七曜の転生者と魔法学校 (☆桜椛★)
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七曜の転生者と賢者の石
七曜の転生者と新しい世界


「・・・ゥん・・・?」

 

 目が覚めると見知らぬ天井があった。一瞬酔った勢いで友人の家で爆睡してしまったのかと考えたが、まず自分に酒を飲み交わす友人が1人もいないのを思い出してそれはないと結論を出した。だとしたらここはどこだ?

 

 

「・・・・・・?」

 

 

 不思議に思い体をふかふかのベッドから起こし部屋を見渡した。部屋は洋式で、今自分が座っているキングサイズベットが赤いカーペットの上にあり、クローゼットの隣に姿鏡があるぐらいで、どうやらここは寝室のようだ。だが、こんな綺麗な洋式の寝室はうちには無い。そもそも私の家は和式・・・・あれ?わ・・私?

 

 

「私の一人称は俺・・・ッ!?こ、声が!?」

 

 

 一人称が俺の筈だったので疑問に思ったが、すぐに自分から発せられる声に驚愕した。30代の男性だった私の声が少女らしい綺麗な女性の声になっていたのだから当然だ。驚いて自分の体を見ると体が石化したかのように固まった。服は薄紫色の女性服になっており、男性には無い胸があった。恐る恐るとある場所に白く綺麗な肌の私?の腕を伸ばして確認したが、すぐにガックリと肩を落とした。

 

 

「な、なんで私が女になってるのよ?・・・って、口調まで女になってるし・・・・ッ!!そうだ!!鏡!!!」

 

 

 私はすぐにベッドから飛び降りてクローゼットの隣に立てられた姿鏡の中を覗いた。私の期待を裏切るように、そこには驚愕した表情の少女の姿が写っていた。私が手足を動かすと鏡の中の少女も同じように動かす。間違いない・・・・この少女は私だ。

だが、私は鏡に映る自分の容姿に見覚えがあった。

 

 

「あれ?この姿・・・・パチュリー・ノーレッジ?」

 

 

 薄紫に紫色の縦縞が入った服の上にリボンが付いた薄紫の服を着用し、長い紫色の髪に赤と青のリボンを付け、頭には三日月の飾りと赤と青のリボンが付いたドアキャップの様な帽子を被っていた。これらは私が好きだったゲームに出て来るキャラクターに似ている・・・いや、瓜二つだった。

 なぜ自分がパチュリーになっているのか考えていると、ベッドの方からシャランッ・・・と、鈴のような音がし、パサッと何かが落ちた音がした。慌てて振り返ると、先ほどはなかった筈のベッドの上に、1つの封筒があった。手に取るとそこには[パチュリー・ノーレッジ様へ]と書かれており、恐る恐る中の文を読んだ。

 

 

『パチュリー・ノーレッジ様へ

 

 いきなりの状況に混乱しているじゃろうが、まず儂は君に謝らなければならん。実は我々の手違いで君を殺してしまったのじゃ。本当に申し訳無かった。

そのお詫びと言ってはなんじゃが、我々は君を転生させることにしたのじゃ。体については生前の物が消滅してしまった為、君の記憶からその世界で1番役に立つ物にしておいたぞ。喘息も起きないし、知識や能力とやらについては手紙を読み終わったら君の頭に送ろう。今君がいる場所は儂からのプレゼントじゃ。実は儂もそのゲームは好きじゃからのう。

  最後にこの手紙は読み終わると燃えて消える。では、新しき人生を好きに生きてくれ。

 

全知全能を司る神・ゼウスより

 

 

 ふむ、手紙から察するに私は神々の手違いで死んでしまったらしい。能力や知識が手紙を読み終わると頭に送るとか神様がゲーム好きと言うのが気になるが、まぁいいだろう。両親は既に他界しているし、兄弟もいなかったから問題ない。しかもかの有名なゼウス様からの手紙だからね。なぜ信じているのかと問われるとそれ以外に現状が説明できないからよ。パチュリーの体が役に立つ世界という事はここはあのゲームの世界なのかしら?・・・・あら?追伸?

 

 

追伸。その・・・また手違いでハリー・ポッターと言う世界に送ってしまった。原作が終わったらちゃんとどうにかするから許してちょんまげ』

バリィッ!!!

 

 

 無意識で手紙を引き裂いた瞬間、今まで感じたことのないような激しい頭痛が襲って来た。私はそれに耐え切れず、意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 いったいどのくらい時間が経ったのだろうか、私は目を覚ましてフラフラする頭を手で押さえながら立ち上がり、ベッドに腰掛けた。少しの間そうしていると、自分の頭の中に凄まじい量の知識があるのに気が付いた。私が知らない筈の知識が全て頭に入っており、好きな時にその知識を引き出せる。

 

 

「成る程ね。これがパチュリーの・・・・いえ、私の知識。私が集めて来た知識の結晶というわけね」

 

 

  私の頭に入って来た知識。数学、言語、歴史、魔法、医療などの知識を目を閉じて見て回っていると、私の能力についての知識を見つけた。

 

 

「『火+水+木+金+土+日+月を操る程度の能力』。西洋魔術の四大元素と東洋魔術の五大元素、それと日と月の属性の魔法を使える七曜の魔女・・・か。確かに、ハリー・ポッターの世界ではチート過ぎる体だわ」

 

 

 一通り知識と能力についてを調べ終え、閉じていた目を開ける。自分の体を見回して立ち上がり、体の調子を確かめた。生前よりも体が軽い。今なら世界大会の全ての競技にだって金メダル獲る自信がある。パチュリーの弱点である喘息についても問題なさそうだ。あまり動いてはいないがわかる。ウンウンと頷いて、顔を上げると部屋の隅に木製の扉があった。そう言えば確か手紙に私が今いる場所はプレゼントだと書いてあった。と、いう事は?

  私はワクワクと部屋の隅にある扉に近付き、木製の扉を開いて寝室を出た。

 

 

「おぉぉ!これは有難いわ。やっぱりパチュリーと言えばここよね」

 

 

 扉を潜ると、そこにはとてつもなく広い場所に無数に並ぶ本棚が並んでおり、その全てに本がギッシリ詰まっている。所々に照明代わりの装飾された光る結晶がフヨフヨと浮いて部屋を照らしている。二階建てになっているようで、中央の広めの通路からは二階の様子が吹き抜けで見えている。ここはまさに、大魔法図書館と呼ばれるに相応しい場所だった。近くの本棚から適当に1冊取り出して開いてみる。これは空間魔法第1段の中級編の魔法書のようね。既に頭の中に内容は全て入っているけど読み直すと面白いわね。作者は・・・・私になってるわね。

 しばらく魔法書を読んでいるとふと気が付いた。

 

 

「そう言えばまだ魔法やスペルカードを試してないわね。試してみましょうか」

 

 

 手始めに知識に従って図書館に結界を張った。思ったより簡単だったわね。一瞬何かが抜ける様な感じがしたけどすぐ消えたし。これが魔力ね?自分でも引くくらいの量ね。さて、これで本棚や床、天井にはダメージが行かなくなったわ。これならある程度は試せるわね。

 

 

「まずは飛んでみましょうか。比較的簡単に出来るみたいだし、空が飛べたらかなり便利だしね。・・・・ふむ、イメージすれば良いのね?・・・・・・キャッ!ほ、本当に出来ちゃった」

 

 

 自分が自由に空を飛ぶイメージをすると、体が床から30cmぐらい浮いた。魔力も正確には減ってはいるが、微々たるものだし回復するのが早いからプラマイ0。・・・・・キャッ!って、本当に女の子になっちゃったんだなぁ。

フヨフヨと飛び回りながら改めて女の子になったのを実感した。

 

 

「ま、過ぎた事考えてもしょうがないわね。次は・・・・日符『ロイヤルフレア』!」

 

 

 手始めにやってみたら突き出した手の前に私がすっぽり入るぐらいの炎の塊が出現した。それはまるで小さな太陽の様で、それから衝撃波の様に全方位攻撃が繰り出された。熱は感じないが、結界が無かったら今頃辺り一面火の海になる事は間違いなかった。火力が強かったみたいね。結界がヒビだらけになってしまったわ。

 

 

「しばらく練習しましょうか。これじゃハリー達が・・・・待って、そう言えば私秘密の部屋までしか読んだ事ないわね。それよりここはいったいどこの国なのかしら?そもそも今の日付はどうなってるのかしら?」

 

 

 ここで疑問や問題が発生した。まず私はハリー・ポッターは秘密の部屋までしか読んだことがない。それに今の日付もわからない。いつ魔法学校に入学するのかしら?

 

 

「ちょっと外に出てみましょう。町に行けば新聞なりなんなり見れるでしょう」

 

 

 私はボロボロになった結界を解除し、中央の通路を通って出口を探した。少しの間飛び回って出口を見つけ、外に出た。大図書館は中からでは分からなかったが強力な空間魔法がかかっていて、振り向くとそこには大図書館にあった扉しかなく、綺麗な花畑の中心に建っていた。念の為扉に魔法を掛けて私以外の人が開けるどころか見つける事も近づく事すら出来なくした。これから先世話になる為強力な魔法を使った。

 

 

「こんなものかしらね?さて、情報収集といきましょうか」

 

 

 私は自分に不可視の魔法を掛け、空を飛んで近くの町を目指した。

 

 

 

 

 

 

数時間後・・・・

 

 

 私は今大図書館の机に座って頭を抱えている。何故頭を抱えているのかと言うと、ここはハリー・ポッターが生まれる約200年前の世界だとわかったからよ。ここはホグワーツがある国で実際にホグワーツ見に行ったんだけど、なんか映画で見たのより全体的に綺麗なのよね。1000年位の歴史がある割には・・・・。

 私が疑問に思っているとまた鈴が鳴る様な音がして空から手紙が降って来たのよ。内容は、

 

 

『転生を担当した神がメーター間違えて原作の約200年前に転生させちゃったけど許してね。お詫びに大図書館に多額のお金を贈るからチャラでよろ』

ボッ!!!

 

 

 で、その時は無意識の内に火の魔法で灰にしたのよ。まぁ、確かに大図書館を調べたら新しく部屋が出来ていて中に使い切れるかわからない程の金貨や札束があったし、無一文脱出したから今回は許すけれど、私がこの世界でやる魔法の研究目標に『ゼウスにスペルカードを全弾ぶち込む』を入れることにするわ。

 

 

「さてと、あの神様の手紙にあったことによれば私は原作が始まる頃には校長様の年齢を軽く超えちゃっているみたいね。原作が始まるまでの200年間私は生きていけるのかしら?とりあえずは寿命を消す為の魔法の研究を急ぎましょう。それが出来れば魔法をいつでも好きなように使える様に修行ね。もし寿命を消すことが出来た時に歳をとりすぎていたら若返りの魔法か薬でも作って肉体年齢を戻しましょう」

 

 

 確か寿命や魂、生死についての魔法書は2階の入り口から28番目の棚にあった筈。さて、早く完成させて神様にスペルを撃ち込む研究をしましょう!

こうして、私の新しい世界での生活が始まった。

 

 

 

 

 

 

 私がパチュリーになって早くも150年経った。いきなり早過ぎるだろうと思うかもしれないが、不老の魔法は研究を始めてから29年後に完成し、肉体年齢を薬を使って転生した時まで戻した。やはり体がパチュリーになったからか、研究や実験をしたりして知識を求めるのが好きになった。あ、因みに図書館には『ヴワル大魔法図書館』と名付けた。

 

 

「これで良し、次は・・・・この部分ね」

 

 

 そして今何をしているのかと言うと、悪魔を召喚する魔法陣を大図書館の床にチョークで書いている。そう、私が今からやろうとしているのは『小悪魔の召喚』である。ハリー・ポッターの世界ならば居ないだろうと思って神様に一矢報いる為の研究に力を入れていたら、つい先日マジで完成しそうだったのか、ゼウスから手紙で『ごめんなさい!小悪魔を召喚出来るようにするからその研究を今すぐやめて下さい!』と、いつになく本気らしい文面と一緒に小悪魔を召喚する為の魔法陣について詳しく書かれた魔法書が送られて来た。それで渋々行なって居た研究を中止し、すぐさま小悪魔の召喚の準備をしている。

 

 

「ふぅ、出来たわ。さて、後は魔法書に書かれた呪文を唱えるだけね。もし出て来なかったらゼウスに10分おきに腕立て伏せ120回を2分以内にやり切らないと死ぬ呪いを掛けてやるわ」

 

 

 書いていた魔法陣が完成し、そんな物騒な事を呟きながら魔法書を開いて配置に着く。私は魔法陣に自分の魔力を流し、発動するのに十分な量になるまで送り続ける。今までスペルカードや様々な魔法を使って来たが、ここまで魔力を使った事は無い。数分間魔法陣に魔力を送り続けてやっと発動するのに十分な量になった。

 

 

「かなりの魔力を使うわね。流石は召喚魔法。さぁ、始めましょうか!!」

 

 

 私は魔法書に書かれている呪文を唱える。魔法書10ページ分の呪文を唱え切ると魔法陣が光りだし、とても目を開けることができなくなる程まで光が強くなっていった。周囲に風が吹き荒れ、普通ならば酔って体調を崩す程の魔力の余波が大図書館を覆う。そして光が治ると・・・・。

 

 

ドサッ!!!

「・・・・・・・・え?」

 

 

 私は魔法が失敗したのかと思った。何故ならそこには確かに腰まであるような赤い髪、蝙蝠のような羽が背中に生え、頭にも小さなものが生え、特徴的な悪魔の尻尾も生えている原作通りの小悪魔がそこに居たが、服は麻の袋に穴を開けたようなもので、体のあちこちに痣や傷があり、床に倒れて気絶していた。私はすぐに魔法書を投げ捨てて気絶している小悪魔の治療を行った。

 

 

 

 

 

小悪魔side・・・

 

 

 私は悪魔だ。悪魔と言っても人間達が本や図鑑に描いたような禍々しい姿をしていない。悪魔は魔力を多く持っている程人間に近い容姿になる。私の家は悪魔の世界でかなり上の位にある貴族で、生まれた時には既に人間に近い容姿だった。その為私のお父様とお母様はとても喜んでくれたが、生まれてから20年経った時に行う魔力を測る儀式に参加した時に、私の生活はガラリと変わった。魔力を測る道具が壊れたのだ。道具が壊れた時は昔からよくあるが、そのどれもが魔力が少な過ぎて測ることが出来ず、無い物を無理矢理測ろうとして壊れたと言う物だった。私に魔力がないと知るとお父様とお母様は私をゴミを見るような目で見るようになった。

 それからは毎日毎日私は家事をやらされ、暇潰しにお父様とお母様、遂には仲の良かった友達からも殴られたり魔法の的にされた。そしてつい4日前、私は家を追い出されて路頭に迷っていた。空腹でフラフラしており、躓いて転んでも起きる気力がなかった。私は涙を流しながら乾いた口から一言だけ喋った。

 

 

「どうして・・・・こんな事になっちゃったんだろう?・・・・」

 

 

 そして私の下に魔法陣が浮かび上がり、光を発すると同時に私の意識はなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・うん・・あれ?・・・なんで私?」

 

 

 ふと目が覚めると知らない天井が広がっていた。少し呆然としていたが、慌てて体を起こすと、少々痛みがあったが自分の体に包帯が巻かれ、服も麻袋じゃなくて生地の良いパジャマになっているのに気が付いた。あまりの状況に混乱していると・・・。

 

 

「あら?気が付いたのね。調子はどう?」

 

 

 私が振り向くとそこには紫色の髪をした綺麗な女の人がいた。手にはシチューとパンを乗せたお盆を持っており、心配そうに私を見ていた。私は彼女に差し出された食事を受け取り、おずおずと食べだした。久しぶりの美味しい食事に涙を流しながら食べていると、彼女は私が気絶している時の話をしてくれた。彼女はパチュリーと言うらしく、どうして私があんなにボロボロだったのか質問してきた。私はポツリポツリと理由を話して行き、パチュリーは黙って聞いてくれている。話終わると、なんとパチュリーは私を抱きしめて来た。

 

 

「え?・・・・・・」

 

「辛かったわね。でももう大丈夫よ。もう貴女を傷付ける者はいないし、私が貴女を守ってあげる。だから今は泣きなさい」

 

「あ・・あぁ・・・ひっぐ、う・・うわぁぁぁぁぁぁぁぁああ!!!!」

 

 

 まるで優しかった時のお母様に抱かれている時みたいに安心出来る温もりに我慢出来なくなり、私は生まれて初めて大声で泣き疲れるまで泣き続けた。

そして今では・・・・・・。

 

 

「こぁ〜〜!悪いけどこの魔法書を42番目の棚の上から4段目の所に仕舞って来てくれるかしら?」

 

「はい!畏まりました!パチュリー様♪」

 

 

 私は新しく白いシャツに黒のベストとスカートを着込み、ヴワル大魔法図書館でパチュリー様と毎日を楽しく過ごしています♪



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ホグワーツからの手紙と列車でのカエル探し

 1992年。イギリスのとある森の中を歩く1人の少女がいた。髪は綺麗な赤色で、白いシャツに黒のベストとスカート。赤いネクタイを締め、手には食材の入った籠を持っていた。普通ならばただの可愛らしい少女が買い物をした帰りに見えるだろう。だが、彼女の背中と頭にに生えた蝙蝠のような羽と、悪魔の様な尖った尻尾が人間じゃない事を述べている。しかも、彼女は『様で』はない。歴とした『小悪魔』である。

 

 

「フンフンフ〜〜ン♪今日のおっ昼っはハ〜ンバ〜グ〜〜♪」

 

 

 が、かなり陽気に鼻歌を歌いながら昼食から豪勢な料理を考えている。彼女は約50年程前にパチュリーによって召喚された。『魔力が無い!』と家を追い出された彼女ではあるが、パチュリーが調べた結果、魔力はちゃんとあることが分かり、パチュリーの教育により、今では簡単な魔法ならば使えるようになっていた。そんな小悪魔は今では愛しの我が家とも言えるパチュリーの住むヴワル大魔法図書館に向けて歩みを進めて居ると・・・・

 

 

「フンフン・・・・む?なんでしょうか?あの梟は?」

 

 

 バサバサと図書館へ繋がる扉の上空をまるで迷子になったかの様に飛び回る1匹の梟を見つけた。口に手紙を咥えて居るのを見た小悪魔は自分の羽を使って宙を舞い、その梟を捕まえて手紙を観察した。

 

 

「『パチュリー・ノーレッジ殿へ』?なぜこんなものが?」

 

 

 小悪魔は腕に梟を停めて手紙を見ながら難しい顔をしながら考えていたが、結局何も浮かばず、自分の主人(あるじ)であるパチュリーに聞こうと言う答えに辿り着き、手紙を籠の中に入れてヴワル大魔法図書館に繋がる扉を開いた。

 

 

 

 

 

 

パチュリーside・・・

 

 

 私はいつもの様にヴワル大魔法図書館の椅子に腰掛け、最近嵌まっている魔法書を読んでいる。『嵌まっている魔法書って何?』と言われるでしょうが、パチュリーになってから魔法書や研究が今で言う漫画やテレビゲームの様に感じる。今読んでいる魔法書も実に興味深いのよ。『錬金術を用いた第三永久機関の作製』、なぜこんな人類が何百年も追い求めて完成出来なかった存在の作り方が書かれた本がこの図書館にあるのか私が調べても全くの謎だったが、趣味が尽きることが無いのは有り難い。

 

 

「パチュリー様〜〜!ただいま買い物から戻りました〜〜!」

 

「あら、お帰りなさい。でもこぁ?ここは図書館よ?もう少し静かにしなさい」

 

「ア、アハハ・・・す、すみません。あ、後パチュリー様に手紙が来てましたよ?」

 

「手紙?・・・・あぁ、200年前位に扉に掛けた魔法が少し弱まってるわね。でもよく気付いたわね?どんな人間だったの?」

 

「いえ、人間じゃなくて梟です。ほら、この子です」

 

「・・・・・・梟が手紙を?」

 

 

 私は梟を腕に乗せている小悪魔から梟が運んで来たと言う手紙を受け取り、読んでいた魔法書を机に置いて封を切った。

 

 

『ホグワーツ魔法魔術学校

校長:アルバス・ダンブルドア

マーリン勲章勲一等、大魔法使い、魔法戦士隊長、

最上級独立魔法使い、国際魔法使い連盟会員

 

親愛なるノーレッジ殿

このたびホグワーツ魔法魔術学校に入学を許可されましたこと、心よりお喜び申し上げます。教科書並びに必要な教材のリストを同封いたします。

新学期は9月1日に始まります。7月31日必着でふくろう便にてのお返事をお待ちしております。

 

敬具

副校長:ミネルバ・マグゴナガル』

 

 

 封筒にはその様な手紙と一緒に教材が書かれているリストが入っていた。

そういえば私ハリー・ポッターの世界に来ていたんだったわね。ふくろう便って言うのは小悪魔に乗っている梟の事ね?手紙に返事を書いて咥えさせて飛ばせばいいのかしら?

 

 

「・・・・?なんで何十年も魔女をやっているパチュリー様にそんな手紙が?そもそもパチュリー様に学校で教わる事はありませんよね?」

 

 

 小悪魔が羽をパタパタ動かしながら手紙の内容を読んで不思議そうな顔をする。私としてはそんな学校よりふくろう便とやらの方が気になるのよねぇ?

 

 

「多分扉に掛けた魔法が弱まって私の魔力が微量だけど外に漏れたのね。それを探知系の魔法か何かで感知して私にふくろう便を送った・・・・まぁこんなところかしらね?流石に年齢までは分からなかった様だけれど、今まで私の名前など聞いたことのないあちら側からしたら新しく入学させる義務があったんじゃない?」

 

「あぁ〜〜分かるような分からないような・・・パチュリー様はこのホグワーツと言う学校に行かれるんですか?」

 

「ま、もしかしたら私が知らない魔法があるかも知れないし。行ってみようかしらね?・・・あ、こぁ?貴女今日町に行った時妙な連中を見かけなかった?ローブ着た集団とか」

 

「あぁ〜そう言えばいましたねそんな連中。確か『生き残った』だの『ハリー・ポッター』だのと盛り上がってましたよ?」

 

「ビンゴね。こぁ、町に行って適当なトランクを2つ買って来て頂戴?あぁ、昼食の後でいいわ」

 

 

 小悪魔は『分かりました〜♪』と小走りで奥にある調理場に向かい、私はペンと紙を取り出して返事を書いて梟に渡す。ここには窓が無い為私が外に出て飛ばしてあげたわ。問題は学校に必要な教材や教科書なのだけれど・・・・

 

 

「本当に私、ホグワーツで学ぶ事あるのかしら?」

 

 

 その教科書全てが既に大図書館で読破した物だった。

 

 

 

 

 

 

「さて、駅に来たまではいいものの・・・9と4分の3番線ってどこよ?」

 

 

 ホグワーツ魔法魔術学校の入学式の日、私は一応全ての準備を終え、手に革製のトランクを持って手紙にあった駅に来たのだけれど、9と4分の3番線って何よ?私の目がおかしくなかったら9番線の隣は10番線よ?

 

 

「あら?よく見たらこの柱魔法が掛かってるじゃない。成る程この柱を通るのね?全く、私だから魔法に気付けたけど、ホグワーツに初めて行く子だったらどうするのよ?確か・・マグルだったわね。その両親から生まれた子もいるでしょうに・・・」

 

 

 私は手紙の説明の足りなさに溜め息をつきながらも柱を潜り抜けた。潜り抜けた先には紅色の蒸気機関車があり、ホグワーツに入学するであろう生徒達と見送りに来ている家族の姿があった。私の場合小悪魔が家族なんだけど、向こうに行っても毎日の様に会えるし、本人が悪魔の為今この場にいない。私が手に持っているこのトランクだけど、私がちょっとした空間魔法を掛けて小悪魔が居るヴワル大魔法図書館にある対のトランクと繋がっているのよ。これでいつでも帰れるし、教科書や教材を好きなように取り出せる。杖に関しては移動が面倒だったから自作したわ。ま、杖と言ってもそこら辺に生えていた木を削って芯に私の髪の毛を1本入れた実質只の木の枝に等しい物だけどね。

 

 

「・・・・って、私は誰に説明してるのよ?とりあえずさっさと乗りましょうか」

 

 

 私は生徒達でごった返している入り口をなんとか抜けて客室に入り、空いていたコンパートメントの中に入った。そして誰にも見られぬように認識阻害の魔法と防音の魔法を掛けてトランクを開いた。

 

 

「こぁ?悪いけど一階の14番目の棚から適当に1冊魔法書を渡してくれないかしら?」

 

「分かりました!ちょっと待ってて下さい・・・・・・お待たせしました!こちらをどうぞ!」

 

 

 トランクを開けると小悪魔の元気な声が聞こえてきて、1冊の魔法書をトランクを通して私に手渡してくれた。題名は『変身魔法の極意』、まだ読んだ事がない本ね?

 私は小悪魔に礼を言ってからトランクを閉じ、掛けていた魔法を解除した。そのまま座席にもたれかかって魔法書を開き、読み始める。それからどれ程の時間が経ったのか、コンパートメントがノックされて顔を上げた時には既に列車は出発していた。私が「どうぞ」とノックに応えるとコンパートメントの扉が開いて少しボサボサだがある程度伸ばした茶髪の少女と、オドオドした様子の少年が顔を出した。

 

 

「ごめんなさい、相席いいかしら?どこも空いていなくて」

 

「えぇ、いいわよ。1人で使うには広過ぎるもの」

 

「そう!良かったわ!私はハーマイオニー・グレンジャーよ。貴女も今年から入学するのね?よろしく」

 

「ぼ・・・僕は・・ネビル。ネビル・ロングボトム」

 

「分かったわ。ハーマイオニーとネビルって呼ぶわね?私はパチュリー・・・パチュリー・ノーレッジよ。よろしくね2人共」

 

 

 私はハーマイオニーとネビルに自己紹介をし、再び魔法書に目を向ける。ハーマイオニー・・・・確かハリー・ポッターの親友になる子だったかしら?私がそんな事を考えながら魔法書を読んでいると、突然ハーマイオニーの隣に座っていたネビルが悲鳴を上げた。

 

 

「あ、あれ?あれぇ?トレバー?僕のトレバーがいない!!」

 

「どうしたの?ネビル?」

 

 

 話を聞けばネビルのペットであるヒキガエルのトレバーがまたいなくなったらしい。『また』と言う事は以前にも行方不明になった事があるのかしら?私がそんなくだらない事を考えているとハーマイオニーが立ち上がった。

 

 

「大変だわ!私達が一緒に探してあげる!手分けをして探しましょう!」

 

 

 と言ったまではいいのだけれど、なんで私もヒキガエル捜索に参加する事になっているのよ?今いいところなのだけど・・・・って、もういないし

 

 

「はぁ・・・なんで勝手に決めてるのよあの子は?あの子、頭はそれなりに良さそうではあるけど、どこか抜けているところがありそうね。仕方ないわね、トレバーの居場所は?・・・・・・なんで最後尾の車両にいるのよ?かなり離れているわよ?ここ」

 

 

 私は仕方なく探索魔法でトレバーの居場所を探って見たが、なんでか知らないがここからかなり離れた最後尾の車両にいた。私はトレバーを回収しに最後尾の車両に向かう為コンパートメントの外に出た。歩きにくかった為少しだけ浮きながら狭い通路を進んでいると、向かい側から金髪のヒョロリとした感じの少年と、その少年を守るSPの様に後ろに立つ大柄な少年2人が歩いて来た。

 

 

「おや?もしかして君もネビルのヒキガエルを探しに来たのかい?」

 

「『君も』って事はネビルとハーマイオニーには会ったのね?まぁ不本意ではあるけれどその通りよ?」

 

「へぇ?そうなのか。そうだ、なんなら僕達のコンパートメントでお菓子なんてどうだい?車内販売で買ったお菓子が沢山あるんだ」

 

「あー、読書に集中してて気付かなかったわ。そうねぇ・・・・お言葉に甘えて頂こうかしらね?」

 

 

 ネビルには悪いけどお腹空いたし、トランクはコンパートメントに置いて来ちゃったものね。元々ハーマイオニーに半強制的に協力させられたようなものだったし。

 

 

「あぁ、いいとも。僕達のコンパートメントは1つ前の車両なんだ。そう言えば君はマグル生まれなのかい?」

 

「さぁね?私もう両親居ないから(まぁ正確にはマグル生まれになるけどこの体神様が作ったからなんとも言えないのよねぇ)」

 

「おっとこれは失礼・・・・ここが僕達のコンパートメントだ。さぁ入って入って」

 

 

 私は彼等に案内されて1車両戻り、彼等のコンパートメントに入って席に座った。中には沢山のお菓子が乗ったテーブルがあり、いくつか既に開けているのか甘い香りが漂っている。

 

 

「そう言えば自己紹介がまだだったね?僕はドラコ・マルフォイ。僕の隣に座っているのがクラッブ。君の隣にいるのがゴイルだ」

 

「そう。私はパチュリー・・・パチュリー・ノーレッジよ」

 

「ノーレッジ・・・・知識(ノーレッジ)か。だったら君はレイブンクローに入るかもね?」

 

「さぁどうかしら?そう言う貴方達はどこだと思うの?」

 

「勿論!スリザリンに決まっている!」

 

 

 ドラコは両手を腰に当てて胸を張りながら得意げに言う。うん、これ多分ハーマイオニーより話が通じるかもしれないわ。原作ではかなり傲慢な坊ちゃん的な感じだったけど話してみるとかなり意外。

 

 

「君はグレンジャーと友達なのかい?一緒にヒキガエルを探していた様だけど?」

 

「まだそこまでの仲じゃないわ。ヒキガエル探しも半強制的に指示を出されただけで言われてなかったらずっと読書をしていたわ」

 

「ならあんな穢れた血と友達にならない方がいい。君はマグル生まれかもしれないが、僕は純血の魔女だと思うよ?」

 

 

 ふむ、コレね?純血主義って呼ばれる者は。コレが原因でハリー・ポッターと仲が悪くなるんだったわね?

私が適当に「そうね。考えておくわ」と答えてお菓子を食べているとコンパートメントの扉が開いてハーマイオニーが顔を出した。

 

 

「パチュリー!!なんでこんな所でこんな奴等とお菓子を食べているのよ!!ネビルのヒキガエル探しはどうしたの!?」

 

「私のカエルではないし、そもそも私が了承していないのに勝手にカエル探しのメンバーに入れて返事をする前にコンパートメントから居なくなったのはどこのどなただったかしら?」

 

「うっ!!?ご、ごめんなさい・・・・」

 

 

 ハーマイオニーは何も反論出来ず素直に謝った。とは言っても私もカエル探しに参加させられていたのを忘れてたわ。私はそんなハーマイオニーに心の中で溜息を吐きながら席を立ちコンパートメントを出る。

 

 

「私はそろそろ行くわ。誘ってくれてありがとうねドラコ。・・・・・あぁ、ゴイル?そのビーンズ、デスソース味よ」

 

 

 私がそう言い残して扉を閉めると中からゴイルのものらしき悲鳴が聞こえた。忠告は間に合わなかったようね。

 

 

「それで?ネビルのヒキガエルは見つけた?」

 

「残念ながらどこにもいなかったわ。でもあのハリー・ポッターに会えたから良かったわ!」

 

「ハリー・ポッターねぇ?知っているけど大して凄いとは思わないわね(だって私も死の魔法位無効化できるもの)」

 

 

 私のその言葉が納得いかなかったのか、コンパートメントに戻ってからホグワーツに着くまでの間、私が魔法書を読んでいるのにも関わらずハーマイオニーはハリー・ポッターについてを私に説明し続けた。



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ホグワーツ魔法魔術学校と組分け帽子の難題

 私がそろそろハーマイオニーによるハリー・ポッターの解説にうんざりしてきた頃、車内に響き渡る声が聞こえた。

 

 

『あと5分でホグワーツに到着します。荷物は別に学校に届けますので、車内に置いて行ってください』

 

「あっ!もう着いちゃったんだ。じゃあ話はこのくらいにし・・・・パチュリー!!!」

 

 

 それを聞いてハーマイオニーは話を切り上げ、私もやっと無駄に長く何度か同じ話を繰り返していた解説が終わったと思ったのも束の間。立ち上がったハーマイオニーが私を見て悲鳴に近い声を上げる。今度は何よ?

 

 

「はぁ・・・今度は何よ?ハーマイオニー?」

 

「『何よ?』じゃないわよ!なんで貴女制服に着替えてないのよ!?」

 

 

 確かに私の今の服装は原作のパチュリー・ノーレッジの服装だ。ホグワーツには決められた制服・・・と言うよりローブね。それがあって、既にハーマイオニーと今もカエルのこと引きずって泣いているネビルはその制服に着替えている。まぁ私は指を鳴らせば魔法で一瞬で着替えられるけど、出来なかったのは・・・・

 

 

「ハーマイオニーがハリー・ポッターとはなんたるかを解説し続けていて着替える暇もなかった」

 

「あっ!!?ご、ごめんなさい!私・・・」

 

 

 ハーマイオニーは私に本当に申し訳なさそうに謝ってくる。これで決まりね。彼女はある程度頭はいいけどどこか必ず抜けているわね。

 

 

「まったく、もういいわよ」

 

 

 私が読んでいた本を閉じて、予め作っておいた形だけの杖で自分の服を叩くと、帽子だけ残して後はホグワーツの制服になった。勿論この杖になんの力も無い。私が自分で魔法を発動してトランクの向こうにある制服と私の服を取り替えたのよ。

 パチュリーがこんなものかと自分の服装を確認し、ハーマイオニーに視線を向けると驚愕の表情で固まっていた。

 

 

「驚いたわ・・・貴女もの凄く高度な変身魔法が使えるのね」

 

「えぇ、まぁ・・もうそれでいいわ。さ、行きましょう。遅れるわよ?」

 

 

 正確には転移魔法の応用なんだけどと心の中で訂正するパチュリーの言葉でハーマイオニーはハッ!として既に停車している列車の通路に出て行き、パチュリーはコンパートメントの扉を閉め、誰もいないのを確認してから転移魔法で外の暗いプラットホームの柱の陰に転移した。柱の陰から出ると少し離れた場所に生徒達が集まっており、その更に向こうにランプを持った普通の人より背が高い大柄の男性が生徒達を纏めていた。パチュリーもバレないように生徒達に紛れ込んだ。

 

 

「イッチ年生!イッチ年生はこっち!ハリー、元気か?」

 

 

 そんな声を掛けながら生徒達を確認し、ホグワーツに向かう為に大柄の男性は足元に気を付けるように言ってからズンズン暗い道をランプで照らしながら進み、生徒達を誘導して行く。生徒達は慣れない道に足を取られたりしているが、私はバレない程度に宙に浮きながら着いて行った。しばらく進むと最前列の方から歓声が上がる。後方の私には何があったのか解らないが、その歓声の意味がすぐに分かった。道が開けるとそこは大きな湖のほとりで、その向こう岸にある高い山のてっぺんに壮大な城が見えた。アレがこれから私が入学するホグワーツ魔法魔術学校である。

 

 

「4人ずつボートに乗って!」

 

 

 大柄の男性は岸辺につながれた小船を指差しながら指示を出し、私もボートに乗り込んだ。少しの間誰も乗らなかったが、見知った3人が乗り込んで来て4人になった。

 

 

「あら?ドラコ達じゃない。貴方達のコンパートメント以来ね」

 

「やぁ。同乗してもいいよね?」

 

「えぇ、どうぞ?」

 

「みんな乗ったか?よーし、では、進めえ!」

 

 

 大柄の男性が号令を出すとボートがひとりでに動き出して湖を渡る。ほとんどの生徒達はホグワーツを眺めているが、一度見れればパチュリーはもう興味は失せ、魔法書の続きを読む。一応杖を振って光の魔法を発動し、光の玉を作り出した。

 

 

「あれ?もういいのかい?これから僕等が通う学校だよ?」

 

「私は学校や噂のハリー・ポッターよりも今はこの魔法書に興味あるわ」

 

「あぁ、列車の中でもウィーズリーと一緒にいたよ」

 

「ウィーズリー?誰よそれ」

 

「ハリー・ポッターといる赤毛の男さ。それよりなんの魔法書なんだい?」

 

「『変身魔法の極意』。今はトカゲをヒュドラに変える無詠唱魔法の利点と欠点、その改善に至るまでの記録」

 

 

 私の返答に凍りついたように固まってしまったマルフォイ達とそれに気付かず魔法書を読み続ける私の乗ったボートは、もうすぐ岸につこうとしていた。

 あ、あと何故かネビルのヒキガエルが私の隣で魔法書を覗きながら鳴いていたので捕まえてネビルに渡すともの凄く感謝されたわ。

 

 

 

 

 

 

 さて、ここでホグワーツの寮について少し説明するわ。ホグワーツには寮が全部で4つあって、それぞれ違った特徴があるわ。勇猛果敢な騎士道で、勇気あるものが住まうグリフィンドール。古く賢く意欲があれば機知と学びの友を得られるレイブンクロー。忍耐強く真実で苦労を苦労と思わぬハッフルパフ。どんな手段を使っても目的を遂げるスリザリン。そしてその寮は『組分け帽子』と呼ばれる帽子を被ることでその者に合った寮を決めて貰えるらしいわ。これはホグワーツに来る前に小悪魔が買って来た『ホグワーツ魔法魔術学校の全て』と言う1冊の本に書いてあったものよ。で、何故いきなり私がそんな事を説明しだしたかなんだけど・・・

 

 

「パチュリー、試験には何が出ると思う?やっぱり教科書に載ってあった呪文を羊皮紙に書いたりするのかしら?」

 

 

 ハーマイオニーが私の肩を掴んで何処でそんなデマを聞いたのかありもしない試験について質問して来たりブツブツ呪文を呟き続けているからよ。船を降りて城に入り、ホール脇の空き部屋に入ってからゴーストが来たりしたみたいだけど、ハーマイオニーに肩を掴まれるまで読書に夢中で気が付かなかったのよね。あ、あの大柄の男性はハグリッドと言う名で、私達をこの部屋に案内したのは手紙にあったマクゴナガル先生らしいわ。

 

 

「あのねぇ、初めて魔法について知って入学する子もいるし、そもそも魔法を学ぶ為に入学するのになんで魔法の試験があると思ったの?」

 

「え?だってみんな言ってるし・・・・」

 

「どうせイタズラ好きな上級生がホラ吹いたか噂で聞いたガセネタよ。本気にしないの。まぁ本当にあったとしても私からしたら変わらないけど」

 

 

 それもそうねと納得して頷くハーマイオニーに私は改めて何処か抜けている子だと再確認した。やれやれと頭を振るパチュリーはたまたま視界に赤毛の少年と眼鏡をかけた少年が一緒にいるのを見つけた。

 

 

「あら?貴方もしかしてウィーズリーじゃないかしら?」

 

「え?うん、そうだけど・・・なんで知ってるの?」

 

「ドラコ・マルフォイって子から聞いたのよ。赤毛の少年がハリー・ポッターと一緒に居るって。となると貴方が噂のハリー・ポッターね?私はパチュリー・ノーレッジよ」

 

「ゲッ!!マルフォイにか?おいおい、あいつと仲良くならない方がいいぜ?純血主義のボンボン坊ちゃんだからな」

 

(私としては貴方も大して変わらない様子だけどね?普通に話したら意外に話通じるわよ?)

 

 

 パチュリーは彼は彼で問題ありと思いながら隣に立って自分を興味深そうに見るハリー・ポッターを見る。

 

 

「(ふむふむ、確かに死の魔法を跳ね返した様な反応は微かにあるわね。しかし彼、なんとなく妙な違和感を感じるけど・・・気のせいかしら?)何かしら?私の顔に何か付いてるの?」

 

「い、いや。僕はハリー。隣の彼がロンだ」

 

「そう。それじゃあねハリー、ロン。あとハリー?あまり他の人をジロジロ見るのは失礼よ?」

 

 

 ハリーが慌てて謝ったちょうど同じ位に空き部屋の扉が開いてマグゴナガル先生が戻って来た。どうやら準備が整ったみたいね。

 

 

「さあ行きますよ。組分け儀式がまもなく始まります。さあ、一列になって。ついてきてください」

 

 

 マグゴナガル先生に言われた通りに一列に並んでパチュリー達はついて行き、一度玄関ホールに戻って二重扉を潜り、大広間に入った。そこには何千というローソクが浮かび、上級生が座る4つの長いテーブルを照らしていた。天井を見れば魔法によって空が見えるようにもなっていた。上座にも長いテーブルがあり、そこには先生方が座っていた。マグゴナガル先生は上座までパチュリー達を引率し、一列に並ばせる。そして4本足のスツールを置き、上につぎはぎのボロボロのとんがり帽子を置く。少しすると帽子はピクピク動き始め歌い出した。内容を纏めると自分を被れば寮を決めると言う事と、4つの寮についての説明だった。何人かの生徒達がホッと胸を撫で下ろして居るとマグゴナガル先生が長い羊皮紙の巻紙を手にしながら前に出た。

 

 

「ABC順に名前を呼ばれたら、帽子をかぶって椅子に座り、組分けを受けてください。アボット・ハンナ!」

 

 

 名を呼ばれた少女が前に出て帽子をかぶると、一瞬してから帽子が「ハッフルパフ!」と叫んだ。

 成る程、簡単にだけれど人の記憶を見て決めて居るのね?確かに1番有効ではあるけれど私には問題ね。転生してる事はバレたくないし。

パチュリーはすぐさま自分の転生に関する記憶と一応住居の事を魔法で覗かれぬようにした。その間にも次々と名前が呼ばれ、等々パチュリーの番が来た。

 

 

「ノーレッジ・パチュリー!」

 

「やっとね。少し待ちくたびれたわ」

 

 

 パチュリーはゆっくりと椅子に近づいて行くが、マグゴナガル先生に止められた。

 

 

「ミス・ノーレッジ?申し訳ありませんがその本は組分け中は私が預かります。よろしいですね?」

 

「あぁ、ごめんなさい。忘れていたわ。どうぞ・・・」

 

「はい確かに・・・・ッ!!?」

 

 

 パチュリーが差し出した魔法書を見てマグゴナガル先生が固まったようだが気にした様子もなくパチュリーは椅子に座り、組分け帽子をかぶった。すると帽子の方から小さな声が聞こえて来た。

 

 

「お前さん、何故ここに居る?お前さんはここに入る歳でも学力でもないだろう?」

 

(あ、そこのところどうするか忘れてたわ。まぁ入学通知が来たから入っただけよ。それで?私は何処になるのかしら?)

 

「むむむむ・・・今までにない程難しい。何事にも何者にも恐れを抱かない勇敢さもあれば魔法の研究の為ならば忍耐強く粘り続け苦労を苦労と思わず同時に目的の為にいかなる手段も用いる。そして何者よりも膨大な知識を持ってしても輝きを放つ探究心。どうしたものか・・・・お前さんは何処か入りたい寮はあるかね?」

 

(私としてはグリフィンドールに興味があるわ。これから1番面白くなりそうだもの)

 

「そうか。承知した。では・・・・グリフィンドール!!」

 

 

 組分け帽子がそう力強く叫ぶとグリフィンドールの席から歓声が上がった。私は立ち上がってから帽子を脱いで椅子に起き、魔法書を返してもらおうとマグゴナガル先生の方に視線を向けると預けた魔法書に釘付けになっているマグゴナガル先生が目に入った。

 

 

「あの・・・先生?組分け終わりましたけど?」

 

「ミ、ミス・ノーレッジ!こ、この魔法書は・・い、いったい何処で!?」

 

「へ?私の家にある本棚にありましたけど・・・それが何か?」

 

 

 私が何が何だか分からず首を傾げて居るとマグゴナガル先生が近づいて来た。

 

 

「ミス・ノーレッジ。出来たらでいいのですがこの魔法書をしばらく貸してはいただけませんか?」

 

「は?まぁ、いいですよ?なんならそのまま持っておいて下さい。1、2週間後ぐらいには返して下されば問題ありません」

 

「おぉ!感謝しますよ。ミス・ノーレッジ」

 

 

 私はそのままグリフィンドールのテーブルに向かい、マグゴナガル先生は魔法書を大事そうに自分の席に置き、組分けの続きを始めた。私が席に座って適当に挨拶を済ませ、しばらく組分けを眺めて居るとハリーの名前が呼ばれた。周囲からはハリーについてヒソヒソ話され、組分けを見守る。そして・・・

 

 

「グリフィンドール!」

 

 

 そう組分け帽子が叫ぶとグリフィンドールから盛大な歓声が上がる。何処か安心した様子のハリーは席に座るとあちこちから話しかけられていた。そしてもう少し組分け儀式は続き、最後の1人をスリザリンに入れたところで終了となった。マグゴナガル先生は羊皮紙を丸め帽子を片付ける。片付けが終わるとホグワーツ魔法魔術学校の校長、アルバス・ダンブルドアが立ち上がって両手を広げ、ニッコリと笑いながら話し出した。

 

 

「おめでとう!ホグワーツの新入生、おめでとう!歓迎会を始める前に、二言、三言、言わせていただきたい。では、行きますぞ。そーれ!わっしょい!こらしょい!どっこらしょい!以上!」

 

 

 パチュリーはズルッとアニメみたいに滑りながらもなんだあの爺さんと言う思いを込めたジト目をダンブルドアに送るが本人は変らずニッコリ笑って居る。

 まぁ魔力もそこそこあるし、使っている杖もなかなかの一品のようだから大丈夫だと思うけど・・・大丈夫なのかしらあれは?微妙に判断出来ないわ。

そんな風に考えながらもパチュリーは突然目の前に現れた料理に手を付けた。

 

 

「う〜ん、ダンブルドアはこの際どうでもいいとしてあのターバンをかぶった先生ね。確かあれにヴォルデモートが寄生してるんだったわね。それで『賢者の石』を狙っていると・・・ふふふ、じゃあ私が先に預かっておこうかしら?」

 

 

 パチュリーはニヤリと笑うもすぐに元の顔に戻り、食事を続けた。



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初めての授業と賢者の石?

「エヘン!・・・全員よく食べ、よく飲んだことじゃろうから、また二言、三言。新学期を迎えるにあたり、いくつかお知らせがある。一年生に注意しておくが、校内にある森に入ってはいけません。これは上級生にも、何人かの生徒たちに特に注意しておきます。管理人のフィルチさんから授業の合間に廊下で魔法を使わないようにという注意がありました」

 

 

 パチュリーがデザートに呟いたら出て来たチョコレートパフェを食べていると、ダンブルドアがまた立ち上がって学校の注意事項を言い出した。

2つ目の注意は『魔法を使え』って暗に言ってるのかしらね?

 

 

「今学期は二週目にクィディッチの予選があります。寮のチームに参加したい人はマダム・フーチに連絡してください。最後ですが、とても痛い死に方をしたくない人は、今年いっぱい四階の右側の廊下に入ってはいけません」

 

 

 ダンブルドアの最後の注意に生徒達はヒソヒソ話し始めた。パチュリーも原作を知らなかったら今すぐそこを壊せばいいのにと思うだろう。

 ま、やっぱり『賢者の石』があるのよね。よし、明日の夜に貰いに行こう。

パチュリーがそう決めた頃、ダンブルドアの合図で生徒達が校歌を歌い出したのだが、パチュリーにはこの歌のセンスが全く分からず苦笑いしていた。

 

 

 

 

 

 

「へぇ?なかなかいい部屋じゃない。1人部屋なんて運がいいわ」

 

 

 あの校歌が終わってすぐパチュリー達はグリフィンドールの寮に向かった。途中ポルターガイストのピーブズに杖の束をばら撒かれると言うハプニングがあったが、無事ピンクの絹のドレスを着た太った婦人の肖像画に合言葉を唱えて開いた穴を潜り、寮に入って女子寮に入った。パチュリーが割り当てられた部屋は1人分のベッドだけでその上にヴワル大魔法図書館に繋がるトランクが置いてあった。その事を女性監督生に尋ねると、今年は人数が1人分だけ多かったらしい。

 私は早速部屋に侵入者避けの魔法と扉自体に強めの認識阻害の魔法をかけた。これでもう扉は私以外は見る事は出来ない筈。私はそれを確認した後トランクを開いて小悪魔を部屋に招いた。・・・・のだけど、何故涙目になっているのよ?あ、ヤバ。

 

 

「ふぇぇぇ〜〜ん!パチュリー様〜!寂しかったですよ〜!!」

 

「あぁ〜悪かったわよあまり呼ばなくて。ほら泣かないの」

 

 

 ついに泣き出して小悪魔はパチュリーに抱き付いた。パチュリーは呆れ顔になりながらも抱き付いてきた小悪魔の頭を撫でてやる。

 流石に小悪魔は私に依存し過ぎよねぇ・・・まぁ、多分私から全く連絡しなくなって不安になったんでしょう。普通に数日間空ける事を言っておけばお留守番もしてくれるし。

 

 

「分かった、分かったわよ。次からは気を付けるから泣かないの、ね?」

 

「うぅ〜・・・はいぃ〜・・・・」

 

 

 パチュリーはなんとか小悪魔を泣き止ませ、紅茶を一杯頼み、それを飲んでからベッドに入って眠りに就いた。

 因みに小悪魔は朝起きたら私のベッドに入り込んでスゥスゥ寝息を立てていた。可愛らしかったからこっそり魔法で写真を撮っておいたわ。

 

 

 

 

 

 

 ホグワーツ魔法魔術学校と言う名ではあるが本当に魔法と魔術しか学ばないのではない。これはパチュリーも授業を受け始めて知った事ではあるが、思ったより学校らしい授業をしたりもする。しかし、ヴワル大魔法図書館の主であり、様々な知識を持っているパチュリーにとっては復習もいいところで色々な授業で点を取っている。4つの寮にはそれぞれ手に入る得点があり、行動や態度などを先生によって点を入れられたり、減点されたりする。そして今パチュリー達はマグゴナガル先生が行う変身術の授業に来ていた。

 

 

「変身術はホグワーツで学ぶ魔法の中で最も複雑で危険なものの1つです。いい加減な態度で私の授業を受ける生徒は出て行ってもらいますし、二度とクラスに入れません。初めから警告しておきます」

 

 

 マグゴナガル先生は机を豚に変え、また元に戻した。生徒達は早くやりたいとウズウズしているがパチュリーはその生徒達の様子に呆れていた。確かに魔法らしい魔法に興奮するのはいいが、下手したら自分が豚になる可能性があるのを分かっているのだろうかと少し心配していた。そしてマグゴナガル先生が授業を始め、黒板に書いた物をノートに纏めた後、1人1つずつマッチ棒を渡されてそれを針に変えるよう指示を出したが、パチュリーだけはマッチ(ばこ)から鳥に変えると言う物だった。偶々パチュリーの隣に座っていたハーマイオニーは怪訝そうな顔をしてマグゴナガル先生に質問した。

 

 

「マグゴナガル先生、何故パチュリーにだけ難易度が高い事を指示なさるのですか?明らかに1年生が出来る物じゃありません」

 

「いいえ、おそらくですがミス・ノーレッジには可能でしょう。出来ますか?」

 

「えぇ、鳥ならなんでもよろしいのですよね?」

 

 

 途端にクラスが騒めく。あちこちから「無茶だ!」とか「無理に決まってる!」とか言っている。中にはハリーと何時も一緒にいる・・・ロン・ウィーズリーだったか?も笑いながら無理無理とか言っている。

あの赤毛・・・私がドラコ達と仲がいいと知ってから妙に突っかかってくるのよね。この際少し驚かしてやるわ。

 ボートから降りてからもドラコ達とパチュリーはかなり仲が良い。それがロンには気に食わないようで、昨日はいきなりパチュリーの事を「グリフィンドールの裏切り者」とか言う始末だった。パチュリーはそれを少し根に持っており、杖を振ってマッチ箱を叩いた。するとマッチ箱は勢い良く燃え上がり、3本足の美しい鴉に変身した。マグゴナガル先生は驚愕しながらもパチュリーに周囲に熱で陽炎を作っている鴉について尋ねる。

 

 

「ミ、ミス・ノーレッジ?アレはなんですか?私は長い間魔女をしていますがあんな鳥は見た事がありません」

 

「アレは八咫烏と呼ばれる日本の神話に登場する太陽の化身ともされている鴉です。まぁもっとも、変身術で作った偽物の為力はあまりありませんが」

 

「す、素晴らしいですよミス・ノーレッジ!!私としてはもう少し見ていたいですが熱で机が燃えるので元に戻して下さい。そして素晴らしい変身術にグリフィンドールに15点!!」

 

 

 パチュリーは擦り寄ってくる八咫烏をマッチ箱に戻して杖を仕舞う。その様子にクラスの全員は驚愕しており笑っていたロンは顎が外れるんじゃないかと心配になるくらい驚いていた。

 まぁ八咫烏のヒントは東方のお空だけど、ちょっとやり過ぎたかしら?

 その後他の生徒達がマッチ棒を針に変える練習をしたが、1番近づけたのはハーマイオニーだけだった。その後もいくつかの授業で点を取って今日の授業は終わった。

 

 

 

 

 

 

 その日の深夜2時頃・・・

 

 

 パチュリーは真っ暗な廊下に立ち、木製の扉の前に立っていた。ここは四階の右側の扉。ホグワーツの先生達によって守られている『賢者の石』がある場所だった。今回パチュリーはそれを預かる為に自分に認識阻害の魔法や不可視の魔法を重ねがけしている。流石のダンブルドアも今のパチュリーは見つけられない。

 

 

「ここね?早速お邪魔するわ」

 

 

 パチュリーは鍵のかかった扉を魔法で開け、中に入ってからかけ直す。中には3つの頭を持った巨大犬がいたが、パチュリーが睨み返すとビクリと震えてから大人しくなった。

 

 

「退きなさい。さもないと丸焼きにするわよ?」

 

 

 それを聞いた瞬間巨大犬・・最早ケルベロスはすぐその場を離れ、地下への扉を見せる。パチュリーはケルベロスを撫でてから中に入った。しばらく穴を浮きながら降りていくと、『悪魔の罠』と呼ばれる植物が敷いてあった。外敵が近付くと巻き付く植物ではあるが、刺激しなければ問題ない。そのまま飛んで素通りして次の部屋を目指す。

 これで第2関門突破。緩々の警備ね。私が結界を張った方が強いんじゃないかしら?

 パチュリーがそんな風に考えながら飛んでいると開けた空間に鍵に羽が生えた物が飛び回る場所に出た。原作では箒に乗って扉の鍵と同じ物を捕まえていたが、パチュリーはそのまま扉に向かって簡単な鍵開けの魔法をかけた。すると扉はカチリという音と共に開いた。

 

 

「・・・・これやっぱり普通の扉じゃない。誰よこのトラップと呼べないもの作ったのは?」

 

 

 パチュリーは扉に入り、念の為鍵でしか開かなくしてから鍵をかけ直した。次の部屋は巨大なチェス盤があり、勝たなければ先に進めない様になっていた。・・・・が、今回は相手が悪い。

 

 

「チェックメイト、私の勝ちね」

 

 

 パチュリーは自分の陣地の駒を1つも取られる事無く完全勝利した。先に進める様になり、駒を元に戻してから扉を潜った。次の部屋には巨大なトロールが居たが、寝てたのでそのままスルー。次の部屋に入ると扉の前にそれぞれ紫と黒の炎が上がり、パチュリーは部屋に閉じ込められた。テーブルの上に7つの瓶がある。どれかが正解で他はハズレだろうとパチュリーは確信した。瓶の隣にある羊皮紙を読んでみる。謎解きの様だがご丁寧にヒントが4つも書いてある。

 

 

「これちゃんと賢者の石守る気で仕掛けたのよね?なんでヒントを書いてるのよ?・・はぁ」

 

 

 パチュリーは指をパチンと鳴らし、自分の周りに防御魔法を張って炎を抜けた。部屋は侵入者が抜けた事により発動前の状態に戻った。

 今更だがパチュリーは魔法に使う呪文はほとんどない。頭の中に数学の様に式や陣を描いて発動させている。呪文が必要な時はそれ相応の魔力を使う物だったりする。

 

 

「これが賢者の石ね?あっさり手に入っちゃったわね?」

 

 

 パチュリーは机に置かれた賢者の石を手に取って眺める。こんな物でもヴォルデモートが復活するらしいのでパチュリーは賢者の石をポケットに仕舞い、違うポケットから出した羽根ペンに変身術をかけて賢者の石と瓜二つの偽物を作り机に置いた。後ちょっとした悪戯でヴォルデモートの配下の者がこれに触れて1時間後に爆発する様に時限式の爆裂魔法をかけた。

 

 

「賢者の石は手に入ったし、私も寮に戻りましょう。小悪魔が待ってるし」

 

 

 パチュリーは空間転移の魔法を使って一瞬にして自分の部屋に戻った。普通、ホグワーツの敷地内では『姿現わし』や『姿くらまし』は出来ないが、パチュリーは自作(・・)の魔法による空間転移魔法を使った為その2つに含まれる事は無く、安全に転移出来たのだ。

 

 

「こぁ、今帰ったわ。悪いけど紅茶を淹れてくれるかしら?」

 

「お帰りなさいませパチュリー様!少々お待ちを・・・それがパチュリー様が取りに行った賢者の石ですか?前見た物より力が弱いみたいですが?」

 

 

 急に現れたパチュリーに驚く事無く小悪魔は紅茶を淹れながらパチュリーが取り出した賢者の石を見ながら言う。

 

 

「あぁ、前に見せた事あるわよね?私のスペルカード。・・・火水木金土符『賢者の石』」

 

 

 パチュリーがスペルカードを発動させると、赤、黄、青、緑、紫の計五色の結晶がパチュリーの周りをクルクル漂っている。

 

 

「これは戦闘用に属性を持たせた賢者の石。ホグワーツにあったこれは一応賢者の石ではあるけれど完全な不老不死にならない欠陥品。私のこれなら上手く調合すると完全な不老不死の薬になるわ。飲まないけど」

 

「え?なんでですか?飲めば不老不死ですよね?」

 

「そうだけど・・・ありえない程不味いし苦いらしいわ。それこそショック死する程」

 

「確かに嫌ですね」

 

 

 小悪魔は納得した表情でパチュリーに紅茶を渡す。パチュリーはそれを飲みながら持って来た賢者の石を眺め、自分のスペルを解除した。

 正直不老の魔法で間に合ってるし、態々そんな最悪な死に方するより断然いいと私は思う。

 

 

「それでパチュリー様、その石どうするんですか?一応賢者の石と言っても欠陥品ですよね?」

 

「まぁこんな物でも今の魔法界では最先端技術だし、私の研究室に腐る程転がってる素材の賢者の石に加える訳にもいかないから保管するわ。こぁ、適当な箱はないかしら?」

 

 

 パチュリーの研究室とはヴワル大魔法図書館にあった物だ。研究室には魔法や薬品の調合、研究に必要な機材や素材が全て揃っており、その中には賢者の石も棚の中にゴロゴロ入っている。図書館にある禁書の魔法書には材料に賢者の石を使う事はザラにある。勿論不老不死になれる完成品。

 

 

「箱ですか?ちょっと待って下さい。確かこの前買った茶葉の空箱が・・・あった!!これです!」

 

「ありがとうこぁ。・・・・・・うん、こんな物ね」

 

 

 パチュリーは渡された木箱に持って来た賢者の石をポイッと放り込み、蓋をしてヴォルデモートも真っ青になるかも知れない強力な防御魔法、認識阻害魔法、不可視の魔法などを重ねがけしていく。小悪魔は只の木箱がどんどん核シェルター以上の守りを持つのを苦笑いしながら見ていた。既に小悪魔の目では視認出来なくなった賢者の石入りの木箱はパチュリーの机の上に無造作に置かれた。

 

 

「これで大丈夫ね?さぁ、さっさと寝て明日の授業に備えるわよ」

 

「うわぁ、エグい事しますねパチュリー様。こんなの誰が開けれるんですか?」

 

「私はホグワーツの先生方みたいに優しい魔法は使わないわ。じゃ、こぁお休みなさい。また明日ね」

 

 

 パチュリーは小悪魔に挨拶をしてベッドに入り込んだ。小悪魔は普通に使われた高度な魔法に驚愕しながらも、流石はパチュリー様と尊敬の眼差しを送り、自分も寝る為に空のティーカップを片付け始めた。



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魔法薬学と飛行訓練の一件

 今私はホグワーツの地下牢に来ているわ。別に賢者の石持ち出したのがバレたとかではないわよ?今日の授業で行う魔法薬学がこの地下牢にて行われるの。地下牢には様々な薬品の入った棚やアルコール漬けの動物があり、いかにも実験室と言う雰囲気を醸し出している。そして今私は赤毛の男の子ロン・ウィーズリーに滅茶苦茶睨まれている。それだけならいつもと同じだが、今はハリーや他のグリフィンドール寮生にも多少睨まれている。何故なら・・・

 

 

「やぁパチュリー!今日はよろしく頼むよ」

 

「えぇ、よろしくね?ドラコ(・・・)

 

 

 パチュリーの隣に座っているマルフォイはグリフィンドール寮生の視線に気付いているのか気付いていないのか爽やかな笑顔をパチュリーに向けている。この魔法薬学はスリザリン寮の生徒達と合同で行われる授業なのだが、人数が余ってしまい、担当教師のスネイプ先生にマルフォイと組むように言われたのだ。そのせいでグリフィンドールの生徒からコソコソ「裏切り者め」とか言われている。

 私が誰と組もうが勝手でしょう?なんで一緒になっただけでグダグダ言われるのよ?

 パチュリーが溜め息を吐いていると授業が始まった。まずは出席を取り、ハリーの前で止まった。

 

 

「あぁ、さよう。ハリー・ポッター。我らが新しい・・・スターだね」

 

 

 パチュリーの隣に座るマルフォイはクラッブやゴイルと冷やかし笑いをしている。ハリーはパチュリーを睨み「止めろよ」と訴えるが完璧にお門違いである。パチュリーは肩をすくめてそれを無視した。

 

 

「このクラスでは魔法薬調剤と微妙な科学と厳密な芸術を学ぶ。このクラスでは杖を振り回すようなバカげた事はやらん。そこでこれでも魔法かと思う諸君も多いかもしれん」

 

 

 パチュリーは成る程理に適っていると思っていた。確かに魔法薬を作るのに実はあまり魔法を使わない。教科書を見る限りパチュリーの物より幾らか古い作り方ばかりではあるが、新しいパチュリーのやり方にも魔法は殆ど使わない。

 

 

「諸君がこの見事さを真に理解するとは期待しておらん。我輩が教えるのは名声を瓶詰めにし、栄光を醸造し、死にさえふたをする方法である。・・・ただし我輩がこれまでに教えてきたウスノロ達より諸君がまだましであればの話だが」

 

(この教師私に喧嘩売ってるのかしら?古い方法で作っても素材と時間と手間の無駄なのを分かっているのかしら?)

 

 

 ウスノロと言う単語にパチュリーはピクリと反応し、スネイプ先生をジト目で睨むが本人は気付いていないのか突然「ポッター!」と呼び、問題を出した。

 

 

「アスフォデルの球根の粉末にニガヨモギを煎じたものを加えると何になるか?」

 

「・・・分かりません」

 

 

 何も答える事が出来なかったハリーにスネイプ先生はせせら笑った。

 

 

「チッ、チッ、チッ・・・有名なだけではどうにもならんらしい」

 

 

 一応ハーマイオニーが手が千切れんばかりに上に伸ばしているがスネイプ先生は完璧に無視をする。パチュリーは念の為質問と答えをノートに書き足し、暇なので教科書を読んでいた。古い方法でも面白いもので読んでいると影が掛かり、視線を上げるとスネイプ先生がいた。

・・・・・え?なんの用よ?

 

 

「ミス・ノーレッジ。先程ポッターが答えられなかった答えを言ってみたまえ」

 

 

 他のグリフィンドール生やロン達はしめた!と言いたげな顔をした。これで答えられなければ後で色々文句を言えると思ったのだろう。しかしパチュリーは淡々と問題に答えた。

 

 

「『生ける屍の水薬』と呼ばれる強力な眠り薬です」

 

「ほう?ではベゾアール石を探せと言われたら何処を探す?」

 

「ヤギの胃の中を探します。ベゾアール石とはたいていの薬の解毒剤ともなる石の事です」

 

「・・・・脱狼薬とはどのような薬か?」

 

「その名の通り人狼が満月の夜の前の1週間服用する事で変身しても理性を失わない薬。とても苦い薬で砂糖を入れると効き目がなくなる。ただしこの薬は完全には脱狼出来ない。その為脱狼薬に自分の髪を入れたポリジュース薬を4対6で鍋に入れて弱火で混ぜ、吸血蝙蝠の羽根1㎠と牙1本加え、チョコレートを一欠片入れれば、満月の日かその前日にコップ一杯分飲むだけで普通の脱狼薬の数倍の効果を発揮する甘い脱狼薬になる」

 

 

 パチュリーはつい図書館にあった調合方法を言ってしまったが大丈夫だろうとスネイプ先生を見るが、驚愕の表情で固まっていた。周囲の生徒達はスネイプの様子に驚きを隠せずにいた。ハッと意識を取り戻したスネイプ先生は顎に手を当て今度はブツブツ言い出した。

 

 

「確かにそれなら味も良くなり吸血蝙蝠を使えば夜間は効果が切れない。それにポリジュース薬という発想は・・・・」

 

「あ、あのスネイプ先生?大丈夫ですか?」

 

「ッ!!?も、問題ないミス・ノーレッジ。その通りだ。グリフィンドールに5点!」

 

 

 あ〜大丈夫じゃないわね。流石にマズかったか。

 生徒達はグリフィンドールに点をあげたスネイプ先生を凝視しているが、スネイプ先生はそのまま授業を続けた。2人1組でおできを治す薬を調合すると言う物だった。勿論パチュリーはマルフォイと組み、ほぼパチュリーが完璧に調合していった。マルフォイに鍋を任せ、最後の素材を入れようとパチュリーが鍋に近付いた時、地下牢いっぱいに緑の煙が立ち、シューシューと音が鳴った。パチュリーは誰かが鍋を火から降ろさないで山嵐の針を入れたのだろうと発生源を見るとネビルがおできまみれになっていた。スネイプは怒鳴り声を上げ鍋を溶かして溢れた薬を取り除いていた。

 パチュリーはやっぱりと最後の素材を入れ薬を完成させ、瓶に入れてスネイプ先生に持って行った。

 

 

「スネイプ先生。ネビルにコレを・・・」

 

「む?おぉ、完璧な出来だ。コレを使いなさい」

 

 

 薬をネビルに使うとあっという間におできは消え、元の顔になった。スネイプ先生は隣で作業をしていたハリーとロンに矛先を向けた。

 

 

「ポッター、何故針を入れてはいけないと言わなかった?彼が間違えば自分の方がよく見えると考えたな?グリフィンドールは1点減点!しかしこの薬は完璧な出来だ。そこでグリフィンドールに2点!」

 

 

 その後も1時間授業が続き、ハリー達が減点されパチュリーが点を稼ぐと言う結果で授業は終えた。ただパチュリーはスネイプ先生に大層気に入られてしまい、ロンはますます不機嫌になった。

 

 

 

 

 

 

「今日は飛行訓練の日か。もうそんな時期になったのねぇ」

 

 木曜日の午後3時半、パチュリーはあっという間に時が過ぎて行くのを感じながらスリザリン寮生と一緒にグリフィンドール寮生のみんなを待っていた。手には今制作中の魔法書があり、次々とパチュリーはその本の空欄に複雑な式や陣を加えていく。コレはパチュリーが厳選した活用出来る魔法や攻撃防御に優れた魔法を書き足している魔法書で、ゲームでいつもパチュリーが持っていた物を作ろうと1週間前から書き続けている。しばらく待っているとグリフィンドール寮生がやって来た。

 やっぱり嫌われてるわねぇ・・・貴方達が遅かっただけなのに。

 パチュリーが呆れながら書いていた魔法書を閉じると担当教師のマダム・フーチがやって来て早速授業が始まった。

 

 

「なにをボヤボヤしてるんですか。みんな箒のそばに立って。さぁ、早く」

 

 

 マダム・フーチの指示でパチュリー達は箒の近くに立った。

私の箒は・・・まぁまぁ綺麗ね。

 

 

「右手を箒の上に突き出して。そして『上がれ!』と言う」

 

 

 全員が「上がれ!」と叫ぶが、箒が上がったのはマルフォイとハリー、そしてパチュリーだけだった。箒は一種の生き物のような物だ。乗り手がびびっていたら箒も不安がってしまう。パチュリーの場合は常日頃から飛んでいるから箒も安心した様子だ。それからみんな箒に跨りマダム・フーチに握り方を直してもらった。マルフォイが間違った持ち方だったらしく指摘されたのをハリーとロンは喜んでいた。

 

 

「さぁ、私が笛を吹いたら、地面を強く蹴ってください。箒はぐらつかないように押さえ、2メートルぐらい浮上してそれから少し前屈みになってすぐに降りてきてください。笛を吹いたらですよ。1、2の・・・・ッ!こら、戻ってきなさい!」

 

 

 パチュリーが空を見上げるとネビルが笛を吹く前に飛んで行ってしまった。そのまま声にならない悲鳴を上げ、真っ逆さまに落ちる。

 やっぱりネビルやらかしたわね。・・・って、あの角度は確実に死ぬわ。仕方ないわね。

 パチュリーは先程書いていた本を構える。本はひとりでにパラパラとページをめくっていき、風属性の魔法の項で止まり魔法を発動する。ネビルに突然真下に出現した緑の魔法陣から吹いて来た突風が当たり、落下速度が激減し、体勢が変わる。地面に直撃する前にネビルはフワリと停止し解除すると地面に落ちた。体勢が悪く結果的に手首の骨を折ってしまったが、死ぬよりマシだろう。

 

 

「私がこの子を医務室に連れて行きますから、その間誰も動いてはいけません。箒もそのままにしておくように。さもないとクィディッチの『ク』を言う前にホグワーツから出て行ってもらいますよ。・・・・・それにしてもあの風の魔法はいったい?」

 

 

 マダム・フーチがネビルを連れて見えなくなるとマルフォイが大声で笑いだした。

 

 

「あいつの顔を見たか?あの大まぬけの」

 

 

 その言葉にパーバティだったか?その子が咎めるも、スリザリン寮の女子生徒に冷やかされている。そうしているとマルフォイがネビルのおばあさんが送って来たらしい『思い出し玉』を拾い上げた。それを掲げているとハリーが口を開いた。

 

 

「マルフォイ、こっちへ渡してもらおう」

 

「それじゃ、ロングボトムが後で取りに来られる所に置いておくよ。そうだな・・・・木の上なんてどうだい?」

 

「こっちに渡せったら!」

 

 

 ハリーが強い口調で言うとマルフォイがヒラリと箒に跨って空に飛び上がった。マルフォイは樫の木辺りの高さまで舞い上がるとそのままハリーを挑発した。

 

 

「ここまで取りに来いよ、ポッター」

 

 

 それを聞いてハリーは箒を掴む。パチュリーの隣でハーマイオニーが叫ぶ。

 

 

「ダメ!フーチ先生がおっしゃったでしょう、動いちゃいけないって。私達みんなが迷惑するのよ」

 

 

 ハリーはハーマイオニーの言葉を無視してマルフォイを追いかけた。パチュリーは原作知識でこの後の展開を知っている為何もしないでいたが、既に半分くらいは原作崩壊しているからどうしようかと少し迷っていた。するとパチュリーの裾を引っ張る存在に気付いた。なんか嫌な予感がしながらそちらを向くとハーマイオニーとその他グリフィンドール寮生がこちらを見ていた。

 

 

「パチュリー!あの2人をなんとかしてよ!!」

 

「そうだそうだ!なんとかしろよ!!」

 

「貴女達は私をなんだと思ってるの?それにどうせ私はグリフィンドールの裏切り者らしいし、どうこう言われる筋合いは無いわ」

 

 

 その言葉にグリフィンドール寮生の殆どが押し黙った。その様子にパチュリーは溜め息をついて飛び上がり、2人の下に向かった。

 

 

「こら貴方達、下の連中がうるさいからさっさと降りて来なさい」

 

「なんだよパチュリー!君もマルフォイの肩を持つのかい!?」

 

「バカな喧嘩してないでさっさと降りて来なさいって言っただけでなんで私がそんな風に言われるのよ?ドラコもその玉を返しなさい」

 

「君の頼みでもそれは出来ないね」

 

 

 あぁダメだこのガキ共言うこと聞かないわ。ハリーは私を敵認定。マルフォイは変なプライド。下の連中は私にどうしろって言うのよ。

 パチュリーがイライラしながらもうこの2人にスペルカードのアグニシャインかシルフィホルン辺りをぶつけようかと本気で悩んでいると2人が動きだした。マルフォイが『思い出し玉』を投げ捨て、ハリーがそれを追いかけた。ハリーは猛スピードで急降下し、地面スレスレの所で玉を掴み体勢を立て直そうと箒を上に向けるが、どうしても上がらず、顔面から落ちそうになった所で追い付いたパチュリーに制服を掴まれ宙ぶらりんになった。

 

 

「ハリー・ポッター!!」

 

 

 パチュリーがフゥと安堵しているとマクゴナガル先生が走ってやって来た。ハリーはビクビクと震え始め、地面に下ろしてもガタガタ震えていた。

 

 

「よくもまぁ、そんな大それた事を・・・首の骨を折っていたかもしれないのに・・・・」

 

「先生、ハリーが悪いんじゃないんです・・・」

 

「黙りなさい。ミス・パチル・・・」

 

「でも、マルフォイが・・・」

 

「くどいですよ。ミスター・ウィーズリー。ポッター、さぁ、一緒にいらっしゃい」

 

 

 マクゴナガル先生はハリーを連れて大股で歩いて行った。2人が見えなくなったあたりで今度はロンが何故かパチュリーに矛先を向け始めた。

 

 

「おい裏切り者!なんで君はマクゴナガル先生に怒られないでハリーだけが怒られているんだ!?」

 

「私は助けてあげたんだけど?それは私が箒を使って飛んでないからじゃない?まぁ、それ以前に先生は私に気付いてなかったんでしょうけど」

 

「何を言っているんだ!?君は空を飛ん・・・で・・・・」

 

 

 ロンは今パチュリーが箒を使わずに飛んでいるのに気付いた。更にパチュリーは自分に対先生用の認識阻害魔法を間に合わせでかけて居たのでマクゴナガル先生は気付かないでいた。

 

 

「じゃ、私は失礼するわ。あぁ、先生に言っても無駄よ。誰も信じはしないわ。ダンブルドアでもね・・・」

 

 

 パチュリーは驚愕でまたもや固まったロンを置いて城に入って行った。残された生徒達はそれをポカンと眺めてから口を開く。

 

 

「今のどうやったんだ?人が箒を使わずに空を飛んだぞ」

 

「さぁ、前々から僕等に分からない事言って先生が驚愕して点をあげていたからなぁ」

 

 

 パチュリーはこの一件でグリフィンドールとスリザリン両生徒達から少しだけ注目されるようになった。



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夜の決闘の罠とハロウィンの夜

 飛行訓練があった日の夜。夕食を終え、パチュリーは寮の談話室の椅子に座って作成中の魔法書にペンを走らせていた。やはりハリーはクィディッチのシーカーに選ばれたらしく、久々に参加した大広間の夕食でハリーとロン達が盛り上がっていた。久々にとは普段パチュリーは自室で小悪魔の料理を食べていたからだ。その後ハリー達は原作通りにマルフォイ達とトロフィー室で決闘する事になった。

 でも普通に考えて罠だって分かるわよねぇ?正直止まるとは思ってないけど忠告だけはしておくためにいるけど・・・来たわね。

パチュリーが書く手を止めて螺旋階段から降りて来た2人の人影に視線を向けた。予想通りハリーとロンだ。

 

 

「やっぱりマルフォイ達との決闘に行くのね?2人共」

 

「ッ!!?パチュリー!!まだ起きてたの!!?」

 

「なんの用だ裏切り者め!先生にでもチクる気か!?」

 

 

 2人はパチュリーを見つけると驚愕した。もう全員寝ていると思ったのだろうが、実を言うとまだ起きている人はいた。その為こっそりパチュリーが眠りの魔法を軽めにかけて全員眠らしたのだ。

 

 

「別に何も言わないし止めないわ。私はただ忠告に来たのよ。・・・ドラコ・マルフォイは決闘には来ないわ」

 

「フンッ!どうせそうやって来なかった僕等を明日の朝コケにするんだろう?行こうぜハリー」

 

 

 ロンがハリーを引っ張って肖像画の穴に入ろうとしていると今度はハーマイオニーがランプを持って現れた。ロンは今度はハーマイオニーに怒り始めるが、埒があかないと肖像画の穴を潜り抜けた。ハーマイオニーは怒りながらハリー達を追いかけて外に出て行った。

 あ〜らら行っちゃった。まぁ戻ってくるのを待ちましょう。

 私が再び魔法書に色々書き足している事約1、2時間。再び肖像画の穴が開いてハリーとロン、ハーマイオニー、そしてネビルが息を切らしながら転がり込んで来た。私は本をパタンと閉じて4人の元に近づいて行く。

 

 

「あらお帰りなさい。ドラコ達はちゃんと来たかしら?」

 

「はぁ・・はぁ・・パ、パチュリー・・君は本当にいったいどっちの味方なんだい?マルフォイの奴の味方じゃないのか?」

 

「まず私は誰の味方になったつもりはないわよ。そもそも貴方達が勝手にやり始めた勢力争いに私を加えないでほしいわね」

 

 

 その言葉にハリーは思う所があったのか押し黙り、ロンも申し訳なさそうに視線を逸らし、違う話題に変えた。やはりあの部屋に入ったようね。そんな2人をハーマイオニーが怒り睨みつけながら女子寮に入って行った。私達はその様子を見送った。

 

 

 

 

 

 

 あれからかなりの時間が過ぎた。ハリーにはニンバス2000とか言う箒が与えられ、ロンはパチュリーへの認識を考え直してましな対応を取り、ハリー達とマルフォイとの仲が一目で分かる程悪くなった。ニンバスを手に入れてから新たにシーカーとなったハリーは週3回クィディッチの練習をして居た。そしてハロウィンの日がやって来た。今パチュリー達は『妖精魔法』の授業に参加している。担当教師のフリットウィック先生がそろそろ物を飛ばす練習をしましょうと言い出したので生徒達はワクワクとしながら授業を受けていた。

 

 

「ビューン、ヒョイですよ。呪文を正確に、これもまた大切ですよ。覚えてますね?あの魔法使いバルッフィオは『f』ではなく『s』の発音をしたため、気がついたら自分は床に寝転んでバッファローが自分の胸に乗っかっていましたね」

 

 

 いったいどんな呪文の間違い方をしたらそんな状況になるのか非常に興味があったが、今は授業に集中することにした。とは言っても自分は既に羽根ペンを宙に浮かせているので隣にいるペアのネビルに教えている。

 

 

「そうよ。じゃ、もう少し早く言ってみなさい」

 

「うん。ウィンガ〜ディアム、レビオ〜サ!」

 

 

 ネビルが杖を振りながら唱えるも少し羽根ペンが動いただけだった。パチュリーの教えがいいのかネビルの記憶力がいいのか・・・絶対前者がいいようで、ネビルは着々と魔法が使えていった。

 

 

「惜しいわね。レビじゃなくてレヴィよ。そこに注意しながら言ってみなさい。杖は小振りに振ること」

 

「うん、分かった。ウィンガ〜ディアム、レヴィオ〜サ!」

 

 

 するとネビルの羽根ペンは宙を舞い始め、ネビル自身は成功した事に感激し、他の生徒達はネビルが成功した事に驚愕していた。パチュリーはそれに満足し、飛ばした羽根ペンにプラスして制作中の魔法書を飛ばして空中でサラサラと書いていく。その様子にフリットウィック先生は大喜びしてグリフィンドールに5点与えてくれた。

 授業が終わり、パチュリーが魔法書を読みながら歩いていると後ろからハーマイオニーが足早に追い越して行った。しかも涙を流しながら。何事かと振り返るとハリーとロンの2人と目が合った。

 

 

「・・・・・・貴方達、幾ら何でも女の子を泣かすのはどうかと思うわよ?」

 

「い、いや!別に僕は何も言ってないよ!!」

 

「となるとロン貴方ね?全く貴方達は何してるのよ」

 

 

 パチュリーが呆れた様子で溜息を吐いているとロンが噛み付いてきたがパチュリーはのらりくらりと受け流し次の授業を受けに行った。結局、その後の授業にハーマイオニーが参加する事はなく、他の生徒達の話によると女子トイレで泣いていたらしい。そして今パチュリーはハロウィンの飾り付けがされた大広間にてパンプキンパイを食べていた。

 

 

「確か今日よね?学校内にトロールが現れるのは?私はどうしようかしらねぇ?ネビルの時とかスネイプ先生の時みたいに多少原作が違う所があるから迷うのよねぇ・・・一応様子だけでも見に行きましょうか。あ、このパイ美味しいわね。今度こぁにパイを焼いてもらいましょう」

 

 

 パチュリーが美味しそうにパンプキンパイを食べていると大広間の扉が開いて慌てた様子でクィレル先生が入って来た。パチュリーはクィレル先生が何者か知っているので中々見事な演技力だなと思いつつ眺めているが、生徒達は恐怖に引きつった顔のクィレル先生に驚いている。

 

 

「トロールが・・・地下室に・・・・お知らせしなくてはと思って・・・・」

 

 

 クィレル先生はその場でバッタリと気絶した。生徒達はそれに大混乱した。そこでダンブルドア先生が杖先から紫の爆竹を何度か鳴らしてやっと静かになった。大広間にダンブルドア先生の声が重々しく響く。

 

 

「監督生よ。すぐさま自分の寮の生徒を引率して寮に帰るように」

 

 

 その言葉に各寮の監督生達は自分の寮の生徒達を引率し始め、次々と順番に大広間を出て行った。パチュリーも途中までついて行ったが、隙を見て姿を消してハーマイオニー捜索を開始した。走っているより飛んだ方が速いので廊下から10cm程浮いて滑る様に飛んで探す。しばらく飛んでいると正面からこちらに向かって走ってくる2つの人影を見つけた。ハリーとロンだ。2人はやってやったぜと言わんばかりに清々しい笑顔だったが、パチュリーを見つけてちょっと歪んだ。

 

 

「貴方達、無事だったのね?」

 

「あぁ、ハーマイオニーを探しに来たんだ。そしたらトロールが現れて部屋に入って行ったから、鍵をかけて閉じ込めたんだ!」

 

「どうだいパチュリー?君にこんな頭のいい方法が思いつくかい?」

 

 

 ロンは自慢げにパチュリーを挑発するが、パチュリーは相変わらず無表情・・・いや、少し苦々しい表情で質問した。

 

 

「貴方達ちゃんとそこがなんの部屋か確認して閉じ込めたの?」

 

「?なんでそんな事を聞くのさ?確認はしてないけど・・・」

 

「この先にある部屋で鍵がついている部屋はハーマイオニーがいる女子トイレしか知らないからよ・・・」

 

 

 パチュリーの返事が終わった時、かん高い恐怖で立ちすくんだ様な女性の悲鳴が鳴り響き、ハリーとロンはしまった!と言いたげな表情で振り返った。パチュリーは頭を抱えながら女子トイレを目指した。

 

 

「分かっていたけど・・・本当にロクな事しないわね貴方達は!!」

 

「うぐっ!か、返す言葉が見つからないよ」

 

「安心しろよハリー。僕もだ」

 

「安心してるんじゃないわよバカコンビ」

 

「「ごめんなさい・・・」」

 

 

 パチュリー達は女子トイレに到着し扉を破壊しながら中に入る。パチュリーは臭って来た悪臭に顔を歪めた。目の前には4m程のトロールがおり、ハーマイオニーは奥の方の壁に張り付いて縮み上がっている。トロールは次々と洗面台をなぎ倒しながらハーマイオニーに近付いて行く。

 

 

「こっちに引きつけろ!!」

 

 

 ハリーが無我夢中にロンに指示を出しながら近くに落ちていた蛇口をトロールに投げつけた。蛇口は壁にぶつかり音を立てて落ちた。トロールは立ち止まってなんの音かとこちらを見た。すると今度は反対側に回ったロンが鉄パイプを投げつけながら叫んだ。

 

 

「やーい!ウスノロ!」

 

「それ絶対このトロールは意味を分かってないわよ?」

 

 

 パチュリーの正確な突っ込みが入るも叫び声は聞こえていた様で今度はロンの方にトロールが視線を向ける。その内にハリーがハーマイオニーを連れ出そうとするもハーマイオニーは固まったまま動けないでいた。その時のハリーの声に反応してロンに向かって棍棒を振り上げた。そこにパチュリーの放った魔力を使った弾幕が数発命中し、よろよろと後ずさった。そこにハリーが何を思ったのかトロールの首に自分の腕を巻き付けた。その際ハリーの握っていた杖がトロールの鼻に突き刺さり、トロールはジタバタと暴れ始めた。ロンは自分の杖を取り出して1番最近習った魔法を唱えた。

 

 

「ウィンガ〜ディアム、レヴィオ〜サ!」

 

 

 ロンの呪文は成功し、トロールの手から棍棒が飛び出して空中高く飛び上がり、ゆっくり一回転してからちょうど棍棒を探して上を向いた持ち主であるトロールの頭に命中してトロールは倒れて気絶した。ハリーはプルプルと杖をトロールの鼻から抜きながら立ち上がり、ロンは杖を突き出したまま突っ立って、ハーマイオニーはしばらく固まっていたが、やがて口を開いた。

 

 

「ねぇこれ・・・・死んだの?」

 

「いいえ。息もあるし心臓も動いているから死んではいないわ。ただ気絶しているだけよ」

 

 

 パチュリーがトロールを調べ、ハリーがトロールの鼻から抜いた杖をトロールのズボンで拭いていると、破壊された扉からマクゴナガル先生とスネイプ先生、その後にクィレル先生が入って来た。しかしクィレル先生はトロールを見て弱々しく座り込んだ。

 

 

「いったい全体あなた方はどういうつもりなんですか!?殺されなかったのは運が良かった。寮にいるべきあなた方がどうしてここにいるんですか?」

 

 

 先生方の視線にハリー達はうつむいた。パチュリーはそんな視線を気にせず魔法書を開いて新しい魔法を書き足していく。すると暗がりから小さな声がした。

 

 

「マクゴナガル先生聞いてください・・・・3人共私を探しに来たんです」

 

「ミス・グレンジャー!!?」

 

 

 ハーマイオニーの声にマクゴナガル先生が驚いて視線を向ける。

 

 

「私がトロールを探しに来たんです。私・・・私1人でやっつけられると思いました。・・・・あの、本で読んでトロールについてはいろんな事を知っていたので・・・。もし3人が見つけてくれなかったら私、今頃死んでいました。3人共誰かを呼びに行く時間が無かったんです」

 

「まぁ、そういう事でしたら・・・・。ミス・グレンジャー、なんと愚かしい事を。たった1人で野生のトロールを捕まえようと考えるなんて、そんな事をどうして考えたのですか?」

 

 

 パチュリーは少しだけハーマイオニーを見直した。頭は良かったが必ずどこか抜けている彼女だったが中々勇気がある。流石はグリフィンドール寮生。

 

 

「ミス・グレンジャー、グリフィンドールから5点減点です。貴女には失望しました。怪我がないならグリフィンドール塔に戻った方が良いでしょう。生徒達がさっき中断したパーティーの続きをしています」

 

 

 ハーマイオニーはそれを聞いてトボトボトイレを出て帰って行った。そしてマクゴナガル先生がパチュリー達に向き直った時、パチュリーが心配していた事が起きた。

 

 

「先程も言いましたが・・・ッ!!?ポッター!ウィーズリー!」

 

「「・・・・ッ!!?」」

 

 

 突然トロールが目を覚まして近くにいた2人に殴りかかった。2人はそれに驚いて動けずにおり、マクゴナガル先生とスネイプ先生は反応が遅れ、クィレル先生は座り込んだまま動かない。普通ならこのままハリーとロンは殴り殺されるだろう。しかし・・・それは叶わなかった。

 

 

「スペルカード!火符『アグニシャイン』!!」

 

 

 パチュリーの魔法書がひとりでにパラパラと開き、炎の渦が発生してトロールを襲った。凄まじい熱風にハリーとロンは顔を腕で覆い、マクゴナガル先生とスネイプ先生はその火力に驚愕し、クィレル先生は信じられない物を見たかのように燃えるトロールを見ていた。パチュリーが本をパタンと閉じると炎も収まり、後には全身火傷し地に倒れ伏したトロールが残った。

 

 

「警戒していて良かったわ。手加減したから死んではいないはずよ」

 

「ミ、ミス・ノーレッジ?なんですか今の炎は?」

 

「私のオリジナル魔法です。さて、私はもう疲れたので戻ってもよろしいでしょうか?」

 

 

 先生方は驚愕した顔をしていたが、すぐに気を取り直してマクゴナガル先生が話を再開した。

 

 

「まぁ2人が助かったから感謝します。先程も言いましたが貴方達は運が良かった。でも大人の野生のトロールに勝て、ましてやあの様な炎を魔法で作る事が出来る魔法使いや魔女はそういません。よって2人に5点ずつ、ミス・ノーレッジには2人の命を助けたので10点をあげましょう。ダンブルドア先生に報告しておきます。帰ってよろしい」

 

 

 それを聞いてパチュリー達3人はグリフィンドール塔に戻った。戻る途中2人はパチュリーに礼を言ったが、パチュリーは「じゃ、貸し1ね?」と言って自分の部屋にサッサと戻って行った。翌日には、ハリーとロン、ハーマイオニーの3人が友人になっていた。パチュリーは魔法書を読みながら3人の様子を少し笑いながら離れた場所から眺めていた。



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クィディッチとニコラス・フラメルの説明

 11時の学校にあるクィディッチ競技場。そこには現在学校中の生徒や先生達が観客席に詰めかけていた。双眼鏡を持ち出している生徒達も沢山いる。今日はスリザリンとグリフィンドールの選手達によるクィディッチの試合だった。勿論魔法書を読んだり新しい魔法の実験に力を入れていたパチュリーは試合には全く興味はなく、自室のトランクから直接大図書館に戻って実験をしようとしていたのだが・・・・

 

 

「なんで私はこんな場所にいるのかしら?ハーマイオニー・グレンジャー?」

 

「だ、だってハリーが出るクィディッチの試合よ?それにスリザリンの連中を叩きのめす光景になるかも知れない・・・分かったわ!謝る!謝るからその振り上げた分厚い魔法書を下ろしてちょうだい!」

 

 

 ハーマイオニーは振り上げられた分厚い魔法書を見て直ぐにパチュリーに謝った。実はパチュリーは朝食を大広間で食べた帰りにハーマイオニーにバッタリ出くわし、いつかの列車内と同じ様に半強制的にクィディッチ競技場の観客席に連れてこられたのである。

 

 

「全く貴女は・・・いい加減に人の用事を考えないで強要するのはやめなさい。私は寮に戻って魔法書を読んだりしたかったのに・・・後何その旗は?」

 

「あぁ、いいだろこれ?スキャバーズがダメにしたシーツで作ったんだ。ハリーの奴ビックリするぜ?」

 

 

 パチュリーはロンとディーンが持ち上げた『ハリー・ポッターを大統領に』と書かれた巨大な旗を見て絶対に自分ならやられたくないわねと真剣に思った。そうこうしていると真紅のローブを着たハリー達グリフィンドールの選手達と緑のローブを着たスリザリンの選手達がグラウンドに出て来た。審判はマダム・フーチが務めるらしい。

 

 

「さぁ、皆さん、正々堂々戦いましょう。よーい、箒に乗って」

 

 

 マダム・フーチの指示に両チームが箒に跨る。そしてマダム・フーチの銀の笛が鳴り響き、15本の箒は宙を舞った。

 

 

「さて、クアッフルはたちまちグリフィンドールのアンジェリーナ・ジョンソンが取りました!なんて素晴らしいチェイサーでしょう!その上かなり魅力的であります」

 

「ジョーダン!!」

 

「失礼しました、先生」

 

 

 双子のウィーズリーの仲間のリー・ジョーダンがマクゴナガル先生の監視の下実況放送をしている。

 実はパチュリーは双子のウィーズリー達と仲が意外に良かったりする。切っ掛けはフレッドがパチュリーが落とした失敗作の魔道具を拾った事だ。偶々それがフレッドの悪戯にドストライクだった様で、それからフレッドとジョージの2人がパチュリーにこんな物を作ってくれと依頼しに来たりするのだ。普通ならパチュリーはそんな事無視するのだが、偶にパチュリーにとっても興味深い依頼が来るので引き受けており、そんな事が続いて今ではパチュリーも隠れ悪戯支持者になっていたりする。

 と、そんな事を説明している内にグリフィンドールが先取点を取った。すると髭面の大柄の男性・・・ハグリッドがやって来た。

 

 

「ちょいと詰めてくれや」

 

「ハグリッド!」

 

「俺も小屋から見ておったんだが・・・やっぱり、観客の中で見るのとはまた違うのでな。スニッチはまだ現れんか?え?」

 

 

 ハグリッドは双眼鏡を覗いてハリーを見た。ハリーは未だにスニッチを探している様で、グラウンドをキョロキョロ見渡している。その間もジョーダンの実況放送は続いている。

 

 

「チェイサーのベルを躱して、もの凄い勢いでゴ・・・・ちょっと待ってください。あれはスニッチか?」

 

 

 その瞬間ハリーはスニッチを見つけた様で飛び回るスニッチを追って急降下した。スリザリンのシーカーも見つけた様で途端にシーカー同士の競争が始まった。周りの生徒達は猛スピードで飛ぶ両選手に興奮している。パチュリーもハリーの箒のスピードを見たが・・・・思ったより遅いと感じた。あれなら自分で飛んだ方が速い。そんな時、ハリーの行動をスリザリンの選手が邪魔をしてグリフィンドールの席から怒りの声が上がった。実況席でもジョーダンがスリザリンにボロクソ言い始めてマクゴナガル先生に叱られていた。

 

 

「あの野郎!ブラッジャーに叩き落とされちまえ!」

 

「ロン貴方段々口が悪くなってきてない?」

 

 

 パチュリーがロンにそう突っ込みを入れ、再びハリーに視線を戻すと、ハリーは今にも箒に振り落とされそうになっていた。

 

 

「いったいハリーは何をしとるんだ?」

 

「私には箒が急に暴れ始めてハリーを落とそうとしている様に見えるけど?」

 

「フリントがぶつかった時、どうかしちゃったのかな?」

 

 

 パチュリーは双眼鏡を覗くハグリッドに自分の意見を伝え、近くに座っていたシェーマスが呟くも、ハグリッドは否定した。

 

 

「そんなこたぁない。強力な闇の魔術以外、箒に悪さはできん。チビどもなんぞ、ニンバス2000にそんな手出しは出来ん」

 

 

 ハグリッドのブルブル震える言葉を聞いてハーマイオニーが双眼鏡をひったくって観客席を見回した。しばらく何かを探していると息を飲んだ。

 

 

「思った通りだわ。スネイプよ・・・・見てごらんなさい」

 

 

 ハーマイオニーに渡された双眼鏡を覗いてロンが見たのはハリーから目を離さずブツブツ絶え間無く呟くスネイプ先生の姿だった。

 

 

「何かしてる・・・・箒に呪いをかけてる」

 

「僕達、どうすりゃいいんだ?」

 

 

 ロンの言葉を聞いてハーマイオニーが私に任せてと人混みに姿を消した。パチュリーもロンに「見てみろよ」と双眼鏡を渡されてスネイプ先生を見た。パチュリーは確かにブツブツ呪文を唱えているスネイプ先生を見つけたが、直ぐにスネイプが唱えているのは呪いの反対呪文だと見破った。パチュリーは視線を外してハリーを見てみるが、もうそろそろ限界のようだった。

 

 

「そうねぇ・・・・ロン?」

 

「なんだい?今は君に構っている場合じゃあ・・・・」

 

「貸し2に増やしときなさいよ?サービスしてあげるわ」

 

 

 パチュリーがローブから真新しい間に合わせの杖を取り出してハリーの方に向けて2回程振る。パチュリーが使用したのは防御魔法だ。魔法は瞬時に発動されハリーの周りを透明な球体の様にバリアを張った。するとハリーの箒は正常に戻り、ハリーは箒に乗り直した。ロンがそれを見てパチュリーを驚愕の目で見る。その直後スネイプ先生のいる観客席から悲鳴が上がった。

 ・・・・ハーマイオニーったら。何やらかしたのよ。

 その後体勢を立て直したハリーがスニッチを飲み込むと言う珍し過ぎる取り方をし、グリフィンドールが170対60でスリザリンに勝利した。

 

 

 

 

 

 

「お待たせしましたパチュリー様。紅茶です」

 

「ありがとうこぁ。・・・・フゥ、それにしてもハーマイオニーの性格はどうにかならないのかしら?」

 

 

 クィディッチがグリフィンドールの勝利に終わってからグリフィンドールの談話室はお祭り騒ぎだ。そのお陰でパチュリーは自室に戻り、小悪魔の淹れた紅茶を味わいながら魔法書に新たな魔法を書き足している。後数十ページも書けば完成する。

 

 

「無理じゃないですかねぇ〜?話を聞く限り入学前からその性格だと思います。それだと難しいと思いますよ?」

 

「望み薄ね。こぁは最近どうかしら?」

 

「パチュリー様のお役に立てないので寂しく感じますねぇ。もうホグワーツ飛び級で卒業してヴワル大魔法図書館に帰りませんか?」

 

 

 小悪魔がそんな事を言ってくる。やはりパチュリーと会える時間が激減した事にかなりの不満を抱いている様だ。

 

 

「そんな事言わないの。クリスマス休暇には向こうに帰れるから」

 

「むぅ・・・仕方ないですね。あ、パチュリー様。紅茶のお代わりはいかがですか?」

 

「えぇいただくわ。帰ったら新しい魔法の開発に協力してね?」

 

「はい!パチュリー様!お任せ下さい!」

 

 

 小悪魔は頼られる事が嬉しいのか満面の笑みを浮かべた。パチュリーはそんな小悪魔が可愛く思ってクスリと微笑んだ。

 それからは特に何事も無くクリスマス休暇を迎えた。パチュリーは小悪魔を先にトランクでヴワル大魔法図書館に送り、自分は怪しまれないようにホグワーツ特急に乗って戻った。駅のホームに着くと柱の影に隠れて空間転移魔法でヴワル大魔法図書館の入口がある花畑へ転移した。

 

 

「ふぅ、久しぶりにこの扉を見たわね。ホグワーツに行ってからはトランクを使っての移動だったものね」

 

 

 パチュリーは扉を開き、大図書館に入った。入ってすぐ小悪魔が背中の羽根をパタパタと羽ばたかせてパチュリーを迎え入れた。

 

 

「お帰りなさいませ!パチュリー様!トランクをお持ちしますね♪」

 

「えぇ、お願いするわ。トランクを片付けたら早速新魔法を開発するわよ」

 

「了解しました!私にドーンとお任せ下さい!」

 

 

 小悪魔は自分の胸を叩きながら言った。それからクリスマス休暇はずっと研究や実験の日々が続いた。それにより歴代の魔法使いや魔女が驚愕し、魔法界に発表したら数々の賞がもらえる事間違いなしの新魔法の数々が誰にも知られずひっそりとパチュリーの手によってヴワル大魔法図書館で生まれた。

 

 

 

 

 

 

 クリスマス休暇が終わり、ホグワーツに戻って来たパチュリーの表情はいつもよりホクホク顔だった。この休暇中にかなりの数の便利な魔法や新しい魔法を開発出来た上、大図書館の本を読む事が出来た。今ならダンブルドア先生に「ヴォルデモートの勢力全滅させてくれ」と言われても引き受ける気すらしている。

 そんなある日、パチュリーが入学式から度々貸し出すようになっていた魔法書をマクゴナガル先生から返却してもらってグリフィンドール塔に帰っている途中、奇妙なものを見つけた。両足をピッタリくっ付ける『足縛りの呪い』と呼ばれる呪いをかけられてウサギ跳びをしているネビルだった。

 

 

「ネビル?貴方何やってるの?呪いをかけられたみたいだけど?」

 

「あ、パ・・パチュリー。マルフォイが・・・図書室の外で会ったの。呪文を試して見たかったからって・・・」

 

「なんで先生に言わなかったのかしら?ちょっと待ちなさい。『解除』」

 

 

 パチュリーがネビルの足に手を向けて呪いを解除しながら質問した。流石にパチュリーと言えど今回マルフォイは庇えない。するとネビルは首を横に振った。

 

 

「もうこれ以上面倒は嫌だ。やっぱり僕はグリフィンドールに相応しくないのかな?」

 

「ドラコに言われたのね?大丈夫よネビル。貴方は組分け帽子に選ばれたのよ?あれは私達の記憶や感情を読んで組分けをするの。だから貴方は他の寮の生徒達より勇気があるわ。だから安心なさい」

 

 

 パチュリーは先程魔法書のお礼とマクゴナガル先生に頂いたお菓子をネビルに渡しながら言った。ネビルは半泣きになりながらもパチュリーにお礼を言い、一緒にグリフィンドール塔の談話室に戻った。ネビルはもう寝ると言って男子寮に入って行き。パチュリーは魔法をかけてページを増やした魔法書に新たな魔法を書き足して時間を潰していると、ハリー達3人組がパチュリーに近寄って来た。ハリー達は前のクィディッチの試合から図書館で何かを調べている。パチュリーは原作ではどうだったかしらと考えながら日々を過ごしていたのである。

 

 

「パチュリー、ちょっと聞きたい事があるんだけどいいかい?」

 

「あら?ハリーじゃない。それに2人も・・・私に何か用かしら?」

 

 

 ハリーは遠慮しがちにロンとハーマイオニーを見てからパチュリーに用件を述べた。

 

 

「物知りの君なら分かるかもと思ってね。えっと・・・・ニコラス・フラメルって言う人の事を何か知らないかい?」

 

 

「ニコラス・フラメル?ダンブルドア先生の錬金術共同研究のパートナーの事じゃない。詳しく話しましょうか?」

 

 

 ハリー達はその言葉に驚愕した。まさかこんな近くに答えがあるとは思わなかったからである。パチュリーはニコラス・フラメルの名前を聞いてその人物を探していたのかと今更ながら思い出した。

 

 

「な?最初からパチュリーに聞けば良かったんだよ。頼んでいい?」

 

 

「いいわよ?ニコラス・フラメルで有名なのは錬金術。錬金術は『賢者の石』と呼ばれる伝説の物質を創造する事に関わる古代の学問であり、比較的科学に近いものよ。ニコラス・フラメルは魔法界で唯一その賢者の石を作り出した人物なのよ」

 

 

「賢者の石?なんだいそれ?」

 

 

 パチュリーの説明にハリーとロンが首を傾げる。ハーマイオニーは何処かで聞いたと言う表情だが、分からないようだ。

 

 

「賢者の石はあらゆる物質を黄金に変えたり、錬金術の能力を向上させる謂わば魔法使いが使う魔法の杖のような物よ。それと同時に調合して飲めば不老不死となる『命の水』の源でもあるわ。ニコラス・フラメルはそれを飲んで昨年辺りに665歳になったわ。それと賢者の石を上手く使うと、人の体を捨てて半永久的な命を得る事が出来るのよ。・・・・どう?役に立ったかしら?」

 

「驚いたなぁ!本当に最初からパチュリーに聞いとけば良かったぜ」

 

 

 ロンとハリー、ハーマイオニーはパチュリーの博識さに驚愕しまくっていた。そしてパチュリーに礼を言って3人でコソコソ話し始めた・・・・が、何もパチュリーの目の前で話さなくてもいいと思う。

 

 

「ね?あの犬はフラメルの賢者の石を守っているに違いないわ!フラメルがダンブルドアに保管してくれって頼んだのよ。だって2人は友達だし、フラメルは誰かが狙っているのを知っていたのね。だからグリンゴッツから石を移して欲しかったんだわ!」

 

「金を作る石、不老不死にする石、錬金術の能力を向上させる石!スネイプが狙うのも無理ないよ。誰だって欲しいもの」

 

「それに『魔法界における最近の進歩に関する研究』に載っていなかったわけだ。だって665歳じゃ厳密には最近とは言えないよな」

 

 

 ハーマイオニー、ハリー、ロンの順で話された会話は全てパチュリーの耳に入っていた。3人の今後がなんとなく心配になってきたパチュリーはとりあえず1つだけ注意する事にした。

 

 

「貴方達?ダンブルドア先生とフラメル氏、それとスネイプ先生よ。ちゃんと年上は敬いなさい。礼儀はどの世界でも大切よ」

 

「ヴッ!!?き、聞こえてたのかい?全部」

 

「えぇ、バッチリ全部。内緒話は人気の無い場所で小さな声でする物よ。3人共?」

 

 

 パチュリーの呆れを通り越して笑うしかなくなった笑みを見て3人はやってしまったと頭を抱え、パチュリーに誰にも言わないでとお願いした。



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禁じられた森と試験を終えて

 ハリー達3人に口止めされた数日後、グリフィンドール対ハッフルパフのクィディッチの試合が行われた。この試合にはパチュリーは観に来なかった。まぁ念の為自室で水晶越しに見守っていたが。ロンとネビルがマルフォイ達と乱闘した事以外は何も問題は無かった。ダンブルドア先生が見ていたからクィレル先生も手出しは出来なかったのだろう。

そして更に数週間経過した今、私はホグワーツの図書館でハーマイオニーの説得をハリーとロンの2人と一緒に聞いていた。

 

 

「ハーマイオニー?試験はまだ10週間後よ?この2人は兎も角何故私まで勉強しないといけないのよ」

 

「ニコラス・フラメルにとってはほんの1秒でしょう?それに復習しないと試験に受からないわ」

 

「僕たち、600歳じゃないんだぜ?」

 

(私は200歳ちょいだけどね)

 

 

 ロンの反論にパチュリーはそう心の中で伝えた。それより何故自分はここで3人に付き合っているのかを考える方が面白いとも考えている。

 

 

「もう帰っていいかしら?まだ読みかけの魔法書があるのだけれど?」

 

「ダメよ!貴女はいつも授業とは全く関係がない本しか読んでいないじゃない!それじゃ試験の問題は解けないわ!」

 

 

 私にとって貴女達とやる試験は大人が小学生のテストで1+2とかの足し算を解いている様なものなんだけど?

 パチュリーはいい事言ったとドヤ顔をかますハーマイオニーをジト目で見つめてやる。ロンも負けずと反論した。

 

 

「それに、何の為に復習するんだよ。君はもう全部知っているじゃないか」

 

「何の為ですって?気は確か?2年生に進級するには試験をパスしなけりゃいけないのよ。大切な試験なのに、私としたことが・・・・もう一月前から勉強を始めるべきだったわ」

 

「私は貴女の気が確かか疑っているのだけれど?」

 

 

 パチュリーはまたブツブツと呪文を暗唱したり杖の振り方を何度も何度も繰り返し復習し始めたハーマイオニーに付き合いきれなくなり、開いていた魔法書を閉じて席を立った。因みに今読んでいるのは『魂や寿命のやりとりについての研究結果と有益な魔法の開発の記録』である。パチュリーにとって復習より新しい知識が断然いい。

 

 

「ちょっとパチュリー!どこに行く気?復習しないと試験受からないわよ?」

 

「私は復習するより新しい知識が手に入る方がよっぽどいいわ。それにもう教科書の内容からその応用まで熟知しているし、私は部屋に戻って魔法書を読んでおくわ」

 

「え!?ちょ、ちょっとパチュリー!!?・・・行っちゃったわ」

 

 

 ハーマイオニーはスタスタと図書館を出て行ったパチュリーを唖然とした顔で見送った。パチュリーの言葉にハリーとロンは羨ましがった。

 

 

「いいなぁ〜。パチュリーってもう完璧に覚えたのか。羨ましいよ」

 

「それに僕達にはパチュリーの読んでいる魔法書の意味と言うか読み方が全く分からないからね。それよりハーマイオニーをどうにかしようよ」

 

「そうだね。ハリー、そこの本取ってくれないかい?」

 

 

 残されたハリーとロンの2人は「パチュリーに負けてられない!」と何かのスイッチが入ったハーマイオニーをどうするか頭を抱えていた。

 

 

 

 

 

 

 それから数週間が経った時、グリフィンドールで事件が起きた。グリフィンドール寮生が寮の得点を記録している砂時計の前を通った時に一晩で150点も減点されている事に気付いたのだ。そして何処からともなくハリーとハーマイオニー、そして何故かネビルが一晩で150点も減点させたと言う噂が広まった。よって、ハリー達はグリフィンドール寮生どころか今年こそスリザリンから寮杯が奪えると思っていたハッフルパフとレイブンクロー寮生の嫌われ者となり、逆にスリザリンにはすれ違う度に拍手や賞賛の声を受けていた。

 パチュリーは3人の様子を見る為にホグワーツ内を歩く・・・のは疲れるので数センチだけ浮いて探していた。ネビルには会えたがまるでこの世の終わりみたいに蒼白な顔をして負のオーラを周囲に発していた。気を取り直してハリーとハーマイオニーを捜索したがなかなか見つからず、図書館でロンと一緒に何かを真剣な表情で話している所を見つけた。

 

 

 

「はぁいハリー、ハーマイオニー、ロン。かなり参っているみたいね?」

 

「なんだパチュリーか・・・君も僕等に文句を言いに来たのかい?」

 

「ちょっと違うわね。私が言いに来たのはなんでノルウェー・リッジバックなんかを持っていたのかよ」

 

「「「ブッ!!?」」」

 

 

 パチュリーの爆弾発言にハリー達は吹き出し、慌ててパチュリーを引き寄せて小さな声で話し始めた。

 

 

「ちょ、ちょっとパチュリー!!?なんで君がノーバートの事を知っているんだい!!?」

 

「ノーバート?あぁ、ノルウェー・リッジバックのニックネームね?なんで知っているかと言うとドラコが私に貴方達とロンのお兄さんの手紙を見せてくれたからよ」

 

 

 ここに来る途中でドラコにはバッタリ出会った。その時に「君に特別に見せてあげるよ」と手紙を見せてくれたのだ。それを聞いて3人はしまった!と頭を抱えた。

 

 

「それよりパチュリー!!貴女なんでそんな大事な事をこんな人前で言うのよ!!?私達の当たりがまた悪くなるじゃない!!」

 

「私はフィルチにバレた貴女達程バカではないわ。足元をよく見てみなさい」

 

「え?・・・・あ、薄っすらと何か書いてある」

 

「防音の魔法を使っているの。足元の魔法陣内で話した事は外には漏れないし、向こうの音も私達には聞こえない」

 

 

 パチュリーの説明を聞いて3人は足元に薄っすらと光の線のようなもので書かれた魔法陣を凝視する。確かに周囲の生徒達の愚痴や羽根ペンの音などが全く聞こえず、自分達のドラゴンの話が聞かれた様子はない。

 

 

「これなら安心でしょう?さて、話してもらうわよ?なんなら今の貸し2の内1つを使いましょうか?」

 

「・・分かったよ言うよ。実は・・・・」

 

 

 そしてハリーはドラゴンの事、ハグリッドの事、ロンのお兄さんの事などを話した。パチュリーは相槌を入れながらも自分に残っている原作との違いを確認した。結果、やはり原作と少々違う場所があるらしい。些細な違いではあるが、その内ハリー達が死ぬような事になるんじゃないかと思う。

 

 

「成る程ね・・・もう結構よ。私は失礼するわ。・・・あ、ハリーとハーマイオニーはこの後来るであろう罰則を覚悟しておきなさい」

 

 

 パチュリーが魔法陣から出る直前に残した一言は、ハーマイオニーにかなりの大ダメージを与え、魔法陣の効果が切れた直後図書館に悲痛な叫びを響かせて、司書のマダム・ピンスの怒りを買った。

 

 

 

 

 

 

「さて、今頃ハリー達は罰則として禁じられた森にいる頃ね」

 

 

 パチュリーはクィディッチの試合以来出していなかった水晶を覗いて今夜罰則があると教えてくれたハリー達を見守っていた。流石にヴォルデモートと接触するとなると少々危険な為、予想外の事態に備えて魔法をかけた魔法書を10冊だけ飛ばしている。この魔法書はパチュリーがクリスマス休暇の時に作った物で、白紙の本の表紙に自作の遠隔操作の魔法陣を刻み込んで中のページに各種簡単な攻撃魔法を書いた本型のラジコン戦闘ヘリみたいな感じになっている。

 

 

「パチュリー様。そんなにあの森は危険なんですか?」

 

「まぁ私には全く危険じゃないけど、今回行くのは夜でしかも殆どが子供よ?同じ寮の子が死ぬのもなんか嫌じゃない?」

 

「とりあえず死ぬかも知れないのですね・・・」

 

 

 パチュリーが小悪魔とそんな会話をしていると向こうに動きがあった。どうやらマルフォイが悪戯でネビルに背後から掴みかかり、パニックになったネビルが赤い火花を打ち上げたようだ。それによりハグリッドの提案でメンバーを変更し、ハリーとマルフォイ、そして1匹の犬がチームとなり再び別れた。パチュリーはすぐさま7冊の魔法書をハリー達のチームに付けて監視を続行した。

 

 

「全くドラコったら・・・危機感と言うものがないのかしら?」

 

「あぁ、この金髪坊やがパチュリー様が言っていたドラコですね?確かにちょっと危機感が無さそうですね〜?」

 

 

 小悪魔もパチュリーの隣から水晶を覗き込んでそんな事を言った。少しするとハリー達が死んだユニコーンを見つけた。2人と1匹が更に近付こうとしていると、反対側からフードをスッポリかぶった何かが現れてユニコーンの血を飲み始めた。

 

 

「うげぇ〜、なんですかあのフード?ユニコーンの血を飲んでますよ?アレ人間にはほぼ毒じゃありませんでした?」

 

「まぁね。・・・・・・っと、早速出番のようよ?」

 

 

 パチュリーが水晶を覗くとマルフォイと犬が叫びながら逃げ始め、原作とは違い、フードマン(即席で命名)はハリーに杖を向けていた。パチュリーはすぐさま3冊の魔法書をハリーの前に移動させて防御魔法を展開。放たれた魔法が防がれたのに驚いた様子のフードマンを周囲に浮かばせていた魔法書の内2冊が魔法で照らし、残り2冊が魔力の弾を撃ち込む。フードマンはなんとかその攻撃を防ぎ、足早に暗い森の中に去って行った。流石にもう来ないだろうと判断し、固まったまま魔法書を見ているハリーを残して魔法書を撤収させた。

 

 

「ふむ、実戦にも使えそうね。今度自動操作の魔法を開発しましょう。魔法書の放つ魔法も強化しないと・・・また忙しくなりそうよこぁ。その時は手伝ってね?」

 

「はい!分かりましたパチュリー様!私にお任せ下さい!」

 

 

 その後パチュリーは窓を開けて魔法書を全て回収し、小悪魔にヴワル大魔法図書館の研究室に仕舞って来るよう言ってベッドに入った。

 

 

 

 

 

 

 ハリー達が罰則を終えて数日後、パチュリー達は試験の日を迎えた。ハリー達はかなり苦戦しながらもなんとか試験を終えたが、実は試験初日から誰もパチュリーの姿を見ていなかった。

 実はパチュリーは先生方の判断で別室にてかなり高度な試験を行ったのである。普通の寮生達にはパイナップルを机の端から端までタップダンスをさせるとか、ネズミを嗅ぎタバコ入れに変えるなどと筆記と実技を合わせて行っていたが、パチュリーの場合は普段から他の生徒達とはレベルが違う成果を出していたので、10m離れた場所から2体の人形を魔法で操って台本どおりの劇をするとか、ティーカップを変身術で大型の動物に変える、用意された素材から魔法薬を出来る限り作るなど、普通の生徒達にやらせる物ではない試験を受けていた。しかもそれを見事にこなして見せたので先生達は満足そうにしていた。

 そしてパチュリーはみんなが試験を終える3日前から自由時間を与えられ、その間パチュリーは喜んで自室で自動操作の魔法を開発し始めた。

 

 

「ん・・ん〜〜!!はぁ。そろそろ休憩しましょうか。こぁ〜?私は少し外を出歩いて来るわよ?」

 

「はぁい!分かりました〜!私は少し大図書館に戻って本棚の整理をして来ますね〜!」

 

 

 パチュリーは小悪魔がトランクの中に消えていくのを見届けてからホグワーツ内を散歩し始めた。もう他の生徒達も試験を終えてあちこちで談笑したりお茶を飲んでゆっくりしていた。そんな様子を見てクスリと笑いながらフラフラと歩いていると、玄関ホールにハリー達3人がおり、辺りをキョロキョロ見回していた。

 

 

「あらハリー達じゃない。試験お疲れ様。何を探しているの?」

 

「あ、パチュリー!ねぇ聞きたい事があるんだ!校長室の場所を知らないかい?急いでいるんだ!」

 

 

 校長室?とパチュリーは首を傾げるも、原作を思い出してもうそんな時期かと納得した。現に今パチュリーは校長室の場所を知っている。まぁ偶々見つけただけではあるが・・・しかし今これを話して良いものかと迷っていた。パチュリーがいいにくそうにしていると、ホールの向こうからマクゴナガル先生が現れた。

 

 

「そこの4人、こんな所で何をしているの?」

 

「ダンブルドア先生にお目にかかりたいんです」

 

「私は違うわよ?私は3人に校長室の場所を聞かれただけ」

 

 

 ハリー達の言葉にパチュリーは付け加える。マクゴナガル先生はパチュリーは兎も角ハリー達は怪しいと疑いの目を向けてダンブルドア先生が数十分前にロンドンに向かった事を伝えた。ハリー達はその事に慌て、どうしても要件を伝えたいと訴えた。

 

 

「ポッター。魔法省の件より貴方の要件の方が重要だと言うんですか?」

 

「実は・・・・先生・・賢者の石の件なんです」

 

 

 その言葉にマクゴナガル先生は驚愕し、持っていた本をバラバラと落とした。パチュリーは浮遊の魔法で魔法書を浮かべ、落ちる前に自分の手の上に乗せた。マクゴナガル先生は「どうしてそれを・・・?」と呟いており、やがて口を開いた。

 

 

「ダンブルドア先生は明日お帰りになります。貴方達がどうしてあの『石』の事を知ったのか分かりませんが、安心しなさい。盤石の守りですから誰も盗むことは出来ません」

 

 

 その盤石の守りを入学して数週間後には突破して今私の部屋の机の上に置いてあるんですがと無性に突っ込みたいけど言ったら絶対に面倒臭くなるから黙ってましょう。

 パチュリーはマクゴナガル先生の自信満々な態度に苦笑いしながらもなんとか顔に出さずにいれた。

 

 

「でも先生・・・・」

 

「ポッター。二度同じ事は言いません。4人共外に行きなさい。せっかくの良い天気ですよ?」

 

 

 マクゴナガル先生は落とした本を拾おうとしたが、パチュリーが持っているのを見て礼を言った。

 

 

「ありがとうございます。ミス・ノーレッジ」

 

「私も手伝うわ。じゃあね3人共」

 

 

 そうしてマクゴナガル先生と一緒にパチュリーは3人と別れ、しばらく廊下を歩いた所で口を開いた。

 

 

「先生、さっき言っていた賢者の石の件はあまり人前で話さない方がいいですよ?それにあんな事言って3人がじっとしていると思ってますか?」

 

「貴女は知らなかったのですか?まぁ黙っていて下さいね。それに守りは完璧です。下手に手を出そうものなら相手は死に至るでしょう」

 

「・・・・・・それあの3人が守ろうとしたら死にませんか?」

 

 

 マクゴナガル先生はその言葉に石化したように固まり、パチュリーは溜め息を吐いてマクゴナガル先生の本を受け取った。

 

 

「場所は図書館でしょう?私が持って行きますからマクゴナガル先生はダンブルドア先生にふくろう便でも送ってください」

 

「わ、分かりました!礼を言いますよミス・ノーレッジ!!」

 

 

 マクゴナガル先生は足早に去って行き、パチュリーは本を浮かべて図書館を目指した。

 

 

「さて、となると今夜あの子達が動くわね・・・あの子達は恐れと言う物を知らないのかしら?」

 

 

 パチュリーの言葉は誰も居ない廊下に静かに響いた。



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七曜の魔女と賢者の石

 その日の夜、パチュリーは自身に不可視の魔法をかけて談話室の隅の椅子に座ってハリー達が動き出すまで魔法書を読んでいた。やはり150点も減点したハリー達に関わる者はおらず、次第に談話室の寮生は次々と寝室に向かって行った。リー・ジョーダンが伸びをして欠伸をしながら寝室に向かった頃、3人が動き出した。ハリーが階段を駆け上がって1度寝室に向かい、マントらしき物を持って戻って来た。

 

 

(へぇ?あれが透明マントね?確かに一般的なマントより完璧に近い状態で不可視の魔法がかかっているわ。私の魔法並の性能とは思わなかったわ)

 

 

 パチュリーはハリーの持つ透明マントを観察してそんな事を思っている。そのマントを見て今やっている研究が済んだら壁もすり抜ける透明マントを開発してみようと、またも魔法界中が驚愕する様な事を考えていた。

 

 

「ここでマントを着てみた方がいいな。3人全員隠れられるか試してみよう・・・・もしも足1本だけはみ出して歩き回っているのをフィルチにでも見つかったら・・・・」

 

「君達、何してるの?」

 

 

 3人とパチュリーは部屋の隅の肘掛け椅子の影からネビルが現れた。パチュリーの反対側の部屋の隅だ。手にヒキガエルのトレバーを掴んでいると言う事はまた自由を求めてネビルの元から脱走したのだろう。ハリーは急いで透明マントを後ろに隠して誤魔化した。

 

 

「なんでもないよ、ネビル。なんでもない」

 

「また外に出るんだろ?」

 

 

 意外に鋭いネビルに3人は後ろめたそうな顔をし、ネビルはそれを見つめていた。ハリーが柱時計をチラチラ見ているから恐らくスネイプ先生が賢者の石を盗むかも知れないとでも考えているのだろう。まぁ真犯人はクィレル先生ではあるが。

 

 

「ううん。違う、違うわよ。出てなんか行かないわ。ネビル、もう寝たら?」

 

「外に出てはいけないよ。また見つかったら、グリフィンドールはもっと大変な事になる」

 

「君には分からない事だけど、これはとても重要な事なんだ」

 

 

 ハリーの言葉を聞いても「行かせるもんか!」とネビルは急いで肖像画の前に立ち塞がった。普段のネビルからは考えられない行動だろう。

 

 

「僕、僕・・・君達と戦う!」

 

「ネビル!!そこをどけよ。バカはよせ・・・・」

 

「バカ呼ばわりするな!もうこれ以上規則を破ってはいけない!恐れずに立ち向かえと言ったのは君じゃないか!やるならやってみろ!!殴れよ!!いつでもかかって来い!!」

 

 

 原作で知ってはいたけど実際に見るとかなり必死になっているわね。やっぱりネビルはグリフィンドールで正解だわ。

 パチュリーがネビルに感心していたらハリーが弱り果ててハーマイオニーに頼り、ハーマイオニーは前に出た。

 

 

「ネビル、ほんとに、ほんとにごめんなさい。ペトリフィカス・トタルス、石になれ!」

 

 

 ハーマイオニーがネビルに全身金縛りの呪いをかけた。ネビルは両手両足をパチッと閉じ、一枚板の様にうつ伏せに倒れた。3人はネビルをそのままにして透明マントをかぶり、談話室を出て行った。パチュリーは仕方ないと思いながらネビルに浮遊魔法をかけて宙に浮かせ、近くのソファに寝かせた。突然の出来事にネビルは目に恐怖の色を浮かべる。

 

 

「安心しなさいネビル。今はゆっくり眠っていなさい」

 

 

 パチュリーはネビルに眠りの魔法をかけて眠らせてから呪いを解き、近くのクッションに変身魔法をかけて毛布に変えてネビルにかけた。

 

 

「全くハーマイオニーったら、『早く寝たら?』なんてあの状況じゃ『外に行くのに邪魔だから寝ててくれない?』って行ってる様なものよ?本当に抜けてるんだから・・・・その内とんでもない事しでかさないでしょうね?」

 

 

 パチュリーはハーマイオニーの言動に呆れながら先生方にバレないように学校中に探索魔法をかけた。

 ふむふむ、運良くフィルチはハリー達とは全く関係ない場所を歩き回っているわね。あ、ピーブスに出くわしているわね。まぁなんとかなるでしょう。問題のクィレル先生は?・・・・あらら?まだフリットウィック先生の部屋で飛び回っているわね。

 

 

「まだ鍵を見つけられていないのね?まぁ頑張りなさいとしか言えないけど」

 

 

 パチュリーは空間転移魔法で一気に賢者の石があった部屋に転移した。部屋は前とは違い、机は消えて代わりに大きな鏡があった。これが人の心の底にある強い望みを映し出す鏡・・・『みぞの鏡』である。

 

 

「みぞの鏡ねぇ・・・私にはいったい何を映し出してくれるのかしら?」

 

 

 パチュリーはみぞの鏡をチラリと見てからポケットから羊皮紙を1枚出し、変身魔法で木製の椅子に変えて魔法書を読み始めた。魔法書を読み続ける事約10分、みぞの鏡がある部屋の扉が開かれ、頭のターバンが特徴のクィレル先生が入って来た。彼は賢者の石を早く見つけようと部屋を見渡したが、パチュリーの姿を見つけて杖を構えた。

 

 

「お前は・・・パチュリー・ノーレッジか?何故君がこの部屋にいる?」

 

「あら?お芝居は辞めたのね。まぁ理由は特にないわ。あるとすれば・・・まだ見ていないみぞの鏡に何が映るかね」

 

「みぞの鏡?」

 

 

 クィレル先生はパチュリーの隣にあるみぞの鏡を見る。今この部屋にはパチュリーと椅子、そしてみぞの鏡だけだ。あるとしたらパチュリーが持っているかみぞの鏡に何かあるかの二択。しかしクィレル先生はダンブルドア先生が生徒に石を任せる筈が無いと一般論に基づいてパチュリーに命令する。

 

 

「そこをどきたまえノーレッジ。その鏡に用がある」

 

「えぇ、いいわよ?どうぞ好きなだけ用を済ましてちょうだい」

 

 

 パチュリーは大人しく魔法書を読みながらスタスタとみぞの鏡から離れた。大人しく従うパチュリーにクィレル先生は警戒したが、杖も出していない為すぐにみぞの鏡を観察し始めた。探しているとクィレル先生は鏡に自分の望みを見たらしく、鏡を凝視している。

 

 

「石が見える・・・ご主人様にそれを渡しているのが見える・・・しかしいったい石はどこだ?・・・ノーレッジ、君がみぞの鏡の前に立ちたまえ」

 

 

 しばらく鏡を調べていたクィレルは再びパチュリーに振り向き、今度はパチュリーに鏡の前に立つように言った。ちょうどパチュリーはそろそろ鏡の中を見たいと考えていたので魔法書を閉じ、鏡の前に立った。

 

 

「・・・・・そう。これが私の心の底から望む物なのね?」

 

 

 パチュリーがみぞの鏡の前に立つと、鏡の中にはヴワル大魔法図書館が写り、パチュリーが机に座って本を読んでいる。近くには小悪魔もいる。

 しかし、それだけではなかった。水色っぽい髪をし、背中に蝙蝠の様な翼を生やした小さな吸血鬼がニコニコ笑いながらパチュリーの本を覗き込み、パチュリーに水色っぽい髪をした吸血鬼にそっくりな金髪の吸血鬼が宝石の様な羽をパタパタ動かして背後から抱き着いている。銀髪のメイド服を着た少女もそれを微笑ましく見守り、本棚の側に赤髪の中国の武闘家の様な服を着てグリーンベレーをかぶった妖怪が立ったまま幸せそうに寝ていた。

 パチュリーはその光景を見てクスリと笑った。自分が望む物はてっきり新たな知識の数々か、新たな魔法の研究だと思っていたのに。意外にいい望みではないか。

 そんな風に思っていると、鏡の中のパチュリーがこちらを見て、ポケットから賢者の石を取り出した。そしてウインクをしてから再びポケットに戻す。するとパチュリーのポケットに重みを感じ、パチュリーがそれを取り出すと、中からパチュリーが魔法をかけた偽賢者の石が出て来た。

 

 

(う〜ん、これを見れたのは嬉しいけれど・・・自分が作った爆弾石を渡されても困るのだけれど?)

 

「そ、それは賢者の石!!ノーレッジ!!それを私に渡せ!!」

 

「え?あ、そう?じゃあどうぞ」

 

 

 パチュリーはクィレル先生に爆弾石を差し出した。クィレル先生はパチュリーのアッサリとした行動にキョトンとした。

 

 

「・・・・は?そんな簡単に渡していいのかね?」

 

「私は賢者の石なんかに興味は無いし、持っていても邪魔だから(というか早くこの爆弾石持って遠くに行ってほしいわ)」

 

 

 パチュリーはそんな風に考えながらどうぞと賢者の石を差し出す。普通ならヴォルデモートに開心術で心を読まれるかも知れないが、そこはパチュリー。完璧過ぎる閉心術に更に自作の魔法を重ねがけして全く読ませない。

 

 

「・・・・いいだろう。その聞き分けの良さに免じて君は殺さないでいてやる。では賢者の石を頂くとしよう」

 

 

 クィレル先生は差し出された賢者の石に手を伸ばし、パチュリーは賢者の石にクィレル先生が手を乗せたのに内心ホッとした。時限式の爆裂魔法が作動し、爆発まで後1時間。しかしパチュリーは念の為に時間を早め、爆発まで後30分にバレないように設定を変えた。これでOKと内心喜んでいると・・・

 

 

「ま、まさか貴方が!!?パチュリー君まで!!!スネイプだとばかり思っていたのに・・・」

 

 

 タイミング悪い事にハリーが部屋に入って来た。ハリーから見たらパチュリーがクィレル先生に賢者の石を渡している様に見えるだろう。

 

 

「やぁポッター。遅かったね。賢者の石は今ノーレッジから貰ったよ」

 

「パチュリー!!君まで『あの人』の仲間だったのか!!?友達だと思っていたのに!!!」

 

「いや、私は貴方達と友達になった覚えは無・・・あ、しまった」

 

 

 パチュリーはつい自分の本音を喋ってしまった。パチュリーからしたらハリー達はただの子供だ。大人の女性が幼稚園児に付き合っているようなものだ。まぁ「友達になって」と言われたら友達にはなるが、ハリー達からは何も言われていないから関係的にはハリー達の世話役?みたいな感じである。しかしパチュリーの言葉はハリーの怒りに触れたようで、ハリーは杖を2人に向けた。

 

 

「この裏切り者め!!賢者の石をこっちに渡せ!!」

 

「なんでこうなるのよ・・・貴方の所為よ?サッサと消えなさい」

 

「これは私の所為かね?まぁいいだろう。賢者の石は手に入った。私はこれで失礼しよう・・・・さらばだ」

 

 

 クィレル先・・・クィレルは懐から小さな箱を取り出し、蓋を開けた中からは蒼白い炎に可愛い目が2つある生物が出て来て、それを握り締めたクィレルごと自身を蒼炎で包み、部屋から消えた。

 ウィル・オ・ウィスプね?外敵に攻撃されると炎を出して遠くに転移する生物。確かにこれならホグワーツから姿現し擬きが出来るわね。

 パチュリーがクィレルの考えに少し感心していると、ハリーが杖を振って光の玉を飛ばして来た。なんの特殊効果もないが、当たれば大人でも吹っ飛ばせるだろう。パチュリーは魔法書を開いて防御魔法を展開して身を守る。

 

 

「君の!君の所為で!!ヴォルデモートが復活してしまう!!奴が何をやったか君は知らない訳じゃないだろう!!?」

 

「えぇ知っているわよ?でもあんな石ころ渡したぐらいで魔法を私に撃たないでくれないかしら?」

 

「気が狂ったか!?あの石がどんなものか教えた癖に!ヴォルデモートが復活すれば僕が殺されるんだぞ!!?」

 

「あ〜はいはい。分かってるわよ。・・・貴方も見てないでハリーを止めてくれないかしら?」

 

 

 パチュリーが扉の向こうに声を掛けると、扉が開いてダンブルドア先生が入って来た。ハリーは魔法を放つのを止め、ダンブルドア先生に駆け寄った。

 

 

「先生!!パチュリーが、パチュリーがクィレルに賢者の石を・・・」

 

「分かっておるよハリー。さて、パチュリー・ノーレッジ嬢?何故、クィレルに石を渡したのかね?お主は自分の意思で渡したんじゃろう?」

 

「当たり前よ。あんな石を守る為にハリーは命賭けるでしょうし?それなら渡した方がメリットがあるわ」

 

「ふむ、確かにハリーの命には変えられんじゃろう。しかし、ならば尚更あの石を渡すべきではなかった。その場で破壊するなりすれば良かったじゃろう」

 

 

 パチュリーの言葉に納得したが、賢者の石を渡した事にダンブルドア先生は咎めた。しかしパチュリーは涼しい顔をしながら前もって持って来ていた本物の賢者の石を別のポケットから取り出してダンブルドア先生に投げ渡した。

 

 

「それが本物の賢者の石よ。私がクィレルに渡したのは偽物の賢者の石。たかが変身魔法がかかった羽根ペンに命を賭けるべきじゃないわ」

 

 

 ハリーはダンブルドア先生の手にある石を凝視し、ダンブルドア先生は本物だと確認するとニッコリ微笑んで優しい目をパチュリーに向ける。

 

 

「ようやったノーレッジ嬢。なかなか面白い事をしてくれたのう」

 

「ふふっ、それじゃあ私は寮に戻るわ。お休みなさいお2人さん」

 

 

 パチュリーはクスリと笑いながら扉を潜って小悪魔のいる自分の部屋を目指して歩き出した。

 ・・・・話は変わるが、これから約25分後に、イギリスのとある廃墟が突然大爆発を起こし、焼け跡から1人の男性の遺体が見つかり、イギリス中でテロ事件だとしばらく話題になった。

 

 

 

 

 

 

 数日後の夜、スリザリンのカラーで飾られた大広間でパチュリーは学年度末パーティーに参加していた。あの夜からハリーには謝り続けられたりと面倒な事は少しあったが、今はハリー自身もパーティーに参加し、他の生徒達に見られまくっていた。しかしちょうどダンブルドア先生が前に立って話し始めた為、みんな静かになって聞いている。

 

 

「それではここで寮対抗杯の表彰を行う事になっとる。得点は4位、グリフィンドール345点。3位、ハッフルパフ352点。2位、レイブンクロー426点。そしてスリザリン、472点」

 

 

 その言葉にスリザリンの生徒達は嵐のような歓声を上げた。ハリー達や他の寮の生徒達はかなり不満そうである。

 

 

「しかし、つい最近の出来事も勘定に入れなくてはなるまいて」

 

 

 ダンブルドア先生の言葉に部屋全体がシーンと静かになった。ダンブルドアはえへん!と咳払いをして口を開いた。

 

 

「駆け込み点数をいくつか与えよう。先ず、ロナルド・ウィーズリー君。素晴らしいチェス・ゲームを見せてくれた事を称えてグリフィンドールに50点を与える。次に、ハーマイオニー・グレンジャー嬢。火に囲まれながら冷静な論理を用いて対処した事を称え、グリフィンドールに50点を与える。3番目にハリー・ポッター君。完璧な精神力と並外れた勇気を称えてグリフィンドールに50点を与えよう。そして、敵に立ち向かう勇気と同じくらい仲間に立ち向かうのにも勇気が必要じゃ。そこで儂はネビル・ロングボトム君に10点を与えたい」

 

 

 これによってスリザリン寮生は驚愕し、他の寮生達は轟音の様な歓声を上げた。しかしダンブルドア先生はそれを手で制した。

 

 

「最後に、これら全てをたった1人でやり遂げ、魔法使いの先生すら騙す程完璧な変身魔法をこなした・・・パチュリー・ノーレッジ嬢に、儂は100点を与える事とする。従って、飾り付けをちょいと変えねばならんのう」

 

 

 ダンブルドア先生が杖を振って部屋をグリフィンドール・カラーにすると同時にパチュリーは不可視と防音の魔法を発動し、小悪魔のいる自室に転移した。部屋に転移してからしばらくずっと遠くからグリフィンドール寮生の歓声が聞こえて来た。その夜はヴワル大魔法図書館でパチュリーは小悪魔と一緒に小さくも楽しいパーティーを行った。



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七曜の転生者と秘密の部屋
ダイアゴン横丁と書店の騒動


 1993年、1羽の梟が口に封筒を咥えてイギリスのとある森の上空を飛行していた。しばらく飛び続けていると森が途切れ、美しい花畑が見えて来た。色鮮やかな花々が咲き誇り、その中心辺りに梟に向かって手を振っている小悪魔がいた。

 

 

「あ!来ましたね!パチュリー様の占いは良く当たりますねぇ♪お〜い!こっちですよ〜!!!」

 

 

 小悪魔の姿を捉えて梟は降下して行き、差し出された小悪魔の腕に留まった。小悪魔は梟の口から封筒を受け取り、運んで来た梟を撫でてやる。梟は大人しく気持ち良さそうに撫でられている。

 

 

「よしよし、お疲れ様です。・・・・うん、ホグワーツからパチュリー様宛の手紙ですね」

 

 

 小悪魔は封筒を見てホグワーツから来た物だと確認し、他人には見えない花畑の中心に建つヴワル大魔法図書館への扉を開いて中に入った。天井につくほど高い本棚がいくつも並び、その全てに魔法や魔術、その他様々な知識が詰め込まれた本がズラリと並んでおり、中央の通路の先にある机にこの大図書館の主・・・パチュリー・ノーレッジが魔法書を読んでいた。パチュリーは小悪魔が近づいて来たのに気が付いて視線を魔法書から外して小悪魔を見た。

 

 

「お帰りなさいこぁ。占いは当たったようね?」

 

「はい!完璧に占い通りでしたよ♪どうぞパチュリー様、ホグワーツ魔法魔術学校から手紙です」

 

「ありがとう。どれどれ?・・・・」

 

 

 パチュリーは先程から読んでいた魔法書である『異次元空間を人工的に創り出す魔法の研究成果』に紫色の栞を挟んで机に置き、小悪魔に手渡された封筒の封を切って中を読み始めた。内容は去年とほぼ同じで、手紙を読み終えると同封されていた新学期の教材リストを見る。

 

 

「・・・・?ギルデロイ・ロックハート?誰よこれ?」

 

「?パチュリー様?如何されましたか?」

 

「えぇ、ちょっとね?新しく買わないといけない教科書があるのだけれど、著者の殆どがギルデロイ・ロックハートとか言う聞いたことのない魔法使いみたいなのよ」

 

「私も聞いたことありませんね。最近名をあげたんでしょうか?」

 

 

 小悪魔は梟を椅子に移して蝙蝠の様な羽をパタパタと動かして机を飛び越えてリストを覗き込んだ。パチュリーは小悪魔が見えやすい様にリストを動かした。小悪魔は礼を言って、どの様な教科書か少し興味を持ちながらリストを読む。

 

 

「あ、ありがとうございます。少々失礼しますね?・・・?『泣き妖怪バンシーとナウな休日』、『グールお化けとのクールな散策』、『鬼婆とのオツな休暇』、『トロールとのとろい旅』?・・・え〜と、なんですかコレ?保育園児の絵本か人外との旅行のパンフレットですか?」

 

「知らないわよ。まともそうなのがミランダ・ゴズホークの『基本呪文集(二学年用)』しか無いわ。しかもそのロックハートが闇の魔術に対する防衛術の教師らしいわ。こんな怪しい本を出す奴に務まるのかしら?」

 

「さぁ?いっそ先生方に掛け合ってパチュリー様が教師をなさいますか?」

 

「そうねぇ・・・・別にいいわ。面倒だし、それに私は杖を使わないのよ?確かに間に合わせで作った杖はあるけどアレただの木の枝みたいな物よ?」

 

「問題はパチュリー様と魔法界の差ですねぇ」

 

 

 小悪魔はパチュリーと魔法界との差の大きさを感じた。正直言ってパチュリーの持つ知識とヴワル大魔法図書館にある魔法書の数々は魔法界の魔法使いや魔女にとってそれこそ喉から手が出る程欲しい物だ。ヴワル大魔法図書館の魔法書1冊で魔法界で革命が起きる程には凄まじい物なのだ。まぁ手に入ったとしてもパチュリー程の知識が無いと読めはしても理解は出来ないが・・・

それにしても誰だったかしらねぇ?もう原作知識はあまり無いのよね。秘密の部屋編もバジリスクが出るぐらいしか覚えてないし。ま、そんな事より早めにこの本を買いに行かないとね。

 

 

「こぁ、水曜日にダイアゴン横丁に教科書を買いに行くけど・・・一緒に行くかしら?」

 

「え!!?いいんですか!?行く行く!行きます!!」

 

 

 小悪魔はパチュリーの言葉に羽をパタパタ動かしながら大喜びで同行すると返事した。パチュリーはそんな小悪魔を見て子供みたいねとクスクス笑いながら読んでいた魔法書を開いて続きを読み始めた。

 

 

 

 

 

 

 水曜日になり、教科書を買いに行く事にした。今のパチュリーは普段着ている東方projectのパチュリーの服装だ。パチュリーは読んでいる途中の魔法書を片手にワクワクした様子の小悪魔の羽と尻尾に認識阻害の魔法をかけてから空間転移魔法でダイアゴン横丁の人気の無い路地に転移した。路地を抜けるとそこは大勢の魔女や魔法使いが行き交う場所だった。小悪魔は興味深そうに辺りをキョロキョロ見回しては子供の様に騒いでいた。

 

 

「わぁ〜!!パチュリー様!ここがダイアゴン横丁ですか!?凄い活気ですねぇ〜♪!!」

 

「そう言えばこぁはここに来るのは初めてね?ずっと扉の近くの町で買い物をしていたから」

 

 

 ヴワル大魔法図書館の料理担当でもある小悪魔はいつも食料を扉の近くにある町の店で買っていた。ダイアゴン横丁は扉からかなり離れている為小悪魔は行く機会がなかったのである。しばらく小悪魔が興味を持った店を見て回っていると、パチュリーに声をかける少年が現れた。

 

 

「おや?そこに居るのは・・・パチュリーじゃないか。奇遇だね」

 

「あら?ドラコじゃない。貴方も買い物かしら?」

 

「まぁね?ちょっとした買い物さ」

 

 

 パチュリーと小悪魔が振り返ると、そこには金髪が特徴のドラコ・マルフォイが軽く手を振っていた。パチュリーがドラコと話していると、1人の大人の男性がパチュリーに話し掛けてきた。

 

 

「君がドラコが話していたパチュリー・ノーレッジかね?私はドラコの父、ルシウス・マルフォイだ。ホグワーツでは息子が世話になっている様だね?」

 

「あら、初めましてね?私はパチュリー・ノーレッジ。こっちの赤い髪の子がこぁよ。まぁドラコとは良く魔法薬学で一緒になるわね」

 

 

 パチュリーはルシウス氏と握手をしながら自己紹介をした。マルフォイとは初めて授業を受けてからずっとペアで魔法薬学を学んでいる。スネイプ先生が毎回ペアになる様に指示を出すのである。

 

 

「これからも息子と良くしてやってくれたまえ。どうかね?これから教科書を買いに向かうのだが、一緒に行かないかね?」

 

「じゃあご一緒させてもらうわ。ちょうど私も買いに来たんだし。こぁ、教科書を買いに行くわよ?」

 

「分かりましたパチュリー様!」

 

 

 元気に返事をした小悪魔の言葉にマルフォイ親子は首を傾げた。

 

 

「?パチュリー、その人は君の召使いなのかい?」

 

「まぁそんな所よ。私の家で一緒に暮らしているの」

 

 

 ドラコはへぇ〜なんて言いながら先頭を歩く小悪魔を見ている。しばらく道を進んでいると、目的地のフローリシュ・アンド・ブロッツ書店に辿り着いた。だが驚いた事に書店の前は物凄い人集りで、とてもただの書店に集まる人数ではなかった。互いに押し合って中に入ろうとしていた。

 

 

「ねぇ?あの書店はいつもあれだけの客が来るのかしら?」

 

「そんな訳ないよ。いったいどうしたんだ?」

 

「おそらくアレが原因だろう」

 

 

 ルシウス氏が指を差した先には、書店の上階に掛かった大きな横断幕だった。そこにはデカデカと文字文字が書いてあり、内容からしてギルデロイ・ロックハートのサイン会があるらしい。

 

 

「サイン会ねぇ?そんなに人気なの?ギルデロイ・ロックハートって?」

 

「サイン会開く位には人気なんじゃないですか?」

 

 

 パチュリーと小悪魔は互いに首を傾げるが、正直サインなんて要らないのでサッサと教科書を買って帰ろうと思い、マルフォイ達と教科書を買いに行く事にした。人混みの中を進んでなんとか必要な教科書を手に取り、レジに向かった。店員は忙しそうにしていたが、パチュリーが教科書をレジに置いてお金を払ったらちゃんと接客をしてくれた。パチュリーは買い取った教科書を小悪魔に渡して店の外に行こうとした。すると店の奥が騒がしくなり、客達が歓声を上げ拍手をしていた。何事かとパチュリー達がその方向を見ると、ギルデロイ・ロックハートと思われる男性がウインクして白い歯を見せており、その隣に何故か教科書の山を抱えたハリーがいた。

 

 

「なぁ〜にやってるんでしょうかあの子?」

 

「さぁね?それより何故かロックハートらしきあの男を見ていると弾幕を撃ち込みたくなるのだけど・・・こぁ、貴女は先に外に出てなさい。私はルシウス氏達とついでにハリー達と挨拶して来るわ」

 

「あ、分かりました。では入り口近くで待ってますね」

 

 

 小悪魔は教科書を抱えて店の外に出て行った。パチュリーはハリー達に会いに行こうと客の間をスルスル抜けて行くと、急に開けた場所に出た。どうしたのだろうと周囲を見ると、ルシウス氏と1人の男性が喧嘩をしていた。ハリー達が男性を応援しているからハリー達の関係者だろう。

 

 

「やっつけろ!パパ!」

 

「アーサー!ダメ!やめて!」

 

 

 ロンの兄のフレッドかジョージが『パパ』と呼んでいる為彼はロンの父親らしい。次々と本棚に体をぶつけ合っている為バラバラと売り物の本が落ちて行く。パチュリーは流石に止めようと思い、空間転移魔法で外に追い出そうと思ったが、先日完成した道具の実験をしようと手の上に2つの紫色のビー玉を転移させて2人目掛けて投げつけた。2つのビー玉は見事に2人に命中し、当たった瞬間ルシウス氏とアーサーと呼ばれたロンの父親は姿が掻き消えた。ハリー達は突然の出来事に驚愕し、2人の姿を探した。すると外の方で悲鳴が聞こえた。

 

 

「ふむ、実験成功ね。全く、あの2人の悪戯道具は作る甲斐があるわね」

 

「「あれ?パチュリーじゃん!さっきのは君がやったのか?」」

 

 

 パチュリーがビー玉を拾い上げるとフレッドとジョージがパチュリーを見つけた。それに反応してハリーやロン、ハーマイオニーにマルフォイもパチュリーを見た。

 

 

「パチュリー!君も来ていたのかい?パパはどこへ行ったの?」

 

「安心しなさい。外に追い出されただけよ。久しぶりねフレッド、ジョージ。依頼されていた物は出来たわよ。性能はさっき見せたわよね?」

 

「「マジかよ!?さっすがパチュリー!!」」

 

 

 フレッドとジョージはパチュリーからビー玉を受け取って眺め始めた。ハリー達はそれがなんなのか疑問に思った。

 

 

「ねぇ、それってただのビー玉だよね?それがどうしておじさん達が外に追い出される事と繋がるの?」

 

「へへっ♪驚けハリー、コレは俺とフレッドが発案してパチュリーに作ってもらっていた『追い出し玉』だ」

 

「コレを投げて相手にぶつけるとその人は建物の外に放り出されるんだ。正直コレは諦めていたんだけど、パチュリーに頼んで正解だった!」

 

「材料費も格安よ?ただのビー玉に私が魔法陣を刻んだだけ。だから1つ辺りビー玉1個分の値段よ」

 

 

 パチュリーの言葉にフレッド達はハイタッチし、ハリー達はあまりの技術に驚愕してパチュリーを凝視する。すると外から追い出されたルシウス氏とアーサー氏がボロボロになって戻って来た。

 

 

「いたたたた、腰を打った。いったい何が起きたんだ?」

 

「あら?戻って来たのね?じゃあフレッド、ジョージ、また何か作る物があったら言いなさい。貴方達の考える物はなかなか興味深いわ」

 

「マジ?じゃあこの羊皮紙に書いてあるやつ作ってくれよ!礼は完成品の4割でどうだ?」

 

「乗った。私も魔法の研究しているみたいで面白いわ。じゃあまた学校で会いましょう。ではルシウス氏、私はこれで。ハリー達もまたホグワーツで会いましょう」

 

「む?あ、あぁ。分かった。さらばだ」

 

「「完成を楽しみにしてるぜパチュリー!!」」

 

 

 パチュリーは手を振りながらハリー達と別れ、書店を出た。入り口近くの壁にもたれ掛かっていた小悪魔を連れて歩きだし、先程フレッドに渡された羊皮紙を読む。

 

 

「ふむふむ・・・置けば円の内側が5m程の落し穴になる『落とし縄』、相手の髪の毛を入れるとその人物を追いかけ回す『追いかけ人形』、壁に円を書くと内側が通り抜けられる『抜け穴羽根ペン』などなど・・・ふふふ♪あの2人が考える物はやっぱり面白いわ。こぁ、帰ったら早速作り始めるわよ。手伝ってくれるかしら?」

 

 

 パチュリーはクスリとあの兄弟の考えた道具を読んでから視線を小悪魔に移した。小悪魔は軽々と8冊の教科書を運びながら笑顔で頷いた。

 

 

「勿論ですパチュリー様!なんなりとお申し付け下さい♪」

 

「あら、頼もしいわね。それじゃあホグワーツに行くまでにいくつか作ってしまいましょう」

 

 

 パチュリーと小悪魔は再び人気の無い路地に入ってから空間転移魔法でヴワル大魔法図書館に転移し、教科書の束を机に置いてから研究室に向かった。これにより、フレッドとジョージの2人の悪戯は更にエスカレートする事になってしまうのだが、パチュリーと小悪魔の知ったこっちゃない。




皆様どうも☆桜椛★です。
私用により2月28日辺りまで活動を休ませて頂きます。誠に勝手ですがお許しください。


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乗り遅れと記憶の書き換え

 ダイアゴン横丁から帰ってから1ヶ月近くの時間が流れ、パチュリーはいつもの様に手に魔法書とトランクを持って駅のホームへやって来ていた。この1ヶ月でパチュリーはフレッドとジョージが発案した『落とし縄』と『抜け穴羽根ペン』を小悪魔との研究によって完成させており、他の道具も完成間近となっている。ただ今回研究に没頭し過ぎた為、ホグワーツ特急出発まで残り5分を切っていた。

 

 

「はぁ・・・まさかこの私が遅刻しかけるなんて。コレばっかりは私の不注意が原因ね。まぁ今年は興味深い物が手に入る筈だから気にしないようにしましょう」

 

 

 パチュリーは溜め息を吐きながらも明るい表情で駅のホームを歩いて行く。今年はホグワーツでバジリスクが現れる年だ。バジリスクとはホグワーツの『秘密の部屋』と呼ばれる所にいる巨大な蛇で、その瞳は目が合った生物を殺し、牙の毒は猛毒で、『不死鳥の涙』程の貴重な代物が無いと死に至る。パチュリーが狙っているのはそのバジリスクの猛毒である。バジリスクの猛毒は大魔法図書館に情報が載っていたが、その毒は数万単位の種類の毒が複雑に混ざり合っているぐらいしか書いていなかったのだ。この事に知識を欲するパチュリーとしては是非とも研究して解析し、人工的にバジリスクの毒を開発したいと思っていた。

 

 

(問題点はやっぱり原作と違う展開ね。しかもそのほとんどがハリー、または他の生徒達が死ぬもの。確かバジリスクはホグワーツのパイプの中を通っているとか言う話だったからこぁには部屋から出ないように言っておきましょう。・・・・・あら?これもしかして予想外の展開で今年死人が出たりしないかしら?)

 

 

 パチュリーがそんな事を考えながら歩いていると、ホグワーツ特急の出入り口になっている柱の前でハリーとロンの2人を見つけた。しかし2人共何故か柱を通らずにペタペタと触っていた。パチュリーは何をやっているんだと呆れながら2人に声を掛けた。

 

 

「ハリー、ロン。貴方達何やってるのよ?バカみたいな事やってないでさっさと柱を潜りなさい。時間押してるのよ?」

 

「あ、パチュリー!久しぶり・・・ってそれどころじゃないんだ!なんでか分からないけど柱を通る事が出来ないんだよ!」

 

「僕達が通ろうとしたらただの柱になっちゃったんだ。パパとママも向こう側にいるけどいつ戻ってくるか分からないし・・・」

 

「なんですって?・・・・退きなさい2人共」

 

 

 パチュリーは2人の言葉に眉をひそめ、ハリーとロンを横に退かして柱を調べた。手を突っ込もうとしても通り抜けず、冷たい柱の感触があるだけで、2人の言う通りこの柱にかかっていた魔法が綺麗に消えていた。

 

 

(どうやら誰かに魔法を解除されたみたいね。でもいったい誰が?・・・・あら?この魔力は・・・『屋敷しもべ妖精』?なんでこんなのが・・・あ、あ〜思い出した。確かハリーをホグワーツに行かせない為に1人の屋敷しもべ妖精が妨害工作をしていたんだったわね)

 

 

 パチュリーは柱を調べている内に気付いた魔力の残痕の波長が屋敷しもべ妖精と言う生き物特有の物と分かると同時に、原作の知識にハリーとロンが空飛ぶ車でホグワーツに行くのを思い出した。ちなみに言うとコレはパチュリーが200年生きている内に発見した事だが、魔力にはその生物特有の波長がある事が分かったのである。人間には人間の、妖精には妖精の波長があり、それぞれ同じ魔力でも波長が全く違うのである。

 

 

「どうだい?パチュリー?なんとかならないかな?もう1分を切っているんだ」

 

「ダメね。柱にかかっていた魔法が消えてる。直すにしてもこんな人目が付く場所で作業は出来ないわ」

 

「そ、そんなぁ!?それじゃあ僕達どうなるのさ!?あ、あぁ!出発しちゃった・・・・」

 

 

 パチュリーの言葉にロンが慌て始め、ホグワーツ特急が出発する時間になってしまった。ロンは時計を見ながら項垂れてしまった。ハリーもショックを受けていたが、周りを見渡すと自分達の事を見ている人が何人かいた為カートにトランクを乗せ直していく。

 

 

「ここを出た方が良さそうだ。車の側で待とう。ここは人目がつき過ぎるし・・・」

 

「ッ!!ハリー!車だよ!!ホグワーツまで飛んで行けるよ」

 

「でも、それは・・・・」

 

 

 ハリーが梟の入った籠を乗せ終わると同時にロンがそんな事を言い出した。しかしハリーの顔は微妙だ。何故なら魔法界では学校を卒業していない半人前の魔法使いが魔法を使うのは違法だからである。

 

 

「僕達困ってる。そうだろ?それに学校に行かなくちゃいけない。そうだろ?それなら半人前の魔法使いでも本当に緊急事態だから魔法を使ってもいいんだよ。なんとかの制限に関する第19条がなんとか・・・」

 

 

 それを聞いてハリーは興奮しだし、ロンに運転出来るのかと聞く。ロンはカートを押しながら任せとけと言いながらパチュリーの方を見た。

 

 

「パチュリー、君も乗って行くかい?この場合なら違法にはならないよ」

 

「遠慮しとくわ。私は私で行く手段があるから」

 

「そうかい。じゃあ運が良かったらホグワーツで会おう!行こうぜハリー!」

 

 

 ハリーとロンはそう言ってカートを押しながら出口に向かって走り去って行った。パチュリーとしてはこちらの方が好都合だ。正直パチュリー1人ならどうとでも出来るし、流石に子供の運転する空飛ぶ車に乗りたくはない。パチュリーはスタスタと人目が付かないように女子トイレの個室に入ってから探索魔法でホグワーツ特急の場所を確認し、空間転移魔法で転移した。バレないように少し強引だが列車の屋根の上に出て、人がいないのを確認して偶々空いていたコンパートメントの窓を開けて中に入った。

 

 

「はい、到着っと。全くもう。まさか態々登校する為に魔法を使ってこんな面倒な事をすることになるとは思わなかったわ」

 

 

 パチュリーは愚痴をこぼしながら席に座り、魔法書を読み始めた。今読んでいるのは『錬金術と魔法を組み合わせた自律思考型自動人形の開発に関する記録と開発方法』である。パチュリーは『七色の人形使い』ではないが、なかなかに興味深かった為つい最近から読み始めた。パチュリーがパラパラと魔法書を読んでいると、コンパートメントの扉が開き、ハーマイオニーが入って来た。

 

 

「あ!パチュリー!こんな所に居たのね!?どの車両を捜してもなかなか見つからなかったからもしかして乗り遅れたんじゃないかと心配していたのよ」

 

「(正解。)まぁギリギリ間に合ったのよ。ちょっと魔法書を読むのに夢中になっていてね」

 

 

 パチュリーは地味に鋭いハーマイオニーに心の中でなんでその鋭さを普段の行動に生かせないのかと呆れてた。

 

 

「あら?ハリーとロンは一緒じゃないの?」

 

「ん?あぁ、あの2人なら今頃列車の真上よ」

 

「・・・・・・はぁ?」

 

 

 ハーマイオニーは天井を指差しながら答えるパチュリーに首を傾げながらもコンパートメントの窓を開けて顔を出し、列車の上を見上げる。少しするとハーマイオニーがハリー達が乗った車を見つけたようで、窓ガラスが割れるんじゃないかと疑う程の悲鳴を上げた。

 

 

「キャァァァァァア!!?ちょっとハリー!!ロン!!貴方達いったい何をしているのよ!!?」

 

「あら?結構低い所飛んでたのね。後ハーマイオニー、悲鳴を上げるのは構わないけれどもう少し静かに上げられないのかしら?」

 

 

 パチュリーは叫び続けるハーマイオニーに注意しつつ、自分の耳を守る為に防音の魔法を発動し、ホグワーツに到着するまで魔法書を読み続けた。ハリー達が乗った車はハーマイオニーの悲鳴を聞いて姿を消しながら上へ上へと飛んで行った。

 

 

 

 

 

 

 無事にホグワーツ魔法魔術学校に到着し、歓迎会ムードの大広間でパチュリーは魔法書を読みながら組分け後の料理を待っていた。魔法書を読みつつあの2人はちゃんと死なずにホグワーツに到着しただろうかと考えていると、マクゴナガル先生が近付いて来た。おそらく別の生徒に用があるのだろうと気にせず魔法書を読んでいたが、マクゴナガル先生はパチュリーの側で立ち止まった。

・・・・え?何用ですか?

 

 

「ミス・ノーレッジ。少々お聞きしたい事があります。付いて来てくれますか?」

 

「お久しぶりですマクゴナガル先生。私が何かしましたか?」

 

「いえ、貴女は(・・・)何もしていません。ただ気になる事が耳に入ったので」

 

「・・・・分かりました。付いて行きます」

 

 

 パチュリーは席を立ち、マクゴナガル先生に続いて大広間を出て行った。しばらく薄暗い廊下を歩き続け、階段を降りて魔法薬学の教室でもある地下牢にあるスネイプ先生の研究室に入った。薄暗がりの壁の棚には悪の科学者のラボにありそうな不気味な物がガラス容器に入って並べられ、そんな部屋の中にはハリーとロン、そしてスネイプ先生とダンブルドア先生が立っていた。ハリーとロンの2人がパチュリーを見て驚愕した表情をし、顔を蒼ざめる。2人がここに居るのは理解出来るが、何故自分が呼ばれたのかと首を傾げていると、ダンブルドア先生がにこやかに笑いながら挨拶してきた。

 

 

「こんばんわパチュリー嬢。急に呼び出してすまんのう。ただこの2人から気になる事を聞いての。・・・・君も列車に乗り遅れてキングズ・クロス駅で別れたと言うのは本当かの?」

 

「・・・・えぇ、本当よ」

 

 

 パチュリーはこの言葉を聞いて全てを理解した。つまりハリー達は一応学校に着いたが、スネイプ先生辺りに捕まって理由を話したところ、ハリー・・・・は無いな。ロンが口を滑らして私もいた事を話した。しかし私はちゃんと列車から降りて来た事を確認している為疑問に思ったと言ったところだろう。パチュリーがハリーとロンを睨むと2人は申し訳なさそうに目を逸らした。

 

 

「ふむ、しかし君はキチンと列車から降りて来ているのを確認しておる。いったいどうやって列車に乗りこんだのかね?」

 

「さぁて?なんででしょうね?貴方は分かりますか?ダンブルドア先生?」

 

「う〜む、難しい問題じゃのう。サッパリ見当がつかんわい」

 

 

 はい嘘。ほぼ正解に近い答えは出ている。でも見た目少女の私にそんな事が出来るのかと疑っているわね。全くあの2人も面倒な事をしてくれたわね。

 パチュリーはにこやかに笑うダンブルドア先生を無表情を貫きながら観察する。顔は笑っているが、その目はこちらを警戒している目である。部屋の出入り口はマクゴナガル先生が塞ぎ、先程からスネイプ先生が開心術を仕掛けて来ている。まぁそんな事はパチュリーがさせる訳がないので、魔法で心を覗かれないようにガチガチに固めている。

 

 

「パチュリー嬢、この老いぼれに答えを教えてくれんかのう?答えてくれたらペロペロキャンディをやろう」

 

「それ本気で言っているのかしら?じゃあ今貴方が考えた答えを教えて下さる?」

 

「そうじゃのう・・・儂の予想では姿現しなどの魔法を使って列車に直接乗り込んだと思うのじゃが・・どうかの?パチュリー嬢?」

 

 

 あらあら、やっぱりホグワーツ魔法魔術学校の校長先生様はなかなか頭が回るわね。

 

 

「えぇ、半分正解よ。流石はダンブルドア先生ね」

 

「ほっほっ。それでも半分か、なかなか難しい問題じゃな。ではついでにもう1つだけ・・・・パチュリー・ノーレッジ嬢、君はいったい何者かね?」

 

「あら?そんな事は簡単よ。私はパチュリー・ノーレッジ。ただの魔女よ」

 

 

 パチュリーがニコリと笑いながら魔法書を開くと、スネイプ先生とマクゴナガル先生が杖を構えた。杖を取り出すものならすぐ様捕らえる気だろう。パチュリーはそれを横目にダンブルドア先生に質問する。

 

 

「じゃあダンブルドア先生、この事を知っているのはこの場にいる者達だけですか?私に答えさせておいて御自分は黙秘する・・・なんて事はしませんよね?」

 

「そうじゃのう。この事を知っているのは今この場にいる者だけじゃ。それがどうかしたのかのう?」

 

 

 パチュリーの質問にダンブルドア先生も目を細めて杖を取り出した。ハリーとロンは訳が分からないとパチュリーとダンブルドア先生を交互に見る。パチュリーはダンブルドアの返事を聞いて嘘ではない事を確認してホッと息を吐いた。

 

 

「そう。ちょっと聞きたかっただけよ・・・・ではお休みなさい。皆様」

 

「それはどう言う・・こと・・・じゃ?・・・・」

 

 

 ダンブルドア先生どころか、ハリーとロン、更にはマクゴナガル先生とスネイプ先生まで突然倒れ込み、スヤスヤと寝息をたて始めた。パチュリーが無詠唱で強力な眠りの魔法をこの部屋限定で発動したのである。パチュリーは溜め息を吐きながらパタンと魔法書を閉じる。

 

 

「全く、いきなりこんな面倒事を起こすなんて。ハリーとロンの2人には今度悪戯道具の実験台になってもらいましょう。さてと、記憶を書き換えるのって意外に難しいのだからこれきりにしてほしいわね。それにしてもダンブルドア先生も杖を出していないからって油断し過ぎよ」

 

 

 パチュリーは愚痴をこぼしながらも全員の記憶を書き換え、パチュリーはちゃんと最初から列車に乗っていた事にした。後は書き換えたのがバレない様に魔法を使った痕跡を消し、魔法でそれっぽく立たせて自分は部屋から退散し、十分離れた所で眠りの魔法を解除した。これでパチュリーへの疑問は全て無かった事になった。その後は大広間で食事を済ませ、去年と同じ部屋に入って眠りに就いた。翌日、ハリー達に確認を取ったが、ちゃんと書き換えは成功していた。



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吼えメールと薬草学

 記憶の改竄を確認してからパチュリーはハリー達と大広間に行って朝食を取っていた。今日の朝食はトーストと紅茶、後はベーコンエッグなどだ。それを片手で食べながらパチュリーはいつもの様に魔法書を読んでいる。パチュリーはいつも通りだが、あまり場の雰囲気は良くない。空と同じ様に見せる天井の魔法はどんよりした灰色の曇り空だし、ハーマイオニーはまだハリーとロンの登校方法が許せないらしく、素っ気ない態度でミルクの入った水差しにギルデロイ・ロックハート著作の『バンパイアとバッチリ船旅』を立てかけて読んでいた。因みにパチュリーは一応全て読み尽くしたが、ハッキリ言って保育園児が読んでも笑わない絵本以下の内容だった。言い過ぎだと思うだろうが、事実だ。今ハーマイオニーの読んでいる教科書にだって、『バンパイヤと船旅はバッチリだった』的な事が3割、ロックハートの趣味や好きな物の紹介や自慢話しが6割、残り1割に普通の教科書に載っている様な内容で書かれている。

 

 

「ハーマイオニー、貴女よくそんな教科書を読む気になれるわね。そんなにあの男を尊敬してるの?」

 

「何言ってるのよパチュリー!!ロックハート先生は素晴らしい魔法使いよ!?こんな素晴らしい教科書を書く上に、今年は彼が闇の魔術に対する防衛術の教師になって私達に教えてくれるのよ!!?それを・・・」

 

「あ〜分かったわ。私が間違ってた。ロックハートは素晴らしい魔法使いよ。(素晴らしい教科書?アレが?)」

 

 

 パチュリーは真剣に教科書を読むハーマイオニーに気になって質問したが、数時間はロックハートがどれ程素晴らしいかを説明されそうになったのですぐ様訂正した。すると頭上が騒がしくなり、100羽は超える梟達が旋回しながら朝食をとりながら友人と話したりしている生徒達に手紙や小包を落として行く。すると1羽の梟がハーマイオニーの近くの水差しに突っ込み、辺りに羽とミルクの飛沫を上げた。飛沫はパチュリーにも降り掛かったが、パチュリーが一瞬で張った自作の反射(・・)防御魔法の壁に当たって隣に座るロンとハリーの方に向かって飛んで行った。

 

 

「エロール!!・・・・大変だ・・」

 

「大丈夫よ。まだ生きているわ」

 

「そうじゃなくて・・・・あっち」

 

 

 自分に飛沫がかかっても気にも止めず、ロンはエロールと呼ばれる気絶している梟の口にある赤い封筒を指差しながら顔を青くしている。しかもロンだけでなく、何故かネビルもその封筒を今にも爆発するんじゃないかと疑う様な目つきで見ている。パチュリーは嘴からその封筒を手に取って確認する。

 

 

「『吼えメール』ね。ロンのお母さんからよ。早く開けなさい。とんでもない事になるわよ?」

 

「ねぇ、パチュリー。吼えメールって何?」

 

 

 ロンは差し出された封筒を爆弾を扱うかの様に受け取り、ハリーはパチュリーに質問するが、パチュリーは「まぁ見てなさい。耳を塞いで」と自分に防音魔法をかける。ネビルも耳を塞いだ時にロンが吼えメールを開封し、ハリーは吼えメールについて理解した。

 

 

『車を盗み出すなんて退学処分になっても当たり前です!!首を洗って待ってらっしゃい!承知しませんからね!?車が無くなっているのを見て私とお父さんがどんな思いだったか!お前はちょっとでも考えたのですか!?昨夜ダンブルドアからの手紙が来てお父さんは恥ずかしさのあまり死んでしまうのではと心配しました!こんな事をする子に育てた覚えはありません!!』

 

 

 吼えメールは普通の人の声の100倍前後の大音量でロンに怒鳴り始めた。その声は大広間中に響き渡り、生徒達全員が誰が吼えメールを貰ったのかと探し始めた。ロンは恐怖のあまり椅子に縮こまってしまっている。

 

 

『今度規則を破ってごらん!!私達がお前をすぐ家に引っ張って帰ります!』

 

 

 吼えメールはそれを最後に炎となって燃え上がり、チリチリの灰になった。ハリーとロンは固まっており、周りの生徒達は笑い声を上げていた。パチュリーは防音魔法を解除してロンに無表情な顔で一言。

 

 

「・・・・自業自得よ」

 

「もう少しオブラートに包んでくれない?パチュリー」

 

 

 

 

 

 

 今パチュリー達グリフィンドール寮生とハッフルパフ寮生は薬草学を受ける為に魔法の植物が植えてある温室にやって来ていた。少しすると包帯を持った魔女のスプラウト先生と、何故一緒にいるのか不明だがロックハートがにこやかに笑いながら歩いて来た。ロックハートは生徒達に挨拶をし、ハリーを見つけると「ハリー!君と話がしたかった」とスプラウト先生の許可も取らずハリーを連れて温室を出て行った。まぁ2、3分で戻って来たが・・・。

 

 

「今日はマンドレイクの植え替えをやります。マンドレイクの特徴が分かる人はいますか?」

 

 

 その言葉を聞いてハーマイオニーがビシッと手を挙げた。

 

 

「マンドレイク、別名マンドラゴラは強力な回復薬です。姿形を変えられたり、呪いをかけられたりした人を元の姿に戻すのに使います」

 

「たいへんよろしい。グリフィンドールに10点。マンドレイクは大抵の解毒剤の主成分になります。しかし、危険な面もあります。誰か理由を言える人は?」

 

 

 スプラウト先生の次の問題にハーマイオニーはハリーの眼鏡に手を引っ掛けそうになりながらも再び手を挙げた。

 

 

「マンドレイクの泣き声はそれを聞いた者にとって命取りになります」

 

「その通り。もう10点あげましょう。さて、ここにあるマンドレイクはまだ非常に若い。まだ苗ですから泣き声も命取りではありません。しかし苗でも皆さんを間違いなく数時間は気絶させるでしょう。新学期最初の日を気を失ったまま過ごしたくないでしょう?耳当ては作業中しっかりと離さないように。さぁ、みんな耳当てを1つずつ取って」

 

 

 スプラウト先生の合図で生徒達は耳当てを取ろうと揉み合いになった。パチュリーはあまりその中に入りたくなかった為、残り物を使おうとしたが、ピンクのふわふわした耳当てで心の中で『失敗した・・・』と少し後悔していた。

 

 

「後片付けをする時間になったら私からそのように合図します。1つの苗床に4人・・・・植え替えの鉢はここに十分あります。・・・堆肥の袋はここです。『毒触手草』に気をつけること。最近歯が生えて来ている最中ですから」

 

 

 スプラウト先生は生徒達にそんな風に注意しながら自分の肩の上にソロソロと長い触手を伸ばしていた棘だらけの暗赤色の植物をバシンッ!!と引っ叩いき、その植物は伸ばしていた触手を引っ込めた。生徒達はグループを作る為に歩き回り、パチュリーもグループを作ろうと動こうとすると、毒触手草が自分にも触手を伸ばそうとしているのに気付いて睨みながら「消し炭にするわよ?」と小さく呟いたらスプラウト先生に引っ叩かれた時と比じゃないスピードで触手を引っ込めた。そんな事がありつつ、パチュリーはようやくハッフルパフの生徒3人とグループを組む事になった。先ずスプラウト先生が手本として用意したマンドレイクを植え替えて見せた。マンドレイクは人間の赤ん坊の頭に葉っぱが生えたような容姿をしており、植木鉢から引っこ抜いた瞬間強烈な泣き声を上げた。手本が終わると次は生徒達の番なのだが・・・。

 

 

「おい!次は鉢をこっちに持って来て穴を開けるんだったか!?」

 

「えぇ!?なんだって!?水をやるのか!?」

 

「バカ何ジョウロを手に取っているんだよ!?アレはマンドレイクを黙らせてくれって言ってんだよ!!」

 

「何ぃ!?なんて言った!?聞こえないよ!!」

 

(人選を間違えたわ・・・)

 

 

 パチュリーと組んだ3人はスプラウト先生の手本を真面目に見ていなかった上に、その後の注意事項もペチャクチャと話し合っていて全く聞いていなかった。流石に耳当てを着けてマンドレイクを植木鉢から引っこ抜く事は分かっていたが、それから先が全く分かっておらず、果てには耳当てを着けているのに大声を出して質問し合っている。パチュリーも声は聞いていないが、マンドレイクが暴れ出して慌てているのは見て分かった。既に他のグループはマンドレイクを植え替え、パチュリーのグループが終わるのを眺めながら待っている。スプラウト先生もなんとなく不機嫌そうに見えたので、パチュリーは溜め息を吐きながら3人を植木鉢から遠ざけてマンドレイクを引ったくった。パチュリーはマンドレイクを泣き止ませ(・・・・・)、大人しくなったマンドレイクを優しく机に置いて植木鉢の準備を整え、再びマンドレイクを持って植木鉢のに入れて上から土を被せた。パチュリーは手をパンパンと叩いてから耳当てを外した。

 

 

「ふぅ。スプラウト先生、終わりましたよ・・・・って、どうしました?」

 

 

 スプラウト先生は目を見開いて口をパクパクさせてパチュリーを見ており、グリフィンドール寮生ハッフルパフ寮生達もパチュリーを凝視していた。パチュリーは自分が何がしたかと疑問符を浮かべ、少ししてようやく我に返ったスプラウト先生が口を開いた。

 

 

「ミ・・・ミス・ノーレッジ?貴女、今何を・・・・?」

 

「え?スプラウト先生が仰った通りにマンドレイクの植え替えをしましたが・・・・何か?」

 

 

 パチュリーは何がスプラウト先生をそうさせたのか分からなかったが、近付いてきたハーマイオニーの説明でようやく理解した。

 

 

「パチュリー?マンドレイクは普通、土の中に入れるか、首の部分を切断させない限り泣き止まず、暴れ続けるのよ?でも貴女今、そのマンドレイクを泣き止ませたわよね?」

 

 

 あ〜・・・またやっちゃったわ。魔法界ではマンドレイクの泣き止ませ方はまだ判明してなかったんだったわね。つい私の知識通りに作業しちゃったわ。

パチュリーは額に手をやりながら自分の無意識の行動に呆れた。パチュリーは少し考えてから別に言ってもいいかとみんなに説明した。

 

 

「え〜っと・・・マンドレイクは人間の赤ん坊と同じで、泣き止ませる事は簡単なのよ。むしろ一度泣き止んだら再び葉っぱの部分を引っ張らない限り泣き喚いたり暴れたりはしないから普通の赤ん坊より単純よ?私達が葉っぱの部分を持っている時に泣き喚くのは、人間の赤ん坊に例えると髪の毛を掴んで持ち上げているみたいなものだから。キチンと扱えば大人しいし、許可を貰えば生え替わる手足や花の花弁をくれるわ」

 

「そ、それは本当なのですか!?ミス・ノーレッジ!!」

 

「え、えぇ。だったら試してみてはどうですか?」

 

 

 いつのまにか近付いて肩を掴んだスプラウト先生に若干引き気味になりつつパチュリーは試してみるように言った。先生は少し顎に手を当てて考え込むと頷いて生徒達に耳当てを着けるように指示を出し、まだ植え替えていないマンドレイクの鉢を持って来た。生徒達はよく見える場所に移動し、スプラウト先生とマンドレイクの植木鉢を観察する。スプラウト先生はマンドレイクを引っこ抜き、泣き喚くマンドレイクを人間の赤ん坊を抱っこするように抱え直した。すると直ぐにマンドレイクはピタリと泣くのを止め、大人しくなった。スプラウト先生は信じられないと言いたげな表情でマンドレイクとパチュリーを交互に見て、パチュリーがやった様に優しく机に置いて植木鉢を準備して再び優しく持って中に入れて土を被せた。スプラウト先生は耳当てを外して素早くパチュリーの元にやって来て肩をパンパンと叩いた。

 

 

「素晴らしい!!素晴らしいですよミス・ノーレッジ!!今まで誰も解明出来なかった事を解明するなんて!!長い事薬草学の教師をやって来ましたが、この様な事は初めてですよ!?グリフィンドールに20点与えます!!」

 

「あ、あはは・・・ありがとうございます。後肩痛いので叩くのは止めて下さい。(アッカンわコレ。完全にミスしたわ。スプラウト先生キャラ変わりすぎでしょう・・・さっきまでロックハートの所為で不機嫌だったのに)」

 

 

 パチュリーは叩かれる痛みに顔をしかめながら自分の無意識の行動に段々と後悔し始めた。去年も魔法薬学で似た様な状況になり、あれ以来スネイプ先生のお気に入りにされたのを思い出した。周りの生徒達はコソコソとパチュリーを見ながら話し合っており、一部の生徒達はパチュリーに尊敬の眼差しを向けたりしていた。その後、話を真面目に聞いていなかった3人はそれぞれ5点ずつ減点し、その後泥を洗い落として次の授業である変身術のクラスに向かった。ただ、なんでもロンは空飛ぶ車で『暴れ柳』と言う木に突っ込んだ時に自分の杖をポッキリと折ってしまったらしく、コガネムシをボタンに変えようと頑張っているハリーの隣で火花を散らしたり、腐った卵の様な匂いがする灰色の煙を出したりしていた。更に煙で手元が見えずに肘でコガネムシも潰してしまい、新しいのをマクゴナガル先生からいただいていた。マクゴナガル先生はそんな2人を見てご機嫌斜めになったが、パチュリーがマクゴナガル先生に出された課題を完璧に済ませた事で機嫌を直し、グリフィンドールに5点与えた。ついでに言っておくと、今回パチュリーがマクゴナガル先生に出された課題は、蝿を懐中時計に変身させる事だった。



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ハリーのファンとロックハートの授業?

 昼食の時間になり、パチュリーとハリー達は大広間で食事をしていた。ハーマイオニーは先程の変身術の授業で作った完璧なコートのボタンをいくつもハリーとロンに見せつけており、杖が真っ二つに折れたロンは物凄く不機嫌になっていた。パチュリーは既に食べ終えて紅茶を片手に魔法書を読んでいる為、ハリーが慌ててハーマイオニーの自慢話から話題を変えた。

 

 

「そ、そう言えば午後の授業なんだったっけ?」

 

「闇の魔術に対する防衛術よ」

 

 

 ハリーの問いにハーマイオニーはマクゴナガル先生から渡された時間割表を見ながらすぐに答えた。ロンはハーマイオニーから時間割表を取り上げて確認すると、「ん?」と首を傾げながら時間割表を指差してハーマイオニーに質問した。

 

 

「ねぇ、君、ロックハートの授業を全部小さいハートで囲んであるけど、どうして?」

 

「へ?・・・・・ッ!!!!///」

 

 

 ハーマイオニーは一瞬気の抜けた返事をしてからリンゴの様に顔を真っ赤にしてロンから時間割表を引ったくった。ロンやハリーは何故ハーマイオニーがそうなっているのか訳が分からない様子だったが、流石に200年以上生きているパチュリーには理由がすぐに分かった。

 ハーマイオニーったら・・・そんなにあの男のファンになったの?まぁ精々学生がテレビのアイドルが好きになったレベルの事ではあるけれど、あの男の何処にそんな好意を持てるか分からないわね。ハートで囲むって・・・・。

 パチュリーは聞かなかった事にしようと魔法書に視線を落とし、3人が出て行くのに合わせて曇り空の中庭に出た。ハーマイオニーは石階段に腰掛けてロックハートの教科書を夢中になって読み始め、パチュリーは隣に座って読書。ハリーとロンはクィディッチの事について立ち話を始めた。しばらくパチュリーが読書を続けていると、薄茶色の髪をした小柄な少年がマグルのカメラをしっかり持ってハリーと興奮した様子で話をしていた。

 

 

「ハリー、元気?僕・・・僕、コリン・クリービーと言います。僕もグリフィンドールです。あの・・・もし、構わなかったら、写真を撮ってもいいですか?」

 

「写真?・・・」

 

 

 コリンと名乗る少年はカメラを持ち上げながらハリーに許可を求め、ハリーは何故写真なのか分からずつい鸚鵡返しに聞き返した。コリンはジワリジワリと近寄りながら熱っぽく理由を語る。

 

 

「僕、貴方の事はなんでも知ってます。みんなに聞きました。『例のあの人』が貴方を殺そうとしたのに生き残ったとか、『あの人』が消えてしまったとか、今でも貴方の額に稲妻形の傷があるとか!同じ部屋の友達が写真をちゃんとした薬で現像したら写真が動くって教えてくれたんです」

 

(うわぁ、その内ストーカーじみた事したりしないでしょうね?この子。ハリーも面倒な子に懐かれたわねぇ)

 

 

 パチュリーはハリーに向かって熱く興奮した様子で語り続けるコリンを少し引き気味に観察しながらそんな事を考えた。コリンの勢いに押されて少し仰け反っているハリーに少しの同情を覚えた。

 

 

「貴方の友達に撮ってもらえるなら、僕が貴方と並んで立ってもいいですか?それから写真にサインしてくれますか?」

 

「あら、サインですって。ハリー、貴方随分と有名なスターになれたわね。おめでとう。祝いの品は百味ビーンズでいいかしら?」

 

「パチュリー、頼むから今はからかわないでくれないかな?出来れば助けて欲しいんだけど?僕サインなんかした事ないし・・・」

 

「サイン入り写真?ポッター、君はサイン入り写真を配っているのかい?」

 

 

 パチュリーがサインと言う単語を聞いてクスリと笑ってハリーをからかっていると、マルフォイがクラッブとゴイルの2人を従えて痛烈な声でハリーに絡み始めた。

 

 

「あら、ドラコじゃない。ダイアゴン横丁以来ね」

 

「やぁパチュリー。君も相変わらず元気そうだね。また難しい魔法書を読んだりして・・・っと、それよりもみんな並べよ!ハリー・ポッターがサイン入り写真を配るそうだ!」

 

「僕はそんな事していないぞ!マルフォイ、黙れ!」

 

 

 マルフォイはパチュリーに軽く挨拶をしてからいつのまにか周りに群がっていた生徒達に呼びかけ、ハリーは握り拳を握りながら怒鳴り声を上げる。更にはコリンとロンまで参戦するが、マルフォイは気にした様子も無く、甲高い突き刺す様な声色で「今度ちょっとでも規則を破ってごらん!」と、吼えメールの真似をしてロンを挑発する。遂にロンがテープでくっつけた杖をサッと取り出したが、そこにロックハートが「いったい何事かな?」と大股で歩いて来た。パチュリーはロックハートの登場に顔を顰め、ハリー達から距離を取った。

 

 

「サイン入り写真を配っているのは誰かな?聞くまでもなかった!ハリー、また逢ったね!」

 

 

 ハリーはロックハートに羽交い締めにされ、「さぁ、撮りたまえ!」とコリンにニッコリ微笑見ながら写真を撮る様促す。コリンは慌ててカメラを構え、カシャッとシャッターを下ろして写真を撮ったちょうどその時、午後の授業が始まる合図のベルが鳴った。パチュリーは魔法書に紫の栞を挟んでハリーに心の中で『まぁ、頑張れ』と告げてサッサと教室に向かった。

 

 

 

 

 

 

 パチュリーはハリー達より一足先に教室に入り、1番後ろの端の席に座った。次第にクラスメート達がドタバタと入室し、1番最後辺りにロックハートに捕まっていたハリーと、ロンとハーマイオニーが入って来た。ハリー達も1番後ろの席にハリーを中心に座り、机の上にロックハートの教科書全7冊をおいた。クラス全員が席に着くと、ロックハートは大きく咳払いをし、ネビルの机にあった教科書を1冊取り上げて、ウインクしている自身の写真を高々と掲げて同じ様にウインクしながらロックハートは「私だ」と言った。

 

 

「ギルデロイ・ロックハート。勲三等マーリン勲章、闇の魔術に対する防衛術連盟名誉会員、そして『週刊魔女』5回連続『チャーミング・スマイル賞』受賞。・・・・もっとも、私はそんな話をするつもりではありませんよ?バンドンの泣き妖怪バンシーをスマイルで追い払ったわけじゃありませんしね!」

 

 

 ロックハートはドヤ顔で笑いを待ったが、数人が曖昧に笑っただけだった。パチュリーは大丈夫かこの教師?とかな〜り不安になったが、一応表情に出さない様にした。

 

 

「全員が私の本を全巻揃えた様だね?大変よろしい。今日は最初にちょっとミニテストをやろうと思います。心配ご無用・・・君達がどのぐらい私の本を読んでいるか、どのぐらい覚えているかをチェックするだけですからね・・・・・では、30分です。よーい、始め!」

 

 

 ロックハートは全員にテストペーパーを配り終え、教室の前の席に戻って合図した。パチュリーは羽根ペンを手に持って問題を読む。

 

 

問1.ギルデロイ・ロックハートの好きな色は何?

 

問2.ギルデロイ・ロックハートのひそかな大望は何?

 

問3.現時点までのギルデロイ・ロックハートの業績の中で、あなたは何が1番偉大だと思うか?

問54.ギルデロイ・ロックハートの誕生日はいつで、理想的な贈り物は何?

 

「・・・・・・・・フンッ!」

バリィッ!!

 

 

 パチュリーは問題を全て読み終えると、テストペーパーを両手で持って真っ二つに引き裂いた。念の為防音の魔法で音が聞こえない様にしていたが、隣の机に座っていたロンはパチュリーが無表情でテストペーパーを引き裂いたのを見て「わぉ・・」と呟いていた。パチュリーはすぐに我に返ってテストペーパーを直したが、問題は1問も解かず、自分の魔法書に自分だけに見えるように設定した不可視の魔法をかけて読み始めた。

 30分経過して、ロックハートはテストペーパーを全て回収し終えて全員の前でバラバラとめくった。

 

 

「チッチッチ・・・私の好きな色はライラック色だと言う事をほとんど誰も覚えていない様だね。『雪男とゆっくり一年』の中でそう言っているのに。『狼男との大いなる山歩き』をもう少し読まなければならない子も何人かいる様だ・・・第12章でハッキリ書いている様に私の誕生日の理想的な贈り物は、魔法界と非魔法界のハーモニーですね!・・・もっとも、オグデンのオールド・ファイア・ウィスキーの大瓶でもお断りはしませんよ!」

 

 

 ロックハートはいたずらっぽくウインクしながら次々と指摘していく。ハーマイオニーはそんなロックハートの言葉にうっとり聞き入っており、突然ロックハートがハーマイオニーの名前を呼んだ時は肩をビクゥ!と震わせた。

 

 

「・・・・ところが、ミス・ハーマイオニー・グレンジャーは私のひそかな大望を知ってましたね。この世界から悪を追い払い、ロックハート・ブランドの整髪剤を売り出す事だとね・・・良く出来ました!それに・・・・満点です!まったく素晴らしい!グリフィンドールに10点あげましょう!」

 

 

 ロックハートの言葉にハーマイオニーは頭がオーバーヒートするのではないかと心配になる程顔を真っ赤にし、他の生徒達はやっぱりかと言う様な目線でハーマイオニーを見ていた。少しだけ騒ついた教室だが、ロックハートの「ですが・・・」と言う言葉を聞いて静かになった。

 

 

「このクラスに1人だけ、1問も解けるどころか手を付けられなかった者がいます。何故、白紙なのかな?ミス・パチュリー・ノーレッジ?」

 

 

 パチュリーの名前を聞いて全員が『まさか!!?』と思いながらバッとパチュリーの方を見た。それもその筈、現在グリフィンドールどころか、ホグワーツの生徒の中で1番成績が良いのはパチュリーなのだ。試験すら満点だった彼女が0点を取ったのが信じられなかった。パチュリーはチラッとロックハートを見てから口を開いて理由を述べた。

 

 

「やる必要が無かったから。以上よ」

 

「は?・・・ゴホンッ!え〜っと?それはどう言う事かn・・・」

 

「そのままの意味よ。貴方の個人情報なんて私の知識に入れる価値どころか、授業で学ぶ価値すら無いから覚える必要はないわ」

 

「ッ!?はぁ、私は君に失望しましたよ。グリフィンドールから5点減点だ。・・・・・では、授業ですが・・・」

 

 

 ロックハートはそう言いながら机の後ろに屈みこんでいるが、生徒達はパチュリーを凝視していた。しかし、ハーマイオニーを除いてその目は批難している訳ではない。むしろロックハートに堂々とした態度で言い切った事を口や動作に出さずに賞賛していた。ロックハートが覆いのかかった籠を持ち上げて机の上に置いたのと同時に生徒達は前を向いた。

 

 

「さぁ!気を付けて!魔法界の中で最も穢れた生き物と戦う術を授けるのが私の役目なのです!この教室で君達はこれまでにない恐ろしい目に遭うことになるでしょう。ただし、私がここにいる限り、何物も君達に危害を加えるものはないと思いたまえ。落ち着いているよう、それだけをお願いしておきましょう。・・・・どうか、叫ばないようお願いしたい。連中を挑発してしまうかもしれないのでね」

 

 

 ロックハートは低い声で言いながら、全員が息を殺したのを見てからバッと覆いを取り払った。籠の中には20cm程の群青色で、とんがった頭をしてキーキー鳴きながら羽根を使ってビュンビュン飛び回る小さな小妖精がいた。ロックハートはそれらを見せる様にしながら芝居染みた声を出した。

 

 

「捕らえたばかりのコーンウォール地方のピクシー小妖精!!・・・・・ん?どうしたのかね?」

 

「あの、こいつらがその・・・そんなに〜・・・えっと、危険、なんですか?」

 

 

 恐怖の叫びを期待していたロックハートは笑い掛けながら吹き出したシェーマス・フィネガンに質問し、シェーマスは笑いを殺すのにむせ返りながらも疑問を口にした。ロックハートはたしなめる様に指を振りながら「思い込みはいけません!」と注意した。

 

 

「連中は厄介で危険な小悪魔になりえますぞ!」

 

(私の小悪魔はピクシー小妖精なんかみたいにバカじゃないし、ピクシー小妖精は悪魔にならないわよ)

 

 

 パチュリーはロックハートをジト目で睨みつけるが、ロックハートは全く気付く事なく、ピクシー小妖精が入っている籠の戸に手を掛けた。

・・・・は?ちょっと待ちなさい。貴方まさか・・?

 

 

「さぁ、それでは・・・君達がピクシーをどう扱うか・・やってみましょう!!!」

 

 

 ロックハートは声を張り上げながら籠の戸を開けた。途端にピクシー小妖精達は教室で暴れまわる。ネビルをシャンデリアに引っ掛けるわ、インクを撒き散らすわ、本やノートを引き裂くわと、その暴れようは嵐の様だった。ロックハートが仕方ないなぁと杖を取り出して呪文を唱えるが、魔法は不発し、杖はピクシー小妖精に取られて窓の外に捨てられてしまった。終業のベルが鳴り響き、生徒達が我先にと扉から逃げ出して行き、反射防御魔法でピクシー小妖精を跳ね返していたパチュリーとハリー達も教室から出ようとすると、ロックハートが呼び止めた。

 

 

「さぁ、その4人にお願いしよう。その辺に残っているピクシーをつまんで、籠に戻しておきなさい」

 

 

 そう言い残してロックハートはスルリと逃げる様にパチュリー達の間を通って後ろ手で扉を閉めて去って行った。ロンは「耳を疑うぜ」と呟きながら隣を見てギョッとし、反対側にいたハリーとハーマイオニーの肩をチョンチョンと叩いた。何事かとロンの方を見ると、怒りのオーラ的な物を纏って青筋を浮かべているパチュリーを見てロン同様にギョッとした。

 

 

「ぱ・・・・パチュリー?」

 

「や・・・や・・・・やってられるかぁー!!!木符『シルフィホルン』!!」

 

 

 パチュリーが宣言すると、葉っぱの様な緑色の弾幕が教室を飛び回るピクシー小妖精達に襲い掛かり、その全てを迎撃してしまった。パチュリーは教室の隅で縮こまっているハリー達を見ながら「後はよろしく」と言い残して出て行った。ハリーとロンとハーマイオニー、ついでにシャンデリアに引っ掛かったネビルは、この時心の中でパチュリーを怒らせない様にしようと誓い、弾幕によって全滅したピクシー小妖精達を籠の中に戻した。



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絶命日パーティーと本当の首無しニック

 あの授業とは言えないロックハートの授業を終えてからしばらくして、10月になった。10月になるまでにマルフォイがスリザリンのシーカーになったり、ハリーとロンが入学式の日の罰則を受けたりしたが、まぁそれぐらいしかなくて至って平和だった。しかしそれはロックハートの闇の魔術に対する防衛術の授業以外はである。初めての授業からパチュリーはロックハートの授業中に愛想を早々に尽かし、内容をノートにまとめる事もせず、かなり不機嫌そうなオーラを出しながら持参の魔法書を読んでいるのだ。もちろんロックハートはそれが気に喰わず、4点、5点と減点していくのだが、パチュリーが他の授業でそれ以上の点を取っているので、イタチごっこ状態と化しており、グリフィンドールのみならず、スリザリンやレイブンクロー、ハッフルパフどころか教師達の間でも有名となっていた。そんなある土曜の午後、パチュリーがグリフィンドールの談話室でいつもの様に魔法書を読んでいる時、ハリーからあるお誘いが来た。

 

 

「絶命日パーティー?ほとんど首なしニックの?」

 

「うん、知り合いも参加してもらってもいいって言われたからパチュリーもどうかなって」

 

 

 ほとんど首なしニックとはグリフィンドール塔に住む所謂幽霊である。何故『首なし』とハッキリ言わず『ほとんど首なし』なのかと言うと、彼は首を切られる時、切れない斧で45回も切り付けられたが、1cm以下の皮と筋がギリギリ首を繋いでおり、そのまま幽霊になったので、ほとんど首が繋がっていない幽霊としてそう呼ばれる様になったらしい。その彼が500回目の絶命日に地下牢を1つ使ってパーティーを開くと言うのだ。

 

 

「そうねぇ・・・それはいつ開かれるのかしら?」

 

「次のハロウィンの日だよ。ニックの知り合いのゴースト達が沢山集まるんだって」

 

「ハロウィンの日か・・・・分かったわ。喜んで参加させてもらいましょう」

 

 

 パチュリーはどうしようか一瞬迷ったが、ゴースト達のパーティーに興味が出て来たし、ホグワーツのハロウィンパーティーをした後に自室で小悪魔と一緒に小さなパーティーを開いているからホグワーツの方は別に参加しなくてもいい。その為パチュリーは興味が湧いたゴースト達のパーティーに参加する事にした。

 そしてハロウィンの日の午後7時。ハリーとロン、ハーマイオニー、そしてパチュリーの4人はハロウィンパーティーが開かれている大広間の扉を素通りして地下牢へと歩みを進めていた。

 

 

「やっぱり断っておけば良かったかもしれない」

 

「今更何言ってるのよ?そもそも貴方が私を誘ったのだから責任持ちなさい。男でしょハリー?」

 

「パチュリーの言う通りよ。約束は約束。絶命日パーティーに行くって、貴方がそう言ったんだから」

 

 

 ハロウィンパーティーに参加しなかったのをハリーは後悔しているが、パチュリー達は青い炎が点いたキャンドルが照らす薄暗い廊下を進み、黒板を1000本の爪で引っ掻くような音楽が聞こえてくる中廊下の角を曲がると、ニックがビロードの黒幕を垂らした戸口の前に立っているのを見つけた。

 

 

「親愛なる友よ。これは、これは・・・この度はよくぞおいで下さいました」

 

「こちらこそ、貴方のパーティーに参加させて頂いて感謝するわ。コレ、貴方にも味が分かるよう魔法をかけたお菓子よ」

 

 

 羽飾りの帽子をサッと脱いで挨拶するニックにパチュリーは小悪魔に作ってもらったお菓子が入った籠を渡した。ニックは礼を言って籠からクッキーを取り出して口に入れた。最初はなんとなく悲しそうな顔をしていたが、口に入れた瞬間目を見開いて驚愕した。

 

 

「おぉ!?コレは!!懐かしい生前の味!!ありがとうございますミス・ノーレッジ!私は今とても感動していますよ!では、パーティーを楽しんで行って下さい」

 

「喜んでもらって嬉しいわ。他のゴースト達には内緒よ?後私はパチュリーでいいわ。さぁ、行きましょう3人共」

 

 

 パチュリーは何が嬉しいのか分からないと言った顔で軽く返事をするハリー達を連れてパーティー会場に入った。中では真珠のように白く半透明なゴースト達が何百人もおり、混み合ったダンス・フロアをふわふわ漂いながらワルツを踊っていた。壇上ではオーケストラが鋸で不気味な音楽を奏で、所々で会話に花を咲かせるゴーストも居た。冷蔵庫の中の様に冷える為足を温めようとハリーは「見て回ろう」と提案して会場内をゴーストを通り抜けない様に注意しながら見て回った。しかしハーマイオニーが何かを見つけたのか、歩みを止めてしまった。

 

 

「あーっ、いやだわ。戻って、戻ってよ。嘆きのマートルとは話したくないの・・・あの子、三階の女子トイレに取り憑いているの」

 

「トイレに取り憑いてるって?」

 

「そうなの。去年1年間トイレは壊れっぱなしだったわ。あの子が癇癪を起こしてそこら中水浸しにするんですもの。私壊れていなくたってあそこには行かなかったわ。だって、あの子が泣いたり喚いたりしてるトイレに行くなんてとっても嫌だもの」

 

「言い過ぎよ。あの子はちゃんと話せば会話出来るし、意外といい子よ?」

 

 

 実はパチュリーもマートルと呼ばれるゴーストとは面識がある。最初は泣いてばかりだったが、優しく接しているといつのまにか仲良くなっていた。ハーマイオニーが有り得ないと首を振っているとロンが地下牢の反対側にある長テーブルを指差しながら「見て、食べ物だ」と話題を変えた。パチュリー達もそちらを見てみると、そこにはカビだらけのチーズや腐り切ったハギスなんかが置いてあり、一段と高い所には灰色の墓石を模したケーキがあった。パチュリー達がそれを観察していると、恰幅の良いゴーストが口を開けながら食べ物とは言えない食べ物を通り抜けるのを見てハリー達3人は驚いていた。

 

 

「食べ物を通り抜けると味が分かるの?」

 

「正確にはなんとなく感じるって所かしら?私達が普段食べる物だと味が全くしないように感じるから、より強い風味を感じる為に腐らせたのかしらね」

 

「行こうよ。気分が悪い」

 

 

 ハリー達が向きを変えるか変えないかの内に、突然テーブルの下からピーブズが現れてハリー達の前の空中で停止した。ハリーはピーブズを見て慎重に挨拶した。パチュリーもピーブズに気付いてハリー達の隣に移動して挨拶する。

 

 

「やぁ、ピーブズ」

 

「あら?ピーブズじゃない。貴方もパーティーに来ていたのね」

 

「おや?おやおやおや〜?これはこれはあの有名なハリー達と・・・・おっ!!パチュリーじゃないか♪久しぶり〜♪」

 

 

 ピーブズはハリー達を珍しい物を見たかの様に眺め、パチュリーに気付くと途端に普通に友人に会った時の様な笑みを浮かべた。ハリー達は目を見開いて3人同時にパチュリーを見る。

 

 

「パチュリー、貴方ピーブズと仲良かったの?」

 

「えぇ、フレッドとジョージの考えた魔道具を作り始めた後に仲良くなってね。今では私が作った魔道具の実験をしてくれているわ」

 

「そうそう!パチュリー!この魔道具、大成功だったぜぇ♪」

 

 

 ピーブズは一見普通の輪っかになった縄を取り出してニシシと笑う。そしてそれをロンの方に投げ、輪投げの様に輪の中にロンを入れた。

 

 

「何するんだよピーブズ!僕は輪投げの的じゃああぁぁぁぁぁ!!?」

ドスンッ!!!

 

「「ロン!!?」」

 

 

 ロンがピーブズに文句を言い終える前に縄が床に着いた途端に出来た穴の中に落ちて行った。ハリーとハーマイオニーは悲鳴に近い声を上げてロンを引っ張り上ようと手を伸ばし、パチュリーはふむふむと満足そうに頷いた。

 

 

「確かに『落とし縄』は上手く出来たみたいね。今度フレッドにでも渡しに行くわ。次の魔道具は明後日の昼にトロフィー室で渡すわね」

 

「りょ〜か〜い!そうだおまえ、可哀想なマートルに酷い事を言ったなぁ?スゥ〜・・・オォーィ!!マートル!!!」

 

「あぁ!ピーブズ駄目!私が言った事あの子に言わないで。じゃないとあの子とっても気を悪くするわ」

 

「ちょっ!!ハーマイオニー!!今手を離したらぁぁぁぁぁ!!?」

ドスン!!!ドスン!!!

 

 

 ピーブズがマートルを深く息を吸ってから大声で呼び、ハーマイオニーは慌てて止めに入るが、その時ロンを掴んだ手を離してしまい、今度はハリーも一緒に穴へ落ちて行った。

 

 

「私本気で言ったわけじゃないのよ。私気にしてないわ。あの子が・・・・あら、こんにちは、マートル」

 

「あらマートル。久しぶりね。元気にしてたかしら?」

 

 

 ピーブズに呼ばれてダラーッと垂れた猫っ毛で眼鏡を掛けた少女の霊がやって来て、ハーマイオニーは引き攣った笑みで挨拶し、パチュリーもニコリと笑って挨拶した。

 

 

「お久しぶりねパチュリー。かなり調子はいいわ。それで?何か用?」

 

「ミス・グレンジャーがたった今お前の事を話してたよぅ・・・・」

 

「貴女の事・・・ただ・・・今夜の貴女は素敵って言っただけよ」

 

 

 ハーマイオニー?それは流石にそれはないわよ?

 パチュリーはピーブズを睨みながら誤魔化すハーマイオニーに頭を抱える。マートルもすぐに嘘と分かり、ハーマイオニーを見る。眼鏡の向こうの目には涙が見る見る溢れてくる。

 

 

「貴女、私の事からかってたんだわ」

 

「そうじゃない・・・ほんとよ・・私、さっき、マートルが素敵だって言ってたわよね?」

 

「あぁ、そうだとも」

 

「そう言ってた・・・・イツツ、お尻打った」

 

 

 ハーマイオニーはやっと這い上がって来たハリーとロンの脇腹ににゴスッと突きを食らわせて証言を得た。しかしそれはバッチリ見えており、マートルはすぐに嘘だと見破った。

 

 

「嘘言っても駄目。みんなが陰で私の事をなんて呼んでいるか、知らないとでも思ってるの?太っちょマートル、ブスのマートル、惨め屋・うめき屋・ふさぎ屋マートル!!」

 

「そうそう♪後アレも抜かしてたよぅ、に「ピーブズ?それ以上口を開いたら消し炭にするわよ?」・・あ・・・あははははは〜。ジョーダン、ジョーダン、ジョークだって〜。だからパチュリー様?その手の上にある異常に嫌な気配がする火の玉を消してくれませんか?」

 

 

 ついでにマートルに別の悪口を吹き込もうとしたピーブズにパチュリーは右手に対ゴースト消滅用魔法の炎の玉を出しながら何故か怖いと感じる笑顔で忠告した。ピーブズはササーッと壁を抜けて逃げて行き、マートルも泣き出して地下牢から出て行った。すると今度はニックが人・・ではないな、霊混みを掻き分けるようにふわふわやって来た。

 

 

「楽しんでますか?」

 

「ピーブズが原因でマートルが泣き出しちゃったのを除けば楽しんでいるわ」

 

「やっぱりピーブズは何かやらかしましたか・・・・しかし、ずいぶん集まってくれました。めそめそ未亡人ははるばるケントからやって来ました。・・・・そろそろ私のスピーチの時間です。向こうに行ってオーケストラの準備をせねば・・・・」

 

 

 しかしニックが動く前にオーケストラは演奏をやめた。狩の角笛が鳴り響き、ゴースト達は興奮した様子で辺りを見渡す。ニックは苦々しげに「あぁ、始まった」と呟いた。パチュリー達は何が起きるのか分からなかったが、壁から12騎の馬と首無しの騎手のゴースト達が飛び出して来て、観衆は熱狂的な拍手を送った。ダンス・フロアの中央で停止し、先頭の顎鬚を生やした自分の首を小脇に抱えた大柄のゴーストが馬から降り、首を高く掲げながらニックの方に大股で歩いて来た。

 

 

 

「ニック!!元気かね?首はまだそこにぶら下がっておるのか?」

 

「ようこそパトリック。あぁ、紹介しよう。グリフィンドール寮生のパチュリー、ハリー、ミスター・ウィーズリー、ミス・グレンジャーだ」

 

「生きてる連中だ!!」

 

 

 ニックがパチュリー達を紹介し、パチュリー達の姿を見たパトリックと呼ばれるゴーストは大げさに驚き、頭に乗せていた首が転げ落ちた。観衆はそれを見て笑い転げ、ニックは「まことに愉快ですな」と答えながら苦々しげに見ている。床に落ちたパトリックの首はそのまま叫ぶように喋り出した。

 

 

「ニックの事は気にしたもうな!!我々がニックを狩クラブに入れない事をまだ気に病んでいる!!しかし、要するに・・・彼を見れば・・・」

 

「あ、あの!ニックはとても・・・恐ろしくて、それで・・・あの・・」

 

「ははん!?彼にそう言えと頼まれたな!?」

 

 

 ハリーがニックの意味ありげな目つきを見て慌てて切り出すが、それを遮るかのように叫ぶ。パチュリーは何故ハリーが慌てるのか分からず、直接ハリーに質問した。

 

 

「ハリー?なんで貴方が慌てるのよ?」

 

「じ、実は・・・・」

 

 

 ハリーはパチュリーに、ニックが首を切り落とされたゴーストのクラブである『首無し狩』に入りたかったらしいが、ニックの首がまだ少し繋がっている為入会出来なかったらしい。それで今回、ハリーがニックに借りを返す為に説得しようとしたらしい。パチュリーは「ふむ・・」と少し考え、ポケットから出した羽根ペンを変身術でナイフに変えて取り出した。

 

 

「つまりニック、貴方は首がまだ少し繋がっているのが原因でクラブに入れず、貴方自身も繋がっているのが嫌なのね?」

 

「え?えぇ。スッパリ落ちてくれればあんな痛みを感じず、辱めを受けずに済んだのです」

 

「成る程ね。じゃあ首を切り落とせば(・・・・・・・・)良い訳ね?」

 

「「「「「・・・は?」」」」」

 

 

 パチュリーの言葉に全員が意味が分からず変な声を出し、パチュリーはナイフでニックの首を繋いでいる筋と皮を文字通り切った。ニックは一瞬痛そうな声を上げたが、自分の首がスッパリ切れて体から離れているのを見て驚愕した。パチュリーがした事は至って簡単。ナイフを薄く覆う様に対ゴースト用の炎を纏わせて切っただけである。ニックは段々と嬉しさが湧き上がり、遂には自分の首をボールの様に投げて喜び、パトリックや騎手達も訳が分からなかったが、ニックに拍手を送り出した。ハリー達はパチュリーを人外を見る様な目で凝視し、パチュリーはナイフを羽根ペンに戻してポケットに仕舞った。



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最初の犠牲者とロックハートの部屋

「ありがとうございますパチュリー!!もう死んでから長い間ゴーストをしていましたが、こんなにも幸せな絶命日パーティーのプレゼントは初めてですよ♪何か困った事があればいつでも相談して下さい。お手伝いしますよ」

 

「気にしないで頂戴。じゃあハリー達が寒さと空腹で限界みたいだから私達はこれで失礼するわ。新しい首無し生活を楽しみなさい。それじゃ」

 

「えぇ、えぇ、本当にありがとうございました。お休みなさい皆さん」

 

 

 首の離れたニックは大喜びし、パーティーも一層盛り上がったのだが、その熱気に対して会場はグングン気温が下がり続け、地下牢は真冬並みの寒さになった。パチュリーはすぐ自分に耐寒魔法をかけて防いだが、ハリーとロン、ハーマイオニー達3人は唇を青くしてガタガタ震えだした為、頃合いだろうと寮に戻る事になった。ニックもそれは仕方ないと感じており、態々会場の扉を開けて微笑みながら見送ってくれた。暗いロウソクが立ち並ぶ廊下をパチュリー達はコツコツと足音を立てながら元来た方へと歩みを進めた。

 

 

「ゴーストって、興奮すると冷気が出るんだね・・・」

 

「私も知らなかったわ・・・パチュリーはなんで平気なの?」

 

「ん?自分に耐寒魔法をかけたからむしろ快適だったわ」

 

「それ僕達にもかけて欲しかったな。大広間に行こう。まだデザートが残っているかも知れない」

 

 

 玄関ホールに出る階段への道を先頭を切って進むロンが祈るように言った。パチュリーは自室に戻れば小悪魔が美味しい料理を作ってくれるから別にデザートは無くても構わないと思いながら歩いていたが、突然立ち止まって辺りをキョロキョロ見回すハリーに気付いて自分も立ち止まった。ハリーは目を細めながらほの暗い通路を隅から隅までじっと見渡し、ハーマイオニーとロンもそんな事をしているハリーに気付いて歩みを止める。

 

 

「ハリー?いったい何を?・・・」

 

「またあの声なんだ・・・ちょっと黙ってて・・・・」

 

「・・・・声?」

 

 

 パチュリーも耳を澄ましてみるが、声など全く聞こえて来ず、代わりに何かが這う様な音とシャーシャーと言う何かの音が微かに聞こえただけだった。その間にもハリーには声が聞こえているらしく、「ほら、聞こえる!!」と通路の上の方を見ながら急き込んで言い、ハーマイオニーとロンはハリーを見つめ、その場に凍りついた様になった。

 

 

(私やハーマイオニー達には聞こえず、ハリーにだけ聞こえる声・・・似た様な事が図書館にあった筈だけど、確かあれは・・・・あぁ、成る程。バジリスクの声ね?)

 

 

 パチュリーはヴワル大魔法図書館の一階の34番目の棚の下から7段目にある『生物の言語についての研究記録・初級』に載っていた蛇の類と意思疎通が出来る者・・・『パーセルタング』の事を思い出した。そして少しだけ原作を思い出し、ハリーはバジリスクの声を聞き取れる事を思い出した。因みに余談だが、この魔法書には『最上級』まであって、そこにはドラゴンやクラーケンの鳴き声の翻訳方法などが載っている。実際に他国のドラゴンで試してみたが、基本『腹減った』とか、『何故雲は白いのか?』とか意味が分からない事を言っていた。中には『我はドラゴンである。名前は未だに無い』とどこかで聞いた様な事を言っているのも居た。

 話が逸れたが、ハリーは今度はじっと暗い天井を見つめ続け、突然「こっちだ!」と叫ぶと階段を駆け上がって玄関ホールに出て行った。パチュリー達も少し遅れてハリーを追って階段を駆け上がった。玄関ホールに出るとハロウィーン・パーティのお喋りが大広間から響き渡っており、ハリーは一瞬困惑するもすぐ大理石の階段を駆け上がって二階に出た。パチュリー達もそれに続き、ロンは少し息を切らしながらハリーに質問する。

 

 

「はぁ・・はぁ・・ハリー、いったい僕達何を・・・・」

 

「シーッ!!!静かにして!!」

 

 

 ハリーはロンにそう言って耳をそばだてた。パチュリーも耳を澄ますが、パーセルタングは知識で習得出来る物ではない為、パーセルマウスでない彼女の耳にはバジリスクが這う音と蛇の鳴き声以外は聞こえなかった。するとハリーはバジリスクの声を聞き取ったのか「誰かを殺すつもりだ!」と叫ぶなり当惑したロンとハーマイオニーを無視して三階に上がり、パチュリーは1人にさせるとまた何かをしでかすかも知れない為すぐに後を追った。三階をしばらく走り回って誰もいない廊下に出たとき、ハリーはやっと止まり、ハーマイオニー達も息を切らしながら追いついて来た。

 

 

「はぁ・・はぁ・・ハリー、いったいこれはどういう事だい?僕には何も聞こえなかった」

 

「私も・・・・ッ!!見て!!」

 

 

 ハーマイオニーが指を差す方向を見ると、チラチラと松明の明かりを反射する何かが壁に付いていた。パチュリー達はゆっくりとそれに近付いてよく見てみると、窓と窓の間の壁に高さ30cm程の高さの文字が壁に塗りつけられ、それが松明の明かりに照らされてチラチラと鈍い光を放っていた。

 

 

『秘密の部屋は開かれたり

 

継承者の敵よ、気をつけよ』

 

 

 壁にはそう書かれており、近付いて行くと松明の腕木に何かがぶら下がっているのにロンが気付いた。

 

 

「なんだろう・・・・下にぶら下がっているのは?」

 

「ん?確かに何かぶら下がっているけど・・・よく見えないわね」

 

「もう少し近寄ってみ・・・うわっ!!?」

 

 

 ハリーが足を踏み出すと、足を滑らして転びそうになったが、ハーマイオニーとロンが受け止めた為転びはしなかった。パチュリーが足下を見てみると大きな水溜りが出来ており、ハリーはこれで足を滑らせたのだ。気を取り直して松明に近付いて行ったが、ハリー達3人はぶら下がっている物が何か分かった途端にのけぞる様に飛び退き、水溜りの水を跳ね上げた。ぶら下がっていたのは管理人フィルチの飼い猫、ミセス・ノリスだった。パチュリーもロックハートの授業に行く途中、偶に猫缶をあげたり撫でたりしていたが、今はまるで木像の様に硬直し、目をカッ!と見開いて松明の腕木に固まった尻尾を引っ掛けていた。パチュリーはミセス・ノリスを下ろそうと近付いて行ったが、ロンは逆に後退りした。

 

 

「ここを離れよう」

 

「え?助けてあげるべきじゃないかな・・・・」

 

「パチュリーに任せとけば大丈夫さ。僕のいう通りにして。ここにいるところを見られない方がいい」

 

(ロン、今度罰として貴方でジョージ発案の『背後人形』の実験台にしてあげるから覚えておきなさい・・・・っと、取れた)

 

 

 パチュリーは置いて逃げようとしたロンにそう心の中で宣言しながらミセス・ノリスを下ろして抱き抱えた。『背後人形』とは、ジョージが発案した背中に張り付いて『ママ・・おんぶして?』と言うだけの赤ん坊の人形である。一見何がロンの罰になるかは分からないだろうが、実はこの人形・・・自分以外には姿が見えず声も聞こえない。剥がそうにも溶接したかの様に離れないし、無理に外そうとすると泣きながら『ママ・・ママ・・?』とカタカタ言ってくる。外すには貼り付けた人が「もういいよ」と言えばポテッと落ちる。ジョージが発案したにしてはある意味怖い人形である。

ハリー達が踵を返して逃げようとしたが既に遅く、パーティを終えた生徒達が廊下の両側から歩いて来て、壁の文字とハリー達、そしてまるで死んでいる様に動かないパチュリーの腕の中にいる猫を見つけてシンと静かになり、その場に立ち止まった。するとマルフォイが人垣を押し退けて最前列に出てニヤッと笑いながら壁の文字を読んだ。

 

 

「後継者の敵よ、気をつけよ!次はお前達の番だぞ、『穢れた血』め!」

 

 

 マルフォイがいつもより興奮した様子でそう言い放った。

 『穢れた血』・・・・確か両親がマグル生まれの魔法使いや魔女を指す最低な侮辱の呼び方だったかしら?はぁ・・・ドラコったら、流石にそれは言い過ぎよ。この学校にマグル生まれの魔法使いや魔女が何人いるか分かって言っているのかしら?

 パチュリーは片手で頭を押さえてマルフォイの子供の様な(子供だけど)発言に溜め息を吐いた。彼はこれで学校の多数の生徒を敵に回しただろう。少しするとマルフォイの声に引き寄せられたのか管理人、アーガス・フィルチが肩で人混みを押し分けてやって来た。

 

 

「なんだ、なんだ?何事だ?ん?・・・・ッ!!!私の猫だ!私の猫だ!ミセス・ノリスに何が起こったと言うんだ!?」

 

「フィルチさん。あ、一応言っておきますが私じゃないわよ?私は腕木に引っ掛かっていたこの子を下ろしただけ」

 

 

 フィルチは慌ててパチュリーの抱えるミセス・ノリスに駆け寄って抱き抱える。パチュリーはその際自分の無実を訴えた。パチュリーに疑いの目を向けていたフィルチは「じゃあ誰が?」と辺りを見渡して固まったままのハリーを見つけた。

 

 

「お前だな!!?お前だ!!お前が私の猫を殺したんだ!!この子を殺したのはお前だ!!俺がお前を殺してやる!!俺が・・・」

 

「ちょっとフィルチさん!落ち着きなさい!」

 

 

 パチュリーが肩を掴んで落ち着くように言うがフィルチは怒鳴り続け、パチュリーが魔法で眠らせようとする直前にダンブルドア先生が他の教師達を連れて現場に到着した。ダンブルドア先生は現場を見渡して「ふむ・・」と頷いてパチュリー達を見た。

 

 

「アーガス、一緒に来なさい。ポッター君、ウィーズリー君、グレンジャーさん、ノーレッジさん。君達もおいで」

 

「校長先生、私の部屋が1番近いです。・・・すぐ上です。・・・どうぞご自由に・・・」

 

「ありがとう、ギルデロイ」

 

 

 ダンブルドア先生はパチュリー達を呼び掛け、ロックハートが自分の部屋を使うよういそいそと進み出た。ハリー達は頷いたがパチュリーは物凄く嫌そうな顔をした。

 

 

「ダンブルドア先生、私もそこのロックハートの部屋に行かなければならないのかしら?」

 

「そうしてくれるとありがたいのじゃが・・・何か不都合でもあるのかね?」

 

「せめて別の部屋にして頂戴。ロックハートの部屋は入りたくないわ」

 

 

 パチュリーが堂々と宣言すると、ロックハートは浮かべていた笑みを痙攣らせ、ダンブルドア先生は困ったような顔をする。周りの生徒や教師達はロックハートのファンを除いて『相変わらず凄いなぁ』と感心した様子でパチュリーを見ていた。

 

 

「ふむ・・・そこをなんとか我慢してくれんか?ここから1番近いのはギルデロイの部屋なんじゃ。他の部屋は今鍵が掛かっておる。それにロックハートではない。ロックハート先生じゃ。君らしくないと思うのじゃがのう?」

 

「私はロックハートを教師として見ていないわ。いくら貴方でもこれだけは絶対に譲れない」

 

「むむむ・・・そこをどうにかして欲しい。急いどるんじゃ・・」

 

「・・・・・・はぁ〜、仕方ないわね。今回だけよ?授業以外では近寄るのも嫌なのに」

 

 

 パチュリーは渋々承知し、ダンブルドア先生はホッと息を吐いて歩き出したが、ロックハートはパチュリーを一瞬睨みつけるもすぐに表情を笑みに変えて先導して行った。歩いている途中もパチュリーはブツブツ文句を言いながらピクシー小妖精の時に出したオーラに似た不機嫌そうなオーラを出し続けており、近くを歩いていたハリーとロン、そして偶々近くを歩いていたマクゴナガル先生とスネイプ先生はサッと目を逸らしながら少しづつ距離を取って行った。ロックハートはダンブルドア先生の役に立っている事に興奮しているのか気付いていないが、ダンブルドア先生はパチュリーのロックハート嫌いを直接見て『かなり重症じゃのう・・・』と思っていた。流石に空気が重くなり過ぎてきた為、マクゴナガル先生がパチュリーに質問した。

 

 

「そ、そう言えば、ミス・ノーレッジ?貴女は何故彼をそう毛嫌いしているのですか?」

 

「ロックハートの授業はホグワーツに入ってから今まで受けて来たどの授業よりも無駄だったからよ。一度の授業の平均でウインクしながら歯を見せて笑うドヤ顔の回数162回、同じ内容の自慢話19回、自身の好きな物を授業中に何か当てるよう指示を出す事25回。あんな物を授業とは絶対に認めない。アレなら去年のクィレルの授業の方がまだ生徒の為になる授業を行なっていたわ。他にも挙げれば幾つか理由があるけれど・・・・今全て言いましょうか?」

 

 

「い、いいえ!私は遠慮しておきます。ほほ、ほら!もうすぐ彼の部屋ですよ?」

 

「あら、もう着いてしまうのね。じゃあもう帰っていいかしら?」

 

(((((どれだけ嫌っているんだ?)))))

 

 

 踵を返して本気で帰ろうとするパチュリーをなんとか引き止め、更に不機嫌になったパチュリーを連れてロックハートの部屋に入った。灯りが消えたロックハートの部屋の中は壁面で何かがあたふたと動いた。ハリー達が壁に目をやると壁一面に沢山飾られた写真の中のロックハートが何人か頭にカーラーを巻いたまま物陰に隠れた。パチュリーはその多数の写真を一瞥してからダンブルドア先生の肩をチョンチョンと叩いた。

 

 

「ん?どうしたのかね?ノーレッジ嬢?」

 

「ダンブルドア先生、この部屋消し炭にしてもいいかしら?」

 

「ダメじゃ」

 

 

 ダンブルドア先生の答えにパチュリーは再び小さく舌打ちをして右手に出していた小さな火の玉を握りつぶす様に消火した。



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猫の蘇生と特殊な体質

「猫を殺したのは、呪いに間違いありません!・・・たぶん『異形変身拷問』の呪いでしょう。何度も見た事がありますよ。私がその場に居合わせなかったのは、まことに残念。猫を救う、ぴったりの反対呪文を知っていましたのに・・・・」

 

 

 ロックハートはパチュリー達の周りをグルグル回りながらあれやこれやと自身の意見を述べていた。しかしダンブルドア先生は机の上に置かれた石にされたミセス・ノリスをマクゴナガル先生と目を凝らし、指で突いて刺激を与えたりしながら調べていた。ハリーとロン、ハーマイオニーは緊張した面持ちで光の届かない椅子にぐったりと座り込み、パチュリーはスネイプ先生の隣に立って魔法書を読んでいた。その為ロックハートの意見に返事しているのはミセス・ノリスの飼い主である涙も枯れたフィルチの激しくしゃくりあげる声のみだった。フィルチは机の脇にある椅子に座り込んで手で顔を覆い、ミセス・ノリスをまともに見る事が出来なかった。ダンブルドア先生は杖を取り出してブツブツと呪文を唱えながら軽く叩いたりしたが、剥製になった猫の様にミセス・ノリスは動く事はなかった。そうしている間にもロックハートの話は続く。

 

 

「そう!非常によく似た事件がウグドゥグで起こった事がありました。次々と襲われる事件でしたね。私の自伝に一部始終書いてありますが。私が町の住人にいろいろな魔除けを授けましてね、あっと言う間に一件落着でした!」

 

(もう黙ってなさいよ。誰も聞いちゃいないわ)

 

 

 壁に掛けられたロックハートの写真も本人の話に合わせて一斉に頷いており、1人はヘアネットを外すのを忘れていた。パチュリーは魔法書を呼んでいる最中も聞こえてくるロックハートの声に苛立ちを感じ、スネイプ先生は別の何かを感じたのかス〜ッとパチュリーから距離を取って行った。少しするとようやくダンブルドア先生が体を起こしてフィルチに向けて優しく言った。

 

 

「アーガス、猫は死んでおらんよ」

 

「死んでない?それじゃ、どうしてこんなに・・・・こんなに固まって、冷たくなって?」

 

 

 フィルチはダンブルドア先生の言葉を聞いて指の間からミセス・ノリスを覗き見て、これまでに自分が未然に防いだ殺人事件の数を数えている最中だったロックハートは慌てて数えるのをやめた。

 

 

「石になっただけじゃ」

 

「やっぱり!私もそう思いました!!」

 

「貴方もう本当に黙ってなさいよ」

 

 

 ダンブルドア先生の言葉に便乗しようとするロックハートにパチュリーは冷たく言い放ち、ロックハートはグッと口を閉じてパチュリーを睨んだ。しかしそんな視線をパチュリーは軽く受け流す。

 

 

「ただし、どうしてそうなったのか、儂には答えられん・・・・」

 

「あいつに聞いてくれ!!!」

 

 

 フィルチは涙で汚れ、まだらに赤くなった顔でハリーを睨んだ。ハリーはいきなりそんな事を言われて肩をビクッと震わせた。

 

 

「2年生がこんな事を出来るはずがない。最も高度な闇の魔術を以てして初めて・・・・」

 

「あいつがやったんだ!あいつだ!あいつが壁に書いた文字を読んだでしょう!?あいつは見たんだ・・・・私の事務室で・・・あいつは知っているんだ。私が・・・私が・・私が出来損ないの『スクイブ』だって知っているんだ!!!」

 

 

 フィルチはダンブルドア先生の言葉を遮って苦しそうな顔でそう叫んだ。スクイブとは魔法使いの家に生まれた魔力を持っていない人の事だ。つまりはハーマイオニーの逆パターンである。

 成る程、フィルチさんがいつも生徒達を親の仇を見る様な目で見たりしているのはそれが原因ね?でも何処と無くこぁに状況が似ているわね・・・・後で調べてみてあげようかしら?

 パチュリーは悔しそうに肩を震わせるフィルチを見ながらそんな事を考えていた。

 

 

「僕、ミセス・ノリスに指1本触れていません!!それに、僕、スクイブがなんなのかも知りません!!」

 

「そうね。下ろす為に触れたのは私よ?ハリー達は一緒にいたけど私に全部任せて疑われない様に逃げようとしたもの」

 

「ごめんパチュリー謝るから今それ言わないで。余計ややこしくなっちゃうから・・」

 

「そら見ろ!!あいつは『クイックスペル』から来た手紙を見やがった!!」

 

「ほらややこしくなっちゃったじゃないか!!」

 

 

 ハリーはパチュリーにそう叫ぶがパチュリーは「本当の事でしょ?」と真顔で言われた上事実な為ぐうの音も出なかった。更に感情が高ぶったフィルチはワナワナと震えながらジリジリとハリーに近付いて行くが、パチュリーの隣に立つスネイプ先生が口を開いた。

 

 

「校長、一言よろしいですかな?ポッターもその仲間も、単に間が悪くその場に居合わせただけかも知れませんな」

 

 

 ハリーを庇うような物言いに珍しい事もあるものだとパチュリーはスネイプ先生の顔を見たが、そんな事はなかった。自分でああ言ったが信じていないとばかりに口元を微かに歪めて冷笑していた。

 

 

「とは言え、一連の疑わしい状況が存在します。だいたい連中は何故三階の廊下にいたのか?何故4人はハロウィーンのパーティにいなかったのか?」

 

「私はハリー達のお誘いでニックの絶命日パーティーに参加していたのよ。ゴースト達のパーティーなんて私も初めてだったから興味があったし」

 

 

 パチュリーの言葉を始めとしてハリー、ロン、ハーマイオニーは一斉に絶命日パーティーの説明を始めた。3人共自分の無罪を証明しようと同時に説明する為スネイプ先生とマクゴナガル先生は顔をしかめたが、ダンブルドア先生はウンウンと頷いて聞いていた。

 

 

「・・・ゴーストが何百人もいましたから、私達がそこにいたと、証言してくれるでしょう・・・」

 

「それでは、その後パーティに来なかったのは何故かね?何故あそこの廊下に行ったのかね?」

 

「それは・・・つまり・・・・」

 

 

 ロンとハーマイオニーがハリーの顔を見たわね。どう話したものか分からないんでしょう。まぁ無理もないわね。このメンバーの中でバジリスクの声を聞いたのはハリーだけで、ハリー自身もその声がバジリスクの物だと分かっていない。「誰のものかも分からず自分にしか聞こえない声を追っていたらあの廊下にいました」なんて答える者がいたらただの馬鹿ね。さて、かなり参っているみたいだから手助けしてあげましょう。

 

 

「私が部屋に戻りましょうと提案したのよ」

 

「それはどう言う事かな?ミス・ノーレッジ?」

 

 

 魔法書に紫の栞を挟んでパタンと閉じたパチュリーが放った言葉にハリー達やスネイプ先生もパチュリーの顔を見た。スネイプ先生は訝しげな視線をパチュリーに向ける。

 

 

「私達が絶命日パーティーから戻って来た時にはもう終わる頃だったのよ。ちょうど私の部屋に先日家から送られて来たお菓子が入った缶があるのを思い出したから談話室で食べましょうと言う話になったの。それで3人と話しながら廊下をブラブラ歩いていたらあの現場を見つけたって訳よ」

 

「成る程のう?それなら納得出来るのう。セブルスもそう思うじゃろう?それにまだハリー達がやったと言う証拠も無いのじゃ。疑わしきは罰せずじゃよ、セブルス」

 

 

 スネイプ先生は納得行かないようだが、もっと納得行かない人物がこの部屋に入る。ミセス・ノリスの飼い主のフィルチだ。ダンブルドア先生の言葉にひどく憤慨して金切り声を上げている。

 

 

「私の猫が石にされたんだ!!刑罰を受けさせなけりゃ収まらん!!」

 

「その事なのだけれど、ミセス・ノリスを元に戻してあげる事が出来るわ」

 

 

 ハリーを睨み付けていたフィルチの顔がパチュリーに向いた。それだけではなく、ハリー達3人とスネイプ先生とマクゴナガル先生、更にはダンブルドア先生もパチュリーを見る。

 

 

「私の家に確かマンドレイクを使った蘇生薬が残っていた筈よ。人間を治すには足りないけれど、猫1匹ぐらいならなんとかなるわ。連絡すればだいたい2日後の日没までには取り寄せられるわ」

 

「ほ、本当か?本当の本当に私の猫を治せるのか!!?」

 

「え、えぇ。ミセス・ノリスにはロックハートの授業のストレスを解消してもらっている借りがあるの。分かったらちょっと手を離して苦しい」

 

「あ、あぁ・・・済まない」

 

 

 興奮のあまりパチュリーの胸元を掴んでガクガク揺らしていたフィルチは慌てて手を離した。ダンブルドアはボソッと「先に言われてしまったのう」と少し残念そうに呟いていた。因みにパチュリーが薬を与えようと考えたのはもう1つ理由がある。それはここでフィルチに1つ貸しを作る事。返してくれるかは分からないが、貸しを作っておいて損はないだろうと言う理由だ。そこでハリーはパチュリーに1つ質問した。

 

 

「ねぇ、パチュリーなら魔法で治せるんじゃないの?」

 

「だったらもうダンブルドア先生が治しているわ。それに、見た所この子は魔法じゃなくて別の何かで石にされてるのよ。魔法だって万能じゃないのよ」

 

「ほう?ノーレッジ嬢も気付いておったのか?どこら辺で気付いたんじゃ?」

 

「ダンブルドア先生が先程使っていた魔法・・・間違いでなければ解呪の魔法よね?ダンブルドア先生程の方が解けないとなると、魔法による石化ではないと言う事になる。解呪の魔法は魔法によってかけられた呪いに限定されるからすぐに分かったわ」

 

 

 ダンブルドア先生はパチュリーの詳しい説明に「成る程のう。鋭い観察眼じゃ」と感心したように頷いていた。パチュリーの言う通り魔法とて万能ではない。専用の魔道具を使えば出来ない事も出来たりするが、魔法単体で出来る事は限られる。死者蘇生、時間操作、不老不死などは魔道具などが必要になるのだ。パチュリーはダンブルドア先生に説明し終えるとフィルチに向き直った。

 

 

「それで?どうするのかしら?」

 

「頼む!!出来るだけ早く私の猫を治してくれ!!」

 

「分かったわ。明日の朝一番に連絡を取るわね」

 

 

 その後、ダンブルドア先生はパチュリー達に「帰ってよろしい」と許可を出し、パチュリーは3人を置いて早めに自室に戻った。予定より遅くなってしまった為、予想通り部屋に入るなり小悪魔が泣いて抱き付いてきた。その日の夜は小悪魔の気がすむまでハロウィンパーティーを行った。

 

 

 

 

 

 

 ハロウィンから2日後、パチュリーはヴワル大魔法図書館産の薬の入った瓶を手にフィルチの執務室に向かって歩いていた。この2日間の間に噂は広まり、犯人が戻ってくるのを狙ってフィルチは現場近くを行ったり来たりしている。治す目処は立っても犯人は許せない様だ。壁の文字は今も残っている。文字を消そうとフィルチが掃除しているのを見かけたのだが、全く効果はなかった。

 

 

「えぇ〜っと?執務室・・執務室・・は確か・・・ここね」

 

 

 パチュリーは自身の記憶の通りに廊下を進み、フィルチの執務室の扉を見つけた。扉をノックすると如何にも不機嫌そうなフィルチが顔を出したが、パチュリーの顔を見た途端に明るい顔になった。顔は怖いが・・・

 

 

「薬を持って来てくれたのか!?早く私の猫を治してくれ!!」

 

「分かってるから慌てないで頂戴。ほら、コレがその薬よ」

 

 

 いつもより別人の様なはしゃぎっぷりにパチュリーは少し引きながらも緑色の液体が入った小さな瓶を見せた。それを見たフィルチは嬉しそうに微笑んだが元が元だから顔が怖い。パチュリーはミセス・ノリスのいる場所に案内してもらい、剥製の様に動かないミセス・ノリスの口の中に薬を注ぎ込んだ。フィルチは心配そうにミセス・ノリスを見ていたが、薬の効果はすぐに出た。

 

 

・・・・ニャ〜〜。

 

「お・・・おぉ!やった!やったぞ!!ミセス・ノリスが治った!!」

 

「うん、どうやら薬が足りないと言う事も無いようね?」

 

 

 パチュリーは動き出したミセス・ノリスを撫でながら石のままの所は無いか観察した。ミセス・ノリスは撫でられて気持ち良さそうに鳴き、フィルチはそれを見てミセス・ノリスを抱き上げた。

 

 

「あぁ、良かった!!本当に良かった!!」

 

「治って良かったわ。・・・・あぁ、忘れる所だったわ。フィルチさん、この水晶に手を置いてくれるかしら?」

 

「ん?まぁ、構わないが・・・なんだコレは?」

 

「いいから、早く触りなさい」

 

 

 パチュリーがポケットから出した透明な水晶にフィルチがおずおずと触れると、水晶は弱い光ではあるが、オレンジの光を発した。フィルチは突然の事に驚いたが、パチュリーは「やっぱりね」と言いながら水晶を仕舞った。

 

 

「おい、その水晶はなんだ?いったい何をしたんだ?」

 

「朗報よフィルチさん。貴方は魔法が使えるわ」

 

「・・・・は?な、何を・・・?」

 

 

 コツコツと足音を鳴らしながら部屋の扉に近付きながらそんな事を言うパチュリーにフィルチは意味を理解できずにミセス・ノリスを抱いたまま聞き返した。パチュリーは扉を開いてフィルチに首だけ振り返り、優しく微笑んだ。

 

 

「貴方は魔力はあるけれど、特殊な体質の様ね。貴方は物体を浮かして操る魔法しか出来ない体質なのよ」

 

「何?と、と言う事は・・・私はその類の魔法なら・・・!?」

 

「おめでとうフィルチさん。貴方はスクイブでは無いわ。信じられないなら試してみなさい。失礼するわ」

 

 

 パチュリーが閉めた扉の向こうからは、数時間後フィルチの喜びの声が響いてきた。次の日からホグワーツでは今まで見られた事のない程機嫌がいいフィルチが、自分で「廊下では魔法禁止だ!」と言っているのに、杖を振って荷物を浮かせて歩いている光景が見られるようになった。スクイブだと知っているハリー達はまるで狐につままれたかの様な顔でフィルチを見ていた。



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暴走ブラッジャーと骨無しの腕

 ミセス・ノリスが石にされた事件からしばらく経った土曜日の11時頃、パチュリーは再びハーマイオニーに連れ出されてクィディッチ競技場の観客席に来ていた。最初は適当に誤魔化して自室に避難しようとしたが、今回はロンまでパチュリーを連れて行こうとした為にそれは叶わなかった。

 因みに、ロンにはつい昨日までの間『背後人形』の実験台になってもらったわ。結果は上々。ロンはずっと背中を見ては顔を蒼ざめて耳を塞ぎ、マクゴナガル先生やマダム・ポンフリー先生、更には驚いた事にスネイプ先生にまで助けを求めていた。そして数日前から授業を欠席して寝込んではガタガタ背中を見ない様に固く目を閉じて耳を塞いでベッドに寝込み始めたのでロンが寝ている間に回収しておいた。

 

 

「全く・・・私は本当にクィディッチに興味が無いのだけれど?ロン、なんで今回貴方まで私を連れ出すのよ?」

 

「だって、パチュリーがいればハリーにもし何かあっても安心じゃないか。それに・・・・あの不気味な人形が現れてもパチュリーなら或いは・・」

 

「あぁ〜うん。分かったわ。居てあげるからそうガタガタ震えないで」

 

 

 どうやらかなり重症のトラウマになってしまった様だ。先程2人はハリー達がいる更衣室の方に走って行ってハリーに「幸運を祈る」と元気付けたらしいが、パチュリーは何故かそれがフラグにしか聞こえなかった。

 そう言えばハリー達は最近どこかに行っているが、何をしているのかしら?また先生の誰かに『秘密の部屋』について聴きまくっているのか・・・もしくはフィルチが浮遊術を使える様になったのを調べているのかしら?

 最近、ハリー達はパチュリーにも内緒でコソコソ動き回っている様なのである。ハーマイオニーは珍しく魔法史の授業で先生に『秘密の部屋』について質問していたし、3人でミセス・ノリスが石にされた現場の近くを調べて回ったりしていて監督生のパーシー・ウィーズリーに減点されていたらしい。噂では女子トイレに入った事で揉めたらしい。

 何やってんのよマジで・・・・っと、選手達が入って来たわね。

 

 

「ハリー!!マルフォイなんかに負けるなよー!!箒から叩き落とせー!!」

 

「貴方歳を重ねる毎に口が悪くなってないかしら?」

 

「当たり前よ。マルフォイなんかブラッジャーに叩き落とされたらいいんだわ」

 

「貴女も段々口が悪くなって来たわね」

 

「「ロックハート先生に対するパチュリーの口の悪さの方が凄いと思う」」

 

「アレは当然の事よ。あんな授業・・・談話室で魔法書を読む方が遥かに良いわ。いえ、比べるまでもないわね」

 

 

 パチュリーが当然の様に言い切ったちょうどその時にマダム・フーチが笛を鳴らして試合の開始の合図をした。観客達の歓声に煽られる様に14人の選手が鉛色の空に飛び上がった。ハリーは誰よりも早く高く舞い上がり、スニッチを探し始めた。その下をマルフォイが新しい箒を見せつける様に飛び去って行く。ハリーはそれを無視して別の方向を向いてスニッチを探していると、ブラッジャーがハリーを狙って飛んで行った。ジョージが棍棒を片手にハリーの隣を猛スピードで通り過ぎてスリザリン選手目掛けてブラッジャーを打ち返した。ブラッジャーは確かに命中して飛んで行くが、ブラッジャーは軌道を変えてハリー目掛けて飛んで行った。ハリーは急降下してそれを躱し、ジョージが再び棍棒をブラッジャーに叩き着けるが、またしてもブラッジャーは軌道を曲げてハリーの頭を狙い撃ちする。ハリーはそれをヒョイと躱してハリーとブラッジャーの鬼ごっこが始まった。

 

 

「ハリーの奴、何やってるんだ?いつもと違って変だぜ?」

 

「あれはどちらかと言うとブラッジャーがおかしいわね。何度打ち返してもハリーの頭を狙って飛んで行ってる」

 

「何ですって!?きっとマルフォイが細工したのね!?パチュリー!!なんとかして!!」

 

「ハーマイオニー?貴女もまさか私にあれを止める為だけに私を引っ張って来たのかしら?私は何でも屋じゃないのよ?全く・・・・あら?」

 

 

 パチュリーが懐から出した自作の杖をブラッジャーに向けたが、すぐに顔を顰めた。ハーマイオニーとロンは未だにハリーを狙って飛んで行くブラッジャーを見てパチュリーにどうしたのかと聞きたそうな顔を向けた。

 

 

「諦めなさい。アレは直せない・・・いや、そもそも直す必要がないのよ。あのブラッジャーはアレで正常なの」

 

「はぁ?何言ってんだパチュリー!!ブラッジャーは今もハリーを狙っているんだぞ!?」

 

「アレはもともと設定した行動をとるブラッジャーなのよ。多分誰かがハリーを狙うように設定したのね。今アレにかかっている魔法を解除したらブラッジャー自体がただのガラクタになって地面に落ちる。そうなると試合が中止になる可能性があるわ」

 

「そんな!?じゃあどうすればいいのよ!!?」

 

「こればっかりはハリーに頑張ってもらう他無いわね。試合の決着がついたらブラッジャーをどうにかしてあげるから我慢なさい」

 

 

 パチュリーの言葉にハーマイオニーとロンは悔しそうにハリーを狙い続けているブラッジャーを睨む。今はジョージとフレッドが合流してハリーにブラッジャーが行かないように棍棒を振り続けていた。それでもブラッジャーは軌道を変えてハリーを狙う。少ししたら雨が降ってきたのでパチュリーは自分の服と帽子に防水の魔法をかけた。ハーマイオニーとロンが雨で濡れながらハリーを応援していると、マダム・フーチがホイッスルを鳴らしてグリフィンドールの選手達が地面に降りて集まった。何やら怒鳴り合う様に話しているが、マダム・フーチが試合を続行しても良いかを聞いた頃には話がついた様で、選手達は再び空に舞い上がった。しかし今度はハリーのみで逃げ回っており、フレッドとジョージは他へ回った。

 

 

「フレッド!ジョージ!何やってるんだ!!ハリーが危ない!!」

 

「多分、ハリーが2人にお願いしたのね。現在60対0でグリフィンドールが押されてるわ。だからこれ以上点を取られないようにハリーが1人でブラッジャーから逃げつつスニッチを探してるようね」

 

「あぁ、なんて事!!・・・あっ!!マルフォイ!ハリーをおちょくりに行ったのね!?ブラッジャーに当たって骨を折りなさい!!」

 

「本当に口が悪いわね貴女!?」

 

 

 パチュリーがハーマイオニーに突っ込みを入れてから上空に目をやるとマルフォイの左耳の少し上辺りにピカッと光を反射する物体が見えた。金色のスニッチだ。ハリーもそれを見つけたらしく、そちらを睨んで空中で停止した。そこをハリーを狙うブラッジャーが逃す筈も無く、ハリーの肘を強打した。右腕が動かなくなった所を見ると骨を折ったのだろう。

 

 

「あら、ハリーが右腕の骨を折ったわね。ハーマイオニーの願いはハリーに向かったようね」

 

「嘘ッ!!?ハリーごめんなさい!!悪気があった訳じゃないの!!」

 

「ハーマイオニー、パチュリーの冗談だよ。本気にしてどうするのさ?と言うか、なんでパチュリーは濡れてないの?」

 

「気にしたら負けよ。ほら、ハリーが動いたわよ」

 

 

 ハリーは下の方を飛んでいるマルフォイの方へ急降下した。マルフォイは慌ててそれを避けて通り過ぎたハリーをポカンと眺めている。ハリーは折れていない方の腕を必死に伸ばして空を激しく掻き、逃げ回るスニッチを捕まえた。ハリーはそのまま地面に向かって突っ込み、バシャッと泥水を跳ね上げて箒から転げ落ちた。パチュリーは観客席からバレない程度に浮遊魔法を使って飛び降りてハリーの下へ向かう。ハーマイオニー達も慌ててそれを追いかけ、マダム・フーチが試合終了のホイッスルを鳴らす。地上に落ちたハリーをまだ狙うブラッジャーにかかった魔法を解除して地面に落としてからパチュリーはすぐにハリーの容態を見た。幸い腕の骨以外は折っていないようだ。パチュリーがそれを確認したと同時に、パチュリーが今1番嫌っているロックハートが大股で歩み寄って来た。パチュリーはあまり近くに居たくないのでロックハートから少し距離を取り、ロックハートはチラッとパチュリーの方を見てからハリーの顔を覗き込んだ。ハリーはぼうっとロックハートの顔を見ると、悪夢を見ているかの様に呻いた。

 

 

「やめてくれ・・・選りに選って・・・・」

 

「自分の言っている事が分かっていない様だ」

 

(ハリーの意識は正常ね。問題ない様で良かったわ)

 

 

 パチュリーはハリーの意識が正常である事を確認した。ロックハートは杖を取り出しながらニコリとハリーに笑い掛ける。

 

 

「ハリー、心配するな。私が君の腕を治してやろう」

 

「やめて!!!僕、腕をこのままにしておきたい。構わないで・・・」

 

 

 ハリーは慌てて体を起こそうとしたが、腕に激痛が走った様で元の姿勢に戻った。パチュリーの隣でコリンがカメラを構えて腕が折れたハリーを撮影する。

 

 

「コリン!こんな写真は撮らないでくれ!!」

 

「こらコリン。怪我人を撮影するなんてダメじゃない」

 

「さぁ、横になって、ハリー。この私が、数え切れない程使った事がある簡単な魔法だからね」

 

 

 パチュリーはコリンを軽く叱り、ロックハートはハリーに子供をあやす様に言った。ハリーは腕の痛みを歯を食いしばりながら耐えている。

 

 

「僕、医務室に行かせてもらえませんか?」

 

「先生、そうするべきです。ハリー、物凄いキャッチだった!素晴らしいの一言だ!!君の自己ベストだ!ウン」

 

「ちょっと?チームのシーカーが骨を折ってるのに試合に勝ったからってニコニコ笑っちゃダメよ」

 

「あ、ヤベェ・・・・」

 

 

 グリフィンドールのキャプテンのウッドはしまった!と言わんばかりに手で口元を隠した。フレッドとジョージがただのガラクタとなったブラッジャーを恐る恐る箱に入れているのを他所にロックハートは翡翠色の袖をたくし上げてみんなに下がる様に指示を出す。ハリーは弱々しい声でロックハートに止めるよう訴えたが、ロックハートは杖を振り回して最後にそれをハリーの折れた腕に向けた。

 ・・・・・・ん?え!?ちょっと待ちなさいその魔法は!!!

 パチュリーが止めようとした時には既に遅く、魔法は発動されてしまった。ハリーは何かを感じ取ったのか目を閉じて右腕から顔を背けた。パチュリーは「あちゃ〜」と額に手を当て、周りの生徒達は息を呑み、コリン・クリービーは狂ったようにカメラのシャッターを切りまくる。ハリーの腕は先程とは違って、ブヨブヨのゴム手袋の様になってしまっていた。

 

 

「あっ・・・・・・そう。まぁね。時にはこんな事も起こりますね。でも、要するに骨は折れていない。それが肝心だ。それじゃ、ハリー。医務室まで気を付けて歩いて行きなさい。・・・・あっ、ウィーズリー君、ミス・グレンジャー、ミス・ノーレッジ、付き添って行ってくれないかね?・・・マダム・ポンフリーが、その・・・少し君を・・・あー・・・キチンとしてくれるでしょう」

 

「『キチンとしてくれるでしょう』・・・じゃないわよ!!なんで骨折を直すのに骨抜き(・・・)の呪いをかけるのよ!?貴方はそれでも教師!!?」

 

「こ、これは・・・あれだ。ミス・ノーレッジ。先ずは折れた骨を抜いてからくっ付けて中に再び戻せば治ると思って・・」

 

「貴方骨折を直す魔法を数え切れない程使ったのではないの!?全く、折れただけなら私でもすぐに治せたのに・・・はぁ〜・・・ハーマイオニー!ロン!ハリーを医務室に連れて行くわよ」

 

 

 ハーマイオニーとロンは骨が無くなって腕がゴム手袋の様になってショックを受けているハリーに肩を貸して医務室へ向かい、パチュリーは溜め息を吐きながら3人の後を付いて行った。

 

 

 

 

 

 

「まっすぐに私のところに来るべきでした!!」

 

 

 マダム・ポンフリーはハリーのゴム手袋の様にブヨブヨになってしまった骨が無くなった腕を持ち上げながら怒っていた。

 

 

「ロックハートがハリーに無理矢理『腕を治してやる』と魔法をかけてたからハリーは悪くないわ」

 

「またあの人ですか!?全く・・・つい4日前にも転んで頭を怪我した生徒の容態を悪化させたと言うのに・・・」

 

 

 どうやらロックハートは以前にも似たような事をやらかしたらしい。マダム・ポンフリーはやれやれと肩を竦めながらじっくりとハリーの腕を観察した。

 

 

「骨折ならあっという間に治せますが・・・骨を元どおりに戻すとなると・・・・」

 

「先生、出来ますよね?」

 

「もちろん!出来ますとも。でも、痛いですよ?今夜はここに泊まらないと・・・」

 

 

 マダム・ポンフリーは腕を治す為の薬を取りに行き、ロンはハリーをパジャマに着替えさせていた。ゴムの様な腕を袖に通すのにかなり時間が掛かっていた。その間パチュリーとハーマイオニーはベッドの周りに張られたカーテンの外にいた。

 

 

「ハーマイオニー?貴女まだロックハートの肩を持つの?ハリー腕の骨消されちゃったわよ?」

 

「誰にだって、間違いはあるわ。それに、もう痛みは無いんでしょう?ハリー?」

 

「おまけで何も感じないでしょうけど。普通間違いじゃ済まないわよ?骨折を直すのに骨を抜くなんて・・・はぁ。私はもう帰るわ。ハリー、お大事にね。ロックハートには注意なさい」

 

「うん、バイバイ。パチュリー」

 

 

 パチュリーは溜め息を1つ吐いて医務室を出て行った。ハリーとロンは手を振って見送ったが、ハーマイオニーは少し不機嫌そうにしていた。



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決闘クラブともう1人の自分

 ハリーの右腕が無事に完治してからしばらく経った。パチュリーがいつもの様に談話室で魔法書を読んでいるとハーマイオニーとロン、そして目の下にクッキリと隈を作ってゾンビの様にフラフラになっているハリーがやって来た。一応言っておくがコレは別に骨を治すのが大変だったとか薬の副作用などではない。実は1週間程前の魔法薬学の授業で『ふくれ薬』を作っている最中に何を血迷ったのかハリーは花火をパチュリーとマルフォイのペアの隣で薬を作っていたゴイルの大鍋に投げ入れて爆発させたのだ。パチュリーはなんとか反射防御魔法が身を守ってくれたが、マルフォイは鼻を風船の様に膨らませ、1番近くにいたゴイルは目を大皿の様に大きくさせていた。他の生徒達にも薬は降り掛かり、地下牢は大パニックになった。勿論スネイプ先生はカンカンにブチ切れた。そして10分後に終業のベルが鳴り、地下牢を出た瞬間に走り出したハリー達をパチュリーが偶々目撃し、自分に不可視の魔法をかけて後を追った。そしたらハリーが花火を入れた犯人だった為、つい昨日までロンと同じ様に『背後人形』の実験台2号機になって貰ったのである。

 

 

「あら?ハリー達じゃない。ハリー?背中のお化けとやらはどうなったのかしら?」

 

「あぁ・・・パチュリー。うん、朝起きたら居なくなってた」

 

「やっぱりアレは人に乗り移りながら移動してるのかな?」

 

「2人共しっかりしなさいよ。貴方達が言うような生き物は図鑑にも載ってなかったのよ?それよりパチュリーに話があるの」

 

 

 『背後人形』の事を思い出してガタガタ震え出したハリーとロンはハーマイオニーに注意された。図鑑に載っていないのは当たり前だ。アレは今年作ったばかりの人形だし、まだフレッドとジョージには完成した事も伝えておらず、5日後に渡す予定なのだ。図鑑に載っていたらおかしいどころか怖い。

 

 

「ねぇパチュリー。私達と一緒に『決闘クラブ』に行かない?」

 

「決闘クラブ?何よそれ?そんな物あったかしら?」

 

「今日掲示板に書いてあったのよ。今夜8時・・・後2時間後に大広間で行われるの。先生は誰かが言っていたんだけどフリットウィック先生らしいわ」

 

「ロックハートじゃないなら参加するわ。最近どこぞのロックハートの所為でストレスが溜まっていたのよ」

 

「名前言ってるわよパチュリー?」

 

 

 パチュリーの言葉にハーマイオニーは少し不機嫌になる。余程ロックハートの事が好きなのだろう。パチュリーはロックハートが教えるのではなければ誰でもいいと思ってストレス発散の為に参加する事にした。

 そして2時間後、机を片付けられた大広間には一方の壁に沿って金色の舞台が設置されており、その舞台の上には・・・生徒達に手を振って「静粛に」と言っているロックハートと何処と無く不機嫌そうなスネイプ先生がいた。パチュリーは隣にいるハーマイオニーをギロッといつもよりキツく睨み付け、ハーマイオニーは絶対に目を合わせまいと反対方向を向いていた。次の『背後人形』の実験台が決まった瞬間だった。

 

 

「ダンブルドア校長先生から、私がこの小さな決闘クラブを始めるお許しをいただきました。私自身が、数え切れないほど経験してきたように、自らを護る必要が生じた万一の場合に備えて、みなさんをしっかり鍛え上げる為にです。・・・・詳しくは、私の著書を読んでください。では、助手のスネイプ先生をご紹介しましょう」

 

(鍛え上げるなら貴方自身が一から教えなさい。何さりげなく自分の本を読めと言っているのよ?それになんでスネイプ先生が助手を?・・・・って、あれは多分嫌々やっているわね。滅茶苦茶ロックハートを睨んでる)

 

 

 ロックハートは満面の笑みを浮かべて隣に立っているスネイプ先生を紹介するが、スネイプ先生はロックハートを視線だけで殺せそうな程の目で睨んでいる。余程ロックハートが気に食わないのだろう。

 

 

「スネイプ先生がおっしゃるには、決闘について極僅かご存知らしい。訓練を始めるにあたり、短い模範演技をするのに勇敢にも手伝ってくださると言うご了承をいただきました。さてさて、お若いみなさんにご心配をおかけしたくありません。私と彼が手合わせした後でも、みなさんの魔法薬学の先生はちゃんと存在します。ご心配めさるな!!」

 

「相討ちで両方やられっちまえばいいと思わないか?」

 

「私的にはスネイプ先生がロックハートを消し炭にしてくれる事を願うわ」

 

「パチュリー止めて。今僕、君を物凄く怖く感じる」

 

 

 パチュリーの堂々とした返答にハリーとロンは少しパチュリーから距離を取った。ロックハートはスネイプ先生に向き合って腕を振り上げ、くねくね回しながら体の前に持ってきて大袈裟な礼をした。スネイプ先生は不機嫌そうにグイッと首を下げただけだった。2人が礼を終えると杖を剣のように前に突き出して構えた。

 

 

「ご覧のように、私達は作法に従って杖を構えています。3つ数えて最初の術をかけます。勿論、どちらも相手を殺すつもりはありません」

 

 

 ロックハートが静かになった観衆にそう説明する。パチュリーはスネイプ先生の方を見ているとふと目が合い、スネイプ先生はニヤリと笑った。パチュリーはそれを見てニコリと笑う。

 

 

「それでは!・・・1・・・2・・・3!!」

 

「エクスペリアームズ!!武器よ去れ!!」

 

 

 スネイプ先生の杖から紅の閃光が走り、ロックハートは舞台から吹っ飛んで壁に激突して壁伝いにズルズル滑り落ち、無様に大の字になって倒れた。マルフォイや数人のスリザリン生が歓声を上げ、パチュリーはスネイプ先生に拍手を送った。ハーマイオニーは顔を手で覆って「先生、大丈夫かしら?」と悲痛な声を上げるが、ハリーとロンに「知るもんか!!」と言われてしまった。ロックハートはフラフラと立ち上がって壇上に戻る。

 

 

「あれが『武装解除の術』です・・・スネイプ先生、確かに生徒にあの術を見せようとしたのは素晴らしいお考えです。しかし遠慮なく一言申し上げれば、先生が何をしようとしたかが、あまりにも見え透いていましたね。それを止めようと思えば、いとも簡単だったでしょう。しかし生徒に見せた方が教育的に良いと思いましてね・・・・。さぁ!模範演技はこれで十分!これからみなさんの所へ降りて行って2人ずつ組にします。スネイプ先生、お手伝い願えますか?」

 

 

 2人は生徒の群れに入り、2人ずつ組ませて行き、スネイプ先生はパチュリー達の所にやって来た。パチュリーはスネイプ先生にニコリと笑いながら先程の決闘を賞賛した。

 

 

「素晴らしい決闘だったわスネイプ先生。とてもいい物を見れたわ」

 

「フンッ。あの様な輩に我輩が遅れをとる訳が無かろう。さて、どうやら名コンビもお別れの時が来た様だな?ウィーズリー、君はフィネガンと組みたまえ。

ポッターは・・・・そうはいかん。マルフォイ君、来たまえ。かの有名なポッターを君がどう捌くのか拝見しよう。それに君、ミス・グレンジャー・・・君はミス・ブルストロードと組みたまえ」

 

 

 スネイプ先生はハリーがハーマイオニーの方に寄って行くのを冷笑して引き止め、2人共別々に組ませた。マルフォイはニヤニヤしながらハリーの方へ向かい、ハーマイオニーの方には鬼婆の様な大柄な女子生徒が向かった。スネイプ先生はそれをニヤリと笑いながら眺めてパチュリーに向き直った。

 

 

「さて、ミス・ノーレッジ。君とは誰を組ませたものか・・・既に他の生徒は組を作ってしまっている。少しの間見学でもするかね?」

 

「その事だけど、私今どうしても組みたい人がいるのよ」

 

「ほう?それはいったい誰かね?」

 

 

 パチュリーの言葉にスネイプ先生は誰と組みたいのかを聞く。パチュリーはニコリと笑いながら壇上に戻ろうとしているロックハートを見る。

 

 

「ロックハートと私は決闘したいわ」

 

 

 パチュリーの言葉に生徒達はバッ!とパチュリーを見てからロックハートに視線を向ける。ロックハートは目を見開いて驚いており、スネイプ先生は面白そうにパチュリーを観察した。

 

 

「成る程。との事ですがロックハート先生?如何致しますかな?」

 

「そ、それはいけませんよミス・ノーレッジ。私に教えて貰いたい生徒は他にも沢山いるのです。君だけ特別と言うのは・・・」

 

「あら?私の様な生徒の指名に逃げるのかしら?」

 

「なっ!!?い、いいでしょう!さぁ、舞台に上がりなさい!心配無用です。ちゃんと手加減して上げますとも!」

 

 

 ロックハートはパチュリーの挑発にまんまと乗り、パチュリーを舞台へ上がる様に言う。周りの生徒達はパチュリーとロックハートが決闘すると聞いて舞台に目を向ける。学年トップの成績を持つ女子生徒と闇の魔術に対する防衛術の教師が決闘するのだ。スネイプ先生も興味深げに舞台に上がって向かい合う2人を見る。

 

 

「では先ず、向かい合って!礼!」

 

 

 ロックハートの号令にパチュリーは綺麗に一礼する。そしてロックハートは杖を構え、パチュリーは完成した戦闘用の魔法書を片手に杖を構えた。それを見てロックハートは「フンッ」と鼻で笑った。

 

 

「本を見ながらでないと魔法が撃てないのかね?そんな状態でよく私に決闘を申し込んだものだ」

 

「あら?この魔法書は舞台から外に魔法の影響がいかない様に結界を張るために持っているだけよ。私が使おうと思っている魔法は広範囲にダメージを与えるから」

 

 

 スネイプ先生はパチュリーの話を聞いて舞台の上に手を伸ばそうとしたがバチンッ!と手を弾かれて驚いていた。ロックハートはそれを見てかなり驚いていた様だが、すぐに気を取り直して杖を構え直した。

 

 

「それでは・・1・・・2・・・3!!エクスペリアームズ!武器よ去れ!」

 

 

 ロックハートの杖から紅の閃光が走りパチュリー目掛けて飛んで行く。しかしパチュリーは慌てる様子もなく杖を振って搔き消した。まさか生徒に掻き消されるとは思ってもみなかったロックハートは顔を驚愕の色に染めた。パチュリーはロックハートを睨みながらクスリと笑った。

 

 

「さて、ロックハート?手加減してあげるから安心してマダム・ポンフリーに治療してもらいなさい。大丈夫、死にはしないわ」

 

「ッ!!!エクスペリアームズ!武器よ去れ!!」

 

「水符『プリンセスウンディネ』」

 

 

 ロックハートは身の危険を感じて再び紅の閃光を放つが、それはパチュリーが放った泡の様な弾幕によって相殺された。しかし弾幕は複数放たれており、ゆっくりと接近してくる弾幕とパチュリーが狙って放ったレーザーをロックハートは躱し切る事が出来ずにレーザーが直撃して結界を突き破りながら吹き飛んだ。今は手加減している為死にはしないが、骨は何本か折っただろう。しばらく生徒達はその光景に固まっていたが、次の瞬間生徒達の歓声とロックハートファンの悲鳴が大広間中に響き渡った。パチュリーはスッキリした様子で舞台を降り、スネイプ先生に歩み寄った。

 

 

「スネイプ先生、ロックハートを医務室へお願いしてもいいかしら?私は今のでスッキリしたので寮へ戻るわ」

 

「あ、あぁ。承知した。しかしミス・ノーレッジ?あの魔法はいったい何かね?」

 

「私のオリジナル魔法よ。ではまた次の授業で・・」

 

 

 パチュリーはスネイプ先生がロックハートのファンと思われる女子生徒にロックハートを医務室に運ぶよう指示を出すのをチラッと見てからいつもよりご機嫌な様子で自室に戻り、小悪魔と小さなパーティーを開いた。

 

 

 

 

 

 

 翌日の大吹雪の日、バジリスクの新たな犠牲者が現れた。犠牲者は2人、ハッフルパフの生徒のジャスティンと言う男の子と、本当の首無しになったニックだった。これだけならばまだ良かったのだが、第1発見者が問題だった。先日のパチュリーが去ってからも行われた決闘クラブでパーセルマウスと判明したハリーだった。

 お陰で2人が襲われた日から生徒達はパニック状態に陥った。ジャスティンと言う少年ならまだパニックにはならなかっただろうが、ゴーストであるニックまでも石にされた事は生徒達に恐怖を与えた。それによりクリスマスに帰宅しようとする生徒達が我先にとホグワーツ特急の予約を入れた。パチュリーもヴワル大魔法図書館に帰宅しようと思ったが、態々混みまくっている列車に乗る気もなかったので今年は居残り組の方へ入った。別に急いで研究する物もなかったし、何か研究したいと思ったらトランクで戻ればいいから問題ない。

 そしてクリスマスの日、パチュリーはクリスマス・ディナーをしていた大広間から寮へ戻る為に暗い廊下を歩いていた。

 

 

(う〜ん、次はなんの研究をしようかしら?フレッド達の魔道具も作り終えちゃったし・・・こぁに何か作ってプレゼントしようかしらね?)

 

 

 パチュリーはそんな事を考えながら廊下を歩いていると、角を曲がった所でドンッ!と誰かとぶつかってよろめいた。

 

 

「おっと!ごめんなさい。少し考え事を・・・なっ!!?」

 

 

 パチュリーが謝りながら相手を見ると、そこには驚いた表情をしたもう1人のパチュリー(・・・・・)が居た。パチュリーは突然現れたもう1人の自分に強めの弾幕を数発撃ち込んで吹き飛ばしてから魔法書を開き、スペルを発動しようと構えた。

 

 

「火符『アグニシャ・・・」

 

「パチュリー!!ストップ!!撃っちゃダメ!!」

 

 

 パチュリーが突然掛けられた声に振り返ると何故かダボダボのスリザリンの制服を着たハリーとロンが現れた。パチュリーは何故2人がそんな格好をしているのか疑問に思ったが、ふと原作で『ポリジュース薬』を使うシーンを思い出したパチュリーは『まさか!?』と思いながらもう1人の自分の方を見た。そこには蹲っていた自分の姿は無く、スペルを放とうとするパチュリーをガタガタ震えながら涙目で見ているハーマイオニーの姿があった。パチュリーは思わず右手を額に当てて天を仰いだ。

 

 

(何やってるのよこの問題児達は・・・・)



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バレンタインと七曜の魔女の暴走

「じゃ、話してもらいましょうか。3人共?」

 

 

 パチュリーはハーマイオニーの治療をしてから3人に案内されたマートルの女子トイレの中に入り、腕を組んでハリー達を睨み付けた。ハリー達は既にグリフィンドールの制服姿になり、パチュリーと目を合わせようとしない。しばらく沈黙が続き、ようやくハーマイオニーが口を開いた。

 簡単に纏めるとハリー達はマルフォイがスリザリンの継承者だと思い、ハーマイオニーの発案で『ポリジュース薬』を使ってクラッブ、ゴイル、そしてパチュリーの姿になってマルフォイから聞き出そうとしたらしい。何故ここで自分なのかと変身していたハーマイオニーに質問すると、パチュリーがマルフォイとそれなりに仲がいいからペラペラと喋ってくれると思ったそうだ。髪の毛は決闘クラブの時に舞台の上に1本だけ落ちているのを回収したらしい。

 そして今日、クラッブとゴイルは睡眠薬入りチョコレートケーキで簡単に捕まえられ、パチュリーはスリザリン寮に行くことはないと考えて作戦を実行した。結果は自分達の勘違いで、マルフォイはスリザリンの継承者ではなかったらしい。更に薬の効果が切れ掛かって急いで女子トイレに向かっている時にパチュリーと遭遇、そして現在に至るらしい。

 

 

「全く、何やってるのよ貴方達は?危うくハーマイオニーが消し炭になるところだったのよ?分かってるの?」

 

「でも・・・それはパチュリーが去年トロールに使った魔法を使おうとしたから・・・」

 

「『でも』じゃないわよ。じゃあロン、角を曲がると自分の姿をした何者かがいた時、貴方はどうするのかしら?『やぁロン!元気かい?』なんて挨拶して通り過ぎるの?」

 

「いや〜・・・それは・・・」

 

 

 ロンはパチュリーに何も言い返せなかった。パチュリーはしばらく3人に説教をし、涙目になった3人を連れてグリフィンドール寮へ戻って行った。それから1週間、罰として3人は『背後人形』の改良型の実験台になって貰った。コレは今までハリー達に使っていた『背後人形』をパチュリーが独自に改造した物で、背中に張り付いて話し掛けてくる所までは普通の物と変わらないのだが、このパチュリーが改造した物は張り付いた人間の運気を下げる。例えば甲冑が自分に向かって倒れて来る。魔法薬を作っていると鍋に穴が開いて爆発する。廊下を歩いていると窓ガラスが割れてガラスが降り注ぐなどだ。しかもそれ等の不幸が発生すると人形が血涙を出してケタケタ笑うのだ。結果は上々。ハリーとロンはグレードアップした『背後人形』をどうにかしようと先生方に相談したが、結局解決出来ず医務室で寝込み、ハーマイオニーも程なくして医務室で寝込んでしまった。しかもそれぞれかなり不幸な目に遭っていた。

さぁて、次はどんな風にしようかしら?

 

 

 

 

 

 

 クリスマス休暇を終えてもしばらくの間ハリー達は医務室で寝込み続けた。新しい『背後人形』はハリー達のトラウマになったらしく、眠っている間も「やめて・・やめて下さい・・やめろぉぉぉ!!」と急に寝言を呟いたかと思うと飛び起きたり、自身の杖を持って毛布に包まり、ガタガタ震えたりとしていた。クリスマス休暇を終えた生徒達はハリー達が襲われたと思い込んで医務室前をウロウロしたりしてマダム・ポンフリーに叱られていた。教師達も最初は信じていなかったが、ハリー達の容態を見て只事ではないと感じていた。パチュリーもまさかこんなにも効果があるとは思っていなかったのでほぼ毎日見舞いに来ていた。

 そして今日もパチュリーは医務室へ3人の見舞いに来ていた。新学期が始まってからは宿題も一緒に持って来ている。パチュリーはマダム・ポンフリーにお見舞いに来た事を伝えてからハリー達が寝ているベッドへ向かった。

 

 

「ハリー、ロン、ハーマイオニー。来たわよ」

 

「やぁ、パチュリー。元気そうだね」

 

「あら?ハリー、ロン、もう平気なの?」

 

 

 そこにはハーマイオニーのベッドの隣に置かれた椅子に座る制服姿のハリーとロンの姿があった。どうやら今回初めて『背後人形』を経験したハーマイオニーに比べて割と早く回復した様だ。まだハーマイオニーは顔を青くしているが、脇机に置かれた教科書類を読んでいる為こちらも近い内に復帰するだろう。パチュリーは3人に今日の分の宿題を渡す。

 

 

「はいコレ。今日の分の宿題よ。ちゃんと済ませなさい」

 

「ウゲェ!やっぱりもう少し寝てようかな?」

 

「ダメよ。ハーマイオニーを見習いなさい。遅れを取り戻そうと必死になっているわよ?」

 

「僕等をハーマイオニーと比べたらダメだよパチュリー」

 

 

 ハーマイオニーを指差すパチュリーにハリーは肩をすくめる。そこでふとパチュリーはハーマイオニーの枕の下からはみ出ている金色のカードの様な物を見つけた。

 

 

「あら?ハーマイオニー、その枕の下からはみ出ている金色の物は何?」

 

「え?あ!!た、ただのお見舞いのカードよ」

 

「嘘おっしゃい。貴女がただのお見舞いカードを枕の下に入れて寝るわけないでしょう?ほら、貸しな・・・・さい!!」

 

「あぁ!!ちょっと!ダメ!!」

 

 

 パチュリーは慌ててカードを枕の下に突っ込もうとするハーマイオニーから素早くカードを取り上げて距離を取った。ハリーとロンも初めて気付いたのか両隣からカードを覗き込んだ。

 

 

『ミス・グレンジャーへ

 

早く良くなるようお祈りしています。

 

貴女の事を心配しているギルデロイ・ロックハート教授より

勲三等マーリン勲章、闇の力に対する防衛術連盟名誉会員、『週刊魔女』五回連続チャーミング・スマイル賞受賞・・・・』

 

 

「何よコレ?ハーマイオニー、貴女こんな紙屑を枕の下に入れて寝ていたの?」

 

「え!?えっと・・・コレは・・・・」

 

 

 パチュリーのみならず、ハリーとロンも呆れ顔でハーマイオニーを見る。まさかここまでハーマイオニーがロックハートにメロメロだとは思わなかった。ハーマイオニーはどうにか誤魔化そうと頑張っていたが、パチュリー達の顔は変わる事はなかった。最早苦笑いしか出来ないハーマイオニーだったが、薬を持って来たマダム・ポンフリーがパチュリー達を医務室から追い出すのを見て胸を撫で下ろしていた。パチュリー達はマダム・ポンフリーに医務室から追い出され、外に出た途端に扉はバタンと閉じられた。

 

 

「ハーマイオニーってあんなにロックハートにメロメロだったんだね。僕、あそこまでとは思わなかったよ」

 

「ロックハートって、おべんちゃらの最低なやつ!だよな?」

 

「違うわロン。ロックハートは・・「ストップだパチュリー。君がロックハートの事を言い始めると僕等の頭の中がロックハートへの呪詛で埋まっちゃうよ」失礼ね貴方」

 

 

 パチュリーは話を止めたロンをジト目で睨むが、ロンは「事実だろ?」と言うだけだった。パチュリーは少し納得いかない気持ちだったが、これからマクゴナガル先生に貸し出している魔法書を返して貰いに行く為に2人と別れた。

 

 

 

 

 

 

 月日は流れ、淡い陽光がホグワーツを照らす季節がやって来た。ジャスティンとニックの事件以来被害者は出ていない為、城の中も僅かに明るいムードが漂い始めている。ただギルデロイ・ロックハートが襲撃事件を自分が止めさせたと思い込んでいるようで、さらに面倒臭い事になっていた。

 

 

「ミネルバ、もう厄介な事は起きないと思いますよ?今度こそ部屋は永久に閉ざされましたよ。犯人は私に捕まるのは時間の問題だと観念したのでしょう。私にコテンパンにやられる前に止めたとは、なかなか利口ですな」

 

 

 物凄く嫌そうな顔をしているマクゴナガル先生を無視してロックハートは訳知り顔にウインクしながらペラペラと話を続ける。

 

 

「そう!今、学校に必要なのは、気分を盛り上げる事ですよ!先学期の嫌な思い出を一掃しましょう!!今はこれ以上申し上げませんけどね、まさにこれだ!と言う考えがあるんですよ・・・」

 

 

 ロックハートはマクゴナガル先生に一方的にそう告げてからスタスタ歩き去って行った。ロックハートの言う気分を盛り上げる事とは何か、それは2月14日の朝食時に明らかになった。パチュリーは前夜遅くまでクィディッチの練習をしていて寝不足のハリーと偶然出くわして一緒に大広間へ向かった。他の生徒達より少し遅れて大広間の扉を開けると、パチュリー達は部屋を間違えたと思って閉めてしまった。しかしどう見ても大広間の扉に間違い無い為、嫌々扉を開けた。そこには何時もの大広間の姿は無く、壁という壁はけばけばしい大きなピンクの花で覆われ、淡いブルーの天井からはハート型の紙吹雪が舞っていた。パチュリーとハリーは苦笑いしながらグリフィンドールのテーブルに行くと、いかにも気分が悪そうなロンとクスクス笑いを抑えきれていない様子のハーマイオニーが座っており、パチュリーは席に着きながら今の状況をハーマイオニー達に質問し、ハリーも席に着きながらベーコンから紙吹雪を払いながら答えを待った。

 

 

「ちょっとロン?これいったい何事?」

 

「こんな事する奴はあいつしかいないだろ?見てみなよ」

 

 

 パチュリーの問いにロンは答えるのもアホらしいと言う顔で先生達のテーブルを指差した。パチュリーとハリーが指が差された方向を見ると、石になったかのように固まった。そこには壁の色とマッチしたけばけばしいピンクのローブを身に纏うロックハートの姿があった。ロックハートは片手を上げながら「静粛に」と合図しており、その両側の先生達は石の様に無表情をしていた。マクゴナガル先生はヒクヒクと頰を痙攣させ、スネイプ先生に至っては表現しにくい程凄い顔になっている。

 

 

「バレンタインおめでとう!!今までのところ46人の皆さんが私にカードをくださいました。ありがとう!!そうです。皆さんをちょっと驚かせようと、私がこの様にさせていただきました!・・・・しかも!コレが全てではありませんよ!!」

 

 

 そう叫ぶロックハートが手をポン!と叩くと、玄関ホールに続くドアから無愛想な顔をした小人が12人ゾロゾロと入って来た。しかもロックハートが全員に金色の翼を付けてハープを持たせている小人だ。

 

 

「私の愛すべき配達キューピッドです!!今日は学校中を巡回して、皆さんにバレンタイン・カードを配達します!そしてお楽しみはまだまだこれからですよ!先生方もこのお祝いムードにはまりたいと思っていらっしゃる筈です!さぁ、スネイプ先生に『愛の妙薬』の作り方を見せてもらってはどうです?ついでにフリットウィック先生ですが、『魅惑の呪文』について、私が知っているどの魔法使いよりもよくご存知です。素知らぬ顔をして憎いですね!?」

 

 

 ロックハートの言葉にフリットウィック先生は顔を覆い、スネイプ先生はおそらく今心の中で「『愛の妙薬』を貰いに来た最初の奴には毒薬を無理矢理飲ませてやる」と思っているだろう。ロンはハリーに肩を竦めながら話し出す。

 

 

「な?僕達も大広間に入って来た時は驚いたよ。昨日まで普通だった大広間がこんなけばけばしい感じになっちまったんだから」

 

「あら?素敵じゃない。流石ロックハート先生だわ♪」

 

「ハーマイオニーはご機嫌だね。もう僕呆れて物も言えないや。ねぇ?パチュリー?・・・・パチュリー?」

 

 

 ハリーがハーマイオニーの有様に「ダメだこりゃ」と首を振りながらパチュリーに同意を求めると、返事がない事に疑問を抱いた。ハーマイオニーとロンもそれに気付いてパチュリーを見たが、今日程見なけりゃ良かったと後悔した事はないだろう。パチュリーは以前のピクシー小妖精事件の比にならない程不機嫌そうな雰囲気を醸し出し、パチュリーの近くにいる生徒達は身の危険を感じて距離を取っていた。

 

 

「ふ、ふふふふ・・・あんのバカ魔法使い。学校中巡回してバレンタイン・カードを配るですって?巫山戯てるんじゃないわよ。そうだわ・・・いっその事全部燃やしちゃえばいいんじゃないかしら?えぇ、そうよ。それがいいわ。そうすれば証拠も全て燃えて無くなるのよ」

 

「パ、パパパパチュリー?何言ってるんだい?なんかいつもより怖いよ?」

 

 

 ユラリと亡霊の様に立ち上がったパチュリーにハリー達はかなり引き気味に質問する。周りの生徒達も殺気に近い何かを感じて慌ててパチュリーから更に距離を取った。ロックハートは先生方に話していて気付いていないが、テーブルの先生方はパチュリーの様子を見てギョッとしていた。

 

 

「ハリー?私いい事思い付いたのよ。もうホグワーツごとロックハートを燃やせば誰も私が殺ったなんて気付かないんじゃないかしら?もう生徒だ先生だ関係無いわ!!日符『ロイヤル・・」

 

「パチュリーが壊れた!!みんなパチュリーを押さえて!消し炭にされる!」

 

「離しなさいハリー!!全部燃やさないと気が済まないわ!!」

 

「パチュリー!!早まったらダメ!!今この場には僕等もいるから!!」

 

「そうよパチュリー!!ロックハート先生は何も悪くないわ!素敵なサプライズじゃない!!」

 

「「ハーマイオニーは黙ってて!!!」」

 

 

 数分後、パチュリーはどうにか落ち着いたが、その日の授業は全て欠席した。そしてハリー達は今生きている事に感謝した。



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新たな犠牲者と緊急放送

 パチュリーがホグワーツを焼こうと暴れたヴァレンタインからしばらく経って、再びクィディッチの試合の日がやって来た。しかし今回はクィディッチの試合にパチュリーは行っていない。いや、行ってたまるかと心に決めて自室にて魔法書を読みながら小悪魔とお茶を飲んでいた。魔法書を黙々と読み続けながら焼きたてのクッキーを食べているパチュリーに小悪魔は質問を投げ掛ける。

 

 

「パチュリー様?今回はクィディッチの試合を観に行かなくて良かったのですか?」

 

「気にする事はないわ。それにまたあのバカ(ロックハート)が何かしでかしたら今度こそ私ホグワーツをどこかの戦場跡地みたいにする自信があるわ」

 

「例えがかなり物騒ですけどそんなに嫌いなんですね、ロックハートと言う魔法使いが」

 

 

 小悪魔は苦笑しながら紅茶を飲む。パチュリーはロックハートの名前を聞いて少しムスッとした顔をする。

 

 

「もうあいつの事は名前で呼ぶのは止めなさいこぁ。せっかく貴女が淹れてくれた美味しい紅茶が不味くなっちゃうじゃない」

 

「あははは、流石に言い過ぎですよパチュリー様。でも美味しいと思ってくれていて嬉しいです♪」

 

 

 背中の羽をパタパタ動かしながらニッコリ微笑む小悪魔にパチュリーはクスリと笑ってクッキーを1枚口の中に入れる。サクサクのクッキーを楽しみながら小悪魔のお菓子作りの腕が上がっている事に感心する。

 

 

「ふふっ♪こぁも料理やお菓子作りの腕がかなり上がったわね。初めての時なんて砂糖と塩を間違える以前にクッキーとパフェの作り方を間違えていたのに」

 

「ブハッ!!ケホッ!ケホッ!パ、パチュリー様!?あの時は・・・その・・・・あうぅ〜〜///」

 

 

 パチュリーの言葉に飲んでいた紅茶をむせてアタフタしてから顔を真っ赤にして俯いた小悪魔にパチュリーは『可愛いなぁ』と温かい目で小悪魔を眺めていた。しばらく眺めていると、談話室の方が急に騒がしくなって来た為パチュリーは怪訝な顔をする。

 

 

「ん?おかしいわね・・・・まだクィディッチが始まったあたりの時間帯の筈なのに何故談話室に生徒達の声が聞こえて来るのかしら?」

 

「う〜〜・・・・ふぇ?あ、ホントですね。もう試合が終わったんでしょうか?」

 

「いえ、流石にそれは早過ぎるわ。いくらハリーでも始まってすぐにスニッチを捕まえる事は出来ないわよ。ちょっと様子を見て来るわ」

 

「あ、はい。行ってらっしゃいませ」

 

 

 席を立って談話室に向かうパチュリーに小悪魔は慌てて立ち上がって一礼し、パチュリーを見送った。手を軽く振りながら談話室へ向かったパチュリーが見たのは、何やら話し合っているグリフィンドール寮生と何故か物凄く不機嫌そうな顔をしているクィディッチチームの面々だった。

 ・・・・うん、全く意味が分からないわね。

 

 

「「ん?あ!パチュリー!!」」

 

「あら?フレッドにジョージ。これはいったい何事?クィディッチの試合はどうしたのよ?」

 

 

 パチュリーが疑問符を浮かべていると、双子のフレッドとジョージが全く同じタイミングで同じ台詞を言った。パチュリーはちょうどいいと思って今の状況を質問した。

 

 

「それがいざ試合だって時にマクゴナガル先生がやって来て、『試合は中止です!!』って言いやがったんだよ」

 

「クィディッチの試合を中止?どうしてそうなったのかしら?フレッド」

 

「残念ジョージだよ・・・・ごめん嘘フレッドで合ってるからその拳を下ろしてくれ・・・ありがとう。それが分からないんだよ。いきなり来て中止って言われただけだから」

 

 

 パチュリーの振り上げた拳に冷や汗をたらりと流しながらフレッドが謝罪し、自分もよく分かっていない事を伝える。パチュリーがフンッと鼻を鳴らしながら腕を組んでしばらくフレッドとジョージの双子と話を続けていると、ハリーとロンの2人と丸めた羊皮紙を手に持ったマクゴナガル先生が談話室に入って来た。どことなく暗い表情のハリー達に首を傾げていると、マクゴナガル先生が残念そうな表情で話し始めた。

 

 

「皆さんに残念なお知らせです。つい先程、レイブンクローの監督生であるミス・ペネロピー・クリアウォーターと、ミス・ハーマイオニー・グレンジャーの2人が石にされました」

 

 

 マクゴナガル先生の言葉にパチュリーを除いたグリフィンドール寮生全員の顔が驚愕の表情に染まった。パチュリーも表情には出していないが多少驚いてはいる。今朝の朝食時に猛スピードで階段を駆け上がるハーマイオニーとすれ違ったばかりだと言うのに、その彼女がこの短時間に襲われたのだから少しぐらい驚きはする。マクゴナガル先生は丸めた羊皮紙を広げてから全員に聞こえる様に大きな声で話し始めた。

 

 

「そして、今回の件で皆さんにお知らせがあります。・・・全校生徒は夕方6時までに、各寮の談話室に戻るように。それ以後は決して寮を出てはなりません。授業に行く時は、必ず先生が1人引率します。トイレに行く時は、必ず先生に付き添ってもらうこと。クィディッチの練習も試合も、全て延期です。夕方は一切、クラブ活動をしてはなりません」

 

 

 マクゴナガル先生はそう言い終えると羊皮紙を再びクルクルと丸めてから少し言葉を詰まらせた。

 

 

「言うまでもないことですが、私はこれ程落胆した事はありません。これまでの襲撃事件の犯人が捕まらないかぎり、学校が閉鎖される可能性もあります。犯人について何か心当たりがある生徒は申し出るよう強く望みます」

 

 

 マクゴナガル先生が少しぎこちなく肖像画の裏の穴から出て行くと、途端にグリフィンドールの生徒達は話し始めた。パチュリーは一瞬犯人を教えようかと思ったが、言わない事にした方が良いと判断してハリー達の元に向かった。その間にリー・ジョーダンが大演説を始めた。

 

 

「これでグリフィンドールは2人やられた。寮付きゴーストを別にしてもレイブンクローが1人、ハッフルパフが1人。先生方はだーれも気付かないのかな?スリザリン生はみんな無事だ。今度の事は全部スリザリンが関係してるって、誰にだって分かりそうなもんじゃないか?スリザリンの継承者!スリザリンの怪物!・・・どうしてスリザリン生を全部追い出さないんだ?」

 

 

 リーの演説にみんな頷きながら拍手を送っている。パチュリーはハリー達の所になんとか辿り着いたが、ハリーはハーマイオニーが石にされた事が余程ショックな様で、暗い面持ちだった。

 

 

「あらあら、随分と落ち込んでいる様ねハリー?」

 

「パチュリー・・・まぁね。今朝『図書室に行って来る』って別れたばっかりなのに、次に会ったのは医務室のベッドの上さ。・・・・そうだ!パチュリー!君、石化した人を蘇生する薬持っていたよね?あれをくれないかい?」

 

「あのねぇ、貴方達は私を何でも屋とでも思っているのかしら?貴重な薬をそうホイホイ渡す訳がないでしょう。そもそも猫1匹蘇生するぐらいしか薬は残っていなかったから次に出来るのは学校で作られるのと同じ時期よ」

 

「うっ!!ご、ごめん・・・」

 

 

 パチュリーの言葉にハリーは気不味い顔をする。パチュリーは深い溜め息を吐くとハリーと別れて自室に戻り、小悪魔に簡単な説明をしてから紅茶を淹れるよう頼んでから魔法書の続きを読み始めた。

 

 

 

 

 

 

 いつの間にか季節は夏に突入していた。ハーマイオニーとレイブンクローの監督生が襲われた事件の日の翌日にはハグリッドとダンブルドア先生が学校からいなくなった事が生徒達の間で話題となり、更に恐怖感を広がらせた。ただ、マルフォイは2人がいなくなっても暗い表情1つせず、寧ろ愉快そうに過ごしていた。2週間程たったある日の魔法薬学の授業時にはスネイプ先生に校長に志願してはどうかと聞いていた程には絶好調である。

 スプラウト先生の引率でパチュリー達は闇の魔術に対する防衛術のクラスに向かっていた。パチュリーは教室に入ると誰よりも早く1番離れた後ろの席に座って堂々と持参の魔法書を開く。他の生徒達も席に座ったが、やはりダンブルドア先生がいない事が不安なのか暗い表情だ。しかし、その表情はウキウキと教室に入って来たロックハートを見て唖然とした表情に変わった。

 

 

「さあ、さあ、何故そんな湿っぽい顔ばかり揃ってるのですか?皆さん、まだ気が付かないのですか?」

 

 

 ロックハートの物分かりが悪いとでも言うような口調にパチュリーを中心に何人かの生徒達がムカッとした。ロックハートは相変わらず歯を見せながら笑ってゆっくりと話す。

 

 

「危険は去ったのです!!犯人は連行されました!!」

 

「いったい誰がそう言ったんですか?」

 

 

 ロックハートの堂々とした発言にディーン・トーマスが大きな声で質問する。

 

 

「なかなか元気があってよろしい!!魔法大臣は100パーセント有罪の確信なくして、ハグリッドを連行したりしませんよ」

 

「いえ、するわね」

 

 

 ロックハートの自信たっぷりな言葉にロンが何か言おうとしたが、その前に魔法書を読んでいたパチュリーが声を上げた。ロックハートはパチュリーの方へズンズン歩いて来て子供に言い聞かせるように言う。

 

 

「自慢するつもりはありませんが、ハグリッドの逮捕については、私はミス・ノーレッジよりいささか(・・・・)!詳しいですよ?」

 

「普通に自慢じゃない。そもそも貴方の言葉は信用出来ないわ。ヴァレンタインの時は『犯人は逃げた!』だの『秘密の部屋は永久に閉ざされた!』だの自信満々に言っていたのに、ついこの間2人襲われている。その前には骨折を治すと言いながらハリーの腕の骨を全て抜いて更に悪化させた。それなのに貴方を信用出来ると思うのかしら?」

 

 

 パチュリーの挙げた例を聞いてロックハートは笑みを少し消してパチュリーを睨む。周りの生徒達もウンウンとパチュリーの言葉に頷いている。しばらくパチュリーと睨み合っていたロックハートはフンッと鼻を鳴らして授業に戻った。何も言い返せなかったのだろう。

 フッ・・・勝ったわ。

 

 

 

 

 

 

 テスト3日前の朝、朝食の席でマクゴナガル先生が新たな発表があると大きな声で言った。「良い知らせです」と言う言葉を聞いて大広間は蜂の巣を突いたかのような騒ぎになった。

 

 

「ダンブルドアが戻ってくるんだ!!」

 

「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」」

 

「スリザリンの継承者を捕まえたんですね!?」

 

「「「キャァァァァァァァァ!!!」」」

 

「クィディッチの試合が開催されるんだ!!」

 

「「「「「よっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」」」」

 

「ロックハートがクビになるのかしら?」

 

「「「「「「いえぇぇぇぇぇぇぇぇ・・・えぇ?」」」」」」

 

 

 生徒達の叫びの後に歓声が大広間中に轟いていたが、何処かの誰かの質問を聞いて一瞬歓声を上げたがすぐに口を閉ざして歓声を止めた。パチュリーは柄にもなく肩を震わせて笑いを堪えており、先生方のテーブルもロックハートを除いた全員が必死に笑いを堪えていた。後から生徒達の間でも笑いを堪えるものが多数出てきた。離れた所に座っているハリーやロンもそれは同じだった。

 

 

「ちょ・・・ちょっと待っ・・・それは・・」

 

「ふ・・・不意打ち過ぎ・・プククッ」

 

 

 しばらくすると全員落ち着いてきて、肩を震わせていたマクゴナガル先生もゴホンと咳払いをしてから発表した。

 

 

「ゴホンッ!!えぇ〜、スプラウト先生のお話では、とうとうマンドレイクが収穫出来るとの事です。今夜、石にされた人達を蘇生させることが出来るでしょう。言うまでもありませんが、その内の誰か1人が、誰に、または何に襲われたのか話してくれるかも知れません。私は、この恐ろしい1年が、犯人逮捕で終わりを迎えるのではないかと、期待しています」

 

「「「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」」」」」

 

 

 大広間で歓声が爆発した。本当に犯人が捕まってくれれば、もう恐れる必要もなくなるからだ。少し前までお通夜のような暗かった朝食が一気に明るい宴会のような朝食へと変わった。パチュリーはちょっっっっっっっとだけ残念に感じながらも朝食を終え、他の生徒達と授業に向かった。午前の授業も半ば終わりを告げ、次の魔法史の教室に向かおうとした時、ロックハートはこれまでにない程上機嫌で生徒達を引率していた。ロックハートはこれまでに何度も「危険は去った!!」と自信たっぷりに宣言するたびにそれが間違いだと証明されてきたが、今回はいつもより自信に満ち満ちている。

 

 

「私が言う事をよく聞いておきなさい。哀れにも石にされた人達が最初に口にする言葉は『ハグリッドだった』です。全く、マクゴナガル先生がまだこんな警戒措置が必要だと考えてらっしゃるのには驚きますね」

 

「そうね。貴方みたいな先生に、しかも女子に決闘で負けるような者を警戒措置に使っても効果は0ね」

 

 

 パチュリーの言葉にロックハートは青筋を浮かべつつも笑みを絶やさなかった。しかしやはり腹が立っていたのか残り廊下1つになった所でロックハートは「もう必要ないでしょう」と言ってからパチュリーをひと睨みしてから去って行った。魔法史の授業が始まり、もうすぐ休憩時間を知らせるベルが鳴ると言う時に、学校中に魔法で拡声されたマクゴナガル先生の声が鳴り響いた。

 

 

『生徒は全員、それぞれの寮にすぐに戻りなさい。教師は全員、職員室に大至急お集まりください』



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七曜の魔女と秘密の部屋

 マクゴナガル先生の放送を聞き、パチュリーと生徒達はザワザワと騒ぎながらもそれぞれの寮に戻って行った。パチュリーが談話室に戻る頃には下級生から上級生まで既に戻って来ており、皆それぞれ「何があったんだろう?」とか、「また誰かが襲われたんだ!!」などと話し合っている。パチュリーはそこに交ざらずにまっすぐ自室に戻り、小悪魔に軽く状況を説明してから机の椅子に座って魔法書を読み始めた。日没近くまで読み続けているといつの間にか談話室の方が静かになっており、魔法書に栞を挟んで閉じてから談話室の様子を見に行った。談話室に着くとそこはまるでお通夜の様な雰囲気に包まれており、特にハリー、ロン、フレッド、ジョージ達がいる談話室の片隅の方はかなり暗い雰囲気にも包まれていた。

 

 

「ちょっと貴方達、いったいどうしたのよ?何かあったの?」

 

「なんだ、パチュリーか・・・先生の話を聞いてなかったのかい?俺達の妹が・・・ジニーが、秘密の部屋の怪物に攫われたんだ」

 

「あぁ、そう言う事。・・・パーシーはどうしたの?」

 

「パーシーならパパとママにふくろう便を飛ばしてから部屋に引き篭もっちゃったよ」

 

 

 パチュリーの問いにいつもの元気を失くしたフレッドとジョージが答えた。2人はその後じっとしているのがたまらなくなってトボトボと寝室に戻って行き、パチュリーはそれを見送ってから近くにあった椅子に座り、魔法書を開いて再び読み始めた。しばらく読んでいると今まで一言も喋らなかったロンが口を開いた。

 

 

「ジニーは何か知っていたんだよ、ハリー。だから連れて行かれたんだ。パーシーのバカバカしい何かの話じゃなかったんだ。何か『秘密の部屋』に関する事を見つけたんだ。きっとそのせいでジニーは・・・」

 

 

 ロンは激しく目をこすりながら話を続ける。しかしハリーは窓の外の夕日を眺めて何かを一生懸命考えている様で、話を聞いている様子がない。

 

 

「ハリー・・・ほんの僅かでも可能性があるだろうか。つまり・・・ジニーがまだ・・・・ッ!!そうだ!ロックハートに会いに行くべきじゃないかな?」

 

 

 この言葉にハリーは反応してロンに向き直り、パチュリーはチッ!と大きく舌打ちをした。

 

 

「僕達の知っている事を教えてやるんだ。ロックハートはなんとかして『秘密の部屋』に入ろうとしているんだ。それがどこにあるのか、僕達の考えを話して、バジリスクがそこに居るって教えてあげよう!」

 

「・・・そう、だね。よし、行こう」

 

 

 ハリーもロンの案に賛成し、談話室を横切って肖像画の出入り口から出て行った。すっかり落ち込んでいる他の生徒達は2人を止める事はウィーズリー兄弟が気の毒で出来なかった。パチュリーは2人が出て行くのを見てから自室に戻り、小悪魔に少し話してから数ヶ月前に完成させた透明マントの上位互換である『幽霊マント』を着てハリー達を追い掛けた。ハリーの透明マントに対抗するために作ったこのマントだが、普通の透明マントと違う所は、壁や扉をすり抜ける事が出来、更に着ていると声や足音を消してくれるのである。パチュリーは『幽霊マント』で姿を消してから肖像画をすり抜け、ハリー達を追ってゴミk・・・ゴホン!ロックハートの部屋に向かった。普通なら廊下にパチュリーの足音が響くのだが、全く響いていない。

 

 

(偶には自分で動くのもいいものね。しかも壁をすり抜けるのがなんだか面白いわ。ゴースト達はいつもこんな感じなのかしらね・・・・っと!あれは)

 

「ほら!早く歩いて!逃げようとしないでくださいよ?」

 

「わ、分かっているとも。しかし本当に『秘密の部屋』の入り口はこっちなのかい?」

 

 

 正面方向からハリーとロンに杖を突き付けられて歩いてくるロックハートを見つけた。ハリー達に睨み付けられているロックハートはいつもより弱気に見える。

 どう言う状況かしら?見た所逃げようとしたロックハートがハリー達に捕まって『秘密の部屋』に向かっているように見えるけれど。

首を傾げながらハリー達を見ているパチュリーの予想はほとんど合っていた。

 

 

(まぁとりあえず・・・・・フンッ!!)ドスッ!!!

 

「ブゲラッ!!?き、君達!いきなり蹴る事はないだろう!?」

 

「?何言ってるのか分かりませんが、さっさと歩いて下さい」

 

 

 

 

 

 

 ハリーとロン、そしてお尻をさすっているロックハートと『幽霊マント』を着たパチュリーは、マートルの取り憑いている女子トイレの中に入った。ハリーがロックハートをロンに任せてトイレの中を調べていると、1番奥のトイレからマートルがやって来た。

 

 

「あら、あんただったの。今度はなんの用?」

 

「君が死んだ時の様子を聞きたいんだ」

 

 

 ハリーの質問にマートルは顔つきを変え、こんなにも誇らしく、嬉しい質問をされた事がないという顔をした。こんな嬉しそうな彼女はパチュリーがゴースト用のお菓子をあげた時以来である。

 

 

「オォォゥ、怖かったわ。まさにここだったの。この小部屋で死んだのよ。眼鏡の事をからかわれて鍵を掛けて泣いていたら、誰か入って来たの。なんか変な事を言っていたんだけど、喋っていたのが男子だったから『出てってよ!』って言おうとして、それで・・・死んだの」

 

「どうやって?」

 

「分からないわ。覚えているのは大きな黄色い目玉が2つ・・・・あの辺りで見たの」

 

 

 マートルが指差したのは手洗い台だった。ハリー達は手洗い台を隅々まで調べたが、見つけたのは蛇の形が彫られた壊れた蛇口のみだけで、入り口らしきものは見つからなかった。するとロンがハリーに蛇語で何か言ってみてよと提案し、ハリーはシュ〜シュ〜と言う声を発すると、手洗い台が動き出して大人1人滑り込める程の太さのパイプが出現した。ハリーはパイプを覗きこみながら腹を括った。

 

 

「僕はここを降りて行く」

 

「・・・ぼ、僕も行く」

 

「さて、私はほとんど必要無いようですね。では私はこれで・・・」

 

(貴方が先に行きなさい。大人でしょうに)ドスッ!!!

 

「いったあ〝ぁ〝ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・」

 

 

 パチュリーは帰ろうとしたロックハートに蹴りを食らわせてパイプの中に突き落とした。ロックハートは悲鳴を上げながらパイプを滑って行き、ハリーとロンは滑り落ちて行くロックハートを奇妙な物を見たとばかりに顔を見合わせている。

 

 

「・・・驚いたなぁ。僕てっきり逃げると思ってた」

 

「僕もさ。早く行こうロン」

 

 

 ハリーとロンはロックハートを追ってパイプの中に入って行った。パチュリーもフワリと飛びながらパイプの中に入って行った。しばらく降りて行くと全身ベトベトの3人が足元に広がる小さな動物の骨を見て顔を青くしていた。ハリーはブンブンと頭を振ってから暗いトンネルのカーブを2人を引き連れて歩いて行った。パチュリーも辺りを警戒しながら飛んでついて行くと、6m近くもある巨大な蛇の抜け殻を発見した。十中八九バジリスクの物だろう。パチュリーが興味深そうに抜け殻を観察し、後で採取しようと考えていると背後で物音がした。バジリスクかと警戒して探索魔法で確認し、バジリスクでないと分かって振り返ると、ロックハートがハリーの杖(・・・・・)を奪って2人に向けていた。

 

 

「坊や達、お遊びはこれでお終いだ!私はこの皮を少し学校に持って帰り、女の子を救うには遅過ぎたとみんなに言おう。君達2人はズタズタになった無残な死骸を見て哀れにも(・・・・)気が狂ったと言っておこう。こう見えて忘却魔法は得意中の得意でね。さぁ、記憶に別れを告げるがいい!!」

 

 

 ロックハートは杖を振って呪文を唱える。ロックハートの魔法が2人の記憶を消そうと襲い掛かる準備をする。

 

 

「オブリビエイト、忘れよ!・・・グボホォッ!!?」

 

「「ッ!!?」」

 

 

 しかしパチュリーが放った弾幕が、ロックハートが撃った魔法に見事に命中し、小型爆弾並みの爆発を起こした。爆風に吹き飛ばされたロックハートは気を失い、彼の手から離れた杖はハリーがキャッチした。2人共訳が分からず固まっていたが、ロンがロックハートに近付いて様子を見ようとすると突然天井が崩れた。ハリーは慌てて避難すると、落石によりロンと気絶したロックハートとパチュリーと分断されてしまった。

 

 

「ローン!!大丈夫か?ロン!」

 

「僕は大丈夫だよ!でもどうする?こっちからは行けないよ。何年も掛かってしまう」

 

「・・・・そこでロックハートと一緒に待ってて、僕が先に進む」

 

「・・・分かった。僕は少しでもこの岩石を取り崩してみるよ。そうすれば君が帰りにここを通れる。だからハリー・・・」

 

「それじゃ、また後でね」

 

 

 ハリーの声はそれっきり聞こえて来なくなった。ロンはこうなった原因であるロックハートの脛を蹴飛ばしてからこっそりパチュリーが岩を変身魔法で変えておいた縄を見つけ、それを使ってロックハートの手足を縛った。

と言うかロン、貴方もう少し疑うという事をしなさい。普通こんな場所にそんな真新しい縄は無いわよ?

 パチュリーは少し呆れながらロンがロックハートをキチンと拘束するのを見守った。ついでにロックハートに異常がないか嫌々調べ、異常がないのを確認してから空間魔法で取り寄せた改良型『背後人形』を取り付けておいた。

 

 

(ふふふ♪精々泣き叫びなさい若造。さて、ハリーの方へ向かいましょうか・・・・あら?)

 

 

 パチュリーがハリーの下に向かおうとすると、入り口の方から美しい紅の羽根を持った鳥・・・不死鳥が組分け帽子を足で掴んで飛んで来て、岩の間を通り抜ける様に飛んで行った。ロンは頭上を飛んで行った不死鳥を目を見開いて眺め、パチュリーも不死鳥を観察していたがすぐに気を取り直して岩をすり抜けてハリーの下へ飛んで行った。探索魔法にバジリスクらしき反応があった為目を閉じて安全な場所に移動する。

 

 

(さぁて、参ったわね。今下手に出て行っても邪魔になるだけね。一応原作では勝っているけれど、さっきみたいな事があるかもしれないわね。でも探索魔法では辺りの地形は正確には分からないし、目を閉じて中に入ってスペル発動って手もあるけど、下手したらバジリスクが追い掛けているハリーやさっきから動かないジニーも巻き添えを食らっちゃうからコレは却下ね。次からは地形も正確に分かるように改良しときましょう)

 

 

 探索魔法でバジリスクとハリー、そしておそらくジニーとリドルの日記らしき反応を見ながらどうするか考えていた。ハリーがバジリスクから離れてくれたら助かるのだがと少し考えていると、少し離れていたハリーとバジリスクの反応が戻って来た。しばらくバジリスクとハリーの反応が動き回った後、バジリスクの反応が消失し、離れた場所で旋回していた先程の不死鳥の反応がハリーの側で停止した。

 

 

(あら、問題無く勝てたのね。どれどれ?・・・)

 

 

 パチュリーが広間を覗いてみると、ちょうどハリーがリドルの日記にバジリスクの牙を突き刺している所だった。耳をつんざく様な悲鳴をリドルが残して消えていき、ハリーは目を覚まして混乱しているジニーを連れてパチュリーの下を通って外に出て行った。それを見送ってからパチュリーは地面に降り立ち、その場に残されたバジリスクの死体とハリーが忘れて行ったリドルの日記を観察した。

 

 

「全く、ハリーったらよく魔法を使わずにバジリスクに勝てたわね・・・って、バジリスクの目潰されてるじゃない。はぁ・・・悩んでた私がバカみたいだわ。取り敢えずバジリスクの牙と毒と鱗・・・後一応リドルの日記と目も持って行きましょう」

 

 

 パチュリーは近くの小石を瓶に変えて中に牙と毒と目を入れ、剥ぎ取った鱗と日記を纏めてヴワル大魔法図書館の研究室の倉庫に転移させた。最後にバジリスクの抜け殻を転移させてから自分も小悪魔が待つ自室に空間転移で戻って行った。その後、先生方に説明するのにハリーが相当困ったのはパチュリーの知った事ではない。

 

 

 

 

 

 

 パチュリーは大広間で行われている宴会に参加せずに小悪魔と一緒に自室でパーティーを開いていた。向かい合う様に座り、テーブルの上には小悪魔が作ったステーキやスープなどが美味しそうな香りを漂わせている。

 

 

「パチュリー様、大広間の宴会には行かなくて良かったんですか?」

 

「いいのよ。それともこぁは私と食事をするのは嫌?」

 

「い、いえ!!全然嫌ではないです!!寧ろ嬉しいと思ってま・・・あ」///

 

 

 顔を真っ赤にして俯く小悪魔を見てパチュリーはクスクス笑った。今のパチュリーはとても機嫌が良い。しかし別にグリフィンドールに400点が入って寮対抗優勝杯を2年連続獲得や、学校から事件解決のお祝いに期末試験がキャンセルされたりした事で機嫌が良い訳ではない。パチュリーにとって何より喜ばしいのは、ロックハートが学校を去る事になった事である。原作通りに入院する事になったのだが、理由がちょっと違う。記憶を失ったのではなく、『背後人形』の所為でまぁ・・・色々ヤバい事になっている為、精神科にて入院するらしい。しかしパチュリーは可哀想とは思わなかった。寧ろ心の中で「ザマァ」と言っている程である。まぁそう言う訳で現在パチュリー達はパーティーを開いているのだ。

 

 

(さてと、ロックハートが学校を去る事は嬉しいけれど・・・これで私の持つ原作知識は終わりね。これから先どうなるか・・・・ふふ、楽しみだわ)

 

 

 パチュリーは窓の外に浮かぶ月を眺めながらそんな事を考えクスリと笑った。こうしてホグワーツ魔法学校の秘密の部屋事件は幕を閉じたのである。



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七曜の魔女とアズカバンの囚人
ホグワーツ特急とディメンター


 1994年、ヴワル大魔法図書館にある研究室にて、大魔法図書館の主であるパチュリー・ノーレッジは魔法で電子顕微鏡以上の性能を付与された顕微鏡を覗いては紙に羽ペンを走らせたり、積み上げられた本の中から1冊取り出してペラペラとページをめくったりして何かを考察していた。

 

 

「ふぅ・・・そろそろ400種類に到達しそうね。流石はバジリスクの猛毒。こんなの0.1mgで毒に強いドラゴンでも数日であの世行きね。ハリーったらよくこんな猛毒くらって即死しなかったわね・・・・今度解剖してみようかしら」

 

 

 パチュリーは昨年手に入れたバジリスクの毒を解析していた。しかし調べてみたら人間界でも存在を確認されている毒から、魔法界どころか、なんとヴワル大魔法図書館のどの図鑑や本にも載っていない全く未知の猛毒などが混ざり合っていた為、ホグワーツから戻って来てからお風呂と食事の時間以外は全て毒の研究に没頭していたのである。転生してから200年生きてきたパチュリーでもこんなに研究が長引いた事はほとんど無かった。更に数時間作業を続けていると、研究室の扉がノックされ、外から小悪魔の声が聞こえてきた。

 

 

『パチュリー様〜〜!ホグワーツからふくろう便が届きましたよ〜〜!』

 

「あら?もうそんな時期なの?分かったわ!ありがとうこぁ!」

 

 

 パチュリーは分厚い扉の向こうにいる小悪魔に少し大きめの声で礼を言ってから器材や本などを片付け、座りっぱなしだった椅子から腰を上げてググッと伸びをしてから研究室を出た。何時も座っていた机に向かうと頭に梟を乗せた小悪魔が紅茶をカップに注いでおり、パチュリーが椅子に再び腰掛けるとカップを差し出した。

 

 

「ありがとうこぁ。・・・・うん、美味しいわ」

 

「えへへ♪そう言って頂いて私も嬉しいです。どうぞ、ホグワーツからの手紙です」

 

 

 パチュリーは小悪魔が差し出してきた手紙の封を切り、中身を確認する。そして同封されていた教科書などのリストを見ようとした時、『背後人形』をプレゼントしたロックなんたらの事を思い出した為一瞬手を止めてしまったが、すぐにそう何度も似た様な輩が教師になる訳がないだろう多分と思い直してリストを確認した。幸い保育園児の為の絵本の様な題名の本は無かった為少しホッとしつつ他の教科書を確認した。

 

 

「ふぅ〜ん・・・新しく魔法生物飼育学と占い学が追加されるのね。必要な教科書は『怪物的な怪物の本』と『未来の霧を晴らす』、『中級変身術』と『三年生用の基本呪文集』か・・・うん、大丈夫そうね。色々と」

 

「良かったですねパチュリー様。でもなんか1冊だけ似た様な題名有りましたけどそれは大丈夫なのですか?」

 

「一応担当教師の名前が知り合いの名前だから大丈夫だと思うわ。・・・・さてと、こぁ。今からダイアゴン横丁に行くから準備しなさい。一緒に買いに行きましょう」

 

「はい!畏まりました!」

 

 

 小悪魔はパァッと花が咲いた様な笑顔を見せてすぐに出かける準備をする為に自分の部屋に向かって飛んで行った。蝙蝠の様な羽根をパタパタと動かしながら遠ざかる小悪魔の背中をパチュリーは可愛らしいものを見たとクスクス笑いながら見送った。

 

 

 

 

 

 

 数十分後、空間転移魔法でダイアゴン横丁にやって来たパチュリーと小悪魔の2人は早速教科書を買う為に本屋を目指していた。小悪魔は昨年パチュリーと一緒に来た時から偶にここに来ては魔法界特有の調味料や茶葉、またはヴワル大魔法図書館に置かれていない最新の魔法書などを買いに来ているのだが、今回はパチュリーと一緒にいるからか、フン♪フン♪と鼻唄を歌いながらルンルン気分で歩みを進めている。パチュリーもそんな子供の様な様子の小悪魔を見て微笑んでいる。

 

 

「ふふふ♪そんなに買い物が好きなのかしら?こぁ」

 

「買い物も好きですけど、パチュリー様と一緒に買い物が出来る事がとっても嬉しいんですよ〜♪パチュリー様はホグワーツから戻って来てからずっとバジリスクの猛毒の研究に没頭していてあまり研究室から出て来なかったじゃないですか」

 

「あら、嬉しい事言ってくれるわね。そんなに寂しかったのなら遠慮せずに声を掛けてくれたら良かったのに」

 

「ハッ!!べ、べべべ別に寂しかったとかそんな訳ではない訳ではないんですけど、えぇと!その・・・」///

 

 

 つい上機嫌だった為溢れた本音を指摘された小悪魔は顔を真っ赤にして「あうあう」とちょっとしたパニックに陥った。オロオロしている小悪魔をパチュリーも可愛く思い、クスクス笑いながら小悪魔の頭を撫でた。突然の出来事に固まった小悪魔だが、すぐに気持ち良さそうに目を細めた。

 

 

「ふふっ♪落ち着いたわね?さぁ、早く買い物を済ませましょうか」

 

「クゥ〜〜ン♪・・・・ハッ!?は、はい!」

 

(((((可愛い・・・)))))

 

 

 まるで小動物の様な小悪魔を見てパチュリーを含め、ダイアゴン横丁で偶々その場に居合わせた魔法使いや魔女達は心が癒された。その後、フローリシュ・アンド・ブロッツ書店にて目的の教科書を購入し、一通り買い物を終えた2人は人間界に寄って喫茶店で紅茶とケーキを楽しんだ。途中、『怪物的な怪物の本』が暴れそうになったが、パチュリーがニッコリと笑みを浮かべてお願い(・・・)をすると借りてきた猫のように大人しくなった。

 

 

 

 

 

 

 数日後、パチュリーはホグワーツ特急の最後尾のコンパートメントでいつもの様に分厚い魔法書を読んでいた。しかしそこにはパチュリー以外に窓側の席でぐっすりと眠っている白髪が混じった鳶色の髪をした1人の男性がいた。彼はパチュリーがくる前からここで眠っており、パチュリーは一瞬不審者かと思い目を細めたが、荷物棚に置かれた彼の物らしき荷物に書かれていた名前を見て少し力を抜いた。カバンにはR・J・ルーピン教授と書かれており、パチュリーの記憶通りならばホグワーツからの手紙にあった新任教師だ。パチュリーがペラペラとページを捲っていると、コンパートメントの扉が開いてハリー、ロン、ハーマイオニーの3人が入って来た。

 

「あ!パチュリー、久しぶりだね」

 

「あら、ハリーとその他2人。奇遇ね」

 

「ちょっとパチュリー。私とロンをその他呼ばわりしないでちょうだい。・・・・?その寝ている人は誰?」

 

 

 ハーマイオニーはコンパートメントの中に入るとルーピンを見つけてパチュリーに質問した。

 

 

「R・J・ルーピン教授。新しくホグワーツにくる教師みたいよ?おそらく闇の魔術に対する防衛術のね」

「大丈夫なのかい?なんだか強力な呪いをかけられたら1発で参っちまいそうだけど?ま、ちゃんと教えてくれるならいいけどね。・・・ところでハリー、話ってなんだい?」

 

「あぁ、そうだね。パチュリーも聞いてくれるかい?」

 

「別にいいわよ。読書ついでに聞いてあげる」

 

 

 パチュリーは読書をしつつもハリーの話を聞いた。ロンの両親の言い合いの事や列車に乗る前に言われたウィーズリー氏の警告と最初はあまりパチュリーもなんの事やら意味が分からなかったが、聴いているうちに1人の人物の名前が挙がった。その人物の名はシリウス・ブラック。なんでも12年前、たった一度の呪いで13人の人間を殺害し、アズカバンと呼ばれる魔法使いの為の要塞監獄に収容されていたが、なんでもハリーを狙う為に脱獄したらしい。

 全くタカが子供1人に根性あるわね。そのシリウス・ブラックと言う人物は。まぁ冗談は置いておいて・・・・問題はこの3バカがシリウス・ブラックについて何かしら問題を持って来そうなのよねぇ。原作知識は『秘密の部屋』までだけだが、そのシリウス・ブラックが何かしらの面倒事を運んで来る事は容易に想像出来る。さてさてどうしたものかしら?もしかしたらこぁに何か手伝ってもらわないといけない可能性もあるかしら?そう言えばあの子かなり魔法とかの扱いが上達してきたわね。今度何かこぁ専用の魔道具でも作ってあげようかしらね。

 パチュリーが魔法書を読みつつその様な事を考え始め、ハリー達の会話は全く耳に入っていなかった。

 

 

 

 

 

 

 パチュリーがふと気付くと、窓の外は雨が激しく降っており、風も唸りを上げていた。ロンが身を乗り出してルーピン教授の体越しに真っ暗になっている窓の外を見た。

 

 

「もうそろそろ着く頃だ」

 

 ロンの言葉が終わるか終わらないうちに汽車は徐々にスピードを落とし始めた。ロンはルーピン教授の脇をすり抜けて窓から外を眺める。

 

 

「お!調子いいぞ。あぁ、もう腹ペコだ。宴会が待ち遠しい・・・」

 

「喜んでいるところ申し訳ないけど、ホグワーツにはまだ着かないはずよ」

 

「え?じゃ、なんで止まるんだ?」

 

 

 ロンが疑問を口にする間も汽車はどんどん速度を落としていった。ピストンの音が弱くなっていき、窓を打つ雨風の音が一層激しく聞こえる。ハリーが立ち上がって通路の様子を窺うと、同じ車両のどのコンパートメントからも他の生徒達が不思議そうに通路に顔を出していた。すると突然汽車がガクンと止まった。遠くの方で荷物棚からトランクが落ちる音や、トランクが足の上に落ちたのか悲痛な叫び声が響いてくる。そしてなんの前触れも無く明かりが一斉に消えて辺りが真っ暗になった。パチュリーはこっそり暗視魔法で暗闇の中でも見える様にしたが、ハリー達は何も見えない為ちょっと混乱している。

 

 

「いったい何が起こっているんだ?」

 

「イタッ!!ロン!今の私の足だったのよ!!」

 

「故障しちゃったのかな?・・・グフッ!?ちょ!誰!?」

 

「ごめんね!何がどうなったか分かる?アイタッ!!」

 

「その声・・・ネビルか!?なんで僕に倒れてくるのさ!」

 

「ハリー?君なの?なんで僕の下にいるの?」

 

「自分の胸に聞いてみたら?私ちょっと運転手の所に行ってくるわ。何事なのか聞いて来アイタッ!!誰!?」

 

「そっちこそだあれ?」

 

「ジニー?貴女何してるの?」

 

「あれ?その声ハーマイオニー?」

 

(何このカオス・・・と言うか昼間の様に見える私から見たらコントを見ているみたいね)

 

 

 コンパートメント内は何やら面白い状況になっており、暗視魔法で暗闇の中でも昼間の様に見えるパチュリーはその様子を呆れた表情で見ていた。するとパチュリーの正面に座っていたルーピン教授が目を覚まし、辺りの様子を観察して険しい顔をして警戒しだした。

 

 

「静かに!!・・・動かないで」

 

 

 しわがれ声にハリー達はピタリと動きを止め、ルーピン教授が何か手をゴソゴソさせているとカチリと言う音と共にコンパートメントに明かりが灯った。ルーピン教授はゆっくり立ち上がって手の平に炎を出現させて前に突き出した。ルーピン教授が扉に辿り着く前に扉はゆっくりと開いた。そこには他のコンパートメントの生徒や汽車の運転手どころか、明らかに人間ではないマントを着た天井にまで届きそうな黒い影だった。顔はスッポリと頭巾で覆われており、マントから突き出した手はまるで死人の様に細かった。パチュリーはまるで亡霊の様な生き物を見て「へぇ?」と珍しそうにそれを観察した。

 吸魂鬼、別名『ディメンター』と呼ばれる魂を吸い取る生き物だ。ディメンターは魔法界ではアズカバンの警備員の様な役割をしており、『キス』と呼ばれる行為で人間から魂を吸い取って廃人同様にする事が出来る謂わば吸血鬼の魂バージョンの様な生き物だ。パチュリーも大図書館の図鑑や本で知っているだけで、本物を目にするのは初めてだった。パチュリーがディメンターを眺めていると突然ハリーが倒れ、ビクビクと痙攣し始めた。ハーマイオニーやジニー達は顔を蒼ざめて息を呑んだ。ルーピン教授は杖を取り出してディメンターに向けた。

 

 

「シリウス・ブラックをマントの下に匿っている者は誰もいない!去れ!!」

 

「・・・・・・・・」

 

「・・・・・え?私?」

 

 

 ルーピン教授の警告をガン無視するディメンターはコンパートメント内を見渡し、パチュリーの方を向くとそのままジッと見つめ(?)た。パチュリーは自分が見られている事に気付いて自分を指差しながら首を傾げた。しばらくディメンターはパチュリーを見つめた後、ゆっくりと滑る様に浮きながらパチュリーに近づこうとした。ルーピンはそれを見て慌ててブツブツと呪文を唱えると、ルーピン教授の杖からディメンターに向かって銀色の光が飛び出した。ディメンターはそれを受けてスーッとパチュリーの方を見ながら去って行った。しばらくの間コンパートメント内を沈黙が支配していたが、汽車が再び動き出した時の揺れを切っ掛けにハリーが倒れている事を思い出したハーマイオニーがハリーの頬を叩き始めた。

 

 

「ハリー!ハリー!しっかりして!!」

 

「・・・・ウ、う〜〜ん?」

 

「ハリー、大丈夫かい?」

 

 

 ハリーはすぐに目を覚まし、鼻の眼鏡を押し上げながら体を起こした。それをハーマイオニーとロンが手伝って席に座らせる。ハリーはコンパートメント内を見回して疑問を口にした。

 

 

「えっと、何が起こったの?あいつは?どこに行ったの?」

 

「思ったより早く目が覚めたわね。あの様子なら2時間くらい眠ったままだと思ったわ。いい?ハリー。貴方さっきディメンターに何かされて突然倒れたのよ」

 

「ディメンター?なんだいそれ?」

「吸魂鬼・・・まぁ、魂を吸い取る魔法界の生き物よ。そうね・・・ちょっと違うけれど、魂を食べる吸血鬼・・・って言ったら分かるかしら?」

 

 

 パチュリーの説明を聞いてハリーは段々と状況を読み込み、顔を蒼ざめていった。ハリーの様子を見たルーピン教授がパキッと大きな板チョコを割ってハリー達に渡した。

 

 

「食べるといい。気分が良くなるから。君にも・・・」

 

「いいえ、私は結構よ。大して気分が悪いとかそんな事は無いわ」

 

「ふむ・・・どうやらその様だね。あぁ、君達は食べておきなさい。元気になる。私はこれから運転手と話をしてこなければ。失礼・・・」

 

 

 ルーピン教授はそう言い残して通路へと消えた。ハリーは何が起こったのかハーマイオニー達に詳しく聞き始めた。パチュリーはその会話には交ざらずに窓の外に目を向けた。窓ガラスに付いていた水滴は凍り付いており、僅かに氷の隙間から見える外には複数のディメンター達が辺りを巡回する様に飛び回っていた。



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新たな教師と教師達の疑問

 パチュリー達が乗った汽車は10分程するとホグズミード駅で停車し、生徒達が下車するのでひと騒動だった。生徒達の梟や猫達が鳴き声をあげ、生徒達は先程の件について話している。狭いプラットホームは凍る様な冷たさで、氷の様な雨が叩きつけている。パチュリーもトランクを片手に持って下車すると、生徒の群れの向こうからハグリッドの声が聞こえて来た。

 

 

「イッチ年生はこっちだ!イッチ年生はこっち!・・・おぉ!三人とも元気かー?」

 

「あ!ハグリッドだ!おーーい!!」

 

 

 ハリーとロンとハーマイオニーの3人はハグリッドに手を振りはしたが、周りの人並みにホームからそれる方向へ押し流されてしまい、話しかける機会は無かった。パチュリーは大人しく流れについて行った。少しすると凸凹のぬかるんだ馬車道に出た。そこにはざっと100台の馬車が並んでおり、骨ばった黒い馬にドラゴンの様な羽が生えた天馬に繋がれていた。その天馬はセストラルと呼ばれており、死を目の当たりにしなければ目にする事が出来ない肉食の天馬で、高速で移動する事が出来、乗馬している人間の行きたい場所を心で察し、迷う事なく連れて行く事が出来る面白い天馬である。

 200年の時を生きたパチュリーは死を目の当たりにする事は何度かあり、今では普通に見る事が出来る。

 

 

(まぁまさか大図書館の出入り口の近くの森に沢山住んでいるとは思わなかったけどね。あの時はビックリしたわ)

 

 

 パチュリーが昔の事を思い出しながらセストラルをこっそり優しく撫でると、セストラルは気持ち良さそうにブルルと鳴いた。クスリと笑ってからそのセストラルが引く馬車に乗り込むと、パチュリーは魔法書を開いて読書を再開した。すると馬車は扉が閉まると同時に走り出し、ガタゴトと揺れながら隊列を組んで進み始めた。馬車に揺られながらも魔法書を読んでいると、辺りの気温が段々と下がり始めた。パチュリーは魔法書から顔を上げると、馬車はちょうど壮大な鋳鉄の門を抜けるところで、その門の両脇を警護しているディメンターが目に入った。

 

 

(ディメンターねぇ・・・・そう言えばさっきのディメンターはなんで私を見ていたのかしら?)

 

 

 パチュリーはそんな疑問を抱きながらも視線を魔法書に戻して読書を再開した。城に続く長い上り坂を馬車は更に速度を上げて行った。しばらく読んでいるとひと揺れして馬車が停止した為、パチュリーは魔法書に栞を挟んで馬車を降りた。パチュリーはググッと伸びをしてから城に続く石階段の方へ歩いて行ったが、石階段の前ではハリーとマルフォイ達が睨み合っていた。

 

 

「ポッター、気絶したんだって?ロングボトムは本当の事を言っているのかな?ウィーズリー、君も気絶したのか?」

 

「失せろマルフォイ!!」

 

「あの怖〜いディメンターで、ウィーズリー、君も縮み上がったのかい?」

 

 

 マルフォイはニンマリしながらハリー達を挑発し、ハリーとロンは物凄く嫌そうな顔で怒鳴る。パチュリーは正直言ってハリー達が喧嘩していようが別に構わないのだが、流石に城に繋がる石階段を塞がれては邪魔でしかないので話に割って入ることにした。

 

 

「ちょっと貴方達、喧嘩するのは構わないけれど他人の邪魔にならない場所でやってくれないかしら?」

 

「おや?パチュリー!久し振りだね。ねぇ、ハリーがディメンターで気絶したって本当かい?」

 

「まぁ間違ってはいないわね。すぐに新しい教師のお陰でディメンターは追い返されたけど」

 

 

 正直に答えるパチュリーにマルフォイは「へぇ〜?」とニンマリ笑いながらハリーに目をやり、ハリー達はパチュリーを睨み付けた。パチュリーはそんなハリー達を見て肩を竦めた。

 

 

「別にいいじゃない?本当の事なんだから。今ここで誤魔化してもすぐにバレるわよ」

 

「それは・・・そうだけどさ」

 

「ん?君達、どうかしたのかい?」

 

 

 声のした方を見るとルーピン教授が馬車から降りて来てハリー達を見ていた。マルフォイはルーピン教授に気付くと横柄な目つきでルーピン教授をジロジロ観察した。その目でルーピン教授のローブの継ぎ接ぎやボロボロのカバンをしばらく眺めた後、「ふ〜ん?」と頷いた。

 

 

「いいえ、何も。えーと・・・先生?」

 

 

 マルフォイの声には微かに皮肉が込められており、背後のクラッブとゴイルに向かってニンマリ笑い、2人を連れてマルフォイは石段を登った。ルーピン教授は「自分の顔に何か付いていたのか?」と首を傾げながらも続いて石段を登り、パチュリー達もそれに続いて石段を登って行った。長い石段を登り終えると、正面玄関の巨大な樫の扉を通り、広々とした玄関ホールに入った。パチュリー達は右の方にある大広間への扉に向かう途中、ハリーとハーマイオニーがマクゴナガル先生に呼ばれた。

 

 

 

「ポッターとグレンジャー!2人共私の所においでなさい!」

 

「えっ!?僕何かやらかしたかな?」

 

「大丈夫じゃない?貴方は多分来る時のディメンターの件よ。ハーマイオニーは知らないけど」

 

「あ〜〜・・・だったら私にも心当たりがあるわ。行きましょうハリー。ロンは悪いけど私達の分の席を取っておいてくれない?」

 

「うん、分かった。2人共後でね」

 

 

 ハリーとハーマイオニーは生徒達を掻き分けながらマクゴナガル先生の下へ向かい、ロンは2人の背中を見送ってから生徒の群れに紛れ込んだ。パチュリーもそれに続いて大広間に入って行った。

 

 

 

 

 

 

パチパチパチパチパチパチ!!!

 

「これにて、組み分けを終了します」

 

 

 

 新しく入学した1年生の最後の1人がハッフルパフの寮生達に歓迎されながら長テーブルについた。古めかしい見た目の『組み分け帽子』をフリットウィック先生が3本足の丸椅子と一緒に片付けていく。パチュリーは組み分け中も魔法書を読んでいたが、ふと大広間の後ろの方がザワザワと少し騒がしくなり、ハリーとハーマイオニーがやって来てロンの両脇に座った。ロンがいったい何の用事だったのかをハリーに聞き、ハリーはロンに耳打ちで説明しようとするが、その前にダンブルドア先生が挨拶をする為に立ち上がったので中断した。ダンブルドア先生はニッコリと笑いながら生徒達を見渡して挨拶を始めた。

 

 

 

「おめでとう!!新学期おめでとう!皆に幾つかお知らせがある。1つはとても深刻な問題じゃから、皆がご馳走でボーッとなる前に片付けてしまう方が良かろうの・・・・ゴホンッ!ホグワーツ特急での捜査があったから、皆も知っての通り、我が校はただいまアズカバンの吸魂鬼、つまりディメンター達を受け入れておる。魔法省の御用でここに来ておるのじゃ」

 

 

 

 ダンブルドア先生は僅かにその笑顔を歪ませながらも言葉を続けた。どうやらダンブルドア先生はディメンターが学校を警備するのを快く思っていない様子だ。

 

 

 

「ディメンター達は学校への入口という入口を固めておる。あの者達がここにいるかぎり、はっきり言うておくが、誰も許可なしで学校を離れてはならんぞ。ディメンターはいたずらや変装に引っかかるようなシロモノではない・・・・『透明マント』でさえムダじゃ」

 

 

 ダンブルドア先生がさらりと付け加えた言葉にハリーはピクリと反応し、隣のロンと目を見交わした。パチュリーも最後の言葉はハリーに言っている事は理解出来たが、同時に自分が作った『幽霊マント』はどうなのだろうと気になり、近い内に実験してみようと考えた。

 

「言い訳やお願いを聞いてもらおうとしても、ディメンターには生来できない相談じゃ。それじゃから、一人一人に注意しておく。あの者達が皆に危害を加えるような口実を与えるではないぞ。監督生よ、男子、女子それぞれの新任の首席よ、頼みましたぞ。誰一人としてディメンターといざこざを起こす事のないよう気をつけるのじゃぞ」

 

 

 ダンブルドア先生の言葉に今度は離れた席のパーシーが反応し、胸を張りながらもったいぶって周りを見回した。ダンブルドア先生は言葉を切り、深刻そのものの顔つきで大広間をグルッと見渡した。生徒達は誰一人身動きもせず、声も出さなかった。

 

 

「では、楽しい話に移ろうかの。今学期から、嬉しいことに新任の先生を二人、お迎えする事になった。先ず、ルーピン先生。ありがたい事に空席になっている『闇の魔術に対する防衛術』の担当をお引き受け下さった」

 

 

 パチュリーは普通に拍手をしたが、周りの生徒達からはパラパラとあまり気のない拍手が起こった。ハリー達やコンパートメントで居合わせた一部の生徒達は大きな拍手をした。するとロンが何かに気付いてハリーに小声で話し掛けた。ハリーとロンが見る方向をパチュリーも見てみると、ルーピン先生を教職員テーブルの向こう側から睨んでいるスネイプ先生を見つけた。それはもう怒りを通り越して憎しみの表情でルーピン先生を睨んでいた。ルーピン先生へのパッとしない拍手が止むのを待ってダンブルドア先生は話を続ける。

 

 

「ケトルバーン先生は『魔法生物飼育学』の先生じゃったが、残念ながら前年末をもって退職なされる事になった。手足が一本でも残っている内に余生を楽しまれたいとのことじゃ。そこで後任じゃが、嬉しい事に、他ならぬルビウス・ハグリッドが、現職の森番役に加えて教鞭をとってくださる事になった」

 

 

 パチュリーはケトルバーン先生に何があったのか気になりはしたが、取り敢えず周りのみんなと一緒に拍手した。ハグリッドと仲の良いグリフィンドール寮生達からの拍手は割れんばかりだった。ハグリッドは夕日のように顔を真っ赤にして自分の巨大な手を見つめており、嬉しそうに綻んだ顔は彼のひげに埋もれていた。ロンはテーブルを叩きながら叫んだ。

 

 

「そうだったのか!!噛み付く本を教科書に指定するなんてハグリッド以外にいないよな?」

 

「そうでもないわよ?昔ホグワーツとは別の魔法学校で『爆発的で芸術的な魔法薬の本』なんて言う刺激を与えると爆発する本が教科書に指定された事があるわ。因みにその年は学校中で爆発事故が多発したらしいわ。だから案外ハグリッドじゃなくても指定するかもしれないわよ?」

 

 

 パチュリーの話を聞いて周りの生徒達は苦笑いを浮かべた。当然の反応だろう。その事故は新聞にも載り、負傷者が多数続出した為魔法省は爆発する本の作成は禁止する程のもので、パチュリーも偶々その新聞を読んだ時はつい「バカじゃないの?」と口に出してしまった程である。そんな話がグリフィンドールのテーブルの一部で話されてるとは知らず、ハグリッドはテーブルクロスで流した嬉し涙を拭っていた。

 

 

「さて、これで大切な話はみな終わった。・・・さぁ、宴じゃ!!」

 

 

 ダンブルドア先生がそう宣言した直後、各テーブルの上に乗っていた金の皿、金の杯に食べ物や飲み物が現れた。パチュリーも開いていたページに栞を挟み、魔法書を片付けてそれらの料理を堪能し始めた。宴が始まると大広間には話し声や笑い声、ナイフやフォークの触れ合う音が賑やかに響き渡った。パチュリーはこの後小悪魔と食事の約束をしている為、軽く食べるだけにして、後は読書で時間を潰した。しばらくするとダンブルドア先生がみんな寝る時間だと宣言し、生徒達はそれぞれ監督生達の後に続いて寮へ向かった。階段を登っては廊下を進み、また階段を登るを繰り返していると、グリフィンドール塔の秘密の入口に辿り着いた。ピンクのドレスを着た『太った婦人(レディ)』の大きな肖像画が先頭の生徒に尋ねた。

 

 

「合言葉は?」

 

 

「あ!ちょっと道を開けて、道を開けて!あ、足踏んだゴメン。・・・ふぅ、新しい合言葉は『フォルチュ・マジョール。たなぼた』!」

 

 

 監督生のパーシーの合言葉を聞いて偶々隣にいたネビルが「あーぁ」と悲しげな声を出した。彼はパチュリーに偶に勉強を見てもらったりしたことがある為原作よりも少し頭は良くはなっているが、まだ長い合言葉を覚えるのは苦手なのである。開いた穴を抜けて談話室を横切り、パチュリーは最早自分専用の部屋と化している女子寮の部屋に入った。

 

 

 

 

 

 

「なんじゃと?ノーレッジ嬢にディメンターが?」

 

「えぇ、私も信じられませんが、ルーピン先生のふくろう便には確かにそう書かれておりました」

 

 

 パチュリーが小悪魔と食事をしている一方、ホグワーツの校長室にて、3人の教師が話し合っていた。1人は魔法薬学の教師、スネイプ先生。もう1人は変身術の先生にして副校長、マクゴナガル先生。そして最後にホグワーツの校長、ダンブルドア先生である。3人が話し合っているのは列車内にて起きた1人のディメンターの奇妙な行動である。

 

 

「しかし、彼等は今回、ホグワーツの警備をする為に居るはず。脱獄囚でも死喰い人(デスイーター)でもないミス・ノーレッジに何故自分から近付き、触れようとしたのだ?」

 

「それは儂にも分からぬ。しかし、彼女はホグワーツに来てから儂等の予想を遥かに上回る結果をだしておる」

 

「えぇ。見た事のない魔法、並みの魔法使い以上の頭脳、私達すら知らない知識、そして・・・」

 

「魔法省どころか、魔法界の研究者達が喉から手が出る程欲しがる知識の詰まった魔法書・・・じゃな?」

 

 

 ダンブルドア先生の言葉にマクゴナガル先生は黙って頷いた。ダンブルドア先生は長い髭を撫でながら思考を巡らすが、考えれば考えるほどパチュリー・ノーレッジという少女に疑問を抱くだけであった。

 

 

「いかがなさいますか?校長先生」

 

「ふむ・・・取り敢えずは事の詳細をルーピン先生に聞いた方が良いじゃろう。彼女は確かに謎の多い少女ではあるが、あの子は儂等の敵ではない様な気がするのじゃ。

・・・まぁ儂の勘じゃがな?彼女については今は様子見といこうかのう」

 

「・・・では、この話はまた別の日にしましょう。私達はこれで・・・」

 

 

 マクゴナガル先生とスネイプ先生は校長室を出て行き、後にはダンブルドア先生だけが残された。1人残されたダンブルドア先生は自身が飼っている不死鳥のフォークスを撫でながらパチュリーの事を考えていた。

 

 

「ノーレッジ嬢、お主はいったい何者なのかのう?」



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紅茶占いと死神犬

 翌日、パチュリーは大広間で朝食を取った後、『占い学』が行われる北塔の天辺にある教室前にやって来ていた。道中気絶したハリーの真似をして笑いを取っていたマルフォイ達や、道中にあった鎧兜をガチャつかせたカドガン卿と言う肖像画の絵が騒がしかったりしたが、なんとか早めに到着することが出来た。何故教室前なのかと言うと、生徒達が集まらなければ小さな踊り場の天井にある丸い撥ね扉が開かない様なのだ。その為パチュリーは踊り場の隅で魔法書を読んで時間を潰していた。しばらく読み続けていると、少しずつ生徒達がゼェハァ言いながら踊り場に登って来た。そして大体の生徒達が集まった所でハリー達も息を切らしながらやって来た。

 

 

「ハァ・・ハァ・・あ!パチュリー!先に来てたんだ。・・・あれ?教室の入り口は?」

 

 

 ハリーの質問にパチュリーは無言で撥ね扉がある天井を指差し、ハリー達3人は指の先を見て「あぁ〜」と頷きながら納得した。ハリーはその撥ね扉に付いている真鍮の表札を見つけてそれを読み上げた。

 

 

「シビル・トレローニー、『占い学』教授・・・ここで間違い無いみたいだけど・・・どうやってあそこに行くんだろう?」

 

「生徒達が集まれば開くんでしょ。私はかなり前からここで待ってるけどまだ開いてないわ・・・・っと、揃ったようね」

 

 

 

 天井の撥ね扉が開き、銀色の梯子がハリーのすぐ足元に下りてきた。みんなが突然の事にシーンと静まり返っていると、ロンが「お先にどうぞ」とニヤリと笑いながらハリーに言い、ハリーは梯子を上って行った。その後にロン、パチュリーと次々上って行き、生徒達は『占い学』の教室に入った。

 そこはこれまで見た事がない奇妙な教室で、屋根裏部屋と昔風の紅茶専門店を掛け合わせた様な部屋だった。小さな丸テーブルが20卓以上所狭しと並べられ、それぞれのテーブルにはフカフカの丸椅子や繻子張りの肘掛椅子が置かれている。全ての窓のカーテンは閉め切られ、暗赤色のスカーフで覆われたランプがほの暗い灯りを放っている。生徒達がそんな奇妙な教室についてヒソヒソ話していると、突然暗がりの中からか細い声がした。

 

 

「ようこそ。この現世(うつしよ)で、とうとう皆様にお目にかかれて嬉しゅうございますわ。・・・おかけなさい。あたくしの子供達よ。さぁ」

 

 

 暖炉の灯りの中に進み出た大きな眼鏡をしたトレローニー先生の指示に生徒達はおずおずと椅子に座った。ハリーとロン、ハーマイオニーは同じテーブルに座り、パチュリーは少し離れたテーブルに他の生徒2人と座った。全員が席に着くと、トレローニー先生は暖炉の前の背もたれの高いゆったりした肘掛椅子に座り、挨拶を始めた。

 

 

「『占い学』にようこそ。あたくしがトレローニー教授です。たぶん、あたくしの姿を見た事がないでしょうね。学校の俗世の騒がしさの中にしばしば下りて参られますと、あたくしの『心眼』が曇ってしまいますの」

 

「「「「・・・・?」」」」

 

 

 トレローニー先生の言っている事にほとんどの生徒が疑問符を浮かべた。トレローニー先生はたおやかにショールをかけ直し、話を続けた。

 

 

「皆様がお選びになったのは『占い学』。魔法の学問の中で1番難しいものですわ。初めにお断りしておきましょう。『眼力』の備わっていない方には、あたくしがお教えすることはほとんどありませんのよ。この学問では、書物はあるところまでしか教えてくれませんの」

 

 

 トレローニー先生の言葉を聞いてハリーとロンはニヤッと笑いながら同時にハーマイオニーを見た。書物がこの学科ではあまり役に立たないのを聞いてハーマイオニーはひどく驚いた様子だった。

 

 

 

「1年間、占いの基本的な方法をお勉強いたしましょう。今学期はお茶の葉を読む事に専念いたします。来学期は手相学に進みましょう。ところで、あなた。赤毛の男子にお気をつけあそばせ」

 

 

 見据えられたパーバティ・パチルはロンの方を見ると椅子を引いてロンから距離を取った。ロンはそれを見て不満そうにしている。

 

 

「夏の学期には、水晶玉に進みましょう。・・・ただし、炎の呪いを乗りきられたらでございますよ。つまり、不幸な事に2月にこのクラスは性質の悪い流感で中断される事になり、あたくし自身も声が出なくなりますの。イースターの頃、クラスの誰かと永久にお別れをする事になりますわ。・・・・あなた、よろしいかしら?1番大きな銀のティーポットを取っていただけないこと?」

 

 

 トレローニー先生の予告で生徒達の間に沈黙が流れたが、トレローニー先生は気にかける様子もなく、今度は1番近くにいたラベンダー・ブラウンに声を掛けた。ラベンダーは少し安心した様子で棚からティーポットを取って来てトレローニー先生に渡した。

 

 

「まぁ、ありがとう。ところで、あなたの恐れている事ですけれど、10月16日の金曜日に起こりますよ?」

 

(上げて落とすわねこの先生・・・)

 

 

 震えながら席に戻るラベンダーを見ながらパチュリーはそんな感想を抱く。それからもトレローニー先生の話は続き、紅茶占いの授業が始まった。やり方は意外に簡単だ。まず紅茶を椅子に座って滓が残るところまで飲む。次に左手でカップを持ち、滓をカップの内側に沿って三度回す。最後にカップを受け皿の上に伏せる。今回は2人1組になって行うため、自分のカップを相手に渡して読んでもらう。パチュリーは手順通りにやり終え、ペアになったグリフィンドール寮生のレビィ・リンクスに渡し、彼女のカップを受け取って読んだ。

 

 

「ふむ・・・亀、木、太陽ね。へぇ?中々いいのが出たじゃない。場所からして・・・数ヶ月先の未来ね。つまりは地道な努力をすれば希望が叶い、明るい未来が数ヶ月先に来るって訳ね」

 

「本当!?本当にそう出てるの!!?」

 

「えぇ、本当よ。私がここで嘘を言う意味なんてないもの。・・・それより私のカップには何が見えたのかしら?」

 

 

 嬉しそうにしているレビィはハッとした様子で手に持っているパチュリーのカップを覗き込んだ。しばらく教科書とカップの中身を見比べていたが、首を傾げる一方で、全く答えが返ってこない。

 

 

「レビィ?そんなに酷い内容なのかしら?」

 

「う〜〜ん、ハッキリ言って意味が分からないのよ。と言うか、教科書のイラストと茶葉の形が違い過ぎて分からない・・・」

 

「あ〜〜・・・それは仕方ないわね。ちょっとカップちょうだい。私が見てみるわ」

 

 

 

 レビィはコクリと頷くとパチュリーにカップを返した。戻って来た自分のカップを覗き込んだパチュリーは滓を読み始めた。

 

 

(あるのは・・・流れ星と笑顔?場所からして数ヶ月以上先の未来・・・。流れ星なら『驚きの知らせ』か『予期せぬ訪問者』だから・・・・う〜〜ん?数ヶ月先の未来で何か驚く事が起きて笑顔になる?)

 

「どうパチュリー?何か分かった?」

「多分、数ヶ月先の未来で何か驚く事が起きて、笑顔になるって意味だと思うわ。まぁ、何が起こるか分からないから気長に待ちましょう」

 

 

 パチュリーはそう言ってカップを置いた。パチュリーは少し先程の占いについて思考しながらもハリー達を見た。今はロンがハリーのカップを読んでいるようで、ロンはずっと教科書を凝視している。

 

 

「なんか動物みたい。ウン、これが頭なら・・・カバかな?・・・いや、羊かも・・・」

 

「あたくしが見てみましょうね」

 

 

 ロンがウンウン唸っているとトレローニー先生がスーッと近付いてロンからカップを取り上げた。そのまま時計の逆回りにカップを回してカップを読む。

 

 

「隼・・・まぁ、あなたは恐ろしい敵をお持ちね」

 

「でも、誰でもそんなこと知ってるわ」

 

 

 トレローニー先生の言葉を聞いてハーマイオニーが聞こえよがしに囁いた。トレローニー先生がキッとハーマイオニーを睨んだ。

 

 

「だって、そうなんですもの。ハリーと『例のあの人』の事はみんな知っているわ」

 

「・・・・・。棍棒・・・攻撃。おや、まぁ。これは幸せなカップではありませんわね。それに髑髏・・・行く手に危険が。まぁ、あなた・・・ッ!」

 

 

 カップを見ていたトレローニー先生がハッと息を呑み、悲鳴をあげた。トレローニー先生は空いていた肘掛椅子に身を沈め、手を胸に当てて目を閉じた。

 

 

「おぉ、可哀想な子・・・いいえ、言わない方がよろしいわ。えぇ、お聞きにならないでちょうだい」

 

「先生!どういう事ですか?」

 

「ディーン、貴方今『聞かないで』と言われたのに何普通に聞いてるのよ?」

 

「いや、だって気になったから・・・」

 

 

 パチュリーがディーンをジト目で見ている内に他の生徒達はハリーのカップの中が気になり、ハリー達のテーブルに集まった。トレローニー先生はしばらく黙っていたが、カッ!と閉じていた目が開かれハリーを見た。

 

 

「あなたにはグリムが取り憑いています」

 

「何がですって?」

 

「グリムよハリー。墓場に取り憑く巨大な亡霊犬よ。この場合のグリムは不吉の予兆、大凶の前兆、死の前兆ね」

 

 

 パチュリーの説明にハリーは顔を蒼ざめ、数歩後ずさった。周りの生徒達は口を手で押さえたり、目を見開いたり、口をポカンと開けてハリーに注目した。しかし1人だけ、ハーマイオニーだけは立ち上がってトレローニー先生の椅子の後ろに回ってカップを見た。

 

 

死神犬(グリム)には見えないと思うわ」

 

 

 ハーマイオニーの容赦ない言葉に反応し、トレローニー先生は嫌悪感を募らせてハーマイオニーをジロリと品定めした。

 

 

「こんな事を言ってごめんあそばせ。あなたにはほとんどオーラが感じられませんのよ。未来の響きへの感受性というものがほとんどございませんわ」

 

「こうやって見ると死神犬に見えるよ。・・・あ、でもこっちから見るとむしろロバみたいに見えるな」

 

「僕が死ぬか死なないか、さっさと決めたらいいだろう!!」

 

 

 ハーマイオニーやトレローニー先生達の話を黙って聞いていたハリーは周りがビクッと肩を震わせる程の声で怒鳴った。確かに自分が死ぬか死なないかで話し合っていたら不快な気持ちになるだろう。

 

 

「あのねハリー?グリムが出たと言ってもそれはあくまで前兆なの。それに『グリム=死』ではなくて、大凶や不幸な事が起きるという考えもあるのよ?それにこれは正確に当たりやすい水晶占いと違って幾つかの選択が出来るのよ。だから正確な答えは出ない」

 

「選択?それってどういう意味なの?」

 

「例えばこの占いに『明日まで努力すれば良い事が起きる』と出たとして、努力を全くしないでその明日が過ぎれば良い事は起こらない・・・みたいな感じよ」

 

「・・・・・?」

 

 

 パチュリーの説明にハリーは首を傾げた。おそらく・・・というか絶対に内容を理解していないのだろう。パチュリーがハァと溜息を吐くと終業のベルが鳴り響き、トレローニー先生は霧の彼方のような声で片付けの指示を出し、授業を終了した。

 

 

 

 

 

 

 パチュリー達は次の授業である変身術のクラスに向かった。パチュリーは普通にマクゴナガル先生の授業を受けているが、他の生徒達はハリーがいつ死ぬか分からないと言わんばかりにチラチラとハリーを盗み見ていた。マクゴナガル先生は『動物もどき(アニメーガス)』と自由に動物に変身できる魔法を説明し、自身も眼鏡と同じ縞模様があるトラ猫に変身して見せるも全く見もしない生徒達に顔をしかめた。

 

 

「まったく、今日はみんなどうしたんですか?さっきから真面目に授業を受けているのはミス・ノーレッジだけですよ?別に構いませんが、私の変身がクラスの拍手を浴びなかったのはこれが初めてです」

 

 

 ちょっとションボリした様子のマクゴナガル先生の言葉にクラスの生徒達(パチュリーを除く)はハリーの方を振り向いたが、誰も口にしようとしなかった。しばらく沈黙が教室を支配したが、ハーマイオニーが手を挙げて理由を言った。

 

 

「先生、私達、『占い学』の最初のクラスを受けて来たばかりなんです。お茶の葉を読んで、それで・・・・」

 

「あぁ、そういう事ですか。ミス・グレンジャー、それ以上は言わなくて結構です。今年はいったい誰が死ぬ事になったのですか?」

 

 

 マクゴナガル先生の言葉を聞いてクラスの生徒達(パチュリーを含む)が先生を見つめた。しばらくしてハリーが「僕です」と答えるとマクゴナガル先生は「分かりました」と小さく言ってからしっかりとハリーを見た。

 

 

「では、ポッター、教えておきましょう。シビル・トレローニーは本校に着任してからというもの、1年に1人の生徒の死を予言して来ました。いまだに誰1人として死んではいません。死の前兆を予言するのは、新しいクラスを迎える時のあの方のお気に入りの流儀です。私は同僚の先生の悪口は決して言いません。それでなければ・・・・」

 

 

 マクゴナガル先生はここで一瞬言葉を切った。生徒達はジーッとマクゴナガル先生を見つめており、それから先生は少し落ち着きを取り戻して話を続けた。

 

 

「『占い学』は魔法の中でも1番不正確な分野の1つです。真の予言者は滅多にいません。ポッター、私の見るところ、貴方は健康そのものです。ですから、今日の宿題を免除したりしませんのでそのつもりで。もし死んだら提出しなくても結構です」

 

 

 マクゴナガル先生の話を聞いてクラスの何人かの生徒は吹き出した。ハリーはちょっぴり気分が良くなった様子だが、全員がマクゴナガル先生の言う通りだと思った訳ではなく、パチュリーもその内に入っていた。何故ならば、パチュリーがハリーのカップを覗いた時、茶葉の形がグリムだったのを見ていたからである。ハリーがたとえ死ななくても、何かあるとパチュリーは思っていた。



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ヒッポグリフとパニック

 大広間で昼食を終えたパチュリー達は城の外へ向かい、『魔法生物飼育学』の最初の授業に向かった。昨日降っていた雨は上がり、空は澄み切った薄ねずみ色をしている。禁じられた森の端にあるハグリッドの小屋を目指して芝生を下っていると、パチュリーは背後から声を掛けられた。

 

 

「やあ、パチュリー」

 

「ん?あら、ドラコじゃない。この授業スリザリンとの合同授業だったのね」

 

 

 いつも通りの笑みを浮かべているマルフォイとその他2人をチラ見しながらパチュリーは初めてこの授業がスリザリンとの合同授業だと知った。軽い挨拶を済ませるとマルフォイ達はハリーの話で盛り上がり、ゲラゲラ笑いながら離れて行った。目的地に到着すると、ハグリッドはファングと言う名のボアハウンド犬と一緒に小屋の外で生徒達を待っていた。少し離れた場所からでも分かる程ハグリッドの顔は嬉しそうで、早く授業を始めたいのか異常にソワソワしていた。

 

 

「さぁ、急げ!早く来いや!今日はみんなにいいもんがあるぞ!凄い授業だぞ!みんな来たか?・・・よーし。ついて来いや!」

 

「凄く嬉しそうね、彼」

 

「うん、僕もあんなに上機嫌なハグリッドは滅多に見ないかな」

 

 

 パチュリーがフン♪フン♪と鼻唄を歌いながら大股で歩き出したハグリッドを見ながら率直な感想を述べた。偶々隣に立っていたハリーもハグリッドを珍しい物を見たという様な顔で見ており、何故か機嫌が悪そうだったハーマイオニーとロンもハリーの言葉に頷いていた。ハグリッドは禁じられた森の縁に沿って5分程歩いて行き、パチュリー達を放牧場の様な場所に連れてきた。パチュリー以外の生徒達は何かあるのかと辺りを見回すが、そこには何も居なかった。ハグリッドはザワザワと騒いでいる生徒達の方に向き直り、「みんな!ここの柵の周りに集まれ!」と大声で号令をかけた。

 

 

「そーだ、ちゃんと見えるようにしろよ?・・・さーて、イッチ番先にやるこたぁ、教科書を開くこった」

 

「・・・・どうやって?どうやって教科書を開けばいいんです?」

 

 

 マルフォイの冷たい気取った声の質問を聞いてハグリッドは首を傾げた。マルフォイはこの授業の教科書である「怪物的な怪物の本」を取り出したが、紐でグルグル巻きにしており、不機嫌そうな本は唸り声を上げていた。それを見て他の生徒達も次々と本を取り出したが、ベルトで縛っていたり、きっちりした袋に押し込んでいたり、大きなクリップで挟んでいる者も居た。それらの教科書を見てハグリッドはガックリと来たようだった。

 

 

「だ、だーれも教科書をまだ開けなんだのか?本当に?だーれも?」

 

「あ、私はもう全部読んだわよ?なかなか面白かったわ」

 

「「「「「何ぃ!!?」」」」」

 

 

 パチュリーが大人しくなった教科書を広げながら返事すると、パチュリーの周りにいた生徒達は信じられないと言う様な顔でパチュリーの方を見た。実際に大人しく開かれている本を見ると周りから「嘘だろ?」とか「マジか!?」などの驚きの声があがり、ハグリッドはそんな生徒達の反応とは反対に嬉しそうな顔をしていた。

 

 

「1人だけか?ええか?お前さん達、撫でりゃー良かったんだ。そうすりゃこいつは大人しくなる」

 

 

 ハグリッドは近くにいたハーマイオニーから教科書を取り上げると、本を縛り付けていたスペロテープをビリリと剥がした。テープが剥がれた途端本はハグリッドに噛み付こうとしたが、ハグリッドの巨大な親指で背表紙を一撫でされると一瞬震えてからパタンと開き、ハグリッドの手の中で大人しくなった。それを見てマルフォイは鼻で笑って声を上げた。

 

 

「ああ、僕たちって、みんな、なんて愚かだったんだろう!撫でりゃー良かったんだ!どうして思いつかなかったのかねぇ!?」

 

「お・・・俺はこいつらが愉快な奴等だと思ったんだが・・・」

 

 

「ああ恐ろしく愉快ですよ!手を噛みちぎろうとする本を持たせるなんて、まったくユーモアたっぷりだ!」

 

「黙れ!!マルフォイ!!」

 

 

 自信なさげな声を上げるハグリッドを責めるマルフォイにハリーが怒鳴り声を上げた。

 どうでもいいけど私の耳元で怒鳴り声を上げないでほしいわ。耳がキーン!てしたわよ?

 

 

「ハリー、うるさいわよ。耳がキーンてなったわよ」

 

「え?あ、ごめんパチュリー」

 

 

 パチュリーがジト目でハリーを見るとハリーは申し訳なさそうに謝罪し、マルフォイはその様子を見てハリーを鼻で笑っていたが、ハリーが怒鳴った原因はマルフォイにあるためパチュリーが睨むと気まずそうに視線を逸らした。

 

 

「えーっと、そんじゃ、教科書はある・・・と。そいで・・・なんだっけな?」ボソッ

 

(おい今なんて言った?)

 

「えーっと・・・こんだぁ、魔法生物が必要だな・・・ウン。そんじゃ、俺が連れてくる。待っとれよ・・・」

 

 

 ハグリッドは大股で禁じられた森の中に入って行った。ハグリッドの姿が見えなくなると、再びマルフォイは声を張り上げた。

 

 

「まったく、この学校はどうなっているのだろうねぇ?あのウドの大木が教えるなんて、父上に申し上げたら、卒倒なさるだろうなぁ〜」

 

「黙れ!!!マルフォ「うるさい!!」痛ぁ!!?ちょ!待って!耳引っ張らないで!!」

 

「あはははは♪何やっているんだポッ「貴方もさっきから騒がしい!今は授業中よ!」イダダダダダダ!?わ、悪かった!僕が悪かったから耳を離して」

 

 

 パチュリーがハリーとマルフォイの耳を引っ張って2人を黙らせていると、放牧場の向こう側からある生き物が数十頭早足でやって来た。胴と後脚、尻尾は馬だが、前脚と羽根、そして頭部は鷲そっくりな見た目のその奇妙な生物達はそれぞれ分厚い皮の首輪をつけ、それを繋ぐ長い鎖をハグリッドが全部まとめて握っていた。「ドウ、ドウ」と大きくハグリッドが声を掛けて鎖を振るうとそれ等は生徒達のいる柵の方へ移動した。ハグリッドはみんなに手を振りながら嬉しそうに大声を出した。

 

 

「ヒッポグリフだ!美しかろう、え?」

 

「えぇ、確かに美しいわね」

 

 

 ハグリッドの問いにパチュリーは素直に返した。パチュリーも過去に何度か野生のヒッポグリフは見た事はあるが、野生の為あまり体は綺麗ではなかった。それに比べ、ハグリッドが連れて来たヒッポグリフ達はしっかりと手入れされており、美しさが引き立てられていた。パチュリーの感想を聞いてハグリッドは嬉しそうに頷き、ヒッポグリフについて説明を始めた。

 

 

「まんず、イッチ番先にヒッポグリフについて知らなければならねえ事は、こいつらは誇り高い。すぐ怒るぞ、ヒッポグリフは。絶対、侮辱してはなんねぇ。そんな事をしてみろ、それがお前さん達の最後のしわざになるかもしんねぇぞ?」

 

 

 ハグリッドが真面目な雰囲気を出しながら話しているため生徒達も真面目に話を聞いていた。自分の行動によって最悪死ぬかも知れないと聞いたら真面目になるのは当たり前だろう。

 

 

「必ず、ヒッポグリフの方が先に動くのを待つんだぞ。それが礼儀ってもんだろう?な?こいつの側まで歩いて行く。そんでもってお辞儀する。そんで、待つんだ。こいつがお辞儀を返したら、触ってもいいっちゅうこった。もしお辞儀を返さなんだら、素早く離れろ。こいつの鉤爪は痛いからな」

 

「痛いで済めばいいのだけどね」

 

「大丈夫だって・・・多分な。よ〜〜し!!誰が1番乗りだ?」

 

 

 ハグリッドの質問に答える代わりに殆どの生徒が後退りした。何人かは退がらなかったが、パチュリー以外の生徒はかなり不安そうな顔をしている。ヒッポグリフは繋がれているのが気に入らないのか、猛々しい首を振りたて、たくましい羽をばたつかせた。それによってますます生徒達は後退りし、ハグリッドは「誰もおらんのか?」と悲しそうな顔をしながら縋るように聞いている。いつまで経っても名乗り出ない為、仕方なくパチュリーが前に出ようとすると、その前にハリーが名乗り出た。これに午前の占いを知っている生徒達はあっと息を呑んだ。

 

 

「僕、やるよ」

 

「偉いぞ、ハリー!よーし、そんじゃ・・・バックビークとやってみよう」

 

 

 ハグリッドはバックビークと言う名の灰色のヒッポグリフを群れから引き離し、革の首輪を外した。ハリーは放牧場の柵を乗り越えてゆっくりとバックビークに歩み寄って行く。

 

 

「さぁ、落ち着け、ハリー。目をそらすなよ?なるべく瞬きするな・・・ヒッポグリフは目をショボショボさせる奴を信用せんからな・・・・そーだ、ハリー、それでええ。・・・それ、お辞儀だ」

 

 

 ハリーはまっすぐバックビークを見据えながら深くお辞儀をした。バックビークはその鋭い頭をハリーの方に向け、猛々しいオレンジ色の目の片方だけでハリーを睨んだまま気位高くハリーを見据え、動かなかった。

 

 

「あ〜〜・・・・こりゃダメかもしれんな。よーし、退がって。ハリー、ゆっくりだ」

 

 

 ハリーがハグリッドに従ってゆっくり下がろうとした丁度その時、バックビークは上げていた頭をハリーに下げてお辞儀を返した。周りの生徒達は驚きの声を上げ、ハグリッドはその様子を見て狂喜した。

 

 

「やったぞ、ハリー!よーし、触ってもええぞ!嘴を撫でてやれ、ほれ!」

 

 

 ハリーはゆっくりとバックビークに歩み寄り、手を伸ばして嘴を何度か撫でた。するとバックビークはそれを楽しむかの様にトロリと目を閉じた。それを見て生徒達はパチパチと拍手を送ったが、マルフォイとクラッブとゴイルの3名は酷くがっかりした様子だった。するとハグリッドは驚いた事にハリーにバックビークに乗るよう言った。ハリーはオロオロとしたが直ぐに落ち着き、ハグリッドにあれこれ教えてもらいながらバックビークに跨った。

 

 

「よーし、いいぞ〜・・・・そーーれ行け!!」

 

 

 ハグリッドがバックビークの尻をパシンと叩くとバックビークは飛び上がった。ハリーは振り落とされない様に必死にしがみついている。バックビークは放牧場の上空を一周すると急降下して地上に降りた。ハグリッドは「よーく出来た、ハリー!」と大声を出し、生徒達はマルフォイ達以外が歓声をあげた。

 

 

「よーしと。他にやってみたいモンはおるか?」

 

 

 ハリーの成功に励まされて他の生徒達も恐々放牧場に入って行った。ハグリッドは一頭ずつヒッポグリフを解き放ち、やがてあちこちでみんなヒッポグリフにお辞儀し始めた。ただネビルのヒッポグリフはお辞儀をする様子がなかった為何度も慌てて逃げていた。

 まぁ、そんな事は置いといてだ・・・・。

 

 

「・・・・え〜〜っと・・・・・ハグリッド先生?ヒッポグリフが先にお辞儀して来た(・・・・・・・・・)場合はどうすればいいのですか?」

 

「・・・・正直言って分からん。こんな事は初めてだ」

 

 

 私がお辞儀しようとしたらヒッポグリフの方が先に私に向かってお辞儀してきた。隣ではハグリッドが腕を組みながら首を傾げている。確か教科書にはヒッポグリフはプライドが非常に高い事で有名な魔法生物よね?そういえば大図書館の本の1つに『ヒッポグリフは圧倒的な力の差を感じ取ると、極稀に相手を敬う事がある』と書いてあった気がする。・・・・・と、言う事は?

 

 

「(マジかぁ・・・)取り敢えず、お辞儀を返しておきましょう」

 

「それがええ」

 

 

 パチュリーがお辞儀を返すとヒッポグリフも頭を上げた。パチュリーが嘴を撫でてやると気持ち良さそうにした。見た目に反する可愛らしい行動にパチュリーも微笑んでいると、マルフォイ達とハリーが一緒にいるのを見つけた。珍しい組み合わせなので見ていると、マルフォイがバックビークの嘴を撫でながら尊大な態度でハリーと話していた。

 

 

「簡単じゃあないか。ポッターにも出来るんだ、簡単に違いないと思ったよ・・・・おまえ、全然危険なんかじゃないなぁ?」

 

「ちょっとドラコ、やめなさい」

 

 

 パチュリーは何やら嫌な予感がしたためマルフォイに注意した。しかしマルフォイは大丈夫だと言いながらバックビークに話しかけた。

 

 

「なぁ、そうだろう?醜いデカブツの野獣君」

 

「ッ!!ドラコ!!」

 

 

 マルフォイがそんな事を言った瞬間、バックビークの鋭い鉤爪が光った。マルフォイはヒィーッ!と悲鳴をあげ、ハグリッドがバックビークに首輪をつけようと格闘していた。パチュリーはすぐさまドラコの腕の様子を見た。少し深く切られて血が出ているがこの位ならば医務室で直ぐに治せると判断した。取り敢えず早めに治そうとしたが、マルフォイが暴れる為やり難い。終いには「死んじゃう!」とデカイ声で喚きまくった。それを聞いてクラス中がパニックに陥った。

 

 

「僕、死んじゃう!!見てよ!あいつ、僕を殺した!!」

 

「あーーもう!じゃあなんで貴方生きてるのよ!?暴れたら余計傷が酷くなるでしょう!!いい加減にしないと私が力尽くで黙らせるわよ!?」

 

「だって僕死「あ〝?」ナンデモナイデス・・・・」

 

 

 パチュリーが鋭い目付きで喚きまくるマルフォイを睨むとピタリと喚き声は止まった。するとバックビークを繋ぎなおしたハグリッドがパチュリーの所にやって来た。

 

 

「おい!大丈夫か!!?」

 

「大丈夫よ。幸い腕を切り落とされるとかそんな大怪我ではないわ。でもすぐに治療は必要ね」

 

「そうか、ちょいと退いてくれ。その子をこっから連れ出さにゃー!すまんが手を貸してくれんか?」

 

「分かったわ。早く行きましょう」

 

 

 ハグリッドはマルフォイを軽々と抱え上げると城に向かって歩いて行き、パチュリーは先に走ってゲートを開けた。

 

 

「はぁ・・・幸先悪いわね・・・・」



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縮み薬とまね妖怪

 マルフォイがバックビークに腕を切られた事故から数日間、マルフォイはパチュリー達の前には現れず、木曜日の昼頃にあったスリザリンとグリフィンドール合同の魔法薬学の授業が半分程終わった頃に姿を見せた。包帯でグルグル巻きにした右腕を吊り、ふん反り返って地下牢教室に入って来たマルフォイは痛みを勇敢に耐えているようなしかめっ面をしていた。

 

 

「先生、すみません。遅れてしまいました」

 

「ふむ、まぁその怪我ならば仕方あるまい。そうだな・・・ミス・ノーレッジの机に座りたまえ」

 

 

 マルフォイはスネイプ先生に言われた通りパチュリーの隣の空いた席に着いた。パチュリーは右腕を痛そうにしているマルフォイの右腕を見ながら授業中の為小声でマルフォイに話し掛けた。

 

 

「随分と大袈裟な処置ね。マダム・ポンフリーの治療を受けたのならこれだけの期間があれば完治しているはずよ?」

 

「えっと、まぁ色々事情があってね。迷惑は掛けないから黙っててくれるかい?」

 

「まぁどうせハリー達への嫌がらせでしょう?別に貴方達の仲が悪いのは知っているけど、私の注意を無視するのはどうなのかしら?下手したら貴方の右腕無くなってたかもしれないのよ?」

 

「う〝っ!・・・それはゴメン」

 

 

 パチュリーの言葉にぐうの音も出ないマルフォイは素直に謝罪し、話を打ち切って授業に意識を戻した。今日の授業は新しく『縮み薬』と言う一種の若返りの薬だ。ただし間違った調合をすると毒薬に早変わりする為注意は必要である。マルフォイは腕が使えない(フリをしている)為代わりにパチュリーが材料の雛菊の根を刻もうとナイフを手に持つと視線を感じ、そちらを見てみるとハリーとロンのペアがジーッとパチュリーを見ていた。どうせ2人の事だから「マルフォイの根を滅多切りにしてやれ!」とでも思っているのだろうと予想したパチュリーはそれを完全に無視してキチンと同じに揃えて刻み、他の作業も完璧に済ませて薬を完成させるとハリー達の方から舌打ちが聞こえた。

 

 

「チッ!パチュリーの奴、マルフォイの分の薬まで完成させちゃったよ」

 

「パチュリーったら、何を考えてるんだ?」

 

(ぶっ飛ばすわよ馬鹿コンビ)

 

 

 聞こえて来たハリー達の会話を聞いてパチュリーはまた改造した『背後人形』をくっ付けてやろうと思った。この『背後人形』は赤ん坊ではなく、新しく血塗れの大人の女性の人形だ。しかも付けた人間の体力をある程度吸い取って疲れやすくさせ、常に「殺して・・・殺してちょうだい」と囁いてくるのだ。ただしそれでは先ずバレずに対象に付ける事が困難な為、血涙を流しながら笑う髑髏のバッチ型にし、対象に付けると人型になるようにしたものだ。

パチュリーがそう考えていると数個先の鍋でまたネビルが問題を起こしたらしく、スネイプ先生の声が聞こえて来た。会話の内容からしてネビルの鍋の薬は本来の緑色の液体ではなく、オレンジ色になっていたらしい。

 

 

「オレンジ色か、ロングボトム。教えて頂きたいものだが、君の分厚い頭蓋骨を突き抜けて入っていくものがあるのかね?我輩はハッキリと言った筈だ。ネズミの心臓は1つでいいと。聞こえなかったのか?ヒルの汁はほんの少しでいいと、明確に申し上げたつもりだが?ロングボトム、いったい我輩はどうすれば君に理解していただけるのかな?」

 

「先生、お願いです。私にネビルを手伝わせてください。ネビルにちゃんと直させます」

 

「君にでしゃばるよう頼んだ覚えはないがね、ミス・グレンジャー。ロングボトム、このクラスの最後に、この薬を君のヒキガエルに数滴飲ませて、どうなるか見てみることにする。そうすれば、多分君もまともにやろうという気になるだろう」

 

 

 スネイプ先生が恐怖で息も出来ないネビルを置いてその場を去ると、ネビルはハーマイオニーに「助けてよ!」と呻くように頼んだ。ハーマイオニーが頷いてこっそり手伝っているのを眺めているとスネイプ先生の声が地下牢教室に響いた。

 

 

「材料は全部加えた筈だ。この薬は服用する前に煮込まねばならぬ。グツグツ煮えている間、あと片付けをしておけ。後でロングボトムの薬を試す事にする」

 

 

 パチュリーがネビルの方を見てみると、必死に鍋を掻き混ぜているネビルの姿があった。近くにいるハーマイオニーがバレないように唇を動かさないように指示を出しているが、見た所全く間に合いそうにない。パチュリーはスネイプ先生の合格を受けた鍋に残っている『縮み薬』を小瓶に少し移してポケットの中に隠した。そして片付けを終えるとスネイプ先生がクラスの全員をネビルの鍋に集めた。

 

 

「ロングボトムのヒキガエルがどうなるか、よく見たまえ。なんとか『縮み薬』が出来上がっていればヒキガエルはおたまじゃくしになる。もし造り方を間違えていれば・・・・我輩は間違いなくこっちの方だと思うが、ヒキガエルは毒にやられる筈だ」

 

 

 ネビルは顔を蒼ざめ、ハーマイオニーは表情には出していないが雰囲気で焦っているのが分かる。鍋の薬は少し薄くなっているがまだオレンジ色でこのままではヒキガエルのトレバーは飲んで薬が効果を発揮する約3秒後には天に召されるだろう。生徒達が見守る中、スネイプ先生はスプーンをネビルの鍋に突っ込み、トレバーの口に2、3滴流し込んだ。ハーマイオニーが顔を逸らし、ネビルは目を覆っている中、薬を飲んだトレバーはポンッ!と音を発しておたまじゃくしに姿を変え、スネイプ先生の腕の中でクネクネしていた。グリフィンドールのみんなが拍手喝采する中、信じられないと驚愕の表情を浮かべるスネイプ先生は鍋の中の薬と手の中のおたまじゃくしを交互に見る。

 

 

「どういう事だ?この色は間違いなく・・・いや、しかし・・・ううむ・・・まぁ、どちらにせよ、グリフィンドールは5点減点!手伝うなと言った筈だ、ミス・グレンジャー。バレていないと思ったか?授業終了」

 

 

 授業が終わり、未だ顔を顰めながらネビルの鍋を睨んでいるスネイプ先生を残して生徒達は玄関ホールへの階段を上がって行った。パチュリーはすぐ人気が無い場所に移動すると、ポケットからオレンジ色(・・・・・)の『縮み薬』が入った小瓶を取り出した。これはトレバーの口に流し込まれたネビルの薬だ。スネイプ先生がトレバーの口にこの薬を流し込んだ後、薬がまだ口に含まれているうちに空間魔法で自分の薬と入れ替えた(・・・・・)のだ。

 

 

「なんとか上手くいったわね。さぁ、証拠隠滅っと」

 

 

 パチュリーがパチンと指を鳴らすと小瓶の中の薬が跡形も無く消え去り、残った小瓶をポケットに仕舞い込み、次の授業へ向かった。

 

 

 

 『闇の魔術に対する防衛術』の最初のクラスにやって来た時はまだルーピン先生は来ておらず、パチュリーは席に座って魔法書を読んでいた。しばらく読んでいるとやっとルーピン先生がやって来て、くたびれた古いカバンを先生用の机に置くと「やぁ、みんな」と曖昧に微笑みながら挨拶した。

 

 

「教科書はカバンに戻してもらおうかな。今日は実地練習をする事にしよう。杖だけあればいいよ」

 

 

 生徒達は何人か怪訝そうな顔をするも、面白そうだと思って「ついておいで」と言って教室を出て行くルーピン先生の後を追った。道中、空中で逆さまになりながらあちこちの鍵穴にチューインガムを突っ込んでいるピーブズと遭遇したが、ルーピン先生が「ワディワジ、逆詰め!」と唱えると鍵穴に突っ込まれていたチューインガムが弾丸のように飛び出してピーブズの鼻の穴に命中して撃退するという事があったが、目的地らしい職員室に辿り着いた。ルーピン先生の指示でみんなが部屋の奥へと進むと、先生方の着替え用ローブを入れる古い洋箪笥が置かれており、ルーピン先生がその傍に立つと、箪笥がガタガタと揺れてバーンと壁から離れた。

 

 

「心配しなくていい。中にまね妖怪・・・ボガートが入っているんだ」

 

((((それは心配するべき事なんじゃ?))))

 

 

 殆どの生徒達がそう思っている間も箪笥はガタガタ震えており、威嚇しているのか取っ手の部分までガタガタと激しい音を立てている。

 

 

「ボガートは暗くて狭い所を好む。洋箪笥、ベッドの下の隙間、流しの下の食器棚などだ。私は一度、大きな柱時計に引っかかっている奴に出会った事がある。ここにいるのは昨日の午後に入り込んだ奴で、3年生の実習に使いたいから、先生方にはそのまま放っておいて頂きたいと、校長先生にお願いしたんですよ。それでは、最初の問題ですが、まね妖怪のボガートとはなんでしょう?」

 

「ハイ!形態模写妖怪です。私達が1番怖いと思うのはコレだ、と判断すると、それに姿を変える事が出来ます」

 

「私でもそんなに上手くは説明出来なかったろう」

 

 

 ルーピン先生の言葉でハーマイオニーは若干頬を染めた。パチュリーも最初はなんとかハートみたいな授業ならホグワーツごと爆破しようと考えていたが、思ったよりもちゃんと授業をしている為、少しホッとしていた。

 

 

「だから、中の暗がりに座り込んでいるボガートは、まだなんの姿にもなっていない。箪笥の外にいる誰かが何を怖がるのか知らない。だからボガートが1人の時はどんな姿をしているか誰も知らない。しかし、私が外に出してやればたちまちそれぞれが1番怖いと思っているものに変身する。つまり、初めっから私達の方がボガートより大変有利な立場にありますが、ハリー、何故だかわかるかな?」

 

「えーっと、僕達、人数が沢山いるので、どんな姿に変身すればいいか分からない?」

 

「その通り、ボガート退治をする時は誰かと一緒にするのが1番いい。向こうが混乱するからね。私は過去に一度に2人を脅そうとして2人の怖いものが合体して全く怖くないものに変身したボガートを見た事がある。そしてボガートを退散させる呪文も簡単だ。しかし精神力が必要だ。こいつを本当にやっつけるのは笑いなんだ。君達はボガートに自分が滑稽だと思える姿をとらせる必要がある。初めは杖無しで言ってみよう。私に続いて・・・リディクラス、バカバカしい」

 

「「「「リディクラス、バカバカしい!」」」」

 

「そう、とっても上手だ。でもそれだけじゃ足りないんだ。そこで、ネビル、ちょっと前に来て。さて、ネビル。君が世界一怖いものはなんだい?」

 

「え、えっと・・・(…イプ先生)

 

「ん?ごめんネビル。よく聞こえなかった」

 

「その・・・スネイプ先生」

 

「「「「プッ!!!」」」」

 

 

 ネビルの答えた世界一怖いものを聞いてクラスの大半が吹き出した。ネビルらしいと言えばネビルらしい。そんな中ルーピン先生は真面目な顔をしており、次はネビルと一緒に暮らしているお婆さんの服装の特徴を聞いた。

 

 

「いいかいネビル。その服装を強く思い浮かべるんだ。ボガートがスネイプ先生に変身したらその服装を思い浮かべながらさっきの呪文、『リディクラス、バカバカしい』と唱えるんだ。上手くいけばボガート・スネイプ先生はてっぺんにハゲタカが付いた帽子を被って、緑のドレスを着て、赤いハンドバッグを持った姿になってしまう」

 

 

 これを聞いてパチュリーも含めてみんなが想像してしまい、大爆笑した。ルーピン先生はみんなに今の内に何が1番怖いかを考えて、その姿をどうやったら面白く出来るか考えておくよう言った。が、ここでパチュリーは悩んだ。

 ・・・私の1番怖い物ってなんだ?

 パチュリーが考えているうちに実地練習は始まり、ルーピン先生が杖で箪笥の扉を開けた。すると中からスネイプ先生に変身したボガートが現れ、ネビルを睨み付けた。ネビルは数歩後ずさったが上ずった声で呪文を唱えた。

 

 

「リ、リ、リディクラス!!!」

 

 

 するとパチン!と鞭で打つような音と共にスネイプ先生が躓き、服装が先程ネビルが言っていたお婆さんの服装に変わった。クラスのみんなから笑い声が上がり、ボガートは途方にくれたように立ち止まった。

 

 

「パーバティ、前へ!」

 

 

 ルーピン先生の呼び声にパーバティがネビルと入れ替わって前に出た。スネイプがパーバティを見るとパチン!と音がして血塗れの包帯を巻いたミイラになった。パーバティはすぐに「リディクラス!」と叫ぶとミイラは自分の包帯が絡まって頭から先につんのめり、頭が転がり落ちた。ルーピン先生もそれを見て笑いながら次の生徒を呼んだ。そして巨大なガラガラヘビがピエロのビックリ箱になったり、ゾンビがスーツ姿で名刺を差し出したり、切断された腕がネズミ捕りに挟まれたり、13日の金曜日の殺人鬼がどこぞの配管工ブラザーズの兄の服装になったりと、いくつか変なのが混じっていたがみんなから笑いが上がった。ちなみにロンとハーマイオニーはボガートが血涙を流しながら笑ってヨチヨチ近付いてくる赤ん坊・・・つまり『背後人形』になったため気絶して何人かの生徒に医務室に運ばれた。

 

 

さっきのは私でも怖いな・・・ンンッ!さて、もう少しだけやろう。パチュリー、前へ」

 

「私が怖い物ねぇ?正直分からないわね・・・」

 

 

 パチュリーが気になりつつも前に出るとボガート・『背後人形』がパチュリーを見た。しばらくジーッと見られていたが、急にペコリと頭を下げられて男とも女とも言えない声で『読ミ取レナイデス。勘弁シテクダサイ』と言われて思わず「は?」と聞き返してしまった。ルーピン先生もクラスのみんなもポカンと、口を開けてボガートを眺めており、ボガートは次の瞬間パチン!と音を立てて細かい煙の筋となって消え去った。その後終業のベルが鳴るまで皆唖然とボガートのいた場所を眺めており、我に返ったルーピン先生は皆に幾つか宿題を出して授業を終わらせた。



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ラベンダーの悲報とズタズタな肖像画

 ルーピン先生の『闇の魔術に対する防衛術』の授業はたちまちホグワーツの殆どの生徒達の1番人気の授業になった。マルフォイやその取り巻きのスリザリン寮生達は常にルーピン先生のあら探しをしていたが、パチュリーを含めて誰1人として気にする生徒はいなかった。ルーピン先生の授業は基本実地教習で、ボガートの次は赤帽子(レッドキャップ)という棍棒を持った小鬼に近い生物や、パチュリーの期待を裏切る容姿をした河童などの対処法を習った。

 逆にハグリッドの『魔法生物飼育学』はパチュリーからしても面白くもなんともない授業となってしまった。マルフォイの所為でハグリッドは完全に自信を失ってしまい、毎回毎回レタス食い虫(フロバーワーム)の世話をするだけの授業となってしまっている。パチュリーはヒッポグリフが最初の授業に出て来た事により、とても楽しめそうだと思っていたので、原因のマルフォイには1週間サ○エさんみたいな髪型になる呪いをかけた。その1週間はマルフォイは姿を見せず、常に笑いを堪えた顔をしたスリザリン寮生が見られるようになった。

 そして時間は流れ、10月になったある日の事、変身術の授業の時間にパチュリーが教室の外に並んで待っていると、後方の列が騒がしくなった。パチュリーが気になって読んでいた魔法書に栞を挟んで閉じ、騒ぎの中心に向かった。そこには泣いているラベンダー・ブラウンと、パーバティやハリー、ロン、ハーマイオニーなどの見知った顔が集まっていた。

 

 

「ちょっと、何があったのよ?なんでラベンダーが泣いてるの?」

 

「あ、パチュリー。実は今朝ラベンダーの家から手紙が来てさ、彼女のウサギのビンキーが狐に殺されちゃったらしいんだ」

 

「成る程、それで……」

 

 

 自分のペットが死んでしまったから泣いているということか。周りの生徒達も泣き続けるラベンダーを気の毒そうに見つめる。するとラベンダーは何かに後悔した様子で叫んだ。

 

 

「私、迂闊だったわ!!みんな今日が何日か、知ってる?」

 

「え?え〜〜っと・・・何日だっけ?」

 

「・・・・・10月16日。初めての占い学の授業でトレローニー先生が彼女に言った、彼女が恐れている事が起きると予言した日ね?」

 

 

 パチュリーが口にした言葉を聞いて周りにいた生徒達はどよめいた。皆スッカリ忘れていたが、今回の事は確かにトレローニー先生は彼女に向けて「貴女が恐れている事は、10月16日に起こりますよ!」と予言した内容と合致しているのだ。

 

 

「そうよ!トレローニー先生は正しかったんだわ!正しかったのよ!」

 

 

 泣き叫ぶラベンダーに今や並んでいた生徒達全員が注目していた。するとハーマイオニーが一瞬躊躇うような素振りをしてからラベンダーに質問した。

 

 

「貴女・・・貴女、ビンキーが狐に殺される事をずっと恐れていたの?」

 

「ウウン、狐って限らないけど・・・」

 

「でも、ビンキーが死ぬ事を勿論ずっと恐れていたわ。そうでしょう?・・・・あら?ビンキーって年寄りウサギだった?」

 

「ち、違うわ!あ、あの子は、まだ赤ちゃんだった!」

 

 

 ハーマイオニーが一瞬間を置いてやがてそう質問した。ラベンダーは涙に濡れた顔をハーマイオニーに向けてそれを否定した。泣きながらそう叫ぶラベンダーをパーバティがきつく抱き締めた。

 

 

「じゃあ、どうして死ぬ事なんかを心配するの?」

 

「ハーマイオニー、今すぐにその口を閉じなさい」

 

「だってそうでしょパチュリー?論理的に考えてよ。つまり、ビンキーは今日死んだ訳でもない。でしょ?ラベンダーはその知らせを今日受け取っただけだわ」

 

 

 ハーマイオニーはパチュリーの忠告を無視して周りに集まった生徒達に向けても言った。ラベンダーは更に酷く泣き始め、パーバティはハーマイオニーを睨み付けた。

 

 

「それに、ラベンダーがその事を恐れていた筈がないわ。だって、突然知ってショックだったんだもn「黙りなさいハーマイオニー」ッ!?」

 

 

 パチュリーは少し殺気を乗せながらハーマイオニーを睨み付けた。パチュリーの目を見てハーマイオニーは口を閉じて数歩後退った。

 

 

「いいかしら?子ウサギは突然死する事がよくあるの。生き物だから高い所から落ちて落下死したり、水の中に落ちて溺死したりする危険もあるわ。そんな自分のペットが死んでしまう事を恐れるのは普通なのよ?どうやら貴女は占い通りになったのが気に食わなくて言っているんでしょうけど、そういうのは1人でやってなさい」

 

 

 先程からハーマイオニーの話を聞いていると、ラベンダーがウサギが死ぬ事を恐れていた事を否定する事とは別に、トレローニー先生の占いは正しくないとも聞こえるのだ。それを言われたハーマイオニーは肩をビクッと震わせるが、すぐに言い返して来た。

 

 

「だ、だって・・・彼女は先生の占いは正しかったって言ってるけど、論理的に考えて彼女が常にウサギが死ぬ事を常に考える筈がないわ!」

 

「トレローニー先生の占いは、『10月16日にラベンダーが恐れている事が起きる』というもの。常に思っている(・・・・・・・)なんて一言も言っていなかったわ。それに彼女の場合、ペットが死んだ知らせを恐れていたと考えれば、先生の予言通りになるわ」

 

「そ、それは・・・・」

 

「何をやっているのですか?皆さん。もう授業が始まりますよ」

 

 

 ハーマイオニーが苦虫を噛み潰した様な顔をした丁度その時、マクゴナガル先生が教室のドアを開けた。パチュリーは最後にキツ目にハーマイオニーを睨むと、何も言わずに教室の1番後ろの席に座った。生徒達は無表情のパチュリーと悔しそうな顔をしたハーマイオニーを交互に見ながら席に着き、気不味い雰囲気の中授業を受けた。

 終業のベルが鳴り、パチュリー達が教室を出ようとすると、マクゴナガル先生が待ったを掛けた。

 

 

「ちょっとお待ちなさい!皆さんは全員私の寮の生徒ですから、ホグズミード行きの許可証をハロウィーンまでに私に提出してください。許可証がなければホグズミードもなしです。忘れずに出すこと!」

 

 

 ホグズミード村、イギリスで唯一魔法使いしか住んでいない村だ。喫茶店や菓子屋、魔法の洋服屋、悪戯道具の専門店などの様々な店が並ぶ賑やかな村だ。ホグワーツでは3年生になると、保護者から許可証にサインを貰い、先生に提出すると、決められた日に訪れる許可を貰えるのだ。

 一応私も許可証は持っている。後でマクゴナガル先生に渡すつもりだ。因みに保護者()は勿論小悪魔だ。ただそのまま『小悪魔』なんて書いたらバカにしてるのかと言われかねない為、偽名として『リトルコア・ノーレッジ』とサインしてもらった。小さいの“リトル”と小悪魔の“コア”で“リトルコア”だそうだ。

 

 

「あの〜、先生。ぼ、僕・・・無くしちゃったみたい」

 

「ロングボトム。貴方のお婆様が私に直送なさいました。その方が安全だと思われたのでしょう。さぁ、それだけです。帰ってよろしい」

 

 

 マクゴナガル先生の許可が下りたので、パチュリー達は次々に教室を退出して行った。

 

 

 

 

 

 

 時は流れてハロウィンの日。今日はホグワーツの生徒達が待ちに待ったホグズミード村に行ける日である。朝から管理人のフィルチがドアの内側に立って長いリストを片手に名前をチェックしていた。ロンやハーマイオニーもホグズミード村に行っていたが、パチュリーがハーマイオニーに怒った日からハリーは滅茶苦茶ガッカリした様子で2人を見送っていた。どうやら許可証は手に入らなかったらしい。

 パチュリーもホグズミード村に行った・・・なんて事はなく、自室で小悪魔が淹れてくれた紅茶を飲みながら魔法書を読んでいた。今回読んでいるのは『吸魂鬼に関する調査記録』である。数日前にホグワーツ付近を警備していたディメンターに自作の『幽霊マント』を試したのだが、1発でバレてしまったので、ディメンターにもバレないよう改良する為にディメンターについても調べているのだ。

 

 

(ふむ・・・ディメンターは人の魂を感じ取る能力があるのね。動物の魂は感知出来るが、興味を持つ事はない・・・成る程、だから私の『幽霊マント』もすぐにバレたのね)

 

 

 パチュリーは紅茶を飲んみながら数日前の事を思い出した。マントを被って校門前を警備していたディメンターの近くに歩み寄ると、ディメンター達がこちらの方をゆっくり振り向き、ジーッと見てきたのだ。パチュリーはそれだけ見て『幽霊マント』はディメンターに効果がない事が分かり、すぐに引き返して城に入ったのだ。

 

 

「う〜ん・・・ならマントに魂を感知させないようにする術式を加えて見ましょうか。・・・・あら?紅茶が無くなっちゃったわね。こぁ、悪いけど紅茶を淹れてくれないかしら?」

 

 

 パチュリーは小悪魔に向かってそう頼んだが、小悪魔は何かのカタログを読んでいて気付いていない様子だった。なんのカタログかはパチュリーからは見えないが、パラパラとページをめくっている。

 

 

「こぁ?聞いてるかしら?」

 

「ふぇ?あ、はい!なんでしょうか?」

 

「紅茶が無くなっちゃったから淹れて欲しいのよ」

 

 

 「了解しました」と小悪魔は読んでいたカタログを座っていた椅子に置いてティーポットを手に取り、パチュリーのカップに注いだ。

 

 

「ねぇ、こぁ?さっきからなんのカタログを読んでいるの?」

 

「え!?あ、いや・・・た、大した物ではありませんよ?」

 

 

 異常に反応する小悪魔をパチュリーは怪しいと感じ、小悪魔が読んでいたカタログを浮遊魔法で浮かせてから自分の手の上に置いた。小悪魔がそれに気付いてカタログを取り返そうとしたので、ついでに自分の周囲に結界を張った為、小悪魔はパチュリーに触る事すら出来なかった。

 パチュリーは小悪魔の読んでいたカタログに目をやると、それは意外な物のカタログだった。

 

 

()のカタログ?なんでこんな物読んでるのよ?」

 

「えっと・・・じ、実は」

 

 

 小悪魔の話によると、少し前に町に買い物に行った際、偶々売店に置いてあった新聞を興味本位で読んだ際、シリウス・ブラックという犯罪者が銃を持って逃亡中という記事が目に入った。その銃という道具がどんなものか知らなかった為、大図書館で調べているうちに興味を持ったらしい。

 

 

「銃って・・・貴女実物見た事あるの?」

 

「ちょっと前に大図書館の水晶で射撃場の様子を遠視しました」

 

「成る程ね〜・・・・」

 

 

 パチュリーは恥ずかしそうに顔を俯かせている小悪魔を見る。彼女の尻尾と羽根もしょんぼりとしている。

 銃ねぇ?そういえば前世の二次創作物では偶に銃を使っているものもあった気がするわね。

 

 

「・・・・うん、別にいいんじゃないかしら?」

 

「え?いいんですか?」

 

 

 小悪魔はキョトンとした表情で顔を上げた。

 

 

「えぇ、別に構わないわ。貴女がそんなに興味を持つのも珍しいから。別に人を撃つ為に欲しいとかじゃないでしょう?」

 

「あ、はい。パチュリー様のお陰で魔法は簡単なものなら使えるように成りましたけど、あまり強い魔法が使えないじゃないですか。もし何かあった時の為に、パチュリー様に守られるだけじゃなく、私も自分で戦えるように成りたいと思いまして・・・」

 

 

 そういう理由があったのね。確かに最近の私はトロールやヴォルデモートの部下、更には戦闘はしなかったけどバジリスクなんかに遭ってるものね。これから先小悪魔が巻き込まれる可能性も低くないし、確かに戦闘・・・少なくとも自衛は出来るようにしておいた方がいいわね。

 

 

「分かったわ。じゃあ銃は私が作ってあげるから、どんなのがいいか決めておきなさい」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

 

 小悪魔は嬉しそうに頭を下げて礼を言い、早速パチュリーからカタログを受け取ってどれがいいか真剣な表情で考え始めた。初めて会ったときは怖がりで若干甘えん坊だった小悪魔が、知らない内にそんな事を考えるようになった事にパチュリーは少し嬉しく思ったりした。

 ふと、壁の時計を見ると、もうすぐマクゴナガル先生に貸し出し中の魔法書を取りに行く時間になっている事に気付いた。

 

 

「あら?もうこんな時間ね。こぁ、私はマクゴナガル先生に貸した魔法書を取りに行ってくるわ。ゆっくり決めなさいね」

 

「はい!行ってらっしゃいませ♪・・・あ、これなんかいいかも

 

 

 パチュリーは部屋を出て、談話室から外に出る為に肖像画を押し開けると、パチュリーの目の前には沢山の生徒達がこちらを見ており、先頭にはダンブルドア先生とフィルチが立っていた。上にはピーブズがニヤニヤ笑いながら浮いていた。

 ・・・・え?何この状況?

 

 

「あの・・・何かあったのかしら?」

 

「おや?おやおや?パチュリー!君は知らないのかい?君が開けた肖像画を見てごらんよ」

 

 

 ピーブズに首を傾げながら談話室への出入口である肖像画を見てみると、『太った婦人』の肖像画がズタズタに引き裂かれていた。

 

 

「これは・・・何があったの?」

 

「あいつは癇癪持ちだねぇ?あのシリウス・ブラックは」

 

 

 目を細めるパチュリーにピーブズはくるりと宙返りしながら楽しそうに笑いながら答えた。



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ルーピンの代わりとニンバスの亡骸

 肖像画がシリウス・ブラックに滅多切りにされたその日の夜、グリフィンドールのみならず、ハッフルパフとレイブンクロー、そしてスリザリンの全生徒達は大広間に集められ、そこで一晩を過ごした。先生達は城中を隅々まで捜したが、結局、シリウス・ブラックを見つける事は出来なかった。

 それから数日というもの、学校中がシリウス・ブラックの話題でもちきりだった。どうやって城に侵入したのか?何が目的だったのか?生徒達の間で話は尾ひれがついてドンドン大きくなっていった。挙げ句の果てにはシリウス・ブラックは花の咲く灌木に変身出来るだの、ゴーストの様に壁を擦り抜けられるだのと言う生徒まで現れた程には尾ひれがつきまくった。

 切り刻まれた『太った婦人』の肖像画がグリフィンドールの入り口から取り外され、代わりにずんぐりした灰色のポニーに跨った『カドガン卿』の肖像画が取り付けられた。これにはグリフィンドール生達は大弱りだった。『カドガン卿』は誰彼構わず・・・それこそパチュリーにまで決闘を挑み、とてつもなく複雑で長い合言葉をひねり出すのに余念が掛かった。パチュリーが知る限り、1日に最低2回は合言葉が変わっている。何人かの生徒は『カドガン卿』にうんざりしてもっとマシな人に変えてくれと監督生のパーシーに訴えたが、『太った婦人』の二の舞いになる事を恐れて誰もやってくれないのでその要求は却下された。

 そしてある日の事、パチュリーはいつも通り次の「闇の魔術に対する防衛術」の授業に遅れないよう、皆より一足早く教室に入った。いつもならばルーピン教授が「やぁ、ミス・ノーレッジ」なんて笑顔で挨拶しながら今日行われる授業に必要な魔法生物を準備しているのだが、今日はルーピン教授も魔法生物も姿は無く、代わりにスネイプ先生が教壇に立っていた。

 

 

「あら?スネイプ先生。今日は貴方が授業を?」

 

「ルーピン先生は今日は気分が悪く、教えられないとのことで、我輩が教える事となった」

 

 

 パチュリーは「そう」とルーピン教授がいない事に納得すると、いつも通り机に座り、授業が始まるまで魔法書を読む。やがてガヤガヤと楽しげな雰囲気のグリフィンドール生徒達が教室に入り、教壇に立つスネイプ先生を見つけると、さっきまでの騒がしさは消え、皆黙って席に着いた。そして授業が時間通りに始まってから10分後、教室の扉が開いて荒い息をしたハリーが入って来た。遅刻である。

 

 

「遅れてすみません!ルーピン先生、僕・・・・!?」

 

「授業は10分前に始まったぞ、ポッター。であるからグリフィンドールは10点減点とする。座れ」

 

 

 スネイプ先生はハリーに座るよう命じたが、ハリーはその場から動かなかった。

 

 

「ルーピン先生は?ルーピン先生はどうなさったんですか?」

 

「彼は今日は気分が悪く、教えられないとのこと。それより我輩は座れと言ったはずだが?グリフィンドール、さらに5点減点。もう一度我輩に『座れ』と言わせたら、50点減点とする」

 

 

 そこまで言われてやっとハリーはのろのろと自分の席に着いた。ハリーが座ったのを確認すると、スネイプはクラスをズイと見回した。

 

 

「ポッターが邪魔をする前に話していた事であるが、ルーピン先生はこれまでどのような内容を教えたのか、まったく記録を残していないからして・・・・」

 

「先生、これまでやったのは、まね妖怪(ボガート)赤帽鬼(レッドキャップ)河童(かっぱ)水魔(グリンデロー)です。これからやる予定だったのは「黙れ」ッ・・・」

 

 

スネイプが話しているのを遮ってこれまでやった授業内容を一気に答えたハーマイオニーは、スネイプに睨まれて口を閉じた。

 

 

「教えてくれと言ったわけではない。我輩はただ、ルーピン先生のだらしなさを指摘しただけである」

 

「ルーピン先生はこれまでの『闇の魔術に対する防衛術』の先生の中で1番よい先生です!!」

 

 

 トーマスの勇敢な発言を、クラス中(パチュリーを除く)がガヤガヤと支持した。だがスネイプ先生の顔が一層威嚇的になったのでシンと静まり返る。

 

 

「点のあまいことよ。ルーピンは諸君に対して著しく厳しさに欠ける……赤帽鬼や水魔など、一年坊主でもできることだろう。我々が今日学ぶのは・・・・人狼(じんろう)だ」

 

 

 スネイプ先生は教科書を1番後ろまでページをめくり、ニヤリと薄く笑みを浮かべた。これにハーマイオニーは我慢する事が出来ず再び発言する。

 

 

「でも、先生。まだ狼人間までやる予定ではありません。これからやる予定なのは、ヒンキーパンクで・・・!」

 

「ミス・グレンジャー。この授業は我輩が教えているのであり、君ではない筈だが?その我輩が、諸君に394ページをめくるようにと言っているのだ。我輩が見たところ、大人しくめくっているのはミス・ノーレッジのみだが?」

 

 

 それを聞いてクラスの全員は「嘘だろ!?」とでも言いたげな表情でパチュリーの方を見た。実際パチュリーは既に教科書を開いており、人狼についての部分を黙読し始めていた。

 ロックハートの授業で滅茶苦茶不機嫌だったパチュリーなら今回の授業もまともに受けないだろうとハリー達は思っていたが、アレはロックハートそのものが授業をせずに自慢話をしていたからであって、やる予定の場所が変わった程度ではパチュリーは何も言わないのである。彼女の隣の机に座っていたロンはパチュリーを裏切り者を見るかのような目で見ていた。

 その後、人狼の見分け方についての問題でスネイプ先生がまた当てられていないのに発言したハーマイオニーの答えを「知ったかぶりだ」と言って更に5点減点したり、更にそのことに怒ったロンがスネイプ先生に口答えして処罰を受けたりしたが、パチュリーは普段と変わらずの様子で授業を終えた。

 

 

 

 

 

 

 翌日、クィディッチの試合が行われるこの日は最悪の天気と言っても過言ではなかった。風はまともに立っていられない程吹き荒れ、雷鳴が轟き、激しい雨が降り続けているが、ボクワーツでは大人気イベントの1つであるクィディッチの試合を観るために今回も沢山の生徒達が競技場に足を運んだ。こんな天気でもクィディッチは予定通り開催されるからだ。

 だが今回は非常に珍しい事に、今回は観客席ではないが、競技場の端に難しい顔をしている『幽霊マント』を纏ったパチュリーが立っていた。マントや帽子が全く濡れていないのでおそらくは防水の魔法を使っているのだろう。

 

 

(今の所は特に問題は無し。でもこれから何が起こるかが問題ね……)

 

 

 パチュリーはジッと上空を飛び回るグリフィンドールとハッフルパフの選手達・・・正確には土砂降りの中必死に目を凝らして金のスニッチを探しているハリーを見ながら4日前の事を思い出していた。

 実は今から4日前、授業を終えて自室に戻ったパチュリーは、暇潰しに水晶による占いをしていた。その時水晶に映ったのは、土砂降りの雨の中、意識を失って箒から落ちて重傷を負ったハリーの姿だった。

 

 

「(アレが今日の出来事を予知したなら、ハリーはこれから箒から落ちて重傷を負う。原因は分からないけれど、可能性としては雷に撃たれる。ブラッジャーが運悪く頭部に直撃して気絶。スリザリン寮生の悪質な悪戯による妨害ってところかしらね)はぁ〜・・・本当なら、今頃部屋で魔法書を読みながらこぁと一緒にお茶を飲んでいたのに。こんな事なら、暇潰しで占いなんてするんじゃなかったわね。失敗だわ・・・・・あら?」

 

 

 パチュリーが過去の過ちに深い溜息を吐いていると、急に辺りの気温が下がり始め、背後から何者かの気配を感じた。念の為自作の魔法書を広げて警戒しながらゆっくりと振り向くと、そこには一体の吸魂鬼(ディメンター)が亡霊の様に佇んでいた。マントの能力で姿は見えない筈だが、やはりディメンターにはバレてしまっている様だ。

 

 

「・・・・・・・・」

 

「あなたもしかして・・・・・列車の中にいた?」

 

 

 ジッとパチュリーを見続けるその様子に見覚えがあったパチュリーは、ホグワーツ特急でハリーを気絶させたディメンターではないかと思い、話し掛けた。ディメンターは言葉こそ返さなかったが、ゆっくりと縦に頷いた。するとディメンターはス〜ッと空中を滑る様にしてパチュリーの方へ近付いて来た。

 

 

「・・・・・・・」

 

「・・・ふむ。列車の中ではあまりよく見れなかったけれど、面白い体をしているのね」

 

 

 パチュリーは近寄って来たディメンターの体をじっくりと観察し、更には実際にディメンターの体に触れたりしだした。魔法界にいる魔法使いや魔女達が今のパチュリーを見たら悲鳴を上げてディメンターから引き剥がすだろうが、競技場にいる者達は現在上空で行われているクィディッチの試合に釘付けなので、そんな事は起こらない。

 しばらく興味深げに観察を続けていたパチュリーであったが、ふとある事に気が付いた。

 

 

(・・・・・ちょっと待って。どうしてホグワーツの出入り口を警備している筈のディメンターがこんな所にいるの?この子が私に会いに来たというのなら、もっと前に私に接触している筈)

 

 

 するとパチュリーはディメンターについて書かれていた本のとある一文を思い出した。『ディメンターは目が見えず、人間の幸福感や希望などのプラスの感情に反応する』という一文を・・・・。

 

 

「ッ!!まさか!!?」

 

 

 パチュリーは嫌な予感がしてディメンターから競技場上空に目を向けた。パチュリーの予感は的中し、上空には少なくとも100以上のディメンター達が漂っており、その中心には金のスニッチを追い掛けていたらしいハリーの姿が見えた。競技場にいる生徒達はディメンター達を指差して騒めき、先生達は驚愕に顔を染め、フーチ先生は試合を中止する為にホイッスルを鳴らしている。

 そう、ディメンター達は、この競技場に集まった生徒達の興奮した感情に反応して自分の仕事を忘れてやって来たのだ。ハリーはディメンター達の間を縫う様にして飛び回っていたが、やがて気を失ったのか力無く箒から滑り落ち、地面に向かって頭から落下した。

 

 

「不味い!!」

 

 

 パチュリーは慌ててハリーの落下地点の地面に向けて、以前ネビルが箒から落下した時と同じ様に魔法書を開き、魔法を発動させた。ハリーの落下地点に緑色の魔法陣が出現し、嵐に負けない程の突風が吹いた。だが、流石に落ちた高さがあり過ぎた様で、落下スピードは少ししか落ちなかった。

 

 

「だったら!!」

 

 

 パチュリーは魔法陣から吹く風を更に強くした。普通ならば成人男性が10m以上は中に浮く程の突風。正直不自然すぎる光景になってしまうが、今パチュリーの姿は誰にも見えないので、誰がやったかまでは先生達も分からないだろう。ハリーは風を受けてゆっくりと地面に落ち、選手達は大慌てでハリーの下に駆け寄った。パチュリーは続いて上空のディメンターをどうにかしようと魔法書を開いたが、先生達が座っているスタンドから銀色の光が空に飛んで行き、ディメンターを追い払った。

 

 

「守護霊の呪文・・・この威力と魔力はダンブルドア先生ね?どうやらハリーは生きているみたいだし、私はどこかに飛んで行ったハリーの箒を探しに行きましょうか」

 

 

 パチュリーはホッと息を吐くと踵を返して競技場を後にした。あのディメンターはダンブルドア先生の呪文で居なくなっていたが、機会があればまた会うのもいいかも知れないとパチュリーは思っていた。

 

 

 

 

 

 

 ハリーの箒・・・ニンバス2000はパチュリーが思ったより簡単に見つかった。だがパチュリーは顔をひくつかせ、箒を持ってハリーが運び込まれた医務室に入る事が出来ず、扉の前で佇んでいた。

 

 

「ど、どうしましょう?コレ・・・」

 

 

 何故ならパチュリーの手には粉々に砕かれまくった元ニンバス2000の見るも無残な姿となった木片が入った袋があった。実はハリーが箒から落ちた後、この箒は選りに選ってちょっとぶつかるだけで暴れ回る凶暴な暴れ柳にぶつかり、この様な変わり果てた姿になってしまったのだ。

 パチュリーなら簡単に直せるのではないか?と思われるだろうが、普通の箒を直すならともかく、特別な工程で作られている魔法の箒を直すとなると、どうしても性能が落ちてしまうのだ。真っ二つに折られたならまだなんとかなったが、こうも粉々にさせると精々5m程の高さしか飛ばなくなってしまうのだ。

 

 

「はぁ〜〜〜・・・行くしかないわね」

 

 

 パチュリーは気を引き締めて医務室の扉を開ける。中では泥だらけになっているグリフィンドールのクィディッチ選手達とロンとハーマイオニーがハリーが寝ているベッドを取り囲んでいた。ハリーはもう目が覚めているらしく、パチュリーに話し掛けた。

 

 

「あ、パチュリー。君もお見舞いに来てくれたの?」

 

「えっと・・・貴方の箒を見つけて持って来たのだけれど・・・」

 

「本当かい!?よかった!何処を探しても見つからないから明日改めて探しに行こうと思ってたんだ!それで?僕の箒は何処?」

 

 

 ハリーはパチュリーの「箒を見つけて持って来た」という言葉を聞いて顔を明るくした。その笑顔を見てパチュリーは非常に申し訳なく感じ、つい顔をそらしてしまった。いつもと様子が違うパチュリーを見て、ハーマイオニーは首を傾げた。

 

 

「パチュリー?具合でも悪いの?それにハリーの箒は?」

 

「いやその・・・・こ、コレ・・・」

 

 

 パチュリーは顔を合わせない様に必死に明後日の方向を向きながら袋の中身をハリー達に見せた。中に入っていたニンバスの亡骸を見てハーマイオニー達は絶句し、ハリーは先程の明るさは完全に消え失せ、絶望の表情を浮かべた。

パチュリーは非常に申し訳ない気持ちに陥った。



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ルーピン教授の復帰と叫び屋敷

 ハリーの相棒とも言えるニンバス2000が暴れ柳によって天に召されてしまった日から暫く経ち、ようやくマダム・ポンフリーに退院を認められて戻って来たハリーは、すっかり何時もの元気を失くしてしまっていた。余程相棒のニンバスがただの木片と小枝になってしまったのがショックだった様だ。

 ハリーが入院している間、彼の親友や仲間達はなんとかハリーを慰めようと一生懸命だった。ハグリッドは黄色いキャベツの様な形をした虫だらけの花をどっさり送ってよこし、ロンの妹であるジニー・ウィーズリーは果物の入ったボウルの下に敷いて閉じておかない限りキンキン声で歌い続ける『「早くよくなってね」カード』ならぬ『安眠完全妨害カード』を真っ赤になりながら手渡し、グリフィンドールの選手達は魂が抜けて真っ白になったウッドを連れてお見舞いに訪れた。ウッドはハリーを少しも責めていないと慰めの言葉を送ったが、その声は死んだ様な虚ろな声であり、ただでさえ塞ぎ込んで悩み続けているハリーに罪悪感を抱かせた。因みにウッドはそれからずっと部屋で寝込んでしまっている。

 勿論パチュリーも何度かお見舞いには行った。ニンバス2000の亡骸を飛べはしないが魔法で元の姿に戻したり、小悪魔が作った美味しいクッキーを送り、心の中で「もうハリーに『背後人形』は出来るだけ使わないようにしよう」と思いながら『背後人形』にも完璧に効く魔除けの魔法(偽)を掛けたりした。ニンバス2000とクッキーは少し喜んだ様に見えたが、最後の魔除けの魔法(偽)については泣きながら礼を言われた。

 そして今日は月曜日。昼食を終えたパチュリーは、次の『闇の魔術に対する防衛術』の授業を受ける為に、ルーピン教授のクラスに向かっていた。

 

 

「『闇の魔術に対する防衛術』を教えてるのがスネイプだったら、僕、病欠するからね?」

 

「あら?ならちょうどここにフレッドとジョージが考案した『病欠お菓子セット』の試作品があるのだけれど・・・試してみるかしら?」

 

 

 パチュリーは小さなクッキーの箱の様なものを取り出してロンに試すかどうかを聞いた。

 この『病欠お菓子セット』は、フレッドとジョージが学校の授業をサボる為だけ(・・)に考えたものだ。箱の中には数種類のお菓子が入っており、一見ただのお菓子が入った箱ではあるが、このお菓子は種類によって食べるとそれぞれ発熱、下痢、頭痛、嘔吐などの症状を引き起こす。効果は約1時間続き、時間が経つとまるで最初から何もなかったかの様に治る。因みに味付けは小悪魔が担当した為、かなり美味しかったりする。

 

 

「うん!その時は頼むよパチュリー!」

 

「・・・私から言っておいてなんだけど、即答なのね」

 

「パチュリー、それ僕にもお願い。ハーマイオニー、教室に誰がいるのか、チェックしてくれないか?」

 

 

 ハーマイオニーは少し呆れた様子で教室のドアから中を覗き込んだ。中を見たハーマイオニーはパチュリー達に「大丈夫よ」と告げて先に教室の中へ入って行った。それに続いてパチュリー達も教室の中に入ると、くたびれたローブが前より更にダラリと垂れ下がり、目の下にクマが出来たルーピン教授の姿があった。まだ病気なのではないかと生徒達は少し心配になったが、席に着くとルーピン教授はみんなに微笑み掛けたのを見て心配はいらないなと判断し、一斉にルーピン教授が病気の間スネイプ先生がどんな態度をとったか、不平不満をぶちまけた。

 

 

「フェアじゃないよ!代理だったのに、どうして宿題を出すんですか?」

 

「僕たち、狼人間について何も知らないのに!」

 

「羊皮紙二巻だなんて!」

 

「ふむ・・・君達、スネイプ先生に、まだそこは習っていないって、そう言わなかったのかい?」

 

 

 ルーピン教授は少し顔をしかめながら生徒達に聞いた。それに対して生徒はまた一斉にスネイプ先生が全く耳を貸さなかった事をプリプリ怒りながら答えた。それを見たルーピン教授はニッコリ笑いながら頷いた。

 

 

「よろしい。私からスネイプ先生にお話ししておこう。レポートは書かなくてよろしい」

 

「「「「「やったああああぁぁぁ!!」」」」」

 

「そんなぁ・・・私、もう書いちゃったのに!」

 

 

 レポートを書かなくていいと聞いて、宿題を終わらせてしまっていたハーマイオニー以外の生徒達は歓声を上げた。それ程スネイプ先生に出された宿題のレポートが嫌だったのだろう。パチュリーは授業があったその日の内に魔法書を読みながら片手間で終わらせていたので、後でスネイプ先生に提出しようと決めた。

 

 

「さぁ、授業を始めよう!今日やるのはこいつ・・・おいでおいで妖精(ヒンキーパンク)だ」

 

 

 そして授業は始まり、ルーピン教授はガラスの箱に入ったヒンキーパンクを持って来た。手にカンテラをぶら下げ、一本足で、鬼火の様に幽かで、儚げで害の無い生き物に見える。だがこの生き物は旅人の前をピョンピョン跳び、そのまま迷わせて沼地に誘い込んで溺れさせようとする思いっきり害のある生き物だ。

 ルーピン教授はヒンキーパンクについて分かりやすく説明し、生徒達は楽しそうにそれをノートに書き取って行く。そして終業のベルが鳴り響き、生徒達は皆荷物をまとめて出口に向かった。パチュリー達も荷物をまとめ終え、出口に向かおうとすると、ルーピン教授がハリーに待ったをかけた。

 

 

「おっと!ハリー、ちょっと残ってくれないか?話があるんだ」

 

「はい、分かりました。ごめんみんな、先に帰ってて」

 

 

 そしてハリーは教室に残り、パチュリー達は先に教室を出た。そしてしばらくして話を終えて戻って来たハリーの顔は少し明るくなっていた。

 

 

 

 

 

 

「ふむ・・・・なかなかいいものは売ってないわね」

 

 

 月日は流れ、ホグズミード村行きを許可された学期の最後の土曜の日。ガヤガヤと騒がしく賑やかな雰囲気に包まれているホグズミードに、珍しい事にパチュリーの姿があった。とあるお店の商品を眺めていた彼女は、ふと誰も居ない自身の隣を向き、虚空に向かって話しかけた。

 

 

「貴女は何か欲しいものはあったかしら?こぁ?」

 

「うーん、このお店には有りませんねぇ」

 

 

 すると虚空から小悪魔の声が聞こえて来る。実はパチュリーの側に『幽霊マント』を被って姿を消している小悪魔がいるのだ。普段この様な場所に来る事は無く、自室に引きこもって小悪魔の淹れた紅茶を飲みながら魔法書を読んだり研究をしたりしているパチュリーがホグズミード村へ来た理由は、彼女が「久々に一緒にお買い物に行きませんか?」と提案したからだ。

 因みに小悪魔の姿は『幽霊マント』によって他人には一切見えていないのだが、パチュリーは自分の目と耳に魔法を付与して、小悪魔の姿が見えるし声も聞こえる様にしているので、小悪魔が尻尾を犬の様に振りながら楽しそうにしているのがよく見えている。

 

 

「では他のお店にも行ってみましょう!」

 

「そうね。それにしても随分と楽しそうね、こぁ。なんなら今度からここへ来れる様になった時は一緒に来る?」

 

「え!?い、いいんですか!?あ、パチュリー様は魔法の研究や開発で忙しいのでは・・・・?」

 

 

 小悪魔は一瞬嬉しそうな表情を浮かべたが、すぐに不安そうな表情に変えてパチュリーに本当にいいのかと聞き返した。それに対してパチュリーはクスリと笑いながら「大丈夫よ」と答えた。

 

 

「確かに色々とやってみたい研究や魔法の開発もあるし、行けない日も多いだろうけれど、こぁと一緒に出掛けるのは私も楽しいもの。研究や魔法の開発は他の日にやればいいから問題無いわ」

 

「あ、ありがとうございます!では今日は来て下さったお礼に、美味しいチーズケーキをお作りしますね!」

 

「ふふ♪そうね。帰ったら一緒にお茶にしましょう。こぁは何処か行きたい所はあるかしら?」

 

 

 そんなパチュリーの問いに、小悪魔は少し考える素振りをした後、「あ!」と声を上げた。

 

 

「そう言えば、パチュリー様が興味を持ちそうな場所があるんですよ!」

 

「私が興味を持ちそうな場所?」

 

 

 パチュリーは自分が興味を持ちそうな場所を考えた。だがパチュリーが興味を持つと言えば主に未知の魔法や見た事も無い魔法書、もしくは魔法薬や魔道具の材料となる滅多に出会える事の無い伝説級の魔法生物などなど。そんなものがこんな学校の近くにある村にあるとは思えなかった。

 

 

「どんな場所なのかしら?」

 

「はい!ここからちょっとだけ離れてますが、『叫びの屋敷』と呼ばれる今は誰も住んでいない古いお屋敷があるんです。なんでも満月の夜になると、誰も住んでいないその屋敷から不気味な叫び声が聞こえて来るらしいんですよ」

 

「ふむ、確かにそれは興味があるわね。行ってみましょう。案内、お願い出来るかしら?」

 

「はい!お任せ下さい!パチュリー様!」

 

 

 その屋敷に興味を持ったパチュリーが小悪魔に案内を頼むと、彼女は元気に返事をしてポケットから地図を取り出して歩き出した。パチュリーは小悪魔の後を付いて行き、噂の不気味な叫び声の原因について様々な推測を立て始めた。

 

 

 

 

 

 

「あ、パチュリー様。アレが『叫びの屋敷』みたいです」

 

 

 ホグズミード村から歩いて数十分程歩き、立ち止まった小悪魔が指を差した先には、今にも崩れてしまいそうな大きな屋敷がポツンと建っていた。周囲に民家などは一軒も見当たらず、屋敷へ繋がる道には人が通らない様に紐が張られ、『立ち入り禁止』と書かれた古い看板が立っている。ただ観光地として人が勝手に入らない様にしているのか?はたまた別に入ってはいけない程の何かがあるのか?そんな疑問がパチュリーの頭の中に浮かび上がり、更に興味が湧いていった。

 

 

「行くわよこぁ、その噂の原因を探りに行きましょう」

 

「え?あ!ま、待って下さいパチュリー様〜!」

 

 

 『叫びの屋敷』に向かって飛んで行くパチュリーを小悪魔が慌てて羽をパタパタと動かして追い掛ける。そして屋敷の側に来たパチュリーは、先ず屋敷の周りを飛び回って外観を観察し始めた。

 

 

「うーん・・・建物が古くなってあちこちに隙間や穴が開いてるけど、これだけで噂になる様な音は鳴らないわね」

 

「じゃあ、何か魔法生物か人間が中に入り込んだんでしょうか?」

 

「それが1番可能性が高いけど、魔法生物なら満月の夜だけじゃなくて常日頃から叫んでるでしょうし・・・かと言って、ドアや窓は完全に塞がれてて開けた形跡も無いから人間は中に入らない。それに人間なら尚更満月の夜に叫ぶ意味は無いわ。あるとすれば・・・・・まぁ、それは入って確かめましょう」

 

 

 パチュリーは幾つか思い当たるものがあるのか、少し考える素振りを見せると、板を打ち付けされて固く閉ざされている屋敷の扉の前に降り立ち、ポケットの中から小さな宝石の様なものが付いた1本の紫色の羽根ペンを取り出した。

 

 

「序でにコレの実験もしておきましょうか」

 

 

 そう言うとパチュリーはその羽根ペンで扉に人が1人通れそうな大きさの円を書いた。そして線と線が繋がると円の内側にポッカリと穴が空き、屋敷の中に入れる様になった。それを見たパチュリーは満足そうに羽根ペンを見る。

 

 

「第1段階は成功ね。さぁ、早く入るわよこぁ」

 

「はい、パチュリー様」

 

 

 先に中に入ったパチュリーが、小悪魔も中に入ったのを確認すると、羽根ペンに付いている小さな宝石の様なものを撫でる。すると扉に開いた穴はまるで最初から何もなかったかの様に消え去り、書いた線も見えなくなった。

 

 

「良し、魔力の跡も線を書いた跡も完全に消えてるわね?実験は成功。なかなかいい出来だわ」

 

「あの双子が考えた悪戯道具ですか。よくこんなもの思い付きますね」

 

 

 パチュリーが持っている羽根ペン・・・フレッドとジョージが考案した『抜け穴羽根ペン』を小悪魔が呆れた様子で眺める。しかも悪戯目的で考案されて作られたこの羽根ペンが、魔法界の研究者達からしても未知過ぎる魔法と技術の結晶となっているのだから笑えない。

 

 

「こぁが言いたい事も分からなくもないわ。あの2人も、こういったアイデアをもっと別の事に活かせばかなりの人気者になれたでしょうに・・・・まぁ、いいわ。探索を始めるわよ」

 

 

 パチュリーはそう言うと、魔法書を開いて魔法を発動させ、光の玉を出現させて薄暗い屋敷の中を照らしながら歩き出した。それを見た小悪魔は不思議そうに首を傾げた。

 

 

「あれ?探索魔法は使わないんですか?」

 

「あの魔法、この間改良に成功して地形やら建物の構造、反応の識別も出来る様にしちゃったのよ。使ったらすぐに解決しちゃうから、先ずは自分の目で見て考えるのよ」

 

「あー・・・・直ぐに答えが分かったら面白くないってお考えですか?」

 

「そうよ。さ、行きましょう?こぁ」

 

「はい!パチュリー様!」

 

 

 そうしてパチュリーと小悪魔は先ず1階の探索を始めた。屋敷の中は手入れがされていないのか埃っぽいが、家具などはそのままにされていたので、椅子やテーブル、化粧台などが置かれている。だが叫び声の原因らしきものは見当たらなかった。

 

 

「パチュリー様〜!これ見てください!」

 

 

 すると隣の部屋を調べに行った小悪魔がパチュリーを呼んだ。パチュリーは小悪魔が何か見つけたのかと思い直ぐに向かった。

 

 

「どうしたの?こぁ」

 

「はい!なんだか怪しい地下通路の様なものを見つけました!」

 

 

 小悪魔が指差す方向には、確かに床に開いた穴があり、その穴はずっと奥まで続いていた。

 

 

「風が吹いてる・・・という事は何処かに繋がってるわね」

 

「ここから魔法生物か何かが侵入したんでしょうか?」

 

「可能性としてはそれが1番高いわ。取り敢えずここは後回しにして、2階を調べましょう」

 

 

 パチュリー達は地下通路の探索を後回しにして、登る度にギシギシと音を立てる階段を登って2階へとやって来た。そして取り敢えず適当な部屋を調べようととある一室に足を踏み入れた。

 

 

「グルルルルル・・・・!!」

 

「「・・・・・犬?」」

 

 

 するとそこには全身真っ黒な毛に覆われた大きな犬が、唸り声を上げてパチュリーと小悪魔を威嚇していた。



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シリウス・ブラックと事件の真実

「ガルルルルルゥ・・・・バウ!!バウ!!」

 

 

 『叫びの屋敷』の2階に居座っていた大きな黒犬は、侵入者であるパチュリー達に対して警戒し、唸り声を上げたり吠えるなどして威嚇する。しばらく何も食べていなかったのか、黒犬の体は大きさに対して痩せているが、牙を剥き出し、パチュリー達をギロリと睨んでいる。その黒犬には、ホグワーツの生徒達なら1回吠えてほんの少し駆け寄られただけで慌てて逃げ出すくらいの迫力があった。

 

 

「ふ〜ん?グリムじゃないわね。この感じ・・・・貴方、『動物もどき(アニメーガス)』ね?随分と痩せてるけれど、こんな所で何をしているのかしら?」

 

「ガウ!?」

 

「あ、やっぱりこの大っきなワンちゃんは人間なんですか?なんとなく普通のワンちゃんとは違う感じがしてたんですよね」

 

 

 だが、200年以上生きている魔女とその使い魔である悪魔が今更黒犬が威嚇した程度で臆する訳がある筈が無い。それどころかパチュリーは黒犬を普通に観察して一瞬で黒犬が人間が変身した姿だと見破り、小悪魔に至っては人間だと分かっていながら「ワンちゃん」呼ばわりである。

 そして会って数十秒も経たない少女に自分が『動物もどき』だと即バレた黒犬姿の人間は驚きの鳴き声を上げ、数歩後退った。

 

 

「パチュリー様、このワンちゃん・・・じゃなかった。人間が『叫び屋敷』の叫び声の正体なんですか?」

 

「さぁ?それは本人に聞けばいいんじゃないかしら?と、言う訳で正体を現しなさい『動物もどき』」

 

「・・・・・・」

 

 

 パチュリーが黒犬に元の人間の姿に戻るよう命令するが、黒犬は何も答えない。しばらく待っても何も答えないのを見たパチュリーは「そう・・・」と小さく呟き、例のなんちゃって杖を抜いて振るった。すると黒犬を中心に人間が1人丸々入るくらいの大きさの四角い結界が張られ、黒犬は中に閉じ込められた。

 

 

「バウッ!?」

 

「ちょ!?パチュリー様!?いきなり結界の中に閉じ込めちゃっていいんですか!?もし無関係の一般人だったら・・・・」

 

「ここは人が寄り付かなくなった『叫びの屋敷』。その中に正体を明かさない『動物もどき』がいて、私達を威嚇している。十分怪しいでしょう?それに本当に一般人だったら、後で謝罪すればいいわ」

 

 

 パチュリーは慌てる小悪魔に対してそう言うと、結界に閉じ込めた黒犬に目を向ける。黒犬はパチュリー達が話をしている間にも結界から出ようと爪で引っ掻いたり体当たりしたりしているが、当然その程度でパチュリーが張った結界は破れない。人間の姿に戻って魔法を使えば抜け出せる可能性がもしかしたらほんの少しだけあるかもしれないが、余程素顔を見られたくないのか、黒犬は一向に元の人間の姿に戻ろうともしない。

 

 

「そんなに自分の素顔を見られるのが嫌なの?じゃあ、『解除』」

 

「な!?こ、これは?」

 

 

 パチュリーが杖を振ると、黒犬は魔法を強制的に解除され、まるで死人の様な姿をした人間になった。汚れきった髪は肘まで垂れており、暗く窪んだ目をギラギラとさせている。そんな彼は自分の魔法が強制的に解除された事に驚きを隠せず、動揺している。

 

 

「あれ?パチュリー様、あの人何処かで見た事ありませんか?」

 

「・・・・驚いたわね。まさか貴方みたいな有名人に出会えるなんて、思っても見なかったわ」

 

 

 小悪魔は結界の中で混乱している死人の様な見た目の男を見て首を傾げ、パチュリーは少し意外そうな顔をしながらまじまじと結界の中に立つ男を観察した。2人はこの男の顔に見覚えがあった。少し痩せている様に見えるが、彼の顔はここ最近の新聞に載っていた写真や、今日行ったホグズミード村のあちこちに貼ってあった手配書(・・・)の写真と同じ顔なのだ。

 

 

「シリウス・ブラック。大量殺人を犯し、投獄されていたアズカバンから脱獄した貴方が、何故ホグワーツに近いこの『叫びの屋敷』にいるのかしら?」

 

 

 パチュリーは男・・・シリウス・ブラックに何故この場所にいるのかを問うが、ブラックはそれに答えようとはしなかった。ただ黙ってジッとパチュリー達を見返している。

 

 

「・・・・はぁ。話す気はないって事ね?まぁ、いいわ。勝手に見る(・・・・・)から」

 

「何?・・・グッ!!」

 

 

 パチュリーはシリウスに対して開心術を使った。開心術は対象の心に入り込む魔法だ。相手が思っている事が分かる読心術とは違い、この魔法は対象の過去の記憶なども見る事が出来る。パチュリーは内心『どうせハリー関連なんでしょうねぇ』なんて思いながら、シリウスの閉心術を簡単に突き破ってシリウスの心を見た。シリウスは必死に閉心術で読まれない様努力しているが、パチュリーはヴォルデモート卿の開心術を防いだ様に自作の魔法を重ね掛けしているので焼け石に水だった。

 

 

「・・・・・・ふぅ〜ん?なるほどね」

 

「え?え?今何をしたんですか?パチュリー様」

 

「ただ開心術を使って彼の心の中を覗いただけよ。まぁ、全部見た訳じゃないけれど・・・・内容は完全に予想外だったわ」

 

 

 パチュリーは小悪魔にそう言いながら指をパチン!と1回鳴らし、シリウスを閉じ込めていた結界を解除した。それを見た小悪魔は「えぇ!?」と驚きの声を上げる。

 

 

「ちょ、ちょっといいんですかパチュリー様!?この人間大量殺人鬼で脱獄犯なんですよね!?」

 

「えぇ、そうよ。ただし、脱獄犯ではあっても殺人鬼ではないみたいよ?」

 

「え?それってどう言う……?」

 

 

 小悪魔はパチュリーの言っている意味が理解出来ずコテンと首を傾げる。

 

 

「まぁ、それは本人に聞きなさい。話してくれるかしら?シリウス・ブラックさん?」

 

「・・・・君はいったい何者だ?私の閉心術をあっさり破り、自分の知りたい内容を読み取るなんて、君の様な少女に出来るとは思えないんだが?」

 

「人は見かけに寄らないものよ。それより話してくれるのかしら?自分で話すのは面倒なのよ」

 

「魔法で閉じ込めたり、開心術で人の心を見る敵か味方か分からない少女の言葉に従うと思うか?」

 

 

 シリウスは不機嫌そうな表情をしながら拒否した。何をされても話すものかと言わんばかりにまた口を閉した彼を見て、パチュリーは仕方がないわねと小さく溜め息を吐いた。

 

 

「・・・1977年8月10日、プラチナブロンドの髪をしたレイブンクローの少女に他の生徒や一部の教師に協力してもらって彼女の好きな小説に似せた大掛かりなプロポ「OK何でも聞いてくれ!!どんな質問にも答えるし話もするからその話をするのは止めようか!!」あら、話す気になってくれて嬉しいわ」

 

 

 聖母の様な微笑みを浮かべるパチュリーを見て、シリウスは死人の様に青白かった顔を真っ赤に染めながら「悪魔の子だ・・・」と心の中で呟いた。

 その後、シリウスはパチュリー達に例の大量殺人事件の真相を話し始めた。長く細かかったので簡単に纏めると、ブラックは説教好きな閻魔様も『白』と認めるだろうと思われる程無実で、大量殺人事件はヴォルデモート卿に親友だったハリーの両親を売った元親友のピーター・ペティグリューと言う男に着せられた濡れ衣らしい。何でも昔、街で対峙したピーターは大声で「ポッター夫妻を裏切ったのはシリウスだ!!」などと叫んで爆発呪文を発動させ、マグルを巻き込んで殺害すると同時に指を一本だけ切り落として逃げたのだそうだ。

 

 

「あいつは私と同じ『動物もどき』だった。あいつは爆発呪文で地面に大穴を開け、地中にあった下水道の中を通って逃げたんだ」

 

「成る程ね。態々下水道に逃げたという事は、ネズミか虫の『動物もどき』ね?つまり貴方が脱獄した目的は、その裏切り者への復讐と言ったところかしら?」

 

 

 パチュリーは下水道の中に逃げる理由として、ピーターはそこに多く生息しているであろうネズミや虫の『動物もどき』だと推測した。パチュリーの推測を聞いてシリウスは苦笑した。

 

 

「君は本当に頭がいいな。その通り、あいつはネズミの『動物もどき』。そして私がここへ来た目的も、裏切り者であるあいつへの復讐だ。まぁ、ジェームズとリリーの息子のハリーの様子を一目見たかったというのもあるがな」

 

「へぇ〜!そうだったんですね。・・・あれ?でもそれだとそのピーターって人間はこの近くにいる事になりますよね?そもそもどうやってその人間がこの近くに居ると分かったんですか?監獄の中に居たんですよね?」

 

 

 ここでは省いていたが、先の説明で監獄の中でピーターがこの地にいると知って脱獄したと話したシリウスの言葉を思い出し、疑問を抱いた小悪魔はそう質問した。するとシリウスは骨が浮き出る様な手を片方のローブに突っ込み、クシャクシャになっている紙の切れ端を取り出した。皺を伸ばし、シリウスはその紙を突き出してパチュリー達に見せた。シリウスが見せたのは『日刊予言者新聞』と言う魔法界の新聞社の新聞に載った写真だった。そしてそこに写っていたのは・・・・・。

 

 

「ロン?それにフレッドとジョージまで。ウィーズリー家の写真じゃない」

 

「彼等を知っているのか?」

 

「えぇ、ハリーの親友の家族よ」

 

 

 その写真に写っていたのはロンの家族だった。パチュリー達は知らなかったが、ロン達ウィーズリー家は『日刊予言者新聞・ガリオンくじグランプリ』とやらに当たり、夏休み中に1ヶ月間エジプトに行っていたのだ。写真にはウィーズリー夫妻と6人の息子と1人の娘が思いっきり手を振っている。ロンは写真の中央で妹のジニーに腕を回しており、肩には彼のペットであるネズミのスキャバーズを載せていた。この写真を見せた事でパチュリーは少し目を細め、「まさか」と小さく呟きながらシリウスを見る。それに対してシリウスは黙って頷いた。

 

 

「あぁ、君の思っている通り。この写真に写っている前足が1本足りない(・・・・・・・・・)ネズミこそ、ジェームズとリリーを裏切ったピーター・ペティグリューだ」

 

「あのネズミが『動物もどき』ねぇ・・・今まで興味なかったから気にした事なかったけど、言われてみればあのネズミは色々と違和感があるわね」

 

 

 ロンのペットであるスキャバーズはクマネズミと呼ばれる種類で、通常は長くても3年で寿命が尽きてしまう。しかしパチュリーの記憶が確かならば、スキャバーズはロンが兄から譲り受けたお下がりだった筈だ。つまり少なくとも寿命である3年以上は生きている事になる。他にもパチュリーの記憶に残るスキャバーズに意識を向けてみると他にもおかしな点は多々あった。

 

 

「では、貴方は別にポッターくんを殺そうとか思って無いんですね?」

 

「当たり前だ!!あの子はジェームズとリリーの忘形見だ!そんな事をする訳が無い!!」

 

「ひぅ!!」

 

 

 顔を怒りに染めて怒鳴るシリウスに小悪魔は小さく悲鳴を上げてパチュリーの背中に隠れた。涙目になってガタガタ震える小悪魔に、パチュリーはやれやれと首を振る。

 

 

「あまり私の家族を怖がらせないでちょうだい。この子は昔ちょっと色々あって、怒鳴られたりすると酷く怯えてしまうのよ」

 

「・・・・すまない」

 

 

 流石に罪悪感は感じたのか、シリウスは小悪魔に対して素直に謝罪した。

 

 

(まさかロンのスキャバーズが『動物もどき』だったなんてね。それにしてもあの子達は随分と奇妙な運命を定められてるわね。主人公の名付親は殺人罪を擦り付けられた脱獄犯。その親友のペットのネズミは名付親に殺人鬼の濡れ衣を着せ、主人公の両親を裏切った張本人だなんて・・・まさかこの世界に運命を操る吸血鬼さんでもいるんじゃないでしょうね?)

 

 

 パチュリーは水色の髪をした運命を操る吸血鬼がニヤリと笑いながらワイングラスに入ったワインか人間の血を呷る姿を思い浮かべつつも、これからの方針について思考を巡らせる。

 

 

(さて、私はこれからどう動こうかしら?私が直接ピーター・ペティグリューを始末するか、捕らえて彼の前に持ってくるのが1番手っ取り早い方法なんでしょうけど・・・・なんとなく失敗しそうなのよねぇ)

 

 

 パチュリーはこれまでの事件を思い出しながらそう簡単には行かないだろうと考えていた。なにせここは1年目にいきなりラスボスがとり憑いた教師から賢者の石を防衛、2年目に秘密の部屋のバジリスクと死闘を繰り広げて親友の妹を救出するなんて経験をした少年が主人公の世界。そう簡単に行かない様な気がしていた。

 

 

(まぁ殺すのは彼が納得しないでしょうし、取り敢えず捕獲はしてみようかしら?もしそれが失敗したら・・・)

 

「あ、あの・・・パチュリー様?」

 

「ん?あぁ、ごめんなさい。ちょっと考え事をしてたの」

 

 

 未だに若干涙目の小悪魔に話しかけられて、パチュリーはよしよしと小悪魔の頭を優しく撫でながら謝った。そしてしばらく撫で続けたパチュリーは、シリウスに向き直り、話し掛けた。

 

 

「シリウス・ブラック。提案が有るのだけれど・・・」

 

「・・・・・提案?」

 

 

 

 

 

 

「パチュリー様、本当に良かったんですか?」

 

 

 雪の降るホグズミード村とホグワーツを結ぶ街道を歩いているパチュリーに、『幽霊マント』を纏って姿を隠した小悪魔が確認するかの様に問い掛ける。

 

 

「あら、何がかしら?」

 

「もう!惚けないで下さいよ〜!シリウス・ブラックに協力するって話です!」

 

 

 小悪魔の言う通り、パチュリーはあの時、シリウスの復讐に手を貸す事を約束したのだ。勿論シリウスは見た目だけは少女のパチュリーに、危険な事はさせられないと脱獄犯らしからぬ理由で全力で拒否したのだが、自身の黒歴史を人質にされ、最終的には定期的にシリウスに食料を提供する事だけしてもらう事にした。

 

 

「えぇ、本当よ。意外かしら?」

 

「意外過ぎますよ!普段あまり協力的じゃないパチュリー様が脱獄犯に手を貸すなんて!てっきり忘却呪文で記憶を消して終わりかと・・・」

 

「・・・そんなに協力的に見られてないのね、私。まぁ、でもいいじゃない。シリウスからホグワーツの地下厨房の入り方や、隠し通路の場所や合言葉、更には『必要の部屋』なんてとても興味深い部屋の入り方も教えてもらったし」

 

 

 そんな風に見られていたのかと若干ショックを受けつつも、パチュリーは得したとばかりに微笑んだ。ホグワーツ魔法魔術学校は隠し通路や隠し部屋などの仕掛けが城中に仕掛けられている。教えてもらった通路には、普段使う教室への近道も含まれていたので、パチュリー的にもラッキーだと思っている。

 

 

「さぁ、早くホグワーツへ帰るわよ。部屋に戻ったら紅茶を淹れてくれるかしら?」

 

「あ、はい!お任せ下さい!パチュリー様♪」

 

 

 小悪魔の元気な返事にクスリと笑いながら、パチュリーはホグワーツへと戻って行った。




明けましておめでとうございます


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グリンゴッツ銀行と炎の雷

 翌日、シリウス・ブラックと協力者関係になった休暇一日目のパチュリーは、朝から少し不機嫌そうな顔でダイアゴン横丁にある小鬼(ゴブリン)達が経営している魔法界唯一の巨大な銀行・・・グリンゴッツ魔法銀行を訪れていた。

 

 

「はぁ・・・あれだけ手を借りるのを嫌がってたくせに、昨日の今日で早速私を有効活用しようとするなんてね」

 

 

 パチュリーは呆れた様に小さく溜め息を吐くと、ポケットから黄金の鍵を取り出した。この鍵は金庫の扉を開けるための鍵なのだが、パチュリー自身の物ではない。シリウス・ブラックが使っている711金庫の鍵だ。

 何故パチュリーがシリウス・ブラックの金庫の鍵を持ってグリンゴッツ魔法銀行の前に居るのか?それは今朝小悪魔の朝食を食べ終えて、食料を『叫びの屋敷』へ小悪魔と一緒に運んだ時まで遡る。

 

 

『そうだ。君はハリーと同じグリフィンドールの生徒だろう?少しお使いをお願いしたい』

 

『確かに同じ寮だけど、私この後魔法の研究を・・・』

 

『この前のクィディッチの試合の時、彼の箒が折れてしまっただろう?グリンゴッツ銀行の私の金庫からお金を引き出して、彼に箒をクリスマスプレゼントとして送ってくれ。金庫番号は711で、鍵はコレだ』

 

『聞きなさいよ人の話を』

 

 

 勿論その時パチュリーは断ろうとしたが、「私に手を貸すと言ったのは君だろう?」と言われて渋々引き受けたのである。せめてもの嫌がらせとして、性能は良いが1番高い箒を買ってやろうと心に決めながら。

 

 

(でもコレって私が居るから買いに行かせてるのよね?なら原作での彼ってどうやって・・・・いや、考えるのは止めておきましょう)

 

 

 パチュリーは眺めていた黄金の鍵を再びポケットへしまうと、観音開きの扉を開いてグリンゴッツ魔法銀行へ足を踏み入れた。中は大理石のホールで、スーツを着た小鬼がカウンターの向こうで忙しそうに働いていた。

 

 

「ちょっと良いかしら?知り合いに頼まれてお金を引き出しに来たのだけれど・・・・」

 

 

 パチュリーは空いているカウンターの受付の小鬼に話しかけると、眼鏡を掛けたその小鬼は羽根ペンを動かしていた手を止めて顔を上げた。

 

 

「何番金庫ですかな?」

 

「711番金庫よ。鍵も本人から預かって来てるわ」

 

 

 パチュリーはそう言って受付の小鬼に鍵を渡した。小鬼は眼鏡をクイッと上げながらじっくりと鍵を眺め、慎重に調べ始めた。

 

 

「ふ〜む・・・・確かに我がグリンゴッツ銀行の金庫の鍵ですな。711金庫ですとブラック様の金庫で御座いますね?ではご案内致します」

 

 

 

 そう言ってカウンターから出て来た小鬼の後を追って、銀行の奥へと進んで行く。そして細い石造りの通路を抜けると、そこには一本のレールがあり、小鬼が口笛を吹くと、一台のトロッコが走って来て目の前に停車した。

 

 

「へぇ・・・金庫は地下にあるのね。しかもトロッコで移動する程広大な」

 

「おや?ここへ来るのは初めてですかな?その通り、金庫はこの線路の先に御座います。ここよりも管理が厳重な銀行は、他には無いでしょう。さぁ、お先にどうぞ」

 

 

 小鬼にそう促されてトロッコに乗り込むと、小鬼もトロッコの操縦席に乗り込んだ。

 

 

「指を失いたくなければ、手を外に出しませんよう。それでは出発致します」

 

 

 そう言って小鬼がレバーを倒すと、トロッコは凄まじいスピードで走り出した。線路はグネグネと曲がりくねり、急降下や急上昇を繰り返しており、その上をまるでジェットコースターの様なスピードでトロッコは走って行く。

 

 

「ちょっと入り組み過ぎじゃないかしら?」

 

「侵入者対策の為で御座います。不用意に立ち入ったら最後、二度と外には出て来れませんね」

 

「まぁコレだけ広ければねぇ・・・・あら?」

 

 

 パチュリーが広大な地下空洞を眺めながら小鬼と話していると、ずっと下の方に所々滝が流れているのが見えた。

 

 

「へぇ・・・盗人落としの滝を置いているのね」

 

「おや?盗人落としの滝をご存知でしたか」

 

 

 パチュリーが見つけた『盗人落としの滝』とは、魔法や呪いを洗い流す効果がある水が流れる滝の事だ。姿を隠したり人や小鬼を錯乱させる呪文や魔法は勿論、ポリジュース薬などの魔法薬や魔道具を使った変身なども洗い流す優れ物である。

 

 

「防衛装置として設置しているので御座いますよ。どんな魔法や呪文でも、あの滝を通れば洗い流されますからな」

 

 

 自信満々な様子な小鬼を横目で見ながら、パチュリーはこの銀行は本当に安全なのだろうか?と少し疑問を抱いていた。流石にその防衛装置があの滝だけとは思っていないが、パチュリーはあの滝がそこまで信頼出来る物ではないと知っている。

 何故なら『盗人落としの滝』は・・・・、

 

 

(防水加工がされた衣服や普通のレインコートなんかで簡単に通り抜ける事が出来るのよね・・・・)

 

 

 そう、突破方法は意外と簡単なのである。魔法や呪文を洗い流す効果があると言っても、洗い流すためには一度全身をその水で濡らさなければならないのだ。なのでポリジュース薬などで変身していても、防水加工された大きな帽子とローブを着ていれば変身が解ける事はないのだ。

 防水の魔法(・・)魔道具(・・・)などは防げるので、今まで侵入者が現れなかったグリンゴッツ銀行の小鬼達や、マグルの世界を意外とよく知らない魔法界の者達も知らない『盗人落としの滝』の意外な弱点であった。

 

 

「(他にも特殊メイクで変装してても突破出来るんだけど・・・・)まぁ、別に私の金庫がある訳でもないし、教えてあげる必要は無いわね」

 

「・・・?どうかされましたかな?」

 

「なんでもないわ。気にせず運転してちょうだい」

 

 

 小鬼は首を傾げていたが、すぐに意識をトロッコの運転に戻した。暫く地下深くへグネグネと線路を走って行くと、とある金庫の前でトロッコは急停車した。

 

 

「到着で御座います。711金庫で御座います」

 

 

 トロッコを降りるとそこには小さな扉があり、小鬼が黄金の鍵を差し込んで捻り、ゆっくりと金庫の扉を開けた。

 シリウス・ブラックの金庫の中は、まさに宝の山だった。山の様に積まれたピカピカのガリオン金貨に、大きく美しい宝石の数々。他にも金や銀で作られた調度品などもある。痩せこけて貧乏そうな姿しか見ていなかったが、彼は意外とお金持ちだったようだ。

 パチュリーは金貨の山の前に行くと、空間魔法を使って見た目より多く物が入るようにした袋を取り出して金貨を入れ始めた。そして丁度500枚目の金貨を入れると、袋の口を閉じた。

 買う箒はもう決めている。グリンゴッツ銀行に来る途中にあったダイアゴン横丁の高級箒用具店に置いてあった『炎の雷・ファイアボルト』と言う名の箒だ。なんでもレース用に開発された箒で、スピードも操作性も今存在する箒の中で一番の代物らしい。ガリオン金貨500枚(日本円にして約46万円)分の性能はあるのだろう。

 

 

「御用はお済みで御座いますかな?」

 

「えぇ、帰りもよろしくお願いするわ」

 

 

 金貨の入った袋を手に金庫を後にして、再びトロッコに乗り込み銀行のホールへ戻る。カウンターで手続きを終え、小鬼から黄金の鍵を返される。

 

 

「またの御利用をお待ちしております」

 

「機会があればね」

 

 

 鍵をポケットにしまうとパチュリーは銀行を出て高級箒用具店へ向かった。店に入るとカウンターに居た店主が笑顔を浮かべながら近付いて来る。

 

 

「いらっしゃい美しいお嬢さん!本日はどの様な商品をお求めで?」

 

「ちょっと知り合いにクリスマスプレゼントに箒を贈りたくてね。あそこにある箒を貰えるかしら」

 

 

 パチュリーはそう言ってファイアボルトが置いてある陳列棚を指差した。

 

 

「クイーンスイープ7号だね?値段も手頃で普段の移動用にも使える良い箒だ。今なら新品も置いているよ」

 

「そうじゃないわ」

 

「あぁ!ニンバス2001の方だったか!確かにあの箒はクィディッチの選手にも人気だが、ちと高いぞ?」

 

 

 店主はパチュリーがファイアボルトを買おうとしていると思っていないのか、その両隣に置かれている箒を説明する。

 

 

「違うわ。真ん中に置かれてる箒よ」

 

「・・・・ま、まさか。ファイアボルトを?本当に?」

 

 

 店主はギョッとしながらパチュリーを見詰める。そして無言で頷くパチュリーを見て、ガッツポーズをするとまるでビンゴゲームで一等を当てた子供の様に小躍りしながら喜び始めた。

 

 

「やった!やったぞ!やっとファイアボルトを買ってくれる客が来てくれた!なんとか仕入れたはいいが、値段が高過ぎて誰も買わないから困り果ててたんだ!そう値段が・・・・」

 

 

 すると店主はピタリと踊りを止めて、恐る恐るといった様子でパチュリーの方を向く。

 

 

「あのファイアボルトは500ガリオンもする箒だが・・・お嬢さん、お金は足りるのかい?とても子供が買える品じゃないぞ?」

 

「問題無いわ。贈りたいとは言っても、私は代理で買いに来たのよ。本人はちょっと都合が合わなくてね。ちゃんとお金も預かってるわ」

 

 

 そう言ってパチュリーは金貨の入った袋を取り出し、カウンターの上でひっくり返して金貨を全部出した。ジャラジャラと音を立てながらカウンターの上に金貨の小山が出来ていくのを見た店主は、段々と満面の笑みを浮かべて行き、最後の一枚が袋から落ちると、凄まじい勢いで金貨を数え始めた。

 

 

「498!499!ご、500ガリオン!!毎度あり!贈り物でしたね!誰に贈りましょう!?」

 

「ホグワーツのハリー・ポッターへ。サプライズで贈りたいらしいから、匿名で贈ってちょうだい」

 

「おぉ!まさかハリー・ポッターとは!お嬢さんのお知り合いの方も交友関係が広いですな!」

 

「彼、クィディッチのシーカーなのだけれど、前の試合で箒が折れちゃってね。それを知った知り合いがプレゼントしたいらしいのよ」

 

「成る程!これを貰って喜ばないクィディッチ選手は居ないでしょうな!ささ、手続きを済ませましょう!」

 

 

 会話をしながら見事な手捌きで丁寧にファイアボルトをラッピングし終えた店主の指示に従って、パチュリーは用紙に必要な事項を書いて行く。そして最後にサインを書くと、用紙を店主へ渡した。

 

 

「じゃあ、ちゃんとクリスマスに届くようにしてちょうだいね」

 

「お任せを!毎度ありがとうございました!」

 

 

 ホクホク顔の店主に後の事を任せ、パチュリーはホグワーツへ帰って行った。

 

 

 

 

 

 

 クリスマス当日、楽しむ生徒は休暇で帰って殆ど居ないものの、ホグワーツ城は大掛かりな飾り付けがされてクリスマスの色に染まっていた。柊や宿木を編み込んだリボンが廊下にぐるりと張り巡らされ、鎧という鎧の中からは神秘的な灯りが煌めき、大広間には金色に輝く星を飾った12本のクリスマス・ツリーが立ち並んでいる。

 昼食時には廊下中に美味しそうな匂いが立ち込めており、ホグワーツに残った生徒達は料理を楽しみにしながら大広間へ向かって行った。

 

 

「メリー・クリスマス」

 

「メリー・クリスマスです!パチュリー様!」

 

 

 そんな中パチュリーは大広間へ行く事はせず、自室で小悪魔と一緒に昼食を取っていた。飲み物が入ったグラスを打ち合わせて乾杯し、益々腕を上げた小悪魔の料理に舌鼓を打つ。

 

 

「・・・・うん、また腕を上げたわね。美味しいわよ、こぁ」

 

「えへへ〜♪今日はクリスマスですからね〜!腕に縒りをかけました!」

 

 

 満面の笑みを浮かべる小悪魔に毎年の事ながら、『悪魔がキリスト教の始祖の誕生日を祝っていいのだろうか?』と言う疑問を抱いてしまうパチュリーだったが、これまたいつも通り彼女が楽しんでいるなら別に良いかと一緒に笑みを浮かべた。

 

 

「そう言えば、あの箒って無事にあの子に届いたんですか?」

 

「えぇ。余程嬉しかったのか、談話室に持って来てずっと箒を眺めてたわ。何故かロンとハーマイオニーは仲が悪そうだったけどね」

 

「喧嘩でもしたんですかね?」

 

「さぁ?」

 

 

 首を傾げる小悪魔に知らないと答えるが、パチュリーは喧嘩の原因が大体予想出来ていた。実はハーマイオニーが今年からクルックシャンクスと言う名の赤味がかったオレンジの毛並みをした大きな猫を飼っているのだが、その猫がちょくちょくロンの飼っているスキャバーズ・・・もといネズミに変身したピーター・ペティグリューに奇襲を仕掛けているらしいのだ。

 殺人鬼の変身を見破っているのか、単に獲物として狙っているのかは知らないが、恐らく今朝もクルックシャンクスが奇襲を仕掛けたから喧嘩をしたのだろう。

 

 

「ま、その内仲直りするでしょ。それより、こぁ」

 

「モグモグ・・・ふぇ?なんですか?」

 

「はい、コレ。クリスマスプレゼントよ」

 

 

 そう言ってパチュリーは綺麗にラッピングされた箱を小悪魔へ差し出した。突然の事に小悪魔はキョトンとした顔でジッと差し出されたプレゼントを見詰め、やがて状況を理解して来たのか目をキラキラしながらプレゼントを受け取った。

 

 

「わぁ〜!いいんですか?パチュリー様!」

 

「勿論、貴女の為に用意したんだもの」

 

「わ〜い!ありがとうございますパチュリー様!こんなに幸せになっていいんでしょうか?私悪魔なのに!」

 

「クリスマス祝っといて今更でしょう?ほら、開けてみなさい」

 

 

 プレゼントを胸に抱いてクルクルと嬉しそうに空中で回っていた小悪魔は、椅子に座り直すと丁寧に包装紙を外して箱の蓋を開けた。

 箱の中に入っていたのは1丁の拳銃と3つの弾倉だった。本物の拳銃に見えるが、コレはパチュリーが以前自分でも戦える様になりたいと言っていた小悪魔の為に作った魔道具だ。見た目は小悪魔が気に入った『ベレッタ92』と言う名の拳銃に酷似している。

 

 

「使い方は普通の銃と大差無いけれど、弾は魔力で出来ているから、弾丸に炎や雷などの色々な属性を付与する事が出来るわ。練習次第では飛んでる弾丸の軌道を曲げられる様になれるでしょうから、頑張ってね。あぁ、撃つ為には弾倉に魔力を込める必要があるから、弾切れと魔力切れには気を付ける様に。詳しくはこの説明書を読みな・・・わぷっ!?」

 

 

 取り出した説明書の冊子を小悪魔に渡そうとしたパチュリーは、文字通りパチュリー目掛けて飛んで来た小悪魔によって椅子ごと後ろに倒れてしまった。

 

 

「ありがとうございますパチュリー様〜!!とっても嬉しいです!私一生懸命練習して、パチュリー様をお守り出来る様に頑張ります〜!!」

 

「イタタ・・・こぁ、嬉しいのは分かったけれど、いきなり飛び付くのは止めなさい。危ないでしょう」

 

「すみません!でも嬉しくてしょうがないんです〜!」

 

 

 パタパタと羽と尻尾を動かして全身で喜びを露わにしている小悪魔に、パチュリーは少し呆れると同時にここまで喜んでくれるなんてとちょっぴり嬉しく思った。

 

 

「はいはい。分かったからちょっと退いてちょうだい」

 

「はい!それじゃあ私は早速ヴワル大魔法図書館の外で練習をして来ます!」

 

「あ、ちょっとこぁ!まだ昼食の途中・・・・行っちゃった」

 

 

 小悪魔は素早い動きで説明書と箱を大事そうに持つとトランクの中へと消えて行った。止める間も無く行ってしまった小悪魔にパチュリーは小さく溜め息を吐くと、残った食事を食べて魔法で食器を綺麗にして片付けた。

 

 

「さてと、あの様子じゃ暗くなるまで練習してるでしょうし・・・・もうそろそろハリー達も昼食を終えてる頃ね。談話室にでも行ってみましょうか」

 

 

 読みかけだった『時空間移動の方法と過去改変事件の記録』と書かれた魔法書を持つと、パチュリーは部屋から出て談話室へ向かった。椅子に座って魔法書を開くと同時に、肖像画の穴からハリーとロンが出て来た。

 

 

「あ、パチュリー。昼食を食べに来なかったけど、大丈夫なの?」

 

「ちゃんと(部屋で)食べたわよ。・・・・?あら、ハーマイオニーは一緒じゃないのね」

 

「マクゴナガル先生と話があるってさ。もっと授業を沢山取りたいとか言ってるんだろ。それよりハリー!ファイアボルトの手入れするんだろ?僕にも見せてくれ!」

 

「勿論さ!取って来るよ」

 

 

 ハリーは寝室に向かうと、パチュリーがシリウス・ブラックのお金で買ったファイアボルトと箒磨きセットを持って戻って来た。2人が何処か手入れ出来る所は無いかと探すついでに、新品の箒をあらゆる角度から眺めてうっとりと見惚れていると、再び肖像画の穴が開いてハーマイオニー・・・・と、何故かマクゴナガル先生が談話室へ入って来た。

 

 

「これが、そうなのですね?」

 

 

 マクゴナガル先生はハリーとロンが掴んでいるファイアボルトを見詰め、暖炉の方に近付きながら目をキラキラさせた。

 

 

「ミス・グレンジャーがたったいま、知らせてくれました。ポッター、あなたに箒が送られてきたそうですね?」

 

 

 ハリーとロン、そしてパチュリーは離れた所で逆さまの本を読んでいるハーマイオニーを見た。額の部分だけが本の上から覗いていたが、見るみる赤くなった。

 

 

「ちょっと、よろしいですか?」

 

 

 マクゴナガル先生はそう言いながら、答えも待たずにファイアボルトを取り上げ、箒の柄から尾の先まで、丁寧に調べた。

 パチュリーは既にこの後の展開が予想出来ていた。ハリーは両親は亡くなっており、500ガリオンもする箒をポンとプレゼントしてくれる知り合いが居る事はマクゴナガル先生は勿論、ハリーも知らない。

 

 

「フーム。それで、ポッター、なんのメモもついていなかったのですね?カードは?何か伝言とか、そういうものは?」

 

「いいえ」

 

 

 つまり、今ファイアボルトは正体不明の誰かから送られた物と言う事になる。なら生徒の安全を守る義務がある教師はそんな物が生徒の元へ届いたらどうするのか?

 

 

「そうですか・・・・」

 

 

 答えは簡単・・・・。

 

 

「さて、ポッター、これを預からせてもらいますよ」

 

「な───なんですって?」

 

(危険がないか徹底的に調べるわよね)

 

 

 ハリーがファイアボルトに乗れる日は、まだまだ先になりそうだと思いながら、パチュリーは魔法書を読み続けるのだった。




なんとか年内に出せた。

追伸
・いつの間にか段落を入れられる様になっていたり、表記が変わっていたりする部分があるので、少しずつ直して行きます。


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消えたネズミと真夜中の絶叫

 パチュリーの予想通り、ファイアボルトはマクゴナガル先生に没収され、マダム・フーチやフリットウィック先生が分解して呪いや魔法が掛けられてないか徹底的に調べられる事になった。

 ハリーとついでにロンはそれ以来ずっとマクゴナガル先生に密告したハーマイオニーと仲違いをしている。ハーマイオニーはあの箒がシリウス・ブラックから送られた物ではないかと考えて100%の善意でやった事なのだが、世界一の箒をバラバラに分解すると言う行為は、ハリーとロンにとってまさに犯罪的な破壊行為なのだ。

 この仲違いは年が明けて、休暇が終わって学校が始まっても修復される事はなく、没収されたファイアボルトもハリーの元へ戻って来なかった。

 

 

「・・・・そろそろ、箒はハリーの元へ戻って来たか?」

 

「貴方もなかなかしつこいわね。戻って来たらちゃんと知らせてあげるって何度言えば理解するのかしら?」

 

 

 もそもそとパンを食べながら毎回会う度に同じ質問をするシリウスに、パチュリーは呆れた表情で同じ答えを返した。学校が始まっても彼とパチュリーの関係はちゃんと続いており、今ではお互いに軽く会話する程度には仲が良くなっている。

 

 

「しかしもう2月になるぞ?流石に長過ぎじゃないか?それにハリーは新しい箒を注文していないらしいじゃないか。もう試合は明日なんだろう?」

 

「貴方は逃亡中の凶悪殺人犯なのよ?そんな人から送られたかもしれない物を、教師が生徒に簡単に渡す訳がないじゃない。貴方だって渡そうと思わないでしょう?」

 

「それは・・・・・そうだが

 

 

 それでも納得がいかないと言いたげなシリウスに、パチュリーは大きな溜息を吐いた。変身術の授業が終わる度にハリーに箒がどうなったのか聞かれていたマクゴナガル先生もこんな気持ちだったのだろうか?

 

 

「ハァ・・・・心配しなくても、次のレイブンクロー戦までには必ず返されるから安心しなさい」

 

「・・・何故そう言い切れるんだ?」

 

「マクゴナガル先生も生徒と同じくらい優勝杯が欲しいからよ。罰則を受けるハリーを規則を捻じ曲げてまでシーカーにする程、あの先生はハリーや自分の寮には甘いんだもの。心配するだけ無駄よ」

 

 

 そう言うとシリウスは漸く安心した様に「そうか」と呟いて香ばしい匂いのするチキンに齧り付いた。初めて会った頃はガリガリの死人の様な姿だったが、今の彼は少し痩せ気味程度にまで肉付きが良くなっている。持って来た料理を全て平らげているので、これには作っている小悪魔も満足気だ。

 

 

「さて、そろそろ私達は戻るわ。明日も同じ時間に持って来るから」

 

「あぁ、分かった」

 

 

 パチュリーは小悪魔を連れて『叫びの屋敷』を出ると、空間転移の魔法を使ってホグワーツの自分の部屋へ戻った。小悪魔に空になったお皿を片付けるよう指示を出し、椅子に座って魔法書の続きを読もうとしたその時、突然寮中に聞き覚えのある声の悲鳴が響き渡った。パチュリーはビクリと肩を震わせ、小悪魔は驚いて持っていたお皿を落としそうになった。

 

 

「な、なんでしょうか?今の悲鳴は?」

 

「・・・・分からないわ。ちょっと様子を見て来るわね」

 

 

 先程聞こえたのはほぼ間違い無くロンの悲鳴。聞こえて来た悲鳴は大きさから考えても寮内、談話室か男子寮辺りだ。しかし今の時間帯は授業を終えた生徒達が寮に戻って思い思いに過ごしている筈で、もしロンが何かに襲われたとかなら、他の生徒達の悲鳴や叫び声が聞こえて来ないのはおかしい。だが何も無いのにあんな悲鳴を上げたりする訳がない。何かあったのは確かだ。

 部屋を出ると微かに談話室の方から怒鳴り声の様なものが聞こえて来る。どうやら怒鳴り声の主もロンの様だ。何があったのだろうと色々考えながら談話室へ入ると、怒り狂った様子のロンが何故かシーツを持ってハリーの隣に座っているハーマイオニーに向かって怒鳴っていた。

 

 

スキャバーズが!見ろよ!スキャバーズが!

 

「ちょっと、これは何の騒ぎ?」

 

「あ、パチュリー・・・」

 

 

 怒り狂って今にも殴り掛かりそうなロンと、震えて言葉も発せずにいるハーマイオニー、周りで石像と化している生徒達に聞いても意味が無さそうだと思ったパチュリーは、オロオロとハーマイオニーとロンを交互に見ているハリーに何があったのかを尋ねた。

 

 

「それが僕にもさっぱりで・・・・」

 

血だ!!

 

 

 ロンは持っていたシーツを突き出しながら叫んだ。突き出されたシーツをよく見ると、赤い染みの様な物が付いていた。

 

 

スキャバーズが居なくなった!それで、床に何があったか分かるか!?

 

「い、いいえ・・・」

 

 

 ギロリとロンに睨みつけられたハーマイオニーの声は震えていた。ロンはハーマイオニーの翻訳文の上に何かを投げつけた。奇妙な刺々した文字の上に落ちていたのは、数本の長いオレンジ色の猫の毛だった。

 

 

あの猫がやりやがった!スキャバーズが食われた!どうしてくれるんだ!?

 

 

 

 

 

 

「ピーターが居なくなっただと!?どう言う事だ!?」

 

 

 パチュリーは大喧嘩を始めたロンとハーマイオニーをハリーに丸投げして、直ぐに『叫びの屋敷』へ向かって先程の出来事をシリウスに教えた。当然彼は飲んでいた飲み物を漫画の様に吹き出す程驚き、パチュリーに詰め寄って詳細を説明するよう求めた。

 

 

「そのままの意味よ。ネズミに変身してるとは言え、流石に仮にも魔法使いの人間が猫に食べられたとは考えられないから、生きてはいると思うけどね」

 

「それは分かっている。ピーターは臆病だが同時に警戒心が強い奴だったからな。私が脱獄して自由の身になり、ホグワーツに近付いていると気付いて身を隠そうとしているんだろう」

 

「なら、もうホグワーツ城を出て何処か遠くへ逃げてるでしょうね」

 

 

 ネズミになれば狭い隙間やパイプの中も通れるのだからとパチュリーは予想を立てるが、彼は首を横に振った。

 

 

「いや、ピーターはホグワーツ城から出たりはしないだろう。敷地内の何処かに隠れ潜んでいる筈だ」

 

「何故そう思うのかしら?」

 

「さっきも言ったが、ピーターは臆病な性格だ。ホグワーツの周りを吸魂鬼(ディメンター)が徘徊している今、よっぽど追い詰められた状況にでもならない限り、奴が外に逃げるなんて事はしないだろう」

 

 

 ディメンターは相手の魂を吸い取る能力の副次効果で、相手の悲惨な記憶を呼び覚ます能力もある。その能力を知っているピーターはディメンターに近付く事を嫌がって外には逃げないとシリウスは言う。

 

 

「でもどうするのかしら?ホグワーツの敷地内と言ってもかなりの広さよ?」

 

「・・・かなり難しいが、ホグワーツに侵入して自分の足で地道に探すしか無いだろう」

 

 

 そこで校内を自由に移動出来るパチュリーに探してくれと頼まない辺り、シリウス・ブラックの性格がうかがえた。難しい顔をしている彼を見て、少し考えたパチュリーは空間魔法で手元に改良途中の『幽霊マント』を取り寄せると、彼に手渡した。

 

 

「・・・・これは?」

 

「私がディメンター相手にも感知されない様に改良した『透明マント』の試作品」

 

「はぁ!?」

 

 

 シリウスは目を見開いて『幽霊マント』とパチュリーを交互に見た。

 

 

「まだ実際に試した訳じゃないから、ちゃんと効果があるかは分からないけどね」

 

「・・・・ホントに消えてる。初めて会った時から思っていたが、君は本当に学生か?」

 

「取り敢えずピーター・ペティグリューを見つけるまで貸してあげるわ。良い実験データを期待してるから、頑張りなさい」

 

 

 試しに『幽霊マント』を纏って完全に姿が消えるのを確認しているシリウスにそう言うと、パチュリーは『叫び屋敷』を後にして自分の部屋に戻った。

 

 

 

 

 

 

 翌日、レイブンクロー対グリフィンドールのクィディッチの試合が行われる競技場は、今まで以上に色めき立っていた。観客席には学校中の生徒達が集まっており、試合が始まる瞬間を今か今かと待ち望んでいる。

 理由は今朝ハリーが大広間に持って来た返却されたファイアボルトだ。どうやら昨日の夜にマクゴナガル先生が返したらしく、みんな500ガリオンもする最新の箒が使われる試合を楽しみにしているのである。

 

 

「・・・・まだ始まらないのか?」

 

「黙って待ちなさい。子供じゃないんだから」

 

 

 そして比較的人が少なかった観客席の一番端に座るパチュリーの隣に居るこの男(シリウス・ブラック)も試合を待ち切れずにいる1人だった。パチュリーが改良した『幽霊マント』は上手く効果を発揮している様で、試しに態とディメンターの近くに行ってみた所、副次効果はあったものの気付かれて襲われる事は無かったらしい。

 

 

「しかし凄いなこのマントは・・・まさか本当に気付かれない所か、私が出す足音や声まで消せるとはな」

 

「でもまだ未完成なのよ。もう少し研究が必要だわ」

 

 

 パチュリーはディメンター対策に魂と感情を探知されない術式を組み込んだのだが、そうすると透過と匂い消しの術式が上手く働かなくなってしまったのだ。パチュリーからすればこのマントは未完成の欠陥品なのだが、シリウスは自分が纏っているマントの桁外れな性能の凄さに驚きっぱなしだった。

 

 

(本当に何者なんだこの子は・・・?実は何百年も生きている魔女なんじゃないか?)

 

「・・・・始まるわね」

 

 

 フィールドに両チームが入って来て、競技場に割れる様な拍手が沸き起こった。キャプテンを先頭に選手達がずらりと並び、マダム・フーチのキビキビとした指示でレイブンクローのキャプテンとグリフィンドールのキャプテンであるウッドが握手をする。

 

 

「箒に乗って・・・ホイッスルの合図を待って・・・・さーん──にーぃ──いちっ!!」

 

 

 ホイッスルが鳴り響き、両チームの選手達が一斉に空へ舞い上がった。ファイアボルトを持っているハリーは他のどの選手よりも速く、高く上昇し、競技場の遥か上空を旋回してスニッチを探している。

 

 

「全員飛び立ちました。今回の試合の目玉は、なんと言ってもグリフィンドールのハリー・ポッター乗るところのファイアボルトでしょう。『賢い箒の選び方』によれば、ファイアボルトは今年の世界選手権大会ナショナル・チームの公式箒になるとの事です───」

 

「ジョーダン、試合の方がどうなっているか解説してくれませんか?」

 

「了解です。先生──ちょっと背景説明しただけで。ところでファイアボルトは、自動ブレーキが組み込まれており、さらに───」

 

ジョーダン!!

 

「オッケー、オッケー。ボールはグリフィンドール側です。グリフィンドールのケイティ・ベルがゴールを目指しています・・・」

 

 

 最早恒例となっている解説のリー・ジョーダンによる実況とマクゴナガル先生の注意の声が競技場に響く中、ハリーはスニッチを見つけたのか急降下する。しかしレイブンクローのビーターが打ったブラッジャーを躱した事で、スニッチを見失った様だ。グリフィンドールの応援席からがっかりした声が上がり、反対にレイブンクローの応援席からは歓声が上がった。

 その間にグリフィンドール側がゴールにボールを決め、ハリーは高度を下げて飛び回りながら必死にフィールドを見渡してスニッチを探す。

 

 

「グリフィンドールのリード。八十対〇。それに、あのファイアボルトの動きをご覧ください!ポッター選手、あらゆる動きを見せてくれています!どうです、あのターン───チャン選手のコメット号はとうていかないません。ファイアボルトの精巧なバランスが実に目立ちますね。この長い───」

 

ジョーダン!いつからファイアボルトの宣伝係に雇われたのですか!?まじめに実況放送を続けなさい!!

 

 

 マクゴナガル先生の怒声が響くと同時に、レイブンクローが3回目のゴールを決めて、戦況を巻き返して来ている。ハリーは一度スニッチを見つけた様だが、レイブンクローのシーカーであるチョウ・チャンに行く手を遮られて見失っていた。

 どうやらチョウは正面からの勝負ではハリーの箒に勝てないと踏んだらしく、ハリーを執拗に付け回していた。

 

 

「あのレイブンクローのシーカー、ハリーがスニッチを見つけたら横から掻っ攫うつもりだな?」

 

「作戦としては良い判断だと思うわよ?箒の性能差があり過ぎるんだもの・・・・あら?」

 

 

 ふと視線を下すと、パチュリー達が座っている場所から少し離れた所で、黒いマントを纏った黒い影が3つ見えた。一瞬ディメンターかと思ったが、よく見たらディメンターにしてはふくよかだし、この距離に居るのに少しも冷気を感じない。マントからチラチラ見える肌は普通の肌色だし、何よりマントの下から足が見えた。どうやらディメンターの様な格好をした人間の様だ。

 

 

「・・・・おい、アレは」

 

「人間よ。ディメンターじゃないわ」

 

 

 遅れて気付いたシリウスに、アレは偽物であると伝えた。しかし誰が何の為にあんな格好でこんな人気の少ない所に居るのだろうとパチュリーは疑問を抱いたが、それは聞こえて来た会話で解消された。

 

 

「ポッターの奴、僕達の姿を見れば腰を抜かすだろうな」

 

(あぁ、ドラコね。ディメンターのマネをして前の試合みたいにハリーを箒から落として、レイブンクローに勝たせるつもりなのかしら?)

 

 

 この試合でグリフィンドールが負ければ、決勝戦はレイブンクロー対スリザリンになる。ファイアボルトがあるグリフィンドールならスリザリンに勝てる可能性は十分にあるが、箒の性能で全体的に負けているレイブンクローには勝つのは難しいだろう。

 まぁ、ドラコのハリーへの個人的な嫌がらせも含めているのだろうが。

 

 

「・・・・あのガキ共のケツに蹴りを入れて来る」

 

「いえ、その必要は無さそうよ?」

 

 

 立ち上がったシリウスに、パチュリーは上空から急降下しながら杖を抜いたハリーを見てそう言った。ハッと上空をシリウスが見上げると同時に、ハリーは大声で叫んだ。

 

 

エクスペクト・パトローナム!守護霊(パトローナス)よ来たれ!

 

 

 白銀色をした霞の塊の様な、何か大きなものがハリーの杖から噴き出し、それがドラコ達の方へ一直線に飛んで行った。飛んで来た何かが直撃したドラコ達は悲鳴を上げて地面に転がる。

 

 

「い、今のは・・・・『守護霊の呪文(パトローナス・チャーム)』か?」

 

「まだ未完成だけど、それで間違いないでしょうね。いつの間にあんな呪文を覚えたのかしら?」

 

 

 2人がハリーの放った『守護霊の呪文』に驚いていると、マダム・フーチのホイッスルが鳴り響き、観客席から大歓声が上がった。フィールドへ視線を向けると、片方の手にスニッチをしっかりと握っているハリーと、彼に抱き付いて大喜びしているグリフィンドールの選手達の姿があった。グリフィンドールの勝利だ。

 

 

「良くやったぞハリー!良くやった!」

 

 

 シリウスは自分の声や姿がパチュリー以外に認識されない事を良い事に、両手を上げて喜んでいた。

 

 

「良かったわね。じゃあ私は取り敢えずあそこで転がってる子達の所へ行くから、貴方もネズミ探し頑張りなさい」

 

「あぁ、分かった・・・・そいつ等に1発だけ蹴りを入れても良いか?」

 

「ダメに決まってるでしょ。さっさと行きなさい」

 

 

 パチュリーはシリウスをネズミ探しに行かせると、折り重なる様にして地面に転がっているドラコ達の元へ向かった。予想通りそこに転がっていたのはドラコとクラッブとゴイル、そして確かスリザリン・チームのキャプテンの男の子(パチュリーは名前を知らない)の4人だった。ドラコはゴイルに肩車されていたのか、1つの頭巾の付いたローブを脱ごうとゴイルと一緒にジタバタしている。

 

 

「・・・・取り敢えず、怪我は無さそうね。全く、何をやってるのよ貴方達は?」

 

 

 パチュリーが悪戯を仕掛けて返り討ちになった4人に溜め息を吐いていると、マクゴナガル先生を先頭に他の教師や生徒達がゾロゾロとやって来た。マクゴナガル先生は未だにジタバタしているドラコ達4人を順に見て、最後にパチュリーを見る。

 

 

「一応言って置きますけど、私はハリーの魔法が当たったこの4人が気になってここに来ただけですからね?」

 

「ミス・ノーレッジ・・・・これは、そう言う事でよろしいですね?」

 

 

 パチュリーがコクリと頷くと、マクゴナガル先生は憤怒の形相を浮かべた。

 

 

「あさましい悪戯です!グリフィンドールのシーカーに危害を加えようとは、下劣な卑しい行為です!みんな処罰します。さらに、スリザリン寮は五十点減点!この事はダンブルドア先生にお話しします。まちがいなく!」

 

 

 激しく怒るマクゴナガル先生を見て、ドラコ達が受ける処罰はかなり厳しいものになるだろうと思ったパチュリーは、心の中で彼等に合掌し、人混みを避けながら城への道を戻って行った。

 その後、パチュリーは自室でずっと魔法書を読んでいたので不参加だったが、グリフィンドール寮では盛大にパーティーが開かれた。パーティーは1日中続き、終わったのは午前1時にマクゴナガル先生がタータン・チェックの部屋着に、頭にヘア・ネットという姿で現れて、全員に寝なさいと命令した時だった。

 

 そして、みんなが寝静まってから数時間後・・・・、

 

 

 

あああああああああああアアアアアアァァァァぁぁぁぁぁっっっッッッ!!やめてぇぇぇぇぇぇえええええ!!

 

 

 先日とは比べ物にならない程のロンの絶叫が、グリフィンドール寮内に響き渡った。




新年初投稿です。


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バカ犬シリウスと水晶占い

 突如聞こえた絶叫に、眠っていた生徒達は全員顔面にパンチを受けた様な気分で目を覚ました。パチュリーも目を覚ますと、ナイトテーブルに置いてあった魔法書を引っ掴んで部屋を飛び出した。

 

 

「なぁに?今の声・・・?」

 

「男子寮の方からみたいだけど・・・・何かあったのかしら?」

 

 

 他の部屋から眠そうな声と共に女子生徒達が出て来る。パチュリーは彼女達の間をスルスルと通り抜けながら談話室を目指す。

 

 

「ロン、ほんとに、夢じゃなかった?」

 

「夢じゃない!ほんとに見たんだってば!」

 

 

 談話室に辿り着くと、ハリーとロン、そして恐らく彼等と同じ部屋の男子生徒数人が何やら言い合っていた。薄暗い談話室を魔法で作り出した光の玉で照らしながら、パチュリーは女子寮へ続く階段を降りる。

 

 

「ちょっと貴方達、こんな真夜中にいったい何をやらかしたの?」

 

「いや、何かやらかした前提で言わないでよ!」

 

「既に何度か前科が有るじゃない。特に貴方(ハリー)は」

 

「今回は僕じゃないから!」

 

 

 取り敢えず原因であろうハリーとロンに何をやらかしたのか尋ねていると、男子寮と女子寮の両方から、パジャマ姿の生徒達が欠伸をしながら何人か出て来た。

 

 

「何の騒ぎだ?」

 

「マクゴナガル先生が寝なさいっておっしゃったでしょう!」

 

「パーティーの続き?」

 

「いいねぇ。まだ続けるのかい?」

 

 

 段々と談話室に入って来る生徒達が増えていき、やがて騒ぎを聞き付けた監督生のパーシーが、主席バッジをパジャマに止めつけて急いで談話室に降りて来た。

 

 

「みんな!寮に戻るんだ!」

 

「パース───」

 

 

 ロンは全員に寮に戻るよう指示するパーシーを見つけると、弱々しくもハッキリとした声で叫んだ。

 

 

「シリウス・ブラックだ!」

 

「────なんだって?」

 

「僕達の寝室に!ナイフを持って!僕、起こされた!」

 

 

 意味が分からないと言いた気な表情で聞き返して来るパーシーに向かって叫ぶロンの言葉に、談話室内はシーンと静まり返った。パーティーの続きだなどと陽気な声を上げていたフレッド・ウィーズリーも沈黙している。

 そんな中、パチュリーは内心少しだけ焦っていた。ロンがシリウスを見たと言うから、まさかと思いながら自分の目と耳に魔法を掛けて談話室内を見渡してみると、なんと談話室の隅に『幽霊マント』を纏って汗をダラダラ流している大バカ(シリウス)がいるではないか!

 

 

(何やってるのこのバカ犬は!?と言うか何でさっさと逃げなかったのよ!?)

 

 

 彼はパチュリーが自分を見ていると気付くと、自分の声が周囲に聞こえない事も忘れて身振り手振りで彼女に何とかしてくれと頼んだ。それを見たパチュリーは頭が痛くなるのを感じながら、他の生徒達にバレないよう空間魔法で彼を暴れ柳の近くへ転送した。

 

 

(取り敢えずあのバカは後で殴る・・・!)

 

「ナンセンス!そんな事ある訳ない!ロン、食べ過ぎたんだろう──悪い夢でも───」

 

「ほんとうなんだ!夢なんかじゃない!ブラックが───」

 

「おやめなさい!まったく、良い加減になさい!」

 

 

 パチュリーが拳を握り締めながらそう決意し、パーシーとロンの言い合いが激しくなって来た時、マクゴナガル先生が戻って来た。肖像画のドアをバタンといわせて談話室に入って来ると、怖い顔でみんなを睨みつけた。

 

 

「グリフィンドールが勝ったのは、(わたくし)も嬉しいです。でもこれでは、はしゃぎ過ぎです。パーシー、あなたがもっとしっかりしなければ!」

 

「先生、僕はこんな事、許可してません!僕はみんなに寮に戻るように言っていただけです!弟のロンが悪い夢に魘されて────」

 

悪い夢なんかじゃない!

 

 

 ロンはそう叫ぶとパーシーを押し退けてマクゴナガル先生の前に立った。

 

 

「先生、僕、目が覚めたら、シリウス・ブラックが、ナイフを持って、僕の上に立ってたんです」

 

 

 マクゴナガル先生はロンをじっと見据えた。

 

 

「ウィーズリー、冗談はおよしなさい。肖像画の穴をどうやって通過出来たと言うんです?」

 

「あの人に聞いてください!あの人が見ている筈です!」

 

 

 ロンはカドガン卿の絵の裏側を震える指で示した。ロンを疑わしそうな目で睨みながら、マクゴナガル先生は肖像画を裏から押して、外に出ていった。談話室に居た全員が、息を殺して耳をそばだてた。

 

 

「カドガン卿、いましがた、グリフィンドール塔に男を1人通しましたか?」

 

「通しましたぞ!ご婦人!」

 

 

 絵の中で剣を振り回しながら叫ぶカドガン卿に、談話室の外と中とが、愕然として沈黙した。

 

 

「と、通した?あ───合言葉は!?」

 

「ちゃんと知っておりましたぞ!突然目の前に現れたかと思えば、合言葉を答えて中に入って行きましたぞ!」

 

 

 誇らし気に言うカドガン卿に、マクゴナガル先生は青褪める。聞き耳を立てている談話室内の生徒達も、パチュリーを除いてみんな顔が真っ青になっている。

 

 

「な、なんと言う事・・・・!そ、その男はどちらへ向かいましたか!?」

 

 

 マクゴナガル先生は震える声で男が逃げた方向を尋ねた。その男が本当にシリウス・ブラックならば、逃げた方向によっては他の寮の生徒達も危ない。

 

 

「む?どこへも行っておりませんぞ!ご婦人!」

 

「─────は?」

 

 

 しかしカドガン卿はどの方向も示さなかった。口を開けたまま石像の様に固まったマクゴナガル先生に向かって、彼は胸を張って答えた。

 

 

まだ中から出て来ておりませんからな!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パーシー!今すぐに寮内の生徒達を外に出しなさい!もしもの場合は魔法の使用も許可します!女子寮には私が直接伝えに行きます!!急ぎなさい!!

 

みんな!寮の外に出るんだ!急げ!早く!

 

 

 しばらくの沈黙の後、グリフィンドール塔の中は蜂の巣をつついた様な騒ぎになった。

 

 

 

 

 

 

 その夜、再びホグワーツの全生徒達が大広間で一晩を過ごす事になった。グリフィンドール塔ではスネイプ先生を筆頭にした数名の教師による捜索が行われたが、当然シリウスを見つける事は出来なかった。そのままホグワーツ中を隈なく捜したが結果は同じ。朝日が昇った頃に戻って来たスネイプ先生達は、随分と疲れ切った様子だった。

 しかしそれはパチュリーを除いた生徒達・・・特にグリフィンドールの生徒達も同じだった。凶悪な殺人鬼がホグワーツ内どころか、寮の中にまで入って来る。これには流石のスリザリン生すら恐怖で眠る事が出来なかった。

 つぎの日、ホグワーツはどこもかしこも警戒が厳しくなっているのが分かった。フリットウィック先生はドアというドアにシリウス・ブラックの大きな写真を貼って、人相を覚え込ませていた。フィルチは廊下を駆けずり回って小さな隙間からネズミの穴など、穴という穴に木の板を打ち付けていた。シリウスを寮内に入れたカドガン卿は当然クビになり、護衛が強化される事を条件に『太った婦人』が職場復帰をやっと承知した。今では警備に雇われた無愛想なトロールが数人、廊下をブーブー唸りながら組になって行ったり来たりしている。

 

 

「で?昨日の件について、私が納得出来る説明をしてくれるんでしょうね?」

 

「す、すまなかった・・・・」

 

 

 そしてその日の夜、パチュリーは『叫びの屋敷』に行くと出会い頭にシリウスを魔法書の角でぶん殴った後、埃だらけの床に彼を正座させて説明を求めた。殴られた部分を摩っていた彼は、申し訳なさそうに話し出した。

 

 

「試合の後、ホグワーツ内を捜し回ったんだがピーターは見つからなくてな。もしかしたら寮の中に居るんじゃないかと思って、グリフィンドール塔に向かったんだ。だが中ではパーティーをしている様だったから・・・」

 

「全員が寝静まった頃にこっそり入り込んで、ネズミ探しをしていたと。でもなんでロンにバレたのよ?マントは着ていたでしょう?そもそも合言葉はどうしたの?」

 

「合言葉はパーティーの途中で出入りしていた双子が言っていたのを盗み聞きしたんだ。談話室を見た後、ハリー達の部屋に入ったんだが、床にあったトランクに躓いてしまってな。その時にマントがズレて・・・・」

 

「・・・・・成る程ね」

 

 

 パチュリーが納得した様に腕を組んで頷いているのを見て、シリウスはホッと息を吐いた。

 

 

「取り敢えず貴方への食料の供給は3日間停止するから」

 

えぇ!?

 

「次また何かやらかして面倒な事になったら、マントは即返却してもらうわ。慎重になりなさい。それじゃあ私は研究したい事が出来たから帰るわね」

 

「ちょ、ちょっと待────!」

 

 

 シリウスが何か言おうとしていたのを無視して、パチュリーは空間魔法で部屋に戻った。小悪魔に紅茶を頼んだパチュリーは、椅子に座ると『幽霊マント』の欠点に対する改良案を考える。

 

 

(ズレた部分が見えてしまうとなると、着た人間そのものを透明にした方が良さそうね。でもそうするとあのマントに使ってる素材じゃ術式の負荷に耐えられそうにないのよね・・・・いっそマントじゃなくて別の装飾品にしようかしら?宝石とかなら多く術式を組み込めるし)

 

「お待たせしました、パチュリー様」

 

「ありがとう、こぁ」

 

 

 紅茶の入ったカップをテーブルに置いた小悪魔にお礼を言い、頭の中で設計図を作りながらカップを傾けた。また小悪魔は腕を上げた様で、紅茶はとても美味しかった。

 

 

 

 

 

 

 シリウスの二度目の侵入事件から暫く経った。あれから研究と実験を続けたパチュリーは、『幽霊マント』に使っていた術式を加工した無属性の賢者の石に刻み込む事に成功していた。これを握っているだけで『幽霊マント』と同じ効果を発揮するのだが、パチュリーはこれをペンダント型にする予定でいるので、今はペンダントトップやチェーン部分に追加の術式を組み込む研究をしている。

 

 

「う〜ん・・・・やっぱり盗難防止用の術式と防御用の術式の方が良いかしら?持ち主以外の者が触れたら持ち主の側に転移する術式とか・・・・でもそうすると防御用の術式を刻み込む面積が足りない。なら単純に触れると激痛が走る術式とか────」

 

「パチュリー?パチュリー!もう授業が始まるよ?」

 

「え?あぁ、ありがとう」

 

 

 肩を揺さぶられて顔を上げると、天井の丸い撥ね扉から梯子が降りて来ていた。次の授業は『占い学』で、今日から手相術を終えて水晶玉を使った占いの授業が始まる。梯子を登って薄暗いムッとするような塔教室に入ると、小さなテーブルの一つひとつに真珠色の靄が詰まった水晶玉が置かれ、ボーッと光っていた。

 

 

「みなさま、こんにちは!」

 

 

 パチュリーが空いている席に座ると、お馴染みの霧の彼方の声と共に、トレローニー先生が薄暗がりの中から芝居がかった登場をした。

 

 

「あたくし、計画しておりましたより少し早めに水晶玉をお教えすることにしましたの」

 

 

 トレローニー先生は暖炉の火を背にして座り、あたりを凝視した。

 

 

「6月の試験は球に関するものだと、運命があたくしに知らせましたの。それで、あたくし、みなさまに十分練習させてさしあげたくて」

 

「あーら、まあ・・・・『運命が知らせましたの』・・・どなた様が試験をお出しになるの?あの人自身じゃない!なんて驚くべき予言でしょ!」

 

 

 するといつの間にかハリーとロンと仲直りしていたハーマイオニーがフンと鼻を鳴らし、声を低くする配慮もせず言い切った。相変わらず『占い学』とトレローニー先生が気に食わない様だ。

 

 

「水晶占いは、とても高度な技術ですのよ。球の無限の深奥を初めて覗き込んだ時、みなさまが初めから何かを『見る』ことは期待しておりませんわ。先ず意識と、外なる眼をリラックスさせる事から練習を始めましょう」

 

 

 夢見る様な口調で話すトレローニー先生にロンや他数名の生徒達はどうしてもクスクス笑いが止まらなくなり、声を殺すのに、握り拳を自分の口に突っ込む有り様だった。

 

 

「そうすれば『内なる眼』と超意識とが顕れましょう。幸運に恵まれれば、みなさまの中の何人かは、この授業が終わるまでには『見える』かも知れませんわ」

 

 

 そこでみんなが作業に取り掛かり、パチュリーもテーブルに置いてあった水晶玉を手元に寄せて覗き込む。偶に暇潰しで水晶玉を使った遠視や占いをしているパチュリーからすれば質の悪い水晶玉だが、使う分には問題なかった。

 

 

「・・・・へぇ、勝ったのね」

 

 

 覗き込んだ水晶玉の中では、大泣きしてしゃくりあげるウッドからクィディッチの優勝杯を手渡され、笑顔を浮かべながらそれを天高く掲げるハリーが映っていた。どうやらスリザリンとの試合に勝った様だ。

 

 

「ハリー、少し早いけどおめでとう」

 

「・・・・え?何が?」

 

 

 隣の席に座ってボーッと水晶玉を眺めていたハリーにお祝いの言葉を贈ると、彼は疑問符を幾つも浮かべながらパチュリーに聞き返した。

 

 

まぁ!!なんと言う事!!

 

 

 すると今のやり取りを見ていたトレローニー先生が興奮した様子でパチュリーのテーブルへやって来た。

 

 

「あなた、普段から水晶占いをしておりますのね!?」

 

「え、えぇ・・・暇潰し程度ですけど」

 

 

 あまりの勢いにパチュリーは少し体を引きながらそう答えると、トレローニー先生は「やっぱり!」と嬉しそうに声を上げた。

 

 

「どうやらあなたはあたくし以上の『内なる眼』をお持ちの様ですわね!今までの授業であなた程『見れる』生徒はお目にかかった事がありませんわ!グリフィンドールに10点を差し上げましょう!」

 

「・・・・なぁ、ハリー。あの水晶玉に何か見えるかい?」

 

「・・・・全然、何も」

 

 

 大喜びして得点すらあげているトレローニー先生とは裏腹に、他の生徒達は訝しげな表情を浮かべていた。彼等の眼には水晶玉は相変わらずただ靄だけを映し出している様にしか見えないからだ。

 トレローニー先生は他にも『見える』生徒がいるんじゃないかと周囲の生徒達を見渡し、ハリー、ロン、ハーマイオニーのテーブルにある水晶玉に目を止めた。

 

 

「あぁ!あなた・・・・」

 

 

 3人の水晶玉を覗き込むトレローニー先生の低く震える様な声に、ハリー達はうんざりした様な顔になった。

 

 

「ここに、これまでよりはっきりと・・・ほら、ここに。暗闇からこっそりとあなたの方に忍び寄り、だんだん大きく・・・・死神犬のグ───」

 

いい加減にしてよ!!また、あのバカバカしい死神犬(グリム)じゃないでしょうね!?

 

 

 ハーマイオニーが大声を上げて立ち上がる。トレローニー先生は巨大な目を上げてハーマイオニーを見ると、立ち上がり、紛れも無く怒りを込めて彼女を眺め回した。

 

 

「まぁ、あなた。こんな事を申し上げるのは、なんですけど、あなたがこの教室に最初に現れたときから、はっきり分かっていた事ですわ。あなたには『占い学』と言う高貴な技術に必要なものが備わっておりませんの。まったく、こんなに救いようのない『俗』な心を持った生徒にも未だかつてお目にかかった事がありませんわ」

 

「何が必要なものよ!分かり切った事を予言っぽく言ったり、後付けで予知していたとか言ったり、見えもしない水晶玉に死神犬がいるって言うのが『占い学』だって言うなら、もう結構よ!やめた!私、出て行くわ!」

 

 

 ハーマイオニーは鞄に『未来の霧を晴らす』の本を詰め込むと、鞄を振り回す様にして肩に掛けて、威勢よく出口へと歩き始めた。すると黙って水晶玉を見ていたパチュリーが声を掛けた。

 

 

「ハーマイオニー、『占い学』をどう言おうがもう勝手にすればいいけど、梯子を降りた後、足元に注意した方が良いわよ?」

 

 

 撥ね上げ戸を足で蹴飛ばして開けたハーマイオニーが今度はパチュリーをキッ!と睨んだ。

 

 

「何よパチュリー!貴女までありもしない未来の光景を見たとでも言うの!?バカバカしい!」

 

 

 ハーマイオニーはそう言うと梯子を降りて姿を消した。しかしそのすぐ後・・・・、

 

 

「え?・・・きゃああああああああ!!!

 

「「ハーマイオニー!?」」

 

 

 突然聞こえて来たハーマイオニーに悲鳴に、ハリーとロンが慌てて撥ね上げ戸を覗き込むと、2人は目を見開いた。1つ下の階段の踊り場で、痛そうに腰辺りを摩っているハーマイオニーが居た。彼女の周囲には鞄からぶち撒けられた教科書が散乱しており、一目で階段で足を滑らせたのだと分かった。

 

 

「全く、だから注意しなさいって言ったのに・・・・」

 

「「ヒェッ!?」」

 

 

 いつの間にか自分達の後ろから覗き込んでいたパチュリーの言葉に、ハリーとロンは小さく悲鳴を上げた。油が切れたロボットの様に振り返ると、パチュリーがハリーを見て言った。

 

 

「一応言っておくと、占い術って本当に本人の素質が必要なのよ。適性がある人はそれこそ何年も先の未来を予知出来るし、逆に適性が無い人はどれだけ努力しても何も見る事が出来ない。だから、ハリー?貴方も気を付けた方が良いわよ?」

 

 

 パチュリーはそう言うとハリー達のテーブルに置いてある水晶玉を見た。ハリー達には見えなかったが、その水晶玉には確かに黒い大きな犬(・・・・・・)が映っていた。

 

 

「私にもちゃんと、黒くて大きな犬が映っているのが見えるもの」

 

 

 小さく笑みを浮かべるパチュリーに、ハリーとロンは顔を真っ青にして、腰を抜かしてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(ま、変身したシリウスでしょうけどね)




やっぱり勘が鈍ってる感じがするけど、何とか書けた。そろそろ頑張って他の小説の続きも書いてみたい・・・・・・書けたらだけど。


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赤い瞳と面倒な事態

 かつて無い量の宿題を出されたイースター休暇が終わり、最後のクィディッチの試合でグリフィンドールが予知通り優勝してから暫く経ち、学年末試験が始まった。

 パチュリーは1年生の時と同じ様に、別室で他の生徒達とは違う内容の試験を受けた。他の生徒達はティーポットを陸亀に変えたり、ペアを組んで互いに『元気の出る呪文』を掛け合ったり、『混乱薬』を調合したりするなどの試験内容だった。

 しかしパチュリーの場合、黄金虫を文字盤を5つ付けた巨大な振り子時計にして正常に作動させたり、『元気の出る呪文』と『怒らせる呪文』と『悲しませる呪文』を同時に別々の人に掛けたり、制限時間内に『混乱薬』の調合に失敗して混乱している10人の生徒に『正気薬』を調合して飲ませるなどだった。当然パチュリーは全て完璧にこなして見せた。

 そして最後から2番目である『闇の魔術に対する防衛術』で行われた障害物競走の様な試験でルーピン先生の顔を驚愕に染めた後、残るは『占い学』で行われる水晶玉を使った占いの試験だけとなった。

 

 

「こんにちは、ミス・ノーレッジ。お待ちしておりましたわ。あたくし、貴女にはとても期待しておりますの。さぁ、この椅子にお座りになって」

 

「失礼します」

 

 

 相変わらず薄暗い塔教室の中で、トレローニー先生の指示に従って水晶玉が置かれたテーブルの前にある椅子に座った。パチュリーの向かい側に座ったトレローニー先生は、羊皮紙と羽根ペンを取り出した。

 

 

「他の先生方や校長先生に、貴女には特別難しい内容で試験を行うよう言われておりますの。ですので貴女にはこれから、この玉で自分の未来の光景を映して貰いますわ」

 

「自分の未来を・・・・?」

 

 

 パチュリーが聞き返すと、トレローニー先生はゆっくりと頷いた。

 

 

「ただ自分の未来を見るだけでは他の生徒達と試験内容はそう変わりませんわ。それでは貴女には簡単過ぎますわよね?ですので貴女にはあたくしが指定した日の未来(・・・・・・・・)をピンポイントで見ていただきますわ」

 

「・・・・成る程」

 

 

 占い術は本人の素質と才能が必要となる特殊なものだ。しかもその両方を持っていても、狙った日に起こる事を予知出来るまでかなりの修練が必要となる。普通ならたった数ヶ月授業で習った程度の生徒が出来る技ではない。

 

 

「それで、予知する未来の日付はいつですか?」

 

「運命があたくしに知らせたのは、貴女がホグワーツから帰った日の夜9時頃ですの」

 

「・・・・今なんと仰いました?運命が、知らせた?」

 

 

 パチュリーの聞き間違いでなければ、トレローニー先生が決めたのでは無く、運命(・・)がその日を決めたと言う風に聞こえた。トレローニー先生はパチュリーの目をじっと見詰めながら頷いた。

 

 

「えぇ、その通りですわ。運命があたくしに、貴女にその日を予知させろと知らせて来ましたの」

 

「つまりその日の夜9時頃に、私に何かが起こると?」

 

「そこまではあたくしにも分かりませんわ。何故か貴女の未来は、あたくしの『内なる眼』を持ってしても良く見えませんの。まるで深い霧で覆われた夜の様に・・・・」

 

「・・・・取り敢えず、その日時を見てみます」

 

 

 パチュリーは水晶玉を手元に寄せて覗き込んだ。普段なら直ぐに見えてくるのだが、何故かその日その時間帯だけはパチュリーからしてもぼやけて見えた。

 

 

(どう言う事?こんな事今まで無かったのに・・・・)

 

 

 暫く覗いていると、水晶玉の中に何かが見えて来た。よく見てみるとそれはパチュリーと羽と尻尾を隠した小悪魔の後ろ姿だった。どうやら霧の出ている夜の街を歩いている様だ。

 

 

(なんでこんな時間にこんな所を歩いてるのかしら?)

 

 

 首を傾げながら更に見続けていると、水晶玉の中の自分と小悪魔は首をキョロキョロと動かして周囲を見渡しているのが分かった。どうやら何かを探している様だ。

 

 

(でも、いったい何を・・・・・あら?)

 

 

 すると水晶玉の中の2人が突然足を止めた。探し物を見つけたのだろうかと思い様子を見ていると・・・・、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 水晶玉の中のパチュリーと小悪魔が、首から血を噴き出して倒れた。

 

 

・・・なっ!?

 

 

 予想外の光景にパチュリーは思わず声を上げて椅子から立ち上がった。水晶玉の中の2人はそのままピクリとも動かない。地面にどんどん血が広がって行く。

 

 

(何が起きたの!?いったい誰が!?どうやって!?)

 

 

 パチュリーは今までにない程動揺した。何が起きたのか全く見えなかったのだ。魔法や銃弾などの何かが飛んで来た様子は無い。近付く人影すら無かった。なのに水晶玉の中に映る自分達は突然血を吹き出して倒れてしまった。

 

 

(・・・・・ッ!!)

 

 

 すると水晶玉の中に新しい人影が映った。しかし何故かその姿がハッキリ映らない。まるで黒い靄が人の形をしている様で、かろうじて分かるのは、その人影が10歳前後の子供と同じ位の身長だと言う事だけだ。

 

 

(何者なの・・・・?)

 

 

 なんとか顔だけでも見れないかと水晶玉に意識を集中させる。角度を調整し、その人影の顔の正面辺りに合わせた。カタカタと水晶玉が揺れ始め、色は相変わらず黒いが、少しずつ顔の輪郭が見えて来た。もう少しで見れそうだと更に意識を集中させると、

 

 

 

 赤い瞳と目が合った。

 

 

ガシャン!!!!

 

「・・・・ッ!?」

 

「ヒィィィィッ!?」

 

 

 水晶玉が限界を迎えて粉々に砕け散った。トレローニー先生は悲鳴を上げて椅子から転げ落ち、パチュリーは険しい顔で水晶玉の破片を見た。

 

 

「ミ、ミス・ノーレッジ!お怪我はありませんこと!?」

 

「・・・はい、大丈夫です」

 

 

 慌てた様子で立ち上がったトレローニー先生がパチュリーに怪我が無い事を確認してホッと息を吐いた。

 

 

「今の水晶玉が映した未来の光景、トレローニー先生は見えましたか?」

 

「・・・・残念ながら、あたくしには何も見えませんでしたわ。ただ、黒い靄が見えるだけ・・・・」

 

「・・・そうですか」

 

「ミス・ノーレッジ。貴女はいったい・・・・・何を見たのですか?」

 

 

 トレローニー先生の問いに、パチュリーは答える事が出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 北の塔教室から談話室へ戻る間、パチュリーはずっと水晶玉が映した光景について考えていた。未来の私は何故夜の街を小悪魔と一緒に歩いていたのか?いったい何を探していたのか?何故急に足を止めたのか?何故急に血を噴き出して倒れたのか?十中八九あの黒い人影が原因だとして、どうやってあんな事が出来たのか?目的は何なのか?疑問が次から次へと浮かんで来る。

 

 

「・・・もう一度、今度は自前の水晶玉で同じ日の未来を見てみましょうか」

 

 

 トレローニー先生が用意した水晶玉は、自分が持つ水晶玉より質が悪い。なら自前の水晶玉を使えば、何か分かるのではないか?とパチュリーは考えた。

 

 

「あら、お帰りなさい・・・・どうしたの?顔色が悪いみたいだけれど?」

 

「何でもないわ。ありがとう。合言葉は、『トイナグン・リ・ワラフ。流れ星』」

 

「正解よ。体調には気を付けなさいね」

 

 

 合言葉を答えて開かれた肖像画の穴を潜って談話室に入った。談話室の中には誰も居なかった。そう言えばさっき他の生徒達が校庭の方へ向かっていたなとパチュリーは思い出した。どうやら待ち焦がれた自由を校庭で少しばかり楽しもうと思ったのだろう。

 さっさと部屋に戻って水晶玉を見てみようと女子寮の階段を登ろうとした時、再び肖像画が開いて、暗い顔をしたロンとハーマイオニーが談話室に入って来た。

 

 

「あ、パチュリー・・・・試験、終わったんだ」

 

「そうだけど・・・・どうしたの?随分と暗い顔だけど」

 

「・・・・これを見て」

 

 

 震える手でハーマイオニーが差し出した紙を見てみると、どうやらハグリッドからハリー達に宛てた手紙の様だ。激しく手が震えたらしく、ほとんどの字が判読出来なかった。

 

 

『控訴に敗れた。日没に処刑だ。おまえさんたちにできるこたぁなんにもねえんだから、来るなよ。おまえさんたちに見せたくねえ。』

 

「今日、バックビークの控訴裁判だったんだ・・・・・ほら、マルフォイの奴が腕を怪我しただろう?アレで裁判に掛けられてさ」

 

「あぁ、最近熱心に何かを調べてると思ってたけど、裁判の事について調べてたのね」

 

「ねぇ、パチュリー・・・何とかならないかしら?このままじゃバックビークが・・・・」

 

 

 ハーマイオニーが縋る様に聞いてくるが、パチュリーは首を横に振った。

 

 

「裁判で決まったならどうしようもないわよ。それに控訴してもダメだったとなると、この場合なら恐らく上の権力から圧力が掛かってるでしょうから、結果は変わらないでしょうね」

 

「そんな・・・・」

 

 

 ハーマイオニーとロンは今度こそ絶望した様子でヘナヘナと椅子に座り込んでしまった。するとまた肖像画が開いて、今度はハリーが息を弾ませながら入って来た。

 

 

「聞いて!トレローニー先生が、いましがた僕に言ったんだ!・・・・どうしたの?」

 

「コレ、読んでみなさい」

 

 

 パチュリーはハグリッドからの手紙をハリーに手渡した。ハリーは手紙に目を通して行くと、表情が段々暗くなって行った。

 

 

「行かなきゃ・・・・ハグリッドが1人で死刑執行人を待つなんて、そんな事させられないよ」

 

「でも、日没だ。絶対許可してもらえないだろうし・・・ハリー、特に君は・・・・」

 

「何?貴方また何かやらかしたの?」

 

 

 パチュリーがハリーの方を見ると、彼は気不味そうに視線を逸らした。今回は本当に何かやらかした様だ。

 

 

「はぁ・・・どうしても行くなら、私は何も見なかった事にしてあげるわ」

 

「・・・・因みに、手を貸してくれたりは──」

 

「あら、先生に報告してもいいのよ?」

 

「スミマセン・・・・」

 

 

 パチュリーは「じゃあ、頑張りなさい」とハリー達に言うと、女子寮への階段を登って、自分の部屋へ向かった。

 

 

「あ、お帰りなさいませ!パチュリー様!」

 

「ただいま・・・・あぁ、シリウスのご飯を作ってたのね」

 

 

 部屋に入ると、エプロンと三角巾を付けた小悪魔がトランクから出て来るところだった。どうやらシリウスの夕飯を作っていた様で、手には美味しそうな香りのするバスケットを持っていた。

 

 

「はい!今日は豚肉が安く手に入ったので、カツサンドにしてみました・・・・?パチュリー様?何かありましたか?顔色が良くないみたいですけど」

 

「・・・そんなに悪いかしら?」

 

 

 パチュリーが自分の顔を触りながら聞くと、小悪魔は心配そうな顔で「はい」と答えた。

 

 

「・・・・最後の『占い学』の試験でちょっとね」

 

「え?まさか・・・・・パ、パチュリー様が占い術で不合格を!?」

 

「違う。そうじゃない」

 

 

 試験自体はトレローニー先生から合格と言われていると伝えると、小悪魔はホッと安心した様子で息を吐いた。

 

 

「じゃあ、何が問題だったんですか?」

 

「試験内容で自分の未来を見る事になったんだけど、ちょっと気になる未来が見えちゃったのよ」

 

「・・・どんな未来だったんです?」

 

「・・・・・私と小悪魔が死ぬ未来」

 

 

 一瞬言うかどうか迷ったが、小悪魔にも関係がある事なので伝えた。小悪魔はサーッと顔を青くして、震える声で聞いて来た。

 

 

「そ、それは避けられない未来なんですか?」

 

「水晶玉の質が悪くて良く見れなくてね。後で自分の水晶玉でもう一度調べて見る予定よ」

 

「そう、ですか・・・・」

 

 

 暗い顔をして少し震えている小悪魔を見て、パチュリーは彼女を優しく抱きしめて、頭をポンポンと優しく叩いた。

 

 

「大丈夫よ。今回水晶玉で見た未来は対策すれば避けられる未来よ。貴女を傷付けたりなんてさせないから、安心しなさい」

 

 

 水晶玉で見る未来はほぼ100%起こる未来だが、避けられない運命ではない。例えば銃で撃たれる未来を見たなら、予め防弾チョッキを着て銃弾を防げると言った感じに、今から考えられる限りの対策を行えば、死ぬ未来は回避出来るのだ。

 

 

「パチュリー様・・・はい!私も頑張ります!」

 

「その意気よ。取り敢えずその未来はまだ先の事だから、今はその美味しそうなカツサンドを、彼の所へ一緒に持って行きましょうか」

 

「はい!分かりました!」

 

 

 パチュリーは小悪魔が元気になったのを確認すると、彼女と一緒に『叫び屋敷』へ空間魔法で転移した。

 

 

「シリウスさ〜ん!ご飯持って来ましたよ〜!」

 

 

 小悪魔がシリウスを呼ぶが、来る様子がない。いつもならバタバタと走って来るので、不思議に思いながら彼が良く使っている寝室へ向かった。

 

 

「・・・・留守みたいね」

 

「珍しいですね。いつもはご飯の時間には必ずここに戻ってるのに」

 

「まぁ、待っていればその内・・・あら?」

 

 

 ガタガタと下の階から大きな物音がした。シリウスが帰って来たのかと思ったが、ズリズリと何か重い物を引き摺る様な音と、段々大きくなって来るシリウスじゃない聞き覚えのある声を聞いて、パチュリーは慌てて小悪魔を空間魔法で部屋に転移させた。

 

 

「放せ!放せよ!やめろったら!この犬め!・・・・・って、パチュリー!?何でこんな所に!?」

 

 

 穴だらけの扉を壊す様な勢いで開けて入って来たのは、脚が折れた泥だらけのロンと犬に変身したシリウスだった。ロンはパチュリーが居るのに気付くと、信じられないものを見たとばかりに目を見開いた。

 

 

「それはこっちのセリフよ!!ちゃんと説明してくれるんでしょうね!?」

 

「パチュリー!来ていたのか!遂に見つけた!奴を見つけたんだ!」

 

 

 犬から人間の姿に戻ったシリウスは、興奮した様子で叫んだ。ロンは人間に戻ったシリウスを見て口をあんぐりと開けていた。取り敢えずパチュリーは杖を振ってロンの脚を治す。

 

 

「つまり、スキャバーズが見つかって、ロンを連れて来たって事は今彼と一緒に居るのね?」

 

「あぁ!ポケットの中に居る!間違いない!」

 

 

 シリウスに言われてロンの方を見ると、確かにポケットが膨らんでもぞもぞと動いていて、彼はその膨らみを隠す様に手で覆っていた。

 

 

「ま、まさかパチュリー・・・君は・・・・ッ!」

 

 

 ロンは青褪めた顔でパチュリーとシリウスを交互に見ながら震えている。そこでパチュリーはある事に気付いた。

 

 

「・・・ちょっと待って?ロンを犬の姿で連れて来たって事は・・・・?」

 

ロン!大丈夫!?犬はどこ!?

 

パチュリー!?なんで貴女がここに!?

 

 

 するとバッと扉が蹴り開けられ、杖を持った傷だらけのハリーとハーマイオニー、そして何故かクルックシャンクスが部屋に入って来た。

 

 

「ハリー!犬じゃない!罠だ!あいつが犬なんだ!あいつは『動物もどき(アニメーガス)』なんだ!」

 

 

 ロンがそう言うが早いか、シリウスはハリー達が入って来た扉を閉めた。彼はハリー達が振り返ると同時に、ロンから奪ったであろう杖で『武装解除の術』を使った。するとハリーとハーマイオニーの杖は2人の手から飛び出し、高々と宙を飛んでシリウスの手に収まった。

 

 

「君なら友を助けに来ると思った。君の父親もわたしのためにそうしたに違いない。君は勇敢だ。先生の助けを求めなかった。ありがたい・・・」

 

 

 

 「その方がずっと事は楽だ」とシリウスはハリーを懐かしむ様に見ながら言った。ハリーはシリウスを親の仇(まぁハリーからすれば正にそうなのだが・・・)を見る様に睨むと、今度はパチュリーの方を向いて叫んだ。

 

 

「何してるんだパチュリー!そいつがブラックだ!早く・・・・」

 

「ダメよハリー!」

 

 

 ハーマイオニーが思わず身を乗り出して叫んでいたハリーを掴んで引き戻した。

 

 

「ブラックを見て!逃亡犯でこの屋敷に隠れ住んでいたなら、もっと汚れててもおかしくないのに、服も髪も綺麗過ぎるわ!それにパチュリーは私達より先にこの屋敷に居た!パチュリーはブラックの共犯者なのよ!」

 

「そうか!パチュリーが共犯者なら、寮の合言葉だって簡単に手に入る!」

 

「だから何度もホグワーツに侵入出来たし、寮の中まで入って来れたんだな!この裏切り者め!」

 

 

 ハーマイオニーの名推理にハリーとロンは納得し、パチュリーを裏切り者だと判断して睨み付けた。パチュリーは『やっぱり面倒な事になった』と額に手を当てて、深い溜め息を吐いた。

 

 

「どうしてくれるのよ?完全に誤解しちゃったじゃない。何で食料を持って来る時間に連れて来たのよ?」

 

「それは・・・正直、すまないと思っている」

 

 

 シリウスをジトッと睨み付けると、彼は申し訳なさそうにしてパチュリーに謝った。

 

 

「さて、ハリー。大事な話をしよう。先に言っておくが、君を殺すつもりは無い。後ろの2人もだ」

 

ウソだ!お前は僕の父さんと母さんを殺した!

 

「・・・否定はしない。2人は私が殺したも同然だ。だが聞いてくれ。君は・・・いや、魔法界は私を凶悪な殺人犯だと言うが、それは大きな間違いなんだ」

 

お前は僕の両親をヴォルデモートに売った!それだけ知ればたくさんだ!!

 

 

 ハリーは止める2人の手を振り解き、シリウスに飛び掛かった。しかしパチュリーが一瞬で結界を張ってハリー達を閉じ込めたので、ハリーは結界にぶつかって2人の方へ倒れ込んだ。

 

 

「ぐっ・・・や、やっぱり!ブラックと繋がってたんだな!?」

 

「少しは落ち着きなさい。ちゃんと詳しく説明するから、先ずは彼の話を・・・・あら?」

 

 

 鼻を押さえて睨むハリーにシリウスの話を聞くよう言っていたパチュリーは、ふと下の階からくぐもった足音がするのに気付いた。続いてハーマイオニー、シリウス、ハリーとロンの順に気付き、ハーマイオニーが急に叫んだ。

 

 

ここよ!私達、上に居るわ!──シリウス・ブラックと共犯者が居る!───早く!!

 

 

 すると足音の主は気付いた様で、足音がバタバタと上がって来た。パチュリーとシリウスが警戒して扉の方を見ると、扉を勢い良く開けて、蒼白な顔で杖を持ったルーピン先生が飛び込んで来た。

 パチュリーはルーピン先生を無力化しようと杖を向けたが、何故かシリウスが手で制して来たので、杖を下ろした。ルーピン先生の目が結界に閉じ込められたハリー達をとらえ、それからシリウス、パチュリーへと移った。

 

 

先生!そいつがシリウス・ブラックです!パチュリーはそいつの共犯者で、裏切り者なんです!

 

 

 ロンがルーピン先生に叫んだ。ルーピン先生は杖をパチュリー達の方へ向けながらチラリとハリー達をもう一度見ると、シリウスの方を向いて、何か感情を押し殺して震えている様な、緊張した声を発した。

 

 

「・・・・シリウス、あいつはどこだ?」

 

 

 ハリー達はルーピン先生が何を言っているのか分からず、ルーピン先生を見つめた。シリウスはゆっくりとロンを・・・正確には彼の膨らんだポケットを指差した。

 

 

「しかし、それなら・・・・何故今まで正体を現さなかったんだ?もしかしたら───」

 

 

 ルーピン先生は真っ直ぐシリウスの目を見て、目を見開いた。どうやら開心術を使った様だ。

 

 

「───もしかしたら、あいつがそうだったのか・・・・もしかしたら、君はあいつと入れ替わりになったのか?・・・・わたしに何も言わずに?」

 

 

 落ち窪んだ眼差しでルーピンを見つめ続けながら、シリウスはゆっくりと頷いた。

 

 

「ルーピン先生?いったい何が───ッ!?」

 

 

 ルーピン先生が先程からシリウスに話し掛けてるだけに見えたハリーが大声で割って入ったが、漸く動いたルーピン先生の行動にハリーの問いは途切れた。

 ルーピン先生はゆっくりと構えていた杖を下ろすと、シリウスに歩み寄り、そして───、

 

 

「久しぶりだな。シリウス」

 

「あぁ、12年振りだな。リーマス」

 

 

 久しぶりに再会する兄弟の様に、シリウスを抱きしめたのだった。




もう少しで『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』が終わりそう。頑張らなくては・・・・・・。

*追伸
過去に書き間違えてる所があったので、書き直しました。朝起きたらせっかく上がって来ていた評価がまた下がってました・・・・・・ちょっと残念。


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いたずらシールと狼人間

「なんてことなの!!」

 

 

 ハーマイオニーの絶叫に、ルーピン先生はシリウスを離し、彼女の方を見た。ハーマイオニーは床から腰を上げ、目をランランと光らせ、ルーピン先生を指差した。

 

 

「先生も──先生も──!その人とグルなんだわ!」

 

「ハーマイオニー、落ち着きなさい──」

 

「私、誰にも言わなかったのに!信じてたのに!」

 

 

 ハーマイオニーは宥めようとするルーピン先生の言葉を無視して叫び続ける。やがてハリーの体は震え出した。殺されそうになっている恐怖からでは無く、信じていた先生に裏切られたと言う新たな怒りからだった。

 

 

「僕も先生を信じてた・・・・それなのに、先生はずっとブラックの友達だったんだ!」

 

「それは違う!この十二年間、わたしはシリウスの友ではなかった。しかし、今はそうだ・・・頼むから、説明させてくれ・・・・」

 

「だめよハリー!騙されないで!この人もパチュリーと一緒にブラックが城に入る手引きをしたのよ!この人も貴方の死を願ってるんだわ!この人、狼人間なのよ!!」

 

 

 痛い様な沈黙が流れた。いまや全ての目がルーピン先生に集まっており、ルーピン先生は青ざめてはいたが、驚く程落ち着いた様子だった。

 パチュリーは小さく溜め息を吐くと、ハーマイオニーに話しかけた。

 

 

「ハーマイオニー、貴女の言葉は三問中一問しか合ってないわ。確かに彼は狼人間だし、それは間違ってないわ。でも手引きをしたのは私で、ルーピン先生は何もしていないわ。それに今見た様子だと、シリウスと同じでハリーの死を願ってないわよ?もちろん私もね」

 

 

 実はパチュリーはかなり前にルーピン先生が狼人間だと見抜いていた。と言ってもそれは本当に偶然で、偶々夜に改良した探索魔法の試運転をした時に、スネイプ先生が脱狼薬を持ってルーピン先生の部屋に入って行ったのを探知したので、状況的にルーピン先生が狼人間だと分かったのである。

 

 

「その口振りだと、やはり君は気付いていたのか・・・・確かにわたしは狼人間だ。それは否定しない。だがわたしはシリウスを手引きしていないし、ハリーの死を望んでなんかいない!」

 

「やっぱりそうだったんだ!パチュリーもルーピン先生もシリウス・ブラックの仲間だったんだ!この裏切り者め!僕を殺す気だったんだな!?」

 

 

 怒りの余り今の話を聞いていなかったのか、ハリーはパチュリーとルーピン先生を睨み付けながら怒鳴った。そんな彼を見てパチュリーとルーピン先生は肩を竦めた。

 

 

「ハリー、いいか?よく聞くんだ。君は大きな誤解をしている。わたしは君を殺そうなんて思っていない。それにわたしが狼人間だと言う事は先生方は知っている。ダンブルドア先生は、わたしが信用出来る教師だと他の先生方を説得してくれたんだ」

 

そして、ダンブルドアは間違っていたんだ!!

 

「落ち着くんだ。ミス・ノーレッジ、杖を仕舞ってハリー達を出してあげてくれ。シリウス、君も杖をハリー達に返すんだ」

 

 

 ルーピン先生にそう言われ、パチュリーは仕方なく結界を解除して杖を仕舞った。シリウスも3人に杖を投げ返し、ルーピン先生は「ほーら」とハリー達に見える様に自分の杖をベルトに挟み込んだ。

 

 

「君達には武器がある。わたし達は丸腰だ。頼む、わたし達の話を聞いてくれるかい?」

 

 

 杖を返された3人は訳が分からないと言った表情になった。取り敢えず杖を拾った3人はそれぞれ杖先をパチュリー達に向け、罠かと警戒しつつも、一先ずルーピン先生達の話を聞く事にした。

 そしてルーピン先生とシリウスは、ハリー達に分かりやすい様に、ゆっくりと、1つずつ話し始めた。

 

 ルーピン先生がこの『叫びの屋敷』へ来れた理由。

 

 自分達が『忍びの地図』と言うパチュリーも少し興味が湧いた魔道具の制作者である事。

 

 ロンのスキャバーズが『動物もどき(アニメーガス)』で、変身している魔法使いだと言う事。

 

 その正体がピーター・ペティグリューと言う男で、そいつがシリウスに濡れ衣を着せた事。

 

 ルーピン先生とシリウスは1つずつ説明しながら、時折りハリー達から出される質問に答えて行った。やがて一通りの説明を終えると、ルーピン先生は今度はパチュリーの方を向いた。

 

 

「次は君が話してくれ。わたしも君がどう言った経緯でシリウスの協力者になったのかは分からないからね」

 

「・・・・別に答えても良いのだけれど」

 

 

 パチュリーはそう言うとチラリとルーピン先生の背後の壁の辺りを見た。ハリー達も何かあるのか?と壁の方を向くが、特に何かある訳でも無い。

 

 

「・・・・うん、そうね。先生には悪いけれど、しばらく寝てて貰いましょうか」

 

「ッ!エクスペr「お休みなさい」う・・・ぐぅ」

 

 

 何処からか男の声がしたかと思うと、次の瞬間にはドスン!と言う音が床から聞こえ、パチュリーが見ていた壁の前の床で埃が舞い上がった。

 パチュリー以外の全員が何が何だか分からず固まっていると、パチュリーはその音がした辺りに歩み寄って手を伸ばした。そして何かを掴む動作をすると、そのまま握った手を引いた。

 

 

「ス、スネイプ先生!?」

 

 

 するとそこに眠っているスネイプ先生が現れた。パチュリーの手にはハリーの『透明マント』が握られている。

 

 

「取り敢えずコレ返すわね」

 

「え、あ・・・・どうも」

 

 

 パチュリーが『透明マント』を差し出すと、ハリーはオロオロしつつも受け取った。

 

 

「私がシリウスと初めて会ったのは・・・」

 

「いやいやいやいや・・・ちょっと待ってくれ」

 

 

 まるで何事も無かったかの様に話し始めたパチュリーを、ルーピン先生が止めた。

 

 

「どうかしました?」

 

「いや、『どうかしました?』じゃないよミス・ノーレッジ。色々言いたい事はあるが、取り敢えず・・・・スネイプ先生はいつからここに?」

 

「ルーピン先生がこの部屋に飛び込んで来たすぐ後から」

 

「今の魔法は杖を使わなかった様に見えたのだが?」

 

「簡単な眠りの魔法くらい杖が無くても使える人は居るでしょう?」

 

「よく『透明マント』を着たスネイプ先生が居る事に気付けたね?」

 

「何処かのバカ犬が私が作った『透明マント』でミスした時から常に目と耳に魔法を掛けていたので」

 

 

 そこまで言うとルーピン先生は顔に手を当てながら天を仰いだ。シリウスはそんなルーピン先生の肩をポンポンと優しく叩いた。

 

 

「分かるぞ、リーマス。でも彼女の異常さはこんなものじゃないぞ?」

 

「・・・と言う事は、他にも何かあるのかい?」

 

「ディメンターにも見つからない高性能の『透明マント』を貸してもらった。彼女が作った試作品らしいがな」

 

「他の先生方が彼女を『優秀過ぎる程優秀な魔女』と言っていた意味が今分かった気がするよ」

 

 

 何やら疲れた様子で話す2人をパチュリーはしばらく見ていたが、もう良いだろうと自分とシリウスが初めて会った時の事を話した。小悪魔の事は言わない方が楽だったのだが、既にシリウスが小悪魔が作った料理を食べていた事を喋ってしまったので、なるべく辻褄が合う様にしながら事実を捻じ曲げて話した。

 大きく変えた点として、小悪魔は家から『姿現し』でここへ料理を運び、パチュリーはハリー達が通って来た抜け道を通ってここへ通っていた事にした。そうしないとホグワーツの自室でいつも一緒に過ごしている事がバレて、後々少し面倒な事になりそうだったからだ。扉に掛けた認識阻害の魔法のお陰で、運良く1人部屋だが空きが無いと先生方が勘違いしているのに、これで調べられて別の生徒と同室になるなんて事は避けたい。

 

 

「さて、私の話はこれで終わり。それで?この後はどうするのかしら?」

 

「ネズミを元の姿に戻す。そうすればハリー達も納得するだろう。ロン、ネズミを渡してくれ」

 

 

 ルーピン先生はロンにネズミを渡すよう言うが、ロンはネズミに化けたピーターが入っているポケットを押さえながら、数歩後退った。

 

 

「冗談はやめてくれ!スキャバーズなんかに手を下す為に、態々アズカバンを脱獄したって言うのかい?ネズミなんか何万匹もいるじゃないか!何でスキャバーズだって分かるんだよ!」

 

「・・・確かに、それはわたしも疑問だった。シリウス、君はあいつの居場所をどうやって見つけ出したんだい?」

 

 

 ルーピン先生が問い掛けると、シリウスはローブから例のロンの家族の写真が載っている『日刊予言者新聞』の切れ端を取り出し、それを突き出してみんなに見せた。

 

 

「去年、アズカバンの視察に来たファッジがくれた新聞だ。ピーターがそこに居た・・・見間違えたりしない。こいつが変身するのを何回見たと思う?」

 

「ロン、貴方のスキャバーズ、指が一本足りないわよね?それにクマネズミは普通長くても3年で寿命で死ぬ筈なのに、スキャバーズは何年生きているのかしら?」

 

「ゆ、指は他のネズミと喧嘩したかなんかだよ!寿命だって、僕達がちゃんと世話してたから・・・・!」

 

 

 ロンは青褪めた顔で首を横に振って、意地でも認めようとしない。いや、信じたくない様だった。

 

 

「はぁ・・・時間の無駄ね。ロン、今からスキャバーズの魔法を強制的に解くわ。服をダメにしたくなかったら、今すぐにスキャバーズを渡しなさい」

 

「う、動くな!パチュリー!」

 

 杖を取り出してロンの方へ向けたパチュリーに、ハリー達は一斉に杖先を向けた。

 

 

「・・・・渡すつもりは無いって事でいいかしら?」

 

「幾ら君が相手でも、3対1ならこっちが有利だ!早くその杖を・・・」

 

「『解除』」

 

「「おい!?」」

 

 

 何の躊躇いも無く杖を振ったパチュリーに、シリウスとルーピン先生は驚きの声を上げた。するとロンのポケットが一気に膨れ上がり、ビリビリと音を立てて破れて、色褪せた髪にネズミの様な尖った鼻と小さな目が特徴的な小柄な男がドスン!と音を立てて床に落ちた。

 ハリー達は目を見開いて男から距離を取り、シリウスは殺気立って杖を抜き、ルーピン先生はそんなシリウスの杖を下に降ろさせつつ自分の杖に手を添えた。

 

 

「やあ、ピーター。しばらくだったね」

 

「リ、リーマス・・・シ、シリウス・・・・」

 

 

 ピーターと呼ばれたその男は、キーキーとネズミ声でシリウス達の名を呼んだ。

 

 

「友よ・・・懐かしの友よ・・・・」

 

「この・・・ッ!!」

 

「落ち着け、シリウス!」

 

 

 濡れ衣を着せたくせに自分を友と呼んだピーターにシリウスは今にも飛び掛かりそうだったが、ルーピン先生に止められた。

 

 

「さて、ピーター。君には話して貰いたい事がある。何を聞こうとしているかは、分かるね?」

 

「な、何の事だか・・・わたしにはさっぱりだ。リーマス・・・き、君はブラックの言う事を信じたりしないだろうね?あ、あいつは・・・わたしを殺そうとしたんだ!」

 

「あぁ、そう聞いていたよ。そこで二つ、三つ・・・すっきりさせておきたい事があるんだが、君がもし───」

 

 

 ルーピン先生が続けて話そうとすると、突如としてピーターは叫び出した。自分は被害者だ!シリウスは自分を殺す為にやって来た!シリウスは『例のあの人』のスパイだ!自分は3年間ハリーに手を出さなかった!自分は何もやっていない!金切り声で必死にそう叫ぶピーターは、あまりにも怪し過ぎた。頻繁にこの部屋の出口を見ているのも、怪しさに拍車をかけていた。

 やがて質問と言うより尋問に近い形で話は進み、自分の言葉が全く信用されていないと悟ったピーターは、今度は膝を折ってこの部屋に居る全員に自分を擁護してくれるよう必死に懇願し始めた。

 

 

「ロ、ロン!わたしは良い友達・・・良いペットだったろう?わたしを殺させないでくれ。情け深いご主人様・・・お願いだ・・・君はわたしの味方だろう?」

 

「自分のベッドにお前を寝かせていただなんて!」

 

 

 ロンに拒絶されたピーターは、膝を折ったまま向きを変え、今度はハーマイオニーの方を向いた。

 

 

「優しいお嬢さん・・・賢いお嬢さん・・・貴女は──貴女ならそんな事させないでしょう?助けて・・・」

 

「近寄らないで!」

 

 

 怯えきった顔で壁際まで下がったハーマイオニーを見て、ピーターは止めなく震えながら跪き、ハリーに向かってゆっくりと顔を上げた。

 

 

「ハリー・・・ハリー・・・君はお父さんに生き写しだ。そっくりだ。君のお父さんなら、わたしが殺される事を望まなかった筈だ・・・」

 

ハリーに話し掛けるとは、どう言う神経だ!?どの面下げてハリーにジェームズの事を話してるんだ!?

 

 

 シリウスに怒鳴られて蹴飛ばされたピーターは、悲鳴を上げながら今度はパチュリーの前にやって来た。

 

 

「お、お嬢さん・・・聡明なお嬢さん。貴女は今まで会った魔女の中で1番天才だ。あ、貴女なら、これがどんなに間違っている事か分かるだろう?」

 

「・・・・・」

 

 

 パチュリーは懇願するピーターを見てある事(・・・)を思い出し、ポケットに手を入れて、空間魔法で取り寄せたそれ(・・)をピーターに差し出した。

 

 

「このシール(・・・)を頬に貼ってくれたら、考えてあげるわ」

 

「パチュリー!?何を言ってるんだ!?」

 

「良いから、黙って見てなさい」

 

 

 突然のパチュリーの行動にハリー達は驚きの声を上げるが、パチュリーにそう言われて、一先ずは様子を見守る事にした。

 一方ピーターは余程焦っていたのか、明らかに怪しいその唇のマークのシール(・・・・・・・・・)を喜んで自分の頬に貼った。

 

 

「ほ、ほら!言われた通り貼ったぞ!た、助け『こんな事で助かるなら安いものだ。この娘を味方に付けて、隙を見て逃げ出そう』・・・へ?」

 

 

 突然聞こえて来た自分の声に、ピーターはまるで石化したかの様に固まった。

 

 

ネズミに変身出来さえすればこっちのモノだ。もう日が沈む。森へ逃げ込めばこいつ等は追って来れない

 

 

 ピーターはハッ!として自分の頬を押さえる。その声は自分の頬・・・正確には頬に貼ったシールから(・・・・・)聞こえて来ていた。パチュリーは小さく笑みを浮かべ、ハリー達は驚いた様子でピーターを見ている。

 

 

「パ、パチュリー。この声って、もしかして・・・?」

 

「ご想像の通り、ピーター・ペティグリューの心の声(・・・)よ」

 

 

 そう言ってパチュリーはシートに残っている残りのシールをハリー達に見せた。

 

 

「ウィーズリー兄弟考案の『暴露シール』。顔の何処かにコレを貼ると、貼られた人間の本心や秘密をその人間の声でシールが話し始めるの」

 

「あの2人は何て物を君に作らせてたんだ!?」

 

 

 ロンが自分の兄である双子に慄いている間にも、シールはピーターの心の声を喋り続ける。

 

 

わたしは何も悪くない。わたしはご主人様の命令に従っただけだ。そうしなければわたしが殺されていた。ジェームズ達は自業自得だった。大人しくご主人様に従っていれば良かったものを

 

「あ、あぁ・・・!止まれ、止まってくれ・・・・!」

 

 

 ピーターは何とかシールを引き剥がそうとするが、シールはピッタリと引っ付いていて全く剥がれない。

 

 

シリウスもシリウスだ。大人しくアズカバンでくたばっていれば良かったのに、脱獄してまでわたしを殺しに来るなんて

 

「クソ!クソ!は、剥がれない・・・・!」

 

 

 ガリガリと血が出る程シールが貼られた自分の頬を掻き毟るピーターに、ハリー達は怒りを込めた目を向ける。

 

 

こんな事になるくらいなら、さっさとハリー・ポッターをぶっ殺しておけば良かったなぁ

 

黙れぇぇぇぇぇぇぇぇえ!!!

 

 

 到頭ピーターはシールを自分の皮膚ごと剥がし、床に叩き付けるとドスンドスンと踏み付けた。ボロボロになって行くシールを見て、パチュリーは勿体無いと思った。

 

 

「そんな事しなくても、水を掛ければ簡単に剥がせたのだけど・・・・まぁ、良いわ。一応実験は成功したし」

 

「はぁ・・・!はぁ・・・!な、何て事を・・・!」

 

「それで?貴方達は彼をどうするのかしら?もちろん私は助けるなんて事はしないけど」

 

 

 ハッ!とピーターはハリー達の方を向き、顔を真っ青にしてガタガタと震え始めた。

 

 

「ち、違う!今のはわたしの心の声じゃない!この娘が仕込んだ罠だ!この娘はブラックの共犯者なんだぞ!?」

 

「今更お前の言葉を信じると思ったのか?」

 

「お前は気付くべきだったな。ヴォルデモートがお前を殺さなければ、我々が殺すと」

 

 

 シリウスとルーピン先生が肩を並べて立ち、ピーターに杖を向けた。ピーターは悲鳴を上げて後退り、ハーマイオニーは両手で顔を覆い、壁の方を向いた。

 

 

「ピーター、さらばだ」

 

やめて!!

 

 

 今まさに魔法が放たれそうになっていたピーターの前に何故かハリーが立ち塞がり、杖に向き合った。

 

 

「殺しちゃダメだ。こいつは城まで連れて行って、僕達の手でディメンターに引き渡すんだ。こいつはアズカバンに行けば良い・・・・父さんだって、親友がこんな奴の為に殺人者になる事は、望まないと思う」

 

 

 ハリーの言葉を聞いてシリウスとルーピン先生は互いに顔を見合わせ、それから2人同時に杖を下ろした。

 

 

「ハリー、君だけが決める権利がある。君の判断に従おう。しかし、もしピーターが変身したり、怪しい動きをすれば・・・やはり殺す。いいね?ハリー?」

 

 

 コクリと頷くハリーを見て、ルーピン先生は杖から細い紐を出すとそれでピーターを拘束した。そして拘束した紐の先はルーピン先生とロンが持ち、シリウスが眠ったままのスネイプ先生を魔法で宙吊りにして運ぶ事になり、クルックシャンクスを先頭にみんなで抜け道のトンネルを進んだ。

 

 

「そう言えば、貴方いつからクルックシャンクスと知り合ったの?」

 

 

 瓶洗いブラシの様な尻尾を誇らしげに上げて先頭を進むクルックシャンクスを見ながら、パチュリーがシリウスに聞いた。シリウスはそう言えば話してなかったなと、自分とクルックシャンクスの事を話し始めた。

 

 

「実はまだ犬に変身してホグワーツに出入りしてた時に、すぐに正体を見破られてね。ピーターの事にも気付いていて、私の所へピーターを連れて来ようとしていたんだ。とても賢い猫だよ。ピーターを食べたって思われていた猫があの子だとは思わなかったがね」

 

「へぇ・・・『動物もどき(アニメーガス)』に気付いたのね。今度解剖してみようかしら?」

 

「おいおい・・・」

 

「・・・・・冗談よ」

 

 

 冗談に聞こえないぞとシリウス達はジト目でパチュリーを見た。心なしかクルックシャンクスの足が速くなった気がするのは気のせいだろうか?

 

 

「あぁ、そうだ。ハリー、ペティグリューを引き渡した後の事なんだが・・・・私の汚名が晴れたら、その・・・・一緒に、暮らさないか?」

 

「・・・え?」

 

 

 しばらく歩いていると、思い出したかの様にシリウスがハリーに話し掛けた。

 

 

「知っているかも知れないが、私は君の名付け親だ。つまり・・・君の両親が私を君の後見人に決めたのだ。もし自分達の身に何かあればと・・・」

 

「ダーズリー一家と別れて、貴方と暮らすの?」

 

 

 ハリーは思わず頭を上げて天井から突き出している岩にぶつけた。しかしその顔には笑みが溢れている。

 

 

「勿論、君がこのままおじさん達と一緒に暮らしたいなら、別にいいのだが・・・・」

 

「とんでもない!ダーズリーの所なんか出たいです!住む家はありますか!?僕、いつ引っ越せますか!?」

 

 

 興奮した様子で話すハリーを、シリウスはくるりと振り返って見た。その際スネイプ先生の頭が天井をゴリゴリ擦っていたが、気にも留めない様子だ。

 

 

「そうしたいのかい?本気で?」

 

「はい!本気です!」

 

 

 その返事を聞いてげっそりしていたシリウスの顔が、急に笑顔になった。それから誰も話さずに出口に辿り着き、暴れ柳の根元から地上に出た。校庭は既に日が沈んで真っ暗になっていた。

 

 

「変な真似はするなよ?ピーター」

 

 

 そう脅す様に言ってピーターの胸に杖を突き付けるルーピン先生とロン。これで一件落着だと誰もが思っていると、夜の校庭が一気に明るくなった。全員が慌てて空を見上げると、そこには見事な満月が浮かんでいた。

 突然ルーピン先生の体がブルブルと震え出し、恐ろしい唸り声を上げ始めた。

 

 

「ま、まさか!リーマス!薬を飲んでいないのか!?」

 

「ロン!ルーピン先生から離れて!先生は今日、脱狼薬を飲んでいないんだわ!」

 

 

 ルーピン先生の姿がみるみるうちに変化して行く。身長が伸び、背中は盛り上がり、全身に毛が生え、手は丸まって鉤爪が生えた。顔も口が伸びて牙が生え始めた。

 

 

逃げろ!逃げるんだ!ここは私に任せて!───早く逃げるんだ!!

 

「今日はとことん付いてないわね!」

 

 

 シリウスは黒い犬に変身し、パチュリーは魔法書を開いて構えた。そしてついに────、

 

 

「アォォオオォォォォォンッ!!」

 

 

 狼人間(リーマス・ルーピン)が遠吠えを上げた。




少し長くなってしまいました。


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逃げたネズミと逆転時計

 先に動いたのはパチュリーだった。結界で狼人間に変身したルーピン先生を隔離しようとしたのだが、ルーピン先生は野生の勘によるものなのか、一瞬でその場を飛び退いて結界を躱してしまった。

 

 

「チッ・・・・勘が良いわね」

 

 

 パチュリーは予想以上に素早い動きと鋭い勘をしているルーピン先生に小さく舌打ちをしてしまう。

 パチュリーが使う魔法に限らず、相手を閉じ込めるタイプの結界を張る魔法には、ある共通の欠点がある。それは発動してから実際に結界が相手を閉じ込めるのに一瞬のラグが発生する事だ。更に基本的に目視で座標を指定しなければならないので、熟練の魔法使いなどは相手の視線を読んで簡単に躱す事も出来てしまう。

 

 

(だから基本的に不意打ちで使うのが一番効果を発揮するのだけど・・・・多分、この魔法はもうルーピン先生には当たらないでしょうね)

 

 

 パチュリーが次の手に移ろうとすると、今度はルーピン先生がパチュリーに向かって飛び掛かって来た。パチュリーは防御魔法でバリアを張ろうとしたが、その前に背後に回っていた犬に変身したシリウスがルーピン先生の首に食らい付き、彼を後ろに引き戻した。

 狼人間を相手にするにあたって、一番注意しなければならないのは、彼等に噛まれる事である。彼等の唾液には特殊な成分が含まれていて、噛まれると普通の方法では傷口が塞がらず、失血死してしまう。一応銀粉とハナハッカの混合物を速やかに塗布すれば傷口を塞ぐ事は出来るのだが、更に厄介な事に、彼等の唾液と血液には人間の体を狼人間に変異させるウイルスの様な存在が含まれており、噛まれると傷口から唾液と一緒にそのウイルスが体内に入って狼人間になってしまうのだ。

 それをシリウスも理解しているのか、ルーピン先生が噛みつこうとすると素早く離れ、ルーピン先生を挟んでパチュリーの反対側に降り立った。

 

 

「グルルルル・・・・!!」

 

「分かってるでしょうけど、噛まれない様気を付けなさいよ?」

 

「バウ!!」

 

 

 分かっていると答える様に一鳴きしたシリウスは、再びルーピン先生に背後から飛び掛かった。パチュリーも次の魔法を放とうとすると、背後からハリーの叫び声が聞こえて来た。

 

 

「シリウス!あいつが逃げた!ペティグリューが変身した!」

 

「な!?・・・くっ!」

 

 

 パチュリーが驚いて一瞬視線をハリー達の方に向けるが、すぐさまルーピン先生が襲い掛かって来たので慌てて防御魔法でバリアを張る。ルーピン先生はガリガリと牙と鉤爪でバリアを破ろうとしているが、そんなものではパチュリーのバリアは破れない。

 

 

「貴方達、ちゃんと見張ってたんでしょうね!?」

 

「あいつがルーピン先生の杖を拾って、ロンに何かの呪文を掛けたんだ!その隙にネズミに変身されて、森の方に逃げられたんだ!」

 

 

 チラリとハリー達の方を向くと、倒れてピクリとも動かないロンに必死に声を掛けるハーマイオニーとハリーの姿があった。しかしピーターの姿は何処にも無く、地面にはピーターを拘束していた紐が落ちていた。

 

 

「シリウス!しばらくルーピン先生の相手を頼むわ!」

 

「バウ!!」

 

 

 パチュリーがシリウスに向かって叫ぶと、シリウスは一鳴きして再びルーピン先生に背後から首に食らい付いた。ルーピン先生が怯んでいる内にパチュリーはハリー達の下へ行き、ロンの様子を確認する。ロンは目を半眼に見開き、口はダラリと開いていた。意識は無い様だが、呼吸はしている。

 

 

「・・・・死んではいないわね。ただ気絶してるだけよ。放置してても直に目が覚めるわ」

 

「そ、そう・・・良かった・・・」

 

「問題はピーター・ペティグリューの方ね」

 

 

 ハリー達がホッと息を吐いている横で、パチュリーは魔法書を開くと、探索魔法を発動させた。

 

 

(森にある人間の反応は・・・・2つ?)

 

 

 探索魔法が探知した反応は2つ、それも森の入口付近に並んで止まっていた。片方はピーターだとして、もう1つの反応は誰のものだろうか?こんな時間に森の中を生徒や教師が彷徨いている筈は無い。更にホグワーツ周辺をディメンターが警戒している現在、外部からの侵入者と言う可能性も低い。

 

 

(そもそも何故2人並んで森の入口で動かずにいるのかしら?あの男(ピーター)なら少しでもここから離れる為に走り続けるなりしていそうなのだけど・・・?)

 

 

 疑問に思って探索魔法の精度を上げ、その反応の姿形を調べる。そしてその反応の正体が判明すると、パチュリーは驚いて目を見開いた。

 

 

(ハリーとハーマイオニー(・・・・・・・・・・・)!?どう言う事!?)

 

 

 なんと森の入口に居たのはハリーとハーマイオニーだった。しかしその2人は今パチュリーの隣に居る。ならば偽物かと思ったが、姿形どころか体重や魔力の反応まで、その全てがハリー達と全く同じなのだ。

 ポリジュース薬や魔道具、変身魔法などによる変身ではない。どんなに上手く化ける事が出来ても、その人間の魔力まで全く同じにする事は出来ない。魔力は指紋の様に人によって違いがある。限りなく似せる事は出来ても、全く同じにする事は不可能なのだ。

 

 

(魔法による妨害はされてない・・・となると、今この世界にハリー達が2人ずついる事になる。今の魔法界でそんな事が出来るとすれば・・・・アレ(・・)か)

 

 

 『逆転時計(タイムターナー)』と呼ばれる魔道具がある。時間逆転呪文と呼ばれる特殊な魔法が施された特殊な懐中時計だ。基本的にネックレスに砂時計がついたような形をしており、その砂時計を回転させる事で、1回転につき1時間、使用者は過去に戻る事が出来るのだ。

 

 

(あの魔道具を使えば違う場所に同じ人間が同時に存在する事が出来る。それは理解出来たけど・・・・)

 

 

 ならば何故ピーターは探索魔法の探知に引っ掛からないのか?パチュリーが気にしているのはそこだった。この際、何故ハリー達が魔法界でも貴重な魔道具を持っているのかだとか、何の為に未来から過去に戻って来たのかは、気にはなるが一旦置いておく。

 

 

(私の探索魔法をピーターが魔法で誤魔化せる事はどう考えても不可能。でも杖も持っていない人間が私の探索魔法を掻い潜れる筈が・・・・・人間?)

 

 

 そこでパチュリーは自分の失態に気付き、探知する対象を人間ではなくネズミ(・・・)に変更した。

 

 

「・・・・見つけた!」

 

 

 探索魔法に反応したネズミの数は6つ。その中の1匹だけが、この場から離れる様に今も移動していた。

 

 

(この探索魔法、『動物もどき(アニメーガス)』が動物に変身したら人間としてカウントされないのね・・・)

 

 

 また改良しなければと考えていると、パチュリーの背後からキャンキャンと苦痛を訴える様な犬の鳴き声が聞こえて来た。ハッ!として振り返ると、ルーピン先生が鋭い牙が生えた口を大きく開いて、パチュリーの方へ飛び掛かって来るところだった。

 

 

「あ──っぶないわね!!」

 

ガチン!!

 

 

 咄嗟に飛び退く事でギリギリ躱す事が出来た。どうやら探索魔法に集中し過ぎて防御魔法が疎かになっていた様だ。しかし今ので探索魔法も解除してしまった。

 

 

「グルルルルル・・・・!」

 

「・・・先にこっちを片付けた方が良さそうね」

 

 

 パチュリーがルーピン先生に向き直ると、彼の背後で鼻面と背に深手を負っているシリウスがヨロヨロと立ち上がるところだった。これ以上シリウスにルーピン先生の相手をさせるのは厳しそうだ。

 

 

「シリウス!ルーピン先生は私がどうにかするから、貴方はピーターを追いなさい!まだそんなに離れてないわ!」

 

 

 パチュリーがそう叫ぶと、シリウスは一瞬迷った様子だったが、再び一鳴きするとピーターが逃げた森に向かって疾駆して行った。

 

 

「さてと、ルーピン先生には悪いけど、力尽くで大人しくなってもらうわ!」

 

 

 パチュリーはルーピン先生を囲う様に弾幕を放った。ほぼ予備動作無しで放ったにも関わらず、狼人間の身体能力でその殆どが躱されてしまったが、それでも最後の数発は命中し、ルーピン先生を吹っ飛ばした。

 

 

「土符『レイジィトリリトン』!」

 

 

 フラフラとまだ立ちあがろうとしたので、パチュリーは念には念を入れてスペルカードを発動した。白く輝く魔法陣がパチュリーの足元に展開され、そこからふわりと黄色く輝く弾幕が浮かび上がると、ルーピン先生に向かって次々と放たれた。

 自身に向かって飛んで来る無数の弾幕に気付いたルーピン先生は、最初こそ上手く弾幕の間を縫う様にして躱していたが、途中でランダムな方向に軌道が変わる弾幕を躱し切る事が出来ずに段々と被弾して行き、スペルが終わる頃にはボロボロの状態で倒れていた。

 

 

「・・・・ちょっとやり過ぎたかしら?」

 

 

 狼人間の体は丈夫な毛皮で覆われている為、強めに弾幕を撃ったパチュリーだったが、ピクリとも動かなくなってしまったルーピン先生に流石に心配になり、警戒しながらも近付いて生死を確認する。幸いにも意識を失っているだけで死んではいなかった為、ホッと息を吐きながら落ちていた紐を変身魔法で頑丈な鋼鉄の鎖に変身させ、それを操ってルーピン先生を拘束した。

 

 

「・・・ルーピン先生、今夜は散々だな」

 

「・・・そうね」

 

 

 ハリーとハーマイオニーは、鎖でグルグル巻きにされているルーピン先生を気の毒に思った。死んだと思っていた親友が生きていたが実は裏切り者で、再会したもう1人の親友と捕まえたと言うのに、偶々今日が満月の日で、しかも薬を飲み忘れていたので狼人間になってしまい、裏切り者に逃げられた挙句、パチュリーに意識を失うまでボコボコにされてしまったのだ。間違い無く今日一番運が無かったのは彼だろう。

 

 

「さてと、シリウスはちゃんとピーターを捕まえられたかしら・・・・?」

 

 

 パチュリーが魔法書を開いて再び探索魔法を発動させようとすると、急激に周囲の気温が下がるのを感じた。冷たい風が吹き始め、吐いた息が白くなり、薄っすらと霧まで出て来た。嫌な予感がして空を見上げると、少なくとも100人以上のディメンターが、森の方に向かって飛んで行っていた。

 

 

「どうやら森にシリウスが居る事がディメンターに気付かれたみたいね・・・・」

 

「そんな・・・!」

 

 

 その時、森の方からシリウスの叫び声が聞こえて来た。どうやらディメンターに見つかってしまった様だ。しかも変身が解けてしまっているのか、聞こえて来たのは犬の鳴き声ではなく人間の声だった。

 

 

「・・・ッ!?シリウス!!」

 

「ハリー!」

 

 

 シリウスの叫び声を聞いたハリーは森に向かって駆け出し、ハーマイオニーもその後に続いた。パチュリーも続こうと一瞬思ったが、ここには気を失っているロンとぐっすりと眠っているスネイプ先生がいる。

 

 

「流石に放置は不味いわよね・・・」

 

 

 ディメンターが近くに居る今、この2人を放置して行くと勝手に魂を吸われかねない。森へ向かったハリー達も気にはなるが、ハリーは『守護霊の呪文』を未完成だが使えるし、森には未来から来たであろうハリーとハーマイオニーがいる。その2人がどれくらい先の未来から来たかは知らないが、少なくともディメンターをどうにか出来た事は確かだ。なら特に何かする必要も無いだろう。

 

 

(気にはなるのは、ハリー達が何故未来から過去へ戻って来ているのか?と言う事なのよね。まぁ、恐らく未来で何か不都合な事が起きて、ハリー達はそれをどうにかする為に戻って来たってところでしょうけど)

 

 

 考えられるとすればピーターを取り逃してシリウスが捕まったか、シリウスが死んでしまったと言う可能性。

 

 

(前者ならまだ良いのだけど、もし後者だった場合はかなり不味いのよね・・・・)

 

 

 パチュリーは『逆転時計』に使われている時間逆転呪が、今の魔法界に全く伝わっていない理由を知っている。過去に戻れるのは確かに便利ではあるが、同時に魔法界が思っているよりも遥かに危険な行為なのだ。

 

 

「・・・仕方ないわね」

 

 

 パチュリーはそう呟くと、眠っているスネイプ先生の記憶を書き換え始めた。

 

 

(私は最初から居なかった事にして、スネイプ先生を眠らせたのは・・・そうね、適当にルーピン先生がやった事にしましょう)

 

 

 さらっと自分がやった事をルーピン先生の所為にしながら、パチュリーはスネイプ先生の記憶の書き換えを終える。続いてロンの記憶を同じ様に書き換えて、念の為にルーピン先生の記憶も書き換えた。

 

 

「これで良し。後は・・・・」

 

 

 パチュリーは最後にスネイプ先生に状態異常回復魔法を掛けると、森の入口にある木の陰に転移した。チラリと様子を伺うと、目を覚ましたスネイプ先生が杖を抜いて気絶しているロンを起こしているところだった。

 

 

「・・・問題無さそうね。さてと、ハリー達は何処に居るのかしら?」

 

 

 パチュリーは魔法書を開き、今度こそ探索魔法を発動させた。すると少し離れた場所にある湖の側に、5つの人間の反応があった。湖を挟んで3つと2つに分かれて固まっている。

 

 

(恐らくこの3つの反応はシリウスと今の時間のハリー達でしょうから、こっちの対岸にある2つの反応が未来から来たハリー達か・・・)

 

 

 念の為にネズミの反応も探ってみたが、範囲内に居るネズミはそれぞれ固まって動いていない。最後に確認したピーターの反応の場所とスピードからして、やはり既に探索魔法の範囲外へ逃げてしまった様だ。

 

 

「追いかけたいけど、今はこっちが優先ね」

 

 

 パチュリーは魔法書を閉じると、未来から来た方(・・・・・・・)のハリー達の反応がある場所へ向かった。

 

 

「お願いだから、これ以上面倒な状況にしないでちょうだいよ?」

 

 

 樹々の間を縫う様に進み続けて、後少しで湖に到着するその時、目が眩む程眩しい銀色の光が辺りを照らした。目を細めながら湖の方を覗き見ると、未来から来た方のハリーが杖を構え、『守護霊の呪文』で出した銀色の牡鹿でディメンターを追い払っていた。

 

 

「へぇ?上手く発動出来たじゃない。以前見た時とは威力が桁違いだわ」

 

 

 短期間でこれだけの威力を持った守護霊を出せる様になっていたハリーにパチュリーが少しだけ感心していると、ディメンターは全てハリーの牡鹿に追い払われ、何故かバックビークを連れたハーマイオニーがハリーの元へ駆けて行った。

 

 

「ハリー!何をしたの?何が起きているか見るだけだって、貴方そう言ったじゃない!!」

 

「僕たち全員の命を救っただけだ・・・・ここに来て──茂みの陰に──説明するから」

 

 

 どうやらハーマイオニーは、ハリーがディメンター達を追い払った事に怒っているらしい。ハリーの説明を受けて口をポカンと開け、焦った様子で誰かに見られたかを聞いているところを見るに、どうやら『逆転時計』の持主はハーマイオニーの様だ。

 

 

(そう言えば、談話室でハーマイオニーの授業の時間割が変だと誰かが話してるのを何度か聞いたわね・・・・)

 

 

 大方ハーマイオニーが今年の授業を全部受けたくてマクゴナガル先生辺りに相談したら特別に貸してもらえたのだろう(正解)と予想しながら、パチュリーは未来から来た方のハリー達の元へ歩み寄った。

 

 

「ッ!?パ、パチュリー!?なんで君がここに居るんだ!?」

 

「あぁ、なんて事なの!?誰にも姿を見られてはいけないのに!」

 

 

 近付いて来たパチュリーに気付いたハリー達は、顔を驚愕に染めて慌て始めた。そんな2人を落ち着かせる様にパチュリーは声を掛ける。

 

 

「落ち着きなさい2人共、貴方達が未来から戻って来たと言う事はもう知ってるから・・・恐らくハーマイオニーが持ってる『逆転時計』を使ったんでしょう?」

 

「し、知ってたの・・・?」

 

「使ってるのを知ったのはついさっきだけれどね。まぁ、今はそんな事どうでもいいわ。それより貴方達に幾つか聞きたい事があるのよ」

 

「き、聞きたい事・・・?」

 

 

 恐る恐る聞いて来るハリーからパチュリーは一度視線を逸らすと、対岸で倒れているシリウスと今の時代のハリー達を見て、次にジッとこちらを見詰めるバックビークを見ると、未来から来たハリー達に視線を戻した。

 

 

「単刀直入に聞くわ。貴方達はシリウスが死んだから、過去に戻って来たの?」

 

「ッ!違う!シリウスは死んでない!」

 

「じゃあ貴方達が『逆転時計』を使った時点では、まだ生きてたのね?」

 

「え、えぇ・・・処刑される予定だったけど」

 

「バックビークは処刑されたんじゃなかったかしら?」

 

「うん。でもその前に助けたんだ」

 

 

 パチュリーはそこまで聞くと一旦質問をストップして考え込んだ。険しい顔になっているパチュリーに、ハリー達は気不味そうに互いに顔を見合わせる。

 

 

「・・・・過去の自分達に対して何かしたかしら?魔法を掛けたりとか」

 

「えっと・・・僕は『守護霊の呪文』を使って、ハーマイオニーは石を投げてた。僕にも当たったよ」

 

「それは『逆転時計』を使う前に、貴方達の身に起きた事かしら?」

 

「えぇ、起きてたわ。まさか犯人が私達だとは思わなかったけど・・・」

 

「・・・・なら、問題無いわね。聞きたい事は全部聞けたから、もう行ってもいいわよ」

 

 

 そう言ってパチュリーは湖の岸に沿って歩き始めた。今の時間のハリー達の記憶を書き換える為だ。

 

 

「あ!ちょ、ちょっと待ってよパチュリー!さっきの質問の意味は!?そもそも何で君がシリウスの事を知ってるんだ!?」

 

「気にしなくて良いわ。あ、今回の件で私に関係する事は誰にも喋らないでね?もし喋ったらウィーズリー兄弟が考案したいたずらグッズの実験台になってもらうから」

 

「だからこっちの質問に───!!」

 

「ハリー!これ以上は関わっちゃダメよ!こっちも時間が無いんだから!」

 

 

 まだ何か言いた気だったハリーをハーマイオニーが止めた。どうやら戻った時間はそんなに長く無い様だ。今から大体1〜2時間後からかな?と予想しながら、パチュリーは歩みを進めた。

 

 

う・・・うぅ・・・

 

「良し、ちゃんと生きてるわね」

 

 

 シリウス達が居る対岸に辿り着き、生きている事を確認したパチュリーは、先ず1番近くに居たハーマイオニーの記憶を書き換えと同時に、回復魔法で怪我をゆっくりと回復させて行った。

 

 

(これで未来から来たハリー達は私が怪我の治療をしている様に見えるでしょうね)

 

 

 それから約数十秒程でハーマイオニーの怪我の治療と記憶の書き換えが終わり、今度はハリーの治療と書き換えを始めた。

 

 

(・・・・ふぅ、これでハリーの方も完了───ッ!)

 

 

 また数十秒程でハリーの方も終わり、最後にシリウスの記憶の書き換えと治療を行おうとしたパチュリーだったが、城の方角から聞き覚えのある話し声が聞こえて来たので、急いで近くの木の陰に身を隠した。

 

 

「──から!シリウス・ブラックじゃなかったんだ!」

 

「良い加減にしろウィーズリー!次また我輩に向かってその様な戯言を発したら、貴様の口を縫い付けるぞ!」

 

 

 ガサガサと茂みを抜けてやって来たのは、ロンとスネイプ先生の2人だった。ロンは何故か紐でグルグル巻きにされており、その紐の先をスネイプ先生が握っている。2人は倒れているシリウス達に気付くと、慌てた様子で駆け寄って行った。

 

 

(・・・ここはスネイプ先生に任せて良さそうね。後の事も未来から来たハリー達がなんとかするでしょう)

 

 

 テキパキと生死と怪我の確認を行い、魔法で担架を作って3人を乗せて行くスネイプ先生を見ながら、パチュリーはそう判断した。

 

 

(それにしても、こうも立て続けに面倒事が起こると、流石に疲れるわね・・・夕食も食べ損ねたし)

 

 

 試験で自分と大切な家族が死ぬ未来を見るわ、食料を持って行けばシリウスがタイミング悪くやらかすわ、満月の日なのにルーピン先生は脱狼薬を飲み忘れて暴走するわ、その所為で折角捕まえたピーターは取り逃すわ・・・空腹に加え、こんなにも面倒事が連続で発生すると、流石のパチュリーも疲労を感じた。

 

 

(はぁ・・・早く部屋に戻って、こぁに何か作って貰いましょう。あの子も心配してるでしょうし)

 

 

 小さく溜め息を吐いたパチュリーは、小悪魔に何を作ってもらうか考えながら、空間魔法で自室に戻るのだった。




やっと書けました。逆転時計とか過去とか未来とか色々考えてたら遅くなってしまいました。本当は前回の投稿から1週間前後で書き上げたかったです。


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