黒の剣士の英雄譚(キャバルリィ) (ミヤイ)
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プロローグ「SAO」


























VRMMORPG第一弾SAOの舞台であるアインクラッドに閉じ込められてから2年後……
彼らの物語は新たな方向へと動き出した……


アインクラッド第75層……

ボス戦終了後、黒一色のコスチュームから黒の剣士と呼ばれた少年キリトはある違和感に直面した。

 

 

『なんで、ヒースクリフはあんな余裕の表情なんだ???それにHPの減りも……』

 

 

攻略組の一角を担うギルド血盟騎士団の団長である白い髪に前髪をあげ後ろで縛っていたガッチリ体型の青年、ヒースクリフのHPの減りに疑問を感じた……いや、それだけじゃない。ほかのプレイヤーは、既にヘロヘロで身動きすら取れない状況にも関わらず、ヒースクリフは余裕の表情で仁王立ちしていた。積もり積もった疑問がキリトを突き動かした。彼は、愛剣であるエリュシデータをギュッと握りしめると片手剣ソードスキルのレイジスパイクを放つが、それは弾き飛ばされると、ヒースクリフの前には破壊不能オブジェクトが出現していた。

 

 

「キリト君……これは、破壊不能オブジェクト!?」

 

「あぁ、こいつはシステムによって守られてたんだ。俺たちが必死になって戦って精神的にも疲れてるはずなのに一人涼しそうな顔してるから怪しいとは思ったんだ……ヒースクリフいや、茅場晶彦!!」

 

 

誰もがその名前に驚いた。キリトの近くまで駆け寄った副団長の女性プレイヤーのアスナは、ヒースクリフを睨みつけた。だが、ヒースクリフは逆に誇らしく振舞ったままだった。

 

 

「いや、完璧だよ!キリト君。良くもあっさりと私の正体を見抜くとはね。」

 

 

その態度に腹を立てたプレイヤーが何名かヒースクリフに向かって剣を向けると彼は、ウインドウを開くとあるシステムを発動させキリト以外の全てのプレイヤーに麻痺をかけた。

 

 

「キリト……君……」

 

「アスナ、みんな!?」

 

 

次々と麻痺によって体が動かせずにその場に倒れ込むプレイヤー達……ふらついたアスナを抱きながらキリトは、その場にしゃがみこむとヒースクリフは、キリトを挑発し始めた。

 

 

「キリト君、君には私を見抜いた褒美をやらなければならないな。」

 

「褒美?」

 

「今から私と1対1のデュエルをしようではないか。勿論、不死属性は解除する。君が勝ったらゲームはクリアだ!」

 

 

そんな挑発に対してキリトは、今まで目の前で死んでいったプレイヤー達の表情をこと細かく脳裏に流れ込んできた。全ての首謀者であるヒースクリフを自らの手で倒す。そういった考えにたどり着くとキリトは、湧き上がる怒りを抑えながら呟いた。

 

 

「__イイだろう、その勝負受けてやる!!」

 

「キリト君……」

 

 

戦闘に向かう夫を心配した妻のような目をしながらアスナは、キリトの名を呼んだ。すると、キリトはアスナを安心させようと微笑みながら彼女の綺麗な髪を撫でた。

 

 

「大丈夫、生きて帰ってくるから。」

 

「うん、約束だよ?」

 

 

アスナの言葉にうんと頷くとキリトは、アスナをゆっくり横にさせると立ち上がり一度鞘に戻した2本の剣、エリュシデータとダークリパルサーを引き抜くとゆっくり前に出てヒースクリフと対峙した。一方、ヒースクリフは不死属性を解除してHPもキリトと同じくらいまで下げた。そして、全ての準備が整うとヒースクリフはキリト宛にデュエル申請をメッセージで飛ばすと、キリトは完全決着モードを選択してデュエルを承諾した。

すると、同時にデュエル開始のカウントダウンが刻々と始まった。

 

 

『これはデュエルじゃない……俺は、この男を……殺すッ!!』

 

 

キリトの目付きが殺意の篭った目へと変わったと同時にカウントがゼロになりデュエルが始まりを告げた。キリトは、開始直後から2本の剣を振り回して果敢に攻めるがヒースクリフは、背丈ほどの大きさの盾インセインコンカラーでキリトのすべての攻撃を防いでいた。

 

 

『SAOを作り出したのは、奴だ!システム上の連携技は全て見切られてしまう……ソードスキルを使わないで奴を倒すしかない!!』

 

 

キリトはそう思いながら必死に剣を振るが、今度は、この盾とセットになっている刀身が長い剣インセインルーラーを突き出しキリトの頬をかすると少し焦りを感じてしまい、無意識に二刀流ソードスキルであるジ・イクリプスを発動した。ヒースクリフは、キリトの攻撃を見てニヤッと笑いながらインセインコンカラーで全て受け止める。

 

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」

 

 

キリトは、叫びながら27連撃の猛攻を見せるも最後の突きも弾き飛ばされてダークリパルサーの剣先が砕けてしまった。

 

 

『アスナ、君だけは生きて!!』

 

「さらばだ!キリト君!!」

 

 

ダークリパルサーが砕け、敗北を感じ取ったキリトは愛した彼女がこれからも先の未来で生きていることを願いながらヒースクリフの右斜め下に振り下ろしたソードスキルを受けてしまった。HPのバーが物凄い勢いで減り始めた。

 

 

「キリト君!!」

 

「キリト!」

 

「キリト!!」

 

 

まだ、麻痺が解除されていないアスナ、クライン、エギルの3人は倒れかけたキリトの名を呼んだ。その声を聞き、エリュシデータを杖替わりにして体を支えた。

 

 

「__まだだ!!」

 

 

キリトは、そう叫びながら再び走り始めると片手剣ソードスキルのホリゾンタル・スクエアを放つとすぐに移動しながら今度は、ヴォーパル・ストライクを放つ。残されたスピードのみでヒースクリフの判断予測を越えようとしたのだ。

 

 

「無駄だ、キリト君!!」

 

 

ヒースクリフは、そういってはインセインルーラーを振り回すがキリトは、エリュシデータでその一撃を受け流すと、ヒースクリフの懐に入り込んでバーチカル・スクエアを放つ。

 

 

「何!?」

 

「__ここだ!!」

 

 

驚くヒースクリフとは裏腹にキリトは、同じく片手剣ソードスキルであるシャープネイルを発動させて素早く剣を薙ぎ払うように振り3連撃を決めた。しかし、ヒースクリフはインセインルーラーを横に振りキリトの腰に刺し込むとそのままへその辺りまで動かすと強く押し込んだ。

 

 

「__ぐっ!?」

 

「相変わらず君の秘められた力には驚かされるよ、キリト君。」

 

 

このままじゃ、死ぬ……そう思ったキリトは何とかしてインセインルーラーから逃れようとするも身動きが取れなくなっていた。そんなヒースクリフの背中に回り込んだ細剣使いのアスナは、片手細剣ソードスキルのリニアーを放つ。

 

 

「あ、アスナ?」

 

「キリト君!!」

 

 

ヒースクリフがアスナの方を振り向いた瞬間にインセインルーラーから開放されたキリトの所へヒースクリフの剣を躱したアスナがやって来た。

 

 

「大丈夫!?」

 

「あ、あぁ……」

 

 

アスナの心配にキリトは、そう答えると再び立ち上がる。

 

 

「アスナ君……君は、素晴らしい。麻痺状態を解除してまでキリト君を助けるとは……」

 

 

キリト達から少し距離を置いたヒースクリフは、再びウインドウを開き管理者権限によってまた別のシステムを動かし始めた。アスナのHPの部分に麻痺と毒のマークがついた。

 

 

「え、嘘!?」

 

「ヒースクリフ、アスナに何をした!?」

 

「何って毒をプレゼントしたのさ。それもこのフロアより上の階層にある猛毒をね……早くしないとアスナ君は、毒死するよ?」

 

 

愛する人を天秤にかけられたキリトは、怒りを抑えきれなくなってしまった。左手で握りこぶしを作るとその手をアスナは、両手で包み込むように掴んだ。

 

 

「キリト君、これを使って……」

 

「これは……」

 

 

振り向くとアスナは、自分の愛剣であるランベントライトだった。キリトは、アスナの方を振り向きランベントライトを左手で持つといつもの二刀流の構えをとると再びヒースクリフとの距離を縮めた。お互いに当たったり当たらなかったりの攻防が続く中、キリトの瞳は普段の黒色から黄色に変わると、知らぬ間に反射速度は少し上がっていてヒースクリフの攻撃を躱すようになっていた。

 

 

「まさか、システムを上回ってるだと!?」

 

「これで決める!!」

 

 

キリトは、そう叫ぶと二刀流ソードスキルであるスターバースト・ストリームを発動させながらヒースクリフとの距離を縮めるとステップで背後に回り込むとスターバースト・ストリームを放ち始めた!!

 

 

「喰らえぇぇぇぇえ!!!」

 

 

インセインコンカラーで殴られるもキリトは、ランベントライトを前に出すと同時にキリトは、インセインルーラーの剣先が自分の胸に刺さっていた。

 

 

「相打ちか……実にいいデュエルだった……」

 

 

そう言うとキリトとヒースクリフそれにHPが切れたアスナは、ガラスの破片のようた姿を消した。

 

 

その後、ゲームはクリアされて残りの約6000人のプレイヤーが生還した。




《次回予告》
ヴァーミリオン王国のステラ・ヴァーミリオンは、伐刀者(ブレイザー)としての己の能力を上げるために日本にある魔導騎士養成学校、破軍学園への留学をする。
来日当日、彼女はルームメイトの黒鉄一輝と一悶着あり……


第1話「紅蓮の皇女と落第騎士」



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第1章「校内予選」
第1話「紅蓮の皇女と落第騎士」


プロローグだけでお気に入り登録者が15人という前代未聞のことに投稿した自分もビックリです!これほどの人に注目されて緊張します笑笑

今日から第1話です!
上手く書けてるか不安ですが、暖かい目で見てくださいm(*_ _)m














桜の花びらが舞う4月、日本にヴァーミリオン王国から王家の娘、ステラ・ヴァーミリオンが伐刀者(ブレイザー)養成学校で名門のある破軍学園へ留学することで世間は大騒ぎだ。そんなニュースの中、破軍学園の寮では1人の少年が朝練の為、着替えていた。彼の名は、黒鉄一輝(くろがねいっき)。破軍学園史上最弱の落第騎士だ。

 

 

「__よし、行こう!」

 

 

一輝の朝は、ランニングから始まる。毎日20キロ……それは、一輝が自分で決めてやってる事だからだ。そんな彼の夢は、魔導騎士になること……その為に彼は、この学園に入って来たのだ。

 

 

「__来てくれ、陰鉄。」

 

 

ランニングを終えた小休憩を挟んだ後、一輝は手を伸ばすとそこには、黒色がうっすらとかかった日本刀が出現した。それは、一輝の魂を具現化したものだ。伐刀者とは、己の魂を固有霊装(デバイス)として顕現させ、異能の力を操る千人に一人の特異存在である。一輝は、出現した陰鉄を振り回して素振りを始めた。これが一輝の朝練である。

 

 

 

 

 

 

 

朝練を終えて学園内にある寮へ戻ろうと帰路に向かってた一輝は、校門前でボケっと仁王立ちしていた黒髪の少年が気になり声をかけた。

 

 

「どうかしたかな?」

 

「え、いや……ここはどこだろうって?」

 

「どこって、ここは破軍学園だよ。ほら、君もその制服を着てるじゃないか?」

 

 

一輝に言われると少年は、今着てる自分の服を確認していた。本当に何もわかっていないらしい。

 

 

「俺は、ヒースクリフと相打ちになって……って、アスナは無事なのか?」

 

「アスナ?ヒースクリフって、君は一体何者なんだ?」

 

「俺の名前は、キリt……じゃなくて、桐々谷和人(きりがやかずと)。訳あってここにいるんだけど、とりあえず理事長先生の所まで案内してくれないかな?」

 

 

和人は、そう言うと一輝はそのまま理事長のいる校舎内へと彼を案内すると、一輝は着替えの為に寮へと戻った。

 

 

「__さて……」

 

 

和人は、そう呟くとゆっくりノックしてから理事長室へと入室していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから、数分後……

頬にもみじマークを付けられた黒鉄一輝がステラ・ヴァーミリオンと共に理事長室へとやって来た。しょぼんとしている一輝とは裏腹に怒りの表情のヴァーミリオン。ヴァーミリオンから事情を聞くと一輝だけと話がしたいという事で和人とステラは、理事長室から追い出された。

 

 

『この人……只者じゃない!?』

 

 

先に来たのに待たされている和人をステラは、横目でチラッと見る、和人の身から滲み出る異常なほどの実力のオーラを感じていた。それは、いずれ強敵となる存在だと確信したからだ。

 

一方、一輝は……

 

理事長室内でこの学園の理事長である神宮寺黒乃(じんぐうじくろの)と話をしていた。

 

 

「下着姿の女子を見て自らの服をキャストオフする人間がいるか?」

 

「あれが紳士的だと思ったんですよ。」

 

「ふぅん、紳士的ね……」

 

 

神宮寺は、そう呟くと指を二回鳴らした。すると、理事長室の扉が開くとステラが左腕で自分の大きな胸を隠すようにして恥じらいながら入ってきた。その後ろ姿を見ながら和人は、あの時に別れて生きているのか分からなくなってしまった恋人の昔の姿をふと思い出してしまった。

 

 

「ステラさん、すまなかった!不可抗力とは言え、君に酷いことをしてしまった煮るなり焼くなり好きにしてくれ。」

 

 

一輝は、ステラに向かってきちんと謝罪として頭を下げた。その姿に神宮寺は、少し関心しながら見ていた。勿論、和人も同じ眼差しだ。

 

 

「__正直、国際問題にしてやろうかと思ったけど……アンタのその真面目な性格に対して私も穏便に済ましてあげる。アンタ、名前は?」

 

「黒鉄一輝。」

 

「じゃあ、イッキ。日本人の切腹ってやつで許してあげる♡」

 

「……」

 

 

彼女の言葉で辺りが凍りつく……。一輝は、ステラの顔を見ると笑顔のはずなのに殺気が強いそんな表情をしていた。

 

 

「__えっと、ごめんステラさん。もう1回言ってくれるかな?」

 

「だから、切腹よ。日本では責任をとる時ってそういう手段をするんじゃないの?」

 

「できないよ!」

 

 

一輝の心からの叫びに後ろから見ていた和人も納得したのかうんうんと首を縦に動かしていた。

 

 

「好きにしろって言ったじゃない!」

 

「あれは言葉の綾でそもそも事故だし!」

 

「はぁ?」

 

「こんなことで命なんか支払えないよ!たかが下着姿を見たぐらいで……」

 

 

少し呆れながら頭を抱えぶつぶつ呟いていた一輝に対してステラの怒りが頂点に達し自らの魔力である炎を操り徐々に燃え上がらせていた。

 

 

「え!?」

 

 

一輝は、驚くと神宮寺は一輝に後を任せて別の部屋へと消えていった。和人は、驚くことなくその状況をじっと見つめていた。

 

 

「覚悟しなさい、アンタみたいな変態痴漢プレイのスリーアウト平民は、このあたしが消炭にしてあけるわ!」

 

 

ステラは、自らの炎を小さな火炎弾を連続で放ち一輝へと攻撃を仕掛けようとしていた。火災報知器がなり響くと、虚ろな目をしながら怒りに完全に任せている様子のステラは、ゆっくりと一輝の方へと近づいてきた。

 

 

「ちょっと待ってよ、ステラさん!落ち着いて!」

 

()()()()に勝手に侵入してきて、この肌を汚しておいて、よくもそんな……」

 

「汚した!?」

 

 

一輝は、首を横に振り必死に抵抗する。さすがの和人も唖然としていた。

 

 

「私の裸をいやらしい目で見てたくせに!舐めるように炙るようにじぃーっと見てたくせに!!」

 

「確かに見てたけどあれはその……」

 

 

ステラの勢いに負けたのか一輝は、少し頬を赤くして視線をずらした。そんな彼を怒りのステラは、むむむっと目くじら立ててじっと見つめていた。

 

 

「__あんまりにもステラさんが綺麗だったから!見とれちゃったんだ!!」

 

 

その一言で炎を操っていたステラは、一気に恥ずかしくなり魔法操作どころの話ではなくなっていた。顔を赤くして茹でたこのような感じになると、彼女の上から防火用のシャワーが流れるとステラは、びしょ濡れになってしまった。

 

 

「ななななななな、何を言ってるのよ……未婚の女性に軽々しく綺麗だなんて……これだから庶民は……」

 

 

恥ずかしく動揺した様子でステラは、話すと一輝はあることを思い出すと再び頭を抱えた。

 

 

「な、何よ!」

 

「いや、ステラさんさっき人の部屋って言ったでしょ?あそこ僕の部屋なんだけど……」

 

「はぁ!?この後に及んでまだ……」

 

 

そんな彼らの会話が少し落ち着いたかと思われた頃、隣の部屋から神宮寺が再び顔を出して来ると二人の会話に割り込んできた。

 

 

「言い忘れたが、今日から二人はルームメイトだ。」

 

「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」」

 

 

和人もそんなオチかと思うと少し呆れていた。そんな神宮寺は、後ろで待っている和人を見るとあることを彼に伝えた。

 

 

「桐ヶ谷、お前の編入試験だが……今から2時間後、第4訓練場にて執り行う。準備しておけ。」

 

「はい。」

 

 

和人はそう言うとまえもって渡されていた学園案内のパンフを手に取り先に第4訓練場へと向かった。残された二人は、神宮寺共に寮の問題の部屋までやって来た。

 

 

「__という訳で今日から二人は、ルームメイトだ!」

 

 

数々の説明を受けた二人に対して神宮寺はもう1度念を押すかのように伝えた。

 

 

「質問があります。」

 

「なんだ?」

 

「どうして、ランクAのステラさんが落第生の僕なんかと?」

 

「え!?貴方落第生なの?」

 

 

ステラの言葉に一輝は、うんと頷くと自分の能力値もすべて彼女に説明した。確かに同レベルの相手がルームメイトになるはずだが、これではあまりにもレベル差がありすぎる。

 

 

「軒並み最低レベルで学園最弱、付いたあだ名が落第騎士(ワーストワン)。それこそが質問の答えでな……黒鉄ほど劣った者はいない。ヴァーミリオンほど優れた者もまたしかり。という訳でこうだ。」

 

 

神宮寺は彼らの部屋の前にかける名札を使いながら説明した。ステラは間違いが起きたらと訳の分からない質問をするもあっさり返されて何も言えなくなってしまった。

 

 

「わかりました、ただし3つ条件があるわ!話しかけないこと、目をかけないこと、息しないこと。」

 

「その一輝君多分死んでるよね……」

 

「その3つが守れるなら部屋の前で暮らしていいわ!」

 

「しかも追い出されてるし!!」

 

 

そして、再び夫婦漫才かのように彼らの言い分が止まらなくなる。仲が良いのか悪いのか……そんな彼らを止めるべく神宮寺がある提案をした。

 

 

「まぁ、落ち着け……己の力で道を切り開くのが騎士道……」

 

「実力で話をつけようということですか?」

 

「その通りだ。」

 

 

神宮寺の話を理解した一輝は、納得してそうしようとステラに話しかけた。しかし、その提案にステラは少し気まずい雰囲気の中、その提案を渋々受けた。

 

 

「……いいわ、但しここまで来たら部屋の所有権だけじゃすまないわ!負けた方は、勝った方の生涯服従!下僕のようにどんな恥じらいの命令でも受けるの!それでいいわね!」

 

「それは、あまりにも……」

 

「い・い・わ・ね!」

 

 

ステラの案に納得させられてしまった一輝、それを見た神宮寺が決闘の時間を彼らに教えた。

 

 

「これより、1時間後……第4訓練場にて模擬戦を行う!両者準備が終わり次第、来ること!!」

 

「「はい!!」」

 

 

 




《次回予告》
ステラと一輝の模擬戦……
そして、和人の編入試験の相手は、神宮寺理事長!?
この日の第4訓練場は、驚きの瞬間が連続してみられることなった!?


第2話「模擬戦」



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第2話「模擬戦」

《前回のあらすじ》
破軍学園に留学しに日本へやって来たステラ・ヴァーミリオンの下着姿を不慮の事故で見てしまった黒鉄一輝は、ステラと言い合いの末模擬戦の勝者が敗者を下僕とする条件付きで第4訓練場で模擬戦を行うことに……
一方、桐ヶ谷和人は破軍学園に入学する為に第4訓練場で試験を受けることに……

第4訓練場で何かが起こる!?


諸注意
・ステラのレーヴァテインは、最初の表記だけ正式な「妃竜の罪剣」とします。あとは、カタカナ表記です。















あれから1時間後、第4訓練場で先にフィールドには準備を終えた黒鉄一輝とこの野良試合の審判をする神宮寺黒乃は、まだ来ていないステラ・ヴァーミリオンを待っていた。

 

 

「まさか、本当に戦うことを選ぶなんてな……」

 

「僕は、七星剣武祭で、優勝しなければなりません。貴方がそう言ったから、それに遅かれ早かれ戦わければならない相手ですよ。」

 

「戦わなければならない相手……か。」

 

 

神宮寺は、そう言いながら手元のタブレットで第4訓練場の環境を整えていた。スタンドの最前線では、和人は周りの人が一輝の話がしてるのを聞いた。

 

「魔力が人並みの10分の1しかなく身体強化魔法しか使えないランクFの落第騎士(ワーストワン)が、ランクAの紅蓮の皇女に勝てるわけがない。」

 

みんなしてそう言うが和人だけは、違う意見を持っていた。

 

 

『確かに、ヴァーミリオンは凄いと思う……でも、一輝の手……あれは、素振りによって手がマメだらけになっていた。彼の努力が彼女を優るのか……ここがポイントだな。』

 

「へぇ、中には分かった見解を持つ生徒がちゃんといるじゃないか。」

 

 

そう言いながらやって来たのは、西京寧音(さいきょうねね)という着崩した着物を纏う飄々とした黒髪の小柄な女性だった。彼女は夜叉姫という異名を持つ現役KOKの選手である。彼女に心を読まれていたことに対して和人は、驚いた表情で西京の顔を見ていた。

 

 

「君、名前は?」

 

「桐ヶ谷和人です。」

 

「ふむふむ、じゃあキー坊だね!」

 

 

西京がそうあだ名を付けると和人は、アインクラッドで情報屋として活躍していた鼠のアルゴをふと思い出した。彼女も和人のことをキー坊と呼んでいたからだ。

 

 

「くーちゃんも隅に置けないな〜こんな野良試合があるなら言ってくれないと。」

 

「お前は言わなくても駆けつけてくるだろ?それに、今日はこれだけじゃないからな。」

 

 

フィールドにいる神宮寺は、和人の方をチラッと見た。しかし、和人はフィールド中央にいる一輝をじっと見ていた。それを横目で見た西京は、「ふーん」と声に出すと納得したかのように席に座ってステラが来るのを待っていた。そして、数分後……。

暗い表情をしながらステラ・ヴァーミリオンがフィールドへと姿を現した。

 

 

「アンタの噂は聞いたわ、魔力が一定のレベルまでなくて授業を受けさせてくれなかったらしいわね。でも……だからと言って手は抜かないわ!」

 

「__あぁ、僕もだよ!ステラさん。」

 

 

お互いに幻想形態で固有霊装(デバイス)として具現化させた。一輝は、刀型の陰鉄。ステラは、大剣型の妃竜の罪剣(レーヴァテイン)

 

 

「Let's go a head!」

 

 

模擬戦開始の合図と共にステラのレーヴァテインは、炎を纏いながら一輝に近づくとレーヴァテインを振り下ろして速攻を仕掛ける。それに対して一輝は、後方へステップして回避した。

 

 

「いい判断ね。私の妃竜の息吹(ドラゴンブレス)は、摂氏3000℃。まともに受けたらタダじゃ済まないわ!」

 

 

そう言うとステラは、攻撃をやめずに一輝へ向かってレーヴァテインを振り回す。一輝は、避けながらも所々で陰鉄を使いステラの攻撃を防いでいた。しかし、ステラは何か違和感を感じていた。

 

 

『受け流されてる!?』

 

 

ステラの振り下ろす剣の威力を受けた流した一輝は、滑りながら後ろへ下がる。そんな彼を見たステラは、剣先を一輝に向けた。

 

 

「避けるのだけは上手いじゃない。」

 

「__いや、結構ギリギリだよ。ステラさんの磨き上げてきた剣……感じるよ。才能だけじゃない、とても凄い努力の上で成り立つことを……」

 

「中々見る目あるじゃない。」

 

 

そんなこと言われたことなかった。周りの人は、才能だけと言われ続けたステラが初めて自分の努力を認められた瞬間だった。

 

 

「でもそう簡単に見切れるほど、私の剣は甘くないわ!」

 

「__いや、もう見切った!」

 

 

一輝は、そう言うとステラの剣を受け止めると先程までステラが攻撃してたように陰鉄を振り回した。まるで、完璧に剣技を盗んだように……。

 

 

『あの短時間で盗まれた?』

 

 

先程までの形勢が一気に代わりステラが追い込まれる状況になった。一輝は、先程のステラのように猛攻をやめることなく次々と陰鉄を振り回して攻撃を仕掛けていく……。昔から誰にも教わらなかった一輝だから出来ることなのだ。

 

 

「まさか、短時間で見切ったっていうの!?」

 

「そうさ、模倣剣技(ブレイドスティール)。誰にも教わらなかった僕が他者の剣技を真似してるうちに身についた能力さ!」

 

一輝は、そう言うと再び陰鉄を振り回してステラを追い込むと振り下ろした陰鉄をレーヴァテインで、受け止めたステラは一輝を力で押し切るとそのまま水平に切り込もうとした。

 

 

「太刀筋が寝ぼけてるよ。」

 

 

一輝は、そう呟くと陰鉄の柄でステラのレーヴァテインの一撃を受け止めた。

 

 

「そんなの君の剣じゃない、この曲げた一撃は致命傷だ!!」

 

 

彼女の剣を弾きながら勢いよく陰鉄を振り下ろす。神宮寺、西京、和人意外は勝負が決まったかと思い込んだが、ステラは別の伐刀絶技(ノウブルアーツ)を発動させてた。それは、己の炎をドレスのように身に纏って相手の攻撃を防ぐ妃竜の羽衣(エンブレスドレス)だった。

 

 

「__認めてあげるわ、クロガネイッキ……。アンタの実力は本物よ、私が才能だけじゃないって知らしめるには、アンタに剣だけで勝たなきゃいけなかったけど、仕方ないわね……私の最強の技で葬ってあげるわ!」

 

 

ステラは、そう言うと膨大なほどの炎を駆使して彼女の中でも最強の伐刀絶技(ノウブルアーツ)である天壌焼き焦がす竜王の焔(カルサリティオ・サラマンドラ)を放つ。迫り来る業火のように激しい炎に対して一輝は、体勢を低く構えた。

 

 

「__一刀修羅!!」

 

 

次の瞬間、一輝は天壌焼き焦がす竜王の焔(カルサリティオ・サラマンドラ)を受ける直前に通常ではありえない速さで躱した。そんな様子がステラからは消えると判断させたのだ。一輝は、いつの間にかステラの背後を奪っていた。慌てて振り向いたステラは、驚きを隠せないでいた。

 

 

「消えた!?それに魔力も上がってる??」

 

「上がってるんじゃないなりふり構わず使ってるんだ!!」

 

 

魔力を極限までに引き上げる一輝の最強の伐刀絶技(ノウブルアーツ)は、反動が大きく一日一回限定の技である。そんな中、一輝は陰鉄を斜め上から振り回してステラのレーヴァテインを押すとそのまま水平に斬り込んだ。

 

 

「嘘!?」

 

 

引き上げられた魔力によって陰鉄での攻撃がステラに命中して彼女は、そのまま気を失った。

 

 

「最弱が最強に勝つには修羅の道を行くしかないんだ……」

 

 

一刀修羅の効果が切れて一輝も倒れると神宮寺がこの模擬戦を止めた。

 

 

「そこまで!勝者、黒鉄一輝!!」

 

 

急いで彼らを医務室へと運び終えたあと……第4訓練場では、和人がフィールドに姿を現していた。

 

 

「さっきの戦い……凄かった。」

 

 

ステラが天壌焼き焦がす竜王の焔(カルサリティオ・サラマンドラ)を放つ時に天井に開けた穴をじっと見つめていた和人は、ふと昔のことを振り返っていた。こんな力が使える彼らがあの世界に居たら、何人の命が助かったのかと……。

 

 

「貴方が、桐ヶ谷和人さんね。」

 

 

和人の前に眼鏡をかけ明るい茶髪の長い髪を後ろで縛っていた女子生徒が現れた。彼女は、東堂刀華(とうどうとうか)。破軍学園の最強と謳われた生徒会長だ。

 

 

「私の名前は、東堂刀華。破軍学園の生徒会長です。本来なら理事長が貴方のお相手をする予定でしたが……代理として私が務めます。」

 

 

和人は、この時点で既に察していた。彼女は、物凄い手練だと……。そして、刀華も和人の剣術使いとして認めたのか早速刀型の固有霊装(デバイス)鳴神を幻想形態で展開させた。

 

 

「さぁ、編入試験を始めましょ!」

 

 

刀華は、鳴神を鞘から抜き出すと激しい電気があちこちに広がった。間近で見る彼女の迫力は、まるでアインクラッドのフロアボスのような感覚が身体中を駆け抜けた。

 

 

「__そう来なくっちゃな!」

 

 

和人は、そう呟くと精神を集中させた……。

そして、思い出していたのだ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()として過ごした日々を……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

和人は、ゆっくり目を開けると右手を何かをつかもうとして右肩の近くまで動かした。

 

 

「__闇を纏い、全てを打ち砕け!エリュシデータ!!」

 

 

すると、アインクラッドで生きていた時に使っていた愛剣である片手剣エリュシデータが鞘のまま右肩にかかって出現してきた。そのグリップを掴みエリュシデータをゆっくり鞘から引き抜いた。

 

 

「それが、桐ヶ谷君の固有霊装(デバイス)ですか……とてもかっこいいです。」

 

「それはどうも。この剣には、少し愛着があるので本気で行きます!」

 

「えぇ、いつでもかかってきて!」

 

 

そう言うと和人は、勢いよく飛び出し刀華へ接近するとエリュシデータを縦に振り下ろした。

 

 

 




《次回予告》
遂に始まる、桐ヶ谷和人VS東堂刀華……
アインクラッドでヒースクリフと相打ちになった英雄黒の剣士は、学園最強の雷切と呼ばれる彼女に勝てるのか?


第3話「黒の剣士VS雷切」



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第3話「黒の剣士VS雷切」

《前回のあらすじ》
部屋の主導権以上に勝った方が負けた方を生涯服従というルールの元開催された一輝とステラの模擬戦は、一輝の一刀修羅を使い勝利することが出来た。
そして、倒れた二人を医務室に運ぶため急遽代理で和人の編入試験をすることになった東堂刀華は、自らの固有霊装である鳴神を具現化せると、和人は、アインクラッドで使っていた愛剣エリュシデータを固有霊装として具現化させた。
こうして、和人の編入試験が始まる!!








最初に言っておく……《諸注意》
・キリト、アスナはALO(新生アインクラッド編)のように魔法は使える(無詠唱で)
・多分、キリトチートだと思う。
・完全オリジナル回なので作者の妄想爆発です笑













刀華は、振り下ろされたエリュシデータを鳴神で受け止めた。激しい稲妻が火花と共に飛び散ると、再び二人は距離を置いた。

 

 

「これが魔力……攻撃を受けてないはずなのに攻撃を受けた感覚だ……」

 

「私のクロスレンジで好き勝手に暴れないで!!」

 

 

そう言うと刀華は再び和人に近づいて鳴神を右斜め下から振り上げた。和人は足の力だけでバク宙してそれを躱し、その位置から片手剣ソードスキルであるレジスパイクのように勢いよくエリュシデータで刀華を突こうとした。

 

 

「喰らえ!!」

 

「いいえ、喰らいません!」

 

 

刀華は、そう言うとまるで読んでいたかのようにスっと身体を横にずらして、迫り来る和人のエリュシデータの刀身を真上から鳴神で叩きつけた。その衝撃で和人が倒れると、彼女は鳴神の刃先で突こうとした。しかし和人は横へ転がり鳴神を躱すと、刀華の足を蹴り上げてバランスを崩させた。

 

 

『まだだ、あの時の俺はもっと速かった!二刀流は、アインクラッドの中で最速の反応速度を持つ者だけが与えられるスキル。二刀流を貰った俺のスピードはこんな物じゃない!!』

 

 

ここはゲームではなくただの現実世界。それは、和人も分かっている事実。しかし、エリュシデータを握っているのなら、負ける訳にはいかないのだ。そして、刀華に勝つためには反応速だけでも黒の剣士としての自分に戻らなくては倒せないと言う直感があった。だからこそ、和人は戦いながら自分を追い込む必要があった。

 

 

『もっと……もっと……もっと早く!!』

 

 

和人の剣を振る速度が次第に早くなってくるのを感じた刀華は、少し焦りを感じた。

 

 

「まさか、編入試験でこれほどの相手と手合わせ出来るなんて思ってませんでした。」

 

「それはこっちもですよ。」

 

 

鍔迫り合いになった両者は、再び距離を置く。すると、刀華はメガネを外して壊れないようにメガネケースへと閉まった。

 

 

「本当は全力で相手をするなと言われてるのですが……貴方に意地があるように私にも破軍学園最強の意地があります。負ける訳にはいかないんです!!」

 

 

刀華から感じられる気迫を感じ、先程剣を交えていた時よりも警戒を上げた和人だったが、次の瞬間……刀華は和人の背後に回っていた。

 

 

「__ここからは、本気です!」

 

 

刀華が、そう言って振り下ろしてきた鳴神を、エリュシデータの腹を盾にして防ぐ。すると、激しい稲妻が和人を襲った。

 

 

「__ぐっ!?」

 

「もう終わりですか?」

 

 

刀華の魔力に負け、膝をついた和人だが、エリュシデータを振り抜き、刀華に距離を取らせた。この時、和人は己の最大の弱点を知ることとなった。

 

 

「__体力切れですか?」

 

 

その言葉に何も返せなかった。和人は息が上がり、肩が激しく上下に動いていた。常日頃、剣を極めている彼女と、ゲーマーの自分とでは基礎体力に大きな差がある。今のままでは確実に負けは必至。

 

 

「認めるよ、確かに俺は今体力切れだ。昔剣道やってたから通じるかなって思ったんだけど、無理があったみたいだ。」

 

「では、負けを認めると?」

 

「__いいや、むしろ逆だ!」

 

 

敗北宣言かと思われたが、和人の発言に流石の刀華も首を傾げた。今、彼女は和人の頭の中を電磁波を使い読み取ろうとした……。それは、彼女の伐刀絶技(ノウブルアーツ)である、閃理眼(リザースサイド)だ。しかし、刀華の頭の中に浮かび上がってきたのは、和人の今までの記憶だった……。二年前、仮想世界で囚われの身となりそこから攻略の為に命をかけてきた……。例え、ゲームでも命を張ってモンスターも戦っていたのだ。そして、75層でヒースクリフとの決闘……。

 

 

「もしかして、貴方は死んだの?」

 

「多分な……、俺は知らず知らず誰かに助けられて来たんだって実感するよ……。だからこそ、ここで負けるわけにはいかないんだ!!」

 

 

すると、和人は眩い光の中に取り込まれてしまった。75層で消えたあと少し感じたあの暖かい光……。

 

 

「ここは?」

 

「お待ちしてました、桐ヶ谷和人さん。」

 

 

後から声をかけられた和人は、振り向くとそこには、小さな力の粒子が浮いていた。

 

 

「ここは?それに……君は??」

 

「私は、この世界の女神……貴方をはじめ、3名のSAOプレイヤーを転生させた人です!」

 

「3名!?」

 

「はい、プレイヤー名…キリト、アスナ、そして……ヒースクリフ。」

 

 

最後の人物の名を聞いた時、和人はトンカチで頭を撃たれたような感覚になったと同時に怒りが一気にピークとなった。

 

 

「何でヒースクリフを!?」

 

「この世界に必要と思ったからです、私はプラス要素とマイナス要素をバランスよくしなければなりませんから。でも、やはり貴方が最初に目覚めたとは……」

 

「目覚めた!?」

 

伐刀者(ブレイザー)は、魔力も秘めています。ですが、SAOから来た貴方達には、魔力は本来なら0です。そこで、私はある条件が満たされた時、魔力が上がるようにしてあるのです。それもこの世界でも渡り合える魔力と力を……」

 

 

女神はそう言うと自分より小さな光粒子を和人の胸へと向かわせて同化させた。そして、和人は限界まで減少していた体力が回復し、異様に軽くなった。それに胸の奥底から沸き上がる力……。この状態は、かつて彼が過ごしていたキリトのアバターのステータスに近いものを感じていた。和人は、それをさらに実感するために手を開いたり閉じたりして確認していた。

 

 

「そして、貴方達にプレゼントがあります。」

 

 

そういうと女神は、眩い光を放つと和人の視界が悪くなり目元に手を置く。すると、遠くから誰かが近づいているのが足音だけでわかっていた。

 

 

「__パパ?」

 

 

その声は短い時間だけではあったが、とても良く覚えている……。自分のことをパパと呼び親しげに接してくれた、小さな女の子の声だった。和人は、光が止むとゆっくり前を見直した。

 

 

「パパ!パパですよね?私です、ユイです!」

 

「__ッ!?……本当に、ユイなのか?」

 

「はい!お久しぶりです、パパ!!」

 

 

和人は、ユイと再会すると我が子が帰ってきたかのように優しくそして、もう二度と離さないように抱きしめた。でも、和人には一つ疑問がある……AIのユイが何故この世界に!?

 

 

「このユイは、本物なのか?ユイは、あの時……アインクラッドで別れてから俺のナーヴギアに残ったままだ!それをどうして?」

 

「答えは簡単です、貴方のナーヴギアからユイさんの心が刻まれた水晶を拝借してちゃんとした人の身体に埋め込んだのです。だから、そこの娘はちゃんとした貴方達の子供ですよ。」

 

「ナーヴギアからってことは、俺達は本当に……」

 

「はい、貴方とアスナという名のプレイヤーは、アインクラッドでHPがゼロになり死にました。ヒースクリフという名のプレイヤーは、死亡だけが確認されており、それ以外は、まだ分かっておりません。貴方には、せめての選別として魔力とSAOの頃のステータスを身体へと適合させました。」

 

「ありがとう、神様。」

 

 

神様効果と言う2次元でしかない話を和人は、しみじみと感じながら体感していた。そんな彼の横でひょこっと顔を出してきたユイが彼に質問する。

 

 

「パパ、また一緒に居られますか?」

 

「あぁ!!」

 

 

和人がそう答えるとユイは、笑顔で喜んでいた。また、この笑顔が見られるとは思っていなかったので和人は、涙目になりながらも喜んだ。

 

 

「さぁ、行きなさい!この世界で運命に抗う彼を支えてください。」

 

「分かった!行こう、ユイ。」

 

「はい、パパ!」

 

 

そう言うと光の中から元の場所に戻った和人達は、目の前で待ちくたびれていた刀華と対峙した。当然、光が消えたら隣に幼き少女の姿がある状況なので周りは少しざわついていた。

 

 

「彼女は、相当な実力の持ち主です。気をつけてください、パパ!」

 

「分かってるさ。」

 

「パパって、なんでここに?」

 

 

和人の考えを読んでいた時に和人が思い出していたので存在は知っていた刀華は、驚いていた。まさか、唐突に子供が現れるとは夢にも思っていなかったからだ。

 

 

「俺にもよくわからない、神様効果って奴かな?さぁ、試験の続きを始めようか!」

 

「そうね。」

 

 

刀華は、そう言うと鳴神を鞘に一旦収めた。それを見た和人は、これから彼女が何をしようとしているのかが理解出来た。

 

 

「時間も押してるし、そろそろ決着をつけよう?」

 

「分かった……」

 

 

お互いに一定の距離を置くと刀華は、魔力を最大限まで引き上げ始めた。一方、和人は肩の上にエリュシデータの剣身を置くと目を閉じるとしばらくしてからゆっくり目を開くとお互いに距離を縮め始めた。刀華の周りには、激しい稲妻が数本か走っていた。

 

 

「__行くわよ!私の最強の伐刀絶技(ノウブルアーツ)、雷切ッ!!」

 

「受けて立つ!!片手剣ソードスキル、スラントッ!!」

 

 

スキル名を叫ぶとエリュシデータの剣身が炎によって包まれた。それを見た刀華は、少し驚きながらと迷わず抜刀術である雷切を放つと和人は、エリュシデータを上から振り下ろしたッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

視界が眩む……

激しいエネルギーがぶつかり合い膨張して激しい爆発を引き起こしたのだ。その爆煙によってユイは、和人が見えなかったのだ。

 

 

「パパ……」

 

「な、何事だ!?」

 

 

用を済ました神宮寺が激しい爆発を聞いて駆けつけると、次第に煙が晴れた。フィールドには、和人と刀華がお互いに気を失いながら倒れていた。

 

 

「桐ヶ谷!東堂!!」

 

 

どうしてこうなったのか……。

それは、戦っていた当人達しか分からないことだった。ただ、和人は剣術すらこの学園の生徒達に劣るもゲームとはいえ、アインクラッドで2年間も命をかけて戦ってきたという長い実戦感覚が、他の生徒より優れているからこそ東堂刀華という最強の存在と互角に渡り合えたのだとユイや神宮寺、更には黙って見ていた西京もそう思ったのだ。

 

 

「今年の予選会は、盛り上がりそうだね……」

 

 

その言葉を最後に西京は、第4訓練場を後にした。




《次回予告》
入学式、そこは新たな学友との出会いの場……
一輝にとっては愛らしい妹との再会の場となる……。
そして、和人とユイは生き別れになった恋人のアスナを探すために早速行動しようとしていた。



第4話「入学式」


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第4話「入学式」

《前回のあらすじ》
和人は、東堂刀華との戦闘中に、女神と名乗る光の粒子と出会う。彼女からアスナやヒースクリフの3人と共にこっちの世界へ転生させられたこと女神から知らされると同時に、SAOで出会いそして別れてしまったユイと再会する。
雷切と炎の魔法で強化したスラントとの一騎打ちになるが、相打ちになってしまった。


破軍学園へ向かう電車には、真新しい学園の制服に身に纏い1人の女子生徒が入学式に参加するために破軍学園へと向かっていた。彼女は、窓から移り込む景色を眺めながらじっと考え事をしていた。

 

 

「兄様……」

 

 

他人に聞き取られないように小さな声でぼそっと呟いた。世間が血の繋がった兄に対してしてきた数々の非礼を知ってしまったのだ、家族なのに家族として扱って貰えない中、懸命に笑顔を取り繕って自分を安心させてくれてたことを……。

彼女、黒鉄珠雫(くろがねしずく)は黒鉄一輝の実の妹として彼を認める人以外と仲良くなることをしなくなった。それが、彼女が世間に向けた心の壁だ。

 

 

「お兄様、もうじき会えますね。」

 

 

珠雫は、そう呟くと胸を高鳴らせて破軍学園まで向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、和人は一輝やステラと共に朝練に付き合っていた。己の限界である体力不足を補うためには、一輝が自分でしてるメニューをこなすしかないと思ったのだ。因みに、ユイはまだ和人の部屋でぐっすり寝ていた。毎晩のように夜遅くまで積もり積もった話をしている。その度に神宮寺から注意をされるのがほぼ毎日続いていたのだった。そんな中、和人は息を切らしながら一輝の次に20キロのランニングを終えた。

 

 

「お疲れ、桐ヶ谷君。」

 

「お疲れ……それにしても本当に凄い努力だよ……追いつくのがやっとだ……」

 

 

膝をつきながら和人は一輝を褒めえた。一輝は和人にもう1本のボトルを渡した。すると、後から肩で呼吸をしていたステラが遅れてゴールした。

 

 

「お疲れ、ステラさん。」

 

「ステラって呼んでって言ってるでしょ?」

 

 

一輝は、そう言われると苦笑いしながら「ステラ」と言い直した。毎日鍛えているステラとはいえ、一輝の考えた体力作りのメニューをただ、こなすだけで精一杯だった。

 

 

「ステラ、和人、僕は毎日やってるから問題ないけど……二人はまだ始めたばかりだし無理なら途中でやめてもいいんだよ。」

 

「何言ってんのよ!完走したからイイじゃない!」

 

 

一輝は、二人を心配して言うも負けず嫌いのステラはその言葉に反抗した。そんな二人を和人が仲裁に割って入る。

 

 

「まぁまぁ、確かにステラの言い文は分かる。一輝、こっちは好きでお前の朝練に付き合ってるんだ。心配する必要は無いぜ!」

 

「桐ヶ谷君……わかった。あ、渡すの遅れちゃったね……はい、ステラ。」

 

 

一輝は、そう呟くとさっきまで飲んでいたスポーツドリンクの入ったボトルをステラに差し出した。それを見たステラは顔を真っ赤にしてもじもじし始めた。

 

 

「え!?これって……か、間接キス!?」

 

「あ、嫌だったかな?じゃあ何か買って……」

 

「べ、別に嫌じゃないわよ!」

 

 

ステラは、照れを隠しながら一輝の持ってるスポーツドリンクの入ったボトルを取り上げると飲み口に口を付け勢いよく飲み始めた。一輝は、快晴の空を眺めながら微笑みを見せていた。

 

 

「嬉しそうだな、なんかあるのか?」

 

「桐ヶ谷君……実は、今日妹がこの学園に入学してくるんだ。会うのは4年ぶりでね……」

 

「へぇ……アンタ、妹いたんだ。」

 

 

テスラは、一輝の妹に一目会ってみたいと思った。これ程の強さがある一輝の妹は、どんな力があるのか興味があり、何より気になる彼の妹は、どんな人か気になって仕方なかった。そんなステラとは違い、和人は少し羨ましそうな顔をした。

 

 

「妹か……兄妹仲良さそうだな。」

 

「和人も妹居るのか?」

 

「あ、あぁ。血は繋がってないけど俺にも妹がいてさ。不思議だよな、離れる前はどうでもいいと思ってたのに……2年も会ってないと不安になる……多分、アイツは剣道に夢中してると思うんだけど……」

 

 

最後に話したのだって妹が和人に部活へ行くという事しか話してない。もし、SAOで囚われの身になるのだったらもう少しちゃんと話してれば良いと後悔してしまう和人の肩を一輝は、優しく手を乗せた。

 

 

「心配ないさ、桐ヶ谷君ならその内妹さんにだって会えるさ!」

 

「一輝……そうだな、ありがとう。」

 

「カズト、早くしないとユイちゃん起きちゃうよ?」

 

 

時計を見たステラは、和人に時間を言うとあることを思い出して和人は焦り始めた。

 

 

「ヤベぇ、朝飯なんも用意してなかった……」

 

「__桐ヶ谷君、忙しいのはわかってるんだけど……一ついいかな?」

 

 

慌てて自室に戻る準備をしている和人に対して一輝が前から思っていた疑問を聞いてきた。

 

 

「桐ヶ谷君は、本当にユイちゃんのパパなのか?それともそう言う趣味?」

 

「いや、断じていうが趣味じゃないぞ?ユイは、こっちに来る前に記憶を失くしたまま深い森の中で呆然と立っているのを俺とアスナという俺の恋人が保護したんだ。まだ幼かったユイは、俺たちの名前をちゃんと呼べなかったんだ。そこで好きな呼び方でいいよって言ったらパパ、ママになったんだ。以降、ユイは俺とアスナの子供として教育してるって感じだな。」

 

「だから、滅多に使われていない三人部屋を選んだのね〜」

 

 

ステラは、そう言うと自然と納得していた。それどころか、少し羨ましそうに和人のことを見ていた。

 

 

「あぁ、ユイの為にも生き別れになったアスナを見つけなきゃと思ってたら自然と三人部屋を選んでたよ。」

 

「桐ヶ谷君、今度時間があったら探すの手伝うよ!」

 

「私もしてあげるわ!」

 

「悪いな二人とも、その時は頼むぜ!じゃあ、ユイのところに行ってくる!」

 

 

和人は、そういうと急いで量の自室へと戻って行った。それを見送りながら一輝とステラも歩きながら自室へ戻り、学校へ行く準備をし始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

入学式を終えて、指定された教室へ足を運んだ一輝とステラは、同じクラスとなっていた。

 

 

「アンタと同じクラスなんて気が楽でいいわ。」

 

「そうだね、知り合いがいるのは嬉しいことだよ。」

 

 

ステラの言葉に一輝は、同感していた。それにしても入学式の時、和人やユイの姿が見当たらないのが少し疑問に思っていた一輝だが、気にせずに教室へ入ってHRを始めた。

 

 

「はーい、皆さん入学おめでとうございま〜す!」

 

 

黒のロングヘアの女性が教室へ入室してくるといきなりクラッカーを鳴らして入学を祝う。そのテンションの高さに他の生徒達は、ついていけなくなっていた。

 

 

「私の名前は、今日から1年1組の担任になりました、折木有里(おりきゆうり)です。ゆりちゃんって呼んでね!早速だけど、このクラスにもう二人新しく入ってくるからね〜!はい、入ってきて〜」

 

 

ゆりちゃんに呼ばれた和人とユイは、そのまま教室のドアを開けて入室してきた。

 

 

「「失礼します。」」

 

 

二人は、礼儀正しく頭を下げてからゆりちゃんの隣までいくとゆりちゃんは、チョークで黒板にそれぞれの名前を書き始めた。

 

 

「はい、桐ヶ谷和人君と桐ヶ谷ユイちゃんです!皆さん、仲良くしてあげましょうね!じゃあ、お父さんの和人君から自己紹介してね!」

 

「ちょっと先生、からかわないでください。えっと……俺は、桐ヶ谷和人。突然、伐刀者(ブレイザー)の力が目覚めてこの学園に急遽転入することになったんだ。よろしく。」

 

「私の名前は、ユイです。パパと一緒に来ました、よろしくお願いします。」

 

 

二人が自己紹介を終えるとステラや一輝以外の生徒は、ザワつき始めた。勿論、理由もなく同い年の人が小学生並みの体格をしてる少女を連れていて更に「パパ」と呼ばしていれば誰だって性格を疑う。

 

 

「では、このみんなで1年間頑張っていk……」

 

 

和人達が先につくと、ゆりちゃんは、色んな説明をし始めた。今年から七星剣武祭の代表を選ぶ代表選出の校内予選は、実戦で行う。つまり、最悪死ぬ場合もあるということだ。それほど実力主義に変革させようという神宮寺の狙いだろう。説明を終えたゆりちゃんは、急に大量の吐血し始めた。

 

 

「お、おい!?大丈夫かよ……あれ……」

 

「あ、あぁ。いつもの事なんだ。ちょっとゆりちゃん保健室に連れて行く。」

 

 

一輝は、そう言うとゆりちゃんを連れてそのまま教室をあとにした。早速、ユイは注目の的となり周りの女子が集まってきた。それを隅の方で見ていた男子生徒達が気に入らない顔をしていた。

 

 

「ちょっと桐ヶ谷君、この学園のこと嘗めすぎじゃね?」

 

「__それは、どういう意味だ?」

 

 

明らかに愚痴を言われてることに和人は、あたり強く聞くと引っかかったと思ったのか、一瞬ニヤッと笑った男は、後ろの男子生徒を引き連れて総勢5名で和人の所までやってきたのだ。

 

 

「嫌だってよ、伐刀者(ブレイザー)の才能が開花したからってすぐにうちの学校に来るところとかさ、学校に子供連れてきてるところとかさ〜そういう風紀を乱すことは良くないって俺達が指導してやるよ!」

 

 

5人が、一斉に固有霊装(デバイス)を召喚する。それにクラスの女子達が悲鳴をあげた。

 

 

「いいのかよ、許可なく固有霊装(デバイス)の使用は、ダメじゃなかったか?」

 

「ふん、そんなの関係ねぇよ!」

 

 

5人が戦闘態勢になると和人も体勢を低くするもと辺りを見回した。怯えてる人、興奮している人、黙って戦況を見てる人様々な人がいる。そんな中、1人の女子生徒が和人の隣へやってきた。

 

 

「和人君も固有霊装(デバイス)を!!和人君の正当防衛はこの私、日下部加々美(ひかべかがみ)が証言します!」

 

「__いや、要らない。みんなは下がるんだ!」

 

 

和人の声に従ってみんな教室の隅の方へ集まる。和人は、ゆっくりベルトに付いていた棒状のアイテムを取り出す。

 

 

「幻想形態!」

 

 

和人は、そう呟くとスイッチを入れるとその棒状のアイテムは、魔力によって出現した光の剣となる。それは、カゲミツG4がモデルの魔力制御や魔力を注ぎ込むための訓練に使われる練習用の光剣だった。

 

 

「それって、練習用の魔力の剣!?」

 

「あぁ、護身用に買っておいて正解だったな!でも、やっぱり軽いんだよな〜」

 

 

和人は、そういうとカゲミツG4をブンブン振り回しながら右手に馴染ませるとしっかり構えると一旦目を閉じてから開くと、戦闘態勢に入っていた。

 

 

「__さぁ、戦闘(ゲーム)を始めようか!」

 

 

 




カゲミツG4は、キリトがGGOで使っていたメインウェポンてすが、今回は、普通の光の剣ではなく魔力を注ぎ込む練習をしたり、魔力制御をする為の物です。そのモデルがカゲミツG4としたので、ここではカゲミツG4と呼称します。







《次回予告》
不良なクラスメイトを黙せるため、和人がカゲミツG4を振り下ろす。
一輝は、妹である黒鉄珠雫と再会するが!?
そんな中、騒ぎを聞きつけた金髪をした生徒が和人を見ると……!?


第5話「再会」


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第5話「再会」

《前回のあらすじ》
第4訓練場での決闘以降、ステラは更なる高みへ登るために一輝の朝練に付き合っていた。和人も自身の体力を強化する為に朝練に付き合う毎日が続いていた。
そんな中、入学式を迎え一輝、ステラ、和人それにユイが破軍学園の1年生として入学する。
しかし、周りの男子生徒は、ユイを連れ回す和人が気に入らないようで和人に入学式後、周りの人なんかお構い無しで喧嘩をふっかけてきた。




 

 

「さぁ、戦闘(ゲーム)を始めようか。」

 

 

和人はそういうと彼らは、なりふり構わずそれぞれの固有霊装(デバイス)を振り回すも和人はそれらを全て躱した。

 

 

「くそ、なんで当たらない!?」

 

「俺に任せろ!」

 

 

後方にたっていた生徒が銃口を和人に向ける。彼の固有霊装(デバイス)は、どうやら銃の系統らしい。しかし、和人は何も動揺しなかった。他の生徒がみんな動揺してるというのに精神力が強いのか……ステラは、そんなことを考えながら和人を見ていた。そこへ、一輝がやってきた。

 

 

「桐ヶ谷君?これは一体!?」

 

「あ、一輝!ちょっとタチの悪い学生を黙らせようとしてる所だ!ユイを頼む!」

 

「わ、分かった!」

 

 

そういうと、一輝はユイを庇うように彼女の近くへ行く。しかし、ユイは余裕そうな表情をしていた。

 

 

「ユイちゃんは怖くないのかい?」

 

「はい、パパは絶対負けませんから!」

 

「パパを……桐ヶ谷君を信用してるんだね。」

 

 

そんなユイに対して一輝は、そう呟くと戦闘してる和人の方へ視線を向けると、容赦ない発砲の音が数回に渡って校内に響く。すると、和人は、その銃弾1つ1つをカゲミツG4を振り回して銃弾を弾き飛ばしていた。

 

 

「じゅ、銃弾を弾き飛ばした!?」

 

「化け物か?アイツは???」

 

 

和人の足元には、弾かれた銃弾が転がっていた。それを見た5人は、今度はユイの方へ狙いを定めた。

 

 

「先にそのお嬢さんからやれ!」

 

 

一斉にユイへ向かう彼らの前に一輝が立ちはだかるとリーダーの男を回し蹴りして吹き飛ばした。

 

 

「桐ヶ谷君、その男は任せた!」

 

「__あぁ。」

 

 

和人は、ゆっくりリーダーの男の方へ近づいて行く。先程の行為が和人の怒りを頂点まで引き上げたのだ。

 

 

「よくも、ユイを狙ったな……」

 

「ひ、ひぃ……」

 

 

男は、逃げようとして後ろへ下がるもそこには壁がありもう逃げられないでいた。そんな彼にお構い無しに和人は、カゲミツG4を振り上げた。

 

 

「た、助けて……」

 

「俺とユイは、確かに血が繋がっていない。……けど、ユイは俺の家族だ!そのユイを痛みつけることは俺が許さない!!」

 

 

そう強く言いつけると和人は、カゲミツG4を思いっきり振り下ろした。剣身の部分が幻想形態であるため、リーダーの男は体力だけを削られてしまいその場に倒れた。

あとの4人は、一輝が体術だけで倒したおかげでやっと教室が静まり返った。

 

 

「雑魚を引き付けないその強さ、流石はお兄様です。」

 

 

他のクラスの生徒達は、それぞれの教室へ戻るも1人の生徒はそこに居たままだった。その娘の顔に一輝は、見覚えがあった。

 

 

「珠雫?」

 

「お久しぶりです、お兄様……」

 

 

珠雫は、一輝に寄り添うとそのまま唇を重ね舌を絡めた。その光景にクラスのみんなが大きな声を上げなながら驚いていたが、中でもステラが一番驚いていた。

 

 

「ちょ……アンタ達何やってるのよ!?」

 

 

顔を赤くしながらステラは、二人を引き離すように仲裁に入った。その行為に対して珠雫は、不安そうな態度をとる。

 

 

「私とお兄様のスキンシップを邪魔しないでください!」

 

「キスがスキンシップって聞いたとないわ!?」

 

 

そこから珠雫とステラの言い争いが始まった。ちょっとユイには刺激が強過ぎると判断した和人は、あとのことを一輝に任せるとユイを連れてそのまま教室をあとにした。

 

 

「パパ、兄妹でキスとかするんですか?」

 

「いやいや、そんなことないぞ!?あれは特別なんだ。現に俺は直葉とはしてないし。」

 

 

桐ヶ谷直葉(きりがやすぐは)。彼女は和人の戸籍上は妹だが、幼い頃に両親を失くした和人を直葉の母親が引き取ったらしい。その事を10歳の時に知ってしまった和人は、直葉と距離を置いてしまいそのまま二度と会えなくなってしまった。

 

 

「スグ、元気にしてるかな?」

 

 

和人は、そう呟いて空を見上げた。SAOに囚われてから話していないスグの事を少し考えるようになっていた。二度と会えなくなるのだったら、もっと話しておけばよかった……そういう後悔が彼の心を常に襲っていたのだった。

 

 

「__パパ、あそこの空が変です!!」

 

「え!?」

 

 

 

ユイは、上空の異変が視界に入ると和人にその事を伝えた。青空のはずだったはずの空に亀裂が生じると中から金色の髪をした少女が降ってきた。

 

 

「パパ!?」

 

「ユイは、ここにいるんだ!俺はあの子を助けてくる!!」

 

 

和人は、そう言いつけると空から降ってきた少女を助けるために落下地点まで全力疾走する。

 

 

『__頼む、間に合ってくれ!』

 

 

若干、重力の方が強いのか徐々に落下の速度が早くなるのが目でわかった。和人は、落下地点に近くなると思いっきりスライディングして更にスピードをあげるとギリギリの所で彼女をキャッチすることが出来た。

 

 

「パパ、大丈夫ですか?」

 

「あ、あぁ……スライディングしたから足が擦りむいてるけど大丈夫だよ。」

 

 

和人がそう言うと腕の中で意識がない金髪の少女は、ゆっくり目を覚ますと視界に映り込んできた和人の姿を見て急に涙が溢れ出した。

 

 

「__お兄……ちゃん」

 

「お兄ちゃん!?」

 

「やっと……やっと会えたね、お兄ちゃん!」

 

 

嬉しそうな表情をしながら少女は、止められない涙をずっと流していたが、和人はその子の正体が何者なのか全然わかっていなかった。

 

 

「えっと……君は?」

 

「え!?あぁ、ALOのアバターじゃダメだよね……ごめんね、お兄ちゃん。私は直葉だよ!アバター名は、リーファ。」

 

 

和人は、未だに信用出来なかった。外見が充分違うし、そもそも直葉は剣道しかやらない子でゲームなんてほとんど興味がなかったはず。

 

 

「__じゃあ、スグ……俺のことについて話してくれるか?出来る限り俺たちしか知らない話で頼む……」

 

 

すると、直葉は和人との出来事を全て言い当ててしまった。後から駆けつけた一輝やステラ、珠雫も驚いた状況で二人を見ていた。

 

 

「ここまで、話してるのに認めてくれないの?」

 

「いや、分かった……でも、スグはゲーム嫌いだろ?それに、どうやってこっちに来た?」

 

「んー、ゲームに関しては、ALOっていうVRMMORPGを友達から誘われて始めたんだけどコントローラーゲームよりは操作しやすいからハマっちゃった……アハハ……でね、お兄ちゃん。ここからが本題、ALOでは、大型アップデートでこの異世界フィールドが開放されたの。そこで、妖精王オベイロンはここを攻略しようとして戦闘できる種族、シルフ、サラマンダー、ケットシー、ウンディーネに呼びかけて連合組織を作り上げたの。近々、武装を整えたら攻略を開始するって……」

 

「ちょっとまて、ここはリアルだぞ?そんな事って……」

 

 

直葉の口から出てきたのは、VR世界で遊んでいるプレイヤーが異世界のリアルに生きる人の住処を侵略すると言った残虐な内容であった。

 

 

「やっぱり、リアルなんだ……こっちに来た瞬間、羽が消えちゃって……もう1人の子と来てたんだけど……」

 

「こっちだよ!リーファ!!」

 

 

大声をあげながら小柄の女の子がこっちへとやってきた。紫色のロングヘアのその子は、天真爛漫な感じだったが、リーファの周りを囲んでいる和人達を見ると腰にぶら下げていた細身の片手剣を引き抜いた。それを見た和人は、エリュシデータを具現化させると剣技(ソードスキル)の1つであるスラントで応戦した。砂煙が巻き上がるとその子は、和人との鍔迫り合いに負けて尻もちついていた。

 

 

「ひぇー、鍔迫り合いで負けちゃった〜。お兄さん、人間なのにやるねぇ〜」

 

「ていうか、私のお兄ちゃんなんだけどね……」

 

 

リーファの言葉にみんなが驚いた。兎にも角にもここでは周囲の迷惑になると判断した和人は、みんなを連れて他の場所へと移動した。

 

 

 

 

 

 

 




《次回予告》
妖精王オベイロンによる、異世界攻略と名乗った侵略行為まで時間が無い中、破軍学園では七星剣武祭の校内予選が始まろうとしていた。和人は、運が悪いのか開幕カードになってしまう!?


第6話「校内予選」




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第6話「校内予選」

活動報告に日頃の感謝込めて、企画編を考えました。
皆様の意見を参考に作りたいと思いますので、たくさんの意見をお願いしますm(*_ _)m



《前回のあらすじ》
入学早々からタチの悪い学生を蹴散らした和人は、再会した珠雫と一輝の行為に対してまだ、幼いユイには刺激が強過ぎると判断してその場から去った。
そして、空から降ってきた直葉と再会すると一緒に来た謎の少女と出会う……


 

 

「__という訳で、妹の直葉だ。」

 

「はじめまして、お兄ちゃんの妹の直葉です。この姿ではリーファって呼んでね!で、こっちが……」

 

「僕はユウキ!今日は、リーファとパーティ組んで一緒に来たんだ!よろしくね!!」

 

 

和人は、その場に居合わせたみんなを連れて寮の自室へ戻ると、すぐにこの状況を一輝達に説明をすると、リーファやユウキは改めて自己紹介をた。あまり、理解が出来ていないステラや珠雫は、まだ謎だらけだった。

 

 

「つまり、桐ヶ谷君は異世界から女神と呼ばれる存在の力を経てこっちの世界に来たのに対してリーファさんやユウキさんは、ゲームの世界からそのまま来てしまったと?」

 

「まぁ、そんな感じだ。それに厄介なのは、そのオベイロンとかいう存在だな。でも、何で仮想世界が現実(リアル)と繋がるんだ?いくら、異世界とは言え次元が違うのに……」

 

「確かにそこに関しては不明な点が多いです。そのALOとは一体どんなゲームなんですか?」

 

「ALOはね、アルブヘイム・オンラインって言って妖精やファンタジーがテーマなの。種族同士の争いが激しいプレイヤーキル推奨のゲームだよ。」

 

 

ユイの質問にリーファが答えた。どうやらそのALOにどっぷりハマったのが和人にはよくわかっていたが、あまりいい気がしなかった。

 

 

「プレイヤーキル推奨か……俺も、この世界に来る前もVRゲームはしてたけど……中々いい気がしないな。」

 

「お兄ちゃんの入ってたSAOのシステムを一部利用してるよ?」

 

「何だって!?カーディナルを使ってるのか!?まさか、またデスゲームが!?」

 

 

リーファがSAOという言葉を出した瞬間、血相を変えた和人はリーファの心配をしたが、リーファは和人の心配を否定した。

 

 

「そんなことないよ。それにあの後、ナーヴギアは販売中止して新たにアミュスフィアっていうVRゲーム機が出回ってね!私も中学の友達に進められてゲームを始めたんだ。」

 

「そうか……なら、イイんだ。」

 

「それでもカーディナルに何かあったとしか考えられません!パパ、急いで仮想世界に戻りましょう!」

 

「「パパ!?」」

 

 

ユイの発言にリーファとユウキは驚くと大声をあげて叫んだ。ユウキは驚くだけだったが、実の妹であるリーファは黙っていられなかった。勢いよく和人の胸ぐらを掴むと問い詰め始めた。

 

 

「お兄ちゃん!?いつの間にこんな可愛い子が!?てか、結婚してるの???え、私は知らない間に叔母さんになったの!?」

 

「お、落ち着けスグ……ユイは元々SAOのメンタルヘルスカウンセリングプログラム試作第一号なんだ!カーディナルの命令に背いて一旦は、消されたが女神が人間として蘇らせてくれたんだ。」

 

「SAOの……ってことは、カズトはそのデスゲームを生き抜いてきたの!?」

 

 

遅れて状況が理解出来たステラは、和人に質問した。頭を整理するためな周りの声が聞こえなくなっていたステラは、初めて和人がデスゲームの舞台となったSAOの世界にいた事を知らされた。

 

 

「あぁ、俺は元々SAOプレイヤーだったんだ。その時は生きた心地がしなかったよ、毎日毎日攻略に力を入れて死んだら現実でも死ぬSAOで何人のもプレイヤーが死んでいった。そんな俺の心を癒してくれたのがアスナだった、彼女は血盟騎士団副団長を務める実力派だった、閃光と呼ばれるそのスピードは二刀流だった俺より早いと思う。」

 

「じゃあ、そのアスナさんがお兄ちゃんの恋人で……」

 

 

和人は説明するとリーファは、そのように呟くと横目でユイをチラッとみた。

 

 

「__はい、私のママです!」

 

 

ユイは、自慢そうな態度を取りながら恥じることなくそう言った。だいぶ事が収まろうとした時、和人、ステラ、一輝、珠雫の生徒手帳と呼ばれる通信機器に一通のメールが届いた。

 

 

「パパ、どうかしたんですか!?」

 

「あぁ、校内予選の実行委員会からだ。」

 

 

和人はそう言うとメールを開き、中身を確認した。すると、そこには校内予選が開幕する日時とそれぞれの対戦相手が書かれていた。

 

 

「誰だった?」

 

「僕はこの人だよ。」

 

 

一輝とステラは、早速対戦相手の話で盛り上がるが和人は妙な緊張に襲われていた。

 

 

「開会式終了後、第1訓練場にて執り行う。桐ヶ谷和人さんの対戦相手は、3年南條充(なんじょうみつる)。」

 

 

開幕戦でさらに相手は3年だった。和人は、ユイの方へ視界を向けると彼女の顔をじっと見ていた。ユイは、不思議な顔して和人の事を不安なるが、そんなユイの頭を和人は、優しく撫でた。

 

 

「ユイは、パパの強いところが見たいんだもんな……」

 

「はい、私はパパやママに強くあってほしいです!」

 

 

その言葉に和人は、自然と胸の奥から力が湧き上がってきた。当然、破軍学園の生徒であるユイも和人の試合を見に来る。そんなユイの前で負けることは絶対できないと思った和人は、撫でていたユイの頭から手を離した。

 

 

「安心しててくれ、ユイ。俺は……絶対に負けない!」

 

 

そう言うと和人は、ユイをみんなに預けたまま自室から出て行ってしまった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルブヘイム・オンライン内の世界樹頂上。

そこには、妖精王オベイロンと呼ばれるプレイヤーが王座に座っていた。

 

 

「ふん、ティターニアはまだか?」

 

「はい、もう少々お待ちください。」

 

 

彼は、妃であるティターニアを探しているらしいが未だに見つからない事に苛立ちを覚えていた。

 

 

「ティターニア……必ず見つけ出して、俺のモノにしてあげふよ。」

 

 

オベイロンは、そう言うと大人しく異世界に行った妖精達の帰りを待つことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

和人が、1人で特訓を続け始めてから既に数週間が経過して月暦が5月になった頃、待ちに待った七星剣武祭の校内予選が幕を開けようとしていた。

 

 

「お兄ちゃん……」

 

「ん?どうした、スグ?」

 

 

控え室で静かにその時を待っていた和人にリーファが話しかけてきた。彼女は、七星剣武祭のルールを聞いて少し不安になっていた。

 

 

「本当に行くの?」

 

「あぁ、ユイの前で負けるわけには行かないしな。」

 

「嫌だよ!せっかくまた会えたのに……私は、お兄ちゃんが死ぬのを見たくない!!」

 

 

リーファは、和人に抱きつくと今まで我慢来てきたものが込み上げてきた。和人は、そんなリーファを優しく抱きしめた。

 

 

「スグ、俺は死なない。だってあのデスゲームのラスボスと相打ちするまで生きてた男だぜ?命をかけることには、もう慣れてるさ。それに……」

 

「それに?」

 

 

リーファは、和人の方を見上げると上目遣いをしながら聞き返した。

 

 

「たまには、お兄ちゃんにもカッコつけさせてくれよ。」

 

 

和人は、優しい表情でリーファを安心させるように言った。リーファは、うんと頷くとゆっくり和人から離れると同時にユイが控え室に入ってきた。

 

 

「パパ、もうすぐ試合の時間ですよ?」

 

「あぁ、分かった。じゃあ、行ってくる。」

 

「うん、お兄ちゃんなら勝てるって信じてるよ!」

 

 

リーファは、そう言うと和人はそのまま控え室を出てフィールドの方へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、第1訓練場で和人の次に試合がある東堂刀華は、颯爽と控え室へ向かおうとしていた。

 

 

「会長は、見に行かなくてイイんですか?」

 

 

ある生徒が刀華にそう聞くと彼女は、足を止めてその生徒の方を振り返った。

 

 

「桐ヶ谷君なら、楽勝で勝てますよ。あの重い一撃をそう簡単に受け止めれる人は、この学園には早々いません。彼を含めた数人の1年生達がこの校内予選を最後まで勝ち抜くでしょう。」

 

 

それを聞いた生徒は、驚いて何も言えなくなると刀華は、そのまま先に控え室へと向かった。

 

 

『桐ヶ谷君に、黒鉄君……私は、校内予選の最終戦でどちらかの騎士とやりたい!!それまでに負けるわけにはいかない!!』

 

 

そう自分に喝を入れ直した刀華は、ゆっくりと眼鏡を外して準備をし始めた。




《次回予告》
遂に始まった校内予選……
和人は、対戦相手の南條に勝つことが出来るのか!?
そして、数日後……ショッピングモールに出かけることになった和人達は、そこで……


第7話「異世界攻略組」



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第7話「異世界攻略組」

久々の戦闘シーンです。
今回は他の話に比べて文字数が少ないです。



《前回のあらすじ》
リーファやユウキから告げられたのは、和人が前生きていた世界の中にある仮想世界で、妖精王オベイロンによる異世界攻略と命名した侵略行為だった。
そして、和人に実行委員会から通知が来て開幕戦を務めることになり、一人で毎日のように特訓を続けた。そして、遂に和人と破軍学園3年の南條充による初戦が始まろうとしていた……


 

 

「開会式を終えたばかりのですが、みんながこの開幕戦を楽しみにしてました!!」

 

 

アナンスが流れると会場のボルテージは一気に上がった。これでも南條充は、昨年の七星剣武祭の出場者である。そんな彼と戦うのが、和人である。

 

 

「さぁ、再び七星剣武祭の舞台に上り詰めることが出来るか!?南條選手の入場です!」

 

 

アナウンスに従って南條は、フィールドへ入場すると割れんばかりの拍手が彼に送られていた。

 

 

「南條!!無名の1年なんかぶっ飛ばせ!」

 

「お前なら勝てる!!」

 

「南條君!頑張って!!」

 

 

拍手だけではなく、声援も送られていた。彼がどれだけ優れていたのかがわかる気がしていた。和人は、ゆっくり深呼吸すると、ゆっくりとフィールドへと向かって歩き出した。

 

 

「さて、続いては……あの雷切、東堂刀華と相打ちで入学してきた無名の天才騎士、桐ヶ谷和人選手の入場です!!」

 

 

和人は、胸を張りながら堂々と歩いて南條の前に立つとリーファが大きな声で応援していた。剣道をすぐやめた和人にとっては、誰かに応援されるのには少し抵抗があった。

 

 

《Let's go a head!!》

 

 

機械音がなると南條は、固有霊装(デバイス)である片手剣型のソードを具現化させるとそれを見た和人は、エリュシデータを具現化させると、南條が先に動き和人に振り上げたソードを振り下ろすと和人は、エリュシデータを右斜め下から振り上げてその攻撃を防いだ。

 

 

「良くこれに反応したな……って、お前……どこかで……」

 

「いや、俺は全く会った記憶が無いぜ!?」

 

 

和人は、エリュシデータを押して南條を突き飛ばすとその隙に再び距離を縮めてエリュシデータを振り下ろした。南條は、それを受け止めようとするが……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の瞬間に激しい爆発音とともに砂埃が会場に広がると和人と南條は、観客から見えなくなった。

 

 

「激しい爆発が起こり視界が見えません!?一体何があったのでしょうか?果たして、フィールドに立っているのは!?」

 

 

実況アナウンスが会場に響きたわると観客が頑張って目に力を入れてフィールドを見ようとしていた。そして、ゆっくり砂埃が収まり始めて視界が晴れると、そこに立っていたのは……

 

 

「き、桐ヶ谷選手!!南條選手を二回の攻撃でノックアウトさせた!!しかしも、固有霊装(デバイス)を破壊すると言う、離れ技を見せた!!」

 

 

和人は、エリュシデータを右斜め下に振ってから背中の鞘に戻すとそのままフィールドを去っていった。

 

 

「パパ、やりましたね!」

 

「ユイ、パパの活躍見てたか?」

 

「はい!私もパパみたいに強くなりたいです!」

 

 

和人の戦闘を見て興奮しながらユイはそう言うも和人は、「まだ早いな〜」と言っていた。

 

 

「流石は、桐ヶ谷君ね。」

 

「貴方は、東堂さん。」

 

 

初陣を勝利という素晴らしいスタートを切った和人に同じ控え室を使っていた刀華が、彼に話しかけた。

 

 

「今度そこ、勝ち取ってみますよ!学園最強と言う名の称号と七星剣武祭の出場権とね!」

 

「望むところ!私だって、今度こそ貴方に勝ってみせるわ!」

 

 

そう言われると和人は、刀華とハイタッチを交わしてから先に会場をあとにした。

あれから刀華はもちろんのこと、ステラや珠雫、その彼女のルームメイトてある有栖院凪(ありすいんなぎ)も初戦を制した。一輝の試合は明後日に控えた中、先に勝ったステラ達と共に映画館へと行くことになった。

 

 

「お待たせ、待ったかな?」

 

「カズト、ねぇ聞いてよ!シズクがね!!」

 

「そういうのは一輝に言え。」

 

 

珠雫に、言い争いで負けたステラは遅れてきた和人に訴えるが完全にスルーされた。和人の後には、恥ずかしながら隠れているユウキの姿があった。いつものALO姿ではなく数日前にステラと一緒に買い物へ行くとながら無理やり着せられてそのままステラの奢りで購入したらしい。それは、リーファも同様だった。

 

 

「あれ?リーファは???」

 

 

ステラは、ここにはいないリーファの事を和人に聞く。すると、和人は少し苦笑いしながら寮の方角を指さした。

 

 

「お兄ちゃんには負けられないとか言って自主的な剣術修行するって……」

 

「そう……残念だわ。」

 

 

ステラは、少し残念がりながらも映画館へと向かった。今日見るのは、言わいる恋愛がメインのお話で出来ることなら帰りたいと思った和人と一輝だが、そのことを我慢して付き合う覚悟を決めた。

一方、和人達とは違う場所で彼らと同じ映画館の同じ時間に上映される同じ映画を見ようと1人で歩いている女性の姿があった。その髪型は、栗色の三つ編みハーフアップのロングへアだった彼女は、17歳ながら学校には入っておらず、自由の利く一人暮らしを堪能していた。

 

 

「今日は映画見たあと、何しようかしら……」

 

 

そう呟きながら街を歩く彼女に対してほとんどの独身男性が振り向くも彼女には興味がなかった。彼女には、既に将来を誓った恋人がいるのだが、まだ再会出来ていなかったのだ。戦う力をなくし、周囲に気を感じることもしなくなった彼女を拐うことは、簡単だと思い背中に羽を生やした妖精が数人でストーキングをしていた。

 

 

「俺たち、異世界攻略組はまず、オベイロン様の妃を拐うんだ!やるぞ!」

 

「はい、○○○様!」

 

 

スキンヘッドが特徴のノーム種族のガタイのいい男性がパーティリーダーを務めているパーティは、そのまま一人の女性を大人数でのストーカー行為を続けることにした……




《次回予告》
映画館で映画を見ることになった和人達……。
ところが昔に見覚えのある姿をした女性を見かけると和人は、自然と彼女の方へと向かう……。
そこに待っていたのは、彼女だけではなかった!?


第8話「力を失くした閃光……」


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第8話「力を失くした閃光……」

《前回のあらすじ》
一輝以外、無事に初戦を白星で飾ったステラ達は週末にみんなで映画館へと足を運んだ。
そして、そこへ向かってたのは彼らの他にもいた……。



やっと、メインヒロイン(正妻)の登場です!笑
あと、次回予告を少し変えたのでそこも注目です!!


映画館へと入るとテンションを上げながらユイ達女性陣は、人数分のチケットや飲み物更に、定番のポップコーンなどを購入しに向かった。和人と一輝は、その場で待機をすることになった。

 

 

「桐ヶ谷君、君がこの間見せた固有霊装(デバイス)の破壊って可能なのかい?」

 

 

一輝は、この間の試合で和人が見せた武器破壊が珍しくて興味を持っていた。伐刀者(ブレイザー)固有霊装(デバイス)は、己の魂を具現化した物でそれを壊すということは、相手の魂を斬り壊すということにも繋がるのだ。

 

 

「まぁ、SAOでも余裕で出来たから何となく感覚というか……よく分からないんだけど、簡単に出来たな。」

 

「武器破壊を平気でやるプレイヤーか……確かに、そんなのがいたらビーターって呼びたくなるんだろうな。僕には、そう呼んでた人の気持ちもわからくはない。」

 

 

一輝がそう言うと和人は、苦笑いをして「やめてくれ」と言って賑やかに話していた。一輝も和人のような実力を持つ人と話して色々聞けて今後の参考になれば良いなと思っているのか、男子の中で彼にしかあまり声をかけなくなっていた。まぁ、一輝を取り巻く環境なだけに和人も納得はしていた。

 

 

「ねぇ、和人。またバトルの話をしてるの?」

 

「アンタ達も好きよね〜、映画とは無関係じゃない。」

 

「いや、ほら……一輝もまだ初戦終わってないし……」

 

 

ユウキとステラがそう言うと二人は、苦笑いするもユイはどこか別の方を見回していた。それが気になった和人は、ユイの所へと向かった。

 

 

「ユイ、どうした?」

 

「あ、パバ……実は……」

 

 

ユイは、和人に今自分が気になっていることを全て話した。この映画館に来てか気になってることも……。

そして、懐かしい感覚がすぐ近くに居ることも……。

 

 

「それって……」

 

「__恐らく、()()がいるのかと……」

 

 

ユイは、そう言うと和人は辺りを見回した。その不思議な様子に他の人達は、心配し始めた。

 

 

「どうしたの?桐ヶ谷君。」

 

「アスナが……この映画館に来てるかもしれないんだ……」

 

「「え!?」」

 

 

和人がそう言うと、みんな一斉に声を出して驚いた。生き別れになっていた和人の恋人がここにいるかもしれない……。

そう考えるとみんなして探しに行こうとしたが、それを和人は止めた。

 

 

「ここは、俺とユイに任せてくれ。みんなは映画を楽しんできてくれ。」

 

「まぁ、それが確実ですね。」

 

「そうね、初対面の私たちが見つけても逆に警戒されるだけよ。」

 

 

珠雫と凪がそう言うと仕方なさそうな顔をして一輝達は、映画を見に出発した。残った和人とユイは、2手に別れて映画館中を探し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

一方、結城明日奈(ゆうきあすな)は、開演時間よりも早めに着くとチケットに書いてある座席で座っていた。

 

 

「ちょっといいか?」

 

 

低い声の男性が彼女に声をかけていた。明日奈は、チラッと横目を見ると懐かしい顔をした人物が目の前にたっていた。彼を見ると開けた口を手で隠しながら明日奈は、その人物の名前を呟いた。

 

 

「__エギルさん!?」

 

「あぁ。久しぶりだな、アスナ。話したいことがあるんだが、少し時間いいか?」

 

 

エギルは、そう言うと明日奈を連れてホールを出ようとした時、一輝達とすれ違った。ステラは、和人の恋人の髪型や髪色を覚えていたのか、連れていかれる人があのアスナだとすぐに分かった。

 

 

「イッキ!カズトに連絡して!アスナが連れていかれるって!!」

 

「ステラ!?急にどうしたんだい?」

 

「良いから!早く!!」

 

 

ステラの血相を変えた表情につられて一輝は、慌てて和人へ連絡をし始めた。

 

 

「もしもし、桐ヶ谷君!今、上演会場から出ていくアスナさんを見た!ホールに向かって出るはずだ!」

 

「うごくな!!」

 

 

一輝が連絡してる最中に敵は、彼らを包囲していた。その声を聞いた和人は、焦っていた。

 

 

「焦るな、落ち着け!」

 

 

そう自分に言い聞かすように和人は、出入口があるホールへ向かった。

 

 

「エギルさん、どうしたんですか?私、ここで映画を見ようとしてたんですけど……」

 

「あぁ、悪いとは思ってるさ。俺もこれで任務なんでね。」

 

 

近くで見て彼の目に輝きがないことを知った明日奈は、後方へステップして鞘から剣を抜き出そうというポーズを取る。しかし、そこには愛用してたレイピアなどなくここが現実で無力な自分だと気づかされた。

 

 

「攻略の鬼と呼ばれた閃光のアスナも現実では、ただの女でしかないのか。」

 

「いや、来ないで!!」

 

 

エギルの言葉に恐怖を感じながらアスナは、後ろへ逃げようとするもすぐ壁に邪魔されて逃げれなくなってしまった。

 

 

「助けて……キリト君……」

 

 

エギルは、アスナにゆっくり近づくと壁ドンして逃がさないようにすると懐から睡眠薬を入れた注射器を取り出して彼女に刺そうとした。明日奈は、目を背け愛しい彼の名を呟き、助けを求めた。

 

 

「__アスナ!伏せろ!!」

 

 

その声に反射して明日奈は、そのまましゃがむと和人は固有霊装(デバイス)であるエリュシデータを具現化させるとそのままエギルにギリギリまで近づくと片手剣の剣技(ソードスキル)であるヴォーパル・ストライクを放つ。エギルは、己の武器でそれを受け止めるも和人の重い一撃を受けて吹き飛ばされてしまった。

 

 

「__キリト…君……」

 

「ごめん、アスナ……でも、もう安心してくれ。俺は、今度こそ……この命を君のために使う!」

 

 

和人は、エギルを睨みながらアスナにそう言った。その背中には、エリュシデータの鞘しかなかったが、ついこの間まで見ていた大好きな彼の後ろ姿である。

 

 

「ママー!!」

 

「ユイ…ちゃん!?」

 

 

後から追いついてきたユイは、明日奈を思いっきり抱きしめた。あまりの嬉しさに明日奈は、嬉し涙を流す。そんな彼女の姿を見て和人は、それを見て少し安心した。しかし、旧友が可笑しく狂っていることだけは解せなかった。

 

 

「エギル、前から悪どいとは思ってたけど……まさか、こんな形で再会するとはな……。お前、SAOに居たんじゃなかったのか?」

 

「SAOなら終わったさ、お前達がヒースクリフを倒してゲームクリアしたさ。」

 

「じゃあ……なんでまたVRMMOをやってるんだ!?」

 

「それはお前も同じだろ!SAOは、お前がクリアした。その事実は、こちらの世界に広がりお前は……黒の剣士は、英雄になった。でも、転生してまでまた、戦うことねぇーだろ!違うか、キリト!!」

 

 

エギルにそう言われると、和人は今まで考えたことなかったどうして戦うのか……戦う理由を自分で探し始めた。

 

 

「どうして……戦うのか……」

 

 

そう考えて自分を見失いそうになる和人だが、後ろにいる大切な人達をふと思い出した。恋人のアスナ、娘のユイ、それに……妹の直葉やここで出会った破軍のみんな……。まだ日は浅いが、ここで紡がれた思い出が和人の脳裏に浮かんできた。

 

 

「__戦う理由か……、そんなの初めから決まってるだろ!俺には、守りたい人達がいるんだ!それに……バトルというゲームが楽し過ぎるからな、あの世界で2年も戦ってれば、強い敵を見るとワクワクする。こいつとやってみたい!俺は、もうそこまで出来上がってるのさ!」

 

「お前は、こっちでも相変わらずだな……狂ってるよ。」

 

「あぁ、もう手遅れな廃人ゲーマーとでも呼んでくれ!」

 

 

和人は、そう言うとエギルに一気に近づくと剣技(ソードスキル)の一つであるスラントを放つが、エギルの武器である両手斧に受け止められてしまう。エギルは、和人を振り払うとそのまま振り上げた斧を振り下ろすが、それを和人はバク転で躱すと着地時に両足に思いっきり力を入れるとそのまま再びジャンプすると今度は前宙してエギルに近づくと思いっきりエリュシデータを振り下ろした。

 

 

「ライトニング・フォール!!」

 

 

片手剣剣技(ソードスキル)ライトニング・フォールを放つと電流がエギルを襲うと彼は膝をついてダウンする。

 

 

「俺の勝ちだな!」

 

「流石は、SAOから命を投げ出して救った英雄だ。だが、こっちの世界に来て仲間に頼り過ぎるようになった。」

 

「何!?」

 

 

次の瞬間、天井の蛍光灯が割れると他の客や従業員は全員床に伏せた。

 

 

「そこまでだ、黒の剣士。俺たちのパーティーリーダーを解放して、妖精王オベイロンの妃、ティターニアを返してもらおう!」

 

 

そこには、ボロボロになった一輝達の姿があった。ロープで縛られており反撃できるような状況ではなかった。

 

 

「すまない、桐ヶ谷君。理事長に固有霊装(デバイス)の使用許可が取れなかった。」

 

 

その言葉を聞いて和人は、仕方なくエリュシデータを鞘に戻した。

 

 

「おぉ、いい判断じゃねぇーか。」

 

「キリト……SAOのお前なら、間違いなくこのメンツを倒すことは出来たのにな……」

 

 

和人は、悔しい表情を顔に出しながら握りこぶしを作っていた。恋人すら救えない無力な自分に向けて苛立っていた。エギルは、嫌がるユイを退かすと明日奈を引っ張って連れていこうとする。

 

 

「キリト君!ユイちゃん!!」

 

「アスナ!!」

 

『やっと会えたのに……ここで離れたくない!!』

 

 

和人は、精一杯手を伸ばして明日奈の手を掴もうとする……。

そんな、彼らを見て無理やり引き離そうとして他のプレイヤーが和人を抑え込む。

 

 

「離せ!離せ!!」

 

「キリト君!!」

 

「ママ!!」

 

 

その時だった、エギルは何者かに撃ち抜かれてHPが尽きてアバターが消失して魂だけになった。それを見た他のプレイヤー達は、逃げようとするも次々と撃ち抜かれてしまいエギルのようになってしまった。

 

 

「この戦い方は!?」

 

「__やれやれ、人の手柄をとるのは嫌いなんだけどな……つい、手が出てしまった。」

 

 

誰もいないはずのところから急に亀裂が入るとガラスのように粉々になるとそこには、破軍学園の制服を来た男子生徒が立っていた。




《次回予告》
突然、桐原静矢に心臓を撃ち抜かれる和人……


「キリト君……嫌、死んじゃダメだよ!キリト君!!」


明日奈の悲鳴が映画館に響き渡るが、そのまま桐原静矢に連れていかれてしまう。彼女を解放する条件は、一つ……。
三日後の初戦で和人も入れた三つ巴選で桐原静矢に勝つ事……。
完全に復活していない和人は、その条件を受けることにした……。


第9話「最強無敵のタッグ!?和人&一輝」


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第9話「最強無敵のタッグ!?和人&一輝」

《前回のあらすじ》
明日奈と再会を果たした和人の前に現れたのは、かつての旧友であるエギルだった。昔と変わってしまった彼との戦闘を行う和人……しかし、固有霊装の使用許可が出なかかった一輝達は、別で動いていた奴らにボロボロにされてしまう。
そんな彼らを人質に取られた和人は、抵抗出来なくなる……
そんな、彼らを助けたのは同じ破軍学園の制服を着る男子生徒だった……


 

 

「ここ、大訓練場は、満員の大観衆でいっぱいです!!先日突如、実行委員会か発表された情報によりますと、先日勝利をした桐ヶ谷選手も今回のバトルに加わるとのことです。なお、既に1回戦を終えてるので桐ヶ谷選手の勝敗は無効となります。」

 

 

あの事件から数日の時が流れて、大訓練場には多くの生徒で満員になっていた。今回は、特別席でアスナやユイ、ステラ、リーファにユウキ更には、珠雫や凪が見守っていた。

 

 

「解説は、西京寧音先生に来てもらいました!」

 

「よろしく〜」

 

 

解説をする気がない西京は、適当に挨拶を済ませた。まもなく、この会場に3人の騎士が入場しようとして控え室で待機していた。

 

 

 

 

 

 

事の発端は、あの時のエギル達が映画館へ襲撃をして明日奈を拐いに来たのを桐原静矢(きりはらしずや)が追い払ってからに遡る……。

 

 

「キリト君!!」

 

「アスナ!!」

 

 

不安な空気が一転して和人と明日奈は、それぞれの距離から縮めて再会を祝おうとしていた……。だが……

 

 

「__グハッ!?」

 

「え……」

 

 

次の瞬間、和人の胸には先がとんがった木の棒の矢が貫通していた。和人は、そのまま膝をつくとうつ伏せになって倒れてしまった。

 

 

「嫌だよ……、折角、また会えたのに……キリト君……キリト君ーー!!」

 

 

絶望した表情をしながら明日菜の声が静まり返った映画館の中に響き渡る。和人は、そんな明日奈を安心させようと残された意識を集中させながら明日奈の方へ近づこうとしていた。それを見た明日奈は、和人の所へ行こうとするも後から投げられた首輪によって明日奈は、彼に近づくことすらできなかった。

 

 

「アス……ナを……かえ…せ……」

 

「おやおや、無理は禁物だよ?後輩……」

 

 

桐原は、そう言うと和人の手をまるでタバコの燃えカスを靴底で踏み消すかのように思っきり踏みつけた。

 

 

「汚いぞ!桐原君!!」

 

落第騎士(ワーストワン)、何も出来なかったお前がよくそんなこと言えるな!俺は知ってるんだぜ?理事長に許可を取れなくてこいつに迷惑をかけたのを!!」

 

 

そう言いながら桐原は、更に踏みつけている足に力を入れると痛みが和人を襲った。

 

 

「__グッ……うわぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「キリト君!!」

 

「悪いけど、この女は俺がもらっていく……こんなに美人なのをお前のようなクズに渡しておくわけには行かないからな!ほら、行くぞ!!」

 

「嫌、離して!キリト君!!お願い、起きて!!キリト君!!」

 

 

明日奈は、言うことを聞かない飼い犬を散歩するかのように桐原に連れていかれてしまった。和人は、そんな明日奈を追いかけようとした和人は、ゆっくり上半身を起こして追いかけようとするも口から吐血して気を失ってしまった……。

 

 

『__これが……HPのない、現実の死に方……力が……入らない……。』

 

 

和人が、完全に動かなくなってから救急車が到着すると、彼をIPS再生槽(カプセル)のある病院へと搬送された。最悪、脳までダメージが来ていなかったので彼の一命はギリギリ食い止められた。そんな中、対戦相手である一輝は激しい怒りが胸の内から湧き上がっていた。

 

 

「__僕は。君が許せない!桐原君……」

 

 

そう呟きながら一輝は。ステラにも何も言わずにそのまま病院をあとにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桐原静矢の部屋は、自らのテクニックで堕ちた女性達でありふれていた。その中に明日奈は、距離を起きながらじっと待っていた。

 

 

「おやおや、明日奈ちゃんは、食べないのかな?僕に食べさせてくれよ!」

 

「嫌よ、そんなの絶対にやらない!大体、なんでキリト君と声が似てるのよ!」

 

「それは、禁句だよ……あ、そうそう君に話したがっている男性が居るんだよ。」

 

 

桐原は、そう言うと大きめなタブレットである人物にビデオ電話を開始した。

 

 

「__なんだい、僕は忙しいんだけど。」

 

「まぁ、そう言わないでくださいよ、須郷さん。お目当ての人物を見つけ出して捕獲したんですから。」

 

「何!?明日奈を???見せてみろ!」

 

 

電話の相手は、須郷伸之(すごうのぶゆき)。その名前に明日奈は、聞き覚えがあった。桐原は、そのタブレットを明日奈の前に持ってくるとそこには、彼女のお父さんが働いているレクト社のVR研究部門のトップに立っている彼の姿があった。

 

 

「やぁ、明日奈……」

 

「なんで、貴方が??ここは異世界なのよ?それに、エギルさんにもなにかしたでしょ!?」

 

「あぁ、今回は特別に君の質問に答えてあげよう……」

 

 

須郷は、明日奈の質問に全て答えると彼女は、口も聞けなくなるくらいの恐怖を覚えた。更に、彼には一番やりたい野望があるらしい。

 

 

「僕の野望なね……君を私の手の中に収めることだよ、明日奈……」

 

「何ですって!?」

 

「その為に、桐原君にはそっちの世界で依頼をしたのさ。君を見つけて、更には邪魔になりえる英雄黒の剣士を殺せってね。」

 

「そんな……」

 

 

明日奈は、心の底から憎悪が湧いてきた。そんなことのために、彼女の大切な人は傷つけられたのだから……。

 

 

「許せない!貴方のような最低な人間に屈服するものですか!」

 

「それは、面白い……明日が見ものだな。」

 

 

須郷は、そう言うと会議があると言ってそのまま通話を終了した。明日奈は、窓の外を見ながら和人の無事をただ願っていた……。

桐原は須郷の命令に従い、一通の手紙を和人のいる病院へ送り込んだ。

 

「桐ヶ谷君、大切な女を助けたければ落第騎士(ワーストワン)と一緒に俺と戦え!さもなくば、女は一生ある方のものとなる!」

 

看病をしていたリーファは、その手紙を読んで心の底から憎悪が湧き上がりその手紙を握り潰してしまった。医者曰く、今度こそ激しい戦闘を繰り返したら彼の命はないらしい。破壊された心臓が完全に回復するのは、毎日IPS再生槽(カプセル)に入らなければいけない……。勿論、今彼は目を覚ましていない。どちらにしろ、今の和人に勝てる要素は、どこにもないのだ……。

 

 

「お兄ちゃん……このままじゃ、アスナさんが……」

 

「パパ……」

 

 

リーファとユイは、彼の冷たい手を握りながら回復を待つぐらいしかできなかった。桐原の掌の上で転がされていたことに苛立ちを抑えながら……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、現在……。

フィールドに険しい表情をしながら黒鉄一輝がゆっくり入場してきた。

 

 

「遂に、落第騎士(ワーストワン)黒鉄一輝選手が入場してきました!!」

 

 

彼の姿を見た実況役の生徒がそう告げると彼に対する大ブーイングが巻き起こる。桐原の時とは大違いだった。

 

 

「よく来たな、俺に潰される準備は出来たのかよ?」

 

「嫌、君を斬る覚悟なら出来てるよ……桐原君ッ!!」

 

 

そう言うと一輝は、固有霊装(デバイス)である陰鉄を具現化させるとそれを構えながら彼を睨みつける。その表情には、複数の感情が混じりこみ余裕のない表情だった。

 

 

「嫌だね、余裕のない人は……まだ、あの後輩が来てないじゃないか……」

 

「君も分かってるだろ!桐ヶ谷君は……」

 

「それじゃあ、僕の勝ちになっちゃうな〜。桐ヶ谷は、大事な恋人を投げ出して勝負から逃げた卑怯者ってね!」

 

 

そう言うと勝ちを確信したのか、桐原は大声で笑い始めた。彼らの会話を聞いた観客は、ザワつき始めた。桐原と和人が何かを賭けているから急遽この戦いに彼が参戦したのは、ここで知った生徒も多いだろう……。

 

 

「さぁ、ここに桐ヶ谷君は来るのかな?まさか、怖くなって君のように逃げ出したとか?」

 

 

フィールドで好き勝手言ってる桐原に和人という人間を知る人達は、堪忍袋の緒が切れ始めていた。

 

 

「何が逃げ出すよ……お兄ちゃんは、こういう勝負事には絶対に逃げ出したりなんかしない!」

 

「でも、まだ目を覚ましてもないんでしょ?仮に来ても勝てる確率は……」

 

 

リーファの言葉に対してステラは、そう言う。ステラの言う通りここまで来ても勝負に勝てなければいけないのだ。そう考えるとここへ顔を出したって安心はできないのが現実……

 

 

「キリト君……」

 

「パパ……」

 

 

明日奈とユイは、そう呟くと次第に場内がざわつき始めた……。通路から1人の生徒が入場してくるのが見えてきたからだ。しかし、彼は既にヘロヘロで満身創痍の状態で出てきた。

 

 

「おっと、ここで来ました!無名の天才、桐ヶ谷和人選手!!満身創痍の体で入場してきたが、この戦いの前に何かあったのか!?」

 

 

フィールドに現れたが足元をふらつかせた彼を一輝が支えた。

 

 

「ありがとう、一輝……」

 

「こんなの無茶苦茶だ!桐ヶ谷君にもしものことがあったら……。」

 

「安心しろ、俺はアイツを殴らないと気が済まない!!」

 

「じゃあ、今日はタッグチームだ!」

 

「そうだな……」

 

 

和人は、そう呟くと固有霊装(デバイス)であるエリュシデータを具現化させ構えると桐原も固有霊装(デバイス)である弓型の朧月を具現化せた。

 

 

『Let's go ahead!』

 

 

こうして、桐原静矢VS一輝、和人ペアの予選初戦が始まろうとしてた……




《次回予告》
彼の伐刀絶技(ノウブルアーツ)である狩人の森(エリアインビジブル)に苦戦する和人と一輝……。
チートな技を受けてボロボロになり諦める一輝……
致命傷に攻撃を受けて再び倒れる和人……


そんな彼らのことを心の底から大切に思っているあの二人が想いを伝える……。
立ち上がれ!和人、一輝!!


第10話「真の力、解放!?」


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第10話「真の力、解放!?」

《前回のあらすじ》
狩人によって連れていかれてしまった明日奈を救うために満身創痍の和人と怒りが爆発寸前の一輝が立ち上がる!!






前書きからして大丈夫?と不安になるかもしれませんが……
話の内容的に今回が一番よく出来たと思った。今回は、名言が連発!?果たしてどんな内容になってるのか……
お楽しみに!!(bye作者


 

 

『Let's go ahead!』

 

 

試合開始の合図を告げる音声が鳴り響くは、和人は剣技(ソードスキル)であるレイジスパイクを放つもそれを躱され、腹部を思いっきり蹴り上げられると、そのまま地面に伏せてしまった。

 

 

「桐ヶ谷君!?」

 

「ここで大人しくやられてろって。」

 

 

桐原はそう言うとフィールドを自分の領域にするために狩人の森(エリアインビジブル)を発動させると同時にフィールド1面を森とかした。既に彼の姿はどこにも見えなくなった。そんな中、一輝は和人の近くに寄ると彼の制服が既に血塗れになっているのが目に入ってきた。

 

 

「桐ヶ谷君!?その血……」

 

「あ、あぁ……この間の傷が開いちまったか……」

 

 

そんな彼はなんか無視して桐原は、矢を放つとそれを一輝は、切り落とす。

 

 

「いい加減にするんだ!桐原君!!こんなことしてどうする気なんだ!?」

 

「そんなの……最弱の落第騎士(ワーストワン)には関係ねぇーよ!」

 

 

一輝は、桐原が放った矢を全て切り落とす。和人は、ようやく呼吸を整えるとゆっくり立ち上がる。

 

 

「サンキュー、おかげで少しは回復できたぜ。」

 

「じゃあ、行こう!桐ヶ谷君!!」

 

「あぁ!!」

 

 

和人、そういうと再びエリュシデータを構えた。だが、彼の姿は見えてはいなかった。

 

 

「どこ向いてるの?こっちだよ?」

 

 

すると、桐原の声が聞こえた途端……激しい激痛が一輝を襲った。あまりの痛さに一輝は、立てなくなりうずくまってしまう。

 

 

「イッキ!?」

 

「お兄様!?」

 

 

ステラと珠雫は、心配になり彼を呼ぶ。和人も心配して近くに行く。それが、桐原の思う壷だと知らずに……

 

 

「余所見してんじゃねぇ!!」

 

 

見えない3本の矢は、和人の右足、右肩、右手を狙い撃ちした。和人は、手に力が入らなくなり握っていたエリュシデータを手放してしまう。

 

 

「お兄ちゃん!?」

 

「キリト君!!」

 

 

リーファや明日奈も和人を呼ぶが動けなくなってしまった二人を桐原は、まるで無抵抗な亀を攻撃するかのように集中的に攻撃していた。撃ち抜かれた和人や一輝は、傷口から激しい血しぶきをフィールドに撒き散らしながらついに倒れてしまった。

 

 

「おい、立てよ!落第騎士(ワーストワン)、卒業がかかってるんだろ?」

 

 

桐原の声に観客の生徒達が反応した。すると、桐原は生意気にも彼における現在の状況をみんなにばらしたのだ。それを聞いた観客は、全員口を揃えて無理だと言って馬鹿にする。

 

 

「お前ッ!?いい加減に……」

 

「黙れ!異世界から来た侵略者め!!驟雨烈光閃(ミリオンレイン)ッ!!」

 

 

和人が反抗しようとして立ち上がるとそれを見た桐原は、一発の矢を放つと和人の頭の上で弾かせて驟雨のように大量の矢が和人を襲った。

 

 

「桐ヶ谷君ーー!!」

 

 

驟雨烈光閃(ミリオンレイン)が和人に命中すると彼の周りには激しい砂埃が巻き起こる。

 

 

「僕のせいで……桐ヶ谷君が……」

 

「__次、内臓な……」

 

 

桐原は、背後から一輝の内臓を撃ち抜くと一輝はそのまま前に倒れ込んだ。

 

 

「みんな!挫けそうな黒鉄君を応援してあげてくれ!!」

 

落第騎士(ワーストワン)落第騎士(ワーストワン)!!」

 

 

まるで、サーカスのショーを見てるかのように会場には、一輝をバカにするような落第騎士(ワーストワン)コールが鳴り響く。その声に一輝は、自分の意思が押し負けてしまいそうになる。絶望してしまったのだ。

 

 

『俺と一輝が束になっても……アイツには勝てないのか?』

 

 

周りに聞こえてくる彼を馬鹿にする声……和人は、大量の矢を受けて戦闘不能寸前にまで陥っていた。そんな、彼の脳裏に浮かんできたのは、愛する人達が居たあのアインクラッドでの生活だった……。

 

・ログインしてすぐにクラインと出会ったり……

・第一層の攻略会議でアスナやエギルと出会ったり……

・シリカの相棒であるピナを蘇らせるために冒険に出たり……

・リズベットの店で武器を壊してしまい彼女とともに()()1()()()()()の元となる素材集めに行ったり……

・アスナやクライン率いるギルド風林火山と74層のボスを攻略したり……

・アスナとシステム上の結婚をして、第22層のログハウスを買ってそこで生活したこと……

・ユイと出会ったこと……

 

そして、和人が一番忘れてはいけないのが……

 

・サチを殺してしまった自分への罪……

 

走馬灯のように見えてきた数々の瞬間。その次に、彼と出会った全てのSAOプレイヤー次々と和人の脳裏に出てきていた。

 

 

「何やってんだよ、キリト!情ねぇぞ!」

 

『クライン……』

 

「そんな所で挫けるお前じゃないだろ?キリト。」

 

『エギル……』

 

「そうです、立ち上がってください、キリトさん!」

 

『シリカ……』

 

「キリト、その剣は、私が鍛えたんだから簡単に壊れたりしないし、簡単に負けるアンタじゃないでしょ!」

 

『リズ……』

 

「パパは、いつまでも強いパパでいてください!何かあったら私がサポートしますから!」

 

『ユイ……』

 

 

力が入らなくなって棒のように固まっていた彼の体が徐々に氷が溶けるように力が入れられるようになっていた……。まずは、指先からゆったりり動かす……。すると、この試合が始まる前に見た手紙を思い出す……。

 

 

『これに負ければ……アスナは……ッ!!』

 

 

見えない敵に対してスキルもない和人が戦っても勝てるはずがない……今思えば和人も納得がする。この世界では、俺は底辺の存在なんだと……。

 

 

「お兄ちゃん!!好きになった人のこと…そんな簡単に諦めちゃダメだよッ!!」

 

『スグ……』

 

 

虚ろになっていた瞳に輝きが蘇り始めていた。諦めて挫けそうな和人をみんなが支えていた。そして、直葉の後に出てきたのは、あのサチだった。

 

 

『サチ……ごめん、俺は君を…ごめん……』

 

「キリト、みんな感謝してるんだよ……キリトと出会っ事…触れ合ったこと…そして、キリトがSAOをクリアしてくれたこと…だから、もう私に囚われないで……キリト、立ち上がって!私の知ってるキリトは、こんな所で止まらない。」

 

『サチ……』

 

 

そして、サチが消えると最後に現れたのは……血盟騎士団の服を着ている閃光のアスナだった……。

 

 

「キリトくん、私は君に会えて嬉しかった……そして、この世界で再会出来て…だから……立ち上がって!私の大好きな君は、こんな卑怯なヤツに負ける人じゃないわ!さぁ、もう一度剣を抜いて……」

 

 

「「「「キリト(くん)(さん)(お兄ちゃん)!!!」」」」

 

 

みんなが呼んでいる……

ここで負けるな、立ち上がれと……

あんな奴、蹴散らせと……

和人は、左手を肩の近くまで動かすと今まで使っていなかった、もう一個の固有霊装(デバイス)の名を心の中で思いっきり叫んだ!!

 

 

『来い!ダークリパルサー!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「黙れぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!私の好きな騎士をバカにするなーー!!」

 

 

一方、場の空気に耐えられなかったステラは、そう大きな声で叫んだ。それは、自分の好きな人を侮辱されたことにより怒りの篭った心からの叫びだった。彼女の声につられ落第騎士(ワーストワン)コールは、なくなり静まり返った。

 

 

「なに、情けない顔してるのよ!アンタのどんな困難にぶつかったって諦めないその姿が私は好きなんだから!だから……こんな奴らに何か言われたぐらいで諦めたような顔するんじゃないわよ!私が好きになったのは……、何時だって上を向いて自分自身に誇り続ける、黒鉄一輝という騎士なんだから!だから……」

 

『忘れてた……僕は……1人じゃなかったんだ……』

 

 

ステラは、必死に叫ぶ。そんな彼女を見ながら一輝は、大事なことに思い出していた。数日間彼が見失っていた大事なことに……。今だってそうだ、和人というパートナーを信頼せずに1人だけで戦っていた一輝は、ここまで自分を応援してくれるステラずっと見ていた。

 

 

「だから……私の前ではずっと格好いいアンタでいなさいよ!このバカァァァァァァーーッ!!!」

 

 

ステラは、そう叫ぶとその瞳には耐え続けていた涙が溜まっていた。一輝は、ゆっくり立ち上がると自分の拳で自分の顔を殴りつけた。

 

 

「さぁ、次はアスナとユイちゃんの番よ!」

 

「え!?私たちですか?」

 

 

ステラは、一輝の復活した表情を見て安心していると少し離れた場所で伸びている和人を見ると彼の大切な人である明日奈やユイにも想いを伝えろというのだ。

 

 

「でも、私たちがすることは決まってるわよね、ユイちゃん。」

 

「はい、ママ!」

 

「どういうこと?」

 

 

リーファは、明日奈達に聞くと少し笑をこぼしていた明日奈は、フィールドを見ているとゆっくり立ち上がった。まるでもう伝えたいことを伝えてあるかのように……

 

 

「キ・リ・ト・くん?いつまで寝てるのかしら!?」

 

 

明日奈の言葉に和人の体は反応すると和人はゆっくり起き上がった。その表情は、戦う前よりも晴れやかだった。

 

 

「悪いアスナ……ちょっと寝てた。」

 

 

その姿は傷だらけなのにも関わらず、表情を見ると明日奈は、何故か安心してしまう。

 

 

「全く……君はそうやっていつも最初は手を抜くんだから……、負けたら私、あんな奴の奴隷よ?どうする気なの?それにさっきのだって凄く心配したんだからね!」

 

「心配しなくても、もう負ける気はないよ!」

 

「じゃあ…信じてるよ……私もユイちゃんも……」

 

 

明日奈の言葉に和人は、うんと頷くと再びフィールドの方へ体を向けると両手をそれぞれの肩まで動かした。

 

 

「__闇を纏い全てを打ち砕け!エリュシデータ!!

__闇を払い、希望を照らせ!!ダークリパルサー!!」

 

 

和人は、もう一つの固有霊装(デバイス)を具現化せると鞘から同時に引き抜いた。その姿は、あの頃(SAO)の黒の剣士キリトだった。

 

 

「一輝、決着をつけるぞ!今度こそ……()()()()!!」

 

「うん、行こう!桐ヶ谷君!!」

 

「クッ!?やれるものならやってみろ!!」

 

 

桐原は、そう言いながら矢を放つも和人が片手剣を風車のように高速に回転させる剣技(ソードスキル)スピニング・シールドを発動させると矢を斬り落とした。

 

 

「何!?」

 

「そこか!!」

 

 

一輝は、そう言いながら急接近すると陰鉄を振り桐原の制服を斬ると再び距離を置いて和人の隣に並ぶと一輝は陰鉄、和人はエリュシデータの剣先を見えていないはずの桐原に向けていた。まるで、見えてるように……。

 

 

「行くよ……桐原君、僕達の最強をもって……君の最速を……」

 

「「捕まえる!!」」

 

 

和人達の揃った声をきくと桐原は、少しやばい気がしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




《次回予告》
桐原VS一輝&和人ついに決着!!
そして、一輝はステラに想いを伝える!?
和人は、ユイと明日奈と共に新たな生活を始めようとしていた。


第11話「決着~それぞれの道~」



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第11話「決着~それぞれの道~」

《前回のあらすじ》
狩人の森(エリアインビジブル)によって一方的に責められる和人と一輝……。
絶体絶命の彼らにステラや明日奈が声を送る。
和人は、封印していたあのスキルを解放すると一輝は、冷静さを取り戻すと二人は、再び桐原を倒すと宣言したのだった…。



もしかしたら、この話での一輝君は積極的かもです……


和人はエリュシデータの剣先を見えていないはずの桐原に向けていた。まるで、見えてるように……。

 

 

「行くよ……桐原君、僕達の最強をもって……君の最速を……」

 

「「捕まえる!!」」

 

 

そう言うと先に動いたのは、和人だった。走り出して一気に間を詰めると、二刀流剣技(ソードスキル)であるダブルサーキュラーを放つも先に逃げた桐原によって躱されてしまう。今度は、一輝が飛ぶと和人の背中を飛台にして一気に桐原と間を詰める。

 

 

「一刀修羅ッ!!」

 

 

一輝は、最強の1分間をここで仕掛けてきた。静矢は、一輝なら勝てると踏んだのか振り返り彼に矢を放つ。

 

 

「欠陥だらけの技でこの俺に勝てるかよ!!」

 

 

放った矢に対して一輝は。陰鉄で弾くとそのまま彼の目の前まで迫った。

 

 

「第七秘剣、雷光!!」

 

 

一輝は、自分オリジナルの剣技である秘剣の1つである雷光を使った。一刀修羅で上がった速度を更に上げたのだ。一輝は、陰鉄の刃先を桐原の方に突き出すが彼は、避けるとそのまま地面に着地した。しかし、その後には和人が待ち構えていた。

 

 

「どうして!?お前らには俺が見えていないはず!?」

 

 

桐原の反応に西京は、大声で笑い始めた。彼女は、和人や一輝に何が起きたのか理解していた。

 

 

「西京先生?」

 

「キー坊も黒坊もしっかり見えているさ。キー坊はともかく、黒坊には模倣剣技(ブレイドスティール)をさらに進化させ、桐原静矢という人間を盗んだんさ。そう……二人が攻略したのは、狩人の森(エリアインビジブル)じゃなくて、桐やんの方さ。」

 

 

桐原は、慌てて二人を見ると既に次の攻撃の構えをしていた。桐原は、そんな二人から離れると木の上に登りながら逃げていた。

 

 

驟雨烈光閃(ミリオンレイン)!!」

 

 

無数の矢が二人に降りかかるが、和人と一輝は全て斬り落としながら再び桐原に向かっていくと先に彼に向かって斬りかかったのは、一輝だった。彼は、陰鉄の棟で桐原を地面にむかって叩き落とした。

 

 

「スイッチッ!!」

 

 

一輝は、前に和人から聞いたSAOの話でダメージをより多く与えるためにプレイヤー同士の連携技スイッチの名を叫んだ。仕組みは、1人が技を決め込んだ後にもう1人のプレイヤーが技を放つというものだった。

 

 

「__これで決める!!」

 

 

和人は、二本の剣を幻想形態に戻すと剣を青白く輝かせた。二刀流の奥義であり和人が愛用してた剣技(ソードスキル)……。

 

 

「スターバースト…ストリームッ!!」

 

 

和人は、そうスキル名を叫びながらあの時のようだ剣を振り下ろしていた。そんな和人は、木の上で眺めていた一輝を横目でちらっと確認すると何かを確認したのか彼とアイコンタクトを終えると最後の十六連撃目を放ち終えた。

 

 

「スイッチッ!!」

 

 

和人は、そう言うと桐原と距離を置いた。桐原は、嫌な予感がしたのか上を見上げるとまるで、鬼のような表情をしていた一輝が真上から降ってきたではないか。

 

 

「それ、刃物!刃物!!当たったら痛いやつ!分かった、俺の負けでいいから!!痛いのは嫌だァァァァァァァァ!!!!」

 

 

桐原の叫び声とともにまた砂埃が会場に舞い上がる。視界が良好になるとそこには、桐原の鼻先を陰鉄で斬っていた一輝の姿があった。

 

 

「__1ミリ予測とずれたか……、僕もまだまだだ。」

 

 

そう呟くと桐原は、気を失いそのまま後ろへ倒れると戦闘不能を告げるアナウンスが会場に響き渡る。

 

 

『桐原静矢、戦闘不能。勝者、黒鉄一輝並びに桐ヶ谷和人。』

 

「し、し、試合終了!!あの狩人の森(エリアインビジブル)で有名な狩人こと桐原選手を見事に倒したのは、落第騎士(ワーストワン)こと黒鉄一輝選手と二刀流剣士、桐ヶ谷和人選手だァァ!」

 

 

会場が予想外の勝利で静まり返るがステラ達は、声を大にして喜んでいた。和人と一輝は、グータッチをするとそのままIPS再生槽(カプセル)のある医務室へと運ばれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

病室で目を覚ました和人は、ゆっくり体を動かして上半身を起こすと窓から見える綺麗な夕焼けを見ていた。あの激闘を振り返っていた。そして、左手に残る暖かな温もりを確かめていた。

 

 

「パパ!!」

 

 

病室の扉が開くと二本のスポーツドリンクが入ってる缶をもってユイが勢いよく入ってくると遅れて明日奈が入ってきた。

 

 

「ユイ、アスナ……」

 

「もう、心配させないでよね?キリトくん。」

 

 

明日奈は、少し呆れた感じに話すも今こうして彼と話せれてることが嬉しいのだ。

 

 

「ごめんな、心配かけて……」

 

「本当です、一時はどうなるかと思いました!」

 

 

今回の件に関しては、ユイも少し怒り気味である。和人は、二人の態度に参ったのか頭を掻き回しながら打開策を考えていた。

 

 

「あ、そうだ!ユイ、アスナ……今度の休み3人で出かけるか?」

 

「本当ですか?ヤッター!!」

 

「でも、試合はいいの?」

 

「あぁ、試合があるのは大体平日だからな。」

 

 

そう言われるとユイは、心から喜ぶとその様子を二人は嬉しそうに見ていた。すると明日奈は、和人にそっと近づき彼を包み込むように抱きしめた。最初は、照れくさく感じていた和人も次第に明日奈を抱きしめると明日奈は、そのままの状態で彼に自己紹介をした。

 

 

「__初めまして、結城明日奈です。ただいま、キリトくん……」

 

「桐ヶ谷和人です。おかえり、明日奈……」

 

 

そう和人も自己紹介をすると、一旦距離を置くと恋人繋ぎをしてから二人は顔に近づくと唇を重ね、目を閉じてお互いの舌を絡め合いながら深いキスを交わした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、その後……顔を真っ赤しながらユイは、

 

 

「そういうのは私の見てないところでしてください!」

 

 

と再会してイチャイチャ全開の夫婦に説教をしたのは言うまでもない……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜、目を覚ました一輝は窓から外の景色を見ると綺麗な月が見えていた。そして、下の方を向くと顔をうつ伏せながら寝ているステラの姿があった。涎が少し見えているが綺麗な寝顔に少しドキッとなりながら一輝は、ステラを優しく揺らして起こした。

 

 

「ふぇ?い、イッキ!?」

 

 

起きるとすぐに状況を理解したステラは、そのまま起き上がり涎をハンカチで拭くと恥ずかしい所を見られたと叫びまくりその場でじたばたしてしまう。

 

 

「す、ステラ落ち着いて!」

 

「落ち着いてられないわよ!あぁ〜、もうお嫁に行けない!!これもイッキのせいだからね!」

 

「え!?僕のせいなの?」

 

 

突然のように押し付けられ、少し困惑する一輝だが……。

ステラは、彼の前に座り込み胸をポンポン叩いて先程の戦いに対しての文句を言いまくっていた。

 

 

「何よ、カズトが怪我してたからって二人がかりなのにあんな奴にボコボコにされちゃって!バカバカバカーっ!」

 

 

一輝は、ステラの頭に手を当てて撫でながら謝ることしか出来なかった。自分が不甲斐ないばかりに不安にさせてしまったのだから。しかし、不意打ちの行為にステラは、顔を赤くする。

 

 

「な、何をいきなり……」

 

「いや、本当だよ……今日の僕は、ステラが居なかったら負けてた。それに……」

 

 

一輝は、戦闘のとき彼女が叫んでくれた言葉を思い出していた。ステラの気持ち……あんなに堂々と自分のことを好きだと言ってくれる人がこんなにも近くにいた。その事だけで一輝はとても嬉しかった。

 

 

「__僕も好きだよ、ステラのこと……」

 

 

その言葉を聞いて完全にゆでダコ状態になってしまったステラは、必死に意味の無い言い訳をし始めた。しかし、一輝はそんなことを無視して再びステラの両手を握りしめた。

 

 

「僕は、君と出会えて幸せだと思えた。ステラと出会ってから毎日が楽しいんだ。君さえよければ……もっと一緒にいたいって思ってるんだけど……」

 

「__ずるいわよ……」

 

 

ステラは、そう呟くと俯いてしばらく黙り込む。その様子に不安になる一輝だった。

 

 

「イッキ、目をつぶって?」

 

「え!?」

 

「良いから……」

 

 

ステラにそう言われると一輝は、目をつぶってしばらく待つと左頬に柔らかい感覚がした。慌てて目を開くとそこには、ステラの柔らかい唇が自分の頬に当たってるのが見えた。あまりにも恥ずかしかったのか……二人は、顔を赤くしながらしばらく黙り込んでしまった。

 

 

「__ステラ……これって……」

 

「か、勘違いしないでよ……これは、下僕とかそういうのじゃなくて……私がしたいと思ったから……」

 

「それって……」

 

 

一輝が聞くとステラは、恥ずかしながらコクっと首を縦に動かした。つまり、告白がOKされたのだ。そんなステラを見た一輝は、彼女をギュッとだきしてしまった。

 

 

「ちょっとイッキ?そんなにきつく抱き締められたら苦しいわよ?」

 

「あ、ご、ごめん……異性の人とお付き合いするの初めてだからつい……」

 

 

滅多に見れない彼の慌てぶりにステラは、クスクスっと吹き出し笑いをしてしまう。

 

 

「私だって、そっちの経験はないから幻滅するわよ?」

 

「ステラなら構わないさ。」

 

 

一輝は、そういうと手を握るとお互いの顔をしっかりと見つめ始めると一輝の口が動き始めた。

 

 

「ステラとならどこまでも強くなれる気がするだから行こう二人で、騎士の高みへ。そして、その頂をめぐる最後の戦いで僕は君と戦いたい。」

 

 

その言葉にステラは、二つ返事でこう返した。

 

 

「望むところよ!次は絶対に負けてやらないんだから!!」

 

「約束だ!」

 

 

月光が綺麗に入り込む静かな病室で二人の騎士は、一生破れないであろう約束を交わした。それは、二人が恋人でありながらも互いを高め合う最高のライバルとして……。

 




《次回予告》
順調に勝利を掴み取っていく一年生メンバー達……。
そんな中、いつの間にか一輝や和人に剣術を習いたいという人が殺到する……。
そんな彼らの様子を物陰からじっと見つめている人物がいた。


第12話「最後の侍の娘」


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《番外編》「アインクラッド・バレンタインデーイベント!」





























最初に言っておく、これは本編とは無関係である。


 

 

「キリトさん!」

 

 

俺は、後から声をかけてくる女の子の声に反応して後ろを振り向いた。そこには、ビーストテイマーのシリカが俺に手を振りながら近づいてくるが見てわかった。

 

 

「やぁ、シリカ。」

 

「キリトさん、一緒にクエストに行きましょう!」

 

 

なにげに積極的なシリカは、俺の手を握りしめて来た道を戻ろうとし始めていた。それを見て周囲はあまりいい顔をしない。俺は、アインクラッドの第一層から《ビーター》として周囲から嫌われ者とされていたからだ。そんな俺だがビーターという概念に縛られず、仲良く接してくれる仲間は、まだこのアインクラッド内に何人かいる。

 

 

「ちょっと待て、シリカ。クエストってどこに行くんだよ?」

 

「どこって、それは今日の日付で確認してください!!」

 

「は?」

 

 

引っ張られながら俺は、システムウインドを開いて今日の日付を確認するとそこには、2月14日と記されていた。その日付で俺はなんとなく理解ができた。そう、俺みたいなゲーマーとは無関係のバレンタインデーだったのだ。

 

 

「シリカ、もしかして期間限定クエストに参加するのか?」

 

「はい、でもそれが対象のモンスターを倒して素材を集めるんですけど……今の私のレベルじゃ無理なのでキリトさんにお手伝いして欲しいんです。」

 

 

恥ずかしそうに言うシリカ……そうか、誰かにチャコを渡すんだろうな。シリカみたいな人気者から貰えるその人は、羨ましいな。

そんなことを考えながら俺は、シリカに連れていかれてクエスト起動する為のNPCがいる場所までやってくると少ない女性プレイヤーが全音集結していた。

 

 

「あら、シリカじゃない……って、キリト!?」

 

「ん?リズ、来てたのか?」

 

「き、キリトくん!?何で???」

 

「アスナまで……」

 

 

鍛冶屋のリズベットや血盟騎士団副団長のアスナ、その後には情報屋として有名な鼠のアルゴが揃っていた。いずれも俺と親しくしてくれるプレイヤー達だ。

 

 

「すごい人盛りだな……流石は、限定クエストなだけある。」

 

「キー坊、オレっちが誘った時は興味ないとか言ってなかったカ?」

 

「いや、シリカに誘われたんだよ。それにしても、アスナやリズまで居るなんて思わなかったよ。」

 

「そ、そうかな?」

 

 

アスナは、少し恥ずかしそうに答える。リズがここにいるのは、まだいいが……攻略の鬼と呼ばれたアスナがこういったサブクエストに参加するのは、滅多にないことだと思うと同時にどこか違和感を感じていた。

 

 

「__悪い、遅くなった。」

 

 

転移門からやってきたのは、クラインにエギルだった。二人は、俺の顔を見るとビックリしていた。

 

 

「キリト、来ないって言ってたじゃねぇか?」

 

「いや、何も言われずにシリカに連れてこられたんだよ。てか、お前らことなんでいるんだよ?」

 

「アスナ達がクエストの最終ボスまでたどり着いたからパーティ組んで一緒に倒してくれって言うから装備を揃えてきたってわけだ。」

 

 

ここでようやく俺はなんとなく理解するとシリカの方を見ると彼女は、きちんと説明をしてくれた。

 

アインクラッド内である二人のNPCが仲良く暮らしていた。彼らはここら辺では美男美女として有名な二人であったが、バレンタインデーの前日(=昨日)、女性NPCが盗賊軍団に連れていかれてしまった。そして、バレンタインデーが終わる日までに取り戻してほしいというクエストらしい。そして、アスナ達は何とかその盗賊軍団を倒すとラスボスが第10層のボスモンスター、カガチ・ザ・サムライロードに化けたらしい。

 

 

「__そういうことでキリト、このクエストの詳細を知ったあんたにも働いてもらうわよ?」

 

「へいへい」

 

 

俺は、中途半端な返事をするとパーティリーダーであるアスナにパーティ申請を送りパーティメンバーにしてもらうと俺は、そのままアスナ達と一緒にバレンタインクエストのラスボスに挑むことになった。

 

 

「ここだよ、キリトくん。」

 

「この感覚、確かにフロアボスと似た気配がする……」

 

「攻略組としては、ここで負けるわけにはいかねぇな!」

 

「当たり前よ!行くぜ、キリト!」

 

「って、私たち攻略組じゃないんですけど?」

 

 

攻略組である俺達の会話にリズがツッコミを入れる。いつものボス攻略とは違い、アスナの笑顔が絶えない。こんな日があってもいいのか……そう思いながら俺は、アスナに質問をした。

 

 

「アスナ、転移結晶は使えるな?」

 

「えぇ、一回突撃して逃げてきてるから転移はできるわ!」

 

「__みんな……行こう!」

 

 

アスナの言葉を聞いた俺は、右手でエリュシデータの柄を握りしめるとみんなの先頭に立ち、左手でゆっくりとボス部屋の扉を開けた。

すると目の前には、情報通りそこにはカガチ・ザ・サムライロードが待ち構えていた。少し、甲冑の色がチョコ色になっているのは、バレンタインクエストによる特殊だろう。俺は、サムライロードの攻撃をパリィして防ぐと後からエギルとリズがそれぞれの武器で殴りつけるが、特別装備のチョコ色の甲冑の防御力によってあまり効果がない状態だった。

 

 

「エギル、リズ!次の攻撃が来るぞ!退け!」

 

 

俺の言葉に反応したリズとエギルは、その場から離れるとクラインが背後に回り込み刀ソードスキルである辻風を放つと少ない時間ではあったがサムライロードは、スタンした。その隙にアスナやシリカがソードスキルを左右から放つ。

 

 

「キー坊、スイッチ行くゾ!」

 

「おう!」

 

 

アルゴは、先にサムライロードの方へ突っ込むとそのまま手にしてるクロー系の技であるアキュート・ヴォールトという突進技を放つ。

 

 

「スイッチ!!」

 

 

アルゴの言葉に反応した俺は、片手剣の最上位ソードスキルであるノヴァ・アッセンションを放つとサムライロードのHPが残り1本となった。

 

 

「みんな、ラストアタック行くよ!」

 

 

アスナがそう言って指示を出すと全員が一斉にサムライロードの近くまで行く。しかし、第10層の時とは違う感覚がしていた。

 

 

「みんな、退け!ボスの攻撃パターンが変わるぞ!」

 

 

しかし、俺の声が届く頃には遅くて敵は、背中から隠してあったもう一本の刀を抜いて刀の二刀流になっていたのだ。すると、サムライロードは、範囲技のソードスキルを使い俺とアルゴ以外のメンバーを全てスタンさせた。

それを見た俺は、慌てて何かないかシステムウインドを開くとアイツに対抗できるスキルが既に俺に備わっているのを思い出した。

 

 

「アルゴ、敵の注意を引き付けてくれるか?」

 

「あぁ、オネーサンに任せナ!」

 

 

そう言うとアルゴは、サムライロードに接近して注意を逸らしてくれた。その隙に俺は、ウインドを操作してスキルを解放すると集めたスキルポイントを全て振り分けるとこの間作ってもらったダークリパルサーを装備した。

 

 

「よし、イイぞ!」

 

 

アルゴが再びクローの技を決めるとスイッチして前後入れ替わると装備されたダークリパルサーの柄を左手で握ると鞘から引き抜くと攻撃されそうになっていたアスナの前に立つと二刀流スキルの1つであるクロスブロックでサムライロードの攻撃を防いだ。

 

 

「き、キリトくん!?そのスキルは何!?」

 

「話はあとだ!みんなは退却の準備をしてくれ!あいつは俺が倒す!」

 

 

俺は、そう言うとサムライロードとの距離を縮めると2本の剣を青白く光らせた。

 

 

「スターバースト・ストリーム!!」

 

 

そう技名を叫びながら俺は、次々と剣撃を繰り広げてサムライロードに攻撃させる隙を作らせなかった。その隙にアスナ達がサムライロードからはなれるのを横目で確認するとスキルを放ち終えた俺は、システムの限界を超えるような大技を放つ。

 

 

「ここだ!!」

 

 

硬直が始まる寸前に別のスキルを発動させたのだ。二刀流ソードスキルの突進技である。ダブルサーキュラーを放つとサムライロードは、HPが尽きて爆散した。目の前には、クエストクリアを告げるシステムウインドが登場していた。

 

 

「__勝ったか……」

 

 

俺は、疲れて尻餅つくと動けるようになったアスナ達が俺の周りを囲んだ。みんな無事で何よりだったがクラインが突然聞いてきた。

 

 

「お前、さっきのスキルは何だよ?」

 

「確かに見た事ないスキルだったわね、アルゴは何か知ってる?」

 

「いいや、オレっちも初めて見るスキルだ。キー坊、ちゃんと説明してくれるよな?」

 

「__言わなきゃダメか?」

 

 

疲れきってる俺に新しいスキルを見てたみんながうんと頷いていた。それを見てからため息をこぼして俺は話すことにした。

 

 

「エクストラスキル、二刀流だよ。」

 

「おぉ!!取得方法は?」

 

「いや、それが良くわからないんだ……俺もウインドを見てたらあったから……」

 

「ふむふむ、謎のエクストラスキルか……これは、売れない情報だが……兎に角今は、ドロップした素材でチョコレート作りをするべきだナ!」

 

 

アルゴの一言で、俺達はそのまま宿屋へと向かった。まさか、この時に発生した二刀流がアインクラッドに囚われた人達の命運をかけるバトルに招かれるなんてしらずに……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ジャジャーーン!出来たわよ、チョコ!!」

 

 

宿屋に戻ると女性陣4人によるバレンタインデー用のチョコレートが完成していた。それぞれ包に入っており、中身が見えないような状態だった。

 

 

「き、キリトさん!これピナを助けてくれた時のお礼です!」

 

「きゅる!」

 

 

え、今年一個目!?

俺は、照れを隠しながらシリカからチョコを貰った。すると、目の前には、アスナやリズが頬を赤くしながら立っていた。

 

 

「キリト、私たちも作りすぎちゃったから上げるわよ、」

 

「いいのか?」

 

「もちろんよ!ほら早く食べなさいよ!!」

 

 

そう言われると俺は、リズの貰ったやつの包を開けると中に入っていた()()()()()をそのまま食べた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キリトくん?キ・リ・トくん?」

 

 

目を覚ますと俺は破軍学園の自室にいた。時計を見ると朝の8時……。今日は、平日で学校への登校日だった。明日奈やユイが不安そうな顔をして俺の方を見ていた。

 

 

「パパ、すごい魘されていました。大丈夫ですか?」

 

「あ、あぁ……バレンタインデーの夢を見てて……料理スキルのないリズのチョコを食べて……死にかけた夢を見てた。」

 

 

俺が夢の話をすると明日奈は、ふふっと吹き出し笑いをする。どうやら、その夢が面白かったらしい。でも、今考えてみれば料理スキルMAXのアスナのから食べておけばよかった……そんな気がしていた。

 

 

「あの頃は、私も攻略で頭が一杯だったからな……ってことで、はい!これ。」

 

 

頬を赤くさせながら夢の時より表情が優しい明日奈が綺麗に包まれた物を渡してくれた。

 

 

「明日奈……これは?」

 

「今日は、バレンタインデーだよ?キリトくん。だから、チョコ。ユイちゃんと一緒に作ったんだ!」

 

「へぇー、そうなのか……どれどれ?」

 

 

俺は、そういいなが包を綺麗に開封するとそこには、更に小さな包が2つあった。綺麗なハート型のチョコレートだった。それを開けてひとつのチョコを俺は口の中へと運んだ。

 

 

「__美味しい……これは?」

 

「私です!パパに喜んでもらえて嬉しいです!」

 

「ほら、私のも食べて?」

 

 

明日奈に言われるままに俺は、明日奈のチョコを口へと運んだ。味はもちろん……。

 

 

「上手いよ!明日奈!ユイも良く作ったな!」

 

 

俺は、そう言ってユイの頭を撫でる。良く考えてみれば、あの攻略の鬼と呼ばれていたアスナがサブクエストに参加するタイプじゃないし、俺が二刀流を発動したのは、第74層のボス戦だった。

でも、夢で少し安心した気がした。

 

 

 

 

 

こうして、俺の夢でもリアルでもバレンタインのイベントは終わりを迎えたのだ。




遅くなったけど、ハッピーバレンタイン!!
今回は、お気に入り登録者80人超え+UA10000を超えた記念での番外編を書きました。夢でアインクラッドのバレンタインデークエストのボス戦を行い、クリアすると3人からチョコを貰い、リアルでは、明日奈やユイからチョコをもらえた和人……。
書いてて羨ましいと思いました!!

今回のバレンタインデークエストのラスボスとして、用意したのが
カガチ・ザ・サムライロード(バレンタイン仕様)
・HPバー3本
・チョコ色甲冑によって防御力大
・HPが1本まで減ると攻撃パターンを変える。
・刀の二刀流を使う。使えるソードスキルは、刀ソードスキルに二刀流ソードスキルの二種類。
・その他は、普通のサムライロード能力を使う。

リズは、料理スキルがそんなに高くないのを忘れてチョコを料理してしまったらしい……。







さて、次回からストーリーも進めたいと思います。
今回は、読んで下さってありがとうございます┏○ペコッ


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第12話「最後の侍(ラストサムライ)の娘」

《前回のあらすじ》
何とかして桐原静矢を倒した一輝と和人は、お互いの時間をそれぞれの病室で過ごしていた。
和人は、家族3人の再会を喜び……
一輝は、ステラと恋人になった……。

そんなことから数日後、物語はまた加速する。


場所は、破軍からかなり離れた場所……。

そこには、伐刀者(ブレイザー)の養成学校としては新米の学校聖十字帝国学園。名前を考えたのは、伐刀者(ブレイザー)の日本支部らしい。そんな厨二病全開の学園が今、七星剣武祭の出場資格をかけて学園の代表生徒がKOKリーグで活躍している有名な選手と戦っていた。その様子は、各学校関係者や七星剣武祭本戦の実行委員会の人たちが見ていた。

 

 

「コイツ、全然攻撃が効かない!?」

 

「__()()()()()()()()は、こんなにも愚かなのかな?」

 

 

その挑発的態度に我を忘れたその選手は、無闇に剣を振るうがその生徒の持つ大きな盾によって全て防がれた。まるで子供がワガママを言ってるのを止めている親のような余裕を見せるその生徒は、盾を使い相手をを振り払い、尻餅をつかせる。そんな選手を生徒は、上から目線で見下していた。

 

 

「さて、もう終わりにしようか……」

 

 

そう言うと、その生徒が振り上げた長剣の刀身が赤く光り始めた。その光景に破軍の代表で会場に来ていた神宮寺や西京そして雷切こと東堂刀華は、見覚えがあった。

 

 

「くーちゃん、あれって……」

 

「あぁ、桐ヶ谷の伐刀絶技(ノウブルアーツ)剣技(ソードスキル)だ。」

 

 

そこまでしか知らない神宮寺や西京に対して刀華は、その技の名前までしっかりと知っていた。あの時、和人と模擬戦をした時の最後の一撃で使用した片手剣のソードスキル《スラント》だ。その生徒は、その一撃だけを周囲に見せつけるように放ち模擬戦を終えた。

神宮寺や西京更には刀華までもが驚くことなど滅多にないが、驚かざるにはいられなかった。

 

そんな破軍の3人を驚かせた人物……その名は、仮想世界の研究に務めあのSAOを開発して世界にVRMMORPGというジャンルを世に出すと同時に4000人の命を奪ったデスゲームのGMである茅場晶彦(かやばあきひこ)だった……。茅場は、驚いているスタンドの関係者を横目でチラッと見るとボソッと呟いた。

 

 

「七星の舞台で君に会えるのを楽しみにしているよ……キリト君。」

 

 

再戦を違う彼は、そのまま控え室へと向かった。そして、何故彼が高校生の年齢に若返ってるのかは未だに謎である……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「コンコンコンコン……」

 

 

翌朝、包丁で食材を切る音がとある部屋の中から聞こえてきた。その部屋の主は、まだ睡眠状態で夢を満喫してる状態だった。代わりに栗色の髪をした女子が制服の上にエプロンを身につけて鼻歌を歌いながら朝ごはんの支度をしていた。

 

 

「ユイちゃん、キリトくんを起こしてきてくれる?」

 

「わかりました!ママ!」

 

 

リビングで待っていたユイは、明日奈の声を聞くとベットの上で爆睡してる和人へ近づくと彼を起こそうとする。

 

 

「パパ、朝ですよ?起きてください。」

 

 

ユイは、優しく和人を起こそうとするも全然起きる気配がなかった。そんな彼をご飯の支度を終えた明日奈が近づいてきた。

 

 

「キ・リ・ト・く・ん?早く起きないとご飯なくなっちゃうわよ?」

 

「__それはダメだ!」

 

 

明日奈の脅しに和人は、勢いよく起き上がると彼の顔に近づいていた明日奈の唇と重なってしまった。

 

 

「き、キリトくん!?」

 

「ま、待て!明日奈!!これは、不可抗力だ!!」

 

 

和人は、そう叫びながら自分の無実を伝えるのであった……。

 

 

しばらくして騒ぎが収まると和人は明日奈達と朝食を終えて会場へ行く準備を済まして玄関前にたっていた。彼は靴を履くと振り返り後ろにいた明日奈とユイを見つめていた。

 

 

「パパ、今日も頑張ってください!」

 

「後で応援に行くからね!」

 

「あぁ、必ず勝ってくるかな!」

 

和人は最後にそう言うと二人に背を向けて寮の部屋を出ていった。それを見届けるとエプロンを外しながら明日奈はユイの方をチラッと見ると彼女は、何かを祈るように両手を握っていた。

 

 

「ユイちゃん?」

 

「ママ……パパは七星剣武祭に出ますよね?そして、優勝しますよね……」

 

 

ユイも不安なのだろう……、明日奈は、何も言わずに大事な一人娘を優しく抱きしめる。

 

 

「ママ?」

 

「ユイちゃん、パパはどんな人?」

 

「パパは、強くて、優しくて、時に頼りないところもありますが、とても頼りになる素敵なパパです。」

 

 

和人のことをまるで、自分のように語るユイを見てた明日奈は、少し嬉しくなりふふふっと吹き出し笑いをすると、そのままユイの両肩をしっかり握った彼女の目を見つめていた。

 

 

「じゃあ、そんなパパが負けるはずないでしょ?ユイちゃんが応援してるんだもの……パパ、逆に張り切って余裕で勝っちゃうかもよ?さぁ、早く準備して私達も行きましょう?」

 

「はい!ママ!!」

 

 

そう言うとユイは、そのまま着替え始めた。

 

 

 

 

 

 

 

和人は、太陽の光を十分に身に受けながらゆっくり会場へと向かっていた。ここまで連戦連勝と大活躍な和人は、七星剣武祭の出場が次第に本命になってきているのではないかと校内新聞の記事にされたぐらい周りの期待が大きくなるのを感じていたと同時に少し開幕の時とは違う緊張が彼を襲っていた。

 

 

「あ、桐ヶ谷君!」

 

「来たわね、カズト。」

 

 

昨日、試合を終えて堂々と生徒会のメンバーに勝利を収めた一輝とステラが和人の応援をしに既に会場前で彼を待っていた。

 

 

「おはよう、一輝、ステラ。」

 

「今日はどんな技を見せてくれるのか楽しみだわ!二本目の剣は抜くのかとかね!」

 

 

ステラは、和人の二刀流や剣技(ソードスキル)など今まで見たことのない技を次々と見せてくる彼の試合が楽しみで仕方なかったのだ。

 

 

「どうだろうな……、今回の相手も3年生だし勝負は最後までやらないと分からないからな。」

 

「カズトまでイッキみたいなことを……でも分かったわ!ここで負けたら許さないから!」

 

 

そう言うステラに和人はうんと頷きそのまま控え室へと向かい試合までの時間を有意義に過ごしていた。もう何戦も試合をこなせば、流石に慣れてきたのか試合前の緊張もほとんどしなくなった。

 

 

「桐ヶ谷選手!準備の方をお願いします」

 

 

しばらくの時が経つとアナウンスの支持に従い和人は、控え室からフィールドへと向かうと先に待っていた弱気な3年生が銃型の固有霊装(デバイス)を展開させていた。和人は、そんな相手をなるべく見ないようにしながら固有霊装(デバイス)である黒色の片手剣エリュシデータを召喚して構えた。

 

 

「Let's go ahead!」

 

 

試合開始を告げるアナウンスが鳴ると先手を打ったのは、3年生だった。彼は、銃口を和人に向けた。

 

 

「し、死にたくなったら……こ、降参するんだ!」

 

 

和人は、何も言わずに彼との間合いを詰めようとする。手が震えてるのか3年生の銃口は、縦横に大きく揺れていた。

 

 

「う、撃つぞ!?僕は本気だからな!」

 

「__そんなに震えてるのに俺が撃てるのか?」

 

 

脅してくる3年生に和人が挑発の言葉をかけると彼は、迷わずに引き金を引き抜くと同時に和人は、片手剣ソードスキルの一つである《スピニングシールド》を使用してエリュシデータを円を描くように高速回転させて銃弾を弾いた。

 

 

「嘘!?何で、顔面に行くって予想出来たんだい?」

 

「銃口と目線があったからさ。今度はこっちの番だ!」

 

 

目の色を変え、獲物を狙うような和人に恐怖を覚えた3年生は、彼に背を向けて逃げようとする。そんな3年生を和人は、後からソニック・リープを放ち一発でダウンを取った。

 

 

「ま、また、一撃!?桐ヶ谷選手、またしても一撃で上級生の3年生を打ち倒した!!」

 

 

場内アナウンスに観客が割れんばかりの大歓声が巻き起こるのは言うまでもない……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「__で、何でこんなことになってるんだ?」

 

 

試合が終わると和人はステラや一輝達とゆっくりするべく、中庭のテラスでのんびりとしていたが、その周りには、剣術を教わりたいという生徒で溢れていた。

 

 

「黒鉄君、桐ヶ谷君ってすごい強いじゃないですか?剣術だけで倒すなんて凄いですよ!!」

 

「そ、そんなことないよ。」

 

「いや、一輝は凄いよ……太刀筋がすごく綺麗だからね。」

 

 

謙遜する一輝の事を和人は、素直に褒めた。今まで彼とともに過ごして特訓の相手もたからなのか少し一輝は照れていた。

 

 

「__という訳で、剣術を教わるなら一輝がいいと思うぞ!」

 

「え!?ちょっ、桐ヶ谷君!?」

 

 

和人は、そう一輝に押し付けるとそのまま中庭のテラスをあとにした。彼のことを追いかけようとする一輝だが、教わりたい人に囲まれて身動きが取れなかった。仕方なく、取り囲む生徒達に剣術を教えることとなった……。

一方、テラスから離れた和人は人気のないところまで移動すると誰かにつけられている気がしていた。

 

 

「__いい加減出てきたらどうだ?」

 

 

振り向きながら言うと、ビクッと反応したストーカーは静かに木の後ろから出てきた。長いロングヘアのおしとやかな性格をしていそうな女子生徒だが、突然固有霊装(デバイス)を展開させた。

 

 

「__参ります!」

 

「何!?」

 

 

刀型の固有霊装(デバイス)の柄を両手でしっかりと握るとその女子生徒は、和人の所を斬りかかった。和人は、体勢を低くして躱すとそのまま前転して彼女の後ろに回り込むと固有霊装(デバイス)のエリュシデータを展開させた。

 

 

「いきなり斬りかかってくるってことは……君は、何者だ?」

 

「ボクは、もっと強くならないと……」

 

 

その目は、狂おしい程に強さばかりを求める目だった。和人は最近使っていなかったもう一歩の固有霊装(デバイス)である青白い片手剣ダークリパルサーを展開させるとそれで彼女の剣を受け止めた。

 

 

「何者か、知らないけど……そんな事のために、他人を襲っていいとは限らない!!」

 

「__ッ!!」

 

 

和人に悟され、剣に伝わる力が緩くなるとそのままダークリパルサーで彼女を振り払いエリュシデータの剣身を光らせた。右斜め上から振り下ろそうとするソードスキル《スラント》だ。すると、剣から目線を逸らした彼女を見ると和人は寸止めでスキルをやめてそのままエリュシデータとダークリパルサーを鞘にしまった。

 

 

「おい、大丈夫か?」

 

「あ、はい。ごめんね、突然斬りかかったりして……」

 

「それはイイよ、でもどうしてこんなことを?」

 

「ボクは、どうしても剣術を教わって強くならなきゃいけないんだ。だから、予選で上級生に快勝している君や他の1年生に教わるのが一番だと思ったんだけど……」

 

 

少し頬を赤くしながらその生徒はそう言う。その言葉に少し安心した和人は、その場に座り込み溜息をこぼすとクスクスっと笑い出してしまった。

 

 

「そんなことなら、俺よりも教えるのが上手い専門家がいるぜ!今度紹介してやるよ。俺は、桐ヶ谷和人。君は?」

 

「ぼ、ボクは絢辻綾瀬(あやつじあやせ)。よろしく、桐ヶ谷君!」

 

 

こうして、二人は出会った。

そして、これから大事件に巻き込まれるとは誰も思ってはいなかっただろう……。




《次回予告》
毎日剣術を教える一輝、そんな彼にステラは心の隅でヤキモチを焼いていた。そんな中、ステラは和人の彼女である明日奈と相談するのだった……。


第13話「恋の形……」


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第13話「恋の形……」

《前回のあらすじ》
無事、連勝で試合を終えた和人と一輝の所へ剣術を教わりたいという生徒が沢山現れるようになった。そんな生徒達を和人は一輝に押し付けてその場を去るも絢辻綾瀬による尾行に気づくとその場で戦闘が行われる。やはり、剣術を教わりたいという絢辻綾瀬の言葉に和人は、彼女を一輝の所まで案内することに……


 

「__という訳で、綾辻にも剣術を教えてくれ、黒鉄先生。」

 

 

あれから数日の時が経っていた。絢辻は緊張するからと言って何度も後回しにしていたので話すのが遅くなったが、和人は絢辻綾瀬との間に起きたことを全て説明すると剣術を教えることを一輝に頼み込むのだった。しかし、当然彼はまだ納得がいかないのだった……

 

 

「桐ヶ谷君も教えてあげてよ〜」

 

「いや、そんな事言われても……俺のは、特殊だし……」

 

「そうね、カズトのそのアイン何とか流?は、たしかに難しいわね。」

 

 

和人と一輝の会話にステラも参加する。彼女は、彼が生き残ってきたデスゲームの舞台であるアインクラッドの名前から取って彼の剣技をアインクラッド流と呼びたかったのだが、未だに覚えきれていないらしい。そんなステラの言葉を聞くと他の生徒が騒ぎ出す。

 

 

「え、それが桐ヶ谷君の剣術なの!?」

 

「私も習ってみたい!!」

 

「私も!!」

 

 

再び人の集団が和人に集まる。今まで聞いたことのない名前の剣術にみんな興味津々だったからだ。

 

 

「いや、俺の剣技はそう簡単に出来ることものじゃないし……多様な割には、肉体的に負荷がかかるから……。」

 

 

《スターバースト・ストリーム》とかあんな高速で繰り広げる連続技なんてそう簡単に教えられないし、和人のように女神の魔力によって強化されて仮想世界の時のようにスムーズに動ける肉体でないと発動できないだろうと思ったからだ。

 

 

「__なるほど、桐ヶ谷君の剣技は肉体的に負荷が凄い為、連発が出来ないのですか?」

 

 

校内新聞を作っている日下部は、彼に質問してきた。元々、一輝や和人に剣術を教わりたいと言ったのは彼女だったのだ。

 

 

「元々、俺の剣技は、名前とかついてないけどステラのいう名前を付けてアインクラッド流は、一撃を放つと数秒だけ動けなくなる硬直の時間がある。それは、ほんの少しだけど戦闘によっては長く感じる時もあり……そう簡単に使って動けなくなったってなると、敵が素早いと命取りになるんだ。だから、俺の剣技はあんまりおすすめしない。」

 

「そうだったんですね……桐ヶ谷君は、そんな素振り一切見せないからそんなハンデがないんだとばかり……。あ、そうだ!じゃあ、桐ヶ谷君の剣技の奥義ってありますか?」

 

 

日下部の言葉に和人は、顎に左手を添えて考えていた。様々な種類の武器のソードスキルを説明するのは大変だと判断したのか自分が使えるスキルの奥義をここで披露することにした。

 

 

「今から見せるから他言無用で頼むな。」

 

「わ、わかりました。」

 

 

そう言うと日下部を中心とした稽古をしていた生徒全員が黙り込み和人の方へと目を向けた。中には、入学式の時衝突した不良生徒達もいたが、改心させたと知って黒鉄一輝の人間性の部分に和人は、関心を持っていた。

 

 

「__じゃあ、行くぞ……」

 

 

エリュシデータを手に取ると1度深呼吸した和人は、そのまま片手剣ソードスキル奥義技である《ノヴァ・アッセンション》を放つ。10連撃から繰り広げられる片手剣ソードスキルの中で一番多い連撃数を誇る技だ。スキルを撃ち終えると歓声が沸き上がる。そして、少し間を開けて和人は二本目の固有霊装(デバイス)であるダークリパルサーを手に取ると再び、深呼吸して集中する。

 

 

「__ジ・イクリプスッ!!」

 

 

気合を入れ直しをするためか、和人はスキル名を声に出して叫びながら二刀流のソードスキルであり奥義技の《ジ・イクリプス》を放つ。二本の剣から繰り広げられる27連撃に周りは、恐怖を覚える感覚が全身に走っていた。

 

 

『__こんなの受けたら命がない!!』

 

 

そんな彼らの気なんか知らずに和人はスキルを放ち終えるとそれぞれの固有霊装(デバイス)をしまった。

 

 

「まぁ、こんなところかな……。」

 

「前から思ってたけど……カズト、アンタの剣は無茶苦茶よ……」

 

 

あまりにも清々しい顔をして言う和人に少し呆れた表情でステラは言うと周りも納得していた。

 

 

「桐ヶ谷君の剣術を極めることは出来ないけどそれに近づける方法があるとしたら、今よりもっと精進するしかないね。」

 

 

沈黙していた生徒達を勇気づけるよウヤ一輝は、言うと彼らは自然とやる気の満ち溢れた目をし始めた。

 

 

「し、師匠!今度の休みにも特訓をつけてください!」

 

「休みの日も!?」

 

「はい、プールとかでの修行とかどうですか?」

 

 

それってプールに行きたいだけでは?

そんな疑問を抱えながらも一輝は、納得してみんなでプールに行くことになった。勿論、和人も一緒に行くことになっているのは、他でもなかった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜、ステラは一人静かな公園である人を待っていた。ふと時計を見ると既に8時を回っていた……。

 

 

『アスナ、遅いわね……』

 

 

ふと心の中で思った。彼女が待ち合わせをしていたのは他でもない桐ヶ谷和人の彼女でありながらゲームとはいえ新婚生活をするまでの生活をした結城明日奈だった。そして、しばらくすると慌てて走りながら明日奈がステラのところまで走ってくるのが見えた。

 

 

「ごめん、ユイちゃんが中々寝付いてくれなくて……」

 

「ユイちゃんの世話までしてるって……流石はアスナね……」

 

「そうでもないわ、キリトくんは試合で疲れて寝ちゃったみたいだし……黒鉄くんは?」

 

「あぁ、イッキならもう寝ました。アイツも今日は慣れないことをしてたから……」

 

 

するとステラの脳には今日のことや今までのことが走馬灯のように流れ込んできた。そして、一番記憶に残っているのが一輝が口にした言葉だった……

 

 

『ステラ、僕と君の関係は他の人には内緒にしておいた方がいいんじゃないかな?』

 

 

つまり、ステラと一輝は和人達のように外でイチャイチャすることすら禁止ということだった。

 

 

「あのさ……アスナは、どうやってカズトとそこまでの関係になったの?」

 

「え!?」

 

「私は知りたい、アナタ達みたいに仲良しなカップルになれる方法を!!」

 

 

ステラは、顔を赤くしながら話していた。それは彼女が思っていた一番の難題だと思う。付き合ったことのないとはいえ、一国の皇女が突然そんなことを聞いてくるのだから明日奈は、吹き出し笑いをしてしまう。

 

 

「私は本気よ?」

 

「ごめんごめん、ステラちゃんもそう言う女の子っぽい所あるんだって思って……お相手は、黒鉄くんかな?」

 

 

大好きな彼の名前にステラは、過剰反応を起こして顔を真っ赤にしていた。明日奈は、そんなからかいも交えながら話を続けていた。

 

 

「私とキリ……和人くんとはね、あるゲームの中で知り合ったの……タイトル名は、《ソードアート・オンライン》。私は、その浮遊城アインクラッドの第一層ボス攻略会議の場所で和人くんと出会ってパーティを組んでボスに挑んだのだけど死者を出してしまった。プレイヤー達は、元βテスターのことを逆恨みし始めたの。そこで彼は、元βテスターとプレイヤーのイザコザを止めるために一人て嫌われ者を演じたの……。βテスターのチート…《ビーター》って呼ばれてたわ。」

 

「__それが、アスナとカズトの出会い!?」

 

 

ステラの言葉に明日奈は、首を縦に振るとまた話の続きを話し始めた。彼とともに生きてきた2年間のことを全て……。

 

 

「じゃあ、いつからアスナはカズトのことが好きだったの?」

 

「うーん……意識し始めたのは、出会ってから1年ぐらいたった時のことよ?和人くんったら私が好きなのに全然気づかないの、鈍感過ぎにも程があるって感じだったわ……でも、初めて告白された日は嬉しかったけどね!」

 

 

嬉しそうに昔の話をする明日奈を見て自分もいつか好きな男の子の話をこんな笑顔に出来るのか不安になっていた。そんなステラの顔を見ながら明日奈は、再び話し始めた。

 

 

「黒鉄くんも和人くんみたいに鈍い所あるからステラちゃんから積極的に行った方がいいと思うの。」

 

「アスナ……」

 

「大丈夫、女の子から積極的にされて嫌な男の子はいないわ!それに、みんなそれぞれ違った恋の形があるの……。ステラちゃんたちはステラちゃんたちの恋の形を探してね?」

 

「ありがとう、アスナ。私、頑張ってみる!!今日はありがとう!!」

 

「どういたしまして。」

 

 

 




《次回予告》
みんなでプールで特訓をしに来た一輝達……。
そんな中、一輝とステラが喧嘩!?
その理由とは???


第14話「それぞれの想い」





和人の剣技の名前、アインクラッド流はなんとステラが名付けました笑笑


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第14話「それぞれの想い」

大変お待たせしました。
最近忙しいので更新する速度がしばらく遅くなってしまいます。
ご了承ください。


ステラが一輝のことについて明日奈と相談してから数日の時が経った朝、黒鉄一輝を始め二十人近くの破軍学園の生徒達が市民プールへと向かうバスの中に乗車していた。その中には、予選無敗である桐ヶ谷和人、ステラ・ヴァーミリオン、黒鉄珠雫、有栖院凪などの錚々たるメンバーがバスに乗っていた。勿論、和人の恋人である明日奈やユイもバスに乗っていた。

 

 

「パパ、プールってどんな所ですか!?」

 

「そうだな……、大きな水が入った物だけど……ユイの場合見た方が早いと思うぞ!」

 

 

うまく説明出来ないことを誤魔化しながら和人は、ユイにいいきかせていた。そんな彼らの前には、ステラと一輝が座っていた。周りは賑やかに話を続ける中、ここだけ何も話さずに過ごしていた。

 

 

『アスナには、相談に乗ってもらったけど……どう接していいのか分からなーーい!!』

 

 

ステラは、男性相手の経験のないせいか次第に焦り始めるとバスは、無情にもプールについてそれぞれ男女へと別れて更衣室へと向かって水着に着替えていた。

 

 

「プールって考えてみれば、三年近く行ってないな〜」

 

「え、そうなの!?」

 

 

現実リアルの市民プールに入るのは、久しぶりだった和人は浮かれながら和人は、着替えているがその隣では、深刻そうな顔をして他の人より着替えが遅れている一輝がいた。

 

 

「一輝は、着替えないのか!?」

 

「あ……う、うん。」

 

 

和人に促されるように答えるとゆっくり上着を脱ぎ出すとその様子を見ていた和人は、ゆっくりと一輝の方に寄った。

 

 

「ヴァーミリオンと何かあった?」

 

「え、えぇぇぇぇぇぇ!?」

 

 

一輝は、驚いた。それは当然のことだった。自分が考えていることを既に見抜かれていたのだから……。突然の大声に周りは驚くも和人は、先にプールに行っててくれと合図を送ったおかげで破軍の関係者は、和人と一輝だけになった。

 

 

「桐ヶ谷君……もしかして僕とステラが付き合ってることを……」

 

「あぁ、何となくだったけど……やっぱ、そうだったのか!俺は全然いいと思うぜ!」

 

「はぁ……」

 

「おいおいため息なんてしてどうしたんだよ。」

 

「ねぇ、桐ヶ谷君……僕はどうしていいのか分からないんだ。ステラのこと大切にしたい。でも、それ同等にステラともっと恋人みたいなことをしたい。でも……」

 

「彼女は、自分とは違って住む世界が違うってか?」

 

 

和人に答えられた一輝は、黙ってゆっくり首を縦に振り肯定した。そして、一輝は和人に今自分が思っていることをすべて話そうということを決めた。

 

 

「僕は、ステラが好きだ!でも……彼女は1国の皇女様で僕は存在すらあるのか分からないような存在……そんな僕らはどうすればいいか分からないんだ」

 

「一輝……」

 

 

付き合ってから悩み続けている一輝を知った和人は、昔の自分も明日奈のことで少し悩んでいた時期があったのを思い出していたが、すぐに決断を出した自分と違う一輝を見て思うことを述べた。

 

 

「__付き合い始めて今更、皇女だの民分を気にしてたらヴァーミリオンが可哀想だぜ。お前達二人は、そんな事なんて関係なく互いに好きになったんだろ?なら、その気持ちを大事にしないとな!」

 

「桐ヶ谷君……ありがとう!!」

 

 

そう言って一輝は何かが吹っ切れたのか、着替えを終えて勢いよく更衣室を出てプール内へと向かっていった。

 

 

「やれやれ、忙しい奴だな……って、俺も言えた義理じゃないんだけどな……」

 

 

そんなことを呟きながら和人は、一輝とは逆にゆっくりと着替え終えるとそのままプールサイドへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらく一輝は、特訓の生徒に付き合っていた。ステラは、そんな彼らとは少し距離を置いた場所で1人プールに足を入れていた。和人と明日奈は、ユイと楽しくビーチボールを使って遊んでいた。その光景が何故かステラは羨ましく見えた。

 

 

『私も……一輝と……』

 

 

そう思いながらステラは、遠くから聞こえてくる一輝の言葉に反応して自分も水中に潜り込む。

 

 

「ねぇねぇ、ステラちゃんと一輝君ってどんな感じなの?」

 

 

突然に不意を突かれる言葉が聞くとステラは、慌ててしまう。話しかけてきたのは、新聞部の日下部だった。彼女は、とっくの前にステラと一輝の間にある関係を見抜いていたのだ。

 

 

「え、えぇぇぇぇ!?いつから怪しいとおもってたの??」

 

「全校の前で堂々と告白したんでよ?今更、何を怖がってるんですか?」

 

 

テンパるステラに対して日下部は、冷静に言うと頬を赤くしながらステラは、恥ずかしさのあまりか顔を俯いてしまう。

 

 

「私は、どうしていいのか分からないの……」

 

「と言いますと?」

 

「一輝にどう接していいか全然わからなくて……」

 

 

珍しく素直なステラの言葉に逆に日下部が動揺するもプールに入ってきた一輝のことを思い出していた。

 

 

「そういえば、黒鉄君、プールに入ってきた時ステラさんの水着姿を見て頬を赤くしてましたよ?」

 

「嘘、ホント??」

 

「え、えぇ……というか、彼女のエッチな姿を見て興奮しない男子なんていませんよ!」

 

 

日下部の言葉に少し勇気をもらったステラだった。そして、日下部は一輝と呼んでくると言ってその場を去っていった。あまりの行動力にステラも彼女を止めることは出来なかった。その光景を離れた所から見ていた和人は、少し不安になるも何も言わずにユイや明日奈達と遊んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「日下部さんにここに来るようにって言われたんだけど……何か用?」

 

「うん、あのね……この水着どう?」

 

「うん、似合ってるよ……」

 

 

一輝は、照れ隠しに反応するもステラには冷たく感じた。そして、勝手に妄想を膨らましてしまったのだ。一輝が、私に飽きてしまったのだと……。

 

 

「ねぇ、ステラ。ちゃんと僕達のこれからについて話をしておいた方が……」

 

「そうね……別れ話なんてさっさとやった方がいいわよね……」

 

「え!?」

 

 

一輝は、まさかそんな言葉がステラの口から出てくるとは思わかなった。突然の言葉に一瞬世界が止まった感覚がした。

 

 

「__ステラ……そういう人だとは思わなかったよ。」

 

 

表情を一気に暗くした一輝は、ステラにそう言い放ち彼女を置き去りにして言ってしまった。結局、一輝とステラの間の溝は更に広く深くなってしまったのだ。

 

 

「もう、なんなのよ……イッキのバカ……」

 

 

場の空気に嫌気がさしたステラは、そのまま何も言わずに更衣室へと向かい着替え始めた。今まで必死に考えていた自分が馬鹿らしいと思いながら黙々と着替えていた。

 

 

「へぇ、こっちのNPCやっぱりクオリティ高ぇな」

 

 

外に出るとこの間、襲ってきた禿げた大柄の男性と赤を基調とした侍がプールの前に立っていた。まるで、待ち伏せされていたかのように……。

 

 

「クライン、わかっているとは思うが……今回の狙いは、あのアスナに似たNPCだからな。オベイロン様の目的を忘れるなよ。」

 

「分かってるって、エギル。でもよ、ちょっとは俺らにもいい思いしたってイイじゃねぇと思わねぇか?」

 

 

ステラは、背中に生えている羽を見て彼らを警戒するとこっちの気配に気づいたら しくそれぞれの武器を持ち構えた。

 

 

「傅きなさい!レーヴァテイン。」

 

 

固有霊装(デバイス)を起動させて戦闘態勢をとるとクラインがステラの方へ向けて走り出してきた。

 

 

「そりゃっ!」

 

 

振り下ろされた一撃をレーヴァテインの刀身で受け止めるとそのまま振り払う。しかし、背後に回っていたエギルの斧による一撃を受けるとステラは、ゴルフボールのようにプール施設に隣接する建物へと飛ばされてしまう。

 

 

「__うっ……」

 

「おいおい、エギル。もっと優しくしてやれよ。HPがゼロになっちまったら意味ねぇだろ?」

 

 

クラインとエギルは、そう言いながらステラに近づく。彼らから見れば、ゲーム感覚……。ステラらこの世界の住人にも残りの命を示すHPバーが存在するらしい。

 

 

「じゃあ、任務前の土産としてこいつを持ち帰るかな。」

 

 

クラインは、そう言って刀を鞘に収めるとボロボロになってしまったステラの腕や足などを触り始めた。

 

 

「おぉ、こいつ本物の人間のようだ柔らかいぞ?」

 

 

そうしているうちにパトカーのサイレンが聞こえてきた。騒ぎを聞いた警察の登場だ。そのサイレンを聞いたクラインとエギルは、まるで罪を犯した犯罪者のように慌てた。すると、プール施設から外へ出てきた1人の少年の姿があった。彼は好青年ではなくヤンキーのような感じの服装に眼鏡をかけた格好だった。

 

 

伐刀者(ブレイザー)の方は?」

 

「あんなカス俺の敵じゃねぇ……。興が冷めちまったからこれで帰るわ。」

 

 

エギルの質問にそう答えるとそのまま静かに去っていった。その後姿を見送ったエギルとクラインは、ステラを抱き上げるとそのまま空を飛んでそこから去ってしまった。

 

 

 




《次回予告》
連れ去られたステラ……。
彼女を奪ったアルブヘイム連合軍による異世界侵略が近いとスパイで潜っていたリーファが伝える。
そして、この世界を守るために黒の剣士が立ち上がる!!


第15話「アルブヘイム・オンライン」


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第15話アルブヘイム・オンライン

ちょーーー久しぶりになってしまいすみませんでした。
でも、皆様の待ってますの言葉を励みに今日、投稿できることが出来て嬉しく思います。

その前に少し言っておこう、タイトル回収が出来ないですけど、あまり気にしないでくださいm(*_ _)m



 

ステラが居なくなり、特訓所ではなくなった一輝達は、その場で解散した。和人達は、寮まで戻るとALOのアバター姿のリーファと合流して状況を聞いていた所だった。

 

「つまり、ALOでは異世界(こっち)に向かって侵略組織(攻略組)を作ってやって来るってことか……」

 

「そうなの、お兄ちゃん。サラマンダーのユージーン将軍やサクヤ達もこの攻略に参加するみたいで、ALOでもトッププレイヤーが来ると見て間違いないと思う。」

 

和人の問にリーファは、端的に答えて状況を説明していた。それが、ステラが居なくなった理由と繋がれば良いのだが……。そう考える和人と違い、一輝は自室に戻り、時間が過ぎるのを待っていた。自分の想い人が突然いなくなるなんて事は、生まれて初めての彼にとっては、とても受け止めきれない事実だったのだ。

 

「ステラ……君は一体どこへ行ってしまったんだ?」

 

そう呟居た彼の部屋の扉がコンコンとノックされた。誰だろう?一輝は、その重たい腰を持ち上げるようにして立ち上がると、鉛の足を前へ踏み出してドアの前まで向かった。

 

「どちら様?」

 

一輝は、鍵を開けて扉を開けるとそこに居たのは、桐ヶ谷和人だった。背中には、二本の片手剣を背負っている事から彼がこれから何処へ行こうとしているのかは、明確だった。

 

「やぁ、一輝。今からALOへ繋がっているゲートへ行こうと思うんだけど一緒に行くか?」

 

和人の誘いに一輝は、目線をそらすと何も言えなくなってしまった。一体どう言えば世界なんだろう?彼の心中を察した和人は、眉間にシワを寄せた。

 

「何もしなければ解決すらしないぞ?」

「桐ヶ谷君……」

「俺も答えがわかんなくなって、迷ったりもした。なんせ、死と隣り合わせで攻略に励んでいたんだからな。でも……黙って何もしなかった事はしなかったぞ。」

 

「何もしなかったことは無い」その言葉に反応した一輝は、目線を逸らした。和人は、他人のことになると鋭く何でもアドバイスをくれるし、強い。そんな彼の精神的強さを一輝は、とても羨ましく思っていたと同時に彼のようにな精神の強さなんて自分にないと決めつけていた。

 

「──僕は、桐ヶ谷君とは違う!」

「一輝……何言ってるのさ、違くなんて……」

「違うよ……。そのぐらい分かってるさ。僕は君なんかとは──」

 

一輝の言葉が途絶えると同時に部屋の中ではパチンと言った音が響き渡ると周りは一気に静まり返った。一輝の自分を貶す発言に堪えられなくなった和人は、容赦なく彼の頬を右手で叩いたのだ。一輝は、その反動で床に雪崩るように尻を着け、左頬を抑えながら和人の方を睨みつける様に見ていた。

 

「一輝、君は強い。弱いなんて言うな……不可能だと周りに言われ続けても自分の目指すべき物を見失わずに剣技を鍛えてきたんだろ?俺のは、ほとんどシステムアシスト感覚だけだから、本当の実力とは言えない。お前には、それだけの強いんだよ一輝。それに心だって、何度も折れそうになっても立ち上がってここまで来た心が。決して折れなかったその強い心があるじゃないか!」

 

和人の言葉に励まされた一輝は、自分が何をしないといけないのようやく見えてきた気がした。そうと分かれば、ここでいつまでもぼーっとは、していられない。

 

「ごめん、桐ヶ谷君。君の言う通りだったよ。」

 

再び立ち上がった一輝は、そう言うと和人に向かって頭を下げた。自分を叱ってくれた彼への感謝の現れだった。そんなことされたこと無かった和人は、少し困った笑みを浮かべるもすぐ彼に背を向ける。

 

「じゃあ、分かったようだし行こうぜ!アスナやみんなが待ってる。」

「あぁ、それにステラも待ってるしね!」

「そうだな!」

 

二人は、ドアを開け部屋から出ると寮の前では、それぞれ準備を終えた明日奈やリーファ、ユイ達が待っていた。彼らからすれば、自分たちの慣れ親しんだ世界と戦うというのにやけに冷静な態度で待っていた。

 

「悪い、待たせた。」

「別に気にしてないから安心して。」

 

和人が明日奈にそう言うといよいよ準備が整った。そう思えた頃だった。

 

「待ってください、私達も行きますから!」

 

5人は、その声に反応して声が聞こえた方を見るとそこに居たのは、一輝の妹である、珠雫と彼女と同室の有栖院凪と一輝に特訓をお願いしていた

絢辻綾瀬も居た。

 

「珠雫がどうしても行くって言って聞かないのよ。」

「だって、お兄様が心配で……」

「気持ちは、嬉しいけどこれは僕の問題なんだ。珠雫達はここで帰りが来るのを待っていてくれたいかな?」

「分かりました……」

 

行きたい気持ちを全面に押し出していた珠雫も兄である一輝の言うことならただ黙って従うしかなかったのか、渋々納得したが綾瀬は、引き下がることをしなかった。

 

「私は、行かせてください!これから黒鉄君が行くところは、私の父の道場でもあるんです!」

 

絢辻綾瀬の父、綾辻海斗の剣術綾辻一刀流の道場が今回のゲートの場所だと言う綾瀬の言い分を聞いた和人は、案内も兼ねて綾瀬の同行を認める事にした。

 

「分かった。けど、仮想世界は出来ない。向こうは、俺らを本気で人間とは思ってない。死んでも生き返るゲームキャラでしかないんだ。だから、こっちで待ってて欲しい。」

「それには、納得してるから。見送りや迎えはすぐ近くでさせて欲しいの。その方が、いくら怪我しても直ぐに治療も出来るし。」

「あぁ、分かった。」

 

和人は、そういい綾瀬の同行に許可を出すと出発するメンバーが揃った。挑む場所は、かつて自分たちが慣れ親しんだ仮想世界……。和人は、眉を寄せて、ただ夕日を眺めていた。これが自分たちにとって最後の夕日にならないように……そう心の奥底で祈りながら。

 

「みんな、ヴァーミリオンを連れて無事に帰ってこよう!」

「「「おう!!」」」

 

和人の呼びかけに明日奈、リーファ、一輝に綾瀬がほぼ同時のタイミングで答えるとそのまま綾辻一刀流道場へと向けて出発した。

 




《次回予告》
綾辻一刀流道場へ無事に着いた和人達の前に、「剣士殺し(ソードイーター)」の異名を持つ倉敷蔵人が長々と暇を持て余しながら待っていた。彼は、破軍で1番強い剣士を出せと要望する中、和人が出した決断とは……。


第16話「剣士殺し」



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第16話「剣士殺し」

超絶久々にも関わらず多くの方に読んで貰えて光栄です。
さて、それではどうぞ!!


道場に近づくにつれ、雲行きが怪しくなってきた。そんなことを思いながら桐ヶ谷和人は、山の中をひたすら明日奈、ユイ、リーファ、一輝、綾瀬と共に走っていた。

 

「綾辻先輩、道場はこっちで間違いないんですよね?」

「えぇ、もう少しだよ。桐ヶ谷君。」

 

綾瀬は、そう言うとあれだけ遠く感じていた山道を登りながら走っていると、建物光が前から入り込んでいるのを視覚で確認すると和人は、更に走る速さを上げた。綾辻一刀流道場は、山の中にあり坂を生かした体力トレーニングなども取り組む道場として古くからあるとして有名でもあった。そんな伝統的な綾辻一刀流道場へ辿り着いた和人達は、度肝を抜かした。本来綺麗であろう綾辻一刀流道場の門がここを占領している倉敷蔵人の率いるメンバーによって落書きされており、辺りには、ゴミが散乱していた。

 

「いつ見てもここは酷いよ、お兄ちゃん……」

 

自宅にも道場のあるリーファは、この悲惨な光景を目の当たりにして怒りを隠しきれずに握り拳を密かに作っていた。そんな怒りは、誰もが密かに感じていることだが、爆発させないように精神を落ち着かせながら一歩踏み出してゆっくり歩み始めると門番の生徒が姿を現せて固有霊装(デバイス)を召喚させる。

 

「お兄ちゃんの邪魔しないで!」

 

リーファは、そう言いながら鞘から剣を抜き片手剣剣技(ソードスキル)での1つであるバーチカルスクエアを放ち、騒ぎを大きくしようとしていた学生達を黙らせた。

 

「嘘だろ……リーファ、なんでその技を……」

「あれ?前に言わなかったけ?ついこの間にALOのアップデートが入って異世界攻略に合わせて剣技(ソードスキル)が追加されたって……」

 

あまりにも知らない情報を口にしたリーファに大して和人は、頭を抱えてこれからの作戦について悩み始めた。仮想世界(向こう)には、アインクラッド流の使い手が山ほどいる事になる。それもエギルやクラインなどのSAO時代からVRMMORPGをやり込んでいるプレイヤーがいれば、尚更不安になる。それに、和人の不安はこれだけではなかった。

 

「やぁ、あんたがあの《破軍期待の騎士》桐ヶ谷和人か?」

「そうだけど……あんたは?」

 

薄暗い道場の奥で黒色を基調とした革質のソファーに腰を下ろしていた少年が声をかけられると、和人は眉間を寄せ睨みつける。

すると、少年はゆっくりと腰を持ち上げて数歩前へ出てくると外の薄い光が窓の間から彼を照らすと綾瀬は、武者震いをしているかのように手が震えていた。彼の威圧に心がダメージを受けたのだろう。

 

「俺は、倉敷蔵人。貪狼のエースだとでもいえば、分かるだろ?」

 

蔵人は、そう言うと固有霊装(デバイス)の大蛇丸を召喚させるとそれに反応した和人達は、一斉に固有霊装(デバイス)を召喚するとまだ、力に目覚めていない明日奈や固有霊装(デバイス)のないユイは、彼らから数歩後ろへと下がり様子を伺う。

 

「じゃあ、君が去年の七星剣舞祭ベスト8の《剣士殺し(ソードイーター)》かい?」

「その通りだ、お前のこともよく知ってるぜ、《落第騎士》。Fランがまぐれで破軍の予選勝ち抜いてるらしいじゃねぇか。」

 

どこから漏れていたのか、蔵人は一輝までも噂になっていることを話しながら舌で乾いた唇を舐めまわし、獲物を見つけた狼のように彼らを見つめていた。

 

伐刀者(ブレイザー)が3人か……イイぜ、1番強いヤツかかって来な!」

 

大蛇丸の剣先を和人へ向けながら蔵人は、そう言うと口角を上げ、白い歯を彼らに見せるように笑みをこぼした。まるで、戦うのを楽しみにしているかのように……。

 

「──分かった。破軍で一番強いのは……」

「待って、お兄ちゃん!」

 

和人は、そう言いながら背中にある二本の固有霊装(デバイス)のうち、黒一色の片手剣エリュシデータの柄を握り締めようとした時、彼の動きを止めるようにリーファが大きな声で呼ぶ。金色の長い髪を後ろで束ねているリーファは、後ろ髪をなびかせながら前へ出ると腰にぶら下げていた鞘から剣を抜き静かに構えた。剣道の試合でよく見る構えに真剣な表情を浮かべているリーファは、本気で奴と殺り合うつもりでいた。

 

「お願い、ここは私にやらせて!」

「お前、何言ってるんだ!こんな危ないことさせれる訳ないだろ!」

「良いの!」

 

リーファは、和人の言い分を押し退けるように意地を張る。彼女の両手は、震えながらも目の前で仁王立ちしている倉敷蔵人から放たれる異様な威圧ににも必死に耐えながらリーファは、再び口を開いた。

 

「この人は、剣の道を貶したんだよ……お兄ちゃん。その道で何年も過ごしてきた私にも意地があるし、どんなことがあろうとここで負けられない!」

「スグ……」

 

剣の道を歩む桐ヶ谷直葉と言う1人の人間であるリーファにとって倉敷蔵人がこれまでやってきた道場破りや占領と言った行為は、決して許せる事ではない。まだ幼さが残るリーファにとって、感情が既に高揚していたのだ。

 

「イイぜ、見せてくれよ!お前の言う剣の道を生きた人間の力を!!喰いつくせ!蛇骨刃!」

 

蔵人は、大蛇丸を鞭の様に振ると刀身が伸びながらリーファの所へと向かって迫ってきた。それを手前まで引き付けたリーファは、振り被った剣を振り下ろして大蛇丸の先端の軌道を変えると、そのまま走りながら彼との間合いを縮めると剣の刀身が青色のエフェクトを放ち始めると、左から蔵人へ斬り込むと折り返す様に連続水平切りを決める。

 

「ソードスキル、ホリゾンタル・アーク!」

 

リーファは、ソードスキルで彼の身体に傷を付けると再び、また違うソードスキルを放とうとモーションを変えようとした時だった。斬られたはずの蔵人はまだ余裕の笑を浮かべながらその時が来るまでひたすら待っていた。

 

「まんまと俺の敷いた罠にハマってくれたな……、妖精さんよ!」

 

蔵人は、そう言うとリーファの刀身が緑色のエフェクト包まれ、ソードスキルをはなとうとした途端、彼女の剣は、ゆっくりと地面に落ちていた。

 

「す、スグ!!」

 

真っ先に声を上げたのは、兄の立場である和人だ。リーファによって軌道を変えられた大蛇丸は、彼の意のままに操りながら間合いを詰めてきたリーファの背中から串刺しにするかのように突いてきたのだ。勿論、リーファとしての姿はアバターとは言え見ているだけで刺された場所から痛みを感じる様な不思議な感覚になっていた。そんな光景が目に映り込む和人は、迷わず背負っていたエリュシデータの柄を握り締めるとそのまま鞘から引き抜き蔵人へ向けてヴォーパル・ストライクを放つも意図も簡単に和人の攻撃を避けた蔵人は、再び距離を取りながら大蛇丸を元に戻す。大蛇丸を抜かれたリーファは、あまりの衝撃にそのまま地面に座り込む。刺された場所には、赤色の破壊エフェクトが残っていた。

 

「スグ、大丈夫か?」

 

和人は、慌ててリーファの所へと向かい彼女の上体を起こすとそこには、涙を堪えながら和人の心配そうな顔を見つめていた。

 

「ごめんね、お兄ちゃん……。あんだけわがまま言ったのに……」

「良いんだ、スグは何も悪くない。」

 

一撃受けただけなのに、その前から彼の放つ威圧と戦い疲れたリーファは、彼と己との力の差を感じてしまっていた。戦いの中で絶対に埋まることの無い差を……。そのせいか、彼女は戦意が喪失してしまった。そんな妹を和人は、優しい口調で言うと彼女の頭を撫でる。

 

「あん、なんの真似だ?」

「何って、ただの選手交代だ!一輝、スグを頼む。」

 

和人は、リーファから手を離すとゆっくりと立ち上がり蔵人を睨みつける。その間にリーファは一輝と共に彼らから離れると安全な場所でこれから起きようとしてる戦いをひたすら見るしかなかった。和人は、左手を動かしてもう一本の剣の柄に手をかける。

 

「──倉敷蔵人、ここからは俺が相手だ!」

「待ちくたびれたぜ、桐ヶ谷和人!!」

 

大蛇丸を振り、伸びた刀身が和人の方へと向かって進む中、和人は、ダークリパルサーを鞘からぬき、大蛇丸の先端を弾くと、右手に持っているエリュシデータでヴォーパル・ストライクを放つも蔵人は、上半身を逸らしながら躱す。

 

「お前の力は、こんな程度か?」

「まだだッ!」

 

和人は、そう声を張り上げると二本の剣を時計の様に振るも蔵人は、上体を逸らして躱してしまう。まるで、こちらの攻撃が読まれているかのように……。

 

「さぁ、今度はこっちの番だ!」

 

蔵人は、鋭い眼光を和人に向けながら大蛇丸を振り再び、和人の所へ先端を伸ばした。




《次回予告》
倉敷蔵人の《マージナル・カウンター》に苦戦する和人は、愛剣のエリュシデータとダークリパルサーを振りそれに何とか対応していると言った状況だった。そんな中、蔵人有利のまま戦いは、進んでいく……。


第17話「マージナルカウンターを超えろ!」




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第17話「神速反応(マージナルカウンター)を超えろ」

《前回のあらすじ》
倉敷蔵人が占領している綾辻一刀流道場を取り戻す為に乗り込んだ、和人達は、そこで倉敷蔵人一派と再会を果たす。彼の言動によって武士道を汚され怒るリーファだったが、彼の異質な反応速度の前に為す術もないまま敗れた。そんな妹の敵を討つ為に兄である桐ヶ谷和人が立ち向かう。


 

「──二刀流剣技(ソードスキル)クロスブロック!」

 

静まり返った道場の中、剣と剣が激しくぶつかり合いながら鈍い金属音が幾度となく響く。和人は、迫り来る大蛇丸を二刀流スキルの1つクロスブロックで何度か防いでいた。

 

「お兄ちゃん!」

 

あまりの心配に声を上げたのは、実の妹であるリーファだった。しかし、すぐにそばに行きたいのを我慢した。彼女の瞳に映り込むのは、口角を上げて笑っている兄桐ヶ谷和人の姿だった。そして、再び大蛇丸を弾いた和人は、後ろへとステップしながら距離を置いた。

 

「中々やるじゃねぇか。」

 

一旦、距離を置いた和人に対して大蛇丸を手に持っていた蔵人は、ここまで生きている彼に称賛の言葉を送る。しかし、和人はそれをあまり嬉しく捉えれなかった。姿勢や言動、目付きから何まで彼は本気で和人の相手をしていなかったのだ。手を抜かれている事に和人は、自身の未熟さを痛感したと同時に彼は、更に上へと意識を向ける。

 

「どうした?そんな程度で俺に勝てると思うなよ!」

 

再び彼らは、互いの距離を縮め剣を交える。鈍い金属の音が再び響くと和人の姿は、そこにはいなかった。

 

『消えた!?』

 

蔵人から見れば、彼は消えたかのように見えた。目線を下ろせば、そこにあるのは和人が握っていたはずの黒色の愛剣がゆっくりと地面に落ちようとしていた。

 

「そこだ!!」

 

和人は、奴と剣を交える瞬間を見払って彼の後ろへと最短の距離を進み素早く回り込んでいた。だからか、彼には消えたように感じたのだ。もう1つの愛剣を振り、背後から蔵人を斬ろうとすると彼もまた信じられない速さでそれに対応するように大蛇丸を鞭のようにしならせて和人の一撃を防いだ。

 

「何!?」

「いや〜今のはちと焦ったぜ、もう少しお前の方が速ければ、今頃は、背中から大量出血だろうよ」

「じゃあ……何で、お前はそれを防げれてるんだよ……」

「そりゃ、簡単な事だ……俺にはそのスピードは通じねぇ!!」

 

蔵人は、そう言うと大蛇丸を薙ぎ払い和人を吹き飛ばすとすぐに距離を縮めると、大蛇丸の切っ先で和人の体を何度も突く。

「くっ……」

「おらおら、お前の力はそんな程度か?」

 

突かれた箇所から血流が溢れ出る。このままでは、出血多量で先に倒れるのは、間違いなく和人の方だ。危ういと思った途端、和人は蔵人から距離を置き、後ろへと下がる。

 

「何だよ、少し本気を出しただけでそんなに驚くなよ……」

「これで少し本気ってお前、本当に人間かよ……まるで、システムを相手にしてる気分だ。」

 

こちらが、二手、三手など相手より多く考え行動しても目の前で余裕の笑みを浮かべながら立っている奴には、1という動作でこちらが考えた全てを考えられる。それは、嫌味にも彼の生まれ持った才能を褒めるしかない。と思わせるぐらい彼と和人の差は大きかった。

 

「だが、こうして攻防できる時点でお前も人を超えた反応速度だと思うぜ!と言っても……」

「何、速攻だと!?」

「……この俺の神速反応(マージナルカウンター)には、到底及ばねぇーよ!」

そう言うと、蔵人はまた和人との距離を縮める。しかし、その攻撃を躱そうとした彼の背中は、既に大蛇丸の餌食になっていた。彼の伐刀絶技(ノウブルアーツ)である蛇骨刃によって自由自在に刀身を鞭のように動かせれる彼だから出来る技なのかもしれない。大蛇丸の切っ先は和人の右側をすり抜けて最後へと回るとその背中を突いていた。何も無いはずの所に何か異物が入り込んだ感触と耐えきれないほどの激痛が和人を襲う。

 

「お兄ちゃん!」

「桐ヶ谷君!」

 

妹のリーファと彼とここまで過ごしてきた男友達である一輝がほぼ同じようなタイミングで彼の名を叫ぶ。勿論、その声は彼の耳に届いていた。幸いなのは、大蛇丸の切っ先は、まだ和人の体を貫いていないという事だ。しかし、この体は彼の手によって簡単に大きな穴が空いてしまう……。

 

「そろそろ、負けを認めたらどうだ?《破軍期待の騎士》さんよ!」

 

次第に大蛇丸の切っ先が和人の身体を貫こうとして、徐々に肉体の内側へと進行していく……。

このまま行けば、確実に死ぬ……。

そんなことを思った和人は、ふと昔の記憶を思い出していた……。

 

 

 

あの時……、

SAOのアインクラッド第75層で起きたヒースクリフとのデュエルを和人の肉体は、脳は、その時の記憶を鮮明に覚えていた。そして、あの時アスナを守りきれなかった後悔が今更の様に込み上げてくる中、和人は、あの不思議な感覚を思い出そうとしていた。

 

『あの時……、何で俺は、ヒースクリフのユニークスキル神聖剣を上回ることが出来たんだ?』

 

愛する人を失った悲しみや憎しみと言った怒りの感情に全てを任せたのか、和人は全てのスキルを熟知しているはずの彼がそのスキルで押されて引き分けに持ち込めるほど、あの世界が甘くないことは、重々理解していた。なら、何故……。様々に散らかる気持ちを一つの大きな大木の幹の様に集めると彼の深層心理は、更に奥の本能と呼ばれる所まで沈み込む。そして、ある言葉を思い出す……。

 

『伐刀者は、魔力も秘めています。ですが、SAOから来た貴方達には、魔力は本来なら0です。そこで、私はある条件が満たされた時、魔力が上がるようにしてあるのです。それもこの世界でも渡り合える魔力と力を……』

 

この世界に来て、早い段階で出会った異世界の女神の言葉だ……。伐刀者は、本来魔力を保有しているが、彼らSAOから来た転生者にはそれがなく、本来なら魔力も使えない。しかし、和人にはその魔力が既にある。女神は、条件が満たされた時その内に眠る力が開放されると告げていた。もし、その事が本当なら……和人にも逆転のチャンスがあるという事になる。

 

「一か八か……試してみるか……」

 

そう呟くと、和人は落ち着く為に深くまで沈みこんだ深層心理を浮かせて肉体との確かなパイプラインを供給する。込み上げて来る痛み……、傷つけられた血管から溢れ出る血流。全身の神経との通信が出来るようになった時、しばらく動かずにいた和人の手が動いた。

 

「何!?」

 

次の瞬間、和人は愛剣の一つであるダークリパルサーを捨てて自らを傷つける様にして大蛇丸を貫通させたのだ。その不可解な講堂に蔵人は、眉間に皺を寄せた。何か、来る……そう考えたが、今の和人に連撃の多い、二刀流剣技(ソードスキル)は、使えない。しかし、和人は自らの腹から顔を出した大蛇丸の切っ先をもう離さないようにしっかりと握りしめると、蔵人のすぐ近くまで接近した。ヨロヨロと歩み寄る彼にもう残された時間は、なかった。

 

「──ホリゾンタル・スクエア」

 

静かに己の剣技名を唱える和人は、自然とその技のモーションを取った。4連撃のホリゾンタル・スクエアがみるみる決まる。大蛇丸の刀身は、伸びていたせいか、彼が動く分は何も影響を受けない。

 

「まさか、このためだけに肉体を貫通させたのか!?」

「あぁ、お前の剣が無事なら俺に勝ち目はない……けど、その剣の動きさえ封じれば……勝機が見える!!」

 

和人は、すかさずに剣戟を放つ。貫かれている為、出血多量でいつ命を落としてもおかしくはない。だからか、彼に逃げる間を与えずに何度も彼が1番使い込んだ剣技をぶつける。何度かホリゾンタル・スクエアをぶつけた後に彼のスキルは次第に連撃の多い上位技へと移る。ここが現実で助かっているのは、スキルの硬直がない事だろう。生身の肉体にステータスがSAOのデータだからこれだけの連撃を放てる。

 

「トドメだ!!片手剣剣技(ソードスキル)、ノヴァ・アッセンション!!!」

 

ノヴァ・アッセンション。数ある片手剣ソードスキルの内、最上位のランクを技だ。その為、10連撃と片手剣の中でも最多の連撃数を誇る。そんな、最多の連撃を受けても蔵人は、片膝を着くぐらいの反応しかせず、むしろこの状況を楽しんでいた。

 

「面白ぇ……もっとだ……もっと楽しませてくれよ!!《黒の剣士》さんよ!」

「何で、その名前を……」

「ちっとばかしな……アインクラッドから約6000人もの命を救った英雄様がこっちの世界に居るって聞いたからな……ちとばかし、手合わせしてみたかったんだよ……英雄様とな」

「その為だけに……こんなことをしたって言うのか!?」

「あぁ、そうさ!俺はな……強い奴と戦えればそれでいいんだよ!!」

 

そう言い放つと、蔵人はゆっくりと立ち上がってから無理矢理という言葉が似合うほど強引に和人の身体から大蛇丸を引き抜いた。その衝撃で二歩、三歩と後ろへ下がった和人は、立っていられずその場に膝を着ける。胴体の中心よりやや下の辺り、へその近くに大蛇丸の切っ先より少し大きめな穴が空いていた。半ば強引に抜いたせいだろう。激しい痛みと抑えても溢れる血が彼の体を動かす量もなく、本来なら出血多量で死んでもおかしくはない……。

 

「さぁ、立ってくれよ!《黒の剣士》!!英雄の力を見せてくれ!!」

「体が……重い……」

 

ようやく、自分が見たかった物が見え始めて高揚している蔵人に対してエリュシデータを杖替わりに立ち上がろうとする和人だが、血の残りからして既に意識が消えても可笑しくはない。この一回の攻撃の代償がこれ程だとは、行動に移した和人でさえ、想像の範囲外だ。

対して目の前でふらつきながらもその場でしっかり二本の足で立っている蔵人の方が誰もが有利だと思っていた。しかし、和人はSAOからやってきた自分からして使え物にならないはずの魔力の使い道を予め決めていたのだ……。

 

『ここだ……、イメージしろ、そして創り出すんだ……!!この世界がクラインやエギルの来ることが出来る仮想世界の一種でもあり、異世界だと言うのならあるはずだ……カーディナル・システムの一部が!!』

 

見た目が同一人物であったが言動が明らかに可笑しかったクラインやエギルそれにリーファやユウキと言った仮想世界の住人がソードスキルを使える。これは、絶対にシステムアシストがなければ成立しない。女神の力でステータスがSAOにいた頃の物になっている和人を例外に仮想世界から来たプレイヤーが、ソードスキルを使うには絶対的なシステムアシストが必要なのだ。それに今、SAO時代のステータスであるという事は……。

ゆっくりしか動かない脳細胞を精一杯動かして和人は、もう一本の愛剣を失った左手を完全に開き切った胴体に近づけ……。

 

「──システム……コマンド……」

 

その言葉を口にした。それがどんな意味を成すのか、理解しているのはリーファのみだった。彼女は、再開できたはずの兄がこんな事に巻き込んでしまった事に少し後悔を感じながら、それでも前向かって歩む兄を応援したい気持ちが胸を締め付ける。

 

「お兄ちゃん……」

 

今日何度目かの彼の呼び名を口にする。そして、その言葉を境に彼の肉体に変化が起きる。

 




《次回予告》
倉敷蔵人の神速反応(マージナルカウンター)の前にボロボロになりながらもダメージを与える和人だが、戦いを楽しむ性格である蔵人の前に心より先に肉体が悲鳴を上げた和人は、為す術を無くす。
しかし、彼が唱えた言葉をきっかけに全てが変わる。

第18話「最強の自分」


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第18話「最強の自分」

《前回のあらすじ》
倉敷蔵人、彼の神速反応(マージナルカウンター)に苦戦を強いられた和人は、捨て身の戦法で彼にダメージを与える。しかし、蔵人は倒れるどころか、更にギアを上げてきた。そんな彼の前に心より先に肉体が悲鳴を上げた和人は、立ち上がる力も残っていなかった……。
まさに絶体絶命と思われた和人だが、こんな言葉を口にした。

「──システム……コマンド」




 

「──システム……コマンド」

 

和人は気がついたらその言葉を口にしていた。その後、どこかで聞いたことある声が脳を殴るようにして入り込む。仮想世界では、コントローラーで操作すると違って音声やモーションでシステムを動かすことがある。そのひとつが、剣技(ソードスキル)だ。あれも本来ならファーストモーションを用いてシステムアシストが行われる。

 

『キリト君、常に最強の自分を想像したまえ……』

 

聞き覚えのある声がまた和人の脳に直接入る。その正体は、分からなかったが、ソードアート・オンラインが始まったあの日、その声とよく似ていたゲームマスターの声を聞いたことがあるせいか、その声に対して嫌味でも言いたくなったが、和人はそれを言うのを我慢してその声に従うように想像した。思い浮かべたのは、あの時の姿……。

アインクラッドでレベルを上げて強さを求めた《黒の剣士》キリトの姿だ。

そうして、想像しているうちに和人は、素直に口が動き次の言葉を発した。

 

「──スキルID、バトルヒールングスキルをジェネレート……」

 

ソロプレイヤーだった和人があのSAOを生き抜く為に上げたスキルのひとつが“ バトルヒールングスキル”だ。バトル中の自動回復をしてくれるスキルだ。そのスキルが生成されると慣れ親しんだシステムウインドが彼の前にでてきた。

 

『このバトルヒールングスキルを使用しますか?』

 

もう迷わず彼は、YESのボタンを押した。すると、和人の体が緑色の光に包まれると、穴が空いていた腹部が次第に巻き戻されるかのように埋まり始めた。

 

「何が……起きてやがる!?」

「何って……簡単なことさ……お前が言ったんじゃないか、お前が戦いたいのは……《破軍期待の騎士》桐ヶ谷和人じゃなくて、《黒の剣士》キリトだと!」

「まさか……、この短時間でゲーム世界と繋がったというのか!?」

 

和人は、ゆっくりと立ち上がると目を細め、倒すべき敵を睨みつけるとその後、一呼吸置くと左手を前に出して何かを求めるように血塗られた手を開いた。

 

「──闇を払い、希望を照らせ!!ダークリパルサー!!」

 

離れていた愛剣が姿を消すと次の瞬間、和人の目の前に姿を現した。かつて、リズベットに作ってもらった愛剣の柄を握りしめると、和人は両手にそれぞれの剣を持ち相性の悪いであろう蔵人へ向かってゆっくりと歩み始める。彼の目の奥には、密かに燃え上がる闘志を感じた蔵人は、口角を上げて白い歯を見せる。

 

「面白ぇ……面白ぇぞ!キリト!!」

「行くぞ、蔵人……俺は、お前を倒す!!」

 

黄金色に光る光が何故か彼の周りを浮遊する。まるで、蛍に囲まれているかのようだ。しかし、その黄金色の光は、和人の服に溶け込むように付着すると彼の服装を一新させた。

 

「何だよ……その格好は!?」

「何だ、知らないのか?《黒の剣士》は、黒一色のコスチューム何だぜ?」

 

まるで、奇跡を見せられているかのようだった。今までの服とはまるで違う物になる。黒一色のロングコートが目立っているが、その下もズボンも黒……。黒ずくめの和人は、何故か自信満々の笑みを見せていた。アインクラッドで慣れ親しんだコスチュームになった彼には、ここで敗北をする訳には、いかない。そう心に強く呼びかけていた頃……。

 

もう、《破軍期待の騎士》桐ヶ谷和人は、ここにはいなかった……。

 

今、蔵人の前にいるのは、彼が噂を聞いた時から戦いたいと思っていたアインクラッドから救い出した英雄《黒の剣士》キリトだ。

 

「あれが……桐ヶ谷君なのか?」

「あんなお兄ちゃん、見たことない……」

 

一輝とリーファは、驚きながらそんなことを口にするも綾瀬は、言葉を発することさえ出来なかった。そんな彼らとは違い、彼と2年の時間を過ごした明日奈や彼の子供であるユイは、やっと本気になった和人の様子を見て少し安心をしていた。あれが和人本来の戦闘スタイルなのだから。

 

「ママ、やっとパパが本気を出しましたね!これで、パパは無敵です!」

「えぇ、本当に……。いつも君は、遅いんだから……」

 

懐かしい服装の彼を見ていた明日奈は、少し大きく男らしく見えた彼の背中に見惚れながらも安堵からくる涙を浮かべながら彼の勝利だけを祈っていた。しかし、そんな明日奈でも()()()()()までも注視して見ることが出来ていなかった。黒色の瞳に変化があったことを……。

 

 

そして、和人と蔵人は今日幾度目かの鍔迫り合いをする。和人の今まで見たことない反応速度に少し驚かされていた蔵人は、冷や汗が溢れるが、神速反応(マージナルカウンター)を持つ彼にとっては、まだまだ彼の剣を躱し、反撃を入れることなど許容の範囲内だが、和人は後先考えずに剣を振り続けた。

 

『“ 最強の自分”か……、その挑発に乗って野郎じゃないか……』

 

声が伝えてくれた台詞を思い出し誰か見えない者からの挑発に乗った和人は、蔵人に距離を置かせることも反撃の隙も与えさせないようにするも、彼の反応には驚かせられながらも与えられた傷なんて気にせずに蔵人の体へ向かって剣を振り下ろす。最初は、お互いに互角だったはずの反応速度だったが、次第に和人の剣先が蔵人に当たるようになった。追い詰められた蔵人は、大蛇丸の刀身を伸ばすことはせず、一つの剣として二本の剣戟を防ぐが、彼の剣戟がほんの少しだが、蔵人の神速反応(マージナルカウンター)を上回ったのか、和人の二刀流剣技(ソードスキル)ダブルサーキュラーを受けると、余裕の表情を一切せずに悔しそうな顔つきをしながら後ろへ仰け反った。その開いた距離を詰めると和人の意識は、仰け反った今が攻め時だと告げていた。二本の刀身は、青白く発行するとそのままの流れで二本の愛剣を振り始めた。

 

「──スターバスト……ストリームッ!!」

 

二刀流剣技(ソードスキル)の上位技で16連撃の技で、和人が初めて明日奈に二刀流を見せた時に使ったスキルでもある。懐かしい剣戟は、アインクラッド74層のボス戦を思い出しながらも鋭く切り込む。

 

もう、何にも負けない様に……

もう、愛する人を失わないように……

 

そう誓いながら和人は、16連撃目を撃ち込んだ。斬られ、16箇所の切り傷から血が飛び出た蔵人は、手に持っている大蛇丸がすり抜け、地面に落ちるのを横目で見ていた。

 

「──それが、英雄の剣戟か……」

「あぁ、そして……お前が見たかった物だ……蔵人。アインクラッドで二刀流スキルを与えられた者は、生き残った6000人の中で1番の反応速度を持つんだ。だから、神速反応(マージナルカウンター)の持ち主であるあんたと殺り合うのは、正直、不利に近かった……生まれ持った才能には、どう足掻いても無理なものがあったからな……」

「でも、それを乗り越えた……お前の最後の猛攻は、正直効いたぜ……」

 

そう言い残して、蔵人は膝から崩れ落ちるかのように床に倒れこもうとする。そんな彼の身体を和人は、そっと支えた。勝負が終われば敵味方もないというスポーツマンシップの様に……。だが、蔵人はそれを否定した。

 

「何してやがる……お前らには、こんな俺を相手してるより……他に行くべきところがあるだろ?早く行けよ……」

「そうしたいのは、山々だけど……俺も動ける状態じゃない……」

 

途中、和人が生み出したバトルヒールングスキルには、システムによる自動発生がない為、本人の視覚、聴覚、認識と言った3つの感覚が『今は、戦闘中』と判断すれば、自動で傷ついた肉体を回復させるが、16連撃を放っている間やその前の攻防にも蔵人の攻撃を受けていたり、激しく動かしたことにより、塞いだ傷が開いたりと肉体にとてつもない負荷が加わっていたせいで、今の彼は、既に次のステージへと動ける状態じゃなかった……。

 

「お兄ちゃん!」

「キリト君!」

 

心配そうに見ていたリーファや明日奈がすぐさま、彼の元へと駆け寄り、身を支える。

 

「俺は、大丈夫だから……ヴァーミリオンを助けに行くんだ……」

「無理だよ……、こんなにボロボロになったお兄ちゃんを置いて行けないよ!」

「スグ……」

 

今にも消えそうな小さな声で和人は、反論する妹を呼ぶとこしか出来ず、そのまま視界が暗くなってしまうと、深い谷へ落とされたかのように意識を失った。




《次回予告》
蔵人との戦いで肉体に大きなダメージを負った和人は、破軍学園の医務室にあるIPS再生漕(カプセル)に入ることになる。
大きな戦力を無くした一輝達の前に遂にALOから来た“ 侵略組織(異世界攻略組)”が姿を現す。

第19話「やってきた、妖精達」



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