Fate/extra game (セトリ)
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第一章 Extra extra etc.
ゲイム、ゲイム、ホワッツザネイム


 

虚空の海。ただただ広がる漆黒は僕を優しく包み込んでいた。

星の瞬きも超重力の渦も出来ている訳でもなく、僕は星の輝きを放ち突き進んでいく。虹色の螺旋は次第に色味を薄くしていき、桃色へと変色し、やがて肌色へと色づく。

 

まだ■■■まで足りない。

虚なる海は僕の推進剤に記憶を要求してくる。

迷いなく、これまでの記憶を捧げることにした。

全ての運命を変える黄金を溶かし、絆を最大限に引き出した肉体を弱体化していく。

 

けれども遠くに見える■■■まで届かない。

まだ海は推進剤に代償を求めている。

僕に眠る別の人格を捧げ、肉体を動かす獣性さえも捨てる。

 

届かない。

僕は更に代償を支払う。

 

笑顔でいることを忘れ、ただ過去の欲求から目を逸らしていく。

心を滾らせる熱を鎮め、何でも出来る万能感を消し去る。

 

僕は存在を維持するための礎を殆ど破壊した。

存在が軽くなればなるほど、水の抵抗力がなくなっていく。

僕が僕という存在を分離させていき、視界がぼやけて意識が朦朧としながらも、新たな推進剤を元に■■■の下まで進んでいく。

 

 

------お前は俺だ。

 

一節の言葉に僕は意識を覚醒する。

僕は揺蕩う。思考の大海へ意識を滑り込ませ、潜っていく。

深く、深く、深く。

やがて視界の一端に気泡が現れる。軌跡を辿るとそこには、一人の青年が沈んでいく姿が映る。何故か、救わなければならないと強く思い脚を巧みに動かして青年の元へ近づいていく。

 

ーーーーーお前も僕だ。

 

無意識の内に気泡へと変換されゆく、誓いの言葉。

けれども、それは届きそうで届かない歯痒さを交えていた。

これは夢だと、先程から感じていた。しかし、現にならない幻は何一つない。これは実現できない絵空事じゃない。

決して救えない結末があったとしても、心はただ救われる気持ちでないといけない。それが■■■■だから。

 

「ijshiじkぁjづ」

 

それが青年の名前だった。

発した雑音は、確かにそう告げていた。未だ沈み続ける彼へ手を伸ばす。彼の身体は黒に塗られて分からない。けれども、僕に似た顔の輪郭は感覚で分かる。

そして、これ以上は進めないということも。諦める訳ではなく、単に時間が来てしまうから。それでも僕は手を差し伸べてーーーー

 

 

そこで僕は現実に引き戻された。

瞼には残像が残り、視界にはここ2年愛用してきた無機質な教員机の上側が映っている。戻ってきてしまった。酷く悔やみきれない目覚めの後味悪さに、口の中で酸味が溢れ出てくる。

また日常が始まってしまう。誰かが死んでいる間にも、僕はただただ生きる時間を傍受していた。

 

 

 

 



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クリスマス・イヴ

 

ライトグリーンの薄いカーテンが日光を透過する。

消毒薬のアルコール臭と自分の匂いだけが充満した空間。カーテンで仕切られたベットが2つに、学生が来た時用の白く長い机と長イスセット。そして、自分の仕事をする為の机。

 

特に変わりのない風景に、重い瞼を擦り、再び机に突っ伏す。

異様に重い身体を起き上がらせるには、少し酷じゃないかと自分に言い聞かせて瞼を閉じる。

 

タイミングが良いのか、引き扉がレールを走る音が眠気覚ましに鳴る。このまま瞼を開けないようにしておこう。

 

「上条先生、寝ているかぁー! ......こりゃ、駄目だわ」

 

甲高い、およそ学生ではない女性の声が空間に広がる。

一瞬獣の雄叫びにでも思えたそれは、嫌ほど聞いたある人物の声だった。

藤村大河、黙れば美人を体現する穂村原学園の英語担当教師だ。

 

「まったく、事件の応援に来てくれた医師の資料もってきたってのに」

 

隣に紙がドサッと置かれる音と、コツコツと硬いフローリングを歩く音。そして扉が閉まる音で上体を無理矢理起こす。

机の上にはA4サイズの茶封筒が置かれている。

藤村大河の手書きであろうトラの形をした付箋を剥がし、机の端っこにペタリと貼り、中身を確認しようと紐を解いていく。

紙の蓋が自然に開き、中身を取り出そうと右手を突っ込む。

 

「ッ!」

 

いきなり電流が走るような瞬間的な痛みに、身体が僅かな時間強張っていく。封筒が手から滑り、フローリングへ落ちる。

 

痛みが引き、身体が自由になる。

慌てて乳白色の床にぶちまけた紙達を拾い上げようとした時、右手に昨日まで無かったものが存在していた。

 

手の甲の見知らぬ仮面のタトゥー。眠る前には無かった。

眠っている最中にイタズラでされたという線もあるけれども、こんなものをする生徒なんて心当たりがない。

軽く擦ってみる。

半分に意匠が分かれた仮面は消えることはなかった。少し悩んでみたけれども、思い当たる節がない。どうせ数日したら治るだろう。

 

数秒後、封筒の中身を回収し終わり順番を元に戻していると、一つの顔写真が映った紙に目が惹かれた。聖都という災害に対しての防衛構造を施した新興都市から派遣された、医師の顔だ。

聖都大学附属病院所属、監察医九条貴利矢と添え書きされたその顔は、とてもじゃないけれど胡散臭いものだった。

顎の輪郭がはっきりとして、多少眉目が整えられた顔つき。西部劇にでも出れそうなガンマン気質の目線が、三枚目の雰囲気を醸し出している。

 

近日頻発している事件について生徒たちへ行動を観察をしていき、担当職員に報告するのかなどの、残りの小難しい書類を医師の顔写真の紙ごと茶封筒に仕舞う。

 

「......眠い」

 

今にも机に突っ伏して惰眠を貪りたい衝動に襲われる。僕は抗うこともなく従い、陽光が輝く中もう一度意識を手放すことにした。

 

 

ーーーーー

 

 

僕はただただ医者を目指していた。

過去に生死を彷徨うような経験をしたり、生命を脅かす戦いに巻き込まれていくなんて経験は無かった。

幼い頃から、独りぼっちで人と関わりなく過ごしていく日常が僕は好きだった。友達といえば、本の虫と呼ばれていたぐらいに好きな、本の文章だ。

その中でも、人体の構造を解説してくれる本が特に興味があった。

病気や障害など、様々な人体の神秘が幼い純粋な心を刺激してくれた。

気づけば、医療専門の大学を卒業して国家資格である医師免許を取得していた。長い研修期間を乗り越えて、故郷の学校である穂村原学園の保健医として就職した。

その間に友達たるものが出来ていなかったけれど、特に不満は無かった。ただ、周りからは奇異の眼で見られていたことは覚えている。多分先生から言われた、もっと自分の感情を出せという言葉も覚えている。

しかし、どう吐き出せばいいのだろうかと他人の青春を眺めて、自問自答したこともあった。

結局は、医師になれば今よりずっと良い自分になれるだろうと都合良く考えていた。

そうじゃないと教えてくれたのは、穂村原学園の教師陣だった。癖の強い人たちだけれども、大事な事を教えてくれた。

自分と向き合う事。

医療の勉強しかしてこなかった僕の新たな趣味を見つけたいなと思っている。

今の上条 茂夫という僕はそれが目標だ。

 

 

 



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やがて聖夜より蘇りし怪人

素に銀と鉄。礎に石と契約の大公。
祖には我が大使■■■。
降り立つ風には壁を。
四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ。
閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)
繰り返すつどに五度。
ただ、満たされる時を破却せよ。

ーーーー告げる。
汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。
聖杯のよるべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。
誓いを此処に。
我は常世全ての善となる者。
我は常世全ての悪を敷く者。

されど汝は我の眼と共にせよ。
汝は、我と等しく同様となる者。我は、汝と等しく同様となる者。
我が身は汝の下に、汝の命運は我の剣に。
汝は常世全ての善となる者。
汝は常世全ての悪を敷く者。
誓いを此処に。

汝三大の言霊を纏う■■、
抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よーーーー



酷い頭痛が僕を覚醒させた。

鈍く、そして懐かしい痛みが頭蓋の下で踊り狂っている。

懐かしい? その感覚はどこから来たんだろうか。僕が幼い頃に感じた喪失に似た痛みにそっくりだった。

外を見ると夜の帳が降りかけて紺色に染まっている空があった。

 

「......そんなに寝てたのか」

 

寝ぼけ眼を擦り、職員室へ向かう準備を始める。頭痛はするものの気にするほどではなくなり、身体も寝る前と比べれば鈍重感は消失していた。ただ、倦怠感が身体に残っており今日一日は家でしっかりと寝たほうが、明日以降に迷惑がかからないだろう。

つまりとっとと仕事を終わらせて寝よう、なんて現代では不思議な程自堕落な考え方を僕はしていた。まあ、間違ってはない。

 

鞄に資料を入れ、帰ろうとドアに身体を向けた時だった。慌ただしく走る足音と人影が一つドアの磨りガラスを素早く通過していった。

人影は形を見る限りだと制服を着ていたから、ここの学校の生徒かな。それだとしたら、

 

「もう下校していなきゃおかしい。......追いかけないと」

 

嫌な予感がする。僕の中に眠る第六感がそう囁いた。

急いでドアを開けて、廊下に躍り出る。

無人の廊下は焦燥をさらに掻き立てる。生徒は階段を駆け上がったんじゃないのかと、階段を2段飛ばしに疾く駆ける。

2階、居ない。3階に一息で辿り着く。廊下に予想どうり本校生徒の姿が確認出来た。

暗がりで多少は見え辛いけれど、明るい朱色はあの生徒しかいない。

 

「エミーー」

 

ヤ、と続く言葉は血生臭い匂いとなだれ落ちる物音で掻き消された。

いや、何度も見てきた筈だ。殴り合い、切れた唇から出てきた赤色を僕は知っている。

ーそんな訳がない。

暗がりが徐々に月光に満ち溢れる。

ーーそんな訳がない。

そこには血溜まりに倒れる、エミヤと呼ばれる穂群原学園の2年生がいる。胸辺りから滲み出る夥しい生命の流体が、茶色の制服を紅く染め上げていく。

ーーーそんな訳がないッ!。

否定は肯定することを拒んだ。そこには、そこにいたのは、瀕死の重体を負った衛宮士郎が倒れているという事実だけだ。

 

「......ウッ」

 

空気が澱んだ。歪んだ。ひび割れた。

今にも決壊しそうな正気の器が、まだある真実に辿り着こうとしていた。月光は神秘を映し出す。

 

「なんだ? 今度は医者か。ーーー見たな、お前」

 

蒼い髪だった。

全身を暗闇より明るい色と無機質な金属類の光沢で彩り、手に持つ一本の赤い赤い槍は眼前に迫り、自分へ振り降ろさんと一筋の線を描こうとしている。終点は左胸、その中にある人間にとっての最重要の臓器を貫こうとしていた。

ーーー心を滾らせるなよ!

咄嗟に身体を右に傾ける。穂先は左肩を掠る軌道を描き、白衣に赤い直線をつける。握り拳を右手で作り、赤い眼をした美丈夫の顎目掛けて放つ。驚くほど自然に、慣れている殴り方に僕自身が困惑した。

 

「ッ!ーーおいおい」

 

クロス気味の殴打に、なんて事なく上体を曲げることで避けた侵入者はそのまま後方に一回転し、ステップ踏み距離を開ける。そして、槍を左で構えて口を開く。

 

「まさかマスターに出会うとはな。サーヴァントはどうした?」

 

意味不明な言語が立ち並ぶ。マスターとサーヴァント。2つの言語が何らかの関係を示しているのは理解できるものの。生憎そういうのは持っていないような。疑問符を並列に繋いでいると、侵入者は僅かに顔を歪めて腰を屈める。

 

「......まあいい。サーヴァントは虎の子だというんなら、引き出してみるだけさ」

 

轟と突風が吹く、赤色のナニカが侵入者に纏わりつく。

あれは死を告げる。先程の突きと比べものにならないだろう攻撃が待ち構えているのは確実だろう。何か行動しようと指先を動かそうとして、酷く痙攣を起こしていることに気が付いた。

このままでは防ぐことなく、呆気なく死んでしまうのは確実だった。

目の前の蒼い戦士は言外に語る。ーーー観念しな。

まだだ。僕は死にたくない。死んでたまるか。

ーー俺は、あいつを救わなければならないんだ。

右手を突き出して、手甲のタトゥーに誓う。言霊が浮かんでくる。

身体から雑音が入る。純白の綺麗な気体が自分の身体から漏れ出る。

 

ーーー告げる。汝の身は我が下に。我が命運は汝の剣に。

聖杯のよるべに従い、この意、この理に従うならば。

 

満ちる。満ちる。満ちる。満ちる。満ちる。

破却された時は戻り、希望を形成する。絶望の槍を破壊する、矢を番えよ。

絞る。絞る。絞る。絞る。絞る。引き絞るごとに五度、強き意志を発現せよ。

 

ーーー我に従え。ならばこの命運、汝に授けよう。

 

《ギリギリ クリティカル ストライク!》

 

光芒一閃。ただ絶望を粉砕したのは、背後からの一条の光だった。

想像通りの光線は、紺碧を直撃させる。波状に広がりを見せ、コンクリートの天地に罅を入れて拡散、次第に霧散していった。

 

「いい一撃入れてくれる。だが、それは弓兵の真似事か?」

 

槍を立て、問う。僕ではなく、後ろから奇襲を仕掛けた人物に向けての問いだった。新たな気配は口開く。

 

「いいや。てか何だよその槍、殺す気満々じゃない」

 

軽やかに、それであってここを戦場だと実感させる言葉を乗せながら、月下の舞台に乱入者が躍り出る。

茶色の皮ジャンパーを纒い、青いジーパンを一丁。背丈は僕と変わらず、右手には黄色の玩具一つ。顔は戦場に佇む日本の武士そのもの。幾らかの戦いを潜り抜けた相貌は、僕が記憶するある人と一致した。

 

「助けに来たぜ」

 

「ぼ、僕は上条茂夫です。あなたは誰ですか」

 

僅かに太い眉を寄らせ、乱入者は侵入者の盾になるように位置を移動する。先程は見えなかった腰につけた緑と赤みがかったピンクの機械、そして左側に添えてある機械に刺さった黒の物体がチラリと映る。

 

「自分の名は、ライダー。仮面ライダーレーザー」

 

「ほう、騎手を名乗るか。此度の聖杯戦争は真っ当な役割を捨て去った奴らが多い」

 

少しでも動けば戦闘が再開される中、仮面ライダーを名乗る彼は腰にあった黒い物体を抜いた。侵入者が槍を即座に構え、突撃する体勢を取る。ガッシューンと気の抜けた機械音声と共に黄色の玩具が泡状に溶けて消えていく。

 

「何の真似だ」

 

「見ての通り、自分にはあんたを倒せる武器を持ち合わせてない。だから、降伏するという訳ですよ。あんたは立派な番犬だ。主人の命令には従った方が今は良いんじゃないか?」

 

彼は両手を大袈裟に広げて降伏を意味するボディサインを示し、戦いを鎮める交渉を行う。確かに、今は戦う時じゃない。何よりもこうしているだけで失われる命が床にあるのだから。

 

「ちっ......わかったその提案乗ってやる。但し、一つだけ約束しろ」

 

侵入者は槍で地面を半分の弧を描き、朱の光壁を造りだす。喰い殺さんとする獰猛な目付きで睨みつけてくる。

 

「俺が万全に戦える時になったら、挑戦状を送りつけてやる。そん時には絶対に逃げるなよ」

 

月夜の虚空に響くは青い捨て台詞と、安堵の一息を入れる茶色の仮面ライダーと、滑って腰を打ち付け床を転がる僕だけだった。

 

 

――――――

 

 

先ほどの戦いが目を閉じれば鮮烈に蘇ってくる。

弓兵との手ぬるい打ち合い。実力が自身に課せられた制限によって出せなかったにしろ、実に満足ができるものではなかった。戦士として、全力を通じて相手の全力と鍔迫り、相手を倒すのが最上の喜びというものだ。

しかし、この戦いは不満ばかりが残っている。できたことは不幸にも秘密を見てしまった者への処理のみ。それは完遂できたはずだが、俺にはあの医者マスターがどうにかすると戦士の直感が囁いている。

 

「しかし、なんだ……いいやつがそろってやがる」

 

懐を見せれなかったのなら、次に会った時に全力を見せてもらえばいい話だ。

あのスかした野郎(アーチャー)や、明らかにこちらを知っている素振りの皮ジャケット野郎(第二のライダー)。打ち合っただけでわかる、あれは幾何かの修羅場を超えてきた者たちだ。

また相まみえる日もある、その時こそが決戦の時だ。

 

「くはっ、楽しみだな」

 

早くこの槍で戦いたい。それだけで、思考が堂々巡りしていく。この感覚こそが、久しく戦いの血を滾らせてくれる。

しかし、まだ奴らと戦う舞台はそろっていない。ならばこんな下準備はとっとと終わらせよう。まだ現れぬセイバーのマスターを探すという準備をな。

 

 




サーヴァント・マトリクス1

真名:仮面ライダーレーザー

クラス:ライダー

属性:秩序・中庸

【ステータス】
筋力:E 耐久:D+ 敏捷:E
魔力:E+ 幸運:E 宝具:EX

【スキル】
バグスターウィルス:EX
とある世界にて発見された電子生命体。人間に感染することにより、宿主の存在と引き換えに肉体の培養をする。バグスターウィルスが完全に現実世界に出てきたとき、宿主の身体はデータとして現実から消滅する。
彼は人間としての生をバグスターウィルスによって終わり、再び神の手により人間ベースのバグスターウィルスとして蘇った。なので、バグスターウィルスが本来持ち得る怪人体を持ち合わせていない。

人心理解:A
人心の構造を正確に知り尽くしていることを表すスキル。彼の場合は数多の人体を生き死に関係なく観てきたことにより培った経験と、人の心の動向を一寸の狂いもなく捉えることのできる洞察眼が備わっている。真実を見つめる目は誰よりも鋭い。

真実隠蔽:EX
真実を遠ざけることを厭わない精神性がスキルとして顕現した。彼は真実を最も近くで見つめるが、それ故に他者を虚偽で惑わせる。それを反映し、自身の一部情報を隠蔽または捏造している。なぜなら真実を伝えることが、正解だとは限らないと知っているから。

【宝具】
《ライダ―ガシャット》
ランク:EX 種別:対人宝具
神より造られし電子医療機器。
バグスターウィルスを管理、特性を再現することができる。
彼が持ち合わせているのは4つ。
問答無用な疾走戦へと持ち込ませる特性を持つ《爆走バイク》。
窮地に立たされた時、想像を超えた力を発揮する特性を持つ《ギリギリチャンバラ》。
バグスターウィルスを抑制する特性を加えた《特別製爆走バイク》。
バグスターウィルスの上位版であるゲムデウスウィルスを抑制、沈静化させる特性を持つ《ドクターマイティXX(ダブルエックス)

《ゲーマドライバー》
ランク:EX 種別:対人宝具
ライダ―ガシャットを読み込み、増幅させる専用機械。
腰に当てるとベルトが自動的に使用者に巻き付く。
 本体左側にある二つのスロットの右側にガシャットを差し込むことによりデータをロード、データに沿いバグスターウィルスを活性化させることにより特性を最大限に使用することが可能。
 右側は《変身用スロット》、左側は《強化用スロット》となり、それぞれ引き出す力の割合が異なる。ガシャットの相性として《爆走バイク》と《特別製爆走バイク》が《変身用スロット》、《ギリギリチャンバラ》が《強化用スロット》と相性が良い。しかし、逆のスロットへガシャットを入れたとしてもエラーが起き、起動することはない。
例外として《ドクターマイティXX》だけは二つのスロットを使い起動する。
 ベルトが巻き付くと同時に使用者の左腰に《キメワザスロットホルダー》が生成される。スロットホルダーには一つの《増幅用スロット》と二つのガシャットを保持するホルダーが付いている。
《増幅用スロット》にガシャットを差し込むことでガシャットに応じたアイテムを呼び出すことが可能。また、差し込んた状態で銀色のスイッチを二回押すことにより必殺技が発動する。
 ホルダーにセットされたガシャットはゲーマドライバーに量子分解されて格納され、持ち運びが可能。
 



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邂逅するディフェンダーズ

アーチャー。
 原作を見た方なら御存知の通り、守護者として死後を売り渡し世界の守護者として英霊の座へと至ったサーヴァント。
 そこへ至る道程はかつてないほどの地獄。至ったその先も地獄。理解できるのは、自分ただ一人。しかし、最初の地獄を分かり合える人が居たら。というもしもの物語で進んでいきます。
 運命は定められたものだとしても、邂逅は始まっていく。
 仮面ライダーレーザーと呼ばれた男と出会うことで、わずかながらに既知の物語から変わっていきます。それはやがて大きな歪みとなり、異なる結末を辿ることでしょう。蝶の羽ばたきが不規則に動くのを捉えられないのと同じように、誰にも分からない結末が待っています。
 


 

全力で校庭を、廊下を、階段を駆け上がる。

彼女は持てるだけの全力を振り絞り脚を疾く動かした。

浮かんでいた言葉は迂闊だった。それだけが彼女の頭の中の回路を埋め尽くす。

なんであんな場所にいた。なんで人避けの結界が効力を発揮しなかった。なんでランサーを油断して取り逃がしてしまった。

なんで。なんで。なんで。なんで。

重大なことが起きてしまってはもう終わりだとその先を想像したのか、彼女の脚が震えていく。

のこのこと部外者が首を出して命を狙われたのならば、運が無かっただろうと諦めて後処理に向かうだろう。あのチラリと見えた緋色の頭は、穂群原学園の生徒。それも同学年代の、有名なアイツの可能性が浮上していた。

逃げているだろう人物を自分が知っている可能性が大いにあるという意味合いを、彼女は感じ取っていた。

だからだろうか、神は現実は甘くないと言ってくれた。

 

「嘘でしょ......」

嘘ではない。

これは決して嘘ではない。

穂群原学園、2年C組の衛宮士郎が深緑の廊下に倒れていた。

その胸から夥しい量の血が流れている。あれは、応急処置ではもう難しく、医療の知識がない彼女でも悟ってしまう。

致命傷だ、後1、2分で物言わぬ人に成り果ててしまうだろうと。

 

「手持ちの石で何とかいけるかも......」

懐からピンポン玉大のルビーを取り出す。

銀の装飾に彩られ神秘的な輝きを濾さえたそれは、ビーズ状の鎖が一輪取り付けられていた。僅かに銀が擦れる音が廊下にやけに大きく響き渡る。

「ーーーー」

彼女が紡ぐは、治癒の願い。

彼女の喚起する希望の光は、幾何学模様に張り巡らしていく。

そして、聖なる願いに紅玉は乱反射する。衛宮士郎の口内にそれを戸惑いなく放り込んだ。銀装飾は外れて咽喉に入り、更に彼女は紡ぎ始める。

「ーーーー」

これは到底一般人では成し得ない奇跡である。

普通の人間が見れば、トリックを成し遂げたマジシャンを目にして「どうやってできたんだ」と言い放つだろう。

医者が見れば「インチキだろ」とも言うだろう。

心臓が、独りでに穿たれた孔を塞さぎ機能を復元するというのは、魔術と言わなくてどうする。それを易々とこなした齢十六の少女は、何者といえばいいのか。ーーーきっと、魔術師と呼べばいい。

 

「ふう」

 

ようやく生死の峠を越えて、彼女は自分の胸に手をそっと置く。

遅れて、赤い外套が廊下に飛び降りてくる。コンクリートの壁や廊下を物ともせず、すり抜けるように着地している。まるで幽霊のようにとも言えるが、彼は英雄としての役割を担う幽霊。語るその名は英霊。英雄の影であり、聖杯の呼び水に誘われた7騎の内の一人である。

 

「凛。周辺の気配は探ったが、ランサーは既に撤退している」

 

「そう」と、凛と呼ばれた彼女は左右に高く纏めた二房の髪を僅かに揺らした。意識がまだ戻らない衛宮士郎の身体を左肩に抱き上げる。赤い外套は少し肩を竦ませたが、彼女の歩く後ろをついていく。

 

「もう少し淑女らしく」と赤い外套は小言を中断した。

彼女はそれだけでも気に障ったのか、階段のある曲がり角の前で足を止めて赤い外套の方へ振り向く。食いかかる勢いで「何よ」と赤い外套の顔を見上げる。白銀の眉に、後方に纏め上げた白銀の髪。

廊下の方へ睨みつける緋色の瞳は、警戒の色を示していた。

 

「アーチャーどうしたの?」

彼女の疑問は人のような機械音声に紛れていく。

『ステージセレクト』と、闇夜に輝く黄色い閃光はたった一つの人型を縁取り、緩やかに消えていく。

青き瞳に棘のモヒカンを額に携え、大きな銀のエアロゾルを取り付けられた不恰好な仮面。胸にはレトロゲーム機のリモコンのボタンのような赤、青、黄、緑の小円。横にはオレンジのゲージが伸びている。

黒いボディスーツに銀色のラインを走らせ、黄と銀のアーマを手足の要所に身に付け、腰には蛍光色の装置が目立っていた。

 

それを一目で例えるならば、世紀末がデジタル擬人化したような特徴的な格好をした不審者だと彼女は思った。

 

「あれ何、アーチャー」

 

私にも分からないーーーー。赤い外套を身に纏うアーチャーと呼ばれた男性は、一際奇妙な人物の登場にただただ困惑の深いため息を吐くだけだった。

 

 

 





サーヴァント・マテリアル2

《ステージセレクト》
ゲーマドライバーの機能の一つ。キメワザスロットホルダーにガシャットを何も挿さず、銀のボタンを押すことで発動できる。
展開済みのゲームエリアに居る生命体なら、引き込むことが出来る。
ゲームエリアを改変し不干渉の空間を作り上げるその機能は、まさに未来を何歩先行けば実現できるだろうかと考察できる。
ステージセレクトはゲームエリアを展開する以上、変身状態でなければ使用できない。


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策謀のバトル

煌びやかなライトムーンが運動場を照らし出す。

 

本来、無人であるはずの穂群原学園の第一運動場の中心には幽霊が二つ立っていた。一つは仮面ライダーレーザーと呼ばれている、全身を身軽なスーツに包まれた奇妙としか言い様がない幽霊。

もう一つはアーチャーと呼ばれる、赤い外套に身を包んだ白髪の偉丈夫が両手に白黒の双剣を掴んでいる幽霊。

 

「ふむ。見たところ君はマジックアイテムか何かを使っていると推測しているが、何のクラスで顕現した?」

 

アーチャーは内心困惑していた。

自身のマスターがレーザーという人物に対し、ステータスが読み取れたからだ。ステータスが読み取れるということは、聖杯の加護を受けている者。つまり、聖杯戦争に参加する英霊ということになる。

しかし彼の記憶の中には一片たりとも、このような英霊はいない。

明らかなるイレギュラー。自身の知らぬところで起きていた異常。目の前の人物を警戒するのには、十分な判断材料だった。

 

ここに来るまで物言わずに佇んでいたレーザーは、漸く音声を発した。仮面越しに加工された人の声で。

 

「どんなクラスか当ててみろよ」

 

該当するクラスはセイバー、ランサー、アーチャー、アサシン、キャスター、ライダー、バーサーカーの七つ。そして、一つのクラスには一つの英霊しか割り当てられない。彼自身である、アーチャーやランサーは除外され、それ以外の5つのクラスだけである。

しかし、近日起きている魔力の吸い取りや生命力の奪取を行えるような能力を持っているかと思えば、いいえと直感は答える。

ならば手っ取り早く確認する方法はある。多少の魔力やマスターの負担をかけてしまうが、即効性はある。

 

アーチャーは両手の双剣を腰に下ろし、脚に魔力を溜める。

魔力の風とも呼ばれるエーテルが吹き荒れ、自身の戦闘準備が完了する。対して、彼方は尚も脱力した構えで此方を見つめている。

 

「ふっ」

 

軽い発破と共に弾き出されるアーチャーの身体。

一秒も満たない時間にレーザーの身体を双剣の間合いに捉え、斬撃を即座に放つ。

砂埃が立ち、剣線の弧は二重に閃く。

X字の必殺は手応えなく、不殺に成り下がったとアーチャーは判断して地面を蹴り、レーザーから距離を離す。

 

砂埃の中で避けただろう敵を追撃する為に、双剣を投擲する一瞬。

僅かな油断ともいえない、寧ろ油断を誘う為の隙だった。

 

「何だと!?」

 

レーザーを狙い投擲した双剣が、空中で弾かれた。

それは相手が何らかの方法で防御したと考えられる。

どうやったのかと思考し、硬直したアーチャーの褐色の肌に、冬の厳しさを感じさせる冷たい空気が触れる。

砂埃は晴れ、彼の全貌が明らかになる。アーチャーはどうやって防いだのか、即座に理解した。

レーザーの身体に白銀のアーマーが追加で装着されている。二輪の車輪を模したそれは自転車のチェーンが廻る音を搔き鳴らし、肩アーマーとして装着されていた。

遅れて、聞いたことのある電子音声が響く。今度は爽やかなスポーツチックなバックミュージックが伴奏する。

 

『シャカリキメチャコギホットホット! シャカシャカコギコギシャカリキスポーツ!』

 

一種の呪文にも思えた長い音声は、更にアーチャーを困惑させるものだった。魔力反応さえ無く、自身の持つ魔術と同じようなことがいとも容易く行われていることに、底知れぬ恐怖を感じた。

 

「君は誰だ」

「仮面ライダーレーザー、レベル0」

 

彼は素っ気なく答える。

 

「答える気はないということか、良いだろう。ならばこちらも相応の対応を取らせていただだこう」

ライダー(二人目)、ふざけた名前だとアーチャーは内心毒づく。

 

アーチャーは双剣をどこからか取り出して、投擲を始める。

レーザーも右肩の車輪を取り外し、こちらも投擲。

剣は二つの半円を描き、車輪は空気を巻き込んで円運動のような軌道で一斉に弾く。物理法則に従い地面に突き刺さる双剣を横目に、未だ地に落ちずそのままアーチャーに向かい攻撃を仕掛ける。

アーチャーは矢継ぎ早に剣を四つ投げる。曲芸師がナイフを投擲するように当たり、車輪は軌道を変えられ地面に墜落する。

 

これらが行われた一瞬のやり取りに、互いに言葉のない称賛が送られた。

方や車輪が湯水のごとく出てくる剣に遮られたことに、片や変幻自在の未知なる飛び道具を使いこなし意表をつく戦い方をしてくることに。

 

「ノっていくぜ!」

今度はレーザーが接近を仕掛けていく。

グラウンドに突き刺さった双剣3セット、車輪一輪の合間を縫い、格闘の間合いへと入る。

見た目にそぐわない速力は先ほどのアーチャーよりも速いものだった。アーチャーがレーザーを知覚したときにはもうハイキックが顔面に叩き込まれる寸前だった。寸で身を屈めると同時に黄色の旋風が巻き起こる。

当たるだけでもう未来が分かりそうな威力のキックは、アーチャーの認識を改めさせた。

―――目の前にいる存在は、強者だと。

ならばと、アーチャーは双剣を以って反撃を開始する。

そこからは、人が入ろうものなら即座に肉塊へ成す攻防だった。

双剣の剣戟が乱れ飛ぼうなら、スウェーとステップで全て躱され。蹴り技ともう片方の車輪のコンビネーションが決まれば、双剣を巧みに使い防御しきる。

そのやり取りがしばし続き、終わりの刻がやってくる。

極限の集中力を発揮するための体力が互いに尽きかけたからだ。

 

幾度も双剣を砕かれ、弾き飛ばされたグラウンドには針むしろのような立派な剣の大地が出来上がっていた。

 

「......やるな」肩で呼吸するレーザー。

「だが、これで終わりだ」対して、尽きかけて尚も冷静な面で対峙するアーチャー。

 

互いが一瞬で息を整える間隙―――僅かな注目の逸れが決め手を起動するための一手を打たせる絶好のタイミング。もちろん、それを逃すアーチャーではない。

突如として爆発の嵐が二人を包む。四方からの爆発の音と光で知覚を奪われたレーザーはその場に立ち竦み、仕掛けたアーチャーは視界を塞ぐ砂塵の霧を後方に突破し距離を多くとり、黒塗りの弓を構える。

同時に詠唱が紡がれる。

――――赤原を往け、緋の猟犬。

弓弦に乗せられた意志は必ず仕留めるという形を取り、紅き剣を射出する。

 

大気を裂き、円形の筒状にくり貫かれた砂のカーテンの穴は真っ直ぐレーザーの許まで到達していた。

防御する間もなく、レーザーの胸アーマーの中心を捉えて穿たれる。

火花を散らし、抉りながら進む赤の牙。

辛うじて胸を逸らすことで強引に逸らし避けるレーザー。白銀のアーマーに斜め左の焦げ付いた直線が刻み込まれた。

 

「おや、仕留めたかと思ったのだが。知っているか? 猟犬とは狩ることが本質」

 

再び接近しようとしたレーザーは、背後からの射殺す気配にサイドステップを踏む。

 

「仕留めるまで、何度でも牙を立てる」

 

過ぎ去ったはずの紅蓮の弓矢は、尚もレーザーの心臓部目掛けて傍を通過する。

踊りが始まった。ミュージックは赤の猟犬。踊り手は仮面ライダーレーザー。

飛び跳ねる音符は、レーザーを飽きることない鮮やかな回避の踊りを披露させる。

ぶち当たれば死ぬことはないが、激痛を伴うことになる。

そこからは体力勝負である。先ほどまでの消耗に加えて、このダンスはすぐに終わるだろうとアーチャーは読んでいた。

 

結果として、ダンスは終わった。そして新たなゲームが始まる。

 

『バクソウバイク!』

 

レーザーは懐から奇妙な機械(ライダーガシャット)の電源を入れて、左腰に取り付けられた装置に差し込み、起動させる。

《キメワザ!》という勢いの良い機械発声と共に、黄色い自動二輪が描かれたワイヤーフレームが虚空を移動する。すると、プリントアウトされたように絵から本物の自動二輪(バイクゲーマ)が生成される。

虚実から現実に取り出された自動二輪(バイクゲーマ)を見て、アーチャーは常識を覆される。

 

「魔力を使わず現実に空想を上書きしたようなものか」

 

おそらく腰の蛍光色の機械に突き刺さっている黄と黒の機械がそうなのだろうと判断をつける。宝具の類いかも知れない。英雄が英雄たらしめるシンボルが、それではないかと予想づける。アーチャーは今までの戦闘の経緯を見て総合的に考えた。その先で大技来ることも予見する。

 

「決めるぜ」レーザーはバイクゲーマ(自動二輪)に乗り、スタンドを上げてスターターを押す。

 

ブオンとエンジンの軽快な動作音を聴いたレーザーはデータ化された武器を取り出す。

それはランサーに向けた物と同じく、ギリギリチャンバラに込められた専用の機械だった。名はガシャコンスパロー。そして、取り付けられた黒い増幅用スロットにガシャットを差し込む。再び《キメワザ!》と必殺技の発動準備に入る。

背面には迫る、赤き猟犬(フルティング)

レーザーは惑うこともなく、ブースターとなるスイッチを押した。

 

《バクソウ! クリティカルストライク!》

 

レーザーの目はオーバーレイ(過剰光)により青く輝く。闇夜の中で輝くそれは一際目立ち、バイクもまた黄色いエネルギーを纏い、左手でスパローを掲げてアーチャーへと突撃を開始する。

音の壁を超えかけて激走する猟犬、それを背に爆走するバイクゲーマ(自動二輪)。その道にはアーチャーがただ一人。

避けなかったのは、レーザーがスパローに機械を差し込み《キメワザ》と鳴らしたからである。アーチャーの中で、《キメワザ》という単語に決め技という連想が出てくる。決め技から想像出来るのは大技、それも必殺技が実行されるだろうと読んでいた。

 

しかも、『弓の形状をした武器』という点がアーチャーの行動を一つに縛った。レーザーは図っていなかったが、戦法での腹の探り合いが功を奏し、一つの流れが生まれた。

 

「ロー・アイアス!」

 

ーーーーーー

 

遠坂凛と呼ばれた少女が居た。

彼女は学校内で有名な立ち位置に居た。

容姿は目を惹き、学業は学年の中では一番の成績を残す。

人との関わり合いはよく、笑顔は異性を悉く誘惑する愛らしさをもたらす。僕は、保健医として何度も廊下ですれ違うのを見てきた。

輝いて見えた。16歳の少女としては美しくあり、彼氏が居たとしてもおかしくはない。

でも、彼女には何か隠していることがあると他人の態度ですぐに分かった。

特に言及することもなく、気づいたところでどうもしない。

彼女は、世間の評判についてはプライドが高い。例え悪評が流れようとも、それさえ利用して自身のイメージを上げることを厭わないと、僕は勝手な想像をする。

現に文句の付けどころが無い。だからこそ、付け入る隙を与えないという堅苦しい雰囲気を感じれる。虚栄、意地っ張り、でも人には良くしたい。そんな欲望を少女が持っている。身の丈に合わない欲望は身を滅ぼす。危うい所で今は立ち止まっているから、僕としては心配をするだけで終わっているけれども、それじゃあ処方箋は足りない。

遠坂凛には、同学年の人の出来れば異性の理解者が必要だ。

 

「何で上条先生がここに居るのよ」

 

穂群原学園の校舎3階、急にデータの森から強制的に元に戻った僕が、廊下で出会った少女の所感を長々と心の中で言語化をしてみた。彼女は知ることはない。僕はただ微笑えんで、彼女の疑問に答える。

 

「僕は彼のマスターだから、ここに居る」

「そう、それならいいけれど。聖杯戦争の管理者として、知らない部外者が聖杯を巡る闘争に入ってこられては困る所だったから」

 

左肩に抱き抱えた、オレンジ色の少年を地面にゆっくりと降ろす。

致命傷を負っていた筈の彼は、穏やかに瞳を閉じている。

 

「衛宮士郎君を治療したのは君だよね?」

「ええ、戦争に関わらない一般人が死なれては夢見が悪いですから」

 

バツが悪いような、気難しい表情で答える遠坂凛。

他人が死ぬのは見たくないのは、誰もが知っている事。それも身近の人ならなおさら。

 

「僕はただの医者です。医学知識を専門的に学んだ人間です。僕の目から見ても彼は死ぬ運命だった」

「たしかに彼の胸の傷は致命傷だったわ。素人目にも。だから多少のインチキを使って治した、別に副作用は無いわ」

 

安心した。遠坂凛の言葉が真実なら、彼の安否は気にしなくてもいい。僕は深々とお辞儀をする。

 

「お礼はいいですよ。それよりも答えて下さい、彼は何者なんです」

 

彼は確か、ランサーと名乗る不審者と戦った時に聞いたような。

その名はーーー

 

「仮面ライダーレーザー。サーヴァントらしいです」

 

データの森で見せた、あの仮面の姿は何だろうか。

どこかで見た事があるような、でもあれだけ特徴的だったら覚えているはずだけれど。

 

「不用心ね。いくら顔を見知ってたからってそこまで言って良いのかしら」

「僕はこの光景を知っています。遠坂さんにとってよくある展開という事ですよね?」

「ある訳ないわよッ! 誰が、瞬間移動してくる医者や変人仮面サーヴァント展開なんてッ!」

 

巻き舌気味に捲したてる遠坂凛。

どうやら、サーヴァントというのは彼やランサーと呼ばれた青年の存在名ということらしい。更に言うなら、聖杯戦争というのはどういうものだろうか。

 

「では、管理者の遠坂凛さん。聖杯とは何でしょうか」

 

ーーーーーーー

 

「図ったな!仮面ライダーレーザー!」

 

自分は仮面の下でニヤリとする。相手には見えていないから、ポーカーフェイスなんてのも要らない。バイクゲーマに込められた破壊力は彼が張った七つの花弁の内、四つを枯らした。

 

「真っ向勝負だってことだ。歯ぁ食いしばれよ」

 

ハンドルから伝わるハンマーに打たれたような衝撃は、痺れて痛くて自分の意思で動かせなくなっている。ハンドルグリップを握り続ける『両手』が今にも剥がれそうだ。

 

「さて、行くぜ」

 

後ろの赤い追跡矢が当たらない内に、両手を離してバイクのシートを土台に跳躍をする。盾というのは前面にしか防御が構造上出来ない。赤マント野郎が盾を出したということは、背面がガラ空きということだ。花弁を飛び越す高さで事前に投げたスパローをキャッチする。

 

自分を見上げるアーチャーの顔。

驚愕と混乱の通い混ざった表情を見る限り、自分が想像を裏切った行動を取ったと確信が出来る。しかし、相手も修羅場を潜り抜けているらしく混乱したとしても身体は最適の行動は取れるようだ。

 

「......受け取れ! 猟犬の必殺を!」

 

自分を追い、物理法則を超えた鋭角で狙う赤い矢。

自分は咄嗟にスパローを矢避けに突き出す。酷く身体を揺らし、三半規管や脳へと爆ぜる衝撃が押し寄せる。

矢が爆発したと気がついたのは、地面に叩きつけられ吐き気とともに灼熱感を伴う痛みを実感した時だ。地面が揺られ、四肢は血の粘っこい水音を連鎖させる。

だが、終わった訳ではない。

 

「......これで終わりだ」

 

自分を見下げるアーチャーは、勝利を確信した一言を発する。

それだけだ。

チェックメイトはまだされていない事に気がついていない。

自分はその一手に迫るための、武器をとる。

絹を裂くような悲鳴が全身から響いている。体力もまた底を尽きかけている。だけど、自分は痙攣を起こしながら立ち上がる。二分割されたガシャコンスパローは両手に収まり、眼前に振り下ろす。

 

アーチャーは何かを察したのか、先程の花弁を3つ展開する。

 

もう関係はない。

これで終わりだ。

 

《ギリギリ! クリティカルフィニッシュ!》

 

X字の交差が花弁を2つ砕く。

盾で護られた安全圏の中を覗きこむと、アーチャーが勝利を確信したと勘違いした顔をしている。

それもそうだ、武器が離れたのだから。事実その盾は、ライフゲージを全損する手前まで減らした強烈な必殺技でさえ届かなかった。

手足はもう正直にいえば限界だ。盾を破る一撃は放てない。だからアーチャーは間違えた。

 

そこに隠された武器がある事を。

自分はガシャコンバグヴァイザーⅡ(決めの一手)を起動して、手持ちの接続機に接続、チェンソーとして削りとる武器を盾へあてがう。

 

「何だそれは!?」

 

アーチャーは当然のように驚く。当たり前だ、そうするように仕向けて布石を打っていた。ヴァイザーに備えられたAとBのボタンの内、Aを叩く。

刃が廻り、火花が鮮烈に咲き誇る。

抉る。剣みたいな叩き切るのではなく、刀のように撫で切るもなく、単純な暴力を押し付け抉る。

 

「チェンソーのお味はどうでしょうかッ!」

「これ程にも、強烈なのはッ、味わったことは、ないなッ!」

 

なら、もっと食らわせてやる。

Bで《神業!》とコールを鳴らし、エネルギーを放つAを再び叩く。

 

《クリティカル サクリファイス》

 

最大限にエネルギーを取り込み、放った浅葱色の一閃は盾を両断する。これで、アーチャーを安全圏から引きずり下ろした。

破壊した反動で倒れ込んだアーチャーの胸元に、反転して接続機に再び合体させたヴァイザーを突きつける。

そこまでで流石に膝の力が抜けたのか、そのまま共倒れの形でアーチャーを地面に押し付ける。

 

「まいったよ。完敗だ」というアーチャーの呟きが、鼓膜を揺らす。

闇夜に照らされた、その顔は晴れやかな笑みを浮かべていた。

 





サーヴァント・マテリアル3
《ガシャコンバグヴァイザーⅡ》
本来はレーザーの持ち物ではない。しかし、ある人物の遺物として所持している。
ヴァイザーには4つのモードがある。
グリップ状の接続機に接続しない状態でのパッドモード。バグスターウィルスを吸引、散布することができる。
グリップをBボタンの方向を正面に差し込んだチェンソーモード。反対にAボタンに差し込むビームガンモード。この二つのモードでは武器として使うことが出来、近接と遠距離を自由に切り替えて戦える。
チェンソーモードでBボタン、ビームモードでAボタンを押すことでエネルギーを纏う強攻撃を繰り出せる。
必殺技も小説本文の通りの手順を踏み繰り出せる。
もう一つのモードは、専用のバックルをはめることで移行する。
備えられた強化用スロットにガシャットを差し込み、Aボタンに押すことでエネルギーを充填し、上部に備えられた赤い押し込みボタンを押すことでレベルXに変身することも出来る。しかし、この方法で変身すると完璧なバグスターウィルス耐性を持たない者は変身解除したと同時に消滅する。



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偽りのヴィラン

 

遠坂凛は口をポカンとOの字に広げていた。

遠坂凛は魔術師である。それ故によくよくオーバーな驚きを隠せないでいた。現在、遠坂凛の居る場所は衛宮士郎邸である。

 

「まあ、驚くべきではあるか。世界を移動することで移動距離の概念を打ち消す芸当など、昨今の魔術師ではなし得ないことだからな」

 

そう言う赤い伊達男ことアーチャーは、起きていた現象について冷静に言語化していた。サーヴァント達の戦いの後、駆けつけてきた二人のマスターはそれぞれの従者に対して叱責をかましていた。

片や勝手に戦いに行ったことに、片やあれだけ魔力を消費して負けたことに。

そして、落ち着いて話す場所が欲しいとして提供されたのが、ステージセレクトによる空間移動を応用した、衛宮士郎邸だった。

仮面ライダーレーザーのマスターも衛宮士郎邸に良く訪れていることから、勝手の良い場所といえばということらしい。家主が居ることから満場一致でそちらに向かってから、話し合うということになった。

 

「で、どこから話していくか? 何故アーチャーと戦ったのかって所からか」

 

仮面ライダーレーザーは変身を解いた人間の状態で話し始める。

彼には九条貴利矢という名前はあるが、アーチャー達には伝える気は無いため、武装を解いた人間の姿だということだけアーチャー達には情報を渡した。その時に、人間だったことに散々驚かれたことはレーザーにとってある意味で新鮮な感じだった。

 

閑話休題

 

「大方予想はついている。原因はランサーだろう?」

 

居間の昔ながらの大きな平机を挟んで、アーチャー組とレーザー組は会議をしている。右の位置で正座で座り語るアーチャー。

 

「ああ。恐らくは暗示の類だ、ランサーが退却する時に仕掛けられたんだろう。次に見た戦士と全力で戦うという契約を無理矢理結ばされて、見てしまったのがアーチャーだったという訳だ。生半可な戦いでは解けそうにはなかったから、ああやって戦う選択肢の劇薬を飲んだということさ」

 

全く、とあの長身の青タイツを思い浮かべて状況を整理している机の左側に座るレーザー。その隣に居るマスター上条茂夫は衛宮邸に備えられた茶飲みを人数分出して、ヤカンのお湯が沸くのを待っていた。

 

「全くランサーにはお互い一杯喰わせられたな。おかげでこちらも手札を幾らか切る必要があった」

 

アーチャーはマスターのその行動に、多少の疑問を抱きながら次の問題に頭を切り替える。

仮面ライダーレーザーというサーヴァントは一体何のクラスだったのか、それを先程の戦いと照合すると可能性は二つのクラスに絞られる。

 

「まあ、恨み言はこれまでとして。君のクラスはライダーか、キャスターなのか?」

 

以前の問いに解答を求めるアーチャー。

対してレーザーは正座を崩し、あぐらを掻き気怠そうに答える。

 

「不正解だ。あんまり常識に囚われんなよ」

 

あんまりにも気怠く、鬱陶しさも混ざっていたであろう一言に憤慨したのは、パラダイムシフトの衝撃から自我を取り戻したアーチャーのマスターであった。

 

「ちょっと! じゃあ一体何のクラスだという訳!? 仮面『ライダー』だからライダーとか、自身の領地を作るキャスターじゃなければどんなクラスなのよ! 貴方、アサシンやバーサーカーなんて柄じゃなさそうだし? もう、頭がこんがらがるわよ!」

 

既にこんがらがっているという満場一致の突っ込みは、アーチャーと上条とレーザーのアイコンタクトにより口に出すことは無かった。

代わりに余計混乱を招く一言を、レーザーは言ってのけた。

 

「ルーラーだ」

「はい?」

「自分のクラスはルーラーだ」

 

お湯で煎れたお茶を注ぐ上条。

5つ注ぎ終わり、ようやく沈黙を保っていた口を開く。

 

「なんでも、世界を守るために聖杯に呼ばれてきたらしいです」

 

白衣を脱ぎ、自らもレーザーの横へ座る。

無地のグレーの七分袖シャツとジーンズパンツという無個性な服装は、特徴的な服装達からすれば目立っている。

 

「世界を守るため、か。とすれば、聖杯にかける願いはないと」

 

真っ赤な異国の服を着た男は、その服を着るまでに至った経緯を想像していた。赤原礼装と呼ばれたものに籠めた願いは、果てしなく青く途方も無い幻の夢だと改めて思い知らされていた。

 

「そもそもの願いというものが、ただの人探しだからな」

 

南国風のシャツの上に茶色の皮製ジャンパーを羽織る男は、皮ジャンパーに込めた赦罪を思い出す。かつて自分のせいで親友の命を奪ったという、過去の十字架。背負うことが自分自身を生きると実感させる。

 

「人探し? 一体誰を探しているというの?」

 

穂群原学園の制服を真っ赤なコートで彩る少女は、とある男から毎年送られてくる服の意味を考えた。普通ならば好意的に受け取れるはずのことを、男のせいで素直に喜べないと。事柄だけで判断することは出来ないと少女の理性は判っている、だからこそレーザーの魂胆を知りたかった。

 

「天才ゲーマーMを探している」

 

上条は誰だろう?と、素朴な疑問を持つ。

それはアーチャーや遠坂凛も同じで、口に出さないが頭の中の記憶を探すようなそぶりをしていた。

数瞬の間を置いてレーザーは話を続ける。

 

「顔の感じは上条と同じで、髪を短く切り揃えたら天才ゲーマーMになる」

「その人、相当な童顔なのね」

 

例えに出された上条は、僕ってそんなに顔が若かったっけと呟く。

童顔で可愛いらしい校医って言えば上条先生で決まってますからと、遠坂凛は言った。

上条はそんな目で生徒に見られているんだと、今更ながら気付いて心の中で膝をついてうなだれる。

 

「それと、とあるゲームカセットを探している」

 

レーザーはそんなだらしないマスターを横目に、懐からスマートフォンを取り出してとある画像を表示させ、机の中心に置く。

これは? と一同が疑問を抱く。

通電性のガラスに映る画像には、黄金の箱と思しきものに星を象った透明なものが横に合体している謎の物体が映っていた。

箱の表面には、髪を伸ばした凛々しいマスコット調のキャラクターが星が散らばる虹色の背景にプリントアウトされている。

そのキャラクターの上から主張するようにデカデカと、英語が黄金に輝いていた。

 

「ハイパームテキと呼ばれる、ゲームカセットだ」

 

レーザーは英語を読み上げ、スマートフォンを懐にしまう。

 

「それはゲームなのか? 我々の知っているゲームカセットというものからとても逸脱しているのだが」

 

アーチャーは、世間一般に流通しているゲームカセットの形状を思い出す。最新のものは、あれ程にも大きくない上複雑な造形はしていない。

 

「だろうな、これはライダーガシャットと呼ばれるものの亜種だ」

 

レーザーはまた懐から一つ物を取り出す。

それはアーチャーには分かるものであり、遠坂凛には分からないものだった。

透明なブレード状の長方形プレートに、手に持つ部分が黄色と黒で彩色された装置だった。元々手に持つことを想定しているのか、手に馴染むような形状をしている。

 

「 なるほど、ライダーガシャットというのは君の力でもある訳か」

「どういう事よ、アーチャー」

「何、その事はレーザーが答えてくれる」

 

レーザーは立ち上がりとある装置を腰に装着する。

蛍光グリーンが基本色に、ワンポイントにレバー部分が赤で彩るハイカラな装置だった。

 

「これはライダーガシャットを使うための装置、ゲーマドライバーだ。一度使うところを見せてやる」

 

レーザーは右手にあるライダーガシャットを起動する。『バクソウバイク!』とひと昔前のレースゲーム調のイントロが流れそして、黄色のブロック状ワイヤーフレームが居間を張り巡らす。

 

「これがゲームエリア。俺たちが有利に戦うための空間」

 

レーザーの背面には、荒野をバイクで疾走するレーサーの絵が大きく表示される。

 

「俺が展開したのはレースゲーム『爆走バイク』他にも色んなのがあるが、今はいい」

 

レーザーはガシャットをゲーマドライバーの左方向にある、銀色に縁取られたソケットへ透明なプレートを下にして差し込む。『ガッシャット!』と機械音声をなったと同時に、ゲーマドライバーにあるレバーを掴み、右側に倒す。

『ガッチャーン! レベルアップ!』と一際ハイテンションな機械音声がコールしていき、レーザーは周囲に現れた顔写真の内の一つを回し蹴りで選択する。

 

『爆走、独走、激走、暴走、爆走バイク!』

 

と、またもやレースゲーム調にノって歌う機械音声。バイクがジャンプした絵を写したワイヤーフレームがゲーマドライバーから拡大表示され、レーザーの身体を通過する。

すると、黄色いエネルギーが纏わりついてレーザーはその身を変える。アーチャーを一度負かせたあの姿に。仮面ライダーレーザーに。

厳密に言うならば、仮面ライダーレーザーターボ バイクゲーマーレベル0に。

 

「これが俺の本来の姿。仮面ライダーレーザー レベル0」

 

遠坂凛は深呼吸をして茶飲みを手に取ろうとする。

本来の姿になった時、ステータスが読み取れたというあまりにも非現実的な現象を目の当たりにしたのか、茶飲みが注ぎたてという事をすっかり忘れていた。およそ80度の熱さに、手を焼く。

アーチャーはどこからともなく氷嚢を取り出し、遠坂凛に渡す。

 

「ここまで情報を渡したんだ。聖杯とは、何だ」

 

アーチャーは、口軽く答えた。

聖杯とは万能の願望機であり、それを求める7人のマスターが使い魔であるサーヴァントを呼び出して戦う。聖杯戦争というものをレーザーに伝える。

 

「本来なら7つあるクラスにサーヴァントは一つしか入らない、か。聖杯戦争はまだ始まってないのか?」

「ああ、多少の小競り合いはあれどもまだ全てのサーヴァントが出揃っていないからな」

 

アーチャーは横たわっている衛宮士郎を一度見て、レーザーに向き直り己が知りうる記憶を頼りに答える。

 

「アーチャー、バーサーカー、ランサー、及びにクラス不明の2体のサーヴァントが呼び出されている」

 

レーザーは仮面の下でランサーの言動を思い出す。

『此度の聖杯戦争は真っ当な役割を捨てた奴が多い』と。ライダーの宣言をして、ランサーは不可解な事に直面したような表情をしていた。更にライダーを名乗った時のアーチャーの反応も同じということが、クラス不明の一人がライダーだと言っていた。

 

「アーチャー。召喚されていないのは、セイバーとアサシンか」

 

レーザーは迷いなく言及した。

ゲームエリアの森で不可解な事件が無いかを上条と話した時、気になった事があった。夜な夜な襲われ生気を抜き取られ、夜の野外に放置されていた事と街全体の体調不良者が多くなり、聖都の医者が出張る事態に発展した事。

そして、『キャスターは自分の領地を作る』。これに当てはまるなら領地を維持するため何かを抜き取っていることになる。それは剣士であるセイバーと暗殺者であるアサシンは出来ない芸当だと。

 

「なぜそう言い切れる?」

「直感さ。ライダーとキャスターは呼びだされ、セイバーとアサシンはまだ居ないと思ったからさ」

 

アーチャーはレーザーの脅威的な洞察力に舌を巻いた。失言も何もしていないのにも関わらず、僅かな情報のみで真実を暴いたことに。

戦いとは別のところでも、優秀な人間というのがアーチャーのレーザーに対する総評だった。

 

「敵にするには惜しいな。是非同盟を結びたいところだが、レーザー、君はどうかな?」

 

レーザーは変身を解いて、座布団の上に胡座をかく。

机の上にあった冷めかけたお茶を一杯煽り、全てを飲み干す。

 

「いや、まだだな。情報を提供し合うまでならいいが、まだ味方にはなれない。こちらもまだ戦力が揃っていないからな、しばらくは情報収集に忙しくなる」

 

とここで上条に視線を振る。

ほとんどサーヴァント同士の会話だったために、口も挟む暇もなかった上条はようやく意見を出せるタイミングがやってきた。

 

「でも、僕は校医の立場上君達を危険に晒す訳にいかない。もし、危険に晒された時は僕が守りますから。あまり一人で抱えこまないで下さい」

 

アーチャーもレーザーと同じく、マスターの意見を求める。

 

「分かりました。私も魔術師の端くれですから、最低限の身は守れます。通常は情報提供のみ、非常時は手を貸すということでいきましょう」

 

レーザーを除いた全員が茶飲みを飲み干す。

今回の話し合いは終わった。レーザーは再び変身して、ゲームエリアに上条を連れて転移していく。

残ったアーチャー達は、じきに目を覚ますだろう衛宮士郎を布団に寝かして衛宮邸近辺で護衛をすることとなった。

 

ーーーーーーーー

 

とある少年は、夢を見ていた。

暁に染まるなだらかな丘の上で佇む少女。

黄金に光るブロンドに、深緑を眼球の奥底に染み込ませている。

少女を観た第一印象は可憐と清廉さだった。少女というには品があり過ぎ、大人というには少々足りない風貌。彼女はドレスのように、群青を色付けて白をアクセントに金属を纏っている。

鎧。確か戦闘を行う時の戦装束だ。

ならば少女は鎧を何故纏っているのか。疑問は直ぐに解決した。

彼女の佇む丘は、死骸が積み重なって出来ていた。

死骸、即ち人間が戦い争い命を散らしていった。

剣で斬られ、槍で貫かれ、矢に刺されて。

彼女は最後の一人だった。

向かう敵はなく、ただ孤独に勝利の丘にて佇む。

酷くその光景がどこかと同じように見えた。

自分もそうだったのか。

ーーーああ、俺もそんな地獄を見た。

だから、少女に手を伸ばした。

届かないとしても、少女に手を伸ばす理由がある。

俺は少女の味方だから。

景色は遠のく、自分は暗闇に取り残されて。

 

次に見た景色は自宅の白熱灯だった。

辺りを見回すと、そこが自分の部屋の中だと分かった。

ちくりと胸の痛みを感じる。何ともなかった自分の胸板を見て、直前の記憶を思い出す。確かに胸へ、心臓へ真紅の槍に串刺しされた。

でも生きている。

ごく普通の呼吸ができて、身体の感覚も異常はない。

 

自分の寝床から起き上がり、辺りを見回す。

数ある和室の一つ。障子と箪笥と丁寧に折り畳まれた自分の制服だけだ。制服には赤黒い染みが大きく付いていた。胸を中心に、殆どが血に塗れていた。最早二度と着ることが叶わない制服をゴミ袋に入れようと、袖が青く胴の部分が白いロングシャツと青いチノパンを履く。

 

右手には、ミミズ腫れのような痣がある。

制服を居間にある色付きの袋に入れて、カモフラージュに新聞紙を入れようとしていた時ふと気になってしまった。

数日前から痣はあったものの、特に痛みもなく害も無かった為、頭の隅に追いやっていた。注視してみると、なんとなく紋章にも見える。

 

「もしかして、これが死の宣告だったりして」

 

そんな訳ないだろうと、とあるゲームを思い出す。

刻まれたら最後、死の刻限が迫り、やがては致死に至るという厄介な状態異常があったなと幼い頃、藤ねえと状態を解除するため四苦八苦していた思い出を。確か、聖剣を探し出してその破魔の魔力で掻消せたんだっけ。と、懐かしさに浸っているとふと縁側の風鈴がチリンとガラスを擦りつける。

 

涼風は、死の具現者を呼び込む。

衛宮士郎は咄嗟に何もいないところへポスターを空中に広げ、自分の内なる力を解放する。魔術回路。魔術を行使するための神経を繋げる。身体に巡る光をポスターという物体に意識を集中させる。

 

解析開始(トレースオン)

ーーー構成物質、解析。完了。

ーーー構成物質、材質強化。

ポスターを構成する紙を、繊維から変換する。

盾のための鉄の如き堅牢さと強固さを想像し、流し込む。

 

瞬間、強撃が防ぐ盾となったポスターに襲いかかってくる。鉄の如き強度を持った材質が一瞬として粉々に砕け散る。

それは紛れもなく、人間離れな威力を叩きつけられた証左となり、放った者はもれなく人間を超えている。

 

衛宮士郎はカラフルな粉吹雪の向こうで、正体をしっかりと眼に焼き付けた。

深海よりも深い青い髪をオールバックに後方へ一房を結びつけた、怪物たりえる真紅の双眼。濃い密度で殺気を纏う赤々とした一振りの槍。首から下を包む青いボディスーツ。最低限の部位を守る鉄の銀を飾りつけた、高身長の青年を衛宮士郎は知っている。

命を奪おうとした、いや。

衛宮士郎の命を奪っていた宿敵だ。

 

「よう、死に損ない。命を奪いに来たぜ」

 

その言葉と共に、衛宮士郎の身体は庭園に弾かれる。

 




サーヴァント・マテリアル4
《ルーラー》
本来、聖杯戦争では召喚されることのないクラス。
何らかの異常が聖杯戦争で起きた場合に調整する為、中立の立場で召喚される。しかし、レーザーがルーラーとなった理由はとある世界の人理焼却が行われた異常を正すため、とある世界の法則をよく知る人物として特例的に適用されたためである。
特異な経緯を辿ったため聖杯戦争のルールを知らず、中立の立場でいなければならないという法則を逸脱している。『ルーラーという名の何者か』という立場がレーザーである。その為ルーラー特権である、真名看破等の力は弱体化している。


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剣と槍のスクランブル

 

午前1時。上条の腕時計の針はそう指していた。

黄色に彩られたバイクに乗って帰路を疾走する。ただし、その姿を警察に見られたらおしまい。

なぜなら、明らかに改造されたバイクだからだ。

バイクのフレームは黄色と銀で構成されており、法に触れるレベルでのゴテゴテとした装甲が全体に装備されている。

ヘッド部にはモヒカンを見立てた艶やかな棘が付いており、ライト部分には青い目が浮かび上がっている。

もうこれは『バイクですかと言えば、タイヤが二つ付いてエンジンがあるからバイクなのです』と屁理屈を唱えなければいけない。上条はそんなバイクに乗らないといけない理由がある。

 

上条はバイク(・・・)に話しかけた。

別に精神を病んでいる訳ではなく、バイクにはとある意志が宿っているから話しかけた。

 

「......いいんですか? 放っておいて」

 

「衛宮士郎のことか。あの少年には、もう一人の奴に護衛兼情報収集をやってもらってるから大丈夫だ。何かしらあれば上手いことやってやるさ」

 

バイクは答える。

中に人間が入っているように、知性的な会話が出来ている。

バイクの名前は仮面ライダーレーザー レベル2 バイクゲーマー。中には変身者である九条貴利矢の意志が宿っている。

仮面ライダーレーザーという名前の中では、本領を発揮できる姿だ。これをレベル0化させることでレーザーターボとなり、バイクの変形機構を取り除きバグスターウィルスを制御する機構を取り入れることも可能である。

 

「それって、僕が召喚したんですか」

 

「大体、聖杯が呼んだんだろう。脅威の為のカウンター。守る者としての戦士を探しだしてな」

 

上条はバイクのアクセルを開ける。

グンッと加速の伸びを感じながら、夜風を切っていく。迷いはなく、しかしながら苦悩は吹き飛ばせなくて。

 

「......僕は彼女達みたいな子供が人の生き死を争うのは駄目だと思っています」

 

遠坂凛。衛宮士郎。二名のまだ未成熟な子供の姿を思い返す。

まだ思春期の時期だ。学校で知識を学び、クラスメイトと話して親睦を深め、恋や部活など初めての経験をしていくのが真っ当な成長だ。

それを誰かが定めた宿命に操られて、血生臭い戦争に身を投じていくなんて間違っている。

 

「生き死を間近で見ている者からすれば、あんなものを子供にさせるなんて惨すぎる」

 

バイクのハンドルがわずかに軋む。

上条にはどうすることができない無力さを実感する。争いに参加するマスターとして、サーヴァントという武器を子供が持つことを彼の心が許せなかった。そんな胸中を鎮めるようにバイクは語る。

 

「だったら、止めようぜ。こんな下らない戦争をよ」

「だからわざと(・・・)アーチャーと戦ったんですか?」

「パズルピースは埋まる為にあるってことだ」

 

上条は右矢印の指示器を出す。

その手袋の中には確かにバイクとの絆を示す紋章が刻まれていて。

 

ーーーーーーー

 

声にならない唸りが衛宮士郎の口から溢れる。

破壊されたガラス片が細かく散りばめられ、露のように中庭を淡く輝かせる。幸い、身体には一つも刺さっていない。

にもかかわらず、衛宮士郎は動けないでいた。

 

「ったく、妙な事をしやがって。楽に死ねるチャンスだったのによ」

 

死神が悠然と構えていた。

鎌の刃を首に当てる動作と見紛う槍の構えは、次の攻撃が来ると予感させるに至る。槍より速くなく、早い衛宮士郎の思考回路は避ける事に全霊を注ぐことだった。

それでも知覚できたのは、ブレた赤の縦の閃光だった。

 

全力で横っ飛びに回避するものの、衛宮士郎の身体は土倉の扉を大きくノックする。中段蹴りを放った姿勢で静止して、こちらを見据える死神。

 

衛宮士郎は、大音量で流される体内のアラートを無視して地を這いずり土倉の暗闇に潜む。口からは内臓から込み上げる血液を吐き、強打された背中の悶える程の痛みを歯を食いしばり抑える。

 

奥底から湧く感覚はマグマだった。

粘性の高い、近寄れば熱気で溶けかける超高熱の流体。気を抜けばそのマグマが魂を焦がして、自我が焼却される錯覚を感じる。

その根源とは何か、衛宮士郎は思考を加速させた。

単純明快な感情だった。死神が命を奪おうと武器を振り下ろそうとしている事。死神が命をいとも容易く奪おうとした事。死神が命を軽んじている事。

死神の行動理由は分からない。

けれど、これから行おうとしている凶行を見過ごせば、これからも衛宮士郎自身のような被害者を生むことは容易に想像できる。だったら、誰が止めるというのだ。この場は衛宮士郎ただ一人しか居ない。

 

相手は人知を超えた、規格外の相手だ。こちらは痛手を負った考えうる最悪のシチュエーション。でも、不思議と絶望は無い。

衛宮士郎はただ己の本能に従って叫んだ。

 

「ーーーーああァァアアアアああッ!!!!」

 

魂の在り方を示す、怒号。声なき声。覚悟を決めた男の叫びは絶望の闇に光を灯す。

 

「セィやああッ!」

 

強烈な旋風が巻き起こる。逆巻く空気の波は、闇を遠ざけていく。死神は土倉の外に排斥され、中心の衛宮士郎はへたりこむ。

暴風が晴れた月光に照らされるは、金色の髪。複雑に編み込まれたそれは後頭部に花を咲かせ、彼女を輝かせる。

鈍色の鎧、青いドレス、純白のレース、純金の刺繍。

彼女は口を開く。届く声は凛として。

 

「問おう、あなたが私のマスターか?」

 

惚けた情けない空気が漏れる。

衛宮士郎は二つ返事で答えた。

 

「マスター?」

 

何故か、初めて見たはずなのに見慣れた容姿のせいで咄嗟に出た言葉だけれど、衛宮士郎には悪い気がしなかった。

 

「私の名前はセイバー。契約によりあなたをマスターとして、従いましょう」一つ目配せして、彼女は土倉の外を覗く。

ひしゃげ内開きになった鉄製の扉。一筋の血液の川。その始点に死神がいた。彼女は空気を纏う、何かを構えて正眼に姿勢を正す。

電気の走る異様な空気感を感じ取り、彼女は死神に話しかける。

 

「紅蓮の槍、ランサーといった所か」

 

死神は彼女の見えない武器を見て嘲笑する。

 

「あんた何の武器を隠してやがる。それは剣か? セイバー」

「もしかたら得物は斧か槍かもしれないと思わないのか、ランサー」

「ほざけ」

 

談笑じみた言葉の掛け合いで、見えない武器と緋の槍の軌道がかち合う閃きがまたたく。金属を竹で叩いたような音が響き、戦場の熱気をわずかに上げる。

衛宮士郎はセイバーと呼ばれた少女の後ろで呆然と立ち竦む。

セイバーが一歩踏み込み、ランサーが突撃する。セイバーは強烈な旋風を再び巻き起こし、ランサーの突撃に合わせて宙に浮いて移動するように身体を動かす。

それらは音を置き去りにする速度、二つの空気膜は突き破られる。

カン、カン、カンと音と空気を大きく弾き出す衝撃波は、武器と武器のぶつかり合いで成り立っている。息をつく暇もないほどの連撃が繰り広げられ、衛宮士郎が息を吸い始めたのは数十の攻撃の応酬の後だった。

セイバーとランサー、二人は元の立ち位置に戻っていた。常人なら息を荒げる運動量でも二人は汗をかくことはなく、さも当然のように準備運動をして身体をあっためた。

 

程よい上気は更に戦場のボルテージを上げる。

ランサーは槍に対して力を込める。ランサーのハンサムな顔に血管の浮き出る鬼の表情が上塗りされる。

 

「マスター、下がってください。来ます」

 

衛宮士郎はセイバーのやや後方に下がり、ランサーの出方を伺う。衛宮士郎の脳裏には、想像を絶する槍の投擲が行われると直感が囁く。

 

「避けてみな、避けれるもんならなぁ!」

 

ランサーは吠える。野犬の如く、獰猛な重低音を唸らせながら。

大きく身体を反らせ、一歩馬のように踏み込み、渾身のエネルギーを槍に乗せて放つ。その一投の名は、

 

刺し穿つ死棘の槍!(ゲイ・ボルク!)

 

直線、真っ赤な一条、死に至るまでのカウントダウン。

刻々と迫る秒針にセイバーは武器を突きつけた。いなす。間一髪武器で矛先を逸らしていく。

 

ーーーダメだ!

意味が解らない、不透明な予兆を感じ取る。吉兆ではない、凶兆。それも命を奪い去る不吉な兆候。セイバーは身体を右に傾ける。

瞬間。

セイバーは貫通された。左胸の心臓から少し右上を真っ赤な魔力が装甲を破り、身体を突き貫いていた。思わず膝を地につける。

 

確かに防いだはずの攻撃。にも関わらず心臓狙いの攻撃が外れても当たっていた。不可解な現象。まるで攻撃が当たっていたということに修正されている。

修正したのは世界、もっと言えば因果。

真っ赤な槍。獣のような敏捷性。宝具名ゲイ・ボルク。セイバーは相手の正体を掴む。

 

「避けたな。我が槍の一撃を」

「なるほど、其方はアイルランドの光の御子か」

 

ランサーは槍を立てる。

カツンと、包み込む殺意や戦意が消失した。これ以上の戦いはしないだから、見逃してくれと言外に伝えてくる。セイバーとしてもこれ以上の消耗を避けたいところだったために、了承する。

 

「槍を避けられたら、撤退せよと言われてるんでな。全く臆病なマスターだ」

「待て、逃すわけにはいかない!」

 

衛宮士郎は叫ぶ。敵わない相手だとしても、戦うことを選ぶこの少年は、正義感に突き動かされた哀れな愚者だ。

そんな愚者の一言に動揺することもなく、ランサーは忠告する。

 

「追うんなら、決死の覚悟で来るんだな少年」

 

そう撤退しようと二人から背を向けるランサー。

一歩を踏み出した。

 

『ステージセレクト』

 

その先は日光が照る荒野の地面だった。

 



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白銀のgamer

少年は驚愕を隠せないでいた。

青年は困惑を隠せないでいた。

少女は混乱を隠せないでいた。

 

ここは真上に陽が昇る、ひび割れて乾いた大地。

生命たる緑はなく、ただただ土色の平行線が広がっているだけだった。

 

「何だ、何だ、何だ! どこの誰が呼び寄せやがった!」

 

青年の叫びは虚しく響く。

スケール感が狂いそうなほどの殺風景にセイバー達は取り残されていた。しかし、微かに吹く風が少女の耳梁を打つ。

 

《ギリギリチャンバラ》

 

そんな雑音を聞いた。少女は其方に首を傾ける。

方向は真後ろ、痛めた身体を無理矢理反転させる。そこには鎧を着た複数のヒトガタが面白い形をした()を持って走ってきている。

頭は橙色と乳白色。二つの触覚が目に突き刺さっている変テコな仮面を被っており、時折キーなどの理性を感じさせない奇声が漏れている。

 

傷ついた身体であれど、取るに足らない相手だろうと少女は武器をとる。少年を背後に寄せて、迎撃体勢を整える。

 

そして、およそ十はいる群衆は少女を無視して青年に攻撃を開始した。

 

「ちっ、雑兵がわらわらとッ! コノートみたく物量作戦てことか!」

 

少女は警戒しながら、鎧の隙間を叩き斬る。

鎧の構造も見たことのないものだったが、脇の下や首など目視で薄いと感じたところを叩き斬る。肉の裂く手ごたえを通じて感触を実感する。青年も同じく襲いかかるヒトガタに対して、剣を弾き槍を頭や心臓を狙い突き刺していく。

トドメを刺されたヒトガタは橙色の粒子となり、跡形もなく空気に溶けていく。散り際はあっさりとしているが、少女には逆にそれが怖くなっていた。

 

まるで、道具のように使用しているかのような。

まるで、誰かが操っているかのような。

 

ゾクリと少女の首筋に悪寒が走る。

 

「セイバー、奥に誰かが居る」

 

少年の言葉に従って、雪崩れ込む鎧軍団の奥を注目する。

そこには場違いな大仮面が覗き込んでいた。

銀色の棘を額に真っ直ぐあしらった仮面は、白色の全身鎧の上に乗っかっていた。手足が短く大きな全身鎧と人間の顔3人分程の仮面。大仮面に付けられた大きな青い瞳の模様は、まるで人間のようだった。

 

《ガッチャーン! レベルアップ!》

 

また雑音が響く。今度は大仮面の前に身を包む程巨大な絵が現れる。

その絵は鎧を纏った、仮面の人形。白と黄に発光した絵を大仮面がくぐり抜ける。

すると全身鎧が弾け飛び、黒色に銀色の差し色の入った小さな鎧人形が何もないところから現れる。大仮面は回転して、基礎となる胴の鎧を作り出し、鎧人形は分解されて小さなパーツとなり手足が引っ付いていく。

 

《爆走、独走、激走、暴走、爆ー走ーバーイク!》

 

まるで一つの鎧が先ほどの仮面の人形を作り上げるように、白銀と黒の全身鎧が完成していく。鎧のヒトガタのような雰囲気を漂わせるそれは、正しく騎士。

 

《アガッチャ! ギリッギリバリッバリチャンバラー!》

 

青き眼差しの全身鎧が誕生する。

少女らには名乗る名もないが、あえて言うならば、かの名は、

ーーー仮面ライダープロトレーザー レベル3(チャンバラバイクゲーマー)

荒野の熱の無い陽炎に揺られて、歩いてくるプロトレーザー。少女は警戒の度合いを強める。腰には明度の高い緑色の機械を装着しており、そこには二つの黒い何かが突き刺さっている。

 

意識を集中させていたというのに、プロトレーザーは姿を消した。

いや、目で追えない程の速度で動いていた。神速ともいうべき敏捷性。サーヴァントである青年に匹敵するそれは、同じくサーヴァントである少女の目に留まらなかったことが脅威を感じさせる。

少女は防御の構えを取り、来るべき攻撃に備える。

だが、打ち合う音は背後に聞こえた。

 

「チィ......あんた一体誰だ!?」

 

混乱極まる青年の声が聞こえる。少女と少年が青年の姿を見たのは、目隠しがわりの土煙が降りた時だった。辺りにワラワラと群れていた鎧のヒトガタは消え、青年とプロトレーザーが互いの武器で鍔迫り合い、火花を散らしている。

 

ゲイボルクとガシャコンスパロー。

互いに見知った武器を目に捉えて、青年、いやランサーはとある人物を思い出した。

『ライダー、仮面ライダーレーザー』

あの皮ジャンパーの顔を兜の仮面に重ねた。

 

「成る程、こんな小細工を仕掛けてくる奴だったとはな。あの時の約束を果たすにはまだ早いじゃねぇか!」

 

ランサーは宣誓を重んじている。

己の生き方を示したそれは、唯一絶対ともいうべきアイデンティティ。破ることはできない。破ってしまえば自身をとことん弱体化させてしまう呪い。だからこそランサーの真名を知ってしまった者は、消さなければいけない。

 

「ーーーーーーーー?」

 

それは悪魔の耳打ち。

お前の全てを知っているぞというべき、加工された機械的な言葉がプロトレーザーから微かに流れる。真名を察したセイバーならば、利用しないとわかっている。だがレーザーはどうだ。嘘も軽々しく言いそうな奴は策謀を好み言い寄るだろう。

ランサーの脳裏にコノートの女王の顔が浮かぶ。

 

「上等じゃねぇか! やってみろ、やれるもんならな!」

 

ランサーは槍を引き、鍔迫りの体勢からいなしの体勢に入る。レーザーの変則的な弓は空を切り、縋るあてもなく宙を舞う。

これを好機とみたランサーは槍の穂先を地面に刺して支え棒とし、レーザーの顔面部分を蹴り飛ばす。

まともに食らったレーザーはピンボールの玉みたく地面を跳ね飛び、5度目のバウンドでようやく勢いが収まる。土煙で全くレーザーの姿が見えない、けれど地べたに這いつくばっているとランサーは想像を膨らます。

 

「へっ、案外大したことはないかもな」

 

槍を構え、残心を取るランサー。

警戒は解けなかった。まだ何かしらの手段を取ってくるだろうとランサーは細心の注意を払う。それでも次の音声に耳を疑った。

 

《カメンライダービルド!》

 

小型の円盤が辺り一面に広がる。

中心に描かれた模様は黄色のライオンや赤色のウサギ、灰色の機関砲や水色のロケットなど多種多様であり、カラフルな色彩が何もない荒地を装飾する。

 

《タンク!》 《ズッキューン!》

 

そんな音声が聞こえてきた。埃の中で群青の風が一点に逆巻いていく。恐らくプロトレーザーが攻撃を仕掛けようとしているのは、ランサーには明白だった。

のにも関わらず、ランサーは顔の横1センチメートルを通り過ぎた青の光線に、一歩も動けないでいた。

 

《ライダー クリティカルフィニッシュ!》

 

そう名乗った光線は放物線を描き、地平線の近くで爆炎が上がる。

数百メートルは離れているランサー達にも、強烈な爆破による空気の振動が伝わり、その一撃がどれほどの破壊力を秘めているのかを物語っている。

 

「......あいつ無茶苦茶だ。色んな法則を吹っ飛ばしてる」

 

少年はそう評価した。側で少女が「サーヴァントというのはそういうものです。アレは少々規格外ではありますが」と少年にとって嬉しくない補足を入れて。

 

「......こりゃ、本腰を入れないといけないか? 冗談キツイぜ」

 

ようやく煙が晴れ、銃玩具のような武器を持っているプロトレーザーを視野に入れるランサー。ランサーは内心笑ってしまった。『飛び道具なら大丈夫だと』。

 

「......実験を始めよう」

 

プロトレーザーは銃玩具から取り出した赤と青の機械を、ランサーとの間に浮かんでいた赤色のウサギが描かれた円盤に触れさせる。たちまち機械ヘ吸い込まれたと思えば、《ラビット!》とテンションの高い男の声が鳴る。

 

と、同時にプロトレーザーの姿が搔き消える。

人間の少年もランサーもサーヴァントの少女も、プロトレーザーの姿を再び見ることは出来なかった。

 

《キメワザ》

 

少女はそれを危険なものだと察知する。この状況で狙うとすればーーー

 

「ランサー! 右に避けろ!」《クリティカルサクリファイス!》

 

ランサーは右に身を捩る。浅葱色の斬撃がすぐ横の地面を直線に抉る。その場所は、先程ランサーの右半身があった場所だった。冷や汗がランサーの額を濡らしていく。

 

「......これで終わりだ」

 

滴り落ちた冷や汗は、ランサーの腹部に添えられた浅葱色の物体に付着する。

 

《ライダー クリティカルストライク》

 

ランサーの鳩尾を強打する物体。

それを少年と少女が武器と分かったのは、ランサーがそのまま荒野の空間から弾かれるように消え、プロトレーザーが構えていた物体を直視出来たからだった。

 

ーーーーーー

 

遠坂凛は衛宮士郎が起きるのを居間で待っていた。

ただ、どれだけ待っても起きる気配が無い。

というか、あまりにも静か過ぎる。

 

「ねぇ、アーチャー。今何時?」

「丁度、12時だが」

 

側で直立していたアーチャーは、壁時計を見て主の疑問にすぐさま答える。遠坂凛は折り畳み携帯電話を開けて、画面をアーチャーに見せる。

 

「アーチャー、これ何時?」

 

アーチャーは主の言わんことを察してしまった。

携帯電話に表示された時間をアーチャーは答える。

 

「1時だ。凛」

「やってくれたわね。あの革ジャン野郎」

 

同盟をさらさら組む気は無いと、あの革ジャン野郎が言ってきたと同義の妨害工作。アーチャーは凛をどう宥めようかと思考することに全力を注ぐことにした。

 



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(空想)を冠する双振りは剣であった

セイバーはランサーが居なくなった事を、極めて危険な状況だと悟っていた。数が勝っていたのなら、数を減らせば良い。単純な戦法だが、行うことは実力がある人間が増えるごとに難しくなっていく。

それを鎧武者(プロトレーザー)はいとも容易く行った。

その事実だけでも、マスターを庇いながら戦うことは不可能に近いとセイバーは感じ取る。

 

「セイバー、俺はどうすればいい?」

 

衛宮士郎の問い掛けはセイバーにとって意外であった。

セイバーはただ一言だけを告げる。

 

「少し離れていて下さい。これからの戦いにマスターを気にかける余裕は無くなりますから」

 

《タドルクエスト》

 

戦いを始めることを告げるように黒色の機械を起動させた鎧武者(プロトレーザー)

西洋鎧を身に纏った兵士が剣を掲げる絵が後ろに表示される。

鎧武者(プロトレーザー)は、蛍光色の機械から二つの黒い機械を取り外し、空いた左側の場所に差し込む。

 

《レッツゲイム、メッチャゲイム、ムッチャゲイム、ホワッツザネイム?》

 

鎧武者(プロトレーザー)の周りに大量の顔の絵が高速で回転する。

その一つを正面に突き出した手の平で触る。

『character select』と派手な文字が浮かび、顔の絵の一つが選ばれる。それはモノクロの兜。頭を隠すフェイスガードと冷静さを持つ目、どことなく西洋の兜の特徴を取り入れた仮面は、鎧武者(プロトレーザー)を通過して淡い青色が全身を包んでいく。

 

《アイムアカメンライダー!》

 

今までの鎧武者の姿は消え去り、兵士のようなモノクロの大仮面を被った白い鎧を纏っている。丁度鎧武者が電光板擬きを潜る前と白い鎧が同じだったと衛宮士郎は思う。

 

「かめん、ライダー?」

 

謎を問う声に左手を胸元に添える大仮面。

礼をしているような仕草。闘いの始まる前に行われる礼儀作法とも取れる。そして、大仮面の中から変声機械を強くかけた聞き取りづらい人間の声が、言葉として羅列していく。

 

「......私の名は仮面ライダー幻夢(ゲンム)。マボロシのユメから出ずる、戦士の名」

 

腰の機械に備えられた、明度が高い赤色のレバーを大仮面は左から右に倒す。レバーに連動した蓋が開かれ、機械の中心部が露出する。

その中にある透明なガラスから、青色の光の板が立体的に大仮面を包む。

 

《レベルアップ!》

 

誰かがそう言った。

セイバー達にはもう紫の異次元の布に包まれ聴こえることはない。

 

辿る世界。巡る世界。

様々な扉が開かれて、景色が目まぐるしく移ろう。

夕日の海岸。木漏れ日の森。星空の下の湖。極熱の砂漠。極寒の雪原。荘厳な古城。

 

やがて時代を中世にまで遡ったと錯視する巨大なステンドグラスが前面に現れる。翼を広げ、見上げる極彩色の龍。月光に導かれて今にも咆哮を上げんとする。

 

《タドル、メグル、タドル、メグル、タドルクエスト!》

 

火が灯る。

月光では見えない闇の部分が、松明に灯っていく。

全てが灯り、部屋の全貌が暴かれる。

絹で織られたレッドカーペット。それは、部屋の中心に境界線のように造られた大理石の階段を10段登り、玉座の所まで伸びている。距離感が狂う程まで、愚直に、真っ直ぐに、一直線に。

 

セイバーはその先を睨みつける。

そこには黄色い眼を光らせた白銀の騎士。

 

「このゲームは、秘宝を巡り冒険をする剣と魔法のロールプレイングゲーム『タドルクエスト』。さあ、私の仕掛けたゲームを攻略出来るかな?」

 

蒼き暴風(まりょく)が白銀の騎士に襲いかかる。

止めどなく吹き荒れるこの場には、二人の息遣いしか存在しない。

ゴクリと衛宮士郎の喉の奥から鳴る。

 

「受けて立とう。このふざけた遊びは私が両断する!」

 

およそ500mはあるだろう両者の距離をセイバーは一瞬にして詰める。

 

風に紛れた武器を白銀の騎士に振り下ろす。

初撃必殺。誰だろうと防ぐ手段は迅速によって消し去り、死ぬ選択肢しか与えない。透明な武器と脅威的な身体能力でそれを実現する。

今この状況、状態で行える最優の手はこれだった。

故に全力を振り絞りきり、現在の最大火力を白銀の騎士にぶつけようとセイバーは考えた。

 

届く3秒前。

白銀の騎士とセイバーは顔を見合わせる。

 

届く2秒前。

白銀の騎士は左の小手に付けられた盾を仮面の前に掲げる。

セイバーは盾に直撃する軌道で武器を上から振り下ろす。

 

届く1秒前。

叩き斬る武器にセイバーは全力の魔力を込める。

白銀の騎士は右手に黒の機械を構える。

 

刹那。

暴風が暴力の形を成した。

空想の産物であるドラゴンの息吹を体現した破壊の密度を、最大限に高めた一撃が白銀の騎士を飲み込む。

火が風に消えて、月明かりと静寂が場を支配していく。

 

 

そして。

 

 

「星の輝きを束ねる剣の一撃とは、こんなものなのか。まだマキシマムマイティXが放つ一撃の方が重い」

 

金色を携える奏でが場違いに響く。

 

《ド、ド、ドシラソファミレド オーライ! ドレミファビート!》

 

「何?」

 

セイバーの言葉に疑問と驚きが混じる。

誰がどう見ても会心の当たり方だったのにも関わらず、全力の一撃が防がれた。

 

次の驚きは、白銀の騎士の変貌。

白銀の帽子を被り、左肩にはモノクロの大型スピーカーが取り付けられ、右腕には同じ色のターンテーブルが装着されている。

同一色に装甲が追加されており、見えていたゲージは装甲で隠れてしまった。

 

「リズムゲーム『ドレミファビート』を起動させてもらった。レベル3の私ならば、君と同等の力を発揮するだろう」

 

セイバーに向けて指を曲げて挑発する白銀の騎士。

セイバーは武器を上段に構えて、距離を詰めるために踏み込んでいく。

見えない武器ならば間合いも分からないだろうと、白銀の騎士を武器の間合いに捉える。およそ2メートル弱の距離で、白銀の騎士の出方をセイバーは測り始める。

 

「姿が変わっただけで、そう易々と私の武器は捉えられるのか?」

「捉えられるとも。君の見えない武器の対策はもう終わった」

 

白銀の騎士は右腕のターンテーブルを擦る。

すると左肩の大型スピーカーから音楽が流れてくる。

ピアノに似た軽やかな音楽は、華やかに空間を飾っていく。

 

「曲名は『キングオブファンタジー』。お誂え向きのBGMだろう?」

「そんなもので、私が惑わされるとでも?」

「さてはて、かかって来れば分かるものさ」

 

セイバーは逆風を起こす。

上段の構えから切り替えた股下からの斬撃に、幻夢は対応が出来ないとセイバーはそう直感で選択した。

正しいか、正しくないのか。

答えはーーー

 

「これで攻撃のつもりなのか? まるで子供が振る筋だ」

 

幻夢は武器が当たるギリギリで剣撃を避ける。

右切り払いからの左薙ぎ払い、そこからの右回転斬り。

三度の技巧を凝らした攻撃を見えているかのように軽やかなステップを踏み避けていく、白銀の騎士。

ウィービングを挟んで、徐々に距離を詰めていく。

しかし、反撃はせずにただひたすらに避けていく。

セイバーはその不可解な行動に、一つの解を得る。

 

「貴様見えているな。音か」

「正解。音というのは、物体に跳ね返る。イルカが障害物を避けながら泳げるのと同じ原理ということ。君の武器はおそらく剣だ。徒手空拳の撹乱する動きが最適という訳さ」

「厭らしい性根だ」

「あいにくと、その言葉は褒めてくれと言っているに等しい」

 

剣と魔法のゲームといいながら、素手で避ける白銀の騎士。

緩やかな曲調に合わせたダンスでも踊るような身のこなしに、セイバーはこれ以上剣撃を振るうことは無意味だと悟る。

ならば、奥の手を。そうでもしなければ状況は動かないと、セイバーは行動を開始した。

 

突き。

誰もが疑わない攻撃を選択する。

当然、白銀の騎士は間合いを見切り当たらない寸前まで身を引く。

セイバーはそれを待っていた。

 

「侮ったな!」

 

ーーー風王鉄槌(エア・ストライク)

武器に纏し風の結界を、攻撃に回すことで成り立つ技。

不可視に費やしていた全ての魔力を放出するため、省エネルギーながらも強力な一撃を放つことが出来る。

デメリットとして、秘められた武器が明らかになることと魔力の関係上使い切りであること。

それを加味して、セイバーは迷うことなく使用した。

 

左切り払いから放たれた風の刃は、白銀の騎士の装甲を刻む。火花が白銀の胴に咲き乱れ、機械で強化された身体を切り裂いていく。

左側の大型スピーカーは真っ二つに両断され、スパークと共に音楽が雑音に変換される。

 

セイバーは確信した。会心の一撃が入ったと。

白銀の騎士はタタラを踏み、力無く立つ。

 

「ほう、そんな力技があった訳か。ここまでダメージを与えるとは、少々認識を改めるとしよう」

 

黒に赤の差し色が施された機械を懐から取り出し、起動する。

 

《マジックザウィザード》

 

腰の差し込まれた黒い機械の一つと交換して差し込み、機械のレバーを開閉する。

 

《ガッチャーン! レベルアップ!》

 

再び光の板が白銀の騎士を通過する。

変わったことといえば、黄色の代わりに赤が混ざっていくことだった。

 

《アガッチャ ド、ド、ドラゴラーララーイズ! フレイム、ウォーター、ハリケーン、ランドォーウ!》

 

白銀の騎士はこれまでよりも変化する。

特徴的だった西洋の鎧兜は紅玉を象った仮面になり、胸にも同様の模様が貼り付けられ、腰から縁が銀に彩られた黒い布が足元まで伸びている。

 

《オールドラゴン!》

 

それは正に魔術士のような姿だった。

 

「『マジックザウィザード』。このゲームは少々特殊でね。知られざる英雄の能力を再現した、伝説のゲーム。その能力は多種多様の魔法を使えることに尽きる」

 

《コネクト プリーズ》

 

先程と違う機械音声が鳴る。

ステンドグラスに描かれたものと、似ている龍の模様が入った小さな紅い真円が魔術士の前に現れた。魔術士はその中に右手を突っ込み、中から何かを取り出した。

銀に輝く刀身に、手元に取り付けられた黒い閉じた手のような物体。

 

「『ウィザーソードガン』......。更に剣を追加だ!」

 

魔術士は閉じた手の親指の部分を反対側に倒す。

開いた手にすぐさま右手を翳した。輝いた虹彩は橙色に染まり、再び同じ音声が鳴る。

 

《コネクト プリーズ》

 

剣を地面に突き刺すと、床に真紅の真円が浮かび上がる。

引き抜くと同時に、魔術士の背後へ台座が設置される。

大理石で造られた質素な台座に鎮座するは、古びた西洋の剣。

 

魔術士は一息に台座から剣を抜く。

セイバーは、どこか見覚えのある場面に手元の武器を握り直す。

風を纏い不可視の結界を張っていた武器は、今この時において正体を明かす。

黄金に輝く刀身。鍔に施された青と金の刺繍。

西洋の剣の造りだと思われるそれは、世界で知らないものは居ない。

湖の妖精より造られし、選定の剣。

数多の伝説に象られた幻の一振り。

ーーーエクスカリバー。それをセイバーは正眼に構える。

 

対して、魔術士が二つの剣を両太ももの位置に構える。

古びた剣は赤と青の螺旋に包まれ、別の姿に変わっていた。

炎を燃え上がらせる意匠の刀身を持った、奇妙な剣。

騎士の姿に変わった時に持っていた剣と似ていると、セイバーは思う。

 

「さぁ、ショータイムを始めよう」

 

月に照らされる虹の龍は、二人にスポットライトを当てる。

空想と伝説、白銀と黄金。

交わりし知られざる劇は、最後の見せ場に差し掛かる。

 

 



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龍に羽撃く希望の唄

魔法。

その名の通り、魔の法則を短く切った言葉。

如何なる法則をも書き換える、邪道とも言うべき法則。

基本的には人々の空想でのみ発現する願望だ。

主に思春期を迎える多感な人間が、あれができたならばと全能感を覚えるための欲望に過ぎない。

世間一般的に、それを中二病と呼ぶ。

中二病に罹った人は、口を閉じて現実を冷静に見る事をお勧めしよう。さもなくば頭のおかしい人とレッテルを貼られることは確実だ。

 

だから、魔術師は秘匿する。魔の法則を再現する術、魔術を。

現実的なアプローチを持って神秘に挑んでいる魔術師は、最終的に魔法を会得するのを目的としている。

 

魔法使いとは、魔法を使える人間ということ。

魔術師の極致にあたる魔法使いは、実在する。

自らの身を滅ぼす絶望でも己を見失うことなく胸に希望を抱き続けた特異な精神を持つ人間。最後の希望として魔法を駆使して絶望の霧を晴らしていくその姿は、紛れもなく英雄である。

 

その魔法を抽出して、再現している機械。

魔法使いになりきれるアイテムであるが、所詮は再現しているだけに過ぎず、本物と比べても劣化が著しい。データでしか無いそれは、ゲームエリアを出れば効力を持たない。

 

英雄になりきった人間。

それが幻の夢という仮面を被った戦士、幻夢。

 

セイバーは魔法の攻撃を剣一つで捌いていた。

鎖や壁、巨大な剣や追尾する伸びた刀身。双つの武器でのバラエティに富む攻撃方法を、自前の魔法に対する高い耐性や未来予知に近い直感、高い剣の技量により退けている。

立ち位置は変わっていないことがセイバーの力量を証明している。

 

「多彩な変化にも対応するというわけか。しかし、もう余力は残っていないだろう?」

「抜かせ。これぐらいの事など、どうということはない」

 

幻夢の疑念通り、セイバーにはもう力が残っていない。

 

第一にサーヴァントの力の源である魔力が底を尽きかけている。魔力補給の為のパイプも細く、今全力を出すことは不可能に近い。

もし全力を出せば、魔力が切れて肉体を維持することはできない。霊体化もままならない状態でそれに陥るのは愚策である。だが、逃げる手立てはない。

閉鎖空間での強大な敵が、確実にセイバーの命を狙っている。

恐らくはマスターである少年を狙い、その障害であるセイバーを排除するために。

 

だとしても、セイバーが負ける理由にはならない。

 

「その眼、まるで宝石のようだ。私のような偽物の宝石ではなく、人の手によって磨きあげられた国宝級の宝石」

 

緩慢な動きで、愛でるような手の動きでセイバーに右手を差し出す幻夢。甘美な言葉は続く。

 

「決意、なんとも良い輝きだ。......ふふ、君に神の恵みを与えよう」

 

魔法は右手を介して発動している。これまでの仕草から読み取れた、攻撃の兆候。

セイバーは幻夢の右手を止める事は出来なかった。

 

《プリーズ プリーズ》

 

機械音声がなり、魔法の発動を表す真円が幻夢の前に現れる。

右手を真っ直ぐに突き出し、真円を通じて緋色の粉塵をセイバーに振りかける。

一瞬攻撃と思い至ったセイバーは防御するものの、粉塵は周囲に漂う。

 

「何をした?」幻夢は仮面の中で笑みを想像させる。

「それは魔力の霧だ。君の全力を私に見せてくれ」

 

《コネクト プリーズ》

 

再び真円から、炎を象った剣を取り出す幻夢。

鍔に備えられたAとBの文字が刻まれたボタンの内、Aボタンを連続して叩く。火に薪を焚べるように勢いが大きくなる炎剣に、腰の機械から引き抜いた黒塗りの機械を差し込む。

 

《キメワザ!》

 

およそ30メートルはある天井を焦がすほどにまで瞬く間に膨れあがった刀身を、高熱で溶かした地面に突き刺す幻夢。

 

《タドル クリティカルフィニッシュ!》

 

高らかに宣言する音声に、セイバーは幻夢の意図を見出す。

『全力を尽くせ、さもなくば殺す』

そう言いたげな宝石が、セイバーに秘奥の一手を出す勇気を与えた。

 

宝具の開帳。

それはサーヴァントにおいて、自身の象徴ともいえる宝具を使用する事。宝具の名を口にすれば、その英雄の伝承を元に効力を発揮する。

ランサーのゲイボルクのように。

 

空気を焦がす熱量を持った炎の波がセイバーに襲いかかる。

身構えたセイバーの手に握られた黄金が魔力の霧を吸い込み、一際輝きを放ち始めた。

理由は単純だった。幻夢のこれまでの行動は、ここに至るまでの下準備をしていたに過ぎないと。

 

「......なるほど、これならば!」

 

幻夢は、全力で阻止をしろと言っている。

宝具を使えるだけの魔力を、粉塵として振り撒いた。

相手の目的は宝具を使わせる事にある。さすれば、セイバーは迷わない。

 

エクスカリバーを抜くことは、王の権力の証である。

王の権力は総てを司り、総てを裁く事。

ならば今一度、幻夢を総評する。セイバーという王は、エクスカリバーを抜いた。

 

「.........!」

 

炎の中、幻夢は仮面の内側でため息を吐いた。

それはセイバーの選択に呆れたのか、はたまた別の理由があったのか。ともかく幻夢は、左手に握られた銀の剣のギミックを解放する。

剣に備えられた黒色のレバーを外側に開き、閉じていた手の装飾を開く。

融和を図るジェスチャー(シェイクハンズ)の形をとった剣を右手に持ち替え、左手を装飾の上に翳す。

 

《フレイム! スラッシュストライク!》

 

銀の刀身に情熱が灯る。

幾度も絶望を焼き尽くした、希望の一振り。再現したそれを、周囲の炎を巻き込み、劣化の中の真に迫る威力を纏い、セイバーに振り下ろす。

 

聖なる光は炎を滅する。

希望の炎は光を埋め尽くす。

 

データの擬似空間が、破壊の嵐に今にも崩壊しそうになる。

剣姫は全力で叫んだ。己を正義として、貫く為に。

 

「エェェクスッカリバァァァ!」

 

極光。

擬似空間は光に支配される。

均衡は一瞬にして、保たれることなくセイバーの勝利を暗に示した。

 

ーーーーーーー

 

「と、いうことがあった」

「いやいや、端折って伝えられても分かんないから神」

 

僕は、自分の部屋にいる黒スーツジャケットの男に疑惑を含む目線を向けていた。どういう経緯でこの男が居たのか、九条貴利矢さんが何故この男を神と呼んでいるのかと。

 

6畳半の整頓された一室に男が3人(・・)

パソコン前に陣取っているこの男をどうにかしようと、僕は考えた。そして閃いた。こういう時は、コミュニケーションを取ればいいと。

 

「初めまして。上条茂夫といいます、あなたは......神でいいのですか?」

「檀黎斗神だ。気軽に神と呼んでくれ」

 

パソコン用の安楽椅子に座って、モデルのように長く細い脚を組む檀黎斗神と自称する男。穏やかな笑顔がテレビの俳優と負けず劣らずな爽やかさを醸している。

 

「神。再三言いたいことがあるが、とりあえず不法侵入って知ってるか?」

「知っているとも、そのぐらいは」

 

九条貴利矢の方を向くと、深いため息を吐き、こめかみを揉んでいた。どうやら彼らにとって日常茶飯事のようだった。

 

「あー、神だから人の法律なんて関係ないなんてほざくなよ」

「それもそうだが、どうやらコンティニューのリスポーン地点がここに固定されていてね、不法侵入は致し方ないということだ」

 

コンティニュー?

聞き慣れない単語で、頭が理解できていない。檀黎斗神に首を傾げる。

 

「......そうか、コンティニュー機能について説明しなければならないか。「まぁ掻い摘んで説明すると、死んでも残機(ライフ)がある限りこいつは何度でも生き返るということさ」......九条貴利矢ぁ」

「なんだ?」

「......まァいい。本来は生き返る時は場所とタイミングを選べたが、今回は、特別な状態ということだろう」

 

檀黎斗神は僕のパソコンに安楽椅子を回転させる。けして安くはない値段の座り心地を確かめて、スムーズにベアリングが作動する。

 

「上条茂夫君と言ったね。パソコンを借りてもいいかい?」

 

何かを調べるのかと、二つ返事で提案を許諾すると、檀黎斗神はパソコンの電源ボタンではなく24型の液晶ディスプレイに手を触れる。

横で制止しようと、九条貴利矢さんが檀黎斗神に手を伸ばしている。

 

「まぁ、悪いようにはしないさ。これからの戦いに向けて必要なものを作る拠点が必要だろう、その為の大事な一手だ」

 

ディスプレイが通電する。画面には青一色に染められていて、白い文字が高速で羅列されていく。多分プログラムだろうそれは青を白に埋め尽くしていき、強烈な発光を誘発していく。直視することが難しい光から目を逸らし、光が止むのを待った。

 

そして、数秒が経ち視界が元の輪郭を取り戻す。

安楽椅子に座った檀黎斗神は消えて、ディスプレイには檀黎斗神と見知らぬ部屋が映っている。

 

「私の部屋が久々に戻ってきた! 良い、非常に良い! 牢屋に比べると数倍も作業効率が高まる!」

「......これってひょっとしてやっちゃいました? 貴利矢さん」

「大丈夫、いつものことだ」

 

ものすごく項垂れている九条貴利矢さんの姿を見て、檀黎斗神の認識をとんでもないトラブルメーカーと改めることにした。この破天荒ぶりは大河さんと遜色ない上、行動力がある分厄介な存在だよね。

 

「それで、『グローリーオブグレイル』のガシャットは役に立ったか?」

「ああ、こいつはどうやらこの世界のルールが込められていたようだった。使用した時点で『ルーラーとしての役割と力』を手に入れた。どうやら知識までは得られなかったが、その問題は解決済だ」

 

九条貴利矢さんの口から、これまで起きた出来事が話されていく。

聖杯戦争、7騎のサーヴァント、令呪、魔術。

今まで聞いたことのなかった単語達。今では何とか理解しているものの、今一実感が湧かない。

そしてもう一つ実感の湧かないもの、ライダーガシャットとゲーマドライバー。この二つはサーヴァントと戦う為の道具、身体を変化させるなんてどういう原理だろうか、謎は尽きない。

 

「今回はテストとして、プロトガシャット及びレジェンドライダーガシャットを使ったが、気になる点が二つある」

「エナジーアイテムか」

「本来ならゲームエリアと共に現れる筈のエナジーアイテムが、こちらの世界へ来た途端に発揮されなくなった。原因は不明だが、今後も使える可能性は著しく低い」

 

二人が専門用語ばかりを話していて全く会話の内容が理解出来ない。けれどこれは重要な情報だろう、二人の真剣な語り口に僕は押し黙った。

 

「その状況を良しとしない私は『グローリーオブグレイル』により与えられたサーヴァントの役割、『フォーリナー』の創り出す力を最大限に発揮させた」

「それがバグヴァイザーツヴァイを使ってのデータ集めって訳か」

 

ガシャコンバグヴァイザーツヴァイを画面の中から投げる檀黎斗神。

実体化したそれを受け取る貴利矢さん。バグヴァイザーに装着されたガシャットを外して、貴利矢さんはガシャットのラベルを眺めている。

 

「私はその中に入っている、アーチャー、セイバー、ランサーのデータを解析した。手持ちのガシャットとデータの相性が良かったのは、そのガシャットだった」

「『仮面ライダービルド』。どういうゲームなんだ?」

「様々な成分を封じ込めたアイテムを駆使して、世界を救う目的を達成するゲーム。『仮面ライダークロニクル』を元にして、とある仮面ライダーの戦闘データを組み込んだリメイク版だ」

 

貴利矢さんはそれを懐にしまいこむ。

 

「そのゲームには専用のエナジーアイテムの掛け合わせという機能が付いている。ガシャットに専用エナジーアイテムを触れさせると、エナジーアイテムに内包された成分が吸収され、相性が良いとベストマッチとして普段の数倍の力を発揮するという訳だ」

「ということは、ベストマッチ状態で戦えば有利に状況を展開出来る訳だな」

「無論専用エナジーアイテムの展開は問題無く行えた。後は、その専用エナジーアイテムから生まれるベストマッチだ」

 

九条貴利矢さんは何かを察して、目を泳がせながら檀黎斗神に問う。

 

「......デメリットは?」

「一回ベストマッチを使ってしまうと効力が消えてしまう上、その大半の組み合わせが不明だ。私が知っているのは2種類」

「......どんな組み合わせだ?」

「兎と戦車のラビットタンク、ゴリラとダイヤモンドのゴリラモンド」

 

想像の斜め上を行く組み合わせ。それってベストマッチなの?

 

「............聞くけど、組み合わせは全何種類だ?」

「60本の全30種類だ」

「阿呆だろ、それ」

「元データにそれぐらいあったから、仕方がない」

 

その元になった仮面ライダーさんも、それぐらいの種類を使い分けられるのかなぁ。だとしても、扱い辛いような。

 

「まぁ、私も対策をきちんと立ててある。このデータ収集用のガシャットを使ってくれ。そこに成分を保存して何度でも取り出せるようにした」

 

再び画面の中から、白色の何も描かれていないガシャットが貴利矢さんに投げられる。

 

「試しにラビットタンクのデータを入れてある。では私は収集した他のデータを相性のいいガシャットへ埋め込む作業に移る。九条貴利矢、君は他の事を進めるといい」

「へいへい。じゃあ上条、ゆっくり寝て身体を休めろよ。明日は忙しくなるからな」

 

貴利矢さんは、身体をブレさせて量子状に変化させていく。どうやらバグスターの瞬間移動を使うようだった。

 

「貴利矢さんはどちらに?」

「あの赤髪坊主のお守りだ。万が一、があったら今後に困るからな。じゃあ神、ここの防衛よろしく」

「むず痒いな、君が私に頼みごとをするなんて。ふふ、殺し合いの仲もここまでくると信用できるということか」

「誰が、信用出来るかってんだ! あんたしか頼れるもんがないから頼んでるんだよ! じゃあな!」

 

九条貴利矢さんは部屋からエミヤ君のところまで移動しに行った。それを気にせず、ぱちぱちと画面の中で何処からか持ってきた機材を操作している檀黎斗神。

この二人の間に何があったかはわからないけど、確かに絆を感じる。

 

「仲が良いですね」

「何か言ったか?」

「いいえ」

 

僕は寝室に向かう。

午前2時。混乱と戦いで疲れきった身体を休める、いい機会だ。

 



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WARる HazarD

 

過去と今を見る。

その度に、あの忌々しい顔が映る。

不屈と優しさに彩られた希望の顔。

 

それに比べて自分の顔はどうなっているだろう?

鏡なんてないが、それでも鏡みたいなものはある。

それに映った顔はとてもじゃないが見れない。直視できない。

 

眩いのだ、自分であり続けた光だから。

闇に染まりきった自分の身体が、拒否反応を起こしている。

 

駄目だ。

仮面を被らなければ。光をかき消さねば。

そうでないと自分を見失う。

 

『ラビット』『タンク』

 

違う。

 

『ゴリラ』『ダイアモンド』

 

違う。

 

『タカ』『ガトリング』

 

違う。私は、その仮面ではない。

私の仮面の名はーーーーーー

 

 

【ジーニアス】

 

 

ーー

ーーーー

ーーーーーーー

 

 

「マスター、起きてください」

 

誰かが呼んでいる。

これは、女性の声だ。桜でも、藤村ねえでもない。

・・・誰だっけ?

意識が無くなる前に見たセイバーと名乗る金髪の女性しか、記憶がない。

確かあの銀色の騎士がマジシャンっぽい赤色の服装に変わった時から、記憶が終わっている。

 

・・・これ以上記憶を掘り返しても意味がない。

こうして記憶を探り当たっている時でも、女性の起床を促す声は絶え間なく続いている。

 

起きよう。

そうして目を開けて、飛び込んだ景色は我が家の天井だった。ついでに言うならば、金髪の女性が見下ろしているというのも付け足して。

って見下ろしている?

見下ろしているということは、今俺は寝ているということを加味して・・・加味して、後頭部に柔らかな感触を確かめて、で、現状が理解出来た。

 

出来ちゃった。

これって、膝枕という奴なのでは。青少年の夢である、女性の膝枕ではないのか。

 

やばい、やばい。

何がどうとやばいのが、やばい。俺の青少年が突き抜けてやばい。

 

・・・落ち着こう。

はい、深呼吸。スーッ、ハーッ。

今だ!

 

「おはようございます、セイバー様」

 

タイミングよく起きた俺は、目覚めの挨拶と共に何もなかった事を装って、リビングのテーブルに目を向ける。

そこには、黒髪のロングツインテールが赤色の服を着て、強烈な視線を向けていた。

構成物質、解明。軽蔑と諦観、怒りが視線に含まれていた。

 

「何やってるのよ、衛宮士郎」

「遠坂こそ何で此処に居るんだよ。ここ俺の家だよな」

 

細めの綺麗な眉に、人形のような大きめの瞳。すらりとした鼻柱に連なる瑞々しい唇。常人よりも小さな顔に完璧な調整を加えられて当てはめたそれは、男を惑わす魔性の美人系。

 

遠坂 凛。通称赤い悪魔が居間に居座っていた。話を聞く限り、どうやら俺の家に閉じ込められていたかららしい。

らしい、というのはじいさんのこの家に見知らぬ束縛系の結界が仕掛けられていた可能性があったからだった。まぁ、ゲームエリアとかいうのに縛られていたというのだけが、話を聞いて分かった事だった。

 

で、聖杯戦争というのはどういうものなんだ?

なんて疑問を遠坂にぶつけると、呆れた様子だった。

 

「あんた魔術師なのに、聖杯戦争を知らないのね。これは7騎のサーヴァント、つまるは強力な使い魔を使い争い、願いを賭ける戦い。あんたはそれに巻き込まれたのよ」

 

遠坂の言葉に拒否権なんてない。

この言い方だと、否が応でもやらなければならないことがあるってことだ。

 

それは戦うってことか?

人と人の戦いを?

喧嘩をするのとはスケールが違う戦いをしなければならないってことか?

 

絶え間なく疑問が湧き出てくる。

それを飲み込んで噛み砕いた差し障りない言葉を遠坂に伝える。

 

「サーヴァントってのは何だよ? もしかして、セイバーの事か?」

「ええ、それはクラス名よ。サーヴァントには真名というのがあるけれど、基本的にはクラス名で名乗った方がいいわよ」

 

溜め息混じりに答える遠坂。

とても面倒くさい感じに忠告を受けている気がした。多分、忠告なのだろう、遠坂としては。

 

「にしても、何でセイバーを召喚出来たのかしら」

 

俺もその言葉には同意する。

そんなものなんて、辺りにあったのか? 爺さんのことだから、事前に何らかの術が発動して呼び寄せたというのは分かる。

分かるけどさ、妙に理解が追いついていかない。

 

「無いもの強請りはそれぐらいにしたらどうだ? 凛?」

 

居間に一つの声が聴こえてくる。

男の波形をした音は、遠坂の側から聞こえてくる。

 

「アーチャー。分かってるわよ」

「なら、話を前に進めるとしよう。おっと、姿を隠したままでは話辛いか」

 

辺りを漂う魔力の波が、一点に集中していく。

金色の粒子が一つの人形へと象られる。

真紅の外套、黒を基調とした軽鎧と機能性抜群の長ズボン。褐色の肌に、緋色の瞳。オールバックにした白髪。

一目見ただけで、主婦の皆様方に人気のありそうなその貌はどこか見覚えのあったものだった。

 

どこだった?

 

...........妙に既視感がある。まるで数時間前に見たような。

 

「衛宮君どうしたの?」

「お前、まさか......あの時の槍男とやり合ってた奴か!?」

 

苦味を含んだ笑いが居間に広がる。当然、褐色の男が発生源だ。

 

「覚えていたか。ならば、名乗らせていただこう。私の名はアーチャー。遠坂 凛をマスターとして仕えるサーヴァントが一騎。聖杯戦争にて争う者だ」

 

褐色の男、アーチャーはそうきっぱりと宣言した。

敵であり、味方であり、駒であり、使われる者だと。

 

「......どうするんだ。これから」

 

超人的な戦いは見てきた。

セイバーとランサー、そして仮面ライダー幻夢。

特に仮面ライダーの戦い方は奇想天外で、他のサーヴァントとは比べものにならない程警戒を持たなければいけない。今の状態で戦うのは無理だ。先ず自分のことすら掴めていないのにも関わらず、他を掴むなんて夢物語だ。

 

「まずは聖杯戦争の監督役に会いに行きましょうか。最低限の知識を備えるのが先決だから」

 

遠坂凛の提案には二つ返事で賛同する。

セイバーも渋々と首を縦に振り、教会へと同行することが確定した。

 

 

軽く身支度を済まして、セイバーにある質問をする。

遠坂が外に出ている間に聞いておきたいことだった。

 

「セイバー......アーチャーみたいに姿を消すことって出来るか?」

 

セイバーの外見は夜でも目立ち過ぎる。

こんな金髪の美女が夜道を歩いていたら、良からぬ輩が集ってくるに違いない。サーヴァントって奴に狙われてしまう危険性だってある。

 

「サーヴァントは皆、霊体化という能力を持っていますが......その、申し訳ありません。マスターとの繋がりが不十分なのか、霊体化が出来ません」

 

眉を顰めて、不快感を露わにしたセイバー。

遠坂によると視界を共有して見ることも可能とのことだが、そもそもの感覚が掴めない時点で問題外だ。

俺は今のところ役に立っていない。その事実が肩に重くのし掛かる。

無力で、何もできないことがこんなにも腹立しいと感じるのは、久しぶりだった。

 

「いいよ。セイバーが悪いわけじゃない、俺が未熟なだけだから」

 

そう俺の中で言い聞かせる。単純な気休めだ。

 

「.........分かりました。では行きましょう。あまり待たせても良くありません」

 

蛍光性の雨合羽を羽織り、目深く合羽のフードを被るセイバー。

些か違和感はあるものの、顔と胸の鎧を隠せばサーヴァントぽさは消えていた。

小学校の時に使っていたダボダボの雨合羽が此処で役立つとは、捨ててなくて良かった。

 

「ああ、行こう。セイバー」

 

黒のジャケットを羽織って玄関の方へ向かう。

冬の寒さ漂う、戦場へ。

 

 

君は僕だけ。

僕は俺で、俺はお前だ。

眼を覚まして、自覚したのは自分である実感だ。

 

「おはよう、と言うべきかな。天才ゲーマーM」

 

手の平にある物体を確認して、自分が何者かを思い出した。

それはソフトであり、いつまでも愛用したハードへ差し込む大切なピースだ。

 

「目覚めは悪くないか。早速だが、頼みたいことがある。何、簡単なことさ」

 

導く神の代理人の声は、とてもうざったい。

俺はやりたいことをやるだけだ。

 

「戦いを......だろう? 心配ない、前庭を荒らす者共を蹴散らせばいいだけだ」

 

外が煩いのはそういうことだったか。

夜を騒がす無法者を討つ。

目的は決まった。だったら、やることは一つ。

完璧に伸して(パーフェクトノックアウト)やる。

 

【What’s the next stage?】

 

 





戦いは知らずに始まっていく。
一つは復讐のため。
一つは守るため。

互いは正義を成すため、戦う。
そして、勝利の方程式が成り立った時、混沌の扉は開かれる。
創造せよ、正義を。

次回『MAX hazaRD On』

See you Next EXtra Stage?



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MAX hazaRD On

午前2時。

眠気もとうに過ぎて、テンションが変に上がっていく時間帯。

疎らに点灯する街灯をいくつも通り過ぎる人影が3つあった。

 

一人は緋色の青年。

一人は黒髪の少女。

一人は青色ドレスの少女。

 

3人の行き先は町外れの教会。

だけれど、足並みは微妙に揃っていなかった。

物理的にではなく、精神的に。

 

「......って訳で、仮面ライダーというのには警戒をして事を当たるといいかもね。一度会っているのだし」

 

謎の仮面ライダーなる人物の情報を共有している一同。

遠坂凛の使い魔たるアーチャーは遠方の斥候を請け負って、この場には居ない。だが、アーチャーから聞いた仮面ライダーの情報を纏めて、衛宮士郎に話していた。

遠坂凛の言葉に続いて、セイバーの補足が入る。

 

「仮面ライダー。奴は得体が知れません。姿が物理的に何度も変わる姿はまるで魔法使いみたいなものだった。何とか追い払ったものの、今度はどんな手で攻めてくるか分かりません」

 

「姿が変わった? 頭に自転車でも被ったのかしら?」

 

アーチャーの報告通りのイメージを想像して、多少にでも『仮面ライダー』というものに興味が湧いていた遠坂凛は、もっとセイバーの話を聞きいる姿勢に入っていた。

 

「いえ、あれは......鎧人形でしょうか。多少趣が違いますが、東洋の鎧に似ていました。実際に見た方がいいのでしょうか? どうしても言葉では伝わりにくいものでして」

 

少し離れて会話を聞いていた衛宮士郎は、何かを思い出したかのように女性同士の会話へ混ざる。

 

「そういや、その『仮面ライダー』って奴? ゲンムとか名乗ってたけど、これって関係あるのか?」

 

「......妙ね。私が会ったのはレーザーよ」

 

微妙なニュアンスの違い。ゲンムとレーザー。

遠坂凛は、レーザーの方をマスターと共に既に知っているものの、ゲンムという初めて聞いた名詞に、衛宮士郎へ聞き返すほかなかった。

 

「......なんかゲームみたいだ。そいつの姿や能力から情報を集めて、正体を当てるなんて。そのゲンムやレーザーって名前、意味があるのか?」

 

当の本人は、所見と考察を述べていく。

既に頭の中が情報でごちゃごちゃとしていた遠坂凛は、即答に近い速度で反応する。

 

「こっちが知りたいわよ」

 

遠坂凛は思考を諦めていた。

魔術から離れた科学に近い技術。それでいて科学には程遠い魔術のような技術。

相手はそれを使っているだけの人間だと、そう思うように教会へと歩を進める速度を上げる。

 

衛宮士郎も、セイバーも追いかけるように歩を早める。

 

ーーー本来ならば、この辺りで行われた正義の在り方を問うこともなく。三人は教会へと向かった。

 

 

 

 

轟々と吹く風に緋色の外套は靡いていく。

聖都のビル群から生まれるそれは、悲惨な過去を塗り潰して新たな希望を息づかせる。

鬱陶しいそれを溜め息として吐き出し、ビルの縁から数十km先の教会を見つめる。

 

「教会に入ったか。何もなければ良いが......」

 

不安になるのには訳がある。

教会の扉の前で、呑気に欠伸をしている青年。

マスターである遠坂凛を含めた三人が教会入って行くのを案内していた様子は確認できた。

 

しかし、あれは何者なのだろうか?

服装は聖教者の着ている礼服と寸分違わぬものであり、顔も何処か狐顔に似たものだ。顔の雰囲気からして無邪気な子供のそれであり、尚更警戒を強めていく。あの場で教会に居るということは聖杯戦争の監督役のサポートと考えるのが自然だ。

 

「......あの監督役は何を考えている?」

 

呟いても仕方ない。

再びビルの屋上から監視を続けようと、視線を教会へ向けようとした。

瞬間、身体が臨戦態勢を勝手に整えていく。

理由は明確だった。背後に一人の人間が立っていたからだ。

 

「始めまして、君がアーチャーかい?」

 

名前、というよりもコードネームを知っているその人間に対して、警戒度を強めていく。

白いスーツジャケットに、紫から下に白のグラデーションをかけていくデザインの丸首シャツ。そして、黒一色の飾り気のない長ズボン。何処を観察しても怪しい所は無かった。

 

「......誰だ? 名を名乗れ。コードネームくらいはあるだろう?」

 

長めの黒髪を七三分けした、長目に太い眉、薄い唇に長い鼻。何処か女性のような顔つきをしているものの、中心には男性らしさである精悍さが滲み出ている。

総合的に顔付きが異性向けての殺傷に長けていると、分析する。

男は嫌味のない笑顔で返事をした。

 

「私は現人神、ダンクロトシンだ」

 

一瞬、耳を疑った。

しかしながら、コードネームとして名乗ったとして納得をせざるを得ない。でなければ、『現人神』なんてものを自称する事はない。

 

「ダンクロトシン。あなたは何故此処に居る? 返答次第では消さなければならないのだが」

 

ダンクロトシンは笑顔を絶やさず、ズボンの前ポケットから何かを取り出す。それは二つの突起が付いた円形の物体だった。

 

「君を治すと言ったら、どうだい?」

 

ダンクロトシンは腹部に謎の物体を当てる。すると、伸縮音と共に銀色の帯が腰を一周して物体を固定する。

 

「何をする気だ?」

 

思わず息を呑む。

ダンクロトシンの笑顔から爽やかさが消えたのもそうだが、この粘り気のある感じは人を貶める時の快感を覚えた表情によく似ていた。

 

「こうするのさぁ......」

 

男はジャケットの左ポケットから、AとBのボタンの付いた機械を取り出す。

レーザーが持っていた武器と変わらない形状の機械。違う所といえばカラーリングが爽やかな銀と浅葱色だったのに対して、毒々しい紫と黒へ変更されていること。

それをダンクロトシンは謎の物体へ機械を嵌め込む。

 

【GACHoooN】

 

機械から、奇妙な電子音が鳴り響く。

不安を掻き立てる、疎らな鼓動が首の後ろに嫌な汗を流す。

 

ダンクロトシンは更に右ポケットから、見たことのある物を肩上まで掲げる。

 

「ライダーガシャットだと?!」

 

持ち手の部分が紫一色のライダーガシャット。

ダンクロトシンは横についたラベルを見せびらかすように、スイッチを押した。

 

【MIGHTY ACTION X!】

 

タイトルコールと同時に紫のゲームエリアが展開していく。

ダンクロトシンの後ろには、黒い火の玉みたいなキャラクターが赤い目を光らせている。

 

「変身!」

 

彼は大きく宣言する。

そのまま機械の空いている上部スロットへガシャットを差し込み、上部スロット横に備えられていた赤いツマミを左から右へ押し込む。

 

【BUGGLU UP!】

 

ローテンションの機械音じみた発声が流れる。

腰から電光板らしきものがダンクロトシンの前に投影された。

斜めに人型の形をした紫の絵と、糸で釣り下がった赤い人型の絵が上書きするように点滅する。

 

【MIGHTY JAMP! MIGHTY KICK!】

《Genocide!》

 

ハイテンションとローテンションが混ざり合う音声を奏で、チグハグな言葉を紡ぎ出す。

 

【MIGHTYiii ACTIOoooN X!】

《Wooooo!》

 

そして電光板を透過したダンクロトシンは、姿を劇的に変えていた。

黒い髪を模した兜にゴーグルを付けた仮面。ゴーグル越しに光る赤い血走った目。レーザーと同じくゲージと四つのボタンを付けた胸当て。

肩や手首、脛に取り付けられた紫の装甲。胴体や手足には目立つように赤いラインが走っている。レーザーとはまた毛色の違うライダーと一目で分かってしまった。

 

「もう一度聞こう。貴様の名前は何だ!」

 

空中へ投影された絵がダンクロトシンの身体を一周する。

その絵をダンクロトシンは掴んで実体化する。

それは白を基調としピンクと緑に彩られたハンマーだった。

 

【GASHACON BREAKER!】

 

ハンマーが機械音声で名乗りを挙げる。

自己主張の激しい武器は、人生で二度目だ。

 

「仮面ライダーゲンムX(エックス)とでも名乗っておこうか」

 

白と黒の夫婦剣を投影し、手に構える。

手汗が尋常じゃないほどに分泌されていた。傭兵経験を経てなお緊張している。否、そうせざるを得ない。

 

「.....行くぞ!」

 

 

 

 

星空を眺める。

夜に輝く不定の煌めきは、決してその手に掴めないことは確認した。

右手には拳を、左手には覚悟を決めるためのガジェットを握っている。

 

目線の先には筋肉隆々の約3mほどの大男が、鎧を纏った金髪の女性に、2m以上の異常な長さと厚みをした黒石の斧を振り回している。

力に任しての振り回しではなく、女性の行動に合わせて先読みした上で振り出すいやらしい武器の使い方だ。

 

遠い草むらの茂みからでも分かる大気の大きな揺れが、斧の威力を物語っていた。女性は見えない何かで、化け物の攻撃を受け流ししているが時間の問題だろう。

 

周りに目を向けると、ツインテールの黒髪と緋色の髪の青年が女性側に、白銀髪の赤目の少女が大男側に立っている。そして、そのどちらでもなさそうな神父服の青年は、笑顔で教会の扉にもたれ掛かり戦いを観察している。

 

どうやらあの大男と女性をお互い使役して戦っているって感じだ。

にしても、身体能力のスペックが違い過ぎないかと思う。

あの中に入り込もうとするならば、変身するしかない。

 

しかし、変身してしまえば自分の存在がバレてしまう可能性だってある。

バレてもいいが、その場合とても面倒な展開になることは確実だ。

あの神父服の青年も気になることだし、今はまだ、機を待つしかないか。

 

上空からジェット音が聞こえる。

上を見れば、視界に今回の目標を捉えた。タイミングを見計らって奴のガシャットを奪わなければ。

仮面ライダーレーザーターボ、お前のな。

 

 

 

 

夜にそぐわない空気の破裂音を何度聞いただろうか。

 

「いいわ、いいわ。もっと悲鳴を奏でなさい!」

 

夜にそぐわない物体の衝突音を何度聞いただろうか。

巨漢と少女のぶつかり合いをどれぐらいの時間見ていたのだろうか。

冴え渡る剣技。互いの武器が創り出す線と線の螺旋。

 

「これでは......っ!」

 

少女は奥歯を噛み締める。

数合に渡る剣戟の末に彼我の実力の隔たりを感じていた。

魔力回路の接続不良、それに伴う魔力不足。サーヴァントと仮面ライダーとの連戦での疲労。様々なハンデを背負っているからこそ、少女は勝てないと直感した。

 

「◾️◾️◾️◾️っ ァァa Aアアアアア!」

 

修羅なる化身の咆哮。周囲の地面が捲れる程の大音量。

分厚い空気の壁は少女の防御をすり抜け、体勢を崩させる。

決め技はその一瞬に捩じ込まれる。

 

巨漢は、己の膂力をはち切れんばかりに右手へ集中させていく。そして限界まで後ろに引き絞り、少女に向かって放たれる。

何の技量も無い、純粋な力によるパンチング。

サーヴァントとしての身体能力ブーストを掛け合わせての一撃は、巨槌として少女の胸部を強打した。

 

「セイバー!」

 

少女は近くにあった森の方へと轟音と砂埃を伴って吹き飛ばされる。

木々の折れる音は数百mまで響き、先程の一撃がどれだけの威力を持っていたのかを如実に語っていた。

少年は少女の名を叫ぶしか出来なかった。少年に何も出来ることは何も無かったのだ。

 

「さぁて、そろそろ終わりかな? 楽しかったよ、お兄ちゃん♪」

 

嬉しそうにチェックメイトを言い渡す赤目の幼女。

守る盾である少年のサーヴァントは、もう戦闘不能だ。

残された生身の人間がサーヴァントに勝つなど、余程の奇跡が無ければ成し得ない。

 

少年は目を瞑る。

これからの人生にさよならを。生きる為に神へ奇跡を乞う。

 

「諦めないで! 何をボサっとしてるのよ!」

 

少女の激励。

少年の耳にジェット音と何かを飛ばしている不思議な音が聞こえる。

少年は瞑った目を開けると、横で人差し指を巨漢に向けている黒髪の少女の姿が視界に写っている。

勝ち気な笑みを浮かべた、堂々とした立ち姿。

自分よりも小さいはずの背中は、大きく見えていた。

 

けれど、その身体は震えている。

 

少年の心は激しく燃え上がる。

守らなければならないと。己の不甲斐なさを反省するのは後にしようと拳を握り締める。

 

「遠坂! 森に逃げるぞ!」

 

少年の提案には理由があった。

一に、ジェット音なんてのは上空に飛行機が飛んでいる場合だ。夜中にそれは無い筈。だからこそ、何者かが空から接近してきたと考えた。

二に、航空に伴う音に混じって、ある機械音声が僅かに聴こえたから。その音声は、以前にも少女が聴いたことのある言葉だった。

 

【ジェット クリティカルストライク!】

 

少女の手を引いて森に逃げていくのと同じタイミング。

超高速で地面の穿つ音が少年達の背後で炸裂する。

 

 

 

 

「さてと、いっちょあがりってところだな」

 

不意打ちの機関砲は流石の化け物じみたサーヴァントでも、避けられることは無かった。

ジェットエンジンを稼働させて上空に滞空していた自分は、砂埃の中に着地する。そして周りを警戒しながら、ガシャットをシャカリキスポーツに切り替える。

 

【シャカシャカコギコギシャカリキスポーツ!】

 

ゲーマの切り替えが終わった所で、更に追加でガシャットを起動する。

 

【仮面ライダービルド!】

 

ゲームエリアが赤と青の色を交え、エナジーアイテムが散りばめられたのを確認する。丁度砂埃は晴れて、奴さんの姿が見えてきた。

 

「へえ、変わったサーヴァント。貴方何ていう名前かしら?」

 

化け物の肩に乗り銀髪赤目の少女はそう質問をしてくる。

やはりというか、こちらの攻撃は威力が足りなかった。掛け合わしたレベル0の攻撃力でも、身体に傷を負わせられないということが実感できる。

 

「仮面ライダーレーザーターボ」

 

多少の嘘を混ぜ、答えておく。ルーラーなんてクラスを馬鹿正直に答えても、嘘だと不審に思われてしまうのは駄目だからだ。

まず、相手に信用される為には嘘と勘付かれないように動かないといけない。ファーストコンタクト(初期遭遇)のコツだ。

 

「面白い名前ね。仮面ライダー......名が体を成すってそういうこと」

 

これで、俺のクラスが彼女の中でライダーとなった。

仮面の中身は見えない。だから、ライダーという仮面を被ることで本来のクラスを隠し、戦況をコントロールできるように仕向けておく。

 

「まぁ、始めようぜ。退屈はさせないさ」

 

真名看破は終わっている。

クラス、バーサーカー。正直に言って13の命を削りきるつもりはない。が、多少削れる程度にしておこう。こういう何度も生き返る系の敵は戦ったことがあるからな。

 

「バーサーカー。あいつやっつけて!」

 

持久戦はほどほどに、機を見て撤退の戦法でいこう。

『仮面ライダービルド』の力、試させて貰うとしようか。

 

 




サーヴァントと仮面ライダーが戦う。

異なる歴史を捨て去る、正しき歴史の影響。

その歴史は果たして真実なのだろうか?

そしてまた運命は仮面ライダーと出会う。

次回『Super Best Match』

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Super Best Match

 

静寂をネオンが照らす聖都の夜。廃棄されたビルの屋上。

幽霊と漆黒は互いの武器を重ね合わせ、火花を空中に何輪も咲かせていた。

幽霊は白と黒の剣を投げ飛ばしては、その手にまた青い粒子が集い白と黒の剣を創り出す。

それを漆黒は白の槌で叩き落とす。

その繰り返し。

 

「ほう、サーヴァントはバグスターウィルスに感染したとしても、自覚症状が発生しないということか。しかもゲーム病を発症しない」

 

冷静に語り出す漆黒。

幽霊には大半の名詞に聞きなれず、疑問だけが内側に充満する。

 

「サーヴァントというのはどういう存在なんだ? 人を模した影という訳かい? ならばゲーム病にならないのも分かる。何だって人形に不可思議な力を注がれただけの動ける機械なのだから」

 

一人言は続いている。

防戦一方な状況に関わらず、余裕ある言葉。そして、その態度こそが幽霊を苛立たせる。

 

「......ならば、選択しよう。これが、『仮面ライダー』という力だからなぁ」

 

幽霊の攻撃の合間。

2秒ほどの隙。漆黒は、ガシャットを起動する。

 

【RIDE CHRONICLE ZIーO】

 

幽霊は、新しいガシャットの存在に気取られてしまった。

そのガシャットは、新たなる力であり、危険なものだろうと幽霊は防御に徹した。

 

「このガシャットは、ある機能がついていてね」

 

漆黒は歩きだす。

ゲームエリアは新しく桃色を映し出していく。王という存在が、レッドカーペットを歩くように、緩慢に。

 

「正しく、元に、存在を書き換える。という強力なものでね。私はその機能を使ってバグスターを取り出そうとしている。レベル1のバグスター摘出機能とまた違う、バグスターそのものを本体とは無縁にするという現象を起こせるのさ」

 

ガシャコンブレイカーのスロットにガシャットが差し込まれる。

 

【GASHATT!】 【決め技!】

 

ハンマーに波動が纏わり付いていく。

防御している幽霊は、その隙だらけな姿を見て、剣を投げようと身体を動かそうとした。

 

(何! ......身体が動かない!?)

 

投げようとした、その手、胴、脚。全てが縛られたように動かなかった。口もそのままで、言葉を発することが出来ない。

 

「言い忘れていたが、このガシャットはバグスターウィルスの行動を止めることが出来てね。感染して身体に住み着いている君は、その影響を受けてしまうということだ」

 

漆黒は幽霊の目の前まで辿り着く。

白と黒の剣を胸の前で交差したままの幽霊。漆黒はブレイカーを振りかぶりガラ空きの腹目掛けて必殺の一撃を放った。

 

【RIDE CHRONICLE CRITICAL FINISH!】

「安心したまえ......『ビルド』のバグスターは私が削除する」

 

聖都の夜に反響する機械音声。

それは、幽霊が漆黒との戦いに負けたことを告げた。

 

【会心の一発ゥッ!】

 

 

 

 

【シャカリキ クリティカル ストライク!】

 

【カイシンノイッパツ!】

 

その音声は、命中率が高い時に発生する音声。

つまり、車輪は殆ど命中している。

だというのに、今この現状はどういうことだ。

 

「嘘だろ。......完全に決まったじゃねぇか」

 

目の前には、未だピンピンしているバーサーカーと呼ばれた巨漢。

胸に僅かな摩擦の煙が出ているだけで、肉体の損傷も殆んどない。

 

「当たり前だもの。バーサーカーはとっても強いんだから!」

 

バーサーカー。

確か狂戦士って意味だったよな。こりゃ、見透かした宝具の効果も含めて強き者という訳か。付け入る隙も、バグヴァイザーを使う暇も無い。

 

「......なら、使うしかないか」

 

バーサーカーは動いていない。

強者の余裕ってところだろう。だったら、その余裕って奴を無くさせてもらおうかな!

 

【ラビットタンク】 【ベストマッチ!】

 

起動した記億用ガシャットから、ラビットタンクのデータを呼び出す。

視覚モニターに映る付加効果は、

『ジャンプ強化』『高速化』『伸縮化』『鋼鉄化』×2

これだけあれば、対等まではいかないけれども抵抗は出来る。

 

「何? 今の? 魔術かしら?」

「さあ? 似たようなもんだ。これからは本気でいかせてもらうぜ」

 

グンとゆっくりになったバーサーカーの動きを見て、車輪を投擲する。それに加えて、一歩を伸ばしてバーサーカーの懐へ飛び込む。

およそ、10歩程の距離を至近距離にまで近づける。

 

そして、鋼鉄と化した手足をバーサーカーの強靭な肉体に叩き込む。

連打、連打、連打。

衝撃のエネルギーを奴の肉体に蓄積させていく。

高速化によって鋭敏化された感覚がバーサーカーの僅かなうめき声を聞き取る。

 

って何十発か打ち込んでいるのに、ビクともしてねぇじゃねえか!

 

バーサーカーが斧剣で薙ぎ払おうとするのが視界に映る。

斧剣の軌道に合わせて身体をゴムの様に極端に伸ばしてその下に滑り込む。

それだけでも、攻撃の際に生じる衝撃波が自分の身体を吹き飛ばさんとしている。

何とか鋼鉄化による重量増加の効果で何とか踏ん張れるが.....こいつはさっさと目的を達成してやるか。

 

ただ、この形態じゃ殴り合いに弱い。

 

 

【ギリギリチャンバラ!】

 

 

少し間合いを取り、素早くガシャットを切り替える。

中距離のトリッキーな攻撃が得意なシャカリキスポーツから、近距離用の装甲を増加させるギリギリチャンバラへと変えることで殴り合いへと展開を発展させるって寸法だ。

 

 

【ギリッギリ バリッバリ チャンバラー!】

 

 

チャンバラゲーマーによる装甲を纏い、尚且つラビットタンクの力を相乗させた状態。

内部のエンジンを暖めながら、召喚した弓形態のガシャコンスパローを双振りの鎌へと変形させる。

 

「へえ。その腰の機械、ゲーム機みたいだね。色んなデータを駆使して戦うって面白い。けどね、それじゃまだ駄目なんだよ。そんな小手先の騙しじゃあね」

 

バーサーカーのマスターである少女が、冷静に現状を言い当てる。

ギリギリチャンバラでも、ラビットタンクでも太刀打ちできないなんて分かっている。

現状の状態じゃ、何もできないなんて分かり切っている。

だが、

 

 

「それがどうした? それで、自分が怖気つくとでも?」

 

 

そんなことで逃げ出すだなんて、護ることを放棄しているのと一緒だ。

勝率が殆どない、絶望的な状況でも、光明を見つけ出す。どれだけか細くても、そこには勝利への手掛かりがある。希望がある。

 

 

「『仮面ライダー』を舐めるなよ、嬢ちゃん。自分は果たさなければならない責任って奴があるんだよ」

「減らず口だね。じゃあ先ずはそのクサい口を黙らせればいいかな?」

 

 

斧剣が圧倒的な威力を以って上から振り下ろされようとしている。

自分はアーマーを纏った腕で交差してあえて受け止める。腕には木が軋むような音が聞こえてきた。

 

攻撃の圧を受け止めるために大きく開いた足元の地面は、埋もれていく。鋼鉄化でのコーティングで何とか保たれているとはいえ、アーマーが破壊されるのは時間の問題だ。

 

耐えろ、耐えろ。

 

ライダーゲージがジワジワと減っている。

 

相手の重量を支えきれずに地面に膝をつく。

なおも圧し潰して殺そうとしているという気迫が伝わってくる。

 

耐えろ。耐えろ。ライダーゲージはもう少しで0だ。

 

 

「やっちゃえバーサーカー!」

 

 

勝利の予感。

バーサーカーの雄たけび。

ライダーゲージはギリギリの生存ライン。

 

 

—――――条件は整った。

 

 

自分は全身の力を抜き、伸縮化の効果で柔軟になった身体を駆使して半身になる。

すると斧剣が勢い良く地面に突き刺さり、バーサーカーに僅かな隙が出来上がる。

 

呼び出したバグヴァイザーⅡの必殺プロセスを完了させる。

 

【キメワザ!】

 

高速化を利用してバーサーカーへ接近。ライダーゲージがほぼ0の状態での攻撃力上昇を合わせて、極大に膨れ上がった光のエネルギーは今にも奴を吹き飛ばさんとしていた。

 

「喰らいやがれえええぇぇぇぇ!!!!!」

 

 

【クリティカルジャッジメント!】

 

 

カウンターとして放った必殺技は、夜の帳に突き抜ける一条の光と化してバーサーカーの頭部を貫いていく。

数秒、それか数瞬。

瞼が瞬く間に巨大なる奔流がバーサーカーを滅していく。

それが勝利の瞬間として—―――

 

 

 

% % % %%  %%%%%

 

 

 

少女は、勝つと予想していた。

最強無敵の強さを持つ、バーサーカーが勝つと思っていた。

 

あんな、ヘンテコなサーヴァントには負けないと確信していた。

 

だというのに、この現状は何だ。

 

【ゲームオーバー】

 

その音声は少女の敗北を意味すると同時に、レーザーターボの敗北をも宣告していた。

 

レーザーターボの姿はドット状に消え去り、ボロボロと小道具が3つ程地面に溢れ落ちた。

少女は、バーサーカーの頭部が消し去られたのにも目もくれず小道具の所まで駆け寄り、拾い上げる。

 

「何これ? 仮面......ライダー......ビルド?」

 

拾い上げた赤と青の二色の小道具に貼ってある文字を読み上げる。

歯車を半分に分割した独特のマークに、赤と青を纏った人型が背中を向けて不思議な壁を見ている構図のラベル。

 

「......戦利品として、貰っておこうかな。何だか大事なものっぽいし」

 

他の物も取ろうと手を伸ばして、少女は気づいた。

地面に緑色のブロックノイズが走っているのを。

 

【Enter The Game Riding The END】

 

一つのセンテンスの英語が少女の耳に入る。

方角は森。セイバー達が逃げ込んだ方向。

そこから、誰かが姿を現わす。

 

「......それを渡せ」

 

先程の仮面ライダーレーザーターボを簡素化した、仮面と茶色の栗のような頭部。

その仮面の奥から、男の声が漏れる。

成人した男性が発する独特の低い声。少女はその要求に応えず、小道具を全て懐へ仕舞う。

 

「やだ。これは大事な戦利品なの。渡せないわ」

 

茶色の肩装甲が目立つ仮面の彼は、その手に収まっていた何かのスイッチを押して、少女へ投げつける。

 

【タカウォッチロイド〜! タカ!】

 

歌い紡ぐ、その魔術でもないそれは、円形の物体から鷹の姿へ変形して少女へと襲いかかる。

 

「......何なのよ一体!」

 

魔術を駆使して鷹を落とそうとするが、発した魔力の弾丸は悉く躱され、少女へと突撃していく。

 

【サーチホーク! 探しタカ•タカ!】

 

少女の懐から二つの道具を掠め取り、仮面の彼の手元に鷹が戻っていく。

 

「......ガシャットは預かった。残り一つのガシャットもいずれか返してもらうよ」

 

金属の重なる音。

ガシャンという音が不意に仮面の彼と少女の両方の耳に入る。

 

「それは、どうかな?」

 

教会の黒い金属門の下、その略奪劇へ参戦する者が居た。

黒い長髪を夜風に靡かせ、夜より光を消した神父服を身に纏う長身の男性。その目からは狩るものの獰猛な鋭さが宿っている。

 

「......どういう意味だ?」

「ここで倒されるって事だよ。ライドプレイヤー君?」

 

神父は服の下から物体を取り出す。

下部に円形のギアが取り付けられた、真っ黒な機械。

どこかガシャットに似たそのギアを回すことで神父は、作動させた。

 

【chain Perfect Puzzle......】

 

神父姿の男性は消え去る。

代わりに、漆黒と純白を交えた鎧を身に纏った人型がそこに立っている。夜の暗黒に黄色の目は鈍く輝いていた。

 

「パラド......!」

 

【Stage Select】

 

少女は二人の空間移動に置き去りにされる。傍にはバーサーカー。頭部の傷が治癒しつつあるものの未だ戦闘不能状態から復帰していない。

 

森の中を少女は覗く。

遠く遠くだけれど、一つの大きな魔力が渦巻いているのが感知できる。その一つの魔力、セイバー。そしてそのマスターである衛宮士郎。彼らを追うことは出来ないだろう。

 

少女は誰も居なくなった戦場で呟く。

 

「ちぇっ、つまんないの」

 

言葉では不貞腐れてはいたものの、少女の顔は満面の笑みである。それは、これからの全てを悟っていたからに違いない。

 

「仮面ライダー、エグゼイド。あなたはいつになったら会えるのかしらね」

 

冬木市の寒空の戦いは、まだ続いていく。

 





謎とは、人の考えで至らない神秘である。

神秘とは、暴かれるものである。

仮面が外れた時、また謎が増えていくだろう。

次回、『ビルドアップ!』

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ビルドアップ!

情報を求める。

彼は、今どこにいるのだろう?

 

情報を求める。

私は、何を成し遂げようとしている?

 

情報を求める。

この街に、何が起きている?

 

求めど求めど。

尽きることない知りたい欲望が、私を駆り立てる。

 

今、目の前には異変が転がっている。

森の端の道路でガードレールを外側から大きく歪ませ、今にも崖から落ちそうな人間を見つめる。

 

今の時代では、西洋の鎧など目にする機会はあまりない。

ゲームの資料のため、実物を見た事はあるがそれでもこれ程精巧な鎧を目の当たりにすることはなかった。

 

性別は女性。 金髪の髪と白い肌。

この女騎士の名前がセイバーというのは一目見て理解した。

 

 

求め、求め、求めたい。

 

 

欲望、それを糧にする戦士をふと脳裏に思い出した。

だが、彼は今取り込まれている。

 

データを取り返すには、サーヴァントというバグを取り除かなければ。

 

その為には戦士が必要だ。

人智を超えた幽霊に取り憑いたバグを除き、データを抽出するために。

 

だからこそ彼等を知っている者の力が必要だった。

全ての時を司り、全てを利用する戦士の力を。

 

......彼等が居なければ、私は存在していなかっただろう。

 

感謝しよう。

私を意のままに操った事を後悔させる機会をくれたのだから。

 

私はゲームマスターだ。

事象を意のままに操り、望んだ結末を迎えさせる。

 

その為に私は動く。

私はゲンムなのだから。

 

そう、私こそが檀黎斗。

全てを救済する神である。

 

だからこそ解放した彼の活躍を期待しよう。

私の貴重なライフを一つ削った、あの戦士を。

 

 

%

 

 

【高速化!】

 

様々な機械が立ち並ぶ、工場エリア。

プレス機や裁断機、その他の大型機械がそこかしこに設置されている。

 

【高速化!】

 

ライドプレイヤーは、そんな機械の陰に潜んでいた。

しかし、周囲を飛び回る黄色い残像がライドプレイヤーを見つけるのは時間の問題だった。

 

【高速化!】

 

ライドプレイヤーは、機械の陰に身を潜めながら周囲に散らばる円形のカラフルな物体、エナジーアイテムを確認する。

 

『暗黒』『混乱』『透明』『ランダム』

 

ライドプレイヤーの頭部モニターには名称がそう映っていた。上手く使えば戦局をひっくり返すことができるのがエナジーアイテム。ライドプレイヤーは過去に説明された言葉を思い出す。

 

『エナジーアイテムってのにはコンボがある。マッスル化と高速化をとって短期決戦へ持ち込むとか、幸運とランダムで自分に有利な効果を選んだりとトリッキーな戦い方が出来る』

 

ライドプレイヤーは思考を張り巡らせて、複数の打開策を考えその中で一番勝ちが見える策を選択して行動することにした。

 

ライドプレイヤーはガシャットを一つ起動する。

 

【仮面ライダービルド!】

 

中のデータに含まれていたとある武器を呼び出す。

ガシャコンシリーズと同じく、対応したガシャットが有れば呼び出せる。ライドプレイヤーは『仮面ライダービルド』に秘められた武器、『ツインブレイカー』を選択する。

 

【高速化!】

 

ライドプレイヤーの視界に、黄色い残像が接近している。

金属を揺らし、機械を軋ませて。

ライドプレイヤーは深く息を吐く。勝つためのタイミングを待ち、逃さないように。

 

解き放つ瞬間を待ちわびる。

 

 

【マッスル化!】

 

【Ready Go!】

 

 

ツインブレイカーに、ライドプレイヤーは缶のようなアイテム『ラビットタンクスパークリングボトル』と呼ばれる物を取り出し、装着する。

 

炭酸の泡が弾ける音が反響する。

ツインブレイカーにエネルギー充填、そして最大限にまで達した。

 

【Let's Blake!】

 

ツインブレイカーに取り付けられた、白いノズルから三色の泡が溢れて出てくる。赤色と白色と青色。それがライドプレイヤーから工場エリアの地面を徐々に満たしていく。

 

敵も謎の現象に近寄れず、足を止めているのがライドプレイヤーにははっきりと分かっていた。

 

そして地面を覆い尽くすとなれば、対処法は一つ。

 

 

【Kimewaza!】【伸縮化】【ジャンプ強化】

 

【Perfect Critical Combo!!】

 

 

泡の出所を空中から攻撃するしかない。

敵の足が必殺の威力を込めて伸びていく。ゴムのように薄くしなやかに、鞭の如く苛烈な速度を含んでいる。

 

ライドプレイヤーは、分かりきっていた。

 

敵が空中にいることを。

 

自身がわざと居場所を知らせていることを。

 

【Ready Go!】

 

【Vortex Blake!】

 

それがライドプレイヤーの勝利の法則だ。

 

【仮面ライダービルド】から呼び出したのは、『ツインブレイカー』だけではない。刀身が削岩機(ドリル)で構成された武器。ライドプレイヤーが信頼を置ける武器『ドリルクラッシャー』。その鍔にボトル型アイテム、龍の意匠が刻まれた『ドラゴンフルボトル』を挿入した。

 

既に必殺技(コール)は告げられている。

なら、ライドプレイヤーは振り翳すだけだった。

 

兎と戦車の成分が含まれた泡は龍の息吹により、破裂していく。

内包されていたものは、破壊力として変換されて工場エリア全体を揺さぶっていく。

 

敵の必殺と己の必殺。

ぶつかる瞬間、景色は白み。

爆発的衝撃に互いの姿の輪郭は崩壊する。

 

 

 

 

「ちょ、ちょっと手を離しなさい!」

 

遠坂の言葉で我を取り戻し、繋がれていた手を離す。

ほのかな暖かさが手の平から消え失せていく。

辺りを確認すると、誰も追って来ている感じは無かった。とりあえずは安全な地帯へ移動は完了したといえる。

 

乱れてきていた呼吸を整えようと深呼吸をする。

腐葉土の独特な匂いが脳を満たしていく。遠坂も顔を赤くしているけれど呼吸が乱れていない所を見ると、まだ走る体力はありそうだ。

 

「......なによ」

 

目を尖らせ、若干低い声で疑う遠坂。

ーーーいや、遠坂は流石だなと思っただけだ。

 

「当たり前よ。こんな運動は遠坂家として朝飯前なんだから」

 

ーーー魔術師ってそんな所まで鍛えているんだな。ゲームとか魔法使い系って賢いけど運動が苦手ってのが定番だろ。

 

「ゲームと一緒にしないでくれる!? 運動が出来なきゃ魔術が効かない相手にどう立ち向かうのよ」

 

当たり前の事だった。魔術しか使えないのであれば、それを突破された時に自衛手段が無い。実に合理的な発想だった。

けれど、か弱い女性ってものには程遠いストロングな女性というのは男子の面子を潰しかねないのではと、心の中で思っておく。

 

瞬間。

 

森の奥から光が漏れる。遅れて大きな音が轟いた。

とても嫌な記憶が薄く景色と同化する。あれはそれによく似ていた。足が、身体が、思考がその方角を見る。

セイバーが飛ばされていった方角と合う。

 

ーー-遠坂、セイバーの所へ早く行こう。まだ遠くはない筈だ。

 

「......いいけど。なんだか悪い予感がするわね」

 

ーーーああ、俺も胸が騒いでる。

 

「なら、飛ばしていくわよ。しっかりついてくるのよ、しっかりと」

 

 

◼️

 

 

おーい。

 

「......ゲーム病を発症している。やはり君は設定通り人間ということなのか?」

 

おーい。あ、駄目だこれ。完全に話聞いてないパターンだよ。

 

「成る程。『鎧武』か。この世界の法則の鍵は見えた。あとはヒロインの一人である遠坂 凛にある事を確認しなければならないのだが」

 

......檀さん? 聴こえていますか? 聴こえているなら返事してくださいよ。今、そんな事してたらまた追っ手が来ちゃいますよ。

 

「さて、ビルド。いい報告を期待しようじゃないか」

 

セイバーから目を離し、先程から騒ぐ自称天才を見る。

どうやら目的は達成出来たようだ。流石、仮面ライダーなだけはある。

 

「ってさっきまで無視してる振りだったの。性格が悪い」

 

「私は神だ」

 

「......その一言に意味を詰め込まないで下さい。ま、報告しますよ」

 

ビルドの報告によれば、あのレーザーターボが持っていた『仮面ライダービルドガシャット』と『ブランクガシャット』を取り戻せたものの、『ドクターマイティXXガシャット』は巨漢を従えていた少女に取られた。恐らくはイリヤス・フォン・アインツベルンという少女のことだろう。

 

「何故ドクターマイティを取り戻せなかった。君の事だ、何かアクシデントでもあったのか?」

 

「ま、命からがら脱兎の如く逃亡って奴ですよ。何せ謎の仮面ライダーが居ましたから」

 

謎の仮面ライダー?

やはり我々というイレギュラーに対して、その対処法があるということか。

 

「何か特徴的なものが無かったか? 戦法や使っているアイテムなどに」

 

「特定のエナジーアイテムを引き寄せて戦闘を有利にしていました。後パーフェクトパズルという音声も真っ黒いガシャットから聴こえてましたよ。形状は通常のガシャットからかけ離れていましたけど」

 

それはパラドが使用したデュアルガシャットだ。

しかし黒色のデュアルガシャットは無い筈だが。もしやプロトタイプのガシャットを使用しているということか?

 

「......パラドが居るという事か。ならば、宝生永夢を探す手掛かりにも繋がるかもしれない」

 

回収の連絡はまだしないでおこう。

確認する事がまた増えたのは、僥倖というべきか。

 

「それでどうします? もうソウゴ君に連絡した方が良いんじゃないですか?」

 

「いや、まだだ」

 

森の方角から何者かの気配がする。

どうやら追っ手がやってきたようだが、それにしてはおかしい。

 

「ホームズさん、目的地に到着します。ええ、気をつけますよ」

 

鈴のような高い声に混じる、硬い金属質の独特な足音。ガチャ、ガチャと忙しなく反響するそれは、静かな森の中で存在感を増していく。

存在感が最大限に高まり、道路の頼りない街灯に照らされ姿が露わになる。

 

パラドと思わしき人物では無いのは、一際目立つ大盾が示していた。

他にも目立つものといえば、身体を補助する機械が所々身に付けられていることだ。

 

「君は......ふらりとこちらに立ち寄った人じゃなさそうだよね」

 

「あなた達は、ここの人間ですか?」

 

ここの人間ということは、私がバグスターであることも、この世界の人間であるかどうかの判断がついていないという訳か。恐らくは仮面ライダーということさえ分かっていない。

 

「私の名は檀黎斗神。ゲームマスターだ」

 

「えっと......すみません。ゲームマスター? って何ですか」

 

何、ゲームマスターを知らないのか!?

成る程ゲームには疎いということか。彼女からは理知的な雰囲気がある。ゲーム自体を知らないという可能性があるな。

 

「ゲームマスターっていうのは、ゲームを管理する者ってこと。つまりこの世界というゲームを統べる神様を自称していると彼は言いたかった訳」

 

だが、神というのは本当のことだろう?

 

「そしてそこの青年は桐生戦兎。自称天才物理学者だ」

 

「自称じゃない。天才物理学者だってーの。で、君は?」

 

少女はゴーグルらしき機械を外し、薄紫色の瞳がこちらを見る。微かに透けたアメジスト。その奥には確固たる意志が存在している。

経験により磨きあげられた宝石というのは、いつ何時でも欲しく感じる。

 

「えっと......マシュ・キリエライトと申します。桐生戦兎さんと檀黎斗さんは『神だ』............檀黎斗神さんは何故ここに居るのでしょうか?」

 

ああ、そういうことか。

私が居る理由など分かっているだろう?

 

「君には関係のないことではないかな?」

《檀さん、それはダメですって。もっと穏便に......》

「いいえ。あなた達はアルトリアさんをどうするつもりなんですか?」

 

やはりアルトリアか。

ここまでゲーム設定通りだとしたら、マシュという存在は我々と同じイレギュラーという訳だ。

 

「それこそ君には関係のないことだが?」

《あるでしょうよ》

「答える気は無いということですね。ならば、質問を変えます。あなた達は私達の敵ですか?」

 

マシュという人物はこの世界に何をもたらすのか。

見極めてみせよう。私はゲームマスターなのだからな。

 

【GACHOON】【MIGHTY ACTION X!】

 

「敵の味方は敵であるというのもある。しかしながら君は貧相で力の無いただの一般人だ、我々の闘いに口を挟める覚悟はあるか?」

「......っ!」

《あーもう。仕方ないな!》

 

【KAMEN Rider Chronicle!】【カメンライダービルド!】

 

ゲームエリアの展開と共に、大盾を構えるマシュキリエライト。

 

「変身」【GASHATT!】

《えっと、確かこれで良いんだよな》【GACHAaaN】

 

【BUGGLU UP!】【ハザード Level UP!】

【Rider Chronicle......】

 

ホログラムが投影され、私の姿を変えていく。

仮面ライダーゲンムへと私は再構成される。

 

【MIGHTtttY ACTIOooooN X!】『wooo』

 

【アーユーレディ?】《えっと、ビルドアップ!》

【スティール ム―ンサルト! ラビットタンク! イェーイ!】

 

そして、ホログラムに挟まれたビルドが私の横に並び立つ。

本来の音声とはかけ離れた不正な音声。

ライドプレイヤーレベル3ビルドゲーマーではなく。赤と青の装甲を纏う、私の知る仮面ライダービルドがそこには居た。

 

「ゲーマドライバーは何処で手に入れた?」

「さっき森の中で拾ったんだけど」

 

入手経路も不正であることは変わりないが、今はマシュとの戦闘に集中するとしよう。

 

「ま、改めて仮面ライダービルド。作る形成するのビルドだ、以後お見知り置きを」

「仮面ライダーゲンム。君にはこのゲームがクリアできるかな?」

「シールダー、マシュ・キリエライト。行きます!」

 

コンテニューをしてでもクリアしてやる。残りライフは2だがな。

 

 

 





仮面ライダービルド&ゲンム。

そしてマシュ・キリエライト。

EXTRAはEXTRAを連鎖させる。

次回、『魔王と救世主 2004』

See you next EXTRA Stage?


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魔王と救世主 2004

スカイウォールの惨劇から10年。

私、桐生戦兎は仮面ライダービルドとして1年。様々な死闘を繰り広げ、最終的には新世界を創りあげた。

そんな私は今、女の子にスライディングした脚に杭を打たれようとしています。

 

「せぃ!」

「うわっ!」

 

危ないし、道路のアスファルトがひび割れてるし、力強いし!咄嗟に開脚しなきゃ脚終わってたよ!

 

「隙ありぃ!」

 

ガシャコンブレイカーで回りこんで斬りかかり、逃げる時間を稼いでくれる檀さん。的確に相手が防御することを見込んで、左から攻撃して弾かれている。

 

と、その間に体勢を整え、左脚のホップスプリングを使い右側から少女へ急速接近する。ドライバーが違うとはいえ、ビルドの使い方に違和感がないのは流石だ。

 

「くっ! やはり人数の差は、戦闘に響きますね!?」

 

マシュ・キリエライトちゃんへ挟み討ちを仕掛ける。左手からは剣撃が、右手からは打撃が浴びせられていく。

 

こっちが本気ではないとはいえ、的確に攻撃の軌道を読み、大盾で上手く弾いたり、避けて盾で殴ってくるとは、可憐な見た目と裏腹に中々のワイルドな闘い方をしてくるねぇ。

 

檀さんの攻撃に合わせて、連携攻撃を行うってのも大変だってのにね。ま、お互いの戦闘スタイルがあんまり噛み合っていないから攻撃の速度も鈍っているし。

 

「ちぃ! やはり即席コンビでは、息が合わないようだなぁ!」

 

崖際のガードレールを踏み台にして上段から斬ると見せかけて、盾を踏んでマシュの背後をとるものの、マシュちゃんの背中の機械からバーナーが噴出、檀さんを怯ませて自身を逃していた。

 

「内部構造が非常に気になるけど、今はそれどころじゃないね!」

 

スプリングを使い追従して攻撃の手を緩めないようにしているが、これじゃジリ貧で決め手に欠けている。

そういえばエナジーアイテムが、周囲に浮いている。あれらを使える隙があれば......。

 

「今です!」

 

ん? マシュちゃんが距離を取って盾を横にして構えてる......?

確かマシュちゃんの身体には、噴射機構が身につけられてる。盾を向けた方角はガードレールを背に追撃しようとしている檀さん。

 

嫌な予感しかない。

 

ガードレールの向こうは崖だ。そして武器のリーチを持っているゲンムを狙うのは必然。止めるしかない。

近くの暗がりに黄色いエナジーアイテムが浮いている。コミックなら、何とかいけるかもしれない。

ラビットの瞬発力をエナジーアイテムに向かう力に注ぐ、これならギリギリ届く筈だ!

 

「全ブースター開放! 必殺の! ブラダマンテさん直伝バンカーストライクゥゥゥゥゥゥ!」

 

黄色いエナジーアイテムを取ると同時に、黄色く変色していく左手。

俺は四コマ忍法刀を呼び出す為に左手を突き出す。差し伸べる手の向こうでは、噴出装置で加速を得て盾に格納している杭を引き出し突撃していくマシュちゃん。

 

「今助けます! 檀さん!」【アーユーレディ?】

 

そして徐々に光り輝いていく腕。

ん? 光り輝く? ......コミックにそんな機能って無かったよな。

 

【ラビットライト! トライアル!】

 

ライト?

いやいや、あのオクトパスライトの片一方の成分?

発光する奴だよね。これ、止まらないんですけど!

 

「檀さんごめん!」

 

「ビルド、きさまぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!」

 

発光と共に、マシュちゃんの必殺技をまともに受けて崖に落ちていく檀さん。恨み節は4秒ぐらいの叫び声だった。うん、生きているってことは分かってるから大丈夫か。

 

「.......っ目が」

 

やはりというか偶然というか。

マシュちゃんにも目眩しは効いている。これを無駄に出来ない。

取り敢えず街灯の配線部を左手で殴り、はみ出た電線を掴みライトバルブショルダーへ電気エネルギーを送り込む。

 

山の中の道路だからか、街灯はおよそ20mの間隔で設置されている。その隙間は暗闇だ。ラビットじゃ全く闇に順応できない。なら、ライトで発光させて闇を見れば、埋もれたエナジーアイテムを見つけられる筈だ。

 

掴んでいる街灯に光が消える。

そして、新たな光がいくつか見えてくる。

 

【水色のエナジーアイテム】

【灰色のエナジーアイテム】

【紫色のエナジーアイテム】

【白色のエナジーアイテム】

 

良く見ても何故か色しか(・・・)視覚モニターに映らない。

けど、大体理解出来た。俺が取るなら、これだ。

ラビットスプリングを駆使して、5m離れたマシュちゃんの後ろへ大ジャンプをする。

 

その軌道上に浮いていたエナジーアイテムを取得して、ガードレールの上に着地する。

 

ラビットの赤が俺が望んでいた色へと変化していく。この組み合わせは、勝利の法則へと導く為の一つのパーツ。

 

【アーユーレディ?】

 

無機質に流れる音声。

とっくに覚悟は出来ているさ!

 

「さて、ここからがビルドの本領発揮だ!」

 

今回の勝利条件は傷つけることなく戦いを終わらせる事。

このベストマッチなら、彼女を傷つけないように闘える。

 

 

【ライトニングテクニシャン! オクトパスライト! イェイ!】

 

 

 

 

さて、話をしよう。

 

普通の高校生である常盤ソウゴ。

 

彼は、2018年から50年後の未来。2068年を支配する我が魔王『オーマジオウ』になる運命が待っている。

しかしながら私が持っている『逢魔降臨暦』に私が知らない一節が記され、以降の記述が白紙になっていた。

 

「7つの聖杯集まる時、魔王を超える新たな王が誕生する」

 

我が魔王は私の言葉に従い、白紙になる直前の時代、つまり歴史の転換点に飛んでいった。

その時代とは2016年8月28日。

 

そこには歴史が消滅した筈の仮面ライダーゲンムの他にビルド、カルデアと呼ばれる人理保証機関と黒いエグゼイドが存在して......

 

 

失礼、少々語り過ぎてしまったようだ。

後は君自身の眼で確かめてみるといい。

 

私?

 

おっと。まだ名乗っていなかったね。

私の名はウォズ。我が魔王『オーマジオウ』の臣下である。

 

では、また未来で会うとしよう。

 

 

 

 

吐き気を催す衝撃の中、俺は居た。

ノウムカルデア第二回レイシフトは2016年8月28日の東京に起きた極小の特異点に定め、実行された。

特異点はあるだけで歴史が書き換わってしまう。

そこで我々の知る人類というものは消えてしまう。

過去、魔術王ゲーティアが人理を焼却するため72の魔神柱を放ち行おうとした偉業だった。

ゲーティアが居ないということは、他の誰かが歴史を滅茶苦茶にしているということだが、2016年に何かあるというのか?

 

その時代は人理修復の時に上書きされた1年ではないのか。

 

『我々が永遠に知り得ない物語を知るチャンスかもしれないね』

 

どこかの天才少女はそう言う。

聞いた俺は興奮している。そういう浪漫溢れる事柄には興味深い。

 

ーーーー

 

吐き気は薄れ、足が地面に着く硬い感覚。

レイシフトは無事に過去に届いたという安心感を胸に目を開ける。

 

そこは枯れた木々が生い茂り、枯葉が地面に積もる森の中だった。

夜ということもあり少し肌寒い。

 

『あーテステス。聞こえますか?聞こえるなら返事してくださーい』

 

ーーーー聞こえますよ。シオンさん。

 

右耳に装着した小型の機械を通して返事をする。

この機械は以前の失敗から学び、耳元に装着して話すブルートゥースと同じ構造の魔術機械だ。

耳穴にしっかりと嵌り、外部に飛び出た3cm程の平たい棒状の部分を触るだけで通話のオンオフを切り替えれるワンタッチ機構になっている。因みにデザインはダ・ウィンチ監修である。

 

『新型の調子は良いようね。では、まずは状況確認から始めましょうか。計器ではそこは3℃となっているけど、肌寒くない?』

 

ーーーーそういえば、肌寒い。というか3℃って低くないですか?

 

『計器の故障ではないのは分かっていると思うけど、異常気象ではないと思うのよね。だって周囲の環境を見ると急激に枯れたという訳じゃなく、あくまで自然に枯れたみたいだし』

 

日本の夏ならば夜でも30℃程で、レイシフトした8月は真夏に位置している。なのに関わらずまるでーーー

 

ーーーー真冬みたいな?

 

『大体そんな感じ。季節が真逆なのよ。礼装で問題ないようにしてるけど、実際なら長袖を着ていないと違和感があるレベル』

 

ーーーーだから、礼装が変わっているんですね。

 

手足を見ると味気ない茶色の布地が腕や脚を包み込んでいる。

真っ黒の極地用の礼装よりかは環境に適していると、納得する。

 

『ま、過去の聖杯戦争時に学生が参加していた事例(ケース)もあったみたいですよ。今回はその時に学生が身につけていた服をそっくりそのまま再現してみました』

 

ーーーーということは、学生服?

 

『そういうこと。さて、やっぱり(はぐ)れたカルデアのサーヴァントを呼ぶ所から始めなきゃいけないーーー待って、君の上空に正体不明の高エネルギーを検知した!』

 

シオンの鬼気迫った声に慌てて空を見上げる。

ちょうど雲で月が隠れ、光のない黒色が自分を見下げている。

 

いや、一つだけわかることがある。

ーーーー「ロボ」って文字が浮いてる。

 

『「ロボ」?......どういうことだい? そこに何も検知出来ていないけど』

 

ロボの文字から何かが飛び出してくる。

人影が音もなく枯葉を巻き上げて着地した。

怪しく桃色に光るその文字は『ライダー』。およそ顔の位置にデザインされた仮面、ニ対の長針と短針があるということは時計をモチーフにしているということだが、にしても顔面に『ライダー』とはどういうことなんだ?

 

耳元の通信機を触ってみるけれど、吐くのは雑音だけだった。

 

【KAMEN ライダー Riderー ジオウ Ziーo ジオウ(ZiーO)II(ツー)

 

代わりに奇天烈な音声が聴こえてくる。

仮面にライダーという文字があるから、仮面ライダー?

でもジオウⅡって自己紹介音声が流れている。この人?を仮面ライダージオウⅡさんと呼んでいいものか。

 

ーーーーええと、どうもこんばんは?

 

一応挨拶をしてみるけど、仮面ライダージオウⅡさんを略してジオウⅡさんはこっちをみたまま動く気配すらないうえ、こちらを警戒するように肩を僅かに強張らせているのが、金とマゼンタの線が入った流線形のボディアーマー越しに感じ取れる。

 

息を詰める空気には何度でも慣れない。

喉の奥の水分が急激に飛んでいく。脚も震えてくる。この場から逃げ出したい気持ちがせり上がってくる。

けれど、この場合に取れる手段は一つだけだ。

 

戦う。

一番嫌いなことだけれど、やらなきゃいけない。

しなければ死ぬんだ。俺は戦う。レイシフトの際に逸れてしまったサーヴァントを呼び出そうと左手の令呪を発動する。

使うは一画。想像するはセイバー。

 

空間が渦の如くねじ曲がり、高濃度の霊子を帯びていく。

空間湾曲現象。多大な魔力リソースを費やすことにより可能となる、魔術だ。

俺は令呪という魔力リソースで、セイバーとの空間を捻じ曲げ距離を無理やりゼロにする。捻じ曲げれるのは一瞬だが、それでいい。

 

渦から飛び出るは、真紅と黄の二対の剣。

フィオナ騎士団最強の騎士。輝く貌。頼れる一人。

 

ーーーー来てくれ、ディルムッド!

 

「承知」

 

ミドルトーンの声が俺に応え、こちらに振り向く。

 

ウェーブがかかった艶のある黒髪。長めの細い眉に、切れ長の眼。

整った血色の良い、ピンク色の薄い唇。丁度良い高さのしっかりとした鼻梁。

どれをとっても全てのパーツが美しい比率で揃えられ、男が見ても綺麗とため息混じりに言える程の美顔。加えて、胴体だけを守る紺の胸当て。身軽さを重視したため必要最低限の防御のみに抑えた男らしい装備。

 

「ディルムッド・オディナ。マスターの命により参上した。さて、打ち倒すべき標的は後ろの怪人で合っているでしょうか?」

 

ーーーー合ってるけど、あくまで落ち着かせるためだからね?

 

『ジカンギレード』

 

ジオウⅡさんは、刀身に『ケン』と描かれた武器をベルトの装置からアーチャーの投影魔術のように取り出し、片手に持つ。

構えがない。ただ歩く。

それだけ。それだけで一歩ずつ目を離せられなくなる。

焦燥、気迫、敵意、興奮、敬意。

自分の身体が闘争の熱に浮かされていく。

 

ーーーーいくよ。

 

言葉は開始の合図。

剣とケン。二つが交わるのにかかる時間は1秒にも満たなかった。

 

 

幾重にも管を束ね突き穿ち、発光する。

蛸と電球。それを相性が良いと誰が発見したのだろう。

オクトパスライト。とある力の片鱗。誰かの為に破壊(守護)する力は、今ビルドされた。

 

シールダーは戦う為に、仮面ライダーは守る為に。

 

ぶつかり合う。盾へ、鎧へ、アスファルトへ、ガードレールへ。

 

シールダーは攻撃をするたびに、仮面ライダーはいなすたびに戦闘の経験差を感じ取る。

世界のために戦い、世界のために傷つき、世界を守ってきた。

 

想いに違いは無い。優劣の差は今を動かす覚悟のみ。

 

仮面ライダーはシールダーを守る為に武器を出すことを躊躇して、シールダーは異変の元凶だろう仮面ライダーに全力を尽くして戦う。

 

立場、認知、情報。

仮面ライダーには足りなくて、シールダーには足りているもの。

 

だからこそ仮面ライダーは追い詰められていく。

ひたすら逃げの一手を使い、反撃の糸口を見つけようとしているが見つけようにも自身の体力が底尽きるのが分かっている。そして恐るべきはゲンムが現場へ復帰することだ。

 

助けの一手が必要だった。

 

『必ず来てくれよ、ソウゴ君』

 

仮面ライダーは時間を引き延ばす為の触手を伸ばす。

 

 

「踏み込んで!」

 

セイバーは己のマスターの言葉通り、踏み込んで真横に跳ぶ。

魔力を足裏から放出することで生まれる破壊力は、ディルムッドの身体を神速へと瞬間的に到達する。

 

ディルムッドは、そこから自身の赤い剣を木の幹へ突き刺し、無理矢理方向を変えて上方向へ跳躍を再び行う。その距離は凡そ15m。

 

「生死を分かつ境界線、今ここで見極める!」

 

ディルムッドは赤い剣を再度召喚することでその手に持ち、黄色い剣と共に月光を背に宝具を開帳する。

 

憤怒の波濤(モラ・ルタ)。超人的な跳躍から繰り出す神速の落下攻撃技。受ければ必死。避けることなど速度を以って切り捨てる。不意を突いた全力など避けれる訳がない。

 

仮面ライダーは交戦早々に勝機を確信した。

 

『ジオウサイキョウー!』

 

新たな武器をベルトから既に取り出し、必殺技を落下攻撃に合わせて放っていた。

 

『覇王切り!』

憤怒の波濤(モラ・ルタ)アァァァァ!」

 

 

同時にぶつかる必殺技。

極彩色の発光が夜の森を彩り、数秒ののちに消え去る。発生した衝撃波は木々をへし折り、枯れ葉を霧のように舞い踊らせる。

 

 

 

ディルムッドはマスターの元に転移していた。

 

「マスター、有難う御座います。令呪で呼び戻されていなければ、今頃消滅していました」

 

ディルムッドは己の主人の聡明な判断に心から感謝する。

ぶつかり合う、その瞬間。令呪による離脱を命令され、強制的に転移した。僅かでも遅れていれば、余波で霊核へ致命的なダメージを負い消滅を余儀なくされていた。

 

それ程までに仮面ライダーが放った技は絶大な威力を持っていた。

 

ディルムッドの背筋に凍りつくような悪寒が駆け巡る。

 

「マスター、私に最後の令呪を! 」

 

『Finish Time!』

 

枯れ葉が空気に煽られて舞い上がる。

何処までも伸びていく光の柱がある。文字通り威光を示す導は、それを振り下ろさんとする仮面ライダーを輝かせる。

 

「令呪を以って、命ずる。

 

ーーーー宝具を開帳せよ!」

 

『キング! GIRIGIRI Slash!』

 

ディルムッドは、令呪による魔力のブーストを受けて霊基を変化させる。元々は剣と槍の使い手、ランサーとしての適正もある。

そして、今この場面で必要なのはランサーで使える宝具だ。

 

ディルムッドは赤の槍ーーー癒すことの出来ない傷を負わせる事が出来る槍と、黄の槍ーーー穂先にて魔の力を祓う事が出来る槍を両手に持ち足裏へ魔力を通す。

 

仮面ライダーが極限にまで輝いた一閃を『ジオウサイキョウ』の文字と共に振り下ろす。その隙間を縫うようにディルムッドは走り出す。

 

受け止めては死ぬ。ならばその前に致命傷を与えればいい。

 

ディルムッドは流れる景色の中、両手の槍を突き出し、自身の身体を赤と黄の交わる一筋となり仮面ライダーへ肉薄していく。

 

5m。まだ踏み込める。

 

3m。まだ脚は動ける。

 

1m。頭上にある眩い光へ黄の槍先を触れさせ、赤い死を突き立てる。

 

 

重厚な胸部装甲を突き破り、血肉が爆ぜる音が聞こえる。

夥しい量の血液を枯れ葉へ溢していく。

 

ディルムッドは勝利を確信した。

仮面ライダーの確実なる死が槍を持つ手に伝わっていく。

 

「見えていたよ。その攻撃」

 

初めて聞いた敵の声は、幼い子供の様な高い声だった。

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

『藤丸君! 目の前に敵性反応! 気をつけて!』

 

『ロボ』の文字から人間が飛び出してくる。

怪しく桃色に光るその文字は『ライダー』。あれはーーーー

 

【KAMEN ライダー Rider ジオウ Zi-o ジオウ(ZiーO)(ツー)

 

仮面ライダージオウⅡ。

ーーーーあれ? さっきまで......戻った?

 

『あれは、人間なんでしょうか? 見るからに強化外装のようですが、この時代には相応しくない。一旦警戒した方がーーー』

 

「その必要は無いよ」

 

腰の部分に取り付けられていたアイテムを外すと、強化外装が淡い桃色の光に包まれて溶けていく。その中で俺は一人の人間が居る事を感じ取れた。

 

ーーーー君は?

 

月光が姿を映し出していく。

俺と同じ茶色の制服を身に纏い、あどけない笑顔で彼はこう答えた。

 

「常盤ソウゴ。2000年生まれの18歳。よろしく!」

 

彼は俺の前まで来て、右手を差し出した。

待て、今重大な情報を出さなかったか? 今の時代は2016年だ。彼が18歳だとすれば2歳サバ読んでるんじゃないのかい。

 

『......彼は正真正銘の18歳。1秒前に生体スキャンして得た情報だから確かだよ』

 

「どうかしたの?」

 

って事は彼はレイシフトも無しに時空移動してきたーーー

 

ーーーー『未来人!?』

 

「ちょ、ちょっといきなり大声出さないでってぇ......」

 

ーーーーごめん。

 

常盤ソウゴ君の数秒の悶絶が終わったのを見て、差し出された右手を握る。

 

ーーーー藤丸立香。19歳。人理継続保証機関フィニス・カルデアというところに所属している。よろしく。

 

「こちらこそ。見た目からして心強いよ」

 

やっぱりさっきの戦いは幻覚じゃないのかな?

ちゃんと暖かい人間の体温が、俺の右手に伝わってくる。

 

......さっきの戦いの事は黙っておいてね。ほら、右耳の人に余計な混乱を招くのも悪いし

 

と、同時に耳元へ囁いてくる。

確かに、と首を縦に振って言外に肯定する。

 

ーーーーそういえば仮面ライダーって言ってたけど、あの仮面ライダーで良いのかい?

 

「ん? どういうこと? 仮面ライダーは仮面ライダーだけど」

 

俺が知っている限りでは仮面ライダーはテレビ番組で放映されていた筈。

ということは仮面ライダーは実在していたって事? ならーー

 

ーーーー仮面ライダービルドって知ってる?

 

 

 

 

今、俺は大ピンチを迎えている。

マシュちゃんを抑えて戦闘を終わらせようとしたのに、突如現れたイケメンの双剣使いが戦闘に参加した。しかも、マシュちゃんの味方として。

 

【アーユーレディ?】

 

このイケメン双剣使い、物凄く強い。

剣に乱れが無くて一撃一撃が凄く鋭く重い。

正直言ってこれ程の剣術使いが現れるなんて予想していなかった。

緊急時に使えるよう目星をつけていた水色のエナジーアイテムを取得して、ビルドの装備を換装した。

 

【オクトパスダイヤモンド! トライアル!】

 

予想通りダイヤモンドボディに換装できた俺は、地面のアスファルトを触りマシュちゃんと離れるように動いて、ダイヤモンドの床に置換する。距離は10m程。

 

「アスファルトをダイヤモンドに変換!?」

 

そしてガンモードのドリルクラッシャーを呼び出して、『フェニックスフルボトル』をスロットへ装填。ダイヤモンドの床に狙いを定め、引き金を引いて発射する。

 

ダイヤモンドは900℃以上の高熱を継続して晒すことで無炎性の燃焼反応が現れる。その時白く輝いて、二酸化炭素を吐き出す。

フェニックスフルボトルは900℃以上の炎を継続して出すための燃料となり、特性として燃えるものがあれば延々と燃えることができる。

 

結果としてアスファルトの道路は、俺たちを守る炎の壁となった。

 

「これなら!」

 

右横はガードレールとアルトリアさん、左横は舗装された10m程の崖。

前は距離10mの超高温の炎。これならガードレールに飛んで逃げれるけれど、それじゃあセイバーを連れて逃げることが難しい。

 

故に、側にあった灰色のエナジーアイテムに手を触れる。

すると右側のダイヤモンドボディが換装される。

無機質のボトルで灰色はガトリングと時計。さあどっちだ!

 

【アーユーレディ?】

 

「ビルドアップ!」

 

【オクトパスウォッチ! トライアル!】

 

視覚モニターに正確な時間が表示される。

2004年 1月31日2時35分40秒。タイムトラベルをしているとは思っていたけど、13年前に来ているとは。

 

「いや、今はそうしている場合じゃないか」

 

と、背後に気配を感じる。

恐らくゲンムだろう。振り返って姿を見る。

 

そこには黒い髪の毛を模した頭部と特徴的なオレンジ色の瞳が光っていた。

 

「壇さん。逃げますよ!」

 

アルトリアさんを拾って逃げようとガードレールに向かう。

瞬間、背中に激痛が走り思わず膝をついてしまう。

呻き声が自分の口から出る前に、痛みが走った方向へ首を向ける。

 

そこにはガシャコンブレイカーのブレードをこちらに向けたゲンムがにじり寄ってくる。抵抗しようとオクトパスの触手をゲンムに向けようとしたが、その時には遅かったのか、俺の首を鷲掴みされ持ち上げられる。

 

「アッ......ク、ウ」

 

ゲンムの手の力はとても強く、脳に酸素と血が届けられるのを妨げられていくのが分かる。締め上げている腕を叩いて拘束を解こうとしてみるけどビクともしない。

 

酸素不足で霞んでいく視界に入っているのは、ゲンム。

いやこれはゲンムの姿をした誰かなのだろう。

それを推測するには、酸素が足りない。

やばい、意識が、なくなって......

 

くそ、こ、れ、じゃぁ......

 

「ビルドから離れろ!」

 

急に、身体が、宙を舞って、地面に落とされる。

 

口から新鮮な空気を何度か吸い込む。

ぼんやりとした意識が覚醒していく。

 

何とか定まってきた視界は、二人の人影を捉えた。

一人はゲンムのような姿をしているが、ベルトの部分がゲーマドライバーになっており、身体に走るラインも黒いボディと同じように同化していた。

何よりもゲーマドライバーの色が黒と赤の二色に変わっており、スロットに刺さっているガシャットも、ピンク色のゲンム......いや、エグゼイドが顔を覗いている。

 

「エグゼイド?」

「いや、あれは俺たちが知っているエグゼイドじゃない」

 

疑問に答えるもう一人の影。

赤いボディに四肢を黒いアーマーが保護している。それに特徴的なのは頭の文字だった。黄色い文字で描かれたひらがなの『らいだー』。

 

「あんたは?」

 

「俺は仮面ライダーゲイツ。お前を助けに来た」

 

ゲイツと名乗った仮面ライダーは手元のアイテムを取り外し、起動させる。

 

【Ghost】

 

機械音声が名乗る。

まさかあれって仮面ライダーゴーストの......

 

【Armor TIME!】

 

ゲイツの背後に現れたアーマーが分解して、全身を纏うように再結合していく。

 

【KAIGAN!Ghooooostoooo!】

 

最後に頭へ『ごーすと』の文字が嵌め込まれて、多分ビルドでいうビルドアップをして形態を変化させた。

 

「さぁ、黒いエグゼイド! いくぞ!」

 

 




仮面ライダーは運命(Fate)と邂逅する。

そして判明する真実。

全ての始まりが紡がれるーーー

次回、『2016:ライダータイム2004』

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2016:ライダータイム2004

祝え!
ライダーとカルデアの運命的な出会いを!

さて、前回までのextra gameを振り返るとしよう。

聖杯戦争が行われている冬木市。
そこにはサーヴァントと呼ばれる英雄の影、英霊が7騎。
様々な思惑が蔓延る中、連れ添うマスターと夜な夜な人知れず戦っている。

では私が気にしている人物とサーヴァントを紹介しよう。

『ルーラー』仮面ライダーレーザーと『フォーリナー』仮面ライダーゲンム、マスター上条茂夫の三人。

上条茂夫は穂村原学園の保険医として勤務しているごく一般の男性。
ランサーとアーチャーの戦いに巻き込まれた学生、ランサーが衛宮士郎を殺す現場を見てしまった彼は仮面ライダーレーザーである九条貴利矢を召喚し、契約を結びアーチャーとランサーを退けている。

仮面ライダーレーザー、仮面ライダーゲンム。
彼らは本来の歴史ならば仮面ライダーになる力を失っている。
我が魔王、仮面ライダージオウが仮面ライダーエグゼイドの力を受け継いだためにエグゼイドの歴史そのものが消えてしまったからである。

なぜ彼らが仮面ライダーの力を保持し続けているのか。
なぜ彼らがサーヴァントのエクストラクラスを得ているのか。

ヒントは時代のズレといえばいいでしょうか。

この時代に来た我々は仮面ライダーゲンムの記憶と力を持った檀黎斗と出会い、新世界を創世した仮面ライダービルドはビルドの力を奪われて......おっと、これはまだ語っていない話でしたね。

ではこの話はまた今度しましょう。

少し私も出掛ける用事がありまして。

【WOZ!】



煌々と輝く炎の壁。

ビルドのダイアモンドとフェニックスを使用し、分断されたマシュとディルムッド。

 

「......やられましたか」

 

ディルムッドは分断した意味を推測し、逃げるためにこの方法を使ったのだと状況を解析する。

ディルムッドは崖下の森を観察する。

 

「......安易な方法で逃げてはいないそうですね。マシュ嬢、少し頼みがあります」

 

マシュに耳打ちをして、炎の間際に立たせる。

ディルムッドは後ろに下がり、10m程の距離を開ける。

 

ああ、マシュの盾を使い炎の盾を類い稀な跳躍力で跳び越える訳ですか。では私も出るとしましょうか、我が魔王の頼みですから。

 

「跳び越えても無駄ですよ。マシュ・キリエライトとディルムッド・オディナ」

 

マシュの横へ突然で現れてみれば、咄嗟にディルムッドの方へ後退される。顔を見れば大変驚かれている様子。突然知らない人間が自分の名前を呼びながら現れたとあれば、それも当然でしょうか。

 

「......あなたは誰ですか?」

 

マシュは至極当然な質問を私に問い掛ける。

では、場を盛り上げていきましょうか。

 

「我が魔王仮面ライダージオウの忠実なる臣下ウォズ」

 

魔王?とでも言いたげなマシュとディルムッド。

しかしながら、自己紹介はまだ終わってはいない。

 

「そして、未来の仮面ライダーである」

 

【beyondriver】

 

ビヨンドライバーを腰に当て、ベルトが射出され腰に固定されたことを音で確認して変身のキーアイテムであるウォズミライドウォッチをレバー一体型のスロットへ装填する。

 

【action!】

 

装填完了が確認され、立体エネルギーフィールドが形成されていく。

マシュ達は変身を阻止する為に武器を手に動きだしていた。

距離が詰まる前に、ミライドウォッチの天面のボタンーーリューズを押し内部の機構を露出させ、レバーを前に倒す。

 

【TOUEI!】

 

ミライドウォッチのパワーがビヨンドライバーへ書き記される。

アーマーが形成され、もう一つの私の姿が浮き彫りになっていく。

 

「変身!」

 

【future time】

 

身体に沿うようにライドアーマーが装着され、銀色の強化外皮が我が身を包み込む。

 

【SUGOI JIDAI MIRAI! KAMEN rider WOZ! WOZ!】

 

アーマー装着が完了したことを告げる音声と共に、視覚モニターが鮮明に映る。黄色の剣の切っ先を我が身に突き刺そうとしている。

右手を突き出し、ドライバーから1.5m程の棒状の武器を転送していく。

 

【JIKAN DE spear!】

 

そして武器に取り付けられた非ボタン型液晶コンソールに表示されたアイコンの一つへ触る。

 

【YARISUGI!】

 

ジカンデスピアーの槍モードが選択され、棒の先に槍の穂先が出現する。

 

「はっ!」

 

剣を弾き、次いでくるもう一振りの剣を武器の長さを利用し、ぐるりと周囲を薙ぎ払うように振り被り強制的に後へ回避させることで未然に防ぐ。

 

【TUESUGI!】

 

間髪入れずに杖モードを選択。

穂先が変形しフック状の鉤爪を出す。そして、コンソールの一番上のアイコンを触り、四つあるアイコンの列を上の一方向へ素早く三回なぞる。

 

【finish time!】【FUKASIGI magic!】

 

アスファルトをジカンデスピアーで叩き、地面という情報を歪ませる。そこにあるのは、私という存在を隠すために白煙を一面に吹き出す心優しいアスファルト。

当然私がこの有利な状況を活用しない訳はなく、マシュ達の後ろへ回り込み腕部のホルダーに装着されているミライドウォッチの一つを外して起動させる。

 

【QUIZ!】

 

最低限の手での無力化は難しいとはいえ、この力は使うしかあるまい。

 

【fashion passion question! futurering QUIZ! QUIZ!!!】

 

仮面ライダークイズの力を宿すライドアーマーへ上書きし、再装着させる。さらに強化された視覚モニターが煙の中のマシュとディルムッドの輪郭を強調して表示する。

私は彼らに向けて高らかに宣言する。

 

「問題、仮面ライダーは倒すべき敵である。○か×か?」

 

 

「いくぞ、ビルド!」

 

ゲイツがベルトに付いているウォッチを操作して一回転させる。

それに合わせて俺もガシャットを左腰のホルダーに装填し、ドリルブレイカーの鍔元のスロットにタートルフルボトルをセットする。

 

【OMEGA time burst!】

 

ゲイツが高く跳び、呼び出したゴーストを右足に収束させて空中キックの姿勢になったのに合わせてボタンを押しトリガーを引く。

 

【ライダー クリティカルフィニッシュ!】【Vortex Break!】

 

亀の甲羅状のエネルギーを撃ち出したのをウォッチボディの効果で停滞させ、ダイヤモンドボディで殴りダイヤモンド化させてゲイツのキックに合わせて停滞を解く。

 

【ズキュキュキューン!】

【アクション ロボッツ クリティカル フィニッシュ!】

 

黒いエグゼイドは橙、青、黄の色が輝く剣の形をしたものを呼び出しロボットの腕に似たエネルギーを撃ち出す。丁度俺が撃ち出したダイヤモンド甲羅を弾くかのような軌道を描く。

このままでは撃ち負けてしまうのは分かっている。

だから、俺は叫ぶ。

 

「いけ! ゲイツ!」

 

初めて会った気がしない仮面ライダーに向かって、叫ぶ。

ゲイツは裂昴の勢いでダイヤモンド甲羅へ向かって空中キックを押し込むように繰り出す。

 

「うぉぉぉおお!!でぃああああぁぁぁぁぁぁ!」

 

着弾点にて爆発。強い空気振動が発生している。

豪炎が巻き上がる時間は秒にも満たないが、ライダーダブル協力アタックは決まったと確信していた。

 

【ジャジャジャキーン!】

【マイティーブラザーズ! クリティカルフィニッシュ!】

 

聞き慣れない電子音声を聴覚センサーが捉える。

咄嗟にドリルブレイカーのフルボトルをタートルからロボットへと変更する。

 

すると、爆炎の中から赤い物体が飛んでくる。

それをしゃがんで躱すしか方法は無かった。

 

「くそっ! だったら!」

 

仮面ライダービルドのデータを使い、紫の銃ネビュラスチームガンを呼び出す。そして紫色のフルボトルを装填する。

 

【Crocodile!】【Ready GO!】

 

ネビュラスチームガンの銃口に溜まったエネルギー。

狙いを付けて放つ。ただそれだけでいい。

 

なのに、黒いエグゼイドの姿を見るだけで肩を並べた瞬間を思い出す。

 

エグゼイドは容赦なく敵を屠るような奴だったのか?

 

世界を救う為に俺と共に戦ったエグゼイドをそうだと言い切れる自信は無かった。いや、複数の平行世界があると分かっているからあのエグゼイドがこのエグゼイドと同一人物の可能性は低い。

だから信じたい。

だからこそ救いたいのかもしれない。

俺を、桐生戦兎を創り上げてくれた一人だから。

たとえ、姿形が一緒の別人だったとしても仮面ライダーの名において絶対に救いだしてみせる。

エグゼイドーーーー宝条永夢、あんたを!

 

【Funky Break!】【Vortex Break!】

 

【Crocodile!】

 

トリガーを引き絞り、二発のエネルギーを放出する。

鰐と鋼のベストマッチが一つの銃弾となってエグゼイドの剣にぶつかる。拮抗する力。もう一つ同じような力を加えれば!

 

「なら、これだ! フルボトルバスタァァア!」

 

両手剣としての破壊力と大砲としての破壊力が組み合わされた、史上の傑作をガシャットから呼び出し、フルボトル装填口へ4つのフルボトルを装填する。

 

【Rabbit】【Tank】 【Dragon】 【Lock】

 

【Ultimate Much DEeeSU】

 

今出せる全力を注ぎ込み、フルボトルバスターをエネルギーごと斬りかかる。俺の横には万丈、いや仮面ライダークローズが居た。

 

『戦兎、俺の力を貸してやる。ぜってぇ負けんなよ!』

 

幻覚というのは分かっていた。

けれど、如何にもあいつが言いそうな台詞だからそこに居ると思うことにした。それだけで両手に力が入る。

 

『俺達のだろうが、筋肉馬鹿。協力、絆、絶大ィ! 誰が俺らを止めて見せるつもりダァ! ぶっ壊してやれッ!』

 

一海、仮面ライダーグリスの激励が飛んでくる。

もう一歩足を出すことが出来た。

 

『葛城、行け。愛と平和の為に!』

 

幻徳、仮面ライダーローグの発破。

仮面ライダーは愛と平和、ラブ&ピースを胸に戦う戦士の称号だ。

決してただ戦うだけの機械じゃない。

 

剣を纏うエネルギーを放出する。

全ての想いを乗せて、俺はフルボトルバスターを黒いエグゼイドへ斬りかかる。

 

袈裟切りと袈裟切り。

伴うエネルギーのぶつかり合いはこの世とは思えないほど綺麗で、眩い光の応酬だった。

均衡は保たれたまま、引くことも押すことも出来ない。

ただただ力の塊が個を主張するように火花を飛び散らして、終わりの瞬間までをカウントダウンする。

 

「うぉぉおおおお!!」

 

黒いエグゼイドが更に力を入れる瞬間に、想いを込めて叫ぶ。

この行為に何も意味はない(ただの筋肉馬鹿)。しかし腹を据えるにはもってこいのルーチンだ。

 

「『いけぇぇぇぇええええ!』」

 

バキリと物質が割れる音が微かに聞こえてくる。

どちらの武器が割れた音かどうかなんてのは分からない。

ただ言えるのは、自分自身だけが頼りだってことだ。

 

【Ultimate Much Break!!】

 

自分の武器が移動した感覚を元に、思いっきり地面まで降り下ろす。

純粋な破壊エネルギーの奔流は黒いエグゼイドへ全て注ぎ込まれる。黒いエグゼイドの輪郭がブロック状にぐらつき、闇夜に溶けていくのが視界の端に映る。

 

途切れ途切れに吐いた空気がとても痛い。

身体にダメージがきている。手足に力が抜けてもう一歩も動けそうにもない。思えば、あの戦いから一回も休憩をしていない。だから動けないのだろうと思考する。

 

「ごめん、後は頼む......」

 

ビルドを構成していたデータが歪み、霞み消える。

データのアシストが無くなった身体は鉛よりも重く、アスファルトの上に物理法則の下重力に従って張り付く。

 

俺は視界に映る、金髪の女性......アルトリウス王の擬人化とされている姿を脳に焼き付け、繋げるのが限界な意識を放り投げた。

 

 

 

 

『サーチホーク! 探しタカ・タカ!』

 

常盤ソウゴと藤丸立香は森の中を不思議な機械、『タカウォッチロイド』と呼ばれるものの後を尾けていた。

縦横無尽に飛び回り、けれど追いつける距離と速度。二人は体力を競い会うように走っている。

 

常盤ソウゴのすぐ後ろの位置にいる藤丸立香は一つ疑っているものを問い質す。

 

「ねぇ、やっぱりあれってタカ『カンド』ロイドじゃないの?」

 

その質問は常盤ソウゴに既視感を与えた。

 

先程話していた仮面ライダービルドの物語も、常盤ソウゴにとっては未知だというのに藤丸立香という少年は詳細に語っていた。

 

仮面ライダーというものに対して詳し過ぎるとして常盤ソウゴは目の前の少年に対して警戒する。

 

「それって......仮面ライダーオーズのことを言ってるの?」

 

常盤ソウゴは自分が知る限りの仮面ライダーオーズの物語を思い出してみる。

 

アナザーオーズの力を使い世界征服を企んだ檀黎斗王。

その野望を阻止するのに協力してくれた火野映司、泉比奈。託されたオーズライドウォッチとオーズタジャドルコンボライドウォッチ、そしてタカウォッチロイド。

 

カンドロイドというのは理解出来なかった常盤ソウゴだったが、とりあえず相槌をして話を進める事にした。

 

「オーズの事も知ってるんだ。仮面ライダーオーズ、欲望の王。俺の一番好きな仮面ライダーなんだ。なんたってね......」

 

喜色を浮かべて語り始める常盤ソウゴの知らない仮面ライダーオーズの物語。

その中には火野映司やら、泉比奈やら聴き覚えのある人物の名前があったもののアンク、鴻上ファウンデーション、真木博士など聴き覚えのない名称や名前が飛び交っていた。

 

常盤ソウゴの頭が膨大な量の情報に溺れてかけてオーバーヒートを起こす寸前、先行していたタカウォッチロイドは急に旋回してソウゴの頭に乗る。

 

「どうしたの? 何か見つけた?」

 

タカウォッチロイドはとある一点の方向を見つめて頭を軽く突く。

常盤ソウゴはその一点を見つめてみた。

淡い月光の映す木々が開いた場所の中央に居座る漆黒の人形。それが纏う邪気が常盤ソウゴに茂みに隠れる選択肢を選ばせた。

 

藤丸立香も直感から同じく隠れる選択肢を選び、様子を伺う事にした。

 

「......あれは、一体何だ?」

 

常盤ソウゴは漆黒の人形を注視して見てみる。

全身がモノクロであり、頭はモヒカンで目の部分が眼鏡に似たバイザーを付けている。その奥には黄色く瞳が輝いており、上半身を包むアーマーもゲイツリバイブ剛烈に似たマッシブで強固そうな形状をしている。

 

腰の方を見ると円形のギアがついた機械が黒い機械に刺さっている。

形状からガシャットと判断したソウゴは懐から携帯型のガジェットを取り出す。

 

「こういう時は......これを使って暗視ズームして録画すれば」

 

展開した画面を通してガシャットを見る常盤ソウゴ。

横からその光景を眺めていた藤丸立香は、ソウゴへ呟くように言葉をかける。

 

「......それって?」

 

「ファイズフォン(テン)。便利だよ、これ」

 

「......え? ファイズフォン? 形変わりすぎてない?」

 

「遠い未来の物、だからね」

 

じゃあ何で遠い未来の物を持っているんだよというツッコミを寸前のところで喉の筋肉を使い飲み込んだ藤丸立香であった。

 

常盤ソウゴは画面に映るガシャットの文字を詳しく見る。

 

「パーフェクトパズル、ノックアウトファイター? 確かガシャットギアデュアルだっけ、何でここに?」

 

観察をする中、変身をしていた黒い人型は鎧を細かいブロック状に変化させて霧散させていく。その中から出てくる人物もいる訳であり、常盤ソウゴはその顔を見て、固唾を呑む。

 

アナザーエグゼイドを倒すための手掛かりを与えてくれた人物。

常盤ソウゴを王様になることを応援して、ライドウォッチを譲ってくれた人。

レジェンドライダーとして、忘れることはない名医。

常盤ソウゴは思わずその名を口から溢す。

 

『「何で、永夢(上条)先生がここに......!』え?」

 

覚えのない誰かの声、重なることのない言葉が重なってしまう。

常盤ソウゴは誰かの声の出処が、画面のズームの先に二人の、赤毛の少年と黒髪ツインテールの少女を映しているのに気づく。

 

「衛宮士郎......最悪、遠坂凛もいる。いくよ、藤丸さん。俺が飛び出したら、サーヴァントを呼んで。 出来る限り防御寄りの宝具持ってるのを」

 

素早くファイズフォンXを懐に仕舞い、変身する為の道具、大型の腕時計に似た機械、ジクウドライバーを腰に当てベルトを射出させる。

 

藤丸立香は耳元のデバイスを一回叩き、ノウムカルデアとの通信を開く。

 

『会話は全て聞いてます! マスターはジャンヌさんの召喚を! デバイスを二回連続でタップしてください、霊基トランクが転送されます!』

 

指示通り二回タップ。すると、一瞬の青い光と共に藤丸立香の眼前へ霊基トランクが出現する。

 

当然、少年と少女、宝条永夢に似た人物も光に気付く。

 

「今度は何だよ!」

「嘘......何で穂群原の生徒がここに!?」

「へぇ......君たちも居たんだ」

 

三者三様の反応を横目に、常盤ソウゴは隠れていた茂みから飛び出しながらライドウォッチを起動する。

 

ZIーO!(ジオウ!)

 

Rスロットに素早く差し込み、天面に取り付けられたボタンを叩きベルトの回転ロックを解除して、僅かに右側へ傾いたベルトを手首のスナップを効かせながら弾く。

 

「変身!」

 

常盤ソウゴの周囲の空間が一回転する。

カチリとハマるように戻った景色は、祝福の鐘を鳴らす。

 

【rider time】

 

祝え、魔王の誕生をと。

 

【KAMEN rider!ZIーO......】

 

時計盤を模した仮面にライダーという言語を付け加えた戦士。

仮面ライダージオウ。

全てのレジェンドライダーの力を受け継いだ、時空の王。

 

「さぁ二人を守るよ! カルデアマスター、サーヴァントを!」

 

藤丸立香はトランクへ魔術回路を開き、魔力を注ぎ込む。

右手の簡易令呪の一画が消失し、召喚陣を地面に展開する。

 

起動するための呪文は要らない。

時を満たすは、かつての聖杯探索(グランドオーダー)にて刻まれた縁。

藤丸立香自身に刻まれた絆が、英霊を呼び出す。

 

「お願いします! ジャンヌ・ダルク(・・・・・・・・)さん、来て下さい!」

 

強い願い。

虚空から時を超え、藤丸立香を助けんと駆けつける英霊が一騎。

召喚時特有の蒼き雷光を纏いながら、エーテルを特定の人物へと変化させる。

 

流れるような長い金色の髪。温和な、思わず見惚れてしまうほどに純真な顔立ち。手に持つは白き旗。

 

歪なる百年戦争を、自身の別側面と対峙し、藤丸立香と共に撃破した聖女。その旗を振りかざせば、万全の防御を得られ、あらゆる攻撃を弾き返す。百年戦争の英雄。ジャンヌ・ダルク参上。

 

「マスターの命にて参りました。さぁご命令を!」

 

藤丸立香が命令するは一つだけ。

仮面ライダージオウと共に二人を守ってくれと。

ジャンヌ・ダルクは歯切れよく肯定、と声を重ねて答える。

 

もう一つの声。

ジャンヌダルクの影から瓜二つの顔が現れる。

流れるように長い銀色の髪。敵意を剥き出しにした、思わず見る者を凍えさせる程歪み切った笑みを顔に浮かべる。

その手に持つは黒き旗。

 

「面白いことをこの私に黙ってやろうだなんて、意地の悪いマスターだこと。私は私で勝手に動かしてもらうわ、いいわね」

 

ジャンヌ・ダルク・オルタ。ついでに参上。

 

「もう一人のジャンヌ・ダルクもいることをお忘れ無きよう」

 

「分かった、やり過ぎないようにね!」

 

ともかくも二人の聖女は魔王と並び立つ。

赤毛の少年衛宮士郎、黒髪ツインテールの少女遠坂凛の前に。

 

「.......これ、夢でいいのよね。きっと............すっごく頭が痛い」

 

「遠坂。気をしっかり持て......俺も、頭が追いつかないから」

 

魔術師の世界での常識的に二騎のサーヴァント召喚は、人間の身では到底行えない。それもジャンヌ・ダルクと呼ばれた英霊が別側面と共に並び立つというのは、やはり常識的ではない。

 

「大丈夫ですか、お顔の色が悪いですよ」

 

遠坂凛は後ろから声がかけられて、振り向いた。

癖っ毛の強い黒髪が特徴的な、クリッとした大きい純粋な瞳の穂群原学園の制服を着た青年が心配そうに見つめていた。

 

その横に、純白に緑と赤のリボンが添えられた槍を持つ、5、6才程の銀髪の幼女も居る。

 

幼女ーーーーーー

遠坂凛は勘付いてしまった、勘付いてしまうことは必然だった。

 

ああ、きっとこの子もサーヴァントなんだろうなと。

 

「......ええ大丈夫よ、逆に気分が良くなったわ」

 

「それは良かった」

 

遠坂凛は目の前を見ることに集中した。

既にその事に辿りついた衛宮士郎の事をほんのちょっぴりだけ感心したことは語らないでおこう。

 

 

閑話休題。

 

 

常盤ソウゴは生のジャンヌ・ダルク達を見た興奮を抑えながらも目の前の敵を見据える。

 

「へぇ、君達は俺を楽しませてくれるのかな?」

 

宝条永夢に似た敵は、黒いガシャットギアデュアルを反時計回りに回し起動させる。

 

【Knock Out Fighter】

 

静かに名乗り上げられたのは、烈火に燃え上がる戦士。

モノクロのワイヤーフレームが広がり、敵はガシャットの起動ボタンを押す。

 

「変身」

 

【......Hit Knock Out Fighter】

 

身体をモノクロの鉢巻を巻いた戦士の絵が透過し、変身を完了する。

肩に付けられていた装甲を拳に纏い、臨戦態勢へ移行する。

 

「じゃあ、ステージセレクトだ」

 

【Stage Select】

 

ステージセレクトの操作を行い、戦いに相応しい場所へと移動しようとしたが、中々移動する気配がない。

 

【level up! EXーAIiiiiiD】

 

おかしいと思い、目の前に立ちはだかる者の姿をもう一度見た。

黒と白と相反した色相を纏いながらも、その顔は双子のようにそっくりな聖人サーヴァント二騎。

肩にガシャット形状のアーマーを纏い、ガシャコンブレイカーのブレイカーモードのような形状のハンマーを肘まで一体化させ、顔にはエグゼイドと文字が描かれた仮面を装着した戦士が居た。

 

「ステージセレクトはさせない!」

 

「へぇ、そう来なくちゃ。ああ、あんたが俺の力と同じなのか、確かめないとなぁ」

 

来い、と手首を動かして挑発する。

常盤ソウゴ、仮面ライダージオウエグゼイドアーマーは両腕を包むガシャコンブレイカーブレイカーを構える。

 

「ジャンヌさん! ジャルタさん! いくよ!」

 

誰がジャルタよ!という黒い聖女の旗が、戦士の纏う烈火の拳と鐘の音に似たぶつかり合いが冬木市の森の中で響きあう。

 

それは出会いを告げるのか、戦いの幕開けを告げるのか。

 

まだまだ冬木市の夜は明けない。

 

いや、冬木市というデータはまだ物語を綴る事を始めていない。

 

 




ーーーー実を言うと物語はまだ始まっていない。

しかし、いくつもの物語は交わり、新たな物語を綴る。

それらを神は見届けるであろう。

次回、「2016:アーマータイム2004」

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