オーバーロードは魔王である (なまず)
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ここはどこだ

おや・・・ここは・・・

 

 自分の意識が最後にが残っていたのは、ナザリック地下大墳墓内で最後を迎えたところだったはずである。それにも関わらず、わたしはどことも知れぬ闇の中を浮かんでいる。いや、闇の中にうっすらと光の粒が浮かんでいるところから宇宙空間に佇んでいるのかもしれない。

 リアルではもう見ることも叶わなくなった美しい夜空の話を思い出す。マスク越しに眺めた夜空を見上げても、真っ暗な空しか見えなかったためこういうものかとしか思わなかったが、漆黒のビロードに散りばめられた宝石がキラキラと輝くような目の前の光景は、きっといつか見ることが叶わなくなったであろう「夜空」なのだと思わずにはいられなかった。

 

 どこまでも眺めていたい

 

 リアルでの生活で心も体もボロボロで、長いあいだ惰性で守り続けてきたナザリックにおいても久しく忘れていたありのままの感情がそこにあった。

しばらく、心の赴くままその星の輝きを見つめていたが、ふと気付く。なぜ宇宙空間で息ができているのかと。

 

 えっ・・・

 

 小卒の自分でも、宇宙で酸素ましては防護服なしで生きられないことはわかる。しかし、自分はしっかりと呼吸ができている。慌てて体を確認して、自分の手をみたときその思考は止まった。

 

 これは、モモンガのアバター・・・?

 

 ユグドラシル時代に使い続けてきたオーバーロードのアバターがそこにあった。

 

 「なぜ、アバターのままでいる?そもそも、意識がなくなった時点でユグドラシルから強制排出されるはずだろ!」

 

 事ここに至って、ようやく自身の状況に気づいたモモンガは、すぐにコンソールの確認、GMへのメッセージを急ぐ。だが、わかったのはどちらも現在利用できないということだった。

 

 「完全に手詰まりか・・・。これは一体どう言うことなんだ」

 

 わからないことだらけの状況下で最終手段も使えぬまま、ただ時間だけが過ぎていく。こうしている間にも、リアルの体が不調をきたしているのかもしれない。

 

 「クソっっ!一体どうすれば・・・ん?」

 

 モモンガが言い知れぬ不安に襲われている最中、ふと後ろから赤い光が漏れていることに気付く。思い切って後ろを振り返ってみると、煌々と輝く赤い惑星がそこにあった。

 

 

 「これはなんだ?まさか、太陽?」

 

 真っ赤に燃えるこの謎の星はところどころで、赤い帯のようなものが湧き上がっている。以前、ブループラネットが話してくれた、太陽の特徴に類似しているようにも思える。ただ、この惑星が太陽と違う点がひとつだけあった。それは、赤い帯の色とはまた違う輝きを持った巨大な柱、いや大樹のようなものが存在している点である。

 

 「あれは巨大な木か?それにしてもでかすぎる。宇宙空間まで飛び出ているんじゃないか?いったい、あれは何なんだ?そもそもここは、太陽なのか?」

 

 新しい発見と同時に、謎が深まりますます混乱する。そもそも、モモンガはギルド・アインズ・ウール・ゴウンのギルド長という立場ではあったが、実際の彼の仕事は忙しいメンバーに変わって、一緒に遊べる日程の調整などマネージャー的な仕事が多かった。わけのわからん場所に飛ばされた挙句、オーバーロードの体のままになり、謎の惑星を発見するという本人のキャパを超える状況に頭が悲鳴を上げ始める。

 

 「はぁ・・・やめだやめ。とりあえず動かないことには何も始まらないか。まずはそうだな、あの巨大な大樹に向かってみようか」

 

 現状においての、状況の考察に限界が生じたことで行動に移すことにした。また、モモンガ自身がユグドラシル時代のワクワク感を思い出し、溢れる冒険心を抑えられない部分も多少なりともあり、どうしても近づいてみたくなったのである。

 

 移動においては、ユグドラシル時代のフライの魔法が使えたためどんどん前進していく。ふと、大樹だけでなく地表部分がどうなっているのか気になったモモンガは、惑星により近づく形で飛行を続けた。もし、ここが太陽であればかなりの高温であるため、一瞬のうちに蒸発する可能性もあったが、100レベルまで上げた自分の体ならば耐えきるであろうという自信があった。実際、惑星に近づいても何らかのデバフを受けた様子も見受けられないしダメージの発生に関しても確認できなかった。デメリットが発生しないとわかってからも、念のためこまめにステータス確認もしつつ高度を徐々に下げて大樹に向かった。ふと、視界の端に白いツブツブが浮かんでいるのが見えた。あまりに燃えたぎる火の色を見すぎたため、目の錯覚だと思ったが、なんとなくその数が増えている気がする。最初に左端に次は右端で、そして真正面。

 

 「!!まずい!囲まれている」

 

 高レベル帯という安心感と未知へ挑む高揚感の中で、警戒心をなくしてしまっていた。相手が未知数の敵である以上、バフを積んで挑む必要があるが、その時間もあるかもわからない。

 

 「ちっ、最低限しかできないか、グレーターハードニング、ボディ・オブ・イファルジェントベリル」

 

 バフの発生を確認しつつ敵の姿を視認する。さっきまで白いツブツブだと思っていたものは、巨大な口のついた2メーター程の楕円であった。その数は、先ほど確認した時よりも増えており、明らかにこちらへと向かってきている。話がわかる相手ならばいいのだがととりあえず話しかけることにしてみたが、相手は見事に無視し、こちらにその巨大なあぎとを振るってきた

 

 「っく!、こちらに交戦の意思はないのだが止まってくれないかね?」

 

 何度となく交信を試みてみたが、相手は一向に攻撃の手を緩めない。このまま交信し続けるというのも手段の一つかもしれないが、バフの残り時間、それにMPの残量などの問題がある。特にマジックキャスターであるモモンガに関しては、MPの枯渇は死活問題である。ユグドラシルにおいてもmpの回復手段は、時間経過による回復しかなかったため、MP回復のマジックポーションアイテムなどは所有してはいない。回避し続ければ、問題ないかもしれないが、現状においても、かなりの数が周辺に集まっておりいつまでも回避できるとも思えない。

 

 「いい加減目障りだな、何度も交信を試みたという理由も出来たし、今度はこちらから行くとしよう。ファイアボール。」

 

 十位階とそれを超えた超位階からなる、ユグドラシルの魔法の中でも下から数えたほうが早い第三位階の魔法で小手調べを開始した。交信を試みる前の相手の動きと回避中の相手の攻撃のスピードや動きの単調さからそれほどの脅威でないレベルと推測できたためでもある。実際読みはあたっていたようで、ファイアーボールの一撃で一匹のみならず、その周辺にごった返していた楕円もろとも砕け散った。倒してもクリスタルが落ちることはないようで、ユグドラシルベースの世界ではないのかもしれないと考えられる。

 

 モモンガの発した魔法は、相当の威力を発揮したが楕円の化物共には恐れの感情がないようで、燃え尽きる仲間が光に変わっていくのを尻目に、より攻撃の圧を増し始めた。

 

 「厄介だな。トリプレッドマジック・マジックアロー」

 

 モモンガのレベル帯であれば十二本発生する魔法の矢を、三倍化することで計三十六本の魔法の矢を生み出した。先ほどのファイアーボールよろしく威力も100レベル帯であるため、一気に敵をなぎ払った。連続で攻撃が当たるさまは、さながら光のシャワーのようで、消えゆく楕円の光を迸らせる姿も相まって空の星が地上に散らばったようだった。

 

 たった二つの魔法の発動で、敵の半数を削り取ることができたが、無限湧きのポップモンスターのように楕円の発生はとまらない。むしろ連中にとっての脅威度があがったようで、先程にもまして数を持って攻撃を仕掛けてきた。

 

 「お前たち程度では、わたしには勝てんようだな。ブラックホール」

 

 突如空に発生した黒い点は、そこが世界の終りかのように楕円を呑み込み消え行く光の発生すら許さない。地表部の炎すら削り取り黒点はやがて消失した。しかし、かなりの数を葬ったにも関わらず依然として楕円の発生はとまらない。

 

 「どこかに拠点があってそこから延々と生み出されてる?それとも、この火炎の地表部こそが奴らの拠点なのか?いずれにせよ、打開案を見つけなければ堂々巡りだな。相手のレベル的に仮に30レベルとしてわたしのパッシブスキルで60レベル以下のダメージは無効化されるから怖くはない。しかし、こいつらの上位の存在もいると仮定していつまでもここで遊んでいるわけにもいかんしな。」

 

 思考中にも襲いかかる連中を低位階魔法で適当にいなし、MPの自然回復を促しつつ戦いを続けていると視界に先ほどの大樹が映る。

 

 「まてよ、こいつらが本格的に襲ってきたのはあの大樹に近づいていってからだった。となれば、あれこそが奴らの拠点なのか?早合点は怪我の元だが、行くだけ行ってみるか。トリプレッド・マキシマイズマジック・マジックアロー!」

 

 先ほどの魔法の弓の効果に、更に最大化のエンチャントをかけて敵を一掃する。それに伴って光の量は増大し、さながら光の海のようだ。同時にそれは敵への目くらましとなる。モモンガは光の海の中へ潜り込み、楕円の追撃を交わす。楕円側は、突然の光の海の出現に瞠目し、敵の居場所を見失ってしまう。その間にも、モモンガは光の海を進みゆく。何度か楕円に出くわしたものの、一回の遭遇につき一・二匹と群れでない個体だったため、一気に大樹まで、歩を進めることができた。大樹の存在が一体何なのかこれで突き止めることができる。



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大樹へ

 光の海をくぐり抜けていくこと数分で、ようやっと大樹のそばまで接近することができた。大樹の周りには、相変わらず楕円の連中がうろついているが、その量はさっきまでの比ではなく、波のように蠢いている。また、よく波の様子を伺ってみると少しずつ螺旋のように束になっていくのが見受けられた。

 正直なところ、これだけの相手に対応するにしても確実にmpが足らなくなるのは自明の理であった。そこで、モモンガは詳細な周辺状況を理解するために、上級アンデッド作成において二体のペイルライダーを召喚し、偵察に向かわせることにした。ペイルライダーは、亡霊騎士が上位の蒼いアンデッドホースに騎乗した形で存在しており、亡霊に似つかわしくないほどくっきりと青白いその存在感を空中に示していた。

 

 「お呼びでございますか、我が主よ。」

 

 「うむ、お前たちにはこの炎の海と周辺をうろついているあの白い楕円について情報を集めてきてほしいと思っている。連中の数は多いため、不可視化状態になり奴らに気取られぬようにせよ。」

 

 「承知致しました、我が主よ」

  

 「それと、わたしはこれからパーフェクトアンノウンアブルを発動し、不可知の状態になる。こちらから定期的にメッセージを発動し、状況報告をしてもらうことになるのでそこも留意するように。」

 

「はっ」

 

 完全不可視化と完全不可知化の違いとは、不可視化が視界から見えないだけで匂いや音などの状態が把握される可能性であるのに対し、不可知化に関しては匂いや音といったほかの情報も感知されなくなる状態になることである。モモンガは、不可視化と不可知化に関して、楕円の反応の差が知りたかったため、あえて実験も兼ねて魔法を別々に使用することにしたのだった。

 

 すぐにモモンガは完全不可知化の魔法を発動し、主からの指示を受けた蒼褪せた乗り手ことペイルライダー達も、左右に分かれ不可視化になり、偵察任務に向かう。ペイルライダーたちはユグドラシルでは80レベルのモンスターなので、よほどのイレギュラーが発生しない限り、倒されることはないだろう。しばらくしてからメッセージを飛ばそうとすると、自分と眷属との間にリンクのようなものが存在していることがわかり、そちらを通してからの意思疎通が可能だったため、連絡方法を切り替え、何か気付き次第連絡するように指示を変更した。

 

 そうした細かな指示が終了し、目の前の大樹の状況を落ち着いて見ることができるようになった。

 

 大樹は、近くから見るとその大きさがありえないものであると分かる。遠くから見えていた、宇宙までも届かんようなその輝きは、自分が12年間遊び続けていたユグドラシルの元ネタである世界樹ユグドラシルが現実に現れたかというような威容であった。もともとの神話の世界樹ユグドラシルもアースガルド、ヴァナヘイムといった9つの世界を支えていたと言われているが、目の前の大樹もそれに劣らずかなりの規模を誇り、9つの世界を支えているいってもおかしくないほどのものであった。

 

 大樹の上部には、ありったけの輝きを詰め込んだような葉っぱがふさふさと茂っているようで、あの一枚の大きさだけでもモモンガの体を簡単に包み込めるほどの大きさかもしれない。幻想的なその風景をいつまでも見ていたかったが、ここは炎の海の中で得体の知れない白い楕円がはびこっていることを思い出し、気を引き締めなおす。先ほど考察した大樹が奴らの巣であるという推測から、中から出てくる存在を確認してみたが、一向に何も出てくる様子はなく、楕円の連中は周囲をただ旋回しているようだった。

 

 「大樹は奴らの巣ではない?参ったな、また振り出しに戻ってしまったぞ」

 

 その後も大樹をしばらく見ていたが、依然として状況は変わらず一旦観察をやめて、楕円の観察に戻る。

 

 楕円はこちらが完全に認識できていないようで、かなり目の前を横切っても気づくことはなかった。この様子だと不可視化でも問題なかったかもしれない。現に偵察に出している眷属から襲撃の報告は受けていない。やはり、奴らの一体一体は大したことがないかもしれないと判断する。しかし、螺旋に集まっている連中に関しては、モモンガの勘が警鐘を鳴らしている。最初は何をしているのかわからなかったが、じっくり様子を見ていくうちに、そいつらが何かを形作ろうとしていることがわかった。

 

 「なにっ!合体しているだと?スウォーム系モンスターならまだしも、一体一体が融合

して一個体になるなんて!」

 

 モモンガの動揺をよそに、楕円がどんどん細胞として構築されていく。構築があらかた終わると、螺旋から楕円たちが離れていく。そこにあったのは、奇妙な形のオブジェであった。ただのオブジェならよかったものの、そいつは徐々に動き出し始めた。また、構築されたオブジェは一体だけでなく、他にも様々な形状のものが構築されていた。

 

 「あの楕円はそこまで強いわけではなかったが、合体したことで未知数の存在となった。あの特徴的なボディの差は何らかの機能の差を示しているのか?―――順当に考えれば、集合体のオブジェとなったことでより攻撃的な個体もしくは特殊な性能を獲得した個体になったのか?」

 

 楕円の連中との初遭遇時には、不意打ちを受けた形となり冷静に対処することができなかった。だが、今はいつも通りの慎重さが戻ってきており、冷静に状況を把握する余裕が出来てきていた。オブジェが格上の存在であるとしても、きちんと前もって段取りを整えさえすれば負ける道理はない。オブジェのレベルや手札がわからない以上眷属を使いこちらから攻撃を仕掛け、連中の情報を引き出してから攻勢をかけるべきだろう。

 

 飛行系アンデッドを召喚し、けしかけようか考えていると、オブジェの連中がスピードをあげて大樹の中に突っ込んでいった。

 

 「はぁ?なんでいきなり…いや、まてよ…楕円が大樹の周りをくるくる回っていたのは、狙っていたから?となると、大樹と楕円は敵対関係なのか?」

 

 楕円が大樹の周辺をうろついていたのも、タイミングを計っていたのかもしれない。

 突っ込んでいったオブジェを見ているとかなり強引に侵入を仕掛けているようで、大樹の光がバチバチと稲光のようなものをあげて、異物を拒んでいるようだった。それと同時に、大樹が本物の木ではなく何らかのエネルギー体であるという印象を受けた。

 

 しばらく、大樹側が抵抗を続けていたが、オブジェの連中の方が一枚上手だったようで、稲光を上げる抵抗をものともせず、大樹内に侵入していった。モモンガも大樹内がどういう状況下に置かれているか知りたかったため、先ほど、召喚しそこねた飛行系アンデッドを召喚し、連中の追跡を試みることにした。

 

 飛行系アンデッドはハゲタカが腐りきったような姿であった。眷属とのリンクを確認するとすぐに、大樹内への侵入を命じた。飛行系アンデッドは、錆び付いた鉄のドアが軋むかのような鳴き声をあげて大樹内にとびこんでいった。楕円の連中がその不快な音に気付くも、スピードの差もあってか追いつかれることもなく大樹に接近できた。しかし、大樹に突入したと思った瞬間にそのアンデッドは砕け散ってしまった。

 

 「やつは、レベル30クラスのモンスターだったはず。となると、推定30レベルの楕円どもが大樹周りをうろついていたのは、入りたくても入れなかったためか。となると、最低レベルでも50程度はレベルがないと大樹内への侵入はきついのかもしれないな。」

 

 大樹の抵抗は、思った以上に強力なものであることが判明した。別のアンデッドを、準備しようとしたモモンガだったが、楕円の好戦的性質とその集合体である複数のオブジェが多数侵入していることを思い出し、考えを改めた。

 

 「本来なら、より周到に準備を重ねて未知に挑むべきだが、奴らが大樹に対する侵犯者であるのなら現在進行形でかなりの被害を発生させているかもしれない。楕円との交渉ができなかった以上、大樹と交渉できるかもしれないし、恩も売ることが出来るか?」

 

 現状におけるメリットとデメリットを冷静に鑑み、大樹内に強行突入することにした。そもそも、大樹に突入することは現状の情報がそろってない段階では、かなり危険な行為である。しかし、この世界の存在がわからない以上多少のリスクを負ってでも、情報を回収すべきという判断を下した。時間的猶予はないと推測したが、命に関わるかも知れないので、大樹の抵抗でかなりのダメージを負うことを考慮して、様々なバフを付与する。

 

・・・グレーターフルポテンシャル・・・ヘヴンリィ・オーラ・・・サンクチュアリプロテクション・・・マジックウォード・ホーリー・・・

 

 大樹の抵抗対策、および大樹内に侵入したあとの戦闘も考慮に入れてバフをあらかた掛けた。

 しかし、いざ突入のタイミングとなると緊張が押し寄せてきた。大樹の中はブラックホールかも知れないし、相性最悪のモンスターだらけかも知れない。あらゆる可能性をはらんでいる。それでも

 

 「先に進んでやる」

 

 

 フライを発動し、一気に接近、その勢いのままで大樹に突撃。突撃の瞬間に、体がめりめりと埋まっていきそれと同時にピリピリととダメージが走る。また、輝きに突っ込んでしまったことで、視界が一時的に閉ざされてしまった。

 

 「―――っく!勢いが消されてしまったか。痛みはあるが体が動かないということはない。このままゆっくりと前進してみよう」

 

 勢いが消され、痛みの発生や一時的盲目になったことで、混乱したもののすぐに精神を立て直し、ゆっくりと歩を進めることで、なんとか大樹の抵抗を凌ぎきって侵入できた。

 

 

 「―――この体になってから初めてのダメージか・・・。しかし、あれだけバフをかけた状態でも、ダメージが発生するとは・・・」

 

 ダメージを受けた衝撃とバフの重ねがけをしたにも関わらずダメージが発生したという二つの衝撃は思いのほか大きかったが、大樹の輝きで一時的に真っ白になった視界が回復すると、すぐにそれらの衝撃は目の前の光景の異様さに上書きされた。

 

 

 

 

 抵抗をくぐって抜けた先の世界は、極彩色の色とりどりの木の根のようなものが複雑に絡み合った大地が地平線の果てまで続いていて、その大地の中央にくすんで木の葉が枯れ落ちてしまったかのような大樹が堂々とその存在感を見せつけていた。

 

 

 

 

 

 「もう、なにがなんだか・・・」

 

 遠くで聞こえる爆発音を聞きながら、しばし当惑した。

 

 



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