ハグしよ?プリキュア (猫犬)
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誕生!キュアハグ

果南ちゃんお誕生日おめでとう。

果南ちゃんの誕生日ってことで書いちゃいました。内容は誕生日関係ないけど。

一部改稿しました。


「ハグ、そこだ!」

「よっ!」

「くっ!」

 

私、松浦果南。何故か戦っています。

 

 

~☆~

 

 

「ほっ、ほっ」

 

冬のある日。果南は日課のランニングをしていた。最近は肌寒さが一層強まった気がするが、日課にしている為かあまり気にならない。あまり人とすれ違わないが。

いつもは淡島から弁天島まで走っているが、最近はそのまま学校に行った方がいい気がして荷物を持って走っている。鞄をリュックみたいに背負えば走るのには問題なかったからこうなったのだが。

 

「ん?あんなところに何か倒れてる?」

 

千歌の家の前の砂浜に走りながら目を向けると、砂浜の上に何かが打ち上げられていた。果南は少し気になったから砂浜の方に足を向けるとそこには、

 

「わっ、イルカだ。大丈夫?」

 

体長一、二メートルほどの子イルカが打ち上げられていた。流石に放置をする訳にもいかないから近づく。

子イルカは海に戻れなくなっているようで困っているようだった。見た限りでは怪我をしている様子はなく、波に流されてここに来てしまったようだった。

(子イルカならぎりぎり持ち上がるかな?)

そんなことを考えながら、子イルカに触れてみる。

 

「よっと」

 

普段からボンベやらなんやらを運んでいた果南だからか持ち上げることができ、子イルカは暴れることなく海に帰される。子イルカは少し沖の方に泳ぐと振り返る。

 

「ピィー」

「もう打ち上げられるんじゃないぞー」

 

果南は手を振ってそう言うと、子イルカは沖の方に去って行く。それを見届けると、果南はランニングを再開させるのだった。

 

 

『あの子なら可能性があるかな?』

 

 

~☆~

 

 

「ふぅ、どうしよう」

 

朝練、授業を終えた果南は椅子の背もたれに背を預けて悩んでいた。本来なら練習の予定だったのだが、理事長の仕事で鞠莉が、生徒会の仕事でダイヤが、図書委員の仕事で花丸とその手伝いにルビィが行き、半数いない状況になったことで練習が急遽無くなった。そのため、果南は暇を持て余していた。

(部室行ったら誰かいるかな?)

ふと浮かんだことで、とりあえず即行動の果南は席を立つ。いなければいないで、ダイヤの手伝いに行けばいいやと思いながら部室に足を向ける。

 

ドーンッ!

 

すると、校庭の方から爆発音が響いた。

いきなりの爆発音に果南は窓の方に戻って外を見ると、校庭のど真ん中で砂煙が舞っていて、部活で校庭を使っていた生徒たちは逃げていた。

 

「何これ?」

 

よくわからない状況に果南は小さく呟く。すると、砂煙が晴れて、校庭の中心に半径五メートルほどのクレーターができており、そのクレーターの中心に一人の生徒が立っていた。

 

「善子ちゃん?」

 

そこに立っていたのは紛れもなく津島善子、その人だった。服装は真っ黒いローブに黒い悪魔みたいな角を頭に付けているが。

爆発の原因が善子なのは一目瞭然で、余計に果南を悩ませた。

(善子ちゃんは、善い子だから、あんなことしないよね?というか、そもそも、どうやったらあんな爆発が起こる訳?)

 

「善子さん、何をしていますの!?」

 

すると、校舎からダイヤが出て来て善子を叱る。爆発が起きたというのに怯まない辺りに果南は驚きながらそれを見守る。

 

「我が名はヨハネ。この世界に裁きを下す者よ」

「善子さん、ふざけないでください!校庭にこんな穴を開けて」

「ダイヤ、ストップ」

 

どんどんヨハネに近づくダイヤに、途中で追いついた鞠莉がダイヤを止める。

 

「鞠莉さん、止めないでください!」

「ダイヤこそ落ち着いて、下手に近づくのは危険よ」

「はっ!」

「「きゃっ!」」

 

鞠莉がそう言うとヨハネは手をかざし、ダイヤの足元に黒い弾を放つ。弾が地面に当たると、そこには穴ができていた。二人はその余波で声を漏らすと数歩引く。

 

「これは警告だ。今すぐ我の支配下に加われば命までは取らないでおこう。だが、考える時間くらいはやろう」

 

ヨハネの声は学校全体に響き、学校にいる人全員に聞こえていた。つまり、全員に対して言っているということだった。ヨハネと相対している二人は状況がまだ完全に掴めておらず立ち尽くす。

とりあえず、果南は二人の元に行こうと教室を出ようとし、

 

『何処に行く気だい?今行っても君じゃ何もできないよ?』

 

直後に教室に明るい声が響いた。果南が悩んでいる間に教室には果南一人になっていたはずだから、いつの間にか誰かがいたことに驚いて、声がした教室の前の方を向く。

 

『やぁ、朝ぶりだね』

 

そこには、子イルカが浮いていて、右ヒレを上げていた。それは朝出会って、助けてあげた子イルカだった。浮いていることやら、喋っていることなどなど信じられないことが目の前に広がっていて果南は言葉を失っていた。

 

『ああ、驚かせてしまったね。でも、早くしないとあの子たちが危ないよ?』

 

子イルカはマイペースにそう言うと、果南はハッとする。そして、子イルカを無視して教室に出ようとする。

 

『だから、今行っても何もできないよ。けが人が増えるだけ』

「でも、ここで行かない選択肢は私には無いよ!二人を助けないと!善子ちゃんを止めないと!」

『魔法弾を放つあの子に、普通の人間の君が行ってなんになるの?』

「それは……」

『それとも、君なら何かできるの?』

 

子イルカは淡々とそう言う。言っていることは全て正しいから返すことが出来ずに果南は黙る。

(確かに、私がいても何ができるかはわからない。でも何もしないで見ているなんてことをしたくない!)

 

「……助けたい」

『ん?』

「大事な親友のピンチなんだよ!助けたい!」

 

果南が言葉にした直後再びヨハネの声が響く。もう時間切れが来たことに果南は焦り、教室を出ようとし、

 

『待って!』

「なに?」

 

また声をかけられて止められる。三度目だから、果南は声が大きくなっていた。

 

『危険に飛び込んでまで友達の為に行こうとする、君の意思しかと見た。だから、君に力を貸してあげる。あの二人とあの子を助ける力をね』

「力?……いったい君は何者なの?浮いてるし、喋るし」

『あっ、そう言えば、名乗ってなかったね』

 

今更ながら、果南が疑問を口にすると子イルカは明るい声でそう言い、

 

『僕はルカ。僕と一緒に世界救いませんか?』

「はい?」

 

 

~☆~

 

 

「して答えは?」

 

ヨハネにそう言われて、二人はどうしたものかと悩む。とりあえず、今の善子がいつもの善子と違うということしかわからない。善子の身に何が起きているのか、何が目的なのかといったことが一切わからずに、答えることができなかった。

 

「無言……支配下には下らぬと取ろう。故に消えよ!」

 

二人の無言を否定と受け取ったヨハネはそう言って、手を二人に向ける。そして、先ほどの魔法弾が放たれる。

二人は回避しようとするが、弾が速いため回避が間に合わず、二人のいた場所に弾が着弾して砂煙が上がる。

 

「さて、まずは二人。他の奴らはどうかな?あの二人のように散るか?」

 

ヨハネは二人を屠ったことで、他の生徒たちが支配下に下るのも時間の問題だと思った。

しかし、

 

「けほっ、けほっ」

「あれ?」

「ふぅ、間に合った」

 

二人はさっきまでいた位置の前に一人の少女が立っていて、まるで魔法弾を叩き落としたかのように、右手を降ろしていた。その少女の服装は青を基調とした駅員のような服に、帽子といったものだった。

 

「おまえ、何者だ?」

「ん?えーと、通りすがりの正義の味方?」

『そうじゃないでしょ!ちゃんと、名乗口上はしてあげないと』

「恥ずかしいし」

『ここはズバッと言ってあげないと』

「うぅ。すべてを包む海、キュアハグ」

 

ヨハネに言われて、少女は頬を掻いてそう言うと、その隣でポンッとコミカルな煙を上げて現れた、デフォルメされた子イルカがツッコむ。そして、少女は恥ずかしそうにそう言って両手を広げた。

 

「キュア?まさか!」

「え?なんか知ってるの?あと、その姿どうしたの?」

 

ヨハネは盛大に驚いた表情をする。

少女――まぁ、変身させられた果南は前半をヨハネに、後半を隣で浮いているデフォルメされた子イルカ――ルカに問う。

 

 

~☆~

 

 

「世界を救わない?」と言われた果南は、特に説明を聞くこと無く今は二人を救うのが先と二つ返事で了承した。

その結果、ルカの前で光が集まりスマホのようなものが果南の手に収まった。

 

『それは正義の味方になる変身アイテム――キュアフォンだよ』

「なんか、一気にきな臭くなってきたかも」

『まぁ、最初はお試し期間ってことで、僕の言う通り復唱して』

「あっ、うん」

『プリキュア、スタートアップ』

「プリキュア、スタートアップ……え?」

 

復唱して画面をタッチすると、キュアフォンが輝き、果南の身体を包む。そして、果南の服装が制服から駅員みたいな感じに変わっていた。

 

「あれ?これってH(Happy)P(party)T(train)?」

 

てっきり、魔法少女みたいにフリフリな衣装になるのかと懸念していた果南は少し安心した。しかし、なぜかHPT衣装だったことに対して疑問だった。

 

『これで、君は世界を救う正義の味方、キュアハグだよ。ちなみにその衣装は果南ちゃんのイメージに合った物に自動的になった感じだよ』

「待って、キュアってまさか……」

『日朝枠のあれのパロだよ。でも、あれとは一切関係なく、この物語に登場する全てはフィクションで、現実の団体とは一切関係ありません』

「急に、説明口調にならないでよ。あと、私高校生だよ?」

『でも、あっちだって、高校生のキャラも変身してた気もするし……』

「あー言えばこう言う」

『でも、君は格段に強くなった。具体的には三階から飛び降りても怪我することなくて、体力も格段に向上しているよ』

「そうなんだ。あんまり、変わった気がしないけど?」

『まっ、それに関してはすぐわかるよ。あと、そろそろ行かないと、あの二人まずいかも』

 

ルカに言われて果南が外を見ると、今まさに二人に魔法弾を放とうとしているところだった。

 

「ちょっ、ここからじゃ間に合わなく無い?」

『平気だよ、一直線に飛べば間に合う……はず』

「そこは言い切ってよッ!」

 

果南はそう言って、床を蹴って窓枠に足を乗せて一気に飛び出す。本当にここから飛んで怪我をしないのかは謎だったが、こうでもしないと間に合わないから、ルカの言葉を信じて飛び出す。

(これで転落死したら恨んでやる)

 

『信じてないでしょ!?』

 

ルカのツッコミを背に受けながら、二人の前に着いてそのまま腕を振り下ろして魔法弾を叩き落として、さっきの場面に至る。

 

 

~☆~

 

 

「やっぱり恥ずかしいよ。あと、あれ善子ちゃんなの?」

『まぁ、追々説明するよ。ほら、来るよ!』

「あっ、うん」

 

ルカがそう言うと、ヨハネが魔法弾を放ち、果南はそれを叩き落とす。魔法弾では埒があかないと判断したのかヨハネは地を蹴ってハグ(変身中だから果南表記からハグ表記)に接近する。ハグは二人を巻き込まない為に、接近して迎え撃つ。

 

『あの子は不運なことに操られてるだけ。今この世界には脅威が迫っているんだ。僕はその脅威からこの世界を救うためにこの世界にやってきた魔法界の住人だよ』

「世界の危機?魔法界?よっと!」

『この世界の隣にある世界だよ。ある時、この世界――物質界と魔法界の間に空間の穴ができて繋がってしまったの。それで、この世界の探索に行ったある方が闇に触れて、戻って来た時には前と姿が変わっていて魔法界を滅ぼそうとした』

「はぁー。よっ!」

「くっ!」

『僕たちは必死に応戦した。でも、とても太刀打ちできるものじゃなくて、退けるので精一杯だった。そして、物質界に逃げたことで、僕は派遣され、空間の穴を通って一緒に戦ってくれる人を探した……』

「それで、朝砂浜に打ち上げられてたの?」

『お恥ずかしいことに、この世界の海は波が強いね。慣れてないから宙にもなかなか浮けなくて、難破しちゃったよ。今はなれたから浮いてるけど』

「いつまで話してるんだ!」

 

ルカの説明が一段落すると、ヨハネが遂にツッコんだ。ちなみにハグとヨハネはずっと戦っていました。パンチにキックと肉弾戦メインで。そもそも、魔法をろくに使えないハグと魔法弾を放っても叩き落されるヨハネにはこれしか選択肢が無かったのだが。

 

「そこ!」

 

ヨハネのパンチをガードすると、そのまま腕を掴んで背負い投げの要領でヨハネを地面に倒す。

背中を叩きつけられたヨハネは一瞬硬直し、その隙にハグは追撃するべくパンチを放つ。ヨハネはそれを横に回転すると、パンチが地面に当たって穴を作る。

 

「おまえ。この人間を殺す気か!」

「あれ?普通のパンチでこの威力なの?」

 

ヨハネはガチで慌て、ハグは素で地面に穴ができたことに驚く。

 

『ハグ。こうなれば、一気に行くよ。あの子は操られているだけだから、必殺技で救うんだ!』

「え?必殺技?」

 

必殺技なんてものを知らない為に、首を傾げるハグ。

 

『こう、あの子を救いたいって気持ちがあれば、自然にできるはず!』

「あっ、うん」

 

割とざっくりした説明に困惑していると、体勢を立て直したヨハネは宙に浮く。

 

「もうこれで終わりにしてくれる」

「なんか、ヤバそう」

 

そう言いながら手を空に掲げると、ヨハネの上空に魔力が収束し始める。何やら危なそうな気しかしないハグは頬に汗がつたう。

ハグはそれを回避しようと考えるが、小さな魔法弾で地面に穴ができたことから、これが当たれば間違いなく学校が大惨事になることを察する。

少し離れた所には寄り添っているダイヤと鞠莉、それに校舎の中には生徒の皆がまだ残っているはずだった。

 

「ねぇ、ルカ。私には何かないの?魔法とか武器とか」

『うーん。あるのはこれくらい?』

「ホイッスル?」

 

ルカに問うとルカは右ヒレをハグに向け、そこには駅員が使うようなホイッスルがあった。これでどうしろ?と思いながら受け取ると、

 

「くらえ!暗黒地獄撃(ダークネス・ヘルクラッシャー)

「絶対やばいでしょ!」

 

ハグが声を上げると、ヨハネの上空に収束した巨大な球がハグに向けて放たれる。大きい故か小さいやつよりは遅いが、威力はすごそうなのだと感じた。

 

「どうにでもなれ!」

ピーッ!

 

そして、ハグは自棄になって、ホイッスルを口に持って行き、勢いよく吹く。

ホイッスルから放たれた音の波が暗黒地獄撃(ダークネス・ヘルクラッシャー)にぶつかり、音の波と共に四散する。

ヨハネは自分の技が阻まれたことに驚きの声を上げる。

 

「隙ありだよ!」

「しまった!」

「ハグしよ!」

 

そして、硬直しているヨハネにピョンッとジャンプをすると、そのままヨハネの身体にハグをする。大体のことはハグでなんとかなる精神の結果だが、直後にヨハネの身体から黒いモヤが出て来て、ローブが消えていつもの制服に戻る。

善子が元に戻ったので安堵すると、地面に降りて善子を降ろす。

 

『初勝利おめでとう』

「ん、これで終わったの?」

『うん。今回はね』

 

とりあえず危機が去ったことで安堵すると、ダイヤと鞠莉が駆け寄って来る。それで、重大なことに気付いた。

 

「どうしよ。二人にコスプレしてるって思われちゃう」

『あー、大丈夫だよ!』

「え?」

「良かった。善子はいつも通りのようね」

「ありがとうございます。キュアハグさん。私たちを助けていただき」

「あっ、うん。この子を一応保健室に寝かせてあげな?」

「そうしますね」

 

ダイヤが善子をおんぶすると二人はそのまま保健室の方に去って行く。

 

『変身してるから正体がばれることは無いよ』

「それ、先に言っておいてよ」

『聞かれなかったからね。それで、今後のことなんだけど』

「その前にもし正体がばれたら○○になる的なことはあるの?」

『ううん。ないよ』

「そっか」

『それで、また何か起こると思うけど、また戦ってくれる?嫌なら他を探すけど』

「うーん。まぁ、いいよ。困ってるのなら助けたいし。今回はこれのおかげで三人を助けられたし」

『ありがと。それと、これからよろしくね』

 

二人は右手と右ヒレをコツンと合わせてそう言うと、二人の前にさっき善子の身体から出た黒いモヤが集まってとある形になって“それ”になる。色も黒から肌色のような色に変化していた。

 

「え?」

【キュアハグよ。今回は我の負けだ。だが、次は負けぬ】

 

“それ”を見たことで小さく驚きの声を漏らすも、“それ”は言葉を紡いだ。そして、再びモヤになって消えていった。

 

「ねぇ」

『どうしたんだい?』

「なんで、あれうちっちーの形をしてたの?しかも初代バージョンだし」

『あれこそ、この世界の調査に出たセイウチのウッチーが戻って来た時の姿だよ。その名もダークうちっちー』

「私より、曜が主人公になった方が良くない?」

『手伝ってくれるんでしょ?』

 

(どうやら、私の普通の高校生活は一旦終わったみたいです)



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全速前進!キュアヨーソロー

曜ちゃんお誕生日おめでとう。

曜ちゃんの誕生日ということでまたまた書いちゃいました。
やっぱり誕生日関係ないですけども。


果南がキュアハグに変身したあの騒動の夕方。

なんやかんやで被害は校庭にあいた穴くらいで、鞠莉の話だとあっさり埋められるとのことだった。でも、安全のために生徒は全員帰された。

 

「それで、結局私はどうすればいい訳?」

『とりあえず、ダークうちっちーをウッチーに戻すのと、魔法界と人間界の間に繋がった空間の穴をどうにかするのが目標かな?』

 

家に帰った果南は、あの時は急いでいたから聞けていなかった話を聞いていた。

 

「どうやって元に戻すの?」

『善子ちゃんの時みたいに殴って、必殺技で倒す!問題はダークうちっちーとの直接戦闘にどうやって持ち込むかだけどね』

「そっか。今日みたいに操ってたら、逃げられちゃうもんね」

『そうそう。たぶん、数度は今日みたいな感じで、人々の恐怖を集めに来ると思うから』

「恐怖を集める?」

『うん。恐怖が力になるよくあるパターンだよ。今日みたいに操るか、人々の心の闇から怪物を生み出すか。魔法界は怪物に襲われちゃったから』

「でも、今日みたいに倒せばいいんだよね?」

 

結局今日と同じ感じのことをするだけという事で、果南はさほど気にしていなかった。今日も危ないと思ってたけど、難なく乗り越えることができたから。

 

『まぁね。それで空間の穴の方は原因の調査中。そもそもどうして繋がったのかもわからないからね。自然に発生したのか、何者かによって人為的に発生したのか。穴自体は同じ要領でやればいい感じ』

「それじゃ、さっさか穴閉じた方がいいんじゃ?」

『ううん。それじゃダメ。そもそも空間の穴が何処にあるか。僕がこっちに出たら座標がずれたのか海だったから、穴の位置が完全にはわからないの。たぶん、そう遠くはないとは思うけど。それに、もし人為的ならその原因をどうにかしないと同じことの繰り返しになっちゃうし、閉じたら帰れなくなっちゃうから、先にウッチーを元に戻さないと』

 

空間の穴の方は、今はどうにもならないようでそういうことのようだった。

それからいくつか話を聞き、一応穴の閉じ方はわかっているのなら問題は無いので、とりあえずは穴を探しつつダークうちっちーをどうにかすることになったのだった。

 

 

~☆~

 

 

「ほんとに穴埋まってる」

 

翌日、朝練で早めに浦の星についた果南は、昨日ズタボロになったはずの校庭が綺麗に元通りになってることで呟いた。クレーターやら交戦による余波で相当ひどい有様だったはずなのに、半日で元通りになっていることに驚きを隠せない。

校庭を眺めていると鞠莉も登校して来て、果南を見かけたからかそばに寄って来た。

 

「Hello、果南」

「おはよ、鞠莉。よく半日で元通りにできたね」

「小原家の力を持ってすればすぐよ」

「平気なの?ただでさえ廃校しそうなのに」

「問題ないわ。これは必要経費だし、そもそも地元の皆がボランティアしてくれたから」

 

話を聞くと、近くでちょうど工事があって、ついでだからとやってくれたらしかった。それでいいのかと思うも、せっかくのご厚意だから甘えたとのこと。

 

「そう言えば、果南――」

「っと、そろそろ部室行かないとダイヤになんか言われそうだ。何か言った?」

「……なんでも無いわ。そうね。小言を言われるのは嫌だから行きましょ」

 

二人はそう言って部室に向かうのだった。鞠莉が何か言おうとしていたように思えたが、なんも無いという事で果南は気にしなかった。

 

「あれ?善子ちゃんは?」

「昨日のあれのせいか体調を崩したんだって」

 

部室に着くと善子を除く六人がすでにいた。善子がいないことを気にすると、曜がそう言った。どうやら、昨日操られていたとはいえそうとう体力を持っていかれていたようで、だから今日は体調不良に。

 

「一応、明日には復帰するつもりみたいだけど」

「そんなに体調は悪くないってこと?」

「いえ、喉を痛めて風邪っぽいのと身体の節々が痛いだとか。まぁ、操られていたとはいえ、結局善子さんの身体でしたから、それであんな戦いをすれば仕方ないでしょうね。果南さんみたいに体力があれば、まぁ普通に登校できそうですけど」

 

善子の休みは風邪と筋肉痛みたいだった。原因が昨日の事だとわかり、もう少しうまく立ち回れていれば良かったと思う果南。もしかすれば、すぐにけりをつけられていれば今日休むことが無かった可能性もあったから。

それと、ダイヤの発言の後半は何故か果南を見て言っていた。

 

「流石に私だってあんな戦いは無理だよ」

「あれ?果南見てたの?あの時見かけなかったけど?」

「あはは。教室からね」

 

今更ながらあの時その場にいなかった、というか変身して戦っていたが、果南はそういうことにした。

別に本当の事を言ってもペナルティは無いと聞いていたが、鞠莉や千歌、曜辺りにばれれば絶対にいじられることが目に見えていたから。

 

「そっか。確かに三階からなら見えるよね?」

「そうそう」

 

どうやら誤魔化せたようで、果南は安堵する。

 

「善子さん抜きではありますが練習を始めましょうか」

「そうだね」

「うゅ」

 

 

~☆~

 

 

「1,2,3,4.1,2,3,4……うん、だいぶ形になってきたかな?今日はこれくらいにしておこうか」

「ふぅ。疲れたー」

 

放課後、果南たちは沼津の練習場所で練習していた。そして、陽が暮れ始めたことで今日の練習を終えることにした。

 

「私はよっちゃんのお見舞いに行くね」

「あっ、マルも行く。配布のプリント渡さないと」

「ではわたくしも……と言いたいところですが、全員で押し掛けるのも迷惑でしょうし、お二人に任せますわ」

「マリーたちの分までお願いね」

「うん。また明日」

「またね~」

 

練習着から制服に着替えると外に出て、二人はそう言って善子ちゃんの家に行った。

 

「さて、私たちも帰ろっか」

「うん、そうだね――」

ドカーンッ!

「うわっ!」

「何この音!?」

 

いざ帰ろうとすると、何処からか爆発音が響き、皆たじろぐ。そして、駅前のロータリーに真っ黒い半身半獣の怪物がいた。下半身は虎やライオンのような毛におおわれ、上半身は牛のような、いわゆるミノタウロスのような感じだった。

 

「なんかヤバそうね」

「皆さん、逃げますわよ!」

 

近くにいれば襲われかねないので、私たちは逃げる。間違いなくあれはダークうちっちー関係だということは一目でわかったが、みんなの居る前で変身するわけにもいかないからとりあえず逃げておく。

 

「って、なんで私たち追いかけてくるの!?」

 

逃げ始めたのはいいけど、ミノタウロスは私たちを追いかけてくる。このまま一緒に走っていればすぐに追いつかれてしまう。

 

「だったら!」

「果南ちゃん!?」

 

固まって走っていれば全員に危険があるけど、もしかしたらと思い果南は一度止まって、ミノタウロスの方に走り出す。

千歌が気付いて声を上げるも、果南は止まらずにミノタウロスの真横をすり抜ける。結果、ミノタウロスは一番近くに来た果南を標的にし、反転してそのまま果南を追いかける。

 

「まさか、私たちを護るために?」

「でも、それじゃ果南ちゃんが危ないよ?」

「でも、私たちにはどうにも……」

「でも、このままじゃ果南ちゃんが」

「……」

 

果南を助けに行きたいが自分たちじゃどうにもできず、五人は果南とミノタウロスを見ている事しかできなかった。

 

 

~☆~

 

 

『果南ちゃん、そろそろいいんじゃないの?』

「うん、そうだね。みんなから距離も取れたことだし」

 

ポンッと現れたルカに言われて、果南は振り返ってミノタウロスがついて来ていること、周囲に誰もいないことを確認すると、ポケットからキュアフォンを取り出す。

 

「プリキュア、スタートアップ」

 

そして、画面をタッチしてHPT衣装に変身する。

果南はキュアハグに変身が完了するや否や、地面を大きく踏みしめ一気に反転してミノタウロスに突っ込む。

ハグをまっすぐ追いかけていた為にミノタウロスは止まることも回避もできず、その胴体にハグの蹴りが入り吹き飛ぶ。吹き飛んだミノタウロスは建物に激突して止まった。

 

「あっ、やば。建物壊しちゃった」

『ミノタウロスがやったことにすればいいよ』

「うわっ、それでほんとにいいの?」

 

ルカは平然とそんなことを言い、それでいいのかはなはだ疑問に思う。

すると、吹き飛んだミノタウロスが身体を起こすなり飛びかかって来る。それをひらりと回避すると、反撃にと脇の部分にパンチを繰り出す。

ミノタウロスはそれを左手で受け止めてみせる。

 

「うわっ、ガードされちゃった……て、わっ!」

 

ガードされちゃったことに驚くと、何故かハグの身体が陰る。まるで上に何かいるかのようで上を向くと、そこには巨大なコウモリがそこにいた。二、三メートルはある大きさで、ハグを押し潰すかの如く、そのまま地面に降りて来て、ハグは慌ててミノタウロスを殴った反動でその場を離れる。直後、コウモリが、ハグがさっきまでいた場所に着地する。

 

「二日目にして二体同時とか。どうすればいいのやら?」

『うーん、倒すしかないかな?』

「そんな簡単に言わないでよ!」

 

二体になったことで困るも、考える時間を与える気は無いのかハグに襲い掛かる。

とりあえず二体の攻撃を回避していくも、いつまでも回避し続けられるものではない。

コウモリが突進してきたのでそれを回避すると、回避した先には先読みしていたのかミノタウロスがおり、その腕を振るう。

回避はできなさそうなので両腕をクロスさせてガードすると、そのままハグは吹き飛ばされる。

 

「うわっ!」

 

近くにあったビルに突っ込み、瓦礫に埋もれる。変身していたおかげで怪我は無かったが地味に痛かった。

立ち上がるとコウモリが追撃の為に突っ込んできて、ハグはしゃがんで回避すると、その状態でコウモリの胴をしたから蹴り上げる。その結果、コウモリは上に吹き飛び、ハグは一気に終わらせるために地面を蹴って大きくジャンプし、

 

「って、え?」

 

その一瞬前にミノタウロスが跳躍していたようでハグの真上を陣取り、両手を合わせて一気に振り下ろす。上に勢いよく飛んでいたから回避もままならず、振り下ろされた腕によって地面に叩き付けられる。

 

「痛っ!」

『来るよ!』

 

地面に叩き付けられて苦悶の表情をするも、ミノタウロスは飛べるわけではないから自由落下で降りて来て、このままでは潰されかねず、ハグは転がって回避し、ミノタウロスが着地したことでクレーターができるのだった。

 

「あはは。潰されてたら危なかったかも」

 

ハグは立ち上がり、とりあえず潰されずに済んだことを安堵すると、二体に目を向ける。

 

「やっぱり、二体同時は厳しいかな?」

『厳しくてもやるしかないよ』

「はいはい」

ピィーー

「うっ、何この音!?」

 

すると、何処からか謎の音が響き、ハグはその音を聴いた瞬間眩暈がしてふらつく。

 

『コウモリの超音波みたい。あんまり聞いてるとやばいかも』

「えー、なんて言った?」

 

超音波のせいでルカの言っている声が聞こえず聞き返すも、ルカもこの音が聞いているのか器用にヒレで耳を抑えていて聞こえていないようだった。

さらに、ミノタウロスには超音波の影響がないのか普通にハグに接近してくる。

ハグはどうにか対処しようとするも、音のせいでふらついて力が出ず、ミノタウロスの攻撃をギリギリ回避するのが精一杯だった。

 

「(せめて、この音さえどうにかなれば……)」

 

ハグはそう思いながら回避を続ける。そして、気付いた。

ビルの屋上に人影があることに。

その人影は少女で、ピョンと屋上からジャンプする。コウモリもミノタウロスも気付いておらず、少女はコウモリの真上から蹴りを食らわせ、コウモリはいきなりの攻撃に墜落した。そのおかげで超音波が止み、ハグはミノタウロスの拳を回避すると同時にその腕を掴み、コウモリの方に投げつける。

そして、ハグの隣に少女が着地する。少女の格好は基本水色で人魚のような感じだった。こんな場所でなんの躊躇いもなく攻撃したことにも驚きなのだが、それ以上に驚きがあった。

少女はどう見ても恋アク衣装を纏った曜だった。

 

「曜?」

「ん?あっ、やっぱり果南ちゃんだ。あと、私はキュアヨーソローであります。ヨーソローって呼んで」

「長いからヨーって呼ぶね。こっちはハグで」

「略されちゃった。まぁいいや」

 

曜に声をかけると、そう言って敬礼した。直後、曜(以降ヨー)の隣でポンッという音と共に十センチほどのうちっちー(配色が茶色なので二代目の方)が現れる。

 

『ヨー、挨拶は後々』

「あっ、それもそっか」

『ハグも今は二体を倒さないと』

「あっ、うん」

 

二人はそれぞれそう言われて二体を見る。二体は身体を起こす。

直後、コウモリが大きく息を吸うと、そのまま吐き出し、圧縮した風が放たれる。

二人は左右に飛んで回避すると、風が通った跡は抉られていた。

 

「とりあえず、あれどうにかしよっか」

「うん。コウモリは任せて。超音波も風もどうにかするから」

「了解であります」

 

相手をする方を決めると、ミノタウロスは地面を何度も足踏みをして突進の準備を始める。今までとは違って準備をしているから、威力が上がりそうだった。

コウモリも再び大きく息を吸うのでハグも手に光を集中させてホイッスルを出し、口にくわえる。

 

ピーッ!

 

コウモリがヨーに向かって風を放ち、ハグも同時にホイッスルを吹くと、音の波が風と激突する。その結果音の波が風を押し返してコウモリに激突する。

 

「全速前進ヨーソロー!」

 

直後、ヨーの周囲に水が渦巻き、水を纏ったヨーとミノタウロスが同時に飛び出してそのまま両者は激突した。

 

「え?頭から突っ込んじゃうの?」

 

まさかの光景にハグは困った顔をするも、何故かヨーよりも大きいミノタウロスが吹き飛んでいた。

 

「よしっ!」

 

ヨーは打ち勝ったことに喜び、ガッツポーズをすると、追撃とばかりにミノタウロスに飛び込み、果南も地面を蹴ってコウモリに接近すると、頭に踵落としを食らわせて地面に叩き落とし、

 

「ハグ、パース!」

 

ミノタウロスの腕を掴んだヨーはそのまま投げ飛ばしてコウモリの上に落ちた。

 

『ハグ、あれは人の心の闇が具現化したものだから浄化じゃなくて消し飛ばしちゃえ!』

「わかった!」

『ヨーも必殺技だよ!』

「了解!」

 

二体ともだいぶダメージが入ったのか動きが鈍くなっており、そろそろ頃合いだった。

 

「果南レール!」

 

ハグは両腕を振り上げながらそう言うと、エメラルドグリーンの二本のレールが二体に伸びる。

対してヨーは両手を胸の前に当てて目を瞑り、目を開くと両手を前に出す。

 

「ヨーソロード!」

 

すると、ヨーから一直線に青い光の道が二体に伸びる。

レールと道が二体に重なると、二体の動きが拘束されて動けなくなる。

 

「「アクアウェーブ!」」

 

拘束された二体に対して、二人は同時にそう言って両手を前に出すと、そこから大量の水が放たれ、波になって二体を包んだ。

 

「「ガァ!」」

 

必殺技を喰らった二体はそのまま黒い粒子になって消え、そのまま波は壊れた街を包み、瞬く間に壊れた箇所が元通りに戻って行った。こうして今回の騒動は終息したのだった。

 

 

~☆~

 

 

「ふぅ、終わった~」

「お疲れ、曜。助けてくれてありがとね」

 

変身を解くと、曜は地面にぺたんと座った。果南はそんな曜に手を差し伸べると、その手を握った。

 

「ううん。果南ちゃんこそコウモリの攻撃から護ってくれたでしょ?だから、ありがとう」

 

曜はそう言って立ち上がる。

 

「それで、どうして曜まで?」

「あはは。それは昨日色々あってね。帰りにこの子が狩野川を流れてて助けたら、プリキュアにならないかって」

「私と同じ感じか」

『どうも。僕はセイウチのセイです』

『見ての通り、魔法界の住人だよ。でも、どうしてこっちに?』

『お兄ちゃんを元に戻すために、無理言ってこっちに来させてもらったの』

『そっか』

 

話を要約すると、セイはウッチーの弟で、魔法界で待っていられなくてこっちに来たとのこと。で、ルカ同様慣れていないことで狩野川を流され、偶然曜に助けられ、後は果南同様プリキュアに誘われたとのことだった。

 

「でも、いいの?危ないんじゃ?」

「果南ちゃんだってそうでしょ?それに、あんな可愛い衣装を着られるのならね」

「衣装に釣られたの?」

「あはは。でも、もちろん困ってる人を助けたいって気持ちもあるよ」

「まっ、いいや。じゃ、これからよろしくね」

「うん!」

 

こうして、プリキュアは二人になったのだった。

 

(あれ?そう言えばどうして変身してても曜ってわかったんだろ?それに曜も私だってわかってたみたいだし。まっ、いっか)

 

 

~☆~

 

 

「よっちゃん、おかゆだよ」

「悪いわね。お見舞いに来てもらって、さらに作らせちゃって」

「そう思うなら早く治してね」

「まぁ、明日はちゃんと行くわ。寝てたおかげでだいぶよくなったし」

 

二人は善子のお見舞いに来ていた。外では何か騒ぎがあったらしいが、わざわざ危険に飛び込む必要は無いからと三人は家の中にいた。そもそも、善子は病人だから外に出れないが。

梨子と花丸が作ったおかゆを食べると、食べながらたわいのない話をして過ごした。

 

「汗かいてるだろうし、身体拭いた方がいいよね?」

「タオル取りに行って来るね」

 

汗はちゃんと拭いておいた方がいいと思い梨子は立ち上がる。

 

「洗面所にあるから」

「うん」

 

タオルの位置を聞いて部屋を出て洗面所の方に行く。

 

「なんだろ、これ?」

 

その途中で“立ち入り禁止”と書かれた紙を貼ったドアがあったが、今は善子の方が先だからとさして気にすること無くそこを通り過ぎたのだった。




曜ちゃんもなっちゃいました。一応前話で伏線?はあったことですし。
続きは書くのか?続くとは明言しません。
では、ノシ


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大ピンチ?シーラカンス襲来!

「堕天使ヨハネ、今帰還!」

「善子ちゃん、元気になったんだ」

「ヨハネ!……心配かけたわね」

 

曜がプリキュアと判明した翌日。

善子は無事体調が戻ったようで、朝練から参加すべく朝早くに登校していた。

善子が戻ってきたことで、全員そろった訳で昨日の遅れを取り戻すべく善子はやる気十分のようだった。

 

 

~☆~

 

 

「だいぶ端折ったね」

「まぁ、毎日放課後に怪物が現れてたからね」

 

なんだかんだでこの三日連続怪物が街に現れていた。黒い犬(ケルベロス)、巨大なカラス(ヤタガラス)、巨大な蛇(ヨルムンガンド)などなどの敵が現れ、その度に二人は勝利を収めていた。何度も戦ってきたことで二人の戦闘能力は格段に上がっていたが、その分多くの人々の恐怖も生まれてしまった訳で、ルカとセイの見立てだとそろそろダークうちっちーの力が戻って襲って来るだろうと予想されていた。

二人は今日もまたどこかに怪物が現れるんだろうなぁと思いながら、屋上でお昼を食べていた。ダイヤも鞠莉も生徒会と理事長の仕事だとかで、果南は一人になっていて屋上に行ったら二年生三人がいた感じだった。

 

「でも、その度に怪物を倒す女の子が居たんでしょ?私は一回もその場に居合わせなかったけど」

「そうだね。私たち以外はどこかしらで居合わせたって言ってたもんね」

「よっちゃんも操られてた時以降は鉢合わせてないよ。その時の記憶は残ってなかったらしいし、みんなもどんな感じか聞いても、あまり記憶に残ってないみたいなこと言ってたもんね。あー、チカも見てみたいなー」

「いやいや、戦闘になってるんだからはち合わせない方がいいでしょ?」

 

戦闘を見た人はいても二人の正体はばれず、印象も薄くなって見たけどどんな感じか覚えていないという状態になっていた。だからこそ、二人の事はあまり知られておらず、人知れず人々を救う女の子ということになっていた。

千歌が言った通り、千歌と梨子と善子以外はどこかしらで遭遇してしまっていたが、その後に会っても特に何も言われなかったから他の人同様と言った感じだったが。

千歌は見てみたいと言うが、果南からすれば危ないからやめてほしい所だった。

 

「果南ちゃんは見たこと無いの?」

「ないよ。ここで起きた時だって三階にいたし、遠目だから女の子だったことくらいしか」

「うーん、そっか」

ドーンッ!

「うわっ!」

「なに!?」

「もしかして?」

「そのまさか?」

 

すると、校庭の方で爆発音が響いた。四人は爆発音がした校庭の方を見ると、校庭のど真ん中に砂煙が上がっていて、風で砂煙が校舎の方に流れて来る。

千歌と梨子は顔を手で覆って砂が目に入らないようにして、砂煙が晴れると、校庭に巨大なシーラカンスが宙を浮いていた。

噂だといつもは放課後に現れていたのに、こんな時間に現れるとは思っていなかったことで、二人も驚きを隠せない。

 

「果南ちゃん?よーちゃん?」

「あれ?どこ行ったの?」

 

そして、いつの間にか果南と曜の二人が消えたことに気付き、二人は首を傾げるのだった。

 

 

~☆~

 

 

「放課後にしか出ないんじゃなかったの?」

『そんな決まりないよ。今までが偶然そうなってただけだよ』

『果南ちゃん、曜ちゃん。変身だよ!』

「うん」

「そうだね」

 

果南は落下しながら疑問を口にする。砂煙で顔を覆っていた二人を他所に、二人はなんの躊躇いもなく塀を乗り越えてそのまま飛び降りていた。

 

「「プリキュア、スタートアップ!」」

 

流石に変身の瞬間を見られたら正体ばれしてしまう為の事だった。だから、もし屋上に千歌達がいなければあの場で変身していたりするのだが。

そんなわけで、キュアフォンの画面をタッチして、二人は空中で輝きに包まれ、地面に着地すると果南はHPT衣装に、曜は恋アク衣装に変身が完了していた。

 

「さて、ぱぱっと終わらせるよ」

「うん。お弁当を食べてる途中だもんね」

 

二人はそう言いながら地を蹴って、シーラカンスに接近し、そのままシーラカンスの真上から同時に殴る。その結果、シーラカンスは地面に叩き付けられる。

 

「ガァ!」

 

シーラカンスは身体を起こすと、宙を泳ぐようにしてハグに向かって突進をする。それを軽く避けると、止まれずにシーラカンスは地面に激突した。

 

「あれ?もしかして見えてない?」

「深海魚だから?」

 

シーラカンスは数度突進するもそのうち数回は二人のいない方に突っ込んでいたことで、二人はそう結論付ける。深海魚は目が見えないはずだから。

 

「てことは、音に反応してる?」

「そうみたいッ!」

 

会話をしたことでシーラカンスはヨーに向かって来る。ならばと回避しつつカウンターで蹴る。しかし、やたらと硬くて吹き飛んでもさほどダメージは無さそうだった。

ハグは吹き飛んでくるシーラカンスに向かって蹴り上げ、上空に飛んだところで、跳躍していたヨーが尾を掴んで地面に叩き付ける。

しかし、やはりダメージは無いのかピンピンしていた。

 

「うーん、どうもダメージが無いね」

「だね。ホイッスルしかないし。何か武器無いの?」

「残念ながらないかな?私の格闘しかないから」

「となると、ひたすら頑張って攻撃してくしかないか」

 

ダメージがさほどないから二人は会話をしながら攻撃していく。どうやらこのシーラカンスは突進以外に攻撃方法が無さそうだから今までと比べればやりやすかった。ダメージが入らないことを除けばだが。

 

「グワッ!」

 

すると、いきなりシーラカンスが海の方に逃げていく。逃がせば何処かで被害が起こるから二人はそれを追いかける。

シーラカンスは海にたどり着くとそのまま海に潜ってしまう。

 

「海に潜っちゃったね」

「とりあえず追うよ!」

「了解!」

 

逃がすわけにもいかないから二人は海に飛び込む。海の中にはシーラカンスがおり、待ってましたと言わんばかりに突っ込んでくる。陸の時よりも速度が速く、二人はギリギリで回避するも、その際に水流が発生して二人はバランスを崩す。そして、シーラカンスはターンすると、ハグに突っ込んできて、バランスを崩しているから回避もできずガードする。果南はシーラカンスに押されてそのまま海底に突っ込み挟まれる。

 

「くッ」

 

苦悶の表情を浮かべると、果南はその際の衝撃で一気に空気を吐き出してしまい、息が苦しくなる。変身しているとはいえ水の中で息ができるという訳ではないので一度陸に上がらないとまずそうだった。

 

「(え?)」

 

そして、ヨーの姿が見えないと思い見回すと、いつの間にか現れていた巨大なオオグソクムシと戦っていた。どうやら、今回もまた二体同時だったらしく、こうなると助けは見込め無さそうだった。

だから、どうにかハグは一度空気を吸うために浮上するが、そんなハグの状態を察してか、シーラカンスは邪魔するためにハグを狙って来る。

ハグに向かって突進して来て、どうにか回避しようとするとその前にシーラカンスの真横からヨーが蹴りを入れて、進行方向を逸らす。そして、ハグの腕を掴むとそのまま陸に向かって一直線に泳ぐ。普段よりも圧倒的な速さで泳いだことで瞬く間に二人は陸に顔を出し、そのまま陸に上がった。

 

「けほっ、けほっ」

「大丈夫?」

 

だいぶギリギリだったことでせき込むと、そんなハグを心配そうに見ていた。ハグのピンチを察して、オオグソクムシを無視して助けたようだった。

 

「うん、ありがと。でも、どうしてそっちは平気そうなの?私と同じくらい水の中にいたのに」

「あー、それはこれのおかげみたい」

 

曜は全く息苦しくなさそうであり、そんな疑問を口にすると自身の衣装のヒラヒラを持ってそう言った。

 

「どういうこと?」

『ああ、その衣装は武器が無い代わりに水の中でも息ができて、魚みたいにすいすい泳げるようになるからね』

「なにそれ。私はどうしろと?」 

『じゃぁ、衣装チェンジだね』

 

今のハグの状態じゃ、戦闘は厳しくて困っているとルカは平然とそう言った。

 

「衣装チェンジ?」

『うん、二人のキュアフォンを重ねてみて』

「あっ、うん」

「わかった」

 

言われた通り二人はキュアフォンを出して背面同士を合わせてみる。すると、画面に恋アクの衣装が表示された。

 

『で、それを画面の文字を口にしてみて』

「うん。チェンジ、アクアリウム」

 

ルカに言われた通り画面に書かれた文字を口に出すと、ハグの衣装が輝き、瞬く間に恋アクの衣装に変わっていた。

 

「これで水の中でも戦えるの?」

『うん』

「もっと早くに教えておいてほしかったかも」

『あはは。使う機会はないと思ってたから。まさか、水の中で戦うことになるなんて。そうだ、イメージさえ強固なら、他の衣装にもなれるかもしれないから』

「そうなの?」

『まぁ、ぶっつけ本番でやるのはダメだよ。失敗したら隙を与えちゃうようなものだから』

「わかったよ、セイ君」

『とりあえず、これで二人とも水の中で十分戦えるはずだよ!』

「そっか。なら、そろそろ行こうか」

「そうだね。でも、どうして攻撃してこないんだろ?」

「さぁ?海の中に来るの待ってるんじゃない?」

 

とりあえず二人とも水の中で戦えるようになったことで海に飛び込む。陸に上がってから追撃が来なかったことは謎だが、いつまでも陸に居れば津波を起こす等々の攻撃が来るかもしれないため、放置するわけにもいかない。

海の中には二体ともいて、だいぶ海底近くにいたことで一気に潜水して接近する。水圧を一切感じず、息も苦しくなく、いつもよりも泳ぎやすくなっている事ですぐに二体のもとにたどり着く。

そして、ハグはシーラカンスに、ヨーはオオグソクムシにそれぞれ蹴りを食らわせる。しかし、両方とも硬い為やはりダメージは入らない。

結局格闘では二体ともどうにもならず、徒に体力を消耗していくだけだった。

ヨーと連携も考えるが、オオグソクムシの方にかかりっきりな状況。

そして、逡巡した隙を突いてシーラカンスが動く。今まで突進しかしてこなかったシーラカンスの目が赤く輝き、ハグはそれを見てしまった。

直後、ハグの視界が真っ暗になる。

 

「うわー!」

 

果南は暗闇が無理だから悲鳴を上げた。恋アク衣装のおかげで水を飲むことは無いが、恐怖心がハグを包み動けなくなり、そんなノーガードのハグにシーラカンスは突進をして吹き飛ばす。海底に激突する形で止まるも、未だに視界は真っ暗で動けなかった。

 

一方、曜の方も苦戦していた。最初の方はオオグソクムシが攻撃をほぼしなかったのだが、二回目の海に突入してからは、小さいグソクムシが数体現れてそれらが突進して、そのせいで大振りの攻撃をすることが出来ず、オオグソクムシにまともにダメージを与えられない状況になっていた。

グソクムシ自体は殴る蹴るで倒せるが、すぐにオオグソクムシから召喚されるため数が減ることは無い。

 

「(あっ、果南ちゃんが押されてる!)」

 

すると、視界の隅でハグが吹き飛ばされているのが目に入る。グソクムシ事態はそこまで移動が速くない為、逡巡すると即座に決める。

 

「お魚パーティ!」

 

水中でしか使えないという問題点で今まで一度も使ったことのない技を発動させる。

すると、曜の周囲にアジやらイワシなどの魚が現れ、オオグソクムシの周囲をグルグルしてかく乱する。この技はただ単にかく乱するだけの技で、使い道が限られていたが、今の状況ではもってこいだった。

その結果、隙ができてその間にハグのもとに駆けより、シーラカンスの突進より先にハグの腕を取ってギリギリのところで回避する。直後、魚たちがシーラカンスの周囲に集まりかく乱する。

 

「果南ちゃん!」

「曜?」

 

ハグのおでこに自分のおでこを当てて、骨の振動で会話をする。視界が真っ暗な状態の中でヨーの声が聞こえたことで、ハグの恐怖心が薄れる。

 

「落ち着いて。果南ちゃんは今、夜の淡島の山を登ってるってイメージして」

「夜の淡島?」

「そう。曇ってて星明かりが見えなくなってるだけ。それでもダメ?」

「……懐中電灯は?」

「電池切れ。そんな状態も一度くらいあったでしょ?その時どうしたの?」

「それは……あっ。うん、そうだよね。ありがと、曜。もう大丈夫」

 

ヨーに言われて考えた結果、その時どうしていたのか思い出した。それに、曜もそばにいるし、今自分がいる場所が何処かも思い出した。

だからこそ、恐怖心が無くなった。

 

「曜、シーラカンスは任せて」

「うん。オオグソクムシは任せてね。きっちり倒すから!」

 

二人はそう言っておでこを離すと、ヨーは一直線にオオグソクムシの元に戻る。

そして、シーラカンスは魚たちを振り払うとハグに向かって来る。対するハグは、力を抜いて水中を浮いていた。

シーラカンスの姿は未だに見えない。だから、シーラカンスは攻撃が当たると確信していた。

 

「そこ!」

 

しかし、突進に合わせてハグの回し蹴りが顎にヒットして、カウンターをもろにくらって吹っ飛ぶ。偶然かと思い、シーラカンスはもう一度突進するが、まるで見えているかのように右に回避し様に蹴りを食らわせた。その結果シーラカンスの目に蹴りが辺り、右目が壊れる。

 

「(動いた振動が、水の流れが、海が私に教えてくれる。真っ暗は怖いけど、海の中だから大丈夫)」

 

水の流れで位置を把握すると、一気に飛び出し、もう一撃加える。蹴りは左目に直撃して破壊し、その結果ハグの視界が晴れる。視界が良好になったことでハグは今までのお返しとばかりにシーラカンスの尾を掴むと、そのままオオグソクムシの方に投げ飛ばす。ヨーは飛んできたことに気付くと慌てて回避し、二体が激突する。

二体は激突の衝撃で動く気配はなく、二人はアイコンタクトをすると、一気に決めにかかる。

 

「「アクアウェーブ!」」

 

二人同時にそう言うと、一気に波が二体を包み二体は黒い粒子になって消えていったのだった。

 

 

~☆~

 

 

「ふぅ、今回もどうにかなったね」

『ギリギリだったけど』

「そうだね。っと、急いで戻らないと」

『あと十分くらいで授業始まっちゃうね』

 

陸に上がった二人は、とりあえず勝利を喜ぶも今は昼休みだということに気付いて慌てて戻る。

 

「屋上なら誰もいないはず!」

「うん、じゃぁ、屋上に着くまではこのままで」

 

時間が無いから変身を解かずに二人は木々を足場に跳躍して瞬く間に浦女に付いた。そして、ピョンとジャンプして屋上にたどり着いた。怪物騒ぎがあったからか、道中も校庭にも誰もいなかったおかげで想像以上に早くつけたのだが……

 

「え?今下から跳んできた?」

「あっ、よーちゃん、果南ちゃん、おかえりー」

 

屋上には何故か梨子と千歌がいたのだった。

 

「「え?」」

『『ありゃ?』』



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発覚?事の始まり

「えーと、私はキュアハグで」

「私はキュアヨーソローだよ?」

 

変身した状態のままなのに千歌が二人の名前を口にしたことでそう言った。変身している間は正体がばれないという話だったから、きっと聞き間違いだと二人は思った。

 

「キュア?そういえば、なんで二人とも衣装着てるの?」

「千歌ちゃん。屋上に跳んできたことはやっぱり二人が……」

「あっ、そっか」

 

しかし、聞き間違いではないようで梨子も二人だと分かっている雰囲気だった。

 

「ちょっと、ルカ。話と違うんだけど!」

『あはは。どうやら近しい人たちにはばれちゃうみたいだね』

「あっ、可愛いイルカだ」

 

ルカに文句を言うと、ルカも知らなかったようだった。ただ近しい人にはばれるという発言で果南は嫌な予感がしていた。

千歌は千歌でルカとセイに興味津々で手を伸ばしていた。

 

『おっと。そんな簡単に触らせないよ』

 

しかし、ルカはひらりと千歌の手を回避して見せた。何故回避したのかは謎だが、おそらくは嫌な予感がしたんだと果南は判断する。

二人はばれてるならいっかと変身を解除する。いきなり制服に戻ったことで二人は驚いた表情をしていた。

 

「わっ、一瞬で。魔法少女みたい」

「それで、二人はどうして?」

「まぁ、色々あって」

『ねぇ、授業はいいの?』

 

すると、唐突にセイがそう言った。スマホの時計を見ればもうすぐ授業の時間だった。

 

「急いで戻るよ!」

「ちょっ、色々って!?」

 

 

~☆~

 

 

『カクカクシカジカなことがあって、二人にお願いしたんだ』

 

放課後。判明したこととして、やっぱりダイヤと鞠莉にはばれていた。あの時は気づかないふりをした方がいい気がしたから特に言わなかったらしかった。言えば恥ずかしがりそうだし、雰囲気的に気にしたらダメな気がしたからとのこと。さらに言えばルビィ、花丸の二人も鉢合わせた際に気付いていたとのこと。

プリキュアになった経緯とかを話していいものかと悩むも、ルカは普通に話してしまった。こういうことは秘密にするものだと思っていた果南と曜はそれでいいのかと首を傾げる。でも、セイが止めなかったということは別に問題ないということだと思う事にした。

善子はみんなと違い変身した姿を見ていないが、一応巻き込まれてしまった訳だしという事、部室にいたからという事でちゃっかり聞いていた。

 

「へー、そんなことが。チカもやる!」

『気持ちはうれしいけど、僕たちは力を一人にしかあげられないから無理かな?』

『それに、こっちに来てるのは僕たちだけだから』

「そっかー。一緒に戦いたかったなぁ。ね、梨子ちゃん」

「私は戦いとか無理だから……」

「マルもちょっと……」

「そう?マリーはやりたかったわ。変身したらキュアシャイニーに決まりね」

「あれ?似た名前のが本家にいたような?」

 

千歌と鞠莉は興味津々だが、梨子と花丸はプリキュアにはなりたく無さそうな反応だった。しかし、それ以上にみんな普通にこの話を受け入れていたことに対して驚きだった。

 

「鞠莉ちゃん、変身は無理だから諦めよ」

「OKよ。二人にそれは任せるわ。それにしても、ダークうちっちーに空間の穴ねー」

「信じられませんけど、実際怪物も出て来てますからね。空間の穴なんてどこにあるんでしょうか?」

『さぁ?残念ながら未だに見つからないんだよね。果南ちゃんたちが授業受けてる間探し回ってるんだけど』

「あっ、だからよく居なくなってたんだ」

 

未だに見つからない空間の穴。どこにあるかもわからず、そろそろ見つかってもいい頃だと思っていた。しかし、そんな予想とは裏腹に見つかる気配はない。

 

「そういうのって普通どこにあるんだろ?」

「本とかだと石碑とか神社とか歴史のある場所に多いイメージだけど。あと、トンネルを通ったら別世界ってパターンも」

『淡島神社も弁天島にも行ったけど無かったよ。そもそも、近くに行けばそういう気配があるって聞いてたんだけど……』

「うーん、善子はどう?」

「えっ!?なんで私?」

「いや、善子よく儀式してるから、間違えて繋げちゃったみたいな」

「流石にそんなことないでしょ?」

「そうだよね。善子ちゃんの儀式はいつもうまくいかないもんね」

 

何故か善子の儀式が原因なのではという話になる。実際、よく善子は儀式をやってたこともあったから。まぁ、誰も善子が原因だとは思っておらず、なんとなく言っただけなのだが。

 

「何か気付いたことがあったら報告することにして、そろそろ練習を始めましょうか」

「そうね。私たちで探し回るのも手だけど、二人が探し回って見つからないとなるとすぐに見つけるのは無理だろうし」

 

結局、これ以上話していても時間が過ぎていくだけなので、練習を始めることになった。そもそも、空間の穴がどういうモノなのかはここにいるメンバーはおろか、ルカとセイも知らないらしかった。近づけばなんとなくわかるらしいが。

 

『みんなはそうしてて。じゃ、僕たちは探しに行って来るね』

『敵が来るか見つかったら戻って来るから』

「……」

『果南ちゃん?』

 

ルカとセイはそう言って出ようとするが、果南が何か考えているのか反応が無く、みんなもそれに気付き果南を見る。

果南の中で何かを決心すると、「よし!」と呟き、果南は善子を見る。

 

「ねぇ、善子ちゃん。空間の穴の場所、知ってるんじゃないの?」

 

 

~☆~

 

 

「次の衣装どうしよっか?決勝大会で歌う曲となると、今までで一番のモノにしたいけど」

「曲ができないことには作れなく無い?」

「でも、なんとなく案は考えておかないと間に合わなくなりそうだよね」

 

練習終わり、果南と曜と善子は次の衣装の話をしながら歩いていた。

すでに淡島のバス停を越えているが、果南は駅の方まで行く用があるからそのまま乗っていた。

世界の危機とかあるけど、果南たちはそもそも学生であり、スクールアイドルだからこっちも忘れてはいけない。そっちも大事なこと。

 

「千歌達からは何も聞いてないの?」

「うん。まだ歌詞のイメージができないって。曲調もだけど、歌詞の方がね」

「そう」

「千歌も今までで一番の、今までの私を詰め込みたいって言ってたけど」

 

歌詞のイメージはそんな感じでまだなようで、曜も果南もできればそうしたいと思っていた。

そんな二人に、善子はどうしたものかと悩む。自分には衣装案の段階ではあまり手伝えることは無さそうだし、できても自分の趣味に影響してしまいそうだから。

 

「まぁ、まずは目先の事からだよね」

「そうだね」

「はぁー。一人でどうにかしようと思ってたのに……」

「こういう時くらいは頼ってよ」

 

三人は善子の住むマンションの前にやって来た。

善子はあまり乗り気ではなく、できれば果南たちを巻き込みたくなかったような表情をしていた。

 

【なるほど。やはりここにあったか】

「ありゃ?つけられてたか」

 

すると、上空にダークうちっちーが浮いていて、そう言った。果南はダークうちっちーを見るや、困った表情をして呟く。

道を歩いていた人たちは、浮いているダークうちっちーを見て足を止める。しかし、何かのパフォーマンスだと思っている様子だった。

 

「最初の時以降見ないと思ってたけど、やっぱりそろそろ来ちゃうんだね」

【随分余裕そうだな。だが、その余裕もすぐに無くしてやろう】

「別に余裕ではないけどね」

【まぁ、いい。余裕だろうとここで倒すまでだ】

 

ダークうちっちーがそう言って両腕を開くと、そこから黒い玉が一つ現れて、その玉を自身の身体に埋め込む。するとたちまち巨大化して三メートルほどの巨体の真っ黒いセイウチに姿を変えて地面に降りたつ。着地の際に、地面にクレータができ、

ようやくパフォーマンスの類でないことに気付くと、皆大慌てで逃げ始める。

 

「最終決戦って感じかな?」

『うん。お兄ちゃんをもうすぐ助けられる』

「そうだね。善子ちゃんは安全な場所に逃げてて」

「わかったわ」

『二人ともこれで最後にするよ!』

 

あの巨体が暴れれば周囲に被害が及ぶ恐れがあり、早くなんとかしようと心に決めると、善子にそう言って二人はキュアフォンを取り出す。

 

「プリキュア、スタートアップ!」

「プリキュア、スタートアップ、トレイン!」

 

善子が何故かマンションに駆けていったが、とりあえず屋内なら大丈夫だろうと判断すると、二人は変身する。

果南はいつも通りHPTの衣装なのだが、今回は曜もHPTの衣装に変身していた。

昼の戦いから今までの間に、ルカとセイに色々聞いていた。その一つが、衣装選択だった。変身前にHPTと恋アクのどちらかが選択できるようになっていて、ここは陸だったから、曜はこっちを選んだ。

 

「本当にこっちの衣装になれた!」

『信じてなかったの?』

「まぁよくわからなかったし」

「来るよ!」

 

そうこうしているうちに、セイウチが突進して来て、二人はアイコンタクトをすると、左右に分かれて跳んで回避する。

セイウチは勢いで止まり切れずに建物に突っ込む。しかし、全くダメージが無かったのか顔を出すと二人の方を向く。

今回も手ごわそうだと感じながらも地を蹴って接近し、同時に蹴る。

セイウチはそれを身体で受け止める。いつもなら吹き飛ぶが、その場で耐えきり、そのまま体を回転させて尾で打ち払う。二人は尾によって吹き飛ばされ地面に転がる。

 

「うわー、今回はけっこう大変そうかも」

「だね。そうとうタフみたいだし」

 

二人同時攻撃なのに吹き飛ぶどころか、カウンターまで貰ったことで今回は今までとはわけが違うのだと感じる。

 

【凍てつけ!】

 

セイウチが吠えると、セイウチの周囲が凍り始め、瞬く間に地面が凍結してスケートリンクのようになり、そんな地面を滑るように動いて突進してくる。

さっきよりもスピードが速く、二人は回避しようとするも、慣れない足場によって足を滑らせ若干宙を浮き、そのまま突進によって吹き飛ばされる。

もし転倒して地面に倒れていたら潰されていただけに不幸中の幸いだった。回避に失敗しているだけに、結局不幸ではあるのだが。

その後もなれない足場に苦戦して、押され気味になる。

 

「あー、もう!」

 

ハグはこうも一方的な状況に苛立ちの声上げると、ホイッスルを取り出す。

 

「何する気?」

「離れてて」

【くらうがいい!】

 

ハグが何する気なのかわからず、ヨーは聞くも短くそう言うと、セイウチは大きく息を吸い、ハグもホイッスルを咥える。

 

【ガァ!】

ピー!ドゴォ

 

ヨーがハグから離れると同時に、セイウチは冷気の息吹を、ハグのホイッスルからはいつもと違い、一点収束の音の波が放たれる。音の波は地面を抉りながら突き進み、両者の攻撃が激突すると拮抗する。拮抗したのも一瞬で、音の波が息吹を押してセイウチの身体にぶつかる。セイウチは踏ん張って耐えようとするも、足場が凍っている事で踏ん張れず押されて川に落下する。

 

「ヨー、行くよ!」

「うん」

「「チェンジ、アクアリウム!」」

 

二人は追撃すべく川に飛び込むと、HPT衣装から恋アク衣装にチェンジする。

川を猛スピード泳いで突進するセイウチに二人も猛スピードで泳いで回避しつつ側面から攻撃していく。しかし、皮膚が厚いせいかダメージがあまり通らず、いまいち決め手に欠ける。

いつもと違って今回は浄化だから隙さえあればいいのだが、動きが速すぎてどうにもならない。

 

【凍てつけ!】

「やばっ!」

「ちょっ!」

 

すると、セイウチがいきなり声をあげ、二人は慌ててジャンプして川から出る。直後セイウチの周囲から凍結して瞬く間に見える範囲の水が氷となった。

 

「危なかった」

「そうだね。川にあのままいたら氷漬けになってたかも」

 

二人は頬に汗を浮かべて呟くと、一点が割れてセイウチが飛び出す。正直なところ氷の上は慣れないから戦うのは厳しい。

 

「はぁ、空でも飛ぶか、この氷に慣れるかしないと厳しいよね」

「あっ、それいいかも」

『ハグ、何する気?』

 

ヨーがなんとなしに呟いたことでハグは一つこの状況の打破方法を思いつく。しかし、上手くいく保証が無い。

でも、それ以外思いつかず、考えるよりも行動に移すことにする。そんなハグにルカは問うも、それに答えるよりも先にハグが動く。

 

「一か八か。チェンジ、アゼリアエンジェル!」

 

ハグが目を瞑って衣装を頭に浮かべ、はっきりとしたタイミングでそう言うと、衣装が輝き桃色の衣装に白い羽が生え、AZALEAの衣装に変化する。

 

「よし、上手くいった!」

『わー、本当にイメージで変身しちゃった』

「行くよ!」

 

ハグは背中の羽を羽ばたかせると、ハグは空を飛び、真上から急降下して蹴りをくらわせる。落下した勢いも合わさりセイウチの身体に若干食い込む。しかし、それ以上は進まず弾かれる。

 

「なるほど!ヨーソロード!」

 

ヨーは感心すると共に、蹴りによってその場に釘付けになっているセイウチに向かって光の道を放つ。光の道は一直線にセイウチにぶつかり、動きを拘束する。

 

【なに!】

「これで終わりだよ!ハーグ」

【ぐぉー】

 

動けなくなったセイウチに果南がハグすると、セイウチは叫びをあげ、身体から黒い粒子が噴き出しサイズが小さくなっていく。

そして、普通サイズのセイウチに姿が変わった。意識が無いのか目を瞑っているが、息をしていることからただ眠っているだけのようだった。

 

「やったね!」

「うん。これで終わったんだよね?」

『うん。無事お兄ちゃんは元に戻った』

「え?セイはうちっちーなのにこっちは普通のセイウチなの?」

『セイは今そういう姿になってるだけで、本来は普通のセイウチの姿だよ?』

「あっ、そうだったんだ」

「そうだよ。私が助けた時もそうだったし」

『僕だって今はこんな姿だけど、最初は違ったでしょ?』

 

ルカに言われて果南はそう言えばルカも最初にあった時は普通の子イルカだったことを思い出した。

それから“アクアウェーブ”を使って壊れた建物を修復すると、二人は変身を解除してから、本来ここに来た目的を果たすことにする。

その為に善子に連絡を取るも、何故か善子と連絡が繋がらなかった。

 

「あれ?繋がらない?」

「うーん。避難して気づいてないのかな?」

「さぁ?でもマンションに入って行ったし、とりあえず行ってみようか」

「そうだね」

 

と言う訳で、善子のマンションに向かう二人。なんだかんだで津島家の使っている部屋の前に着くとインターフォンを鳴らす。しかし、やはり反応は無かった。

 

「あれ?鍵開いてる?」

 

ドアに手をかけると鍵はしまっておらず、ドアが開いてしまう。勝手に入るのはまずいと思うも、善子を探すためと割り切って中に入る。

すると、ある部屋の前で善子が倒れていた。

 

「善子ちゃん!?」

「どうしたの!?」

「うぅ」

 

二人は慌てて善子に駆け寄る。

善子は息があり、目を開く。

 

「果南、曜。ごめん、向こうに行かれちゃった」

「ん?」

「えっと、どういうこと?」

 

善子は罰が悪そうにそう言うが、二人はピンと来なかった。

そもそも沼津まで来た目的は、空間の穴が善子の部屋(物置と化してて生放送で使っている部屋)にあり、それをどうにかすることだった。

 

放課後に果南が聞いたことで善子は諦めて全てを話した。

果南がプリキュアになった数日前に善子はいつも通り儀式をしたら偶然成功してこの世界とは違う世界に繋がる空間の穴を開いてしまった。その時は成功したことに喜んだが、すぐにその世界は危険だと気づき空間の穴を閉じた。しかし、結果から言えば厄介事をこの世界に呼び込んでしまっただけだった。

閉じたはずの空間の穴だったが、一度開いてしまったものを完全に閉じることが出来ず、果南がプリキュアになった前日に自然に開いてしまった。

そして、半日の時間善子の身体で慣らしてダークうちっちーに完全に操られた。プリキュアに変身した果南に助けられた夜、善子は完全に空間の穴を閉じるために部屋を封印して時間をかけて確実に且つ完全に空間の穴を閉じることにした。

善子は今回の件は、自分の責任だから自分一人でなんとかしようとしていた。だから、誰にも言わずにいたのだが、それを知った果南と曜は一人で抱え込まずに一緒にやろうと言って今に至る。

あの時はダークうちっちーがまだだったから空間の穴を消すことができなかったけど、とりあえず確認をしようということで二人が来たのだが、まさかのダークうちっちーを浄化できたからこれで終わりになる物だと思っていた。

 

「部屋で封印を強化してたらいきなり黒いモヤモヤしたのが現れて、封印を破って空間の穴の中に入って行っちゃったの。たぶん、ウッチーだっけ?が闇落ちした原因があれだと思う」

「嘘。まだ終わってなかったの?というか、魔法界に行ったってことは向こうが大変なことになってるんじゃ?」

 

しかし、そう簡単には終わらないようで、まだまだ続きそうだった。

 

『まず間違いなく何かが起きちゃう。ウッチーみたいに操られちゃうかも』

「じゃぁ、追いかけないと」

『ダメだよ。こっちの世界の人間は向こうにはいけない。空間の穴を通ったらどんな弊害があるかわからないの。僕たちは魔法で保護してこっちに来たけど、魔法の使えない二人は……』

「そんな……でも、それじゃルカ君とセイ君の世界が」

 

二人は向こうに行きたいが行けばどうなるかわからない現状に歯噛みする。ここまで来たのに、このままでは最後の最後で敵の勝ちで終わってしまう。

 

『今までありがとう。僕たちの世界の問題だから、後は僕たちがやるよ』

「そんなのないよ。確かに一週間くらいの付き合いだけど、一緒にやってきたんだよ?だったら最後までやり遂げたい!」

『気持ちはうれしいけど、空間の穴に入ってどうなるかわからないという危険は冒させられないよ』

 

互いに平行線な状態が続く。本来ならこんなことしている暇はないのだが、大事なことだからこそはっきりさせないといけなかった。

すると、おそるおそる善子が口を開く。

 

「ねぇ、変身した状態じゃダメなの?あの状態ならいける的なご都合主義はないの?」



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登場!キュアリリー

「ねぇ、変身した状態じゃダメなの?あの状態ならいける的なご都合主義はないの?」

『『あっ……』』

「もしかして……」

『その手があった』

「えー」

 

善子の疑問を聞いたルカとセイは間の抜けた声を漏らし、その考えに至らなかったことに対して変な空気になる。

 

「じゃぁ、私たち行けるってこと?」

『うん、それならいけるよ』

『でも、危険があるよ?』

「わかってる。それでも行くよ」

『わかった。なら変身だよ!』

 

確認の意味を込めて聞くと、やっぱり行けるようだった。これで魔法界を救いに行くことが可能になった。ルカたちが心配するも、果南も曜も行かない理由が無かった。そもそも、自分たちにできることがあるなら、それをしたいから。

二人の意思を受け取ると、そう言い、二人はキュアフォンを手に取る。

 

「「プリキュア、スタートアップ!」」

 

そして、二人はキュアフォンで本日三回目の変身をする。

果南はHPT、曜は恋アクの衣装を纏っていた。

 

『お兄ちゃんはこの通りだから、善子ちゃんお願い』

「わかったわ。みんな気を付けてね」

「うん、行って来るね」

「行ってきます」

 

向こうがどうなっているのかわからない状態であり、眠った状態のウッチーを連れていくわけにもいかないから善子に預けると、ハグとヨーは空間の穴に飛び込む。

 

「私にもできることはまだあるはず!」

 

そして、善子はウッチーをベッドに寝かせると自分にできることを探し始めるのだった。

 

 

~☆~

 

 

「たどり着けた?」

「うん。そうみたい」

 

空間の穴から出ると、そこは青々とした海に空を浮く島という光景が広がっていた。島が空を浮いている辺りからいって、魔法界だということは一目で分かった。

 

『二人とも急ぐよ』

「どこ行けばいいの?」

『闇の気配が向こうからするよ!』

「わかった」

 

ルカがヒレで浮く島の一つを指した。果南たちがいる場所よりも上空で、跳躍して行ける距離じゃなかった。

アゼリアなら飛んで行けると果南が考えると、曜も同じことを考える。

 

「「チェンジ、アゼリアエンジェル!」」

「……あれ?」

 

二人はAZALEAの衣装を頭に浮かべて発生すると、果南はAZALEAの衣装を纏えたが、曜は何の変化も無く恋アクのままだった。

 

「うーん、曜はAZALEAじゃないからダメってことかな?」

「そうみたい。そうなると私はCYaRon!の衣装を纏えることになるけど、飛べる気がしないよ」

 

一つはアイドル衣装、もう一つは海賊。どちらにしろ飛べるイメージは皆無であり、だから曜が飛ぶことはできなさそうだった。なら果南が運ぶという手もあるが、それだと不測の事態が起きた際に対応ができなくなる恐れがあった。

 

『あそこまで行くのは大変だから、二人とも僕たちに乗って』

『僕たちが連れて行くね』

 

すると、ルカとセイがポンッとコミカルな煙と共に子イルカとセイウチの姿になる。

二人はそう言ってくれたので、その言葉に甘えてそれぞれ背に乗ると目的の島へと進みだす。魔法界だからか宙を泳ぐようにして進み、瞬く間に目的の島にたどり着く。

しかし、その島の惨状は悲惨な物だった。

 

「何これ……」

「ひどい……」

 

そこにはミノタウロスとオオグソクムシがおり、そこにあったであろう集落は壊滅していた。このままなら二体は別の場所でまた暴れる恐れがあり、二人は二体を倒すために背から降りて島に上陸する。

 

「行くよ!」

「了解!」

 

同時に地を蹴ると、ハグはミノタウロスに、ヨーはオオグソクムシに向かって攻撃する。どっちも戦ったことがあるから攻撃方法はわかっており、善子が見たという黒いモヤを探さなくてはいけないから早急に倒す必要があった。

ハグはミノタウロスの角を掴むとそのまま空を飛んで持ち上げ高高度から力任せに下に叩き付けるように投げ、そのままダイブキックの要領で地面に叩き付けられたミノタウロスに一撃を入れる。ミノタウロスは苦悶の表情をする。

ヨーはオオグソクムシの身体と地面の間の隙間に足を入れてそのまま蹴り上げ、比較的硬度が低い足がある部分を見えるようにして攻撃する。

 

「ハーグ」

「全速前進、ヨーソロー!」

 

ハグは倒れたミノタウロスにハグをして浄化し、ヨーは突進をして倒した。あっさり倒せたことで安堵するも二人とも感じていた。

 

「前よりも弱くなってるよね?」

「だね。でも、初見だと厄介だから対抗できなかったんだろうね」

 

それでも、この世界の人たちなら苦戦していたと思った。だから、集落が壊滅したのだと。すると、空から黒いモヤモヤしたものが降り立ってきて、島の地面に足が付くと人のような形になる。しかし、その背には右半分が白、左半分が黒の翼が生えていた。

 

「なにあれ……」

「さぁ?堕天使?」

【なるほど。戻ってこないと思えばおまえたちが邪魔をしていた訳か】

「誰?」

【ふっ、我が名は魔王ルシファー。地獄を統べる王にして、全ての世界を侵略する者だ】

「うわー。変なの出てきた」

「はぁー。怪物の中に善子ちゃんの好きそうな名前のもいたけど、まさかウッチーを闇落ちさせてた原因が魔王とはね」

【我が手を下すのも一興だが、それではつまらんな。行け、我が(しもべ)たち!】

 

ルシファーがそう言って六翼の翼をはためかせると、いくつもの羽が飛び散り、瞬く間に巨大化して真っ黒い狼や牛などの動物になる。その数はざっと二、三十体はいた。それらはハグたちを囲むような形でいつ襲ってきてもおかしくなかった。

 

【では、我はこの世界を統べる者と逢いまみえるとしよう】

「待て!……くっ」

 

ルシファーはそう言うと、何処かに飛び去ろうとし、追いかけようとするも怪物たちが邪魔をし、ルシファーはハグたちに構わず行ってしまう。

 

「急いで追わないと!」

「でも、こいつらが邪魔で追いかけられないよ」

『こうなったらパパッと倒して追いかけよう!』

『それしかないよね。よし!僕たちも戦うよ』

「え?戦えるの?」

『戦いなんてからっきしだよ。でも、動物たちぐらいなら……たぶん』

「そこは自信持ってよ!」

 

自信なさげのルカにハグが突っ込むと、そのツッコミが何故か動物と怪物たちの開戦の狼煙になったのか飛び出してくる。

 

「ルカ!」

「セイ君!」

『『うん!』』

 

ハグとヨーは襲いかかってきた敵を見るや二人の名前を呼び、それだけで考えていることが分かったのかセイはヨーのそばに寄り、直後にヨーが背に乗せる。ルカは背に乗っている隙に攻撃を仕掛けてくる狼に向かって口を開くと口から音波が放たれ狼が吹き飛ぶ。その隣でハグが羽を羽ばたかせ、ハグたちは急上昇する

流石にあの数を同時に相手取るのは厳しいから、一度距離を取って作戦を練る。

 

「あの数を四人で相手にするのは無理だよね」

「流石にね。そうなると、やっぱり複数体同時に攻撃するのが一番だけど」

「動物なら火に怯えるだろうけど……」

「それだ!未熟DREAMERで花火を使ったから」

「そういうことね。なら、イメージをするよ!」

 

ハグがなんとなしに言った言葉でヨーが何か思いついたのか声をあげ、ハグもそれならと同意をするとルカの背にハグが乗り、二人は目を瞑って衣装をイメージする。

 

「「チェンジ、未熟DREAMER!」」

 

衣装がはっきりとすると二人同時に叫んだ。すると、二人の衣装が未熟DREAMERの衣装に変化する。

ハグがAZALEAの衣装を纏うことができたからもしかしたら他の衣装を纏える気がしてやってみた結果できてしまった。

 

「行くよ!」

「うん」

「「たーまやー!」」

 

二人は手を動物たちにかざすと、手から火の球――というか花火が放たれ、地面に着弾すると爆発して周囲に炎が飛ぶ。結果、動物たちはどんどん焼かれて行き、瞬く間に全滅させることができた。

 

「「やった!」」

『すごい。自分たちが作って踊ってきた衣装だから、こうも簡単に次々と変身できるなんて』

『でも、目を瞑ってイメージをしてる間は無防備だからまだ危ないかも』

「感心してないで、追いかけないと!」

『あっ、そうだった』

 

今は急がないといけないのに、何故か感心してしまっている二人に言うと、それで気付いたのかそんな反応をした。そして、行き先が分かっているのか猛スピードで空を泳ぎ出す。

振り落とされないようにしっかり捕まって進むこと数分。

 

【もう追いついてきたか。流石に低級では足止めにもならんか】

 

別の島にルシファーがおり、ルシファーの足元にはエビやカニが倒れていた。

 

『そんな。王国兵がこうも簡単に倒されちゃうなんて』

【この程度の奴らでは我は止められんよ】

「そっか。なら私たちが止める」

【おまえらにできるかな?】

「できるかどうかじゃないよ。止めてみせる!」

「そういう事。二対一だけど卑怯とか言わないでねッ!」

 

ルカ達から降りると、ハグはそう言うや否や地を蹴ってルシファーに接近し、回し蹴りをする。ルシファーはそれを片手でいとも簡単に掴んで止めると、背後からヨーが蹴りを放つ。しかし、それすらももう一方の手で掴み、二人をそのまま投げ飛ばす。

 

「うわっ!っと」

「よっと!」

 

二人は空中で体勢を整えて地面に着地をする。

ルシファーが今まで戦ってきたの敵とは格が違うことを感じるも、二人とも一切諦める気も出てこなかった。今の攻撃はあいさつ代わりの一撃だったから防がれるのはわかっていたし、魔王の時点で格が違うのはわかっていた。

そして、二人が攻撃したその一瞬で、倒れていた王国兵は全員ルカとセイが回収して遠くに運んでいた。

 

「よし、これで心おきなくやれる」

【ほう。なら我を楽しませてくれよ】

「楽しませてなんてあげないよ!たーまやー」

 

ヨーがルシファーに手を向けるとそのまま花火を放つ。打撃がダメなら遠距離攻撃をするだけの事。これは範囲が広かったから、王国兵を退避させる必要があったが、退避が完了した以上は出し惜しむ必要も無い。

花火は一直線に飛ぶも、ルシファーが翼を羽ばたかせただけで消えてしまった。

 

「嘘……」

【脆い技だな。炎はこうやるものだ!】

 

ルシファーはお返しとばかりに腕から炎の弾を放つ。それはヨーの放った花火よりも速く、二人はギリギリで回避するのが精一杯だった。そして、回避した炎の弾が地面に当たると、島を揺らして穴を開けていた。

もし当たっていたら一発でアウトな気がして二人の頬に汗がつたう。しかし、そんなことお構いなしにルシファーは炎の弾を乱射する。

それらを寸での所で回避し続けると、途中でルシファーが弾を放つのを辞める。

花火が聞かなかった以上、この衣装のままだと埒があかないので、格闘能力が上がりそうな衣装を考える。

 

「MIRACLE WAVEの衣装で行くよ」

「わかった!」

 

ハグにそう言って、ヨーは目を閉じる。流石に二人同時に衣装を変えるのをルシファーが許すとも思えなかったから、衣装チェンジするのはヨー一人だけ。

 

【ほう、戦い中に目を瞑るか】

「私がその間は相手してあげるよ。チェンジ、トレイン」

 

隙ができているヨーを護るようにヨーの前にハグが立つと瞬時にHPT衣装に変わる。HPTと恋アクは二人のそれぞれの初期装備だからか他の衣装のようにイメージしなくても変えることができる。

ハグはルシファーに接近すると、蹴りを放つ。ルシファーはまた同じことをしてきたことで、ハグの足を掴む。

 

【同じことをするとは呆れたぞ】

ピー!

 

しかし、蹴りを入れた時にはすでにハグはホイッスルを咥えていて、至近距離から音の波を放つ。音の波はルシファーの身体に直撃するも、どうやらあまり効いていないようで、そのまま投げ飛ばされる。

 

「ありゃ、やっぱり収束させないとダメか」

【ふっ!】

「ほっ!」

「チェンジ、MIRACLE WAVE!」

 

ルシファーのパンチをまともに受けるのは危険な気がして受け流していると、ヨーのイメージが固まったのか衣装がピンク色のチアリーダーのような――MIRACLE WAVEの衣装に変化する。

衣装が変わった直後、ヨーは目を開けると地を強く踏みしめてルシファー一直線に突っ込み、ルシファーの目の前に止まるとその勢いを乗せてパンチを放つ。その一撃をルシファーが手で受け止めると、勢いを止めきれずルシファーの身体が少し押された。

 

【ほう。我が押されるとはな。では、我も少し力を出すとしよう】

「え?がッ!」

「うわっ!嘘!」

 

ルシファーがそう言うと、ヨーの手を握りそのまま上に持ち上げて地面に叩き付け、再び持ち上げるとハグに向けて投げつける。どうにか受け止めようとするもすごい勢いでそのままハグごと吹き飛ぶ。

二人は地面に倒れると、ルシファーは追撃とばかりに炎の弾を放つ。二人は回避しきれずもろにくらうと爆炎に包まれ、炎が風で流されると、そこには変身が解けた二人が倒れていた。二人はどうして変身が解けたのかわからず、もう一度変身しようとキュアフォンを取り出す。しかし、画面が映ることは無かった。

 

「え?どうして?」

「嘘……キュアフォンが壊れた?」

【ふっ。少し本気を出しただけで終わってしまったか。まぁいい】

「そんな」

「こんなに差があるなんて……」

【今のおまえたちならこれで十分だな】

 

二人ともボロボロで、動くことも変身することもままならず、ルシファーはそんな二人に対して翼をはためかせて、羽を二つ飛ばす。

すると、二つの羽が一つに集まって巨大なカラス――ヤタガラスが現れる。

ルシファーはヤタガラスに後を任せると、空を飛んで去って行く。

大きなダメージのせいで動けない二人にヤタガラスは翼をはためかせるとそのまま突進をし、二人が倒れていた場所に突っ込み繋煙が舞う。

 

「ゲホッ、ゲホッ」

「ありがと、二人とも」

『良かったよ、間に合って』

 

ヤタガラスが二人に届く直前に、ルカとセイが飛び込んできて、二人の服の襟を加えてギリギリ事なきを得ていた。

 

『それよりも追いかけてきてる!』

 

しかし、ヤタガラスは仕留めそこなったことに気付くと、羽ばたいて追いかけてくる。動物な二人と怪物であるヤタガラスの間では能力差は歴然で、距離がどんどん詰まっていく。

そして、ヤタガラスに突っ込まれてその羽に轢かれて果南たちは墜落する。運よく浮島の上にいたことで落下死はしなかったが、先ほどの戦いの影響で、動くのもままならずこのままではヤタガラスにやられてしまいそうだった。

ヤタガラスは動けない果南に標的を定めると一直線に突っ込み、

 

「きゃぁ!」

 

空から降ってきた少女に運悪く(果南たちからすれば運よく)頭を踏まれてヤタガラスが浮島の地面に墜落した。

 

「いたた。まさか、空から降ってくることになるなんて」

「「え?」」

「あっ、果南ちゃん!曜ちゃん!」

 

空から降ってきた少女は腰をさすりながら体を起こし、二人はその少女の声と顔に驚いた。

空から降って来たのは梨子であり、何故かピアノコンクールで着ていたというドレスを身に纏っていた。梨子は果南たちに気付くと、途端に明るい表情になる

しかし、絶賛下敷きになっているヤタガラスが顔を上げると、梨子はコロンと地面に転がった。

 

「って、なんで敵がいて二人は変身してないの?」

「いやー。色々あって壊されちゃって変身できなくなって。というか、なんで梨子ちゃんのその恰好は何?」

「それこそ色々あったんだよ。でも、話は後だよね?今はどうにかしないと。あと、これが私の初期衣装みたい。変身中はキュアリリーなんだって」

「なんで人伝なの?」

 

果南が首を傾げると、ヤタガラスが突っ込んできて、リリー(以降変身中はリリー)は二人の服の襟を掴むと上に投げ、リリー自身も回避する。

宙を舞っている二人をルカ達が空中キャッチすると、リリーは地面に突っ込んだヤタガラスにパンチをする。

しかし、インドア派の梨子はそこまで威力が出ていないのかあまり効いていなかった。

 

「うーん。やっぱり私は戦い向いてないよー」

「がんばって、リリーちゃん!今私たち戦えないから」

「そうそう」

「はぁ、仕方ない」

 

リリーは小さく嘆息すると、何も無い空気中に両手を上げ、いきなり空気を叩くように指を動かす。すると、ピアノの旋律が響き始め、その演奏はどこか攻撃的で、奏でられる音の波が連続して発生してヤタガラスを襲う。ホイッスルが大きな一波に対して、小さな波が連続して襲う為そこまで硬くないヤタガラスには大ダメージとなっていく。

 

「これで終わり!」

 

リリーはそう言って最後に思いっきり叩くとその音を受けてヤタガラスが消滅したのだった。

リリーはヤタガラスを倒せたことに安堵すると、続いて演奏がゆったりしたものになり、その音色が果南たちを包む。すると、身体の節々にあった痛みが和らいでいき、数分するとだいぶ動けるくらいに回復していた。

それでようやく変身を解除し、梨子は一息ついた。

 

「梨子ちゃん、今のは?それにどうやってここに?」

「今のは癒す音色だよ。私のあの衣装はどっちかと言えばサポート系みたいで能力強化や回復させるのが能力みたいで」

「あれ?でも、倒してたよね?」

「うん。一応攻撃もあるけど、さっきのは弱い部類だったんだと思う。そうじゃなかったら倒せなかったと思うから」

 

今起きていたことはそういうことだったみたいだった。しかし、まだ梨子がここに来れたわけが聞けていなかった。可能性としてはウッチーが起きて、梨子に変身能力が与えられた可能性もあるが。

 

「ウッチーから力を貰ったの?」

『いや、それならお兄ちゃんがいるはずだよ』

「あー、それには訳があって私が先行して降りて来ちゃって」




という訳で梨子ちゃんがなっちゃいました。
まぁ、感想の返信でなんとなく察している方もいたかもですが。
では、ノシ


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絶望!失われた力

果南たちが空間に入って少しした頃。沼津駅近くで化け物が出たという噂が内浦の方にまで届き、皆心配して善子の家に来ていた。

そして、ウッチーを闇落ちさせていた原因が魔法界に行ったこと、魔法界を救うために果南たちが追いかけて魔法界に行ったことが伝えられた。

 

「じゃぁ、私たちにできることは無いの?」

「ええ。私たちが空間の穴に入れば、私たち自身に何が起こるかわからないって。せめて果南たちみたいに変身でもできれば……」

「でも、ルカ君達みたいな子はもうこっちの世界にはいないんでしょ?」

「ええ。正確にはそこで寝ているウッチーがいるけど」

 

善子はベッドに寝かせているウッチーを見て言うが、残念ながら起きる気配はなく、たたき起こすわけにもいかないから、果南たちのもとに行く術が無かった。仮に起きたとしても行けるのは一人だけ。

だから、果南たちに任せるしかなく、このままでは何もできずにただただ時間が流れていくだけだった。

 

『んー』

 

すると、ウッチーが目を覚ます。ウッチーは周囲を見回すと七人を視界に入れる。

 

『ここは?』

「私の家よ。操られていたあなたが解放されたのはいいんだけど眠ってたから」

『なるほど、それは迷惑をかけたな』

「あれ?操られていたのに記憶はあるの?」

『ああ、一応な。それに眠りながらも君たちの会話は聞こえていた。だから、私は早急に戻らなくては』

「ちょっと待って。だったら私たちも連れて行って。向こうにいる二人の力になりたいの」

『そうか。良かろう、ついて来るがいい』

「え?意外とあっさり?でも、変身してないと危ないんじゃ?」

 

あっさり承諾したことで、七人はルカの話と違うことに首を傾げる。変身していない状態で入ったら危険だと聞いていたのに、まるでそれは問題ないかのような様子だった。

 

『そんなモノ、結界を張れば問題無い』

「「「「「「「え?」」」」」」」

 

 

~☆~

 

 

「てことがあって。空間の移動中にプリキュアになる人を決めることになって、ウッチーはその人の潜在能力が見れるとかで私が選ばれて。私は反対したんだけど、皆それで納得しちゃって……。みんなは結界でゆっくり移動してるから結界内にいる必要のない私が先に行くことになっちゃったの」

「そっか。だから、梨子ちゃんだけいきなり現れたんだ」

「でも、そのおかげで助かったよ」

『でも、二人はもう変身できないからまずいよね?実質戦えるのは梨子ちゃんだけだよ?』

『他に衣装は纏える?』

「ううん。まだこれしか」

 

状況は最悪だった。変身ができなくなった二人に、サポート系の能力の衣装しか纏えない梨子、いつ来るかわからないウッチー達。しかも六人は来ても何ができるかはわからない現状。

 

「直せないの?」

『ごめん、それは無理。それに、仮に直っても……』

「ルシファーに勝てる見込みがないよね」

「でも、このままじゃ魔法界が」

『わかってる。だけど、変身なしじゃ戦えないし。梨子ちゃん一人じゃそれこそね』

「でも、まだ何か方法はあるはず。だから、追いかけよう。待ってたら手遅れになりそうだし」

『わかった。一応直せないかやってはみるね』

 

方針を決めるとキュアフォンを返して果南たちはこの世界で一番偉い人のもとに行く。といっても、この世界には人はいないようだから、別の何かではあるが。時間はだいぶ経ってしまっているが、それでも何もしないでいるつもりはなく、ルカの先導のもと歩いたり、背に乗って飛んだりしてなんだかんだで一番偉い人の住む城にたどり着いたのだが……。

 

「間に合わなかったか」

 

城のあちこちに穴が開いており、何体かルシファーが作りだした動物と怪物が闊歩していた。偉い人とやらの無事を確認できないが、この惨状からいって望み薄そうだった。

 

「さて、ここからどうしたものか」

『直すならここの工房を利用するのが一番なんだけど……』

「あの量に見つからずに侵入するのは難しそうだよね」

「誰かが囮になる?」

「危ないから却下。それに、それだと梨子ちゃんが行くことになるよ?」

「だよね。となると、隠し通路とか無いの?」

『残念ながら、僕もセイも知らないよ。あるのかないのかすら』

「うーん、ここは王道の方法で行こう!」

「あっ、嫌な予感」

 

どこまで行ってもいい方法が浮かばない中、曜が何か思いついたようだった。そんな曜に対して果南は頬を掻くと、曜は考えを話し始めるのだった。

 

 

~☆~

 

 

「なんで気づかれないんだろ?」

「梨子ちゃん静かに」

「はぁー」

 

三人は慎重に歩いていた。ルカとセイはマスコットサイズになって果南と曜にくっついている。

梨子は今の状況に困惑を隠せないでいた。

三人は樽の中に入って慎重に歩き、誰かが来るたびにその場に止まって、ただの樽のふりをしてを繰り返していた。

何故だか効果はてきめんで、気付けば工房まであと少しの距離にまで来ていた。

そして、結局気づかれること無く工房にたどり着いたのだった。

工房の中は一切荒らされて無くて、完全に放置されているようだった。不幸中の幸いという事でルカ達は早速修理を始め、果南たちは誰も来ないか警戒する。

 

『だめだ。あの炎の熱で完全にダメになってる』

「なんで魔法界なのにこんな科学なもの使ってるんだろ?」

『科学の力も利用することで魔法をより使いやすくしようとしたのが仇になったね』

 

魔法界なのに、今三人の目の前で行われているのは科学のそれだった。キュアフォンを分解したり、組み立てたり。そんなわけで突っ込むも、それはそれのようで、もうそれが当たり前になっているようだった。

 

「科学の力使ってるんだったら予備とかないの?」

『無いね。元々僕たちが物質界に行くときに持たされていた物で、ここが占拠された以上他のは全部破壊されてると思う』

「残りは梨子ちゃんが持ってるそれだけってことか」

【なるほど。つまり、それを破壊すればおまえらの希望はついえるのだな】

「え?」

 

声が響いて声の方を向けば、いつの間にかルシファーがそこにいた。

 

「プリキュア、スタートアップ!」

 

梨子はルシファーを見るや即座に変身する。そして、先手必勝と空気を叩き、音の波を放つ。

しかし、わかっていた通りルシファーには効果がなく、ダメージは無さそうだった。

 

「逃げるよ!」

 

しかし、本当の目的は一瞬でも隙を作ることであり、ルシファーから逃げるように工房を出る。しかし、いたるところに敵がいる訳で悪い状況のままだった。

とにかく階段を登ったり、適当な角を曲がったりして逃げ惑い、

 

「こちらです!」

「わっ!」

 

途中で隠し扉からいきなり出てきた少女に引っ張られて果南たちは通路から消え、追っていた怪物たちは気づかずに素通りしていくのだった。

 

「ふぅ、助かった」

「うん」

「ありがとうございます」

 

三人はとりあえずの危機が去ってペタンと床に腰を下ろす。お礼を言って少女を見ると、どこからどう見ても人間の女の子に見えるが、足がなく綺麗なうろこに覆われた尾がそこにあった。

 

「「「人魚?」」」

『『姫様!』』

 

 

~☆~

 

 

場所は変わり、城の地下に果南たちは来ていた。城にいたであろう人々や近くにいた町人が逃げ込んだシェルター的な場所のようだった。

ルシファーが攻めてきた段階で放棄して身を隠していたらしかった。

 

「あなた方が向こうの世界の方々ですね」

「……はい」

「申し訳ありません。そして、ありがとうございます。私たちの問題に巻き込んでしまったことに対してお詫びすると共に、ウッチーを助けてくれたことに感謝します」

「ですが、そのせいで今の状況に……」

「いえ、それについては仕方ありません。何も知らない状態で巻き込まれ、ウッチーを助けてくれたと聞いていますから。それに、遅かれ早かれこうなっていたでしょう」

「あれ?どうしてウッチーが救われたって知ってるんですか?」

「あー!」

 

姫がウッチーの無事を知っている事に疑問を持つと、別の場所から聞き覚えのある声が聞こえてきて振り返る。そこには千歌がいて、その後ろには五人とウッチーもいた。

話を聞けば、こっちの世界に着くや、お城のそばだったから直接ここに来て、果南たちが来るのを待つことにしたらしかった。

で、今に至る。

 

「そっか、みんなもう着いてたんだ」

「うん。でも、良かった無事で。見当たらなかったときはもしかしてって思っちゃったよ」

「あー、割と危なかったよ」

 

ルシファーに負けて、ヤタガラスに襲われ、またルシファーに襲われ。思い返してもそうとうギリギリだった。

 

「それで、この後どうすればいいの?変身が私と曜はできなくなっちゃったけど」

「それは……いえ、私たちの世界の問題。これ以上あなた方を危険にさらすわけには」

「ルカ君たちと同じこと言ってるや。でも、ルシファーの口ぶりから言って、ここを征服したら私たちの世界に次は来ると思う」

『たしかにその可能性は高いね』

 

いつまでものんびりしていられないので、今後の話し合いに移る。城の地下ということは、いつかはここにいる事もばれるだろうし、それまでに何らかの方法を考えなければ、間違いなく次で全滅してしまう。

姫は果南たちをこれ以上巻き込むことに抵抗があったが、果南たちの住んでいる世界――物質界に攻め込まれる可能性もあるから、もう魔法界の問題とか気にしている意味は無い。

 

「変身できない件は、もう無理です。攻め込まれた時にキュアフォンは全て破壊され、残りはそちらの梨子さんが持つ物だけですから」

「はー、やっぱりか。そうなるとどうしたものか梨子ちゃんの攻撃が効かなかったし。私が使うってできる?」

「ええ。可能ですが……」

「果南ちゃん、曜ちゃんと二人がかりでやられちゃったから一人で行ったら……」

「……だよね。うーん、せめて弱点とかわかれば。というか、ルシファーは何処から出てきた訳?もともと私たちの世界にいたってことなの?」

「あー、それについては私からなんだけど」

 

梨子の持つキュアフォンを使えば果南でも変身できることが分かるも、今の状態では勝機は皆無で、果南はそもそもどうしてルシファーが現れたのかという点に疑問を持つ。

最初はウッチーに負の感情が蓄積して闇落ちしたものだとばかり思っていたから、もう訳が分からない。

そんな果南に、善子は申し訳なさそうに口を開き、全員の視線が善子に集まる。

 

「話を聞いて一つ分かったことがあるの。私が最初に開いた世界が魔法界で閉じたけどそれを利用されたんだと思う。確認だけど、ルシファーは自身の事を“世界を侵略する者”って言ったのよね?」

「うん、そうだけど」

「そう。ならやっぱり利用されたわね。口ぶりから言ってルシファーには世界を移動する力、ないしはそれを持つ協力者がいて、私たちの世界に来ていた。で、偶然閉じかけの魔法界に繋がる空間の穴を見つけて再接続され、ウッチーがこっちに来たタイミングで身体を乗っ取り、魔法界に侵入。あとはそこで暴れた」

「でも、どうして撤退したの?私たちは歯が立たなかったわけだからウッチーの身体を使わずにルシファー自身がやればすぐに終わったんじゃ?それに、わざわざ魔法界に行った理由は?」

【それではつまらぬだろう?遊んだだけだ。魔法界は強固な結界に護られていて行けなかったが、ちょうどあったから利用したまで。物質界などすぐに行けるからな。そして、これで終わりだな。残党もようやく見つけたぞ】

 

善子の仮説通りなら納得だが、その場合だと魔法界の危機の最初の原因は空間を繋いでしまった善子になる。今の状況で善子を責めても後の祭りだから誰も言わないが。

そして、曜の疑問に答えたのは、何処からか響くルシファーの声だった。しかし、辺りを見回してもルシファーの姿は見えない。

 

「嘘……」

 

ルビィが上を向いて信じられないものを見るかのような表情でつぶやき、みんなも上を向くと言葉を失った。

上は天井だったはずなのに、天井が無くなって外が見えていた。正確に言えば、城が何故か宙を浮き始め、そのせいで地下が見えるようになっていた。そして、城が隣の空き地に落ち、果南たちを包囲するように地面の淵で怪物たちがたくさん集まっていた。

 

「完全に囲まれてる……」

【そして、これで希望は潰えた】

「え?」

パリーンッ!

 

気づいた時にはリリーの隣にルシファーがいて、ルシファーが手を振るうと、キュアフォンが宙を舞い、そのまま砕け散る。一瞬の出来事で、誰一人反応することが出来ず、変身が解けた梨子はペタンとその場に座り込む。

 

【ついでだ】

 

ルカとセイが持っていた壊れたキュアフォンも完全に砕け散りどうやっても修復ができない状態になった。

これで、プリキュアの力を使う手段が完全に絶たれた。もうルシファーに対抗する手段も無くなり、この場は絶望に包まれる。

直後、周囲にいた怪物たちが襲いかかり始める。避難してきた人々は為す術無く襲われて倒れていく。果南たちはそれをただ見ている事しかできず、でも……

 

「やめろー!」

 

果南は叫ばずにはいられなかった。しかし、叫んだところで何も起こらない。そもそも、果南はキュアフォンが無ければ戦うことだってできない、ただの人間。だから、何もできない。

 

もしも、あの衣装を纏えればパンチとキックで怪物たちと戦える。

もしも、あのホイッスルがあれば、音の波で怪物たちを吹き飛ばせる。

自分にできることがあるとすれば……。

 

「きゃっ!」

「だめぇ!」

 

ルシファーが梨子に向かって炎の弾を放とうとしていて、果南はそこに飛びかかって方向を無理やり逸らした。ただ、一回分攻撃が逸れただけ。次うまくいく保証なんてどこにもない。

ルシファーは果南を掴むと投げ飛ばし、果南は地面を転がる。受け身を取ったことで怪我無く済む。

 

「きゃっ!」

【まだ希望を捨てぬか】

 

ルシファーはそう言って果南に手を向ける。変身もしていない果南じゃ回避なんてできるわけがない。

でも、なにもしないで死ぬくらいなら最後まで抗う。希望を捨てない。だから、何か方法が無いかと策を巡らせる。

 

【ならば消えよ】

 

そして、炎の弾が放たれる。

 

「「「「「果南ちゃん!」」」」」

「「果南!」」

「果南さん!」

「みんな!来ちゃダメ!」

 

その直前、八人が果南のもとに跳びこんで来て、九人に炎の弾が炸裂して爆発した。

 

『そんな……』

 

その光景をルカは見て、涙を浮かべる。変身もしていないただの人間の九人じゃ、今の攻撃で助かる術はない。

 

『果南ちゃん。みんなー!』

 

それでも、みんなが無事だと信じて大声で叫んだ。

 

「あれ?生きてる?」

「それに、どこも痛くない」

 

煙が晴れるとそこには何故か無傷の九人がいた。九人もどうして自分たちが怪我一つなく無事なのかわからず首を傾げる。

どうしてかわからず周りを見れば、九人とルシファーの間に九人を護るように九つの色違いの水晶が浮いていた。

 

「なんだろ?」

 

果南は首を傾げながら手を伸ばすと、果南の手に緑色の水晶が収まり、八人も手を伸ばすとそれぞれの手にイメージカラーの水晶が収まり、九つの水晶が輝き出す。

それと同時に頭の中にこの水晶の正体と知識が流れ込み、この水晶がなんなのか理解する。

 

【何をした!】

 

目の前で起きる謎の現象にルシファーは問う。

果南は水晶を握りしめて立ち上がると、みんなを見る。何が起きたかを果南は完全には理解できていない。

どうしていきなりこの水晶が現れたのか。

どうして、果南たち九人を選んだのか。

でも、わかっていることもあった。

 

「うーん、善子ちゃん的に言えば覚醒ってやつかな?行くよ、みんな!」

「うん!」

「了解!」

「はい!」

「うゆ!」

「ずら!」

「ええ!」

「ですね!」

「イエース!」

 

もうどうにもならないと思っていた、この絶望的状況をどうにかできる可能性が生まれた。

(ううん。できるかどうかじゃない。どうにかしてみせる!)

 

「「「「「「「「「プリキュア、スタートアップ!」」」」」」」」」




大ピンチからの覚醒。よくあるやつですね。
では、ノシ


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覚醒!新たな力

感想の返信ではのんびりとと書きましたけど、今連日更新してるから投稿です。
覚醒はだいたい無双してしまうのがテンプレなので、今回はそんな感じです。


「「「「「「「「「プリキュア、スタートアップ!」」」」」」」」」

 

九人が同時にそう言うと来ていた服が輝き、果南、千歌、花丸、善子、ダイヤの五人は多めの青と白を基調とした、曜、梨子、ルビィ、鞠莉の四人は反対に多めの白と青を基調とした衣装(ミラ僕衣装)を身に纏っていた。

 

【まさかあの水晶は大昔に魔王を退けた力の結晶――キュアチャームだというのか?】

 

果南たちの手にした水晶は使用者に力を与える物で、キュアフォンはそれをもとに作られた物だった。しかし、いつの間にか失われて、長い間人の目に触れていなかった。

実際は城の地下に埋まっていて、果南たちの諦めない気持ちに呼応して果南たちの元に現れた感じだった。

 

【早急に手を打つ必要があるな】

「まずはここから引き離さないとダメかな?」

 

キュアチャームを見たルシファーは九人を危険と判断したのかそう呟く。

対して果南はこのままここで戦えば被害が出そうだなぁと思い口に出していた。

 

「それより先にやるべきことがあるよ!」

「え?やるべきこと?」

「うん!名乗りを上げなきゃ!一話以降名乗りをやってないんだから、最終決戦っぽいこのタイミングでやらないと!」

「あー、うん」

 

千歌の力説に果南はあまり乗り気でないようで生返事を返す。正直、名乗りをしなくてもいいと果南は思っていた。

でも、せっかくだからやることにする。

乗り気でないメンバーもいるが、乗り気なメンバーもいた。

 

「すべてを包む海、キュアハグ」

「全速前進の航海、キュアヨーソロー」

「奏でる旋律、キュアリリー」

「突き進む正義、キュアダイヤ」

「きらめく光、キュアシャイニー」

「包み込む闇、キュアヨハネ」

「のんびりパワー、キュアサークル」

「大きな勇気、キュアルビィ」

「みんなの味方、キュアミカン」

ピカーンッ!

 

それぞれポーズを取ると後ろで輝いていた。果南的にツッコミどころがいくつもあったが、とりあえず一つツッコむことにする。

 

「ねぇ、キュアミカンってどうなの?せめてキュアオレンジにしないの?」

「ダメだよ!ミカンがいいの!」

「さいですか」

【茶番は見飽きた、やれ】

 

ルシファーが怪物たちにそう命じると、他の人々から九人に狙いを絞る。

 

「行くよ!」

 

果南はそう言って地を蹴ると一瞬でミノタウロスに接近し、その胴体にパンチを繰り出す。すると、ミノタウロスは壁まで吹き飛んで行った。

 

「わぁ、すんごいパワーにスピード」

 

思った以上の能力に果南は自分で驚く。しかし、これなら十分戦えると実感する。

 

「あー、果南ちゃんが抜け駆けしたー」

「じゃぁ、私たちも!」

 

すると、千歌が文句を言ってみんなも動き出す。

千歌は果南の背後から襲いかかるコウモリに向かって跳びだすと、コウモリの足を掴んで地面に叩きつける。果南はコウモリの存在には気づいていたが、千歌が攻撃したからそのまま近くにいた狼にパンチを放って倒す。キュアフォンの頃は必殺技を使わないと倒せなかったが、今は必殺技を使わなくても動物型程度なら一撃で倒せた。そもそも、最初の頃に地面に軽く穴を開ける威力があったから、パワーアップした今ならそんなもんなのだが。

曜と善子は別方向の敵に一直線に突っ込むと攻撃してどんどん吹き飛ばしていく。

ダイヤとルビィは怪物たちが九人を狙うように仕向けられたとはいえ、避難してきた人々に襲い掛かるのもいるから護るように戦っていく。

梨子と鞠莉と花丸はとにかく数が多いから敵の密度が多い所を攻めていく。

その結果、瞬く間に弱い動物型は全滅し、残りは怪物型とルシファーだけとなる。ルシファーは上空で高みの見物を決めていた。

しかし、怪物たちはその数が多い事と動物たちと比べて強いから一筋縄ではいかない。

 

「千歌、一気に行くよ」

「うん!」

「「チェンジ、トワイライトタイガー!」」

 

だから、果南と千歌の二人が同時にそう発声すると、二人の衣装が輝き、果南は黒地に緑ラインの入った服と白地の長ズボン、千歌は白地の服とスカート、黒地にみかん色のラインが入った衣装に変わり、二人の頭に虎耳が生える。

キュアフォンの時はイメージに時間がかかったが、今は時間を要さず、口にすれば変身できるようになっていた。二人とも同じ衣装を纏ったことでイメージが共有され、これもキュアチャームのおかげだったりする。

果南と千歌は虎のような軽い身のこなしで跳躍して、ケルベロスに跳びかかると、果南が右側面、千歌が左側面からケルベロスを殴る。ケルベロスは二人の攻撃で苦悶の声を漏らすと消滅する。どうやら二人同時攻撃なら必殺技を使う必要も無さそうだった。しかし、まだまだ多い敵にいちいち同時攻撃していては埒があかない。

 

「トワイライトスター!」

「タイガークロー」

 

果南は技を発動させて両手に力を籠めると、両手に光を纏う。果南は光を纏った状態でシーラカンスを殴る。前回はその鱗の硬さに苦戦したが、いとも簡単に砕けて光がシーラカンスの身体を包んで消滅させる。空を飛んでいるガーゴイルに向かって拳を振り抜くと、光が光弾として放たれガーゴイルを穿つ。

千歌も同様に技を発動させると、両手に光が集まり、二対のクローが纏われる。そのクローでミノタウロスを引っ掻く。ミノタウロスは両腕をクロスしてガードするが、クローによって両腕に引っ掻き傷ができ、千歌は直後に地を蹴って背後に回って再び引っ掻く。速度で勝っていたことでミノタウロスは反応できずに連続で背中を斬り裂かれ一定量を超えた所で体力が尽きたのか四散する。

 

「わぁ、千歌ちゃんたちやるぅ」

「感心してないでこっちもやるわよ」

「うん、了解!」

「「チェンジ、ユニコーンブリザード!」」

 

いとも容易く怪物を倒した二人に曜が感心すると、二人も変身する為に発声する。すると、二人の衣装が白と水色の衣装に変わり、額に一本角が生える。

曜が先行して地を蹴ると、大蛇――ヨルムンガンドに接近して尾を掴む。尾を掴んだ状態で背負い投げをするかのように肩に乗せてそのまま投げる。そこに跳躍した善子が踵落としをして地面に叩き落とし、地面に落下してくるヨルムンガンドに曜がパンチをすると体力が尽きたのか四散する。

 

「飛ばしてくよー!ホーンストライク!」

「くらいなさい!ブリザードストーム!」

 

曜がそう言うと曜の周囲に冷気の渦が巻き起こり、そのまま走り出す。すると、冷気が角のようになって怪物たちを貫きながら突き進む。やっていることは、恋アク衣装の時の“全速前進ヨーソロー”と同じだが、あの時と比べて威力が桁違いだった。

善子が技を使うと善子の周囲から吹雪が放たれる。その吹雪に怪物たちが呑まれると氷漬けになり、吹き付ける吹雪の強風によって砕け散った。

吹雪は範囲内にいる曜を巻き込んでしまうが、冷気を纏っていることで曜はなんともなく、それ以上に角がさらに巨大化して威力を引き上げていた。

 

「うぅ。ちょっと寒いよー」

「はー。善子さんは周囲にお構いなしですわね。皆さんが凍えてしまいますわ。ルビィ、チェンジしますわよ」

「うゆ!」

「「チェンジ、インフェルノフェニックス!」」

 

善子の広範囲氷結攻撃の冷気が少し離れた位置にいた二人に届いてルビィは困り、ダイヤは呆れると衣装をチェンジする。二人の衣装は赤を基調としたフラメンコ等で使われそうなものだった。

 

「ルビィ、出し惜しみなしで行きます。護りは任せます」

「うん。一気に倒しちゃお。フレイムヴェール!」

「フレイムインフェルノ!」

 

果南たちが技を使わずだと二人で一体の割合になっていたから、二人は早速技を使う。

ルビィは逃げてきた人たちの中心に行くとそこで舞い、ルビィを中心に炎が放たれる。しかし、その炎は非戦闘員を焼くこと無く通り過ぎ、ルビィの周囲の非戦闘員を護るように結界が張られる。

その結界の外でダイヤが舞うと、ルビィとは違って荒々しい炎が放たれ周囲を焼き尽くす。怪物たちはその炎に焼かれていくことでその数が減っていき、ルビィの炎の結界のおかげで非戦闘員は焼かれることは無かった。

それと同時に善子の“ブリザードストーム”で冷却された空気が暖まっていく。そのおかげで寒そうにしていた人たちの顔色がよくなったりしていた。それでも、怪物に囲まれている恐怖はあるのだが。

 

「ずら!?何この煙?」

「冷気が温められて蒸気になってる?」

「もー、ダイヤもそうとう迷惑じゃない!」

「「「チェンジ、ハリケーンブロッサム!」」」

 

別方向で戦っていた三人の元に、温められた冷気、要するに蒸気となって白いモヤモヤが押し寄せ、視界が悪くなる。梨子はこのモヤモヤの視界の悪い中だと危ないからと、この蒸気と怪物たちを吹き飛ばそうと考え、衣装チェンジをする。二人も同じことを考えたのか衣装チェンジを行う。ちなみに花丸は同じことを考えていたが、鞠莉の場合はみんなが変身してたからノリでやっただけだったりする。

梨子は桜色、花丸は黄色、鞠莉は紫色のドレスを身に纏い、変身が完了する。三人の変身が完了すると周囲に風が渦巻いてモヤを吹き飛ばし、視界がよくなる。

 

「チェリーブロッサムハリケーン!」

「フラワーハリケーン!」

「シャイニーハリケーン!」

 

三人もダイヤたち同様、早速技を発動させて両手に風を集めて一気に前に放つ。梨子の風には桜の花びらが、花丸の風には多種の花が、鞠莉の風は輝いていて、三つの風は三方向をまっすぐに進んで怪物たちを包む。技名とエフェクトは違うが、三つともやっていることは同じで風に包まれた怪物たちはその中で風の刃に裂かれていき、風はそのまま急上昇して怪物たちを空に打ち上げる。そして、高所から怪物たちが地面に落下すると落下ダメージがとどめとなって消滅する。

 

「これであらかた片付いたかな?っと!」

【ほう、これを避けるか】

 

果南のそばにいた怪物があらかた片付くと果南は一息つく。非戦闘員はルビィが先導して遠くに退避してもらい、この場には果南たち九人とルシファーと怪物たちだけとなる。すると、いきなり炎の弾が飛んで来て、果南は殺気を感じてそれを回避する。

不意打ちを回避されたことでルシファーは感心した声を漏らすとさらに炎の弾を放つ。果南はその炎の弾に対して光弾を放って迎え撃つ。二つの弾は空中でぶつかって爆発する。果南は追撃をしたいが空を飛んでいるルシファーまで跳躍するのは厳しそうだった。仮に跳躍すれば空中での回避もままならないから炎の弾で撃ち落とされかねない。

どうしたものかと思うと、炎の渦と花を含んだ突風がルシファーに殺到し、ルシファーは障壁を張ってガードする。突風が炎の勢いを引き上げる。しかし、障壁を破壊するところで勢いが薄れ、ルシファーを焼くまでには至らなかった。

 

「果南さん、わたくしたちはルシファーを相手取りますわよ!」

「だね。行くよ、花丸ちゃん」

「わかったずら!」

「「「チェンジ、アゼリアエンジェル!」」」

 

炎と突風を放ったダイヤと花丸が果南のそばに寄ると、三人が同時にそう言う。すると、三人とも桃色の衣装に白の羽が生え、AZALEAの衣装を纏うと一気に跳躍して空を飛ぶ。

迫って来る三人に炎の弾をルシファーは撃つが羽を羽ばたかせて回避すると、そのまま勢いを乗せたパンチを果南が放つ。ルシファーはそれを右手で受け止めると、逆サイドからダイヤが回し蹴りを放つ。それを左手で受け止めると、真上から花丸が踵落としをするも、二人を放して翼を羽ばたかせて回避する。

 

「やっぱり、そう簡単にはいかないか」

「ですが、三人で相手をすれば勝てない相手ではなさそうですわね」

「うん。この調子なら」

【ほう。我に勝てると思っていようとはな】

 

ルシファーがそう言うと残像を残して掻き消え、一瞬で花丸の隣に移動して殴る。花丸はギリギリのところで両手でガードするも、その一撃は重く地面に向かって落下する。羽を羽ばたかせて勢いを減速させてどうにか地面へ着地して激突は免れるが、両腕に痺れが残る。

ルシファーは各個撃破をする気なのか、激突を免れた花丸目掛けて移動しそのまま花丸に襲い掛かる。しかし、それを見越していたのか花丸のそばに移動していたダイヤがルシファーに向かって蹴りを放つ。ルシファーはそれをガードするが、空から勢いよく降ってきた果南のダイブキックをもろにくらい地面に叩き付けられるのだった。

 

 

「いーなー。果南ちゃんたち空飛んでるー」

「あはは。私たちは飛べる衣装無いからね。だから、武器で一気に倒そう!」

「うん、そうだね」

「うん!」

「「「チェンジ、シャロンパイレーツ!」」」

 

空中を自由に飛んでいる三人を見て千歌が呟くと、曜は苦笑いを浮かべ、曜の言葉に二人が頷くと、CYaRon!の三人は衣装チェンジをする。千歌は赤い服にみかん色のチェックの帽子を被り、曜は青と黒の服に青の鉢巻きを頭に付け、ルビィはピンクと黒の服に黒地にピンクのラインの入った海賊帽という衣装に変化し、その手には先端が槍になっている旗が握られる。

三人は勢いよく旗を振ると、斬撃が飛んで怪物たちを斬り裂く。そして、三人の前には残り一体だけとなる。

千歌達三人の前には銀の鎧を纏った首なしの大きな騎士――デュラハンがおり、その鎧によって斬撃は弾かれてしまったようだった。デュラハンはその手に持つ剣を振るい、三人は旗を重ねて受け止める。しかし、質量差があり過ぎるせいで押しつぶされそうになり、アイコンタクトの後三人同時に剣を横方向にいなしてどうにかし、曜とルビィはまずはバランスを崩させようと足を攻撃する。千歌はいなした剣の上を駆けてデュラハンの身体に乗るとその状態から勢いよく旗を振り下ろしてデュラハンに叩き付ける。両足と身体を同時に攻撃されたことでバランスを崩して地面に倒れると、鎧の隙間に旗を突き刺す。鎧の中にあった核が壊れるとデュラハンは黒い粒子になって消えていった。

 

 

「なんでこんなに硬いのよ!」

「……それは、ドラゴンだからじゃ?」

「聖剣ないのかしら?」

 

梨子達三人はドラゴンと対峙していた。鱗一つ一つが強固で、パンチやキックをするもあまり効いておらず、鞠莉が文句を言う。そして、近くでAZALEAの三人が飛んでたり、CYaRon!の三人が旗を振り回したりしていることで鞠莉は思いつく。

 

「マリーたちも行くわよ!」

「別にこのままでもいいけど?」

「変身できるのならすべきよ!」

「あ、うん」

「「「チェンジ、ギルティーキスシャドウ!」」」

 

他のユニットが変身したからとか、醍醐味だからという理由で変身したがる二人と巻き込まれた梨子たちはギルキスの衣装に変身する。三人の衣装が白い服の上に黒い服、黒のズボンという戦いに向いているのかわからないものになる。そもそも、武器とかは特に無いのだが。

 

「シャドウゲート」

 

善子はそう言って地をかけると、瓦礫の影にスッと入り、そのまま影を縫って移動してドラゴンの真下にたどり着くと飛び出してアッパーの要領で腹を殴る。腹の鱗は他の部分に比べれば強度は低く、その一撃にドラゴンは若干のけ反る。

梨子と鞠莉はその隙を見逃さずに距離を詰めると、比較的柔らかそうな顎の下や腋にパンチやキックを繰り出す。

ドラゴンはそれが効いたのか翼を羽ばたかせて距離を取ろうとする。

 

「逃がさない!シャドウゲート!」

 

しかしそれより先に梨子は影を思いっきり踏んで発動させると、影が棘のように飛び出してドラゴンに突き刺さり少し宙に浮いた状態で動きを止める。

 

「「シャドウゲート」」

 

鞠莉と善子は地面に手をついて影を掴むと、そのまま動けなくなったドラゴンの真上に跳躍する。その手には善子は影の剣、鞠莉は影のハンマーがあり、同時に振り下ろす。影の剣がドラゴンの翼を斬り裂き、影のハンマーによって地面に叩き付けられる。それによって、影の棘がさらに食い込み、ドラゴンは体力が尽きて消滅する。

 

【少々侮っていたか。では、遊びは終いにしよう】

 

立ち上がったルシファーはそう言うと、身体から黒いオーラが噴き出す。

こうして、残りの敵はルシファーただ一人となるのだった。




という訳で、六人はそんな感じの名前にしました。ダイヤちゃんとルビィちゃんはそのままで、もうプリキュアの名前で問題ない気がしたからそんな感じ。
花丸ちゃんは”マル”って自分を言うので、サークルにしてみたり。
善子ちゃんはヨハネでよくて、鞠莉ちゃんはシャイニーがいいって自分で言っていたので。
千歌ちゃんは・・・なんでこうなったんだろ?カラーはオレンジじゃなくてみかん色だからってことで。

変身後も地の文のキャラ名が変わらないのは面倒だったからです。二人はそもそも変わらないし。

では、ノシ


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輝け!プリキュア

どうも、函館UCをライブビューイングで見てきたことでテンションが上がってる猫犬です。
Aqoursの曲はもちろんユニット曲もいいですね。SaintSnowの曲もいいですね。三曲とも好きだけどDROPOUT!?が一番好きですかね?

そんなわけで、今回のライブの”あれ”が登場です。


【では、遊びは終いにしよう】

 

黒いオーラを纏ったルシファーは上空に飛ぶと、特大の炎の弾を放つ。AZALEAの三人は空中に飛んで回避、ギルキスの三人は影に入って範囲外に退避、CYaRon!の三人は旗を自分の前で高速回転させてガードすることで事なきを得る。

 

【これを防ぐか】

「あっそ」

 

ルシファーはそれぞれ炎の弾に対応して見せたことで関心の声を漏らすと、果南はそう言ってルシファーに追撃すべくパンチすると、ルシファーはそれを片手で受け止める。しかし、そこからさらに蹴りを行い、ルシファーの脇腹を蹴る。

吹き飛ぶことは無かったが、ダメージが入った感覚はあり、ルシファーの背後からダイヤが回し蹴りをする。ルシファーは回避しようとするが果南があいている手でパンチをして邪魔をする。結果ルシファーの背に回し蹴りが炸裂し、ダメージが入る。

さらにいつの間にかルシファーの真上にいた花丸が踵落としをし、その直前に果南とダイヤが離れたことでルシファーは地面に落下する。落下地点にはCYaRon!の三人がおり、落下してくるルシファーに合わせて旗を振り上げると、落下の勢いと振り上げの勢いによって相当な威力となり、曜と千歌の旗が翼を斬り裂き、ルビィの旗はルシファーの身体を斬り裂く。

しかし、それでもまだ足りないのか消滅することは無く、着地と同時にうでを振り抜き、かまいたちのように空気の刃を放つ。三人は身をひねってそれを回避すると、影からギルキスの三人が出て来て三方向から同時に影の槍を放つ。ルシファーは障壁を張ってガードし、自己再生で翼を生やすと空を飛び、障壁に阻まれた影の槍は勢いを失ってその場に落ちて元の影に戻る。

 

「嘘、再生できるの?」

「はー。これじゃ、倒せないんじゃないかしら?」

「回数制限があればいいのですが」

 

翼を再生させて空を飛んだことで、嫌な予感がして三人は呟く。もし、際限なく再生できるのであれば、終わらない可能性がある。もしその場合は、一片も残さずに消滅させるか、再生する暇を与えずに攻撃するしか無くなる。

 

【くらうがいい】

 

ルシファーがそう言うと、羽が一回り大きくなり、身体も巨大化して両手が龍の頭になり、尾が生える。

ルシファーの両腕の龍の口から雷撃を放ち、千歌が前に出ると旗で雷撃を受け止めて身体に流れる前に地面に突き刺して地面に流す。

 

「thank you、千歌っち。さて、こっちも反撃よ!」

「私たちしか飛べないから鞠莉反撃できなく無い?」

 

果南は首を傾げてそう言うと、地面を勢いよく蹴ってルシファーに接近する。ルシファー片手を前に出すと、雷撃でできた龍が放たれ、果南は回避しようとするが、炎と比べて速く、なおかつ追尾してくるため回避しきれない。

 

「うわっ!」

 

空中で雷龍を喰らい、身体が痺れて飛行が維持できなくなって墜落すると、ダイヤが果南を空中でキャッチする。そこに再び雷龍が放たれ、ダイヤは回避しようとするが、やはり回避しきれずダイヤに当たり、二人は地面に落下する。低い位置にいたことでダメージはほぼ無かったが、空中に飛んでも雷龍をどうにかする術が無く、うかつに飛ぶのはまずそうだった。

 

【雷龍、炎龍、水龍、地龍】

 

すると、雷、炎、水、土でできた龍の計四体がルシファーの両腕から放たれる。九人は各々回避を試みるが追尾して来て、何らかの攻撃で破壊するか、ルシファーみたいに障壁なりバリアなりを張る必要がありそうだった。

 

「あー、こうなったら。みんな集合!チェンジ、アゼリア!」

 

果南がそう言って全員を集めると、ユニット1stシングルの白いドレスの衣装になり、その手にトリコリコステッキが握られる。

 

「トリコリコ!」

 

果南は両手でステッキを振ると、脳裏にバリアを思い浮かべ、九人を囲むようにバリアが張られて、四体の龍がバリアに阻まれる。しかし、四体を完全に抑えることはできず、すぐにひびが入る。

 

「「チェンジ、アゼリア!トリコリコ!」」

 

このままでは砕けてしまうから、ダイヤと花丸の二人も白いAZALEAの衣装にチェンジすると、果南同様、バリアをイメージしてステッキを振るい、果南の張ったバリアにバリアを重ねる。それによってバリアが三重になり、四体の龍を完全に抑え込んで龍が消える。

 

「「「チェンジ、ギルティーキス!」」」

 

直後、ギルキスの三人もギルキスの1stシングルの衣装に変わり、鞠莉は指で銃を作る。

 

「ローック、オーンッ!」

 

そして、銃を撃つモーションをすると、鞠莉の指先から魔力の弾丸が放たれ、ルシファー一直線に飛ぶ。ルシファーはそれを左手からの炎の弾で迎え撃ち、空中でぶつかる。

 

「くらいなさい」

「いっけー」

 

善子がそう言って右手を上げて振り下ろすと、空から稲妻が降ってきてルシファーを襲う。しかし、ルシファーは右手を空に掲げると、龍の口が稲妻を喰らう。ルシファーは無駄なことをと思うが、これで両手を使ったことになり、梨子が腕をすくい上げるように振り上げると、地面から炎の柱が立ち上り、ルシファーを包む。しかし、ルシファーは障壁を張って炎の柱をガードする。その結果、炎は障壁を破ることは出来ずに完全に防がれてしまった。

 

「あの障壁硬いわね」

「ええ。今のも、さっきのも弾かれたわけだから、破壊するのは大変そうよね。それに、破壊できても再生能力もあるし……」

「なら、私たちが壊すね。行くよ!曜ちゃん、ルビィちゃん」

「了解であります!」

「うゅ!」

「「「チェンジ、シャロン!」」」

 

障壁の突破が不可欠で、CYaRon!の三人がユニット1stシングルの白い服にチェックのスカートの衣装を身に纏う。

しかし、三人がそれでどうやる気なのかわからないでいると、千歌が勢いよく地面を踏み込んで、ルシファー向かって跳びだす。

 

【無駄だ。おまえらの攻撃ではな】

「そうでもないよ!元気全開!デイ!」

 

千歌が叫びながら障壁を殴る。しかし、千歌一人のパンチではびくともしない。ルシファーは防いだことで口元を緩める。

 

「デイ!」

 

直後、曜が千歌の隣で障壁を殴る。

 

「デイ!」

 

さらにルビィも障壁を殴る。しかし、ただのパンチで障壁を破れる訳もないからと、ルシファーは高をくくっていた。

 

ドォーンッ!

 

だが、そんなルシファーの予想に反して、三人がパンチした場所を中心に障壁が壊れて、ルシファーを護るモノが無くなる。

 

「niceよ、三人とも!ローック、オーンッ!」

「ええ、これで届く。ハート――」

「ブレイク――」

「「キャノン!」」

 

三人が「任せて」と言ったからそれを信じていた鞠莉は狙いをすでに定めていて、チャージして巨大になった魔力弾を放つ。

その隣では、梨子と善子の二人で空に大きなハートを描き、それを同時に殴ると、勢いよくハートが飛んで行く。

二つの攻撃がルシファーに殺到し、ルシファーは回復応力があるとはいえわざわざ喰らう必要も無いからと避けようとする。

 

「逃がさないよ!トリコリコ!」

「そういうことですわ!トリコリコ!」

「いくずら!トリコリコ!」

 

しかし、果南とダイヤと花丸の三人が先んじてステッキを振るい、ルシファーの周囲にハートがたくさん浮かぶ。ルシファーは無視して三人が出したハートに触れると爆発し、直後に“ハートブレイクキャノン”と魔力弾がルシファーにぶつかる。

二つの攻撃によってダメージが入るが、すぐさま再生が行われ始める。

 

「まだだよ!」

 

空中で自由落下している千歌が叫ぶと、三人の手にCYaRon!砲が召喚され、砲門をルシファーに向けると魔力弾を放つ。空中だからその反動で落下の勢いが加速するが、再生させるわけにはいかないから、それは無視する。

再生中に迫る三つの魔力弾がルシファーに当たると爆発し、周囲にあったAZALEA三人のハートを巻き込んで連鎖爆発が起こる。たて続けに起こる攻撃に再生が間に合わず傷が増えていく。どうやら、再生できるのは攻撃を受けていない間だけのようで、攻撃を受けている間は再生されないことに皆気づく。

 

「力こそpowerデース!」

「鞠莉さん、何言ってますの?」

「このまま攻撃し続ければ倒せる!」

 

と言う訳で、炎の柱やら雷撃、魔力弾、ハートの爆弾とたて続けに終わりなく攻撃を続けていく。下手に動けば浮いているハートの爆弾が爆発し、動かなければ他の攻撃が飛んでくるからルシファーは自身の周囲に障壁をもう一度張る。CYaRon!の三人のパンチ以外では障壁は破れず、もしそうするなら一度この攻撃の嵐をやめる必要がある。障壁の中でルシファーは再生を行い、自身の体内で魔力を溜める。

 

「もう一回、私たちで!」

 

千歌が叫ぶと、攻撃を一度やめて三人は跳躍して

 

「「「元気全開!」」」

「デイ!」

「デイ!」

「デイ!」

 

今一度パンチをして障壁を破る。三人はそのままルシファーにパンチしようと突っ込むも、ルシファーに触れる瞬間、ルシファーが一瞬で消える。

 

「え?」

「きゃっ!」

 

そして、善子の隣に現れるなり善子を殴り、いきなりの事に善子は反応できずに吹き飛ばされる。

隣にいた梨子はルシファーを蹴るが、その直前にまた消え、続いてダイヤの隣に現れてダイヤが殴られて吹き飛ぶ。

 

「なんでこんな速くなってるの?」

「障壁の中でこれをしてたってことか」

 

唐突に速くなった原因はそれ以外に思いつかず、実際それは当たっていた。しかし、これでは攻撃を当てることもままならない。吹き飛ばされた二人は地面にぶつかって止まり、痛みはあるも無事だった。

空中にいた三人が地面に着地すると、ルシファーは三度消える。

皆辺りを見回して警戒し、その中で唯一目を瞑っていた曜の隣に現れる。

 

「はっ!」

 

ルシファーがパンチを繰り出すも、耳を澄ましていた曜は反射でパンチを繰り出して両者のパンチがぶつかる。同じ威力だったのかその場で拮抗して止まると、そばにいた千歌がルシファーに飛びかかり、ルシファーはまた消える。その際に砂煙が舞い上がる。

 

「なるほど。転移じゃなくて高速移動なのね」

「そっか。なら、手はあるずら。トリコリコ!」

 

ルシファーのが高速移動なのだと看破すると、花丸は安心したようにそう言ってステッキを振るう。しかし、炎が出たりバリアが張られた気配はなく、皆花丸が何をしたのかわからなかった。

ルシファーは何かされるのがまずいと判断したのか、花丸の隣に現れる。だが、その瞬間何も無いはずなのにルシファーは前のめる。

 

「トリコリコ!」

 

花丸はルシファーがそうなると最初から分かっていたのか驚くこと無くステッキを振るうと、ルシファーの真上に鉄球が現れ、直後に急落下してルシファーを押し潰す。

自由落下よりも明らかに速く、そのおかげでルシファーの身に何が起きていたのか理解する。

花丸の周囲は今過重力になっていた。だから、その範囲に来てしまったルシファーは重力の影響をもろに受けて前のめった訳だった。

ルシファーは無理やり体を起こすと高速移動で過重力圏から脱出する。

 

「皆さん、誰かと背中合わせになってください!」

 

ダイヤが叫ぶと、皆ダイヤの言う通りにする。

曜は反射で対応、花丸は過重力圏の中にいるため二人はうかつに狙えず、鞠莉と梨子、千歌とルビィ、善子とダイヤはそれぞれ背中合わせになってすぐに対応できるようにする。

 

「チェンジ、トレイン」

 

皆が背中合わせになる中、果南はHPT衣装を身に纏う。

その結果、誰とも背中合わせになっていない果南を狙ったのか背後に現れ、すでにパンチのモーションを取っていた。曜のように反射で対処される可能性もあるが、それより先に動けばいいだけの事で、現れると同時に攻撃を繰り出すルシファー。

 

ドンッ!

 

そして、周囲に響く殴られた音。

 

【……何故】

 

しかし、吹き飛んだのはルシファーだった。それも振り向きざまのカウンターで、パンチのモーションをしていたから綺麗に入っていた。

果南がしたのは単純だった。イルカの超音波の要領で、ホイッスルで音を出して、反響する音を聞いただけ。それで位置を把握してパンチしただけの事だった。

吹き飛んだルシファーは空中で体勢を整えるも、

 

「全速前進ヨーソロー!」

 

いつの間にか恋アク衣装になって水を纏って突進してきた曜に横から突っ込まれてさらに吹き飛ばされる。

ルシファーは吹き飛んだ状態で高速移動をすると、ルビィの隣に立ち襲い掛かる。しかし、その前にピアノの音が響き、ルビィは回し蹴りをルシファーにくらわせる。ルビィの動きが今までよりも格段に上がっており、吹き飛んだ先に花丸がいて、飛んでくるルシファーにパンチを繰り出してさらに吹き飛ばす。ルシファーは疑問に思いながら、高速移動で善子のそばに寄ると、善子も同様に今までよりも速い動きでルシファーをパンチし、善子の後ろにいたダイヤが跳躍して踵落としをして地面に叩き付ける。地面に叩き付けられたルシファーはまた高速移動して、距離を置き、それで気付いた。

いつの間にか梨子の衣装がドレスに変わっており、ピアノを弾くように空を叩いていることに。梨子はピアノの演奏で皆の能力を向上させていた。それが、ルビィたちの動きを良くしていた理由で、ならばと梨子に迫る。梨子は演奏に集中しているのか、対応に動く気配はなく、ルシファーの腕の龍の口が梨子を噛みつこうとすると、真下から蹴り上げられる。そこには善子がおり、梨子が狙われる可能性を考慮してここまで来ていた。そう考えていたのは善子だけではなく、腕を蹴り上げられて胴ががら空きの所に鞠莉が掌打を叩きこんで吹き飛ばす。

 

【何故ここまで】

 

果南の攻撃に追撃をした曜。

ルビィの攻撃の先にすでに居た花丸。

善子のパンチに合わせて回し蹴りをしたダイヤ。

みんなの強化をしてガラ空きなのに善子と鞠莉が護ってくれると信じていた梨子。

 

一切の打ち合わせをしていないはずなのに、九人はそれぞれカバーし合い、だからこそどうしてこんなにも連携できているのかルシファーにはわからなかった。

 

【どうして、おまえらは互いを信じられる!】

「仲間だからだよ!さて、これで終わりだよ!ハーグ!」

 

そして、高速移動の要領でいきなりルシファーの前に果南が現れるとルシファーの疑問に答えてハグをする。ハグをすると、ルシファーが黒い粒子になって消え始める。

 

【我は負けたのか】

 

自身が浄化されていること。もう今から抵抗しても無駄だと悟ると、呟くようにそう言った。

 

「まぁね」

【そうか、これが死という訳だな】

 

そしてルシファーは消滅したのだった。

 

「やった!勝てたよ!」

「うん。これで魔法界は、私たちの世界は護れたんだよね?」

 

八人は果南のそばに寄ると勝利に喜ぶ。何度もギリギリで、変身できなくなった時は不安だったが、皆がいたおかげでどうにかなった。

これで、全てが終わり、後は自分たちの世界に戻って穴を閉じるだけ。

 

『みんな、大変!』

 

しかし、簡単に終わらないのが世界の理。

非戦闘員を避難させていたルカが大慌てでやって来ると、九人は“それ”に気付いた。

 

空には巨大な黒い穴が開いていたのだった。




という訳で、CYaRon!砲が登場しちゃいました。せっかくですからね。

終わりとみせかけてまだ引っ張るです。まぁ、次回で終わりですけども。
では、ノシ


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叶え!私たちの願い!

今回で最終回~。


「なにあれ……」

 

空に突如現れた謎の巨大な黒い穴。九人はなんなのかわからず首を傾げる。すると、避難してたはずの姫がやって来る。

 

『あれは次元の穴です』

「次元の穴?って、私たちがここに来た穴の事?」

『ええ、それと同じですが……』

「あんなに大きかったっけ?」

「どんどん大きくなってきてるような?」

 

穴の正体が分かったはいいが、どんどん大きくなっている事、ルカ達が慌てている事からも何か問題が発生していることを察する。

すると、さらに話が続く。

 

『現在、穴は肥大化し、このままでは魔法界と物質界の空間が衝突し、二つの世界が消滅してしまいます』

「そんな……でも、どうして急に?」

『それは、ルシファーとの戦いで膨大な魔力が使用されて一部の地域は魔力が薄く、またこの辺りは大気中に流れて膨大な量となり、魔力バランスが崩れたことが原因だよ』

「もしかして、私たちのせい?」

『いえ。皆さんが戦わなければ、ルシファーによって征服されていましたから』

「何か方法はないの?」

「そうだ!もともと穴を塞ぐ方法はあるって言ってたし、もうルシファーがいなくなった以上塞いじゃえば」

 

空間衝突による世界の消滅。このままだとまずいけど、最初の頃から空間の穴を塞げるとルカが言っていたから果南はそう言った。塞いでしまえば、脅威は無くなるはずだから。

しかし、ルカは首を振り、姫も暗い顔をする。

 

『あんなに大きくなったら、どうにもならない。善子ちゃんの部屋にあったサイズならできたけど、規模が違い過ぎる』

「じゃぁ、他には?」

「このままじゃ、世界が」

『それは……』

 

ルカ達が元々考えていた方法は、浄化の光を空間の穴に当てることだったのだが、空に浮かぶ穴は大きすぎて浄化の光で包めるサイズを超えていた。だから、塞ぐことができない。

何か方法は無いのか問うと、ルカは思い当たることがあるのか、呟くが、言っていいのか迷っていた。そして、姫は暗い表情のままルカの言葉を引き継ぐ。

 

『確かに方法はあります。昔魔王が現れた際にも同じように空間の衝突が起きかけたらしいです。その時は、偶然この世界に迷い込んだ異世界の方がキュアチャームの力を使いプリキュアになって魔王を退けました』

「そんなこと言ってたね。でも、私たちみたいな人がいたんだ。てっきりこの世界の誰かがやったものだとばかり」

「あっ、ルカ達もプリキュアの存在は知ってたっけ?」

『そして、その時にも空間の穴が巨大化して世界が滅びかけました。しかし、最終奥義によって空間の穴は閉じられました』

「なんだ。方法があるんだったら、私たちもそれで……」

『ロストマジック……使用者の記憶を喰らい、超魔力にして発動させる魔法なんです』

「え?それって」

 

どうにかする方法があり安堵するも、続いた言葉で困惑する。

姫もルカも暗い表情の理由はそれだった。

 

『何年分の記憶が失われるか……その時はこの世界で過ごした記憶が失われたらしいのですが』

「そんな……」

『でも、それ以外方法も無いの。それに、その時は今よりも規模は小さかったけど、今回はどうなるか。この世界の記憶だけじゃすまないかも』

「そっか。まぁ、やるしかないよね?そうしないと滅びちゃうわけだし」

 

皆が記憶を失うことに対して臆する中、果南はいつも通りのテンションでそう言う。できれば記憶は失いたくない。でも、滅びるのはもっと嫌。

最初から選択肢なんてない以上、果南は空気を悪くしないように、明るくするために無理していた。

八人は果南が無理していることに一目で気づく。

 

「記憶を失うなんて嫌だよ!せっかく皆と仲良くなれたのに」

「マルだって……」

「ふっ、私は記憶などなくても問題ないわ。仮初の器なのだから……ごめん、やっぱ無理」

 

でも、簡単に受け入れられる訳もなく一年生たちは抱きしめあって泣き出す。善子も最初は強がったが、やっぱり怖かったようだった。

 

「記憶を無くしたら、やっぱりみんなと一緒にスクールアイドルをした記憶も、遊んだ記憶も無くなっちゃうんだよね?」

「うん……失いたくないよ」

「でも、このままじゃ世界が消滅して、皆が死んじゃう」

 

二年生三人にも伝播して肩を寄せ合う。

 

「果南」

「果南さん」

 

そして、ダイヤと鞠莉は果南を抱きしめる。無理に気持ちを偽らないでほしい。本当の気持ちをちゃんと口にして欲しいから。

 

「……私だって怖いよ。でも、それ以上に皆がいなくなっちゃう方が怖い」

「大丈夫よ。たとえ、記憶が無くなっても、絆は無くならないわ。その時はまた友達から始めましょ?それで、またスクールアイドルを始めましょ?」

「ええ。そうですわね。それに、もしかしたら、数分間の記憶だけ失われるオチかもしれませんし」

「ふふっ、そうだね」

 

また元の関係に戻れるようにやり直すだけ。何年かかるかわからないけど。でも、諦めるのはやっぱり性に合わない。それに、ダイヤの言う通り、全ての記憶が失われると確定したわけじゃない。

だから、果南は目元を拭う。

一、二年もそれぞれ決心が付いたのか、姫の方を見る。

 

「やります!それしか方法が無いから」

『そうですか。ありがとうございます。ロストマジックは願いを言葉にすれば発動します』

「意外とあっさりしてるんだね」

『だからこそ、代償があるんだけどね』

『では、ロストマジックは向こうに戻ってからお願いします。私たちの世界を救うために戦っていただき、最後まで迷惑をかけて申し訳ありません。この世界を代表して謝罪とお礼を。本当にありがとうございました』

「はい」

 

姫が頭を下げると頷く。

 

『では、皆さんこちらに』

 

そして、顔を上げると、九人に促して何処かに向かい、それについて行く。たどり着いたのは、ルシファーによって移動させられた城の一室。そこには巨大な扉があった。扉には巨大な魔法陣が描かれていた。

 

「あれ?」

「どうかしたの?」

「ううん、なんでもないわ」

 

善子が首を傾げていたから果南が聞くと、善子は気のせいだと思いそう言った。気になることがあるのなら話してほしかったがその前に姫が話し始める。

 

『ここは、転移の間です。ここがあるから今まで他の世界と隔離させることができていました。これも、かのプリキュアが残していったものです』

「あっ、だからルシファーも私たちの世界よりもこっちを先にしたんだ。簡単には来れないから」

「あれ?じゃぁ、なんでルビィたちはここに?」

『そういうことです。それと、ここに来たのは、外の穴だとちゃんと戻れる確証も無いので、ここを開いて帰ってもらう為です』

 

外の穴だと物質界のどこに出るかわからず、色々大変なのと空間が不安定だからちゃんと戻れる保証が無いからだった。

そういうことならと納得すると果南は気づいた。

 

「なるほど。じゃぁ、ルカともここでお別れなんだね」

『うん、そうだね。今までありがとう。あの時、助けてくれたおかげで出会えて、果南ちゃんに会えてなかったら世界は滅んでたと思う。だから、僕からもありがとうね』

「うん。まだ、世界は救えてないけど」

 

まだ空間の穴は閉じてないから頬を掻くけど、とりあえず受け取っておく果南。

 

『曜ちゃんもありがとうね」

「ううん。私の方こそ。一緒に居て楽しかったよ」

 

その隣では、曜とセイが握手していた。

 

『では、これより扉を開きます』

 

姫がそう言って扉に触れると魔力が込められて、扉が開かれていく。

扉の奥には一つの魔法陣と石碑があった。

 

『石碑に行きたい場所を思い浮かべれば繋がり、魔法陣で飛べます。後の事、よろしくお願いします』

『みんな、お願い』

『成功することをここからみんなで願ってる』

「うん。絶対に閉じてみせる。じゃぁね」

「ばいばい」

「またね」

 

三人にそう言われて、九人はそれぞれ声をかけると扉に入るのだった。

 

「こういうのは、堕天使のヨハネが!」

 

何故か善子がそう言って石碑に触れる。すると、魔法陣が輝き沼津の街が映る。そして、善子がふらつき、梨子がそれを支える。

 

「大丈夫?」

「……ええ。ちょっとさっきの戦いで疲れちゃったみたい」

「確かに疲れたよね?」

「そうだけど、気を付けてね」

「善子ちゃんも平気そうだし行こっか」

 

千歌がそう言って、九人は魔法陣の中に張り、自分たちの世界に戻るのだった。

 

『結局私たちにできることは無いのですね』

『ですね。だから、みんなを信じましょう』

『きっと大丈夫』

 

九人を見送った姫とルカとセイは立ち尽くしていた。結局最後まで九人に頼むことしかできなかったから。でも、信じることにした。

 

『姫様!』

 

すると、空間の穴のことを知っていて、書庫で調べていた城の学者のカメが慌てた様子で現れた。

その慌てようにどうしたのかわからず、首を傾げる。

カメは言うより早く、一冊の本のとあるページを見せた。

それを見た姫とルカとセイは目を見開いた。

 

『これって?』

 

 

~☆~

 

 

「ここは?」

「私のとこの屋上ね」

 

九人は善子の住むマンションの屋上にいた

どうやら、屋上の扉に繋がっていたらしい。

 

「って、こっちにもあるんだね」

「しかも、けっこうなサイズになってるし」

 

空を見上げれば魔法界同様巨大な空間の穴が開いていた。

屋上の柵に寄って街を見れば、あんなに大きな穴が開いているのに、騒ぎは一切起きておらず、まるであれが見えていないかのようだった。

 

「まぁ、騒ぎになってない方がやりやすいよね」

「そうですね。集中できそうですし」

 

でも、それは穴を塞ぐことにのみ集中できることであり、都合がよかった。

 

「じゃ、始めよっか」

「うん」

 

あまりのんびりしている時間はなさそうだから、そう言うと九人は手を繋ぐ。

 

「……」

 

でも、決めたとはいえやっぱり記憶を失うのは怖い。きっと、今までの思い出を失ってしまう気がするから。

だから、ロストマジックの発動に至れない。

 

「はぁー、やっぱりそうなるわよね」

 

すると、善子はため息をついてそう言う。どうして、善子がそんなことを言ったのか八人はわからなかった。

 

「きっと、あの時も……ねぇ、一つ試してみない?」

「試す?」

「ええ。キュアフォンが無くなって、どうにもならなくなった時私たちは諦めずに希望を持ち続けた。そしたら、これが私たちの元に来た」

 

善子はキュアチャームを指で挟んで見せる。善子の言った通り、諦めなかったからキュアチャームが皆を護り、ルシファーと戦えた。

 

「だから、もう一度。私たちで奇跡を起こすの。一度できたのだから、きっとできる」

「あはは。確かにそうだね。そんな簡単に受け入れるなんてできない。だったら、これだって足掻こう!」

「うん!私たちなら、きっと」

 

善子の言葉は荒唐無稽な話だった。ルカ達がロストマジック以外に方法が無いと言っていたのに、それ以外の方法があると信じる。

 

「でも、どうやるの?」

「それは……」

「願おう!」

「千歌ちゃん?」

「みんなで願うの。記憶を失わずに世界を救いたいって!」

「そんな都合のいい願い、叶うのでしょうか?」

「そうだね。願おう!」

 

千歌が言った言葉にダイヤが首を傾げるモ、曜は千歌の言葉に乗る。そもそも、方法なんてわからないのだから、もう願うことくらいしか思いつかない。

 

「そうだね。私も千歌ちゃんに賛成」

「ルビィも!」

「マルも!」

「私も賛成よ」

「私もよ」

「私もかな?それでダイヤは?」

「はぁー。もちろんできるのなら賛成ですわ」

 

結局全員千歌の案に乗る。

そして、それぞれ手に力を込めてぎゅっと握る。

 

願いは、記憶を失わずに世界を救うこと。そんな都合のいい願いが叶うかはわからない。でも、叶って欲しい。

みんなとの思い出を失うのなんて嫌だから。

 

「(私たちの願い、叶って!)」

 

そして、みんなが願う。

すると、九人の衣装が輝き出す。

 

「わっ!これって?」

 

目を瞑っていても届く光に目を開くと、衣装が変わっていた。

千歌とルビィダイヤは白と水色の服とショートスカート、鞠莉と梨子と花丸は白と青の服にロングスカート、果南と曜と善子は黒と青の服にショートスカートで、それぞれ髪には羽やフリル等が付いていた。

 

「これって?」

 

突然の変化に困惑するも、みんなの頭の中にとある魔法が浮かぶ。どうして、急にこうなったのかわからないが、その魔法の力を知った九人はもう迷わなかった。

 

「「「「「「「「「WATER BLUE NEW WORLD!」」」」」」」」」

 

九人は同時にそう口にすると、九人を中心に青の羽が舞い上がり、空に浮かぶ穴に向かって跳んで行く。穴の中に羽が入るとどんどん穴が塞がって行き、瞬く間に空に浮かんでいた穴が消えて、青空が広がっていた。

そして、それで力を使い切ったのかキュアチャームは輝きを失い、九人は制服に戻る。

 

「私たちの願いを叶えてくれたんだね?」

「そうだね」

 

キュアチャームの輝きが無くなったことで、果南たちは自分たちの願いを最後に叶えて力を使い切ったのだと理解した。そもそも、できるかわからなかったことだから。

 

「でも、おかげで世界は救われた」

「そうね。っと、私の部屋のもちゃんと塞がないと」

「あっ、そう言えば、そっちもか。って、私たち力使い切っちゃったよ?」

「ああ、そっちは平気。プリキュアじゃなくても封印できるし、今の私ならね」

「ふぇ?」

 

善子がそう言ったことで、千歌は首を傾げ、皆も善子の言葉の意味が分からなかった。

 

 

~☆~

 

 

『あはは。まさかでしたね』

『ええ。そうですね』

 

姫とルカは世界を見渡していた。

空間の穴からは青い羽が降り注ぎ、空間の穴がふさがると同時に、ルシファーや怪物たちのせいでボロボロになった地面や建物が元通りになって行く。

昔使われたロストマジックは穴を塞いだだけだったのだとカメが持って来た書物に書かれていた。だから、これがロストマジックでないのは二人とも一目でわかった。でも、世界を救うだけでなく、この世界を元通りにまでしてしまうのには驚きだった。

 

『あの子が混ざっていたからでしょうね』

『おそらくは。果たしてこれは偶然だったのか?必然だったのか?』

『さぁ?でも、それは別にいいでしょう』

『それもそうですね』

 

結局、この出会いが偶然か必然だったのかわからないが、わからないものはどうにもならないからそう割り切る。

 

『さぁ、世界は戻ってもこの騒動のおかげでやることは多いから、仕事を始めますよ』

『了解です。姫様』

 

姫は手にしていた本を一度見てから、閉じると歩き出す。

姫が最後に見ていたページには世界を救ったプリキュア――キュアエンジェルのことが書かれていた。

 

 

~☆~

 

 

「じゃぁね、果南ちゃん、ダイヤちゃん」

「うん。まぁ、夏休みにはこっちに戻ってくると思うけどね」

「わたくしは二人と違って戻ってこられない距離ではないですし、夏休みには一度戻りますわ」

 

あの騒動から一か月ほど経ったその日。果南たちは駅前にいた。

 

 

結局あの後、善子の部屋に行くと元々あった空間の穴は残っていて、善子は迷う素振りなく空間の穴に書かれた魔法陣の一部の文字を消した。すると、魔法陣の輝きが失われ、完全に魔方陣が消滅した。

どうして、善子がこうも手際よくできたのか、そもそもどうして善子が空間の穴を開くことができたのかもわからなかった。

 

「さっき石碑に触れた時に思い出したんだけど、前に魔法界に行ってたみたい」

「え?」

 

善子の話を纏めると、ルカ達の言っていたその人は、不登校で儀式をしていた善子が誤って空間の穴に落ちて跳んでしまった善子だったとのこと。

その時は時間すらも歪んで、今よりも前の時間軸の魔法界にたどり着き、なんだかんだでそこで姫たちの祖先に良くしてもらい、元の世界への帰り方がわからず、方法を探して一月ほど経っていた。善子は魔法の呑み込みが早かった。

そのさなか魔王が攻めて来て、偶然キュアチャームに善子が触ったことでキュアエンジェルとかいうのに変身していて、配下の一体が自分に攻撃を仕掛けてきたから反射でパンチをしたら倒しちゃって、そのまま流れで戦っただとか。で、魔王が撤退し、プリキュアになったことで魔力が増したことで空間の扉を作ると、ロストマジックを作って発動させて、魔法界での記憶を失った。

その後、気を失った善子を扉に運び、善子は家に帰された。

記憶が無くなったから善子は目を覚めても全く気にすること無く平穏な生活に戻った。

それが過去にあったことだった。

 

それを聞いたみんなはどこか納得がいった。特に果南と曜は魔法界に行く前に善子が穴の封印の強化をしているのを見たから嘘ではなく本当の事だとわかった。

 

それからはプリキュアの力は使えず、そもそももう脅威は去ったからその必要も無く平穏な生活に戻った。

それから、あの日に九人が纏ったあの衣装を作り、Aqoursはラブライブの決勝に出て優勝した。

 

で、この前卒業式と閉校式をして、今日果南とダイヤがそれぞれの道に歩き出す。

 

「じゃっ、行って来るね」

「行ってきますわ」

「うん、いってらっしゃい」

「リトルデーモンたちに幸運を」

「いってらっしゃいであります!」

「元気でね」

「がんばルビィ!」

「電話とかメールするね」

「二人とも離れてても一緒だからね」

「うん、わかってる」

 

そうして、果南とダイヤは改札を抜けるのだった。

 

 

~☆~

 

 

「ふぅ、久しぶりに戻って来たや」

 

海外でライセンスの取得をしに行った果南は夏休みに内浦に一度戻って来た。

 

数か月しか経っていないから、街並みは一切変わっておらず、果南は大きく伸びをする。

今日戻って来ることは誰にも伝えていないから、駅前には千歌達はいない。

果南はちょうど来たバスに乗り、街並みを見ながら揺られる。

 

「ここも変わってないなぁ」

 

バスに揺られると、三津海水浴場のそばで降りる。今家に戻っても仕事の邪魔になるから、もう少し時間が経ったら戻ることにする。

それと、

 

「千歌驚くかな?」

 

千歌を驚かせたいからと、悪戯っぽく笑みを浮かべる。

 

「「『おかえり!』」」

「よくわかったね」

「なんとなくね」

「うん。勘かな?」

 

浜に降りると、優勝旗の隣に千歌と曜の二人がいて、まるで果南が今日帰って来ることが分かっていたかのようだった。なんとなく、いる気もしていたから、あまり果南も驚かなかった。

 

「二人とも元気そうだね」

「よく電話とかしてるから元気なのはわかってるでしょ?」

「まぁね。でも、直接会わないとね」

『うんうん。やっぱり、直接会わないとね』

「果南ちゃんは海外どう?というか日に焼けたね」

「海に潜ってるとはいえ、休憩とかは海から上がってるからね。それに、海汚しちゃいたくないから日焼け止めもあまり使う訳にもいかないし」

 

三人は久しぶりにあったから思い出話に花を咲かせる。

それを何分かした頃、それはしびれを切らした。

 

『ねぇ、なんで僕のことスルーしてるの?』

「いや、気にしたら負けかなって」

 

何故かそこにいたルカ(最初にあった子イルカver)がツッコんだことで、ようやく果南は反応する。

 

「それで、なんでいるの?二人は知ってる?」

「ううん。そこでぷかぷかしてるのが部屋から見えたから降りてきたから。で、すぐに果南ちゃんが戻って来たわけで」

「だから、私たちもさっぱり」

『そうだ!大変なんだよ!』

「その割にはのんびりしてたような?」

 

ルカがそう言うも、何分か思い出話をしている間ツッコミが来なかったからあまり大変じゃないのだと思う三人。

 

『前にルシファー倒したでしょ?』

「あー、そんなこともあったね」

『で、他の魔王が攻めてきた……だから、また力貸して!』

「はい?」

「え?」

「ふぇ?」

 

ルカの言葉に、三人は首を傾げた。

どうしてそうなったのかとか謎はあるが、とりあえず、

 

「大学生の歳であれは流石に無理かなん?」

 

大学生のプリキュアはダメな気がした。そもそも、果南自体抵抗があった。

 

「大丈夫!高校生+αってことで!」

「大丈夫な要素が皆無でしょ!」

 

果南の悲痛の叫びが浜に木霊するのだった。

 

「また妙な日常が始まる予感がする果南ちゃんだった」

「しかし、どこかわくわくする気持ちもあるのだった」

「二人とも変なナレーション入れるなー!」




てなわけで、これで【ハグしよ?プリキュア】は終わりです。
いわゆる”俺たちの戦いは続くEND”ってやつですね。

果南ちゃんの誕生日に短編として出し、曜ちゃんの誕生日に連載になったこの作品を今までお読みくださりありがとうございました!
では、ノシ


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あとがきという名の衣装・技説明

*挨拶。

 

ルカ「おはヨーソロー!コンチカ!さくらりこ!ボンジュルビィ!おはなまる!おは善子!ダイヤッホー!シャイニー!」

果南「どうしたの?急に?」

ルカ「挨拶は大事かな?って思って」

果南「なるほど。ご機嫌いかがカナン?」

ルカ「だいぶ、いー感じ!」

果南「よーし。じゃぁ、ハグしよ?」ギュッ

果南「で、これはなんなの?終わったんじゃないの?」

ルカ「うん。終わったけど、いつも通り、長編が終わったらやってる物語の補足とかが目的のやつだよ」

果南「あれ?でも、長編なのにこれやってないやつ無かったっけ?」

ルカ「うーん、まぁ、あれ(のんびり天使は水の中)はアニメ準拠だったしいいかな?って」

果南「アニメ準拠?まぁ、いいや。で、なんで私とルカなの?みんなは?」

ルカ「主人公が果南ちゃんで、僕がやるのが無難かな?って。作者召喚するのは最終手段だよ」

果南「そっか。わかったよ」

ルカ「と言う訳で」

果南・ルカ「スタート!」

 

 

ルカ「これはただのあとがきであり、挨拶でわかる通り深夜テンションだったせいで、妙なことになってます。そのへんを気にしない方のみお読みくださいませ」m(_ _)m

果南「“繰り返される堕天”でもこれ言ってなかったかなん?」

 

 

*始まってしまった訳。

 

果南「HUG!っとプリキュアを聞いた瞬間思いついたんだっけ?」

ルカ「うん。HUGの部分に反応しただとか。それと時期がちょうど果南ちゃんの誕生日だったからノリで始まった訳だね」

果南「でも、どうして最初は短編だったの?」

ルカ「それはまぁ、ノリで始めた、誕生日突発企画だったから」

ルカ「その後、曜ちゃんの誕生日を迎えて、また誕生日企画をしようかな?ってなって今に至る」

果南「誕生日だったら、その前に花丸ちゃんがあったはずだよね?」

ルカ「そうだけど、あの時は色々あって。一話で果南ちゃんが『私より、曜が主人公になった方が良くない?』って言ったから」

果南「あれ?私の発言のせい?」

ルカ「まぁ、それと花丸ちゃんが戦うイメージが無かったから。結局戦っちゃってるけど。だから、花丸ちゃんの誕生日は別のやつで短編を書いたし」

果南「そういう事か」

 

 

*衣装と技説明コーナー。

 

ルカ「てことで、いっぱい変身したわけだからその辺りの説明を」

果南「確かに色々変身したね。特にキュアチャームで変身した後なんて」

ルカ「確かに変身ラッシュだったね。まぁ、そんな訳で始めるよー」

 

○HAPPY PARTY TRAIN(トレイン)

果南ちゃんが最初に纏った衣装。長いから発動時はトレインに短縮。

その能力は陸上での身体能力が上がる。果南ちゃんだけはホイッスルがある。主人公特権かなん?

・ホイッスル:音圧を周囲に波のように拡散させる(拡散型)と音圧を一点集中させる(集中型)の二つがある。また、音の反射で周囲を把握することができる。

・ハグしよ(ハーグ):果南専用技で、ハグすることで敵を浄化する。別にこの衣装じゃなくても使用することができる

・果南レール:果南ちゃん専用技で、光のレールが伸びて敵の動きを拘束する。

 

ルカ「まぁ、最初はこれだね。HPT衣装!一話で初登場し、四話で曜ちゃんも纏ったよ」

果南「私もまさか変身したらこの衣装になるとは思わなかったよ。あの時はフリフリしたものになる物だとばかり」

ルカ「まぁ、そう思うよね。でも、衣装を考えるのが面倒だし、そもそもどの衣装も可愛いからいいかな?ってノリだったみたい」

果南「確かに可愛いし、動きやすかったから私的には良かったよ。でも、ハグが技って……」

ルカ「いや、タイトル詐欺になっちゃうからね。初回、ダークうちっちー戦、ルシファー戦ではしっかり使いました!」

果南「使ったの私……あと、他の皆も使えるんじゃないの?専用技になってるけど……」

ルカ「いや、果南ちゃん専用技だよ。みんながやると、ただハグしてるだけになっちゃいます!」

果南「また、要らん設定を。ホイッスルと“果南レール”は?」

ルカ「ホイッスルは果南ちゃんの衣装にしか付いてないし、果南ちゃん以外が“果南レール”を使うのは変だから却下」

果南「みんな使えれば楽だったのに」

 

○恋になりたいAQUARIUM

曜ちゃんが変身した際に纏った衣装。長いから発動時は恋アクで短縮。

水中で息ができて、水中で自由に動ける。水中特化!

・全速前進ヨーソロー:曜ちゃん専用技として水を身体に纏って突進する技。

・ヨーソロード:曜ちゃん専用技で、光の道で敵を拘束する技。

 

ルカ「続いて、二話で曜ちゃんが、三話で果南ちゃんが纏った恋アク衣装だよ!」

果南「曜といったらこれって感じだよね。もっと早く教えてくれてれば、シーラカンスの時に痛い目に遭わなかったのに」ジトー

ルカ「あはは。まぁ、そんなこともあったね。でも、本当にあの時は水中戦になるなんて思ってなかったから……」

果南「そういうことにしとくよ。それで、曜のあの技は専用技なんだね。まぁ、私たちがやるのは違和感があるからいいけど」

ルカ「そうでしょ?だから、曜ちゃんだけ。まぁ、二人以外はこの二着を着ていないからね。それと、この二着だと使えるのが、“アクアウェーブ”だよ。大量の水を放ち、敵を倒す必殺技。それと同時に壊れた街を元通りにするご都合主義な技だよ!」

果南「そう言えば、街直ってたね。敵を倒して街を直すって、今更ながらむちゃくちゃな技だったね」

 

○未熟DREAMER

五話で動物型に囲まれた時に登場。

手から花火を放つことができ、それで敵を焼くことができる。使ったのは打ち上げ花火だけだったが、もしかしたら他の花火も打てたかも?

 

ルカ「続いて未熟DREAMERの衣装だよ!」

果南「敵がいっぱいだったから、一気に倒すために使ったよ」

ルカ「二人ともどんどん衣装チェンジを使ってたよね。あれほど、戦闘中は危ないって言ったのに」

果南「でも攻撃が来てたら、ルカとセイがちゃんと回避してくれたでしょ?」

ルカ「それはまぁ、そうするけど」

果南「あと、花火打つのに“たーまやー”っていちいち言うのどうにかならないの?」

ルカ「いや、別に花火を打つ意志さえあれば、言わなくても打てたよ?」

果南「え?」

 

○MIRACLE WAVE

HPT以上に攻撃力が上がる衣装。ルシファーを勢いで少し飛ばすことができたが、直後に本気を出されてやられた不遇の衣装。どうしてこうなった?

 

果南「この衣装不遇じゃない?特にいいとこ無しだったし」

ルカ「まぁ、こういう不遇なこともあるよね?」

 

○ピアノコンクールのドレス

五話で梨子ちゃんが登場した際に纏っていた梨子ちゃん専用の衣装。

攻撃力等は上昇しないが、防御力はそうとう高くなっている。

ピアノを弾くように空を叩くことで音が響き、その音の波で攻撃ができる。また、その音で身体能力を引き上げたり、傷を癒すことができる。

 

ルカ「名前が思い付かなかった……」

果南「うん、名前を見た瞬間そう思った」

ルカ「それに、登場した時には二人が戦えなくなってたから、サポート能力を活かせなかったし」

果南「でも、ルシファーのラストではあれで皆の能力引き上げてたしいいんじゃない?」

ルカ「ぎりぎりぶっこんだ感しかなかったけどね。あっ、海に還るものって名前にすればいいかも」

 

○未来の僕らは知ってるよ(ミラ僕)

七話で九人がキュアチャームの力で変身した際の衣装。キュアチャームでの初期衣装。

キュアチャームの力でそもそも全ての衣装の能力が向上しているから強い。

 

果南「あの時ビックリだったよ。てっきり焼かれたと思ったのに、私たち無事だったし」

ルカ「ご都合主義だよね。でも、それくらいの方がいいでしょ?」

果南「まぁね。この衣装は特に技とか武器無いんだね」

ルカ「特に技になりそうな物も武器もなかったしね。思い浮かぶのは千歌ちゃんのマレットくらいだよ」

果南「あれは違くない?というか、もうあの段階で無双だったよね?」

ルカ「うん、覚醒からの無双は基本だから。それに、魔法界に来た時にもミノタウロスとオオグソクムシはあっさり倒せたからね」

果南「そう言えば、あれってどういうことなの?私たちが強くなってたの?それとも向こうが弱ってたの?」

ルカ「両方だね。果南ちゃんたちが戦いに慣れてたのもあるし、その前に王国兵と戦ってて消耗してたってことで。九人がそろった時はそれ以上に強くなってたから、消耗してなくても無双になっちゃったけど」

果南「そういうことだったんだ」

 

○トワイライトタイガー

七話で登場。ちかなん専用の衣装。

虎のように素早く動くことができる。

・トワイライトスター:両手に星のように輝く光を纏い、攻撃力が上昇する。また、光弾として放つことができる。

・タイガークロー:両手に虎のようなクローを纏い、それで引っ掻く。

 

○ユニコーンブリザード

七話で登場。ようよし専用の衣装。

・ホーンストライク:冷気の渦を巻き起こして、角の形状にして突っ込む技。やっていることは“全速前進ヨーソロー”と一緒だが、角の形状をしている為威力は上。

・ブリザードストーム:周囲に吹雪を巻き起こし、敵を凍らせると共に強風でそのまま砕く技。辺りが寒くなるのが難点。

 

○インフェルノフェニックス

七話で登場。ダイルビ専用の衣装。

・フレイムヴェール:自分を中心に炎の結界を張り、結界内を護る技。大体の攻撃から護れる強力な結界。

・フレイムインフェルノ:荒々しい炎が放たれ周囲を焼き尽くす技。範囲選択もできるが、“フレイムヴェール”があったことで周りを気にする必要無く多くの敵を一掃するために無差別攻撃をした。周囲が熱くなるのが難点。

 

○ハリケーンブロッサム

七話で登場。りこまるまり専用の衣装。

・チェリーブロッサムハリケーン:桜の花びらを含んだ風を放つ技。風の刃が斬り裂く。

・フラワーハリケーン:多種の花を含んだ風を放つ技。チェリーブロッサムハリケーンとほぼ同じ。

・シャイニーハリケーン:キラキラ輝いた風を放つ技。上二つの技とほぼ一緒。

 

ルカ「と言う訳で、デュオトリオの衣装だよ!」

果南「主に、ルシファー以外との戦闘で使ったね。それに、それぞれ技もあったし」

ルカ「ただ、ハリケーンブロッサムの三人の技がほぼ一緒だったけどね」

果南「それは仕方ないんじゃない?他の三つは属性+動物だけど、鞠莉達のは属性だけだし」

ルカ「だから、他に思いつかなかったんだよね」

 

○アゼリアエンジェル

四話で果南ちゃんが、七話で三人一緒の状態で登場。AZALEAの2ndシングルの衣装。

その能力は空を飛ぶことができるという物。

 

○シャロンパイレーツ

七話で登場。CYaRon!の2ndシングルの衣装。

先端が槍になっている旗を振り回して基本戦う。旗で攻撃をガードすることができ、結構便利。

 

○ギルティーキスシャドウ

七話で登場。Guilty Kissの2ndシングルの衣装。

飛んだり、武器は無いが、影を操る能力を持つ。

・シャドウゲート:影の中に入ったり、影の棘を出したり、影の剣やハンマーを作り出すことができる。

 

ルカ「続いてそれぞれのユニットの2ndシングルの衣装。四話の段階で1stシングルの衣装をそのうち使う予定がすでにあったから、区別するために後ろにエンジェルを付けてそれに合わせて他二つにもつけたよ。まさか、四話でイメージして本当に纏っちゃうとは思わなかったけど」

果南「あの時は必死だったからなぁ。でも、意外とうまく行くもんだったよね?」

ルカ「そうだね。もし失敗してたらどうやって勝ってたのやら?」

果南「さぁ?その時はその時かなん?もしそうなってたら頑張って氷の上で戦ってたよ」

 

○アゼリア

八話で登場。AZALEAの1stシングルの衣装。

魔法が使えるステッキ――トリコリコステッキを使って戦う。

・トリコリコ:イメージした事象を引き起こすことができる魔法の言葉。バリアを張ったり、周囲の重力を強くしたり、ハートの爆弾を作ったりした。

 

○ギルティーキス

八話で登場。Guilty Kissの1stシングルの衣装。

腕を振り下ろすと稲妻が落ち、逆に振り上げると地面から炎が噴き上がる。

・ロック、オン:鞠莉ちゃんの専用技。指に魔力を込めて放つ技。連射とチャージして放つことも可能。

・ハートブレイクキャノン:よしりこの合体技。「ハート」でハートを描き、「ブレイク」でハートが具現化、「キャノン」でハートを殴り飛ばす。

 

○シャロン

八話で登場。CYaRon!の1stシングルの衣装。

格闘特化の衣装。CYaRon!砲という魔力を放つ武器がある。

・元気全開DAY!DAY!DAY!:三人が一点をパンチすることで大ダメージを与える技。ルシファーの障壁を簡単に破った。

 

果南「ユニットの1stシングルの衣装だね」

ルカ「うん。今思ったけど、五話の時MIRACLE WAVEじゃなくて曜ちゃんCYaRon!の衣装で良かった気がしてきた……」

果南「あー、だよね。格闘特化って書いてるし……まぁ、いいんじゃない?二期の衣装あの段階だと出てきてなかったし」

ルカ「それもそうだね」

果南「というか2ndシングルの衣装より1stの衣装の方が強くない?私たちは魔法使えて、千歌たちは高火力で、鞠莉たちは無詠唱で雷と炎が出せてるし」

ルカ「そう言えばそうだね。でも、2ndの衣装もそれはそれで強いじゃん。飛んだり、影に入ったりって」

 

○WATER BLUE NEW WORLD

九話で登場。世界を救いたいという願いと、みんなの事を忘れたくないという願いが形になって生まれた衣装。

・WATER BLUE NEW WORLD:周囲に青い羽が舞い上がり、空間の穴を塞ぎ、崩壊した魔法界を元通りにした技。

 

果南「で、最後がこれだね」

ルカ「みんなの願いが叶えられて生まれた衣装だよ。ラストはこれでルシファーを倒すか、世界崩壊を防ぐかのどちらかにしようって考えてなんだかんだで今の形になったよ」

ルカ「この衣装が出た理由は、四話でラブライブの決勝でどんな曲にするか、どんな衣装にするかって話をしていたから、その結果思いついたのが、ちゃっかり登場させようって感じ。一応、集大成な曲だったから、ラストに持ってくるにはちょうどよかったし」

果南「あ、そうだったんだ。衣装の説明はこんなところかなん?」

 

 

*疑問、質問コーナー。

 

ルカ「このコーナーは、読者の方々が気になっていそうなことを答えるコーナー」

果南「最終話を書いた直後に書いてるから、ほぼ予想したものだよね?」

ルカ「まぁ、そうだよね。と言う訳で、へい!」

果南「あっ、私が聞くんだ。といっても特に思い浮かばないけど……どうして善子ちゃんが昔魔法界を救ってたことにしたの?」

ルカ「ああ、それはあんだけ言ってたから、一応過去に救ったプリキュアの正体もやった方がいいかなって。それに善子ちゃん四話で空間の穴の封印をしてたり、その封印を強化したりって、妙に能力が高かったからね。記憶はなくても感覚的にできたって感じだけど」

果南「あそこも伏線だったんだ……」

ルカ「そうだね。まぁ、ぶっちゃけ善子ちゃんのその設定は最終話書いてる時に思いついたんだけど」

果南「あれ??そうなの?じゃぁ、もし善子ちゃんのその設定を思いついてなかったらどうする気だったの?」

ルカ「その時はそういう本を持っていた設定にでもするつもりだったよ」

果南「それでいいんだ?」

ルカ「ちなみにキュアエンジェルの衣装はスクフェス天使編の覚醒前善子ちゃんをイメージかな?白だったし」

果南「やっぱり白色だったんだ。で、話は変わるけど、どうしてルシファー出てきた訳?最初の頃はダークうちっちーを倒せば終わりだったはずだよね?」

ルカ「あー、それを話すとややこしい話も入るよ?いい?」

果南「うん、聞かないことにはわからないし」

ルカ「了解。ぶっちゃけ、二話書いた時は四話で終わらせる気だった。二話で曜ちゃん加入、三話で衣装チェンジ、四話でダークうちっちーを倒して終わりって感じで」

果南「なんで、それがルシファーの登場だの、九話まで書くことになった訳?」

ルカ「それはまぁ、二人だけじゃあれだったのと、どうせなら皆変身させたくなっちゃったから」

果南「いつも通り、欲が出た訳ね」

ルカ「うん」

 

*締めの言葉。

ルカ「と言う訳で六千時越えたしそろそろ終わりにしようか。大半衣装説明に使った気がするけど」

果南「四千字超えだね。本編も五、六千字だから確かに分量は十分だね」

ルカ「完結記念にイラストアップをしたかったけど、今回もやっぱり無理かな?」

果南「絵が描けないってのは、今まで二回長編の後書きで言ってきたから、もう言わなくてよくない?」

ルカ「いや、今回は一応描いたんだよ?」

果南「描いたんだ……」

ルカ「毎回普通の等身で描いて失敗してたから今回はデフォルメした、HPT衣装でハグのポーズの果南ちゃんを」

果南「無難な絵だね。で、なんでアップしないことにしたの?描けてるならいいじゃん」

ルカ「手描きで描いて、描き終わってからスキャナーで取り込んで見たら、なんか違和感が半端なくて……何が変かと思ってちゃんと見たら、顔の輪郭と目のバランスとか、顔と身体の大きさのバランスとか、まぁ、色々とね」

果南「で、やめたと」

ルカ「うん。上げる意味が無いからね。てなわけで、本編九話と短いですが――」

果南・ルカ「「お読みくださり、本当にありがとうございました!」」ノシ



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