赤髪のトビラマ (千村碧)
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プロローグ 始まりはいつだって唐突

 頬に微妙な痛みを感じて、目が覚める。首のところにまたがるようにして、自分の頬を叩いている人物と目が合った。ソレを形容するのであれば、幼女と言うのが相応しいのだろうが、首に感じるアレの感触がソレを否定する。これは、男だ、と。

 

「おい(ぬし)、寝つきが良すぎるぞい!わしがどれだけ主の頬を叩いたと思っておるのじゃ!謝れ、謝るのじゃ」

 

 状況がつかめない、どうしようか。

 というよりもだ、あの程度の衝撃で目が覚めるのは、一部の達人ぐらいじゃないだろうか?残念ながら、ちょいと高校で剣道をかじっている程度の俺では、無理だ。

 

「悪かったな……これでいいか?」

 

 まぁだが、謝れといわれたので謝っておく。これこそ、俺の生きてきた十六年の集大成だ。ん?今年で、十七年か。

 

「よくなーい!なんじゃ?その態度は!謝る気なんて毛ほども無いではないか!」

 

 毛ほども無いって、よくそんな言葉知ってるもんだ、うん。親が古風な人なんだろうか?気をつけて聞いてみると、言葉の選択自体なんだか古めかしい気がする。こんな言葉遣いで幼稚園とかは問題ないんだろうか?

 友達いない、とかありそうだな……。

 

「主は何か勘違いしておるが、別にワシは幼稚園に通っているようなガキではないぞい?」

 

 まさかの虐待か?いや、幼稚園って別に行かせなくても良かったけか。つうか、ここどこだ?こんな小屋に幼児と二人きりとはずいぶんとアレな展開だな。

 

「む?ここか、ここはな、裁きの間なのじゃ!」

 

 裁き、なんてホント最近の子は物知りなんだなぁ。……?あれ?いま、声に出してたかな?

 

「むっふっふー、ワシはな、神じゃからな、心の壁などあって無いようなものなのじゃ!」

 

 俺も昔はこんなだったのか……。母さん、迷惑かけてたんだな。

 

「やめろー、その目はやめろー!そんな無駄に生暖かい目はやめろー。心の中で母親に詫びるでない!」

 

 てか、まじか、まじで伝わってるよ。目の前のこの幼児ってば、なかなか凄いな。これは確かに古めかしい言葉も知っているはずだ。だって、心の中でひっそりと厨二病にかかっている人の心の中まで、伝わって来るんだもんね、しょうがない。

 

「ちゃうぞ?別に誰かの厨二病が移ったわけではないのだ。ワシはな、かれこれ千年近くは生きておるのじゃ。だからの、これはイタくない普通の言葉遣いなのっじゃ!」

 

 ほー。ま、いいや。

 じゃ、かりにアンタが神様として、この俺になにか用でもあるのか?ないのなら、返して欲しいんだが……?

 

「あー、そのー、ソレがの?なんてゆーかー、あー、主はテンプレなるものを信じているかの?」

 

 うん、なんとなくだけれど、展開が読めてきた。俺これ死んでるぞ?結構確実に。

 

「そーなのじゃ、しかも、ワシがろうそくを振り回して遊んでおったばっかりに!」

 

 あれ?間違ってとか、そーゆー仕方ない展開じゃなくね?完全なるこの目の前の幼児の過失じゃね?あれ?やばい、右の拳が止まりそうに無いぞ?

 

「いやいやいやいやいやいや!すまんかったのじゃ、ホントに!!お詫びといっては何じゃが、主に好きな世界へ転生してもらおうと思っておるのじゃ!どこがええかの?」

 

 えっ、まじか!許す、許す。あんまり覚えちゃいないけど、生きていた世界は詰まらんなかったしな。どこにしよーかなー?あ、でもチート無いなら、安全な世界がいいよなー?どーしよーかなー?うーん。

 

「あ、もちろん、チートはありなのじゃ!」

 

 なら、ONEPIECE(ワンピース)の世界で!!

 

「む?おーけーなのじゃ。では、次はお待ちかねのチート選びなのじゃ!」

 

 あー、いくつくらいなら平気なのかな?

 

「うむ、今回はワシの過失が原因じゃからな。主の判断に任せるのじゃ。」

 

 うわお、まじか最高だな。うーん、まずは容姿から決めるかな。そういや、最近はまってたゲームに出てきた二代目火影の千手扉間って格好良かったな。

 一つ目は、NARUTOにでてくる千手扉間ってキャラの容姿とその才能を!!

 

「む、オーケーオーケーなのじゃ」

 

 二つ目は、俺の今考えた悪魔の実をくれ!

  自然系 バシャバシャの実 (水になる能力で、海が弱点になりづらい)

 

「うむ」

 

 で、三つ目だが、とある二人の間に生まれてくるようにしておいてくれ!それで、それを知っているのはほとんどいなくて、俺からも記憶を消しといてくれ。俺の意識が目覚めるのは、五歳にしておいてほしいんだけど、それでもこの記憶だけは知らないことにしておいてくれよ。

 

「それくらいならの」

 

 後は、そーだなー、因果律っていうんだっけ?あれをよくしておいてくれ。

 

「む、それでもうよいのか?」

 

 じゃ、もうオッケーだ。いろいろとありがとな。

 

「それは、こっちの台詞なのじゃ」

 

 あはは、そうか。それじゃ、送ってくれよ。

 

 俺がそう言うと、幼児はどこからか持ってきたハンマーで俺の頭を殴ってきた。あまりに唐突なことで、まったく反応ができ無かった俺は、そのまま意識が薄れていくのを感じた。




読んでくださり、ありがとうございます!!
作者は初心者ですし、間違った日本語、文法あると思います。メッセージで報告していただければなるべく早く訂正します。
感想もお待ちしてます。

2014/03/19 編集


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第一話

 ブルブルと身体が震える。それと同時に布で石の床が擦れる小さな音がする。この震えは寒さから来るものじゃない。死の恐怖からくるもの。

 あの男、「血潮のガーリル」とか言ってた。さっきまで、町の方からたくさんの悲鳴が聞こえていたのに、今は恐ろしいほどに静かだ。いや、時たま声はする。下品な男たちの吐き気がするような笑い声が。

 母さんも帰ってこない。母さんが出て行ってすぐは海賊たちの悲鳴が聞こえていた。「これで助かる」そう思った。でも、そんなことは無かった。すぐに大きな発砲音と爆裂音がして、海賊たちの悲鳴も収まった。

 海賊たちが憎い、許せない。こんな悪の蔓延る世界も許せない。そして何より、ここに隠れてブルブル震えている自分が許せない。

 僕、ここで死ぬのかな?嫌だな、もっと生きて、生きて、正義になりたい!!なんでかな?少し眠いや……。

 

 

 次に俺の意識が浮上してきたのは、あの時から数えて四年と少し。ほとんど約束通りであったが、何故か早く目覚めてしまったらしい。しばし、今までの記憶を楽しむ。早く意識が覚醒した理由はどうやら、この島の現状のせいであるらしい。

 少しばかり治安の悪い国にでも生まれたのかと思っていたが、海賊に襲撃され、ほとんどの島民が殺されてしまっているようだ。最悪なことにこの島を襲ったのは、襲った島、町に住む人間を皆殺しにするところから【血潮のガーリル】と呼ばれるか海賊で、懸賞金は二億三千万ベリー。海軍ですら近づけないとされるワノ国の中の島「一松」。ここを守護していた侍ですら、手も足も出ずに殺された。町から外れたところに住まわされていた俺と母さんだったが、母さんは俺を地下室に閉じ込めて町に向かい、そこで殺されたようだ。

 もうすでに「血潮のガーリル」はこの町にはいない。億を越えるような懸賞金の海賊は、拠点となる島以外には長居をしないのだそうだ。そしてこの一松は、他の島との交流も絶っているような閉鎖された場所で、島民のほとんどが時給自足で生活している。ここを拠点にしようにも、とにかくメリットよりもデメリットが目立つ。食料はない、土地もあまりない、開拓も進んでいない、という具合に。

 奴らがもういないのなら、この部屋から出ることにしよう。さてと、まずは、食料を確保しなけりゃな。

 

ダンッ。

 

 木でできた扉が勢いよく、石の壁に叩きつけられる。普通ではありえないような破砕音がした。

 ……見つかった。ただ、それだけだった。殺される、そう思った。そして、殺されるくらいなら相討ちでいい、道連れにしてやる。そう思った。

 あの幼児に頼んだバシャバシャの実は、意識が覚醒するよりも前に食べていたらしい。あまりの不味さに三日ほど寝込んだらしいが。いや、今はそれどころじゃないか。

 

 右腕を水に変え、それを龍の形にする。擬似・水龍弾の術だ。右腕の質量程度だが、この狭い部屋の中ではこの程度の大きさで充分。

 それを相手へと向かわせる。噛み付いた後、血液に水を注ぎ込むためだ。

 

ジュッ。

 

 倒したつもりでいたが、俺の作った水龍は唐突に消えた。後に残ったのは、蒸発した時に発生した蒸気だけ。というか、アレだけの量の水を一気に蒸発できるなんて、もう勝てる気がしない。この実が最強なのは、海の上だけなのだ。

 水になって逃げるか?この部屋には幸いなことに、排水溝がある。そこを伝えば、ほぼ確実に逃げられるはずだ。

 

「元気のええガキじゃの。」

 

 まったくもって、効いていないことが今の声の調子から読み取れる。

 

「ワレをつれていくけ、はよぉ準備しんさい。」

 

 そこでようやく違和感に気付き、男の顔を見る。なんで、広島弁なんだろう、と。

 

「かっ海軍本部大将の赤犬?!」

 

 そこにいたのは、海軍本部大将の赤犬ことサカズキであった。つまり、今まで俺は海軍の最高戦力にはむかっていたわけだ……。

 

「もっ、申し訳ありませんでした!!」

 

 殺されても文句も言えないのだ。

 

「そがぁなことぁええから、はよぉ準備しんさい」

 

 連れて行くってのはたぶん海軍のことでいいのだから、準備は船旅に必要なもんかな?そしたら、必要なのは、着替えと日用品とー、アレも持っていこう。

 掛け軸の裏に置かれていた刀を手に取り、引きずらないように肩にさげる。

 

「ほう、ええ刀じゃの。」

 

 ずぅっと後ろをついて回っているサカズキさんから、声がかかる。

 

「はい、母のくれた大切なものなんです!」

 

 これが原因で母は、村八分にされていたのだ。最上大業物「海」。当然、町の有力者は欲しがる。だが、母さんも当然のように断る。結果的に、有力者から疎まれた母さんは、村八分のような状態になってしまっていたのだ。なんだってこんなものを母がもっていたのかは知らないが、これをくれただけではなく稽古まで付けてくれていた。まぁ、まだ身体ができていないから、体力づくりとかが主だったけれど、気まぐれに型を教えてくれていた。

 

「……母、のぅ」

 

 しみじみとつぶやいている。この人は、母さんを知っているのだろうか?

 怖すぎて、何も聞けないけれど……。

 

「あの、えっとー、準備できました、はい。」

 

 なんてゆうか、ただいるだけなのに威圧感が半端ない。普通に話そうとしているのに、喉を抑えられているかのように自由が利かない。

 

「ほうか、そしたら、外の船に乗っていぬるとしよか」

 

 結構な重量になったバッグを背負った俺を脇に抱えて、ずんすんと歩き出す。怖くて何も言えない。軍艦につくまで、このままだった。

 軍艦に乗り込むと、甲板の中央には棺が置かれていた。海軍の人たちが着いたのは、海賊がすでに逃げた後だったので、不思議だ。しかも、その棺を見て泣いているのは、40近い人からそれ以上で、若い人は特に何も感じていない様子で、それもまた不思議だ。

 

「われのおかんじゃ、あいさつしといで。」

 

「えっ?」

 

 そう言われて、棺の中を覗き見ると確かに母が眠っていた。

 それからはあまり覚えていない。ふつふつと沸き起こる海賊に対しての怒りと、母の死に対する実感、悲しみ。それらが一緒くたになって、俺の心の中もグチャグチャで訳が分からなくなって、次に目が覚めたらもう船は出港していて、あれから三日も経っていた。食事もちゃんととっていたらしいのだが、ソレすらまったく記憶に無いほど、呆然としていた。

 一緒に過ごした時間は、たった四年程度の母子である。だけど、確かに俺たちには絆があって親子になっていた。ソレを痛いほどに感じた。

 

「トビラマ君、サカズキ中将がお呼びだ。ついてきてくれないか、イイネ?」

 

 目の前の人は確か、サカズキ大将の副官をやっている人で、イイネ大佐とかいう名前だったはずだ。ワンピースの世界では、「名は体を表す」コレが特に顕著だ。それでこの人も何かというと、「イイネ」を使う。

 

「えぇ」

 

 苦笑しながら頷く。慣れればなんてことはないのかもしれないが、なんていうか、上司の対して面白くないギャグを聞かされているような気分だ。

 

「どうだい?この船には慣れたかい?」

 

 この身体は、もうこの船の揺れにも対応しているようだし、慣れたといえるだろう。子供らしく、元気に頷いておく。

 

「はい!」

 

 俺の言葉に対して、イイネ大佐は眩しそうに目を細めながら、続けて口を開く。

 

「それはイイネ!サカズキ中将も君の様子を気にかけていてね。でも、ホラ、中将はあんな方だし、顔も怖いだろう?君が萎縮してしまうんじゃないかって、僕が代わりにね」

 

 その言葉の通り、サカズキ大将と比べれば目の前のイイネ大佐は、優しげでなんとなくだが子供好きそうな印象もある。しかし、サカズキ大将が俺の様子を気にかけていた?どういうことだろうか?

 

「あはは、そういえば、まだ知らないんだっけ?もうすぐ分かることだし、あんまり気にしないでおいてよ」

 

 俺の不思議そうな顔に気付いたのか、大佐は続けた。どうやら、今からサカズキ大将の元へ行くのは、単に船の乗り心地を確かめられるわけではないようだ。母さんの出生が分かるのかもしれない。

 

「お、ついたね。僕の任務は君をここに連れてくることだけだから。イイネ!」

 

 そういうと、イイネ大佐は自分の仕事(船員たちの仕事ぶりを視るらしい)へと戻っていくようだった。目の前には、艦長室と書かれた立派な扉がある。この中にあの重厚な威圧感を発しているサカズキ大将がいると思うと、気が重くなる。

 何度か、扉を開けようと取っ手に手を伸ばしてはソレを引っ込めるのを繰り返していると、突如目の前の扉が勢いよく開いた。

 ソレは、俺の顔面にぶつかる、その瞬間ピタッと止まった。顔面との距離はわずか一センチほど。こんなしょうもないところで、大将の実力を知る結果となった。

 

「はよぉ、中に入り」

 

 そこにいたのはもちろんサカズキ大将で、入るより他に選択肢はなかった。

 

「は、はい」

 

 中に入ると、サカズキ大将のイメージピッタリな和風な室内。もちろん床は板張りだし、ソファーとかデスク(執務机と思われる)とか、置いてあるので完全な和風というわけではないが。

 俺が中に入ると、サカズキ大将はあごで目の前のソファーに座るように示し、自分は示したソファーの反対側の高級そうなチェアに座る。

 

「あんたぁ、わしのことを何も聞いとらんようなけぇ、今からその話をしよぅて思うんけぇの。」

 

 話が直球なこともあって、いきなりの展開についていけていない。サカズキ大将のことを誰に聞くというのだろう?

 

「まず、わしとあんたのおかんの関係じゃが、血のつながっとる実の親子じゃ。」

 

 驚いた。そして、合点がいった。なぜ、あの島に、海軍ともつながっていない島に、海軍の最高戦力である「大将」がなぜ、あの島に来たのか。そして、なんで俺をこの船に乗せたのか。

 

「つまりわしは、あんたのおじいさんっちゅうわけじゃ」

 

「そう、ですね」

 

「あんた、これからどうしたいん?強くなりたいんじゃったら、手を貸す。何事も無かったかんように生きるんなら、場所も用意しょぉで。さ、選びんさい。」

 

 正直、子供に四歳の子供に尋ねる内容じゃないだろ。だけど、俺の意思を尊重してくれるのは感謝する。さて、どっちを選んだものか……。

 でも、せっかく選択肢があるのなら、奴らをこの手で捕まえて、殺してやりたい。母さんの仇を取ってやりたい。なら、答えは決まりだ。

 

「強くなりたい……。母さんを殺したあいつらを、この手で殺してやりたい!」

 

 我ながら過激な言葉だが、これは本心。大好きだった母さん……。奴らはゆるさねぇ。

 

「ほうか、なら、わしがあんたを海軍に推薦しといちゃるわ。ほいで、わしがあんたを鍛えちゃる。」

 

 まぁ気に入られたようなので、それでよしとしよう。

 海軍なら、合法的に奴らを皆殺しにできる。賞金稼ぎになるという手もあるが、情報は海軍のほうが集まりやすいだろうし、賞金稼ぎでは手出しできないこともあるだろう。もし、海軍で出来ない事が出てくるのであれば、ソゲキングのように顔を隠してしまえばいい。

 

「ありがとうございます、サカズキ大将」

 

 俺の言葉に、少し何か言いたげな表情を見せた大将だったが、すぐにいつもの不機嫌顔に戻ってしまった。

 

「ふむ、それでだ「二時の方向に敵船発見!旗の模様からして、懸賞金九千万ベリー【リーディ海賊団】と思われます。繰り返します……」

 

 サカズキ大将の言葉の途中、見張りと思われる海兵から敵船発見の報が入った。それを聞いてサカズキ大将が立ち上がる。大将直々に出るのだろうか?

 

「ちょうどええ。あんたの実力でも見せてもらおうか。」

 

 えっ?あれ?この人何言ってんの?九千万ベリーってアーロンの4.5倍くらいだろ?初めての敵にしてはちょいとレベル高すぎないかな?いや、そりゃ最初に戦ったのは海軍最高戦力で次期元帥だけどさ。

 

「い、いや、でも……」

 

 なんとかして、断ろうとするが、不機嫌顔でギロリと睨まれればもうなにも言えない。ただしずっかに頷くだけ。

 

「ほいたら、行くとしようか。」

 

 艦長室から出て、なるべくゆっくり廊下を歩き甲板に出る。まだ船とは五百メートルほどの差があり、大砲の砲弾も届いていないようである。いまだそんな距離にあるためか、サカズキ大将が現れれると全員がこちらを向き敬礼をする。サカズキ大将は、それを見て無言でうなずくとイイネ大佐を呼ぶ。

 

「何でありましょうか!」

 

 すぐに近づいてきた大佐に小声で何かを伝えると、大佐は驚いたような顔でこちらを向き戸惑いながら頷いた。サカズキ大将に略式の敬礼をすると、すぐさまこちらへとやってきた。

 

「トビラマ君、君が水を操れるというのは本当なのかい?」

 

 あまり信じていないような様子でたずねてくる大佐に小さく肯定の返事をする。

 

「ホントなのか!うん、分かった。じゃあ、ついてきてくれ」

 

 驚いたようではあったが、小声で「まあ、サカズキ中将の孫だしな」といっているのが聞こえた。あまり、関係ないような気もするけな……。

 急いでいるのだろう、スタスタと先へ進むイイネ大佐の後を小走りでついて行く。連れてこられたのは、軍艦の少し高くなったところで、そこからは件の海賊船が見えている。

 

「サカズキ中将の話なら、ここからあの船の周りの海を操ることもできるらしいね。イイネ!」

 

 そんなこと試したこともないが、サカズキ大将ができるというのならそうなのだろう、と思ってやってみることにした。

 確かNARUTOの術でちょうどいい技があった。水牢球の術である。あの船を丸ごと包み込めるかは分からないが、ロマンがあるのでやってみることにした。

 

「水遁・水衝波の術!!」

 

 術のイメージは簡単だ。津波を起こすだけ。ただし、あの船だけを襲う津波を。強い波には弱いのか、一回の津波で船はひっくり返った。船員たちも船から投げ出されているようだ。船はひっくり返ったままだし、船の中に残っていた者もそのうち出てくることだろう。

 しばらくそのまま待つ。……。

 艦長室で見せられた船長の【虹毛のリーディ】と思われる男が出てきた。あの頭に生えた虹色のとさかを真似する奴なんてそうそういないはずだしな。

 

「水遁・水牢球の術!!」

 

 イメージするのは、海がめくりあがりやつらを包み込む。後は空気が入らないように、それだけ。

 海面がめくれ上がって奴らを包み込み、持ち上がる。もし、包み込んでも抜けられたらと思ったが、不思議現象が俺の味方をしてくれているらしい。

 できあがった水の牢屋をこの軍艦のそばまで持ってくる。右手はこの現象を維持するためにふさがっているが、腕一本でこれができるなら充分すぎる結果だ。

 

「サカズキ大将、これはどうしたらいいですかね?」

 

 艦長であり、大将でもあるサカズキに尋ねる。

 

「ふん、好きにせぇ」

 

 水でできただけの牢屋は出ることはできないが、水圧はあまりかかっていないよう。

 広げたままだった右手をだんだんと閉じて行く。右手から抵抗がある。圧力をかけるのはなかなか手間がかかるようだ。

 右手が完全に閉じた時、あまり聞きたくない音が聞こえ、赤黒い水が飛び散った。他の海兵の方々の仕事を増やすわけにもいかないので、赤黒い水を持ち上げ球の形にし、百メートルほど離れたところで俺の意識から切り離す。すると、俺に操られていた水は急に球の形を保てなくなり、弾けて海にかえっていった。

 俺は恐ろしかった。人を初めて殺したことがじゃない。それを見て、わずかばかりに愉悦を感じた己自身にだ。あまりにあっけない初めての人殺しは、俺の自身の本性への不安と辺りに漂う死臭を残して終了した。

 




 読んでいただいてありがとうございます。
 感想いただけるとうれしいです。
それでは。


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第二話

読んで下さってありがとうございます!

久しぶりの更新で申し訳ないです!


あれから俺への海兵の方々からの対応が変わった。なんというか、一気に冷たくなった。それまでは、弟に対するような優しさみたいなものがあったのだが、今はもう化け物に対するソレだ。サカズキ大将への恐怖とも別なのだから笑える。この掌の変わりようには、確かに苛立ちを感じるが、力を持っているが四歳程度のガキだ。確かにいつ暴発するか分からない能力者ってのは、核兵器のスイッチを持たせた赤ん坊に等しい。使い古された例えではあるが、真実である。

 今の俺は、護送室と呼ばれる部屋に入れられ、日がな一日をそこで過ごしている。時たま見つかる海賊は、あれ以降俺以外の海兵が対処しているらしい。絶対的な正義を掲げるサカズキ中将の船と言えど、こないだの俺のやり方は流石に忌避されるものらしい。

 あぁ、そうそう。いつの間にか通り名まで付けてくださったらしい。その名も「赤鬼」。将来「赤戌」と呼ばれるサカズキ大将、いや中将の孫であり、海賊に対するやりすぎなまでのこないだの行動によってこの船の海兵がそう呼んでいる。イイネ大佐は苦笑しながら教えてくれた。

 ずっとサカズキ大将だと思っていたのだが、実際にはまだサカズキ中将であるらしい。つまり、原作よりも前であるわけで、道理で漫画やアニメで見るよりも若いわけである。

 

「ふぅ。」

 

 暇をもてあましている俺に、イイネ大佐は自分が航海中に読むために持ってきた本を貸してくれた。貸してくれた本は、「人の上に立つ」「リーダーの素質」など……。イイネ大佐が実は野心家であることを知るきっかけとなった。

 ちなみにだが、あれからサカズキ中将とは話していない。この護送室の窓から海賊の発見を伝える声と同時に、マグマの塊が降っているのが見えるので、たいへん元気なことだけは分かっている。まったく姿も顔も見ないので、何を思っているのか知ることが出来ないのが不安を掻き立てる。何しろ、まだ一ヶ月も一緒に過ごしていないのだ。サカズキ中将の性格を漫画の中でしか知らない俺にとって、彼がどんな判断を俺に下すのかわからない。もしかしたら、俺を殺すコトだってありうるのだ。

 これからまだ二週間ほど船旅が待っているらしいが、この護送室暮らしには飽きたのでどうにかしてほしい。いっそのこと、反乱でも起こしてやろうか?前回こそボロ負けだったが、海上にいて海水を扱える今、能力者であるサカズキ中将も敵ではないわけだし。試しに……

 

「ぃやぁっー!トビラマ君!って何してるのかね?!」

 

 ちょうど海水で刀を作っていると、タイミング悪くサカズキ大将のもう一人の副官であるログ准将が入ってきた……。

 とりあえず微笑んでみる。

 

スチャ。

 

 失敗である。微笑んだ瞬間に厳しい顔をして、サーベルを抜かれた。何故だ……。

 

「あはは、冗談ですよ。それで何かご用件ですか?」

 

 サーベルは抜いたままこちらを睨みつけ、なにか逡巡しているようだったが、一度深呼吸をして口を開いた。

 

「ハァ、まぁいい。サカズキ中将がお呼びだ。場所は分かっているな?」

 

「お呼び、ですか?あぁ、はい、大丈夫ですよ」

 

 行動を起こそうとしたときに呼ぶなんて、さすがは大将、運もいいようだ。もしかしたら見聞色の覇気でも使っていたのかもしれないが……。ログ准将も見聞色の覇気を使えるのかもしれない。それならばさっき、微笑んだだけで刀を抜かれたのも分かる。

 前回とは違い、中将の部屋の前に着いてすぐに扉を開ける。中では、少し驚いた顔のサカズキ中将がいた。前回のように少し間を置いてから開けると思っていたのかもしれない。そのせいか少し腰が浮き上がっている。

 

「さきほど、ログ准将が来て、サカズキ中将がお呼びとのことでしたが?」

 

「あぁ、あんたの能力の修行でもしようかゆぅて思うてな。」

 

 それはありがたい。護送室でも独自の修行はしていたが、やはり狭いし我流では分からないことも多い。最近は特に暇していたし、これからの予定が修行の二文字で埋まるとしても、すごく嬉しい。

 

 ……と思っていたよ、修行が始まるまではね。能力の開発とは言ったが、まずは体力をつけなければと思ったらしく、腕立て二百・腹筋二百・背筋三百・片手腕立て各百回・倒立五秒二十回・船の雑巾がけ五往復(中将の乗っている船であるから、かなり広い。そこを全力で駆け巡らされるのである。)

 疲れて倒れれば、身体のどこかの部位を踏み抜かれ「やらんか!!」と怒鳴られる。自然系の悪魔の実なんかを食べたことを後悔したが、食べていなければ今頃車椅子生活である。いくら、攻撃を受け流すとはいえ。心に与えられるダメージは甚大だ。

 出会ってしまったのが、運の尽きだったのである。出会いさえしなければ、俺はもっと普通に生きられたはずなのだ。手足を踏み抜かれることのない普通の生活が。あれ?それって普通の生活なのかな?普通の条件すら曖昧になってきたこの頃、心の汗が止まりません!

 結局残りの二週間は、この特訓だけで過ごすことになった。一日ごとに1.25倍されていったので、最終的には腕立て三千五百回・腹筋三千五百回・背筋五千百五十回・片手腕立て各千七百五十回・倒立五秒三百五十回である。

 恐怖である。恐怖政治なるものをこの身で直に体験することになるとは、思ってもみなかった。だけど、さすがは空気とプロテインをイコールで結べる世界。ムキムキではないが、幼児にしては筋肉があり、俊敏に動くことのできる身体になった。しかも、昨日は辛かった回数が次の日には、余裕とまではいかないまでも頑張れば出来る回数になっているから、驚きだ。今までは重くて振ることすらできなかったあの刀も、今では普通に振ることができる。

 「徹底的な正義」を掲げるあの人ではあるが、それは強者にしか許されない戯言だ。弱者に言はなく、強者の言はそれだけで真実に匹敵する。「絶対的な正義」それを実現するため、強者である為に修行をしっかり行っていることに驚き、素直に尊敬した。あの人は、俺に与えた以上の筋トレをし、海兵たちとの組み手も行っていた。俺が隣でヒーヒー言っているうちにだ。

 

 まぁ、そんな辛くて苦しくてくじけそうな地獄のような二週間を過ごしてきたわけだが、ソレもこれも今日で終わりだ。そう、ついたのだ!三大勢力の一角である海軍の本拠地である海軍本部マリンフォードに!

 さてと、サカズキ中将からもマリンフォードをぐるりと回って来い!と言われたことだし、今日一日を使い切るつもりで、ゆっくりまわろう。原作ではあまりしっかり概要が出てきてなかったのでかなり楽しみだ。海兵が住む町なのだから、市場やら娯楽やらのある区画もあるはずなのだ。そうでもなければ、海兵たちの士気を保つことも出来なくなるわけだから。

 

「トビラマ!!何をチンタラ歩いとるんじゃ!ぐるりと走るにきまっとろうがぁ!」

 

 自然と心の汗が流れ出る。マリンフォードって確か島なはず。しかも海軍の本部が置かれるような所だから、そこそこどころかかなり広い島であるわけだ。それを、走る?しかも、四歳児が?「死んでまうわ!ドアホォ!!!」これを本人の目の前で言うことが出来たらどれだけいいことか。反論しようとした途端、あのやくざのような形相で睨まれたこの身体は、俺の意志など関係ないとばかりに一目散に駆け出した。

 

 今の俺の目標はただ一つ。サカズキ中将の下へ日が暮れる前に辿り着くことだ!!

 

 




前話と比べると短いですが、たぶんだいたいがコレぐらいの長さになるかなと思います。


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第三話

プロローグをいくつか訂正してあります。主人公の特典をいくつか減らしてあるので、目を通してもらえると幸いです。

それと、なぜかこの駄作43件ものお気に入りとUAが5000を超えております。読者の皆様のおかげです!本当にありがとうございます!


 結局マリンフォードを一周することは出来なかった。走ってしばらくのところで倒れこんだからである。倒れたすぐ後にイイネ大佐が飛んできて処置を始めたので、ガープのように何も考えずの行動でないとわかり、中将が考えなしではないと分かり安心した。

 そして治療室でのイイネ大佐の言葉で愕然とした。なんと俺は1km程度しか走っていなかったのだ。四歳の体力でと考えるならばそれはもちろん凄いことなのだが、二週間もの間、サカズキ中将式特訓を行っていた身としてその結果は膝から崩れ落ちるほどの衝撃であった。だが、考えれば考えるほどおかしいのは俺なのだ。ここがいかに空気=プロテインと呼ばれる世界とはいえ、四歳児が数千回もの筋トレを行えるという事実。コレが当たり前ならば、普段から訓練している海兵たちは、全員がガープさんのようになっていなければおかしい。そりゃ才能の有無もあるのだろうが、ここまで圧倒的な差はつかない。たった二週間で数千回の筋トレが出来るようになるなんてありえないはずなのだ。

 よくよく思い出してみれば、俺が中将の出したノルマを軽々と達成するたびに、イイネ大佐たちの口元がひくついていた。つまり、おかしなことなのだ。

 何が原因なんだろうか?俺と彼等の明確な差が、この確かな違和感を形作っているのだ。その違和感というのは、数千回の筋トレをいともたやすくこなす俺の身体が、わずかな距離を走っただけで倒れてしまったことだ。モヤモヤとしたものが、俺の身体に纏わり付いているような気がして凄く不快である。

 

「トビラマ!無事か!!」

 

 思考の渦に呑まれていこうとする俺をこちらに引き戻したのは、サカズキ中将の俺を心配してくれる声だった。顔はいつもの通りムスッとしていたが……。

 

「大事無いです、サカズキ中将」

 

 俺の言葉に何か言いたげにする中将だったが、俺が無事と分かるとその眼を威圧的なものに変えて、病室の横に立っていたイイネ大佐を睨みつけた。

 

「イイネ、貴様はどーゆーつもりじゃぁ?ワシの指示を忘れとったんか!!」

 

 中将の声が病室に響き渡る。そのあまりの迫力に俺の身体は無意識に縮こもろうとし、窓ガラスはビリビリと震える。これが覇王色の覇気といわれれば確かにそうなのかもしれない、そう思ってしまうほどだった。ただこの怒れる猛犬に対して俺は訂正しなければならないのだ。

 

「申し訳ありませんでした!!」

 

 おれがそんなことを考えているうちにイイネ大佐が中将に頭を下げる。大佐が中将にどんな指示を受けていたのかは分からないが、中将に言われるまま、自分の状態を理解せず無理して倒れたのは俺である。

 

「中将!倒れたのは僕です!イイネ大佐をしからないでくれませんか?」

 

 そんな俺のために、大佐が理不尽に怒られるのは納得がいかない。そう思っての行動だった。だが、これに反論してきたのは中将ではなく、イイネ大佐だった。

 

「黙るんだ!!今中将が怒っていられるのは、君が倒れたことに対してじゃないんだ。私が中将から受けた指示は『君の走りを監視し、私自身の判断で君の走りを管理しろ』ということだったんだ。私は上級士官だ。上級士官ともなれば、艦長となって船を指揮することが増えてくる。そうなれば私の判断に多くの命が懸かってくるということなんだ!今回私は私自身の判断ミスによって、君が倒れてしまった。これがもし君じゃなくて部隊だったら?私の判断ミスによって多くの命が失われていただろう。私は勝手な予測で君を倒れさせてしまった。その勝手な予測、憶測で物事を判断したことに対して私は今、中将から叱責をされているところなんだ。この件に関して今、君が口を挟むことは何一つないよ、イイネ?」

 

 意外だった。俺の中での中将は部下に恐れられている人で、みんな怖いから付き従っているんじゃないのか、強いから恩恵を受ける為に付き従っているんじゃないか。そうゆう思いがあった。でも違ったのだ。確かにそういう人もいるんだろうけど、イイネ大佐は中将を本気で慕っている。それがありありと伝わってきた。

 イイネ大佐を助けるつもりの俺の一言は、自分が特別だという思いが起こさせた一言だと気付き、情けなく思った。

 

「すみませんでした……」

 

 だから謝るしかなかった。この浅ましい考えを隠す為に。

 

「いいんだ。君は賢い子だね」

 

 大佐は俺の頭に手を置いて、ゆっくりと撫でてくれた。

 転生してきたという事実が俺に自身が特別だという認識を持たせた。今回のことで分かったのは、このままじゃいけないということ。このまま転生したという事実、サカズキ中将の孫であるという事実にあぐらをかいていればいずれ、思わぬところでこけて二度と立ち直れなくなってしまうだろう。俺は特別じゃない。特別になる人間は、努力しなければならない。原作に出てきた中将や大将、王下七武海、四皇たちに負けないほど強くなって、圧倒できるほど強くなってようやくあぐらをかける。それまではただひたすらに鍛錬しよう。

 そう強く決心した。

 

「イイネ、貴様が分かっとるちゅうなら言うことはなんもない。精進せぇ」

 

 俺らのことを黙ってみていた中将は、そう言うと、静かに扉を開けて出て行った。なんとなくだが、その背中が嬉しそうに見えた……。

 中将が出て行ってからしばらくして、軍医が来てすぐに退院が告げられた。曰く、倒れただけの俺に貸すベッドなどないらしい。俺が四歳児じゃなければベッドに寝かせるつもりもなかったそうだ。

 

「よしじゃあ、トビラマ君を部屋へ案内するよ。」

 

 大佐に連れられてきたのは、小さなアパートのような寮だった。ここに中将が住んでいるのだろうか?

 

「サカズキ中将はね、基本的に海に出ているんだよ。一緒に暮らすことが出来ないんだよ。で、それだったら一つまるごと部屋をあげてしまえってことになってね。ここの103号室が君の自室ってことになる。食事はここの食堂で決まった時間に出るから、後で確認しておくといいよ。明日は八時にここに迎えに来るから、それまでには準備を済ませておいてくれよ?」

 

 俺の顔を見ることもなく大佐がスラスラと語りだす。当然この疑問が出るものと分かっていたらしい。

 

「明日から僕は何をするんですか?」

 

 準備を済ませておいてくれよ?といわれても、何をするかも分からないままでは何の準備のしようもない。

 大佐は誤魔化すように笑顔を浮かべると、明日から特訓を始めるのだと言った。悪魔の実はしばらく放置で、まずはある程度身体を鍛えることから始めるから、朝は軽めにしておいてくれ、だそうだ。

 能力の訓練をしてもらうことが出来ないのは残念だが、能力者でないイイネ大佐が教官として俺に付くのなら諦めたほうがよさそうだと思った。それに、船の中の海兵たちの噂で知ったのだが、大佐は体術が得意でその腕はかなりいいらしい。大佐が訓練を付けてくれるなら、体術を教えてもらうのも良いかもしれない。そう思うと、なんとなく明日が楽しみになった。




 しばらくはこんな感じの日常っぽい感じで進めようと思っています。三話くらいかな?それが終わったら、少年編として海兵になってからの姿を描きたいと思っています。

 感想待ってます!それでは


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第四話

お気に入り登録ももう少しで百件!
作者は夢のようです。
これも読者の皆さんのおかげです!


 あの後は、五時には夕食を食べ(寮の夕食の時間は5時から7時までだった)、すぐさま風呂に入って寝た。大佐は俺の能力を見ても普通に接してくれた人の一人で、この人には嫌われたくないという思いが強かったのと、大佐が得意といわれている体術というのが六式なら、原作の技術ってことになるのでテンションがあがってしまったということもある。だが、テンションがあがりすぎると人がどうなるのかといえば、分かると思うが眠れなくなるわけで……。

 絶賛俺は、遅刻中なのである!目を開けてみれば、太陽は昇りきっていて食堂は閉まっている。時計を恐る恐る見てみれば時刻は大佐と約束していた八時を軽く五時間も越えていた。外ではイイネ大佐が微笑んで待っていた。普段の大佐は田舎の優しげなお兄さんといった顔をしているから、笑顔を浮かべていると子供たちがひきつけられていく。のだが、今の大佐も笑顔は浮かべている。その笑みは人殺しの笑みである。目の奥に光がなく、縫い付けられてしまいそうな深い闇が見える気がする。

 

「申し訳ありませんでした!!」

 

 言い訳をしよう、などという甘い考えさえ浮かばなかった。というよりも、言い訳などすれば埋められる、なぜかそう思った。

 そんな俺の精一杯の俺の謝罪に対して、イイネ大佐の返答は簡単なもので気にしてないよ、の一言だった。そうは思えなかったが、反論などという愚かな真似はせず静かに感謝しているのが伝わるように微笑んでおいた。

 

「大幅に予定がずれてしまったけど、それじゃあ始めようかな」

 

 そう言うとイイネ大佐は一枚の紙を取り出した。どうやら、訓練の内容が書かれているらしい。訓練の内容といっても、走りこみ→筋トレ→走りこみ→組み手→筋トレといった感じで、今までの内容とあんまり違いがないようだった。強いて言うならば組み手が追加されただけだが、しばらくの間は他の海兵と海兵の組み手を見るだけといった感じらしい。さすがに四歳児と海兵を戦わせようとは思わないらしい。

 

「今日は時間があんまりないし、走りこみ→筋トレの流れをやってみるだけにしておこうか。時間が余ったら私の体術を見せてあげるとしよう。」

 

 とのことなので、走り込みをすることになったのだが、他の海兵さんたちの視線が痛かった。海兵専用の訓練場で訓練を開始したのだけれど、海兵専用の訓練場を大佐に見られながら走る四歳児は、かなりインパクトが強かったらしい……。

 途中寄ってきて絡もうとする人もいたのだが、イイネ大佐が俺の訓練教官だと知ると焦って離れていった。海軍本部大佐のイイネさんは、「ストッパー」「拳撃のイイネ」とかいう二つ名を持つかなり有名で、下士官の方々には恐れられているらしい。それにはサカズキ中将の腹心であることも一因であるらしいのだが。

 

 イイネ大佐は元々は東の海と呼ばれるところの海軍支部の中尉だったらしい。いつか海軍本部で自前の船を持つことが夢だったのだそうだ。そのためにただひたすら、基礎に忠実に正拳突きを続けていた。そんなある日、大佐は自分の上司が巨大な男に掴まれ、殺されかけているのを見た。海賊と確信した大佐は男に拳を振るった。全く避けるそぶりを見せなかった男は、大佐の拳が男に当たった瞬間、目を見開いたらしい。

次に大佐が目を覚ましたとき、大佐は揺れる一室の中にいた。大佐が殴った男は海軍本部の少将サカズキといい、その時すでにマグマグの実を取り込んだ自然系の能力者だった。まさか東の海に不完全ながら覇気使いがいるとは思いもしなかったサカズキに気に入られて本部へと異動になった。それからはサカズキのもとで覇気を磨きながら副官として過ごしていた。海賊の討伐に積極的なサカズキの船に乗っていたとはいえ、たった六年で五つの階級を駆け上がったのは異常といえる。だがそれは一重に、拳を振り続けた大佐の努力ゆえである。そして階級を駆け上がりながらも鍛練を欠かすことがなかった大佐は、拳で空気を叩くという意味が分からない技術を生み出したのだそうだ。今はまだ威力が不十分で、船に当てても何本か板が折れるだけで終わるらしい。拳圧ではだけどね、拳圧ではね……と強調された。

と、イイネ大佐の過去話を聞かされ、自分で考えてみたのだが、どう考えてもサカズキ中将は俺に覇気と拳圧を飛ばす技術を覚えさせる気である。

 

「トビラマ君は、武器は何にするつもりなのかな?銃とか刀は一般的だけど、上の階級の方だと拳を使う方も多いね。どんな武器でも一人は教官を見つけられるだろうと思うよ。イイネ!」

 

 ふむ。俺はどんな武器を使いたいだろうか?欲を張ればどんな武器も使いこなせる万能な海兵になりたいけど、最初からあれこれ手を出すのは愚策だろう。俺の能力を考えるならば遠距離系の武器はあまり意味がないだろう。

 

「あ、中将からの指示で、体術は叩き込むから拳以外で選んでくれよ、イイネ?」

 

 どうやら二種類使いこなせるようになることは、中将の頭の中で決定らしい。それなら刀がいいだろう。母さんの形見もあることだし。

 

「では僕は、刀を習いたいです!」

 

 俺の言葉に大佐は「分かっていたぞ」という風に頷いた。俺の刀を見て知っていたのだから、刀を選ぶというのはなんとなく理解していたのかもしれない。

 

「まぁ、そう言うだろうと思ったよ。僕も一応、刀を扱う訓練は受けているんだけれど、一向に上達しないんだけど、基礎くらいなら教えられるから今はそれで我慢してくれるかい?」

 

 というとどこに置いてあったのか木刀を手に持ってきた。それはむこうの世界によくある一般的な形の木刀と違い、かなりの太さ、重さがあった。大佐に文句を言うわけにもいかず、「四歳児にこんな重い木刀振らせるのかよ」だとか「四歳児の手じゃこんな太い木刀持てないわ」という不平不満を押さえ込んで素振りを始めた。否、始めようとした途端、大佐によって木刀は取り上げられた。俺の顔が唖然としているのが、おもしろかったのか苦笑しながらその意図を説明してくれた。

 

「あはは、ごめんよ。今、木刀を持たせたのはいきなり素振りを始めるってことじゃなくて、どんなものを持つのか教えようって思っただけなんだ。まずは身体作りから。これは中将との取り決めだから、しばらくは同じような訓練が続くけれど、我慢して付いてきてくれ。イイネ?」

 

 どうやら俺の勘違いだったようなので、少し恥ずかしく思いながらも心の中だけでごめんなさいする。なんだかんだ文句を言いながらも案外やる気充分だった自分もまた恥ずかしい。少しはしゃいでいたようだ。

 

「はい、がんばります!」

 

 俺がそう言うと、大佐は俺に手を伸ばしてきた。大佐の顔をうかがうと、なんとなく体育会系っぽい顔をしていたので、こちらも手を伸ばし握る。

 

「よし、一緒に頑張ろう!それじゃあ、まずは走り込みだ!!走りは全ての基本だからな!」

 

 過去の話から気付くべきだった。この人は本部に来る為に正拳突きをやるような人だ。普段は上手く隠しているが、素の顔は体育会系だ。それも周囲の人間を巻き込むタイプの熱血野郎。

 自分の教官となった人間がかなりメンドくさいタイプであることに遅まきながらも気付いたが、今さらどうこうできるわけもなし、諦めが肝心だと自分に言い聞かせた。

 大佐は熱血野郎でありながら、状況を見極める冷静さも持ち合わせていた。それがどうなるのかというと、動けないけれどもギリギリ意識はあるという極限な状況にまで、追い込まれることとなった。

 

 もう走れません、という俺の言葉に対して、気合が足りないからだ!気合だぁー!と返されるとは思わなかった。イイネ大佐がこんなテンプレタイプの熱血野郎であると、俺の教官に命じたサカズキ中将は知っているのだろうか?てか、キャラ変わりすぎだろ……

 クタクタになって大佐に運ばれてきたベッドの中、薄れ行く意識の中でふと疑問に感じたのだった。




読んでいただいてありがとうございます!

さて、主人公のヒロインですが、希望などありましたら活動報告の方に専用の投稿をしておきますので、たくさんのご応募待ってます!



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第五話

 お気に入り登録が百件を突破してました!本当にありがとうございます!!


 イイネ大佐の熱血本性バレ事件からだいたい六年が経ち、俺は中将に呼び出された。だがその前に、この六年間を振り返ろうと思う。といっても、ほぼ修行の日々で代わり映えのしない内容なんだが……。

 

 

 

 朝起きると、何故か寮の室内で微笑んで待っている大佐に連れられて、朝食前筋トレが始まる。といっても、ただがむしゃらに何の考えもなく筋トレをさせていたわけではなかった。腕立て一つをとっても正しい形で最適な角度や、伏せる時間があるらしい。熱血な大佐は俺が間違えれば、一から始めさせるという中々のスパルタだった。ただし、続けて三回間違えると立たされて大佐との組み手が始まる。もちろん、抵抗する間もなく地に沈められる。ただ筋トレ中だろうと、組み手中だろうと朝食の時間となれば寮の食堂に連れて行かれ、山盛りの朝食と格闘することになる。どんなに吐きそうになっても、大佐によって無理やり飲み込まされる。曰く、「子供なんだからどんな状態でもご飯は食べなくてはだめ!食べることも強くなる修行のうち。海兵になるんだったら嵐の中でも平然とご飯は食べられなきゃいけないんだ」らしい。海兵さんマジパナイ。

 朝食を食べ終わると消化する間もなく、ランニングが始まる。ランニングは大佐がベルを鳴らすまで走り続けなきゃいけない。終わる目安のないランニングってのがあんなにも辛いなんて思っても見なかった。手を抜いて走れば大佐が後ろから逆立ちで追いかけてくる。普通に怖かった。遠めにこちらを窺っていた海兵さんが一気に視線を逸らすくらいには……。

 たまに大佐が自分の鍛錬に集中しすぎてベルを鳴らし忘れることもあるが、だいたいは昼食までには終わる。昼食も朝食と同じ状態である。

 昼食を食べ終われば、日替わりで拳の素振りと刀の素振りを行うのだが、大佐はあまり刀に興味がないらしく刀の指南はだいぶいい加減で、昨日と今日で言ってることががらりと変わるなんて事もよくあった。そんな事情もあって、剣術に関してはほぼ独学の我流になってしまった。その分、大佐式体術はかなり上達した。覇気を身体に纏って行う縛術や寝技なんて海軍の指南書にも乗ってないのでしっかり教わった。ただまだ覇気は扱えないので形だけだが。覇気について大佐曰く、きっかけさえつかめれば簡単に扱えるほどの才が俺にはあるらしい。

 言われていた通り、色々な武器を教わったのだが火器類だけが壊滅的だった。というのも、俺のバシャバシャの実が原因なのか、火薬が湿気てしまって大砲も鉄砲もポシュッという情けない音を出して、使えなくなってしまうのだ。そんな訳で早々に火器類を使うことは諦めてしまったが、長柄の武器だとか短刀の扱いだとかは、海軍の軍営図書館で指南書を見つけては勉強して、ある程度までは扱えるようにした。といっても、有名な型を覚えて独学で素振りをするだけなので実戦ではとても使えたもんじゃないが……。

 大佐式体術に夢中で存在を忘れていたのが六式。鉄塊や指銃、嵐脚、月歩などは大佐式体術に昇華したものがあったので、あまり熱心に修練しなかったが剃と紙絵は俺の戦闘スタイルには欠かせないのでしっかりみっちり叩き込んでもらった。大佐曰く、今の俺は二式使いらしい。

 俺の戦闘スタイルは素早さ重視である。剣術は居合を得意としていて、柔の剣よりの疾風の剣とミホークさんに判断された。刀が使えなくなれば、すぐさま大佐式体術に移行し、剃で死角に回り込んでから攻撃っていうのが多い。相手が距離をとれば投げナイフで牽制する。後になって気付いたのだが、大佐といる時はほぼ能力を使わないせいで、自分が能力者であることを忘れ、能力なしの戦闘スタイルを作ってしまっていたのである。だから、能力を使うのは大規模戦のときだけと制限することにした。その方が情報を集める敵が相手になっても油断を誘うことが出来ると考えたのだ。というか、自分が自然系の能力者であるとしっかり覚えてれば、紙絵を開発することもしなかっただろう。

 こんだけ俺の六年の思い出には大佐が登場してくるわけだが、実際のところ大佐はサカズキ中将の腹心であるので月に一週間か二週間かしかおらず、中将たちが出航している間は一人での自習になっていた。大佐が出航していなくなると、中将と顔見知りになりたい人、噂だけで中将を不当に貶めようとする人が近づいてくるは本当にうっとおしかった。大佐が帰ってくるとすぐに散らばっていくところなんかが特に……。

 そしてこの六年の間に、色々な人と仲良くなった。ガープ中将やクザン少将、王下七武海のミホークさんなどが特に仲良くなった人である。ガープさんなんかはしっかり海兵を目指している俺をもう一人の孫として可愛がると勝手に決めたらしく、会えばお菓子やぬいぐるみなどをもらう代わりにかなり厳しい訓練を受けさせられたりした。クザン少将は、考え方こそ合わないのだが、友達としての相性はかなり良くて、クザン少将の仕事が無い日や抜け出してきた日は娯楽施設や喫茶店、甘味屋などに一緒に行ったりしている。子供のいない海軍施設のせいで友達のいない俺にとって初めてといっていい友達だ。少し年が離れてはいるが……。ミホークさんは、剣術と人生の先生といったところだろうか?ミホークさんがボソッとつぶやく一言は結構深い言葉が多いのだ。剣術においては俺の才能を伸ばして自分が負けてしまうほど強くしてから戦う為なのだという。俺は太刀筋から見て剛剣は合わないらしいので、柔の剣と疾風の剣を学ぶといい、と柔の剣と疾風の剣を指南してもらう機会を何度かもらう事が出来た。とはいっても、本質が自由人なミホークさんはフラッといなくなってフラッと帰ってくるので、かなり不定期だった。

 とまぁ、俺自身のこの六年はこんなもんでいいだろうと思う。また機会があれば話すことにしよう。

 

 

 イイネ大佐は、無能力者でありながら去年、准将へと昇進を果たした。ただ事務能力や指揮能力に難があるらしく、サカズキ中将の船でしっかり勉強中とのことだ。最近では武装色の覇気にも扱いなれてきていて、見聞色の覇気の修行に入りだしたらしい。今まで何度か第六感的なものでピンチを乗り越えてきていたから、見聞色の覇気はすぐつかめると思う。そう言っていた。来年になると、シャボンディ諸島での一ヶ月間の駐在任務があるからそれまでには見聞色の覇気をある程度扱えるようにしておきたいのだという。

 

 サカズキ中将はあいも変わらず、海賊狩りに精を出している。普通の中将の二、三倍は海にいるらしい。それだけのことをしながらも他の中将よりもしっかり事務処理、書類提出をするし、部下に混じっての鍛錬も部下の何倍もこなしているのだから素直に尊敬してしまう。そう思う人はかなり多いようで、サカズキ中将の派閥は他の派閥と比べてもかなり大きく、次期大将候補筆頭らしい。

 

 

 

 三回のノックをして、扉の前で待つ。色々思い出しているうちにサカズキ中将の執務室に着いていた。サカズキ中将に呼ばれて、サカズキ中将の執務室に入るのは初めてだと気付いて、どうしても緊張してしまう。何かあったのだろうか?思いつくのは大将昇進くらいだが、イイネ大佐の顔が普段となんら変わりが無いからそれは無いだろう。一体なんなのだろうか……?

 

「おう、ようきたのう。奥に入りぃ」

 

 扉が静かに開いて、サカズキ中将が出てきた。そのまま奥に通されるとそこには、サカズキ中将に隣り合うように座るセンゴク元帥がいた……。




 えー、話の途中でも書きましたが、何か番外編で希望があればコメントお願いします。作者の筆が乗れば、掲載されることもありますので 笑
 今回は過去の振り返りだけで話が終わってしまいました。ホントはこんなはずじゃあなかったんですけどね……。
 次回はもう少し、ぐんぐん進められたらなと思います。


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第六話

 サカズキ中将は俺を中に招き入れると、センゴク元帥に隣り合うようにして座り、あごで俺に目の前に座るようにと指し示した。ここまで案内してくれたイイネ准将はサッと一礼すると扉の外に出て行ってしまった。

 

「よう来たのぅ。まぁ、まずはすわりんさい」

 

 一言「失礼します」と断りフカフカのソファーに座ると、目の前の二人が「ほぅ」と言うのが聞こえた。もしかして十歳らしくなかったのだろうか?今さらな気もするが、少し気をつけるべきかもしれない。

 

「あの……中将がお呼びとのことでしたが?」

 

 俺の言葉に中将は頷き、元帥は少し首を傾げてみせる。

 

「サカズキ、どういうことだ?」

 

 どうやら元帥も知らないことらしい。元帥の言葉に中将はニヤリと笑い

 

「先ほど言ったじゃろう?わしが推薦したい海兵希望者がおるとのぅ」

 

 そう告げた。その言葉に俺はやっとか、と笑みを浮かべ、センゴク元帥は信じられないとでも言うかのように中将の顔を見やった。

 

「サカズキ!お前はこんな子供を海にやろうと言うのか?!」

 

 「仏のセンゴク」そんな二つ名が付くだけあって、確かに優しい人だ。サカズキ中将が推薦する人物とくれば、イイネさんのこともあってかなり有望だ。今は大海賊時代であり、戦力になるなら海賊ですら特権を与えて戦力にしようとする時代なのだ。そんな時代であっても子供は子供らしくあってほしいと、子供は戦力にしたくないと考えるセンゴク元帥は正しく「仏のセンゴク」であろうと思う。

 

「ワシだってのぅ、孫を何があるか分からん海に送り出したいとは思わん!じゃけぇ鍛えた!こん子が海で生きていけるようにじゃ!そして、こん子はワシの期待に応えた!正義は誰のもんでもない、抱えたもんのもんじゃ!そこに若さも老いもない!!」

 

 ただ元帥の言葉は第三者の言葉だった。サカズキ中将はその容姿と海賊に対する過激な対応から味方からも恐れられている。だが中将は身内にはとても優しい。八歳のころに大佐にもう海に出ても大丈夫、そう言われてから二年も鍛錬を続けさせてくれるほどには。分かりづらい伝わりづらいやさしさだけど、向けられた人にはわかる不器用な優しさの持ち主なのだ。

 

「お前がそこまで言うのなら、私もこの子に期待したい。だが、推薦されたものには試験を課さなくてはならない。中庭に先に行っていてくれ。」

 

 佐官以上になると、推薦権というものが与えられる。ある程度の実力を持っている者をその実力に応じて、普通よりも高い階級から始めさせるという制度だ。高い実力のものには早く出世し、海軍を引っ張って海賊を駆逐してもらいたいという海軍上層部の思惑らしい。ちなみにだが、コレを提唱したのはサカズキ中将とガープ中将の二人らしい。

 つまり鍛錬中に俺に近寄ってきた奴等は、この推薦制度を利用して出世しようと考えていた奴らなわけだ。イイネ大佐に、上手くいけばサカズキ中将に推薦してもらえるかもしれないと。

 

 センゴク元帥の言葉に頭を下げて、サカズキ中将の執務室から退室する。これから俺の相手になる人間を決めるのだろう。俺の予想では一等兵辺りから選ばれるんだろうと思う。推薦制度で一等兵以上からスタートした人間はいないからだ。

 

 

 

 しばらくしてセンゴク元帥とサカズキ中将が中庭へと降りてきた。鍛錬中だった海兵たちが二人の姿を見て一斉に敬礼をする。センゴク元帥が苦笑いをしながら

 

「今回は推薦の為の試験だから中央あたりのスペースを開けておいてくれ。各自鍛錬に戻るように、解散!」

 

と言うと、明らかに海兵でない俺を中心に輪を作りながら、鍛錬をやめて俺のほうに注目しながらヒソヒソと会話を始めた。中将がいることからサカズキ中将の推薦であることは間違いないし、何人か俺が孫であることを知っているのかそれが伝播しているようだ。

 

「さて、トビラマ君だったね。今回の試験の相手は、リール一等兵に努めてもらうが異論は無いね?」

 

 やはり一等兵だったか。異論は無いですと、俺が答えようとしたとき外野から声が聞こえてきた。

 

「センゴク元帥!私めに此度の試験の相手役を努めさせていただきたいのですが、よろしいでしょうか?」

 

 どこかからしゃしゃり出て来たのは、原作でも見たことが無いホントに知らない人だった。特徴は貴族風な服を着てることだろう。名前を予測するならユウガとかミヤビとかだろうか?

 

「ん?君は誰だったかな?」

 

 センゴク元帥も知らないとなると、ホントに誰なんだろう。だが本人はそれを可笑しそうに微笑むと

 

「元帥はご冗談もお上手ですね。私めはユウガ伍長ですわ」

 

 誰だよ?!海兵たちも首を傾げているし、元帥も中将も意味がわからなさそうな顔をしている。ただ追求するとめんどくさそうなことだけは把握をしたのか、彼に相手役を命じた。

 

「私、コネを実力と勘違いしているあなたみたいな人大嫌いですの。だから手加減できないけれどごめんなさいね?」

 

 カチンときた。コイツだけは全力で叩き潰す。いや、余裕を見せながら叩き潰す。能力は使わずに叩き潰す。そうしているのがビビッているせいと勘違いした奴は、フフッと笑いながら去っていった。元帥にも中将に聞こえないように言ってくる辺り小物臭がしたけれど、絶対にぶっ潰す。

 

 センゴク元帥によって、その場にいた軍曹の階級の人が審判を任される。二人は審判とは逆側に陣取って、試験の評価をするつもりらしい。

 軍曹は、俺と伍長の顔を見て静かに頷くと、右手をゆっくりと振り上げた。

 

「では、双方位置について……始め!」

 

 そうして、素早く右手を振り下ろすのと同時に、試験が始まった。

 

 

 軍曹の試験開始の合図とともに仕掛けてきたのは向こう。無手ではなくステッキを持っているが、それ以外には何かを持っている様子も無く、足が悪い様子もない。ステッキの持ち方や形状から見て、中に刀は仕掛けられていないし、銃でもない。

 右斜めに開いた構えからの初動の少ない突き。みぞおちを狙ったその突きを身体を後方に逸らすことでかわし、ステッキを引っ張ることで向こうの体勢を崩そうとするが、向こうがステッキを素早く引っ込めたせいで失敗。向こうのステッキが鋼鉄製であることも確認した。ステッキというよりは長めの十手だろう。伍長はステップで始めの位置に戻る。

 ステッキを地面に走らせるようにしてかけてくる伍長に対して、剃で回り込み伍長が六式に対応できないはずが無いので、そのまま背後から肺がある位置に鉄拳(大佐式体術で、鉄塊を拳だけに纏わせる技)を叩き込む。避けようとする伍長の足に鉄脚(鉄拳の足バージョン)を前方に出すようにして蹴りいれる。倒れこんだ伍長の耳元にもう一度、鉄拳を叩き込む。

 伍長の顔を覗き込み、気絶していることを確認し、ステッキを三分の一ほど地中に突き入れておく。万が一にも伍長から、不意打ちをされない工夫である。

 

 呆然としている軍曹のすねに小石を投げて正気に戻させる。軍曹は飛んできた小石に気付いてないようだったが……。

 

「しょ、勝者トビラマ!」

 

 中将と元帥の顔を見る。中将は満足そうに頷きを返し、元帥は驚いたようにこちらを見ていた。まわりの海兵たちも勝つとは思っていなかったのか、静かにこちらを窺っていた。とりあえず、拳を突き上げてわかりやすい勝利宣言をすると、一気に沸き立った。

 近くの海兵たちからかけられる賞賛の声に愛想よく返事をして、覚えをよくしておく。その中で俺に敵意のこもった視線を浴びせてくる奴の顔も覚えておく。そのまま、二人の下へ向かっていく。




今回は、戦闘回でした。へたくそすぎて申し訳ないです。他の作者さん方の作品を読んで勉強したいと思います。

センゴク元帥がいつ元帥になったのか作者にはよく分かりませんが、作者の中ではこの時期であると考えていますが、都合が悪くなったら変更する場合もあります。

コメントお待ちしてます。それでは

センゴク中将→センゴク元帥 に訂正


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第七話

 未だに呆けた様子の元帥の前に立って一礼する。その様子を見て元帥はこちらの世界に戻ってきたらしい。すぐさま笑みを浮かべて口を開いた。

 

「うむ、流石サカズキの孫だ。鍛錬の成果がしっかり出ていた。相手は伍長であったがその様子だと、並みの海兵では到底敵わないだろうな。では、執務室へ戻るから着いてきてくれ。」

 

 すごく嬉しかった。褒められたこともそうだけど、一番嬉しかったのは「サカズキの孫」この一言に尽きる。俺が神様にこの容姿を頼んだせいで、俺は母さんにも祖父さんにも似てない。たぶん、父さんにも……。そのことは俺の心にぽっかり穴を開けている。だから、それが戦闘能力でも何でも家族の誰かに似ているって褒められることは、俺が家族の一員だと唯一認められていると感じることが出来る瞬間なのだ。

 

「ありがとうございます!!」

 

 だから、母さんが死んでから久しぶりの笑顔を浮かべることが出来た。自然と顔中の筋肉が和らいで、顔が勝手に綻んでくれた。

 

 

 そのまま、中将と元帥と連れ立って執務室へと続く大階段を昇っているのだが、目の端に見えている先ほどの伍長が起き上がらないのは、治癒力でも高めているのだろうか?

 大階段を昇り執務室へと続く廊下を渡る間、元帥と中将がこちらをチラチラ見ながら、ヒソヒソと会話を交わしているのが気になったが、上官の話を盗み聞く行為は許されるものじゃないとイイネ准将から聞いていたので、精神統一でもして耳をシャットダウンする。

 執務室の前に着いたので脇に逸れ、部屋の主であるサカズキ中将を見る。中将は軽く頷き、部屋の鍵を取り出した。(上級仕官になると機密扱いの情報が増える為、鍵を部屋に設置することが義務付けられるらしい。)

 中将が部屋の鍵を開けたのを確認し、二人の後について最後に部屋に入る。先に入ってもどこに座ればいいのか分からないのだからしょうがない。

 

「さてと、それじゃあさっそくトビラマ君の階級を決めていこうと思う。まず、推薦者なんだが、サカズキ中将とイイネ大佐からの連名での推薦書がある。あとは口頭だがガープ中将とクザン少将からの推薦もある。口頭だから力は無いんだけれど……。次に、能力者、自然系バシャバシャの実、と。海賊との戦闘経験はあるんだったかな?」

 

 部屋に戻るとさっそく階級決めが始まった。センゴク元帥の前には一枚の書類が置いてあり、元帥が質問しては俺が答える。上の方には、氏名や血液型、好きな物などを書く欄があって、後で自分で書いて提出するように言われた。下のほうには、推薦者は何名で階級は何か、能力の有無、悪魔の実の系統は何か、海賊との戦闘経験の有無、二つ名は何か、親に問題は無いか、などかなり細かく書かれている。

 

「あ、はい。一度だけ、中将の船の上でですが……。」

 

 元帥は「そうか」と一言頷くと、戦闘経験の有無に丸をつけて、中将に質問した。

 

「サカズキよ、この子は二つ名なんてないよな?」

 

 するとサカズキ中将は嬉しそうにニヤリと笑い、首をゆっくりと横に振って答えた。

 

「いんや、ある。『赤鬼』そう、ワシの海兵から呼ばれとったわい。」

 

 元帥もあるとは思ってなかったのか、小刻みに首を縦に動かしながら、手元の書類に『赤鬼』と書き込んだ。親に問題は無いか、の位置で一瞬止まった元帥だったが、すぐに問題ないと書き込んでいた。理由は分かる。俺の父親が誰か、それを知っているのは俺の父親と母親だけらしく、中将も知らないのだそうだ。

 

「ふむ。サカズキ、ちょっといいか?」

 

 元帥が中将を呼び寄せ、相談を始めた。ダメと分かっていながらも、漏れ聞こえてくる声に耳を傾けてみたところ、俺の階級はかなり高い位置になりそうとのことだった。ではそれの何が問題なのかと言うと、俺の年齢なんだそうだ。というのも、いくらなんでも十歳の子供に「はいはい」と従う酔狂な海兵はいないのだとか。ごもっともな意見である。俺だって子供に付き従いたいなんて思わないし。特に海兵のように自分の職にプライドを持っているならば、なおさらそうだと思う。それに二等兵やら一等兵やらは、特に若い連中が多いから危険なんだそうだ。

 

「ふむ。トビラマ君、君の階級は後日辞令を張り出すから、それまで待っていてくれ。それまでは休暇としよう。では、解散」

 

 どうやら盗み聞きしているのがばれたらしい。途端に執務室から追い出されてしまった。無駄に迫力のある笑顔で。

 しょうがないので、六年も暮らして自室と化している海軍寮の一室へと帰る。向こうの世界でならおやつを食べる時間なので、寮の食堂のお姉さま方(自称)にまかないを作ってもらい、ゆっくり食べる。今食べているのは、あんみつのようなものだ。海軍では和食を好む人が多いらしく、寮でもけっこうな割合で和食が出てくる。そうしてまあ和食が好きな人が増えて、和食のリクエストが増えて和食が出て、みたいな循環があるらしい。

 ゆっくりゆっくり食べていたのだが、そろそろ夕食作りの邪魔になるからと、ここでも追い出されてしまった。仕方が無く自室に戻るのだが、やることが無い。こっちの世界で育って一番困っているのは、暇をつぶすものが無いことだ。ここの人の娯楽は本を除けば、たくさんの人がいなくてはならない。もしくは、お酒を飲むことなのだが、お酒はおれ自身が俺に禁止している。十歳で飲み始めるの流石にどうかと思ったからだ。

 

「ひまだ。」

 

 本当に暇である。バッと起き上がり、訓練場へと向かう。久しぶりに能力でも使ってみようと思ったのだ。

 

 

 能力者専用の訓練場へ来たのだが、夕食前ということもあって無人であった、予想通りである。

 

 右腕を水に変える。海水を操ることは出来るが、身体を海水に変えることは出来ないので普通の水である。海水を操る場合も、身体の一部を水に変えたものを核として操る。身体を水に変えて十全に操れるようになれば、おのずと海水も自由に操れると言うわけである。

 

海牢(かいろう)!」

 

 早速能力を使ってみる。前は、忍ばない忍者世界の遁術の名前を叫んでいたが、長いので他の名前に変えることにした。海牢は能力者の捕縛用の能力であり、海水を核に纏わせるのが通常形態ということになる。だから核剥き出しの今は、およそ三十センチほどの大きさしかない。これに海水を纏わせると大体半径二メートルほどになる。この大きさが扱いやすいと言うだけで、大きさに関してはどうにでも出来るのだが。数は現在、三つが限度である。

 

海狼(かいろう)

 

 先の海牢と同じ読み方である。コレは、水圧で噛み切る水の狼を模したものなのだが、海狼の状態から海牢の状態に移行するという技も練習中である。これは、だいたい核が二十センチほどで、海水を纏わせると一メートルほどになる。ただ圧縮しているだけなので、海牢と同じだけの水を使っている。

 

海落(うみおと)し」

 

 これは四歳のころ、中将に向かって使った竜の進化Verである。空に上っていった龍が海に潜るようにして落ちる技で、基本的に対船奥義といってもいい。水の核の状態だけで、地面に一メートルほどの穴を穿つことが出来る。これが、質量を伴うとゾッとするような威力を発揮してくれるはずである。

 

水割(みずわ)り」

 

 水で大きな人の手を模したもので、海落しの下位版で対人用でその質量で吹き飛ばす技である。

 

「水鉄砲」

 

 コレは指先を、弾丸よりも早く飛ばす簡単な技でありながらそこそこの威力がある。火器類が使えないために一応考えた技である。

 

「水切り」

 

 腕を振るときに、水に変えて細く早く伸ばす技。これによって、たいがいのものならば切断することが出来る。大佐に一度、見せたところ腕の振りがいまいちと言って、矯正させられたのものだが、ある程度完成した今は感謝している。コレは体術との連携がとりやすいので、重宝すると思う。

 

 

 色々と試しすぎた結果、訓練場の地面がボロボロになってしまっていた。海落しは陸地で使うべきではないなと思いましたまる




うーん、文章が一向に上手くならない。

今回は試し打ちも兼ねた、能力紹介でした。使う機会があるかは分かりませんが、これからも頑張ります。

コメントお待ちしてます!それでは!


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第八話

リアルで色々ありまして、更新が滞ってしまいました。すみませんでした。土日は更新できないので、平日になるべく更新していきたいと思います。


 翌日俺が起きると、寮の案内板に海兵たちの人だかりが出来ていた。俺が気になって人だかりを掻き分けて前に出て行くと、俺に気付いた海兵たちが嫉妬と羨望のこもった眼差しを向けながらも祝福してくれた。

 寮の案内板には俺の名前と共に、伍長に任ずると書かれていた。伍長と言うと私服が認められる階級で、下から四つ目にあたる。俺がこの階級に任じられた理由は、悪魔の実の能力よりも俺自身の戦闘能力よりも、サカズキ中将の孫であるということにある。過激派である中将を恐れる海兵は多い。その中将の孫である俺を下の階級にやって、上の階級の海兵が萎縮して上手く扱えなくても困るし、七光りとかいって下手な反感でいじめみたいなものがおきても困る。かといって、上の階級をやっても年下の海兵に従う者は少ないだろう。それらを考慮してこの階級なのだろうが、それでも十歳の子供に与えられる階級にしてはいささか高すぎる気もする。

 

「トビラマ君、中将がお呼びだ。朝食を食べたらすぐに執務室へ向かうこと、イイネ?」

 

 海兵たちにもみくちゃにされていると、イイネ准将が現れ伝言を告げるとすぐにどこかへ行ってしまった。

 イイネ准将が現れた途端に海兵の群れがサーッと引いていったのは少し笑ってしまった。

 その後は急いで朝食をかきこんで、走って執務室へと向かう。非常時と訓練時以外の剃は禁止されているので、普通に走って、だ。俺が自室にしている寮は二等兵から一等兵の海兵が泊まっている寮で、上級士官用の寮ではないので島の外周部にあり、島の中心部にある執務室からはだいぶ離れている。普通に歩いていこうとすると、だいぶかかってしまうからだ。

 

 中将の執務室に着くと、イイネ准将が外で待っていた。たぶんあれからずっと待っていてくれたのだろうと考え、いそいで頭を下げる。伍長の分際で十階級も上の准将を待たせるなんて、縦社会の海軍ではとても許されない。頭を下げた俺に対して准将は、笑って手を振って気にしていないと言ってくれた。それでも、という俺に対して、中将が待っているから、と笑顔を浮かべながら執務室の扉を上げてくれた。

 そこにはいつも通り仏頂面のサカズキ中将がいた。中将が手招きすると、いつもはそこで出て行ってしまう准将が室内に入ってきて、綺麗に包装された紙袋を一つを中将に渡した。

 

「伍長からは私服でおられるけんのぅ、昇進祝いじゃ。受け取れぇ」

 

 そう言うと、中将は准将から手渡された紙袋をこっちに放り投げてきた。突然投げられた紙袋をなんとかキャッチすると、准将はニヤニヤと笑いながら自分の持っていた紙箱を渡してくれた。

 

「中将はあんまり素直な方じゃないので、言葉通りに受け取らないこと、イイネ?それとこっちは私からの昇進祝いだよ。」

 

 受け取ると、准将が開けてみるように促してきたので、中将の紙袋から開けてみる。するとそこには、中将がいつも着ているワインレッドのシャツが、三着ほど入っていた。ヤーさんな雰囲気の一品だが、俺自身は好きな色合いで欲しいなと思っていたものなので素直に感謝と喜んでいることを伝えた。

 

「ありがとうございます!中将の着ているこのシャツ格好いいなって思ってたんですよ!!」

 

 そう伝えると准将は、またニヤニヤ笑いを浮かべて中将を見た。

 

「良かったじゃないですかサカズキ中将。わざわざオーダーメイドした甲斐がありましたね!」

 

 なんと、オーダーメイドらしい。そりゃ確かに十歳の子供に着せる用のワインレッド色のYシャツがあるはずないが、誕生日祝いという概念がないこの世界で初めてのプレゼントが結構手間隙かかったものと知ると凄く嬉しくなった。

 つづいて准将の紙箱を開けてみると、入っていたのは武田信玄がつけていたような顔半分を隠すくらいの大きさの赤い鬼の面だった。面の後ろ部分には、歌舞伎役者が頭を振り回すときに付けているような赤いかつらがついている。この面にはセットでボクシングで使うようなヘッドギア(つまり、NARUT○で二代目が付けていたようなもの)がついていて、それにカチリとはめることが出来る。そうすると、激しい運動をしても取れなくなるらしい。ウソップのゴーグルのように、面だけを上にずらす事も出来る。

 准将いわく、これもオーダーメイドで、わざわざ俺の二つ名に合うように作ってくれたのだそうだ。なかなかに威圧感のある面だから、これを付けていればガキだからってなめてくるような奴も減るだろう、という算段もあるらしい。

 

「本当に!本当にありがとうございます!!絶対に大事にしますね!」

 

 こちらにも微笑みながら、しっかり感謝する。Yシャツもそうだったが、こちらの面に関しても面に使う樹の材質からこだわって選んだものらしい。

 

 

 

 

 その後、中将に言われて海に出る用の私服を買ってくるように言われたのだが、一人じゃ不安ということで准将も一緒についてきてくれることになった。

 

「トビラマ君、コートを見に行きませんか?海での体温調節は必須ですからね!」

 

 と准将が言うので、准将おススメの上着専門店に行くことになった。准将は、支部から本部に転属になったこともあって、趣味はマリンフォード巡りなんだそうだ。

 

 

 

キャサリン上着専門店

 

 

 

 ある意味、お約束といえるのかもしれない。けれど、実際に遭遇したくなかったお約束に俺は、殺意を抑えることが出来なかった。何故なら……

 

「あっら~ん、イイネちゃんじゃないのよん!もうっ、最近全然来てくれないから、キャサリン寂しかったのよぉ?」

 

 身体をくねらせながら理解出来ない言語を話すこの目の前の怪物のせいである。女言葉かどうかさえ怪しい言葉で話す怪物は、筋骨隆々で浅黒い肌をして、体長は三メートルほどはありそうである。毛皮で作ったと思われる短い腰巻を巻き、腹筋を見せ付けるように毛皮で作ったコートだけを羽織っている。インナーなど着ていない。俺は前世のこともあって、オカマにはある一定の理解があると思っている。だが、これは無理だ。キツイ、自然系の俺が視覚だけで殺されかけているということで、こいつの危険度は分かってもらえると思う。

 

「あらっ?!まぁ、可愛い子連れちゃって!イイネちゃんいつ子供なんて作ったのよぉ?もう式は挙げたの?何で呼んでくれないのよぉ?」

 

「あぁ、この子は僕の子じゃないよ。最近、昇進したから忙しくてね。あぁ、この子の上着を見繕ってもらえるかな?」

 

 この目の前の化物に勇敢に立ち向かう准将の姿に感動した。恐慌状態に陥ることなく、冷静に対処するその姿はまさに、一軍の将であるといえる。

 目の前の怪物が動き、俺の目の前で停止した。それだけで俺は動くことが出来なかった。怪物によって俺は影を縫いつけられてしまったのかもしれない。このまま、ここで喰われてしまう。

 そう覚悟したとき、怪物が俺を視界からはずし、イイネ准将へと向き直った。

 

「この子、ウブなのね。可愛いわぁ、フフ。この子に似合いそうなのが一着あるけれど、勝手に決めちゃっていいのかしら?」

 

「そうだね、あんまり派手でなければ誰も文句は言わないよ。」

 

 准将が怪物に呪文を唱えると、怪物は諦めたのか後方に退散していった。

 

 と思ったのだが、もう一匹いたのか同じ種類の怪物が現れた。さすがにヤバイと思ったのか、准将は怪物にお札を渡すと、ボスドロップと思われる黒いコートを受け取り、ダンジョンの外へと出た。怪物はダンジョンの外には出てこれないようだった。

 

「はい、どうぞ。彼女は、見た目はあんなんだけど、心は可愛らしい乙女だから、あんまり酷いことは言わないであげてね。」

 

 やはり准将も心に深いダメージを受けていたのだろう。最後になぜか、味方であるはずの俺にも、精神汚染系の呪文を唱えてきた。

 

 二人で近くの喫茶店で精神の安定を図ってから、ズボンを買いにいった。こちらに関しては、前の店が何だったのかと思うくらい、スムーズに終わった。インナーがYシャツなので、下はスラックスを買うことにしたのだが、やはり俺の体躯に合うものは無くて、オーダーメイドということになった。

 ホントはオーダーメイドなんてもの凄く時間がかかるものなのだが、イイネ准将の弟子だと知ると出来る限り急いでくれることになり、なんと三日で仕上げてくれるらしい。その代わり、材質の指定は出来ないということだった。

 一週間くらいは、配属先が決まらないから、出港するころにはフル装備できるだろう、と准将に言われた。

 

 

 

 今日一日、濃すぎて大変だったけど、准将の凄いところをいっぱい知ることが出来てなんだか、幸せだった。早く出世して、准将の副官になって恩返しをする。それが俺の今の目標だ。明日からもっと頑張ろう。




 コメント、評価お待ちしてます。

 希望があったら、他の人視点もやろうかなと思っています。

 それでは


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第九話

大変遅くなりました!!

なるべく更新続けていきますので、これからも応援よろしくお願いします!


 あれからいつもの日常を過ごした。一般人としての生を過ごすことができるのは、この一週間が最後になる。これからは海軍の一員として、「悪」と戦わなければいけない。そんな悩みを打ち消す為に、一生懸命に鍛錬に取り組めば一週間はあっという間に過ぎ去った。

 

 そして昨日、海軍本部より辞令が下った。俺が伍長として乗る船は、「徹底的な正義」を掲げるサカズキ中将の船だった。イイネ准将からチラッと聞いた話によると、基本的に海軍本部のまわりを巡回する大将の船よりも、サカズキ中将の船に乗って戦闘経験を積んで、実績をたくさん挙げることで早く昇進してもらいたいという思いがあるらしい。というのも、近年中将・大将の高齢化が進んでいるらしく、代えの戦力を早く用意する。それが上層部の認識らしい。

 ただ、肝心のサカズキ中将は今回の船には乗っていないらしい。その代わり、イイネ准将が艦長として乗艦し、指揮を執る予定らしい。イイネ准将も俺と同じように、上層部の期待の星でそろそろ少将へ推薦がされるらしく、そのための実績作りでもあるそうだ。

 

「今回この船の艦長となったイイネ准将である!諸君らの働きに期待する、イイネ?次に、今回よりしばらくこの船で働くトビラマ伍長よりあいさつ!」

 

 改めて見てもでかい軍艦に乗り込むと、すぐに召集がかかりイイネ准将の挨拶が始まった。今回新たに、この船に乗り込むのは俺しかいなかった。まぁ、いきなり上級将官の船に乗り込むことなどそうそうありえず、配置換えの時期でもない今の時期では仕方の無いことである。

 

「えー、トビラマ伍長です。まだ船に不慣れなところもありますので、先輩方に色々と教えてもらいたいと思います。よろしくお願いします。」

 

 とりあえず丁寧に挨拶をする。というのも、やはりサカズキ中将の孫であることを知る者が多いこの船、「親の七光り」と必要以上にいじめられる可能性もあるからである。第一印象で可愛い後輩とでも思わせておけば、かなり効果的であるはずだ。まぁ、一等兵や同格の伍長の一部の方々には効果ないと思うけど……。

 ここに集まっている海兵の中で、俺より若い海兵など一人もおらず、俺の次に若いと思われる人(外見での判断)は18くらいのようである。けれども俺よりも低い階級の人は大勢存在している。

 海軍と云う場所は案外シビアで、実力が無ければどれだけ長く海軍に在籍していようとも、階級が上がることは原則ありえない。(たまに、事務能力が評価されて、階級が上がる場合がある。その場合、海軍の軍人ではなくなり、海軍一級事務みたいな肩書きになる。)この世界は努力をすればそれに見合った結果が返ってくることが多い。だがそれも、絶対ではない。どれだけ修練しようとも、その結果が確実に実るとはいえないのだ。だから、上を目指しながらも心の何処かで諦めてしまっている人間からすれば、わずか十歳にして伍長の俺へ妬み嫉みをぶつけてくることは考えられないことではない。

 

 しかし、反応は上々とはいえないまでも、スムーズに受け入れられたようだった。この船に乗る海兵のほとんどがにこやかに受け入れてくれたという事実は、正しくその上官であるサカズキ中将が優秀であるという事実に直結するのだろう。(後日、聞いた話なのだが、他の中将の船の中でもサカズキ中将の船はエリートを輩出する船として有名で、サカズキ中将の信念の下海賊を補足しては殲滅するこの船は、乗れば実力と実績評価が上がるから他人に嫉妬する必要も暇も無いのだそうだ。)まぁ、こんな身内褒めはこのくらいにして、と。

 

 航海である!しかも、海兵として初の航海!テンションはうなぎのぼりどころじゃなくて、直角に昇っていっていた……

 

 

 ……のだが、漫画ではあんまり詳しく描かれていなかったので甘く見ていたが、元の世界の航海よりもこちらの航海のほうが遥かに厳しい。船は基本木製だし、「偉大なる航路」付近を巡回するので、天候は数分で変化することもある。そして、もちろん風呂など無いから汗を流すのも普段は難しい。海王類が出れば休憩中の者も関係なく撃退に借り出される。もちろん、能力者の俺からすれば海王類との戦闘も海賊との戦闘(幹部や船長は手柄を求める先輩海兵や上級仕官の方々が俺が手を出す暇も無く刈ってしまうので、俺の海賊との戦闘というのは下っ端の名前など誰も知らないような戦闘員相手だけだった。だからここでは割愛させてもらう。)もほとんど問題ない。だがこの船が一ヶ月の航海を終えたとき、俺は自室で寝込んでいた。十歳児の俺の体力は過酷な海の上での生活、ゆっくりと心休まることのない環境、清潔とはいいがたい環境。それらによって、体調をみるみるうちに崩してしまい、もうすでに一週間もこの部屋から出ることはおろか、立ち上がることすらもままならない。最初は俺を馬鹿にしていた同階級の年上伍長や、一等兵たちもいつまで経っても一向によくならない俺に罪悪感みたいなものを持ち始めたらしく、最後の三日間はこの船の船員全員が俺の自室に見舞いに来るほどだった。

 

 軍艦がマリンフォードにつくと、俺はイイネ准将に抱えられてすぐさま医務室へと連れて行かれた。もちろん軍艦にも医務室はあるし、船医は常駐しているし、しっかり診療してもらった。結果は「ただの船酔い」である。ただ、この船に乗っているのは海と共に生きてきた男たちであり、もちろん船酔いがどんなものか経験で知っている。だからこそ、こんなにひどい船酔いがあるわけが無い、と船長のイイネ准将へ抗議が殺到し、ならばもうすぐ着く本部の医務室でも診療してもらおうということになったのである。

 海軍本部の中でもかなりの大きさを持つ医務室に着いた。ちょうど他の軍艦の帰港と被らなかったのか先客はいない。

 

「すまないが、この子を診てもらえるかね?」

 

 イイネ准将が声を室内にかけると、ガタッという椅子から立ち上がる音と共に、小柄な老人が現れた。海軍本部にいる医者は基本的に第一線を退いた船医が普通であり、若くても四十、五十を超えていることが多い。

 

「ふむ、そこに寝かせなさい。うん、ゆっくりな!」

 

 ゆっくりと医者が示した簡易ベッドに寝かされ、触診と問診を終えると医者は「船酔いですな」と微笑を浮かべながら頷いた。

 

「船酔い……ですか?でも、もう一週間も寝たままだったんですよ?四歳の時の航海ではこんなこと無かったのに!」

 

 准将の言葉に俺も頷く。六年ほど前の航海では、閉じ込められていたがそうでなかったら走り回れるくらいに元気だったのだから。

 

「ふむ、まぁそんなことは知らんがの。そうじゃ、見る限りだいぶひどい船酔い持ちのようじゃからな、もしかしたらこれから航海に出るたびにこんな船酔いになるかも分からんぞ。」

 

 良くも悪くも成長した、ということなんだろうか?いや、成長とはいえないか。

 しかし、これからずっとこんな船酔いと付き合っていくことになるんだろうか?それは海兵としてかなり終わっている気がする。准将もなんともいえない表情をしているのが分かる。

 

「治すことは出来ませんか?」

 

 無理と分かっていながらも、一縷の希望をかけて聞いてみた。

 

「まぁ、無理じゃのう。サイボーグにでもなるなら別じゃろうがな」

 

 そう言うと、老医者はホッホッホと愉快そうに笑いながら、奥へと引っ込んでしまった。俺を立たせ、入り口の方を指し示したまま。

 呆然と立ち尽くす俺らをその場に置き去りにして……。




コメント、感想お待ちしております!!


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第十話

 どうぞ!


 「船酔い」の宣言を受けてから、もう一年が過ぎ去った。イイネ准将はサカズキ中将付きを外れて、自分の戦艦を持ち順調に出世街道を走っているらしい。誰かの噂によると、上層部の方はもうそろそろ少将へと、昇進させる動きが起こり始めたらしい。後は箔付けに大きな仕事をこなしてもらって……ということなので、年内には少将への昇進が決まるらしい。

 

 俺はというと、二つ階級を上げ曹長になっている。船酔いで航海中はまともに立つこともできない俺が、たった一年で二つも階級を上げられたのは、伍長の仕事内容と新たな戦闘方法を確立させられたことにある。伍長は小隊長のような立場であり、一等兵やら二等兵やらを使う中間管理職的な階級である。つまり、俺自身が積極的に動く必要がないということで、ほぼ直立姿勢でしかいられない俺でも仕事になったのである。そしてもう一つの戦闘方法とは、月歩で船から浮かび能力で圧倒するというハメ技的な姑息な戦い方である。白兵戦以外では、もっぱらこの方法である。こうして月歩を必然的に使い続けた結果、俺の月歩は中将階級の人と比べられるくらい綺麗である。かなり小さな動きですむようになり、まるで何もせず浮いているように見えるし、体力の消耗もだいぶ少なくなった。

 海兵たちとも大分馴染んだ。その結果、「トビ」なる愛称までつけてもらった。トビラマという名前は長いので戦闘中など、呼びづらかったらしい。(ぐるぐるの仮面を作るべきか悩んだが、誰も理解してくれないのは分かっているので、理性を働かしてやめておいた。)「トビ」の愛称が徐々に浸透して行くにしたがって、サカズキ中将とイイネ准将までもが呼び始めたのにはびっくりした。

 

 

 

 帰還。

 

 その報告が俺たちに伝えられたのは、この戦艦が出航してから一週間ほどのことであった。サカズキ中将は普段帰還命令が出てもお最低でも二週間は巡洋を続ける人だった。だから、これはマリンフォードで何か合ったに違いないと、何の情報網も持たない俺たち海兵は結論付けた。そしてそれは確かであると、誰もが理解していた。というのも帰還の命令を出してからのサカズキ中将の顔は、悪鬼そのものであったし(何も知らぬ一般人なら悪逆非道な海賊に間違われたとしても、誰も抗議しないどころか納得してしまいそうである。)海賊とおぼしき船影を遠くに見つければ、即座に大噴火で沈めてしまう。伝令がその報告をするよりも先に、である。普段のサカズキ中将であれば、部下を育てる為に極力自分から手出しをすることは無い。(海賊が三億を超えているような場合はまた別だが……)それは、階級が上がりやすいこの船だから、できるだけたくさんの経験を積ませてやりたいという、中将の親心からなのだそうだ。その中将がここまでなるのには相応の訳がある、ということである。

 胸騒ぎがする。嫌な想像が頭を巡るし、どこと無くそれが事実であると思ってしまっている自分がいる。いや、客観的に見るならばそれは確実なのかも知れない。漠然とした不安が、黒く重い雲のように、俺に圧し掛かるかのように……。

 行きは一週間かけた道のりを、たったの二日で引き返したのは、中将の必死さと中将の部下の本気を表していた。

 

 そんな超特急で帰港した俺たちを出迎えたのは異様な集団だった。誰一人として、海軍のコート、制服を身に着けている者がおらず、全員が黒いスーツを身に纏っている。その集団の中から一人のちょび髭を生やした男が歩み出てきた。

 

「これはこれは、お早いお帰りですなぁ、サカズキ中将殿。ささ、早くこちらへ降りてきていただけるかな?」

 

 いけ好かない奴だった。ニヤニヤと薄ら笑いを浮かべ、目には嘲りの色が浮かんでいる。声音から中将を馬鹿にする響きも感じ取れる。慇懃な言葉とは裏腹に、どこまでも中将を馬鹿にしていた。

 俺が一歩前に出て奴に怒鳴りつけようとするのと、サカズキ中将が俺の腕を掴むのは同時であった。

 

「わしに、世界政府の高官様が何の御用じゃ?」

 

 その言葉に俺はハッとする。この世界でスーツを集団で着用するものなんてそうそういない。それこそ、世界政府くらいのもだろう。

 中将の顔は陰になっていてよく見えなかったが、その声が明らかに怒気を含んでいるのは分かった。

 世界政府、イイネ准将の昇進、大きな仕事、中将の怒り、緊急帰還命令。俺の中でいくつかのピースが少しずつはまっていく……。サァーッと血の気が引いていくのが分かる。

 

「ムフフ、大罪人の処刑をあなたが見たいというから、十日も日付を伸ばして差し上げたのですよ?しかし、弟子の処刑を生で見たいとは、サカズキ中将は良い趣味をしていらっしゃいますよ、ええ。ムフフ」

 

 何も聞こえない、聞きたくない。

 

「いいから、はよう案内せんか」

 

 中将がこちらを向く。

 

「トビ、お前も来んさい。」

 

 聞きたくない言葉はどんどん俺へと流れ込んでくる。俺の意志はダムにすらなりえない。

 聞きたくない、何も何も何も……。

 

 いきなり胸倉を掴まれて上へと持ち上げられた。眼前には顔を紫色に変え、怒りを極限にまで堪えている中将がいた。

 

「ええか?よう聞け!!聡いお前のことだ、何が起きたのか、これから何が起ころうとしているのかお前にはわかっとるんだろう。頭のいいやつってのは、それが分かってるから逃げ道を見つけるのも簡単だろう。だが、ここで逃げ道を作ってみろ?わしはお前をここで殺しちゃる。

 どんなに辛いこと、苦しいこと、悲しいこと、やりきれないこと、それが目の前の道の先にあると分かっていても、逃げ出しちゃいけない時がある!それは愛しいものを失くすと分かっている時だ!!その時ばかりは、目を背けちゃいかん!!お前がその人の最期から目を逸らしちまったら、そいつの今までの全てごみくずになっちまう。お前がそいつを愛しているのなら!そいつの最期を見てその死をお前が背負ってやらにゃいけない……。お前が正義を背負うなら、例え何があったとしても……いいな?」

 

 世界政府の高官に聞こえぬように小さくそれでありながら、乱暴に愛の込められた言葉は俺の中に暴力的に染み込んだ。決意を決めた。俺はこれから命の散る場面を多く見ることになるだろう。俺が散らせることも大いに違いない。でも躊躇も遠慮もなく、蹂躙しよう。そうして静まり返ったその場所で、散った命を背負い込もう。

 だから、頷いた。俺は俺の愛するその人の最期を最初に背負い込む為に、一歩を踏み出したのだ。

 

 

 俺の大事な師匠は、粗末な服を着せられて処刑台に鎖で繋がれていた。そのすぐそばには、場違いなほど豪華絢爛な物見台が置かれていた。十中八九、天竜人が座る席だろう。

 

「では、この私がことのあらましをご説明いたしますわ。大罪人であるイイネは、シャボンディ諸島において天竜人様の護衛任務という大変光栄な任に就きながら、天竜人様に反旗を翻し、天竜人様に手を上げたのでございます。幸い、世界政府の役人たちが迅速に沈黙させましたので、天竜人様は無傷でございました。このことに天竜人様はお怒りになられましたが、なんと慈悲深いことに、大罪人の身分の剥奪、墓を造ることの禁止、海軍で大々的に処刑することで、お許しになられると言うことでございますわ。」

 

 目の前のガマガエルのような容姿をして、癇に障る甘ったるい媚びるような声を上げる世界政府の高官が、本当に素晴らしいことのように語った。話しながらも、こちらをチラチラと窺っていたことで、現在大変な吐き気を催している。

 

「これより、大罪人イイネ・グッデストの処刑を執り行う!」

 

 処刑台の上で、海軍のセンゴク元帥が声を張り上げた。元帥が准将の近くで何か囁いているように見える。きっと「何か言い残すことは?」みたいな感じだと思う。

 准将は静かに首を横に振ると、ギロチンの下に自ら首を置いた。もう覚悟は決まっていたのだろう。

 元帥は一度俯き、手を振り下ろした。と、同時に、ギロチンが走る。鮮血が舞う。首はゴトリと音をたて、綺麗な断面をこちらに向けた。静かにゆっくり、息を吐き出す。

 

「ほれ、はようこっちへ首をもってくるんだえ~」

 

 場違いなほど能天気な声が処刑場に響いた。天竜人である。海兵が訳も分からずといった様子で首を抱えて、天竜人の物見台の前に置いた。すると、シュルシュルと音が鳴り、天竜人が出てきた。

 置かれた首を持ち上げ、下に叩き付けた!懐から銃を抜き頭に何発も発射する!弾が切れると、何度も!何度も!踏みつけた!!

 

 その瞬間、何かが弾け……

 

「ヤメロォォォォォォォォォ!!!」

 

 世界は沈黙した。

 ガマガエルもいけ好かない高官も、そばにいた役人も、准将の頭を踏みつけていた天竜人も、周りを取り囲んでいた海兵も白目をむいて倒れた。

 そうして、驚くセンゴク元帥と三大将、サカズキ中将の顔を見ながら、俺の意識も遠ざかっていった……。




次回は、イイネ准将が処刑に至るまでの話を考えています。外伝になるのかな?分かりませんが、なるべく早く投稿したいと思います。

読んでいただいてありがとうございました。


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第十一話 イイネ外伝

今回は、前回処刑されたイイネの過去編となっています。残酷な描写や胸糞悪い描写も多いので、苦手な方は読まれないほうが良いかもしれません。
読まなくても本編には変わりありません。


目の前のセンゴク元帥の腕が振り下ろされた。ここで僕の命の余命は後数瞬、といったところだろう。そうやって自分の死を自覚すると、生まれてからの記憶が駆け抜けるように流れていく。「ああ、これが走馬灯か」思考速度が速くなっているのだろう、落ちてくるギロチンの綱の擦れる音がゆっくりと聞こえている……。

 

 

 

 

 

 その記憶は、まだ僕が東の海で父さんと母さんと幸せに暮らしていた頃。僕の父さんは、東の海のとある町で自警団の団長を任されていた。普段は小さな道場で少ない門下生を相手に指導しているか、自分自身を鍛えているかという真面目な父さんはこの町の人ではない。その昔、自身の考案した体術を世に広めようと、海賊の下っ端をしていたそうだ。ところが、補給にきたこの町で母さんを見初めて、海賊からサッパリ足を洗って道場を開いたのだそうだ。

 そんな余所者の父さんがこの町で自警団の団長を任されたのは、何も町民に頼まれたからではなく、この町で一番強いからでもない。元とはいえ、海賊であった自分のせいで、自分の妻や息子が町の人から疎まれないように、大海賊時代という無法の時代の中でも特に命の危険のある自警団の団長を買って出ることで、町の一員として認めてもらおうとしていたのだ。それは成功し、僕らは町の一員になることができた。しかしそれからしばらくして、父さんは、町の多くの人とともに殺された。「偉大なる航路」から命からがら逃れてきた父さんの元海賊仲間の手によって……。

 それからは地獄だった。お店に行けば何も売ってもらえないだけではない、品物に触ろうものならば泥棒扱いされ叩きのめされる。道を歩けば白い目で見られ、何も知らないような幼い子にも石を投げつけられる。

 そんな僕が、町を救ってくれた寮のある海軍に入隊したのは当然のことだったと思う。ある程度父さんの道場で鍛えていたとはいえ、護身用の武術、しかも我流の体術は武術としての完成度が低かった。今主流の武術とは使う筋肉が違うこともあって、入隊してからのしばらくは訓練についていけるように訓練の後に自主練習をしては泥のように眠るという毎日だった。そうして僕が海軍に入隊して訓練にようやくついていけるようになった頃、僕の元へ訃報が届いた。家に火が点けられ、母さんが死んだのだと言う。しかも母さんは、その家の中で縛られていて身動きも取れないままその身を焼かれたのだそうだ。僕に手紙を送ってくれた海軍支部の人が町の人に聞いた話によると、それをしたのは名も知らぬ海賊だったそうだ(後で知ったことだがこのとき、海軍支部に海賊が出たという話はなく、父が死に、僕のいなくなった後、人妻とは思えない母にしつこく言い寄る町の人がいたのだそうだ。)

 

 

 

 

 

 それからはがむしゃらに努力した。海賊は「悪」だから、徹底的に懲らしめた。どんな悪も懲らしめることが出来るように鍛錬で一切手を抜くようなことはしなかった。父の未完成の我流の武術は、他の多くの武術を学び、それらと重ね合わせていくことで、一つの理想形を見ることが出来た。今はまだ理想でしかないが、無能力者の僕が能力者の「悪」を懲らしめていく為には、その理想に到達し超えるしかない。一度だけ見た四皇の一人「赤髪」は僕と同じ能力者でありながら、その戦闘能力は下手な能力者を軽く超越していた。海軍で言うのなら「英雄」であろうか?彼も無能力者でありながら、戦闘能力において自然系悪魔の実の能力者である三大将に匹敵すると伝え聞いている。僕も頑張らなくては……。

 

 

 

 

 

 身も心も未だに震えている。これは武者震いだ、歓喜から来る震えだ。海軍支部の視察に来ていた海軍本部サカズキ中将にスカウトされ、明日には僕はサカズキ中将直轄の部下になるのだ。サカズキ中将は僕の目指す徹底的正義を体現した人であり、その掲げる正義に相応しく次期大将と目される人である。いつかいつかと、本部へ行き悪逆非道の海賊たちを懲らしめようという思いは持っていたが、媚びることの上手くない僕は上司に嫌われ、上手く出世のチャンスを掴むことができないでいた。実力で言えば、僕はここの支部の誰にも負けるとは思わなかったが、任される海賊が数百万程度では、いくら捕縛しようとも所詮は弱い犬が吠えているだけになってしまう。それでも僕は諦めなかった。町の人のために命を懸けた父のせいで僕と母が辛い目にあったのは、「偉大なる航路」落ちの海賊に殺されるほど父が弱かったからだ。母が何者かに無残にも殺されたのは、無駄にプライドだけが高く父が死に、僕がいなくなっても誰に頼ることもなく立ち続けたからで、自分自身を護ることも出来ないほど弱かったからだ。この世界の一番の価値はお金でも愛でも家族の絆でもない、強さだ、力だ。何に縋ることもなく立ち続けられる強さだ、どんな妨害をも物ともしない強さだ。

 だから僕はどんな時も自分自身を鍛え続けた。海賊王になる必要はない。必要なものは強くなりさえすればおのずと手に入る。そのためには強くなければいけないのだ。「何よりも強く」それがいつしか僕の信念で、覚悟になっていた。

 

 

 

 

 

 サカズキ中将の船に乗ることができるようになって少し経ち、サカズキ中将が僕を指名した理由が武装色の覇気の片鱗が見えたからだという理由を知ったときは、少し哀しくなったが、それからは先輩の覇気使いの海兵の方に指南してもらって、覇気を使えるように訓練を始めた。三つある覇気のうち、才能がなくては使うことの出来ない覇王色の覇気はやはりというべきか僕には備わっていなかった。残った二つのうち僕は、武装色の覇気にすごく偏っているのだそうで、見聞色の覇気を使えるようにするのはとても大変なんだそうだ。

 

 

 

 

 

 しばらくすると僕は、サカズキ中将の船を降ろされた。何か問題を起こしたわけではないが、サカズキ中将とは違った考えを持つ他の中将の方の船に出向いて、半年から一年ほど同じように仕事をして欲しいとの事だった。元帥からの辞令に異議を唱えるわけにもいかず、出向いたのは本部海兵の中でも有名な仕事をしない海兵こと、クザン中将であった。そこで学んだのは、書類仕事の効率を上げる方法と現場に最高指揮官がいない場合の指揮の仕方というある意味、サカズキ中将の下では学べないことだった。

 約束どおり一年後、とは寄港した町に海賊が出たりと中々予定通りには進まず、一年半後にサカズキ中将の船へと戻ることが出来た。クザン中将からのお詫びなのか、大佐への推薦書をクザン中将とサカズキ中将の両名からのサイン付きでもらい、すぐに辞令が出て大佐への昇進が決まった。

 

 

 

 

 それから幾年か経って、僕がサカズキ中将の副官となった頃、サカズキ中将に本部から直通でデンデン虫があり、いつもとは違う焦りイライラした様子のサカズキ中将の命令により、ワノクニ周辺の島へと行くことになった。そこは数日前に、海賊によって襲撃を受け壊滅状態になったということだった。

 そこで保護した子供は、サカズキ中将のお孫さんということだったが、その目の奥は子供には相応しくないほど暗く濁っていた。母親を殺されたらしいので、きっと復讐を考えているんだろう。僕に出来るのは彼を強く育てることだけだ。

 

 

 

 

 

 彼と過ごす時間は本当に楽しい。彼の才能には嫉妬することもあるが、それよりも彼を育てることは楽しいし、いつか強くなった彼と戦うことを考えながら鍛錬する日々は、いつも以上に充実していて、僕の鍛錬にも力が入る。まだまだ彼に負けない為にも僕は強くなくてはならない。

 

 

 

 

 

 サカズキ中将から准将への推薦が来ているということを聞いた。すでに上層部の間では内定しているということも。だから、箔付けのために簡単で名誉な仕事、つまり、天竜人の護衛任務に就かされるだろうという事も。

 

 

 

 

 

 たった一日の簡単な仕事のはずだった。シャボンディ諸島に降りてこられた天竜人様を半日ほど護衛する。逆らう者もいない簡単な仕事のはずだった。

 彼等の横暴な行動が許せるのであれば……。

 それでも我慢を続けた。手を出すわけにはいかなかった。僕を慕ってくれる弟子の為にも、尊敬する中将への恩返しの為にも。

 

 護衛対象のチャーチル聖が一人の女の前に立ち止まり、顔を上げるように声をかけた。

 

「そこの女、顔を上げるのだえ」

 

 僕ら海兵はただひたすらこの時間が何も起こらずに過ぎ去ることを願った。ほとんどの海兵は、自らの正義の為に、海軍に入ったものばっかりだ。そんな彼らがこんなクズ共を護衛し、真に護るべき市民を見殺しにしなければならないこの現状は、ストレスがたまるだけではない。自分自身が許せなくなる、自分が何のために海軍に入ったのかさえも分からなくなる。天竜人護衛任務に就いた海兵の自殺率が高いのも頷ける。

 

 顔を上げた女の顔は何の因果か僕の母にそっくりだった。顔はもちろんのこと、気位の高そうな目も、震えていながらも気丈に振舞う姿はなんともいえないほど美しかった。それは如何に醜い彼とて分かるらしい。

 

「よぉし、気に入ったぞえ。ワシの妻にしてやるえ」

 

「では、第十五夫人となります」

 

 世界政府の役人が当然のことのように、相槌を打つ。

 

「お、お待ちください!私には愛する夫がおります!どうか!どうかお見逃しください!!」

 

 母に似た女は、天竜人の恐ろしさを知らないのか、知っていながらもこの振る舞いなのかは私には分からなかったが、その対応は沸点も知力も低い彼を怒らせるのに充分であった。

 

「き、キサマ、ワシが誰か知っておるのか?!ええい!!」

 

 クズは醜く肥え太った肉体に巻かれたベルトから銃を取り出し、彼女へ発砲した。そう気付いた時には僕の身体は動いてしまっていた。鉄塊で銃弾を弾き、邪魔をしようとした世界政府の役人を拳砲で吹き飛ばす。ようやく状況を理解しようとしているクズを拳衝で眠らせた。

 

「ごめんよ、トビラマ君。すいません、サカズキ中将」

 

 そう呟きながら……。



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