もしもシリーズ (ユッケライス)
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もしも3人が同じ組だったら(幼稚園編)

はじめて書きました。
改善点や感想などありましたらありがたいです。


季節は二月に差し掛かろうかという寒空の中、活発に外を走り回る園児達。また室内で友人とそれぞれ話をしたり、おままごと等ごっこ遊びに興じる園児達。

 それぞれがただ無邪気に遊ぶという事に一生懸命である。俺も同じ園児だが、この歳の子供の体力は異常だと感じてしまう。どれほど騒ごうが、走り回ろうが、この後にあるお昼寝の時間を過ぎれば何事も無かったかのようにまた暴れ回るのだ。

 斯く言う俺も休みの日に妹の小町と一緒に親父に遊んでもらった。鬼ごっこをして遊んだのだが、鬼は親父であった。

・・・親父あの後めちゃくちゃ息切れしながら噦いてたな。

 涙目のおっさんに助けを乞うた目で見られたためこちらも危うく貰いそうになった。そしてそんな父を見て不安げにオロオロする小町マジ天使。

 

 

 

 

「あら?なにをしているのひきがやくん?ほかの子からなかまはずれにされたのかしら?」

 

 子供がいかに元気かを考え、そして親父の悲しい姿を思い出していると後ろからいきなり友達には言わないであろう辛辣な言葉を浴びせられた。

・・・友達いないから分からないけど。

 

 

八幡「うるせーな。仲間はずれになんかされてない。なんならハブる以前に他のやつらが俺の存在を認識してないまである」

 

 なんか言ってて悲しくなってきた・・・

 

「そんな自慢げに言うことでもないとおもうのだけれど、、」

 

 そう言うと少女は額に手を当て呆れる。くそ、なんで五歳なのにその仕草が似合うのだろうか。

 

八幡「いいだろ別に。誰にも迷惑かけてないんだから。そういうお前だって一人じゃねーか、雪ノ下」

 

 雪ノ下雪乃。俺と同じ五歳であるが妙に落ち着いており、容姿も自他ともに認める美少女である。その五歳とは思えない大人びた振る舞いから周りからは尊敬の念を抱かれていると同時に、近づき難いともされている。

 まあこいつの場合、落ち着いているというよりは人見知りのほうが表現として近いのかもしれない。

 

 そんな雪ノ下に何故か俺はよく話しかけられる。そういやこいつも友達いないんだっけか。正直困る。幼稚園の中でも群を抜いて美少女の雪ノ下に話しかけられるから他の園児、特に男子からの恨みのこもった視線が非常に辛いのだ。

 そんな俺への腹いせか知らないが、この前のおやつの時間に俺のおやつ食べたタナカまじ許さん。

 

雪乃「わたしはココウなの。コドクなあなたとはちがうのよ」

 

 ふふん、と得意げに笑う雪ノ下。むずかしい言葉を使うのはいいが、発音が怪しいよゆきのん?確実に覚えたてって感じだな。

 

八幡「へーへーそうかよ。て言うかお前が目立つせいで俺まで周りから見られちゃうんだけど?」

 

雪乃「あら、わたしといてもあなたはまわりからは見えないとおもうからだいじょうぶよ?ミジンコがやくん?」

 

八幡「俺は顕微鏡じゃないと見えないのかよ、、、」

 

 そう項垂れていると、本日の罵倒が決まり嬉しいのか、にやけそうな顔を抑えつつ雪ノ下は小さくガッツポーズをしている。良かったですね・・・

 

雪乃「それよりも、今日はあの子はいないの?」

 

八幡「さあな」

 

 雪ノ下のいうあの子とは、以前その女の子が園内で男の子数人と口論になり、男のうちの一人が手をあげようとした所で俺が間に入ったのだ。あの時のパンチ地味に痛かったな。あと少し、いやだいぶ怖かったわ。やっぱ平和が一番だね、うん。

 そんな勝気な性格の女の子の名前はしぶy「あ、見つけたはちまん」

 

 

八幡「見つけたってなんだよ。組も同じで毎日見てるじゃねーか」

 

「だってはちまん遊び時間になったらすぐどっかいっちゃうんだもん」

 

八幡「しょうがねえだろ。教室の中に居場所がないんだから」

 

「今日はあたしとおままごとしよって言ったじゃん」

 

 記憶にないですねえ、、

 

雪乃「ちょっとしぶやさん?わたしがさきにひきがやくんと話してたのだけれど?」

 

「いいじゃんべつに。はちまんはあたしと話したほうがたのしそうだよ?」

 

 この女の子は渋谷凛。この子も雪ノ下同様かなりの美少女である。先ほど言ったように男の子数人と口論するような負けず嫌いな性格であるが、その時も他の女の子を庇って口論になったのだから、渋谷は悪くない。というか普通に優しい子である。その時に仲裁に入ってから、やけに話しかけられたり遊びに誘われたりするようになった。そしてなぜか雪ノ下と一緒にいるとこのようにバチバチである。

 やめて!仲良くして!

 

雪乃「しぶやさん、あなたはもうすこし女の子らしいふるまいをしなさい。ことばづかいもらんぼうよ」

 

凛「ゆきのしたさんは言うことがいちいち固すぎるんだよ。ほら、はちまんがこまってるじゃん」

 

 それは主に二人のせいなんですけどね。言ったらややこしくなりそうなんで言わないけど。

 

凛「ほらはちまん、おままごとのセットさっきほかの子にとられちゃったから、あたしたちは砂場でお山つくりしよ」

 

 いやいや渋谷さん、冬の砂場舐めたらダメですよ?思った以上に砂冷たいからね?ただでさえ今日はめちゃくちゃ外寒いってのに。

 なんて思っていると渋谷が俺の腕を掴み砂場に行こうとする。

 その時

 

 

 

 

 

雪乃「あ、、、」

 

 そんな雪ノ下の声が聞こえ振り返るとしょんぼりと落ち込んだ様子の雪ノ下がいた。

 俺も一人でいるときが楽だけどこういうのって辛いよなと思っていると、そんな雪ノ下に気づいたのか、

 

 

 

 

 

 

 

凛「ゆきのしたさんもお山つくる?」

 

 渋谷の声に先ほどまで落ち込んでいた雪ノ下は表情を明るくさせた。その表情がバレてないとおもっているのか、

 

雪乃「そ、そう?しかたないわね。そんなにわたしと遊びたいなら一緒に遊んであげてもいいわよ?」

 

 やれやれとこちらに来る雪ノ下。素直じゃねえな。というかゆきのん表情隠せてないよ?誘われたのが嬉しいのかめちゃくちゃニコニコしてるよ?かわいいなちくしょう。

 

 

凛「すなおじゃないね」

 

 そう言いながらクスッと笑う渋谷は年相応の可愛らしさがあった。というか渋谷も素直じゃないと思うんだが。まあいいか。丸く収まったし。

 

 

 

 

 

〜砂場〜

 

 

雪乃「んしょ、んしょ、、」

 

 

凛「よいしょ、よいしょ、、」

 

 

八幡「だいぶできてきたな」

 

 しばらく砂場で山を作り続け、今はトンネル開通の作業中である。

 これ地味に楽しいんだよな。そういえば今まで小町と一緒に遊んでたから、何気に同い年の子と遊ぶの初めてだわ俺。しかも園内での美少女ツートップと遊んでるなんて。

 やばい少し緊張してきた。そんな思いに耽っていると砂とは違う感触をトンネル内で感じた。

 

八幡「ん?」

 

 分からずそれを握ったり触ったりしていると、

 

 

 

 

凛「は、はちまん、くすぐったいよ」

 

 

八幡「!!!??」

 

 

 渋谷の手だった。やべえおれ分からなくてめちゃくちゃ触っちまったよ。気持ち悪がられてたらどうしよう。明日からの渾名が怖い、、モミがやとか言われたらどうしよう、、ていうか小町以外の女の子の手初めて触ったよ。ニヤニヤしてないよな?大丈夫だよな俺?

 

凛「えへへ、トンネルできたね」

 

 

 ニコッと笑う渋谷に不覚にもドキッとしてしまう。照れ隠しのために違う方向を向くと雪ノ下が不機嫌そうに頰っぺを膨らましながら俺を見ていた。

 

雪乃「つうほうされたいのかしら、へんたいがやくん?」

 

 ・・・明日からじゃなく今日から渾名を付けられてしまった。

 

 

雪乃「ひきがやくん!べつの方向からトンネルをほりなさい!わたしもほるから!」

 

 

 なぜか雪ノ下が俄然やる気になってらっしゃる。わかるぞ雪ノ下、お前もトンネル作りに魅せられちまったんだな?よし、ここは俺がトンネルの手本をこいつに見せてやるか!と、またトンネルを掘ろうとしたところ

 

 

 

先生「はーい、お昼寝の時間だからお外にいる子達は教室に戻ってきてねー!」

 

 

 という先生の声が聞こえてきた。今日のところはこれで終わりだな。

 

 

八幡「じゃあ、山もトンネルもできたし、戻るか」

 

 

 そう言い2人のほうを見ると、ふふん、と雪ノ下に対し自慢げに笑う渋谷と、ぷるぷると悔しそうにする雪ノ下の姿があった。

 

 

 

 

昼寝の時間になり、園児達は皆幸せそうに眠っている。それは俺の両側にいる女の子二人もだ。

 今日は初めて同い年の子達と遊んだ。二人とも女の子で、二人とも負けず嫌いで。二人とも大人びたような雰囲気を持っていて、、、

 雪ノ下は人見知りで、大人びようとしていて、孤高であろうとして、、でも本当は五歳児らしい、笑顔がかわいい女の子だった。

 渋谷は言い方に棘がある時もあるかもしれないが、それでもだれにでも優しい笑顔が素敵な女の子だった。

 

 今日はいつもの幼稚園より楽しかったな、、、。明日は俺から誘ってみようかな、、、。

 柄にもなくそんな事を考え、明日に胸を躍らせながらも、強引に瞼を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜お迎えの時間〜

 

 

雪乃「ひきがやくん!さっきの続きよ!」

 

 

八幡「そんなにトンネル気に入ったのかよ、、、」

 

 

凛「はちまんはやくかえろ」

 

 

 

 

 

おわり

 



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もしも比企谷八幡が風邪をひいたら(幼稚園編)

もしもシリーズ第二話です。pixivの方にも同じものを載せているのでよければそちらもどうぞ。


 

 

昨日、雪ノ下と渋谷と砂場で遊び、初めて他の子と遊んだ嬉しさからか俺は家に帰ってからもその事ばかり考えていた。帰ってからは次はどんな山を作ろう、今度は思い切ってテレビで見た安土城でも作ってみようかな。女の子だから外国のお城の方がいいのかな、など考えていた。まあ幼稚園児の俺に作れるわけないんだけどさ。

 

 そんな出来もしないのに見栄を張り失敗でもしてみろ、真っ先に雪ノ下が

 

雪乃『あら、なにかしらこのイビツなぞうけいぶつは。じゃまだからくずしてちょうだい、いびつがやくん?』

 

 などと言うに決まっている。

 

 まだ五歳であるが、見栄を張らない。格好はつけない。やだ、八幡超クール。決して雪ノ下の罵倒が怖いからだというわけではない。絶対。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 現在の時刻は午前十一時半。親父は仕事に当然出掛けている時間である。

 そんなもうすぐ昼ご飯を食べれるというゴールデンタイム直前、俺は自分の家で寝ていた。

 

 

 簡単に言えば風邪を引いたのだ。

 

 

 

昨日の真冬での砂場遊びがいけなかったのか、はたまた夜寝ていた小町に布団を全部取られたのがいけなかったのか。

 完全に最後のやつじゃねえか。小町寝相やばすぎだろ。結構序盤で布団は取られたが起こすわけにもいかず、極寒の中耐え忍びなんとか眠りにつき朝目が覚め小町を見ると、布団をグルグル巻いた簀巻き状態だった。

 

 叩き起こそうかと思ったが、幸せそうに寝ている小町の顔を見て俺は妹の頭を撫でることしかできないのであった。

 

 

・・・母ちゃんからは今日はマッ缶も飲んじゃダメだって言われてるし、おとなしく寝てなさいって言われてるし、することねえな。どうしよう。

 

 

 

 

 

 

〜幼稚園〜

 

 

凛「せんせえ、はちまんは?」

 

 

先生「あら、凛ちゃん。八幡くんは今日風邪を引いちゃったからお休みなのよ」

 

 

凛「ふーん。はちまんかぜひいたんだ。おみまい行かなきゃ」

 

 

先生「あらあら、凛ちゃんは優しいわね。でも八幡くんも喜ぶかもしれないけど、風邪できついだろうから今回はそっとしておいてあげてね?」

 

 

凛「そっか。わかった。はちまんがなおったらまたお山つくるの。おままごともかくれんぼもしたいな」

 

 

先生「ふふ、凛ちゃんは八幡くんのことが大好きなのね」

 

 

凛「うん!はちまんはすごくやさしいんだ!あとすごくかっこいい!」

 

 

 そう言い他の子に遊びに誘われ駆けていく凛ちゃん。とても優しくていい子なんだけど時折見せる負けず嫌いな性格が玉に瑕。

 

 以前も男の子と言い合いをしてあと少しで凛ちゃんが怪我してしまうところを八幡くんが助けてくれた。

 

 比企谷八幡くん。普段は見立たない子かもしれないけど、正義感が強いとても優しい男の子。その優しさは分かり辛いかもしれないけど、先生はちゃんと見てるよ。あの時も凛ちゃんを助けてくれてありがとね。

 目を離していたとはいえ、保護者の方からお預かりしてる子が危うく怪我する所だったなんて、先生失格かしらね。

 

 先生がそう一人苦笑していると、後ろから女の子に声をかけられた。雪乃ちゃんだ。

 

雪乃「せんせい。きょうはひきがやくんはどうしたんですか?」

 

 

 そういえばこの子も八幡くんと一緒にいるのを見かけるわね。雪乃ちゃんも凛ちゃんも、そして八幡くんも他の子より大人びてるから波長が合ったのかしら。

 

先生「おはよう雪乃ちゃん。今日は八幡くんは風邪でお休みなのよ」

 

 

雪乃「え、、だいじょうぶなのかな、、」

 

 

 ぽそりと八幡くんを心配する雪乃ちゃん。この子はたまに強がるけど本当は素直ないい子なのよね。

 

 

雪乃「こほん。あの男はけびょうをつかってるのね。いえまでいっておせっきょうしなくちゃ」

 

 

 おっと、切り替えが早いわね雪乃ちゃん。あとそれは遠回しにお見舞いに行こうとしてるんじゃないかしら。

 

 

先生「ふふ、本当に風邪を引いたみたいよ?明日か明後日にはまた元気に来れると思うよ?」

 

 

雪乃「そ、そうですか。ふふん、しかたないからまたお砂あそびしてあげようかしら。お砂あそびだけではあきちゃうだろうから、いっしょにおままごとやかくれんぼもしてあげるわ」

 

 

 ふふ、全く素直じゃないんだから。ん?あら?凛ちゃんとニュアンスが違えど内容がほぼ同じだわ。なにこのかわいい子達は。

 

 

 

 

 目の前の自分の組の女の子が愛おしくなりしばらくの間先生は抱きしめるのであった。

 

 

 

先生「」ギュウウウウウ

 

 

雪乃「え???せんせい??」

 

 

 

 

 

 

〜翌日〜

 

 

 

 思いのほか早く風邪が治ってしまい、今日は幼稚園にいくことになってしまった。

 あと二日は休みたかったな。だらだらしたかった小町を愛でたかった。

 夜寝る前の小町の可愛さは異常だったな。

 

 

小町『おにーちゃ!おにーちゃがはやくかぜなおるためにこまちがあっためてあげる!あっ、いまのこまちてきにぽいんとたかい!』

 

 

 

 

 

 

 

 ねえ聞いた?可愛すぎない?まあ小町が布団全部取ったせいでお兄ちゃん風邪引いちゃったんだけどね。しかしそんなことは絶対に言わない。かわいい妹を悲しませるようではお兄ちゃん失格なのだ。

 

 結局その後風邪が伝染ったらいけないということで小町が親父にはがされていた。泣き叫ぶ小町にオロオロしてる親父を母ちゃんが見た瞬間、親父の顔にビンタが炸裂してた。母ちゃんまじ怖い。さすがにあの時は親父かわいそうだったわ。

 

 

 

 

 

 

 幼稚園に到着。1日ぶりの幼稚園。今日はなにをして過ごそうか。一人しりとりか、一人じゃんけんか、はたまた一人脳内会話か。などとくだらないことを考えていると、グラウンドに雪ノ下と渋谷がいた。あいつら来るの早いな。ていうかまたなんか言い争ってない?ちょっと先生?苦笑してないでとめなさいよ。

 

 

雪乃「しかたなくだけれど、わたしがひきがやくんとおままごとしてあげるのよ。そう、しかたなくだけれど」

 

 

凛「ふーん。しかたなくなら、むりしてしなくていいんじゃない?はちまんはあたしとたのしくおままごとするからさ」

 

 

雪乃「それはちがうわしぶやさん。あのおとこは女の子になにをするかわからないの。だからわたしがつねにかんししてなくちゃだめなの」

 

 

 

 

・・・なんだこれ。あと雪ノ下さん?俺を勝手に変態にしないでくれる?あ、この前へんたい谷って言われたばっかだった。いやいやそれでもだよ。

 あと先生、やっと来てくれたって表情するなよ。サムズアップやめなさいしまいなさい。

 

 

凛「あ!はちまん!」

 

雪乃「!!」

 

 

 げっ、ばれた。

 

 

凛「もうかぜはだいじょうぶ?今日はあたしとたくさんあそぶよ」

 

 

雪乃「ひきがやくん。けびょうをつかったのはかんしんしないけれど、ゆるしてあげるわ。今日はしかたないからいつもひとりのあなたとあそんであげるわ」

 

 

 

 幼稚園に早速来てみたらこの有様である。全くこの二人は仲がいいんだか悪いんだか。そう考えながら、二人を宥めつつ遊び時間が来るのを少し期待しながら、俺は教室に入った。

 

 

 

 

 

〜おまけ〜

 

 

 

 昨日は途中から我を忘れて楽しんでしまった。おままごとは慣れない事ばかりで緊張してしまった。そして俺は男なのでお父さん役、雪ノ下と渋谷はどちらがお母さん役かで揉めに揉めた。

 

 かくれんぼになるとずっとおれのターンであった。でも本気出しすぎて俺を探してた渋谷が半泣きになりながら俺の名前を叫んでたので急いで出た。

 

 

 

 遊び疲れ家に帰ったあとはほとんど寝ていたので次の日が来るのはあっという間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

凛「はちまんおはよう」

 

 

八幡「うっす」

 

 

凛「せんせいがいってたけど、ゆきのしたさんかぜでお休みだってさ」

 

 

 

 

 

 

 

・・・次はお前か雪ノ下

 

 

 

 

 

 

おわり

 



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もしもママのんが娘と公園に行ったら


ママのんの名前が分かりませんのでこちらで考えてしまいました。申し訳ございません。



 

雪ノ下雪乃の母、雫乃は愛娘である雪乃のことを考えていた。

 

 

 雪ノ下建設が近年急激に業績を伸ばしており、多忙を極める毎日ではあるものの、我が子である陽乃と雪乃には母親として出来る限りの愛情を注いでいる。

 

 陽乃はもちろん、雪乃はとても可愛らしい。それはもう親の贔屓目無しでも可愛い子だと言える。雪ノ下家の人間として、そして一人の女として、娘二人には基本的な礼儀作法はもちろん、最低限必要になるであろうコミュニケーション能力の向上、一般教養など、私に教える事ができる素養は徹底的に教えてきた。

 まだ子供の二人には少し酷とも言えるかもしれないが、どうか娘達の将来のための親心、愛情故だと分かってほしい。それを娘達に分かれというのはエゴな気もするので直接言うことは出来ないのだけれど。

 

 陽乃は全ての分野において飲み込みが早く、あまりの能力に親である私ですら驚愕した。

 

 雪乃は陽乃の真似をするように、追い掛けるように一生懸命学習していた。そのひたむきな姿、日々成長していく雪乃に感涙しそうになったが、その度に唇を噛み締めて耐えてきた。耐えすぎて唇が血だらけになり、最近では口紅とグロスが欠かせなくなってしまった。

 

 しかし、一生懸命な雪乃も、他者とコミュニケーションを取ることだけはとても苦手としていた。雪乃は本当に大人しい子であり、人見知りで、読書が大好きな子だ。年が近い子との触れ合いの場を設けても、すぐに部屋の隅で絵本の世界へ入ってしまう。

 

 

・・・あまり強要は良くなかったのかも知れないわね。

 そう反省し、雪乃にしかない長所を伸ばしていこうと決めた。

 

 

 

 

・・・が、あの雪乃が、あの大人しい、客人が家に来た時は私の後ろに隠れるか自分の部屋に篭っていたあの雪乃が、まさか公園に行きたいと言ってくれるなんて。

 私は喜びのあまり屋外で雪乃が楽しめるであろうありとあらゆる遊び道具を都築に買い占めさせた。

 

 

 そして迎えた休日。多忙の中運良く休みを取ることが出来、雪乃と手を繋いで公園へ向かった。

 

 

 少しばかり雪乃が早足で私の前を歩く。ふふ、雪乃、そんなに急がなくても時間はたっぷりあるのよ?

 ともあれ娘が外で遊ぶことに意欲的なのは私としても嬉しい。これを機にお友達もたくさん出来て少しでも活発な子になれば、親としても安心ね。雪乃は大人しくてあまり笑わないけれど、やはり笑った顔のほうが素敵なのだから。

 

 

 

 

----------

 

 

 

都築「お、奥様・・少し休まれては・・・」

 

 

雫乃「う、うぷ・・ま、まだよ・・・おえ・・・」

 

 

 

 

 

 

〜回想〜

 あれは3時間前のことでございます。

 奥様と雪乃様が徒歩で公園にお越しになる前に、私は車で公園のそばで待機しておりました。トランクの中には奥様に言われ用意した遊び道具の数々。

 私は奥様と雪乃様の負担にならぬよう、車での送迎を申し出たのですが、奥様の雪乃様との親子での触れ合いを大事にしたいというお言葉を聞き、猛省致しました。

 我が子を愛する奥様の気持ちを私が危うく踏みにじる所だったのです。私もまだまだ未熟。これからも雪ノ下家のため精進して行かねば。

 お二人がお見えになったので私は一礼をし、早速トランクを開け、雪乃様を抱えました。まだ五歳の雪乃様には車のトランクは高く、奥まで手が届きませぬ故。

 すると雪乃様は何の迷いもなく小さなバケツとスコップ、シャベルを持ち、一目散に砂場へと行きました。

 しかし既に砂場には他のお子様の姿が。雪乃様は先客であるその方達を見て驚きの表情をして固まっていました。少々人付き合いを苦手としている雪乃様ですが、その時は少し様子が違いました。

 

 あの少年と少女は雪乃様のご友人でしょうか。お二人とも髪の一部分が跳ねております。恐らく兄妹だと思うのですが。

 

 

 その後奥様はもちろん、執事である私もお二人に挨拶を致しました。分かったこととして、お二人のお名前は、比企谷八幡様と比企谷小町様。比企谷八幡様の方は雪乃様と同じ幼稚舎に通っているとのことです。

 

 雪乃様は小町様を見た途端に不安げな表情になり、八幡様との関係性を執拗にお聞きになっておりました。八幡様の妹と分かった時は、それまで焦っていた様子が何事も無かったかのように平静を装い、安堵の表情を浮かべておりました。雪乃様、それはそういうことなのですか?八幡様に恋慕を抱いておられるのですか?その年でお付き合いしたいとお思いになっているのですか?・・・少し言葉が過ぎました。

 ご友人を多く作ることは奥様はもちろん、この都築も大変嬉しく思います。しかし、その、男女のお付き合いというのは、まだ早いのでは無いでしょうか・・・

 

 

 

 我が子を溺愛している奥様が齢五歳の雪乃様が恋愛をするなど許すはずが・・・ああ、案の定奥様が八幡様を睨んでおります、威嚇しております。私の雪乃に色目を使ってるんじゃない、そう聞こえるようです。

 業務中の奥様は例えるならまさに鬼。ご自身の能力も然る事乍ら、有無を言わさぬ圧力と存在感で雪ノ下建設を統率して参りました。その時と同じ表情を今まさにしております。ああ胃が痛いです。帰りたいです。

 

 

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初めの三十分は雪乃様は八幡様と小町様と砂場で遊んでおりました。

 我々が来る前は八幡様達はどちらが泥団子を綺麗に作れるか競っておられたようです。まだ途中だったようなので、雪乃様もお作りになるか八幡様が尋ねたところ、雪乃様は山をつくりそこにトンネルを掘りたいと仰っております。ああ、少し嫌な予感がします。私の横にいる奥様の放つ圧力をビリビリと感じております。

 八幡様はまたかよ、と言っておりますが雪乃様の提案を承諾したようです。

 

 

 そこからは山を作り、トンネル作りの最中でした。小町様は途中で疲れてしまい、今は座りながら八幡様を応援しておられます。何とも微笑ましい光景です。

 そしてトンネルが出来ようかというその時。・・・ああ、この世に神はいないのですね。雪乃様と八幡様の手が触れ合ってしまいました。八幡様は雪乃様に対し何か怯えている様子です。何度もしきりに謝罪しております。しかし雪乃様は顔を真っ赤に染め上げながらその触れたご自身の手を見つめ、八幡様に背を向け、雪ノ下家の中では雪乃様が言わないような罵倒を言いながらも、口角が上がるのを堪えきれず思い切り破顔しその手を大事そうに胸に抱えております。

 

 

 先程から横にいる奥様がすごいです。はっきり言って般若です。青筋が出ております。私脂汗が止まりません。

 

 雪乃様は満足したのか、砂場で遊ぶことをやめました。小町様が缶蹴りをしたいというので、雪乃様たちは缶蹴りをすることになりました。

 

 そこで立ち上がったのが奥様です。奥様は自ら鬼になることを申し出ました。

 

・・・魂胆が分かってしまいました。奥様は雪乃様にあのような表情をさせる八幡様を懲らしめる気です。どうか、どうか雪乃様と罪の無い小町様には被害が及ばぬようにしてください。

 子供相手に何をそんなに、と思う方もいるかもしれませんが、奥様に逆らうことは死を意味するのです。この歳になると再就職など困難なのです。八幡様、どうか何もしてやれぬ無力な都築をお許しください。

 

 

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缶蹴りが始まった当初の奥様の動きを分析するに、マークしているのは八幡様ただ一人でした。雪乃様と小町様に関しては、ご自身がわざと負け、缶を蹴られる事も厭わないといったご様子。子供である八幡様にムキになっている時点で大人げのうございますが、その辺の良識を弁えているのはまだマシなのかも知れません。

 

 しかし八幡様と小町様の髪型が似ているからか、飛び出してきた人物が小町様と横目で確認した奥様はわざと気付かない振りをしておりました。

 ところが実際のところ蹴ったのは八幡様でした。お二人の特徴的に跳ねている髪が仇となったようです。あの時の奥様の鼻息の荒さは異常でした。はしたのうございます。

 

 そこからは勝ちに拘りにいったのか、小町様であろうが雪乃様であろうが缶に向かってくる者は片っ端から返り討ちにしました。やはり大人げのうございます。

 

 残る八幡様はさほど広くないこの公園内で何故そんなに隠れることが出来るのだろうと疑問に思うほどのステルス能力でした。

 

 茂みから物音がし、それに気付いた奥様はジリジリとそちらに近付いていきます。奥様、そんな手をわしわししながら蟹股で歩かないでください。はしたのうございます。

 

 しかしその物音は八幡様がその茂みに小石を投げた際のフェイクでした。八幡様、もはや五歳がすることではありません。それに完全に騙されている奥様を余所に、八幡様は缶を蹴り、缶は綺麗なアーチを描いておりました。

 奥様が顔を真っ赤にしながらぷるぷると震えております。まさか五歳児に騙される日が来るとは。

 小町様が八幡様の手を握りながらまた隠れるために逃げていきます。そして雪乃様もどさくさに紛れ八幡様のもう片方の手を握って逃げています。

 雪乃様、もう笑顔を隠せておりません。

 

 

 その後完全に堪忍袋の緒が切れた奥様は約二時間半、八幡様との勝負を致しました。小町様と元々体力の無い雪乃様は、途中で疲れてしまい、私が用意しておいたドリンクを飲みながらベンチでお休みになられています。

 二人だけの缶蹴りで二時間半も続ける奥様に、私少々引いております。八幡様も何も言わずに黙々と隠れるあたり、正気の沙汰とは思えません。

 

 結果的に八幡様の完全勝利で幕を閉じました。

 

 

 

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四人とも疲れてしまい、八幡様と小町様は御自宅に帰って行きました。雪乃様もお疲れになっており、既にうとうとしております。髪を乱し、息を切らしている奥様。お二人とも歩ける状態ではないので、帰りは私が雪ノ下家までお送りすることになりました。やっと解放されます。

 

 

 

 

 

 

〜車内〜

 

 

 しかし驚くべきは八幡様。いくら遊びとはいえ、奥様を完全に打ち負かすとは。これは将来とんでもない大物になるやも知れません。

 

 チラリとバックミラーで後ろを確認すると、先程の鬼の形相とはうって変わり慈愛に満ちた表情の奥様のお姿が。先程の出来事が嘘のようです。その下には雪乃様が奥様のお膝元を枕にし幸せそうに眠っております。

 

 

・・・本日は少々奥様の計画していたであろう予定とは違ってしまったようですが、最終的にこのようなお二人の姿を見れたので、こういう日があってもいいのかも知れません。

 

 

 

 

 次は親子水入らずのお時間を。

 そう思う都築であった。

 

 

 

 

 

 

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〜おまけ〜

 

 

 

 夜中に奥様から呼び出され、急いで着替え、指定の場所を目指します。

 

 言われた場所は件の公園。ど真ん中に奥様が仁王立ちしております。その存在感たるや、例え街灯が無い暗闇の状態でも直ぐに存在を確認することが出来るほどです。

 

 

雫乃「都築」

 

 

都築「は、はい奥様」

 

 

雫乃「私の缶蹴りの特訓に付き合いなさい」

 

 

 

 私の缶蹴りの特訓に付き合いなさい。

 

 これまで生きてきた中でかなりの衝撃を受けた瞬間です。本来楽しいはずの缶蹴りが拷問に感じてしまいます。

 

 二児の母とその執事が夜中に缶蹴りをするという地獄絵図をこれから行わなければなりません。

 

 

・・・これは再就職を本気で考えましょう。

 

 



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もしもあの日の話になったら(幼稚園編)


あの二人が出てきます。


 

これまでと何ひとつ変わることなく、園内は子供達の快活な声で埋め尽くされている。

 皆疲労など知らぬかのようにそれぞれの時間を過ごしている。

 

 そんな中、三人の少女達は机を挟み、向かい合うように座り、以前起きた出来事について話していた。

 

 

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「ああ!あのときのことをおもいだすと、いまだにムカムカするなくそう!」

 

「わたしは、ムカムカというよりは、こわかったかな・・・」

 

凛「まあたしかにね。はちまんがたすけてくれなかったらケガしてたかも・・・」

 

 

 あたしたちは三人であの日のことをおもいだしていた。

 あの日は今ここにいる なお と かれん といっしょにいた。

 かれんは体がよわいらしくて、あまり外であそぶことができない。その日もきょうしつの中でおえかきをしてた。

 ようちえんを休みがちな かれん だけど、その日はきていた。すると男の子がなん人かあたしたちのほうへやってきた。

 

 

 「ほうじょう、きょうはズル休みじゃないんだな!」

 

 

加蓮「え・・・そ、そんな、ズル休みなんかしてないよ・・・。わたしからだがよわいから、来たくてもこれないんだもん・・・」

 

 

 「うそつけ!ほうじょうがズル休みしてたってみんなに言いふらしてやる!」

 

 

加蓮「ほ、ほんとにちがうよ・・・」

 

 

 その男の子たちはかれんがズル休みしてるって言いがかりをつけてきた。いきなりなんなのさ。かれんのこと何もしらないくせに。

 

 はらが立ったから、あたしはその子たちに言いかえそうとおもった。

 

 

 でもあたしより先に、なおがその子たちにむかって言った。

 

 

奈緒「うるさい!かれんのことなにも知らないくせに!かってなうそつくなよ!」

 

 

 「かみやがおこったぞー!男みたいなしゃべりかたでおこられるぞー!」

 

 「ははは!」

 

 

奈緒「なっ! お、おまえらな!いいからかれんにあやまれよ!」

 

 

 「かみやにはかんけいないじゃんか!」

 

 

加蓮「な、なおちゃん。いいよわたしきにしてないから・・・」

 

 

奈緒「いいわけないだろ!かれんはズルなんてしてない!うそだってついてない!」

 

 

 「ほらほうじょう、ズル休みしてましたっていえよ!」

 

 

加蓮「うう・・・」

 

 そうかれんに言わせようとする。かれんがなにしたってのさ。すっごいむかつく。

 

 

凛「いいかげんにしなよ!!あんたたちこそかんけいないじゃん!あんたたちひとりだとなんにも言えないくせに、あんたたちこそズルいよ!」

 

 「しぶやまで!うるせえなあ!」

 

 

 かれんは下をむいてふるえてた。あたしもなおも、ともだちがわるく言われてるのがくやしくて、なみだがでそうだった。でもあたしがないたらもっとあたしたちはバカにされる。だからがんばってたえていた。

 

 

 

 

 そのとき、うしろからひとりの男の子がちかづいてきた。

 

 

 

----------

 

 

 

「なあ、お前ら女の子からかって楽しいの?なに?好きなの?」

 

 

 「はあ!?なんだよおまえ!」

 

 

 いきなりきてそんなことを言う男の子。もしかしてかばってくれてるのかな。おなじくみなのは知ってるんだけど、なまえがわからない。きょうしつのなかにいるときはボーッとしてるか、ねてる。あそびじかんになるとすぐにどこかにいくことくらいは知ってるんだけど・・・

 

 

「お前らがうるさいせいで、こっちは寝れないで迷惑してんだよ。そんなに騒ぎてえなら外でボールでも蹴ってろよ。」

 

 

 「うるさいなあ!おまえなまいきだぞ!」

 

 

 そういって男の子のひとりが手をにぎってふりあげた。あぶない、なぐられちゃう!

 

 

「殴りたきゃ殴れよ。先生に言っとくからな。あとさっきこいつらに言ってたことも一語一句間違えずに先生に報告しといてやるよ」

 

 

 「なっ・・・!」

 

 「お、おい、もうほっといていこうぜ」

 

 

 そう言って男の子たちはいこうとする。でも・・・

 

 

凛「まってよ!にげるまえにかれんにあやまってよ!言うだけ言ってにげないでよ!」

 

 「う、こ、こいつ!」

 

凛「!」

 

 

 そう言ってひとりがあたしを殴ろうとしてきた。あたしはびっくりして、こわくて目をぎゅっととじた。

 

 

----------

 

 

 

いやなおとがしたけど、いたくない。あれ?どうして?目をあけると、その男の子があたしの目のまえにいた。この子があたしをかばってくれたんだ。

 

 

「いってえ・・・。残念だったな。もうお前ら先生言っとくわ。仲良く怒られやがれ」

 

 

 「くっ、、!」

 

 

 

 

 

 

先生「こら!!あなたたち、何してるの!!」

 

 

 

 せんせいがきた。ほかの子がよんできてくれたらしい。だれがよんでくれたんだろう。だれがよんだかしらないけど、あとでおれいを言わなくちゃ。

 

 男の子たちはべつのへやにつれてかれた。ふん、とうぜんだよ。あとでぜったいかれんにあやまらせなきゃ。

 でもあとでいくらさがしてもせんせいをよんだ子は見つからなかったんだよね。

 

 

奈緒「お、おい、おまえなぐられてたけどだいじょうぶか?」

 

 

「ん?ああ、気にすんな。・・・ちょっと痛いけど」

 

 

奈緒「いたいんじゃんか!あとでせんせいにみてもらおう!」

 

 

「本当にいいって。おい、そこのお前、大丈夫か?」

 

 

加蓮「あ、あたし・・・?」

 

 

「なんかありもしないこと言われてたみたいだけど」

 

 

加蓮「う、うん。だいじょうぶ」

 

 

「勝手に知った気になって言われるのってすごいムカつくよな。俺もよくあるから分かる」

 

 

加蓮「・・・」

 

 

 そう言うと男の子はあたしとなおのほうを見た。

 

 

「お前らも二人で言い返してるんじゃなくてどっちか片方さっさと先生呼んでやれよな」

 

 

奈緒「な、なんだと!」

 

 

凛「!」

 

 あたしとなおもそう言われ、いいかえそうとすると、

 

 

「でも」

 

 

 その子が言った。

 

 

「その子のために戦ったんだよな。友達が馬鹿にされて許せなかったんだろ?俺は友達いないからわかんないけど、かっこよかったぞ。お前も頑張って耐えたんだろ?えらいえらい」

 

 

 男の子はかれんのあたまをなでた。そう言われあたしもなおも、かれんも、がまんできなくなって三人ともないた。

 

 そのあとなまえをきいた。

 ひきがやはちまんっていうらしい。

 

 

----------

 

 

~~~~

 

 

 

加蓮「あのときのはちまんくん、やさしかったなあ。」

 

 

凛「そうだね。ないちゃったのははずかしかったけど・・・」

 

 

加蓮「うう・・たしかに」

 

 

奈緒「でもあのあとのヒキガヤはおもしろかったよなあ。じぶんがなかせちゃったっておもって、あたしたちにめちゃくちゃあやまってきたもんな」

 

 

加蓮「ふふ。あんなにあやまられたら、なんかおかしくなっちゃったよね」

 

 

奈緒「しかもそれを見たせんせいが、かんちがいしてヒキガヤまで しかられるところだったもんな」

 

 

凛「あたしたちがせんせいにものすごいせつめいしたんだよね。ちがうんです!って」

 

 

奈緒「そうそう!」

 

 

あたしたちはあの時のことをはなしていた。あのあとあたしたちははちまんに、ありがとうって、おれいを言った。はちまんは、

 

八幡『別に礼なんていいぞ。俺の自己満足だし』

 

 

 そう言ってた。じこまんぞくってなんだろ。はちまんはむずかしいことばをつかうからときどきわかんないや。

 

 

 

加蓮「ああ、はちまんくんかっこよかったなあ」

 

 

凛「!! ふ、ふーん。たしかにそうだね」

 

 

 たしかにあのときのはちまんはかっこよかったな。いつものはちまんもかっこいいけど。ちょくせつはぜったい言えないけどね。

 

 

奈緒「お!かれんもりんも、ヒキガヤのことすきになっちゃったのか!」

 

 

 そういってなおがわらった。

 

 

加蓮「!!ち、ちがうよ!」

 

 

凛「ち、ちがうから!ほんとそんなんじゃないから!」

 

 

奈緒「あっはっは!ふたりともかおがあかいぞ〜!」

 

 

凛・加蓮「ちょっとなお!!」

 

 

 あわてるあたしたち。いつもあわてるのは なおなのになあ、そうおもった。

 

 

 

 

 まだふたりとともだちになってすこししかたってないけど、ふたりともあたしのだいじなともだち。ふたりがたのしかったら、あたしもたのしいし、うれしい。

 

 ふたりがかなしかったら、あたしもかなしくなる。

 

 

 だからねはちまん。

 

 あのときかっこよかったって言ってくれてありがとう。

 

 あのとき、あたしたちをたすけてくれてほんとうにありがとう。

 

 

 

 

 

おわり

 

 

 

 

 

----------

 

 

 

〜おまけ〜

 

 

 

(廊下)

 

 

先生(ふむふむ。八幡くんモテモテね〜。意外と隅に置けないわねえ)

 

 

八幡「先生」

 

 

先生「ひゃいいん」

 

 

八幡「びっくりしすぎでしょ・・・。地味に傷つくんですけど・・・。それより早く中入ってくださいよ。ドアの前で先生がコソコソしてるから教室入れないんすよ」

 

 

先生「あら〜?いま入っていいのかしら〜?八幡くん悶絶しちゃうわよ〜?」

 

 

八幡「意味がわかんねえよ・・・。先生なんだからちゃんとしてくださいよ・・・。渋谷たちが男子と揉めてたときも、割と早めに先生呼びに行ったのに先生下痢でトイレにこもってたじゃないすか」

 

 

先生「こら!八幡くん、女性に下痢とか言っちゃ駄目よ?」

 

 

八幡「はいはい。でもあのとき俺殴られるわ女子三人に泣かれるわ大変だったんですよ?お兄ちゃんスキルが勝手に働いちゃって北条の頭撫でちゃったのが原因かと思って家帰って枕に顔埋めながら叫んじゃいましたよ」

 

 

先生「いやあ、それは本当にごめんなさい」

 

 

八幡「まあいいや。ほら、寒いんで俺入りますよ」

 

 

先生「あ・・・だから今は・・」

 

 

 私の言うことを無視し教室の中に入る八幡くん。すると奈緒ちゃんの大笑いする声と凛ちゃんと加蓮ちゃんのとても慌てた声が教室内に響き渡った。

 

 それを聞き、自分も若い頃に戻りたいと切実に思った。

 

 

・・・はあ、彼氏ほしい。

 

 

 

おわり

 



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もしも偶然出会ったら



クール属性が特に好きです。ですがパッションとキュートのアイドルもみんなかわいいので担当Pになれる気がしません。


 

 休日。

 

 

 なんと素晴らしい響きだ。

 

 いま言った通り、今日は幼稚園は休みである。また来週からあるであろう雪ノ下の罵倒に耐える精神力を養わなければなるまい。まあそうはいっても、とりあえずはとことん惰眠を貪ってやる。

 

 リビングのソファで寝転がりながらそう一人思っていた。目の前では小町がテレビを見ている。内容は絵本の読み聞かせであり、画面の中には本を読んでいるお姉さん、そしてその周りには俺と同じくらいの年の子達がおり、続きを気になりながら聞いている。小町もその一人であり、まるで画面の向こう側で一緒に物語を聞いているかのように珍しく集中していた。

 

 少しすると親父が起きてきた。俺と小町に朝の挨拶を済ませる。テレビに集中していた小町はそれに気付かず、親父が少し落ち込んでいる。どんまい。

 

 それにしても、小町は毎週この時間は絶対テレビの前でお利口に座っている。この本の読み聞かせの時間が小町の最近のお気に入りの時間らしい。リモコンも小町が自身の目の前に置き支配している。本人は使い方知らないのにな。

 毎週読み聞かせの時間になると俺は小町から叩き起されチャンネルを合わせるためだけにリビングへ行かなければならないのである。

 

 小町が息を呑む。どうやら絵本のお話も佳境に差し掛かったようだ。よほど絵本の世界に入ってしまったのだろう。小町が少し前に乗り出した。

 

 

 その時突然、こまちのめのまえがまっくらになった!・・・ポケモンじゃないよ?

 小町が前に乗り出したせいで、目の前にあったリモコンのボタンを押してしまったらしい。しかも電源ボタンを。小町は一瞬固まったが、その後自分が置かれている状況を理解したらしく、すぐさま俺を見た。・・・はいはい、つければいいんでしょ?リモコンかしなさい。割と早めにテレビを再度起動したのだが、現実は小町に厳しかった。

 画面の向こうに映し出されているのは本を閉じたお姉さんと、拍手する子供達の姿であった。それを見た瞬間小町は泣き叫んだ。それはもう盛大に。俺と親父で必死にあやすが全く効き目がない。オチを聞き逃し終わりが分からないのでモヤモヤしてるんだろうな。

 

 

 その後お兄ちゃんスキルが働いてしまい、休日の予定を睡眠から件の絵本探しの旅へと変更せざるを得なくなったのだった。

 

 

----------

 

 

 

 俺は一人で本屋を目指し歩いていた。本当は親父か母ちゃんと一緒に行こうとしたのだが、親父は突然会社から連絡が入り休日出勤。本当にお疲れ様でございます。親父を見る度に将来の夢が専業主夫となっていくな。

 母ちゃんは小町の機嫌を直さねばならず、家に残っている。ああなった小町は母ちゃんじゃないと直せないからな。俺一人で絵本を買ってくると言うと母ちゃんに心配されたが、そこは小町のお兄ちゃん。立派に買って帰ってみせよう。そういうわけで、母ちゃんから金を貰い、俺は本屋を目指すのであった。

 

 

----------

 

 

 

 

 

八幡「な、無い、だと・・・」

 

 

 

 一人で外に出るのは公園に行く以外に家の近くを探検する程度しか経験が無かったが、以前母ちゃんと本屋にきたことがあったので、道程は知っていた。一人で本屋に来れる俺すごない?ふっ、負けを知りたい。そう考えていると、いくら探しても小町のお目当ての絵本が見つからなかった。店内を何周も何周も見て回ったが見つからなかった。早速負けてるじゃねえか。ああ、手ぶらで帰ると小町がまた泣き叫んでしまう・・・どうすっかな。

 

 

 「・・・」

 

 

八幡「代わりを買おうにも、全部持ってるやつだしなあ・・・」

 

 

 「あ、あの・・・・あれ、聞こえてない・・・?」

 

 

 仕方ない。帰ろう・・・。小町には素直に謝ろう。

 

 

 「・・・あの、すみません」

 

 

 小町の悲しい顔見たくないな・・・

 

 

 「あ、あの」

 

 

八幡「え?」

 

 小町のことを考えていると、袖を引っ張られていることに気付いた。

 

 

 「す、すみません・・・何か・・探しているようでしたので・・・」

 

 

 声の主は女の子であった。俺よりちょっとだけ年上だろうか。前髪が目にかかっており、よく顔は見えないが、わずかに見えるとても綺麗な目。間違いなく美少女なのは容易に確認できた。や、やばい、年上の女の子とか、緊張してきた。あ、俺同い年でも幼稚園で緊張してたわ。

 

 

八幡「は、はい。絵本を探してまして。妹が今朝・・・」

 

 

 俺は今朝の出来事を話した。女の子は少し考えている様子だ。それにしても緊張する。こ、小町の泣き顔は見たくないが早く家に帰りたい。

 

 

 「あ、あの・・もし、よろしければ、わたしのおじさんの書店に来ませんか・・?その本でしたら、あったはずです・・・」

 

 

八幡「え?」

 

 

 「あ・・・す、すみません・・・余計な、こと言ってしまって・・・無理にとは言いませんが・・・」

 

 

 おじさんが書店を開いてるのか。俺も本は好きだから少し羨ましいな。せっかくこう言ってくれているんだ、ありがたく提案を受け取ろう。

 

 

八幡「で、でしたら、是非」

 

 

 「! は、はい」

 

 

 女の子は断られると思っていたのか知らないが、提案を受けたら少しだけ笑顔になったように見えた。かわいいなちくしょう。

 

 こうして俺は女の子の言う本屋へと目指すのだった。

 

 

 

 

 

 あ、まだお互い名前知らないや。

 

八幡「あ、あの、お名前は?」

 

 

 「あ・・・はい・・。鷺沢、文香って言います・・」

 

 

----------

 

 

 

 鷺沢さんの叔父さんの本屋は先程の本屋に比べると大きくはなく、むしろこじんまりとしたものであったが、それでも俺を引き込むには充分だった。店の雰囲気もだが、全く来たことのない場所に来たから冒険心のようなものも作用され、気分が少し高揚してしまう。

 俺が来た道とは全然違うから、こんな所に本屋があるなんて気付かなかったな。いつもはさっきの本屋に母ちゃんと行ってるし。

 

 

 大人が読むような難しそうな本はもちろん、俺でも読めるほどの児童書も多かった。というか児童書が一番揃ってるな。そして目当ての絵本も無事見つけることが出来たのであった。

 

 

 

 

 

 

八幡「どうもありがとうございました。鷺沢さんのおかげで妹に泣かれなくて済みそうです」

 

 

文香「いえ・・お役に立てて、良かったです・・」

 

 

 その後、当然帰ることになり、鷺沢さんは先程の本屋の辺りまで一緒に来てくれた。俺が帰り道で迷わないために付いてきてくれた鷺沢さんめちゃくちゃ優しい。

 

 

八幡「あ、ここで大丈夫です。何から何まで今日はありがとうございました」

 

文香「ふふ、気にしなくて、いいです」

 

 クスリと笑う鷺沢さんはかわいくて、本当はもっと年上なのでは、と思うほど落ち着いた雰囲気を醸し出していた。

 

文香「あの・・比企谷くんは、本は・・好きですか?」

 

 

八幡「え、は、はい好きです。難しい本はまだ無理だけど、児童書くらいなら家でよく読みます」

 

 

文香「そうですか。では・・よければ、これを・・」

 

 

 そう言って手渡してきたのは本であった。

 

文香「私のおじさんは、私が本が好きだから・・あの本屋に私が好きそうな本をたくさん置いてくれてるんです。だから、暇があると、あの本屋にいってるんです」

 

 なるほど。だから店内に児童書が一番置かれていたのか。叔父さんいい人だな。

 

文香「私の通ってる小学校では・・・私の周りの子たちは、あまり本を読まないので・・・だから、比企谷くんが、本を読むことが好きと言ってくれて・・・嬉しいです。その本はとても読みやすくて、とても面白いですので、よければ読んでください。私からの・・・プレゼントです」

 

 

八幡「え!?い、いや、さすがにタダで貰うわけには・・・!?」

 

 

文香「・・・・」

 

 

 鷺沢さん、そんなに悲しい顔をしないで下さい。罪悪感が半端じゃないですごめんなさい。

 

 

八幡「す、すみません。では、ありがたく頂きます」

 

 

文香「! はい」

 

 

 笑顔が眩しすぎる。天使はここにいたのか・・・。危うく告白して振られるところだった。振られちゃうのかよ。

 

 

文香「いつでもいいので、また、うちの本屋に来ることがあった時、感想を聞かせてください」

 

 

八幡「は、はい。もちろんです。また来ます」

 

 

 

 そう言って鷺沢さんに一礼をし背を向け、小町が待っているであろう家を目指す。今日はまるで冒険したかのような一日だったな。

 本は一人で読み、自分だけの世界なのだと思っていたが、本を通してこんな出会いもあるなんて。

 

 少し歩いたところで、後ろを振り向く。鷺沢さんが変わらず見送ってくれていることに気付き、俺は胸が少し温かくなるのを覚え、気恥しさからか、先程より少し早足で家に帰るのだった。

 

 

 

----------

 

 

 

 

 

 

〜おまけ〜

 

 

 

 後日、鷺沢さんに貰った本を読み終えた俺は、鷺沢さんのおじさんの本屋に来た。

 

八幡「す、すみません」

 

 

文香「!! 比企谷くん・・。そろそろ、来る頃だと、思っていました・・・」

 

 

 ドラマやアニメでよく聞くセリフをまさか鷺沢さんが言うとは思わなかったな。本だけじゃなくて、そういうのも見るのかな。

 

 

八幡「この前はありがとうございました。貰った本もすごく面白かったです」

 

 

文香「!!そ、そうですか。ふふ、良かったです。あ・・・そうだ。比企谷くん、ちょっとまっててください・・・」

 

 

 そう言うと店の裏側に消えていく鷺沢さん。なんだろう。待っててと言われたからそのまま帰られるということは無さそうだが・・・無いよね?

 少しすると鷺沢さんが戻ってきた。・・・大量の本と一緒に。い、一体そんな華奢な体のどこにそんな力が・・・。

 

 

文香「よ、よければ、この本たちもどうぞ。今回は、あげることは、できないから、貸すことになりますが・・・」

 

 

八幡「ええ!?で、でも、さすがにこの量は・・・」

 

 

文香「・・・」

 

 

 ああ!悲しい顔しないで鷺沢さん!その顔されると八幡断れない!!

 

 

八幡「わ、わかりました。ありがとうございます」

 

 

文香「!! はい」

 

 

 

 

 断ることができず大量の本を受けとる。季節は真冬だというのに寒くなく、むしろ本を運ぶ重労働で汗だくで、腕がキツくて涙目になるというシュールな幼稚園児を演じながら帰ったのだった。

 

 

 

 

 

おわり

 

 



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もしもお絵描きの時間があったら


私が幼稚園の頃はクマさんとキリンさんをよく描いていました。実家に帰って思い出の品々を見るとキリンがどう見てもラクダにしか見えませんでした。


 

 

 写生。

 

 絵画において、事物を見たまま写しとることであり、主観的な表現を表す写意の対立概念。まあちょっと博識ぶって説明してみたが、要はデッサンである。

 先生が園児達にスケッチブックに何でもいいから園内で自分の見たものを描こうという提案があった。

 正直俺はこの案に賛成だった。何故なら教室にいることなく一人で黙々と時間を潰せるからな。絵を書き終わったらその後はもう自由にしていいらしいし。適当に遊具の風景でも描いてさっさと終わらせて日向ぼっこしながら寝ちまお。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう思ってた時期が俺にもありましたよ。

 

 

八幡「なんだこの状況」

 

雪乃「・・・」

 

凛「・・・」

 

加蓮「・・・」

 

奈緒「くふっ・・ぷぷっ」

 

 

 

 女の子に囲まれ、ポーズを取らされる五歳児がそこにはいた。

 

 というか俺だった。おい神谷、笑いすぎだ。

 

 

----------

 

 

 

 十五分ほど前だろうか。先生の合図で園児達がスケッチブックとクレヨンを手に持ち、各々が思っているであろう絵を描くために散らばっていった。

 団子のように固まって絵を描く園児達もいれば、一人黙々と作業を進める園児もいる。というか後者は俺だったわ。

 

 俺は遊具をスケッチブックに描いていた。シーソー、滑り台、ジャングルジム、ブランコ。これだけ描けば充分だろ。ジャングルジム地味に難しかったな。この後の寝る時間が少し無くなっちまった。まあいいや、あとは背景に空を適当に描いてっと・・・。

 

 

加蓮「あ・・・は、はちまんくん」

 

八幡「ん?ああ北条か」

 

加蓮「ここをかいてたの?」

 

八幡「まあな。もう終わりそうだ」

 

加蓮「ええっ、はやいね・・。わたしまだなにもかけてないよ・・・。」

 

八幡「ここ結構描きやすいぞ。俺もう終わるからここで描いたらいい」

 

 

 そう言って俺は立ち去ろうとすると北条が目の前に回り込んできた。意図が分からなかったので北条の横を通ろうかとすると北条も横に移動し、また俺の行く手を阻んできた。くっ・・・こいつ、やりよる・・・。

 

 

----------

 

 

 

 

 その後五、六回ほど北条から行く手を阻まれた。傍から見たらすごい絵面だっただろうな。北条も「う、うぅ・・・」って恥ずかしがるくらいならやらなけりゃ良かったのに。

 

 北条に先程の意図を聞くと、自分は絵があまり上手くないから、俺に描き方を教えて欲しいらしい。しかし俺もそんなに絵は得意ではない。それに俺たちは幼稚園児なのだ。下手でなんぼだろう。

 というか俺は知っている。北条は体があまり優れないことが多いらしい。だから周りの子達のようにあまり外で遊ぶことができないため、よく教室の中で絵を描いていることを。たまに通りかかる時にちらりと見たけど、上手い部類には確実に入るほどの実力だということを。

 北条の意図が読めん。あと北条、何故遊具ではなく俺を見ている。何故百歩譲って俺がここに残り、北条の絵ができるまで待つとしても、俺が描いた風景と同じになるはずのお前が、何故俺の対面にいる。遊具を描くんじゃなかったのか?それ絶対俺のこと描いてるよね?

 そのような思いを込め北条の目を見る。気付け。あ、目が合った。・・・おい、口をもごもごするんじゃない。かわいいなくそ。

 

八幡「な、なあ北条、お、俺はてっきりお前も遊具を描くと思ってたんだけど」

 

加蓮「だ、だって、それははちまんくんがもうかいちゃったから、あたしもかくとマネしたみたいになっちゃうじゃん。ず、ズルはしちゃダメなんだよ?」

 

八幡「い、いやズルじゃないと思うぞ?ほら、周り見てみろよ。皆で固まって描いてる子達もたくさんいるぞ?だから、北条も遊具を「はちまんくん、うごいちゃだめ」・・・はい、すいません」

 

加蓮「ほら、はちまんくん、ちゃんとこっちみて」

 

 

・・・もう何も言うまい。ただ時間が過ぎるのを待とう。言われた通り前見とくか。

 

加蓮「・・・うぅ」

 

 

 北条よ、さっきから唸ってるがどうしたんだ、体調悪いのか。心なしか顔も赤い。

 

 

八幡「な、なあ北条。顔赤いけど大丈夫か・・・?さっきからきつそうだし、もうやめといたほうが・・・」

 

加蓮「え!?だ、だいじょうぶだよ!ぜんぜんきつくないし、おかおは・・・うぅ、おかおあかいんだ・・・」

 

 とりあえず大丈夫らしい。後半聞き取れなかったが。まあ本人が言うなら大丈夫なのかな。

 

 

加蓮「・・・はちまんくんはやさしいね」

 

八幡「ん?そ、そうか?」

 

加蓮「うん。やさしい。あのときもあたしたちをたすけてくれた。いまも、あたしのことしんぱいしてくれる」

 

八幡「・・・あれは俺の自己満足だ。俺の目の前で起きていることが、俺にしか解決できないことだったら俺がやる。俺にとっては当たり前のことなんだよ」

 

加蓮「よくわかんないけど、はちまんくんはやさしいよ。あのときも、とってもうれしかった。ありがとう」

 

八幡「き、気にすんな」

 

加蓮「もう、おれいはすなおにうけとらなきゃダメなんだよ?」

 

 そう言って北条がクスリと笑う。仕方ねえだろ、あんまこういうこと言われる機会ないんだから。

 

 

八幡「・・・おう、わかった」

 

加蓮「ふふ、うん!」

 

 

 今日一番の笑顔を見せてくれた北条は、とても可愛くて、思わず目をそらしてしまった。

 

 

加蓮「あのときのはちまんくん、すっごくかっk「かれん、なにしてるの?」・・・げっ」

 

 

 俺たちがいる所に渋谷と神谷が来た。というか北条、げっ、って言ってやるな。友達なんでしょ?

 

凛「あれ?かれん?あれれ?となりの組のともだちとかくんじゃなかったの?」

 

加蓮「あ、あれー?そ、そうだったっけ?そ、そんなこといったかなあ」

 

奈緒「まあ、あたしはそんなこったろうとおもってたけどさ・・」

 

 そう言い神谷が苦笑いしている。話が読めん。

 

 

凛「なお、しってたならあたしに言わなくちゃ。ほうれんそうは きほんだっておとうさんが言ってたよ」

 

奈緒「え、なんでやさいがきほんなんだ?」

 

 

 もはや誰も俺の存在を気に止めていない。女三人集まれば、などと言うが、強ち間違っていないのかもしれない、とにかくこれで解放される。逃げ恥逃げ恥。まさかこんな所で役に立つとはな。そう思い、そろりそろりとその場を後にしようとすると、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雪乃「あら、これはいったいどういうじょうきょうなのかしら、へんたいがやくん?女の子をはべらせて、なにをするつもりなのかしらこのたらしがやくんは」

 

 

 

 

 ああああ、今一番遭遇してはいけない奴が来やがった。しかも渾名を二つも・・・。雪ノ下、立ち直れなくなるからその辺で勘弁してくれ・・・。

 

 

----------

 

 

 

 その後逃げられなくなった俺は北条、渋谷、雪ノ下に囲まれながら一人一人が要求してきたポーズを取らなければならなくなった。神谷はブランコに座りながら俺たちのことを描いている。おい神谷、笑いながら描いてないで止めろ。泣くぞ、泣いちゃうぞ。

 

 

雪乃「ひきがやくん、ちょっと滑り台のところですわってちょうだい」

 

凛「はちまん、ジャングルジムのてっぺんでばんざいってしてよ」

 

加蓮「はちまんくん、シーソーにいっしょにのってるところをかくからいこうよ。・・・あれ、でもそしたらわたしものるからかけないや・・・うう」

 

 

 

 などというような画伯たちの要求が続いた。北条がだんだんポンコツになってきている。あと神谷、お前もうブランコ楽しんじゃってるじゃねえか。少しはこっちを気にしてくれ。

 

 

 

 結局俺は予定していた昼寝もできず、時間になるまで三人のデッサンに付き合わなければならなかった。

 

 

 

おわり

 

 

 

----------

 

 

 

 

 

〜おまけ〜

 

 

 

 

 みんなのがんばって描いた絵を見るのは感慨深いわね〜。

 

 子供は想像力が豊かだから、見てるこっちも勉強になるわ。

 

先生「八幡くんは遊具を描いたのね。上手だなあ。あの子はやっぱりいろいろ器用だから将来が楽しみねえ」

 

 

 もちろん八幡くんに限らず、みんなとっても上手に描けているけれど。

・・・ん?これは、凛ちゃんね。ジャングルジムが描かれてあるけど、その頂上に男の子が居るわ。この特徴的なアホ毛は、八幡くんかしら。本当に仲がいいわねえ。さて次の子は・・・ん?またアホ毛。今度は滑り台で遊んでる風景ね。描いたのは雪乃ちゃんか。この二人は本当に八幡くんのことが好きねえ、ふふっ。

 

 

 ・・・またアホ毛だわ。今度は加蓮ちゃん。シーソーに乗ってる八幡くんと、一緒に遊んでる加蓮ちゃんといったところかしら。八幡くん、本当に罪な子ねえ。その年でモテ期を経験するなんて。でもそろそろ先生の心が抉れそうだからほどほどにしてね?・・・はあ、彼氏ほしい。

 

 次は奈緒ちゃんか。ん?名前の横に「じしんさく!」って描いてあるわね。奈緒ちゃんは活発な子だから、見てるこっちも楽しくなるような絵なのかもね。

 

 

 

・・・これもアホ毛。まさかアホ毛のフォーカードが揃うとは思わなかったわ。

 でも奈緒ちゃんの絵の中には三人の女の子が八幡くんを奪い合う様子が描かれており、中心にいる八幡くんは泣きそうな顔でこちらを見ているものだった。

 

 

 ・・・奈緒ちゃんが一番絵が上手かったのね。まさかこの一枚で状況を全部理解出来るとは。八幡くん、モテる男は辛いわねえ。

 

 

 

 

 

 

 

 あと奈緒ちゃん、面白がって描いてないで少しは助けてあげなさい・・・。

 

 

 

 

おわり

 

 



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もしも隣の組の噂があったら(前編)


この子のSSRをお迎えすることがなかなかできません。


 

 人より優れたものを持つということは果たしてどのような気持ちなのだろうか。

 何故俺がこう考えているかというと、先程同じ組の男子達の会話を聞いていたからである。あ?俺もその輪の中にいたのかって?いると思うか?言い方が悪かったな。男子達の会話を盗み聞きしたからである。言ってて悲しくなってきたな・・・。

 男子達の会話の内容を要約すると、隣の組に可愛い子がおり、雪ノ下や渋谷にも匹敵するレベル、というものだ。そんな奴いたかな。まあ分からなくても無理はない。俺は同じ組のやつらでさえ顔と名前が一致する奴は数人しかいないからな。しかしそんな噂は今まで聞いたことなかった。周りに興味無さすぎでしょ俺。

 

 まあそんな女の子の噂があろうとも、俺には関係ない。そう思い、今日も園内のベストプレイスで時間が過ぎるのを待っていた。

 

 

 

 

 「・・・」

 

 

----------

 

 

 

 

 

 

八幡「んん・・・」

 

 

 いかん、この時期には珍しく気温が暖かかったので寝てしまっていた。幸いまだグラウンドには園児達が遊んでおり、教室に入る時間ではないようだ。

 

 

八幡「くぁ・・・。中途半端に寝ると逆に体がしんどいんだよな・・・」

 

 

 「ふふ。よくねてたわね」

 

 

八幡「ひゃい!?」

 

 

 寝惚けていたから気付かなかったが、すぐ隣には見覚えの無い女の子が座っていた。

 

 

 「ぷふっ、ふふ、そんなにおどろかなくてもいいじゃない」

 

 

 初対面の女の子にめちゃめちゃ笑われてるじゃないですか。ぼっちは突然話しかけられると対応できないんだから気をつけなさいよあなた。

 

 

八幡「あー・・・。俺に何か用か?」

 

 

 「うーん、用ってわけじゃないわ。あなたがひとりでここにいるのをたまに見かけていたのよ。ここはいつもあなただけがいたから、そんなにいいところなのかとおもって、気になって来てみたの。そしたらきもちよさそうにあなたがねてたのよ。ふふ、かわいいねがおをしてるのね」

 

 

 寝顔まで見られてるじゃねえか。恥ずかし過ぎるだろ。どんどん俺の精神が削られていく。くっ・・・殺せ。

 

 

八幡「そ、そうか。ここは落ち着けるからな。俺はいつもここに一人でいるが、なにも俺だけの場所じゃないから、自由に使ってくれ。それじゃあな」

 

 

 「あら、もういくの?わたしと少しくらいお話しない?」

 

 

八幡「い、いや、人と会話するのは慣れてないんでな」

 

 

 冗談じゃない。ぼっちに、しかも初対面の女の子と会話なんてハードルが高すぎる。ましてやこんな美少女となんて。

 

 

 「ふふ、シャイなのね、かわいい。でも、ふだんのあなたをみてると、ここう、ってことばがにあうのかしらそっちのほうがわたしはすてきだと思うわ」

 

 

 この子は一つ勘違いをしている。俺は孤高ではなくぼっちだ。

 

 

八幡「俺のことを見かけたと言ってたが、見ても何も面白くないだろ、こんな奴」

 

 「そんなことないわ。あなた、じぶんのことをめだたないと思ってるみたいだけど、まわりから見たらとても目だってるわよ。大人びてるというか、まわりとはオーラがちがうもの」

 

 

 な、なんだこの今までに無いタイプの奴は。何が目的なんだ。これが親父が言ってた美人局ってやつか?甘い蜜に吸い寄せられたところで喰らい尽くす女郎蜘蛛なのか!?俺は騙されんぞ!父ちゃんの名にかけて!・・・幼稚園児で美人局、誰得だな。というか俺オーラがあるのか。くくく、今ならどんなやつでも倒せそうな気がする。

 とまあ冗談は置いといて、オーラに関してはこいつの方がある気がする。妙に大人びてるし、雪ノ下と仲良く出来るんじゃねえか?いや、あいつは口を開けば罵倒だから無理か。

 

 

 「それに、かわいい女の子たちをまわりに置いてるから、男の子たちがいつもうらやましそうに見てるわよ」

 

 

 そう言ってその子はクスリと笑う。完璧に悪目立ちじゃねえか。また嫌がらせを受けちまう。昼のおやつは死守せねば。

 

 

 「あの子たちは園内でも有名な子たちばかりだから、あなたを好いているわけを知りたくなったってわけ」

 

 

八幡「す、好いているって、そんな訳ねえだろが。あいつらの気まぐれに振り回されてるだけだ」

 

 

 「ふふ、すなおじゃないのね。わたしのまわりの男の子たちとはちがうタイプだから話していておもしろいわ」

 

 

 そっくりそのままお返ししますよお嬢さん。あなたも初めてのケースの女の子です。

 

 

 「わたしのまわりの男の子は、自分に気をひいてほしくて、わたしにちょっかいを出してきたりして、さいきんちょっとうんざりしてるのよ」

 

 

 さりげなく自分モテますアピールか。この子がすると何も違和感がないのがすごいな。現にめちゃくちゃかわいいし。それにしてもうんざりしてるか。持つ者故の悩みだな。べ、別に羨ましくなんてないんだからね!!俺がすると気持ち悪いな。

 

 

 

先生「はーいみんなー!遊ぶのは一旦やめて、教室に戻ってねー!次はお歌の時間ですよー!」

 

 

 「あら、もうもどらなくちゃいけないのね。ありがとう、たのしかったわ」

 

 

 や、やっと解放される。その子はスタスタと自分の教室に戻っていく。一回立ち止まったかと思うとこちらを振り向きパチっとウインクをして、また教室に駆けていった。終始自分のペースだったな・・・。台風みたいな子だ・・・。

 

 俺も戻るか。それにしても、周りの男の子の話をしている時、一瞬だがあの子の表情に陰りが生じた気がしたが、気のせいかな。

 

 

----------

 

 

 

 

 

雪乃「はやみかなでさんね。となりのくみの女の子よ」

 

八幡「ほーん。お前全員の名前把握してるのか?」

 

雪乃「そんなことはないわ。あなたのなまえはさいしょは分からなかったもの」

 

八幡「さいですか・・・」

 

雪乃「けれどいまはちゃんとわかってるわよ。・・・えーと、だれだったかしら」

 

八幡「おいやめろ、傷つくから。冗談なんだろ?冗談だよな?俺が影が薄いから認知されてないってことないよな?」

 

雪乃「だれもそんなこと言ってないじゃない。かげうすがやくん」

 

八幡「思いっきり言ってんじゃねえか」

 

 そう言い楽しそうに笑う雪ノ下。楽しそうで何よりです。それにしても、はやみかなで、か。女の子に対して適切かは分からないが、めちゃくちゃかっこいい名前だな。俺なんか八日に生まれたから八幡だもんな。少し羨ましいな。適当につけた親父まじ許さん。

 

 

雪乃「でもなぜはやみさんのことをきいてきたの?まさかストーカーかしら?ストーカーくん?」

 

八幡「ばっか違えよ。さっき・・・」

 

 

 先程の出来事を雪ノ下に話す。朝に聞いた話の内容と、速水がとなりの組だという事で、隣の組の噂の女の子は速水のことかなと何となく察しはついていた。

 

雪乃「そんなことがあったのね。まったく、このたらしがやくんは」

 

 そう言い若干不満そうに頬を膨らます雪ノ下。いやいや今の話のどこに不満になる要素があったんだ。

 

 雪ノ下が まあでも、と続ける。

 

雪乃「となりのくみのうわさはわたしもきいてはいるわ。はやみさんはわたしとおなじでかわいいから、なにもしてなくても目だつもの」

 

 

 やはり噂の女の子は速水か。

 

 

雪乃「それと、うわさはただたんにはやみさんがかわいいというだけではないわ。となりのくみの男の子にはいわゆるガキだいしょうのような子がいて、その子がはやみさんにいろいろちょっかいをだしているらしいのよ。おおかた、はやみさんのことがすきで、じぶんのきをひこうとしてるのだろうけど」

 

 

八幡「まあやっぱそんなところか」

 

 

 速水の主観で、ちょっかいを出されているという度合いは変わってくるが、うわさになってるくらいだから、周りから見ても少し度が過ぎてるのだろう。

 なんと言うか、ガキだな。俺が言うことでもないけど。こんなの放っときゃそのうち無くなるだろ。

 

 そう思いながらも、先程の速水の本当に嫌そうな顔が頭の中を何度もちらついたのだった。

 

 

つづく

 

 



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もしも隣の組の噂があったら(後編)


こういうガキんちょがほんとに幼稚園時代にいました。


 

 

 

 速水と邂逅してから数日が経った。あれから俺から速水に会いに行くということはもちろん無く、あいも変わらずベストプレイスでの時間を過ごしていた。ゆっくりは出来なかったが。渋谷が話しに来る日もあったり、北条が一緒に昼寝をしに来る日もあったり、雪ノ下が俺に罵倒を浴びせに来る日があったり、また懲りずに罵倒を浴びせる日があったり・・・。くっ・・・、ベストプレイス新しく探そうかな・・・。

 

 

 

 

 

 いつものようにこの場所で寛いでいると、見たことの無い男の子が近付いてきた。この年にしては他の園児達より体が大きいな。なんて言うか、ジャイ○ンみたいだな。え、俺何かしたっけ?してないよね?八幡のくせに生意気だとかされないよね?

 

 

 「おまえ、さいきんちょうしのってるらしいな」

 

 

八幡「あ?いきなりなんだよ」

 

 

 本当にいきなりなんだこいつは。調子に乗ってる?俺が?

 

 

 「おまえ、しぶややゆきのしたたちが近くにいるからってちょうしのんなよな」

 

 

八幡「はあ。別に調子になんか乗ってねえよ。俺はあいつらの気まぐれに付き合わされてるだけだ。つーかいきなり話しかけてきて因縁吹っかけるって何だよ」

 

 ほんと何なんだ。まさにジャイ○ン。ガキ大将だな。ん?ガキ大将?こいつもしかして噂の隣の組のやつか?

 

 

 「とにかく、あいつらはお前のことなんかなんとも思ってないんだから、かんちがいすんなよな。あいつらはおまえみたいなやつじゃなくておれの方がにあってんだよ」

 

 

 ぷっ、なんか言い方がツンデレみたいだな。男がやっても気持ち悪いだけだな。

 どうやら俺はニヤけていたらしい。そいつが俺に更に突っかかってきた。

 

 

 「なにわらってんだよ!」

 

 

 要するにこいつは自分が一番でないと気が済まないのだろう。他人よりも優位に立ちたい、立っていたい。自分は持つものだと思いたい、そんな奴。こいつが件のガキ大将なら自分の立場が優位になるように速水の気をひこうと躍起になっていたのだろう。もちろんそこには純粋な好意もあるのだろうが。

 

 

八幡「速水奏」

 

 

 「!?」

 

 

 表情が変わった。確定だな。こいつだわ。

 

 

八幡「お前噂の隣の組のガキ大将って奴だろ?速水に構って欲しくていろいろちょっかい出してるらしいじゃねえか」

 

 

 「は、はあ?いきなりなに言ってんだよ。おれはべつにかまってほしくなんてねえよ・・・」

 

 

 こらこら、いきなりなんてお前だけは絶対に言うんじゃない。いきなり俺に突っかかってきたくせに。

 

 

八幡「別に俺はお前があいつからどう思われようが構わんが、噂になってるくらいだ。速水へのいたずらが度を越してるんじゃないのか?あんまやり過ぎると嫌われちまうぞ?」

 

 

 「べ、べつにすきじゃないし。た、ただあいつがいじめやすいからであって・・・。」

 

 

八幡「そうか。なら別にいいんだが、実はこの前、たまたま速水と話す機会があったんだ。そしたら男の子からのいたずらが最近度を越してきてうんざりしてるなんて言ってたもんでな」

 

 

 「え・・・」

 

 

 そいつは分かり易い程に顔を歪ませた。口では言ってるが速水から嫌われることは嫌なのだろう。

 

 

八幡「あんまりしつこいと愛想尽かされちまうぞ?まあ気をひこうと悪さをしちまうのかもしれんけど、好きならそういう近付き方じゃなくて、もっと優しくしてやれよ。俺は妹がいるけど、妹だけじゃなくて女の子には優しくしろって父ちゃんからいつも言われてるぞ」

 

 

 「・・・。・・・うるさい」

 

 

 

----------

 

 

 

 

 そう言い男の子は静かに去っていった。その背中は始めに来た時のジャイ○ンの風貌とは程遠く、とても小さく見えた。それはまるでジャ○子のようだった。あんま変わってねえじゃねえか。それにしても・・・

 

 

 

 

 

 ・・・っはあーーー、こ、こわかった。何生意気にアドバイスしてんだよ俺!何で他人にはそういうこと言えるのに!頭では理解してるのに友達できないんだよ!・・・やめよ。考えるだけ無駄だ。

 

 

奏「お疲れ様♪」

 

八幡「うお!?」

 

 

 物陰から速水がひょこっと出てきた。し、心臓に悪い・・・。

 

 

奏「ふふ、やっぱりあなたは周りにいないタイプだから面白いわ」

 

八幡「き、聞いてたのか?」

 

奏「全部ね♪」

 

八幡「あああああ」

 

 

 思わず主人公の名前を決める時適当につけるような言葉が出てしまった。恥ずかしすぎる・・・。穴があったら入ってしばらく滞在してたい・・・。

 

 

奏「さっきの子、うちのクラスで一番やんちゃで、力も強くて、すぐ手が出ちゃうから、他の子たちも怖くてなかなか言えなかったのよ。だから凛たちに愚痴のような形で話してみたら、あなたの話になったのよ。あの時話してみて正解だったわ」

 

 

 だからあの時現れたのか。渋谷たちと友達なのか。類は友を呼ぶってやつだな。て言うか、もしかして速水にはこうなることが読めてたのか?だから渋谷たちに話した?だからあの時俺に接触した?こ、この女、相当キレるな。

 

 

八幡「はああ・・・。殺してくれ・・・。」

 

奏「ふふ。すてきだったわよ。ミステリアスな感じだと思ってたけど、紳士な所もあるのね♪」

 

 

 初めて話した時から思っていたけど、こいつは苦手だ。俺のテリトリーをいとも簡単に越えてくる。褒められ慣れていない俺を褒めてくる。むず痒い恥ずかしいかわいい。おい、騙されるな俺。まあでも、

 

八幡「・・・明日から、あいつからの接し方が変わってるといいな」

 

奏「そうね。でもきっと大丈夫と思うわ。あなたの熱い言葉に思うところがあったと思うから。去り際の彼をみたらそんな気がしたもの。ま、始めの凛や雪ノ下さんのこともあんなこと言ってたのは私的にマイナスだけどね」

 

八幡「いちいち俺を恥ずかしがらせるんじゃねえよ。ほら、用が済んだなら教室に戻れよ」

 

奏「あら、つれないのね。女の子には優しくしなくちゃいけないんじゃないの?」

 

八幡「ぐっ・・・。」

 

奏「ふふ。それはそうと」

 

 

 速水が少し近くにくる。やめて近い恥ずかしい!

 

 

奏「ほんとうにありがとう。凛たちに話してみてよかったわ。あなたがいてくれてよかった」

 

 クールな速水の素直な笑顔は、こちらが恥ずかしくなる程に可愛いものだった。

 

八幡「お、おう。まあ、ガキ大将とか言われてたくらいだったから、殴られたりしないか内心ビクビクしてたけどな」

 

奏「あら、それじゃあとても勇気を出してくれたのね。ならごほうびをあげなきゃ」

 

 

 

 そう速水が言うと、俺の右頬が熱を帯びた。what?え?は?速水さん?な、何を

 

奏「ふふ、今はそれで我慢してね。ありがとう。はちまんくん♪」

 

 

 そう言い速水がクスリと笑い、教室に帰っていった。なんだか雪ノ下たちと言い、この速水と言い、これからの将来、もし、万が一関わることがある将来があるとするなら、俺は一生敵わないんだろうと思った。女の子に弱いのか、それともあの子達が一枚上手なのかは分からない。でも、彼女達と笑い合える未来があるのなら、それも悪くないのかもしれないな。そう思い、いつもより少し遠くの空を眺めた。

 

 

 

おわり

 

 

 

 

----------

 

 

 

 

 

 

 

〜おまけ〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

奈緒「あわわ・・・ひ、ヒキガヤ、かなでと・・・」

 

 

八幡「!?」

 

 

奈緒「り、りんたちにほうこく・・・」

 

 

八幡「ち、違うんだあ!待ってくれ神谷ぁ!!」

 

 

おわり

 

 

 

 



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番外編:もしもみんなの休日を覗いて見たら


私は休日は専ら睡眠派です。そして虚無感だけが残ります。


 

 

〜神谷奈緒〜

 

公園にて

 

 

奈緒「お、ヒキガヤ」

 

 

八幡「げ、神谷奈緒」

 

 

奈緒「なんでフルネームなんだよ」

 

 

八幡「ふん、うっせ、この前はお前のせいで大変な目にあったんだぞ」

 

 

奈緒「はは、まあまあ。悪かったって。でもおやつの時間はうれしそうだったじゃん、かなでから『あーん』ってしてもらって」

 

 

八幡「あれは完全に俺被害者だったろうが。つかなんで速水は隣の組なのに当たり前のようにうちの組でおやつ食べてるんだよ・・・」

 

 

奈緒「さあなー。気になる子でもいるんじゃないか?でもすぐとなりの組の先生に回収されてたな」

 

 

八幡「あの時の速水めちゃくちゃジタバタしてたな・・・ってそうじゃねえよ。お前が誤解してあいつらにチクったせいで大変な目にあったんだからな!」

 

 

奈緒「あのときのゆきのはすごかったなあ。ヒキガヤを正座させてボロクソ言ってたもんなあ。っくく、思い出しただけで笑いが」

 

 

八幡「笑い事じゃねえよ。まさかあの短時間で三十回も変態って言われるとは思わなかったわ。渋谷と北条に関しては正座で足が痺れた所を何も喋らずにひたすら蹴ってくるし・・・」

 

 

奈緒「はっはは、あいされてるなあヒキガヤは」

 

 

八幡「なんでそうなんだよ・・・つか何してたんだ?」

 

 

奈緒「ん?ああ、ふふん、こんど家族でスキーに行くんだ。だからすべり台をスキー場に見立てて滑ってたんだ!いっぱい練習したからのどかわいちゃったよ」

 

 

八幡「練習になんねえだろそれ・・・。まあいいや、ならさっき買った飲み物やるよ。どうせ俺今から帰るし。家近いし」

 

 

奈緒「え?」

 

 

八幡「ほれ。じゃあな」

 

 

奈緒「え、ちょ、ヒキガヤ!」

 

 

 

 

奈緒「行っちまった・・・。」

 

 

奈緒「あ、ああいう自然にやさしい所、なのかな・・・凛たちがあいつをすきなのは・・・」

 

 

 

奈緒「・・・ん?」

 

 MAXコーヒー

 

 

 

奈緒「・・・体うごかしたやつにコーヒーよこすんじゃねえよ!!」

 

 

 

----------

 

 

 

〜北条加蓮〜

 

自宅にて

 

 

 TV『だ、ダメです・・・。私には夫が・・・』

 

 TV『奥さん・・・。僕はあなたがいないと・・・』

 

 

加蓮母「こんなドロドロしたのほんとに現実であるのかしら」

 

加蓮「・・・」

 

 

 

〜加蓮の脳内〜

 

加蓮『だ、だめだよ・・・はちまんくん・・・あたしにはまだ幼稚園が・・・』

 

八幡『北条・・・いや、加蓮。お前がいないと俺はだめなんだ。俺と一緒に来てくれ』

 

 

 

 

 

加蓮「はわわ・・・。は、はちまんくん・・・」

 

 

バタン

 

 

 

加蓮母「ん・・・? え!?加蓮!?どうしたの?!顔真っ赤にして倒れちゃって!!ち、ちょっと、しっかりして!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

加蓮「んう・・・?」

 

 

加蓮母「あっ、目が覚めた?」

 

 

加蓮「お母さん・・・?」

 

 

加蓮母「心配したのよ?いきなり顔真っ赤にして倒れちゃうんだから・・・」

 

 

加蓮「うう、ごめんお母さん・・・」

 

 

加蓮母「ふふ、大事じゃないようで安心したわ。最近は幼稚園も休まないで行けてたから疲れちゃったのかもしれないわね。あまり無理しちゃダメよ?」

 

 

加蓮「うん。ありがとう」

 

 

加蓮母「それはそうと、加蓮が寝てる時に『はち・・・だめ・・よ』って、途切れ途切れだったからよく聞き取れなかったけど、うなされたけど大丈夫?」

 

 

加蓮「え!?」

 

 

加蓮母「はち?蜂?何かしらねえ」

 

 

加蓮「はわわ・・・」

 

 

バタンッ

 

 

加蓮母「え!?ちょっ、加蓮、また!?しっかりしなさい!!」

 

 

 

----------

 

 

 

〜速水奏〜

 

自宅にて

 

 

奏母「あら、あなた、今日はおはようのキスはしてくれないの?」

 

奏父「な、お、おいさすがに奏の前でそういうこと言うんじゃありません・・・」

 

奏母「いいじゃない、言うくらい」

 

 

奏「・・・」

 

 

 

----------

 

 

奏母「あなた、はい、あーん♪」

 

奏父「あ、あのなあ、だから一人で食べれるって・・・」

 

奏母「ふふ、結婚してもシャイなところは変わらないのね♪かわいいわ♪」

 

奏父「はあ・・・。奏・・・お前はこうなるなよ・・・」

 

 

奏「・・・」

 

 

----------

 

 

奏母「あら、あなたどこか出かけるの?」

 

奏父「ひゃい!?は、はいちょっと打ちっ放しに・・・」

 

奏母「そう・・・先週から約束してたデート、忘れちゃったのかしら」

 

奏父「あ、あれ、約束してたっけ・・・してないよね?」

 

奏母「ううん、いいの、気にしないで・・・。何でもないのよ・・・。うう・・・」

 

奏父「ぐっ・・・。そ、そういえば約束してたな!!ち、ちょっと準備してくるから待っててくれ母さん!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

奏母「とまあこんな感じよ」

 

 

奏「やっぱり、どんな恋愛本よりもお母さんを見てた方が勉強になるわ」

 

 

奏母「目線や言葉、色気で誘惑して、時には積極的に、強引に、そして女の涙は強力な武器になるわ♪」

 

 

奏「よくわかったわ」

 

 

奏母「奏は私に似て美形だから、完成したらその相手はイチコロよ♪」

 

 

奏「ふふ、まだ好きかどうかなんて分からないわ。これから確かめていくのよ」

 

 

奏母「あなたはまだ5歳だけど、恋愛に早いも遅いもないわ。話を聞く限りその男の子は女の子が惚れちゃったら抜け出せなくなるくらいのいい男になるわ。奏が後悔しないようにがんばりなさい♪」

 

 

奏「まあ、好きになったらね」

 

 

奏母「ふふ、強がっちゃって。そういうクールなところはお父さんに似たのね。ほら、奏も準備してきなさい♪」

 

 

奏「はーい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

奏「・・・」

 

 

奏「はちまんくん、よくねてたわね。おはようのキスはいるかしら?」

 

 

 

 

奏「ふふ、次はこれでいってみようかしら♪」

 

 

 

 

----------

 

 

 

 

〜渋谷凛〜

 

ハナコの散歩にて

 

 

凛「・・・」

 

 

-先日-

 

奈緒『ひ、ヒキガヤが!!か、奏とき、きききききききききす!!!』

 

 

-----

 

 

凛「むー・・・」

 

 

凛「ハナコ、いや、はちまん!」

 

 

ハナコ「?」

 

 

凛「だ、だめじゃん、はちまん、き、きすなんてしちゃ。ま、まだ五歳だし・・・。はしたないと、思うな・・・」

 

 

ハナコ「ワンッ!」

 

 

凛「うわ!はちまん!あ、ちがう、ハナコ!そんなに急がないで!」

 

 

 

 

 

 

 

 

凛母「はちまんって何?」

 

 

〜十五分後〜

 

 

凛「ハナコ!いや、はちまん!」

 

 

ハナコ「?」

 

 

凛「ど、どうしてもき、き、キスしたいなら、あ、あたしと、す、すればいいじゃん・・・ちがう?」

 

 

ハナコ「・・・」

 

 

 

凛「わ!!はちまん!いきなりウ○チしないで!!ん?あっ、ハナコ!」

 

 

 

 

 

 

 

凛母「だからはちまんって何・・・?」

 

 

 

----------

 

 

 

 

〜雪ノ下雪乃〜

 

自宅にて

 

 

雪乃「・・・」

 

 

 

雫乃(あら、雪乃?姿見の前に立ってどうしたのかしら)

 

 

 

 

雪乃「ひ、ひきぎゃやきゅん、コホン、ひきがやくん、やっぱりあなたは変態さんね。女の子とキスをしたらしいじゃない。まったく、あなたはわたしが常に監視してないと何をするか分かったもんじゃないわ」

 

 

 

 

雫乃「なっ、な、な・・・!」

 

 

 

 

都築「ん?奥様?その先におられるは雪乃様・・・」

 

 

 

 

雪乃「ひ、非常に、全くもってイカンであるけれど、あなたは私の管理下におくわ。だ、だから、き、きき、きちゅ、うう・・・き、キスも、他の子にしたらゆ、許さないわ」

 

 

ちゅっ

 

 

 

 

雫乃「!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

都築「ぐうううう!!?お、奥様から計り知れぬ覇気が・・・!」

 

 

雫乃「ふう・・・」

 

 

 

 

雫乃「・・・」

 

 

都築「お、奥様、どちらへ・・・。じ、自室へお戻りになられた・・・。ふ、ふう、何事も起きぬようで安心です・・・」

 

 

 

雫乃「・・・」

 

 

 

都築「・・・奥様、・・・それはいけません奥様!!その薙刀を置いてください奥様!!!ぐううう!!・・くっ、力強えなこのババア!」

 

 

雫乃「だれがババアよ!!」

 

 

都築「ぐっはあ!!そこは聞こえとるんかい!申し訳ございません奥様!!出過ぎた真似を!ですが早まってはいけませぬ!どうか穏便に!!」

 

雫乃「離しなさい都築!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雪乃「・・・あの二人は何をしてるのかしら」

 

 

 

 

おわり

 

 



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番外編2:もしも執事の一日を覗いて見たら

こういう一日を覗いて見たら、というドキュメントのようなものをされてみたい、という自分がいますが、睡眠するだけなので逆に相手側に申し訳ないなと思っていつも考えるのをやめてしまいます。






 御早う御座います。私都築と申します。私の職場とも言えるこちらの大屋敷。その主である雪ノ下家に執事として従事し、長い年月が経ちます。

 最近は、昔よりも時間の流れが早く感じてしまいます。私が幼少期の頃は時間が経つ事が早いと感じることも多くありましたが、逆に遅いと感じることも勿論ありました。前者は友人と娯楽に興じていた時間など。後者は勉学に勤しんでいる時間や、遠足の前日の夜などでしょうか。楽しい時間というのは直ぐに過ぎてしまいます。逆に自らが気乗りしないこととなると時間の経過が遅く感じてしまう。そして不思議なことに近い未来に自らが待ち望んでいる物事を迎えるまでの時間も長く感じてしまうのです。

 私は人生などあっという間に感じてここまで生きてきましたが、幼少の頃のそういった近い未来を楽しみにしているあの時間を何歳になっても感じることができれば、私の人生ももっと充実した物となっていたのかも知れません。旦那様と奥様は勿論の事、私は陽乃様と雪乃様にも仕える身。従者では御座いますが、遥かに生きている身として、御二人にそういったことを教えることができれば、才能ある御二人ならば更に素晴らしい淑女となる事と思います。そして陰ながら支えることが出来れば、執事冥利に尽きると言うものです。

 

 

 

 

 先程、自分の人生はもっと充実していたかもしれないと言いましたが、今の生活に不満がある訳ではありません。あくまで仮定の話でしかありません。それに、私は執事という職務に誇りを持っております。

 今日も雪ノ下家のため、邁進して行きます。

 

 

 

----------

 

 

 

 

 執事の朝は早い。

 

 朝の五時に起床し、これから始まる業務のため素早く身支度を済ませ、皆様より先に朝食を摂ります。食は活力となります。さあ、旦那様達の朝食の準備が滞りなく進んでいるか確認に行きましょう。

 

 五時半。調理場にて、コックとメイドたちによる朝食の準備が問題無く行えているか確認です。もはや、業務の内の一つなので体に染み込んでおります。

 先日、私が休暇を頂いた時、職業病でしょうか、時間通りに調理場に確認に来てしまいました。自らの部屋に戻る途中、その日は早起きしていたらしい陽乃様に見つかりお叱りを受けました。陽乃様の私を気遣うようなお言葉、私の為に、うっ、思い出しただけで涙が・・・。まだ小学生になられたばかりだと言うのに・・・。陽乃様、あの時は有難う御座います。執事が心配されてしまうとは、私もまだまだです。・・・っと、問題無く朝食の準備が完了したようですね。

 

 

 

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 六時。主である雪ノ下家の皆様を起こします。旦那様とお嬢様方は問題無く起きてくれます。・・・残りは一人ですか。

 

 扉をノック。返事がありません。まあそれは仕方ありません。睡眠中にノックをされても気付かないものです。最近の苦労もありますので、いっそのこと千本ノックでもしてやりたい相手ではありますが、そこは執事である私です。血が滲み出るまで拳を握り耐えます。

 

都築「奥様、御早う御座います。朝食の準備が出来ております」

 

雫乃「・・・チッ」

 

 

 ちょ、おま、舌打ちしたんか今。なんたる非道。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・っとまあ、初めの頃は思っておりました。しかし奥様は低血圧なのです。朝はとても弱い。故にこのような態度となってしまうのです。決して私がババアと口が滑ってしまった日以降このような態度をとられるようになったわけではありません。ええ、決して。

 むしろお互いを嫌っているわけですから、それは気が合っていると言えます。そう、相思相愛レベルです。

 

・・・少しトイレと向き合って来ます。うぷっ・・・。

 

 

----------

 

 

 

 七時半、旦那様に本日の予定をお伝えします。

 旦那様は私以外にも専属の執事がいますので、送迎などの業務はその執事が行います。しかし一日の予定を確認する作業は長年私が務めております。もはや誰にも譲る気は無いのです。

 旦那様、行ってらっしゃいませ。

 

 私は陽乃様を小学校に、そして雪乃様を幼稚園に送ります。私はこの時間を気に入っています。御二人の成長していくであろう一日の始まりを送り届けているような気持ちになります故。さて、今日は御二人にとってどのような日になるのでしょうか。

 

 

 

 

 

 

雫乃「ふふ、二人とも、今日もたくさん色んなものを見て、感じて、学ぶのよ?」

 

 

 

 

 

 ・・・なぜこの方が同乗しているのでしょうか。旦那様と会社に行く筈ですが・・・。会社のほうはどうしたのでしょう。

 

雫乃「今日は私はオフです。予定はきちんと把握しておきなさい」

 

 

 心を読まれました。とうとう奥様はエスパーになってしまわれたのか。

 

 

雪乃「だから今日はお母さんがお弁当を作ってくれたのね」

 

雫乃「ふふ、そういうことよ」

 

 そう言い雪乃様の頭を撫でる。

 

 ・・・おいおい、奥様や、あなた私が起こすまで寝ていたではありませんか。弁当だってメイドが作ってたの都築見てたんだぞ?ほう、さてはこのババア、雪乃様に渡す時に自分が作ったって言いやがったな?恐ろしい方だ。

 

 あっ、睨まれた。そういえばエスパーでございました。

 

陽乃「いいなあ雪乃ちゃん。小学校は給食だからなあ」

 

雫乃「ふふ、陽乃、あなたも遠足の時は腕によりをかけて作るわ。だからそれまでは我慢してね?」

 

陽乃「はーい」

 

 

・・・何でしょう。素晴らしい親子愛のはずが、うちのメイドが踏み台にされた気分でございます。

・・・まあ、奥様も忙しい身です。雪乃様たちになるべく寂しい思いをさせまいとする親心からの嘘なのかもしれません。御二人のための嘘ならば、この都築、墓場まで持って行きます。奥様は我が子には優しいのです。我が子には。

 

 ・・・奥様、バックミラー越しに睨まないでください。

 

 

----------

 

 

 

 陽乃様を送り終え、雪乃様の幼稚園に到着しました。園内まで奥様が雪乃様と手を繋ぎ歩いて行くので私は車の側で待機しております。

 

 

 

・・・おかしいですね。園内に入られて時間が経ちますが、なかなか奥様が帰ってきません。何かあったのでしょうか。心配なので様子を見に行きましょう。心の中では悪態をつきますが、身も心も雪ノ下家のために尽くすことを誓った身。奥様にもしものことがあってはならないのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

奏「うふふ、はちまんくん、今日もチャーミングね♪」

 

凛「ちょっとかなで、はちまんとはあたしが話してるんだからジャマしないでよ」

 

加蓮「は、はちまんくん、今日の遊び時間、あたしとおままごとしようよ。テレビで見たシーンでやってみたいのがあるから・・・」

 

八幡「お、おい、そんな一気に喋るなよ・・・」

 

 

 

雫乃「・・・」

 

 

・・・何でしょう、この光景は。もはや奥様が覇気を出していることには驚きません。このようなもの日常茶飯事となっています。それよりも八幡様が女児三名に囲まれています。御三方とも、完全に八幡様にホの字の模様。最近の幼稚園児はこんなに進んでいるのですか。

 

 

雪乃「ひ、ひきがやくん。おはよう」

 

 

 雪乃様も参戦してしまいました。うう、目の前が歪んで見えます。それは奥様の出す熱気故の蜉蝣なのか、はたまた奥様が時空を歪めているのかは定かではありません。しかし一つ言えることは、私脂汗が止まりません。

 

 

八幡「ん?お、おお、雪ノ下か、おはよう」

 

雪乃「! ふ、ふふ、私にあいさつされることをありがたく思いなさい」

 

八幡「朝から相変わらずだなお前は・・・」

 

 

 

 

雫乃「・・・八幡君だったかしら?その子はお前という名前ではないわよ?」

 

 

 

 

 

 

 え?嘘やろ?闘るんか?また幼稚園児と闘るんか?挨拶した時きちんと苗字で言ってたではありませんか。奥様、どうかここは見逃してあげてください・・・。大人気のう御座います。

 

 

八幡「え?は、はい?」

 

 

雪乃「お母さん・・・?」

 

 

都築「は、八幡様、どうかお気になさらず。さあ、奥様、我々は屋敷に戻りましょう」

 

 

雫乃「黙りなさい都築。給料を全ておかきに変えるわよ」

 

 

都築「解せぬ」

 

 

雫乃「八幡君、この子には雪乃というちゃんとした名前があるのよ?お前ではなく、雪乃と呼んで貰えるかしら?」

 

 そう言いニコリと笑う奥様は、まるで蛇のようでした。

 

 

八幡「は、はい、わかりました?」

 

 

雪乃「も、もう、お母さん!そんなこと言わなくていいわよ!都築さん!早く連れていって!」

 

 

都築「か、かしこまりました!」

 

 

雫乃「ちょ、まだ話は終わってないわよ都築!ああ、雪乃!雪乃〜!」

 

 

 

 急いで奥様を抱えて車を目指し走ります。奥様、暴れないでください。腰が砕けそうです。

 

 

----------

 

 

 

 やっと屋敷に生還できました。今日は朝から疲れます・・・。八幡様、先程の奥様の無礼、どうかお許しください。

 

 

 

・・・まだ正午にもなってないのですか。時が過ぎるのが早く感じるなどと思っていたそばからこのような日になるとは。ここ数日で一番時が流れるのが遅く感じられます。

 

 はあ。午後からも奥様は屋敷に居るのか。何も問題が起きなければいいのですが・・・。

 

 

 

 

雫乃「都築、例の件なのだけれど、本日は一時間後に行うわよ」

 

 

都築「は、はい奥様」

 

 

 

 奥様が本日は休暇だからでしょうか。いつもは夜に行っている缶蹴りの鍛練を昼に繰り上げられてしまいました。奥様はこれまでの人生で他者に負けたことがないそうです。だから余程八幡様に負けた自分が許せなかったのでしょう。

・・・こう毎回駆り出されては私の老体がもちません。適当に負けて、満足させて終わらせましょう。

 

 

 

 

----------

 

 

 

 

〜公園〜

 

 

 

 

 

雫乃「都築見っけ!缶踏んだ!」

 

 

都築「見つかってしまいましたか、流石です、奥様」

 

 

 場所は代わり公園です。奥様の特訓に協力しています。毎回毎回大真面目に見っけ!缶踏んだ!と言われてはジワジワきますが必死に耐えます。

 

 

都築「奥様、私から見て、もう奥様は缶蹴りにおいて右に出る者は居ない程の腕前となっております。もう私が協力できることは無いように思います。さあ、体調を万全にする必要があります。来たる決戦のために、今日のところは屋敷に戻り英気を養いましょう」

 

 

 我ながらナイスです。奥様をヨイショし、尚且つ体を心配するという紳士を演じる。ふっ、負けを知りたいですね。屋敷に戻り昼寝でもしましょうか。

 

 

雫乃「待ちなさい都築」

 

 

 奥様の底冷えするような声が地響きのように私に届く。

 

 

都築「な、なんでしょうか奥様」

 

 

雫乃「私はまだ自分のレベルに満足していないわ。彼に勝つためにはまだ力が必要なの。大丈夫、まだ体力は残っているわ。それに、あなたもなんだか今日はいつもよりも本気を出していないように見えたわ。まだまだ体力は有り余っているでしょう?」

 

 

 ニヤリとこちらを見る。ば、ばれている。この方のこういう洞察力が苦手なのです・・・。ど、どうか御手柔らかに・・・。

 

 

 

〜一時間後〜

 

 

雫乃「都築!まだ動けるでしょう!はやく隠れなさい!」

 

 

都築「ぜえ、ぜえ。おえっ・・・」

 

 

 あれから私は本気を出しましたが、一回も奥様に勝てません。お世辞抜きに、奥様は缶蹴りが強くなっているのです。このままでは私が死んでしまいます。

 

 

雫乃「いい加減にしなさい!いつまでもヘタレ込んでいないで頂戴!これでは練習にならないでしょう!」

 

 

都築「ぜえ、ぜえ、どないせえっちゅーねん・・・」

 

 

 なぜ私は白昼堂々、家主と缶蹴りでバトルをしなければならないのだ。まあ確かに?私はバトラー(butler)ですけれど?上手いこと言ってる場合ではありません。

 

 

 

 

 その後さすがに自らの死が頭をよぎった私は、隠れた振りをして屋敷に涙目で走って帰ったのでした。

 奥様が帰ってきた時の閻魔のような形相はこれからも忘れることは無いでしょう。奥様が帰宅後約二時間、正座で叱られる老執事がそこにはいました。というか私でした。

 後に雪ノ下家の使用人の間で噂となった「都築、缶蹴りブッチ事件」とはこのことです。

 ああ、もう執事辞めたい・・・。

 

 

 

 

おわり

 

 

 

 

 

 

 

 

〜おまけ1〜

 

 

(都築が雫乃を連れ帰った直後)

 

 

 

八幡「・・・何ていうか、お前の母ちゃん、パワフルだな・・・」

 

 

雪乃「いつもは違うのだけれど・・・。さっきはうちのお母さんがごめんなさい」

 

 

八幡「い、いや気にしてねえからいいって」

 

 

雪乃「そ、そう?ならいいのだけれど。・・・けれど、お母さんが言ったとおり、私には雪乃という名前があるのよ?」

 

 

八幡「ん?お、おお。そうだな」

 

 

雪乃「む。雪乃という名前があるのよ?」

 

 

八幡「わかってるって」

 

 

雪乃「仕方ないから、名前で呼ぶことを許可するわ、ひきがやくん?」

 

 

奏「あら、私のことも奏って呼んでくれるかしら、はちまんくん?♪」

 

 

凛「はちまん、あたしもりんって呼んでよ」

 

 

八幡「だから、一気に喋るなって・・・。恥ずかしいからやめとくわ・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

加蓮「・・・あたしとは遊びだったの?はちまんくん」

 

 

八幡「北条、お前は全然話の内容が違うし、ドラマに影響され過ぎだ」

 

 

おわり

 

 

 

 

----------

 

 

 

〜おまけ2〜

 

 

 

 はあ、これまで大変な日々でしたが、やっと給料日です。この日のために生きてます。そしてこれからも生きていけます。

 

 

 と思っていたのですが、何故振り込まれて居ないのでしょうか。

 

 

 疑問が残ったまま自室に戻ると、無数のダンボール箱が置かれていました。何でしょうか。なにも頼んだ覚えはありませんが・・・。

 

 

 

 

 恐る恐る開けてみると、

 

 

 

 

 

・・・中には大量のおかきが入っておりました。

 

 

 

おわり




今回も見ていただきありがとうございました。
次回からは小学生編に入ろうかなと思っています。
ママのんは缶蹴りを特訓していますので、いずれ八幡と決着をつけるつもりです。その辺はまた番外編という形でどこかで投稿したいと思います。

小学生編以降で出してほしいデレステキャラや俺ガイルキャラなどいたら気軽に言って頂けると嬉しいです。


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キャラクター紹介


今回は箸休め的な、時間稼ぎ的なものだと思ってください。
小学生編までもう少々お待ちくださいm(_ _)m






 

 

・比企谷八幡

 

 一応主人公。周りにいる女の子達のキャラや容姿がなかなかぶっ飛んでいるため今後も振り回される予定。幼稚園を経て小学生となるが年齢以上に落ち着いており、冷静に物事を見ている。また非常に頭がキレる。

 自分でもマセていると自覚している。自分を目立たない脇役的な存在と思っているが、雪乃や凛たちが近くにいるため周りから見るととても目立っている。それが学校生活で吉と出るのか凶と出るのか…

 悪態をつくこともあるが、基本的に困っている者を見ると手を差し伸べる優しい性格。しかし優しさの表現が不器用なため周りからは理解されにくい。小学校に入学してから友達ができるのか不安があるが、同時に期待も抱いている。

 

 

 

・雪ノ下雪乃

 

 ヒロイン。家柄良し、容姿良しのお嬢様。コミュニケーションをとることが非常に苦手であり、幼稚園入園初日に話しかけてきた男の子を口撃し泣かせた伝説がある。その後ママのんが気を利かし他企業の社長達のお嬢様やお坊ちゃんを屋敷に招待し友人関係構築を試みるがママのんは絵本に惨敗を喫する。

 先述した通り読書が好きだが、難しい本はまだ読めない。八幡同様マセている節があり、難しい言葉を使うことがたまにあるがイントネーションがおかしかったり、言葉の意味もよく分かっていない。

 果たしてコミュニケーションをとることが苦手な彼女の学校生活はどのように過ぎるのだろうか。八幡に対し悪態をついているが、本当は好意を抱いている。本人は否定するが、意外と抜けている節があり、凛や奏に出し抜かれる事もある。

 

 

 

 

・渋谷凛

 

 ヒロイン。実家が花屋を営んでおり、自身も将来花屋を継ぐつもりでいるため花の種類を勉強中。そして八幡にいつか自分で花束を見繕ってプレゼントをする野望を密かに抱いている。

 友達想いであり、加蓮が同じ組の男の子に馬鹿にされた時は自分の事のように怒りを露わにした。その時八幡に助けられ、その後同じ時間を過ごしていくうちに彼の優しさを再確認し好意を抱くようになる。クールに見られがちだが年相応の可愛らしい反応をすることも多々ある。愛犬のハナコを溺愛しているが、時折ハナコではなくハチマンと呼ぶため母から不思議がられている。

 初めはライバルは雪乃だけと思っていたが、加蓮と奏の台頭により、八幡も好きだが加蓮たちのことも友達として好きだからどうすればいいのか分からないという悩みを抱いている。

 

 

 

・北条加蓮

 

 ヒロイン。体が弱いため病気にかかりやすく、学校を休むことも頻繁にある。幼稚園時代は非常に大人しい性格をしておりシャイである。よく教室内で絵を描いていた。組の男の子から虐められているところを八幡に助けられる。その際頭を撫でられながら温かい言葉を凛と奈緒と共に受け、完全におちる。

 乙女な節があり、恋愛ドラマなどに非常に影響を受けやすい。妄想癖が少々あり、たまに暴走する。

 最近した妄想は八幡と結婚し宝くじで10万円当て豪遊した場面。10万円あれば一生豪遊できると思っているほどピュア。

 

 

 

・神谷奈緒

 

 ヒロイン。活発であり、凛と加蓮と仲良しの友達想いの優しい女の子。加蓮が馬鹿にされた時も激しい怒りを露わにし加蓮を庇った。その際八幡に助けられ感謝している。凛たちと八幡の絡みを見るのを一日の楽しみとしており、八幡が助けを求める眼差しを向けてきても助けずに笑っている。というかその眼差し込みで楽しんでいる。普段は凛と加蓮に弄られるが、八幡関連の話となると形勢が逆転する。先日家族でスキーに行ったが、結局滑れず雪だるま職人にジョブチェンジ。雪だるまを大量生産し他のスキー客達を困惑させた。

 

 

 

・速水奏

 

 ヒロイン。凛たちと仲がいい。幼稚園児とは思えないほどの小悪魔ぶりを発揮している。言動、仕草などは母のものを模倣している。奏曰く「恋愛本より遥かに参考になる」とのこと。奏と同じ組の男の子のいたずらに少し頭を悩ませていたが、凛たちから八幡の話を聞き彼との接触を決意。その際八幡の性格などを凛たちの話から把握していた為、八幡が問題解決するように、気付かれないよう話を誘導するなど頭がキレる。

 八幡を非常に気に入っており、誘惑した際の彼の反応を見て楽しんでいる。この気持ちが恋なのかはまだ自分自身よく分かっていない。

 先日母の上を行こうとブラックコーヒーに手を出したがあまりの苦さに耐えきれず、自室で密かに涙を流した。本人は気付かれていないと思っているが、その一部始終を母に見られており、いざという時にネタとして使ってやろうと母は思っている。

 

 

 

・雪ノ下雫乃

 ママイン。県内でも有数の大企業である雪ノ下建設の実質支配者。外では非常に厳格であり、仕事中の姿はまさに鬼。ある執事は「あの女の背中には鬼が宿っている」と述べた。

 しかし娘達には母親として出来る限りの愛情を注いでいる。陽乃より雪乃に対して過保護気味。部屋に篭り絵本ばかり読んでいる雪乃を心配していたが、公園に行く旨を言われた際は歓喜のあまり、岸和田民もびっくりのだんじりを自室前で披露しそれを偶然目にした執事やメイドをドン引きさせた。

 八幡により人生で初めて敗北を味わったため、リベンジの時を密かに狙っている。その事に八幡は全く気付いていない。

 

 

 

・都築

 

 雪ノ下家の執事。陽乃や雪乃が成長していく姿を自分の事のように喜んでいるダンディな男性。執事という仕事に誇りを持っており、雪ノ下家のために忠誠を誓っている。穏やかな執事生活を過ごしていたが、八幡とママのんの邂逅により今までの生活が一転したある意味一番の被害者。それからというもの毎日ママのんに振り回されているため、次第にママのんに対し悪態をつくようになる。

 この間とうとう三ヶ月連続で給料がおかきという偉業を成し遂げる。昨夜ママのんが見せる般若のような形相に部屋の隅に追い詰められる夢を見た。

 やり場の無いママのんへの怒りを発散するためにドラムセットを購入。しかしいくら叩いてもストレスを発散できなかったため長時間叩いていると、それがママのんの逆鱗に触れ、通算18回目の般若顔を見ることとなった。ちなみにこの出来事が三ヶ月目のおかきへの決定打となった。

 

 

 

 





次回からは小学生編になります。話数が多くなってしまうので一年生から六年生までやるつもりはありませんのでそこはご了承ください。
小学校、中学校、高校のどこかで何かしらの問題が起こる予定です。
このキャラを出してほしいなどありましたら気軽に言って頂けると嬉しいです。


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もしも彼たちが進級したら(小学生編)


小学生編です。

あの子が出てきます。





 

 

 

 学校は社会の縮図とはよく言ったものである。そこには様々な人間が存在し、共存している。人気者、日陰者、短気、寛容、真面目、不真面目。様々な人間が一つの空間に放たれる。この教室という空間で他者とコミュニケーションをとり、自らの人格形成へ繋げ、社会へ出るための訓練をしなければならないのだ。

 

 だが考えてほしい。集団の中には当然の如く不出来な者が現れる。本人は頑張っていても上手く他者とコミュニケーションをとることが出来ない。そのような者が認められる、まだ子供の自分には見当もつかないような世界がもしかしたらあるのかも知れない。しかし悲しいことに、こと小学校という世界の中では活発な者や運動のできるもの達がクラス内のヒエラルキーの上階層であり、俺のような根暗な人見知りは自然と最下層の住民となるのだ。

 

 このようなヒエラルキーを形成する上で重要となる事、それは恐らくクラス替え直後であろう。各々自己紹介をする時に自らの立ち位置、相手の品定め、危険分子の特定などを行うのだ。

 

 「終わりよければ全て良し」などという言葉があるが、たしかに間違ってはいないと思う。最後に求められる物は結果である。それまでの過程で困難に遭遇し、挫折しそうになろうとも、それでも立ち止まらず前に進み続け、勝利を手にした者だけがこの言葉を使うことができるのだ。それならば、この言葉は今の自分には相応しくない言葉であろう。進級しまだ一日しか経っていないので始まったばかりなのだ。

 

 だったら今の俺には、「始めが肝心」という言葉が適切であろう。

 

 

 しかし、この言葉も今の俺には不適切な言葉となっている。何故か?

 

 

 結論を言おう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・比企谷八幡、小学五年生、小学校に入学し五回目の自己紹介をしたが、五年連続で失敗した瞬間の誕生である。

 

 

 

 

 

 

 

雪乃「ぷっ…くくっ…」

 

 

 

・・・雪ノ下さん、楽しそうで何よりです。

 

 

 

----------

 

 

 

 

 

 〜一時間前〜

 

 

-----

 

 

 今日から五年生である。周りには昨年クラスが同じなのか、仲良く話している者もちらほら見える。幼稚園入園から妹である小町以外と、歳の近い者達と関わることになりここまできたが・・・

 

 

 

 なぜ友達が出来ないんだ・・・。何で!?俺そんなに話しかけにくいの!?あっ、そもそも俺から話しかけたことありませんでした!てへ!うわ、今のは引くな。気持ちが悪い。

 

 とまあそういう訳なのだ。これまで学校生活を過ごしてきて男友達が一人もできないのである。くっ・・・、俺も友達の家で集まってテレビゲームとかしたいのに・・・。

 話しかけようと頑張ったのだが、いつも一歩手前で緊張して諦めてしまうんだよな。というか次第に話しかけなくなっちまって今までのクラスの奴らの顔が曖昧で覚えていないまである。

 

 まあそれでも、この四年間は運良くあいつらの内の誰かが同じクラスだったからな。一年生の頃は半端なかったな。まさか全員同じクラスとは思わなかった。おかげであいつらの独壇場だった。例えるならまさに動物園だったな・・・。さすがに二年生以降は全員という訳にはいかなかったが、知ってる顔が一人でもいただけでも良しとしよう。というかかなり恵まれてたな。二人組作れって言われても、俺の特技の一つである「懇願の眼差し」を向ければペアになってもらえたしな。かっこ悪いって?ふん、そんなこと俺が一番分かってるっつーの、言わせんな恥ずかしい。つか俺は誰に向かって話してるんだよ。

 

 

 

 

 

雪乃「あら、またあなたと同じクラスなのね。どうしましょう、マスクを忘れてしまったわ」

 

 

八幡「誰が比企谷菌だよ…」

 

 

 

 今年も雪ノ下と同じクラスか。よく考えるとこいつとは二年のとき以外は全て同じクラスである。最近では雪ノ下の罵倒が日常化しているので、感覚が麻痺してしまっている。また一年間罵倒に耐えなければならないが、内心同じクラスでホッとしてるのは言わないでおこう。

 

 

雪乃「なにをジロジロ見ているのかしらこの男は。卑猥な視線を向けられるとPTAに言いつけてやろうかしら」

 

 

八幡「おいやめろ。二つ下に妹がいるんだ。小町がお天道様の下を歩けなくなるだろ」

 

 

雪乃「はあ…、進級してもシスコンなのね…」

 

 

 当たり前だ。小町は天使。言わば光の使者である。その兄が罪を犯してみろ。小町は堕天してしまうだろうが。

 ん?堕天?悪魔・・・、小悪魔。小悪魔な小町。これはこれでありだ!

 

 

雪乃「全く、今年から私達も高学年になるのよ?低学年の生徒は私達を見て学んでいくの。もっと自覚を持って頂戴。私が見てあげていないといつも駄目なんだから。少しはあやすこちらの身にもなって頂戴、赤子谷君」

 

 

八幡「その罵倒こそ低学年の奴らには見せたらダメな気が「何か言ったかしら?」………いえ」

 

 

奏「うふふ、雪乃、その辺にしといてあげなさいよ、八幡くんが可哀想よ?」

 

 

雪乃「は、速水さん、いつの間に…」

 

 

八幡「速水も同じクラスなのか?」

 

 

速水「ええ。去年は二人とも違うクラスだったから嬉しいわ。よろしくね♪」

 

 

 速水も同じクラスか。こいつも俺の精神を磨り減らす存在なのは確かだが、同じクラスなのはありがたい。ペア作りのときの不安は更に解消されるな。

 

 っと、先生が来たな。出席番号順に座らないといけないのか。まあ、毎年これは同じだわな。

 

 

 

----------

 

 

 

 「では、今日はとりあえず皆の顔と名前を覚えるために、そして仲良くなるために自己紹介をしましょうか」

 

 

 

 

 やはり来たか、自己紹介。お前はいつも俺の行く手を阻んで来るんだな。

 それにしても出席番号順に座ったはいいが、列の真ん中の席かよ。落ち着かないなあ。後ろの奴に見られてる感覚に陥るんだよな・・・。そういえば雪ノ下は出席番号一番最後だったな。いいなあ、代わってくれよ雪ノ下・・・

・・・見なければ良かった。おい雪ノ下、めちゃくちゃムカつくドヤ顔でこっちを見てくるんじゃねえ。優越感に浸るんじゃない。その席覚えたからな!絶対席替えのときその席を勝ち取ってやる!

 

 

-----

 

 

 

 

奏「あら、次は私の番ね。速水奏よ。好きなことは、映画鑑賞かしら。これから一年間よろしくね♪」

 

 

 速水の自己紹介が終わる。こいつはこういう事で緊張しなさそうだな。というか男子が既に速水を見てボーッとしている。もう速水のターンになったというのか。速水奏、恐ろしい子・・・!!

 

 

 「ええっと、じゃあ、次は比企谷八幡くんね。自己紹介よろしくね」

 

 

八幡「ひ、ひゃい!」

 

 

 余計なことを考えていると気付いたら俺の番になっていた。まじか、何も考えてねえ・・・。

 

 

八幡「ひ、比企谷八幡、で、す。えっと……好きな……好きな飲み物は、MAXコーヒーです。よろしくお願いしましゅっ」

 

 

 

 

 

 瞬間、教室内がビッグバンを起こした。クラス中全員に爆笑されてしまった。ふと邪気を感じたので後ろを見る。雪ノ下、うずくまりながら机を叩くな。そんなに面白かったのか、俺の道化ぶりは。

 

 

 

 かくして俺の五回目の自己紹介は、例の如く、例年に漏れることなく失敗に終わったのだった。

 

 

 

----------

 

 

 

 

 

 

 

 はあ・・・。教室に戻りたくない。あの後雪ノ下はずっと笑ってるし、速水はフォローしてくれたものの、その光景を見て男子達が睨んでくるし、散々だったな。この一年間、どうなるんだろ・・・。

 

 「きゃっ」

 

八幡「うお、あ…す、すみません。大丈夫ですか?」

 

 

 廊下をボーッと歩いてたら女の子とぶつかってしまった。急いで手を差し伸べる。つか何カッコつけて手を差し伸べてんだよ俺!似合わねーよ!や、やばい、チクられる・・・。ど、どうか通報だけは!!

 

 

 「はい……。大丈夫で、す……」

 

 

 女の子はどうやら何とも無いようだ。良かった。

 にしてもさっきからずっと見られてる。

 

 

八幡「あ、あの、どうかしましたか?」

 

 

 「あっ、い、いえ、何でもありません……」

 

 

 そう言い女の子は走っていった。あれえ?初対面で走り去られるほど人外の存在なの俺?言ってて悲しくなってきたな・・・。はあ、授業始まるな。教室戻るか。戻りたくないけど。頑張ってこよ・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 「……。……見つけた…」

 

 

 

 

----------

 

 

 

 

 

 

 あの魔の自己紹介から一週間が経った。俺はというとこれまでの学校生活と同じで、自分の机で寝ている。

 しかし、一昨日あたりから教室で寝れなくなっている。何かすごく視線を感じるのだ。普段はあまり気にしないのだが、この視線は何か違う。何だ?雪ノ下は・・・、違うな。後ろの席で本を読んでいる。速水は他の女友達と話している。他に俺を見ている奴はクラス内にはいない。いないのかよ。教室の外か?

 ・・・? いま何かいたような気がするんだが、気のせいかな・・・。

 ん?つかよく見たら北条加蓮と渋谷と神谷が顔半分覗かせてこっちをめちゃくちゃ見てる・・・。な、なんだよ。ん?渋谷、手招きしてる。俺?・・・ああもう、わかったからそんなに何回も激しく頷くな。ヘドバンみたいになってるぞ。

 

 

 

八幡「なんだよ三人揃って」

 

 

凛「ちょっと八幡。なんで一週間経ったのに一度もうちのクラスに来ないのさ」

 

 

加蓮「全然来なかったから寂しかったよ…」

 

 

奈緒「昨日のプリ○ュア見たか?」

 

 

 神谷、お前は唐突に話すんじゃない。いや、この二人も唐突だけどさ。

 

 

八幡「いや、別に来いって言われてないし。そもそも俺だぞ?他所のクラスなんて緊張して行けるわけないだろうが」

 

凛「はあ。来いって言われなくても来なよ。八幡はやっぱり八幡だね」

 

 

加蓮「しょうがないよ凛。八幡くん鈍感だもん」

 

 

八幡「え、なんか今馬鹿にされた気がするんだけど」

 

 

凛加蓮「「気のせいだよ」」

 

 

八幡「そ、そうか。ま、まあ、クラスに行くのはさすがに無理でも、お前らが来たら話すくらいは努力する…」

 

 

神谷「おお…これが小町が言ってた捻デレってやつか…」

 

 

 神谷、なんだその捻デレって。つか小町と面識あったのかよ。小町め、余計なこと話しやがったな。帰ったら説教だな。いや、やっぱりできない。小町かわいいもん。

 

 

凛「まあ、それで許してあげようかな、ふふ」

 

 

加蓮「しょうがないなあ八幡くん。なら毎日来てあげるよ!」

 

 

八幡「それは、さすがに勘弁してくれ……」

 

 

 

 

 

 少しして三人は笑顔で帰っていった。まだ新しいクラスが始まったばかりだし、あの頃の全員が同じクラスというわけにはいかないけれど、相変わらず男の友達はいないけど、あいつらから歩み寄ってくれるなら、今の生活も悪くないなと思う。こんな俺に関わってくれるんだ。あの子達はずっと笑顔でいてほしいと思う。似合わないのは分かっているけど、そんな事を考え踵を返し、俺は教室に入った。

 

 それにしても疑問が残る。あの三人がこちらを見てはいたが、渋谷たちの視線は俺が感じていた視線とは違った気がした。

 

 

 

 

 

 

おわり

 

 

 

----------

 

 

 

 

 

 

〜おまけ1〜

 

 

 

八幡「………ん?」

 

 

 教室に戻るとクラスの男子全員が唖然とした表情をしている。え?俺何かした?入っちゃいけなかったの?

 

 

 「神谷に北条さん…し、渋谷まで……」

 

 

 「あいつ実はモテるのか……?」

 

 

 「さっきの渋谷と北条の聞いたかよ。完全にそういうことだろ……笑いはするけど、あいつらのあんな顔初めて見たぞ…」

 

 

 「ああ…。神谷は相変わらずだったけど……。くそう…おれ渋谷のこと…うう…」

 

 

 

 な、なんだ。うちのクラスの男子達に何があったんだ。

 頭の中に疑問が残るが、一先ず自分の席に座るか。

 

 

 

 

 

雪乃「…比企谷くん」

 

 

八幡「ん?なんだ雪ノ下」

 

 

雪乃「随分楽しそうだったじゃない。鼻の下を伸ばして」

 

 

八幡「え、雪ノs…鼻の下伸びてたの?つか楽しくねえよ。教室前で話されて、ぼっちは視線に敏感だから苦痛でしか無かったぞ」

 

 

雪乃「………」

 

 

八幡「痛った!!?す、脛を執拗に蹴るな雪ノ下!すいません!鼻の下を間違えそうになりましたごめんなさい!!」

 

 

雪乃「それ!も!あるけれ!ど!それだけじゃ!ない!わよ!このボケナス!」

 

八幡「ぐあああああ!!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

女生徒「す、すごいね。雪ノ下さん。奏ちゃんって、雪ノ下さんと仲良いよね?いつもあんな感じなの?」

 

 

奏「ふふ、雪乃も乙女なのよ♪」

 

 

女生徒(なに言ってんだろこの子)

 

 

 

 

 

おわり

 

 

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〜おまけ2〜

 

 

 

 

 

 

 「ふふ、あの人を見てて分かったことは、教室内では基本的に一人でいること。うふ、孤高な一匹狼です。かっこいい♪そして学校の帰り道にある自動販売機でMAXコーヒーを買って帰ること。もう、あまり飲みすぎるのは駄目ですよ?あと妹がいます。たしか小町ちゃんですね。ふふ、この前見たけどかわいいです。休日に二人で歩いてる所を見ましたけど、とっても兄妹仲が良かったです。八幡さんは普段はクールですが、小町ちゃんに対してはとても優しくて、また新たに素敵な一面を見れました♪はあ…知れば知るほどに素敵……。学校ではかっこよくて、可愛いところもあって、でも優しくて…。今まで気付かなかったなんて…自分が恥ずかしいです…

 

 …そして……速水さん、雪ノ下さん、同じクラスの渋谷さんたちと仲がいいこと……」

 

 

 

 

 

 「どうやら、雪ノ下さんと渋谷さんあと北条さんは、八幡さんのことを好きみたいですね…。でも負けません。だって…運命を感じちゃったんだから。最後に八幡さんと結ばれるのは……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まゆ「まゆですよぉ……♪」

 

 

 

おわり

 

 






ようやくクール以外で出せました。

佐久間まゆも勿論好きですが、キュート属性では、乙倉悠貴、兵藤レナ、長富蓮実が特に好きです。レナさんと蓮実ちゃんのSSRがなかなか実装されませんね…


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番外編3:もしもヤンデレラガールの日記を覗いて見たら

下書きが完全に消えてしまって思い出しながら書きましたが、思いの外最初と違う内容になってしまったきがします





 

 

 

4月7日

 

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 今日からまゆも五年生になりました。去年まで仲の良かったお友達と違うクラスになっちゃって、少し不安なスタートとなっちゃいました。また新しくお友達作れたらいいな。

 

 そんなことより、まゆは今日運命的な出会いをしてしまいました。休み時間に廊下を歩いていたら、曲がり角から男の子が現れて、まゆとぶつかっちゃったんです!いきなりのことでまゆはびっくりしちゃって、その場に倒れちゃいました。するとすぐに男の子が謝ってくれて、手を差し伸べてきました。手をとろうとして、その男の子の顔を見ると… なんだか時間が止まっちゃったかと思うくらい、まゆは固まってしまいました。ビビっときたというか何というか…。おとぎ話や少女漫画でしか見たことも聞いたこともないような素敵な出会い… これは、運命…?今のまゆにはうまく言えないですけど、目の前には王子様が立っていました。

 あの人が王子様なら、まゆはシンデレラ?ふふふ♡

 

 でもその時のまゆはうっかりさんでした。あの人の顔を見た途端に、顔が真っ赤になってるのが分かって、恥ずかしくてその場から逃げちゃったんです。お名前を聞くの忘れちゃってました。まゆとあの人はきっと赤い糸で結ばれていますが、まずはお名前を知るところから始めなくちゃ。それからあの人の理想の女性になれるようにたくさん努力します!

 だって、シンデレラは頑張り屋ですから!うふふ♡明日からが楽しみです♡

 

 

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4月8日

 

 

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 今日はとても素敵な一日でした。あの人のお名前を知ることが出来たんです。比企谷八幡さんというらしいです。はあ…なんて素敵なお名前なんでしょう…。八幡さん、お名前もかっこいいなんて…反則です…。

 そんな素敵な八幡さんを、まゆは遠くから見つめることしかできません…。まゆはすっかり恋する乙女になってしまいました。恋をするとこんなにも見える景色が色付いていくんですね…。それに気付かせてくれた八幡さんはとてもすごいです。よし、明日から、八幡さんの好みを知っていかなくちゃ♡

 

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4月9日

 

 

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 今日も八幡さんを見つめました。まゆはこの時間が大好きです。クラスが違うので、授業の間の休み時間しか見つめることが出来ないのが残念です…。同じクラスだったら、もっと八幡さんを見ていられるのに…。

 教室内の八幡さんはとてもクールです。他の男の子たちが騒いでいる中、八幡さんは自分の席で時が過ぎるのを待っています。まさに一匹狼です。カメラを忘れてしまったのがすごく悔やまれます…。

 

 

 するとそこへ一人の女の子がやってきたんです。

 

 

 何やら親しげに女の子が話していました。

 

 

 時々女の子の頬が染まっていました。

 

 

 八幡さん

 

 

 その子は誰ですか?

 

 

 まゆは八幡さんだけをみているんです。

 

 

 ですから、八幡さんもまゆだけを見てほしいです。

 

 

 ほんの少しだけ嫉妬してしまいましたけど、まゆと八幡さんは赤い糸で結ばれています。

 

 

 だから今は我慢です。

 

 

 八幡さん

 

 

 最後にあなたの隣にいるのはまゆですよ?

 

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4月10日

 

 

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 今日は新しいことを知れた一日でした。八幡さんはMAXコーヒーが好きだそうです。

 というのも、今日、偶然帰り道で八幡さんを見かけたんですが、通学路の途中にある自動販売機でMAXコーヒーを買っていました。もう、八幡さん?買い食いはしちゃだめなんですよ!不良です!でもそんな少し悪い八幡さんも素敵です。そして、八幡さんを目で追いかけている内に、気付いたらまゆは八幡さんのご自宅付近まで来ちゃっていました。八幡さんのお家の場所が知れて、まゆとても嬉しいです。いつか呼ばれるような関係に早くなりたいです♡

 

 自分の家に帰る途中、先程の自動販売機でまゆもMAXコーヒーを買いました。まゆは飲んだことがありませんでした。どんな味なんだろう…。飲んでみると、強烈な甘みがまゆを襲いました。これが八幡さんが愛する味なんですね…。学校ではかっこいいのに、甘いものが好きな可愛い一面も持っている事が知れて、とても嬉しいです。また八幡さんの理想の女性に近付けた気がします。

 

 

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4月11日

 

 

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 今日はお休みなので、まゆはお散歩をしました。偶然八幡さんの家の前まで来ていたので、まゆはたまたま持っていたMAXコーヒーを八幡さんのお家のポストに入れました。

 お休みの日の八幡さんはどんなことをしてるんでしょう…?クールで思慮深い八幡さんのことです。きっと読書やお勉強をしていることでしょう。ですから、一緒に遊びたい気持ちはありますけど、八幡さんの邪魔になってはいけません。あまり無理をしてはだめですよ?まゆが買ったMAXコーヒーで、リフレッシュしてくださいね?

 

 

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4月12日

 

 

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 今日もお休みです。ですから今日もお散歩に出掛けました。するとまた八幡さんのお家の前まで来てしまっていました。ふふ、また来ちゃった。赤い糸に導かれるように。定められたかのように。当たり前であるかのように。やっぱりまゆと八幡さんは運命の赤い糸で結ばれているんですね♡

 今日もまゆはポストの中にMAXコーヒーを入れました。そしてもう一つ、昨日と違って、今日はまゆの愛のお手紙も入れました。少し恥ずかしいけれど、まゆの想い、八幡さんに届いたら嬉しいな。

 

 

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4月13日

 

 

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 今日からまた学校です。ようやく八幡さんを見ることができます。今日もいつも通り八幡さんを見ていましたが、何だか八幡さんの様子がおかしかったです。それはまるで何かに怯えているような、何かを探しているような……。もしかして、この教室の誰かが八幡さんに対して嫌がらせでもしているんでしょうか…。

 

 

 まゆはなんだか怒りが湧いてきました。これは絶対に許せません。

 

 

 八幡さんが困ること、嫌なこと、それは同様にまゆも嫌だと感じてしまうんです。ですからまゆが犯人を見つけて、懲らしめてあげます。八幡さん。少しの間だけ我慢していて下さい。必ず犯人を後悔させてあげます。

 

 

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4月14日

 

 

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 今日も犯人探しです。まゆは注意深く教室内を観察しました。でも、それらしい人は全くいません。くっ、なかなか尻尾を出さないので手強いです…。これは長期戦になるかも知れません。でもまゆは諦めません。だって、愛する八幡さんのためですから。

 そんなことを思っていたら、同じクラスの渋谷さんたちがまゆの近くにいました。誰かを呼んでるみたいなので、その視線の先を見ると、八幡さんがこっちに来ていたんです!まゆはあんなに近くで八幡さんを見るのは初めて出会った時以来だったので、恥ずかしくなっちゃって、また逃げちゃいました。でも八幡さんが渋谷さんたちと知り合いなのは知りませんでした。何を話しているんだろう。気になってしまい、物陰から八幡さんたちの様子を見ていると、渋谷さんと北条さんの表情が、他の子達と違うことに気付いたんです。他の子達と違っても、まゆはその表情を知っています。だって、まゆと同じ顔をしてるんですから。

 八幡さんは確かにとても魅力に溢れたお方です。ですが、まさか雪ノ下さんに北条さん、渋谷さん。学校内でも有名な美人さん達がライバルになってしまうなんて…。全く予想していませんでした。

 でも、

 

 

 

 

 

 絶対に負けません。

 

 

 

 

 

 皆さんには見えないかも知れませんが、まゆにはハッキリと見えました。渋谷さんたちと話している時も、八幡の小指とまゆの小指には、赤い糸でしっかり結ばれていたのが。

 

 

 

 

 ですから、もしもこの運命を邪魔する人がいるのなら

 

 

 

 

 まゆは容赦しないですよ♡

 

 

 

 

 そして八幡さん?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 浮気は絶対にゆるしませんよお?

 

 

 

----------

 

 

 

おわり

 

 

 

 

 

 

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〜おまけ〜

 

 

 

 -まゆが比企谷家のポストに手紙を投函して一週間が経過した頃-

 

 

 

-----

 

 

小町「ん?なにこれ?お兄ちゃん宛の手紙?あちゃー、日付を見ても少し前のものだね。全然気付かなかったなあ。送り主さんに申し訳ないことしちゃったなあ」

 

 

 

小町「…って、もう一通あるじゃん。これもお兄ちゃん宛か。こっちは今朝送られて来たみたいだね。お兄ちゃーん!!なんか手紙来てるよー!」

 

 

 

 

 

-----

 

 

 

 

 

 

八幡「俺宛に手紙って…。身に覚えがないな。誰からだ?この前はMAXコーヒーがポストに入ってたから有難く頂いたけど。…って名前ないじゃん。直接ポストに入れたのか?俺の家知ってるような奴……。…うん。いないな。悲しくなってきた。まあいいわ、なんて書いてあるんだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

八幡「……!!??!な、なんだこれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

----------

 

あ な た だ け を

 

 み て い ま す

 

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八幡「き、気味悪いな……。悪戯か…?」

 

 

 

 

 

八幡「……もう一通は今朝投函したのか…。うう、なんだこの謎の圧は……」

 

 

 

 

八幡「…ええい!どうにでもなれ!南無三!!…………………ひっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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ど う し て 手 紙

 

み て な い ん で す か?

 

-------------

 

 

 

おわり

 



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番外編4:もしも卒園&リベンジがあったら



次回から本編に戻ります


 

 

 

 

 皆様、お早うございます。

 小鳥達の囀りが心地良い早朝。私都築は本日も執事として職務を全うしております。

 そして何より、本日は雪乃様の卒園式であります。雪乃様の晴れ舞台を、このような素晴らしい快晴で迎えることが出来、私を始め執事、メイド一同大変嬉しく思います。

 

 さあ、本日はとても忙しくも良き日になることでしょう。

 

 

 

----------

 

 

 

 

 いつも通り、皆様の朝食の準備も問題無く終えることが出来ました。さて、皆様を起こし……おや…雪乃様が既に起床し朝食の席に着いておられます。そ、そんな。私は急いで自らの腕時計で時間を確認致します。

 ……通常ならばまだ寝ている時間。良かった。私の業務内容に不備があったわけではなさそうです。

 

 

都築「雪乃様、お早うございます。昨晩は良く眠れましたか?」

 

 

雪乃「お早う都築さん。だ、大丈夫よ、いつも通り、よく眠ることができたわ」

 

 

 雪乃様はそう仰られるが、よく見ると目が少し赤い。あまり寝ることが出来なかったようですね……

 

 

都築「そうですか……しかし本日は雪乃様の大事な卒園式がございます。あまり無理をなさらないように。晴れ舞台で寝る訳にもいきませぬ。私が雪乃様を送っている最中、車内で仮眠をとっていてください」

 

 

雪乃「ありがとう。でも緊張してるのと少し楽しみな自分がいるから、もう寝れそうにないの」

 

 

都築「かしこまりました。では私は車の暖気をして参ります。後ほどメイドが雪乃様の身支度に参りますので、それまでに朝食を摂り終えるようお願い致します。それでは失礼致します」

 

 

雪乃「わかったわ。ありがとう都築さん」

 

 

 

 

 どうやら雪乃様は今日という日を待ちわびていたようだ。幼稚舎、初等、中等と、成長していく中で、雪乃様にとって入園に続く二度目の大事な式です。そして今回は雪乃様にとって初めての、言い方が悪く、また早いかもしれないが、別れというものも経験するやも知れません。皆様が同じ学舎に入学するとは限りません。出会いは一期一会。雪乃様、どうか今日という晴れ舞台、忘れることのない良き日にして下さい。

 

 

 

----------

 

 

 

 

 

 

〜卒園式〜

 

-------

 

 

 私都築は、奥様と共に幼稚舎に来ております。奥様が感極まり頬を流れる涙を手巾で拭っております。こう見ると我が子の成長に喜ぶいい母君なのですが、普段が普段なので一概にそう思えない事が悲しい事です。

 

 今現在、各組毎に名前を呼ばれている最中ですね。元気に返事をし、その場に起立するお子様方が多く、何とも微笑ましい光景です。

 おや、あれは八幡様ですね。他のお子様より落ち着いた性格である八幡様は、その返事も静かなものでした。その後数名名前を呼ばれ、さあ、次は雪乃様です。

 

 

 

 「雪ノ下雪乃ちゃん」

 

 

 

 

 

 

 

雪乃「スゥー……スゥー……」

 

 

 

 

都築「……」

 

 

 

 雪乃様……。案の定、というか、何というか……。遠足前日のように気分が高揚して寝れなかったのですね……。やはり多少無理やりにでも車内で仮眠をとって頂くべきでした……。

 

 

 

雫乃「ああ……、ゆ、雪乃」

 

 

 

 奥様がご心配なさっています。たった今この時だけはその心中、お察し致します……。

 

 

 

 「ゆ、雪乃ちゃん?雪ノ下雪乃ちゃん…」

 

 

八幡「お、おい……雪ノ下、起きろ……」

 

 

 

 八幡様が雪乃様の肩を軽く叩き起こそうと試みて下さいます。しかし全く起きる気配がありません。今度は肩を先程より強めに揺すりますが、それでも起きません。うんとこしょ、どっこいしょ、と、八幡様は少々ヤケになり引っ張ったりしています。

 うんとこしょ…どっこいしょ…それでもカブは抜けません。……間違えました。それでも雪乃様は起きません。何て図太い神経。さすが雪ノ下を名乗るだけはあります。

 

 しかし、一向に起きる気配がありません……。

 こうなってしまったのも、私の責任のようなもの。何とか雪乃様を起こさねば。そう思った私は、出過ぎた真似なのは重々承知ながら、雪乃様の元へ駆けて行こうとすると…

 

 

 

 

雫乃「はい!」

 

 

 

 

 

 

 …………は?

 

 

 

 

----------

 

 

 

 

 

 奥様が普段出さない程の声量で返事をしました。

 

 

 時が止まったような錯覚に陥りました。他の保護者の方達も呆然としております。奥様、あんた一体何を……。

 

 

 

 

 

 まさか……雫乃はん……あんた寝ている雪乃様の代わりに……?ああ、奥様、顔を真っ赤に……。やはり相当の覚悟を……。凄い、あんた凄いよ。何が凄いのか分からないけどなかなか出来る事では無いです。

 絶対にこの人に正直に言わないですが、車内で睡眠をとらせることが出来なかった私の責任のようなものなのに、意図せずとも部下の責任をとるとは……。

 普段はフリーザのように極悪非道冷酷無比でも、やる時はやる御方でした。失態を犯した部下(都築)は問答無用で殺されるかと思っておりましたが、まさかチャンスを頂けるとは……。本家のフリーザも部下がミスしても一度だけチャンスを与えます。それは私の隣にいる雪ノ下フリーザも同様でした。やはりフリーザは上司の鑑でしたか。フリーザ、お前がNO.1だ。

 

 先生、どうかここは、何卒、何卒こちらにいらっしゃるフリーザ様の思いを汲んであげてください。

 

 

 

 「雪乃ちゃーん?雪ノ下雪乃ちゃーん!頑張ってー!起きてー!」

 

 

 

 ごっはぁ。先生……。嘘でしょ?優しい笑顔で雪乃様を起こそうとしておりますが、でも……ええ……。奥様が……。代わりに返事を……。聞こえてた筈なのですが……何だかあの先生が怖いです。あの笑顔も猟奇的で、サイコパスに見えてきました。

 

 

雫乃「……ぐす」

 

 

 あ、ああ……、帝王の目にも涙が……。などと、ふざけている場合ではありません。さすがに気の毒です。私は新しい手巾を奥様に渡し、一目散に雪乃様の元へ向かいました。しかし、神は何処までも我々に残酷です。

 手を休めることなく、雪乃様を起こそうと尽力して下さっていた八幡様。ここまでは良かったのですが、雪乃様が八幡様に寝惚けて抱き着いてしまいました。毎晩一緒に寝ているパンさんと思っているのでしょうか……。

 

 

八幡「お、おい!?雪ノ下!何してんだいい加減起きろ!!」

 

 

雪乃「んんー……」

 

 

 これはいけません。完全に寝惚けています。

 更に、『はあ!?』という、その光景に気付いた女子三名の声が重なり、その御二方が雪乃様と八幡様の下へ駆けて来て、雪乃様と八幡様を引き剥がそうと躍起になっています。おや?二人?声は確かに三名分聞こえましたが。

 ……あと一人はフリーザでした。

 

 

 

 結局、暫くはこうした事態が続き、卒園式は大惨事となってしまいました……。

 

 

 

----------

 

 

 

 

 

 その後ようやく雪乃様が目を覚ましましたが、かなり動揺をしておりました。それはそうでしょう。目を開けると全員が自分を見ているのですから。そして目の前に八幡様が心配そうな顔をしながら雪乃様を覗き込んでいました。顔を真っ赤にしながらも平静を装うよう努力していますが、上手くできません。

 

 まあ、何はともあれ……。これで卒園式は再開です。私は先生をはじめ、八幡様や他の園児の方々、そして保護者の方々にお詫びを申し上げながら、奥様のもとへ戻りました。奥様は若干放心状態となっておりますが、大丈夫でしょうか……。何やら口をパクパクと動かしています。何と言っているんでしょうか。

 

 

雫乃「……ょう……と……を………よ」

 

 

都築「は、はい?」

 

 

 

 

 

雫乃「…今日あの子と決着をつけるわよ」

 

 

都築「え?」

 

 

 

 

 あの子……?決着……?

 決着……。奥様が前に負けた……。

 

 あの子……。八幡様……。

 

 

都築「!?!?!?」

 

 

 びっくりした!いやいやいやいや!八幡様は何もしてませんやん!割と早めから雪乃様を起こそうと尽力してくれてましたやん!最後のあれも完全に雪乃様に非がありますし!勘違いも甚だしいです!それでまた苦労するのは私と八幡様なんでしょう!?完全にとばっちりですやん!とばっちる事山の如しじゃろがい!!

 

 

都築「お、奥様!お気を確かに!最後のは…!あれでしたが!それでもあれは事故です!彼に非はありません!」

 

 

雫乃「五月蝿いわよ!ここまでされて黙っていられないわ!積年の恨みを今晴らさないで、いつ晴らすの!?」

 

 

都築「両手を前に出さないでください!言いませんよ!?あんた意外とノリいいなおい!とにかく落ち着いてください!あれは事故です!故意ではありません!」

 

 

雫乃「何故雪乃が恋してると言い切れるのよ!」

 

 

都築「話聞けババア!!いや!すいません嘘です!いだだだだ!?聞いてください!故意です!故・意!ラブの恋ではありません!」

 

 

雫乃「そんなの知らないわよ!!とにかく私は今日彼と決着をつけるのよ!彼に勝って枕を噛みながら魘される日々から私は抜け出したいのよ!」

 

 

 

 

 そう言い、奥様は式が終わり教室内で話をしているお子様の中から八幡様を探します。しかし私の目から見ても八幡様らしき人物は見当たりません。このまま見つからないまま、奥様の勝手な因縁も自然消滅になると有難いのですが……

 

 

奈緒「おーいヒキガヤー!さっきは災難だったなー!あっはっは!」

 

 

八幡「神谷か。ったく、本当だよ。雪ノ下のやつ、何しても起きないしびくともしないし…」

 

 

 

 ……ええ、分かっていましたよ。このまま見つからないまま終わるはずがないと……。

 

 

 

----------

 

 

 

 

 

 

 

 場所は変わり幼稚舎のグラウンドです。奥様と八幡様が向かい合って対峙しております。西部劇で見るような、タイミング良く控えめに砂埃が舞っているのは私の見間違いでしょうか。当の八幡様は何が始まるのか分からない様子。当然です。そしてもう一人の女子児童、先程名前を伺いますと、神谷奈緒様とのことです。神谷様は私の隣で目を輝かせながらその光景を眺めています。こういった非日常のようなものを好んでおられるのでしょうか。私からすると他所の親が他所のお子様に喧嘩を売る地獄絵図以外の何物でもないのですが。

 

 

雫乃「八幡君、久しぶりね?私はこの日をとても待ち侘びていたわ」

 

 

八幡「は、はあ」

 

 

雫乃「ふふ、そう身構えることはないわ。何も取って食おうって訳ではないのだから」

 

 

 ダウト。

 

 

雫乃「ただ、以前に雪乃達と遊んだ、コレで一緒に遊ぼうと言っているだけなのよ?」

 

 

 そう言い差し出したのは空き缶。しかも八幡様の嗜好品であるMAXコーヒーの空き缶。日々の鍛錬により缶はボロボロになっており、まさにこの空き缶はこの後のお前のようだという皮肉が込められている。

 ……以前奥様から、八幡様の好んで飲んでいるメーカーを調べて来いなどと無茶を言われて調べたのは中々きつかったです。

 そう。あの日八幡様に敗北を喫した缶蹴り。あの日以来奥様は鍛錬を怠ったことはありません。妥当八幡様を目指し今日まで生きてきたのです。

 

 

八幡「か、缶蹴りですか。た、たしかにあの時も楽しそうに長い時間やってましたね」

 

 

雫乃「あら……。あなたはあれが楽しそうに見えたのかしら……」

 

 

 

奈緒「なあツヅキさん、ユキノのお母さん、なんかものすごいオーラだな!」

 

 

都築「ほっほっほ、神谷様はあのような大人になってはだめですぞ?」

 

 

 

 おっと、聞こえてたみたいです。睨まれています。石になってしまいます。

 

 

 

雫乃「……まあいいわ。さあ八幡君、始めましょうか」

 

 

八幡「え、ホントにやるんですか。まあいいですけど」

 

 

 

 いよいよ始まるようです。神はどちらに味方するのでしょうか。というか紛うことなく八幡様はとばっちりですが今更言うとややこしくなるのでもう黙っておきましょう。

 

 

----------

 

 

 

 

----------

 

 

 

 

 

 

 

都築「……ふう。ようやく終わりました……」

 

 

 私は罰として強いられた、屋敷内全ての箇所の掃除を今しがた終えることが出来ました。

 

 何故罰を受けたかと言うと、昨日の昼間の件の缶蹴りにございます。

 

 

 

 

----------

 

 

〜缶蹴り開始直後(半日前)〜

 

 

 

 始まってしまいました。出来ることならこの二人を一緒にしたくなかったです。

 

 鬼役はもちろん奥様。あの時と全く同じシチュエーションです。さて、今の奥様に、八幡様が一体どれ程通用するのでしょうか。

 

 

雫乃「さて、そろそろ隠れ終えた頃かしら……」

 

 

 ゆらりとゆっくり戦闘態勢に入る奥様。何故この方はここまで本気になれるのでしょうか。

 

 

雫乃「ふふ、楽しみね。あの子、負けたらどのような表情をするのかしら。楽しみで仕方ないわ」

 

 

 少しずつ、少しずつ移動していきます。しかし、生命線である缶との距離を常に意識することは忘れません。

 

 

雫乃「やはり隠れることに長けているわね。まるで気配を感じないわ…」

 

 

 確かに、八幡様の気配をまるで感じることが出来ない。一体どのような隠れ方をすればこうなるのだろうか。というよりもこの遊びはそんなに奥が深かっただろうか。

 

 

雫乃「ど、どうなっているの……。私をもってしても、察知することが出来ないなんて……こんなはずじゃ…」

 

 

 少しずつ焦りが見え始めた奥様。いやはや、不気味な程に見つかりません。何がどうなっているのか……

 

 

雫乃「……」

 

 

 とうとう奥様が黙ってしまいました。

 

 

雫乃「…都築」

 

 

都築「は、はい」

 

 

雫乃「この幼稚舎内を隈無く探してきなさい」

 

 

都築「ぬ?」

 

 

雫乃「ぬ?じゃありません。この敷地内にいるであろう彼を探して来なさいと言っているのです」

 

 

都築「し、しかしそれでは折角の勝負が……。八幡様もそろそろ出てくるかも知れませんし、何より奥様のこれ迄の努力が無に帰すようなものでは……?」

 

 

雫乃「早く探して来なさい!仕方ないでしょう!気配がまるで無いのだから!」

 

 

都築「か、かしこましました!」

 

 

 

 ったく、冗談ではありません。喧嘩を吹っ掛けたのは奥様であるのに、このような事になるとは……

 

 

雫乃「都築!見つけたのかしら!?まだなの!?早くなさい!帰って陽乃と雪乃を愛でたいのよ!」

 

 

都築「殺生すぎる」

 

 

 

 次第に苛立ちが募ってきました。

 

 

 ……見つからないものは仕方ありません。奥様は頭に血が上って冷静に物事を見ることが出来ない状態。

 日頃の鬱憤を晴らさせて頂きます。

 

 

 

 

 

 

都築「奥様!!見つけました!!こちらです!!」

 

 

雫乃「!!!ふふ……!よくやったわ都築……!」

 

 

 奥様がこちらに走って来ます。勿論八幡様はいません。というか見つける事が出来ません。あの頃よりステルス能力が格段に上がっているのでしょう。何処にいるのか見当もつきません。

 そして奥様と入れ替わるように私は缶の方に一目散に駆けていき、全ての力を込め缶を蹴り上げました。子気味いい音がしたと同時に缶は綺麗な放物線を描いています。我ながら惚れ惚れするような弾道です。

 

 

 

都築「ふう……いい仕事した」

 

 

 

 

 

 分かっています。

 私が缶を蹴り上げた僅か数秒後に周りの温度が数度下がったこと。

 自らが作り出した放物線に惚れ惚れする余り隠れそびれたこと。

 

 そして

 

 

 後ろに般若がいること。

 

 

 

都築「……」

 

 私はゆっくり後ろを振り向きます。

 

 

雫乃「……」

 

 

都築「……」

 

 

 

 

 

都築・雫乃「…………ふふ」

 

 

 

 同時に微笑むや否や、昼下がりの缶蹴りは地獄の鬼ごっこと変わりました。

 

 

 自業自得、身から出た錆、因果応報。分かってはいるのですが、我に返り、恐怖で涙が止まらないながらも、この幼稚舎から遥か遠くの屋敷を目指し老体に鞭を打ち走り続けるのでした。

 

 

雫乃「都築いいぃぃぃぃぃいいい!!!!!!」

 

 

都築「うおああああああああああぁぁぁ!!!!!」

 

 

 

 

 

おわり

 

 

 

 

 

----------

 

 

 

 

 

〜おまけ〜

 

 

 

 

 

〜缶蹴り開始直後〜

 

 

雫乃『八幡君は隠れていいわよ……ふふっ、一つ言えることは、本気で来ないと容易に喰らい尽くしてしまうわよ……?』

 

 

 

 

 

 

八幡「つってもなあ……。あまり広くないから隠れるところなんて限られてくるし……」

 

 

 

 「おにーちゃー!」

 

 

八幡「小町?どうした?」

 

 

小町「おかーさんがそつえんしきもおわったからもうかえるよって!かえろうよおにーちゃ!」

 

 

八幡「あー……。すまん小町、もう少し待ってくれないか?いま俺隠れなきゃいけないんだよ……」

 

 

小町「…? こまちつかれちゃったからかえりたいよ……うう……おにーちゃ…」

 

 

八幡「よし帰ろう今すぐ帰ろう」

 

 

 

 

 

 

雫乃「ど、どうなっているの……。私をもってしても、察知することが出来ないなんて……こんなはずじゃ…」

 

 

 

おわり

 





次は誰を出そうか悩みますね…


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もしも転校生が来たら

本編に戻ります。


最近忙しいですね……
早坂美玲ちゃん、森久保乃々ちゃん、星輝子ちゃん、∀NSWERおめでとう





 

 

 

 新しい環境。そこに飛び込むことは何程の不安があるのだろうか。俺も経験が無い訳では無い。あの幼稚園へ入園したときも、今通っている小学校へ入学する時も、確かに、不安があった。

 しかしこの場合は周りも同じ条件だった。俺だけでなく、周りの、雪ノ下達も新しい環境へ投げ出された。俺だけではないのだ。今クラスにいる連中だってそうだ。彼らは新しい環境になると適応するよう努力する。出来るように努力する。そこに得手不得手があるかもしれないが。十中八九、友達と言える者を形成し、アイデンティティを構築していく。十中八九というのは例外も存在するからだ。……その中に入っていないのは俺だけども。

 

 同じ条件、時期が重なることで幾らか先述の事を為し易いように俺は思う。その中に入ってないのは俺だけども。何回言うんだよ。

 

 では、彼らより遅れてその環境に身を投じる者はどうだろう。ある程度友人関係が出来上がっている。カーストがほぼ完成している状態でその空間に新入りとして同じ時間を過ごすことは、どの様な気持ちなのだろう。不安はより一層増すのではないか。というか俺だったら不安に押し潰されてそのままポンって消えちゃうね。

 

 

 何故俺がこのような事を考えているかと言うと、まさに今行われている朝のホームルームに見覚えのない生徒が教壇の横に立っているからだ。寝てたからよく分からないが、どうやら転校生らしい。それにしても、何か、転校生の周辺がキラキラして見えるのは気の所為か……?なんだ?あいつのオーラは……。確実に俺とは真逆の人間だな……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「初めまして。葉山隼人って言います。みんなと仲良くなれるように頑張ります。よろしく!」

 

 

 

----------

 

 

 

 

 

 葉山が転校生としてこのクラスに来て一時間程。俺が先程まで考えていた事など無かったかのように葉山は早くもクラスの輪の中心、カースト頂点まで上り詰めていた。いや、幾ら何でも早すぎない?すげえなこのイケメン。

 

 

隼人「やあ、雪乃ちゃんじゃないか!久しぶりだなあ。知ってる子がいて良かったよ。これからは学校でもよろしくね」

 

 

雪乃「ええ、久しぶりね隼人君。こちらこそよろしく」

 

 

 ほう、どうやら雪ノ下と葉山は知り合いらしいな。幼稚園でも葉山らしい奴は見なかったが、幼馴染か?親同士が仲が良いとかかな。

 

 

雪乃「でも隼人くんは何故この学校に?」

 

 

隼人「ああ、親の都合でね。引越し先がギリギリ前の学校の校区外に出ちゃったんだ。……なんて、本当は親がマンションから一軒家に移りたかったから引っ越したらしいよ。全く、子供の僕の気持ちも考えてほしいよ、ハハハ。あ、でも引き続き君の御両親の会社の顧問弁護士は続けるみたいだからそこは大丈夫らしいよ」

 

 

 

 な、長い……!!俺だったら『ああ、親の都合』で終わってるぞ……。リア充の会話の広げ方は半端じゃないな……。というか、やっぱ親同士が仲が良かったのか。仲というか、仕事の関係か。親が弁護士ってすげえな。帰って親父には言わないでおこう。凹むに決まってる。

 

 

 

雪乃「そう。それにしても、すごい人気ね。小さい頃何度か互いの家に行き来して遊んだことしかないから、学校でのあなたを見たことないから驚いたわ」

 

 

隼人「はは、人気だなんてとんでもないよ。みんな転校生に興味があるだけさ。さて、あとは挨拶していないのは……」

 

 

 葉山はそう言い周囲を見回す。あ、やべ、目が合った。ちょっ、待てよ。こっち来てんじゃねえか。

 

 

奏「あら、目が合っちゃったみたいね。ふふ、シャイな八幡君はきちんと挨拶できるかしら?」

 

 

 そういえばこいつ隣にずっといたんだったわ。速水はこの前あった席替えで隣になり、よく俺に話しかけてくる。席替え直後雪ノ下が速水に何やらいちゃもんを付けていたので仲裁に入ったのはよく覚えている。あいつたまにああいう子供っぽい所があるんだよな。速水は授業中なども俺を揶揄いその反応を楽しんでいるのだ。その度に雪ノ下から物凄く睨まれるけど。今ではすっかりからかい上手の速水さんになってしまっている。

 ってかシャイってなんだよ。俺だってちゃんと挨拶くらいできるもん!!

 おい雪ノ下、遠目にこちらを凝視するな。やり辛いだろうが。

 

 

隼人「やあ。今日からこのクラスの一員になる葉山隼人です。よろしくね」

 

 

奏「速水奏よ。こちらこそよろしくね。八幡君、私が代わりに八幡君を紹介してあげるけど?」

 

 

八幡「いや、挨拶くらい出来るから……。んん、ひきぎゃや八幡だ。よろしく」

 

 

 平常運転で噛んでしまった。もはやここまでいくと今日も異常がなくて安心するレベルだな。

 ……でも、途中で区切らず言ったから、無かったことにできているかもしれん。……あ、できてないみたいだ。葉山の後ろで雪ノ下が必死に笑い堪えてるもん。

 

 

隼人「は、はは。まあこれからよろしく頼むよ、速水さん、比企谷君」

 

 

奏「ええ、よろしくね」

 

 

 そう言い葉山が去っていった。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

奏「ふふふ。よしよし、緊張しちゃったのよね?頑張ったわね♪」

 

 

雪乃「!?」

 

 

八幡「なっ……!お、おい、やめろって……」

 

 

 速水が突然俺の頭を撫でてきた。最近こいつは俺のことを年下扱いしてきて非常に困る。

 

 

雪乃「ちょっと速水さん。比企谷君に迂闊に触らない方がいいわ。手が腐敗するわよ?」

 

 

八幡「おい、雪ノ下、おい。つか誰がゾンビだよ」

 

 

 つか俺の足踏んでるよ雪ノ下さん。わざと?ねえ?わざとなんでしょ?

 

 

奏「あら、八幡君に染められるのなら、腐敗でも悪くないかもね♪」

 

 

雪乃「なっ……あなたはまたそういう事を……!」

 

 

八幡「いだだだだ!?!?痛い痛い!雪ノ下ァ!踏みつける力を強めるな……!」

 

 

雪乃「あなたもあなたよ比企谷君!撫でられてる時物凄く鼻の下を伸ばして!この変態! 」

 

 

八幡「ぐああああ!!?」

 

 

 

 

 

 

 

隼人「……」

 

 

 

 

 

 「隼人くーん!サッカーするから隼人くんもやろうぜー!」

 

 

隼人「…ああ!いいね、いこうか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

隼人「比企谷八幡くん、か」

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 葉山が転校してきて二週間が過ぎた。今では完全にクラスの中心人物となっている。その恵まれた容姿、成績優秀でスポーツ万能。まさに小学校内におけるヒーローをそのまま具現化したような存在となっていた。

 また男子からの人望も厚いが、その容姿から女子からの人気が凄まじかった。その人気は他クラス、他学年まで及んでいた。やっぱ世の中顔だな。八幡知ってるよ。

 

 そんな『皆のヒーロー』、『女子生徒全員の憧れ』の葉山隼人が確立された時期辺りから、

 

 

 

 

 

 

 「葉山くん、あたしたち外で遊ぶんだ!葉山くんも一緒に遊ぼうよ!ほら!」

 

 

 「行こうよ葉山くーん!」

 

 

隼人「ああ、いいよ。……ん?ちょっと待ってて」

 

 

 「?」

 

 

 

 

隼人「雪乃ちゃん、キミも良かったら一緒に遊ばないかい?」

 

 

 

雪乃「いや……。私はいいわ。本を読んでる方が好きだし。隼人君たちだけで行ってきて頂戴」

 

 

隼人「そ、そうか。すまなかったね。じゃあ、僕は行くね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「なにあれ。なんかうざくない?」

 

 

 「なんか生意気だよね。せっかく葉山くんが誘ってあげてるのに」

 

 

 「なんかやな感じ。気取っちゃってさ」

 

 

 

雪乃「っ……」

 

 

 

 

 

 

 

 雪ノ下の元気が無くなっていった気がした。

 

 

 

 

 

 

おわり

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

おまけ

 

 

〜隣のクラス〜

 

 

 

凛「なんかさ」

 

 

奈緒「ん?」

 

 

凛「八幡たちのクラスに転校生が来たらしいよ」

 

 

加蓮「葉山隼人くん、だっけ?」

 

 

奈緒「あー聞いた聞いた!なんかめちゃくちゃイケメンらしいな!」

 

 

 

 

まゆ「……」ピクッ

 

 

 

 

凛「そうそう。他の子達も葉山くんの話で持ち切りでさ」

 

 

加蓮「まあたしかにイケメンだったね」

 

 

 

まゆ(……これは?もしかしたら凛ちゃんと加蓮ちゃん、葉山隼人って人に目移りするんじゃないでしょうか……。うふ、ふふふ!これは恋のライバルが二人も減るかもしれません!まゆと八幡さんが恋仲に成立するのも時間の問題かもしれません!うふふふ♡葉山隼人さん、存じ上げない方ですけど、ナイスです!)

 

 

 

凛「人当たりも良さそうだし」

 

 

加蓮「勉強もできてスポーツもすごいらしいよ」

 

 

奈緒「アニメとか好きなのかなあ」

 

 

凛「なんか他の子達が、葉山くんは白馬の王子様だって言ってたよ」

 

 

加蓮「あー、わかるかも笑」

 

 

奈緒「フルボッコちゃんとか話したらわかるかなあ?」

 

 

 

 

まゆ(うふふふ!そうです!その調子です!お二人ともいい感じです!奈緒ちゃんは何か違いますけど!さあ!さあ葉山さん!凛ちゃんと加蓮ちゃんを引きずり込んでください!)

 

 

 

凛「でも」

 

 

加蓮「八幡くんのほうが断然カッコイイよね。えへへ」

 

 

まゆ「ガァァァァァアッデム!!!!!!」

 

 

凛・奈緒・加蓮「!?!?」

 

クラスメイト「!?!?」

 

 

 

 

おわり

 

 







前書きでも言った通り、忙しくなってきましたので更新頻度がかなり落ちる可能性があるのでご容赦下さい。

感想などで希望してくれたキャラなどは本編然り番外編などで出せるよう努力します。



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もしも彼女が変わったら

短いです。申し訳ありません。
第7回総選挙が始まりましたね。





 

 

 

「……」

 

 

 

 また無くなってる……。

 

 私は下足箱の自身の名前が書かれた箱の中を、ただ見つめたまま立ち尽くしていた。あったはずの上履きは跡形もなく消えている。これで四度目かしら……。また事務室でスリッパを借りなくちゃ……。

 

 

 教室に入ると、既に来ていた女子達が私を冷めた目で見ている。そんなことを知らずに、隼人君と、隼人君と話していた数人の男子が此方に挨拶をしてきた。やめて……。

 

雪乃「お、おはよう……」

 

 

隼人「?どうしたんだい、雪乃ちゃん。体調でも優れないのか……?」

 

 

 やめて……。

 

 

雪乃「い、いえ、大丈夫よ。ありがとう」

 

 

 私は逃げるように、縋るように自分の席に行く。女子に終始見られていたけれど、そちらを決して見はしない。授業が始まるまで、読書をしてやり過ごすしかない……。

 

 

 

 

雪乃「つっ……!?」

 

 

 

 鋭い痛みが座った瞬間襲ってきた。

 椅子に画鋲があることに気付いた。ご丁寧にテープで固定し、そのテープも椅子違和感の内容に色を塗り替えて。

 視線を前に移すと教卓の周りに固まっていた女子達の意地の悪い笑みが見えた。

 

 

雪乃「……なんて事を……」

 

 

 さすがにこれは小学生がする悪戯の範囲を超えている。

 …いえ、悪戯なんて物ではない。ここまでされて、認める他に無かった。私は、クラスの女子から虐めを受けるようになっていた。

 

 

雪乃「……比企谷君……」

 

 

 まだ登校していない男の子の名前を、誰にも聞こえないように呟いた。しかし、この事は言えない。言わない。家族にも、彼女達にも、彼にも。心配を掛けたくないという思い。虐められているという事実を打ち明けることへの屈辱と羞恥心。そして何より、自身のプライドが助けを求めることを許さなかった。……小さい頃は気にしなかったが、どうやら、私は本当に不器用で、人付き合いが苦手らしい。自身と周囲への呆れ、諦め、これからの学校生活への不安に、静かに溜息を漏らした。

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

凛「ふふ、それでね、って聞いてるの八幡?」

 

 

八幡「ん?あ、ああ、聞いてる聞いてる」

 

 

凛「なんかあったの?今日変だよ?いつも変だけど」

 

 

八幡「おい、渋谷おい。いつもってなんだ」

 

 

 登校中に渋谷と鉢合わせたため、一緒に学校まで来た。渋谷が話すのを止めないためクラスの前で話を聞いていると、席に着いていた雪ノ下を見かけた。相変わらず読書する姿は小学生とは思えないほど様になっていた。でも、何か違う。以前の雪ノ下とは何かが。いつも堂々としていた。口を開けば俺を罵倒するほど勝気だった。なのに、何でそんなに悲しそうなんだ?

 

 

 

凛「もう、よそ見ばっかして。最近全然私と話してくれないじゃん」

 

 

八幡「そ、そうか?悪かったよ……」

 

 

凛「だめ。休み時間、加蓮と奈緒と奇襲するから」

 

 

八幡「物騒な事を言うんじゃないよ……」

 

 

 

 話して満足したのか、渋谷は自分の教室へ入っていった。俺も行くか。

 

 

 

八幡「よう、雪ノ下」

 

 

雪乃「あ、ひ、比企谷君……。おはよう……」

 

 

 やはりおかしい。雪ノ下が、あの雪ノ下が罵倒をしてこない。言っておくが決して俺はマゾではない。誰に言ってんだ俺は。

 

 

 

奏「あら、二人とも早いのね。おはよう」

 

 

八幡「おう」

 

 

雪乃「お、おはよう」

 

 

奏「ふふ、どうしたの雪乃?笑顔でいなくちゃ、綺麗な顔が台無しよ?」

 

 

雪乃「ごめんなさい……」

 

 

 

奏「……」

 

 

 

 どうやら速水も何かしら感じとったらしい。俺と速水は、誰にも気付かれないように、目を合わせた。

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 昼休み。今日は晴れということでクラスのほぼ全員がグラウンドに出て遊んでいた。残るインドア派の雪ノ下は最近昼休みになると図書室で読書をしているらしい。俺たちの教室は蛻けの殻となった状態だが、かえって都合が良かった。

 

 

八幡「なあ、どう思う?」

 

 

奏「何がかしら?クラスの子達が仲良く外で遊んでいるのに、自分は教室にいることがかしら?それともこんな美女と二人きりで教室にいるというシチュエーションについてかしら?シチュ谷くん♪」

 

 

八幡「違えよ……。つかそれ、雪ノ下の真似か?精神が磨り減るからやめてくれ……」

 

 

奏「一度やってみたかったのよねこれ。結構罪悪感出てくるわねこれ。……っと、冗談はこれくらいにして」

 

 

 いい笑顔から一転、速水は真面目な表情へと切り替わる。

 

 

奏「雪乃のことでしょ?」

 

 

八幡「……やっぱ気付いてたか」

 

 

奏「まあね。彼女、最近明らかに様子がおかしいもの。私達に何かを必死で隠してる感じ。元気も無いしね。今朝のことで確信したわ」

 

 

八幡「……だよな」

 

 

奏「……気になるの?」

 

 

八幡「まあ気にならないって言ったら嘘になる。付き合いも短くはないし、あいつがあんなになってるのは見たことないからな」

 

 

奏「そう。なら私もいろいろ雪乃に探りを入れてみるわ。あなたも調べるなら周りにバレないようにね。気付かれないとは思うけど♪」

 

 

八幡「うっせ」

 

 

奏「ふふ♪なら私は行くわね。雪乃は多分図書室だろうし。今のあの子は傍にいてあげなきゃいけない気もするから」

 

 

 

 速水が教室を出ていく。からかってはくるが、友達思いの女の子だ。多少のお節介と思いながらも、雪ノ下の傍にいようとする。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 さて、一人になった所で考えろ。雪ノ下がああなった原因は何だ。家の事か?その線は薄いはずだ。雪ノ下は両親からとても大事にされているらしいし、原因が家庭内にあるなら教室内ではあんなに怯えることは無い。放課後など、家に帰る時が近づく程不安が増す筈だ。だからこの可能性は低い。

 

 

 

 

 

 教室内。悲しそう。怯える。俺達に隠す。

 

 

 

 

八幡「……まさかな。あいつに限って……でも……」

 

 

 もしかしたら。そう言いかけた所で口を無理やり閉じた。

 

 いや、これも無い。無いと思いたい。無いに決まってる。あの雪ノ下だぞ。何でも出来て、何でも知っていて、俺なんかの何十倍も優れた雪ノ下だぞ。

 

 もし、そうなら、何故俺では無い。何であの女の子が選ばれたのだ。あまりにも酷いじゃないか。

 

 

 最悪の場合を考えることは必要だが、これ以上考えると気分を害しそうだったので、一旦思考を無理やり停止した。

 

 

八幡「違うに決まってるさ……そうだろ?」

 

 

 自分に言い聞かせるように。そして雪ノ下に願うように、俺は一人呟いた。

 

 

 

 

加蓮「は、八幡くん……」

 

 

八幡「!?ほ、北条か。なんか用か?」

 

 

 北条が教室のドアの前に立っていた。

 

 

加蓮「う、うん。何か考え事してたみたいだから話しかけようか迷ったんだけどね……あの……」

 

 

 北条が言い淀んでいる。何故かは分からないが、その先を言って欲しくない自分がいた。

 

 

 

加蓮「昨日の放課後なんだけどね……」

 

 

 

八幡「……」

 

 

 

 

 

加蓮「八幡くんのクラスの女の子たちが、雪乃ちゃんの上履きを……カッターで……」

 

 

 

 

 

 どうやら神様はどこまでも残酷らしい。

 

 

 

 

続く

 






推しが多いので誰に入れようか迷います。


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もしも彼女が変わったら 続



続きです。





 

 

 

雫乃「雪乃、最近学校はどうかしら?」

 

 

雪乃「!」

 

 

 

 夕食時、母と子のコミュニケーションの場。雪乃は突然の母の質問に固まる。平静を装おうと努力するが、背中に汗が微かに流れる。

 

 

雪乃「ええ……。楽しいわ。勉強も問題ないし、友達も皆優しいわ。あの男は……そうね、一応入れておいてあげようかしら」

 

 

雫乃「そ、そう。ふふ、楽しいなら良いのよ」

 

 

雪乃「うん」

 

 

都築「……」

 

 

 

 無理やり笑顔を作る少女。姉は外面を完璧に作ることに成功しているが、果たして今の自分はどうなのだろう。目の前の大事な人を安心させることができているだろうか。不安になり、少女は顔を隠すようにグラスに口を付け、時間を掛けるように飲み干した。

 

 

 

----------

 

 

 

 

 

 

加蓮「は、八幡くん。おはよう……」

 

 

八幡「おう、北条……」

 

 

加蓮「……」

 

 

八幡「……」

 

 

加蓮「あ、あの、八幡く…『おれが何とかする』……え?」

 

 

八幡「とにかく雪ノ下のことは渋谷たちには言うな。いや、それ以外の奴らにも絶対に言うな」

 

 

加蓮「え……あの……」

 

 

八幡「いいな?」

 

 

加蓮「う、うん。じゃあ私は行くね」

 

 

 

 

 

 と言ったはいいものの、どうする。思えば葉山が来て少し経ってからだ。雪ノ下がああなったのも、女子達がああなったのも。なんでもっと早く気付かなかった。

 

 先生に言うのも駄目だ。根本的に変えなければ駄目だ。あの類は表面上は反省した素振りを見せるが陰では雪ノ下が更に標的にされる可能性も拭えない。

 

 ……駄目だ。思い付かない。動揺して頭が働かない。俺はどうすればいいんだ。どうすれば雪ノ下を救ってやれる。

 

八幡「……」

 

 

 どうする。あのクラスの女子達にはどうすれば……。言うなれば奴らは平民。平民に言う事を聞かせるには……

 

 

 

八幡「……王様の命令」

 

 

 

 でも、上手くいくのだろうか。あいつにそれほどの力、権力があるのだろうか。

 

 

八幡「どう出るか……もし駄目だったら……」

 

 

 

 頼むぞ……。

 

 

 

----------

 

 

 

 

隼人「はは、それは大変だったね」

 

 

 「そうなんだよ〜!葉山君がいてくれたら何とかなったかもしれないけどね!」

 

 

隼人「いやいや、それは俺でもどうしようもないよ」

 

 

 「そんなことないよ!葉山君は皆のヒーローって言われてるんだよ?」

 

 

 「そうそう!葉山君は格好良くて運動もできて、皆の憧れなんだから!」

 

 

隼人「はは……。なんだか照れるなあ」

 

 

 

 さて、休み時間、王様が下々の者達と御戯れになっておられる。女子達のあの笑顔を見ると、まさか虐めが起きてるなんて葉山も考えもしないだろうな。

 

 

隼人「雪乃ちゃん、君もこっちにおいでよ」

 

 

八幡「…」

 

 

雪乃「え……あの、私は……」

 

 

隼人「はは、君もたまには一緒に遊ぼうよ」

 

 

 そう言って葉山は雪ノ下を自分と話していた女子達の輪の中へ入れた。女子達は何とも言えない、複雑な表情をしている。

 

 

 「葉山君ー!俺ら外で遊ぶから葉山君も行こうぜー!」

 

 

隼人「ああ!すぐ行くよ! じゃあ、すまないけど僕は行くよ。あとは女の子同士楽しくね!」

 

 

 「葉山君ばいばーい!」

 

 

 「また後でねー!」

 

 

雪乃「あ……」

 

 

 

 葉山は他の男子達の所へ行ってしまった。

 

 

 

 「……」

 

 

 「ちょっと、いつまでいるつもり?」

 

 

雪乃「えっと……」

 

 

 「はあー。ちゃんと喋ってよ。イライラさせないでよ」

 

 

 「葉山君が連れてきたから仕方なく相手してあげてたけどさ、もうその必要ないんだからさっさとどっか行ってよ」

 

 

雪乃「……」

 

 

 

 どんどん雪ノ下の顔色が悪くなっていく。雪ノ下、あと少しだけ堪えてくれ。

 

 

 

----------

 

 

 

 時間が過ぎ放課後。他の奴らが帰る中、俺は読書をして時間を潰している。教室内には俺の他に、

 

 

 「もうみんな帰ったよね?」

 

 

 「うん、誰もいないはずだよ」

 

 

 「じゃ、今日もやっちゃおっか」

 

 

 「今日はイライラすることもあったからね。ズタズタにしてあげなくちゃ」

 

 

 

 こいつらだ。雪ノ下を苦しめる元凶達。誰もいないと、俺の存在を認識されなかったことについては悲しくなるので触れないでおく。

 

 

 

 こいつらの後ろをバレないようについていく。行き着いた先は勿論下駄箱。北条の言っていた通りだな。おっ、カッター出したな。ここと……、上履きを切り刻んでいる所。ここだな。あとはこいつらの顔と一緒に……。それにしても悪い顔してるな。

 

 

 女子達は満足したのか、そのまま下校していった。

 

 

 俺はというと、休み時間の雪ノ下の怯えた顔、下駄箱での出来事を記録したのだった。

 

 

八幡「さて、俺も帰るか」

 

 

 これの後処理もあるしな。

 ん?あの黒服は。

 

 

八幡「都築さん?ですよね?」

 

 

都築「八幡様。お疲れ様です。お待ちしておりました」

 

 

八幡「?俺をですか?」

 

 

都築「はい。実はお聞きしたいことがございまして……」

 

 

八幡「聞きたいこと?」

 

 

都築「雪乃様のことです。昨日、奥様から学校について雪乃様が訊ねられました。雪乃様は楽しいとお答えになったのですが、その……、その時の表情は笑顔でした。しかし、取り繕っている様な、我々に何かを隠している様な……、そのようなご様子でした。ですので、真相をお訊きしたく、無礼ながらこうして足を運んだ次第です」

 

 

八幡「……」

 

 

 そうか。雪ノ下はずっと一人で闘ってたんだな。親と、ここにいる都築さん、誰にも相談せずに。いや、中々できるもんでも無いよな、この場合は。大切だからこそ、心配を掛けたくないんだ。勿論渋谷や速水に話していない。雪ノ下にとって大切だからだろう。その中に自分も含まれているのか考えてしまう俺はとても傲慢で醜いのだろうか。

 

 

都築「八幡様……?」

 

 

八幡「……悪いですけど、言えません。言えないですけど、終わらせます。俺も気付いたのはここ最近なんですけど、明日には終わらせます」

 

 

都築「……分かりました。これ以上はお訊き致しません。どうか、雪乃様をよろしくお願いします」

 

 

 

 そう言葉を残して都築さんは帰って行った。車で家まで送ってくれるとの事だったが、断った。

 明日、明日だ。明日で終わらせる。

 

 秘かに決意し、胸の奥が熱くなる。風が吹いても、胸の奥だけは熱いままだった。

 

 

 

 

----------

 

 

 

 

 翌日、葉山を呼び出した。

 

 

 

隼人「何か用かい?君が俺を呼び出すなんて珍しいじゃないか」

 

 

八幡「ああ、ちょっと聞きたいことがあってな。お前の力が必要なんだ」

 

 

 葉山は疑問の表情を浮かべる。

 

 

八幡「クラスの様子はどうだ?」

 

 

隼人「クラス?皆仲が良くて優しい子達ばかりだよ。って、君もクラスの一員じゃないか、ははは」

 

 

八幡「ふっ、友達のいない俺もカウントしてくれるのか。じゃあもう一つ。雪ノ下を見てて何か気付いたことは無いか?」

 

 

隼人「雪乃ちゃん?うーん、彼女はよく本を読んでいるよね。大人しい子だけど、昨日はクラスの女の子達と話せてたよ。このまま彼女の友達が増えてくれればって思うよ!」

 

 

八幡「……そうか。昨日お前は途中であの輪の中からいなくなったから、あの後のことを知らないだろう。見て欲しいものがあるんだ」

 

 

 そう言い、昨日記録した、もとい撮った写真を葉山に見せた。撮ってる最中はバレないかヒヤヒヤしたが。

 

 

隼人「な、これは……。……何かの間違いだよ。この子達は、とても優しい子達だ!昨日だって雪乃ちゃんと仲良く話していたんだぞ!」

 

 

八幡「……それはお前が傍にいたからだ。あいつらは葉山、お前に媚びるために、お前への点数を稼ぐために雪ノ下に愛想よく振舞っただけだ。お前が居なくなった途端、その写真の通り、意地の悪い顔に豹変したんだよ」

 

 

隼人「でも……。やっぱり俺は信じられない。大体この下駄箱の写真だって本当に切り刻んでいるのか分からないじゃないか!……俺が後で彼女達に聞いてみるよ…」

 

 

八幡「……」

 

 

 これでもまだ疑うのか。どうやら俺はこいつを買い被りすぎていたらしい。

 

八幡「はあ。そうか、そうだよな。これだけじゃ分からないよな。すまん、時間取らせちまった。……ああ、そうだ。隣のクラスの女の子からの伝言を預かってるんだった。体育館裏で待ってるから来てくれだとよ。待ってるだろうから早く行ってやってくれ」

 

 

隼人「え?あ、ああ。わかったよ。とにかく、俺は違うと思う。それじゃ、行くね」

 

 

八幡「ああ」

 

 

 

 ……平民の争いを鎮めるのは王様だと思っていたが、違うんだな。下々の者たちを抑えるのは、同じ下々の者だ。まあ今回は、平民対奴隷だけどな。友達のいないクラスの底辺の俺だ。失う物はない。さっきの呼び出しは嘘だ。葉山がいない間に終わらせないとな。

 ……恐らく俺の残りの学校生活は終わるだろうが、知ったことではない。

 

 

 

八幡「……貧乏くじだけど、仕方ないよな」

 

 

 

----------

 

 

 

 

 教室の前まで来ると、中が騒がしかった。何だ?叫び声が聞こえる。扉を開けると、

 

 

 

 

凛「あんたらみたいなのが同じ学校にいると思うとイライラするって言ってるんだよ!!雪乃の気持ち考えたことあるの!?群れないと何にも出来ないくせに、雪乃があんた達に何したっていうの!?」

 

 

 「だ、だから私達は何もしてないって……」

 

 

奈緒「何もしてないわけないだろ!!あたし達はこの目でお前らが寄って集って雪乃に言い掛かり付けてたの見てたんだよ!!」

 

 

 激昴した渋谷と神谷と、

 

 

雪乃「……」

 

 

 泣いている雪ノ下がいた。速水が隣で抱きしめている。しかしその目は女子達を睨み続けたままだった。

 

 

 

加蓮「! は、八幡くん!」

 

 

八幡「北条、これは……」

 

 

加蓮「うん……。さっき、雪乃ちゃんがあの子達に囲まれてるのを私達が見つけて……あと……」

 

 

八幡「あと?」

 

 

加蓮「ごめんね、その、約束守れなくって……。雪乃ちゃんが囲まれてる時、凛たちに上履きのこと言ったんだ……」

 

 

八幡「……そうか」

 

 

 

 俺が北条に渋谷たちへ言わせないようにした理由。それはこの子達が動くことを分かっていたからだ。優しいこの子達のことだ。雪ノ下のために闘うに決まっている。でも、その後はどうだ?雪ノ下が渋谷達にチクったと、裏ではもっと酷いことをされるかもしれない。もしかしたら今度は渋谷達が標的になるかもしれない。だから言わせないようにした。この問題を解決ないし解消するには俺が、俺だけが最適だと思ったから。だってそうだろ?傷つくのが俺一人で済むんだから。

 

 

 

奈緒「おまけに上履きまでズタボロにしただと?ふざけんなよ!!」

 

 

 「だ、だからしてないってば……。誤解だって……」

 

 

 「そ、そんなに言うなら証拠見せてよ」

 

 

 往生際が悪いな。雪ノ下が今泣いてるのが証拠の様なもんなんだが。恐らく上履きの方を言ってるんだろう。

 

 

奈緒「しょ、証拠……。お前らがしてるのを見たって奴もいるんだよ!」

 

 

凛「そうだよ。いい加減認めなよ」

 

 

 「そんな見たって言われてもね……」

 

 

 「そうそう、勘違いかもしれないし……」

 

 

八幡「これお前らだろ?」

 

 

雪乃「!」

 

 

 『!?』

 

 

 さっき葉山に見せた写真を見せると、女子達は固まった。

 

 

凛「は、八幡、それは?」

 

 

八幡「最近雪ノ下の様子がおかしかったのと、ある人からそういう話を聞いて昨日張ってたんだよ」

 

 

加蓮「……」

 

 

 「なっ……」

 

 

 「こ、こいつ」

 

 

八幡「何だ?気持ち悪いか?盗撮してるって言いたいのか知らんが、自分達がしたこと考えてから発言するんだな。俺からしたらお前らの方がよっぽど気持ち悪いぞ」

 

 

 「うっ……」

 

 

 「ぐっ……」

 

 

 

 さあ、あと少しだ……

 

 

隼人「君達何をしているんだ!」

 

 

 

 ……チッ、戻ってきたか。もう少しマシな嘘付けばよかったか。

 

 

 

----------

 

 

 

 「は、葉山君!!」

 

 

 「こ、この子達が言い掛かりを……」

 

 

奈緒「だから言い掛かりじゃねーって言ってるだろ!!いい加減にしろよ!!」

 

 

奏「……」

 

 

八幡「葉山、お前の出来ることは何も無い。悪いけど引っ込んでろ」

 

 

奏「……」

 

 

隼人「ま、まあまあ。まずはこの子達の話を聞こうよ。やってないって言ってるんだ。決めつけるのは良くないよ……」

 

 

 

 

奏「……はあ。やっぱりあなたはっきりしないのね。皆のヒーローって間抜けな八方美人のことなのかしら。教室でこんな騒ぎになっちゃったから、職員室行きそびれちゃったけど、これを見てまだそんなこと言える?」

 

 

 

 そう言い速水が取り出したのは携帯電話だった。こいつ小学生なのに持ってるのか。少し羨ましい。

 

 速水は自身の携帯のフォルダの中から動画を流し始めた。

 

 

 それは俺が昨日見たものと同じ映像だった。おまけに女子達の『雪ノ下』と名指す声まで入っている。

 

 

 

隼人「……これは」

 

 

 

奏「さあ、他の人の証言、八幡君と私が撮った写真と動画、ここまで揃えて、あなたはどう動くの?皆の憧れのヒーローさん?」

 

 

 

 

隼人「……。……先生に報告するよ。こんなことあってはいけない…」

 

 

 

 「あ、ああ……」

 

 

 「そんな……」

 

 

奏「そう。それでいいのよ。まあ、あなたが動かなくても私が行くつもりだったけど、あなたが行ったほうが説得力があるでしょうから」

 

 

隼人「……」

 

 

 

 葉山は静かに教室を出た。

 

 

 教室内には、女子達の泣き叫ぶ声だけが響いた。

 

 

 

----------

 

 

 

 

奏「よしよし、雪乃、もう大丈夫よ。辛かったわよね。ごめんね。もっと早く気付いてあげれなくて」

 

 

雪乃「ぐす……。いいのよ。私にも原因があるのだから……」

 

 

 雪ノ下は悩んでいた虐めから解放され緊張の糸が切れたのか、泣くことを止めなかった。

 

 

奈緒「そんなことないよ。雪乃が優しい子だってことはあたし達は知ってるからな」

 

 

凛「でも、雪乃、駄目だよ?一人で抱え込んじゃ。私達に言ってくれないなんて、水臭いじゃん。そんなに私達は頼りないの?私達は雪乃の友達になれてないの?」

 

 

奈緒「お、おい凛」

 

 

雪乃「それは……」

 

 

凛「私は、ううん、私達は雪乃の味方だよ?雪乃の辛いことは、私達も辛いんだ。だから、次困ったことがあったら、ちゃんと私達に言ってね?約束だよ?」

 

 

雪乃「……うん。ありがとう……」

 

 

凛「ふふ、うん」

 

 

奈緒「へへへ」

 

 

 

加蓮「……あのね、雪乃ちゃん」

 

 

雪乃「?」

 

 

加蓮「私ね、あの子達がしてたこと、あの日見てたんだ。でも、怖くて、勇気が……なく、て……わ、私は、雪乃ちゃんの為に…何もしてあげれながっだ……。ごめんね……ごめんね……」

 

 

 涙を流しながら謝罪する北条。

 違うよ、北条。あの日、お前が見てなかったら、俺に言ってくれなかったら、俺は気付くことが出来なかったと思うから。だから勇気が無いなんて言うな。優しいお前だったからこそ、今回解決できたんだ。

 

 

雪乃「そんなことないわ北条さん……。ありがとう……。みんなも、ありがとう……それと…」

 

 

八幡「ん?」

 

 

雪乃「比企谷君も、本当にありがとう」

 

 

八幡「!!お、おう」

 

 

 び、びっくりした。そんな顔出来るのかよ。不意打ちはやめろよな。それにしても、

 雪ノ下、渋谷、北条、神谷、速水。皆が互いを強く、でも優しく抱きしめ合う姿を見て、俺の心配はどうやら杞憂だった事に気付いた。彼女達が動くと、彼女達に被害が、などというのは、俺の浅はかな考えだったようだ。一人でかっこつけて、一人で解決しようとして、自分に酔い過ぎだろ俺は。

 彼女達はこんなにも強くて優しい子達なんだと、分かってはいたつもりだったが、改めて強く感じさせられた瞬間だった。

 

 

 

 あの女子達は学校側が然るべき処分をとるらしい。当然だな。雪ノ下が味わった苦痛に比べると、それでも足りないほどだろう。葉山は……どうなるんだろうな。これから変わるのかどうか。皆の憧れっていうのも、面倒なもんだな。俺も前に憧れた時期があったが、あいつを見てるとそんな気分はどこかに行っていた。色んな物に板挟みされるくらいなら、自由な方がいいよな。友達は欲しいけど。家に集まってテレビゲームする野望は消えてないけどな。それに、

 

 

 

 あの子達を近くで見ていられるなら、俺は今のままでいい。そう思えた。

 

 

 

おわり

 

 

 

 

----------

 

 

 

 

 

 

〜おまけ1〜

 

 

 

 

 

八幡「にしても、結局お前ら四人に全部持ってかれちゃったな」

 

 

奈緒「そんなことないぞ?比企谷が撮った写真が無いと危なかったし」

 

 

凛「そうだよ、奈緒なんて証拠って言われてちょっとパニックなってたし」

 

 

加蓮「ぷっ、思い出すと笑っちゃうね。雪乃ちゃんには悪いけど……」

 

 

奈緒「お、お前らなあ!」

 

 

凛加蓮『あっははは!!』

 

 

 

奏「ふふ、それにしても、ナイスだったわね。まさかあなたもだったなんて」

 

 

八幡「ん。俺からしたら速水の方がびっくりだけどな。動画を出されちゃ俺のしたことはなんて事無いよ」

 

 

奏「それは違うわよ八幡君?貴方のあの子を助けたいって気持ちが今回の事を解決させたのよ。ふふ、やっぱり貴方は素敵だわ♪」

 

 

八幡「ちょ、あんま近付くんじゃないよ……」

 

 

凛「ちょ、ちょっと奏!八幡困ってるじゃん!」

 

 

八幡「おお渋谷、ナイスだ、と言いたい所だけどお前が抱き着いてきたのでチャラだ」

 

 

 

雪乃「比企谷君、またあなたはだらしない顔をして。こっちに来なさい。今日はとことん説教してあげるわ」

 

 

八幡「いだだだだ。やめろ、引っ張るな……」

 

 

凛「あ、ちょ、雪乃!」

 

 

奏「凛、今は見逃してあげなさい♪」

 

 

 

 

 

奏「ふふ、やっと戻ったわね」

 

 

-----

 

 

八幡「いたた……。どこまで連れてくんだよ……」

 

 

雪乃「……」

 

 

八幡「? 雪ノ下?」

 

 

雪乃「比企谷八幡君」

 

 

八幡「え、は、はい」

 

 

 

 

 

 

 

雪乃「助けてくれてありがとう……本当に……ありがとう」ニコ

 

 

 

 

おわり

 

 

 

----------

 

 

 

 

〜おまけ2〜

 

 

 

- その夜、雪ノ下家 -

 

 

 

 

雫乃「雪乃、何だか今日は機嫌がいいわね。何かいい事でもあったの?」

 

 

都築「……」

 

 

雪乃「うん。ふふ、今日は学校が一番楽しかったの。友達がね、皆優しいの。まずね---」

 

 

 

雫乃「ふふ、そうなの。それから?」

 

 

 

雪乃「それからね?---」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

都築「……ふふふ。八幡様、感謝致します」

 

 

 

 

 執事が見た少女は、今まで見た事が無いほどの素敵な笑顔だった。

 

 

 

おわり

 

 







とりあえず小学生編は終了です。番外編でまた小学生編をするかもしれません。


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もしも彼女が変わったら 後日談


次回から中学生編です。





 

 

 

あの日から雪ノ下は変わった。

 

 渋谷達に対しよく笑うようになったし、前よりも活発になったように感じる。相変わらず俺には切れ味鋭い罵倒をしてくるがな。俺に対しては変わってないじゃねえか。

 

ドンッ

八幡「う"っ」

 

 

雪乃「あら、いたの?影が薄くて気付かなかったわ。気を付けて頂戴、影薄谷君」

 

 

八幡「頭が薄いように聞こえるからやめてくれ……。あの、お前……最近俺にぶつかってくるの多くないか?」

 

 

雪乃「な、何よ。私が前を見て歩いていないとでも言いたいのかしら?」

 

 

八幡「い、いや……、そうは言ってないけどよ……」

 

 

雪乃「ま、まあ、私も不注意だったかもしれないから、許してあげるわ」

 

 

 

 そう言って雪ノ下はそそくさとどこかへ行く。最近このやり取りをもう何回もしている。毎回雪ノ下は顔を真っ赤にしながら去っていく。そんなに怒るなら前方気を付けなさいよね。

 

 

八幡「はあ……」

 

 

奈緒「……」

 

 

八幡「……なにニヤニヤしながらこっち見てんだよ」

 

 

奈緒「別にー?へえー?ふーん?」

 

 

八幡「何だってんだ……」

 

 

奈緒「へへ、まあ比企谷は気付かないだろうな」

 

 

八幡「?」

 

 

 神谷の言葉に疑問を浮かべていると、

 

 

 

葉山「比企谷君、ちょっといいかな?」

 

 

 

 葉山に声をかけられた。

 

 

----------

 

 

 

 

八幡「何だよ、体育館裏に呼び出して。お礼参りか?それとも告白か?告白なら答えは勿論ノーだ」

 

 

葉山「き、君は結構古い考えを持っているね……」

 

 

 おい、軽く引いてるんじゃねえよ。冗談の通じない奴だな。

 

 

八幡「それで?どうしたんだ?」

 

 

葉山「ああ。実は、この前の雪乃ちゃんの件なんだけど……」

 

 

八幡「……」

 

 

 沈黙することで話を促す姿勢をとる。正直、そうだろうと思っていた。

 

 

葉山「その、雪乃ちゃんの件は、すまなかった。彼女が辛い思いをしていたなんて、気付かなかった。俺がもっと早く気付いて、上手く周りとの関係を取り持つべきだった」

 

 

八幡「……」

 

 

 そう言い葉山は俺に頭を下げる。

 ……何というか、な。こいつは。

 

 

 

八幡「……何で俺に言うんだ?」

 

 

葉山「え?そ、それは、君が俺に証拠品として写真を見せてくれたのに、俺がすぐ信じようとしなかったから……」

 

 

八幡「確かにお前にとっては俺にそういった罪悪感があるのかもしれない。あの件に関して俺も始めはお前の教室内の立場を利用させて貰いたくてお前にアレを見せた。でも……」

 

 

 何でそれを…

 

 

八幡「何でその言葉を俺に言う。何で謝罪の言葉をあの子に言ってやらない。どんなに不格好でも何でも、どうしてあの子に詫びてやれない。悪いけど……さっきお前が言った言葉は言い訳にしか聞こえなかった。お前は結局周りに見られることに慣れて、自分の格好ばっか気にしてるんだよ」

 

 

葉山「……」

 

 

八幡「用が済んだならもう行くからな。それじゃ」

 

 

葉山「……君はすごいな」

 

 

八幡「あ?」

 

 

葉山「いや、何でもないよ。確かに君の言う通りだ。時間を取らせてしまってごめん」

 

 

八幡「へいへい」

 

 

-----

 

 

 

 

 

 

葉山「……あれが彼女達が彼を慕う理由なのかな……。人のためなら自分を顧みない。そんな危なく脆いがとても強い存在」

 

 

 

葉山「……確かに君の言う通りさ。僕は代わりに君に許しを乞うたんだ。言い訳をして、雪乃ちゃんへの罪悪感から本人に話しかけることも出来なくなった腰抜けだ。……隣の芝生は青い、なんて言うけれど、君を見てると羨ましく思えるよ……。なんて言ったら、君は『嫌味かよ』って言うのかもしれないな、ははは……」

 

 

葉山「謝りたいけれど、速水さんや渋谷さんがいるから、話を聞いてもらえないかもしれないな。雪乃ちゃんにも愛想尽かされちゃったかもね、ははは……。はは……」

 

 

 

 

 

 

 

 

葉山「くっ、うぅ、……雪乃ちゃん……、すまな、い……、ぐっ……本当に……、ごめん……」

 

 

 

 

 

--

 

八幡「……」

 

 

 

 

----------

 

 

 

〜放課後〜

 

 

 

奏「はあ、もう放課後……。意中の男の子と一緒にいるとあっという間に時間が過ぎちゃうわね。八幡君もそう思わない?♪」

 

 

八幡「おう美味しい美味しい」

 

 

奏「ちょっと、ちゃんと話を聞きなさいよ、このっ」

 

 

八幡「いふぁいいふぁい……」

 

 

奏「ふん、まあいいわ。じゃあ私は帰るわね。凛達を待たせてるから。また明日、八幡君♪」

 

 

 速水さん?ウインクとかやめて?勘違いしちゃうから。つかあいつほんとに同い年かよ。

 

 

八幡「さて、俺も帰るか……」

 

 

 

 今日は親父も母ちゃんも帰ってこないんだっけな。小町と二人か。たしか冷蔵庫の中に材料があるはずだからカレーでも作ろうかな。ていうか作れるのかな。まあいいや。

 

 

 

-----

 

 

 

小町「あ、お兄ちゃんおかえり!」

 

 

八幡「ああ、ただいま。小町もおかえり」

 

 

小町「ふっふー、お兄ちゃん学校で疲れてるのに小町に気を遣えるなんて、小町的にポイント高い!」

 

 

八幡「当たり前だろ?俺は小町を世界一愛しているからな。おっ、今の八幡的にポイント高い」

 

 

小町「うわあそれはちょっと引くよごみぃちゃん」

 

 

八幡「解せぬ」

 

 

 

 その後小町とカレーを作り、完食をした時だった。チャイムが鳴った。誰か来たようだ。こんな夜に誰だ?突然チャイム音がしたので小町が驚き背筋を伸ばした。可愛い。じゃなかった、用心しないとな。

 子供だけで家にいる状況からか、若干の心細さがある中、玄関を開けた。

 

 

八幡「あっ」

 

 

----------

 

 

 

雫乃「こんばんは。雪乃の母の雪ノ下雫乃です。八幡君、夜分遅くにごめんなさいね」

 

 

 玄関を開けると雪ノ下の母ちゃんが立っていた。少し先には都築さんが車の前で待機しており、こちらに一礼をした。

 

 

八幡「あ、はい、お久しぶりです。……え、と。今日はどういったご要件で……?」

 

 

雫乃「ええ。実は八幡君と少しお話がしたくて、ね?」

 

 

八幡「は、はあ……。えっと……、よろしければ上がりますか?あまり綺麗じゃないですけど」

 

 

雫乃「ごめんなさいね……。不躾なのは重々承知なのだけれど、お邪魔させて頂きます」

 

 

 

-----

 

 

 雰囲気から察するに、真面目な話なようだ。なので小町には自分の部屋に行ってもらった。

 

 

 

 

八幡「ど、どうぞ。お茶請けも切らしてるので大した饗もできませんし、普通のお茶ですけど……」

 

 

雫乃「ごめんなさい。気を遣わせてしまって。頂きます。……うん、とても美味しいわ」

 

 

八幡「それで、ご要件は……?」

 

 

 まさか殺されたりしないよね?正直俺この人苦手なんだよな。過去に何度か缶蹴りやら鬼ごっこやらやったことあるけど。つかあれ遊びだと思ってたら勝負だったらしいね。後から知ったわ。

 

 

 

雫乃「ええ、雪乃の事で、ね?」

 

 

八幡「!……はい」

 

 

雫乃「……比企谷八幡君」

 

 

八幡「っ……はい……」

 

 

 

 

 

 

 

雫乃「この度は、私の娘である雪乃を虐めから救って頂いて、本当に有難う御座いました。暗闇の中にいたであろうあの子に光を与えて下さって、本当に有難う御座います」

 

 

 そう言い雫乃さんは深々と頭を下げてきた。

 

 

八幡「……へ?」

 

 

雫乃「え?」

 

 

都築「ふぉ?」

 

 

雫乃「都築黙りなさい」

 

 

八幡「え、あの、知ってたんですか……」

 

 

雫乃「……それは、ね?学校からの報告や加害者の親御さんからの謝罪などもあったから。事を知ったのは終わった後だったけれどね……」

 

 

 そう言い雫乃さんは悔いるように表情を曇らせた。

 

 

八幡「そうでしたか……」

 

 

 そうだよな。普通に考えて親であるこの人の所まで届くよな。

 

 

雫乃「都築は何かしら感じていたらしいけれど。私はあの子のあの時の言葉だけを受け取って、安心しきっていた。本当に、母親失格ね。自分が恥ずかしくなるわ」

 

 

都築「奥様、それは……」

 

 

雫乃「いいのよ都築。分かっているわ。あの子が優しい子だと言う事。私に心配をかけまいと頑張ってたと言う事は。それでも私は、情けないのよ。あの子が、雪乃が一人で戦っていた事に気付いてあげれなかった自分の馬鹿さ加減が……」

 

 

八幡「……」

 

 

雫乃「……あの子がそんな状態だった事を知って、私は雪乃に問いただしたわ。そして事実だった。……正気では居られなかったわ。加害者側の人間を消してやろうかとも思ったわ。そして最悪、その虐めが続くようだったら、雪乃をそんな目に合わせないよう、中学に上がる頃には留学でもさせて守ろうかとも思った……」

 

 

八幡「!?」

 

 

雫乃「でも……、雪乃に虐めについて聞いた時、そして私が加害者側をどうしてやろうか考えていた時、あの子はこう言ったの」

 

 

----------

 

 

 

 

雪乃『ごめんなさい……隠してて、本当にごめんなさい。確かに私は虐められていたわ。辛かった。毎日がとても辛かった。私は一人ぼっちなんだって思っていたわ。

 ……でも、違ったの。私のために戦ってくれる子達がいた。怒ってくれる子がいた。涙を流してくれる子がいた。そして、私のために、見えないところで頑張ってくれていた子がいた事が分かったの。それを知ることが出来て、私はとっても嬉しかった。甘いと思われるかもしれないけれど、お母さんは加害者の子達に何もしないで。虐めてきた子達には特に仕返しをしたいって思っていないわ。だって、あの子達が私のために頑張ってくれた事を胸の中に残しておきたいから。それに、隣に味方で居てくれる子が居るって知れたから。あの大切な子達と今まで以上に仲良くなれた気がしたから。散々虐めてきたあなた達より私の方が幸せなんだって、今は胸を張って言えるから』

 

 

----------

 

 

雫乃「……ってね」

 

 

八幡「雪ノ下……」

 

 

雫乃「だから、八幡君達には感謝しているの。改めて、雪乃を助けてくれてありがとうございました」

 

 

八幡「い、いえ。俺は結果的に何も出来ませんでした。あの女の子達と雪ノし……雪乃さんが頑張ったからです」

 

 

雫乃「ふふ、そんなことないわ。雪乃から聞いたわ。あなたが影で頑張ってくれていたんだ、って。本当に嬉しかったと言ってたわ」

 

 

八幡「うぐ……」

 

 

雫乃「私はあの子に何もして挙げれなかった。でも、あなた達は違う。あなた達なら、どんな事も乗り越えられる。私はそう思うわ。今回は雪乃をあなた達が助けてくれた。だから、八幡君が困難に直面したら、次は雪乃に頼って頂戴。勿論、私と都築も必要ならば力を貸すつもりよ?」

 

 

 そう言い雫乃さんは微笑む。都築さんもこちらに首肯し笑顔を見せる。

 

 

 

八幡「……まあ、それは本当に困った時に……」

 

 

雫乃「……ふふふ、雪乃の言っていた通り、素直じゃないのね。まあ、あの子も似たようなものだけど。……っと、少し長居をしてしまったわね。では私達はこれで失礼します。では八幡君、重ねがさねになりますが、本当にありがとう」

 

 

都築「私からも、この度は本当にありがとうございました」

 

 

八幡「い、いえ。いいですよ別に……。あいつは笑ってた方が似合いますから……」

 

 

雫乃「ふふふ、では失礼します」

 

 

都築「お時間を作って頂きありがとうございました。失礼致します」

 

 

----------

 

 

 

 それから二人は帰っていった。時計を確認すると一時間半程経過していた。結構話したな。

 

 

八幡「はあ。風呂入って寝るか……ん?」

 

 

 物陰からアホ毛がチョロり。そのアホ毛は微かに震えていた。

 

 

八幡「……小町、聞いてたのか」

 

 

小町「うぅ……ぐすっ……お兄ぢゃーーん!!!」

 

 

八幡「うわ!?なんだよどうしたんだ!?」

 

 

小町「お兄ぢゃん偉いよ!!よく頑張ったよ!!自慢のお兄ぢゃんずぎで小町ポイントカンストだよお"ーー!!」

 

 

八幡「はあ……。はは、顔ぐちゃぐちゃになってるぞ」

 

 

 

 

 今回の雪ノ下の件、葉山の協力が得られないと分かった時、本当は俺は一人で終わらせるつもりだった。葉山がいない隙に教室で暴れ回り、嫌悪の対象を雪ノ下でなくなるようにすること。そしてその後も雪ノ下や渋谷達との関係を完全に断ち切るつもりだった。でなければ、そんな人間と関わるあいつらに今度は被害が及ぶと思ったからだ。

 だから、あの時教室に渋谷達がいた事は本当に計算外だった。

 

 

 しかし一番の計算外は、土壇場になるとあんな策しか思い浮かばなかった自分自身だった。

 今目の前で顔をぐちゃぐちゃにしながら泣いている小町や、あの女の子達が問題に直面した時、果たして次の俺はちゃんと良い解決策を出せるのだろうか。自分自身を滅ぼす結果にならないだろうか。そんな不安が頭の片隅に浮かび、暫くの間消えることは無かったので考えを振り払うように、小町の頭を少し強めに撫でた。

 

 

 

おわり

 

 

----------

 

 

 

 

〜おまけ〜

 

 

 

- 車内 -

 

 

 

雫乃「……私は」

 

 

都築「……」

 

 

雫乃「私は八幡君という子を勘違いしていたわ。あの子はとても賢くて、強くて、友達思いの優しい子だったのね……」

 

 

都築「はい。八幡様はとても素晴らしい方です」

 

 

雫乃「……今まで何であんなにムキになっていたのかしら。あのとてもいい子に……初めてあの子と会った時の自分を殴りたいわ……」

 

 

都築「と言いますと?」

 

 

雫乃「もうあの子に下らない対抗心を持つことは止めるわ。八幡君と雪乃に失礼だもの」

 

 

都築「!」

 

 

雫乃「全く……ふふ、雪乃が惚れてるのが今回の件で何となく分かったわ。雪乃は否定するでしょうけど」

 

 

都築「……」

 

 

 

 

 

 

-----

 

 

 

- 都築 自室 -

 

 

ガチャッ バタン

 

 

都築「……」

 

 

 

都築「いよっしゃああああぁぁぁぁあああ!!!!!」

 

 

都築「ようやく……ようやく長年の地獄から解放された……もう奥様の特訓に付き合わなくていい……。長かった……。六年間は本当に長かった……何度執事を辞めてやろうかと思ったか……」

 

 

 

 自室にて静かに歓喜の涙を浮かべる都築さんであった。嬉しさのあまり普段は節制している酒を浴びるほど飲み次の日の業務に支障をきたし、雫乃から折檻を食らうことになるのは別のお話。

 

 

 

おわり

 

 







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番外編5:もしも偶然出会ったら 続


申し訳ありません。
時間稼ぎです。





 

 

 

雪乃「……」

 

 

 

 さて、今の状況を確認しましょう。

 

 

 

 今日私は、休日ということでずっと家の中に篭るのも健康に悪いかと思って外に散歩に出た。

 家に出る際、都築さんに見られて車での移動を勧められたけれど、断った。健康を思っての折角の散歩だもの。車に頼っては意味が無いわ。

 そして暫く歩いた。たまに散歩をするのも良いものね。歩く際の地面を蹴る音、鳥の鳴き声、車の騒音ですら私には心地良いものに聞こえた。頭の中を空にし、考える事を止め、外に歩みを進めると、普段は見れない、聞こえないものが沢山あった事に気付いた。違うわね。見ないし聞かなかっただけだったのかも知れないわ。

 ……たまには外に出なければ駄目ね。そうだわ。家の中だけでなく、これからは外でも読書してみましょう。きっと気持ちがいいと思うわーーーー

 

 

 

 

雪乃「……そうだわ、本。外で読書する為の本を買おうとしたんだった……」

 

 

 

 でも……

 

 

 

雪乃「……ここはどこかしら……」

 

 

 

 

 見慣れない場所ね……。言っておくけれど、迷ってなんていないわ。そう、これはド忘れしてるだけなのよ。決して迷子ではない。

 

 

 

雪乃「……」

 

 

 

 そう、決して……

 

 

 

雪乃「……ぐすっ…」

 

 

 

----------

 

 

 

 それから私は携帯のナビ機能の事を思い出し、起動した。あの男が言いそうな言葉で言うと、負けを知りたい、かしら?全く、貴方は変な事ばかり言って……。そんなだから友達が出来ないのよ……ふふ。まあ、可哀想だから、仕方ないから私がそばに居てあげようかしら。そう、これは仕方なくよ。

 

雪乃「ふふふ。……ん?」

 

 

 ふと横を見ると小さな本屋があった。私がいつも行く大型の店舗には程遠いほどの小さな本屋で少し古びた雰囲気だったけれど、逆にそれが味のある、趣のあるものであり、他の真新しい建物とは明らかに異なるものであった。一際異彩を放っているように感じた。一軒だけ雰囲気の違う、異空間のような……。幻想的のような……。そんな思いが込み上げてきたのは、自分がまだまだ中学生にもなっていない子供だからではなく、きっと昨夜読んだSF小説のせいだと信じたい。

 私はそこそこ発展してきた街の中にポツンと存在する、異空間に足を踏み入れた。……何で頭の中で朗読してるのよ……。これもあの男の影響なのかしら。全く、責任とって頂戴、独り言谷君。

 

 

 

 

 「あ……。いらっしゃいませ……」

 

 

 

----------

 

 

 

 

 「何か、お求めの本などありますか……?」

 

 

雪乃「あ、い、いえ。散歩をしていたら、偶々この本屋を見つけまして……」

 

 

 レジの前で本を読んでいた女性が話し掛けてきた。私より少し歳上かしら。もしかしたらもっと歳上かも知れない。それ程、目の前にいる女性は落ち着いており、品行方正、まさに私が理想とする淑女のそれであった。

 

 

 「そうでしたか……。この本屋は小さいですし、見つけにくいですから……」

 

 

雪乃「い、いえ、そんなことは」

 

 

 「ふふ、狭いですが、どうぞゆっくり見ていってください……」

 

 

雪乃「は、はい。ありがとうございます」

 

 

 

 女性は話終えると再びレジの前に座り、本の世界へと戻った。その姿はとても様になっている。

 私は本屋の中を見回した。児童書が多く、私が読んだことのある物もかなりあった。だいぶ前に読んだとても懐かしい本、最近読んだばかりの本、これから読もうとしていた本など、様々な本が並んでいた。

 

 

雪乃「これ……懐かしい。……あっ、これも……。ふふ、あれも面白かったわ……」

 

 

 小さな本屋は、私の目を輝かせるのに事欠かなかった。読んだことのある本が多く、昔に戻った気持ちになり胸が少し温かくなる。もしかして、この本屋は私の頭の中そのものなのではないか。本屋が脳で、書物が記憶。という、何ともベタなファンタジーじみた考えが浮かぶほどであった。

 

 

----------

 

 

 

 

 

 

 「……何か、お好みの本は、見つかりましたか……?」

 

 

雪乃「あ、はい。とても良い本ばかりです。私が読んだことのある本も多いですし、これから読みたいと思っていた本も沢山ありますので」

 

 

 「そうですか。それは良かったです……。あら、お客様が持っている、その本……」

 

 

雪乃「え?あ……、いつの間に……」

 

 

 私は無意識の内に一冊の本を手に取っていた。……これは私が初めて一人で読んだ本。とても面白くて、一人で全部読めたことが嬉しくて、絵と文章を何度も何度も見返した記憶がある。

 

 

 「……」

 

 

雪乃「あ、あの、何か……?」

 

 

 「あ……すみません……。……ふふ。何年も前ですけど、ここでその本を買ってくれた男の子がいたのを、思い出しまして……。妹さんのために、最初は、ここから少し離れた大型の本屋の中を、何周も、何周も探し回っていました……」

 

 

雪乃「へえ……」

 

 

 とても妹思いの優しいお兄さんだ。

 

 

 「とても、優しい男の子でした……。その後も、偶に、本を読みに来てくれて……。本の感想を言い合ったりして……。短い間でしたが、とても楽しかったです……。もう何年も会っていので、また来て頂けると嬉しいのですが……。住所も分からないので、私はここで待つことしか出来なくて……」

 

 

雪乃「……」

 

 

 「お客様は……、本は、好きですか……?」

 

 

雪乃「はい。毎日読んでいます」

 

 

 「そうですか……。ふふ、宜しければ、またお越しください……。あなたにとって……、素敵な一冊が、見つかる筈です……」

 

 

雪乃「はい、是非」

 

 

 

----------

 

 

 

 

 

 その後私は本を数冊買い、ナビを起動し四苦八苦しながら家路に着いた。

 

 とても素敵な本屋だったわ。必ずまた行こう。そして、あの人と本の感想を言い合いたい自分がいる。男の子の事を語るあの人の目は少し寂しそうだった。あの女性の言う男の子にはなれないけれど、私で良ければ幾らでも通っていい。あの人が寂しがらないように。いくらでも語り合おう。そう思えるほど先程の本屋と女性は魅力的だった。

 

 

 

 

 

-----

 

 

 

 

 

 「あの本を見ると……思い出しますね……。私が他の本も勧めて読んでくれたのはあの子が初めてでした……」

 

 

 

 「……ふふ、久しぶりに、またお話したいです……」

 

 

 

 

 

 

 

 

文香「またいつでもここで待ってます……比企谷君……」

 

 

 

 

おわり

 

 

 

----------

 

 

 

 

 

 

〜おまけ1〜

 

 

 

- 後日 -

 

 

 

 

八幡「一体どこ連れてくんだよ。学校終わったから急いで家に帰りたいんですけど」

 

 

雪乃「黙りなさい帰宅谷君。貴方も読書が好きでしょう?特別に私のお勧めの超穴場の本屋さんを教えてあげるわ」

 

 

八幡「あん?この辺にそんな本屋なんてあったか?」

 

 

雪乃「ふふん、とても素敵な場所よ。貴方には勿体無い程にね。着いたわ。ここよ」

 

 

八幡「一々俺を貶さなくていいから……。っと、ん?ここって……」

 

 

雪乃「ふふん。こんにちは。また来ました」

 

 

 

 

 

 

文香「いらっしゃいませ……。あら……この間の……。…………!?」

 

 

八幡「あ……」

 

 

文香「……」

 

 

 

 タッタッタ… ガシッ

 

 

雪乃「!?」

 

 

文香「……」

 

 

八幡「いだだだだ……!頰っぺを鷲掴みしないでください……鷺沢さん……」

 

 

文香「!!……やっぱり……。比企谷君……ですか……?」

 

 

八幡「は、はい……」

 

 

文香「ふふ……ふふふ。久しぶりですね……。本当に……、久しぶりです……」

 

 

八幡「は、はい。お久しぶりです」

 

 

雪乃「え、あの……。もしかして、この前言っていた男の子って……」

 

 

 

文香「はい……。ここに居る比企谷君のことです……」

 

 

雪乃「!?!?」

 

 

八幡「え、何が?」

 

 

 

 

雪乃(な、何てことなの……。まさか、この男が歳上の女性と面識があるなんて……。くっ……。鷺沢さんは私や、あの速水さんですら持ち合わせていない大人っぽさ、色っぽさがある……。どうすればいいのよ……」

 

 

八幡「おい、何ブツブツ言ってんだよ」

 

 

雪乃「!!う、うるさいわよ誑し谷君!!歳上を誑し込んだと渋谷さんたちに言いふらしてあげるわ!!」

 

 

八幡「な!?やめろ!なんか知らんがやめてくれ!多分面倒臭い事になる!!」

 

 

雪乃「ふん!物静かな歳上女子と貴方なんかが面識があるのがいけないのよ!覚えてらっしゃい!チャラ谷君!」

 

 

八幡「あ!おい!待て雪ノ下!おい!」

 

 

 

 

八幡「……くそ、行っちまった……」

 

 

文香「な、何故か、私まで悪く言われたような……」

 

 

 

おわり

 

 

 

----------

 

 

 

 

 

 

〜おまけ2〜

 

 

 

文香「……それにしても」

 

 

 グググッ

 

 

八幡「いでででで……頰っぺ痛いです……」

 

 

文香「ずっとここに来なくて、何をしているのかと思っていたら……、まさかそのような不埒な子になっているとは……」

 

 

八幡「ご、誤解でふ……」

 

 

文香「……まあいいです。許してあげます……。それより、比企谷君が来てくれた時のために、読んで欲しい本を、ずっと用意してました……。裏から持ってきますので、よろしければ、持って帰って読んでください……」

 

 

八幡「あ……それはどうも……」

 

 

-----

 

 

 

文香「……ふう。どうぞ……。こちらです……」

 

 

八幡「……」

 

 

文香「……?どうしました……?」

 

 

八幡「あ、あの……この大量の本の山は……?」

 

 

文香「ですから、比企谷君に、読んで頂きたい本です……。ふふ、遠慮はいりません……」

 

 

八幡「あ、あの……。さすがにこの量を持って帰れないなあ……なんて……」

 

 

文香「……」

 

 

八幡「無言で頰っぺをつねらないで下さい……」

 

 

文香「……はあ。分かりました……。数冊……、二冊程ですかね……。少しずつ借りていって良いので、読んだらこちらに返しに来てください……」

 

 

八幡「は、はい。わかりました」

 

 

 

 

-----

 

 

 

 

 

 

文香「……帰りましたか……」

 

 

 

文香「……大量の本が残りましたね……。でも……一度に全部貸さずに、こっちの方がいいかもしれませんね……」

 

 

 

 

 だって……

 

 

 

 

 

文香「また、あの子が本の話をしに、ここに来てくれる口実が出来ましたから……。ふふ……楽しみです……」

 

 

 

おわり

 



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もしも難しい年頃になったら(中学生編)


キャラを増やそうか迷いますね





 

 

 最近、八幡君が冷たい……気がする。話しかけても「ああ」だの、「そうか」だの、曖昧な返事しか貰えない。目もあまり合わせてもらえない……。話し終わったら足早に立ち去ってしまう。

 ……私何か嫌われるような事しちゃったのかな……。分かんないや。

 

 

 「はあ……。どうしてだろ……」

 

 

 

 

 北条加蓮、中学三年生。最近の悩みは成長期や勉強に関することではなく、専ら意中の男子に関する事であった。

 

 

 

加蓮「凛たちにも相談してみようかな……」

 

 

 

----------

 

 

 

 

 

奈緒「比企谷が冷たい?」

 

 

加蓮「うん……」

 

 

 

 学校の授業が終わり放課後。私は幼稚園時代からの親友である奈緒に相談していた。

 

 

 

奈緒「うーん……。嫌われるような事は……してないよな、比企谷大好きな加蓮に限って……」

 

 

加蓮「ちょ、大好きって……」

 

 

奈緒「ん、違うのか?」

 

 

加蓮「む……」

 

 

 ニヤニヤしちゃって。普段は私がいじる側なのに。八幡君の話になると主導権が奈緒に移っちゃう。それにしても自覚はしてるけど、大好きっていざ口に出されると恥ずかしいな……。

 

 

奈緒「うーん……。まあ、理由は分からないけど、加蓮達と比企谷の絡みはあたしの楽しみの一つでもあるからな!あたしも出来ることあったら協力するよ!」

 

 

加蓮「ありがとう……」

 

 

 

 うーん。奈緒はこんな感じで相談に乗ってくれるし優しいんだけど、動機が不純な気がする。なんか面白半分じゃない?まあ気にしたら負けか。

 

 

 

奈緒「それにしても凛のやつ遅いなあ」

 

 

加蓮「そうだね」

 

 

 確かに遅い。部活入ってないし、すぐ来るはずなんだけど……。

 

 そう考えていると、ちょうど凛が来た。

 

 

 

 

凛「お待たせ……はあ……」

 

 

加蓮「ううん。大丈夫だよ」

 

 

奈緒「お疲れ凛。……なんか元気無くないか?」

 

 

凛「そう……?そんな事ないけど……はあ……」

 

 

加蓮奈緒『……』

 

 

 

 私達は知っている。凛のこの感じ……。自分の話を聞いてほしい時だ。ちらちらこっち見てるし。昔一度この状態の凛を二人でスルーしたことあるけど、すっごく拗ねちゃったんだよね。あの時は終始「別に」しか言わなくなって面倒だったな。どこのエ○カ様よ。可愛かったけど、それをいじるとまた拗ねちゃうから言わないんだよね。ともあれ、私は奈緒の方に目をやり、肘で軽くつつく。あ、こら奈緒、ため息つかないの。

 

 

 

奈緒「あー……、凛?何か悩み事か?」

 

 

凛「はあ……。やっぱ奈緒には分かっちゃうか……しょうがない、話すよ」

 

 

 そりゃあそんなに露骨なら分かるよ……。

 

 

凛「実はさ……」

 

 

 

----------

 

 

 

 

 

奈緒「……てことは、凛が来る前に話してた、加蓮が比企谷に何か嫌われることをしちゃったって線は薄そうだな」

 

 

加蓮「だね」

 

 

凛「はあ……八幡どうしちゃったんだろ……」

 

 

 凛の悩みは私と同じで、八幡君が最近冷たいというものだった。今はどうしようか悩んでるところ。凛も同じということは、私が何かしてしまったというのは考えにくい。目の前で親友が共通の悩みを抱えているけど、意中の男子にとりあえず嫌われてはいないことに一人安堵した。

 

 

凛「ああ……八幡……。私何かした?言ってくれたら直すから……」

 

 

奈緒「それ完全に捨てられる女のセリフじゃねーか。変なスイッチ入ってるぞ凛、帰ってこい」

 

 

加蓮「む。奈緒、捨てられるも何も、凛は八幡君と付き合ってないよ」

 

 

奈緒「お前もかよ加蓮……」

 

 

 

 奈緒が面倒そうにため息を吐く。ふん、何さ。

 

 

奈緒「とりあえず今日のところは最終下校時刻もあるから解散だな。明日アタシも比企谷に話しかけてみるから、その時の様子も踏まえてまた話そう」

 

 

凛「まあ仕方ないか……」

 

 

加蓮「うん……」

 

 

 

 奈緒の提案に乗るしかない私達。私と凛に冷たくて、奈緒には普通に話すってこと……ないよね……?

 こんな事を考えている私は悪い子なのかな。

 

 

 

----------

 

 

 

 

 〜翌日、放課後〜

 

 

-----

 

 

凛「奈緒、どうだった?」

 

 

奈緒「ああ……。あたしにも凛たちが言ってた感じかな。冷たいと言うか、素っ気ないというか……」

 

 

加蓮「……」

 

 

 私と凛だけじゃなくて、奈緒にもか……。良かった……じゃないや。だから安心しちゃダメなんだって。やっぱり悪い子だなあ、私。

 

 

奈緒「原因が分からなかったから、今日は助っ人を呼んでおいたぞ」

 

 

凛加蓮『助っ人?』

 

 

 凛と声が重なる。誰だろう。するとタイミング良く教室のドアが開いた。

 

 

 

奏「どうも、助っ人です♪」

 

 

凛「なるほど……」

 

 

加蓮「奏なら何か分かるかもしれないね……」

 

 

 速水奏。この子も私の親友の一人。同じ女子の私でも見とれてしまう程の美人。小悪魔のような性格も相まって学年問わず男子から羨望の眼差しを向けられている。中学に上がってから告白された数は本人曰く覚えてないらしい。ふ、ふん。私だって告白されたことあるもん。肝心の告白されたい男の子には避けられてるんだけど……うう。

 それはそうと、ドア開けるタイミング良すぎたけど、外でずっと待機してたのかな。

 

 

 

奏「ふふ、何やらお困りのようね。奈緒に呼ばれて来たけど、二人のことだから大方八幡君絡みでしょ?」

 

 

奈緒「おお……。何も言ってないのにさすがだぜ……」

 

 

凛「か、奏は何か知ってるの?ここ数ヶ月の八幡の様子の答えを……」

 

 

加蓮「!?そ、そうなの?奏……」

 

 

奏「ふふっ」

 

 

 奏は余裕であるかのように笑った。奏には分かっているみたいだ。すごいよ奏!流石は学校一の小悪魔。

 

 

 

 

 

 

奏「……ふふ……ふふふ……知るわけないじゃない。だって……」

 

 

 奏はニヤリと笑い目を光らせたかと思うと、一瞬で顔を曇らせた。

 

 

奏「私も八幡君に避けられてるんだから……」

 

 

三人『…………』

 

 

 

 だ、男子なら両手を上げて喜ぶだろうに、奏すらも避ける八幡君って一体……。

 

 

凛「くっ……、奏も駄目となるといよいよ分からない……」

 

 

奈緒「何なんだろうなあ」

 

 

奏「……」

 

 

 

 あ、あの奏がこれでもかって程落ち込んでる……。

 結局今日も答えが分からない私達は下校時間になり帰るしかなかった。

 

 

 八幡君……。嫌いになったわけじゃないんだよね……?また昔みたいに話せるよね……?

 

 

 

 

おわり

 

 

 

----------

 

 

 

 

 

〜おまけ1〜

 

 

 

 

- その日の夜 -

 

 

 

 

加蓮「よく考えれば、前にメアド交換したんだから、悩んでないで、初めから小町ちゃんに相談すれば良かったかもね。よし、送信っと……」

 

 

 

 

- 比企谷家 -

 

 

ヴーヴー

 

 

八幡「小町ー。携帯鳴ってんぞー」

 

 

 

小町「はーい!誰からかな—……っと、おりょ?……ふむふむ……ふーん。……お兄ちゃん、正座」

 

 

八幡「はあ?なんだよいきなり『いいからさっさと正座』……はい」

 

 

 

-----

 

 

 

加蓮「うーん。小町ちゃん返信まだかなあ。お風呂にでも入ってるのかなあ」

 

 

ヴーヴー

 

 

加蓮「あ、きた!なになに…………え、そ、そうだったんだ……。よ、よかった嫌われてなくて……ふふっ。全く、仕方ないなあ八幡君は」

 

 

 

 

加蓮「明日からいっぱい話しかけてやろーっと。ふふ」

 

 

 

 

 

 

 

---------------

 

from:小町ちゃん

 

to:北条加蓮

 

---------------

 

 

加蓮さん!こんばんは!

メール見ましたよ!

うちのごみぃちゃんがすいません!

さっき正座させて尋問したら、

中学に上がって加蓮さん達と話すのは照れちゃうらしいです!もっと言うと可愛い子と話すのは緊張しちゃうらしいですよ!

男子にありがちな思春期です!

さっき書いてあった加蓮さん達が嫌われてるって事は絶対ないんで安心して下さい!

 

P.S.

明日から皆さんで兄が泣くくらい話しかけて懲らしめてください

 

 

---------------

 

 

 

 

おわり

 

 

 

----------

 

 

 

 

 

〜おまけ2〜

 

 

 

- 数日後 -

 

 

まゆ「八幡さぁん聞きましたよぉ。思春期らしいですねえ。可愛いです。まゆを避けている理由が分かって安心しましたぁ。全く、照れ屋なんですから。ねえ、どうしてまだ逃げるんですかあ?ねえ……ねえ!!」シュタタタタタタ

 

 

 

八幡「お、お前は何か洒落になんねえんだよお!!」ダダダダッ

 

 

 

 

おわり

 

 

 









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番外編6:もしも病み上がり(意味深)同士の会話を聞いてみたら





 

 数日間高熱にうなされて学校を休んだ。自室のベッドで安静にすることを余儀なくされた。心細い……。これも風邪によるものなのだろうか。そう思っていると、廊下から複数人の声がする。声はやがて私の部屋の前で鳴り止まり、ドアをノックした。

 

 

都築「雪乃様、お休みの所申し訳御座いません。御友人の方々がお見えになっております」

 

雪乃「……?……どうぞ」

 

 

 何事か分からないまま入室を許可してしまった。

 

 

 

加蓮「やっほー雪乃」

 

奏「具合はどうかしら?」

 

奈緒「風邪だっていうから心配したぞー」

 

凛「ごめんね突然。皆でお見舞いに行こうってなってさ」

 

 

雪乃「あ……」

 

 

 天井から声のする方へ目線を移すと、私の大事な友人達が立っていた。

 

 

雪乃「えっと……。どうして……」

 

凛「ふふっ、皆で雪乃のお見舞いに行こうってなったってさっき言ったじゃん」

 

雪乃「あ……。そ、そうね」

 

 

 普段通りに働いてくれない頭を必死に働かせようとするが、やはり駄目みたいだ。

 

 

奏「うふ、風邪でいつもの調子じゃないみたいね」

 

奈緒「こんな雪乃中々みれないぞー!」

 

雪乃「も、もう……。奈緒さん、からかわないで……」

 

加蓮「そうだよ奈緒ー。あ、そうだ、はいこれ。果物とか買ってきたよ。食べれる時でいいから食べてね」

 

雪乃「ありがとう……」

 

 

-------

 

 

 

 それから、皆で色々な話をした。学校の勉強。進路。こ、コイバナ?というものもした。あの四人はやはり比企谷君の事が好きなようだ。奈緒さんは友人としてらしいけれど。私の番になったが、恥ずかしくて言えなかった。風邪だからという理由で意地でも答えなかった。皆ニヤニヤと笑っていたが、気にしない。顔が熱いけれど、これも風邪ということで……気にしない……ことにする。

 

 

-------

 

 

 

凛「じゃあ、そろそろ帰るね」

 

奏「また学校で♪」

 

奈緒「急に来てごめんな。じゃあな!」

 

加蓮「雪乃、お大事にね」

 

雪乃「ええ。皆ありがとう」

 

 

 

 

 ……。

 

 扉が閉まり、先程の賑やかさは消えてしまった。

 自分の部屋に同じ歳の子が来るなんていつ以来だろう。小さい頃はお母さんが私を心配して知り合いの歳の近い子達を連れてくることはあったが、その時とはまるで違う感情に包まれる。友達はいなくていい。そう思っていた時期があった。勿論欲しいか欲しくないかで言えば欲しいとは思った。しかし一人で本を読んでいる方が楽しかったし、人付き合いが苦手なのは自分でも分かっていた。だから、相手に気を遣わせるくらいなら居なくていいと思っていた。そして小学校の時、完全に自分は一人なんだということを悟った。諦めた。しかし彼女達はそれを良しとしなかった。しないでいてくれた。私の大事な人達……

 

雪乃「……!」

 

 

 そんな事を考えていると、頭痛に襲われた。何事かと思ったが、よく考えてみれば自分は体調不良だったことに気付く。先程まで見舞いに来てくれていたというのに。今日は本当に頭が働かない。そんな自分に呆れのような感情を抱きながら苦笑を浮かべる。

 ふと、見舞いの品として受け取った果物を思い出し食べる。それは冷たかったが、胸の当たりが暖かくなった気がした。

 

 

---------------

 

 

 

〜数日後〜

 

 

 

雪乃「休んだ間の勉強を取り戻さなきゃと思っていたけれど、あの内容だと大丈夫そうね」

 

 

 すっかり体調が良くなった私は今日からまた学校に通えることになり、本日の授業全てを終えた。

 

 

雪乃「真っ直ぐ家に帰ってもいいのだけど、やっぱり図書館にでも行こうかしら……ん?」

 

 

 あれは……佐久間さん……と、その先にいるのは……比企谷君?

 

 

 

 

まゆ「八幡さぁん聞きましたよぉ。思春期らしいですねえ。可愛いです。まゆを避けている理由が分かって安心しましたぁ。全く、照れ屋なんですから。ねえ、どうしてまだ逃げるんですかあ?ねえ……ねえ!!」

 

 

八幡「お、お前は何か洒落になんねえんだよお!!」

 

 

 

 ……あれは何かしら。言葉はよく聞こえないけれど、佐久間さんが比企谷君を追いかけているのは確かね。というより目の前で起きている事実だものね。……全くあの男は。自分の事を目立たないとか言ってる癖に思いっきり目立っているじゃない。女子生徒なんて軽く引いていることに二人は気付いていないのかしら。

 そんなことより、止めるべきは佐久間さんね。飢えた獣のような目をしているわ。あの誑し谷君と言えど、困っているのならば手を差し伸べるべきよ。そう、これは手助け。決して最近自分とは話をしていないのに佐久間さんとはイチャついているのを邪魔したい訳ではない。

 

 

 

雪乃「佐久間さん、待ちなさい」

 

まゆ「?……雪乃ちゃん?……あぁ!八幡さん!待ってください!八幡さぁん!」

 

 

 比企谷君はそのまま走り去って行った。一回もこちらを振り返らないってどれだけ必死なのよ。少しは私に気付きなさいよ。

 

 

まゆ「雪乃ちゃん?何か用ですかぁ?無ければまゆは八幡さんを捕ま……八幡さんとお話したいんですけど」

 

 

 今、捕まえるって言いかけたわよね……。

 

 

雪乃「コホン。比企谷君が困っていたように見えたので佐久間さんを注意するために止めたのよ」

 

まゆ「あら、困っているだなんて。うふふ、そんなことないですよぉ。まゆは八幡さんに精一杯の愛を感じてほしいだけなんです」

 

雪乃「それでも暴走してしまうのは良くないのではないかしら?」

 

まゆ「ふふ、いつも暴言を浴びせてる雪乃ちゃんが言うんですかぁ?」

 

雪乃「ぐっ……」

 

 

 やはりそこを突いてくるわよね……。

 ……佐久間まゆさん。小学校六年の時に奇跡的に私達全員が同じクラスになった時、佐久間さんも同じクラスだった。それ以来佐久間さんは比企谷君に物凄い勢いでアプローチをかけている。佐久間さん曰く、比企谷君と出会ったのは小学校五年の初めの頃らしい。そんな事など全く知らなかった私は、新しい女の子の登場に只々困惑したのを覚えている。

 普段はとても優しくていい子なのだけれど、比企谷君絡みの事となると佐久間さんは暴走してしまうので、私は少し彼女を苦手としている……。自分の好意を明確に伝えることができる彼女を、私とは真逆の存在だと感じ、それが時々羨ましくも思うというのも理由の一つかもしれないけれど。

 

 

雪乃「わ、私の彼に言っていることは傍からすると暴言のように聞こえるかもしれないけれど、あれは……そう、挨拶のようなものよ。私と彼の意思疎通の手段なのよ」

 

まゆ「そんなコミュニケーション方法聞いたことないですよぉ。まゆは八幡さんの近くにいたいんです。八幡さんは色々な女の子から好かれています。それも強敵ばかりです。そういった子達を牽制するためにも、勿論、雪乃ちゃんの暴言から守るためにも♡」

 

 

 佐久間さんの言っている強敵とは、恐らくあの三人のことだろう。牽制と言うが、彼女達が潔く退くなどありえないと思うが……。

 

 

雪乃「だ、だから私は別に彼を傷付けようと言っているわけではなくて……」

 

まゆ「そうなんですかぁ?まゆには傷付けているようにしか見えないですけど」

 

雪乃「……」

 

まゆ「なんて。ごめんなさい。ちょっとだけ悪戯しちゃいましたぁ。雪乃ちゃんも八幡さんを好きな事ぐらい知っていますよぉ。八幡さんを好きになって色々調べたので♪とにかく、さっき言った通り、まゆが八幡さんの近くにいることによって雪乃ちゃん達への牽制になるのならそれは願ったり叶ったりです。それでも譲らないと言うのならまゆは更に八幡さんへ好意を伝えるのみです」

 

雪乃「……」

 

まゆ「素直になれなくて言葉が乱暴になっちゃうのかも知れませんけど、たまには素直になるのもいいかもしれませんよぉ」

 

 

雪乃「……仮に私が彼に……こ、好意、を抱いているとして、何故あなたは私にそのような助言までするのかしら?私や彼女達はあなたにとって邪魔ではないの?」

 

まゆ「確かに雪乃ちゃんや加蓮ちゃん達はまゆにとっては恋敵です。でも同時に大事なお友達でもあります。数多くいる男の子の中で好きな人が偶然同じになってしまいましたけど、まゆの大事なお友達である事実は変わらないんです。今回は雪乃ちゃんに塩を送る形になっちゃいましたけど、別にいいんです。だって……」

 

 

 

まゆ「最後に勝つのはまゆですから」

 

雪乃「!」

 

まゆ「ふふ、じゃあまゆはこれで。八幡さんを追わないといけませんから♪」

 

 

 そう言い残し佐久間さんは走り去って行く。廊下の角を曲がる寸前で彼女を呼び止める。

 

 

 

雪乃「……私、負けず嫌いなの」

 

 

まゆ「……」

 

 

 

 佐久間さんは何も言わずに去って行った。私の宣戦布告は、呼び止めた時の声とは程遠い小さな声だったと思う。聞こえているかは分からない。でも、彼女の姿が見えなくなる時に一瞬見えた、彼女の笑みが私の言葉に対する答えであるように感じた。

 

 

 

 

おわり

 

 

 

---------------

 

 

 

 

 

 

〜おまけ〜

 

 

雪乃(確かに、佐久間さんの言うことも一理あるかもしれないわ。罵倒するばかりでなくて、たまには素直になってみましょう。……っと)

 

 

八幡「ん?」

 

 

雪乃「あ、比企谷君……」

 

八幡「お、おう。……なんか久しぶりだな」

 

雪乃「そ、そうかしら。風邪で数日間来てなかったからかも知れないわね」

 

八幡「そ、そうか。もう大丈夫なのか?」

 

 

 素直に……。

 

 

雪乃「ええ。もう治ったわ。ありがとう」

 

八幡「……本当に治ったのか?」

 

雪乃「……?ええ、治ったわよ?どうして?」

 

八幡「いや、お前が素直に礼を言ってきたからまだ体調悪いのかと……」

 

雪乃「……」

 

八幡「いっだあぁぁぁぁぁあ!?か、関節技はやめろ!うあぁぁぁぁああ!?」

 

 

 

おわり

 





次回投稿は少し空きます。申し訳御座いません。



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もしも相談に来たら



ここからですね




 

 

 

 「ありがとう!雪ノ下さん!」

 

雪乃「ええ。また何かあったら来て構わないわ」

 

 

 女子生徒が少女に謝辞を述べて去っていく。その表情は晴れやかだった。

 先程の女子生徒の悩み、と言っても勉強で分からない問題があるから教えて欲しいというものだが、自らが教え、理解して貰えたため、俺の目の前にいる雪ノ下雪乃は安堵していた。

 

奏「一仕事終えたような顔ね」

 

雪乃「そうかもしれないわね。さっきの子に教えることが出来るか不安だったけれど、分かって貰えて良かったわ。最後は私の作った問題も解けていたし」

 

 

 つい最近からだが、雪ノ下達は女子生徒限定でお悩み相談なる物を始めたらしい。

 事の発端は授業中に雪ノ下が先生に指名され皆の前で問題を解いた際、その先生よりも分かりやすい解説だったため少しずつだが問題を聞きに来る生徒が増えたのだと言う。何か噂では完璧超人ゆきのんと呼ばれているらしい。それを雪ノ下が知った時はどんな反応をとるのか恐ろしかったが、少し照れていた。それでいいのか雪ノ下。

 そして速水と北条だ。この二人は相手の恋愛話を聞き出すことが上手く、親身に相談に乗ってくれるため女子生徒の間で反響を呼んだらしい。相談者の他の者に言えないプライバシーな部分も口外は絶対しないということもあり、相談しに来る女子生徒が増えている。雪ノ下は勉強を教えることが主だったが、稀にそのまま速水と北条にするノリで恋愛相談をしてくる子がいたそうで、そちらに関しては雪ノ下自身では力になれなかったらしい。それを聞いた北条が、それならばそういった事態に対応出来るように、なんでも相談出来るようなコミュニティを作ろうと提案した。雪ノ下、北条、速水、そこに渋谷と神谷を合わせた五人で、週に三回、放課後に悩み相談室なるものを空き教室で開いているらしい。らしいのだが……

 

 

八幡「何で俺まで居なくちゃいけないんですかねえ」

 

奏「あら、私達といるのは嫌なの?」

 

雪乃「比企谷君。この集まりは貴方の学力を上げるためでもあるのよ?小町さんに聞いたけれど、貴方理系の成績が壊滅的らしいじゃない。あんな点数初めて見たわよ」

 

八幡「ぐ……。……仕方ないだろ、理系は好きになれないんだから」

 

奈緒「いやいや比企谷、あたしも勉強そんなに得意じゃないけどさ、あれは酷いぞ?」

 

八幡「うっ……」

 

凛「私も点数あんまり良くなかったけど、八幡の点数見たらちょっと安心しちゃったよ」

 

八幡「くはっ……」

 

奏「さすがにあれは笑えないわ……」

 

八幡「ぐえっ……」

 

加蓮「わ、私はそうは思わない、かなぁ……やっぱごめん」

 

八幡「Oh……」

 

 

 やめて!もう八幡のライフはゼロよ!などくだらない事を頭の中で思っていると雪ノ下が咳ばらいをした。それに伴い俺達は彼女の方へと視線を移す。

 

雪乃「とにかく、今から理系を捨てるのは良くないわ。必要最低限の知識は身に付けて頂戴」

 

八幡「甘いな雪ノ下。今から理系を捨てるんじゃない。俺は小学生の頃から捨ててい『何か言ったかしら?』いえ、頑張ります」

 

雪乃「はあ……問題集の今日の分を終えたら帰れるから早くしなさい」

 

八幡「はい……」

 

 

-----

 

 

 

八幡「お、終わった……」

 

雪乃「……相談ももう来ないようだし、今日はここまでにしておきましょうか」

 

加蓮「だね」

 

 

 皆が帰る支度を始める。支度を終えた所で、教室の扉がノックされた。

 

雪乃「……どうぞ」

 

 雪ノ下の一言に扉が開く。入ってきた人物は一目見ただけで明るい性格なんだろうなと想像できるような女子生徒だった。というより俺はこいつを知っている……気がする。確か同じクラスな筈だ。

 

 

 「へえー!ここがお悩み相談室?噂で聞いてたけどホントにやってたんだー!ウケる!」

 

 

--------------------

 

 

 

奏「かおり?珍しいわね。あなたも何か相談?」

 

かおり「おっ!奏じゃん!そっか!奏もメンバーだったね!すごい大活躍らしいじゃん!」

 

奏「ええ、ありがとう。それで、かおりは何か相談に?」

 

かおり「おお!奈緒ー!貸してもらったフルボッコちゃんのDVDなんだけどさ、昨日パッケージにジュース零しちゃってさー!」

 

奈緒「なっ!?何やってんだよお前はー!大事に扱ってくれって言っただろ〜!!」

 

かおり「あっはっは!ごめんって!」

 

奏「あの……かおり?相談は?」

 

かおり「凛ー!今度またハナコの散歩付き合わせてよー!もうハナコめちゃくちゃかわいくて!」

 

奏「かおり……」

 

 

 す、すげえ……!あの速水がタジタジだ……。こんな場面中々見れねえぞ……。

 

雪乃「折本かおりさん」

 

 

 雪ノ下の声に空気がピンと張り詰める。部屋の空気が数度下がった気がするのは俺だけだろうか。

 

かおり「へえー、私の名前知ってるんだ。改めて、折本かおり!よろしくね!雪ノ下さん、でいいかな?」

 

雪乃「ええ。それで?奏さんがさっきからあなたに何の用か聞いてるのだけれど」

 

かおり「へ?ああ!ごめんごめん!いやあアタシさ、ついつい喋っちゃうんだよねー!奏ごめんね!」

 

奏「ふん、いいわよ。あなたのそれはいつもの事だから」

 

 いつもこんな感じなのか……。

 

かおり「呆れられちゃってるし!ウケる!っと、そうだそうだ。相談したいのはアタシじゃないんだ。入っておいでー!」

 

 

 折本の言葉を聞いてもう一人女子生徒が教室に入ってきた。なんて言うか、この子も折本に少し似た明るい雰囲気を持っているな。

 

 

凛「あれ、未央じゃん」

 

未央「どうもー!本田未央です!雪ノ下雪乃ちゃんだね?よろしく!およ?そこにいる男の子は……誰?」

 

雪乃「本田さん、よろしく。そこにいる男子生徒は理系の苦手な文系谷君よ」

 

八幡「おい、雪ノ下おい」

 

未央「ほほー!よろしくね、文系谷君!って、そんなわけあるかーい!君の本当の名前は?」

 

八幡「結構ノリいいんだな……比企谷八幡だ」

 

未央「うんうん!よろしくね比企谷君!」

 

 何ていうか、本田も折本同様、底抜けに明るいんだな。ここにこいつが来といて何だが、悩みなんて有るのだろうか。

 

凛「それで、未央。何か相談?」

 

奏「ふふ、好きな子にアピールする方法かしら?」

 

加蓮「ええー!未央好きな子いるの!?」

 

 

 渋谷達が盛り上がる中、本田と折本は先程までの元気は何処へやら。少し困ったような、複雑な表情へと変えた。

 

未央「たはは……。うん……。何ていうか、皆の期待に添えることが出来るような内容じゃなくてさ……。正直、ここに来ることも迷ったんだよね……」

 

 

 その言葉に盛り上がっていた声も無くなる。そのような雰囲気ではないと、空気を読んだ訳だ。

 

 

 

 彼女達は本田未央という女の子が抱えている悩み、いや、問題を聞いた。そしてそこに居た俺も聞いた。聞いてしまった。勉強や恋愛相談とは違う。彼女達からすると異質な相談。北条達から笑顔が完全に消える。これはまた厄介な案件を持ってきたものだ……。

 

 こんなことになるのなら、彼女達がここに来ることが分かっていたのなら、数学の問題集をさっさと片付けてしまえば良かったと、目の前の女の子達を見ながら思った。

 

 

 

 

続く

 

 







ここからは賛否両論あるかもしれません。



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もしもあの日に戻れたら 1

 

 本田の相談から一日が経過し、本日は週末ということもあり学校は休みだ。時刻は朝の八時。学生である俺は休みであるが、両親は相も変わらず会社へ出勤しているため家には妹の小町と二人だけだ。一階から生活音が聞こえる。恐らく小町が朝食を作ってくれているのだろう。しかし、俺はまだ起き上がる気にはなれず、無理矢理目を瞑り、少し経つと目を開けて天井を眺め、また目を瞑り、という無駄な事を繰り返していた。今更二度寝など出来ない事は分かっているのに。

 ふと、部屋の扉がノックされる。

 

小町「お兄ちゃん、起きてるー?朝ごはんできたから食べちゃって。休みだけどずっと寝てるなんて、小町的にポイント低いよー?」

 

八幡「……分かった。すぐ行く」

 

 そう返事すると階段を下りる音が聞こえた。起き上がろうとするが、何故か身体が重く感じ、中々起き上がれない。小学生の頃、学校が面倒臭くて行きたくない日はこんな感じだったな。そう思い苦笑いするが、すぐにその表情は解ける。もう一度目を瞑り、歯を食いしばりながら勢いをつけ無理矢理起き上がり、部屋の扉を開けた。

 

 

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小町「おはよう!お兄ちゃん!」

 

八幡「おう、おはよう」

 

 顔を洗い、小町に挨拶をして椅子に座る。目の前の小町は先に朝食に手をつけていた。自分も食べようと、手を合わせた後朝食を箸でつついた。小町が咀嚼する度にアホ毛がピョコピョコと揺れる。それを見て、俺も傍から見るとあの様に揺れているのだろうか、とどうでもいい事を考える。

 目の前の味噌汁を啜る。うん、美味い。ふと、視線を感じる。

 

八幡「……何だ?お兄ちゃんの顔になんか付いてるか?」

 

小町「え?ああ、いやそうじゃないけど、お兄ちゃん何かいつもと様子が違うなぁって」

 

八幡「っ……。……そうか?」

 

小町「うーん、何か、お悩みかな?って感じ。さっき起こした時も、休みだからってずっと寝るなって言うと、いつもなら屁理屈の一つも返すのに、今日はやけに素直に応じたからさ」

 

八幡「……俺だっていつも屁理屈言う訳じゃないっつの。ていうか小町ちゃん?お兄ちゃんの事いつもそんな風に思ってるの?」

 

小町「だって事実じゃん」

 

八幡「はあ。悲報、最近妹が辛辣っと……」

 

小町「変な事言ってないでさっさと食べちゃってよ。汚れ物片した後小町出掛けなくちゃなんないんだから」

 

八幡「へいへい……」

 

 小町は先に食べ終わり、出掛けると言っていたのでその為であろう準備をするため自分の部屋へ駆けて行った。

 それにしても、我が妹ながら変な所で勘が鋭い。先程の自分はどの様な表情をしていたのだろう。上手く誤魔化せたのだろうか。小町は俺の事をよく見ているし、理解してくれていると思う。これは自意識過剰など無しにそう思う。小さな頃から両親は共働きで家に居ないことが多かったので、二人で過ごす時間が多かった。そのためか、俺の感情の機微に小町は非常に敏感だ。さすがに先程の一目見ただけで見抜かれた事には驚いたが。あの子は一言目に心配しているということを直接伝えることは無い。遠回しに此方の様子を伺って来る。余計な事を言うこともあるが、それが小町なりの心配の仕方であり優しさなのだろう。

 

八幡「はあ……。妹に心配かけるなんて、お兄ちゃん失格だな……。気が緩んでるのかねえ」

 

 本当に気が緩んでるのだろう。リビングの扉の向こうに、てっきり階段を上がっていったと思っていた子が居た事など比企谷八幡は気付いてなどいなかった。

 

 

小町「……」

 

 

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 小町はあの後朝食に使った食器を洗い、家から一番近くのファミレスを目指していた。お兄ちゃんにはお昼は冷蔵庫に昨日の余りがあるからそれを食べるように伝えた。お兄ちゃんの贔屓にしているファミレスだから、昼ごはんを食べに来て鉢合わせないように。

 小町は部活に入っていないので、学校の授業が終わると真っ直ぐ家に帰るか、友達と少し話をしてから帰るのだが、昨日は直ぐに家に帰った。お兄ちゃんも部活には入っておらず、小町と同じく帰宅部だけど、昨日は小町よりお兄ちゃんの方が帰ってくるのが遅かった。ちょうどお風呂を沸かし終えたので風呂場から玄関へお兄ちゃんを迎えたが、お兄ちゃんの表情は少し暗かった。違うなあ、暗い、落胆と言うより、苦悩かな。眉間に皺を寄せ、少し怖かった。兄がそのような表情になる事は滅多にない。少なくとも妹の小町にはそんな表情をした事なんて一度もない。いつもは小町に対して呆れるなどはあるが、それでも優しく笑ってくれるお兄ちゃん。それがあの様な表情をするなんて、学校で何かあったのかと思う他に無かった。何があったのか聞きたかったが、とてもそんな雰囲気では無かったので止めた。その後も気になりながらも、湯船に浸かっていると、風呂場の扉の向こう、洗面所で携帯の着信音が響いた。いつもは決まった時間湯船に浸かっているが、何だか連絡を送ってきた相手が誰なのか気になった。差出人は凛さん。お兄ちゃんの事を良く思ってくれていて、小町の事も本当の妹のように可愛がってくれている。

 本文を確認すると、明日会えないか、小町達が会うことはお兄ちゃんには内緒にしておいてほしいという内容だった。お兄ちゃんのあの表情と関係があると感じた小町は、時間と場所を指定し、携帯の電源を落とした。

 

 ファミレス付近に到着した。凛さんに、もう着くとメールで伝えると、先に着いており、席を確保してくれているらしい。かなり時間に余裕を持って家を出たため、約束の時間はまだだ。あの年上のお姉さんの、こういう律儀な所には敵わないなと思いながら、ファミレスの扉を開けようとする。が、先程まで客であったであろう家族連れが出て来たので、直ぐには入れなかった。先に道を譲り、早足で店内に入った。

 

 

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小町「えーと……」

 

 

 店員さんに一名かと訊かれたので待ち合わせと伝える。何処かに居るはずだ。休日ということもあるのだろうが、この時間帯には珍しく客が多かった。

 

凛「小町、こっちこっち」

 

 声のする方へ振り返ると、そう言いながら手をヒラヒラと挙げてくれていた凛さんを見つけた。凛さんはファミリー席に座っており、他にも加蓮さんと雪乃さんが座っていた。てっきり凛さんだけかと思っていたので、少し驚きはしたが、別に気にする事ではないと思った。

 

小町「すいません、お待たせしてしまって」

 

凛「ううん。約束の時間より早いよ。私達が早く来ちゃっただけだから気にしないで」

 

 そう言うと凛さんは呼出ボタンを押して店員を呼ぶ。小町たち四人はドリンクバーだけ頼む。小町だけでなく、目の前にいる先輩達も朝食は家で済ませてきたようだ。

 

 

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小町「えっと、それで話というのは……」

 

加蓮「そうだね。うーん……。小町ちゃんは、私達が放課後に女子限定でお悩み相談してるのは知ってる?」

 

 加蓮さんが小町にそう訊ねる。

 

小町「あ、はい。知ってます。小町達一年生の間でも結構話題になってるので」

 

 この人達が女子達の相談に乗っていることは知っていた。お兄ちゃんが何週間か前に晩ご飯を一緒に食べている時に話していたし、それとは別に、目の前にいるこの人達はその容姿から、学校内でも一番の有名人達だ。そんな人たちがそのような活動をしているとなると、下級生である小町達の耳にも届く。尤も、この人達は、……主に凛さん、雪乃さん、あとこの場には居ないが奏さんはその為人を知らないと妙なオーラというか、羨望の眼差しは向けはするけど、同時に威圧感のようなものを小町の周りの子達は感じているみたいなので、身近に相談しに行った子はまだ居なかった。

 

加蓮「そうそう。いつもは勉強で分からない所だったり、恋愛に関することだったりするんだけどね」

 

小町「いつもは?」

 

 加蓮さんの言葉に引っかかった。つまり、そのいつもとは違うイレギュラーな相談が来た。お兄ちゃんの様子から察するに、多分昨日あたりかな。そう考えていると、それが顔に出ていたらしい。

 

雪乃「……察しがいいのね。やっぱりあの男の妹さんと言ったところかしら」

 

 それまで何も言わず紅茶を飲んでいた雪乃さんが、加蓮さんからバトンタッチとばかりに話す。

 

雪乃「昨日の事よ。私達はいつも通り相談室を開いていて、いつも通り相談を解決していたわ。そして最終下校時刻が迫っていたので切り上げて帰ろうかと思っていた。すると、私達と同じ学年の女の子が相談に来たの」

 

小町「……それが、その相談が『いつも通り』とは違う相談だったと?」

 

雪乃「ええ。その子のクラスに関する事なのだけれどね……」

 

 

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未央『あたしさ、あたしのクラスで一応総務委員長なんだけど、クラスの皆があたしの言うことあんまり聞いてくれなくてさー……あはは』

 

凛『その事を担任には言わなかったの?』

 

未央『先生に言いはするんだけど、クラスの子達は先生の前では大人しいいい子だからさ。結局私の言いがかり的な、手腕不足的な感じで終わっちゃうんだよね……』

 

奏『ふざけた話ね……』

 

未央『あはは……。何ていうんだろ、男子はそんなに問題では無いんだけど、女子の方がね……。問題あるっていうか、流れてる空気が悪いっていうかさ……。クラスの中で立場が一番上の子が三人いて、その子達の独裁って感じなんだよね。好き勝手してて、従わないと、その、ハブられるって言うかさ……酷い時には陰で暴力なんかも……あるらしくて……みんな怖くて周りに言えなくてさ……』

 

雪乃『……っ』

 

未央『だから、さ……そんな訳で、自分で言ってて情けないんだけど、未央ちゃんのお話、でした……あはは……』

 

 

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小町「そんな事が……」

 

雪乃「……正直、私達が普段受けていた相談とは掛け離れた物であることは確か。一生徒達が力になれる範疇を超えているわ」

 

小町「確かにそうですね……」

 

凛「昨日その場にいた私達は何も言えなかったんだ。未央……ああ、相談に来た子の名前なんだけど、未央のクラスがそんな状況だったなんて知りもしなかったからさ……」

 

加蓮「私達皆が困惑してたんだけど、一人だけ私達とは違うことを思っているような感じで……」

 

小町「……薄々気付いてはいますけど、その場にうちの兄が?」

 

 小町の言葉に表情を暗くして加蓮さんが首肯する。

 

凛「……八幡は私達より先に教室を出て行ったんだけど、その時周りに聞こえないくらいの小さな声で言った言葉が何か気掛かりでさ……その場では私しか聞こえてなかったみたいで」

 

小町「……」

 

凛「『……いつになってもそういう奴がいるんだな』ってさ……」

 

雪乃「……私達が小学生の時、少し似たような事があったのよ。私が周りに嫌がらせをされた事が」

 

加蓮「結果的に解決は出来たんだけど、昨日の八幡君はその時の雰囲気に似ててさ。当時雪乃の事を八幡君に相談してから少し経って、私と登校時二人になった時に……他の奴には絶対言うな。俺が何とかするってきつく言われたんだ」

 

小町「……」

 

 この人達の言いたいことは、つまりうちの兄がその当時予定していたように、また今回も一人で何とかしようとしていると言いたいのだろう。

 当時の事は知っている。尤も、雪乃さんのお母さんが家に訪ねてきてお兄ちゃんと話していた内容をこっそり聞いたことにより知った。

 事後に知ったということ、お兄ちゃんが必死にどうしようか悩んでいたことに気付いてあげる事が出来なかった。その事が、思い出す度に歯痒い。

 

小町「……話は大体分かりました。分かりはしたんですけど、それを聞いた小町は一体どうすれば……」

 

加蓮「小町ちゃんには、八幡君を止めておいて欲しいんだ」

 

小町「お兄ちゃんを?」

 

雪乃「……彼はきっと自分一人で行動するわ。誰も傷付けようとせず、誰にも気付かせない。私の時も、かなり後からうちの執事に聞いたのだけれど、彼、その執事に『明日までに全部終わらせる』って言ったらしいのよ。私は勿論、ここに居る二人もそんな事は聞いていなかった」

 

小町「それって……」

 

凛「私達が雪乃の事に気付いたから良かったけど、気付かなかったら八幡が何をしてたのかってね。考えたら恐くてね……」

 

雪乃「だからこれは私達で解決する。頼みの教師に頼れないのは厄介だけれどね」

 

 

 そう言う三人の瞳は、覚悟と不安が入り混じったように揺れ動いていた。

 

 

 

続く

 





今回も読んで頂きありがとうございました。


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もしもあの日に戻れたら 2

投稿が空いてしまい申し訳ございません。中々空いた時間がとれなくて……
今回はあまり進みませんが、次回は長くなると思います。





 

あの後凛さん達と別れた小町は、寄り道せずに真っ直ぐ家へ帰っている。あんな良い気分には絶対ならないような話を聞いてしまったら寄り道なり適当にして気分を紛らわせたい所ではあるけど、如何せんあの三人にお兄ちゃんを止めておくように言われている。お兄ちゃんの朝のあの感じ。恐らく小町がファミレスにいた時も本田未央さんという先輩が抱えている問題について考えていたに違いない。そして小町がこうして帰っている間も。あの三人に頼まれた以上、小町の出来る事はお兄ちゃんを止める事。でもどう止めるか。

 

小町「……」

 

あまり考える事を得意としない小町が思い付く事と言えば、お兄ちゃんに考える時間を与えない事。極論だけど、その事について考える暇が無いほど注意を逸らす。その為にはとにかく何でもいい。あの兄は偶に勘が鋭い時があるからそこはバレないように上手く立ち回らなくちゃね。全く、お兄ちゃんのためにこんなに考えてる小町ってほんとに良く出来た妹だよね。小町的にポイント高い。……今はそんな事言う空気じゃないね。

自分の頰っぺを軽く叩く。

さ、早く帰らなくちゃ。これは小町があの三人から引き受けた依頼のようなもの。「成すためにどうするか」。それが決まった時点でもう作戦は始まってしまっている。

今までそれ程気にならなかったのに、若干の焦りか緊張からか、何回も行き来しているあのファミレスから家までの距離が遠く感じる。急がなくちゃいけないのに。

小町を呼び出した凛さん達に非はないけど、この家までの道のり、そして家までの時間が堪らなくもどかしく感じてしまった。

 

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小町を呼び、話が終わり別れた頃には時計の針は十一時を指していた。もっと早く終わるつもりだったけど予定より話し込んでしまった。午前中は私と加蓮と雪乃の三人だけだったけど、午後からは奈緒と奏が合流出来るらしい。集合場所はこのままファミレス。二人が来るまでの間、少し早いけど昼食にしようか。そう思ったが雪乃が入口付近で席が空くのを待つ客達がいることに気付いた。よく見ると私達が席に着いた時に居た周りの客も既におらず、新しく別の客達が食事を摂っていた。周りに気付かない程集中していたらしい。

これ以上の長居は迷惑になると思い、会計を済ませ店を出た。雪乃の提案で、私達は二人との集合場所を変えることにした。

 

凛「集合場所は……雪乃の家に変更……。送信……っと」

 

 

 

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用事を済ませ奏と落ち合い、あたし達は雪乃の家に到着した。いつ見ても大きな家……屋敷……なのかな。お手伝いさん達が家に招き入れてくれる。仕事で忙しいらしい雪乃のお母さんは今日は休みらしく、あたし達が家に入るなり挨拶をしてくれた。

 

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奈緒「ごめん、お待たせ」

 

雪乃「二人ともいらっしゃい。急に場所を変更してしまってごめんなさいね」

 

奏「あら、構わないわよ。私の家からはあのファミレスよりも雪乃の家の方が近いから却って好都合だったわ。雪乃の家は大きいから楽しいってのもあるけれど」

 

そう言い奏がクスリと笑う。加蓮も話に入ってきた。

 

加蓮「さっきお昼食べたんだけど、雪乃が作ってくれたんだ。すっごい美味しかったよ」

 

奏「そう。今度は私も頂きたいわね」

 

加蓮「うんうん!頰っぺた落ちちゃうレベルだよ」

 

そんなに美味いのか。あたしもちょっと興味あるかも。って、多分そんな話をしてる場合じゃない。

 

奈緒「な、なあ。今日集まったのってあの事についてだろ?午前中もはなしてたんじゃないのか?」

 

凛「そうだね。じゃあそろそろ始めようか」

 

加蓮「……」

 

奏「とりあえず午前の間に決まった事を教えてくれるかしら?」

 

雪乃「ええ」

 

そう雪乃は返事をすると決まった事を話し始めた。

 

 

 

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雪乃の話によると午前中に決まった事は三つ。

一つは未央のクラスの現状把握。未央の話だけでは、未央とあたし達の認識が大なり小なり違ってくると思うから。未央だけの力じゃ無理かもしれないけど、あたし達が加われば大丈夫な問題かも知れない。まあ、あたし達が加わっても無理な問題では無いことを今は祈っていよう。

二つ目はこの問題の主犯格であるクラスの女子三人との接触。正直あたしはこの三人をあまり知らない。一回も同じクラスになったことはないし、小学校時代の彼女達のことも分からない。っていうのも、あたし達の中学ではあたし達の住んでる地区の小学校の子とは別に隣の地区の小学校の子達も集まるからだ。未央とこの三人は隣の地区の小学校出身。中学に上がると単純に倍の人数になる訳だから、顔は知っているけど友達ではない、なんてのは良くある。あたしもこの四人の他に友達は割と居るほうだけど、顔しか知らない奴らも結構居る。主犯格がどんな奴らか。先ずはこの三人にアプローチをかけてみる。

そして三つ目は比企谷をこの件から除外すること。あたしはこの三つ目があまりピンと来なかった。

 

奈緒「なあ、確かにこの件はあの相談室を開いてるあたし達五人に来たようなものだけど、どうして比企谷を入れないんだ?あいつが居た方が良さそうな気がするけど。って、そもそも三つの内の一つに入れるほどの事か?」

 

あたしが疑問を示すと雪乃は口を開いた。

 

雪乃「……小学校の時、私がクラスの女子達から妬まれていた事を覚えているかしら?それを奈緒さんを含めたここに居る子達が解決してくれたわ」

 

奈緒「あ、ああ。そりゃまあ覚えてるよ。でもあれはあたし達だけじゃない。あの時は比企谷もだろ?」

 

雪乃「そう。彼もよ。彼も私の問題解決の為に裏で動いてくれていた。終わりを迎えたあの教室で私達五人が抱き合っていた時、ちらりと彼を見たの。その時の安心した表情。私はその時は私の抱えていた問題が無くなったから安心したのだと思った。でも、かなり後からうちの執事から聞いた話、彼の性格などを含めると、それだけでは無い気がしたのよ、あの表情は」

 

奈緒「ど、どういう事だよ」

 

奏「……彼が、彼の持っていた最後の一手、言わば奥の手かしら。それを出さずに済んだ。その時の表情はそう見えた。そういうことかしら?」

 

奏がそう言うと雪乃は頷く。

 

雪乃「彼があの教室の場面の少し前、彼は葉山君と一緒に教室を出ていったわ。自己紹介をした以外接点が無かった二人が、しかも比企谷君の方から葉山君に話しかけて一緒に。普段は私達以外に自分から話しかけることはまず無いのに。そして比企谷君が教室に戻ってきて時間が経ってから葉山君が戻ってきた。当時の判断材料はこれだけだけれど、私には違和感を感じずにはいられない。彼が話しかけて一緒に出て行って、別々に戻ってきた事が」

 

奏「?」

 

雪乃「まるで用が済んだ後に何処かへ葉山君を誘導したように感じたの。あの場合、葉山君に何かを提案し、断られた。だから自分がする事になった。その為には葉山君は邪魔だった。だから時間稼ぎのため別の所に行かせた。こんな所かしら」

 

奏「つまり、タイミング的に雪乃に関することかしら。それを提案、もしくは協力してくれるように頼んだけれど断られた。だから自分が動くしかなくなった。その内容を私達にも言ってなかった事から察するに良くない内容よね。自分自身に降り掛かってくるような。要するに……自分を犠牲に?それがあの時起きていたかも知れない、そして今回関わらせたらそうなる可能性がある……ってこと?」

 

奈緒「は、はあ?アイツがそんなタマかよ。いや、悪く言ってるんじゃなくてさ、比企谷もそんな馬鹿な事は流石にしないんじゃないか?」

 

雪乃「あくまで可能性の話よ。全部私の頭の中での想像。私も、矛盾しているけれど、馬鹿だけど頭は悪くないと彼のことは思っているわ。でも、どうしてもその可能性を拭い切れない自分自身がいるのよ」

 

奈緒「……」

 

あたしが黙ると、雪乃が再び話し始める。

 

雪乃「とにかく、不安事項は無くすわ。彼を小町さんに止めておくように頼んであるわ。私達も彼の動向を確認しつつ、問題に取り組みましょう」

 

加蓮「……」

 

奈緒「それでも、小町でも駄目だったらどうするんだよ?」

 

凛「その点に関しては大丈夫だと思うよ。一人助っ人を頼んでるから。対八幡ってことなら超強力だと思うよ」

 

奈緒「?」

 

凛の言っていることがよく分からなかった。

 

 

 

 

 

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- 同時刻 -

 

 

 

まゆ「こんにちはぁ八幡さぁん♡本日はお招き頂きありがとうございます♡」

 

小町「こんにちはまゆさん!ささっ!玄関に立ってないでどうぞ上がってください!何も無い家ですけど!あっ、兄の部屋行きます?」

 

まゆ「まあ、是非♡」

 

八幡「いや呼んでないからね?ってか何で家の住所知ってるんだよ。あ、こら、俺の靴持って何しようとしてんだよ……おい、鞄の中に入れようとするな」

 

まゆ「もう、わがままですねぇ」

 

小町「お兄ちゃん!駄目でしょそんなこと言ったら!メッ!」

 

八幡「何だこれ」

 

 

--------------

 

 

 

あれからしばらく話し合っていたが、そろそろ門限が近いということもあり雪乃の家を後にした。凛と奏は帰る方向が逆なので今は加蓮と二人だ。

 

奈緒「はあー……聞けば聞くほどって感じだよな。こんなのあたし達でなんとか出来るのかなあ」

 

加蓮「……」

 

奈緒「まあやるしかないよなぁ。未央も絡んでるし……って加蓮、雪乃の家にいた時からあんまり話してないけど、どうしたんだ?」

 

加蓮「え?あ……うん、ちょっと……ね」

 

奈緒「?」

 

加蓮「……正直ね、アタシ達で本当に解決出来るのかなって……怖いんだ。昨日凛達と会う約束をして、朝には小町ちゃんと会って話したけどさ、本当に上手くいくのかなって。小町ちゃんが居る手前、平静を装ってはみたけど、どう映ってたのか分からないし。それに……少し嫌な予感がしちゃうんだ……」

 

奈緒「加蓮……」

 

雪乃の家に居た時から加蓮は普段より口数が少なかった。その理由はこの件に関して正直関わりたくないからだったのか。雪乃の料理の腕が話題に挙がった時は加蓮は元気に話していた。もしかしたらそのまま話題を逸らして、自分を落ち着かせようというせめてもの抵抗だったのかもしれない。

 

 

奈緒「大丈夫だよ加蓮」

 

加蓮「え?」

 

奈緒「確かにあたしだって怖いよ。正直どうなるか分からない。でも、どうなるか分からなくてもあたしは加蓮だけは絶対に守ってやる。加蓮に悲しい思いはさせない。それに、今まで何とかなってきたじゃんか。だから、さ、頑張ろう?」

 

加蓮「……」

 

奈緒「……」

 

あ、あれ?

 

加蓮「……ぷっ、なにそれ」

 

奈緒「あー!笑ったなー!?人が真面目に言ってるのにー!」

 

加蓮「だって、ふふ、急に奈緒がかっこいいんだもん。あはは」

 

奈緒「ふ、ふん!何だよ!あたしはもう行くからな!」

 

慣れない事はするもんじゃないな。あー恥ずかしい。まあ加蓮が少しでもいつもの調子に戻ったんなら良しとしよう。プラマイの結果プラスだ。そういうことにしとこう。

 

 

「奈緒……ありがとね」

 

 

後ろから先程まで隣を歩いていた友達の小さな声が聞こえたけど、聞こえない振りをした。

…いいよ。

 

 

続く

 

 





今回もありがとうございました。



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もしもあの日に戻れたら 3


前回長くなると言いましたが、思ったより長くなかったですね……。申し訳ありません。

今回からオリキャラが出てきます。





 

休日が終わって月曜日、私と雪乃は未央を呼び出した。何処から聞いたのか、はたまた未央が呼んだのか、かおりも一緒にやってきた。

 

凛「ごめんね呼び出して」

 

未央「いやいや、全然いいよ。えっと、クラスの事だよね?」

 

凛「うん。とりあえず少しの間は未央のクラスの状況を見る事にするよ。さすがに授業中は無理だから、授業の間の休み時間だったり昼休みだったりしか無理だけどね」

 

未央「う、うん。分かった、よろしくね」

 

雪乃「そして大体の状況が掴めてきたら三人に接触を図るわ。本田さん、その三人の事を大まかでいいので教えてくれるかしら?」

 

未央「うん。えっとねーー」

 

 

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未央の話によると、三人の名前は、野中 可菜(のなか かな)上里 明(あがり あかり)恵 未来(めぐみ みく)

特徴として野中は三人の中での中心らしい。ということはこの野中がクラス内を牛耳る言わば女王ということかな。

上里は常に野中の傍にいるとのこと。垢抜けているという訳ではなく、見た目だけ見るととても大人しそうな印象を受けるらしい。

恵は初めて見た時はお淑やかな印象だったらしい。上里と違って野中といつも一緒という訳ではない。どこへ行くにも野中にべったりの上里と違い、一人で行動することも多いとのこと。読書をよくしていて、口数も多い方ではないらしい。

 

 

未央「ーーーって感じかなぁ……」

 

雪乃「自己顕示の野中、金魚の糞上里、傍観者恵という感じかしら」

 

凛「本当雪乃ってこういう時遠慮しないよね」

 

かおり「はっきり言い過ぎだし、ウケる」

 

未央「あ、あはは……」

 

雪乃「凛さんも折本さんも何を言っているのかしら。立場を利用し好き勝手振る舞う輩どもに対して何故遠慮しなければならないの?」

 

かおり「ねえ凛、雪ノ下さんっていい性格してんねぇ。仲良くなれそうだよ」

 

凛「まあ敵だったら間違い無く関わりたくないよね。まあそういう所が良い所でもあるんだけどね」

 

雪乃「褒め言葉として受け取っておくわ」

 

友達だから良い所たくさん知ってるけど、敵だったら本当に関わりたくない。精神やられるまで毒舌吐かれそうだよ。幼稚園の頃に男の子を怒涛の口撃で大泣きさせたって八幡から聞いたけど、普通にやばいよね。ちなみにその時八幡はまだ雪乃の事は名前も知らなかったらしく、その男の子に手を合わせることしか出来なかったらしい。雪乃のノックアウトした相手に対してマウントとるようなこの性格、その口撃力は遺伝なのか何なのか、もし遺伝ならお父さんとお母さんのどっちに似たんだろう。少し気になる。

 

雪乃「私は母さん似よ」

 

凛「うわびっくりした、心臓に悪いから心の中読まないでよ」

 

雪乃「まあ何にせよ、野中さんね。野中さんをどうにかすれば上里さんは一緒に潰れてくれそうね」

 

凛「上里は確かにそうかもしれないけど、恵は?」

 

雪乃「二人がそうなると自然にフェードアウトという感じかしら。聞いた所によると別段自分からアクションを起こすということは無いでしょうね。主犯が三人と聞いていたけれど、上里さんと恵さんは野中さんと同じグループなだけであって、その実態は典型的なボスのワンマンね」

 

未央「何だか雪ノ下さん探偵みたいだね……!」

 

雪乃「呑気な事を言っている場合ではないわよ本田さん。この件はあなたと情報を常に交換し合う必要があるわ。クラス内の、特に私達が監視不可な授業中など、あなたの出来る限りで構わないから報告して頂戴」

 

未央「うん……!わかったよ」

 

呑気な事を、とは言うけど、探偵みたいだと言われて少し得意げになっているのが分かるよ。こういう所は歳相応なんだよね。

 

雪乃「凛さん、何か?」

 

凛「おっと……もうだからさあ」

 

本当に感受性が豊かというか、鋭いというか……。

 

-------------

 

 

 

 

 

昼休み、凛から連絡を受けた私は加蓮と奈緒と、未央のクラスの様子を遠くから監視していた。

未央のクラスは二階に位置する。私達は次の授業が音楽だったこともあり、先に音楽室に入り昼食を摂りつつ監視をする事にした。音楽室は別館の三階、もっと言えば未央のクラスの向かい側に位置しているので、これ以上無いほどの場所と言えた。クラスの近くでは雪乃と凛が二人で話している振りをしつつ教室内の様子を探ることになっている。

 

奏「覗きみたいで悪趣味な気もするけど、仕方ないわよね」

 

奈緒「まあまあ、未央のためだって。仕方ねーよ。それにどっちかと言うと覗きじゃなくて張り込みだろ」

 

窓際に座っている奈緒が肘をつきながら窓の外を眺める。勿論視線の先には未央のクラス。奈緒の指摘通り、張り込みの方が適しているだろう。数日前に夜寝れなくて見た映画を思い出す。あの映画は殺し屋の話だった。作中のワンシーンでこのように対象を探すシーンがあった。なら役的に私達は殺し屋かしら。尤も、私達は殺すなんてことはなくて、ただ対象の動向を探るだけだけれどね。だとしたら探偵や刑事の方がこの場合適しているわね。今度そういう映画も見てみようかしら。

 

加蓮「でもここは三階で向こうは二階だよ。私達からは窓際付近は見えるけど、教室の入口側にその三人が居られたら私達じゃ確認出来ないんじゃないかな」

 

奈緒「あ……確かに」

 

奏「それに関しては大丈夫なはずよ。その三人は昼食は窓際の席で食べるらしいから。入口側だと人の出入りが激しいから煩わしいらしいわ」

 

らしい、というのは勿論未央に聞いたから。

 

奏「それで、どれがその子達なの?今更だけど、私その子達の事全くと言っていいほど知らないのよね」

 

加蓮「私も」

 

 

そうなのよ。私はその三人を知らない。同じクラスになった事が無いという事も理由の一つだけれど、それ以上に、言っては悪いかもしれないかもしれないけど、クラスの中心的存在の人間というのは何かしら特徴がある筈。容姿が優れている、リーダーシップがある、ユーモアに溢れている、など、挙げだしたらキリがないけれど、何かしら一つは挙がるはずなのよ。そして他のクラスの人間からもそのクラスの中心はその人物なのだという事は少なからず認知される筈。あの葉山隼人君がそうだった様に。未央からの情報を凛と雪乃を伝って聞いたけど、他の二人はともかく野中という子くらいは知られていていいと思う。それを知らない、聞かないと言うことはそんなに何かに突出したような子達では無いと言うことなのかしら。

 

奈緒「アタシは何とか顔と名前が一致する程度だな。窓際で食べるのが本当なら、まだ居ないな。購買でも行ってるのかも。……あ、言ってたら丁度来たな。あいつらだよ、あの後ろの窓際に座った三人組。一番背の低い小柄な子が上里、一番髪の長い子が恵、そんで、今携帯いじってるショートカットの子が野中だよ」

 

奏「……」

 

遠目だが、上里という子はとても線が細い。偏見かもしれないが、初見のイメージは大人しそう、気が弱そうで争い事は好まないような雰囲気、というものだった。顔つきも優しそうな印象を受ける。

恵という子は雰囲気的には上里とは違った大人しさ、というのは変な表現の仕方かも知れないけれど、そんな感じ。顔は前髪でよく見えない。

そして未央曰くクラスの中心、野中は活発そうな見た目。雰囲気はかおりのような感じ。でもかおりと比べるとツリ目で気が強そうな所が違うところかしら。しかしそれでいて幼さも残る可愛らしい顔立ち。

 

奏「何か……意外ね。彼女達が未央から聞いたような事をしてるなんて」

 

加蓮「確かにそうだね……何か少し信じられないかな」

 

奈緒「アタシも改めて見るとって感じだよ。上里なんて絶対そんなことしなさそうだよな」

 

奏「まあ何にせよ、暫くはこの三人をマークしなくちゃね。この音楽室での昼食も続くかもね」

 

奈緒「だな。昼休みもあと半分もないし、この時間で何かするとも思えないしな。初日は何も動き無しって感じかな」

 

さっきの言葉通り、暫くはこの音楽室からの張り込みが続くかもしれない。私は問題とは裏腹に、まるで映画の主役であるかのような気分に少し胸を踊らせていた。

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 

-------------

 

 

 

 

雪乃「さて、それでは今日の報告を始めましょうか」

 

放課後、私は四人と本田さん、そして私達とは別に行動、もとい協力してもらっている小町さんに集まってもらった。折本さんも何故か来ているけれど、もう本田さんとセットという認識でいいのかしら。

 

雪乃「っとその前に小町さん、わざわざ来て貰ってごめんなさいね。小町さんは学年も違うし自分の時間があるかもしれないのに……」

 

小町「いえいえ、問題ありませんよ!皆さんに言われればいつでも駆けつけます!」

 

雪乃「ふふ、ありがとう」

 

本当にいい子。あの捻くれ者とはえらい違いね。でも比企谷君がこの子を可愛がる理由が少し分かる気がするわ。

 

雪乃「それではそのまま、先ずは小町さんから報告してくれるかしら?」

 

小町「分かりました!えっとですね、小町はまゆさんとうちの兄の相手をしてます。正直あの兄は何かしら動くかと思いましたけど、そんな様子は全く無いですね。その、まゆさんが半端じゃないので……完封状態とでも言いますか……」

 

小町さんがそう言うと凛さん達が『あぁ……だろうね……』と声を揃えた。まあ、そうでしょうね……。

 

未央「あはは……。確かにまゆちゃんはすごいらしいね。あ、小町ちゃん、ちゃんとした挨拶がまだだったね。私本田未央。それでこっちが折本かおり。改めてよろしくね」

 

かおり「よろしくね、こまっちゃん!ていうかまさか比企谷にこんな可愛い妹ちゃんがいたとはね。ウケる」

 

小町「比企谷小町です。こちらこそよろしくお願いします!いやあ、こうして見るとすごいですね、全員美人さんで。ああそうだ、兄の報告でしたね。さっきも言いましたけどまゆさんが凄くて……。初日にお兄ちゃんの部屋に入るや否や布団の中に入ろうとするし、タンスから服を持って帰ろうとするし、キッチンの食器棚にペアのマグカップ置こうとするし、それはもう凄かったです……あとあれもあったな……」

 

雪乃「も、もういいわ小町さん、充分よ。兎に角、比企谷君に動きは見られないという事は分かったわ」

 

これ以上は危なそうだからやめておきましょう……。とにかく小町さんと佐久間さんはこちらの期待以上の成果を挙げてくれているということにしておこう。

 

 

奏「次は私達ね。私と奈緒と加蓮は朝に雪乃にメールで言われた通り、昼休みに教室前とは別の角度から監視をしたわ。五限が音楽で移動教室だったから、音楽室で監視を行ったわ。でも特に目立つ行動は無かったわね。音楽室は未央のクラスをよく見ることが出来るから、暫くは音楽室で様子を探ろうかと思っているわ」

 

雪乃「確かに音楽室は都合が良さそうね。日替わりで交代して監視するのも有りかも知れないわね……。報告ありがとう。続いて私と凛さんから。私達は各休み時間と昼休みに教室内の様子をこっそり眺めていたわ」

 

凛「さすがにずっと見ていると怪しまれるだろうから教室を通り過ぎる振りをしたり色々したけどね」

 

雪乃「ええ。結果的に奏さん達と同じで特に動きは無かったわ」

 

奈緒「だよなあ……」

 

雪乃「あまり長引かせるべきでない問題だから、早く解決したい所ではあるのだけどね。では最後に本田さん、お願いできるかしら?」

 

未央「あ、うん。今日は可菜ちゃん達は大人しかったよ。特にこれといった事は無かったかな。私も総務として働くような用事も無かったのもあるかもしれないけどね」

 

雪乃「そう、ありがとう。……初日はこんな所かしら」

 

加蓮「三人との接触はどうする?」

 

雪乃「そうね。頃合いを見定めて図るのが理想だけれど……。短期決戦が理想だから近い内に行きましょう」

 

奈緒「三人共だよな?」

 

雪乃「ええ。でも、三人同時ではなく個別に接触した方が都合が良さそうね。野中さんは私と凛さん、上里さんは加蓮さんと奈緒さん、恵さんは奏さんと、そうね……折本さん、頼めるかしら?」

 

かおり「オッケー。任せてよ」

 

雪乃「では、その人選で。明日からも動向を探っていくけれど、些細な事でも構わないから、なにか気付いたら報告し合って頂戴。集まってくれてありがとう。今日はこの辺で終わりにしておきましょう」

 

私がそう締めると、各々が返事をして帰る支度を始めた。

 

 

 

 

 

-------

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---

 

 

雪乃「もしもし、佐久間さん?私だけれど」

まゆ『あら、雪乃ちゃん、どうかしましたか?』

 

雪乃「いえ、別に大したことではないのだけれど、お願いした通り比企谷君を止めてくれてるみたいね、感謝するわ」

 

まゆ『あぁ、そのことでしたか。ふふ、お礼なんていいですよぉ。まゆにとっては良いことずくめですから。役得っていうものですかねぇ』

 

雪乃「ええ、そのようね。小町さんから聞いたわ。あまり過度で強引な方法は感心しないけれどね」

 

まゆ『あら?もしかして嫉妬ですかぁ?』

 

雪乃「ふん、言ってなさい。とりあえずそのまま小町さんと頼んだわよ。何か起きたら言って頂戴」

 

まゆ『分かりましたぁ。雪乃ちゃん達も何かあったら言ってくださいね』

 

雪乃「ええ。それじゃ」

 

まゆ『はぁい』

 

---Pi

 

 

 

雪乃「佐久間さんは大丈夫そうね。……まあ比企谷君は大丈夫じゃなさそうだけれど」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 

-------------

 

 

 

 

 

あれから数日経過したけど、野中さん達に動きは無い。本田さんからの話でもここ最近は総務としての本田さんの言うことを素直に聞いているらしい。

私は例の音楽室で、相も変わらず三人を見つめていた。私が見つめている先の教室の窓は開いているが、他の生徒達の声もあり、三人の声までは拾えない。

 

奏「これじゃ動くに動けないわね」

 

加蓮「もしかして改心したとか」

 

雪乃「……」

 

加蓮「……な訳ないか。あはは」

 

改心するとは思えない。ああいった人間はある日急に、突発的に、心情に変化が起きることなど先ず無いだろう。プラスからマイナスになることは容易くとも、マイナスからプラスになることは容易なことではない。私はそう考えている。

 

あの日私を虐げた彼女達は、今どこで何をしているのだろう。この中学で見かけないという事は、別の地区の学校にでもいるのだろうか。そして対象を私から別の子に変え、今でもあの時と同じようなことをしているのだろうか。

 

雪乃「……」

 

こんな事を今考えても仕方ないのに。

 

そろそろ昼休みが終わる。ふと隣にいる二人を見る。加蓮さんは監視に気を取られて自らのお弁当の中身が減っていない事に気付いたらしく、急いで食べ進めている。奏さんは手鏡で髪を整えていた。二人とも注意力が散漫しているような気がするが、斯く言う私も、毎日同じことの繰り返しで少し油断していた。

 

監視していなくてはならない三人の内の一人が教室から居なくなっていたことに気付かなかった。

 

 

続く

 

 




今回もありがとうございました。
中学生編、もう少しお付き合い下さいm(_ _)m



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もしもあの日に戻れたら 4

なかなか時間が作れなくて短いですが、ご了承ください。
今回も読んで頂き、ありがとうございます。




 

未央「うーん……」

 

昼休み、学校の女子トイレの鏡の前に立ち髪を整える。

 

未央「前髪伸びたなあ。美容院行くの面倒だから自分で切っちゃおうかなあ。でも失敗するのは嫌だし……」

 

誰に言うでもなしにそう一人呟く。ここの所、専らクラスの事に関する悩みで中々髪にまで気が回らなかった。女子としてそれはどうなのだと未央自身思ってはいるが、実際そうなのだから仕方無い。人前では明るい彼女も、一人になると考え込んでしまう事も多い。本田未央という少女を知る者からすれば意外かもしれないが、人一倍責任感が強い表れでもある。

 

未央「……私もクラスのこと、頼むだけじゃ駄目だよね……。私も自分からもっと解決に向けて動かなくちゃね……!」

 

そう決意を口にした刹那、女子トイレのドアが一つ開いた。誰も居ないと思っていた未央は驚き、音がした先を振り向く。

 

未央「……あ」

 

 

--------

-----

--

 

 

雪乃「……」

 

放課後、例の如く私達は各自の報告の為集まっている。尤も、報告する事なんて、「異常なし」の四文字以外無い。いくら何でも動きの無さすぎる毎日に対しての焦りや苛立ちが顔に出ていたらしい。

 

奈緒「お、おい、雪乃の奴、イライラしてるように見えるんだけど……」

 

加蓮「やっぱりそうだよね?私の勘違いじゃないよね?」

 

凛「どう見てもだよ。眉間に皺が寄ってるもん」

 

小声で三人の会話が聞こえるけれど、聞こえない振りをする。

 

奏「雪乃、気持ちは分かるけど落ち着きなさい。ほら、深呼吸。あなたが進行しないのなら、代わりに私がやるけど?」

 

雪乃「……。……すー、はー。……ごめんなさい、空気を悪くしちゃって。それでは、今日も報告を始めましょうか……」

 

-----

---

 

全員の報告が終わったけれど、相も変わらずの結果。本田さんが相談に来る前のことを考えると、今のこの何も起きない状況の方が良いことは確かなのだが、これでは動くに動けない。三人への接触も却って向こうを煽ってしまうかもしれないので今は止めた方がいいだろう。

 

 

雪乃「それでは今日はこのくらいにしておきましょう……」

 

かおり「未央が来てないけどいいの?」

 

雪乃「……そう言えば」

 

本田さんの姿が無い事に今気付いた。報告会には毎回来るように言っている筈だけれど。

 

雪乃「……」

 

黒板の横に設置されている掛時計に目をやる。まだ下校時刻までには少し時間がある。

 

雪乃「少し待ちましょうか。来なければ最悪明日に報告してもらいましょう」

 

五分程待っていると、折本さんの携帯電話から無機質な音が鳴った。

 

かおり「未央からじゃん。えっと……今日は来れないってさ。連絡遅れてごめん、今日もクラスは何も無かった。だってさ」

 

雪乃「そう。では今日はもう引き上げましょう」

 

 

--------------

 

 

未央からのメール。その内容の一部をあたしは雪ノ下さん達には伝えなかった。

 

かおり「……」

 

未央からのメールの内容が書かれた液晶画面を見る。

 

『かおりんごめん!今日報告会行けないや〜……。皆に代わりに言っておいてくれない?連絡遅れてごめん!クラスは今日も何も無かったよ!あと、もう正直何も起きないと思うから、皆にもう監視しなくていいって言っといてくれない?』

 

この最後の一文。確かに何も起きてない。でもなら何で未央から直接皆に言わないんだろう。それに、無理やり打ち切ったような、そんな違和感があったから、あたしは未央に連絡して会うことにした。

 

 

-----

 

 

かおり「おーっす久しぶり未央!って学校でも会ったか、ウケる!」

 

未央「やあやあかおりん!ふっふっふ、お久しぶりだね!」

 

未央を近くの公園に呼んだけど、様子はいつも通り?あたしの考えすぎ?

 

かおり「今日の放課後何で来なかったん?雪ノ下さんめちゃくちゃ怒ってたよ?」

 

未央「えええ!?ほ、本当に!?」

 

かおり「あっははは!!嘘うそ!ウケる!」

 

未央「んな!?もーう!心臓に悪いよ!」

 

かおり「まあ、未央のクラスに動きが無いから動くに動けないー……って感じでちょっとイライラはしてたかな。ウケるよね」

 

未央「あー確かに最近特に何も無いもんね。あっ、そうそうかおりん、メールでも言ったと思うけど、雪ノ下さん達にもう監視とか、何もしなくていいって言ってくれないかな?」

 

かおり「多分明日も放課後集まると思うよ?その時直接言えばいいんじゃない?」

 

未央「いやー……、明日は家の用事があるからさ、私は集まれないんだよね……」

 

かおり「……あーなるほどね!そりゃ集まるのは無理だ!」

 

未央「そうなんだよー……。悪いけど頼むよかおりん」

 

かおり「オッケーオッケー!…でも何でまた、もう何も起きないって急に思ったわけ?」

 

未央「いやー、さっきも言ったけど最近特に何も起きてなくて平和じゃん?だからもう大丈夫かなって。ふっふっふ、これも未央ちゃんの総務としての実力かな!ってね!」

 

かおり「……ぷっ、あっはっは!ウケる!確かにそうかも!オッケー、雪ノ下さん達にはあたしから言っとくから」

 

未央「おお!ありがとうかおりん!」

 

かおり「ほいほい。じゃあ暗くなってきたしあたしはそろそろ帰るから」

 

未央「うん、じゃあね!また明日」

 

かおり「んじゃ!また明日!」

 

 

--------------

 

 

 

薄暗くなった、見慣れた道を一人で歩き自分の家を目指す。

『もう何もしなくていいって言ってくれないかな?』

 

未央、悪いけどあんたの頼み、聞くわけにはいかないよ。皆に伝えて、はいじゃあこの件はもう終わり。それで終わらせる訳ないよ。

直接じゃなくて代わりにあたしに言わせようとするのは、直接言ったら皆にバレると思ったからなんじゃないの?だからあたしに代わりに言うように頼んだんでしょ?でもね未央、あんたは直接言う事を選んだ方が良かったと思う。中学から知り合ったあの子達なら騙せたと思うから。でもあたしは騙せないよ。小学校から親友のあたしはね。未央はいつも通り、元気で明るい『本田未央』になれてたって思ってるよね?でもあたしは、未央のあんなぐちゃぐちゃな、無理やり作ってる笑顔を初めて見たよ。

あたしは楽しいことが大好き。あんたと馬鹿することはもっと大好き。だから、今回のことは本当にウケないよ。

あたしは頭は良いほうじゃないかもしれない。だから未央のあの表情、あたしは『助けて』って言ってるって勝手に解釈するからね。

 

口を紡ぐ。力を入れすぎて歯がミシッ、と軋む音がするが、そんな事気にすることなく、歩き続けた。

 

 

続く

 

 

 



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もしもあの日に戻れたら 5


お久しぶりです。なかなか時間が取れなくて申し訳ありません。前の話覚えてないという方は御手数ですが一つ戻っていただけると幸いです。それでは今回も短いですがよろしくお願いします。




 

 

未央と会った翌日の放課後、アタシは日誌を担任に渡し終え職員室を出た直後の上里を捕らえた。今日、上里が日直だということは休み時間に未央のクラスを覗いた時に黒板の日直担当欄にこいつの名前があったから知ることが出来た。

上里が何か言ってるけどアタシは無視し続けた。

人気の無い校舎裏に辿り着くと歩みを止め上里を睨む。しかし、片手は上里を掴んだまま離さない。

 

かおり「……」

 

明「……と、突然何?何なの?」

 

状況を掴めていない目の前の少女に、折本かおりは聞こえるように舌打ちした。

 

睨み続けるかおり、一方で困惑し続けている明。どちらも言葉を発しない時間がしばらく続いた。その空間を破ったのはほぼ同時に両者の携帯から鳴った着信音だったが、誰かしらから来たであろうその連絡を確認しようとしない、気にする事無く目の前の相手を捉えたままの少女と、着信を指摘することで少しでも目の前の少女から解放されたいが、それを許さない空気であるために黙り込む少女が居た。逃げることの出来ない上里にとって、その音が唯一活路を見出すかもしれない救いであったが、折本の携帯から着信音が鳴り止み、やがて自らの携帯からも音が無くなったため、再び静寂がその場を支配した。

 

 

-------

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---

 

 

 

加蓮「……駄目。出ないや」

 

雪乃「そう……。全く、何処で油を売っているのかしら」

 

加蓮がかおりに電話を掛けたけど、かおりは出なかった。未央が今日は欠席らしいから、かおりが来たら報告会を始める予定だった。けど中々現れないため、痺れを切らした雪乃が加蓮に電話を掛けるように頼んだ。

 

奏「かおりは後で来るでしょうから、先に私達で始めておく?」

 

凛「このまま待ち続けるってのもあれだしね」

 

雪乃「……それもそうね」

 

加蓮「あ、じゃあ私がその辺見てくるよ。今日も特に変わりない一日だったし」

 

加蓮がそう雪乃に提案する。おいおい加蓮、特に変わりないって……、思ってても口にする物じゃ……、ほら、雪乃が少し苦い顔になっちまったよ。

 

雪乃「……そうね。では加蓮さん、頼んでいいかしら?」

 

加蓮「任せてよ」

 

奈緒「あ、アタシも探すよ。一人より二人の方が効率いいだろうし」

 

一瞬雪乃が訝しむような視線を送ってきたが何とか了承して貰えた。ああ言ったけど、加蓮に付いていく理由が、中々会議を始めることが出来ないため徐々に表情が険しくなっていく雪乃に気付き、外の空気が吸いたくなったのは内緒だ。

 

 

-------------

 

〜同時刻〜

 

教室で友人が戻ってくるのを待つ少女。その友人の用が済み戻ってくるまでに掛かる時間は数分程度の筈なのだが、かれこれ三十分は経過している。先に帰ったか。そう考え教室内を見回すとその子の鞄はきちんと机の上に置かれている。流石に痺れを切らしたので電話を掛けても、無機質なコール音が聞こえるだけ。

 

可菜「……」

 

疑問に思った野中可菜は、一人静かに教室を出た。

 

 

---------------

 

 

 

〜図書室〜

 

まゆ「八幡さぁん、読みたい本は見つかりましたかぁ?」

 

八幡「いや、まだ見つからないな。つか最近ずっとお前と居る気がするんだけど」

 

まゆ「まあ、まゆと一緒にいるのが当たり前になってるだなんて、八幡さんたら直球すぎます♡」

 

八幡「言ってないからね?俺の行くとこ全部に佐久間が付いてきてるって言ってんの」

 

まゆ「それはそうですよぉ。八幡さんの居るところにまゆ有り、です♡」

 

八幡「何だよそれ……」

 

まゆ「それにしても見つからないですねぇ……。向こうで少女漫画読んでていいですかぁ?」

 

八幡「だから時間掛かるだろうから帰っていいって図書室来る前から言ってるだろ……」

 

まゆ「それは駄目ですよぉ」ズイッ

 

八幡「うっ……。……はぁ、なるべく早く見つける努力はする」

 

まゆ「はぁい。お目当ての小説見つけたら呼んでくださいね。……間違ってもまゆを置いて帰らないで下さいね?あと、寂しくなっても呼んで大丈夫ですよぉ♡」

 

八幡「分かった分かった……。早く行きなさい……」

 

まゆ「んもう、素直じゃないですねぇ。では、また後で」

 

 

 

八幡「……はあ、やっと自由になった……。つかなんでうちの学校は少女漫画は置いてるんだよ。少年漫画も置いてくれてもいいんじゃないですかねぇ」

 

そう独り言ちる。さっき言った通り佐久間が最近俺に対して干渉し過ぎている。この前なんてクラスが違うのに教室を出た瞬間に佐久間が待ち構えていた。負けじと次の日に自称帰宅部のエースである俺はダッシュを決め下駄箱へ向かったがその時も既に佐久間が回り込んでおり、笑顔でこちらを見ていた。あの時はびっくりしたね。うん、本気で。佐久間お前、タイムリープしてね?あれ?時かけって行けるのって過去だけだったっけ?まあとにかく、恐怖と同時に少し違和感を覚えた。この違和感の正体が何なのかまでは分からないし、佐久間が常に居るため考える時間が無かったが……。

 

八幡「……おっ、あった……」

そうこうしている内に目当ての小説を見つけた。最近自分の時間が無かったから小説も読めてなかったな。家に帰っても最近急に小町が勉強教えてと言ってきたので付きっきりだし。まだ中一なのにどういう風の吹き回しだと不思議に思ったが、せっかく小町がやる気を出してるんだ。兄として幾らでも協力しようではないか。

でも小町ちゃん、数学ばっかり聞いてくるのやめてね。お兄ちゃん文系はどちらかと言うと出来るけど数学は分からないからね。それを知ってる筈なのに小町は何故か毎回毎回数学を俺に聞き続けている。時間が掛かるったら無い。この前なんて一問解くのに一時間掛かった。答えを見ようと提案しても『お兄ちゃん!何舐めたこと言ってんの!自力で解かないと意味無いでしょ!』と怒られた。時間かけすぎる方が意味無いと思うんだが……。それを言ったら『このゴミは……』と溜息を吐かれた。とうとうごみぃちゃんではなくゴミに成り下がりました、どうも俺です。……なんて、下らない事考えてる場合じゃない。さっさと借りて帰ろ。

そう思い小説を手に取り、受付へ踵を返した瞬間、女生徒とぶつかってしまった。

 

八幡「あ……す、すみません……」

 

「……いえ、こちらこそ」

 

長い髪にスラッとした華奢な体。一瞬雪ノ下かと見間違えた。

 

八幡「……」

 

まゆ「……他の子とお話するの、楽しいですかぁ?」

 

八幡「うお……、急に出てくるなよ……お話って、ぶつかったから謝っただけだろ……」

 

その生徒の方を見ると、その生徒は既に出口の方へ歩いていた。

 

 

 

-------

-----

---

 

 

加蓮と並んで校舎内を歩く。放課後になり時間が経っただけあって、残っている生徒はほぼ居ない。昼間の生徒達の喧騒が嘘のようで、聞こえるのは遠くから吹奏楽部の楽器を演奏する音と、グラウンドから微かに聞こえる野球部の打球音くらいだった。

 

奈緒「かおりのやつ、どこにいるんだ?」

 

加蓮「ほんとにね。いつもなら私達より先に居るのに」

 

探し始めて五分程経った。学校の規模はそれほど大きくないからすぐに見つかると思ったけど、中々見つからない。

 

加蓮「帰っちゃったのかな」

 

奈緒「毎日顔出してたのに、今日急に帰るもんかな?」

 

加蓮「だって、今日未央休みなんでしょ?お見舞いにでも行ったんじゃない?」

 

成程、確かにその可能性もある。確認のため、かおりに再度電話を掛けたがやっぱり出なかったから、あと十分程探して見つからなかったら報告会に戻ろうと加蓮と決めた。

 

-------

 

 

加蓮「ちょっとトイレ行ってくるね」

 

奈緒「ああ、その辺で待ってるからな」

 

とててっ、と加蓮が女子トイレの中に入っていく。手持ち無沙汰になったため、ここから少し先にあるウォータークーラーで水を飲むことにした。

 

 

奈緒「んっ……冷たい」

 

夏休み前ということもあり、まだまだ暑い。ウォータークーラーの水があたしの体温を下げてくれた気がした。

後ろから足音がしたため、加蓮かと思い振り向くと、思いもよらない人物が歩いていた。相手がこちらに気付く。

 

奈緒「……」

 

可菜「……」

野中可菜。今回の問題の核であろう人物。まさかこんな所で、しかも一対一で会うことになるとは思わなかったため、あたしはしばらくの間野中を見つめていた。

 

可菜「……何か?」

 

おっと……。さすがに野中は不審に思ったらしい。

 

奈緒「えっ、あー……、えっと……ウォータークーラー、使うかい?」

 

我ながら下手な返し。野中のあたしに対する訝しむ目は変わらない。

 

可菜「……大丈夫。喉乾いてないから」

 

奈緒「そっか」

 

そう言い野中はその場を立ち去る。野中が少し遠ざかったところで、加蓮が戻ってきた。

 

加蓮「もう奈緒〜、ここにいた。ちゃんと見える所で待っててよ」

 

加蓮の声がした瞬間、野中が立ち止まった。こちらをじっと見ている。というより、加蓮を見ている?

 

奈緒(ん……?)

 

加蓮「奈緒?」

 

奈緒「……え?ああ、ごめんごめん」

 

加蓮「どうしたの?」

 

奈緒「い、いや、えっと、次から気をつけるよ」

 

可菜「……」

 

野中が再び歩く。先程と同じく、見過ぎていたらしい。加蓮が同じ方向を向いた。

 

加蓮「? どこ見て……あの子って……」

 

奈緒「……」

 

彼女と出くわした時点で、何とか少しでもクラスに関して探りを入れるくらいしても良かったかもしれない。そんな後悔よりも、何故加蓮を凝視していたのか、そちらの事であたしの頭はいっぱいだった。

 

 

---------------

 

 

 

かおり「……」

 

明「……あの……」

 

かおり「……アタシが未央と仲が良いのは知ってるよね?」

 

明「……」

 

かおり「知らないとは言わせないよ。小学校も同じ。しかもアタシらと同じクラスになった事のあるあんただからね」

 

明「……」

 

上里は静かに頷く。

 

かおり「昨日、放課後に未央の家の近くで会ったんだ。あんな未央見たこと無かったよ。あの子の、あんなぐしゃぐしゃな作り笑い見たことなかった、見たくなかった。……あんたをここまで拉致った目的は三つ。一つ目はクラスの支配なんて馬鹿馬鹿しいことから手を引くこと。二つ目は未央に謝罪すること。……三つ目は、二度と未央に関わらないことだよ」

 

自然と口調が荒くなる。

 

かおり「首を縦に振るまで帰らせないから」

 

そう言い、上里の胸倉を掴んでいた手に力を入れる。

 

明「うぐっ……ぅ」

 

上里の顔が赤くなる。早く首を縦に振って……。出来ればアタシもこんな事したくない。

 

明「……!」

 

その時、背後から声がした。

 

 

 

 

 

 

「あんた、明に何してんの?」

 

 

 

 

 

 

不意をつかれたため、少し驚いたが、声のする方を振り向いた。

 

 

 

 

かおり「……野中」

 

目の前の、こちらを捉えるその目は、心底不満げにアタシを睨み付けていた。

 

 

続く





今回もありがとうございます。中学生編は残り2~3話で終わる予定です。もう少しお付き合い下さい。



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もしもあの日に戻れたら 6

お久しぶりです。いつもありがとうございます。




 

かおり「……」

 

可菜「……。……はぁ」

 

野中が気怠そうに溜息を吐く。上履きを態と地面に擦るようにこちらへと歩いて来る。

 

可菜「……いくら待っても戻って来ないと思ったら、まさかこんな事になってたなんてね」

 

アタシと上里の間の位置で立ち止まり、アタシから上里を引き離した。上里の服を正す野中。

 

可菜「明、帰るよ。歩ける?」

 

明「う、うん」

 

可菜「まったく、こんな事に巻き込まれる前に連絡しなきゃ。分かった?」

 

明「ご、ごめんね。えへへ」

 

野中の上里を見る目、声色はとても慈愛に満ちている様に見えた。

 

可菜「さ、行こっか」

 

そう言い上里の手を掴み立ち去ろうとする野中。でも―――

 

 

 

 

 

 

 

 

かおり「待ちな」

 

昨日の今日で、アタシが許すはずも逃がすつもりも無い。二人の足が止まる。

 

可菜「……」

 

自分の口から発せられた声は低く、冷たいものだった。こんな声を自分が出せたんだと驚いている。そんな、今の状況に合わない事を思いながらも野中を睨み続けた。

 

可菜「……はぁ」

 

この数分で何回目かの野中の溜息。

 

可菜「明、悪いんだけど、今日は先に帰っててくれないかな?」

 

明「え、で、でも……」

 

不安そうな顔をしながらアタシを見てくる上里と、それに対し何も心配はいらないという様に微笑む野中。

 

可菜「大丈夫だから。ね?」

 

そう念を押すと上里は渋々だが頷いた。もう一度こちらをチラリと見た後、上里は早足で去っていった。周りの音が全て遮断されたかのような静かな空間。

 

 

 

可菜「……それで?」

 

先程の上里に対する態度が嘘のように野中が対峙する。早く用件を言えとばかりに不満げに。

その態度に心底腹が立ったが、自分自身を落ち着かせるために目を瞑る。しかし瞼の裏で思い起こされるのは親友の悲しそうな表情だった。早急に目を瞑ることをやめたアタシは、目の前のいけ好かない奴に対し再び舌打ちをした。

 

 

--------------

--------

---

 

 

 

雪乃「遅い……」

 

加蓮さんと奈緒さんが教室を出てから三十分以上は経っている。教室辺りを見てくるだけで良かったのだけれど、どうやらあの二人はそれ以外の場所にも行っているらしい。気持ちは有難いけれど、この報告会が機能しなくなっては元も子もない。あと、考えたくないけれど、もしかすると時折見せる加蓮さんの"ノリ"というものに奈緒さんが巻き込まれているのかもしれないわね……。その構図が容易に想像出来るのも複雑だわ……。

チラリと前を見ると、凛さんは耳にイヤホンを指して音楽を聴いている。彼女の隣にいる奏さんは手鏡を見ながら手櫛で髪を整えていた。どうやら二人も手持ち無沙汰な様だ。

 

凛「ふう。んーっ……」

 

恐らく曲を最後まで聞き終えたのだろう。凛さんがイヤホンを外し指を絡ませながら伸びをする。

 

凛「あの二人はまだ帰ってきてないんだね」

 

雪乃「ええ。何処まで探しに行ってるんだか」

奏「ふふ、一生懸命探してくれてるのよ。真面目でいいじゃない」

 

凛「どうせ奈緒が加蓮に振り回されてるんだよ」

 

どうやら凛さんも同じ事を思っているようだ。

 

奏「正直それは否めないわね」

 

奏さんもだった。

 

 

------------

 

 

凛「まあでも、いくら何でも時間掛けすぎだよ。戻ってくるように言おうか」

 

そう言い終える頃には凛さんは電話をかけていた。相手はあの二人のどちらかだろう。

 

凛「……もしもし、奈緒?そろそろ戻っておいで。加蓮に遊ばれるのも程々にね」

 

そう言い終えると電話の向こうから何やら声が聞こえる。凛さんの表情が柔らかくなる。恐らく奈緒さんが違うと叫んでいるのかもしれない。

 

凛「ふふっ。ふーん、ちゃんと探してたんだ。……はいはい、分かったから、早く戻っておいでよ。早くしないと雪乃にどやされちゃうよ」

 

雪乃「凛さん、それはどういう事かしら?」

 

凛「おっと、じゃあもう切るね。ほんと早く帰ってきて。矛先が私になっちゃうから」

 

そう言い終えて凛さんは携帯を切りポケットに仕舞った。

 

雪乃「……」

 

凛「ふふ、まあまあ、そんな怖い顔しないでよ」

 

奏「そうよ雪乃。只でさえ私達は関わったことがない子達から怖いって言われてるんだから」

 

雪乃「それは……そうかもしれないけれど……」

 

奏「私達は仲のいい子達に限らず、もう少し柔らかい表情になってもいいと思うわ」

 

雪乃「それは……そうね」

 

奏「ここ最近では女子限定の相談会も相まってだいぶ丸くなったと思うけど、まだまだと思うわ。私も含めてね」

 

雪乃「ええ……そうね」

 

奏「特にあなたは『氷の女王』って呼ばれてるんだから」

 

雪乃「ちょっと待って頂戴。初耳なのだけれど」

 

奏「あら、言っちゃダメだったかしら」

 

雪乃「奏さん、一体何年何組の誰がそんな事を言っていたのかしら?」

 

凛「雪乃、泣かす気満々じゃん」

 

奏「まあまあ雪乃落ち着いて頂戴。そんな事したら彼が可哀想よ。……あっ」

 

凛「ぷふっ、なるほど。雪乃をそんな風に言うのは一人しか居ないね」

 

雪乃「……あの男……。今度会ったらどう泣かしてあげようかしら……」

 

凛(やっぱ泣かすのは確定なんだ)

 

 

何が氷の女王よ。覚えてらっしゃい、比企谷君。

時計を確認する。凛さんが電話をして数分。そろそろ二人は戻ってくるかしら。

 

 

---------------

 

 

 

 

奈緒「ほら加蓮、凛がそろそろ戻ってこいってよ」

 

加蓮「えー、もう?もうちょっと探検しようよ」

 

奈緒「探検って……。あたしらがよく知ってる校舎じゃん」

 

加蓮「もう、奈緒つまんなーい」

 

奈緒「はあ……?ほら、とにかく戻るぞ?」

 

加蓮「ちぇっ……分かったよ」

 

凛から加蓮に遊ばれてるって言われたから少しムキになってるのかも。でも完全に否定出来ないのが悔しい。

 

加蓮「にしても居なかったね、かおり」

 

奈緒「うーん、まあ用事でもあったんじゃないか?」

 

骨折り損、という訳じゃないけど、二人で探しても結局成果は挙げられなかった。……ん?

 

奈緒「あいつ……」

 

前方から歩いてくる小柄な女の子。両手を胸に当てながら、何やら不安そうに歩いている。普段はこんな感じなんだろうか。

 

加蓮「奈緒?ん?……上里さん?」

 

明「!?」

 

加蓮の呟くように言った名前は本人に聞こえたらしい。上里が驚いた様子でこちらを見た。

 

明「あっ……。か、かれ……、……北条さん……」

 

加蓮「あ、私のこと知ってるんだ」

 

明「え、う、うん」

 

上里は加蓮を見て何やら慌てている。えっと、だの、その、だの言ってるけど、あたしを見るとそそくさと走り去っていった。

 

加蓮「何だったんだろうね」

 

奈緒「わかんないなあ。とにかく、あたしらも戻ろうぜ」

 

加蓮「うーん……」

 

奈緒「ん?何だよ」

 

加蓮「さっきの上里さんの様子見た?」

 

奈緒「様子?あたしらに気付いた時の?」

 

加蓮「そうじゃなくて気付く前、こっちに歩いて来てた時だよ」

 

奈緒「うーん、まあ、自信なさげというか、何か不安そうというか」

 

加蓮「そうそう。私にも不安そうに見えた」

 

奈緒「まあ、普段野中の近くに居るらしいからっていうのもあるけど、案外一人の時はあんな感じなんじゃないか?」

 

加蓮「でも歩いてる時何かを探すようにチラチラ色んなとこ見てたよ」

 

奈緒「うーん……つまり?」

 

加蓮「私達と会うまでに何かがあった!」

 

奈緒「ざっくりしてるなあ……」

 

加蓮「仕方ないじゃん。流石にそこまでは分かんないよ」

 

奈緒「まあそうだけど……」

 

加蓮「さっ、行こっか」

 

奈緒「何だよ切り替え早いなあ。……って、教室はこっちだよこっち。何でまっすぐ行こうとするんだよ」

 

加蓮「何でって、上里さんがあっちから来たからに決まってんじゃん」

 

奈緒「はあ?」

 

加蓮「さっきの様子と何か関係あるかもよ?」

 

奈緒「ええ……。考えすぎじゃないか?」

 

加蓮「うるさいなあ、とにかく行ってみようよ!」

 

奈緒「あ、ちょっと加蓮待てって!」

 

走って行く加蓮を仕方なく追いかける。やっぱりあたしは加蓮に弱いのかもしれない。

 

 

--------------

 

 

 

 

小町「あれ、お兄ちゃん?まだ帰ってなかったんだ」

 

八幡「ん、ちょっと本借りに図書室に行っててな」

 

放課後、教室で友達と割と長い時間話をしていた。小町以外の子達は部活があるということなので、きりのいいところで切り上げる形になった。

放課後になって結構時間経ってるから部活始まってるだろうけど、怒られないのかな。うーん、小町も何か部活入れば良かったかなぁ。友達と別れた後、こういう時に少し寂しさを覚えるんだよね。まだ一年生だから間に合うかなあ。そんな事を考えながら階段を降りていると、見慣れた後ろ姿を見かけた。お兄ちゃんだ。

 

小町「あれ?まゆさんは?」

 

八幡「ついさっき花摘んでくるってよ」

 

小町「その隙に帰らないところを見ると、中々に調教されてるねお兄ちゃん」

 

まあ、あのお姉さん達に頼まれている以上、勝手に帰るとか一人で行動されると困るけどね。

 

八幡「調教って何だよ……。いや、帰ろうとしたら佐久間が『うふふ、待ってないと、……ねぇ?』って変な圧をかけてきてな……」

 

小町「うわっ、今のまゆさんの真似?流石に引くよお兄ちゃん。言い方とか地味に似てるのが鳥肌を加速させてるよ……」

 

八幡「仕方ねえだろ、ここんとこ毎日付きまとわれてるんだから。そりゃ真似も出来るようになるわ」

 

小町「お兄ちゃん、家でこっそり一人で練習してるもんね」

 

ふふ、なんてね。

 

八幡「は、はあ?ししししてないけど?」

 

うわ露骨に目を逸らされた。ほんとにしとるんかい。

 

八幡「……ん」

 

小町「お兄ちゃん?……げっ」

 

お兄ちゃんが窓の外に目を逸らし、階下を眺めていた。目線の先には加蓮さんと奈緒さんが居た。

 

八幡「あいつらもまだ帰ってなかったのか」

 

小町「み、みたいだね」

 

八幡「そういえば最近は佐久間のインパクトが強すぎて忘れてたけど、あいつらと全く会わなかったし話さなかったな」

 

小町(まゆさんがそう仕向けてたらしいからね)

 

どうやってるのかまでは分からない。

 

八幡「ん?誰だあの女子?」

 

小町「さ、さあ?か、加蓮さんと奈緒さんは友達が多いからなー……あはは」

 

 

まゆ「お待たせしましたぁ。あら、小町ちゃんも居ましたか」

 

小町「あっ!まゆさん!」

 

小町はまゆさんの元へ走りお兄ちゃんには聞こえないように咎める。

 

小町(ちょっとまゆさん!こんな時間になるまで兄を学校に置いとかないで下さい!他のお姉さん方とエンカウントしたらどうするんですか!)

 

まあ一概にまゆさんだけの責任とは言えないけど。今はそんなこと言ってる場合じゃない。

 

まゆ(そんな事いっても……。八幡さんが図書室に行くって言ったので……)

 

小町(そんなのいつもの圧で封じて下さいよ!)

 

まゆ(圧って……。まあでも、そう思いましたけど、これって放課後制服デートになるんじゃないかなって思っちゃって……)

 

小町(校舎内を制服デートって何ですか!?いいですか?あの人達が言う小町達の役割は、兄を例の件から遠ざけることです。そのためには兄にその事について考える時間をとにかく与えてはならないと小町は判断したのです!だから家に帰っても敢えて兄の苦手な数学を教えてもらう振りまでして気を逸らしてるのに、まゆさんがそんなんでどうするんですか!?今さっき加蓮さんと奈緒さんがいましたよ!)

 

まゆ(あらぁ……そんな一気に捲し立てなくても……)

 

小町(あらぁ……じゃないですよ!兄が何か感づくんじゃないかと本当に焦りましたよ!小町ポイント爆下がりですよ!)

 

まゆ(そんなぁ……せっかく貯まってきたのに……)

 

この小町ポイントは本来お兄ちゃんにだけ使っていたものだったけど、お兄ちゃんを一緒に監視し始めた頃から、まゆさんがこのポイントに興味を持ち始めた。小町から見てまゆさんの嫁度、献身さ等を判断して加点していく。そして何故かポイントMAXまで行くとお兄ちゃんのお嫁さんという謎の制度をまゆさんから強制的に約束させられました。でもそれもさっきの事でかなり減点だよ。

 

八幡「お前ら何こそこそ話してんだ?」

 

小町「!?な、何でもないよお兄ちゃん!さっ、早く帰ろ!小町お腹空いちゃったよ!」

 

八幡「うわっ、あ、ああ。そうだな」

 

まゆ「まゆも一緒に帰りますよぉ」

 

小町「あれ?まゆさんはこの後予定があるんじゃないですか?」

 

まゆ「え?まゆは八幡さん以上に優先する予定なんて」

 

小町(さっきのペナルティです。辺りを見回してあの人達が居ないか見ておいてください)

 

まゆ(そんなぁ……)「……そういえば大事な用があるのを思い出しましたぁ……」

 

八幡「えぇ……、なら待たなくて良かったじゃねえか……」

 

小町「まあまあお兄ちゃん!まゆさんも忘れてたんだからしょうがないって!ではまゆさん!また明日です!」

 

まゆ「はい……また明日ぁ……」

 

そう言い残し、とぼとぼと歩いて行くまゆさんを見て少し心が痛むけど、背に腹は変えられないのです。さて、あとは下駄箱で素早く靴を履き替えて学校から出るのみ。

 

小町「さてと、小町達も帰ろっ、お兄ちゃん」

 

八幡「おう」

 

 

まゆさんが居なくなった事を確認して歩き出す。あっという間に下駄箱まで来ることが出来た。

 

小町「遅いよお兄ちゃん!早く履き替えて!」

 

八幡「ちょっと、押すな……。お前今日どうしたんだよ。なんか変だぞ」

 

小町「いつも変なのはお兄ちゃんでしょ!」

 

八幡「話を聞いて」

 

 

 

--------------

 

 

 

 

-同時刻-

 

 

 

かおり「……」

 

可菜「……」

 

上里さんが来た方向へ行くと校舎裏へと辿り着いた。私はここへ来たことは無かったので少し新鮮だった。こんな裏道にあんな大きな倉庫があったんだと少し感心していると、その奥、私達から見ると少し死角になるであろう所で、人影が見えた。告白かな、と思い、野次馬根性というものが働いてしまった私達は少し近付くと、かおりと野中さんが睨み合っていた。

恐らく未央の件で対峙しているんだろうけど、私は今更ながら隣に居る奈緒に再三言われた通り、あのまま凛たちの元へ戻っていればよかったと、自分の好奇心を恨んだ。

 

加蓮(まさか本当に"何か"起こってるなんて……)

 

奈緒「お、おい……加蓮……。あの二人、かおりと野中だろ?……仲良くお話、なんてことは無いよな……やっぱ……」

 

 

 

かおり「……もう一度聞くよ」

 

止めた方がいいのかもしれないと考えたけど、普段のかおりからは想像出来ないような低い声が発せられ、別人のように感じさせた。視界の先にいる友達と、この異様な空気感に支配されて私達は完全に動けずにいた。

 

かおり「あんた昨日、未央に何した?」

 

低く、それでもよく響く声で目の前の女の子に尋ねる。

 

可菜「……はぁ」

 

野中さんの返事は、ため息……?

 

可菜「だからさっきから何回も言ってるでしょ……何もしてない、身に覚えが無いって」

 

気怠そうに、腰に手を当てながら答えた。

 

かおり「あんたの取り巻き二人にどうこうできる度胸はない。あんたしかいないんだよ」

 

可菜「さっきから随分な言い草だけど、滅茶苦茶な事言ってるの分かってる?ていうかさっき明にあんなことしてたけど、そっちこそそれについて何か言うことはないわけ?」

 

かおり「いいから答えな」

 

可菜「チッ、埒が明かないな……」

 

露骨に舌打ちをした野中さんはかおりの言っている"昨日"の事について答えない。本当に何のことか分かっていないようにも見えた。

 

加蓮(それに昨日って……?未央が報告会に来ずに帰ったくらいしか私は知らないけど、関係あるのかな……)

 

思考が定まらないでいると、胸元のポケットから着信音が流れた。

 

加蓮「!?」

 

奈緒「ばっ……!!」

 

急いで画面の赤いボタンを押したが、既に先の二人はこちらに視線を送っていた。

 

 

------------

 

 

 

 

 

凛「?……切られた」

 

奏「え?」

 

凛「コール音が聞こえた途端に向こうから切られたんだよ」

 

雪乃「……」

 

奏「おいたが過ぎる、って訳ではないわよね。多分」

 

雪乃「……探しましょうか。いい加減待つのも飽きたわ」

 

万が一、あの二人と入れ違いになってもいい様に、書置きだけを残して教室を出た。

 

 

 

--------------

 

 

 

 

凛「何処にいるんだろ……」

 

教室を出た私達は奈緒と加蓮を探している。まだ探して全然経っていないけど見つからない。他の中学校より無駄に広いこの校舎は、どうやら隠れんぼに適しているらしい。

 

それぞれ別々に探していた雪乃と奏と合流した。二人とも収穫は無いと表情が語っている。

私達が合流してから、ちょうど裏の駐輪場から聞き慣れた声が聞こえた。こちらに近付いて来る。

 

小町「ほら早くしてよお兄ちゃん!!このままじゃ小町はお腹ペコペコで餓死するって言ってんじゃん!!」

 

八幡「分かった、分かったから……、仕方ねえだろうが、自転車錆びてて中々鍵開かなかったんだから……って……」

 

凛「あっ……」

 

奏「あら……」

 

雪乃「……はぁ」

 

 

八幡「おいお前ら、そんな露骨に驚かなくてもいいだろう……。あと会って早々溜息は結構きついからやめてくれ……」

 

小町「あー……み、皆さん……」

 

小町があたふたしてる。私達もどうしようか迷っていると、私達の後方、離れた所からさっきの小町より大きな声が聞こえた。

 

 

「……で…可………が……かおり……に……!」

 

息切れしているらしく所々しか聞き取れなかったけど、何か起こってるらしい。何より声を荒らげている女の子と、女の子について行っている女の子が、件の三人の内の二人だった。

 

八幡「……あれはさっきの女子と、図書室に居た女子……?ってか、所々聞こえた"かおり"って、折本の事か?」

 

雪乃「比企谷君、帰りなさい」

 

八幡「え?」

 

雪乃「いいから。小町さん、早くその男を家まで連れて帰りなさい」

 

小町「は、はい」

 

八幡「ちょっと待て、今のは何だ?何でお前らはここに居る、北条と神谷はどうした。お前らは何を知ってるんだ」

 

雪乃「何のことかしら。あまり恐喝しないでもらえるかしら。通報するわよ?」

 

八幡「茶化すなよ。いいから答えてくれ」

 

雪乃「しつこいわね。いいから早く帰って貰えるかしら」

 

八幡「……小町、先に帰ってろ」

 

奏「あっ!ちょっと!」

 

雪乃「待ちなさい!」

 

八幡が走り出した。それを雪乃と奏が追いかける。

 

「あ、あの……。ごめんなさい……」

 

ハッとして、振り返ると小町が申し訳なさそうに下を向いていた。

 

小町「……」

 

凛「ううん。小町のせいじゃないよ。頑張ってお兄ちゃんを止めてくれてたんだもんね?だからそんな顔しちゃ駄目だよ」

 

 

小町の髪を撫で、私も三人の後を追いかけた。

 

 

 

 

 

続く

 

 

 





あと二、三話ほどお付き合い下さいm(_ _)m



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番外編7:もしも全てが始まったら 雪乃編


いつもありがとうございます。番外編です。
今回は雪乃様ということですが、一応他のヒロイン達も書けたら書こうかなと思ってます。




 

 

雫乃「雪乃、起きなさい雪乃。今日は入園式ですよ」

 

雪乃「んん……」

 

雫乃「もう……そう枕に顔を埋めるんじゃありません……。」

 

雪乃「ご本よむからいい……。おかあさんだけでいってきてちょうだい」

 

雫乃「はぁ、それでは意味が無いでしょう……」

 

全く起き上がる気配の無い我が娘に溜息が出る。前々から人付き合いが苦手だとは思っていたけれど、ここまでとは。この歳でこんなに頑固な性格だと、将来は一体どのような娘になってしまうのだろう。

私自身も頑固であると思ってはいるが、雪乃は小学校に上がる頃には私以上の頑固者になってしまっているのではないだろうか。全く、変な所が似てしまったわね……。

 

雪乃「まったく、そもそもヨウチエンってなによ。わたしはヨウチではないのだけれど」

 

そう言って枕に顔を埋めたまま足をパタパタとベッドに向かって蹴る。雪乃のせめてもの抵抗だろうけれど、その小さな体で悔しがっても可愛いだけ。どうやらプライドの高さも既に似ているらしい。愛らしいが、とりあえずはこの子を起こさなくては。

ドアがノックされる。

 

都築「奥様……本日のご予定ですが……」

 

この子がまだ寝ていると判断した彼は、起こさない様にと小さな声で用件を伝える。その気遣いが今はもどかしい。

 

雫乃「ええ、分かりました。ですがなにも此処で伝える必要はないでしょう」

 

都築「申し訳ございません……。しかし雪乃様を起こしに行かれて随分時間が経ちますので……」

 

所謂、時間が押していると言いたいのだろう。それ程までに目の前の愛娘はひたすら頑固に、起きてはくれなかった。

 

雫乃「はぁ……」

 

朝食、身支度。このままでは入園式に間に合わない。遅刻など言語道断。仕方ない。

 

雫乃「雪乃……」

 

冷ややかな声を発する。一瞬、雪乃の体がビクリと震えた気がしたが関係ない。

 

雫乃「言うことの聞かない子は……こうですよ」

 

私の両手が雪乃の体に接近する。

 

 

 

 

 

雫乃「こちょこちょこちょ!!!」

 

雪乃「ちょっとおかあさん、やめてほしいのだけれど」

 

雫乃「……」

 

……仕方ないので、朝食は先に一人で食べることにした。部屋を出る際、都築が冷ややかな、それでいて笑いを堪えるような顔をしていたので横腹を殴っておいた。

 

 

-------------

 

 

 

 

都築「痛たた……」

 

奥様にやられた横腹を擦りながら、雪乃様を見やる。確か雪乃様はくすぐりは効くはずでしたが、先程は我慢していたのでしょうか。それ程幼稚舎に行くことに気分が乗らないのでしょうか……。

 

都築「雪乃様、本日は幼稚舎の入園式ですよ。さあ、起きて奥様と朝食を」

 

雪乃「ふん」

 

そっぽを向き、布団の中へ潜ってしまった。これは明らかに状況を悪くしてしまいましたかね。

 

都築「……」

 

どうしたものか……。とりあえず雪乃様の機嫌を直さなければ。ええと、雪乃様の好きな物は……ああ。

 

都築「雪乃様」

 

雪乃「……」

 

都築「雪乃様、私の掌を見てください」

 

そう言うと、布団の中から顔だけ出してくれた。さあ、ここからが本領発揮です。何も無い両手を雪乃様に見せ、包み隠す。

 

都築「むむ……はっ!」

 

雪乃「!!」

 

そう掛け声をあげて両手を開くと、雪乃様は目を輝かせてくれた。

 

雪乃「パンさんのキーホルダー……!!」

 

先日買い出しに行った時に新発売と、大々的に売り出されていたのが目に入った。雪乃様に渡そうと思っていましたが、購入してそのままスーツのポケットの中に入れ忘れてしまっていた。まさかこんな所で役に立つとは思いませんでした。

 

都築「どうぞ」

 

雪乃「あ、ありがとう……ふふ」

 

都築「雪乃様は、ご本を読むことが好きですね?」

 

雪乃「……? ええ、そうよ」

 

チラリと雪乃様のそばに置いてある絵本を見て手に取る。この本は特にお気に入りの様で、何回も読んでいるのを知っている。

 

都築「この本の主人公は、沢山のご友人と一緒に笑って物語を終えます」

 

雪乃「そうね」

 

都築「雪乃様は、この本を読み終えた後、いつも嬉しそうな表情です」

 

雪乃「そうかしら……」

 

都築「幼稚舎へ行けば、この本のようなことを、雪乃様ご自身がきっと体験出来ます」

 

雪乃「……」

 

都築「この主人公は雪乃様なのですよ」

 

雪乃「この子は……わたし」

 

そう呟いた雪乃様はむくりと起き上がり、一階へ降りていった。

 

都築「ふふっ」

ベッドに置かれたキーホルダーは、幼稚舎用の鞄に付け、準備をする。このまま休む事にならず、雪乃様が幼稚舎に行く事を決意して下さって良かった良かった。

 

 

-------------

 

 

 

〜幼稚園 入園式直前〜

 

 

「それじゃあ皆ー!移動するから隣のお友達とお手手を繋いでねー!」

 

ぎゅっ

 

雪乃「!?」

 

ばしっ

 

雪乃「いきなりわたしのてをにぎるなんて、なんて ふらちで へんたいなのかしら。これいじょういわれたくなかったら、にどとわたしにさわらないでちょうだい」

 

「う、う、うわあああああああん!!!」

 

「ああ!!ど、どうしたの!?何があったの!?」

 

 

 

 

雫乃「あわわわ……雪乃……」

 

都築「……」

 

前言撤回。休ませた方が良かったかも知れません。

 

 

 

 

 

 

 

「な、なんだあいつ……」

 

 

-------------

 

 

 

ようちえんにきてしばらくたつけれど、えほんのようなことは まだおこってない。きょうもわたしはひとりでいる。ほかの子たちはみんなグラウンドであそんでるのに。

 

雪乃「……」

 

つづきさんのうそつき。……ん?

 

雪乃「あの子もひとり……」

 

みんなあそんでるのに、あの子はすみっこでボーッとしてる。あ、こっちにをみた。……ビクッとされた。目をそらされた。

 

雪乃「む……」

 

しつれいな子。

きづいたらわたしはすこしずつ、その子にちかづいていた。

 

雪乃「……」

 

「……」

 

雪乃「……」

 

「……」

 

知らんぷりをつづけてる。ほんとにしつれいな子ね。

 

雪乃「……きづいてるでしょう。こっちをみなさい」

 

「……なんだよ」

 

雪乃「なんだじゃないわよ。さっきはロコツに目をそらすし、わたしがあなたに ちかづいてるあいだ、すごくいやそうなかおをしてたでしょう」

 

「……してない」

 

雪乃「わたし、きょげんは はかないの。たったいまうそをついてるあなたとちがってね」

 

「そ、そうか……」

 

雪乃「ところであなた、なんでひとりなの?」

 

「いきなりしつれいなやつだな」

 

雪乃「いいからこたえなさい」

 

「見りゃわかるだろ、ともだちいないんだよ」

 

雪乃「あら、かわいそうな子」

 

「そんなにおれをいじめたいか。つかおまえも一人じゃん」

 

雪乃「わたしはココウ?だからちがうのよ」

 

「ああそう……」

 

雪乃「む……なによそのたいど……」

 

「いや、べつに」

 

雪乃「むう……」

 

 

『そろそろ教室に戻ってきてねー!』

 

「お、やっとおわったか……。それじゃあな」

 

雪乃「あっ!まちなさい!」

 

その子は はしっていった。さいしょからさいごまで しつれいな子だったけれど、ひさしぶりに ほかの子と はなしをしたきがする。

 

 

---------

------

---

 

 

「おやつの時間ですよー」

 

 

せんせいがみんなにおやつをくばる。きょうのおやつはクッキーとチョコ。

 

雪乃「ふふ、おいしい」

 

クッキーはさいごにたべたいから、おさらにのこしておく。

 

「まてよー!」

 

「あっはっは!」

 

雪乃「いたっ……」

 

ほかの男の子たちが はしりまわってて、わたしにぶつかった。つくえを見ると、クッキーがない。

 

雪乃「あれ……。ああっ……」

 

したを見ると、クッキーが落ちてて、われていた。

 

雪乃「……」

 

たのしみにしてたのに……。

 

 

 

「ん……?」

 

雪乃「……」

 

「……はあ。……おい」

 

雪乃「……え?」

 

「ほら」

 

雪乃「……クッキー?」

 

「やるよ」

 

雪乃「でも、これはあなたのでしょ?」

 

「クッキーきらいだから、かわりにたべてくれ」

 

雪乃「……」

 

「ああもう、ほら、ここおいとくからな」

 

そういって、いつもひとりでボーッとしてた子は、クッキーをくれた。

 

 

----------

 

 

雪乃「ねえ」

 

「ん?」

 

雪乃「さっきは、あの、……ありがとう」

 

「いや、おれもクッキーどうしようかとおもってたから、だいじょうぶだ」

 

雪乃「クッキーきらいなの?」

 

「……きょうはきらいだった」

 

雪乃「きょうは? あなたかわってるのね」

 

「うるせ」

 

雪乃「ふふっ」

 

なふだをみた。ひきがやはちまん。ひきがやくん。おぼえておこう。

 

 

---------

------

---

 

あの日からわたしはひきがやくんにはなしかけることがふえた。ひきがやくんもわたしのなまえをおぼえてくれた。

かれはほかの子とちがって、へんな子だ。でもいっしょにいてたのしい。

 

雪乃「えっと、ひきがやくんは」

いつもはここにいるのだけれど……。

 

「ほらはちまん、はやくいかないとおもちゃとられちゃうよ」

 

八幡「いや、おれはいいからひとりであそんでこいよ……」

 

雪乃「む……」

 

いた。でも、しらない女の子といっしょだった。

 

雪乃「ひきがやくん、その手をはなしなさい」

 

八幡「ん、ゆきのした?」

 

「ちょっと、いきなりなんなのさ」

 

雪乃「わたしはあなたのためにいってるのよ」

 

「いみわかんないよ。ほらはちまんいこ」

 

八幡「うわっ……ひっぱるな……」

 

雪乃「……」

 

ひきがやくんは女の子につれていかれた。

 

雪乃「……」

 

 

 

 

 

「じゃあはちまんはおとうさんのやくね」

 

八幡「ええ……」

 

雪乃「ならあなたはこどものやくをしなさい」

 

八幡「うわ、……ゆきのした?」

 

雪乃「あら、ひきがやくん。きぐうね」

 

「ちょっと、おかあさんやくはわたしだよ」

 

雪乃「おかあさんはわたしよ」

 

「さっきからいみわかんないよ」

 

雪乃「なによ」

 

「なにさ」

 

雪乃「……」

 

「……」

 

八幡「ちょ……せ、先生!!たすけて!!」

 

 

---------

------

---

 

 

あの女の子はしぶやりん さんというらしい。あのあとなぜか、せんせいがきて、せんせいがおかあさんやくをした。わたしとしぶやさんは こどものやくだった。

つぎの日からしぶやさんもいっしょにあそぶことがふえた。

 

 

---------

------

---

 

 

雪乃「ほうじょうさんは えがじょうずなのね」

 

加蓮「ありがとう。えへへ、わたしおえかきすきなんだ」

 

雪乃「わたしもいっしょにかいていいかしら?」

 

加蓮「うん!いっしょにかこう!」

 

 

 

---------

------

---

 

 

奈緒「ほらゆきの、これあたしのおきにいりのにんぎょうだ!」

 

雪乃「へえ」

 

奈緒「ん?ゆきののもってるキーホルダー、それなんだ?」

 

雪乃「これ?これはパンさんのキーホルダーよ」

 

奈緒「へー!パンさんっていうのか!かわいいなあ!」

 

雪乃「ふふん、そうでしょう。でもかみやさんのそのおにんぎょうも すてきよ」

 

奈緒「へへん!だろー!」

 

 

---------

------

---

 

 

雪乃「はやみさん、なんども言うけれど、あまりひきがやくんにベタベタしないほうがいいわ。ひきがやきんにやられてしまうわよ」

 

奏「あら、そんなこと言って、ほんとうはあなたがはちまんくんとあそびたいんじゃない?」

 

雪乃「な、なにを言ってるのかしら!」

 

奏「ふふ、照れちゃって♪」

 

 

---------

------

---

 

 

凛「ほら、いくよ」

 

奈緒「きょうはなにしてあそぼっかなー!」

 

奏「ほらはちまんくん、おいていくわよ♪」

 

八幡「かってに行ってこいよ……」

 

 

加蓮「ゆきのちゃん、いっしょにいこ。みんなまってるよ!」

 

雪乃「うん」

 

 

 

 

-------------

 

 

 

 

雪乃「……ん」

 

 

目を覚ますと外は既に明るくなっていた。起き上がる。胸の辺りが温かい。とても懐かしい気持ちになる。

しばらく胸の辺りを優しく押さえていると、ドアがノックされ開く。

 

都築「雪乃様、おはようございます。……ん?どうなさいました?」

 

雪乃「……いえ、何でもないわ」

 

都築「は、はあ……。朝食の準備が出来ておりますので、一階へお越しください」

 

雪乃「ええ、わかったわ」

 

そう返事すると都築さんは背を向け退室しようとしたが、呼び止めた。

 

雪乃「都築さん」

 

都築「はい?」

 

 

 

 

 

 

 

雪乃「ふふ、あなたの言う通りだったわ」

 

 

 

 

 

 

おわり

 

 






次回から本編に戻ります。



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もしもあの日に戻れたら7

明けましておめでとうございます。
お久しぶりです。いやあ、忙しい……。昨日iPad miniを購入しました。今現在iPhoneでやっているデレステとミリシタをこっちでやろうと思ったのですが、デレステはロードの段階で落ちて、ミリシタはインストールしようとすると「このiPadと互換性がありません」と、インストールすらしてくれませんでした。miniでは出来ないんでしょうか……。

中学生編はそろそろ終わりたいですね。早く高校生編に行きたい……。
それでは短いですが、今回もよろしくお願いします。




八幡「それで、どういう事なんだ?説明してくれ」

 

雪乃「……」

 

放課後に行われている報告会。今日はいつもよりも空気が重い。八幡が説明を求めても雪乃はシラを切るように目を合わそうとしない。それを見て八幡も溜息を漏らす。

 

昨日の放課後、とうとう八幡にバレてしまった。雪乃と奏、遅れて私も八幡を追いかけたけど、後一歩及ばなかった。私達が八幡に追いついた時、目の前にはかおりと野中が取っ組み合った状態で居た。あとそれを必死に止めようとしていた奈緒と加蓮も。先に駆けつけていた上里と恵は野中をかおりから剥がして宥めていた。

最終下校時刻が近付いていたこともあり、部活生もちらほら帰っていて、先生達も見回りをしていた事もあり、緊迫していたその場は事なきを得た。

 

小町「だ、だからお兄ちゃん、別になんでもないんだってば……あ、そうだ!今日はラーメン食べに行こうよ!小町久しぶりにお兄ちゃんとラーメン食べに行きたいな!」

 

この空気を必死に誤魔化そうと小町が口を開くけど、八幡にじろりと見られると笑顔だった表情も次第に暗くなった。

昨日あの場に遅れて来た小町は、なかなかその場から離れようとしない八幡を無理矢理引きずるように駐輪場まで連れていった。知られてしまったけど、あれは小町なりの最後の抵抗だったのかもしれない。

 

八幡「はぁ……。埒があかないな。なあ折本、教えてくれ。昨日のアレは、本田の件でああなったのか?」

 

雪乃に聞いても口は開かないと判断した八幡は、かおりに聞く。かおりは思いの外すんなりと首肯した。

 

かおり「そうだよ」

 

雪乃「折本さん、あなた何を勝手に」

 

かおり「何故か比企谷には知られたくないみたいだけど、それは雪ノ下さんたちの都合でしょ?あたしには関係ないよ」

 

雪乃「何ですって?」

 

かおり「聞こえなかった?大体やり方が回りくどいんだよ。一体いつまで連中の様子を探るなんてことやってるのさ」

 

雪乃「それは確実に彼女達を糾弾するための証拠を」

 

かおり「あのままずっとあいつらが鳴りをひそめてたらどうすんの。大体その間に何で未央がまだ被害に遭わなきゃなんないのよ」

 

八幡「待て待て、お前らが争ってどうするんだ。まずはこれまで何があったのかを教えてくれ……」

 

言い争う雪乃とかおりを八幡が止める。八幡がチラリと雪乃を見ると、溜息だけをつき、それを肯定とみなしかおりが話し始めた。

 

 

 

-------------

--------

----

 

 

八幡「はあ……。最近小町と佐久間がやたらくっ付いてくると思ったけど、そういう事か……。……となると、昨日お前と取っ組みあってた奴が野中って奴で、他の二人が上里と恵って奴。で、三人の関係性を見るに野中が主犯だって事か」

 

かおりは私達の活動を含めて、これまでの流れを八幡に話した。

 

かおり「確信はないけど、十中八九野中が主犯だろうね」

 

八幡「確信無いのによくあんな取っ組み合い出来たもんだよほんと……あと違ってたらすまんが、さっき雪ノ下と言い争ってた時、『何でまだ被害に』って言ってたな。途中で俺が止めてしまったけど、こいつらに相談した日から昨日までの間に、本田に何かあったのか?」

 

八幡がそう聞き、雪乃がかおりをじろりと見る。

 

雪乃「折本さん、それは本当かしら?」

 

かおり「……」

 

雪乃「折本さん、答えなさい」

 

 

加蓮「あの、かおり……。昨日私と奈緒が校舎裏で二人を見つけた時、かおりは『昨日未央に何した?』って野中さんに聞いてたけど、もしかしてその事なの?」

 

昨日?確か、未央が報告会に来なかった日?

 

かおり「……そう」

 

加蓮の推測に頷く。ぽつり、ぽつりとその時の未央の様子を語りだした。

 

-----------

 

 

凛「……」

 

奈緒「未央がそんな感じってのは想像出来ないけど、かおりがそう言うならそうなんだろうな……」

 

加蓮「……」

 

雪乃「でも折本さん、何故それを言わなかったのかしら?」

 

奏「気持ちは分かるけど、昨日のアレは危ないわ。しかも一人でなんて……」

 

かおり「……そのことに関しては謝るよ。でも、昨日学校へ来て、何も変わらず過ごしてるあいつらを見てると居てもたってもいられなかったんだよ」

 

八幡「……」

 

八幡は荷物を纏め始めた。何も言わずに教室を出ようとする。

 

凛「八幡?」

 

雪乃「待ちなさい比企谷君。あなたどこへ行く気なの?」

 

八幡「どこへって、帰るんだよ。話を聞いといて何だが、俺らにどうこう出来る事じゃなさそうだからな。お前らも薄々思ってるんじゃないのか?」

 

かおり「なっ……比企谷、あんた」

 

奈緒「比企谷……何もそこまで言わなくても……」

 

加蓮「そうだよ……」

 

雪乃「……そう。そうして貰えるならこちらも都合がいいわ。早く帰りなさい」

 

八幡「へいへい。お前らもさっさと帰れよ」

 

そう言って八幡は教室を後にした。

 

 

凛「八幡……」

 

 

 

 

---------------

 

 

 

 

かおり「何、あいつ……」

 

アタシは帰りながら、さっき教室を出ていった男を思い出していた。

比企谷八幡。なんか暗そうな奴だと前から思っていたけど、あれはダメだ。性根がそもそも真っ暗。腐ってる。何であんな奴をあの子達は気に入ってるんだろう。

 

かおり「……」

 

むかつく。かっこつけて駆けつけて、事情を聞いて無理帰る。何それ。かっこ悪。むかつく。

 

別にあいつに期待してたわけじゃないけど……

 

 

 

『俺らにどうこう出来る事じゃなさそうだからな。お前らも薄々思ってるんじゃないのか?』

 

 

 

かおり「……っ」

 

 

足元に転がってる小石を蹴る。離れていく小石を眺めていると、うちの学校の制服を着た男子生徒の前で止まった。下を向きながら歩いていたから気付かなかったが、今一番会いたくない男だった。

 

八幡「よう、やっと来たか」

 

かおり「……帰ったんじゃなかったの」

八幡「そう思ったんだがな、お前にちょっと用があったのを思い出してな」

 

かおり「……何それ、ウケないんだけど」

 

八幡「それに関しては同感だ。でも今から言うことを聞いてもっとウケないかもな」

 

 

比企谷は鼻で笑った後、真面目な顔になり言い放った。

 

 

 

 

 

八幡「……折本。本田の件、俺に預けないか?」

 

かおり「……は?」

 

 

 

本当にウケないんだけど。何を言ってんの?こいつ……。

 

 

 

 

続く




今回もありがとうございました。




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もしもあの日に戻れたら8


あと残り二話です。





 

 

 

さて、とりあえず例の三人の顔は覚えてる。早速本田のクラスの連中へ聞き込みへ行くとするか。あの三人にバレないように慎重に……。

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------

---

 

 

とりあえず数人に聞いてみたが……

 

Q.『三人はどんな人物?』

 

A.『えっ、あの、突然何ですか……。あなた誰ですか?』

 

 

Q.『最近クラス内で何かあった?』

 

A.『うーん、特に無いなあ。えっと、ごめん、きみ誰だっけ?』

 

------

---

 

 

あぁ緊張した。俺には二人が限界だったわ。しかも苦労した割には全く情報を得れてないし……。あとなんで二人とも最後に俺の影の薄さを指摘するんですかね。

情報の少なさ、自身の存在感の無さに辟易していると、胸ポケットに入れていた携帯電話が振動する。

 

八幡「知らないアドレス……。誰だ?」

 

 

 

 

『昼休み、屋上に来て』

 

 

--------------

 

 

 

 

昼休み、メールで言われた通り、屋上へと向かう。少しばかり、あのメールは悪戯で、屋上に行っても誰も居ないんじゃないかとかいう考えもよぎったので少し身構えながらドアを開けた。

 

 

八幡「って、折本?あのメールお前が送ったのか?」

 

かおり「あんたが昨日アドレス書いた紙渡してきたんじゃん」

 

あ、そうだった。忘れてた。その後よくよく考えたら自分の行動が自意識過剰な勘違い野郎みたいに思えて家で悶えたんだっけ。記憶から消したかったのかもしれないな。

 

八幡「ごほん。そ、それで、何の用だ?」

 

かおり「露骨に誤魔化してるし……。それと用って、昨日の今日で用件は一つしかないでしょ」

 

そりゃそうか。

かおり「ねえ比企谷、あんたに任せたら、本当に未央は救われるの?あんたはこの件を解決できるの?」

 

八幡「……解決は正直分からない」

 

かおり「……」

 

八幡「だが、解消くらいはしてやれるかも知れん」

 

かおり「解消?」

 

八幡「全部上手くいってハッピーエンド、て言うのは俺には土台無理な話かも知れないが、問題を途中で無理矢理終わらせる。これならまだ可能性がある」

 

かおり「……何か考えがあるの?」

 

八幡「いや、今の所は全くだ。昨日お前に帰られて、仕方ないからさっきまで本田のクラスの連中に聞き込みしてたんだ。何せ情報が少なすぎる。だけど捕まってくれたのが二人だけでな。あとは俺の存在に気付かずスルーされたよ」

 

かおり「……確かに影は薄いね」

 

八幡「いやあの、一応これ自虐だから、自分以外に言われると傷つくんだけど。つか真顔で言うな」

 

かおり「ふふ、そういう所はウケる」

 

八幡「お前、俺の事嫌いだろ」

 

かおり「まあね。昨日の放課後のあの態度見たらそう感じるんじゃない?」

 

八幡「うっ……まあ、そうだな」

 

かおり「……」

 

八幡「折本?」

 

かおり「はあ、まあいいや。……。……何か書く物ある?」

 

八幡「は?」

 

かおり「いいから、何かペンなり何なりメモ出来るもの持ってんのかって聞いてんの。どうせさっきの話からしてクラスの子達から碌な事聞けなかったんでしょ?」

 

八幡「あ、あぁ……。まぁな」

 

かおり「小学校の時は何回かクラスが同じになった事がある程度、中学に上がってからはほぼ接点は無くなったから大した事は教えてあげれないかもしれないけど、まあ比企谷の聞き込みよりはマシだろうからね」

 

八幡「……」

 

かおり「何?」

 

八幡「いや、有難いんだが、何でまた急に?」

 

かおり「別に、何となくだよ。……もう、書く物持ってないなら携帯にでも打ち込みなよ。いい?それじゃ、まずは上里だけど……」

 

 

-------

-----

---

 

 

かおり「ってとこかな……」

 

八幡「なるほどな。確かに俺の聞き出した事とは雲泥の差だ」

 

かおり「どう?役に立ちそう?」

 

八幡「さあな。でも、何も知らないよりは遥かにマシだ」

 

かおり「はあ。素直にお礼くらい言えないわけ?」

 

八幡「今言おうと思ってたんだよ」

 

かおり「別にいいけどさ。あたしの用はそれだけだから。もう行っていいよ」

 

八幡「おう。それじゃ俺は戻るわ。ありがとな」

 

かおり「……」

 

 

かおり「……比企谷」

 

八幡「ん……?」

 

かおり「……いや、いい」

 

八幡「?そうか。じゃあな」

 

 

 

-------------

 

 

 

 

 

 

比企谷が屋上を後にする。

 

かおり「……」

 

 

 

 

------------

------------

 

 

--昨日--

 

 

かおり『……は?』

 

八幡『だから、本田の件、俺に預けないか?』

 

かおり「いや、聞こえてるから、聞こえた上でだから。あんた、さっきまであんな態度とっといて何言ってんの?」

 

八幡「それは何ていうか、あいつらの手前な……。すまん」

 

かおり「意味わかんないよ。というか何でそもそもあの子達は比企谷に内緒にしてたの?」

 

八幡「それは分からん。いや、思い当たる節はないとも言えないけど……」

 

かおり「?」

 

八幡「とにかく、これはお前らの出来ることじゃそもそも無いんだ。悪いことは言わない。教室での事も気に障ったんなら謝る。もう何もするな。残りは俺が引き継ぐから、三人の情報を何でもいいから教えてくれ」

 

かおり「……」

 

八幡「……折本?」

 

かおり「……未央はアタシの親友なの。わかる?」

 

八幡「? ああ」

 

かおり「凛達はアタシも未央も仲がいいから、だからあの子達にも協力して貰ったの。それに比べて、名前と顔がやっと最近一致したくらいの奴に、あとは任せろって言われて、こっちが素直に納得出来ると思う?」

 

八幡「……」

 

かおり「しかもどう見ても頼りなさそうな奴に。……無理だよ。任せられない。比企谷に未央を助ける事は出来ないよ……」

 

普段は誰に対してもそんなきつい事は言わないけど、この時は少し言いすぎてしまったかもしれない。そのことに対する少しの罪悪感から、早足で帰ろうとするアタシは比企谷に呼び止められる。

 

かおり「……何?」

 

八幡「ああ。ちょっと待ってくれ。えっと……」

 

比企谷は鞄からメモ用紙、ポケットから携帯を取り出して、何かを用紙に書いていた。

 

八幡「……ええと、これ。俺のアドレス……」

 

かおり「……は?」

 

思わず今日二度目の間の抜けた返事をしてしまう。こいつは何を言ってるんだろう。

 

八幡「どうも今日は話を聞けそうにないからな。本田のことや、あの三人の事を教えてくれる気になったら、ここに連絡してくれ」

 

かおり「……」

 

八幡「……えっと、何だ?」

 

……はあ。やっぱり見れば見る程頼りになりそうにない……。仕方なくそれを受け取る。

 

かおり「連絡はしないと思うよ?」

 

そう言ってアタシは再び家へ向けて歩き出す。

 

 

 

 

-------

----

--

 

 

 

--昨日、夜--

 

未央の件について考えようとしても、あの男子が頭から離れてくれない。あいつの事をほぼ何も知らない私は、友人に電話を入れた。

 

 

 

奈緒『もしもし?』

 

かおり「あ、奈緒?かおりだけど。ごめん、いま大丈夫?」

 

奈緒『ああ。大丈夫だよ。どうしたんだ?』

 

かおり「うん。……えっと、突然で悪いんだけど、比企谷ってどんな奴なの?」

 

奈緒『えっ?……えぇ!?』

 

かおり「いや違うよ。奈緒が思ってることでは絶対無いよ」

 

奈緒『そ、そうか。ごめんごめん、比企谷がどんな奴、か。』

 

かおり「うん」

 

奈緒『うーん、先ずあたしら以外にあいつは友達は居ないな』

 

かおり「そ、そう」

 

やっぱそんな感じの奴か。

 

奈緒『あとやたらまゆが懐いてる』

 

それも見たことある。てかまゆは人気あるから男子とか自然と目で追ってるんだよね。比企谷を物凄いスピードで追っていた時は流石に男子みんなの顔が引きつってたけど……。ちなみにアタシも。

 

奈緒『まあまゆだけじゃなくて、あいつら全員比企谷に懐いてるな』

 

かおり「こんな事言うのも変かもしれないけど、それは何で?」

 

そう、そこなんだ。奈緒も含めて、校内でトップレベルに可愛い女の子達。いや、校内だけでなく、誰が見ても可愛いと答えるだろう。そんな子達。言っちゃ悪いかもしれないけど、比企谷は男子生徒の内の一人。平々凡々な普通の男子なんだ。それが何であんなラ、ラノベ?の主人公のような状態になってるんだろう。

 

奈緒『うーん……。多分、あたしにはかおりが言いたいことは分かると思うんだ。確かにあいつは見た目は普通の男子なんだ。それこそどこにでも居るような。しかも性格も素直じゃないし、偶に訳分からないようなこと言うし、雪乃にはよく罵倒されるし』

 

かおり「……」

 

奈緒『でもやっぱり、あいつはすごい優しいんだよ。お人好しとも言えるかもしれないけどな。自分のことなんて二の次にしてでも他人を助けようとしちゃうんだ。本人は否定するだろうけど、あいつら皆、昔比企谷に助けて貰ったことがあるんだ』

 

かおり「比企谷に?」

 

奈緒『ああ。あたしと凛と加蓮、奏は幼稚園の頃。他にも沢山。雪乃は小学校の頃な。雪乃はあたし達が比企谷と知り合った前から既にあいつと居たから、もしかしたら雪乃もあたし達が知らないだけで他にも助けて貰ったことあるのかもな』

 

かおり「そう……」

 

それはとても意外だ。

 

奈緒『あの、もしかして、報告会の時のあいつを見たから電話したって感じ?』

 

かおり「うん、まあ、そんな感じかな」

 

あいつに任せて大丈夫なのか、その確認も有るけど。

 

奈緒『そっか……。悪く思わないであげてくれ。きっとあいつはあたし達の事を心配してくれてるんだ。だから少しきつい物言いになっちゃったと思うんだ。……まあ流石にあれは駄目だろうと思ったけど』

 

かおり「……うん。分かった。ありがとう奈緒。じゃあそろそろ。切るね」

 

奈緒『あー……、えっと、うん』

 

かおり「ん?どしたの?」

 

奈緒『い、いやいいんだ。じゃあまた明日……』

 

かおり「えー?気になるじゃん。教えてよ」

 

奈緒『いや、多分聞いたらかおりはいい気分はしないと思うんだ。……そう言ってる時点で駄目か。……実は、かおりに謝らなくちゃならないんだ……』

 

かおり「アタシに?」

 

奈緒『うん……。かおりは未央のことを本当に大事に思ってるだろ?』

 

かおり「うん。もちろんだよ」

 

奈緒『あたしもそれは一緒だよ?未央のことは本当に大切な友達だ。でも、その、あたしは加蓮も同じくらい大事な友達なんだ』

 

かおり「……」

 

奈緒『加蓮は正直、今回の事に初めからあまり乗り気じゃなかったんだ。優しいから口には出せなかったみたいだから、知ってるのはあたしだけなんだけど……』

 

かおり「……」

 

奈緒『あの子は昔から身体が弱いんだ。だから、もしまたあの三人と接触したらって思うと、心配で仕方ないんだ……』

 

かおり「……うん」

 

奈緒『だから、その、未央と同じくらい、加蓮のことも心配なんだ。あたしは加蓮を守らなくちゃいけないんだ。そう約束したから……。だから……』

 

かおり「分かってたよ」

 

奈緒『え……?』

 

かおり「加蓮があまり乗り気じゃ無いことも、奈緒が加蓮を心配してたことも、何となく分かってたよ」

 

奈緒『……』

 

 

本当に、何となくそうなんじゃないかとは思っていた。普段明るい加蓮は報告会の時は口数も減るし、ソワソワしている。奈緒は加蓮が教室の外に出る度に着いていこうとしていた。過保護な程に。

そんな、言わば中立の立場である二人のどちらに電話をしようか、どちらに比企谷の事を聞こうか迷った。でも、加蓮の方は比企谷の妹ちゃんと、雪ノ下さんと凛と一緒に居た日があったらしいから、万が一、あの二人に言われるかもしれない可能性があったから奈緒にした。どうやら奈緒にして良かったらしい。こうして本音も聞けたわけだし。

 

かおり「でも、それを奈緒が謝る必要はないんだよ?二人が仲良いのは知ってるからね」

 

 

奈緒『……』

 

かおり「アタシにとって未央は大事な友達。だから気持ちは痛いほどよくわかるよ。だから、奈緒がその事で謝ったら駄目だよ?」

 

奈緒『……ぐぅ、うぅ、ごめん……。ごめんねぇ……。こんな気持ぢで……、ひぐ、何の役にも、立でなぐでぇ……』

 

かおり「だから、謝ったらダメだってば、ぷふっ、ウケる」

 

奈緒『わ、笑うなよぉ……かおりが電話掛けてくる前まで、ずっと、なんて言ったらいいか悩んでたんだぞぉ……』

 

かおり「ふふ、そっか。ごめんごめん、アタシがさっき報告会の時にあんな態度とっちゃったからだよね。……でもありがとう。奈緒と電話して、決心ついたよ」

 

奈緒『え……?』

 

かおり「アタシ達、お互い守ろうね。絶対」

 

奈緒『?……うん……』

 

かおり「じゃあ、今度こそ、切るね。言ってくれてありがとう。また明日」

 

 

------------

------------

 

 

 

 

 

かおり「……」

 

 

奈緒は加蓮を、アタシは未央を守る。だから、あの三人は比企谷、あんたに任せるよ。

 

 

 

かおり「頼んだよ、比企谷……」

 

 

 

続く

 

 

 






今回もありがとうございました。




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