忠犬ハチ公 ハチマン (八橋夏目)
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1話

「さて、まずはカントーに帰る道中、バトルをしようか」

 

 シャドーから脱出後、ド素人な潜入捜査官と伸びているザイモクザを連れ、何故こんな奴を連れてきたしまったのだといいたくなってしまう人物、ロケット団ボスのサカキの飛空艇に乗り込んだ。

 そして開口一番がこれである。

 

「嫌だ。これからまた暴れねぇといけないのに、なんだってそんな面倒なことを」

「お前がこの八か月、どう変わったのかを見るためだが?」

「見せる義理がない」

「オレには知る権利がある」

「状況判断だけで充分だろ」

「エンテイとスイクンか? あの程度のポケモンに命令できたところで、たかが知れている。オレが言いたいのはお前とリザードンの力だ」

「………何を企んでいやがる」

「何も、と答えるのは嘘になるが。オレ自身の興味本位だ。それにお前が端から断れるとでも思っているのか? 会話の主導権はオレにあるのだぞ」

「………さすがロケット団のボス。横暴なのに磨きがかかってんな」

「誉め言葉ととっておこう」

「………あんまりプレッシャーを出すなよ。さっきからこいつが俺から離れてくれねぇじゃん」

 

 黒長髪の名前は知らない女の子。

 シャドーに潜入捜査に来た馬鹿なやつ。

 そんな奴がさっきから俺の背中に身を隠してサカキを睨んでいるのだ。

 

「ふっ、羨ましい限りだ。オレにはそんな奴がいないからな」

「そりゃいるわけないだろ。誰が好きで悪事を働く組織のボスの傍にいるんだよ」

「それもそうだ。さて、やるぞ」

「はあ………、マジで何がしたいんだよ………」

「二本だ。オレから二本取ればお前の勝ちとする。どうだ、簡単だろ?」

「わー、簡単。だからと言ってやりたくはねぇけど」

「ニドキング」

「どうやら本気らしいな………。おい、ちょっと離れ……」

 

 無理か………。

 

「リザードン、さっさと片を付けるぞ」

「シャアッ!」

「ニドキング、がんせきふうじ」

「はがねのつばさで撃ち落とせ」

 

 ニドキングが両拳をぶつけ合わせ、衝撃で岩石を作り出してきた。それを尻尾で全てをこちらに飛ばしてくる。

 リザードンは翼を鋼鉄にして折り畳み、ドリルのごとく回転して岩石を叩き落していった。

 

「かえんほうしゃ」

 

 今度はこっちから仕掛ける。

 炎を吐きながらニドキングへと近づいていく。

 

「メタルクロー」

 

 相手はニドキング。身体に触れれば毒状態にされてしまう特性どくのトゲを持っていることもある。確かサカキのニドキングはどくのトゲだったはずだ。直接触るなら、せめてはがねタイプの技を併用しなくては何をされるか分かったもんではない。

 

「ほのおのパンチ」

 

 だが、ニドキングは拳に炎を纏うことで鋼の爪に対抗してきた。リザードンに効果はいまひとつだが、殴られるというダメージは引かれない。

 

「かえんほうしゃ」

 

 ニドキングとの距離が離れてしまったため、遠距離からの攻撃に切り替える。

 

「がんせきふうじ」

 

 だが、自分の周りに岩で壁を作り、炎をやり過ごした。

 

「じしん」

 

 今度は地面を揺らし、攻撃してくる。

 しかし、リザードンは飛んでいる。一体何が狙い………。

 

「………リザードン、メタルクローとはがねのつばさでトルネード。ニドキングに突っ込め」

 

 狙いは分かった。恐らく壁にした岩を再び浮かし、飛ばそうという魂胆なのだろう。

 ならば、全身鋼にしてしまい、突撃してしまえばいい。鋼だから毒も効かないしな。

 

「………ふっ、さすがだ。タイプ一致の技でなくともオレのニドキングを倒すとは。つくづくお前が図鑑所有者でないことが不思議で敵わん」

「ああ、そうかよ」

「次はこいつだ。オレのとっておきを見せてやる」

 

 二体目としてサカキが出してきたのはスピアーだった。

 大地のサカキなんて呼ばれ方もするようだが、この男の代表的なポケモンと言えば、やはりスピアーの方に目が行ってしまう。実力もさながら、サカキの愛着っぷりが半端ない。

 

「スピアー、メガシンカ」

 

 はい?

 メガ………シンカ……………?

 進化、なのか………?

 スピアーにはさらに進化した姿があったというのか?

 バカ言え、そんな話聞いたことがない。

 いや、だが相手はサカキだ。

 現にスピアーが白い光に包まれていく。

 

「姿が………変わった…………」

「………これが、メガシンカ…………」

 

 俺の右肩からも声が聞こえてきた。

 だが、それは驚きというより本物を初めて見たという感じだ。すなわちメガシンカそのものについては知っていた可能性がある。

 

「ダブルニードル」

 

 は、速い?!

 一瞬でリザードンの懐に飛び込み、二撃突き刺した。

 

 ドックン!

 

 嫌に強く鼓動が鳴った。

 それと同時に強い力に引き寄せられるかの如く、意識が薄れていく。目の前が真っ暗だ。

 

「シャアァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアッッ!?!」

「きゃあっ!?」

 

 ぐぅ………!?

 なん、なんだ………この圧力は?!

 

「………やはり、ダークオーラに反応を示していたか」

 

 ダメだ、抗えない。

 それに、身体が、熱い………!

 

「な、に…………ヒキガヤ………くん?」

 

 ぐぁぁあああああああああっっ!!

 頭が、割れる! かち割れそうだ!

 

「暴……走………してるの?」

 

 暴走、だと………?

 まさか、これはリザードンによるもの、なのか……………?

 ッ!?

 視界が戻った………いや、これは………何度か味わったことのある…………リザードンの視界だ。頭痛もちょっと治まってきている。

 

「………来るなら来なさい。私は逃げないわ」

 

 なに………?

 来るってどういう意味だ?

 視界にはサカキとスピアーが…………っ!?

 まさか俺の身体が無意識に動いている、のか…………?

 というか黒髪少女の声がさっきよりも遠い………。驚いて俺から離れた、のか………………?

 

「………あなたは私たちを救ってくれた。だから今度は私があなたたちを助ける番」

 

 な、んだ………いきなり激しく揺さぶられる感覚が薄れていくぞ。

 それにこの柔らかい感触…………。

 

「私は、ずっとあなたの味方よ」

「………黒………髪………………」

 

 一瞬、視界の奥で黒髪が靡いた。位置的にリザードンの視界には少女の姿が入ることはないはずだ。まさか俺とリザードンの視界が混同しているのか?

 ふわりと靡いた黒髪が鼻を燻った瞬間、一気に圧力が引いた。

 この黒髪、どこかで見覚えがある。そんな昔の話ではない。

 

「ふっ、なるほど。この娘が対抗手段というわけか。面白い」

「はあ………はあ…………、はぁぁぁああああああっ……………」

 

 怠さだけが残り、立つのも難しい。

 なのに倒れることがない。

 

「………あなた、ヒキガヤ君たちに何したの」

「さあな」

 

 支えられて、いるのか…………?

 黒髪少女の声が間近で聞こえてくる。

 

「そいつを休ませてやれ」

 

 …………………………………。

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

「………彼に何をする気!?」

「様子を見に来ただけだ」

「なら出ていって」

 

 ………ここは………?

 女の子の荒げた声で目が覚めた。

 見たことあるようなないような天井である。

 ふと、視界に黒長髪の後ろ姿が飛び込んできた。何かから俺を守ろうとする態勢で、両手を広げている。

 

「………ユキノ、シタ………」

 

 あれ?

 俺ってこいつの名前知ってたっけ?

 そもそもこいつと面識ってあったっけ?

 

「起きたか、ハチマン」

 

 ああ、そういやサカキとバトルして、リザードンが暴走したんだっけな。ということはここはまだ飛空艇か。

 

「ザイモクザの、様子………見てきてくれないか…………」

 

 頭がぐわんぐわんするが、無理して身体を起こし、黒長髪の少女に退室を仕向ける………はずだったが、見かねた少女に体を起こすのを手伝ってもらった。

 

「………分かったわ。何かあれば呼びなさい。すぐに駆け付けるから」

 

 そして、じっと少女の瞳を見やると小さくため息をついて了承してくれた。

 

「………これは、どういうことだ」

「………『レッドプラン』、あれの実験で今まで力が抑えられていたが、ダークオーラを纏ったことで目を覚ましたとみていいだろう」

「『レッドプラン』………?」

「………記憶を食わせたのか。まあいい。お前たちは今ダーク化したことにより、暴走と紙一重の所に立っている状態だ。………ハチマン、呑まれるなよ」

「……………要は常に冷静にいればいいんだろ? 熱くならなければ暴走したとしても我を忘れることはない」

「果たして、それはどうかな」

「言ってくれる………」

 

 呑まれるなというのは自我を失うなってことだろ。

 一度目があれなら、次は絶対抑えるさ。

 

「お前の実力は当に知っている。バトル山を制覇らしいな。それだけで、この八か月どのくらい成長したのか手に取るように分かる」

「………なら、なんでバトルなんか………………」

「偶然とはいえ、ロケット団の遺物がお前に行き渡ってしまったのだ。強大な力にお前が呑まれないか心配にもなる」

「………それは反勢力にならないためか?」

「ただの親心だ。自分の息子には何もしてやれなかった。だからお前に重荷を背負わせたオレ自身が、手取り足取り教え込もうという、泣ける話だ」

「………自分で泣ける話とか、言ってて恥ずかしくねぇのかよ」

「一年前、長年探していた息子にようやく会えた。それまで何もしてやれなかったオレの方が恥ずかしく思う」

「所詮、アンタも人の子ってことか」

「そうだな」

 

 おいおい、どうしたってんだ、サカキさんよ。らしくないことばかり言いやがって。

 

「カントーに着いたら、まずは協会を動かせ。カントーやジョウトの各地にオレの部下たちがいる。マチスやナツメに従っていない者は排除しろ。危険要素の塊だ。それと、そいつらを従える者もな」

 

 らしくないと言えば、ロケット団に対してもだ。俺を脅迫してまで自分の組織を壊そうだなんて、一体何を考えてるんだ?

 

「いいのかよ、一応アンタの部下だろ?」

「いづれ分かる」

「そうかよ。なら遠慮はしないからな」

「ああ」

 

 まあ、ボスがやれと言ったんだ。俺も言質を取った。これ以上俺が言うことは何もない。ただ、言われたようにロケット団を壊滅させるだけだ。

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

「ここか………」

 

 サカキの飛空挺でカントーに帰ってきてすぐ、そのままカントーポケモン協会本部に足を運んだ。ユキノシタとザイモクザも付き添いで来ている。

 来なくていいと言ったんだが、どうしても離れる気はないらしい。ザイモクザに至っては恨めしそうな視線を時折送ってくる始末。一体何がしたいんだか。

 

「さあ、いくわよ。私も報告しなければいけないのだから」

 

 それは初耳だ。

 一体何を報告するって言うんだ?

 

「………心配しなくてもあなたとサカキのことについては何も言わないわ。そこはあなたの判断に委ねます」

 

 要はサカキについて深く知っているのは俺なのだから、言うか言わないかは俺が判断しろとな。

 分かったよ。下手にお前らが説明しても今度は俺の立場が危うくなるだけだしな。

 

「で、お前はどうすんの?」

「我はしばらく厄介者になるつもりである」

「はあ………」

 

 やっぱり一人にさせてはくれないのか。

 

「というか、今のお主を一人にしておいていいものか、我では判断出来兼ねる」

 

 さいですか…………。

 まあ、仕方ない。ついてくるというのだから好きにさせよう。俺の説明も省けるかもしれんし。

 

「失礼します」

 

 懐かしい理事長室を入ると、これまた懐かしい人がいた。そもそも懐かしいといっても八か月ぶりなんだけどな。これを長いととるか短いととるかは人それぞれだろう。

 

「ご苦労………だ…………ッ?!」

 

 振り向いた理事が俺の顔を見るや、目を見開いた。死んだと思っていた奴が帰ってきた、そんな顔である。

 そんなに信じられないことなのかよ………。

 

「ハチ、マン………。ハチマン、なのか………?」

「逆に誰に見えるんだよ」

「お前、ポケモンタワーでゴーストタイプのポケモンたちに食われたんじゃなかったのか…………?」

「や、そっちの方が驚きだわ。誰だよ、そんなデマを流した奴は………」

 

 マジで死人扱いになってたし。

 なんだこれ。

 たった八か月顔を見せなかっただけで、そんな噂流れるなんて、俺って割と有名人?

 やだなー。有名人とか超面倒じゃん。顔が知られてるようなもんなんだし。

 

「理事、これではっきりしましたよね」

「あ、ああ………。君の言う通りだったな」

「ユキノシタユキノ、任務から只今戻りました」

「う、うむ。ご苦労だった。それで何がどうなっているのだ?」

「彼がシャドーふぐっ?!」

 

 素人のお前がシャドーのこと話してもしょうがないだろ。

 俺はユキノシタの口を塞ぎ、代わりに説明を始めた。

 

「俺はこの八か月、シャドーに軟禁されていた。その間、ダークオーラというポケモンの能力を飛躍的に上がるオーラを纏ったポケモンを育てされられていたんだ」

「………そうか、それで捜査に赴いたユキノに……」

「なあ、もう少しマシな奴寄越せよ。こいつ、すげぇ素人くさい動きばっかしてたんだけど」

「んぐっ! んんっ! んんーっ!!」

「あ、すまん………」

 

 あ、やべ……。

 ずっと塞ぎっぱなしだった。

 窒息する前に口から手を離してやる。

 すると涙目で恨めしそうにこっちを見てきた。

 

「なんだ、このラブコメ………。リア充爆発しろ」

「ふん!」

「ふひっ!」

 

 取り敢えず、ザイモクザにチョップを入れた。

 

「潜入捜査に名乗り出たのは彼女自身だ。私はその意気込みを尊重し派遣した」

「ならせめて潜入捜査の特訓でもさせてから派遣しろよ。あれじゃすぐに捕まってたぞ。現に俺がすぐに捕まえたし」

「………ハルノの仕業か。妹に無茶させて」

 

 ユキノシタの姉だろうか。

 まあ、何にせよユキノシタに潜入捜査させるのは今後やめていただきたい。あれじゃ、こっちのピンチになり兼ねないわ。せめて誰かと組ませてほしい。

 

「で、だ。シャドーの方は一旦体制を立て直さなければならなくなっているはずだ。しばらくは大人しくしてるでしょうね。それよりも噂ではまたロケット団が活動を再開したみたいですよ」

「っ?! ロケット団………、確かに最近また事件が増えてきたと思ってはいたが………」

「今ならまだ本格的に動き出したわけじゃない。叩くなら今だと思うんだが………」

 

 これでいいのか、サカキさんよ。

 

「分かった。詳しく聞こうじゃないか。………あー、すまんがしばらく二人にしてもらえないだろうか」

「………………分かりました。終わったらお呼び下さい。その男を一人にさせたくないので」

 

 ………それにしても何故この二人は俺を一人にしようとしないのだろうか。

 

「………そもそもどこでロケット団の噂を聞いたのだ? この八か月シャドーにいたのだろう?」

「そりゃロケット団から聞いたからに決まってんじゃないですか。シャドーにはダークオーラの他に、他人のポケモンを奪う道具がありましてね。その道具を使って、ダークポケモンにされていたエンテイとスイクンを奪い、脱出してきたんですよ。そこにロケットのボス、サカキが現れた。それだけです」

「サカキ…………自らロケット団を滅ぼすつもりか………?」

「いや、あれはどちらかというと組織内の統制を一本化させるためでしょうね。サカキなき今、誰が指揮統制をしているのかは分からないが、少なくとも意見が割れていることは確か。マチスとナツメ派以外は排除しろって言ってましたよ」

「………そうか、少し考えさせてくれ。取り敢えず、ハチマン。ロケット団の掃討作戦を立てるとしても、お前は顔出しをするな。名前も伏せろ」

「………理由は?」

「お前はロケット団に顔が割れている。それに恐らく参加することになるであろうユキノの姉がお前の顔を見たら、面倒くさいことになり兼ねない」

「………そんなにヤバいのか?」

「お前なら会えば分かる」

 

 やだなー。会いたくないなー。

 そんな脅しまがいのこと言わないでおいてくれると良かったのに。

 逆に身構えちゃうじゃん。

 

「それとお前の所属は理事直属にしておく。一度はチャンピオンにまで上り詰めたその実力。私のもとで存分に使ってくれ」

 

 …………他にどんな所属先があるのかは知らんが。

 まあ、一番待遇がいいということなのだろう。

 なんやかんや就職先が決まってしまった。働きたくないでござる。

 

「手配が整い次第、追って連絡する。それまでは………」

 

 理事は俺の方に両手を深く落とすと一息飲んだ。

 

「ゆっくり休みなさい」

 

 そして、安堵した声でそう言い放った。

 

「うっす」

 

 取り敢えず、サカキに言われた通りにロケット団討伐部隊が組まれることになるだろう。

 どうなっても知らないからな、サカキ。

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

 討伐部隊の招集がかけられるまでの間、束の間の休日となった。

 ポケモンセンターで夜を過ごし、翌日家に帰ろうかとも思ったが、これからやる事が事なだけに足を向けるのが躊躇われた。だからといってコマチの顔を見ないでいいかというと、しばらく会っていないので見たい気持ちの方が強い。

 会うことは避けた方がいいが見るだけなら………。

 そう思い、クチバのトレーナーズスクールに向かうことにした。昼間であれば、コマチもそっちにいるだろうし、外に出ていれば見れる可能性もある。

 ただ、当然のようにユキノシタがついてきている。ザイモクザは何かすることがあるらしい。「締め切りが」とか言ってたし、また何か書いてるのかね。

 

「………何かしら?」

「いや、何も」

 

 もう特にいうことはない。

 こいつが俺を1人にする気がないのは重々分かった。

 

「………お前さ、何で俺を知ってるんだ?」

「………覚えてないのね。私をこんなにまで変えてしまったっていうのに」

「何かしたのかよ」

「思い出すまで忘れてなさい。忘れた罰よ」

 

 言いたくないなら別にいい。

 特に知りたいわけでもない。

 俺の過去とか碌なものじゃないし、忘れたなら万々歳である。

 

「と、着いたか」

「ここって………」

「俺が通ってたスクールだよ」

「知ってるわよ、そのくらい。私も通ってたのだから」

 

 へぇ、こいつもこのスクールの出身なのか。

 まさかそれで俺のこと知ってるとか?

 一番あり得るな。

 

「ただまあ、関係者以外立ち入り禁止なのが普通だよな………」

 

 校門に来たがしっかりと施錠されている。

 それが普通であり、安全対策をしっかりとしている証拠である。

 だが、これだとどう入ったものか………。

 柵を乗り越えたら不法侵入になるだろうし…………。

 

『ぐへっ!?』

 

 っ!?

 ヤドキング?!

 なんかいきなり上からヤドキングが降ってきたぞ。

 見たところ、バトルに負けたという感じである。

 

「あれは………校長の………ヤドキング!」

 

 すぐにトレーナーが駆けつけてくるものだと思い、ただ見ているだけにしていたが、ユキノシタの方がヤドキングが飛んでくるや否や柵を乗り越えて駆け寄っていった。

 

「何があったの!?」

『………ロケット………、オレっちの攻撃…………ああの数は、むり……………」

 

 途切れ途切れに聞こえてきたのは、どうやら想定外のことが起きたということだった。

 状況がよく分からないが、取り敢えずヤドキングを倒した相手が校内に入る。しかもユキノシタの発言から取れば、あのヤドキングが校長のポケモン。俺が特例の卒業試験をした時にバトルしたヤドキングである。そんな奴が無状にやられてくるなんて相当腕が立つ相手らしい。

 

「取り敢えずオボンの実を食べて。………ヒキガヤ君! いくわよ!」

「えっ? 俺も行くの?」

「当たり前でしょ? 何かよくないことが起きているわ」

「はいはい………」

 

 はあ…………、コマチは無事だろうか。

 校長のポケモンがこうもやられてくるんだしなー。

 下手したら、生徒職員が人質になっている可能性だってあるぞ。

 

「…………もしもの時は、頼むぞ」

 

 そう呟くと、俺の影が動いた。

 よし、いるな。

 さて、後はどうしようか。

 もし、想像通りのことが起きていたりしたら、下手に動けはしない。相手に見つからずに倒すのが先決だが、一緒にいるのが潜入捜査がド素人な奴だし。

 逆にこいつから離れるのも得策じゃなさそうだ。

 

「ゴルバット、エアカッター!」

「アリアドス、どくばり!」

「「「「スバット、ちょうおんぱ!」」」」

 

 チッ!

 悪い方に出たか。

 しかもこの声の数。相当な数だ。

 それを生徒を守りながら職員たちで守りきるのは無理な話といえよう。

 数の暴力反対!

 

「オーダイル、ギャロップ!」

「おい、ユキノシタ。どうする気だ」

「止めるわ!」

「できるのか?」

「バカにしないで。シャドーでは潜入捜査に慣れていなかっただけで、バトル自体は身体に染み付いているわ」

 

 そういうことじゃない。

 人質がいた場合のこととか考えているのかと聞いてるんだ。

 

「そうじゃなくて…………っ!! いや、いい。なんでもない」

 

 あー、そうか。

 要はこいつが正面から行って、俺が密かに動けばいいのか。

 ユキノシタという新たな敵が現れれば、敵ばそっちへ集中するだろう。俺がその隙に動けばなんら問題はない。

 

「あー、一つ頼みがある」

「なに?」

 

 校庭に人だかりができている。

 目につくのは全て黒い服を着た怪しい者たち。背中には『R』の文字が刻まれていた。

 それにしても数が多い。多すぎる。はっきり言って黒服だけで百はいるように見受けられる。

 

「俺の名前を呼ぶな。多分、コマチーー妹がいると思う。これからやることを考えるとあいつを巻き込みたくない」

「…………善処するわ」

 

 ユキノシタはそれだけ言って、敵陣へと突入していった。

 

「オーダイル、アクアジェット! ギャロップ、かえんぐるま!」

「「「ぐあぁぁっ!!?」」」

 

 オーダイルが水のベールを纏い駆け抜け、ギャロップが炎を纏い追撃していく。

 

「今だ。ツルミ!」

「はい!」

「カイリキー、ばくれつパンチ! サワムラー、まわしげり!」

「ハピナス、プクリン、タブンネ! マジカルシャイン!」

 

 それに呼応するかのように、中からも反撃が始まった。

 あの中にヒラツカ先生とツルミ先生がいるのか。ということはおそらくはあそこに生徒が集まっているということだろう。

 

「フーディン、サイコキネシス!」

 

 校長もかよ。

 ということはあそこからヤドキングが飛ばされてきたってのか?

 どんだけ飛ばされてんだよ。結構な距離あるぞ?

 

「数が多すぎる………」

 

 フーディンのサイコパワーをもってしてもロケット団の下っ端どもの数は減る気がしない。中から校長、ヒラツカ先生、ツルミ先生を主導に全生徒を守り、外からユキノシタが攻撃を仕掛けているが、時間の問題だろう。

 

「俺も動くか」

 

 逆にあの数を相手にやり合っていることがすごいことだ。それだけあの三人がすごいということなのだろう。だが、それも時間稼ぎにしかなっていない。

 取り留めやるべきことは生徒の安全確保。ならば、一ついい方法がある。

 

「早速だが、頼むぜ」

 

 スクールに通う生徒は六学年ある。低学年はまだまだ幼い。黒い穴でロケット団を呑み込めば、少なからずトラウマを植え付けてしまう可能性がある。そうでなくとも今の状況がトラウマになりかねない。

 

「捕らえるのは生徒の方だ。今日の記憶を食ってやれ」

 

 だから黒い穴に捕らえるのは生徒の方。

 

「きゃあっ!?」

「うわっ!?」

 

 よしよし、上手くいったみたいだな。

 後はロケット団の連中を倒すのみ。

 

「なん………だと………? 生徒が、呑まれた…………」

「ルミ! みんな!?」

「むぅ………」

 

 あ、すんません。

 いきなりだと驚くよね。

 

「アーボック、どくばり!」

「先生、危ないっ!?」

 

 生徒が急に消えたことで先生たちに大きな隙が生まれてしまった。

 まあ、これは俺のせいなので、俺が対処するのが筋ってもんだろう。

 あ、でも何か顔の隠せるもんないかな。顔出しすんなとか言ってたし。

 ………あー、そういやパーカー着てるんだったな。今はフードで凌ぐとするか。

 

「リザードン、かえんほうしゃ」

 

 先生たちが目を離した隙に飛び込んでいったアーボックを丸焼きにした。

 

「何者っ?!」

 

 赤い髪の………恐らくアーボックのトレーナーだと思われる女が、炎の道筋をたどってこちらを向いてきた。

 

「………通りすがりの、ポケモントレーナーだ」

 

 変身はできないぞ。

 

「全員で攻撃しなさいっ!」

 

 赤髪の女が下っ端に命令を出した。

 となると、あれがこの集団のトップかそれに近い位置の奴なのだろう。

 

「なっ………?!」

 

 なら、もっと心を折ってやればいい。

 俺は黒い穴を開かせ、すべての攻撃を吸収した。途中で技と技がぶつかり合い、爆発も起きたが俺にダメージはない。

 全員攻撃をものともせず傷一つなく立っていたら、さぞ心が折れることだろう。

 

「さて、お前らに選ばせてやろう。ここで投降するか生徒と同じように死ぬか。二つに一つだ。逃げるだなんて考えはするだけ無駄だぞ。何をしようが一瞬であの世行きだ。生徒のように、な」

 

 おいおい、今日は楽しそうだな。

 黒いのも乗ってきたのか、俺の周りに黒いオーラを放ち始めた。

 

「く、くそっ……!」

「そんなウソに引っかかるか! ドガース、スモッグ!」

「嘘か………。ならこれでどうだ?」

 

 男性下っ端二人が忠告を無視し、一目散に逃げ始めた。

 

「「ぐあぁぁぁっっ!!」」

 

 だから忠告通り、黒い穴に吸い込んでやった。

 

「これで今の二人はあの世へ行ったぞ。さあ、どうする? 生きるか? 死ぬか?」

 

 実際に目に焼き付けてしまえば、人間恐怖を覚えるというものだ。

 

「いやだ………」

「………死にたくない…………」

「アテナさん!」

「死にたくないです!」

 

 泣き縋るように下っ端どもの声が次々と上がってくる。

 

「お断りよ! クサイハナ、ラフレシア!」

 

 だが、それを赤い髪の女は一言で跳ね退け、そのままポケモンを出すと、妙な粉をまき散らした。

 これは………、ヤバいな、どくのこなだ。しびれごなならまだしも毒とは厄介な。下手すれば吸った人間が死ぬ。

 

「リザードン、翼で仰げ」

「シャアッ!」

 

 きりばらいでも覚えさせておくべきか。いや、この場合はかぜおこしの方が有効か。似たようなネーミングなのに技の効果が違うというのも面倒な話だな。

 

「チッ………、逃げられたか」

 

 粉が晴れるとヤミカラスに捕まり飛んでいく赤髪の女の姿が見えた。

 深追いはしない方がいいだろう。

 そこまでして首を突っ込まなくても、これから突っ込むことになるんだしな。

 

「ちょっとでも下手な動きをしてみろ。一瞬だぞ」

 

 下っ端たちに釘を刺すと首を縦に大きく何度も振った。

 

「………結局一人で片づけてしまうのね」

「ユキノシタ………、知り合いなのか?」

「ヒラツカ先生、お久しぶりです。彼の話は後程。今はロケット団を警察に預けるのが先です」

 

 騒ぎが収束したところでファンファンとサイレンの音が聞こえてきた。

 ようやく警察の到着である。

 

「事情聴取は儂が行ってくる。生徒のこと、頼むぞい」

「うぃっす」

 

 音もなく俺の横を校長が通り過ぎて行った。気配がなさ過ぎて怖いんですけど。

 バスから出てきた警察は百はいるロケット団を次々次々と乗せていく。それでも足りないのか押し込むようにバスの中に詰め込み始めた。中では一体どんなことになっているのやら………………。

 

「さて、ロケット団もいなくなったことだし」

「………お前は、何者だ……。生徒たちをどこへやった!」

 

 校長は早々と気づいたようだが、ヒラツカ先生を始めとする職員一同は俺に敵意を向けていた。

 

「出してやれ」

 

 黒いのに合図を送ると、再び黒い穴ができ、そこから吸い込んだ生徒一同を放り出していく。怪我しないように着地も黒いオーラで補強しているようだ。

 

「みんなっ?!」

「寝てる………のか?」

 

 寝ている生徒たちを見ていると、ふと見知った顔を見つけた。

 

「………コマチ、元気にしてるか?ごめんな、ずっと連絡しなくて。まだもう少し帰れそうになくてな。………こんなお兄ちゃんでごめんな。ちゃんと帰るから。それまでお利口にしてるんだぞ」

 

 静かな寝息を立てている。元気なようで何よりだ。

 それにしてもコマチをこんな危険な目に遭わせるとか、ロケット団許すまじ。サカキの件がなくても、俺はお前たちをぶっ潰す。サカキが何と言おうとぶっ潰す。

 

「ヒキガヤ………、なのか………?」

「俺は通りすがりのポケモントレーナーです」

 

 ようやく気づいたヒラツカ先生が声をかけてきた。

 だが、今は先生の顔が見れない。

 こんな殺意の篭った目で先生を見るのは失礼ってもんだ。

 

「…………妹を、頼んます。いくぞ、ユキノシタ」

「えっ、ちょ、もう?」

 

 取り敢えずコマチの顔は見れた。

 だが、新たにやることが出来てしまったようだ。

 折角人が適当にやって終わらせようとしていたものを。

 火を付けたのはお前たちの方だからな、ロケット団。

 

「先生方が無事で何よりです。彼のことは今は余り追求しないで下さい。それでは」

 

 コマチ、お兄ちゃんはもう少しで帰るからな。

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

「ユキノシタ姉妹、シロメグリ、ザイモクザ、ハタノ、サガミ、チームタマナワ、ハンダサムロウ、そしてハチ公。ここにいる者でロケット団残党討伐部隊を編成する。指揮官はハルノ、お前だ」

 

 一週間程の後、俺たちは再びポケモン協会に集められていた。

 どうやらロケット団討伐部隊の編成が整ったようだ。

 当然、ユキノシタはいるし、何故かザイモクザまで召集をかけられていたようだ。いつの間に協会の人間になってたんだよ。

 そして理事の計らいか、俺の名前は伏せられている。代わりに「ハチ公」とつけられたみたいだが………なんかもっといい名前があっただろうに。俺はペットかよ。

 

「はいはーい」

「はるさん、いよいよですね」

「………なにゆえ我も参加することになっているのだ……………」

 

 ま、お前はついでだろうな。事情も知ってるんだし、手伝いなさい。

 それよりもこのぐるぐるメガネに長いコートを羽織った男だ。只者ではない。歳はこの中で一番上だろうし、いくばくか貫禄も感じる。

 かく言う俺も相当アレな出で立ちになっている。

 顔を隠せというものだから、目深い帽子をかぶり、雰囲気を変えるためにマントも買った。ついでにザイモクザに倣って指貫グローブもつけている。もちろん全て黒。別にかっこいいからとか一度やってみたかったってわけじゃない。ないったらないのだ。

 

「詳しい情報はハルノとシロメグリが持っている。チームタマナワを参考に、お前たちでチームを組んでも構わん。自分たちの命を第一とし、ロケット団残党を討伐せよ。奴らの処遇は任せる。以上だ」

 

 それだけ言って、理事は会議室から出ていった。

 

「さて、それじゃまずは情報共有といこっか」

 

 話を切り出したのは指揮官になったハルノという女性。作られた笑顔がとても恐怖心を煽ってくる。

 

「メグリ」

「はい。まず今回の討伐対象ですが、数年前に図鑑所有者によって倒されたロケット団の残党になります。一年前、活動を再開したかと思われたロケット団ですが、トップのサカキの行方不明によりまたしても活動を停止。しかし、ここ最近になってロケット団と思われる集団が動きを見せているようです」

「というわけで、まずはかつての活動拠点となっていたタマムシシティのゲームコーナー、ヤマブキシティのシルフカンパニー、5の島にそれぞれ向かい、調査しようと思うわ」

 

 つまりさっき言っていたチーム分けは三つに分かれるってことか。

 

「チームは………」

「まずは全員でアイスブレイクを行うのはどうかな?」

「それアグリ」

「アグリ」

「みんなもどうかな? コミュニケーションをとることで互いのグランドデザインを共有し、ロジカルシンキングで論理的に考えて、コンセンサスをとることができれば、いいアイデアをシェアできると思うんだけど」

 

 ………………何回考えるんだよ。

 というか、みんな言ってることが理解できたのかよ。

 

「僕はタマナワ。トレーナーズスクールを卒業と同時にチームを結成し、各地でポケモンの生態系を調べている。ちなみにジムバッジは現在六つ獲得したよ」

 

 なんだこいつ。

 どんだけ自分のこと話したいんだよ。自慢か? 自慢話か?

 それから次々とチームタマナワの面子が自己紹介をしていく。超どうでもいい話ばかり聞かされている気分だ。

 

「なるほどねー。確かにこうしてお互いのことを知るのは大事よねー」

 

 ………なんだろう。

 指揮官の女性の声に寒気を覚えてしまう。顔は笑っている。目も笑っている。声も明るい。なのに、背中に汗がつつつーっと流れていった。

 

「それじゃ、次は私だねー。私はユキノシタハルノ。そこにいるユキノちゃんのお姉ちゃんです。あ、あとチャンピオンを務めてた時期もあったし、ロケット団についてはここにいる誰よりも詳しいと思うわ」

 

 ……………へぇ、チャンピオン。

 ……………はっ? チャンピオン?!

 おいおい、なんでまたそんな人がこんなところに。かくいう俺も元チャンピオンの肩書があるわけだが。そんなもん内に等しいし、隠しておくのがベストだ。

 というか、チームタマナワの顔色が一気に青ざめていく。妹だというユキノシタはぷいっとそっぽを向いており、眉一つ動かさないのはハンダさんくらいである。

 

「あっははは……………、はるさんやりすぎですよ……………。あ、私はシロメグリメグリです。はるさんとチームを組んで活動しています。よろしくお願いします」

 

 傍らにいたほんわかした女性は指揮官とは対照的に場を和ませた。

 

「えっと、次はユキノシタ……さん、かな?」

「………ユキノシタユキノ。私は私。姉さんは姉さん。姉妹だからといって過度な期待はお断りします」

 

 シロメグリさんの戸惑った声をかき消すように、つんとした冷たい声で姉と自分は別物だと一刀両断。姉妹仲はお世辞にも良好とはいえないらしい。

 

「私はハンダサムロウ。相棒のグレッグルとともに悪の組織を追っている」

「ぬははははっ! ついに我の出番であるな! 剣豪将軍、ザイモクザヨシテルである!」

「ハチ公。それ以上の情報は非公開だ」

 

 ちなみにハチ公ってすでにプロフィールとかがあったりするのかね。

 やべ、ちゃんと聞いとけばよかった。

 

 取り敢えず、勝手に進む話に耳だけは傾けておこう。何言ってるか分からないけど。

 



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2話

 さっぱり言ってることが理解できない会議も終わり、近場のトキワシティへと向かった。

 

「ハヤマ先輩たちも旅に出ちゃったし、暇だなー」

 

 一度、オーキドのじーさんのところに顔を出すのもありかなーと考えていると、ふと亜麻色の髪が靡いた。

 別に知り合いとかそういうわけじゃない、と思う。

 だが、何故か目が引き寄せられてしまった。

 

「………トキワに来てもポケモンがいないから何もできないってのに…………」

 

 その女の子はぶつくさと文句を言いながら遠く離れていく。

 

「………ほんとに彼はどこへ行ったしまったのかしら」

「すまぬ………、我が目を離した隙に」

 

 …………こいつらもトキワに寄ったのか。

 

「…………家に、帰っているとも思えないけれど……………」

「…………そもそも家を知らぬ」

「そうね、取り敢えず私は東を探すわ」

「相分かった。西は任された」

「では、一週間後クチバの港で」

「うむ」

 

 どうやら二人で俺を探しているらしい。

 昨日はザイモクザが一日付き纏ってきていたが、トイレを行くフリをして逃げた。そして今日、目深い帽子を被りマントを羽織ってセキエイのポケモン協会に顔を出したというわけだ。

 あいつらには悪いが、今俺が討伐部隊に加わっていることがロケット団に知られるわけにはいかない。恐らくロケット団内ではすでにマークされているはずだ。そんな奴が普通にいたら、警戒して尻尾を出すとは思えない。つーか巻いて逃げるまであるね。

 取り敢えず、ユキノシタはフォレトスに、ザイモクザはレアコイルに乗って飛んで行った。これで俺は自由の身になったのだ。

 

「きゃあっ?!」

「お前ら! それ以上近づけばこいつの命はねぇぞ!」

「………な、なななんぐっ?!」

「しゃべるなっ!」

「んんっ!」

「その子を離せ、ロケット団!」

 

 ほら来た。

 早速過ぎてすげぇ笑える。

 今日は一体何が目的なんだよ。そもそもこの前のスクール襲撃だって目的がさっぱり入ってこない。赤髪の女は行方が分からないし、今日も今日とて別のロケット団が騒ぎを起こす。

 これはサカキへのアピールなのだろうか。

 オレたちはここにいる。アンタの帰りを待っている。

 そんな感じなのかもしれない。

 

「ポケモン協会です! 皆さん離れて下さい!」

 

 あれは……………。

 

「轆轤回し………」

 

 あいつらもトキワに降りたのか。

 ふっ、丁度いい。あいつらの実力とやらを見せてもらおうじゃないか。

 

「カポエラー、トリプルキック!」

「エアームド、ドリルくちばし!」

 

 頭の一本角と尻尾を活かした特有の技、トリプルキック。

 にどげりやダブルアタックといった二撃技、みだれづきのような連続で出し続ける技は多数存在するが、三撃技というのはこの技くらいだろう。それも覚えるのはカポエラーのみ。後はメタモンやドーブルといったコピーができる奴らだけ。

 だが、そんな特有の技もエアームドという鋼を備えたひこうタイプにはそれほどダメージになっていない。逆に技を出し終わった直後を狙われているまである。

 

「「「ズバット!」」」

「「「ゴルバット!」」」

 

 あ、反撃が来る。

 

「「「「「「ちょうおんぱ!」」」」」」

 

 敵は六人。

 六人それぞれがズバットないしゴルバットを連れている。

 チームタマナワの他の奴らもラッタ、ドードリオ、マグマッグを出していたが、全てちょうおんぱにより混乱状態に陥ってしまった。

 

「戻れ、カポエラー! ゴローニャ、ころがる!」

 

 轆轤回しはカポエラーを引っ込めるとゴローニャを出し、そのままズバットたちへと突っ込んでいった。

 だが、無理だ。相手は飛んでいる。ゴローニャでは届かない。

 

「使えねぇ………」

 

 どうせやるなら地面にクレーターを作ってから転がれよ。それだと届く可能性もあるし、空中で岩でも飛ばしてやれば、たちまちズバットたちの動きを封じられるっていうのに。

 

「仲間も仲間だな。チームとか言いながら個人プレーじゃねぇか」

 

 連携も何もあったもんじゃない。

 リーダーが轆轤回しとするならば、一人くらいはそのサポートに回ったっていいだろうに。

 これでは余計にロケット団を刺激しただけである。

 

「邪魔だ、どけ」

 

 仕事を増やすな。

 何もできないなら何もするな。

 

「…………吸え」

 

 ロケット団の背後から黒い穴が開き、次々と吸い込んでいく。人質となっている亜麻色髪の少女ともども。

 俺、今超イラついてんな。ロケット団に対しても、この役立たずどもに対しても。

 

「ご苦労さん」

 

 だが、穴からは少女のみ排出され、俺はそれを受け止めた。ぐっすりと眠っている少女はムニャムニャと寝言を言っている。これなら人質になったことも夢の話で済むかもしれない。

 あえて寝かせることで、記憶を曖昧にしてやる方が本人にとってもいいだろう。スクールの時と同じだ。

 

「初のお姫様抱っこが見知らぬ女の子ってか」

 

 手にしな垂れる亜麻色の髪はさらさらしている。

 ふと、彼女の首にペンダントがぶら下がっているのに気付いた。中は透けており、綺麗な丸い石が入っている。

 

「妙な能力だな」

「ッ!?」

 

 この声………ッ。

 さすがジムリーダー。騒ぎを聞きつけやってきたか。だが、もう終わったぞ。

 

「騒ぎを聞きつけて来てみれば、痕跡一つ残っていない。お前………、何者だ………!」

「…………………」

 

 つくづく声が似ていると思う。

 自分に問い詰められているような気分だ。

 

「リザードン」

 

 これはヤバいな。完全に危険視されている。

 

「………………チッ」

 

 別にグリーンにこの少女を渡しても問題はない。

 オーキドのじーさんの孫であり、初代図鑑所有者にしてトキワジムのジムリーダー。信頼を置ける相手ではある。

 だが、個人的に言えば気に入らない。

 

「………出てこい、リザードン」

 

 亜麻色の髪の少女をお姫様抱っこしてるおかけで、ボールを取り出せないが、黒いオーラが全てやってくれた。

 

「………お前もリザードンを連れているのか。ならば遠慮はしない。リザードン、だいもんじ」

 

 『大』の文字の炎がこちらに押し寄せてくる。こっちには少女がいることを忘れたわけではあるまい。俺がどうにかして防ぐと見越してのことだろう。

 仕方ない、乗ってやるよ。

 

「ドラゴンクロー」

 

 竜の爪で炎を切り裂き、一気に詰め寄った。

 

「かみなりパンチ」

 

 懐から電気を纏った拳を掬い上げ、顎にクリーンヒットさせる。

 

「ほのおタイプの技以外にも精通しているのか。だが、こっちの炎はどうだ?」

 

 あん?

 こっちの炎って何だよ。

 

「リザードン、ブラストバーン!」

 

 グリーンの指示に従い、リザードンが地面を叩きつけると地面から炎の柱が次々と立ち昇った。

 知らない技だ。

 躱そうにも動きようがなかった。

 

「いくらほのおタイプといえど、究極技の前では為す術もない」

 

 確かにこれはヤバい。

 究極技というだけのことはある。

 だが、まだ倒れちゃいない。

 

「………っ!? あれを、耐える………のか………!」

 

 煙を上げているが確かにリザードンは立っている。

 これならいけるだろう。

 

「リザードン、腹の中の炎を全てエネルギーに変えろ。エネルギーは全て腕に流せ。………………そのまま地面に叩きつけろ、ブラストバーン!」

 

 技の出し方はとてもシンプルである。

 一目でどういう出し方をするのかは理解できた。

 だが、それだと究極技と称される謂れがない。

 物は試し。使ってみるのが一番いいだろ。

 

「なっ………ブラストバーンだと!? キワメさんから究極技の指導を受けていたのか?!」

 

 おーおー、驚いてる驚いてる。

 こいつのこんな顔を見れるのは貴重なことだろう。

 

「………いや、見様見真似か。威力が全く足りてない」

 

 デスヨネー。

 やっぱ究極技っていうだけのことはあるわ。

 技としては形になっても威力がまるで違う。そのキワメさんとかいう人のところに行かないと完成しないのかもなー。

 

「そこまでじゃ」

 

 なっ?!

 う、動かねえ………。

 こいつ、何かしたのか?

 いや、そうじゃない。今ポツリと老人の声が聞こえた気がする。

 

「フーディン…………なのか………?」

 

 はっ?

 何でそこで驚く………おいおい、マジかよ。

 どうしてあんたがここにいるんだ。

 

「悪いが少年。儂の孫娘は返してもらうぞ。ついでに此奴ものう」

「待てっ!」

 

 動かない身体をフーディンのフルパワーバージョンに掴まれると、一瞬にして景色が変わった。

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

 いきなり現れたかと思えば、ここどこだよ。

 木々がうっそうと茂ってるのは分かるけど、それしかないため、場所の特定が全くできない。

 

「この前は碌に礼も言えずすまなかったのう」

「……………」

 

 ちょっとー、背後から話しかけないでくれますー? 思いっきり身構えちゃったじゃん。

 ………………これ、帽子を取るべきだろうか。お姫様抱っこしてるから無理だぞ。

 

「気づいてないとでも思ったか? お主と本気でやりあった仲じゃ。汝のもう一体のポケモンについても知っておる。まあ、あの二人はまだ知らなかったようじゃからのう。一目でお主とは気づきおらんかった。すまんの」

「…………はあ、全く何でここにいるんすかねぇ………」

 

 白を切るのも無理そうだ。

 俺は深いため息を吐いて、校長の方を向いた。

 

「儂の故郷はトキワじゃ。娘と孫が先に本家に帰っておったんじゃよ。儂は先のことで対応が忙しかったからのう。今帰りじゃ」

「はあ………、そりゃご苦労様です」

「これこれ、年上の相手には『お疲れ様』じゃぞ」

「へーへー、お疲れ様です」

「よいよい」

 

 この人、トキワ出身だったとは。

 噂に聞くトキワの変な力を持ってたりしないよな?

 

「で、こいつあんたの孫なんだろ? いい加減引き取ってくれるとありがたいんだが………。腕が疲れた」

「ほっほ、正直じゃのう。これ、ヤドキング。イロハを持ってやれ」

『ガッテン』

 

 ……………。

 なんだこいつ。

 この前、空から降ってきたくせになんか腹立つな。

 

『貸せ』

 

 念力で強引に少女を奪うと自分の手元に引き寄せた。

 

「……………この前ロケット団にやられて飛んできた『オレっちに何か言ったか………?』…………いや何も」

 

 ポケモンがしゃべってるとか、なんか喧嘩売られてるとかいろいろ言いたいことはあるが、何も口にしない方がよさそうだ。何されるか分からない。エスパータイプだし。

 

「では、ヤドキング。イロハを頼むぞ」

『オレっちに任せろ!』

 

 あいつに任せて大丈夫なのか?

 スキップしていっちまったけど危険な臭いを感じるんだが……………って、もう見えねぇし。

 

「さて、ヒキガヤハチマン。ロケット団は倒せそうかの?」

「……………何で知ってるんだよ」

 

 ちょっとー、唐突すぎない?

 実はこの人も敵でしたとかってことにはならねぇよな?

 やだよ、俺。この人とはもう二度とバトルしたくないそ。

 

「ロケット団、サカキを首領に置く犯罪組織。幹部クラスにはクチバジムのジムリーダー、マチス。ヤマブキジムのジムリーダー、ナツメ。かつてはセキチクジムの先代ジムリーダーで現ジョウト四天王のキョウもいたのう。他には一年前、ナナシマを中心に起きた図鑑所有者との争いにいた、サキ、チャクラ、オウカ。隊長クラスにアポロ、アテナ、ランス、ラムダ。中隊長にはリョウ、ケン、ハリーというのもおったか。まあ͡此奴らはマチスの部下になるがの。研究者の方ではグレンジムのジムリーダー、カツラ。それからフジという男もこっちの世界では有名じゃ。二人ともすでに脱団しているがな」

 

 はっ………?

 まだ、知らない名前がいくつもあったぞ。

 俺が知ってるのはジムリーダー幹部のみ。

 その他にも幹部クラスがいたっていうのかよ。

 ………そうか、だからサカキはマチスとナツメに従う者と称したのか。他にも幹部がいれば、あの二人がいなくなったとしても動くことはできる。今回はその形になっているというわけだ。

 それに一年前。

 ナナシマで何かあったってことくらいしか知らないが、そこにもロケット団が関わっていたっていうのか。

 さっき班分けで行先も決めたが、こりゃいよいよもって5の島も怪しくなってきたな。

 ま、それよりも……………。

 

「…………あんた、一体何者なんだ………?」

「…………かつて儂はロケット団にいたんじゃよ。イロハが生まれてようやく目が覚めたというところじゃ」

 

 元、ロケット団…………だと?

 だからそんなに詳しいってのか?

 いやだが、待て。

 イロハが生まれてというからには、あの亜麻色髪の少女が生まれてロケット団から抜けたということ。見たところ俺と同じくらいだった。つまりは十数年前の話になる。

 

「…………儂が研究していたのは既存のポケモンから伝説のポケモンに造り変えること」

「…………それで? できたのか?」

「…………無理じゃった。一番可能性のあるリザードンからファイヤー、またはホウオウに造り変えることすらできなんだ」

「………それはタイプが同じだから、って理由か?」

「うむ、その通りじゃ。翼も持ち合わせており、姿形からして可能性が断トツじゃった」

 

 なるほど、確かにあの三体は共通点が多い。目を付けるのも頷ける。

 

「だがのう、儂が脱団してからその研究を応用し、完成されてしまったのだ」

「はっ?」

「ミュウというポケモンは知っておるか?」

「………幻のポケモンとか言われてるあのミュウか?」

「うむ。五年くらい前かのう、カツラがミュウのまつ毛の遺伝子から新たなポケモンを造り出した。ポケモンそのものを変化させるのではなく、遺伝子情報から造り出したのじゃ。これには儂も参ってしまったわい」

 

 五年前、ロケット団、カツラさん、そしてミュウ。

 ここから導き出されるのはレッドやグリーンといった図鑑所有者が誕生し、ロケット団との抗争が起きた事件だろう。そこで新たなポケモンが生まれていたというわけだ。もしかするとレッドやグリーンたちもそのポケモンにあっているのかもしれないな。

 

「………そいつの名は?」

「第二のミュウ、ミュウツーじゃ」

 

 ミュウツー。

 覚えておこう。

 

「あん?」

 

 なんかミュウツーと聞いて黒い影が揺らめいた。

 黒いのは何か知ってるのかもしれない。

 

「…………奴は強いなんてもんじゃないぞ?」

「へぇ、具体的に?」

「凶悪ポケモンと称されるギャラドスの数十倍は気性が荒い」

「そりゃ、楽しみだ」

 

 ギャラドスより気性が荒いとなると、暴走したダークポケモン、あるいはそれ以上だろう。

 武者震いなのか、恐怖からなのか、なんかゾクゾク震え上がってきた。

 

「奴と戦うというのなら、2の島に住むキワメという婆さんを探すといい。お主の実力ならば、新しい技を習得できることじゃろう」

 

 2の島………。

 キワメといえば、さっきグリーンがキワメさんという人から究極技を教わったとこぼしていた。

 なるほど、新しい技というのは究極技のことか。

 

「…………校長、この前のスクール襲撃、あれ校長を狙ったものとみて間違いないっすよね」

「恐らくの」

「ま、あんたがいれば心配はねぇけど。………なんせ歳だしな。オーキドのじじいも加齢とともにポケモンバトルがつらくなってきたって話だし」

「ほっほ、儂を労わってくれるかの」

「まさか」

 

 この前のを見てまだまだ現役だと再確認したところだっての。

 歳の割に胆力ありすぎだろ。

 

「コマチを、妹を頼んます」

「汝は不思議な男じゃ。こんな黒い過去を持つじじいに妹を託すとは、正気か?」

「俺とあんたは本気でやり合った仲なんでしょう?」

「ほっほっほっ、こりゃ一本取られた。うむ、心得た。存分に暴れて来い」

「うすっ」

 

 思わぬ会合だったが、この前のこと、これからのこと、両方ともに情報を得られたのは大きい。ひとまず5の島ついでに、2の島にもいくことにしよう。

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

 ロケット団討伐隊結成から一週間後、三つのチームに分かれ、俺たちは一年前にロケット団が活動の拠点としていたとされる5の島に来ていた。

 特に何かあるわけでもなく、のんびりとした島である。

 こんなところをなぜ拠点にしたのか、俺にはさっぱりだが、サカキには何か考えがあったのだろう。

 

「ここが5の島………」

「随分とのんびりした島であるな。実にいい」

 

 ユキノシタとザイモクザがそれぞれ感慨深く島を見渡している。もう一人、ハンダさんが端末をいじって何かを調べているようであるが、俺はそれよりも島の奥の方から強い気配を感じていた。

 

「どうかしたのか?」

「いえ、何でもないっすよ」

 

 一人遠くを見ていた俺を不思議に思ったのか、ハンダさんが声をかけてきた。

 よくこんな全身黒ずくめの男に声をかけられたもんだ。ユキノシタもザイモクザも少し距離を取って………いることもないな。平然としてたわ。

 なに、みんなして俺が怖くないのか?

 

「どうやら、島の奥がロケット団の活動拠点だったようだ。早速向かってみるか」

 

 へぇ、島の奥ね。

 まさかそこから強い気が流れ出ているわけじゃないだろうな。

 

「分かりました」

「うむ、心得た」

「………」

 

 島の奥までは徒歩で行くようだ。

 島の見物も兼ねて、なのかね。

 

「……………」

「……………」

 

 な、なんだよ、ユキノシタ。

 訝しむ目で俺を見るなよ。心臓に悪いだろ。

 

「………オーダイル、念のため出てきなさい」

「オダッ!」

 

 不意にオーダイルをボールから出してきた。

 出てきたオーダイルが俺に気づき、じっと見てくる。

 なんだろう、オーダイルには見破られているような気がする。

 だが、何事もなくユキノシタの横を歩き出した。

 何とも心臓に悪い視線だ。

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

 ここが元拠点か。

 ただの倉庫だな。

 

「中は手分けして探そう」

「そうですね」

「……………」

 

 ん?

 

「どうかしたのかしら?」

「いや、何でもない」

 

 倉庫の入り口は破壊されたような痕跡があった。

 しかもまだ新しい。白い煙がうっすらと立ち昇っている。

 

「………ッ!?」

 

 この気配!

 島に着いた時に感じたものだ!

 ということは中に………。

 

「………全員いつでもポケモンたちを出せるようにしとけ」

 

 そういった俺をユキノシタとザイモクザが驚いたような顔つきでこちらを見て、短く了承した。

 

「うむ」

「…………分かったわ」

 

 中に入ると、これまた荒らされたような痕跡が多々ある。というか廃墟といっていいくらい人の出入りがずっとなかったことが伺えた。

 俺は一人、適当にぶらつきながらめぼしい資料などがないが探していく。倉庫の中はくらいため、念のために持ってきた懐中電灯の光が頼りだ。さすがにリザードンをここで出すわけにもいくまい。

 

「『レッドプラン』………?」

 

 ふと懐中電灯の光の指す方向に気になる単語が見えた。

 この前、サカキが言っていたような気がする。

 気になってしまっては仕方ないので、資料を手に取りパラパラとめくっていく。

 

 

『レッドプラン』

 プラン概要

 先の実験、『プロジェクトM’s』において実験体528が脱走したことを受け、同個体を捕獲するためのポケモントレーナーを育成することとした。そこで二年の時を費やした末、最強のポケモントレーナーを育成するためのプログラム(凍結状態)を応用し、広く生息するポケモンから伝説に名を残すポケモンまで、全てのポケモンを懐柔するトレーナーを育成する同プランを計画。プランの被験者はボス自らが選出。第一被験者であるヒキガヤハチマンは実験体528の進化形と同じリザードンを所持しており、トレーナーとしての能力もカントー図鑑所有者に匹敵すると判断された。なお、脱走から二年の時が経つ現在において、実験体528は発見すらされていない。しかし、いずれ凶悪なポケモンとして世に出てくる可能性が極めて高い。

 

 被験者について

 第一被験者 ヒキガヤハチマン

 年齢 十二歳

 手持ちポケモン リザードン

 出身 クチバシティ

 初邂逅 12番道路

 

 初代図鑑所有者たちを彷彿させるようなバトルセンス、それに伴う実力。またポケモンについての豊富な知識を持ち合わせており、加えて物事の吸収力の高さは同年代よりも頭一つ以上飛びぬけている。総合的に見て、トレーナーとしての実力は大人を抜いているとも考えられる。

 

 被験者のポケモンについて

 実験体528の進化形であるリザードンは炎以外も技を容易く繰り出す実力の持ち主。またトレーナーの意図を読み取る力も長けており、バトルの動きに無駄がない。第一被験者の育て方の結果が具現化しているかのようである。

 

 総合

 トレーナー、ポケモンともに高い実力を誇り、すでにカントー各地のジムバッジを三つ獲得していた。

 野生ポケモンとのバトルにおいても複数体を相手に取り、涼しい顔で全て倒してしまうほどである。

 ただし、一つ懸念することがある。被験者は時折黒いオーラを放ち、記憶が噛み合っていない時もある。何かに取り憑かれている可能性が拭えない。

 

 計画について

 当計画は当団研究員、ユキノシタハルノが過去に個人が作成していた計画を基に作成。実力のあるポケモンを使いこなせるトレーナーを育成するプログラムだったため、今回そこに注目した。

 また計画名については被験者が図鑑所有者に匹敵することから、図鑑所有者レッドより拝借。

 

 計画の進行について

 第一段階として特殊なエネルギーを秘めた球石を砕き、それを原料とする液体薬品を投薬。

 第二段階としてリザードンに急成長を促す薬を投薬。

 第三段階としてボスとバトル。

 ーーここまでの流れを数か月かけ、繰り返し行う。

 第四段階として互いの血液を投与。

 最終段階として再びボスとバトル。

 ーーその後、経過観察。

 

 また、ボスとのバトルにおいてはスピアーに神経を刺激させ、暴走を引き起こさせることも念頭に置く。

 

 進捗経過

 ここからは実験経過を簡単にまとめていく。

 計画第一段階、二度目の邂逅時に寝ている隙に投薬。投薬による拒絶反応はなし。

 計画第二段階、リザードンに薬を投薬。こちらも拒絶反応はなし。

 計画第三段階、計画通り進行し、スピアーによる暴走の促進。炎のベールに包まれ暴走。いわタイプの技でリザードンを戦闘不能に追い込むことで対処。

 四か月、計十回に渡り、ここまでを繰り返し行った。

 その後、計画第四段階を行うも突如として暴走。これまでに見ない激しさであった。同行していたマチスと対処するも手に負えない状態であり、計画は失敗と判断。

 だが、気づけば被験者とリザードンは黒い穴の中へと吸収されており、そこには黒い謎のポケモンがいた。恐らく被験者のポケモンと思われる。

 

 補足

 当計画は初代図鑑所有者の妨害や仮面の男の事件、ボスの不在等により一時凍結されていた。

 

 余談

 被験者の第二のポケモンである謎の黒いポケモンは、シンオウ地方の言い伝えに残るダークライと判明。また後のDNA鑑定により、被験者のリザードンが実験体528であることが判明。これにより被験者を特定危険人物と断定した。

 

 

 …………………。

 これ、俺だな。

 サカキが飛空艇の中で言っていたことは本当だったようだ。

 しかも最後。

 黒い謎のポケモンというのはあいつのことだろう。黒い穴に吸収とあるため、恐らくその時点で記憶を食われたのだろう。忘れていたとしても無理はない。

 というより、もっとヤバいのはロケット団のブラックリストに載っているということだ。俺ってそんなことになってたのかよ。そりゃサカキが接触してくるわけだ。監視も兼ねて、実験のその後の経過観察も兼ねて、他にも何か思惑があるのだろう。

 他には……………資料を固めて並べすぎだろ。『プロジェクトM’s』の資料もあるじゃん。

 リザードンーーヒトカゲとの出会いもあいつが研究者に追いかけられている時だった。実際に追いかけられているところは見ていないが、走り疲れたヒトカゲが家の前に倒れていたのを覚えている。

 

 

『プロジェクトM’s』

 プロジェクト概要

 当計画は、ミュウツーの逃走、及びその生みの親であるカツラ博士の脱団を受け、ミュウツーに変わる新たな最強のポケモンを造り出すことを目的とする。

 いずれ、すでに脱団しているイッシキ博士が考案した計画、『レジェンドポケモンシフト計画』に移行させることを念頭に進めるものとする。

 

 実験結果

 ミュウツー計画の残されたデータを基に、制御不能にならない範囲で実験。しかし、一から細胞を構成させ、ミュウの遺伝子を組み込んだ、謂わばクローン体であるミュウツーと違い、既存のポケモンたちでは実験に耐えられなかった。実験開始から約三年の時を経て、ようやく実験体528が耐えきり、実験が成功した。実験は第二段階へと移行し、力の制御を行なった。こちらも問題なくクリア。

 だが予期せぬ出来事に見舞われる。

 力を制御できた実験体528が脱走したのだ。研究員たちが捜索に当たったが、発見することはできず、プロジェクトはそのまま凍結されることとなった。

 

 こっちはこれだけしか書かれていない。他の細かい情報は別の場所にあるのだろう。

 何にしてもリザードンが実験体528がリザードンであり、それまでの527体は実験で命を落としたというわけだ。

 よくもまあ、こんなゲスい計画を実行したものだな。

 それにしても、本当に校長がロケット団の研究者だったとは。敵になってなくて正直ほっとしている。

 

「………イッシュ、建国史………?」

 

 イッシュ…………?

 イッシュって何だ………?

 建国史ってあるし、国………今でいうところの地方名か?

 こんなところに並べてあるんだし、関係あるのかもしれない。取り敢えず、読んでみよう。

 

 

 イッシュ建国史

 古代ハルモニア王国。時のハルモニア王があるドラゴンを降した。それにより国民から絶大な信頼を寄せられ、以来国民は一丸となり、国は栄えた。間も無く国王がその生涯を終えると息子である双子の皇子が新たな王の座に就いた。前国王が降したドラゴンも双子に寄り添い、国民も新たな王の誕生ということもあり、一丸となった。しかし、後に双子の王はその意見を違えることとなった。真実を求める兄と理想を求める弟。カロスという大きな国にいずれハルモニア王国が侵略されると語る弟は、先に危険要因を排除するため、カロスへ侵攻。前国王が降したドラゴンも連れて行った。しかし、結果は惨敗。カロスより打ち上げられた光により多くの魔獣と人々が命を落とした。ドラゴンに助けられた弟の元に兄が向かうとまたしても意見が対立。今度こそ修復しきれない亀裂が二人に入り、二人の言葉にドラゴンが分裂した。その姿は白陽な真実と黒陰の理想を感じさせ、そのまま何もかもが無くなったカロスの地で二人の戦争が始まった。だが、二人はすぐに追い出されることになる。巨大な翠の魔獣に襲われたのだ。二人は戦いの場を自国へと移し、国民を巻き込んだの第二次戦争が勃発。激化した第二次戦争は多くの魔獣と人々の命を奪っていった。ドラゴンと同じく前国王の配下にいた三体の魔獣が他の魔獣たちを引き連れ、以後人々の前に魔獣が長く現れることはなかった。ようやく事の重大さに気づいた双子の王は戦争を放棄。分裂した白黒のドラゴンはそれぞれ石となり、遠くへと消えてしまい、ハルモニア王国も滅んだ。そして激戦により失われた太陽の代わりに、太陽のような炎を操る魔獣を配下に置く者が新たな王となり、国を『一種』と名付けた。

 そう、二度と国が二つに分裂しないようにと願いを込めて。

 

 

 一種の国、イッシュ地方か………………。

 中々に洒落の効いた名前じゃないか。

 

「ッ!?」

 

 またこの気配かっ!!

 今度はかなり強いぞ!

 ここに来た時よりも一層殺気を感じられるっ!

 まさか、あいつらの誰かが………………。

 

 ドドンッ!!

 

 激しい揺れとともに爆発音のようなものが聞こえた。次第に焦げ臭さが感じられ、何かがあったことが容易に分かった。

 

「チッ」

 

 ヤバい。

 これは非常にまずい事態だ。こんな強い気を放つ奴相手にあいつらが何かできるとは到底思えない。

 急がねぇと。

 

「オーダイル、ハイドロポンプ! ギャロップ、かえんぐるま! タツベイ、りゅうのいかり!」

「ポリゴン、レアコイル、エーフィ、レールガン!」

 

 爆発音のした方へ向かってみると、ユキノシタとザイモクザが誰かと交戦中だった。

 

『フン!』

 

 な、なんだ………っ!?

 ポケモン、なのか……………?

 六体からの攻撃を全て相殺するとか、とんでもないパワーだ。

 

「フォレトス、こうそくスピン! ニューラ、つじぎり!」

 

 別方向から来たユキノシタのフォレトスとニューラが次の攻撃を仕掛けていく。

 

「グレッグル、どくばり!」

 

 ハンダさんもかけつけたようだな。

 なら、俺も参戦するとしよう。

 

「ッ!? 伏せろ!」

 

 おいおい、行こうとした矢先に大技かよ。何つー技だよ。見たことねぇぞ、あんなの。

 

「リザードン、かえんほうしゃ!」

 

 頭上から落ちてくるエネルギー体を焼き払い、安全地帯を設けていく。

 

「くっ………、ペルシアン、だましうち!」

 

 技を撃ち終えた奴の背後にペルシアンが現れるも巨大なスプーンで受け止められてしまった。

 

「………何者だ」

『フンッ!』

 

 会話は無理か。

 いや話す気がないといった方が正しいな。

 

「チッ、逆に利用されてるな」

 

 ペルシアンのだましうちも逆に勢いを利用され、俺たちへの攻撃へと変わってしまった。

 

「全員ポケモンを戻せ」

「君はなにを言っているのだ………?」

「リザードン、りゅうのまい」

「………身を引けとでもいうのかしら?」

「死にたくなければな。リザードン、ドラゴンクロー!」

 

 打撃戦へと移行したのか、スプーンによる攻撃を竜の爪で受け止めた。

 にしても近い。

 近すぎて、何かに、誰かに似ているような気さえしてきた。

 

「嫌よ、オーダイル、かみくだうぷっ!?」

「大人しく帰れ、ユキノシタ」

「ッ!?」

「お主は………っ!?」

 

 俺は身につけていたマントと目深帽をユキノシタに被せた。

 この二人は薄々気づいていただろうが、驚きは隠せないらしい。

 

「ザイモクザ、テレポートで二人を安全なところへ連れてってくれ」

「ちょ、ちょっと待って! それじゃあなたは!」

「ザイモクザ」

「………死ぬでないぞ」

「死ぬかよ」

 

 ザイモクザは短く頷いてユキノシタとハンダさんを連れて、ポリゴンのテレポートで消えた。エーフィによりすでにポケモンたちはボールへ戻されていたようだ。

 

「よお、見たところお前もロケット団に関係しているみたいだな」

『フン!』

 

 いきなりはどうだんを撃ってくるとか………。

 こいつ、かくとうタイプか?

 

「リザードン、ドラゴンクロー!」

 

 弾丸を竜の爪で弾き、一気に奴さんに飛び込んでいく。

 はどうだんは打ち落とさない限り追尾機能が働き、いつまでも追ってくる。逆にその特性を生かして、相手に攻撃するという手段にも変えられるがな。

 

『フンッ』

 

 ダメか。

 こんだけ強いと校長の話していたポケモンを彷彿させてくるな。凶悪ポケモンと称されるギャラドスの何倍もの気性の荒さを持つ………第二のミュウ………。

 

「ミュウツー………」

『ッ!?』

 

 んっ?

 動きが、止まった………?

 

「もう一度聞く。お前は何者だ」

『…………オレの名はミュウツー。どこでオレの情報を手にいれた』

 

 ッ!?

 おいおい、マジかよ。

 こいつがミュウツーなのか。

 確かにこの測りようのない強さ、話に聞くミュウツーに類似するものがあるが………。

 

「元ロケット団のじーさんからだが? というか会話ができたんだな」

『フンッ! やはりロケット団の回し者かっ!』

「ああん? なんでそうなるんだよ! リザードン、かえんほうしゃ!」

 

 いきなり電撃を放ってくるとか………。

 今のは10まんボルトか?

 

『黙れ。貴様のような人間を嫌というほど見てきた。オレを造り出し、あまつさえこの能力を使おうと、オレを支配下にしようと目論む輩をなっ!』

 

 そりゃそうだろう。

 そのために造り出されたポケモンなのだから。

 ま、言ってしまえば俺たちも同類だ。

 リザードンはミュウツーの代わり、俺はそれをコントロールするために造り替えられた。だからと言ってこいつの気持ちは全く分からない。同類なだけであって俺はこいつではないのだからな。

 

「リザードン、シャドークロー!」

『フン、貴様はこれで終わりだ!』

 

 またさっきの大技か。

 頭上からエネルギー体が次々と降り注いでくる。それをリザードンは影の爪で切り裂いていき、ミュウツーへと接近していく。

 

「それはどうだろうな。かみくだく」

『甘いっ!』

 

 リザードンの巨大な黒い牙をスプーンを挟むことで受け止め、相手右腕からエネルギー体を俺に向けて飛ばしてきた。

 はどうだん、だろうな。

 リザードンがいないし、躱したところで追いかけてくるし、仕方ない。あいつを呼び出そう。

 俺は二度地面を蹴りつけ奴を呼び出した。

 

「………ライ」

「すまん、目の前まで来てるアレ、何とかしてくんね?」

 

 そういうと黒いのは黒い穴を作り出し、はどうだんを綺麗さっぱり飲み込んだ。

 はい、終わり。

 

『貴様が何故そのポケモンを連れているっ!?』

「なに? こいつのこと知ってんの?」

「シャアッ!」

 

 おおう、リザードン。

 やる気だねぇ

 

「リザードン、シャドークロー!」

『フンッ!』

 

 そのやる気に応えて、どんどん技の指示を出していくとしよう。

 

「ローヨーヨー!」

『オレに背中を向けるとは。所詮この程度かっ!』

 

 それさっきも言ってたよな。

 あんまり使いすぎると死亡フラグになっちゃうぞ?

 

『先が読めればなんてことはない!』

 

 今度は竜巻を発生させてきた。

 あいつ一体何タイプなんだろうか。

 

「そのままトルネード!」

 

 そのまま回転させることで竜巻の影響を流していく。

 

『ぐぅっ!』

 

 お、当たったか?

 

『………お前、まさか………!?』

「シャアッ!」

 

 おい、リザードン。いつの間にミュウツーと会話してたんだよ。

 しかも何か驚いてるみたいだし。

 

『…………貴様たちがそうなった原因にオレの存在もあるということか』

 

 ミュウツーからの殺気が急になくなった。

 一体リザードンは何を話したっていうんだ?

 まあ、なんだっていいか。

 俺は俺で目的を果たすとしよう。

 

「なあ、ミュウツーさんよ。俺と契約しないか?」

『………ふっ、まるであいつのような顔をしている。………いいだろう、オレを前にして物怖じしない貴様のその性格、認めてやる。しばらく貴様に付き合ってやろう』

 




次話から本編に戻ります。


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3話

 ここが2の島か。

 そんな大きな島でもなく、島民も少ない。

 こんなところに究極技なんてものを伝承している人がいるとは到底思えないが、一際高いところにポツンと一軒家があり、ものすごくそれっぽい感を放っている。

 

「カイリュー、りゅうせいぐんじゃ!」

 

 はっ?

 なんか降ってきたんですけど。

 

「リザードン!」

 

 絶対人が来ないと思ってやってるだろ。

 

「トルネードドラゴンクロー!」

 

 だったら、全部砕いてやる。それはもう粉々に。

 

「なんじゃと?!」

 

 上の方から枯れた声が聞こえてきた。恐らくカイリューのトレーナーだろう。

 

「………お主、何者じゃ」

 

 カイリューから降りてきたのは一人の婆さんだった。マジかよ、婆さんなのかよ。

 

「ただのポケモントレーナーだ」

「ふんっ、こんな辺境の地に来るトレーナーが『ただの』トレーナーなわけあるかい」

 

 そりゃまあ、ご尤もで。

 

「それで、何の用じゃ」

「究極技とやらを習得しに」

「ほう、究極技じゃと? 帰るんじゃな。生半可な実力じゃ使えるものではない」

「生半可な実力ねぇ……………」

 

 りゅうせいぐんを全て落としてもダメか。

 つか、この人でいいんだよな。この人でなかったら帰される意味も分からんし。

 

「オーキドグリーン。この名前に聞き覚えくらいあるんじゃないか?」

「ッ?! グリーンじゃと!? ………いや、今やあいつもジムリーダーに上り詰めた有名人じゃ。誰が知っててもおかしくはない」

 

 こっちの手札は使えない、か。

 

「なら、バトルでどうだ?」

「わしに戦えと?」

「………カイリュー以外にポケモンは?」

「いるがそれがとうしたというのじゃ」

「全員出せよ。まとめて相手してやる。それで勝てば文句ないだろ」

 

 手札が使えないなら相手の手札をすべて叩き潰すのみだ。

 

「ふん、メガニウム、バクフーン、オーダイル。この生意気な小僧を蹴散らすのじゃ!」

 

 ジョウト地方の御三家の最終進化形か。

 リザードンが究極技を使えたということは恐らくはバクフーンも同じ技を使える。そして、くさタイプ、みずタイプにもそれぞれ究極技があるとすれば、同じ御三家であるメガニウムとオーダイルもまた究極技を使えるのだろう。

 

「リザードン」

「ほう、グリーンと同じというわけじゃな。カイリュー、りゅうせいぐん! メガニウム、ばーどぷらんと! バクフーン、ぶらすとばーん! オーダイル、はいどろかのん!」

 

 もしやと思ってはいたが。

 やはり炎以外の究極技もあったんだな。しかも三位一体となる合わせ技。三体揃えば危険なんてものじゃない。

 

「リザードン、ハイヨーヨー」

 

 まずは三位一体を急上昇で躱す。だが、頭上からは流星が弾け、無作為に降り注いできた。

 

「トルネードドラゴンクロー!」

 

 腕を前に突き出し、高速回転して流星群の中を突き進んでいく。

 まずはこのままカイリューを落とす。

 

「カイリュー、かわすのじゃ!」

 

 チッ、間一髪で躱されたか。

 だが、まだだ。

 リザードンは空気を思いっきり蹴って反転すると、急下降で一気にカイリューを地面に突き落とした。

 

「シャシャッとはなて深緑の力!」

 

 これは………?!

 ハード、プラントか………!?

 さっきとはまるで威力が違う。さっきのは手加減、されていたというのか?

 

「リザードン、カイリューの尻尾を掴んで投げ飛ばせ!」

 

 起き上がりかけているカイリューの尻尾を掴み、バランスを奪うとぐるんぐるんと回して太い根の方へと投げつけた。これでカイリューが身代わりとなって技を消化するだろう。

 

「………体内の炎をすべて右の拳に集めろ」

「………ほのおのぱんち……か?」

「イメージは………火山の噴火だ。地割れとともに炎柱を噴き上がらせるような、地中で爆発を起こすんだ」

「小僧、なにをする気じゃ?」

「本来が、どんな技なのかは知らない。それを今から学ぼうと思ってここに来たんだ。ただ、これは名前を借りた俺たち特製の究極技だ」

 

 グリーンのブラストバーンから得た見よう見真似の究極技。だけど、一発撃って分かったこともある。

 火力が足りないんじゃない。分散させすぎていたのだ。だからもっと、もっと一点にエネルギーを集める必要がある。

 

「叩きつけろ! ブラストバーン!」

 

 叩きつけた瞬間、地面が揺れた。割れた地面からは炎の柱が立ち上っていく。

 

「………この威力、じしんか………。それに追加効果のようなものとして炎柱が立ち上ったというところか……………。まだまだだな」

 

 やはりそう簡単に上手くはいかないか。

 ま、新しくじしんを覚えたんだから、良しとするか。

 

「か、カイリュー?! メガニウム?!」

 

 後は二体。

 

「リザードン、じしん!」

 

 新しく覚えた技を単体で使ってみた。

 結構激しく揺れるな。俺の三半規管が揺さぶられて吐き気を催してきた。

 

「まずはバクフーンだな。リザードン、ドラゴンクロー!」

「ゴゴッと唸れ劫火の力! バジャッとはじけ水勢の力!」

 

 やはり。

 こちらもさっきとは打って変わって威力が桁違いだ。

 だが、来ると分かっていればどうとでもなる。

 

「ソニックブースト!」

 

 究極技の欠点は一直線に放つこと。

 特にオーダイルのは正面に一直線であるため読みやすい。同様にハードプラントも地面を這うような技だから軌道を読みやすい。

 

「………使った後はしばらく動けなくなるのか。究極技というだけのことはある」

 

 ま、こんな特大威力の技を何の反動もなく使えるわけがないよな。

 

「大体は掴めた。やっぱり再現するには技が足りないな。………よし、この際だ。リザードン、ありったけの炎を纏え!」

 

 久しぶりだな。バトル中に新しく技を覚えさせるなんて。だけど、これが一番道理に合っていると思う。全てのヒントはバトルの中にあるのだ。

 

「なっ?! ふれあどらいぶじゃと!?」

 

 フレアドライブ。

 激しく燃え盛る炎を纏い、突撃をする大技。反動でこちらにもダメージが返ってくる程の破壊力がある。

 だが、それがどうしたというのだ。俺は別にこの技でどうにかしようなんて考えちゃいない。

 

「そのまま右の拳の先に、一点に集中させるんだ」

 

 結局のところ。

 グリーンのリザードンやこの婆さんのバクフーンみたいに火力が足りないのは文字通り火力が足りないからだ。だったら、ポケモンの技でそれを補えばいい話。そして、ないなら新たに覚えさせるのみ。

 

「やれ、ブラストバーン!!」

 

 右の拳を地面に叩きつけた。

 拳が地面に当たる前には既に地割れが起き、炎の柱が次々と立ち上っていく。

 さっきとは比べ物にならない威力。

 ただ………………。

 

「やっぱなんか違うな………」

 

 何だろうか。

 理屈の上ではこれで成功したと言っていいはずだ。

 だけど、何か。何かが俺の中で引っかかっている。

 

「バクフーン!? オーダイル?!」

 

 あ、いつの間にか四体とも戦闘不能にしてたみたいだわ。今ずっと究極技のことしか頭になかったぞ。ヤバい、集中し過ぎると周りが見えなくなってるな。

 

「………もう一度聞くぞ。お主、何者じゃ?」

「元カントーチャンピオン、ヒキガヤハチマンだ」

「………っ?! なるほどのぅ。ガッテンがいったわい」

 

 ここまでやったからにはこれくらい言っておかないとな?

 

「図鑑所有者に匹敵する実力かい。いいじゃろう、受け取りな」

 

 婆さんが認めてくれたらしく、赤いリングを俺とリザードンに投げてきた。それを取ろうして、リングに触れた瞬間、勝手に腕に嵌った。

 え? なにこのリング。意思でもあるわけ?

 リザードンも俺と同じことを思ったらしく、自分の腕のリングをまじまじと見ている。

 

「ま、お主はほぼ完成しておる。後はこのリングから授かるのみじゃろう」

 

 こりゃジョウトの赤髪に並ぶ早さだね、と呆れていた。

 なるほど、要するにこれがなければ完成しないというわけか。あながち、俺の勘も間違っていなかったというわけだ。

 

「いいかい、究極技はおいそれと使えるものじゃない。じゃがお主らはそれを自力で形にした。その実力はわしが見てきた中でもずいいちじゃ。ちからに驕れるじゃないよ」

「驕れ、ね………。そんなの散々見てきた。ポケモンに負荷を掛けてまで勝敗に拘り、ポケモンを飼い慣らして力で捩じ伏せる。………そんなのはただの欺瞞だ。俺はリザードンにーーヒトカゲに選ばれた。そして俺はそれを受け入れたんだ。そんなことで俺たちの関係を終わらせてたまるかよ」

 

 ああ、そうだ。

 サカキが俺たちに何か施していようと、そんなのは関係ない。俺はこいつのトレーナーで、こいつは俺のポケモンだ。たかだか究極技くらいでリザードンの力を過信したりはしない。

 俺はできることを指示し、やれることを増やしてやるだけだ。

 

「んで、究極技ってのは三つあるんだろう?」

「それがなんじゃ?さっき見せたじゃろう?」

「他二つも試し撃ちできたりしないのか?」

「なっ!?」

 

 あれ?

 そんな驚くことだったか?

 

「………いいじゃろう。メガニウム、オーダイル。回復できたかいっ?」

「メガッ!」

「オーダッ!」

「………究極技を舐めるじゃないよ?」

 

 メガニウムとオーダイルの回復を確認すると、ニヤッと不敵な笑みを浮かべてきた。婆さん、様になってて怖い。

 

「はっ、いいね。それくらいじゃないと張り合いがない」

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

 キワメ婆さんのところを訪れて半年。

 俺は一度もユキノシタたちの前に顔を出していない。要するに逃走中というわけだ。

 ーーー暴君様を連れて。

 

「『謎の黒マントと白アーマー! 再び現れる!?』………ね」

『ふっ、流石に派手にやり過ぎたか?』

「いいんじゃねぇの?相手は犯罪組織なんだし」

 

 新聞の一面にデカデカと貼られた項目を読み上げると暴君様が話し掛けてきた。

 

『黒マント…………………ふっ』

「なんだよ、白アーマー」

 

 実は新聞の記事は俺たちである。

 三つの究極技を三体同時に一発で成功させ、キワメ婆さんに後継者として認められた後。

 俺たちはそのままカントーの犯罪組織を洗いざらい潰し始めた。情報源は暴君様。一体どこからそんな情報を仕入れてきたのか知らないが、確かな情報なもんだから隅に置けない。

 

「んで、次は?」

『そろそろロケット団も交えるか』

「本命はそこだろうが」

『………奴は帰ってこないな』

「お前とやってから気配がない。………何かしたのか?」

『さあな。オレはあいつと一瞬交えたくらいしかない。あいつが何者なのか、何も知らん』

「一度じゃなく一瞬、ね………」

『ああ、一瞬だ』

 

 その時何があったのかは聞かない。聞くのは野暮ってもんだ。

 

「まずは次の場所へ移動するか」

『ああ、そうだーーー』

「サイホーン、とっしん!」

「リングマ、はかいこうせん!」

「ナッシー、タマゴばくだん!」

 

 次の場所へと移動しようかと決めた時、轟音がなった。声のする方を見るとサイホーン、リングマ、ナッシーが暴れ始めている。トレーナーは恐らくあの中央にいる三人。

 

「ったく………」

『いくのか?』

「見過ごすのも寝覚めが悪いだろ」

 

 ここでやらなければ到底ロケット団を倒すことなんで出来はしない。

 

「ママ?!」

「ユイ、私はいいから逃げなさい!」

「いやっ!」

「いいから早く!」

 

 転けて逃げ遅れた母親に娘が離れないでいる。

 

「クァンッ!」

「サブレ?!」

 

 母親の方のポケモンだろうか。

 アレは確か…………ポチエナ、だっか?

 

「よお、こいつ弱いくせに牙を剥いてきてるぜ」

「一発やってろうぜ」

「へへっ、サイホーン、じならし!」

「きゃ?!」

「うわっ!?」

 

 母娘以外にも今のじならしによりバランスを崩し、逃げ遅れる者が増えていく。

 

「リングマ、ブレイククロー!」

 

 反抗的だったポチエナにリングマの爪が刺さった。

 軽く吹き飛ばされていくポチエナ。

 

「ナッシー、ソーラービーム!」

「サブレぇぇぇえええええええええっっ!?」

 

 そこにナッシーのソーラービームが刺さった。

 こりゃ無理だな。反撃の隙も与えない数の暴力。ポチエナでは耐えることなど万に一つもないだろう。

 

「血気盛んなのはいいが、自分の実力も把握しとかねぇと命がいくつあっても足りねぇぞ」

 

 リザードンに乗ってポチエナを回収すると目を回していた。

 

「何者だ!?」

 

 そして着地し、暴君の横に並び立つと三人の中の一人が睨んできた。

 

「っ!? 黒マントに白アーマー…………まさかっ?!」

 

 質問に答えるよりも先に別の一人が俺たちの様相に気がつき、戦慄いている。

 

『ふん!』

「ぐあぁぁっ!?」

 

 暴君様はお怒りのようである。

 サイコキネシスで気づいた男を吹き飛ばした。

 

「リザードン、ブラストバーン」

「シャア、アアッ!」

「「うわっ、うわぁぁぁあああああああああっっっ!?!」」

 

 こっちも残り二人を纏めて狩っていく。

 ナッシーとサイホーンも間に割って入ってきたが、究極技の前では意味を成さなかった。

 

「クァン!」

「わかったわかった。んなに舐めんな」

 

 なにこの懐き様。

 

「サブレ!?」

「………ん」

 

 駆け寄ってきたお団子頭にポチエナを差し出す。

 …………が、何故か受け取ってくれない。

 

「………あ、ありがとう…………ごさいます………………」

「逃げられるか?」

「あ、足挫いたみたいで………」

「だったらここにいろ。リザードン、ここで周辺を警戒しててくれ。他にもいるみたいだからな」

「シャア!」

 

 お団子頭の少女の脇にポチエナを寝かせると動けない代わりリザードンを護衛を任せた。

 

「ヒッキー………?」

 

 そして俺も片を付けにいこうとしたら、ポツリと聞き覚えのあるようなないような呼び方をされた。

 や、そもそも「ヒッキー」とか、ただの蔑称だろ。

 

「誰が引きこもりだ。俺はこうして昼夜問わず働いてるっつの」

 

 気のせいだと思うことにし、今は目の前の暴挙を打ちのめす方へと切り替える。

 

「さて暴君さんよ。この場合、集団テロと断定してもいいのかね」

『別に構わんだろう。害をなす者は敵。それに刃向かう者は味方。関係ない者を護る者こそ正義であろう?』

「違いない。んじゃ一発デカいの頼むぜ」

『ふんっ!』

 

 いやー、やっぱすげぇわ。敵に回すとたまったもんじゃないが味方にするとすげぇ心強いな。

 一発で他に待機してた奴らを放りやがった。

 

「すご…………」

 

 おっと、この音は……………。

 

「警察です! 身柄を拘束します!」

 

 ………ん?

 俺?

 

「や、捕まえるの俺じゃなくてあっち。どう見てもあっちだろ」

「し、失礼しました!」

「ぶほっ!」

 

 おいこら、そこのお団子頭。

 何笑ってんだよ。

 

「や、やー………ははは」

「ったく………」

 

 なんだかんだ人が集まってきたな。

 野次馬どもも暇過ぎんだろ。

 

「げっ、コマチ………」

 

 今日って休日だっけ?

 母ちゃんまでいるし。いや、そもそもここは…………。

 

「そうか、クチバに来てたのか」

 

 あまりにも周囲に無頓着過ぎたようだ。自分が今立っている場所でさえ把握できていなかった。

 そうと分かっていれば、こんな大事にしなくてもよかっただろうに。もっと、一発で、いや一瞬で片付けられるようにならないと…………。

 

「暴君、予定変更だ。ホウエンのバトルフロンティアにいくぞ」

『………何をする気だ?』

「バトルフロンティアの全てのシンボルを手に入れる。そして、圧倒的な力でロケット団を潰す」

『ふっ、いいだろう。好きにしろ』

 

 警察が奴らを全員拘束したのを確認し、リザードンに乗ってその場を離れた。

 

「黒マントに白アーマー……………………まさかね」

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

 ロケット団討伐部隊編成から八ヶ月。

 俺はホウエン地方のトウカの森に来ていた。

 ロケット団がカントー・ジョウトの外を活動拠点にしている可能性を考慮し、捜索範囲を広げたためだ。

 これまでいくつかロケット団による事件はあったものの、表立った活動は見受けられず、これだけ足取りを掴まなければサカキに踊らされているのではと、疑わざるを得ない気分である。だが、やはりロケット団絡みの事件は日に日に増えているため油断はできない。

あれだけ犯罪組織を潰したというのに、逆にロケット団が動きやすくなってしまっているのが否めない。

 トウカの森に来たのはただの息抜き。

 のはずなのに何故か絡まれるという。しかもポケモンに。

 

「フシャーッ!」

 

 威嚇のつもりだろうか。

 身体が小さいため全然怖くない。なんか背伸びしてんなーとにやけてくるまである。

 

「えっと………、このポケモンは」

 

 黄緑色の身体に咥え枝。

 とくれば奴しかいないな。

 

「キモリ………か」

 

 取り敢えずなんか構って欲しそうなので、リュックからきのみを取り出し、コロッとキモリの前に転がした。

 キモリはきのみを目で追っていく。

 ……………そしてじっと見ている。

 これ、傍から見たら奇妙な光景だろう。

 

「きのみは嫌いか? つーか、あれか。飽きてるか」

 

 じっと見つめるだけで何もしようとはしない。

 勿体無いな。

 

「よっと………イテッ!?」

 

 屈んできのみを拾い上げようとしたら、枝で攻撃された。手の甲に鞭の後が残っている。どんだけしならせたんだよ。

 

「なんだよ、結局いるのかよ」

 

 きのみを後ろ手に隠すように俺を睨みつけてくる。

 

「………ならこれはどうだ?」

 

 ジョウト名物いかり饅頭。

 個包装から取り出した瞬間、奪われた。今無駄に動きが早くなかったか?

 

「………お前、独りか?」

 

 見た限り仲間の気配もなさそうなので一応聞いてみたが、全く聞いちゃいない。饅頭を食うことだけに意識がいってるようだ。

 

『まるで子供だな』

「いやどう見ても子供だろ」

 

 まあ、この暴君様がいるってのに全くプレッシャーを感じてないところを見ると大物なのかもしれないが。

 

「よっと」

『連れていくのか?』

「暇そうだしな」

 

 俺はキモリを肩車し歩き出した。

 嫌がる素振りも見せないため、このまま森の外に出してみよう。

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

「ここがバトルフロンティアか………」

 

 強者のトレーナーが挙って集まる様々なバトルルールの施設を完備している特別区。

 ロケット団とやり合うためにもここで鍛える、それもホウエンに来た理由の一つである。

 

「泥棒ぉぉぉ!」

 

 えー…………。

 こんなところでもいるのかよ。

 つってもこんな広場でってことは引ったくりの類か。

 

「ま、俺には関係な……………」

 

 なんか物凄くそれっぽい奴がこっちに走ってくるんですけど。

 このままだと俺は正面で鉢合わせになってしまう。

 

「はあ………」

 

 ま、こっち来てから身軽な奴がいるからな。リザードンを出すまでもない。

 

「キモリ、でんこうせっか」

 

 俺の肩に乗っていたキモリはバッと飛び出し、こっちに向かってくる引ったくり犯を突き飛ばした。

ほう、やるな。

 

「ぶぉあっ?!」

 

 弱いな。

 自分で実行したということはトレーナーじゃないのか?

 

「こ、このぉっ!!」

 

 段々と野次馬が増えて来たな。

 だからこういうのは嫌だってのに。

 

「………何をしている」

 

 背後からポツリと声がした。

 振り向けばそこには…………見た目中性的な奴がいた。野次馬たちも一瞬で言葉を失っている。それもそうだろう。奴の傍らには伝説のポケモン、ライコウがこっちを威嚇しているのだから。

 

「…………なるほど、だから捕まらなかったわけか」

「君は何者だ」

「これ引ったくり犯。んじゃ」

 

 野次馬たちが口々に「タワータイクーンのリラ」とか「バトルタワーの」と言っていたため、ここの関係者なのだろう。だから、後は任せることに俺はバトルフロンティアを巡ることにした。

 

「………?」

 

 キモリが引ったくり犯と俺を交互に見ながら小首を傾げてくる。

 

「いいんだよ。餅は餅屋。俺たちの仕事はこれで終わりだ。後はあっちが後始末する番なの」

 

 俺たちがそんな力をかけることでもない。俺たちはただの客。こういう対応は関係者がやるもんなんだよ。

 

「それより、どこから回ったもんか」

『お前ならどこでもいけそうだがな』

「どうだろうな。そもそも参加制限があるかもしれんし」

『ふっ、確かにそれであればお前には無理かもしれん』

「だろ?」

 

 一つ気になっているのはバトルファクトリーという施設。何でもポケモンをレンタルできるらしい。人のポケモン、というか施設のポケモンを使ってバトルとか、まさにバトルフロンティアならではって感じじゃないか。

 

「………決まりだな。ファクトリーにいくぞ」

 

 まあ、逆に言えばリザードンもキモリも使えないってことなんだがな。

 

「おや、バトルファクトリーを訪問かい?」

 

 あっ?

 うわ、なんだこの胡散臭い人。

 アロハシャツにサングラスとか怪しさ満点だろ。

 

「やあやあ、ボクはエニシダ。ここバトルフロンティアのオーナーだよ」

 

 余計に怪しすぎる。

 何なんだこの人。

 

「見たところエメラルド君やルビー君サファイアちゃんと同じ何かを感じるね」

 

 エメラルド? それにルビーにサファイア?

 誰だよそれ。

 

「よし、それじゃボクがバトルファクトリーに案内しよう」

「遠慮しておきます」

 

 や、普通断るでしょうに。知らない人について言っちゃダメって教わらなかったのん?

 そうでなくても怪しいってのに。

 

「いやー、師匠に誘われてヒースさんのバトルを見に来たけど、来て正解だったよ」

「いやー、ヒース様もバトルの強かお人ね。ルビーでも負けるんじゃなかと?」

「んー、エメラルドも負けてるみたいだからなー。それにボクの本業はコンテスト。バトルの腕前はともかく、コンテストで負ける気はないね」

「かーっ! そういうところだけは自信家ったい。もう少しば謙虚になんね!」

「いやいや、自分の得意分野に自信を持たないでいつ自信を持つというんだい。キミもジムを制覇したんだから、この気持ちもわかると思うんだけど」

「………いくらジムを制覇したば言っても誰かさんに勝ったとは思えんったい。ふんっ!」

「ボクとしてはそれくらいがちょうどいいんだけどね。キミが危険な目にあうことも減るだろうし」

「あ、あんたそげん恥ずかしかセリフ、よくさらっと言えるとね………。あたしの身にもなってほしいばい………………………」

 

 なんだあのバカップル。

 昼間からイチャつきやがって。

 

「おや、噂をすれば。おーい! ルビー君、サファイアちゃん!」

「「ん? あ、エニシダさん!」」

 

 こんなところまでハモらなくても………。

 なんか今はマッカンを飲む気になれねぇ。

 

「「ッ!?」」

 

 おっと、なんか俺たちに気が付いたら一瞬で空気が変わったんだけど。すげぇ殺気を感じる。

 

「エニシダさん、その人たちから離れてください」

「ん? どうかしたのかい?」

「いいから早く離れるとね! そこん人から危険な気を感じるとよっ!」

「それとその横の白いアーマーの人もね」

 

 そういいながら二人は青いポケモンと赤いポケモンを出してきた。

 青い方は………ラグラージといったか?

 んで、赤い方がバシャーモ。どちらもキモリと同じホウエンの御三家と言われるポケモンの最終進化形。すぐに思い出せるのはキワメ婆さんのところで久しぶりにその姿を写真で見たからだ。

 

「わははははっ! さすがホウエンの図鑑所有者だね。誰よりも勘が鋭いよ」

 

 と、こちらもボールに手をかけたところで怪しいサングラス男が大爆笑しだした。

 やっぱ早くこの人から離れるべきかもな。何か企んでそうだ。

 

「………ん? 図鑑所有者?」

 

 つまりはグリーンたちのホウエンバージョンってことか?

 このバカップルが?

 マジで………?

 

「そうね! あたしとルビー、それにエメラルドも入れてポケモン図鑑ホウエントリオたい!」

「…………ダッサ………ぶふっ」

 

 ヤバい。

 なんだそのネーミング。

 笑いがこみあげてきて抑えるのに必死なんだけど。

 もうすでに漏れ出てるけど。こんな変なネーミングにしてしまうこいつらの感性が悪い。俺は何も悪くない。

 

「あー! 今笑った?! 笑ったとね!?」

「………サファイア、ちょっと落ち着こう?」

 

 まるで野生児だな。

 こういう時にはどっちかっつーと男の方がしゃしゃり出てきそうなもんなのに。

 こいつは冷静というか、性別と性格がまるで逆というか。

 

「で、ファクトリーってあれっすよね? んじゃ、俺はこれで」

 

 一向に終わりそうにないので、俺から話を切り上げることにした。

 

「ちょ、ちょっと何勝手に話を終わらせてるとね!」

 

 が、無理だった。

 なんなの、この野生児ガール。

 

「サファイア」

「………ごめんち………」

 

 こいつ…………。

 まさかの亭主関白?

 ってわけでもないか。でも彼女をドスの利いた声で諫めるとは、やる時はマジでやるみたいだな。

 

「それで、あなたは一体何者なんですか? どうやらエニシダさんはあなたが誰なのか知っているようですけど」

「…………通りすがりのポケモントレーナーとでも思っとけばいいんじゃねぇの?」

 

 しれっと彼女を守るように一歩前に出てくるとか。

 さりげなく、彼女の手を握ってるとか。

 どんだけイケメンなんだよ……………。

 いちいち腹立つなー、このバカップル。

 

「そうであればこちらとしてもありがたいんですがね。このホウエンでいろいろ問題を起こされてはこちらとしても困るんですよ」

「それなら世界各地にいる犯罪組織に言ってくれ。もういいだろ?」

「………では、最後に一つだけ。あなたはこのバトルフロンティアに何しにきたのですか?」

「………何しにって………、そりゃバトルしに、だろ」

「では見学させてもらうとしましょう!」

「へっ?」

「ほう。いいよ、ボクが許可する」

 

 おいこらちょっと待て!

 くそ、曲者なのはこのサングラスよりもこいつの方だったのかよ。

 

「善は急げ。サファイア、いくよ!」

「ちょ、ルビーあんた一体何考えてるとね! もう! ちょっと待つたい!」

『あれがホウエンの図鑑所有者か。頭の切れる少年だな』

「だな………」

 

 ホウエン地方の図鑑所有者。

 特にあの彼氏の方は、バトルを見なくても秘めた強さを感じられた。

 あれを表に出したとき、あいつは誰よりも強いのだろう。

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

 バトルファクトリー。

 レンタルポケモンを使用してバトルを行う施設。

 初めに三体のポケモンを選び、三対三の一勝負事に勝ったらポケモンを一体交換できる。それを繰り返しながら七連勝ワンセット。それを六周することで最後にファクトリーヘッドが出てくるというルール。

 そして俺はすでに六周目の最後のバトルを迎えていた。

 半日でたどり着いちまったな。

 

「ほぼ瞬殺だったね………」

「うん、強かお人ね」

 

 まあ、確かに毎度すぐにバトルは終わったな。

 攻撃が単調というか、俺が選んだポケモンたちが優秀というか。

 

「でもまさか、最初に選んだポケモンでここまで来るとは思ってなかったな。こりゃあ当たりかも」

 

 やっぱり何か企んでるんだな。

 下手な手は見せない方がいいか?

 それとも脅しも兼ねて圧倒的なパフォーマンスをした方がいいのか?

 

「君が挑戦者か。俺がこのバトルファクトリーのファクトリーヘッド、ダツラだ。早速バトルを始めようか」

「うっす」

「それではバトル、開始!」

 

 特に長い挨拶もなく、すんなりと最後のバトルが始まった。

 ポケモンの回復はすでに終わっている。

 まさかこんなところにまでポケモンセンターの回復マシンが備え付けられているとはおもあっていなかった。だが、確かにこれがなければこの施設、いやこのバトルフロンティアは成り立たないだろう。

 一体どんだけ金がかかってんだか。

 

「いけ、バンギラス」

「ラグラージ」

 

 相手のポケモンは最初からバンギラスかよ。

 こっちは六周目の最初からずっとラグラージ、バシャーモ、オニゴーリの三体。なんかあの二人のポケモンが最初に選ぶことができたから手持ちに入れてみたが、これがまた使える奴らだった。オニゴーリなんか最後の必殺技も持っているし。まだ一度も使ってないけど。

 

「バンギラス、いわなだれ!」

 

 バンギラスが出てきた瞬間、フィールドが砂嵐で覆われた。

 だが、ラグラージには意味がない。目くらましにもなってなければダメージすら入らない。

 

「カウンター」

 

 何を覚えているのかと思えば、ちょっとレアな技を覚えていた。このラグラージ、誰が育てたんだろうな。

 

「なにっ!?」

「そのままじしん!」

 

 カウンターで降ってくる岩々をバンギラスの方へと投げ返し、岩の対処をしている間に地面を揺らして足元のバランスを崩させた。倒れたバンギラスには残りの岩々が次々と突き刺さっていく。

 

「うまいっ!?」

「流れるような動きったい!」

「やるな。だが、バンギラスの硬さはこんなことでは崩れない。バンギラス、りゅうのまい!」

 

 バンギラスがりゅうのまい、だと………?

 …………ダメだ、バンギラスがどこまで技を覚えるのか忘れちまった。まだまだ勉強のし直しだな、こりゃあ。

 

「かみくだく!」

 

 速い!

 やはりあの竜の気をまとうことで、一気に加速を手に入れたか。

 これは厄介だな。

 ラグラージはそこまで速い部類のポケモンではない。どちらかといえば遅い方である。これが水中であれば話はまた別になってくるのだが、今はそんなことを考えても仕方がない。今これをどうにかしなければこっちがやられてしまうのが現実だ。

 

「ラグラージ、食わせてやれ」

「ッ!? 待て、バンギラス!」

 

 急所を外してラグラージは自らの腕をバンギラスに差し出した。隙だらけの腕に噛みついたバンギラスはギチギチとラグラージの腕を噛み砕こうとしている。

 

「カウンター」

 

 だが、そんなものは誘いである。

 さっきも見せたというのに学習能力がないな、このバンギラスは。

 ファクトリーヘッドも攻撃の中断を指示したのに、止まることのできなかったバンギラスは技を出すしかなかった。まあ、それを誘ったのだからこちらとしては成功である。

 

「さて、ちょっと試してみるか。ラグラージ! 水系の技を出すときにため込むところを意識しろ! 圧縮、水を圧縮させろ! 撃ち出しは弾丸のように! ポンプなんか屁でもない。ありったけの水を、力を、この一撃に乗せるんだ!」

 

 最初に選んだ時にラグラージとバシャーモにはあるものを持たせていた。持たせたというかつけたというか。そのせいで、こいつらの持ち物は効果がなくなってしまっているが。

 

「ハイドロカノン!」

「「あれはっ?!」」

 

 水の究極技。

 婆さんからもらった青いリングをラグラージにつけておいたが、どうやらあれは本物らしい。本人からもらったとはいえ、あれが偽物だったら今後気づかないまま無駄に時間だけを浪費してしまってたかもしれない。それを確かめるためにも、一度試しに使ってみたというわけだ。

 

「バンギラス、戦闘不能!」

 

 ふぅ、ざっとこんなもんだろ。

 

「………本当に彼は何者なんだ……………」

「究極技を、レンタルポケモンが使えるなんて…………」

「いやはや、まさかこれほどの実力とはねー」

 

 ん?

 三人とも究極技を知っているのか?

 

「………今のはいったい………。ラグラージにそんな技は覚えさせていなかったはず………。まさか、君が…………」

「さて、次いきましょうか」

「まあいい。いけ、メタグロス!」

 

 次はメタグロスか。

 これまたあちらさんも砂嵐の影響を受けないポケモンを出してきたというわけだな。

 こういうところも考えた人選なのだろう。

 こりゃやはり他のトレーナーとは格が違うな。

 

「サイコキネシス!」

 

 くそっ、ここでエスパー技かよ。

 身動きが取れねぇな。

 だったら………!

 

「ラグラージ、交代だ」

 

 ボールに戻す。これ鉄板な。

 

「ここで引くのか?」

「ラグラージはバンギラスを倒したんだ。無理する必要はない」

「ほう、潔い判断だな」

「さて、次はお前だ、バシャーモ」

 

 二体目はバシャーモ。

 オニゴーリでははがねタイプの技でやられそうだし、逆にメタグロスを倒す術が一つしかない。それも賭けが前面に出る技だし。

 かくとうタイプがエスパータイプに不利ではあるが、バシャーモの方が何かと動けるだろう。

 

「メタグロス、じしん!」

「バシャーモ、飛べ!」

 

 バシャーモは飛べない鳥。

 だが、いくつか使えるひこう技も覚えるほどには鳥である。

 

「上か………、メタグロス、サイコキネシス!」

「かげぶんしん」

「なにっ!?」

 

 狙ってくるのも使ってくる技も見え見えだっつの。

 わかっていれば対処もできる。結局技なんてのは当たってなんぼのもの。当たらなければ意味がない。

 

「オーバーヒート」

 

 バシャーモ本体を探しているメタグロスの周りを取り囲むように、影がじわじわと近づいていく。その身は今にも炎が噴き出しそうな、爆発を起こしそうな状態であり、触るな危険! 状態である。

 

「………あれ? 不発ばなかと?」

「いや、不発だろうけど、それも何かの仕掛けなんじゃないかな。あれだけラグラージに実力以上のことをさせられていたんだ。バシャーモも何かあるはずだよ」

 

 やはり、彼氏の方は洞察力に優れているな。

 お前の勘が正しいことを見せてやるよ。

 

「バシャーモ、炎を一点に集めろ! 爆発を一点に集中させるんだ!」

 

 影ともども地面に降りてきたバシャーモが地面に拳に炎を流していく。

 

「ブラストバーン!」

 

 そして地面に叩きつけた瞬間、拳を中心に爆発が起きた。

 

「メタグロス、まもる!」

 

 爆発は影の分もあり、はがねタイプのメタグロスが耐えきることは難しいだろう。例え防壁を張ったとしても。

 

「………ワーオ、まさか炎の究極技もいけるなんて……………」

「ありえんったい。あたしらがあんな必死に、時間がない中やっと覚えた技をば、こげん簡単に使いこなすとかありえんち……………」

「うーん、こりゃ他のブレーンにもいい刺激になりそうだね」

 

 俺にはあまりいい刺激になってないんだけどな…………。

 なんだよ、ファクトリーヘッドってのはこんなもんなのかよ……………。

 

「………知識、実戦経験、他にも俺の知らないことを知っているようだな。ふっ、面白い。なあ、メタグロス」

「ガロース!」

 

 へぇ、アレを絶えたのか。だが、息がすげぇ上がってるぞ。

 

「じしん!」

 

 で、動けないバシャーモに対して反撃というわけか。

 ま、躱せないんだが。

 

「続けてコメットパンチ!」

 

 じしんにより足元のバランスを崩し、バシャーモはふらついている。

 そこにメタグロスが前足を突き出して突進してきた。

 しかもメタグロスの突進により生み出された逆風により、とうとうバシャーモは片膝をついてしまった。

 

「スカイアッパー」

 

 ただアレだ。

 最後の一発にはいい態勢になっている。

 

「くっ?!」

 

 ギリギリコメットパンチが逸れ、下からの掬い上げることに成功した。

 直角に進行方向を変えられたメタグロスは天井にまでたどり着き、太陽の光を取り込みながら重力に従って地面にその身を叩きつけた。

 

「………メタグロス、戦闘不能!」

 

 ファクトリーヘッドはメタグロスをボールに戻しながら、悔しそうな表情を浮かべている。

 まあ、二連敗だもんな。これで後がないし。

 ファクトリーヘッドとしての威厳が全くなくなってしまうバトルでもあるし。

 本人としては一生くらいは納めたいところだろう。させないけど。

 

「バトルファクトリーはポケモンたちの実力に遜色ないことが取り柄だ。逆に言い換えれば勝敗を決めるのはトレーナーの実力である。だからこそ、ここはトレーナーたちの実力を図るための場所としてあるが…………、君は一体どこでその強さを手に入れたんだ? 何をどうしたら、そこまで強くなれる」

「別に、特に何もしてないけど。それにトレーナーの実力はポケモンを使いこなすことじゃないだろ。ポケモンたちにあったバトルを組み立てて、ポケモンたちのやりたいことを実現させてやるのがトレーナーってもんでしょ」

 

 だから今の俺は本当の意味でこいつらがやりたいバトルを実現できているとは思えない。それこそ長い年月をかけてお互いを知らなければ、なしえないことだと思っている。それでもラグラージとバシャーモは全力で俺のバトルに応えてくれた。だから俺はこいつらに勝利と新しい可能性を与えただけである。

 

「ははっ、まさかそんな考え方があったとはな。確かにその通りかもしれない。ポケモンは仲間であって奴隷ではない。技を出すことを「命令」なんて言葉で表現しているが、そもそもがおかしかったのかもな。ボーマンダ、相手は今までお前たちが出会ってきたどのトレーナーよりも強い。最初から全力で行くぞ!」

 

 おい、そのまま最後のポケモンを出すのかよ。

 最初から最後まで会話の主導を握ってるやつだな。

 

「バシャーモ、交代だ。ゆっくりしてな」

 

 さっきダメージを受けたバシャーモは交代。

 翼を持つボーマンダには分が悪い。鳥は鳥でも飛べない鳥。ボーマンダには技が届かないことがたびたび出てくるだろう。

 

「オニゴーリ、お前にもいいことを教えてやる」

 

 代わりにオニゴーリならば浮いている分、ボーマンダの動きについていけるだろう。それに相手はドラゴン・ひこうタイプ。こおりタイプの技は効果抜群でボーマンダの天敵といってもいい。

 というかさっきからボーマンダの威嚇が怖いんだけど。

 

「ボーマンダ、りゅうのまい!」

 

 炎と水と電気の三点張りからの竜の気の生成。

 こいつもりゅうのまいを覚えているのか。

 これで元々高い攻撃力がさらに高くなったというわけだ。

 だが、今のオニゴーリには特に気にするようなことではない。

 

「あられ」

 

 いつの間にか収まっていた砂嵐の代わりに今度は霰を降らせてやる。最後くらいこっちのフィールドをこっち側につけたって文句はないだろう。

 

「いわなだれ!」

「ふぶきで押し返せ!」

 

 霰が降っている中での吹雪は天候上、必ず相手を巻き込んでいく。それもそのはず、技の範囲がくそ広くなるのだ。どれだけ広いかっていえば、フィールドはおろかこの場全てを吹雪で包み込んでしまうくらいにはくそ広い。おかげで一気に真冬になってしまった。この南国の地で。

 

「る、ルビー、ざぶいぃぃぃ!」

「さ、サファイアァァァアアァァアアア」

 

 二人が凍死しかけている。

 さっさと終わらせないとな。

 

「オニゴーリ、ぜったいれいど」

 

 最後の切り札、一撃必殺。

 なんか、こいつ最初から覚えていやがった。

 まさかこんなポケモンまでレンタルできるとか、実力に遜色がないとか嘘だろ。

 こいつらだけもう実力が頭一個分くらい突き抜けてるぞ。

 

「ボーマンダ!?」

 

 吹雪の中、ドサッと重たい何かが地面に叩きつけられる音が聞こえた。

 十中八九ボーマンダだろうけど。

 

「……………ぼ、ボーマンダ、戦闘、不能!」

 

 審判の判断も下され、決着がついた。

 結局、俺の三連勝。

 呆気なかったというか、予想だにしていなかった結果である。

 他もこの調子だとここに来た意味が全くないんだけどなー。何しにバトルフロンティアなんぞに来たんだか。

 

「………ま、参った……。キミは強い」

「そりゃ、どうも」

 

 この後タクティクスシンボルをもらい、ポケモンたちと別れて他の施設を見て回ることにした。

 外はすっかり陽が落ちていたが、何故か野次馬三人は俺の後をずっとついてくるというね。何なのあの三人。ストーカーなの?

 結局、どこも入ることはなく、ポケモンセンターに帰ることで俺のプライベートは守られたのだった。




次回で恐らくこの番外編、並びに番外編シリーズの最終回になると思います。その代わり長くなるかと。


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4話

お待たせしました。
超長いです。


「ライコウ、でんきショック!」

 

 俺は今、伝説のポケモンと対峙していた。

 名はライコウ。

 シャドーに唯一捕まらなかった雷の申し子。

 まあ、これで俺はエンテイ、スイクン、ライコウ全てに出逢ったことになるんだが。

 そしてそのライコウのトレーナーはリラという中性的な容姿の女。俺よりもいくつか年上らしい。容姿のせいであまり年上感がないが、本人が言うのだからそうなのだろう。

 いやはや、まさか引ったくり犯を捕まえた時に現れたのがバトルタワーのフロンティアブレーンだったとはな。まあ、ライコウなんか連れている時点で相当な実力者なんだし、バトルフロンティアの関係者とくれば自ずとどこかのブレーンでしかないよな。

 

「躱せ!」

 

 ここに来て、まさかでんきショックが厄介になってくるとはな。

 飛び回るリザードンに対してでんきショックで場所を誘導されている。分かってはいるが、対策らしい対策が全く浮かばない。

 

「どうしたんだい? キミの実力はそんなものなのかい? 噂に聞いていたほど、大したことないね」

 

 このアマ………。

 バトルピラミッドでも思ったが、ブレーンの中には伝説のポケモンを使いこなす奴がいる。差し詰めそれは実力を測る物差しとなり、目の前のリラという女が頂点。その次に来るのがバトルピラミッドのジンダイという男だろう。あのおじさん、俺の知らないポケモンを出して来やがった。暴君様に確認したところ、ホウエンの古代ポケモン、レジロック、レジアイス、レジスチルというらしい。

 やべぇ、いくら全力を出せない状態だったとはいえ、キモリでレジロックと相打ち、リザードンで他二体を倒しちまったよ。これでライコウに勝てないとかまるでトレーナーの俺が悪いみたいじゃないか。それはなんかムカつく。

 

「手がないなら作るしかないか………。リザードン、りゅうのまい!」

 

 俺の前まで戻ってきたリザードンに反撃の準備をさせていく。

 これといって対抗策ができたわけでも、逆に悪足掻きでもない。いついかなる状況でも動けるようにするためだ。りゅうのまいはそのための保険である。

 

「今さら反撃かい? 遅いよ? ライコウ、かみなり!」

 

 ああ、遅いかもしれない。

 だけどまだ俺は何も手を見せてはいない。ただでんきショックから逃げていたに過ぎない。だからここからは、これまで培った経験を見せてやる。

 

「ソニックブースト」

 

 背中の雨雲からのかみなりを急加速で躱した。

 

「ッ!? でんきショック!!」

 

 一瞬、驚いたな。

 これならいけそうだ。

 

「ハイヨーヨー!」

 

 急上昇していき、次の攻撃へと移る。

 

「ライコウ、かみなりで撃ち落とせ!」

「リザードン、トルネードドラゴンクロー!」

 

 竜の爪を高速回転させて、雷撃を弾いた。

 今度はこっちが攻撃する番だな。

 

「エアキックターン!」

 

 ハイヨーヨーの切り返しにエアキックターンも盛り込んでみた。想像以上に加速できるようになっていたらしい。

 一瞬、といってもいいほどあまりにも速く、ライコウもリラも反応できていない。勝機はここだな。

 

「ハッ?! ライコウ、躱せ!」

 

 げっ、急所を逸らしやがった。

 おかげでライコウに逃げられてしまったじゃないか。

 

「じしん!」

 

 だったら今度は広範囲技だ。しかも効果抜群の。

 ライコウは揺れる地面に足を取られ、バランスを崩した。

 

「ブラストバーン!」

 

 決め技としてはこれ以上ない技。

 ただし、一度使えば反動でしばらく動けなくなる。それ故に最後の切り札って扱いになっているが………。

 

「………これはっ!?」

「動けなくなるのは身体だけなんだよな………」

 

 技を放った時余波がその身に流れ麻痺する。それが反動の正体だ。なら、麻痺していない器官の方を使えば動くことも可能なはず。

 

「へぇ、やるね………」

 

 さすが伝説のポケモン。

 究極技程度では倒せないか。

 だが、確かにダメージも入っている。毛並みが所々焦げているのがその証拠である。

 

「だけど! 伝説のポケモンを甘く見たらダメだよ。ライコウ、でんじほう!」

 

 でんじほう。

 ザイモクザが愛用する高威力の電気技。当たれば必ず麻痺する危険な技だ。

 そういえば、あいつがでんじほうに虜になったのもライコウの影響だとか言ってたな。

 ………つか、あいつ何気に伝説のポケモンと出くわしてるのね。しかも俺よりも早く………………。ザイモクザのくせに。

 

「りゅうのまい!」

 

 地面に腕を叩きつけた態勢のまま、炎と水と電気の三点張りから竜の気を生成していく。この技は特に身体を動かす必要はない。しかも気を高めれば高めるほど、鎧としても扱うことができる。

 つまりはーーー。

 

「なっ?! りゅうのまいを防壁にっ!?」

 

 これで硬直中の時間稼ぎができる。

 徐々に麻痺が回復してきたようで纏う竜の気が、さらに高まっていく。

 

「押し返せ! ドラゴンクロー!」

「シャアッ!!」

 

 竜の爪の先端を電磁砲に突き刺し、くるっと一回転して遠心力を加えてライコウへと押し返した。

 

「ライコウ!」

 

 リラの呼びかけにライコウは反応し、電磁砲を躱した。自分の攻撃を自分が躱すってどういう気分なんだろうな。

 

「ペンタグラム、フォース」

 

 竜の気は思いの外、リザードンを強化していた。電磁砲を押し返した後、気づけばライコウの背後にリザードンがいた。瞬き一つしていたかどうか………。そんな一瞬である。

 そして竜の爪で掬い上げ、宙で五芒星を描くように移動していく。目で追うのも早々に諦めてしまうほど速く、残像が色濃く五芒星を描き出していた。

 

『伝説のポケモンも所詮はポケモンということか………』

 

 外野から見ていた暴君様の思念も思わず流れてくるほど、五芒星から意識を外せないでいる。

 

「そろそろか。リザードン、叩きつけろ!」

「シャア!」

 

 そろそろ可哀想になってきたので、終わらせることにした。恐らくすでにライコウの意識はない、あるいはダメージの蓄積により動けなくなっているはずだ。これ以上してはいくら伝説のポケモンといえど危険である。

 

「ライコウッ?!」

 

 とうとうリラの顔が崩れた。さっきまでの余裕、というか強気な態度はどこへやら。恐怖、絶望、焦りーーいろいろなものがひしめき合った表情が全てを物語っている。

 

「終わったな」

「…………………………はっ、ら、ライコウ、せせせ戦闘、ふふ不能!」

 

 あ、一番恐怖に陥っているのは審判の男だったわ。

 

「ヒ、ヒキガヤ君………」

 

 げっ、この声は。

 いや、ちょっと待て。人違いの可能性もある。

 恐る恐る声のした方を見ると………。

 

「ユキノシタ………」

 

 案の定、彼女がいた。

 しかも観客席に。

 おい待て。何であんなところの声が聞こえたんだよ。言ったってよりは呟いたって方が正しいはずなのに。俺の耳もおかしくなってんのかね。

 

「まさかボクが負けるなんて………」

「どうだ、リラ。あいつは強いだろ?」

「……………ダツラさん。強い、というか初めてですよ。あんなリザードン」

 

 あ、ファクトリーのブレーンだ。

 

「まあな。俺も熟知しているはずのレンタルポケモンにやられたからな」

「それもバトル中に新しく技を吹き込まれて、だろ?」

「ジンダイさん………、来てたんですね」

 

 ピラミッドのおっさんもいるのか。

 

「ああ、まさかレジロックをキモリで相打ち、レジアイスとレジスチルをリザードンでねじ伏せられるとは思ってなかった。ありゃとんでもないトレーナーだな」

 

 まあ、それよりも今は凍てついた眼差しでこちらに歩み寄って来る氷の女王をどうにかしなければ。

 

「ワーオ、どうしたんですか、皆さんお揃いで」

「ルビー、それにサファイアも。お前たちも見てたのか?」

「ボクが勧誘してね」

「「「オーナー?!」」」

 

 後ろからついて来ているオーダイルもやれやれといった仕草で止める気配もない。

 ねえ、お前の主人だろ?止めてくれよ。じゃないと俺死んじゃう。

 

「すみません、オーナー。俺たちあのトレーナーにことごとく負けてしまいました」

「いや、いいよいいよ。最初からこうなることは分かっていたからね」

 

 耳をあっち傾けながら、一歩一歩歩み寄って来る氷の女王をどうしよう考えていると、聞き捨てならない声が聞こえてきた。

 はっ? あのサングラス、俺のことを知ってるっていうのか?!

 

「さあ、ハチ公。バトルフロンティアを制したキミにご褒美をあげよう。何が望みだい?」

 

 ッ!?

 やっぱり、あのサングラスは警戒対象だったか。

 どうする?

 ここで口を封じるか?

 いやそれは得策ではない。ここには図鑑所有者にフロンティアブレーンが三人もいる。何がなんでもカウンターが返ってくる。

 それにどこまで知っているかにもよる。

 あの一連の実験についてまで知っているというのなら、話は別だ。

 

「………その前に、俺のこと、どこまで知っている………」

「いやー、そんな警戒しないでよ。元カントーチャンピオンさん」

 

 ハチ公以外にチャンピオンのことも知っているのか。

 どこから話が漏れているんだよ。

 

「「「「「チャ、チャンピオン?!」」」」」

「あれ? 知らない? カントーのポケモンリーグをリザードン一体で優勝し、三日間だけチャンピオンの座に就いたトレーナーの話」

「もしやそいつがこの男だと?」

「うん、そう」

「ハチ公というのは?」

「カントーポケモン協会理事の懐刀だからね。名前を隠すために通り名として付けられたんだよ」

「つまり俺たちは………」

「とんでもない人を相手にしてたってことですか………?」

 

 ………………。

 

「そういうこと」

「ヒキガヤくん? 説明、してくれるわよね?」

 

 あ、忘れてた。

 俺の体温がどんどん下がっていくのが分かる。

 ユキノシタさん、とても素敵な笑顔なのに目が笑ってませんのことよ?

 

「言っとくけど、ルビーくん。キミも彼には勝てないよ」

「………それはやってみなければ分かりませんよ?」

「今の時点でバトルフロンティアを制覇された。そのほとんどがリザードン一体での攻略。それがフルメンバーになったらどうだい?」

「リザードン並みのポケモンがあと五体控えている………」

「無理だな、俺たちでも手も足も出ない」

「………ルビー、アンタも気づいてるったい。あん人のポケモンはまだまだ本気を出してなか。手持ちを見せているのもリザードンとキモリだけち。それにリザードン以上のポケモンの気も感じるたい。正直今にも押しつぶされそうじゃち」

「だからボクは決めたよ。彼を仲間として引き入れる」

「オーナー、本気ですか!?」

 

 いやほんと。

 正気か?

 俺を仲間に引き入れるとか。

 そもそも仲間ってあれか?俺もフロンティアブレーンになれってことか?

 やだよ、面倒くさい。

 今でも面倒なのにこれ以上仕事が増えるとかなんなの? 超ブラックだな。

 

「あの、やっぱり話を聞いていたら一度手合わせしたくなってきました。お願いできますか?」

「ルビー………!」

 

 ちょっとー空気読もうよ。

 俺いやなんですけど。

 

「え、面倒なんだけど。今やっとバトル終わったってのに、またバトルとか、ないわー」

「では、そこの白い鎧をつけたポケモンでどうです?」

「え? あれポケモンだったの?!」

 

 暴君様をご指名かー。

 なら俺いらないしなー。

 

「どうする?」

『いいだろう。そろそろ暴れたくなってきたところだ。発散に付き合ってもらおうではないか』

「ま、お前がいいならいいけどよ」

「では、お願いします。ZUZU!」

 

 好きにしてください。

 俺はその間にユキノシタへの言い訳を考えてるから。

 

「マッドショット!」

『ふん!』

 

 うわ、サイコキネシスで止めちゃったよ。

 あ、押し返した。

 

「ねえ、ヒキガヤくん? どうして今まで私の前に現れなかったのかしら?」

「………別に、お前と四六時中一緒にいる理由もないだろ」

「今は同じチームよ」

「俺は一人の方がいいんだよ。お前らだって一人の方が動きやすいだろ?」

「ええ、そうね………」

 

 あ、はどうだんが無数に。ってか、俺たちも狙われてない?

 

「………心配したんだから」

「え、あ、その………なんか、すまん」

 

 暴君様に気を取られて話を聞いてなかったわ。

 まあ、いいか。特に重要な話ってわけでもないだろうし。それよりも離れてくれませんかね。締め付け過ぎですよ?

 

「がまん!」

 

 はい、我慢します!

 って、そうじゃなくて。

 

「ユキノシタ………?」

「……………やっと見つけたのに、また離れ離れになるのは、ごめんだわ………」

 

 え、なに?

 まさか愛の告白とか?

 

「………ルビー、あの二人いつの間にかイチャついてるったい」

「ボクたちもやるかい?」

「~~~! こん人はなしてそげんこつば平気な顔で言いよるとか! は、恥ずかしか!」

「いや、もう充分二人もイチャついてるからな」

「「うんうん」」

 

 あれー?

 なんか誤解が生まれちゃってるようなんですけど!

 誤解とかもう解が出てて解きようがないってのに。

 やめてくれ!

 

「彼女は?」

「ユキノシタユキノ。カントーとジョウトのジムを全て制覇し、それぞれのリーグ大会で優勝もしている若き天才トレーナー。二冠王なんて言われているよ」

「さ、最強のカップルったい………」

「………それ言ったらグリーン先輩とブルー先輩も最強のカップルだと思うけど」

「あ、あん人らはまだ付き合ってなか! そげんこつば二人に言いよったら、アンタの息の根止められるとよ?」

「………それは、うーん…………やりそうだね……………」

「滅多なこと言ってるといつかひどい目みるとよ?」

「うーん、確かに君にもしものことがあったらボクはコンテストも捨てるだろうね」

「だ、だからなしてそげんこつば恥ずかしかセリフを真顔でいいよっとか! 聞いてるこっちが恥ずかしいったい!」

 

 うわー、あれはすげぇバカップルの類だ。

 リア充爆発しろ!

 

「どうだい、フロンティアブレーンとしてうちで働かないかい? 君専用の施設を新しく設けることもできるよ?」

「慎みて、お断りします。俺、働きたくないんで。今でもこんな面倒な仕事をさせられてるっていうのに、まだ働けっていうんですか。労働基準を優に超しますよ。過労死します。嫌です」

「「す、すごい拒否反応だな………」」

「だったら、こうしよう。キミはボクに勝った。そして、バトルフロンティアという七つの関門を勝ち抜いた。それを評してボクが、いやボクたちに貸し一にするということでどうだい?」

「………それで、そっちに何のメリットがあるって言うんだ? 俺が得する条件しかないように思えるんだが?」

「それは決まっているじゃないか。キミとボクたちの関係がここで途切れるわけじゃない。貸し一という、いつかボクたちを使う権利と使われる労働義務が双方に発生する。しかもキミには負けたものの、実力は全員折り紙付きだ。何かあればキミは必ずボクたちを頼るという選択肢が増える。つまりはボクたちのことを思い出す。………どうだい? いい呪いだろう?」

「ほんと、いい呪いだわ。これから何をするにしてもジョーカーが七枚あるとか、咄嗟の判断に狂いが出そうだわ」

「ふふっ、面白いじゃないか」

「ちっとも面白くねぇよ。なんだよ、恩の押し売りかよ。ほんと無料より怖いものはないわ」

『ふっ、今はオレというジョーカーもいるしな』

「黙っとれ! お前はアレだ。トランプ買った時に入ってる二枚目のジョーカーだ。つまり反則だ」

 

 ほとんどのトランプが買った時にジョーカーが二枚入っている。というか二枚入っているのしか見たことがない。

 それを普通にトランプゲームで用いてみれば、あら不思議。余裕で勝っちゃう、なんてことも出てきてしまうのだ。敵に回せばぼこぼこに。

 やだね、こんなのが仲間なのかよ。

 

「取り引き、成立かな………?」

「そうだな、呪いだろうがなんだろうが受け取ってやるよ」

 

 俺はただ鍛えに来たってだけなのに。

 いつの間にかこんなことになっちまったよ。

 しかもユキノシタに見つかるわ、さっきから離れないわ、マジでなんなのん?

 

「ZUZU、いい具合にたまってるね! さあ、解放だ!」

『ふん!』

 

 あ、そういやまだバトルしてたのね。

 俺特に指示出す必要ないし、全く見てなかったわ。

 …………さすが暴君様。がまんのエネルギー解放なんてスプーンで弾き飛ばしやがった。

 

「ハイドロカノン!」

『くっ?!』

 

 お、初めて暴君様が押し返された。

 地味にアーマーも壊れてるし。

 ちょっとー? 折角特注した衣装壊さないでくれます?

 それお前のためにあるんだからな? そこんとこ分かってんだろうな?

 

『ならば、オレも本気を出させてもらうぞ。ふん!』

 

 おお、この前の大技。

 あれ危険だよなー。りゅうせいぐんよりヤバいと思う。

 使うのが暴君様ってところがもうね。

 

「………ZUZU、お疲れ様」

「すごいとね………。ルビーが負けるば思っとったけど、まさか手も足も出せておらんち。あのポケモン、相当強か、よく育てられてるたい」

「エクセレント!! こんな強いポケモンがいたなんて!」

 

 負けたのに彼氏の方はなんかすげぇ興奮してる。

 キモいよ。

 

「…………おい、そろそろ離れません?」

「いやよ…………」

 

 即答かよ。

 

「やっぱり、レッド先輩たちに聞いてた通りだよ。ねぇ、ミュウツー」

「『ッ!?』」

 

 こいつ、まさか今のバトルで………。

 いや、それとも分かった上でバトルを吹っかけてきたのか………?

 どちらにせよ、なんて野郎だ。

 普通はこいつの正体を理解した頭では恐怖を覚えてもおかしくはないってのに。

 ブレーンの三人はミュウツーと聞いてもピンと来ていないのだろう。あと、ユキノシタも。その事実を知っているのはこの場に俺を除けばこのバカップルの彼氏の方だけということだ。

 まあ、そんな警戒するようなことでもないだろう。相手は図鑑所有者だ。カントー組の後輩ともなればミュウツーのことくらい聞いていたとしても普通だ。

 

「なんのことだ? こいつの正式名称はシルヴァディ。対伝説のポケモン用に試作で作られたポケモンだが?」

「シルヴァディ? 聞いたことのない名前だ………」

 

 俺も聞いたことがないぞ。

 だって、今なんとなく思いついたかっこいい名前だし。

 そんなポケモンがいるなら俺も見てみたいくらいだわ。

 

「そりゃそうだろう。なんたってまだ開発段階なんだからな。言っただろう? 試作で作られたって」

「うーん、怪しい……………」

「怪しいか怪しくないか思うのはお前らの勝手だ。どう思おうがこいつが暴れ出したらお前らでは手の打ちようがない。よく考えるんだな」

 

 俺は未だにあのサングラスの人の方が何倍も怪しいんだけどな。

 

「…………んじゃ、俺たち帰るわ」

「そうかい。気をつけて。キミはエメラルドと並ぶ最速でフロンティア制覇したトレーナーだ」

「んな大袈裟な」

「気が変わったらいつでも連絡してねー」

「へいへい」

 

 こうして、俺のバトルフロンティアでの特訓は幕を閉じた。

 ………………特に特訓という特訓にもなってなかった気もするが。

 

『礼は言わんぞ』

「別にいらねぇよ」

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

「ほれ、お前の家だ」

 

 カントーに帰る前にキモリが元いたトウカの森に寄った。

 単に連れ出しただけだし、元いたところに帰すのが普通だろ?

 

「どうだ、外の世界は。楽しかったか?」

 

 肩車していたキモリを降ろして、しゃがんで目線を合わせてそう言うと、コクコクと首を縦に振ってきた。

 

「左様で。ならよかったわ。お前、戦闘能力は高いんだ。そこを磨けば強くなれるんじゃないか?」

「………………」

「………ゲット、しないの?」

「はっ? なんでだよ。最初から捕まえる気はなかったし」

「そう……………」

 

 なんだよ、その何か物言いたげな空気は。

 俺だって無理強してまで捕まえる気はないっての。それがあの伝説のポケモンたちみたいなことになってるって話なら別だけど。

 

「………確かに、こいつは強い。レジロックとかいう伝説のポケモンにすら相打ちに持っていっている。けど、それだけじゃ無理だ。俺といるってことはイコール死と隣り合わせってことだからな。ロケット団だけじゃなくて、いつ俺たちに殺されるかも分からんのだ。それなら初めから俺たちには深入りしない方がいい」

「………………それでも、それでもあなたの側であなたを見ていたい者もいるかもしれないわ」

「はっ、誰だよ、そんな好き者な奴は。こんなトラブルメーカーの仲間になりたいとか、頭イかれてるんじゃねぇの?」

「そう、かもしれないわね」

 

 なら、何でそんな悲しい表情をしてるんだよ。

 

「…………」

「……………………ん? ありゃなんだ?」

「どれかしら?」

「あれ、あの木の上で光ってるやつ。どうも葉っぱに引っかかっているようだが………」

「キ……!」

 

 お、キモリが取ってきてくれるのか?

 

「ほんと身軽ね」

「だろ? キモリはーーというかその進化系も含めてこういう森の中では無敵らしいぞ」

「へぇ、物知りなのね」

「たまたま知る機会があっただけだ」

 

 おっと。

 落とすなら落とすって言ってくれよ。

 まあ、キャッチできたからいいけどさ。

 

「これは………?」

「さあ、なんだろうな。綺麗な石? か?」

「石、じゃないかしら。珠という表現の方がしっくりくるけれど」

 

 珠、ね………。

 まあ、丸いしな。確かに石というよりは珠かもな。

 

「…………そうだ、キモリ。これをやるよ。そいつに俺は、お前とまた会うと誓いを立てる」

「キ………?」

「好きね、そういうの。男子って」

「また会おうぜ、キモリ。今度は強くなったお前を見てみたい」

「キ………!」

「ほんと、罪な男ね………」

 

 キモリは強い。そしてこれからも強くなる。だけど、俺といてはその強さが危険な方に走る可能性だってあるのだ。こんな俺たちになる前からずっといるリザードンはお互い様なところがあると理解し合っており、二人で背負っていこうということで合意している。だが、キモリは何の関係もない。それなのに、こんな危険な目に遭わせられるかよ。

 だから俺は、キモリを連れて行かない。

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

 討伐部隊結成から二年。

 ついにロケット団が動いた。

 これまでにもロケット団の潜伏先を洗い出し、潰していたが、次から次へと場所が変わっていくのみで、全く勢いが止まる気配がなかった。そんな中での大々的な登場。こちらも手に負えないというものであるが、ようやくである。

 というかもう、うんざりしている。なんかバカバカしくなってきたんだよなー。

 ………………もう人の血は見たくないね。

 

「ーーーアルセウス。それが今回の狙いみたいよ」

「えっと………、アルセウスとは?」

「シンオウ地方の神話に登場するディアルガ、パルキア、ギラティナ。それぞれ時間、空間、反物質を司る神と呼ばれるポケモンですね。そのポケモンたちを創造したと云われているのがアルセウスです」

 

 ユキノシタ姉に補足するようにほんわかした助手? が説明をしていく。

 それにしても今日は何であの二人、自分のポケモンを出しているんだろうか。ユキノシタ姉の方がカメックスとネイティオを、その助手の方がフシギバナとポッチャマ? だっけ? を出している。

 なんかあったのか?

 まあ、いい。

 それにしてもアルセウス、か………。

 またトンデモナイポケモンに手を出そうしているな。

 サカキは…………これに反対ということなのだろうな。これを止めるために、組織を半壊させようとしているわけだ。人が多いというのも考えものだな。

 まあ、要は今主導側に立って指揮している奴が、今回の黒幕。そいつらさえ消せたらは俺はどうだっていい。

 あ、なんか妹の方もオーダイルを出してきた。なぜ今なのん?

 

「今回は特に危険な任務になるかと思います。みなさん、気を引き締めていきましょう!」

 

 それにしてもこの人数。

 なんか数が減ってない?

 基本的に会議とか参加してなかったからアレだけど、人減ってるよね?

 

「前回は………こちらとしても痛手だったわ。まさかこちらが奇襲に遭い、私のチームの二人とチームタマナワが全員病院送りになってしまって。………というわけだから、自分のことは自分で守るように」

 

 あー、前回の時に負傷者が出たのね。知らんかったわ。つか、気にも止めてなかったな。

 だって、初日のアレを見たらなー。

 ダメだと思うだろ、普通。

 結局、参加はしても俺は単独行動。時折、ユキノシタが追いかけてくるが、俺は気にせず前へ前へ。黒いのもいつの間にか帰ってきており、暴君様の二体で無敵状態。何ならリザードンも入れて逃げ場すらなくなっている状態だ。

 

「それで、これからどうするのだ?」

「ロケット団を潰しにいくわ」

「場所の検討はついているのかしら?」

「ユキノちゃん、お姉ちゃんを誰だと思ってるの? それくらい朝飯前だよ」

「…………それにしても、この人数で、か………」

 

 まあ、そうなりますよね。

 だって、招集された半分が病院送りになり、六人になっちまったんだからな。

 俺だって人増やせよと思わなくもない。

 だが、そうもいかないのだろう。

 人手不足。正確には使える人材の人手不足。これは解決のしようがないな。いっそ図鑑所有者を呼んだ方が確実かもしれないくらいだわ。

 

「あら、私としてはこの面子の方が動きやすいのよねー。正直、怪我した人たちって使えなかったもん」

 

 もん、じゃねぇよ。

 さらっと酷ぇこと言ってるぞ。

 ザイモクザなんかすげぇ怯えてる。奥歯ガタガタさせてるまであるぞ。ヤベェ………………。

 

「姉さん、さすがにそれは彼らに失礼だわ」

「でも実際そうだったし。ま、ユキノちゃんはそこのハチ公君にお熱なようだから知らなくても仕方ないわ」

「なっ!? そ、そんなわけないでしょ! 言いがかりも甚だしいわ!」

 

 うわ、なにその顔。真っ赤だぞ。

 

「でもやっぱりこの中に裏切り者がいるんじゃないかって思っちゃうんだよねー」

 

 うわー、この姉貴腹黒い。

 今そういうこと言っちゃうのかよ。

 

「それこそ、言いがかりよ!」

「ふーん、ユキノちゃんは庇うんだ」

「庇うも何も、事実を言っているまでよ! そんなに疑うのであれば、彼が裏切り者だという証拠を見せてちょうだい」

「なら、逆に裏切り者ではない証拠を見せなさい」

 

 あーあ、お互い無理なことを要求しちゃって。

 それにしてもこの人、何考えてんのかね。言葉は疑ってるくせに敵意が全く感じられない。話題の大元ではあるものの、見ているのは妹の方だけって言うとしっくりくる。そんな感じだ。つまり、俺を出汁に妹に突っかかってるってことだな。

 

「あら、出せないんだ。何も変わってないわね、昔から。ユキノちゃんはいつもそう」

 

 あー、始まったよ姉妹喧嘩。

 はあ、どうせ後でユキノシタが伝えに来るだろうし、退散しとこう。

 ザイモクザ?

 知らんな、そんな奴。

 

「ふぅ………」

 

 さて、どうしたものか。

 遠からずロケット団に攻め入ることになるのは間違いない。

 だが、アルセウス。

 狙いが神っていうのが結構危険だ。俺もシンオウの神話に出て来る最高神ということくらいしか知らないしな。

 ………そうだな、ユキノシタが来るまでにアルセウスについて調べておくか。

 となると、図書館がベストだろうな。

 

『終わったのか?』

「んあ? ああ、なんか姉妹喧嘩が始まったから抜けてきた」

 

 そういやこの暴君様。バトルフロンティアでもホウエンの伝説ポケモンについて知ってたよな。シンオウの伝説ポケモンについても知ってるんじゃないか?

 

「なあ、アルセウスについて知ってることあるか?」

『アルセウス、か。また、トンデモナイ奴の名を出してきたな』

「シンオウの神話に出て来る最高神ってことくらいしか知らねぇんだよな。どんな能力を持っているのか、それが分かれば対処のしようもあると思うんだが」

『奴は創造神だ。シンオウの神話に出て来るディアルガ、パルキア、ギラティナ。そして、ユクシー、アグノム、エムリットを創り出し、世界を構築したと言われている』

「………………その話、やっぱりマジなのか」

 

 以前、伝説のポケモンについていろいろと調べたことがある。その情報が正しいのかどうか、答え合わせをするような相手もいなかったが、どうやら俺が調べたことは正しいらしい。

 

『なんだ、調べていたのか』

「そりゃな。だが、それくらいしか知らねぇんだよな」

 

 だが、そうなると少々厄介である。

 相手は最高神。能力が分かれば対処のしようあると思うが、その能力がチート級なら諦めるしかない。

 

『なるほど。なら、奴が全てのタイプを司ることも知らないというわけだな』

「はっ?」

『考えてもみろ。奴は創造神。伝説のポケモンを創り出したんだ。なら、そいつらのタイプのルーツはどこだ』

「…………全てのタイプを有しているからこそ、創造神としてポケモンを創り出せたってことか………?」

 

 やべぇ。

 マジでヤバい。

 そんなことができるんじゃ、奴が暴れ出したりでもすれば歯が立たなくなる。世界が終わると言っても過言ではない。どうせ、奴は世界を再構築できるんだろうし、神自身が世界を終わらせることだって厭わないだろう。

 

『そういうことだな』

「………なら、お前のルーツであるミュウはどうなるんだよ。あいつは全てのポケモンの遺伝子を有しているんだろ?」

 

 全てのタイプを有している。

 似たようなことが書かれている奴が一体いた。

 ミュウ。

 この暴君様のルーツでもあり、全てのポケモンの遺伝子を持つとされるポケモン。

 

『さあな、そこまではオレにも調べようのないことだ。ただ言えるのは、奴は姿を変えることができる。それが全てのポケモンの遺伝子を持つ根拠だということだな』

「………つまり、言い換えるとアルセウスは姿を変えることができないってことか」

 

 ま、今までの説明の中にアルセウスが変身能力を有しているなんてことは一切なかった。つまるところ、最高神でも姿を変えることはできない。

 

『所詮、人間が記録してきたものからの情報でしかない。実際は未知なる生き物だ』

「俺たちでこれならロケット団はどこまで把握できているんだろうな。………取り返しのつかないことにならなきゃいいが」

『どうせ奴に見限られる運命だろう』

「それはそうかもしれないが………。創造神なんぞを支配下に置こうものなら、その代償は世界そのものになってもおかしくないんじゃねぇの?」

『あり得る話だな……………』

「………つーわけで、さっさとロケット団を倒しますか」

『ああ』

 

 要するに。

 俺たちには時間がない。

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

 姉妹喧嘩の最中、ワタルという男が行方不明になったとかって情報が入って来たらしく、急遽ユキノシタがチャンピオンの座に就くことになった。何でも姉の方が「チャンピオン? もう興味なんかないよ。私はあの頃の私じゃないから」とか言って断り、押し付けられたらしい。

 というのも三日前の話であり。

 今、俺はある物を探し回っている。

 暴君様曰く、『プレート』なるものを集める必要があるのだとか。

 

「三日でこれ一枚って……………」

 

 一応プレートを一枚見つけてはいる。

 ピンクピンクした長方形の手の平大の板だ。

 えっと………、これって何タイプ?

 

『エスパータイプ、ではないな。オレに対して何の効果もない』

 

 ええー、本当にこれなのか?

 全く信用できねぇんだけど。

 

「どうすんだよ。三日かけて見つけたと思ったらタイプ不明の一枚のみって。あと十五枚、これがハズレなら十六枚あるんだぞ。見つけた頃には戦いが終わってると思うんだが?」

『なら、人手を増やせ』

「それは無理な相談だな。まず頼る人がいない」

『………そうだったな。使えねぇ』

 

 今さらっと俺のこと貶さなかった?

 

「マニューラ、次のプレートのところだ」

「マニュ!」

 

 ッ?!

 プレート!?

 振り返ると赤髪の少年がマニューラとともに走り去っていった。

 

「今のは……………」

『ほう、どうやらこの事件。またしても図鑑所有者が絡んできているようだな』

「あいつも、図鑑所有者、なのか……………?」

『ああ。………そして、サカキの息子だ』

「へえ…………………はっ?!」

 

 あいつが、サカキの息子………………?

 いや、まさか。こんなところで見かけるような偶然なんか起きるわけないだろ。

 

「今何つった?」

『あの赤髪の少年はサカキの息子だと言ったんだが?』

「聞き間違いじゃないのか……………」

 

 サカキの息子で図鑑所有者。

 一体何がどうなったらそうなるんだよ。

 よもや親子で戦おうとかしてないだろうな。

 

「そういやチラホラとサカキの口から息子の話を聞いたような気もしなくはないわ」

『あいつは仮面の男によって幼少期に誘拐されている。サカキは長年息子を探し続けていた。奴がデオキシスを支配下に置こうとしたのも、息子を呼び寄せるためだったらしい』

「あの野郎、んなこと一言も言ってねぇし………………」

『組織を私的に使うことになるからな。口外はできないだろう』

「まあ、いい。要は図鑑所有者が動いている。それが事実だ。それ以上のことは何もない。何なら俺の仕事がなくなったわけだから万々歳である」

 

 ま、あの赤髪が誰かなんてどうでもいいか。

 重要なのはあいつがプレートを集めているということ。

 今まさに俺がやっていることをあいつがやっているというわけだ。しかもあいつ図鑑所有者。運があるのはどう考えてもあいつの方だ。

 

『あいつに集めさせるつもりか?』

「まあな。あいつ、図鑑所有者なんだろ? なら大丈夫だ。運命を引き寄せ、解決していく主人公気質の奴らばかりだからな」

 

 なら、俺はその動向を観察しておけばいい。

 いずれ、アルセウスに辿り着くだろうからな。

 

「あいつを追うぞ」

『ふん、好きにしろ』

 

 まだ、赤い後ろ髪が微かに見えている。

 俺は暴君様の念動力で後を追うことにした。

 

「にしても二年経ってやっとこれって………。やっぱりサカキに踊らされるんかね」

『あり得なくもない話だ。あの男は力も権力も金も持っている。ただのトレーナーにどうこうできる奴じゃない』

「ああ、そうだな。俺は図鑑所有者じゃない。単に実験の被験体になってしまっただけのただのトレーナーだ」

『ふん、主人公要素としては充分だと思うがな』

 

 どこがだよ。

 

「ばっかばか、主人公ってのはヒーローだぞ? 片や俺は悪党紛いのいいとこ敵役でしかない」

 

 敵役つっても画面に映るか映らないかの瀬戸際の役だろうし。

 基本いなくても話が成り立つような、そんな役回りだっつの。

 

『ダークヒーローという言葉も聞くが』

「あれはヒーローだ。態と悪役に回って解決していく。結局一緒だ」

 

 俺の場合はほんとに悪役になることしか思いつかん。ダークヒーローにすらなれねぇよ。

 

『………やれやれ、自覚がないのも大概だな』

「凡人には凡人なりのやり方ってもんがあるんだよ」

 

 だから、凡人は凡人らしく、しかもぼっちらしくやるんだっつの。

 

『貴様は恐らく…………図鑑所有者になれなかった男、なのだろうな』

「あ? なんだよ、その言い回し」

『いずれ分かる日が来るだろう。単なるオレの印象だが、あながち間違ってもいないだろうな』

 

 まったく、意味が分からん………。

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

 ジョウト地方アルフの遺跡。

 赤髪の図鑑所有者を追いかけてきたら、こんなところにまでやってきてしまった。当の少年の姿は見失ってしまい、絶賛迷子である。

 どうしたものか。

 そもそも初めて来たし、右も左もさっぱりだ。

 

『シシシシシシッ』

 

 うわっ、なんか気味が悪い。

 

「なあ、なんかヤバくないか?」

『いるな』

「マジかよ」

『しかも相当な数だ』

「嘘だろ………、働きたくないでござる」

『なら、そのまま死んでろ』

「へいへい、分かったよ。俺も戦いますよ」

 

 ッ!?

 うおぃ! マジかっ?!

 なんだ、この数!

 

「何だよこいつら………………」

 

 声のした方へ振り向けば……………絶句。

 なんか黒いのがうじゃうじゃとやってきた。

 

『オレたちと同族、ではあるみたいだな』

「つまり、ポケモン、なのか……………?」

 

 ポケモン、にしてはあまりにも歪すぎる。

 いや、形が歪なのではなく、形が『文字』だから歪なのだ。

 

「アルファベット、だよな………………?」

『なるほど、どこかで見覚えのある形だと思えば。貴様らの言語を可視化させる一つの手法か』

 

 だからって、なんでこんな奴らが。

 何が目的なんだよ。

 

『シシシシシシッ』

『ダメだな、言葉が通じない』

「お前でもかっ?! くそっ」

『未確認生物、アンノウンといったところか』

「何でもいい、とにかく片すぞ!」

『ああ』

「リザードン、かえんほうしゃ!」

 

 ここが遺跡だと思うと下手に大技を使えない。究極技ならばまとめてやれそうなんだが、狭すぎなんだっつの!

 

『シシシシシシッ!』

 

 くそっ、キリがねぇ。

 一瞬だけ穴は空くのにすぐにうじゃうじゃ湧いて出てきやがる。

 

『シシシシシシッ!』

『シシシシシシッ!』

『シシシシシシッ!』

『シシシシシシッ!』

 

 だぁぁあああ、この何ともいえぬ気味の悪い鳴き声。脳が揺さぶられて吐き気がこみ上げてくる。

 

「リザードン、ハイヨーヨー!」

 

 なら、今度は引きつけてみよう。これで分散できれば暴君様も片を付けやすくなるはずだ。

 

『ふん!』

 

 サイコウェーブによる竜巻を起こし、アンノウンどもを呑み込んでいく。

 リザードンの背後には一体もいない。

 くそっ、やっぱりついて来ないか。

 

「リザードン、トルネードドラゴンクロー!」

 

 急降下からのトルネードを加えた竜の爪を叩きつけた。

 

『シシシシシシッ!』

『シシシシシシッ!』

『シシシシシシッ!』

『シシシシシシッ!』

 

 ダメだ。

 これでも意味がない。

 これはアレだな、伝説のポケモンたちよりも厄介だな。

 

『シシシシシシッ!』

『シシシシシシッ!』

『シシシシシシッ!』

『シシシシシシッ!』

「なっ?!」

『なん、だと…………?!』

 

 渦巻いていたアンノウンたちの中心にはいつの間にか黒いポケモンがいた。

 両翼を広げ、蒼い炎と雄叫びを上げている。

 その雄叫びに反応してか、さらにポケモンが生み出されてくる。

 

「………ポケモンの創造、だとでもいうのか…………?」

『ふん、アルセウス以外にも創造できる奴がいたとはな』

『シシシシシシッ!』

 

 ッ!?

 来るっ!

 

「リザードン、ブラストバーン!」

 

 もう知るか。

 ここが遺跡だとか、狭いだとか、んなこと気にしてる余裕なんてない。

 

「ッ!?」

 

 おいおい、マジかよ。

 シャドーの時よりキツい状況だぞ。

 

「見たことあるようで見たことないポケモンばっかじゃねぇか」

『あの黒い翼のポケモン。リザードンに似ていないか?』

「言われてみれば………」

 

 暴君様の言う通り、黒く蒼い炎を吐いているポケモンはどこかリザードンを彷彿させてくる姿をしている。他にもなんか花がでかいような気がするフシギバナ、背中の砲台が一本のカメックス、なんかおかしいピジョット、ヤドラン? ヤドキング? あいつだけどっちなのかさっぱり分からん。が、なんか食われてる。

 まだまだいる。ゲンガーにガルーラ、翅の生えたカイロス、どこぞの機密指定のポケモンみたいなハッサム、角が尖って腕が太いヘラクロス、太いギャラドス、刺々しいプテラ、モコモコなデンリュウ、なんか回ってるハガネール、角が長いヘルガー、どこかしら太くなったライボルト、背中から尻尾にかけて珠が付いたジュカイン、頭が尖ったバシャーモ、上半身が太くなったラグラージ、スカートはいたサーナイト、マント羽織ったエルレイド、ツインテール牙のクチート、宝石の方がでかいヤミラミ、どこか違うチャーレム、尖ったサメハダー、噴火後のバクーダ、モコモコなチルタリス、スラっとしたミミロップ、ぬいぐるみ感がすごいジュペッタ、中二心くすぐるアブソル、あごの外れたオニゴーリ、四つん這いのユキノオー、全身鎧のボスゴドラ、怖いバンギラス、三日月の一枚翼になったボーマンダ、腕が増えたメタグロス、腕が鎌になったガブリアス、かっこいいルカリオ。

 ……ホウエン、シンオウのポケモンまでいるのかよ。

 

「他の奴らもどこか似ているな………」

『ああ、だが何かが違う。亜種か?』

「分からん。分からんが………、取り敢えずヤバいってのは分かるわ」

『だな』

 

 まさかこんな日がくるとは。

 俺、今暴君様と背中合わせに立ってるぞ。

 殺気がすごいのなんのって。

 

「リザードン、りゅうのまい!」

『ふん!』

 

 炎と水と電気の三点張りからの竜の気を生成。

 その間に後ろでは暴君様がはどうだんで次々と亜種のポケモンたちを弾き飛ばしていく。

 

「ソニックブースト!」

 

 まずは加速して一気に間合いを詰める。

 

「ドラゴンクロー!」

 

 そして、竜の気を爪に乗せて、ガブリアスを切り裂いた。

 見たところこちらにダメージが入ってくるような仕掛けはない。

 

「ッ!! リザードン、垂直のエアキックターン!」

 

 こちらがリザードンというのを考慮してなのか、ピジョット、ギャラドス、カイロス、ハッサム、プテラ、チルタリス、オニゴーリ、ボーマンダ、メタグロスが攻め込んできた。

 待て待て待て。

 この数をリザードン一体で同時に開いてしろって言うのかよ!

 こっちがこれなら、あっちも…………。

 

『出し惜しみなんかしてられないか。フン!!』

 

 最初から大技の連発か。

 

「リザードン、そのままハイヨーヨー!」

 

 確かに暴君様の言う通りだ。出し惜しみなんてしてられない。

 

「出て来い、黒いの。お前も手伝ってくれ」

「ライ」

 

 声をかけると黒いのがぬっと出てきた。

 それに反応してきたのがゴーストタイプのポケモンたち。ゲンガーにジュペッタだ。

 

「好きにやれ」

「ライ」

 

 黒いのはあくのはどうで二体の動きを封じた。

 

「リザードン、かみなりパンチのスイシーダ!」

 

 リザードンの動きにいち早く追いついてきたプテラを電気をまとった拳で地面に叩きつける。

 その背後からはカイロスが頭のハサミを大きく開いて詰めよっている。

 

「ブラスターロール!」

 

 くるっと翻ってカイロスの背後を取った。

 

「もう一発だ!」

 

 カイロスにも電気をまとった拳を叩きつけた。

 そんなこんなしていると雨が降ってきた。降らせているのは恐らくギャラドス。

 次第に周りの風が強くなっていく。

 黒いのがゲンガーとジュペッタを眠らせたようだ。

 

「リザードン、ギャラドスを狙え! ソニックブーストからのかみなりパンチ!」

 

 超加速でギャラドスの元へと詰め寄るも、メタグロスとボーマンダが立ちはだかってきた。

 電気をまとった拳は鋼の拳で受け止められ、竜を模した波導に襲われた。

 

「リザードン!」

 

 今の一撃倒される、ということはなかったが、思った以上にダメージが大きい。俺の知っているボーマンダの威力をはるかに超えていた。

 

「りゅうのまい!」

 

 もう一度、炎と水と電気の三点張りから竜の気を生成していく。

 その間にリザードンの周りには暴風が巻き起こされた。

 右にピジョット、左にギャラドス。

 あいつらの狙いはこれだったのだろう。

 

「リザードン、思いっきり地面に叩きつけろ! ブラストバーン!」

 

 今日一番の炎の究極技により、一瞬にして暴風と雨雲が消え去った。

 やべぇ、こんなこともできちゃうのかよ。

 

『すまん、そっちに行った!』

 

 振り向けば、ルカリオがこちらに詰め寄ってきていた。というか俺に詰め寄ってきている。

 えー、これ無理じゃね?

 俺、死ぬくね?

 

「ライ」

「ゲン!」

「ジュ!」

 

 絶句していると目の間にゲンガーとジュペッタの後ろ姿が現れた。

 おい、待て。お前ら敵じゃねぇのかよ。

 

「ライ」

 

 ああ、そういうことか。

 黒いのがさいみんじゅつで操っているのか。

 

「そっちは任せるぞ。リザードン、ソニックブースト!」

 

 取りこぼしなどは黒いのに任せよう。

 俺はこっちだ。

 

「ハッサムにかえんほうしゃ!」

 

 弱点を狙えそうなのから攻めることにしたが、今度は盾になるやつは現れなかった。

 代わりに水砲撃がいくつか飛んできた。

 ギャラドスと………ボーマンダか。あと、地上からカメックスも狙っている。

 

「ハッサムを掴んで投げろ!」

 

 ガード体制だったハッサムのハサミを掴み、リザードンと位置を入れ替えさせる。

 ちょうどそこに水砲撃が帰結しており、ハッサムが身代わりとなった。

 

「ギャラドスにデルタフォース・雷!」

 

 さっきからいい感じに攻撃の起点となっているギャラドスを片付けることにする。というか割と近くにいたから狙いに行った。

 リザードンはギャラドスに電気をまとった拳を一発叩きつけると、そのまま空中で大きな三角形を描くように連続攻撃していく。

 それにはさずがに他のポケモンたちも動きようがないのか攻撃を仕掛けてこない。

 

『チッ!』

 

 あっちはあっちで…………おい待て。なんでエスパータイプばかりリザードンの方を向いているんだ?!

 

『しまっーー!?』

 

 リザードンの動きが止まった。

 ドスンと空中からはギャラドスが落ちてきて………消えた。残ったのは赤い結晶のみ。

 

『ボールに戻せ!』

「ッ!? そういうことかよ! 戻れ、リザードン! 黒いの! 黒い穴だ!」

 

 エスパータイプの奴らでサイコキネシスを一斉に行い、リザードンの動きを完全に封じ込んできた。

 これだけの数がいれば、そんな動きをされてもこちらに対処のしようがないってな。

 しかも攻撃してこなかったポケモンたちがここぞとばかりに一斉攻撃を仕掛けてきた。

 俺はモンスターボールを取り出し、リザードンに向けるが………やはり届かない。もう頼みの綱は黒いのに託されたようだ。

 

「オーダイル、ハイドロポンプ! コモルー、かえんほうしゃ! ペルシアン、10まんボルト!」

 

 水と炎と電気がリザードンの前で集結し、爆発を起こした。

 爆発により、一斉攻撃もリザードンに届くことは………ある程度抑えられただけだった。

 結局、防げてはいない。

 

「くそ、第二弾もあるのかよ!」

『舐めるなよ!』

 

 暴君様がお怒りのようである。

 頭上から大技が降ってきた。これほんと、なんつー技なんだろうか。

 

「シャアッ?!」

 

 それでもまだ防ぎきることはできなかった。

 一点に集められている攻撃に悲鳴を上げるリザードン。

 俺はこんな時でも何もしてやれないのかよ。

 結局、トレーナーって何なんだよ。

 

「リザー………ドン………………」

 

 まだいる。

 まだまだいる。

 こいつら普通じゃない。

 もし同じポケモンで見た目通り、俺が知っている姿のポケモンたちと同じだというのであれば、どいつも俺が知っているポケモンたちより遥かに強い。一体一体が伝説のポケモンかと言いたいくらいのパワーを、重たい一撃を持っている。

 

「くっ………そっ!」

 

 こんなんで負けてたまるかよ。

 ロケット団倒して、俺たちは帰るんだ。

 生きて帰るだっつの。

 

「シャアアァァァァァァアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

 ブチンと。

 俺の、俺たちの中で何かが弾けた。

 立ち上がる身体が不思議と痛みを感じない。

 

「リミットブレイク」

 

 雄叫びを上げていたリザードンが黒い炎に身を包んでいく。

 同時に俺への圧力が尋常じゃない強さで押し寄せてきた。

 だが、そんなもの今さらどうだっていい。俺はあいつらを倒して、ロケット団を倒して、家に帰るんだから。

 

「リロード・オン………ファイア」

 

 黒い炎に包まれたリザードンが次々と亜種のポケモンたちを貫いていく。暴君様よりも暴君へと化している。

 ポケモンたちは跡形もなく消え去っていく。

 残っているのは大量の赤い結晶のみ。

 

『シシシシシシシッ!』

 

 ……二体、残ってしまった。

 

『シシ、シシシシッシシッシシシ、シシシシシッ!』

 

 黒いリザードンとデンリュウ擬きが姿を変え始める。

 進化、なのか?

 

「あ、あれはまさか………………レシラムと、ゼクロム…………?!」

『やはり、奴らをどうにかしなければ、終わりが来ない』

 

 聞き覚えのない名前だ。ただ声は知っている、気がする。

 だが、どうだっていい。

 あいつらはどちらにせよ結晶だ。結晶で創り出されたポケモンだ。

 だから俺たちは、アレを打ち砕くのみ。

 

「リザードン、ーーーーーー」

 

 黒いリザードンから白いポケモンに、デンリュウ擬きから黒いポケモンになった二体を蒼い炎をで包み込んでいく。パリンパリンと結晶が弾けて欠けていく音がしてきた。

 

『やった、のか……………』

 

 恐らくやった。

 やってなくてもここは先へ進ませてもらう。

 用があるのはお前たちじゃない。ロケット団だ。

 どうせあの赤髪がここに来たってことはロケット団もここにきているはず。

 

「オーダイル、アクアジェット! ニューラ、エネコ、ユキワラシ、こごえるかぜ!」

 

 だから。

 まだ終わってない。

 あいつらを、アンノウンを倒さないと。

 

「ヒキガヤ君!」

 

 ッ?!

 な、んで、お前、がここ、に、いるん、だよ………。

 

「…………………ユキノシタ」

「ヒキガんぐっ!?」

 

 ッ?!

 な、なんだ?! 俺の身体はどうしたって言うんだ?! 何勝手に動いてんだ!?

 息、できない…………。呼吸が…………。

 ああ、でもなんか、俺の中で落ち着きを取り戻している。暴れていたのが沈静していくようだ。

 

「………ぷはっ、………いいわよ。好きにしなさい。私はずっとあなたの味方だから」

 

 チョロいな、俺も。

 今の言葉で正気に戻ってしまった。こいつの顔を、声を、匂いを、全てが俺を落ち着かせていく。

 全く意味分からん。

 何故ユキノシタには俺を止められるのか、何故ユキノシタにキスまでしてしまったのか、何故俺はこいつの言葉一つに左右されているのか。

 全く訳が分からない。

 

「…………ぁ」

 

 無言でユキノシタを突き放した。

 自分から唇を奪っといてこの仕打ちはないだろと、我ながら思う。思うのだが、身体が勝手に動いてしまった。

 リザードンの方を見るとオーダイルが止めに入っていたらしい。何とか踏みとどまったと言わんばかりの片膝感。当のリザードンもあまり状況を把握できていないようだ。

 …………いつの間にかアンノウンたちが消えている。ほんとに倒したのか?

 

「お、戻って来れた」

「シント遺跡から帰ってこれたぞ!」

 

 ッ?!

 ロケット、団…………!

 

「何ですの、この結晶」

 

 ッッ!?

 あいつはッ?!

 

「お前………」

「あれ? 人がいる」

「こっちくるぞ」

 

 くそ、逆なでする声だな。

 聞いてるだけで胸糞悪い。

 

「あ、待て………黒いマント………………? に、白い…………アーマー…………ッ!?」

「ッ!? サカキ様! こいつ今まで俺たちの仲間を次々と殺していった黒マントと白アーマーです!」

「ま、まさか、ですわ…………。だって、白アーマーはどこにも」

 

 ああ、そうだな。

 白アーマーはもういない。

 壊れちまったんだからな。

 いるのは、本来の姿を出したミュウツーだけだ。

 

「あの男、まさか…………?」

「アテナ、知っているのか?」

「し、知りませんわ、こんな男」

 

 赤い髪の女。

 二年前、クチバのトレーナーズスクールを襲撃したロケット団のチームリーダー。

 コマチを危険な目に合わせた奴らの大将。

 振り向けばそこにロケット団の集団がおり、赤髪の女がいた。

 

「あの時はよくの妹たちを危険な目に合わせてくれたな。死ね」

「きゃあっ?!」

 

 その声は一瞬で消えた。

 他が驚く隙もない。与えもしない。

 

「さ、サカキ様!」

「呑め」

「「「うぁぁぁあああああああああっっっ!?!」」」

 

 サカキに助けを求めているが、そんなのはどうでもいい。

 

「全員で叩き潰せ!」

「………いちいち面倒だな」

「なんだと!?」

「おい、黒いの。代償は後でいくらでもくれてやる。あいつら全員呑み込め」

 

 承諾したのか、初めて見る大きさの黒い穴を作り出し、サカキ以外のロケット団を呑み込んでいった。

 

「これで、いいんだろ?」

「ふん、まさかここまでやってしまうとはな。ああ、オレの部下が惜しい。実に惜しい」

 

 サカキは口では惜しいと言いながらも思いっきり笑っている。不安材料が消えたからだろうか。

 相当な歪み様である。

 

「…………どうやら覚醒したようだな」

「何の話だ」

「お前も分かってるんじゃないのか? 自分の中の力ってやつを」

「ハッ、んなもん知るかよ」

「ま、今はそれでいい。まだ、コントロールできたってわけではなさそうだからな」

 

 チラッと俺から視線を外すサカキ。

 その視線の先には、追いかけてきたのだ、ユキノシタの姿があった。

 

「ハチマン、オレの部下になれ」

「断る」

 

 何が悲しくて俺はロケット団になんかならなきゃいけないんだ。

 

「くそっ」

 

 全てはあの『レッドプラン』のせいだ。あんなのがあるから俺は日常に戻れない。ユキノシタにも迷惑をかけるだけだ。

 

「そもそもこんな力があるからお前から逃げられないんだ」

 

 だったら、こんな力なんかいらない。俺は俺だ。他の誰でもない。

 

「なら」

 

 はっきり言ってもう嫌だ。こんな生活、うんざりだ。

 

「ーーーダークライ、俺の記憶を全てくれてやる」

 

 

 

 

 

 

 

 あれ……………?

 ここはどこだろうか…………。

 俺はなぜ空を見上げているのだろうか……………。

 

『大丈夫ですか………?』

 

 女の、子…………?

 

『元気になるまでゆっくり休んでいてください。その間わたくしがお世話をしますので』

 

 …………この感じ、ポケモン、かな……………?

 まあ、なんでもいい。もう少しだけ、寝かせてもらおう……………。

 

『おやすみなさい、マスター』

 




これにて番外編はすべて完結です。
何気に番外編だけでも一つのストーリー性がありますね。
シリーズ全体でみれば本編の前章としても一つの作品になりそうです。


続編の方も完結に向けて書いていきますので、今後ともよろしくお願いします。


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行間

ヒキガヤハチマン

・リザードン ♂

 特性:もうか

 覚えてる技:かえんほうしゃ、メタルクロー、かみつく、おにび、えんまく、はがねのつばさ、かみなりパンチ、ドラゴンクロー、シャドークロー、つばめがえし、りゅうのまい、かみくだく、カウンター、じしん、フレアドライブ、ブラストバーン

 

野生

・ダークライ

 覚えてる技:ダークホール、おにび、ゆめくい、あくのはどう、さいみんじゅつ

 

・ミュウツー

 特性:プレッシャー

 覚えてる技:10まんボルト、はどうだん、サイコウェーブ、サイコキネシス、サイコブレイク、バリアー、じこさいせい

 

・キモリ

 特性:しんりょく

 覚えてる技:でんこうせっか

 

レンタルポケモン

・ラグラージ

 覚えてる技:カウンター、じしん、ハイドロカノン

 

・バシャーモ

 覚えてる技:オーバーヒート、ブラストバーン、スカイアッパー、かげぶんしん

 

・オニゴーリ

 覚えてる技:ふぶき、ぜったいれいど、あられ

 

 

ユキノシタユキノ

・オーダイル(ワニノコ→アリゲイツ→オーダイル) ♂

 特性:げきりゅう

 覚えてる技:アクアテール、アクアジェット、ドラゴンクロー、れいとうパンチ、ハイドロポンプ、シャドークロー、つばめがえし、りゅうのまい、げきりん

 

・ペルシアン ♂

 覚えてる技:きりさく、だましうち、10まんボルト

 

・ニューラ ♂

 覚えてる技:つじぎり、こごえるかぜ

 

・コモルー(タツベイ→コモルー) ♂

 覚えてる技:りゅうのいかり、かえんほうしゃ

 

・ユキワラシ ♀

 覚えてる技:こごえるかぜ

 

・エネコ ♀

 覚えてる技:こごえるかぜ

 

控え

・ギャロップ ♀

 覚えてる技:かえんぐるま

 

・フォレトス

 覚えてる技:こうそくスピン

 

 

ザイモクザヨシテル

・ポリゴン

 特性:トレース

 覚えてる技:トライアタック、でんじほう、ロックオン、じこさいせい、テレポート

 

・エーフィ

 覚えてる技:でんじほう

 

・レアコイル

 覚えてる技:でんじほう

 

 

ヒラツカシズカ

・カイリキー ♂

 覚えてる技:ばくれつパンチ、どくづき

 

・サワムラー ♂

 覚えてる技:メガトンキック、とびひざげり、ブレイズキック、まわしげり

 

 

ツルミ先生

・ハピナス ♀

 覚えてる技:いやしのはどう、はかいこうせん、マジカルシャイン

 

・プクリン ♀

覚えてる技:いやしのはどう、かえんほうしゃ、かみなり、マジカルシャイン、ほろびのうた、まるくなる、ころがる、とびはねる

 

・タブンネ ♀

覚えてる技:いやしのはどう、なみのり、なげつける、マジカルシャイン

 

・ソーナンス ♂

 覚えてる技:カウンター、ミラーコート、はねる、アンコール、みちづれ

 

 

校長

・ゲンガー ♂

 覚えてる技:シャドーボール、シャドーパンチ、10まんボルト、どくづき、だいばくはつ

 

・フーディン ♂

 覚えてる技:サイコキネシス、きあいだま

 

・クロバット ♂

 覚えてる技:シャドーボール、クロスポイズン

 

・ワタッコ ♀

 覚えてる技:とびはねる、わたほうし、おきみやげ

 

・ヤドキング ♂

 覚えてる技:サイコキネシス、みずでっぽう、パワージェム、うずしお、ずつき、まもる

 

・キュウコン ♀

 覚えてる技:かえんほうしゃ、フレアドライブ、サイコキネシス、エナジーボール、リフレクター

 

 

キワメ

・カイリュー

 覚えてる技:りゅうせいぐん

 

・メガニウム

 覚えてる技:ハードプラント

 

・バクフーン

 覚えてる技:ブラストバーン

 

・オーダイル

 覚えてる技:ハイドロカノン

 

 

討伐部隊

ユキノシタハルノ

・カメックス ♂

 覚えてる技;ハイドロカノン、ハイドロポンプ

 

・パルシェン ♂

 覚えてる技:からにこもる

 

・ネイティオ ♀

 覚えてる技:みらいよち、サイコキネシス、つばめがえし、リフレクター

 

・ドンファン ♀

 覚えてる技:たたきつける、ころがる、まるくなる

 

・ハガネール ♂

 覚えてる技:アイアンテール、アクアテール、りゅうのいぶき、がんせきふうじ

 

・バンギラス ♂

 特性:すなおこし

 覚えてる技:いわなだれ、じしん、かみくだく、はかいこうせん

 

 

シロメグリメグリ

・フシギバナ ♀

 

・ポッチャマ ♀

 

 

ハンダサムロウ

・グレッグル

 覚えてる技:どくばり、ベノムショック、しんくうは

 

 

タマナワ

・カポエラー

 覚えてる技:トリプルキック

 

・ゴローニャ

 覚えてる技:ころがる

 

・ヤミカラス

 

 

チームタマナワ3人

・ラッタ

 

・ドードリオ

 

・マグマッグ

 

 

バトルフロンティア

リラ

・ライコウ

 特性:プレッシャー

 覚えてる技:でんきショック、かみなり、でんじほう

 

 

ジンダイ

・レジロック

 

・レジアイス

 

・レジスチル

 

 

ダツラ

・バンギラス ♂

 特性:すなあらし

 覚えてる技:いわなだれ、かみくだく、りゅうのまい

 

・メタグロス

 覚えてる技:サイコキネシス、じしん、コメットパンチ、まもる

 

・ボーマンダ ♂

 特性:いかく

 覚えてる技:いわなだれ、りゅうのまい

 

 

図鑑所有者

グリーン

・リザードン

 覚えてる技:だいもんじ、ブラストバーン

 

 

ルビー

・ラグラージ ♂ ZUZU

 覚えてる技:マッドショット、がまん、ハイドロカノン

 

 

サファイア

・バシャーモ ♀ ちゃも

 

 

ロケット団

サカキ

・スピアー

 持ち物:スピアナイト

 特性:むしのしらせ←→てきおうりょく

 覚えてる技:こうそくいどう、ダブルニードル

 

・ニドキング

 覚えてる技:がんせきふうじ、じしん、ほのおのパンチ

 

 

アテナ

・アーボック

 覚えてる技:どくばり、へびにらみ

 

・クサイハナ ♀

 覚えてる技:どくのこな

 

・ラフレシア ♂

 覚えてる技:どくのこな

 

・ヤミカラス

 覚えてる技:そらをとぶ

 

 

下っ端

トレーナーズスクール

ズバット、ゴルバット、アリアドス、ドガース

 

トキワシティ

ズバット、ゴルバット、エアームド

 

 

チンピラ

クチバシティ

・サイホーン

 覚えてる技:とっしん、じならし

 

・リングマ

 覚えてる技:はかいこうせん、ブレイククロー

 

・ナッシー

 覚えてる技:タマゴばくだん、ソーラービーム



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