東方荒神伝 (白峰)
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序章 超生物の幻想入り
プロローグ


 初めての投稿になります。誤字やおかしな表記・表現などがお有りでしたら遠慮せずにご指摘ください。また、アドバイスや今後の提案などもどしどしお願いします。


 それはいつもと変わらない、ある晴れた日の出来事だった。駅のホームは通勤の人々で溢れかえり、道路は働きアリのごとく奇麗に列を作った車で埋め尽くされた。しかし、その光景が『いつも』でいられたのは、この日が最後であった。

 

 

 

 

 

 2016年11月3日、東京湾アクアラインの直上にて、原因不明の水蒸気爆発が発生した。そのわずか数時間後、海面から巨大な『尻尾』(ゴジラ第一形態)が出現(以後この生物の名称は『ゴジラ』とする)。『ゴジラ』は水蒸気を上げながら呑川を遡上、(当初は考えられなかったが)蒲田にて上陸し(この時点ではゴジラ第二形態)、品川方面へ進行した。

 

 このとき、政府は戦後初の武力行使命令を自衛隊に下すが、ゴジラは直立歩行形態(ゴジラ第三形態)へとなり、攻撃の範囲内に国民の生存も確認されたため、戦闘は中止となった。その後ゴジラは方向を変更し京浜運河を経て東京湾へと再び姿を消した。

 

 このとき、ゴジラは上陸から約二時間で死者・行方不明者100人以上の甚大な被害を出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 政府はこの自体に対し、ゴジラの再上陸に備えるべく『巨大不明生物災害対策本部』(巨災対)を設置。各方面の専門家を召集し、『矢口プラン』(非公式)を進める。

 

 

 同年11月7日、前回の上陸時よりも二倍近く大きくなったゴジラ(ゴジラ第四形態)が鎌倉に再上陸した。またしてもゴジラは東京都を目指すが、自衛隊の多摩川を最終防衛線とした『タバ作戦』によりゴジラの進行を一時停止する。しかしゴジラの強固な皮膚と自己修復機能には歯が立たず、都内への侵入を許してしまう。

 

 大使館防衛のため、アメリカの『B_2爆撃機』がグアムを離陸したのはその後間もなくだった。

 

 

 

 B_2爆撃機は地中貫通型爆弾『MOPⅡ』をゴジラに向け投下。爆弾は命中するも逆上したゴジラは背びれを発光させ、口と背びれ部分から火炎や光線を放射し、B_2爆撃機を三機すべて撃ち落とした。その後ゴジラは光線を都内に向けて乱射し、東京都を火の海に変え、体内の放射線を吐き出したところで活動を一時停止した。

 

 このときの被害は甚大なものであり、総理大臣をふくむ閣僚11名の死亡も後日確認されている。

 

 

 

 

 

 

 

 先の甚大な被害を受け、国連安保理は核兵器の使用を決定。しかし日本は『矢口プラン』によるゴジラの凍結を試みる。

 

 核攻撃の期日が迫る中、日本は血液凝固剤によるゴジラの凍結を目標とした『ヤシオリ作戦』を決行した。ゴジラは背びれを発光させ光線によって無人機を撃墜していくが、体内の放射線を消耗し、光線を吐けなくなる。やがて周囲のビルを爆弾や対艦ミサイルなどによって倒壊させ、ゴジラの動きを止める。その間に民間の高圧ポンプ車がゴジラの口に直接血液凝固剤を流し込み、一度は抵抗するも規定値までの投与に成功。

 

 ゴジラは最後の抵抗に東京駅にて咆哮を上げ、凍結した。

  




最後までご覧いただき、ありがとうございました。今後とも頑張って行きたいと思っていますので、よろしくお願いします。


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プロローグⅡ

 これまでが前置きです。



 ヤシオリ作戦は成功し、ゴジラは凍結されたかに思われた。しかし、ヤシオリ作戦のため、高圧ポンプ車に乗っていた自衛官から衝撃の報告が挙げられた。

 

     

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

     『尻尾に何かが、人がいる』 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 日の光が届かないほどの深海に、その生き物はいた。普通、水圧に耐えかねてほとんどの生き物がこの海域に近づくことすらできないが、母体から受け継いだこの30mmの機関砲を受けても傷一つつかない皮膚が、この環境でも生き抜くことを可能にしている。

 

 ???「ピーキユィーピーーー」 

 

 その生き物は口と呼ばれるであろう場所からイルカやクジラの会話手段でもあるエコーロケーションを『真似して』多数の生き物を呼び寄せる。その中からひときわ大きな獲物を見つけ…

 

 ???『キイイイイイイイイイイイイイ』

 

 今度は胸の大きな穴から甲高い音とともに光線を出した瞬間、周囲の海水が泡立ち、獲物であるマッコウクジラの体が真っ二つに切れた。同時に、他のイルカや魚たちは蜘蛛の子を散らす様に逃げていく。

 

 周りには何もいなくなったあと、ソレは割れたクジラの体の大きい方を持って住処へと帰っていった。

 

  

 

 

 

 

 

 

 ???『ガツガツ…グチャ…ギチュッ』

 

 洞窟の中に咀嚼音が響く。小さな体からは想像もつかないほどの量を食べた生き物は、実は他の生き物を喰らう必要性はない。水と空気があれば生存可能だ。

しかし、空気の限られるこの洞窟内ではそれは最後の手段であり、できるだけ空気を消耗しない生活をしなければならない。

 

 ???「ゴチソウ…サマ…デシタ」

 

 覚えた言葉は地上で暮らす二足歩行の生き物の言葉だ。彼らは一匹ずつなら取るに足らないが、集団となったときにその真価を発揮する。現にその二足歩行の生き物、ニンゲンによって母体は生命活動を停止せざる負えない状態に追い込まれたのだ。

 

 ???「………?ナンダ…?」

 

 ここで生き物はいつもの洞窟とは何かが違うと気づく。そして、その人間の容姿にできるだけ近づけた体(と言っても尻尾や背びれはある)を洞窟の奥の方へと進めていく。いつもであればこの洞窟はここで行き止まりだが…

 

 ???「コレハ……ドウイウコトダ?」

 

 しかし、洞窟の暗闇はまだ先へと続いていった。最初は気のせいではないかと思っていた生き物も、距離にして1キロ以上歩くと流石に戸惑いを隠せなくなってきた。

 

 ???「ドウナッテイル?一体、!?声が!!」

 

 それまでどこかぎこちなかった言葉もはっきりと発音できるようになっていた。

 

 ???(まだ人間の舌や喉は完全に再現出来ていないはず。だが声だけが…なぜ…)

 

 あまりの急変に戸惑っていると、目前から光が見えた。

 

 ???「なに!?そんな…太陽が…なぜ!?であればこの先は…地上か?…まさか…」

 

 またしても起こった異変に頭が痛くなりそうな生き物は、とにかく日の光?を目指して進んでいった。

 しばらくして光が大きくなり、深海にいたためか強い光に弱い生き物は、自分の目を細めながらしかし、警戒を怠らずにその歩を進めていった。そして、

 

 ???「ここは…木がこんなにも…!!これが『森』というやつか…」

 

 カナダと呼ばれる人間の国へいったときに手にした情報を思い出しながらも、ここは本当にどこなのか?と思案する。

 まだこのとき誰も、神も、この世界の管理者すら『ゴジラ』の出現に気づいた者はいなかった。

 

 ゴジラ「尻尾と背びれは隠しておくか」

 

 

 

 




 前置きはこれにて終了です。本編は一話一話がもっと長くなる予定なので長い間、未投稿になるかも知れません。お待たせするようですみません。


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第一章 GMK
第一話 上陸


 やっとこ一話です。プロローグを見たという前提ですので、まだ読んでいない方はプロローグからお願いします。


 生い茂る草木、青く澄み渡った空、人が増えすぎた現代では決して味わえない純粋な空気。

 

 ここは幻想郷。表の世界で忘れられれたモノの行くつく楽園である。本来は全世界の人々に忘れられるか、この世界の『管理者』に招かれるかでなければ立ち入ることのできないこの楽園に入り込んでしまった【怪獣】が一匹、魔法の森を歩いていた。

 

 「ここは空気に毒を含んでいるのか、道理で動物がいないわけだ」

 

 姿は完全に人間そのものだが、それは背びれや尻尾を隠し骨格まで歪めているからだ。幻術でもなければ催眠でもなく、人間そのものに退化したと言ってもいいだろう。しかし、内部の構造はそのままであり、本来の能力は発揮できないものの、毒やガスなどといった害のあるものは体内で無力化、分解できる。

 

 「杉や松まである。やはりここは日本で間違いないな。全く、どうなって…いや、考えるのはもういいだろう。どうせ無駄だ」

 

 「しかし、この空気中に散布されている毒は一体どこから来ているんだ?」

 

 好奇心から彼は毒の原因を探し始める。しばらくして一つのキノコが呼吸をするように黄色い胞子を撒き散らしているのを、彼は見逃さなかった。

 

 「この傘のついた植物が原因か、どれ…」

 

 見た目からして毒々しいキノコを気にも止めずに一口で食べた。

 

 「なるほど、幻覚作用を引き起こす…キノコというのか。他にも腹痛や下痢、発熱…なかなか優秀じゃないか」

 

 顔が不気味に歪む。

 

 「では早速……グゥ……ハァ!!」

 

 腕や足の側面から肉眼では見えない程の小さな穴が空き、そこから先程食らったキノコの毒と同様の胞子をあたり一面に撒き散らした。

 

 「射程距離は3メートルといったところか…。まぁいいだろう。」

 

 満足したのか先程よりも軽い足取りでその歩を進めていく。しかし…

 

 「…!!生命反応、これは……該当する生物がいない!?」

 

 予想が外れたのか焦りを見せる。だが、その顔は新たな発見と進化への期待に満ちた笑顔に変わる。

 

 「まっすぐこちらの方へ向かってくるな。速度は時速130キロといったところか。チーターよりも速いのか」

 

 前方で土煙が上がる。 

 

 「それに大きい。3メートルはあるか。クマとチーターのいいとこ取りだな。ん、速度が落ちた。気づいたか?」

 

 そしてついにその生きものが姿を見せる。

 

 「なんと……」

 

 あまりの衝撃に唖然とする。彼の前に立っていたのは獅子の頭に山羊の胴体、そして蛇の尻尾を持つ、まさに典型的な『キマイラ』だった。しかし、そんなことを知る由もない彼はしばしの間、思考が飛んでいた。

 

 「グォォォァァ!!」

 

 「うおっと、危ない危ない」

 

 目の前にいる生き物を人間だと認識したキマイラはその鋭い爪で斬りかかる。対する彼は飛んでいた意識を取り戻し、難なく避ける。

 

 「グガァァァア!!」 

 

 「いやはや、なんだこれは。生体実験でもされたのか?可哀想に」

 

 自分なりの結論を出すが、キマイラは待ってはくれない。次々と爪や体当たりで攻撃をしてくる。

 

 「チッ邪魔くさい。………そぉら!!」

 

 「グギャャャァァァア!?」

 

 体当たりに来たところを交わし、先程のキノコの毒を数百倍にして放出する。毒に抗体を持つキマイラでも、流石にたえられなかった。しかし、混乱に陥ったキマイラは、奥の手を使う。

 

 「グゴォォォォ…」

 

 「なんだ?体温が上昇している?……!しまったっ!」

 

 瞬間、キマイラの口から火炎が飛び出す。その炎はしばらく続き、あたりの半径約100メートルを焼き尽くした。勝利を確信したキマイラは毒によって閉ざされた瞼をゆっくりと上げる。

 

 「ゴォォォォォォ……」

 

 「グガァ!?」

 

 そこには自分を攻撃してきた人間の姿はなかった。ただ、ヒトの姿を模した魔神がいただけだった。

 

 「キイイイイイイン」

 

 「ガッ!」

 

 ヤツは何だったのか。あの光は…紫色の閃光は何だったのか。キマイラはそのことを考えている間に真っ二つになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔法の森から少し離れたところに人里と呼ばれる場所がある。その名通り、人間が住んでいる一般的な場所である。古風で自然と寄り添うような感じのする里で、見た目は江戸時代の街並みそのものだ。

 

 「なぁ、聞いたか?」

 

 「あぁ、森の火事だろ」

 

 着物姿の男二人が何やら話している。片方は落ち着いた茶色の着流し姿で、もう片方は黒の、こちらも着流しだ。

 

 「どうせあの魔法使いの嬢ちゃんが何かぶっ放したんじゃねえの?あの変な光もそれなら説明がつくだろ」

 

 「いや、その嬢ちゃんは団子屋でみたらし食ってたぜ。そんで火事が起きて飛んでったのさ。勘定払わずにな」

 

 火事とは2日前に魔法の森にて起こった大火事で、現場の半径約100メートルが焼け野原となっていた。また火事の直後に紫色の不可解な閃光も目撃されており、この話を聞きつけた一羽の『烏』が現場に急行したことは言うまでもない。




 ここで第一話は終わりです。幻想郷にキマイラはOKなのかなぁと思いましたが…まぁ二次作ですしいいかなって(笑)
 UA増えてて嬉しいです。これからもよろしくお願いします。


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第二話 揺れ動く楽園〈前編〉

 まずは前編です。出来るだけ早く投稿できるように努めていくのでよろしくお願いします。


 時刻は日光が降り注ぐ昼下がり。人里はお昼を食べる人で賑わっていた。魔法の森の目と鼻の先にあるこの人里には、総勢約200人の住人が暮らしている。

 

 しかし、現在は『外』からの迷い込んだ者がそのまま移り住むことが多くなり、その数は300人を越えようとしていた。

 

 そのため人里も大規模な拡張をせざるを得なくなり、『妖怪の賢者』の助けもあって里の周りには大きな柵や堀、里の中と外とを隔てる門はまさに城門のそれと同程度のものにまでに発展していた。

  

 それでもやはり長く根付いた人々の暮らしは変わるわけもなく、人里には『いつも』どうりの日常が流れていた。

 

 「おっちゃん!みたらし団子二本くれ!」

 

 「はいよぉ。ちょいと待ってな」

 

 白黒の服を着て、長いトンガリ帽子をかぶった少女が元気よく注文する。その独特の服装や手に持った箒は、西洋の魔女を彷彿とさせる。注文が終わった少女は日がよく当たる長椅子へと腰をかける。しばらくするとガタイの良い体に似合わない、エプロン姿の男が少女に歩み寄った。

  

 「はいよぉ魔理沙、みたらし二本。あとこれは常連さんへのサービスだ」

 

 「おぉ!ありがとう、おっちゃん」

 

 魔理沙と呼ばれる少女は団子屋の主人が持ってきたサービスの飴玉を、その白黒スカートのポケットにしまう。そしてみたらし団子を食べようとして、

 

 【グギャャャァァァア】

 

 「うお!っとっとっ」

 

 里に獣の断末魔の様な鳴き声が響きわたる。魔理沙はいきなりの声に驚き団子を落としそうになるが、な妖怪か無事にキャッチした。

 

 「今の声は魔獣かぁ?」

 

 先程団子を持ってきた男がまたか、と呆れたような口調で漏らす。

 

 「いや、今のはただの獣じゃない?…んむ…けっこう追い詰められてるみたいだけど…むぐ…ふぅ、やっぱりおっちゃんの団子はうまいね!」

 

 「あんがとよ。でも食うかしゃべるかどっちかにしろ。折角のべっぴんさんが台無しだぞ?」 

 

 今度は諦めたような口調で魔理沙を注意するがその声が届くことはなかった。

 

 「火事だ!!森が燃えてるぞ!」

 

 里との住人の一人が叫ぶ。森の方向を見ると確かに火が上がっていた。それも時間が立つに連れて大きくなっていく。

 

 「おいおい、こりゃちょいとマズくないか。てかお前の家って森の中だったよな?魔理…沙…」

 

 隣で団子を食べていた少女はいつの間にか箒にまたがり、森の方へと飛んで行ってしまった。直後、 

 

【キイイイイイイイイイイイイイン】

 

 甲高い音と共に紫の閃光が里を照らす。

 

 「勘定は…………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「うぉぉお!間に合えぇぇえ!!」

 

 霧雨魔理沙は燃え盛る森の中を猛スピードで駆け抜けていた。森の上空を飛べば炎をものともせずに飛行できるが、今の魔理沙にはそのロスタイムでさえ惜しかった。

 

 しばらくして炎の森を抜けると、煙突のある西洋風の家が見えてきた。

 

 「見えた!よし、ここまで火は回ってきてないか」

 

 近くまで来ると、家の上には『霧雨魔法店』と大きく書かれていた。そう、ここは魔理沙の自宅兼魔法店である。しかし請け負う仕事の幅の広さから魔法店というよりもなんでも屋と言った方が適切だろう。

 

 「ふぅ、まずは一安心っと」

 

 速度を落とし、家の前まで来た瞬間。

 

 【キイイイイイイイイイイイイイン】

 

 魔理沙の後ろから紫色の閃光が走る。 

 

 「きゃあ!」

 

 先程までの口調からは予想できない乙女らしい叫び声が森に響く。

 

 「うぅ、びっくりしたぜ。一体何だってんだ?」

 

 玄関の前まで来て後ろを振り返る。炎は先程の紫色の閃光が光ってからは激しくなる様子はない。

 

 「ちょっくら見に行ってくるか」

 

 今度は森の上空へと飛び、速度をギリギリに落として飛行する。

 

 上から見た森は焼け野原と化し、生き物の姿は確認できなかった。

 

 

「こいつは予想以上だな。……ん?」

 

 

 何かを見つけた魔理沙は燃え盛る森の中へと降りていく。

 

 「これは…溶けてやがる」

 

 見つけた木の幹には綺麗な円状に穴が空いていた。更に円の周りはドロドロに溶けており、そのような木が直線上に何本も並んでいた。

 

 「んー、なんだか『異変』の予感がするぜ。よし、そうと決まれば!!」

 

 魔理沙は急上昇し、今度は最大まで速度を上げある場所へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その様子をヒトの姿をした化物がジッと見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 長らく未投稿にしてすみません。
 この話は前編、後編構成となっています。後編はそこまで長い期間あける気は無いのでもう少しお待ちください。最後までご覧下さりありがとうございました。


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第三話 揺れ動く楽園〈後編〉

 遅くなってすみません。何分忙しかったもので…。
初めて感想及びご提案をいただきました!ありがとうございます。私もやる気がみなぎってきました(⌒▽⌒)
 それではどうぞ。


 「…………………………。」

 

 あたりは一面火の海と化した森の中に一糸まとわない姿の男が、今にも崩れ落ちてきそうな燃え盛る木のもとでジッと息を潜めている。

 

 その先には白黒の衣服に、トンガリ帽子を深々とかぶり、箒を持った一人の少女がいた。

 

 「よし、そうと決まれば!!」

 

 そう言って箒にまたがった少女は上空へ急上昇し、そのまま何処かへ飛び去ってしまった。

 

 男は少女が見えなくなってからもその方角をしばらくの間睨み続け、十分ほど経ってようやく目線を変えた。

 

 しかし、警戒はそのまま怠らず、辺りを目回す。

 

 (ここにいるのは不味いな、すぐに移動するか)

 

 すると、男の体から何かが擦れ合うような嫌悪感を抱く音がしたと同時に、血と肉片が当たりに散らばった。

 

 見ると、男の背中の部分からヒイラギの葉っぱのような刺々しい形のした三列の背びれが現れ、更には肉の上から骨がむき出しになっている尻尾が生えた。

 

 腕や足はブチブチと筋の切れる音と一緒に出血しながら伸びていく。胸には大きな穴が空き、頭は真ん中にくぼみのある異様な髑髏へと変わった。

 

 その姿は人と言うにはあまりに異質すぎた。真ん中にくぼみのある顔と、唇が無く歯がむき出しになった口。穴の空いた胸に綺麗に三列に並んだ刺々しい背びれ。そして人間にはあるはずのない尻尾。

 

 「我は死なり、世界の破壊者なり」

 

 その言葉だけを言い残し、彼は文字通り『消えた』。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔法の森の山火事から数日後、人里はいつもと同じように賑わっていた。

 

 「みたらし団子はいかが〜、お茶もつけるよ〜」

 

 「おかーさーん、あれかってよぉ〜」

 

 「今晩は何にしようかしら」

 

 親子、夫婦、子供、大人、男、女、誰も彼もが平和な日々を過ごしていた。そこに命の危険はなく、危機感を抱く者もまた、いなかった。 

 

 だからこそ気づけなかった。度重なる異常な事態に。気づくことができなかった。悲劇の前触れに。

 

 【ゴゴゴゴゴゴゴ】

 

 数秒の間、小さな地震が人里を襲う。

 

 「いらっしゃい!サービスするよ!」

 

 「いけません。さっさと帰るわよ」

  

 「よし、今晩はさばの味噌煮に決まりね」

 

 しかし、里の人々は気づいてないのか、気にもとめていないのか、地震のことを言う人はいなかった。

 

 道端の地蔵の顔が割れていた事にも気づかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 幻想郷に海はないが、かわりに霧の湖と呼ばれている湖がある。この湖は周囲を木々に囲まれており、妖怪や妖精が集まりやすく、住処としているモノも多い。

 

 「だいちゃーん、はやく!」

 

 白いシャツの上に青いワンピースを着た少女が森の中から出てきた。しかし、少女と言うには余りにも小さすぎる身長と背中に生えた六つの氷の羽が彼女が妖精である事を表している。

 

 名前はチルノと言い、この湖を住処とする妖精の一人である。

 

 「待ってよぉ〜チルノちゃん。」

 

 チルノのあとから来たのは緑の髪をサイドテールでまとめた青い服装の妖精だった。こちらはトンボの下羽のような羽をしていて身長はチルノより少し高い程度だ。

 

 彼女は大妖精といい、種族名がそのまま名前となっている。

 

 「ハァ、ハァ…チルノ…ちゃん…はや…すぎ」

 

 「ふふん、やっぱり幻想郷最強のあたしは素早さも最速ね!」

 

 「あははは…ブレないね、チルノちゃん…」

 

 二人は霧の湖の前で一度立ち止まった。

 

 「チルノちゃん、それで『見せたいもの』ってなに?」

 

 息が整った大妖精がチルノに呼びかける。

 

 「えっとね、湖の向こう側にあるんだけど。う〜ん、霧が濃くて見えないなぁ」

 

 湖の周りには濃い霧が立ち込めており、向こう側はおろか、周囲十メートル先すら確認できない。

 

 「もう少し近寄ればわかるんじゃない?」 

 

 「じゃあ行こー。ついてきて、大ちゃん」

 

 二人は少し浮いて、それからチルノを先頭に湖の上を平行に飛んでいった。

 

 

 

 二人のそばに小さな地蔵があったが、彼女たちには気づけなかった。

 

 

 

 「うーん、そろそろ見えると思うんだけど…いてッ!」

 

 先頭を行くチルノが何かにぶつかった。

 

 「大丈夫!?チルノちゃん!」

 

 「うぅ…あたいは大丈夫だよ。あッ!それよりこれだよ、大ちゃん!」

 

 チルノ達の前には壁が立ちふさがっていた。白一色のその壁は固く大きかった。

 

 瞬間、霧が晴れていく。

 

 「うわぁ〜〜。大っきい〜〜」

 

 「ねッ!すごいでしょ!」 

 

 白い壁はヒョウタンの形をしていた。それは湖に浮いており、全長は40メートル以上はある。何かを包み込んでいるような、まるで繭のような物体だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所は移る。ここは幻想郷の東端にある神社。名前は『博霊神社』という。外見は一見こじんまりした普通の神社で、周囲にはケヤキやクヌギ、松など様々な木々が乱立している。

 

 その神社の縁側に、一人の少女が座っている。 

 

 「ふぅ〜…今日も平和ねぇ〜…」

 

 緑茶をすすりながら和んでいるその十代前半の少女はきれいな黒い髪に大きな赤いリボンをつけて、赤を基調とした巫女『風』の服を着ている

 

 「平和ねぇ〜……暇ねぇ〜………」

 

 少女の名前は『博麗霊夢』。この魑魅魍魎の跋扈する幻想郷において、妖怪退治を主に生業としている。

 

 「そういえばこの神社の神様ってなんて名前なのかしら?そもそも神様なんて祀ってるの?」

 

 余りにも暇だったのか、それとも巫女であるのに自分の祀っている神様の名前をすら知らないことに羞恥を感じたのかはわからないが、霊夢はまだ緑茶の入った湯飲みをおいて縁側から本殿の方へと入っていった。

 

 「意外と広いのよね、この神社」

 

 本殿には普通、宮司以外のものは何人たりとも入れないのだが、博霊神社には宮司はおろか神主すらいなく、巫女である霊夢が一人で管理している。

 

 「祀ってる神様がいるのなら何処かに御神体があるはずだけど…」

 

 霊夢はそこら中の引き出しや畳をひっくり返して探していた。すると、ある畳の下に空洞になっているのを見つけた。その中からかなり年季の入った木箱見つけた。

 

 「あら?鍵がかかってる…。これの中に御神体があるのかしら?」 

 

 木箱には鍵がかかっており、開きそうにない。

 

 「むぅ、めんどくさいわね。このッ!」

 

 霊夢は木箱を掴んで思いっきり叩きつけた。木箱はそれほど重くなく、霊夢の腕力でも十分に持ち上げられた。

 

 数回叩きつけると、木箱の錆びついた鍵が壊れた。

 

 「やった!どれどれ中身は…。ッ!これはッ!」

 

 中には黄金の欠片が入っていた。大きさは直径15センチ程で、魚の鱗のような形をしていた。

 

 「やったわ!これでもう一日中ゴロゴロしてても暮らせる!もうお賽銭に悩まされることもない!」

 

 先程までゴロゴロしていた自分のことは棚に上げて喜ぶ霊夢だが、このとき大変な過ちを犯していた。

 

 「やった!やった!大金持ち〜!」

 

 黄金を掴みながら裸足で境内を駆け回る霊夢。しかし、破壊した木箱が入っていた畳の下にはもう一つ、石で作られた小さな地蔵が入っていた。 

 

 その地蔵の背中にはこう書かれいる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            

     『千年竜王 魏怒羅(ギドラ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 前回であまり時間はかからないと言っていたにもかかわらず、かなり未投稿のまま放置してしまい、すみません。言い訳としては一身上の都合と言うわけで許してくださいm(_ _;)m
 GMKを見たことがある人は、最初の地蔵が出てきた時点でわかってくれたかもしれません。いいですよね〜あの白目ゴジラ。容赦ない感じがなんとも(笑)
 ちなみに「我は死なり、世界の破壊者なり」とはギャレゴジの際に出てきた言葉で、元ネタはバガヴァット·ギーターというヒンドゥー教の詩篇の一節です。詳しく知りたい人はこの言葉をそのままググれば出てきます。
 これからも頑張っていくのでよろしくお願いします。


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第四話 湖の異変

 今回はこれから起こることの前座みたいな話です。ほぼ東方メンバーしか出てきません。


 日はもう西に沈みかけている夕方、空は紅く燃え上がり、何処から獣の鳴き声も聞こえてくる。それまで賑やかだった人里も戸締まりを始める人が出てきた。

 

 一日も終わりを迎えようとしているとき、霊夢は博霊神社の縁側に座り、一人考え事をしていた。手には黄金色の物体が握られている。

 

 (この黄金って本物なのかしら?何だか思ったよりも軽いし、だいたい本物だったとしたら余計に謎だわ。なんでこんなものが…)

 

 そこまで考えていると、霊夢のもとに空から来客者が現れる。

 

 「おーい、霊夢ー!」

 

 白黒の服装にとんがり帽子を被り、箒にまたがってくる彼女は霊夢にとっては友人の一人である霧雨魔理沙だ。

 

 彼女は森の方角から一直線にこちらに向って飛んで来ている。

 

 「ハッ…!」

 

 霊夢は本能的に黄金を自分の懐にしまい、平然を装って冷めきったお茶の入っている湯飲みを口に運ぶ。

 

 魔理沙は少しずつ減速し、石畳の上に着地すると箒を手に持って霊夢の方へと走って来た。

 

 「なぁ霊夢、また異変が起こったんだ!今度は霧の湖だ!」

  

 「異変って…あなたこの前は魔法の森で火事がどうのこうのって言ってたじゃない」 

 

 魔理沙は魔法の森の火事のあと、霊夢に奇妙な跡があった事を話していた。霊夢は黄金のことはひとまず意識外に追いやることにした。

 

 「こっちは今現在起こってるんだ。ほら、早く行こうぜ!」

 

 「ちょっと、私はまだ何も「いいから早く!」…わかったわよ。わかったからあまり急かさないで」

 

 霊夢は魔理沙の押しに負け、仕方なくついていくことにした。魔理沙は箒にまたがり魔法で、霊夢は能力を駆使してそれぞれ飛び上がり湖へ向った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 霧の湖が近くなると妖精や妖怪がやたらと多くなっているのを二人は感じた。しかしいつもなら襲ってくる妖怪や邪魔をして来る妖精はいなく、いつにもなく大人しかった。

 

 「何か…変ね。嫌な予感がするわ」

 

 「あぁ、妙に大人しいな。もう辺りは真っ暗だし、ここらの妖怪なら見境なしに襲って来ると思ってたんだが」

 

 「なんでがっかりしてるのよ………」

 

 「いやぁ、最近マスパをぶっ放してないなぁって思って。何なら霊夢、今度相手してくれよ」

 

 「嫌よ。何でそんな面倒くさいことしなくちゃならないの」

 

 「え〜〜。霊夢のケチ」

 

 「うっさい。ちゃんと前見て飛びなさい。危ないわよ」

 

 「ほいほ〜いっと」

 

 二人はそんなとりとめのない会話をしながら進んでいく。霧の湖までは残り数キロメートルほどのところまで来ていた。

 

 「そろそろつくかなぁ?」

 

 「えぇ、邪魔するものがなくていつもより早く着けそ…ねぇ魔理沙…異変っていうのはアレ?」

 

 霊夢達の目の前には静まり返った夜の湖が広がっているはずだった。しかし、その湖には異質な白い塊が浮かんでいた。ひょうたんの形をしたその物体は40メートル程あるように見えた。

 

 湖には白い物体がぽつんとあったのではなく、周りにはたくさんの妖怪や妖精がいた。その中には彼女たちのよく知る人物、もとい人外もいるようだった。

 

 霊夢たちは急降下し、湖の畔へと降りていく。そこには青い髪に特徴的な帽子を被り、フリルのついた可憐な服を着ている幼女の姿があった。

 

 もしその背中に生えたコウモリのような漆黒の翼がなければ何処ぞの貴族の子供としか考えられないだろう。

 

 彼女の名はレミリア·スカーレット。今までに500年の時を生きた吸血鬼である。また霧の湖の近くにある『紅魔館』という真っ赤な西洋風の館の主でもある。

 

 彼女の右側には銀色の髪をしたメイド服の女性が、また左側には全身紫の服にやはり特徴的な帽子をかぶっている女性がいた。

 

 霊夢たちはその三人の後ろに降り立った。ほぼ同時に霊夢が話しかける。

 

 「まさか貴方達も来ていたなんてね」

 

 「なに、面白そうなモノが近くにあったから見に来てみたのよ。ふふっ」

 

 するとレミリアは嘲るような笑いとともに霊夢たちに振り返る。同時に左右の二人も霊夢たちと向き合う。

 

 次に口を開いたのは魔理沙だった。

 

 「まさかお前が出てくるとは思わなかったぜ。パチュリー」 

 

 それに答えたのは気怠そうな目をした全身紫色の服の女性だった。 

 

 「別に私は籠もりたくて図書館に居るわけではないわ。本があるから居るだけよ」 

 

 名前はパチュリー·ノーレッジと言い紅魔館に住んでいる魔法使いである。本の虫と言われるほどの本好きでほとんど図書館から出てこない。喘息持ち。

 

 「今日はレミィが言っていた通り、面白いものが出たから見に来たのよ」

 

 「しかしパチュリー様、そろそろ薬のお時間では?一度紅魔館に戻ってはいかがでしょうか?」 

 

 話に割って入ってきたのは銀髪のメイドだった。彼女は十六夜咲夜。パチュリーやレミリア達の住む紅魔館でメイド長としてレミリアに使えている。特に主であるレミリアにはかなりの忠誠心

を持っている。

 

 「そうね。もう十分だわ」

 

 「え〜〜。もう良いのか?せっかく外に出たんだし私達と異変の解決しようぜ」

 

 「うるさい。戻ってあの物体について調べようと思っていたのよ。そんな事より一昨日また私の図書館から本を盗んだでしょ。いい加減早く返して「死んだら返すぜ」……今この場で殺してあげても良いのだけれど」

 

 「お〜怖い怖い。」 

 

 パチュリーの後ろからは可視化された怒りのドス黒いオーラが確認できた。しかしパチュリーを冷静に戻したのはレミリアの声だった。

 

 「私はもう少しここにいたいわ。咲夜、私はいいからパチェを送ってあげて」

 

 「承知いたしました。…ではパチュリー様、紅魔館までお送りいたします」

 

 「…ええ、お願い」

 

 パチュリーと咲夜の二人は森の夜道を歩いていく。また、パチュリーは魔理沙をすれ違いざまに睨みつけた。

 

 「それとそろそろ薬も切れそうだから永遠亭の医者に伝えておいてくれる?」

 

 「承知しました。その様にいたします」

 

 

 紅魔館への道中、二人の会話が途切れることは無かった。

 

 「で、あんた今度は何を企んでるの?」 

 

 二人が去ったあと、霊夢はレミリアにたずねる。

 

 「別に何も。本当に見に来ただけよ。…ただ」

 

 そこまで言うとレミリアは一旦間を開けて湖にある白い巨大な繭に目を向ける。 

 

 「アレの…あの白いモノの運命が見えないの」

 

 「……え?」

 

 魔理沙と霊夢の二人の声が重なる。その顔には驚愕の表情が浮かんでいた。

 

 「私の力…『運命を操る程度の能力』はその名の通り運命を弄くることができるわ。それはあなた達人間からそこらに落ちている木の葉の運命まで操れるの。葉っぱの運命なんて弄ったこと無いけどね」 

 

 この幻想郷には『程度の能力』と言うものが存在し、この世界のいわゆる有力者などは皆それぞれの能力を保有している。

 

 例えば霊夢は『空を飛ぶ程度の能力』、魔理沙は『魔法を使う程度の能力』など多岐にわたる。

  

 「その私の力でもあの物体の運命を見ることができないの。…いえ、見えないと言うよりは隠されていると言ったほうがいいわね。なにか大きな力によって守られている感じがするわ。…こんな事は初めてだわ。…本当に…」

 

 「レミリア…。」

 

 レミリアの喪失感の漂う雰囲気に魔理沙が思わず呟く。いつもの不遜とした態度とは正反対の姿は彼女には想像できなかった。 

 

 「…私はこの物体の正体に興味があるの。だから今回だけよ、今回だけ協力してあげるわ。感謝なさい」

 

 と思ったらいつものレミリアに戻った。

 

 「えぇ……」

 

 この有様に唖然としたのかまたしても二人共同じ反応をした。

 

 「分かったらさっさと私のために情報を集めてきてちょうだい。よろしく」

 

 レミリアは近くにあった切り株に腰を下ろし手の甲を返して『早くいけ』とジェスチャーする。

 

 「…取りあえず周りにはたくさんの目撃者(妖精)がいるし、聞いて回るか?」

 

 「そうね。何もわからない状態でアレに接触するのはあまり得策ではないわ。それになんかアレ気持ち悪いし」

 

 湖周辺には白い物体を取り巻くようにたくさんの妖精、妖怪が集まっていた。元々妖精や妖怪の集まりやすい所であったがその数は百を超えており、過去最大級の数がこの霧の湖に集結しつつある。それは妖精、妖怪に限ったことではなく、野生動物や蟲に至るまでまさに森中の生き物が集まっているのでは無いかというほどであった。

 

 二人は切り株でふんぞり返っている吸血鬼を無視して物体の聞き込みを開始した。

 

 

 

 

 




 何分忙しくて中々投稿できずすみません。できるだけ早く投稿しようと努力します。それでも遅くなってしまうかも知れませんのでそこらへんは勘弁してください(笑)。読んで下さりありがとうございました。


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第五話 人里の集い

 遅れてすみません。もう何回この謝罪を繰り返したのやら…。なるべく早く投稿できるように頑張りますのでどうか見捨てないでくださいぃぃ。


 「さぁ〜て、どなたか話せる方はいませんか〜と」

 

 魔理沙は湖の周辺の妖怪や妖精達に話を聞くべく行動しているが、ここに集まっているのは口の聞けないものがほとんどであった。

 

 「お?あれは…」

 

 湖から遠ざかっていく人影に見覚えがあった。頭には珍妙な飾りをのせた堅苦しくていかにも教師って奴。

 

 追いかけようとすると後ろから袖を掴まれた。勢いよく魔理沙は前に転ける。

 

 「痛ぇ〜何だよもう霊夢ぅ」

 

 魔理沙の目の前には大事そうに懐に何かを抱えた様子の霊夢がいた。

 

 「異変の関係者、見つけたわよ」

 

 「……へ?」

 

 霊夢の懐から出てきたモノは二人の小さな小さな人差し指ほどの人間のようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「けーね先生、さよーならー」

 

 寺小屋に通う子供達はいつものように元気よく寺小屋の戸を開き、駆け出していく。歳は10にも満たない子供達ばかりだ。

 

 「最近は物騒だから気をつけて帰るように。くれぐれもだぞー」

 

 子供達が開けた戸から体を半分ほど出して『けーね先生』らしき女性が子供たちを見送る。

 

 白髪に青を基調とした服を着ており、頭には中国の冠のような帽子を被っている。

 

 彼女の名は上白沢慧音といい、この人里で寺小屋を営んでいる。彼女は人間と妖怪の中間に立つ『半人半獣』であるが、彼女のその生真面目な性格と今まで積み重ねてきた人徳により、この人里に受け入れられている。

 

 「…よし、では行くか」

 

 まだ太陽は南の空から顔を覗かせている。いつもなら親友の女性の所に遊びに(主に掃除や洗濯)行くのだが、今日の慧音にはやらなければならない事があった。

 

 慧音は子供達を見送ったあと、人の行き交う大通りへ出た。そのまま一直線に進んでいきくと大きな屋敷が見える。慧音は立派な表門に立つ二人の大柄な門番二人と軽く挨拶を交わし、中へと足を進める。表札には『稗田』と書かれていた。

 

 早足で本邸の玄関につくと急ぎつつも綺麗に靴を脱ぎ、整えて奥にある目的の部屋へと急ぐ。 

 

 三回襖を開けて着いた部屋の前で一度身だしなみを整えて深呼吸し、中へと入る。部屋の中にはすでに集まるべき人が三人全員来ていた。4つの座布団に左から男女男、空席の所は慧音の分であろう。三人は慧音に注目する。

  

 「寺小屋の授業で遅れてしまいました。申し訳ありません」

 

 慧音は頭を下げる。

 

 「いえ、その事につきましては事前に報告を受けていましたし、私は気にしませんよ」

 

 最初に答えたのは上座に座る少女だった。彼女はこの屋敷の当主であり名を稗田阿求という。彼女は『一度見たものを忘れない程度の能力』を保持している。

 

 また、阿求は『御阿礼の子』と呼ばれており、これまで約1200年間、数百年単位で転生を行っている。ちなみに阿求は九代目である。

 

 慧音とはお互いに家に呼び合うほどの仲であるが、今は他人の目もあり、他人行儀になっている。

 

 「それほど畏まらなくても、先生はお忙しいでしょう。仕方ありませんよ」

 

 次に答えたのは慧音から見て左手に座る男だ。全体的に痩せていて、優しい笑顔を見せるこの人物は名を醍醐直太朗と言い、人里で稗田家の次に大きな屋敷を持つ酒屋の主人である。

 

 彼はその昔、少年時代に慧音の寺小屋で教えを受けた者であり、彼女の生徒の中では一番に成功を収めた優秀生徒である。その為か、慧音には特別恩義を感じている。

 

 今は四十の半ばに差し掛かり、妻と二人の息子を持つ。長男には酒屋を継がせるために勉強させ、次男には寺小屋で慧音の手伝いをさせている。

 

 「ああ、先生には家の娘も世話になっとる。いつもありがとう」

 

 右手に座る男はそう答える。隆起した筋肉と立派な口髭を蓄た大柄な男は見るからに熊のようだ。

 

 彼はこの人里で警備隊を率いる四人の『頭』を束ねる『棟梁』で名を神宮司八郎と言う。

 

 「そうか、ありがとう」

 

 慧音は改めて一礼して空いている席につく。同時に阿求が話し始めた。

 

 「それでは、お忙しい中お集まりいただき、ありがとうございます。これより第63回“人里の集い”前期を始めたいと思います」

 

 “人里の集い”とは今から63年前、先代の稗田家当主が提案した定期的に里の有力者を集め、物価や治安状況を報告し合い、お互いに連携を取り、里のバランスを保つための集会である。また前期、中期、後期があり年内に計三回実施される。また、緊急時にも臨時で催される場合がある。

 

 「まず経済部門、醍醐さんお願いします」 

 

 「はい、まずは物価ですが、これは目立った変化もなく里の皆も貧富の差は若干あるものの、今のところ生活保護を受けた者は出ていません。また………」

 

          以下中略

 

 「………よって現状は留意すべき問題は無いかと思われます」

 

 「わかりました、ありがとうございます。では次に警備部門、神宮司さんお願いします」

 

 「ああ、こちらは少し…まぁ皆も存じているとは思うが…十日ほど前にあった森での大規模火災と、つい最近になって発覚した湖の巨大な物体の2つだな」

 

 神宮司が話を切り出すと、この場の雰囲気が重くなった。

 

 「まずは大規模火災だが、これの原因は“魔物"だ。火災の規模、炎の燃え方や直前に聞こえた断末魔の声から、最近になって現れ始めた魔物、それも“キマイラ”であることが分かった。」

 

 それだけなら問題ではない、慧音はそう思った。実際魔物は最近と言っても、もう出現から半年以上経つし、でなくても妖怪の縄張り争いによって森が燃えたなど、ここでは一ヶ月に一回くらいほどの事であった。

 

 神宮司は少し間をおき、それから話し始めた。少し顔が強張って見えた。

 

 「ここからが本題だが…火災が起きる直前に聞こえた奇妙な音、そして紫色の閃光、また火災現場で確認された超高熱により溶かされた木々、これらの事象に一致する妖怪または魔物は…存在しない」

 

 その言葉に三人の顔は暗くなる。

 

 魔物については紅魔館の図書館から図鑑を一時的に貸してもらっている。と言うのも、魔物が出現し始めたのは紅魔館の主に原因があるからだ。

 

 その為、里の安全を守る警備隊は全ての魔物の生態、外見、攻撃手段などを完璧に網羅している。その警備隊の棟梁が言うのだから間違い無い。

 

 「つまり、この事件は妖怪でも魔物でもないナニかがキマイラと戦い、そして勝利したと言うことである。キマイラの強さはここに集まっている者であれば承知していると思うが、紅魔館の主でも負けはしなくとも苦戦は必須であろう」 

 

 ここで神宮司は一旦話を切る。

 

 「少し長くなったな。では次にいこう。湖で発見された巨大な物体だか、これは全長約45メートルあり、ちょうどひょうたんの様な形をしていた。まぁ…その、信じられないとは思うが…これだけの大きさの物体が水に浮いている」

 

 「えっ!?…それは確かですか?」

 

 醍醐が鳩が豆鉄砲をくらったような態度を見せる。他の二人はこの事を知っていたのか、余り驚いた様子を見せない。

 

 「ああ、信じられないと思うがな…俺も最初は自分の目を疑ったよ」

 

 「私も見てきたんだ。何というか…神秘的だったとさえ感じるよ。異様な光景だった」

 

 神宮司の言葉に慧音もそう付け加える。

 

 「さらに…これは今日この場で初めて言うことだが…」 

 

 神宮司の雰囲気が一変し、阿求が言葉をかける。

 

 「どうしました?…何か不都合でも?」

 

 神宮司が言葉に詰まる。他の三人は心配そうに顔を覗き込むが、時間が経つにつれて彼の顔色は悪くなる一方だった。しかし、神宮司は言葉を続けた。 

 

 「恐ろしい事実だが…ああ、これは事実なんだ…。あの白い物体は、巨大なサナギだと言うことが…判明した」

 

 どれほどの時間だっただろう。一秒かも知れないし、一分程だったかもしれない。しかし、その間は誰も言葉を発しなかった。

 

 少しの沈黙を破ったのは阿求だった。

 

 「え?…あ、あの…アレが蛹だと?蛹と言うのは芋虫が蝶に成長するときの…あの蛹ですか?」 

 

 「ああ、そうだ。まぁ厳密に言うと繭だがな」

 

 次に醍醐が問いかける。 

 

 「まさか…一体何の根拠があって?」

  

 「リグルだよ。彼女が言うには、これはある芋虫の吐く糸と非常に近い繊維でできており、中身が未だに生きている事もわかっている、と彼女は言っていた」

 

 「それだけではまだ繭だと断定するのは早すぎませんか?妖怪の証言だけというのは…」

 

 「いや…私は、あれは生き物だと思う」

 

 慧音が醍醐の言葉を遮った。 

 

 「私はあの中で…ナニかが胎動しているのを感じた。そして…聞いたんだ」

 

 瞬間湖に行ったときの事を慧音は思い出していた。

 

 『モスラヤ モスラ ドゥンガン カサクヤン インドゥム』

 

 「非常に小さな声だった。何処から、誰が歌ったのかもわからない。でも確かに聞いたんだ。…モスラ…この単語が頭から離れないんだ」

 

 これには醍醐も反論できず、しばしの間再び沈黙が訪れた。すると午後5時を知らせる鐘がなった。

 

 「では、ひとまずこの湖の問題を念頭にまた明日、臨時集会を開きましょう。時間は今日と同じで。異論はありますか?……無いようですので、第63回人里の集い前期は一先ずの終わりとします。お疲れ様でした」

 

 強引とも言える阿求の幕引きはしかし、これで良かったのかもしれない。あのままでは結局何の意見も出ずに無駄な時間を浪費しただけだろう。流石、記憶はないとはいえ何度も人生を送っているな、と慧音は小さな親友に感心した。

 

 稗田家を出ると日は沈みかけていた。日がなくなってきたため少し肌寒く感じた慧音は、少し足早に帰ることにした。そのとき…

 

 【ゴゴゴゴ…ズズズ…ゴゴゴゴ】

 

 「…!またか…」 

 

 それは人間では到底感知できない小さな揺れだった。ここ数日で一日に数十回は起きている。しかし、それを感じることができるのは、人里では慧音くらいだった。気持ちの悪い揺れ方をするな、と思った慧音はこの事を明日皆に報告しようと決心した。

 

 

 




 なんと!後10日で!アニゴジ第二章開幕です(^^♪
 そういえば小説のpj.メカゴジラは見ましたか?私は勿論買ってやりましたよ。アニゴジ第二章見に行く人は是非是非読んでくださいね!


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第六話 怪獣

 ここからようやく物語が大きく動き出します。


 私は今、とある場所を目指している。と言うのも昨日までは、目的はあれどもあてはなく、この森の中を彷徨っている、と言ったぐあいだったのだ。しかし、私の『好物』がこの先にあるようなので、今その目的地にゆっくり向かっている。

 

 その気になれば三分足らずで到着できるが、余り目立った事はできない。それは、この山の麓付近で定期的に飛び回っている羽根の生えた人型種族のせいだ。恐らく巡回だろう。

 

 だがそれだけではない。その程度であればこの私のカモフラージュを持ってすれば、完璧に周りの風景に溶け込める。誰も私には気づけない……ハズなのだ。

 

 「うーん…確かに何かいたんだけどなぁ…」

 

 私の目の前で辺りを見渡す、この白い獣人には本気を出させてもらった。まさか体温まで遮断したのに感づいてくるやつがいるとは。

 

 それにしてもこいつも奴等と同じ種族なのだろうか。羽根は付いているが…っと。

 

 「おい、犬走班長。そこで何をしている」  

 

 「はい、侵入者らしきものを見たのですが……見間違いだったようです」

 

 「では持ち場に戻れ、お前の班員が慌てていたぞ。班長を知りませんかってな」

 

 「あ!も、申し訳ありません!すぐに持ち場に戻ります!」

  

 …………よし、二匹とも行ったか。これでようやく歩を進めることが出来る。後少しで到着だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここは地獄。大きな宮殿の中の大理石出できた通路を一人の女性が歩いている。等間隔に連立している柱は、高さ5メートル程もある様だった。

 

 彼女の名は、小野塚小町。この地獄で三途の川の船頭をしている死神の一人である。

 

 『距離を操る程度の能力』によって遠く離れたところからでも瞬間移動のごとく移動することができる。

 

 便利な能力であるため上司から出勤を命じられることもしばしばある。しかし当人はその能力を利用して仕事をサボりまくっている。

 

 数分通路を進むと、左右に青い背びれを持った龍と火炎の玉を吐く亀が描かれた大きな扉が見えてくる。

 

 小町は扉の前で身だしなみを整えて扉を開ける。目の前には、いわゆる校長机に座った一人の少女がいた。

 

 小町は少女の元まで続いている赤いカーペットに沿って歩き、段差の手前のところで片膝をついた。

  

 「およびでしょうか。四季様」

 

 「ええ、貴方には旧地獄に向かってもらいます。その間の船頭の仕事は、他の者に一任しておきました」

 

 彼女は地獄の閻魔大王こと、四季映姫・ヤマザナドゥ。ヤマザナドゥは『楽園の閻魔』という意味の役職名である。

 

 『白黒はっきりつける程度の能力』を保持しており、彼女の前では嘘はおろか、弁明すらも許されない。また小町の上司でもある。

 

 「旧地獄…どうしてまたそんな所に?」

 

 「地獄から魂が抜け出したと、連絡がありました。その行き先が旧地獄なのです。詳細はここに」 

 

 映姫から小町へクリップボードが渡される。ボードには数十枚もの紙が挟まっている。 

 

 「はい……ってええ!?これ、数百単位じゃないですか!?」

 

 「数千単位です。たまにはやり甲斐のある仕事をしたいでしょう。また仕事をサボって遊びに行っていたようですし…」 

 

 映姫の眼光が鋭くなる。

 

 「喜んでやらせていただきます!ではっ」

 

 小町は勢いよく敬礼して踵を返し、そそくさと扉を開けて出ていった。

 

 「あっ、まだ話は終わって…もう…大丈夫でしょうか。結構訳有な魂なんですが…」  

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 勢いよく扉を出た小町は壁を背に一息ついていた。

 

 「ふぅ…サボりすぎたかな?」

 

 少し内心で後悔しつつ一枚目の書類に目を通す。一枚の紙には約百人ほどの名前と没年などが書いてあった。続いて二枚目、三枚目…

 

 「………あれ?…これって…」

 

 一枚目からすでに七枚目に差し掛かった。しかし、どの紙の亡者にも一貫した共通点があった。

 

 1940年代の、それも戦死者。そう、太平洋戦争で亡くなった人達だったのだ。

 

 「はあ…なんか、より大変になったなぁ〜サボろうかなぁ〜」

 

 心ここにあらずといった様子で小町は旧地獄へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時刻は午後三時。慧音は昨日に引き続き、人里の集いをすることになったので、少し早めに寺小屋を出た。 

 

 昨日と同じように門番に軽く挨拶し、集いの部屋に入る。神宮司、醍醐は既に来ていた。今日は阿求がいない様だ。慧音は二人に挨拶し、手前に座る。

 

 「お待たせしました」

 

 襖から一人の少女がいくつかの巻物を持って部屋に入ってきた。

 

 「それでは昨日に引き続き、人里の集いを始めたいと思います…とその前に」

 

 他の三人の視線が阿求に集まる。

 

 「今回の事件においての重要参考人を招待しております」

 

 「…何だ?それは、初耳だぞ。誰だ?」

 

 神宮司が問う。

 

 「まぁそう急がずに、どうぞ入ってきてください」

 

 慧音の後ろの襖が勢いよく開く。

 

 「お前たちは…」

 

 「よう、慧音と阿求。おっ、おっさん達も居るんだ」

 

 襖からは魔理沙と大事そうに何かの籠を抱えた霊夢がいた。二人は慧音の隣に座る。霊夢は籠を抱えたままだ。

 醍醐が阿求に問いかける。

 

 「この二人が異変の秘密を知っていると?」

 

 その問いには霊夢が答えた。

 

 「まぁ、私達も知っているけど…聞くなら直接がいいでしょ」

 

 霊夢は籠を床に丁寧に起き、ゆっくりと開けた。

 

 「なんと…!」

 

 「この方たちは…妖精…ですか?」

 

 

 籠の中にいたのは15センチ程の小さな少女が二人、仲良く座っていた。

 

慧音が二人を覗き込む。

 

 「羽の無い妖精を見たのは初めてだが…」

 

 そこに割って入るように魔理沙が話す。

 

 「おおっと、なんか勘違いをしているみたいだけど、この二人は妖精でも妖怪でも、ましてや魔物でもないぜ」

 

 「では一体…」

 

 霊夢、魔理沙、阿求以外の視線が小さな二人に向けられる。二人は寸分も違わない動きで同時に立ち上がり、説明した。

 

 「私達はインファント島に住んでいました。コスモスと言います。……地球の先住民、と言ったところでしょうか」

 

 

 二人の声はこの場の六人の耳には入らず、直接脳内に響いた。慧音たちは驚きながらも、彼女たちの言葉を黙って聞いた。

 

 「皆さんが議論している湖の物体ですが、あれは私達の守護神、モスラです」

 

 最珠羅(モスラ)。この場の、六人の頭の中にはスクリーンとなってモスラの姿が見えた。繭の中でうずくまっている巨大な、それでいてどこか可憐な蛾の姿が。

 

 これはコスモスの持っている能力の一つで、他のものと感覚や記憶を同調することが出来るおかげだ。

 

 「これが…モスラ…」

 

 ここにいる誰もがそのスケールの壮大さに感嘆した。

 

 「そして、私達はあなた達に警告をしに来ました」

 

 「警告…?一体何の…」

 

 神宮司が小美人たちに問う。

 

 「怪獣の出現です」

 

 「怪獣…それは一体」

 

 醍醐が言いかけるが、阿求がそれを制する。

 

 「そのことについては私から話させて頂きます」

 

 そう言うと阿求は、自分の右側に積んでおいた巻物のうち一つを取った。

 

 巻物には『護国聖獣伝記』と書かれてある。薄茶に変色しており、かなりの年月が経っていることが推測される。

 

 「これは幻想郷ができるよりも以前の頃よりある伝記です。内容を見ればわかります」

 

 「お!ここからは私達も知らない情報だな」

 

 「静かにしてなさい」

 

 伝記にはこう書かれていた。

 

 「日本には古来より、婆羅護吽(バラゴン)、最珠羅(モスラ)、魂怒羅(ギドラ)と言う三体の怪獣、つまり巨大な生物がいて、古代の日本王朝により封印された後、神として崇められたそうです。この際、この怪獣たちには大和の守り神たちとしてクニを守るという命を授け、その心を地蔵に隠したとか」

 

 「…それでは、あなた方のモスラと言うのは…」

 

 醍醐は不安げな顔をコスモスの二人に向ける。 

 

 「はい、モスラは怪獣です。しかし、モスラと私達は絆で結ばれております。それに人間には非常に友好的ですので、私達から皆さんに危害を加えることはあり得ません。バラゴンについても自分のテリトリーを荒らされなければ何もしません。ギドラについては…余り信用できませんが…一応は大和の支配下ですから、環境を破壊するような事は無いと思います」

 

 すると一同からは安心からかため息が漏れる。一応の危機は回避したようだった。

 

 「すると、この三体の怪獣は今もこの幻想郷のどこかで眠っているのだろう?」

 

 神宮司が確認のために少し大きめの声を出す。しかし

 

 「いえ、実は事態はそう簡単でもないのです」

 

 コスモスの二人が異を唱える。

 

 「実は本来ならば、この土地に怪獣は存在しないはずなのです」

 

 「と言うと?」

 

 霊夢が問う。

 

 「皆さんは可能性の世界、パラレルワールドと言うものを知っていますか?」

 

 「…?」

 

 ほとんどの者は知らないようだったが、魔理沙と阿求は知っているらしく、「はい」「おう」と返事をしていた。

 

 「この世界の他にある分岐した世界のことだろ。平行世界とかなんとか」

 

 「なんであんたそんな事知ってるのよ」

  

 「まぁ魔法使いだからな。それにもともとそう言ったオカルトチックな話は好きなんだ」

  

 霊夢と魔理沙が話している中、まだわかっていないのか醍醐と神宮司が難しい顔をしている。慧音は魔理沙の会話から出てくる言葉を、頭の中で漢字にして、理解したようだった

 

 「その通りです。例えば今私達がこうして話していますが、逆に話していない場合も可能性としてあるわけです。その可能性でできている世界をパラレルワールドといいます」

 

 今度は二人も理解したようでうなずいている。コスモスの二人はそのまま話を続けた。

 

 「では本題ですが、私達はその分岐した世界の内の一つから来ました」

 

 「え!?」

 

 そこにいた全員が同じ反応をした。

 

 即座に阿求が問う。

 

 「そんな事が可能なんですか?」

 

 「いえ、通常は不可能です。しかし、何者かがこちらの世界とあなた方の世界との境界をあやふやにし、隙間を作ってしまったのです。その隙間から私達は来ました」

 

 「では何故?どうしてあなた達は私達の世界に来たのですか?…!まさか…」

 

 醍醐は質問しようとしたが何かに気づいたようだった。

 

 「私達の世界には元々怪獣はいなかったが、そちらの世界からやって来た。それを伝えにあなた方もこの世界に来られた。そいういことですね」

 

 醍醐の言葉は核心をついたのか、コスモスの二人はうなずいている。

 

 「はい、大方合っています。しかし、こちらに流れ込んだのは怪獣という概念です。もしかすると、私達の知らない怪獣がこの世界で誕生する危険があります」

 

 「…てことはいつ怪獣が現れても不思議じゃない状況になっちまったてことか?この世界が」

 

 「そういう事になります」

  

 神宮司の問に答えるコスモスの二人。その直後に一同からは長いため息が出た。

 

 「…はぁ〜〜〜〜」

 

 「心中お察しします」

 

 「いえ、違うのよ」

 

 霊夢が苦笑しながら申し訳なさそうに言う。

 

 「私達は皆、その境界を歪めた犯人の検討がついているの。しかも知り合いのね」

 

 「そうでしたか」

 

 そう言うと霊夢は天をあおいで呟いた。

  

 「あのバカは、何やってんのよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 アニゴジ第二章見てきました。今回はビルザルド、エクシフ、新たに出てきたフツアの民、そして人類のそれぞれの価値観や大切なものの違いが目立つ作品でした。それに何と言ってもゴジラ·アースと主人公たちの戦闘シーンは圧巻の一言でしたね。特に飛び交う火の粉がゴジラの持つ神々しさを引き立たせている様に思いました。まだ劇場に足を運んでいない方は是非見に行ってください。レンタルにはもったいない作品ですよ。
 次話もできる限り早く投稿できるように頑張ります。引き続きリクエスト、アドバイスもどんどんお願いします。最後までご覧下さり、ありがとうございました。


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第七話 破壊神

 そういえばGMKってハム太郎と同時上映でしたよね(笑)あのゴジハムくん何処行っちゃったんだろう。


 妖怪の山の麓。この場所には間欠泉地下センターと呼ばれる大きな穴があり、その最下層では、核融合が起こっている。

 

 この施設はそのボイラーの動力源のすべてを核エネルギーとしているのだが、この核融合はすべて一人の妖怪によって行われていた。

 

 「さぁ〜て、今日も頑張ったぁ。お小遣いもらったし、どこに行こうかなぁ〜」

 

 地上にある入り口に立つ彼女こそ、この施設のエネルギー源である霊烏路空である。

 

 彼女は右腕についてある制御棒を利用する事で『核融合を操る程度の能力』を行使することができる。その力を利用し、今はこの間欠泉地下センターで働いている。

 

 「……うにゅ?」

 

 空は背後から、森の方から何か近づいてくるのを感じた。お空が振り向くとそこには一人の人間がいた。黒い着流しを着た男の様だった

 

 男は穴の下の方を覗き込んだ

 

 「おーい、そこは危ないぞーって…えっ!?」

  

 何とあろうことかその人間は核融合が今まさに起こっている穴に落ちてった。

 

 普通、人間が一度でも入ってしまえば高濃度の放射能により即被爆、体の中はめちゃくちゃになり、そうでなくても高温で体が溶け出してしまう。

 

 「まって!そこに入っちゃだめー!」

 

 空はその背中に生えている烏の羽を羽ばたかせ、落ちていった人間を追いかけるべく穴の中へ急ぐが、既に姿は見えないほど下の方へと落ちてしまった。

 

 

 

 

 

 

 場所は変わって、ここは旧地獄。幻想郷の地下に広がるこの地は、その名の通りかつて地獄だった場所である。その中心には鬼など地上で嫌われたモノの住む旧都があり、さらに地霊殿という建物がある。

 

 また地霊殿の下には灼熱地獄跡が広がっているが、現在その地には、本来なら大きな鎌を持つはずであった手に、自分の身長ほどあろうかという虫あみを持って振り回している一人の女性がいる。

 

 「うりゃっ!それっ!大人しく捕まれぇぇい!」

 

 現在出勤中の死神こと小野塚小町は、怨霊集めに勤しんでいた。

 

 「あぁ〜、まだ548人の魂しか集まってないぃ〜。終わりが見えなぃ〜」

 

 捕まえた怨霊は大きな袋に入れられていた。怨霊がパンパンに入った大きな袋が5つと半分ほどたまった袋が一つ。残りの袋はその倍以上ある様だった。

  

 小町が小言を言いながら虫あみを振り回していると、突然、怨霊達が一箇所に集まりだした。

 

 「おぉ!一箇所に集まってくれると、あたしもありがたいん……だけど……」

 

 怨霊達は次第に黒い影となり、形を作り始めた。

 

 ワニのような頭、たくましく大きな腕と鋭い爪、恐竜のように巨大な胴体、そして背中の剣山のような凹凸は尻尾の先にまで続いている。影はみるみるうちに大きくなり、60メートル程にもなった。

 

 「なん…だ…これ…」

 

 小町はその圧倒的な存在感に気圧されて動けなかった。

 

 巨大な黒い影は上を向いたあと、霧状の黒いモヤとなり上の方へと登っていった。

 

 小町はただただ唖然としていた。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここは地霊殿。地獄から灼熱地獄跡の管理と怨霊の監視を目的に建造された建物である。この館の主は覚妖怪の古明地さとりといい、地獄からの任を受けている。

  

 「次はお姉ちゃんの番だよ」

 

 帽子を被り薄緑の髪をした少女が二枚のトランプを口の前で扇状に広げて得意げにしている。

  

 「ぐぬぬ…」 

 

 対する薄紫の髪にピンク色のフリフリした服を着ている少女は口を結んで何やら悩んでいる。

 

 今ババ抜きをしているのが古明地さとりとその妹、古明地こいしである。

 

 姉妹とも覚妖怪であり、姉の方は当然ながら『心を読む程度の能力』を保持しているが、妹のこいしはその忌み嫌われた能力を封印した。

 

 こいしはその代わりに『無意識を操る程度の能力』を手に入れた。そのためさとりの胸元に浮いているサードアイだが、こいしのものは目を閉じている。

 

 そのおかげか、さとりはこいしの心だけは読めないのだ。

 

 「こっちよ!」

 

 さとりが引き立てたのはJOKERだった。

 

 「じゃあ今度は私の番〜」

 

 今度はさとりが二枚のトランプを目の前に広げる。

 

「こっち?」

 

こいしが向かって右のカードをつまむ。

 

「……」

 

さとりの反応はない。

 

「じゃあ…こっち?」

 

「…!」

 

(お姉ちゃん、顔に出すぎー)

 

こいしが右側のカードを取ろうとした時。

 

突然、大きな崩壊音とともに地霊殿が揺れる。

 

あまりに突然の事だったので椅子に座っていたこいしは転げ落ちてしまった。さとりはカードを机の上に放り出してこいしに歩み寄る。

 

「こいし、大丈夫?」

 

「うん、大丈夫だよ。ありがとう」

 

しかし、まだ揺れは収まっていない。

 

「さとり様!こいし様!ご無事ですか!」

 

 二人の部屋の扉が勢いよく開いた。見ると黒いゴスロリ衣装に赤い三つ編みの似合う少女が扉を両手で開けて入ってくるところだった。

 

 彼女は火焔猫燐。さとりのペットの一人で猫の妖怪、火車である。『死体を持ち去る程度の能力』を持っており、さとりから怨霊の監視を任せられている。

 

 「お燐、私は大丈夫よ。それより皆は?」

 

 地霊殿には空や燐の他にもたくさんの動物が飼われている。

 

 「はい、怪我をした者はおりません。しかし、地上に出たお空とは連絡の手段がありませんから…」

 

 「お空、大丈夫かなぁ〜」

 

 「そうね…ひとまずはこの揺れの原因を」

 さとりがその次の言葉を言おうとした瞬間、先程の揺れよりも大きな揺れが襲ってきた。

 

 「…っ!何か、下からくるわ!」

 

 さとりが叫ぶのとほぼ同時に下の床が吹き飛び、黒いモヤが柱の様に一直線に出て来た。

 

 三人はそれぞれぶつからないよう、別々の方向に飛んで避けた。

 

 黒いモヤは上へ上へと登っていってしまった。揺れはそれっきり起こらなかった。

 

 「うわぁ、びっくりした。って、お姉ちゃん?」

 

 さとりが一人身をうずくまって床に横になっている。

 

 さとりは呼吸が荒く、肩も激しく上下している。

 

 二人が駆け寄り体を起こそうとすると、さとりはお燐の腕につかまり、必死なそうな顔で二人に訴えかけた。

 

 「だ…だめよ、あの怨霊達を、『彼』に接触させないで!」

 

 

ーーーーーー

 

 

 間欠泉センター最下層。

現在ここは先程お空が起こした核融合反応がまだ続いており、熱と放射能の密室空間になっている。

 

 一億度を優に越える密室空間で生存できる生物など存在しない。しかし、そこには確かに一人の、一匹の生物がいた。

 

 (これほどまでの放射線を浴びたのは、私の住処に忌々しい人間共が落とした汚染物質を喰らったとき以来だろうか)

 

 直立二足歩行のその生物は体の所々から紅い光を放ち、白い蒸気を身にまとっている。

 

 (今や私の力は母体となるにふさわしい程に膨れ上がった。これなら第四形態まで一度退化し、仲間を増やす事もできるだろう)

 

 白い蒸気に黒いモヤが混ざり始める。モヤは次第に増えていっている。

 

 (後は姿を消し、川をたどって海に出ればいい。それからは…ん?何だ、この感じは?)

 

 (体にまとわり付いてくる、この黒い霧は?)

 

 

 

 

『…憎イ…悲シイ…殺ス…滅スル…』

 

 

ーーーーーー

 

 

 1954年夏、小笠原諸島近海で貨物船『栄光丸』が突如消息を断った。その事件をさかいにその海域を通りかかる船は全て行方不明になった。

 

 唯一の共通点は無線から聞こえた奇怪な唸り声とも聞き取れる音と、「海が爆発した」「海面が青く光った」という意味不明な遺言だけだった。

 

 近くの大戸島に住む人々はこの事件の原因を言い伝えの生物、荒ぶる神のせいであるとした。 

 

 「こりゃぁ、ゴジラが出たんだぁ」

 

 そして大戸島が嵐に見舞われたその日、神は地上を知った。

 

 

ーーーーーー

 

 

 「…何だ、誰なんだお前達は!やめろ、これは私だけの怒りだ!私だけの憎しみだ!私の中に、入ってくるなッ!」

 

 

ーーーーーー

 

 大戸島が、何かに襲われ村がほぼ全滅した。

戦後間もない日本をこのニュースが駆け巡った。政府はこの事態に特別対策本部を設置。

直ちに調査団を大戸島に派遣した。

 

 到着した調査団はその何かと思われる足跡や村の井戸などを調査した。足跡は小さな小屋ほどあり、井戸からは放射線が検出された。  

 

 調査団が更に調査を進めようとした時、村の半鐘が鳴り響く。

そして丘の向こうから巨大な生物が頭を出し、雄叫びを上げるのを目撃した。

 

 

ーーーーーー

 

 

 『憎イ、壊シタイ、潰シタイ、燃ヤシタイ、殺シタイ、殺シタイ、殺シタイ…』

 

 

ーーーーーー

 

 

この事を調査団は政府へ報告し、巨大生物の存在を確認。また、この生物が放射能を帯びている事から、『地底洞窟に住んで生き延びていた恐竜が度重なる水爆実験により住処を追い出され、更には放射能の影響で突然変異したものである』と推測。 

 

 生物の名前を大戸島の逸話から『ゴジラ』と命名した。

 

 政府は大戸島近海にフリゲート艦隊を派遣し、激しい爆雷攻撃を開始。しかし、ある生物学者は攻撃はゴジラを刺激するだけだと進言したという。

 

 

ーーーーーー

 

 

 「アガッ、意識ガ…ヤメ…ロ…」

 

 

ーーーーーー 

 

 

 ゴジラは爆雷攻撃をもろともせず、その後東京に上陸。政府は即座に防衛隊に出動命令を下すもゴジラの前には重機関銃も戦車の砲弾も通用せず、何も出来なかった。

 

 政府はゴジラの再上陸に備え、高圧電線を張り巡らせ、水際で感電死を狙う。

 

 その後ゴジラは再び東京湾から現れた。しかし、その行く手を高圧電線が遮る。五万ボルトの熱に苦しむがそれも束の間の時間だった。

 

 ゴジラはその後剣山のような背びれを発光させ、口から高温の放射線(白熱光)を吐いた。鉄塔は紅く溶け出し、戦車は燃え上がり、東京は再び火の海となった。

 

 ゴジラは東京を蹂躙した後、ロケット攻撃すらもろともせず海へと姿を消した

 

 

ーーーーーー

 

 

 「グッ……アガッ…………ガガ………」

 

 

ーーーーーー

 

 

 砲弾もロケットも高圧電線をも通用しない化物に政府は頭を悩ませる。

 

 ゴジラに蹂躙された東京は放射能汚染が酷く、数百年は人が住めるような土地には戻れないと言われた。

 

 そんな中、一人の科学者がゴジラを殺しうる毒化合物の存在を政府に明らかにする。

 

 『オキシジェン・デストロイヤー』

 

 「水中酸素破壊剤」とも呼ばれるこの兵器は水中の酸素を破壊し、生物を文字道理『壊す』恐るべきものである。

 

 ゴジラに使用した後、軍事利用される事を恐れたその科学者、芹沢博士はオキシジェン・デストロイヤーに関する全ての資料を抹消した後に、自らゴジラの眠る海にオキシジェン・デストロイヤーを使用し、ゴジラと運命を共にした。

 

 

ーーーーーー

 

 

 『殺シタイ。コンナ体ニシタ、ニンゲンガ。オレタチヲワスレタ、ニンゲンガ。憎ィィィイイ!』

 

 

ーーーーーー

 

 

 しかし、何故ゴジラが日本の、しかも東京だけを狙ったかのように上陸したのかは未だ判明していない。

 

 

 

 「ゴジラは強烈な残留思念の集合体である」

 

 

 

 今ではそんな噂がまことしやかに囁かれてる。

 

 

 

 

 

 

 




 次回は閑話にするかストーリー進めるか迷ってます。と言っても閑話は物語の展開によっては必要不可欠ですけどね(・∀・)


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第八話 黙示録の獣

 お空は間欠泉に落ちてしまった人間を追いかけて最下層へと向かおうか迷っていた。

 

 「やっぱり行った方が良いかなぁ。でもどうせ生きているわけないし」

 

 彼女はしばらくぽっかり空いた間欠泉の周りを行ったり来たりしていたが、不意に立ち止まった。

 

 「もし下で何かあったら、さとり様に怒られるのは…あたし!?」

 

 何を思ったのかお空は一目散に間欠泉へと入って行った。

 

 最下層まで半分ほどの所まで来た時、お空はいつもと何か雰囲気が違うことに気づく。

 

 (何か…いつもより…熱い?)

 

 底に近づけば近づくほど間欠泉内部の温度は高くなっているようで、お空は額に汗をかく。  

 

 そしてようやく最下層が見えると、お空はそこには居るはずのない人影を見つけた。

 

 その人影は、苦しみもがいている様に見えた。時には頭を抱え、唸り声を上げた。

 

 しかしお空は人影に近付こうとしない。

 

 (この高さから落ちて無事な人間なんていない。それにこの気配、怨霊か。それもかなり強い怒りと憎しみを感じる)

 

 お空が警戒しつつゆっくりと降下して来るとふと、人影の動きが止まった。

 

 否、それはもはや人とは呼べない何かに変わっていた。

 

 すると、突如それは待っていたかのように近くによってきたお空の方に異常な速さでぐるりと顔を向けた。 

 

 皮膚の無い無機質な顔。そのむき出しの歯はニッコリと笑っているかのようだった。

 

 お空は戦慄と恐怖で声を上げそうになるが、その余裕は無かった。 

 

 【ギャァァォォオ】

 

 お空は壁に叩きつけられて意識を失う。

 

 それが咆哮をあげた。

 

 その声は、音は、物理的な衝撃波を伴って間欠泉センターを全体を揺らした。

 

 それだけでは治まらず、咆哮は妖怪の山、人里、紅魔館、幻想郷全体に鳴り響いた。

 

ー人里·阿求低ー 

 

 「何だろう?さっきの音、いや、鳴き声?…」

 

 阿求邸に集まっていた

 

 「‥今のは…」

 

 コスモスの姉妹が呟く。

 

 「…どうしたの?」

 

 急に様子が変わった二人の小人に霊夢は呼びかける。

 

 するとコスモスの二人は手を合わせて何やら歌いだした。

 

 「モスラーヤ モスラ ドゥガン カサークヤン インドゥム……」

 

 「え?…どうしたの?」

 

 霊夢たちは不思議な歌を歌い続ける二人にわけがわからなかったが、少しするとコスモスの姉妹が祈りの姿勢を解いた。

 

 「皆さん、説明している暇はありません。急いでここから里の皆さんを避難させてださい」

 

 「え!?どういうこと!?」

 

 「ちょっと待てよ。避難させるにも理由が必要だ。説明してくれ」

 

 神宮寺がそう言うとコスモスの二人は「では手短に」と答えて話し始めた。

 

 「今までの話で怪獣の脅威は理解できたと思いますが、先程の声の主はそれらを遥かに凌ぐ怪獣の中の王。私達の世界では怪獣王、破壊神などと呼ばれていました」

  

 コスモスの話に六人は何も言わずに聞いていた。

 

 「その名は、呉爾羅(ゴジラ)。幾度となく人類を絶滅の危機に陥れた生態系の頂点に立つ絶対強者です」

 

 二人の話には不思議な説得力があり信じられずにはいられなかった。

 

 「今の話でゴジラの脅威が理解できましたか?」

 

 「あぁ、わかった。里の皆にはすぐに避難指示を出す」

 

 すると外が騒がしくなった。

 

 ドタドタと廊下を走る音が近づいてくる。

 

 「阿求様!い、一大事です!」

 

 勢いよく入ってきたのは阿求邸で門番をしていた男だった。

 

 「どうかしましたか?」

 

 「そ、空に、巨大な蝶がっ!」

 

 門番はおぼつかない口調でそう告げた。

 

 その直後だった。強風が阿求邸を襲う。

 

 「うぉっ!?何だこの風は!?」

 

 障子が破け、空を舞う。

 

 その先には巨大な蝶がいた。否、独特の羽の模様から蛾とも見える。

 

 「では皆さん、私達はゴジラと戦い、時間を稼ぎます。その間に避難を」

 

 既にコスモス達の姿はなく声だけが残っていた。

 

 「あれがモスラ…怪獣か…」

 

 慧音は一人呟いた。

 

ー紅魔館ー

 

 赤で染まった館の一室。そこには一人の魔女と幼い吸血鬼がいた。

 

 「ところでレミィ、あの後どうなったの?」

 

 「あの後って?」

 

 「とぼけないでちょうだい。湖にある例のアレを見に行ったときよ。随分と遅かったけどどうかしたの?」

 

 「ん…あぁ…別に何でもないのよ?…ちょっと寄り道してただけ」

 

 (…嘘ね)

 

 二人は紅い椅子に座って紅い机の上で朱い紅茶を楽しんでいた。

 

 「それよりも外が騒がしいわね。獣の声がしたわ」

 

 レミリアが話題を変えようとする。

 

 その直後に二人の右から爆発が起こった。

 

 「おねーさまー!」

 

 厚い二重扉を破壊して出てきたのはレミリアの妹のフラン・スカーレットだ。

 

 彼女はその危険な能力から異常な精神状態になりやすく、それを危惧したレミリアから監禁されていたが、とある事件により能力の制御を出来るようになり、今ではレミリアと共に外出できるまでに回復した。

 

 フランは扉を能力で破壊し、何やら興奮してレミリアの元へと走る。

 

 「あ、パチュリーも!すごいのよ、お外に…」

 

 「フラン、扉はきちんと開けて入ってくるのよ。貴方もレディでしょ」

 

 フランの破壊した扉の破片でテーブルの上は砂漠と化していた。

 

 「あ、ごめんなさい。…それでね、お外にね、おっきな蝶々が飛んでるのよ!」

 

 フランの興奮は治まらない。

 

 「ほら!お姉様も見に行こう!」

 

 「ちょ、ちょっとフラン!」

 

 フランはレミリアの手を引っぱっていく。この部屋には窓がないので下の階へと降りなければならない。フランはすれ違った妖精メイドが吹き飛ぶほどの速さでレミリアの手を引く。

 

 レミリアも、それを拒まずにフランにゆだねている。

 

 「…本当に、良かったわね。レミィ」

 

 パチュリーは一人心の中で、自分の一番の親友とその妹の事を想っていた。

 

 「ほら見て!お姉様、あそこ!」

 

 「ほんとねぇ〜」

 

 レミリアはフランとこうしていられる事に満足していて蝶々の事は視界に入っていなかった。

 

 「もぅ〜見てないでしょう」

 

 フランがジト目で見てくるとレミリアも我に返り庭の植木鉢へと視線を動かす。

 

 そこには大きねアゲハチョウがいた。

 

 「あら、綺麗なアゲハチョウね」

 

 「もぅ〜、そっちじゃなくて…こっち!」

 

 フランに顔を両手で挟まれ、強引に動かされる。レミリアの視線は森の方へと瞬間移動し、ついにそれが視界に映る

 

 「へぇ〜これは大きい…わ…ね……え?」

 

 「そうでしょ!うふふ」

 

 フランはレミリアの驚いた顔を見て満足していた。

 

 レミリアは驚き顔を晒し続けていた。

 

ー妖怪の山ー

 

 ここ、妖怪の山は今、混乱の中にあった。

 

 「厳戒態勢!全白狼天狗は間欠泉に集まれ!」

 

 山の周りには山の警備を司る白狼天狗が忙しく動き回っていた。白狼天狗は警備の際、五人一組を一部隊として行動している。

 

 「隊長、一体何事ですか?」

 

 「分からないわ。でもさっきあった唸り声が関係しているのは確実ね」

 

 「何でも天魔様直々のご命令らしいですね。一体どうしたんだろう」

 

 「今はそんなこと考えなくていいのよ。私達は上から言われた任務を遂行するだけなんだから」

 

 これはその中の一つ、犬走椛の指揮する部隊『イ組』である。

 

 い組は言われたとおりに間欠泉センターに到着した。

 

 間欠泉の穴からは蒸気と火花が吹き出していた。

 

 (一体これは…)

 

 椛はこの異様な光景に驚いたが部下の前でもあり、ここは感情を表に出さなかった。

 

 「イ組、ただ今到着いたしました」

 

 椛は、そう上司に報告した。

 

 「よし。では少しここで待機しろ。もうじき天魔様が直々にいらっしゃる」

 

 「天魔様が、お越しになるのですか?」

 

 天魔というのは天狗達の長でこの山の社会関係を築き上げた者である。また、この幻想郷の創造主である『龍神』とも何らかの関係を持っているとの噂もある。

 

 「えぇ、そうですよ」

 

 「おわっ!文様」

 

 「文…様…」

 

 「何ですか、椛だけそんな蔑むような目をして」 

 

 射命丸文は椛とはまた違う鴉天狗と言う天狗で、主に報道等を担当している。文は『文々。新聞』と言う新聞を発行しており、各地で起きた幻想郷の事件等を面白おかしく記事にしている。椛はその度に連れわされている。

 

 「いえ、そんなことは。と言うかどうしてここに?」

 

 「何にか面白そうな事が起きそうだから、来ちゃった」

 

椛の額のシワが深くなった。

 

「お、おい!あれっ!」

 

近くにいた男性の天狗が森の方を指差す。その顔は恐怖と驚愕に染まっていた。

 

椛達は何事かと思ってその方向を見るとそこには巨大な蛾がいた。

 

その大きすぎる羽には蛾特有の派手な模様かあり毒々しくも見えたが、椛は美しいと思った。

 

「あれは…」

 

文がそう呟くのを椛は聞き逃さなかった。

 

「何か、知っているんですか?」

 

「いいえ、でも…」

 

文の次の声が届くことはなかった。

 

蒼白い閃光が走る。

前が見えない。

焦げた匂い。

誰かの、いや聞き慣れた声の悲鳴。

 

(なんだろう何があったの?)

 

目がなかなか開かない。

「…み…じ…もみ…じ…椛!」

 

誰かが私を読んでいる

この声は…文様?

 

やっと目が開いた。

空が見えた。

どうやら上を向いているようだ。

文様が叫びながら、泣きながら、手をこちらに伸ばして追ってくる。

あれ?飛べない。

落ちてる?なんで?

 

椛は自分の翼を見る。

白い筈のその翼は真っ黒だった。

椛の呼吸が荒くなっていく。

 

「ああ、ああああ、ああああああ!」

 

椛の翼は焦げて今にも取れてしまいそうだった。

 

「熱い、熱ぃぃいいよぉ!」

 

椛は自分の翼を見る。

これは夢では無いのかと。

しかし、伝わってくる痛みと熱さはどれも本物だった。

 

そして見てしまった。

白い煙のその先にいる、ヤツを。

間欠泉の穴の中からこちらを覗く真っ黒なバケモノ。

その顔は嗤っているように見えた。




遅くなってすみません。なかなか手につかず、進行が遅れてしまいました。また、慌てていたので途中修正などもあるかもしれません。誤字やおかしな表現などが有りましたらご報告お願いします。毎話ご愛読ありがとうございましす。


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第九話 赤より紅く、黒より暗い

今回は全話がかなり長引いてしまったので、早く早くと頑張ってみました。


「椛!ねぇしっかりしてよ、椛!」

 

文は地面に落下する前に椛を捕まえた。しかし、椛の翼は焼けて飛行することはおろか、付いているだけという状態である。

 

「…うっ…」

 

「椛!大丈夫?私が誰かわかる?」

 

すると椛はにっこり笑った。

 

「文…ちゃん」

 

「椛、あなた…」

 

文は一瞬幼少の頃を思い出していた。初めて友達になった真っ白な白狼天狗の事を。

 

「今度…一緒にお茶…しませんか?」

 

「まったく、今は休みなさい。…店は予約しておくから」

 

「あはは」

 

椛は安らかに目を閉じた。

 

 

 

 

 

ーー人里ーー

 

霊夢達は動けないお年寄りや子供達を避難先の博麗神社に運んでいた。あるける大人達は徒歩で、また大きな荷物を持っている者は慧音や自警団の助けをもらいながら避難している。

 

「助けの必要な者はいるか!」

 

「お母さん怖いよぉ〜」

 

「手を貸してくれ!怪我人がいるんだ!」

 

しかし、人里の全員が避難に納得した訳ではなかった。

 

「何で俺がこの家を捨てなきゃならんのだ!」

 

「別に捨てるわけではないだろう。ここは危険だから、一時的に避難しようって話だ」

 

「だから!その危険ってのがおかしいだろ。たかだか獣のためにここまでしなくてもいいじゃねぇか!」

 

そういった連中には神宮寺が対応していたがなかなか話が進まない。

 

「大体、さっきのでっかい蝶の方が危険じゃ無いのか?アイツが味方だなんてそんなの…」

 

男が言い終わる前に、山の方から青紫の閃光が走った。

 

「なんだ…あれ…」

 

山には奇怪な音と共に天まで届くほど高い蒼の柱が立っていた。やがて柱は細くなっていき、消え去った。遅れて凄まじい衝撃波と何かが割れるような音がした。

 

「チッ、どうやら時間は無いらしい。悪いが強制連行だ」

 

「え?」

 

男が次の言葉をつなぐ前に神宮寺が腹に一発パンチを入れた。人間兵器とも呼ばれている彼のパンチは凄まじい重さと速さを持っている。男のみぞした辺りに炸裂した拳は一瞬にして男の意識を奪った。

 

「おい、霊夢。こいつも頼む」

 

神宮寺は近くにいた霊夢に男の搬送を頼むが、霊夢は答えない。それどころか上の空で何事かブツブツ呟いている。

 

「…嘘でしょ…そんな…今ので…」

 

「おいどうした。何が嘘なんだ?」

 

神宮寺は男を一旦地面に下ろして霊夢に詰め寄る。よく顔を見ると霊夢の顔は青ざめて血の気が引いていた。

 

「…破られた…今ので結界が…破られたの!」

 

 

 

 

 

ーー妖怪の山・間欠泉センター周辺ーー

 

「被害状況を報告しろ!」

 

「光が…青い光が…ぁぁああ」

 

「医療班、来てくれ!腕が焼け落ちてる奴がいるんだ」

 

妖怪の山では天狗達が入り乱れて混乱状態であった。

 

「落ち着けぇぇえい!」

 

一際大きな声を発したのは八尺以上の体躯をほこる天狗であった。その天狗は、灰色の翼に朱で染まった顔と長い鼻を持った古典的な天狗であった。

 

その天狗とは天魔と呼ばれている天狗の長である。

 

天魔の周りには黒装束を身に纏い、仮面を被った天狗達が取り囲んでいる。

 

天魔が現れると天狗達は一切の言葉を話さなかった

 

「これより一時この山を離れる。皆、速やかに行動しなさい」

 

いかに天魔の言葉と言えども天狗達の間に動揺が広がった。

 

「て、天魔様。それはこの山を捨てると言う事ですか」

 

天魔は言葉を発した鴉天狗を睨む。その鴉天狗は何も言うことが出来ずに少し俯いて黙ってしまった。

 

「いいか、これからここで起きる事に、我々矮小な妖怪ごときの出る幕はない」

 

天魔はその朱い顔を更に真っ赤にして言った。

 

「我々が長年住み、愛してきたこの山を捨てることなどしない!だが、ここは一時身を引き、事が終わるまで耐えてほしい」

 

すると天魔はゆっくりと頭を下げて一言。

 

「頼む」

 

「て、天魔様!お顔を上げて下さい!」

 

「そんな事をせずとも私達は天魔様の言う事に背いたりなど致しません!」

 

天狗達は口々に天魔の頭を上げるように言った。

 

「そうか…皆、すまない」

 

天狗達は速やかに行動に移った。

 

「山の裏側に行くぞ。動けない者には手を貸してやってくれ」

 

「河童達にも伝えておきますか?」

「奴らは既に避難を始めている。心配は無い」

 

天狗達が避難を始める中、天魔は後を大天狗達に任して一人で山の麓の方へと降りて行った。

 

 

 

 

 

ーー地底・旧都の某酒店ーー

 

ここ、旧都では現在鬼と言う種族が主に住んでいる。かつては妖怪の山に住んでいたが、とある理由により地下に落とされてしまった。

 

その鬼の中でもかつて鬼の四天王と謳われた星熊勇儀と伊吹萃香は片手で酒を飲んでいた。

 

「なんだか騒がしいねぇ。萃香」

 

背の大きな体育着のような服を着ているのが星熊勇儀である。その横に座る小さな少女が伊吹萃香だが、萃香からは反応が無い。

 

「…ちょっと萃香?聞いてるのか?」

 

勇儀が萃香の小さな耳を引っ張る。

 

「痛いよぉ〜。なんだよ急に」

 

「そりゃこっちの台詞さ。急にぼーっとしちまって。一体どうしたんだい?」

 

すると萃香困ったように笑った。勇儀にはそう見えた。

 

「いやぁ、ちょいと、面倒な事が起こったみたいでさ。行ってくるよ」

 

おそらく上で何があった。勇儀はそう感じた。それは萃香の顔が本気の殺し合いの時に見せるそれと同じ、可愛い少女の顔とは正反対の形相をしていたからだ。

 

「面倒事なら、手伝うよ」

 

「いいさ。勇儀には地底を頼むよ」

 

萃香はそう言い残すと霧のなって消えてしまった。

 

「萃香…」

 

勇儀は一人呟いた。

 

 

 

 

ーー間欠泉センター・最下層ーー

 

沈んでいく。

私の体が、意識が、魂が。

 

いや、違う。

 

これは、同化していく?

私と言う存在が、何か別のモノへと。

 

いや、それでも無い。

一体何だ?

お前達は。

 

…あぁ、そうか、そうだったのか。

 

お前達は私と同じ、いや、私自身だったのだな。

 

なら、もう何も言うまい。

 

お前達を受け入れよう。

私は、いや、俺達は今この瞬間から一つになる。

 

人間共に思い出させてやろう。

 

戦争の恐怖を

俺達の存在を

 

奴らに思い出させよう。

俺達の脅威を。

 

 

 

 

 

間欠泉センターの最下層にいたその黒い塊は形を作り始めた。

 

その体は所々焼け爛れたように紅く発光している。

ワニのような頭部に裂けた口。

その口の中には純白の牙がびっしりと生えていた。

そして理性を無くしたような白目には曇りがなかった。

腕は太く、四本の爪は鋭く長い。

弧を描く独特な腹部を支えるその足は山をも蹴とばし、更地にしてしまうだろう。

自分の背よりも高い所にある尾は、それ自体が意思を持つように動いている。

頭から背中を伝って尻尾まで生えた剣山の如き背びれは常時青紫の稲妻を纏っている。

 

 

人知を超えた完全生物。

そんなものがいるのなら、おそらく彼らの事を言うのだろう。

 

破壊神 水爆大怪獣 黙示録の獣 核の落とし子

 

 

 

 

 

 

 

 

 

怪獣王

 

 

 

 

 

満を持して、怪獣の王は楽園を征く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー???ーー

 

待っていた。

奴がやって来るのを。

 

まさかくたばったのではと心配していたが、これでまた楽しめる。

 

我が宿敵。

我らが怨敵。

 

生きてきた世界が違うとはいえ、別個体と言う訳無いようだ。

 

なら、我らがやる事はただ一つ。

 

今度こそ、我らが奴を討つ。

 

その為にこの世界を創り、待っていたのだ。

再び始まる怪獣の時代。

あの蛾如きに遅れをとってたまるか。

 

我が、我らこそが怪獣王なのだ。

 

国を護る?

天の守護神?

 

そんなものどうでも良い。

 

二千年前の戦いも、人間共など気にもしていなかった。

 

貴様だけは我らが倒す。

この、魏怒羅(ギドラ)が。




この次の話からが戦闘シーンになります。戦闘シーンは表現が難しいと聞いているので、上手く出来るか心配です。
不遇大怪獣の一匹ことバラなんとかさんがまで出ていないと心配している人もいるかも知れませんが、ちゃんと出るのでもうしばらくお待ち下さい。(待ってる人なんているのかな?)
誤字などがございましたら遠慮なくご指摘ください。それでは、これからもよろしくお願いします。


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閑話 災いの影

私の作品における古代の設定です。
原作を無理やり改変してる節があるのでご了承ください。



ーーーー

 

そこはまさに神話の世界だった。

 

空には巨大蛾が舞い

赤い四足の龍が地を這い

そして、黄金の龍王と漆黒の破壊神が雌雄を争う

 

地は裂け、森は焼け野原に変わり、空は黒く染まった。

 

天変地異の最中、一人の少女の悲鳴が響き渡る。

 

ここは幻想郷。

怪獣の跋扈する最後の楽園である。

 

ーー妖怪の山・五時間前ーー

 

「そこの鴉天狗。一体何を…」

 

後ろから声をかけられて文は振り向く。

そこには自分よりも遥かに高い場所にいる天狗がいた。

 

「て、天魔様!どうして…」

 

天魔は文の次の言葉を退けた。

 

「その白狼天狗は生きておるのか?」

 

「は、はい!ですが意識がなく、呼吸もしてません。このままでは…」

 

文は俯く。

このままでは椛が死んでしまう。

 

「熱線の衝撃を受けて生きているだけでも上出来だ」

 

天魔は文に聞こえない程の声で呟くと文と椛の所まで降りた。

 

「時間がない。ここは儂の能力を使う。行くぞ」

 

「え?」

 

文がそう言った時にはすでに、場所が変わっていた。

下はタイルでどこか病院の様な雰囲気の場所。

正面にはデスクと椅子があり何やら難しそうな資料が散らばっている。

 

「貴方達は…」

 

すると、ちょうど扉を開けて部屋に入ってきた人物がいた。

白い髪を後ろで三つ編みにした青と赤の奇抜な服装。

 

「永琳さん」

 

彼女は迷いの竹林の中にある永遠亭で医者をしている月の民だ。

その知能は、かの妖怪の賢者に匹敵するとも言われている。

 

「うむ、この白狼天狗の治療を頼む。費用は後で払いに行く」

 

天魔はそ能力を使ってその場から去ろうとする。

 

「待ちなさい!」

 

永琳は天魔を呼び止める。

よく見ると永琳の顔はいつもの気品ある顔立ちではなく、疲れた様な活力の感じられない顔だった。

 

「あ、あの声は、まさか、復活したの?ゴジラが…」

 

それから少しの間をおいて天魔が答えた。

 

「同一個体では、なかったが…あぁ…アレは確かに奴だった」

 

「あぁ…そんな.…ダメだったの?…あぁ」

 

永琳は俯いてブツブツと独り言を言い出した。

文が天魔に振り向いた時、既に天魔はそこには居なかった。

 

ゴジラとはおそらくあの青白い閃光を放った化け物だろう。

全身が不定形で黒く大きな何か。

 

椛の治療は一瞬で終わった。

永琳が目の前で生成した薬を飲ませて終わり。

椛の顔が安らかになったところで文は永林に尋ねた。

 

「あの…ゴジラって、一体何なんですか?」

 

永琳の体がビクッとはねた。

ゴジラというワードはそれほど恐ろしいのだろうと文は思った。

 

「ゴジラ…それは…怪獣よ」

 

「怪獣?」

 

文は首をかしげる。

 

「分からないでしょうね。無理もないわ。私達月の民がまだ地球人と呼ばれていた頃の話ですもの」

 

それから永琳は長く息を吸って、話し始めた。

 

「怪獣。それは突如として出現した超巨大生物の事よ。中には体長200メートルを超えるものもいたらしいわ。妖怪とはまた別の生物よ。彼らは主に放射線を食料として生きていたわ。それだけならあまり問題は無かったのだけれど、彼らは何故か私達人間を意図的に襲ってきたの。空から、地中から、海から。死角は無かったわ。何処にも安全な場所なんてなかった。だから私達は月へと飛び立とうと決心したの」

 

ここで永琳は一旦話を切る。

まだゴジラという言葉は出てきていない。

話が続くと思った文は黙って永琳を見つめていた。

 

「でも月に住める人数には限りがあった。だから人を選ぶしか無かったの。私は選ぶ側の人間だったから良かったけど、選ばれずに地球に置いていかれる人達は黙っていないでしょ?その中の誰かだったかは分からない。でも誰かがやってしまったの。決して犯してはならない罪を」

 

『人為的に怪獣を創り出す』

 

永林はこの言葉を言う時、ずっと俯いたままだった。

 

「きっと、どうせ死ぬなら宇宙(そら)へ上がる奴らも道連れにしようとしたんでしょうね。そいつが創った怪獣は…まさに最悪だった。姿は羽毛が無く、牙のある、赤みがかった体色の鳥だった。体長は15〜80メートル。かなり個体差があったわ。問題はその主食。奴らは…あろう事か…人肉を主食としていたの」

 

「怪獣と、その人為的に創られた生物、名前は確か…ギャオスだったかしら。その二つの脅威に板挟みにされた私達はまさに絶滅寸前だった。何十年もの間戦い続けたわ。勿論私も。生き残った人類は僅かに七十万人」

 

「でも予想外のことが起こった。ギャオスが怪獣を襲い始めたの。一対一では圧倒的に劣るギャオスも私達を食らって数を増やしたんでしょうね。その頃にはギャオスが生態系の頂点に立っていたわ。地球はギャオスのものになった。そう思っていた時にヤツは現れたわ」

 

永琳の手が震え始めた。

 

「異変は突然に起こった。怪獣がほとんど姿を見せなくなったの。ギャオスに絶滅させられた?いいえ、あり得ない。いくらギャオスでもそんな事は出来やしないわ。次はギャオスの数も急激に減り始めたわ。これは一体どう言う事なのか。答えは目の前にいたわ」

 

「ゴジラ…」

 

文が呟く。

何となくわかった。

分かってしまった。

ゴジラという存在が。

 

「ええ、そうよ。調査団から送られて来た映像には巨大な黒い何かに集団で襲いかかるギャオスがいた。その数はおそらく百や千なんて数じゃないわ。空が見えなくなるほどに集まったギャオスが青い光と共に次々に肉塊と化していく。時折響くあの鳴き声。あの声は今でも忘れられないわ。そして映像の最後にはゴジラから発せられた謎の衝撃波の様なものによって全てのギャオス達が一斉に爆発する様だった」

 

永琳はいつのまにかデスクにあったカップに手を伸ばしていた。

コーヒーを一口含むと再び語り出した。

 

「その後、とある生物学者から『荒ぶる神』という意味で『ゴジラ』と正式に名付けられたわ。その後ゴジラとは幾度か戦ったけど結果は惨敗よりも酷かったわ。いや、ゴジラにとっては戦いにすらならなかったでしょうね。その後私達はようやく完成した月への宇宙船に乗って地球から脱出したわ。その時の人類総人口は五万人。皮肉にも宇宙船には七万人入る予定だったから、船内はスッカスカだったの。月へと上がる途中に不思議な引力を持つ隕石とすれ違ったがけど…まぁいいわ。それから月に住み着いた私達は地球での事を隠して全ては妖怪達の穢れから逃れるためだと自分と子供達に嘘をついたの。せめてもの自尊心だったのでしょうね。自分達の創り出した生物で滅んだなんて、笑い話にもならないわ」

 

「天魔とは地球にいた時に知り合ったの。彼は私達人間をとても憎んでいたわ。ギャオスに殺されたのは人間だけじゃ無かったの。仲間を大勢殺されたのよ。私ならそんな奴ら殺しにかかるけど、彼は和睦を申し込んで来たの。お互いもう限界だったのよ。彼は私達を月へと移住するのに協力する代わりに残った設備をそのままにして置いて欲しいと言ったわ。別にもういらない施設だったし、交渉は即成立。その一週間後に私達は月へと脱出したわ」

 

「月に入ってからもゴジラの事は監視していたわ。ギャオスはその後、ゴジラによって一匹も残らず駆逐されたわ。正確にいうと、ゴジラと後もう一体、黄金の怪獣がいたけど…」

 

永琳は疲れた様に椅子に寄りかかった。

 

「話は終わりよ。彼女、そろそろ目覚める頃だから、側に居てあげたら?」

 

「あっはい!」

 

文は扉を開けて部屋から出ようとして、立ち止まる。

 

「永琳さん」

 

永琳の方を振り向く。

彼女はハテナマークを頭に付けている。

 

「その…色々話してくれて…ありがとございます!」

 

文はそれだけ言うと、扉を閉めて椛の元へと行った様だった。

 

「…私なんかが…良いのかな?」

 

永林はデスクの引き出しから薄暗い色の勾玉を取り出す。

その勾玉は暖かかった。

 

「…ガメラ…」

 

 




永琳達がすれ違った隕石はギドラです。
その他分からない事がありましたらコメント下さい。
尚、この後にガメラ関連のタグを追加していきます。この様にネタバレを回避するために少しずつタグを追加していくのでよろしくお願いします。
次回こそは戦闘シーンを…


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第十話 大怪獣総攻撃〈前編〉

さーて、戦闘シーン書くぞおー!


ーー博麗神社ーー

 

この博麗神社に避難してきた人里の住人は300人。

とても博麗神社に入りきる人数ではないので、女子供、お年寄りを優先的に入れいった。

その結果、神社に至る階段にまで人が溢れ出す事となった。

子供達の面倒は寺小屋で子供達に好かれている慧音が選ばれた。

 

「皆いるか?はぐれた者はいないか?」

 

「けーね先生!」

 

一人の少女が歩み出た。

 

「どうした椿?誰か居ないのか?」

 

椿という少女は寺小屋での委員長的な立場で同年代の少年少女達よりもしっかりしている。

 

「チルノちゃん達がいません」

 

チルノ達と言うのは、チルノ、大妖精、ルーミアの3人組の事である。

慧音もその事には気づいていた。

しかし、彼女達は妖精であるので死んでも一定の期間で復活するし、心配をする必要は無い。

無いのだが、慧音は嫌な予感がしていた。

 

(ここ最近は授業も出席してないし、様子を見に行くか)

 

慧音は霊夢を呼んだが破壊された結界の再生に忙しさうなので子供達の事を神宮寺に任せた。

子供に好かれやすい魔理沙にも頼もうとしたが、彼女は住人を避難させた後に行方不明になっていた。

森へ入ろうと歩み始めた瞬間。

 

「きゃぁぁあ!」

 

「地鳴りだ!皆どこかに掴まれ!」

 

「怖いよぉ」

 

地面が横に、縦に、揺れた。

地面が波打つのを、慧音は初めて見た。

そしてまだ耳に残っているあの鳴き声。

山の方を見るとそこには黒い龍がいた。

青紫の稲妻をまとい、怒りを具現化したようなその姿は見るだけでも戦意を喪失させた。

 

「あれが破壊神、怪獣の王か」

 

慧音は震える手を必死に抑えて森へと入っていった。

 

ーー守谷神社ーー

 

怪獣王の咆哮が鳴り響く。

 

「また厄介なのが、目覚めたねぇ」

 

守谷神社の縁側に座る洩矢諏訪子は隣に話しかける。

彼女の視線の先には黒い龍とそれに対峙する巨大蛾。

 

「そうだな。それにこの調子だと、ギドラも目覚めるだろう」

 

隣には八坂神奈子が座っていた。

身長差のかなりある二人が並んで座ると母と子の様に見える。

 

この二人は守矢神社に祀られている神である。

 

「最後に見たのはいつだっけな」

 

「あーうー、確か二千年くらい前じゃなかったかな?」

 

「そうか、もうそんなに経ったのか」

 

加奈子は空を見上げる。

 

「きっと忘れていたんだ。ここでの生活が楽しくて」

 

そう言った加奈子はどこか悲しそうだった。

すると諏訪子が言った。

 

「だからさ。忘れられたから、忘れてしまったから、こうして再び目覚めたのかもしれない」

 

諏訪子も悲しそうだった。

 

「荒ぶる神、破壊神か…」

 

少しの沈黙が訪れる。

 

「…早苗はいつ帰って来るんだい?」

 

諏訪子が問う。

 

「今朝立ったからね。まだ戻らないよ。…夕方くらいかな」

 

現在は太陽が一番高い位置にある。

真昼時だ。

 

「そうか…それじゃあ、早苗の帰る場所を残しておかなくちゃね」

 

諏訪子が縁側からちょこんと地面へ降りる。

 

「そうだね。あの子のためにも、頑張らなきゃ」

 

加奈子は足がついているので、そのまま立ち上がる。

 

「あんなのがあたしらの同僚だなんて、冗談にしては下手すぎるよね」

 

「あはは!それには同感」

 

二人はいつにもなく上機嫌で戦場へと向かった。

 

ーー紅魔館ーー

 

「昨夜、戦闘準備よ。パチェと美鈴も呼んできなさい。各々準備が出来次第、門前で集合としましょう」

 

「承知しました」

 

紅魔館は忙しかった。

原因は勿論、ゴジラである。

しかし彼女達がその名を知るのはもう少し先だ。

 

「ただ今伝えて参りました」

 

昨夜が殆どの時間差を感じさせずにレミリアの部屋に入ってきた。

彼女の『時間を操る』程度の能力であれば少しの時間差もなくこなせるはずだ。

 

「お姉様、本当に行かなきゃダメ?」

 

レミリアの後ろにいたフランが問いかける。

 

「別に来なくてもいいわよ?これは私があの二体の生き物に興味を感じただけだから」

 

(あの巨大な蛾と黒い龍の運命も見えなかった…)

 

「もうー分かったよ、ついて行きますよーだ」

 

フランは棒読みで言う。

 

「…まったく、何がそんなに嫌なの?フランの能力を使えばあの二体も瞬殺できるでしょ?」

 

「それがね、出来ないの、お姉様」

 

「え?」

 

フランはどんなものもフランにしか見えない紅い玉を破壊される事によって有機物、無機物問わずに破壊する事ができる。

しかし、それがあの二体には出来ない。

 

「それは…どう言う事?」

 

「えっとね、真っ赤な目はあるんだけど、とっても大きいの。それできゅってしてみたんだけど、傷一つつかないの」

 

「…そう…」

 

不死である自分すら死に追いやる事の出来る妹の能力でも何もする事が出来ない。

そんな存在にレミリアは恐怖を感じるどころか、さらに興味が深まった。

 

「相手は生き物よ。ならば必ず殺せるはずだし、大丈夫よ」

 

レミリアはそう言って部屋から出た。

 

「そう…だといいね」

 

フランは誰もいない部屋にそう呟いてから、姉の姿を追っていった。

 

ーー妖怪の山・間欠泉センター付近ーー

 

轟く咆哮。

足を踏み出せば地盤が崩れ、地面が割れる。

 

黒曜石の様な漆黒の皮膚は所々赤く爛れている。

背びれは常時青紫の稲妻を纏っており、その姿は歩く山そのもの。

理性が欠片も感じられない純白の目。

 

数多の怪獣の頂点に立ち続け、破壊神とも恐れられた者の名は

 

怪獣王 ゴジラ

 

それと対をなすのは巨大な蛾。

 

その羽根は広く、ゴジラすらも凌駕する。

 

羽根に描かれた模様は見る者を魅了し、ある時は守護者として、またある時は破壊者として空を駆け巡る。

 

古来より破壊神と対をなす者の名は

 

守護獣 モスラ

 

二体はしばらく睨み合いを続けた。

しばらくの出会いを噛みしめる様に。

 

戦闘の火蓋を切ったのは怪獣王だった。

 

背びれが奇怪な音と共に発光し、怪しげな光を放った。

ゴジラの口からは青紫の光が漏れている。

 

そしてつぎの瞬間、ゴジラはその口を大きく開け青紫の光線-放射熱線を放つ。

 

モスラは羽根をはためかせて射線上から回避。

 

ゴジラは熱線を放出したまま首でモスラを追う。

 

モスラはその間避け続け、ゴジラの背後に回ろうとするがそれをゴジラは許さない。

 

未だに追ってくる熱線に痺れを切らしたのか、モスラは少しずつその羽根から金色の鱗粉をばら撒き始めた。

 

するとそれを吸い込んだゴジラはそれまで発光していた背びれが点滅しだし、ついに熱線が枯れる様に消えた。

 

熱線の被害にあった周りの森は燃えるわけでもなく、地形ごとえぐられ、元の緑の溢れる場所では無くなっていた。

 

熱線を封じられたゴジラは低い鳴き声をあげて喉の辺りを抑えている。

 

モスラはゴジラに背後から接近してゴジラの頭を六本の足で掴む。

 

苦しがるゴジラは尻尾や手で対抗するがどうにも出来ず、モスラはそのままゴジラを空へと持ち上げた。

 

空中ではどうすることも出来ず、ゴジラはただ低い鳴き声を鳴らすのみ。

 

100メートル

500メートル

一キロ

もっと高くへ。

 

モスラはゴジラを空高く持ち上げ、そして、落とした。

 

100メートル×9万2千トンの巨体が上空五キロ以上から落下した衝撃はとてつもなく、ゴジラは幻想郷を揺らしながら地面に埋まった。

 

流石にこれは勝負あった。

誰もが確信したつぎの瞬間、地面から光の柱が上空のモスラへと向かう。

熱線だ。

モスラは一瞬遅れたため、ゴジラの熱線をかすってしまった。

モスラは態勢を崩して落下。

同時にゴジラが地面から姿を見せる。

 

五キロ上空から地面に叩きつけられたとは思えないほど、ゴジラは無傷だった。

 

否、流石のゴジラでも傷を負った。

しかし、その異常な再生能力から叩きつけられた瞬間に潰れた細胞は復元し、より強固なものへと進化するのだ。

 

後にG細胞と名付けられるこのゴジラの不死の仕組みを知るのは、まだ先の話である。

 

ゴジラは地面に落ちたモスラへと、ゆっくりと勝利を噛みしめる様に向かっていく。

 

そこに赤色の乱入者が現れる。

 

ーー少し前・.魔法の森ーー

「チルノー!大妖精!ルーミアー!居たら返事をしてくれ!」

 

慧音は魔法の森を歩いていた。

獣人である慧音の足取りは素早く、博麗神社から遠く離れてしまった。

 

(いないか…仕方ない。皆が心配だし、そろそろ引き返すか)

 

慧音が踵を返したその時、地面がわずかに揺れる。

それは人間では到底感知できない小さな揺れだった。

しかし、慧音はこの揺れ方を知っている。

 

(前々から里を襲っていた、人間が感じない程度の揺れ方だ。まるで何かが下にいるような…)

 

すると揺れが急に止まった。

そして、先ほどの小さな揺れが今度は地を揺るがすような揺れになった。

 

「うっ!」

 

慧音は倒れそうになるが何とか踏みとどまる。

 

「…ん?…何だ?」

 

今度は慧音の目の前の地面が隆起しだした。

下から押し上げられるよう少しずつ押し上げられてそして…

 

「うわぁっ!」

 

目の前の地面が大爆発を起こした。

 

慧音は1メートルほど後ろへ吹っ飛んだ。

 

「でたぞー!ってあれ?ここどこ?」

 

土煙の中に見知った声が聞こえる。

 

「チルノちゃ〜ん、そろそろやめようよ〜」

 

「えーなんでー?」

 

「しばらく慧音先生の授業に出てないし、また拳骨制裁されるよ?」

 

「そーなのかー?」

 

「あ…どうしよう…」

 

(あの三人組の声だ。間違いない。まったく、心配させて…)

 

慧音はやけに影の大きいチルノたちに心配させた腹いせに一つ拳骨してやろうと思って近づく。

 

「三人とも、そんなに私に会いたかったの…か…」

 

土煙の中から出てきたのは可愛らしい三人の妖精、ではなく真っ赤な四足歩行の獣だった。

 

巨大な赤い瞳と犬の様な顔立ちは見るものによっては可愛らしく映るかもしれない。

 

しかし、それは体長50メートルの巨体でなかったらの話だ。

 

真っ直ぐにこちらを見つめる巨大な獣に慧音は圧倒されたがその獣から三人の声が聞こえる。

 

「あっ!慧音先生!」

 

「どーしよ、アタイら怒られちゃうよ!」

 

「そーなのかー?」

 

(明らかに三人の声がコイツから聞こえてくる。どういう事だ?コイツも怪獣の一体なのか?さっきから全然動かないし…)

 

慧音がそうこう考えていると、赤い怪獣が顔をまさに犬のようにブルッと振った。

 

「うわー、落ちるのだー」

 

「ちょっ、落ちるー」

 

「うぎゃーー」

 

「お、お前達!?」

 

あろう事か三人は赤い怪獣の耳から出てきた。

 

慧音は三人に駆け寄る。

 

「大丈夫か!?…一体どうなってるんだ…」

 

「あう、いたた…」

 

「ん?お前達は…」

 

赤い怪獣の左の耳を見ると、中からリグルとミスティアが頭を抑えながらよろよろと降りてきた。

 

「急に暴れないでよー」

 

「あっ慧音だ。久しぶりー」

 

「お前達、五人揃って…人が心配してやってるのに…」

 

その後慧音は二人からここに至るまでの簡単な経緯を聞いた。

 

チルノと大妖精は湖でモスラの繭を見た後にリグル達とばったり会い、いつものように森を散策していると偶然この赤い怪獣に出会ったという。

 

赤い怪獣からは敵意を全く感じなかったので耳の中に勝手に潜り、遊んでいた。

 

五人と一匹はその後も共に行動していたという。

理由は面白いから。

 

慧音はこめかみを抑える。

 

「まったく、私がお前達をどれ程心配したか…」

 

「え?心配されるようなことした?」

 

ミスティアが頭を傾げる。

 

「あぁ、そうか。お前達は現在の状況がわからないんだったな。いいか、今幻想郷には…」

 

その時、空が青紫に光る。

 

「なんだ?あの光は…」

 

そして、爆発。

慧音の目の前が跡形もなく吹き飛んだ。

 

「ぐぁあ!」

 

慧音はその場から吹き飛ばされる。

幸い怪我は見当たらない。

だが爆発の範囲内にいたチルノ達は無傷では済まないだろう。

 

しかし、慧音が見たものは赤い壁だった。

 

なんと赤い怪獣がチルノ達を爆発から身を呈して守ったのだった。

 

「あ、おっおい大丈夫か?」

 

赤い怪獣が腕をどけると、その中には気を失ったチルノ達がいた。

 

慧音は赤い怪獣を見上げる。

 

「…その、言葉が通じるとは思わないが、ありがとう」

 

「バラゴン」

 

その声は後ろから聞こえた。

背後には老人男性がいた。

 

慧音は女性ではあるが獣人でもあり、その実力は折り紙つきである。

その彼女が背後からの気配に気付かれなく背後に回る事は、スキマ妖怪でもない限りほぼ不可能だろう。

 

それ故に慧音は警戒していた。

何よりも自分の知る人里の人間にこんな老人は居なかった。

 

「…バラゴン?…という事はこの怪獣が地の守護獣、という事ですか?」

 

「あぁ、そうだ。護国三聖獣 地の守護獣 婆羅護吽」

 

慧音はバラゴンをまた見つめる。

バラゴンは五人の安全を確認すると、穴を掘って何処かに消えた。

 

「それはそうとご老人、貴方は一体…」

 

慧音が振り返ると、そこには既に老人の姿は無かった。

慧音は探そうとしたが、一先ず五人を安全な場所に移す事を優先した。

 

ーー博麗神社ーー

 

博麗神社の本殿の奥では、霊夢が結界の修復に取り掛かっていた。

 

「もぉお!なんなのよ!さっきから障子の如くどんどん破られてくし、あのバカは居ないし!」

 

ぐちぐち言いながらも霊夢は必死に結界の修復に勤しんでいる。

そしてまたパリンと音がなる。

 

「ゆぅかぁりぃいい!さっさと出てこい年増BBA!」

 

「あ"?誰が年増だってぇ?霊夢」

 

何処からともなく現れたのはこの幻想郷の管理者で妖怪の賢者こと、八雲紫。

『境界を操る』程度の能力を持つスキマ妖怪で、幻想郷一の実力者と言っても過言ではない。

 

「やっと来た!何処に行ってたのよ、このスカポンタン」

 

「ごめんなさい、コッチも色々と野暮用があったのよ。私が居ない間よく耐えたわね」

 

紫は霊夢を優しく撫でる。

 

「年増は言い過ぎだけどねぇ?」

 

その手に力が入る。

 

「痛だだだだ、分かったから。今はそんな場合じゃ無いのよ!」

 

「ええ、ゴジラのことでしょう?把握しているわ」

 

「え?…知ってたの?」

 

紫はコスモス達からの話を聞いていないはず。

それなのに怪獣達の事を知っているという事は…

 

「まぁ、良いわ。とりあえず時間も無いし、来てくれるかしら」

 

紫は霊夢の手を掴む。

 

「え?いや、今は結界の修復中で…」

すると紫の隣に黒い空間が突如現れた。

黒いと言っても大半が黒で、赤い絵の具と黒い絵の具をぐちゃぐちゃにかき混ぜた様な色をしている。

そして空間には霊夢を見つめる幾多もの目玉。

スキマと呼ばれているこの空間は、紫のみが作り出すことの出来る空間であり、何処にでも通じているし、何処にも無い。

完全に独立した空間なのである。

「藍ー!後はお願いね」

 

「かしこまりました」

 

その中から九つの狐尾を持つ女性が現れた。

 

「じゃっ行くわよ」

 

「えっ?、ちょ、え!?」

 

霊夢はそのまま強制的に紫にスキマの中へと連れていかれた。

 

ーー妖怪の山ーー

 

地面に落ちたモスラは起き上がろうとするが中々飛び立つことが出来ない。

 

ゴジラはゆっくりとモスラの下まで来るとその右足でモスラを踏みつけた。

ゴジラの重く大きな足がモスラにのしかかる。

踏みつけられたモスラは独特な高い悲鳴をあげる。

 

その時、不意にゴジラが何かを感じたのか、自分の足元を見る。

次の瞬間、ゴジラの左足元が崩れ落ちた。

 

低い鳴き声を漏らしながらゴジラは崩れ落ちる。

 

すると、何処からともなく聞こえるモスラでもゴジラでも無い鳴き声。

ゴジラの崩落跡から現れたのはバラゴンだった。

バラゴンはゴジラの足元まで穴を掘っていたのだ。

 

ゴジラが体制を崩しているうちにモスラは空へと飛び上がる。

ゴジラは依然転がったままだ。

 

ゴジラが立ち上がろうとしたその時、バラゴンが高い場所からゴジラ目掛けて体当たりを仕掛ける。

ゴジラは避けることができず、とっさに右腕を出す。

 

バラゴンのツノがゴジラの右腕に突き刺さる。

ゴジラの腕からはドス黒い体液が流れ落ちる。

 

ゴジラが初めて悲鳴をあげた。

しかしゴジラはすぐに左手でバラゴンを抑えると、ツノが刺さったまま右腕でバラゴンを振り回す。

ゴジラよりかなり小さいバラゴンは衝撃で50メートルほど吹き飛ばされた。

バラゴンは一層高い声を出しながら吹き飛ばされる。

 

ゴジラが反撃に出ようとバラゴンへと歩み寄ろうとする。

 

すると、今度はモスラがゴジラの背後から急加速で接近してそのままの勢いでゴジラの頭を掴み、そのまま引きずって妖怪の山に激突させる。

すると山の頂上から中腹にかけて地滑りが起き、ゴジラはそれに飲まれて生き埋めになってしまった。

 

妖怪の山はこの攻撃により、五分の一が崩れ落ちてしまった。

 

土煙の中、ゴジラは山に激突したまま動かない。

今までが壮絶だっただけに、この静寂はとても不気味だった。

 

ーー???ーー

 

「ちょっと紫、一体何処に向かってるのよ」

 

霊夢は紫のスキマの中にいた。

この空間は紫の体の一部の様なもので移動するのに歩いたりする必要はない。

 

「…龍神の所によ…」

 

霊夢の顔が固まる。

 

「貴方も知ってるでしょ?幻想郷の真の創設者にして最高神。強さという点では私達とは別次元にいる神」

 

紫のスキマに光が差し込む。

目的地に着いた様だ。

 

「いい?くれぐれも無礼な態度は勘弁してね」

 

「分かったわよ」

 

すると光が広がって行く。

 

気がつくとそこは青い水晶で埋め尽くされた空間だった。

どうやら地下であるようだ。

隙間から光が差し込んで水晶の中で乱反射し、幻想的な雰囲気を醸し出している。

 

「…綺麗…」

 

「そうだろう」

 

霊夢が呟くと、後ろから返答する声があった。

声の主は見た目70後半の男性老人だった。

 

「紹介するわ。こちら伊佐山さん、貴方が会ったコスモスの姉妹と同じ別世界から来た人よ。そして…」

 

「初めまして。貴方が噂に聞く今期の博麗の巫女ですか」

 

霊夢の足元にはモスラと共にゴジラと戦っている筈のコスモスの姉妹がいた。

否、とても似ているが顔立や服装が微妙に違う。

 

「私達は小美人と呼ばれています」

 

 

 




戦闘シーンを描くと言ったものの、まだ前哨戦くらいしか描けませんでした笑。
前半、中編、後編の三つに分けていきます。
引き続き質問意見何なりと。


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第十一話 大怪獣総攻撃〈中編〉

やっとこ金色三首の御方が登場します。
それと今回は短めです。


ーー???ーー

 

「貴方達は…」

 

霊夢が言いかけるが、小美人の二人が続けて言った。

 

「貴方が接触したコスモスとはまた別の存在です、と先に行っておきましょう」

 

「それはどういう…」

 

「霊夢、悪いけど時間がないの、詮索は後にしてちょうだい。伊佐山さん、さっそく始めましょう」

 

「わかった…」

 

小美人の二人が伊佐山の手に乗り、肩へと降ろされる。

それから四人は水晶で出来た空間を進んでいく。

 

「…」

 

状況が把握できない霊夢は一人ポカンとしている。

 

「霊夢、どうしたの?早く来なさい」

 

「え?…あ、あぁ…うん」

 

生返事とおぼつかない足取りで霊夢は紫達に追いつく。

何がどうなっているのか、霊夢にはまだ理解出来なかった。

 

(この老人は一体何なのだろう?人の気配を感じないし、もしかして霊?…いや…霊力も、生気さえも感じない、異常だわ。それに小美人って…)

 

「着いたわよ」

 

紫に声をかけられてハッとする。

霊夢は物思いにふけっていた。

 

顔を上げてまず飛び込んできたのはさっきよりも眩い蒼い水晶の輝き。

それに混じって金色の光もある。

 

いや、光ではない。

金色の何かが水晶の中にあるのだ。

それはとても大きく、そして長い、三本の線だった。

下に伸びているそれらは金色の本体のような塊に収束している。

 

「どこを見ているの?こっちよ」

 

紫が指を指す。

 

その先には上へと続く三本の線の続きがあった。

それは一本は壁の右側へ。

もう一本は壁の左側へ。

そして最後は自分の足元へと伸びていた。

 

そして霊夢はその三本の線が長い首であった事を理解する。

 

霊夢はそれを見てゾッとした。

身体中の皮膚が鳥肌を立てている。

 

霊夢が感じたのは他の何物でもない圧倒的強者の覇気だった。

生物が生存本能で察知する命の危機。

自分ではどうする事も出来ない力の差。

 

「この御方が龍神様よ」

 

隣には紫がいたが、身体中が小刻みに震えていた。

紫も怯えているのだ。

否、龍神の事を霊夢よりも知っている分より恐れており、同時に信頼している。

 

ゴジラを確実に倒せると。

 

「千年竜王、キングギドラ」

 

伊佐山が呟いた。

霊夢はその言葉を頭の中で反芻する。

 

黄金の鱗に覆われた三首の龍。

水晶越しでも伝わる圧倒的強者の風格。

 

しかし、これだけの存在を前にしても伊佐山と小美人の三人は微動だにしていなかった。

 

(本当に何者だろう…)

 

「それじゃあ始めよう。紫、博麗、頼むよ」

 

「えぇ」

 

「…あ、はい」

 

霊夢は普段から霊夢と呼ばれているので一瞬誰のことを言っているのか分からなかった。

 

「じゃあ悪いけど霊夢」

 

そう言いながら紫は自分の背後に作ったスキマから短刀を取り出す。

 

「封印の解除には博麗の血が必要なの」

 

なるほど、それなら仕方ない。

そう思って霊夢は短刀を手に取る。

 

「一滴だけ、龍神様が眠ってる水晶の近くがいいわ」

 

言われた通りに頭の近くに血を一滴、手の甲を少し切って垂らした。

 

「ありがとう。もう大丈夫だわ」

 

紫から簡単な応急処置をしてもらった。

これで封印も無事に解けるだろう。

 

しかし、霊夢は思いとどまる。

 

(あれ?流れで封印解除しちゃったけど、私って一体何の封印を解除したの?…まさか)

 

時すでに遅し。

 

轟音とともに地面が揺れる。

すると水晶にヒビが入った。

ヒビは徐々に大きくなり、枝分かれして全体的に広がっていく。

 

しかし、崩壊はすぐに止まった。

不気味なほどにスッと止まった揺れは霊夢を余計に不安にさせた。

 

すると突如として高い音が聞こえた。

空間内に響き渡る機械音のような、それでいてどこか可愛げのある音は次第に大きくなる。

 

そして爆発。

霊夢の目の前の水晶が爆発した。

そして次の瞬間、音の、声の発生源を霊夢は発見する。

 

「龍神…様…」

 

霊夢の前にいるのは黄金の鱗と三つの首を持った千年竜王、キングギドラだった。

 

ギドラは紫にその六つの目を向ける。

紫は蛇に睨まれた蛙のようにただじっとしていたが、急に顔を青くした。

 

「こ、困ります!急にそんなこと言われても…」

 

霊夢には何も聞こえないが、どうやら紫とギドラが話をしているようだ。

紫の反応からして何か勝手なことでもされたのだろうか。

 

すると紫の反応が気に食わなかったのか、ギドラがその眼光を一層強めた気がした。

周りにいる霊夢でさえ重圧が可視化されたように錯覚する程の覇気。

それを受けているのだから紫は尋常ではないプレッシャーを受けているのだろう。

紫の顔からどんどん色が抜けていく。

 

「わ、分かりました。こちらで何とかしてみせます」

 

話は紫の敗北という形で決着した。

するとギドラはその大きな翼を広げてどこかへと飛び去ってしまった。

 

「ねぇ…紫…」

 

「今は話しかけないでもらえると助かるわ…」

 

二人はそのまましばらくその場に止まった。

霊夢はその時初めて伊佐山と小美人がいない事に気がついた。

 

ーー幻想郷・妖怪の山ーー

 

ゴジラはモスラ達に背を向けて山に体を埋めたまま動かない。

モスラとバラゴンはチャンスと見たのか一斉に襲いかかる。

バラゴンがゴジラに突進をかけ、モスラが鱗粉を体に纏ってゴジラに向かう。

 

二体がゴジラへと近づき接触しようかというその時、ゴジラの背びれが青紫に光る

 

モスラは危険を察知して即座に空中で静止するが、バラゴンは止まらない。

 

そしてゴジラの背びれから無数の放射熱線が発射された。

 

バラゴンは何発もの放射熱線を槍のごとく受けた。

熱線が体を貫通してバラゴンの内部から燃やしていく。

骨は溶けて肉は爛れ、目も当てられない姿に成り果てたバラゴンは即死した。

 

直撃を免れたモスラも鱗粉に引火して火だるまになり、森へと落下した。

 

バラゴン、モスラ、ゴジラの戦いはゴジラの圧勝という呆気ない結末と当たり前の結果で終わった。

 

ゴジラは熱線の放射をやめてゆっくりと山から離れ、振り向く。

そこには尚燃えているバラゴンだったものがあった。

それを踏みつけて蹴飛ばすと、ゴジラは咆哮をあげた。

 

勝利の咆哮。

 

我こそが怪獣王だという声に反応するもう一つの声があった。

正確には三つの声が。

 




今回は短めに、後編は長くなります。
どうぞご期待ください。


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第十二話 大怪獣総攻撃〈後編〉

更新遅くなってすみません。中々時間が作れず、投稿が遅くなってしまいました。これから頑張っていきますので応援のほど、よろしくお願いします。


「恋符『マスタースパーク』!」

 

大空から突如現れた虹色の光線がゴジラを襲う。

悲痛な叫びをあげながらゴジラは地面に倒れ伏した。

 

「最大火力、手加減なしのマスパはどうだい?ゴジラさん」

 

今度はゴジラが放射熱線を放つ。

 

「っと危ない」

 

咄嗟のところで魔理沙は放射熱線を回避する。

ゴジラは魔理沙を睨みつける。

魔理沙は額に汗をかいていた。

 

(私の持てる限りの最大火力をぶつけて平然としてやがる。やっぱり一筋縄じゃいかないな)

 

魔理沙は空中でゴジラの攻撃を待つ。

 

(さっきは様子を見ていたが、背中からのビームが厄介だ。出来るだけ背後に回らずに攻撃を避けながら削っていくしかないな)

 

魔理沙はこの幻想郷において強者の位置にはいない。

だからこそ彼女は考えて勝ってきた。

相手の手の内を読み、一つ一つ可能性を潰していく。

そして今回はそれが彼女を生かす結果となったのだ。

 

様子をうかがう魔理沙にしびれを切らしたゴジラは背びれを光らせる。

 

(やはりあの背中のトゲトゲが光った時にビーム撃ってくるのね。そしてその間は動きが鈍くなる!)

 

「恋符『マスタースパーク』!」

 

虹色の光線に再びゴジラは倒れる。

 

「二発目のマスパだ、流石にこたえたよな?」

 

しかしゴジラは雄叫びをあげ再び魔理沙へと放射熱線を放つ。

 

(おいおい、これじゃ話にならないぜ)

 

魔理沙は再びゴジラと正面から対峙する。

 

(とりあえずわかったことは弾幕に対する防御力が異常に高いこと、動きは鈍いこと、そして…)

 

ゴジラが再び吠える。

それは魔理沙に対する宣戦布告のように長く、低く、響いた。

 

「敵と認識した相手を殺すまで攻撃し続けること」

 

魔理沙とゴジラ。

両者が攻撃体制に入ったその時。

 

「神祭『エクスパンデッド・オンバシラ』!」

 

ゴジラめがけて巨大な柱が降り注ぐ。

ゴジラは低いうなり声をあげて柱に潰された。

 

「やぁ魔理沙。荒神相手によくやるねぇ」

 

「ほんと、命があるだけありがたいんだからね!」

 

魔理沙の頭上には守矢の神々がいた。

 

「加奈子、それに諏訪子も。一体どうして守矢の神様方が手助けしてくれるんだ?」

 

「いやなに、あいつとは現世でちょっくらやりあった仲でね、まぁボコボコにされたんだが…流石にこの幻想郷までめちゃくちゃにされちゃあ居場所がなくなっちまうからね」

 

「やっつけることはできなくても痛い目見せて大人しくさせれば…まだ芽生えてないみたいだしね」

 

「あぁ、憑代はまだ完全に取り込まれたわけじゃなさそうだな。形が定まっていない」

 

神奈子と諏訪子は何やら考え込んでいる。

 

「お前達…一体なにを言ってるんだ?ゴジラは…怪獣なんだろ?」

 

魔理沙の目が疑いに変わる。

 

「あのちびっ子姉妹はそう言ったのか?」

 

神奈子が聞き返す。

魔理沙は思わずたじろいだ。

その目にはわずかな怒りがあった。

 

(小美人のことを知っている…過去に何かあったのか?)

 

その隙にゴジラが起き上がり咆哮をあげる。

ゴジラは怒り狂ったように尻尾を振り回して暴れまわり、背びれは今までにない輝きを見せている。

 

「あらら、奴さんお怒りだ」

 

魔理沙と神奈子は目の前で暴れ狂うゴジラに目線を向ける。

 

「なぁ神奈子、あいつのビームを受け止めることは出来るか?」

 

「放射熱線のことだな。…オンバシラをフルで使って一度限りなら可能だが、何をする気だ?」

 

すると魔理沙はニッと笑った。

 

「あのデカブツの口の中にぶっ放す」

 

「なるほど、確かに内側からならダメージを与えられるかもしれない」

 

「なら私はミシャグジさまで動きを止めるよ。タイミングは魔理沙に任せる」

 

「オーケー。そんじゃあ行きますか!」

 

魔理沙たちはゴジラと対峙する。

 

「神奈子、本当に耐えられるんだな?強がってないよな?」

 

「私は神様なんだぞ魔理沙。舐めてもらっては困る」

 

ゴジラは怨敵でも見つけたかのように神奈子、諏訪子を見据えた。

 

「少し…いいか?」

 

神奈子は真剣な表情を作って魔理沙に話しかける。

 

「諏訪子と私は諏訪大戦後を共同統治という形をとって終わらした。だが…私達は犠牲を出しすぎたんだ…」

 

諏訪子が続ける。

 

「諏訪大戦で死んでしまった戦士たちの怨念はこの結果を良しとしなかったの。当然よね、死んで勝ったのに、死んで負けたのに、生き残った私達が仲良くしましょうなんて…犠牲が無駄になったのと同じようなものだもの」

 

神奈子が少し怒気を交えて話した。

 

「そして諏訪大戦から十数年が経った頃、その怨念たちが一つの憑代のもとに集まって私達の前に現れた。私達はそれをゴジラと呼んだ……わかっただろ?ゴジラは怪獣なんて柔なもんじゃない。アレはいわば残留思念の塊、怨みという感情そのものなんだよ」

 

「私達神々はその規格外の強さから神と認定し、【荒神 呉爾羅】としてとある島に封印したの。でも私達が生まれる遥か前からゴジラは存在し、姿形を変えて出現していた。怨みという概念が確立された、その時から…」

 

ゴジラが一際大きい咆哮を発する。

 

「さて、話はここまでにして…そろそろ頼むよ魔理沙」

 

「あぁ、わかった」

 

魔理沙はさっきの話を頭の片隅にしまい、ゴジラに集中する。

 

するとゴジラの背びれが光る

 

「よし!神奈子、オンバシラを作って備えてくれ!諏訪子は離れた位置から拘束の準備だ!」

 

「了解!」「わかった!」

 

神奈子は自分の前に文字通り山のような特大のオンバシラを作る。

諏訪子は神奈子から数百メートル離れた地点で降下し、地面に手をついて何事か唱え始めた。

 

「さぁ荒神よ、どんと来いッ!!」

 

ゴジラから放射熱線が放たれる。

 

オンバシラはメリメリと削れていくが、神奈子が後ろからさらに続けて作り出しており、オンバシラの長さはほぼ一定に保たれている。

異変に気付いたゴジラは放射熱線の出力を上げたようで、神奈子が若干押され始めた。

 

放射熱線が神奈子に届くまであと20メートル、10メートル、5メートル、2メートル…

 

「うおおぉぉぉぉぉぉ!」

 

神奈子の魂の叫び声とともに、神奈子はオンバシラの作成スピードをグッとあげた

そしてついにゴジラが根負けし、放射熱線を切らしてしまう。

神奈子は額に玉の汗をかいてぐったりと空中に浮遊している。

 

「諏訪子!!」

 

「お願い、ミシャグジさま!」

 

魔理沙の掛け声とともに諏訪子の近くから土の大蛇が現れ、ゴジラに巻きつく。

大蛇の大きさは凄まじく、ゴジラをも超えている。

締め上げられたゴジラは苦しみの声を上げる。

 

「今だッ」

 

魔理沙はミニ八卦炉を取り出してそれを…

 

「セーフティ解除、出力最大、くらえぇぇ!」

 

ゴジラの口へと放り込んだ。

オレンジ色の光を放ちながらミニ八卦炉はゴジラの口内へと転がり込んだ。

やがて土の大蛇が朽ち果て、ゴジラが束縛から解放される。

 

するとゴジラの体からオレンジ色の光が漏れはじめた。

光はどんどん強くなり、同時にゴジラは苦しみ、暴れはじめた。

しかし光は強くなる一方で、やがてゴジラの体から高い機械音が聞こえはじめた。

光がゴジラの体を埋め尽くした。

そしてゴジラの体はだんだんと膨張を始め…

 

【グギャァァァア】

 

断末魔とともにゴジラは首から下が爆発四散した。

腹部からはピンク色の臓器がグチャグチャになって飛び出し、赤黒い血がゴジラの周囲に湖をつくっている。

妖怪の山はその半分がゴジラの血で赤く染まり、早めの紅葉をむかえた。

 

腹の穴から後ろの妖怪の山が見えるほどの深手を負ったゴジラは立ったまま沈黙している。

 

「よっしゃあ!」

 

魔理沙が歓喜の表情を浮かべる中、諏訪子と神奈子は以前険しい顔をしたままゴジラを睨みつけている。

 

「いや…あれを見ろ」

 

神奈子が指をさしたその先には

 

 

ーーーーーー

 

 

ここはどこだろう。

私は誰だろう。

 

暗い闇の中にあった私の意識が覚醒していくのがわかる。

光がかすかに見える。

オレンジ色のまばゆい光。

 

体が熱い。

 

それまで感じもしなかった熱を感じる。

自分の鼓動がうるさいほど鳴り響く。

逆に言えばそれほどまでに静かな空間。

 

そしていきなりの爆音。

それまでの静寂が嘘だったような音が私の世界で起こった。

音は私の世界の壁を粉々にした。

 

外に見えたのは青い空に浮かぶ三つの影。

一つは愕然とこちらを見て、もう一つは私を指差して、最後の一人は私を何か哀れなものを見るような目で見る。

 

そして見られていることに気がついた私は…

 

私は、私は?

 

私とは…私は何だ?

 

得体の知れない恐怖が私を襲う。

 

「…嫌だ」 『何が嫌なんだ?』

 

私の声に何かが答える。

その声はどこか私に似ていた。

幾重にも重なったその声は私を酷く無力にさせた。

 

「私は私だ」 『違う、私達だ』

 

「違う」 『違わない』

 

私は自分を囲む闇がまた強くなるのを感じた。

そして、それが堪らなく嫌だった。

 

「私は、お前達とは違う」 『違わない、お前は私、私はお前だ』

 

私は自分が何かに溶けてしまうような感覚に陥った。

 

「止めろ、私は私だ、お前達とは違う!」 『違わない俺達は…ゴジラだ』

 

「違う!私は…私は…ッ!」

 

私は今出せる最大の声を持って吐き散らす。

自分の中にある一つの名前。

それは私のものではないが、唯一良いものだと思える名前だった。

 

「私は…ゴロウ……そうだ、牧五郎だ」

 

するとそれまで私を覆っていた闇が怯み、世界が明るく照らされた。

生まれてから初めて味わうこの感覚。

それが喜びという感情だと理解するのには、まだもう少し時間が必要だった。

 

ーーーーーー

 

神奈子が指をさしたその先にはゴジラの腹の中に触手のようなもので拘束された人の影があった。

 

否、それは人の形を模してはいるが、長い尻尾や白い骨格のようなもので覆われた体をしており、人と呼べるようなものではなかった。

 

「あ、あれって…人間、なのか?尻尾みたいなものまで生えてるぞ。それに骨格のような…」

 

「あんな憑代…見たことあるかい?神奈子」

 

「いや、今まで憑代となったのは強い怨みを持つ人間だけだった。まさかバケモノまで憑代にするとは…それにしてもあんなヤツは見たことがない。妖怪でもないようだし…」

 

すると腹の周りの肉が動き始め、何と再生し始めた。

拘束されているモノは何とか抜け出そうともがいていたが、やがて力尽きたのか、抵抗をやめた。

 

「まずい!憑代とゴジラを切り離さなくては」

 

「私が行く!」

 

「魔理沙!」

 

魔理沙が猛スピードでゴジラの腹の中へと向かっていく。

ギリギリでゴジラの腹の中へと到達した魔理沙はそのまま拘束されているモノを片手で掴み、そのスピードを落とすことなくゴジラの再生したての薄肉を破って体内から脱出した。

 

「やった!」

 

諏訪子は喜ぶが、神奈子は異変に気付いていた。

 

「まだだ!ゴジラの再生は続いているぞ!」

 

憑代を取り除かれてなお、ゴジラの体の修復は続き、傷が完全に治る。

 

【ギャァァァォォオ】

 

ゴジラは復活の咆哮をあげ、背中と口、そして尻尾からも放射熱線を放出する。

それまで青紫だった熱線は青色に染まっていた。

 

「クソッ…もう憑代の一部と同化していたか!」

 

「これじゃ…私たちの勝ち目はもう…」

 

神奈子と諏訪子の目は絶望に変わる。

 

「あらあら、守矢の神様もこの程度?」

 

二人の前に現れたのはいつものフリフリのドレス…を赤黒い血で濡らしてどこか不機嫌気味な紅魔館の吸血鬼、レミリアだった。

 

「おねーさまー、もう帰ろうよ〜。ベトベトで気持ち悪いぃ」

 

後ろには同じく血でベトベトになったレミリアの妹、フランが手をぶらぶらさせて血を落とそうとしている。

遅れて、傘をさしていたためか唯一いつも通りのメイド服を着た咲夜が続く。

 

「だからこそよ…こんな仕打ちを受けて、お礼の一つもしないで帰るのは失礼じゃない?」

 

「お嬢様、一度屋敷に戻って出直しても遅くはないかと」

 

「うっさいわね!だいたい何でアンタだけ傘もってんのよ、私達だけずぶ濡れじゃない!それにこの血、舐めてもちっとも美味くないわ!まだおっさんの血でもすすってた方がマシよ!」

 

「そのような経験がおありで?」

 

「ないわよ!」

 

「お、お姉様、おじさんの血なんて吸ったこと…あるの?」

 

「ちょ、ちょっと?ドン引きしないでくれないかしら?咲夜の冗談だからね?しかも無いって言ったわよね?」

 

目の前で繰り広げられるコントに冷ややかな視線をおくる者が二人。

 

「んっ、ゴホン!後は私たちに任せて、貴方達は指でも咥えて見ているのね」

 

「待て!そいつはお前達でどうこうできる相手では」

 

神奈子が言い終わる前に金色の光線が三つ、空から大地に降り注ぐ。

 

「ッ!」

 

咲夜は時間を止めてレミリアとフランを光線から回避させた。

 

「ありがと、咲夜…まったく次から次…へ…と…」

 

そこにあったのは、あるはずのない二つ目の太陽。

金色の鱗を輝かせ、ゆっくりとそれは降り立った。

ゴジラはそれを視界に入れると、初めて重心を深く取り、構えをとった。

 

「綺麗だわ…とっても…」

 

フランはその神々しさにしばらく魅入っていた。

 

幻想郷に降り立った金色の龍。

その名はギドラ。

 

かつてこの博麗大結界を創造し、紫をはじめとする賢者達にその力の一部を与えた真の幻想郷創設者。

 

絶対強者

 

千年竜王

 

キングギドラ

 

ついに、破壊神と天の守護神の戦いが始まる。




紅魔館勢の扱い正直迷いました。誤字や脱字等ございましたら御連絡ください。


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