔術師同士でのやり取りなら大したことはないでしょうね。」

 

???

 

「さすがエルダさん。問題はそこなんですよ。」

 

アドルフさんも同意している。

 

まったくわからん。

 

先生が僕に何が問題なのか教えてくれた。

 

「この指輪の呪いに気づけない人たちが、これを手に入れたらどうなるか?よく考えてみなさい。この指輪と同じタイプのものが一般流通品に混ざり込んでるってことよ。イタズラで済まされる問題じゃないわ。」

 

ようやく理解できた。それでアドルフさんたちはこの指輪を回収したいのか。

 

「ここ最近になってこれと同じ形の指輪が出回ってまして、被害報告もちらほらと…魔術師のしたことの責任は魔術師が…」

 

「わかりました。どうぞ持っていってください。」

 

結局どれも呪いがかかってることもあり指輪は瓶ごと全部持っていってもらうことにした。持っていてもしょうがないし…

 

さて次はこの拳よりちょっと大きいくらいでずっしり重い革袋だ…

袋の口を開けると…なんか粉が大量に入ってる。

 

少し取り出してみるとこの正体がわかった。そのまま粉をすっと袋に戻し、アドルフさんに渡した。

 

「これはこうしたほうがいいですよね?アドルフさん。」

 

「魔術師のブローカーは厄介ですからね…責任持って処分します。」

 

中身は麻薬だ。こうするのが一番だろう。

 

最後の袋には(ろう)が入っていた。

 

「魔術や魔法で蝋は欠かせないからね。けどこいつは…ああ、大丈夫。ほんとにただの蝋だよ。市販のものだ。死蝋じゃないね。栄光の手(ハンズオブグローリー)とかだったら面白かったのに…」

 

死蝋はミイラの親戚みたいなもんだ。魔術ではおなじみの儀式アイテムではあるが、そんな不気味なもの絶対使いたくない。

 

「こんなところか…問題になりそうなのは指輪とこの粉だけだね。」

 

トーリーさんはちょっと残念そう。まあそんな面白そうなものはあの男も落とさないだろう。

 

「それじゃあ、私達はこれらの処理もありますから、そろそろ失礼したいと思います。」

 

アドルフさんは少し忙しそうに席を立った。

 

「ええ、お疲れさま。」

 

あっさりした先生と不満そうなトーリーさん

 

「なんだよ、アドルフ、もう行くのかい?まだ魔法見せてもらってないのに…」

 

「それは、あなた個人の問題でしょうが。仕事を優先してください。」

 

まあ、もう日も傾いてるから帰ったほうがいいのは事実だ。てかトーリーさんに関してはもう帰って…この人は一緒にいるとどうも疲れる。

 

「今日はありがとうございました。これどうぞ。」

 

柚子のはちみつ漬け最後の一瓶を押し付けて帰ってもらった。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

「はぁ~~。やっと終わったのね。」

 

「悪いことしたなルキア。」

 

終始座りっぱで黙ってたルキアは限界だっただろう。

別に無理せず外歩いていても良かったんだが…

 

「ううん、いいの。セトと一緒のほうがいいもん。」

 

ま~た密着してきたルキアをスルーしつつ、机の上を片付ける。けっこう面白そうなものもある。特にインドアフィッシュとか言うのは骨っぽい外見でかっこいい。

 

「片付けたら……悪いけどまた出かける準備よ。明々後日にはドラゴンの巣へ行くわ。」

 

疲れ気味の先生だが、ドラゴンの巣に行くのは別に嫌ってわけではなさそうだ。ただ疲れてるだけ、そんな感じがする。

 

「ドラゴンの巣ですか…どんなとこなんですか?」

 

「ん…まあそのまんまドラゴンがいるところなんだけど、イングランドのハズレで空気も景色も綺麗なところよ。」

 

「ドラゴンか〜!私見たことはあるけど、巣の方は行ったことないなぁ。アメリカから出たのはこれが初めてだもん。」

 

僕の腕に抱きつくルキアは随分楽しそうだ。

ドラゴンの巣…そこはきっとこことは別世界だろう。

僕はまだ見ぬ世界に想いを馳せていた…




インドア…フィッシュ。書いてから気づいたよ。

「恐ろしく早い手刀。俺でなきゃ見逃しちゃうね。」


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第四章【翔龍編】
第二十九話『ドラゴンの楽園』


pixivでも指摘されたのですが、展開早めだと思います。
これには理由があるのです。
まず1に、この話ではもう夏が終わりもうすぐ冬が来ちゃうからです。イギリスの冬を都会ニューヨーク育ちの若いのが簡単に乗り切れるのか?エルダさんはそう言うところも考えているのです。しかも冬は何かとやらなければならない行事もありますし。
第2に、初期設定でも述べましたが、この物語、チセちゃんがイギリスに来る一年前から始まってます。そう!ほっとくとチセちゃんが来ちゃうのです。絡ませる予定があるので作者的にどうにかせねばならんのです。

以上の理由で展開が早いのです。まあエルダさんがセトくんを気遣ってると思ってやってください。



空気が綺麗だなぁ…

ドラゴンの住むというこの土地は普段の生活圏とはまるで違った空気を持っていた。

 

「これならドラゴンが住んでるって言われても納得です。」

 

「ここまで辺境なら人も寄らないからね。セト、寒くない?」

 

「大丈夫ですよ!この外套すっごく暖かいんですよ。」

 

学院の二人が帰ってから、実は1ヶ月も経ってしまってもう10月。

出発が遅れた理由は泥棒だ。

ドラゴンの卵を盗もうとした連中が学院によって捕まったのだ。その結果、事実確認のためにドラゴンの管理者と学院の間で諸々あったらしく、しばらく外から人を入れられなくなってしまった。

まあおかげで僕は魔法の技術を結構手に入れられたのだが。

最初はろくな薬も作れなかったが、ルキアが来てから魔力のバランスがとれるようになり二週間前にやっと風邪の薬が完成した。これに関してはルキア様々だ。

まあそんなこんなで、前回のお出かけよりは魔法使いとしてレベルアップしてここに来たのだが…

さっきから後ろから来ているルキアの匂いがどんどん遠ざかっている。

 

「ルキア!君はだいじょ…」

 

「全然大丈夫じゃなぁーい!セトの影に入れてよ〜!」

 

岩場を歩いてはや一時間。セントールのルキアにはやはりキツかったか…なんとか来てるがヘトヘトな様子。

 

「最初君が自分で歩くって言ったんだろ?」

 

「だってこんな険しいとは思ってなかったんだもん。いくら人をよせたくないったて限度があるでしょ!こんなとこに住むなんて管理者ってのも好きモンね。」

 

アハハハ…確か………!?

 

「ワシがなんだって?」

 

「だ~か~ら~!とんだ好きモンだって言って…………!?」

 

「大陸から来た隣人は辛辣よの。」

 

気がつくと僕の後ろに嗅ぎ知らない匂いの人間がいる!

 

「なっ!どこから現れた!」

 

慌てて地面を蹴って距離を取ろうとしたが、バトル漫画のように行くわけもなく、岩場の着地をミスって足を滑らせて…

 

「あっ!」

 

ズッっという不快な音とともに眼の前にはいっぱいの空が広がっていく。

 

ガシッ

 

岩場への後頭部直撃は回避したようだ…

ぶつけかけた頭はなにか柔らかものに支えられている。

 

「セ、セト!大丈夫?」

 

どうやらルキアがすっ飛んできて僕を助けてくれたようだ。彼女の瞬発力には時折驚かされる。

 

「ああ。ありがとう。」

 

彼女は両手を僕の胴に当てて支えてくれている。その間に僕は足を地面につけ直してバランスをとり、頭を上げようとした。その時…やっと自分の後頭部を支えていたモノがナニかわかった…

 

「もうちょっとだけ倒れててもいいかな、なーんて…」

 

ルキアの顔が赤くなった。

匂いも恥ずかしがった匂いから怒りに…

 

「バカ!セトのバカァ!」

 

げいーんと背中を両手で押されて僕の体は起こされた。

 

「アハハ。ごめんごめん。まあそんなに怒るなって。」

 

ムスーっとした彼女をあしらいながら事の原因でもある人の方へ向き直った。

 

掴みどころのない魔力を漂わせ、その全てを匂いだけで知ることはできないが、それこそが彼の実力の高さをうかがわせている。

 

「あんた。誰だ?」

 

いきなり背後を取られた以上強気で行く。まあおそらくはここの管理人だろうが、偏屈なやつだと困る。

 

「なかなか良い目つきをしているな。すまなかった。わしの名はリンデル。」

 

バサッ、バサッ

 

どこからか空を切る音がする。不思議な匂いも近づいてくる。

 

「ココの管理人をしている。」

 

バサッ バサァッ!

ふと見るとルキアが僕の袖をギュッと掴んでいる。

不安なのか?

 

「ようこそ。ドラゴンの最後の楽園へ」

 

バサッァ!ザッ!

 

一瞬男の姿が消えたようにみえた。

あたりを埋め尽くす大きな影はそんな勘違いをさせるには十分な大きさだった。

岩場の際に立つ男の背に現れたソレはあまりのも雄大であった。

 

これが…ドラゴン!




さーて変なとこで切れてますが気にしない気にしないw


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特別編「キャラクター紹介2」

主は金がないのでファンクラブも演劇も行けそうにありません、、、実はめちゃくちゃ行きたいんです、、、
増えたキャラや訂正、補足などをちょこっと


【名称】(性別)[所属]:説明

 

【セト・ナンブ】(男)[エルダの弟子]:日本生まれアメリカ育ちの19歳。今年で20になる。誕生日は 10月25日でさそり座、血液型はO型。好きなものは猫とイチゴ。嫌いなものは虫。竜舌蘭の花という特殊体質であり現在は魔法使いエルダの下で魔法を学んでいる。

能力のためか非常に練度の高い魔力を有しており、隣人や動物たちに好かれやすい。

セントールのルーシィをルキアという新しい名で使い魔に迎えている。

数年前に両親を事故で亡くしており、親族はいとこのショウ・シラカワしかいない。

 

 

【エルダ】(女)[なし]:周囲からはカラーズと呼ばれている魔法使い。見た目は30代前半といったところだが、お約束で顔と年齢は合っておらず、第二次世界大戦中はもう弟子を取るほどだった。セトを弟子に迎えて以降気苦労が絶えない。

多方面に知り合いがおり何かと仕事を持ち込まれる。多少厳しいところはあるが、優しくおおらかな性格の持ち主

魔法使いの嫁銀糸編の作品の「ナチュラルカラーズ」の登場人物

 

 

【ルキア】(女)[セトの使い魔(ファミリア)]:もとはルーシィという名だったがセトとの契約において新たな名を得た。大昔に大陸へ渡ったセントールの一族の末裔で、活発的で明るい性格の持ち主。セトの魔力に惹かれていたが次第にセトのことを想うようになり、自ら使い魔になることを望んだ。火に関係する力が多少強い

 

【キリド・フェーン】(男)[魔法機構]:魔法使いの弟子。かつては功名心からか体を壊してまでの開発、研究を続けていたがエルダのおかげで世界の色を取り戻した。現在は学院や教会などに協力しながら魔力量の測定装置の研究にいそしんでいる。

魔法使いの嫁銀糸編の作品の「ナチュラルカラーズ」の登場人物

 

【アドルフ・ストラウド】(男)[学院(カレッジ)]:隣人が見えるものの魔術は使えないらしく現在は学院の事務方らしい。

かつてはリンデルの弟子だったらしいが詳しいことは不明。かつて渡した鏡を大切に持って置くぐらいには親交があったようだ。またその関係か学院のドラゴン関係の窓口になっている。

トーリーやレンフレッドとは仲が良いほう。

 

【ジャック】(女)[なし]:マンハッタンで探偵をしているチェンジリング。片割れと共同生活をしている。セトをエルダに紹介した張本人。職業柄顔は広め。アニメなどのサブカルチャーにドはまりしておりそれ関連の出来事には目がない。リンデルとの交流もあるらしい。

魔法使いの嫁金糸編 銀糸編 の両編に登場するキャラクターであり、彼女が主人公の漫画『魔法使いの嫁 詩篇.75稲妻ジャックと妖精事件』がiOS・Androidのアプリ版マンガドアにて限定で連載スタートしたとのこと。(詳しくは公式サイトをチェックだ!!)

 

【サイモン・カラム】(男)[教会]:教会上層部からあることを命ぜられている、神父兼牧師。宗教的に考えるとふつうあり得ないのだが兼任している。魔法使いと教会の橋渡し的なことをやっていることが多い。喘息のような持病を持っており、ある魔法使いから定期的に薬をもらっている。実は特殊なジンクスゆえに暗く重い人生を歩んでいる。”吸血鬼のようなナニカ”として暮らしており、その”ナニカ”と彼の心の暗いものによってセトにすら分からなかった嘘をついている。

 

【トーリー・イニス】(男)[学院(カレッジ)]:魔法使いオタクな変な魔術師、、、っぽさを演じているがカレッジ内での確執の一端を担っており、何を考えているいまいちわからない男。一応弟子もおりその弟子は彼のために魔法を学ぼうとしている。

 

 




彼らの活躍をご期待ください!!

噂の三人はもうちょとしたらガンガン絡んでくるのでよろしく~


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第三十話『菩提樹』

リンデンバウムって菩提樹のことらしいですね。
ちなみにドラゴンの巣はアイスランドにあるんですってね。


「いやぁ、驚かせてすまなかったの。ハハハハハ!」

 

「ハハハハハじゃないわよ、リンデル!うちの弟子で遊ばないで!」

 

まったくその通り、笑い事ではない。人生で初めて腰を抜かした、、、なんとかルキアの背に乗りながら谷までやってきたが、かなりこっぱずかしい思いをしてしまった。まさかドラゴンの迎えが来るとは、、、

 

「まあそう怒るな。この間の事件以来来訪者には警戒気味なのじゃ。私から出向きでもしないとカレッジの連中もうるさくてな。」

 

ドラゴンが盗まれかけたとかいう一件のことだろう。あれのせいで10月まで待たされたんだ。寒くなってきたしほんとに参っちまう。

 

「災難だったわね。犯人は結局何だったの?」

 

会話に置いてけぼりでつまんなくなってきたなぁ、、、

そろそろ痛みも引いて立てるからなおさら手持ち無沙汰ってやつだ。

 

「セト。なんかつまんないね。」

 

傍に立っていたルキアも同意見。大人の世間話というのはえてして長いものなのだ、、、

 

「先生、、、少しあたりを見てきますね。」

 

「えっ?あ、うん。こっちの用が終わったら声かけるわ。」

 

あっ、、、これほんとに長いやつだ。

二人から離れてあたりを見物してみる。どこを見ても見事なまでに大自然だ。空気もきれいだし、都会とは大違いだ。

 

「ルキア見ろよ!この花見たことない種類だ。」

 

あちらこちらに図鑑では見たことない植物がある。これだけでも来た甲斐があったもんだ。

 

「セトってそういうのが好きなんだね。」

 

好き、確かにそうかも。動植物は結構好きなほうだ。

 

「う~ん、、、まあそうかもね。昔は、、、⁉」

 

話しながらあたりを見まわしていると、突然ぎゅっとコートの端を引っ張られた。

ルキアは視界の中にいるから今引っ張ったのは彼女じゃない。

足元へ目をやると、そこには小さいドラゴンたちがいた。

おそらく子供か。トカゲにしちゃデカいもんな。

 

「お兄ちゃんたち魔法使いなの?リンデルの仲間?」

 

ドラゴンって喋るのかぁぁ!

 

「ドラゴンってみんな喋るのよ。知らなかった?」

 

僕の驚きの表情に気付いたようでルキアがクスクス笑いながら言った。

知るわけなかろうが!

改めて子供ドラゴンに向き直ると目をキラキラさせて回答を待っていた。

 

「あ、あぁ。私の名前はセト。リンデルさんと同じく魔法使いだよ。それとこいつは使い魔のルキア。よろしく」

 

「うん!よろしくねセト!」

 

いきなり呼び捨て、、、まあいっか。

それにしてもこのドラゴンは何をしに来たんだ?わざわざ挨拶だけってわけでもないだろう。

 

「ねえねえセト。ルキア。なんか遊んでよ!」

 

答えはすぐ出た。やっぱり子供らしい。

 

「セト。どうする?遊んであげる?どうする?」

 

ルキアは遊ぶ気満々だ。まあ大人二人のほうはまだ終わりそうにないし、少しくらいはいいだろう。

 

「よし!いいぞ!何して遊ぶ?」

 

僕の返事を聞いて小さいドラゴンは小躍りをしている。ルキアも嬉しそうだ。

気づけば辺りには小さいドラゴンたちが集まってきていた。

そしてみんなが一斉に遊びたいことを言った。

 

「「かけっこ!!」」

 

なんか少しやな予感がした、、、、




やばい、、、投稿間隔空きすぎだぁ、、、、


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第三十一話『跳んで、飛んで』

子供のころはすでに駆け回れるような森も山も空き地もなかったなぁとちょっと残念に思う今日この頃。


悪い予感というものは的中する。

 

ハアハアハアハア、、、

 

さすがドラゴン。小さくてもやることはオーバーだ(人間から見ればだけども)。少し走り回っただけのはずなのにもう足が棒になってしまった。

結局僕なしで彼らは遊んでいる。ドラゴンでもやっぱり子供か。遠目に見ていると脇にルキアが戻ってきた。

 

「ハアハア、、、すごい元気なのね。ドラゴンって。私もうヘトヘト~」

 

そういいながらも彼女の表情は明るい。そういえば最近こんなに広いところで走り回ることもなかったな。少しストレスになってたのかなぁ、、、

そう考えるとそれだけでここに来た甲斐があった。

 

「たしかにすごいな。彼らのとんでもない体力が大空を羽ばたくあの雄大な姿を形作っているんだろうな。」

 

二人して休んでいたらまた子供たちが集まってきた。

 

「セト!楽しかったよ~!次は何する?」

 

えっ!?あれだけ走り回ってまだたんないのかよ!

これにはルキアも唖然としていた。なんたって僕らが無駄話をして休んでる間も彼らは人間が混ざったらひとたまりもないようなじゃれ合いをしてたんだから。ほんとに体力有り余ってるな、、、

 

「あ、いや。すまないが私たちは少し休ませてもらうよ。君らだけで遊んでおいで。」

 

子供たちは多少不満そうではあったが、何か思いついたらしく谷底に沿ってある川の少し上流の滝のあるがけへと昇って行った。

 

「あんまり危ないことはするなよ~」

 

といったそばだった。

 

「ねぇセトみててよ~!」

 

滝の上一匹の子供が小さな翼を大きく広げて今にも飛び降りようとしていた。

小さめな滝とはいえ高さは1、20mはある。落ちたらひとたまりもないし、あの小さなバランスの悪い体では到底飛べるとは思えない。

 

「あっ!よせ...」

 

スッとまだ幼いドラゴンの体が宙に舞った。

その先を直視できるほどの勇気は無く。僕は目をぎゅっと閉じた・・・・・・・・・・

 

 

あれ?

何も落ちた音が聞こえない。

急いで目を開けて確認すると、ちょうど落ちたはずのドラゴンが翼を広げたままゆっくりと降りてきた。

翼がパラシュートの働きをしたのだろう。が、あの体のバランスでそれができるとは思えない、、、

ドラゴンたちも隣人たちと同じく現代の常識が通じる相手じゃないってことか。

まあ心臓に悪かったが無事で何より。

 

「あははは!セト、すごかったでしょ?僕らはそれを飛べるんだよ!人間にはできないんでしょ?」

 

さっきのドラゴンは楽しそうに、そして自慢げに話した。

こうもされるとちょっと対抗したくなってきた。

 

「あぁ、凄かったよ。おかげでこっちは心臓がちぢこまったかと思ったけどね。んだが、人間だって空は飛べるぜ。」

 

(飛行機でな)

 

「えっ!?ウソだ!リンデルは飛べないって言ってたよ。」

 

周りで遊んでた子供たちも集まってきて目を丸くしてこちらを見ている。当然だ初耳だろうし。

 

「ところが今の人間は飛べるんだよ。ちょっと特殊な準備がいるけどね。」

 

自信満々にいいう僕にルキアが耳打ちをした

(セト。そんなこと言っていいの?実際に翼が生えてくるわけでもないのに。)

(いいのいいの。飛行機は人間の発明だ。科学も人の力ってことでさ、嘘言ってるわけじゃない。それに)

(それに?)

(ちょっと悔しいからね。なんか騙された感が否めない。)

(フフフ。結構セトってかわいいとこあるわね。まあ程々にしてあげてね。)

 

「ねえねえ!人間が飛べるってホント?ルキア」

 

ドラゴンたちはどうにも僕が信用できないらしく、今度は質問の先を変えてきた。

だが残念!その子は僕の使い魔だ。しかも今悪だくみの計画をすり合わせたところだからね。

 

「えぇ。私もびっくりしたけど、飛べるのは事実ね。」

 

((飛行機だけど))

 

二人に言われてやっと事実と認知したようで

子供たちはほかのみんなに伝えようと僕らに何も言わず駆けて行ってしまった。

 

「あの単純さは。可愛らしいかもしれないが、ちょっと危険じゃないの?」

 

「隣人も賛同したから信用したんじゃないの?」

 

「いや、そこまで考えてないね。とりあえず無邪気な好奇心の香りはしたけど。それだけだったよ。」

 

子供たちはいなくなり再び静かな谷に戻ってきた。まぁ川の中にとんでもなくデカい何かがいる点を除けば非常に心休まる場所だ。先生たちはまだ終わらないみたいだし、少し横になるか。

 

「ルキア、少し休もう。ぼかぁ疲れた。」

 

「そうね。さすがにあれだけ動くとね。」

 

やわらかい草の絨毯の上で横になる。頭の上を吹き抜ける風は心を抜けていくような爽やかな、心地のいい優しい風だった。




最近おわりが難しい。次はちょこっとネヴィンにも出てもらいますかな。


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第三十二話『龍の夢』

ちょーーーーーーひさしぶりです!

ごめんなさい


それは、遠い昔のこと、、、

 

私はそこで目を覚ました。美しい自然の中で、先祖たちが還ったここで。

一緒のころに目を覚ました友達は大きな翼があった。私にはない雄大な翼が。

飛ぶとはどういうことなのだろうか?

一生叶うことのない夢を抱きながら私は大地から彼らを見つめていた。

 

月日は流れた。それはそれは恐ろしいほど多くの時が過ぎていった。

あの友達は、還ってしまった。

けど、悲しくはない。いずれ私も還る。

けれど、、、

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

目が覚めたら風は暖かさを増していた。太陽は仰向けにころがる僕の真正面にいる。

隣ではルキアも目をこすりながら起き上がろうとしていた。

遊んでいたはずのドラゴンの子供たちはみんなで集まって滝の傍でお昼寝タイムのようだ。

スースーと寝息を立てている。

日が射して自分のいるところが明るくなったせいか辺りが暗く見える。

その暗がりがさっきの夢を呼び覚ます。

『恐ろしく奇妙で孤独な夢』だった。それと同時に『美しい』ものでもあった。

また誰かの記憶を覗き見てしまったのだろうか?今日はちゃんとネックレスつけてきたのに、、、

最近はあまり魔法が上達していない。それが関係しているのだろうか、、、?

そうこうしていると、目をこすりながらルキアがこちらにやってきた

 

「ふぁぁぁよく寝た。セト、おはよう」

 

「ん?あ、あぁおはよう、ルキア」

 

あからさまな僕の異変にさすがのルキアも気づいたようだ。

心配そうに顔を覗き込んでいる。

 

「あ、いや、、、妙な夢を見たんだ。それでちょっと頭の中が混乱してるんだよ。ハハハ、、、」

 

そういってふらつきながらそばの岩に手を置きながら立ち上がった。

 

『妙な夢とは、空を舞うドラゴンを見つめる夢のことかな?』

 

!!

 

声は直接僕に届けられたかのように感じた。実際はそのひとはその言葉を口にしていたのだ。

だがその声は心に直接響く、独特な魔力を帯びていた。だがその主はどこだ?

ここは特殊な空気の流れを持っていて、鼻は役に立ちにくい。

ルキアも聞こえたようでキョロキョロしていたが、すぐに僕の方を見てぎょっとした表情を見せた。

 

「?どうかしたのかルキア。俺の顔に何か、、、」

 

「違うわ!自分の手を置いたところ見てよ!」

 

ん?手を置いたところ?

そこには大きな岩が、、、岩が、、、、岩じゃない、、、、

 

『やっと気づいてくれたかな?

私は、ネヴィン………もう500年は生きているドラゴンだ。』

 

鼠色のずっしりとしたドラゴン。

500年という果てしない時を生きた結果か、その節々に老いが見えている。

しかし、、、その眼は死んでいない。

相手の心を見据えているような鋭く、しかし優しさに満ちた、、、

 

「し、失礼しました!岩かと思って…」

 

アッ…

 

『君ははっきりとものを言うんだね。』

 

どう考えても失言だ。

 

「す、すみません…」

 

慌てて謝ったがネヴィンは聞いていないようだった。僕のほうを向いているが、実際はもっと遠くを見つめている。それはルキアが僕のわききても変わらなかった。

 

『私は別に気にしていないさ。それよりも、君の背後の、、、』

 

背後?僕の後ろには誰もいない。サッと振り向いたが間違いなかった。

 

「僕の後ろに何かありますか?」

 

ネヴィンはしばらく無言でいたがハッとしたように僕の胸元を見つめた。

 

 

『そうか、そうか。あなたはこの子を、、、』

 

誰に向けたでもない独り言、、、しかしまるで会話の相手がいるような、、、

ルキアもこの年老いたドラゴンの奇行に首をかしげている。

 

「ねぇ、このヒト歳食いすぎておかしくなったんじゃないの?」

 

「こらッ!失礼なこと言うんじゃない!!」

 

小声で繰り広げられる僕らの会話もネヴィンには興味のないものなのだろう。

それらを指摘するでもなく、また僕の目を見つめだした。

 

『君は、まだタマゴなのだね。あぁ、魔法使いの。だ』

 

この言葉は間違いなく僕へ向けられたものだ

 

「はい。先生のもとで勉強をしていますが、まだまだ経験も浅く、ちゃんと孵るかもわからないタマゴです、、、」

 

そう。能力がどうのこうの言われても、結局のところ成長の実感は簡単には得られない。特に最近は全くと言っていいほど自分に成長を感じられない。

 

『そんなに自分を貶めなくてもいいさ。君には確かに他の人間にはないものがある、、、そうだ。』

 

彼はやさしく僕へ語りかけた。嘘のない言葉。鼻など使わずともわかるさ、彼の言葉に嘘はない。

 

『君はここで杖の素材を探すといい。魔法使いにとって杖は必要なものとなるだろうからね。』

 

杖、、、そういえば前に先生が言っていた

 

 

「魔法をより安定させて使うには杖があるといいわ。あれは一種のカギなの。自分の求める結果への道筋を打ち立てるカギ。いずれ作りましょうね。」

 

杖があればまた成長できるだろうか、、、

 

 

『ここには多くのドラゴンたちが眠っている。木となって。』

 

木?確かにこのあたりには大き目の木が多い。これが全部ドラゴンだっていうのか?!

 

『我々ドラゴンはその命が終わるとき、大地へと還るんだ。そして一本の木となる。彼らから生まれる木はなかなか質の良い素材となるはずだ。リンデルも快諾してくれるだろう。』

 

「ありがとうございます。先生にも話してみますね!」

 

まだ僕には殻を破るチャンスがある!ここに来た甲斐があったものだ。早く先生に杖の作り方を教えてもらおう!

自分の中に感じていた不安は消し飛んでいた。そして夢に見た光景も、、、

ルキアも僕の顔をみてほほを緩ませた。

 

「ネヴィンさん。ありがとうございました。」

 

ぼくは深くお辞儀をした。 ルキアも頭を下げていた

 

『いや、私は何もしていないさ。まあ君の役に立てたならうれしいよ。こちらこそ楽しいひと時だった。ありがとう。』

 

ネヴィンの感謝は僕たちの心に直に届いた。

彼の深いやさしさに背を押され僕たちはその場を後にした。

自分の杖を思い浮かべながら、、、




うまくまとめられなかった、、、次回は杖についてのお話です


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第三十三話『スランプ』

そろそろこの谷ともお別れか


「えっ!杖を作りたい?」

 

「おやおや、随分と元気のよい卵よの。」

 

 

ネヴィンのもとを去った僕らは大急ぎで先生たちのもとへ走っていた。

 

「そうなんですよ!杖さえあれば魔法も安定するんですよね?」

 

杖さえ。その言葉を聞いた途端先生は不満そうな表情をした。

なにかマズイことを言っただろうか?

 

「まるで、杖がないと魔法が安定しないといわんばかりね。確かに杖はより高等な魔法を使うとあれば必需品となっていくわ。けど今セトに教えているものはそんなハイレベルな魔法ではない。問題はあなた自身にある。ルキアと契約して以降しばらくは調子が良かったけど、突然伸び悩んだ。自分は才ある身であるはずなのに。大方そんなところでしょう?」

 

うっ、、、

見事に看破されていた。

 

「ハハハ!相変わらず自他に厳しいやつよの。若い”芽”をいじめてやるな。」

 

リンデルさんはにこやかに僕らを眺めている。口ではああいってるが、仲介する気は毛頭ないようだ。匂いから察するに、他人のことには干渉しないタイプのようだ。

 

「リンデル。少し黙ってて。」

 

さすがわが師匠、躊躇ねぇ、、、

先生は僕に向き直ると再び話し出した。ルキアもビビッてて棒立ち状態。あきらめて話を聞くかぁ

 

「誰にでも軽いスランプはある、それは魔法使いも例外じゃないわ。まだ若い子に起こりがちなんだけど、魔法をたくさん学んで、今までの何倍も魔力を使うようになると、コントロールの感覚が狂いだすことがあるの。ものすごい緻密な徹底管理でもされてない限り、大なり小なり起きることよ。」

 

 

「それじゃあ、今僕はそのスランプなんですか?」

 

「えぇ、その中でも比較的浅めのね。」

 

得意な分野以外ほぼ安定しない今の状態で浅めなのか、、、

 

「ひと月。おおまかなスランプの時期は一か月よ。そこを超えたらまた安定してくるわ。」

 

なんだ。それだけのことだったのか。それなら初めからそうだって言ってくれれば、、、

 

「それならなんでセトにそのこと言ってあげなかったのよ。」

 

ここぞとばかりにルキアが口を開いた。パートナーの僕のスランプには人一倍心配してくれていた。彼女の気持ちももっともだ。

 

「簡単よ。スランプという状況に甘んじて抜け出す努力をしなくなるからよ。私は無理をさせるのは嫌いだけど、努力もせずできないできないっていうのはもっと嫌いなの。」

 

ごもっとも。やはり僕のことを思っての行動だったのか、、、

 

「先生。目が覚めました。努力なくして結果は得られない。危うく逃げてばかりの人間へと落ちて行くところでした。」

 

厳しい目つきが緩み、優しいを帯び始めた。

 

「そこまで、自分を責めなくてもいいわよ。あなたの努力は私、、、いやルキアが一番知ってるもの。」

 

エッヘンと言わんばかりに胸をそらせまくってる彼女のほうを見ながら先生は言った。

 

「まあ、あなたの言う通り必要になったら杖をもらいに行きましょう。スランプを乗り切ったら。ね?」

 

「はい!」

 

話をずっと無言で聞いていたリンデルが口を開いた

 

「そうかそうか。また来るか。それではその間にめぼしいものを見繕っておこう。」

 

「ありがとうございます。リンデルさん。」

 

三十代前半のように見えるこのフードの男性。本当のところどう思っているのかはわからないが、このやさしさには甘んじてもいいのだろう。

杖は少し遠ざかったが、この出会いは素晴らしいものを生み出すに違いない。

肌を刺す寒さが少し和らいだように感じた。




はやくチセを出したい、、、


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第三十四話『休息の終わり』

やっとこさここまで書けた、、、
飛翔編最終回です。


「さて、それではそろそろ鱗をかえしてもらおうかの」

 

杖の話もひと段落し、会話の話題は本来の目的へと戻っていた。

鱗は僕のカバンの中に小箱に入った状態で入っている。

直接触れることがどういうことかは先生が身をもって証明してくれたし、ここ数か月の間自室に置いていた僕もよく実感していた。

 

「はい、この中にドラゴンの天鱗が入っています。」

 

ガサゴソとカバンを漁り小箱を引き出しリンデルさんへ手渡した。

 

「うむ、たしかにうけとったぞ。ところで、、、」

 

リンデルさんは不思議そうに箱を見つめている。

 

「どうしてまたこのような魔力封じの小箱なぞにいれてきたのだ?」

 

「それは、、、触れるとどうにも危険なもんで。ねぇ?」

 

ちらっと先生のほうを見やると先生はオホン!と咳払いをした。顔も少し赤い

 

「え、えぇ。強い魔力を持つものっていうのは多少の危険をはらんでるわね。」

 

あからさまにおまぬけな反応をする僕らを見てリンデルさんは大笑い。

 

「ハハハハハッ!そうかそうか。【記憶と欲求】か。おぬしらには悪いことをしたな。そうかそうか、エルダ。おぬしもか。ハハハ!」

 

「そ、そこまで笑うことはないでしょうに!」

 

先生が顔を真っ赤にすることなんてそうそう見られない気もする。あっいや鱗の一件で見たか、、、

 

「まあまあ。しかし、鱗自体には傷もなく何かに利用された形跡もない。主らが大切に保管してくれたが故だ。礼を言わねばな。」

 

そういってリンデルさんは小さな巾着を先生に手渡した

 

「お金については学院(カレッジ)がどうにかしてくれるだろうから、私からはこれをな。」

 

巾着の中にはなにか石のようなものが入っているようだが、、、

中を見た先生が少し驚いた表情でリンデルを見た。

 

「あら、ずいぶん珍しいものをくれるのね。ベゾアールなんて。」

 

ベゾアール、、、たしか山羊や牛の胃から見つかる石だ。

 

「解毒に使う石でしたっけ?」

 

「ほう。よく学んでおるな。やはり優秀な師を持つとはこういうことかの。」

 

リンデルさんは顎に手を当て感心した様子だ。

褒められた先生はまんざらでもない。

 

「まあ、何かと役にたつものじゃ。持っていくといい。」

 

「ありがたくもらっておくわ。それじゃあそろそろ、、、」

 

まだ日が昇りかけのころにここについたが、もう暮れる一歩手前だった。

 

「そうか、もうそんなに経ったか。やはり若い者たちといると時の流れが速く感じるものよなぁ。二人とも、いや三人とも、また来るといい」

 

言葉からは寂しさと期待が香っていた。

 

「はい!今日はありがとうございました。」

 

僕らはリンデルさんにお礼を言い谷を出た。

 

その道中の話題はやはりドラゴンたちのことが大部分をしめることになった。

 

「それで、すごいんですよ!崖から飛んだと思ったらスーッと滑空していくんですよ。」

 

「そうそう。あれには私も肝を冷やしたわ。」

 

先生はにこやかに僕とルキアの話を聞いていた。

僕の話が面白いっていうのはわかるが、あんなににこにこするもんかな?

そう思っているとルキアが僕に耳打ちした。

 

(セト。エルダはね、最近スランプ気味で暗かったあなたがこんなに明るく喋っているのがうれしいのよ。べつにあなたの話がうまいわけじゃないのよ~)

 

なんかさらっと嫌味言われた気がしたが、、、

 

「ん?そうしたの二人とも。」

 

小声で話す僕らを先生が不思議そうに見つめている

 

「いや、何でもないですよ。」

 

「そうそう。何でもない何でもない!大丈夫よエルダ。」

 

こうも隠し事へたくそな二人組がいるだろうか、、、我ながら滑稽だ

それに追い打ちをかけるようにルキアは露骨に話題を変えた

 

「あっ!そういえば!帰るときにリンデルからもらったあの石はなんなの?私知らないわ?」

 

「あぁ、これね」

 

先生は上着のポケットから巾着を引っ張り出した。

 

「そうね、、、せっかくだし、ここは 勤 勉 なセトに教えてもらおうかしらね~」

 

隠し事したかるーい腹いせは見事に僕へクリーンヒットした。

 

「え、えっと、、、たしかベゾアール石でしたよね。これは山羊などの動物の胃からとれる石で解毒の作用があります。」

 

ぎこちないがとりあえずあっているはず。

 

「うーん70点ね。」

 

「えっ!?」

 

「解毒っていうけどこの石をどうやって使えば解毒できるのかしら?」

 

ん?そういえば、、、どうするんだっけ?

 

「エルダも意地悪ね。知らないことわかってたんでしょ?」

 

いつのまにか敵が増えてる、、、

 

「フフフ、まあね。でも中途半端な知識が危険なことは事実よ。杖が欲しいとか言っていたけど、まだまだセトは勉強が必要ね。」

 

家に着いたらお勉強祭りだなこりゃあ、、、

やれやれと思いながらも久しぶりに戻ってくる日常を前に安堵のため息が漏れた。

ほほをなでる風ははやくも冬の香りを運び始めていた。




やばい、、、文の質が分かりやすく落ちてる。
申し訳ありません。

あと、ベゾアールでの解毒の方法は口に押し込むだけ。毒に浸すことこそが解毒方法なのです。ちなみに一般人が使うとヒ素の毒くらいしか直せませんが、魔法使いたちの手が加えられたものはほとんどの毒を治すとか、、、
貴重品で高値でしかも広域で取引されていたらしく、ヨーロッパだけでなく中国の漢方にも存在します。

ちなみにセト君は久しぶりに日常が戻ってくるといっていますが、あの鱗がそれだけ彼にいろいろな影響を与えていたということなのです


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第五章【暗夜編】
第三十五話『四人の卵』


長らく放置した伏線をやっと回収に行きたいと思いますw


ドラゴンの巣から帰った僕らを玄関の前で待っていたのは手紙を咥えた小鳥、、、の死骸だった。

生きているかのようにふるまうそれからは生の匂いがしない。

 

「先生、、、あれは!」

 

しばらくぶりの開放感の中で気が抜けまくっていた僕にとって異質でしかないそれは恐怖の対象になりつつあった。

ルキアもセントールの姿で影から飛び出してきた。

一方で先生は怪訝な顔こそしていたが、警戒感は匂ってこなかった。

 

「二人ともそんなに警戒しなくても大丈夫よ。あれは学院(カレッジ)からの遣いよ。魔術師は死骸を使って連絡を取るって前に話したでしょ?」

 

警戒心マックスの僕らを諫めた先生だが、怪訝な表情をしているのもまた事実。

学院からの頼み事などろくなものじゃないのは、鱗の一件で実感したばかりだ。

 

死骸は手を出した先生に手紙を渡すとどこかへと飛んで行った。

 

家に入って窓からバサバサと飛ぶあれを見送っていると

 

「よくできてるね。あれで死体だっていうんでしょ?」

 

興味津々なルキアが言った。

 

「僕からすりゃあれは命への冒涜だと思うんだよね、死霊術ってやつだろ?あれは薄気味悪いよ。」

 

僕らが駄弁ってる間も先生は届いた手紙とにらめっこだった。

その間僕らがやることは、動物たちの様子を見ること。

青蛙神とピュティアは僕の部屋で飼っている。狭いとこに閉じ込めるのは気が進まない話だが、仕方あるまい。特に青蛙神に関しては神獣と呼ばれているし、下手に外で町の子供にいたずらでもされたらどんなリバウンドがあるかわからん。ピュティアは利口なので僕の意をくんで部屋でのんびり過ごしてくれている。

 

問題は外で飼ってるやつらだ。ズラトロクは色以外は比較的普通のシャモアなので囲っておけばいいが、

毒牙を持つファングドバードや脱走癖のあるウサギ二匹は餌やり一つにだって手を焼いている。

 

厚手の手袋で鳥小屋へ、片付いたら今度は細心の注意を払ってウサギ小屋へ

エサ代は出るとはいえ大変だ、、、

まあ今回も何も問題なく済んでくれたので良しとしよう。

 

一通り終わってルキアとダイニングで荷解きをしていると手紙を読み終えた先生がやってきた。

それもとびっきり真剣な顔で

 

「かえって早々悪いんだけど、明後日ロンドンに行くわよ。」

 

「「えぇぇぇ!!」」

 

さすがに僕らの体力の限界が目前に、、、

 

「気持ちはわかるけど、今回のことはあなたにとーーーーってもかかわりのあることなの。おそらく人生でも一位二位を争うくらいの。」

 

はて?人生にかかわること、、、?

 

話を聞いてみると手紙は学院からの協力願いらしい

ただのお願いであれば断ればいい話。先生が出発を決めた理由はほかにあった

 

「これを頼んできた魔術師こそ、あなたとルキアが出会ったあの日にほかの卵たちを引き取った人物なの!」

 

!!

 

あの日ジャックのもとへ連れて行ってもらったとき彼女は言った

 

「これで四人目だ」と

あの時はほかの三人については深く聞かなかったが、よく考えれば僕が魔法に目覚めた理由を知る手がかりそのものじゃないか。

 

結局、最後までごねたルキアを何とか説き伏せて、僕らはロンドンへ向かった。

約束の路地へたどり着くと、そこには5人ほどの男女が集まっていた。

見覚えのある顔は一人だけ、アドルフさんだ。

連絡役だと言っていた彼だが、今回の主役はその隣に立つ老紳士のようだ。

外見は65過ぎくらいの白髪の男性。だが体はしゃきっとしており杖の世話にはなっていなそうだ。

しっかりと手入れの行き届いた茶色のスーツに中折れ帽子。いかにも英国紳士を気取った服装だ。

 

この老紳士は僕らの前へ一歩出て挨拶をした。

 

「突然のお呼びたて申し訳ありません。あまり時間のないことだったもので。私はフランク・バーダー。学院の魔術師です。」

 

先生は僕らを背後にやって返した。

 

「ご挨拶ありがとう。私はエルダ。知っての通り魔法使いよ。それでこの子が、、、」

 

「存じ上げております。ナンブさんですな。」

 

バーダーさんは先生の後ろから顔を出した僕をまじまじと見つめていた。

 

「どうも、セト・ナンブです。」

 

挨拶もそこそこ、アドルフさんがバーダーさんに時間がないって顔して咳ばらいをすると

僕への目線を自身の背後へ向けた。

「さて、早速だが彼らを紹介しよう。竜舌蘭の花(アガヴェ・エクネ)という謎を共有する者たち。あの日、ニューヨークで魔力の目覚めを起こした三人だ。」

 

バーダーさんの後ろに立っていた三人の少年少女が前に出てきた。

すぐに、彼らが普通と違うことに気が付く、彼らの香りは僕と似ているから、、、




ここは必要なのですが書きづらいところでもあって難航しております、、、


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第三十六話『面倒なこと』

名前を決めるのはかなり苦労しました、、、


バーダーさんの紹介で僕の前に出てきた少年少女3人組。お互いに少し見やった後

一番左端に立つ、おそらく日本人と思われる少年が口を開いた。

 

「俺は、マサト・カキザキ(雅人 柿崎)あんたの見ている通り日本人だ、、、おっと!なんでそんなこと考えてるのかって顔してるな。えへへ、俺ってさ”視える”んだよ。いろいろと」

 

! 彼は僕のように他人の心が感じ取れるのか?

 

だが、まだ慌てる時間じゃない。心を隠す術は先生から早々に学んだ。

心の香りを感じてかぎ分けられるならそれを防ぐ策も知っておくべきだということだったが、まさかこんな所で出番になろうとは、、、

フーっと小さく息を吐き、心を自分の少しだけ内側に隠す。

最初のころは感覚がわからず、先生に性癖まで暴露されるという拷問のような目にも遭った、、、

今となっては懐かしい思い出。まだ数か月しか経っていないはずなのに、時間の流れは不思議なものだ

 

「よろしく。柿崎君!」

 

そうこう”思い”ながら手を出し、彼の顔を窺うと、突然”視え”なくなってしまったことに少し困惑気味なようだ。眉間にしわが寄っている。

 

「はいはい!次はあたし!」

 

怪訝な顔のままの柿崎をぎゅぎゅっと押して僕の前に現れたのはおそらくこの中で一番年下であろう少女だった。

金髪で白い肌。雰囲気も明るく、活発な雰囲気の子だ。

 

「私はアエラ・ホーキンス。15歳よ。あなた小さいけどいくつなの?」

 

「小さいとは失敬な、、、19だよ。これでも」

 

ムスッとして返すとアエラは驚いた顔をやたらとオーバにして見せた。

 

「へえ~!私より4つもお兄ちゃんなわけだ!あとね、私甘いものときれいなものが好きなの。うーんと、、、自己紹介ってこんなだよね。うん。よし!えーっと。まあ、うん。よろしく!」

 

「んん、、、?あぁ。よろしく」

 

妙に締まりのない会話だった、、、

 

アエラの番が終わり最後に来たのは、ずっとフードを深くかぶってバーダーさんの後ろに隠れていた少女だ。

 

「ほら。エニル!君も自己紹介なさい。」

 

バーダーさんに背を無理やり押されていやいや前に現れた少女は、ゆっくりとフードをとった。

 

、、、、!!!

 

艶のある長い黒髪。深い蒼い目。すっとした顔立ち。白い肌。

 

細く目を開け横目に僕を見る彼女は筆舌に尽くし難いほど美しかった。

僕より背も小さいし、おそらく年下だろう。だがそんなことは関係ない。

この感覚は、ルキアと会ったときに感じたのとは違う。確かに美しい。だがこの言葉だけでは言い表せないなにか、内から湧き上がる何かがある!

 

「エニル、、、エニル・マーシェン。」

 

彼女はそれだけ言ってまたフードを被ってしまった。

 

「エ、エニルさん。よろしく!」

 

そういって手を出したがプイっとそっぽを向いたと思ったらサッとバーダーさんの後ろにまた隠れてしまった。

 

「すまんね。セト君。エニルは少々人見知りが強くてね、、、」

 

バーダーさんは申し訳なさそうにして言った。

 

「あぁ、、、いや。かまいませんよ。」

 

めっちゃかまうんですけどね!!

初手から嫌われちゃかなわない。きっとこの感情は、、、

 

「さあ、挨拶はすんだわね。そろそろいいかしら?」

 

後ろで僕の醜態をみていた先生がたまらずこの微妙な空気に入ってきた。

まあ確かに、自己紹介だけのために僕らを呼びつけたわけじゃあるまいし。

バーダーさんがピシッとした表情になった

 

「あぁ。そうだな。では簡潔に話そう。セト君。君は鱗騒動の時に闇市で幻獣の脱走騒ぎに関わっていたろ。」

 

あー そういえばそんなこともあったなぁ。あのめんどくさい男の商売道具が山のように逃げ出した一件か。

結局僕が全部買い叩いて脱走した彼らをまとめて連れて行ったことでけりがついたはずだったが、、、

 

「あの販売の元締めがそれを知ってな、、、セト君、君をご指名だ。騒ぎについて”話し合おう”ってさ。」

 

あぁ、、、誕生日間近だってのに何てついてないんだ、、、

どう考えても厄介ごとだ。僕は過去の自分をとりあえずぶん殴りたくなった、、、




柿崎君ですが、カタカナだと長くなるので漢字で書かせていただきます。


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第三十七話『忘れてた因縁』

作者だって忘れかけてましたよあんなモブ


ロンドンでバーダーさんに連れられてたどり着いたのは雑居ビル。

見た目も入った印象もいたって普通のものだ。

 

狭い建物なのでルキアは影に入っててもらうことにしよう。

 

そんなことを考えながらバーダーさんの後をついていく。エレベーターで二階に上がり入ってすぐの錆の目立つ扉。彼はそこで立ち止まった。

 

「ここがそうだ。一応説得はしてみるがおそらくセト君しか入れてもらえないと思うよ。エルダさんは無理でしょう、、、」

 

「いいわ。何かが起きようものならこの扉程度どうとでもなるもの。」

 

先生は僕がヤクザのような連中に目をつけられたのが気に入らないようだ。

当然といえば当然だが、怒りでこのビル氷漬けとかにしなけりゃいいけど、、、

 

さて、件の部屋だが僕の鼻がおかしくなければ何の変哲もない部屋だ。

珍獣、霊獣を売りさばく連中の本拠点とは思えない。

疑問が多いが今質問したところで納得のいく返事は得られないだろう。

 

バーダーさんが扉をノックするとすぐに不愉快な鉄のきしむ音とともに扉があき人が一人、顔を出してきた。二人が小さな声で何かやり取りをしている、おそらく合言葉か紹介状的なものか、、、

会話が終わると扉から出てきた男は部屋に引っ込み扉を閉めてしまった。

様子をずっと注視していた僕らのほうに振り返りバーダーさんが口を開いた。

 

「やはり、入れるのは私とセト君だけのようだ。すまないがエルダさん、うちの弟子連中を見てやってくれませんかな?」

 

申し訳なさそうにするこの男の動作はいちいちワザとっぽい。

思えば教会のあの人もそんな動作だったなぁ。

だから胡散臭いとか言われていたのだろう。確かにこの人と同じく心の匂いを思い出せない人だった。

 

「はぁ。まあいいわ。ただし、セトに何かあったら、、、」

 

バーダーさんの対応にあきれながらも先生はしっかりと脅しをかけていた。

 

「も、もちろんわかっていますよ。お、お任せくださいな。」

 

あぁ、、、人はいいがこの人に何か任せるの不安だ。自分の身は自分でってことか。

 

「では、行こうかセト君。」

 

そういってバーダーさんは扉を手前にあけた。先ほどの不快な音とともに僕の目に映ったものはおおよそこの雑居ビルには似合わない高級な装飾がほどこされた先の見えないほど長い廊下だった。

もちろんこのビルのサイズに合っているとは到底思えない。

魔術で作ったのだろう。おそらく決まった手順を踏まなければこの廊下には繋がらないのだろう。後ろで見ていた三人組も目を丸くしている。

僕だってこの発想には驚いた。それと同時にこう言った連中が世間に見つからない理由もわかった。

 

廊下に一歩踏み入れると空気の匂いも一変する。

床は赤地金の刺繍の施されたカーペットが敷かれ、壁も繊細な細工が施されている。

キョロキョロとあたりを眺めていると

 

「セト様とバーダー様ですね。お待ちしておりました。」

 

女性の声が背後から聞こえた。さすがにこの廊下は相手に気づかれないように横をすり抜けられるほど広くない。よくてホテルの廊下程度だ。だから僕の後ろに人がいるという異常な事態は警戒に十分に値するものだった。

てかバーダーさんも驚いている、、、だめだこりゃ。

 

「驚かせてしまい失礼しました。」

 

そういって女性は先生たちに会釈をしながらビルと廊下をつなぐ扉を閉じた。

うまく閉じ込められたわけだ。

 

 

「私お二方のご案内を仰せつかりましたレイラ・ミラーと申します。早速ですが、社長室へご案内します。」

 

(社長ね、、、ハッ!)

 

スタスタと僕らの前を歩くミラーという人は金髪ショートに白い肌、スタイルがよく、いかにもな感じだ。

 

廊下は結構長かったがその間何もなくただ小綺麗な壁と床を見ただけに終わった。

気づけば扉の前、ドアノブは趣味の悪い金ぴかの竜の装飾が施されている。

ミラーさんが扉をたたくと、いかにも堅気じゃ無いスーツにサングラスの男が顔を出し僕らを通した。

 

「それではこれで、、、」

 

ミラーさんはそのまま外側から部屋の戸を閉めた。

 

さて、四角い部屋の中にはスーツのサングラス男が数名部屋の真ん中にやたらと高そうな机が一つ、そこには高そうな安物の椅子に座った小太りの男。

 

こいつが頭か、、、

 

「よう、バーダー。久しぶりだな。お前の話はあとだ。さて、君がセトくんだな。闇市ではコレが世話になったようだな。」

 

 

男はそう言って脇に立つ男に前に出るよう顎で指した。

キョドキョドしながら出てきた男には見覚えがあった、、、

 

「こいつは俺があの市に売りに行かせてた男だ。覚えてるよな?」

 

あぁ、、、おもいだしたよ。はっきりと。面倒ごとの塊のような男。僕に呪われた品を売りつけようとして失敗し、鱗を盗もうとして失敗し、商品だった幻獣に八つ当たりしたがためにみんな逃げだして、その後片付けを僕がやった。

 

「えぇ、はっきりと。」

 

「それじゃあ話が早い。簡潔に言おう。お前のせいで闇市での取引ができなくなった。責任をとれ。」

 

自分の蒔いた種なのか何だか、、、理不尽な攻めにあっているような気がする。




理不尽


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第三十八話『怒りと罰』

いろいろ迷走が始まってますね


「責任をとれ」

 

いきなり初対面の男に言われたのはこの言葉。迷惑甚だしい…

 

「取引ができなくなった?どうしてまた。」

 

バーダーさんがわきから突っ込む。

 

「簡単な話だ、騒ぎを起こしてあそこを仕切ってる連中から嫌われちまったって話だ。あいつらは無駄なかかわりを嫌うからな。商品の管理もちゃんとできねぇようなやつを縄張りに置いておきたくないんだろうな。まあわからんでもない。俺だってこいつ(ネズミ)が言い訳しなけりゃとっとと追い出してたな。」

 

ネズミと呼ばれていたのは件の男。わなわなと震えている。

そうだ!問題を起こしたのはこの(ネズミ)のはず

 

「私に責任を取れというのはお門違いなのでは?あれにはあくまで客としてかかわったのですから。」

 

僕の言葉を聞いた途端()()はあきれた表情をした

 

「ㇵッ!これだからジャップは…チビなだけじゃなくてオツムもいかれてるらしいな、どんくさそうな見た目だしまあやむなしか。」

 

なっ!こいつ!いわせておけば人をどこまでも…

思わずこぶしを握り締めた僕を見てバーダーさんはあわてて制止した。

 

(よせセト君。気持ちはわかるがこの部屋にいるのは私たちとあの男だけではないんだ)

 

小声で言うバーダーさん。彼の言いたいことはわかる。部屋は黒服の男が壁のふちに沿うように4人いる。しかもご丁寧に腰に拳銃をぶらさげている。

考えもなしに動けば二人ともお釈迦というわけだ。どうにも物騒な連中だ...

 

「あの時確かにお前は客で幻獣どもを買った。それはいい、だがその直前の出来事が問題だ。ズラトロクにのかって、注目を浴びて、、、あの段階ではまだあれらはお前のものじゃなかった。つまり俺らの商品でお前が目立ったことになる。十分問題だ。」

 

まあ一理ある。だがまさかこんなにも絡まれる羽目になるとは

分が悪い言い合いの中顔色が悪くなり始めた僕をにやつきながら(社長)が口を開いた

 

「まあ責任といっても、死ねとかいうわけじゃない。俺も慈悲深いからな。」

 

よく言うぜ。

 

「ほう…それで?」

 

「やっと聞く気になったな。お前にやってもらうのは今度ニューヨークである競売での俺たちの護衛だ。」

 

?????

はっ?なんか世界観ズレてない?どこの現代人に見習い魔法使いに護衛任務させるやつがいるんだ?

 

「この世界ではよくある話だ。脅迫があってな。それで護衛を増やそうと思ってな。な~に毎回死人は1人出るかどうかだ。」

 

この男!さすがにこの要求には隣にいるバーダーさんも黙っていられないようだ。

 

「ちょ、ちょっと。待ってくれ。その競売ってのはまさか裏の連中の…」

 

何か思い当たるものがあるようだ

 

「あぁ、そうさ。魔術関連の品をそろえた競売。その中でも金持ちどもがこぞって集まる隠れた競売」

 

ツコツコツ

 

?今何か聞こえたような

 

「危険だ!マフィアどもの闇取引と何ら変わらん世界だぞ…それを」

 

コツコツコツコツ

 

足音だ!扉の外から聞こえる。もうすぐ扉の前につく。

 

「危険だぁ?このジャップが顔出した闇市の100倍は安全だぜ。」

 

コツコツ!

匂いも嗅ぎ取れるくらいまでになった。あれ?この匂い、、、

 

「だから…!」

 

バンッ!

 

会話を遮るように僕らの背後の扉が勢いよく開いた。

 

「な、なんだ!?」

 

バーダーさんが驚きの声を上げる。

この匂いは間違いない!けどなんで?ここには僕ら二人しか入れないって最初…

 

「さっきから聞いてれば。セト君は置いてけぼりだし、理不尽な要求だし。ふざけているとしか思えないわ。ねぇ?グラハム・フリント。」

 

「エ、エルダ、、、!?」

 

そこに立っているのは先生だった。

 

驚くバーダーさんと社長(グラハム・フリント)をよそに先生はそのままズカズカと勢いよく部屋に入ってきて僕の腕をつかんだ。

ん?なにか…

 

「さあ、こんなふざけた連中とはおさらばよ。行きましょう!」

 

「ま、待て!」

 

驚きの硬直から戻ってきたと思われるフリントが声を出す。

だがその声からは嘘が匂ってくる。何か変だ…

 

「待つ道理がある?え?あんたに言われて止まると思うかい?」

 

……匂いだ。先生からする”先生の匂い”がおかしいんだ。しゃべり方にも違和感がある。もっとよく近づいて、、、匂いを、、、

 

「な、どうしたのセト?!」

 

腕をつかまれたとき。僕と先生との間にはぎりぎり1人くらいは入れるスペースがあいていた。

だが今その距離は鼻がくっつきそうなくらいになっている。

スーッと一息吸う。

 

 

 

先生の匂い。けどこれは、、、血?そうだ血の匂いがうっすら混じってる。そしてその奥に隠れている匂い、、、こいつは先生のじゃない、、、

 

刹那に感じたこのことだけで状況の理解には十分だった。

 

「あんた、、、誰だ?」

 

瞬間女はローブの中に手を突っ込んだ。

何か出す!

 

そう思った時には体が動いていた。

僕の右手は女の顔をがっちりと掴みそのまま壁まで押し付けた。

 

一瞬の出来事に混乱し続けのバーダーが口を開く。

 

「セ、セト君!何してるんだ!自分の先生だろう」

 

「あ?何言ってんだよ。こいつは先生じゃねえ。先生の血の匂いまとって俺を騙そうとしたクズだ。」

 

吐き捨てるように言う俺と唖然とするバーダー、ことの流れに渋い顔をするフリントと偽物の顔で苦しむ女、何が起きたか把握できない護衛の男ども。立場は大きく変わりそうだ。

いま俺の手の力は自分で考えているもの以上らしい。女は苦しそうにして壁に顔を押し当てられ続けている。

 

「質問に答えろ。先生に何をした。嘘つこうなって考えるなよ。」

 

苦しむ女に尋問をする。血の匂いがするということはよい状況とは思えない。前に先生は血があればより精巧に相手をまねれるといっていた。手段は分かったろして問題はその血はどこで手に入れたのか…

 

「し、してない!何もしてない!」

 

一瞬で考えている間に女の返答があった。

だがそれは嘘。

 

「嘘だな。お前はこのフリント(マヌケ)から魔法使いに嘘つくとどうなるか教わんなかったらしいな!

…馬鹿にするのも大概にしろ!」

 

頭の中が沸騰してる。感情が全部を置いてって前に出てる。

このイメージは...俺にとっての怒りは....まるで炎のように

 

気が付けば女をつかんでいた手が炎上していた。真っ赤な炎。見ているだけで火傷をしそうなほどに。メラメラと俺の右手を覆っている。

 

「ア゛ァァァッ!ガァァーッ!」

 

果たして人が出す類の声なのだろうか?燃えさかる炎の轟音に負けず劣らずの叫び声が部屋いっぱいに響き渡たる。

女の頭は火に包まれ皮膚が少しずつ焼けただれ始めている。

ずっとこの状況に驚きビビっていたフリントがやっとこさ声を振り絞って部下へ指示を出した。

 

「てめら!このガキを撃て。このクソジャップを撃ち殺せ!」

 

これで確信犯だ。フリントとこの女は目的こそ不明だが結託して俺をだまそうとした。

だがその指示を出すのなら女が悲鳴を上げる前にすべきだったな。

叫び声は大きかった。そのすきに自分の陰に隠れている彼女(ルキア)に部下全員を気絶させるよう仕組ませるのは簡単だった。

俺の影から延びる魔力の腕は地を這い、いとも簡単に男たちの背後をとった。あとは一時的に失神する薬を吹っ掛ければいい。ルキア自身はあまり乗り気ではないようだったが、状況が状況だ。やらざる負えんさ。

しかもフリントは気づいていない。恐怖で焦点が定まらず。燃える炎と叫ぶ女くらいしか目に入っていないのだろう。

一瞬の間をおいて俺が倒れず部下の返答もないことに気づくと、恐怖で顔を染め上げ椅子の背もたれにしがみつきガタガタと震えだした。

 

「お、お前。い、今すぐその手をはな、、はな、放せ」

 

ビビっていながらもまだ命令をしてくる。こいつも心底嫌いになった。

要求通り抑えていた手を放す。だがそれでは終わらない

 

女の顔と俺の手をまとっていた炎はみるみる女の顔の中に吸い込まれていった。まるで顔じゅうの毛穴がストローになって炎を吸ってるかのように。

気づけば焼けただれた先生の顔は崩れ落ち、別の人間の顔が見える。こいつは僕らをここまで案内した女だ。

 

火が消え呆然とへたり込む女をよそに僕はフリントの机にゆっくりと近づく。一歩進むたびにひぃ!ひぃ!と小さな悲鳴を上げる、、、

なんとも滑稽だ。僕を見下した男が一瞬でこのザマだ。

 

「お前は…」

 

###

 

『おい、ジャップ。今日はどんなミラクル(アホ)を見せてくれるんだ?昨日もすごがったよな~あのどんくささ、まだ豚のほうが動けるぜ。ギャハハハハハハハ!』

 

###

 

「さっきはずいぶんと言ってくれたなぁ。ジャップだどんくせえだ、ハイスクールんときの奴らみてぇなこといいやがってよ!てめえも俺を侮辱するんだな!!」

 

ずかずかと進み奴の胸ぐらをつかむ。

男のひぃぃという情けない声と同時に背後から再び悲鳴が上がってきた。

 

「あづい、あつい、あついあついああぁああぁぁ…いやあ。あぁっ!」

 

頭を掻きむしり苦しみもだえる女。

 

「あいつに何をしたんだセト君!」

 

混乱のさなか状況をやっと理解し始めたバーダーさんは再び混乱に飲み込まれかけているようだ

 

「なあに簡単なこと。火を頭の中に移しただけです。でもご安心を、本当に燃えてるんじゃないですから。彼女が頭の内側が燃えているように感じているだけ、一種の幻覚にすぎない。まあこのままいけば精神が擦り切れて自我が残るかどうか。」

 

頭の中が燃える感覚、あの女にとっては表面で燃えているほうが幸せだったかもしれない。

 

「さてと、やっとあんたの番だ。先生に何をした?」

 

女にしたものと同様の質問を投げかけるとフリントは意外な反応を見せた。

 

「そ、その前に。彼女の火を消してやってくれ。あの変装は俺の命令だ。頼む!あのままじゃ死んじまう。」

 

!!!

クソッ!こいつがただの悪党なら、女を捨てて命乞いをしたのならばここで躊躇なく顔面にでも火をつけていただろう。だがあろうことか部下の女を助けてくれと頼みやがった。

恐怖でべそかいてるこいつに部下にかけるやさしさがある…

 

「そんな感情を持ってるんだな。そうか…だったら、なんで、なんでその気持ちをお前らが傷つけた先生に分けてやれねぇんだよ!」

 

僕の怒りが最頂点に達しフリントに殴りかかろうとしたとき

 

バタンッ!

 

背後から勢いよく響く扉の音

今度は違和感なく香る美しい色の香り

 

振り返るとそこには先生がいた。僕の先生が




叫び声の表現がわからんです


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第三十九話『取引と脅迫』

まあさすがにくそ野郎にしすぎた感がぬぐえないフリント君
まあ密輸とかしてる時点でろくなやつではないんですけどね。


意外な展開

 

僕の頭の中で先生が無事であるという選択肢は存在してなかった。だが、よく考えればわかること。キレた僕ごときに手も足も出ない連中が先生をどうこうできるはずがない。

だが今はそんなことを考えるより、先生の無事に安堵するばかりだ

 

「先生!ご無事で、、、」

 

パチーンッ!

部屋に響き渡るほどの音

駆け寄った僕の頬を先生が勢い良く叩いた。

先生の目は怒っている。てか見なくても、にじみ出るその雰囲気からわかる

 

「先生!な、何を、、、」

 

かなり痛かった。涙目の僕に先生はグイっと顔を近づけた

 

「自分が何したかわかってる?」

 

「だって僕は先生が!」

 

「確証は?妄想でしかなかったわけでしょ。」

 

ウッ...

 

そういわれるとぐうの音も出ない

 

「魔法が感情に左右されやすいこと、そういった時の魔法がいかに危険か、魔法で他人を傷つけてはいけないこと、今までずっと話してきたことよね。」

 

「ハイ...」

 

「ま、とはいえ、、、」

 

そういって先生はいまだ苦しみ悶えている女のもとによりスッとその顔を撫でた。

すると今までのこの世のものとは思えないうめき声が嘘のように止まり、女は気絶してしまった。

むしろ眠っているに近いかな。どこか安らぎが香ってくる。

 

「ここまでやれば勘違いもするか。」

 

そうしてやっと先生はフリントのほうを見た。僕に殴られる寸前にまでなったこの男は哀れにもまだ震えは止まらず、なんとまあ高そうな椅子の上で今にもチビッテしまいそうだ。そういえばすっかり忘れていたがネズミはどこにいった?たしかフリントのわきに縮こまってたような、、、

 

「久しぶりね。フリント。」

 

「や、、やあ、エエエルダ。げ、元気そうじゃないか。」

 

どうやら二人は面識があるらしい

 

「一体絶対どうやってこの部屋に?許可を与えないと開かないはずじゃ、、、」

 

「あんな中途半端な魔術で隔たりを作っている気でいるなら新しい魔術師を雇ったほうがいいわね。」

 

先生圧倒的優位。なんでか知らないがフリントは先生にいい思い出がないようだ。あからさまにビビっている。

 

「それにしても、ずいぶんとろくでもないことを企んでいたようね。私のふりをした女を近づかせ、薬なりなんなりで人質としてセトをとり、護衛の一件の協力をさせようっていうんだからね。ま、今回はあんたがセトを甘く見すぎてたようだけどね。」

 

「ぐ、、、」

 

やっと会話の切れ目が見えた。

完全に置いてけぼりなバーダーさんがやっと口を開いた

 

「エルダくん、来てくれて助かった。私はフリントに余計な借りがあるもんだからね。お弟子さんを危ない目に合わせるところだった。」

 

「まあ、こうなることは薄々、、ね。」

 

「さ、帰りましょう!」

 

先生は僕らを連れて部屋に背を向けた。

 

「ま、待ってくれ!わ、悪かった。俺が悪かった。バーダーの件もチャラにする。君たちに危害を加えたりはしない。約束する。だから話だけでも聞いてくれ。頼む!」

 

どうしてか、この男から伝わるのはすさまじい必死さだった。それこそ命を懸けてでもといった具合だ。人間そうコロコロ感情を切り替えれるほど便利にできてはいない。

今までとは違って嘘のにおいもしない。

先生も異様なまでに必死なフリントに思わず振り向いた。

 

「あんたがこんなに必死になるのなんて、私に命乞いした時以来かしらね。少なくとも必死さは伝わった。まあ確かにセトがあの時はしゃぎすぎたのも事実。いいわ。聞くだけ聞いたげる。そもそも話にあったオークションで死人が出るのはもう60年以上前の話。あんたたちみたいな連中も世代交代して今じゃいざこざすら珍しいくらいじゃない。それが何でまた魔法使い二人と魔術師一人っていうコストに見合わない護衛を欲しているのか…」

 

結構そういう世界にも先生は詳しいのか、、、

しょせんおぼっちゃま君だった僕はそういう世界には縁などなかったし、興味もなかった。だが今は違う、落ち着いてこの部屋を見てみれば、面白いものが飾ってある。魔力を秘めた代物がごろごろと。もしフリントたちの言っているオークションとやらでそれらが手に入るのであればぜひ見てみたい。何か僕を引き付けるものがそれにはあった。

 

先生が話をしながらこっちを見てくる。なんだろうって思っていたら耳元でささやき声が聞こえた。

 

「今セトが考えてることエルダはお見通しみたいよ。フフフ…あんなに怒ってたはずなのにもう別のことに熱中してる。私何でも興味をもつあなたのそういうところ好きよ」

 

姿は見せずとも僕の影から僕だけに届く言葉。キルアが真実を伝えてくれた。

 

「なんだかんだでセトは興味持つと突っ込むタイプだからね。エルダも止めるのはあきらめ気味。だけど効能のわからない薬をいきなり指ですくって舐めちゃうような弟子をほっとくほど、放任主義じゃないわ。実質決定よ。行くこと自体は。ただ、エルダ自身もこの一件は不自然に感じてる。どう考えても回りくどいしね。」

 

そうこうしてるうちにフリントは重い口を開けた。

 

「あんたとは、正直言って仲良しこよしでできるとは思ってなかった。だからこその人質のはずだった。バーダーには貸しがあったし、それをうまく使えばいいって。」

 

「だから、私が聞きたいのはなぜそこまでして私たちを呼びたかったのかってことよ。」

 

「うぅ、、、それは。あまり外で話すなよ。いいな、、、、よし。実は先日このオークションに参加することが決まった数日後のことだ。私のもとに手紙が来た。文通やるような仲のやつはいないし。かといって俺は仕事の連絡に手紙は使わん。不信ではあるが開けてみたら封の中から紫色の煙が出てきてその煙が顔のような形になってこっちを見て言ってくるんだ。『貴様の幸福を競りの夜更けに取りにいこう』って。それだけ言ったら消えちまってさ。もっかい封の中確認したら写真が入ってたんだよ。」

 

そういってフリントは少し震える手で懐から写真を出した。

三人一緒に覗き込んだそれには、さっき僕をだました女が子供を抱いて笑っている姿が映っていた。

 

「俺の妻と子供だ。」

 

「「えっ!?」」

 

先生とバーダーさんは信じられない!みたいな目でフリントを見つめている。

 

「い、いいだろ。俺だって人並みの幸せだって欲しい。」

 

まあその幸せを密輸で得てるんだからなんとも、、、

 

「な、わかったろ。競りは当然オークションのことだろうな。それでこの写真。狙われてるんだよ、二人の命が」




まあ憎めない子悪党くらいにまではランクアップさせてやりたいですね。いつの日か


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第四十話『嫌な匂い』

なんも進んでねぇ!


結局僕らはそこにいた。フリントの護衛?として件のオークションに。

 

当日までわずか3日と短かったために準備にはそこそこ苦労した。

まあ主にバーダーさんが自分の弟子たちとの折り合いをつけるのに苦労していた感じだったが、結局三人とも一緒に来ることになった。まあ、マーシェンさんと一緒にいれるってのはラッキーだ。

 

 

思えばもうすぐ20の誕生日、、、なんだか波乱の誕生月だ。

護衛とは言えオークションが始まらなきゃそれまでは自室に籠るフリントとその家族を見守るだけ。

一応招待客全員にホテルの一室が与えられている。VIP待遇ってほどじゃないが”いい客”の枠内ではあるようだ。

 

「どうかしたのか?」

 

隣に立つ男、レンフレッドさんが僕に声をかける。彼はバーダーさんが連れてきた学院の友人らしい。

当日になって顔を合わせたが、先生とも知り合いのようだ。

オークションと悪徳商売。そんなものが絡む一件に友人を巻き込むとはバーダーさんも大概だな、、、

 

「いや、何でもないです。ま、嫌な匂いばっかりだなぁって。」

 

「あぁ、そういえば君はバーダーの弟子たちと同じ竜舌蘭の花だったな。魔力や感情を匂いで感じれるって」

 

わざわざなぜそんなことを確認したのか。その理由はおそらく、、、

 

「私は、あなたの匂い嫌いじゃないですよ。ちょっと嘘くさいけど根はしっかりしてるし、大切な人もいるみたいだし。そういうの好きですよ私。」

 

レンフレッドさんは自分の思っていた以上に心を読まれたようで少し驚いた顔をしたがすぐに興味が無いかのように平静を装った。

 

「しかし、君のようなまだ若い魔法使いをこのような場所に行かせるとは、、、エルダのやつも随分大胆なことをするな。」

 

本人がいなければ何言ってもいいわけじゃないと思うが、、、先生は今外でバーダーさんと今後の動きについて別室で話し合っている。バーダーさんの弟子3人は僕らと一緒の部屋で駄弁ってる。

 

どうもレンフレッドさんは自分の意見というか我が強いタイプでそれを他人に押し付けやすいようだ。

 

「もしも、君が今の生活に、、、」

 

その先は予想できる。僕はさっと手を挙げ遮った

 

「僕は今の生活が幸せです。素晴らしい先生のもとで魔法を学び、志を共にする友人もいる。あなたの手を借りるつもりはないですよ。」

 

「、、、フッ そうか。すまなかった。余計なことだったな。だがもし何か困ったことがあれば、私も頼ってくれて構わない。ここに来てくれれば話し相手くらいにはなる。」

 

そう言ってレンフレッドさんは名刺くらいの紙をくれた。そこにはロンドンのどっかの住所が書いてあった。

 

「ありがとうございます。いずれお邪魔しますね。」

 

こんな駄弁りを続けていたら先生たちが戻ってきた。

 

「レンフレッド、すまないわね。うちの弟子が迷惑かけてないかしら?」

 

「いや、素晴らしい弟子を持ったなエルダ。ところで話のほうはまとまったのか?」

 

二人の会話に割り込むようにバーダーさんが入ってきた

 

「そこからは私が話そう。今の時刻だが午後の7時半。オークションは9時に始まる。実際オークション自身は代理人を立てて参加するので無視でいい。それより問題なのは、、、」

 

みんなの視線が部屋にいるフリントの”家族”に行った。

母親はともかく問題は娘。名はエリザ、15にしてすさまじいわがままな上に乱暴者。なのにフリントは親ばかで何でも与えてしまう。それで余計わがままに拍車をかけている。見た目こそ青い髪に白い肌と美人なのだが、、、

 

「彼女がオークション見学をご所望なのだ、、、フリント自身はほかの客と話があるらしくてこの部屋にはいられない。当然付き人として母親の彼女もついていく。すると当然エリザ嬢は別行動になる。んで、フリントは極力彼女の要求をかなえてくれとのことだ。」

 

勘弁してくれ、、、部屋にいる全員がどよーんとした空気を匂わせる。

先生が続ける

 

「だけど、そうなれば危険は倍増。フリントの護衛もしなきゃいけないわけだし。それで、まとまったのはオークション開始前の出品物の鑑賞にお嬢さんを連れて行って、実際始まったらこの部屋に缶詰めって作戦。というよりこれが妥協点ね。女の子ってのもあるからお嬢さんにつけるのは、アエラさんとマーシェンさん。そしてそれを遠巻きにセトと柿崎君と、、、レンフレッド。頼むわよ」

 

「当然だ。任せておけ。」

 

「フリントと奥さんの護衛は私とバーダーでするわ。」

 

「各々質問はあるかな?とりあえず予告通りならオークション前後が一番危険な時間だくれぐれも気を抜かないように。特に子供たちは正直ってこんなことの巻き添えにはさせたくなかったほどだ。何かあればすぐ我々大人を頼ってくれ。」

 

バーダーさんのお願いは非常に重かった。それは当然だろう、自分の弟子になったばっかりにこんな危険なところに連れ込んでしまった。彼なりに罪悪感は感じているはずだ。

 

「それと、薄々感じてはいるだろうが、会場内では魔法や魔術の類が一切使えないようになっている。くれぐれも注意してくれ。では!」

 

逆に言えば犯行は物理的なものになるということだ。銃か、ナイフか、はたまた毒か、、、幸い魔法が使えないとはいえ鼻は効く。しっかり見張っていればまず危険はないだろう。しいて言うならば参加している客の半分近くがろくでもない嫌な匂いを発しているため。危険人物を絞りにくいって事ぐらいだろう。

 

解散して自分の持ち場につく、悪夢が始まるようで気分は重苦しかった




なんも進んでねぇ!


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第四十一話「接敵」

意外と長いですね...久々に投稿です


ニューヨークの某ホテル

全部一日丸っと借り切って行われるこのオークションは、普通じゃない。

参加者は有名企業の社長補佐から密売の大手まで。キナ臭い連中が多い。

オジョウサマの護衛でもなきゃこんな連中見ることはないだろう。

 

護衛といっても僕と柿崎は遠巻きに眺めているだけ。オークション会場のホール部屋の前で今回出品される品々が並んでいる。我儘お嬢様の”お願い”をかなえるべくここまで来たのだが

 

「な、見ろよあのメガネの男。あいつが渡した名刺。シラカワカンパニーの人間だぜ。」

 

「えっ!?」

 

何気なく柿崎が耳打ちした言葉は驚くべき内容だった。

さっきからずっとあれは何やってる人だあれは犯罪者だって駄弁ってたのだがこれは意外だ...

シラカワカンパニーってのは従兄のショウ兄さんの会社だ。父親から受け継いだ家具貿易会社をわずか一代で世界的な貿易会社にまで育て上げたものなのだが、その裏には魔術とかがあったのか...まあ本人は自覚してなさそうだし、魔術なしでもきっと大きな会社にしただろう。

だが、今はそれよりその男に顔を見られたら今の僕の生活がショウ兄に知られる方が問題だ。だが彼は名刺交換と雑談に夢中でエリザ嬢はもちろん私にはまったく気づいていないようだ。

 

「何かあったのか?顔色悪いけど...」

 

さすがに柿崎も心配してくれた。

 

「あ、あぁ。大丈夫だ。ところでレンフレッドさんは?」

 

気づけばそばにいなくなってる

 

「あ、なんか用があるって。すぐ駆け付けれるところにいるからって言ってたけど少しあの人頼りないかもな。目元怖いけど。」

 

「たしかに...匂いはすごいいい人だけど、あのぶっきらぼうな態度と目つきで損してる。」

 

さて、と腕時計に目をやるとオークションがもうすぐ始まる。エリザお嬢さんにそろそろ帰るよう言わなければな。

 

僕らが駄弁ってる最中お嬢様はずっとアエラとマーシェンさんの監視のもと展示品を見てはしゃいでいた。

柿崎がアエラに目をやる。

さすがに何か月も一緒に生活してるだけあってアイコンタクトだけでやり取りができるらしい。

 

「お嬢様。そろそろ時間ですよ。部屋に戻りましょ!」

 

アエラがそう告げるとエリザは不機嫌そうに

 

「えー!オークションも見たい!!!」

 

と我儘を言い出した。だがすぐに

 

「いいから戻る。口答えなし」

 

押し強いアエラによって引っ張られていくことになった。マーシェンさんは...引っ込み思案なのだろう。

 

さてこのまま部屋へ何事もなく、、、とはいかなかった。

 

ぶつくさ文句を言うエリザとその周りをそれとなく囲む僕らとフリントの部下

(彼らは誰の部下かわかるようにそれぞれ固有のバッチをつけている)。

スッと部下の一人がエリザの脇をすり抜けた。

その瞬間!

 

バタッ!

 

!?

 

エリザが床に倒れてしまった。

混乱する護衛たち。アエラもマーシェンさんも...

 

あたりは騒然とした。

 

だが、僕と柿崎は何が起きたか理解できていた。少し遠巻きであったことと、持ち前の才能のおかげで

 

「セト。”見えた”か?」

 

「あぁ”匂った”よ。」

 

僕ら二人の目線の先には先ほどの近寄った部下の男

 

「お嬢様!お嬢様!」

 

心配そうにエリザを抱えているが、彼からは余裕と嘲りしか匂ってこない。

そもそも距離をとって監視するはずなのに近づいていくことがおかしい。

さらに一瞬の出来事を僕ら二人だけは見ていた。

 

男がエリザの脇を通る瞬間、奴の陰からエリザの首元にほんとに一瞬だけ魔力を帯びた手のようなものが伸びていた。さしずめ魔術の手刀といったところだろうか。

 

気づいたら、制限されていたはずの魔法が使える。僕の影の中に潜ませていたルキアも空気が変わったのを感じているようだ。

ということは魔力を抑制していたものが壊れたのだろうか?

そうだとしたら共犯がいる...

 

「しらじらしい奴だな。だけどどうする?ある意味人質とられてるぜ。」

 

「よし、気づいていない体でひとまず部屋まで連れて行こう。てか早く引き離さないと。」

 

柿崎は僕の提案にこくりと頷き一緒にエリザのもとへ向かっていった。

 

「どうしたんですか?」

 

「あぁ!セト!お嬢さんが突然倒れたの!ね、ね?どうしよ!」

 

アエラがすぐに気づいて声をかけてきた。マーシェンさんは見ているだけでおどおど。だが無理もない。

 

「とりあえず部屋も近いしマーシェンさんとアエラの二人で彼女を部屋へ。」

 

「君、あの時いた奴だね。すまないが彼女たちに手を貸してやってくれ。」

 

そばにいたガタイのいいフリントの部下に声をかける。(彼は僕がフリントに呼びつけられたときにその取り巻きにいた)こいつはとりあえず(フリントへの忠実さでは)信用できる。とりあえず彼女を、怪しい男から引き離すことが重要だ。

それもできるだけ自然に、、、

 

「あ、あぁ。おいすぐ連れてくからあんた代わってくれ。」

 

「は、はい!そ、それじゃあ自分は持ち場に戻ります」

 

そういって部下の男はエリザを受け取って抱きかかえるようにしてアエラ達とともに部屋向かった。

ほかの部下たちもぞろぞろと後を追う。

肝心の奴はその場からすっと離れようとしている。幸い匂いは辿れそうだ。

 

(いや、現場に何人か残って調査したりとかはいいのか?)

 

「柿崎。君は彼らに同行した後すぐにレンフレッドさんと先生たちを呼んできてくれ。早急にだ。私の使い魔もつけさせよう。人探しはばっちりだ」

 

「だがあんたはどうするんだ?」

 

柿崎の疑問は当然だ。

 

「私はあれを追いかける!」

 

「な!馬鹿言うなよ。一人でどうこう出来るわけが....‼」

 

僕の目を見た柿崎の顔色が変わった。

 

「僕は本気だ、なぁに人殺しをしに行くわけじゃない。それに奴は匂いだけ残して逃げてる。終えるのは僕だけだ。」

 

「で、でも」

 

「今は彼女たちの安全の確保が重要だ!それにはお前の目が必要なんだよ。レンフレッドさんと合流したら僕の後を来てくれ。”見える”ような痕跡を置いていく。」

 

「...わかった。でも無茶はするなよ。その影の中の相方さんの話も聞いてやれ」

 

ルキアを指してるようだ。彼女の意見も聞いて動け...か。

僕は無言で頷きそのまま件の男の後を追いかけた...

 




まだまだオークションの夜は終わりません。


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第四十二話『渦巻く謎』

うーん

きもい


匂う...これは奴の魔力の道しるべ...

脅迫犯を追っていた僕の前に現れたのはホテルのカーペットの上にこぼれている魔力。

まるでお風呂から上がってちゃんと髪を乾かさないでいたまま歩き回ったみたいに...

 

「セト。向こうは気づいてるわ。追いかけているのがあなた一人だって。そしてこの先の部屋で待ち構えてる。あんなことした奴だよ絶対罠だよ。だいたいセトはあいつを追い詰めてどうするのさ。魔法で戦うなんて漫画の話だよ」

 

そんなことわかってる。僕だって別に機敏なわけじゃないし。匂いでわかっててもさっきみたいな攻撃はよけれない。

だけど

 

「今このタイミングで引き返すわけにもいかないし相手は僕が目当てみたいだし、先生に迷惑かける前にけりをつけれれば全部丸く収まるだろ。そのためには多少のムチャはするさ。ま、危険なのはわかってる以上対策はするけどね。いいかよく聞け...」

 

そうこう話しながら進んでいくともう目的の部屋の前だった。

ホテルの扉ってのは防犯のためか微妙に軋んだりする。ここの扉もそういうやつでキィーッという不愉快な音とともに電気のついてないベッドも何もないだだっ広い部屋が目の前に現れた。

とりあえず目に付くのは入り口のちょうど真正面の一面窓。壁一面丸っとガラス窓だ。そして部屋の真ん中に置かれたイスとそれに座る等身大の人型マネキン。この部屋にはそれしかなかった。部屋の広さは家具がほとんどないうえに高級ホテルのスイートルームなだけあってなかなかに広い。だが暗闇の部屋に窓の向こうの街の明かりが入り込む何もない空間は高級感など忘れてしまうほどに不気味さを漂わせている。

恐る恐る、震える足を踏み出して部屋へはいると

 

「安心しろよ。何も君を殺しに来たわけじゃない。少し話がしたいんだよ」

 

あぁ...なんで僕は無駄なムチャをしたんだろう。思い返せばエリザを気絶させたときの魔術だって見たことも聞いたこともないものだった。僕はあまりにも彼への対策において無知なのだ。

どこからともなく聞こえる男の声を聴いた瞬間、僕は後悔した。その声はまるで冬の朝の水道のように冷たくて、痛みを伴って凍みる...嫌な声だ。

 

ハァハァハァ...自分の呼吸が乱れていくのがわかる。だけどどうしようもない。こんなのどうしろってんだよ。僕に....

 

(セト!しっかりしなさい。いい?よくこの香りをかいで。)

 

頭に小さく響くルキアの声。同時にミモザのような優しい香りが漂ってきた。

そういえばルキアには前にミモザの花を見せてあげたっけな。彼女なりに僕を手伝ってくれているのか...

 

(私は影を縫ってセトの作戦通りにやるから、セトも...ね?大丈夫。私がついてるから。)

 

(ありがとう。)

 

冷汗は止まらなかった。でも気持ちはほんのちょっとだけ落ち着いた。それで十分。レンフレッドさんや先生たちがここにつくまで足止めしていればいいだけ。簡単な...ことだ

 

「私に話?申し訳ないですけどね。私はあなたみたいな人知りませんよ。」

 

「だが私はよく知っている。セト君君のことはほんとによく...ね。」

 

不気味な雰囲気はそのままに部屋中央に置かれたマネキンの裏からフードを被った人間が出てきた。

顔は見えないが声からしておそらく男。だがそんなことはどうでもよかった。外の明かりが差し込み男の黒いローブに反射する。照らされたそのローブ。そして漂う香り

 

「お前は....!?まさか」

 

「あの扉は身を乗り出すほど美しかったかい?」

 

!!!この男は僕が魔法を使えるようになったあの扉を開いた男だ!間違いない。当時はにおいなんてわからなかったけど今思い返すとあの時感じていた不思議な感覚と今奴が放つ不気味な何かは一緒だ。魔力への嗅覚がより敏感になったからこの感覚を恐ろしいものと認識できるようになったのだろう。

思わぬ遭遇にせめて顔を見ようと僕はもう数歩部屋の奥へと進んでみたが男はフードを深くかぶっていてなんとか口元が見える程度だった。

 

「う~む。その顔...どうやら思い出してくれたようだね。う~ん。そうでなきゃ!せっかく私のお気に入りにしてあげようと思ってるんだから...」

 

お気に入り?まるで舞台役者かのように大げさに両腕をめいっぱい広げるその様子は胡散臭さたっぷりだ。

果たしてそんな奴のお気に入りが安全な意味になるだろうか?なるわけがない。

 

「お気に入り?なんです?首に鎖でもつけて犬の代わりに飼おうとでも?」

 

「ご名答!」

 

えっ...?

 

そう言って男が笑みを浮かべた瞬間。部屋の隅から黒い滑らかな動きをしたロープのようなものが飛び出してきて僕の両腕両足に縛りついてきた。そのまま紐たちはピンと張り。僕は立ったまま両腕を真横に引っ張られ足も大股開きになり所謂大の字になっていた。

 

「う~ん。やはり君はぁ私が見込んだだけはあるバカだよぉ」

 

完全にやられた。あいつは僕の動きを読んでたんだ

 

「だってちょっと過去のこと仄めかしただけで、ちょうどぴったり私の予想していた罠の位置に立ってくれるんだもん。いやぁ。かわいいね~君は本当にすばらしいよ。私の思い通りに動いてくれるなんて最高だよ。」

 

捕まったとたんこの男の言動や行動がどんどん怪しくなってきた。動きもやたらクネクネしてるしちょっと悪寒が...でも状況はまずい。いまならまさに煮るなり焼くなりご自由にって感じだ。

 

「アハハハハ!怖がってる。まあでも安心しなよ。殺したりはしないから。少しヤバめなお薬と魔術でしばらくいうこと聞いてもらって私らの実験に使うだけだから。」

 

そう言って男はどこからともなく注射針を取り出した。どんな薬物が入っていようが関係ない。刺されたら終わりだ。

 

「ホントにこんな好みの子を手に入れられるなんてなぁ。鱗盗ませたり魔術師さらったりした甲斐があったよ。」

 

あの一件の首謀者だったのか...

 

「なんで...なんで私をとらえるためにここまで回りくどいことを?なんなら扉の時にできたろう」

 

「なぁに実験にちゃんと使えるものかどうか試しただけだよ。そして合格した。いつまでもあの魔法使いの手元に置いておくわけにはいかないし。僕が君を管理することになったんだ。」

 

そういいながら男はぐっと距離を詰めてきて、その顔は鼻先がついてしまうほど近かった。

気づいたら背後の扉は締まっており当然助けを呼べる状況でもない。

ここまで近づいていればいやでも男の吐息もかかる。冬の深夜の風のように冷たい息...まるで生気がない。

 

「それじゃ...お楽しみタ~イム」

 

そう言いながら男は注射針を近づけてきた。中には銀色に光る液体。それに当たりの景色が反射している。

 

....!!!

 

そこには写っていた!合図を待ち暗闇に潜んでいた僕のパートナーの姿が

 

「っと...そのまえに。せっかく僕が任されたんだ少し楽しんでもいいだろ?ねぇ?」

 

無視だ。タイミングを見計らえ。ルキアには目で十分伝えられる。奴が注射針を僕に刺そうとしてその視点が注射針に集まった瞬間。そこを狙って不意打ちをする。というかそれくらいしかチャンスが..!!?

 

「んぐ...ん!!!」

 

それは突然の出来事だった。

僕は動けず考えを巡らせていた。だからこそそれに反応できなかった

 

 

「ん....はぁ。なかなかいけるじゃん。その顔も最高だよ。何が起きたかわかってないけどとろとろな感じ。人間だれしもキスされたら意識しちゃうよね~あぁかわいい。もう一回ぐらいいいよね?」

 

 

信じられなかった。しかも舌も入れられた。されたことも嫌だったが、一瞬でもこいつが望んだような惚けた顔になってしまったほうが何倍も悔しかったし。自分が嫌いになりそうだった。

この男は自分の欲望のためにここにいる。しかもそれはずば抜けて危険な...身動きが取れないうえにまだ男の唇は離れない

もはや猶予はなかった

 

(ルキア!いまだ!)

 

目くばせをしルキアは手にもつ瓶のふたを開けた。あの瓶は闇市でどっかのネズミからかっぱらった「インドアフィッシュ」の入った瓶。よし。計画通りだ。

ホントは恨み晴らすようなことに魔法や彼ら隣人の手を借りるのはNGなんだけどどのみちこの状況から逃げないといけない。

 

ポン!

 

「んはぁ、んぁ?何の音だ?」

 

もう遅いインドアフィッシュは僕の魔力の影響を受けて動いてもらってる。これも一種の契約なのだがまあ今は詳しく考える必要はない。男が音のしたほうを振り向く。それを想定して部屋の上部を移動して死角に回る。そして....

 

コトン

 

...部屋のカーペットの上に注射器が転がり落ちた。それを抑えていた指と一緒に

 

「な、なんだ?これは!ぼ、僕の手がぁぁぁ!あぁー!あ!なんなんだよこれは。痛くもかゆくもない。で、でも手が、手のひらだけがなくなってる。」

 

すぐさま魚たちは僕の拘束も食べてそのまま影からゆっくりと現れたルキアの手元の瓶へ戻っていった。

 

「な、何をしたんだ?君は?それにこの馬女はどこから出てきた?ん?」

 

男は問い詰めようと僕のほうへ歩みを進めて、初めて自分の右足の踵がなくなっていることに気が付いたようだ。

そのままバランスを崩し床に倒れこんだ。

 

「これも全部君が?セト君。君は最高だなぁ。まさか僕を出し抜くぐぅぅぅ!」

 

話している途中にルキアのきっつい蹴りが決まった。そのまま男は窓際まで飛ばされ口から血を吐きながらうずくまった。

インドアフィッシュは捕食したものに痛みを与えず出血もさせない。本人が気づく前に取り返しのつかないところにまで食い続け追い込む。そして肉塊同然になっても捕食された側は死なない。死ぬときは両目を食われた時だけ。だからこいつに捕食されたものは最後に大きな口を開けて近づいてくる姿を見て恐怖しながら死ぬという。まあ情報を聞き出すためにもそこまではしないが動けないように踝は食わせた。

そして...

 

バンッ!!

 

そんな勢いで開けたら壊れちゃうだろってぐらい勢いよく乱暴に背後の扉が開き

そこには先生にレンフレッド、バーダーさんにその弟子のみんな。

先頭には柿崎がいたのでおそらく彼の千里眼は僕の残した痕跡をばっちり見つけたようだ。

 

「さて、形勢逆転ってやつですね。おとなしく....」

 

「アハハハハハッ!ハハハハハ....ハァハァ。まったく君は」

 

男が顔を勢いよく上げフードが取れた。

 

「最高だな。」

 

だが取れなかったほうがどれだけよかっただろうか。背後からマーシェンさんとアエラの息をのむ音が聞こえた。そりゃそうだろう。顔が半分ただれて左目のあった場所がぐずぐずに崩れ落ちていた。口元だけは無事なようだがその顔は到底...

あれにキスをされたのか...思い出しただけで吐き気がしてくる。

 

「あぁ...愛しの君にそんな顔してもらえるなんて...僕は君の記憶にずーっと残っていられそうだな。んぁあ」

 

「ふざけたことを抜かしていないでおとなしくしろ。お前にはあとてじっくりと話を聞いてやる」

 

レンフレッドさんがしかめっ面のまま銃を抜き男へ近づいて行った。

僕はそれと交代するようにゆっくりと後ろへ下がる。

男はそれを聞くと背後の窓ガラスに無くなっていないほうの手を置き不気味にほほ笑んだ

 

「話?レンフレッド。お前に話すことなんか何一つないなぁ。それに結構楽しんだし。」

 

踵のない足のまま無理やり窓に寄りかかりながら立ち上がる。全員が警戒して一歩下がったそしてその瞬間。

 

パリィッン!!

 

背後でガラスのようなものが割れる音がした。振り返ると部屋の外にかなりの量のガラス片が散らばっている。そしてほぼ同時に僕の頬を冷たい風が撫でていった。

慌てて振り返るとそこに窓ガラスはなかった。あるのは大きな窓枠だけ。そして...

 

「セト君。愛してるよ。」

 

気味の悪い笑顔を僕に向けたまま男は窓枠の外へ身を投げた。その目は最後まで僕を見つめていた。




これはきもい


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第43話『なにもわからぬままに』

何もわからない。
何も進まない。
そろそろチセを出したいよね
わかってる。でも出せないんよこれがね。



夜が明けた

 

あの後とりあえず皆それぞれ帰路につき現場の後処理は学院が受け持つことになった。

 

男の死体はあの時慌てて下を覗き込んだ僕ら全員が目撃していた。

 

翌日家に来たバーダーさんの話では顔こそぐちゃぐちゃになって判別できなかったが、持ち物や指紋などから過去に学院に出入りしていた魔術師であることが分かったらしい。とことん自分たちに落ち度があることを謝罪していた。

他のことはまだ...

 

「あいつは”私ら”って言ってました。したら彼らは何人かの集団である可能性が高いかと...」

 

学院や先生にはあの時のことを唇を犯されたこと以外全て話した。

 

「私たちも全力を挙げて調査をするつもりだ。すまないが待っていてくれ。」

 

結局有力なことはわからないままバーダーさんは帰っていった。

それと入れ替わりでアドルフさんがやってきたのは少し意外だった。

先生が僕にお茶を出すように言うのを

 

「手短にすみますので」

 

と断り、つづけた

 

「以前からそちらで保護していただいていた幻獣たちなのですが、やっと引き取り手が見つかりまして...あ!そんな怪訝な顔しないでくださいよ。私やレンフレッドとも昔からの知り合いで。世界各地にいくつも土地を持っていて幻獣を保護・研究をしている魔法使いなんですよ。名前はラブ。ラブ博士です。」

 

学院にそんな魔法使いとのつながりがあるとは意外だった。なんせ人に教える立場である大人たちが反社会勢力に金を借りてるようなところだ。バーダーさんみたいにね。

 

「それで?どう言う手はずなの?」

 

先生はその名前を聞いて少し警戒を解いてる。なるほど、名は知れてるってわけだ

 

「実はもう準備自体はできてまして、明日にでも連れていけるんです。あとはどこまで連れて行っていいのか、そちらで決めてくれれば...」

 

そうか...長くもないが彼らともお別れか。

 

「まあ、せかしはしないから...」

 

「いえ、今日中にご連絡させていただきます。」

 

こういうのは長引くほど決めづらくなるものだ。実際先生にも負担になってるし早く解決しなきゃならない。アドルフさんもわかってくれたようだ

 

「わかりました。それでは失礼します。また明日お会いしましょう。」

 

 

彼がかえって僕は一人一人に会いに行った。

彼らと話して...

 

 

翌日の昼にはアドルフさんたちがやってきて皆を連れて行った。

その中にはラブ博士という人物もいた。魔法にかかわる人にしては珍しく透き通るほどに心の香りが漂う人だった。嘘も偽りもなくただ彼ら動物たちへの愛に満ちそして、ひどい悲しみをまとった...

彼の過去に何があったのか、そんなことは聞けなった。だが彼ならば信用できると瞬時に思える。そんな人だった。

 

日も暮れ始めたころには先生の家はずいぶんと静かになった。

なんたって僕と先生とルキアとピュティアしかいないのだからね。

 

「結局その子以外みんな引き取ってもらったのね。」

 

「えぇ。僕はどうにも生き物を育て暮すことを甘く見ていたようです。彼らにとって合わない環境での生活は結局ストレスになっていた。僕じゃそれはどうしようもできないってわかったんです。彼らと話して。みんなが僕に好意的に接してくれる一方で心の一番の中心では故郷を思ってました。そんな彼らをここに縛るわけにはいきません。そう思ったからこそラブ博士に任せたんです。」

 

「まあ、それもまた一つの成長ってことにしてあげる。」

 

ピュティアは生れすぐ怪しい連中に捕まり育てられてたせいで故郷を知らなかった。母すらも...

だから僕は彼女と暮らし続けることにした。どこかで共感めいたものを感じていたのかもしれない。

だが今はそんなことはどうでもいい。

改めて家族の一員になったこの子を歓迎しなくては。

 

 

夜の帳が下りる

今日はいつもより長く部屋に灯が灯っていた。

だからこそアレは来たのだろう......

 

暗闇に錆びた鉄の呪いが木霊する




なんで出せないかだって?
だってこの物語の中での今の日付は
10月24日

そう明日はセト君の誕生日なんだよ


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第六章【迎冬編】
第44話「祝い事」


作者の思いが冒頭に入ってるけど気にしない
大丈夫、僕(作者)の両親は生きてるし事故もフィクションですからね。
実在の団体、組織、企業、事件とは無関係です。


自分の誕生日をめでたいと思えるのはあとどれくらいなのだろう。

きっとこんな事考え出すようになる頃が終わりなんだろうな。

 

もう二十か。

みんな節目だという。人生の大人への一歩だと。今までは子供で突然大人になる不思議な節目。そりゃそれが日本だけの文化だってのはわかってる。でもどれだけアメリカにいても家族は日本人だったんだ。僕にとってこの誕生日は特別なんだ。

15も超えたころからか。誕生日をこの上ない楽しみとして感じられなくなった。クリスマスもそうだ。家族が突然一人になったとき...それは僕が15になるそんな日の出来事だった。

二人は僕の誕生日を祝うため忙しい仕事の中合間を縫って帰るため列車に乗っていた。僕はニューヨークのあの家でそれを待っていた。

そして日が変わっても二人は帰ってこなかった。よくは憶えていない。ただおぼろげに父と母の乗った列車の横転する映像がテレビで流れていたのを見た気がする。

訃報が届いたのは翌日だった。後で聞いた話だが二人は胴を切り離された状態で見るも無残な状態だったそうだ。届いた遺品はあのネックレスだけ。

 

だからこそ、僕は祝い事は避けてきた。爺やもむりに誕生日を祝うことはなった。少しだけ豪華な夕食だった。それで満足だった。

 

親の命日だというのに祝われて喜べる人間がいるだろか。

 

 

”でも今年は特別だから。”

 

目が覚め朝日とともに僕の横で眠っていたルキアはそういった。寝言だろうか?

ベッドのわきに置いてある箱を見ながら昨晩のことを思い出した。

そう、あれはピュティアをかまいつつ話題が僕の誕生日に移り始めたころのことだった。いつもより僕たちは夜更かしだった。

 

「セトは明日誕生日なのよね。そしたら明日はセトのお祝いだね!」

 

ルキアのこの一言にはどうにも閉口した。

僕はあえて先生に誕生日は教えていなかった。祝われたくないから。

僕の感情を読み取ったルキアは申し訳なさそうな顔をしてた。

 

「知ってたわよ。でもそっちが言わない以上私も追及はしないわ。」

 

あれ?

 

「え、でも。どうやって...?僕は」

 

「あなた、ジャックのところに行ったとき住所とかいろいろ書いたでしょ。」

 

あ、

 

そういえば僕が探偵のジャックのところに相談しに行ったときまず最初に問診票みたいなものを書かされた憶えがある。そこには誕生日の記入欄もあったかもしれない。

 

「これでわかった?でもあなたがそれを人に言いたくないと思っているのと同じくらいにあなたは祝ってほしいと思ってる。さみしいと思ってる。でなきゃルキアに教えることないでしょ?」

 

「それは...」

 

教えてなんかいない。気づいたら彼女はそれを知っていた。僕と繋がったがためなのかはわからないけども。

 

「もし教えてないで知っていたというなら、やっぱりそれはあなたが自身の誕生日に特別な思いを持っている証拠よ。隠したければたとえ命すら繋いでいたとしても隠し通せる。あなた達二人がそこまでの結びつきを持っていないのはわかっているはずよ。」

 

なんだか責められている気がする。どうして自分のことを不幸と思うのを否定するんだ。

 

「嫌な...言い方ですね。まるで僕がかわいそうだと同情してほしいからルキアに教えたみたいじゃないですか!」

 

僕のあからさまな不快感に二人は戸惑いを見せていた。

 

「落ち着いて。何をそんなに」

 

「そうよ。私だってあなたが誕生日を隠す理由なんてわからなかったわ。」

 

そうか...二人がしってたのはそれだけだったのか。

これじゃあ本当に憐れんでほしいみたいじゃないか。自分で外堀を埋めてしまった。

 

「ごめんなさい。勝手な被害妄想ですね。これじゃ」

 

心配そうな表情の二人。何とか先生が口を開いてくれた

 

「私じゃ何もできないだろうけど、理由聞いてもいい?」

 

どうしてかはわからないがすごく言い出しやすかった。

5年間つづいた抵抗はつゆほども感じられない。

 

「命日なんですよ。」

 

「命日...?」

 

「僕のせいで死んだ両親の、ね」

 

ルキアはハッとした表情をした。

先生は眉一つ動かさずこっちを見つめたまま無言だった。

 

当時の出来事を話し終わったころには僕自身も落ち着きを取り戻していた。

先生は僕を見つめたまま口を開いた

 

「そう。」

 

あっさりとただそれ一言だった。これにどうにも納得がいかないのはルキアだ。

 

「そうって!エルダそれじゃあセトがあんまりだよ。かわいそ...」

 

「じゃあ誰がセトを祝うの?セトはそう思われたくないから隠してきた。で、そうなったら誰がセトの誕生日にプレゼントを贈るの?誰がケーキを用意するの?」

 

そうだ。僕にとって無駄に同情しないでそうやって祝ってくれる人が必要だった。

言われて初めて気づけた。

 

「ありがとう...ございます。あの、僕」

 

先生はにこやかに微笑みながら僕の言葉を遮った。そのくらいわかってるという表情だ

 

「それじゃあ明日はごちそうとケーキ。それでいいわね?いや。もう決めたわ。」

 

「はい。よろしくおねがいします。」

なんとも不思議なあいさつで僕の誕生日の前日は締めくくられた...ハズだった。




すまん思ったより長くなった。


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第45話「鉄錆」

原作の公式小説を読むとこの鉄錆という存在がどういうものなのかわかるかと思います。



外はすっかり冬らしい寒々しい風が吹いている。

まだ雪は降ってないが木の葉も落ちまさかこんな真夜中のさみしい世界を歩いて来る奴はいないだろう。

 

夜も更けそろそろ小さなお茶会をお開きにしようとしていた僕たちだったが、どうにも眠るのは延期になってしまったようだ。

足元には小さなウサギ。そう、来客だ。こんな時間に来る来客などまず普通の人間じゃない。ウサギが来客を告げるとほぼ同時に玄関の戸をコンとノックする音が聞こえた。

 

先生はすでに来客に見当がついているようで”なぜその人物が今家を訪ねにきたのかわからない”といった様子。

「セトは私の後ろにいなさい。ルキアはちゃんとセトを守ってあげるのよ。」

 

「わか(りました)(ったわ)」

 

同時に返す僕らに注意をむけつつも先生は扉を開き来客と相対した。

先生の背中ごしに見える客は白い和服を纏っていた。

 

「あなたがこんな時間に来るなんて予想もしてなかったわ。いったい何の用?」

 

先生の警戒の匂いは今までで一番強かった。あの闇市のときなんか比べ物にならないくらいに。とびっきりの敵意と警戒心。僕ですら身震いしてしまうほど恐ろしく鋭い匂い...

 

「よせよエルダ。君のかわいい弟子までも震えあがらせているぞ。仮に君たちに危害を加える気があるのなら私がここまでたどり着けないというのは君も知っているだろ?」

 

「私は茨の魔法使い(エインズワース)のような自分を守るすべを持っていない以上警戒はするし、あなたを客として迎え入れる気もないわ。ましてこんな深夜に人のうちに上がり込もうとするようなやつを!正気とは思えないわね、鉄錆」

 

鉄錆と呼ばれた人物はそれもそうだと納得したような表情を浮かべている

確かにそれは悪かっただが今回は本当に悪意はないんだ。

ただ―

 

鉄錆はずっと小脇に抱えていた箱を前に出した。

 

「君が弟子をとったというから祝いがてら、少し見に来ただけだ。それだけだよ」

 

これは先生にはとても意外だったらしくしばらくの硬直の後

 

「いいわ、お茶くらいしかだせないけど、あがって。」

 

そういって振り向いた。

この場合これは僕にお茶を出すようにする合図だ。

僕が紅茶を用意している間、鉄錆と先生は応接室で何か話していた。

話は残念ながらちょうどお茶を出しに部屋に入ったタイミングで終わってしまった。

 

だがこの会話に何かしらの意味があったのはよくわかる。先生の殺気ともとられかねない警戒心はせいぜい夜道を歩いていた時に野犬を気にする程度までは落ち着いていた。

 

「どうぞ...」

 

食器が少し擦れたのかカチャという音が響く。間近で見れば見るほど美しい皮を被っている。その美しさあってこそ彼の和装も映えるものだ。当然その皮が彼自身のものであればの話だが。

 

「うむ...良い香りだが少しばかし私から目を離してくれると助かるな。私は本質を見られているだけで苦痛を感じるたぐいなんだ。すまないね。まさか竜舌蘭の花(アガヴェ・エクネ)というものがこれほどこちら側に近い力を持つものだとは思わなくてな。」

 

「あ、ごめんなさい。」

 

思わず勢いよく目をそらしてしまった。ほんの少しだったが目が合った。とてもじゃないが僕だったらたとえ祝いの品を持っていようがいまいが家には上げないし近寄らせもしないだろう。

彼から感じる悲しみよりもおぞましいほどの錆びた呪いのほうが強い存在だった。あの目から隣人たちを縛り付けかねない錆びた鉄のにおいがする。

 

「で、様子は見れたわね。さあ次はどうするの?」

 

「ふむ、しばらくぶりに他人の家で茶を飲めたし、祝いの品を渡して早めに退散するとしようかな。君の弟子に使ってもらおうとこれをね。」

 

そういって鉄錆は足元に置いていた薄べったい箱を先生へ手渡した。

匂いは大丈夫そうだ、呪いの品だが、危険な匂いや悪意の匂いはしない。ただ独特の獣のような匂いがする。

 

「人狼の毛皮...ね。これが物騒なものじゃないと言い張れるあなたはかなりおかしいって自覚したほうがいいわよ鉄錆。」

 

箱の中から出てきたのは何かの毛皮。先生の話からして動物に変化できる人間である人狼の毛皮だっていうのはわかる。話には聞いていたがこんな不思議な感覚のものなのか。人狼の皮だが、いくつもの動物の匂いがする、そして微かな後悔の匂いも...

 

「まあたしかに......物騒ではあるが、何事も使いようだ。便利だし、決して無駄になるものでもない。それにそんなに不安なら処分なりうっぱらうなり好きにしてもらって構わない。あくまで私個人の気持ちを充実させるためだけにすぎん。」

 

表情はうまく読み取れないが言葉尻にさみしさを感じる。香りとか匂いじゃなくて...ただそう感じる。

 

「それじゃあそろそろ失礼しよう。夜もかなり更けてしまったようだし。邪魔をしてしまったね。」

 

鉄錆はすっと立ち上がりそのままお辞儀をして玄関へと向かった。

 

「あ、ありがとうございます...そのー」

 

なんとか自分の中で話せるタイミングをと思ったのだが鉄錆は片手をあげそれを遮った

 

「あ、いや。いい。別段言わなくても大丈夫だ。君も魔法使いの弟子になってさらに自身の特性が伸びているんだろう?私からなにか感じているんだね。だからと言って無理に言葉を選んだり、飾らなくていい。最初の感謝だけでも私は十分だ。それよりもだ」

 

彼はするっと振り返り僕を見つめ、続けた

 

「他人のために気を使って遠慮したり言葉を選ぶのも思いやりだが、時にその悩んだ時間や気遣いが相手を傷つけたり、自分を追い込むことになることもある。別に私は今のこと気にしてるわけじゃないが、これは先達からのアドバイスだと思ってくれ。」

 

再び鉄錆は僕らに背を向けて帰っていった。

大した見送りもできなかったが...

 

―――

 

奇妙な誕生日前夜だった。

そろそろ起きねば。この時間に日差しが入ってるってことはもういい時間のはずだ。

誕生日にこんなにワクワクするのは何年ぶりだろう。

今日はこの時期にしては少し暖かい風が吹いていた。

 

 

 




なんとかめちゃくちゃお久ですが投稿できました。
誕生日当日は...描かないかもしれませんし書くかもしれません。
まあつまり次回は内容ごと未定ってことです。


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第46話『誕生日の嵐』

えーーーーーーーーー大変お待たせしました


目覚めて一番にしたことは顔を洗って裏口から外へ出て庭の手入れ、そして朝食用の食器の準備。毎朝のルーティンを誕生日だからと言ってさぼるほど僕は間抜けじゃない。

そしてお次はいつもと変わらない朝ご飯。僕自身あまり主役だなんだとちやほやされるのは苦手だしこのくらいあっさりとしていたほうが楽でいい...

 

ドサッ!

 

さて新聞でも、と玄関を開けたら突然大きな影が入り込んで僕の上に覆いかぶさった。

 

思わずうわッと声を出したが、先生が駆けつけるころにはこの黒い影がニューヨークのジャックが僕宛に送った誕生日プレゼントだということが分かった。

それにしても...このプレゼントの山はミョウチキリンな空飛ぶクラゲから飛び出してきた。

何でもありだな、魔法

中には季節のお菓子とこれはどうにも日本旅行に行ってきたようで京都のお土産が詰まってる(だってKYOUTO MIYABIとか海外受けしそうなローマ字書いてるもん。てか京都の綴り間違ってるぞこのお土産)

古典的なワガシだけでなく抹茶味のバームクーヘンやクッキーなんかもある。最近のジャパニーズは洋菓子をアレンジしたようなお土産もいっぱい作っているのか。

 

「これじゃあただの旅行自慢みたいなものにしか見えないわね」

 

呆れた風に言ってるがそんな先生は緑茶のパックを凝視している。穴が開きそうだ。

ルキアはコンペトウとかいう名前の小さい砂糖菓子を眺めている。これはどうにも星をモチーフにしたようなカラフルな小さな砂糖のお菓子で見た目もかわいらしい。

どうやらこの誕生日祝いは僕ら全員にとって良き贈り物になったようだ。ジャックには世話になりっぱなしだなぁ...

 

お土産をひっかきまわしてあーだこーだ言っているうちにキッチンからはいい香りが漂ってきた。

 

「ケーキはお昼。さらにごちそうは夜!プレゼントはその時にね」

 

そうは言いながらもいつもよりは格段に豪華なお昼だ。

そしてこれまた甘い香りと包み込むような滑らかな味わいのケーキ

魔法使いのごちそうとタイトルをつけて本が書けるな。

オーブンから出てきたケーキだがいつの間にか生クリームのデコレーションがなされている。

イチゴとアンズのジャムがクリームとともに間に挟まっており、上部はまるで王冠のようになって並べられている真っ赤な大きなイチゴ。その間にはぎっしり詰まったブラックベリーとラズベリー。三人で食べるのでそこまで巨大ではないが、これぞまさに誕生日ケーキそのもの!といった感じで今まで食べた中でもトップクラスにおいしいケーキだった。

 

豪華な昼食もひと段落し先生が皿を洗い僕が部屋を片していたそんな時だった

 

コンコンと玄関の扉をノックする音が聞こえ僕は特に何も考えずはいはいと言いながら出てしまった。

まさかそこに自分のいとこであるショウシラカワがしかめっ面をして立っているとは予想だにできなかった。

 

「やっぱりここにいたんだな。秘書に調べさせてここでお前が怪しい連中とつるんでるって聞いて連れ戻しに来た!」

 

どうにも最悪の誕生日になりそうな予感がし始めた... 

 

追って先生も玄関へやってきた

 

「どなたでしょうか?いったい何の御用で?」

 

ショウ兄さんはフンと鼻を鳴らして人差し指を上にたてながら話をしだした。

 

「うちの従弟がね。怪しい魔女だか魔法使いだかを名乗る女の家に入り浸ってるって話を聞いてな。行ってみりゃなるほど怪しい女の家に上がり込んでるのはほんとだったみたいだな。てめぇセトに何吹き込んだかは知らねぇがこいつは連れて帰らせてもらうぜ」

 

そういってかなり強引に僕を引っ張り出そうとする兄さん。

さすがにこいつは無茶苦茶だ

 

「ちょ、ちょっと待ってよ兄さん。そりゃないだろ⁉何も知らないのに突然何さ?人のやることには文句言うなっていつも自分で言ってるじゃないか!」

 

そうだこの人は大概周りのやることには無頓着でだからぼくが家を空けるって言った時も特に詳しくは聞かずに管理を受け持ってくれたんだ。なのにそれが手のひら返したようになぜ今更来たんだ?

 

「それは!赤の他人のしかも普通のことやってるレベルでの話だ。魔法だなんだって怪しいカルトに落ちぶれた自分の身内はまた別問題だ!」

 

ついにはカルトとまで言いおった...

まあ確かに科学主義というか現実主義な兄さんからすればカルトにしか見えないかもしれないな

背後では先生もうなずいて話を聞いている。自分がカルトだって馬鹿にされたことに関しては特に気にしてない様子だ。

 

「カルトじゃない!僕はいたって普通の生活をしてるし魔法だって本物だ!何なら僕だって使えるさ」

 

落ち着いてことを分析できている気になっているがどうにもでてくる言葉は語気が荒く、ただでさえ話しながらどんどん赤くなっている兄さんの顔がゆでだこみたいに真っ赤になっていってしまった。

さすがにまずかった、後悔した矢先

 

「カルトに呑まれた奴はみんなそういうんだよ。ついにはお前自身もできると抜かしてきやがった。できるもんなら見せてみろ!くだらない妄想には付き合えないんだよ。どうだ?」

 

「わかったやればいいんだね、兄さん。見せればおとなしく帰ってくれるんだね?」

 

 

もうやけくそだ。こんなことで魔法を使うのはどうかとも思うが兄さんの財力も考えれば下手な遺恨を残して突き返すのも恐ろしい。

それに自分を馬鹿にされただけならまだいいが先生のことまでここまで言われちゃとりあえずぎゃふんといわせないことには収まらない。

 

すぐダイニングに通して一番簡単にはっきりわかるものを見せることにした。

 

「私手伝う?」

 

「いや、こんなことに隣人たちの力を借りるのもおこがましい話だしこれは俺の問題だから自力でやる。」

ルキアの提案を断り、相変わらずしかめっ面の兄さんの前に座る。

 

「インチキだとか言われるのも癪だし何をどうするか説明するよ。」

 

大急ぎで部屋からとってきた水晶を兄さんに手渡す。

怪訝そうな顔の兄さん。

 

「そいつは間違いなく何の変哲もない水晶だ。粘土細工みたいに手で形を変えるなんてことはできないし、色だって変わらない。よく見てくれ。そうだろ?」

 

「・・・あぁ」

 

「じゃあそいつをそうだな...花の形にでもしよう。嘘じゃない。机の上において。僕も兄さんもそいつには触れない。一瞬で変えてやる。」

 

さらに怪訝そうな顔になった兄さんをよそに水晶へ集中を向ける。思えば最初に魔法を使ったのもこんな石だったな。

 

 

意識を向け魔力を水晶へ注ぎ変えたい姿をイメージする...

 

水晶に淡い輝きが見えた刹那

 

ピキピキパキパキという氷が割れるような音とともに掌に収まるような小さな水晶からまるで本当の植物が発芽するかのように水晶の芽がでた。

昔テレビで早送りの植物の成長を見たがそれをそのまま再現したかのようにその芽はあっという間にアネモネの花を咲かせていた。

土台の水晶は少しだけ小さくなっていし、総量自体も変わってないようだ。前の時のような暴走傾向にないいい証拠だ。わきから見ていた先生もフムフムと頷いている。

 

当然驚いているのは兄さんだ。鳩が豆鉄砲喰らったような顔してる。

 

「な、あ...」

 

「どうだ兄さん?満足かい?」

 

したり顔な僕にどうにも腹の虫がおさまらないのか兄さんはキッとこっちをにらんだ

 

「まだだ!今度は俺の言うものの形にしてみろ!」

 

なるほど確かに条件をこっちが出しちゃいかさまにしか見えないだろうな。

 

「いいけどこいつの質量を上回るようなものは作れないからね、あくまで水晶の形を変えるだけだからね。」

 

「わかったわかった。んじゃあ鷹だ。」

 

「鷹?あの鳥の?」

 

「そうだ!鳥の鷹だ。やって見せろよ!」

 

どうにも兄さんは強気すぎていけない。

返事を返す必要もない。また意識を向けて

 

バサッバサッ

 

あ...あぁ...という少々間の抜けた声を漏らした兄さん

 

まあここまでやればそうもなるか

 

今この卓上には水晶の淡い輝きを放ったミニチュアサイズの鷹が弧を描いて飛んでいる。

 

「し、信じられん...そんなことが」

 

唖然とする兄さん。それじゃあトドメと行くか

 

「そんなに信じられないならご自慢の秘書に聞いてみるのが一番かもね。」

 

「え?」

 

もうこの人今日だけで一生分驚いてるんじゃないかってくらいの何度目かもわからない驚き顔。

 

「外で車待たせてるだろ?一緒に来てるんだろうからその人に聞けばいいんじゃない?ついでに会社の金のピンハネについても聞いてみれば?」

 

「な、何を言ってるんだ?セト」

 

先生はどうやら気付いているようだ。

 

「いやね。変な話なんだよ。僕は別段素性を名乗ってこの辺うろうろしてるわけでもないんだ。兄さんの秘書が調べてたった数か月で情報をつかめるわけがない。」

 

「だがあいつは俺が命じてから一か月もしないで見つけてきた...!そういえばお前が今何してるのかって言いだしたのはあいつだったな。」

 

それもそのはずだ玄関から乗り込んできた兄さんの背後。車の運転席にいた男。ちらっとだがそれでも十分思い出せた。

 

「理由はシンプルさ。僕の行く先に秘書の彼がいたからさ。それもとびっきり真っ黒なオークションにね。いや確かに思い返せばいたよ。でもまさかこっちの顔を覚えていたとはね。」

 

「なに?オークション?」

 

「そ、魔法使いとかが集まってやるオークション。当然一般人には参加どころか会場に入るのも不可能。でも彼はそこにいた。しかもあのオークションはお金もそれなりにかかるはず。いくら社長秘書とは言えそんな大金持ってたのかわからないなぁ~」

 

オークションのことはさらっと流しつつ棒読みな思わせぶり発言

兄さんはすでに魔法のことを信じている。疑いのにおいが薄れ始めてるのがわかる。

この状況でとる行動は...

 

「よし!わかった。俺の負けだ。もう何も言わないし。連れ帰る真似もしない。それよりも急用ができちまったからな!!」

 

そういうと来た時より顔を真っ赤にして兄さんは玄関から飛び出していったしまった。

 

「あなたのお兄さん。ずいぶんせっかちなのね。」

 

「まあ従兄なんで実兄ではないですけどね。面目ないです...」

 

先生までも唖然とさせてこの嵐は過ぎ去っていった

外からなんかもめてる声が聞こえているがそれにかぶせるように車のエンジン音が響き兄さんのにおいは遠ざかっていった。

 

「あれ?なんか置いてあるよ!」

 

さっきまで兄さんが座ってた椅子の上を指すルキア

相変わらず意地っ張りな人だなぁ

数ポンドの紙幣が置いてある。

あの人らしい気もするがなんともまあ...

 

「お兄さんなりのお詫びなのかもしれないわ。ありがたく受け取っときなさい。」

「さ、片づけて片付けて!せっかくの誕生日なんだから気を取り直していくわよ!」

 

なんだか妙に喜びのにおいを振りまいている先生にせかされて僕らは嵐の後を片付けた。

 

でも僕もそんな先生の喜びが嬉しかった。

 




あ、誕生日はもう終わりよ


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第47話「春の嵐」

なんと時間が吹き飛んだ!
誕生日の日々や新年のあれこれは全部カット!!



冬を越え大地に生命があふれる季節

 

人もまた同じく新天地へと踏み出すものも多い

そして...彼女もそうなのであろう

 

 

僕は誕生日の終わり頃から何も変わらなかった。先生たちとより親交を深めることはできたかもしれない、だが魔法使いとしての成長はあまり良いものでは無かった。

せっかく杖を作ってくれると先生が言ってくれたのに木を選ぶだけで3日、まして望みの形を目指して削るなどやったこともなく結局満足したものになるのに2週間もかかってしまった。

しかもそれでも自分の力には自信が持てず杖を握っても暴走するばかりで今杖は使い魔であるルキアに預けている。

 

自分に自信がなくなっていき落ち込んでいた僕に先生が数日休みをくれた

「街でも行ってリフレッシュしてきなさい」だそうだ

とはいえいきなり街へ行く用事もないしせっかくの休みをどうするかと悩んでいた時だった

突然スマホに見知らぬアドレスからメールが飛んできた

 

いや正確にはこのアドレス自体は知っていたがまさかあちらから連絡してくるとは思わなかった。

 

数か月前のホテルオークション

 

例の駄々っ子の監視警護がてら展示物を眺めていたらオークションを運営しているという男に声を掛けられ

少しばかし話し込んだのだが、私がやたらと食いついたのを気に入ったのか彼は連絡先を交換しようと持ち掛けてきたのだ。少々怪しい男だったが不思議と損はさせないという言葉に信ぴょう性を感じて応じてしまった。

しばらくは失敗したかと思ったが、とくにダイレクトメールされるわけでもなく連絡先交換したという事実を半ば忘れかけていた。

 

そんな彼セス・ノエルからのメール文はシンプルだった

 

「とてもとても珍しいお品が手に入りましたので折角ならとご連絡させていただきました。ご興味があるならば添付ファイルをご覧ください。」

 

ファイルには日時と場所の連絡が書いてある

 

「珍しいってなんだろうね?」

 

後ろからのぞき込んでいたルキアが不思議そうに首をかしげる

 

「だって魔法使い相手に珍しいっていうのよ。想像もできないわ」

 

確かにそうだ。僕が先生のもとで魔法を学んでいるのは周知の事実らしくおそらくセスも知っているだろう。それに今まで全く連絡をよこさなかったのに突然...

 

オークション日時も先生からもらった休みの期間内だ。

 

「よし。ちょっくら行ってみるか!」

 

そうして僕はルキアを連れ、まだ寒さの残る春の街へと繰り出した。

 

 

たどり着いたオークションでは魔術師ともどきのような半端物がそれなりの数が集まっていた。

呼びつけたくせにセスは会場に案内した後は忙しいからととっとと消えてしまった。

ルキアはいつものように影の中。こんなところで揉め事はごめんだ。

 

会場に入ってすぐセスがなぜ僕を呼びつけたのか分かった気がした。

とても甘くまろやかな香りが僅かではあるが漂っている

隣人たちや僕らのような人間たちにはとても魅力あふれる...こんな香りは初めてだ

 

そんなことに思考を巡らせているとオークションが始まった。

出されるものはどこぞの妖精の羽だとか、何とかの鱗だとか、確かに一般に取引されることこそないがありきたりなものばかり、香りの正体とは全く違う

 

まさかだまされたのではとあきれ気味に眺めていると最後の商品だという声とともにそれが現れた

赤い髪と若葉色の瞳

触れたら折れてしまいそうなほど華奢な体、かぶせられたヴェールからもわかるその不思議で魅力的な魔力の香り

 

「こちらは今回の競売で出品されたもの中でも希少なものです」

 

司会の声とともに会場がどよめく

 

あぁそうかこれがそうなのか...

気づくとルキアが人の姿で僕の脇の席に座って恍惚とした表情で彼女を見つめている

 

夜の愛し仔(スレイ・ベガ)

 

愚かな客たちは歓喜し値段は跳ね上がる

人を道具以下としか見ていない目下衆の目をした客とどこまでも虚ろで心まで空虚なスポットを浴びる少女

 

だが、気味の悪いそんな空気を一瞬で自分の色でかき消すものが流れ込んできた

会場の空気とはまた別の不気味な存在、人ならざる顔と底知れぬ闇に近い魔力を携えてその男

エリアス・エインズワースは壇上へと昇って行った

噂には聞いていた人嫌いがまさかこんなとことに現れるとは...

裂き喰らう城などと呼ばれる異形の者

 

彼は司会の注意する言葉など気にしないで一言

「500」

 

オークションは終わった。少女は影の茨の弟子となった

僕は終始呆然としてただけだった

どこか他人事で終わると思っていたこの出来事が僕の運命の歯車をまた狂わせ始めるのだと気付けることなどできるはずがなかった

 




ものすごいお久しぶりで申し訳ありません。
リハビリも兼ねた短い内容ですが新たな動きがあったなと認識していただければ幸いです。


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第48話『羨望』

久々なのにこれだよ全く


帰ると入り口で仁王立ちして先生が待っていた

どうやら今日の行き先はばれていたようだ

 

せっかくの休みを魔法使いならば絶対行かないであろう下賤な場所ですごした

それに対する怒りは顔を見ればわかった

 

「あんなところ...私たち魔法使いが行くところではないわ」

 

居間での会話第一声はこれだ

まあ当然だ。反論もできない

 

「はぁ...」

 

大きなため息だ。呆れ、いや諦めに近い香りだ

 

「まあ、興味は尽きないか...今回はこれ以上何も言うつもりはないわ。もう少し自分が危険なことに首を突っ込んでるってことを自覚して」

 

「ごめんなさい」

 

先生だって好きで叱っているわけでないことくらいわかる。だがはっきり言ってこの説教は僕の身に染みるものにはならないだろう

それだけ今日見たものの衝撃は大きかった

 

あんなに豊潤で魅力的な香り

 

まがい物の竜舌蘭の花(ぼくら)とは大違いだ

 

あの子

僕より年が下だったように見えたエニルほどではないがそれなりに美人だった

 

しかしあの死にきった眼に恐ろしさがあった

人間何を見てくればあんな目をするのだろう?

両親の死を受けた僕ですらあんな生きることを諦めたような状態にはならなかった

 

うわの空

 

あきれた先生も説教をやめてしまいその日はそのまま夕食で終わり

次の日からはまた修行という名の普段の生活に元通り

 

まあそんなことでスランプがどうこうできるわけがなかった

少しマシになったかもしれないがニューヨークのオークションの頃のような自信はなくなってしまった

 

思えばあの妙な男に唇を犯されたのがケチのつき始めだ

あの頃から魔力のバランスがわからなくなり

隣人たちの力の借り方も要領を得なくなってきた

まるで小学生まで満点しかとったことなかったのに中学生になって段々授業についていけなくなって高校生ぐらいには落ちぶれてしまう典型的な苦悩学生のようだ

 

誰かのせいにしたいが実際あの男のせいとも言い切れない

ただ時期が被っただけ

悪いのは体質にあぐらをかいた自分

 

失敗はしたことがあるし周りから侮辱されたこともあるが

徐々に腐っていく経験はない

才能があるとは言われなくとも無能ともいわれてこなかった

だからスランプからどうすれば出られるのか知らなかった

 

そんな折にやってきた話は

件の少女を買った魔法使いエインズワースが少女を自分の弟子としたこと

 

そしてそういった奇行を監視し報告するはずだったのに何も報告を上げないどころか止めもしなった

サイモンへの不信感による

地元の教会からのエインズワースの調査依頼だった




我ながらひどい


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第49話『邂逅そして』

作者絶賛スランプ中


その少女の第一印象は不気味…

いや、奇妙といえばいいだろうか

自分の内側に感じていた何かより何倍も魅力的で芳醇な香り

絶望を含みながらしかしどこか光を見つけたような瞳

自分にないものとは惹かれる一方で恐れも感じるものだ

彼女はそれをそのまま感じる存在だった

 

先生に連れられ僕は今エリアス・エインズワースの自宅にいる

オークションの時はあの頭に警戒を抱いたが実際あってみるとどうにもただ不器用なだけにも見える

当然彼が人とは異なるむしろ怪異に近い存在であることは感じ取っているが…

喋る言葉は同じ、紅茶だって飲む

頭が犬か何かの骸骨だがそれ以外はいたって人間だ…

 

 

###

 

つい先日、近所の教会の神父が暗い顔してやってきた

なんでも、教会が監視を続けていた

裂き喰らう城(ピルム・ムーリアリス)

という存在に大きな変化があったようで

本来ならば監視者からの報告があるはずなのに教会には何も連絡はなかった…

不審に思った者たちが神父を通じて先生に依頼してきたってことらしい

先生曰く

宗教団体みたいなもんだが一枚岩ではないらしく

特に渦中の人物エインズワースの監視を行っているサイモンさんは少々恨みを買いやすい所に属しているらしい

今回彼経由での依頼でないのも彼を信用しないものがいるからだろう

とのこと

 

なんとも無様な話だ

本来ならばこんな事付き合う義理はない

だが…

エインズワースが娶った少女

スレイベガの少女

 

模倣品の僕は勿論、先生もその存在への興味が止まらなかった

 

###

 

そうこうしているうちに話は当然少女の話題になっていく

バカ高い金で競り落としてどう使われてるのかと思えば

彼自身どう接すればいいのか完全にはわかってないようだ

一緒に暮らし

魔法を教え…

僕の生活と対して変わらないように見える

エインズワースの言葉に嘘の匂いはないし

恐怖や憎悪の匂いは漂っていない

少なくともエインズワースの隣に小さくなって座ってる赤い髪の少女「羽鳥チセ」は現状苦しい生活をしているわけでは無さそうだ

少々痩せ過ぎている気はするが身体に目立った傷もない

 

夫婦だと聞いていたがどうにも僕には親子のようなものに見えてしかたないが......

 

「で?用事ってのは僕の監視かい?大方サイモンの奴が碌な報告をしなかったからってところだろ」

 

話始めた骸骨頭は話が分かる人物のようだ声は男性に近く少し低い

どう発声しているのかとかあまり考えないほうがよさそうだ

彼の本質は匂いだけでは嗅ぎ分けられなさそうだし

 

「話が早くて助かるわ。まあ今見てるこの状況を伝えればそれで今日の用事は終わり。といきたいところだけど...」

 

先生は僕のほうを見て少々の間の悪そうな顔をした

なるほどここからは大人同士のお話というわけか

 

「チセ、すまないが少しこの青年の相手を...いや別に僕はいてもらっても構わないけど」

 

僕もそこまで人に迷惑をかけるような人間じゃあない

 

「あぁいえ構いませんよ。彼女さえよろしければ私としても少しお話してみたいですし」

 

「私も...大丈夫です」

 

ふむ...少し我は弱いようだ

まあ確かに自分の学生時代を思えば当然か

日本人であることが疎外感といじめを生み生活環境はいいとは言えなかった

彼女も怪異を常に見続け生活してきたと聞く

そんな中でまともな生活ができるかと言われれば答えはノーだろう

 

最近知っただけでも彼らは友好的であっても決して安全な存在ではない

僕自身彼らの好意であわやな事になりかけたことがある

 

羽鳥に案内をされてエインズワース邸の庭に出た近くの森が見え何とも長閑な田舎といった感じ

 

二人並んで無言でそんな森を見つめながら座っている

 

気まずい...

画が弱いのは勝手だが無言は居心地が悪い

これは何か話さねばと彼女のほうを向き直ったとき体が少し動いたせいかポケットからコインが飛び出してきた

元来財布嫌いで小銭をポケットに押し込んでいる

よくスられるからやめろと言われてきたがまあこの癖は治らない

 

慌てて拾おうとしたとき手が触れた

羽鳥もまた私の落としたコインを拾おうとしてくれていたようだ

 

そうして触れ合った彼女から流れ込んできたのは...

あまりにも残酷な人生

まだ20にもならないというのに人の悪意にさらされ続けた苦しみの一生

断片的なビジョンでしか見えなかったがその苦しみだけは痛みを感じるほどに......

 

「あッ!」

 

小さな声で羽鳥は叫んだ

 

「す、すまない。これは私の性質というかそういうもので...うまく扱えないんだ。決して覗き見てやろうと思っていたわけではないんだ。本当にすまない」

 

最近はルキアの手を借りてもこのざまだ

母の形見は最近はつけていてもあまり意味をなしていない気がする

そこまで自分の魔力は荒んでしまったのかと落胆の日々に嫌気がさして結局家に置きっぱなしだ

 

結果はこれ

慌てて言い訳がましくも謝る僕を見てハトリはフフッと笑っていた

 

「大丈夫ですよ。そんなに謝らなくても。私、私を必要としてくれる存在がいるってことは嬉しいんです。彼のことはまだよくわからないし、生活にだって完全に慣れたわけじゃですけど」

 

そういって彼女はここにきてからのことを話した

知らないことばかりだったがセスの教えもあり英語だけは何とかなったらしい

来てみれば周りには優しい人が多くそれなりに満喫しているようだ

時折彼女から発せられる”居場所がある”という言葉が妙に頭に残った

 

だがそれでいて実感させられる

当たり障りない返事をしながら彼女が魔法使いとしてはどこまでも恵まれているんだと思わざる負えない

それは羨望か、妬みかもしれない

だが喋る彼女から感じる魔力やオーラは自分にないもの全てを含んだ完璧なものだった

先生の期待に応えられず

すさんだ場所に遊びに行く僕と

師に求婚されるほど気に入られ、周りからの期待にこたえられる才をもち

 

スランプに甘んじて何もしていない僕とは全然違う

きっとどんどん離されていく

果たしてそんな僕に先生のもとの居場所などあるのだろうか...




なんかつらくなってきたな


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第50話『霧の中』

なんともこんな書き方はしたことがないのでまったくわからない


帰ると

どっと疲れが押し寄せてきた

結局、あの後いくら羽鳥と会話しても自分の心の中のモヤモヤは増えていくばかりだった

彼女の生まれ持った才能にまがい物なんかが勝てるわけがない

彼女のような力が自分にあれば

そう思うと悲しみより妬みのような感情が強く湧き出てくる

そしてそんな自分に失望する

この負の連鎖が疲労困ぱいの自分を作り上げていた

 

明くる日も先生は昨日の話ばかりしていた

僕から見た彼らはどうだったとか

羽鳥に何か感じたかとか

そんな話ばっかりだ

 

はっきり言ってうんざりだ

話半分で今日も魔法の勉強だが当然力なんて入らない

先生もそんな僕の変化に気づいていない

生で初めて見た存在に興味津々

まあそれだけ老いてつぶれているような存在じゃないって証拠だが......

 

夢を見た

少女が僕を見下ろしている

赤い髪の少女はあざ笑うかのような表情を浮かべ見下ろしている

 

数日悪夢と焦燥と妬みに悩まされた

この数日で先生まで遠い所に行ってしまったような気がする

 

そして本当に先生は数日家を空けることになった

なんでも旧友からの頼みだそうで2日は開けるとのことだった

今の調子じゃついて行ってもお荷物だし僕は留守を任された

 

先生が家を出た日

朝から随分と霧の濃い日だった

家にいてもやることはなく

ルキアには好きにしていいとだけ言って

散歩に出た

もう昼だというのに家の裏の森は霧が濃い

不思議と朦朧とする

悪夢から寝不足がちだったしそれのせいかもしれない

少し座って森を眺めた

何の変哲もないただの森

霧が濃いこと以外は普通の森

ただ妙に落ち着くというかここにいたいと思う

 

虚無と無意味のはざまの中

何処からか声が聞こえた

 

「君は...」

 

霧に紛れてどこかあやふやでしかしスッとしみ込む

不思議な声

 

「君は...孤独だ」

 

「誰も君を見ない」

 

「哀れでかわいそうな君」

 

「君自身そう思ってるだろう?劣等感を感じてるだろ?」

 

そうだ

僕は今苦しんでいる

 

「今のままじゃ何もうまくいかない」

 

自分に才がないばかりに

 

「ちがう」

 

?では努力が足らない?

 

「それもちがう」

 

「それじゃあ君の先生も君を見捨てるだろうな」

 

それはいやだ

捨てられたくない

 

「ならば君は考える必要はない」

 

「私が答えを教えてあげよう」

 

あなたは誰だ?

 

「それは君が気にすることではない」

 

「なぜなら私は君の味方だからだ」

 

「だれよりも」

 

そうか...そうかもしれない

 

「では教えよう」

 

「君が力を得ようとしないからだ」

 

力...修行じゃない?

 

「そうだ。いつもやっているような遠回りじゃない」

 

「だが今の君では得られない」

 

じゃあどうすれば?

 

「あの少女」

 

少女?あぁ羽鳥か

 

「あれはよくないねぇ」

 

「君を惑わし力を得るのを邪魔してる」

 

邪魔...彼女が

 

「現に君の先生は君を見なくなったじゃないか!」

 

「今まで君のあってきた人だって次本当に君のこと見てくれるのか?」

 

「あの少女は大きな存在だ。いや今は違うがきっとそのうち大きくなって君を蝕む」

 

 

「僕を......蝕む...」

 

そう......だから...

 

「さあ決断はできた。行こう」

 

彼の言葉に任せて動く

彼の言葉の通りに考える

それだけで今までの悩みが解けていく

すべてが分かった

こんなに気持ちのいいこともない

自分で考えて悩んでたのが馬鹿みたいに

 

「今は何も考えず“僕”に任せなよ」

 

甘い声を聴いていると不思議と体が軽くなって

考えがまとまらなくなっていく

でもそれは正しいことをしてるから

だから大丈夫

 

「そう何も心配はないさ。さあおやすみ…セト・ナンブ」




やっぱり何もわからない


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第51話『妬み』

え?何か月ぶりだよ更新


深い暗い

 

雪の降る夜明け前

森の中を声に導かれて歩く

頭の中の人は正しい道を教えてくれる

でもどこに向かってるのかはわからない

考えなくていいってあの人が言ったから

 

 

目の前には見覚えのある扉がある

 

そう、ここはあの忌まわしい女の...

 

『ほら今はバケモノもいない。戸をノックするんだ』

 

コツコツと軽い音を立て戸を叩く

 

 

はーい

 

伸びる明るい少女の声

扉を開けたのは赤い髪の少女

 

『さあ!それをお前が支配しろ!!その女だ!それさえお前のものにすれば邪魔する者はいない!"居場所"

を取り戻せ』

 

そうだ。彼女を俺が

 

「あれ?セトさん?どうかしました...ギャッ!?」

 

何をしているのだろう?

一瞬何か聞こえたと思ったら目の前に彼女の顔がある

なぜ地面に頭をのせながらこっちを見てるのだろう?

まあ倒れてくれるなら上から力かけられるしそれでいいのか

彼女には僕がすべて教えるんだ。僕がふさわしいってことを

 

『そうだ!コイツにはお前しかいないんだ。それをしっかり教えてやれ』

 

体は勝手に動いてくれる

何をすればいいのかおしえて...

 

「エリ......ア...ス...」

 

―貴女なんか産まなきゃよかった―

 

 

なんだ?僕は何してる。それに今のは...?

なぜ目の前に羽鳥チセが倒れて僕はそれに覆いかぶさって首を絞めながら服をはぎ取ろうとしてるんだ?

 

そうだ

彼女に必要なのは僕じゃない

僕の居場所はここじゃない

彼女の居場所も僕じゃない

 

『チッ...もう目覚めたのか...』

 

じゃあ彼女の居場所は?

 

頭に浮かぶのはバケモノ

エインズワース

 

あ、僕殺される

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

叫んで跳ねてやっとそこで自分に敵意を向けている犬が目に入った

ダメだ逃げないと死ぬ

殺される

エインズワースにもこの犬にも

 

どこ?逃げる

 

彼女の家の周囲は森が多い道に逃げてもすぐ追われる

そうだ森の中だ

 

「ゲッホ...あ、あの」

 

まずい羽鳥が起き上がった

 

人は思考と同時に動けるというが実際は違う

思考する前に動いているんだ

 

目の前の景色が一瞬で狭まる

 

木木木木木木木木

 

エインズワース

 

 

 

一瞬だったけど視界の端にあの骸骨頭が写った

 

逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ

 

小枝がバチバチと体にあたり血が流れてきた

口も切れてるし鉄の味がする

 

足元見えないし

なんかふらつくし

 

あぇ?

 

ぐにゃんと視界がよじれて足がもつれる

 

だがなぜか僕は倒れていない

 

「セト!しっかりつかまって!」

 

聞き覚えのある女の声

体が宙に放り投げられたと思ったら

少し高いところに僕は座っている

セントールの背中

ルキアの背中

 

その背中を認識した瞬間にもう森は別の森になっていた

エインズワースたちの住む家のあたりとは違う場所に

 

「これからどうするの?」

 

ルキアも僕も焦っている

だが落ち着いてはきた

 

「先生の家だ。荷物をまとめるぞ」

 

「その先は?行く当てなんて...」

 

いやある...

思えばそもそもの話あの霧の中僕が一人になるのを狙っていた何かがいる

これは怪異というより人だ

僕と羽鳥を接触させたがっていた何か

 

それから身を隠すという意味でもばっちりの場所だ

 

まあ何より先生に会うわけにはいかない

人を辱め傷つけた人間を弟子としておいておかせるわけにはいかない

 

思考を巡らせている間にすでに家の前だった

ここにはお世話になったものだがもはや感傷に浸っている時間はない

いつものトランクに部屋の私物とピュティアとそのご飯とを詰め込んで後は服と...もう余裕はない

とりあえず思いつくもの全部放り込んで家から飛び出した

 

 

すでに日ものぼりはじめ少しずつ明るくなってきている

 

「行先はここだ。」

 

ルキアに行先のメモを見せ、二人の手を合わせた。

本来行ったことない場所など魔法で飛べないのだが

今回はこのメモのおかげで行けそうだ...

 

冷たい風が吹き込み景色が回る

 

 

グワンと歪んだ景色が形を取り戻すとそこは街の喧騒の中だった

いや、その喧騒から少しだけ離れたところ

 

 

目の前にあるのは扉

バンバンと強く扉をたたく

 

もしここがだめならもうあてはない

 

 

扉はかなり慎重にゆっくりと開き

その向こうからは顔に大きな傷を携えた男が出てきた

 

「き、君は...!どうしたんだ!?エルダは?」

 

「レンフレッドさん...だすけてください」

 

雪のちらつく寒空の下彼の家から漂う暖かい空気はあまりにも眩しかった




ごめんよセトクン
もっと苦しんで


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第52話『逃亡』

久々なのにこの進まなさよ...


逃げた

逃げた

逃げた

逃げた

 

僕は逃げた

弱い自分が悪いのにその身可愛さに逃げた

 

レンフレッドに"言い訳"している今でさえ逃げようと言葉を探している

でも今更逃げたってどこにも...

 

「君が言いたくない気持ちにあるのはわかる。だが、真実がわからんことには俺も助けたくったって助けられない。」

 

こんな親身になってくれてる人に...

隣に座るルキアも借りてきた猫みたいになってる

 

 

僕はレンフレッドさんの家に転がり込むようにやってきた

とりあえずと上げてもらったが一息つけば事情の説明を求められるのは当たり前のことだった

たどたどしくそしてぼやかして話していればこうも言われる

 

「僕がここにいること、せん...エルダさんには秘密にお願いします」

 

レンフレッドさんは黙ってうなずいた

 

やっとすべてを話せる

最近のスランプのこと

羽鳥への先生の反応のこと

霧の中の声のこと

自分が弱いから体を使われたこと

そして彼女を傷つけたこと

逃げてきたこと...

 

話の切れ目切れ目でレンフレッドさんはいくつか質問を挟んで僕がそれにこたえる

話し終わったころには30分以上経っていた

 

しばしの沈黙の後

レンフレッドさんが口を開いた

 

「俺は...それを、君が”羽鳥チセ”にしたことを責めるつもりはない。君の身に起きたことは明らかな攻撃だ。俺のほうでその敵については調べてみよう。この間のオークションでの一件もそうだが、君に接触を図ろうとしている敵対的な存在があるのかもしれん。」

 

目つきのキツい人だが物言い自体はむしろ優しい

だが、

 

「気持ちはわからなくもないが、エルダから逃げたのはマズかった…」

 

一気に表情が険しくなる

 

「エルダは少々そっけない奴だが、それでも責任感はあるし君を守ってくれていた。黙って消えたとなれば...心配もするだろう。夜の愛し仔への反応は別に君を卑下していたわけではないしな。」

 

それはわかっていたはずだった...でも彼女に嫉妬していたのは事実。

彼女との違いを受け入れられなかった

アレを差と感じてしまった。

 

「矛先を羽鳥チセ(あっち)に向ければどうにかできると思ってたんです。劣等感を…自分に向けるべき感情を他人(ひと)に恨みにしてぶつけた。先生のことはわかってました。あの人はそんな人間じゃない。でも僕は先生に…エルダさんにそんな弟子を持っていてほしくなかった。あの人の弟子に惨めで醜いやつがいるのが嫌だったんです。」

 

言ってしまえば自分の問題だった

自分で蹴りをつけなければならないというわかりきっていた事実

レンフレッドさんは今度は静かに話を聞いていてくれた

そしてこっちを見つめ

 

「君の言いたいことはわかった。身を隠すと言うなら手伝おう。俺と一緒に学院に来い。」

 

と言い切った途端顎に手を当てて後ろを向いてしまった

 

「ん…?だが生徒としてじゃまずいな。誰かの助手ってことで職員として……俺は手一杯だしな……ここを貸すのはアレに襲われるリスクもあるからな…あいつに聞いてみるか...」

 

何かブツブツ言ったあとレンフレッドさんは振り返り

 

「君をバーダーあたりの助手として一時期匿えないか取り合ってみよう。とりあえずついてきてくれ。俺の部屋にしばらくは寝泊まりするといい。」

 

「ここが家なんじゃないんですか?」

 

少なくとも中は広いが普通の家に見える

生活するための。

レンフレッドさんは妙に顔をしかめて

 

「まあ...そうなんだが。少しばかしここは今入れる状況になくてな。今日も必要な資料があったから取りに来ただけで今は研究室で生活してる。」

 

そういいながら彼はなくなった片腕の袖をつかんだ

前にあったときは腕があったはずだったが...

 

「まあ少しトラブルがあってな...ん?まてよ...」

 

話を濁されそうだったが以外にもレンフレッドさんのしかめっ面は余計深まることになった

 

「一つ思い当たる節がある。」

 

?僕のことについて?

 

「そうだ。君を襲撃した存在。直接それがやったとは思えんが関連している可能性はある。」

 

「だが仮にそれならその話は学院に戻ってからだ」

 

レンフレッドさんは興味をもって顔を上げた僕をせかすようにコートを羽織りだした

もう大して手のひらを温めてくれなくなったマグカップのコーヒーを飲み干して僕も立ち上がった

ルキアは影の中に入っていつの間に準備万端のようだ

 

「さて、こいつを首にかけて」

 

手渡されたのは首にかけるための紐のついた小瓶

中にはどこかで見たことのある結晶が入っている。先生がくれた本の中にあったな

なるほどこいつは相当な代物だ。

 

「これは俺の研究の成果でな。蓋を開けると...」

 

「二つの結晶が合わさりその反応でなんかできると」

 

「まあ瓶の構造を見てもらえばそのくらいはわかるか。まあ簡単に言えばそれで指定した場所に移動できる。それは学院に向かうものだ。先に行っててくれ。ついた先に俺の弟子が待ってる。話は通ってるからとりあえずそこで待っててくれ。俺もすぐあと追う」

 

「わかりました」

 

こくりとうなずき蓋に手をかける

ちょっとばかし怖いところはあるが...

 

パキッ!

 

蓋を開けると氷が割れるような音が響き目の前が凄まじい光に包まれた。

 

一瞬目がくらんで...視界が返ってくるとそこはさっきとは全く別の部屋だった

比較的広い部屋にテーブルと机と本と山になってる書類と...

 

「お、あんたが先生の言ってたセトって人だな。」

 

声の主はきょろきょろしている僕の目の前に立っていた

長めの金髪で綺麗な目をした女性だった。

服装は赤をメインとした割と鮮やかというか派手目な感じで少しボーイッシュにも感じる

 

「あ、あぁ...あなたがレンフレッドさんの言っていたお弟子さんの」

 

「アリスってんだ。」

 

少々ぶっきらぼうにも感じるが。彼女なりの警戒ってやつか...

そうこうしてると後ろから光が差してきた

 

「まだ挨拶の途中だったか。問題なくこれたようだなセト君。」

 

ゴホン。レンフレッドさんはずいぶんわざとらしい咳払いをして服を正して僕のほうに手を伸ばした。

 

「少しの間かもしれないが...ようこそ学院へ」

 

これから何が待っているのか...まだ払いきれない苦悩が頭にこびりつく中、その歓迎の言葉はあまりにも優しい光に思えた

 

 




本当に申し訳ない
なんかいろいろうまくいかない日が続いて話もうまく書けていない状況です。
でもめげずにうちきりにはしないつもりなのでお付き合いいただければ幸いです
一応初期構想で考えるとそろそろ序盤が終わるころになります
学院編からはちょっと描写にふわっとしたものが多くなりますが(なんせ原作で描写が少なすぎる)
ここで少しづつセト君とほかの竜舌蘭の花とも絡みが始まる予定


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第七章【学院編】
第53話『学院』


原作の学院編が終わると聞いて慌ててます
てか最近単行本全く追えてない...


目が覚めると

知らない天井

 

そう

僕は逃げた

レンフレッドさんに匿ってもらい魔術師たちの学院とやらにいる

 

既に数日が立った

先生はここに来たことはないらしいからここでしばらく生活するのは間違ってはいないだろう。

学院の人らで話し合ったらしく僕の処遇はあっという間に決まった

生徒としてではなく

他の魔術師の補佐として研究者の一人のような立場で籍を置くことになった。

そしてその魔術師というのがバーダーさんだ

レンフレッドさんはちゃんと僕をバーダーさんの助手として入れると話を勧めてくれた。

今回僕を攻撃した存在は完全に謎

極力他者との接触は減らしたい

となれば生徒という立場はいささか問題がある

それにバーダーさんは竜舌蘭の花などを専門としている

研究対象として手元に置いておきたい

そんな気持ちもあったのだろう。ほかの三人

つまりマサト・カキザキ、アエラ・ホーキンス、エニル・マーシェンもまた彼の助手という立場で学院に所属している。

生徒の立場なら危険な場所に彼らを連れだせるわけがない。

部屋は余っているがあまり大量に使わせたくない

というお上のご意向の元

僕は柿崎と相部屋になった。

今日はその相部屋一日目だ。レンフレッドさんの研究室のソファーの上の生活も終わり。お礼を言ってからと思ったがどうにも今日は外せない会議があるとかで早朝からいないらしく。部屋でわざわざ僕にコーヒーを持ってきてくれたアリスに礼を言って出発した。

まあそうはいっても少し歩いた先にある部屋に移動するだけなのだが...

 

「柿崎君とセトは結構仲良しよね」

 

ルキアは人型で隣を普通に歩いてる

廊下を並んで歩く

思えば学生が経験しそうなことだが自分の記憶をさかのぼっても楽しい学友との

廊下での他愛ない会話ってのはなかった。

 

「そう見えるか?仲がいいって」

 

そう思うと突然このくだらない会話が大切に思えてくる

 

「だってオークションの時から結構お互いのこと信用してる感じでやり取りしてたからさ。」

 

「そりゃあだってあの場で僕を除いちゃあいつが最年長だったし。頼りになりそうな感じだったんだよ。」

 

「それは匂いが?」

 

「いやなんとなく。」

 

「やっぱりなんとなくでそう思えるなら仲がいいってコトよ。」

 

「そんなもんかね?」

 

そうこうしているうちに新しい自室の前にたどり着いた

部屋からはなんかごそごそ音が聞こえてくる

間違いなく柿崎がいる

相変わらず鼻は使い物にならないがさすがに廊下にまで響く音は聞き逃さない

一応戸はたたいたが返事はナシ

ひたすらガサガサ音が聞こえる

これはなんか遠慮する必要がない感じだな...

 

「いいんじゃない?あけちゃっても」

 

カチャリと扉を開けはいる

 

部屋の中は一見すると凄まじく奇妙だけど

まあ想像通りというかお察しの内容だった

部屋の中心を境界線に片方は机とベッドだけの何もないエリア

もう半分はとっ散らかっていて

段ボールと巨大ビニール袋にゴミやら本やらを詰め込みながらあたふたしている男が床に座っている

部屋に入ると同時にその男柿崎はこっちに向いた

 

「おあッ!もう来たのか!こっちで手いっぱいで見てなかった。」

 

「全くだ...あとから来た私が言うのもアレだが日ごろから部屋くらい片付けておけよな...」

 

「うるさいなぁ!俺だって一昨日になって突然あんたがここに来るっていうから大慌てで...」

 

一昨日からやってまだ片付いてないのか...?

 

「ま、まあ私の場所がありゃいいや...入っていいんだよな?」

 

「自分の部屋に入るのに許可とるやつはいないぜ」

 

カバンを引きずりながら部屋に入ってみる

入り口から向かって正面には机、左右の壁際にはベッドが置かれている

ベッドは新品のシーツが綺麗に張られている。これは僕の引っ越しが決まった後にやってきたのだろう

机はと言えば綺麗に磨かれた木製でわきには引き出し付きの棚が備え付けてある

シンプルだが使い勝手がよさそうだ

カバンから物を出して自分風に改造してやればそれでよしといったところか

 

「なあ。あんたの荷物そのかばん一つか?旅行じゃないんだぜ」

 

「このかばんが見かけ通りのサイズなら2泊3日旅行ってところだな。まあ服洗えるんだったらもう少しできるだろうけど」

 

「へぇ~先生の研究室みたいな感じなんだな!バーダー先生の部屋も見かけの倍以上あるんだよ」

 

思えばレンフレッドさんの家や先生の家もそうだったな

先生の家は外で見るより一回りは広かった気がする

僕の部屋もこの部屋と同じかそれ以上あった...

あの部屋にはもう戻れない

 

「セト...大丈夫?」

 

ルキアが僕の片手に手を当ててる

 

「あぁ...ちょっと懐かしんだだけだから...」

 

彼女は机の軽く腰掛けながら僕の荷解きを眺めている

 

「なあ柿崎。蛇とネコは大丈夫か?」

 

「え?アレルギーは特にないぜ。大丈夫だ」

 

「そうか。ならいい」

 

にゃあ~

 

「な、なあ。そろそろ聞いていいか?」

 

片付けもまだ半端なところで柿崎が声をかけてきた

結構恐る恐るって感じだ

 

「なんだ?」

 

「そのお嬢さんは誰なんだ?あまりにも自然にいるから聞けなかったんだが...」

 

その視線の先にいるのはルキア

そういえば魔術師は使い魔といったものはとらないという

知らないのも当然か

 

「私の相棒。ルキアだ。あぁ安心してくれ。普段は私の影の中で寝るからベッド盗ったりはしない。」

 

「よろしく~」

 

ゆらゆらと手を振るルキアに唖然としてる柿崎

 

「そ、そうなんだ...俺の知ってる妖精ってのはもっとこう羽が生えてるとか小さかったりとか空飛んでたりとか馬だったりとか...ここまで人間そのものってフォルムなんだな」

 

「まあ彼女がわざわざこの姿にしてるだけだからな。もともとはセントールだからいわゆるケンタウロスなフォルムだぞ」

 

ふふんとルキアは鼻を鳴らしている

あぁそういえばそうだったな

 

「一応むやみやたらに彼女連れてどうこうはするつもりはないしコミュニケーションする機会はあんまりないだろうけど、彼女に妖精っていうのはやめてやってくれ。隣人たちはその呼び名を好いちゃいないんだ」

 

「そうなのか?そいつは悪いことした。ごめんルキアさん」

 

正直な男だ。バーダーさんやレンフレッドさんとはまた違った人間

 

「いいのよ。人間はよく間違えるもの。それに私たちはそのくらいじゃどうってことないわ。でもたまにその呼び名にありえないくらい激怒する連中もいるから気をつけなさいよ。じゃあセト私少し休むわよ。」

 

ルキアはそういって僕の影の中に吸い込まれていった。

 

「自分が魔術師だって言われていろいろ信じられないものを見てきたが...」

 

「まだ驚きは多いだろ?いいだろ楽しい世界だ。」

 

にゃ~

 

「ところでそのネコちゃんも俺にとっては驚きの一部だな。」

 

小さめなケージの中にいるピュティアのことだ

 

「サーポパードって知ってるか?今じゃ世間でも噂すらされなくなった生き物さ」

 

「確かネコ頭の恐竜みたいな生き物だったような...」

 

そいつはあくまで伝承の話

この子は原種だ

 

「意外と違う姿だろ?まあ人は噛まないと思うけど不安ならトランクの中で飼うから安心してくれ」

 

「いいのいいの気にするなって。別に動物は俺も好きだし。それより荷解きをのんびりやるのはいいが明日からはあんたも先生のお手伝いだからな。準備はしとけよ」

 

「多分準備できてないのはお前のほうだぞ柿崎。どれ、その片付け手伝ってやろう」

 

誰かと一緒にする生活

ほんの少しだけ前向きになれた気がする

 

しかしふつうは引っ越してきた側が手伝ってもらうんだと思うんだけどなぁ...



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