SPEAR OF DEATH (夜廻)
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SAO編 セタンタ
第一槍


懲りもせず新たな小説……。だってネタが浮かぶんだもん!


『以上で《ソードアート・オンライン》正式サービスのチュートリアルを終了する。……プレイヤー諸君の、健闘を祈る。』

 

少し中世を思わせる街並みの広場に佇む全身を覆い隠す程のローブ纏った巨人が言を告げると激しいノイズと共にその姿を消した。後に残るのは現実世界に帰れない事への憤怒の篭った罵声。死と隣り合わせの世界に閉じ込められた恐怖からの悲鳴など様々だった。

 

「……不味ったな」

 

それとは対照的に、俺は現実世界に残して来た大学での卒論を提出出来ない事を焦っていた。実の所、明日提出する予定だった。

 

俺は天司御子(あまつかみこ)、女みたいな名前をしているがこれでも男だ。歳は二十一、現在同居人と二人暮らしをしている社会人に成りかけの大学生だ。両親は俺が小学生の時に事故で他界しており、その時から叔父の家に引き取って貰っていたが俺が高校に上がるのを機に、家を買って一人暮らしを始めた。

 

別に叔父に厄介払いを受けた訳ではない。むしろ可愛がられていた。前述に家を買ったとあるが、これは自分の金で買った物だ。死んだ両親の遺産ではない。

 

俺の叔父はその筋では有名な資産家で、株などで儲けていた。中学の頃、俺は叔父から貰ったお年玉とお子遣いでちょっとした好奇心で株というものを買った。叔父から聞いていた話で、株は失敗すれば金が紅茶に溶ける砂糖の様に一瞬で溶けると言っていたので社会勉強の一環と考え、半ば金を溝に棄てるような感覚で株を買った。そして運良くその株の値段が買った後に急上昇し、人生を遊んで暮らせる程の金額を稼がせて貰った。買った株はVRMMORPG「ソード・アート・オンライン」というゲームの株で、このゲームが完成するまで大株主としてかなり出資していた。

 

話を戻そう。

 

今はこの状況をどうするかだ。幸い大株主でかつ製作者と年が近く、そのよしみでプレイしているので身体の動かし方は慣れている。それに、現実でも槍術を修めていたから戦いの心得は出来てる。……夕方だが草原でレベリングするかねぇ?

 

思い立ったら吉日。まず俺は元に戻った顔を隠すべく装備品の売っている店に向かう。顔を隠す理由?実は俺、社会的に結構顔が知れていてな。『ソード・アート・オンライン』のゲームで多くの金を出資している大株主として知られている。もし他のプレイヤーに気付かれたらそれこそ面倒だ。きっと此処から出せとか言って迫って来るに違いない。

 

「いらっしゃいませー、何をお探しでしょうか?」

 

店主のNPCが設定されている言語で接客をする。中身は只の0と1の羅列だが声の息づかい、仕草、豊かな表情はほぼ人間に近い形で作られている。

 

「なんか顔を隠せるもんはねぇか?」

「それならば此方は如何でしょう?」

 

そしてこの機械とは思えぬ接客。まるで魂が入っているかの様に人間臭い。俺はNPCに提示された兜を選択し購入する。

 

「ありがとう御座いましたー」

 

NPCの言葉を背に店を出る。そして早速購入した兜を装備欄から装着する。

 

「おし、そんじゃあ行くとしますか!」

 

俺は意気揚々と草原に出掛けて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ」

 

『現在。ソード・アート・オンラインへログインした一万名程の方々がログアウト出来ない状態となっており、既に数百名程、死者が出ている模様です。尚、製作者である茅場晶彦は……』

 

私は急いで走る。自らの家に、唯一自分を受け入れてくれた大切な人の安否を確認するために。

 

家の門の前に着く。暗証番号を入れ、門を開き家に入る。靴を脱ぎ捨て階段を登り二階に上がる。そして彼の部屋の扉を開け、目の前の光景に絶望する。

 

そこには頭にナーブギアを被り、眼を閉じてベットに横たわる彼……天司御子の姿が。

 

「あぁ、あ、あ」

 

私は泣きそうになりながら彼に寄る。

 

「貴方が居なかったら、私はどうすればいいのよ……」

 

彼の手を取り強く握る。私、朝田詩乃は全力で彼が無事に帰って来ることを祈った。

 

「絶対に帰って来て……御子さん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そらよッ!」

 

現在俺は迷宮区にいる。あ?草原でレベリングをしていたんじゃなかったのかって?……俺は重度の方向音痴なんだ、勘弁してくれ。まぁ、そんな事はどうでも良いだろ?大事なのは今だ(キリッ)。

 

てな訳で現在レベル9に成った。それにやはり迷宮区とあって敵も中々に経験値やらアイテムやらを落としてくれる。武器も落とすは落とすのだが剣やナイフ、ダガーしか落としてくれん。槍を置いていけ!槍を!

 

そんな事を心の中で思いながら敵を倒して行くと入って来た入り口に辿り着いた。良かったぜ。このまま帰れないのかと思ったんだが、案外上手く行くもんだな!

 

「……夜か」

 

そして気付けば迷宮区の外は夜だった。まぁ、夕方からこの迷宮区でレベリングしていたからな。仕方あるまい。

 

取り敢えず、近くの街で宿をとって休もうと思う。この世界の通貨であるコルも貯まったし。不自由はないだろう。

 

さて、いつになったら辿り着けるんだろうなぁ?

 

 

 

 

 

 

辿り着きません。現在モンスターと戦闘中です。

 

「おっと!」

 

目の前の醜悪な植物、『リトルネペント』の蔦の攻撃を後ろに飛び退いて避ける。さっきからこいつ殺しまくっているが一向に減る気配が無い。なんか大事そうな『実』を壊したのがいけなかったのだろうか?

 

もう何十体目になるか分からない『リトルネペント』に手持ちの槍を突き刺した所で、使っていた槍がポリゴンとなって砕け散って行った。迷宮区でも使っていたからなぁ、ガタが来ていたんだろう。替えの槍はあと二本あるが目の前には十数体のリトルネペントがおり、そう簡単には武器を取り出させてはくれそうに無い。

 

「どうしたもんかねぇ」

 

リトルネペイントの攻撃を踊るように避けていると黒い人影が一体のリトルネペントをポリゴン化させた。

 

「あんた!早く逃げろ!」

 

その黒い人影はまだ幼さが残る女顔をした中学生位の少年だった。恐らく俺が一方的に襲われていると思って助けに来てくれたのだろう。こんな状況の中で大した精神力だ。自分の身も危ないのに人助けとは。

 

まぁ、武器を取り替える隙を作ってくれたからそんな事はどうでも良いんだけど。

 

「サンキュー、少年」

 

前傾姿勢を取り勢い良く飛び出す。そして手に取った槍でリトルネペントの頭部(?)の部分を走りながら器用に刈り取って行く。普通なら切られただけでは数値上でしかダメージを与えられないようだが、中々どうして現実に忠実に基づいて出来ている。完全な急所を撥ね飛ばす……人形のモンスターで言えば首か。そこを突けば問答無用で殺せる様になっている。つまり、このゲームは技術とそれなりの武器さえあれば一撃で格上、もしくは同等の敵を屠れるって事になる。だから急所を切り取られたあリトルネペイント達は、その一撃だけでポリゴンの欠片と化した。

 

「いやー、助かった。少年が来なければ死んでいたかもな」

 

目の前の少年は唖然とした面持ちで此方を見上げる。……大体165cm位か。俺が185cmだから見上げる形は仕方ねぇか。まぁ、それよりも目の前の少年の気を付けないとな。

 

「おーい。少年ー?」

 

固まっている少年の目の前でてをヒラヒラさせる。すると気が付いたのか普通の状態に戻った。

 

「あ、ああ。どういたしまして。それより今のは?」

「あ?ありゃあ首を撥ねただけだが?」

 

少年の顔がひきつる。……何か変なこと言ったか?

 

「いや、大丈夫だ。そういえば自己紹介がまだだったな。俺はキリト。あんたの名前は?」

 

自己紹介ね。プレイヤーネームを自分の名前からなぞらなくて良かったわ。感付かれたら面倒だからな。

 

「俺はセタンタ。よろしくな、キリト」

 

セタンタ。俺が幼少期に読んだ本の主人公。現在でもその本を読み返す程に憧れ、尊敬している英雄の幼少期の名前。

 

そしてこれが後に『黒の剣士』と呼ばれる少年と、『光の御子』と呼ばれる男の出逢いだった。

 

 

 

 

 




オリ主の容姿はプロトニキです。


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第二槍

ギリギリ本日二話目。


 

 

 

「セタンタ、か。それでセタンタ。あんたはこんな所で何をしていたんだ?クエストでも受けていたのか?」

 

目の前の少年。キリトは自分の口でセタンタと反復し、心に刻むと俺にこの場にいる理由を聞いてきた。理由ねぇ、信じて貰えるか分からねぇが言うか。

 

「何をしていた?何ってそりゃあ……迷子だったんだよ」

「……は?」

 

おおう、そんなふざけてんのかって顔をしてくれるなキリト君よ。此方は割りと真剣なんだからよ。

 

「嘘じゃねぇぞ?実はな、俺は重度の方向音痴でな。草原でレベリングしようと思っていたら此所に来ちまってよ、帰り方も分からないんでここら辺を彷徨いていたところだ」

「……はぁ。あんたってちゃんとしてそうに見えて意外と方向音痴なんだな」

 

取り敢えず信じてくれたみたいだ。やっぱ若いな~少年って。社会の汚い部分を知らない子供はちょっと人を疑わ無さすぎる。まぁ、それが子供の良いところなんだけどな。まだこういう子達は穢れを知るべきではない。

 

「おうとも、所でキリト。俺は宿を探しているんだが、近くに街とかねぇか?勿論礼はするぜ。さっき助けて貰ったやつも含めてな」

「いや、そんな礼とかは別に……そうだな。セタンタ、あんたの腕を見込んで頼みたい事がある」

 

お?食い付いて来たな。さっきまで遠慮していたのに。

 

「おう、何でも言ってみろや」

「何でもって大袈裟な……。実は今あるクエストを受けていてな、さっきのモンスターからドロップするアイテムを集めるクエストなんだ。それで臨時なんだけどパーティーを組んで欲しい。あれだけの強さなら『実』を割っても生存率はソロよりは格段に高いだろうし」

 

ん?『実』だって?

 

「ああ、それくらいなら御安いご用意だぜ。だがキリト、『実』ってのはなんだ?」

 

俺が『実』の事を良く知らない事を知るとキリトは酷く驚いた顔をした。

 

「セタンタ、あんた『実』の事を知らなかったのか?」

「ああ、何分モンスターを狩るのは今日が初めてでな」

「俺、あんたの事をベータテスターだと思っていたよ」

 

前にも話したが俺は事前に『ソードアート・オンライン』をプレイしたと言ったが、あれは正確にはPVPの方の事だ。だからモンスターの事は知らねぇし、街が何処にあるのかも分からない。分かっていても迷う。

 

「リトルネペントには"花付き"と"実付き"、そしてどちらでもないものの三種が存在するんだ。前者の二種は後者の一種よりもステータス高く強い。そして"実付き"には特殊な性質があってな。"実付き"の実を割ると辺りのリトルネペントを其処に集めモンスターハウスと化させるものがあるんだ。……もしかして知らなくて割ったのか?」

 

おっと、あの『実』が付いていたヤツにはそんな性質があったのか。そりゃあ倒しても倒しても出てくる訳だ。いやぁ、ミスったな。

 

「あぁ~そうだな。確かに実を割っちまったな」

 

俺がそう言うとキリトは考え込む様にして顎をさすった。

 

「成る程……じゃあこの辺のリトルネペントはもう狩り尽くしたって訳か」

 

あ~、悪い事しちまったな。おっそうだ、リトルネペントのドロップ品がクエスト達成に必要なら俺が倒してきたヤツの何体かがそのアイテムを落としてるんじゃねぇか?

 

俺はアイテムストレージを開きそれらしいアイテムを見つける。

 

「なぁ、キリト。お前が欲しい奴ってこれか?」

 

キリトを呼び彼にアイテムストレージを覗かせる。

 

「ああ、これだ……って、迷宮区のアイテムまであるじゃないか!?」

「これか?気付いたら迷宮区に辿り着いててな。次いでだからそこでレベリングしてきたんだ。まぁ、ここら辺のヤツらよりかは骨があったな」

「……失礼だがあんた今何レベだ?」

 

レベルか?迷宮区を出るときまではレベル9でさっきのリトルネペントを意図せず乱獲したからそれなりに上がっていると思うが……。

 

俺はステータスを開き現在のレベルを確認する。そしてそこには12の文字が。

 

「12だ」

「……あんたよくそんな無理なレベリングして生き残れたな」

 

キリトから呆られている……俺、何かしたか?

 

「はぁ、まぁ良いや。取り敢えずアイテムは貰っておくよ」

「はいよ、これで良いか?」

 

アイテムストレージの譲渡アイコンを押しアイテムを渡す。アイテムを受け取った事を確認したキリトはよしっと言って此方に視線を写してきた。

 

「さて、クエストを達成するために街へ帰るか。セタンタ、街へ案内するから着いて来てくれ」

「助かるぜ、キリト」

 

それから俺とキリトは次の街、『ホルンカ』へとその足を進めて行った。後から聞いた話だが夜間の草原や迷宮区では経験値が普段よりも増加すると共にモンスターが凶暴化するらしい。……丸1日ずっとモンスターを狩っていたが、凶暴化してたか?

 

 

 

 

 

 

少し歩いた所で『ホルンカ』へ辿り着いた。……案外近かったんだな。キリトは既にクエストを終え、『アニールブレード』を手に帰って来た。

 

「クエスト達成したみたいだな、キリト」

「ああ、手伝ってくれてありがとう。セタンタ」

 

キリトの目的は果たされ、俺の目的も果たされた。もうキリトといる理由は無ぇな。んじゃまぁ、此所でお別れかね。

 

「じゃあ、俺は宿で泊まるからこれでお別れだな」

「あっ、待ってくれ」

「あ?まだなんかあるのか?キリト」

 

俺が宿の中に入ろうとした前に、キリトから声が掛かった。

 

「フレンド登録しないか?セタンタ」

「フレンド?まぁ、良いぜ」

 

カーソルからフレンドの欄を選びキリトにフレンド申請をする。そしてキリトはそれを承認し、これにてフレンド登録が完了した。

 

「あんた、これからどうするんだ?」

 

このソードアート・オンライン上でフレンド第一号のキリトが今後について問うてくる。

 

「今後ねぇ、適当にレベリングしてボス部屋発見を待ちますかねぇ」

「自分では行かないのか?」

「……そういうのは若者がやるべきなのさ」

「あんた今何歳だよ」

「21歳」

「あんたも若者じゃねーかッ!!」

 

そんな茶番を終え、俺達は別れた。今生の別れでは無いが、また会えると信じて。というか、俺にはアイツとはまた直ぐに会うだろうと思っている。

 

「さてと、1日位寝てねぇから疲れたな。どーんと寝るぜぇ!」

 

そう言ってベットへダイブ。三秒で夢落ち。余裕でした。

 

それから数日が経ち、適当なレベリングをしていた俺に、キリトからメールがあった。

 

『ボス部屋が見つかった。攻略に参加して欲しい』

 

とのメールだった。

 

 

 

 

 




次回は明日とは限らない。


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第三槍

やることが多過ぎて少し遅くなりました。これからも遅くなってしまう事が多々あると思うのでご了承下さい。


沢山のUAとお気に入り、ありがとうございます!


 

「今日は、俺の呼びかけに応じてくれてありがとう。俺はディアベル。先日ボス部屋を見付けたパーティーのリーダーだ」

 

青髪の青年が広場の中央で立ち、集まった者達へ向けその声を挙げる。

 

集められた者達の表情は険しい。理由は先程ディアベルが言ったボス部屋という言葉。

 

現在、このソードアート・オンラインでは一週間経った今でも第一層から突破出来ていない現状が続いている。そしてその中で次の階層に続くボス部屋を見付けた。との情報が入ればこの様な雰囲気になるのは必然だと言えるだろう。

 

だが、その中で一つ抜けた雰囲気を醸し出している男が一人。

 

「ふあぁぁ~……あ?」

 

そう、我等が天司御子ことセタンタである。相変わらず彼は顔を隠す為の兜を被っており、外見からは彼がこの状況下であくびなんぞをしているなど皆目検討がつかない訳である。そして彼の兜は、彼がこのゲームに閉じ込められて以来に買った兜とは別の兜を着けていた。猛牛の様な双角が付いている少し目立つ兜。

 

『不貞隠しの兜』。それが彼の着けている兜の名前である。名前からして彼が不貞行為を働いたと思わせる装備だが、断じて違う事を此所に言及しておく。

 

 

…………………………

 

 

何か失礼な事を思われた気がするが気にしないでおこう。さて、俺だ。現在ボス部屋を攻略するための集まりだとかでこの広場に集まっている。そして俺を此所に呼んだ張本人、キリトが見当たらない。あいつ俺を呼んどいて居ないとか何やってんだ。

 

と、そんな事を思いながら目の前の人だかりを眺めているとサボテン頭の男がディアベルという男に何かを言い始めた。………面倒くせぇ、寝るか。

 

サボテン男のやけに耳障りに感じる声をBGMに俺は壁を背に瞼を閉じた。

 

「……んあ?」

 

辺りがやけに騒がしくなった所で俺は眼を覚ました。どうやらサボテン男の云々は終わったらしい。周りを見てみるとそこらかしこで六人でペアを作っている。何をするのか話を聞いていなかった俺は近くのプレイヤーに事情を聞いてみた。

 

「なぁ、あんた」

「な、なんだ?俺に何か用か?」

 

俺に声を掛けられた男は俺の姿にビクビクしながらもちゃんと応答した。

 

「今、何をしてるんだ?」

「へ?あ、ああ。六人構成の攻略のペアを作ってるんだ。悪いな、もうこのペアは六人だからあんたは入れられないんだ」

 

露骨に俺をペアに入れられないとアピールされ「そうか」と切り返しその場を後にする。元々声を掛けただけの男だったからペアになるつもりなんぞ無かったし、いても足を引っ張るだけだったから何も思う所はない。そう思い辺りを見回す。すると先程まで居なかったキリトの姿が、その隣にはローブを目元まで深く被った少女が。端から見ればキリトが少女にナンパしてる様にしか見えないが今はペアを作る時間。そしてペアを作ったら早速ボス部屋に攻略しに行くみたいなのでキリトがナンパをしている訳では無いだろう。

 

なので、早速キリトに声を掛ける。

 

「キリト」

 

キリトと少女は一瞬俺を見てギョっとしたがキリトは直ぐ俺だと分かって平常に戻る。

 

「なんだ、セタンタか。何か用か?」

「いや、キリトがナンパをしてるのかと思ってな」

「ナンパって……ペアを組んでいただけだぞ。そういうあんたは何をしてるんだ?」

 

ナンパという言葉にキリトは肩を落としそれを否定する。

 

「俺か?寝てて説明聞いて無かったんでな。事情を聞いて来た所だ」

「寝ていたって、それじゃあペアは居ないのか?」

 

そのキリトの問いに肩を竦める事で答える。

 

「まぁ、そんな所だ」

「そうか……じゃあさ、ペアを組まないか?」

「俺は良いが、後ろの嬢さんは良いのか?」

 

後ろの少女は俺の問い掛けにビクッと反応しながらも返答してくる。

 

「え、えと。私は大丈夫です。人数が多い方が安全そうですし」

 

育ちが良さそうな子だな。言うなれば箱入り娘みたいな感じか。家の詩乃みたいな感じだな。……詩乃は大丈夫だろうか。ちゃんとご飯は食べてるだろうか?……止めよう、今は攻略だ。この事を考えている場合じゃねぇ。

 

「そうか、なら行こうぜ。他の奴らはもう行ってる様だからな」

 

俺達がこうしている間に周りの組んだペアは迷宮区のボス部屋へと既に向かっていた。そして俺は少女に自己紹介をしてなかった事を思い出し、少女に向き直る。

 

「遅れたが、俺の名はセタンタだ。よろしくな、嬢さん」

「私はアスナです。これからよろしくお願いします。セタンタさん」

 

他と比べて三人という少ないパーティの俺らは、先に進んで行った人達の後を追い、ゆっくりながらも、そこから歩いて行った。

 

 

…………………………

 

 

迷宮区。次の階層へと進む為の謂わば試練の様なもの。そしてその迷宮区のボス部屋の巨大な扉の前に、約一名を除いた総勢33名の男女が険しい面持ちで佇んでいた。

 

その集団の中で戦闘に立つ男、ディアベルが振り返る。

 

「俺から言える事はこれだけだ。勝とうぜ

 

一言、それだけで皆の士気が高まる。

 

「行くぞ!」

 

重々しい扉が開く音と共に多くの足音が部屋の中に反響する。扉を越えた先には、暗い空間が。

 

「暗いな……」

 

誰かがそう呟き少し進んだ所で、それはいた。

 

「止まれ!前に何か居るぞ!」

 

プレイヤー達は直ぐに自らの得物を構え、前方を凝視する。そして其処には、気味の悪い赤く輝く二つの光源が。

 

突如、何の前触れもなくボス部屋に設置された松明とその他の灯りが光を発した。そしてその光は、赤く輝く二つの光源の正体を照らし出した。

 

通常の人間の二倍以上はあるであろう身長。肥えた腹部に丸太のように太い筋肉の手足、近付く者は容易に叩き飛ばされるであろう尻尾。そして血に塗れたかの様な赤い肌。その右手には無骨な斧、そして左手には人一人を容易に覆うが如く大きな円盾が握られていた。そしてその周りには人間と同じくらいの大きさのコボルトが六匹。

 

第一階層フロアボス、『イルファング・ザ・コボルドロード』とその取り巻き、『ルインコボルド・センチネル』がその姿を現した。

 

「グオオオオオォォォォ!!!」

 

コボルトロードの咆哮を合図とし、センチネルとロードが突進してくる。

 

「勝つぞッ!!!」

 

その言葉と共に戦いの火蓋は切って落とされた。

 

 

…………………………

 

 

ボス部屋の扉を前にして、俺は周りの険しい顔をしているプレイヤーとは対照的に、兜の下で口元が吊り上がるのを抑えられないでいた。

 

解っている。これは普通の感情ではない事を。知っている。この心の底から沸き上がる今にも爆発しそうな感情の正体を。

 

闘争心。それがこの感情の正体。今までの話にならなかった相手よりも強い相手と戦える悦び。現実世界では両手で数える程しか表に出さなかった俺の闇の部分。

 

戦闘狂、バトルジャンキー。呼び方は色々ある。だが、俺はその中でも程度が酷い狂戦士(バーサーカー)だと言われる程だ。実際、茅場晶彦にもその様な事を言われた。

 

槍を握る力が強くなる。ディアベルの声が聞こえ、扉が開く。嗚呼、漸くか。待ち侘びたこの瞬間。少しは、楽しませてくれよ?

 

表には出せないこの感情。今だけは、その(たが)を外す事にした。

 

 

 

 




主人公はバーサーカーだった、まる。戦闘は次回です。更新をお待ちくだされ。


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第四槍

テストが終わったので投稿。


 

 

「ぜあぁぁぁ!!」

 

剣を持った少年が目の前の怪物にその剣を振るう。程無くして切り裂かれた怪物の腹からは、通常は出る筈の赤い血は出ず、代わりに赤いポリゴンのエフェクトが出るばかり。斬りつけられた怪物は憤怒の雄叫びを挙げ、その手に持った石槌を振り上げ、自らを傷付けた少年に振り下ろす。

 

「スイッチ!」

 

少年は振り下ろされた石槌を後ろに後退することによって避ける。必然的に振り下ろされた斧は少年には当たらず地面に叩き付けられる。その反動で怪物の動きは少しの間止まる。

 

「はあぁぁぁ!」

 

間髪入れずにレイピアを持った少女が動きを止めた怪物を切り刻む。

 

そして俺はその光景を後方から見つめていた。

 

(あ、次は俺か)

 

と、間抜けた思考をしながら。

 

少女、アスナがセンチネルの体力を削って行くのを見ながら俺はスイッチの言葉を待っていた。あの集団を追いかけている最中、キリトにレイドバトルという集団でボスを倒す方法を聞いていた。だからスイッチの意味は知っているし、攻略の進行に差し支えは無い……はず。

 

「スイッチ!」

 

アスナの合図で弾丸の様に飛び出す。そしてそれと同時にセンチネルが待ち構えていたように手に持った石槌を俺に振り下ろす。……俺だけ難易度高くね?

 

手に持った槍でセンチネルの武器を持った方の手首を斬り飛ばし、間髪入れずにその喉仏に槍を突き立てる。槍の鋒は硬い兜の装甲を突き破り、喉仏を貫く。急所を潰されたセンチネルは少しの間硬直し、やがてポリゴンとなって散って行った。

 

「グオオオオオォォォォ!!!」

 

そしてまた新しいセンチネルが湧く。ロードの取り巻きのセンチネルは無限湧きらしく、ボス担当班にセンチネルが寄り付かない様に足止めが他の班の役割だ。

 

「キリト、スイッチ」

「もうあんただけで良いんじゃないか?」

「さっきまではそうするつもりだったぜ。だが萎えたからお前らに任せようと思ってな」

 

我ながらめちゃくちゃな理由だな。だがまぁ萎えたのは本当だしキリト達の良い経験になるだろうよ。

 

「萎えたって、これ一応デスゲームなんだぞ?」

「デスゲームだろうがなんだろうが現実と変わりねぇだろ。弱ければ死ぬ。現実世界でも同じだぜ」

 

俺の言葉にキリトは難しい顔をする。そして直ぐに後ろからアスナの声が聞こえた。

 

「ちょっと!!キリト君にセタンタさん!前から来てます!」

 

そういえばもうセンチネル湧いてるんだった。その事を思い出し、俺とキリトが前を向いた時にはもうセンチネルはその得物を振り上げ、此方を潰さんとその得物を振り下ろした。

 

(……やはり、他の奴と比べて俺に対しての攻撃が数段速い)

 

俺は振り下ろされた石槌を身を捻ることによってそれを避けると槍を突き出し、槍は吸い込まれる様に兜の隙間に入り込みセンチネルの脳天を貫いた。そしてセンチネルはいつもの様にポリゴンとなって散っていった。

 

「……なぁ、セタンタ」

「なんだ?キリト」

 

不意にキリトが俺に話し掛けて来た。

 

「あんたの様な奴が居るって解って少し安心したよ。ありがとう」

「あ?お前何言って……」

 

「皆下がれ!」

 

言葉を繋ごうとした瞬間、ディアベルの声が俺の耳に響き、繋ごうとした言葉を遮った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「デスゲームだろうがなんだろうが現実と変わりねぇだろ。弱ければ死ぬ。現実世界でも同じだぜ」

 

現実と同じ。その言葉が妙に反芻する。そして不思議と納得した。目の前の周りと浮世離れした風貌の男、セタンタが言ったこの言葉。何故納得したか、それはセタンタが纏うカリスマ的雰囲気だ。こいつが言うならそうなんだ。そう思わせる程の、本能的な納得。そしてあたかも経験してきたかの様な言葉の重み。

 

納得するのと同時に、安心することも出来た。自分が得体の知れない絶望(デスゲーム)に晒される中、豪胆にそれを受け入れ突き進む。そんな事ができる強い奴なんだと。

 

強くなりたい。目の前の男の様に。そんな憧れが、セタンタに言われるまで持っていた焦りの心を塗り潰し、心の余裕を生んだ。

 

「……なぁ、セタンタ」

「なんだ?キリト」

 

セタンタが振り返る。表情はその兜の下に隠れていて解らない。

 

「あんたの様な奴が居るって解って少し安心したよ。ありがとう」

 

自己完結、一方的な感謝。だが、セタンタのお陰で人に感謝出来るほどの、心の余裕が出来た事は確かだった。

 

「あ?お前何言って……」

 

兜越しでも解る明確な戸惑い。そしてセタンタが言葉を繋ごうとした直後、

 

「皆下がれ!」

 

波乱の幕開けを告げる言葉が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

ディアベルの声が響きロードを相手しているディアベルの班の方を見る。

 

ディアベルの班のパーティーはディアベルの合図で後ろに後退する。だが、後退していないどころか突撃している男が一人いた。ディアベルである。

 

「なにやってんだ。あいつ」

 

一人ディアベルが自殺行為を繰り広げているのを疑問に思いながら俺は思った事を口にする。

 

「ラストアタック狙いか。だがアレじゃあ不味いな」

「何が不味いんだ?確かに自殺行為だが」

「セタンタ、ロードの体力バーを見てみろ」

 

キリトに促され見てみるとボスの体力は黄色の色に変色しておりあと少し攻撃すれば倒せるであろう体力量まで減っていた。

 

「ロードは体力がある程度まで下がると攻撃パターンを変えるんだ。あの斧から太刀に」

 

ほぉ~、となると従来のロードの動きに慣れて油断してラストアタックを狙いにトドメを刺そうとするディアベルはあのままだとパターン変更というカウンターを喰らって死ぬ訳か。

 

「………」

 

今このままディアベルを行かせてこの攻略のリーダー的存在を失ったらこの集団の大部分の統率が確実に乱れる。ともすればディアベルだけでなく犠牲者も一人や二人連鎖的に増える。

 

恐らくそれに気付いているのは俺とキリトだけ。つまり今ディアベルを止められるのは此所にいる二人だけだって事になる。

 

「……はぁ~」

 

策士策に溺れる。もし死ぬのがディアベル一人なら、俺は無視して成り行きを見守るだろう。だが、奴が死んで他の奴が死ぬような事があればとても目覚めが悪い。それに・・・そんな事をしたら詩乃に怒られそうだ。

 

「キリト、少しの間二人でセンチネルを頼むぞ」

「……分かった。早く戻って来てくれよ」

 

飛び出す。ディアベルとの距離はそれほど離れていない。直ぐに追い付く。

 

手を伸ばせば首元を掴める距離まで来たところでロードが動き始める。

 

持っていた斧と盾を捨て、左手を引き腰に刺さっている得物に当て、右手をその柄に添える。所謂、居合いの構えだった。その動きは今にも刀の鍔を斬り、ディアベルの胴体を泣き別れさせようとしていた。

 

瞬時に俺はディアベルの首元を掴み、後ろに投げる。何かディアベルが言っている様だが気にしている暇はない。

 

ロードの太刀からその刃が姿を現し、高速で俺の右横腹に向かってくる。俺は槍を縦にし、柄で刀を迎え受けた。そして柄が刀に当たった瞬間、槍が折れた。

 

「チィ!」

 

俺は直ぐに身を翻し、ギリギリで避ける。後ろに宙返りしながら後退し、ロードの間合いから外れる。

 

俺が間合いから外れた直後、ロードが咆哮を挙げる。すると今まで分散して戦っていた六体のセンチネルがロードの元に集まり始めた。

 

「き、君は……」

「喋っている暇があったらさっさと体制を立て直して撤退しろ。後は俺がやる」

 

ディアベルが何か言おうとしたがそれを遮って撤退を指示する。当初の作戦が破綻した今、大人数で無理に戦えば犠牲者を出しかねない。それならば気兼ねなくやれるソロでやった方が幾分かは楽だ。

 

「ふぅ~……」

 

一つ深呼吸をし、ウィンドウから槍を取り出す。先程の槍とは耐久が高い代物でこれならば野太刀を受け止められるだろう。

 

「セタンタ!」

 

キリトの声がし、視線だけ後ろに向ける。

 

「キリトとアスナか。撤退の指示は聞かなかったのか?」

「俺らも戦う。あんたは俺らのパーティー、仲間だ。仲間が戦っているのに俺らだけ逃げる訳にはいかない」

「セタンタさん。たかが短い間の付き合い、そう思うかも知れませんが、その間でも助けられたこともありました。ですから、少しでも助けになりたいんです」

「………」

 

本っ当に、コイツらお人好しだな。意味がわからねぇ。だがまぁ、悪い気はしねぇ。

 

「なら、足引っ張るんじゃねぇぞ?」

 

兜の下で、ニヒルに笑う。

 

 

 

別に、アレを倒してしまっても構わんのだろう?

 

 

 

 

 




さて、次はいつになるんでせうか。


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第五槍

連日投稿(珍しい)


 

「十秒以内に取り巻きを潰すぞ!勝負は電撃戦、速攻でカタを着ける!」

 

三人同時に飛び出し、ロードのもとへ向かう。だが、それを取り巻きのセンチネルが許す筈もなく足止めを行う。

 

「ギィィ!」

 

初めて耳にしたセンチネルの声。だが、そんな事知ったこっちゃない。

 

(うる)せぇ!!」

 

すれ違い様に手足全てを飛ばし次へ向かう。そして二匹目、また一匹と潰していく。センチネルが湧く気配は無い。恐らくロードがパターン変更したと同時に無限湧きしなくなったのだろう。

 

好機だ。一気に決着(ケリ)を着けるッ!

 

二体のセンチネルが同時に向かってくる。横並びのそれは俺に殺してくれと言っているようにしか思えない。

 

「そらよッ!」

 

槍を思い切り横薙ぎにし、センチネル達の首を一斉に飛ばす。センチネルの頭には首の部分まで兜が覆われていたが、硬度で勝つ此方に斬れない道理はない。後ろではキリトとアスナが一体のセンチネルを相手しているので残りはロードだけだ。

 

一気に駆け抜ける。ロードの間合いに入った所でロードが野太刀を俺を狙い横薙ぎに払う。だが、それは俺が前に高く飛ぶ事によって避け、飛んだままロードへと接近する。

 

「御対面だぜ、ロードさんよぉ」

 

此方の間合いに入った所で槍をつがえロードの眉間に狙いを定める。そして思い切りそれを突き出す。槍の矛先がロードの眉間を捉える。だが、後少しで当たるという所でロードは顔を僅かに反らし眉間から左目へと槍の当たりをずらした。当然、槍の矛先は致命傷となる眉間を外れ、比較的傷が軽い左目に突き刺さり、ロードは呻き声を挙げながら暴れる。

 

「……チッ」

 

即座にロードの胸部を蹴り後ろに後退する。予想はしていた。だが此処までとは思って無かった。敵が俺に対してだけAIレベルが跳ね上がる。そんな俺専用の特殊なハンデ、縛りが設定されているなんて。

 

「どんだけ俺に鬼畜プレイをさせたいんだ。茅場」

 

これMust Dieモードじゃねぇんだぞ。と、内心愚痴りながら槍を構え直し、ロードのHPを確認する。流石にロードも無傷とはいかずそれなりにダメージを負った様だ。黄色だったHPは赤色に変色しており、ロードは左目を失った。部位破壊はちゃんと効果あるみたいだな。

 

暫く経って(とは言え、2秒3秒の間だが)気を取り直したロードは怒りを顕にし、怒れるまま俺に突進してくる。野太刀を上段に構えている、恐らく一文字に一刀両断する気だろう。一瞬、後方を確認する。来るであろうものを確認した俺はロードの斬撃を待ち構えた。

 

ロードが俺に向かって野太刀を振り下ろす。ロードが放ったそれには光が篭っており、それがソードスキルであることが容易に解かった。

 

槍を横にし、柄で受け止める体制を取る。馬鹿正直な選択だがこれで良い。

 

あの斬撃は強そうだ。当たれば即死だろう。一つ力の掛け方を間違えたら、死ぬだろう。だが、そんなもの……

 

「翁と比べたら、塵芥だぜ」

 

俺は既に構えていた槍の柄で振り下ろされた野太刀を受け止める。身体が軋むが無視をする。そして少しの間、ロードの動きを止める。その少しの間があれば、終わる。

 

「「はあぁぁぁ!!」」

 

俺の後ろから前傾姿勢で飛び出し、剣を淡い光に染めたキリトとアスナがロードのがら空きの懐に潜り込む。そして一気呵成にその剣撃を繰り出す。ロードHPが削られる。だが、後少しの所で減りは止まり、足りない。

 

「ぜあぁぁぁ!!」

 

トドメと言わんばかりにキリトがソードスキルをダメ押しで突き刺す。HPはそれを最後に0となり、ロードはその身体をポリゴンへと変えた。

 

Congratulations!! その文字が大々的に表示され、第一層が攻略された事を示していた。

 

「「「うおおぉぉぉ!!」」」

 

後ろで事の成り行きを見守っていたプレイヤー達が大歓声を挙げ、喜びを分かち合った。

 

「……ふぅ」

 

犠牲者は幸いな事にゼロ。間一髪な所があったがノーカンだろう。そして決定打を最後に打ったキリトとアスナは、その場にへたり込んでいた。

 

「おいおい、もうへばったのか?」

「しょうがないだろ、こういうの初めてだったんだ。……あんたは凄いよな、あれだけやってまだ余裕そうだ」

「要は慣れだぜ、少年。経験を積むこった」

 

キリトにちょっと先人の教えみたいな事を言ってまた別にへたり込んでいる少女に話し掛ける。

 

「お疲れさん」

「あっ、セタンタさん。お疲れ様は此方ですよ、セタンタさんが一番活躍したんですから」

「おー、そいつはありがてぇ言葉だ」

 

アスナと少し雑談した所で次の階層の扉が開いた。それを確認した俺は扉の方へと歩き出す。

 

「さて、行きますかね。無理だけはすんじゃねぇぞ、お前ら」

 

ヒラヒラと手を振りながら呑気に歩いていく。

 

「セタンタ!また会えるか?」

 

俺はキリトの問いに歩みを止めず手を挙げるだけで答える。

 

「待ってくれ!」

 

後ろからキリト達とはまた別の声がしたので振り返る。そしてそこには、ディアベルがいた。

 

「助けてくれてありがとう。お陰で、今こうして生きていることが出来ている」

 

ディアベルは自らの行いを恥じるように、俺へ感謝の言葉を述べた。俺はそれに対し、頭を描きながらそれに応えた。

 

「……生きていてこその今だ。自分の欲で死んだら元も子もない。もっと慎重に、強く生きるこったぁな」

 

俺は踵を返し次の階層の階段を上がっていく。さて、次は何が待っているんだろうな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第一層の戦いから約二年。それから順調に俺を含めた攻略組は階層を進めて行き、とうとう七十四層目まで進むことが出来た。とは言え、俺が攻略に関わったのは六十層までだが。あ?何をしていたのかって?所謂ユニークスキルの取得をしていたっていうわけだ。取得には数ヶ月掛かったがな。まぁそこんとこの話はまたいつか話そう。とは言え、他にも色々あった。アスナとキリトが結婚したり、実質キバオウが率いていたアインクラッド解放軍が壊滅したり、バグの狭間に落ちてストレアという人工知能に付きまとわれ始めたり、ギルメンが二人だけのなんちゃってギルドを設立したりと本当に色々あった。そして今、俺はユニークスキルを修得し、その他新しい槍、剣など持ち、あるクエストを受ける為、移動していた。……後ろに鬱陶しいAIを連れて。

 

「セタンタくん、まだぁ~?」

「うっせぇぞ。後少しで着くから大人しく待っていやがれ」

 

てめぇが教えたクエストだろ。と、ぼやきながら歩を進める。

 

俺が今から受けるクエスト、名前を『ヘクトール7つの試練』と呼ばれるものだ。このクエストの報酬はとある盾で、エクストラアイテムと呼ばれる特別なものの中で伝説級(レジェンダリー)と呼ばれる物らしい(ストレア曰く)。盾は既に持っているのだが、一つだけだと心許ない。なのでこのクエストを受けに来た訳だ。

 

因みにまだ未発見のクエストらしいので情報をアルゴに売れば金になりそうだ。あ、後兜は外してある。

 

と、目の前に頭上にアイコンを付けた中年の槍を持ったおっさんが立っていた。

 

「おい、あんた」

 

クエストには話し掛けてからフラグを建てる物と、あちら側から持ち掛けて来る物、そして条件を満たして話し掛けやっと受けられるものがある。このクエストは後者で、レベルが100を越していないと門前払いを食らうらしい。俺はユニークスキルを修得する過程で100レベルを越していたので受けられる。

 

俺が話し掛けると、中年の男……おっさんは一瞬、此方を値踏みするような目をしてから、口を開いた。

 

「なんだい?お兄さん。オジサンに何か用かい?」

「あんたの試練を受けに来た」

 

俺がその言葉を言うと、おっさんは目の色を変え、好戦的な笑みを浮かべた。

 

「へぇ、お兄さんアレが欲しいのかい?良いぜ、まず自己紹介しようか。おじさんはヘクトール。しがない槍使いのおじさんさ」

 

しがないってオメェ。トロイヤ戦争における大英雄じゃねぇか!

 

ヘクトールはトロイヤ戦争においてトロイア陣営最強の戦士であり、将軍であり、政治家でもある、あらゆる面に秀でた文武両道の秀才。相手を油断させる話術もあってか特に防衛戦に特化しており、ありとあらゆる手練手管を駆使した籠城戦においては最強を誇る。

 

そして中世ヨーロッパにおいてジャック・ド・ロンギオンは九偉人の一人に挙げている。ジェームズ・レッドフィールドは「国に殉じた男、かけがえのない日常生活を守るため死んでいった英雄」と述べられている。

 

実際の所、俺はヘクトールを尊敬している。打ち負かした敵国の妻子の処遇を案じたり、トロイヤ戦争の原因になった実の弟を叱りはするが見放しはしないという優しさを持っている。

 

そして今、ゲームの中で造られた存在とはいえ、その英雄が目の前にいる。俺のテンションは内心ハイになっていた。

 

「俺はセタンタ。それで後ろの奴がストレアだ」

「はーい、ストレアです。よろしくヘクトールさん♪」

「よろしくお嬢さん。いやー、こんな可愛い子に挨拶して貰えるなんておじさんも捨てたもんじゃないね」

「やだー!ヘクトールさん、お上手!」

 

ハハハハハ!、フフフフフ!そんな茶番を繰り広げる二人。お前らAIとNPCだろ、何でそんな親しげなんだよ。

 

「それで、ヘクトール。あんたの試練はなんだ?」

 

茶番を打ち切らせる為に本題に入る。ヘクトールは忘れてた忘れてたと、話題を切り替えてくれた。

 

「そうだなぁ、まず断っておくけど試練は7つ受けてもらうぜ。まぁ、最初と最後だけしかちゃんとしてないからそんな身構えなくて良いぜ」

 

ヘクトールはそう言うと森の奥に歩き出した。

 

「じゃあおじさんに着いてきてくれるかな、試練を行う場所が奥にあるんだ」

 

俺とストレアは言われるがままに着いていった。そして森を抜けた先にあったのは、大きく開けた広場と、とても大きな投石機だった。

 

「さて、まず最初の試練。あの投石機から放たれる石を全て防ぐ事だ」

 

最初の試練、それは。あのぶっ飛んだ投石機からからのプレゼントを防ぐ事だった。

 

「「でけぇ」」

 

だがその事よりも、俺達は投石機のデカさに驚いていた。

 

 

 

 




ヘクトールおじさんしゅき。この小説のストレアは情報に関してある程度権限を持っているのでそこんところよろしくお願いします。


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第六槍

ハイ、投稿でっせ。


 

 

 

「ハイハイ、驚いているとこ悪いけど早速始めちゃうぜ」

 

ヘクトールの声で俺は今から始まる試練に意識向ける。

 

「すまない。始めてくれ」

「じゃあ彼処に立って待っててくれる?オジサン、アレ動かさないといけないからな」

 

ヘクトールは俺に広場の中心で待つように指示すると投石機の方へと歩いていった。俺はその間にコンソールから朱い槍を取り出す。そして少し間を置いてヘクトールの声が聞こえた。

 

「準備出来たかなー?」

「ああ。その前に確認だが、防ぐならどんな方法でも良いのか?」

「良いよー、防いで生きていれば試練クリアだからなぁ」

 

ガコンッ! と投石機が大岩を此方に飛ばす。その大きさはこの広い広場の半分ほど、大体半径9メートル程か。ヘクトールは生きていれば試練クリアと言った。常人ならこの時点で諦め、逃げるかその場で立ち尽くし、大岩に潰されていただろう。だが、以前行ったユニークスキル修得クエストに比べれば、足下にも及ばない。

 

「さて、早速試しますかね」

 

俺は集中し、ユニークスキルの一部を発動する。すると俺の左目の瞳の色が変化し、金色に輝き出した。そして俺に向かって落ちてくる大岩を見つめた。すると大岩には赤い点が一つ現れていた。

 

大岩が加速して落ちてくる。俺は其処に棒立ちしながら自然体で大岩を見据える。そして大岩が俺に直撃する直前、槍をその赤い点に寸分狂わず突き立てる。突き立てられた大岩は一瞬浮き上がり、突き立てられた点から罅が入り爆発するように砕け散った。

 

俺は突き出していた槍を器用に回し肩に担ぐ。そして既に此方に歩いてい来ているヘクトールに向けて挑戦的な笑みを浮かべながら、

 

「どうだ?一つ目の試練合格かい?」

「いやー、おじさん吃驚だぜ。一突だけであの大岩が粉々になるなんてなぁ」

「キャー!セタンタくん格好良い!」

 

一人おちょくって来る奴が居るが無視しよう。

 

此所で俺が使ったスキルとユニークスキルについて語ろう。俺のユニークスキルの名は『光の御子』、そして先程使ったスキルは『バロールの魔眼』だ。

 

『光の御子』で気付くと思うがこれはケルト神話における最強の英雄、クー・フーリンの力を伝承通りに使えるというユニークスキルだ。このスキルの修得方法は大体察しが付くだろう。そして『バロールの魔眼』、これはクー・フーリンが怒りによってクー・フーリンの父、太陽神ルーの祖父、バロールの魔眼を額に開眼し、怪物のごとき姿になったのをモチーフにしている。

 

そしてその効果だ。バロールの魔眼は伝承では見ただけで神を殺せてしまう程強力だが、このSAOではクリティカルを出すための点を映す能力になる。前述通りその点を突けば普段の倍のダメージを与えられる。因みに俺の急所を貫いたり首を斬り飛ばしたりしてHP関係無しに殺していたのは『心意システム』というモノらしく、それはまた別の時に話そう。

 

閑話休題。バロールの魔眼は前述したクリティカルを出すための点とあったがそれは対モンスター、或いはプレイヤーのみで、今降って来た大岩や防具、武器等は当てれば耐久度関係無しに一撃で壊れる。そしてこのスキル、レベルを上げていけば見るだけで相手を即死させる事が出来る様になるらしい。だが、やはりと言うべきかデメリットが存在し、相手を即死させる為には五分間目を離さずに相手を凝視していないといけないとか、即死無効を持っている相手には効かない、左目を潰されたら暫く使えなくなる等デメリットがある。

 

さて、色々『光の御子』について解説したが詳しい話はまた別の機会に、今はヘクトールの試練だ。

 

「次はどんな試練だ?」

 

俺の問いにヘクトールは頬を掻きながら言った。

 

「いやー、お兄さんには少し拍子抜けかも知れないけど、次はおじさんの攻撃を五回防いで貰うのが第二から第六までの試練さ」

 

第二から第六まで?それはつまり、たった五回のヘクトールの攻撃を防げば一気に最後までいけると?

 

「了解だ。んじゃあ早速始めようぜ」

「おっけい、じゃあ……」

 

拍子抜け、案外楽。そう思った。だが、俺はあそこで少しでも油断をしてはいけなかった。

 

「始めようか」

「ッ!?」

 

頬に一筋の傷が走る。ヘクトールの動きは一瞬でがらりと変わり、あの少し気だるそうなおっさんから歴戦の戦士。トロイヤ最強の戦士、兜輝くヘクトールへとその雰囲気を変えた。

 

油断してしたッッ、瞬時に顔を反らさなければ死んでいた。言い訳をするつもりはない。今あるのはただ相手への称賛だ。流石ヘクトールの名を冠するだけの事はある。巧みな話術で自分のペースに持っていきやがった。

 

二槍目。間髪いれずに放たれたそれは心臓に向かう。だが、それはやはりと言うべきかセタンタの槍に逸らされる。

 

三槍目。槍の矛先は首へ向かう。次は三叉の間に槍を挟まれ抑え込められる。

 

連続して四、五槍目。連続してセタンタの両肩に放たれたそれは同時に突き出されたかのような錯覚を見せる。これも突き自体を合わせられ、相殺される。

 

セタンタが飛び退く。その頬には一筋の傷と共に冷や汗を流していた。

 

ヘクトールは槍を肩に担ぐとまたいつも通りのおっさんに戻った。

 

「ふぅ~、やっぱ最初で仕留めないと駄目かぁ」

「吃驚したぜ。まさかあんな変わるなんてな」

「そりゃね、おじさんだってやる時はやるさ。それにお兄さんが吃驚したのは自分のせいだろう?」

 

ぐうの音も出ない程の正論だった。確かに油断なんぞせず、気を張っていればヘクトールの初撃を無傷で防げた。だが、今はこんな悔いている場合ではない。それこそヘクトールの思う壺だ。

 

「そうだな。それで、最後の試練はなんだ?」

 

次の試練を急かす。長引かせればロクな事はない、そう思ったからだ。

 

「ハイハイ、せっかちだねぇ。お兄さんは」

 

そう言ったヘクトールは大きく後ろに後退し、槍を顔の横に置き、腕を引く。所謂、槍投げの構えだった。

 

「最後に、おじさんの槍投げを防げたら合格、晴れてクエストクリアだ。さぁ、気張ってくれよ?」

 

その言葉を気に、ヘクトールの雰囲気が変わった。そしてそれを唱え始める。

 

「標的確認、方位角固定……『 不毀の極槍 (ドゥリンダナ)』! 吹き飛びなッ!」

 

おおよそ人が出せるものではない速さ、破壊力を秘めた槍の投擲。恐らくどこでも当たれば死ぬだろう。数値分のダメージが俺の残りHPを越えて。

 

トロイヤ最強の戦士が投げた渾身の一槍、ならば此方もそれに答えなければいけない。

 

俺は手に持った朱槍を構える。左手は刃のギリギリの所に添え、柄を握った右手を引く。朱槍は燃え盛る紅の濁流を纏い、その名の言を待つ。

 

「貫けッ!『━━━━━━』!」

 

槍が放たれる。ヘクトールが放った槍は凄まじい轟音と共に此方に飛んでくる。対して俺が放った槍は紅い稲妻が走るかの如くヘクトールが放った槍に向かっていく。

 

そして程無くして、槍と槍が激突した。拮抗は無かった。

 

俺の隣に槍が突き刺さる。ヘクトールの槍だ。俺の槍は宙に浮いていたが意志を持っているかのように俺の手に戻ってきた。

 

防ぎ切った。これで第七の試練はクリアだ。

 

俺の前にクエストクリアのウィンドウが出てくる。大量の経験値に大量のコル。そして、お目当ての盾と槍が表示されていた。

 

「おめでとう、お兄さん。オジサンは疲れたからもう帰るぜ。その槍は餞別だ、くれてやるよ」

 

ウィンドウから目を離しヘクトールの方を見るが、既にそこにはヘクトールはいなかった。

 

そしてヘクトールから貰った槍と盾を確認する。槍はヘクトールが使っていた『ドゥリンダナ』。剣の柄を伸ばし、槍にした様なこの槍は後に、デュランダルの原典になった槍だ。そして盾、名前を『ロー・アイアス』。トロイヤ戦争においてギリシャ側のアキレウスに次ぐ英雄アイアスの盾。この盾はアイアスとヘクトールが決闘を行った際にヘクトールの投石を防ぎ、果ては槍の投擲まで防ぎ切った金剛不壊の如き盾。

 

因みにロー・アイアスはスキルとしても発動可能で、手を前に掲げ、名前を唱えれば防壁として七枚の透明の花弁が展開され発動者を守ってくれる。実際に装備している時は手を前に掲げることで障壁となる花弁を展開し、所持者を守ってくれる。

 

「お疲れ~、セタンタ」

 

ストレアが軽いノリで近付いて来る。

 

「ああ、待たせたなストレア」

「うんうん、お目当てのものはゲットできたみたいね。じゃあ、お食事にいこー!セタンタの奢りね♪」

 

……まぁ、今回このクエストを教えてくれたのは彼女で方向音痴な俺を所々で助けてくれたりしてくれたのは確かだ。今回位、良いだろう。

 

「良いぜ、好きなだけ奢ってやるよ」

「やった!言質獲ったどー!」

 

今回のクエストで大量のコルをゲットしたんだ。大丈夫だろう。……大丈夫だよな?

 

俺はかなり上機嫌なストレアに手を引かれ街に向かって行った。財布が空になりそうな不安を抱えながら。

 

 

 

 

 




逸話や伝説については自己解釈が含まれているのであしからず。


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第七槍

オクレマシター。


 

 

 

 

とあるレストランにて、俺とストレアはクエストクリアの祝い。もといストレアへの奢りで飯を食っていた。窓際のテーブルに二人で座り俺はコーヒーを啜る。中から見る街の光景は綺麗な街並みが広がり、広場の中央には噴水があるとても風情のあるものだった。朝方にのんびりコーヒーでも飲んでこの光景を眺めていたならば、さぞかし爽やかな朝を迎える事が出来たであろう。テーブルの上にそびえ立つ皿の塔が無ければ。

 

「あっ、店員さん。あとこれとこれもお願いしま~す」

「か、かしこまりましたぁ!」

 

まだ食べるの!? といった風に厨房へと消えていく店員。連れがすまない、迷惑を掛ける。

 

皿を片付けに来た店員が俺に同情の目を向けて来る。やめろ、俺にそんな目を向けるな。まるで俺が惨めじゃないか。

 

俺は一つため息をつき、コーヒーカップをソーサーに置く。そして目の前で幸せそうに食事をしているストレアを見つめる。

 

「ん~、おいしいー♪」

「……はぁ」

「ん?どうしたの?セタンタくん」

 

ため息をついた俺にストレアが不思議そうな顔をして瞳を覗いて来る。

 

「いや、何でもねぇ。続けてくれて構わねぇよ」

 

俺はそれを手で払いのける事でストレアに食事を促す。やめだやめだ。金の事なんか気にするのはやめだ。思えばこいつは娯楽を知らない生まれたてのAI。そんな奴に金の心配をするなんざ男としてだ、腐っちまう。それにあんな顔して食ってたら止められねぇよ。まぁ、この後迷宮区でモンスターを倒しまくればチャラだ。食後の運動になるしな。

 

「ストレア、食い終わったら迷宮区に行くぞ」

「ふぁんふぇ?(なんで?)」

「食いながら喋るんじゃねぇ。まぁ、食後の運動だ」

「んむきゅ…。そっか、ここ七十四層だけどまぁ、大丈夫だよね」

 

そう、この階層は現在最前線である七十四層。解放されたばかりでまだ設備が整っていないと思われたりもするが、そこは流石は商人達。新しい事業に手を出すのが早い。

 

現在、このソードアート・オンラインではゲームを攻略する攻略組と、攻略組に攻略に役立つアイテムを提供したり、非戦闘員の市民達に娯楽を提供する商業組合が存在する。過去、商業組合はアインクラッド解放軍によってその活動を恐喝、活動の妨害等によって抑制されていた。だが、俺とアスナ、キリト達を含めたギルド連合(キリトはソロ)によって摘発され壊滅。必然的にその自由を奪われていた商業組合は活動を活発化させ、以前よりも攻略の装備、アイテムも整い易くなり、攻略の効率も捗る様になった。

 

因みに情報屋のアルゴや、鍛冶屋のリズベットもその組合に入っている。この組合に入るメリットは店の宣伝を組合で行ってくれると共に、定期的に資金を提供してくれるというモノだ。主な資金元は攻略組、または組合が主催した娯楽イベントで得た利益が元手。

 

今食事をしている店も組合が経営している店舗だ。だからメニューも豊富だし、そこら辺のNPCが作る飯よりは上手いモノを食える。

 

「ふぅ~。美味しかった~」

「腹は一杯になったか?」

「うん。いや~こんなに食べたのは初めてだよ」

 

満面の笑み。ストレアとしては、とても満足してくれたみたいだな。

 

「そうか、ならもう行くぞ。店に入ってから二時間は経ってるからな」

 

席を立ち、会計に向かう。そして店員を呼び、金額を提示させて貰う。

 

「お会計、十一万四千五百十四 コルを頂戴します」

「………」

「ありがとうございましたー」

 

無言で金を払い、店を後にする。その後迷宮区にて、

 

「おらぁ!金落とせやおらぁん!」

「セタンタくん!キャラ崩壊してる!キャラ崩壊してるって!」

 

一人金の亡者になった男の声が迷宮区に響き渡ったという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「とう!」

 

ストレアの両手剣がモンスターの胴体を深々と切り裂き、HPを多く削り絶命させる。

 

「せいや!」

 

そしてストレアは後ろに大きく振り返りながら、回転の遠心力を使って後ろにいたモンスターの胴体を斬る。クリティカルが入りHPがごっそりと削られる。レベル差もあってかモンスターは一撃でポリゴンと化した。

 

一方、セタンタの方では。

 

「ふっ……!はぁ!」

 

槍に力を込め、振るう。すると周りにいたモンスター達は一瞬の内に切り裂かれ、ある者は胴体を袈裟斬りに、あるものは四肢を斬り飛ばされた挙げ句、首を飛ばされた者もいた。やがてモンスター達は一斉にポリゴンと化し、辺りは輝く光の破片が舞う少し幻想的なキラキラしたものへと変化した。

 

「うは~、やっぱり反則的だね。それ」

「そうだな。まさか自分が当然だと思っていたことが心意システムというものだったとはな」

 

以前に少し話した俺の心意システム。良い機会だから話させて貰うとするか。

 

俺の心意システム。名前を『現実(リアリティ)』。既にその能力は見せていると思うが説明させて貰う。俺が第一層のボス戦で行ったHP関係無しに一撃で殺したモノ。これが俺の心意システムだ。現実(リアリティ)という名前の通り、ゲームの中でも現実の常識が通用する。例えば、SAOにはHPという概念が存在する。そのHPをゼロしないとモンスターは倒せない(死なない)。だが、現実では首を飛ばせば人間やその他の生物が即死する様に、俺がモンスターの首を飛ばせばHPの有無関係なく倒す(殺す)事が出来る。その他に、SAOには筋力パラメーターが存在する。これはレベルアップする毎に、ポイントを割り振って強化するものだ。最初は当然弱く、うまく体が動かせない。だが、俺が思い通りに体を動かし、モンスターを蹂躙していたのは、現実での俺の身体能力をパラメーターに無意識に反映していたからだ。俺は現実でも槍の武術を修めている。だから基本な身体的スペックは高い。

 

「ストレア、俺以外にも心意システム(コレ)を使える奴はいるのか?」

「ん~、まぁ居るけど誰がとか何人とかはわかんない。私はクエストの事とかの情報の権限を持っててもそこまで調べられる権限は無いからね」

「正確な事は分からない、か」

 

俺以外の奴も気になる所だが、直接出会う以外に知る方法がないなら仕方ない。今は適当に狩りでもしますかね。

 

と、俺がモンスターの姿を見つける為に辺りを見渡していると、ストレアに背中をちょんちょんと指でつつかれる。

 

「なんだ?ストレア」

「ねぇ、セタンタくん。あれってボス部屋の扉じゃない?」

 

ストレアが指差す先に視線を向けると、其処には大きな扉が。第一層の時に見た扉と少し似ており、無骨さが目立つ。そして今回は閉まっているという事はなく、扉は開いていた。中では誰かが戦っているのかソードスキルの光が舞うように輝いている。

 

「行くぞ、ストレア」

「はいは~い。誰か戦ってるみたいだし、ピンチなら助けてあげないとね!」

 

俺達は、ボス部屋へ向け走り出した。

 

 

 

 




心意システムについては、多少の自己解釈が混じっているため、原作の心意システムとは乖離しているかもしれません。


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第八槍

ひっさびさに更新。更新止まってた理由は……察してくれや。モチベ上がらなかったんや……。


 

 

「あぁ、成る程。あいつらは成り上がろうって挑んだ訳か。」

 

無能が雁首を揃えるとは、この事か。

 

ストレアの発見により、俺達がボス部屋に急行した時には、もう事は終わっていた。ボスにトドメを刺すキリト、それを支援するアスナとクライン。終わった直後でキリト達には悪かったが少し、事情を聞かせて貰った。

 

通常、ボス戦にはいくつかのパーティーやギルドが共同して挑む。物資と情報、十全な体勢を持って、死者を出さぬように挑むのが今までのボス戦だった。最前線で戦ってきたキリト達はそれを一番理解している。ならば、クラインのギルド『風林火山』とアスナとキリトの少数で何故戦わなければならなかったのか。

 

それは、功を焦ったギルドの無謀なボス攻略の尻拭いと、そのギルドの救出である。

 

「災難だったな。」

「はは、まぁ死人が出なかっただけマシだな。」

 

当事者、キリトは乾いた笑みを浮かべながらそう答える。ほんと、災難だな。イキリ…げふんげふん。

 

その後、無謀な攻略を行ったギルドは厳重な注意を受け、彼らのホームへと帰っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして一週間後。

 

「おー、凄い人だねー。」

「ああ、そうだな。」

 

俺達は、闘技場(コロッセオ)にいた。

 

とはいえ、まだ中に入った訳ではない。売店や屋台が並んだ闘技場周辺にいる。そして辺りに点々と設置してある広告のウィンドウには大々的にこう宣伝されている。

 

『黒の剣士、キリト VS 血盟騎士団団長、ヒースクリフ!果たして勝つのはどちらか!? SAO最強プレイヤーが今此所で決まる!!

この決闘の後にもイベントを用意しているので乞うご期待!

 

「まさかキリトくんが血盟騎士団のヒースクリフと闘うなんてね。喧嘩でも売ったのかな?」

 

ホント、何やったんだ? キリトのやつ。血盟騎士団団長といえば攻略組の中でもかなりの実力者、『神盾』の異名を持つプレイヤーだ。そんな相手に喧嘩売るなんざ……あっ、(察し)

 

「……アスナ絡みか。」

「え? なになに? 何て言ったの?」

 

ストレアが聞いて来るがそれを無視して歩き出す。向かう場所は観戦席。広告を見た開始時刻と現在時刻が近く試合がもうすぐ始まる。

 

「まってよぉ~、セタンタくん!」

 

セタンタが歩いて行く後をストレアが後に続く。

 

「なぁ、この決闘後のイベントってなんだろうな?」

「さぁ?なにか催し物でもやるんじゃねぇか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

辺りはまだ試合前にも拘らず、テンションが最高潮だ。つくづく思うが、二年前のあの暗い雰囲気からよく此処まで変わったな。まぁ、これの背景にはデスゲームという空間に閉ざされても、めげずに希望を持って戦った戦士達と、物資や娯楽をプレイヤーに提供し続けた労働組合の努力と頑張りがあってこその今なのだが。

 

「おっ! ヒースクリフが出てきたぞ!」

 

俺は隣でポップコーンを食っているストレアを横目に闘技場の中央に目を向ける。

 

御出(おいで)なさったな。ヒースクリフ。」

 

流石は血盟騎士団団長だな。血の様に赤い甲冑に『神盾』の由来となった盾、そしてこの観客達の視線を一斉に浴びても動じない剛胆さ。

 

実の所、俺とヒースクリフは面と向かって話した事が無い。話したとしても攻略時の掛け声や注意喚起のみ。まぁ、一度ちゃんと話してみたいと思ってはいるが彼方が俺と話す気が無いならそれは仕方がない。

 

「黒の剣士、キリトが出てきたぞ!」

 

決闘の主役二人が揃い闘技場は更なる熱狂をみせる。二人が何か喋っているようだが周りが五月蝿くて上手く聞き取れん。……読唇術で読み取るか。

 

 

《すまなかったな、キリト君。こんな事になっているとは……知らなかった。》

 

成る程、本来は穏便に終わらせる筈が何処からか情報が漏れて事が此処まで大きくなってしまったと。血盟騎士団の情報は随分とズボラなんだな。

 

《ギャラは貰いますよ。》

 

ヒースクリフに軽口を叩きニヒルに笑うキリト。その背中にはいつもの愛剣と共にもう一本、煌めく剣が背負われていた。

 

《いや。君は試合後は、我がギルドの団員だ。任務扱いにさせてもらおう。》

 

やはりアスナを血盟騎士団から引き抜く事を賭けての試合か。だが、かなりリスキーな賭けだな。勝てばそれで万々歳だが、負ければアスナを血盟騎士団から引き抜く所かキリトがギルドに縛られソロの時の様に融通が利かなくなってくる。

 

ヒースクリフがコンソールを出し、決闘の申請を行う。承諾のコンソールを押したキリトはゆっくりと剣を抜く。

 

カウントダウンが始まった。

 

「ねぇ、セタンタくん。」

 

ポップコーンを食べる手をいつの間にか止めていたストレアが声を掛けてくる。

 

「なんだ。」

 

それを俺は素っ気ない生返事で返す。

 

「どっちが勝つかな?」

 

面白そうに、頬を弛めながら俺に問うて来た。それを見た俺は同じように頬を弛めると、

 

「そんなん知らねぇよ。」

 

知らぬ、と。これから起こる事柄に、期待を孕んだ声音で言い放った。

 

試合開始のブザーと共にキリトが飛び出す。対して盾を構えたヒースクリフは受けの体勢だ。

 

最初の斬結びはヒースクリフに軍配が上がった。ヒースクリフの堅さにキリトの二刀流の猛攻は弾かれ、盾による反撃を受けてしまう始末。その後反撃とばかりに放ったソードスキルは盾で受け流され、無力化されてしまった。

 

「素晴らしい反応速度だな。」

「そっちこそ、硬すぎるぜ。」

 

今の剣戟に観客達は盛り上がり大きな歓声を挙げる。

 

「硬いね……。どう思う? セタンタくん。」

 

ストレアが俺に聞いてくる。決闘や対人戦。AI等の決められた範囲の行動しか取れない相手としか戦ったことしかないストレアは、そういった手合いにはまだ素人だった。だからこうして俺に聞き、見て、考えることで成長しようとする。

 

「確かにヒースクリフの守りは硬ぇ。だが、キリトの攻撃はまだあれが全力って訳じゃねぇ。これからアガって来るぜ。段々と抑えきれなくなってくるはずだ。」

 

自分でも楽しんでいるのが分かるほど、声を弾ませながら俺は語った。

 

(なぁ、そうだろう? キリト)

 

二つ目の斬結び。段々とキリトの剣を振るうスピードが上がる。それに伴い、ヒースクリフの守りも崩れ始め、ヒースクリフ自らも攻撃を剣で迎え入れたりと大きな動作が増えていった。そしてその隙を突かれ、キリトの剣がヒースクリフの頬を掠める。そしてここぞとばかりにキリトは二刀流のスキルを使い今まで弾かれる事の無かったヒースクリフの盾を弾いた。そしてがら空きになったヒースクリフの頭部にキリトの剣が振り下ろされ、刃がヒースクリフを切り裂く直前、それは起こった。

 

(……なっ!? 速く……!?)

 

それはコンマ数秒の中で起こった確かな速度上昇。尋常ではない反射速度を持った人間でないと認識すら難しい瞬間。キリトが振り下ろす体勢で静止しているのに対し、ヒースクリフの腕だけが、動くというあり得ない光景を生み出していた。

 

そして、今の一瞬を認識してしまったが故に生まれてしまった隙を突かれ、キリトは敗北してしまった。

 

「あれ? 今、キリトくんの剣が当たったと思ったんだけど……気のせいだったのかな?」

 

ストレアが疑問を示す。だが、気のせいと一蹴し結末を見る。

 

今までのヒースクリフの動きは決して、断じて力を隠しているような余裕は見えなかった。それにヒースクリフはステータスを防御と力に特化させていた筈だ。ならば防御を捨て攻撃と速度に特化しているキリトにスピードで勝てる、ましてやコンマ零秒の世界で動けるという速さを有しているとは到底思えない。

 

ならば、その速度を出せる要因とは?

 

「……っ!!」

 

「……? どうしたの? セタンタくん?」

 

いた。 たった一人だけ。俺が後援者(パトロン)として金を投資し、このSAOという世界を創造した男。その男ならばこの世界で文字通り何でも出来る。

 

俺は席を立ち上がり、急いでこの闘技場から出ようとする。だが、腕をストレアに掴まれ、その場から動けなくなる。

 

「なんだ、ストレ……!?」

 

急いでこの場から離れなくてはいけない。そう言おうとしてストレアの方を向くと、俺の腕を掴んで動きを止めていたストレアは眼からハイライトが消え、まるで死んでいるかの様にぼうっとした目でこちらを見つめながら俺の行動を阻害していた。恐らく、ストレアは今自分が何をしているのか認識していないだろう。そしてそれが何を意味するのか。

 

「チッ……!!」

 

闘技場の中央にいる下手人に目を向ける。その下手人はマイクでこう民衆に言い放った。

 

『さて、お集まりの皆さん。本日はこの決闘の為に足を運んで頂き、感謝します。皆さんはこれで満足出来たかと思いますが……。当然これだけでは満足出来ない方もいらっしゃるでしょう。』

 

ヒースクリフの問い掛けに観客達は歓声で答えた。

 

『そうですか。 本来ならばこのイベントはこれで終了となるのですが……。 』

 

自らの剣を引き抜き、此方に鋒を向ける。そしてニヤリと笑うとこう言った。

 

『もう一戦……。其処にいる戦士の方に私と決闘をしてもらいましょう。』

 

一斉に観客の視線が此方に向く。

 

「お、おい。あの兜と鎧、『アルスターサイクル』のセタンタだ。」

 

ざわざわと観客達が騒ぎだし、やがて静かになる。俺の返答を待っているのだろう。

 

此処で逃げれば俺は腰抜けと称され同じギルドの団員のストレアまで侮蔑される。それは俺の人徳が許さない。そしてヒースクリフが言った俺に対して戦士と称した言葉。そして決闘。確かに俺は戦う者だ。真っ向から勝負を仕掛けられては、一人の男がその挑戦を叩き付けてきたからには、その挑戦を受けない訳にはいかない。戦士とは、俺とはそういう存在だ。

 

業腹だが奴の挑戦を受ける他無かった。俺は兜の中で引き吊った笑顔で高らかに宣言した。

 

「……良いだろう。その決闘、俺の力と名誉に賭けて……受けて立つッ!!」

 

俺の宣戦布告に観客達は大きな歓声えを挙げた。もうこれで後戻りは出来ない。

 

『……ふっ。ならば決闘は30分後だ。私も先の激戦で疲労しているのでね。』

 

ヒースクリフは笑う。全ては計画通りと。

 

「……ぅん?? あれ? 私寝て…って。何でこんな盛り上がっているの!?」

 

どうやらストレアはヒースクリフの支配から解放されたようだ。

 

「……いくぞ、ストレア。」

 

「行くって、どこに?」

 

「控え室だ。次の催しは俺とヒースクリフの決闘だ。」

 

「え、ええっ!? いつそんな事決まったの!?」

 

「さっきだ。ほら、いくぞ。時間は30分しか無ぇんだからよ。」

 

俺は控え室へと歩き出し、その後をあわててストレアが追う。

 

 

今に見てろよ茅場晶彦。どんな魂胆か知らんが俺に脅しをかけた事を後悔させてやる。

 

 

 

 




この作品が不定期更新なので、あしからず。


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第九槍

珍しき連日更新。駆け抜けたから文章拙いかもかも。


カツカツと廊下に二つの足音と鎧の擦れる音が響く。俺とストレアのものだ。俺達は今、決闘者用の控え室に向かっている。そして控え室の扉の前に来たとき、その扉が開いた。

 

「……アンタか。来ていたんだな。」

 

「まぁな。強者同士の決闘だ。見に来ない道理は俺には無ぇ。」

 

扉の主はキリトだった。その後ろにはアスナもいる。

 

「何しにきたんだ? もしかして慰めにでも来てくれたのか?」

 

恐らくキリトは勝負の後直ぐに控え室に戻ったのだろう。だから俺が此処に来た訳も知らない。

 

「故あってヒースクリフと決闘する事になってな。お前が使っていた部屋を宛がわれたんだよ。」

 

「アンタがヒースクリフと?」

 

「此処ではなんだ。中で話そう。」

 

後ろのストレアも退屈そうだからな。

 

それから俺とキリトは此処に至る経緯と先程の戦いについて話した。その間ストレアとアスナは痺れを切らしたのか二人で乙女談義を繰り広げている。

 

「それで……勝てるのか? ヒースクリフに。」

 

「さぁな。戦ってみなきゃわからんさ。……まぁ、負ける気はしねぇけどな。」

 

そう言って笑って見せる。彼方からは兜のせいで此方の表情は見えないが、キリトは察してくれたようでキリトも共に笑う。

 

嘘だ。流石にGM権限を使われたら否応なしにでも負ける。あの一瞬の事でキリトもヒースクリフを疑問に思い始めたと思うが、出来ればその答えに辿りついてほしくはない。まだ時期が早すぎる。然るべき時に辿り着いて欲しいものだがね。

 

とはいえ、全く対策が無い訳ではない。俺にもGMの権限について知識がある。少し…いや、大分製作に口出ししていたからな。後に茅場が色々と追加や変更をしていたら形無しだが、絶対に使っているだろう権限は予測出来る。先ずはヒースクリフの体力バーが黄色または半分以下になったところを見たことが無いという点だ。恐らく不死属性を自分に付与しているのだろう。そして先程の決闘で見たあの一瞬。あれは俺の知識には無いが恐らく動きのアシストをするような何かだろう。手の内を知っている俺に対しては頻繁にこれを使って来るであろうから要注意だ。

 

とまぁこんな感じか。俺が無いわけでは無いと言った対策については後に話す。さて、こんな事をしている間に25分が過ぎた。俺はコンソールからある槍を持ち出す。

 

「その槍……見たこと無いな。 クエスト報酬か?」

 

「それは企業秘密だ。まぁ見てろよ。ヒースクリフに一泡吹かして来てやるよ。」

 

俺の言葉にキリトは笑うと、「楽しみにしてるよ。」そう言い残しアスナと共に控え室を出ていった。

 

「……ねぇ、セタンタくん。」

 

これまでアスナと会話の花を咲かせ、俺とキリトの会話を静観していたストレアが口を開いた。

 

「なんだ?」

 

俺は後ろにいるストレアに向き直る。そして其処にはニコニコしながら此方を見るストレアが。

 

「なんだお前、いつにもなくニコニコしやがって。」

 

「いやぁ、ほら。セタンタくんって私以外と殆ど喋んないじゃん? キリトくんと話していたとき、楽しそうだったから。」

 

「それがどうしたんだよ。」

 

「いやね。セタンタくんの新しい一面が見れて今日は吉日だねって。」

 

……まったくこのAIは。人を観察対象みたいな言い方しやがって。……まぁ、此方としても嬉しいものだ。最初出会った頃は殺戮兵器見たいに表情なんて無かったてのに、今じゃこんなに表情豊かなAIになっちまって。こうやって良い方向に成長させる事が出来たのは幸いだったな。

 

わしゃわしゃとストレアの頭を撫でる。そして闘技場の中央へと足を進める。

 

「セタンタくん!!」

 

またかと思い後ろを向く。ストレアは此方に満面の笑みを浮かべこうおれに言い放った。

 

「がんばってね! セタンタくん!」

 

俺はその応援に兜の中で笑うと何も言わず歩き出し、ハンドサインのみで返答した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「来たか。突然の申し入れ、すまなかったね。」

 

「良く言うぜ。キリトとの決闘、このイベントも、全部てめぇの手の内の癖によ。」

 

俺の受け答えにヒースクリフは笑うと次の言葉を繋いだ。

 

「さて、勝負の形式は初撃決着モードでいいかな?」

 

「その前にだ。ヒースクリフ。俺から一つ提案をさせて貰おう。」

 

俺の言葉に茅場は片眉を上げ、怪訝な顔つきで此方の言動を迎える。

 

「お前はこのイベントを決闘と言ったな。なら、何かを賭けて戦わなければ決闘とは言えない。」

 

「成る程、つまり君は戦うならお互いに何かを賭けようという訳だな。良いだろう、元は君は此方の都合で決闘に強制参加させた身。君の要望を受けようじゃないか。」

 

このやり取りを聞いていた観客は大いに歓声を上げ盛り上がる。

 

「なら、俺がお前に勝った暁には━━━━━」

 

その瞬間。爆音とも呼べる風が闘技場を通り過ぎ、セタンタの賭けたものを聞いたのは当事者のヒースクリフだけであった。

 

その要望を聞いたヒースクリフは一息笑うとコンソールを開き、決闘の申請を行った。

 

「━━━━ふっ。良いだろう。その代わり君がもし私に負けた場合。我がギルド『血盟騎士団』に入団して貰おう。」

 

俺は申請された決闘を承諾し、カウトダウンが始まると共に槍を構える。

 

「言ってろ。どうせ俺が勝つ。」

 

ヒースクリフは盾から剣を抜き構えた。

 

「……さっきの剣とは違うんだな。」

 

「耐久値が落ちていたのでね。変えさせてもらった。」

 

「そうか。」

 

カウントが零になり、ブザーが鳴る。

 

それと同時に飛び出し一瞬にしてヒースクリフとの距離が縮まる。そして槍の鋒をヒースクリフの喉仏へと吸い込ませる。

 

「……チィ!」

 

だが寸での所でヒースクリフが防ぎ難を逃れる。明らかに決まっていた攻撃を防ぐ。アシストの線は確定だな。

 

直ぐ様すれ違いに様に踏み込み相手の剣の間合いから脱っしヒースクリフの剣撃を避ける。そしてまたヒースクリフに突っ込みそれが盾によって防がれる。これを幾度となく繰り返す。

 

「随分と安直な攻撃だね。以前君と戦った時とは大違いだ。」

 

これを話すと言うことは周りには聞こえていないのであろう。

 

「どうだろうな。油断してるとアホ面かく羽目になっても知らねぇぞ。」

 

そう言って槍を素早く横に薙ぐ。不意の攻撃にヒースクリフは少し動きが遅れて盾を槍の来る側面に移動させ防ぐ。だが、衝撃までは殺しきれず横に吹き飛ばされる。そして間髪入れずに状態を崩した奴に槍を突き立て眉間を狙う。だが、奴は槍の側面に剣を当て矛先の軌道をずらし直撃を免れた。だが、頬の部分を深く抉りHPを奪っていく。

 

「……くっ!!」

 

ヒースクリフは飛び退き距離を取ろうとする。だが、それをさせる俺ではない。

 

「させるかよッ!!」

 

自慢の速さで二段突きを行い追撃を試みる。が、その全て防がれおまけにヒースクリフは既に体勢を立て直していた。

 

「……流石、神盾(ゴットガード)と呼ばれているだけの事はあるな。」

 

「そちらこそ、最前線を一人で担っていただけはある。」

 

「いつの話をしているんだよ。その当時のまんまだと思っているのなら認識を改めた方が良いぜ。さもないと痛い目を見ることになる。」

 

「当然、私はそんな事思っちゃいないさ。……さて、来るが良い。君の攻撃、全てを防いで見せよう。」

 

喋り過ぎだと言わんばかりにヒースクリフが盾を構える。だが、先程との構えとは違いやや前傾姿勢だ。奴め、前に出るつもりか。

 

ジリジリとヒースクリフが距離を縮めて来る。時間は既に4分を過ぎ、残り30秒となった。恐らく、この一合で勝負は決する。

 

どれだけ硬い盾でも、使い続ければ壊れるのと同じように、剣や槍も同じく壊れる。だが、ものには壊れ方というものがある。切断、粉砕。色々あるが過去に世界一硬いといわれるガラスがあった。このガラスは耐熱、銃弾。あらゆる衝撃に対して耐性をもっており正しく最強の盾といえる代物だった。だが、そのガラスはいとも簡単に壊されてしまう。壊されたガラスには大きな穴が開いていた。

 

その最強の盾を壊した人物はあるものを使った。それは杭。一点に衝撃を与え続け穴を開けるというもの。たったそれだけの事で最強を誇った盾は盾という機能を壊されてしまった。

 

このSAOでは、アイテム然り武具然り、その機能が失われる、或いは破壊されればポリゴンと化して消えていく。

 

つまりどういう事か。このSAOで上層のプレイヤーが使う武器は大抵耐久値が高く到底壊せるものではない。だが、ある部位に、一点に衝撃を与え続ければ現実世界よろしく、この世界でも突くものであればそれに"穴が開く"。斬るもので斬ったならばそれは"へし折れる"。

 

今の茅場のGM権限の穴。それは武器の耐久値。この初撃決着モードでは体力が黄色に突入するか、持ち手の武器が壊れたら負け。茅場は不死属性を纏っているため勝つならばそれしか方法が無い。だが、相手の武器を破壊するためには、それ相応の頑丈さが必要だ。

 

だからこの槍を用意した。不壊剣(デュランダル)の原典となったこの槍、不毀の極槍(ドゥリンダナ)ならばヒースクリフの『神盾(ゴットガード)』も破れる。

 

今までよりも強くヒースクリフに突進する。狙うは盾の中心。そこを強く突き穴を開ける。そうすれば盾としての機能が失われ盾は破壊されるだろう。

 

「うらぁッ!!」

 

突き出した槍の鋒と盾の中心部が激突する。暫しの拮抗があったがそれはヒースクリフによって流され、キリトの時のような状況になる。

 

「盾の耐久値。観点は良かったが君が相手だから対策をしていてね。……対策をしていなければ私の敗けだったよ。」

 

ヒースクリフはそう言い、片手の剣を俺に突き出す。

 

勝負は決した。誰もがそう思った。だが、セタンタが剣を体を無理矢理捻り避ける事によってそれは覆される。

 

「ハッ! 俺の方は何も考えなかったとでも思ったかよ! だがなこっちも策は用意しているんだぜ!」

 

もしも、茅場の使う武具に俺への対策として不壊属性がGM権限で付与されていた場合。普通ならば茅場が知り得ないものを持っていない限り絶対に勝てない。だが、俺には茅場の知り得ないものを持っている。

 

不毀の極槍の剣の部分で、ヒースクリフが突きだして来た剣の鍔と刃の根元に斬りつける。そして発動する。己の心意を。

 

「何ッ!? 」

 

カラン、とヒースクリフの刃が地面に落ちる。そしてそれはポリゴンと化し、ブザーが鳴り響いた。

 

軍配は俺の方へと上がった。俺の心意システム、『現実(リアリティ)』。俺の身体能力、攻撃、事象が現実のそれと同じになる能力。如何にGM権限がSAOで最強でも、現実では何の意味も成さない。ある意味で、茅場晶彦に現実を叩き付けた瞬間であった。

 

 

 

 

 

 

 




セタンタの心意システムの詳細は第七槍にて。


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