キバって運命をブッ壊す! (ふくつのこころ)
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登正音(のぼりまさね)の朝

オリ主の名前は登太牙の「登」と紅渡の息子(?)の紅正夫の名前の誤植の「正音」から。


 時代錯誤で古い屋敷の一室、そこでこの登正音(のぼりまさね)の朝ははじまる。

 

 なんとかって家の分家筋が我が登家らしく、その恩恵に預かって俺は高校二年生ながらも大きな家に住むことができている。

 そんな俺の父さんが俺に何度も俺に対して聞かせてくれた言葉って言うのは、「自分の音楽を見つけろ」というものだった。

 それがどういうものでどう言う形であれ、自分の音楽を持つ者というのは、魅力的な男であるらしい。

 朝起きて制服に着替えた後は鏡の前で寝癖を確認、年代物の鏡はこの屋敷にはぴったりベストマッチ!という奴だが、なんとなく俺には合わない。

 それでも、買い換えることなく置いてあるのは小さいときから傍にあるとなると、なかなか捨てられないもの。昔の恋人の思い出の品を捨てられないという話をよく聞くが、思い出に浸る分にはいいのではないかと思う。

 まあ、この鏡は誰か恋人からの贈り物でもないし、ただ昔馴染みの部屋に置いてある家具と言うだけでちょっとアンティークなだけで変な事はない。

 

「さて、今日もバッチリ決まってるな?」

 

 鏡の前で親指と人差し指を使い、銃のような形を作り、顎の近くまで持っていってポーズを決める。なんとなく、無意識のうちに俺の癖になってしまっているらしい。

 

「うわ、朝からまた鏡見てるの?正音は飽きないにゃん……」

 

 背後から覗き込むようにしている溢れんばかりの巨乳を詰め込んだような浴衣姿の黒髪の美女が飽きれた声、それに違わないようなジト目をしたままに鏡に映る。

 彼女は黒歌、妖怪らしいが、どうやら困っていた所を昔に声をかけて以降、登家に転がり込んできた。そんなに詳しく聞かなかったが、ワケアリらしい。

 良い男とは、美女の聞かれたくないことは空気を読んで聞かないものだ。これは、俺の父さんの教えでもあり、登家から見て本家に当たるバスカヴィル家の教えでもあるのだとか。

 古くからの伝統って言うのにあまり関心は湧かないけど、そういうところなら歓迎しておくとしよう。いずれどころか、これから役に立つに決まっているからな。

 

 急に俺の部屋に入ってくることはこれが初めてではなく、最初の頃は声を上げてしまったが、慣れとは怖いもので急に入ってこられるのも慣れてしまった。

 大方、のんびりで猫っぽい彼女のことだ、俺に朝飯を作れと言いに来たのだろう。寝癖で髪が跳ね、口を開いて欠伸をすると、八重歯が見える。片方の手で俺の肩を叩き、手に櫛を持って、「正音、髪してほしいにゃん」と寝癖を直せとおねだり。

 居候の身でありながら、家主に髪を梳かせるとは何事だといいたいところだが、()()()()()()状態では黒歌のほうが俺より強いので、ここは大人しく従っておこう。

 それに美女の寝起きと言うのは、毎日見ても飽きないもので、扇情的な服装のせいか眼福である。特に風呂上りは――おっと、これ以上は言えないな。

 

「椅子に座れ、この俺が髪を梳いてやる。神に感謝しろ」

 

「正音ってば素敵!」

 

 デスクとワンセットになっている椅子を持ってくるのかと思えば、よりによって俺のベッドに座った。せっかく綺麗に畳んだと言うのに……、しかし、寛大な心でそのわざとらしい賛辞と共に受け止めてやろう。

 

「ねえ、シェフ?今朝の朝食のメニューについて教えて欲しいにゃん?」

 

「俺は女には優しくするほうだが……、居候のお前は作ろうとは思わないのか?そろそろ、黒歌の愛情の篭った手料理が食べたい」

 

 大人しく座らせた後、またベッドに上がりなおし、後ろからそっと彼女の髪に櫛を通しはじめる。柔らかい髪質、それに手入れが行き届いているのは、うちの浴室のシャンプーやリンス類が増えたのと関係があると見て間違いない。

 上目遣いで家主にたかる気満々の黒歌にそれとなく言ってみるが、彼女は髪を梳いている間、気持ち良さそうに目を細めるだけで反応を返して来ない。

 以前、黒歌に振舞ってもらった食事はあれはかなり美味だったと言える。正直、俺が作るよりは上手かった。オムライスの玉子をふわふわに仕上げ、チキンライスの具材の火の通りもいい。

 あとは、なによりも美女が作ってくれた食事とあれば、それだけで絶妙なスパイスとなってくれ、食欲が進むし、食後のコーヒーも旨かった。

 確か、あれは何かの記念日でもなく作ってくれた気がするが、黒歌にとっては大切な日だったと見るか否かと裁判中、なお、まだ判決は下っていない模様。

 

「はぁ?ナルシストの癖に自意識過剰?重なってきもいにゃん」

 

「重なるどころか、同じような意味じゃないか。なら、俺はお前の髪を梳く必要がないな」

 

「自分の役割から逃げるつもり?これは毎朝の私の日課なの。勝手に辞められちゃ困るにゃん」

 

 黒歌の言葉はずたずたと俺の心を引き裂き、そして振り返ってからの腹に一発いいのを貰ってしまう。

 その場で悶絶するも、床に倒れ伏せなかったのはファインプレーと言うことにしてもらいたい。……下から覗きこむのも一興?それ以上、朝から心を引き裂かれたくないんだよ、分かってくれるな?

 言葉は悪いが、黒歌なりには俺が髪を梳くことに対しては、それなりに気に入ってくれている様子。

 ご近所に挨拶するときはもっと、こう、絶世の美女っぽい感じで振舞っているじゃないか。

 あの優しさを俺に接する時も分けてもらいたいものであるが、それは叶わぬ願いなんだろうな。

 

 いい具合に寝癖を直し終え、またズレていた浴衣を整えると(整えた直後に黒歌にすぐ崩されてしまうが)、扉を開け、黒歌を伴ってリビングに行く為にリビングへと向かう。

 俺が食事を作るとき、そういう時に限っては腕を組む黒歌、食事を作ってもらうためには機嫌をとることが必要だと薄々感づいてきているのだろうと見える。

 別にそうしなくとも、作ることに変わりはないのだが、これを言ってしまうと今腕に感じている柔らかな感触を味わえなくなるのは少し残念なのでこのままで。

 一個下の後輩の二年の()()()()有名人の奴はかなりのスケベと聞くが、そんな奴が聞いたら羨ましがるかもな。

 

「作っている間に歯を磨いて来い、朝だから期待するな。というか、高校三年男子に料理は期待するな」

 

「嘘。天才の登正音に出来ないことはないんじゃないの?……まあいいけど、今日はゆでたまご多めで」

 

 簡単に言ってくれる黒歌だったが、ちゃっかり、朝のサラダに添えてあるゆでたまごの数を増やせとは、これはいかに。

 は~い、と間延びした返事の後に洗面所のほうへと向かっていく。

 この広い登邸、かなり広いくせに住人の数がそれに釣り合わないほどに少ないと来たものだから、飽き室は残っている。

 二階にあるのは俺の部屋、父さんの書斎があり、一階はリビングと庭があり、地下室もあると聞いたことがあるが、そこへの入り口は閉ざされている。

 来るべき日、そのときになるまで行くことは許されていないということなのか、真偽は明らかになってない。

 

 下手に忍び込んで、何か仕掛けでもあったりしたら大変なのが俺の家の屋敷だ。

 ちょっと特殊ってものではなく、()()()()()()こともあるのだから、同い年の連中を泊めるには、これほど向いていない家もない。

 確かに、そういったお化け屋敷めいたものは高校生って言うのは好きなんだろうけど、あまり家の中を引っ掻き回されるのは俺の好みではないのが本音である。

 洗った野菜をザルに移し、よく水を切った後にサラダを作るための下ごしらえを始める。一流の男には一流の朝食でなければならない、というのが俺の流儀である。

 

「カシラァ~!おはようございます、飯食いに来ました!」

 

 朝から煩い奴らが来た、今日も静かに過ごすことは叶わないらしい。

 

 この俺、登正音の朝は優雅に始まる……はずなんだけどな。

  




年齢としては、正音はイッセーより一学年上の三年生。
卒業後は海外に「自分なりの音楽を探しに行く」んだとか


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騒がしい朝

まだ変身してすらいない……


 正音をカシラと呼んだのは、正音よりも年下に見える少年だった。

 彼は登家の現在、庭師の仕事を務めているのだが、本人たっての希望で登家の庭に小屋を建てて暮らしている。

 正音は大量の空き部屋もあるので好きな部屋を使え、と前々から言っているのだが、本人はそれを聞こうとしない。

 あくまで、自分は正音より目下であると言ってはばからず、彼自身を兄貴分として慕っている。

 

「また五月蠅い奴が来たな。庭に住んでいるのか、それとも、たかりに来てるのか……」

 

「やだなあ、カシラの飯が美味いからに決まってるじゃないですか。朝飯、自分で作るよりカシラの飯食った方が元気出るっつーか」

 

「俺と一緒に住んでる奴はどうしてこう自分で飯の支度をしないんだろうな。俺が料理ができれば、モテるからって料理するような奴じゃなかったら、どうしていたんだ?……まあいい、それだけ、この俺の料理の腕が立つってわけだ。お前、本当に美味そうに食うからな、アギトは」

 

「えへへへっ」

 

 正音がアギトと呼んだ少年は正音が料理しているところが見えるようにテーブルに着くと、ニコニコと笑顔を浮かべて主の料理風景を見ている。

 見るものに敵意を失わせるような、人懐こい笑顔を浮かべているアギトは正音に「大喰らいで口を大きく開けるから」というだけで正音にアギトと呼ばれている。

 本名が分からず、嫌なあだ名でしかない呼称にも本人もそれで了承しており、そして、素直に人を褒めるアギトの長所もあり、ナルシスト気味な正音の性格もあって上手くやっていけてる。

 

 嫌味のない褒め方ができるアギト、褒められると嬉しい正音は上手く歯車が噛み合ってやっていけているところがある。

 

「ふあ~、まだまだ眠いにゃん」

 

「あ、黒歌の姉御!おはようございます!」

 

「お、アギト。おはようにゃん、今日も朝食食べに来たの?」

 

 大きく欠伸をしながら、黒歌は髪の毛先を弄りつつ、リビングへと戻ってきた。

 アギトはすぐに席から立ち、黒歌に深々とお辞儀をした。

 正音がカシラと呼ばれているなら、と自分から姉御と呼ぶように黒歌に言われたアギトは率先して黒歌を姉着と呼んでいる。

 正音は冗談が通じないという意味では、アギトのようなタイプを苦手としている。

 馬鹿正直で真っすぐなのは正音の後輩にもいるが、あちらはまだ可愛げがある通じなさなのに対し、アギトは素直に褒めてくるから苦手だ。

 

「そうなんですよ。ていうか、毎日じゃないですか、俺が来てるのは!……あ、カシラ。もしかして、俺が毎日来て参ってません?毎日だけに!」

 

「それもそうにゃん!……今の触れないからね」

 

「えー、そんなあ」

 

 アギトが黒歌の言葉に突っ込みを入れ、黒歌が冷静に突っ込みを返す。

 料理中になぜか正音の身体が冷えてきてしまったのは、間違いなく、アギトの駄洒落によるものだろう。

 ぶるぶる、と肩を震わせ、スクランブルエッグの載ったフライパンの火加減を調節しながら、使った料理器具を洗いはじめる。

 

「朝から何言ってんだよ、アギト……。お前のスクランブルエッグの量、減らしておくからな」

 

「えー、酷いですよ、カシラァ。俺も姉御もカシラの朝食、楽しみにしてるんですからね?」

 

 アギトは唇を尖らせたが、正音は白い目で見ている。

 これにはアギトも参ってしまう、正音の人柄と言えば、こういうときに構ってもらえないと面倒になるタイプだから。

 

「減らしはするが、食わせないとは言っていないだろう。キバットの奴にも食わせなきゃいけないんだ、大量に作るさ」

 

 スクランブルエッグと炒り卵の違いは何だろう。

 卵をフライパンの上でぐちゃぐちゃにするだけなのに差別化はどこで生まれてしまったというのか。

 些細なことは気にしないマイペースな居候の猫とのんびり屋なアギトとする話ではない。

 待たれるのは蝙蝠型のナマモノ、キバットことキバットバット。

 

「おう、お前ら、おはよう。いい匂いがするから、俺の気分も朝からテンションが上がりっぱなしだぜ!今日はなんだ、正音?」

 

 陽気な声を上げ、器用に羽ばたいてやってきた蝙蝠型のナマモノ、キバット。

 正音は蝙蝠というには凛々しすぎるフォルムと陽気な声から蝙蝠かどうかと怪しんでいる。

 しかし、友人として接していて楽しいこと、なんでもないことでしばらく会話が続くことから重宝している相手であることには間違いない。

 

「今日はスクランブルエッグだ、キバット。見ろよ、この焼き加減。俺じゃなきゃ焦がしていたに違いない。やはり、俺レベルともなれば、スクランブルエッグですら美しく焼けてしまうのか……」

 

「へえ、美味そうじゃねえか。上手くなったよなあ、焼き加減。最初は卵を割ることすらもままならなかったってのに。食えたものじゃなかったな、アレは材料を無駄にしているというか」

 

 フライパンの中身を自信満々に見せる正音、そんな正音の様子にうんうんと頷くキバット。

 付き合いの長い二人(一人と一匹?)は正音が料理を始めた時のことをよく覚えている。

 キバットは正音の失敗した料理のことを思い出しながら、思わず苦笑いを浮かべてしまう。

 

「おはようにゃん」

 

「おはようございます、キバットさん。……へえ、あのカシラが?今からでは想像できないな」

 

 黒歌とアギトのあいさつにそれぞれ、おう、と軽快に挨拶を返すキバット。

 最初こそ、キバットのことを訝しむことはあれど、今となっては登家の屋敷にキバットはいなくてはならない存在となっている。

 マイペースに生きている住人と家主、一見するとマイペースに見えるキバットはある意味では彼らのストッパーのような役割だった。

 

「おうよ。正音の親父がな?メシが作れる男はカッコいいぞ、と言ったのをきっかけに上手く作れるようになったんだよな?お前。スイッチの入れ方がもう女たらしのそれだったからなあ。今でも料理しているのを見ると思い出すぜ」

 

「今は上手く作れているんだから、文句はないだろ。なんせ、この登正音にできないことなんてないんだからな。見ておけ、キバット。優雅な朝という奴を俺が見せてやるよ」

 

「へいへい。お前が作ってるのを見てた時はどうかと思っていたが……、まあ、美味い飯が食えるなら、俺様としても満足できるんだけどよ」

 

 食パンの焼き目をトースターの窓にあたる部分から覗き込み、キバットは正音の料理の腕の成長を喜ぶ。

 さほど手のこもったものは作れないが、それでも、男子高校生としては十分な腕であろうことは正音の周囲の少年を見ていても思う。

 任せておけ、と大袈裟に腕を広げながら満面の笑みを見せる正音を見て呆れる黒歌、ニコニコ笑顔のアギト、フライパンの方へとふわふわと飛んできたキバットはスクランブルエッグが少し焦げているのに気がついた。

 

「おい、焦げてんぞ。焦げているのは正音のな、俺様は一番美味いところを頼むぜ」

 

 しれっとキバットは焦げた部分を避けるようにどこからともなく持ってきた、小皿に菜箸を正音から奪い、口にくわえて器用に盛り付けていく。

 

「あ、おい!入れるのは俺の仕事だ!蝙蝠もどき!」

 

「うるせー!焦げているところを食わされる俺様たちの身になりやがれ。ほれ、お前のだ」

 

 ほかの二人の分を盛りつけた後、正音のスクランブルエッグは焦げたのがほとんどだった。

 

「じゃあ、いただきますにゃん♪」

 

「カシラァ、先に戴きます!」

 

 黒歌とアギトはフォークを手に朝食を摂りはじめる。

 キバットがちょうどいい塩梅を見計らって盛り付けたので、スクランブルエッグはふわふわに出来上がった。

 

「おう、食え食え。正音もさっさと食えよ。日直だろ?確か、一緒にやってるのはグレモリーって子だったか?」

 

「リアスのことか?あいつなら上手くやってくれるさ、日誌書くのだって俺より上手い。適材適所って奴よ」

 

 リアス・グレモリーとは、学園のマドンナであった。

 三年生で同じクラスの正音、学園のマドンナにいいところを見せるどころか、そんな様子を微塵も見せない。

 別に嫌いというわけではないのだが、それなりに本人のことは知っているつもりだし、なんとなく任せても大丈夫だと思ったのだ。

 

 トーストを載せた皿をそれぞれに配りながら、大きなサラダの載ったボウルを置いて、正音は自分の席に着く。

 

「いただきます。今日もいいものができたな。すなわち、俺の腕に刮目しろ」

 

「キバットが迅速に対応しなかったら、黒焦げ卵を食べる羽目になってたにゃん。落とし前をつけられるの?もぐもぐ……」

 

「なら、自分で作るといい。黒歌の飯は美味かったんだけどなあ……、なあ、アギト」

 

「はい!姉御の飯は美味かったです!」

 

「乙女にはね、気分があるのよ」

 

 隣の席の黒歌が正音のスクランブルエッグを奪い、文句をつける。

 口端についている卵を呆れた顔で正音はふき取る。

 こういうのは何か色気があってしかるべきだろう、とキバットは考えるが、文字通りの飼いネコと飼い主では片づけられない二人の関係はキバットは今更口出しをするつもりはなかった。

 

「乙女は家主から飯を奪うのか?お前は居候じゃないか」

 

 スクランブルエッグをちぎったトーストの上にのせ、口に運ぶ。

 今日も出来は絶好調、良い朝だと力が漲ってくる。

 

「あ、言ったね!?朝から正拳突きしてやるにゃん!」

 

 憤る(スーパー)居候。

 ゴゴゴゴ……!と目視できるまでに濃厚なオーラが出ると、正音はアギトの近くの席に逃げた。 

 

「アギト、命令だ。俺を守れ」

 

「はい!カシラの命令なら!」

 

「あーっ!ずるいにゃん!変身したら強い癖に!」

 

 きりっとした顔で平然と言ってのける正音、黒歌は立ち上がって指を差す。

 

「とりあえず、正音は時間に気を付けような」

 

 朝食を食べながら口をモゴモゴさせている、キバットの冷静な一言に正音は我に返った。

 スマートフォンで時間を確認し、SNSで『正音先輩!お迎えに来ました!』という後輩からのメッセージに朝食を掻きこみはじめる。

 

「優雅な朝ってなんだろうね?アギト」

 

「わかりません。でも、カシラらしいじゃないんですか?」

 

 そんな居候(黒歌)とアギトの会話を尻目にキバットはため息をついた。

 

(まだまだ“王”には遠いなあ……)

 

「アギト!留守番と皿洗いを頼んだぞ。黒歌はつまみ食いすんなよ。キバット、夕飯も期待して待ってな!」

 

「おう、行ってこい」

 

 流しに食器を置いた後、ミネラルウォーターを冷蔵庫から取り出し、コップに注いで一気に飲み干した後、()()()()()()()()()()()()左手に黒い指貫き手袋をはめて制鞄を持って正音は飛び出してしまった。

 

 登正音には優雅な朝は似合わない。

 それは、登家の住人の共通認識であった。

 そうして、騒がしい登家の一日がはじまるのだ。 

 



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先輩後輩

捏造設定、今回もあり


 正音は遅刻することなく学校に到着することができた。

 正音の通っている駒王学園はもともとが女子高であったので現在でも女子の比率が高く、共学となった今でも女子の方が優位に感じることもある。

 無事に午前の授業を乗り越え、正音はぐったりしていた。

 

(のぼり)くん。貴方も日直の仕事やりなさいよ」

 

「おいおい。教師からの頼まれごとは全部、俺がやってるじゃないか。それでも文句があるのか?」

 

 ばんっ!と正音の机を叩き、視線だけを上に向けると制服越しにも分かる大きな胸がある。

 赤い髪が揺れ、解せないといった様子で正音を睨み付けているのは正音のクラスメイトでもあるリアス・グレモリー。

 良家の令嬢であるということからか、気品もあって育ちがいい様子が見られる。

 もちろん、そうした性質以外でも育ちの()()が見受けられているのだが、古くからの付き合いである正音に対してはそれが向けられていなかった。

 

「日直というものは、分割してやるものでしょう?なのに、貴方と来たら、理由をつけて中学の時からずっとこれ。何か理由でもあるのかしら?」

 

「俺はどちらが優位とか興味がなくてね。リアスならできるだろうと思ったまでさ」

 

 リアスに睨みつけられてもなお、正音は不敵な態度を崩さない。

 クラスメイトから向けられる、学園のマドンナへの雑な扱いに対する痛々しい視線、しかし、我が道を往く正音には大した問題ではなかった。

 本人には大した問題ではなくとも、なにより、名前で呼び捨てをしていることが気に食わないというのが彼らの言い分であろう。

 

「あら?でも、女の子に全部押し付けるのは感心しませんわね。リアス?登くんに帳簿を押し付けてもいいんですのよ?」

 

「なんてタイミングだ。よりによって、お前が来るとはな……」

 

 ひょっこりと顔を出したのは、微笑みを湛えたリアスの親友の姫島朱乃。

 黒髪のポニーテール、大和撫子然とした雰囲気から学園の二大マドンナの一人に数えられている。

 ちなみにもう一人はリアスである。

 

「朱乃。でも、登くんに押し付けたら、間違いなくやらないわ。中等部からこうだもの」

 

「うふふ、大丈夫よ。やらせる方法がありますから」

 

 助け舟がやってきた!と朱乃の登場に喜ぶリアスの目は輝いている。

 朱乃がうふふと笑うと、一瞬、その微笑みがサディスティックなものをにじませるのを感じ、正音はぞくりとした。

 容姿端麗な二人を正音はその軟派な性格からデートに誘ったことがあるが、柔らかく断られてしまったことがある。

 それが話の話題に上がった中等部の頃であったが、その断られ方が正音の中では今も深く刻み込まれている。

 

『貴方って軽そうだから好みじゃありませんの。それにデート中にも他の女の子に目が移ってそう。ごめんなさいね』

 

 微笑みを浮かべた、朱乃の言葉。

 ばさりと切り捨てられたようにも感じ、最初の言葉よりも最後の言葉が正音を傷つけた。

 全くを以て図星であったからである。

 

「全く、そんな風にキツいと嫁の貰い手がいないぞ?パツパツなのは胸だけにしておけ」

 

 正音が肩をすくめ、やれやれと息を吐いた。

 リアスが顔を赤くし、胸元を隠すと直後に鉄拳が正音の頭に振り下ろされた。

 このクラス、ひいては学園の異端児ともいえる正音は変態三人組と称される二年生の三人とは違った意味で関わってはいけないとされており、ひそひそと陰口を叩かれるほうが多い。

 

「登の奴、またグレモリーさんにあんなことを……」

 

「いくら中等部からの付き合いでも言っていいことと悪いことがあるわ!さっさと退学になってしまえばいいのに」

 

「そういえば、兵藤の奴がグレモリーさんや姫島さんと一緒にいるのを見たな」

 

 本人がすぐそばにいるのに平気で陰口を言えるのは、どれほど自分が憎まれているのかを確認できる機会である。

 声がする方に頭を押さえながら耳を傾けると、息を吐いた。

 

「なんですの?文句でも言いたいんですか?登くん。流石に今のは中等部からの付き合いでもありえませんわね」

 

 ボキボキと関節を鳴らす朱乃、笑みを浮かべてはいるものの、目が笑っていない。

 

「いや、そうじゃない。お前ら二人、イッセーの奴には駄々甘だよな」

 

 腫れあがったたんこぶを無理やり引っ込ませながら、兵藤と聞いて共通の後輩の名前を出す。

 リアスはオカルト研究部の部長をしており、そこに所属する生徒がルックスのいい生徒が多く集まっていることから憧れの的であった。

 その中に新しく入った後輩、確かに元がいいので格好いい方ではあるのだろうが、その性欲の強さから学園では倦厭されがちだ。

 

「「!!」」

 

 イッセー、という名前を聞いたときのリアスと朱乃の反応は分かりやすかった。

 わずかに顔を赤らめているからである。

 

「……登くん。その話はこれ以上は無しよ。貴方はあの子も慕ってる男の先輩だって聞いたわ、兄貴分なんだそうね?正直羨ましいくらい」

 

「そうか。だが、俺にここで止める義理はないな。日直の仕事をリアスがこなし、あと何か食うものでもくれればな……」

 

 リアスの声のトーンが下がる。

 声に力がこもっている、表情から窺えるのは完全に今のリアスが恋する乙女のそれであることが付き合いが長く腐れ縁になっている正音でなくとも、誰が見てもそれは明らかであろう。

 

「そういうと思って用意してきましたわ、どうせ、お昼ご飯を持ってきてないんでしょう。サンドウィッチです」

 

 どさり、と前に置かれたのはランチボックスに入ったサンドウィッチ。

 朱乃はどこかやるせないようだが、その視線は真剣そのものである。

 

「ほう。分かればいいんだ」

 

 正音が手を伸ばそうとするが、ランチボックスは朱乃に奪われてしまった。

 

「ただし。リアスや私にイッセー君のお話をしてください。登くんの前でのイッセー君の話を」

 

「朱乃!貴方……!」

 

 リアスが朱乃の方を見ると、彼女は柔らかい笑みを浮かべた。

 

「まあ、それくらいはかまわないさ。美女の手料理を昼飯にできるなら安いもんだ、あいつの話は」

 

 正音の言葉に朱乃は改めてランチボックスを置く。

 

「では、リアスと私は部室に行ってきます。洗って返してくださいね?お弁当箱」

 

「なんだか、とても解せないような気がするけれど、まあいいわ。登くん、頼んだわよ!」

 

 腑に落ちないといった様子で首を傾げるリアス、そのまま、二人の同級生が教室から出ていった後、また突き刺すような視線を送られるのだが、正音はランチボックスの蓋を開け、色とりどりのサンドウィッチに目を輝かせる。

 

「おお、美味そうだ。……俺も詳しく話を聞かなくちゃな」

 

===

 

 放課後、今日は部活動がないというイッセーと俺は一緒に帰ることにした。

 といっても、呼び出したのは他でもない俺自身である。

 ほかのイッセーの親友二人でなく、俺の方を優先してくれたのは先輩冥利に尽きるのだが、美女二人に好意を寄せられているとあっては、聞き捨てならないもの。

 最近では、金髪の美少女のアーシア・アルジェントを家にホームステイさせているという話を聞いたが、こいつは本気で夢をかなえてしまうつもりらしい。

 

 駒王学園に入学した理由は、ハーレムを築き、ハーレム王に俺はなる!ということらしい。

 

 なんと欲望に一直線なことだろうか。

 しかし、そんなこいつだが、いいところはもちろんある。

 誰かのために戦うことができ、そしてなによりもひたむきであることがこいつのいいところだ。

 思考が性欲に直結していることを目を瞑れば、大切なヒトには真っすぐな思いを向けられる姿勢は太鼓判が押せるレベルだ。

 

「しっかし、先輩から呼び出されるなんて珍しいっすね」

 

「まあな。今日はお前に聞きたいことがある」

 

 俺たちが訪れたのはカウンター式の座席のあるラーメン屋、昔ながらで腹を空かせたときは良くイッセーが通っているという店だ。

 男に飯をおごる趣味はないが、今回の内容が内容なのでイッセーに口を割らせるには、飯を食わせる必要があると考えた俺はこいつに飯を奢ってやることにした。

 美女の作った弁当を奇跡的に昼食にすることができた俺、気分がいいので珍しく金を出してやろうというとイッセーの奴は失礼な反応を見せやがった。

 

『えっ!?あんなに飯を奢ってくれと言っても奢らなかった先輩が!?』

 

 まあ、実際、こいつの親友たちにも飯を奢ってやったことは一度もない。

 何度も言うようにポリシーに反するからである。

 そのポリシーを捻じ曲げてでも、俺が今日ここでこいつにしようとしている質問がどれだけ重要なものかを思い知ることになるだろう。

 メニューとにらめっこしているイッセーだが、その視線がざっとメニューを見て一番高いであろうオールトッピング載せラーメンであることはすぐに分かった。

 

「俺に聞きたいこと?あ、もしかして、オカルト研究部のことっスか?」

 

 お冷を口に含み、グラスをイッセーはテーブルに置いた。

 マドンナや美少女、イケメンといるところが気に入らないと因縁をつけられるからなのか、すぐに答えに辿り着くことができたらしい。 

 真っすぐではあるが、馬鹿ではないところがこいつのいいところの一つ。

 

「その通りだ。単刀直入に言おう。……お前、姫島とリアスに惚れられてるのか?俺は普通のラーメンでいい」

 

「そういう先輩こそ、なんで部長を名前で呼び捨てにしてるんスか?朱乃さんだけ苗字だし。あ、すみません!特性トッピング全部載せ二つで!」

 

 イッセーが店員を捕まえて注文してくれたのはいいが、全部載せを食うのは別にいいとして、俺は普通のラーメンを頼むようにと言ったはずなんだが?

 

「言わなかったか?中等部からの付き合いなんだよ。苗字がいい辛いんだ、あいつ」

 

「むしろ、そっちのほうを詳しく。それって、朱乃さんの方が言いにくくありません?」

 

 ここで、俺はある一つの疑問を抱く。

 

「おい。なんで、お前が姫島を呼び捨てにしてるんだ」

 

 あの姫島のことをどうやら苦手に感じているらしく、未だに俺は呼び捨てで名前を呼ぶことができない。

 

「そのように呼んでくれって言われたんです。あと、間違いッスよ。俺、あの二人に可愛がってもらってますけど、俺のことが好きなんて、そんな」

 

 イッセーの顔に暗い表情が窺える。

 初めての彼女ができた、と言って喜んでいた時はまず疑ってかかったが、それが事実と分かるとこの店で祝ってやったのを覚えている。

 それから、しばらく経って、まわりの奴がその存在を忘れていると言って泣きついてきた。

 その事件は紆余曲折で解決したらしいが、それ以降、リアスたちと一緒にいるのをよく見かけるようになった。

 

「向けられる好意は大切にしておけよ。特にあんな美人だ、奪われんのは嫌だろ?俺ならもっとグイグイ行ってしまうね」

 

「そのときは、取り返しに行きますよ。絶対」

 

 時折、こいつも男らしい顔を見せるようになった。

 そういう様子をもっと見せれば、女子も見直すかもしれないんだがな。

 

 ラーメンが二つ届き、苦い顔をしていると、「登先輩」とイッセーに呼ばれた。

 

「ここ、俺が出しますんで心配しないでください」

 

「なんだよ、俺が出すって言ったじゃないか。滅多にないからな、俺が奢るのは。二度とないかもしれない」

 

「じゃあ、また次に」

 

 ないと言っているのに聞いていなかったのか。

 リアスたちと一緒にいるようになってから、こいつは俺が知らないうちに欲深くなった。

 いや、元からか。

 

「これからも、俺の兄貴分でいてもらえませんか?」

 

「ラーメンで俺を釣ろうってのか?知っていると思うが、俺はお前より金がある。釣られないぞ」

 

 知ってますよ、とイッセーは苦笑いをする。

 

「こういう話ができる相手、他に居なくて。だから、先輩といると安心できるんです」

 

「その気はねえからな、俺」

 

「もちろん、俺もですよ。男よりオッパイがいいですからね!」

 

 強く力説するイッセー、だが、店員が持ってきたラーメンがそろそろ伸びそうだ。

 頑固おやじの店主の見る目が怖い、そろそろ食うとしよう。

 

「兄貴分のつもりはこれっぽちもないが、話くらいは聞いてやる。それがいい男ってもんだ」

 

「ナルシストですね、相変わらず」

 

 五月蝿い、お前もさっさと俺のように余裕のある男になれ。

 

===

 

「どうした、ご機嫌だな?正音」

 

 イッセーと別れた後、キバットとの“散歩”中にキバットが俺に聞いてくる。

 

「そんな風に見えるか?俺はいつだってご機嫌さ。世界中の美女が俺を待っているからな」

 

「相変わらずだよな、お前は」

 

 そんなやり取りをしていると、女に粉をかけている“獣”と出くわした。

 

「いいから、俺と来い!」

 

 どことなく野性味を感じる姿、青い体躯に鋭い爪。

 正体はよくわからないが、とにかく、ここが男を上げるチャンスだ。

 あわよくば、仲良くなれるかもしれない。

 

「どうする?正音」

 

 キバットが俺に尋ねてくる。

 答えはもちろん、

 

「決まってるだろ。キバって相手をブッ飛ばす!」

 

「オーケー!すっかり俺様の台詞も板についてきやがって!行くぜ!正音!ガブッ!」

 

 俺の腰に赤いベルトが現れ、キバットが俺に噛みつくと顔にステンドグラスのような模様が浮かび上がる。

 

「変身!」

 

 俺の身体中にキバットが噛みついたことで流れるようになったエネルギーが満ちるのを感じると、キバットを“とまり木”にとまらせることで変身する蝙蝠の意匠を持つ姿。

 

 それがキバだ。

 



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その名はキバ

候補いろいろあったんですけど、黒歌は振り回すタイプなので、彼女には振り回されてもらう人になってもらいます


 どうしてこうなってしまったのか。

 

 獣と形容するしかない怪物に不意に襲われた女の名前は、ロスヴァイセ。

 彼女は北欧神話勢力の主神であるオーディンの付き添いにきた戦乙女(ヴァルキリー)である。

 あちらこちらへとフラフラするオーディンの後を何とか付いていこうとしたが、はぐれてしまった。

 こういったところが彼氏ができない原因なのでは、と思考が後ろ向きになってしまう。

 

 普段であれば、戦乙女として優秀な彼女ならば、その怪物に負けることはまずないだろう。

 しかし、腰を抜かしてしまって魔力を操ることさえもおぼつかない。

 食われてしまうのだろうか?

 此処で死んでしまうのだろうか?

 

 ああ、せめて、彼氏は欲しかった。

 

 鍵爪の生えた手で掴まれ、脱出が困難なところに空いた手で振り下ろされる空いた手による攻撃がされようとしたとき。

 最後の最期まで自分が考えていたことに自嘲してしまう、こんなときにまで考えてしまうなんてなんと愚かなことだろうと。

 

 だけど、そんなロスヴァイセの運命は。

 

「お姉さんみたいな美女がいなくなるのは、世界の損失だ!」

 

『ほどほどにしておけよ?身元バレして面倒な思いをするのは、他でもないお前なんだぜ?』

 

 横から軽快な飛び蹴りと軽口を叩いて突っ込んできたのは、蝙蝠男と表現するのがふさわしいような姿をした青年だった。

 お姉さんと言っていることから、蝙蝠男は年下だろうか?バックル(?)部分に付属している蝙蝠らしき生き物が彼を宥めている。

 

「身バレだと?上等よ。そんなのはそのときに考えればいい。キバっていけば、そもそも負ける気しないからな」

 

『頼もしいんだかなんだかわかんねえぜ、それくらいの余裕は王には必要か。よっしゃあ!』

 

「「キバって行くぜ!」」

 

 どうやら、ロスヴァイセが人生で初めて出会った王子様と言うやつは、蝙蝠男で少々軽口を叩く傾向にあるらしい。

 

===

 

 キバになった正音は、銀髪の女性に見惚れたあと、獣の反撃を受けてしまい、吹っ飛ばされる。

 軽口を叩いた後にそれはないとキバットは呆れるが、こんな姿を見せてもなお戦意喪失していないことは評価に値するのではないだろうか。

 

「野郎……!やりやがったな!よくも吹っ飛ばしやがって!」

 

『本音はどちらだ?……あれができれば、対応しようがあったんだが』

 

「ないものはないんだろ?それとも、そんなに俺の力不足だって言いたいのか。蝙蝠野郎!」

 

 キバットはキバの秘められた力である、“従えた異種族を武器として使役する”能力に思いを馳せた。

 どういった種族が該当するのかは正確には決まっていない、それはキバの鎧を纏う者によって決めることができるからだ。

 しかし、その力を今のキバが扱うことはできない。

 正音は自分の力不足が原因か、と言っているが、そんなことはない。

 むしろ、正音はキバとしては十分な素養を持っており、キバの鎧をはじめて纏った日から大きな適性を見せている。

 

 その分、キバの姿に変身していないときの身体能力的な弱さは弱点となっているが、その性格から正音がキバに変身していることは想像できないだろう。

 本人のどうしようもないほどに戦闘中に軽口を叩く癖のせいでいずればれるのではないかと思っているが、キバットは正音のこれからのことを考えて口出しはしないことに決めていた。

 あくまで本人がばれる事も構わないと言っているのであれば、それに任せておこうと。

 この駒王町には、人ならざるものの多くが集まってきやすい場所であることもあり、酷い目に遭わされることはないだろう。

 

 もちろん、かつてのようにキバの鎧を狙ってやってくる者がいないとは限らないので注意をしておく必要がある。

 これまでのキバの鎧の装着者のように正音には未だに()()()姿()に変わることがなく、キバとしての姿が正音の自衛の手段であり、()()()姿()に等しかった。

 

「速くて捕まえ辛ェな!」

 

 キバは横から蹴り飛ばした獣のごとき姿をした怪物(以後、獣)の姿を捉え辛いスピードで撹乱してくることから悪態をついた。

 

『ああいう奴は基本、体力が馬鹿に多いってことはないと相場が決まっているモンなんだ!だいたい、そういう奴はパワータイプって決まってるからな。移動してる奴ってのは、実は一番無防備なんだぜ?それがどういうことか分かるか?』

 

 高速で移動しながらも、獣はキバに鋭い爪で攻撃を加える。

 「X」を描くように交差した動きを繰り返し、キバに与えるダメージは徐々に大きくなっていくのが分かる。

 キバに変身したことによって上昇した身体能力、その恩恵から視力は通常よりはずいぶん良くなっている。

 その姿がキバットにとっては()()()()()()()であることに気づくと、キバットは笑みを隠せない。

 

「移動することに意識を裂いているから、自分の身の心配までできない?」

 

『――当たりだ。あと、あいつの力を利用するぞ!』

 

「は?あの綺麗なお姉さんを襲った奴のか?」

 

 再度、獣の大振りな攻撃がキバに触れると、その腕を掴んで嫌そうにキバが反応するものだから、キバットはこの女好きめ、とため息をついた。

 

『使えるものは使っておかなくちゃな。方法は俺に任せておけ、まずはあいつの体力を削るところからが先だ。いいか?いつもの癖でやりすぎるなよ?必殺の蹴りは……、なんだったか?お前が付けた名前は』

 

「名前なんざどうでもいいって言ってなかったか?」

 

 正音が揚げ足を取ると、うるせえ、とキバットが怒る。

 周囲を一気に闇に変え、満月を背に膨大な量のエネルギーを対象に叩きつけるキバの必殺技。

 

「ダークネスムーンブレイク」

 

『そう、それだ。今日は使用禁止だ。あれがなくて倒せないってわけでもねえだろ?大丈夫だ。不安なら、また俺様がアドバイスしてやる』

 

 ナルシストで自意識過剰、女好きな正音がわざわざ相手を仕留める為の技に名前をつける当たり、年相応なところがある。

 変に凝っているところが正音らしいが、理由は「そのほうが覚えやすい」という。

 シンプルに必殺技とかの認識でいいのではないか、というのがキバットの意見だが、正音にとってはそのほうが美しくて大事だと言う。

 

「そんなに柔じゃない。なんとかできる。あとで、あのお姉さんに連絡先渡すんだ!」

 

 キバは、正音は自信満々なところを見ると大丈夫そうだ。

 

 キバットが状況が良く分かっていない銀髪の女性が慌てているのを見ると、あとで説明する必要を感じた。

 全く、その場から逃げる様子を見せないのは肝が据わっているからではなく、おそらく、彼女は腰を抜かしてしまったからだろうと予測する。

 

 キバが掴んだ獣を地面に叩きつけると、獣は唸り声を挙げてキバに取っ組み合いを持ち込む。

 キバと同等か、それ以上の腕力はキバが少しでも力を抜いてしまえば、簡単に形勢をひっくり返されそうだ。

 だが、その心配はないとキバットは断言できる。

 戦闘に持ち込む前だとか先のやり取りから、キバの姿で正音が銀髪の女性にいいところを見せようとしているのは分かりきったことだ。

 

 その「よく見られたい」というモチベーションがキバとしての正音の心の火を大きく燃え上がらせる。

 その感情が居候の黒歌に関わったときから燃え上がっていたのを考えると、キバットの決め台詞である「キバって行くぜ!」と似た「キバってブッ飛ばす!」というのは正音にとっては自分を奮い立たせる言葉なんだろう。

 

 格好良さゼロの泥臭い試合に持ち込むも、手で獣を拘束しているからか、キバは拳を使うことができないので、足で押さえつけ、獣に頭突きをかます。

 獣の脳はキバの頭突きによって脳震盪を起こすも、ふらふらと立ち上がってキバに突進攻撃を仕掛ける。

 それを華麗な動作で避けた後、魔力を左足に集中させ、蹴りを叩き込んだ。

 

『……お前、カウンタータイプに仕上がったな。そんなにキック好きだっけ?』

 

 気絶した獣を見ながら、さかさまにぶら下がった状態でキバットが正音に尋ねる。

 

「気づいたら、こっちのほうが身についてたんだ。華麗だろ?」

 

 正音は得意そうに返す。

 おそらく、仮面の下ではドヤ顔であろう。

 

『なかなかエグい戦法取ってた奴の台詞じゃねえぜ、そいつは。……まあいい、あとは俺様に任せておきな』

 

「キバット、頼んだ」

 

 キバットがベルトから離れると、キバは銀髪の女性に近づいた。

 

「やあ、素敵なお姉さん。怪我はない?大丈夫?」

 

 キバは膝をついて手を差し出す。

 

「助けてもらってありがとう。貴方は、誰?牙って聞こえたけど……」

 

 助けてもらったのはいいが、キバの姿は銀髪の女性、ロスヴァイセには同じに見えてしまった。

 疲弊している今の状態、少し後ろに下がってしまう。

 失礼なことをしているのは分かっている、だけど、それ以上に頭が追いつかないのだ。

 

 自分の危機にあまりにも急にキバは現れたのだから。

 

「俺が誰かって?俺はキバ。あの蝙蝠もどきは相棒さ」

 

『相棒っつーより、保護者みたいなモンだけどな。見たところ、()()()()()()()()()ってのは分かるが、油断すんなよ?今日見たいには行かないからな』

 

 キバットは獣だったものを刀身を折りたたんだような刀剣へと変化させ、それを隣に浮かせていたが、どこかに飛んでいってしまった。

 

「え、蝙蝠が喋ってる……!?」

 

『お、新鮮な反応だな?嬉しいぜ。……もう用は済んだし、帰るぞ』

 

 キバットの姿にロスヴァイセが驚くと、キバットは新鮮な反応に喜んだが、キバの頭の周りを飛びながら急かす。

 

「そうだ、お姉さん。別れる前に、「失礼しますっ!」

 

 ごそごそとなにか紙とペンを探そうとするキバだったが、ロスヴァイセは慌てて立ち上がって走り去ってしまった。

 

『お、ちょうど戻ったの今か。見られなくて良かったな』

 

「別に俺は構わないんだけどな。バレても」

 

『あのなあ……』

 

「キバットがうだうだ言ってたからだぞ。あのお姉さん置いてきぼりにするような。また会えるといいな」

 

 キバの変身が解除されると、正音はため息をついた。

 しかし、この町にいるということとなれば、またどこかで会えるのではないだろうか。

 そう思うと悪いことばかりではない。

 

 キバットと正音は、帰路に着いた。

 

===

 

「おお、ロスヴァイセか。どこに居ったんじゃ?」

 

 ロスヴァイセが走り去った後、探していた相手を見つけるのはすぐのできごとだった。

 

「オーディン様!あれほど離れないでくださいと言ったのに……」

 

「すまんすまん。いい女がいてのう、追いかけるのは男のサガじゃろうて」

 

「あのですね、オーディン様。貴方はもうちょっと自分の立場と言うものを……」

 

 ロスヴァイセがやっとのことで見つけた、オーディンと呼んだ眼帯の老人こそ、北欧神話勢力の主神である。

 ギリシャ神話の主神のゼウスのようなスケベ親父振りには、魔術師の側面を司ると本を読んでオーディンのことを知っていたロスヴァイセにとっては真面目で堅物そうだというオーディンに対して抱いていた印象の予想を裏切られるものとなった。

 

 今回の付き添いだって、他の同僚が忙しいと聞き、そこで白羽の矢が立ったのがロスヴァイセであった。

 確かにその奔放な性格はとっつきやすくはあるものの、もう少し、自分の立場を知って振舞って欲しいと真面目なロスヴァイセはオーディンに対して感じていた。

 

 奔放と言えば、自分のことを「綺麗なお姉さん」と呼んで腰を抜かして魔物らしきものに襲われていたところを助けてくれた蝙蝠男を思い出すが、やりすぎなところもあるものの、やんちゃで可愛らしいとも取れた。

 

 あの喋る蝙蝠については気になるところもあるが、あのように異性に接触されたのは彼女の人生の中でもはじめてだ。

 お姉さんと自分の事を呼んでいたことから年下なのかな、と思案をめぐらせるものの、それが正音の見知らぬ女性への呼称であることをもちろん彼女は知らない。

 

「頭が固い、ロスヴァイセの説教はもう聞き飽きたのう。……誰のことを考えていたんじゃ?もしかして、はぐれた間にいい男にでも会ったのか?」

 

「ち、違いますっ!そうだとしても教えません!」

 

 耳が痛くなるほど聞いたロスヴァイセの小言、それに面倒くさいといった表情をオーディンは隠そうともしない。

 にやにやしながら、上司に尋ねられると、それを肯定するような反応を見せるものだから、オーディンは確信する。

 

「ついにロスヴァイセにも恋か……。名前は聞いたのか?」

 

「名前、ですか?」

 

 あの蝙蝠男は確か、このように名乗っていた。

 

「キバ、と。確か、そう名乗ってました。牙って変な名前ですよね。私のことを綺麗なお姉さん、なんて……」

 

 照れて顔を真っ赤にする部下、その長い生の間で酸いも甘いも知る隻眼の主神は現実と言う刃を突き刺す。

 

「それ、ナンパ男の手口じゃぞ」

 

 ショックを受け、口をあんぐりと開けてしまっている彼女。

 キバと言う名前に思い当たるところがあるのか、オーディンは歩き出した。

 

「あ、待ってください!どういうことですか、それは!」

 

 その後を慌ててロスヴァイセが追いかけた。




キバットがこの獣に目をつけたのは、その素早さから原作・仮面ライダーキバのがるるフォームのような高速戦闘ができるところに目をつけました。
キバとキバットには設定に幾つかアレンジを加えています。

真面目ちょろいロスヴァイセさんかわいい(確信)


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神をブッ飛ばせ

長くなりそうなので、戦闘は次回になりそうです


 後日、正音は気の乗らなさそうな顔で学生鞄を手に下校しようとした時、門を出たところで見知らぬ男に声をかけられた。

 

「お前、登正音か?」

 

 男の格好は浴衣姿、パッと見た印象では不良オヤジといった印象が正しいところか。

 それも、並々ならぬオーラを纏っており、只者ではないというのが正音の本能が告げていた。

 

「そうだけど。ウチの先生、じゃないよな?見たことがない。ウチの学校の先生なら、そんな他人行儀な言い方しないしな。だいたい、呆れたような感じで俺のこと見る。……なんだ?リアスとかその辺の知り合いか?あんた」

 

 正音は疑念を一切隠さず、上から下へと見下ろした。

 掴みどころがなく、それでいて目的が分からない以上、本心を明かすつもりはないが、疑っているという姿勢を見せた。

 どういうつもりで自分に接触してきたのか、どういう目的でやってきたのかということを問いただすために。

 ()()()()()()()を引いていても、それはほとんど正音の身体に影響を与えていない。

 キバの力を使って、はじめて浮き上がってくるほどに正音の中の人ならざる者は正音が「寝坊助野郎」と称するほどに呑気なところがある。

 

 それゆえ、()()()()()()()()()を放っている二人の腐れ縁、腐れ縁のうちの一人の友人の生徒会長にも正体を悟られずに今日まで生活することができた。

 キバの姿で活動していれば、間違いなく、彼女たちの耳に入るだろうが、その()()()()()()()()()()()のおかげで正音と蝙蝠男(キバ)の正体を一致させることはまず難しいだろう。

 

 そんな正音に声をかけてきたとあれば、彼女たちのように人間ではない者であると踏むのが普通だ。

 この男は、人間でない者であったとしても、その中でも桁違いの能力を持っているのが窺える。

 キバに変身していなければ、簡単に消し飛ばされてしまうくらいの力は持っているだろう。

 

「そんなところだな。オレはアザゼル。お前の話はよく聞いているぞ。……しかし、リアスと朱乃の二人の話とは、随分と性格が違うな。聞いたぞ、あの二人に告白したんだって?」

 

 茶化すような男――アザゼルの言葉に正音はため息をついた。

 

「なんだよ、他の奴にも言ってるのか。……女の前でわざわざシリアス気取るか?そういうのは口説くときに取っとくもんだ。あの二人は俺の良さが分からなかったが、このツラまで見せる必要ねえだろ。俺はお気楽で女好きの登正音でいいんだよ」

 

 少なくとも、彼奴らの前ではなと言う様子には真面目な様子は見られず、のらりくらりとした男子高校生にしか見えなかった。

 アザゼルが知っている男子高校生といえば、リアスの眷属の男子が挙げられるが、目の前の正音とはかなりタイプが違っていた。

 その口ぶりは、まるで自分が人でない者となった、あるいは人でない友人にとっての“日常”であろうとするようなもので、妙に達観したところが見られる。

 

「一度は惚れた女なんだ。フラれたんだとしても、いいところを見せたいもんだ。なんたって、美人じゃあな」

 

「変な奴だな。フラれてるのに、か?」

 

「当たり前だ。どんな時だって心火(しんか)を燃やして格好つけたい生き物なんだよ、男ってのはさ。あんたもそうじゃないのか?」

 

 心火を燃やして、という正音のフレーズがアザゼルには気になった。

 何かを含んでいる意味というのではなく、アザゼルの感性に正音のフレーズを非常に気に入ってしまったのである。

 

心火(しんか)を燃やして、ねえ。いいぜ、気に入った。話の続きは場所を変えよう」

 

 ニヤリと笑うアザゼル、一歩どころか二歩下がる正音。

 

「どうした?取って食いやしない、ただ聞きたいんだ」

 

「いや、男と二人きりってのは辛いっていうか……」

 

 露骨に嫌そうな表情の正音にすかさず、アザゼルは突っ込みを入れる。

 

「オレだって出来れば、女と二人きりがいいわ!気になることと話したいことがあるって言ってんだろ!感心したオレが馬鹿だった!」

 

「感心するようなことは言ったつもりはないな」

 

「あのなあ……、まあいい。すぐ終わる」

 

 そういうと、二人は歩き出した。

 

===

 

「……なんで好き好んで、オッサンと二人きりにならなくちゃいけなかったんだろうな」

 

「それはお疲れ様にゃん。でも、後ろ盾になってくれるんでしょう?それなら良かったんじゃないの?正音、どこから持ってきたのかわからないくらいの量のお金持ってるけど、それだっていつ尽きるか分からないんだし。そういう背景があったほうがいいんじゃない?万が一の時に頼りになる人?っていうかにゃん」

 

 制服のシャツのボタンを一つ外し、開けたまま、登家のリビングの上座に座っている正音がだらけていると黒歌が労う。

 思った以上にまともな答えが返ってきたので、どうしようかと考えているところ、ジャージ姿でアギトがやってきた。

 

「おはようございます、カシラ。キバットさん見てきました!」

 

「ご苦労。で、あいつは起きてたか?」

 

「寝ぼけていたんで、すぐに来ると思います」 

 

「そのまま二度寝しそうな気もするけど」

 

「いやあ、そんなことないでしょー」

 

 ビシッと正音に敬礼するアギト、キバットを起こすときは一番起こし方が平和的なアギトに任せている。

 キバットは眠るときに少し大きめのハンドタオルを掛け布団代わりにしているのだが、だいたいそれを引っぺがしてキバットの寝起きが悪くなるのがアギト以外の二人がやる常。

 黒歌はキバットの身体に触れる手が柔らかいから許されているのか、一番起こされて嫌そうにしている相手というのが正音であった。

 家主、哀れである。

 

「それで寝たら、アギトの昼飯抜きな」

 

「えーっ!そんな殺生な~!?あ、でも、カシラ。今日は何時くらいに帰ってくるんです?確か、堕天使総督の頼みだとかなんだかで出かけるんでしょ?」

 

「え、じゃあ、誰がご飯作るにゃん!?これはとんでもない死活問題よ!もっとお姉さんをいたわりなさい、正音!」

 

「なら、もっと、年上のお姉さんらしく振舞えって。先日に会った、銀髪のお姉さんは良かったぞ。綺麗だったし、なにより、年上の魅力があふれ出ていた」

 

 堕天使総督の頼み、と聞いて黒歌が何かを察したのか、正音の肩を掴んで揺らす。

 正音より黒歌の方が力が強いこと、なにより、揺らされるたびに大きく開けた胸元に視線が自然と向いてしまうので不可抗力なのだが、吸い寄せられてしまう。

 これで見ていることがバレたらまずいな、と思いつつも視線を逸らすことができなかった。正音も男の子なのだ。

 

「こら、なに私の胸を見ているにゃん。変態」

 

「いてっ、バレたか」

 

「正音の考えることにゃんて、お姉さんにはお見通し。……じろじろと見られるのは好きじゃないの」

 

 バレてしまった。

 そして、小突かれた。

 力が入っていないのは分かるが、今日の黒歌が機嫌が悪かったら、肩の関節が外れてしまったのではないだろうかとも考える。

 浴衣美女と暮らせるのは正音としても幸運なことと十代男子としては考えているが、幸運と危険は常に背中合わせになっているのもまた事実であった。

 

「そんなに出やすいのか?俺の顔」

 

 正音が首を傾げると、アギトと黒歌の思考は一致した。

 

((そう言うところが分かりやすいんだよなあ(にゃん))

 

 調子に乗っているときとか特に。

 

「まあ、とにかく」

 

 正音が咳払いし、仕切り直す。

 

「今回の話のまとめをしておこう」

 

 アザゼルの正音に問いたいことというのは、こうだ。

 

 

「俺の口からは何も伝えていないが、アザゼルに俺が()()()()()()()がバレてしまった」

 

「え、それって大丈夫なんですか?確か、カシラのキバの力って……」

 

 アギトは驚いて眉を吊り上げてしまう。

 アギトは呑気ではあるが、これがどういう意味かは分かっている。

 登邸の主人でアギトの主である、登正音は正体を隠して(便宜上)、キバとして活動している。

 正音の中に流れている、人間とそうでない血を引いていることを隠すために必要なことだからだ。

 本人があまり隠したがらないのは、いずれにせよ、正体がバレてしまうならば、堂々としている方がいいのでは、という楽観的な視点からくる。

 

 事実、過去に正音がキバの力を持っていることに目を付けた悪魔の中でも古い派閥にあたる旧魔王派の̻刺客が正音のもとに送られてきたことがあった。

 そのときになって初めてキバの力を使えるようになったのだが、それが正音が自分に降りかかる火の粉を自分の手で払うためにキバとして戦うようになったのである。

 本人としては、キバットには惚れた女を守るにはクールな姿と調子乗ってはいるものの、こちらが正直なところの本音である。

 

「そうだな。旧魔王派が欲しがっていた逸品だ」

 

「まさかの正音もとんでもない秘密を抱えていたなんて」

 

「出会ったとき、黒歌は見てるだろ」

 

「乙女ジョークよ、冗談も通じないにゃんてつまんない人は嫌われるわよ?」

 

 黒歌がわざとらしい反応を見せると、正音はすかさず突っ込んだ。

 厄介ごとに巻き込まれていると見た黒歌を救ったのをきっかけに駒王町で時折、目撃されている蝙蝠男が黒歌を助けたことによって悪名高くなっているのは、本人はまだ知らないこと。

 

 蝙蝠男と正音がキバであるとアザゼルの中で繋がるきっかけとなったのは、また別の理由があるのだが、正音はまだそれを知ることはないだろう。

 

「俺のジョークはいつでもウィットに富んでいるさ。リアスや姫島もご機嫌になっちまう」

 

「カシラのジョークは雲行きが怪しいっていうか」

 

 遠回しに雲行きが怪しいイコール、分かりにくいジョークを言っているとアギトに言われ、正音の心は傷ついた。

 

「話戻すぞ。アザゼルの奴は、キバである俺がどの勢力につくのかを会談で明らかにしてほしいらしい」

 

「……それって、悪魔もいるの?」

 

「いるだろうな。まあ、俺はどこについてやる気もないんだがな」

 

 様子が変わった黒歌に対し、正音の反応は変わらない。

 あっけらかんと言い放った言葉に黒歌はかえって戸惑う。

 

「え、それって、大丈夫なの?」

 

「今更、ファンガイアの王子にどうしろって話だ。火の粉を払うくらいならいいが、誰かの下についてやるつもりは毛頭ない。ただでさえ、毎日が忙しいんだ。居候もいるしな」

 

 ふわふわと飛んで降りてきた、キバットの朝食を立ち上がって用意し、キバットの席の前に置く正音の背中は哀愁で満ちていた。

 ファンガイアとは、吸血鬼とはまた別の方向に進化していった種族であり、生物のライフエナジー、生命力を吸収して生きる。

 その数が急速に減少したのは、ファンガイアの王族を守る為に作った“鎧”が原因であった。それこそ、キバと呼ばれる正音が振るう力である。

 その気になれば、世界をも滅ぼすことができるキバの力を求め、かつての魔王はファンガイアを虐殺し、同族がこれ以上、殺されるのを見たくなかったら、キバの力をよこせと要求した。

 

 ファンガイアを束ねる長、キングはこれを固辞した。

 キバの力とは、王位の象徴であり、これを失うことはファンガイアとして、ファンガイアの王としての誇りが失われてしまうのだと。

 そうして、当時のキングは魔王と争い、敗北してしまい、その命を落とすも、ファンガイアの王族は何とか逃げ延び、正音が生まれたのである。

 キバットに教育を受けたのも、いつ追手が来るのかわからない為、あまり学校に通うことができなかったからだ。

 しかし、退屈を嫌う正音がそれに満足することはなく、中学には必ず行くといい、そこでリアスや朱乃と出会うことができた。

 

「でも、お前、それなら、正体は隠した方がいいんじゃないか?自分がキバであると名乗るのはやめたほうがいい」

 

 朝食を口にしながら、キバットは正音を諭す。

 しかし、正音はキバットの言葉に対して頭を振った。

 

「それこそ、俺のじいさんの言う誇りがなくなっちまう。キバってのはよ、今では俺の力だが、大事に守られたものなら、俺もそれを誇りにしたい。キバであることを」

 

『自分だけの音楽を見つけろ』。

 そう言った父親の言葉の意味を理解するには、正音はまだまだ未熟だが、こうしたものを大切にしていくことがそれに繋がるかもしれないと感じた。

 

「……正音の気持ちは分かった。でもよ、俺様が思うに、そのアザゼルって奴にキバのことがバレたのはアレだと思うぜ?」

 

「?」

 

 キバットは正音がクエスチョンマークを浮かべると、サラダを咀嚼し、飲み込んだ。

 

「お前、いつもの調子でキバだって名乗ってたから、声でバレたんじゃねえか?アザゼルって言えば、今でこそ、研究者だが、かなりの実力者だ。神器(セイクリッドギア)マニアだけどな、今は」

 

「流石にそれはないだろう。なあ、アギト、黒歌?」

 

「「いや、ある」」

 

 正音がキバットの言葉を笑い飛ばすが、アギトらの返答は突き刺すものであった。

 

「ま、まあ、とにかくだ。今回は、北欧神話のロキとかいう、いかにもな奴をブッ飛ばす!ってわけだ」

 

「え、それ、正音勝てるの?」

 

 黒歌が本気で心配してそうなので、腕時計で時間を確認し、正音は立ち上がる。

 それから、今にある扉をコンコンとノックする。

 

「このビックリどこでもドアのおかげで楽々ワープだ、場所ももちろん記してある」

 

 ひらひらとさせた、それは紙切れであった。

 『三大勢力会議』と書いてあるのが見える。

 

「さて、キバット、行くぞ。俺がまずい状況になったら、お前ら、助けに来い」

 

「あ、おい!俺様を置いていくんじゃねえ、正音!」

 

 正音が扉を開くと、その後を食事がひと段落したキバットがその後を追うが、まだミルクがコップに残っている。

 

「あ、正音!待ってって!まだ聞きたいことが……」

 

 黒歌が呼び止めようとするも、すでに扉は閉ざされており、正音とキバットの姿はない。

 

「無駄ですよ。カシラはいつもあんな感じなので」

 

 すっかり、慣れた様子のアギトが片づけをする中、黒歌は一言漏らす。

 

「……自分から突っ込んでいくなんて、馬鹿。大人しく閉じこもっていたらいいのに」

 

 

 




矛盾しているような正音の考えですが、要するに楽しかったらなんでもいいって感じです
これだけ書くとヤバい奴でしかないんですが、キバットが本当にマズい時はストッパーしてたり、アギトのツッコミとかで一線超えてない感じで。

軽い感じなのは音也リスペクトなんですけど、再現できてたらいいな


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当代のキバ

せんとくんが持ち直したと思ったら、今週末はみーたんがまたなにかある模様。
みーたんの出自に関係あることなんだろうなあ、と予想。
ところで、夏映画ってさ、また二人でひとりの仮面ライダーになっちゃうの?


最初はアザゼルと正音の会話、アザゼルサイドから。


 会談中、アザゼルが気がかりなことがあった。

 それは、当代のキバの継承者・登正音(のぼりまさね)のことであった。新たに加わったリアスの兵士(ポーン)が赤龍帝であることを聞きつけ、興味を持った彼は接触を図った。

 そのとき、リアスの兵士のイッセーやリアスと朱乃に僅かに残している、()()()()()()を感じ取り、会話の中に出てきたのが登正音であった。

 飄々としているものの、魔王の妹や堕天使のハーフ、それに赤龍帝と良好な関係を築けているのはどんな男かと「オカルト研究部の外部顧問」という立場で駒王学園の中を散策していると、お目当ての青年は見つかった。

 

「男と二人きりはありえない」

 

 そんな露骨に嫌そうな様子を隠そうとしないあたりが聞いていた話とそっくりだ。

 なんとなく、アザゼルと似たような嗜好であることが会話の中で分かり、個人的に好意を持てそうだ。

 そうして会話を続けていくうち、アザゼルは話の主題に入る。正音から直接確認したかったことがあったからだ。

 

「お前、蝙蝠男を知っているか?」

 

 アザゼルが正音に見せたのは、駒王町で確認されている都市伝説となっている噂、蝙蝠男。

 軽薄そうな口調とベルトについた蝙蝠との掛け合いをしているとされ、蝙蝠男が現れるときは決まって怪物と戦っているときだと言う。

 本人が積極的に襲われている被害者を助けることはないが、それが女性であれば、決まって蝙蝠男は“キバ”と名乗ってナンパしていくのだと言う。

 

「……」

 

 正音は写真を見せられて絶句していた。

 おそらく、自分の正体を突き止められたことに驚いているのだろうとアザゼルは推測するが、正音を知る者ならば、正音がこういう反応をとるときは一体どんなときなのかとは口を揃えてこういうだろう。

 

 その程度で登正音は驚かない。

 

 なぜなら、常日頃から妙なテンションと自信家なこともあり、驚いた振りをすることはあっても、心から吃驚する様子を見せないからだ。

 そして、正体を知られたところでも嘆いたり脅したりだとかすることはないとも言うだろう。

 自分の実力であれば、決して負けることはないと本人が本気でそう思っているからだ。

 これは、キバの力を持っていると知らない同級生二人も肯定するだろうし、振り回されている後輩も肯定するだろう。

 良くも悪くも、登正音は自分の力を信じているのだ。

 

「お前の正体は分かっている、とでも言いたいのか?」

 

「どうしてそう思う?」

 

「でなきゃお偉いさんがこの俺にわざわざ声をかけることなんてしないはずだ。ひっそり暮らしているファンガイアの末裔になんの用だ?」

 

 喫茶店の個室、アイスコーヒーをストローでかき混ぜ、氷がぶつかり合う音を響かせながら、正音は笑う。

 

「認めるのか。キバであることを」

 

 正音は正体を隠そうとしなかった。

 そして、アザゼルのことを“お偉いさん”と呼んだことから正体にも感づいている。

 目撃証言にもあった蝙蝠が傍にいないが、自分がキバにすぐに変身できない状況であっても態度を崩すつもりはないらしい。

 ファンガイアの末裔、と自身を呼んだことから以前に文献で読んだキバの力を扱えるのはファンガイア、あるいはファンガイアの王族でなくてはならないと言う表記は正しかったようだ。

 

「何が望みなんだ?俺から出せるものは何もない。お目当てはキバなんだろうが、キバの力を渡すわけには行かない。これは、大事な形見なんだとさ」

 

 ちゅるるる、と残り僅かのアイスコーヒーの液体をすする正音。

 カランカラン、と氷をストローでつついて遊びはじめた。

 

「目的がキバなのは合っているな。だけど、キバの鎧を欲しいわけじゃない。魅力はあるが、扱うには注意しなくちゃならねえ」

 

「それは、どういう意味だ?」

 

 アザゼルの言葉に正音は眉を顰める。

 

「オレの目的は、()()()()()()()()()()()()()を聞くことだ。近々行なわれる会談、そこでお前がどこに所属するのかを明らかにしてもらいたい」

 

「……ふざけているのか?」

 

 どこかの勢力に就かなければならない、という言い方に脳内で変換されたのか、正音は不機嫌になった。

 その反応になるのを過去の旧魔王による所業の事実を鑑みた上、アザゼルは言葉を続ける。

 

「ファンガイアが悪魔の手によって滅ぼされた事実はある」

 

「滅んじゃいない、現に俺がいる」

 

「その通りだ。お前がファンガイアの王族と見て、お前には代表として出席してもらいたい。もちろん、さっきの答えをそのまま言ってくれていい。ファンガイアの王族が生きているとなれば、いつまた旧魔王派がキバの鎧を狙いに来るのかわからない」

 

「今は新しい魔王がいるんじゃないのか?抑えられないのか、その魔王には」

 

 おそらく、悪魔の中でも争いが行われたのだろう。

 そうして、現在の体制が勝ったが、それでもかつて破った派閥を抑えられないのかと正音は目を細める。

 

「どこも一枚岩じゃないんだよ。いろいろあるのさ。……話を戻すぞ。ファンガイアの王族の末裔がお前であるとして話を進めるが、お前の姿勢を教えてくれたらそれでいい」

 

 アザゼルは正音に紙切れを渡した。

 記されている場所は登の家の屋敷の不思議な扉を使えば、すぐにいけることだろう。

 

「時間になったら、お前んちの扉を使って来い。遅刻するなよ?」

 

 話がそろそろ終わりそうだ、と学生鞄を正音がつかんだとき、アザゼルの言葉に目を丸くする。

 どうして、その事実を知っているのかと。

 

「どうしてそれを?」

 

「一度、行ったことがあるからだ。かなり前だがな。キバの姿、また見せてくれないか?」

 

「聞きたいことは山ほどあるが……、蝙蝠男って言葉は取り消してもらうぞ。キバって名を知っておきながら、蝙蝠男と呼ばれるのは不愉快だ」

 

 嫌そうに眉を吊り上げる様子、やはりアザゼルの記憶の中にある()()()にそっくりだ。

 

「わかったわかった。10代ってのは、それくらい生意気でなくちゃな。心火をなんだったか。あのフレーズ、気に入ったから、面倒見てやるよ」

 

「心火を燃やして、だ。チャラいオジサンに言われたかないね。んじゃまた」

 

「黙ってろ、クソガキ。お前もいずれはこうなるんだよ。……約束守れよ?」

 

 手をひらひらとさせながら立ち去っていく正音の背中を見ながら、若干跳ねている茶髪が揺れるたび、大丈夫なのかと不安になる。

 そして、その姿が見えなくなった頃、領収書を確認し、なんとなく正音の席を見てみるが、紙切れが一枚置いてある。

 

『アイスコーヒー、ご馳走様』

 

「なら、せめて代金置いてけ」

 

 ご丁寧にキバの紋章を添え(そこそこ複雑な模様のはずだが、いつ描いたのだろうか)、毒づきながら、アザゼルは残っている自分のコーヒーを飲み干した。

 

====

 

 正直なところ、戦争がどんなものなのかは俺にはわからない。

 

 この間までは人間、だけど、いろんなことを乗り越えてきて、人間だった頃がまるで昨日のことのように思えてくる。

 部長、朱乃さん、アーシア、木場、小猫ちゃん、ゼノヴィアと大事な人とか仲間に出会って、よくしてもらっている。

 学校では俺のことをまだ悪魔だとは知らないけど、登先輩がいて、会うたびに振り回される。

 だから、戦争には部長とエロいコトができなくなるから反対だけど、もう一つは平穏な日常を大切にしていきたい。

 

 だから、俺は―――。

 

『相棒。感じるか?この気がなんなのかを』

 

 妙に胸がざわつく、語りかけてくるのはドライグ、共に色んな戦いを乗り越えてきた、俺を導いてくれる師匠のようで相棒のような存在。

 他の神話勢とこれから楽しいことがしたい、と言っていたオーディンの顔も強張る。みんなの反応もそうだ。

 そして、肌を貫くような殺気を飛ばしながらも、その姿を露にしたのは、神、だった。

 

「当代の赤龍帝!キバを知っているか!?」

 

 みんなが戦闘態勢に入り、俺も指示を受けて禁手化を使い、神――ロキの放つオーラに対し、魔力を纏って突き出した拳で打ち消すと、ロキは驚きの表情の後に喜びを顔いっぱいに浮かべた。

 

「キ、キバ……?」

 

「そうだ、キバだ!旧魔王派によって、そのほとんどが滅ぼされてしまった哀れな種族!

強大な力を持っていたばかりに。二天龍にも匹敵しうる世界を滅ぼす力を秘めていた為に奴らは虐殺された!」

 

 ロキの言葉にアザゼル先生がなぜか時計を見つめ、脂汗を浮かべている。

 俺はそれが気がかりになるも、次の攻撃に備え、ロキに蹴りを叩きつける。顔まで覆っている赤いヒーローのような仮面からでも周囲の様子が窺え、グレモリー眷属のみんなやオーディン様の付き人のロスヴァイセさんも、なんとか魔法で立ち向かっているけど、苦戦している様子が見て取れる。

 それに、問題なのは、10メートル以上はありそうな巨大な狼のフェンリルだ。あんまり神話に詳しくないほうだけど、フェンリルがなにかはさすがにゲームをしていたから知っている。

 

 フェンリルは、ロキの息子で神殺しを成し遂げた獣である。そんな、オーディン様にとっての天敵もいる中、他に妙に大きな体表面がステンドグラスのようになっており、複数のレリーフのような顔が浮かび、それぞれに複数の腕を備えた巨大な怪物がいる。

 それからアーシアを守るようにしつつ、朱乃さんと部長が戦っているが、二人の雷と滅びの魔法を受けても尚、あまり効いている様子を見せない。

 それに別固体なのか、木場、小猫ちゃんも相手にしているのを見ると、フェンリル以外にも厄介な奴ら。

 

「ロキ!その話をなぜイッセーにする!」

 

「今の悪魔の社会じゃあ、このことを教えないそうじゃないか。だから、特別に教えてやってるんだよ。そこの魔王の妹も、年齢から知らないだろうしな?」

 

 アザゼル先生がロキに対して吠える。

 いつになく真剣だ、それほどにキバと悪魔のことは関係が深いのだろうか?俺の横を掠めた一突きを受けてしまいながらも、倍加をする!

 

 

Booooost!

 

 カウンター!さっき、アスカロンをもらったけど、やっぱり剣より拳のほうが俺には合ってる!

 

「それと何の関係があるんだよ!?今、この状況と!」

 

「あるさ」

 

 怒鳴り返すと、ロキがニタリと笑う。

 そのとき、どこからともなく、扉が開いた。

 

「約束の時間だからって来てみたんだけど、どうなってるんだ?これは。俺を放っておいて楽しそうなことをしてんじゃねえか。特にあのデカイの、蹴り飛ばし甲斐がある」

 

「……おいおい、ずいぶん、懐かしいのまでいるじゃねえか。まあ、祭の会場にしては、ちょっと山車(ダシ)が派手すぎるか?」

 

「何が懐かしいんだよ?あの巨人?それとも、わんわん?あるいは、……ああっ!いつぞやのお姉さんっ!」

 

 聞き覚えのない声と、よく聞いた声。

 それが戦場に聞こえたことで、三つの声が重なる。

 ロスヴァイセさんを見たときの反応があまりにもいつもの先輩らしすぎて、思わず、吹きそうになってしまう。

 ロスヴァイセさんのほうは困惑してて、申し訳なくなってくるんだけど、ごめんなさい、その人はそういう人なんです。

 

「「「登くん(先輩)!!!???」」」

 

「おう、美しい女性には心火を燃やしてバーニンラヴ、登正音とは俺のこと。……その声はイッセーか!?なんだ、その鎧!?リアスと姫島も手から何出してるんだ!?」

 

 部長と朱乃さん、俺の声が重なると、今度は先輩のほうも吃驚して俺のほうを向いた。    

 反応があまりにも新鮮すぎる……、いろいろ聞きたいことがあるのは俺たちのほうなんだけど、今はそれどころじゃない。

 

「まあ、俺のやることはかわらねえ。ここでカッコいいところを見せて、俺にバーニンラヴって行こうじゃないか」

 

「おい、向こう、たぶん、お前だって分かってないぞ?」

 

 そんなやり取りを蝙蝠としている先輩、先輩が蝙蝠をつかむと、「ガブッ!」と言う声とともに噛み付かれ、先輩の顔にも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「変身、以下略!」

 

 

 そして、腰を巻きつけるように現れたなにかをおさめる窪みのあるベルトに蝙蝠をはめ込むと、その姿が蝙蝠男と呼ぶに相応しい姿へとかえる。

 目が大きいけど。

 

「さあて、今日も、」

 

「「キバって行くぜ!」」

 

 飛び上がった蝙蝠男、蝙蝠男、もとい先輩は特撮ヒーローっぽい決め台詞を吐いて、ステンドグラスの巨人?に回し蹴りで一発ずつ、そして、落下する勢いを使って、フェンリルを蹴り飛ばしてしまう。

 

「来てくれたか!……まあ、こんな状況になっちまったが、やってくれるか?()()()()()!」

 

「やるしかないだろう。まだ名前も聞いてない、素敵なお姉さんがいるんだ。あと俺に正体を隠してた同級生二人と後輩、水臭いぞ!」

 

 髪をなびかせるように仮面に当たるであろう部分を撫でると、キバは倒れ伏せている怪物を背後に俺たちに指を指す。

 

 

 先輩、それはこっちの台詞です。

 




ガルルフォームみたいにびゅんびゅん動いていますが、経験を積んでるだけなので、キバフォームのまんまです。
なんでロキが正音の正体を知ってたのか、はまた次回で。

おかしいな、想像以上に正音の喜怒哀楽が激しくなったぞう


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牙の剣

久々に投稿しますけど、もうビルドも終わっちゃうんですよね。



 牙の一族との物語は、寝物語で何度も聞いたことがあった。

 彼らはおぞましく、それでいて悪魔である私たち以上の身体を持ち、吸血鬼のように生命エネルギーことライフエナジーを吸い上げる特性を持つ。

 しかし、その身体の表面に浮かび上がっている体表の一部のステンドグラス状になっている部分はとても美しいものであるとお兄様が言っていた。

 

「彼らに同情するのかい?私の可愛いリーア」

 

 『おうごんのおう』という絵本を読み聞かせてくれた、お兄様は絵本を閉じて幼かった私の頭を撫でた。

 お兄様、お父様と同じ美しい紅髪はお父様もお母様も自慢だと褒めてくれ、私にとって誇らしいもの。

 

「だって、あんまりだと思うの。だれかをまもるためにたたかったのに、むくわれないなんて」

 

 私が頬を膨らませると、優しい笑顔を浮かべたお兄様は私に顔を近づけた。

 

『おうごんのおう』。

 

 特別なエネルギーを摂取しなければ生きられない、というのはファンガイアの王を元にした物語であるというのは今になって分かった。

 

 肝心な内容は、社会に潜むようにして暮らす一族の物語であり、一族の宝を狙ってやってきた者と頑固な王が仲間を守るために立ち上がるというもの。

 

 

 主役である牙の一族の王は他の者の追随を許さない、闇に紛れて必殺の一撃を放ち、スピード、精密さ、パワーに優れる能力を持ち、一族の規律と安全を守るための戦う力を持っている。

 そして、本当に守るべきものの為に牙の王は黄金の姿となって剣を振るって強敵に立ち向かったという。

 

 

 だけど、牙の王は敵対していた一族との戦いに敗れてしまい、己の命と引き換えに一族を守ることを選んだ。

 しかし、その約束は守られることはなかった。敵対していた一族は、牙の王から何もかもを奪い取ってしまったのだ。

 

 

 牙の王はとても真面目で融通が利かない頑固なところがあると絵本に書かれていたが、今となって分かることがあるとすれば、牙の王は自分の家族や仲間を守るために戦っていたからこそ、非常に徹していなくてはならなかったのだと思う。

 

「……驚いた。君はいつまでも小さな可愛いリーアではないらしい」

 

「おにいさま、わたしもいつまでもちいさなおんなのこでいるつもりはないわ!グレモリーのレディよ?」

 

 寝間着姿で得意気に言うことではないのだけれど、お兄様に言うと、私の頭をなでながら、お兄様は私の頬を突く。

 

「そうだったね。……だけど、これだけは覚えておいて欲しい。情愛を大切にするグレモリー、我が家の精神を受け継ぐ冥界の未来を担う者よ」

 

 私の頬を優しく触れ、お兄様は言葉を続ける。

 

「この君に読み聞かせをした、『おうごんのおう』は教訓、つまりは教えをテーマにした絵本なんだ。約束は守られるとは限らないというものでね」

 

「でも、えほんはやくそくをまもるたいせつさをおしえるものじゃないの?」

 

「そうだね。君は『おうごんのおう』の情愛の深さを学んでくれた。それが大切なんだ。だけど、こればかりは覚えておいて欲しい。知ってのとおり、魔王と言う私の務めている役職と言うのは必ずしも上手くいくことだけではない。これから、君はきっと大きな壁にぶつかる事だってあるだろう。理想と現実の違いに気づくこともあるだろう」

 

 

 

 だからこそ、仲間への情愛を忘れないで欲しい。

 

 

 この『おうごんのおう』のエピソードは、この言葉による締めくくりもあってか、今でも私の心に深く刻まれている。

 

====

 

 ステンドグラスが浮かび上がった巨人のことを俺はキバットに聞いたことがある。

 

 サバト。

 

 ファンガイアの遺体が集合し、誕生するファンガイア版フランケンシュタインの怪物と言ったところか。

 そんなものを北欧神話のトリックスター、ロキが作り出せることに疑問を隠せないが、そういう()()()をやってのけることがロキがロキたる所以なのかもしれない。

 質量を持たないサバトの振り下ろされる拳を受け流すようにしながら、回し蹴りを叩き込む。

 拳をぶち込むのもいいが、どうやら、キバの姿と言うのは脚のほうに魔力を集中させやすいようになっているらしい。

 

 モチーフが蝙蝠であることを考えれば、脚力が相当凄いことになっているのだろう。

 難しいことはよく分からないが。

 

 

 

Booooooost!!!!!

 

Transfer!!!!

 

 機械音が響いた後、俺の身体に力が漲る!!!!

 

「先輩!受け取ってください!」

 

「どういう仕組みかわからねえが、ありがたく受け取っとくぜ」

 

 赤い鎧の姿、たぶん、イッセーの奴だろう。

 イッセーがそんな能力を隠し持っていたことに吃驚したが、キバの力のことについて全く話さなかったことを思えば、ヒトのことは言えないけどな。

 しかし、サバトの奴、蹴り飛ばしても、質量がないモノだから、聞いているのか聞いてないのか分からないのが辛いところだな。

 

 木場も姫島もそれぞれが剣や魔法で応戦しているが、イッセーの家にホームステイしているとの噂のアーシアちゃんを守りながらの戦いはきついだろう。

 多くの触手のような腕を持つサバト、しかも攻撃を加えても通用しているのかどうか分からない敵と言うのはやりづらいものだ。

 イッセーたちの実戦経験がどれほどのものか分からないが、おそらく、ここまでやりづらい相手と言うのは出会った事が無いだろうと予測できる。

 

 イッセーの能力によって強化されたような気がするのは、脚力だけではない。

 全体的に能力が飛躍的に上昇しているのが感じられるのは、拳のラッシュを叩き込んだときだ。

 いつも以上に身体のキレがよく、蹴りも拳もいつも以上に威力が上がっているのはいい感じだ。

 

「こいつは便利な力だな?味方の能力を引き上げつつ、その姿でブッ飛ばすのか?ある意味、支援も白兵戦の両方をこなせるとは大したもんだな。俺には勝らないが」

 

「貴方って本当に軽い方なんですのね?お付き合い、お断りしてよかったですわ!」

 

「おいおい、今その話をするんじゃない。……もしかして、アレか?まだ俺に未練でも?」

 

 拳を作り、開いては閉じてを繰り返す。

 やはり、身体の面が非常に好調だ。

 銀髪の素敵なお姉さんにいいところを見せたいのが本音だが、その前に俺がくたばってしまっては意味がない。

 ちょっと、俺に未練があるような物言いをされてしまっては、俺としても受け止めざるを得ない。

 この先、何人もの女をまとめて愛するくらいの気概はもっとかないとな?

 

「こら、朱乃。登くんも煽らないの!……イッセーは赤龍帝だもの、最近は色々あって強くなったんだから!」

 

「まあ、リアスがそういうなら……」

 

 リアスに諭され、しおらしくなる姫島。

 そういうところがあるから、俺はお前に惚れたんだと言いたいところだが、こちらを見る目にいい意味でも悪い意味でも感情が篭っているのが見える。

 

 

 

「それ以上、それを言ったら容赦しない」

 

 

 そんな風に言っているようにも見え、姫島は実は大和撫子でもなんでもなく、本性はサディストと言うか苛烈なんじゃないか?

 そこも踏まえて魅力だと思うが、そういうところを伝えるべきはあいにく俺じゃないのが寂しいところだ。

 

=====

 

「……なんだか、部長と朱乃さん」

 

 俺と木場と小猫ちゃん、あとアーシアにとっては珍しい光景が広がっている。

 

「そうだね、あんな風に取り乱しているというか、感情を見せてる朱乃さんは珍しいんじゃないかな」

 

 木場が小猫ちゃんに同意する。

 ステンドグラスの怪物に応戦しつつ、コウモリ男の姿の先輩と部長と朱乃さんの三人が背中合わせになっているのは、なんだか不思議な気分。

 遠慮がなく、思ったことをすぐに口に出来る仲であろう三人、俺たちの前では微笑を絶やさない素敵なお姉さんと言った感じの朱乃さんだけど、部長の前ではプライベートとかだったら、あんな感じになるって聞いたことがある。

 

 部長と朱乃さんが仲が良いというのは知っているけど、まさか、正音先輩の前でもすを曝け出すなんて意外だ。

 はじめて部長の婚約者だった、ライザー・フェニックスに通ずるような女好きを感じさせる先輩だけど、あの三人の空気は俺や松田と元浜で三人で馬鹿をするような感じに似ているものがある。

 昔からの知り合いというか付き合いだって言ってたし、遠慮をしなくて言い関係と言ったところなんだろうか。

 

「おい、後輩三人!お前らに華を持たせてやるから、俺の姿を恰目しながら、よぉく焼き付けとけ!」

 

 一連のやり取りが終わった後、正音先輩が叫ぶ。

 青い笛の吹き口のようなモノをコウモリの口元に運ぶと、フルートのような音色が響き渡る。

 すると、青い刀身を折り畳んだような武器が先輩の手に納まり、複眼と体の一部が蒼に染まる。

 刀身を開くと、カーブを描いた剣を肩に乗せるように構える様はチンピラとか少年漫画の主人公のよう。

 

「正音、名付けてそれはファングセイバー!本当はもっと正しい名前があるんだが、それとは全くの別モンだ。お前、剣の心得はあるか?」

 

「美しい刀身だし、俺にピッタリの武器じゃないか。それに美女もいるとあれば、冴え渡る。知ってたか、キバット?俺は剣術においても頂点に立つ男だ」

 

 

 キバットと呼ばれたコウモリと正音先輩のやり取りを聞いて、部長は楽しそうに見えるのは気のせいじゃないだろう。

 それから、なんとなく不服そうな朱乃さんと楽しそうに笑っている部長の支援を受けつつ、蹴り技を主体にしつつ、その剣でステンドグラスの怪物の攻撃にカウンターをぶつけるように叩きつける。

 隣の木場が「あれじゃあ剣の持ち味があまりないよ」と言いたげだったが、徒手空拳を除けば、喧嘩殺法の色が全面的に押し出されている先輩と俺の剣術は同じレベルだ。

 徒手空拳では向こうの方が上だけど。

 

「忌々しい()()め!その形態でも渡り合えるか!」

 

「悪いな。神だろうがなんだろうが、俺は自分の中の音楽って奴を信じてるんでな。だから、」

 

 ステンドグラスの怪物をその青い剣――ファングセイバーで切り捨てた先輩、雨のように降り注ぐ怪物の身体の破片が粒子へと変化するのが一つの演出のようにしてみせ、ロキの方を振り返りながら、右手で拳を作る。

 

「神だろうがなんだろうが、キバってブッ飛ばすだけだ」

 

 

 

 



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