世界の父 (Drac)
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序章
前世


 彼は機械(ロボット)が大好きだった。それこそ小学生の頃から身の回りのものをいじり始めて、まだふらふらと遊んでいたい中学生になった頃には進路を決めて地道に努力をしていた。その理由はひとえに機械(ロボット)が作りたかったからだ。

 そうして彼は進学してゆき、無事大手メーカーの開発部への就職が決まった。彼は身を粉にして働いた。しかし彼が心のそこから満たされることはなかった。なぜなら彼は機会が好きだが最も好きだったのはロボット―もっといえば映像作品等の...俗に2次元等と呼ばれるものに登場する巨大人型兵器等―だったのだ。だから沢山の機械を創ったりできるこの仕事が好きであると同時に機械(ロボット)に触れることがないことに若干の苛立ちを覚えていた。

 それゆえか休日は趣味に没頭するようになった。人型兵器のプラモデルを組み立てたり、その内部にモーターなどを仕込んで少しばかり動かせるようにしたり光らせたりだ。休日に合うと何徹もした死人のような目でいる時があったのではじめのうちは同僚達が程々にしろと止めていたのだがそのうちある程度は好きにさせるのがいちばんと放っておくようになった。

 やらせていないとあからさまに仕事効率が落ちたからだ。さらにその趣味からの発想がなかなか馬鹿にできないものばかりだったからだ。実際彼の提案で商品化にこぎつけたものも少なくない。それに彼も同僚や家族から叱られたことで少しばかり反省し毎日しっかりと睡眠をとるように心がけるようになった。

 そうしてやはり少将の不満を抱えつつも十分と言えるほど幸せな日々を送れていた。あえて言うならば機械1筋だったためこの年まで浮ついた話がひとつもないということだ。

 そんなある日、彼は事故にあって死亡した。趣味に使用する部品などが足りなくなっていたため買い物に行っていた途中居眠り運転をしていた車にはねられた。たくさんの未練を残しながら...

 

 

 

 こうして彼の物語は幕を閉じた...

 

 かに思われたが彼の物語はまだ続く、いや、これからが本編と言えるほどの濃厚な物語となる。

 彼は死してなおその魂は天に召されることは無かった。彼の魂は名もない世界、魔獣に生活圏を追いやられた人類の元へと誘われた。

 その世界は数こそ少ないが複数種類の人類が過ごす。あるものは耳が長く魔に長け、またあるものは背は小さいが肩幅が広く力強い。彼のいた世界ではそんな彼らをエルフやドヴェルグなどと呼ぶのだろう。彼はそんな中のアルヴへと生まれ変わる。

 彼が起こした歴史は世界に刃を立てる行為だったのかもしれない。しかしそれは後の世のための必然だったのかもしれない。



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とある少年

 昔も昔、西方歴の名もない頃の話、ある男の子は白色の糸の束と使い物にならなくなって捨てられたのであろう金属片の塊で遊んで(実験して)いた。その隣には前に遊んだであろう、半ばで折れた木が乱雑に置かれていた。子供のすることだと誰もが放っていたが、気味が悪いというのだろうか、今では折れて原形を保てていないそれは、まるで巨大な人の腕のような形をしていたのだ。

 そして今男の子が遊んでいるそれもおかしなことがあった。前記のように今彼の目の前にあるのは金属片の「塊」なのだ。そこには先程あげた白い糸以外は何もついていない。金属同士をくっつけるには強力な接着剤や融点の低い金属で接着したり強い圧力などが必要だが、この場には熱も圧力も出せるものはない。それは魔法であっても不可能なことだ。

 そうこの世界には魔法が存在する。それは特定の記号の組み合わせで示され、脳内にあるとされる仮想演算領域―魔導演算領域(マギウスサーキット)―で処理・発動する。個人など及ばないほどの力を有するがそれでも金属を砕くことは出来れどくっつけるほどの力は出せず、できたとしても人の及ばない制御能力がなければ不可能だ。

 さらには徒人やドワーフは体内に触媒結晶が存在しない。魔法は触媒となる結晶がなければどれだけ演算しようと発動しない。それゆえ魔法を使うためには杖などで外部に触媒を用意しなければならない。しかし彼はそんなものは持っていない。それどころか彼は普通の人にはない特徴があった。他二つの種族には見られない長い耳があった。彼はに種族とは異なり体内に触媒を持つアルヴだったのだ。

 そんな彼でもそんな魔法は使えない。それでも金属片は1つ...いや2つ(・・)の塊となっている。理由は意外と単純で複数の金属片を一つの存在と定義して硬化させる―彼は便宜上硬化魔法と呼んでいる―強化系の魔法を使用しているのだ。それは本来一つでないものを無理やり固定しているため決して効率的ではないが鍛冶ができず、大人達には理解されない彼には最善の方法であったといえよう。

 なぜ彼がこんなことをしているのか、それを説明するためには少し時間を遡らなければならない。

 彼が生まれたのは今から10年ほど前になる。

 

 

 僕はどうなったんだろう。

 まどろむ意識の中僕は必死に思い出した。僕はさっき車にはねられた。でもそこからの記憶が無い。目を開けると母親らしき人が見えたがおかしなことがあった。耳が異様に長かったのだ。



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この世界

 それから数年の時が過ぎた。

 え?いきなりだって?うるさい馬鹿野郎。お前は父と母のあれこれとか隣の部屋で躊躇なしに聞かされる身になったことがあるのか。誰もそんな時から覚えてるなんて思ってないからすごかったよ...

 まぁそのへんは置いといて僕は異世界に転生したらしい。この国では三つの種族が暮らしている。僕が前暮らしていた世界の人間のような人―僕達は徒人と呼んでいる―とその近縁種とされるドワーフ、そしてエルフのような僕達アルヴだ。種族的な特徴は前の世界でのイメージ度だいたいおんなじ。でもよくあるような「この世界は〇〇という名前で〜」なんてことは無かった。むしろ今自分たちが過ごしている大陸―島?―の一部しか知らない。

 数千年前迄は僕達の後ろにそびえる山―オービニエ山脈―の麓でそれなりの国を作って過ごしていたらしい。しかしある時山の向こうから巨大な何かがやってきた。それはこちら側に住む魔獣と呼ばれる者達と姿形が似ていたが小さいものでも10mもの大きさだった。それも1匹や2匹ではなく大量に。いまだ魔法がアルヴが研究している段階だった当時はなすすべもなく大型の魔獣たちにより領土は踏み荒らされ、人類は大陸の隅へと追いやられて行った。それが今僕達が住む山と海に三方を囲まれたここだ。

 そしてそれから数百年後、僕達アルヴの先祖は魔法のほぼすべてを解読し、徒人へとその方法を伝えた。アルヴだけでは数が少なくいつ魔獣に滅ぼされてもおかしくなかったからだ。それから攻勢へと出たが人の力で効力があったのは10m級の魔獣まででそれより大きいものには全く効果がなく、人類の歩みはたったのいっぽで立ち止まってしまった。

 大型の魔獣に人類の攻撃が効かなかった理由も今では解明されている。それは食料調達兼斥候の狩人たちが20mを超える魔獣の死骸を目撃したことに起因する。それは誰も、魔獣でさえも何もしていないのに大きな音を立てながらすこしずつ崩壊していったという。更には興味本位で刺した剣が抵抗はあったもののすんなりと入っていったそうだ。それにより、大型の魔獣は自らの体を強靭な肉体へと変質する強化魔法を使って本来自重により自壊するはずの体を保ち、それにより金属も魔法もなかなか通らないことを証明した。それからは様々なことを発見しながらも一進一退で今僕達が住んでいるところから進展したことは無いらしい。

 ちなみにドワーフは人類が魔法という武器を手に入れた後に出会ったらしい。10mより大きな魔獣との戦いで国境が進んだり戻ったりし始めた頃先祖たちと同じく魔獣の被害を受けて逃げてきた方向がちょうどこの生存圏だったみたいだ。



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教育...機械

 この国の教育は少し特殊だ。まず小さい時にあらゆる分野の知識を教えられる。そして親が子供がいちばん向いていると思われる仕事場に奉公に出す。また子供に決めさせる親もいる。それからは見習いとして現場の人たちの動きを見て、より専門的な知識を身につける。人によって変わるが、だいたい10〜15程度で見習いを卒業して実際に仕事を始める。

 大型の魔獣達が山脈を超えてくるよりもずっと前、1度国が二つに分裂しそうになったことがある。その時はすべてを国が決めて動かしていた。それは社会主義の考えに近く、旧ソ連とほぼ同じ道をたどった。詳しくは知らないので同じかはわからないが、いずれそれはボイコットを招き、反逆軍をも組まれた。その戦いでは国軍が勝利したが、このままでは同じ道をたどると思われたため現代まで続くこの教育方針が取られるようになった。

 僕は工房へと行くことにしていた。僕が熱望したと共に両親は寛容だったからだ。理由は機械(ロボット)を作るため。

 僕は昔この世界にも機械が無いかと両親の目を盗んで―工房で働きたいと言った時にわかったが、いつも気づいていたらしい―工房へと何回か行っていた。そこで分かったのはこの世界には機械のきの時もないということだった。はっきりいって少し落ち込んだけど発想を変えてみることにした。「利便よりも至高(ロマン)を求めた機械像を1から作ることが出来る。」と。おもいたったがナンタラと色々設計してみたけど問題がいくつも上がった。一番の問題が動力だ。 この国には水車すらないのだ。金属も騎士達の生存率をあげるためか質の良いものと採掘後すぐの元ばかりを使って再生は後回し。この金属も工房のものだと頑固な親方を説得しないと使うことが出来ない。可能な動力源は熱変換、蒸気機関ぐらいのものだが、熱変換は磁石が発見されておらず、相当な設備を必要にするし、バッテリーも作らないといけない。蒸気機関は熱変換よりは設備が少なくていいが簡単に起動、停止ができないし、相当量の「純水」が必要になる。使い回すならそれほど量は必要ないのかもしれないがそれならそれで冷却などやはり相当な設備が必要となる。それに魔法という技術が既に根を張っているこの世界で科学技術は簡単には受け入れられない。

 次の個人的にやばい問題は受け入れられない、作れないということだ。ものによっても変わってくるが、機械に必要なのはモーターなどのエネルギー変換―発生―装置とギアなどの伝達装置だ。現代では内部コンピューターでの制御など複雑化しているが構造を考えればこれだけで動く。懐中時計や日本のからくりなんかがそうだな。発生機のゼンマイと伝達する歯車。中にはひと巻きで一年間回り、様々な時計を動かして、月の位置などを示したりしたやつもあるらしい。とりあえず太古は発生機を人が担っていたこともあるわけだから手に入れるべきなのは伝達機なわけだ。でも生前は基本モーター(回転エネルギー)からのギアを活用したものしか触ってこなかった。ギアを作ってもらおうと思ってもこれは極小さな誤差がだけでも歯が全く回らなくなる。これは精密さを極めるほど如実になっていく。一応工房の親方に作れないか聞いてみたのだけれどそんなわけがわからなくて無駄に精巧なものは作れるかと怒られてしまった。

 つまり前の僕が身につけた技術よりも何世代も前の技術使って制作、動力も解決しないといけない。どんな無理ゲーだと言いたくなる。



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開発
錬金術


 そうやって悲観しながらもなにか方法はないかと日々を過ごしていた。

 そんなある日俺はとある場所に向かっていた。そこは錬金開発研究所(アルケミーラボラトリー)と呼ばれる場所で、名前からわかるようにここは錬金術―特殊な魔法を使って物質を変質させる方法―を使った研究開発をする場所だ。工房に務める僕がこんなところになんの用があるのかというととある人物に呼ばれたからだ。

 「すみませーん。アルダートさんに呼ばれてきました。」

 ここには受付もある。今回の僕のように度々来客があるからだそうだ。受付の人に案内してもらい僕を読んだ人のいる部屋へと向かった。錬金術は工房とは違って複数の班を作ってその中で研究をしている。アルダートはそんな中で働く徒人で僕の兄貴分とも言える存在だ。

 

 「あれ?レンくん?どうした...ああそういうこと。アル兄が喜々としてなんか書いてたわ。」

 「あ、レナ。はい、そういうことです。」

 「あ!そうだ久しぶりに会ったんだしアル兄が来るまでお話しない?」

 「いいですよ。」

  案内された部屋部屋で彼を待っていると不意に後ろから声をかけられた。言い忘れていたが、僕の名前はローレンス、みんなからはレンと呼ばれている。そして僕に声をかけてきたのはイレーナという女性でみんなからはレナと呼ばれている。今しがたアルダートを兄と呼んだが兄弟ではない。それどころか彼女はアルヴであり親戚というわけでもない。僕と彼女、そしてアルダートは同じ地区で生まれ育ったいわゆる幼馴染というやつである。アルダートは当時からリーダーシップがあり、みんなから兄や兄貴などと呼ばれていた。その経験が生かされたのかはわからないが彼は今副班長として仕事をしている。そして彼女はなんの偶然かまだ見習いではあるがアルダートと同じ班で働いている。

 

 レナと昔話や近況を話し合っていると突然頭の上に重いものが乗っかった。見上げるとそこにいたのは予想通り僕のことを呼んだアルダートだった。

 「よぉ。俺を放っておいて彼女と互いの想いでも語り合ってたのか?」

 「「ち!違いますよ!」」

 「の割には息ぴったりだな。」

 「だ、第一僕達は付き合ってもいませんし...それよりアルダートさん用件はなんですか?」

 「ああ寂しいなー。昔は兄さん兄さんって後ろをついてきて可愛かったのに」

 「茶化さないでください!」

 やっとこさ来たと思ったら僕達をからかうアルダートに少々苛立ちながらも話を進めようとするが彼はそれを許さない。僕の耳元に口を近づけてレナに聞こえないようにつぶやく。

 「いいのかぁ?そんな態度とって。お前がレナのことを昔から好きなのは知ってんだぞ?」

 「んなっ!?」

 「お前ほかの女だと反応しないくせにレナが関わった時だけ雰囲気が違うからバレバレ」

 「あ、アル兄うるさい!」

 彼の言葉に翻弄されっぱなしになっている時に助け舟が来た。

 「こら。そんなにいじめちゃダメでしょうが。二人共初なんだから。」

 「へいへいすんませんでしたー」

 アル兄の頭にチョップをいれて助けてくれた人はウルミナという徒人の女性でみんなからはミーナと呼ばれている。彼女も僕達と幼馴染で正義感が強く、幼い頃から度々暴走するアル兄を止めていた。そして彼女はその正義感から騎士―魔法が解明されたことで女性も戦うことができるようになったと女性騎士になる人も少なくない―として働いている。

 彼女が来たことで1度場が落ち着き、テーブルを囲むように各々が座り直す。

 「レンくんだけじゃなくてミーナさんも呼んでいたんですね」

 「ああそうだ。今日はレンたちに見てもらいたいやつがあってな。」

 アル兄はそういうと鞄から白い一束の何かを取り出した。

 「これだ。最近俺たちの班が開発したもので結晶糸(クリスタルスレッド)という。」

 それは真っ白で糸というよりふつなと言った方がいいほど太いものだった。僕はそれを手に取ってどんなものかを確かめる。そうしているとアル兄の説明が続く。

 「これはある魔法で伸縮するんだ。」

 「伸縮?」

 「あっ。俺がやろうと思ってたが丁度いい。レナお前がやれ。」

 「え?私ですか?まあいいですけど」

 アルダートに促されレナは結晶糸を手に取り何らかの魔法を発動した。しばらくは何も起こらなかったがよく見てみるといつの間にか結晶糸が半分ほどの長さに縮んでいた。その様子を見て僕はなにか引っかかるものを感じた。それが何か考えているとミーナさんがアル兄に質問をした。

 「で?こんなものを私たちに見せてなんのつもり?」

 「それはだな。...特に意味は無い。」

 「はぁ?」

 今まで妙にシリアスな感じで話を進めていたアル兄のおどけたような言葉にミーナさんは素っ頓狂な声を上げた。

 「前、レンになにか自分で動くもの作れないかって聞かれたんでな、作ってみた。」

 「で、作ったはいいけど使い道が思いつかないから私たちに考えろと?」

 「そゆこと。レン的には回転するほうがよかったみたいだけどな。」

 「ごめんねレンくん。私たちにはこれが限界みたい。」

 「いや。いや!これすごいよ!ありがとう!」

 3人は今まで黙り込んでいたのに急に興奮した声を上げだした僕を驚いた目で見る。おそらく自分の要望したものと違って落ち込んでいるのだと思ったのだろう。

 「二人とも、これどれだけ用意できる?」

 「え?それを一束として1ダースくらいなら」

 「それの半分でいいからくれない!?できれば今すぐ!」

 「あ、ああわかった。おいレナ用意しに行くぞ」

 「あ、はい!」

 僕の言葉に慌てて用意してくれるふたり。なぜ今まで回転ばかりに視点を向けていたのか。結晶糸のおかげで僕には新しい道を見出していた。



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主人公は

 「活用法を見出した!(`・ω・´)キリッ」などとほざいており、ここ数カ月動きがないことに対して「テヘペロ(๑>؂<๑)」などと訳のわからないことを以下略

 どうも、前回大見得切っておきながら全く実用化できてない僕です。いやぁ早いもので前回から数ヶ月も経っちゃいました。...泣いていいですか?

 僕はあの日、結晶糸が伸び縮みするところを見てある一つの答えを見つけていた。それは動力(アクチュエータ)、そしてロボットを動かす人工筋肉としての使い方だ。わからない人に一言で説明すると..."筋肉"!...以上!正確には運動エネルギー発生装置です。詳しく知りたい人はググってください。

 まぁそんなこんなで今までずっと腕を造ろうとトライアンドエラーを続けていました。

 

 一月目...結晶糸が一定間隔で縮まらない、品質の不安定で若干でしか持ち上がらない。等の問題が発生

 二月目...アル兄達に頼んで結晶糸の調整

 三月目...持ち上がったものの今度は骨格を形成させていた材質が木なのが行けなかったのかすぐに砕け散った。

 その後...調整、破壊、出力不足、等々の繰り返し

 

 だいたいこんな感じの流れなんだがこのままではいけないと思案を巡らせたところやはり金属を使わせてもらうしかないと思い至った。問題は骨格の強度なわけで木ではそれに耐えられない。魔法を使えばいいじゃないかと思うかもしれないが、ことはそう簡単じゃない。木は魔法をほとんど通さない。全く通さない訳では無いのだが、雷やゴムなんかを思い浮かべればわかりやすいかもしれない。できないことはないのだが無駄が多いのだ。僕はアルヴだからたしかに魔法は得意だが、それは種族として得意と言うだけで人一倍制御ができるとか効率がいいということはない。つまるところ結晶糸を操作する余裕がなくなる。

 初めは金属―魔力をよく通す―を使わせてもらえないかと上に相談したのだがやはり理解のできないことに使わせてもらえることもなく仕方なく木で続けていたのだが流石に限界を感じ始めた。これまで続けてきて分かったことは結晶糸の出力は細かい調整ができないということだ。具体的にいえば0〜100まであったとすれば10単位でしか変えられないといったところかな。木が折れず、かつ持ち上がってそれなりにものが持てる出力がなかなか出せないのだ。

 はっきりいってこれ以上時間はかけてられない。アル兄達は上司から別の研究を進め出すように言われたし、僕自身も仕事が忙しくなってきたと言われた。何やら魔獣たちが活発になりだしたらしい。武器防具はもともと消耗品だ。今までもかなりの速度で交換していたのだから、魔獣との戦闘回数が増えればそれだけ交換速度もまた早くなる。そして機械があれば確実に作業スピードは早くなる。ということで現在親方を説得しているところである。

 「お願いします!」

 「だからダメだって。おめぇのいう、えー、機械?なんてよくわからんもんに勝手に資材を使っちゃあこっちが上にどやされんだ。」

 「そこをなんとか!」

 「...はぁ。仕方ねぇ。今は猫の手も借りたいくらいだ。こんなすったもんだしてる暇はねぇ。倉庫の奥にあるクズだったら貸してやるよ。」

 倉庫は主に4つの区画に分かれている。手前右側に鉱石等の真新しい金属類、逆側に石炭などの燃料類、その奥に叩き直さないといけない剣や鎧なんかがある。ここまでが普段入るところ。そこからさらに奥に屑置き場(墓場)等と呼ばれる区画がある。損壊が激しくて復元には時間がかかるものや、鍛造の際に事故や調節で出た破片が置かれている。なぜ残しているかというともったいないからだそうだ。使うことも少ないので今回はそれを貸してくれるという。

 「あ、ありがとうござい「三日だ。」...ます。...えっとどういうことなんでしょうか。」

 「だから三日だ。三日だけ猶予をくれてやる。お前も知っての通り、今は忙しいんだ。ひとりでも多く人員が欲しい。だからお前には早く戻ってきてもらいたい。だから三日でお前のいう機械とやらが完成しなかったら、今後それを作ることは許さん!放って置いたらいつまでも作り続けてそのうち倒れそうだしな。貸してやってるんだからこれくらいは覚悟してもらおうか。」

 親方の言い分は最もではあるが、やや乱暴なものであった。しかしその気迫に気圧されて僕は、「は、はい...」としか答えることが出来なかった。



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