勘違いヒーロー、誕生。 (さらだ)
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プロローグ

いきなりこんなことになるなんて、信じられないが、自分の現状を把握してみると、受けいれざるをえない。

 

 

なぜか、体が退行化している。要するに赤ん坊だ。

 

おかしい。昨日までおれは社畜の生活を送っていたはずなのに。

 

まあ、でも、いままでがむしゃらに働いてきたんだし、このニート生活を満喫することにする。あれだ、有給休暇ってやつだ。どうせ、眠って起きたらまたブラック企業が待ちかまえてるんだ。そんなに時間はかからないだろう。

 

だからいま、この状況はおれにとってチャンスだ。赤ん坊引きニート生活を送るとしよう。

 

 

 

 

 

 

なんて、お気楽に考えていたせいか、あっという間に時は流れて、6年。長かったような、短かったような。もうおれは会社をクビになっていてもおかしくない。あるいはブラック企業だったから、告発されて倒産してるかもしれない。

 

この6年、おれは悠々自適に過ごしてきた。わかったことは、赤ん坊も楽じゃないってことだ。赤ちゃんは泣くのが仕事だなんて言うが、おれは泣かなかった。精神は社会人だし。今世の親は手間かからない子でよかったぁ~なんて、言っていた。ただ、オムツの交換やら、いろいろ思い出したくないこともあったが。

 

 

そうしておれはすくすくと育ち、6歳になったわけだ。

 

ということで、そろそろ今世のライフプランを決めなければならない。はやすぎるかもしれないが、この世界はいろいろと懸念事項が多すぎる。今度はホワイトに安全に平和に、そして何より自由に生きる!これがいまのおれの今世の目標だ。

 

様子をみたところ、どうやらここは《海賊》がいる世界だという。以前、町の大人たちが噂しているのを聞いた。海賊なんて、おれが知ってる現代社会じゃ、めずらしい。はじめ、ヨーロッパの大航海時代にタイムスリップしたのかと思った。だか、それにしてはなんだか妙だと気づいた。たしか、《海賊》をモチーフにした漫画があったような.........(遠い目)

 

 

はやくもおれの人生目標が折れそうだ。海賊、とか危険フラグたちまくりだろ。

 

だが、おれは某ジャンプなら熟読している。対応策なら考えられる。ゴムゴムの麦わら少年がひとつなぎの大秘宝目指して暴れたり、冒険するんだろ?

 

.........危険すぎる!!

 

おれは生き残ることできるのか?!

 

 

いま、おれができることは、フラグ回避。そのためには《強さ》が必要だ。鍛練なんて、学生の部活動経験とブラック企業で培ったメンタルしかないが、おれは某ジャンプを熟読しているんだ。その三代鉄則、友情、努力、勝利!!信じるものは救われる!

 

 

よし、やるしかない。

 

 

そんなわけで、おれのセカンド人生の幕があがった。

 

 



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1

あれから4年の月日が流れた。

 

死亡フラグを回避しようと、やれることは出来る限りやった。毎日必死な顔で鍛練する子どもをみて、親はおれを不思議そうにみていた。だが、我が子がやる気を出していることに胸をうたれたらしく、嬉々としておれに《知識》を教えてくれた。

 

後に、何故おれのやる気に感動したのか聞いてみると、「あなたの将来がニートになるんじゃないかと心配してたの」と言われた。たしかにおれはニートみたいな生活を送っていたが.........どうやらおれの今世の親は少々天然気味のようだ。ツナのママさんと気があいそうだな。

 

それで悪魔の実なるものを探してみたが、見つからなかった。それもそのはず。悪魔の実は1億ベリーという値段がつけられるものだ。そう簡単に見つかるわけがない。食べたら、海に嫌われカナヅチになるが、超人的な能力を得られる。怖いもの見たさなのか、ちょっと期待してるので、気長に待つとする。そのうちお目にかかることができるはずだろう。

 

 

かわりにみつかったものがある。それは鍵のようなデザインのものだ。ぐるぐるとした模様で果実を連想させる。はじめは悪魔の実だ!と、テンションがあがった。あがりまくってその勢いで食べそうになった。だが、それは手のひらにおさまるサイズで、例えるならキーホルダーみたいな、小さかった。おれの記憶だと、もう少し大きく漫画でかかれてたような.........まさか、未成熟な悪魔の実なのか?食べたらおなかを壊すかもしれない。

 

さわってみると、プラスチックのような素材だ。手で軽く叩いてみると、コツコツと、音がなる。うん、明らかに食べものではないな。しばらくいじってみると、パカッと開いて、何とそれが鍵の形に変わった。また、もとに戻すとぐるぐるとした模様の悪魔の実もどきになる。

 

よくわからないが、おもしろいしありがたくもらっておこう。

 

そして、鍛練を続けるたびにその鍵を見つけ、(悪魔の実の形は異なっていた)次第にコレクションするようになった。

 

 

そんな生活をしていたある日のこと。おれは親から《宇宙海賊》という言葉を耳にした。

 

宇宙海賊、だと!?

 

まさか、麦わら少年ではなく、甘党天パの主人公の漫画の世界なのか!?

 

《宇宙海賊》ときくと、可愛らしい見た目とは裏腹に巷ではゲロインと呼ばれる美少女のお兄さんの姿を思い出す。

 

............そうか。おれが生きてるのは銀魂の世界だったのか。ボケとかツッコミとか覚えた方がいいのか?いやいや、忘れるな、おれ。【今世は、ホワイトに安全に平和にそして何より自由に生きる!】ことが目標だ。

 

 

関わる、関わらないにしても、銀魂はSFなんちゃって時代劇コメディなんていうが、なかなかシリアスでハードなシーンがあった。おれは某ジャンプを熟読しているからな。銀魂にしても、鍛練をやめるわけにはいかない。友情、努力、勝利だ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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2

先日、おれが集めていた鍵のコレクションのモチーフが新バージョンになった。

 

いつものように鍛練をして、本を読んでいたときのことだ。足をぶらぶらしていたらなにかにぶつかった。ふと、足元をみると、椅子のしたにちいさなミニチュアのフィギアがあった。拾ってみると、妙に見覚えのあるシルエットで、白い。頭の部分がおそらく天パ。まるで坂田銀時のようなフィギアがあった。

 

よくよくできているなぁ~なんて、感心しながらみていたら、やはりこれも鍵に変形した。悪魔の実の次は銀さんですか。次は真選組だったりして。

 

冗談半分で考えていたことが当たった。あれから、銀魂キャラたちのミニチュアフィギアの鍵が集まっている。

 

 

さすがにおかしい。そう思って、おれは14歳になった誕生日に親に聞いてみた。

 

 

まとめると、こうだ。

 

おれが集めていた鍵のコレクションは《ジャンプキー》という宇宙のお宝のひとつのことだ。

 

そして我が家には《ジャンプキー》の力を引き出すための家宝が代々伝わっている。

 

おれには《ジャンプキー》を使う素質があるみたいだから、その家宝を渡す。売ってもいいし、自分の好きなように使ってもかまわない。

 

 

以上である。

 

 

《ジャンプキー》ってなんだ?どういうことだ?

 

ひとまず、渡された家宝とやらをみる。箱を開けてみると、中には携帯電話のようなものが入っていた。うわぁ、なつかしい。スマートフォンが主流になった現代からすると、とても懐かしく感じる。それをながめてみると、鍵穴があった。一度目を閉じて、冷静にする。やはり、鍵穴がある。

 

鍵のコレクションをみて、携帯電話をみて、鍵を指してみた。カチャッと回った。次の瞬間、辺りは光りにつつまれ、おれの姿は黄色い長袖のシャツ、モコモコした帽子、手に握った刀。おれが指した鍵はぐるぐるとしたハートの形の悪魔の実。その悪魔の実の能力者、つまり、トラファルガー・ローのコスプレをしていた。

 

 

ま、まじかよ。おれはトラファルガー・ローになっちゃったよ。.........これは、転生だとか思ってたけど、憑依なのか?だったら、トラファルガー・ローみたいに医者になった方がいいのか?医療知識は覚えていて問題ないし、医学書でも読むか。............(遠い目)おれの愛読書はジャンプにだがな。

 

 

なんてことをお気楽に考えていたせいか。向こうの方から爆発音と叫び声が聞こえる。

 

すると、一人の宇宙人らしき人物が攻撃を指示し、町が炎に包まれていた。

 

 

安全に平和に生きたいおれの前でなんてことをしてるんだ。

 

宇宙人が高圧的な態度でこう宣言した。

 

 

「この惑星は、我々が侵略する!!」

 

 

 

............なんてことだ。

 

 

フリーザ軍だったのか。

 

 

 

ってことは、ドラゴンボールの世界?

 



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3

どうやら、ここは海賊王でもなく、銀魂でもないらしい。

 

宇宙の惑星侵略と聞いたら、フリーザ軍。

 

フリーザ軍といえば、ドラゴンボール。つまりはそういうことだ。

 

なんてこったパンナコッタ。せっかくボケやらツッコミやら考えていたのに。おれのいまの格好はトラファルガー・ロー、そのまんまだ。

 

これではおれが空気読めないヤツじゃないか。聞いたことないが、ドラゴンボールにトラファルガー・ローって出てこないよな?やべーわ。

 

なんて、頭のなかでぐだぐだ考えていても、敵はどんどんこちらに迫ってくる。ひたすら鍛練をしたおかげか、体がスムーズに動く。

 

 

おれがいま、トラファルガー・ローならば、もしかしたらその能力を使うことができるかもしれない。

 

 

「こ、こいつ、しぶとい!攻撃が当たらねェ!!」

 

当然だ。当たったら怪我するし、ローが無様にやられる姿なんて、個人的にみたくない。敵が仕掛ける攻撃をかわしながら、頭のなかで次の動きをシミュレーションしてみる。

 

 

「ルーム」

 

おれがそう呟くとサークルの結界があらわれた。

 

思った通りだ。そのまま刀で相手を切っていく。

 

 

すると、やはりトラファルガー・ローのように相手の体をおもちゃのままごとの食べ物のように切れていく。

 

「な、なんだこれは!?」

 

「一体、どうなっているんだ!?」

 

 

相手が混乱している間にその心臓を文字どおり抜き出していく。この心臓を傷つけないかぎり、どんなに切っても相手は命を落とさない。だが、心臓はいま、おれの手もとにあることを忘れてはいけない。

 

サークルにいる宇宙人の心臓を奪ってニヒルに笑う。

 

「.........さて、心臓どうするか。」

 

 

これ見よがしに奪った心臓をみせる。すると、敵は顔を青くさせ、怯えだした。

 

 

 

 

side〔ある宇宙人の証言〕

 

今回も我々、ザンギャックの勝利だと思っていた。侵略する場所は小さな惑星だ。いま、思えばこのときから油断していた。

 

 

町は炎に包まれ、任務完了だと思ったときだった。あの男は突然あらわれ、風のようなスピードでこの戦場をかきみだした。攻撃をあてようにもあたらない。どうしてだ!?

 

「ルーム」

 

あの男がそういったとき、あたりはサークルのようなものがあらわれた。何が起こったのか現状を把握する 。が、次の瞬間、自身の身体のバランスが崩れた。いや、切られた。文字どおり真っ二つに。だが、息ができる。切られたのに生きているだと?

 

回りをみると、同胞たちが混乱している様子をうかがえた。

 

あの男は口を開いたかと思うと、ニヤリと笑った。ドサドサと積まれた塊、おそらく心臓だ。ハッとして、自身の心臓をみると、くっきりと切り抜かれ、空洞になっていた。イヤな予感がする。男はその心臓の山のひとつをつかみ、言った。

 

 

「.........さて、心臓どうするか。」

 

 

男の声が静かに響いた。

 

 



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4

フリーザ軍が侵略してきて、一時は形成逆転し、おれが勝ったかと思った。

 

だが、やつらはあろうことか惑星そのものを木端微塵にした。自爆である。

 

おれは捕まえた宇宙人の飛行機をもらい、その場を脱出した。それから、しばらくのあいだ宇宙空間を漂流し、別の惑星に到着した。トラファルガー・ローのコスプレもいつの間にかもとにおれが着ていた服に戻っていた。

 

まず、おなかがすいて仕方ないので、食料調達に走る。そして、やはりおれが住んでいた惑星は、消し飛ばされたらしい。おそらく、おれの親も、もうこの世界にいないだろう。そして、おれが住んでいた惑星を襲ったのは、フリーザ軍ではなく、ザンギャックとかいう帝国らしい。ザンギャックってドラゴンボールに出てきたっけ?おかしいな、おれは某ジャンプを熟読しているのだが、聞き覚えがない。

 

 

それから、新聞をみてみると、なんとおれは指名手配されていた。

 

 

〔WANTED トオル 400万ザギン〕

 

なん...だと...

 

これでは平和に過ごせないではないか。変装もしないといけないのか。堂々とまちを歩けないな、こりゃ。

 

記事に書かれているおれは、ものすごい凶悪犯だった。なんでも、ザンギャック帝国に逆らい、心臓をとられた悪魔のような男だとか。手配書に写るおれは、思いっきり悪人顔になっていた。

 

 

 

 

............そういえば、おれ、トラファルガー・ローみたいに斬っていったな。ついでにどういうわけか、おれの故郷の惑星の爆発もおれの仕業になっていた。いやいや、おれ、そこまでやってねーよ。そこに関しては異議あり!新聞にツッコミいれても仕方ない。

 

 

それから、おれは突然一人で生きることになったわけだが。

 

 

いま、おれが持っているのは、ほんの少しのお金と、《ジャンプキー》、それと家宝の携帯電話。

 

家宝といえば、親のことを思い出す。もう少しちゃんと話せばよかったな。せめて、墓はつくって供養したいが、あいにく爆発によって、おそらく宇宙のどこかの星になっているだろう。命日はお酒でも飲んで、空を見上げる日々が続いている。

 

せめて、親の分まで生きなければ。

 

 

 

あれから、数十年が経つ。

 

おれは、医者として惑星を転々と旅している。途中、ザンギャックとかいうやつらの妨害に遭うがそれなりにやっている。そういえば、風の噂でこの世界に地球があることを知った。地球は、いま危機にあるらしい。

 

 

地球でヒーローたちが集まってザンギャックと戦っている。

 

 

え、ここは僕のヒーローアカデミアなのか!?

 

 

 

 



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5

ホワイトに安全に平和にそして何より自由に生きる!

 

 

これがおれのモットーだ。

 

そして、おれの現在はというと............

 

 

指名手配犯。(これ、不本意)

放浪者。(よくいえば、旅人)

ぼったくりの医者。(たまに死の外科医なんて呼ばれる。)

ザンギャックと戦闘。(逃げ回ってるけど、行く先々遭遇する)

 

 

...............これは、果たしていいのだろうか、いや、よくない。(反語)

 

全部、不本意にこうなってしまったんだが。

 

それにぼったくりとはなんだ。たしかに、高額な金額だったかもしれないが、メロン持っていたじゃないか。

 

金の亡者って、そんなつもりはないんだが。惑星から別の惑星の移動って、交通費めちゃめちゃかかるってこと考えたらなー。おれも自分の生活があるし。そして、おれは、失敗しないフリーの医者だって名乗ってる。不本意ながら指名手配されてしまったので、髪も変装のために白髪と黒髪が混じったような、ソフトクリームでいうバニラ&チョコ味をイメージして、染めてもらった。もし、ここがヒロアカの世界ならこれくらい染めても世間に埋もれるはず。逆に普通過ぎる方が目立つ。これならモブAとして過ごせるはずだ。

 

それはさておき。

 

そろそろ地球が近くなってきたので、そのまま地球へ向かおうか。最近はザンギャックとの戦いも気になるし。

 

それに、もともとはというか、前世はおれ地球人だったわけだし。いくらおれが薄情だろうが、外道だろうが、おれにだって情くらいある。思い立ったが吉日。地球へ行こう。

 

 

 

それに、地球のご飯食べたい。(これ、重要)

 

具体的に言うと、コメ!できればコシヒカリがいい。

 

 

 

 

そう思って、地球に降りてきたわけだが、ヒーローの姿がどこにもみえない。

 

どういうことだ?

 

あれ。この世界は、僕のヒーローアカデミアじゃなかったのか?

 

 

おかしいな。ヒロアカって、ヒーローがこれでもかってくらいヒーロー飽和社会の感じがしたんだが。

 

 

 

 

おれの気のせいか?町の様子はいたって普通だ。学生が自転車で登校し、サラリーマンたちが満員電車に乗り込む。高層ビルが立ち並び、車もある。

 

 

じゃあ、バトル漫画じゃなくて、スポ根なのか?そういえば、赤、青、緑、黄色、ピンクの連中の目撃情報がここ最近地球で確認されている。

 

 

ってことは、黒子のバスケか?

 

 

そうだ!ここは地球!某ジャンプもあるはずだ。しばらく読んでなくて忘れそうになるから、また読まなければ。よし、コンビニいくか。

 

 

 

 

side 〔とある宇宙海賊〕

 

地球の空には赤い大きな海賊船が停泊していた。彼らは、《宇宙海賊》だ。だが、同時に《ヒーロー》でもある。それは地球にとってのヒーローなのかときかれると、完全に断言はできない。だが、彼らは、根っからの弱者を襲う悪者ではない。現にいま、彼らは、地球を襲う敵、宇宙帝国ザンギャックと戦闘最中だ。

 

船長のマーベラスとともに、5人のかけ声が響く。

 

 

「「「「「ゴーカイチェンジ!」」」」」

 

ピシッとポーズをとるあたりは海賊というより、ヒーローにみえる。赤、青、緑、黄色、ピンク。それぞれのヒーローユニフォームにチェンジして、サーベルと銃を構える。

 

 

「派手にいくぜ!」

 

マーベラスのかけ声とともに一斉に走り出した。

 

 

 

 



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6

冒険とロマンを求めて、宇宙の大海原を行く若者達がいた。

 

宇宙帝国・ザンギャックに反旗を翻し、海賊の汚名を誇りとして名乗る豪快なヤツら。

 

その名は!

 

海賊戦隊、ゴーカイジャー!

 

 

side 〔勘違いな男〕

 

おれが地球にやって来て1週間が経つ。お米も食べれたし、毎日悠々自適に過ごしている。今日は月曜だから、コンビニ行ってジャンプ買わないといけない。

 

某海賊漫画の続きはどうなったんだろうか。ものすごく気になる。

 

ジャンプを手に取り、レジへ並び、会計をする。

 

うん。誰もが感じる日常の一コマだ。前のカラフル集団の目撃情報は相次いでいるが、あいにくおれ自身はまだみたことがない。おれとしては、早くこの世界を知って、あわよくば傍観的立ち位置に収まりたい。いまのところ、黒子のバスケが有力だが、そこまでバスケ主流ではないから、確信が持てない。

 

おっと。お昼の時間だ。そこら辺のお店にでも入るか。

 

 

スナック・サファリとかかれた看板の店に入る。

 

無難にカレーでも頼むか。

 

お行儀わるいが、カレーを食べながらジャンプを読む。カレーの染みが着かないように注意をはらって、お!今週はギンタマンが巻頭カラーなのか。

 

おれがカレーそっちのけでジャンプに夢中になっていたとき、店内は突然、爆風に襲われた。

 

 

side〔とある海賊ヒーロー〕

 

 

 

宇宙でザンギャックとの戦闘を片付けたあと、地球に降りた、とある海賊たち。

 

腹は減ったけど地球の貨幣を持ってない船長のマーベラスが、ルカに指輪を売らせて金を作ることにした。

 

「あくまで貸しだからね!」

 

むくれるルカに、後ろからハカセは

 

「......絶対に返さないよ、アレ」

 

 

このやりとりで彼らの人間関係やら何やら、一瞬で見て取れる。

 

マーベラスはルカの言葉を聞き流し、ある店に入る。

 

それは「恐竜やカレー」でも「スナック・ゴン」でもなく、「スナック・サファリ」だ。

 

 

偶然にも、勘違いな男、トオルが入った店と同じ店だった。

 

  

カレーを今かと待ち構えるマーベラスに悲劇が襲った。店内が、突然何者かに攻撃された。

 

 

爆風で散った札束を真っ先に拾い集めるルカ。どうやら彼女は、お金が大好きらしい。

 

しかし、それまで余裕綽々だったマーベラスが口を開いた。

 

 

 

「カレーはどうした........」

 

 

食べられなかった事に狼狽の表情を浮かべる。だが、店はぶっ飛んでしまったため、カレーどころの話ではないのは確かだ。

 

様子をみると、どうやらザンギャックの本隊の地球侵攻が開始されたらしい。マーベラス含む一味の5人はアッサリと地球を見捨ててトンズラしようとした。

 

だが、ある一人の男が突然、地面に拳を叩きつけた。みると、地面に亀裂が走っている。

 

 

「ギャーギャーギャーギャーやかましいんだよ、発情期ですか、コノヤロー」

 

 

気だるげな声が響いた。マーベラス、ジョー、ルカ、ハカセ、アイム。彼らがその声の主に視線を向ける。

 

 

男はニヒルに口角をあげながら続ける。

 

 

 

「.........みろよ、これ。

 

 

てめぇらが騒ぐせいでこれ。

 

おれのジャンプが

 

ぐっちゃぐっちゃじゃねーか!!」

 

 

  男の手には、ジャンプであっただろう紙の切れ端がにぎられていた。

 



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7

「.........みろよ、これ。

 

てめぇらが騒ぐせいでこれ。

 

おれのジャンプが

 

ぐっちゃぐっちゃじゃねーか!!」

 

 

突然、爆風が起こった。咄嗟に身を庇い、次にジャンプを探した。ハッと気づいたと同時に理解した。

 

おれの手には、ジャンプだった紙くずがにぎられていた。

 

周りの客が何事かとおれの方を向いた。つい、銀さんみたいな口調になったが、これもおれのジャンプ愛ということで許してくれ。ほら、みんなも水見式だとか、かめはめ波だとか、練習したことあるだろ?.........ないか、おれだけか。

 

 

 

 

どこの誰だかしらないが、なんてことをしてくれる。これではジャンプが読めないじゃないか。............このまま、ここにいるとヤバそうだ。おれの怒りのゲージ的に。カレー代だけおいて退散するか。ほらよ、釣りはいらねぇよ。

 

 

 

 

 

 

 

side マーベラス(ゴーカイレッド)

 

おれはキャプテン・マーベラス 。

 

宇宙最大のお宝を見つけるために旅をしている。

 

宇宙でザンギャックとひと悶着したあと、この地球へ降りてきたわけだ。とりあえず腹がへった。メシだ。ルカの指輪を売って地球の金に交換する。ルカがごちゃごちゃ言ってたが知らん。いまは、メシが先だ。適当に店に入り、カレーを注文する。やっと飯が食える。

 

 

 

と、思ったら、突然、爆風が襲った。

 

ザンギャックか!?

 

この星も奴らに狙われてるってわけか。だが、おれのしったことじゃねぇ。さっさと船へ戻るか。

 

 

「.........みろよ、これ。

 

てめぇらが騒ぐせいでこれ。

 

おれのジャンプが

 

ぐっちゃぐっちゃじゃねーか!!」

 

おれがその場を去ろうとしたとき、客の男が紙くずを握りながら言った。男の足元の地面には亀裂が入っていた。なんて、馬鹿力だ。おもしれぇ。

 

男は、黒い髪だが、一部分は白く染められている。白衣を着ており、医者か学者かなんかだろう。

 

 

おれたちの視線に気づいたのか、男は財布から地球の金を取り出し、乱暴に床に置き、そのまま出ていった。「釣りはいらねぇ」だとよ。きっちりカレー代おいて何いってんだ。釣りも何もきっちり払ってんじゃねーか。釣りはでてこねぇよ。みみっちいんだか、生真面目なのか、地球にも変なヤツがいるんだな。

 

どうせ、もう会うこともない。男のことは一旦忘れ、おれたちは外へ出た。そこではザンギャックが地球人を襲っていた。カレーは食えねぇし、気に入らねぇ。地球のガキたちを襲っていたザンギャックの奴らを倒し、地球の奴らに礼を言われた。「カレーを食い損ねた」から戦ったんだ、お前らはついでに助かっただけだ。

 

 

まさか、店であった変なヤツとこれから長い付き合いになるとはこのときは夢にも思わなかった。

 



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8

地球の町を適当にぶらぶら歩く。いまさらだが、いまのおれって、地球人からみると、異星人ってやつだよな。あるいは宇宙人、あるいはユーマって呼ぶのか?まあ、どうだっていい。

 

人通りの多い道らしく、さっきから何人とぶつかりそうになったことだか………これからあと数年しないうちに歩きスマホ禁止とかいう時代になるんだろうな。

 

それにしても、今日は黒い服着たやつ多くないか?黒いスーツ、黒いセーラー服、黒の革ジャン、黒コート、協会のシスター、SP集団………なんだ、きょうの朝の占いに黒い服ってでたのか?人事を尽くして天命を待つのか?これじゃ、白衣のおれが目立つのだよ。

 

いつのまにか港の方まで歩いてきてしまった。よくみると、自転車に背中を預けた少年がいる。そしてその上の階段の手すりの部分に仁王立ちした黒髪の赤いコートを羽織った青年がバランスよく立っていた。赤コートは勢いよく跳躍し、少年の前に着地した。ピンクのワンピースを着たお嬢さんも彼らの方へ駆けていく。なんか、漫画のシーンにありそうだな。

 

というか、赤コート。おまえ、登場の仕方、少年漫画の主人公かよ。

 

彼らのやりとりを聞いてると、熱い言葉が交わされている。いやあ、リアル少年漫画っぽいな。ジャンプの新連載か?うんうん、青春だなァ。と、思ってる側からザンギャックが出てきた。

 

ちょっといいとこなんだから邪魔すんなよ。ザンギャックと応戦し、(といっても、逃げていただけだが)やっと、彼らの姿がみえた。あれ、人数増えてる。仲間と合流したのか?

 

赤コートは少年に向かい言った。だいぶ、話が進んじまったらしい。展開はわからんが名言が飛び出てきそうな予感がする。

 

「守りたきゃ、別の方法で地球を守れ」

 

「どうやって?」

 

「甘えてんじゃねェよ。そんなの自分で考えろ」

 

 

ん?何々?『地球を守る』だって?悟空も言ってたな。「地球のみんなァ!おらに元気をわけてくれー!!」って。

 

王道漫画にありがちな設定だが、おれはジャンプでさっきみたいなシーンみたことない。日常でする会話じゃない。『地球を守る』って。ここは新連載枠か、はたまた読み切り枠か。だが、このカラフルな五人組はこの世界でキーパーソンな気がする。おれのサイドエフェクトがそう言ってる。……なんてな。

 

 

 

お。もうこんな時間か。じゃ、ザンギャックは任せた、カラフル五人組!

 

 

 

 

side アイム(ゴーカイピンク)

 

わたくしたちは海賊船こと、ゴーカイガレオンにいます。ザンギャックは、艦隊司令部を設置したようで、この星の地球の人々の安全な暮らしが守られ、平和を維持できるのか大変気がかりです。そうこぼしたわたくしにジョーさんは、「それはこの星の人間が考えればいい」と言いながら、トランプを並べ、ルカさんもジョーさんに賛同し「あたしたちはお宝探しをどうするかよねー」と、早くもお宝のことで頭がいっぱいのようです。ルカさんらしいといえば、そうなのですが………

 

マーベラスさんが鳥のナビィにお宝の居場所を探すように指示します。

 

「Let's お宝ナビゲート!」

 

ナビィはそう言ったかと思うと、天井に頭をぶつけ、☆をちかちかさせながら

 

「黒い服を着た人間が、いいことを教えてくれるぞよ……ってなかんじー」

 

と、曖昧で漠然とした答えを言いました。手がかりはほかにないので、黒い服をお召しになった方を探すことになりました。

 

ですが、この星の方たちは黒い服の方が多くいらっしゃって、どなたに聞けばよいのかわかりません。すると、一人の黒い服の少年がわたくしたちに声をかけてきました。なんでも、お宝のありかをご存じのようで………

 

少年はマーベラスさんのレンジャーキーを取って逃げてしまいました。マーベラスさんも「あのガキ、とっ捕まえてギタギタにしてやる!」とその後を追います。待ってください、マーベラスさん!ギタギタにしてはだめですよ!

 

「おまえ何でついてきてんだ」

 

「心配なのです。あなたがあのこをどうするのか」

 

「……おまえ、おれをなんだと思ってるんだ」

 

「わからないからついてきたのです」

 

「………すきにしろ」

 

 

やっと少年をみつけ、マーベラスさんはレンジャーキーを返すように言いました。少年はレンジャーキーを握りしめ、反論しました。

 

「あんたら、地球を守る気ないんだろ?これはもともと地球のものだ。地球を守るために使われるべきなんだよ!」

 

「それが地球のものだろうが、なんだろうが、今はおれのものだ!おれが命の恩人から預かって約束を果たすためのな」

 

話を聴くと、少年はレジェンド大戦で身内をなくしたらしく、ザンギャックと戦いたいそうです。少年はザンギャック相手に立ち向かいますが、やはりやられていしまいました。まったく、マーベラスさんも無茶なことを言います。

 

「守りたきゃ、別の方法で地球を守れ」

 

「どうやって?」

 

「甘えてんじゃねェよ。そんなの自分で考えろ」

 

マーベラスさんは少年に問います。

 

「おい。この星に守る価値はあるか?」

 

「ある!ぜったい」

 

「どこにある?」

 

「……どこにでもあるよ。

 

海賊なら、自分でみつけろ!」

 

「………なるほど。じゃあな」

 

 

少年の言葉にわたくしは、自分の故郷を思い出しました。もしかしたらこの地球もわたくしの故郷のようにザンギャックに滅ぼされるのかもしれません。このレンジャーキーには、地球の人々の思いがこもっているようですね。

 

 

 



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9

魔法、それは聖なる力

 

魔法、それは未知への冒険

 

魔法、そしてそれは勇気の証!

 

溢れる勇気を魔法に変える!

 

 

魔法戦隊、マジレンジャー! 

 

 

 

 

 

side 〔勘違いな男・トオル〕

 

岩場におれは追い詰められている。

 

ちょっくら散歩に行くかと、出掛けた矢先、ザンギャックにみつかり、逃げ回った。おれは極力、街中で《ジャンプキー》を使いたくない。だって目立つだろ?ホワイトに安全に平和に生きるためだ。

 

付近に人がいなくなったのを確認して、家宝の携帯電話を取り出す。この携帯電話、正式名称《モバイレーツ》っていうらしい。鍵穴に《ジャンプパイレーツ》の鍵を差し込む。ジャンプパイレーツとは、ジャンプのシンボルマークで、みなさんお馴染みの海賊マークのことだ。

 

 

数秒もしないうちに、おれは黒いヒーローコスチュームに変身した。しばらくザンギャックを叩きのめす。(おそらくこいつらは下っぱだろう)

 

みると、おれを囲むように周囲に敵が倒れている。やめろ。これじゃ、おれが悪者じゃないか。いや、いまのおれこそおたずね者か.........(遠い目)

 

「あ!」

 

いつぞやのピンクのワンピースのお嬢さんと視線があった。

 

「どうした、アイム」

 

ブルーのジャケットの男がピンクのお嬢さんに聞く。

 

「あの方......黒い服をお召しになられています!」

 

「ラッキー!これで宇宙最大のお宝ゲットね!」

 

黄色いジャケットの勝ち気な目をした女が獲物を狙うがごとくおれをみる。ブルーの男も同様だ。

 

.........おれの【なんかヤバイレーダー】が反応している。絶対こいつら厄介事運んできそうな気がする。

 

ん?《ジャンプキー》があるじゃないか!!取りに行きたい。ならばこいつらの注意を他所に向けないと。おれがグタグタ考えてる間に赤コートと緑も来た。

 

 

「「「「「ゴーカイチェンジ!」」」」」

 

 

へ、変身したんですけどォォォ!!おい、おれのこと忘れてるよね?引き留めといてわすれちゃってるよね?

 

 

彼らは懐刀をごそごそと探り、《ジャンプキー》に似た鍵をモバイレーツに差し込んだ。え、おまえらも持ってんの、モバイレーツ!?

 

 

「「「「「ゴーカイチェンジ!」」」」」

 

 

彼らは《マジレンジャー》とかなるやつらにフォルムチェンジしたらしい。ところでおまえらのモバイレーツって家族割ですかァ!!?

 

辺りに着信音がなる。

 

緑が「新しい魔法だ!」と声を弾ませ、ピンクが「メールでくるのですか」と感心している。

 

魔法ってファンシーだな、オイ。

 

 

だがな、

 

 

諦めないのがおれの魔法だ!!!

 

やつらが夢中になっている間に五葉のジャンプキーを回収した。

 

 

 

side ハカセ(ゴーカイグリーン)

 

いやー、いきなりひどいめにあったよー......やっぱりザンギャックを怒らせたからだよ。幸い、ゴーカイガレオンは大丈夫そうだし、今日のところはおとなしく退散した方がいい。

 

って、またザンギャックだ!

ゴーカイチェンジ!

 

 

 

 

うまく戦ってたけど、ザンギャックによる爆発でぼくの意識は遠ざかっていった。

 

 

「おい。起きろ、ハカセ」

 

マーベラスの声で意識がもどった。辺りは木が生い茂っていて、ぼくは森の中で倒れていた。たぶん、ザンギャックの爆発で飛ばされちゃったんだ。

 

「ザンギャックが来るとは予想外だったね」

 

声が聞こえた。森の中に人影がみえる。「だれだ」と、マーベラスが声の方へ向く。

 

 

「魔法を忘れた魔法使いさ......」

 

 

黒い服を着た男だった。ナビィが「黒い服を着た人間がいいことを教えてくれるぞよ」と言っていたのを思い出す。

 

「もしかして、君が宇宙最大のお宝を知っている人?」

 

「あぁ。知ってるよ」

 

マーベラスも口角をあげて「マジか?」と確認する。男も「マジだよ」と言い、木から飛び降りた。

 

男はぼくたちがまだスーパー戦隊の力を半分も使いこなせてないと言い、彼を変身をしないで捕まえることになった。待って!マーベラス。

 

「ザンギャックの罠かも。ちゃんと調べて確証を掴んでからじゃないと、ぼくは動くべきじゃないと思う。」

 

すぐに男を追いかけようとしたマーベラスの肩を掴み、引き留める。マーベラスは「......なるほど」と、ちゃんと頷いて、ぼくの意見が聞き入れられたかと思ったら......ニヤリと笑って、「じゃあな」と行ってしまった。えぇ!待ってよぉ。とりあえず、ルカとジョーとアイムに連絡しないと......!

 

 

男に追い付くと、ぼくとマーベラスは火に囲いこまれた。

 

ぼくは完璧に計算してやるのは得意だけど、確証がないのはこわくて勇気がだせない。だから、火の中を突き進めないって言ったら、

 

 

「言いたいことはわかった。

 

おれを信じろォ!」

 

マーベラスに投げ飛ばされた。うわぁぁぁ。だ、大丈夫だった......「だろ?」でもマーベラス、投げることはないじゃないか......

 

追い詰めたとおもったら、崖の向こう側に男がいた。こわい。ムリだよ。あろうことか、マーベラスは助走をつけて飛び越えようとした。途中、邪魔が入って、マーベラスは宙ぶらりんになっている。サーベルで身体全体を支えていた。マーベラス!!大丈夫!?

 

「おれは大丈夫だ。それよりアイツを捕まえろ。さっきのおれみたいにやりゃいいんだ」

 

「ダメだよ。ぼくにはそんな勇気、ない。」

 

「なくても出せ!宇宙最大のお宝のためだぞ」

 

下をみると、波が強く打ち付けている。や、やっぱりぼくにはダメだよォ。向こうの崖をみると、マーベラスの上の岩が崩れそうになっている。このままじゃ、マーベラスが危ない!!

 

ぼくは竹を切って、それを棒高跳びのように支えにして飛んだ。銃で岩を粉砕し、きれいに着地は決まらなかった。うわぁぁぁ。

 

ガシッとぼくの手が握られた。

 

「不思議な海賊だね、きみは。宝物じゃなくて、仲間のために勇気を出すなんて。」

 

た、助かった......

 

「試したかいがあったよ。

 

 

勇気。それが魔法で戦うマジレンジャーの本当の力なんだ。

 

いまの君なら、マジレンジャーの大いなる力を引き出せるよ」

 

勇気が力?

 

「34のスーパー戦隊の大いなる力を全部引き出せば、きっと宇宙最大のお宝は手に入るよ」

 

男にマジレッドの面影がみえた気がした。いうや否や男は忽然と姿を消した。

 

 

マーベラス、ジョー、ルカ、アイムも合流していたら、ザンギャックが攻撃をしてきた。

 

みんな、ドーンといくよ!

 

マージマジ ゴーゴーカイ!!

 

 

ぼくらはマジレンジャーの大いなる力を使って、ザンギャックを倒した。それで、ぼくは森で出会った黒い服を着た男の話と、大いなる力のことをみんなに話す。

 

「そうですか。ハカセさんが黒い服の方を。.........では、わたくしが見つけた黒い服の方は何だったのでしょう」

 

まさかアイム、怪談話で怖がらせようとしてる?ふふん!今日のぼくは《勇気》があるから大丈夫!ドーンとこい!

 

 

 

.........や、やっぱりこわいや。

 

 

 



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10

S.P.D.

 

S PECIAL. P OLICE. D EKARANGER.

 

 

燃えるハートでクールに戦う5人の刑事達。

 

 

彼らの任務は、

 

 

地球に侵入した宇宙の犯罪者達と戦い、

 

 

人々の平和と安全を守ることである!

 

 

 

 

 

side 〔勘違いおたずね者・トオル〕

 

朝、起きて何気なく朝刊をみると、何かチラシが挟まっていた。ほぉ、今日はたまごがお買い得か.........何枚か、チラシをみていると、【WANTED】と書かれた紙がひらりと落ちる。

 

 

【WANTED トオル 450万ザギン】

 

.........おれの手配書が更新されていた。(地味に。)

 

それでも、いまのおれは安心だ。なぜなら、地球にいるから!宇宙からみると地球はすごい辺境の星で、分かりやすくいうと田舎ってやつだ。だから、こんなところまで追いかけてくるやつはいないだろう。警察だって暇じゃない。懸念するなら、物好きな賞金稼ぎぐらいだが、わざわざ高い交通費を払って地球まで来るヤツはそういない。よほどおれにうらみがあるなら話は別だが。

 

そう結論付けて、おれは堂々と町を散歩することにした。手配書は隠すようにおれの懐刀にしまった。

 

あのカラフル5人のバカはどこにいる!!おっと、今朝の手配書のせいか大原部長の口調になってしまった。おれの見立てでは、あのカラフル5人組がこの世界を知るためのキーパーソーン。.........なハズだ。

 

ちょっと休憩するか。昼間からベンチでごろごろしていたせいか、おまわりさんに職質された。いまのおれって一応、医者だが、あいにく今日は医師免許を忘れてきた。言葉につまったおれは、その場をごまかそうとしたが、それが逆に怪しくみえたらしくドナドナされた。

 

 

とりあえず身分証明するためにこっそり《ジャンプキー》を使った。選んだジャンプキーは、我らがお巡りさんの両さん。眉毛はつながつていて、下駄を履いている。両さんのコスプレだな、こりゃ。正真正銘、警察手帳をこれ見よがしに見せる。ジャンプに警察官いて助かった。同胞だと思いこんた警察官はすんなりおれを解放した。ふっ。伊達に宇宙を放浪したわけじゃない。

 

おれが警察署から出ていこうとしたとき、見覚えのある赤コートがいた。

 

「......失礼。地球では、警察にはじめてきたとき儀式としてこんなポーズをとっていただくことになっているのですが」

 

黄色いラインのジャケットの女性は両腕を合わせて前に向けて、赤コートに言った。おかしいな。おれ、そんな儀式知らねぇけど。.........この世界じゃ常識なのか?

 

「こうか?」と、赤コートはその真似をする。すると、女性は手錠をとりだし、ガチャンと赤コートにかけた。

 

「キャプテン、マーベラス。諸々の海賊行為で逮捕よ」

 

 

宇宙警察だったのかよ。で、あのカラフル5人組は宇宙海賊だってわけか。賞金首の。ほぉ。だが、彼らはトラブルメーカーなようで、警察相手に逃走を図った。おいおい。ここで暴れてくれるなよ。

 

 

 

おれがトンズラこいた先には文字どおり犬のお巡りさんと赤コート、それにどういうわけかザンギャックがいた。もしかして、おれ詰んだ?

 

 

ええい!悩んだって仕方ない。悩んだら、【生きるモード】に切り換えてスタートだ。それからどう生きるか探せばいい。

 

 

 

 

 

 

 

side ゴーカイジャー

 

ここはゴーカイガレオン。宇宙海賊ゴーカイジャーの船だ。ジョーはトレーニングをし、ルカは今朝の新聞を広げて言った。ルカの表情は生き生きとしている。

 

「あたしたちの賞金、大幅アップだって!5人合わせて330万と100ザギンだったのが、なんと、675万1000ザギン!」

 

「あらまぁ、一気に羽上がりましたね」

 

「呑気だなぁ、もう!これからますます狙われるよ」

 

おっとりした口調のアイムに顔を青くさせたハカセはそれを咎めた。

 

「のぞむところじゃねぇか。おい、鳥。お宝ナビゲート」

 

マーベラスは椅子から立ちあがり、リンゴをかじり言った。

 

「だから鳥っていうな!

 

 

Let's お宝ナビゲート!そなたたち、探し物なら警察に行けばいいぞよ~......だって!」

 

 

ナビィは頭を天井にぶつけ、そう告げた。

 

「警察......?」一同が困惑するなか、マーベラスはリンゴをかじりながら、口角をあげた。

 

 

マーベラスは、警察署につくなり、宇宙最大のお宝を一人の警察官に聞いた。だが、彼は運が悪かった。その警察官は手にしていた手配書とマーベラスが同じ顔だと気がついた。そんな二人に隣にいた背中に【S.P.D.】とロゴされた黄色いジャケットの女性が近づいた。

 

「......失礼。地球では、警察にはじめてきたとき儀式としてこんなポーズをとっていただくことになっているのですが」

 

女性は両腕を合わせて前に向けた。

 

「こうか?」と、マーベラスはその真似をする。すると、女性は手錠をとりだし、それをマーベラスにかけた。

 

「キャプテン・マーベラス。諸々の海賊行為で逮捕よ」

 

女性はS.P.D. つまり宇宙警察だった。

 

「全員、逃げるべし!」

 

ルカの合図でマーベラスたちは逃走を図った。

 

 

マーベラスが逃げた先には宇宙警察の地球署、署長、ドギー・クルーガーがいた。犬の姿をしているが、彼はアヌビス星人、鼻が利く。マーベラスを拘束したが、彼らはザンギャックの企みに気がつき、一時休戦とした。

 

 

そこに眉毛が繋がった男が下駄の音をさせながら姿を表した。

 

 



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11

目の前には犬のお巡りさん。(宇宙警察)

その横には赤コート。(巷で噂の宇宙海賊)

そしてザンギャック。(地球侵略か?)

 

この三つ巴にどういうわけか、おれが出くわしてしまった。正直にいって、いますぐ、Uターンしたい。

 

そうは問屋がおろさない。ハイ。何々、地底ミサイルだって!?何、物騒なモノもってんだ。ザンギャックのやつらを赤コートと宇宙警察にまかせ、おれは地底ミサイルの解除にとりかかった。

 

 

 

ジャンプキーは変身したキャラの力を引き出すことができる。たとえば、ローだったら、オペオペの能力者になれる。だが、当然そのキャラの性格もおれに少し乗り移るといったらいいのか?多少影響が出る。だから、両さんになると大抵おれの財布はスッカラカンになっている。

 

 

だが、両さんは競馬やパチンコなどのギャンブルに麻雀、ゲームやプラモデル作りなど多岐にわたり、それらはプロ級の腕前だ。かくいうおれのマニア知識はこち亀きっかけだ。サブカルチャーに異様に詳しい。

 

おまけに手先も器用で何でもこなす。これは流行にも敏感であり、パソコンや携帯電話、最新の家電事情などにも精通している。

 

 

よって、この地底ミサイルも両さんの手にかかれば問題ない。

 

普通の一般人なら地底ミサイルを前にしたら大抵おののく。

 

だが、いまのおれはこち亀の両さんだ。

 

人間離れした身体能力と生命力の持ち主であり、自転車で自動車を追いかけ回したり、常人だったら普通に死んでいそうな目に遭っても絶対に死なない。死亡フラグもなんのその!ギャグ漫画だからこその、このクオリティ。さすがフリーザと対峙したキャラだ。

 

無事にミサイルを解除したおれは宇宙警察に礼を言われた。ついでにそいつの手当てもしておいた。たまには慈善事業だ。一日一善!彼らが不思議そうにおれをみるから、「ばかを言うな。おれは腐っても医者だ」と、言った。まったく、失敬なやつらだな。

 

 

「いいってことよ。」

 

礼を言われ、ヘラリとおれが右手をあげると、一枚の紙がひらりと犬の宇宙警察がそれを拾った。

 

「......な、これは。手配書じゃないか!」

 

うげ。ばれちまった。観念して、両さんのジャンプキーをとき、いつもの白衣に戻った。

 

「この手配書は【トオル】だな。こいつの悪名は宇宙に知れ渡っている。数年前から姿が確認されていないが。......おまえがそうだな?」

 

「.........だったらどうする?」

 

ほぼ確信した口振りでおれに言う。だから、おれも挑発的に答えた。

 

 

 

「逮捕する!」

 

 

 

えぇぇぇぇ!!!さっき、そこの赤コートは逮捕しなかったじゃないか!おれもザンギャックの濡れ衣だァ!!

 

おれが反論しようとすると、バンという宇宙警察がこう言った。

 

「【死の外科医】トオル。懸賞金、450万ザギン。シュウエイ星出身。故郷をザンギャックに侵略され、爆破された。そして、ザンギャックにより、指名手配される。」

 

うん、そうそう!ザンギャックがおれの故郷を潰したんだ。

 

「......だが、不法な医療行為。具体的には高額な医療費請求。他人の心臓を奪い、恐喝。器物損壊。その他諸々、いろいろ出てきた。」

 

な、なんだとォォォォォォ!!

 

そりゃぁ、ジャンプキー手に入れてハッチャケた覚えはある。.........調子のってました。ハイ。でもな!それらほとんどはザンギャック絡みだ!!

 

おれに手錠がかけられようとしたとき、赤コートが声をあげた。

 

 

 

 

 

 

 

 

side マーベラス (ゴーカイレッド)

 

宇宙警察と一時休戦して、ザンギャックの企みを阻止することになった。やつらは地底ミサイルを発射させようとしてる。だが、そうはさせねェ!

 

眉毛が繋がった警官の男がおれたちに「ザンギャックどもは任せた!」と言い、地底ミサイルを解除し始めた。オイ。おまえ、下がってろ!

 

だが、男はものすごいスピードで解除した。凄まじい集中力だ。おまけに宇宙警察のけがをみつけるなり、手当てし始めた。とんだお人好しだ。宇宙警察も驚いて男をみる。その顔には「何故」とかかれているようだった。

 

「ばかを言うな。

 

おれは腐っても医者だ」

 

そいつのまっすぐした眼差しは気に入った。

 

 

 

デカレンジャーというスーパー戦隊の大いなる力を手に入れたおれたちはその力を使い、ザンギャックを倒した。

 

おれたちの逮捕はしないらしい。おれたちの指名手配はザンギャックによる捏造だったことが明らかになった。

 

宇宙警察に礼を言われ、「いいってことよ。」と、ヘラリと男が右手をあげると、一枚の紙がひらりと舞う。宇宙警察がそれを拾い、驚愕の顔を浮かべている。

 

「......な、これは。手配書じゃないか!」

 

男は観念した様子で白衣の姿に変化した。

 

「この手配書は【トオル】だな。こいつの悪名は宇宙に知れ渡っている。数年前から姿が確認されていないが。......おまえがそうだな?」

 

「.........だったらどうする?」

 

【トオル】?何処かで聞き覚えがあるな。それに、あの白衣、見覚えがある。

 

 

 

「逮捕する!」

 

 

 

白衣の男が反論しようとすると、デカレンジャーのバンがこう言った。

 

「【死の外科医】トオル。懸賞金、450万ザギン。シュウエイ星出身。故郷をザンギャックに侵略され、爆破された。そして、ザンギャックにより、指名手配される。」

 

.........こいつ、賞金首だったのか。お人好しの地球人じゃねぇのか。

 

 

「......だが、不法な医療行為。具体的には高額な医療費請求。他人の心臓を奪い、恐喝。器物損壊。その他諸々、いろいろ出てきた。」

 

 

.........なんだ、ヤブ医者か。

 

白衣の男に手錠がかけられようとしたとき、脳裏に宇宙警察の手当てをした男が浮かんだ。思わず、おれは声をあげた。

 

 

「こいつはいまからおれの仲間だ!」

 

 

「えぇぇぇぇ!!!」

「マーベラス、ちょっといきなり......!」

「まぁ」

「......ほぉ」

 

「おれたちは宇宙海賊だ。ほしいものは自分の手で掴む。だから、引いてもらおうか。宇宙警察」

 

「.........そいつは全宇宙に悪名が知れ渡っている凶悪犯だ」

 

 

ルカやハカセの顔が青くなる。が、関係ねェ。

 

「おれは、こいつを気に入ったんだ。邪魔するヤツは容赦しねェ。」

 

 

おれは白衣の男の肩に腕を回した。白衣の男、トオルはおれにニヤリと笑った。

 

「ばか言うな。手を組むだけだ」

 

 



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12

おれはカラフル5人組もとい、ゴーカイジャーとやらの船(ゴーカイガレオンっていうらしい)にいる。

 

赤コートのマーベラスが船長らしい。おれの肩に回しながら、改めて船員に告げた。

 

「おまえら!こいつはトオル。今日からおれたちの仲間だ」

 

 

「.........だから、手を組むだけだって」

 

おれは眉間に皺を寄せながらマーベラスの腕をはらった。

 

「まぁ。歓迎します。わたくしはアイムと申します」にこやかに会釈する、ピンクのお嬢さんこと、アイム。

 

 

「......ほぉ」と、顎に手を添えながらブルーのジャケットのジョーがちらりとおれをみる。

 

「えぇぇぇぇ!!!マーベラス!そいつ凶悪犯なんだよ!?」

青白い顔でマーベラスの背に隠れるのはくるくるな金髪のハカセ。

 

「たしかに。アンタ、賞金首なんでしょ?ま、お互い様だけど」手配書をみながらおれを警戒するルカ。

 

 

.........ほら、こうなる反応だよね!普通は!!

 

もしも、ifの仮の話だ。おれがこの海賊の一味に、つまりゴーカイジャーになったら.........

 

 

 

ぽわんぽわんぽわん......【想像】

 

 

 

 

海賊戦隊 ゴーカイジャー。

 

いまや特撮ヒーロー数は100を越え、全シリーズ35連覇を誇る、超ヒーロー戦隊たち。その輝かしい歴史の中でも、特に最強と呼ばれ、無敗を誇った10年に1人の天才が5人同時にいた世代は、奇跡の世代と言われている。

 

が、奇跡の世代には奇妙な噂があった。誰も知らない、対戦記録もない。にも関わらず、天才5人が一目を置いていたヒーローがもう1人。

 

 

幻のシックスマンがいた、と…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちょっと待て。wait!

 

おかしいだろ。どこの黒子のバスケだよ。何、さらっとおれメンバーに数えられてんの?

 

「ほら、君たちの船長なんだろ?これの暴走を止めるのが君たちの役目だろ?」

 

 

 

「ごちゃごちゃうるせぇ!おまえもだ、トオル。」

 

マーベラスが仲間を説得させるらしい。だが、そうはさせん。

 

「さっきの宇宙警察のときは助かった。礼を言う。だが、何故おれが仲間になる必要がある?」

 

おれはそれに先手を加えるようにマーベラスに畳み掛けた。

 

「理由なんてどうだっていいだろ。.........強いていや、おれの勘だ」

 

勘かよ!適当だろ。そこは嘘でもいってくれ......

 

 

「名前は?」

「トオル」

 

「出身と経歴は?」

「シュウエイ星。たしか14か15の頃に指名手配された。それからはいろんな星を転々と旅して、米の匂いにつられてズルズルと地球に居座ってる。」

 

「へぇ。お米好きなんだ。じゃ、特技は?」

 

ハカセから面接を受けてる。ハカセは鉛筆を走らせてメモしている。試験官みたいだ。とちょっとこの状況に笑った。なんか、就活思い出す。なんとなく入った企業がブラックだったから、そのあとが大変だったなぁ。............

 

 

 

特技......う~ん。

 

人様に胸を張って誇れるものなんてない。でも、おれは《ジャンプキー》を使って、ジャンプキャラの力を引き出せることができる。たとえば、ローのオペオペの能力で心臓とって、.........アレ?つまり、それらを総合的に言うと......

 

 

「暗殺、だな。」

 

 

おれ、だいぶヤベーやつだった。

 

 

 

 

side ジョー (ゴーカイブルー)

 

マジレンジャー、デカレンジャーの大いなる力を手に入れたおれたちは、新たな仲間ができるらしい。そもそも、マーベラスが勝手に連れてきた、いや、宣言したのだが。

 

 

 

マーベラスがトオルの肩に回しながら、改めておれたちに告げた。

 

「おまえら!こいつはトオル。今日からおれたちの仲間だ」

 

 

「.........だから、手を組むだけだって」

 

トオルは眉間に皺を寄せながら、ムッとした顔でマーベラスの腕をはらった。

 

「まぁ。歓迎します。わたくしはアイムと申します」にこやかに会釈するアイム。相手が何者だろうが、その敬語は変わらないんだな。

 

 

おれは「......ほぉ」と、顎に手を添えながらちらりとトオルをみる。

 

「えぇぇぇぇ!!!マーベラス!そいつ凶悪犯なんだよ!?」

青白い顔でマーベラスの背に隠れるのはハカセ。

 

「たしかに。アンタ、賞金首なんでしょ?ま、お互い様だけど」手配書をみながらトオルを警戒するルカ。

 

まあ、【トオル】といえばその悪名は全宇宙に通じる。親が云うことをきかない子どもに「わるい子は【トオル】に心臓を獲られる」と言い聞かせるくらいだ。.........目の前のやつからは想像もできないが。

 

「ほら、君たちの船長なんだろ?これの暴走を止めるのが君たちの役目だろ?」

 

目の前にいるこの少年のような男は呆れたとでも言いたげにおれたちをみた。ふん。マーベラスはおれたちが口に出したところで考えを曲げる気などないと思うが。

 

「ごちゃごちゃうるせぇ!おまえもだ、トオル。」

 

「さっきの宇宙警察のときは助かった。礼を言う。だが、何故おれが仲間になる必要がある?」

 

「理由なんてどうだっていいだろ。.........強いていや、おれの勘だ」

 

どうやらマーベラスはトオルを気に入ったらしい。トオルはガーンとひとり項垂れているがな。

 

ハカセはトオルを事情聴取すると張り切っている。鉛筆を持つ手が震えているのはみなかったことにする。

 

「名前は?」

「トオル」

 

「出身と経歴は?」

「シュウエイ星。たしか14か15の頃に指名手配された。それからはいろんな星を転々と旅して、米の匂いにつられてズルズルと地球に居座ってる。」

 

「へぇ。お米好きなんだ。じゃ、特技は?」

「暗殺、だな。」

 

普通に挨拶でもするような会話のテンポでトオルは爆弾を落とした。トオルの答えをきいたハカセとナビィはギャーギャー騒いでる。

 

その様子を見てトオルは歯をみせながら笑っている。ハカセはトオルにからかわれたと気付き、ムッとした顔をしている。

 

 

ルカと視線があって、お互い肩をすくめた。

 

 

......にぎやかになりそうだな。だが、わるくない。

 

 

さて、そろそろ腕立てでも始めるか。

 

 

 



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13

ケモノを心に感じケモノの力を手にする拳法

 

 

《獣拳》

 

 

獣拳に、相対する二つの流派あり

 

 

一つ! 正義の獣拳  激獣拳ビーストアーツ

 

 

 

一つ! 邪悪な獣拳  臨獣拳アクガタ

 

 

 

戦う宿命の拳士たちは日々、高みを目指して、学び、変わる!

 

 

 

 

なんやかんやでゴーカイジャーに居座ることになった。まさか自分が宇宙海賊になるなんて考えたこともなかった。だが、三食寝床付きだと前向きに考えることにする。今日のお昼はハカセが準備するらしい。お嬢さんのアイムもエプロンをつけてその手伝いをしている。ジョーは筋トレ、マーベラスはダーツ。おのおの好き勝手にしている。だからおれも今週のジャンプを読んでいる。ひゃー、わくわくするな!

 

おれがうきうきしながらジャンプを読んでいると、ルカが何やら騒いでいる。機械がトラブったらしい。フライパンを持ったままのハカセをひっぱり、修理を頼んでいる。

 

「ねー、ハカセ。画面が動かなくなっちゃったんだけど。やって」

「いまソーセージが焼けたところで……」

「やって!」

「ね、マーベラス。遊んでないでこれおねがい」

 

ルカに強い口調で頼まれたハカセは近くにいたマーベラスにフライパンを預けようとするが、マーベラスはダーツの矢でソーセージを突き刺し、食べてしまった。それをみたアイムが「マーベラスさん、お行儀がわるいですよ」とたしなめるが、海賊にマナーをたたき込むのは難しいと思う。「気にすんな。メシ食ったらお宝探しに行くぞ」と、どこ吹く風だ。……やっぱりな。やつの頭の中は1にメシ、2にお宝。3は知らん。

 

「鳥、占い」と食べながら、おそらくペットのナビィにあごで促す。

 

「もー!鳥じゃないって言ってるのに」と、このしゃべる鳥は文句を言いながらも「Let's お宝ナビゲート!」といい、“占い”とやらを始めた。あちこちに体をぶつけ、「汝ら、虎の子を訪ねるといいぞよ………ってなかんじ!」と言った。

 

虎の子を探しにいった彼らを見送り、おれはゴーカイガレオンに残った。ジャンプをまだ読み終えていないからな。適当に「んじゃ、おれ留守番する」といい見送った。いまはソファーを占領し、ごろごろとジャンプのページをめくる。ときおりナビィが「トオルは行かなくてよかったの?」というから、「いいか、ジャンプには少年たちの夢が詰まっているんだ。だからおれはそれを見届けなければならない」とかっこつけていった。ナビィは「そーなの?」と信じていた。結局ナビィも一緒になっておれとジャンプを読んでいた。ふむ。この鳥、やるな…………!

 

すると、彼らが虎猫を抱えて帰ってきた。なぜに猫?どうやら彼らは虎の子を虎猫と勘違いしたらしい。

 

「あしたはトオルもついてくるんだからね!」と、今日一日ジャンプを読んでいたことがルカにばれてしまった。

 

夜中にハカセとすれ違った。「おやすみーってまた読んでるの?」とあきれた目で見られた。失敬な。ただ読んでるだけじゃない。

 

「これはイメトレだ」

 

きょとんとした顔をするハカセ。

 

「ジャンプを読むことでおれは敵と戦うときのことをシミュレーションしているんだ。おれの戦い方は特徴的でね、(キャラの特徴を)知らないと何もできなくなって格好の餌食になってしまうからな」

 

最もらしく言ってどや顔をして見せた。ハカセは「そっか」といい、去ってしまった。さておれも寝るとするか。

 

 

 

 

 

 

 

side ハカセ(ゴーカイグリーン)

 

振り返るときょうは一日無駄に過ごした気がする。昼食の準備をしていると、ルカにそれを中断させられ、マーベラスにつまみ食いされるし、ザンギャックにはうまく立ち向かえなかった。結局虎の子も見つけられなかったし。アイムはなんか拳法を始めたみたいだけど、ぼくにはいまさら無駄だよ。素質がちがうんだよ。

 

思い出すのは今日の戦闘のこと。ジョーが強いのはわかる。だって暇さえあればトレーニングしてるし。なにもしてないマーベラスやルカだって強い。はァ。やっぱりぼくには無理なんだよ。

 

見張り台で空を眺めているとルカがやってきた。

 

「何してんの?」

「………べつに」

「あっそ。……あ!さっそく1コみっけ。この星の流れ星もきれいなのよね」

「流れ星を見つけに来たの?」

「そ。寝る前に10コくらい見つけないと」

「10コって……ロマンチックじゃないなァ、願い事多すぎだよ……」

「まァね。お!今度は2コめ」

「よくそんなに見つけられるね」

「こどもの頃からやってるから。なんていうの、空全体を捉えて集中するっていうか、結構難しいのよ。おかげでずいぶん目が早くなったけど」

 

ぼくは、はっとしてルカをみた。

 

「あたしが力で男に勝つのは難しいじゃん。だからお宝探すにも、邪魔者ぶっ倒すにも、目の早さが命なのよねー」

 

………知らなかった。ルカがそんなことしてたなんて。ふとみると、マーベラスがダーツのときに身につけている腕輪が目に入った。持ち上げてみると、お、重い。マーベラス、船にいるときはこんなのつけていたんだ。ぼくが知らなかっただけで。

 

そういえば、トオルも何かトレーニングみたいなことしてるのかな。ぼくはトオルをみつけた。と同時に呆れた顔で「おやすみーってまた読んでるの?」と言った。

 

トオルはソファーに寝転がりながら、ジャンプという彼お気に入りの漫画雑誌のページを捲っていた。.........どうみても寛いでいるようにしかみえない。彼は今日一日ナビィといっしょにそれを読んでいたみたい。なのにまた読んでる。ルカにばれたのに懲りないなんて。.........

 

いやいや、トオルだって何かトレーニングしてるかもしれないし、聞くだけ聞いてみよう。

 

 

「これはイメトレだ」

 

ぼくがきょとんとした顔をすると、続けて言った。

 

「ジャンプを読むことでおれは敵と戦うときのことをシミュレーションしているんだ。おれの戦い方は特徴的でね、知らないと何もできなくなって格好の餌食になってしまうからな」

 

なんだかそう言ったトオルがとてもカッコよく見えた。一見ただ自堕落に過ごしてるように見えるけど、頭の中じゃそんなこと考えてたんだ。そっか。みんな、ぼくが知らないだけで努力してるんだ。

 

 

翌日、ぼくは昨日知り合った拳法家のところへいった。

 

「ぼくにも拳法教えてください」

「………無駄なんかじゃないのか?」

「何もしなかったら、ぼくはおいて行かれるだけだ。でも、今からでも始めたなら、ぼくも変われるかもしれない!」

 

じっとマスターの目を見つめる。

 

「………よし。皆で修行始めるぞ~。ニキニキのワキワキだあ!」

 

ニキニキ?ワキワキ?よくわからないけど、ぼくも修行だ!

 

 



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14

side トオル

 

さて、虎の子とやらを探すことになったわけだが。

 

【虎の子】っていうのは、虎がその子を非常にかわいがる様子から由来していて、大切にして手放さないものを指す。たとえば、秘蔵の金品とか財布とか。

 

つまり、moneyだよな。あれ、ザギン?それとも日本円?

 

 

考えれば考えるほどわからん。ルカには「アンタも探す!」と耳を引っ張られたが、どうやらおれはここまでのようだ。おれは、フッと息を吐き出し、ゴーカイガレオンのソファーで目を閉じた。これは俗に言うサボタージュ、つまりさぼりである。

 

 

 

 

 

 

 

side アイムとハカセ

 

 

モバイレーツの呼び出し音がなり、ナビィが「またザンギャックが出たよ!いま、マーベラスたちが戦ってる!」と、アイムとハカセに連絡した。ふたりはマスターにその旨を言った。

 

 

「んにゃ、おれの教えることはもうねェよ。」

「「え?」」

 

「修業なんてほんとはどこでもできるんだ。高みをめざし、学び、変わろうとする気持ち。それさえあればな」

 

「マスター。最後にひとつだけ。よろしければお名前を教えていただけませんか」

 

「おれ、ジャン。漢堂ジャン。虎の子だ」

 

「「虎の子......えぇぇぇぇ!!!」」

 

 

すると、ふたりの驚き様をみて弟子のひとりの少年が言った。

「知らなかったの?マスター・ジャンは虎に育てられた戦士、ゲキレンジャーのゲキレッドなんだよ」

 

「早く行け。仲間たちが待ってるぞ」

 

そう言ったジャンの顔にゲキレッドの面影がみえた。ハカセとアイムは一礼し、マーベラスたちのもとへ急いだ。

 

 

 

 

 

 

side トオル

 

どれくらいの間眠ったのだろう。突然、船内がガタガタうるさくなり目が覚めた。時計を見るとまだ一時間も経っていない。ふわぁ~あ。大きなあくびがでる。それにしてもよく揺れるなァ、オイ。こんな舵取りじゃ、船酔いするじゃないか。まったく、だれだよ。おれの眠りを妨げるやつは!

 

おれが窓の外を覗くと、ありえない大きさの怪人がいた。ふむ。アイツが諸悪の根源か。おれはジャンプキーを取り出した。

 

耳の部分から猛牛のように前へ突き出た鋭い角付き兜と巨大なマント。額には無数のしわがある。

 

身長210cm、体重145kg、バスト160cm、ウエスト115cm、ヒップ130cm、首周り65cm。この鍛えぬかれた超人的肉体。

 

いつ計測したかだって?おれは医者だから目測で、できるわけもなく、週刊少年ジャンプ特別編集『北斗の拳 SPECIAL』の「拳聖烈伝」のデータだ。

 

北斗の拳ときいたら、オマエハモウシンデイルでお馴染みのアノ主人公を思い浮かべるかもしれない。だが、おれはラオウのジャンプキーを取り出した。

 

どこぞのインスタント麺じゃない。拳王、ラオウ様だ。

 

驚くなかれ。ラオウは劇中では(演出の都合により)3~4mほどまで巨大化している事がしばしばある。

 

つまり、おれが言いたいのはこの目の前にいる巨体化した怪人を相手にするってことだ。

 

だいぶ見た目が変わった。正義の味方というより悪役に近いな、これ。

 

ヤツがおれの睡眠を邪魔したことにちがいない。おんどりゃァァァァ!!!!

 

 

 

 

side ゴーカイジャー

 

巨大化したザンギャックを倒す為にゴーカイガレオンを呼び出す。海賊合体により、ゴーカイオーに変型した。

 

ゴーカイジャーが苦戦を強いられていると、ひとりの乱入者があらわれた。

 

3mを超える巨人。耳の部分から猛牛のように前へ突き出た鋭い角付き兜と巨大なマント。額には無数のしわがある。

 

「.........新手か!?」とゴーカイオーが構える。

 

ハカセが「......あの姿、どこかで見たことあるような.........」と記憶を遡る。

 

 

 

 

それは、トオルと話していたときのこと。

 

「ジャンプを読むことでおれは敵と戦うときのことをシミュレーションしているんだ。おれの戦い方は特徴的でね、知らないと何もできなくなって格好の餌食になってしまうからな」

 

そう言ったトオルの横顔がかっこよかったのを覚えている。そのトオルの視線は、ジャンプのページに注がれていたが。たしか、そのページは、劇画のようなタッチの悪役が描かれていた。もっと思い出すと、その悪役キャラは、いまちょうどあらわれた乱入者にそっくりだった。

 

 

 

「思い出した!あれはたしか、《ラオウ》だ!だとすると、もしかして、トオルが戦っている......?」

 

ラオウに扮したトオルは、イメトレしたように敵に立ち向かっていた。その拳は轟音がなり、火花が飛び散っている。

 

 

「.........トオルばかりに負担させられない、おれたちも加勢する......!」と、ゴーカイブルーが舵を握る。

 

「あのサボり魔にはひと事いってやんないとね」と、ゴーカイイエローがニヤリと笑う。

 

ゴーカイピンクが「わたくしたちもトオルさんに続きましょう!」と言い、「お前ら、派手にいくぜ!」とゴーカイレッドが締める。

 

 

大きく全員が頷いたあと、ハカセが「ね!これ使ってみようよ」と、光るレンジャーキーをとり出した。

 

「え!いつの間にゲキレンジャーの鍵が?」と身を乗り出し驚くルカ。

 

「わたくしたち、虎の子さんに会ってきましたから」と、にこやかに説明するんアイム。

 

「よっしゃ!遠慮なく使わせて貰うぜ」というマーベラスの声で、各々レンジャーキーを回す。

 

トオルも止めにひとつ拳を突きつけた。加えて止めのゲキレンジャーの大いなる力により、勝利に終わった。

 

 

 

 

 



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15

 

side ザンギャック

 

今日も今日とて巨大化したスゴーミン3体を、マジゴーカイオーで撃退された。

 

ザンギャックの宇宙船のギガントホースでは、司令官ワルズ・ギルがヒステリーを爆発させていた。「次こそは必ず......!」と、特務士官バリゾーグと共に、新しい行動隊長を探しに行く。

 

 

開発技官インサーンは、ある疑問を抱いた。

 

それは《やつら(ゴーカイジャー)はスーパー戦隊の力を使って、この星で何をしようとしているのだろうか?》という疑問。

 

インサーンは、海賊たちの手配書を手に取る。

 

 

「海賊たちの船長、キャプテン・マーベラス。ザンギャックに対する最大の反逆者と言われた、赤き海賊団の生き残り」

 

賞金は、3,000,000ザギン。

 

参謀長ダマラスも「侮れんやつだ」と言う。

 

 

続いてインサーンが手にしたのは、ジョーの手配書。

 

「ジョー・ギブケン。この男は、もともと我が帝国の特殊部隊の一員でした。それがなぜ裏切って、海賊の一味となったのか?」

 

賞金は、2,000,000ザギン

 

 

「アイム・ド・ファミーユ。我々が滅ぼした、ファミーユ星の王女。どこかでのたれ死んだと思いましたが、まさか海賊どもの一味に加わっていたとは.........」

 

賞金は、1,000,000ザギン

 

 

「ルカ・ミルフィ。こともあろうに我が軍の倉庫から、最高純度のエナジークリスタルをまんまと盗み出した」

 

賞金は、750,000ザギン

 

インサーンは、最後の手配書を手にしました。

 

「そして、ドン・ドッコイヤー」

 

しかしダマラスは、「こいつはまあいいだろう」と。インサーンも「ですね」と言って、手配書を放り投げました。哀れ、ハカセの手配書は捨てられた。

 

「地球ではあの《死の外科医》の目撃情報もあります。」

 

インサーンが神妙な声でそう言うと、ダマラスは「なに!?」と驚愕する。

 

「《死の外科医》がいるとなると、我が国の地球侵略は苦戦になるかと。真偽は定かでありませんが、ヤツは海賊たちと行動をともにしているらしく.........」

 

「《死の外科医》トオル。何故いま地球にいる?.........だが、あの男が海賊たちと行動をともにするなど信じられん。何か裏があるにちがいない。」

 

インサーンはダマラスに、海賊たちの目的を探ることを提案する。潜入捜査に最適な者がいるからと続ける。

 

呼ばれたのは、“スニークブラザーズ”。

 

全身が赤いトゲトゲしたボールのような、スパイの兄弟。スーパーボールほどの大きさの方が、兄のエルダー。大きい方が、弟のヤンガー。

 

もともとは兄弟共に小さな体だった。弟の方は改造され、今の大きさになった。本体は赤い部分だけであり、それは人型の戦闘ボディだ。ヤンガーは、これに寄生するカタチで活動する。

 

ダマラスはふたりに、海賊たちの目的を探るよう命じた。

 

ただし、殿下(ワルズ・ギル)には秘密だと念を押して。

 

 

 

 

 

 

side トオル

 

ゴーカイガレオンでは、マーベラスが「ザンギャックのせいでお宝探しが進まない」と、ブーたれている。行く先々、会うなんて珍しい。おれより遭遇率高いな、お前ら。

 

「運命の赤い糸でつながってんじゃねーの?マベちゃん」と、小指をたてニヤニヤ笑ったら、「アァ?」と凄まれ、ボールが飛んできた。冗談だって。どうやら“マベちゃん”は地雷だったらしい。肩をすくめる。ボールをキャッチして、ルカにパス。ルカは「いちいち相手しているあたしたちもあたしたちだけどね」と言う。

 

 

「でも、そのおかげで知らない街にも行けて、楽しいものや おいしいものを見つけられるのですから、よいではないですか」

アイムがそう言って、“味一番まんじゅう”と書かれてある箱を開ける。中には大きくておいしそうなお菓子がある。饅頭って、渋いなオイ。

 

ルカが手を伸ばすと「でも、だめですよ。お食事の後にいただきましょう」そう言ってアイムは箱を閉じてしまった。

 

「ちぇっ」と舌打ちして、ボールをマーベラスへ。マーベラスはソファーに座ったまま、バッドでそれを打ち返す。

 

そのボールが、料理を運んできたハカセの額に命中。ボールは床に転がり、トレーニングしているジョーの前へいく。ジョーは腹筋をしながら、動作を止めることなく、ボールをマーベラスに投げ返す。「やるな。おまえも、入れよ」そう言ってジョーの方にバッドを投げるマーベラス。でも、ジョーは腹筋を止めない。結果、バッドはハカセの額に飛んでいった。あ、やべ。そう直感したおれは耳を指でふさぐ。

 

 

「も~~~~~~~、遊ぶなァァァァ~~~~~~っ!!」というハカセの声がこだました。

 

 

 

 

 

 

 

side スニックブラザーズ

 

ゴーカイガレオンを外から見ている者たちがいた。スニークブラザーズと、それを補佐するゴーミンたちだ。

 

ゴーカイガレオンはギガントホースのレーダーにも映らない仕様が施されているようで、現地で捜索していた。

 

 

兄エルダーは「そんな海賊船でも、オレたちスニークブラザーズにかかれば丸裸も同然だ」と、得意げに言う。

 

「おお、カッコいいぜ、兄貴!見せてくれ、勇姿を!」と、弟ヤンガー。

 

 

「弟よ、何が起きるか分からぬ危険な任務だ。いざという時は、オレを見捨てていいからな」と、神妙な顔をして言う。ただし、兄のエルダーは弟の手の上にいる。

 

「何言うんだ、兄貴! 必ず、必ず戻って来るって、信じてるぜ!」

 

 

「お、弟よ」と、ヤンガーを見つめるエルダー。

 

「あ、兄貴」と、見つめ返すヤンガー。

 

後ろに控えているゴーミンたちも、思わず感無量になる。

 

 

「しばしの別れだ......」

 

そう言ったヤンガーは、兄エルダーを思いっ切り、つぶすほど握りしめ、ゴーカイガレオンに向かって、投げた。

 

 

 

ポチャリ

 

 

 

悲しい音が、港に響いた。

 

 

 

 

海から引き上げられたエルダーは、「わざと? わざと? ねえ?」と言う。

 

 

それではもう1回ということで、ヤンガーは力を込め、兄を再び投げるが、右にそれる。「もう一丁」と投げるも、今度は左へいく。「今度こそ」と投げるも、うまくいかない。

 

 

さっきまで兄弟愛に感動していたゴーミンたちも、付き合いきれないといった態度になってく。ある者は後ろを向いて座り込み、ある者は武器で遊び、ある者はマッサージしたりしている。武器でギターを弾く者までいた。

 

 

「これでどうだァ!」と叫びつつ投げた5投目、やっと見張り台に到達でき、なんとかエルダーはゴーカイガレオンに潜入した。

 

 

 

 



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16

side エルダー

 

弟に投げられ、海賊船に浸入したおれは転がりながら船内に入る。見つからないように隅を転がり、海賊たちの情報を探る。

 

 

すると、ハカセと呼ばれる金髪の男が怒っていた。

 

「ぼくたちはこの星に、遊びに来たんだっけ? 宇宙最大のお宝を見つけるためだって、いっつも言っているくせに!そのためには34のスーパー戦隊の大いなる力が必要だっていうのに、ぼくたちが手に入れたのは?そう、たったの3つ!」

 

 

お!さっそく重要な情報だな。ほくそ笑む。

 

 

が、その瞬間、ジョーというポニーテールの男が鋭い眼光で、こちらを振り向く。

 

ま、まさか、見つかった?背すじをまるめながら息を呑む。

 

ジョーは立ち上がり、ゆっくりとおれが隠れている方へ向かってくる。バックンバクッンと心臓が音をたてる。

 

 

 

が、ジョーがはじめたのは腕立て伏せ。「うっかりしていた。腕立てがノルマに10回足りなかった」と。なんだよ!脅かすんじゃねぇよ!!

 

 

「何でみんな、こう、マイペースなんだよ!」

 

そう怒るハカセを放置し、残りの4人は食事をはじめていた。

 

おれが言うのもなんだがホント、マイペースなやつらだ。

 

 

よし。さっき手にいれた情報を弟へ送る。

 

《やつら、ゴーカイジャーは大いなる力を探している》と。

 

 

 

 

 

side トオル

 

ハカセの鬱憤が爆発したのをスルーしてランチタイム。さすが海賊。ガッツリ系なメニュー。おい、ルカ。おれの皿にブロッコリーのせるな。ちゃんと自分で食え。

 

 

饅頭に手を伸ばしかけたルカ。マーベラスは大いなる力を探すため、ナビィにお宝ナビゲートさせようと言う。んじゃ、おれは昼寝するか。ん~と伸びをして、あくびがでた。

 

しかし肝心のナビィの姿が見あたらないようで。饅頭はお預けのまま、おれの昼寝もお預けでみんなでナビィを探すことになった。

 

はじまりはおれの何気ないひと言だった。ナビィを探すことになって、ただなんとなく「ナビィの電池ってどんくらい持つんだ?」と。あの鳥が生身の鳥じゃないことくらいわかる。あれは人工的につくられた鳥型ロボットだとおれは考えていた。それがまさか論争になるとは思わなかった。以下、M=マーベラス、H=ハカセ、A=アイム、J=ジョーと表記する。

 

H「え、ナビィって電池で動いてるの?」

A「違うのですか?」

M「おれは電池なんて換えたことねーぞ」

H「そういえば、ナビィってなんで動いてるんだろう」

M「おれが知るわけねーだろ」

H「今電池って言ったじゃん!」

A「電池で動いてるのですか?」

M「違うのか?」

H「ぼくは電池換えたことないよ」

A「ではナビィは何で動いてるのですか?」

H「知るわけないじゃん」

A「今電池っておっしゃいました」

M「電池で動いてるのか?」

H「違うの?」

A「わたくしは電池など換えたことありません」

M「じゃあナビィは何で動いてんだよ」

A「わたくしが知るわけございません」

M「今電池っつったろーが」

J「ナビィは電池で動いてるのか」

 

.........驚いた。ナビィの機動力について誰も知らなかったんだな。いや、それよりもたかが電池交換でこんな論争になるとは。お宝占いといい、ナビィの謎は深まるな、こりゃ。

 

ジョーが管制官のなかをみたり、マーベラスがレンジャーキーとやらの宝箱をみたり、ルカが饅頭をつまみ食いしたり.........それでもナビィはみつからなかった。

 

そんな中、ルカは、マーベラスがいつも「鳥」って言うから家出したんじゃないかと言い出した。たしかにアイツはナビィに対して雑な扱いしてたな。おれも「うんうん」とルカに加勢する。マーベラスは、「アイムがお茶をぶっかけたからじゃないのか」と話を振る。アイムはアイムで、ハカセが枕にしたからではないかと言う。.........ナビィ、おまえってばいつもそんなことされてたのか?今度労ってやろう。ハカセは「えぇ!ぼく!?」と狼狽えている。「で、でも!この前トオルが.........ブフォ!」おや、なんのことだハカセ。おれにはなんにも聞こえない。ハカセを含め全員からじっとりとした疑惑の視線が集中するが、気にしない。つい、勢いとノリで手が滑って、ボールを投げただけだ。ヤマシイコトナンテ、ナンモナイ。そっと目を反らした。そういえば、おれが投げたボール、赤くてゴツゴツしてたな。

 

 

 

 

「どうしたの、みんな?」

 

 

ルカは「ナビィがいなくなっちゃって」と答える。

 

 

「ホントに?」

 

ルカは「ねえ、ナビィ、ナビィどこにいるか知らない?」という。.........ん?なんか、いまおかしな点があった。ルカはナビィに、ナビィの居場所をきいているよな?

 

 

「知らない」と答える、鳥。

 

 

ん?

 

んん?

 

なぜか、麦わら帽子をかぶり、サングラスにアロハの格好。

 

「ちょっくら、ちょいと、日向ぼっこしてたんだ」と、ナビィ。

 

「そしたらさ、女子高生のかわいい子たちに囲まれて、やだ~かわいい~とか、もうオイラ、大人気。むぎゅ~なんて抱きしめられて、これも、これも、プレゼントされちゃって、キャハッハッハ」

 

リゾート気分を味わったらしいナビィ。おいおい。こっちはお前を探し回ってたっていうのに、コノヤロー。ちょっと1発殴らせろ。

 

というか、ナビィ、男の子だったのか。

 

反省として吊るされたまま、ナビィはレッツお宝ナビゲート。今日のはおまえがわるい。だからおれに助けを求めるな。反省しろ。

 

「空飛ぶ島で、運命の出会いがあるぞよ――こんなん出ましたけど」

 

 

 

 

 

side エルダー

 

この話を聞いていたおれは、思わず「そんなの、あるわけないだろう!」と、声を出してしまった。だが、もう遅い。やつらの企みをおれは知ったのだ。

 

「気づくのが遅かったな。オレはザンギャック一のスパイ、スニークブラザーズの兄、エルダーだ。おまえたちの目的は、すべて聞かせてもらった。これで――」

 

そう話していたが、ゆっくりと準備したジョーに、バッドで船外に打ち放たれ、.........。

 

って、オイィィィィ!!人の話は最後まで聞けェェェ!!!

 

降ってくるおれを何とか受け止めようとする、ヤンガーとゴーミンたち。

 

でも、案の定、目測を誤って、おれはコンクリートの上に。

 

なんでおれって、こんな目にあうんだ。.........

 

 

 

そこに、ゴーカイジャーと、トオルがやって来た。トオルの目的は不明だが、おれが掴んだ情報は伝わっているはずだ。

 

「盗み聞きとはいい趣味じゃねえか。

 

聞かれたからにゃ、ただで帰すわけにはいかねえな」

 

.........アイツらおれたちに容赦ねぇ。せめてひとりだけでも、とおれはひとりぼんやり傍観しているトオルに狙いを定めた。ヤツの目的は不明だが、こうして戦闘になっても我関せずいるあたり、あやしい。本当に海賊の一味なのか?悪名に恐れられているが実は大したことなかったりして.........。船内じゃ、潜入中のおれを投げ飛ばしてハカセとやらの口にピンポイントであてやがって。ぎっと歯を食い縛るとヤツは口角をあげた。いまのいままで何もしてないハズだったのに、気がついたらおれはゴフっと血を吐き出していた。

 

 

「.........何故」

 

おれがヤツの顔を見て、海賊たちに視線を向けた。おれの疑問を組んだらしいヤツは答えた。

 

「おれはアイツらと手を組んだだけだ。

.........だが、振り回されてるのはどっちなんだろなァ。なんて、死にいくお前に言っても無駄だったな」

 

 

あぁ。ヤツは通り名の通りだ。冷酷。外道。鬼畜。《死の外科医》。医者だというのにあっさりと簡単に生命を奪っていく。ヤツが恐れられる理由がわかった気がした。それを最後におれの目はゆっくりと閉じていった。

 

 

 

 

 

 

 



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17

命あるところ正義の雄叫びあり!

百獣戦隊 ガオレンジャー!

 

牙 吠

 

 

 

side トオル

 

空島。果たしてこの地球上に存在するのか。ここは某海賊漫画のように海軍と海賊がドンパチしていない。海賊と宇宙帝国がドンパチしてる。かといって、摩訶不思議アドベンチャーでもなく、おれが生前住んでいた地球と特別かわりはない。オフィス街あるし、ジャンプあるし。

 

そんなところに空島はあるのかと言うと、なんとも言えない。例えるなら、子供が無邪気に遊園地のマスコットの着ぐるみの存在を受け入れているかのような。.........おれがその着ぐるみの中身を目撃してしまい、しばらくショックを隠せなかったことは前世の思い出だ。

まあ、彼らは海賊だ。夢みたっていいじゃないか、HAHAHA~

 

 

 

「なぁにが、夢みたっていいじゃないか、HAHAHA~よ!あんたもさがすの!!」

 

いて。頭を軽く叩かれて振り返ると、眉間にシワを寄せたルカがいた。ちょうどかれこれ地球を2、3周したところ。ルカの機嫌は急降下だ。

 

 

「さがすっていわれてもなァ。.........ところでお前らの宝探しってなんだ?」

 

 

前からナビィのお宝ナビゲートとか海賊の余興だとおもってたが、真剣に探している様子をみると少しばかり気になる。だって、考えてもみろ。いい年した海賊たちが、虎猫探し回ったり、警察署に出頭しに来たり.........。いや、彼らは根っからの宇宙人だからおれみたいなカルチャーショックを受けないのか?

 

 

「あれ?言ってなかった?馴染んでいるからてっきり知っているとばかり思ってた」

 

きょとんとした顔をしたルカはざっくりアバウトに説明してくれた。なんでも、地球に眠るという宇宙最大のお宝を求めて、キャプテン・マーベラス率いる海賊戦隊ゴーカイジャー(宇宙海賊)が地球にやって来たらしい。

 

ほぉ。宇宙最大のお宝、ねェ。なるほど。だから、あんなヘンテコなお告げにしたがって宝探ししてるわけだ。

 

「そ!だから大いなる力をみつけなきゃいけないわけ!」

 

黄色いレンジャーキーとやらを持ってルカがどや顔していた。ん?その鍵、おれが持ってるジャンプキーと似ている......?

 

「.........わかった。ぼんやり」

 

 

ゆるゆると返事をするとルカは疑わしげに「ほんとにわかってんの?」と言う。頭のなかで検索エンジンを起動させる。【ジャンプ 宇宙最大のお宝 検索】............んー、ヒットしない。【ひとつなぎの大秘宝】ならワンピースでドンピシャなのに。まさかおれの持ってるジャンプキーも、大いなる力とかあるのか?調べるっていっても故郷の星はぶっ飛んじまったし。はァ。こっちも八方塞がりだ。

 

 

しばらくすると、大きな雲を発見。空島らしく上陸することになったらしい。マジか。ほんとにあったよ、空島。モンブランのおっさんみてるかー!よし、なんかテンション上がってきた。黄金の鐘でも鳴らしたい!!

 

 

 

 

 

 

上陸したおれはひとりジャングルに探索にでた。「おれ、鐘鳴らしに行ってくる」と早々に宣言して、ジャングルへむかった。空島があるってことはここはもしかしたらワンピースの世界とリンクしているかもしれない。うしろでルカが「お金!?」とキラーンと目を輝かせていたが、残念そりゃ“カネ”違いだ。

 

善は急げ。羅針盤なんて渋滞のもとだ。自分の勘を頼りに進んでいく。途中、ザンギャックに遭遇した。誰かのバイオリズム乗っかって思い過ごせなかった。ので、ジャンプチェンジ!

 

おれの姿は斉藤さんになっていた。悪、即、斬の斉藤さん。そう、某明治剣客漫画の斉藤さんである。「ぺっぺっぺー」やらジャケット広げる「斉藤さんだぞ」じゃない。

 

深く腰を落とし刀の切っ先を相手に向け、その峰に軽く右手を添える。それから間合いを一瞬で詰めて突進、標的を貫く。 よし、片付いた。疲労回復アイテムはもちろん石田散薬だ。口のなかに薬の独特の苦味が充満している。口直しに何かほしい.........

 

 

ジャンプキーを解除し、手短にその辺のツルに手を伸ばす。ごほん。喉の調整も準備完了。いち、に、スゥ~と、息を吸って、アーアーア~~~!!

 

スタンっと着地を決めると、白衣の男がいた。あり?第一島人発見?

 

「おれは獣医だ」

 

奇遇だな、おれも医者の端くれだ。

 

 

なんやかんやで【獅子どうぶつ病院】を案内された。なぜに病院?看板には診療時間と駐車場ありの記載はあるが、休診日が一切記載されていないので、数人の獣医が交代制で診療を行うかなり大きな動物病院なのかもしれない。

 

なお、診療時間は

平日:AM 9:00~PM 12:00

PM 3:00~PM 8:00(土曜日はPM 7:00まで)

休・祝日:AM 9:00~PM 3:00と記載されている。

 

おれみたいな浮浪の医者じゃなくて、コイツちゃんと医者してる......!ま、まぶしい。おれのライフが削られていくッ!

 

客間に通され、改めて自己紹介された。ガオレンジャーのガオレッドだったらしい。なんか噛まれたら痛そうな名前の響きだな。

 

「.........へぇ。つまり同業者?」

「近いけど少なくともおれらは海賊じゃないな。」

「なんだよ、冒険者か?」

「そういう意味で《近い》ってわけじゃない。それに冒険者はおれらじゃない」

「ワケわかんねーよ、コノヤロー。」

「......そうだな、わかりやすく言うと、《正義の味方》あるいは《ヒーロー》.........君もそうだろ?」

 

おれに問いかけながら獣医はコーヒーを差し出す。

 

 

「“正義”か。.........そんなもんこの世にありはしねェ。おまえはおれを正義だと言ったが、そんなつもりは全くない。ただのおれの気まぐれだ。」

 

おれは差し出されたコーヒーを受けとり、ミルク、砂糖を入れた。砂糖は五杯。糖尿がなんだって?大丈夫だ、まだ検診に引っ掛かってない!

 

 

「その“気まぐれ”でこの地球が救われているんだ。感謝する。」

 

フーフーと冷ましながら、カップを口につける。口のなかにコーヒーの苦味が広がり、そのあとにミルクのまろやかな舌触りを楽しむ。

 

「そりゃ、買いかぶりだ。......たまたまキライなヤツに悪党が多いってだけだ」

 

 

うん。この甘さがたまらない。ところでおかわりもらえますかね?

 

「.........フッ。お前ら、ほんと口が悪いんだよ」

 

おれがきょとんとした顔をすると、獣医は笑いながらおれの後ろに視線を移す。あ、マーベラスたちだ。

 

「トオル。おまえどこほっつき歩いてんだ」

「ちょいと鐘鳴らしに」

 

問答無用で首根っこを引っ張られた。どうやら目当ての“大いなる力”は手に入れたようだ。「次のお宝探しにいくぞ」とずるずる引きづられる。ちょ、おれまだ鐘鳴らしてないのに!「知るか」辛辣すぎる!ぶつぶつ文句を言いつつ、周りを見渡すと、アイムが足を引きずっていた。

 

 

「アイム、どうしたんだ、その怪我」

「ちょっと転んでしまいまして......」

「お前どんくさいなァ。こっちこい。怪我みてやる。」

 

 

あんなに真面目に医者してるやつみたら、おれの良心が刺激される。包帯片手に手当てをしながらそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side とある獣医(ガオレッド)

 

 

最近巷で噂の宇宙海賊がとうとうここにたどり着いたようだ。数年前に起こったレジェンド大戦以降、おれはガオレンジャーの力を失った。そこに地球にやって来た新たなスーパー戦隊、海賊戦隊ゴーカイジャー。宇宙帝国ザンギャックに狙われている地球人が、宇宙海賊に守られるなんて、皮肉な話だ。それぞれのスーパー戦隊は大いなる力を彼らに渡して地球を守ろうとしている。だが、おれたち、ガオレンジャーは渡すべきではないと考えている。いや、そもそもガオライオンが彼らを認めるかどうか。

 

そんな宇宙海賊に嫌悪感を示していたが、ゴーカイピンクの言葉と市民を守って戦うゴーカイジャーの姿を見て考えを改めた。

 

 

「アイツら、口が悪いんだよ......」

 

アーアーア~~~!!

 

森の中から叫び声が聞こえる。遭難者か!?駆けつけると、体操選手のように着地をした男がいた。コイツ、何処かで見たことあるような.........。とりあえず、名乗る。

 

「おれは獣医だ」

 

「奇遇だな、おれも医者の端くれだ。」

 

ヘラリと笑った男を病院まで連れていくことにした。道中、思い出したが、この男、宇宙名医100選に選ばれていた。通りで見たことあると感じたわけだ。極悪非道の医者、死の外科医。だが、腕は確からしく、ぼったくりの請求書を何故かメロンといっしょに要求したり、心臓を抜き取られ脅されたり、嘘か真か伝説が多い男である。そんな男が何故地球にいるのか不思議でならない。加えて、他のスーパー戦隊からの情報によると、ゴーカイジャーの一味に加わったとか。

 

 

「.........へぇ。つまり同業者?」

「近いけど少なくともおれらは海賊じゃないな。」

「なんだよ、冒険者か?」

「そういう意味で《近い》ってわけじゃない。それに冒険者はおれらじゃない」

「ワケわかんねーよ、コノヤロー。」

「......そうだな、わかりやすく言うと、《正義の味方》あるいは《ヒーロー》.........君もそうだろ?」

 

話を聞くと、事情があるらしい。ゴーカイジャーの居候だという。

 

「“正義”か。.........そんなもんこの世にありはしねェ。おまえはおれを正義だと言ったが、そんなつもりは全くない。ただのおれの気まぐれだ。」

 

医者は差し出されたコーヒーを受けとり、ミルク、砂糖を入れていた。砂糖は五杯。おいおい入れすぎだ。

 

 

「その“気まぐれ”でこの地球が救われているんだ。感謝する。」

 

 

「そりゃ、買いかぶりだ。......たまたまキライなヤツに悪党が多いってだけだ」

 

 

 

 

 

口では居候だといいながらも、彼らをすぐにみつける。これは無自覚に仲間だと思っている。本人が気づいていないだけで。その証拠にゴーカイピンクの怪我に気付き、悪態をつきながらも心配している。ガオライオンも、“ゴーカイブラック”も海賊たちとうまくやっていけそうだな。

 

「.........フッ。お前ら、ほんと口が悪いんだよ」

 

 



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18

side トオル

 

んちゃ!ハカセが作ったお昼を食べ終えたとき、ルカがポケットからトランプを取りだし、ポーカーをすることになった。

 

 

たかがトランプ。されどトランプ。おれの手札はDr.スランプ。(医者だけに)

 

おれの手札はハートの10、J、Q、Kがそろっている。つまり、あとハートのAがでてきたら無双できる。なぜハートなのかというと、おれがトラファルガー・ローに頻繁にジャンプチェンジする縁でそろえるならやっぱりハートじゃなきゃいけないという謎の使命感のせいである。もし今日が一月一日ならば、スペードにしただろう。(一月一はエースの誕生日)ダイヤでそろえたらジャンプ的にライバル雑誌の某野球漫画になってしまうので察してほしい。

 

 

 

マーベラスが「ワンペア」と自信満々すぎるどや顔でカードをみせる。態度のわりにカード揃ってないぞ。そしてアイムが「ツーペアです」と言い、ルカが「スリーカード」、ハカセが「じゃん!フォーカード!今度こそぼくの勝ちだね」というが、甘いな、ハカセ。

 

「甘ぇよ、いちご牛乳より甘いね。こんな事の為に誰かが何かを失うのはバカげてるな。全て丸く収めるにゃこれが一番だ。________ロイヤルストレートフラッシュだ」

 

おれの手札はハートの10、J、Q、K。

 

 

 

そして、ダイヤのAだった。

 

 

こういうときに限って立たなくてもいいフラグが立ってしまった。おれが察してほしいといったのはフリではない。空気を読みすぎだ、コノヤロー。よりにもよってダイヤとはな。ハートもダイヤも同じ赤だからごまかせるかもしれない。かっこつけて銀さんみたくしゃべった手前、後戻りできない。このまま突き通してしまえ。

 

「まあ。ロイヤルストレートフラッシュなんて初めて見ました」

 

アイムは若干天然なため押し通せた。よし。第一関門クリアだ。それに気をよくしたおれはミスディレクションでカバーしたダイヤの部分に隙ができてしまった。ルカとハカセが「ん?」と眉をひそめ、それに気づいた。「これ、ロイヤルストレートフラッシュじゃないよ!」…………ばれてしまったらしい。第二関門突破ならず。あーあ。これがアレン・ウォーカーだったらもっとうまくポーカーできてただろうなァ。仕方ないので降参と両手をあげる。

 

 

ジョーが流し目で「フッ。悪いな」と自分のカードを見せた。

 

なん…だと…。スペードの10、J、Q、K、A。ロイヤルストレートフラッシュだった。

 

同じスートの10、J、Q、K、Aの組み合わせで作られる役。別名ロイヤルフラッシュ。

使用するトランプが一組で、かつワイルドカードを使用しない場合は最強の役とされる。

 

「またジョーさんの勝ちです」

「それにしてもジョーってカード強いねー」

「普通だ。それにルカが本気を出せばおれも勝てない」

「本気ってどういう意味ですか」

「……さァね」

 

その会話をきいておれは、ルカがはぐらかしているように見えた。

 

そしてマーベラスが「もう一回だ」と言い、このポーカーはループするのであった。

 

 

 

 

 

 

 

side ルカ

 

ゴーカイガレオンで皆でポーカーをしていたときに警報がなった。どうやらザンギャックの艦隊があらわれたみたいね。

 

燃える?この星が??

 

偶然ハカセと声が重なった。ジョーは続けて説明する。

 

「あァ。あのギガロリウム砲の威力は、そうだな……一撃で見渡す限りの大地を焼き払うことができる。……厄介なのはそれだけじゃない。下手に破壊すれば、誘爆して星ごと吹っ飛びかねない。」

 

ジョーのその説明をきいてぴくりとトオルの眉が動いた。どうしたのかと思って聞いてみると、「……気にするな。たいしたことじゃない」と一点張りだったので、追求するのをやめた。もしかしたら、トオルもあたしたちと同じように故郷をザンギャックに滅ぼされたのかもしれない。

 

「そうなったらお宝どころじゃないじゃん」とハカセがおろおろする。

「なにか手立てはないのですか?」

「その燃料であるギガロリウムを奪い取ればな………」

 

そこでジョーは口を閉じ、視線をそらした。ジョーがいった答えはザンギャック相手に喧嘩を売るようなことを進んでするようなものだ。だけど、あたしは…………。

 

「わかった!じゃあ、あの緑の船に潜入すればいいでしょ?あたしとジョーで。」

 

 

早速ゴーカイチェンジでボーケンジャーに変身する。スコープショットでそのまま船にたどり着いた。飛びだそうとしたあたしをジョーが腕を引っ張り引き留めた。

 

「艦内は常に見張りがいる。自由に動けると思うな」

「大丈夫!いいもの用意しといたから!」

 

 

これなら自由に動けるでしょ?あたしは即席のバケツをかぶり、ザンギャックの兵士、ゴーミンになりすました。同じような物をジョーに渡すと「これで大丈夫なのか!?」とイマイチ反応がよくなかった。すると、前方からゴーミンが歩いてきた。「まずい」と不安な表情のジョーに変わって、あたしはゴーミンに近づいた。

 

「ごー!」

「ごー」

 

そのまま「ごー」と手を振りながらゴーミンを見送った。ほらね、大丈夫だったじゃん。

「信じられん」と一瞥したジョーにギガロリウムのありかをきく。部屋にたどり着いたけど、監視されていていまは奪い取ることは難しそうね。このまま様子をうかがおうと思ったら、スゴーミンに「馬鹿そうなゴーミンども、さっさと来い」と呼び出されてしまった。

 

連れてこられた場所はゴーミンたちがポーカーをしていた。ここで下手に抵抗したら騒ぎになる。ここはわたしに任せて。大丈夫。あたしが本気を出したら負けるわけないじゃん。

 

勝負はあたしの圧勝だった。コインがタワーを作り、ギャラリーも増えてきた。でも途中で腕に隠していたカードが見つかってしまった。そして、頭にかぶっていたバケツがとられ、賞金首の海賊だとばれてしまった。ばれたならしょうがないか。腕をならして構える。

 

「まァまて。本当の勝負ではイカサマを見抜けないほうが悪い。」

 

「ふ~ん。わかってんじゃん」

 

「それに二人だけでこのヨクバリード様の船の中に潜り込むとは見上げた度胸だ。その度胸に免じてチャンスを与えてやろうじゃないか。もしこのおれに勝てたらここから逃がしてやる。だが、おれに負けたら賞金首としておとなしくつかまれ。こっちも余計な損害をだすのはいやなのでなァ」

 

ポーカーで勝負を始めようとしたら、あたしにカードを触れさせないと言われた。まあ、イカサマ見抜かれちゃったから当然か。勝負はジョーに任せる。あたしたちはオープンカードを突きつけられ、相手は交換するカードをわかりやすく見ていた。明らかなイカサマだった。あたしはその後ろでじっとカードを見ていた。

 

結果は予想通りジョーのロイヤルストレートフラッシュで勝利!帰ろうとすると、相手は逆上してきた。まったく、引き際が悪いなァ。勝負には引き際が大事なのよ?

 

 

___ドカッ

 

後ろにいたゴーミンが倒されていた。

 

「物わかりのわるい野郎だな」

 

マーベラス、アイム、ハカセ、そしてトオルが駆けつけてきた。

 

「ルカさんとジョーさんが囮役になっていたんです」

「その間にぼくらがギガロリウムを奪ったってこと」

「ルカがイカサマして勝ちまくったのも、お前たちをここに集めるためだったのさ」

「ほんと、ぜんぜん気づかない。バッカじゃない?」

 

トオルは手にギガロリウムを持ち、ヒューと口笛を鳴らしている。そしてハカセがスイッチを押し、ザンギャックの船を爆破させた。やっぱり例のごとく巨大化したザンギャックを倒すため、ゴーカイオーに乗り込む。

 

 

___カチ

 

何かが壁に当たったような音がした。ふりむくと「やべ」と声を漏らしたトオルが引きつった笑みを浮かべていた。

 

「わりィ。このギガロリウムだっけ?ヒビが入っちまったんだが……」

 

あたしたちは真顔になり、顔を見合わせた。外ではザンギャックが「ギガロリウムを取り戻し、お前らの首を奪ってやる」と息巻いているが、それどころじゃない。ハカセが顔を青ざめ、叫んだ。

 

「なにやってんのォォォ!!」

「バッッッッッカじゃないのォォォ!!」

 

あたしはトオルの首を掴み勢いよく前後に揺らした。ほんの少し目を離していた隙にしでかしてくれたわね………!アイムが「ルカさん、トオルさんの首が!!」と、止めに入ってハッとなって手を離した。トオルは首を押さえながらむせている。

 

「い、医者をよんでくれ……」

「「「おまえが医者だろーが」」」

 

 

思わず、マーベラスとジョーとともに突っ込みをいれた。……いや、その首の痛みはあたしが原因だけど。

 

「まてよ、そんなに闇雲に攻撃していいのか」とマーベラスがザンギャックに問いかける。

 

 

「それはッ、ギガロリウム………!」

 

切羽詰まった勢いで食いついた。にやりと口元が動く。ふと横を見るとトオルもあの悪名よろしくニヒルに笑っていた。あの顔はろくでもないこと思いついたみたいね。

 

「そんなにほしけりゃ返してやる」

「はい、どうぞ」

 

ジョーとアイムがギガロリウムを見せながら、そう答えた。

 

「本当かッ!」

 

相手があたしたちの言葉に食いつくたびにトオルの笑みは深まっていく。ハカセが気前よくうなずき、あたしもそれに続けて言う。

 

「もちろん」

「その代わり本来の持ち主にね」

 

 

そして痛みが治まったらしいトオルが「ヒビがあるが威力は申し分ないぞ。」といい、そのまま空の彼方へ投げ飛ばした。トオルが振りかざした腕は勢いよくそれを飛ばしていた。トオルは左手の親指と人差し指、中指をたて挑発的に笑っていた。

 

 

きれいな放物線を描いていたからいまごろ宇宙のどこかで爆発しているかもね。

 

 

 

 

 

 

 



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19

何百年の昔から、隙間を通ってやって来る外道衆。奴等を退治し、この世を守る侍達がいました。運命に秘め、不思議な文字の力、モジカラを使って戦う一人の殿様と四人の家臣。彼等の力は親から子へ、子から殿方へと、そして戦い続けました…………そして現在……

 

天下御免の侍戦隊シンケンジャー 参る!

 

 

 

 

side トオル

 

今日も今日とて、お宝探しをするらしい。日曜くらい休もうぜお前ら。ソファーでグウタラしてる間にナビィのお宝占いが始まった。

 

「Let's お宝ナビゲート!見えたなり、見えたなり………サムルァ~イに注意するなり。……ってなかんじ」

 

サムルァ~イ?

 

…………あぁ。(察し)サムライか。侍と言えば、ジャンプのなかでも数多く作品に登場する。侍と言わずとも何かしら刀を持って戦うキャラは人気がある。日本好きの外国人なんてサムライに反応する。

 

まだ肌寒い季節。お宝探しに外に出たのはいいものの、今の時代、侍がいるのかどうか。歴史ある武家なら現代まで続いているかもしれないが。

 

法螺貝が鳴り、辺りが横断幕で囲まれた。現れたのは、袴を着た女と爺さん。剣術小町な雰囲気で、神谷薫に似ている。名前を聞くと志葉薫というらしい。偶然なのか?名前が同じだった。

 

マーベラスに刀で斬りかかり、なかなかお転婆のようである。しんけんじゃー?よくわからないが、大いなる力を手に入れるためにジョーと姫さんの一騎打ちをすることになった。だが、ザンギャックが襲来したので、勝負は一時中断となった。姫さんがいち速く現場に向かい、マーベラスたちもそのあとに続いた。

 

既に戦闘は始まっていた。折角の機会だ。サムライ繋がりにジャンプチェンジしてみるか!

 

銀髪の天然パーマ。ズンボラ星人の学校指定ジャージ(黒)に流水紋が入った白い着物。そして黒ブーツ、腰には「洞爺湖」の銘が入った木刀を差している。

 

今のおれは死んだ魚のような目をしているだろう。さっきも向かい合ったゴーミンのひとりに「ごー!?」とリアクションされた。わりィ。話長くて半分以上聞いてなかった。

 

「ごー!?ご、ごー!ごーごご!!(えー!?ごーしかいってないんですけどォォォォ!耳ほじるなァァ!!)ブフォッ!!」

 

返事を返してくれるがやっぱり何を言っているかわからない。腰に差している木刀を手に取り、脳天に叩き込んでやった。ほら、古くなったノイズ画面のテレビも叩けば直るだろ?そうやってゴーミンの山ができてきた。

 

「なにしてんだ、ジョー!」

 

途中、マーベラスの焦った声が聞こえ、振り向くと、ジョーが棒のように突っ立っていた。それはもう格好の餌食で、ジョーに攻撃が迫っている。どうしたんだ?いつもならこんなヘマしねぇのに。何か動揺でもしたのか?マーベラスが間に割り込んだが、背中をやられたようだ。

 

あれが噂の皇帝の馬鹿息子か。「ち、血だ…………」とわめき立てている「今まで父上にさえ叩かれたことなかったのに」お坊っちゃんのようだ。お坊っちゃんが負傷したことにより、ザンギャックは撤退をし始めた。

 

ジャンプキーを解除し、二人のもとへ急ぐ。

 

「おーおー。派手に斬られてんなァ」

 

「うるせェ」

 

そう返答してマーベラスは気絶した。スタミナ切れと、背中の怪我が目立つ。ジョーも頭を負傷したようだ。ゴーカイガレオンに移動することを伝え、おれはマーベラスを抱えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side ジョー(ゴーカイブルー)

 

ナビィの「サムルァ~イ」というものをヒントに探しに行くことになった。ふとみると、竹刀を握る少年たちの姿が目にとまる。 竹刀を打つ姿をみて昔の記憶が頭をよぎった。

 

あれは、まだおれがザンギャックの特殊部隊の兵士だった頃のことだたな……ゴーミン共に殴られていたおれを助けに駆けつけてきたシド先輩。先輩は剣の達人で、おれが最も尊敬する人だ。剣の師匠でしばしばおれは指導してもらった。

 

アイムに声をかけられ、「何でもない」と返事する。少し昔のことを思い出しただけだ。

 

謎の黒子の集団が現れた。おれたちの周りには横断幕が張られている。

 

「海賊衆ども、よ~くきけ!こちらにおわす方はこの世を守る“侍”にして、先のシンケンレッド、志葉薫さまにあらせられるぞ!」

 

ルカが「サムルァ~イで、シンケンレッド?」と口にする。すると、ハカセが「ってことは……」とハッとしたような顔をした。

 

「えェい!姫の御前である。頭が高い!控えおろう」と女の横にいる爺さんが咆える。

 

「丹波、もういい。海賊衆にそのような台詞が通用するものか。さがれ。」とたしなめた。どうやらこの女は相当身分が高いようだ。あの爺さんはあっさりと引き下がった。

 

「単刀直入に言おう。シンケンジャーのレンジャーキーを返せ」

 

「単刀直入に言うぜ。ふざけんな」

 

おれたちが反論する前にマーベラスが答えた。

 

「やむを得ぬ。腕尽くで取り返す!」

 

どこからでてきたのか黒子が急にあらわれ、女に刀を差し出す。女はそれを受け取り、おれたちにに構えた。マーベラスに向かって走り出し、刀を振るう。先手必勝とはいえ、マーベラスに銃を構えさせるとは……ほォ。見事な腕前だな。

 

「なかなかいい太刀筋だな。」とマーベラスに銃を下ろすように促す。そしておれは女に向き合い勝負を申し込んだ。

 

場所を移動し、勝負をする。女はすでに刀を構えており、凜とした趣でおれを見定めている。

 

「何故船長ではなくおまえが」

 

「アンタの腕は本物だ。マーベラスとやらせたら怪我じゃすまなくなる。」

 

「随分なめられたものだ。まァいい。私が勝ったら、シンケンジャーのレンジャーキーを渡してもらう」

 

「おれが勝ったらシンケンジャーの大いなる力、教えてもらうぞ」

 

風がふき、枯れ葉が舞う。じりじりと緊迫した空気が辺りを覆う。お互い刀を構えたままだ。目を開き、耳を澄ませ相手の出方を探る。刀を握る手に力が入る。左手を背におき、バランスを取る。隙をつき、背後をとるが、相手の刀で防がれる。

 

勝負はこれからだというときにザンギャックが町を襲っている様子がみえた。

 

「いかん。勝負は一旦預ける」

 

女はそう言うや否や、町へ走って行った。おれたちもザンギャックがいるところへ足を走らせた。

 

ワルズ・ギルという宇宙帝国ザンギャックの馬鹿息子まできたらしい。

 

「「「「「ゴーカイチェンジ!」」」」」

 

ジュウレンジャー、ダイナマンに変身し全員でザンギャックの行動隊長にかかるが、簡単に通じないようだ。おれがワルズ・ギルを相手に戦う。トップを落とせばこっちのものだ。そう仲間に告げ、対峙する。

 

仕留めにいこうとしたとき、思わぬ邪魔が入った。皇帝の馬鹿息子の右腕だというバリゾーグだ。こいつ、強い……!だが、おまえの相手をしている場合じゃない。何!?あの刀の構えは見覚えがある。もしかして____

 

「……シド先輩。………シド先輩なのか?」

 

ふらつきながら立ち上がり問う。唇を切ったようで、口の中に鉄の味がしみる。

 

「シド?そんな名は知らない」

 

嘘だ!!声を荒げておれは反論する。このおれが、見間違うはずがない!その独特の太刀筋、あれはシド先輩のものだ!

 

「その通り。バリゾーグは我が帝国から脱走したシド・バミックを改装したのだ。生意気で気に入らない奴だったが、剣の技は使えそうだったからこうして利用してやったのさ。」とワルズ・ギルが声高々に説明した。

 

なんだと。そんなはずはない。あのときたしかに先輩と脱出をしたときに会ったのが最後だった。だが、生き残っていたら宇宙のどこかでまた会えると約束した。だから、そんなはずなんてない!………ないはずなんだ

 

「生き別れの先輩と感動の再会だな。涙に咽んでしね」

 

思考が停止したように体が動かない。ワルズ・ギルのいうことも、「なにしてんだ、ジョー!」と慌てたように駆けてくるマーベラスも、どこか遠く見える。呆然としたままのおれにマーベラスは自らの背中でおれをかばった。おれが目を見開き、ハッとしたときにはすでにマーベラスが奴らにむけて銃弾を放っていた。

 

「おーおー。派手に斬られてんなァ」

 

「うるせェ」

 

そう返答し倒れたマーベラスをトオルが抱え、おれたちはゴーカイガレオンへ帰った。

 

 



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20

大いなる力を得るために先代シンケンレッド、薫との勝負を開始したジョー。だがそこへザンギャックが襲来し、衝撃の真実が明かされる。特務士官バリゾーグがかつての先輩シドだった。

第20幕 いざ、参る!

 

 

 

 

 

side トオル

 

ゴーカイガレオンに着いて、マーベラスとジョーの治療に取りかかる。おれがマーベラスの傷具合をみていると、さっきの姫さんと爺さんがおれに薬を渡してきた。 

 

「刀傷によく効く薬だ。落ち着くまでには動かすな」

 

爺さんは医療をかじっているようなので手伝ってもらった。

 

マーベラスはスタミナ切れだからしばらく休ませたら元に戻る。頭の半分はお宝とメシのことだ。起きるなりメシを用意しろというだろう。うん、肉食えば治るなんて麦わらのゴム少年くらいしか知らないが。海賊の船長ってモンはそういう体質なのだろう。ってことは、おれも船長になれば、肉食えば治るのか?いや、個人差を考えても……まあどうだっていいか。とりあえずハカセにマーベラスのご飯を頼んだ。普通はお粥がいいのだが、こいつの場合、肉があれば治るだろ。そして、ジョーには頭に包帯を巻いた。ジョーは風に当たってくると言い、そのまま外へ出ていった。今はそっとしておいた方がよさそうだな。奴なりに想うことがあるのだろう。

 

おずおずとハカセが姫さんに尋ねた。

 

「あの、どうして……?」

 

「人として当然のことをしたまでだ。勝負となれば容赦はせぬ」

 

姫さんは背筋を伸ばしてそう答えた。堅物な姫さんだと思ったら、意外と甘っちょろいことを言うんだな。姫さんの純心さが心に刺さる。なまじ、自分が結構悪どいことをしていると自覚がある分、深く刺さる。

 

 

夜中。皆が寝静まったころ、ヒソヒソと声が聞こえた。今日の夜寝番はおれだ。目を閉じているだけで、頭は起きている。 

 

「姫、私の見立てではあの中にレンジャーキーが隠されているかと……いかがでしょう。ここはひっそりと」と小声で爺さんが姫さんに囁く。へぇ。それが目的でわざわざここに来たのか。だが、爺さんは姫さんにパシリと扇子で頭を叩かれていた。

 

「丹波。私はもう少しこの海賊衆を見守りたい気分になっている」

 

姫さんは半畳ほどの畳の上で正座し、優しい眼差しでそう言った。

 

おれはむくりと起き上がって姫さんと爺さんをみた。「お主、寝ていたのでは」といきなり起きたおれを警戒するように見た。爺さんは姫さんをかばうようにおれを睨み付ける。おれは頭をかきながら、はァとため息をついた。

 

「そうカッカすんなよ、コノヤロー。」

 

「……お主、どこへ行く」

 

「野暮なこときくなよ。アレだ、散歩だ。今夜はお月さんがでてるからな。」

 

「お主は仲間が心配ではないのか」

 

暗闇の中でも、姫さんがおれから目をそらさずに言っていることが伝わる。

 

………《仲間》か。おかしいな。おれは手を組んだだけ。ただの居候だ。でもおれはこんな夜中に出かけようとしている。懐にはちゃんとモバイレーツとジャンプキーがしまってある。白衣のポケットに手を入れ、姫さんに向き合い言った。

 

「………大体な、姫さん。守りてェモンってのはなァ、 守りてェなんて思わなくても守れるんだよ」

 

自然とぽつりとそんな言葉が口からこぼれた。…………どうやらおれは随分ぬるくなったみたいだ。自分が宇宙に悪名を轟かせていた事を忘れるくらいに。おかしいな。おれはモブAのポジションに収まろうとしていたのに。どうしてこう面倒ごとにわざわざ突っ込もうとするのか。

 

「……丹波。私の記憶では今夜は月など見えぬはずだが」

「えぇ。雲が覆っておりますな」

「……まったく海賊衆はどうしてこう、ひねくれておるのか。海賊が血も涙も通っておらぬなど虚言であったな。あの海賊衆なら……」

 

おれはゴーカイガレオンを後にした。そんなおれを姫さんと爺さんが生暖かい眼で空を見上げていたなんて知るよしもなかった。

 

 

符抜けていることに気づいたからちゃんと勘を取り戻さねェと。さてさてちょっくら“出稼ぎ”にでも行きますかね。

 

 

ところ変わって、ザンギャック艦隊。ちょっくら時間を食っちまったが、まだ間に合うだろう。いやァ、こうも簡単にザンギャックの艦隊に侵入できるとは。拍子抜けだな。ジャンプキーを取り出し、ぬらりひょんの変身を解除する。ジャンプキーがあってこその成果だな。

 

人のよさそうな笑みを浮かべて、皇帝殿下、ワルズ・ギルに近づいた。「貴様どこからわいてきた!?」はいはい、黙ってください、コノヤロー。注射を取り出し、問答無用とばかり、ワルズ・ギルの腕を取った。 

 

「傷がうずくーー!注射はイヤだァァァァァ!!」

 

…………ハイ、落ちたー。この薬はよく効くが睡眠の副作用があるんだよな。さっきまで注射にびびっていたヤツがおとなしく眠っている。うん、脈もよし。皇帝殿下はしばらく目を覚ますことはないだろう。と言っても三日くらいだがな。治療が終わったので皇帝殿下の側にいた側近の奴に請求書を突きつけた。

 

「……な、なんだこの金額は!?」

 

何ってこれくらい当然だ。だれが皇帝殿下を治療したと思っている。わざわざこちらから出向いた交通費も含めて、もろもろの金額だ。そんな風に追い詰めると、しぶしぶながら支払いに応じてくれた。さっすが、宇宙帝国。資金が潤ってるな。

 

 

 

おれが支払いを計算していると、ひとりの怪人がこの場から出て行こうとしていた。あいつはジョーが相手にしていた剣士か。緑の怪人がどこへ行くのかと問う。

 

「答える必要はない。ボスのご命令がないからな」

 

「飼い犬はご主人の言うことしかきかないのね」

 

呆れたとでも言いたげに緑の怪人はつぶやいた。今のは聞き捨てならない。

 

「犬はエサで飼える。

 

人は金で飼える。

         

だが、壬生の狼を飼うことは何人にも出来ないってな!」

 

ジャンプチェンジ!斎藤一に変身。今日は特別だ。新撰組時代の斎藤さんだ。近くにいたゴーミンに斬りかかる。悪、即、斬!

 

「お、おまえはッ、まさか……」

「全員かかれ!!侵入者だァァ!!」 

「何者だ、貴様!」

 

もう一度ジャンプチェンジ!空中で回転しながら着地と同時に木刀をたたき込む。

 

「宇宙一馬鹿な侍だコノヤロー」

 

 

___その日、ザンギャック艦隊の中を白い頭をした鬼のように強い男が血の雨を降らせた。これは後に【白夜叉の襲来】として語り継がれ、その鬼の正体は謎に包まれた。一説によると、白夜叉は悪名高い《死の外科医》ではないかと唱える歴史研究家がいる。

 

 

数十年後、とある惑星の教科書におれに関する記述があり、冷や汗を流すことになることをおれはまだ知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side マーベラス(ゴーカイレッド)

 

翌日の朝、ジョーの置き手紙が発見された。【一人でけじめをつけたいことがある】そう書かれていた。派手にやられたようで背中が痛む。ソファから起き上がり、仲間たちに声をかける。

 

「連絡してみましょう」

 

「やめとけ。あいつが一人でって、言ってんなら放っておけ」

 

「でも、マーベラス。トオルもいないし………」

 

「あいつらなら大丈夫だ。絶対帰ってくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それよりも____メシだ」

 

 

 

皿に山盛りに乗せられたメシを取る。右手にホットドック。左手に骨付きチキン。「無理をしない方が。まだ動ける状態ではないはずです」うるせェ。肉にかぶりつく。「大丈夫!いつも食べまくって元気になってたから」と茶化すルカの手を払いのけた。邪魔すんな、メシが食いずれェだろ。

 

 

 

「一つ聞いてよいか」

 

「なんだ」

 

「どうしてあの男が戻るといえるのだ。大丈夫と確信できるのだ」

 

「決まってんだろ」

 

 

 

____ゴクリ

 

 

 

肉を飲み込んで答えた。

 

 

 

「____おれとあいつだからだ。初めて会った瞬間に運命は決まった」

 

 

 

 

 

おれは数年前のことを思い出していた。

 

 

 

ナビィとともに降り立った星はすでに焼け野原だった。この星もザンギャックに滅ぼされたか。

 

 

「裏切り者を赦すな。捕まえろ!」

 

遠くの方でザンギャックたちが騒いでいる。一人の兵士が戦っていた。なんだ、あいつ。やるな。

 

「ザンギャック同士でおもしれェことしてんな。手かしてやる」

 

足で刀をはじき、そう声をかけた。満身創痍ので体で男は、声を絞り出した。

 

 

「………宇宙海賊か。おれを助けても金はふんだくれないぞ」

 

 

「んなもんはいらねェ。おれがほしいのはおまえだ」

 

 

背中を預け、おれたちはザンギャックに応戦した。おまえの剣の腕と、その眼が気に入った。だから、おれは男を海賊に誘った。

 

 

 

「おれの首をみろ。気が変わるだろ。これは、発信器になっていて常に奴らが追ってくるはずそうとすると、電撃が放たれて下手すればしぬ。」

 

 

 

ふん。そんなものがどうした。それがあるせいでできないのなら、壊せばいい。おれは両手でそれをつかみ、にやりと笑った。

 

「馬鹿か、おまえ」とごちゃごちゃ言うが知るか。要はこれをこわせばいいんだろ?手に力を入れて引っ張った。ガチャンッと音をたてて、それは破壊された。

 

 

 

「おれには夢がある。宇宙最大のお宝を手に入れるっていう夢がな。その夢を掴む旅におまえを連れて行きたくなった」

 

 

 

「……つきあうぜ。夢の経てまで」

 

 

それがおれとジョーの出逢いだった。

 

 

 

 

おれがそのときの話をすると、「………そんなことがあったんだ」としみじみとルカが言い、「なんだかうらやましいですね」とアイムが言った。

 

サムルァ~イの女が立ちあがり、言った。

 

「おまえたち地球がどうなろうと関係ないはずだろう?」

 

 

「あァ。関係ねェな。これはおれたちの戦いだ」

 

 

「その怪我では無理だ。手を貸そう」

 

女がそう申し出たが、必要ねェ。

 

「いらねェお世話だ。おれの背中を守ってくれる奴がちゃんと来る」

 

ジョーは絶対戻ってくる。それにトオルもなんだかんだ言っていい奴だ。いまはいないが、あいつのことだ。何か考えがあるんだろう。好きにさせておけ。おとなしくやられっぱなしなのは性に合わねェ。気に入らねェ。おれたちには仲間がいる!仲間のためにおれたちは戦ってんだ! 

 

 

しばらく戦っていると「遅くなってすまない」とジョーがやってきた。

「べつに。いい肩慣らしになったし」とルカが肩を回しながら言う。

「ちょうどあたたまってきたところです」とアイムがほほえむ。

「どうせならもう少し遅く来ても……いてて」ハカセが強がっていう。ったく、締まんねェな。

 

「「「「「ゴーカイチェンジ」」」」」

 

派手にいくぜ!

 

 

 

 

 

地に伏したザンギャックをみて身構える。いつもならこのタイミングで巨大化するはず。だが、そうなる気配がしない。おれたちが首をひねっていると、トオルが建物から降り立ち、告げた。

 

「しばらくザンギャックの艦隊は動けねェよ。」

 

ハカセが「どういうこと?」と尋ねる。返ってきたトオルの返事に拍子抜けした。ワルズ・ギルに注射を打ったらしい。3日くらい眠り続ける所謂劇薬を。それをきいたハカセは開いた口がふさがらないというように口をパクパクとさせていた。つまり、トオルはトップの皇帝の馬鹿息子を叩くことで下っ端が動けないようにした。それが怪人の巨人化を防いだことになったのだろう。

 

「あの馬鹿な皇帝殿下はおとなしくしてるがいまごろザンギャックは後処理で大変だろうし、いちいち地球にかまってる暇はない。しばらくは地球も平和ってところか。」

 

ニヒルに笑いながらおれたちに言う。さすが《死の外科医》だな。こんなブッ飛んだ行動するのは宇宙を探してもトオルしかいない。 

 

よし。全員揃ったところでメシだ。今日も肉を頼むぞ、ハカセ。

 

 

 

 

 

 



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21

side 鉱石を拾った一般人

 

下町を歩いているとこの場所に似合わない格好をしたお嬢さんが歩いていた。辺りをきょろきょろと物珍しそうに見渡している様子から土地勘がないことがわかる。あのこをターゲットに誘拐すれば………!よし、いまだ。

 

「……あのすみません。駅はどちらですか?」

「駅ですか?わたくしがご案内いたします」

 

思えば、これが厄日のはじまりだった。どうして誘拐なんて馬鹿なまねをあのとき実行しようだなんて考えたのだろうか。

 

何気ない会話をしつつ周囲を警戒する。人通りが少ない道にさしかかったときおれはピストル(と言ってもおもちゃ)をおしつけた。おとなしくしろ。騒ぐな。しにたくなかったら言うことをきけ。

 

どこかの工場の跡に連れてきた。背中に銃口を押しつける。よし。ここからが問題だ。はやく身代金を要求しないと………!

 

「おい。電話番号教えろ。聞こえないのか!身代金、要求するんだよ!」

 

おれがピストルを使って脅すと、お嬢さんはにっこり笑って回し蹴りを繰り出した。その拍子におれの手からピストルが離れた。この子はいったい何者なんだ……!?

 

「これおもちゃですね。こうみえても海賊なので」

 

海賊ゥ!?……ま、まさか巷で噂の宇宙海賊?

 

「すみませんでしたァァァァ!どうか許してください。出来心なんです。やむにやむを得ない事情があったんです!会社やめて店だしたんですけど、金を借りた先が絵に描いたような悪徳金融で、わずかな貯金も店も全部とられて………借金まで背負わされて、」

 

おれは土下座をして洗いざらい全部白状した。すると、お嬢さんは「わかりました」と言い、携帯を取り出し電話をかけ始めた。

 

「あ、ハカセさん。わたくし今、誘拐犯さんといっしょなのですが、お金が必要だとおっしゃっているので、日本円で3億円ほど用意いただけませんか」

 

ちょ、ちょっとォォ!!!何やってるんだこのお嬢さんンンン!?「お金はわたくしが都合します。もう大丈夫ですよ」イヤイヤ、大丈夫じゃないから!!いまのまるで脅迫電話じゃないか!!「脅迫だなんてそんな……」しかも何!?3億円?おれの借金3,000万だよ?「たくさんある方が助かるかと思いまして」イヤイヤイヤ、わからない、わからない。おれ宇宙海賊がわからない。

 

 

「3億ゥ!?」

「3億!?」

「……3億」

「3億」

「あわせて15億だな」

 

あわせたら駄目だろォォ!!ちょっと携帯貸せ!おれが訂正する。

 

「さっさと用意しろ15億」

 

「増えてますよ!3億ですよね?」

 

………ハッ!電話の向こうの奴につられてしまった。まずい。これじゃますます状況が悪くなっていく。

 

「しょうもないこと言うな!」

 

おれはつい感情的に怒鳴った。瞬間電話越しに空気がピリッとした。電話の向こうで「あら地雷ふんだわね」と女の声が聞こえた。それに続けて「トオル、いまはアイムの無事を確認しないと……!」と焦ったような男の声もする。な、なんだ?急に寒気がしてきた。

 

「しょうもないだと?何がしょうもないんだ。わかりやすいだろ。3億が5回きて15億。足してどうするんだというツッコミ。お笑いとして成立してるじゃねーかコノヤロー。おまえもおもしろいと思ったから15億ってかぶせたんだろ?それをしょうもないって、あァなるほど。しょうもないって言うなら、おまえはお笑いの天才なんだろォ?さぁお笑いの天才のボケ、みせてもらおうじゃねーか」

 

ひィッ!なんだこいつ!!マシンガンのようにおれを追い詰めるように語りかけてくる。じわじわとプレッシャーがかかってくる。胃が痛くなってきた。身代金の要求してたのになんであれはお笑いの説教を受けてんだ。なんでナチュラルによし〇とやってんだ?「チッ!貸せトオル」おれが腹を手でさすっていると電話相手が変わった。も、もしもし。

 

「オイ。おまえが誘拐犯か。おれたちの仲間をさらうとはいい度胸してんなァ。そこで待ってろ。動くなよ」

 

おれはぱたりと静かに携帯を閉じた。もう終わりだ。完全におれ死亡宣告された。

 

物陰から怪しい風貌をした奴が近づいてきた。どうしてこんなときにザンギャックに会うんだ!?たしかに地球には毎日のようにザンギャックが襲来していたが、ここ最近は暴れる事もなかったというのに。

 

「さすがおれさま。ついてるぜ。こんな早く見つかるとは……おいおまえ!クワゾール持ってんだろ?おとなしくよこしな」

 

クワゾール?なんのことだ??

 

「……クワゾールって猛毒を生み出す危険な鉱石のことですか」

「ん?こいつは驚いた!賞金首の元お姫様じゃねーか」

「ッ!絶対に渡してはいけません!」

イヤ、渡すも何もおれ知らないよ……ひィ!!いきなり攻撃された。

 

お嬢さんはおれをかばいながら戦っていた。行き止まりまで追い詰められたとき、お嬢さんの姿がピンクのヒーローに変身した。

 

そういえば、昨日500円を拾ったと思ったら、勘違いで変な石を拾ったような………なんてこったパンナコッタ。こんなもの拾ったばっかりに。借金はなくならない。誘拐は失敗。海賊に狙われたあげくにザンギャックにまで襲われて……なんでこんな運が悪いンだよォ……

 

「いいえ、あなたは幸運です。あなたがこの鉱石を拾ったことでこの星のあなたや大勢の人々の命を救えるのですから。王女でありながら何もできず星を失い、たったひとりで逃げなければならなかったそんな人もいますから……でも生きていればいいこともあります。だから、あなたは幸運です」

 

幸運、か。おれがじんわりしていると、またさっきのザンギャックが追ってきた。ひィ!そして海賊たちも駆けつけてきた。ひィ!やっぱり運が悪いんだァァ!!

 

「ザンギャック、よくもあたしたちの仲間を誘拐してくれたわね」

 

…………え?あ、あれ?おもわずお嬢さんと目を合わせる。海賊たちはザンギャックに向かって剣の先を向けていた。その言い方じゃ、まるでザンギャックがお嬢さんを誘拐したような………

 

「え?なに。誘拐?誰が?おれ?」

 

案の定、ザンギャックは混乱していた。そりゃそうだ。未遂とはいえ、誘拐はおれが企てていたし………たしかに鉱石を狙われ追われたが、それは別件だ。

 

「しらばっくれんな。礼はたっぷりさせてもらう」

「言い訳はききたくねェ。ただでは返さねェ」

 

「「「「「ゴーカイチェンジ」」」」」

 

海賊たちは赤、青、黄色、緑、ピンクのコスチュームに変身し、ザンギャックたちと応戦し始めた。壁に隠れていたおれを白衣を着た男が避難させてくれた。「アイムだけじゃなく一般人まで誘拐していたのか」………なんだか誤解されているような気がするが、これ以上ややこしくするわけにはいかない。おれは黙って白衣の男の「怪我はねェか?」という問いかけに首を横に振っていた。

 

「あとは主犯のアンタだけよ!」

「まてまて!タイムタイム!おまえら、なんか誤解している!な、ピンク!?」

「何のことでしょう」

「えェェ!?そんなことねーだろ!?」

「うるせェ!この誘拐犯」

 

………なんだかものすごくいたたまれなくなってきた。あのザンギャックに濡れ衣を着せてしまった。お医者さん、おれ怪我してたみたいです。心が痛いです。

 

 

「おのれェ!ふん、ラッキーなのはおれさまだ。クワゾール、それとこいつらは賞金首!一味全員の賞金あわせて11,251,000ザギンがおれのものだ!!」

 

そう言った瞬間、この場にいる全員が列に並んで順番につぶやいていく。

 

「11,251,000」

「11,251,000」

「11,251,000」

「……11,251,000」

「11,251,000」

 

そして最後の一人となったとき全員の視線が白衣の男に向かった。もしかしてもしかするとこのパターンは………期待した眼でみると

 

 

 

____「11,251,000」と冷静に顎に手を添えてつぶやいた。

 

えェェェェェ!!足さねーのかよッ!!そこは足すところだろォォ!?みろ全員ずっこけてるじゃねーか!!芸人の団体芸になってるよ!!

 

 

 

 

 

結局、海賊たちはザンギャックを相手に戦い、コテンパンにしていた。容赦がない攻撃だった。クワゾールという鉱石は海賊たちに渡して処理してもらった。一件落着だが、おれは謝らなければならない。お嬢さん、いやゴーカイピンクに頭を下げた。

 

「すまん!おれはどうかしてた。切羽詰まっていたからといって関係のないアンタを……おれ、もう一度踏ん張ってみるよ、アンタみたいに」

 

「もしどうしようもなくなったらわたくしに声をかけてください。まだしばらく地球にいますから」

 

お嬢さんの後ろからひょっこり白衣の男が顔をのぞかせた。

 

「オイおっさん。次来るときは必ず大爆笑のネタもってこい。皆、期待してっからよ」

 

それはイイ顔で言い放った。笑顔なのに笑顔じゃない。目が笑っていない。ウッ、また急におなかが………

 

「あいつ次来るのか?」

「……さァな」

「あーあ、トオルに追い込まれてるじゃない」

「あまりからかってはかわいそうですよ」

「ご愁傷様。」

 

ピンクのお嬢さんたちが後ろでこそこそと話していた。おれは口元を引きつらせながら手を振って彼らを見送った。

 

………まじめに働こう。

 

 



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22

戦う交通安全!

 

激走戦隊 カ~~~レンジャー!

 

 

 

 

 

 

 

side トオル

 

「皆のもの、交通安全に気をつけるぞよ」

 

朝起きるなりナビィがお宝占いの結果を告げた。おれは寝起きの働いていない頭でぼんやりきいていた。

 

横断歩道は手を上げて渡る。無理な横断はやめましょう。駐車違反はやめましょう。自転車は駐車違反か?

 

なんだか微笑ましい。マーベラスは両手をあげて横断歩道を渡ったり、ルカは駐車違反のドライバーにキレたり、教本(宇宙警察監修)片手に取り締まりをしている。前世で教習所に通っていたことを思い出す。おれはATの普通車の運転免許を取っていたんだっけ。いまは両さんにジャンプチェンジすれば、乗り物系はたいてい操縦できるからなァ。実を言うと、宇宙船の免許をおれとってんだよな。いまは地球に居座ってるので宇宙船を操縦する機会も減ったので身分証明書代わりに使っている。

 

しばらく歩いていると、ゴーミンに追われている男がいた。

 

「ザンギャックだよな?」

「とにかく行きましょう」

 

………厄介ごとのにおいがプンプンするが、仕方ない。皆ザンギャックに立ち向かいに行ってしまった。おれも行くとするか……

 

おれが駆けつけると、ベンチで体育座りをする男がいた。赤地に黒い馬蹄と白い蔦・金の葉の模様が刺繍されたシャツを着ている。男は「……これが海賊戦隊ゴォ~カイジャー。いいね」と、頷いていた。狙われているにしては態度が堂々としているし、なんだこの状況。

 

「君たちが海賊戦隊ゴォ~カイジャーだね?はい、コーヒー牛乳」

 

そう言いながら、男はおれたちに一人ずつ順番にコーヒー牛乳(瓶)を配った。いちご牛乳の気分だったが、つい反射的に受け取ってしまった。実はいちご牛乳にするか、煮オレシリーズにするか、コンビニで悩んだすえにいちご牛乳を選択した。ちなみに言うと、煮オレは赤羽カルマがよく飲んでるものだ。いちご、レモン、サバなどシリーズ化されている。

 

銀さんにジャンプチェンジしすぎた反動か、体が糖分を欲している。カフェインじゃない、糖分がほしいんだ。でもせっかくもらったしなァ。おれがそんなことを考えている間に会話が進む。

 

「………アンタは?」

「実は私、戦う交通安全カァ~レンジャーのレッドレーサーだったんだ。かのレジェンド大戦でレッドレーサーの力を失ってしまったから、今は陣内恭介の名前で役者やってますけど」

「元カーレンジャーだったからザンギャックに襲われていたの?」

「さァ?」

「ナビィの言っていた交通安全に気をつけろってことはこういうことか」

 

結局、牛乳瓶の蓋を空けることにした。ポンっと音を立てて、ちびちびと口に含む。

 

 

「そうだ!私と劇団つくらないか?こどもたちに、芝居を通して交通安全を教えたいんだよ。それまでは紙芝居でやってきたんだけど、どうも限界を感じてね。どうだ、《6色の信号機》!絶対イイ芝居になるって!もちろん、脚本と演出と主演は私が!そして君たちは6色の信号機になって__って、君たち、大いなる力はいらないのかい?」

 

 

男がペチャクチャ喋るのをコーヒー牛乳を飲みながら左から右へ聞き流す。

 

 

「いや、いるけど……」

「6色の信号機になるのは……」

「ほかのカーレンジャーの方にいただきます」

 

さて、そろそろ頃合いか。皆の足が一歩ずつ下がっている。おれもゴクッとコーヒー牛乳を流し込む。そして、マーベラスの「行くぞ!」を合図におのおの牛乳瓶をおいて走りだした。

 

 

「待ちたまえ、君たち!私がレッドレーサーだったことを忘れているね?足には自信あるんだ」

 

 

油断していたわけではないが、予想外だったのは男が得意気にそう言い、ギャグ漫画よろしく追いかけてきたことだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side ハカセ(ゴーカイグリーン)

 

あっちに行くべきか、こっちに行くべきか……それが問題だ。

 

カーレンジャーのレッドレーサーの前から走り去ったぼくたち。いくら大いなる力がほしいからといって、劇団をつくるのはちょっと、ね。そもそもぼくたち、海賊だし。

 

頭を抱えてどっちに行くべきか悩んでいると、さっきのカーレンジャーの人が「その悩める演技。シェイクスピアも絶賛する……!」と、逃げようとしたぼくを両腕を掴んで引き留めた。うわ!まずい。ザンギャックは火をまといながらこっちに向かってくるし、この人はぼくを盾にしてくるし………!何するんですか!!

 

「ちょ!仮にも元カーレンジャーの人が他人を盾にするなんて。自分で除けてください!」

「しょうがないだろ。もう戦う力を失ってしまった体なんですから」

 

それもそうか。……ハッ!つい、一緒になって体育座りをして納得してしまった。

 

いつの間にかザンギャックの女幹部インサーンがあらわれ、ジェラシットを叱咤していた。

 

「やめなさい。だれが炎のジェラシーパワーで倒せといった。そこをどきなさい。私は捕まえろと言ったはず」

 

「くっ……かわいさ余って憎さ100倍インサーン!」

 

 

 

どうすればいいんだろう。止めるべきか、止めざるべきか………そこが問題だ。

 

 

「ハカセ!大丈夫か」

「なんだこりゃ……」

「なにがなんだかわかりませんね……」

 

マーベラスとジョーとアイム、ルカが駆けつけてきた。ザンギャックたちがカーレンジャーの人を取り合いしていて、まさにカオスな空間になっている。

 

「元カーレンジャーの陣内恭介を巡って、ザンギャックの内部分裂?」

「……そんな大げさなものにはみえないが」

 

たしかに。ルカがいうような内部分裂にはみえないけど、ザンギャックの幹部が動くってことはひょっとすると………

 

「もしかしてカーレンジャーの大いなる力ってすごいものなのかも」

 

なんとなく小さな可能性としてぼくがそうつぶやく。でも、実際のあの人の様子からしてそうは見えないんだよなァ。皆も首を捻っていて、ピンと来ていないみたいだ。しばらくザンギャックの攻防を眺めていると、「何してんの。ボケッとしてないではやく助けなさいよ!はやく!」と、インサーンという女幹部が叱咤してきた。ハッとなって、モバイレーツを取り出し、レンジャーキーを構える。

 

 

「「「「「ゴーカイチェンジ」」」」」

 

 

 

「派手に____ってどこだ。やりずれェな」

 

………派手に行けなかった。ぼくらが変身すると、相手はもう姿はみえなくなっていた。レッドレーサーは「こっちだ~!」と建物の中からぼくらを呼ぶ。どこか調子が狂うな。まずはジェラシットという怪人を相手に戦うか。……………くッ!なかなか強い。

 

やっぱりここはこれでしょう!レンジャーキーを取り出し、ゴーカイチェンジだ!

 

 

 

___《ターボレンジャー》

 

 

「おい!それじゃない!」……しまった。カーレンジャーだって!違うみたいだ。仕切り直してもう一度。

 

 

 

___《カーレンジャー》

 

 

元レッドレーサーをみると、親指を立てて笑っていた。よし、正解だね。

 

アイムは一輪車、ジョーはスケボー、ルカはローラースケート。ぼくとマーベラスは自転車。ぼくがペダルをこいで、マーベラスは「ラクだぜ」と後ろに乗っていた。そりゃぼくがこいでるからね………めざとくそれを発見した元レッドレーサーは「こら二人乗りは禁止」と腕でばってんしてる。

 

 

「「「「「ゴーカイクルマジックアタック」」」」」

 

 

ぼくたちがジェラシットを相手にしている間に元レッドレーサーはインサーンから逃げ回っていた。

 

 

「まった!わかったよ。こういうのは地域では男からなんだよ。

 

 

 

………ソイヤァ!!」

 

インサーンを払いのけ、逃走している。インサーンは怒りを露にして追いかけ回している。まだ逃げ回っていたんだ。………うーん、助けに入るべきか、入らないか。

 

ジェラシットは倒してもないのに巨大化した。どういうこと?マーベラスも「マジでわけがわかんねェ」と呆れている。

 

「馬鹿!恋は叫んでも通じない。もっと心をこめるんだ、いいか、アイ ラブ ユー。ハイ!」

 

………そして、この状況をつくった当の本人は、ジェラシットに向かって説教をしている。大袈裟に身ぶり手振りして、復唱するように言った。

 

 

「そうだぞ、ジェラシット。東の海にはこんな諺があるんだ。

 

………恋はいつでもハリケーンってな。」

 

 

いつの間にかトオルも一緒になってジェラシットを応援していた。最近はまるでしんだ魚のような目をしていたのに、いまはキリッとした顔つきになっている。

 

「おぉ!きみ、いいこというじゃないか」

「おっさんもなかなかイカしてんな」

 

元レッドレーサーとトオルは握手を交わし、意気投合したようだ。いまでは恋愛トークに花を咲かせている。トオルは得意げに話し出していた。

 

「一度こいつって決めたら他の女に目移りしちゃいけねェ。おれは小野寺推しだったんだよコノヤロー。おのれザクシャインラブゥゥゥゥ!!」

 

………………いや、ジャンプの話だ、これ。

 

 

ちらりとおそるおそる振り向くと、ザンギャックが「アイ ラブ ユー」とお互いに言い合っている。元レッドレーサーは満足気に頷いているし、トオルにいたっては完全に煽りにきている。………カオスすぎるよ。

 

 

「うわぁぁ!トオルまでおかしくなっちゃった」

「アホらしくなってきた」

「………何やってんだアイツ」

「まぁ、そんな諺があるのですね」

「アイム、本気にしないの。どうせその諺っていうのはジャンプのことよ、たぶん。」

 

 

案の定、フラれたジェラシットは巨大化したまま大暴れした。微妙な気分のままゴーカイオーに乗り込み、そのままジェラシットを空の彼方へ飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side トオル

 

ジェラシットは空の彼方へ消えていき、一件落着。公園では《戦う交通安全》の芝居が繰り広げられていた。棒読みで。

 

「《戦う交通安全》じゃあ、いってみよう」

 

監督ことレッドレーサーは赤い台本を手に、合図がかけた。

 

「……赤信号。自分を責めるのはよせ。」

「せめて黄色信号に」

「せめてって、そんな言い方ないでしょ」

「赤信号さん。そうですよ」

「……ピンク信号は黙っていろ」

「黙ってられないから」

「……なんだ、この緑野郎」

 

「みんな、やめよう。

 

……おれたちの敵は交通違反だ。おれたちは、戦う交通安全……」

 

 

思わず「チェンジで」って言いたくなるくらいの大根演技だ。これがテレビだったらチャンネル変えると断言できる。子どもたちも「かっこわる」「だっせー」と不満の声をあげている。

 

「もっと熱く!大いなる力はいらないのか!はい、もう一回」

 

おっと、監督の熱血指導が入った。「黒信号もボケッとしてないで、絡みにいくんだよ」と軽く背中を叩かれた。やれやれ、仕方ない。

 

 

「……赤信号。自分を責めるのはよせ。」

「せめて黄色信号に」

「せめてって、そんな言い方ないでしょ」

「赤信号さん。そうですよ」

「……ピンク信号は黙っていろ」

「黙ってられないから」

「……なんだ、この緑野郎」

 

取っ組み合いのくだりで黒信号(おれ)が登場する。

 

___ドコォォ

 

 

おれは拳を勢いよく地面へ叩きつけた。結果、公園にはクレーターができた。おれのイメージ的にサイヤ人は着陸するときでっかいクレーターつくる。さすがに宇宙船を出すのはコスト的に無理だった。でもリアリティの追求って必要だし。ということで、自分でクレーターをつくった次第だ。土埃の中に人影がみえ、それっぽくいい雰囲気になっている。

 

「おれたちの信号機は赤信号さん一人じゃない、ここにもいたということだ」

 

 

「黒信号………全員揃ったな。

 

いくぞ!戦う交通安全、激走戦隊カーレンジャー!」

 

 

皆で腕をグルングルン回し決めポーズをとる。

 

ちらっとギャラリーをみると、保護者が顔を青くして携帯電話をかけ始めていた。ちょっ!あとでちゃんと埋めるから!ついでにおれの黒歴史も埋めるからァァ!!

 

 

 

 

 

そうしておれは大人の事情により、各方面へ頭をさげるのであった。

 

 

 

 



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23

これは一匹狼の浮浪医師の話である。

ザンギャックの侵攻により宇宙医局は弱体化し、命のやりとりをする医療もついに弱肉強食の時代に突入した。その危機的な医療現場にの穴埋めに現れたのがフリーランス…………すなわち、一匹狼のドクターである。

たとえば、この男。

群れを嫌い、権威を嫌い、束縛を嫌い、専門医のライセンスと叩き上げのスキルだけが彼の武器だ。

はぐれ(ヤブ)医者、トオル。またの名を【死の外科医】。

 

 

side トオル

 

朝からハカセが新聞を持って騒ぎたてている。懸賞金が上がったらしい。オメデトウ、君らもザンギャックに目をつけられたんだね………(遠い目)

 

やつらは、なかなかしぶといからこれからも長いつきあいになると思う。これはおれの経験談から基づいてる。倒しても倒しても沸き上がってくるゴーミン兵ども。おれの懸賞金に目がくらんだ賞金稼ぎたち。ジャンプキーがなかったらどうなってたことやら…………おれはどっかの戦闘民族みたく、わくわくしねーし、番傘は持ってねーんだよコノヤロー。

 

「この額なら結構どころか、もうすぐ赤き海賊団と並んじゃうよ……」

「赤き海賊団というと、昔マーベラスさんがいらっしゃったという……」

「たしか、あっちは__」

 

バサッとハカセが持っていた新聞は、マーベラスによって取り上げられた。マーベラスは「そろそろ次のお宝探し始めようぜ。おい、鳥。」と定位置のいすに腰掛けた。

 

「もう、鳥じゃないってー。Let’s お宝ナビゲート!レンジャー、レンジャー、デンジャラス。皆に危険が迫ってるー。……あれ、なんかオイラいつもとちがう」

 

そうか?いつも通りよくわからない占いだが。ナビィがあっちこっちにぶつかったせいで物が錯乱している。ただ、新聞のマーベラスの手配書に刺さったダーツの矢を見て、妙な胸騒ぎを感じた。

 

お宝探しのために全員外に出かけることになった。あれ、なんでこんな所にバナナの皮が落ちてんだ?いまどきこんな雑ないたずらに引っかかるやつなんているわけな___「オワッ!ちょ!いてー」………訂正、いました。ハカセが尻餅をついて転んでいた。

 

「よォ、マベちゃん」

 

どこからか声をかけられた。瞬間、マーベラスの顔色が変わる。

 

「「「「「マベちゃん?」」」」」

 

きれいにマーベラス以外の声が重なった。階段の上部を見上げると、サルがバナナを食べていた。………マーベラス、サルと知り合いだったのか。内心そんなことを思っていると、それを口に出したハカセはマーベラスに頭をつかまれ、おれはぎろりと睨まれた。どうやら顔に出てたらしい。

 

「相変わらずふざけてんな、バスコ」

 

「あ、ばれちゃった?おれのこと。覚えていてくれてたんだ。」

 

チャラけた口調の男がサルの背後からあらわれた。あいつ、どっかで見覚えがあるような、ないような。…………?

 

「マベちゃん、いま船長やってんだって?えらくなったもんだねェ。」

 

「……あんたのおかげでなァ。こんなとこまで何しにきた」

 

「決まってんだろ、宇宙最大のお宝!あるんだろ、この星に。このおれがあきらめるわけないっしょ」

 

「………そうだな、あんたはそういうやつだった」

 

マーベラスはそう言うなり、いきなり発砲した。だが、サルによってその銃弾ははじかれる。チッと舌打ちをして、今度はサーベラスを振りかざした。どういうことなのか状況が読み込めないおれたちに、何故か巨大化したスゴーミンがでてきた。バスコは「じゃね、マベちゃん」と去って行く。おいおい、この始末おれらがするのか?勘弁してくれよコノヤロー。

 

 

 

ゴーカイガレオンに戻るなり、マーベラスはバスコについて問いただされた。不機嫌な様子でだんまりだったが、ジョーやルカたちにつめられ、白状した。

 

「バスコ・ダ・ジョロキア。赤き海賊団を裏切って、壊滅に追い込んだ男だ。この船で一緒に旅をしていた仲間は三人。おれとバスコと、そして船長のアカレッド。宇宙最大のお宝を手に入れるため、宇宙に散らばってたこいつを集めていた。レンジャーキーを探して星から星へ。ザンギャックとやりあうこともあったが、まァ楽しい冒険の旅だった。だが、______」

 

そうして一同でマーベラスの回想が始まったのだが、語り終えたときには見事に船内の空気は重苦しくなっていた。下手に冗談もいえないな。結論的にいうと、バスコが裏切って、アカレッドに助けられ、アカレッドとの約束のために宇宙最大のお宝を見つけるらしい。それが裏切ったとはいえ、かつての仲間だったバスコに何か思うことがあるのだろう。マーベラスはさっきからますますだんまりである。

 

すると、この重苦しい空気を助長するかのように曲が流れ出す。

 

こ、これは……!

 

HUNTER×HUNTER(劇場版)の主題歌だ。アニメのエンディングではイントロの入り具合もぐっときた。うぅ。メルエムとコムギを思い出して涙が出てきそうだ。音楽のせいか、マーベラスも悔しそうな顔をしながらも目にはうっすらと涙の膜がはっている。その【空気】に感化されてか、全員うるうるしてきている。

 

こんな状況を作り出すことに加担することになって申し訳ない。さきに謝っておく。おれは白衣のポケットからモバイレーツを取り出す。

 

 

 

「___あ、もしもし?」

 

「「「「「着信音かよ!!」」」」」

 

全員きれいにずっこけていた。おれは耳に当てて「間違い電話?いま取り込み中だから」といった。「なんで状況にぴったりなの!」とルカにキレられ、「紛らわしいので変えてください」とアイムに懇願された。せっかく気に入ってたのになァ………「………誰からだったんだ?」とジョーに聞かれたので「たぶん多串くん」と適当に答える。すると、険しい顔をしたマーベラスが「貸せ」というのでおれのモバイレーツを渡した。

 

「マベちゃんさっきぶり~。」

「………バスコか。ちょうど噂していたところだ」

「まじで?おれってば人気者~。今日はごめんね!途中で野暮用入ってさァ。明日暇ならもう一回お話しない?」

「暇じゃないが、あけてやる。さしでケリつけようぜ。」

 

 

ガチャっと切ると、おれに押し付け、「あいつに関しては手出し無用だ。」といい、去ってしまった。どうしておれの番号知ってるんだ?…………ハッ!これが噂の個人情報流出か?

 

「相手は曲者っぽいけどだいじょうぶかなァ……」

「信じて待つしかないのでしょうか」

「……譲れないものってのがあるからな」

「しょうがない!明日もあたしたちはお宝探しだ。もしかしたら、たまたま途中で、ばったり偶然誰かさんに会ったりするかもしれないけどね」

 

ルカが得意気に言うと、さっきまで沈んでいた様子のアイムやハカセがぱあっと笑った。皆がマーベラスを心配している気持ちが今の中途半端なおれには少しまぶしく見えた。おれはそっとその場から一歩退き、静かに見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

side マーベラス

 

バスコからの呼び出し場所へ向かった。砂埃が舞い、見覚えのあるシルエットとサルがいた。

 

「やァ!マベちゃん。よくきたねェ」

「そのなめた口、今すぐふさいでやるよ」

「……できるかなァ?マベちゃんってばさァ、相当アカレッドに懐いてたけど、どこまできいてんの?」

「なんの話だ」

「実はあの人、おれらに黙ってたこと結構あるみたいなんだよねェ。例えばこれのこととか。」

 

レンジャーキー!?どういうことだ。なぜ、バスコが持っているんだ!?

 

「あのころ三人で集めてたのは、全部じゃなかったってこと。やっぱり知らなかったみたいだねェ。じゃ、これはどう?」

 

そう言い、バスコはレンジャーキーをラッパに指す。「レンジャーキーにはこういう使い方もあるってね」バスコがラッパを吹くと、レンジャーキーが実体化した。

 

「ほら、大事な勝負だからさァ、さしじゃないじゃん、なんてツッコミはなしね。おれさ、正々堂々戦うの苦手なんだよ。知ってんだろ?」

 

そうだった。昔からそんな戦い方してたな。バスコはヘラヘラ笑っている。

 

おれが歯を食いしばっていると、「わっかりやすい悪役だな。ぶっちゃけすぎだろ」とトオルの声が聞こえた。

 

パッと後ろを振り向くと、「こんなところで会うなんて偶然だね」とハカセが笑い、「……レンジャーで、デンジャラスなものを探していただけだ」とジョーが言う。

 

そして「新しいレンジャーキーがあるならゲットしないとね」とルカが猫のように笑う。アイムもルカと一緒になっていたずらが成功したかのように笑っていた。

 

……おまえら、勝手にしろ。派手にいくぜ。

 

「「「「「ゴーカイチェンジ」」」」」

 

レンジャーキーが実体化すると、やりづらい。いつものザンギャックより苦戦しているようだった。それでも攻撃は効いているようで、レンジャーキーは元に戻った。バスコ、これで終わりだ!

 

「残念!おしい。」

 

は?おれが呆けていると後ろから爆音が響いた。「おれが持っていたレンジャーキー、5つじゃなかったんだなァ、これが。」とニヤニヤした顔でバスコが言う。みれば、次々とやられていく仲間たち。ふと、トオルをみると、サルを相手に奮闘していた。

 

「くっ……!サルを相手にするとは……この前、各方面へ頭をさげたってのに、また同じ目に遭うじゃねーか、動物愛護団体とかに。おれだって好感度とかあるんだからな!?いや、そもそもおれ指名手配されてるから好感度とか関係ねーか?わかるかサル。人間社会は複雑なんだよコノヤロー」

 

トオルはそうブツブツ言っている間にあっという間にサルに捕まったらしい。くそ!おれ以外、全員捕らえられた。こっちは手も足も出せない状況に追い込まれた。人質をとりやがって、相変わらず姑息な手段を使いやがる。

 

 

「さっきのレンジャーキーはマベちゃんにあげるよ」

 

こいつ……!まさか、はじめからおれの仲間を………!

 

「ぴんぽーん!前に言っただろ?_____何かを得るには何かを捨てなきゃって」

 

 

待て!バスコォォォォォ!!船に乗って飛んでいくバスコに叫んだ。バスコはおれを嘲笑うかのごとく去っていった。

 

 

だが、おれの手元にあるのはバスコから取ったレンジャーキーだけだった。

 

 

 

 



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24

side トオル

 

サルを相手にすることにジャンプキーを使うことを渋ったおれ。おれにも倫理とか、道徳とか一応あるし。……あるよな?

 

バスコに捕まったおれたちは鎖で縛られた。だが、幸いおれはモバイレーツを奪われなかった。変身しなかったせいか、持っていないと思われたらしい。

 

ガシャンっと音を立て、ジョーが床にくずれる。

 

「おっとォ~。足がすべった。ってことで、マベちゃん。おれと取引しない?こいつらと引き替えに、あの日おれが手に入れるはずだった物を全部よこしな。全てのレンジャーキーとゴーカイガレオン、あとナビィ。宇宙最大のお宝探しに必要な物全部だ。どう、簡単っしょ?あれ、あれれれれぇ~?まさかマベちゃん、迷ってる?ならどっちでもいいけどねェ。この取引が駄目なら、また他の手考えるし。あぁ、こいつらサンギャックに売っちゃうよ?せめて賞金くらいほしいもん。考える時間やるよ。イイ答えを期待してるからさ!」

 

バスコはモバイレーツを閉じ、おれたちを品定めするかのようにみつめた。そんなバスコにルカが話しかけた。

 

「ね!バスコ。あたしを雇わない?」

 

ぎょっとしたようにルカをみやり、動揺が走る。ルカはあっけからんと「だって、しにたくないもん。だったらあたしは命を取って、マーベラスを捨てる。」と言いながら立ち上がる。ただし後ろのジョーやハカセ、アイムに向けて「あたしに任せて」と指でサインを出している。バスコはニッコリ笑いながらルカに近寄る。

 

「よォし、わかった!

 

 

 

_______っていうと思った?」

 

表情を消したバスコが冷たくはねのけた。やっぱりな。

 

「わりィな。おれ、人、信じてねーんだわ。人、信じて何か得することあんの?うっかり信じた相手がおれみたいな奴だったら、いろんな物失っちゃうよォ?…………マベちゃんみたいに。」

 

そしておれにちらりと視線を向け、「おれはトオルに散々カモにされたからねェ。こいつには気を付けた方がいいよォ?心臓が惜しいんならねェ。」と、可哀想なものをみるかのようにルカたちに語りかけた。……はて、なんのことやら。見に覚えがありすぎてどれのことだかわからない。

 

 

バスコが云うには、数年前にとある惑星で漢方薬の治療が大ブームになったことがあった。そして、誰に構わず漢方薬の一種である葛根湯を薦める医者がいた。

 

「頭が痛い?あー、そりゃ 頭痛ですね、葛根湯をおあがり。次は胃痛? 葛根湯をおあがり。今度は筋肉痛?葛根湯をおあがり。次は……」

 

「先生、おれは単なる付き添いで」

 

「付き添い? 退屈だろ、葛根湯をおあがり」

 

この付き添いがバスコだったのである。漢方薬が口にあわなかったバスコは数日後、体調を崩し、またその医者に駆け込んだ。

 

「まったく、拾い食いすんじゃねーよコノヤロー。こりゃ腹痛だな。葛根湯をおあがり」

 

 

この医者は、トオルだった。そう、つまりおれなわけで。なんか、思い出してきた。そうか、そんなこともあったなァ。

 

「___あのときまた漢方薬を処方されて、アカレッドが「その葛根湯が原因なのだが」って言ってくれなかったらおれは今ここにいないね。」

 

 

ウッ!ハカセたちの視線がいたいこと。しみじみと語るバスコには哀愁の風が吹いている。

 

そうしておれたちはサルに牢屋へと移動させられた。ハカセがサルを懐柔しようと図るが、あえなく失敗。脱獄をしようと試みるが、あえなく失敗。そうこうしている間にマーベラスから連絡が入り、交渉の場所へ連れていかれた。

 

 

 

 

「ご苦労さん。とりあえず、その宝箱の中、見せてよ。そんで、ソレ置いてさがっててくれる?」

 

「こいつはやらねーよ。」

 

「………へェ。じゃ、こいつら見捨てるんだ?」

 

「いや、仲間たちも返してもらう。」

 

「あのさァ、マベちゃん。何も捨てずに何かを得るなんて、無理なんだって」

 

苛立ったようにバスコが顔を歪める。

 

「知ったことか。ほしいモンは全部この手でつかみ取る!____それが海賊ってモンだろ?」

 

そういうや否やマーベラスは宝箱を投げつけ、バスコに斬りかかる。ハカセの気転で鎖はほどけた。

 

 

……おれ以外はな!

 

「「「「「ゴーカイチェンジ」」」」」

 

ちょ!せめておれの鎖を切ってから変身してくれ。結局、おれは鎖でグルグル巻きにされ、敵陣のなかに放り込まれてしまった。もがいているうちに鎖は引きちぎれたが、あいにくジャンプキーで変身する余裕がない。

 

それでも必死に手足を動かし、攻撃されそうになりながらも向こう側にたどりつくと、先回りした二人ほどにポカポカポカと袋叩きにされる。慌てて対岸に逃げるとまた実体化したレンジャーキーに殴られ、反対側に逃げるとそっちでもまたポカポカポカポカと挟み撃ちに合う。

 

息も絶え絶えになったおれは、散らばったレンジャーキーのもとにたどりついた。

 

「逃げるぞ、ナビィ。レンジャーキーを集めろ!」

 

ナビィにそう言い、ふと見るとナビィは何だか難しそうな本を読んでいた。

 

「何だ、それは?」

 

「傷寒論と言う医学書だよ」

 

「医学書?医者には医学書より少年ジャンプだ!」

 

おれがかめはめ波の構えをとろうとすると、後から声がかかる。え?今のみられた?みられた?ぱっちりみられた?ダラダラと冷や汗がふきこぼれる。

 

「……へェ、トオルもまるくなったねェ。だけど、これだけは はっきりと言えるっしょ。トオルは、マベちゃんたちを“壊す”。まァ、せいぜい気をつけることだねェ。トオルの影響力は宇宙を震撼させるほどだから。何かがあってからじゃ、もう元には戻らないよ?」

 

 

 

意味深な言葉を残し、バスコは去っていった。

 

 

 

 

ひとり残されたおれは空を見上げる。太陽が眩しくて、視線を彼らへ移す。バスコの言葉が頭の中を駆けめぐる。おれが彼らを“壊す”。そんなこと、“わかっている”。もしも、おれの前に壁ができたら、おれはどう動くことが最善だろう。

 

 

目の前に立ちはだかる高い、高い壁。

その向こうはどんな眺めだろうか。

どんな風に見えるのだろうか。

 

某バレーボール漫画じゃ、“頂の景色”って言ってたな。

 

おれ独りでは決して見ることのできない景色。 でも、独りではないのなら、見えるかもしれない景色。

 

彼らといっしょなら見えるかもしれない景色。

 

例えば、おれが彼らと共にいたいのならば

例えば、おれが彼らを護りたいならば

例えば、おれが彼らの枷になってしまうならば

 

そうなったときおれは、___

 

 

「トオル、メシだ。帰るぞ」

「……おいてくぞ」

「今日は大根の葉っぱをつかってみたんだ!」

「えェ~!肉がいい!ね、トオルもそう思うでしょ?」

「ルカさん、好ききらいはいけませんよ。トオルさんもいっしょにいただきましょう」

 

 

少し離れたところから彼らがおれを呼んでいた。おれはフーと息を吐き出し、「あァ」と短く答えた。

 

 

 

 

 

 

おれは 彼らを、彼らの夢を、壊したくないでいる。

 

 



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25

地球を護るは天使の使命

 

天装戦隊 ゴセイジャー

 

 

 

 

side トオル

 

ジャンプ作品とコラボしたTシャツを買うために出かけていた。ルフィのギアセカンドがプリントされたものを購入し、ニマニマと店を出て大通りを歩く。右に曲がると裏路地に入った。こういうところに知る人ぞ知る名店があるんだよなァ。好奇心が膨らみ、そのまま歩く。すると、テンプレのようにカツアゲされている現場に遭遇してしまった。いかにもチンピラという風貌の男に囲まれた、草食系男子のような青年がいる。いや、左耳に羽の形のピアスを付けている。 もしかしたら不良デビューに失敗した系かもしれない。

 

なんにせよ、こういうときは100当番するのが一番だ。だが、いかんせんおれはお尋ね者。そういうわけにはいかない。やれやれ。止めに行こうとしたら、青年が動いた。

 

フッと消えたかと思うと、チンピラの背後にまわり、首筋にトンと指をあてていた。そして困ったように笑っている。まるで、暗殺教室の潮田渚のような動きだ。

 

「あんまり、事を荒立てることはしたくないんだ。」

 

 

物腰がやわらかく、しかし内に秘める力は計り知れない。チンピラは腰が引けたようで、顔を青くさせながら走り去っていった。パッと視線が合う。

 

「…………もしかして、君、ゴーカイジャーの______」

 

___グゥゥ

 

タイミングがいいのか、わるいのか、おれの腹がなった。目をぱちくりさせた青年はクスリと笑い、「よかったらご飯たべていかない?」と言った。なんてイイヤツなんだ!「天使さまがいるッ!」と感謝すると、肩をギクリとさせ固まった。それからコホンと咳払いし、「ぼくはアラタだよ」と自己紹介された。

 

案内されると、いきなりテーブルにドンとどんぶりが置かれた。「はい、エリ丼よ」ポニーテールの女が期待した目でこちらをみる。おれはダラダラと顔から汗が流れる。もし下手なこと言ってみろ。一発ノックアウト、KOだ。ここはシミュレーションしてみるか。

 

【ざっくりした見ためからは想像もつかないすごくうまい味!!歯ごたえもなんかすごくいい歯ごたえだし、口いっぱいに広がるすごくいい香りがこれまたいい!!】

 

却下。アタマわるい食レポだとメシがまずくなるじゃねーか。

 

【この世のすべての食材に感謝をこめて!いただきます!!】

 

却下。釘パンチだとか、ガツガツと野性味あふれる料理じゃねーよ。

 

 

こうなったら、あまりの美味しさに感動したとかいって、ぬぐか?……却下だ。おれにはまだそんなリアクションは、できない。

 

考えてみるが、なかなかいいコメントが思い浮かばない。食レポってむずかしいなオイ。

 

「ところで、君はゴセイジャーのレンジャーキーを持っている?」

 

そっとアラタが声をひそめておれに言う。「持っていない」と正直に答える。

 

「じゃあ、誰が持っているのか知らない?」

 

今度はポニーテールの女が質問してきた。なんだか取調べを受けてるような気分だ。

 

「し……し、……しらねェ」

 

ピューと口笛を吹き、右手をあげてそう宣言すると、指をあらぬ方向へ曲げられた。

 

「ハイ、ウソね!」

 

肩口で髪を揃えた女がビシッとおれに指をさした。

 

そうだよな、いまの態度はうそだと言ってるようなモノだしな。レンジャーキー、ねェ?心当たりというか、聞きおぼえがあるというか、…………それ、もしかして、いや、もしかしなくても、カラフルな宇宙海賊だったりして……んなわけねェか。

 

黒いジャケットの男が「お前、ゴーカイジャーのゴーカイブラックなんだろ」と眉をつり上げてすごむ。

 

Oh……いま、ハッキリとゴーカイジャーって言った?言ったな?んなわけあったよ、オイ。世間ってやつはせまいな……(遠い目)あいつら何したんだよ。おれにとばっちりがきてんだけどォォォォォォ!!

 

 

青ジャケットが睨みながら「なんにせよ、返してもらおう」と言い、ポニーテールの女が「そうそう!ゴセイジャーのレンジャーキーは私たちの力なんだから」と、ぷんぷんさせている。

 

「教えてくれるかな?」

 

控えめな声でアラタに退路を絶たれた。いよいよ取調べみたいじゃなくてマジの取調べになってきたじゃねーか!

 

パッとステータス画面を表示させる。

 

たたかう

▼にげる

 

よし!コマンドを選択し、まわれ右だ!

 

 

 

▼トオルは逃げられない!

 

な、なにィィィィィ!?ぐるりとまわれ右をすると、おれはすでに取り囲まれていた。前にはアラタ、右に左に後ろに四方八方、取り囲まれている。唯一の入口もブルーの男がいる。

 

とどめにロボが「ゴーカイジャーのところへ案内してもらおう」と言い出し、おれは深くため息をついたのだった。

 

 

 

 

side アラタ(ゴセイレッド)

 

突如地球を襲ってきた‘ザンギャック’という新たな敵。おそらく史上最悪の敵だ。ぼくたちは苦戦を強いられていた。みんな、頑張ろう。もうすぐ会えるよ、一緒に戦っている先輩たちに…………!

 

だけど、ザンギャックの追随は止まらない。危ない!その瞬間、視界の端からロープがとんできた。アカレンジャーだ!それにジャッカー電撃隊のビッグバンも!

 

「33のスーパー戦隊がまもなく結集する。全員命を捨てる覚悟だ。やってくれるな、君たちも」

 

 

「やります!この星を、守るためなら!!」

 

 

そうしてぼくたち、ゴセイジャーを含めた歴代のスーパー戦隊が集結した。その数は100をこえ、34のスーパー戦隊が並ぶ。すごい。こんなにもいたなんて、圧巻される!これならザンギャックと戦える!!

 

「いくぞッ!」

 

アカレンジャーのかけ声で全員が走り出した。おのおのゴーミンと戦うけど、ザンギャックは空からもぼくたちを狙っている。

 

「いくぞみんな!スーパー戦隊の力を集めて地球を守るんだ!」

 

アカレンジャーの指示でぼくたちは身体中のエネルギーを放出させる。まばゆいオレンジの光があふれ、気がついたらぼくたちは倒れていた。

 

「………生きているのか?おれたち」

「ザンギャックはやっつけられたの?」

 

アグリとモネがふらふらの体を何とか支えながら起き上がった。

 

 

「あぁ。奴らの艦隊は全滅した。」

 

ぼくらの疑問に答えてくれたのは、共に戦ったボウケンレッドだった。

 

じゃあ、戦いは終わったんですね………!

 

「けど、もう二度とあの姿で戦うことはできない」

 

え…………戸惑いが駆け巡る。

 

「おれたちの戦う力はすっかりなくなっちまった」

 

そんな……どうして………

 

「力はすべてザンギャックの艦隊といっしょに宇宙へ散ってしまったの。」

 

みると、ぼくたちのカードが跡形もなく消えていた。

 

「もう変身できねェのか、おれたち」

「天装術も、使えない」

 

ハイドとエリが沈んだ様子でカードを持っていた手をみつめた。

 

全員目を伏せ、誰もが口を噛み締めた。変身できないことを悔しく思った。

 

でも、…………

 

「でも、よかったんですよね。これで………この星を守ることができたんだから」

 

 

地球を守ることが天使の使命だから___

 

 

 

数年後再び悪夢が訪れた。新たなザンギャック艦隊が地球を襲撃し始めた。ぼくは足早にバイト先のカフェから急いでいた。だけど、その途中でチンピラに絡まれてしまった。

 

「あんまり、事を荒立てることはしたくないんだ。」

 

軽くチンピラをいなし、辺りを見回すと白衣を来た男と目があった。しまった!一般人がいたみたい……いや、この人、何処かでみたような……あぁ!もしかして、君、ゴーカイジャーの___

 

___グゥゥ

 

 

彼のお腹が盛大になった。

 

彼は、ゴーカイジャーのトオルだ。あのレジェンド大戦の後、地球にやって来た新しいヒーロー戦隊。もしかしたら、彼ならゴセイジャーのレンジャーキーの居場所を知っているかも!

 

「ところで、君はゴセイジャーのレンジャーキーを持っている?」

 

そっと声をひそめてにきいてみた。彼は「持っていない」と答える。

 

「じゃあ、誰が持っているのか知らない?」

 

今度はエリが質問する。

 

「し……し、……しらねェ」

 

 

(((((ウソ下手ッ!!!!)))))

 

ピューと口笛を吹き、目線が泳いでいた。彼は右手をあげている。モネが指をあらぬ方向へ曲げた。穏便に話し合おうってさっき言ったじゃないか。アグリは「お前、ゴーカイジャーのゴーカイブラックなんだろ」と語気を強めながらトオルに凄んでいた。まったく、この兄妹は…………

 

ハイドも「なんにせよ、返してもらおう」と言い、エリが「そうそう!ゴセイジャーのレンジャーキーは私たちの力なんだから」と、トオルに訴えていた。

 

ぼくはぎゅっと拳を握りしめ、トオルを真っ直ぐみた。

 

いま、ぼくたちはゴセイジャーの力が必要なんだ。君たちが持っているレンジャーキーを返してほしいんだ。

 

だから、ゴーカイブラック、___

 

 

「教えてくれるかな?」

 

ゴセイナイトが「ゴーカイジャーのところへ案内してもらおう」と、ぼくたちみんなに落ち着かせるように、でもトオルを逃がさないように言った。

 

 

しばらくして、トオルは深くため息をついた。ぼくたちがじっと彼をみると、やがておもむろに口を開いた。

 

 

「いいか、おれはお前らのレンジャーキーを持っていない。これは本当だ。だが、心当たりはある。それをお前らに教える義理はねェな。おれは宇宙海賊に居候している身だ。ゴーカイブラックなんて名乗った覚えはねェよ。___おわかり?アラタくん」

 

 

「……へぇ。そっちがその気ならこっちだって、手加減しないでいいよね」

「モネ、待って!ぼくたちは喧嘩しに来たんじゃない」

 

拳をポキポキ鳴らすモネを宥める。

 

 

「そう慌てんなよ。何も頭ごなしにノーだなんて、誰も言ってねェだろ?」

 

 

ニヤリと嗤ったトオルはさっきまでのチャラけた雰囲気を消し、勿体ぶったようにぼくたちをみた。

 



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