星海のやべーやつがダンジョンに潜るのは色々と間違っている (レッドリア)
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1話

※この小説のフェイト君はフレイを倒してます


※1月21日 フェイト君のレベルを修正しました『LV.7➡LV.5』


「おかしいな……つい今まで宿で休んでた筈なのに、ここは一体何処なんだ?」

 

 ボロボロの建物の中で座った体勢で壁に寄りかかりながら一人呟く青髪の青年が居た。

 年は十代後半だろうか、彼の顔付きからはまだ何処か幼さが抜けてない様に見えるが、その目付きはしっかりとしており、人が見れば好青年という印象を受ける。

 格好はノースリーブの服に右腕に肘当て、ズボンの上に青いグリーブを着けている。青年が足を動かすとガチャガチャと腰にさげた鉄パイプとグリーブの当たる音が周囲に響き渡る。

 青年は立ちあがり辺りを見回すと「うーん」と首を傾げた。

 

「僕は確か、ついさっきまで立ち寄った町の宿で椅子に座って本を読んでた筈なんだけどな……そもそもあの町にこんなボロボロな教会ってあったっけ?」

 

 青年が立ち寄った町は余り探索してなかったが、少なくとも内装があちこちボロボロになった教会は見かけた記憶がない。

 もしくはいつの間にか寝落ちして夢でも見ているのか。そう考えた青年は自分の頬を強くつねった。

 

「地味に痛い……って事は夢じゃないのか?」

 

 けど、それならそれでいつの間に自分は此処に来たのか。

 自身の記憶を引っ張り出そうと頭を回転させるが結局わからない。

 

「しかし教会か……あの星を思い出すな」

 

 青年がかつて仲間と共に居た場所を思いだし感慨に浸っていると、不意に教会にの入り口から『ガチャリ』と扉の開く音が教会の中に響き渡った。

 青年が扉の方を向くと、入り口には一人の少女が立っていた。

 

「おや?君はボクのホームで何をしているんだい?」

 

「……ホーム?」

 

 ホーム……って事はこの教会は少女の家だったのか?そう思った青年は此方に近付いてくる、見た目にそぐわない大きな胸の少女に言った。

 

「もしかして、この教会って君の家だったのか?」

 

「そうだね。正確には此処は『ヘスティア・ファミリア』のホームで、ボクはこのホームの主神のヘスティアだ。これでも歴とした神なんだぜ」

 

「……ファミリア? 神?」

 

 青年は怪訝な表情で少女、改めヘスティアを見る。

 それもそうだろう。いきなり「自分は神様だ」と言い出す人が居たら、ましてや相手が子供であれば誰だってこんな表情になるだろう。

 だがヘスティアはムスッとした顔で「あっ、信じてないな!」と青年に更に歩み寄ってくる。

 

「あー、いや、ちゃんと信じてるよ?」

 

「いーや、絶対に信じてないだろう! 子供は神に嘘はつけないんだからな!」

 

 君の方が子供にしか見えないけどね、と内心で思いながら青年は「はいはい」とヘスティアを宥める。

 

「……まあいいや。所で、君は一体誰なんだい?」

 

 ヘスティアに言われて青年は気が付いた。ああ、名前言ってなかったっけ。

 青年はヘスティアを瞳を見据えて言った。

 

「僕はフェイト・ラインゴッド。僕も一つ聞きたいんだけど、此処って何処なのかな?」

 

 

――――――――――――――――――

 

「……という事なんだけど……」

 

「ええ……」

 

 青年、改めフェイトがヘスティアに現在地や先程まで居た町から何処にあるか聞いた結果、自身が遥か遠い違う場所……否、違う惑星に居ると知ったフェイトは思わず困惑してしまった。

 宿で寝て覚めたら違う惑星ってどういう事だよ。

 そしてヘスティアが言うにはフェイトが今居る所は『迷宮都市オラリオ』という所で、この街にはたくさんの神様や冒険者などが集まっていると言う。

 オラリオに住まう冒険者は神の眷族となり神から恩恵(ファルナ)を受けてダンジョンに潜り、魔物を倒して得た魔石によりお金を稼ぎステイタスを上げ、更にダンジョンに潜っていく。そしてその神を中心にした冒険者の集まりを『ファミリア』と言うらしい。

 

「冒険者にステイタス、それに神様か……(聞いてるとまるでゲームみたいだな)」

 

 ゲームみたいだ、と言えば一人旅を始める前に戦った敵を思い出す。そう言えばアイツも世界の創造主だし、神みたいなものなんだろうか。

 そこで、ヘスティアの言葉にふと(あれ?)と思ったフェイトは言った。

 

「そう言えばさっき君は此処をファミリアだって言ってたけど、君の所には冒険者は何人居るんだ?」

 

「あ~……それなんだけど……」

 

 フェイトから視線を外すとヘスティアはフェイトを横目でチラチラと見る。

 何度かフェイトに視線を向けると、ヘスティアは言いにくそうにしながらも切り出した。

 

「……ないんだ」

 

「えっ?」

 

「だから……誰も居ないんだ……」

 

 ヘスティアはフェイトに自身の現状を話した。

 ヘスティアは最近天界からこの世界(神たちは下界と呼んでいる)に降りてきたばかりである。友神の所で居候してたら追い出された。今は眷族を捜しながらバイトで生計をたてている。という事だった。

 

「だいたい、ヘファイストスも酷いんだよ。ほんの数年グータラしてただけで追い出すなんてさ!」

 

「……いや、それは完全に君が悪いよ」

 

「うっ!ま……まぁ確かにそうかも知れないけど……」

 

 ヘスティアの話を聞いてると、前に居た惑星エリクールで会ったクリエイターのあの親子みたいだな。

 そう思ったフェイトはヘスティアとあの親子……の父親の姿が重なるのを一瞬幻視した。

 

「(……しかし、これからどうしようかな?)」

 

 気が付いたら違う惑星に居た……のは宛ての無い旅の最中だから別に問題は無い。

 それなら、この惑星を旅してみるのも良いのではないか。

 それに、ヘスティアが言うにはこの惑星……この街にはダンジョンという遥か昔からあり、奥の方は数百年経っても未だに前人未踏の地だと言う。

 ……うん。せっかくだし、ダンジョンに潜っていくのも悪くないかもな。

 

「うう……誰も眷族になってくれないし、バイト先でトラブって借金作るはめになるし……もう誰でも良いから眷族になってくれる子は居ないのかな……」

 

「(眷族か……まぁクリエイター契約みたいなものだろうし、特に何かあるって訳じゃ無さそうだよな……よし!)」

 

 いつの間にか床に座り込んでいるヘスティアにフェイトは声を掛けた。

 

「ねえヘスティア、僕で良かったらその眷族になっても良いよ」

 

「やっぱりボクって神らしくーーえっ? 今……なんて?」

 

「うん。今は僕は一人旅をしてただけだし、特に行く宛ても無かったからね。僕で良いなら眷族になるよって……ヘスティア!?」

 

「グスッ……うぅ……ほんとに……本当にボクの眷族に……なってくれるのかい!?」

 

 フェイトが言い終わる前にヘスティアが涙を流してフェイトの腕を掴み目の前に顔を近付ける。もう少し近付いたら鼻と鼻が当たりそうな程に近く、フェイトは少し仰け反ってしまう。

 フェイトが「あ、ああ」と言うと、ヘスティアはフェイトの腕を放し、二、三歩離れると腕で涙を拭い「やったぁーー!」と声を大にした。

 

「ありがとうフェイト君、そしてようこそ『ヘスティア・ファミリア』へ!!」

 

「うん、よろしくヘスティア」

 

 「やったー!僕に初めて眷族ができたー!」や「これでロキにもうバカにされないぞ!」と喜んでいるヘスティアをフェイトが易しい目で見ていると突然ヘスティアが「そうだ!」とフェイトに話しかけた。

 

「フェイト君が眷族になった事だし、早速君に恩恵を刻まないと」

 

「恩恵……確かさっきも言ってたね。それってどういうものなんだ?」

 

「恩恵って言うのはね……」

 

 ヘスティアはフェイトに恩恵について説明した。

 恩恵とは神から人に与える神の眷族である印であり、恩恵を受けた者は『ステイタス』と呼ばれる力を手にし冒険者となる。ステイタスにはレベルがあり、魔物を倒し経験値を得てレベルが上がると隔絶した力が身に付くと言う。

 他にもレベルは1から7でレベル7は一人しか居ない事、レベルが1つ違うだけでも実力や力がかけ離れていて上位者には敵うことは有り得ない事、スキルや魔法の事など一通り聞くと、フェイトはヘスティアに連れられてとある本屋へと来た。

 

「ヘスティア、此処に来て一体何をするんだ?」

 

「ああ、実は最初の眷族に恩恵を刻むのは此処でって決めてたんだ。ボクは本が好きでね、物語の始まり……ファミリアの始まりは此処から始めるんだ、って」

 

 ヘスティアが本屋の主人に挨拶すると「さぁ、此方だよ」とヘスティアはフェイトを本屋の二階へと案内する。

 二階に着くと、倉庫になっているのか周囲は幾つもの本が棚に入っていて、本棚の近くには一台のベッドが置いてあった。

 

「さぁフェイト君。これから君に恩恵を刻むから上着を脱いでベッドにうつ伏せになってくれ」

 

「上着を?こうかい?」

 

 フェイトはヘスティアに言われた通りに服を脱いでベッドに寝る。すると、ヘスティアがフェイトの背中に馬乗りになった。

 

「えっ?ちょっとヘスティア!?」

 

「大丈夫だ、痛くは無いからじっとしててくれよ」

 

 いや、そっちじゃ無いんだけど。と思いながらもフェイトはヘスティアに背中を指で触られる感触を感じていた。

 少しして、恩恵とやらを刻み終えたのか背中に若干の熱さを感じるとヘスティアが言った。

 

「よし、これで恩恵を刻めたよ。今から共通語に訳したのを紙に……ふぉああああ!?」

 

 瞬間、ヘスティアが絶叫をあげてフェイトの背中から転げてベッドの下に落ちる音がした。

 床に落ちたヘスティアにフェイトが「大丈夫か!?」と声を掛けるも、ヘスティアはフェイトの背中から視線を外さない。

 ヘスティアは立ち上がり恩恵を紙に書きながら言った。

 

「あ、ああ……大丈夫。それよりフェイト君、これが君のステイタスだよ」

 

 ヘスティアから渡された紙に目を通すフェイト。

 その横でヘスティアはフェイトに恐る恐るといった感じで尋ねた。

 

「フェイト君。君のステイタスは……まぁレアスキルとしてならわからなくは無い……けど、流石にこれは異常過ぎるよ。……なぁフェイト君、君は一体何者なんだい?」

 

 ヘスティアから渡された紙、フェイトのステイタスにはこう書かれていた。

 

 

 

 

フェイト・ラインゴッド

 

LV.5

 

力・・・A  831

耐久・・・S  911

器用・・・A  832  

敏捷・・・A  816

魔力・・・I  0

 

 

【我流剣士】【対異常】【詠唱短縮】【ファーストエイド】【レトロヒール】【ガードレス】【コモンアタックスペル】【コモンサポートスペル】【カウンターオーラ】

 

『魔法』

 

ブレイズ・ソード

詠唱『焦熱の炎よ、我に力を』

 

アイシクル・エッジ

詠唱『鋭利なる氷刃よ、此処へ』

 

ライトニング・バインド

詠唱『 赫灼たる鳴光、我が剣に宿りて破邪の力と化せ』

 

ディバイン・ウェポン

詠唱『我が手にあるは天帝の剣戟……裁きをもたらす神器なり』

 

ライトニング・ブラスト

 

ディープフリーズ

 

ロックレイン

 

エクスプロージョン

 

ファイアボルト

 

アイスニードル

 

アースグレイブ

 

ヒーリング

 

アンチドート

 

サイレンス

 

『スキル』

 

ブレード・リアクター

 

リフレクト・ストライフ

 

ショットガン・ボルト

 

ヴァーティカル・エアレイド

 

ストレイヤー・ヴォイド

 

イセリアル・ブラスト

 

クリティカル

『時々攻撃の威力が増加する』

 

ゲットアイテム

『戦闘時に相手から時々アイテムを落とさせる事ができる』

 

スタミナアップ

『戦闘時に疲れにくくなる』

 

スタン

『時々相手を怯ませる』

 

ダブルアップ

『攻撃の威力が大幅に増加する』

 

ディストラクション

『遺伝子に刻まれた、神に対抗する力。物理法則を適用し、対象を破壊する』

 

 

「特に、このディストラクションっていうスキル。神に対抗する力の事……教えてくれないかい?」

 

「……そうだね。少し長くなるけど良いかな?」

 

「ああ。それともう一度言うけど、神に嘘はつけないんだ。正直に話してくれよ」

 

「わかったよ。少し突拍子も無くて信じられないかも知れないけど……」

 

 そう言ってフェイトは自身の能力や今までの旅の事、全てをぼかさずにヘスティアに話した。

 話の途中でヘスティアが「それで、それで?」と子供の様に話の続きをねだったり「そんなの……あんまりだよ!」と涙を流したりと表情をコロコロと変えていた。

 そして今、敵によって自身の住んでいた星が壊滅状態になり、次元を越えて敵と戦った自分が騒動に巻き込まれるのが嫌で居場所を隠す目的ついでに一人旅をしていた所でこの街に居た。

 全てを聞いたヘスティアはおもむろにフェイトの肩を掴んで言った。

 

「フェイト君、確かに突拍子も無いとは思うけど、君が嘘をついてないのは良くわかったよ。それでなんだけど、居場所を隠す事についてだが、それなら安心してくれ」

 

「え?」

 

「君は色んな星を旅してきたんだろう? だけど、この世界の人は君が宇宙の色んな星を旅していて宇宙を救うために戦ったって事は誰も知らないと思う。だって、君が言っていたそのエクスキューショナーなんて神のボクだって聞いた事が無いし、それどころか空の星に人が暮らしてるなんて言ったって夢だってバカにされるだけで誰も信じないだろうからね」

 

 その言葉を聞いてフェイトは「そうなんだ……」と言った。

 ヘスティアがいう通りなら、自分は此処でならのんびりと暮らしていけるかも知れないと。

 フェイトの視線にヘスティアの手が映り込む。視線を向けるとヘスティアがフェイトに手を伸ばしていた。

 

「さて、改めてこれからよろしく、フェイト君!」

 

「……ああ、よろしくヘスティア」

 

 フェイトとヘスティアは握手すると、ヘスティアは上機嫌に鼻唄を歌いながら本屋の外へ出ていった。

 続けてフェイトも本屋から出ると、横から陽射しが目に入ってくる。

 ホームである教会に向かって歩いていくヘスティアの後ろを歩きながらフェイトは呟いた。

 

「ーーま、なるようになるだろ。のんびりいくか」

 

 



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2話

できる限りSOネタを入れていきたい

※1話のフェイト君のレベルを7➡5に調整しました


 フェイトがヘスティア・ファミリアに所属して恩恵を刻んだ翌日、ソファに寝ていたフェイトは目を覚ますと自身の見覚えが無い部屋に一瞬「何処だ?」と呟いたが、自分がヘスティア・ファミリアに住む事になったのを思いだし、そのままソファから降りて立ち上がった。

 昨日、ホームである教会に帰ってきた後、フェイトは教会の奥にある住居スペースに住まう事になり、住居スペースと言っても余り広くは無くベッドが一つしか無かったため、寝るときにフェイトは「僕はソファでも大丈夫だよ」と言って渋るヘスティアを説得しそのままソファで寝ていたのだった。

 寝ぼけ目でフェイトはとゆっくり流し台に向かい、顔を洗い目を覚ました。

 

「……お腹空いたし、何か作るかな」

 

 フェイトが台所の冷蔵庫を開けると、冷蔵庫の中には食材が余り入っておらず、卵とベーコン、半分になったレタスしか無かった。

 

「ほとんど何も入って無いのか。……そういえば昨日の夕食もバイト先の賄いだってヘスティアが言ってたし、ヘスティアってもしかして食事にも困るほど貧乏だったのか?」

 

 表の教会もかなりボロボロだもんな……。

 ベッドで気持ち良さそうに寝ているヘスティアを一瞥すると、フェイトは冷蔵庫から食材を取り出した。

 

「さて、とりあえずあり物で料理を作るか」

 

 

 ~~フェイト君クリエイション(料理)中~~

 

 

「ま、こんなものかな」

 

 十分後、料理したベーコンエッグとレタスサラダを二人分の皿に盛ると、ちょうどゴソゴソと音を立ててヘスティアがベッドから起き上がってきた。

 

「んん~……良い匂いがする……」

 

「あ、お早うヘスティア」

 

「お早う……ってあれ?」

 

 ヘスティアが匂いがする方に視線を向けると、テーブルの上に二人分の料理ができている事に気が付いた。

 

「フェイト君。これ……君が作ったのかい?というか料理できたんだ?」

 

「まあね。これでもそれなりに料理はしてたからね。それよりヘスティア、起きたなら早く顔を洗って食べようよ」

 

「ああ、そうだね」

 

 そう言ってヘスティアは流しで顔を洗うと、フェイトと椅子に座り料理を食べ始める。

 ヘスティアが「美味い美味い!」と言って食べている様子を眺めながらフェイトも自分の料理を口にする。そして二十五分後、料理を食べ、洗い物を終えた二人が時計を見ると時刻は八時を差していた。

 

「そうだヘスティア。思ったんだけどさ、このファミリアってどれだけ貧乏なんだ?神がバイトしてて賄いを貰ってるぐらいだから相当だと思うけど……」

 

「う……フェイト君って結構ズバズバ来るよね。まぁ……正直に言って貧乏だね。何しろ眷族が居ないから収入源も無かったしね、この教会だって誰も居ないのを使わせて貰ってるようなものだよ。……もしかしてフェイト君は、お金持ってるのかい?」

 

 そう言われるとフェイトは直ぐ様ズボンのポケットから財布を取り出し「アイアムリッチマン!」と財布からお札を何枚か取り出しヘスティアに差し出した。

 

「流石に食料にも困るほどだと僕も困るからね。とりあえずこれで何か食材を買ってきなよ」

 

「ふ……フェイト君!君ってヤツはー!」

 

 瞳に涙を浮かべながらヘスティアはフェイトから受け取るとお札を大事そうに持ち、後ろを向いてペラペラとお札を捲っていく。

 すると、ヘスティアは「あれ?」と声を漏らし捲っていく手を止めた。

 

「なあフェイト君。このお金って……」

 

「あれ?五万フォルじゃ足りなかった?」

 

「フォル?フォル……ああ、そうか」

 

 ヘスティアは再びフェイトの方を向き、フェイトに受け取ったお札を見せるようにして言った。

 

「フェイト君。残念なお知らせだけど、この街で……惑星で使われているお金は『ヴァリス』っていうんだ」

 

「ヴァリス?……え?待ってくれ。フォルじゃない……?」

 

 財布とヘスティアに交互に視線を向けながらワナワナと震え出すフェイト。非常に嫌な予感しかしないが、ヘスティアは無情にもフェイトに事実を突き付ける。

 

「そう……。フェイト君の持っているお金はこの惑星では使えないんだ……」

 

「なっーー!?」

 

 ヘスティアから突き付けられた言葉にフェイトは膝から崩れ落ちる。落とした財布から小銭が何枚か散らばったが、拾うこと無くそのままフェイトは床に手を付いた。

 

「そんな……嘘だろ?今まで旅してきた場所はみんなフォルが使えてたのに……」

 

 フェイトは散らばった小銭を財布に入れ、代わりに財布から札束を取り出した。

 

「と言う事は……と言う事は、僕の一千万フォルが使えないって事なのか……!?」

 

「いっ……!?」

 

 フェイトは札束を床に置き、続けて札束を幾つも財布から取り出し床に次々と置いていく。

 その財布の何処にそんなに入ってるんだ。とヘスティアは言いそうになったが、それ以上にフェイトが置いていく札束に視線が奪われていた。

 

「これが……このお金が使えないなんて……!せっかく頑張って稼いでたのに……!」

 

「フェイト君……」

 

 目の前に置かれた札束の山。ヘスティアにはこれ程のお金は持ったことは無いが、フェイトの様子を見るとフェイトはかなり頑張って稼いだのだろう。

 しかし、それだけ頑張って稼いだお金が使えない。もし自分がバイトで稼いだお金が使えないと言われたらきっと自分もこうなるかも知れない。

 ヘスティアはしゃがむとフェイトの肩に手を置いて言った。

 

「フェイト君。フェイト君がこのお金を頑張って稼いだのはわかるよ。だけど……申し訳無いけどこれは神である僕にもどうにもできないんだ」

 

「いや、ヘスティアが悪いわけじゃないよ。宇宙は広いんだ、使われている通貨が違う場所がある可能性は充分にあったんだ。誰が悪いって訳じゃ無いよ」

 

「フェイト君……ありがとう。けど、強いて言うならボクはこのお金が使えない現実が、この世界が……いや、この世界を作ったヤツが悪いと思うんだ」

 

「……そうだね。確かにこの世界を作ったヤツが宇宙全体でお金を統一してくれてたらこうはならなかったんだ。くそっ、ルシファーのヤツ!」

 

 この世界を作った相手に文句を言いまくるフェイトとヘスティア。

 しかし、その相手は既に倒している今はもう何を言っても変わることは無い。

 五分程した所でフェイトは札束を財布に戻すとゆっくりと立ち上がった。

 

「さて……この惑星で僕のお金が使えないのはわかった。そうなると、ダンジョンで稼いでくるしか無いみたいだね」

 

「そうだね……っと、そろそろ時間も時間だしギルドに行ってきたらどうだい?ギルドに登録もしないといけないし、余り遅くなると帰るのも遅くなっちゃうよ」

 

「わかった。じゃ、僕はそろそろ行ってくるよ。ヘスティアもバイト頑張れよ」

 

「ああ。気を付けてね」

 

 教会から出ていくフェイトを見送ると、ヘスティアは住居スペースに戻り少しヘスティアも後になってバイト先へと向かって行った。 

 

 

 

 

「えーと、確かヘスティアは此方にギルドがあるって言ってたけど……」

 

 教会を出てヘスティアに聞いた道を歩いてギルドに向かって行くフェイト。

 昨日は本屋までの道しか見る事が無かった為、初めて見る街並みにフェイトの視線は右へ左へ忙しそうに動いていた。

 途中で武器や鎧を装備した人と何人もすれ違ったが、あの人たちがおそらくダンジョンに潜っている冒険者なのだろう。中には子供の様に小さい人や耳の長い人、猫耳を生やした人が居る事から、この惑星にも様々な種族が居るのだとフェイトは理解した。

 そして昨日から見えていた、街の何処からでも見える程に異様に高い一本の塔。あれが、昨日ヘスティアが言っていたバベルと呼ばれる施設なのだろう。彼処がダンジョンの入り口になっているとの事で、ダンジョンの場所については迷う事は無さそうだ。

 暫く歩いていると、道の先に神殿の様な建物が姿を現した。

 

「此処か……ヘスティアが言っていたギルドは」

 

 思えば、自分が知るギルドって言うとエリクールの職人ギルドのイメージがあるけど、この惑星のギルドはまた建物からして違うんだな。……流石に指し棒を持った女性は居ないよな?

 そんな事を思いながらフェイトはギルドへ足を踏み入れた。

 中に入るとギルド内は様々な人で賑わっており、笑い声や怒号が入り交じっている。

 その中を通り抜け、人とすれ違いながらフェイトは受付の人に話しかけた。

 「はい」と返事をしたのはエイナ・チュールと名乗ったセミロングに切り揃えたブラウンの髪に眼鏡を掛けた耳の長い女性。胸の名札にも『エイナ・チュール』と書かれている。

 

「あの、冒険者登録をしたいんですけど」

 

「登録ですね。では、此方の用紙に記入してください」

 

 そう言ってエイナはフェイトに一枚の用紙を渡すと、フェイトは用紙に記入していく。少しして記入し終えるとフェイトは「はい」とエイナに用紙を手渡した。

 

「はい。では此方で……んん?」

 

 フェイトが記入した用紙に目を通すエイナ。視線が動く度にエイナの顔が怪訝な表情になっていくのを見てフェイトは声を掛けた。

 

「あの、エイナさ「フェイト君?」あ、ハイ」

 

 エイナから言い様の無い圧力を感じたフェイトは思わず一歩後ずさってしまう。

 だが、エイナの発言は終わらない、始まったばかりである。

 

「この用紙に書いてある内容なんだけどこれ、幾らなんでも有り得ないわよ。冒険者になったばかりの人がLV.5だなんて……それだけじゃない、この魔法やスキルだって最初からこの数は聞いたことも無いし、そもそも……」

 

「(うわ、これ絶対に面倒なやつだ)」

 

「……なんだけど……って、聞いてるのフェイト君!」

 

「あ、うん。聞いてるよ」

 

 それからエイナの言葉は続いていく。やれ正しく用紙に記入しなさいとか、見栄を張ってはいけないとか。

 フェイトは知らないが、エイナが疑って掛かるのは当然の事である。本来、ダンジョン以外の場所でレベルアップをする事は極めてまれであり、そのオラリオの冒険者でさえ大半はLv.1である。それなのに、初めてダンジョンに潜るために登録しに来た青年がLV.5と記入し、あまつさえ魔法やスキルの欄には有り得ない数の魔法とスキルを記入している。

 スキルはまだともかくだが、魔法は最初から使う事ができるのは魔法が得意な種族であるエルフしかおらず、それでも魔法はロキ・ファミリアのリヴェリアと言う最上級の魔法使いでもフェイトが書き込んだ数の魔法は使えないのである。

 たまに見栄を張って嘘を書き込む人が居るが、エイナにはフェイトの事が見栄を張っている人にしか見えていなかった。

 そのフェイトとしても自分は全く嘘をついてないし、ヘスティアが書いたステイタスの紙を見ながら記入していただけなのだが、常識や認識の違いによる事にはどうしようも無かった。最も、この部分はエイナが仕事に真面目すぎるが為に考えが固くなっていて、自身の常識外の事に対応できないのもあるが。

 だが、フェイトも言われてばかりでは無い。エイナに「これではダンジョンに行かせる訳にはいかない」と言われるとフェイトは自身が嘘をついてない事を証明しようと口を開いた。

 

「けど、そう言われても僕だって嘘はついてないし、ヘスティアに受け取ったステイタスの紙をそのまま書いただけだよ」

 

 何だったら見るかい?とフェイトはエイナに紙を差し出すと、今度はエイナが困惑してしまった。

 それを見て首を傾げるフェイト。これも彼はヘスティアから聞いてないために知らない事だが、冒険者はステイタスを他人に見せることは無い。それはギルドの職員も例外ではなく、登録の際に記入する意外では基本的に冒険者のステイタスは見る事は無く、冒険者同士の間でもよっぽどの事態でなければ相手に見せる事は無い。何かで相手に見せる事があっても、ステイタスはその人の全てが書かれている様なモノである為に見せる事に躊躇う人がほとんどである。

 それなのに、フェイトは何の躊躇いも無くステイタスを見せようとする事に逆にエイナは自分がフェイトのステイタスを見る事に少し躊躇ってしまうも、フェイトが「ほら」と紙を近付けてくるので、エイナはおそるおそる紙に手を伸ばす。

 エイナは自身に「これはフェイト君の為。正しい事をする為に確認するだけ」と言い聞かせながら紙を受け取り中身に目を通した。

 そして次の瞬間、フェイトの瞳の先で、エイナは信じられなさそうな表情を隠せずに紙を見たままの状態で硬直した。

 

 

 

「ーー私としては色々と言いたい事は有りますけど、ファミリアの主神が書いたこの紙とウラノス様が嘘では無いと判断した以上は登録を認めます」

 

 エイナの硬直が解けた後、エイナに「念のために確認を!」と言われてギルドの主神であるウラノスの元にエイナに連れられたフェイトは、ウラノスにステイタスの書かれた背中を見せステイタスの事を発言をすると、ウラノスに嘘では無いと判断され、ようやく冒険者として登録が完了した。

 ……随分時間が掛かっちゃったな。僕が言えた事じゃ無いけど、エイナさんは頭が固すぎるんだよな。

 もしこの場にフェイトの仲間の一人『クリフ・フィッター』が居たなら確実に「頭の固い姉ちゃんだな」と言っているだろう。

 ともかく、これで冒険者登録は完了した。フェイトは早速ダンジョンに乗り込もうとギルドの外へ足を

 

「それとフェイト君。レベルが高くてもダンジョンは初心者なんです。これから講習があるので此方に来てくださいね」

 

「……えっ?」

 

 ーーどうやらダンジョンに乗り込むのはまだ先になりそうだ。

 



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3話

内容が短いけど初戦闘、けど戦闘描写が難しい

しかしこの小説、お気に入りや評価が想像以上についててびっくり

評価平均は×10して点数で数えると……久保田(食べ物)と同じくらいですね

SOAでフェイト君覚醒しないかなぁ……



「や……やっと終わった。まさか三時間も掛かるなんて……」

 

 エイナによるダンジョンの講習が終わり講習部屋から出たフェイト。しかし、その顔は強敵と戦った時の様に疲れた表情を見せていた。

 エイナから受けた(受けさせられた)講習の内容はダンジョンにおける基本的な知識からモンスターの事。そして何度も言われたのが『冒険者は冒険してはいけない』という事だった。

 

「冒険してはいけない……多分危険な事には首を突っ込むなって事なんだろうけど、危険だからって怖がってたりしてたら何にもできないと思うんだよな」

 

 それに、自分より強い敵と幾度も戦ってきた身としてはイマイチピンと来ないけど、エイナさんが言う通り何があるかわからないのは確かだし、一応気を付けるに越したことは無いか。

 そう思ったフェイトはギルドを出てダンジョンのあるバベルの入り口に向かって行く。

 時折擦れ違う冒険者の様子を眺めながら歩いていると、目の前にバベルの入り口が見えてきた。

 

「此処がダンジョンの入り口……冒険の始まり、か」

 

 フェイトは腰の鉄パイプを右手に握り締め、ダンジョンの中へと入っていった。

 中に入り階段を降りていくと、最初の階層だけあって中はそれほど広くは無いように見える。

 とは言え、洞窟の中としてはかなり広い部類で、正面の通路は大の大人が七人は横に並べる程の大きさがあり、明りが無いのに不思議と明るく周囲の様子が良く見える。

 真っ直ぐに延びた通路を歩いていくとフェイトは周囲が大きく開けた場所に出た。此処がダンジョンの部屋なのだろうか、周囲が広い分奥の方は暗くて良く見えないが、それでも通路以上に部屋の中は明るい。

 これなら前に手に入れたライトストーンは必要無さそうだな。

 ダンジョンの中が暗ければエリクールで入手した、自身の正面を照らすアイテムを使おうと考えていたフェイトは、ダンジョンの中の様子を見てそう判断すると、ダンジョンの奥へと歩みを進め出した。

 すると、部屋の横から何やら足音がフェイトの耳に聞こえてくる。

 音のした方を向くと、其処には三体のモンスターが此方に「グキキキ……」と声を発して立って居た。

 

「こいつらは……ゴブリンだったか?」

 

 エイナの講習で聞いた第一階層に居る基本的なモンスター 『ゴブリン』が現れた。

 フェイトはゴブリンの動きを観察しながら腰だめに構えた鉄パイプを両手で握り締める。

 次の瞬間、ゴブリンが一体「グキキキィィ!」と叫び声を上げてフェイトに向かって飛び掛かってきた。

 

「っ!遅い!」

 

 ゴブリンが腕を振るいフェイトに攻撃する。しかしその前に先に、フェイトはゴブリンを叩き落とす様に鉄パイプを上から振るいゴブリンの脳天に鉄パイプの一撃を加えた。

 続けて返しで下から上に鉄パイプを振るいゴブリンに攻撃すると、ゴブリンは地面に落ちると同時に灰になり、その場には小さな石が落ちていた。この石がモンスターを倒した報酬であり、冒険者の収入の元になる『魔石』である。

 仲間のゴブリンがやられた事による動揺か、ゴブリンは一瞬その場で動きを止めた。

 その隙を逃さないように、今度はフェイトからゴブリンに攻撃した。

 上から鉄パイプを振るい、続けざまに回し蹴りを喰らわせると二匹目のゴブリンも一匹目同様灰になる。

 

「後一体!」

 

 フェイトが残りのゴブリンに向かって突っ込むと、ゴブリンも叫び声を上げてフェイトに向かって来る。

 ゴブリンがフェイトに攻撃をしようと腕を振り上げた瞬間、フェイトの鉄パイプが白い光を纏った。

 

「ブレード・リアクター!」

 

 白い光を纏った鉄パイプを振り上げ、ゴブリンに当たるとそのままフェイトは鉄パイプを降り下ろし、最後に突きをゴブリンの中心部目掛けて放った。

 すると、フェイトの攻撃を受けたゴブリンは声を出す間も無く灰となり、その場に魔石だけが残った。

 ゴブリンを全部倒した事を確認すると、フェイトは構えていた鉄パイプをだらんと下げ、構えを解いた。

 今は灰となったゴブリンに「楽しかったよ」と笑顔で言うと、フェイトはゴブリンが落とした魔石を広い集めた。

 

「最初のモンスターだからかそんなに強くなかったけど、地下深くに行ったらどんどん強くなるんだよな。流石にエクスキューショナーみたいなのは居ないだろうけど、クロセルみたいなドラゴンとかは居たりするのかな?」

 

 再びダンジョンの奥に歩き出したフェイトは、他にもコボルドといったモンスターと戦い魔石を集めていくうちに、どれくらい戦っていたのか気が付くと魔石を入れるのに使っていた袋が一杯になっていた。

 しまった、適当に持ってた袋に入れてただけだったからもう一杯になっちゃったか。何か大きな袋とか買った方が良さそうだな。

 これ以上戦っても魔石は持ちきれない。それに、エイナに「最初は1階まで!」と強く言われていた事を思い出したフェイトは、今日は一先ず帰ろうとダンジョンの外へと歩を進め出した。

 

「……そう言えば、この魔石って一体何でできてるんだ?」

 

 フェイトはその場に立ち止まると、ポケットから小型の機械を取り出し袋から魔石を一つ取り出して機械を魔石にかざした。

 フェイトが取り出した機械は『クオッドスキャナー』と言い、物質の成分を調べる時などに使われている。

 今回も、魔石の成分を調べる為にクオッドスキャナーを使い、何でできているか調べようとした。

 しかし

 

「反応が……無い?」

 

 クオッドスキャナーは魔石に対して何の反応も示さなかった。

 大抵の物は調べる事ができるクオッドスキャナーがそもそも探知しないのはどういう事なのか。

 モンスターから出てきたのだから、せめてモンスターの事で何か反応が出るかと思ったフェイトは不思議に思ったが、何度スキャンしようとしても反応が無い。

 壊れたかと思い、試しに自分の持ち物からうま○棒(とんかつソース味)を取り出してスキャンしてみると、そちらはちゃんと成分が表示されていた。

 理由はわからないが、この魔石はおそらくクオッドスキャナーでは調べられないのだろう。

 気にはなるができないなら仕方無い。そう結論付けたフェイトはダンジョンの外へ向かって再び歩き出した。

 

 



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4話


お気に入りが急激に増えててびっくり。みなさんお気に入り登録ありがとうございます。

所でSOAでフェイト君とレイミが結ばれるってマ?

正直花婿はアルベルが選ばれると思ってた


「リフレクト・ストライフ!」

 

「ガァァァァ?!」

 

 フェイトがオラリオに来てから早くも四日が過ぎた。

 この四日間フェイトは何をしていたかというと、毎日ダンジョンを探索したり、街を探索したりしてこの世界での日々を過ごしていて、今日もまたダンジョンを探索し、今現在フェイトはモンスターと戦っていた。

 

「ふう、大したこと無かったな」

 

 モンスターの攻撃をサイドステップでかわし、そのまま更にステップしてモンスターの横に回り込み蹴りを放つ『リフレクト・ストライフ』によって倒されたモンスターから魔石を回収すると、フェイトは一つ溜め息を吐いて魔石を腰に下げた袋に入れた。

 

「さて、魔石も結構貯まってきたし、ダンジョンの探索も今日はこれくらいにしておくか」

 

 フェイトがダンジョンに潜ったのは朝の八時過ぎ。日の当たらないダンジョンでは時間を知る術は時計でも持ち込まない限り殆ど無いに等しく、フェイトも今は時計が無い為に時間の把握はできていなかったが、腹から伝わる空腹感により少なくとも昼は過ぎているだろうと予測を付けていた。

 

「そういえば僕、どれだけダンジョンに居たんだ?……そうだ、どうせだし今日は帰る序でに何処かで食べてこうかな」

 

 魔石を売って得たお金に加えて今日の分の魔石もそれなりの収入になるだろうし、今日は外のレストランとか屋台で何か食べるのも悪く無いだろう。と思いながらフェイトは今まで通ってきた道を戻りダンジョンの外へ向かって行く。

 実を言うとフェイトは自前で幾つか食べ物を持ってはいるのだが、偶には誰かの作った出来立ての料理が食べたいという思いがあった。

 ちなみにヘスティアファミリアの料理当番はフェイトである為、ファミリアではいつも自分で作った料理を食べている。ヘスティアがフェイトの料理を何時も美味いと言って食べているのでフェイトも美味しい物をとハンバーグステーキや生ハムとショートパスタのサラダなど色々と作っていた。

 しかし、今日はヘスティアはバイトで夜遅くまで居らず、フェイトに「今日はボクの事は気にしないで外で食べて来たらどうだい?」と言っていた。

 ……うん、ヘスティアもああ言ってた事だし、今日は豪勢に食べよう。

 考えている内に階段を上がり、ダンジョンの入り口まで来ていたフェイトは魔石の入った袋を揺らしながらそのまま外へと出ていった。

 

 

 

「今日は思ってたより良い収入になったな。これだけあれば少しぐらい高くても問題無いよな。けど……」

 

 ギルドで魔石を換金した後、食べ物屋を求めてフェイトは財布に入れたヴァリスを数えながら歩いていた。

 ダンジョンを出ると思っていたより時間が過ぎていた様で、ギルドの時計を見たときは昼を過ぎていて針は午後の三時を射していた。

 そして今、財布をポケットにしまい、辺りを見回しつつフェイトは頭を悩ませていた。

 流石にこの時間だと昼食には遅いし、夕食にはまだ早すぎる。これだと夕食を豪勢にするのが良いんだろうけど、今もお腹は空いてるしな……。

 

「うーん……軽くつまめるので何かないかな……」

 

 夕食で食べるなら昼の分は軽くしておこう。

 屋台で肉まんか何か売ってないかな。と思いながらフェイトは街を見回し歩いていく。

 かれこれ十分は歩いただろうか。段々と増してくる空腹感に襲われていると、フェイトは何処かからジャガイモを揚げたような香ばしい匂いを嗅ぎとった。

 匂いのする方向に視線を向けると、その先には幟(のぼり)に大きく『ジャガ丸君』と書かれた屋台に人が並んでいるのが見えた。

 

「ジャガ丸君……そういえばヘスティアがバイト先の賄いだって食べてたのもジャガ丸君って名前だったな」

 

 前に食べた感じだとシンプルな見た目の割りに結構美味かったし、そんなに大きくないから軽く食べるのには丁度良さそうだな。

 屋台に並ぶ人が次々に入れ替わっていく様子を見て、フェイトは自分も並ぼうと屋台に向かっていった。

 

「うわ、思ってたより混んでるな。やっぱりそれだけ美味いって事なのか?」

 

 大行列、とまではいかないが自分の位置からでは屋台の中がわからない。かろうじて目の前に並んでいる金髪の子供とその前に居る大人が見えるだけ。

 これは時間が掛かりそうだ、と思ったがそれも束の間、並んでいる人が次々に前に進んでいき、屋台にもどんどん近付いていく。

 それに伴って屋台でのやり取りもフェイトの耳に届いてくる。屋台の正面に居る客と店主のやり取りを聞いていると、どうやらジャガ丸君には様々な味があるようで、塩味やチョコ味の注文がある事から、ジャガ丸君には想像以上に種類があるらしい。

 三つ前の客がジャガ丸君の抹茶味を注文すると、屋台の中から女性……声からして女の子の声で「まいどー」と返って来ると商品を受け取って客が離れていく。

 その声を聞いて(この屋台は女の子が店主なのか)と思ったと同時、何処かで聞き覚えのある声にフェイトは(ん?)と思い首を傾げた。

 気のせいかな?と思ったフェイトだったが、二つ前の客とのやり取りを聞いてやはり聞き覚えのある声に気のせいでは無いと理解する。

 ヘスティアがバイト先から貰ってくるジャガ丸君。そして今日はバイトをしていて、このジャガ丸君の屋台から聞こえてくる聞き覚えのある女の子の声。

 あれ?この屋台の店主ってまさかーー

 

「まいどー」

 

「(やっぱりヘスティアだ?!)」

 

 二つ前の客が離れてた事で列が前に進むと漸く中の様子が見える様になった。

 屋台の中を見ると、其処には見覚えのある姿があった。フェイトの予想通り屋台の店主の正体はヘスティアだった。

 

「(ヘスティアがジャガ丸君関係のバイトをしてるのはわかってたけど、まさかこんな所で見掛けるとは)」

 

 どうやらフェイトに気が付いて無いようで、ヘスティアは目の前の客である金髪の少女の対応に入っていく。

 バイトの邪魔をしたら悪いし、僕も適当に注文したらさっさと行くか。

 そう思いフェイトは目の前で行われているやり取りを眺める。

 

「いらっしゃい、注文は何にする?」

 

「小豆クリーム味を二十五個」

 

 小豆クリーム味?!そういうのもあるのか?!

 本当に色々とありすぎだよ、とジャガ丸君のメニューの幅の広さに驚きつつ、味に想像が付かない小豆クリーム味のジャガ丸君を見て内心で(美味いのかそれ?)と疑問に思ったフェイトは少女の持つジャガ丸君に視線を合わせていた。

 お金を払いその場から離れると少女は直ぐ様渡されたばかりのジャガ丸君を「はむ」と口に入れると少女はとても美味しそうに次々と食べていく。少女の様子を見るにどうやらとても美味しいらしい。

 特に注文を決めていなかったフェイトはせっかくだしあれを食べてみようと決心すると「次のお客さんどうぞー」と呼ばれて屋台に視線を戻した。

 

「はい、注文は何にーーってフェイト君じゃないか!?何で此処に居るんだい?」

 

「いや、小腹が空いたから何か食べようと思ってさ」

 

「ああ、成る程ね。それじゃフェイト君は何にするんだい?」

 

 フェイトはカウンターに貼られているメニュー表に目を通す。そして、メニュー表に書かれている、先程の少女が注文したものと同じ物を発見した。

 

「それじゃあ、小豆クリーム味で」

 

「小豆クリーム味だね。……はい、三十ヴァリスだよ」

 

 フェイトは財布から三十ヴァリスを出してヘスティアに渡し、注文したジャガ丸君を受け取って屋台から離れた。

 

「名前からして甘そうだけど、果たして……?」

 

 フェイトはジャガ丸君を包む紙袋からジャガ丸君を少し出すとゆっくりとジャガ丸君を口に運び咀嚼する。

 

「……ん?んー?」

 

 小豆クリーム味のジャガ丸君を食べたフェイト。しかし、その顔は何とも言えない表情になっていた。

 別に不味い訳では無いし、外はカリカリで中はホクホクに揚げられたジャガイモの程よい甘さに加えられた小豆クリームが意外にもマッチしている。

 しかし、このジャガ丸君、味は悪くないのだが……甘過ぎる。それに小豆クリームの食感が何とも言えない感じになっていて、不味くは無いが美味しいとも言い難い妙な感覚に襲われた。

 

「うん、何この……何だろう?」

 

 もう一口とゆっくり味わって食べる。

 ジャガイモの甘味と小豆クリームの甘味が合わさって甘く、ジャガイモのホクホクした食感と小豆クリームのドロリとした食感が合わさって何とも言えない事になっている。

 何時ぞやに食べた激甘カレーが脳裏をよぎる中でフェイトはジャガ丸君を飲み込むと、一言言葉を発していた。

 

「……五十点くらいだよなあ」

 

 このジャガ丸君(小豆クリーム味)を評価するならこのぐらいだろうか。

 美味しい部分はちゃんと美味しいからその分で評価点はあるが、それ以外の所で評価が下がっている。

 甘い物が好きなソフィアだったら食べるかな?と思いながら三度ジャガ丸君を口に運ぼうとすると、不意にジャガ丸君を持っている手とは反対側の腕を掴まれた。

 フェイトが「誰だ?」と掴まれた腕の方に視線を向けると、其処には先程の金髪の少女が右手でフェイトの腕をつかんで立っていた。

 

「あれ、君は……?えっと、僕に何か用か?」

 

「あなたがジャガ丸君に点数を付けてたのが聞こえたから……」

 

 どうやらこの少女はまだ近くに居て、あろう事かフェイトの独り言を聞いていたらしい。

 聞こえてたのか、と内心で呟くフェイトの瞳を見据えて少女が言った。

 

「あなたがさっきジャガ丸君の小豆クリーム味を買ってたのも聞こえてた」

 

 そう言うと少女はフェイトから手を離すと左手に持った袋から先程買ったジャガ丸君を取り出して三分の一程口に頬張る。もきゅもきゅと咀嚼して飲み込むと、少女は残ったジャガ丸君を持った腕を前に出し、ジャガ丸君を少し上に向けてポーズをとった。

 

「……これなら満点だね」

 

 笑顔でフェイトと同じ様にジャガ丸君に点数を付け出した少女。フェイトと違う所はポーズの有無と彼女の中ではこのジャガ丸君は満点らしい。

 ……もしかしてこの子、僕がジャガ丸君に点数を付けたから、わざわざこれを言いに?

 一体この少女は何なんだろうとフェイトが思っていると、少女は残ったジャガ丸君をいつの間に食べ終えたのか、包み紙を袋の中に入れている。

 そして少女は再びフェイトに視線を向けると『ゴゴゴゴゴ』と聞こえてきそうな程に真剣な表情で口を開いた。

 

「あなたはさっきジャガ丸君の小豆クリーム味を五十点だと言っていた……」

 

「え?あ、うん。確かに言ったけど……」

 

「訂正して」

 

「え?」

 

「ジャガ丸君の小豆クリーム味は満点だと訂正して」

 

 何この子恐いんだけど。

 フェイトに『ズイッ』と顔を近付けてくる目の前の少女。その姿は美少女と言って良いくらいに可愛く、無表情と言って言える程に表情が変わる様子が無いのはまるで人形の様に見えるが、不思議とそれが様になっている。

 しかし、目の前の少女が放つ威圧感に無意識に気圧されているフェイトには少女を可愛いと感じるよりも、レナスやフレイ以上に恐ろしいと感じていた。

 これは素直に聞いた方が良いかも知れない。でないと何か大変な事になる気がする。

 フェイトは少女に「ジャガ丸君の小豆クリーム味は満点だ」と言うと、少女が放っていた威圧感は嘘の様に消え去り、少女は「うんうん」と満足そうに頷くと、少女はジャガ丸君について「ジャガ丸君は小豆クリーム味が至高」「ジャガ丸君は揚げ物だけど野菜由来だから多分ヘルシー」「ジャガ丸君は味がみんな違ってみんな良い」とフェイトに熱く語り出していた。

 暫くして威圧感と少女のジャガ丸君の話から開放されたフェイトはどうやらこれで落ち着いた様だと判断すると、先程聞こうとした事を再び少女に尋ねた。

 

「……所で、君は一体?」

 

 まさか本当にジャガ丸君の事を言いに来ただけじゃ無いだろうな。

 そう思ったフェイトに対してまたジャガ丸君を食べている少女はジャガ丸君を口から離すとポツリと小さく、しかしフェイトの耳に届く大きさの声で言った。

 

「……私はアイズ。アイズ・ヴァレンシュタイン。あなたは?」

 

「僕はフェイト・ラインゴッド。フェイトで良いよ」

 

「なら、私もアイズで良い。所でフェイト」

 

「何だい?」

 

「フェイトはジャガ丸君は何味が好き?」

 

 この子は本当にジャガ丸君の事ばかりだな。ジャガ丸君の事がそれだけ好きなんだろうか。

 フェイトは内心で思いながら「そうだな……」と腕を組む。

 フェイトはジャガ丸君を食べた回数は少なく、以前にヘスティアが貰ってきた賄いの塩味とチーズ味に今の小豆クリーム味しか知らない。

 どれが好きかで答えるとすれば断然塩味になるが、先程の事から小豆クリーム味と答えた方が良いのか。

 どうしようかと考えたが、フェイトの答えを期待した目で見てくるアイズにフェイトは正直に答える事にした。

 

「僕は塩味が一番好きかな。シンプルだけど、それ故にジャガ丸君本来の味を引き出していると思う」

 

「……成る程。確かに塩味は一見してシンプルだけど、程よくかかった塩が外側のカリカリした所に絶妙にマッチしている上に、ホクホクした中身の甘さを引き立ててくれて絶品」

 

「そ、そうだね」

 

 さっきの話からわかってたけど、アイズはジャガ丸君がかなりの好物みたいだ。とジャガ丸君について語るアイズを見てフェイトは空を見上げながらそう思った。

 そして気が付くと、空の色が水色からうっすらとだがオレンジ色に変わってきていた。どうやらかなりの時間が経っていたようだ。

 アイズは見た目小さいしまだ子供だろうからあまり遅くなると親が心配するよな。と思ったフェイトは「もうすぐ夜になるし、そろそろ帰った方が良いんじゃないか?」とジャガ丸君について語るアイズに声を掛けて中断させると、アイズもたった今気が付いたのか「あ、早く帰らないと」と空を見上げて言った。

 アイズはフェイトの方を向いて「じゃあね、フェイト」と言うと左手に持った袋を揺らして街を歩く人混みの中に消えていった。

 

「……さて、僕もそろそろ行くとするか」

 

 アイズが帰っていくのを見届けたフェイトは自身も夕食にしようと街の中を歩き出した。

 ……しかしあの子、ジャガ丸君の事になると凄かったな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フェイトと別れてから暫くして、街を歩いていたアイズ。その目の前には城の様に巨大な屋敷が建っている。

 アイズは入り口の門を開けて中に入り、屋敷と同様に広い道を歩いて行くと屋敷の入り口にたどり着く。

 そして、アイズが入り口の扉を開けて中に入ると、屋敷の中から『ドドドドド』と音が聞こえてくる。

 音が次第に近付いて来ると次の瞬間、アイズの前から一つの人影がアイズ目掛けて突っ込んで来た。

 

「アイズ、おっかえりぃぃぃ~!!」

 

 アイズの前に現れたのは糸目の赤髪の女性。女性はアイズも自分の視界に捉えるとアイズに向かって飛び込んで抱き着こうと腕を広げた。

 そして女性が目前に迫り、腕がアイズに触れようとした瞬間、アイズは女性をヒラリとかわすと、女性は飛び込みの勢いをそのままに頭から扉に激突した。

 扉に当たり床に落ちた女性の見下ろすアイズ。普通なら大丈夫かと心配になる状況だが、女性のこの行為は何時もの事で、女性もピンピンしている為アイズは女性の事を全く気にしている様子は無い。

 すると案の定、女性は「つぅ~~」と頭を擦りながら立ち上がった。

 

「痛たた……。アイズたん、ウチをかわすなんて酷いやないか~」

 

「……いきなり突っ込んで来たロキが悪いと思う」

 

 関西弁で喋る『ロキ』と呼ばれた女性は「うう~アイズたんが冷たい……」と言いながらアイズに近付く。

 

「けどな、ジャガ丸君を買ってくる、って言うて外に出てから結構時間経っとるのに何時までも帰って来んから此方も心配してたんやで?」

 

 一体何してたんや?とアイズに問うロキ。それにアイズは外であった事をロキに話した。

 

「フェイトとジャガ丸君について語り合ってた」

 

「フェイト?誰やそれ?」

 

「彼はジャガ丸君の小豆クリーム味に点数を付けてたから、私が彼に色々と教えてあげた」

 

「そうなんか……って『彼』?そのフェイトって奴は男なんか?」

 

「? そうだよ」

 

 アイズがフェイトの事を言うと、ロキは手を握り締めて「ほう……そいつが……」と声色を低くしていた。

 ちなみにアイズはフェイトとジャガ丸君について語り合ってたと言っていたが、正確にはアイズが一方的にフェイトに言っていただけである。しかしアイズの中では語り合いとして認識されていた。

 

「成る程な……アイズたんの帰りが遅かったんはそのフェイトって奴が原因なんやな。ウチの知らん間にアイズたんを誑らかそうとするたぁ随分と良い度胸やなぁ……」

 

「……誑らか……?えっとロキ、彼はそんなんじゃ……」

 

 アイズにはロキが言っている事が良くわからず首を傾げるが、ロキから溢れ出そうな怒気を感じ取ったアイズはフェイトを庇った。

 

「なんやアイズたん。そのフェイトって奴はアイズたんに言い寄って来たんや無いんか?」

 

「ううん。私から話しかけた」

 

「そうかそうか……って、な、なんやて!?アイズたんから!?」

 

「うん」

 

 どうしてロキはこんなに驚いてるんだろう、と思ったアイズだが、ロキが驚いたのには理由がある。

 ロキの中でアイズは余り人付き合いをすることが無く、アイズが自分から他人に話し掛けたりする事も殆ど無かった為、アイズが店やギルド、そして自身が主神でありこの館をホームとする『ロキ・ファミリア』のメンバー以外に自分から人に話し掛けるのは珍しいからである。

 あのアイズたんが自分から人に話し掛ける様になったんやな……とロキは昔のアイズの姿を思い出しながらアイズの成長に涙を流していた。

 

「ねえ……ロキ、なんで泣いてるの?」

 

「いや……アイズたんが成長したんやなって思うとちょっと嬉しくてな……」

 

 ロキは服の袖で涙を拭くと、アイズに「はよみんなに帰ってきたって言ってやり」とアイズと部屋の中に入っていった。



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PA(プライベートアクション)

お待たせしました




 

PA 1『僕は鉄パイプ派なんだ』

 

 

 

 

「なあなあフェイト君、前から思ってた事があるんだけどさ」

 

「ん?どうしたのヘスティア?」

 

 ここ数日、毎日ダンジョンに潜って稼ぎを得ていたフェイト。流石に毎日は少し疲れたし今日はゆっくり休もうとフェイトが部屋で鉄パイプを布で磨いていると、ベッドで横になりながら本を読んでいたヘスティアが「そうだ」と思い出したようにフェイトに話し掛けた。

 話し掛けられたフェイトは鉄パイプを磨く手を止めるとヘスティアの方を向いた。

 

「フェイト君ってダンジョンに行く時に何時もその鉄パイプを持って行ってるけど、フェイト君って剣とか使わないのかい? 結構稼いでるんだから鉄パイプより何か武器を買ったほうが良いと思うんだけど?」

 

 普通に考えたら鉄パイプより剣を使った方が攻撃力はあるし、何より頑丈さも鉄パイプに比べて大きく違うだろう。

 そう思ってフェイトに問いたヘスティアに、フェイトは「はあ……」と溜め息を吐いて言った。

 

「わかって無いな、ヘスティアは」

 

「む……わかって無いってどういう事だい?これでも僕は色んな武具を見てきてたんだ、それなりにはわかってるつもりだよ?」

 

 以前に鍛冶の神の所に居候していたヘスティアはその居候先の神友である神『ヘファイストス』の所で様々な武具を造っている所を見てきており、専門職程では無いにしろ其処らの冒険者よりは詳しいとヘスティアは自負している。

 その自分に「わかってない」と返されて少しムッとしたヘスティアは逆にフェイトに「そう言う君はどうなんだい?」と言った。

 

「いくらフェイト君だって、武器を造ってきた訳じゃ無いだ「あるよ?」ろう……え?」

 

 割り込むようにして言ったフェイトの言葉に反応したヘスティア。

 え?今、フェイト君は何て言った?

 

「……フェイト君、君……武器、造った事あるの?」

 

 自身の言った事に対する返答が本当なら、フェイトは今武器を造った事があるという事になる。

 本当に?と意味を込めてヘスティアが聞くと、フェイトは頷いてヘスティアに言った。

 

「うん。これでも僕は色んな武器を造った事があるよ」

 

 「実際は武器だけじゃないけどね」と磨き終えた鉄パイプを二、三度軽く振ってフェイトは近くの壁に鉄パイプを立て掛ける。

 

「それなら余計に、どうしてフェイト君は剣とかの武器を使わないんだい?正直な話、鉄パイプより普通に武器を使った方がダンジョンでの戦いも楽になると思うんだけど……」

 

 武器を造った事があるならそれこそ鉄パイプより剣とか使うはずだよね、とフェイトに言うヘスティア。

 

「その言葉、実は前に仲間にも同じ様な事を言われた事があるんだ。確かにヘスティアが言う通り、剣を使った方が攻撃力が高いのはわかってる。僕だって普通に剣で戦ってた事もあるからね」

 

 「でも」と続けて言うフェイト。

 

「僕は……どんな剣よりも鉄パイプが良いんだ」

 

「それは……どうして?」

 

「だって……だって僕は……」

 

 声を震わせながら俯くフェイト。その様子を見てヘスティアは武器を使わない事に何か大きな理由があるのかも知れないと察した。

 例えば、そう。剣を使っていた時に、剣によって大事なモノを失ってしまったとか、それだけの大きな理由がーー

 

 

 

「鉄パイプ派だからっっ!!」

 

「……は?」

 

 ーーは?

 フェイトの心からの叫びに内心と言葉が重なって声に出たヘスティア。

 だが、それも仕方ないだろう。まさか剣を使わない理由が「僕は鉄パイプ派だから」という、ヘスティアや普通の冒険者からしたら「なんだそれ?」と言いたくなるような至極つまらない理由なのだから。

 しかし、フェイトは真剣な表情で「鉄パイプ以上の武器は無い!」と言いたげに壁に立て掛けていた鉄パイプを両手で握り締めている。

 

「僕は以前にクリエイターのみんなと色んな武器、それこそ名剣や名刀と呼ばれる武器を造って、それを使ってきていた。他にも遺跡とかで見つけた剣も使ってたんだけど、鉄パイプに比べるとどうしても馴染まない部分があるんだ。最初は元々鉄パイプを使って戦ってたからなんだろうけど、色んな剣を使ってるうちに鉄パイプが僕の手に一番馴染むってわかったんだ」

 

「そ……そうなんだ。鉄パイプを使ってるのにも理由があったって事だね」

 

「そう言う事」

 

 言っている事の半分は良くわからなかったが、自分に馴染む武器を使うのが一番だという事はヘスティアにも理解できた。確かに馴染まない武器を使った所でうまく戦えないだろうし、そう言う理由なら何も言う事はない。

 ……と言うより、これ以上は言わないほうが良いかも知れないね。とヘスティアは内心で思ったが、フェイトはそれを知るよしも無い。

 

「それじゃあ、フェイト君が鉄パイプが一番だって言うのはわかったけど、その前に言ってた『武器を造っていた』ってのはどういう事だい?」

 

 この街だと武器を造るのはヘファイストスの所か『ゴブニュ・ファミリア』の二つが鍛冶系のファミリアであり、冒険者たちが使用する武器を造っている所である。

 それ以外で武器を、しかも自前で造っている所がヘスティアはイマイチ想像できないでいた。

 

「うーん……どういう事かって言っても、やってた事自体は普通に鍛冶のそれだからなぁ。僕はこの街の鍛冶屋の事を良く知らないから何とも言えないけど、鉄を打って、竈の火で溶かして、水で冷やして、ってやってるならそれと同じだよ」

 

「ふむ、確かにヘファイストス……ああ、この街にある鍛冶をやってるファミリアね……の所もそうやって武器を造っていたのは見たことがあるよ。それで、フェイト君はどういった剣を造ってたのかな?」

 

 ヘスティアはヘファイストスの所で見ていた武器造りの様子を思い出して言う。どうやらこの街でも武器造りの方法はフェイトが言っている事と同じ様である。

 本格的に武器を造ってたんだね、と思ったヘスティアはフェイトに今度はどんな武器を造っていたのか聞くと、フェイトは「そうだね……」と言って何処からともなく数本の剣を取り出した。

 

「何処に持ってたんだよ……」

 

「細かいことは気にしない。で、これが僕と鍛冶クリエイターで造った武器だよ」

 

 「良かったら持ってみる?」とフェイトに言われて試しにと一本フェイトから剣を受け取ったヘスティア。

 受け取った剣を見て思ったのは先ず、想像以上に出来が良く、ヘファイストスの所に居る鍛冶師が造った剣に負けず劣らずだという印象を受けた。次にゆっくりと鞘から剣を抜くと、刀身が赤く、その赤さが妙にこの剣に似合っている。

 

「おお……」

 

 フェイトが言うにはこの剣の銘は『イグニートソード』と言うらしい。

 触ってみると仄かに暖かさを感じる。切れ味はわからないが、これだけの出来の剣はヘファイストスの所で買うとしたらかなりの値段になるだろう。ともすれば、この剣を造るのにもそれだけのコストがかかったと見て良いだろう。

 値段の事を気にし始めたヘスティアは傷付けないように慎重に剣を鞘にしまい、フェイトに返そうとする。

 その時、ヘスティアはうっかり手を滑らせて剣を鞘にしまう途中で床に剣を落としてしまった。

 

「あっ」

 

 あわてて床に落ちる前に剣を拾おうとするヘスティアだが、間に合わず剣は床に落ちてしまい、剣が鞘から零れ落ちる。

 すると、剣が淡く赤色に輝いたと思うと次の瞬間、剣から紅い炎の弾が『ゴウッ!』と音を立てて壁に向かって飛んでいった。

 

「なあっ?!」

 

 炎の弾が壁に当たると、壁に少し焼け焦げた後が付いただけで炎は跡形も無く消え去った。

 その様子を見てフェイトは「火事にならなくて良かった」と安心して息を吐いたが、ヘスティアは驚愕の表情で剣と炎の弾が当たった壁を交互に見てワナワナと震えている。

 持っていた剣をしまったフェイトは何時までもその状態のヘスティアに声を掛けると、ヘスティアはハッとして意識を戻すとフェイトに詰め寄った。

 

「ふふふ、フェイト君! 君の……この……これって魔剣だったのかい!?」

 

「魔剣?それはレヴァンテインじゃないよ?」

 

「いや、そのレヴァン何とかじゃなくて……これ!この剣!」

 

 ヘスティアは鞘にしまったイグニートソードをフェイトに思いきり近付ける。

 目の前に近付けられたイグニートソードを見てフェイトは「ああ」と言うとヘスティアからイグニートソードを受け取って言った。

 

「ヘスティア。この剣は別に魔剣なんてものじゃないよ」

 

「いやいや、嘘だろう!ボクは見たからな、炎の弾が壁に当たったのを!魔法の出る剣が魔剣じゃないなんて、だったら何て言うんだ!?」

 

「うーん、そう言われてもな……この剣はクリエイションで造った普通の剣だし、これは魔剣レヴァンテインみたいに壊れたり、敵の強さを上げたり自分の動きを半分にするようなほぼ自分にデメリットしかないような武器じゃないよ」

 

「それは魔剣とは違う気がするよ!?」

 

「ああ、確かに本当の魔剣はクリムゾン・ヘイトみたいなのを言うんだろうな。けどアレ特に大した効果の無い普通の刀だって言ってアルベルが色々と合成して改造してたな」

 

「魔剣が大した事が無いってどういう事!?というか魔剣って改造できるの!?」

 

 ギャーギャーとフェイトの持つ剣を指差して声を荒らげるヘスティア。次第に頭を抱えだしたヘスティアは此処でふと何処か違和感を感じ取った。

 ……おかしい、ヘファイストスが前に言っていたのは、魔剣と言えば普通の製造法では造ることができず、魔剣に込められた魔法には使用回数に制限がある。で、制限を迎えると魔剣は壊れてしまう。

 けど、フェイト君が言っている事を聞いていると、色々と……何もかもが違っている。さっきも炎の弾が……おそらく魔法だろうけど、それが出たのに魔剣ではなく普通の剣だと言っている。魔剣で通じたかと思うと全然別の話になってしまう。なんだよ、敵の強さが上がったり精神力が削られるって!?そんな武器聞いたことも無いよ、ってか存在しないよ!!おまけに魔剣を改造?そもそも魔剣って改造できるの!?

 此処まで考えてヘスティアが思った事は、おそらくだがフェイトと自分とでは魔剣に対する認識が全くと言っていい程に違っているのだろう。

 叫びに叫んだヘスティアは「ハア……ハア……」と肺に酸素を入れようと呼吸を整えると、フェイトの魔剣(仮)を再び指差して言った。

 

「なあ……フェイト君。君は魔剣についてどれぐらい知ってるんだ?」

 

「魔剣について?」

 

 ヘスティアに魔剣の事を聞かれたフェイトは自分が知っている魔剣『レヴァンテイン』と『クリムゾン・ヘイト』について説明すると、ヘスティアは首を横に振ってこの世界の魔剣について今度はフェイトに説明した。

 

「……という事だけど、これがボクがフェイト君の剣を魔剣だと言った理由だよ」

 

「成る程ね。僕の居た所の魔剣とは全然違うんだな。少し驚いたよ」

 

「ボクとしてはこの世界の魔剣クラスの武器が簡単に造れる事が凄く驚きだけどね」

 

 ヘスティアの説明中にフェイトが「それなら幾つも造ってきたよ」と言ってきた事にツッコミをいれそうになっていたヘスティア。きっと先程何本か取り出した剣がそれなのだろう。もしもこの話をヘファイストスが聞いていたらどんな表情になっていただろうか。

 

「で、だ。フェイト君、ボクが言ったようにこの世界では魔剣……君にとっては普通の剣だろうけど、それはとても高価な武器なんだ。それでいて魔法の使用回数に制限が無くて壊れない武器だなんて知られたら、下手したら命を狙われてもおかしく無いと思う。フェイト君、その剣を使う時は周りに注意してくれよ」

 

 何時に無く真剣な表情で言うヘスティアにフェイトは「この惑星ではそれだけの物なのか」と自身の持つ剣をそう認識すると「わかったよ」と言って頷いた。

 

「けど大丈夫。ヘスティアが心配するような事にはならないよ。そもそもこの剣は使わないし、だって僕は……鉄パイプ派だからね」

 

「……ああ、そういえばそうだったね」

 

 フェイトの言葉に(心配したのは杞憂だったかなー)と内心で思ったヘスティアはベッドに横になると途中まで読んでいた本に手を伸ばし、再び読み始めた。

 

 

 

 

 

 

「所で、フェイト君はその魔剣以外に普通の剣は持ってるのかい?」

 

「一応ね。このインフェリアソードなんかは炎とか出る合成はしてない普通の剣だよ」

 

 そう言ってフェイトは此方を顔を向けているヘスティアに一本の剣を見せるように何処からともなく取り出した。

 フェイトが鞘から剣を抜くと、シンプルなロングソードと言える刀身が姿を現した。

 

「なんだ、フェイト君は普通の剣も持ってたんだね」

 

「まあね。最もこの剣は大して強くないからちょっと合成して強化してるけどね」

 

「へ……へぇー……ちなみにどんな強化を?」

 

 そうだな……とフェイトは剣を鞘にしまって言った。

 

「先ず、装備者の攻撃力と防御力を強化する『バトルブーツ』って言うのがあるんだけど……」

 

「その時点でトンデモな気がするけど……それで?」

 

「そのバトルブーツを強化して、装備者の攻撃力と防御力が30%上昇するように強化するんだ」

 

「……うん、で?」

 

「それをこのインフェリアソードに合成してあるんだ。そうすると、この剣の使用者は攻撃力と防御力が30%上昇するんだ。ステイタス的に言うと力が500あればそれに30%プラスされるから……650になるのかな?」

 

「……うん。色々とツッコミをいれたいけど……続きがあるんだろ?」

 

「けど、それだけじゃ強化には心もと無いから、バトルブーツを八個ほど合成してあるんだ」

 

「……それ、全然普通じゃないし、ちょっとじゃないよ?むしろそれ、下手な魔剣よりもヤバイんじゃないかな?」

 

「けど、僕は鉄パイプ派だから結局使ってないんだよね、この剣」

 

「……ああ、結局それなんだね」

 

 




早くダンまちのストーリー進めろって?

横道にそれてそれまくるのがSOクオリティ

……近いうちに本編も少し進めます


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5話(前編)

更新が遅くなりました

パワプロの連続コラボイベントにドラクエライバルズの新カードパック配信にSOAにやること多すぎィ!

これからもSOAのニア・オートマタのコラボイベントにパワプロのメジャー(漫画)とのコラボイベントで忙しいため、更新が遅くなりそうです。

あー……ガチャで金がかかるぅ……ランスロット復刻しないかなぁ……上限解放させたい。アーサーやモードも上限解放させたい……

あ、SOAで5月か6月にフェイト君とネルさんが覚醒するらしいですね。うれしい。


※3月1日最後の方をちょこっと修正


「ふう、この辺りのモンスターはあらかた片付いたかな」

 

 ダンジョンの探索中にモンスターと戦っていたフェイトは、モンスターの返り血が付いた鉄パイプを軽く振るい血を払うと、フェイトは辺りを見回して周囲にモンスターの姿が見えないことを確認すると「ふう」と一息ついて鉄パイプを腰に戻した。

 ダンジョンの訪れた階層を隅々まで歩き回っていたフェイトはポケットから小さなメモ用紙とペンを取り出し、書き込んできた今居る階層の地図を確認する。

 

「今居る場所でこの階も一通りまわったみたいだな。今居るのが地下四階だから……次は地下五階だな」

 

 フェイトはポケットにメモ用紙とペンをしまうと、最初に通った時にスルーした下の階層に続く階段の所へ向かって歩き出した。

 ちなみにフェイトが行っている地図作成だが、ギルドに行って聞けばある程度の階層の地図が有るため、本来なら地図を作る必要は全く無いのである。フェイト自身もエイナに聞かされてその事は知っているのだが、フェイトは「自分で隅々まで回らないと気が済まない」と言って自分で隅々まで歩き回り、地図を作っている。

 他にも、実際に歩いた方が構造を把握しやすいという理由もあるが、其処はフェイト的には大した理由ではないため割愛する。

 

「しかし、下の階に行くほどモンスターが強くなるってエイナさんは言ってたけど、あんまり強くなってる感じがしないよな」

 

 強くなるって言っても、急激に強さを増していくって訳じゃ無いのかな。

 そう思いながら十分程歩くと、フェイトが下に降りる階段の所へ着いた。

 そして、下に降りようと階段に足を踏み入れると、下から『コツコツ』と此方に向かって音が聞こえてくる。

 誰かが上がって来るのか。そう思ったフェイトは邪魔にならないように階段の端に寄り、ゆっくりと下へ降りて行く。

 階段を一段ずつ降りる度に、合わせて下からの音が少しずつ大きくなっていく。それに伴い、下から上がって来る人の姿が少しずつ見えてきた。

 その姿は、白い服とその上に着た白銀の鎧に身を包んでおり、光の様な金紗の長髪と同色の瞳。そして何より、その姿は以前に見覚えのある、自分よりも小さな少女だった。

 その姿がハッキリと見えた時、ふと少女と目が合ったフェイト。

 フェイトは少女を見て、そして少女もフェイトの姿を視界に捉えて言った。

 

「アイズ?どうして此処に?」

 

「……フェイト?」

 

 

 

 

 ダンジョンで再び会ったフェイトとアイズは、階段の途中で止まって話すのは他の冒険者の邪魔になるだろうと二人は階段を上り、通路を歩きながら話していた。

 どうやらアイズはダンジョンから帰る途中だったようで、フェイトもダンジョンに来てからそれなりに時間も経っているだろうし、探索は急ぐ事も無いからキリの良い所で今日は帰ろうと思い、二人はダンジョンの外に向かっていた。

 

「まさか、アイズが冒険者だったなんてね」

 

「そう言うフェイトも、冒険者だったんだね」

 

 以前に会った時はジャガ丸君が大好きな普通の少女だと思っていたフェイトは、アイズが冒険者だった事を知って表情には出していないが少しばかり驚いていた。

 フェイトとしては、小さい子供が戦う事に関しては反対はしない。むしろ、以前にエリクールで会った『ロジャー・S・ハスクリー』や、惑星ハイダで会い、ムーンベースで再開してから共に戦ってきた『スフレ・ロセッティ』の様に本人の意思で戦っている者に対してはその意思を尊重するつもりである。

 フェイトとアイズは歩いている最中、お互いにダンジョンでどんなモンスターと戦っていたかや、ジャガ丸君の話を(アイズが一方的に)していて、フェイトがアイズのジャガ丸君話に圧されてながら歩いていると、通路の壁からゴゴゴゴと音がすると、次に壁が割れ始めて其処から次々とゴブリンやスライムなど、大量のモンスターが周囲の壁から湧き出てきた。

 

「これは?!」

 

「っ、怪物の宴(モンスターパーティー)!」

 

「怪物の宴(モンスターパーティー)?!」

 

 アイズが言った怪物の宴(モンスターパーティー)は、ダンジョンでごく稀に発生する、モンスターが通常よりも非常に多く現れ、 様々なモンスターがその階の全体に広がる現象で、その階のモンスターを圧倒できる実力が無ければ、数人程度の冒険者パーティであればたちまち大量のモンスターに取り囲まれてしまい、そのままモンスターに殺されてしまう。

 不運にも突然として起こったこの現象に対し、アイズは冷静に鞘から剣を抜いて右手に構え、モンスターの動きを伺いながらチラリと一瞬だけフェイトの方を見やり、モンスターに視線を戻す。

 この場に居るのが自分だけなら今居る階層のモンスターならLV.5のアイズの実力であれば難なく倒すことが出来るが、今はフェイトが隣に居る。フェイトがどれだけ戦えるのか、フェイトのレベルが幾つなのかわからないが、途中で話をしていた時にフェイトがこの前冒険者になったと言っていた事を思い出し、フェイトのレベルはまだ1なのだろうと考えた。

 

「(レベル1にこの数のモンスターは難しい……なら、私がやるしかない)」

 

 アイズはフェイトに「逃げて」と言おうとして再びフェイトに視線を向けた。すると、フェイトは背後のモンスターに向かい合うように、アイズに背を向けて鉄パイプを構えていた。

 

「アイズ、僕は後ろのモンスターを倒すよ」

 

「っ!だめ、この数はフェイトには危ない」

 

「大丈夫、こういった事は馴れてる」

 

「いや、そう言う事じゃ「グルアァァァァ!!」!!」

 

 無い、とアイズが言いきる前にアイズに向かってコボルドが飛び掛かり、それを発端に次々とモンスターが二人に襲い掛かる。先ずは飛び掛かってきたコボルドを切り伏せると、アイズは次々と向かってくるモンスターを右手の剣で切り払い、その数を順調に減らしていく。

 フェイトは無事かとモンスターの隙を見てフェイトの様子を伺うと、アイズの視界に映ったのはモンスターにやられて傷だらけのフェイトではなく、無傷でモンスターを次々と鉄パイプで屠っているフェイトの姿だった。

 レベル1で怪物の宴は只では済まないと思っていたアイズは自身の予想を裏切っていた事に安堵感と、フェイトが自身の予想よりも強かった事に驚いたのも束の間、フェイトからモンスターに意識を戻すその瞬間にモンスターの爪による攻撃を頬に受けてしまう。

 爪の硬い感触を受けるとほぼ同時にアイズはその身を翻して攻撃をかわし、勢いのままモンスターを切り伏せて灰と魔石に変えるが、回避が遅れたためアイズの頬には一線、薄くだが切れていて傷口に血が滲んでいる。

 油断した、とアイズは内心で注意しろと自身に言い聞かせると、右手を前に出しモンスターに剣を向ける。

 そしてアイズが「風よ……」と口にすると、アイズを中心に風が巻き起こり、風はアイズとアイズの持つ剣に集まっていく。

 その様子をモンスターを相手にしながら見ていたフェイトは「何だ……?」とアイズの様子を見ていると、風を纏ったアイズがその場からダッと駆けると、その場から消えたと思える程に速く、アイズは次々とモンスターを剣で、その風で切り裂いていく。

 モンスターの数が減り、アイズの正面に居るモンスターが残り数匹となった所で、アイズは自身に纏った風の勢いを更に強めていく。

 アイズはモンスターを真正面に見据え、その場からモンスターに向かって駆けて行く。

 床を踏み込み、自身を暴風の弾丸として、アイズは剣を正面に向けモンスターに突っ込んでいく。

 

「リル・ラファーガ!」

 

 アイズがモンスター達の居る場所を突き抜ける様に通り過ぎると、モンスターはその場に崩れ落ちてそのまま灰となり、その場にはアイズと魔石だけが残っていた。

 

「凄いな……クリフのバーストタックルとかロジャーのラスト・ディッチよりも威力が有りそうだ」

 

 アイズの一連の行動を横目で見ながらモンスターの数を減らしているフェイト。この場に居た大量のモンスターも残りはフェイトの前に居るモンスターを数匹残すだけとなっていた。

 

「よし、それなら僕も久しぶりに大技を使うとするか」

 

 そう言うとフェイトは腰だめに剣を構えると、フェイトは目の前のモンスター達に意識を集中する。そして、フェイトの足下からブワッと黒い闘気がフェイトを中心にして渦の様に溢れ出る。

 自身が戦っていたモンスターを全て倒しフェイトの方に向かおうとして、その光景を目の当たりにしたアイズ。フェイトの黒い闘気に思わず「何……あれ?」と言葉を漏らしてしまう。

 

「ストレイヤー・ヴォイド!」

 

 黒い闘気を纏ったフェイトがグッと足に力を入れて踏み込むと、文字通りフェイトはその場から消え去った。

 そして次の瞬間に、モンスターの目の前に突如姿を現すと、フェイトは横一閃にモンスターに鉄パイプを振るうと、フェイトと鉄パイプの動きに合わせて黒い闘気が周囲の他のモンスターを巻き込んだ。少しして黒い闘気が収まると、その場にあるのはフェイトの姿とモンスターの魔石だけだった。

 

「よし、これで全部倒したみたいだな」

 

「……凄い」

 

 フェイトの技に見ていたアイズはハッと意識を戻すと、フェイトに近寄って「大丈夫?」と声をかけた。

 

「ああ、僕は大丈夫だけど……って、そう言うアイズこそ怪我してるじゃないか」

 

 フェイトはアイズの頬にある傷を差して言う。其処はアイズがモンスターに攻撃された所だった。

 

「これくらいなら大したこと無いから大丈夫。ポーションを使う程じゃない」

 

「けど、結構血が滲んでて痛そうだけどな。……そうだ」

 

 フェイトはアイズに「ちょっと待ってて」と言うと、フェイトは後ろに向けて手をかざした。すると、フェイトの手に光が集まっていき、光の球の様になっていく。

 

「ヒーリング」

 

 そしてフェイトが手をアイズに向けた次の瞬間、光が弾けてアイズを包み込むと、アイズの頬にあった傷は跡形もなく消えていた。

 アイズが頬を触ると、モンスターに付けられた傷の感触も全く無くなっていた。

 

「フェイト……今のって魔法!?さっきのもそうだけど、フェイトは魔法が二つも使えるの?」

 

 アイズは驚きを隠せない様子でフェイトに問い詰める。モンスターとの戦いで見せていた実力もそうだが、何よりフェイトが使っていた回復魔法(正確には魔法では無いが)は自分の所属するロキ・ファミリアでも見たことが無かった。そしてモンスターとの戦いで使っていた『ストレイヤー・ヴォイド』も、モンスターを一撃で屠るだけの威力があった。少なくともレベル1の実力では無いだろう。

 そして同時に、アイズはフェイトなら自身の追い求めている思いである『強さ』を持っている可能性がある。

 

「うーん……ヒーリングは魔法って言うか正確には違うんだけど……まあ、似たようなもの……なのかな?ストレイヤー・ヴォイドも魔法と言うよりはスキルになるのかな」

 

「……そう」

 

 フェイトはLV.5の自分が見ても凄いと言える実力を持っている。自身に無い強さを持っている可能性がある。

 知りたい。

 フェイトの持つ強さを知りたい。

 

「……ねえ、フェイト。教えて欲しい事がある」

 

 そう思ったアイズは気が付くと

 

「ん?何だい、アイ……ズ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フェイト。あなたのその強さを教えて欲しい」

 

 フェイトに剣を向けていた。



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