美少女指揮官(♂)と艦船達の日常 (ゆっくりいんⅡ)
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その愛の源は
……え、緋弾のアリアの方はどうしたって? ハハハ、勿論忘れてませんと(銃声)
『……督、……く?』
『……い?』
海底にいるようなまどろみの中、自分を呼ぶ複数の声。しかしそれらは靄がかかるように小さくなっていき、今では何を言っているのか分からなくなってしまう。
『……官、……揮官』
代わりに聞こえてくる別の呼称。そちらの声は徐々に明瞭となっていき、自身にとって馴染み深いものと認識していく。
ああそうだ、今の自分は――
「……」
目が覚めた。移ろう夢でも見ていたのだろうか。
寝起きの頭で思考してみるが、夢なのだし詮無いことと結論付け、身体を起こす。
「おはようございます指揮官様、お目覚めはいかがですか?」
横合いから聞こえてくる声で一気に覚醒した。側に立て掛けてあった軍刀を掴み、同時懐に忍び込ませた拳銃を取り出し、侵入者に銃口を向ける。
「あら、驚かせてしまったようですね……申し訳ありません、配慮が足りませんでした。
でも、寝惚け眼の指揮官様も愛らしかったですが、今の凛々しいお顔も素敵ですわあ。ふふふ」
「……赤城か、おはよう」
相手が自艦隊の艦船であると分かり、銃口を下ろす。
名を呼ばれた彼女、重桜所属赤城型航空母艦一番艦赤城は嬉しそうに微笑む。
「はい、おはようございます指揮官様。良い朝ですね」
「まだ暗いけどな」
時計を見ると朝の五時半、年も明けたばかりの時期では太陽が顔を覗かせる時間ではない。
「……銃を向けたのは悪かった。習慣なんでな」
「お気になさらず、指揮官様の事なら把握していますわ」
「そうか。で、早朝から何か用か」
「今日はこの赤城が秘書官の日なので、指揮官様の寝顔を堪能させていただきながら待機していました」
「……気配には敏感なつもりなんだが」
自室で待機してろとか鍵掛けてあったんだがとかツッコミどころは山程あったが、とりあえず一番気になったところを聞いてみると、
「三歩下がって影踏まず、愛する方の安眠を妨げないよう気を遣うのは当然のことですわ」
「……その方法を聞いてるんだが」
「愛の成せる業です」
「……」
目が本気だったので詮索はやめる。少なくとも空母である彼女にステルス系統の機能・兵装はないのだが――やめよう、考えると朝から疲れてくる。布団に入られてなかっただけ良しとしよう。
「……まあ、少し早いくらいだな。準備するか」
「二度寝をされても大丈夫ですよ?」
「ガン見されて寝られるほど神経図太くない。……オイ、今から着替えるんだが」
「赤城は気にしませんわ」
「俺が気にするんだよ」
部屋から追い出し軍服姿に着替える。……終わってすぐいつの間にか入っていたのは恐怖でしかないが。本当どうやってるんだコイツ。
「~~♪」
座って書類に目を通している間、俺の髪を整えてくれる赤城は上機嫌に鼻歌を歌っている。
「……男の髪を弄るのがそんなに楽しいか?」
「指揮官様の髪だから楽しいんです。加賀もそうですけど折角綺麗なものをもってるんですから、どうしてもお世話したくなりますわ」
「櫛を通せば充分だと思うが」
「加賀も同じこと言ってましたね」クスクス
「いっそ面倒だし切――」
「……」<・><・>
「……りはしないから、整えてくれると助かる」
「はい、勿論ですわ♡」
なんでウチの連中は人が髪を切る発言をすると似たような反応をするのだろうか。
まあ確かに女顔だが、と鏡に映る華奢な自分の姿を見て溜息を吐く。自分でもこの黒髪ロングが一番似合うと分かるため、複雑な気分だ。この顔のせいで女と間違われて告白されたことなど数えるのも億劫だが、まさか赤城は同姓あ「指揮官様なら女性でも構いませんよ?」当然のように心を読むな。
「ご主人様、おはようございます」
「おはようベルファスト。いつも通り早いな、ご苦労様」
部屋を出て廊下を歩いていると、朝食の準備中だろうベルファストに遭遇した。
「勿体無いお言葉です、このくらいメイドとして当然のことですから」
「あら、ゲテモノ国のメイドは朝から点数稼ぎに余念がないわね」
間髪入れずに赤城(腕をこちらに絡めている)の嫌味が飛ぶ。頭を上げたベルファストは常の笑顔のまま、
「纏わりつくしか脳の無い狐モドキよりマシだと思いますが?」
「……うふふふふふ」
「……」ニコニコ
(また始まったか……)
笑顔で火花を散らしあう姿に溜息を吐く。
見れば分かるがこの二隻、物凄く仲が悪い。顔を付き合わせれば毎度口喧嘩から実力行使(流石にそうなったら止めるが)になる。赤城曰く『指揮官様に近付く悪い虫の中で最たるもの』とのことだが……個人的には近親憎悪ではないかと思う。
「ねえ指揮官様ぁ、お願いがあるので、あいた」
「ベルファストを沈めようとするなっての」
ヤバイ目をして袖から艦載機(愛用の零戦52型T3)を投げ付けようとするので、脳天にチョップしておく。宿舎が壊れるっての。
「……うふふ」
「何で叩かれて嬉しそうなんだよ」
「だって、指揮官様があのゲテモノじゃなくて私を見てくれるんですもの」
「武装取り出せばそっちを見るに決まってるだろ……そもそも、今日の秘書官はお前なんだし優先するのは当たり前だ」
「――!」パアアァァァ
嬉しそうな顔で再度腕に抱きついてきた。そうなると必然、豊満な女性の象徴が押し付けられる訳で。
「……当たってるぞ」
「ダメですか?」
上目遣いで見てきた。懇願されるのは予想外、目を逸らして「……好きにしろ」とだけ言った。
そろそろ俺が男だという事を自覚して欲しい。顔は女だが欲求は普通にあるのだ。何のとは言わないが。
(……殺す気なんて、無い癖にな)
そんなことを考えながら、朝の食堂へと向かった。
結局一日中赤城に引っ付かれて仕事をする羽目になった。周囲も生暖かい目を向けることはあるが、触れるものはいない。誰かこの状態に何か言えよ、ベルファスト以外で。
寮舎の入口で(何かツヤツヤしてる)赤城と別れ、自室へ足を向ける。
「……疲れる」
「何故そんな顔をする? お前とて姉様を嫌っているわけではないだろう、喜ぶなり己の欲求に従えばいいだろうに」
「そんな野獣の思考は持ち合わせてない。で、待ち伏せしてまでどうかしたのか加賀」
廊下の先で壁に背中を預けていた赤城の妹(実際そうなのかは微妙なところだが)、加賀はこちらへ近付き、手に持っていたもの――酒瓶を掲げる。
「少し、話がしたいと思ってな。日々の労いも兼ねて、酌でもしよう。最近は飲んでいなかっただろう?」
「年末年始でさんざっぱら飲まされたからな」
主に酔って絡んでくるオイゲンに。正直、よく胃が壊れなかったものだと我ながら思う。
とりあえず俺の部屋で飲むことにし、加賀と二人窓越しの月を肴に酒盛りが始まった。といっても多弁な方ではないため、互いに対面でありながら冬の夜空を眺めつつ黙々と杯を傾けているのだが。
「話とは、赤城に言いにくいことか?」
こちらから沈黙を破って問いかけると、三杯目を注いでいた加賀の耳がピクリ、と動く。表情は変わってないが丸分かりだな。
「流石指揮官、鋭いな」
「あいつを誘ってない時点で予想は付くさ」
二人一組がデフォと思える加賀が、急に一対一《サシ》で飲みたいと言えば予想は付くだろう。
「そうか? ……まあ、確かに姉様とは一緒のことが多いからな。そう思われるのも仕方ない、か」
あまり自覚がないらしい。少し赤い顔で腕を組みふむと頷いているが、一人で行動してれば異常と感じられるくらいだぞお前等。
「そうだな、では単刀直入に聞くとしよう。
指揮官、
「……また妙な質問だな」
俺が赤城を好きかどうか、という質問なら分かるが、赤城の恋慕が本物かどうかと来たか。
「それを聞いて、お前はどうしたいんだ?」
「別に、何も。ただ、お前自身が姉様の愛をどう思っているのか、聞きたかっただけだ。
……まあ、返答次第では手が滑ってしまうかもしれないが」
「聞く気なのか殺す気なのかどっちなんだ」
「殺しなどしない、そんなことをすれば姉様が本当に壊れてしまうからな。精々仕置きの範囲だ」
目と動きを見るに、本気でやりかねない。まあそれでも、答えは変わらないのだが。
「今は依存半分、恋慕半分といったところか」
「……正直だな、この状況で。半分、というのは?」
「出会った当初は依存が大半だったろう。ただ、時間が経つ毎にそれは思慕に変わっている」
運命の出会い、と彼女は言っていた。それが本気なのかどうかまでは分からない、が。
「例え最初が縋るものを欲しただけでも……別に、構わんと俺は思う」
「……気付いていたのか、姉様の傷に」
「これでも指揮官だ、お前達のことは見てるつもりだ。
お前は戦だからと割り切っているようだが……赤城は、そうでもないみたいだな」
かつて艦だった頃に受けた傷。それは人の形になることで『喪失』への恐怖となり、他人を欲する『依存』となった。実際敵には加賀共々一切容赦ないが、味方であれば『害虫』『帰ってこなければいい』などと言いつつ、かつての怨敵であろうと傷の一つ付けていない。それどころかユニオンやロイヤルの艦でも(一部例外はあるが)指導や面倒を見てやる姿もよく見られる。
……一瞬で自分を含めた四隻が沈められるという悪夢のような現実に苛まれ、それでも誰一人死んで欲しくないから。そんな思いが、彼女を突き動かしているのだろう。
それでも自分だけで立っているのは限界がある。そこで出会ったのが俺、ということなのだろう。
「赤城は強い女だ。いくら艦とはいえ普通なら塞ぎ込むなり、逃げてもいいことなのにな。
口ではともかくあいつの生き方は、思慕は、尊い本物だと思うぞ」
「……そう、か。そこまで分かっているなら、私が口を挟むのは野暮だったな。
では趣向を変えるとしよう。お前は姉様のことをどう思っている」
「……一気に与太話になったな」
「酒の席には相応しいだろう? そもそも、姉さまの事は聞いてもお前の気持ちは終ぞ聞いてなかったからな」
喋っている間も酒がすすんでいたせいか、薄笑いを浮かべた白い顔はより赤みを増している。よく見ると頭のケモミミも赤いような。
「……正直、恋愛なんぞよく分からん。長いこと戦争に明け暮れてそういうことは空っきしなんでな。
赤城が向けてくる好意にどう返せばいいのかも思い付かんが……まあ、嫌いではないし、報いてやりたいとは思う」
どちらかというと好きな方だ、とは口に出さないでおいた。幾ら酒でタガが外れかけてるとはいえ、そこまで言うには羞恥心が邪魔をする。
もっとも、目の前でオモチャを見つけた顔をしている白狐にはばれているのか、満足そうに頷くと、
「それだけ聞ければ十分だ。では、そろそろお暇するとしよう。
……指揮官、姉様を頼んだぞ」
言うだけ言って酒杯を片付け、部屋を出て行こうとする加賀に、
「それは違うだろう」
否定の言葉を投げかける。振り向いた気配はするが、俺の視線は月に向けたままで、
「俺に赤城を任せるんじゃない。俺とお前で赤城を助け、俺と赤城でお前を助け、赤城とお前が俺を助ける。
赤城が信頼できる相手は俺一人じゃない、お前も含まれているんだ。三人寄れば、大抵のことは何とかなるだろうよ」
壊れかけていた赤城がそれでも踏みとどまれたのは加賀、お前の功績なんだよ。
「なんだ、口説かれているのか私は?」
「真面目な話だ阿呆。そもそも、口説き文句なんぞどういうものなのかも知らん」
「ふ、確かにそうだな。まあ、お前にそこまで言われたのなら私も働くとしよう。何せ、私はお前のものだからな」
その誤解を呼ぶ発言はどうにかならんのか、と文句を言ったのだが、聞く耳持たず去った後だった。
「まったく……」
酒のせいか、随分らしくないことを口走った気がする。さっさと寝るかと立ち上がったところで、
「むぎゅ」
何かに抱きしめられた。顔面に何かいい匂いがする柔らかいものを押し付けられ――
「指揮官様、指揮官さまぁ……」
誰だかすぐに分かった。いつ入ったのかは(恐ろしいことに)不明だが、赤城の方が背は高いためすっぽりと収められるようになってしまう。
「赤城は、赤城は幸せモノです。指揮官様にここまで理解していただいて、受け入れてくださって、加賀と一緒に居ていいと言われて……」
「……姉妹なんだろ、一緒にいて当然だろう」
というより加賀の方が姉への依存度は高い気がするため、一人にしたら狂戦士《バーサーカー》になりそうで怖い(無自覚だろうが)。
「指揮官様が愛してくださると!」
「待てどんな脳内へんか――むきゅ」
より一層強く抱きしめられて遮られた。
「ああ指揮官様、一瞬でも貴方様が私のことなど眼中にもないと思ってしまったこと、お許しください……赤城は、赤城はこんなに見てもらえていたのに……」
「……口にしないんだ、疑うのも無理はないだろう」
お前は悪くない、そんな思いを込めて抱きしめ返す。華奢で今にも折れそうなのにそれでも立ち続ける、気高き彼女を支えようと。
「でも、でも指揮官様……赤城は、それでも貴方を信じきれない最低な部分があります……いつか、いなくなってしまうのではないかと。だから……」
その先は続けられなかった。互いに抱きしめたまま、潤んだ目の顔が徐々に近付いていき――
「そこまでです発情キツネ、ご主人様から離れてください」
――いつから居たのか、ベルファストによって強制的に引き剥がされた。
「ご主人様、大丈夫ですか? 変なことはされていませんか? まだ未遂ですか?」
「――ベル、ファスト?」
「はい、貴方様のベルファストです」
「見て、た?」
「はい、抱き合うところからですが」
「――――!!!」
羞恥心が一気に駆け上がり、その場にうずくまってしまう。ムードに流されて、違う、本心、いやでもそれじゃあ。……ダメだ、考えがまとまらない。絶対カオマッカー!! になってるぞこれ。
「ふふ、羞恥に悶えるご主人様の姿、大変愛らしゅうございます。もっとも」
「……」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
「そこの女狐が原因でなければ、ですが」
「イギリス女は空気をぶち壊すクズ淑女ばかりなのかしら?」
「ご主人様を魔の手から護るのも、メイドの勤めです」
「自分に魅力がないからと醜い嫉妬で妨害する虫けらは心底不愉快ね」
「時も場所も立場も弁えない色ボケよりはマシかと」
「――もう語る必要はないわ、死になさい」
「そっくりそのままお返しします」
双方艦載機と主砲を構えた、ぶつかるのは時間の問題だろう。
「……ああもう」
羞恥に浸る時間もないとは、どれだけ仲が悪いのかこの二人は。
とりあえず最初に、喧嘩を止めるとしよう。その間はまあ、さっきのことは考えなくていいだろう。
あとがき
はい、というわけで赤城さん編でした。ストーリーと過去を見る限りヤンデレなのにはこういう理由なのかなーと適当に思い浮かんで書いてみました。……後半加賀さんとの対談メインになっちゃいましたけど、まあ同じ一航戦だしね?(何
ちなみにベルファストと仲が悪いのは本作の仕様です、そもそも原作では関わるところが全くないし……まああれです、どっかの自称良妻狐とJK公家だと思っていただければ(雑
では、今回はここまでで。次回はプリンツ・オイゲン編を予定してます。もう一話書いたらチラシの裏から正式に上がる予定です。
感想・誤字脱字コメントお待ちしております。読んでいただきありがとうございました。今年はちゃんと書きます!! 多分!!(目逸らし)
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魅せ始めたもの
……え、じゃあ何で一番に赤城書いたのかって? 趣味と気分です(オイ)
「指揮官、一緒にお酒でも」
「断る」
「……遮ってまで拒否するのは酷いんじゃない? 加賀とは一緒に呑んでた癖に」
「年末年始にリバース直前まで呑ませた奴の誘いに乗る訳ないだろ」
日が落ちてしばらくして執務終了。自室へと戻る途中、遭遇したアドミラルヒッパー級三番艦、プリンツ・オイゲンにジト目を向けておく。断られた当人ははいつもの口元に指を当てるポーズでつまらなそうにしている。
「根に持つ男は嫌われるわよ?」
「女でも嫌われるだろそんな奴。危うく酒がトラウマになりかけたんだぞ」
酒は薬にも毒にもなるという言葉を、自分の身で実感することになるとは思わなかった。そこそこ強い方だとは思っていたが、許容量を遥かに越える摂取は一種の拷問である。
「年末年始でちょっとタガが外れてたのよ、流石に反省したから……ね? ちょっとくらい、いいでしょ?」
指を唇に当てたままこちらに近付いてきて、体勢を変えて胸を強調する。恒例の『お願い』ポーズでこちらをジッと見つめてくる。
毎度されてるのだから慣れてもいいものだが、悲しい男の性かどうしても右胸部分のホクロに目がいってしまい、揺れるツインテールが手や顔に触れてこそばゆさが妙な気分を助長させる。こういうのを魔性の女、というのだろうか。
気恥ずかしさから視線を逸らし、溜息を吐く。顔に赤みはない……と思いたい。
「……悪いが、今日は呑む気分じゃない。前回の鉄血艦隊の後始末がようやく片付いたんでな、起きてるのがちとキツイ」
「あら、それじゃあよく寝れるように添い寝でもしてあげましょうか?」
「公序良俗って言葉知ってるか?」
「人間じゃなくて艦船だからセーフね」
「発想がアウトだよ。……他人が横にいると落ち着かないんだ、勘弁してくれ」
両手を挙げて降参の意を示す。寝起きの条件反射で赤城に武器を向けてしまうんだ、艦船によってはトラウマになるぞ。
「……むう。本当に疲れているみたいね、仕方ない。これ以上無理強いするのは可哀想だし、やめておくわ。指揮官の困り顔を見るのは楽しいけど、働きすぎはし・ぬ・わ・ね」
何故そこでいつもの如く区切る。
「理解してもらえたようで助かる。ついでに困り顔させるのもやめてくれるとありがたいんだが」
「それは無理ね。指揮官の困り顔はカワイイもの」
「男捕まえてその評価はおかしい」
「その美少女顔で言われてもねえ……」
言うな、自覚はあるけどしたくない。
「それに、指揮官の困った顔は一部で人気なのよ? 普段の無表情がちょっとでも変わるもの、意地でもどうにかしてやりたくなるじゃない」
「……仏頂面なのは認めるが、そんな姿見て誰が得してるんだ」
「私を含めて比叡、セントルイス、愛宕、ベルファスト、翔鶴、エイジャックス、後は雷電姉妹、真っ先に浮かぶのはこれくらいかしら。あとは――」
「もういい、聞きたくない」
指折り数えるオイゲンに、本気で頭痛がしてきた。とりあえず、今聞いた奴等の前では無表情に努めよう(←フラグ)
「……酒なら今度付き合う」
「まあ、それならいいわ。お疲れ様、指揮官」
「ああ、お休み」
横に退いてくれたので挨拶だけをし、再び歩を進める。さて、さっさと風呂に入って――
「ところで指揮官」
などと思ったら、プリンツが再び話しかけてきた。何故か背中に抱きつきつつ。
「何だ、まだ用か。……あと、くっついてくるのはなんでだ」
「ふふ、そうやってちょっと言い淀むところがカワイイのよね」
「……当たってるぞ」
「慣れてるでしょ?」
「慣れてない」
そこを認めたら人としてダメになる気がする。今も押し付けられた部分から感じる柔らかく大きな双丘と肌の温もり、回された華奢な腕の密着感で気を静めるのに苦労しているんだし。
「別に、困らせようって訳じゃないわ。最後に一個、聞きたいことがあっただけよ」
「なら抱きつく必要はないだろ。……手短にしてくれ」
「ふふ、別に嫌なことを聞くわけじゃないわ。ねえ指揮官」
最近、山城と混浴したんだって?
「何の話だ?」
「ちょっと動悸上がってるわよ。くっついて正解だったわね」
声には出さないよう努めたが、無意味だった。というかその口振りだと引っ付いたのは特に意味ないのか、いや分かってたが。
「……山城が俺の入浴中に間違えて入ってきただけだ、意図的なものでも何かあった訳でもないし、アイツも寒中水泳でボケてたのか水着のままだった」
「まあ身持ちが清純乙女並みに硬い指揮官ならそうでしょうね、何かの間違いだってのは予想できるわ。
ああ、先に言っておくと別に責めるつもりはないから言い訳しなくてもいいわよ? ただ、偶然見た娘から話を聞いて、確認したかっただけ」
「こんな状態なら白状した方がマシと考えるだろ。あと、誰が見たんだ」
「ライプツィヒ。テンパリ過ぎて気絶しかけてたから、忘れるように言い含めておいたわ」
「……それは、迷惑を掛けたな」
山城が原因とはいえ、その後のことを考えなかったのは少し迂闊だったか。口外するような連中(青葉とかグリッドレイとか)じゃなかったのは不幸中の幸いだな。
「別に。変な噂が広がっても面倒だしね」
「ああ、面倒なのは間違いない。で、用件は済んだんだし離して」
「で・も。今の話、赤城の耳にでも入ったらどうなるかしらね?」
後ろを向くと、悪戯っぽく笑うプリンツとがっちり視線が合った。蠱惑的と言えば聞こえはいいだろうが、俺には悪魔の笑みにしか見えない。
「……お前が喋らなければいいだろ」
「そうねえ、それはそうね。でも、折角余計な噂が広がらないようフォローしてあげたんだし、これでなにもなしだと
「…………」
さっきよりでかい溜息を一つ。赤城が味方を攻撃しないのは先の一件で分かっているが、山城はそこまで気の強い部類ではないため、ヤンデレの気迫で迫られたら最悪泣き出したりするかもしれない。そうなれば確実に面倒ごとだ、内輪揉めほど厄介なものはない。
「……何が欲しいんだ?」
「あら、私は何か欲しいなんて言ってないわよ?」
「……」
「冗談よ、冗談だからそう睨まないで、怖いから。じゃあ、そうねえ――」
面白そうな顔でオイゲンが出してきた条件とは――
「……なんだか指揮官様に手を出そうとする悪い虫の気配がするわねえ。帰ったら念入りに調べて駆除しないと……う、ふふふふふ」
「姉様、戦闘中くらい真面目にやってください」
オイゲン曰く『
……いや、マジでどうしてこうなった。
「ふう……いいお湯ね」
「……そうだな」
隣り合った位置でお湯に浸かり、疲労が溶けていく感覚を存分に味わう。これで横に誰かがいなければ存分に堪能できるのだが、最早詮無いことだろう。
本当なら水着でも着させようと思ったのだが、「重桜で水着の入浴はマナー違反でしょ?」と論破されてしまった。どこで身に着けたその常識。
一応タオルは着けているが、それも湯船につかる際頭に乗っけているため、お互い生まれたままの姿である。お湯が白くなかったら色々まずかったと思う、まあオイゲンもそこを理解して混浴に誘ったのだろうが……「んぅー」とか変に艶っぽい声を出して伸びをするのはやめて欲しい、胸とか脇とか見えて完全に目の毒である。
「ねえ指揮官、折角のお風呂なんだしそんな怖い顔しなくてもいいじゃない」
「顔は元々だ」
「眉間の皺がいつもより一本多いのに?」
「……よく見てるな」
「付き合いも長いもの、それくらい分かるわ。……ねえ、やっぱり迷惑だった?」
水温を立てながらこちらを見てくるプリンツの表情は、申し訳なさげだ。強引なアプローチだったのは自覚があるのだろう。
顔だけ彼女の方に向け、少し罪悪感が湧き上がる。こちらに非はないというのにそう思わせるとは、つくづく女はズルイ生き物である。
「迷惑ではない。……単純に緊張してるんだ、察してくれ」
正直な気持ちを吐き出すと、不安そうな顔から一点目を丸くし、
「指揮官が緊張することなんてあるの?」
「お前は俺をなんだと思ってるんだ」
「(鬼灯の)冷徹」
余計なものが入ってる気もするが、とりあえずスルー。
「感情を失くした殺人兵器じゃないんだ、喜怒哀楽もあるし緊張くらいする」
「普段は眉一つ動かさない鉄の心臓持ちがよく言うわ」
「状況が違うだろ。お前みたいな美人と混浴なんて、戦場の百倍は緊張する」
あ、口が滑った。オイゲンは一瞬ポカンとした表情の後意味を察し、「……真正面から口説かれるとは思ってなかったわ」と顔を湯気越しでも分かるくらい朱に染めている。別に口説いたつもりはなかったが、そう受け取られても仕方がない。
「「…………」」
しばらく二人とも無言で湯に浸かる。少し気まずいが、温かさがそれを誤魔化してくれている――と思いたい。
「ところでオイゲン」
「な、なあに?」
気分を変えようと話題を振ったのにどもらないで欲しい、気恥ずかしさが増す。
「いや、髪を結んだままなのは何故かと思ってな」
言う通り、髪型はツインテールのまま。普通風呂に入るなら解いてくるものだと思うが。
「ああ、これ? 後で頭を洗うから、その時に解こうかと思って」
「髪留めが痛むと思うが」
「大丈夫よ、海水でもサビ一つ付かない特注だし。髪を洗うのも解くのも指揮官にやってもらうから」
「オイマテ、追加サービスをする予定はないんだが」
「? 女の髪を解くのって、男は興奮するものじゃないの?」
「どこで仕入れたその知識」
首を傾げているあたり、本気でそう思っているらしい。明らかに特殊性癖の一種だろそれ。
「違うんだ、ふうん……でも、指揮官ならやってくれるでしょ?」
「混浴だけでもギリギリな自分に直接触れろと申すか」
「髪だけならいいでしょ?」
そういう問題ではない、と口にしようとしたらオイゲンは急に距離を詰め、
「私だって恥ずかしいのよ? でも、指揮官だからこんなこと頼んでるの。
だから、ね? お・ね・が・い」
指をこちらの唇に当てて喋れなくしてから、こちらをジッと見つめてくる。
馬鹿言え、と拒否するのは簡単だったが、触れる指が微かに震えているのに気付いた。嫌われたらどうしよう、などとでも考えているのだろうか。
別にこの程度でどうこうなる仲ではないが、怖いならやらなければいいだろうに。……それとも、そうまでしても距離を詰めたかったのだろうか。
「……他言無用だぞ」
「! 勿論よ」
我ながら自制心が弱いと思う、それとも女の涙と笑顔には勝てないという奴だろうか(別に泣いていないが)。こういう状況から逃げ出したり上手い事避ける物語の主人公には素直に感心する、単なるヘタレなのかもしれないが。
というわけで不本意だが、オイゲンの髪を洗ってやることにした。髪留めを外す際「どう、興奮した?」などとまだ言ってるが、俺にそんな性癖は無い。
「んっ……指揮官、洗うの上手ね」
「そうか? まあ、長い髪にはよく触れているからな」
「自分の髪がそうだものねえ。ケアとか何かしてるの?」
「? 洗えば十分じゃないのか」
「……そういえば、いつも髪濡れたままでお風呂から出てるけど、ドライヤーは?」
「しない、自然乾燥」
「何でそこだけ男らしいのよ、よくそれで綺麗な髪を維持できるわね……愛宕が髪のことで口うるさく言ってたの、納得したわ」
「別に乱れてないからいいと思うんだがな。流すぞ」
「そう思ってるのは本人だけよ……ん、ありがと」
振り返って笑いながら礼を言うオイゲンは、髪型が違うせいかいつもより大人っぽく見える。濡れているせいか色気も増して感じ、思わず視線だけ逸らしながら口を開くが、
「どういたし――」
「さ、次は指揮官の番よ」
「オイマテ、自分で洗う」
「ほらほら早く座って、湯冷めしちゃうわよ?」
「聞けよ話」
結局強引に座らされてしまう。風呂場で暴れたくないのもあってあっさり抑えられた。
「ほら、髪は洗うだけじゃダメなのよ? 例えばこっちのトリートメントとか」
「……全然分からん」
「赤城あたりにも話して指揮官の髪を洗う係でも決めた方がいいかしら」
「やめろ胃が壊れる」
そもそも他言無用が破られるんだが。オイゲンはクスクス笑いながら「冗談よ」などと言うが、心臓に悪いのでやめて欲しい。
「……それにしても」
「~~♪ ん、なあに? 目に泡が入った?」
「いやそうじゃない。お前も変わったな、と思っていただけだ」
海軍部から配属されたばかりの頃は顔こそ笑っていたが、内心厭世家で無気力な雰囲気を漂わせていた。それが今では楽しげな表情も見せるようになったのだから、そう感じていた。
口にするとオイゲンは小さく笑い、
「そりゃあ、あの時とは状況が違うもの。新しい仲間も出来たし、ヒッパーや鉄血の皆とも再会できた。独り取り残されたあの時とは違う。
まあ、一番変わったのは指揮官のせいでしょうけどね?」
「……俺か? 別に特別なことはしてないが」
ただ単に、一人の艦として接してきただけだ。他のと比べて贔屓したわけでもなし、変わるほどのことはなかったと思うが。
オイゲンはまたも笑いながら、今度は何も言わない。なんだその意味ありげなのは。
「まあ、指揮官はそのままでいいと思うわ。いつも通りの無愛想で気遣いの出来る美少女(仮)でね」
(仮)はいらん、男だよ。
「ねえ指揮官。興味本位の質問なんだけど」
「何だ」
「別に答えなくてもいいんだけど、出来れば正直に言って欲しいの。
私達の好意は迷惑? それとも嬉しい?」
……また何とも答え辛いことを。自分の立場を考えれば言わないのが吉だろうが、それだとお互いしこりが残るだろう。
何より、こういう問題は親しい男女なら避けられない問題だ。……女顔の自分が言うのもあれだが。
「そうだな。……指揮官としては、お前等と必要以上に仲良くなるのは問題だ。情で判断を誤るかもしれん」
「……」
「だけどな」
泡が流され、鏡に映された自分の身体を見る。腰まで伸びた艶のある黒髪、必要以上に女性を感じさせる顔、華奢でか細い体躯。
自分から見ても十人中十人が女子だと間違えるような容貌だ、神に性別を間違えたと告げられても納得いく。それでも、
「こんな見た目の俺を『男』として見てくれて、慕ってくれている。それが、とても嬉しい。
だから、オイゲン」
ありがとうな。そう告げて振り返り、彼女の髪を取って軽く口付ける。
「それじゃあ気取られるのも面倒だし、俺は先に出る。お前はもう少しゆっくりしていくといい」
硬直したままのオイゲンへ一方的に告げ、脱衣所へと向かう。それから髪を拭き手早く着替え、扉を開けて廊下に出る。
「……何やってんだ俺」
扉脇の壁にもたれて額に手をやる。ああすげえ恥ずかしい、何告白紛いのことしてるんだ俺、髪にキスするのも必要なかっただろ、あのタイミングだと意味分からんかったし。
「ちょっとアンタ、報告あるのにどこほっつき歩いて――」
「…………」
「何、そんな顔して何かあったの? インフルエンザにでも掛かった?」
「……いや、風邪の類じゃないから大丈夫だ」
「ハァ? じゃあなんでそんなに真っ赤なのよ」
お前の妹と恥ずかしいこと話してた、等と当然言えるわけがなく、適当に誤魔化して逃げるように自室へと戻った。ホント、のぼせてでもいたのだろうか。
「……ああもう、なんなのよもう。あんなこと言われて嬉しくないわけじゃない、女として。おまけに髪とはいえキスなんかして、ちょっとだけど笑ってて、あんな見たことない顔卑怯よ卑怯。
しかもこっちの話なんて聞かずに逃げ出すなんてとんだヘタレよ、普通の女なら愛想尽かすに決まってるわ。
とりあえず、もう一回お風呂入ろうかしら。……明日から指揮官の顔、まともに見れるといいんだけど」
後書き
何このラブコメ、山城と指揮官が混浴したっていうネタがあったから試しに書いてみただけなのに、どうしてこうなった。
……はいどうもゆっくりいんです、今これ喫茶店で書いてるんですけど、正直羞恥心で死にそうです。なんでこんなもん書いたしと言われたら、筆が進んだとしか……
とりあえず、今回はここまでです。アズレンSSはリクエストあるか気が向いたらまた書くと思います。好きなキャラはいっぱいいるんで、まあ一番はオイゲンなんですが(何)
感想・評価・誤字指摘などあれば送っていただけると嬉しいです。ではここまで読んでくださった方、ありがとうございました~。さて、アリアSSの続き書かないと……
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閉じ込めたいもの
今回は愛宕編です。リクした方からすさまじい欲望という名のリビドーを感じた……これ意味一緒ですね(アホ)
執務室、今日も今日とて面倒な書類をさばいていく。慣れているので別段苦になる作業ではないが、晴天の中部屋に引きこもっていると、微妙に憂鬱な気分になるのは人の性だろうか。
と、いつもなら時々ブルーになるとこだが、今日は膝上に座る存在がつぶらな瞳で見つめてくるため、悪い気分ではない。
「後で遊んでやるから、もうちょっと待ってろ」
頭を撫でながら声を掛けてやると、「ワン」と嬉しそうに鳴いて大人しくしている、膝上の子犬。うむ、犬はかわいいな(確信)
「うふふ、し・き・か・ん? シキちゃん(犬の名前)に構ってお姉さんをほっとくのは酷いんじゃないかしら?」
「人の髪勝手に弄ってる癖して何言ってるんだ愛宕」
後ろでニコニコしている飼い主、もとい重巡洋艦の愛宕にツッコミを入れておく。そもそも膝にシキを置いたのはお前だろ。
「だってこうでもしないと、指揮官は逃げちゃうでしょ? せっかくキレイな髪をしてるんだし、色々試してみたくなるじゃない」
言いながら髪をサイドテイルに直していく。肩に掛かるから鬱陶しい。
「髪なんて見苦しくないくらいに整えておけば充分だろ」
「だーめ、いつも同じだなんてつまらないじゃない。持っている武器を色んな形で活かせば、もっと魅力的に映るわよ?」
「それで誰が得するんだ」
「お姉さんは嬉しいわ~」
結局自分のためじゃねえか。あとツインテールはやめろ、幾ら女顔でも痛々しい。
「~~♪」
上機嫌にこちらの髪を弄る愛宕。秘書官としての仕事は終わっているので別に構わないが、耳や首に指が触れるのは気を付けて欲しい。少しだけどこそばゆ――
「んっ……」
……首筋を撫でられて変な声が出た、恥ずかしい。愛宕はキョトンとした顔になっていたが、自分の指と俺を見て気付いたのか、「あらら~?」とどこか嬉しそうな声を上げる。
「ごめんなさい指揮官、くすぐったかったかしら?」
「……いや、別に平気だっ――おい、あた、ご」
明らかにボディータッチの回数が増えた。というか肩とか背中はわざとってレベルじゃないだろ。
「あらら、どうしたのかしら指揮官? お姉さんの指がそんなにいいの?」
クスクスとサディスティックに笑いながら、彼女の指は服の隙間へと――
「……」カキン
「うふふ、冗談よ冗談」
する前に刀を鳴らして脅しを掛ける。すると愛宕は笑いながら両手を上に掲げて降参のポーズ。明らかに冗談じゃなかっただろ。
「……」
「あらら、怒らせちゃったかしら。ごめんなさい、指揮官がかわいい反応するからつい悪戯心が、ね?」
「ね、じゃないだろねじゃ。何事にも限度があることは分かってるのかお前は」
「ちゃんと弁えてるわよ。そうじゃなければ刀で殴られてるでしょうし、本気で怒らせない範囲にしてるでしょ?」
「まず怒らせるなっての」
「それはあれよ、指揮官はからかい甲斐があるから無理かしら」
「……」
いっそ殴ってやろうかと思ったが、頭のケモミミが楽しそうに動いてるので言っても無駄だろう。何か最近こいつのS ッ気が増してるように感じるのは気のせいだろうか。
起こるだけ無駄かと、お茶を取りにいった愛宕の背中を見送りながら溜息を吐く。膝上のシキが慰めるように「クゥン」と言って? くれるのが唯一の救いだった。主人と違ってお前はいい子だな。
「はあ……やっと終わった」
「お疲れ様、指揮官。今日も遅くまでご苦労様」
「……」
お前が邪魔しなければもうちょい早く終わったんだがな、とは言わないでおいた。オイゲンにも言われたが、案外根に持つタイプなのだろうか自分。
「それにしても、最近は仕事が山積みで休む時間もないわねえ。指揮官、ちゃんと休んでるの? 目に隈が出来てるわよ」
「睡眠は取ってるぞ」
削ってはいるがな。
正直休めていないのは事実だが、それも仕方ない。アドミラル・シュペー襲撃の作戦から日を空けず、上層部から発表された『特別計画艦』のプラン。処理案件が重なって落ち着いた時間が取れないのも事実だ。もうちょっとスパンを考えて欲しいものだ。
まあ愚痴っても仕方ないし、目の前の案件を片付けなければ艦隊運営に支障を来たす。今が乗り越える時期と考えてやっていくしかないだろう。
「ん~……」
顔には出していないが見破られているのか、愛宕は困った顔でこちらを見つめていたが、
「(`・ω・´)ピーン!!」
何か思いついたらしく、いい顔でこちらを見る愛宕に嫌な予感しかしない。
「ねえ指揮官、折角だからお姉さんと一緒に休んでいかない?」
「あ? いや、後は風呂入って寝るだけだし」
「そういう意味じゃないわよ。まあいいか、ていや☆」
いつの間にか背後に回っていた愛宕が、掛け声とともに俺の両脇に手を入れて持ち上げた。
「うお?」
「女の子みたいに軽いわねえ。指揮官mちゃんと食べてる?」
「食べても太らない体質なんだよ、じゃなくて何すんだ愛宕」
「何って、こうするためよ」
ポス、と備え付けのソファに愛宕が座り、抱えていた俺を引き寄せる。簡単に言うと、後ろから抱きしめられてる状態だ。逃げられないようにか片腕を腹に回して。
「……なあ愛宕、動けないんだが」
「動けないようにしてるんだから当然でしょ? あん、あんまり動かないで。こっちも高ぶっちゃうわ」
「……」
妙な事される前に動きを止めたが、しかしこの体勢は色々厳しいものがある。後頭部が丁度愛宕のふくよかな部分に当たっているし、まるで包まれているような気分になる。
「……オイ愛宕」
「ほらほら、そんな怖い顔しないで、今だけはお姉さんに任せて存分に休みなさい? 何だったら触ってもいいから」
「さわらねえよ、後が怖いし。いや、だから後は寝るだけ」
「今の指揮官は寝るだけが休みになるわけじゃないでしょ? 眉間の皺がどんどん増えてるの、自覚してる?」
「それは元々だ」
「五本に増えるのは元々じゃないわよ」
お前らどんだけ俺の眉間を見てるんだ。
「今の指揮官に必要なのは心の休息よ。頑張るのはいいけど、一人で背負い込んで倒れたら元も子もないでしょ?」
「……普通にやってたつもりなんだがな」
言い訳するように呟くと、愛宕は仕方ない子ねと自愛の表情で更に引き寄せる。むぎゅ、と顔の半ばまで胸部に埋まるが、抗えぬまま頭を撫でられる。
「ほら、指揮官。何だったらお姉さんに全部身を任せてもいいのよ?」
「そんな、ダメ人間、みたいなことは、しない」
撫でられつつ抗議するも、瞼が重くなってきた。人前で眠ってしまうなど、俺も鈍ったか。
「あら、残念」
多分笑っているだろう愛宕にそれ以上は何も言わず、意識を落ちていくに任せる。
ありがとな、とは言葉に出さず、彼女のぬくもりに包まれたまま眠りについた。
「指揮官、指揮官?」
「スゥ……」
「……よっぽど疲れてたのね。普段は猫みたいに警戒心高めだから、寝顔なんて見れないのに。
ふふ、こうやって寝ている姿はまるで子供ね。普段からこうしてればカワイイのに」
抱きしめから膝枕の体勢に変え、微笑みながら幼子のように眠る指揮官の頭を撫でる。童顔で女顔、制服に包まれた華奢な四肢、普段の不機嫌そうな面持ちは鳴りを潜め、穏やかな寝息を立てている。
「……ああ、やっぱり指揮官可愛いわあ。こんな無防備な姿見せられたら、お姉さん我慢出来なくなっちゃうじゃない。
……ちょっとくらい、悪戯してもいいわよね? というかここでお預けすると、私の方がどうにかなっちゃいそうだし」
じゃあ失礼して、と一人結論付けて顔を近づけるが、
「んう……」
「!」
指揮官が声を上げてまずい、起きるかと内心焦った愛宕だが、
「まくらぁ……」
「……!?」
別の意味でもっと焦った。寝返りを打ったと思ったら、愛宕の腰に手を回して密着したのだから。
「し、指揮官?」
「すぅ……」
再度声を掛けるも、起きる様子はない。予想外の状況に固まる愛宕だったが、これはこれで役得と思うことにした。というかこの指揮官は私を萌え殺す気か。
翌日
「ねえ愛宕、あなたが指揮官様に膝枕してたっていうタレコミがあったんだけど」ゴゴゴゴゴゴゴゴ
「赤城、ここに指揮官の寝姿写真があるけど」スッ
「手を打ちましょう」
「私にも一枚もらえるかしら?」
「ええどうぞオイゲン、鉄血は同士だから特別よ」
「オイなに人の黒歴史を写真にしてばら撒いてるんだ」
後書き
指揮官(男の娘)のCVイメージは桑原さんでお願いします(願望)。どうも、ゆっくりいんです。
何かアズレンのSS書くと毎回甘い話かいてる気がしますが……というか私が糖分過多で死にそうなんですがorzゲハァ
ちなみに本来はバブみ成分を盛りだくさんにしようかとも思いましたが、指揮官がキレる未来しか見えなかったので自重しました(+作者の力量不足)
とりあえず短いですが、今回はここまでです。感想・評価・誤字脱字の指摘などいただけましたら、大変励みになります。
では、読んでいただきありがとうございました。
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