神々の追想曲――Despair of a Parallel world (tamatyann)
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プロローグ

20××年5月。

 

 暖かい陽気に包まれた日曜日の昼過ぎ、広島県にある田舎に突如、巨大な建造物が出現した。 それは巨大な門のようなもので、門の向こう側には見慣れない平原が広がっている。

 それを見かけた市民が警察に電話をかけ始め、初めはデマだと考えていた警察の職員もその情報が200件を超え始めたので、半信半疑で近くにいた警察官を向かわせた。

 サイレンを鳴らさずに静かに到着した警察官は通報された場所に到着したときに口をポカンと開けたまま呆然と門を見つめていた。

 その門は高さが30mを超えるようなもので、それを見た警察官はパリのエトワール凱旋門を彷彿させた。

 しばらく動かなかった警察官は、無線を持つと本部へ連絡を始めた。

 

「広島72から本部」

《本部ですどうぞ》

「通報があった現場へ到着、……エトワール凱旋門を確認」

《……もう一度情報を送信せよ》

「申し訳ございません、現場で未確認の巨大構造物を確認、形状はエトワール凱旋門ほどの巨大な門、門の内部は周囲の風景および照度が一致していない」

《……追って指示を出す、現場で待機せよ》

「了解、12時46分。 以上広島72」

 

 無線連絡を終えた警察官は、パトカーの近くに立ちながら遠巻きに門を眺め始めた。

 警察官が眺めている間にも野次馬が増え始め、市民から情報提供のあった一部のテレビ局のカメラマンが撮影を始めていた。

 

 無線を受けた本部にいる警察官は、近郊にいる他のパトカーを向かわせて現場を再度確認させて情報が事実と言うことを念を入れて確認させた後、門の内部を調査するように指示を出した。

 

 現状に到着している5名ほどの警察官が、拳銃を構えながら石造りの門の内部に潜入した。

 

 一人、また一人と内部に入っていく警察官。 

 それを映像に捉えようとしたTVカメラマンが警察官の後ろからカメラを構えて門に接近していた。

 だが、緊張している警察官はそれに気付かずに門の内部へと入っていった。

 5人の警察官と数人のカメラマンが門を抜けると、そこには大平原が広がっていた。

 

「……なんだここ?」

 

 初めに無線連絡を行った警察官がそう呟くと、構えていた拳銃を降ろした。 警察官が呆然としている中、カメラマン達は興奮した面持ちで撮影を開始していた。

 

「コレを見てくれ!」

 

 好奇心旺盛な一人のカメラマンが門の裏を撮影しようと門の裏手に回った時に大声を上げた。 それを聞いた警察官がギョッとした顔で民間人のカメラマン達を見つめていた。

 

「なんでここにいる?」

「それよりもこれを!」

 

 興奮するカメラマンの言動を訝しげに思っていた警察官が門の裏手に回ると、カメラマンが撮影している先に視線を送った。

 

「なんだよ……幻覚? この世界は……」

 

 通ってきた門の裏側、そこには入る前にいた場所ではなく広大な平原が広がっていたのだ。

 

 裏手から見える門は壁で完全に塞がれていた。

 

 それを見た警察官は何度か顔を叩いて正気かどうかを確かめていたが、何度顔を叩いても門の裏は変わらず塞がれていた。 

 一人で見ている幻覚だと考えた警察官は、門の表にいる警察官やカメラマンを手招きして呼び寄せた。

 何事かと駆け寄ってきた全員は、門の裏手を見ると固まってしまった……

 

 少しだけ固まっていた警察官の中にネット小説が好きな人間がいた。 その彼はもしかすると某小説の様に異世界に通じる門の可能性が高いと、期待を膨らませ始めていた。

 

「……おい、GPSが使えるものが無いか?」

 

 異世界ならGPSは無いと考えた彼は、硬直していた他の人間に質問した。

 その声で、飛んでいた思考を戻したカメラマンの一人がオドオドと腰につけていた登山用のGPSを渡してきた。

 彼がGPSの電源を付けて画面を覗き込むと、トンネルでもないのにGPSの電波が捉えられないとエラーを吐き出していた。 それを確認した警察官の彼は口元をにやけさせると歓喜の声を上げ始めた。

 

「……よっしゃぁ!」

 

 GPSの電波も一切無い世界。 それは強力な妨害電波が出ている訳ではない限り、未知の世界だと言う証拠となる。

 一応用心して無線妨害が起きていないことを確認する為に、腰に下げているレシーバーが通じる事を確認した彼は異世界であると確信した。

 

 しばらく調査をした後に門を通って未知の世界から広島の片田舎の土を踏んだ彼らは、それぞれが所属する組織に連絡を行うと、警察官はカメラマンにその動画を警察や県庁に送るようにお願いした。

 結果、その動画はテレビ局経由で警察に送られ、未知の建造物の情報と共に広島県の警視監(本部長)に送られた。

 連絡を受けた警視監は限られた情報から、この未知の事態が警察だけの手に負える事態ではないとして警察職員に現場を封鎖させるように命令を出してから県知事に連絡を入れた。

 

 その連絡を受け取った県知事は、市役所からも同様の報告を受けていたことから対策本部の設置を決定した。

 

 急に作られた特異現象対策本部を設置する為に県庁は慌しく動き始めた。

 会議室に置くお茶の手配から、未知の世界への対応の為に様々な有識者の招集などが大車輪に行われた。

 それと同時に広島県から日本国政府に指示を仰いでいた。

 

 だが、政府は黙殺した。

 実際は政府に届く前に職員が誤報として処理してしまったのだが、その事実を知る由は無かった。

 その頃の政府内部は、大規模な汚職がメディアにすっぱ抜かれた事によって連日大騒ぎになっていた。

 それによって衆参両院は麻痺し、各省庁でも事実確認などで大慌てになっていたのだ。

 

 そんな中に送られた、広島からの嘘みたいな報告……

 

 いきなり巨大な門が出現したと言う夢見たいな話を中央の人間が信じるわけも無く、汚職問題のほうが重要だったので誤報として処理したのだ。

 

 結果として、政府からの指示が届かない県は仕方なく独自で対策を練ることを決定した…… 

 

 その会議の結果、地域全体に避難勧告が出された。

 それがテレビやラジオ、防災無線などで県民に伝えられ、広島県庁からFAXで発令の理由が通達されると、ほとんど全てのテレビ局で特番が組まれ始めた。

 特番のタイトルは「広島で謎の避難勧告、一体何があったのか」や「広島県が県境封鎖!」などと言った内容で視聴者を引き付けていた。 

 広島圏内にローカル局をもつ大手のテレビ局は、すぐに中継車を避難勧告が発令された地と県庁に向かわせた。

 すでに門の内部を撮影していたテレビ局は、特番で「謎の避難命令、原因が判明!」と言ったタイトルで、門の映像を流し続けていた。

 

 避難勧告が発令された後、広島県の県境にある道路・鉄道などの県外につながる全ての交通網が警察によって完全に封鎖された。

 空港や船舶も例外ではなく、愛媛県行きのカーフェリーや作業中の漁船までもが警察によって呼び戻された。

 封鎖されたことに疑問を持った市民やメディアにより、市役所や警察に電話が集中し、以上トラフィックが発生して電話が不通となった。

 そのため、テレビ局のカメラマンらが県庁に大挙して押しかけた。 県庁に押し寄せた記者達が職員を質問攻めする中最低限の情報しか提供がされず、後日に公式会見を行うとしか言わなかった。

 

 

-----

 

 避難勧告が発令されてる一時間ほど前。

 

 対策本部になった会議室には、大車輪にかき集められた何十人もの人間が集まっていた。

 

 その中に、一人の女性がいた。

 

 彼女は、偶然にも県庁で家畜の伝染病対策の講義を職員に対して行っていたある大学の勤講師の人間だった。

 未知の門が出現した事件の結果、電話の異常トラフィックの対応や対策本部の設置などで県庁が混乱し始めていた為にその講義は中止された。

 対策本部に集める職員の一人が、講義が中断したので帰ろうとしていた彼女を引き止めて会議室の椅子に座らせた。

 

(何事よ、警察から自衛隊に保健所の人間までいるじゃない……)

 

 彼女、神代水木(かみよみずき)が一時間ほど会議室の椅子を暖めていると、ようやく対策本部の未知の門への対策会議が始まった。

 始まるとすぐに門の真偽から始まり、県知事によるテレビ局の映像と市民から寄せられた山のような画像データをプロジェクターで流して黙らせた。

 

 今は県知事が司会者状態となって対策やら市民への影響やらを話し合っていた。

 

「――では、次にこの門の向こうが未知の世界だと仮定してどのように我々が行動するかだ」

「日本国政府からの支持は?」

「……一切の音沙汰も無いからこちらで最低限の事はしておく必要がある」

 

 苦虫を潰したような顔をした県知事に警察の制服を着た人間が声を発した。

 

「県警としては現在、現れた門周辺を一時的に封鎖して野次馬達を近づけないようにはしている。 そして、報告にあった通り警察官とテレビ局員の内部潜入の結果ではGPSが繋がらず、道の世界が地平線の先まで続いているそうだ」

 

 警察は独自で門の守りを固めていたらしく、報告を聞くと50名ほどを動員して封鎖をしているらしい。

 それを聞いた後、様々な人間が口を出しながら会議が進んでいた。

 

「もし、現地から未知の生物が現れた場合にはどうするのですか?」

「もしもの可能性を考えると、避難勧告を行って周辺の市民を避難させるしか……」

「避難勧告を行うにしては証拠が少なすぎるので、調査団を派遣してはどうですか?」

「……そうだな、すぐにでも機材を持った調査団を派遣して別世界である証明が欲しいな。 では人員はどうする?」

「近郊の大学の教授や研究所に支援要請を出すしかないでしょう。 機材もそちらで準備をお願いするしかないですね」

「では、手配を頼む。 次は記者会見での……」

 

 ある程度の時間が経ち、水木は話が段々と計画が煮詰まってきたと感じてホッとしていたが、重要なことを忘れている気がしていた。

 

 書き取っていたメモには警察の対応や各省庁への報告、調査団の派遣など話し合った事が書かれていたが、その中に抜け落ちている物があると感じていた。

 

(抜けてるもの……そうよ、防疫は?)

 

 水木は、別世界なら家畜や人間に感染する未知のウイルスや細菌がいる可能性を思い出して、それを指摘する為に県知事の言葉を遮って話し始めた。

 

「神代水木です。 県知事、防疫はどうなさるおつもりですか?」

「……防疫? 必要あるのかね」

「えぇ、もし門の向こうが別の世界だと仮定するならば、未知の微生物やウイルスが存在する可能性があります。 もし、今のまま防疫をしなかった場合には……」

「その場合の最悪の想定はどうなる?」

「……未知のウイルスが存在し、そのウイルスが人畜共通のウイルスでエアロゾル感染(空気感染)、毒性が高い場合には、一切そのウイルスに耐性もワクチンも無い為に何千万人・何億人と言う人類が世界中で死ぬ可能性があります」

 

 県知事は目を見開いて水木を凝視していた。 水木の主張で騒がしくなった会議室で別の人間が水木に援護を始めた。

 

「保健所の大山です。 彼女の指摘は最もで、対策を採るなら徹底的にしなくてはパンデミックになる可能性も高く、未然にパンデミックを防ぐ為にWHOの支援要請も視野に検討するべきかと」

 

 水木の発言をきっかけにざわついていた会議室は、一瞬で静まり返った。 水木は保健所の援護に感謝しつつ県知事の言葉を待っていた。

 

 県知事は、もし二人の話が事実になってパンデミックが発生した場合の責任を考えていた。

 もし、パンデミックが起きて県に不手際があった場合には、世界中から広島県の対応が悪いからと総スカンを喰らう可能性もあるのだ。

 そうなれば罷免されると感じ取った県知事は、冷や汗をかきながら会議を続け始めた。

 

「ではどのような防疫措置を取るべきだ?」

「パンデミックを防ぐなら最低でも門から15km以内の人間と家畜を完全に避難させ、近くにいた人間を最低でも一ヶ月は隔離しDNA検査などを受けさせること。 そして、病気が県に蔓延する前に県を完全封鎖する必要があります」

「だが、県を封鎖するとなれば事務的にも財政的にも問題が……」

「もし、全世界規模でパンデミックが発生して何千万人・何億人が死ぬ場合の不利益と、事務手続きと何百億程度の県の損失のどちらが重要ですか?」

 

 水木の質問に県知事は黙り込んだ。

 その様子に水木は県知事が悩む理由を理解しながらも主張を続けた。

 

「しかし完全封鎖は……」

「国が動かないなら県でするべきでしょうし、もしこれで病原体の感染を食い止められたら県の危機管理能力の高さが世界的に評価されるのではないでしょうか?」

 

 メリットを付け加えながら話す水木に、県知事はついに折れた。

 

「警察、自衛隊で何とか出来ないか?」

「自衛隊は動くのに省の許可が出るまでは動けそうに無いです」

「警察は?」

「県警だけでは県境全てに手が回りません。 県境を封鎖した場合の混乱に備える為にも、出来るなら市や県の職員にも県境の封鎖を手伝ってもらわなくては……」

「それなら問題ないが、他県の警察の支援は得られそうか?」

「事情を説明すれば可能です」

「よし、それでは防疫の件で煮詰める以外で意見は無いか?」

 

 追加で聞かれた得意分野に水木は少しだけ全体で話すことが嬉しくなり、饒舌に答えはじめた。

 

「先ほどの調査団ですが防疫の観点から言わせていただきますと、完全防備の防護服を来た人員を派遣しなくてはならないと考えています。 自衛隊が動けるなら良かったのですが、NBCテロ対応専門部隊に調査用の人員をくっつけたほうが安全だと考えています。 もし未知の知的生命体や生物に襲われた場合を考えますと……」

「……警察側としては動けるか?」

「動けますが立ち入り禁止区域の防疫任務に就く可能性が高いので少人数になる可能性は高いですね」

「派遣は可能ですか?」

「……えぇ、もちろん」

 

 この調子で会議は長々と続き、途中で県知事が避難勧告の命令を下したり、警視監が警察本部に連絡を取って行動を開始するなどと言った事をした後に記者会見が行われた。

 

 水木などの研究者などは、対策本部に呼ばれた人間は一部が記者会見の現場に向かい、残りの人間は後日に行われる調査団の選定などを始めた。 4時間ほどで選定を終えて各自は準備の為に自宅などに戻っていった。

 

 次の日の昼にはNBCテロ対策専門部隊の人間と調査団の人員が合流した。 水色と白のラインが入った警察のワンボックスカーに分譲して現地へと発った。

 

 その中には、神代水木(かみよみずき)などの対策本部の人間も多数参加していた……

 




 tamatyann220です。
 
 6月になろうで上げていた小説を改稿して直してから上げて見ました。
 数ヶ月前のを呼んでみると、凄く恥ずかしかったので……

 改めてみると整合性やらがおかしかったので大規模に殆ど書き直しました。

 集中すればすぐに終わるのですが……

 11時から2時半まで考えたりプロットを考えたりしながら小説を打ったり直していたりしました。

 ISの二次も書いてはいますが、こっちを優先しました。 すいません……

 駄筆な小説ですがよろしくお願いします。

 誤字脱字、感想や批評などがあればお気軽に感想をお願いします。

 感想で凄く上機嫌になって書いてします作者です ←

 


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一話 女研究者と騎士団長

 

 警察のワンボックスカーに分乗した県の調査隊は、幾重もの検問を通り抜けて未知の門の近郊まで来ていた。

 あと500mほどで門に到着するというくらいの距離で下車した水木らの一行は、ワンボックスカーから降り、その場で立てられた巨大なエアテントの中に入った。

 

 集まった調査隊の面々が入ったところで水木は今回の調査の最終確認を始めた。

 

「それでは今回の調査の内容を確認します。

 今回の調査では未知の世界の微生物および植物などを手早く収集することを目的とします。

 これは緊急の行動を政府……いや、WHOによる未知のウイルスの封じ込め作戦を要請する為の資料となります。

 防護服の空気ボンベの容量が30分ほどなので時間はそこまでありませんが、土壌・空気・微生物のサンプリング、重力や磁場などの天体情報なども出来る限りサンプリングを行ってください。

 もし、その作業中に防護服が破れた場合にはすぐに申告してください。

 昨日に門の向こう側に潜った警察官とメディアの人間と同じく数週間の隔離が行われることになります。

 では、防護服を着用し次第行動を開始します」

 

 水木はそう言うと、近くの机に置いてあったオレンジ色の防護服と空気ボンベを手に持った。

 

 防護服には4つの基準があってAからDまでの四段階に分類されている。

 水木ら調査隊が着用する防護服はレベルAと言う最高レベルの物で、生物兵器や化学兵器のばら撒かれた地点に入る為にも使われるものだ。

 だが、この防護服は空気ボンベがあるので重たく、空気ボンベの容量で活動時間は20分から30分ほどと短いのだ。

 

 そのレベルAの重たい防護服を被ってまで行う作業に水木は少しだけ気が重くなった。

 

「さて、まずはボンベを背負って……」

 

 水木は久しぶりに着用するそのオレンジ色の防護服を着ようとしていると、隣にいた生物学の教授がこちらを見ていた。

 

「神代さん、これ……どうやって着るんですか?」

 

 それを聞いて水木は、エアテント内にいる調査隊の面々を眺めた。

 警察のNBCテロ対策専門部隊の人や保健所の人は慣れているためか手早く着用しているが、大学教授など防護服を着る機会のない人は着れない人同士で固まったままだった。

 

(しょうがないよね……)

 

 水木はハァ…と溜息を付いた後、学校の先生の様に振舞い始めた。

 

「着れない方はこちらに集まってください、教えられる人は周りの着れない人に教えてあげて下さい」

 

 水木がそう言うと、警察や保健所の人がハッと気付いて近くで困っている人に教え始めた。 それを見届けると、水木の周りにも7人の着れない人が集まっていたので指導を始めることにした。

 

「まず、貴重品を外してから空気ボンベを背負って下さい……」

 

 水木は防護服を着たことも無いような人間に、一から防護服の着用の方法を教えていった……

 

 ◇

 

 全員が防護服を着用するまでに約30分掛かった。

 ようやく全員が防護服を装着出来たので調査隊の面々はそれぞれ機材などを持って門へ向かって歩みを始めた。

 防護服には双方向通信機が備え付けられているが、ボタンを押したりなどの操作ができない為に常時電源が入れっぱなしになっている。

 そのため、門をくぐる度に調査隊の面々あげる感嘆の声が機械越しに良く聞こえた。

 最後尾にいる水木は先に入った人間があげる声を聞いて緊迫感が高まっていた……

 

 

 

 そして水木は見上げるほど大きく重厚な門の中に入った。

 地面から門の天井まで高さは10mを超え、横幅もかなりある。 黒ずんだ壁を眺めながら門を抜けると、日本では考えられない風景が水木の眼前に広がった。

 

「……すごい」

 

 水木も門をくぐり終えた先にある光景に感嘆の声をあげた。

 

 少しはなれたところに見える高台や近くにある森など辺りを見回しても大きな山が一つ見当たらないのだ。

 日本の国土の大半は山みたいなものなので、この光景だけでも日本ではないと直感できた。

 

 しかも、人工物が何一つ無いのだ。

 

 例外はくぐり抜けた門だが、その未知の世界側の門は日本側に現れた門よりも汚れていた。

 

 その門の周囲では警察の人が作業をしていて、常時監視用のカメラを設置したり、電気コードを日本側の門から引いたりなどと言った門の出入りを制限・監視するための作業を行っていた。

 

 他の調査班の人間も、土壌をさらったり、水溜りの水を採取したり、大気の濃度などを測定したりなど各々が行動を開始していた。

 防護服を着るのに戸惑っていた大学教授の一人と一緒に呆然とそれを眺めていた。

 

「神代さん……すごいですね」

 

「……えぇ、この世界って宝物の宝庫かもしれません」

 

「生物資源だけでも未知だらけでしょうし、資源まで合わせたらどうなるやら……」

 

「資源があるならどれだけの国が狙ってくるか……」

 

「やっぱりそうなりますか……自分達同じ日本人同士で団結して当たらないと大変ですね」

 

 感慨に耽っている大学教授を驚かせようと水木はチョットしたネタを出すことにした。

 

「それは同感するんですが、私はアメリカ人ですよ?」

 

「えっ、神代さんアメリカの方だったんですか?」

 

「父親が在日米軍で母が日本人なんです」

 

「じゃあ、小さい頃は基地で?」

 

「いえ……国籍は変えなかったので日本国内で過ごしましたよ」

 

「なんでアメリカの国籍を取ったんですか?」

 

「まあ、研究がアメリカの方が資金が潤沢だったのアメリカの国籍を取ったんです。 半年後にはアメリカに戻る予定でしたが、予定は変更しそうですね……」

 

「そうだったんですか……って時間がない! じゃあそろそろ調査を始めますか」

 

「分かりました。 また後で……」

 

 そう言うと、生物学者とか言った大学教授は門から離れたところで何やら道具を取り出して地面を突き刺し始めた……

 

(私も作業しないとね……)

 

 数分のおしゃべりを終えた後、大学教授の調査を見ていた水木は、慌てて準備していた道具類を持って動き始めた。

 

 10分ほど門から離れた高台の方に離れ、培地(微生物を育てる為の成分の入ったゼリーみたいな物)の入ったシャーレを取り出した。

 

 そのプラスチックのシャーレを地面に置くと、シャーレの蓋を開けた。

 

 これは空気中の微生物を取る為のもので、地球上の微生物と同様の成分で育つならば未知の微生物が採取できる可能性があるのだ。

 

 これは採取し次第、このシャーレなどの献体はアメリカの研究所に送られることになる。

 

 日本にも国立感染症研究所と言う高レベルな研究所があるにはあるのだが、近隣住民の反対があってただの封じ込め実験室として使われている。

 最高レベルになると、映画のバイオハザード的に防護服を着て作業することになるのだが、そのレベルの実験を行うには大臣確認が必要になるのだ。

 

 今は時間が無い為、日本を通り越してアメリカの研究所に発送することが決定し、受け入れ先からの許可も得てある。

 別の感染症の菌体を特定する為にアメリカに送ったと言う実例があったので許可は即刻出たのだ。

 

 水木は微生物の付着を待つ間にすることもなく、風景をのんびりと眺めていた。

 のどかな雰囲気のある草原に巨大な門がそびえ立ち、その周囲をオレンジ色の防護服を着た人間が歩き回ると言う珍妙な光景をじっと眺めていた。

 

(ほんと、映画みたいよね……)

 

 戻る為の時間も必要だったのでそろそろシャーレを片付けようと考えていると、ふと水木の着る防護服越しに変な音が響いていることに気付いた。

 

 まるで何かが地を蹴って進んでいるような重低音が響いてきたので、水木は何事かとその音がする方向に身体を向けた。

 

 1kmほど先、門から見えた高台のほうから何かが迫ってきていた……

 

 それは馬のような生物に跨る中世の騎士のような姿の生物だった。

 

 数はおよそ20騎……それが私めがけて一直線に突き進んでくるのだ。

 

 信じられない事態に水木は一瞬思考を硬直させていたが、あと少しで自分を通過すると言うときに我に帰って無線機で指示を飛ばした。

 

「全員、急いで逃げて!」

 

「なぜですか?」

 

 無線機の向こうから困惑した声が聞こえたが、緊急事態に違いないので無視して現状を伝え始めた。

 

「未知の世界から話も通じるか分からない生物の群れが突っ込んでくるからよ!」

 

「神代さんは今どこに?」

 

「高台だけど……って早く逃げて!」

 

 水木の目の前でその生物は剣らしき物を抜いて、殺気のようなものを感じてしまったので無線機越しに叫んでしまった。

 

 硬直する水木に向かって進んでくる生物。 その上に載る人間のような生命体……

 

 その生命体は抜いた剣を横に出して、水木の側を通過するのと同時に横腹を防護服ごと切り裂いた。

 

「ウグッ……」

 

 強烈な痛みと共に地面に倒れた水木は、何十もの生物が横を通過する音を聞きながら血が湧き出すわき腹を必死に押さえていた。

 

(なに……よ、なんな…のよ……)

 

 苦しみと共に水木の心には理不尽に切られた怒りの情が湧き出した。

 無線から流れるほかの調査隊の声を聞きながら、水木は最後に力を振り絞って言葉を紡いだ。

 

「…ささ…れた……映像……アメリカに…おく…て……」

 

 かすれる意識の中、最後に見たのは火の弾が調査隊の面々に直撃して火達磨になっている光景だった。

 そしてその光景を見ながら水木は意識を暗転させた……

 

 

 ◇

 

 

 目を開けると、純白の病院の天井ではなく、素朴な木製の天井だった。

 

 体を起こしてみると、防護服どころか衣服を一つも身に纏っていないことに気がついた。

 

 水木は体中を確認したが、斑紋や喉の異常、四肢の痙攣など病気の兆候は無かった。

 ここが病院なら最低でも一つぐらい医療機器があっても良いはずなのに、ここにはベッドと棚と言った質素なものしか置かれていなかった。

 下手したらどこかの田舎の宿みたいに見える場所で水木は一人、全裸で眠っていたらしい……

 

 呆然としている中、水木はわき腹を切られたことを思い出して慌てて傷口を確認した。

 

「切れてない……」

 

 確実にわき腹を切り裂かれたはずだった……

 なのに紅い線を残して綺麗サッパリと皮膚同士何事も無かったように結合していた。

 

(……なんで、皮膚が再生してるの?)

 

 水木は首をかしげながら皮膚を撫でていると、大きな木製の扉から一人の男が入ってきた。

 

 白人の様に肌が白く、金髪の中年くらいの男で、中世ヨーロッパのような甲冑を身に纏い、物騒なことに水木を切り裂いたのと同じ剣を装備していた。

 

「xxx、xxxxxxxxxx(おい、起きたのか娘)」

 

「だ、だれよ……」

 

 男の言う言葉が何一つ分からず、智香はベッドの上で後ずさりながらその男を見ていた。

 

 数秒間、にら意味合いが続いた後、急に男が唾を嚥下して、顔を上気させていた。

 水木はなぜ顔を紅くしているのかわからなかったので首を傾げて自分の体を見てみると、柔肌を晒したままだった。

 

 下半身だけしか下着をつけていない状態、しかも貧相な体を見ず知らずの男の前で晒していた事に気がつき、顔を真っ赤にしながらシーツで胸元を隠した。

 

「きゃあっ……」

 

 智香の一声で我に帰ったのか、甲冑を纏った男は私に背を向けた。

 

 そのとき、急に閉まっていた扉を開いて複数の男が乱入してきた。

 

「xxxxxx、xxxxx、xxx(団長、どうかしました……えっ)」

 

 ドタドタと扉を乱暴に開けて騒がしく入ってきた男達は私の姿を見たとたん硬直した。 だが、男達は劣情の視線と言うよりも品定めをするような視線を智香に浴びてきた。

 言葉が通じなくても感じるその嫌な視線に水木は段々と恐怖を覚え始めた。

 

(何? 何なのよ? 私が何かしたって言うの?)

 

「xxxxx!(出て行け!)」

 

 甲冑姿の男が何やら一喝すると、彼らは慌てて扉から出て行った。

 彼らは目の前に居る甲冑姿の男の部下らしい……

 

 水木はその隙に棚の上に見えた血で染色されたブラウスを羽織り、スカートを急いで着けると目の前の男に声をかけた。

 

「あの……ここはどこですか?」

 

 すると、甲冑姿の男がゆっくりと振り向いてきた……




 完全にスランプ状態です。
 
 息抜きと勉強の為のこの小説ですが、ISのほうも滞ってるのではぁ…といった状況です。
 
 書いても書いても幼稚に感じてしまうと言う……

 こちらは息抜きで書いているようなものですが、応援いただけるならよろしくお願いします。

 おまけで感想などあればありがたいです。


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魔族と日ノ本 近衛騎士団出立!

 ちょっと説明が多いです。
 今回は異世界がメインです。
 新キャラでます。
 
 


 

 剣と魔法によって勃起した一大国家の一つにヴェルラージ王国と言う国家が存在している。 この王国は、最近まで王位継承権の争いで国家を半分に分ける争いが起きていた。

 

 幸いにも隣の帝国との境は険峻な山脈地帯に遮られ、通り道も山脈の回廊地帯を通る街道と遠回りになる海だけだったので侵攻は無かった。

 現在、この王国の継承権争いは終盤に差し掛かり、ほとんど掃討作戦に近い状態にまで落ち着いていた。

 

 そんな中、王国近衛騎士団隊長のイシュダルト・マリエルとその配下の軍勢は、辺境にある地へと向かっていた。

 彼らの目的は他の騎士団と同じ残党探しではなく、一つの魔術遺跡を視察することが目的だった。

 

 その魔術遺跡とは転移門のことで、それは過去に滅んだ魔導国家の遺産の一つなのだ。

 

 

 かつてこの大陸には一つの巨大な帝国があった。

 その帝国は優れた魔法の技術を誇り、広大な大陸の半分を支配するほどの勢いを持っていた。

 帝国は各地に瞬間移動できる門を設置し、ゴーレムなど様々な魔導兵器を開発していた。

 

 そんな研究の中の一つに、エスパス・エトランジュ(異空間)と呼ばれる門があった。

 

 その門は帝国で偶然開発された物であると伝承では記録されている。

 どのように作られたなど詳しい記述は残っていないが、転移門については歴史書の中に記述があったので下記に抜粋する。

 

 

 旧帝国の歴史 魔族との争い・要約編  マリア・ベル著書

 

 

『彼の門を開いた帝国が見たのは「栄光の土地」と名付けてしまうほど肥沃な世界だった。

 彼の門を偶然開き、向こう側の見た帝国は彼の地へ何度も兵を送ったが、そのたびに疫病に襲われ帝国の力は徐々に減衰していった。

 この歴史書ではその衰退の歴史と魔族の歴史を簡素に紹介する。

 

 彼の地で帝国が見たのは魔の力すら使えぬ黒髪の蛮族が跋扈している光景だった。

 蛮族は帝国の人間を見ると、血に飢えた野獣のように襲い掛かってきたのだ。

 

 だが、我が帝国は「栄光の地」と名付けた地の蛮族を偉大なる魔法により駆逐し、平定した。

 

 平定した後、「栄光の地」に始めてたどり着いた帝国の人間はその地の肥沃さと雄大な風景に感服した。

 

 だが、日数が立つほどに「栄光の地」に降り立った人々の顔に笑みが失われていった。

 

 「栄光の地」では、なぜか帝国の穀物が一切育たず、現地の食料を調達しようにも、どれが安全かすらも蛮族を駆逐した為に分からずじまいだった。

 平定した地から離れた蛮族に聞こうにも言葉が一切伝わらず「ONI」や「TENGU」と言う言葉を残して逃げ惑う……

 帝国から運ぶ穀物で糊口を凌ぎながら現地の食べ物の調査をする中、次第に「栄光の地」に降り立った人間に疫病が広まり始めた。

 

 疫病が始めに広まったのは軍からで、軍から次第に「栄光の地」を開拓しにきた開拓民に広まっていった。

 だが、疫病は「栄光の地」にすむ人間だけでは物足らず、我が帝国を始めとして大陸全土に猛威を振るった。

 

 疫病により帝国全土が混乱に包まれる中、蛮族の逆襲が始まった。

 

 魔法が使えないと認識していた帝国は、立ち向かってくる蛮族を単なる魔獣の群れの様に捉えていた。

 

 そのため、白と赤の服を纏った女や、黒い帽子の様な物を被った男達が使用した見知らぬ魔法に帝国は混乱した。

 

 紙らしき物を使用した術や未知の魔物。

 夜には「栄光の地」に住む人間は悪夢に襲われ、昼には幻覚を見る。

 疫病と共に襲ってくる数多の蛮族……

 

 食料も乏しくなる中、我が帝国は平定した土地を手放しつつあった。

 

 帝国の数ヶ月の攻防の末、「栄光の地」は血で染まり、我が帝国はやむなく「栄光の土地」を手放すことを決定した。

 

 そして帝国軍が「栄光の土地」から撤退した後、転移門で対峙する蛮族と帝国軍……

 

 疫病と戦で疲弊した帝国は、徐々に転移門への締め付けが緩み始め、そこから蛮族の進入を許してしまうことになる。

 

 門から我が帝国の領土に侵入した蛮族は、これまでの報復と言わんばかりに各地の田畑や村を焼き、新たな疫病を振りまいた。

 

 彼らが通った後は道は血で染まり、田畑は穀物の苗一本残らず刈りつくされていた。

 それは後に伝説で伝わる魔族軍に襲われた様な凄惨な光景と伝えられた。

 

 帝国の人間は次第に、転移門から現れた蛮族を魔族と言って恐れ始めた。

 黒目に黒髪、この大陸には居ない人種……

 黒は悪魔の色と言われて忌避されるようになったのもこの頃だった。

 

 蛮族――後の魔族による被害がさらに広がる中、皇帝は勇気ある者と魔力の高い賢者を集めた少数の手勢を転移門を抑えた魔族を討ち滅ぼすべく送り込んだ。

 勇気ある者の一行は各地で魔族を打ち倒しながら、転移門へと向かい、後世に残るほどの戦いを繰り広げた一行はついに転移門を封印することに成功した。

 

 その結果、「栄光の地」から帝国を切り離す事に成功する。

 

 そして、帝国に侵攻してきた魔族を見つけ次第処刑することでこの災厄は終結した。

 

 この史実が彼の有名な「シャイターンの勇者」と言う物語の原点となったのである。

 

 しかし、肥沃な「栄光の地」を求む歴代皇帝は、転移門を度々開けて手勢送り込んで平定しようとしていたが、結果として帝国は度重なる疫病と魔族との戦いの影響で衰退してしまった……

 

 帝国が衰退した後、このエスパス・エトランジュ(異空間)と呼ばれる転移門は、ヴェルラージ王国が代々封印の儀式を行っており、現在のところ開かれてはいない……

 出来ればこの門が再び開かぬことを祈る』

 

 

 そんな魔族の住む地へと繋がる転移門。

 それを管理する王国で国家を二分にするほどの内乱が起きたらどうなるだろうか?

 

 ヴェルラージ王国は対外的に涼しい顔をしながら、度重なる内乱を戦ってきた。

 

 そんな内乱の最中、天に浮かぶ二つの月が交差する夜に行う儀式、それは何十年に一度しか訪れない日で、ヴェルラージ王国はその日に封印の儀式を行うことが出来なかったのだ。

 

 ヴェルラージ王国は必死に封印の儀式を行ったと諸外国を誤魔化しながら内乱を鎮圧した。

 内乱と言う一大をを乗り切ったあと残されたのが封印の解除と言う大陸を巻き込みかねない重大事項。

 事の重大さに恐々とした王や重鎮が慌ててマリエル率いる近衛騎士団を隠密に送って調査に当たらせる事となったのだ…… 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 転移門から馬車で一日という距離にある村に、イシュダルト・マリエル率いる近衛騎士団は滞在していた。

 

 騎士団のメンバーはその村で休息を取りつつ、さり気なく魔族が現れていないか聞き込みを行ったが、一度も見たことはないと村人は口をそろえて言っていた。

 

 近衛騎士団長のマリエルはその報告を聞いて、現地を直接見てもいないのに少しだけ安堵してしまった。

 

 もし、あの転移門が解放されてしまえばヴェルラージ王国は周辺諸国から見捨てられかねない。 いや、それよりも早く魔族の侵攻によって壊滅させられてしまうかもしれないのだ。

 

 マリエルは、このまま帰って異常なしと報告して国王からの重圧から解放されたかったが、王宮に出す情報はきちんと自分の目で確かめておく必要があるため、その誘惑を断ち切った。

 

 あぁ、胃が痛い……

 

 ふぅ……と、憂鬱げに溜息を吐いたマリエルは、配下の騎士に現地で調査のために必要な食料数日分を馬車に詰め込ませ、騎士団と数台の馬車の列は転移門へと向かって行った……

 

 

 

  ◇

 

 

 

 異世界へと繋がる転移門までは、馬車でおよそ一昼夜かかる。

  

 二日ほどかけて現地に到着した一行は、門が開いていないことを確認すると歓喜の声を上げた。

 

 だが、封印の儀式を行うはずだった年月からは幾年か経っている。

 

 もしもいきなり封印が解けると言う最悪の場合に備え、転移門から離れた場所に野営の支度を始めた。

 

 次の日からは門の封印を支える竜脈(地面の魔力の通り道)の測定や封印解除率など様々な事を調べる予定だ。

 幸いにも門が開いてなかったので、安心と野営地で書類を作成していたマリエルは、筋肉ゴリゴリの男に呼び止められた。

 

「おい、マリエル。 なんで転移門の近くで野営しないんだ? 移動が面倒だ」

 

 マリエルの目の前には幼なじみの男がいた。

 そいつは脳まで筋肉で出来ているような男で、戦闘では役に立つのだが、戦闘以外には全く関心を持たない男なのだ。

 

 マリエルは目の前に居る、ヴェルラージ王国で随一の剣の腕を持つ、腐れ縁の幼なじみであるベンドルマンを少し疎ましそうに見ながら口を開いた。

 

「だから前にも言ったろうが、ベンドルマン! 封印の儀式が行われず何年も放置された遺跡の封印が解けて魔族が急に現れたらどう対処するつもりだ?」

 

「魔族なぁ……」

 

 ベンドルマンはごっつい首を傾げて分からないという風な態度を取った。

 幼子でも童話で知ってるような魔族の事ぐらいは知ってるだろうと、マリエルは軽く挑発するように言った。

 

「まさか魔族の特徴を知らないわけないよな? 子供でも知ってるぞ」

 

「知らねぇよ、いるかどうかもわからねえ魔族の特徴なんざさぁ」

 

 当たり前の様に言うベンドルマンを見て、マリエルは唖然して困惑した顔を浮かべたが、「あいつは脳筋なんだ……」と感じて、強烈な脱力感に襲われた。

 

 あの全国民愛読書の「シャイターンの勇者」を読んだら腐るほど出てくるだろ……

 と言うかこの前、王都の野外楽団がやっていた喜劇シャイターンの勇者をエールを飲みながら一緒に見てたろ、この脳筋野郎……

 

 ブツブツと、どこぞの浮浪者の様につぶやいていると、ベンドルマンがマリエルの苦悩の原因を知ってか知らずか、マリエルの肩をバシバチと叩きながら剛毅に笑ってきた。

 

「そう陰気になんなよ……で、どんな特徴なんだ?」

 

 流石に出てくるとは思わないが、一般常識だから教えるのは仕方ない、と渋々ベンドルマンに魔族の特徴を教えることにした。

 

「……すぐに判別出来るのは黒髪だ。 この世界には黒髪がいないから誰でも一瞬でわかる。

 奴らは過去にあの大帝国を混沌に陥れ、虐殺と混乱をまき散らした諸悪の根元だから見つけ次第教会で処刑されたりギルドで討伐依頼が出ている」

 

「黒髪ねぇ……俺、黒髪の子供なら一年前に一匹拾ったぞ」

 

「はっ?」

 

 脳天気に笑うベンドルマンをマリエルは口をあんぐりと開けたまま凝視した。

 

 ベンドルマンでもまさか魔族を……

 って、そもそもどこで拾ったんだ?

 と、言うか使用人は止めなかったのか?

 そもそも半年前って、教会から捕らえたと報告は入ってないから、ベンドルマンが飼ってるのか?

 

 マリエルは想定外の返しをされて混乱してる中、ベンドルマンは更にとんでもない事を口にした。

 

「いやぁ、大変だったぞ! 拾ったのは一年前だが、言葉が通じないから忠誠の厚い使用人に任せて言葉を学ばせて……

 その子供に聞くと、ニホンとか言う国から迷い込んだらしいんだが、奴の話は突拍子のないものが多くておもしれえんだよ!

 ドラゴンでも無いのに鉄の塊が空を飛んだりとかあっちの国の成り立ちとか情勢とかさ」

 

 ニコニコと面白そうに話すドンベルマンの話を聞いてマリエルの頭がクルクルと回り始めた。

 

 魔族との意志疎通? 魔族の世界の情勢に技術……?

 

 これまでこの大陸では魔族を見かけると情け無用で処刑してきた。

 この大陸全体に突如として現れる魔族を発見し、殺してでも良いから捕らえると、ギルドで討伐褒賞をもらえるような世界なのだ。

 討伐した魔族が持っている所持品は特殊な魔道具の可能性もあるので、ギルドを通してすべて国家が回収している。

 

 もし、脳筋のベンドルマンが言う通り言葉が通じるなら、その魔族には価値が出る。

 

 これまで殺してきた魔族の魔道具の解析に魔族の戦い方、その弱点も聞き出す事が出来るかもしれないのだ。

 

 もし、教会に匿っていることがばれてしまえば、希少な魔族が処刑されてしまう可能性があるので、マリエルは周囲を警戒するように言葉を発した。

 

「教会に報告はしてないよな?」

「するわけないだろ、黒髪ぐらいで……めんどくさい」

 

 マリエルはなんとも無い風に装いながらも、内心小躍りしていた。

 

 脳筋、幼なじみでありがとう!

 

 マリエルは表情を一つも変えず、久しぶりに心の中でベンドルマンを褒めていたが、ベンドルマンは何かに感づいたようにこちらを睨みつけてきた。 

 

「変なこと思ってなかったか?」

 

「……いや、それはない。 王都に帰ったらその魔族に会えるか?」

 

「はなしを聞かせるぐれぇなら問題ないだろ、帰ったらな」

「じゃあ、よろしく……」

 

 マリエルは、ドンベルマンに背を向けると、この面倒な任務について久しぶりに笑った。

 

「……もう寝るか?」

「……そうだな」

 

 空を見上げると、二つの月が闇夜の大地を照らしていた……

 




 どうもですtamatyann220です。
 今回は硬いかもしれないですね……
 主人公が拉致されるのは次回になります。

 お気に入り登録と感想ありがとうございます!

 来たから次も頑張らなくては……


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魔族と日ノ本 近衛騎士団の攻撃と撤退!

 

 近衛騎士団が転移門の近辺に野営地を設置してから4日過ぎた。

 その間に、地中を流れる魔力の流れ(竜脈)を測定したり門の状態を確かめるなどと言った調査が行われた。

 

 近衛騎士団長のマリエルは連れて来た魔道研究者と結果について話し合っていた。

 

「……で、門に魔力が溜まっていると?」

「はい、過去のデータよりも数倍ほど竜脈からの魔力が流れ込み、門周辺で緑色の光が一時的に現れるなど、封印が解けかけていると言う予兆が見られました」

「緑色の光に害は無いのか?」

「えぇ、光自体はただの魔力が視覚化した様な物なので問題はありません。 ですが、相当量の魔力が転移門に集められているのは確かです」

「転移門が開く時期は分からないのか?」

 

 マリエルがそう聞くと、魔道研究員の男は申し訳なさそうに答えた。

 

「代々、転移門を研究してきた我々でもいつ封印が解けるかすら分かりません。 封印の条件まで指定してあるような転移門にどれだけの魔力が必要かすらわかって無い状態なのです……申し訳ございません」

「王宮へ報告の必要があるな……」

 

 マリエルは近くで休んでいるはずの若手の騎士を呼び寄せて、早馬を立てることにした。

 そのため、マリエルは魔道研究者の男からの報告を終らせ、伝令用の紙に書状をしたため始めた。

 

 数十分後、騎士の一人を呼び寄せ、書状を見せた。

 

「では、これを王宮に届けてくれ」

「伝令ですか?」

「そうだ。 伝令が遅れて部隊の到着が遅くなると、最悪魔族が現れる可能性があるから急いで送ってくれ」

「……はっ、かしこまりました」

 

 マリエルは書状を渡した一人の若い騎士に緊迫感を持たせてから書状を渡すと、その若い騎士は少し青い顔をしながら馬の元へ駆けていった。

 

 しばらくして若い騎士がきちんと王宮に向かいだしたのを確認すると、マリエルは気になっていたことがあったので先ほど話していた魔道研究者の元へ向かった。

 

「ちょっといいか?」

「はい、どうされましたか?」

「こんなところまで魔力が増えるのか?」

 

 考え事をしていた魔道研究者の男がマリエルの言った言葉に反応して周囲を見渡すと、転移門から多少離れた野営地内にまで緑色の光が地中から漏れ出し始めていた。

 顔をゆがめた魔道研究者の男は顔を曇らせていた。

 

「ふっ、封印が解け始めているのかもしれません。 それと伴って地中の魔力が高まりだしたのかも……」

「封印が解けるのが近い、か」

「そうで……」

 

 魔道研究者の男が口を開いたその時、ギチギチと結界に圧力を受けているような音が響き渡った。

 マリエルと男はお互いに顔を見合せると、慌てて音のした方向に向かった。

 

 高台に伸びリ、音のした方向を見ると異様な光景が広がっていた。

 

 転移門の周辺に漂うエメラルドの様な緑色の光を放つ粒子。

 その光の粒子が一気に濃くなり、足元からも大量の魔力が放出され始めた。

 その緑色の光の粒子によってマリエルの視界が完全に覆われた時、ガラスが砕けるような音が聞こえた気がした……

 

 

 ◇

 

 

「――エル……起きろや、マリエル!」

 

 頬を引っ叩かれ、肩を揺さぶられて強引に起こされたマリエルは、イライラしながらも立ち上がった。

 目の前には脳筋のベンドルマンが顔をゆがめて立っていた。

 

「もっと優しく起こせよベンドルマン!」

「それどころじゃねぇよ、アレ見てみろ」

 

 珍しくまともなことを言ったベンドルマンが指差す方向を見て見ると、緑色の光の粒子(魔力)を発していたはずの転移門が鎮座していた。

 一見して何も問題の無いように見えたが、先ほどのような濃い魔力が感じられるわけでもなかった。

 不思議に思ったマリエルが転移門をじっくり観察してみると、先ほどまで硬く閉じられていたはずの門が完全に開き、解放されていた。

 

「……どういうことだ、まさか?」

 

 マリエルは息を呑んでドンベルマンの方を見た。

 するとドンベルマンは無言のまま頷いた。

 

 マリエルは再度伝令を送る為に書状を書き始めたが、半分ほど書き終えた頃にドンベルマンが牛の様にマリエルめがけて突っ込んできた。

 

「あぶない、一体どうしたんだドンベルマン?」

「俺らが失神してからもう一日は過ぎてる……」

 

 少し気絶しただけだと考えていたマリエルは口をポカンとさせてドンベルマンを見ていた。

 

「ははっ、まさか少し気絶しただけだろう?」

「いや、焚き火を見たんだが温度的にも一日は過ぎている、ちょっとこい!」

 

 ドンベルマンはじれったくなったのか、マリエルの腕を引っ張って焚き火の跡にまで連れて行った。

 うんざりした顔のマリエルが焚き火の跡に手を近づけて温度を確認すると、急にマリエルの顔が深刻な表情に変わった。

 

「……だな」

「だろ」

 

 マリエルは時間が無い、と感じながら急いで騎士団員全員を招集し、指示を出し始めた。

 

「……おい、若いの数人は王宮に報告に走れ」

 

 マリエルの言葉に反応した数人の騎士団員が慌てて馬に飛び乗って、転移門に背を向けて走り出した。

 

「残りは完全武装で転移門に近づき調査を続行する。 したがって三十分後には高台に集まってくれ」

 

 マリエルはそう言うと、そそくさと甲冑を着けるなどの準備を行う為に自分のテントに戻った。

 

 

 

 

 マリエルの騎士団は三十分かかる前に転移門を一望できる高台に上がっていた。

 再度マリエルが指示を出そうとしたところで、転移門を監視していた魔道研究者に遮られた。

 

「騎士団長! 転移門から魔物が……」

 

 マリエルは魔道研究者が指さす方向を慌てて確認すると、転移門からワラワラとオレンジ色のゴブリンの様な魔物が出てきていた。

 

 その報告を聞いて転移門を見た団員達の一部が恐怖に顔をゆがめていた。

 

「おいおい、まずいだろ魔族か?」

「いや、黒髪黒目だろ? 魔界の魔物だろ」

 

 ざわめきが徐々に大きくなり魔物に気付かれる可能性があったのでマリエルは少し口を尖らせた。

 

「黙れ! あと、殺気を殺せ!」

 

 その言葉を聞いて騎士団員は静かになったが、一部の団員が剣を既に抜き命令を待っていた。

 

 マリエルも、既に剣を抜いている団員達が考えているであろう「早く戦いたい」と言う衝動に襲われたが、門をくぐり抜けて警戒している可能性の高い魔物の前にすぐに躍り出る訳にはいかなかった。

 

「少し待て、油断したところを討つ!」

 

 その言葉をきちんと伝達すると、熟練の騎士団員達は殺気を殺して剣を抜いたり魔法の準備などの攻撃の最終準備を始めた。

 急いで準備を始める団員達と同じように準備を進めていたマリエルは、転移門の周辺から動かない魔物を訝しげに観察していた。

 少し観察していると、そのオレンジ色の魔物の行動に不可解な行動が見えた。

 

 一体魔物は何をしてるんだ? 

 

 転移門から出てきたオレンジ色の魔物は、銀色の物体を地面に指したり、ガラスのような物を地面に置いたり、門の向こうから黒いロープのような物を伸ばしたりなど理解不能な行動を行っていた。

 マリエルは、オレンジ色の魔物が見せる不可解な行動を見て不安が徐々に膨れ上がって来た。

 

 あれは魔物か魔族のどっちだ?

 魔物だとしても魔族が操っている可能性も高い……

 出現した魔物と同数の騎士団員しか居ない状況で、果たして勝てるのだろうか?

 

 このような不安がマリエルの心にのし掛かってきた。

 

 そんな不安に駆られているのはマリエルだけでなく、準備が完了した一部の騎士団員の中にも不安そうな表情を浮かべている者もいた。

 全員が乗馬し、剣や槍で全員が武装していることを確認すると、マリエル自身も乗馬し、レイピアを抜いて演説のような命令を下した。

 

「我々は敵の情報を得なければならない。 そのために我々は魔族の先行部隊であろう魔物の群を攻撃し、敵側の魔法の質や攻撃方法について探らなければならない。

 もし敵の攻撃が強烈であった場合には速やかに撤退し、小さい情報の一つでも王宮に届けてほしい……では、突撃!」

 

 マリエルが号令を発し、馬を転移門から一番離れている魔物に向けて走らせると、騎士団員はマリエルの後ろに続いて全員突撃していった……

 

 

 

 ◇

 

 

 

 ゴウゴウと風切り音を聞きながらマリエル達は駆けていた。

 風の魔法を背中から受けながら走る騎士達は、監視していた高台から一気に駆け降りて、転移門の周囲に点在しているオレンジ色の魔物に向けて怒涛のごとく進んでいた。

 

 先頭にいるマリエルは、はぐれている一匹の魔物に狙いを付けると、後続の騎士を誘導しながらその魔物に近づいていた。

 

 

 

 マリエルが、なぜか警戒して来ないはぐれの魔物の横を通り過ぎようとした時に、何年も愛用しているレイピアを思いっきり振りかぶった。

 

 鈍く銀色に輝くレイピアは、太陽の光を浴びながら閃光のように魔物のわき腹に向けて振り落とされた。

 

「ウグッ!」

 

 その時、レイピアに魔物とは思えない赤色の鮮血が付着し、空に赤い線を引いた。

 

 この世界の魔物の様に変な体液を流すのかと考えていたマリエルは、一瞬思考を止めてしまった。

 

 それと同時に、女みたいな絶叫が切りつけた魔物から発せられ、マリエルは困惑し始めた。

 

 魔族?

 まさか、オレンジ色なんか……いや、新種なのか?

 新種ならベンドルマンが捕まえた魔族を解して意思疎通できるかもしれない……

 

 しばらく惰性で進みながら、考え事をしていたマリエルは、馬を強引に止めて切りつけた魔物の前に進んだ。

 後続の騎士達は一人止まったマリエルを無視して転移門の付近にいる魔物に向かって突撃していった……

 

 

 マリエルは目の前にいる魔物に視線を合わせると、切りつけた箇所からドクドクと血の様な体液が流れ、地面を朱に染め始めていた。

 それを眺めながら馬から下りて、マリエルは切りつけた魔物を観察していく。

 

 

 透明なガラスの向こうに見える黒髪の女の顔。 その顔は少し黄色いながらも蒼白に染まり、うめき声が漏れていた。

 顔から足のところまで詳しく見て見ると、オレンジ色の表皮みたいなものは、ただの服の様な物でしかなかったと分かった。

 マリエルは不思議に思いながらも、捕虜……いや、ただの研究資料兼情報源として使う為に治癒魔法をかけ始めた。

 マリエルは手を自身が切った患部に当てて魔力を込めていくと、次第に柔らかな光が患部を中心に光り始め、始めは自身の魔法に注意を向けていたマリエルは、次第に目の前の魔族の事を考え始めていた。

 

 なぜ、この魔族は体中を覆っていたのだ?

 魔物に擬態する為なのか、それとも別の意味があるのか……

 

 遠目かは魔物にしか見えなかったから擬態の為だろうが、なぜ魔力を一切帯びてない?

 

 魔族なら衣服を鋼並に硬化させる事もできると言われているのに、なぜ目の前の女の魔族はしなかったのだろうか?

 

 しばらく思索に耽っていたマリエルは、辺りに漂う焦げ臭いにおいを感じて我に帰った。

 

 とっくに治癒魔法で傷口はふさがり、柔らかな顔に戻った魔族の女を見た後、マリエルは貴下の騎士団員のいる方向に目を向けた。

 

 何体かの魔族は火炎魔法に包まれて、大声で苦痛を漏らしながらのた打ち回っていた。

 その間を通り抜けて槍や剣で次々と魔族を倒している。

 伝えられてきた強さとは格段に弱い魔族に、騎士団の全員が何かを隠しているのではないかと一部の古参の団員がいぶかしむほどだった。

 

 転移門の周囲部でバラバラとしていた魔族を駆逐すると、転移門の眼前にいる魔族集団にマリエル以外の騎士団は標的を決めたらしく突撃を開始していた。

 

 だが、その突撃で一部の古参が警戒していた事が現実のものになった。

 

 周囲に展開していた魔族とは違い、中央部にいる魔族は行動が機敏だった。

 その魔族達は黒い棒を構えると、中腰になって突撃する騎士達に向かって横一列に並んだ。

 あと、一分もすれば切り込めるという距離で、魔族のいる方向からどこからともなく普通なら大声で何かを発して来た。

 

 

「×××××、×××!(民間人への攻撃は止めよ! 我々は広島県の調査団だ! これ以上近づくと発砲する)」

 

 

 一切言葉の意味が分からずそのまま突撃する騎士達、一部の古参兵は身の危険を感じて突撃を止めたが、大半の騎士は突撃を続行した。

 ほとんどの兵が突撃を止めないからか、声を発していた魔族は急に口調を荒げるような感じの声を発した。

 

 

「×××! ××××××!(止まれ! 我々は警察だ! 警察官職務執行法、第七条及び警察官等けん銃使用及び取扱い規範の第七条に基づき発砲する!)」

 

 

 急に長い文章らしい声を出した魔族が言い終わった後、ブツッという音と共に魔族側が静まり返った。

 それから数秒しない内に、いきなり魔族のいる方向から聞きなれない音が多数、転移門周辺に響き渡った。

 

 マリエルは離れたところからその一部始終を見ていると、いきなり先頭を走っていた騎士数名が前のめりに倒れた。

 彼らを皮切りに魔族の方から爆音が響くごとに騎士達が続々と地面に打ち付けられた。

 

 それを凝視していたマリエルは、魔族の持つ黒い棒が光り、爆音がそこから放たれているのを確認した。

 そんな内にも、突撃していた騎士達は総崩れとなり、惰性で進むものは地面に落とされ、反転したものはなぜか攻撃されなかった。

 

 反転したものと一部の古参兵を合わせても、野営地に撤退し始めた騎士達はおよそ10人ほど。

 マリエルは部下が逃げる様子を見て我に帰り、自分が切って治癒した魔族を自分の愛馬に乗せ、野営地へと慌てて避難した。

 

 高台を超え、野営地で急いで部下達と合流すると野営地に荷物の大半を残したまま撤退することを決定した。

 捕まえた魔族の女を馬車に放り込むと、ベンドルマンら部下が最低限の荷物を野営地から回収して村へと向かって逃げだした…… 

 

 

 ◇

 

 

 マリエルたち一行は無言のまま馬を酷使し、深夜近くになってようやく近くの村に到着した。

 人数が減ったので、宿屋に泊まって最低限の休息を取ることにした。

 

 馬車から魔族の女を抱きかかえて宿屋に押し込もうとしたとき、食堂の方から部下達の鬱憤が聞こえてきた。

 

「なんであんな魔族を……」

「今からでも殺し…りたい」

 

 マリエルは、後で部下にこの魔族の女を殺さないように徹底するべきだと感じながら、部屋の一室に入った……

 

 マリエルは魔族の女が武器を持っていないか確かめる為にオレンジ色の服を取ろうとしたが取り方が一切分からなかった為、レイピアでオレンジ色の服を切り裂き剥ぎ取った。

 

 すると、白い服を着た幼そうな魔族が姿を現した。

 

 ガラス越しで見るよりも若く見えた女の魔族の衣服は先ほどのオレンジ色の服よりも機能性があり、なんとか切らずに脱がすことが出来た。

 

 普段なら全裸に剥いて確認することに抵抗を感じるマリエルも、武器を持っているか確認するために全裸にすることに問題は無いと感じるほどマリエルは精神的に疲れていた。

 

 全裸になった魔族の女が武器を持っていないかをくまなく探すと、王宮の牢で使うような魔石を使い部屋に魔法が使えなくなる結界を張った。

 その後、床に放置していた魔族の女をベッドに置くと、ゆっくりとその部屋から出て行った。

 

 その後、食堂にいた部下に魔族の女は王都で拷問にかけると説明し、部下達の溜飲を下げさせると、その足で魔族の女の隣の部屋に入ると、すぐに睡眠を取り始めた……




 次は軽く王都へ護送するシーンを入れてから、日本政府や各国の反応をやっていこうと思います。


 駄文ですが、感想やご指摘(誤字やこうしたほうが良い)などがあれば!お気軽に!書いて下さい。

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