東方妖々続伝〜outside and inside. (みかんでない)
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第一章 失われた記憶
未来の侍


     

      東 方 妖 々 続 伝

      ~outside & inside.

          

 

 

 

 

 

 

 

いわゆる「日露200年戦争」の始まりは、330X年。

事の発端は日本の未解決問題の一つである北方領土問題だった。ロシアに生まれた強力な独裁軍事政権が、日本との交渉を拒絶し、更に日本との国交も断絶したのだ。余りに強大な軍事力を持っていたロシアに、報復をおそれた世界の主要国は何もすることが出来なかった。あのアメリカでさえも、今回は中立の立場をとることとなった。

そして、3370年代に北方領土内へのロシア海軍の不法侵入により戦争が勃発。ロシア軍は北東側の北方領土と、朝鮮半島を通り南側に兵を進めた。日本は陸軍、海軍、空軍を北海道地方と北九州地方の軍事拠点に導入し防衛戦争に備えた。国境付近での小競り合いは長く続き、日本、ロシアでの本土決戦はその時はまだまだ先の話だと思われていた。

その中で、342X年に、ロシアが人間のように戦え、簡単な思考力を持ったバトル・ロボットの開発に成功。資源がある限り無尽蔵に兵士を生み出せるロシアに対抗するため、日本の政府は「多産政策」を発表し、すぐ戦争に参加できる人間を増やしたが、それでも日本はロシアに着実に押され始めていた。

そして355X年、今より少し前、遂に敵兵の本土上陸が始まった。量のロシアと質の日本。もう、日本の敗戦は目と鼻の先にあった……。

 

 

 

[日本、九州北部にて…]

 

その日、対馬は戦場だった。本土決戦の幕開けとなったその戦いでは、突然のロシア軍の襲来に日本軍はことごとく敗北し、九州への撤退を強いられる事となった。

そして、その男は一部隊の隊長を任されていた。

「部隊長!右手からロボット部隊が接近!左手に進みましょう!」

「左手からも部隊が接近!囲まれました!」

「背後からも敵兵の接近を探知!後衛部隊は全滅した模様です!」

三方を塞がれるという絶望的な状況を前に、彼の配下の兵隊達は慌てふためき、焦りながら報告を重ねる。

「作戦を、部隊長!」

部隊長と呼ばれたその男は、死期を悟った侍のように潔い眼をしていた。いや、実際彼は「侍」だったのだ。

「俺が最期に一矢報いてやろう。援護は頼んだぞ。」

「「「サー!」」」

愛用の日本刀を抜き放ち、敵に向かって掲げる。「戦争の勝敗は人員と弾薬の量が左右する」とまで言われるほど銃器の普及が進んだこの世界で、彼は「時代遅れの侍」という異名を日本軍内で馳せていた。

 

彼の名は、柏根 葉一(かしわね はいち)。この物語の主人公である。

 

 

そして当然、敵兵のレーザー弾が、彼目掛けて一斉に降り注いだ。

瞬時に彼は跳躍し、敵兵の真ん中に着地して潜り込む。

そしてその次の瞬間ヒョウと風を切る音が響き、彼付近三メートルの敵兵が役にも立たない鉄屑に変えられていた。

「相変わらず強い…。」

「部隊長ほどの強さがあれば、日本刀でロシア製の合金が斬れるのか…。」

その強さは、彼の戦いぶりを間近で見てきた部隊兵でも信じ難いほどだった。

彼の剣が前方の敵兵の集団に穴を開け、彼は叫んだ。

「全兵士、固まって突破せよ!俺に構うなッ!お前らが逃げる位の時間稼ぎなら出来る!」

 

彼の兵士達は、一瞬動けなかった。いや、動きたくなかった。彼に従うということは、彼を見捨てる、ということと同義だからだ。

そんな部隊を見て、彼は必死の思いで叫ぶ。 

「これは命令だッ!!規律を重んじるのなら俺に従ってくれェェーッ!」

彼の覚悟を受けて、部隊はようやく動き出した。彼が作った道を全速力で突破することに取り掛かった。が、流石の彼も全てを守りきることはできず、何人もの兵士が次々と被弾し、倒れていく。

 

 

 

最後に残されたその男は、屍に見守られながら永い時間を単身戦いぬいた。

だが、ついには光線が彼の片足をぶち抜き、彼は堪らず膝をつく。そして独り呟いた。

「俺もここまでか…。よくわからない、人生だったな…。昔の記憶が無くて、気づいたら日本の為に戦うことになって、もうすぐ死ぬとは…………」

 

 

彼、葉一の出自は軍組織の誰も、それこそ彼自身さえも知らなかった。彼は日本のとある山奥で行き倒れているのを軍に見つけられ、どうせゆく当ても無いからとそのまま日本の為に仕えていたのだ。驚いたことに、彼には軍に保護される前の記憶がすっぽりと抜け落ちていた。後々、彼の異常な程の強さが露呈し、いつしか彼は、軍内のある友人と共に前線を支える主力となったが、その出処の怪しさから、昇格はかなり控えめに、保留され続けていた。

 

 

彼は覚悟を決め、一斉に囲んで銃口を向けたロボット達のど真ん中で座禅を組んだ。様々な思い出が脳裏によぎる。彼の上司だった人のこと、今も戦い続ける戦友のこと、そして、命を散らしていった部下のこと……。

そして彼は、記憶無くとも今生きている世界が好きだった、ということを自覚した。

「皆……この日本を頼んだぞ………」

 

 

 

 

とその時である。真下に異空間が現れたのだ。

 

 

「なにッ!?」

ぱっくり口を開けたソレは、何故か両端にリボンがついていた。彼は重力に従って真下に落ち、間一髪の所で、レーザーの集中砲火を浴びるのを免れた。

「敵兵の生体反応が消えた…。逃げられたか…。」

「敵兵の殲滅任務完了、撤退する…。」

ロボットの兵士に、今起きた事を理解出来るほどの知能は無かった。

 

 

 

 

 

 

 

俺はストンと真下に落ちた。

「助かったな……。タイミング良すぎんだろ」

痛む足に応急処置を施していると、突然声がした。

「こんにちは。」

振り向くと、そこに居たのは変な帽子を被り、扇子を持った金髪の女性だった。

「助けてくれたのか?」

「あら、意外にも驚かないのね。」

「噂で知っていたからな。『異界が存在するらしい』ということは。」

彼女はちょっと驚いたようだ。

「あら、そう。後で調べる必要があるわね。まあいいわ。まず、私の名前は紫。八雲紫よ。次に、急なお話で申し訳ないんだけど、貴方を幻想郷に招待するわ。」

葉一は余りに唐突な話題転換に困惑した。

「どういうことだ?やっぱり何か、裏があるのか?」

「裏なんて、そんな人聞きの悪い~」

彼女は扇子を広げ、ホホホと高笑いする。

うさんくさいな。異界の連中はこんな奴ばっかりなのか、と俺は思う。

「私たちの楽園を体験してみないかってことよ」

「なんで僕なんだ。しかもお誘いがちと急すぎやしないかい?」

俺は思ったことをダイレクトにぶつけたが、八雲の表情は変わらない。こういう質問も彼女の想定内であった、ということだろう。

「そうね、貴方であった理由は、この地域がこの世界と幻想郷を繋いでいる地点であったことよ。因みに名前は元マヨヒガね。そこにたまたま貴方が居たってわけ。まあ結果的には、貴方を助けた形になっちゃったけど。私もこのあたりなら多少妖気が強いから、出入り口を開きやすいの。急なのは本当にごめんなさい。でもこっちの事情で今じゃないとダメなの。」

そう言われましても…。戦いの中で友もできた。今更友や日本を見捨て、脱走兵になることはかなり厳しい選択なのだ。

紫は決めあぐねる俺を見て、こう言った。

「悩んでるそんな貴方に、夢の中だけ幻想入りというのは如何かしら。」

「夢の中ァ?」

「そう、1ヶ月間の体験幻想入り。私の能力で境界を弄れば出来るわよ。それで期限が過ぎた時、元の世界に戻りたいと思うなら帰してあげる。外の世界で言うちょっとしたツアーみたいなもんよ。」

ふむ、要するに、日本での生活に支障はきたさないということだな。

「そのぐらいなら協力しよう。元々俺も、異界について興味はあったからな、まあタイミングの問題だな。」

紫は何故かにたにた笑っている。それは例えるならネズミを檻に閉じ込めた猫の様な笑いだった。

「貴方は幻想郷の誘惑にきっと耐えられないでしょうね。一ヶ月たった時が楽しみねぇ。ま、良いわ。貴方が幻想郷に残る事を選択したら、その時貴方には『人里』の里長になって貰う。取り敢えず、これから1ヶ月間宜しくね。そう言えば、名前をまだ聞いてなかったわね。」

「俺の名前は柏根葉一。何とでも呼んでくれ、八雲さん。」

「紫でいいわ。それと、幻想郷の人たちは互いに名前で呼び合う人が多いから、私も貴方のことを葉一と呼ばせて貰うわ。さあ、あちらの光の方に歩いて行きなさい。ナガサキ支部近くに繋がっているはずよ。それと、この事は決して他言しないで欲しいの。」

「判った。助けてくれてありがとう、紫」

彼は歩いて行き、スキマから外に出て行った。

 

 

スキマから出ていく間、葉一は違和感を覚えていた。

(ん、まてよ?いきなりなんで里長?他の住民もいるはずなのに?何故よそ者である俺が選ばれたんだ?おかしいぞ…?それに何だ?微かに懐かしい感覚?というか風格があった…。まさか、以前あいつと会ったなんてことはないだろうが……。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[スキマ、同時刻にて…]

 

 

「なぜあんな異例な措置を取ったのですか?幻想郷に夢の中から住み着くなんて、少しリスキーでは?」

「彼は強いわ。そしてもしかしたら、外の戦争を終わらせるのに役立つかもしれないからね。けれど、幻想郷も内部から支えてほしい。」

「信頼できるのですか?」

「私の見込んだ男よ。それに、彼には昔、会ったことがあるような気がするの。私の気のせいかもしれないけど…。」

「そんな理由でよそ者を入れて大丈夫なんですかね……」

「とと、とにかくっ!私の幻想郷再生計画は、遂に動き出した。藍!幻想郷の主要人物に博麗神社に至急集まるよう伝達しなさい!」

「かしこまりました、紫様。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[???、???]

 

ソイツはそこで、知恵の輪を複雑化した様なパズルを弄っていた。ぼさぼさに伸びた髪をものともせず、様々な術式をあてがっている。

「ようやく出来た。これなら解くのに、理論上2万手は必要になるはずだ。さあて、暇潰しは済んだしいつもの練成をするか。」

そして、そのパズルをぐしゃりと握り潰し投げ捨てると、魔法を使って小さな鍵を錬成する。それを摘んで、壁にあてがった。

瞬間、鍵はその壁に弾き飛ばされる。

「こいつも駄目か…。この綻びを見つけてから1498年の時が経った。」

ソイツは立ち上がる。そしてその壁に手を伸ばす。いや、正確にはその壁ではない。その壁の先に手を伸ばした。自分を永遠に閉じ込める、その壁の先へ。

「この忌まわしい壁を破るため、気が狂うほど長い年月を過ごしたが、この恨みを一時たりとも忘れる事は無かった。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「幻想郷に、復讐を。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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夢の中から幻想郷

スキマを出てナガサキ支部に辿り着くと、先に到着していた部隊員は無機質な門前に整列していた。ぼろぼろになった俺を見つけ、駆け寄ってくるが、それは数える程の人数しか居ない。この戦争で、こんな大敗北を喫したのは恐らく初めてであった。俺はやりきれない思いになる。

「残ったのはこれだけか?」

「ええ……隊長こそよくご無事で……」

誰も何も言葉を発さない。重苦しい沈黙が、俺たちにのしかかった。

「すまない………俺が不甲斐ないせいで、こんな事に……」

「そんな、隊長の責任ではないですよ!ただ、貴方が戻ってきてくれた……。それだけで十分です。だから、俺たちをこれからも導いて下さい……」

そう言って、笑おうとする奴の眼は、今にも泣きそうだった。唇を強く噛み締めてじっと立っている者や、武器を磨いて悲しみを紛らわそうとしている者。仲間を失ったという実感が、その場に重く広がっていた。

「乗り越えよう、俺たち皆で。そして、あいつらの分も生きよう。俺たちに出来るのはそれしかない……」

誰も泣かなかった。こんなところで、泣いている訳にはいかないと誰もがわかっていたからだ。 

「やらなければ……」

部下の一人がぽつんと呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、上官からヒロシマ支部まで撤退するという通達があったことを聞かされた。

更に、俺はツシマ支部で別れた戦友とも再開した。奴もどうやら、例の戦いからぎりぎり生き残ってきたらしい。

「遂に本土決戦の幕開けって感じだねぇ。全くあのロボットには驚いたよ」

「ああ……このままじゃ俺たちに勝機はねえだろうな……」

「…………」

奴は軍帽を深く被り直した。言葉無くとも、奴もきっと、同じ事を経験し、俺と同じような感情を抱いているのだろう。

「奴らは情報を厳重に管理してるし、焼け焦げたロボット兵の残骸からは技術の手掛かりとなるようなものは無い。しかも状況判断による自爆機能もついているときてる……。このままなら日本側がロボット兵を量産することもできず、いずれ日本の兵力は尽きてしまうだろうな…………」

「……君みたいな武者が量産出来ればいいんだけどね」

「おいおい、怖いことを言うなよ」

「戦争さえ終われば、自分は勝っても負けても構わないけどね」

と、奴は投げやりな事を言う。でも、俺ももう、この戦争を何の為にしているのかわからなくなっていた。人の命より重要な事なんてあるのか?その疑念で俺はいっぱいだった。

(なんとかして、より一人でも多く、仲間を救う。俺はこれから、その為だけに戦わなくてはいけないんだ……)

 

 

 

そうして、明日の出発に向けた準備を終え、僕は寮の自分の場所で眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

「来たわね。上手くいってよかった。」

気がつくとそこは、昼頃いた目が沢山ある空間で、自分の前には紫がいた。見れば見るほど悪趣味な空間に見えてきたが、命の恩人にそんな事を言うのは失礼だろうと思い、口には出さなかった。

「そういやこの中って時間とかどうなっているんだ?夜眠っている間しか居れないとなるとぶっちゃけ大した時間過ごせないと思うんだけど。」

「私が貴方の夢の中の時間の境界を弄っておいたから大丈夫よ。ここであなたが何時間、いや何日過ごそうと、貴方は翌日の朝に帰ってこれるわ。ドラ◯もんで例えるとタイムマシンみたいな感じよ。ただこの力は制御が上手くいかなくてね……。どのタイミングで幻想郷から離れるのかはわからないんだけど。」

紫は俺を光の方に案内しながら言った。彼女は異界の人間のはずなのに、何故こちらの漫画を知っているのかという疑問はあったが、それ以上に気になることがあった。

「境界を弄るってなんだ?特殊能力か?」

「あら、ごめんなさい。説明不足だったわね。私の能力は『境界を操る程度の能力』よ。幻想郷の多くの人々はそれぞれ固有の能力を持っているわ。私はそうね、例えば場所の境界を弄って実質ワープを行うことが出来るわ。例えるならどこでもドアのようにね。他にも魔法を使ったり、昔は時を止めたりするやつもいたわね。」

どこぞの世界を支配する吸血鬼のようだな。

「そいつは凄いな。てか魔法とか正に『異世界』って感じだな。」

「この世から忘れ去られた者たちが集う楽園ですもの、そんなことで一々驚いてたらキリがないわよ。そうそう、幻想郷についてはある有名な元人間が名言を残しているわ。」

「どんな名言だ?」

「『幻想郷では常識に囚われてはいけない』よ。」

 

 

 

 

紫の通路から光の中に出ると、そこは脇に木が二,三本生え,草が丁寧に刈り取られた小道だった。紫は小さな岡の方に俺を案内した。歩いていくと、段々と石造りの階段が見えてきて、その頂上部には真っ赤な鳥居が見えた。

その時、俺は今まで感じた事のなかった感覚をおぼえる。

(何だ…?何か、懐かしい匂いがする…。俺の記憶と、何か関係があるのか……?)

「神社か?」俺は尋ねた。異界に神社があるというのが少しイメージと違っていたからだ。

「そうよ。幻想郷は古代日本をモチーフにして造ったの。」

造った!?と俺は驚く。

「幻想郷って紫が造ったもんだったのか!?意外だな。結構若そうに見えるのに。」

「何歳だと思う?」

「見た目は俺より少し年上くらいかな。」

「うふふ、ありがとう。正解は秘密だけど,恐らく貴方の50倍以上生きてると思うわ。」

「50倍!?紫、あんた人間じゃなかったのか…」

「私は俗にいう妖怪よ。」紫は俺の反応を見ながらニヤニヤしている。俺はあらためて、彼女の年齢からはかけ離れた美しさに驚いた。

「妖怪って、もっとこう…なんか禍々しくて、異形のものって感じを想像してたのに,こんなに美しいものだったとは……」

紫はクスクス笑う。

「褒めても何もでないわよ。ちなみに貴方はこれから、幻想郷の有力者たちと会うことになると思うけど、多分全員人外だから宜しく。」

「今更だが不安になってきた……。」

 

 

 

 

 

階段を登っていくにつれ,人々(妖怪たちか)が騒いだり、飲み食いしているような音が聞こえてきた。紫の方を見ると、何故か彼女は言うことを聞かない子供に疲れ果てた教師のような顔をしている。

「幻想郷の連中は何故か宴会好きが多くて、何かあるたびに決まって宴会をするのよ……。会議するから飲むなって言っておいたのに……。」

鳥居をくぐって境内を登ると、そこには小さな神社があり,奥の方の広間のようなスペースから喧騒が聞こえてくる。僕は一応、賽銭箱に小銭を投げて参拝をした。紫の方を見ると何やら複雑な顔をしていた。

「何か参拝の手順でも間違えたか,俺。」

と聞くと,紫は別に何でもないわと言ったので安心した。

 

 

その時、奥の広間から紫と同じくナイトキャップのようなものをかぶり,妙に目つきが鋭い女性が駆けてきた。

「申し訳御座いません!紫様。萃香殿に彼女らを集めるのをお願いして、ちゃんと集まったのは良いのですが、何故か宴会になってしまって…。私もあまり飲むなと止めたのですが…」

紫はやれやれだわという顔をする。

「いいのよ藍。貴方は何も悪くないわ。萃香にはいつでもどこでも酒を飲ませるなって言っておくから。それより藍、彼がこの幻想郷の里長になる予定の柏根葉一よ。」

「紹介にあずかった柏根葉一だ。俺のことは葉一と呼んでくれ。ってか紫まだ僕は里長になりますなんて一言も言ってないぞ」

紫は明後日の方向を向き、それを無視した。

その妖怪は、はははと苦笑いをしながら自己紹介をする。

「私は八雲藍、紫様の式神をしている者だ。藍と呼んでくれ。今後宜しく頼む。」

「ああ宜しく。それと失礼になるかもしれないが、君は何の妖怪なんだ?」

「全然聞いてくれて構わないよ。私は九尾の狐の妖怪さ。中々珍しいだろう?」

それを聞いて俺はなるほど、と思った。彼女の後ろからは、黄色くて大きな沢山の尻尾が生えていたからだ。

「教えてくれてありがとう。そうだな、初めて見たよ。」

 

 

藍と自己紹介をしている間に、紫は広間の中央に入って行ってしまった。紫に先ほどの言葉の訂正をしてもらおうとしていた僕はやることがなくなってあたりを見ながら立ち尽くしていると、一人の妖怪が話しかけてきた。

 

 

「貴方が外来人の方ですよね?」

そうだ、と俺が答えると彼女は安心したように話し始めた。

「良かったです。私は文々丸新聞記者兼編集者の射命丸文です、(これ名刺です、)以後お見知りおきを。突然ですが会議後に貴方に取材をしたいのですが、協力してもらえませんか?」

「新聞記者か。取材ってどんなことを聞くんだ?」

「あなた自身のこととか、外の世界の事とかです。」

早速これか。まあ、ここでの印象と認知度アップのためなら、むしろ受けておいたほうが良いだろう。

「まあプライバシーもあるしな。話せる範囲なら取材を受けよう。」

「有難うございます!」

 

 

そういうと彼女も広間の中心部に向かっていった。しかし驚いた。ここは魔法などの失われた力が存在する古代日本の世界なのに、新聞という妙に近代的な文化が存在しているとは。こういうことも含めて、常識に囚われてはいけないということなのだろうか。それにしても、何か、ここに来てから懐かしさを感じることが増えた。俺の記憶も、いつかは戻ってくるかもしれない。

 

 



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幻想郷の強者たち 上

自己紹介回です。


その後、俺は準備を終えた紫に案内されて、幻想郷の面々が待つ広間に入っていった。見渡すと全員人間のような姿をしているが、その背中には羽が生えていたり、角があったりと確かに妖怪とわかる風貌をしている。紫は俺を大きな丸いテーブルの空いた席に案内した。そしてそこにあった僕の肩書きを示しているだろうネームプレートには、「人間」とだけ書かれていた。確かに、この世界では人間である事がアイデンティティになり得るのだろう。

 

 

 

 

「全員揃ったようね。今日は皆さんに、大事な話があるの。その前にまず、新たな仲間を紹介するわ。さあ、自己紹介して頂戴。」

そう言って、紫は俺を促した。

「ああ。俺は紫に頼まれてこの世界にやって来た柏根葉一という。葉一と呼んでくれ。取り敢えず一ヶ月間滞在する予定なのでよろしく頼む。」

「因みに彼は夢の中から幻想入りしているから居たり居なかったりするわ。行く行くは里長になる予定なので仲良くしてあげて。」

「おい紫…俺は別に幻想郷に住みつくって決めたわけじゃ…」

「まあ見てなさい。きっとここを気に入って住むことになるから。」

紫のその自信は何処から来るんだと俺が考えていたとき、

赤青二色に別れた服をきた、銀髪を後ろで一つに束ねた女性が立ち上がって、強い口調で言った。

「ちょっと待って頂戴。取り敢えず一ヶ月滞在ってどういうこと?紫、幻想郷の存在が仮にその人から外に知れたら、幻想郷と外界との境界はどんどん薄くなり、最終的には妖怪達は皆滅んでしまうかもしれないのよ?なのに何故……」

紫は溜息をつく。

「私も本当は、こんな形で幻想入りを許したく無かったのよ。まあそんな悠長な事を言ってられない理由が出来たってわけ。それについても今日話すわ。さあ、彼の自己紹介は済んだわ。今度は貴女達の番よ。」

「まった」

そう紫を止めたのは小柄で腕に鎖をはめていて、頭に二本の角を生やしている少女だ。

「まだ能力をきいていないぞ」

「!?紫、俺にも能力が有るのか?」

「幻想郷に来た外来人は、基本的には能力を持っていないはずだけど…まあ萃香がそう言うのであれば私の知識の境界を弄って見てみるわ……ちょっと待ってね」

そんなことも出来るのか…本当に彼女の能力は汎用性が高い。それにしてもさっきの「すいか」と呼ばれた女の子は、明らかに未成年でさらに幼女なのに杯と瓢箪を持ち恐らく酒であろう液体を注いで飲んでいる。どうなっているんだ幻想郷…。

「出たわ」

そんなことを考えていると紫が調べるのを終えたらしい。

「能力はあったのか?」

「ええ、こちらに来て発現したみたいね。葉一、貴方の能力は…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『癒す程度の能力』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

よ。」

「はあ???」

そう声を上げたのは先程の少女だった。彼女はそういうと、明らかに落ち込んでしまった。

「せっかく軍人つて聞いてたから強い奴だと思ったのに……ヒーラーって……」

「ごめんなさい、俺何か気に障る事しました?」

「別にいいの葉一。彼女は自分と渡り合える程の強い妖怪を探しているってだけだから。貴方の能力が戦闘向きに見えなかったのでしょうね。」

そういう事か。そういえば妙にキラキラした目で紫を見つめていた気がする。それにしてもこんな少女が戦闘狂なのか…そんなことを考えていると真正面から声をかけられた。

「幻想郷は基本的には殆ど女性が占めていますからね。一人二人は戦闘狂がいても可笑しくない話だと思いますよ。」

そうなのか…こちらは異性である僕にとっては暮らしにくそうだなあ……ってあれ?

「あれ、俺何か喋ってたか?自分では記憶がないんだけども」

「ああ、彼女は人の心を読むことが出来る妖怪なのよ。貴方は何も喋っていないわ。」

「勝手に心を覗いてすみません。悪気は無かったのです。ただ、幻想郷の存在を外に漏らすような悪事を企んでいると良くないなと思いまして。」

とその紫色の髪をして大きな眼がついた紐のようなものを机に載せている少女は言った。俺は「悟り妖怪」というものを思い出した。

「そうですね。いかにも私は悟り妖怪の古明地さとりと言います。以後よろしくお願いいたします。」

非常に会話がスムーズである。人の心を読めるとはなんと便利な事なのだろうと俺は思った。

 

 

そんなことを考えていると先程の落ち込んでいた少女が立ち上がった。彼女のネームプレートには「百鬼夜行」と書いてあった。

「そうそう、自己紹介だったね。さっきは失礼なことを言ってすまなかった。私は伊吹萃香、こう見えても鬼の四天王の一角だ。ほとんどこの神社にいるから今度一杯やろう」

「彼女の能力は密と疎を操る程度の能力よ。」

やっぱり鬼か。僕は日本の「鬼殺し」という酒を思い出した。彼女はおそらくだが日本古来にいたとされる伝説の鬼、伊吹童子別名酒吞童子なのだろう。できれば鬼と吞み合いはしたくないものだ。能力は……口で言われただけではよくわからんな。

 

 

次に始めに質問をした銀髪の女性が立ち上がった。彼女のネームプレートには「薬師」とあった。

「私は八意永琳といいます。今は幻想郷にある迷いの竹林にある永遠亭という病院で薬師兼医師をしています。怪我や病気などで困ったら来てくださいと言いたいところなのですが、その能力があればおそらく大丈夫でしょうね。」

「因みに彼女はいわゆる不死身の体を持っているわ。」

不死身の医師か…。俺がRPGの主人公ならば是非ともパーティーにほしいところだな。いかにも賢者って感じだし困ったときに頼りになりそうな人だ。ファッションセンスはちょっと理解しがたいけど。

 

 

そうして次に、大きな被り物をした緑髪の少女が立ち上がった。

「次は私ですね。私は四季映姫・ヤマザナドゥ。地獄の閻魔です。とはいえ貴方は幻想郷の人間ではないので幻想郷担当の閻魔である私が裁くことはないでしょうが。合うことも少ないとは思いますが宜しくお願いします。」

「彼女は説教が趣味でね、非番の時には地獄から説教をするためにやってくるの。貴方も気を付けた方がいいわよ、生まれてきてからしてきた行動すべてを見透かされるからね。」

「私は生者の罪を少しでも軽くするために説教をしているのであって、嫌われるために説教をしに来ているわけではないのですが…」

そう言う彼女の目の前には笏がおかれている。あれは確か、文書によると悔悟棒とかいう代物だったか…。

 

 




続く!


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幻想郷の強者たち 下

続いて、二つ眼がついた帽子を被った少女が立ち上がった。彼女のネームプレートには、「神」と書いてあった。

「私ね。私は守矢諏訪子、守矢神社に祭られてる神だよー。えーっと能力は、坤を創造する程度の能力でー、貴方と同じように昔外の世界からやって来たんだよー。今度遊びに来てねー。」

「彼女が祭られている神社は、妖怪の山という所の頂上にある神社で、危険も有るから昔は中々参拝に行けなかったのよ。まあ私なら能力使えば何時でも行けるけど」

もう大抵の事には驚かないけど、随分フランクでフレンドリーな神様だな…今度その神社を訪れてみようか。

 

 

次にさとりが立ち上がった。彼女のネームプレートには、「最恐の妖怪」と書かれていた。

「あらためまして古明地さとりです。私は普段地底にある地霊殿に住んでいるので、今度遊びにでも来て下さい。妹が喜ぶと思いますし、私も貴方のような博識そうな人とは話してみたいと思いましたから。」

紫は僕にしか聞こえないような声でこっそり言う。

「彼女の持つ心を読む能力のせいで、彼女を嫌っている妖怪も多いのよ。どうやら貴方は良い人間として彼女に認められたようね。まあ地底は遠いし危険だから今度スキマで送ってあげるわ。」

確かに心を読まれる、ということは、戦闘においては致命的で、敵に回したくない人間も多いだろう。裏を返せば味方にいると大きなアドバンテージを得られるということだ。彼女が好意的な妖怪で良かった。うむ……、いかん、なんでも戦闘に結び付けてしまうのが僕の悪い癖になってきつつある。これも戦争のせいか……。

 

 

そして、髪を紫と金の綺麗なグラデーションにした優しそうな女性が立ち上がった。その人のネームプレートには、「僧侶」と書かれていた。

「私の番ですね。私は聖白蓮。人里のそばにある命蓮寺という寺の僧侶です。後日あらためて挨拶に来ていただけると嬉しいです。」

「彼女はこう見えても魔法使いという種族の妖怪で、彼女の身体能力は魔法による強化をする事によって目茶苦茶に高くなるらしいわ。私は戦ったことないから知らないけど」

そうなのか。日本の尼さんとは全然違うな…。髪を切ってないどころか染めてるし。てか地毛かもな…。ここだったら有り得る。そもそも妖怪の中にも仏教を信仰している人がいるというのが意外だ。多分この人は妖怪の中でも相当イレギュラーに違いない。名前に「聖」とか入ってるし。

「紫さん、今度手合わせしますか?」

「……遠慮しておくわ……」

 

 

次に、ヘッドフォンを付けて、薄いブロンズ色の髪を猫耳の様に上で二つに分けて固めた髪型をして、先程の閻魔の様な笏を持った隣の女性が立ち上がった。彼女のネームプレートには、「仙人」と書かれていた。

「私の名は豊郷耳神子。最近はたまに人里で道教を教えたり、説法をしたりしている。普段は仙界というこの世界と連結した異世界の様な所に居るぞ。今の日本についても興味が有るから又の機会にご教授願いたい。」

「彼女の能力は十人の話を同時に聞く事が出来る程度の能力で、彼女が付けているヘッドフォンは音が聞こえ過ぎないように調節する為の物らしいわ。彼女の事は貴方も習ったことがあるのではないかしら。」

10人の声を聞き分けたといわれ、豊郷耳神子と呼ばれる人物……それは間違いなく今から3000年近く前に生きていたとされ、日本の発展に貢献したあの人物に違いない。しかしそうなると疑問が残るな。

「あの、聖徳太子さんですよね、飛鳥時代の。」

「ははは、昔はそんな名前で呼ばれたこともあったな。」

「貴方は女性ですよね?」

「そうだがそれがどうかしたのか?」

「聖徳太子ってたしか男性じゃありませんでしたか?」

豊郷耳は可笑しそうに笑う。

「ああ、なんだそういうことか。後の世の人は私のかどうかも分からない肖像画を見て勝手に私を女性だと決めつけたようだが、それは私ではなく、私の当時の側近なんだよ。日本が今教えている歴史には間違ったところがあって、私の性別もそのうちの一つというわけなのさ。」

凄いことを聞いてしまった……。とすると日本が2000年以上に渡って教えてきた聖徳太子についての説明は間違っていたということなのか……。

 

 

これで一応一周したかな。でもまだ来ていない人がいるな。席がポツポツ空いてる。

「それはですね、いろいろ理由があって来ていないのですよ。」

とさとりが言った。

「紫さん、空いている席に関しての説明をお願いします。」

「わかったわ。まず、あの『吸血鬼』と書かれたネームプレートがある席だけど、彼女はレミリア・スカーレット。まあ書いてある通り吸血鬼よ。彼女は自分の意思で幻想郷から出ていってしまったの。彼女が出ていった理由は二つあるらしくて、一つは大切な人間を亡くしたこと。もう一つは知らないわ。次に、その隣、『冥界の姫』と書かれたプレートよ。彼女の名は幽々子。彼女もまた、大切な人を亡くして100年間の喪中に入っているの。だから今日来てないのよ。」

「100年!?流石寿命の長い妖怪だな…。」

「彼女は妖怪ではないわ。亡霊よ。だから寿命なんてないようなもんね。」

亡霊か。足はあるのかな…。それにしてもこの幻想郷、本当に沢山の種族がいるらしい。

「続けるわね。次に、そこの空いている席。彼女は当代博麗の巫女、博麗霊真の物よ。」

「博麗の巫女?」

「この神社の巫女よ。この神社の名前は博麗神社。博麗の巫女は代々幻想郷を外界と隔離している結界の守護者なの。ちなみに私も結界の管理に関わっているわ。幻想郷にとっては必要不可欠の仕事なのよ。」

紫の説明を聞いて、俺は一つの疑問をおぼえる。

「なぜそんな重要な人間が今ここにいないんだ?」

「実は、彼女も外に出ているの。彼女は外界で次の代の博麗の巫女を見つけるつもりらしいわ。後これは私が個人的に頼んだことなんだけど出来れば戦争を終わらせる手助けを向こうでしてきてって言ったんだけど……。私の能力の調子が悪くて変なとこに送りだしちゃって、行方が分からないのよ。」

完全に貴女のせいだろ、それ……。

「まああの子は強いから私が何もしなくてもひとりでに帰ってくるでしょうけど。」

よっぽどその霊真という子は信頼されているんだな……。

「紫、私からもいいかな?」

とその時諏訪子が口をはさんだ。

「ええ、いいわよ。」

「葉一、さっきも話したと思うけどー、私は守矢神社の神様をしているんだけど、実は守矢神社にはもう一人の神様と、巫女がいるんだー。守矢の二柱とその風祝ってね。その二人も訳あって地上に出ているんだ。私はお留守番ってわけー。」

そうなんだ。巫女さんや神様が今のご時世で何をしているのかというのが少し気になった。

 

 

「そういや紫、まだ大事なことを話してもらってないぞ。」

「あら、何かしら」

「そろそろ僕がこの幻想郷に呼ばれた本当の理由、教えてくれないか。」

「そうね。皆に話さなくてはならないこともあるし、今からこの会議の本題に入っていきましょうか。」

そう紫は言った。

 

 

 

 

 

俺が一息ついた瞬間、またも謎の感覚が起こる。

『私は貴方がここに来るのを、永遠に待っているわ。』

その女性は美しかった。だが、肝心な顔はぼやけてしまいよく見えない。

記憶の断片だろうか……?そして、何故このタイミングで……?

 

 

 



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八雲先生の勉強会

暇な人は紫さんが出すクイズ、考えてみてください。ヒントは適宜だされています。






飛ばしてきた人向けにあらすじ

幻想郷の勢力代表の自己紹介が終わり、幻想郷の危機についてゆかりんは話し始めた。


紫は話し始めた。

「今、この幻想郷で何が起きているか、知っているわね?」

その言葉を聞いて、妖怪たちは皆そろって溜息をついた。

「じゃなきゃこんなところでこんなことしてないよ、めんどくさい」

「この顔ぶれを一度に集められる異変なんてもんは、そうそう無いですよ。それこそ、幻想郷の危機レベルのものでないとね……」

「どうやら、皆も深刻に悩んでいるみたいね……」

「「「はあーっ……」」」

またもや彼女らはいっせいに溜息をこぼす。

俺は訳も判らず紫に尋ねる。

「なあ紫、どういうことなんだ?俺にもわかるように教えてくれないか」

「あらら、ごめんなさいね。実はね、私達今、そうとう『弱く』なってるのよ」

萃香が酒をぐびりと飲み込んで言う。

「具体的には、私ら固有の能力がかなり死んでる。私は体力の消耗がかなり増えた」

「私の仲間内ですと……鵺が完全にやられてますね。あの子、変身しても羽が消えずに残るんですよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここからは、私が問題を出して皆に原因を考えてもらう形で話をさせてもらうわ。その方が楽しいでしょう?とはいえ、ヒントがないと厳しいでしょうから、ちゃんとヒントはだすわよ。安心して。では、早速第一問!」

 

「まず、葉一に妖怪達の存在についての問題よ。妖怪とは、昔の時代に人間が理解できない存在を形にした物だと言われているわ。そして妖怪達は、彼等に信じられる事で存在を保っていたの。ここで問題よ。昔は、日本にも沢山の妖怪がいたけれども、今は殆どが外界から姿を消したわ。さあ、何故でしょう?」

 

 

 

 

 

 

答え注意!

 

 

 

 

 

 

 

 

僕はちょっと考えて答える。

「現代の人間達は、妖怪を信じていないから、妖怪も存在できないんだろう?これが答かな。」

「まあ正解よ。補足させて貰うと、人間は科学を発達させ、殆どの現象を解明したことによって、妖怪を信じなくなった、というところね。ちょっと簡単過ぎたかしら。」

「答を言ってるようなもんだったからな。」

 

「ふふ、じゃあ次の問題。じゃあ、この問題は萃香に答えてもらうわ。何故、私達の能力が弱まってると思う?」

 

 

 

 

 

答え注意!

 

 

 

 

 

 

 

 

「紫の事だから今まで話した事がヒントになっているんだろうね、どうせ。うーん……ああ、幻想郷の人間の我々に対する信仰が失われてきている、とかかな?」

「正解よ。」

「ちょろいな。」

萃香は満足げな顔をしている。

 

「じゃあ、次の複合問題は皆に考えてもらうわ。何故、今幻想郷の人間の我々に対する信仰が足りなくなったのだと思う?」

 

 

 

 

 

ヒント注意!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

うーん……難しいな。ヒントが少な過ぎる気がする。

周りも一生懸命考えているようだが、答にはたどり着いていなさそうだ。

 

 

突然、聖徳太子が手を挙げる。

「今『足りなくなった』と言ったよな…?紫、それって…失われたという事ではないのか?」

「良いところをつくわね。そうね、決して幻想郷にいる人間からの信仰は失われていない。足りなくなったのよ。」

 

 

答え注意!

 

 

 

 

 

 

 

 

「大方わかったよ。ちょっと不完全なんだが…。」

「答えて良いわよ、神子さん。」

「ああ。私達の能力が弱まった理由は、里の人間達が数を減らしたからだな?私は宗教家としての活動の一環で人里にたまに行くんだが、最近人里から活気、生気を感じないんだ。我等幻想の妖怪や神の力の出所は人間の信仰…当然人間が数を減らせば信仰が足りなくなり、我々にも能力の制限や果ては消滅という未来が待っているだろうな。つまり人間と妖怪の相関関係、だな。だが、この答えでは不完全だ…。」

「そうね、よく見抜いたわ。私達には信仰が足りないのよ。しかし、彼女の言う通り、これでは答えが足りない。何故、幻想郷の人間が数を減らしているのか…。それを理解してもらわないと。」

 

 

 

 

 

ヒント注意!

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「うーん」」」

「そうね、この問題は難しいから、ヒントをあげるわ。ヒントは、外の日本では生まれる人間の子供の数は増加傾向にあることよ。」

 

 

 

 

答え注意!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「答えがわかりました。ですが、本当にそんなことがありえるのか…。」

「言ってみなさいよ、月の賢者。皆さんお手上げのようだし。」

「答えは[概念]の幻想入りではないですか?」

「流石ね。正解よ。」

「おい紫、私達にはさっぱりわからんぞ。もっとわかりやすく説明してくれないか?」

「私が説明しましょう。幻想郷の人間の数は、外の人間の数と反比例しているのよ。例えば、外の世界の人口が減れば、こちらには「多産」という外の世界で「忘れられた」概念が幻想入りする。幻想郷の人間の数は地味に増えていたし、今まではこの形だったわね。しかし、あちらが例えば「多産政策」なんてものを導入したとしたら…。」

「Exactly!素晴らしい。その通りよ。外の世界の政府はいわゆる「多産政策」を導入したらしいわ。そのせいで、こちらには少子化の概念が幻想入りしたという訳よ。まあ外と中が結構密接に関わっていた、という訳ね。」

「はー、そういうことか。じゃあ外の世界の政策とやらを廃止しないと、幻想郷の未来は暗いというわけか。しかしそんなことどうやったらできるんだ?」

「それは彼が知っているはずよ、葉一。」

 

 

ああ…。そういうことか。

「多産政策は、戦争をする人手を増やすためにとられた政策なんだ。」

「ならば戦争を終えることが出来れば…。」

「無意味になった多産政策が廃止され、」

「幻想郷を救うことができる。」

「その通りよ。葉一は戦争を終わらせる為に戦っているそうだから、彼も間接的に、幻想郷のために貢献してくれているといえるわね。」

「そうなのか!」

幻想郷の首脳達が僕を驚きと期待のこもった目で見つめてきた。僕は今まで自国や仲間達のために戦争終結に尽力してきたが、どうやらそれには別の意味も込められていたらしい。

「でも紫、これだけだと一寸不安じゃないかい?万が一彼がしくじった時には…」

「大丈夫よ。戦争を終える以外にも幻想郷を救う方法はありますもの。別に難しく考える必要はないのよ。」

萃香は不敵な笑みを浮かべて、こう言う。

「これも問題かい?私は答えが分かったぞ。」

 

 

 

 

 

 

答え注意!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「萃香ね、言ってごらんなさい。」

「人が減ったのなら増やせばいい。単純に、外の世界から我々の世界を受け入れてくれる人間を探して、そいつを幻想入りさせればいい、という事だろう?」

「正解ね。我々の能力を取り戻すには、その二つの方法があるって訳。葉一、貴方には、幻想郷の環境に慣れて貰う。そして、貴方と同じように幻想入りする人間が来たら、同じ立場の者として導いて欲しい。それが、貴方をまず呼んだ理由よ。」

「そうか…。まあ取り敢えず、明日からでも良いからここを案内してくれないか?」

「ええ、良いわよ。私達も貴方が幻想郷を気に入るよう全力でサポートするわ!」

そうして、幻想郷首脳会議はお開きとなったが、全員が神社に残りそのまま二次会に突入してしまった。

 

 



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文はスタンドが欲しい

ジョジョ回です。


紫はスキマに円形テーブルと椅子をしまうと、変わりに長くて背が低いテーブルと座布団、酒や肴を出した。

「今日はこの会議の幹事である私の奢りよ!」

「酒だ酒ー!」

そういって飛び出したのは鬼の萃香である。彼女は本当に酒が好きなのだろう。会議前も飲んでいたが、二日酔いをしないのだろうか…。

「鬼は種族的にうわばみなんです。彼女らを二日酔いさせようと思ったら、酒瓶の100本や200本では済まないでしょう。」

さとりが俺の心を読んで答えた。しかし危ない種族だ…。飲み比べなんかしようものなら、確実にこっちが潰れてしまう。かといって断るというのも相手に悪いし…。

そんなことを考えながら、俺は近くの座布団に腰を下ろした。

 

 

「ふーっ、やっと終わりましたか。」

そう言って会議場に入って来たのは、例の新聞記者である。どうやら外で会議終了を待っていた連中が居るらしく、何人か入って来て宴会に加わった。

「ああ、一緒に飲まないか?」

「ええ、すみません。お邪魔します。」

文は俺の反対側に座り、ペンと手帳を取り出した。

「会議に参加しなかったのか?」

「ええ、私達が住んでいる地域の代表は諏訪子さんですから。後で彼女から説明を聞きます。それでは早速申し訳ないのですが…取材をさせていただいても?」

「OK、いつでもどうぞ。」

文は酒に一口手を付けて取材を始める。

「まず年齢と職業を教えて下さい。」

「年齢は22歳、職業は軍人だ。」

「ふむ、22歳、軍人と…。ということは外は戦争中ですか?大変ですねぇ。」

「ああ、色々とな。」

「じゃあ二つ目の質問です。今外で流行っているものは何ですか?」

「日本の流行って事か…?50年ぐらい前まではVRゲームという物が大流行してたな。」

「してそれとは?」

「バーチャルリアリティ…仮想現実って奴だな。まるで自分自身がゲームの世界の一人になってしまったかのような体験が五感で味わえるらしい。まあ今は戦争中だしそれらの金属製品は全部熔かされて武器や基地の材料に変わっちゃったけどな。残念だ。」

文は手帳に凄いスピードで俺の話したことを書き留めている。かなり手慣れているようだ。

「漫画はありますか?」

「漫画?まだあるぞ、全て電子化されたけどな。」

「おお、それは嬉しいですね。私、外の世界の『ジョジョの奇妙な冒険』という作品のファンでして…最近よく単行本が幻想入りするので、外の世界でもしや、漫画という文化が忘れ去られたのではないかと思いまして…安心しました。」

「ジョジョか…俺も昔よく読んだなあ…。結構ハマってたんだよ。」

「えっ、貴方もファンなんですか!ジョジョって今外ではどんな感じになっているのですか!?」

「俺は13歳の時にジョジョを知ったけど、何せあまりの人気で中々連載が終わるに終われず、読んでも読んでも最新巻に追いつかなくてさ…。読むのを止めちゃったんだ。」

「因みに今は何部がやってるんですか?」

射命丸文は少し引き攣った顔で質問した。

俺が覚えている数を答えようとすると、彼女はそれを止めた。

「やっぱり遠慮します。聞くのが怖いですから…。作者、やっぱり究極生命体なのかな……。」

そうか…。そういえばさっき漫画の話をし始めた時から、妙にあちらこちらからの視線が有る気がする。単に外来人が珍しいってだけかもしれないが、文も先程、貴方「も」と言っていたしきっとこの世界には他にも漫画好きやジョジョラーが居るのだろう。

「ところで文、取材の方は良いのか?」

………………。

「ハッ!失礼しました。つい夢中になっちゃって…続けましょう。何か能力はありますか?」

「ああ、癒す程度の能力だそうだ。だがついさっき知ったばかりで、自分でも使い方がイマイチわからない。」

「強く念じればわかるかも知れませんよ?」

「わかった。やってみるよ。…………。」

心に「能力」と強く念をかけた。すると奇妙な事に心に言葉が浮いてきた。

「えーっと、生命体の怪我、病気を治癒させる。死体を蘇らせる事と、自分を回復することはできない。だそうだ」

「これは…ヒーラーですね。パーティーに一人欲しい能力です。」

文は、自分と同じような事を考えていたらしい。

「だがッ……イマイチ応用性がないよなあァ~ッ、この能力ッ!」

「ジョジョですね!?その喋り方ッ!」

俺の能力は正直ここ、異世界では使いにくいと思っている。何せこの能力、攻撃目的で使う事ができないのだ。まあその分は素の武力と武器で何とか補うって感じだが…。幻想郷にも通用するといいのだが。

 

「あ~、私にもスタンド発現しないかな…………ハッ!またもすみません。ジョジョの話になると盛り上がってしまう性質でして。」

「楽しいから全然いいよ。それより文の能力は何なんだ?よろしければ教えてくれないか?」

「私の能力は風を操る程度の能力です。」

風…………ワムウッ!いかん、頭がそっちの方向に…

「程度のをつけるのはルールなのか?」

「知らないです。そんなもんだと思ってください。」

「そうか。」

「ところで葉一さん、これから幻想郷巡りとかされる予定はありますか?」

「ああ、一度は行ってみるつもりだが…。どうかしたのか?」

「幻想郷にはもちろん友好的な妖怪も多いですが、排他的な種族や攻撃的な妖怪もいます。幻想郷を回るには、自衛という観点から見るとその能力だけだと少し不安ですね。」

「まあ確かに…」

「そこで身を守ってくれるのが、スペルカードです。」

「すぺるかーど?」

「そう、スペルカード。幻想郷での争いや揉め事、異変などはほぼ全て弾幕ごっこによって解決されます。その弾幕ごっこのルールとして、スペルカードルールという物が存在しているのです。」

「まてまてまて。一つづつ解説してもらっていいかな?まず、異変ってなんだ?」

「異変は、まあ戦争とかテロとかと同じようなもんですね。幻想郷の妖怪が異変を起こし、巫女がそれを解決する。」

「あれ?でも今って巫女は不在なんじゃなかったっけ?大丈夫なのか?」

 

「私にそれに対応できる案が有るわ。」

突然、隣の空間がさけ、杯を持った紫が現れた。

「ああ、紫さんですか。それで?その案っていうのはどういうものなんですか?」

直感でわかった。紫は何かまた企んでいる。

「I have a bad feeling about this.」

「葉一に巫女の変わりをやってもらう。」

見事的中した己の勘を褒めるに褒められない。

「やっぱり~。でも俺はその弾幕ごっこっていうのできないぞ?どうすんの?」

「今から練習しましょう。」

そういうと紫は、俺を外へと手招きした。

「私も行きますよ~!その人の弾幕やスペカも取材のうちです!」

「よし、外に出るか。」

紫を追って縁側に出ようとした瞬間。

 

 

 

俺の視界は暗転し、意識を飛ばされた…。

 

 

 



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暗雲

この話はこれから起こる異変の主犯達の話になります。主人公とは別サイドです。


無縁塚、数日前にて…]

 

ここは無縁塚、外界との境目である。外の世界のガラクタが色々落ちているので、普段は道具や機械、研究好きの変わり者がまだ見ぬテクノロジーを求めてやってきているのだが、今日はコレクター達は誰も来ていなかった。かわりに一人の少女が、咲き乱れた彼岸花を見ながら佇んでいた。

「全く…人間というのは困った生き物ですね…。意味のない争いを何度もこう繰り返して…。」

「今回の量は前回やその前、いや今まで何回か起こったこの類の異変の中でも量が多い方ですもんね。映鬼様が呆れるのもよくわかりますよ。」

「同僚の閻魔から聞いたところですが何やら二つの大きな国が衝突した事でこんなことになってしまったらしいのです。全く…幻想郷の人々は能力の使用制限でただでさえ混乱しているというのに…。まあ皆もそろそろ慣れてきた頃合いだとは思いますけどね」

「それにしてもあたいは外の世界の事情がこんなにもこちら側に影響を及ぼすとは思ってませんでしたよ。まあそのおかげで古くなった工業製品がこちらにどんどん流れ着いて幻想郷も工業化が進みあたい達も暮らし安くなったんですけどね。」

「私はこのまま幻想郷と外界の区別がつかなくなり幻想郷としての個性が失われてしまうのではないかと心配でなりません。」

「それは問題ないんじゃないですか?こちらの世界でも僅かですが魔法の道を志している者も居ますし、何より自転車や自動車が幻想入りした今だって、皆の交通手段は『飛ぶ』事じゃあないですか。そう簡単には消えたりしませんよ。」

「それもそうですね。………………ところで小町、貴女仕事はどうしたのですか?まさかここに『サボり』に来た訳ではありませんよね?」

いつのまにかもう一人、大きな鎌を担いで立っていた少女は、彼女の目論みがばれたことに驚いてしりもちをついた。

「きゃん!で、でも映鬼様だってこんなとこで休んでいるじゃないですか!」

「私は今は非番です!!」

「ファッ!?」

「さあさあ、お説教は後でたっぷり差し上げますから、さっさと仕事に戻りなさい!」

「直ちに!サー!」

小町は慌ててたちあがると、地面に突き刺していた死神の大鎌を引っ掴みながら彼岸へとかけていった。

「全く…私が目を離すとすぐこれです…。帰ったらみっちりお説教しないといけないようですね。」

 

そうブツブツ文句を垂れながら地獄の閻魔、四季映鬼は生者に説教という名の粗探しをするために外界へと歩いていった…。

 

 

 

[天界、会議同時刻にて…]

 

「あーマジイライラするわー」

天子はハブられていた。

「あんのクソババア……私になんで幻想郷の首脳陣を揃えて会議をやるなんて教えてくれなかったのよ。」

「しかもさっきちょっと覗いてみたらあいつが嫌っている覚り妖怪ですら呼ばれてるじゃない!!」

天子は悔しそうな表情をしながら、苛立ちを隠せずぐるぐる歩き回った。

「今あそこに飛び降りて大地震を引き起こしてやっても良いんだけど……鬼とか月人とかいるからなぁ…全てを敵に回したら確実にこっちがボコされるんだよなぁ…。今日は命拾いしても次会ったときは潰してあげるわ、紫」

以前の彼女ならば、人数など関係無しに感情の赴くまま猪突猛進に仕掛けていただろうが、経験を経て彼女は少し行動に対して慎重になったようだ。

そこに誰かがうふふと笑いながらふわふわとやって来た。

「でも総領娘様があの妖怪に勝てたのって全然数ないじゃないですか」

「なっ、うるっさいわね!竜宮の遣いの癖して!確かに一番始めに地震起こしてあいつに喧嘩売ったのは私だけど、それでもいくら私達が長生きだとはいえ1500年たった今まで嫌がらせすることはないじゃない!」

彼女は以前、異変を「退屈だったから」という理由で起こした事があり、更に幻想郷を支配下に収めようとしたため、紫にきっちり〆られていた。

「それは総領娘様があの時以来事あるごとにあの妖怪を煽るからではないのですか?もっと歩み寄る努力をしたらどうです?」

衣玖の正論に、天子は何も言えなくなり黙り込む。

「………………!」

「そ、総領娘様?どうかされたのですか?固まってますけど」

「そうよ…なんでこんな簡単なことに早く気付かなかったのかしら…!」

「?」

「衣玖、ムカついたから異変起こすわ」

「異変、ですか…。ですが巫女は今外界にいて、幻想郷内は色々と混乱しているらしいですけど。」

「それだから良いのよ!!」

衣玖はその台詞を満面の笑みを浮かべながら吐く天子の事を、心底ゲスだと思った。

「そうね、前の時は退屈だったから異変起こしたけど、今回の私は一味違うわよ。幻想郷を緋色の雲で覆い隠して、ゆくゆくは紫の胃に穴を空けてあげるわ!!」

一人で紫をぶちのめす想像の世界に入ってしまった天子を見ながら、衣玖はため息をついた。

「今度も紫に大敗して、大泣きする彼女の未来が見えますわ…。全く、少しは大人になってくだされば良い物を…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[???、???]

 

ソイツは椅子に座り、何もない空間を見つめていた。いや、ただ眠っていただけなのかもしれない。

椅子の隣には積み上がった大量の魔導書が、向かい合った机には数枚の何か書かれた紙が散乱していた。

机にある時計だけが、この空間の中でひたすらに動き続けていた。

「そろそろ時間だな。今日も試すか。」

そういうとソイツは、急に立ち上がって魔法の詠唱をする。すると正面にヒトガタが浮き上がり、だんだん形を成してとある人物が姿を現す。

 

 

「あら?ここは何処かしら?」

「おおっ、マジィ!?懐かしい奴が現れたもんだな。」

「えっ?貴方は…そんな…」

「いやあ、私のランダムな魂に形を付ける魔法を毎日使い続けたかいが会った。それでもまさかあんたがやってくるとは思ってなかったがな…」

「そういうことですか。貴方、私を蘇生したという事ですね。大した事をするようになったわね。貴方も。」

「うーん、正確にいうと違うんだ。あくまで魂を見えるようにしただけであって、また見えなくなるまでには制限時間が有る。固有の能力も使えないはずだ。まあその時間まで、ゆっくり昔話でもしようじゃないか。」

「貴方は生前から変わってないのね。」

「ハッ、一度死んだみたいに言うなよ。まあ、死にたいと思うときは有るけどね。」

「ところで折角だし紙とペンはないかしら?」

「ああ、手紙でも書くのか?あの吸血鬼にはもう二度と会えないと思うけどな。」

「まさか…」

「そのまさかなんだ。あいつは幻想郷を去ったよ。さあ、どうする?手紙を書くのか?書かないのか?」

彼女は少し考えてから言う。

「書くわ。そして貴方に預ける。貴方ならいつか、あの人の元に届けてくれると信じて。」

ソイツは一瞬悲しそうな顔をするが、彼女はそれに気付かなかった。

「あまり期待はするなよ?私は1500年程ここにいるんだぞ?もしかしたら、私が届けられるのはあいつが死んだ後になるかも知れない。善処はするけどな。ほら、机はここで紙はここ、ペンはここだ。」

彼女は手紙を書きはじめた。その手紙は、彼女が生きていた頃に愛していた一人の妖怪へと宛てられた物だった。

 

 

「ここからは何も見えないのね…。」

「退屈だろ?異変の一つや二つでも起こしてやろうかね。」

「やめて。貴方が言うと、洒落にならないわ。」

「そうだな…………あっ、あったぞ。ほら、こんなもの覚えてるか?」

そしてソイツは彼女に何かを見せた。

「あら、これは…随分古びているわね。私も生前初めて見たときびっくりしたわよ。」

「あの時とは違う。もう誰にも負けないよ。」

「恐ろしいわね……。」

そうして話は異変や弾幕ごっこの話に移っていった。

 

 

 

 

「はい、手紙書けたわ。そうそう、これも一緒に持っていって。」

「あれ?これは…どうやってここに持ち込んだ?」

「これは生前の私を象徴するもの…。気づいたらポケットに入ってたわ。蘇生された時に同時に具現化したみたいね。まあどっちにしろ今の私には必要ないものだから、貴方に預けるわ。」

「わかった…いつか必ず、届けてやる。」

 

 

 

 

 

 

 

しばらくした頃、彼女の輪郭がぼやけ始めた。元の魂という、見えない存在に戻るのだろう。

「あら…もう時間みたいね…。流石の私でも、この『時間』には抗えないみたいね」

「そうだな…寂しくなるな…」

「楽しかったわ。妖怪さん。」

「じゃあな…人間…。」

彼女はすうっと消えていき、そうして彼女が消えた後にはトランプのジャックが一枚、数秒間形を保っていた。

残されたソイツは再び何もない空間を見つめながら、銀色の懐中時計と手紙を握り締めて呟いた。

「咲夜…お前は昔っから、そんな気障な事をする奴だったな…。だがもうお前の知っていた『ソイツ』はここにいないんだよ…。」

 

 

 

 

 

 




というわけでェ~
数話後から天子さんが異変を起こします!!
主人公にとっては初異変ですね。いやぁ目出度い


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帰還?それとも夢から覚めただけ?

「文の取材」の続きです。


(『よし、今日からお前は葉一だ。柏根 葉一。昔の名前の名残位は、あってもいいんじゃないか?』

その人は、僕に名前をつけてくれた。

『私達三人は、お前が来るのを待っているからな。』

そして、謎のヴィジョンは段々ぼんやりして消えていく。

 

 

待ってくれ!何故僕を待つ!その場所は!!)

 

 

 

 

 

 

 

気がついたら宿舎の天井が見えた。

「あれ…、起きたのか。不思議な夢だったな…。」

彼は戦争状態にあるこの国と、平和な幻想郷の事を思い夢から覚めてしまった事にため息をつく。

「あっちとこっちで凄いギャップだな…鬱になりそうだ。まあでも気分スッキリで快眠できたみたいだし良しとするか」

意識を取り戻した先程から妙なアラームが鳴り響いている。ビーッ…ビーッ…

「…………うわぁ!!集合のアラームじゃんこれ!やべえよやべえよ…。」

命令がかかった時刻を備え付けのパネルで調べると、2分ほど前であった。よかった…。なんとか間に合いそうだ。

僕は光の速さで服を着て、身分証明バッヂを引っ掴むと急いでドアを開け、外に出た。すると廊下に、どうやら僕が出てくるのを待っていた、戦友であり、同じ少尉という立場でもある谷元がつっ立っていた。おっと…。待たせてしまったようだ。

「すまん!待ったか?」

「2分ほどねぇ。さあ行こう、召集に遅れないようにね」

 

 

 

基地の全員が揃うと、ここ長崎支部の最高権力者である支部長が話を始めた。

「知っての通り、本部から撤退命令が出された。今日中に海を越えて広島支部までヘリで飛びたいから、各自覚悟を固め荷物をまとめて撤退の準備をしろ。敵軍は進軍スピードが速い。急がないと、ヘリが敵の砲撃でお釈迦になってしまう。

荷物をまとめおわったものは、基地にあるコンピュータのデータ消去と敵軍の偵察、報告をしてくれ。質問!」

「…」

「よし。それでは解散!」

まあ撤退命令が近日中に出るらしい事は噂で聞いていたので、覚悟はできている。実をいうと、もう荷物もまとめてあるのだ。

俺は幻想郷の事を頭から追い出し、データ消去の手伝いに向かった。

 

 

 

 

 

 

[葉一の部屋、彼が出て行った後すぐ…]

 

「行ったみたいね。」

葉一の部屋にスキマが開き、中から紫が現れた。何故彼女が葉一の部屋に来たかというと、そこで回収しておきたい物を見つけたからだった。

「窃盗をなさるおつもりですか?紫様」

「ちょっと藍~人聞きが悪いじゃない。窃盗じゃなくて回収よ。異様に妖力の高い物を探知したから、人間であるあの子の身体に悪いと思って回収するだけよ~。」

「もうあの子呼びですか…孫を可愛がるお姉さんの様ですね。」

藍は地味に紫をディスった。

「複雑な気分になるからやめなさい。冗談言ってないで、早くしないとあの子が帰ってきちゃうわよ。」

そのコンマ一秒後、ウィーンと音を立てドアが開いた。

「あれ?紫?何やってんの?」

「…………」

「遂に一級フラグ建築士ですね、紫様」

「嬉しくないわ~、その称号」

「え~っと、だから、何を僕の部屋でしているんですか?紫さん」

葉一は状況が読めず何故か敬語を使ってしまった。

「貴方の部屋から妖力が強すぎる物を発見したから、人間の貴方に害があると思ってこちらで保管しておこうかな~と思って回収しに来たのよ。あっ、これこれ!」

そういって紫が見せてきたのは、一振の日本刀と、一冊のノートだった。

「異界について記録がついてたノートはともかく、剣は渡せないぞ。今は俺のだからな。護身用にも現役で使ってるし。」

葉一は剣を抜いて刀身を見せた。刃には錆び付いたところが無く、怪しげな美しさを放っている。

「この刀の名は霊刀『夢現』。僕の遠い先祖が、友人であった職人と共に作り上げたらしい。」

「そういう事なら仕方ないわねぇ…。」

紫は頷いた。

「このノート…今少し見せてもらって良いかしら。」

「良いよ。てかそもそもなんで、あの初めて会った場所……マヨヒガだっけ?じゃなくても出てこれるの?能力の弱体化は影響しなかったの?」

「ここはおそらく貴方の持ち物のせいだと思うけど妖気が凄く強いの。そう、まるでマヨヒガのようにね。だから私も、姿を現すことができるのよ。…………!?」

「どうした?」

「これは……ノートを保護している、結界!二重…いや三重にかかっている!ページが開けないわ!」

「俺は普通にめくれるぞ?ほら」

「私には日記に書いてある事が見えない…どうやら、貴方だけが読むことができる結界がかかっているらしいわね……。」

「マジか…よっぽど厳重に他人に見られないように管理されてたんだな、これ。てか何で俺は見ることを許可されてるんだ?」

「少し預かっても良い?このノート。私と聖で解析を試みるわ。」

聖っていうと…あのグラデーションな尼さんか。

「別に良いよ。内容も例えば書いた人の黒歴史が書いてあるだとかそんな他人が見るとマズイことはなかった気がするから。もしかするといずれ紫とか幻想郷の住民に渡ることを予測していたのかも知れないし。じゃあ、俺もうそろそろ離陸の時間だから。そうそう、今度は広島基地に居るから。」

「ええ…。わかったわ。」

そういうと葉一は、刀を掴んで出て行った。

紫はスキマを閉じるとノートを持って、藍と共に主賓と幹事がいなくなっても宴会が続いているであろう神社に戻るのであった。

「紫様…このノートは一体…書いた奴は何者なのでしょう…。」

「そうね…そして私はあの剣を見せられたときに懐かしさを憶えたのよ…。」

「懐かしさ…?つまり…それって…」

「ええ、その剣を持っていた人物は幻想入りした可能性があって、私がその人の持ち物だったであろうあの剣を見たことがあるかもしれない、ということよ。そのためにもこのノートの封印を解いて、じっくりと推理しなければならないわ。」

「紫様……もう一つ面白いことを見つけたので良いですか?」

「何?」

「彼の部屋ですが、我々がノートを、彼が刀を持ち去った今でも、スキマを開くことができます…。」

「え?」

「つまり、あの部屋には今の二点の品物以外の由来の妖気がある、ということです。」

長年生きてきた紫ですら見つけられなかった事に、藍は少し怖くなる。

「本当に何者なのかしらね…あの子」

 

 

 

 

 

 

ここは、長崎支部飛行場。何体ものヘリが、今まさに飛び立とうとしている。

「離陸準備!離陸準備!」

「総員!分隊に別れてヘリに乗り込め!」

「荷物はコンテナに入れろ!ヘリが電磁ロックする!」

ババババババババ

「第一分隊、離陸する!」

「了解第一分隊!離陸を許可する!」

「第二、三分隊離陸!」

「了解第二、三分隊!フォーム4を形成して、コンテナ機を中に入れろ!」

「第四分隊、最終分隊共に離陸する!総員搭乗確認中だ!」

「確認完了!この基地を遺棄する!」

ババババババババ

 

 

 

 

 

ババババババババ

「フォーム4を崩すな!今から海を抜ける!風が強いぞ!しっかり掴まれ!」

ヒュオオオ…ビュゥゥ…

「緊急!こちら第一分隊!敵軍の駆逐艦を数隻確認!後続は急いで避難経路をとれ!」

「レーダーに映らなかったのか!?マズイ、既に射程内に入られているぞ!」

「撃て!回避しろ!」

「こちら第一分隊、砲撃を受けている!持ちそうにない!」

「逃げきるんだ!」

 

 

 

 

[葉一のヘリ、同時刻にて…]

 

 

それは突然やって来た。まるで獲物に這い寄る蛇のようだった。

敵軍が開発したその新兵器は、従来のレーダーには映らなかった。故に、確実に移動中の味方の不意を突くことができた。

それは駆逐艦でありながら、海中を潜航することが出来て、主力兵装として、背中に機関銃を二門積んでいた。そしてその武装は小型のヘリや輸送船には十分過ぎるほど通用するものだった。

「第二分隊で被害拡大!至急増援を要請する!」

第一分隊から連絡が途絶えたところを見ると、第一分隊は奇襲を喰らって壊滅したようだ。

直に我々の第四分隊も攻撃を受けるだろう。

外を見ると、味方のヘリがどんどん墜ちていて、さしずめ蛇に飲まれる小鳥といったところか。

ドカン!!

足元に衝撃が走り、大きく揺れる。

「撃たれた!墜落します!分隊長!」

「良し、海に降りる!例の降下作戦は憶えているな!」

「サー!」

「もう少し待て…まだだ………今だ!!」

空中にバッと円が広がり、20人、搭乗員全員で作った円い輪が降下していく。不思議と先程まで吹き荒れていた風は止んでいて、輪が崩れることはなかった。

「衝撃に備えろ!撃たれても決して手を離すな!」

ダダダダダと敵の機銃音がし、何人かが弾丸を受ける。

「撃たれたっ!…………あれ?なんともない…。」

「大丈夫か!」

「ああ、無事だ。撃たれたという衝撃だけが残っている…。」

上手くいったようだ。俺の能力、癒す程度の能力を使えば、機関銃で狙われた程度の傷は、すぐに直してしまえる。ただし、発動条件として俺が人に直接か人を通して触れている必要があるらしい。そのためにも円を作る必要があった。落下の途中で風に煽られなかったことは幸運だった。

「パラシュートを出せ!速度を落とすんだ!」

バッ!バッ!ドーン!ドドーン!

どうやら全員無事に海面に着水することができたらしい。

俺自身も二発ほど弾丸を喰らってしまったが、後で取り除いておけば大丈夫だろう。自分を癒せないというのは、なんとも不便なものである。

 

 

 

 




続く!

※フォーム4とは、全てのヘリで大きな菱形を作り、その中心にコンテナを運んでいるヘリを配置する編隊である。単純に重要な物資が堕とされ難い守りの陣形だ。


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再び幻想郷へ&第二次気象異変①

「甲板に上がれ!俺を援護してくれ!」

そう言って海中から敵の船の背中に登る。そうして背中に背負った刀を抜き放つ。当然ながらキラキラ光る棒を持って、否応なしに目立ってしまった俺には集中砲火が浴びせられる訳だが、研ぎ澄まされた刀さえあれば重機関銃など無力に等しい。銃弾を叩き切り、銃で敵を狙う部下達の囮、もとい盾となる。そのうちに、部下の弾丸が砲手を撃ち抜き、甲板を制圧した。

「大丈夫ですか、隊長!」

「ああ、なんて事はないさ。とりあえずここを守りきるぞ。」

そう部下に伝え自分は携帯通信機で情報を伝達する。

「こちら第四分隊、戦艦一隻の甲板を制圧した。残ったもので分隊を組む!」

「了解、第四分隊!生きている奴は甲板を目指せ!」

「よし!隊長を援護しろ!ブリキ野郎をぶっ潰せ!」

ダダダダダダダダ

 

 

それからしばらくして、新たな情報が入ってきた。

「報告!物資輸送船は、敵駆逐艦の射程距離を脱しました!繰り返します!物資輸送船は、敵駆逐艦の射程距離を脱しました!これより隊員の帰還作戦を開始します!!」

「やったぞ!!」「fooooo!」

部下達はガッツポーズをする。

よし!後は生きて帰るだけだ。

イタゾ、コロセ!

その時、増援にやって来たロボット達の機械音声が聞こえた。

俺は咄嗟にホルダーの銃を引き抜き、遮蔽物に向かって転がりながら出てきた敵を撃つ。だが、何体僕や仲間が倒そうと、敵の数はおさまるところを知らず、どんどん増えていく。そもそもの人数差が違いすぎたのだ。

「こいつら、倒しても無尽蔵に湧いて来るぞ!」

「もっと下がれ!」

味方の兵が撃たれ、数人の弾薬が底を尽き始めた、瞬間。

 

 

 

「下がるな!突撃ィィッ!」

よく響く、聞き覚えのある声が響いた。

「私に続け!敵を駆逐しろ!」

海から厚い装甲に身を包んだ何人かが、ざばざばと上がってきてチャージ済みのガトリングガンを一斉にぶっ放した。前線にいた敵兵をただの鉄屑に変えていく。

「援護だ!援護が来たぞぉ!」

「第五分隊、ただ今到着致しました!」

それは僚友谷本少尉とその部下達だった。

「姐さんを援護しろ!」

「動けるものは第四分隊に合流、海に入る負傷者を引き上げろ!」

彼女や部下達が甲板に上がり、戦闘に加わった。彼女は風のように早くこちらに走ってくる。

「了解第五分隊!谷本!すまんが指揮は任せた!俺は機関銃を奪う!」

「了解さ!全く…私に感謝しなよっ!」

単身特攻、剣で敵を捌きながら、砲塔目指して道を切り開く。敵の弾丸は不思議と俺に当たらず、まるで神が護ってくれたかのようだった。

「オラァッ!」

砲塔に着いた俺は、狭い通路を駆け上がり上にいて機関銃を放とうとしていた新たな砲手を殴り倒す。そしてすかさず、下に群がった敵を備付けの機銃で狙う。

ダッダッダダダダダダダダ!

 

その時だった。

 

 

大声が飛んでくる。

「気をつけて!他の砲塔から狙われている!」

 

 

 

完全に忘れていたもう一つの砲塔。片方は味方が占拠できておらず、完全にフリーだった。回転してくる敵の砲塔を横目に見ながら、運のツキもここまでかと死を覚悟したその時!

 

 

 

 

 

俺を狙っていた砲塔が爆発した。

 

 

 

 

 

シューン シューン ドゴォォン!

ミサイルが風をきって敵の潜水艇にぶつかっていく。

「こちら援軍、広島支部第一分隊!敵戦艦と味方の位置を確認!いますぐ救出に向かう!」

俺は間一髪で死ななかった事に安堵のため息を漏らして、砲塔から出た。そして広島支部から俺らを救出しにきたガンシップに乗り込む。

「定員まで搭乗したことを確認!今から広島支部に飛びます!」

ババババ…バババババ

全く、今日は運がいい。

 

 

 

 

 

 

 

その後は無事に広島支部に到着し、人数確認をして配属部隊を組み直した後で、残った荷物を部屋に運び、傷の手当をしてその日は終わった。俺は新しい部屋で眠りに着いた…。

 

 

 

 

 

 

 

[博麗神社、ちょっと前にて…]

 

 

「何ッ!誰も神社にいない…」

「そしてこの天気は…悪い予感しかしないわね。」

「またあいつがやらかしてくれたのね…」

「とりあえず葉一を待ちますか。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気がつくとそこは例の神社の中だった。障子を開けてみると、宴会をしていた時と同じく空には雲一つ無く晴れていたが、すぐわかる大きな違いがあった。

それはシトシトと静かに「雨が降っている」ということだった。

 

 

 

 

     異変の発生 -STAGE1-

     BGM:日常坐臥

 

紫は縁側に座り、葉一がやってくるのを待っていた。

「来たわね。」

「ああ。しかし、この状況はなんだ?飲みっぱなしの酒、食べかけの料理…。何故紫だけしか居ないんだ?他の人達は?」

紫はニヤリと笑い、俺にこう告げた。

「異変よ。」

「へ?」

それは丁度、文の取材中に話題に上がっていた「異変」だった。

「異変が起きたわ。説明が面倒だから、実際に見せるわ。ちょっと外に出てみて。」

「OK。うぉっ!なんだこれ!急に天気が変わったぞ!」

「私達がいるところは晴れている…が、周りは灰色の雲に覆われ、嵐が吹き荒れ雷も鳴っている…さしずめ『台風の目』と言ったところかしら。」

「紫、この天気の変化は何なんだ?」

「この異変は私達の持つ特性が、天候として現れたものよ。貴方、不思議な気質を持っているわね。」

喜んでいいのか、それ。

「そりゃどうも…ところで、僕はどうすれば良いんだ?その…異変って奴を解決しなきゃならないんじゃないのか?」

「多分、皆は異変の解決とか、後その辺に調査に行ったと思うから、我々も後を追って、異変を解決しに行くわ。葉一、武器はある?今から即席でスペルカード作って、弾幕ごっこのやり方を教えるわ。」

今から作るのか…。まさかの急展開でちょいと不安だな。

「この剣と俺の愛用の拳銃が一丁ある。だが,こんなものでどうするんだ?」

「貴方にこの真っ白な紙をあげる。これは私の魔力が込められていて,スペルカードが作りやすくなっている初心者用のカード。初めて作る貴方にはぴったりよ。よし、じゃあそれを持って、貴方の普段使っている武器のことを思い浮かべて。それで出来るはずよ。」

「よし。こうか……お,絵が浮かんできたぞ!文字もある!」

「ではその文字を読みながら、私に掲げてみて。そうすれば弾幕が発動するわ。」

紫はスキマを使い、僕から距離をとった。

「いっくぞ!霊弾『スプレッド・フォーム』!!」

瞬間、頭にわずかな痛みがキンと走る。

(うっ!!また頭痛だ…。妙な懐かしさが…。)

言い終えた直後に、拳銃から弾丸がいくつもバラバラに飛び出し、ある一点でぴたりと静止すると、向きを変えて紫を追跡した。

「これは速い…!スキマ!」

紫はスキマを開くと、僕の弾丸を飲みこんだ。

「これがスペルカード。そしてこの弾をいかに避けるかというのが、『弾幕ごっこ』よ。今回は弾に当たらなかったから、私の勝ちということね。」

「はえー」

紫はかなり強いな…。戦いなれてる感じがする。俺の初めてのスペルカードは残念ながら、彼女には全く通用しなかった。まあ正直彼女の能力が相当チートなのではないかという疑惑もあるが。

「もう一枚違うのを作っておきなさい。そうしたら出発するわ。」

俺は紫の言う通り、今度は剣をモチーフにしたスペルカードを作った。

「ふうん。始めてながら綺麗に出来てるわね。もしかして作ったことあったの?」

「な訳あるかい。それよりこれから何処へ行くんだ?」

「まず人里ね。取り敢えず場所の紹介がてら知り合いを捜すわ。」

「了解!」

俺達はまだ見ぬ場所へとスキマに入った。

(何だ……先ほどから感じるこの既視感は…??)

 

     決闘評価

     損害評価 神

     時間評価 神

     取得評価 良

 

 




緋想天イメージです。


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第二次気象異変②

「ここは?」

「人里よ。貴方も此処で生活することになるかもしれないから、よく見ておくことね。私はこの後少し別ルートを取るから、また後でね。」

そう言い残し紫は去っていった。

そこは、中央に流れる川の両側に茶屋や着物屋、貸本屋等の店がゆったりと立ち並んだ、昔の江戸のような街だった。だが、突然の(僕の気質による)嵐のせいか、人通りは無かった。

 

 

 

 

     人里に住む少女 ーSTAGE2ー

     BGM:風光明媚     

 

 

 

「はぇ~すっごい大きい…」

「もう少し、ここを見て回るのも楽しそうだな。」

葉一はそんな呑気な事を考えていた。異変の調査に来ているということを完全に忘れているようだ。

だが、そんな彼を現実に引き戻す人物が、ある一軒家から出て来る。

その女は人形を一つ、連れていた。

「うわ、凄い嵐……これは普通ではないわね。とすると……私達も行きましょうか、異変の解決に。」

シャンハーイ

「え?何?あのぼけっと突っ立ってる奴が怪しい?」

「でもあの子からは異変の主たるカリスマやオーラは感じないわよ?」

シャンハーイ!

「わかったわかった。人通りもないし確認でちょっと軽ーく弾幕撃ってみるから。救急箱の準備を頼むわよ。」

パッ

少女から少々理不尽な思考回路により放たれた弾幕は、まっすぐ葉一の方に向かっていく。

「!?」

葉一はそれらに気付き、そして身体を捻って避ける。

「避けたぁ!?やっぱり上海の言う通りかもね、あんな動きする奴そうそういないもん。ちょっと戦ってみますか!」

 

葉一は考えていた。

(突然弾幕を撃たれた…?俺、何かまずいことでもやらかしたのか…?そして、今、俺は意識せずに弾幕を避けた…。何と言うか、体が気づいたら弾幕を避けていた、という感じだった…。)

 

「ちょっと、ちょっと貴方!」

「はい!」

「今私の弾幕を避けたわね。」

「ええ…そうですが…僕が何か」

パッ!パパパッ!

何と、彼女は更に弾幕で追撃してきた。

「わっ!何するんですか!?」

「問答無用!!異変の首謀者は、私が裁く!」

(どういう事なの………)

 

 

 

 

その少女は、詠唱なしで弾幕を次々と放つ。俺はそれらをかわしながら、ハンドガンを引き抜いて弾を数発放つ。

ダンダンダン

「あまいわ!」

その少女は空に飛び上がって俺の弾丸を避けきると、懐からカードを取りだし、詠唱をする。

「スペルカード宣言!『剣符 ソルジャーオブクロス』」

瞬間、彼女から小さな剣を持った人形が飛びだし、一直線に攻撃を仕掛けてくる。俺は向かってきた彼女の人形に対抗して剣を引き抜く。

「らぁっ!」

剣で人形をガードした後、そのまま少女の方に走っていく。

だがしかしッ!攻撃を防いだはずの人形が、向きを変え葉一を追いかけて来たッ!

「あまい!あまいよ!私の人形はブーメランのように戻ってくるッ!もう振り向いて守ろうとしても遅いッ!回避不可能よッ!」

葉一に背後から人形が迫る!

「こうだッ!」

ズバアッ

葉一は大きく剣を振り、人形を破壊しようとしたが、彼の剣は狙いを外れ、大きく手前を斬ってしまった!

 

 

 

直後切断音が響き、少女が自身の勝利を確信して、一瞬気を緩めた瞬間!

 

 

弾丸が彼女を貫いた。

そして、現れた葉一は切り傷一つ無かった。

「何故…生きているの…貴方は…私の人形に…切り裂かれたはず…」

「さっきの斬撃は決して狙いを外した訳じゃあない…。人形と君を繋いでいた糸を切断したんだ。」

「!!!あの細い糸が見えたの!?」

「そして人形の操作が切れ、僕が斬られることは無かった……という訳だ。」

アリスはただの人間に、動く細い糸が見えたことに驚愕した。なにせ、今までこの糸が見えるようになった人間は数人しかいなかったのだから。

「やるわね…私の負けよ…」

「ちょっと待ってて。俺の能力を使う!」

葉一は彼女にそっと触れ、能力を使う。

「あら?傷が治ったわ?」

「僕のはそういう能力なんだ。」

「突然攻撃した私を許して、傷も治してくれた…?」

「人里で外来人が殺人…というのは流石にまずいからな…。」

「外来人…………?ごめん!攻撃しちゃって申し訳ないわ!よく見たら確かに、貴方昨日の新聞に載ってた顔してるわね。」

「ところで、貴女は?それは見たところ人形…?に見えるけど。」

「私?私はアリス。アリス・マーガトロイドよ。アリスって呼んでね。職業は魔法使い、趣味は人形制作。この子達は私が魔法で動かしているのよ。」

「そうか。先程のお詫びにというのは申し訳ないが、今起きている異変について何か知らないか?」

「異変…あー、そうね。そのぐらいお安いご用ですよ。私が妖怪の山まで連れてってあげるわ。異変の正体はその上にあり、よ。」

葉一は思わぬ助っ人が得られたことに喜んだ。

「ありがとう、アリス。それじゃあ早速行こう!」

 

 

 

     決闘評価

     損害評価 神

     時間評価 神

     取得評価 神

 

 

 

 

 

[人間の里から妖怪の山までの道中にて…]

 

 

「ところで貴方、通常弾幕が弾丸だけってのもちょっと寂しくない?」

「確かに…言われてみれば。アリスの弾幕は虹色で綺麗だったしなあ。」

「よし!じゃあ弾幕を作りましょう!その剣を出しなさい!」

「剣から弾幕を作るのか?」

「そうよ、昔もおんなじようなことしてた奴がいたわ。剣を振るうことで生まれる斬撃の軌跡を弾幕にするのよ。まあ取り敢えず剣を振ってみて。最適な弾幕を分析して、それに魔法をかけてあげる。」

「おっけー。よし、これで良いのか?」

「ちょっと分析に時間がかかるから待ってて…。」

 

「はい、できました。貴方の剣をエンチャントしておいたわ。」

「よし、じゃあ試し撃ちしてみるか!」

ヒュン!

パパパパパパ!

彼が剣を振ると、その振った跡から三日月のような形の弾幕が発生した。その弾幕は綺麗な虹色をしていた。

「あらら、貴方の弾幕のイメージに合うかな、これ。」

「全然大丈夫だ!ありがとう、アリス!」

「お安いご用よ~」

「ところでアリス、二つほど質問があるんだが良いか?」

「どうぞどうぞ」

「まず一つ目。貴女の天気は何ですか?」

「私の天気は雹。貴方は…見た感じ台風みたいね。」

「厳密に言うと台風の目らしい。」

「ふうん。それで貴方の周りだけ晴れているのね。」

「それでは二つ目。幻想郷には季節はないのか?外の世界では開花する時期がズレていて、同時に咲かないはずの桜とヒマワリがここで同時に咲いているのを見たんだ。」

「それはちょっとした異変みたいなもので、本来幻想郷にも季節はあるんだけど、外で死んだ人の魂が花となって植物に宿っているらしいわ。相当大量に咲いてるから、外では戦争でも起きているんじゃないの?」

「そういうことか、その通りだ。ここは本当に不思議なところだな。」

葉一は新たなメンバーと共に、妖怪の山を目指すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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第二次気象異変③

メタ発言、ジョジョネタ、微妙に例の語録が含まれます。ご注意ください。



「見えてきたわね。あれが妖怪の山よ。」

「デカっ!なんてこった…」

気象異変の解決を急ぐ葉一とアリスの目の前に、見えてきたのは妖怪の山。葉一はその大きさに驚愕し、これからこの山を登らなければならないという事実に絶望した。

 

 

 

 

 

 

     山の守護者達 ーSTAGE4ー

     BGM :嘲りの遊戯

 

 

 

 

 

 

「はいじゃ登るわよ。あれ?葉一?肩を落としてどうしたの?」

「この山…一日で登りきれるのか…?あまりにも時間がかかりすぎないか?」

「あ、そういうことなら心配ないわよ。はい、身体強化魔法。」

アリスは僕に特別な魔法をかけたようだ。気づくと僕は、山に住む獣のように速く走れるようになっていた。試しに垂直飛びもしてみたが、軽く2メートルは飛び上がれるようだった。

「おお、身体が軽いぞ!この速度で走れるなら全く問題ないな!」

「でしょー。じゃけん、さっさと登っちゃいましょうね~」

その時。

「おい、そこの二人!待ちなさーい!」

山に足を踏み入れた彼らの前に、人が降ってきた。

「たとえ葉一さんやアリスさんであろうと、無許可で妖怪の山に足を踏み入れる事は許しません!ここを通りたいなら、私を倒してから行くのです!」

それは文だった。

「彼女は普段、妖怪の山で発達した天狗社会の中で生活しているの。縄張り意識がとても強い種族だから、テリトリーはとことん守る。今の彼女は何を言っても聞かないわよ。」

ああ彼女、やっぱり天狗だったか。初めて会った時から薄々思ってはいたが、烏のように黒い羽をもち、兜巾を被った妖怪といえば、天狗しかいないだろう。

「なら、しょうがない。治せる程度にやるしかないな。」

「ムッ、二人でかかってくるつもりですか。それなら私も……椛~!手伝って~!」

文がそう言った直後、ビュンと風を切る音がして剣と盾を持った真っ白な少女が文の隣に現れた。

その少女は、立ち尽くす俺達を一瞥してから、文にこう告げた。

「二人組の侵入者の排除ですね、協力します。」

「面倒なのが現れたわね…。彼女は白狼天狗の中でもトップクラスに強いわよ。」

「ならば俺が白い方を引き受けよう。彼女は見たところ剣士に見える。自分の剣の腕を試してみたいんだ。どこまでここの住人に通じるのかを、ね。」

「わかった。文は私が引き受ける。」

文は辛抱強く、話が終わるのを待っていた。

「お話は終わりましたか?来ないのならこっちから攻撃させてもらいますッ!」

「 旋符『飄妖扇』」

瞬間、文の周囲の空気が固められ、ゆっくりとした弾幕が何発か襲ってくる。アリスは通常弾幕を展開し、目の前に向かってきた弾幕を相殺する。

俺はその弾幕が消えた跡を、身体強化で走り抜け、何メートルも跳躍して空中の白い天狗に切り込む。

そして剣と盾がかち合った。

「早いですね…。面白い。」

彼女は盾で僕を押し返し、大剣でなぎ払う。俺はその剣を自分の剣で防ぎ、地面に叩きつけられるように着地する。

椛は困惑したような表情で俺に尋ねた。

「…?貴方、飛べないのですか?ならば私も、飛行はしません。地上で戦いましょう。」

彼女はフェアになるように図ってくれようとしている。立派な闘士の心意気だなと俺は感服したが、あくまで幻想郷の人物と渡り合えるようになるためにこうして闘っているので、下手にハンデを貰う必要はない。第一、幻想郷の全ての妖怪が、外来人だからといってハンデをくれるとは限らない。

「いや、ハンデは要らない。飛べずとも倒す方法はあるはずさ。」

「ほう…ならばやってみなさいッ!」

そして彼女は盾を捨てた。

「これだッ!私は枷となっていた盾を捨て去る事により、真の速さを発揮できるッ!」

彼女は最大限の速さを持って、空から俺目掛けて一直線に降下してくる。俺はそれをすんでで回避し、振り向きざまに剣を振って弾幕を撃つ。弾幕は彼女の元に向かうが、振り回した剣で相殺された。

「虹色の弾幕ですか…大方アリスさんに作って貰ったというところでしょうか。」

「……そうだ。」

「弾幕勝負の強さは経験に有り…してそれは剣もまた同じ。貴方は剣は腕が立つようだが、弾幕に関してはまだまだ未熟ですね。」

彼女は煽りながら近づき、振りかぶってなぎ払いを繰り出す。俺はそれを剣で受け止め、数回剣を打ち合わせた後につばぜり合いの体制に入る。

「狙いが甘すぎるんですよッ…。そして速さも私の方が上だァッ!」

 

 

 

その声が聞こえたと同時。

 

 

 

彼女は俺の剣を空高くに振り払い打ち上げ、爆発的なスピードで俺の背後に回った。

「もう貴方を守る武器はない!このまま貫かせてもらいますッ!」

 

 

 

 

 

 

ダン!!

 

 

 

 

「ごめん。実は俺、早撃ちも得意なんだ。」

 

白狼天狗の少女と軍人の男はその場に制止していた。決着がついたのだ。

葉一は拳銃で、彼女の眉間を撃ち抜いていた。

椛は一瞬驚いたような表情をみせ、そして静かに笑う。

「これは…私の負けですね……。まさか、まだ武器を隠し持っていたなんて…」

 

 

解説させて頂こうッ!これは葉一が、例え相手が空中にいて、飛び道具が有効そうな場面にも関わらず、拳銃を使わずに、土壇場、もといチャンスが到来するまで拳銃という攻撃手段を隠すことにより、椛に「彼に剣以外の攻撃手段は無い」と思わせたトリックッ!

 

 

 

葉一は彼女との頭脳戦において、場を完全に支配していたのだった。

「こっちは戦いの年季が違うんでね…ほら、治すよ。」

眉間の弾丸は葉一の能力によって摘出され、傷は癒された。

「流石にもう僕らを攻撃してこないよな?」

「勿論、負けたのは私ですから。私にも剣士としての誇りがあります。それにしてもこれが貴方の能力ですか…?随分優しい能力ですね。」

「残念ながら、戦闘向きではないんだ。さて、こちらの決着がついたとこだし、アリス達の方もぼちぼち終わってるはずだ。」

(ここまで強い剣の使い手がいたとは…。私もまだまだ、修行不足ですね)

そうして二人は、光の筋が飛び交っていた空を見上げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱり二手に別れましたね…。残念ながら私の相手はアリスさんということですか。折角葉一と宴会の続きがしたかったのになあ…。まあまた今度にしましょう。」

文はそう独り言を呟いてから、アリスの方を見る。

「いくわ!足軽『スーサイドスクワッド』」

アリスの周りから、炎を纏った人形が登場する。そして、自爆特攻隊となって文の方に向かってくる。

文は難無くそれらの人形を避けてみせる。

「むっ…ならこれで!人形『魂のないフォークダンス』」

今度はアリスの周りを数体の人形が周りだし、範囲は狭めだがスピードが速い虹色の弾幕を展開する。

文はそれでも、余裕の表情で全ての弾幕をグレイズする。

それらの弾幕のスピードは、幻想郷最速のブン屋である彼女にとって亀の歩みと同じだった。

そして文は小さな竜巻と化して弾幕を張り続けているアリスに突撃した。アリスはガードできず吹っ飛ばされる。

「無駄ですよ、無駄無駄。所詮貴方は三ボスに過ぎない。三ボスと四ボスの違いは大きいということを、身をもって教えてあげましょう。」メメタァ

そうして、文は余裕綽々でスペルカードを使おうとした。

「スペルカード宣言!旋風『鳥居つむじ風』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

文がスペルカードを詠唱して、巨大な竜巻を巻き起こそうとした瞬間、彼女はあるものを目撃した。

 

 

それは、今の幻想郷ではトップクラスに危険で、

 

 

絶対に、破壊してはいけないもの。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして文は攻撃するのを慌ててやめた。

「わあーっ、アリスさん!!ストップ!ストップ!それだけは使っちゃダメです!!」

アリスは上海人形を身代わり人形として、竜巻から自身を防御しようとしていた。

文は慌てた顔で、彼女の元に飛んで行く。

アリスはキョトンとした顔で、文に尋ねる。

「何故攻撃を中止したの?決着はまだついていないわ。それとも、気が変わって私達を通してくれるの?」

文は渋い顔で考えている。天狗社会の掟や自分のプライドと、幻想郷の危機を天秤にかけた後、彼女は仕方なく登山の許可を出した。

「あやややや…。そうですねぇ……。まあ、仕方ないです。私達はもう攻撃しませんから、どうぞ通って下さい。」

「やった!どんなもんよ、葉一!」

アリスは地上で手を振る葉一を見下ろす。どうやら彼らの方も、決着がついたようだ。

 

「あの人形を出されたら、私達に引き下がるより方法はないですからね…。さらに本人がそれが如何に危険であるかという事を自覚していないというのがまた怖いですねぇ。まあアリスさんは優しいですから決して自分の人形を分解したりはしないと思いますけど。」

文とアリスは、連れ立って地上に降りて行った。

 

 

 

 

 

     決闘評価

     損害評価 上

     時間評価 神

     取得評価 神

     

 

 

 




メメタァ


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第二次気象異変④

ブォン

「あらあら、山登りしてたの?しかもアリスと一緒とはねぇ。」

突然空間が裂け、紫が戻ってきた。

「きゃっ!びっくりした。」

「紫か。どこに行っていたんだ?」

「ちょっと命蓮寺まで。」

あ、あの聖さんのお寺か。

「ああ、例の件か。」

紫は頷いて、俺に話しかけた。

「ねぇ葉一、貴方飛べる?」

紫は外の世界の人間が生身で飛べると思っているのだろうか。それとも幻想郷の人間は生身の体で飛ぶのだろうか。

「いや…飛べないが…。それがどうかしたのか?」

「この異変、敵は雲の上にいるわ。敵を倒すには空を飛べる事が絶対条件よ。」

ムゥ…。ジェットパック持ってくればよかったな。

「なるほど、そりゃ困ったな…。アリス、飛べるようにしてもらえる魔法とかないか?」

「うーん、それが幻想郷の殆どの知り合いが空を飛ぶからねー。私もまさかそんな魔法、使う日がくるとは思ってなかったわよ。今魔法をゼロから構築するのもちょっと時間がかかりすぎるわ。」

悩む二人の様子を見て、紫は言った。

「なら決まりね。私のスキマで、とりあえず天界まで運んであげるわ。」

「あー、その手があったか!何とも便利なもんで。」

「じゃあ紫、お願いするわ。」

「お安いご用よ。さあ、入って!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

     決闘好きの霧女ーSTAGE4ー

     BGM:雲外蒼天

 

 

 

 

 

「ここが天海か…。ちょっとドキドキしてきたな。」

「さーて、ラスボスにご登場願いますか!」

「待って。まだ、あれを超えて行かなきゃならないわ。」

紫が指差したのは、小さな人影。

「待っていたぞ、人間。」

その妖怪は確かに小さかったが、彼女の影はとてつもなく大きかった。

「あ、貴女は…!」

彼女はにやりと笑い、こんな台詞を吐いた。

「我は魔王城の門番にして鬼の頂点を極めし者、スウィーカである!魔王に挑戦するというのであれば、この私を超えてみせるが良い!」

………………。

おお…いかにもテンプレートなラノベに有りそうな台詞がとび出して来たぞ。隣の二人を見ると、可哀相な物を見る目を彼女に向けている。ははは…

アリスは嘆いた。

「鬼の四天王ともあろう者が、遂に酒の飲み過ぎで頭がおかしくなってしまったのね…。」

紫は露骨にめんどくせーなという表情をしながら話しかけた。

「萃香、馬鹿なことやってないで、さっさとどきなさい。その先に用があるのよ、私達は。」

萃香は薄い笑いを浮かべる。

「そんな事は百も承知さぁ…!ゴホンッ、魔王に仇なす妖怪ども、よくもそのような口がきけたものだ!黙っていろ!我と勇者の戦いに手をだすな!」

紫はお手上げの仕草を僕に見せる。

「あくまでもそのキャラでやり通すつもりなのね…。」

「さあ勇者よ!我と一戦、交えようではないか!!」

 

 

「やれやれ……混沌と破壊をもたらす魔王の使者よ!!我が霊剣にて滅せよ!!」

 

 

周りが固まる中、萃香は俺の言葉に一瞬目を見開いた後、嬉しそうに頷く。

「それそれ!その遊び心が大事だよ!やっぱ外の奴は違うね~!」

「萃香に気に入られたみたいね。」

その代わり仲間には萃香と同様「可哀相な人」認定され、もしかするとドン引きされたかも知れないがな。

「そうだな。でも気に入られたからといって戦わずして通れるという訳ではなさそうだ。俺はここで彼女と戦うから、紫達は先にむかっていてくれ。必ず追いつく。」

喋っている途中で俺はハッと気づく。またもやテンプレの負けフラグを立ててしまったということに。

紫は心を読んだかのようにニヤリと笑い、俺を励ました。

「それが遺言にならないように、精々頑張る事ね。」

ブォン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さーて、いっちょやりますか!」

萃香は口調を戻した。

「口調、戻るのか…。」

「あー、この喋り方邪魔くさいし、闘う時は必要ないしね。じゃあ、そちらから遠慮なくかかってきな!!」

「おう!霊弾『スプレッドシュート』」

萃香は俺の、彼女がいる場所とは逆方向に広がっていく弾丸を見ながら酒を飲んでいる。これが強者の余裕という奴なのか…?

そして、俺の弾丸が向きを変える。

「おおっと!追尾弾か!」

萃香は戻ってきた弾丸に気がつき、なんと瞬時に姿を消した。弾丸は空を切り、空の彼方へ飛んで行く。

「消えた!?」

と、もといた場所に彼女がまた現れる。

「甘いねぇ!そんなんじゃ甘いよ!あんたは、弾幕ごっこにおいてはまだまだだねぇ。素材は良さそうなんだけどなぁ…。」

萃香は悩み始める。

「まあでも、軍人とはいえあちらの世界基準だからねぇ……。もしかするとそんなに強くないのかもしれないなぁ…………。よし!決めた。次の私のスペルカードによる攻撃を喰らわなかったら、ここは通してあげるよ。」

葉一は怪訝な表情をして、萃香に質問する。

「それはハンデ、ということか?」

萃香は首をふって答える。

「違うねぇ!これはハンデじゃなくて、『ゲーム』だよ。勿論ゲームということで、私の攻撃には攻略法が存在する。それを見つけられたら、あんたの勝ちというわけだね。」

「攻撃を喰らわない、というのは、攻撃を全て避けきる、という事だよな?」

「ああ、そうだが……。それがどうかしたのか?」

「いや、いいんだ。始めよう。」

「OK。ゲームを始めよう。忘れ去られた鬼の力、篤と味わうがいい!!鬼気『濛々迷霧』」

そして萃香は霧と化し、逃げ場を塞ぐように弾幕を展開する。 

葉一はだんだん迫って来る弾幕を見据えながら呟いた。

「こりゃキツイかもなあ…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

     決闘評価

     損害評価 神

     時間評価 良

     取得評価 神

     

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

萃香はぽかんとしながら、酒を飲むのも忘れて去っていく葉一を見つめていた。

「これは…。少し使うスペルを間違えたかもなぁ…。」

 

 

 

 

葉一は、そのスペルの「攻略法」を見つける事ができなかった。

 

 

しかし、彼はあの時、鬼の追跡をかわし、弾幕を全て避けきった。

 

 

彼自身の純粋な速さで。驚くべき反射神経で。

 

 

 

「天狗にも劣らぬスピード……。あんな身のこなしができるのはこの幻想郷でもそうそういないはずだぞ…。そういや、最盛期のあの庭師はあのぐらいの速度を瞬間的に出していた気がするが…………あいつは………………………本当に人間なのか???」

しかし萃香は、考えるのをやめた。今、彼の種族について考えても無駄だ、そして必要ないことだと諦める。そうして、彼女はただ笑う。久しぶりに、面白い「ゲーム」ができる相手を見つけたから。

「クックック……ハッハッハ!面白い!気に入ったよ!軍人!また勝負をしようじゃないか…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[時間を少し遡り、葉一とアリスが人里で弾幕勝負をしていたころ…]

 

ブォン

「ハロー聖、調査は進んでるかしら?」

紫がスキマを開いたのは、命蓮寺の一室。そこには聖と星が、葉一から預かった本にかかっている結界の解除をするために力を合わせていた。

「わっ!紫さんですか…。入るならきちんと玄関から入って下さいよ~。」

「あらあら、驚かせちゃってごめんなさいね。聖一人で作業中だと思いまして。」

聖は紫の来訪に驚かなかった。大方妖気を感知する結界を周囲に張っていたのだろう。そして彼女は紫に進捗状況の説明をする。

「この古本に張られた結界は三重。それぞれがかなり強力な物ですね。解析の結果を説明させて頂きますと、まず一つ目は、『不可視の結界』。霊力がない、普通の人間にはこの本自体を見えないようにする結界です。まあこれは、我々には関係のない物ですね。二つ目に、『不開の結界』。例え誰かがこの本を見つけたとしても、開くことができないようにする結界です。ここまでは私の解除魔法で、破る事ができました。」

「ここまでは、ということはまだ三つ目の結界は解除できていないのね。三つ目の結界は相当くせ者なのかしら?」

「はい、三つ目の結界は、『不読の結界』です。例え不可視の結界を解除し、不開の結界を解除しても、中身は真っ白のまま、書かれた文字は隠蔽されて読むことができないのです。これがまた強力で…。私の魔法をもってしても厳しいので、永遠亭にこれからいって来ようと思うのです。月の技術を借りようと思いまして。」

紫は聖をも困らせる結界に純粋に興味が湧いた。

「その三つ目の結界、ちょっと見せて。」

「はい。これです。」

「ん?…これは……!!」

「どうしたのですか?」

「これは博麗の結界よ!この結界の配列に見覚えがある。保証するわ。この最後の結界は、博麗神社の巫女によってかけられたものね!」

命蓮寺の二人はとても驚いている。関わってきた歴代の博麗の巫女を思い出しているのだろうか。

「ということは、この本は幻想郷で何者かによって書かれ、当時の巫女によって結界をかけられた、ということですか?」

「そうね…。私はそんな本が作られたなんて聞いた記憶ないんだけど…。まあ、中身が楽しみね。にしてもこの結界、三つ目だけ巫女にかけられたみたいね。私が一つ目の結界を見たとき、気付かなかったもの。」

星は昔、巫女と戦った時の記憶を思い出して苦笑いしながら言う。

「巫女の創りだす結界は超強力ですからね…。よっぽど他人には読ませたくなかったのでしょう。とはいえ、巫女に依頼するとかなりの額を取られますからね…。全てやって貰わなかったのも変に人間味があって頷けます。」

紫はうんうんと頷く。

「それならば……聖、永遠亭に行くのは止めて博麗神社に向かってくれるかしら?私は急ぎの用があってついていく事は出来ないけど、本社に博麗大結界について書かれた本がしまってあるはずよ。」

「その本に似たような結界の解除方法が書いてあるということですね?わかりました。行ってきましょう。星、貴女も来る?」

「はい。」

紫はスキマを広げ、妖怪の山に出口を繋げる。

「ありがとう、恩に着るわ。」

ブォン

 

 

 

 

 

 

 

 



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第二次気象異変⑤

いよいよ大詰めです!!


     罠 ーSTAGE5ー

     BGM:天衣無縫

 

 

 

 

 

 

葉一と別れた紫とアリスは、天界を歩きながら、ある人物を探していた。

その人物は、以前にも紫達と対決したことがあり、古くからの因縁のような存在だった。

「あいつ、いないわねぇ…。」

 

とその時、どこからか懐かしい台詞が聞こえて来る。

 

「天にして大地を制し、地にして要を除き」

ゴゴゴゴゴゴゴ

「人の緋色の心を映し出せ。」

地が揺れる轟音と共に、今回の異変の犯人、比那名居天子が現れる。

「ふうん?懲りないですわね、貴女も」

天子は紫を睨む。

「今の私は、もう以前の私とは違うのよ…。地上の妖怪風情が敵うと思うな……!」

「言うわね、だったら見せて貰おうじゃないの!何が違うのか、ね」

彼女は心底嬉しそうに笑った。

「アッハハハ!!今日この日を待ち望んでいたわ!私の強化スペカ、今こそ見せてあげる!緋想の剣よ!その形、負の気質を纏いて雷龍と化せ!」

 

ゴゴゴゴゴゴゴ

天子が剣を天に掲げると、辺りは黒雲に包まれる。そしてその雲が、剣を中心に寄せ集まって龍の形を成す。

「アハハハハ!この龍は人々の負の気質を集めて造った邪悪の化身よ!あんたらには絶対に打ち破ることはできない!!」

そう、それは人々の負の感情と、天子の霊力をエネルギーに動く巨大な黒い龍だった。

「天子のサーヴァントか……。厄介ね。恐らく龍単体の力では私達に劣るでしょうが、天子と組んでいるからそうとも言えなくなったわよ。」

「とにかく、葉一が来る前に、あのでかいのだけでも片付けましょうッ!」

「ええ、楽園に災厄を齎す者、美しく残酷にこの大地から往ね!」

紫も随分懐かしい台詞をぶつけた。

 

 

 

 

「緋想の剣よ!大地を揺るがせ!」

ドドドドドド

雷龍が地震を起こす。余りにも衝撃が大きく、地上に立つことは不可能になった。

「アリス、飛んで!奴の弱点、コアを探す!」

 

 

二人が雷龍を追って空に飛んだ瞬間、天子はニヤリ、と不気味な笑いを見せる。それは、計画通り事が進んでいる、即ち決定づけられた勝利に嫡嫡と近づいているという彼女の確信だった。

「飛んだわね……!これで我が勝利は絶対の物となった!ラストスペル発動ッ!『全人類の緋想天』始めから全力でいくわ!」

 

 

 

 

 

「奴のコアは恐らく緋想の剣よ!内側に潜るわ!」

バァーン

「??今、スペカの発動音がしたような……?」

ゴアアアア!

ドキューン!

その時、雷龍の口から極太レーザーが発射された。

「赤レーザー!紫!回避して!!」

「くそ、飛行じゃ間に合わない!!スキマ!」

ブォン

紫は取り敢えずスキマに身を隠した。

「身体強化!これで取り敢えず逃げ切れるっ!」

アリスは身体強化魔法で、スピードを瞬間的に上げた。

「チッ、コアの周りがどす黒い雲に覆われて、全く視認できない!一時撤退を……!?」

 

 

 

 

なんと気づいた時には、既に時遅し。星々が煌めき、母なる地球、幻想郷は遥か真下にあった!

「紫ッ!いつのまにか周りが宇宙だわ!」

ブォン

「一杯食わされたわね…。これはおそらく、天子のラストスペル、『全人類の緋想天』が発動しているのよ。さらに、あのコアとなっている剣は天子のいわば霊力の器のようなものであり、叩くことができない。そして弾幕ごっこのルールで、弾幕結界が周囲に張られ宇宙に隔離されてしまっている…。これは地上の天子が力尽きるまでの、ほぼ時間無制限の耐久スペルよ!」

ドキューン!

二人はレーザーを避ける。

「そんな……。なんとか切り抜ける方法はないの!?」

「私のスキマでも抜けられそうにないわ!弾幕ごっこ中だから、結界で抜け出せないようになってるの!」

そこで紫は一呼吸置く。

「でも、一つだけ希望がある。私達は彼を信じ、その時まで弾幕をよけ続けること。それが今私たちに出来る、最善の方法よ!」

 

 

 

 

 

 

     天の娘、地の神、人の心 ーSTAGE6ー

     BGM:有頂天変~wonderful heaven

 

 

 

 

 

 

天子は雷龍と眼を同期させ、必死に逃げ回る紫とアリスを笑いながら見つめていた。

「アハハハハ!永久に弾幕ごっこをしていてもらいましょうか、紫!」

そこに、ある男が到着する。

「おい…。あんたがこの異変の元凶だな?」

「ん?人間…?貴方、面白い気質を持っているわね。どうやってここまで来たの?」

「質問を質問で返すなあ~っ!!疑問文には疑問文で答えろと幻想郷では教えているのか?俺が『異変の元凶か否か』と聞いているんだッ!」

「ふーん、予定外ね…。まあ人間如き、すぐにやれるでしょう。

そうよ!私が異変の主にして天界の支配者、比那名居天子よ!」

「早速だが紫とアリスはどこに行ったんだ?」

「ハッ!あいつらの仲間か、あんた!なら容赦しないわよ!あいつらはねぇ、今頃無限耐久スペルを攻略しているところよ!」

「無限耐久スペル……?なんだそれ?」

天子は驚く。何故耐久スペルも知らない奴が、こんな所までたどり着いたのか、と。

「耐久スペルも知らないの!?なんでこんなとこにきてんのよ!」

葉一は痛いところを突かれ、強引に話を進めた。

「なんにせよ俺はこの異変を解決しに来た。あんたが異変の主なら、戦わなくてはならない。」

天子は葉一を煽った。

「あんたが?私の異変を?ムリムリ、止めときなさいよ!だいたいあんた、どーせ紫達にくっついて来ただけでしょうが!私は紫を苦しめられればそれで十分なのよ!!私の気が変わらないうちにさっさと帰りなさい!」

「断る。紫はともかく、アリスまで巻き込むのは許せん!それに、友人を見捨てるのは文字通り『寝覚めが悪い』からな。」

彼自身を信じる者の為に、葉一は戦うことを選択した。

「そう……。精々自分の愚かな選択を、地獄で悔いることねッ!」

 

 

天子は瞬時に要石を構え、赤レーザーを撃つ。

要石レーザー! 

 

 

 

 

瞬時に決着がつくだろうと、その時天子は確信していた。こんな弾幕初心者なんかに、天人である自分が負ける訳無いと。

 

 

 

 

だが、現実は大きく異なった。

 

 

 

「何処を見ている?」

 

 

「は?」

天子は振り返る。

真後ろに、ハンドガンを構えた葉一がいた。

天子は信じられなかった。ただの人間の動きに自分がついていけなかったことに。

そのまま葉一は弾丸を撃ち込む。

ダンダン!

天子は衝撃で片膝をつく。

そして、葉一は跳んで距離をとる。

「やったか……?」

天子は立ち上がり、鬼の形相で葉一を睨みつける。

「この私に怪我を負わせ恥をかかせるとは!!人間如きが……許さないわ!」

「流石に天人といったところか…。やはり、厳しい耐久戦になりそうだ…。」

「要石『天空の霊石』乾坤『荒々しくも母なる大地よ』霊想『大地を鎮める石』天地『世界を見下ろす遥かなる大地よ』!!!」

「げっ!そんなの有りか!?」

スペカの連続発動。それは卑怯な手段だが、それをルール違反として取り締まれるほど、葉一は弾幕ごっこのルールに詳しく無かった。

今までとは桁違いの量の弾幕が迫って来るが、葉一は一つ一つ丁寧に、弾幕を避け始める。どういう訳か彼の身体に染み付いた弾幕の感覚が、彼を反射的に動かしていた。

そして、葉一は何かを回想していた。

(不思議な感覚だ…。弾幕を避けていると、妙な既視感が沸き上がってくる…。というか既動感、か?思い出せ葉一…。忘れた何か、今必要なはずの何かを、記憶の底から掘り起こせ…。)

弾幕はどんどん激しくなる。

葉一の動きも、いよいよ人間の限界に到達しようとしていた。

(遠い記憶…。僕は弾幕ごっこを、以前したことがあったのか?いや…。そんな馬鹿な。第一僕は、幻想郷に来ていないはずだし、僕の知る限りでは…。)

葉一は、妖怪レベルのスピードで、弾幕を避け始めている。しかし、いくら葉一が速く弾幕を避けても、弾幕は崩れぬ壁のように積み重なり、ついに葉一は押されはじめた。

「まだまだ小手調べよ!!」

 

 

 

 

 

 

その瞬間。 

 

葉一に、全てが流れ込む。

 

それは、とうの昔に無くした記憶…。

 

 

 

 

 

 

 

(『今からお前の記憶を封印する。』

記憶の中の祖父は、優しい人だった。

『なんでですか!僕、貴方との思い出が無くなるなんて嫌ですよ!』

二人はとある、綺麗な庭で話していた。

『いずれわかる日がくるだろう。お前も、いつかここに……幻想郷に再び足を踏み入れる日が来るはずだ。それまで記憶を封印するってだけだ。大した事じゃあないさ。』

『どうやったら記憶は戻ってくるんですか?』

『記憶を取り戻す引き金はお前が幻想郷に来て、始めてピンチになった時。その時、お前は全てを思い出すだろう。自分が何者なのかを、そして何処に帰るのかを!!』

バチッと魔法を使う音がして、視界が暗転し、記憶は封印される。

『さらばだ、我が孫よ!!』

 

 

 

小さい時のこと…。懐かしい記憶だ。今まで幼い時の記憶は外で生きるには不便だ、必要ないと彼が封印していたが、自分が何者かで、何のためにここに来たのか、思い出してしまった以上は仕方ない。必ずあの場所に到達する。俺の目的を果たす為に!!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピチューン!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

葉一は、ついに被弾してしまった。そして彼は、そのまま大地に倒れ込む。




続くぜ!







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第二次気象異変⑥

天子は極度の緊張状態から解放され、安堵の笑みをもらす。

「ハハ…ハハハ!やったわ!奴を倒した!もう私を止める者はいない!どんな妖怪でも、私を止める事は出来ない!!」

 

 

 

 

 

 

 

「誰が倒された、だと?」

 

 

 

 

 

 

「え?そ、そんな!!」

葉一は、しっかり立っていた。右手を高く挙げ、「無き」スペルカードを掲げながら。いや、本当はあったのかもしれない。葉一自身には、思い出のスペルカードが、亡き祖父に教えてもらって『始めて』作ったスペルカードが、見えていたのかもしれない。葉一の頬には、涙の雫が一粒、零れていた。

「くそ、残機があったか!もう一度合同スペルを…」

「させねえよ。人符『現世斬』」

瞬間、葉一は音速で、天子の身体を斬る。

「なっ!速い!」

そのまま、二人は戦いを再開した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「遅れました!」

妖怪の山から緋色の雲を抜け、途中でいつも通り衣玖を倒してきたブン屋の射命丸文は、いち早く今回の事件の犯人を新聞の記事のネタにしようと、写真を撮るために天界に駆け上がって来ていた。

ところが彼女がそこで見たものは、予想外な大スクープであった。

「あれは……はっ、葉一さん!?」

そこには天子と葉一がいて、戦いを続けていた。

 

 

本来なら人間と天人の戦いなど、ものの数秒で決着がつくはずだったが、二人は相当長い間戦っているように見えた。それもそのはずだ、天子は一度葉一をピチュらせたきり、一度もダメージを与えられていないのだから。

 

 

 

 

 

そして驚くべきは葉一が繰り出すスペルカード。

 

 

「断命剣『冥想斬』」

 

 

それは、文が過去何度も見たことのあるスペルカードで、 

 

「剣伎『桜花閃々』」

 

 

その使い手が弾幕ごっこを引退してから、一度も使われなかったスペルカード。

 

 

「転生剣『円心流転斬』」

 

 

「そんな…。あのスペルカードは!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう、それは今は亡き、白玉楼の庭師、魂魄妖夢のスペルカードだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「どっ、どういう事なんですか!?」

「空観剣『六根清浄斬』」

そして、ついに葉一の攻撃が天子を完璧に捉える。

真上からの追撃。

低級妖怪や人間であれば、両断されて絶命していたはずの一撃だったが、そこは腐っても天人、受け身をとって後ろに衝撃を受け流す。

「ほんとタフだなぁ…。俺もそのぐらいの硬さがあればなあ。」

 

 

 

 

天子は焦っていた。

(なんだこの男…!?私ですら攻撃が全然当てられないなんて!こんな化け物が乱入してくるなんて想定外よ!まずいわ…。このままではいずれ私の霊力が尽き、紫やアリスが解放されてしまうわ!!それだけは避けたい…。ならば…!霊力が残っている今!!!三人まとめてぶっ潰す!!!それに賭けるわッ!!!)

ゴゴゴゴゴ 

「ん?」

「私の全てを賭けて勝負だ!!ラストスペル発動!!天地よ鳴り響け!!この男もろとも宇宙まで打ち上げてしまえ!!」

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

ドキューン

地面がエレベーターのように押し上げられる。

「うわわわわわ!」

そのまま葉一は宇宙空間まで放り出される。

 

 

宇宙へ向かって飛ばされる葉一に、ある人物が追いついた。

「は、葉一さーん!」

「文!追って来たのか!」

それは文だった。彼女は天子のラストスペルに巻き込まれていた。

「ええ、そうですが……。先程使われたスペカは何処で入手されたのですか?」

「昔祖父と作った。」

「ええ!?冗談でしょっ!?」

葉一は急に真面目な顔をする。

「俺は、この戦いが終わったら西行寺さんの屋敷に行かねばならない。その時は案内を頼めるか?」

文はメモをする。

「西行寺!?。わかりましたよ、案内しましょう。全く、貴方には驚かされてばっかりですよ…。」

そして、二人は宇宙空間に到達する。

そこには全く力が衰えた様子のない雷龍と、逃げ続ける二人の姿があった。

「葉一!!」

「ああ、ついに来たぜ!奴と共になあ!!」

天子はラストスペル、をもう一度発動する。

「これで本当に最後よ!!!『全人類の緋想天』」

 

     BGM:幼心地の有頂天

 

紫、アリスは倒れ込んだ。やはり、かなり疲労しているようだ。

「二人は休んでな。奴は俺と文で叩く。記憶を取り戻してくれた恩人さんに、これ以上何かさせる訳にはいかないからな。」

「え…?記憶…?」

そして葉一は一歩前に出て、振り向いてニッと笑う。

「行くぞ文」

ヒュオッ

そういうと葉一は高速で飛び出す。それは、なんとか文がついて行ける位のスピードだった。

「速…。天狗として、幻想郷最速として負ける訳にはいきませんねッ!」

ゴオッ

そして文も飛び立つ。二人で天子を止める為に。

 

 

 

紫は彼の姿を見て、ようやく気がついた。彼と共に過ごしていて、時々感じていた違和感の正体に。彼が誰に似ているのかを。

「そういうこと…。」

「紫、何がどうなっているの?」

「彼の周囲を纏っていた妖気は、彼自身のものだったのね…。」

「え?妖気ってことは…彼、妖怪だったの?でも何の…」

「昔、いたでしょう?日本刀を操り、ぱっと見普通の人間と変わらない種族の子が…。」

「それは妖夢のことね、そうか…!彼、半人半霊なのね?」

アリスは尋ねたが、その答は無かった。

紫は一筋の涙を流していた。紫は、昔から気にかけていた、今は亡き庭師のことを思い出していたのだ。

 

 

 

葉一は剣を抜く。

彼自身の霊力を、その剣に集中させると、刀身が白く、美しく光り輝く。

「スペルカード宣言!!聖光『ホーリー・ハーフゴースト』」

そして、雷龍の身体を高速で斬って回る。

「そんな馬鹿な!!雷龍は無敵だ!!人間如きにッ!倒せるものではないのに!!」

葉一はその剣で、負の感情の塊である雲を、斬ることで浄化して白い雲に変えていった。白くなった雷龍の肉体であった雲は、雷龍の動力である負の黒いエネルギーを無くし、段々雷龍から分離していく。

「私も忘れてもらっては困りますよ!!」

文は自身を竜巻と化して天子に突っ込んでいく。

天子はそれに気付き、新たな敵にいつのまに入ってきたのかとちょっと驚くが、防御のため雷龍に援護を命じる。

いくら天人といえども、彼女の肉体は葉一との戦いでずたずただった。最後の気力を振り絞って雷龍に霊力を注ぎ込んでいたため、文の猛攻を防ぎきる力は既に彼女には残っていなかった。

「天狗か!くそ、雷龍よ、援護しろ!!」

ゴアアアアアアア!!

 

 

雷龍は比那名居天子を見た。

その時ようやく、天子は違和感を感じた。

いつのまにか、自分が雷龍にエネルギーを与えるだけの存在、極端に言うと奴隷になっていたことに気付いた。

彼女と雷龍だけが、いつまでも時間が止まった世界にいるようだった。

 

 

そして、赤レーザーが雷龍から放たれる。

 

 

勿論天子に向かって。

空になったペットボトルをごみ箱に投げ捨てるかのように。

 

 

ドキューン!

「おい…!何故だ!何故私を撃つ!待て、待ってくれ!!うわああああ!!!」

天子は雷龍が放った、赤レーザーを回避する事ができず飲み込まれた。

雷龍は天子を飲み込み、更に彼女の負の力を得て強くなる。

雷龍は暴走を始めていた。動力源である負のエネルギーには、ごく一部であるが死者の怨念も含まれていて、それが自我を持ったのだ。

文は持ち前のスピードを活かして急旋回し、天子を飲み込んだ赤レーザーをかわす。

「この龍…!もはや飲み込まれた天子さんの手に終える代物ではないッ!奴と今、渡り合えるのは葉一さんしかいないッ!!」

葉一は少しづつ、コアの周りの雲をそぎ落としていく。

勿論、雷龍の攻撃は全て避けながら、だ。

 

 

 

「半人半霊はスピード特化の種族…。瞬間的な爆発力は天狗よりも高いと言われているわ。しかし、欠点もある。それは、ヒットポイント…つまり耐久値が人間並しかないこと。彼は上手く、その弱点を速さで補って戦っているわね。」

「ええ…。それにしても彼、人間じゃなかったとはねー。」

「彼はどうやら、記憶すらも無くしていたようね。先程までは本心から自分の事を人間だと思っていた…。故に悟り妖怪ですら彼の種族が人間では無いことにに気づくことが出来なかったのね…。」

「それはそうと紫、私彼を連れて行かなければいけない所があるんだけど、どう?」

「奇遇ね、私も今、同じ事を考えていたわ。」

そうして紫は、友人の事を思う。彼と同じ半人半霊の従者を亡くした彼女の事を。

 

 

 

 

そして、葉一は地面に立つ。そして、コアが半分見えた雷龍を見上げる。

グオオオオオオ

 

(もう、後一押しってとこか…。並ば〆はこれだ!)

「刹那『居合の型』」

そして、スペカを発動する。

いつのまにか鞘に収めた剣の柄に手を掛け、腰を落とす。

と同時に、葉一は雷龍の、反対側に飛んでいた。

「あの人の動き…。一瞬だが、私でも全く見えなかった…。」

そう、葉一は僅かな間で、雷龍のコアを一直線に貫いていた。正に居合い斬り、というわけだ。

そして、コアを失った雷龍の肉である黒雲はいっきに離散する。

ゴアアアアアアア!!

ここに、雷龍は討伐された。

そして、彼は地面に降り立った。大地が振動し、宇宙空間から少しづつ、自分達が地球に降りていくのを感じた。

「紫~!ありがとな、ここまで連れてきてくれて」

「はあ、貴方にはびっくりよ、色んな意味でね」

「さて、行くか!文!西行寺さんとこ連れてってくれ!」

雷龍が居た跡地から文が戻って来る。どうやら天子は、気絶しているだけのようだ。そのうちこちらの世界に戻って来るだろう。

「え、もう行くんですか?初の異変解決なんですから、少しは異変解決の余韻というのをですね…。」

紫は、それ以前に驚いた事があった。

「え??何故貴方、西行寺の事を知っているの?宴会でも会議でも、確か話には出てなかったはずだけど…。」

「以前、彼女の所に仕えてた魂魄妖忌っていう爺さんがいたの知ってるか?あれ僕の祖父なんだよ」

「ああ、あの妖夢を置いて失踪したっていう……って!?祖父ゥ!?」

「そうだ。まあ、あの人と西行寺さんは僕の存在そのものを秘密にしていたのかもしれないけどね。」

「うん、私、全く知らなかったわ。」

「そういや姉さんはどうしてるんだ?」

文は手帳を出す。

「姉さん?私の記録では、該当する人物が多過ぎますね…。」

「妖夢姉さんだよ。まだこの名前を使っているか知らないが」

 

 

 

 

瞬間、空気が凍りつく。

 

 

 

「「「え?」」」

 

 

 

 

静寂を破ったのは文だった。

「マジっすか?大スクープです!!これで一月はご飯にありつけるかもってレベルのスクープですぅ!」

文は狂喜乱舞する。そして手帳を取り出した。

紫とアリスはそんな文に憐れみの目を向ける。

「でも…あの子、弟がいるなんて一言もいってなかったわよ」

「多分、存在自体を知らなかったんだと思うよ。西行寺さんも俺の存在を教えてなかったんじゃないか?」

「あいつめ…なんでそんな大事なことを大親友である私に教えてくれなかったのよ…。」

「つまり紫は僕の祖父と姉の主人の友達になる訳か。なるほど複雑だ。」

紫は頷く。

文はメモを取り終え、話に加わる。

「確かに、家系図的には問題ないですね。ですが…。あの人は、妖夢さんは今から50年ほど前に既にお亡くなりになりました…。」

「寿命か?」

「はい…。」

「そうか…。まあ、予想はしていた。取り敢えず、僕は約束の場所へ向かわせて貰うが、誰か一緒に行くか?」

葉一はそこまで悲しんではいない様だった。それもそのはずだ、彼は一度も、姉に会ったことが無かったのだから。死の実感はほとんど湧いて来なかった。

「私は遠慮するわ。私が出る幕ではありませんから。貴方達の時間を邪魔する訳にはいかないわよね。」

アリスも紫と同じ理由で断った。

「文は?」

「私は案内だけにさせて頂きます。やらなくてはいけないことが出来ましたので。」

「わかった!じゃ、行こう。」

二人は文の表情を見て確信していた。

((ああ、早速号外を書くつもりなのね…))

 

 

 

 

     決闘評価

     STAGE5・6

     損害評価 神

     時間評価 神

     取得評価 神




記憶編、そろそろ完結!!


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帰るべき場所

ここは、白玉楼。

冥界の管理者の屋敷である。

勿論、普段からこちらの世界は死の匂いがそこらじゅうに漂っていたが、ここ数十年はいつもに増して暗い、とびきりの死の気配がしていた。

 

ところで、冥界の管理者は不死身である。いや、不死身というのは少し語弊があるかもしれない。既に彼女は死んでいた。生前、彼女は人の生死を操る能力を持っていて、死後地獄の閻魔に冥界を管理するという仕事を、その能力故に任されたのだ。

冥界の管理者一人だけでは、冥界を管理、運営することや屋敷の手入れ、掃除等の家事はこなしきれないため、彼女はこれまで、半人半霊という種族の庭師を雇っていた。

 

その長年仕えてきた、一人の庭師が死んだのだった。

いくら寿命の長い種族だったといえども、永遠に生きる管理者との別れはいずれ、やって来る。そして、半分人間である以上、1500年という年月には逆らうことが出来なかった。

冥界の管理者は大変悲しんだ。

そして、その庭師の為に100年の時を、彼女を弔って孤独に生きると決めたのだった。

幻想郷にいる彼女の友達も、そのことを知ってから冥界には全く顔を出さなかった。

 

 

 

 

 

しかし、その静けさは今日、ある男によって破られる事になる。

 

 

 

 

ギィィィィ~ッ

「失礼。」

白玉楼の門前。

今、50年以上開かなかった正面口の扉が、軋んだ音を立てて開いた。

ズウウウン!

「ム…!この重い気配ッ…。」

途端に負の感情の重圧が、その男にのしかかる。

「文を途中で帰してよかったな…。これは、人の死の匂い…。人を殺した事のある奴にしか耐えられない程、暗いからな……。」

ゆっくり、懐かしい日本庭園を進んでいく。

「こりゃ酷いな…。」

しかし、葉一がいた当時の面影は何処にもなく、庭は荒れ果てていた。雑草は伸び放題になっていて、どうしようもないので剣を抜き、刈り取りながら前に進んでいく。

立ち止まって枯れてしまった桜を見ていると、周りにふわふわ飛んでいた霊が、スゥッと集まってきた。やはり彼自身が半分幽霊なので、彼等(彼女等?)も彼の周りは居心地がいいのだろう。

その中でも、魂魄妖夢の半霊の様に、彼の近くを回っている霊が一人いた。

「!!」

その時、彼に電流が走った。

「間違いない…!こいつは…!」

と、その時である。

縁側から、一人の亡霊が姿を現す。

冥界の管理者、西行寺幽々子である。

男はそれを見つけ、近づいて行く。

彼女の方も、彼に気づく。

「誰?」

「姉の死を弔いに来た。」

その一言で、幽々子は気づく。彼の周りに、霊がふわふわ浮遊していること。則ち、冥界の幽霊が、彼を認めたこと。彼が、腰に刀を差していること。そして何より、彼の顔立ちが、妖忌にそっくりであること。

「貴方は…!」

男は微笑む。

「約束を果たしに来た。」

彼が何百年も前に、ここで幽々子と交わした約束。

記憶が失われようとも、必ず、この場所に戻って来るという約束。

幽々子の閉ざされていた心に、一筋の光が差した。たった一筋だったが、その光はとても、とても強く輝いていた。

 

 

 

そして、その時。

 

 

 

葉一の横を、一枚の花びらが通り抜けていった。

 

 

 

いや、何枚もの花びらが、ひらひらと舞い落ちていく。

 

 

 

庭の桜は、妖夢を失ってから一度も咲かなかった桜は、満開に咲き誇っていた。

そしてゆっくり散っていく。

それはまるで、桜が涙を流している様だった。

 

 

 

「約束…。思い出してくれたのね、妖一。」

「妖一じゃない、葉一だ。今までは。」

そして、彼は主の前に立て膝をつき、臣下の礼をする。

「我が祖父、魂魄妖忌の孫にして、半人半霊の血筋を受け継ぐ者、魂魄妖一。ここに参りました。」

幽々子は声を立てずに泣いていた。久しぶりの嬉し泣きだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして、ここに葉一の記憶を取り戻す旅は終わる。

 

だが、葉一の旅はまだまだ続く。

 

幽々子の為、幻想郷を護るために、戦争を終結させるまでは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[命蓮寺、とある一室にて…。]

 

博麗神社から戻って来た聖と、天海から帰ってきた紫は命蓮寺で合流していた。

「天気が戻った、ということは、異変が解決したのですね。」

「そうね……。」

「あっ、解析終わりました。第三結界、解除します。」

「お疲れ様。では、中を見ましょう。」

三人はその本を覗き込む。

「タイトル、幻想記録伝。著者、魂魄妖忌。やっぱりね。」

「妖忌…というと、あのちょっと前に亡くなった半人の祖父、でしたっけ?そんな人が何故こんな本を書いたのでしょう?」

「『私は、幻想郷、いわゆる日本にとっての異世界の存在をこの本によって我が子孫に伝える。この本を見ることで、我らの誇りを思い出してほしい。そして、目指すべき楽園があるのだ、ということを。』」

「子孫…ということは、葉一さんは半人半霊だったということですか?」

「ええ、そうね。どうやら妖忌に記憶を消されていたみたいよ。私も全く知らなかったわ。」

「どれどれ……。凄い、私が来る前の話なんかも載ってますね!紫さんの項目もありますよ!『スキマ妖怪:よくわからないところに住んでいる。非常に胡散臭い。』だそうです。」

「私の悪口じゃない……。」

「葉一さんは既に目を通したようですし、許可さえ貰えれば稗田家に持って行くべきではないかと思います。」

紫は頷く。

「そうねぇ…。まあ、そんな事よりもっと優先的にやることができたの、忘れてないかしら?」

「え?何かまた問題でも起きたのですか?」

紫はわかってないなあという顔でちっちっと指を振った。

 

 

 

 

「違うわよ!え、ん、か、い!宴会よ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[とある部屋の一室、???]

 

自分の椅子の周りに集まってきた仲間の気配を感じ、彼女は安心する。

そして、ゆっくりと口を開く。

「我が予見では、近々この空間に侵入者が来る。」

影達がざわざわと揺れた。

「ここに、侵入者?冗談おっしゃい。こんな所に入ってこられるのは、それこそあのスキマ妖怪位しかいないわ。」

「我が予見は絶対。更に、この話には続きがある。」

『未来を観た』者はキュッと口元を持ち上げる。

「やってくるのは我々の運命の『分岐点』となる二人組。」

「分岐点ですって!?何年ぶりなのかしらね…。」

「正確に記憶している。『英霊』が英霊と化した瞬間が、最後の分岐点だ。」

「となると…。裕に1000年は超えているわね。」

「そう。館の警戒を怠るな。なんとしてでも、我が前に連れて来るのだ。」

また、影達がざわついた。

「いつになく乗り気ね、ねーさん」

「ククク…。懐かしい感情が沸き起こってくるぞ…。私はそいつに『期待』、している。」

彼女は仲間達を見つめる。

「門の強化を特に重点的にやれ。門番、お前は第一に接触する可能性が一番高い。寝るなよ。」

「寝ませんってば。ご主人様の命令、しかと承りました。」

「死ぬなよ。もう私の前から、誰も逝かせたくないんだ。ああ、それと」

「なんですか?」

「幻想郷の奴であれば、丁重に追い返せ。あそこに戻る気は無いが、敵対する意味もない。」

「承知致しました。」

紅の影は門へと去った。

「私は防御結界の調整をしてくるわ。」

紫の影も図書室へと帰っていった。

残って居るのは、緋の影と、血の影。

姉は溜息をついた。

「妹よ。運命という物は、収束する。我等がいかに奇抜な手段を講じても、最終的な結果は変わらないのだ。それが例えどんなに大きくて、残酷な出来事でも、だ。あの英霊の時に、我ははっきり理解した。それなのに…。」

「それなのに、何故姉さんは運命に抗うの?」

「…………。」

「私は知っているわ。姉さんが、その不幸な能力のせいでどんなに苦しんできたか。未来を予測する度に、また誰かを見殺しにするのではと、恐れている貴方のことを。」

「そうだ…。我は我が能力を忌み嫌っている。」

「それでは何故?今回運命を観たの?」

「……勘だよ。」

「勘?」

「言っておくが、我はまだ、望みを捨ててはいない。いつか、もう一度会えるはずだ。今回の分岐点は、必ず我々の向きを変えてくれる、そんな気がするんだ。私はどんなに望みが薄くても、それに賭け続けるわ…。」

「…。」

少女は無言で、部屋の外に出て行った。

 

 




第一章は、これにて終了となります!パチパチ
次は、第二章の異変に入っていく前に、日常編みたいなのをやろうと思ってます!
それでは次回更新まで、さらだばー!


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第一・二三章 紅い幻想
後日譚 蘇った魂


「宴会。それは、酒の注がれる音である。肴を摘む箸の音でもある。そして、一発芸に笑っている、声でもあると思う。

強者も弱者も、勝者も敗者も、近い人も遠い人も、仲良しも知らない人も、皆で集まって、呑む。そこに、法は存在しない。自分の好きなように、呑んで遊べばいいのだ。

そうして、宴会が終わった後には、名残惜しそうに、会場の方を振り返りつつ去っていく。

ある、有名なスタンド使いの言葉を借りるならこうだ。

『パーティーだとか反省会だとかそんなちゃちなもんじゃあ断じてねぇ もっと奥ゆかしい、大人の片鱗を味わったぜ……』」

「おおおっ!」

「やりますねぇ!」

「やっぱ外の奴は違うねぇ~!」

こちら、魂魄葉一である。説明するのが面倒だったので妖一という名前は使わないことにした。故に、僕の本当の種族を知る者は先程までは以外と少なかったが、文が号外を宴会でばらまいたせいで来ていた全員に知られてしまったが勿論、温かく受け入れて貰えた。

そして絶賛、酔った妖怪達に絡まれ中である。

「ここでジョジョから引用してくるとは…なかなかやるじゃない!」

文や河童が何故、このようにテンションが高いのかというと、それは勿論、鬼の卓に座ってしまったもとい座らされてしまい、人間なら致死量レベルの酒を飲まされたからである。

萃香の酒は無尽蔵だ。故に、人に飲ませるのにも遠慮がないらしい。更に今日は、地底から別の鬼もやって来ていて、彼女の持っていた杯の能力で宴会用の普通の酒が純米大吟醸酒に変わった為、非常に美味しい酒をいただいた。挨拶した時に萃香と二人でにやにや笑っていたように見えたのは気のせいだと信じたい。何やら「決闘が云々」という言葉が聞こえてきて尚更びびっているところだ。

 

 

そして今、鬼の魔の手が葉一にも迫ろうとしていた。

「飲めや唄えや、あはははは!」

そして間一髪、反対に座っていた紫のげんこつがスキマから降って来る。

「飲ませすぎよ!この酒飲みが!」

「むっきゅん!」

萃香は倒れた。

どうやら紫と萃香には、切っても切れない腐れ縁が有るらしいが、本人達はそれを大事にしているらしい。きっと相当長い付き合いなのだろう。

そういえば、と紫は思い出したように聞く。

「いつのまにか貴方、半霊を連れて居るわね。何処から出したの?というかそれ元々身体に仕舞ってたの?」

「あー、これね。別に俺から分離した訳じゃなくて、白玉楼に行ったときについてきたんだ。気に入られたみたいでね。」

「ふうん。ところで葉一、先程からさとりが貴方の方を凝視してるんだけども何か心当たりは?」

紫は笑顔だ。

 

 

 

……しまった。

 

この半霊の秘密を隠し通そうと思ったが無理らしい。流石スキマ妖怪、隙が無いな。

「紫、悪いんだが俺とさとりと紫自身を一緒に外にスキマで出してくれないか?あまり公にはしたくないんでな。」

紫はそれが何か重大な事だと悟ったらしい。黙って頷くと、僕等を外に移動させた。

 

 

 

 

月明かりで外は明るかった。

紫と、訳もわからずいきなり外に飛ばされて、混乱しているさとりに今から見せることを決して、多言しないで貰えるかと頼んだ。

さとりは先ほどの件でよほど驚いたらしく、マシンガンのように言葉の弾幕を浴びせてきた。

「あれ、どういうことなんですか!?何故貴方の中に、魂が二つ存在しているのですか?長年心を読んできた私でも、魂を二つ持つ肉体なんて初めて見ましたよッ!」

「これからおこることを見ていたらわかるはずだ。」

さとりはああ、そうなんですかと落ち着いた。これが長い間生きてきた妖怪の余裕なのだろうか。

俺は話し始める。

「俺の持っている霊刀『夢現』の能力…。それは霊体や、思念がこもった物を斬る事で発動し、この剣の使い手自身にその霊、又は思念の持ち主を憑依させる。そしてその憑依した人物の生前の容姿を再現し、精神を入れ替えることが出来るんだ。」

「ふむ、話を砕くと死んだ人を蘇らせる事が出来る、ということね。貴方の能力は『癒す程度の能力』、だったかしら。中々お似合いじゃない。」

「そういうことだ。で、今から実際に死者蘇生をやって見せる。対象はこの霊だ。」

そういうと葉一は、静かに剣を抜いて、斬る。

葉一の肉体は視覚的に変形して、精神もその霊と入れ代わった。

 

 

 

「そういう事です、紫様。愚弟ですが、よろしくお願い致します。」

現れたのは白玉楼の庭師、魂魄妖夢だった。彼女は三途の川を超え、地獄の裁判を終え、輪廻の中冥界に霊として戻ってきていたのであった。

彼女は若い頃と変わらぬ容姿をしていた。そして、幽々子が彼女の墓に一緒に埋めた、二振りの剣を背中に背負っていた。

紫は少し驚くが、すぐに普段通りに戻ってしまう。

「あらあらあらあら。見事、冥界に辿りついたと掛けまして、生き別れの弟と再開したと説く、ということね。うふふふ…。」

「紫さん、その心は」

「どちらも彼岸(悲願)の先に有り、ということよ」

妖夢はハハハと笑う。

「紫様は変わってないですね…。我が主もお元気そうで何よりです。最も、私を失った事でまさか100年も家に篭られるとは思いませんでしたが。」

「妖夢…。幽々子に会わなくていいの?彼女、喜ぶと思うわよ?」

「それでは、前の二の舞です。いつか妖一を失った時、幽々子様は二倍の悲しみを抱える事になるでしょう。若年者の私が言えた事ではありませんが、別れを乗り越える事も大事な事ではないでしょうか?」

「うふふ、その通りね。わかった。幽々子には黙っておいてあげるわ。」

「私も、決して妹やペット等、外部には決して漏らしませんので。四人の秘密ということにしておきましょう。」

「お二方、有難うございます。それでは私はこれで。」

妖夢がそう言うと、葉一が肉体に戻って来る。

「そういう訳で、よろしく頼む。それはそうと、さとりはともかく、紫はあまり驚かないんだな。」

「ええ、まあね。薄々察してはいたから。幽々子ももしかしたら、既に感じているかもしれないわね。既に死んだ人の気配が身近にあることを。」

心なしか、もともとほんのり青白かった半霊の色がさらに青くなったように見えた。

「げっ……確かにあるかもな…」

 

 

 

 

「紫ィ~!何やってたんだい?」

「秘密よ、秘密。」

「ええ~」

 

 

 

その後、宴会は順調に進んでいった。

 

一人、二人と寝たり、帰ったりして段々、宴会を楽しむ連中は減っていった。

「ようむう~」

「!?」

驚いて横を見ると、幽々子が机に突っ伏していた。

「いつも通り…あるてぃめっと盛りで……むにゃ」

寝言だった。夢を見ているらしい。

まあ、せめて夢位は見せてあげよう。

葉一はそう思い、上からタオルケットをそっとかけた。

 

 

 

 

 



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後日譚 ~紅き少女達はEXTRA STAGEなのか?~ 上

[日本 広島基地にて…]

 

広島基地には、九州から逃れてきた部隊が集結していた。

「これより、中国地方の大規模な巡回を始める。全分隊はそれぞれ持ち場に分かれて、地域の安全を確保しろ。」

葉一が朝起きると、その日は広島付近の見回りをすることになっていた。

こっちに戻ってきて早々巡回任務かと彼は嘆いたが、文句を言っていても仕方あるまい。彼は元々この世界で生きてきて、日常はこちらであるはずだ。

「隼小隊、輸送ヘリへの搭乗を確認。ポインターの設置任務が終わったら、本部の第一統制室に連絡しろ。順に回収する。」

「了解、リーダー。」

「よし、第一降下地点だ。H1からH3まで降りろ。時間をかけすぎるなよ。」

「了解です、リーダー。」

ヘリから三人が飛び降り、すぐに見えなくなった。

 

 

……………

 

 

「ここが最後の降下地点だ。H23、いくぞ!」

俺はそう言って飛び降り、パラシュートを広げる。どうやらもう一人の隊員も無事に下りているようだ。

「こちらH23、1キロほど先の地点に降下しました。ポインターを設置します。」

「了解!出来るだけ急いでくれ!」

鬱蒼とした森の中、湿った大地に降りるとすぐ、俺は安全の確認を示し、近辺の索敵機能も付いたポインターの設置にかかる。それを地面にしっかり固定してから、腕の通信機をオンにする。

「よし。こちらH0、ポインターの設置を完了、確認求む!」

「…………H0、すまないがレーダーによる確認が出来ない!電波の問題だろう。もう少し開けた場所を探してポインターを設置してくれ!」

しょうがない。俺は開けた野原を探すため、森の中を歩き始める。このあたりは毒気が強く、マスクを付けずには移動が制限されてしまう。後に本部に報告しておこう。

ドンッ!

「うッ!何だッ!?」

俺が突然ぶつかったのは、空気だった。

いや、正確に言うと、空気の壁だった。

「なんだこれは…?空気が…!いや、違う。これは、おそらく結界だ…!」

その場から漂う微かな魔力を察知し、俺はどうしたものかと悩む。

おそらく、電波が制限された理由も、この謎の空間が邪魔をしていたのだろう。

「ふむ、幻想郷以外にも、こんな空間が存在していたとは…。余程隠したい何かか、誰かが居るんだな。だが、俺には地域一帯の安全確保の任務がある。申し訳ないが、侵入させてもらおう。」

念には念を入れて誰も見ていないことを確認し、周りに漂う霊力をかき集め、自分のものと合わせて濃く、鋭く槍のように身体の中で圧縮する。本来の半人半霊としてのスピードを発揮する為に使うのだ。

「結界に外側から超高速で突入し、一定値以上の負荷をかけると、結界が一瞬だけ歪んで内側に入り込む事ができる、と紫に聞いたことがある。最も、幻想郷と外界を隔てる程の結界を潜る為には、鬼レベルのパワーが必要らしいのだが。」

「あの時は紫が『私は鬼レベルの力を持っているのですよ、オホホホ』とただ自慢しているだけかと思っていたが、雑学が変な所で役に立ったな…。」

まあ、この結界はそこまで固くはないだろう。半人半霊の本気を持ってすれば、通り抜けられるはずだ。高めた槍の様な霊力を自身に装着し、突撃する準備をする。

「やあッ!」

高速で結界にぶつかると、微かに揺らいだ感触があった。だが、スピードが足りなかったのだろう、結界に穴を空けることはできない。まあ、ここまでは想定内である。

「姉さん、起きてるか!強化バフをかけてくれ!」

(うーん…なんなの、もう。急に起こされたと思ったら、幻想郷じゃない場所じゃない、ここ。)

姉さん、つまり妖夢とは、たまに精神を通じて会話ができる程度にはなった。ただ、霊力が強い場所でないと、その成功率は低いのだ。

ところで、彼女は半人半霊でありながら、身体強化系の魔法も勉強し、かなりのレベルにまで高めたらしい。彼女によると、「今の時代は二刀流よ」だそうだ。

「いいから頼むッ!ここが正念場なんだ!」

(はいはい。かわいい弟の頼みとあれば、しょうがないわね。「強化術式<スピード>LEVEL.2」)

姉さんの強化のお陰で力が増すのを感じる。だが、足りない…!この結界を潜るには、もう少し速さが必要だ。

「姉さん、もう少し強力な奴をかけてくれ!もう少し、スピードが要るんだ!」

(これ以上の強化をかけたら、あんたの霊力の器が持たないよ!ここじゃ辺りからの霊力の供給が少なすぎるわッ!)

「俺のことは気にするな!一瞬で片が付く!」

(強化術式<スピード>LEVEL.3)

ゴオオオオッ!!

瞬間、とてつもない負荷が僕の身体にかかった。

「ぐうッ!」

景色がぐにゃりと歪み、俺は霊力欠症で地面に倒れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだ、ここは…?」

葉一が居たのは、依然として鬱蒼とした森の中だった。

「たしか、僕、霊力欠で倒れたんだよな…。」

と、起き上がった葉一の耳にさらさらという音が入ってくる。

「音…?」

それは水がさざめく音だった。

暗い森の中を音を頼りに進んでいくと、急に視界が開け、そこには広い湖があった。そしてその対岸には、何やら巨大な屋敷のシルエットが浮かんでいる。

「ふうむ……。取り敢えず結界の中には入れたみたいだな。あれは…家か?霧で霞んでよく見えないな。もし人がいたら、この辺りの事情を聞けるはずだ。取り敢えず行ってみよう。」

歩いていくと段々と巨大な門か近づいてくる。その前に、一人の門番が立ち塞がっていた。

「すいませーん!」

葉一が近づいていくと、その門番は葉一の方を見た。彼女の燃える様な紅い髪が綺麗に光っていた。そして、ニッと歯を見せて笑う。

「やはり、予定通り来たな。しかし一人というのが少し引っかかるが……まあいい。ここに迷い込んだというのならば、その命は我が主の物だ。大人しく抵抗せず、武器を捨てろ、軍人」

なんてこった…。とんだ所に迷い込んでしまったな。色々と面倒な事になりそうなので絶対彼女には捕まりたくない。

「魂魄家には、伝統的な戦いの発想法があってな…ひとつだけ残された戦法があるんだ。」

 

 

「ん?」

 

 

「それはな………逃げるんだよォォォーーーッ!!」

葉一は逃走した。

ダッ

「無駄ァ!」

門番は人間には到底出来ないような素早い身のこなしで先回りして、葉一が行きかけた退路を断つ。

「外の世界の人間如きには、理解出来ん世界を見せてやろう!彩符『彩雨』」

彼女が掲げた一枚のカードが煌めき、虹色の弾幕が視界を覆い尽くす勢いで迫って来る。

「何ッ!」

スペルカード詠唱だと!?だがな、それはこっちもお手の物なんだよ!なぜ彼女がスペカを使えるのかという疑問は後ででも遅くない。

「守護弾『ガトリング・バースト』!!」

そして、ガトリング砲の如く同時に何百発も放たれた弾が、彼女の弾幕を相殺する。

「一分間に六百発とはいかないが、護身用のばらまき弾だ!」

「そんな…スペルカード!?馬鹿な!!」

驚く門番の前で、二枚目のスペルカードを詠唱する。反撃する隙など与えない。

「刹那『居合いの型』!」

そして、俺の剣が門番を斬る。彼女はガードに失敗し、ダメージに耐え切れず倒れ込んだ。

「ぐ、ぐうう…。」

彼女を話のできる状態まで回復させようと思い、俺は倒れている門番に近づいた。

 

 

 

 

 

その瞬間。

 

 

 

ゴッ!!

 

 

 

上から何かが降ってくる。

 

 

 

そいつは、一見すると普通の人間と同じように見えた。

ただ、髪を水色に染めていて、ドアノブみたいな変な帽子を被っているだけの、普通の人。

 

 

 

しかし違った。

 

 

 

そいつの背中からは、真っ黒な二つの羽が生えていた。

 

 

 

僕は確信した。

彼女は相当な力を持った妖怪であると。

 

 

 

そして、剥き出しにした強大な力と敵意が、それを証明していた。

 

 

 

「もう奪わせないわ!!!私から、何者も!!!」

 

そして、半人半霊でも対応できるか否か、というスピードで、俺を串刺しにしようと、爪を突き出して来る。

 

「まずいッ!なんだこの空間は!?」

僕は間一髪のところで、爪を避け、防衛に出た。

「スペルカード!!!現霊『憑依転換』!」

そして、その効果で俺と半霊の魂を入れ替えた。

このスペカは試作品なので、身体にかかる負担は少ないが、その分発動していられる時間が短く、今の段階では10秒程度しか持たない。だが、一時的に自分自身の霊力を回復したり、体勢を立て直すには凄く便利なスペカだ。

 

瞬時に、妖夢が外の世界に姿を現す。

 

彼女の顔は弟を守るという決意に満ちていた。

 

 

「レミリアッ!!」

 

 

「な!?」

 

突然現れた知り合いに対し、ほんのわずか、レミリアが怯んだその瞬間。

「防御結界<捕縛陣>LEVEL.10」

透明な壁が、吸血鬼の周りを囲み、隔離する。

ガキンッ!

彼女の爪が結界にぶつかるが、結界が傷つくことはなかった。

「話を聞いて下さい、レミリアさん!」

「あなたは妖夢ね!何故ここにいるの!?貴方は既に死んだはずッ!そしてその男は誰なの!?」

「彼に説明してもらう。憑依時間の限界がきているわ。」

ズオッ

そして俺が入れ替わって再び出てくる。

「俺は妖夢の実弟、葉一だ。軍の命令で巡回中にたまたま結界があったから疑問に思って様子を見に来ただけなんだ。その証拠、今から見せるよ。」

そういって僕は倒れた門番に近づく。そして、彼女を完全に回復させた。

「寝てしまった…?この私が??いや、違う…。侵入者に倒されたんだ、私…。」

「おい、動けるか?」

「あ、あんたはさっきの………?ん?よく考えたら貴方からは殺気が感じられない…。」

「美鈴!怪我は大丈夫なの!?」

「傷は完璧に治した。僕の能力、それは傷を癒す程度の能力。待ってろ、今貴方の結界も姉さんに解いてもらう。」

結界が消えて、彼女はようやく、警戒を解く。

この短期間に僕はこの世界について、一つの結論にたどり着いていた。蒼髪の羽が生えた女性。文に写真を見せてもらったとある人物と、よく似ている。

「貴方は、もしやレミリア・スカーレットさんですか?幻想郷から去ったとかいう」

レミリアははぁとため息をついた。

「そうよ…。取り敢えず中で話しましょう。」

レミリアや門番に連れられて、僕は屋敷の中に入っていた。

 

 

 




現在別ジャンルの長編執筆中です。年内に投稿できるか分かりませんが、お楽しみに!


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後日譚 ~紅き少女達はEXTRA STAGEなのか?~ 下

吸血鬼と門番に連れられて、俺は屋敷の長い廊下を歩いていた。廊下の所々に窓はあるが、外は深い霧で濁っていて何も見えず、引かれた絨毯や壁の色は全て、赤色で統一されている。腐ってもヴァンパイアの根城と言ったところか、不気味な気配が漂っている。

「先程は礼を欠いたな、つい取り乱してしまった。」

前を歩きながら、レミリアは俺に謝った。

「いや、別にいいんだ。ただの不幸な勘違いだよ。こっちも驚かせてすまなかったな。」

彼女は紅い瞳で僕をじっと見る。

「幻想郷の人間が我が城に足を踏み入れるのは久しぶりだよ。さあ、入ってくれ。美鈴、茶を入れてくれないか。」

「畏まりました。」

中華服の少女は、いそいそと別の方向に消えていった。レミリアは応接室と思われる部屋に俺を案内する。そして、俺を椅子に座らせた。

「新ためて自己紹介しよう。我は誇り高きツェペシュの末裔にして紅の名を授かりし最後の吸血鬼、レミリア・スカーレットだ。歓迎しよう。」

「俺は魂魄葉一だ。よろしく。」

「ところで人間よ、お前はさっき、軍の調査でこの空間を見つけた、と言っていたな。すまないが、他の外の人間には黙っていてくれないか?」

「ああ、問題ない。変わりに、といっては何だが…」

「何だ?」

「あの霊を人の形にしてほしい。何やら、申し上げたい事があるそうだ。」

「何だ、そんなことか。それならパチェに頼もう。おーい、パチェ!聞いてるか?」

「ええ、今来たところよ。」

ドアを開け、紫色のネグリジェを来た人物が入ってくる。その後ろから先程の中華娘もお茶を持って入って来た。

「お前の魔法でこの半霊を人の形にしてくれ。出来るか?」

「お安いご用よ。詠唱『具現化 Type-R』」

その人が二言三言口走ったかと思うと、半霊は形を変えた。さしずめ彼女は魔法使いと言ったところか。

「この魔法は己が有りたいと思う姿に魂の形を戻す。久しぶりね、冥界の庭師。」

「どうも。お久しぶりです。皆様方。」

ズオッ

そこに現れたのは、以前僕と憑依転換したときの彼女の姿ではなく、いや、性格に言うとほぼ外見上は変わらぬ彼女の姿であったが、なんと彼女の右半身は、一部機械化され、サイボーグとなっていた。服に覆われていない手や脚の一部分は、プロテクターが外れて回路が少し覗いている。彼女の右目は不自然に青かったが、とても綺麗に澄みわたっていた。

「本日はどうもよろしくお願いします。紅い幻想の皆さん。」

中華娘が慌てて彼女にかけより、質問する。

「妖夢さん、どうしたのですか!?この身体は、どうして…。」

「これは皆様方が去った後に起きた出来事なので知らないでしょうが、実は幻想郷を揺るがす程のレベルになりかねない異変が起きまして。我々はそれを『封印異変』と呼んでいますが、その時にある人物を我々で封印したのです。これはその代償。その人物の力は余りに強大で、異変解決組の多くが、身体の一部を失いました。もし、貴方達がその時幻想郷に残っていれば、十六夜咲夜さんは確実に、代償を受けたでしょうね。」

ちょっと待て、それは俺も初耳だ。

あの平和な郷にそんな事があったなんて、とても信じられる話ではない。ていうか十六夜なんとかって誰だ?ここにはいないようだが…。

「そんな事が…。」

レミリアは無表情のままだ。まるで、自分には関係ないと言いたげな表情をしている。そして、一番重要な箇所を包み隠さずにずばりと突く。

「それで?まだ核心を聞いていないぞ。『誰』、だ?それは」

 

姉さんは、少しも躊躇わず、一人の名前をはっきり口にした。

 

俺はその名前に聞き覚えがなかったが、そいつが重要な人物であったことを察した。

 

紅魔館の連中の顔が一変し、あのレミリアでさえもまるで信じられないといった顔をしていたからだ。

 

 

「嘘よ!!!」

 

 

その叫び声は唐突に背後から聞こえてきた。

振り返ると、背後に新たな人物が立っていた。

人形のように美しいその顔は驚きに満ちていた。彼女の顔立ちはどことなくレミリアと似ていた。

姉さんは彼女に向き合い、容赦無く真実を告げる。

「いいえ、本当です。彼女は闇に捕われてしまった。もう、貴方の知っていた彼女はいないの。」

彼女の動きが、下を向いたままぴたりと止まる。彼女の背中から生えた虹色の翼も、静止したまま動かない。

「お前がっ……」

そして、小さく何かを口走った。

「フラン、やめろーーっ!!」

今までの事実にほぼ、動じなかったレミリアが、何かに気づいたかのように突然動き、飛び出す。両手を広げ、皆を守るように、彼女に飛びかかる。その眼は震えていた。

「お前らが壊したんだ!!潰してやるっ!!」

こちらをきっと睨んだ彼女の眼は、狂気に満ちていた。

その顔は絶望に歪み、驚くほど強大な魔力がリミッターが外れたかのように溢れ出してくる。

そして、そのまま彼方の方向に右手を伸ばし、広げて、力を振り絞り、握り絞めようとする。

が、その射線にレミリアが割り込んだ。破壊の力は、彼女を再ターゲッティングした。

フランは大きく眼を見開いて、固まった。

「幻想郷には、手を出すな…。」

 

 

 

 

 

その頃、幻想郷…。

 

大地が鳴動した。これまでも極めて稀に、幻想郷では地震が起こることがあったが、今回のそれは規模が違った。

突然ゆっくり、ゆらゆらと揺れ出した地面は、段々激しく揺さぶられ、神の怒りだと人々は考え、恐怖した。

まるで、四方八方から空気ごと圧迫されているかのようだった。体験した人間は口を揃えてそう言った。

妖怪も恐怖した。次元が違う程の強大な魔力を本能で察知したからだ。低級妖怪ではどうする事も出来ず、ただその矛先が自分自身に向かない事を震えながら願うばかりだった。

幻想郷のどこかにあるマヨヒガも、勿論大きく揺れた。

そして紫、幻想郷の創始者は早くもその「震源」を突き止めていた。

「やはり、あれは幻想郷の脅威になりかねない。何度も自分に言い聞かせたはずなのに、止められなかったとはね…。」

紫は覚悟を決め、幻想郷を離れる決意をした。

「直接乗り込み、私自身で彼女を止める。場合によっては殺しも止むを得まい。」

スキマが開かれ、彼女は颯爽と闇に消えた。

 

 

 

 

 

 

レミリアは幻想郷への怨みをその身一つに背負って、死ぬ覚悟を決めながらふと気がつく。

あれ…何で私…。全く自分には関係ないはずの幻想郷を、護ろうとしてるんだろう…。

そして理解する。その訳を。そしてぽつりと呟いた。

 

「はは…。やっぱり私、幻想郷が………大好きだったんだ。最期に、護らせてくれないか…。」

 

 

 

 

 

 

 

「その意気や良しですッ!滅せよッ!」

 

 

 

 

 

 

目をつぶっていたレミリアは、爆散しなかった自らの身体を見つけて驚いた。

そして、代わりにフランドールの灰塵と化した右手を見つけた。

「『消滅結界<破壊絞>LEVEL.5^TypeQ:即効^』。すみません。フランさん。」

姉さんはあの時、瞬時にフランの手を包み込む程度の大きさの結界を構築。そして、瞬時にその空間ごと削り取っていたのだ。破壊の力は、行使されなかった。

その場にいた全員が、ほっとため息をついたり安心した顔をした。

「ああ…ああぁ…。姉様ぁ……。ああああああ」

緊張が解けて泣き出した彼女を、レミリアはぎゅっと抱きしめる。

「わたっ…私、姉様を殺してしまったと思って……」

「大丈夫。皆で、止めてあげる。次も、その次も。」

俺と姉さんは、感傷に浸る彼女達をいつまでも見つめていた…。

 

 

 

 

 

 

 

はずだったのだが、突然別空間に隔離されてしまった。にしてもこの空間、見覚えがある。

「あっ…」

隣で一緒に連れてこられた姉さんは何かを察したようだ。

「ちょっとちょっと~。何故こんな場所まで貴方達が関わってるの?」

お馴染みのSEとともに、幻想郷の影の支配者が現れる。

「!?紫……。」

「おかげさまで幻想郷がぶち壊れるところだったわよ、全く」

「すみませんでしたあぁっ!」

と大声を出したのは妖夢だ。

「私が安易に、情報を漏らしたばっかりに…。腹を斬る覚悟でございますぅっ!紫さまっ!何なりとお裁きをっ!」

紫は一つ、ため息をついた。

「あのねえ、妖夢。貴方もう全霊なんだから斬る腹もないでしょ。自分で落とし前をつけたんならいいわよ、別に」

「それにしても危ないところだったな。姉さんにはまた一つ、借りを作ってしまった。」

「妖夢も強くなったわね。さあ、幻想郷にでも戻りますか?」

「いえ、今宵はもう遅い。うちに泊まって行きなさい。」

「「「!?」」」

そこに、今までいなかったはずの人物の声が響いた。

「動かない大図書館…。私の空間に侵入するとは、流石の魔力量ね。気配すら感じなかったわ。」

それはあの紫色の魔法使いだった。

「パチュリー・ノーレッジよ。お褒めに預かり恐悦至極ね。私としても積もる話もあるし、レミィ達にも話はつけたわ。」

「申し訳ないが遠慮させてもらおう。まだ軍の調査の途中なんだ。本部に戻らないと、周りに迷惑をかける。」

「心配いらないわ。私の魔法と紫の能力を組み合わせ、貴方の時間を一日ほど巻き戻して結界からだせば、問題無く合流出来るはずよ。だから、一晩ぐらいなら居ても大丈夫ね。紫も泊まれるでしょ?私から貴女に話しておきたい事もあるし」

チートじゃんか、それ。まるでタイムマシンのような魔法も使えるって訳か。

「まあ、葉一の断る理由も無くなったし、私は彼のためにも泊まらせていただくわ。」

紫は式神に連絡をし始めた。

「私らも泊まりますか。」

「そうだな。」

こうして、俺達は紅魔館で楽しいひと時を過ごした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで?貴女が幻想郷を去った理由、教えてくれなかった方があるじゃない?」

「ああ、その話か。いいだろう。今、教えてやる。運命は幻想郷の滅びを告げたのだ。」

「滅び?」

「正確に伝えると、幻想郷は暴走した一人の怪物によって滅ぼされる、だそうだ。」

「…………あいつのことね。」

「お前達の話を聞いて、私もそう確信した。奴を止めることは出来ない。もうあの世界に、未来は無いよ………。」

「…………。」

遂に、保留していた問題に決着を付けるときが来たらしい。紫はそう、固く決意した。

 

 

 

 

 

 

 

 



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閑話 第一回メタ回

注意!
タイトル通り、メッタメタな文章、多量の例のアレネタが含まれます。
それでもいいって人は、どうぞ。


作者「念願のメタ回だあ!やったね!」

葉一「呼び出されたのは俺と…」

妖夢「私ね。この面子で何をやるつもり?」

作「記念すべき初メタ回ということで、キャラ紹介、設定等をちょいちょい公開してくつもりだよ。公式設定とかは割愛させてもらって、この作品の中でのオリ設定についてのみ書くからそこんとこよろしく」

葉「俺達の事か?なら、紫を呼んだ方が良かったんじゃね?あいつ一番付き合い広そうだし」

作「紫女史は地震で倒壊した人里の復興で来れませんでした。残念!」

妖「……こんなところで油売っていていいのかしら?」

作「まあまあ、取り敢えず葉一から行っちゃおう!」

 

 

 

柏根 葉一(魂魄 妖一)

 

能力:癒す程度の能力

 

 

 

作「彼の名前の由来は元の名前の漢字の読みを組み合わせてそれっぽくした感じかな」

妖「作者クオリティって訳ね…。」

作「そして葉一のコンプレックスは少し背が低いことである」

葉「へあっ!?そんな事まで知ってんの!?」

妖「やーいちびっ子」

葉「うるせー!大体魂魄家は皆背低いだろーが!」

妖「うっ…そういや私も背、あんまり高くないのよね…」

作「…………最近彼の能力はあんまり活躍してないようだけど、これから大活躍する予定なんでよろしく!」

葉「やったぜ。」

妖「まあ私も治癒魔法位は勉強してるんですけどね」

葉「…………俺の能力の存在意義はどこ…ここ?」

作「もう一つ、彼の持っている剣は魂魄妖忌が作成した物である」

葉「それは普通に知ってた」

妖「おじい様の剣だったのね…。道理で強力な能力をお持ちで」

作「じゃ、次行きますか!」

 

 

魂魄 妖夢

 

半分サイボーグの葉一の姉。かなり強い。既に死んでいたが、葉一の持つ霊剣の力で蘇った。

 

 

妖「かなりっていい加減ね。具体的に言うと、どれぐらいなの?」

作「聖と対等、ヘカさんと遊べる位かな」

妖「それ変Tさんの強さしかわかんないわよん」

葉(ヘカさんって誰だ…?)

作「……ごめん。因みに彼女がサイボーグっていうのは作中でも語られたと思うけど、明かされて無いだけで他にもサイボーグキャラいっぱいいるから。」

葉「具体的には?」

妖「封印異変の異変解決に関わったのは数人。全員が、封印の代償で身体を等価交換されてなぜか機械化してる。」

作「実は紫女史も左手が機械化してるよ」

妖・葉「「マジか!手袋嵌めてたから気付かなかった!」」

葉「ところで姉さんだけなんか代償重くないか?半身って」

妖「私は半人半霊よ。だから、削られたのも半々の25%って事になるわね。」

葉「あー、そっか。つまり、半々機械半々人半霊、だったという訳か」

妖「早口言葉かしら?」

作「もう一つ。作中で彼女は既に死んでいますが、これも明かされて無いだけで2018年の幻想郷の時点から死んだ人物もそれなりにいるよ。ほいじゃ次!」

 

 

八雲 紫

 

幻想郷の為に日々奔走している、裏御所的な人。能力の弱体化の影響で、当代巫女を訳わからん場所に送り出した張本人。

 

 

 

葉「紫さん……流石にそれはまずくありませんかね」

妖「この地球上の何処かに居ることは間違いないみたいよ。」

葉「姉さんもあんまり心配して無いんだな」

妖「博麗の巫女ほど強い人種は無いわ」

葉「ああ、そういう…」

作「気になる年齢は300X歳。幻想郷の最古参組の一人だね。」

妖「人間からみたら老人を通り越して仙人レベルなのかも知れないけど、私ら一応皆1000歳超えてるから。」

葉「別に[スキマ送りにされました]では無いということだな」

作「因みに彼女も外の漫画にいろいろと手出してるよ」

葉「老後の趣味かな?」

作「別に[スキマ送りにされました]じゃないから!」

 

 

 

??? 「ソイツ」

 

本編に時たま登場する謎の人物。

 

葉「情報少なっ!」

作「これからの展開に大きく関わってくる奴だからね。一つだけ言っておくと強さ自体は君達の誰をも凌駕しているよ。」

妖・葉「「ええ…(困惑)」」

作「更に彼女はとある空間に隔離されてるんだけど、その結界は彼女が何年かかっても解読できなかったんだよ」

葉「その結界魔法の使い手強スギィ!」

妖「…………」

 

 

 

博麗 霊心

 

当代博麗の巫女。歴代巫女の中では五本の指に入るレベルの強さを有する。夢に向かって突っ走るタイプの人間だったので、博麗神社の賽銭箱の中には暮らしに不自由しない程度のお金が入っていた。

 

作「本編での登場はまだまだ先になるけど、楽しみに待っていてね!」

葉「外の世界だからワンチャン会えないかなあ」

妖「巫女服着てたら瞬時にわかるんだけどね」

 

 

 

作「こんなところにしておこうかな。取り敢えず、第一回メタ回はこれでおしまい。次のメタ回で設定公開して欲しいキャラがいたら、感想欄などで教えて下さい!」

作「それでは本編で」

作・妖・葉「また会おう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

作「カタカタ…ターンッ!よし、メタ回書き終わったぞ!早速うpするか」

ドドドドドドドドドドド

作「ん?こんな時間に誰か来たようだ」

???「死 ぬ が よ い」

作「うわなにをするやめくぁwせdrftgyふじこlp」

紫「散々書き散らして……次回は絶体私も出るわ!!」

 



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一・五章 AWGA
地底旅行には、トラブルが付きもの


さとりさんのフラグ(?)を回収です。


明日は地霊殿から招待を受け、初めて地底に行く日である。眠らないとそもそも幻想郷に行くことが出来ないのに、楽しみで今日はなかなか眠れない。遠足に行く前の小学生の様な気分である。

と、よく知っている人の声が聞こえてくる。

(永く生きてんのに、まだそんなかわいい所があったとはねぇ。)

「うぐぐ……そんなこと言うなよ…………あ、姉さんが起きたって事は無事眠れたのか!よしっ」

身を起こすと、そこは何時もの博麗神社だった。どうやら、ここが俺のリスポーン地点になったらしい。欲を言えば白玉楼が良かったが、博麗神社の管理者不在状態には丁度良いのかもしれない。

(折角の旅行に水を差すようで悪いけどね、地底なんてろくでもない奴が大半よ。期待するだけ無駄無駄ァ)

「それでも、今回は地霊殿からのご招待だからな。さとりの家なら大丈夫だろう。」

(それもそうねぇ。ま、道中でガン飛ばしたりしないことね。)

「俺はヤクザか…」

結局、紫は「貴方強いし一人で行けるでしょ?本音を言うと私めんどくさいし」とスキマで地底に送ってはくれなかった。

「よし、勉強だと思って行くか」

(案内は私に任せなさい。大先輩が、きちんと送り届けてやるわよ)

そうして、俺らは地底への入口に向かって歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

地底に着き、旧都を歩いていると、橋の上で突然何人かの妖怪が俺の前に立ち塞がった。

「おう兄ちゃん、外来人か?」

「そうだが」

「ふーん、良いものもってんじゃんか」

ばらばらと路地から更に何人か現れて、周りを取り囲む。

「この先に用事が有るんだ。すまないがどいてもらえないか?」

そう言うと、妖怪達は一斉に下品な声で笑い出した。

「まーだ状況がわかってねーのかよ」

「幻想郷のルールを教えてやらねえとなあ!?」

リーダー格と思われる青鬼が周りを掻き分け進み出て、怒鳴った。

「金目の物全て置いていけっつってんだよ、この野郎!!」

そうして背中に担いだ鉄のスタッフを轟々と回転させる。

周りの妖怪も斧や旧式ショットガン等を取り出し、俺に向けて構えた。物騒な世界である。

(ほら言ったでしょ。こんなろくでもない奴らばっかりなのよ)

「確かに屑みたいな連中だな」

しまった。いつもと同じ調子で姉さんへの返事を思わず口に出してしまった。これでは十中八九誤解される。まあ、別にそれは誤解では無いのだが。

「ああん!?誰が屑だとゴルァ!!」

「人間程度がナメやがって!ぶっ殺す!!」

キレた青鬼がスタッフを俺目掛けて突き出す。

その突きは、鬼の体重を乗せた鈍重な一撃で。

一撃で岩をも砕きそうな破壊力だった。

当然、避けられない訳も無く。

俺は身体を捻り、唸る鉄棒を躱す。

「!?!?」

青鬼は慌てて、二撃目を丁度俺が居る場所に正確に狙って来るが、既に俺はそれも読んで躱し、次の攻撃に備えている。

 

 

 

 

 

「青さん、さっさとやっちゃって下さいよ」

「そんな人間の餓鬼に慈悲などかける必要はありませんぜ」

青鬼は困惑していた。鷹が人間に、自分の攻撃を全て躱される。自分の行動が全て読まれているのだ。

「そんな『突っ立ってるだけの奴』に、何をずっと威嚇してるんすか」

「「そうだ、そうだ!やっちまえ!」」

青鬼は一瞬、人間程の強さにまで自分が衰えたのかと思ったが、すぐにそれは間違っていると気づく。

「突っ立ってるだけの奴」。

そう、手下の下級妖怪達には、彼が突っ立ってるだけにしか見えないのだ。

「彼の動きが速過ぎて、移動しているのが見えない」。そうとしか考えられない。

正面に躱し、ぼけっと立った人間と、一瞬目が合った。そいつは笑ったように見えた。

こけにしやがって。人間程度を殺せないこと、手下の前で恥をかかされたことに、彼は無性に腹が立った。

 

 

 

 

「うおおおおおおお!!」

青鬼は吠えた。そして、やけくそにスタッフをぶん回し、正確に狙うことを諦めて彼の移動範囲全体を狙うという荒業に出る。

「「「おおおおお!!!」」」

手下達が歓喜する。

しかしその瞬間。

それまであんなに重かったスタッフが、フッと軽くなったように感じた。何故か、両腕が解放されたように自由に動かせるのだ。いつのまにかあれだけ湧いていた声もぴたりと止んでいる。

 

 

「あ…………」

 

 

手下の一人が、声を漏らす。そして、刀を柄におさめるような、カチャッという金属音がした。

自分のスタッフを見る。  

形を保っていた「ソレ」は、さらさらと砂になって地面に溶け去った。

「え…?」

青鬼はまたもや困惑した。

 

まさか。

 

まさかまさかまさか。

 

あの一瞬に、スタッフを斬って、斬って斬って粉々にしてしまったとでもいうのか。

いや、そうに違いない。

奴は、化け物だ。

「通して、くれないか」

そう、目の前の化け物は自分に聞いた。

 

 

 

 

 

青鬼のスタッフを、音もなく斬る。姉さんのエンチャントは、上手く言ったようだ。

「斬ったものを砂に変える魔法」。それが、今俺の剣にかけられた強化魔法だ。

(便利だったから私もこれ結構使ったわよ。あんたにも今度やり方教えてあげる。)

戦意を喪失し、がっくりと膝をついた青鬼を見て、手下が騒ぎ出す。

「よくも兄貴を!野郎ども、いくぞ!」

「撃て、やっちまえ!」

 

彼等が襲い掛かろうとした、その時。

彼等の足が一斉に止まる。

俺も、その場から動けなかった。

下級妖怪なら殺せそうなほどの強大な殺気。それが、俺の後ろから放たれていた。

「お客人に何やってんだい?ええ!?」

橋の上に足下駄の乾いたカツカツという音が響き、後ろから誰か近づいて来る。

「ヒッ…」

ヤクザ妖怪達は、その人の顔を見るやいなや、一斉に路地に入り込んで逃亡していった。

「うわあああ!殺さないでくだひゃいぃぃ!!」

青鬼も、脇目も振らず顔を恐怖に歪ませながら今にも転びそうな勢いで逃げて行った。

その後、辺りに渦巻いていた殺気が何事もなかったかのように消えた。

「逃げるとは鬼の名誉も墜ちたもんだねぇ…。真の鬼は、けっして逃げないってもんさ」

そう言いながら俺の横に立ったのは、輝くような一本の角を額に生やした背の高い鬼だった。

「貴方は……勇義さん」

彼女は、この前の宴会で顔を合わせたことのある大酒飲みの鬼だった。

「すまないねぇ。こんな所まで、わざわざ。」

「いいんだ。招待されてたし」

「あいつらには気をつけなよ。ああいう手合いはしつこいからねぇ。」

「わかった。次は気をつけて、手下の武器も破壊する」

勇義は面白がって笑った。

「ハッハッハ!変な奴め。それにしても、私の殺気を一番近くで浴びていたにも関わらず、逃げないとはねぇ。翠香に弾幕勝負で勝ったと聞いてからは、決闘したくてしょうがなかったけれど、ますます気になるねぇ、あんた」

(内の弟がそりゃどうも)

姉さんが俺だけに聞こえるようにぼそりと呟いた。

「ところで、地霊殿行くんだろ?あたしもそっちに用事が有るから、案内してやるよ。ついて来な。」

そう勇義は言うと、俺の先に立って歩き始めた。

俺が立ち止まっていると、勇義は振り返って大きく手を振る。

「何してんだい?こっちだよ!」

「ああ、いま行くよ!」

俺は意味も無く立ち止まった訳ではない。

何故俺が地霊殿に招待されたことを勇義が知っているのか。

それがちょっと、ひっかかっただけである。

 

 

 

 

 

 

地霊殿とおぼしき巨大な館の前に着くと、勇義はずかずかと庭に続く門を潜って中に入って行った。

どうやら、勇義も地霊殿に招待されていたようだ。

その時、上空でゴゥという音と共につむじ風が巻き起こり、中からよく見知った人物が現れた。

「また会いましたね!葉一さん!」

彼女は着地し、天狗の高下駄が音を鳴らす。

「文か。ここに居るという事は」

「ええ。今日は招待に与りました。」

鬼に天狗か…。名だたる強力な妖怪が集まっているというのは、ただ事ではなさそうだ。

「もしかすると…………これ、俺の歓迎会では無い?」

「ええ。」

即答か……。つまり、文は何故俺らがここに呼ばれたのか知っているという訳だ。

その時、勇義の声が聞こえてきた。

「葉一!文!」

「はい!ただ今!!」

文は大急ぎで行ってしまった。

まあなんにせよ、これからわかるだろう。

俺は潔く考えるのを諦めて、地霊殿の玄関に向かった。

 

 

 

 



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