Fate/wizard of genesis (ゆーーーーん)
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第1夜

今回初めての投稿です。色々至らないところはありますが楽しんでもらえたら嬉しいです。


「――告げる。

 汝の身は我が下に、わが命運は汝の剣に。

 聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」

 

黒髪の少女、遠坂凛は唱える。

 

「誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者」

 

魔力の流れによりカーテンはなびき、羊皮紙は舞う。

 

「我は常世総ての悪を敷く者。汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ。

 我に従え!ならばこの命運、汝が剣に預けよう!」

 

眩い光が部屋の魔方陣に集まる。数々の偉業を成し遂げ、人々が憧れる英雄が今ここに顕現する。

 

「間違いなく最強のカードを引き当てた!」

 

自分の中の魔力がすべて抜けていくような感覚に期待と興奮に胸躍らせる遠坂凛の目の前には最良のサーヴァント、セイバーが現れる、、、はずだった。

 

しかしそこには長い青髪を一本の三つ編みにし、先端から植物の生えている杖を待ち、アラビアン風の衣装を身にまとった少年が立っていた。

 

「やあ、初めましてマスター、僕はアラジン。

 キャスターのサーヴァントさ。」

 

「キャ、キャスタァァァァァァァァア!?」

 

セイバーどころか三大騎士クラスすら逃しよりによってキャスターを引き当てるなんて…

触媒はちゃんと用意すべきだった…

今更過ぎる後悔をするうっかり遠坂にアラジンは心配そうに話しかける。

 

「大丈夫かい、マスター?」

 

「ごめんなさい大丈夫よ、気にしないで。

 それよりあなたの真名は千夜一夜物語の

アラジンなの?」

 

凛は立ち直ってはいないが目の前のサーヴァントに向き合うことにした。アラジンと言えば千夜一夜物語の物語のひとつ、アラジンと魔法のランプの主人公である。さらに、アラジンには最強とも言える魔神がついている。その力を使うことが出来るのなら聖杯戦争に勝利することが出来るかもしれない。しかし、凛の問に対しアラジンは首を横に振る。

 

「そのお兄さんとは同じ名前なだけさ。僕はマスターの世界では無名のサーヴァントになるね。」

 

凛の期待はことごとく裏切られる。さらに、無名のサーヴァントときた。

聖杯戦争にとって真名は重要な情報になる。知名度が高ければ補正がかかるが有名なほど弱点も知られやすくなってしまう。逆に無名ならばそういった心配はなくなるが補正はかからない。

 

「む、無名…」

 

無名のサーヴァントと聞いた凛は静かにため息をつく。

凛とは裏腹にアラジンは部屋にある儀式の道具に楽しそうに眺めていた。自信を無くしかけるマスターを従者は励ます。

 

「大丈夫だよ、マスター。君が呼び出したサーヴァントが弱いはずないじゃないか!それに、君はきっとそんなことで負けを認めて諦めたりなんかしないはずだよ!」

 

アラジンの言葉に凛は顔を上げ自らが呼び出したサーヴァントの目を見つめる。

 

「だって君はこんなにもすごい儀式をやってのけたじゃないか!」

 

子供みたいに笑いながら自分を褒めてくれたサーヴァント。そんなアラジンを見て凛はつい笑ってしまう。

 

「サーヴァントに慰められてるようじゃマスター失格ね。いいわ、あなたは最高のサーヴァントよ。改めて宜しくねアラジン。」

 

「うん!よろしくね、マスター!」

 

 

ここにうっかり魔術師と創世の魔法使いのコンビが誕生する。

 

「ところで、マスター?」

 

「なにかしら、アラジン?」

 

ここで、アラジン要らぬ疑問を抱いてしまった。

 

「マスターは女……の人なのかな?」

 

アラジンは凛の胸元を見ながらそう聞いてしまう。

何かを察した凛の顔はみるみる赤くなっていく。

 

「女に決まってるでしょうが!やっぱり最低のサーヴァントだわ!!!!」

 

顔を真っ赤にしながら撃たれた凛のガンドはアラジンの顔面に炸裂する。

 

「マ、マスターごめんよ…」

 

「もう知らない!」

 

ドアを強く閉め部屋を出ていく。

2人の始まりは最悪になってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第2夜

石の宝であふれかえる宝物庫。

そこで倒れている金髪の少年をかばうように今よりも幼いアラジンが赤髪の少女と対峙していた。

 

アラジンが杖を掲げると莫大な量の小さき光の鳥が集まる。それはまるで光の鳥たちに彼が愛されているかのように。

 

それを見たひとりの青年が興奮しながら叫びだす。

 

「ああぁ!彼こそが...偉大なる創世の魔法使い......マギ!!!!!!」

 

 

_____

 

 

 

「マギ....」

 

凛はそう呟きながら目を覚ます。これはきっとキャスターの過去だろう。

他人の記憶を盗み見ているようで気分はよくない。

しかし凛は先ほどの夢でキャスターに聞きたいことができてしまった。

創世の魔法使い。これを聞くだけで彼が相当な魔法使いだとうかがえる。

それとマギとは何なのか。

 

そんなことを考えながら階段を降りリビングへ向かう。

時刻は午後5時。もはや授業は終わり無断欠席だ。

 

「召喚の疲れかしら、、」

 

ドアを開けリビングに入るとソファで気持ちよさそうに眠るアラジンがいた。

 

本当にこんなのが創世の魔法使いなのかしら

夢とは違い15歳ぐらいに成長しているキャスター。

凛はあきれながらキャスターを起こす。

 

「起きなさいキャスター! いつまで寝てる気!!」

 

 

「わあ! おはようマスター」

 

 

「もう夕方よ」

 

凛はそういいながら紅茶の準備をする。

お湯を沸かしお気に入りの茶葉を出す。

 

「そういえばあなたってマギなの?」

 

寝起きに聞くことではないが気になっていた凛はふと聞いてしまう。

 

「うん、僕はマギさ

 特徴としては...そうだね魔力がほぼ無限に使えるってとこかな」

 

「無限に!!?」

 

とんでもない情報をあっけからんと言われ凛は唖然とする。

 

「そういうことは早く言いなさいよ!!!」

 

「ごめんね。言い忘れてたんだ。

 それと.....僕は昨日マスターに大事なことを聞くのを忘れていたんだ。」

 

そう言われ、凛は生唾を飲む。

魔力無限などと同じくらい重要なことがあるのか。

緊張で冷や汗すらかき始めた凛にキャスターは問う。

 

「マスターの名前を教えておくれよ。」

 

自らのマスターの目をじっと見つめ優しく微笑みながら。

 

そんなこと..

と思う凛であったがそれと同時にキャスターの暖かみを感じた。

このサーヴァントは相手の名前を心の繋がりを大切に思っているのだ。

凛はそんなキャスターに微笑み返しながら自らの名前を告げる。

 

「私の名前は遠坂凛よ。」

 

「じゃあ。凛さんってよんでいいかな?」

 

「ええ。」

 

心優しきサーヴァントに気分を良くし、鼻歌を歌いながら二人分の紅茶を注ぐ。

 

「紅茶を飲み終えたら街を案内するわ。」

 

「ほんとかい?それはすごく楽しみだね。」

 

戦場の下見に行くのに遠足気分なサーヴァント。

信頼と不安が入り混じる凛だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




お気に入り五件ありがとうございます!
一話からお気に入りは執筆意欲がわきます。


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第3夜

少し時間が空いてしまって申し訳ないです、、、
お気に入り登録もありがとうございます。


「ここが学校なんだね!」

 

目を輝かせながらキャスターは言う。

ここに来るまでも八百屋や魚屋、喫茶店に本屋などあらゆる建物に興味をもっていた。

一度、真剣な眼差しをした時があったが、それはただ路地裏のいかがわしいお店を凝視していただけだったが、、、

 

 

日は落ち、あたりはかなり暗くなっていた。

生徒は全員下校しているのか、校庭には静けさが漂う。

 

「日本の学び舎って初めて見るよ僕!

 早く案内しておくれよ、凛さん!」

 

相変わらずのテンションである。

ウキウキしながら歩くキャスターとそんな彼を不安そうに見る凛。

 

もしサーヴァントと鉢合わせたりしたら大丈夫かしら、、

 

凛の不安は募るばかりだった。

 

教室、理科室、視聴覚室

色々な部屋をまわりながら最後は屋上に出る。

 

「特になにもなかったわね。」

 

ほかのマスター達が何か仕掛けているかもと警戒していた凛だが、その心配は杞憂に終わる。

 

「わあ、すごく綺麗。

 アリババ君にも見せてあげたかったなあ」

 

屋上からの夜景につい友を思い出す。

 

「アリババ君?」

 

「うん。僕の友達さ!

 とっても面白いし強いんだよ。」

 

友の話をするアラジンは嬉しそうで自慢げだった。

 

 

 

 

 

 

「――へぇ、なら一度殺りあってみてえな。」

「――――っ!」

 

 

咄嗟に振り返る。給水塔の上から獣のような眼をした青い男がこちらを見下ろしていた。

 

 

「夜の学校でデートたぁ、いい御身分じゃねぇか。」

 

軽口を言うこの男だがこいつとは戦ってはならないと凛の本能が警報を鳴らす。

 

「キャスター、あなた飛べる?」

 

「うん、できるよ。」

 

即答するアラジン。

極めて高度な魔術に分類される飛行魔術。それができるというアラジンに凛は少し驚く。

  

  ――魔力無限なだけあるわね

 

そんなことを考えながら足に強化の魔術をかけ屋上から外へ駆け抜ける。

 

「キャスター、着地任せた!」

 

「おい、いきなり逃げんじゃねえよ!」

 

フェンスから足が離れ、身体は宙に舞う。

そんな危機的状況の中アラジンが問う。

 

「ねぇ、マスター。

 僕は飛べるけどマスターを支えるための筋力がないけどどうする?」

 

 

「「えっ?」」

 

アラジンの突拍子もない発言に相対する。揃うはずのない敵同士の二人の声が重なる。

 

「ちょっ、キャスタァァァァァァァア!!!!!!」

 

「ふふっ、任せて凛さん。

 飛べっ魔法のターバン!」

 

アラジンの額の宝石からターバンが広がる。

 

「まっ、魔法のターバン!?」

 

 

驚く凛をターバンに乗せると軽く浮遊しながら校庭の中央へと降りる。

 

「ふふっ、ごめんねマスター。

 驚いてしまったかい?」

 

「驚いてしまったかい?じゃないわよ!

 死ぬかと思ったじゃない!」

 

飛行魔術の初体験に呆気にとられていたがその前のアラジンの過ぎた冗談に激高する。

 

「まったく、こっちまで驚いちまったぜ...」

 

こちらに追いついたランサーは呆れながら真紅の槍を構える。

 

「ランサーのサーヴァント――」

 

「如何にも。そういうあんたのサーヴァントは.....キャスターか?

 キャスターがこんな序盤から白兵戦たぁ、ずいぶんなことじゃねえか。」

 

獰猛な殺気を受け、凛は不安そうに自らのサーヴァントを見る。

そこには隙を見せずランサーを見据える凛が一度も見たことがない真剣な表情のアラジンがいた。

 

 

 

 ――本当にわけのわからないサーヴァントね

 

 

 

強烈なサーヴァントを前にしても、不安を見せないアラジンに評価を上げる。

 

「キャスター。手助けはしないから――貴方の力、今ここで見せて?」

 

「任せておくれよ、凛さん」

 

アラジンは杖を構える。

 

「いくよ、ランサーくん!」

 

「くんは余計だっ!」

 

一瞬で距離を詰めたランサーの槍の突きがアラジンに迫る――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第4夜

時間が経つのは早いですね、、、


「いくぜ、坊主!」

 

迫るランサーの槍に対し、アラジンは杖を掲げ言葉を紡ぐ。

 

 

 

防壁魔法(ボルグ)

 

 

 

アラジンを覆う光の球体、悪意あるものの攻撃を防ぐ防壁魔法(ボルグ)

ランサーの初撃はアラジンの防壁魔法(ボルグ)によって防がれる。

 

「ずいぶん固い守りじゃねえか。一突きで終わらす気でいったんだがな...」

 

「ふふっ、僕の防壁魔法(ボルグ)はそう簡単に割らせないよ。」

 

ランサーの攻撃を防ぐアラジンだったが、同時に違和感も感じていた。

 

 ――――ルフが集まらない...

 

内心焦るアラジンとは逆にランサーは高揚していた。

 

「でもなあ、守ってばかりじゃあ俺には勝てねぇぜ?」

 

「ここからさ、重力魔法(うーごくん)

 

アラジンの目の前に砂の巨人が形成されていく。校舎を超えずっしりと佇む巨人の姿にランサーの口角が上がる。

 

「ハッ、ゴーレムの作成と来たか!

 いいぜぇ、ぶっ壊してやるぜ。」

 

ランサーの神速の槍術が巨人を襲う。

 

 

 

 

 

 

――――これがサーヴァントの戦い...

 

ランサーと互角に渡り合うキャスターを見て凛は驚きでいっぱいだった。

キャスターが現れた時には聖杯戦争をあきらめかけた凛だったが、それは杞憂だったと今は思う。

 

 

だが、五分五分に見えた二人の戦いの均衡が崩れる。

 

 

巨人のパンチをものともせずかわすランサーに対し、ランサーの攻撃は全てヒットし砂の巨人は崩壊寸前だった。

 

 

「ほらよぉ、これで終わりだぁ!」

 

ランサーの攻撃に為すすべなく崩壊する巨人、、、

 

「うーごくん....」

 

「さあ、次はご自慢のその防壁を我が必殺の一撃をもって破り去ろう。」

 

悪い笑みを浮かべながら姿勢を低くし、かまえた槍に魔力を集める。

 

「ッ! キャスターまずいわ、宝具よ!!!!!」

 

その禍々しい魔力に凛は最悪を想定してしまう。

 

「宝具...」

 

防壁魔法(ボルグ)をねじまげ、己の正面に強度を集中させる。

 

緊迫した空気の中、ぱきっと小さな音が鳴る。

凛が振り返るとそこには小さな人影が去っていくのが見えた。

 

 

「誰だ!?」

 

ランサーの目に去っていく人影が映る。

 

それを見て、ランサーの槍から霧散する魔力。

 

「チッ、いいところだったのによぉ」

 

そう言って目撃者を追うために走り出すランサー。

 

 

「まずいわっ、私たちも追うわよ!」

 

「急ごう。ターバンに乗って!」

 

二人も急いでもう見えぬランサーを追う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

薄暗い廊下で本来ならばこの場で嗅ぐはずのない鉄のにおいが鼻につく。

 

「人が..倒れている...。」

 

アラジンが悲しげにつぶやく。

胸から大量の血を流した赤髪の男子生徒が横たわっていた。

 

ターバンから静かに降りる二人。アラジンは慣れた手つきで宝石にターバンを戻す。

凛の目に横たわる男子生徒の顔が映る。

 

「....なんだってあんたが――――」

 

この学校ではそれなりに有名人で穂群原のブラウニーなどと呼ばれている男子生徒。そして共に暮らすことのできなかった妹、桜の思い人でもあった。

どうしてこんな日に学校に残ってしまっていたのか、、、

もしも桜がこのことを知ったら...そう思うと胸が締め付けられるようだった。

本来ならば魔術師として間違っているが、彼を見捨てることなどできなかった。

懐にある今回の聖杯戦争に向けて長年魔力を籠め続けた切り札のルビーを取り出す。

 

赤い光が廊下に広がる。

衛宮士郎は蘇生した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜空。

 

 

二人はターバンに乗り家を目指す。

凛は俯いたままにアラジンに顔を向ける。

 

「ごめんなさい、キャスター。切り札をここで使ってしまって...

魔術師失格だわ...」

 

「そんなことないさ。」

 

顔を上げると優しい笑顔を浮かべた彼がいた。

 

「凛さんが彼のために宝石を使ってくれて僕はうれしいんだ。

 人を救うために自分の一番必要なものを手放せる人はなかなかいないよ。」

 

 

「君は勇気ある人だ。君のサーヴァントとして呼ばれてよかった。」

 

 

 

 

 

―――――――あぁ...

 

 

 

私はこれから何度彼の言葉に助けられるのだろう。

そんなことをふと思う。

 

「私もあなたを呼べてよかったわ。」

 

「ふふっ.....あっそうだ凛さん。」

 

アラジンは忘れていたあること思い出す。

 

「実は僕の...」

 

遠く星が瞬く夜空に一閃の眩い光がこちらに向かう。

 

「ッ!!! 逃げて!!!」

 

アラジンはターバンから跳び、急いで凛をターバンとともに自らから逃がす。

 

「キャスター!!!!!」

 

防壁魔法(ボルグ)!!!」

 

閃光に見えたなにかはアラジンの防壁魔法(ボルグ)にぶつかる。

光の障壁にぶつかり勢いのなくしたそれはねじれた矢のようなものだった。

 

「これは宝具...」

 

アラジンが疑問を浮かべた刹那、その矢は爆散する。

 

「なっ!?」

 

爆炎の威力に防壁魔法(ボルグ)は砕かれ、アラジンは吹き飛ばされる。

 

「キャスタァァア!!」

 

なんとか爆炎の圏外に逃げれた凛はアラジンを探す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フッ...」

 

高層ビルの頂上。そこに男は立っていた。

ニヒルな笑みを浮かべた男は先ほどの爆炎を満足げに見ていた。

 

 

 

大きな洋弓を下げる。

 

 

 

夜風が男の赤い外套をなびかせていた。

 

 

 

 

 

 

 

 




お気に入り登録ありがとうございます。
誤字・脱字などありましたら言ってもらえると助かります。
ではまた。


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第5夜

「はぁ・・・」

 

宝具のようなもので吹き飛ばされたアラジンはどこかの家の庭にたたきつけられていた。

周りを見渡すと武家屋敷のような立派な建物だった。そして二つの人影を見た。青いドレスに鎧をまとったような女性と先程、校舎で倒れていた赤髪の男の子だった。

 

「君たち・・・」

 

アラジンが声をかけようとしたとき、青い女性が一瞬で近づき腕を振り下ろす。

わけのわからない行動だが、アラジンの防御魔法は何かを防ぐ。

 

青い女性とアラジンお互いが何が起きたのかわからない状況で女性の叫び声が響く。

 

「キャスター!」

 

先程の爆発から離れていた凛がターバンに乗って、アラジンの近くに寄り地面に降りる。

アラジンの傷の具合を確かめ、すぐに敵対するサーヴァントへ視線を戻す。

そして、その先にいた赤髪の男の子に気づく。

 

「衛宮くん?」

 

「遠坂か?」

 

同級生に気が付いた凛は今更ながら髪を整える。そして極上の笑みを浮かべながら一つ提案をする。

 

「衛宮くん、よかったら中でお話しましょ。」

 

凛としてはこの場での戦いは避けたかった。予想では相手のサーヴァントはセイバーであり、ただならぬ気配から高レベルなサーヴァントだと推測していた。

 

「わかった。俺も聞きたいことがあるんだ。」

 

すんなりと提案を受け、家の中へと案内する衛宮。しかし、その間もずっと相手のサーヴァントだけはアラジンから目を離さずにいた。

 

***

 

 

「お待たせ遠坂、キャスター。」

 

「お茶、ありがとう」

 

 衛宮が用意してくれたお茶を飲みながら、聖杯戦争の説明を始める。

 

 時折、衛宮が困惑や反論の言葉はあったものの、聖杯戦争の説明はすぐに終わった。

 

 衛宮は黙りこくって俯き、対してセイバーはきっちりと背筋を伸ばして凛の話を聞いている。

 

「とりあえず、一度教会に行っておかないと」

 

「え? 教会って確か隣町だよな?」

 

「そうね、まあ、今からなら夜明け前までには帰ってこれるんじゃない?」

 

 ここから歩いて一時間、今の時間帯なら話を聞いて帰ってくればそのくらいになるだろう。

 

「明日じゃだめか?」

 

「だめよ」

 

 行きたくないオーラを発する衛宮をバッサリ切る。

 

「セイバーもいいでしょ?」

 

「はい。シロウ、あなたの知識のなさは致命的です。此度の戦い意図して参加したわけではなくとも、契約をした以上、自覚していただかなければなりません」

 

 セイバーの言葉にうっと衛宮が唸る。

 

「教会で話を聞くことで少しでも理になるならそうすべきでしょう」

 

 そうセイバーに言われて衛宮は頷くしかなかった。

 

 

***

 

 教会に着き、凛はふと、この教会の神父になんの報告もしていなかったことを思い出した。嫌味を言われるだろうと渋い顔になる。

 

 凛の予想通り、ねちねちした嫌味とともに似非神父は、衛宮にプレッシャーをかけた。しかし、それ以外は特に問題もなく話し合いは終了した。

 

 教会を背に四人は歩き出す。アラジンとセイバーはあった当初とは打って変わって、楽しそうに話している。主にアラジンがだが・・・。

 

 凛は足を止め振り返る。

 

「ここでお別れよ衛宮くん。これ以上いたら戦いずらくなっちゃうわ。」

 

 できるだけ突き放すように衛宮に言い放つ。さすがの彼でもわかってくれると思っていた。

 

「俺はできれば戦いたくない。遠坂ともキャスターともだ。」

 

 愕然とする凛をよそにアラジンは嬉しそうに衛宮を見る。

 

 「まあ、今日のことは感謝してる。絶対に一生忘れない。ありがとう遠坂、キャスター」

 

「私もこれまでのことは感謝します。健闘を」

 

 勘弁してほしい。本当に戦いづらくなりそう。

 

「そ、それじゃあ衛宮くん、さっきの言葉は忘れないでね。いくわよキャスター」

 

 そういって話を強引に打ち切り、二人と別れキャスターと歩き出す。

 二人と別れてから、凛はキャスターに悪態をつく。

 

「ねぇ、さっき嬉しそうにしてたでしょ。あなたも自覚になさいよ。」

 

「ふふふ、ごめんね。」

 

 どう見ても謝ってるふりをするアラジンに凛はため息をつく。

 

「こんばんわ、キャスターとそのマスター。」

 

 突然かけられた声に振り向く。

 

 そこには圧倒的な存在感を放つ異様がいた。見上げるほどの巨躯、鉛色の肌。

 

「バーサーカー?」

 

 先程のセイバーよりも勝てるイメージがわかなかった。セイバーと別れてしまった今、キャスター一人でこの絶望的な局面を乗り越えなければならない。

 

「さっき、お兄ちゃんといた人たちだよね。そのキャスターが気になっちゃったから先に来たの。これが終わったらお兄ちゃんに会いに行くわ。」

 

 無邪気な笑みとともに勝ちを確信するセリフ。バーサーカーと相まって異様さが際立つ。

 

「そういえば、あなたにはまだ挨拶してなかったわね。はじめまして、凛。私はイリヤ、イリヤスフィール・フォン・アインツベルン」

 

 あのアインツベルンの人間。

 

 規格外の化け物を引き連れている理由が少しわかった。

 

「私のこと知ってたのね。」

 

 少しでも余裕を見せるために減らず口をたたく。

 

「じゃあ、殺すよ。やっちゃえ、バーサーカー!」

 

 

 

 

 

 暴力の権化が牙をむく。

 

 

 

 

「■■■■■■■■■■■■■■ーーーー!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第6夜

「■■■■■■ーーーー!!」

 

バーサーカーの斧剣を防御魔法(ボルグ)で受け止める。すさまじい威力を持った一撃は防御魔法(ボルグ)ごとアラジンを吹き飛ばす。さらにその勢いのまま吹き飛んだアラジンに追いつき追撃を食らわせる。技などないただの暴力だが、それだけで十分だった。防ぐことしかできなくなったアラジンの防御魔法(ボルグ)にひびが入り始めていた。

 

「もう終わりだね。ばいばい、キャスター。」

 

何か期待していたのだろうか。まるで壊れそうなおもちゃを見ているかのよう雪の少女。

 

「そんなことないさ。」

 

この絶望的な状況で不敵に笑うアラジン。

 

八ツ首防壁(ボルグ・アルサーム)!」

 

アラジンを守っていた防御膜から、八つの蛇の頭を模したものが飛びだし、バーサーカーに襲い掛かる。

 

「防御だけの僕じゃないんだよ。」

 

自信満々に告げるアラジンからの初めての攻撃にして奇襲。全方向から襲い掛かる蛇の首を至近距離にいたバーサーカーにそれをよける術などない。

 

 

 

はずだった。

 

 

一つ、二つ、三つと全ての攻撃を器用にかわしていくバーサーカー。狂戦士とは思えないその軽やかな動きにアラジンも凛も戸惑いを隠せずにいた。

 

「すごいね。バーサーカーくん・・・」

 

「ふふっ、私のバーサーカーは最強なんだから。」

 

圧倒的な力に巧妙な技、バーサーカーに隙はなかった。

焦る凛はアラジンを見る。だが彼に焦りは見えなかった。

 

まだ何か策はあるのか思考をめぐらす凛にアラジンは声をかける。

 

「凛さん、僕はまだやれるよ。僕は君が呼んだサーヴァントなんだ!焦る必要なんてないのさ!」

 

アラジンは杖に魔力を込める。

凛は体から力が抜けていくのを感じた。

いまままでに感じたことのない量の魔力がラインを通じ、アラジンへと流れていく。

 

「バーサーカー!」

 

何かを感じ取ったイリヤがバーサーカーに指示を出す。その声は初めて焦りが見えた。

 

「重力魔法!」

 

バーサーカーの圏外に距離をとるため、飛翔するアラジン。

凛とアラジン。二人は空へ舞い、上からバーサーカーを見下ろす形となった。

 

「いくよ、バーサーカーくん。この魔法はある王様の真似事さ。」

 

青い雷が杖から広がり、轟き、唸る。

 

雷光剣(バララーク・サイカ)!!!」

 

青い雷は一直線にバーサーカーへと突き落ちる。

バーサーカーを焼き殺すのは一瞬の出来事だった。

 

「キャスター、あなた結構やるのね。」

 

「ふふふ。」

 

その強力な一撃は使用者である二人への疲労のダメージもあった。

 

 

 

煙が晴れ、見えたのは上半身のなくなったバーサーカーの姿だった。

イリヤを見るとこちらを睨んでいた。

 

しかしすぐに笑みを浮かべた。

その可愛らしい笑みは凛にはとても不気味なものに見えた。

なぜ、自分のサーヴァントがやられたのに笑っているのか。

 

「すごいわね凛、あなたのサーヴァント。」

 

バーサーカーの下半身がピクリと揺れる。

 

「まさかバーサーカーを二回も殺すなんて。」

 

 

 

 

「な、にを言って・・・」

 

予想だにしない言葉に二人はバーサーカーを見る。

すると、みるみると逆再生のように元に戻っていくバーサーカーの姿があった。

なぜ、どういうことなのか。疑問ばかりが凛の頭を駆け巡る。

アラジンですら動揺を隠せずにいた。

 

「教えてあげる凛。バーサーカーの真名はヘラクレス。十二回殺さなければ死なないの。」

 

その正体に愕然とする凛。本来、弱い英霊を強化するためのクラスである狂戦士。ヘラクレスなんていう究極存在をバーサーカーとして召喚したこの状況。でたらめにもほどがある。

 

「大英雄ヘラクレスは神に与えられた十二の試練を乗り越えて不死の権利を得た。そして、バーサーカーは乗り越えた死の数だけ命のストックがある。それがバーサーカーの宝具『十二の試練』。そして、同じ攻撃はもう意味がないわ。」

 

サーヴァントそのものが肉体。十二の命。一度受けた攻撃への耐性。

さらに追い打ちをかけるのが、ふたりに魔力がほとんど残っていなかった。

 

 

「ねえ、凛。今回は見逃してあげる」

 

「なんですって?」

 

この場に不釣り合いなまでに無邪気な笑み。だが、そこに込められたのは先程の絶対的な自信。

 

たとえここで見逃し、こっちが対策を立てたとしてもいつだって私たちを殺せるという自信だ。

 

「ただの気まぐれよ。お兄ちゃんたちにも今日は近づかないであげる。それじゃあまた遊ぼうね。」

 

そう言い残してイリヤは完全に元に戻ったバーサーカーとともに姿を消す。

 

 

ふたりの長い夜は勝利を確信した後の完敗ともいえる結果で終わる。

 

 

 

 




挨拶が遅れました。
久々の投稿ですが少しずつ進めていきます。
完結までしばらくお付き合いください。


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第7夜

お気に入り登録ありがとうございます。


自宅に着き、リビングにあるソファに腰を下ろす。

 

「完敗だったわね。」

 

何もかもが規格外だったバーサーカー。

神速のランサー、宝具を爆散させるという謎の射手。

 

そして、衛宮のセイバー。

 

強者揃いの聖杯戦争で勝ち筋を見つけなければならない。

 

「凛さん、キミに伝えなければならないことがある。」

 

アラジンが伝えたかった事。

 

「この世界での僕は魔力に限りがある。ルフのいないこの世界では自身の魔力しか使うことが出来ないんだ。」

 

凛のいる世界とアラジンがいた世界の在り方の違い。

理の違う世界で思わぬ形でアラジンは制限を設けられていた。

 

「ルフ・・・」

 

「うん、前にも少し話したけどマギとはルフに愛される存在。僕がいた世界ではルフから魔力をもらうことで本来なら一瞬で魔力が枯渇してしまうような大魔術も扱うことが出来た。だから、今の僕は本来の力を扱うことが出来ないんだ。」

 

「そんなはずはないわ!あなたの行ってきた偉業はスキルや宝具として使えるはずよ!」

 

そこで凛は一つ思い出す。

 

「まさか、知名度補正・・・?」

 

「僕もそれだと思う。この世界に僕を知る者はいないから。」

 

あらゆる面で逆境に立たされていた。

困難に次ぐ困難、勝ち筋はおろか、自らのサーヴァントは制限を設けられていると来た。

 

 

それでも。

 

 

そんなことで。

 

 

遠坂凛は思考を止めない。こんなことでは止まらない。

 

そんな主を見てサーヴァントはにんまりと笑う。

 

「なに笑ってんのよ。」

 

従者のそんな態度に慣れてきた主は優しく叱る。

 

「やっぱり君は勇気ある人だ。僕が大好きな王様と似ている気がする。」

 

懐かしそうに凛の顔を見る。

 

「それにね、凛さんの右手にある令呪を使えば僕本来のマギとしての力を使うことが出来ると思う。」

 

「令呪によるブースト!」

 

嬉しそうに自身の右手を眺めだす凛。

 

「つまり、あなたのマギとしての力を使える回数は3回・・・」

 

「どこで使うかは大胆で慎重に選ばないとね、凛さん!」

 

「あなたわかってて、無茶言ってるでしょ・・・」

 

呆れた表情を見せながらも自分を信頼してくれていることがわかるその言葉が少しうれしく感じていた。

 

「ところで、あなたは聖杯に何を願うの?」

 

勝ち筋が見えてきたからこそ浮かぶ疑問。

 

創世の魔法使いと呼ばれた魔法使いは聖杯に何を願うのか。

 

アラジンは少し考え、にやりと笑いながら答える。

 

「ふふふ、秘密。」

 

「なっ!、教えなさいよ!」

 

アラジンのほっぺをつまみ答えを聞き出そうとする。

 

「ひっひはいやあいか!」

 

痛いじゃないかとは言えず、じゃれあう二人。

 

夜が更けていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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